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それは突然のことだった。
何か考え事でもしているのか鏡を見つめているタクト。一向に進む気配のない彼に痺れを切らし、先へ進もうと次の角を曲がった直後のことだった。
「美鈴!」
あたしを呼ぶタクトの声。その声に足を止め、ひょっこり角から顔だけ出す。
「ん、なに?」
「敵がこのミラーハウスに侵入した。気をつけろ」
彼のその言葉に思わずさっきまでの楽しかった気分がいっきに吹き飛んでしまった。
「ど、どうするの?」
駆け足で近付いてくるタクトに、あたしは震える声で尋ねる。
「いいから走れ!」
「わ、わかった」
彼の鋭い言葉に突き動かされるようにあたしは迷路の先を目指し走り出す。
五秒とかからずタクトはあたしに追いつきぺースダウン。丁度あたしの半歩前を走るように調整する。そのまま彼はこう続けた。
「このまま一気に出口まで行くぞ。敵は二人。おそらくおれ達を挟み打ちにするつもりだろう。入口の方に一人、もう一人は出口らしきところからミラーハウスに侵入した。このまま敵二人に挟まれるのは拙い。それより先にこちらから先制攻撃を仕掛ける」
た、確かにタクトの作戦は一見理に適っていると思う。けれども同時に重大な欠陥があることに気が付いてしまった。
「でも、迷わず出口まで行けるの?」
そう、それが最大の問題。この鏡の迷路を迷わずゴールまで一直線まで進めるんだろうか? 一度でも道に迷ったら結構なロスにつながる。
「問題ない。おれの空間把握を使えば、分岐点の正解だけを進み続けることが出来る」
そ、そっか。確かにタクトの空間把握を使えば間違えるわけないか。それにいつも仏頂面なタクトが焦ってミスるところだなんてイメージ出来ないし。
そう思った矢先のことだった。ガシャン! という大きな音。そしてすぐさまもう一発。
こ、これってまさか………。
「チッ! どうやら鏡を割ってショートカットしてるようだ。急ぐぞ、美鈴!」
や、やっぱりー! 器物損害で訴えられても知らないわよ!
なんてテンパッて思考が暴走していても、そんなことお構いなしというように、入口の方から断続的にガラスの割れる音が聞こえてくる。
ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン ガシャン!
ガラスの割れる音が敵がどれだけ近付いてきているかがわかるたった一つの目安。
ふとタクトの顔を見る。彼の顔はいつもの仏頂面じゃなくて、眉をしかめたどこか苦しそうな表情。
「…大丈夫?」
「ああ、少し頭痛がするだけだ」
大丈夫ってタクトは暗に言うけれども、どうせ彼のことだ。無理してるということがあたしにはなんとなくわかってしまった。
「美鈴」
タクトは小声であたしの名前を呼ぶ。それと同時に唇の前に人差し指を一本。「静かに」というジェスチャー。
「なに?」
ペースを落とし立ち止まったタクトに小声で話しかける。
「敵が四メートルの範囲に入った。このまま作戦通り奇襲をかける。覚悟はいいか?」
あたしはこくんと頷く。こうなった以上覚悟なんてとっくに出来てる。
―――――ガラスの割れる音はまだ遠い。
タクトは腰のベルトからナイフを取り出しあたしに「待て」と小声で伝えた。その瞬間のことだった。
「水よ、汝の進むべき道を創り出せ」
凛とした女の人の声。それと同時にタクトがあたしの手を掴み引っ張った。そしてそのままあたしを何かから守るように抱きしめる。
――――甲高い轟音、そして破砕音。
タクトの胸の中でなにも見えなかったけど、その音だけでなにが起こったのかなんとなくわかってしまった。
壁の鏡がなにか大きな力で粉々に砕け散ったんだ。その音の派手さや大きさからいって、さっきまであたし達が進んでいた通路だけじゃない。幾つものガラスを貫通させたに違いない。
さっきの女の人の言葉から考えて、ガラスを割ったのは大量の水。その証拠にあたしの足元には大きな水たまりが出来てる。これがさっきの破壊を生み出した原因…。
「あまりスマートなやり方ではないのですが、ターゲットを見つけることが出来たのでよしとしましょう」
ペチャリ、ペチャリと水たまりを踏む音が聞こえてくる。
「チッ、離れていろ!」
そういってタクトは舌打ちしながらあたしを軽く突き放す。
「わかった」
あたしはタクトの邪魔にならないように通路の奥へと小走りで移動する。そこへきて初めて今このミラーハウスがどうなっているのか知ることが出来た。
あたし達がさっきまで走っていた道は既になく、そこには壁をぶち抜いたことによってできたちょっとした広さの空間があった。
*
おれはさきほど出来た道の上に立ち、この現象を作り出した担い手の女を見る。
皺一つないパリッとしたスーツを着込んだ美しい女性。すぐさま脳内のデータバンクで検索するが、該当する人物は存在しない。……誰だ?
距離にして丁度四メートル、おれの空間把握の有効範囲四メートルのギリギリにいるこの女はおれにむかってにこりと微笑む。その笑みはまるで来客に対応する受付嬢のように、事務的かつ穏やかなものだった。
「はじめましてですね、顎のタクト。私は九曜様の秘書を務めています柿崎京子と申します」
これから戦おうとしているのに酷く呑気な女だ。そう思いつつおれは油断なくナイフを構えなおす。
この柿崎という女性はマッドドックやおれのような超能力者ではない。魔術を使う担い手だ。それはさきほどの詠唱が証明している。
担い手との戦いにおいて重要になってくるのはスピードだ。ほとんどの担い手はその神秘現象をおこすために詠唱や媒介を必要とする。そのため僅かとはいえ、溜めとなる時間がいるのだ。それにたいして近代兵器はシングルアクションで事を為せる。
今現在おれがいるのは柿崎のつくりだした道の上。道の全長は約十五メートル、幅は目測で五メートル、足場は水とガラスの破片で良いとはいえないが、行動に支障はない。つまりは柿崎との距離四メートルを詰める時間は三秒とかからない。彼女の詠唱よりも先に間合いを詰め倒すことが出来る。
思わぬ敵からの自己紹介に呆気に取られ、少々の時間を取られたが彼女はまだ詠唱すらしていない。まだ遅くない、ここから一気に加速してケリをつける。そう思った矢先のことだった。
「まったく。遅いですよ、ノイズ」
柿崎の言葉に反応し、とっさに後ろを振り向く。今おれがいる地点から十メートル近く離れた道の一番端に、スカしたスーツを着込み、膝に手を置いて荒い息の二十代後半の男がいた。空間把握の精度を高めたため、ノイズと呼ばれたこの男を感知出来なかったようだ。
おれは表情、言葉に出しはしないが内心苦々しく思っていた。この状況はなんとしても避けたかったもの。途中までは作戦通りに事が運んだが、最後の最後で敵に一本取られてしまった。
ガラスの壁を幾枚も貫通させた大魔術。思えば柿崎にこんなことをするメリットはない。おとなしく待っていてもいずれおれ達と鉢合わせることくらい簡単に予測がつく。ならばなぜこんな大魔術を発動させたのか。おそらく今現れたノイズとおれ達を確実に合流させるため。一枚ずつガラスを割って進んでいたノイズの負担を軽減し、破壊の余波でおれ達の足止めにもなる。そう考えるとさっきの自己紹介にも納得がいく。わずかとはいえ時間稼ぎを狙った行動に違いない。
「ったく、喫煙者を走らせんじゃねーよ」
悪態をつきながら、苦しげに顔を上げるノイズ。その顔に見覚えがあるような…。
けれどもおれは脳内検索を行おうとしなかった。否、出来なかったのだ。
さきほどまで荒い息で蹲っていたノイズが、いきなり態勢を立て直し、こちらにむかって走りだした。それに合わせるようにおれもチッと舌打ち一つ迎え討つために走りだす。
互いの距離は十メートル。ノイズが有効範囲四メートルに入るのに五秒とかかるまい。拳銃はここに来るまでに撃ち尽くしたのだろう。奴の手にはナイフが握られており、おれと接近戦をするつもりのようだ。
懸念事項はただ一つ。柿崎という女の存在。彼女の魔術はおそらく放水系。近距離戦での支援は放水系の有効範囲の広さから出来ない。下手に魔術を使おうものなら同士討ちの可能性が高くなる。柿崎とてそれくらいわかっているだろう。おれが怖れているのはそれではない。
下手にノイズとの戦いが長引けば柿崎が美鈴を捕まえる可能性が出てくる。おれの勝利条件はノイズを倒すことではない。美鈴を安全にここから出すことだ。そのためにはこのノイズと呼ばれた男を時間をかけず一瞬で倒さなければならない。正直厳しい戦いになるだろうが、それでもやらなければならない。
おれとノイズが互いに間合いを詰める。ノイズがおれの有効範囲まで入るのに一秒もかからない、コンマの世界。ナイフを持つ右手に力が籠もる。そして奴が、有効範囲に侵入した――――。
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―――――――――ホワイトアウト
あとがき
つ、疲れた。少し難産。今回は少し難しかった