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[26243] 【習作】 SURVIVORS (オリジナル・VRMO)
Name: 田楽◆941ffb9e ID:ad8d244f
Date: 2011/03/02 21:30
VRMMO物は多いけど、MO少ないな。って思って書いてみました。
楽しんでいただけると幸いです。
誤字、脱字などがありましたら指摘していただけるとありがたいです。

このお話しは、不定期更新です。


2/28 01に変な部分があったので修正
3/2 02投稿



[26243] 01
Name: 田楽◆941ffb9e ID:ad8d244f
Date: 2011/02/28 20:26
機械が静かな駆動音をあげている。
黒い色をした箱型の機械。
機械の正面には、起動中を示す青い光りと、コード。
そのコードは、ベッドで寝ている男がかけているヘッドマウント式のディスプレイと繋がっている。
そして、機械の側面には『VR』の文字。
VR。ヴァーチャルリアリティの略称。
空想でしか存在し得なかった世界を体感出来る夢の機械。
映画の世界に入り、それを中から見る事が出来る。
アニメの世界に入り、それを中から見る事が出来る。
そんな夢の機械は、瞬く間に世界的な流行となり、現在では一家に一台や二台置いてあるのが当たり前。
機械は、相変わらず静かな駆動音をあげていた。
ベッドで寝ている男も、やはり同じ。
彼は、夢の世界へと旅立っている。
自身の好きな、『ゲーム』の世界へ。





リョーは目を開いた。辺りを軽く見回し、自身が薄暗い石造りの部屋にいる事を知った。
部屋の中には、数個のテーブルと、それを挟むように長椅子が置いてある。
壁際には、いくつかの武器と金属鎧や革鎧。それとアイテムのような物。
そして、人。
リョーを入れて、6名の人間がこの部屋の中に居る。
椅子に座って会話をしている者達。
会話をしている彼らとは別に、壁に寄りかかっていたり、武器の品定めしている者が居た。

「こ、こんちは」

少し緊張しながら、リョーは部屋に居る人物達に声をかけた。

「――……」

椅子に座っている者達以外は、軽くリョーを一瞥すると、軽く手をあげて答えた。
一方、椅子に座っている者達はリョーを見るや、手招きをしてリョーを呼んだ。

「こっちこっち!始まるまでの間、適当に雑談でもしよーよ!」
「他のVRゲームの話してんだ。お前もどうだ?」

どうやら、ゲームが始まるまでの間、他のゲームの話をして盛り上がっているらしい。
リョーはこれまでも、VRゲームをいくつかやっている。
オンラインで顔も知らない人と一緒に遊べるオンラインゲームが中心だ。
剣と魔法の世界でのロールプレイングゲームであったり、爆弾を置いて相手プレイヤーを倒すゲームであったり。
特に、爆弾のゲームは凄かった。
至ってシンプルなゲーム性だというのに、爆弾が爆発する際に生じる炎のリアルさといったら、思わず悲鳴をあげたほどだ。
それを他のプレイヤーに笑われて、恥ずかしい思いをしたのは言うまでもないかもしれない。
その後、実は俺も……などという話もあった。

「あ、ああっ。混ざる混ざる!」

リョーは喜んで会話に混ぜてもらうことにした。
こういった、見知らぬ人とのゲーム上での雑談というものが好きだった。
同じゲームをやっているからだろうか、不思議と話が合う人が多い。
リョーは椅子の空いている所に座り、改めて挨拶をした。

「改めてよろしく。で、何の話をしてたんだ?」

会話に参加している3名尋ねた。
知ってるゲームなら良いんだけどな。

「ああ、クルセイドっていうネトゲの話でな」

白髪モヒカンのゴツイ男が答えた。肌は日に焼け浅黒く、いかにも前衛。といった風貌だ。

「あー……あれかぁ、前評判は良かったけど、いざ始まったらバグだらけだったっていう」
「そーそー。私やってたんだけどさー、もーほんとーーに酷かったんだよー」

リョー言葉に、正面に座っている長い赤髪で、ツリ目気味の女がげんなりとした表情で言った。

「僕もやってたけど……確かにあれは酷かったよね」

緑色の髪に緑色の服を着た、エルフのような耳をした少女も、言いつつため息を吐いている。
リョーは件のゲームはプレイしていないが、色んな所で悪い方向に盛り上がっていたので、そこそこ知っている名前だった。
ゲーム性は良いし、世界観もなかなかというのに、バグがとてつもなく多かったらしい。
話しに聞いただけでも、歩いているとポリゴンの隙間から下に落ち、なぜか空中に出現した挙句、地面に叩きつけられて死ぬ。
というようなバグだったり。
なぜか他人のキャラと入れ替わりが起こったりと、様々なバグがプレイヤーを苦しめたらしい。
最も、入れ替わりに関しては、一部物好きなプレイヤーが喜んでいたらしいが。

「普通に遊んでただけなのに、行き成りハゲでヒゲでマッチョなキャラと入れ替わっちゃってさー、もーサイアク」

ツリ目がテーブルに突っ伏して愚痴る。
まあ確かに、行き成りハゲヒゲマッチョにされたら困る。
もう少し普通が良い。普通が。

「まさかアレの被害者がこんな所にいるとは……」

リョーは同情半分、驚き半分だった。
報告数の少ないバグの体験者とこんな所で遭遇するなんて、世間は狭い物だ。

「あ、あー。テンションの落ちる話しはそれくらいにしておいて、このゲームの話しをしないか?」

微妙な雰囲気になったのを察したのか、モヒカンが慌てて話題を変える。

「そーだねー……あ、みんなって説明書読んだ?」

ツリ目が気を取り直して聞いてきた。
ゲームをやる上で、説明書は意外と重要だ。
ゲームを遊ぶ上での基本的な事が書いてあり、読んでおけばスムーズにゲームを進行できる。
が、残念ながら――

「読んでない」
「いや、読んでないな」
「読んでないよ」

リョーと、モヒカンとエルフ娘の声がハモった。
ハモったせいか、3人ともが同じ読まない派だったのがうれしいのか、みんな笑っている。
そう、とても残念な事に、リョーは説明書は読まない派だった。
気付きにくい要素を見つけたりするのが好きなのだ。
説明書は詰まったら読めば良い。リョーにとっての説明書とは、その程度の存在だった。
本音を言えば、読むより先に遊びたかった所が大きい。

「だよねだよねー、私も読んでない!」

ツリ目も笑っている。
どうやら彼女も読まない派だったらしい。

「っていうか僕、情報誌も読んでないんだよね。このゲーム、パッケージとタイトルで買ったから」

エルフは、このゲームの内容を全く知らないらしい。

「あ、それ私も。買ったっていうか、兄貴の部屋から奪ってきたんだけどね」

ふふん。と偉そうに胸を張るツリ目。

「俺は情報誌読んだと言えば読んだけど……三つのクラスと二つのモードがある。程度の事しか知らないな」

リョーもそれはほとんど同じで、大した情報は知らない。
このゲームを買った理由といえば、情報誌に少しだけ出ていた内容が面白そうだったからだ。
両手剣や片手持ちの長剣と盾などの近接武器を扱えるウォーリア。
弓での遠距離攻撃に特化したアーチャー。
近接用の短剣と、様々な効果を持つ罠を使えるトラッパー。
そして肝心のゲーム部分は、ステージクリア型のMO。
ここ最近はMOにハマっていたリョーの興味を惹いたのはこれらの部分だった。
ついでに言えば、他のゲームを買いに行った際にたまたま目に入ったからなのもある。
面白そうと思ったものの、実際ゲームを目にするまではすっかり忘れていた。
情報誌での事を思い出したリョーは、買おうと思っていたゲームを買うのもやめ、このゲームを買ったのだ。
大して興味の無いゲームよりは、こちらの方が断然興味があった。

「俺も情報誌はいくつか読んだな。聞くか?」

モヒカンが最後に口を開いた。
リョーを含めるほかの面子は、もちろん。と口を揃え、モヒカンに目を向けた。

「えーっとな、まず近接のウォーリアと遠距離のアーチャー。それにトリッキーなタイプのトラッパーがある」

この辺りはリョーも知っている情報どおりだった。
あまりゴチャゴチャと職業ばかりあっても、ゲームによってはバランス取りが難しくなる。

「あとは、対NPCのPvEがあって、これは面クリア型らしい。難易度選択とストーリーなんかもあるそうだ」

これも自分の知っている通りだ。
難易度に関しては新情報だったが、同じ場所を何度か行く事になるようなMOではさして珍しくは無く、あっても特に驚きは無かった。

「で、次にPvPだ。知ってると思うが、プレイヤーVSプレイヤーの事だな」

こんなところか、とモヒカンは説明を終える。

「PvP以外は、ほとんど俺の知ってる通りか」
「この程度の事しかどの情報誌にも載ってなかったんだ。しょーがないさ」

余り対人戦という物をした事がないリョーとしては、少し興味が惹かれる物があった。
ストーリー何かが落ち着いたら、やってみても良いかもしれない。

「んー、三つのクラス……かー。私はアーチャーかなー、弓好きだから」
「あ、僕もアーチャーが良いな。こう見えても弓道やってて。へへ」

どうたらツリ目とエルフの二人は、弓が好きらしい。
たしかに、弓は良い物だ。
弓というよりは、主に袴が。
弓道着女子はイイものだ。

「オレは見た目通りウォーリアだな。近接といえば花形だしな」

やはりリョーの予想は正しく、モヒカンは近接をやるつもりだったようだ。
こんな見た目でヒーラーとかやられてもちょっとイヤだ。
もっとも、このゲームにヒーラーは無いのだが。
やはり、後衛は小柄なキャラに限る。特に女キャラに。
まず回復職は絶対に女キャラが良いと思っている。
あとは強化なんかを担当する職も女キャラが良い。バードとか。
魔法使い系なんかも、やっぱり女キャラが良い。
そして自分も後衛。周りみんな女キャラでちょっとしたボーナスタイムだ。

「ねーねー、キミは?」

ツリ目がリョーに問いかけた。
どうやら余計な事を考えすぎたらしく、俺の選択を周囲の面々が待っていたらしい。

「あー……んー……俺はトラッパーかなぁ。アーチャーも良いけど、トリッキータイプって言われるとやりたくなる」

袴は好きだが、弓は好きってほどではない。
銃とかクロスボウは好物なのだが。
それに、トリッキーな嫌らしいタイプ何ていう物は、プレイヤーの腕の差が顕著に出る。
特にゲームが巧いわけでもないのだが、そういうタイプには惹かれる物がある。
だから、このゲームではトラッパーで行こう。
そうリョーは決めた。

「あんたらは何するんだ?」

モヒカンが、会話に参加していない二人。
黒い長髪の男と、小柄で樽のような――まるでドワーフのような爺さんに話しかけた。

「……ウォーリア」
「とーぜんウォーリアじゃな」

二人がそれぞれ答えた。
どうやら二人ともウォーリア志望らしく、黒髪はともかく、ドワーフの爺さんとモヒカンは前衛として頼りになりそうだ。






『待機時間が終了しました。クラスを選択してください』

頭にシステム音声が響いた。ゲームが始まるらしい。
壁に立てかけてある武器と防具にそれぞれ集まり、武器を見繕い始めた。
モヒカンはプレートアーマーよりも軽量なフリューテッドアーマーと、両手で持つツーハンドソード。
黒髪は全身を包むプレートアーマーとロングソードとシールド。
ドワーフも黒髪と同じプレートアーマーのサイズ違いと両手持ちのハンマー。
エルフは、動きやすい革鎧とロングボウ。
ツリ目は、エルフと同じ革鎧の色違いとショートボウ。ショートボウの付属品として大振りのナイフがセットでついていた。
そしてリョーは、草色の布地で出来た上着と、同じ色の下穿き。そして、投擲用のナイフと近接用のダガーに罠用のアイテム。

こうして6人は準備を整えた。

『準備時間が終了します』
システム音声が終了を告げると同時に、カウントダウンが始まる。

『3……2……1……――』

6人は、戦場へと旅に出る。






草木の臭いがする。
いつのまにか瞑っていた目を、リョーは見開いた。
眼前にはポリゴンで表示されている木々があり、森のフィールドである事が確認できる。
木の表面は現実に存在する木のそれと変わらず、細部まで非常にリアルに作られているように見える。
そっ、と表面に触れてみると、ざらりとした感触が手のひらに伝わってきた。
リアルだ。
今までプレイしてきたどんなゲームよりも、リアルに作られている。
例えば、布地の服を着ている微かな感触。風が頬を撫でる感触。
バカみたいに丁寧に、変態的なまでの作りこみがなされている。
しかし、リアルでありながら、ゲームとしてきちんと作られている。

ま、問題はゲーム部分なんだけど。
木を触りながら、そんな事を考えていると、背後で葉と何かが擦れた音がした。
リョーはふと我に返り背後に振り返ると、さっきまで同じ部屋にいたメンバーが全員居た。
他のメンバーも、それぞれが周囲を見回したり、木や葉に触れていたりしている。
どうやら、リョーと同じくこのゲームのリアルさに驚いているようだ。
それよりも。と、このゲームのグラフィックスを楽しんでいるメンバーを尻目に、リョーは一つ確認したい事があった。

(メニュー)

脳裏でメニューを呼び出す。
こういったメニューなどを呼び出す方法は、VRゲームではほぼ共通している。
リョーの予想通りに、視界に半透明に透過されたメニュー画面が現れた。
ステータスやアイテムといった項目は無く、スキル画面が直接出現した。
トラッパー用のスキルと、全クラスで共通しているスキル。2つのクラスで共通しているスキルなどが並んでいる。
ゲームをやるのであれば、どういう攻撃が出来るのか。といった事は多少知っておくべきだ。
リョーはスキルの説明文をざっと読みつつ、軽く頭に入れておく。
どうやら、トラッパーのスキルの多くは、地面に設置し、一定範囲に敵が侵入して初めて効果を発揮するらしい。
となれば、あとは実践しながら覚えれば良いだろうと考え、メニューを閉じる。

「さて、どうするかの?」

ドワーフが言った。どうする。とは、これからどう動く。という意味だろう

「て、適当に探索するのが良いと思うけど。みんなで」

エルフがドワーフに返す。彼は見るからに不安そうで、一人になるのが怖いのかもしれない。
ゲームなのだから、別に一人になった所でどうと言う事は無いとおもうリョーだが、それはまぁ、人それぞれかもしれない。

「……俺は一人で行く」

黒髪はそう言うや、他のメンバーの返答を待たずに歩き出していた。
ツリ目は、ちょっとー!などと叫んでいるが、どうやら黒髪は全然聞いていない。
止めた所で聞きそうな奴でも無いな、とリョーは考え黒髪の事は放っておくことにした。
アイツより、残った面子がどうするかの方が大事だろう。
折角仲良くなれたメンバーと別々に行動する意味もないし、リョーは他の面子と行動するつもりでいた。

「……俺は、みんなと一緒に行動するかな」

リョーは残ったメンバーを見ながら言った。少し、エルフが嬉しそうな顔をしている。

「オレもそうしておくか。折角の縁だしな」
「ワシもそうしよう」

モヒカンとドワーフが揃って答えた。

「私も勿論一緒にいくよー!」

ツリ目も一緒。
これで黒髪以外は全員一緒で行動することになった。

「んじゃ、行くか。トラッパーのスキルで『ホークアイ』っていうのがあったから、使いながら行くな」
「おう……って、なんだ?ホークアイって」

モヒカンから質問が返ってきた。
そういえばウォーリアには無いスキルだった。説明しないとわからないか。

「目視距離を上げるスキルらしい」
「ああ、なるほど。言われてみれば確かに。って感じだな」

直訳してしまえば鷹の目なわけで、ゲーム何かでたまに見かける名前だ。
命中率を上げる物であったり、ダメージを与える物であったり、様々ではあるが。

(ホークアイ)

脳裏でスキル名を囁き、スキルを発動させる。
瞬間、目に少し力が入る。
ぼやけていた遠くの木にピントがあうようになり、離れた場所の色々な物が見えるようになった。

「うあ……なんか見えすぎるって気持ち悪いな」

かなり離れた場所の木の葉っぱまでが細かく見える。
そんな光景になれていないせいか、少し違和感があった。
まあ、使っていれば慣れるかな。と、スキルを解除せずにそのままでいることにした。

「それアーチャーにもあった!私も使ってみようかなっと……ホークアイ!」

リョーの言葉に興味を惹かれたのか、ツリ目もホークアイを使う。
たしかにホークアイのスキルの説明文には共通の文字があった。
ということは、ほかのクラスでも使えるというわけだ。
というか、わざわざスキル名を叫ばなくても使えるんだけどな。

「うわ、これすっごー!面白いよこれー!うわー……あんなに離れてるのにクッキリ見える、ふしぎー」

ツリ目は違和感がある所か、むしろ楽しんでいるようだった。
どうやら、スキル一つをとっても人によって感じ方が違うらしい。

「ですね、凄いです。見えすぎて頭がクラクラしそうですけど」

いつの間にかエルフの方もホークアイを発動させていたらしく、周囲をキョロキョロと見回していた。

「お、おい爺さん!俺達も面白スキル探そうぜ!」
「そ、そうじゃの!」

ホークアイ組を羨ましそうに見つめていたウォーリア組が、何か面白そうなスキルが無いか調べ始めたらしい。
なるほど、ホークアイはウォーリアでは使えないようだ。
主に偵察用で使われそうなこのスキルは、確かにウォーリアには無くても頷ける。
一方ウォーリア二人は、これなんてどうだ?
いやいや、それじゃインパクトに欠けるじゃろ。などと相談している。
しばし相談が続き、どうやら面白そうなスキルを見つけたらしい。

「ふふん、見てろよ。ハイジャーーーーンプッ!」
「同じくハイジャンプじゃーーー!」

僅かに屈んだと思うやいなや、全身のバネをフルに活用し、一気に空中に飛び上がる二人。
リョーの身長を軽々と超え、3メートルから4メートルほど飛び上がってるように見える。
地上にいる面子は、おーと軽い歓声をあげて空を見上げている。
と、いうか。プレートアーマーを着込んであそこまでジャンプ出来るとは、流石はゲームとしか言いようが無い。
いや、普段の動きを見るに、あのスキルは決められた高さまでジャンプ出来るようになっているのかもしれない。


「おおっ、高いぞい!」
「ああ!たけえ!けど、周りが木で何も見えねえー!」

ジャンプで飛び上がれる最大距離に到達したのか、地面に向けて落ち始めている二人が、頭上ではしゃいでいる。
葉や枝を折る音をさせながら、二人は地面に軽やかに着地した。

「ハイジャンプも面白そうだねー。今度ウォーリアもやってみようっと」
「うん。僕もやってみたい」

ハイジャンプは、ツリ目とエルフの興味を大いに惹いたようだ。
といっても――

「実はトラッパーも使える」

――トラッパーもハイジャンプが使えるのだった。
トリッキーなタイプというだけあって、機動力に物を言わせるようなスキルはいくつか存在していた。

「なんじゃと……」

トラッパーも使える。というのは、ツリ目とエルフに対してリョーが言った言葉だったのだが、全く予想していなかった人物から驚きの声が聞こえた。
声の方を見やると、ドワーフは少し肩を落としがっかりとしていた。

「専用スキルかと思っておったわ……」

どうやら、スキルの詳細に書いてある“共通”という文字を見逃していたのだろう。

トラッパーというクラスの性質上、移動に関するスキルがいくつか存在している。
このクラスのスキルを見るに、敵をかく乱したり、敵の背後に回り込んだりする必要性があるからだ。
ただし、トラッパーには致命的な弱点もある。
3クラスの中で最も防御力が低いというデメリット。
リョーの選択した布製の防具は、何も好きで選んだわけではなく、アレしか選べなかったのだ。
動きが素早く、近距離から中距離で戦うと考えると非常に頼りないソレは、どう見ても防御力があるわけがない。
打たれ弱いというと、あるアニメのキャラクターの名台詞を言う輩もいるが、無茶言うなと言いたくなる。
そして、ハイジャンプを使えるもう片方のクラスであるウォーリア。
その戦闘方法を考えると、戦闘中に使用する移動系のスキルが無くては、何も出来ずに倒される事が多発するだろうし、囲まれた場合の脱出用としては優秀だろう。
それに、ハイジャンプはそこまで連続使用出来るタイプのスキルではないみたいだし、これくらい無くては不利というものだ。
それに対して、モヒカンは共通スキルなことに気付いていたらしく、特に驚いてもいなかった。

「ウォーリアだけかと思っておった。こりゃうっかりじゃな」

がっかりとした表情を一新、がっはっはと笑いながらうっかりうっかり。と笑っていた。

「しかしこうしてスキル一覧を見てみると、スキル一つとっても使い方が色々ありそうだな」

ふと、モヒカンが言った。
スキルの一覧を見ていたらしい彼は、何か面白い事を考え付いたのか、口元がニヤついていた。

「使い方……?」

エルフが尋ねる。
スキルと言えば、すでに決定された効果が決められていて、発動するとその効果が発揮される。
そういった物でしか無い。

「ああ、例えば攻撃スキルの『アースクエイク』。高くジャンプして、その勢いを利用して地面に武器を打ち付け周囲の敵をスタンさせるスキルがある」
「ふんふん、それでそれでー?」

モヒカンのスキルの説明にツリ目が相槌を返す。

「つまり……っと、ここなら実践できそうだな。ちょっと見ててくれ」

周囲には少し木々が少なくなっており、空が見えていた。
彼は、他のメンバーから離れ、背中にさしてあるツーハンドソードを抜く。
金属と金属が擦れる音をさせながら、ツーハンドソードはその刀身を完全に出現させる。
真っ直ぐな長く、幅の広い両刃の刀身。
それは、空から降り注ぐ光りを反射し、輝いている。

「失敗しても笑うなよ……『ハイジャンプ』!」

浅黒い長身が空に舞い上がる。
そして一気に加速されたそれは、すぐに飛べる最大の高さへと到達し、一瞬だけ停止する。
その瞬間――

「『アースクエイク』!」

――両手で持たれた剣を、下から頭上へと振り上げ、その勢いを利用して更に高く上る。
アースクエイクでのジャンプは、ハイジャンプのそれよりは短い物の、二つが組み合わさると、相当な高さになっていた。
モヒカンが空中で剣を順手から逆手に持ち直す。
それが合図になったかのように、その巨体が地面に向かって急速に下降を始めた。
下降を始めると共に、ゆっくりと加速をはじめる。
ゆっくりと、ゆっくりと、加速がどんどんと加わっていく。
――地面へ衝突する。
そう思われた瞬間、振り下ろすかのように地面に剣を渾身の力を込め、突き刺した。
まるで隕石でも降ってきたのか。とでも言うかのような轟音と共に、地面に無数の亀裂が入り、衝突地点は大きく陥没していた。

「すんげぇ……」

リョーはあまりのインパクト、派手さに驚愕していた。
それと同時に、モヒカンがニヤついていた意味がよくわかった。
スキルとスキルの組み合わせ。
実際に使ってみなければわからないが、もしかしたらスキルの効果を大幅に底上げする事が出来るかもしれない。
例えば、トラッパーのスキルである『ガストラップ』。
範囲内に敵が侵入すると発動し、範囲内の敵に鈍足と眩暈の効果を与える。
そしてもう一つ、『バーントラップ』。
ガストラップと発動条件は同じで、効果が違う。
範囲内の相手を火傷状態にし、一定時間ダメージを与え続ける。
仮に、ガストラップが引火するタイプの物であれば、この二つを組み合わせて同時に発動させれば――。

「み、みんな!あれ!」

リョーの思考を遮るように、叫び声が耳に入った。
この声はエルフだ。
他のメンバーも、各自スキルの組み合わせを考えるのに夢中になっていたらしく、驚いた表情でエルフを見ていた。

「な、なんじゃ?驚きすぎて寿命が縮まったぞい」
「それ以上縮んだら天国に行っちまうぞ、じーさん」

ドワーフの問いに、モヒカンが口を挟む。
それに対して、ドワーフは「違いない」と大口を開けて笑っている。

「あれです!あそこ!」

二人の漫才を軽く流し、エルフはどこかを指差している。

「オレには何も見えないぞ?何があるってんだ」

モヒカンは目を凝らし、指で指し示している方向に目をやるが、何も見えていないらしい。
モヒカンにつられて、他のメンバーもエルフが指す方向を見やった。

「あれは――」
「……まずそうだな。物凄い敵の数だ」

リョーの目には、はっきりとうつっていた。
全身緑色で、腰に控えめな布地を巻きつけた、醜い生物。
犬の顔にも似てなくもないが、犬にはもう少し愛嬌があるように思う。
あれは――コボルトか?
いや、敵が何であるかは関係ない。
問題は数だ。見えるだけでも、2匹や3匹じゃない。10や20は居る。

「助けに行こーよ!一人じゃムリっしょ!」

ツリ目が叫ぶ。
それと同時に、走り出していた。
ツリ目につられるように、全員走り出す。

なんであんなに大量の敵が居るんだ。
ここは最初のステージじゃないのか?
ぐちゃっとした考えの中、黒髪の援護をするべく、全力で森を駆ける。

「おい!こっちだ!えぇっと……名前聞いてねえ!」

モヒカンが黒髪に向けて叫び、名前を知らない事に気がついたらしく、ガーッと吼えていた。
そういえば、確かに自己紹介すらしていなかった。

「アイツ助けたら、俺自己紹介するんだ!」
「それ死亡フラグですよー!」

リョーのボケにエルフがツッコミを入れる。

「バカ言ってないで、もっと早くはしりなさーい!」

ツリ目もツッコミを入れる。
黒髪とコボルトがホークアイ無しでも見えるまでに近くなっている。

「モヒカン!一発かましくれ!さっきのヤツで!」

頭を切り替え、モヒカンがつい先ほど見せてくれたスキルのコンビネーションを頼む。

「任せろ!そっちも何か頼むぞ!」

スタンが解け、それを合図に一斉にモヒカンに敵が群がる恐れがある。
いや、それよりも前に黒髪の援護をするべきだ。
ということは、ガストラップで動きを緩慢にしてやれば良い。
そして、ガストラップを使う為に、一気に敵との距離を縮める必要がある。
なら――。

「ああ、良いのがある!アーチャー二人は、何か範囲攻撃があったらすぐに頼む!黒髪は俺がなんとかする!」
「はい!アローレインがあります!」
「ダブルで行くよー!」

リョーからの指示でアーチャー二人は停止し、上空に向かって弓の弦を引き絞り始めた。
アローレインということは、大体は上空から無数の矢が振ってくるタイプというのがセオリーだ。
だが、このゲームには、味方への攻撃判定があるのかわからないが、あったらまずい。
止めるべきだろうか。リョーは軽く自身の指示に後悔しかけたが、止めるべきではないとすぐに判断した。
どちらかと言えば、黒髪がアローレインの範囲外に出られるようにサポートすればいいし、トラッパーであれば不可能じゃない。
まずは、距離を縮め、ガストラップをヤツらの群れに放り込む。その次に黒髪と一緒にアローレインの範囲外に逃げる。
そしてモヒカンが追撃のアースクエイク。
ここで一番問題になりそうなガストラップのスキルの説明文には――
『範囲内の敵に鈍足、眩暈の効果』
――とある。“敵”と明言しているからには、黒髪は無事なはずだ。その後に続くモヒカンも言わずもがな。

そして、最大まで力を貯えた弦が、指から離れる。
軽く、乾いた音をさせながら一本の矢が空中へと駆け上る。
そして、遥か上空で、一本の矢は停止する。
緩やかに下降をはじめ、そして矢は分裂を始める。
一本が二本に、二本が四本に。
矢はありえない分裂を繰り返し、遥か彼方の地上に向けて、その巨大な口を開こうとしている。
リョー達と黒髪の距離は、遠いとは言えない。
しかし、すぐさま参戦出来るほどの距離でもない。
このままの速度では、10秒やそこらはかかる。

『ブースト』

全力で走って10秒かかる距離を、一気に駆け抜けられる可能性のあるスキル。
瞬間的に移動速度を爆発的に速める。その代わりに、効果時間はとてつもなく短い。
脳裏でスキルを発動させ、前傾姿勢をとる。
足に力が漲るのがはっきりと分かる。
一気に、渾身の力で地面を蹴る。
自分でも驚くほどに、リョーの身体は加速した。
そのまま黒髪に向かって、地面を一蹴り。二蹴り。
三蹴りした所でダッシュの効果が切れた。
予想以上にスキルの効果時間が短い。
しかし、もう黒髪とコボルトの集団はリョーのスキルの範囲内にいる。

「黒髪!後ろに向かって走れ!」

リョーが叫ぶ。
黒髪は、わずかに声の方向を見やり、リョーの姿を確認した。
黒髪に向かってきたコボルトの棍棒を長剣でいなし、盾でコボルトの横っ面を殴りつけた。
盾でのバッシュにより、スタンしたコボルトは、後ろから黒髪目掛けて走りよってきていたコボルトにぶつかる。
その反動で今度は違う方向によろけ、他のコボルトにもぶつかり、コボルト達の最前線はもみくちゃになった。
僅かながら、コボルトの攻撃が止んだ。その隙を見逃さず、黒髪はリョーの方向へと走り出した。

「くらえっ!」

既に手の中に用意していたガストラップ用のアイテムを、コボルトの塊目掛けて投げつけた。
黒い液体の入った瓶であるそれは、コボルトへと当たり、砕ける。
中身の液体が空気中へと露出した瞬間、スキルは設置条件を満たし、その場所へと設置される。
そして、スキルの発動条件である『範囲内への敵の進入』も当然満たし、その効果を発動させた。

「ぐげっ!?」

コボルト達の一部を包み隠すように、瓶が砕けた場所を中心に黒い霧が噴出した。
ヤツらから戸惑いの声らしきモノが漏れている。


「ぐげ!ぐげげげ!」

ガストラップの効果は無事に発動しているようで、コボルト達の戸惑いの声は、苦しみの声へと変わった。
となれば、鈍足と眩暈の効果が発動しているはず。


そして――空から、ほんの少し前まで黒髪の居た場所に、矢の海が降ってきた。
二人分のアローレインが重なり合っているからか、矢が降ってきたというよりは、壁が落ちてきたようにすら見えた。
遥か上空から落下し、コボルトの皮膚を易々と貫くだけの力をそなえたそれは、その密度をもって確実に致命的なダメージを与えた。
次いで、上空から太陽を覆い隠すように、眼前の生物を絶命たらしめる鉄の塊が落ちてくる。

轟音。

リョー達の連携攻撃は、彼の脳裏で行われていたシミュレーション通り、綺麗に決まった。
知らない内に、握りこぶしを握り締めていた。
思わず歓声をあげそうにすらなっていた。
良いゲームに出会えたかもしれない。
リョーは気持ちの良い満足感に浸りながら、自分たちのほうに親指を立て、白い歯を輝かせる仲間を見つめていた。
脳裏にシステム音声が流れ、ゲームの終了を告げた。




いつの間にか瞑っていた目を、リョーは見開いた。
目の前には、見覚えのある石造りの部屋が広がっている。



[26243] 02
Name: 田楽◆941ffb9e ID:ad8d244f
Date: 2011/03/02 21:29
蝋燭の頼りない灯りでつくられた影が、ゆらゆらと揺れている。
光りが照らすのは、石で作られているこじんまりとした部屋。
壁には大きな武器を立てかける棚や、小さな武器を展示する棚。
様々な素材で出来た鎧を着せられた人形達。
リョー達6人は、部屋にある3人掛けの長椅子にテーブルを挟むようにして座っている。

「にしても、あそこまで綺麗に連携が決まると気持ち良いもんだな!」

よほど爽快だったようで、モヒカンは満面の笑みだ。
未だ興奮が冷めていないらしく、始まる前よりも口数が多かった。

「あーいう時、近接が羨ましーよー」

ツリ目がモヒカンに笑顔で言う。
確かに連携の締めとなると、派手な大ダメージ技が好んで使われる事が多いとリョーは思う。
とは言う物の、モヒカンが言うには、前回使ったアースクエイクは見た目こそ派手な物の、ダメージだけで言えばそこまで高くないらしい。
あくまでも、咄嗟にアドリブで行われた連携だったのもあるし、何より一度見ているスキルだったので、信頼性があった。
それに周囲を麻痺――スタンさせて動きを止める事も出来たからだ。
アローレインに関して言えば、とりあえずダメージを与えられればその後が楽。という物だったので、長距離で使用出来る範囲攻撃であれば何でもよかった。
しかしながら、アローレインの威力は正直予想外だった。アローレインが強かったのではなくて、コボルトが弱かったのかもしれないが。

「……ワシ、何もしてない」

声の主を見やると、ドワーフがしょぼーんとしていた。
そういえば、確かに……と、リョーはドワーフだけ何もしていない事に気がついた。
モヒカンの攻撃で一掃してしまったわけだから、何もしていないというより、何も出来なかった。が正しい。

「えーと、その……えぇーっと」

エルフはかける言葉が見つからないようで、どうしましょう!とリョーを見ていた。
自分を見られても困るというものだ。なぜなら、すっかり忘れてたんだから。
とリョーも困ってしまった。

「あそこまで敵が柔いとはなぁ……ま、次があるさ次が!今度はウォーリアだけで連携やろうぜ!」

ドワーフの背中を叩きながらモヒカンが笑っている。

「むぅ……そうじゃな、ありゃ見るからに雑魚じゃったし。それより、ウォーリアだけでの連携か……面白そうじゃな!」
「だろ?締めは勿論ジーサンで決まりだな」
「いや、それよりもっと面白そうなのが――」

しょんぼりしていたドワーフは打って変わり、ウォーリア組での連携にお熱なようだ。

「……なあ」

長椅子の隅で黙っていた黒髪が口を開いた。
リョーの正面に居る彼は、視線を軽く下のテーブルへと向けたまま、続けた。

「なんで助けた」

表情はよく見えないものの、その声には戸惑いの色が含まれているように聞こえた。

「え?ダメだった?」

頭にクエスチョンマークがつきそうな顔で、ツリ目が問い返した。

「そうじゃない……なんで、助けてくれたんだ」

黒髪からすれば、リョー達が助けに来たのが不思議だったのかもしれない。
ツリ目の静止の声を無視して、一人でどこかへ行って勝手にピンチに陥った。
初対面の人間からしてみれば、第一印象は良いわけがないとは思う。
それにリョーとしては、彼を助けたくて助けたわけじゃない。
正直どちらでも良かったが、助けた方が後味が悪く無くて良い。
おまけに、ツリ目もエルフも助ける気満々だった。

「見捨てられるよーな事したっけ?」

もしもこのゲームに、頭の上にクエスチョンマークを出すような“感情表現”があったとしたら、彼女の頭の上のハテナは、一つから二つに増えてる事だろう。
リョーには彼女の顔に「なんでそんな事聞くの?」と書いてあるかのように見えた。

「……無視を」
「やだなー、そんな事でいちいち怒らないってばー。そんなにカルシウム足りなそうに見えるー?」

ツリ目は「牛乳嫌いなんだよねー」とくすくすと笑っている。

「…………俺はシルト。さっきは助かった」

名前と感謝を陳べ、彼は軽く頭を下げた。

「どーいたしましてっ。それじゃー、私達も自己紹介といこーよ」

ツリ目は素直に感謝の言葉を受け取り、他の面子を見回し言った。
折角空気がより良くなったのだ、自己紹介はリョーとしても文句があるはずがない。

「まず私から、名前はコロナ。PCでキャラモデル作ってる時にチョココロネ食べてたから、コロネにしよーと思ったんだけど……使われてたから、ちょっと変えてコロナにしたんだー」

よろしくねーと自己紹介を終え「じゃー次レディファーストでエルフちゃんね!」と、隣に座っているエルフを指名した。

「え、ええっ!?僕ですか!?」

行き成り指名されたからか、すっかり聞き専になっていたエルフが慌てている。
どうにも、急な展開に弱いらしい。
ツリ目はこれを狙っていたのか、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
基本イイ奴な気がするのだが、微妙にSっぽい。可愛い子を見つけると苛めたくなるのは、わからないでもない。
まぁ、間違っても自分にはその矛先は向かないだろう。と少し安堵。

「え、えっと、ポイネって言います。同じくPCでキャラを作ってる時に、エルフっぽいね。といわれたので、なんとなくポイネにしました」

お、終わりです!と顔を赤らめながら胸を撫で下ろしていた。

「ポイネちゃん、指名おねがいね」
「あ、あああそうでしたすみません……え、えーっと……トラッパーさんでおねがいしますっ」

残ったメンバーを見回し、少し悩んだ末にリョーが指名された。
それと同時に「やだなーなに謝ってるのー?」と、コロナに捕獲され可愛がられていた。

「ん――名前はリョー、適当につけたから由来は特に無いかな。よろしく」

素っ気無い自己紹介になってしまったが、こんな物で良いだろう。
名前に面白エピソードを求められているわけでもないし、次を指名してしまおう。と、ドワーフを指名しリョーの自己紹介が終わった。

「ワシはハンマード。よろしくたのむぞい、名前の由来は鈍器スキーだからじゃ。爺キャラなのも趣味での」

顎からもさもさと生えるヒゲを撫でつけながら「爺キャラはいいぞー」と力説していた。
そして、最後に残るモヒカンの番となった。

「オレは見たまんま、モヒカンだ。よくモヒカンキャラを作るからってのが理由だな」

珍しい。とリョーは思う。
モヒカンを積極的に愛用してる。という人には初めて会うのだ。
ハゲだったら何度か会ったことがあるので、特に驚いているわけではないが。

「なるほど、モヒカンフェチか……」
「え、モ、モヒカンフェチ? なにそれ……?」

リョーが思わず呟いた言葉に、コロナが目を丸くしていた。

「んーと…………性癖?」

巧い言葉が出てこなく、思わず直球を投げてしまった。
言ってから思ったのだが、性癖じゃあ、モヒカンでしか興奮出来ない変態になってしまう。

「あー……うん……聞かなかった事にする」

どうやら、コロナは忘れる事を選んだようだ。
なのだが、コロナは見るからに引いていた。
部屋の中の気温が少し下がったのではないかと錯覚してしまうほどだ。

「いやいやいや! おかしい! 性癖モヒカンとかおかしいだろ!」

モヒカンの声は大きいが、顔は笑っていた。
リョーは思わず安堵していた。ノリの悪い人だと、ここで怒ったりすることがあるからだ。

「悪い、適当な言葉が見つからなかったんだ」
「っつうか、モヒカンフェチでも無いんだからな。単純にカッコイイから使ってるんだ」

モヒカン。それは十分にモヒカンフェチだろ。
と、リョーは思わず口を開きかけたが、胸のうちにそっとしまっておく事にした。

「あの、コロナさん……そろそろ離していただけると……その――」
「えー、もうちょっと、もうちょっとだけー……ね?」

ポイネの顔が、いつの間にやら朱に染まっていた。
コロナはそんな彼女を放したくないようで、離れようとしなかった。
そんなエルフ娘を見ると、可愛いやつだな。と思うと同時に、顔の表情といい赤くなったり青くなったりする感情表現といい、いたる所に開発者のこだわりを感じる。
数えればキリが無いのだが、キャラはリアルなのに、感情表現が頭の上にでるアイコンだけ。なんていうゲームは結構多いのだ。
無表情なキャラが所狭しと闊歩し、笑い声をあげたりしている。想像するだけでもゾッとするが、実際に目にするとトラウマになりかける。
知り合いとの電話中に聞いた話だが、PKをされたプレイヤーはその手のゲームがトラウマになる確率が高い。と言っていた事があった。
PKされる行為に、ではなく――あははははは!と笑いながら、剣を振り回し突っ込んでくる無表情キャラが怖すぎるらしい。
笑いながら突撃してくるなんて、そんな変なPKいるのかよ?とリョーが聞いてみると――いるんだよ、それが……と知人は言葉少なに語った。
ああ、被害者なんだな。と、聞いてから悟ったがとき既に遅しで、電話の向こう側から「MMO怖い……MMO怖い……」と呟いていた。
俺はお前の方が怖い。と喉まで出掛かった言葉を飲み込み、「野球の話ししようぜ!」と知人の好きな野球の話しをふって難を逃れた。
考えが脱線してしまった。
思考を切り替え、とにかく表情まできちんと作りこむのは大変らしいが、有るのと無いのとじゃ段違いだな。と締めくくった。

「う、うう……」

ポイネはコロナに抱き寄せられ、頬ずりをされていた。

「この可愛いの家に持ってかえるー!いいでしょー、パパー」

ポイネに抱きつき、モヒカンを勝手に父親役にしているようだ。

「誰がパパだ!オレはそんな歳じゃねえっつの!」

コロナが胸の中で小さくなっている小動物の耳元でぼそっと何かを呟く。

「えっと……おじいちゃん?」

と、ポイネは控えめにそう口にした。

「ちげえ!オレはまだ若いの!」
「うんうん。“お約束”だねー」

モヒカンの嘆きは華麗にスルーされていた。
そのままキャラが定着しないように心の中で祈っておこう。

「と言う事は、リョーさんは……おにいちゃん?」

微かに首を傾げながら、上目遣いでリョーのウィークポイントを的確に攻めるポイネ。
心の中で噴出した鼻血を抑えるように、思わず手を鼻にやるリョー。

「ぷっ、流石に鼻血なんて実装されてないっしょー。ま、気持ちはわかるけどねー」

と、ニヤニヤしながらリョーを見つめるコロナ。

「く、くぅ……このままじゃいじられキャラになってしまう……!」

リョーとしては、それは勘弁してほしい。楽しいのは間違いないのだが。

「はぁ……いつまで漫才をやっておるんじゃか……」

シルトと揃って武器を眺めていたらしいハンマードが、呆れ顔でため息をついていた。
というか、いつの間にそんなに仲良くなったんだ。
だが、これを丁度良い助け舟だと思ったリョーは、これ幸いにふざけ合っているコロナ達とは一旦離れ、ハンマード達の傍へと歩み寄った。

「ハンマード、何か面白い物でもあったのか?」
「む?いやな、なかなかの品揃えじゃと関心してた所でな。見ていて飽きんわい」

ハンマードが、武器棚を見てほぅっと感嘆のため息を漏らした。

「MOで、ここまで豊富なのも珍しい」

ハンマードを挟んで反対側に居るシルトも、同じように武器棚を見つめて言った。

「あ、ああ。そうだな」

とりあえず合わせておくことにした。
色々な武器があるのは確かだし、形状が全く同一な物は無いようだから、種類は豊富に間違いはないんだろう。
正直に言えば、リョーにはどの武器がどういう名称なのかよくわかっていないのだ。
基本的に有名どころはわかる物の、ゲームで知り得る程度の物しか知らなかった。

「まあ、ワシもそこまで詳しいわけではないんじゃが、例えばー……ほれ、これとこれ」

何やらハンマードは二つの武器を手に取り、リョーに見せてきた。
一つは円柱状の金属が棒の先端につけてあり、その金属には大量の棘が生えている棍棒。
もう一つは、先端が球状になっており、反対の先端が鋭利に尖っているよくわからないもの。
棒の途中途中は円盤のような物や球体がついた謎の物体にしか見えない。

「この棘々のついた方が狼牙棒。この球やらがついてるのがアムードと言ってじゃな――」

なんだかものすごーく長くなりそうな予感がする。というか詳しくないと言いつつ、重度の武器フェチじゃないか!
と、リョーは頬を引きつらせていた。
咄嗟に誰かに助けを求めようとコロナ達の方へと目を向けるのだが……。
コロナ達にもリョー達の話しは聞こえていたようで、それは凄い勢いで視線をそらされた。
ポイネの顔は、コロナによって強制的にそらされている。
嗚呼、あの時モヒカンをすぐにでも助けていれば……と、後悔先に立たずということわざを思い出していた。


『待機時間が終了いたしました』

脳裏にシステム音声によるアナウンスが流れた。
おお、電子の世界でも神はおられるようだ。と、リョーは少し神様の存在を信じそうになった。

「あー、残念だけど時間だなー残念だなー」

半ば棒読みになりつつ――それより今は、と準備を始めることにした。

「むう、残念じゃな。これからだというのに」

ハンマードとシルトも渋々準備を始めたようだ。

「じっちゃん、防具どうする」

シルトがハンマードと話している声が聞こえた。
どうやら、防具を変更するかどうかの相談をしているらしい。

「ふむ、大分動きやすくはしておったようじゃが、プレートアーマーは若干動きにくかったのう」
「これ、プレートアーマーの改造品」

ふと話しの方向へと目を向けると、プレートアーマーの間接部分などがばっさりと変更された鎧が見えた。
リョーの防具は布製の物なので、動きの邪魔には全くならないのだが、ウォーリア組はまた違ったらしい。

「ほほう……ハーフプレートのアーマーといった所か。防御はちと落ちるかもしれんが、良さそうじゃな」
「お?なんだ?防具変えんのか?」

ウォーリア二人の会話が気になったのか、モヒカンも話に加わった。

「おお、丁度良かった。防具をコレに変えようかと話しておったところなんじゃよ」
「なるほどな、まぁ使ってみりゃわかるんじゃねーか?ためしに装備していこうぜ」

考えても仕方ねぇよ。と言わんばかりにモヒカンはハーフプレートを装着し準備を整えた。
流石に、鎧を一つ一つ自分で着させられるようなシステムではないので、指先一つですぐ終わる。

「それもそうじゃな。シルト、そういうわけでコイツを着ていくぞい」
「ああ、わかった」

ハンマードとシルトも揃って鎧を一式変更。
リョーの方も特に持っていく物は変わらないので、罠用のアイテムを変更するかどうか悩んだ程度だ。
ガストラップは非常に便利そうなので確定として、他はまだ使っていないので変更はしない事に決定したのだが。
アーチャー組の二人もどうやら同じなようで、特に変更はないみたいだった。

『準備時間が終了しました』

前回と同じアナウンスが流れ、カウントダウンが始まった。
こちらの方もやはり同じ。3カウントが終わると、リョーの視界は暗転した。










目を開き辺りを見回すと、まず目に飛び込んできたのは一面の草原だった。
木などという物は一本も無く、地平線まで背丈の低い草で覆われている。
見渡す限り何の障害物も無い。

「……厄介だ」

隣から声が聞こえた。声からして、その主はシルトだ。
リョーは声のした方へと軽く目をやると、眉までかかる髪の隙間から見える彼の眉根が寄っているのが見える。
そして、細められた目は、遠くを見つめていた。
確かに、彼の言う通りこのフィールドは厄介だ。
遮蔽物が多ければ、奇襲もかけやすいというものだが、こうも何も無いとそれも出来ない。
何より、敵と正面切っての戦闘になるのは確実だ。

「だな。ガチバトルになるだろうから、頼りにしてるぞ」

シルトは長剣と盾という組み合わせなので、必然的にパーティの盾として攻撃を受ける役になる。
とは言う物の、シルトがつけている盾は、小型の丸盾だ。
どの程度のダメージ軽減効果があるのか不安ではある。
しかしながら、リョーの今のクラスはトラッパーなわけで、それを確かめる術はない。
となれば、あとはシルトの頑張りに任せるしかない。

「――――」

シルトは、返事代わりに、左手につけた盾を軽くあげて答えた。
任せろ。という事だろう。
やはりメインの盾役が居ると安心出来る。
前回のコボルトの件は仕方がない。いくらなんでも数が多すぎた。
と、そんな事を考えていると――

「オレ達も忘れんなよ」
「ワシの事もな」

――背後からモヒカンとハンマードの声。

「勿論、二人共頼りにしてるよ」

リョーは振り向きながら言う。
この二人は攻撃の要なのだ、忘れるわけがない。

「そろそろ探索はじめるー?」

視界の隅で、ポイネとじゃれていたコロナがリョー達に声をかけた。
確かに、そろそろ探索を始めた方が良い。
のだが――

「ちょっと待った……あれ、敵じゃないか?」

リョーはある方向を指差し、コロナとポイネにも確認を促がす。
彼はフィールドに出てから、すぐにホークアイを発動させていた。
未だ慣れきっていないその異常視覚に、何かがかかった。
その物体は、自分達とは随分と離れているが、明らかに人とは違う。
詳細には見えないが、体色がコボルトと同じ緑であるからだ。
ただ、地面に生える草のせいで保護色になってしまっている。
それに加え、ホークアイをもってしてもはっきりと見える距離ではなかった。
うっすらと、何か太い木の棒のような物を持っているおかげでその存在を把握できた。

「ちょ……何それー、手抜きー?」

そうコロナが不満気に口を突き出しながらも、右手で日よけを作り、リョーの指差した方向を目を細めるようにして見ている。

「えーっと……あー、いたいた。わかりにくいけど、間違いないんじゃないかなー」
「ですね。僕もそう思います」

やはり、見間違いではないようだ。

「い、行きますか?」

コロナに後ろから抱き寄せられ、彼女の頭を頭に乗せられているポイネが遠慮がちにリョーに尋ねた。
コロナは、よほどポイネが気に入ったようで、先ほどからずっとくっついたままだ。
可愛いのはわかるけど、あまりくっつきすぎると嫌われるぞ。とリョーは思う。
ポイネが嫌そうにしたら、注意しておこう。
しかし、当のポイネはまるで嫌がっている様子は無いので、今のところは問題なしだ。
それどころか、この短時間ですっかり慣れたようですらある。

「そうじゃの。こうしていても仕方あるまい」
「賛成だ。時間が勿体無いしな」

ハンマードとモヒカンをはじめ、これといって反対は無い。
雑談をするなら待機場所ですれば良い事だし、それよりも早く戦闘を始めたいようで、皆うずうずしているのだ。
勿論、リョーも早く戦闘を始めたいので異論は無い。

「よーし、それじゃーシルト先頭で行こー!」

コロナがシルトを先頭に指名。
彼は「わかった」とそれを了承し、先頭を少し早めの速度で進みだした。




リョーの目にはっきりと敵が見える距離まで近づくと、ようやく敵の細部を確認する事が出来た。
それは向かって右の方角へ向いていた。
そして、つぶれたような鼻。口元には牙が生えており、身体は毛で覆われている。
その身の丈は、リョーよりも頭一つ大きいモヒカンよりも、更に頭一つ以上は大きかった。
その巨体の左手には、特大の棍棒がしっかりと握り締められている。
恐らくはオークだとかその辺りだろう。と勝手に決めつつも、リョー達は速度を緩めずに着実に距離をつめていく。
移動しながらもオークを観察していると、いきなりオークの顔が横を向いた。
目が合った。その目は、確実にリョーを見ている。
既に200メートル程度には接近しているであろうソレは、ゆるりとした動作で彼らの方向へと向き直ると、狂ったように咆哮をあげた。

「――――ッ!」

ゲームなのだから、そこそこ接近しないと襲ってこないだろう。と思っていたのがまずかった。
既にオークは、こちらに向かって走り出している。
それも、リョー達の全力疾走よりも早いスピードで。

「くるぞッ!」

モヒカンが叫んだ。肩で担ぐようにして持っていたツーハンドソードを両手で持ち直し、迎撃体勢をとる。
それと同時に、ハンマードも同じように迎撃体勢をとった。
そして、その二人の中央。彼らよりも僅か前にシルトが陣取っている。
シルトは剣を抜かず、盾を構える。
最初の一撃を受け止めるつもりだ。

「いけるか、シルト」

誰に言われるでもなく、ハンマードがシルトに声をかけた。
十中八九、最初の一撃は渾身の一撃になるはずだ。

「わからない」

シルトがなんとも頼りの無い返事を返した。
でもその通りだ。オークの攻撃がどの程度の破壊力を秘めているのか、リョー達はわからない。
つまりこれは、ダメージを計る一つの基準になる。
リョーは深呼吸を繰り返す。軽く緊張しているのがわかる。
コミカルなグラフィックのゲームであれば緊張するなどという事は滅多にない。
しかし、このゲームは事グラフィックスという面においては、非常にリアルに作られている。
例えば筋肉の動き。表情。ニオイ。
もちろん、そのグラフィックは敵にも言えることで、こちらへ突進してくるオークは、はっきり言えばリアルすぎる。
あたかも、本当にこの場所にいるかのような錯覚を起こしそうになるほどに。
まだこのゲームというものがよくわかっていないが、面白そうだという反面、疲れそうなゲームでもある。

「アーチャー行きます!」

ポイネの声が聞こえた。
声のした方向を軽く見やると、ウォーリア三人の後ろに待機するリョーの右。
少し離れた場所にポイネとコロナが移動していた。
射線上に味方が入らないようにという位置取り。

「レッグショット!」
「アームショット!」

二人から、一本ずつ矢が放たれた。
僅かに反った矢羽が風をその身に受け、矢全体を少しずつ回転させていく。
ぐんぐんと加速し、力を貯えていく矢は、矢羽が生み出した回転の力で更に鋭さを増す。
そして、狙いは寸分違わずにオークの左足のふくらはぎと棍棒を振り上げている左腕へと突き刺さった。

「――――ッ」

オークは軽く呻き声をあげている。
アーチャー二人は命中に喜んでいるが、刺さり方が浅かったのかオークはその速度を微かに緩めるにとどまり、停止する事は無かった。
弓での攻撃など脅威ではないとあざ笑うかのように、オークはそのままウォーリア三人へとの突進を続ける。

接近。

シルトは足を前後に大きめに広げ、腰を落とす。次いで、左手と右手をクロスさせるようにして盾を構える腕を支える。
オークは走ったままの体勢で、左手に持った棍棒を身体を捻り右下へと振りかぶる。

接敵。完全にオークの攻撃の射程圏内に入ったと同時に、オークはその膂力を余すこと無く棍棒に伝える。
右下から、左上へ棍棒を大きく振り上げる。
これを受け止めたら、ウォーリア二人が動き出す。
轟。と木の塊が風を切る音が聞こえてくる。
シルトの盾と、オークの棍棒が激しく激しく衝突する。
と、攻撃を受け止めた彼の足が、重力に逆らうようにふわりと浮き上がった。

「ぐッ!」

シルトから声が漏れる。
敵はその手に持った塊を、完全に振り切った。
リョーは思わず、よし!と最初の一撃を防ぎきったことを確信し胸の前で握りこぶしを作ろうとした。
その矢先、オークは無手である右手で眼前の獲物を……なぎ払った。
その獲物――つまりシルトは、まだ空中に居るのだ。

「な――ッ!」

がら空きである側面を強かに払われオークの視界から、彼は排除された。
完全に、リョーの予想外の出来事だった。
モヒカンとハンマードの二人も突然の出来事に反応が大きく遅れている。
止まると思っていたオークが、そのまま真っ直ぐに突進を続けるからだ。
普通のオンラインゲームのように、敵というのは決められた秒数につき、一度の攻撃をする。という機械的な動きをすると思っていた。
でも、実際にはまるで違った。
モヒカンとハンマードが慌ててソレを追いかけようとするが、間に合うはずがない。
ヤツがその塊を振り下ろす方が絶対に早い。
あれが殺そうとしているのは、自分。
リョーを狙っている。
身体が動かなかった。オークの鋭い視線で、まるで金縛りにでもあったかのように、指一本動かす事が出来ない。

ああ。終わった。

周囲から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
これは所詮ゲーム。何も問題は無い。
リョーの死は、その狙いをわずかも逸らすことなく、振り下ろされた。
諦めるように、目をつぶる。
一瞬だけ、耳にイヤな音が聞こえた。
何かが砕ける音。何かがつぶれる音。
次いで、感じるはずの無い痛み。
擬似的に与えられているであろう、制限された僅かなもの。
悪趣味な開発者だ。
意識が飛ぶ寸前に、リョーはそんな事を考えていた。





やはり目覚めは、見慣れた部屋だった。
このゲームにハマれそうだと思っていた自分が馬鹿だったのかもしれない。
制限されているとは言え、痛みを再現したゲームなんて聞いた事が無い。
やろうとしたゲームなら、確かいくつかあった。
そのどれもが、その困難さ、危険さから断念したはずだ。
(メニュー)
メニューを呼び出す。今のメンバーには後で謝罪のメールを送っておこう。
ゲーム機の機能として、一緒に遊んだプレイヤーにメールを送る機能があったはずだ。
面白いけど、続けるのはキツイ。
だから、もうログアウトしてしまおう。と思ったのだ。
いや、せめてみんなが戻るまで待っていた方が良いかな。
でも、そうすると結局ずるずるとやってしまいそうな――
そこまで考えたときだった。リョーは、何か違和感を感じた。

「――――?」

自分でも、今なんて言ったのかよくわからない。
理解出来ない。したくもない。
二度、三度。何度も見直す。
オプションの中身も目を皿のようにして見直す。

「は、ハハハ……」

いつの間にか、笑っていた。まるで夢でも見ているようだ。
ああ、意識をゲーム内に飛ばしているわけだから、夢を見ているっていうのも、あながち間違いじゃないな。
どうでも良いことばかりが、リョーの頭の中を駆け巡っていた。


メニューの項目には、ゲームを終了させるような物。ログアウトを示す物は、何一つとして無かった。
リョーは、ようやく自分が馬鹿げた場所に閉じ込められていた事を知った。


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