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[25996] 【ネタ】バレンタインは俺が倒した
Name: カメンダー◆9a22c859 ID:625ea6cf
Date: 2011/02/13 15:08
今日も今日とて見慣れた通学路を歩く。
変わらない日常ではあるが、いつか大人になった時に掛け替えの無い日々だったと、回想したりするのだろうか。
もっと遊んでおけばとか、もっと勉強しておけばとか、後悔するのだろうか。
まあ、今考えてもしょうがないんだが。

「……はぁ」

そんなどうでもいい思考に逃げてしまうほど、今日は寒い。
特に足元からじんわりと寒さが伝わってくる。
もう少し厚着を……ジャージでも着てくるべきだった。

一度家に帰るべきか、そう考えていると、見覚えのある後姿が見えた。
小走りで追いつき、隣に並ぶ。

「や、村田」
「……ああ、お前か」

クラスメイトであり、友人でもある村田は僕の方へ緩やかに顔を向け――僕はその顔を見てギョッとした。

「お、お前その顔なんだよ……。すげえ隈できてるぞ?」
「へ、へへ。まあ昨日は少し眠れなくてな……ふふふ」

病的な、ちょっとヤバゲな笑みを浮かべる村田。
一体どうしたんだろうか。
ただの寝不足ではこうはならないだろう。
この顔で警察官に出会ったら、まず確実に職質コースだ。
それほどまでに危うい顔だ。

「今日のことを考えるとな、胸が高鳴って眠れなかったんだよ……へへへ」
「今日? 今日ってなんかあったっけ?」

今日の日付は確か……2月14日。
特に何かしらの特別な日じゃなかったような……。
去年と同じく、何の変哲も無い日のはずだ。

僕の言葉に、村田は目をギョロつかせて、唾を飛ばしながら、言葉を発した。

「何言ってんだよ! 今日はな、今日は――バレンタインデーだろうが! ヒャハッ!」
「そ、そうか……そうだっけ。つーかお前なんか怖いよ」
「ヒャハハッ!」

村田の作画崩壊気味の顔に思わず顔を背けてしまう。
と、村田が通学用の鞄とは別に、巨大なバッグを背負っていることに気づいた。
ギターケースだろうか。
しかし、村田がギターをやっているなんて聞いたことがない。

「その鞄何が入ってるんだ?」
「これか!? これの中身が観たいってか? そんなに見たいのか? いいよ、見せてやるよ。――オープンザドア!」
「ジッパーだけどな」

村田は鞄を地面に置き、一気にジッパーを引き降ろした。

「クパア!」

謎の擬音とともに、鞄に入った亀裂を左右に広げる。
露になる鞄の中身。

それは何というか……大きかった。
何か機械的なものに、持ち手が付いている。
持ち手の反対側からは、自転車のチェーンの様な物がついた鉄板のようなものが伸びている。

これは、そう、確か……

「チェーンソウ?」
「イッエース!!」

やはり狂気的な笑みを向けてくる村田。
なるほど、村田の鞄に入っていたのはチェーンソウ。
しかし、これを一体何に使うのか?

「木でも切るのか?」
「いやいやちげえよ、違うんですよ、外れなんですよぉ!」
「今日のお前は本当にテンション高いな」

普段の6割増くらいだろうか。

「俺が切るのは木なんかじゃねえ――木なんかじゃねえ!」
「何で二回言うんだよ」
「木なんかじゃねえんだ!」
「三回も言うのか」

それほどまでに重要なんだろう。

「俺が切るのはなぁ――チョコレートを貰って浮かれてるリア充達だよ! ハハハッ!」
「な、何で?」
「ハァ? 何で? んなもんムカツクからに決まってるからだろうが! チョコレート貰って笑顔浮かべてる人間が憎いからだよ!」
「そ、そうか……」
「俺はなぁ! 全てのモテない男達の意思を背負ってるんだよ……リア充どもに虐げられてきた俺達の無念を晴らして欲しいって――声が聞こえてくんだよォ!」
「よく分からんが凄いな……」

村田から発せられるオーラのそれは、阿修羅を形作っている。
さきほどから、周りの人間が俺達を避けて通るのも、そのオーラに中てられているからだろう。

村田は鞄からチェーンソーを取り出すと、その刃に舌をテロリと這わせた。

「頼むぜぇ……俺の『グングニル』。今日はチョコを貰ってヘラヘラしているリア充どもをズブシャア!――血祭りにあげてや5るぜ」
「ズブシャアしたら死ぬぞ?」
「問題ねえ。このチェーンソウはな、とある筋から手に入れた物でな、いくらズブシャアしても死なねえ、そういう魔法具(アーティファクト)なんだぜ」
「いや、魔法具とかこの世界にないから。アニメじゃないんだし」
「通販でなァ……買ったんだよぉ! 布団圧縮機も付いてお得だったぜェ!」

チェーンソウと布団圧縮機。
なにやら意味深な関係だな……。

「ヘ、ヘヘ……見てろよリア充ども……今日お前らが口に入れんのはチョコじゃねえ――さながらチョコの如く血でコーティングされた――俺の刃だァ! ヒャハハ! ドルゥンドルゥン!」

チェーンソウを始動させるための紐を引っ張りながら、狂気の笑みを撒き散らす村田。
げに恐ろしきはバレンタインデイの魔力か。
普段の村田はこんな○チガイじみた男じゃない。
不器用だが、心優しい、誰にでも好かれる男だ。
それは僕が一番よく知っている。 

「取り合えず最優先目標は3組の新堂だなァ――なぁにがバンダナ王子だ! ○ンポになれオラー!!」

新堂君はウチの学校でも10本の指に入るイケ面であり、僕の友人達もよく彼のことを噂している。
普段からバンダナを装着しているので、バンダナ王子と呼ばれている。
高校生にもなってバンダナでキャラを立てる彼を、密に尊敬している僕だ。

「おっと仁科も忘れちゃいけねえなァ。学食王(マスター・オブ・カフェ)なんてこじゃれた二つ名で呼ばれて有頂天になってやがるからな……」

学食王こと仁科君は、その名の通り学食の王だ。
いや、何がその名の通りなのかはよく分からないけど。
ちなみに体重100キロを越す巨漢だ。
コアなファンはいるけど、村田の成敗対象になるほどモテてないような……。
もしかしてカッコイイ二つ名を持っているから僻んでいたり?

「ああそうだ! 富士越え(バベル)――横山を忘れるところだった。てめえのせいで黒板が見えねえんだよ!」

横山君は村田の前の席に座る男の子だ。
特ににこれといってモテるということはない。
最早言いがかりレベルだ。
どうでもいいが、ウチの学校には何で二つ名を持っている学生が多いんだろうか。

僕が村田の怨嗟の声を聞き流していると、何を思ったか村田は上半身の制服を脱ぎだした。

「なっ、何を……!?」
「バトルスタイルだよ! 聖戦に赴くためのなァ!」

上半身裸でチェーンソウを構えた男……僕の目の前にいるのはそんな男だ。

「鞄は頼むぜ! 俺は学校までの道でチョコ貰ってるリア充どもをズブシャアしながら行く!」

そう言うと、村田は雄たけびをあげながら走り出した。
残されたのは村田の、鞄と僕。

「……やれやれ」

ためいき。
その溜息は村田に対するものか。

それとも自分に対するものか。

「……はぁ」

僕は鞄の中にある、やはり今年も渡せなかったチョコをどうするか考えながら学校へ向かうのだった。


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