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[25995] 【ネタ】瀟洒なメイドは自重しない(東方)
Name: こたつ◆d675eb2b ID:54a50290
Date: 2011/02/17 13:45
人里にて、悪魔が住むと噂される洋館──紅魔館。
霧に包まれた湖の岬に立つその屋敷は、見る者を圧倒させる威容を誇っていた。壮麗にして品位を備えた外観に心奪われる者も多く、その屋敷を初めて目にした者は、人間、妖精、妖怪、種族に関係無く一度は必ず立ち止まり、紅く窓が少ない洋館を畏怖と憧憬の眼差しを持って見上げることだろう。

ここ紅魔館は、幼くも美しい吸血鬼の姉妹が主として君臨している場所だ。
主のカリスマに惹かれた多くの妖精達が住み込みのメイドとして働いており、この広大な屋敷の掃除、洗濯、炊事等を任されている。

今日も今日とて、屋敷内では背に羽を生やした妖精達がせわしなく飛び回って雑事をこなしている。今は昼時、主が起き出す夜までにはまだかなりの時間がある。が、広大な屋敷を満遍なく掃除するにはそれなりの時間を要するため、敬愛する主に塵一つ見られたくないメイド達には余裕が見られない。

そうして妖精メイド達が奮起する中、彼女達に発破を掛けながらも的確な指示を下す女性がいた。周りを飛び回る妖精と同じようにメイド服に身を包んだ女性は、自らも淀みない流麗な所作でモップを操作しつつ、手が空いた妖精を見つけては次の仕事を与えている。

「ふぅ……」

手にしていたモップの柄をそっと傾けると、女性は近くにいる妖精に聞こえないよう小さく息をつき、肩の位置に揃えた銀の髪を軽く撫で梳いた。
サラサラと流れるように揺れた髪は、窓から差し込む太陽の光を受けて煌びやかに輝き、すぐに元の位置に収まる。

メイド服というゆったりとした作りの衣装を身に纏いながらも、彼女の胸部はこれ以上ないというほどに自己主張していた。細身の体つきをしていながら、出るところはしっかり出ているのである。
目の醒めるような白磁を思わせる白い肌は滑らかで、身に着けているメイド服同様、そこに一切の皺や染みは見受けられない。顔立ちは端整で、つぐまれた薄桃色の唇はまるで清楚なつぼみのようだ。
また、彼女は成熟した女性の優美さを纏いながらも、どこか童女のような幼さを漂わせていた。

彼女の名は十六夜咲夜。妖魔が集うここ紅魔館において唯一人の人間であり、妖精メイド達を統括するメイド長でもある。

「はぁ……」

再度、彼女の口からため息が漏れ出でる。幸いにしてそれを聞き取った者はいなかったが、咲夜は自分の余りの不注意さに頭を抱えたくなった。
完全で瀟洒な従者であるメイド長が仕事の手を止め、あまつさえため息を漏らす。こんな醜態を見られては堪ったものではない。さらに、敬愛する主に報告でもされたらそれこそ一大事だ。

咲夜はモップを強く握り、止めていた手を再び動かし始める。しかし、その動きはどこか精彩を欠いたもので、常に見られるような優美さは鳴りを潜めていた。

それというのも、彼女は今、その身の内に抑えきれない慕情を秘めているからであった。
別に、ただの恋慕であれば咲夜は仕事に支障を来すほど心を乱したりはしない。瀟洒なメイドは伊達ではないのだ。だが、今咲夜が恋焦がれている相手に問題があった。

その相手とは──

(ああ、お嬢様……)

──紅魔館の所有者、永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットその人であったのだ。

従者と主、女と女。赦されざる恋だということは百も承知。けれど、咲夜の胸の内に秘めた恋心は日を増すごとに大きくなるばかり。
レミリアの姿を見るだけで胸は高鳴り、声を聞くだけで心が満たされ、微笑みかけられただけで顔は熱を持つ。主を想うと胸の鼓動が早鐘を打ち、仕事に身が入らなくなってしまう。
それほどに咲夜はレミリアに恋慕の情を寄せていた。

(愛しい、愛しい、お嬢様……)

咲夜の願望は恋心同様に日に日に膨らんでいった。
お嬢様に近付きたい、お嬢様に触れたい、あのお人形のように可愛らしい身体を抱きしめて頬ずりしたい、陶器のように滑らかな肌に手を這わせてその感触を思うまま味わいたい、お嬢様とキスしたい、……お嬢様を私のものにしたい。

そうした不敬とも取れる願望を抱くようになった咲夜だったが、それを実現するような行動を取ることは無かった。
当然である。そんなことをしてしまえば全てが終わる。今まで築いた信用と共に屋敷からゴミのように捨てられてしまう。それだけならまだいいが、その場で殺されてしまう可能性も大いにあるのだ。

なぜなら、当のレミリアにその気などあるはずが無いのだから。
両思いならともかく、咲夜の一方通行な恋心が報われることなどまず有り得ない。いくら咲夜が熱い視線を送っても、たとえその真意が伝わったとしても、レミリアと咲夜が結ばれることは無いのだ。

(そんなことは、分かってる。でも……)

咲夜は眉をしかめて胸中独りごちる。
報われない恋など捨ててしまえばよい。そう思ったことは何度もある。でも、どうしても諦めきれない。レミリアへの想いを捨てたくない。
故に、咲夜は苦しみ続ける。報われず、救われぬ想いを胸に秘め、有り得ぬ未来を夢想し続ける。その様は恋する少女そのもの。たった一つ違うのは、その恋が叶うか叶わないかということだけ。

「──様? 咲夜様?」
「……っ」

と、背後から掛けられた声に、物思いに耽っていた咲夜は慌てて振り返る。
いつからそこにいたのか、透明な羽を小刻みに動かしながら、小柄な妖精メイドがちょこんと首を傾げて、中々返事をしない咲夜を不思議そうに見上げていた。

「あの、本日申し付かった仕事は全て終わったのですが」
「え、もう?」

余りにも早くないか? と疑問に思うが、そこで気付く。さっきまで燦々と輝いていた太陽は沈みかけ、時刻はすでに夕方を迎えようとしていた。
どうやらレミリアのことを考えている内にかなりの時間が過ぎ去っていたようだ。見れば、咲夜が立っている場所も先ほどいた場所と違う。知らず掃除を続けながら考え事に耽っていたようである。ボーっと突っ立たず、無意識にも仕事を済ませるその技量、流石に瀟洒なメイドは伊達ではない。

「ああ、ご苦労様。ゆっくりと休んでちょうだい」
「あ、はい。お疲れ様でしたー」

ねぎらいの言葉を受けた妖精はパッと顔を輝かせると、すぐさま他の妖精メイド達の下へと飛び去る。仕事の終了を伝えにいったのだろう。

(さて……)

妖精の背中を見送りながら、咲夜はこれから自分がするべき仕事に思いを馳せる。
基本的に妖精メイド達の仕事は夕方で終了するが、メイド長たる咲夜はそうもいかない。むしろここからが本番だと言えよう。
なにせ、夜になれば紅魔館の主であるレミリアが活動を開始するのだ。レミリアの食事作りから始まり、細々とした世話もしなければならないし、彼女の我がままにも付き合わなければならない。これら全てが咲夜に課せられた仕事なのである。

ただ、客観的に見れば面倒に思えるこの仕事も、咲夜にとっては至福の時間に他ならなかった。
レミリアに自分の作った料理を食べてもらえる、レミリアと会話が出来る、レミリアの役に立つことが出来る。主の喜びは従者の喜び、と豪語して止まないメイドの鑑である咲夜は、レミリアと共にいることが出来るこの時間を何よりも大事にしていた。そこには勿論深い恋心が介在しているし、それに咲夜は気付いてもいた。

(お嬢様のお食事の準備……の前に、まずは汗を流さないと)

厨房に足を向けようとした咲夜だったが、自身が結構な汗を掻いていることに気付き、踵を返して浴室へと足を向ける。いつものレミリアが起き出して来る時間まではまだ余裕があると判断してのことだ。

コツコツと小さな足音を廊下に響かせながら、銀髪のメイド長は浴室を目指す。
紅魔館の一角には大きな西洋風呂が備え付けられた浴室があり、屋敷の住民であれば誰でも使うことが出来る。と言っても、その使用頻度は少なめだ。と言うのは、主に咲夜くらいしか風呂に入らないからである。

これは別に皆が風呂嫌いというわけではなく、わざわざ身体を清める必要が無いためだ。妖精や妖怪、吸血鬼、魔法使いといった種族はそういう性質なのか、身体から老廃物が出ることが無い。つまり、風呂に入らずとも清潔さを保っていられるということである。
よって、人間である咲夜以外の住人はほとんどと言っていいほど浴室を使用しないのであった。

(いつも貸し切りなのはいいのだけれど、たまには誰かと一緒に入ってみたいものね……たとえば、お嬢様とか)

浴室に辿り着き、脱衣所の扉に手をやった咲夜はそんな益体もないことを考える。そもそも吸血鬼である主人は流れる水に弱いので風呂に入るはずもない。まさに考えるだけ無駄である。
が、次の瞬間、脱衣所の扉を開けた咲夜の目に信じられない光景が飛び込んできた。

「あら咲夜、あなたも入るのね」
「なっ……」

白く、美しい肢体。胴体に巻きつけられた白いタオル。そして、目鼻立ちの整った端麗な容姿。不可侵の気品のようなものを漂わせた美しい少女がそこにはいた。
有り得ない、こんな所にいるはずがない。そう思いつつも、咲夜は彼女の名を呼ばずにはいられない。

「レミリアお嬢様。なぜ、ここに? それに、今はまだお休みになられている時間では……」

レミリア・スカーレット。咲夜が恋焦がれている主人。
彼女は驚きの視線を向ける咲夜を見返すと、面倒くさそうに手を振って答えた。

「気まぐれよ、気まぐれ。何となく早く起きたくなって、何となく風呂に入りたくなった。それだけ」
「いえ、しかし、吸血鬼であるお嬢様が湯浴みなど……」
「何よ、私が風呂に入っちゃいけないって言うの?」
「そ、そういうわけでは、ありませんが」

気まぐれ。確かにレミリアはその外見通り子どもっぽいところが多く、気まぐれを起こすことは多々ある。しかし、今回の気まぐれは咲夜にとって余りにも予想外過ぎた。
その予想の埒外の出来事に、咲夜は柄にもなく取り乱してしまう。常に瀟洒なメイドとして冷静沈着を心掛けてきたが、流石に今回ばかりはそうもいかない。
なぜなら、咲夜の心を掴んで放さないあのレミリアが、タオル一枚というあられもない格好で目の前に佇んでいるのだ。

「…………」

ゴクリ、と我知らずにノドを鳴らし、咲夜はレミリアの魅力的な身体を凝視する。失礼だとは頭の片隅で思いながらも、釘付けとなった視線は動かすことは出来ない。
レミリアはそんな無遠慮な視線に気付いているのかいないのか、意地の悪そうな笑みを浮かべ、入り口で固まる咲夜の下へとゆったりとした動作で近づいてゆく。

一歩。

「ふふ、嘘よ、嘘」
「え?」

二歩。

「気まぐれなんてのは嘘。本当はあなたが来るのを待ってたのよ」
「……何のために、ですか」

三歩。

「咲夜、あなたは本当に良く働いてくれているわ。それなら、主としてその労をねぎらってあげなければならないわよね。だからね……」
「……だ、だから?」

四歩。

「あなたの願いを、叶えてあげる」

五歩。

咲夜の目の前で立ち止まったレミリアは、言葉の意味を掴みかねている従者の顔を見上げると、そのふくよかな胸に顔を埋めるように勢いよく抱きついた。

「なっ、え……?」

突然の抱擁に咲夜は混乱の度合いを増す。
カリスマ溢れる主人がタオル一枚で自分を待っていたと言い、さらに願いを叶えると言って抱きついてきた。これで混乱するなと言う方が無理だ。

そう、こんなことあるはずがない。なぜなら、これではまるで咲夜の望みがレミリアに伝わっていて、彼女がそれに応えようとしているみたいではないか。
咲夜の想いは一方通行のはずで、その想いが成就するなんてことはないのだ。
なのに、なぜ、なぜレミリアはこんなにも強く咲夜を抱きしめているのか。

咲夜にはその真意が分からない。否、信じられなかった。今までの苦悩が報われるはずがないと思っていた。
だが、レミリアが次に取った行動により、そんな咲夜の思いは彼方へと消え去ってしまう。

「んっ……」

首に手が掛けられたかと思うと、その小さな手からは想像も出来ないような力で咲夜の顔が下に引っ張られる。そして、かがむ姿勢になった咲夜の首筋にレミリアは顔を近づけ、血のように紅い小さな舌をそっと這わせた。
瞬間、咲夜の身体が電流を浴びたかのように震えた。恐怖でも、驚きでもなく、歓喜による震えであった。

「お嬢様……」

声を上ずらせつつ、咲夜はすぐ近くにあるレミリアの顔に目を向ける。レミリアは汗の浮かんだ首筋に下を這わせながら、目を弓にして咲夜と視線を絡ませる。どちらもその瞳は潤んでおり、頬は紅潮して熟した果実のようである。

「本当に、よろしいのですか?」

もはや疑いようの無い事実だが、それでも咲夜は問い掛ける。答えなど分かりきっているものの、レミリアの口からそれを聞くことが重要なのだ。
レミリアはそれを理解しているようで、首から顔を離すと真正面から咲夜の瞳を見つめ直し、閉じていた口をゆっくりと開く。

「ここまでお膳立てしといて、やっぱり止めた、なんて言うわけないでしょう」
「ふふ、そうですね。でも、やっぱり不安で」
「その不安もすぐに無くなるわ。だって、私は──」

絡み合う視線、高鳴る鼓動。雑音が消え、目の前の相手しか見えなくなる。
この日、この時をもって、二人の関係は大きく変化する。そう、それは恋人同士のようで、少し違う、淡く切ない、何か。

「──あなたのことを、愛しているんだもの」
「私もです、お嬢様」

終生を共にすることを誓い合った恋仲のように二人は寄り添い、徐々に顔を近づけていく。
祝福する者など誰もいないはずだが、二人の顔は幸せそうで、その先に待ち受ける未来が明るいということは想像に難くない。

「ん……」
「ふ……」

──初めてのキスは、レモンの味がしたそうな。



◆◆◆◆



「……ふ、ふふふ」

羽ペンを手にしたメイド姿の女性は、椅子に座ってとてつもない勢いで用紙に文字を書き込んでいた。その表情は恍惚に酔っているようで、愉悦に頬を緩ませている。ただ、その笑みはどこか病的なものを思わせる。

「お嬢様が、お嬢様が私とキスを……続き、早く続きを書かなくては!」

一区切り付いたようであったが、突如女性はその綺麗に切り揃えられた銀髪を振り乱したかと思うと、声を荒げて席を立った。弾みで椅子が派手な音を立てて倒れてしまう。が、女性は頓着せずにそばの棚の引き出しを開けてゴソゴソと中を漁る。
すぐに目的の物、真っ白の用紙を取り出した彼女は、再び机に舞い戻って羽ペンを手にするとガリガリと物凄い勢いで文字を書き連ねていく。椅子を立て直す時間も惜しいのか、倒れた椅子はそのままに中腰の姿勢で作業を続けている。

(キスの後は勿論チョメチョメよね。あ、でも展開が安直過ぎるかな。ここはフランお嬢様を登場させて場を泥沼化させるのもいいかも。そしてその後は紆余曲折の物語を経て、最後は二人とも私に惚れてめでたくゴールイン。……素晴らしいわ)

──ドンドン!

(いや、やっぱりパチュリー様も登場させましょう。どうせなら三人仲良く頂きたいし。美鈴は……除外ね。あの子は別にいいわ)

──ドンドン!

『もしもーし、咲夜さーん? 私の朝食早く作ってくださいよー。もうお腹ペコペコなんですけどー』
「うるさいわね、今良いところなんだから邪魔しないでちょうだい。犬の餌でも食べてなさい」
『えー……』

(えっと、どこまで構想練ったかしら。ああ、そうだわ、三つ股がばれて修羅場になるのよね。でも私の必死の説得により最後は和解してめでたく三人とゴールイン。その後はフィーバーし放題……完璧ね)

ククク、と怪しげな笑みを浮かべたメイドは、背後から聞こえる『ご飯まだー?』という声を聴覚から消し去り、ひたすらに妄想を書き綴ったそうな。




──続く。


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