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[26218] 【習作】狼と少女【オリジナルファンタジー】
Name: アズカバン◆a7979d21 ID:8969fb87
Date: 2011/02/25 14:08
口の中に広がる血の味と生肉の感触。
この姿になってから何度も経験しているがどうにも慣れなくて困る。


首を噛みちぎられた大人の人間より一回り大きく毛むくじゃらの体、
振われるだけで木が倒れる威力をもつ太い腕、ケモノらしからぬ2足歩行の太い足。
久しぶりのエモノを前に待ち切れないのか口からだらしなく涎が流れ黄ばんだ歯が覗く。

そしてなにより強い獣臭さ。



ヒトにとって侮ることのできないモンスター【トロール】



それが俺と御主人の前にまだ2体もいる。
一番初めに襲いかかってきた1体はたった今俺が喉笛を噛みちぎってやったことで、モノ言わぬ死体となっているが・・・




小雪の舞う森林の中。
足元が白く地面の色が見えぬほど雪は積もり、御主人の動きはいつもより鈍い。




チラリとその御主人を見れば
彼女は護身ナイフの【ファミエルの加護】を抜きかまえてはいるものの
御主人の細腕で自分より大きなトロールを相手にするには頼りない。
しかも彼女は【精霊使い】だ。
接近戦をした経験なんて数少ない。更にいえば腰が引けてしまっている。


少々深めになっているローブのせいで表情まではわからないが口元から漏れる白い吐息が多いあたり緊張しているのであろう。

おそらく多少パニックにもなっているんじゃなかろうか?

冬場にトロールと出会うというのは2つの黄身が入った卵を引き当てることぐらい運が悪かったことなのだから御主人のパニックも仕方ない。

しかし、御主人の肝心の武器である精霊魔法の祝詞も口ずさんでいない現状のまま固まっていられるのもマズイ。



無駄にプライドの高い御主人のことだ、ここで「御主人」とか「祝詞を」なんて声をかければ
状況を考慮せず俺に全ての意識を向けてしまうだろう。

敵を前にして俺に意識を向けるという愚行を我が御主人はしてしまうであろう事を
簡単に予想できてしまうあたり俺もだいぶ御主人との戦闘に慣れてきたものだ。。






そこで俺は四肢に力を込めて口を開き1体を噛み殺した牙をわざとみせる。

ヒトだったらここで躊躇するだろうが、トロール程度の知能ではなんとも思わないらしい。


怯えて逃げてくれればよいと思っていたが考えが甘かった。


まぁ、本来の目的ではないからいいのだが・・・ちょっと癪だ。

そんな些細な感情を片隅に追いやり、口を空に向けて出来うる大きさの声で吼えた。




この俺の声で御主人も固まっていた意識を取り戻すだろう。
吼えてる最中にトロールどもが動くかとも思ったがそれもなかった。

奴らは鼻息荒くこちらを警戒したまま動かない。
吼えたことにより2体とも俺に意識が移ったことを視線から理解する。


御主人のほうは固まっていた意識が戻ったらしく小さな声で祝詞を唱えているのが聞こえる。

これでいい。そう思った時



ボスッ


と、どこかの木の雪が地面に落ちたらしい音がした。


力を込めていた四肢が雪の地面を踏みしめ意識するより早く、トロールに向かって走り出した。


トロールのほうも音で動いたようだが、スピードで俺に鈍重なトロールが勝てるはずがない。

俺に近い方のトロールに素早く走りよると鈍重ながらも太く重い腕を上から叩きつけてくる。

が、その腕が下ろされるより先に俺は腕の届かない横へ避けてその無防備な首へと口を広げ噛みついた。








最後の1体の痙攣が止まることを確認した俺はトロールの汚い血を吐き出しながら、口を首から離した。

厄介な敵は全部倒したが先ほど吠えていることもあり一度周りを警戒する。
とりあえず大丈夫らしい。それからようやく御主人のほうを見れば・・・


足元に精霊陣が光で描かれ御主人の周囲を光の球がいくつか浮かんでいる。
どうやら精霊魔法の準備が全部整っていたらしい。


「こらっ!犬!!私が一撃で消し炭に変えてやろうとしたのに終わらせるなんてどういうことよ!」


御主人はどうやら俺が先に片づけてしまったことが気に食わないらしい。

御主人がかぶっていたフードを取り歩き出すと、精霊陣を出たところで先ほどまでの光も消えた。
そして肩にかかる長さのブラウンの髪が現われ、大人っぽく整った目鼻立ちながら少女らしい幼さを併せ持つ成長期らしい顔立ちと
ぱっちりとした青い瞳が俺をまっすぐにとらえてきた。


ちかい将来、大人の女になれば異性の誰もが振りかえりそうな綺麗なヒトになるであろう彼女が
眉間にしわよせて怒ってますとしている姿はなんとも・・・

「・・・かわいらしいだけで恐くないな。」




「なんですって!?バカ犬!!」

思わず声に出てしまったらしい。思わず漏れた言葉で御主人を更に怒らせてしまったようだ。
とりあえずの危険はないし、御主人の機嫌を元に戻すことに専念しようと思い
死んだトロールの傍から離れてお怒りモードの御主人のもとへ歩み寄る。


「申し訳ない。御主人の負担になる前に倒した方がよいかと思ったのでな」


そう言い訳を言い終える前に御主人は膝をついて俺の首に抱きしめてきた。
御主人は俺の白い体毛に顔をうずめてきた。
最近とみに主張し始めた女性らしい部位が当たっているんだが・・・




「・・・心配させないでよ。バカ犬」


ちょっと涙声でそう呟かれては俺としても何も言えない。
ただ御主人の気がすむまでもうしばらくこのままの状態を保てばいいだけだ。
ただ、先ほどの戦闘で御主人に心配をかけたことをフォローしようと一言だけかけてみる。


「問題ない。御主人を残して俺が先に逝く筈なかろう。」


「少しは気のきいたこと言いなさいよ。バカ犬。」


厳密には犬ではなく狼なのだが、そこにツッコむのも今更なので聞き流しておく。
御主人である彼女と狼の守護獣である俺の付き合いはそれなりに長い。
それこそ御主人の女性らしい部分が自己主張し始める前のまったいらなと・・・

「バカ犬、なんか変なこと考えてない?」



抱きしめていた状態から顔だけ離し、ジト目でこちらをみる。
いつの間に御主人は読心術なんて覚えたのだろうか?
おまけに俺のフォローは気がきいてないとバッサリ切られてしまった。






しばらくの間ジト目でいた彼女はふとその目をやめると先ほどとうって変わり優しい目をして頭を撫でてきた。
その優しい目と慣れ親しんだ触り方が心地よく思わず目を細めてしまう。



「ありがとう。アル。」


「・・・どういたしまして。御主人」


「ここは名前で呼ぶとこでしょうが、バカ犬。」



ほんの一瞬前までの柔らかな表情がまた不機嫌そうなジト目に戻ってしまう。
どうやらまた彼女の機嫌を損ねてしまったらしい。
しかし、また微笑んで頭をひと撫でだけしてから立ち上がった御主人はどこかまた機嫌が良さそうだった。


「さぁ、アル!いくよ!もうすぐ次の街よ!」

オンナゴコロというのはいつになってもわからないものだ。
そう心中で何度目になるともしれない結論を締めくくってから俺も身体についた雪を震わせることで落とす。
前を歩き始めた御主人の横に寄り添い歩調を合わせる。
降り続いていた小雪も今はもう降っていない。
サクサクと御主人の歩く音だけが響く。



次の街では火の通った肉が食いたい。と願望をいだきながら御主人と俺はただ前に進む。




[26218] 御使い編01
Name: アズカバン◆a7979d21 ID:8969fb87
Date: 2011/02/26 10:07


「あ、これおいしい!これも!ねっ、ねっ!アル!」


テーブルの上から聞こえる御主人の声はやかましいことこの上なかった。

どうやら久しぶりに他人の作ったおいしいご飯にあり付けた喜びが溢れているらしい。
だからといって同じく食事中の俺の背中をわざわざ叩くのは勘弁してもらいたいのだが・・・聞くはずがないか。


だが、まぁ、俺に用意された夕食もおいしいし、御主人が泊まる部屋も1人部屋にしてはかなり広く綺麗だった。
今いる食堂もたくさんの人が溢れ空いているテーブルがないほどの盛況ぶりだ。
そのあたりとまとめるとこの宿は街でもかなり良い宿だったのではなかろうか?

などと考えながら目の前の山盛りの夕食を楽しんでいると



「そんなに喜んでもらえると嬉しいです」


背中にかかる長さの黒色の髪を後ろで纏めて御主人よりも少し幼い感じの女の子が声をかけてきた。
その容姿は細身であるのにもかかわらず両手に抱えきれない程のジョッキや皿を持ち、
嬉しそうに笑った顔はとても愛らしい女の子だ。
首後ろで結ばれた赤いエプロンがまた女の子の愛らしさを際立たせるアイテムとなっているのはこの食堂ならではだろう。


「こんなにおいしいご飯久しぶりだよ!アルもおいしいよねー?」


そう言って御主人はわしゃわしゃと俺の頭を撫でまわしてきた。
いつもよりちょっと乱暴だが、その手に御主人なりの喜びが溢れているのだろうと再び我慢。


「お客さんみたいに喜んでくれるとパパも喜ぶわ。」

「お父さんがコックさんなの?」

「えぇ、そうなの。私の自慢のパパよ!」


どうやら彼女の父親がコックらしい、自慢だという彼女の顔には先ほどよりも喜びが満ち溢れていた。

と、そこまで話していたところで遠くからサーニャという人を呼ぶ喧騒に負けない大きな声が聞こえた。
すると話をしていた女の子は大きな声で返事をし、我々二人に「ゴメンね!」と短く謝ってから走って行ってしまった。



その忙しそうな様子に御主人と顔を見合わせるとどちらともなく笑ってしまう。

ひとしきり元気な女の子とおいしい飯を話題に話しながら食事をしていると
ふたたびサーニャという女の子が両手に皿と新たな2つのジョッキをもって御主人が座る席にやって来た。


「ここいい??お客さんひとりで食事してるから私も休憩もらってきちゃった。」

「もちろん!どうぞ!私はユーリ。こっちはアルバイン、アルって呼んであげて!」

「ありがとう。私はサーニャ。よろしく!」


はにかみながらそう言うとサーニャは御主人の肯定を聞いたうえで向かい側に座った。
同席することになった御主人に新たな飲み物とデザートをサービスしているあたりぬかりない子らしい。
我がご主人様はデザートに目を奪われていて、彼女に尻尾があればすごい勢いで振られていることだろう。

そしてそのデザートを勧められて食べている御主人にサーニャから疑問が投げかけられる。


「ユーリはひとりで旅してるの?この街にはどうして?」


宿泊施設に隣接している食堂の上にココで働くサーニャにとっては見慣れぬ御主人のような存在は街の外から来たと想像して当然だ。
しかし彼女は御主人がひとりで食事していて仲間の気配がないことに疑問をもったのだろう。


普通、街の外を出て旅をするとなれば複数人でグループを組み移動するのが常識だ。
街の外に出れば以前会ったようなモンスターや賊だっている。
そんなところを単身移動するというのは非常に危険なことであり、よほどの腕前か自殺願望者でなければありえないことなのだ。


しかしながら、御主人は俺と2人・・・いや、1人と1匹で旅をしている。

たとえ【精霊使い】だとしても単身での旅は危険なのだが、御主人は今の状態を好んでいるようなのだ。
すると御主人は俺の頭を撫でながらサーニャにこう答えた



「私はひとりじゃないよ。アルがいてくれるから。」


まったく。この一言だけで自分が『嬉しい』と感じてしまうのが癪だ。
顔に出さないようにしても尻尾が勝手に動いてしまう。
そう、経験の浅い御主人が1人で旅を続けるのもひとえに俺を信頼してくれているからなのだろう。


「へぇ、アルくんは・・・あ、守護獣なんだ。」


サーニャは俺の顔の右腕のつけ根にある守護獣だけの独特な紋様を見つけたらしく、俺を守護獣だと認識する。
白い身体に黒の紋様はかなり目立ってしまうので仕方あるまい。



「ってことは・・・ユーリは、その・・・御使い様?」


サーニャの表情が急に少し強張る。おそらく見慣れぬ【精霊使い】に少々怯えているのだろう。

俺が守護獣であることに気づき、御主人が精霊使いであることに気付いたのだから仕方あるまい。

御主人は数瞬だけためらったが、すぐにどこか無理するような笑顔でそれを肯定した。




【精霊使い】巷では「御使い様」という敬称で言われる職業だ。

職業といっても、精霊使いは精霊の声を聞ける才能がなければその職にはつけない。
しかも子供のころからの環境が左右するので、幼いころに精霊を見えていたとしてもある時を境に見えなくなり能力を失うこともある。
なので、多くの精霊使いはその才能を大人たちによって発掘され、聖職者によって精霊神殿へと送られるのが通例だ。
そしてその精霊使いは人に、町に、国に、精霊の力を使い繁栄に貢献する。


ただ、それだけならば御主人がサーニャのように怯えられることなんてなかったというのだが・・・世の中はそう甘くないものだ。



「あ、も、申し訳ありません。御使い様にこんな言葉使いをしてしまいまして、」


「いいよ。サーニャ。私は流浪の御使い。そんな敬語なんていらないよ。」


精霊使いはその使い手の少なさから国に登用されることが多い。それゆえサーニャも御主人が国に使える者だと思ったのだろう。




「それにココには何も見えないしね。」



御主人のその一言でサーニャは先ほどまでの怯えからホッと安心する表情へと変化した。


「も・・・ごめんなさい。お客さんのユーリに気を使わせちゃ、私は店員として失格ね。」


舌を少し出して反省するようなポーズをとったサーニャに御主人の無理矢理笑った笑顔が崩れ、自然頬が緩んでいるようだった。
そしてふたりはどちらともなく笑い始めた。
サーニャは良い子だ。この子なら御主人とでも大丈夫だろう。

そう思い俺は再び御主人の足元でうずくまり2人の会話を聞きながら軽く休ませてもらうことにした。







それからもしばらくサーニャと御主人は食事をしながらお互いのことを話したりしておしゃべりを楽しんでいた。
女の子同士の話というのは本当に止まるところを知らない。
食堂の喧騒はだんだんと夜の様相を呈してきたし、持ち込んだ飲み物も底を尽きたようで
ふたりの会話もようやく終わるらしい。

だいぶ長く話し込んでしまったらしく厨房からサーニャのパパらしき男性がこちらをチラチラと伺っている。

サーニャは仕事に戻るのを躊躇うほど御主人と話すのが楽しかったらしい。
御主人も久しぶりに同性の同じくらいの年の子と話せたことが嬉しかったらしく、サーニャとまた会うことを約束してからテーブルを離れた。




その時、俺のヒトより良すぎる耳には御主人の小さな【祝福の祝詞】が聞こえた。





・・・ような気がする。あぁ、気のせいだ。











【精霊使い】ユーリと【守護獣】アルバインの物語です。
ユーリちゃんはもっと笑顔でいさせてあげたい。
アルはもっとモフモフさせたい。

作者はプロローグの部分でツンデレピンクと某盾の蒼いワンコを連想した…
同じことを読者に思わせないよう今後も努力します。


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