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[26163] 【習作】学園黙示録*僕にできること*
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/18 21:23
小説家になろう様で書き始めた作品です。

更新は早いほうではありませんが、コミックに基づいて頑張ろうと思います。


以下の事に嫌悪を抱かない方のみお読みください。

・オリ主ものです。

・初めての作品なので、見苦しい文章があります。

・カップリングは毒島冴子です。

・ダーク、鬱展開、残酷な描写ありです。

・チートなどは、ありません。

・コミック版準拠のため、アニメ版を見た方では違和感があるかもしれませんがご了承ください。

・原作に追いつくと、更新が停止する可能性がございます。

・原作に追いつくまでは、書き続けるつもりです。


※プロローグと、次の第1話は一人称で書いてしまったため、後々改訂いたします。
第2話以降は三人称で書いていきますので、よろしくお願いします。(4.16)


11/2/17 小説家になろう様で投稿開始。

11/3/1 チラシの裏板で投稿開始。1~3話投稿

11/3/5 第4話投稿

11/3/7 第5話投稿

11/3/9 第6話投稿

11/3/13 第7話投稿

11/3/23 第8話投稿

11/3/24 第9話投稿

11/3/29 第10話投稿

11/4/8 第11話投稿

11/4/9 第12話投稿

11/4/15 第13話投稿

11/4/18 プロローグを大幅改訂。三人称に変更。



[26163] プロローグ
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/18 21:11
中学2年のある日。

一般的に、ごろごろしたり、父が家族サービスに頑張ったりする、一週間に1度やってくる日曜日というものだ。

それは、神谷家にも変わらずやってきた。

「また遊園地かよ」

さすがに今月入って3回目の遊園地に、優は呆れる。

「あれ?優は遊園地が好きだと思ったんだがなぁ」

「いや、もう子供じゃないし」

いくらジェットコースター好きの優も、さすがに飽きる。

「じゃあ、どこがいい?」

そう、父に聞かれて考える優。

その頭に思いついたのは、レジャーだった。

「釣りとかいいんじゃない?山とかさ!」

反抗期など、全く関係ない神谷家では、休みの日に家族三人で出かけるのが常だった。

「山か……いいな」

見るからに厳しそうな父は、性格は温厚。

殆ど叱られる事はなく、どちらかというと諭して相手に罪悪感を呼び起こすプロだった。

「じゃあ、お弁当作らないとね」

にこにこしながら言う母に、優の顔が綻ぶ。

今時珍しいぐらい、仲のいい家族だった。

それが――――

「あなたっっ!前!!」

「くそっ!!」

どうしてこうなったのか。

最期に聞いた両親の声は、切羽詰まっていた。

次に目を開いて見えたのが、白い天井。

薬の匂いが充満した、病院のベッドの上だった。

何がなにやらわからない。

そして、唐突に思い出す。

悲鳴、怒号、―――衝撃

「ぐっ!?」

思い出した。

両親と山にレジャーに行って、帰りの道で反対から大型のトラックが突っ込んできたのだ。

「ああああああ!?」

絶叫する。

もし、自分が、山へ行こうなどと言わなければ。

もし、もし、もし――――

事故は起こらなかったかもしれない。

両親は死なずに済んだかもしれない。

声を聞きつけ、看護士と医者が飛び込んできた。

押さえつけられ、薬が打たれる。

そして、優の意識が遠のいた。







事故から数ヶ月。

親戚もほとんどいなかった神谷家では、優の面倒を見る人がいなかった。

お金がない、場所がない、そんな大人の押し付け合いを見かねたのか、一人の女性が優を引き取ると申し出た。

神谷唯香、優の従姉であり、ついこの間就職したばかりだった。

もちろん、優を養えるほどの財力があるわけなど無く、優は年齢を隠してバイトを始めた。

初めは塞いでいた優だが、次第に心を開いていった。

そして、もうすぐ中学も卒業だというある日。

仕事が終わって帰ってくる唯香と待ち合わせして、晩ご飯の買い物を買って帰る予定だった。

唯香と合流して、帰宅途中に二人は暴漢に襲われた。

優は奮闘するが、特に身体を鍛えていたわけではなく、呆気なく殴り倒された。

その時は目撃者の通報で、なんとかなったが、優は願った。

力が、大切な人を守れる力がほしいと。

そこから、入学した藤美学園で、優は剣道部に入った。

槍術部などもあったが、剣道部に入部する。

ある人物に会ったからだ。

毒島冴子。入学した頃はまだ部長にはなっていなかった。

見学のあったその日、優は委員会の仕事を押しつけられ、長く引き留められていた。

(今日の見学はもうダメだろうな……)

辺りは暗くなり、生徒も殆ど下校している。

ダメもとで、剣道場を除いてみると一人の女性が、竹刀を振っていた。

胴衣は外した状態で、白い服を身にまとっていた。

「はっ」

気合いの入った声と共に、空気を切り裂いて竹刀が下ろされる。

凛とした空気に、横顔を流れる汗がとても綺麗だった。

練習が終わったのだろう。

下ろしていた竹刀を静かに引き、女性はほうっと息を吐いた。

そして、優に気づく。

「入部希望者か?あいにくと、今日の練習は終わっているのだが……」

怪訝そうな表情を浮かべ、女性は近寄ってきた。

思わず見とれていた優も、我に気づき顔を赤くする。

「えっと、あの……」

「??」

慌てている優に、どうしたのかと不思議そうな顔をする女性。

その優の視線が下へと降りていく。

「し……失礼しましたぁ!」

そういうなり、優は一目散に道場を出て行った。

後には何が何だか分からない女性だけが残されていた。

女性は気づかない。

優が慌てていた原因が、汗で透けた服だということを。



これが、優と毒島冴子との初めての出会いだった。








「剣道部に入ることにしたの?」

平野コータが優に訪ねてくる。

「うん。力つけたいし……」

コータと仲良くなったのは何がきっかけだったのかと。

思い出した。

入学してすぐ、なかなか友達が出来なくて、一人で昼食をとっていた。

元々、誰かとはしゃいだりするような性格でもなかった優は、来るもの拒まず去る者追わずだった。

ある日そんな優に、話しかけてきた奴がいた。

それがコータである。

お互いに一人で、一緒に話す相手もいなかったからか、二人はすぐに打ち解けた。

銃が好きだということだったが、優は何も知らず、ただただコータの知識に感心するだけである。

話の内容は、分からないことも多かったが、それでも優は、適当な返事をせずにちゃんと話を聞いていた。

「コータは部活に入らないのか?」

優の問いに、コータは頬をかいて応える。

「やりたいことって、あんまりないんだよね。それにほら、僕こんなだし」

そう言って自分の胸を叩いた。

確かにコータはオタクだと敬遠されている。

しかし、頭の回転は速く、話すのに退屈しない相手だった。

「優はあれ?あの毒島先輩に憧れて……のタイプ?」

にやにやしながら優に問いかける。

「いや、それもあるかもしれないけど、やっぱり力つけたいのが一番だな」

少し照れて、しかし真面目に優は返した。

「ふぅん」

おもしろくないとコータはむくれる。

そして、二人で笑い合った。








入部してから数ヶ月。

もちろん剣道初心者である優は、型などから入っていた。

目的は強くなること一点だったため、残って練習も続けていた。

人は努力すれば、強くなれると言った人は誰だっただろうか。

優はその人を殴りたくて仕方がなかった。

秋にもなると、三年はすでに引退して、一年の初心者でさえ戦力に数えられる。

優も例外ではなく、他の初心者と共に試合に出るようになった。

しかし、全く勝てない。

他の部員は、いくらか勝ちもあげているのに、優だけは一勝もしたことがなかった。

藤美学園剣道部は全国の中で、強豪中の強豪だと言われている。

部長は全国優勝。団体戦でも優勝するほどだ。

しかし、その中で一勝もできない優は、完全に足手まといと見られていた。

辞めようと思ったことはある。

悔しくて泣いたこともあった。

それでも、強くなりたいの一点で、優は一日も部活を休まなかった。

どれだけ見下されようと、諦めなかった。

しかし結果はどうしてもついてこない。

(主将はあれだけ強いのに……)

焦りが強くなる。

心身ともに限界が近づきつつあった。

コータの慰めも、唯香の励ましも、応えられなくなりそうになっていた、高二の春。




それまでの日常は、たった一日で崩れ去ることになった。





[26163] 第1話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/09 20:12
その日は澄み渡るような空だった。

文字どおりの快晴。

所々にある綿雲のような雲は、一瞬だけ太陽の仕事を邪魔する……そんな程度。

今日も昨日までと同じように陽が落ち、夜が来て

朝日が昇り明日が始まる。

きっと世界中の誰もがそう思っていただろう。

しかし、その『日常は』たった1日で壊れた。

―――否、壊された。

<奴ら>によって


************************

学園黙示録*僕にできること*

************************

「はい、これで治療はこれで終わり!えぇっと、君の名前は?」

「神谷 優です。そろそろ覚えてくださいよ…」

僕は呆れながら校医の鞠川先生に言った。

その日、僕は体育の授業で怪我をした。

とはいっても、ただ転んですりむいただけなのだが。

自分のドジさに呆れる。子供かよ…

僕は次の授業が始まるまでに、教室に戻ることができなかった。

というより、授業が面倒くさいと思っていたので、むしろ校医の鞠川先生との会話を楽しんでいた。

奥のベッドで他にも男子生徒が数人眠っているようだ。

「ごめんなさいねぇ。人の名前覚えるの苦手で。」

「はぁ。」

悪びれもせずにこにこ笑いながら言う先生に、ため息をつきそうになる。

……いや、出ていたようだ。

「さて、そろそろ教室に戻った方がいいかもね~?」

「う……。ばれてました?」

「だって、治療終わっても動かないし。」

仕方なく立ち上がって保健室から出ようとしたとき、

『全校生徒・職員に連絡します!

全校生徒・職員に連絡します!

現在、校内で暴力事件が発生中です!

生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください!!

繰り返します!現在校内で暴力事件が発生中で―――ブッ―』

「な…なんなんだ!?」

明らかに≪異常≫だった。

『――キィィン――ぎゃああああああああっ!!』

校内放送で突然聞こえてきた悲鳴に、

僕も鞠川先生も呆然と立ち尽くした。

それでも放送は止まらない。

『あっ!助けてくれっ!止めてくれ!ひぃぃぃぃっ!たすけっ!ひいっ!痛い痛い痛い痛い!!助けてっ!死ぬっ!ぐわぁぁぁぁ!!――――』

それきり音は聞こえなくなった。

間違いない、何かが起こった。

おそらく今のは校内全体に流れているだろう。

教室には何十人もの生徒がいる。

今の放送を聞いたら、全員がパニックになるだろう。

群集心理は怖いものだ。恐怖は簡単に伝染する。

こうやって冷静に考えているのは、現実逃避だな。

そんなことを言いながら、僕は思考を切り替えるために頭を振った。

「鞠川先生!どうやら何か起こったようです。リュックか鞄か何かに、薬をつめてもらえますか?」

「な…なにがあったのよぅ…」

「分かりません…しかし、今の放送を聞く限りでは薬が必要になるでしょう。」

「わ…わかったわ!」

先生が鞄を取りに行ってる間に、僕は寝ていた男子生徒を起こしに行った。

――いや、もう起きていた。

あんだけ叫べば自然と目が覚めるか。

「名前はなんていうんだ?」

「僕はA組石井。こっちは奥田だ」

メガネをかけた男子が答える。
もう一人は何がなんだか分からない様子で呆けていた。

「そうか、僕はB組の神谷だ。外がどうなっているかわからない。迂闊に動くより、ここにいよう。」

「ど…どうなってるんだ!?」

奥田が取り乱して叫ぶ。

「分からない」

僕は首を振りつつ言って、ふと窓から廊下を見た。

―――ありえない。

そこでは女生徒が男子生徒の首に噛みついている。

「嘘だろ!?」

奥田の叫び声に反応してか、その女生徒は保健室に入ってきた。

「ひぃっ!」

その女生徒の腹はぽっかりと開き、そこから腸と思わしきものが垂れていた。

僕たちはそれを見て足が凍り付いたように動けなくなった。

「ぎゃあああああああっ!」

その女生徒に噛みつかれた奥田の悲鳴で我に返り、とっさに横にあった丸椅子で女生徒を殴りつける。

「大丈夫かっ!?」

「あがっ……うぅ……」

奥田に走り寄って声をかけるが、痙攣して目の焦点が合わず、遂にはピクリとも動かなくなった。

「う……嘘だろっ!?」

信じられない。噛まれただけで死ぬなんて……

「おい!まだ入ってくるぞ!!」

石井が入口のドアを指して叫んだ!!

―――くそっ!

「鞠川先生、後ろに下がってくださいっ!」

後ろでわたわたしている先生の前に立ち、僕は丸椅子を構えた。

横には真っ青な顔をした石井が点滴台を持っている。

「どれだけもつか分からんが、やれるだけやるしかない。」

石井は、目を見開き頷いた。

パリーンッ

ガラスが割られ、あの女生徒と同じ様子の生徒たちが入ってくる。

歩みは遅い。それが唯一の救いか。

「ん?」

その中に先ほど女生徒に噛まれた男子生徒がいた。

「まさかっ――「ぐあああっ!!」

先ほど噛まれて死んだ奥田が、起き上がって石井に噛みついていた。

「石田君!!」

「くそっ!」

――そういうことかよっ!

鞠川先生の言葉に突っこむ余裕もなく、僕は椅子で奥田の頭をめいいっぱい叩いた。

余りにも力を込めたため、首から変な方向に曲がっている。

「おいっ!!」

「……ぐうっ……」

「くそっ!!」

僕は丸椅子を振り回し、近づいてくる奴を払っていったが、数が多い。

僕たちは次第に壁に追い詰められていった。

「ひっ!いやっ!!」

――ここまでかっ!

そう思った時、僕たちの目の前にいた生徒が殴られたような音を出して倒れた。

「なんだっ!?」

周りにいた奴らが次々と倒れていく。

その向こうから現れたのは、手に持った木刀から血を滴らせた、我らが剣道部主将、毒島先輩だった。





=後書き=

こんなもので、大丈夫なのかな…

どうも作者です。

うまく書けているのかわかりませんが、とりあえず本編入りました。

こつこつと書いていきますので、よろしくお願いします。




[26163] 第2話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/02/27 20:07

「主将!」

よかった、奴らになってない。まぁ、この人が負けるなんて想像できないけど。

そんな事を思いながら優は冴子に駆け寄った。

優の顔を見て、驚きと安堵の色を顔に浮かべる。

「君は確か二年の…」

「神谷です。ご無事で何より」

「君の方も大事ないようでよかったよ」

そう言って冴子はふんわり微笑む。

この笑顔で大抵のやつは墜ちるんだよな……

そんな優の気持ちを知らず、冴子は石井の側へ寄っていく。

「私は剣道部主将、毒島冴子だ。二年生、君の名前は?」

そういって石井の前にしゃがみこみ肩に手を置く。

「石井…かず……ゴホッ」

「石井君、よく鞠川先生を守った。君の勇気は私が認めてやる…。噛まれた者がどうなるか知っているな?」

どこか切なさを含んだ顔で、冴子は石井に語りかける。

「親や友達にそんな姿を見せたいか?嫌ならば私が――」

「僕がやります。」

「しかし……」

「彼は、僕と一緒に戦ってくれました。最後まで見届けてやりたい」

そう言って冴子に、貸してくださいと手を差し出す。


「そういうなら…」

優は冴子から譲り受けた木刀を振り上げた。

「石井……ありがとう。君のことは忘れない。」
そして、振り下ろす―――その顔にはなんの表情も映っていなかった。









「……大丈夫か?」

そう冴子に声をかけられるまで、優は石井の遺体から目を逸らせなかった。

「えぇ、大丈夫です」

そう言って無理やり笑顔を作る。

そして、石井の遺体を目に焼き付ける。

恐らく、これから先もこういう事はあるだろう。

こんな異常な状態が、この学園だけで済んでいるはずがない。

街はもう、壊れているのだろう。








「鞠川先生、薬の用意をお願いできますか。この先必要になるでしょう」

冴子は、わたわたしていた静香に頼む。

静香は手に持った救急バッグを持ち上げてニッコリする。

「さっき、神谷君に言われて準備できたわ」

「ほぅ」

感心したように頷き、優を見やる。

優は照れたように頬を掻いていた。

冷静な判断はできるようだな。

剣道部一番の弱小部員と聞いていた冴子は、優に対する評価を改める。

「では、とりあえず学校を抜け出すか。ここだと休める場所も確保できない。」

「そうですね、家族の無事が気になります。しかし、徒歩での脱出ですか?」

「はいっ!私車持ってる」

元気よく手を上げる静香を見て、ため息をつきそうになる。

「あ、でも鍵職員室だ…」

途端にしょぼんとなる静香。

本当にこの人は教師なのだろうか。

時々、子どもと大人が逆転しているような気がする。

「ならば、職員室まで行こう。神谷、これを使え。」

そう言って、冴子は腰に差していた予備の木刀を優に差し出した。

「あ…ありがとうございます」

「躊躇うな。命取りになる。例え知り合いが《奴ら》になっていたとしても、命が惜しいのなら躊躇わないことだ」

優はぎゅっと木刀を握る。

決して軽くはない重さが、優に現実感を与えた。

「はい」

冴子を見据えて、しっかりと頷いた。









誰もいなくなった廊下を、職員室を目指して走る。

時々、ふっと現れる《奴ら》を転がしながら。

「完全に潰そうとするな!転がすだけでいい!」

「はい!!」

《奴ら》の胸の辺りを突き、素早く手元に戻す。

「どうしてやっつけないの?毒島さんなら簡単なのに」

静香はそう言いながら付いて来る。

そこに僕は入っていないんですね……

心の中で苦笑する。

「出くわす度に頭を潰していたら、すぐに囲まれる。一匹ずつだと遅いから潰せるが、囲まれると厄介だ」

喋っている間にも、冴子は《奴ら》を突いて倒す。

「それに腕力も信じられないほど強いです。女生徒の《奴ら》でも、奥田は引き剥がせなかった」

《奴ら》となって死んでいった奥田を思い出して、顔が歪む。

「はぁ、すごいのね……ひゃん!」
静香が足をもつれさせて転んだ。

あんな運動には向かないスカートで走るからだよな…

「やん!なんなのよもぅ!」

「走るには向かないファションだからだ」

そういって冴子はスカートの横を破っていく。

「あぁ!これプラダなのに……」

「ブランドと命どっちが大切なんですか…」

呆れながら優は静香に問いかける。

「…両方!」

「はぁ」

なんか、静香先生と行動始めてから老けた気がする……

そんな二人を尻目に周囲を警戒していた冴子は、断続的に響く音を耳にしていた。

「……職員室か?いこう!!」
走り出す冴子に、慌てて付いていく。


と、その時

「きゃあああああ」

廊下を悲鳴が響いた。



[26163] 第3話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/18 21:31
々現れる《奴ら》を転がしながら、三人は悲鳴の聞こえた方へ走る。

職員室の前まで来たときに、沙耶が《奴ら》に襲われそうになっていた。

「っ……!」

沙耶の横にいるコータが銃のようなものを持っているが、弾切れしているのか、慌てて何かを探している。

―――このままじゃ…!

必死に足を動かすが、間に合わない。

優は最悪の事態を予想した。

何かの電動音。その後に、血が飛び散った音がした。

「こっのぉ!!死ね死ね死ね死ねぇぇ!!」

沙耶は、恐らく無意識だろう。

手元にあったらしいドリルを、近づいていた《奴ら》の頭に突き刺した。

血の臭いが辺りに充満する。

冴子は、優と反対側の廊下から来た小室と宮本に目配せすると、コータ達に向かって駆け出した。

コータ達との間には、まだ数体の《奴ら》がいる。

「私は右の2体を!神谷は真ん中だ!!」

「分かりました!」

「麗!」

「左を押さえるわ!!」

冴子に続いて三人とも駆け出す。

「やぁ!!」

「うらぁぁぁ!!」

「ふっ!!」

麗も孝も冴子も、《奴ら》の頭を叩き行動を停止させる。

「このっ!」

優も木刀で《奴ら》を突き、よろめいたところで頭を叩くつもりだった。

しかし、血で滑ったのか木刀をすぐに引き戻すことができない。

《奴ら》は木刀を掴み、優の上にのしかかってきた。

「くっ…あぁっ……!!」

―――噛まれる!!

痛みを予想して目を瞑るが、痛みの代わりにバキッという音がした。

恐る恐る目を開けると、冴子の顔がある。

「大丈夫か」

そういって差し出された手を握って、優は立ち上がった。

「ありがとうございます」

申し訳なさそうな顔をする優に、冴子はふっと頬を緩めた。

「気にするな」

そう言ってコータ達の方へ歩いていった。

「鞠川校医は知っているな?私は毒島冴子。3年A組だ」

「小室孝、2年B組」

「去年、全国大会で優勝された毒島さんですよね!私、槍術部の宮本麗です」

「あ…えと、B組の平野コータです」

「あれ、僕する必要ある?」

皆が自己紹介をしているが、優は全員と面識がある。

「やっとけば?」

孝に言われて、優は自己紹介を始めた。

「あ、じゃあ。2年B組、神谷優です。一応剣道部です」

「一応って…」

コータに苦笑される。

「よろしく」

そう言って、冴子はにっこり微笑んだ。

「なにさ。みんなデレデレしちゃって…」

放心上体から抜け出したのか、沙耶が俯きながら寄ってくる。

「何言ってんだよ、高城」

孝が宥めようと近寄るが、沙耶はキッと孝を睨んだ。

「バカにしないでよ!あたしは天才なんだから!!その気になったら誰にも負けないのよ!!」

涙を流しながら叫ぶ沙耶の肩に、冴子が手を置いた。

「もういい。充分だ」

「あ…あぁ……こんなに汚しちゃった…ママに言ってクリーニング出さないと……」

混乱しているのか、沙耶は座り込みながら言った。

冴子はそれを抱きしめる。

「う…うぅ……あぁっ…うわぁぁぁん」

泣きだした沙耶を、冴子はそれが収まるまで背中をなでていた。









一行は職員室に入り、バリケードを作って休憩することにした。

「鞠川先生、車のキィは?」

麗から水の入ったペットボトルを受け取りつつ、孝は静香に尋ねた。

「あ、バックの中に…」

言いつつ鞄を漁る静香だが、優の「全員乗せられるんですか?」という言葉に、「うぅ……コペンです……」と沈黙した。

「部活遠征用のマイクロバスはどうだ?カギ掛けにキィはあるが」

冴子の言葉に、窓から駐車場を見たコータが、バスを発見した。

「車はいいけど、どこに行くの?」

静香の疑問に孝が答える。

「家族の無事を確かめます。近い順にみんなの家を回るとかして、必要なら家族も助けて、そのあとは安全面な場所を探して…」

「見つかるはずよ」

いつの間にか、コンタクトから眼鏡に変わっている沙耶が言った。

「警察や自衛隊だって動いてるはずだから地震の時みたいに避難所とかが…」

「そうだったらいいけど、実際はどうだろう。ここから見る限り、街も混乱している。下手をすれば自衛隊でさえも、手に追えない状況に……宮本、どうした?」

自分の考えを言っていた優は、麗の目がテレビに釘付けなのに気づいた。

「なんなのよ…これ……!」

とっさに、冴子がリモコンを操作して音量を上げる。

そこには地獄絵図といっても過言ではない、悲惨な状況が映し出されていた。

『各地で頻発するこの暴動に対し、政府は緊急対策の検討に入りました』

アナウンサーが話す後ろでは遺体と思わしきものが運ばれている。

『すでに被害は一千万人を超えたとの見方もあり…<パンッ>』
画面の向こうで何かが破裂する音がする。

『発砲です!!ついに警察が発砲を開始しました!状況は分かりませんが……きゃあああああ!!』

画面が揺れて、定まらなくなった。

その向こうでは、運ばれていたはずの遺体が包んでいる布ごと、起きあがっている。

『いやっなにっ!うそっ!た…助けっ…うぁっ!ああああっ!!』

アナウンサーを絶叫を最後に、テレビは暗転し『しばらくお待ちください』のテロップの後、スタジオに戻った。

誰も声が出せない。

沈黙を破ったのは、孝だった。

「暴動だと!?どう考えても暴動じゃないだろ!!」

「パニックを恐れているのよ。」

沙耶が眼鏡を持ち上げる。

「いまさら?」

「いまさらだからこそよ。恐怖は混乱を招き、混乱は秩序を崩壊する。秩序が崩壊したら、どうやって動く死体に立ち向かっていけるというの?」

冴子は黙ってテレビのチャンネルを変えた。

優は難しい顔でテレビを見続ける。

静香でさえも、顔が引きつっていた。

『合衆国政府はホワイトハウスを放棄、洋上の空母へ政府機能を移転。なお、現在の時点でモスクワとは通信途絶』

テレビは爆撃で《奴ら》を吹き飛ばす映像を流した。

『北京は全市が炎上、ロンドンは比較的治安が保たれていますが、パリやローマは略奪が横行……』

そこまでで沙耶はテレビを消した。

「朝ネットをのぞいた時はいつもどおりだったのに……」

コータが青い顔をして言う。

「たった数時間で世界中がこんなになるなんて……だ…大丈夫だよね?すぐに元通りに……」
「なるわけないしー」

「そんな言い方することないだろ!」

「パンデミックなのよ?仕方ないじゃない!」

「パンデミック…」

静香が顔を歪めて呟いた。

「感染爆発の事よ!世界中で同じ病気が大流行してるってこと」

沙耶が説明をしだすと、優が顔を曇らせながら言った。

「なぁ、ここって島国だろ?例え、外国で発生したとしてもこんなに短時間で日本に入ってくるかな。朝にはなんのニュースも無かったし、こんなせいぜい5時間6時間で世界中に蔓延するか?」

意外な所からの的確な考えに、みんながびっくりしたように優を見る。

「そうね…確かにそうかもしれない……《奴ら》に噛まれたら長くても数十分後には死んで、《奴ら》なる。そうなれば、日本に入りこむのは…って事は人為的なもの……?」

考え込んだ沙耶を尻目に、孝は言った。

「今の俺たちにその事を確かめる方法はない。とりあえず、学校を脱出しないか?」

その言葉に全員が頷いた。

「家族の無事を確認した後、どこに逃げ込むかが重要だな。ともかく好き勝手に動いていては生き残れない。」

「チームだ。チームを組むのだ。生き残りを拾っていこう。」

優の言葉に冴子は頷いて言った。

「駐車場からは正面玄関からが一番近い。行くぞ!!」

孝の言葉で、一行は正面玄関へと向かう事になる。





[26163] 第4話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/24 10:56
周囲を警戒する。

職員室までにいた≪奴ら≫はどこかに移動したようで廊下に姿はなかった。

しかし、いつどこから飛び出てくるかわからないため、油断はできない。

「確認しておく。無理に戦う必用はない。避けられるときは避けろ!転がすだけでいい。」

「連中は音にだけは敏感よ!普通のドアなら破るぐらいの腕力があるから、掴まれたら喰われるわ!気をつけて!」

詳しいな……おそらく、試したのだろう。

さすがは天才少女。なんて言ったら怒るんだろうな。

なんてことを考えながら、優は出てきた≪奴ら≫の足を木刀で打ち、転がす。

「きゃあああああ!」

全員で頷き合い、悲鳴の聞こえてきた方へ走る。

階段の踊り場で生徒が数人奴らに襲われそうになっていた。

「くそっ……下がってろ!!」

「卓造……」

女子を守るように男子がバットを構えているが、隅の方においやられている。

パスッ

コータの釘打ちの音を合図に、殴りかかる。

幸いにも、噛まれた生徒はおらず、一緒に行動をともにする。

―――まずいな……

だいぶの大所帯になってきた。

行動する人数が多くなると、その分行動するのに時間がかかる。

そして危険に陥る可能性が高くなる。

しかし、助けてしまった以上見捨てることはできなかった。







とりあえず下駄箱までたどり着いたモノの、玄関前には多数の≪奴ら≫がいた。

「やたらといやがる…」

「見えてないから隠れることなんてないのに」

沙耶が孝にそういうが、それは証明されているわけではない。

「たとえ、高城君の説が正しいとしても、この人数では静かに進むことなどできん。誰かが確かめるしかあるまい……」

迷うことはなかった。

「僕が「俺が行くよ」

優の言葉を遮り、孝が言った。

「私が先に出た方がいいな。」

「いや、毒島先輩はいざというときのために控えていてください。神谷も」

そういわれると、これ以上出て行けなかった。

へたれだな、僕は。

こういう時に行動力を示せない自分が悔しかった。

孝は覚悟を決めた顔をして、出て行く。

足音を立てずに落ちている靴をひろうが、≪奴ら≫は反応を示さない。

そのまま靴を思いっきり遠くへなげつけた。

ガシャン

すぐさま音のした方へ向かいだした≪奴ら≫尻目に、玄関扉を開ける。

そして全員で外へと駆けだした。

ガキィィィン

一番最後を走っていた男子が、持っていた刺叉を扉に思いっきりぶつけてしまった。

甲高い音がそこら中に響き渡る。

「走れ!!」

全員でバスに向かっていくが、優は一人だけすぐに動かなかった。

これでは、学園中の≪奴ら≫来て脱出が極めて難しくなる。

優は別の方向に走り、木刀で窓を叩き割っていった。

幸いその廊下には≪奴ら≫いない。

間を縫って走り再び玄関口にもどって、金属部分を木刀で思いっきりたたいた。

再び甲高い音が鳴って一行に向かっていた≪奴ら≫をこちらに注意を向けることができた。

完全に包囲されてしまう前に抜け出そうとするが、すでに包囲は固まりつつあった。

―――ここまでか。しかし、これであいつらは脱出できるだろ。

ただし、最後まで諦めることはしない。

包囲の薄いところに向かって、なるべく音出さずに走り出す。

と、不意に腕を掴まれた。

≪奴ら≫か!と見るとそこにいたのは冴子だった。

「何をやっている!死にたいのか!!」

そういって、優の左腕をつかみ片手で≪奴ら≫を転がしながら包囲から抜け出した。

先の音で、かなりの≪奴ら≫が引き寄せられていたらしく、抜けられたのが奇跡なほど扉に群がっていた。

腕を掴まれたまま、バスに向かって走る。

バスではコータが窓から釘を打ち、孝と例がドアの前で奴らを倒していた。

「乗れ!!」

少し乱暴にバスに放り込まれる。

「小室君!全員乗った!!」

「先輩も乗ってください!!」

奇跡的に、犠牲者はゼロだった。

「君は……命を大切にしろ。」

そういって、冴子は優に拳骨を落とした。

地味に痛い・・・・・・

孝がドアを閉めようとしたとき、声が聞こえた。

「待ってくれぇっ!!」

校舎の方から、教師と数人の生徒が走ってくる。

「担任の紫藤だ」

「紫藤…」

冴子の言葉に麗の顔色が変わった。

「もう出せるわ!」

「もう少し待ってください!!」

「いくら減ったとはいえ、まだ前にいるの!あんまり集まっちゃうと動かせなくなる!!」

優は木刀をつかみ、飛び出そうとしたが冴子に遮られる。

「君はダメだ!」

「なぜですか!!」

「行ってもどうにもならない」

「っ…!」

冴子の歯に衣着せぬ言い方に、唇を噛む。

「囮にならなれます!」

「そんなに死にたいのか!!」

死にたいわけではない。だが、守られているだけの自分が嫌だった。

冴子からの視線をそらすようにして窓の外を見る。

紫藤と生徒が、こちらに向かってきていた。

――と、紫藤の後ろにいた生徒がこけて紫藤に助けを求めている。

次の瞬間、優は信じられないモノを見た。

―――顔を蹴りつけた!?

しかも笑顔で。背筋が寒くなった。

ここまで優たちはお互いを助け合って逃げてきた。

実際何度も優は助けられている。

不吉な予感がしたが、優にはどうすることもできなかった。

紫藤たちが乗り込んですぐ、バスは発進した。

「もう人間じゃない……もう、人間じゃない!!」

祈るように言いながらバスを発進させる静香をみて、優も同じ気持ちだった。

「校門を抜けます!!」

たった数時間で崩壊へと走ったこの世界で、僕は生き抜くことができるのだろうか…

優の心のなかは、その気持ちでいっぱいだった。



[26163] 第5話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/24 10:57
学園を脱出して数分。

「助かりました。リーダーは毒島さんですか?」

「そんな者はいない。逃げるために協力し合っただけだ」

「それがいけませんねぇ……生き残るためにはリーダーが必要です。目的をはっきりさせ秩序を守らせるリーダーが……」

話が読めてきた。

自分がリーダーになろうというのだ、この男は。

優は顔をゆがめる。

さきほどのすがる生徒を笑顔で蹴りつけた光景が、目の前によみがえる。

こいつは危ない。頭のどこかで警鐘が鳴った。









「だからよぉっ!このまま進んだって危険なだけだってば!!」

金髪の不良らしき生徒が立ち上がって叫ぶ。

「だいたいよぉ!何で俺らまで小室たちに付きあわなけりゃいけないんだ?おまえら勝手に街へ戻るって決めただけじゃんか」

優はすぐにも飛び出したい衝動を抑えた。握った手が震える。

「今からだって遅くない!だいたい俺は―――」

「いい加減にしてよ!!こんなんじゃ運転なんかできない!!」

先に静香がしびれを切らした。

バスを止めて、振り向きざまに叫ぶ。

「っ・・・・・・!」

さすがに静香に反抗することはできないのか、黙り込む。

そして矛先を孝にむけた。

「んだよぉ!何見てんだ!やろうってのか!!」

「ならば君はどうしたいのだ?」

「うっ・・・・・気にいらねぇんだよ!!こいつが気にいらねぇんだ!!なんなんだ偉そうにしやがって!!」

「なにがだよ?俺がいつお前に何か言ったよ?」

あまりにも子供の理由。

我慢の限界だった。

助手席の麗が動くよりも早く、優は木刀で不良のみぞおちを突く。

腐っても剣道部。しかもみぞおちは人体の急所の一つのである。

「ぐぅぇ!・・・・・げほ・・・・・あ゛・・・・・」

床にうずくまった不良に、冷たい視線を浴びせる。

「なら、なぜこのバスに乗ってきた?僕らは家族の無事を確かめるためにバスを出した。後から乗ってきたのはお前だ。もし嫌ならば・・・・・降りればいい」

客観的に聞けば、不良に負けず劣らず自分勝手な言い方だろう。

わかっていてもこれ以上我慢がならなかった。

それは孝たちもわかっているのか、口を出さない。

さらに厳しく不良を見据える。

パチッパチッ

今まで言葉を発しなかった紫藤が拍手をしながら近寄ってくる。

あの時の笑顔を顔に貼り付けながら。

優はその視線のまま紫藤を見た。

「すばらしいチームワークですね。小室君、神谷君!」

麗の顔色も変わる。紫藤を殺すような眼光でにらみつけた。

「しかし、こうして争いが起こるのは私の意見の証明にもなります。だから、リーダーが必要ですよ、我々には!!」

「で、候補者は一人きりってワケ?」

「私は教師ですよ、高城さん。そして、皆さんは学生ですそれだけでも資格の有無ははっきりしています。」

紳士を装うように両腕を広げる。

「どうですか、みなさん?私なら問題が起きないように手を打てますよ」

「・・・・・教師と生徒なんか関係ない。」

呟くような声で優は吐き捨てた。

「おや、なんですか?神谷君。なにか意見でも?」

優を笑顔で見据えるが、目は笑っていない。

「このバスに乗ってくるときに、助けを求める生徒の顔面を蹴り飛ばした。そんなやつに命を預ける気にはならないね。僕は降りる!!」

「神谷!?」

「優!!」

冴子とコータが叫ぶが、振り返らない。

昇降口をあけようとしたが、ロックされていて開かない。

舌打ちをし、先ほどまで麗が座っていた助手席のドアから外に飛び出した。

「まてっ!神谷!」

「行動を共にできないようであれば、仕方ありませんね・・・・・」

わざとらしく額に手を当てる紫藤に、冴子は怒りを覚えた。

「貴様・・・・・!!」

そして冴子もドアから飛び出す。

バスに背を向け、歩き出す優の腕をつかんだ。

「落ち着け!一人で行動しても生き残れるとは思えない!!」

「それでもです。あの場所にいれば、安全というわけではありません。あの紫藤がいれば余計に・・・・・」

「しかし・・・・・っ!」

ぷわぁぁぁん!!

大型のバスが猛スピードでこちらに向かって来ていた。

「何やってんだ!ぶつかる―――」

明らかに様子がおかしかった。

近づいてくるバスの中が見えると、そこは地獄絵図だった。

≪奴ら≫でいっぱいになっていた。

近くに止まっていた自動車に乗り上げ横転するが、勢いを殺せずそのままこちらへ滑り込んできていた。

そして、爆発。

とっさに優は、コンクリートの壁に冴子を押しつけ盾になる。

「かはっ・・・・・!」

壁に叩きつけられ、冴子は肺から息を吐き出した。

横転した大型バスは炎に包まれ、バスと優たちを遮断する。

バスからコータが飛び出して、叫ぶ。

「優!先輩!!無事ですか!?」

「げほ!・・・・・無事だ!!」

肉の焼けるにおいと熱気に咳き込みながらも、優は返した。

「優!警察で・・・・・東署で落ち合おう!!」

「・・・・・あぁ!何時だ!」

「午後5時に!今日が無理なら明日の同じ時間だ!!」

「わかった!コータ!死ぬな・・・・・っ!」

「誰に言ってるの?」

炎に阻まれコータの顔は見えないが、ニヤリとでも笑っているのだろう。

優は後ろに振り向き、息を整えている冴子に手を差し出した。

「すみません・・・・・巻き込んでしまって。怪我はありませんか?」

「大丈夫だ。君こそ怪我はないか?」

「はい」

「・・・・後ろっ!!」

冴子の叫びに振り向きざまに、木刀をなぎ払った。

炎包まれたやつらが飛んでいく。

「焼かれても動けるのかよ・・・・」

「いや、そうじゃないみたいだ」

よく見ると、後ろの火だるまになっている≪奴ら≫は倒れた後動かなくなった。

「体が焼ければ死ぬって事か・・・・」

顎に手を当てて呟く優の肩に、冴子は手を置く。

「何にしても、音を立てすぎた。すぐに≪奴ら≫が来る。早くここから離れよう。」

「そうですね」

そして、考えるのをやめ冴子の方に振り向くと、後ろに≪奴ら≫がいた。

「危ない!!」

冴子を押しのけると同時に、≪奴ら≫に服を掴まれた。

そのまま地面に押し倒される。

「がっ!!」

その≪奴ら≫はヘルメットをしていて、噛もうにも邪魔で噛めないようである。

しかし、容赦なく頭突きをしてきた。

「この・・・・やろぉ!!」

押しのけようとするが、人間の腕力ではあり得ない力で押さえつけてくるため、押しのけることができない。

ガツッッ

鈍い音がして、≪奴ら≫が倒れる。

その後ろには、コンクリートブロックを持った冴子がいた。

「今度は逆だな。無事か?」

そういって手を差し出してきた。

暴れる心臓を抑え、冴子の手をとる。

「ありがとうございます」

「よし、行こう」

「待ってください。あいつ、ヘルメットをしてました。もしかしたら―――」

「バイクか!」

「えぇ」

二人で少し戻った所にバイクが倒れていた。

少し点検してエンジンをかける。問題なく起動した。

「免許・・・・もってるのか?」

「今更免許なんていってられないですよ」

苦笑しながら返す。

「そう・・・・だな」

冴子も微笑みながら返した。

「後ろ、乗ってください。あまり、長居したくないので」

「わかった。安全運転で頼むよ」

二人はその場を抜け出し、街へ向かう。

そして、街は学園以上にの地獄と化していた。

この時点でそれを知るものは、いない。




[26163] 第6話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/09 20:19
ダークかつ、残酷な描写有りです。

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「いってらっしゃい、優君。学生らしく勉強に励んでこい!!」

冗談めかして優を送り出す。

それが従姉である唯香からの最期に聞いた言葉だった。









バスと別れて住宅街をバイクで走っていた、優と冴子は開けた公園にいた。

幸いにも、着いた時にいた《奴ら》以外は別の場所に行っているようで、その後現れる事は無かった。

「どうするか・・・・」

ベンチに座ったまま、自動販売機で買ってきた飲み物を優から受け取った冴子は呟いた。

たとえ《奴ら》の姿が見えなくても、周囲を警戒する事は怠ってはいない。

冴子の鋭い眼孔が辺りを常に探っている。

その横に腰をかけつつ、躊躇いがちに優は切り出した。

「・・・・あの、僕の家がこの近くなので寄ってもいいですか?」

驚いたように顔をあげてこちらを見る冴子に、やっぱりきれいだな・・・・・なんてことを考えながら。

「そうか、そうしよう。しかし、平日の昼間だ。家に家族はいるのか?」

「従姉との2人暮らしで、今日は体調が優れないと仕事を休んでいたはずです」

「家から出ていなければ、襲われることもない・・・・・が・・・・」

「分かっています。最悪の事も覚悟しています。もし・・・・・だったら、この手で眠りにつかせてやりたい」

冴子は優の瞳を真っ直ぐに見つめつつ頷いた。

「分かった。行こう」

飲み終わった缶を律儀にもゴミ箱へ入れ、冴子は立ち上がった。

優もそれに倣い缶を捨てる。

「ありがとうございます、主将」

「止めてくれ、もう部活なんて関係ないよ。そうだな・・・・・冴子、と呼んでくれないか」

「んなっ!・・・・えっ!?」

顔を真っ赤にして慌てる優を見て、くすりと微笑む。

「慣れてからでもいいよ」

「・・・・・はい・・・」

恥ずかしい・・・・これはからかわれているのか?

そんな優の気持ちも知らず、冴子はバイクの方へ向かっていった。

「どうした?早く行こう」

「あっ!はい!!」

そしてエンジンをかけて優の自宅への道を進んでいった。









「ここです」

そういって止めたバイクの前に、一軒の家があった。

大きくも小さくもない、極普通の一軒家。

従姉と2人で住んでいるにしては大きいかもしれない。

もともと優が両親と共に住んでいた家だった。

いつも従姉が乗っている軽自動車は停められており、家の中から物音はしない。

2人は、バイクから降り周囲を警戒しながら玄関に向かう。

優は鍵を取り出し回そうとするが、手が震えてうまく差し込めない。

「くそ・・・っ!」

焦りからか、ますます震えてきた優の手に冴子の手が乗せられた。

「大丈夫だ」

その言葉に震えが止まる。

カチャッと音がなり、鍵が開いた。

「・・・・行きましょう」

冴子の瞳をしっかり見て言う。

頷きを一つ返して、2人は家の中へ入った。









油断なく木刀を構えたまま2人は玄関に入る。

中から《奴ら》の呻き声は聞こえなかった。

少し息をつき、ゆっくりと廊下を進む。

リビングに入る扉に耳を当てて様子を窺うが、音はしない。

一つ頷き合い、扉を開いて中に入った。






リビングには物が散乱していた。

嫌な予感がする。

優はすぐさま、リビングと繋がっている唯香の部屋のドアを開けた。

冴子もそれに続く。

部屋に入った2人が見たものは、









ベッドの上に全裸で、そして血まみれで横たわる、唯香の姿だった。









足が動かない。

進もうとしても、体が言うことをきかない。

従姉が起きる気配はなく、傷は明らかに人為的なものだった

覚悟はしていた。

≪奴ら≫なっていたら、この手で従姉を休ませてやると。

だが――――こんなのはあんまりだった。

なぜだろうか、従姉のこんな姿を見ても声も出なければ、涙も出なかった。









「――――神谷」

躊躇いがちに呼びかける。

反応はない。

手を置いた肩が震えていた。

しかし、振り返った優の目に涙はなかった。

「大丈夫……です」

大丈夫なはずがない。

優の顔には、笑顔が貼り付いていた。今にも歪みそうな。

「神谷……」

「大丈夫……ですから」

そう言って微笑もうとするが、失敗した。

と、腕を引っ張られるような感覚があって、視界が闇に染まった。

抱きしめられている――と分かったのは、上から冴子の声が聞こえたからだった。

「家族を殺されて大丈夫な人間なんていないさ。泣けばいい」

想いで溢れた声を聞き、ついに優の涙腺が決壊した。

「くっ……くぅっ……」

声を押し殺すようにして泣く優の手は、縋るようにして冴子の制服を掴んでいた。

今は、この温もりを離したくはなかった。









泣き疲れて眠った優をリビングに連れて行き、ソファに寝かせた。

朝からずっと神経を張りつめさせていたからだろう、ぐっすり眠っている。

「少し休憩だな」

人知れず呟いた冴子の声に、返事をするかのように優は呻いた。

「しかし―――」

許せない。

許せないと言うどころではない。

腹の底には怒りがマグマのように溜まっていた。

もし、犯人が目の前にいたならば、容赦なく木刀で殴りかかるだろう。

それも殺さないように、じわじわと。

冴子は唯香の寝室に戻った。

ベッドの上に横たわる女性の顔には、苦痛や恐怖そして絶望が浮かんでいた。

一目見てすぐに理解した。

この女性は強姦されたのだと。

犯してから殺したのか、殺してから犯したのか分からない。

分かりたくなかった。

「くそっ!」

ガンッ

怒りに任せて、横にあったドレッサーに拳を叩きつける。

しばらくじっとしていた冴子は、唯香の見開かれた目を閉じてやり、体に布団をかけた。

そしてしゃがみこみ、手を合わせる。

焼くことはおろか、土に埋めてこともできない。

このまま置いておくしかなかった。

部屋を去ろうとした冴子の目に、ドレッサーの上に置かれた物が映った。

それを手に取り、もう一度振り返った後、冴子は部屋を出た。









うっすらと光が目に入る。


眩しさに顔をしかめつつ、意識が覚醒していった。

「目が覚めたか」

声のしたほうに目を向けると冴子がいた。

そしてあの光景が蘇る。

取り乱しはしなかった。

「どれくらい経ちましたか?」

「30分ほどだろう。少し食べる物を作ったが、食べられるか?」

「いただきます」

冴子が用意したおにぎりを無言で食べる。

何も考えられなかった。

「少ししたら出発するか」

先に口を開いたのは冴子だった。

「そうですね」

時計を見る。コータとの約束の時間まで後2時間ほどだった。

「……神谷、これ」

そう言って冴子が差し出したのは、ネックレスだった。

四角い銀の枠に水色のガラスがはまっている、シンプルなもの。

それは、唯香が愛用していたものだった。

「形見に持っていたらいい」

それを受け取った優は、無言で首にかける。

そして、握った。

「ありがとうこざいます。」

そう言って微笑む。

多少無理はしているが、この家に入ってからの初めての笑顔だった。

「お姉さんはここに置いていくが、かまわないか?」

「はい。連れては行けませんから」

しっかりとした目で頷いた。

「最後に、挨拶してきてもいいですか?」

「あぁ。私は準備しているよ」

冴子は優に背中を向け、他の部屋に向かった。









ベッドの上の従姉に近づく。

冴子がやってくれたのだろう、布団の中に入っている従姉は、ただ眠っているだけのように見えた。

「従姉さん、僕は行くね」

そう言って布団の中の手を握る。

反対の手はネックレスを握っていた。

「守るって言ってたのに、守れなくてごめん。」

もう少しだけ早く、着いていたら生きていたかもしれない。

今日、学校に行かなければこんなことにはなっていなかったかもしれない。

しかし、それは叶うことはなかった。

「僕、生きるよ。従姉さんの分も。今まで、ありがとう」

唯香をこんな状態にした犯人に怒りが無いわけではない。

それよりも、生きなければならないと思った。

もう一度、手を強く握って立ち上がる。

最後に唯香の顔を見て、踵を返してドアへと向かった。

優は振り向くことなく呟いた。

「行って、きます」

涙はなかった。









リビングに出ると、ナップザックを背負い木刀を携えた冴子がいた。

「行こうか」

そう言って差し出された自分の木刀を受け取り、優は力強く頷いた。

「はい」

この家に来たときと同じように《奴ら》を警戒しながら玄関をぬけ、止めてあったバイク乗る。

しばらくしてエンジンの音がして、遠くへ消えて行った。

そして、その後。

この家に人が訪れることは二度と無かった。






<あとがき>

難産でした・・・・・
やはりオリジナルストーリーは難しい・・・・



[26163] 第7話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/16 00:34
二人はバイクに跨って合流場所である警察署に向かっていた。

どちらも、好んで話すタイプではないので、特に用事のない時は、二人の間に会話はない。

―――まずいな。

ガソリンのタンクが空に近づいていた。

どこかで補給しなければと思ったその時に、優の視界の隅に何かが移った。

速度を落とし、停車する。

「どうした?」

普通であれば、街の安全を守っているはずのパトカーだ。

「警察か…」

「無免許にノーヘル、違反しまくってますしね」

苦笑で返す。

今更なので、気にせずに進むことにした。

追いかけられたら、逃げるしかないか。

なんてことを考えつつ、パトカーの前を過ぎようとするが、

「なんだこれ…」

そのパトカーは大型トラックに追突されて、中に乗っていた警察官は即死状態だった。

「……うっ」

《奴ら》になるよりも惨いかもしれない。

―――もしかしたら!

「しゅ…冴子さん、少し降りてもらえますか」

「……?」

少し青い顔をした冴子が疑問に思いながらも降りる。

優はエンジンを切ってバイクを止め、パトカーに近づいて警官の身体を漁った。

正直にいって、いい気はしない。

警官には申し訳ないが、こちらも生き残るのに必死なのだ。

「何をしているのだ?」

「あった!」

そう言って取り出したのは拳銃だった。

中身を確認すると、全てに弾が入っていた。

「それは……!」

冴子が驚いた顔をしていうが、優は反対側に回り、もう一人の服を漁っていた。

「手段を選んでいられないんです。……こっちはダメか。弾だけでも……」

もう一人の方は拳銃は壊れていた。

弾だけを抜き学ランのポケットに入れる。

冴子はなんともいえない顔で優を見ていた。

使ったことがあるわけではない。

テレビの刑事ドラマ知識だけである。

最悪、《奴ら》には効かないだが、人間には―――

「行きましょう」

拳銃をズボンに引っ掛けて言う。

話し声を聞きつけたか、数体の《奴ら》が近寄ってきていた。

「あぁ」

二人は再びバイクに跨りパトカーの横を通っていった。

手段を選んではいられないのだ。生き残るためには。









「ガソリンが切れそうなので、ここで給油していいですか?」

とあるガソリンスタンドに入りエンジンを止めた。

ポケットを漁るが、小銭しか持っていない。

冴子の方も同じようだった。

「……すみません、お金取ってきます」

罪悪感の混ざった顔で言う優に、冴子は微笑んだ。

「非常事態だしな。誰も文句は言えんだろ」

そう言って差し出された木刀を手に、優は売店に向かった。

店の中はこれでもかというほど荒らされていた。

人々が食料を求めて忍び込んだのだろう。

優はレジを跨いで立って、木刀を振り下ろす。何度も、何度も。

辛い、悲しいという気持ちと共に、楽しいという気持ちもあったのかもしれない。

そんな不謹慎な自分が嫌になった。









優の後ろ姿を見ながら冴子は考える。

神谷優という青年の印象が、今日1日で随分と変わった。

元々、剣道部一の弱小部員。

初心者で一年以上たっても一度も勝てず、部員の誰一人にも勝てない。

そんな評判だった。

しかし、冴子は知っていた。

部活が終わった後も、誰にも見られない所で黙々と素振りをしていたのを。

そして、一人でこっそり泣いていたのも。

同級生や上級生。時には下級生にまで冷たい目で見られながらも、彼は努力を怠らなかった。

そんな彼に冴子は好感を抱いていた。

冴子自身努力家である。

日々鍛錬を怠らず、相手を見くびらない。

常に前向きに剣道と向き合ってきた。

そして、優も同じく。

だからこそ実力を抜きにして、冴子は優を評価していた。

何を言われても言い返さない。

気の小さい青年とばかり思っていたが、違ったようだ。

思ったことは言うし、学園を脱出するときに窓を叩き割ったように、胆力もある。

事が起こってから、彼は積極的に動いてきた。

そして、公園での赤面した顔を思い出す。

「……やはり、男子ということか」

そう呟き、クスリと笑う。

だからだろうか。

後ろに迫った影に気づかなかったのは。









「なっ!?……離せっ!!」

その声を聞き、札束を回収していた優は店の外に飛び出した。

冴子の後ろにはスキンヘッドの男がいた。

冴子の首にナイフを押し当てている。

抵抗したのか、冴子の首から少し血が出ていた。

それを見て、一気に頭が冷める。

「ひひっ……動くなよぉ。兄ちゃん可愛い彼女連れてるじゃねぇか」

舌なめずりしながら、男はナイフを持った手を冴子の首に近づける。

「その人を離せ」

木刀を構えたままで、感情をみせない声で言う。

隙を窺い逃げ出そうとする冴子を目で制する。

「ばーか。放すかよ!化け物だらけになっちまった世界で生き残るなは女がいねぇとなぁ。ひゃははは!!」

「壊れているのか、お前……」

「壊れてるかって!?当たり前だ!!俺は目の前であいつらと同じになった家族の……頭をぶち割ってきたんだ!!!まともにいられるわけねぇだろうが!!」

そう言って、冴子の胸を揉みだした。

「ひぐっ……ぅあっ!」

抵抗しようにも、首とナイフが近すぎて、身動きが取れない

「あー、声も胸も最高だぁぁ!!それになかなかの巨乳ちゃんだぜぇっ!おまえ、毎日この子とヤってんだろ?やってねぇのかよ?バカじゃねぇの?ひゃははは!!」

我慢の限界だった。

男に打ち込もうとするが、男に気づかれる。

「動くな!!木刀を捨てろ!!でなけりゃ、この子を殺す!それからバイクも頂くぜ」

「ガソリンがない」

「給油しろよ!レジ壊したんだろ!?」

冴子の首にピッタリとナイフがついてるのを見て舌打ちする。

木刀を投げ落とすと、静かなガソリンスタンドに音が響いた。

そして、給油を始める。

誰も何も話さず、給油の音と男の荒い息だけが辺りに響いた。

「終わった」

キュッと栓を締めて言う。

「じゃあ行けよ!行っちまえ!!」

腰にある、小さな重みを感じつつ近寄る。

「見逃してくれないか?その人だけは…」

「うるせぇ!!お前もぶち殺してやろうか!!」

そういってナイフを振り上げた男の額に優が拳銃を突きつけるのと、冴子が腕から抜け出すのは同時だった。

そのまま撃鉄を下ろす。

「この距離なら外れない」

「い……引火するかもしれねぇぞ!!」

「女を盗まれるよりはましだ」

パァン!!

銃声が辺りに響き渡った。

引き金を引いた優の手に、躊躇いは無かった。









"元"男だった人間の額から、真っ赤な脳髄が流れ出ていた。

辺りに濃い血の臭いが充満する

「殺したのか」

袖で鼻を抑えた冴子の顔には、躊躇いなく撃った優に対しての畏怖が浮かんでいた。

そして、顔が語る。

殺さずにおく方法もあったのではないかと。

それを無視して、優はポケットから絆創膏を取り出し冴子に近寄る。

「首の怪我を……」

冴子の首に手を伸ばし、傷をみようとする優の手を、冴子は思わず払ってしまった。

「あっ……」

辺りに静寂が満ちる。

しまった、という顔をして手を抑える冴子に優は絆創膏を渡し、背を向けた。

その表情は見えない。

「念のために貼っておいてください」

それは何の感情も含まれていない、無機質な声だった。

木刀を拾い、エンジンに跨る。

「っ……」

そんな優を見て、冴子は何も言えなかった。

「行きましょう。《奴ら》がきます」

冴子の方を見ずに言う。

冴子は黙って乗るしかなかった。

心の中は後悔ばかりだった。

バイクが発進して、《奴ら》の間を縫うように進む。

再び二人の間に沈黙が下りる。

しかし、最初とはちがい、気の重たくなるような沈黙だった。

「今度こそ、守りきる」

優の呟きは、後悔の念に捕らわれ考え込んでいる冴子には届かなかった。



≪あとがき≫

あーっ、納得の行かない出来orz


この度の地震について、私の所は被害はありませんでした。
正直、テレビの中でしか被災地の様子はわからなく、未だに信じられない思いです。
直接手助けになるようなことはできませんが、募金などで少しでも…と思っております。

亡くなった方のご冥福を祈るとともに、被災された方が一日でも早く笑って過ごせますように、祈っております。



[26163] 第8話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/17 16:31
悲鳴の飛び交う中を、バイクで走り抜ける。

本当にここが平和だった日本なのかということが、疑わしくなってきた。

悲鳴、発砲、呻き声―――

まさにカオスだった。

≪奴ら≫の被害に遭っていないはずの人を撃ち殺し、刃物で殴り。

人々は、すでに正気を失っていた。

優は必死でバイクを操り、攻撃をよける。

先のガソリンスタンドの一件で、予想していたとはいえ惨たらしかった。

その中でも、後ろに座る冴子との会話は無く―――










御別橋に向かって進んでいた二人は、見覚えのある集団を目にした。

向こうもこちらに気づいた様子で、コータが手を振っている。

「優!!毒島先輩!!」

バイクを停めて降りる。

そこには、バスに乗っていたはずのコータ、孝、麗、沙耶、静香がいた。

「みんな無事だったんですね!」

「あぁ。二人とも無事でよかったよ」

二人が再会を喜んでいるのを尻目に、孝は冴子に近づいた。

「先輩もご無事で!」

「・・・・・あぁ」

「・・・・??」

どこか、浮かない顔をしている冴子に、訝しげな顔になる孝。

その視線をたどっていくと、優がいた。

今は、沙耶と静香と無事を喜んでいて、コータが蹴り飛ばされている所を見て笑っていた。

(何かあったのかな?)

「どうかしたんですか?」

思い切って訪ねてみるが、帰ってくる返事は要領を得ない。

「う・・・・・いや、なんでもない」

そんな二人にやきもちを焼いたのか、麗が走り寄ってきて孝の腕を引っ張る。

「この近くに、鞠川先生の友達の家があるみたいなの!今日はそこで休みましょ?」

「そうだな」

頷いて、再び冴子を見やる。

やはり、浮かない顔をして優を見つめていた。

(神谷が誰かと不和になるって珍しいな)

そういえば、合流してから二人が会話をしているところを見ていない。

しかし、これは二人の問題にである。

孝にはこれ以上踏み込むことも出来なかった。

冴子に次いで、考え込み始めた孝を麗が頬をふくらませて睨み付けたのはご愛嬌。











「・・・・・先生、そんなにくっつかなくても・・・・」

「えー?なにー?きこえなーい!」

ほとんど人が見えない住宅地を、再びバイクで走っているのは優と静香。

今夜休めるところをという話で出てきた家を、確認するための偵察である。

「はぁ」

そろそろ日も暮れかかってきていた。

冴子のことを思い浮かべる。

優は特に冴子を責めるつもりはなかった。

目の前で殺人を犯し、さらに気にする風もない人を、拒絶するのは致し方ない。

自分でもそうだろうしな・・・・

と自嘲気味に思う。

人を殺す恐怖よりも、大切な人を失う事の方が怖かった。

人を殺す覚悟など、従姉と別れを告げたときにしている。

大切な人を護るために他人を殺すことに躊躇いはない。

――――はずだった。

(なんで、手の震えが止まらないんだ!)

グリップを握る手から、エンジンの震えとは別の震えが走る。

(くそっ)

優は、グリップを一層強く握りしめた。

「あっ、ここよ!」

その言葉に我に戻り、ブレーキをかける。

「きゃあ!!」

「あ、すみません」

少しスリップを起こしたバイクに驚き、静香が優に強く抱きついた。

(・・・・・はぁ)

色々な意味でため息が止まらない優だった。












「すごい大きな家ねぇ」

「たしか、メゾネットですよね?」

「そうよ!」

「塀も高いし・・・・これなら≪奴ら≫も入ってこれないわね!」

引き返して全員を案内してきた。

冴子はやはり元気がない様子だったが、優は声をかけることはしなかった。

嫌われるのは承知で、あの男を殺したのだ。

「とりあえず、入りましょうか」

「そうね・・・・・ッ!?」

う゛あぁぁぁ

中からうめき声が聞こえる。

間違いなく≪奴ら≫だった。

お互いに目配せをし、それぞれが武器をもつ。

「小室・・・・・これでいい?」

「あぁ、十分だ。下がってろ」

冴子も切り替えたようで、木刀を構えている。

「お互いにカバーを忘れるな!」

「行くぞ!!」

孝が先頭を切って、家の中に入り込む。

音に反応して、寄ってくる≪奴ら≫を片っ端から殴りかかる。

室内ではあるが、十分に広い廊下で振りかぶることも出来る。

殲滅するのにそれほど時間はかからなかった。

「ふぅ・・・・・これで全部かな?」

最後の一体の頭を、渾身の力を込めてたたき、動かなくなったところで確認する。

昼からずっと力を入れっぱなしで、もう木刀を握れそうになかった。

(明日、筋肉痛かな・・・・)

家の中を確認し、もう≪奴ら≫が見えなくなったため、休息をとることにした。












「ふぅぅぅぅ」

「生き返るーっ!」

「先生の胸、おっき~!!」

「うん。よく言われる」

「くぅっ!なんて自信満々な・・・・・えぇい!」

「きゃぁ!」

浴槽につかる麗と静香が後ろで遊んでいるのを尻目に、

冴子と沙耶は、体を洗っていた。

「ぬるい18禁ゲームじゃあるまいし・・・・なんでみんなでお風呂なのよ」

「高城はわかっているだろう」

「そうだけど・・・・」

キュッキュッと冷水にバルブを回し、シャワーを沙耶にかける。

「ひゃああああ!!」

「ふふっ、思ったよりいい声だ」

したやったり、とクスクス笑う冴子に、

仕返しとばかりに冷水をぶっかける。

「んっ・・・・・ふぅっ・・・・・あっ」

「くそっ、こんな時にまで姐系の反応とは・・・・」

「ふふふ・・・・・年上を甘く見てはいけないよ」

「・・・・・元気そうじゃない」

「・・・・?」

「さっきまで、お葬式のような顔をしてたから」

「心配してくれてたのか?」

驚いた顔をして問う冴子に、声を詰まらせて返す。

「ばっ、ばっかじゃないの!?別に、心配してなんかないんだから!」

ぷいと顔を背ける沙耶をみて、冴子はクスクス笑った。

「・・・・・ありがとう」

まだ、完全に立ち直ったわけではないが、心が軽くなっていた。

優には謝らなければならない。

しかし、なかなかタイミングがつかめずにいた。

自分はどうかしていたのかと思う。

あのとき、彼があんな行動を起こしたのは、自分を護るためだった。

(・・・・お礼を言うならまだしも、彼を責める権利は私にはない。)

再び考えこみ始めた冴子に、容赦なく冷水が襲う。

「ふぅぁぁああ!?」

油断していたためか、大きな声を上げてしまう。

「あら、いい声でるじゃない」

沙耶のしてやったり顔の奥に、気遣わしげな色が見えた。

それに気づいた冴子も、心の中で感謝しながら沙耶に乗った。

「ふふっ。やったな!」

しばらくは、風呂からの嬌声は止まらないだろう。






≪あとがき≫
中途半端なところで、止めてしまいました…
近日中に、更新します。



[26163] 第9話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/25 10:45

「のんきなもんだな」

風呂場から聞こえてくる嬌声を聞きつつ、優は呟いた。

「まぁ、ガス抜きにちょうどいいんじゃない?色々あったしさ」

苦笑しつつ優を宥める孝

しかしその2人に見向きもせず、コータは部屋にあったロッカーをこじ開けようと必死になっていた。

「覗きに行くのか?」

「俺はまだ死にたくない」

「ははっ、確かに」

ニヤリと笑っていう優に、至極真面目な顔で返す。

「ちょっと、開けるの手伝って!」

「銃か?」

「うん。弾薬があったから入ってるはず!」

「一気に引っ張るか。おい、小室も手伝ってくれ!」

どうしたらいいか分からずに立っていた孝に声をかける。

「あ……あぁ」

差し込んだバールを3人で持ち、てこの原理で開けようとする。

「いっせーのーでっ!」

ガキッ

金属の割れるような音がして、勢いよく扉が開いた。

「あたっ」

そのまま倒れ込んだ孝と優に構わず、コータはロッカーの元へ走る。

「やっぱりあった…」

「静香先生の友達っていったよな、ここの人。一体どんな友達なんだ?」

開いたロッカーの中には銃が3つ置かれてあった。

銃について何も知らない優でも、危険なものだとわかるほどの凶悪な形である。

「スプリングフィールドM1A1スーパーマッチか。セミオートだけだけど。ま、M14シリーズのフルオートなんぞ、弾の無駄遣いにしかならないし」

さっそく構えてみせるコータに、意外なものを見たと、孝が目を見開く。

「お…おーい、ひらのー」

「マガジンは20発入る!!日本じゃ違法だ違法。うふ」

孝の声が聞こえないほど、銃に夢中になっているコータに、どうしたものかと助けを求める孝。

「はは、無駄だよ。コータはこうなったら止められない。落ち着いたら、扱い方を聞いたらいい。」

「エアソフトガンで勉強したのかな?」

「いや、コータは実銃もったことあるよ。アメリカで、教えてもらったらしい」

「まじで!?そういう方面だけは本当に完璧なのな」

「ああ、銃に関してはコータが一番だ。……ちょっとトイレに行ってくる」

「あ、いってらっしゃい」

未だに銃を持ってぶつぶつ言っているコータに笑いながら、優は階下へと降りていった。













「とれないな……」

トイレを出て、洗面所へと向かう。

女子たちはすでに風呂を出たようで、湯気が漂うだけだった。

その中で優は1人、手を洗う。

何度も、何度も。

昼間、ガソリンスタンドで人を殺してから、手についた血がとれなかった。

《奴ら》に噛まれた訳でもない、正真正銘の人間。

石田の最期とはまた違う。

とっくに、血は洗い流されているが、それでも優の目には血が映っていた。

「くそっ……取れろよ!」

何度も洗う。

涙を流しながら。



優は、その背中を一対の目が見つめているのに気づかなかった。















一行は安息の地にたどり着いていた。

しかし、それは一時的なものでしかなく、外では騒ぎがむしろひどくなりつつあった。

「地獄だな」

いつのまにか、戻ってきていた優が、テレビを見ていた孝の横に座り呟いた。

画面の向こうでは、《奴ら》と化した人々が生者を襲う光景が繰り広げられていた。

そして、切り替わる。

『警察の横暴を許すなー!!我々は政府とアメリカの開発費した生物兵器による殺人病の蔓延についてぇ!徹底的に糾弾するぅ!!』

「殺人病って……」

「おそらく《奴ら》の事だろうな」

「正気かよ!死体が歩いて人を襲うなんてこと、科学的に説明がつくはずないのに!!」

――どうだろうか、科学的に説明がつくはずがないかは分からない。

しかし、人為的でないとすると、余計におかしなことになる。

「連中設定マニアなのかな。それとも悪い病気か……左翼だよね」

双眼鏡で外を見ていたコータから声がかかる。

「確かに左翼は設定マニアで悪い病気だ。極右の人種差別主義者と同じぐらいに悪い病気だよ」

「へぇ、お前もそういうこと言うんだ」

「お袋の同僚にいまでも左翼活動やってるのがいたんだよ」

呆れたように孝は言った。

「お袋さんの仕事はなんなんだ?」

「小学校の先生。川向こうの御別小学校で1年生のクラスを持ってる」

「なるほどな」

頷く優に、逆に聞き返す。

「お前の所は?」

「優の所は綺麗なお姉さんがいたよね?」

「まじで!?同棲かよ?」

コータの言葉に、突然声を張り上げた孝に、優はびっくりした。

「いや、従姉だし。それに……合流する前に、家寄ったけど……だめだった」

静まり返って、時計の針が動く音が響く。

「あの……すまなかった」

「気にしなくていいよ。もう、気持ちの整理はつけたつもり」

そういって、服の下にあるネックレスを掴む。

「そっか…」






そんな、しんみりした空気を読まない女性が1人。

「んはぁ!こっむっろっくーん!」

「うぇぇ!?」

バスタオル1枚でいた静香が小室にのしかかる。

「はぁ……酒、飲んでるな」

「ちょ、何してるんですか!」

「ちょっと、ちょっとだけよ〜ふふふ」

妖しく笑う静香に、またもやため息を吐く優。

「あ、コータちゃーん」

「え、ちゃん?えと、あは」

「んちゅー」

ぶはぁ!

さっきの空気が一瞬で壊れる。

……本当に教師、というか大人なのだろうか。

とりあえず鼻血を拭こうか、コータ。

「大声はだめです。下へ行ってください」

「えーだめー。しずかお外こわいからずっとこうしてるのー」

正に、見た目は大人、頭脳は子供だな。

たちが悪いが。

崩れ落ちた静香を背負う孝を見て思う。

「悪い、平野。見張り頼む」

「僕は台所から何か食べられる物をとってくる」

「あ…うん」

まだフラフラしてるコータに言って、2人で下に降りる。

「変な気起こすなよ」

「なんなら、交代する」

「……断るよ」

「ちっ」

時々アブナい声を上げる静香を、極力無視し階段を降りる。

「いいご身分ね」

聞こえた方を向くと、麗がいた。

つかつか寄ってきて、じぃっと孝を見つめる。

「あー、孝が三人いるー」

「はいぃ!?」

お前もかブルータスと言いたくなるのをこらえて、優は孝に言った。

「先生寝かしてくるから、宮本の相手してやりな」

孝から静香を受け取って下に降りる。

背後からは2人の言い合う声が聞こえ、背中にある柔らかい感触に、優は今日何度目かのため息を吐いた。




[26163] 第10話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/30 21:16
背中に背負っていた静香を、床に敷いた布団の上に寝かせる。

すこし身をよじらす程度で、起きる気配はなかった。

(疲れる……どころじゃないな。

先生も大人とはいえ人間だし、酒に逃げたっておかしくないか。)

薄い掛け布団をかけてやり、優はフッと微笑んだ。

振り向けば沙耶が寝ている。

《奴ら》の夢を見ているのか、眉間にシワを寄せてうなされていた。

(みんないつ限界が来ても、おかしくない……か。)

廊下に出て、扉を占める。

知らずため息がでた。

《奴ら》が現れてまだ1日。

おそらく、全人類の半分は死んだだろう。

この先どうなっていくのかは、優には全く予想はつかなかった。

だからといって、生を諦めることはしない。

何があっても最後までしぶとく生き残ってやる。

それが唯香に誓った優の、信念だった。

ふと、漂ってくる匂いにお腹が鳴る。

家でおにぎりを食べてから何も食べていなかった。

(誰か何か作ってるのかな?)

そう思って台所に入った優は、中にいた人物に、そしてその格好に固まった。

下着だけをつけて、その上からのエプロン。

いわゆる、裸エプロンとやらに限りなく近い格好で、冴子が料理をしていた。

あまりに場違い、というか状況を考えればありえないという言葉がぴったりだろう。

相手は自分に気づいていないようで、こちらに背を向けたままコンロの上の鍋をかき混ぜていた。

(とりあえず……)

優は学ランを脱いで、それを手に料理中の冴子に近づいていった。








冴子は先の光景が頭から離れなかった。

『くそっ……取れろよ!』

そう言って手を洗っていた優。

彼は冷酷な人間ではなかった。

それまでの行動でわかっていたはずなのに。

あんな行動をとってしまった自分を悔やまれて仕方がない。

(どうすれば、許してもらえるだろうか……)

と、その時に肩に掛かる暖かい感触があった。

「鍋、焦げますよ」

「!?」

考えに没頭していて近づく気配に気づいていなかった冴子は、心底驚いて振り向く。

そこには、今考えの中心にいた人物が立っていた。

「神谷…!」

突然のことに、パニックになってうまく言葉に出来ない。

「そんな格好してると風邪引きますよ。血のにおいするかもしれませんがよかったら」

そう言って学ランを着せる優に、冴子は口をぱくぱくさせた。

「あ……あの……」

どう言葉にしていいかわからなくなってどもる冴子に、優は珍しいものを見たと思った。

そして、何か勘違いをしたようで、顔を曇らせる。

「嫌でしたら、その辺りに脱ぎ捨てておいてもらってもかまいませんから」

自嘲ぎみに笑い、冴子に背中を向けて台所を出て行ってしまった。

「あ……」

すっと謝罪を言えなかった自分に怒りを覚える。

(謝ることすらできないのか、私は……!)

優に着せられた学ランの裾を、握った手が震えた。









胸が痛む。

(やっぱり、嫌だよな……人殺しから血にまみれた学ラン受け取るのって)

痛む心を無視して、自嘲する。

そして気づいた。

「あ、夜食のこと忘れてた」









二階に上がる階段で、孝と麗が抱き合っていた。

「ここでするか……」

邪魔するのも無粋だが、どうするか……

その時、外で犬の吠える声が聞こえた。

「……犬?」

何かはわからないが、嫌な予感がした。

「ちょ、すまん!」

座り込んで抱き合っている二人の横を駆け上がる。

銃を持ったコータが、ベランダに出て下をのぞき込んでいた。

「コー……」

「ヤバイよ」

並んで下を見ると、≪奴ら≫が大量に家の前に集まっていた。

「なんで!?」

いつの間にか来ていた孝が声を上げる。

生きている人もいたが、囲まれていてもう助からないだろう。

「……ここに助けを求めに来たか」

銃を構えて撃とうとした孝を、止める。

「なんで!」

「撃ってどうするつもり?≪奴ら≫は音に群がるのに。ここに助けを求めに来た人全員を、助ける力が僕たちにある?」

「くっ!」

置いてあった双眼鏡を手に取り、のぞき込む。

数軒離れた家に助けを求めに走った父娘が見えた。









「パパ、ママは?」

「ママとは後で会える。さあ、こっちだ」

娘の手を引いて、父は家の扉を叩いた。

「お願いです!入れてください!!子供連れで逃げられないんです!」

「くるな!よそに行ってくれ!!」

「頼む!自分はどうでもいいんです!子供を、娘を!!」

「……」

家の主がとった行動は、冷たかった。

ついには反応すら返ってこなくなる。

「開けてくれ!!開けなければドアを壊す!!!」

「!?」

手を持った工具を振り上げて、父は叫んだ。

化け物どもがすぐ近くにまでやってきている。

時間が無かった。

「ま、待ってくれ!今開ける」

鍵の開く音がして扉が開いた。

「ありがた……」

ドスッ

「あ……」

物干し竿に括り付けられた包丁が、父の身体を貫く。

「許してくれ……許してくれ……」

そう呟かれた声とともに、再び扉は閉まった。

「パパぁっ!!」

すがりつくが、血を吐き出した父はもう生きられないと、子供ながらに悟った。

「隠れなさい……誰にも見つからないように……どこかに……隠れて……」

「嫌だぁ……いやだよぉ……パパと一緒にいる!!ずぅっとパパと一緒にいるの!!」

動かなくなった父に抱きついて泣く娘に、≪奴ら≫の影が忍び寄っていた。








ダンッッ

コータの持っている銃が炸裂して、≪奴ら≫の頭を吹き飛ばした。

「コータ!!……頼んだ」

「任せて!」

その言葉を聞いて、優は持っていた双眼鏡を孝に渡し、駆けだした。

「試射もしてない他人の銃で、いきなりヘッドショットをキメられるなんて!やっぱ天才だなぁ俺」

再び銃を構えて撃つ。

「打たないんじゃ無かったの?生き残るために他人は見捨てるんじゃなかったのか?」

「小さな女の子だよ!?それに、優だって助けに行きたかったはずだよ。僕はここから援護する!」

「俺も行ってくる!!」

その言葉に、孝も駆けだした。









階段を下りた優を待っていたのは、木刀を持った冴子だった。

一瞬目があって、そらす。

そのまま、横を通り抜けようとした優だが、聞こえてきた言葉に一瞬足を止めた。

「死ぬな」

振り向かずに頷いて、優は扉を開けた。




外に出たのはいいものの、道路はすでに≪奴ら≫で溢れかえっていた。

「どうするか・・・・・」

と、ふと塀が目にとまった。

頭より少し高い程度。

音を立てなければ何とかなりそうだった。

乗って、確かめる。

「安定できるか」

平均台に乗っている感覚だった。

そして、少女のいる場所へと向かう。

時間が無いのだ。

やっとたどり着いた時には、少女は隅まで追いつめられていた。

「やめてぇ……来ないでぇ……」

「ちっ!!」

木刀を振りおろし、少女の前にいた《奴ら》を倒す。

「どこも噛まれてないか!?」
少女の体を調べるが、噛まれたような跡は見あたらなかった。

「よかった……」

安心したのがいけなかったのか。

「お兄ちゃん後ろ!!」

木刀では間に合わない。

とっさに腰の拳銃を取り出し、《奴ら》の頭に当てて撃つ。

「ありがとうな」

そう言って少女に微笑んだ。

とはいえ、今の銃声で辺りの《奴ら》が寄ってくるはずである。

「どうしようか……」

《奴ら》を叩きながら思う。

門を閉めようにも、倒れている《奴ら》のせいで、閉めることができない。

と、その時、バイクの音が聞こえてきた。

「なんだ?」

そして、そのまま門の隙間から入ってきた。

「神谷!!」

「小室か!」

孝に手伝ってもらい、門を閉める。

ひとまず、《奴ら》が入って来るのを防いだ。

しかし、力が強い《奴ら》のことである。

破られるのは時間の問題だ。

「とりあえず、ここを出ないと……でも、どうやって?」

「僕は塀をつたってきた。でもこの子は……」

二人の会話に、少女が孝の服の裾を引っ張る。

「お兄ちゃん……」

「ん?」

「パパ、死んじゃったの」

扉の横辺りに倒れている父を見る。

孝は無言で、干してあったシャツを取り、花をちぎって少女に渡す。

「君を守ろうとして死んだんだ。立派なパパだ」

優も痛ましい顔をして見る。

目の前で父を殺された少女に、なんと声をかけていいか、分からなかった。

「うっ……パパぁ……」

「大きな声を出しちゃいけないよ。《奴ら》が寄ってくるからね」

「逃げられる?」

「あそこを登って……」

そう言って塀をさす。

「だが、足場が細い上に、《奴ら》がうじゃうじゃいる。その子に渡りきれるか?」

「俺が背負うよ。おいで」

そういって、背中を向けた孝に、優は台になりそうなものをひっぱってきた。









その頃、沙耶達は荷物をハンヴィーに詰め込んでいた。

静香の案で迎えに行くことになったからだ。

「迎えに行くのはいいけど、あの数じゃハンヴィーでも……それとも二人がなんとか逃げ出してくれれば……」

そう言って銃を片づけ始めるコータの目に、塀の上を歩く二人の姿が見えた。

「なるほど……よくやるよ!」

片づけた荷物を片手に、コータは下へと降りていった。









「道路を見るな。塀だけを見て歩く。」

ぶつぶつ言いながら歩く孝の後ろを優はついて行っていた。

優の腕には、少女がずっと抱えていた子犬がいる。

状況を分かっているのか、子犬はとてもおとなしかった。

と、前の二人が止まる。

「お兄ちゃん、もう我慢できないよぉっ」

「う……そこでしちゃいなさい」

「いいの?」

「お兄ちゃんが全て許す」

会話から大体読めた優は、孝を憐れみつつ目をそらした。

学ランにシミが広がっていく所など見ていない。

ましてや、滴っている所など見ていない。

なんとも言えない光景だった。

その時、爆音と共に、ハンヴィーが滑りこんで来た。

「むちゃくちゃやるな……」

孝が呟く。

だが、助かった。

「川向こう行きの最終便だ。乗るかね?」

車の上に立つ冴子に、孝は応え、飛び移る。

優は、というと戸惑っていた。

「神谷、何をしている?早く来い」

差し出された手を見つめて、手を出そうとするが、血にまみれているのを見て、動きが止まる。

(血が……)

手を引っ込めようとするより先に、冴子に掴まれた。

そして、ギュッと握る。

「来い!!」

その言葉を聞くと、体が勝手に動いていた。

跳躍。







長い長い最初の夜からの脱出。

それでも、悪夢のような毎日のたった1日が終わったに過ぎなかった。









[26163] 第11話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/08 16:51
気がつけば、辺りは一面の真っ暗闇の世界だった。

光も何もない、自分がまっすぐ立っているのか、それとも横たわっているのかさえもわからない、寒い世界。

(夢……だったのか?)

あの地獄も、血に塗れた自らの手も。

そう思って自分の手を見てみるがしかし、その手は真っ赤だった。

(はは……やっぱり血まみれじゃないか)

そう自嘲する。

この手で出来ることなどない。

両手を握りしめ、絶望の底に沈みかけたその時、不意に手が温かくなった。

「暖かい……」

思わず口に出す。

『君の手は、穢れてなんかいない』

そんな声が聞こえたような気がした。

周囲が明るくなっていく―――








ハッと目を覚ます。

車の中で夜を明かした。

優の隣には、孝と麗が眠っている。

膝に感じる重みに、そちらを見やると優の膝を枕代わりにして眠る冴子がいた。

まだエプロンに学ランを羽織った姿である。

流れたよだれが、ズボンに染みを作っていた。

熟睡しているようだ。優の手を握ったまま。

(暖かかったのはこれか……)

ふと、窓の外を見やると水でいっぱいである

(……川?)

車に乗ってすぐ眠りに落ちたため、現状が把握できないでいた。

車の上から、少女とコータの楽しげな歌声が聞こえ、全員無事であったことに安堵する。

「あ、起きた?もうすぐ川渡りきっちゃうから、みんなを起こしてくれる?」

前の運転席から声が聞こえる。

「先生は寝なくても大丈夫なんですか?」

「いやぁ、さっきね……」

なるほど、あれほど寝てたらな。

握っている手をほどき、冴子の肩を軽く叩く。

「冴子さん、起きてください」

優の言葉に目を開く冴子だが、焦点があっていない。

未だ、夢と現《うつつ》を彷徨っているようだ。

「よだれ、垂れてますよ」

少し微笑みながら言ってやると、やっと現状を理解したのか、赤くなってよだれを拭く。

「そろそろ岸につきますんで、降りる準備をしておいてください」

「じゅんび……?」

寝起きだからだろうか、首を捻って聞き返す姿がどこか幼く見えた。

「ずっとその格好じゃいられないでしょう?」

少し赤くなってそっぽを向く優に、冴子はなるほどと納得した。

そして降りていき、他の女子勢とともに着替え始めた。







優たちは、川を渡るために御別川のかなり上流に来ている。

上流の方が水深が浅く、渡りやすいであろうからだ。

そして、昨夜に救った少女の名前は、希里ありす。

小学二年生で亡くなった父親は新聞記者だったそうだ。

横で吠えている子犬は、コータがジークという名をつけた。

米軍がつけた、零戦の名である。

小さくて元気で勇気があって、確かにぴったりの名前だ。

「小室はこれを使えよ、ショットガンだから、頭に向けただけで当たるし。」

そう言って、コータは孝に銃を差し出す。

「だから、使い方が分からないって。バットの方がましだよ」

弾をを送って説明してみせるコータに、孝はそっけない態度をとる。

優はそのままジークとじゃれ続けていた。

自分はもとより、銃が出来るとは思っていない。

孝とコータは、意見が合わなかったようで微妙な空気が流れている。

「優はどうする?一応まだ銃はあるけど……」

「僕に銃はだめだよコータ。僕には木刀があるし、逆に銃を持ってると動きづらいかな」

役に立つかどうかはさておき、一応木刀を使って奴らを倒している。

銃を下げていたら、それこそ掴まれてやられるかもしれない。

「そっか……」

少し残念そうな顔をしているコータに、申し訳なく思った。

コータの銃の腕の良さは、優が誰よりも知っている。

自分がコータのそれに遠く及ばないことも。

だから、銃を持つ代わりに優は前で戦うつもりだった。

後ろからの援護を期待して。





「もういいわよ」

その声に振り向くと、着替えを終えた女子勢がいた。

その姿を見て、三人とも唖然とする。

麗が物々しい装備をしていたからだ。

冴子は、スカートがダメになったのか、大胆なスリットが入った紐で結ぶスカートをはいていた。

「あははは、撃てるのか?それ」

乾いた笑いをこぼしながら孝が訪ねる。

「平野君に教えてもらうし、いざとなったら槍代わりに使うわ」

「あ、使える使える!それ軍用の銃剣装置ついてるし、銃剣もあるから」

そういって、コータは銃剣をつけ始める。

「そろそろ、出発しないか?」

もう準備は整ったみたいで、優としては早く出たかった。

孝とコータで堤防を上がり、奴らがいないかを確認する。

「大丈夫、いない!」

勢いをつけて、堤防を駆け上がるハンヴィー。

堤防の上からタイヤを引きずる音がして、下にいた一同の顔に冷や汗が垂れた。

全員上がったところで確認する。

「これからどうする?」

優の疑問に孝が答える。

「高城は東坂の二丁目だったよな?」

「そうよ」

「じゃ、一番近い。まず高城の家からだ。だけど、あのさ……」

「わかってるわ、期待はしてない」

「そっか。じゃあ、いこう」

そう言って微笑む孝に、頬を染める沙耶。それが気に入らないのか膨れる麗。

冷静な頭で優はそれを見ていた。

(大変だな、小室も……)

そんな優を冴子が見つめていることにも気づかず。









沙耶の家へと向かうことにした一行。

孝と麗が車の上に上がって見張り、静香は運転、助手席に沙耶。

コータは弾を詰め、ありすとジークは戯れていた。

そして。

(さて、どうしよう……)

窓から外を見ている優の隣には冴子が。

黙ったままであるが、時折何かを言いたそうに優に視線を向ける。

「あの、主将?」

その声に冴子はハッと顔を上げた。

そして再び俯いた冴子の口から、やっと言葉が漏れた。

「その……すまなかった。あの時のことをずっと謝らなければと。私の、考え無しの行動で君を傷つけた。本当に申し訳なかった。」

そういって、深く頭を下げる冴子に、優は慌てるまでもなく冷静だった。

「頭を上げてください、主将。主将がとった行動は間違っていませんから。僕の手は、血で穢れ―――」

「穢れてなんかいない!」

そう軽く叫び、優の手を握る。

「穢れてなんかいないさ……。この手で私は何度も助けられたのだから」

困惑する優の手をさらに握りしめて言う。

「すまなかった、そして助けてくれてありがとう」

その言葉に自嘲する。

「お礼を言われることなんてありませんよ。僕は僕のしたいことをしただけですから。」

だから、人を殺したのだと、謝る事は無いのだと、優は言う。

含んだ内容に気づかない冴子では無かった。

「神谷……あの事を私は責めていない。今となっては信じてもらえるとも思ってないが」

優の肩が跳ね上がる。

「君はあの事で自分を責めることはない。君を責めさせているのは私のせいだ。」

優からの返事はない。

先ほどとは逆に、今度は優が俯いていた。

「許してもらえるとは思っていない。が、自分を責めることはしないでくれ」

辛そうに視線を下げる冴子に、優は顔を上げて手を握り返す。

「許すも何も、初めから怒ってなんかいません。むしろ、主将に嫌われたと思ってました」

びっくりして顔を上げる。

「嫌ってなんか!私が君に嫌われていると……」

顔を見合わせて笑う。

先ほどの深刻な雰囲気はどこかへ飛んでいた。

「もっと早くに話し合うべきでしたね」

「そうだな」

「……ありがとうございます」

冴子に聞こえない程の声で呟く。

「ん?」

「なんでもありません」

「そうか……あ、そういえばまた呼び方が戻っているな。冴子と呼んでくれと言ったはずだが?」

「え……あっ……それは、なんというか、勘弁してください」

突然話を変えられ、顔を赤くして慌てる優。

あの一件で嫌われたと思っていた優に、冴子の名前を呼ぶことなど出来なかった。

「それはおいおい……」

逃げようとした優に、冴子はふっと微笑む。

思わずその笑顔に見惚れてしまう優だった。

「そろそろ、そこでいちゃつくのやめてくれない?」

その言葉にハッとなって周りを見回すと、孝と麗を除く全員が優と冴子をジト目で見ていた。

いや、ありすと静香は興味津々と言ったところか。

その視線に、赤くなって縮こまる優と冴子だった。





≪後書き≫

ぐわあああああ!
更新遅い上に、納得できないというかワケ分からん文章になった上に、短い……
穴があったら入りたい……

というわけで、冴子と仲直りです。
次はいざ高城家へ。
なるべく早く更新目指します(涙)



[26163] 第12話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/09 22:59

閑静な住宅街を、そこにそぐわないごついフォルムの車が走っている。

そして、それをみた住人たちが驚き、子供が車に指を指す。

そんな風景になっていただろう。

世界が平常であったならば。

しかし、今やその風景は血にまみれ、たくさんの奴らを蹴散らしながら、ハンヴィーはその凶悪なフォルムを血色に染めていた。

「わっ!ここも!」

血のにおいの中ハンヴィーは爆走する。

先ほどまで、一体も見えなかった奴らが、今では数え切れないほどになっていた。

「なんだってんだ!?東坂二丁目に近づけば近づくほど、奴らが増える一方じゃないか!」

車の屋根にしがみついたままの孝が叫ぶ。

奴らを振り切るために、猛スピードで走る車に振り落とされないように。

「このまま押しのけて!」

車の中では沙耶が叫ぶ。

ハンヴィーのスピードが一段と上がった。

そして、孝とともに屋根の上にいた麗は見つける。

道路を塞ぐように網目に張られたワイヤーを。

「停めてぇぇぇぇぇ!!!」

「え?」

奴らによって前方が塞がれていた静香は、反応が一瞬遅れた。

「ワイヤーが張られている!!車体を横に向けろ!!!」

優が叫ぶが、車は止まらない。

何かが引きちぎられる音がして、車は車体を横に向けたまま、ワイヤーの網にぶつかっていった。

車とワイヤーに挟まれた奴らは、その身を分解されて落ちていく。

そして、それでもなお、車は止まることはなく―――

「滑りすぎてる!停まって!何で停まらないの!」

「人肉、いや血脂で滑ってるのよ!」

「先生!タイヤがロックしてます!ブレーキ放して少しだけアクセルを踏んで!!」

コータが叫ぶが、パニックに陥った静香は思いっきりアクセルを踏んでしまう。

「先生!前っ前っ!!」

壁に向かって突進する車を停めようと、ブレーキを踏む、がしかし――――

「あっ……」

慣性の法則というものがある。

「麗っっ!」

「がっ!!」

しっかり捕まっていられなかったのか、麗が前方へ投げ出され、地面に身体を打ち付ける。

孝は地面に飛び降り奴らにショットガンを向けた。

「頭の辺りに向けて……撃つ!」

低い音とともに反動が孝を襲った。

「なんだよ頭狙ったのに、あんまりやっつけられないぞ!」

「ヘタなんだよ!反動で銃口がはねてパターンが上にずれてる!突き出すように構えて胸の辺りを狙って!」

言われたとおりに撃つが、奴らの数には適わない。

「僕も出ます!!」

「私も行こう!!」

冴子と優が木刀を持って飛び出す。

「ダメだ!木刀で戦うには奴らの数が多すぎる!!」

「分かってる!それでも何もしないよりはましだ。早く宮本を連れて向こうに渡れ!!」

そう言って、優は奴らを倒すことに専念する。

銃の音が響き渡ったからには、そこら中の奴らが寄ってくる。

「小室!早くワイヤーの向こうへ行け!」

木刀で倒しながら叫ぶ。

冴子の方を見ると、奮闘しているようだが明らかに劣勢だった。

孝が、麗の持っていた銃を構えて撃ち始める。

「ちっ!」

ちらりと冴子を見ると、奴らに木刀を奪われていた。

いつの間にか出てきて、孝のショットガンを使っていた沙耶も、弾切れのようである。

「このままじゃ……」

覚悟を決め、力任せに近くの奴らをなぎ倒す。

木刀が悲鳴を上げた。

「冴子さん!高城!車に乗ってください!!!」

「何を!?」

素手でやり合おうとした冴子の、前にいた奴らを木刀で倒して言う。

「素手でどうしようと言うんですか!」

「しかし……!」

「僕が食い止めますから!!」

嘘だ。食い止められるはずがない。

それは優にも分かっていた。そして冴子にも。

「無理だ!一人でどうこう出来る数じゃない!!」

「それは今あなたがいても一緒です!」

「っっ!」

「車の中なら少しは持ちますし、上からワイヤーの向こうへわたれます!」

前にいた奴らを倒して言う。

そして僅かな隙をついて、車の扉を開き沙耶と冴子を押し込んだ。

「なっ!?」

そして扉を閉める。

冴子が何かを叫び、扉を開こうとしたが沙耶に押さえ込まれていた。

それを確認し、奴らを倒しつつ孝たちの方に寄る。

「無事か!」

「あぁ!」

孝たちと奴らの間に遮るように立ち、木刀を構える。

「今のうちに!」

無駄足であることは分かっていた。

様子から見て麗は動けない。

「くそっ!」

死ぬまで戦うつもりだった。

自分一人で戦えると思ってはいないが、うまくいけば犠牲は一人で済む。

しかし―――

「木刀が!!」

あと少しと言うところで折れてしまった。

もう、ダメかと思ったその時。

「みんなその場で伏せなさい!!」

その声に、瞬時に行動できたのは奇跡だった。

何かが破裂するような音がして、頭に冷たいものがかかる。

そして、それは何度も響き渡り……

気がつけば、目の前にいた奴らは動かなくなっていた。

「高圧で水を……?」

「今のうちにこちらへ!」

消防士の格好をした人物が誘導して、孝と麗たちをワイヤーの向こうにくぐらせた。

それに続き優もくぐる。

「はぁぁぁぁぁ」

生きていた。

全員が地面に座り込んで、脱力する。

冴子が優の所に駆け寄ってくる。

「君はまたあんな無茶を!!!」

「あそこで動けるのは僕だけでした。素手で戦わせるわけにはいきませんでしたし……」

「しかし!!!」

「まぁまぁ」

コータが割ってはいる。

一歩間違えれば死んでいた。

むしろ、生きているのが奇跡であるほどだ。

あのまま救援が来ていなければ、間違いなく優は死んでいただろう。

それでも、死ぬのが優だけで納まったかもしれないのだ。

被害を少なくするために、優はその行動をとっただけである。

「くっ……すまなかった。ありがとう」

「いえ、お礼を言われることはしていませんから」

苦笑。

「しかし、君が死んで悲しむ人もいることも忘れないでほしい」

その言葉に、優は驚き顔を上げた。

心の奥まで見透かされたような気がする。

従姉が死んで、家族というものがいなくなった今、優には生きる意味を見失っていた。

知らずのうちにそれが行動に出ていたのだ。

―――もう、自分が死んだとしても誰にも影響しない―――と

「……はい」

うなだれて返事をする優に、納得したのか微笑んで頭をなでる冴子。

恥ずかしさに、優の顔は真っ赤になった。




「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」

そんな二人をよそに、孝は麗を支えたまま、消防服の人物にお礼を言う。

「当然です。娘と、娘の友達のためなのですから」

そういってヘルメットを脱いだ姿に、孝は見覚えがあった。

「ママ!!!」

沙耶がその胸に飛び込む。

誰もが母子の再会を喜んでいた。

そこで全てが終われば、めでたしめでたしだったと思う。







≪後書き≫
連日投稿。

かなり強引に話を進めておりますが、ご容赦を。
全て私の想像力の無さでございます。

早めの更新を心がけますので。
今回はこれにて失礼。



[26163] 第13話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/04/15 23:22
窓から差し込む真っ赤な光に、優は目覚めた。

あの忌まわしい血と同じ色なのに、不思議と嫌な感情は抱かない。

ただ、何かに包まれている感じがして、安らぎがあるだけである。

薄く開けていた目を、今度こそしっかりと開いた。

「あれ……?」

(どうして僕は寝てるんだ?)

そして、ここはどこなのか。

優は、無駄に広いどこぞの豪邸の一室で、やたらと大きなベッドの上に寝ていた。

「目が覚めたか」

心配が滲み出た声が聞こえた。

ふと見やると、冴子が椅子に座って本を読んでいた。

「冴子さん……」

沙耶の母親に助けられ、この屋敷までつれてこられて……そこで優の記憶は途絶えていた。

「ここに着くなり倒れたんだよ。静香先生によると、緊張状態だったのがここに着いて気がゆるんだのだろうということだ」

その言葉にため息をつく。

また情けないところを、皆に迷惑をかけたと。

「無理もないさ。まだ事が起こってから二日しかたっていないのに、世間はもうこの様だ」

読んでいた本を脇に置き、冴子は優がいるベッドへ近づいてきた。

そのまま横に置いてあった椅子に座る。

そうじゃない。

だれも、ありすでさえ、弱音を吐いたりしていないのに。

いやありすの場合は逆に危ないか。

弱音を吐き出せないというのは。

思考が違う方向へ向かっていくのに気づき、首を振る。

冴子にはそれが、自分を責めているように見えたのだろう。

「大丈夫だ。人間、時には休息も必要だよ」

「そう……ですね。所で今はどうなって?みんなはどうしてるんです?」

聞きたいことは山ほどあった。

「みんなも休息をとっているさ。それぞれな」

孝と静香は麗の治療に、沙耶は母親と久しぶりの会話を。

コータは分からないが恐らく銃の手入れでもしているのだろう。

ありすはジークと遊んでいるのではないか?

冴子の言葉に、優は呟く。

「平穏……」

「だといいのだがな」

僅かにしかめた冴子の口から漏れた。

「恐らく、今までのような平穏はもう訪れることはないだろう。これからは、生きるか死ぬか……だ」

「生きるか死ぬか……」

最初に死ぬのは、誰だろうか。

戦闘力の持たない沙耶か、静香か、ありすか……

それとも、たいした力も無いのに前へ飛び出す自分か。

ここまで考えて、もう癖だなと優は自嘲した。

それは冴子も読み取ったのだろうか。

「はぁ。君は自分を卑下しすぎだ。私たちは、君に助けられているのだよ?もちろん私たちも君を助けているとは思うけど」

冴子に頭を叩かれる。

痛めつけるそれではなく、あやすように。

優は頬に赤みが走ってるのを感じた。

「君は―――」

不意に冴子の声に真剣味が帯びる。

「―――死にたいのか?」

ヒュッと優は息を飲んだ。

それは、自分でも思っていた疑問。

自分は何がしたいのか。

決して死なないと決めたはずだ。

従姉の前にそう誓った。

しかし、その一方での行動は、無力な冴子と沙耶のために時間を稼ごうとし、動けない孝と麗の前で盾になろうとする。

自分が分からなかった。

「どう……なんでしょう」

その言葉が精一杯だった。

「絶対に死んでやるかって思うのに、身体は奴らの前に盾になろうとするんです」

分からない、という優の言葉に、冴子は微笑みをこぼした。

それが優には不思議だったようで、きょとんとした顔を冴子に向ける。

「君は、優しいな」

優しい?僕が??

優は目を白黒させた。

どうだろうか、自分はどちらかというと冷酷な人間だと思っていた。

優しさとはほど遠い人間だと。

他人を見捨てることもある。

割り切って、自分たちの命を優先することもあった。

しかし、優は気づいていない。

『自分』の命でなく『自分たち』の命を優先させていたことを。

考え込む優をおいて、自分の考えに納得した冴子は、何か飲み物をいれようと立った。

「すみません」

それに気づき、優は慌てた。

優自身なにに謝っているかも分からないが、冴子は微笑みで返す。

「気にするな。紅茶だが飲むか?」

「あ、いただきます」

静かに湯を注ぐ音だけが聞こえる。

優はベッドを降り、机の方に向かった。

紅茶が入ったカップが置かれた机を挟んで、優と冴子は向かい合う。

「あの、付いててくださってありがとうございました」

紅茶を飲みつつ、笑顔で冴子に感謝を述べる。

「ど…どういたしまして」

冴子の赤くなった頬に気づかぬまま、優は紅茶を味わう。

外の喧噪が無いかのように、そこには柔らかい風が吹いていた。













「分かったわよ!ママはいつだって正しいのよ!!」

そんな怒鳴り声が聞こえた。

誰かは言わずもがな、沙耶である。

優は冴子と顔を見合わせ、苦笑した。

そして、孝と沙耶の言い合う声が聞こえた。

「ここは本当にすごいですね」

しばらく混乱にあった優だが、冴子の説明で現在の状況を把握した。

「あぁ、高城の家は凄いところだったんだな」

「まさか本当のお嬢様だったとは」

苦笑する。

そのとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はい」

優の返事と共に、扉が開き沙耶の母―――百合子が顔を出した。

「毒島さん、ちょっと――――あら、目が覚めたの?大丈夫?」

「あ、はい!ありがとうございました」

突然の事に、優は慌てた。

真っ先にお礼を言いに行かねばならなかったのに。

「ふふっ。無事なようでよかったわ」

そう言って柔らかく微笑む百合子はとてもきれいだった。

惚けている優に冴子後ムッとする。

それに気づいたのか、百合子はくすくす笑っていた。

「そうそう、毒島さん。ちょっといいかしら?」

「あ、はい」

冴子はカップを片付けようと立ち上がった。

それを遮って優は言う。

「僕がやっておきますよ」

冴子はちょっと考えた後、

「じゃあ、頼む」

「はい。頼まれました」

笑顔で返す優に、冴子はうっすらと頬を染めつつ、百合子に付いて出て行った。

「熱でもあったのかな……?」

とりあえず、片付けよう。

その後で外の空気吸うのも悪くないな。

そう思いつつ、優は食器を持って出ていった。





後は、柔らかな紅茶の香りが残るのみだった。





≪後書き≫

なんなんだあああ!!この甘さは!
あれ?シリアスにしたつもりだよな・・・・?
そして、話が全くという程進んでいない・・・・・

新生活になれるまで、てんやわんやなので、しばらく更新が遅れるかもです。
というか、この小説需要があるのだろうか・・・・・?
感想もないし、チラ裏だからPVもわかんないし・・・・・

その他板に移ろうかな?


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