<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26362] けいおん! ミスコン!ミオかツムギかツムギかミオか
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/06 00:16
三年生最後の期末試験も終わった日の帰りのホームルーム。黒板には白いチョークの音が響きわたっていた。

「というわけで、3年2組からの二名のミスコン出場者は秋山さんと琴吹さんに決まりました。」

真鍋和が淡々とした口調で黒板を見ながら言った。教室中から大きな拍手が巻き起こる。

「い、異議あり!!」

当選者の一人・秋山澪が蒼白な顔をして手を上げた。体が震えていて、かなり動揺しているのが傍目でも分かる。

「私なんかよりもミスコンに出るのにふさわしい人はたくさんいます。なので、辞退します。」

「辞退って言っても・・・・立候補がいないから推薦なんじゃない。これも非公式とはいえ学校行事の一環なんだから、ちゃんと出なさい。」

和ににべもなく断られた。いつも通りの冷たい反応であることに澪はその場でしょげかえった。

「だってさ、他に私なんかよりもミスコン向きの人がたくさんいるじゃないか。私なんて・・・私なんて・・・」

澪は席に座ってもなおも承服できずぶつぶつと文句を言っていた。動機は毎度おなじみ人前に出たくないから。

「大丈夫だって、澪ちゃん。みんなが最初に思い浮かんだ美人が澪ちゃんとムギちゃんだから。頑張って!」

ショートヘアの佐野圭子が澪の二つ左の席から囃し立てた。他のクラスメイトと同じく半分面白がっている。

「私、頑張ります。クラスのために必ず一位を取ってみせます!」

琴吹紬は澪とは対照的にかなりやる気を全面に出していた。

「これは重大な問題だね。ムギちゃんと澪ちゃんのどっちを応援するか。軽音部員としてはどっちも応援したいけど・・・。」

窓際最後方の特等席に座る平沢唯が腕組みのポーズをして考え込む表情をしていた。

「でも投票できる相手は一人までよ。どっちと言われたらどっちに入れるの?」

隣席の立花姫子が左を向いて唯に聞いた。

「う~ん、ムギちゃんかな。どっちも美人だけど、ムギちゃんは美味しいお菓子を持ってきてくれて、甲斐甲斐しくお世話をしてくれる大事なスポンサーだから。」

姫子は唯の答えに苦笑いを浮かべるだけだった。結局お菓子か、と。

「はい、二人とも頑張ってね。ああ、でももう受験も間近なんだからそっちの意識も持ってね。最後の期末試験が終わってほっとしているのは分かるけど。」

和から引き継いだ担任の山中さわ子が言った。

「先生はここのOBなんですよね?ミスコンで何位だったんですか?」

前の方の席に座る佐伯三花が聞いた。

「あら、私なんかはとてもとても。クラスで美人で通っている子たちが出たから。」

「ええ~、うそ~。先生すごく美人なのに~。」

三花が不思議そうにさわ子を眺め回しながら言った。さわ子が学生時代ギターをやっていた以上のことを知らない一般の生徒にはその理由が皆目見当がつかなかった。

「あら、田井中さんも何か聞きたいことがあるのかしら?」

「いえ、何も・・・・」

田井中律は発言をしようとした矢先に機先を制され、喉から出かかった不用意な一言をもう一度飲み込んだ。



「へえ、すごいですね。澪先輩もムギ先輩もどっちが優勝してもおかしくないと思います。頑張ってください。」

放課後の音楽準備室。後輩の中野梓がすすっていた紅茶を皿の上において言った。

「ありがとう、梓ちゃん。他のクラスのライバルは多いけど、私たち頑張るね。」

「私は頑張りたくない・・・・」

ムギのやる気が100とすれば澪のやる気は1にも満たないのではないか、と梓は勘ぐった。

「っていうか、なんでムギはそんなにやる気なんだよ。私は絶対出たくないのに・・・」

「だって、よくテレビでミス何々ってやってるじゃない?私、ああいうのに出るの夢だったの。普通の女子高生らしいじゃない。」

「それは大学だ。普通の女子高でミスコンなんてない。しかもなんで三年の私たちが受験勉強のこの時期に・・・」

「学校の伝統だから。既に30年近く続いている非公式の行事よ。」

「前例があるからってそれを疑いもせずに習うのは日本人の悪い癖だ。私たち若者はそんなのに囚われちゃいけない。」

澪はムギの発言に一々ケチをつけて反論した。本当にミスコンに出るのが嫌なのが伝わってくる。

「あきらめろ、澪。澪は美人さんなんだから。それに必ず私が優勝させてやるから安心しろ。」

「絶対ヤダ。っていうか、私なんか勉強ばかりで運動してないからまた太ったし、絶対優勝できるわけ・・・ってうわあああ・・・・・」

「自分の言葉に傷つくなよ。」

律は呆れ眼で親友を見返した。

「ところでりっちゃん。りっちゃんはやっぱり澪ちゃんの応援するの?」

唯がケーキを食べながら会話に参加してきた。口の中にはまだフォークを咥えている。

「ああ、ムギには悪いが幼なじみだからな。私は澪を応援する。」

「それじゃあ明後日の投票まで、二人とは敵同士だね。私はムギちゃんを応援するから。」

「ほう・・・。私の澪が返り討ちにしてくれる。」

「私のムギちゃんを前にその減らず口がいつまで叩けるかな?」

当人を置き去りにして律と唯の代理戦争が始まっていた。

「ところであずにゃんはどっちを応援するの?」

「えっ?」

梓は期せずして自分に話が振られて驚きの声を上げた。

「えっと、その、お二人ともすごく美人なので迷ってしまいます。」

「でも、投票できるのは一人までだよ、あずにゃん。」

「明後日までには考えます。」

ぱっとどちらに入れようか思いつかなかった梓はそう答えた。後に梓の選択が投票結果の重要な分岐点となるが、本人にその自覚はなかった。



続く



[26362] 第二話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/06 13:34
『第29回 桜が丘高校ミスコンテスト 出場者一覧』

3年1組 東郷奈々・田上愛菜
3年2組 秋山澪・琴吹紬
3年3組 山本多佳子・笹川さくら
3年4組 正岡香恵・平尾洋子
3年5組 広瀬忍・百々海明日香



「会長、こんな感じでいいですか?」

「ええ、いいわ。」

生徒会役員が画鋲の入った箱を手に持ちながら脚立を降りる。昇降口前の一番目立つところに大きく掲示されたミスコン出場者一覧表を貼っていた。通りすがりの生徒たちがひしめき合って出場者を食い入る様に見ている。

「やれやれ。ミスコンなんかになんでそんなに興味を持つのかしら。大した行事でもないのに・・・」

和は溜め息混じりに言った。学校の非公式とはいえ行事は行事なので生徒会で取り仕切って投票と開票を管理しなければならない。優勝者には全校集会で校長から直々に賞品が手渡されるのでその準備もする。

「会長にも出て欲しかったです。きっと優勝候補筆頭ですよ。」

「そんなわけないでしょ?このメンバー相手に勝てるとは到底思えないわ。しかも私は生徒会長だから、ミスコンを管理する立場にあるし。」

「そういえば、今年は全生徒数が偶数だから会長には投票券が無いんでしたね。今年はもしかしたら決選投票も・・・」

得票数一位の候補者が複数出た場合、一人に絞られるまで決選投票になる。そのため、必ず最後に一人だけ残るように全生徒数が偶数の場合には生徒会長に投票権が与えられていない。

「まあ、そんな偶然余程の事がないと無いでしょうけどね。過去にもそういうのは一回だけだし。」

「でも、今年はかなりハイレベルらしいですよ。誰が優勝してもおかしくないです。得票数一位の人が三人とか四人なんて場合もあるかもしれませんよ。」

「そういう事になったらどうすればいいのかしらね。前例が無いから分からないわ。」

あらゆる場合を想定して対処するのがトップに立つものの務めだが、そういう事態は発生してほしくないと和は願っていた。



「まったく、あいつらこの時期になると浮かれて・・・。毎年変わらんなあ。」

職員室内で古文教師の堀込は、試験休みのこの時期にミスコンが開かれ卒業前の三年生の最後を飾る行事になっていることを嘆いた。一応進学校のはずなのに、と思う。

「まあ、いいじゃないですか。三年生にとっては受験勉強の息抜きですよ。」

お茶をお盆に乗せて持ってきたさわ子が言う。

「しかしなあ。教師としては勉学に集中してくれていたほうが気が落ち着くんだが。そうは言ってもこの学校の進学率はそこらの私立と比べるとかなりいいから文句は言えんが。」

「メリハリ付けてればいいんですよ。」

「お前が三年の時はどうだったか・・・。ああ、そうそう、四組の富山だったな。あいつ、弁護士試験で通ったってこの前学校に連絡してきたな。大したものだ。」

堀込が数年前のことを思い返しながらミスコンの優勝者を思い出して言う。

「あの時のお前たち軽音部の評判を知ってるか?面はいいがメタルバンドをしているからミスコンに出すのはちょっとって理由で敬遠されたんだ。」

「ああ、そういう時代もありましたね。」

さわ子の目が泳いで視線が遠くなった。気まずさが顔に出ている。

「さて、今回はどうなるかな?まあ、気楽に眺めるとするか。」



「東郷先輩、田上先輩、山本先輩、笹川先輩、正岡先輩、平尾先輩、広瀬先輩、百々海先輩。すごい面々だね・・・」

帰りに先輩陣と別れて買い物に行く途中の梓は友人の鈴木純が出場者一覧表を見ながら感嘆の声を上げるのを冷めた目で見ていた。

「これじゃあ澪先輩の人気でも少し苦戦するかも・・・。いや、でも澪先輩が負けるわけ無いし・・・」

「純は澪先輩に入れるって決めたの?」

「モチのロン。カッコイイし、ベースうまいし、スタイルもいいし。私の理想像だね。梓はどっちに入れるの?澪先輩とムギ先輩。」

「迷ってて決めてない。純はいいよね。最初っから決まってるから。」

「まあね。」

純は元から澪に憧れていたので、なんの迷いもなく誰に投票するか選んだ。しかし、梓にはその割り切りが出来ていなかった。

「梓も深く考える必要はないんじゃない?澪先輩でもムギ先輩でもどっちでもなんとなくで投票すれば。それとも他に気に入った候補者がいるの?」

「いや、いないよ。でも、どっちの先輩も好きだし、美人だと思ってるから困るっていうか・・・」

「まあ、後二日あるからゆっくり決めるといいよ。」

その後その話を切り上げ、楽器店で音楽の話をしながら買い物をし、梓は家路に着いた。



続く



[26362] 第三話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/06 16:23
「ねえ、春菜。澪とムギ、どっちに入れるか決めた?」

バスケ部のクラスメイト・飯田慶子が仲の良い岡田春菜に聞いた。

「ううん、まだ決めてない。どっちにするか迷うよね。二人とも気立てが良くて美人だし。」

「またまた。あんただってあの二人とタメを張れるじゃない。」

慶子は先に澪とムギのどちらかが辞退すれば彼女が当然選ばれていただろうと考えた。

「そんな事ないよ。それに、私彼氏持ちだから新品じゃないよ?」

「何、それ・・・彼氏自慢?独り者の私たちへの嫌味ね。」

「違うって。ああ、そうそう、秋山さんは田井中さん、琴吹さんは平沢さんが援護するらしいよ。後援会長みたいなもんかな?」

彼氏の話題から離れようと春菜は露骨に話題を変えた。

「まあ、澪は元々ファンクラブあるくらいだからいいけど、ムギはちょっと厳しくない?澪や他のクラスの部活入っている子と比べると知名度がね。」

「大丈夫大丈夫。平沢さんの妹さんがきっと何とかするから。」

春菜が持ち前のノリの良さで手をひらひらさせながら言う。

「ああ、唯はできた妹がいて幸せね・・・。」



「では、これからムギちゃんがミスコンで優勝するための対策会議を始めたいと思います。」

平沢唯が自宅でそう宣言すると、ムギと憂が拍手した。

「ありがとう、二人とも。推薦とはいえ選ばれたからには優勝目指して頑張るわ。」

「その意気だよ、ムギちゃん。そして勝ったらお祝いのケーキを・・・」

下心丸出しの唯はヨダレを拭くのに余念がなかった。

「えっと、明日と明後日はミスコン出場者であることを示すタスキをかけなきゃいけないのよね。その他は何をすればいいのかしら?」

「う~ん、何かない、憂?」

唯は優秀な自分の妹に話を振った。

「あんまりウケを狙いに行こうとか人気をアップさせようとか露骨なことはしない方がいいんじゃないかな?あくまでも自然体でいるのが一番だと思うよ。貪欲すぎると逆に引かれちゃうからね。」

「そうだね。ムギちゃんはいつもポワポワでおっとしているのがいいんだもんね。」

「紬さんは自分の一番のウリは何だと思っていますか?」

憂はさながら企業の面接官のようにムギに尋ねた。

「分からないわ。自分のことそういう意味で考えたこと無いから。」

「紬さんの一番のポイントは母性的なところですよ。だから、笑顔ですれ違った人に手を振ったり握手をしたり、他の生徒の心を一人一人確実につかむことが大切です。」

「そうね。あくまでも自然にやるほうがいいわよね。」

「まあ、敢えて言うなら・・・3年生よりは1、2年の生徒を重点的に狙ったほうがいいですね。3年生だとどうしても自分のクラスの子優先になりますから。紬さんは知名度で若干劣るのでそちらに露出を増やさないと。」

憂は出演者一覧表を見ながら指を折って数えた。

「30・・・・20・・・・15・・・・よし。」

「何を数えてるの、憂?」

「基礎票だよ、お姉ちゃん。澪さん以外の他の先輩たちがどのくらい元からの票を確実に期待できるかって。とりあえず全員自分のクラスの半分の票が取れると考える。後はその先輩が所属する部活の人数でどれくらい当て込むことができるか分かるから。」

「それって軽音部はすごく不利だよね。5人しかいないから。あ、でも澪ちゃんとりっちゃんの分は除くから3かな?」

「うちの学校は部活に所属している人はそこまで多くないから、和さんを除いた生徒数563の内、250~260人はまだ白紙の状態。全然問題ないよ。」

「現状リードしているのはファンクラブを持つ澪ちゃん、バレー部の百々海さん、それと合唱部の田上さんといったところかしら。私に勝てるかしら?」

「自信を持ってください、紬さん。私も頑張って応援しますから。」

憂がムギの手を取って言う。唯もそれに手を合わせる。

「澪ちゃん、私、あなたを越えさせてもらいます。」



続く



[26362] 第四話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/08 23:28
「ただいま~。」

「お邪魔します。」

律と澪は田井中家の敷居をまたいだ。澪にとっては第二の我が家のようなものですんなり入れる場所である。

「あれ、聡の友達が来てるか・・・。」

律が玄関に置かれている数足の靴を見止める。小学生の男の子が履くくらいのサイズとデザイン。弟の聡の友人たちの靴である。

「おおい、聡~。」

聡が友人たちといるであろう居間の扉を開いた。

「うわああっ!!ね、姉ちゃんたち!?」

扉に背を向けて座っていた聡が飛び上がるようにして大きな驚きの声を上げた。完全に度肝を抜かれた格好である。

「今後ろに何隠したんだ?」

聡が後ろに何か隠すのを律が見とがめて言った。一方、聡の友人たちは食い入るような目付きをして澪を見ていた。

「す、すげ~。本物だ~。」

「きれいな人だな・・・。」

「美人のお姉さんだ・・・・。」

聡の友人たちからため息混じりの感嘆する声が聞こえてくる。

「いや~、それほどでも~。」

律が照れ隠しのつもりで髪をいじりながらカメラ目線で友人たちの方を見た。

「姉ちゃんじゃないよ。皆は澪姉ちゃんのことを言ってるんだよ。」

聡が冷静にツッコミを入れた。その刹那律のプロレス技が聡に飛んで洗いざらい白状させられた。

「実はさ、今学校でその・・・・綺麗なお姉さんの写真が流行っててさ・・・。俺も何かもって行かないとその、仲間はずれにされるからさ・・・」

聡は観念して姉の机の中から勝手に持ち出した澪の写真を差し出した。

「聡・・・・何を勝手に・・・!!」

「ご、ごめんって、澪姉ちゃん。でもすげえんだぜ。姉ちゃん、クラスですごいモテようだから。男からも女からも。」

「嬉しくない!!」



律の部屋で二人は机を挟んで座った。机の上には聡から取り上げた澪の写真が置いてある。

「いいじゃないか、澪。モテまくりなんて世の多くの女にとっては羨ましいことだぞ?」

「なんで私ばかりこんな目に・・・」

「まあ、聡にはよく言っておいたから・・・。これでも分かるだろう?澪はモテる。ミスコンでもモテまくれば優勝間違いなしだ。」

「そんなにミスコンでやる気出してどうするんだよ。私たちは受験生だぞ。勉強するの。」

「勉強?何それ?美味しいの?」

律が両手を広げてあっけらかんとして言う。

「ところでさ、ミス桜ヶ丘には都市伝説があるんだ。一年以内にいい男とめぐり合って愛を育み、やがては幸せな結婚生活を必ず送れるってさ。」

「下らない。恋愛とか結婚とか全然興味ないんだけど。」

「澪がそういうことばっかり言ってるのが私は心配なんだ。中学の時もいつもコクられたはいいけどどうしたらいいか分からなくて、必ず私のところに来ていたからな。」

「う、うるさい!!でも、その、律ならうまく断ってくれると思って・・・。実際そうしてくれたし。」

「だが、澪ももうすぐ大学生だ。そうこう言っているうちに独り立ちだ。というわけで、お前を安心して任せることのできる男の人にめぐり合わせるために必ず優勝させるんだ。」

「論理展開がおかしいぞ。それに、ただの迷信だろ?あれ・・・待てよ、じゃあ、ムギは彼氏がほしいってことか・・・。そんな・・・・」

澪の眉が一瞬曇って険しい表情になる。親友に裏切られた気持ちがしたからだ。

「いや、全員がこの都市伝説を知っているわけじゃないから。ムギの場合は単に優勝したいだけでその他の欲はないだろ。」

「よし、それなら私は極力活動をせず彼氏が欲しい他の子に勝ちを譲ることにする。とにかく教室から出ないようにして、露出を減らそう。決まりだ。」

「そんなの私が認めるわけないだろ。それに和が言ってたけど、休み時間はたすきを掛けて最低でも廊下には出るようにって決まってるらしいぞ?」

「そ、そういえば去年の先輩たちもそうだった気がする・・・。」

「澪に足りないのはインパクトだ。私がちゃんとコーディネートしてやるから安心しろ。」

「だから私はミスコンなんてやる気ないって言ってるだろ!?」

律はその澪の意見は無視した。そして、明日と明後日に澪に何を着せようかを紙に熱心に書き始めた。



続く



[26362] 第五話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/10 23:03
翌日の朝。平沢姉妹は普段より早く学校に登校していた。

「まだ眠い・・・。もう少し寝かせてくれればいいのに。」

「ダメだよ、お姉ちゃん。紬さんの応援するんでしょ?」

目をこする唯を憂がたしなめる。

「もう・・・なんで一番乗りしなくちゃいけないのさ。」

「先んずれば人を制す。相手の機先を制することが勝利への近道だよ。」

憂がきっぱりと言った。その後ろからムギが駆け足でやってくる。

「おはよう、唯ちゃん、憂ちゃん。」

「おはようございます、紬さん。」

「おはよう・・・・」

ムギと憂に比べて唯だけテンションが異常に低かった。そのまま校門まで歩いて行く。

「よし、一番乗りですね。他の候補者はまだ来ていません。一番いいところを取りましょう、紬さん。」

「ええ、そうね。なんかの選挙みたいで楽しいわね。」



「なっ!?一番乗り取られた!?」

「琴吹さん、やる気満々・・・・」

他の候補者たちが後からやってきてムギたち一行がいることに心底驚いた。朝早く登校してくる生徒たちは皆ムギに釘付けにされていて焦りが出る。

「琴吹先輩、頑張ってください。」

「ありがとう。」

「私、絶対先輩に投票しますね。」

「ありがとう。」

ムギは声をかけてくる後輩たちに笑顔で握手をしていた。元々実家で金持ち同士の付き合いが多いので場所場所で最適な人柄を作り出すことができる。

「お~、ムギちゃん完璧。」

「でしょ?紬さんは皆の前では一歩引いて見守る立場だけど、持ってる対人能力はすごいから。それを引き出せる環境さえあれば特に作戦を立てなくても人気が出るんだよ。」

「なるほどね。」

唯と憂が何もしなくても、後からやってきた他の候補に完全に水を空ける形で人気を集めていた。他の候補者と支援者が唖然としている。

「くっ、先を越されたか。7番目とは・・・」

普通の登校時刻にやってきた律が歯噛みして悔しがった。完全に対応が後手に回った格好だ。

「よし、すぐに着替えてアピールするぞ、澪。」

「い、いや、だから、私は・・・・」

反論しようとする澪の口を律が塞いで校舎の中に引きずっていった。数分後、メイド服を着せられた澪が戻ってくる。

「澪さん、頑張ってください。」

「秋山先輩、ファイトです。」

澪ちゃんファンクラブのメンバーが声をかけてくれるが、それ以外の生徒ははムギ以外の他の候補者と同じくらいしか集まらない。

「なぜだ・・・。」

人の集まらなさに律が首をかしげた。澪のプロポーションで客を呼ぶ目論見は一部の生徒にしか効かず、完全にムギに出遅れていた。

「なんで澪ちゃんはせっかくメイド服着てるのに人が集まらないのかな?」

律と澪を横目に見ながら唯が言った。

「どうして軽音部がコスプレしたり着ぐるみ着たりする度に人が逃げていくのか考えようか、お姉ちゃん。」

憂は軽音部のコスプレして人目を引こうという思考法が常識になっていることに頭が痛くなった。



「和、助けて!!」

朝のホームルームが終わって移動教室になった時、和と一緒の教室に移動する澪が彼女に泣きついた。

「いや、助けるって言っても私は生徒会長だから誰かに肩入れするわけにはいかないんだけど。」

「友達でしょ!?」

「友達でもダメ。選挙は公正中立を保たなくちゃ。」

生真面目な和にすげなく断られた。だが、澪はなおも引き下がらず和にしがみついた。

「ミスコン辞退したい・・・」

「できないって昨日も言ったでしょ。立候補がいなかったんだし、誰か出てくれないと。」

「絶対嫌だ。人前に出るだけで恥ずかしい。しかも今朝なんて無理やりメイド服着せられて・・・・」

だったら着なければいいじゃないかと和は思ったが、そこが澪の押しの弱さだとあきらめた。

「律が昼休みはナース服だって。ああ・・・なんだか寒気がしてきた・・・風邪だ、発熱だ。今日は早退して明日まで休まないと。」

「馬鹿なこと言わないの。」

和はうんざりした口調で言った。毎年の文化祭のライブでも学園祭の劇でも同じようなやりとりがあって見飽きていたからだ。

「ねえ、澪?ミスコン優勝者ってね、結構メリットあるのよ?ほら、よく芸能人でいるでしょ?元ミス何とかって芸能人が沢山。そういうテレビにでない人でも就職にすごく有利よ?」

「担ごうとしてない?律みたいには騙されないぞ、私は。」

澪は律や唯のように簡単に口車に乗ることはない。試しでやってみたが、やはり無駄だったと和は思い知らされた。

「しょうがないわね。まあ、他の人と戦う条件を対等にするだけならしてあげるわ。妙なことをしないで普通の候補者としていれば少しは楽なはずよ。」

和は律にきっちり条件をつけておくことを固く約束した。澪も不承不承ながらそれに同意した。

「澪は下級生の憧れの的なのよ。多少の出遅れはあってもすぐに取り戻せる位置にあるわ。乗り気じゃないのは分かるけど、ファンクラブの子達のためにも明日まで我慢しましょう?」

「分かったよ、そこまで言うなら・・・。ムギが憂ちゃんのおかげでかなり優勢になっているし、他のクラスの子達も人気がある子は一杯いるから無理そうだけど。」

澪は絶対自分は優勝なんてありえないと自分に言い聞かせながら言った。それが望みの綱だった。

「まあ、それは時の運だから・・・。」

あえて濁して言ったが、澪の人気ならこの不利な情勢を一気に覆してしまうかもしれないという一念が和の頭の中から消えなかった。



続く



[26362] 第六話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/14 23:40
昼休み。いつものように唯の机の周りに集まって軽音部四人が弁当を広げる。話題は当然ミスコンであった。

「りっちゃん。どうやら今のところムギちゃんのほうが人気が上みたいだね。」

「くっ・・・。見てろ、唯。すぐに挽回してやるからな。」

自分では何もしていない唯が胸をはってこれ見よがしに自慢するのに律が歯ぎしりして悔しがった。

「はあ・・・。和が止めてくれたおかげで昼はコスプレしなくていいけど、気が進まない。」

澪がため息を付いて憂鬱そうに箸を動かした。

「澪ちゃん、元気出して。澪ちゃんと競いあうことができる方が私嬉しいから。」

「ムギは相変わらずやる気だな。そのポジティブシンキングが羨ましいよ。」

「だって楽しいじゃない?なら、私と一緒に下級生のクラスを回りましょう。それなら気が少しは楽になるでしょう?」

ムギがそう言って笑った。全く澪のような負の感情を持っていない笑顔であった。その後ろでは佐々木曜子や柴矢俊美が黄色い視線を澪に送っていた。



「ねえ、梓は誰に入れるか決めたの?」

2年生の教室で純が弁当を食べながら梓に聞いた。憂は二人の真ん中でそれを黙って聞いている。

「まだ決めてないよ。その・・・澪先輩とムギ先輩とどっちにしたらいいか・・・・。」

「そんなに真面目に悩むことないと思うんだけど。私は澪先輩、憂はムギ先輩って簡単に決められたよ?」

「私には無理なんだよ、そういう割り切り方。」

梓は簡単に決められたらとっくに決めているという感じで溜息をついた。

「まあ、二人とも甲乙付けがたいから悩むのは分かるけど。何か違いがないかな。梓ちゃんの判断を助けるような。」

憂が助け舟を出した。梓は腕組みをして様々なことを頭の中で考えた。

「う、ううん・・・。澪先輩の方が成績順位は上。でも、文系に限ればムギ先輩の方が上。ムギ先輩は優しくて上品だけど、澪先輩は真面目でかっこいい。澪先輩の黒髪のストレートはいいけど、ムギ先輩のウェーブの掛かったブロンドの髪も捨てがたい・・・」

「それじゃいつまで経っても決まらないよ。ほら、そう・・・例えば二人を一言で表現すると何?」

純が飲み物からストローを放して会話に口を挟んだ。

「澪先輩はぷにぷにでムギ先輩はふわふわかな。」

「それ、どういう意味?」

「えっ?いや、だから、澪先輩の体は弾力があって抱かれると跳ね返る感じが気持よくて、ムギ先輩の方は柔らかくて抱かれると埋まる感じでいい匂いがするってこと。」

「何それ・・・二人とも抱かれたことがあるってこと?羨ましい・・・。あっ、今澪先輩とムギ先輩がが通った。私も抱いてもらってくる!」

純はたすきを掛けて二年生の廊下を歩く二人を追いかけて席を外し、梓と憂だけが残った。

「はあ・・・。どうしよう。このままじゃ二股かけてるみたいだよ。ねえ、なんで決められないのかな?」

「分かるよ、その気持ち。私だって一番票を入れたいのはお姉ちゃんだもん。」

「なんでそこで唯先輩が出てくるの?」

「梓ちゃんが澪さんと紬さんのどっちに入れるか決められないのは、本当はお姉ちゃんに入れたいからなんだよ。ほら、お姉ちゃんってすごく美人で可愛いから。だから迷いがあるんだよ。」

「ムギ先輩を応援している人間が言うことなの、それ。」

「それはこれ、これはこれだよ。私、紬さんのことはすごく尊敬してるんだよ。お姉ちゃんをあそこまで至れり尽くせりでお世話できる人、私以外で初めてだもの。和さんはどちらかというと冷たくあしらうほうで厳密なお世話とは違うから。」

結局、憂にとっての思考には姉である唯が入っている。それが優秀な平沢憂の数少ない欠点だろうな、と梓は思った。

「あっ、純、お帰り。」

憂の姉の自慢話が終わった頃、純が教室に戻ってきた。少し放心状態の体である。机に戻るとそのまま梓の胸の中に頭を押し付けて抱きついた。

「ちょっ、何やってるの?」

「良かった・・・。梓はぺったんこだ・・・。」

「いきなり人に抱きついて第一声がそれ!?」

「我を忘れそうで現実に引き戻すものが必要だったんだよ。いやぁ、本物はいるんだね。ああ、いけない・・・。澪先輩に入れるって決めてるのに、ムギ先輩に浮気したくなってきた・・・。」

梓が怒るのをよそに純は今さっき確かめた二人の肌の感触を何度も思い返していた。



続く



[26362] 第七話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/16 17:26
「すごいね。澪ちゃん、昼休みちょっと回っただけですごい人気だったよ。」

「まあ、彼女自身の力もあるけどファンクラブが率先して活動してるからね。」

放課後、佐伯三花と佐藤アカネが教室内で話していた。二人とも澪派であり、澪の状況の好転を喜ばしく思っていた。そこにムギ派の瀧エリがやってきて話に加わった。

「ムギちゃんの一方的な優位は崩れたみたいだね、エリ。」

「平気だよ。アドバンテージがあるから。」

「全校生徒の中で争うんだから、二人で競い合っていても意味ないんじゃ・・・・」

自分の応援する候補にばかり目がいっている三花とエリをアカネは半ば呆れて見ていた。



「他のクラスの子から評判聞いてきたよ。」

噂好きの太田潮が隣のクラスで情報に詳しい友人から聞いた情報を3年2組に持って帰ってきた。

「組織力に勝る5組の百々海さんが今のところ優勢。んで、それに続いて今日の活動がうまくいったムギと澪が対抗ってところかな。で、大穴が1組の田上さん。知名度の割に票が伸びそうだって。」

「明日香は部長で後輩にかなり人望があるからね。バスケ部はこの高校だと大所帯だし、当然といえば当然か。」

聞き手の中島信代はバスケ部員なので、そのあたりの事情に詳しい。納得の表情をした。

「で、他の子は脱落っぽいの?」

「まあ、そう考えていいんじゃない?うちのクラスは二人とも優勝争いに加わってるから当たりっぽいね。」

「問題はうちのクラスの中でも澪派とムギ派が半々くらいなところかな。共倒れしなきゃいいけど。」

「あんたはどうなのよ、信代?どっちに入れるの?」

「私は澪。あんたは?」

「ムギ。」

二人の間に若干の沈黙が訪れた。本当に共倒れするのではないかという不安がちらりと頭をよぎった。



「ねえ、若王子さん。もう誰に入れるか決めたの?」

澪ちゃんファンクラブの佐々木曜子がクラスの内外を問わずに澪へのアピールをしていた。今の対象は一人机にすわっている若王子いちごだった。

「別に。興味ないし。」

「だったら、秋山澪に一票よろしくね。」

それだけ言うとすぐ、曜子はまだ態度を決めていなさそうな別の生徒のところへ掛けていく。

「(それなら琴吹さんに入れよう。)」

天邪鬼ないちごがそう考えていると、曜子と入れ替わりに木下しずかがやってきた。

「いちご。澪とムギ、どっちに入れるか決めた?」

「別に。」

「なら、ムギのことお願いね。」

「(それなら秋山さんに入れよう。)」

誰かに票を期待されると反対の方向に動くため、いちごの態度はなかなか決まらなかった。



放課後、音楽準備室での話題もミスコンについてだった。

「ねえ、あずにゃん。二年生の中で澪ちゃんとムギちゃんの評価ってどうなってるの?」

「えっと、澪先輩が大人気みたいです。ムギ先輩は一年生の人気が高いって純に聞きましたけど。」

「そうなんだ~。」

澪もムギも自分が優勝を狙える位置にあることは人づてに聞いて知っていた。ムギは余裕の表情で、澪の表情は曇っていた。

「なんで・・・なんで優勝候補になってるんだよ。」

「諦めろ、澪。それがお前が人気のある証拠だ。」

泣きついてくる澪を律が手であしらいながら言った。

「ああ、そういえば梓。結局どっちに入れることにしたんだ?澪か?ムギか?」

「その、まだ決めていません。二人ともすごく美人で優しくしてくれるので、本当に迷ってしまって・・・」

「でも、早く決めないと。投票は明日だぞ、梓。」

「分かっています。今晩家でゆっくり考えます。」

梓が困惑した表情で言った。

「あの、梓ちゃん?本当は澪ちゃんに入れたいのなら、私に遠慮しなくていいのよ?全然構わないから。澪ちゃんのほうが美人なのはわかってるし。」

「ち、違います。そういう遠慮とかじゃなくて・・・。ムギ先輩はとてもきれいな人です。そんな、澪先輩に劣っているとかそんなことは全然ないと思います。」

「だったら、ムギに入れるのか、梓?」

律が横から口を挟んだ。

「そ、それは・・・。澪先輩も美人でかっこいいです。って、ああ・・・どうしたらいいんでしょう、私。」

「こら、あんまり梓を困らせるな。」

澪が見かねて律に注意した。

「まあ、落ち着いてから気楽に考えればいいよ、梓。それで私でもムギでも好きな方を選んで。恨みなんてしないからさ。個人的には・・・ムギのほうが美人だと思うけど。」

澪はムギをちらりと見ながら言った。

「ありがとうございます。私、精一杯考えます。」

「だから、それが既に力はいりすぎなんだけどさ・・・」



続く



[26362] 第八話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/19 01:13
「あっ、そうそう、お姉ちゃん。純ちゃんから聞いたんだけどね、桜高のミスコンには都市伝説があるんだって。」

夕食の席上、憂が口を開いて言った。

「都市伝説?」

「うん。あのね、ミスコンで優勝した人には幸せが訪れるんだって。彼氏的な意味で。」

「へえ、そうなんだ。じゃあ、ムギちゃんか澪ちゃんが優勝すれば彼氏ができるってこと?」

「そうだね。」

憂は内心姉がミスコンに出なくて良かったと考えていた。純の話を聞くまでは姉にミスコン出て欲しかったと悔しく思っていたが、話を聞いたあとでは一転して心のなかで喝采を叫んでいた。

「でも、澪ちゃんもムギちゃんもどうして彼氏さんがいないんだろうね。言い寄ってくる男の人はいっぱいいると思うんだけど。」

「まあ、二人とも興味なさそうだから。だったら、お姉ちゃんは彼氏欲しいの?」

「別に。私の恋人はギー太だから。」

唯がなんの疑問も持たずにそのセリフを口にしたのに憂は重ね重ねほっとした。



「ねえ、澪ちゃん。浮かない顔してどうしたの?受験勉強のことで悩み事?」

秋山家では母が暗い顔をしている娘を心配して声をかけた。

「明日・・・ミスコンの投票があるんだ。」

「ミスコン?もしかして、澪ちゃんも出るの?」

「うん。私、あんまり人前に出たりちやほやされるの好きじゃないから憂鬱で・・・」

「ミスコンか・・・。懐かしいわね。ママが大学生の時、友達にせっつかれて出たことがあったわ。」

「えっ?ママも?ママ美人だから優勝したの?」

「まさか。3位だったわ。ああ、でもね、その時パパがね、僕の中では君が1位だって言ってくれてね、それでね・・・」

「ああ、そういえばママとパパの馴れ初めって二人が大学の時だったよね・・・」

その後母のノロケ話に付き合わされ、その後仕事から帰ってきた父も同じような話をし始めて、澪は余計疲れて暗い気分になってしまった。



「姉ちゃんってさ、美人だよな。」

「何言い出すんだよ、急に。」

田井中家で弟の聡がテレビゲームをやりながら姉の顔を見ずに言った。

「特に前髪を下ろした時なんて弟の俺がどきっとするくらいだし。」

「褒めても何も出ないぞ?」

「マジでミスコン出るべきだったって。本気を出せば澪姉ちゃんの上いけるレベルだって。」

「そ、そうかな?」

律は照れて赤くなった頬をかいた。

「ま、まあ、姉ちゃんだってそれなりには顔には自信あるし?胸とか身長はなくても、それをカバーできるくらいのものは持ってるし?」

「そ、そうだよ。大学行ったらミスコン出なよ。で、笑顔で投票よろしくって言えば百人中百人が投票するって。」

「いや~って、待てよ。お前、何かおかしくないか?なんで私をそんなに持ち上げるんだ?」

「えっ!?べ、別に!?」

聡は動揺して声が裏返り、持っていたコントローラーを落としてしまった。顔には脂汗が滲んでいる。

「ごめんなさい!!姉ちゃんがやってたゲームのセーブデータ、間違えて消してしましまいた!!」

「はあ・・・。まあいい。私を美人だと褒めてくれたその意気に免じて、プロレス技の威力を特別に半分にしてやる。」

「それ、全然許してくれてないじゃん!?」

その夜、田井中家の居間からは長い間苦しげな悲鳴が鳴り響いた。



ムギが帰宅すると、執事の斉藤が恭しく頭を下げて挨拶をした。

「お帰りなさいませ、お嬢様。旦那様からお言付けを言いつかっておりますが、今よろしいでしょうか?」

「あら、父から?何かしら?」

「はい。旦那様も奥様もお嬢様がミスコンテストで優勝されることを心から期待している、とのことでございます。」

「あら、そう。でも困ったわ。優勝できるかどうかなんて分からないのに。二人とも期待しすぎているわ。」

「お嬢様に限ってそのようなご謙遜は必要ありません。私たち使用人一同もお嬢様の優勝は疑いなしと思っています。それに、後ほど手の空いたもので近くの神社でお百度参りをしてまいります。」

「あなたたちが風邪をひくだけだからやめてちょうだい。」

ムギは自分のことを一途に思いすぎる使用人たちに頭痛がした。



「(澪先輩・・・ムギ先輩・・・澪先輩・・・ムギ先輩・・・ムギ先輩・・・澪先輩・・・ムギ先輩・・・澪先輩・・・)」

梓は食事中箸が動かず、ずっと上の空で澪とムギのどちらに投票するか考えていた。

「うわああっ!!どうしたらいいの!?」

「食事中くらい静かにしなさい。」

母に叱られて梓は黙って食事を続ける。

「ねえ、お母さんだったら二者択一でどうしても決められない時ってどうする?」

「どっちも選べばいいじゃない。」

「いや、買い物の話とかじゃなくて。ミスコンの話なんだけど。」

「そんなの私が知るわけないでしょう。自分で考えなさい。」

「そうしてるんだけど決められないんだよ・・・・。」

梓は食事も喉を通らず、宿題もほとんど手につかず、ベッドに入ってもどちらに投票しようかずっと考えたが結局結論が出なかった。



続く



[26362] 第九話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/19 21:39
「(はあ・・・結局決められなかった。今朝も昇降口で澪先輩とムギ先輩が活動してたけど、ちゃんと顔をも見ることもできなかった。どうしようかな・・・)」

梓は教室の自分の机に頬杖をついてぼうっとしていた。昨晩遅くまで考えたが、どちらに投票するかはまだ決めていなかった。

「ねえ、梓。誰に投票するか決めた?」

純が梓の机にやってきて聞いてきた。梓は秘密とだけ答えてトイレに行くと言って席を立った。

「ありゃまだ決めてないね。本当にしょうのない子。」

「梓ちゃん、将来浮気とか絶対できないタイプだね。」

純と憂が苦笑しながら梓の後ろ姿を見送った。

「で、今朝はどうだったの、ムギ先輩は。」

「う~ん、優勝候補はある程度絞られてきたからやりやすいといえばやりやすかったんだけど・・・。ここに来て田上先輩と正岡先輩が伸びてきて、少し心配してるんだよ。」

「澪先輩は?」

「相変わらず大人気だよ。本人は嫌がってるみたいだけど。」

「よ~し、澪先輩がこのまま逃げ切れるかも。」

純が期待を込めて小さくガッツポーズをした。



昼休み。梓は早めに昼食を終えて一人音楽準備室にいた。先輩陣は投票呼びかけに出回っていて誰も他の人は来ないので、落ち着いていられる空間だったからだ。

「ねえ、トンちゃん。トンちゃんは澪先輩とムギ先輩、どっちが好き・・・って分かるわけないか。」

梓は餌をパクパク食べているトンちゃんを眺めながら言った。亀は気楽でいいなあ、と思いながら。

「私、トンちゃんのこと大好きだよ。もし人間だったらお付き合いしてもいいくらい・・・・」

「そういうプレイが好みだったの?」

「えっ?」

梓が寄りかかっている椅子から振り返ると、プリントの束を抱えていたさわ子が青ざめた表情で立っていた。

「ご、ごめんなさい・・・。私も生徒に理解ある教師でいたいけど、さすがにそういうのはちょっと・・・・。梓ちゃんには早すぎるわ。」

「なんのことですか?」

「こんな可愛くて子供みたいと思っていたのに、内面はすごく大人だったのね。まさか獣○に興味があったなんて・・・・。まさかもう汚れちゃってるの?」

「いや、思考が明後日の方向にいっていますよ。私はただ、澪先輩とムギ先輩のどちらに投票するか考えていただけで・・・」

「あら、そうだったの。梓ちゃんが好きなのは人間なのね?」

「当たり前ですよ。」

「待って・・・っていうことは、女の人が好きなのね!?そうなのね!?」

「少しは冷静になってください。」

梓はなおも騒ぐさわ子を落ち着かせ、誤解を解いてから音楽準備室を後にした。



「ねえ、唯。さっき廊下で梓ちゃんに会ったんだけど。」

昼休みが終わって教室に戻ってきた和が後ろ席の唯に話しかけた。

「梓ちゃん、何かすごく真剣な表情をしてたんだけど。何か悩み事かしら?」

「あずにゃんが?きっと、澪ちゃんとムギちゃんのどっちに入れるか悩んでるんだよ。」

「へえ、そうなんだ。そんな悩むことでもないと思うんだけど・・・。」

「そうなんだけどね。でも、あずにゃんって根が真面目だから。どっちも好きだけど、どっちが本当に好きなのか分からないんだよ。」

「そういうもんかしらね。」

和は曖昧に同意した。

「あっ・・・もしかしたら、あずにゃん、他に好きな人がいるのかな?それで、その人に義理立てして悩んでいるのかも。」

「誰に?」

「私だよ、きっと。毎日スキンシップしてるから、私のことが好きに違いないよ。」

「それは自意識過剰だと思うわ。」

和にはあのスキンシップは梓に煙たがられていて、嫌われる要素以外の何者もないとないと思えてならなかった。



続く



[26362] 第十話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/21 16:20
「では、これから桜が丘高校ミスコンテストの投票用紙を配ります。受け取ったら自分が投票したい候補者の欄に丸をつけてこの箱に入れてください。」

帰りのホームルームの時間に和が候補者の名前が記された投票用紙を配り、教卓の上に段ボールで作った投票箱を置いた。

「(ムギちゃんの欄に丸っと。)」

「(澪の欄に丸だな。)」

配られた用紙を各自他のクラスメイトから見られないように手で隠しつつ、クラスメイト分の丸がつけられていく。それを二つ折りにして次々に投票箱の中に放り込む。

「はい、これで全員投票が終わりましたね。では、この結果は午後4時半に正面玄関前の掲示板に張り出します。」

「それって和が仕分けるのか?」

箱を持って自分の席に戻ろうとする和に律が問いかけた。

「ええ、そうよ。生徒会で手分けして候補者ごとに取りまとめて、それを私が最終的にチェックするの。得意よ、こういう定型的な作業は。」

「だったら、うちの澪を・・・」

「公明正大に開票するから心配しないでね。」

和は律のこういう時のお決まりのやりとりをスルーして自分の席に帰っていった。



「(これで良かったのかな?良くなかったかも・・・いいや、これでいい。これでいいに決まってるよ。)」

梓は投票を終えて自席に戻り、自分の判断は正しかったに違いないと繰り返し自問自答していた。

「(でも、本当にこれで良かったのかな?決して褒められたことじゃないけど・・・。でも、澪先輩とムギ先輩の両方にとってこれがベストのはず・・・)」

「あ~ずさ。ちゃんと決められたんだね?誰に投票するか。)」

「へっ!?ああ、うん、まあね。」

梓は話しかけてきた純に生返事で答えた。

「梓ちゃん、結局誰に投票したの?」

「憂にも純にも内緒。私、部室行くから。じゃあね。」

梓は少し慌てて鞄とギターを持って教室を小走りで出て行った。

「あれじゃあ教えてくれなそうだね。澪さんか紬さんか、それとも他の人か。」

「他の人はないと思うけどね。それにしても気になるなあ。あんだけ悩んでた梓がどっちに入れたのか。」

憂と純の二人は思考を凝らしてみたが、誰に投票したのかは皆目見当がつかなかった。



「私さ、実は自分の名前に丸しないでムギの名前に丸したんだ。ムギが一番美人だと思うから。」

「私は澪ちゃんに入れちゃった。一票単位の戦いになるなんてまずないし、いいわよね?」

音楽準備室で澪とムギがお茶を飲みながらお互いに票を入れたことを話し合っていた。

「候補者が自分に入れないでどーする!」

律が至極まっとうなツッコミを入れた。

「まあいいじゃん。結局プラマイゼロだから。ところであずにゃん。澪ちゃんとムギちゃん、どっちに入れたの?」

「ひ、秘密です。唯先輩には教えません。」

梓が多少上ずった声で言った。

「だったら、私には教えてくれるのか、梓?」

「律先輩にも教えません。澪先輩にもムギ先輩にも先生にも。」

「あら、それは残念ね。私も梓ちゃんが澪ちゃんとムギちゃんのどっちを取ったか知りたかったわ。」

さわ子が残念そうに言う。

「そ、そんな事より皆さん受験勉強してください。ミスコンなんて忘れて。受験はもう間近なんですよ?」

「梓の言うとおりだな。勉強するぞ、唯、律。」

澪が参考書を広げながら言った。

「発表の時間になったら皆で見に行きましょう?」

「そうだな。あと30分か・・・・。」

ムギに言われて律も渋々参考書を広げた。

「その前にお菓子を・・・。」

唯がお菓子に手を伸ばそうとして梓に怒られた。



「会長、速いですね。とても私には真似できません。」

「そう?私はこれでも遅いと思ってるんだけど。」

和は他の生徒会役員が候補者ごとに選り分けた投票用紙を素早く数えて紙に記入していく。500枚以上ある投票用紙がスイスイ減っていく。

「よし、最終確認が終わったわ。へえ、こういう結果になったんだ・・・。」

和はたった今自分が書き終えた集計用紙を見ながら感慨深げにつぶやいた。

「さてと。じゃあ貼り出し用の紙に結果を書きましょう。お願いね。」

字が下手なことを自覚している和は集計用紙を書記に渡して言った。



続く



[26362] 第十一話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/21 16:18
真鍋和が大判サイズの紙を持って副会長二人と昇降口に現れると、待っていた候補者や野次馬たち30人以上が大きな歓声を上げた。

「見えない聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえない。」

「落ち着け、澪。っていうか黙れ。」

耳を手で押さえて眼を閉じている澪に律が迷惑そうに言った。

「ムギちゃん、優勝を信じてバッチリ見よう。」

「ええ。応援してくれた唯ちゃんと憂ちゃんの好意は無駄にはしないわ。」

唯とムギが固唾を飲んで紙の下側に画鋲を止める生徒会役員たちを見つめる。

「(ああ、二人も優勝してください、いや、それだと・・・優勝しないでください、でも、ああ、いやいや・・・・)」

「何ブツブツ言ってるの?」

「もうすぐ発表が始まるよ、梓ちゃん、純ちゃん。」

がくがく震えている震えている梓、それを呆れた表情で見る純、そして発表が始まるのを心待ちにしている憂。

「では、これからまず10位から6位までの発表を始めます・・・って、こんな演出本当にいるの?」

「必要です、会長。それがこういう時のムードです。」

副会長に言われてやれやれと思いつつ、和は紙を巻き上げた。



10位 4組 平尾洋子  26票


9位  5組 広瀬忍   27票


8位  3組 笹川さくら 31票


7位  1組 東郷奈々  33票


6位  3組 山本多佳子 40票



特に落胆の声は上がらない。ここまでは前評判通りの順位だったからだ。山本と平尾は部活所属なし、東郷は柔道部、笹川は生徒会、広瀬は書道部であまり部員がいない。最初から敗勢濃厚だったからだ。

「ええっと、次は5位の発表ですね。5位はこの人です。」



5位  4組 正岡香恵  56票



「うわ~、こんなものか~。」

「頑張ったのにね・・・。」

候補者陣営から多少の落胆の声が上がる。終盤不思議系の雰囲気で勢力を盛り返したが及ばなかった。

「ムギちゃん来てないよ!?ムギちゃん来てないよ!?」

唯の声のトーンが興奮して上がってきた。他のメンバーと一緒に期待のまなざしで発表を見続ける。

「ええっ、次は4位・・・。」

和は場の熱気に若干気圧されながらも淡々と順位の発表を続けた。



4位  5組 百々海明日香 60票



「ああ・・・・。」

「うう・・・・。」

深い溜息がいくつも場内に聞こえてくる。スポーティッシュなイメージとバスケ部の大世帯の組織力を活かすはずが、それに頼りすぎて4位に沈んでしまったからだ。

「澪、まだ来てない!!来てないぞ!!1位とれるぞ!!」

「・・・・・・・・・。」

顔面蒼白の澪は律に反応する余裕がなかった。

「これからベスト3の発表です。今年は過去の記録に照らし合わせてみても最大の激戦だったと言えるでしょう。間違いないか何度も確認する必要がありました。」

和のそのセリフだけでかなりのデッドヒートであったことがうかがい知れる。和は少しためらいがちに澪とムギを見た後、一気にベスト3の書いてある部分を見せた。





2位  2組 秋山澪  96票



同2位 2組 琴吹紬  96票



1位  1組 田上愛菜 97票



「えっ?嘘っ?やったー!!愛菜が1位だーっ!!」

「逆転勝利~!!」

田上愛菜陣営が大いに盛り上がる。合唱部の他のメンバーと共に、大穴予想からまさかの逆転勝利に湧いていた。

「・・・・・・・・・・。」

「澪、ショックか?」

「・・・・・・・・・・。良かった・・・・・。優勝しなくて本当によかった・・・・。」

「少しは悔しがれよ。」

「全然悔しくない。」

澪はほっとした表情をして言ったが、多少のがっかりは素振りに出ていた。

「ムギちゃん、ごめんね。もう少しだったのに・・・。」

「何言ってるの、唯ちゃん。唯ちゃんと憂ちゃんがいたから2位になれたんじゃない。感謝はしても責めるなんてありえないわ。」

「そっか。でも、1票差だよね。本当に惜しかったよね。」

「ええ。でも、楽しかったからいいじゃない。ありがとう、唯ちゃん。」

唯とムギは笑い合って友情の握手をした。

「うん?」

憂は1位の欄の上に書いてあるひとつの文章に注目した。



総投票数  563

有効投票数 562

無効投票数   1



「あの無効の1票が紬さんに入っていれば決選投票だったのになあ。」

「それはこっちのセリフだよ、憂。澪先輩に入っていればまだ分からなかったんだけど。ねえ、梓?」

「へっ?ああ、うん、そうだね・・・。」

そう相づちを打つ梓の頬から汗がだらだら流れ落ちていた。

「何冷や汗流してるの、梓?」

「な、なんでもないよ。ああ、残念だったなあ、澪先輩もムギ先輩も。まあ、もう勝負はついたんだし、部室に帰って練習の続きしなくちゃ。」

梓はぎこちない足取りで他の先輩たちより早く音楽準備室に戻っていった。



続く



[26362] 第十二話
Name: アルファルファ◆d4222b72 ID:567b6a87
Date: 2011/03/22 19:07
「惜しかったなあ。どっちかにあと1票入ってれば決選投票になったのになあ。」

「そうねえ。どっちが決選投票に進んでももう片方の票が軽音部つながりでそっくりそのまま入ったでしょうから、かなり有利になったはずよ。」

律とさわ子が準備室でお茶の続きを飲みながら残念そうに語り合っていた。

「くっ、これで澪に彼氏を作ってやろうという私の目論見も破れてしまったか。」

「彼氏?何の話?」

ミスコンの都市伝説を知らないムギが話に食いついてきた。

「私、憂から聞いたよ。ミスコンで優勝すると、彼氏兼将来の旦那様に出会えるんだって。」

「そうなの。ということは、田上さんには幸せが訪れるのね。逆に私も澪ちゃんもしばらく独り者のままかしら。」

ムギが少し複雑な表情で言った。浮いた話がない自分を呪わしく思ったからだ。

「そういえば、和ちゃんに聞いた話だと、無効票があったの二年生なんだって。」

「内容はどんなだったんだ?」

澪が興味を持って唯に尋ねた。

「白票だったんだって。あ、でも、澪ちゃんの欄とムギちゃんの欄だけ何度も書いたり消したりしてた跡があったらしいよ。」

「へえ、迷っていたのかな。書いたの誰なんだろうな、それ。」

「さあ。そんなに悩むことでもないはずなのにね。どっちでも書いてくれれば良かったのに。澪ちゃんが勝っても、その後私ちゃんと応援したから。」

唯が口を尖らせて不満そうに言った。一方、部室に戻ってきてからずっと口を開いていなかった梓は放心状態になっていた。

「うん?どうしたの、あずにゃん?」

「い、いえっ、その、なんでもないです。惜しかったですね。本当に惜しかったですよね、二人とも。」

「そうだよね。どっちか決められないなんて相当悩んでたんだろうけど。私だってお菓子選ぶ時すごく悩むもん。きっとあれと同じ感覚だったんだよ。」

「そんな事ありません。唯先輩がお菓子選ぶ感覚と一緒にしないでください。これでも私、真面目に悩んだんですから・・・って、あっ・・・」

梓は怒ったように言った後、はたと口元を押さえた。みるみる顔が青くなっていく。

「あずにゃん?もしかして?」

「ああ、えっと、その・・・ケーキを選ぶのと同じように人を選ぶような言い方をするのは不謹慎ではないかと・・・・」

「あきらめろ、梓。ネタは上がってる。さっさと吐け!!」

律が梓の後ろから首に手を回して締め上げた。ホールドアップの梓は観念して正直に告白した。

「す、すみません!!こんな接戦になるとは思わなくて!!澪先輩もムギ先輩も本当にごめんなさい!!」



「なるほど・・・。結局、私とムギとどっちが一番が決められなかったんだな。」

「あ~あ。梓がちゃんと投票してればどっちかがミス・桜ヶ丘になったのになあ・・・・ってぐはっ!?」

空気を読まない発言をした律が澪に沈められた。

「私、澪ちゃんと同じくらい美人だと思ってもらえて嬉しいわ。正直澪ちゃんにはとても及ばないと思っていたから。」

「そ、それはこっちのセリフだ。私にはムギのような上品さも気品もないから・・・。」

ムギと澪がお互い謙遜しあって相手を評価しあった。

「ねえ、あずにゃん。もし、私とりっちゃんも一緒に出ていたら、誰に投票する?もしかして私?」

「唯先輩には投票しません。子供すぎます。」

「なら、私には投票するか?」

「律先輩にも投票しません。いい加減な人ですから。」

唯と律がショックを受けて机の上に突っ伏した。

「なら、私は?」

「えっ・・・先生ですか?」

さわ子に言われて梓は彼女の顔をまじまじと見る。澪より背が高くスタイルもよく、演奏の時はとてもかっこいい。ムギよりもお淑やかキャラを演じることができて気立ても優しく、髪も綺麗。おまけに歌もギターもピアノもレベルはセミプロ並み。

「・・・・・・・・・・。」

「梓、顔が赤くなってるぞ?」

律に冷やかされても梓は反応できないくらいにできあがっていた。

「私、先生だったら迷わず入れるかもしれません。澪先輩とムギ先輩のいいところを足して濃縮したみたいにすごい人ですから。」

「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。」

「な~んだ。あずにゃんが一番美人だと思ってるのはさわちゃんだったんだ。」

「何よ、その失望したみたいな言い方は!?」

さわ子が唯に抗議のまなざしを向けた。

「まあ、これが大人の女の魅力と持ち合わせた実力というところね。澪ちゃんもムギちゃんもあと4年か5年すればそれが身につくわ。その時には私と互角に渡り合えるかもしれないわね。」

「その頃にはさわちゃん三十路だけどな。」

「ああんっ!?」

余裕ぶったさわ子が律を威嚇して黙らせた。

「でも、梓が誰が一番美人だと思ってるのか分かってよかったよ。先生なら確かに納得だな。そう思わないか、ムギ?」

「そうね。大学のミスコンまでには女に磨きをかけて先生を越えて、今度こそ梓ちゃんに私のことを選んでもらえるように頑張るわ。」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ私、先輩たちと同じ大学に行くなんて決めてませんよ?」

「あら、そうだったわね。なら、4年後に私たちの誰かに梓ちゃんが告白するとかは?」

「告白って・・・。梓とは女どうしだぞ?」

澪がムギの提案に笑って言った。

「でも、梓ちゃんって百合好きだし・・・。おまけにトンちゃんとも付き合いたいとか・・・。女の子に交際申し込んでも不思議じゃないわ。」

さわ子がポツリと言ったのに対し、澪とムギと律が後ずさりした。

「せ、先生っ!?それは誤解だって言ったじゃないですか!?お付き合いするなら男の人に決まってます。」

律が意味を分かっていない唯を自分のところに引き寄せてから言った。

「唯、危険だから近づくな。しかし、百合好きだからミスコンで誰に入れるか悩んでたのか。しかも獣○も男も女もありのバイとか・・・。」

「梓ちゃん・・・・まだ引き返せるわよ?」

「ごめん、梓。私たちが馬鹿なことばかり言って悪影響与えたのがいけなかったんだ・・・。」

「だから違うって言ってるでしょう!?」

ミスコンの話など吹き飛んで、いつも通りのノリの良い軽音部の姿がそこにあった。

「ミスコンなんてあってもなくても、私にとっての美人はたくさんいるからそれでいいかな・・・。」










次の日・・・

「おはよう、純、憂。」

梓が教室に入ると、先に登校していた友人二人がいた。

「う、うわっ、来た、食べられる・・・・!!」

「梓ちゃん、どんなことがあっても私たち友達だからねっ!!」

純と憂は怯えたように自分の席に逃げていった。

「・・・・・・・・・誤解、解かなくちゃ・・・。」

梓は昨日先輩たちと繰り返した問答をもう一度繰り返さなければいけないことに激しく疲れを感じた。





「ねえねえ、和ちゃん。教えて欲しいことがあるんだけど。」

「何よ、唯?」

「憂に昨日聞いたんだけど、全然答えてくれなくてさ。和ちゃんなら教えてくれるかもと思って。」

「へえ、どんな事?」

「ジューカンとバイってどういう意味?」

「そんな言葉、どこで覚えてきたの!?」

その日、唯は和にたくさん叱られました。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.17968893051147