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[25829] 【ネタ・完結】銀河凡人物語~僕は門閥貴族でフレーゲル~(原作:銀河英雄伝説)
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/28 11:46
 あなたは生まれ変わりを信じますか?
 僕は信じませんでした。

 とはいってもそこは現代日本で暮らすオタク寄りの一般人。
 会社でのストレスなんかはニコ○動見たり、理想○郷のSS読んだりで解消していたもんだ。

 そんな安上がりなストレス解消法があったから酒もタバコもやらなかったし、風俗なんかも行かなかった。
 女性にもてないし、そのための努力だってしなかった。当然、彼女もいなかった。
 彼女いない暦と童貞暦はイコールで年齢だ。

 そんな人生だったからSSみたいに転生とか憑依とかできたらいいな、とか考えたことは一度や二度ではない。
 とはいっても考えるだけだった。
 もしもの時のため、内政系に必要な知識を蓄えたりもしなかったし、格闘技に手を出したりもしなかった。

 そこまで不満がある生活ではなかったし、友人は片手で数えられるぐらいしかいなかったが、話や趣味の合う連中だった。

 まあ、ここまでいえば分かるだろう。
 何の因果か、僕は一度死んで転生を果たしたのだ。


 さて、この手の転生者だと赤ん坊のときからはっきりした意識があるものだが、僕の場合そうではなかった。
 僕に才能がなかったのかは不明だが、転生したとはっきり自覚したのはこの体が10歳になったときの事だった。

 それまでの僕は年に似合わず賢い子供と言われる程度で、僕自身もかつての人生(この場合は前世だろうか?)を思い出すこともなく過ごしていた。
 SSで見た他の転生者たちが修練などに費やしている貴重な10年間を無駄に費やしてしまったわけである。

 少し言い訳をさせてもらえば、10歳になるまでここがどういう世界で何が起こるかという情報が手に入りにくかった。
 大抵のSSでは生まれた時点、もしくはその暫く後でその世界における有名人に出会ったり、その世界特有の特殊能力を目の当たりにしたり目覚めたりするものだが、そういったことすらなかったのだ。
 まあ、それで前世で一般人であった僕に気がつけといわれても無茶な話だ。

 とはいえ、まったく気がつかなかった僕も間抜けといえば間抜けであった。
 普通であれば小学校へ通っているであろうに、自宅で家庭教師とのマンツーマン、習い事は多岐にわたり礼儀作法やらなにやらもしっかり叩き込まれた。
 さらに言えば自宅は豪華で巨大なるお屋敷であった、しかも洋館である。
 使用人は山ほどおり、食事も豪華のものばかり。

 今から思えば前世と違いすぎるというのに、疑問にすら思わなかったのだ。

 まあ、これが僕の資質であったというわけだろう。
 所謂オリ主には成れそうになかった。


 さて、これ以上過去を悔やんでもどうしようもないので、これからの人生について考える。

 僕が転生を果たした世界はすぐに判明した。
 というより、自分自身が所謂原作キャラということを理解した瞬間に、前世の知識が覚醒したというのが正しいだろう。

 それほどまでに僕の原作における立場はアレだった。

「どうしよう……」

 ヨヒアムなんて名前だから気づかなかったのだ。

「どうしよう……」

 どうして門閥貴族に転生したのであろう。

「どうしよう……」

 よもや優しいオットー伯父さんが、あのブラウンシュバイク公とは思いもしなかった。

「どうしよう……」

 この僕、ヨヒアム・フォン・フレーゲル男爵はいったい、

「どうすればいいんだ?」



 割と、どうしようもなかった。



[25829] 2話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:00
 この僕、ヨヒアム・フォン・フレーゲルが実は転生者であり、なおかつ原作である銀河英雄伝説の知識をある程度持っていることが判明したのは、10歳の誕生日のときのことであった。

 物心ついてから今まで、僕は何故かブラウンシュバイク本邸で暮らしていた。
 前世知識が覚醒するまで疑問にすら思わなかったが、よく考えれば――よく考えなくてもおかしな話である。

「おお、ヨヒアム。今日は実にめでたき日だな、お前が生まれて実に10年になる」

 原作のブラウンシュバイク公を思えば妙な話だが、僕の誕生日は何故か彼の家族だけで行われる。
 公自身や、夫人なんかの誕生日は派閥の貴族がわんさか集まってのパーティになるのに不思議である。
 その辺りは覚醒前から少し疑問に思っていたものだ。

 さて、僕とこの伯父上の関係であるが、実に良好である。
 理由は単純で、僕がこの年齢の貴族にしては賢かったからだ。
 まあ、原作でもよくわからんレベルで仲がよかったが。

「これならば、将来フレーゲルの……ヨヒアム? どうした――! ――!」

 と、ここで僕の前世知識が覚醒したわけだ。
 僕自身は一瞬の出来事のように感じたわけだが、実際には30分ほど意識を失っていたようである。

 気がついたら自室のベッドに横たわっていた。
 お抱えの医師に加え、心配そうに僕のことを見る伯父夫婦。
 原作から考えれば誰てめぇ状態である。

 まあ、疲れがたまっていた――みたいなことになって伯父上たちが部屋から出て行く。
 その際に、無理はするなよとか言われた。
 正直、夢だと思いたい。



「よし、金髪を殺そう!」

 自室のベッドで気がついてからおよそ3時間。
 原作知識を頼みに、僕はフレーゲル男爵がどうやれば生き残れるか結構必死にシミュレートする。

 よりにもよって原作で死亡するキャラに転生してしまったのである。
 寿命で死ぬならまだしも、錯乱して部下に撃ち殺されるとか、マジ勘弁である。

 尊敬する先人、ヘイ○ンさんのようにラインハルトに付くことも検討したが、立場的に不可能であると断念した。
 運良くラインハルトと友誼を結んでも、今度は逆に伯父上に殺されかねん。

 資産を持ってフェザーンに逃亡する案も、おそらく黒狐にいいように利用されるか、禍になるからと門前払いの可能性が高い。

 同盟まで逃げても、結局先延ばしにしかならなそうだ。

 つまり、この僕、フレーゲル男爵が現状を維持した上で生き残るためには、ラインハルトをどうにか殺さなければならないわけだ。

「幸い、リップシュタット戦役まではかなり記憶が残っている。その後の知識は金髪が死んだら無意味だしな」

 さて、フレーゲル男爵であるが、原作においてはラインハルトに敵愾心を抱き、幾度となく殺そうとしては失敗している。

「たしか、第五次イゼルローン攻略の最中とかなんかのパーティの帰りとかだったか……いや、そのへんはベーなんとか夫人だったか?」

 ぱっと思い出したのがそのふたつ。
 記憶が確かであれば、ラインハルトはかなり九死に一生だったはずだ。

 困ったことに、原作でフレーゲル男爵がラインハルトを殺そうとした事件が思い出せない。

 そして記憶が確かな方も、第五次イゼルローン攻略の時期が分からない上に、原作でラインハルトよりも階級が下であったフレーゲル男爵がその時期に何かできるとは思えなかった。

「となるとあの襲撃事件か……時期は、カ、カ、カリオストロだっけ?」

 カストロプであった。

 原作でキルヒアイスが活躍した後の事件だったはずである。

「あの襲撃に便乗すれば多分やれるな……よし、決まり!」

 死亡キャラに転生したと分かったときにはどうなるかと思ったが、ラインハルトさえいなければどうにでもなることに気がついた。
 アスターテはラインハルトがいないとやばそうだが、殺すのはその後だ。
 アムリッツァは焦土作戦をやれば、ラインハルトじゃなくても大丈夫だろうし。
 その後は、イゼルローンを落とせないんだから膠着状態になる。

「つまり、僕が老衰するまで現状維持になるに違いない! あー、疲れた。寝よ」

 つい数時間前に発生した悩みが解消した僕は、10歳児らしくクタクタになった脳の求めるままに睡眠に入る。

 まあ、所詮10歳児の浅知恵だったわけになるのだが。
 僕はそれに気づくことなく10年以上の時を過ごす。



 話は一気に飛ぶのだが、前世知識が覚醒したからといって出来ることが増えたわけではない。
 故に大したことは出来なかったし、大したことも起こらなかった。

 あれから2年後に他の貴族と同じように幼年士官学校に入ったが、伯父上の威光で相当楽をしたと思う。
 卒業後は伯父上の私兵の所属である。
 伯父上のお零れに預かろうとする取り巻きとともに帝都で門閥貴族らしく暮らし、ミュッケンベルガーのおっさんに引き抜かれるまではイゼルローンまで行ったこともなかったほどだ。

 さて、ラインハルトであるが、10歳のときに殺すと決めた上に元々嫌いなキャラではなかったため、僕は彼に構わなかった。
 そのため原作でのフレーゲル男爵のかわりをコルプト子爵の弟が務めたようである。
 子爵の弟とその取り巻きがラインハルトにかまうのに出くわすたびに、僕の取り巻き立ちが便乗しようとするのが多少鬱陶しかったが、

「まったく、寵姫の弟にかまう暇があったら、庶民からいかに搾り取るか考えるのが貴族でしょうに」

 そういうようなことを言うと、僕の取り巻きたちは一斉に僕を支持した。
 本心では便乗したかったのであろうが、僕がしないのでそれに従う。
 伯父上のお気に入りである僕に従うことで、将来の利権を見据えている筋金入りの門閥貴族の子弟たちだ、恐ろしくこういった空気を読むのが聡い。

 そのくせラインハルトの実力は一切認めないからな、見たいものしか見ないんだろうけど。
 そういう僕も今では立派な門閥貴族の一員である。
 ここで言い訳をさせてもらえれば、10歳までに貴族としての下地が出来すぎたとしか言いようがない。

 正直、尊敬するヘ○インさんがあそこまで庶民体質を維持できたのが信じられないくらい、門閥貴族は居心地がよい!

 ラインハルトを殺す理由が、生き残るためからこの生活を維持するために変わったぐらいだ。



 そんなこんなのうちに、ラインハルトは戦果を上げ昇進を重ね、僕も戦場に出ぬまま階級だけが上がっていった。



 帝国暦486年3月、ブラウンシュヴァイク公爵の私邸において門閥貴族の親睦パーティーが行われた。



[25829] 3話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:01
 今夜は伯父上の私邸でパーティー。
 僕は椅子にある黒いカバンを確認した直後に会場を抜け出した。

「どうした? そんなに慌てて」

 慌てた素振を見せたつもりはなかったのだが、僕の行動に気づいてついてきたのは、かのアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトさんである。
 尊敬する○ヘインさんをリスペクトした僕は、この人とお近づきになることに一応成功していた。

 貧乏とはいえ貴族であるから伯父上も特に言われることもなく、貧乏だから奢るといえば結構な割合で付き合ってくれる。
 が、多分金づるとしか見られていないと思う。
 取り巻きなんかといるときに遭遇すると、かなり冷ややかな目で見られるし。

 それでもこの人にはごまをする。
 ラインハルトの暗殺に失敗した場合、頼りになるのはこの人とメルカッツさんだけなのだ。

「いえ、ちょっと風に当たりたくなっただけ」

 と言ったところで、屋敷が爆発した。

「何事か!」

 ファーレンハイトさんは腕を上げ爆風を顔から遮るが、僕は無様にも腰を抜かしてすっころんでいた。
 実に間一髪である。

 その後、伯父上たちは無事救出され、クロプシュトック侯が犯人であるということが判明した。
 事件は覚えていたが、誰がやったかは忘れていたので、結構ぎりぎりだったかもしれない。
 ラインハルトが巻き込まれていたと知ったのは後日、うまく誘導すれば殺せたかも~と考えたが、たぶん巻き込まれて僕だけ死んでいた気がした。
 多分、これが正解だろう。

 さて、犯人は判ったものの、肝心のウィルヘルム・フォン・クロプシュトック侯爵は領地に逃走してしまい討伐軍が編成される事となった。



 僕は今艦橋にいる。

 何故こんなことになったかといえば、先の爆破テロ事件にて腰を抜かしてまごついている所を、避難してきた多くの衆目の目に晒してしまったことにある。
 そんな醜態を晒してしまった僕に、伯父上はコケにされたこともあって激怒。
 アンスバッハさんのとりなしもむなしく、僕は討伐軍の先陣に任命されてしまったのだ。
 ちなみにファーレンハイトさんは頼んでもついてきてくれなかった。

 初陣が内乱とか、それってどうなのとか思うが、部下の不安はうなぎ上りだろう。
 対する僕はそれほど不安でもなかったりする。
 いくらか冷静になった伯父上が戦闘技術顧問を派遣してくれたのである。

 いわずと知れた後の双璧である。

「少将はこれが初陣でしたな?」

 ロイエンタールさんが相方に、おい馬鹿とかつっこまれながらふてぶてしく聞いてくる。

「そうだね」

 僕としてはもう少しフレンドリーにしてくれてもと思うも、素直に答える。
 が、彼は少々面食らったようで、ほぅとか呟いている。

「では、いかがしますか?」

 続いて、まったくこいつはみたいな顔したミッターマイヤーさんが聞いてきた。
 同格の少将で二人のほうが先任で経験もあるのに敬語を使ってくれる。
 ほんと、これだから門閥貴族はやめられない。

「全部、任せる。編成も作戦も運用も」

 僕がそういうと、流石に二人ともギョッとする。
 ふふふ、かの双璧を驚かせた数少ない門閥貴族になるに違いない、とか僕がしょーもないことを妄想していると、

「よろしいのですか?」

 と、ロイエンタールさんがその金銀妖瞳に怪しい色を湛えて僕を見る。

「うん。その代わり、勝っても戦果は僕のものになる」

 僕にそのケはありませんよーとの意思を込め、彼にそう言うと、

「では、負けた場合は我等の責任ですかな?」

 相方さんのつっこみが入った。

「……お二人が指揮して負けるとは思えませんが、その場合は僕が責任を負いますよ?」

 正直、お前らは何を言っているんだ的な想いを感じながら僕が答えると、二人が唖然とした顔でこちらを見た。
 やば、この二人に驚かれるとかマジええ感じすぎる。
 そんな、ええ感じにニヤニヤしていたら、いつの間にかにクロプシュトック領に着いてしまったようだ。

 当然、二人は僕がニヤニヤしているうちに仕事を済ましていた、流石だ。
 いや、当たり前か。

 戦力比は敵5000に対し、僕ら先陣は2000。
 伯父上の本体が8000を率いて進軍中とはいえ、原作であれだけグダグダだったのだ、先陣は散々な目にあったのだろう。

 しかし、この先陣を実質率いるのはかの双璧である。
 どっちが言ったか忘れたが、3時間でけりをつけると言っていたのだ、是非実行してもらいたい。

 ふと気がつくとミッターマイヤーさんがいない。
 ロイエンタールさんに相方さんの行方を聞くと、どうやら分艦隊を指揮するようだ。
 まあ、どうでもいいが手早く済ましてくれるに越したことはない。

「よろしいですか?」

 どうやら戦闘準備が整ったようだ、ロイエンタールさんが僕に促す。
 演説だ。
 これが僕は苦手である。
 どうもそれっぽい文章が思い浮かばないのだ。
 とはいえ、これが仕事である。
 全艦艇に回線を開かせ、

「これより、皇帝陛下と帝国に仇なす反逆者を討つ。いかに逆賊どもが群れを成そうと我軍の正義がそれを打ち破るであろう! 勝利すべき策はすでになっている。各指揮官の指示に従えば、勝利など容易い!」

 それっぽい檄を飛ばした。
 ロイエンタールさんが普通にうなずいたので、まあ滑らなかったようである。

 交戦域に入る直前、彼がこちらを見た。
 僕は彼の意思を多分正確に読み取ったと思うので、うなずく。

「ファイエル!」

 直後に号令。
 正しく読み取ったようだ。



 戦闘は僕の予想より1時間早く、2時間でけりがついた。



[25829] 4話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:53
 双璧の活躍により、原作では1週間かかった戦闘が2時間で終了し、僕率いる討伐軍先陣は惑星を封鎖し本隊の到着を待っていた。

 略奪はしないの? と貴族士官に言われたが、しないよと答える。
 言ったほうは不満顔だが、双璧さんはちょっと感心した顔をしている。
 ふふふ、そんな顔で見られると調子乗っちゃうよ?

「諸君、我々は倍以上の敵を相手に完勝といっていいほどの戦果を得た。しかし、明日到着する本隊はどうだ? これで我らがクロプシュトックまで占拠してしまえば、彼らの不満は留まることをしないだろう」

 僕はドヤ顔でそう言った。
 ふふふ……あれ? なんかミッターマイヤーさん怒ってる?

「では、地上が降伏し、投降を求めても本隊が無視する場合はいかがするのか!」

 あれ? えーと、えーと……

「伯父上しだいですな」

 いい案が浮かばなかったので、伯父上に丸投げ。
 すると、予想通りミッターマイヤーさんが失望の眼差しを浮かべる。

 いやー無理っすよ、無理無理。
 僕は所詮、少将ですよー?

 ロイエンタールさんが相方の肩をたたいて頭を振った。
 そんな大げさなリアクションとらなくてもいいじゃないですかー。
 泣いちゃいますよ、僕。

 そんな僕を尻目に、双璧は艦橋から去っていった。

 このときほど、僕は真面目に昇進しておけばよかったと思ったことはなかった。




「ロイエンタール、俺は悔しい! あのような男を一瞬でも認めてしまったことが!」

「そこまで憤慨することか? あの男の立場で我等の裁量を認め、あの場で我等に激昂しないだけでも大したものだろう。まあ、下衆には変わらんが」




 翌日、伯父上率いる本隊8000が到着した。

 倍以上の敵を撃破した僕を、伯父上は表向き褒めてくれたけど、内心は面白くなさそうだ。
 そんなもんだよな~僕でも逆の立場ならちょっとムカつくしね。
 でも、地上を占拠していないことを伝えると、あっさり機嫌を直してくれた。

 さて、本隊が来る前に思い出したんだけど、ここたしか、ミッターマイヤーさんがやらかすとこだった。
 いや、やらかすのは昔ラインハルトに絡んでたコルプト子爵の弟だけど。

 一応、親戚だしね。
 死なれると目覚め悪いし。

 幸いにして双璧二人は部屋に引っ込んで出てきてないので、このまま先陣2000は封鎖を続けると伯父上に伝える。
 すると、部下が不満を漏らす。
 まあ、我慢してほしい。
 変わりに全員昇進約束させたから。

 そんなわけで、僕に実があったんだかなかったんだか、いまいち判断がつかないクロプシュトック事件は終結した。
 世紀末化した本隊が、地上を地獄絵図に変えたらしいが、僕は怖いので見ていない。

 帝都に帰還したら中将に昇進した。
 双璧は昇進しなかったが、部下たちの大半は昇進した。




 あくる日、ファーレンハイトさんが尋ねてきた。
 中将昇進のお祝いらしい。

「まあ、金はお前持ちだが」

 うん、分かってた。
 分かってたから。
 泣いてないよ。

 その席で伯父上の元帥府の参謀長になっていた僕は、ファーレンハイトさんをスカウトした。
 彼はしばし迷っていたようだが、

「まあ、卿に奢って貰いやすくなるわけだ。よかろう」

 そう快諾してくれた。
 一応僕、階級上だよ? よかろうって……

 その後、双璧さんとかもスカウトに行ったけど普通に断られた。

 シュトライトさんとか、フェルナーさんとかいるからいいもん!




 そんなこんなで昇進前と変わったような変わらないような日々、5月も半ばを過ぎたころだった。




 ジークフリート・キルヒアイスが死んで、翌日ベーネミュンデ侯爵夫人が死んだ。



[25829] 5話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:05
 キルヒアイスが死んだ。

 訳が分からない。

 なんでベーネミュンデ侯爵夫人が、ここでしゃしゃり出てくるの?

 僕は混乱の極致にいる。



 まあ、僕がどんな状況であろうと時間は進む。
 僕も混乱しているが、今帝国で誰が一番苦悩しているかなんて言わずもがな。

 一月もたったころには、僕にとってキルヒアイスの死は半ばどうでもよいことととなっていた。

 問題はラインハルトを殺す一番のポイントと考えていた、ベーネミュンデ侯爵夫人の襲撃事件が終わってしまったことにある。
 もはや前世知識は意味のないものと成りつつある。
 この愚を繰り返さぬためにも、原因を探らねばと決意した僕は部下のフェルナー君に襲撃事件現場の状況を調べさせた。

 原因は結構単純なことだった。
 所謂ミッターマイヤー暗殺事件が発生しなかったことにより、双璧がまだラインハルトに忠誠を誓っていなかったのだ。

 よって、襲撃を二人が支えきれず、グリューネワルト伯爵夫人を庇ってキルヒアイスが死んだ。
 ということであった。

 最早、ラインハルトの暗殺は不可能だろう。

 僕にはリップシュタット戦役で勝利するしか生き残る道がないというわけだ。



 さて、伯父上の元帥府であるが、伯父上自身はほとんど元帥府に顔を出さない。
 よって縁故で参謀長に命じられた僕が運営しなくてはならないわけである。

 この状況下で僕自身にある程度の人事が可能であることに一筋の希望を見出す。
 最悪の場合が現実となった今、優秀な将官を集める以外に道はない。
 が、先日、双璧に断られたのを皮切りに、原作における一級線の指揮官で元帥府入りを承諾してくれたのはファーレンハイトさんだけ!

 ミュラーさんにまで断られるとか、ドンだけ人望ないんだ僕は……

 シューマッハさんとか、シュトライトさんとか、フェルナーさんとかに丸投げしたり手伝ってもらったりしながら元帥府の運営に四苦八苦していると、ラインハルトは艦隊を率いてオーディンを離れた。
 時期的に第4次ティアマト会戦かな?
 何とか死なないかなぁ。

 本格的に尻に火がついてきた僕は、フェルナーさんに頼んでスカウトに失敗した人たちの動向を調べてもらった。
 断られた理由が分かれば、その辺を直せば元帥府入りしてくれるかもしれない。

 そう思っていたときが僕にもありました。

 断られた理由は簡単だった。

 大半は伯父上の元帥府なのに本人が来ないで、使い走りの甥が来るのが気に入らないというもの。
 僕にはどうしようもない理由である。

 あとフェルナーさんが言うには、これは跡付けの理由であるらしい。
 本音は門閥貴族が嫌いだから入りたくないようだ。

 流石、有能だけど問題児な連中である。

 何の進展もないまま、僕は第4次ティアマト会戦の結果を聞くこととなった。

 普通に勝ったらしい。
 あれ? おかしくない?
 確か、原作だとラインハルト無双じゃなかったっけ?

「ふむ、噂のミューゼル大将も振るわなかったようだな」

「まあ、ミュッケンベルガー元帥に嫌われておりますからな。今回も囮にされたようです」

 ファーレンハイトさんとシューマッハさんが帰還した艦隊のリスト見て、こんなこと言ってるよ?
 いや確かに死んでほしいけど、こう前世知識と隔離していくと不安しか起きないよ。

 正直、前世知識が役に立ったのってテロ回避のときだけじゃ……

 もしかして、今回のこれはキスヒアイスが死んだからか?
 そうなると僕が双璧にやらかしたことをしなかったことが遠因かー!

 僕にもようやく理解できた。
 所謂改変系SSにおける最大の敵、バタフライ効果!

 そして、どうしようもないことも理解できた。
 大概の最強系オリ主でさえどうにもならない敵である、僕程度がどうこうして防げるもんじゃない……

 どうにもならない事実が判明したため、僕は元帥府の運営に一層打ち込むことで忘れることにした。



 そうこうしているうちに、遠征艦隊が帰ってきた。
 4割未帰還と半端無い被害に加え、ラインハルト艦隊も3割の損害を出すなど、僕の行く先を示すかのような燦々たる有様だ。

 ラインハルトは昇進しなかった。
 故にローエングラム伯爵家の継承も起こらなかった。

 そしてラインハルトと双璧が絡むことなく年が開け、帝国暦487年。



 原作開始の年である。



[25829] 6話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:54
 帝国暦487年、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将は20000の艦隊を率い、同盟領へと侵攻した。



「星を見ているのか?」

 いえ、今までの人生を考えています。
 ファーレンハイトさんの言葉に、僕は頭を振った。

「どうしてこうなった……」

 僕は今、アスターテ星域にいます。




 昨年で急速に原作と隔離した歴史により、この先の出来事が一切読めなくなった僕は、来るべきリップシュタット戦役に備え、ファーレンハイトさんと一緒に艦隊の整備に勤しんでいた。
 ファーレンハイトさんの艦隊5000に、伯父上の私兵が30000。
 これがブラウンシュバイク元帥府の戦力である。

 が、現状、まともに戦力になるのはファーレンハイトさんの艦隊のみである。
 伯父上の私兵は贔屓目にも見るべきところがない、烏合の衆そのものだ。

 これを来るべき日までに、何とか運用できるレベルに持っていくのが目標だ。



 年明けと共に、帝国軍上層部と伯父上らが忙しく動き始め、ラインハルトの出兵が決定していた。
 この機にラインハルトを亡き者にせんとの動きである。

 関係ないね、と僕は艦隊整備に力を入れていたのだが、シューマッハさんの一報を聞いて飛び上がらんほどに驚いた。




叛乱軍討伐艦隊:20000

ラインハルト艦隊:10000

・参謀長:メックリンガー准将

・幕僚:ロイエンタール少将
    ミッターマイヤー少将

メルカッツ分艦隊:5000

フレーゲル分艦隊:5000



「どういうことなの?」

 僕は伯父上の元帥府の参謀長ではなっかったですか?
 それが艦隊を率いるとかどうなってんの?
 というかコレ、ラインハルトを亡き者にとか言ってる割りに、かなりガチな編成じゃありません? 僕を除いてだけど。

「どうやら、ブラウンシュバイク公は本気でミューゼル大将を殺しにかかったようだな」

 えー? ファーレンハイトさん。どういうこと?

 どうやらこういうことらしい。
 ミュッケンベルガーのおっさんは、前回の戦いでラインハルトに翳りが見えたと捉え、戦力の減ったラインハルト艦隊に融通の利かないメルカッツさんを加え、失点の追加を目論んだようだ。
 対する伯父上は、それを手緩いと断定。追加で僕に私兵を率いさせ、ラインハルトを戦死に追い込みたい考えみたいだ。

 いやいやいや……意味が分からない。
 伯父上の中で、僕はどんだけ使える提督になっていますか?
 僕死んじゃいますよー?

 まあ、伯父上に限らず僕ら門閥貴族は同盟なんて見てないもんね。

「さて、どうする? 正直、卿の力ではどうにもならんと思うが」

「お願い、付いてきて!」

 ファーレンハイトさんの意地悪な問いかけに、僕は即答する。
 ブライドとかよりも命が大事だ。

「……まあ、よかろう。が、タダという訳にはいかんな」

「帰還後、一ヶ月おごりで!」

「ふむ、決まりだな」

 そんな僕とファーレンハイトさんのやり取りを、シューマッハさんが見ていた。




(安いなー)




 さて、侵攻した僕ら20000の艦隊を待ち構えていたのは、40000の叛乱軍。

 こんなところだけ、呆れるぐらいに原作どおりである。

「旗艦より召集がかかったぞ」

 ファーレンハイトさんが言う。
 同盟が倍の戦力を繰り出してきたため、艦橋には悲観的な空気が漂っている。
 無理を言って、分艦隊の中核1000はファーレンハイトさんの艦隊から出してもらったのだが、それでもこの空気である。

「普通なら撤退だね」

「その知らせかもしれんぞ?」

 前世知識からないと知っている僕が言うと、ラインハルトの立場的にありえんと言わんばかりにファーレンハイトさんが笑った。




 メルカッツさんの発言より始まった議論の場、というよりラインハルトの独演会は30分ほどで終わりを告げる。

 ここ最近、ラインハルトを直に見てなかったけど、こんなヤバいオーラみたいのでてたか?
 僕みたいな凡人、ちょいと呼吸に難が出るほど気圧されるんですが。

 ……ひょっとして、覚醒してる?



 作戦は3方から迫る叛乱軍を、各個撃破することに決定した。



[25829] 7話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:58
 作戦に何か感じたのか、ファーレンハイトさんが勝手に先鋒を申し出てしまった。

 なんだこれ? 歴史の修正力とかいうやつか?



「ほう、あの艦隊を実質的に率いているのはファーレンハイト少将か……」

「ああ、あの男は部下をうまく扱う程度の才覚は持っている」

「……」



 僕がラインハルトの威風に気圧されている間に、フレーゲル分艦隊は先鋒に決まってしまった。

 分艦隊旗艦ダルムシュタットに戻るなり、ファーレンハイトさんは張り切って部下に指示を出している。
 基本的に戦場で僕に出来ることはない。
 邪魔をしないのが一番だ。

 なんだか原作通り展開が進むと、逆に不安になってくるな。
 帝国艦隊は覚醒ラインハルトの作戦通り、正面から接近していた叛乱軍に先制攻撃を仕掛けることに成功した。




「ファイエル!」

 ファーレンハイトさんの号令と共に、先鋒5000の一斉攻撃がおよそ12000の敵軍に降り注いだ。
 僕は例によって提督席でそれを眺めているだけだ。

「……ホント、半年前とは雲泥の差だ」

 この半年間ファーレンハイトさんと共に行った、伯父上の私兵の訓練を思い出し、僕は感慨に耽る。
 本当、訓練開始当初はどうしようもなかったものだ。

 勝手な判断で攻撃するわ、移動するわで、命令は無視するもの! とでも考えている様な連中ばかり。
 それをファーレンハイトさんの指示の元、僕が伯父上の威光をちらつかせながらバシバシ指導していく。

 かなりの数の貴族士官に恨まれた自覚はある。
 が、結局彼らも、僕と同じで伯父上の権勢にぶら下がっている子爵以下のボンボンたちだ。
 伯父上のお気に入りである僕に逆らうような気迫のあるやつはいなかった。

 そして、ファーレンハイトさんが兵士たちの支持を集めたことは言うまでもない。
 うん、そうなるよね。



 さて、僕が回想に耽っているうちに、叛乱軍の組織的抵抗は見られなくなっていた。
 ファーレンハイトさんの指示で旗艦に通信を繋ぐと、ちょうどメルカッツさんが掃討戦の具申をしているところであった。

 覚醒ラインハルトは原作と同じくそれを却下し、即座に次の艦隊へと進軍を開始するよう命令を出した。
 次の先鋒はメルカッツさん。双璧は最後の締めを務めるのかな? たしか原作ではここで無双していた気がしたけど。

 その命令を聞いていたファーレンハイトさんは実に楽しそうだった。

 なんで?




 そんなこんなで4時間後、時計回りに迂回した帝国艦隊は叛乱軍の後背を取ることに成功していた。

 老練なメルカッツさんの分艦隊の一糸乱れぬ行動!
 凄いと、見とれるしかない。
 伯父上の私兵30000全てがあの行動を取れれば、リップシュタットでも多少安心できるのに……

「あ……」

「これは、なんと……」

 そういや反転迎撃はここか。

 叛乱軍の全艦艇が回頭する。
 結果、無防備な艦艇側面がさらけ出される。

 それを見逃す帝国軍指揮官はこの場にいなかった。

 戦闘に要した時間は、先の艦隊撃破にかかった時間のおよそ半分。
 こちらの被害は言うまでもなかった。



 帝国艦隊には戦勝ムードすら漂っていた。

 残る叛乱軍の艦隊は戦闘前の三分の一。
 純粋な数で見ても、負ける要素はまず無いだろう。

 しかし僕はそんな気分にはなれなかった。



 ヤン・ウェンリーである。



 この僕、フレーゲル男爵がヤンというチートと関わることなど、原作を考えればあろうはずも無いため、今の今まで存在を忘れていた。

「……何も考え付かない」

 とはいえ、ヤンの存在を思い出したとはいえ、僕がそれに対して何が出来るのか考えもつかない。
 尊敬するヘイン○さんですら倒せなかったチート・オブ・チートである。
 いったい僕に何が出来るというのか。

 そんな僕の苦悩をあざ笑うかのように、帝国艦隊は叛乱軍と正面から対峙している。

 うん。何をしても、もう遅いよね。



[25829] 8話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/08 08:24
 僕がヤンの名に慄いているうちに、所謂アスターテ会戦最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 まあでも、ヤンが指揮を執るまでこっちの優勢は確実だもんね。
 その上、僕がいようがいまいがこの分艦隊の戦闘力に変わりは無いしね。

 今回の先鋒は双璧が務める模様。
 中央にラインハルト本隊、左右に両分艦隊が配置されている。

「すでに相手は逃げ腰だ。対する此方の士気は比べるに値せん。下手に小細工するより、正面からぶつかるほうが相手の行動を縛れるからな」

 原作のときから感じていた疑問が顔に浮かんだのか、ファーレンハイトさんが今回の戦闘状況を解説してくれる。
 疑問は、わざわざ正面から戦いに臨んだラインハルトの行動である。

 なるほど。
 この後、とどめに中央突破を狙うわけだが、それにしくじった感がするせいでミスに思えたのか。

「流石だな。相手が不甲斐ない、という面があるのを差し引いてもあの二人の艦隊機動に卒が無い」

 真っ先に飛び出たミッターマイヤー艦隊に、追随するロイエンタール艦隊がまごつく敵艦を瞬く間に火球へと変えていく。
 というか、速すぎる。
 なんだこの練度?
 強襲したミッターマイヤーが引くと同時に、叛乱軍の一部が釣られ、それをロイエンタールが掃討する。
 各々2000の艦艇の動きに見えない。

「うわ、3回の強襲で敵の前衛がボロボロだ」

「うむ、敵は二人の連動についていけない。さて、止めといくか」

 僕が呆気にとられ、ファーレンハイトさんがそう言うと同時に、旗艦ブリュヒンヒルドからの通信回線が繋がった。

『全艦、一斉射撃。ファイエル!』

 覚醒ラインハルトが簡潔な指示の後、号令を下す。

 双璧が崩した陣形に、いまだ15000を超える帝国艦艇から一斉に放たれた攻撃が叛乱軍に襲い掛かる。
 そしてそれにまったく対応できていない叛乱軍。

 今の一撃で2000近く吹っ飛んだんじゃないか? これ。

 普通ならここで勝負ありなのにな~。

「ふむ、やったか? これは」

 あ、その台詞は……



『敵の混乱に乗じ、半包囲に移行する』



 え?

 どういうこと?



「フレーゲル分艦隊、左翼のメルカッツ分艦隊にあわせて前進!」

 僕が頭に疑問視を浮かべまくっている最中にも、状況は進行している。
 こういう時、ファーレンハイトさんは僕を無視して指揮とか執ってくれるので非常に助かる。

 いや、そうじゃない。

 あれ?

 どうなってるの?

 ヤンが全回線で、私の指揮なら負けはしない(キリッ! とかやる場面じゃなかった?
 ラインハルトが中央突破を逆手に取られるんじゃないのか?

 混乱している僕を尻目に、帝国軍はあれよあれよと叛乱軍を押し込んでゆく。

「ん? まともに機能してない? 叛乱軍グダグダ?」

 ふと、叛乱軍の動きが初めの敵艦隊、その最後のほうの動きと重なって見える。

「おそらく旗艦が沈んだな。その後は分艦隊旗艦と思わしき艦をあの二人が集中的に叩いている。後は見ての通りだ」

 僕の呟きが聞こえたのか、ファーレンハイトさんが簡潔に解説してくれた。

 え?
 旗艦が沈んだ?

 え?
 え?
 ヤン死んだ?

 え?
 マジで死んだのか?




 叛乱軍の反撃は、すでに散発的になっていた。

 やけくそになったのか、此方に突っ込んでくる艦艇。
 盲目的にその場で反撃している艦艇。
 反転回頭して逃げようとしている艦艇。

 そんなあらゆる叛乱軍の艦艇に、分け隔てなくこちらの攻撃は降り注いだ。



 3時間後、残敵掃討は終了した。



 終わってみれば、此方の被害は1000未満、戦死者も正確にはまだわからないが10万に届くことはなさそうとか。
 完全勝利にも程があるでしょう……

 対する同盟は三個艦隊壊滅とか、涙目すぎるというのに。

 というかヤンがデビュー前に死亡とか、イミフすぎる。



[25829] 9話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/09 08:07
 オーディンに帰還した僕は覚醒ラインハルトのお零れに預かり、大将に昇進した。

 本人は二階級特進で元帥となり、ローエングラム伯爵家を継承することとなる。
 これについては、原作通り伯父上たちが大いに憤慨し、なにやら画策しているとアンスバッハさんから聞かされた。
 正直、そんなこと言われても困る。
 まだ、僕には関係ないし。
 どちらかというと、問題はあっちの元帥府に例の名将たちが揃うほうが気になるよ。



 あと双璧やファーレンハイトさんも中将に、メルカッツさんなんかも昇進してので、会戦に参加した人間は大体昇進したようだ。

 さて、気になるのはヤンが本当に死んだのかどうかだ。
 帝都に戻る直前に思い出したのが、もう原作崩壊気味だということ。
 つまり、キルヒアイスが死んだ時みたいに、そもそもヤンがアスターテ会戦に参加していたのか、僕には分からないということだ。



 というわけで、僕は元帥府に戻るなりフェルナーさんに叛乱軍の参戦艦隊を調べてもらうことにした。
 妙な仕事を頼まれたと、なに考えてんだ、コイツ? ってな表情を隠さずにフェルナーさんは僕の頼みを聞いてくれた。

 薄々気づいていたけど、僕ここでさっぱり敬意向けられてないね。
 大将なのに。
 いいけどね、別に。
 貫禄無いのは前からだし、顔はフレーゲルだし。

 身長がそれなりにあるのが救いだよ。



 そんなこんなで数日後。

「うーん、死んでるっぽいな~」

 原作通り2、4、6の艦隊が参加している。
 ただ、まだヤンは帝国では無名の将官だ。
 戦死したと思われる各提督、パエッタ、パストーレ、ムーア以外は殆ど不明との事だ。

 原作通りなら問題は無いのだが、如何せん既に原作崩壊も甚だしい。

 一応、ラインハルトはローエングラムの継承は遅れたものの、アスターテ後に元帥なった。
 が、キルヒアイスは既に死亡。
 その結果、どうも覚醒しているっぽい。

 んで、双璧も今回の件で配下に加わるだろうしな~。

「あれ?」

 キルヒアイス以外あんま変わってない?



 ……もしや、歴史の修正力とかいうものではなかろうか!



 そう考えると、ヤンが生きている可能性はかなり高い。

 ……イゼルローンが陥落したら生存、しなかったら死亡と思えばいいか。
 僕、フレーゲルの人生にあんま関わらない人だし。

 ヤンの件を先送りした僕は、シュトライトさんが留守中にまとめてくれたサインが必要な書類の処理を再開する。

 本来伯父上の仕事だが、僕に任せてあるとのことらしい。
 出兵中で、しかも命じたの伯父上なのに……

 しばらく書類に目を通していると、訓練報告が目に付く。

 伯父上の私兵はそれなりにうまく仕上がっている模様。
 リップシュタット戦役を考えると良い話である。
 ファーレンハイトさんのところのホフマイスターさんやシューマッハさん達が頑張ってくれたようだ。

 金髪死なねえかな~とか夢想しながら、僕は書類処理を続ける。

 これから先を考えるのは、イゼルローンの結果を聞いてからでいい。

 そう考えていたときが僕にもありました。



 帝国暦487年5月。

「この要塞は実に偉大だな」

 僕は隣に立つオッサンにそう言われた。

 原作ではそこそこ有名なイゼルローン要塞駐留艦隊司令官、ゼークト大将である。
 後背にはかの悪名高いオーベルシュタインが控えている。

「そうだね」

 僕は投げやりに答える。

 なぜか僕はイゼルローン要塞司令官になっていた。




 どうしてこうなった……



[25829] 10話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/10 08:21
 さて、僕がこの苦境に陥ったのには原因がある。

 無論、伯父上の命令であるが、今回の件には黒幕がいた。

 フェザーン自治領主、アドリアン・ルビンスキーのハゲ野郎である。

 事態は半月前にさかのぼる。



「あの孺子めが、事もあろうにローエングラム伯爵を名乗るようになったのは、ヨヒアム! そなたにも責任があるのだぞ!」

 伯父上に怒られた。
 正直、僕程度ではどうにもならなかったに違いないのだが、こういうときに反論すると余計怒るので黙って俯く。

 というか今更このことを蒸し返されるとは思わなかった。
 もう4月も半ばとなり、覚醒ラインハルトがローエングラム伯になったのは一月以上も前のことだ。

 とりなして貰おうと、傍らに控えるアンスバッハさんに視線を送るが、反応してくれなかった。
 なんてこった。

「だが、ワシは寛大であるからな。そなたに失地挽回の機会を与える」

 ん?

 どゆこと?

「あのフェザーンの黒狐めから、叛徒どもがイゼルローン攻略の報がきた。そなたは要塞司令官となり、叛徒どもに身の程を教えてやるのだ!」

 はぁ?

「それをもって、孺子の一件は帳消しとする」

 そう言って、伯父上はいい笑顔で執務室を後にした。



 その後、アンスバッハさんが色々と補足してくれた。

 要するに、伯父上は僕をローエングラム伯の対抗馬としたいらしい。
 で、そんな時にフェザーンから同盟のイゼルローン要塞攻略艦隊が編成されたとの一報が入る。
 それでこんな事を思いついたとのこと。

 なにそれ。

 アンスバッハさんも見てないで止めてくださいよ。

 え? 貴方なら出来るって?

 いやいや、ヤンじゃあるまいし。
 無茶だから伯父上を説得しましょうよ。

 だが、現実は非情である。
 僕のイゼルローン要塞派遣はあっという間に決まってしまった。

 本来であれば果報を寝て待つつもりであったというのに、流されるまま僕は碌な準備もできずにイゼルローン要塞に赴任することとなったのだ。



 結局、原作通りゼークト大将は出撃してしまった。

 一応、原作のシュトックハウゼン大将が言ったような嫌味は言ってないのだが、オーベルシュタインの意見にも耳を貸さずに行ってしまった。



 ……これ、ルビンスキーのハゲ野郎の謀略だろ。

 原作以上にアスターテで勝ちすぎたもんな、多分あっちで調整しているんだろう。

 そもそも、同盟の極秘情報を一番に伯父上が耳にするのがおかしい。
 原作でアムリッツァのときはなんかは、フェザーンにいた人から政府のほうに連絡がいったはずなのだ。

 それなのに一番に伯父上。

 おそらく伯父上が派閥の誰かを派遣して、無駄な犠牲が出るよう情報を流したのだ。
 そもそも、あのハゲも要塞が落ちるとは思ってないだろうし。

 主砲を撃つだけで勝てた昔はともかく、最近では勝ってもそれなりに被害を食らうのがイゼルローン要塞の現状だ。
 門閥貴族の馬鹿がやれば被害を増やしてくれると踏んだのだろう。



 そんなことを考えながら司令部でぼけっとしていると、例の味方が攻撃を受けているとの報が入った。

 砲撃戦の指示を出す。

「叛乱軍、およそ30000! ですが要塞主砲範囲に入ってきません!」

 あれ?

 半個艦隊じゃない?

 そこ、勝てないこと分かってやがるぜ。とか言ってる場合か!

 30000だと?

 駐留艦隊不在で、丸裸の要塞に30000もの大艦隊とか無茶振り過ぎるだろ。
 僕は幕僚の味方艦受け入れに許可を出しつつ、予想外の事態に大慌てだった。



 ひょとして駐留艦隊全滅した?

 オーベルシュタイン死んだ?

 そんなことより、僕、大ピンチじゃね?



[25829] 11話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/12 08:02
 なにがどうなっているのか、さっぱり分からない。

 ヤンの半個艦隊かと思ったら、30000もの大艦隊がやって来た。

 もう駄目かも分からんね。



 半分ぐらい現実逃避しながらも、僕はたどり着いた味方艦の指揮官が面会を望んでいるとの報告を受け、会うことにした。
 原作を考えれば、十中八九罠なのだが、最悪駐留艦隊が全滅している可能性もある。

 ここでシェーンコップのおっさんが来たら、ヤンも生きてるかもしれん。

 もう細部の記憶はあやふやだが、たしかローゼンリッターはアスターテに参加していたはずだ。



 現れたのは、負傷の後も痛々しい黒髪の士官であった。



 ……ヤン。死んでるな、これは。

 シェーンコップじゃなかった。
 現実じゃこんなものかもしれない。
 結局、歴史の修正力なんてものは物語の中だけなんだろう。

 なんたら少佐と名乗った黒髪の男が興奮を隠さず、要塞の危機と駐留艦隊の全滅を叫ぶ。

 それにしても、ちょっと負傷の程度がわざとらしく見える気がする。
 原作知識の影響だろうけど、僕は罠だと思う。

 司令部の面々が青ざめていく中、僕は一人そんなことを考えていた。

「それは、うぐっ!」

 なんか叫んでいた少佐が蹲る。
 僕はそばの人に助け起こすよう目配せする。

 舌打ちが聞こえた。

 ……やはり、罠か。



 突然、警報が鳴り響く。



 ざわつく司令部を尻目に、少佐が仕込んであった武装を取り出した。

「段取りは少々異なるが、諸君らには人質になってもらおう!」

 そう不適に笑う少佐。

 即座に気づいた士官の一人が銃を手にするが、

「っ! ゼッフル粒子か!」

 床に撒かれたお馴染みゼッフル粒子発生器を一瞥し、憤怒の相を浮かべた。



 あっという間に武装した少佐たちが、僕らに降伏を勧告してくる。
 ただ、ここまでなら原作を知っていれば、僕でも対処できる。

「では、排除をお願いします。オフレッサー装甲擲弾兵総監殿」

 最悪を考えて用意してあった切り札を切る。
 陸戦隊をゼッフル粒子散布下で抑えられるのは、同じ陸戦隊のみ。

「中々、食い甲斐がありそうだ!」

「なにっ?」

 僕が右手を上げると、密かに待機していた石器時代の勇者が少佐たちに襲い掛かる。
 装甲服を身にまとい特別製の戦斧を振り回すこの男に、複数かつ武装しているとはいえ携帯して隠せる武装では勝てるはずも無い。

 戦闘とは名ばかりの一方的な鏖殺となり、ミンチメーカーの二つ名に相応しく、司令部は真っ赤な肉片でぐちゃぐちゃになった。

 当然、勝ったのはオフレッサー。

 勇者が血まみれでふんぞり返るなか、僕は胃の中身をぶちまけていた。



 さて、ゲロを吐いている場合ではない。

 司令部に飛び散った死体を片付けている間に、状況は大体終了していた。
 味方艦に隠れていた揚陸艦は、あの後すぐ現場にすっ飛んでいった勇者とその部下達によって、無事鎮圧されたようだ。
 また、負傷兵に偽装していた敵兵士達も、要塞内に散らばられる前に鎮圧に成功、なんとか首の皮一枚で助かった。

 駐留艦隊は気がかりだが、それよりも射程ラインの叛乱軍30000のほうが問題だ。

「……あっ!」

 いいこと閃いた。



「叛乱軍に通達。『ワレ要塞奪取ニ成功セリ』!」



[25829] 12話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/12 07:18
『フォーク准将、そろそろ時間だが。……まだ要塞から知らせは来ないのかね?』

『コレは心外ですな? よもやこの作戦が失敗すると……御覧なさい! たった今、イゼルローン要塞陥落の知らせが!』

『む? 予定の符丁が無いようだが……』

『予定外の事態など戦場では間々あることでしょう。見なさい要塞から誘導が出ています! 作戦は成功です!』

『うむ。誘導に従い、入港せよ』

『ロボス元帥……了解しました』




 僕の出した偽報に掛かり、要塞からの誘導にしたがってのこのこと雁首そろえた叛乱軍が近づいてくる。

 映像も音声も無しで、文章のみでの通達だから引っかからないかもと思ったが、普通に掛かったみたいだ。

「ほう、叛徒どもは自殺志願者の群れか!」

 司令部に響き渡るでかい声に振り向くと、さらに血化粧を増した石器時代の勇者がモニターを眺めている。

 うえ、また吐くとこだった。
 もう中身が空っぽだから、吐くもの胃液しか残ってないのに……

「主砲発射用意」

 別のこと考えて、紛らわそう。
 そう思った僕はトールハンマーの発射準備をさせる。

「叛乱軍の後方より艦影! これは……味方です!」

 そんな時にこんな報告。

「数は?」

「はっ、……約15000!」

 ほっ、どうやら攻撃を受けたわけではなさそうだ。
 これだとうまく挟撃できるかも。

 狙ったわけではまったく無いが、偶然挟み撃ちの形になっている。
 正直、撤退させるのが精々かと思ったが、ゼークトのヒゲおやじがうまくやれば壊滅に追い込めるかもしれん。

「敵旗艦は識別できるか?」

「え? は、はい!」

「では旗艦に照準を」

 僕の言葉に管制担当の士官が戸惑いながらも肯定の返事をする。
 原作でも何で識別できたのか不明だが、ともかく可能らしい。

「もう、俺の出番はなさそうだな。休ませてもらうぞ!」

「はい、ご協力ありがとうございます」

 僕でもこの先の展開は簡単に想像できるのだ、オフレッサーのおっさんもとうに理解しているのだろう。
 僕に一声かけ、司令部から退室した。

 しかし、おっさんに頼んでよかった。
 装甲擲弾兵を借りにいったら、まさか本人がついてくるとは思わなかった。

 地位が地位だけに、前線に立てなくて暇だったらしい。
 最近は新兵訓練ぐらいしか体を動かす機会が無いとのこと。

 結局、大隊ぐらい借りるつもりが連れて来れたのは100人ほどだから、おっさん本人が来てくれなかったらどうなっていたことやら。

 そんなことを考えていると、

「司令! 叛乱軍旗艦に照準、主砲発射準備完了しました!」

 準備完了の報告が入る。

「ん。要塞主砲、撃て」

 僕の命令で、叛乱軍旗艦を含めたおよそ3000が一撃で消滅した。




『これは、どういうことだ? まさかイゼルローン要塞が陥落したとでも言うのか!』

『閣下、ここは――!』

『イゼルローン要塞、叛乱軍に攻撃を開始しました!』

『なんだ? これは……』

『閣下、おそらくフレーゲル大将が叛乱軍の策略を破ったのです。この機に乗じて後背より挟撃すべきかと』




 旗艦が消滅し、浮き足立ったところに、イゼルローン駐留艦隊が後背より襲い掛かる。
 おお、ゼークトのヒゲおやじもやるやる。

 原作だと何の見せ場も無く死んじゃったからな~。
 普通に戦えば強いのか。

 ……というか、かなり強くね?
 叛乱軍が混乱しているというのを鑑みても、要塞主砲の射線に入らないよう混戦を避けれるのは普通に凄い気がする。

 と思ったら、叛乱軍の一部がいつの間にやら射程外に……
 ま、まあ、相手のほうが数が多いしね。

 その後、3回ほど要塞主砲を撃ったころには10000ぐらいの叛乱軍が戦場から離脱していた。

 駐留艦隊から掃討戦を開始する旨が入ったが、後詰の可能性があるので帰還を提案する。

 ゼークトのヒゲおやじはしばし唸っていたが僕の提案を呑んでくれた。

 これでようやく一息つくことが出来る。



 あー、疲れた。



[25829] 13話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/13 08:10
 駐留艦隊が入港してきた。

 僕はそれを出迎えるため、幕僚を引き連れ宇宙港で待機している。

 お、旗艦からゼークトのヒゲおやじが出てきた。
 大勝利に関わらず、むすっとしている。
 まあ、気持ちは分かる。

 自分が招いた危機を、見下していた相手にフォローされたのだ。
 面白いわけが無い。




「おお! 無事の帰還、このフレーゲル喜びに堪えません!」

 満面の笑顔で近づき、拍子抜けするヒゲおやじを抱擁する。

「ゼークト閣下の仰った通り、叛乱軍め姑息な手を仕掛けてきました」

 ヒゲおやじが目を白黒させている間に、親友のアルフレットくんのまねで手振りしながら演説っぽく畳み掛ける。

「が、見ての通り、閣下の策にて叛乱軍はご覧の有様です。このフレーゲル、感服の極みですぞ!」

 有無を言わさず言い切った。

 ヒゲおやじはしばし思考が追いついていないようであったが、僕の言葉が理解できたのか、「う、うむ。そうであったな」とかしきりにうなずく。

 ふふふ、必殺の褒め殺し。
 これでこのヒゲおやじは僕に逆らえまい。

 正直、功を独り占めも考えたものの、あの戦闘を見ればシュターデンとかヒルデスハイムより使えると思うのだ。
 来たるべくリップシュタット戦役に向けて使える提督は一人でもほしい。

 なら恨まれるよりも、恩を着せたほうがいいと僕は判断したのだった。

 


 帝都への報告はオーベルシュタインがそつなくこなしてくれた。

 うーん、オーベルシュタインも僕の死亡フラグな気もするが、リップシュタットでこの人がやったのってヴェスターラントの惨劇を見逃したことぐらいだったよな?
 もし、この先そうなったらシューマッハさんに従って亡命ルートしかないけど。

「フレーゲル閣下」

 うわ、話しかけられた!

「な、なにかな?」

「オーディンへの報告はあれでよろしかったのですか?」

 何かミスでもあったかな?
 いや、この人完璧主義者な感じだしミスがあったら事前に言うよな?

「問題あったかな?」

「何故、功をゼークト大将と分けられたのですか?」

 ……なんだ、そのことか。

「別に大した理由は無いよ。変に妬まれたり、恨まれたししたくなかっただけだし」

 あと将来を考えてっと、これは説明しようが無いしな。

「……差し出がましいことを聞き、失礼いたしました」

 いや、別にいいけど。
 しかし、なんでそんなこと聞くかね?




 数日後、帝都よりの通信が届き、僕とゼークトのヒゲおやじの両大将は戦勝式典のため帰還することとなった。
 さらに言えば、両名共に上級大将となるためイゼルローンの要塞司令官と駐留艦隊司令官は別の人間が着任することになる。

 オフレッサーとその仲間たちも僕らと同じ艦艇で帰還するほか、駐留艦隊の幕僚も昇進による異動のため帰還を共にすることとなった。




 オーディンに帰還した僕は、いくつかの驚くべき報告を聞くこととなった。

 何と、ファーレンハイトさんが大将になっていた。
 なんでもカストロプの動乱を鎮圧した功らしい。

 あー、キルヒアイスがもういないからラインハルトが何もしなかったのか。

 やはり、ヤン・ウェンリーは死んでいた。
 フェルナーさんが調べてくれたアスターテの続報でヤン准将の名を確認できた。

 これイゼルローン赴任前に知ってたら、今頃同盟の捕虜だったな。
 危なかった。

 しかし、キルヒアイスともども変なとこで死んじゃったな。
 原作ではファンだったし、せめて冥福を祈ろう。

 伯父上に褒められた。
 まあこれはどうでもいい。

 オフレッサーのおっさんは昇進を断ったらしい、その代わり戦闘に参加した部下全員の二階級特進をお願いしたようだ。
 ……いい人である。

 イゼルローン攻防戦の勝利はある意味日常化した面もあるので、式典は先のアスターテの大勝利のときほど豪勢ではなかったが、いままでついでの昇進だったのが今回は主役となってしまったのでかなり緊張した。

 そして、翌日の元帥府で一番驚愕する羽目になった。




「このたび、ブラウンシュバイク元帥府に配属を命じられました。パウル・フォン・オーベルシュタイン准将です」




 なんだこりゃ。



[25829] 14話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/14 07:51
 よく分からないが、オーベルシュタインが仲間になった。




 どうも、ゼークトのヒゲおやじの指図らしい。

 なんだかんだで僕に対し一物あったあのヒゲおやじは、色々面倒臭い部下であるオーベルシュタインを差し向けることで、一石二鳥を狙ったようなのだ。
 そんな感じで、優秀な部下が云々と伯父上に進言したらしい。
 で、甥の昇進で鼻高々な伯父上がご褒美代わりに、オーベルシュタインを元帥府に召集したということだった。

 と、アンスバッハさんがその辺の経緯を説明してくれた。

 最近この人はこんな風に伯父上周辺の情報や、軍内部の派閥などの情報をちょくちょく僕に教えてくれる。
 イゼルローンから帰って以来、こんな感じなのだが僕何かしたっけ?




 さて、元帥府であるが数ヶ月前は烏合の衆であった30000も、そこそこの練度に仕上がった。
 これもファーレンハイトさんとその幕僚陣の尽力の賜物である。

 そのファーレンハイトさんも大将となり、新たに5000を追加した10000の艦隊を率いるのだ。
 来るべきリップシュタット戦役にも希望が見えるというものだ。

「相変わらず青白くてひょろひょろと、もやしのようだな!」

「卿もさっさと自分の時代に帰ればいいのだ。石器のほうが手に合うのだろう?」

 そして、よく分からないことがもう一つ。
 なんか石器時代の勇者が居つくようになった。

 今日もやってきたオフレッサーのおっさんと、ファーレンハイトさんが些細なことから喧嘩を始めた。
 喧嘩といっても口喧嘩だ。
 僕が仲裁しようとしても、二人から黙ってるよう怒鳴られる。

 オーベルシュタインは我関せずで仕事を続け、シューマッハさんも初めこそ慌てていたものだが今では苦笑しながらも仕事をしている。
 シュトライトさんとフェルナーさんは書類を持ってくるときにでくわすと、ああ、またかって顔ですぐに去ってしまう。
 アンスバッハさんはこういうときは絶対来ない。

「では勝負といこうか!」

「おお、心得た!」

 あ、決着だ。

「「飲み比べだ!」」

 そして、支払いは何故か僕。




 そんな平和な日常が一月ほど続いたのだが、あくる日アンスバッハさんの報告によって終わりを告げることになる。

「大規模な侵攻作戦?」

 僕の疑問にアンスバッハさんが頷いた。

 どうもラインハルトのローエングラム伯継承の件らしい。
 原作だとアスターテがそれにあたったが、ここだとローエングラム伯になったのはアスターテの後だしな。

 そうなると、もう元帥府できてるし数は40000ぐらいかな? とか考えていると、

「出撃艦艇は10万隻を超える規模で、おそらく3000万人以上の動員がかけられると思われます」

 え?

 なにそれ?




 またしてもフェザーンである。

 あのハゲ野郎、バランス取りのために帝国に逆アムリッツァをさせるつもりだ。

 フェザーンの甘言に乗せられたあほの貴族どもが、あっちこっちで同盟の弱体化を吹聴している。
 確かにアスターテに、先のイゼルローンで計60000ほどが消失しているが、それでも原作の内乱後ほど弱体化しているわけではないのだ。

 半壊した11艦隊。
 壊滅した2・4・6艦隊。
 イゼルローンで失った20000を引いても、まだ最低でも7個艦隊はあるはず。

 ヤンが死んでも、ビュコックとかウランフとかボロディンとか普通に健在である。
 地の利もあっちにあるわけだし、ちょっと数が多いだけじゃ勝てる気しないんですけど。




 僕の不安をよそに数日後、正式に同盟領侵攻作戦が決定した。
 参加艦艇数13万隻、それに伴い動員されたのは実に4000万人以上になる。

 内訳は、

 ローエングラム元帥府より、50000。

 ブラウンシュバイク元帥府より、40000。

 その他の艦隊が、40000。

 ローエングラム陣営は、覚醒ラインハルト本人に、双璧・ビッテンフェルト・ケンプ・メックリンガー・ケスラー・ルッツ・ワーレンなど歴戦の諸将が連ねている。

 我がブラウンシュバイク陣営は、僕フレーゲルにファーレンハイトさん、オフレッサーのおっさんのほかは、オーベルシュタインにシューマッハさん、シュトライトさん、フェルナーさんと少々前線指揮官に欠けるのが寂しい。

 これに加えて、メルカッツ艦隊・ゼークト艦隊・ヒルデスハイム艦隊・シュターデン艦隊・フォーゲル艦隊・エルラッハ艦隊が参加している。

 いくつか不安な顔ぶれもあるが、今回の侵攻作戦の最大の問題は他にある。

 今回、参加している帝国正規軍は半数ぐらい。
 ローエングラム陣営は完全正規軍だが、我ブラウンシュバイク陣営は元から30000が伯父上の私兵。
 そして、その他の艦隊が完全に貴族の私兵で構成されているという有様である。

 どう考えても負けだろ、これ。




 遠征軍の総司令官はもちろん覚醒ラインハルト元帥。

 副司令官はメルカッツ上級大将。

 そして、参謀長はなぜか僕、フレーゲル上級大将である。



[25829] 15話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/15 10:24
 予想通り、前途多難である。




 同盟領に侵攻する前に、イゼルローンで作戦を話し合ったのだが、当然まとまらなかった。

 覚醒ラインハルトは一気に全軍でシヴァ星系辺りまで進出して叛乱軍に決戦を強いることを主張したが、ヒルデスハイムを筆頭とした貴族連中が強固に反対。
 如何せん戦力の三分の一が反対だと、覚醒ラインハルトも腹立たしげに主張を取り下げるしかなかった。

 いかにローエングラム伯で総司令官で元帥だろうと、帝国軍とは名ばかりの貴族の私兵には絶対的な指揮権が存在しない。
 専制国家ゆえ致し方なしだが、兵力が兵力だけにまともに運用できれば同盟を打倒できそうな覚醒ラインハルトは悔しいだろう。

 なんだかんだで、ラインハルトだけに手柄を立てられたくない貴族が集まっているようなものなので、一枚岩は程遠く、すでに空中分解寸前である。
 メルカッツさんは完全にお飾りで、本人もそれを弁えているのかさっきから無言。

 出戻りのシュトックハウゼン大将も、戻って早々こんな会合に参加せねばならないとは運の無い。
 しかも、ちょっと前の同僚は出世しているという状況でだ。

 一応、僕の要塞司令官赴任絡みが相当強引だったので、そのフォローに彼も来期には昇進して軍中央にポストが内定している。
 が、先を越されたのは事実なので面白くは無いだろう。
 早く要塞から出て行けといわんばかりの顔をしていた。




 この作戦会議であるが、なぜか少将以上が参加条件なので、ブラウンシュバイク陣営は僕を含め参加しているのは3人だけである。
 しかし、何故か貴族は30人ぐらい参加している。
 まあ、僕もなぜか少将だったりしたしね。

 ファーレンハイトさんは、ローエングラム陣営と貴族連中がいがみ合うのをニヤニヤして見ている。

 ラインハルトにがんを飛ばしていたオフレッサーのおっさんは、飽きたのかさっき欠伸をしながら退室した。

 そして、僕が会議そっちのけではやく終わらないかな~などと考えていると、

「フレーゲル参謀長は、いかがお考えかな?」

 いきなりロイエンタールに話を振られた。

 へ?

「え、えーと?」

「先の叛乱軍の奇策を見破ったフレーゲル閣下の作戦であれば、彼らも納得しましょう」

 えー、なんて無茶振りですかー?
 こんなときにオーベルシュタインがいれば丸投げできたのに!

 うーん、うーんと、

「えー、では軍を三つに分けて、三方向から侵攻してはどうでしょう? 総司令はヴァンフリート方面から、我々がアルレスハイム方面から、副司令はティアマト方面からといった風に」

「わざわざこちらから兵力分散の愚を犯すというのか!」

「それでも各々4万以上の艦艇を有しており、叛乱軍の三個艦隊に相応しています。それに叛乱軍が戦力を集中して運用してくるのであれば、こちらも直ちに合流すれば対処できましょう」

 ビッテンフェルトに怒鳴られたが、一応最後まで言い切る。
 ローエングラム陣営の諸将はどこか呆れたような、貴族たちは逆に悪くない反応である。

 そもそもこんな寄せ集めで、まともな運用を考えるなんて時間の無駄だ。
 出兵目的が覚醒ラインハルトの出鼻を挫かせるものなのに、フェザーンの情報に踊らされて戦功を得ようって連中ばっかが集ったから本格的にどうしようもない。
 こんなんを僚友として戦うなんて冗談ではない。

 なので、僕は意図的に戦力を三分したわけだが、いまいち押しが足りないようだ。

「更に一番はやく合流ポイントにたどり着いた艦隊が、その後の戦略の決定を行うというのはどうでしょうか?」

 あまりやりたくなかったが、ローエングラム陣営、貴族連中両方に使える餌を投げよう。
 ローエングラム陣営から見れば、戦力的に自分たちが一番先にいけるのが分かるはず。
 そして貴族連中は、あのラインハルトを仕切れるうえに戦功も稼げると錯覚してくれるはず。

 問題はこんなアホな提案をした僕がアホに思われることだが、命には代えられない。
 一番信用できる40000と共にのんびり侵攻し、叛乱軍がまとまってきたらさっさと逃げよう。

「さすがフレーゲル男爵。実に見事な作戦だ!」

 黙れヒルデスハイム。
 お前に褒められてもちっとも嬉しくない。
 あと、こんな場で爵位でよぶな。

「卿らも参謀長の作戦なら問題ないというわけか?」

 覚醒ラインハルトがなんか疲れたような顔で貴族連中に聞く。

 ヒルデスハイムが代表でさようですなと答え、続けてなにやら言い始めたがどうでもいい。

 その後、ローエングラム陣営が中心となって作戦の詳細をつめることとなったが、僕の都合とはいえメルカッツさんは絶対苦労するよな。
 ヒルデスハイムとかが作戦通り動くわけねーもん。

 ローエングラム陣営50000は、ヴァンフリート-アスターテ-ドーリアからエルゴンに抜けるルート。

 メルカッツさんの貴族混成艦隊40000は、ティアマト-ダゴンからエルゴンに抜けるルート。

 僕らの40000は、アルレスハイム-パランティアからアスターテを経由してエル・ファシルを通りエルゴンに抜けるルート。

 そんなわけで合流地点はエルゴン星系。
 それまでに叛乱軍が大挙して押しかけて来たら速やかに合流し、そうでなければ各星系を占拠しながらエルゴンへ。
 その後は、一番乗りの陣営が方針を決定する。
 どちらにせよ、ハイネセンまで行きたいのは同じだと思うけど。

 一見僕らが一番不利に見えるが、それはエルゴンに一番乗りを考えた場合だ。
 決定権なんていらんし、僕の考えではこのルートが一番安全なはずである。




 そう考えていたのだが、所詮は僕の浅知恵。
 うまくいくはずが無いのである。




「さて、早速叛乱軍のお出ましだな」

 ファーレンハイトさんは実に楽しそうですね?

『敵艦数、およそ30000!』

『ヴァンフリート、ティアマト両方面でも叛乱軍と接触、戦闘が始まっているようです!』

「しかし、妙ですな? こちらの兵力分散にわざわざ付き合うとは」

 ですよね、シュトライトさん。
 なんでこっちにあわせたんだろ?

「惑星を守るように展開していますな」

 フェルナーくん、それは当たり前のことじゃないの? いや、詳しく知らないけど。

「フレーゲル参謀長、いえ、分艦隊司令。ご命令を」

 なんか意見くれません? オーベルシュタイン。
 罠とか策とか、君なら分かるでしょ?

「では、一戦して相手の出方を見る! ホフマイスター中将、先陣は任せる!」

『了解しました!』

 ファーレンハイト艦隊なら簡単にやられないはずだ。
 先陣を任せたホフマイスターさんに、ファーレンハイトさんがなにやら指示を与えている。




 いきなり戦闘とか、もう帰りたくなってきたよ。

 あと、ファーレンハイトさん指揮よろしく。



[25829] 16話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/17 15:41
『そっちの様子はどうだ? ボロディン』

『あまりそちらと大差ないよ、ウランフ。統率も何もあったものではないが、勢いだけは凄まじいものがある』

『やっかいなものだ。今はまだ優勢だが、いずれ戦力差から押し切られかねん』

『アルレスハイムは今のところ膠着しているが、ヴァンフリートはそろそろ持たんぞ』

『ラインハルト・フォン・ローエングラムだったか? ティアマトで討ち取っておけばというのは、無意味と知りつつ夢想してしまうな』

『アスターテもあの男の指揮か。こうなると先のイゼルローンが痛恨だな』

『幸いは、ビュコック爺さんが宇宙艦隊司令長官になったことぐらいか。なった途端にこれでは、だが』

『まあ、と……敵の再編が終わったようだ。メルカッツか、嫌になるほど堅実だ』

『過去二度ほどやり合ったが、そちらは?』

『これで六度目だ。そろそろ終わりにしたいものだがな!』




 アルレスハイムで叛乱軍と遭遇してから一週間がたった。

 初日の先制攻撃から叛乱軍は堅陣を引き、こちらの仕掛けに全く応じなかった。
 一応、三日ほど色々とファーレンハイトさんが手を出して見たのだが、惑星を堅守しこちらの動きに釣られることは無かった。

 仕方ないのでその後は四日ほど睨み合ったままである。
 まあ、一番乗りに拘っている訳ではないのでゆっくりできるわけだ。

 ここの叛乱軍とて、ヴァンフリートの本隊がアスターテに歩を進めたら引かざるを得ない。
 アスターテを塞がれたら挟撃を受けるのだ。
 僕らは労せずしてヴァンフリートが陥落しだい、逃げる敵を追撃すればいいのである。




 いきなり戦闘突入と、テンションが駄々下がりだった僕だが、相手がガンガンこなかったおかげで平静を取り戻せた。

 こちらは静かなものであるが、他の二方面は激戦の模様。

 メルカッツさんの所は正面からの殴り合い、案の定ヒルデスハイムの馬鹿が先走りやがったのだ。
 完璧な作戦を立てたらしいシュターデンがぶち切れたらしいが、今のところ互角に戦っているらしい。

 もっとも、被害はメルカッツさんをしても5:3ぐらいの比率でかなりの損失を出してしまったようだ。
 なお、先日入ったフェザーンからの情報ではウランフ、ボロディンのガン殴り部隊らしい。

 そして本命というか、覚醒ラインハルトが率いるヴァンフリート方面は非常に優勢とのこと。
 まあ、ただでさえ倍近い戦力差がある上に、覚醒済みのラインハルトが双璧やらの名将を率いているのだ。
 これに勝てるとしたらヤンぐらいだろう。

 こちらのアップルトン、アル・サレム組はギリギリで踏みとどまっているようだが、すでに戦力の三分の一は削られてしまったらしい。
 対して、ラインハルト側は1割弱ほどの被害。
 倍近い戦力差に、近日中に撤退すると見られている。

 そして僕らのところはホーウッド、ルグランジェ組。

 遭遇から八日目にして動きがあった。




『惑星より多数の大型輸送艦! 敵艦隊が動き始めました!』

 どうやら住民の脱出のための時間稼ぎをしていたらしい。

「さて、どうする? まんまと時間を与えてしまったようだが」

 ファーレンハイトさんが意地悪そうに聞く。

 嫌だなぁ、分かってるくせにー。

「大丈夫だ、問題ない。叛乱軍は輸送艦の守りを優先せざるを得ない状況だ、イニシアチブは完全にこっちにある。オーベルシュタイン准将?」

「はっ」

 この五日間、何もしていなったわけではない。
 優秀な幕僚陣と指揮官たちが今後の作戦を練ってある。
 僕の仕事は許可を出すことだけだ。

「叛乱軍の動きは、予想されていた案件の一つ、住民の脱出を支援することです。事前に検討してあります追撃プランBがこの状況に適しているでしょう」

 このプランBは目下のように叛乱軍が住民の脱出を支援する場合の追撃計画である。
 とことん輸送艦を優先して狙うように見せかけ、相手に有効な艦隊運用を取らせないようにするのだ。
 その上で敵空母を優先して撃破し、乱戦に持ち込んだ上でワルキューレの大盤振る舞い。
 最後に、僕がリップシュタットを見越して計画に盛り込んだ、装甲擲弾兵を強引に旗艦に突撃させて止めを刺すという流れである。

 もちろん、原作のシェーンコップさんのパクリだ。

 なお、プランAは叛乱軍がそのまま撤退する場合の追撃計画である。
 こっちは普通の追撃戦で、ファーレンハイト艦隊が逃げる叛乱軍にずるずると出血を強いる流れになる。

 さあ、これがうまくいけばリップシュタットで数を頼りに、乱戦から旗艦襲撃の策が出来上がる。
 正直、オフレッサーのおっさん以外微妙そうな顔を浮かべていたが、きっと何とかなる!

 多分、何とかなる。

 ……何とか、なるよね?

「全艦、前進!」

 僕の不安をよそに、ファーレンハイトさんが号令をかけた。
 



 何とかなった!

 ゲロを自分で始末した僕は、すっぱい空気に包まれながら安堵の息をつく。
 周りの冷たい視線に耐えながら、僕は未来のことだけを考えている。

 なんでこうなったかといえば……




 ちまちまとしたこちらの嫌がらせに切れたのか、敵艦隊の一方が猛然と襲い掛かってきたのが一時間ほど前。

 予想以上に短気な叛乱軍指揮官に呆れながらも、予想済みであったため相手の一撃を受け流しながら乱戦に持ち込む。
 当然、その間にもう一方は輸送艦群と戦線から離れていく。殿の面もあったのかもしれない。

 空母の優先撃破はならなかったが、既に数が違うので問題ないと思う。

「ワルキューレを出せ! 揚陸艦に敵戦闘機を近づけるな!」

 こちらから乱戦に持ち込んだわけだが、僕の予想以上に敵味方が入り組むな、これ。
 道理で皆が微妙な顔をするわけだ。
 ちょっとした事故でこっちの旗艦が落ちかねん。

 ちなみに僕の乗る、分艦隊旗艦はヴィルヘルミナ。
 ミュッケンベルガーのおっさんから貰ったものだ。

 そんでもって、ワルキューレ発進の指示を出したのはシュトライトさん。
 僕はすでに立っている余裕も、声を出す余裕も無く提督席に座っている。
 艦がガリガリ揺れる。無茶苦茶怖い。

 そんな状況が三十分も続いたであろうか、石器時代の勇者の声と共に中央のモニターが朱に染まる。

『おう、片が付いたぞ!』

 ガハハと笑いながら、勇者は敵将の首を掲げた。



[25829] 17話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/17 15:43
 僕が懲りずにゲロをぶちまけている間にも戦闘は続き、旗艦を落とされた叛乱軍は目に見えて統率を乱していた。

 しかし、そんな状況にありながら逃走するような艦艇は見られず、混乱しながらもいくつかの数にまとまりながらしぶとく抵抗を続けていた。
 それをファーレンハイトさんが容赦なく叩きつつ、指揮を取っているであろう艦にオフレッサーのおっさんの指揮する装甲擲弾兵部隊を強襲させ、叛乱軍の組織的抵抗を封じていった。

 らしい。

 ゲロを始末し、安堵の息をついた僕であったが、あまり気分も良くなかったので自室で休む事を告げ、ファーレンハイトさんに一任したのである。
 八時間ほどの睡眠の後、艦橋に顔を出した時にはまだ戦闘は続いていたのだが、すでに掃討戦の様相でありオフレッサーのおっさんもヴィルヘルミナへと帰還していた。

 と、

「おう、ゲロ男爵。いいかげん慣れんか!」

 ガハハと勇者が笑う。

「む、よく眠れたか? ゲロ参謀長」

 ファーレンハイトさんがニヤニヤしている。

「……ゲロ分艦隊司令、既に掃討戦に移行しつつありますが、いかがしますか?」

 って、ちょっとシュトライトさん?

「ゲロ上級大将、もう一方の艦隊と輸送艦隊は完全に振り切られました。先ほど先行させてある偵察部隊の報告では、パランティア星系ではすでに住民の避難は完了している模様」

 フェルナーくんまで……

「ゲロ閣下、被害報告をはじめます。被害艦艇は2519が撃沈。4288が中から小破程度の損傷を受けましたが行軍中に修理可能で、引き続き戦闘はできるとの事です」

 シューマッハさんはこういう悪乗りに付き合わないと思っていたんですがねぇ。

「……、分艦隊しれ」

 と、オーベルシュタインが言いかけたところでファーレンハイトさんがブーイング。
 おっさんの笑い声が艦橋に鳴り響き、良識派? 二人と乗りがいいのは苦笑を浮かべた。

 よかった、オーベルシュタインはまともで。
 これでこの人にまでゲロなんたら言われたら泣いちゃいましたよ。

 っていうか、仲良すぎでしょう? 君ら……




 さて、あの後しっかり掃討戦をやったので丸一日かかった。

 フェルナーくんの報告で、覚醒ラインハルトがヴァンフリートを突破したとの報告を受けた。
 やっぱ強いなあ。
 勇者突貫でいくらか光明は見えた気はするが、リップシュタットは不安だ。

 メルカッツさんの所はいまだ戦闘中のようだが、叛乱軍も突出を避けるためそのうち後退するだろう。

 一応、装甲擲弾兵を中心とした部隊を惑星に降下させたのだが、当然もぬけの空であった。
 数百万人程度の所謂辺境惑星だが、いろいろ漁ったところ半月分ぐらいの物資をかき集めることに成功する。

 ついでに都市や施設を根こそぎ爆破。

 これらの作業を三日ほどかけて行い、僕らは次のパランティア星系に向かうことにした。




 その三日の間に覚醒ラインハルト率いる本隊はアスターテを無血で突破、ドーリア星系に歩を進めていた。
 メルカッツさんのところも叛乱軍が後退した為、ダゴン星系に進んだのだが、その際にエルラッハの低脳が無茶な追撃をかけて戦死するというハプニングも発生。
 それまでは叛乱軍にも相当の被害を強いていたのだが、このときはほぼ一方的にしてやられ、エルラッハは自身が率いた4000と共にティアマトの塵と化した

 これで帝国の被害はメルカッツ艦隊が15000、ラインハルト艦隊が5000、ブラウンシュバイク艦隊が3000となった。

 対する叛乱軍の被害は8000、15000、12000と予想される。

 また、ティアマトはこちらと同じく住民に逃げられ、貴族連中はマンハントができず憤慨したとか、趣味の悪い話だ。
 対するヴァンフリートは逃げる暇なく占拠され、現在ケスラー艦隊2500が駐留しているとの事。
 同じようにアスターテはルッツ艦隊2500が駐留している。

 フェザーンからの続報で、叛乱軍の総司令官はビュコック大将。
 なんでも先のイゼルローンで前宇宙艦隊司令長官ロボス元帥が戦死したため、かなり例外的昇進をしたらしい。

 っていうか、あのときロボスがいたのか……まあ、なんでもいいけど。




 パランティア星系の惑星もアルレスハイムと同様もぬけの空だったため、物資を漁り都市と施設を灰にする。

 ここでも三日ほどかかった。
 その間、ダゴンでは激戦が続き、ヒルデスハイムのアホが無茶な突出で死んだらしい。
 メルカッツさんもアホはともかく、3500の艦艇を失ったのは痛いだろうなあ。

 ドーリアではビュコックの爺さんが出張ってきたらしい。
 ラインハルトの40000に対し、35000が向こうの戦力で、ここでも激戦が予想される。
 僕らが遅いから戦力を集中されたと、通信の際に嫌味を言われた。

 ざまぁ。

 さて、僕らが取り逃がした艦隊。
 ルグランジェは勇者に首を刈られたので、消去法でホーウッドの艦隊という事になるのだが、どうもアスターテ方面ではなくもう一方のフェザーン回廊のほうの辺境域に避難民を連れて逃げたらしい。

 原作でヤンがイゼルローンからビュコックと合流するために通ったルートだ。

 ファーレンハイトさんにこちらから首都をつけば一躍英雄だぞ? とかからかわれたが、僕は航路も分からん道のルートなど通る気なんてしないので予定通りアスターテを抜けエル・ファシルに向かうことにする。




 アスターテでルッツにのんびりした行軍で羨ましいもんだ、と嫌味を言われた。

 どうもドーリアで結構苦戦してるらしい。
 流石の覚醒ラインハルトでも、戦力がほぼ同等のビュコックを正面から抜くのは厳しいか。
 彼らにとって幸いなのは、ダゴンでメルカッツ艦隊がついに叛乱軍の戦力を下回り防戦一方ということだけだろう。

 仮に僕らがもう少し早くエル・ファシルに進出していたら、叛乱軍もそちらにも戦力を割かざるを得なかったので、ラインハルトたちは今頃エルゴンに到達していたに違いないだろうしな。

 まあ、ルッツの嫌味を聞き流した僕はエル・ファシルへ向かう。

 またしても三日がかりで物資をかき集め、都市と施設を爆破していると、覚醒ラインハルト率いる本隊がエルゴンに到達したとの報告が入った。
 どうも、僕らがエル・ファシル方面に移動を開始した時点で両方面の叛乱軍は後退を始めたらしい。
 そしてそのままエルゴンを通過し、更に奥へと後退。
 フェザーンからの報告ではシヴァ星系辺りで戦力の建て直しをしているようだ。

 なお、僕らの取り逃がしたホーウッド艦隊がアスターテを強襲。
 本隊からケンプ、ワーレンの艦隊と僕らのとこからホフマイスターさんを援護に向かわせることとなった。
 だが、その戦いでルッツが戦死したうえ、肝心のホーウッド艦隊には逃げられるなどけっこうヤバい感じである。




 僕が死地に向かうような気分でエルゴンに向かっていると、オーディンから急報が届いた。

 すっかり忘れていたのだが、皇帝陛下崩御の知らせである。
 皆に伝えてくれたのがシューマッハさんだったので、オーベルシュタインが皇帝が死んだ云々は言うことは無かったのだが、終始無言であったのが気になる。

 とりあえず僕が艦隊に逃げ支度をさせながらエルゴンに向かうと、予想を超える事態が待ち構えていた。




 ラインハルト・フォン・ローエングラム、意識不明の重態である。




 ……え?



[25829] 18話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/18 18:45
 エルゴンで味方艦隊と合流した僕らを待っていたのは、遠征軍司令官が意識不明の重体という僕にとって意味不明の事態であった。

 どうも皇帝陛下崩御の知らせを聞いてぶっ倒れたらしい。
 キルヒアイスがいないから疲労でもたまっていたのだろうか?

 とりあえずシューマッハさんたちに艦隊を任せ、僕はファーレンハイトさんとオーベルシュタインを連れてブリュンヒルドに向かった。




「卿らはここまできて引くというのか! この先の叛乱軍を打ち破れば首都星系まで遮るものはないのだぞ!」

 僕らが会議室に入る直前、ビッテンフェルトの怒声が響いた。

「いい加減、考え無しに口を開くのをやめろ! 我らが好き好んで引くと言っているとでも思っているのか!」

 そして、それに対する怒声を上げたのはメックリンガー。
 ちょっとイメージが違う感じもしたが、こんな感じに激しい人だった気もした。

 どうも僕らが来るまで方針を検討していたみたいだ。

「二人とも落ち着け、それを決めるのは我らではない。副指令と、今到着した参謀長殿の仕事だ」

 と、激昂している二人を抑えていた双璧の片割れ、ロイエンタールが入室した僕らを意味ありげに見た。

 なんというか、おまえ、妙に僕に絡んでくるな?




 さて、今後の方針を決めるわけだが、出征前のイゼルローンでの会議を思うと人減ったなあ。

 メルカッツ艦隊からは、メルカッツさんだけ。
 ゼークトのヒゲおやじはフォーゲルといっしょに艦隊を再編しているらしい。
 シュターデンはなにやらショックで放心してしまったとのこと。

 ローエングラム陣営は、双璧にビッテンフェルトとメックリンガー。

 そして僕らのとこからはオフレッサーのおっさんの代わりにオーベルシュタインが来たが、それにファーレンハイトさんと僕の三人である。
 おっさんはラインハルトが倒れてめでたいと、部下と酒盛りだ。

 イゼルローンのときにいた門閥貴族の大半は、ヒルデスハイムと同じく戦場に散り、残りも実戦の恐怖に怯え部屋に篭ってしまったらしい。
 なんとも情けない話だが、いないほうが話が進むのでこの際問題なしとする。

「オーディンからの続報はありますか?」

 とりあえず僕は聞いていないが、旗艦はここなので最新情報があるかもしれないと尋ねる。
 が、続報はなし。
 まあ、あれから一日たってないしそんなもんか。

「では、今後の方針ですが」

「前進あるのみだ! ここで引いてどうする、最早叛乱軍は押せば倒れる老木のようなものだぞ!」

 メルカッツさんに確認をしたのだが、ビッテンフェルトに遮られた。
 うん、興奮してるのは分かるが、実にうざい。

「うん、ビッテンフェルト中将の意見は分かった。決定は皆の意見も聞いたからにしたい。副司令はいかがか?」

 またもやメックリンガーが激昂しそうだったので、さっさと次に進める。

「……出征前の約束はいかがしますか?」

 ……忘れてた。

 あー、そういやそんなん言ったわ、僕。
 色々あって忘れてた。
 そうなると決定権はローエングラム陣営なんだが、

「……」

「……」

 またビッテンフェルトとメックリンガーが睨み合ってる。
 んで、双璧はといえば、

「……」

「……」

 ミッターマイヤーはむすっとした顔で、ロイエンタールはどこか楽しそうな顔でこちらを見ていた。

「総司令が倒れたのに併せ、此度の急報。無かったこと、という方向でいいかな?」

 僕の言葉に四名はそれぞれ異なる表情を浮かべながらも頷いた。

「それでは、副司令はいかがお考えで?」

「私としては撤退を推したい。この先、皇帝陛下崩御の報を止めておくのは不可能だろう。兵の士気が崩れる前に引き上げるのが良いと思う」

 うん、理由は違うが退きたいのは僕も同じだ。





「では、オーベルシュタイン准将。副司令も前進は困難とお考えのようだ、例の方針でいこうと思う」

 実はここに来る前にオーベルシュタインが今後の提案をしてくれたのである。

「はっ、フレーゲル閣下。それでは……」




 まあ、オーベルシュタインが提案したのは、簡単に言えば叛乱軍の追撃を受けないよう撤退しようということである。

 まず大量の欺瞞情報で、この先にいる叛乱軍に決戦を挑むために進軍するかのように見せかける。

 その間に一部の艦隊を先行させて、アスターテ・ヴァンフリートの駐留艦隊を合流させイゼルローン方面に帰還させる。
 ここは通信を傍受されないよう、先行させた艦隊を直接合流させる。

 そしてゲリラ戦術で後背を脅かすホーウッドの艦隊を、欺瞞情報で決戦の最中に後背をつけるような位置を取れるよう誤認させ、誘導する。

 最後に、決戦にむけ進軍したと見せかけた後、徹底した通信遮断をしつつイゼルローンに帰還。

 といった感じだ。




「……了解した」

 オーベルシュタインの発言中、真っ赤になっていたビッテンフェルトだが、いつの間にかに近づいていたファーレンハイトさんがなにか口にすると急に平静になり、素直に方針に従うと口にした。
 なに言ったんだろう?

 結局、双璧は何も言ってこなかったがどうしたんだろう?
 まあいい。

 いったん方針が決まれば即座に動き出せる面子ばかりなので、決定した後ははやかった。

 オーベルシュタインとフェルナーくんが情報関連の統括に決まり、メルカッツさんは残存の12000を率いてアスターテ・ヴァンフリートの駐留艦隊と合流すべく出立した。
 アスターテにはケンプ、ワーレンの8000と、ホフマイスターさんの3000。
 ヴァンフリートはケスラーの2500。

 ホーウッドの艦隊はルッツの奮戦で12000ほどに減少しているらしいので、万が一遭遇したとしても勝てるだろう。

 そして、ローエングラム・ブラウンシュバイク両艦隊の逃げ支度も完了した。
 もっとも僕らの艦隊は合流前にある程度準備していたのであるが。




 先行するのはローエングラム艦隊23000。
 アップルトン、アル・サレム艦隊に、ビュコック艦隊、ルッツの戦死したホーウッド艦隊も含めれば実に総計65000の叛乱軍を相手にしたといっていい。
 それで初期に50000だったのが、33000も残っているのだからとんでもない。
 対する叛乱軍は半数以上をうしなっているのだ。

 そして殿は僕らである。
 数は32000。
 殆ど戦闘をしていないし、こんなもんであろう。




 古来より困難極まるとされる撤退戦だが、オーベルシュタインの策が功を奏し、僕らは無事イゼルローンに帰還した。
 途中、先行したローエングラム艦隊とホーウッドの艦隊が偶発的に遭遇、色々溜まっていた諸将が鬱憤晴らしとばかりに奮戦し一蹴するというハプニングもあったが、概ね予定通りであった。



[25829] 19話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/19 19:12
 オーディンに帰還したころには10月になっていた。

 伯父上に笑顔で迎えられ、褒められた。
 大変な喜びようである、どうかしたのだろうか?

 ちなみに僕も大変喜ばしい。
 なんとあのラインハルトがいまだに昏睡中である。
 ブリュンヒルド付属の軍医に匙を投げられ、オーディン帰還と共に帝国病院に担ぎ込まれたのだ。
 うん、そのまま死んでくれ。

 伯父上から戦勝パーティーを開くとの旨、皆に確認をとったところ全員参加と相成った。
 もっとも、オフレッサー装甲擲弾兵総監は部下に仕事を滞納していると、5人がかりで引きづられていってしまったが。




「リヒテンラーデ閣下、いかがいたします?」

「ゲルラッハか、よもや金髪の孺子が倒れるとはな……」

「ローエングラム元帥の配下の者たちでは、フレーゲル男爵の相手は務まりますまい」

「ここでエルウィン・ヨーゼフ殿下を擁立しても、即座に皇孫を娘に持つ二人に追われるだけか」

「はい」

「……やむを得ぬ。ブラウンシュバイク公に連絡を取る」

「では、エリザベート様で?」

「そうだ。が、手を結ぶのはリッテンハイム侯を排除するまで、その後はフレーゲル男爵を利用し排除する形になる。そうなればエリザベート様でも外戚問題はなくなる」

「あの二人の仲を裂けますでしょうか?」

「フレーゲル男爵からブラウンシュバイク公を裏切ることはあるまい。が、男爵を必要以上に優遇すれば公は勝手に猜疑心に陥ってくれるだろう。そうなれば進退をかけて男爵は動かざるを得まい」

「そううまくいくでしょうか?」

「いかせるのだ、帝国の未来が我らの手に懸かっているのだから」




 戦勝パーティーの途中で伯父上が退出し、そのまま戻ってこなかったのだが、その理由が翌日判明した。

 なんと従妹のエリザベートちゃんが次の皇帝に決まったからである。

 うん、もう原作展開なんて忘れてたから誰が皇帝になるかなんて興味なかったけど、こうなると……どうなるんだ?
 ラインハルトがいないからリップシュタットは起きないわけだが、さて?

 アンスバッハさんがめでたきことですと、僕に教えてくれたのだが、申し訳ないことに殆ど上の空だった。




 そして、新皇帝即位となったわけだが、原作でというかアニメや漫画でかわいくないガキが玉座に座ってるのもシュールなもんだったが、お人形さんみたいなエリザベートちゃんがちょこんと玉座に座っているのも、

また妙なものだった。

 僕がそんな感想を抱いていると、宰相となった伯父上に名前を呼ばれる。
 なんかしたっけ?

「ヨヒアム・フォン・フレーゲル伯爵。そなたを元帥とし、新たな宇宙艦隊司令長官に任ずる!」

 おおー、フレーゲル伯爵すげー。
 っていうか、僕か。
 一個飛ばしで伯爵かよ。
 あと宇宙艦隊司令長官とか、原作でも思ったけどミュッケンベルガーのおっさんどうなったんだろ?

 ははー、と跪きながらもそんなどうでもいいことを考えていた。

 なお、先の同盟領侵攻作戦の功績で、ファーレンハイトさんは上級大将に、双璧が大将へと昇進した。
 それ以外の艦隊司令は据え置きとなったが、シュトライトさん、シューマッハさん、オーベルシュタイン、フェルナーくんら僕のところの幕僚は階級を一つ上げていた。




 そしてこの日もパーティーである。

 伯父上は仕事の都合上出席できなかったので、名目は僕の伯爵やら元帥やら司令長官やらの就任祝いみたいなものだ。

「シュトライト少将、なんか参加者少なくない?」

 ようやく人ごみから開放された僕は近くにいたシュトライトさんに尋ねる。
 確実に前日のパーティーより人が少ない。

 にぎやかさは、オフレッサーのおっさんが前日最後まで参加できなかった腹いせに、幹部を引き連れ参加しているので大変にぎやかしいのだが。
 もしや、それが原因か?

 と思ったが、違うらしい。

 どうも、僕の昇進やら何やらでエリザベートちゃんとの婚約を囁かれていた連中が、多数リッテンハイムに鞍替えしたらしい。
 というと、僕が原作のラインハルトの場所にいるわけか?

 まあ、どうせ門閥貴族なんて烏合の衆だし楽勝か。




 とまあ、懲りない僕はこの後ファーレンハイトさんとオーディンの飲み屋に繰り出した。
 無論、僕のおごりで。




「遅かったじゃないか、ミッターマイヤー」

「五分も遅れていないだろう、ロイエンタール」

「で、どうだった?」

「回復は神のみぞ知る、と言ったところだそうだ。あの藪医者の話では原因不明の病らしい、グリューネワルト伯爵夫人も大変心配しておられた」

「そう、か……」

「……」

「メックリンガーは早速今日のフレーゲルの昇進祝いに出向いたぞ。ケンプ、ワーレンもそれに倣うだろう」

「……」

「ビッテンフェルトはローエングラム伯を尊敬していたからな。とはいえ奴も軍人だ、フレーゲルに従わざるをえん」

「俺は、フレーゲルは好かん! だが、俺は帝国軍人であり、艦隊を預かる提督として軍令には従う!」

「そうだ、それでこそミッターマイヤーだ。そこが卿の限界でもある」

「っ! ロイエンタール、まさか?」

「……そうだな、卿は自分がファーレンハイトに劣ると思うか?」

「? いや、百戦して百勝できるとは言わんが、劣っているとは思わん」

「うん、俺もだ。しかし、この先卿も俺もファーレンハイトの下につくことになる。それが気に入らない」

「しかし、それは……」

「うむ、実に勝手な言い分だ。そして俺たちにはファーレンハイトの上、もしくは同格となる機会は用意されていた」

「……そう、だな」

「が、俺たちはローエングラム伯に夢を見た。いや、これは俺だけかもしれんが」

「いや、俺もあの人に託したものはあった」

「そうか。しかし、彼は夢半ばで舞台を降りた。次の幕には間に合うまい。であれば、俺の矜持を示すのはこの場においてしかあるまい!」

「リッテンハイム侯の治世を予想できても、行くのか?」

「戦功しだいでは、俺が奴の娘の伴侶となる可能性もありうる。そう悪いようにはせんさ」

「……もう、決めたのか?」

「ああ。それと、もう一つ大事な事があった」

「?」

「一度、卿と本気で戦ってみたかった」

「っ!」

「友として会うのはこれが最後だな。次は戦場で会おう、ミッターマイヤー」




「……ロイエンタールの馬鹿野郎」




「あの二人に大変な評価をされたファーレンハイトさん、一言どうぞ」

「よろしい、本懐である」

 ちょ、おまっ!



[25829] 20話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/22 17:39
 そんなわけでロイエンタールがリッテンハイム側に組した。

 とはいってもリッテンハイムに組したロイエンタールを僕がどうこうできるわけでもない。
 ファーレンハイトさんも笑いながら飲んでいたので特に何もしなかった。

 まあ、この時のことをオーベルシュタインに知らせておけば、と僕は死ぬほど後悔することになるのだが。




 翌日、僕は宇宙艦隊司令部で戦力のチェック。
 リップシュタット戦役はなくなったが、これまでの流れからそれに類する事件がおこると思ったからだ。

 とりあえずこの間の侵攻作戦で失った戦力の再編である。
 参加したのは正規軍60000と貴族の私兵が70000、だいたい損失が20000と30000。

 実はこんなもんだと、艦艇の補充は問題なかったりする。
 特に今は新造艦の建艦ラッシュで、被害に目をつぶればいい入れ替えの機会になっていたりする。

 兵員の補充のほうがはるかに大変で、戦死者およそ800万人。
 正規軍が200万ほどで、残りは貴族の私兵である。
 基本的に必要の無い従卒や従者などを余分に乗せているので、倍ぐらい余計に死んでいる。

 まあ、私兵分は自分のところ以外はどうでもいいや。

 正規軍の再編成である。
 常備120000から20000ほど減少しているが、予備役を招集するほどでもないだろう。
 真っ先にやっておくことはローエングラム元帥府の戦力解体である。

 うーんと、各提督の艦隊は後回しでいいや。
 先にラインハルトの艦隊を解体しよう。

 しかし、この旗艦どうするか。
 無茶苦茶目立つから乗りたくないしなあ……




 そんなこんなで終業時間、今日もファーレンハイトさんと飲みに行こうと誘う。
 が、断られる。
 最近ちょくちょくこんな風に奢ると言っても乗ってこない事が多い。
 多分、給料が増えたから僕の顔を見ずに飲みたい日もあるのだろうと、僕もたまには親友アルフレットのとこにでも顔を出すことにした。

 そこで知る驚愕の事実!

 なんとファーレンハイトさんはマリーンドルフさん家にお呼ばれしているらしい。
 親友アルフレットの言うには、先のカストロプ動乱の際に捕まっていたマリーンドルフ伯を救出したのが切っ掛けらしい。

 カストロプからの帰還するまでの間に、すっかりファーレンハイトさんを気にいったマリーンドルフ伯は、オーディンに帰還したその日の夜から頻繁に家に招待するようになったそうだ。
 いいネタを手に入れた、早速明日ファーレンハイトさんをからかうとしよう。
 僕は親友アルフレットのポエムを聞きながら、どうやってぎゃふんと言わせるか考えるのであった。




「きのうはおたのしみでしたね」

 と、僕が出仕したファーレンハイトさんにニヤニヤしながら言うと、一瞬表情を凍らせるものの、

「フフン、羨ましかろう?」

 と、ドヤ顔で返された。

 ぐぬぬ……




 さて、昨日の続きということで、伯父上の元帥府を含めて艦艇を配置しなければ、と長官室まで歩いているとたまたますれ違ったワーレンに親の敵でも見るかのように睨まれた。

 ええー、僕何かした?

 その理由は長官室で判明する。
 なんと、ケンプとワーレンがリッテンハイム侯の戦闘技術顧問になっていた。

 ……ロイエンタールの野郎、ケンプとワーレン引っこ抜いていきやがった!

 あの時、二人もメックリンガーに倣うだろうとか言ってたんで油断した。
 ミッターマイヤーはともかく、あいつ絶対僕らに気づいてたに違いない。

 まあ、ケンプは分かる。
 あの人かなり上昇志向強いし、ファーレンハイトさんの下風にいていいのか? とか言ったんだろう。
 だが、ワーレンはなんで? しかもあんなに感情をむき出しにして。

 後で分かったのだが、ルッツの死因が僕で、同盟侵攻時に僕の機嫌を損ねたせいで謀殺されたと告げたらしい。
 オーベルシュタインじゃないんだから、僕がやったなんて信じるなよワーレン。

 ロイエンタールめ……




 と、ロイエンタールにケンプとワーレンを持ってかれたわけだが、ミッターマイヤーにケスラー、ビッテンフェルトは残っているのでよしとする。

 名目上、帝国軍を掌握した僕はさっそく周囲をブラウンシュバイク派閥に変更していく。
 一応、ミュッケンベルガーのおっさんから委譲された形になっているので、ラインハルトのようなカリスマ不在の僕でも反発は殆ど無い。
 そのおっさんは伯父上から爵位をもらい、政争横目に悠々隠居生活である。

 羨ましい。




 うう、思考がそれた、対リッテンハイム戦を考えねば。

 とりあえず、ファーレンハイトさんを主軸に艦隊を再編する。
 もとのブラウンシュバイク元帥府は新たにゼークトのヒゲおやじを指揮官に迎え、シュトライトさんとシューマッハさんに任せる。

 真っ先に仲間になりに来たメックリンガーは幕僚総監として迎える。
 このときオーベルシュタインが反対しなかったのが気になった。
 そのオーベルシュタインは参謀長に、原作通り部下としてフェルナーくんを配置。
 このときオーベルシュタインは中将に昇進させた。
 格下に指図されるとビッテンフェルトとかが反発しそうだったから、同格にしておけば問題なかろうという配慮である。

 艦隊司令には原作でラインハルトが重用した面子を集める。
 アイゼナッハ、シュタインメッツ、ミュラー、レンネンカンプといった感じである。
 これに残ったミッタマイヤー、ケスラー、ビッテンフェルトを加えると、なんか普通に勝てそうな気になってきた。

 内訳は、
 ブラウンシュバイク艦隊:20000 ゼークト上級大将
 ファーレンハイト艦隊 :20000 ファーレンハイト上級大将
 ミッターマイヤー艦隊 :15000 ミッターマイヤー大将
 アイゼナッハ艦隊   :10000 アイゼナッハ中将
 ケスラー艦隊     :10000 ケスラー中将
 シュタインメッツ艦隊 :10000 シュタインメッツ中将
 ビッテンフェルト艦隊 :10000 ビッテンフェルト中将
 ミュラー艦隊     :10000 ミュラー中将
 レンネンカンプ艦隊  :10000 レンネンカンプ中将
 以上である。

 伯父上の私兵と帝国正規軍を併せ、115000の大兵力である。
 そう考えれば、ロイエンタールにケンプ、ワーレンがいるリッテンハイム側は大体7、80000ぐらいなんで、楽勝とはいかんが普通に勝てそうじゃないか?

 うん、軍は何とかなったと思う。

 今度はアンスバッハさんに頼んで貴族連中の動向を調べてもらう。

 数日中に情報が届いた。流石仕事が速い。
 大小4000ぐらいの貴族のうち、リッテンハイム側に1200前後、こちら側に600ほど。
 残る半分は中立だ。

 あちら側についた貴族で知っているのはロイエンタールぐらいか。
 こちらというと、リヒテンラーデ侯にゲルラッハ子爵、親友アルフレットのランズベルク伯。
 中立と思ったマリーンドルフ伯もこちら側だったのが意外である。ファーレンハイトさんがらみかな?

 中立のは知ってる名前はないなあ。
 ファーレンハイトさんも、連中は勝った方になびくから無視してもよかろうとか言ってるし問題ないだろう。




『ローエングラム伯が倒れただけで我々が離散したように、フレーゲルが死ねばあちらの結束は簡単に崩れる』




 しかし、僕はアホか。
 宇宙艦隊司令長官になった時、ラインハルトの立ち位置と認識したのにこの様である。

 ロイエンタールが暗殺用に特殊部隊送ってきやがった。
 オーベルシュタインの機転で、オフレッサーのおっさんたちが護衛にいなかったら普通に死んでたぞ。

 くそ、許さん。

 僕は用意しておいたエチケット袋をしまいながら、口元を拭う。
 改めて、ロイエンタールをブチ殺す決意を固めるのだった。




 そして、この事件に僕以上にブチ切れたのが伯父上。

 宰相の権限をフルに活用して一晩でリッテンハイム侯討伐の根回しを終わらせた。
 といっても、副宰相のリヒテンラーデと共に、軍務尚書エーレンベルクと統帥本部総長シュタインホフに圧力をかけただけだが。
 それでもその翌日にリッテンハイムらを拘束すべく、軍が動いたのだから問題ないのだろう。

 なのだが、見事に空振り。
 リッテンハイム派の貴族は、ロイエンタールの指示で所領に戻っており、リッテンハイムもその例外ではなった。
 どうも、本格的にロイエンタールが暗躍しているようだ。
 あの野郎、両陣営が本格的に準備を終える前に事を起こして、状況を混乱させようとしているらしい。

 そして何故か不明だが、混乱の最中に僕を殺すことでブラウンシュバイク・リヒテンラーデ陣営を瓦解させるということだ。
 他はともかく、ここが分からん。
 死んで陣営が瓦解するとなれば、普通伯父上かエリザベート陛下ちゃんだろ。

 とまあ一部理解できないところがあるものの、オーベルシュタインが大体先読み・解説してくれるので、実に助かる。




 さて、逃げたリッテンハイムたちは私兵と共にキフォイザー星系に集結、正義派諸侯軍を名乗った。
 正直、展開が速すぎて僕はそちらの方まで手をまわす余裕は無かった。
 オーベルシュタインの手回しで、ゼークトのヒゲおやじの艦隊がアルテナ星系のほうで艦隊訓練してなかったら領地がやばかったかも。

 つーか、まだ年が明けててないよ。
 12月だよ、展開速すぎだよ!

 しかも正義派諸侯軍の総司令官はメルカッツ上級大将。
 ロイエンタールは副司令兼参謀長らしい。

 うん、メルカッツさんは原作だと伯父上に脅されてたから、問題ないと思ってなんもしてなかった。
 これでケンプとワーレンもあっちだからなあ。




 帝国暦487年、12月19日。
 宇宙艦隊司令長官である僕に、リッテンハイム侯ら賊軍の討伐令が発せられた。



[25829] 21話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/22 17:38
 さあ、ロイエンタール抹殺会議の始まりである。

 参加者は僕に、なにやらマリーンドルフに姓が変わりそうなアーダルベルトさん、司会担当のオーベルシュタインにフェルナーくんとメックリンガーさん。
 それにミッターマイヤーを筆頭に、アイゼナッハ、ケスラー、シュタインメッツ、ビッテンフェルト、ミュラー、レンネンカンプの各提督。
 他にはモルト中将に、ホフマイスターさんやバイエルラインなんかの各艦隊の幕僚などが揃っている。

 討伐対象はウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世。
 およびそれに与した大小1200ほどの貴族たちと、叛乱に参加した将兵である。
 まあ、僕の一番の抹殺対象はロイエンタールなわけだが。

 会議というが、さほど複雑なわけではない。
 要は賊軍70000をガルミッシュ要塞に封じ込めつつ、キフォイザー星系を包囲し戦力差で押し潰してしまおうというわけだ。

 ただ、原作と違って要塞内で自爆してくれるわけではないので、レンテンベルク要塞のように粘られるとちょっと面倒臭いねというぐらいのものだ。
 オフレッサーのおっさんはこちら側だし、それも大した問題ではない。

 問題はメルカッツさんにロイエンタール、ケンプ、ワーレンの指揮で戦闘が長引く場合である。




 原作でリップシュタットの盟約に参加した3740名の貴族であるが、こちらについたのが約600名、あちらについたのがおよそ1200名。
 残る2000名ぐらいが中立である。
 僕なんかは完全に分かれると思っていたのだが、多くの貴族は日和見しているわけである。

 アンスバッハさんの話では、派閥で見れば中立のうち7割ほどが伯父上よりの貴族であるが、今回の事件に関しては動きを見せないとのことである。

 その理由もオーベルシュタインが解説してくれた。

 またしても原因は僕だった。
 リッテンハイム侯はなんとか戦力を掻き集めたものの、実質正規軍を掌握する伯父上のほうが優勢である。
 故に伯父上側で参戦しても戦功を上げれないと中立を宣言しているようなのだ。
 ただ、賊軍には与しないよという誓紙を伯父上に提出しているので、伯父上も不機嫌ながら連中の不義理を許しているらしい。

 まあ、変に突っ込むとあっちに付きそうだしなあ。

 さてこの連中、本来の狙いは僕の苦戦である。
 正規軍を掌握したとはいえ、先の侵攻作戦の損害も回復しておらず、メルカッツさんやロイエンタールが持っていった分を考えれば、こちらに与した貴族の私兵を含めても倍に届かない。
 そのうえ、ゼークト艦隊をガイエスブルクに駐屯させているので、ここオーディンにある僕が動かせる戦力は100000ほどだ。
 数では勝るが、あの面子に防戦に徹されたら苦戦は免れないだろう。

 貴族連中がそれを分かっているかは不明だが、つまるところ僕が苦戦しているところに颯爽と参戦し戦功を頂くということを狙っているようだ。
 また、賊軍が優勢になったら反旗を翻し、リッテンハイム側につくという一石二鳥も考えているらしい。

 つまり、僕はこの賊軍討伐で苦戦することは許されないということである。

 マジか。




 オーベルシュタインが諸将に、本人立案の賊軍討伐の作戦を淡々と解説していくなか、僕は無い知恵を絞ってどうにか短期決戦で終わらせる方法を考えていた。

 このオーベルシュタインの作戦では賊軍討伐までに三ヶ月から半年ほどかかることを想定している。
 賊軍を挑発しつつ各個撃破し、最終的に参戦した日和見貴族どもを盾に強引に要塞を落とす流れだ。

 が、相手はあのメルカッツさんとロイエンタール。
 うまく挑発に乗ってくるだろうか?

 原作だとオーディンの留守番はモルト中将と三万の兵だったが、ここではそういうわけにもいかないのでケスラーとレンネンカンプの艦隊が留守番である。
 二人とも少々不満顔である。
 が、今一強いイメージが無いのである、この二人。
 ケスラーは憲兵総監で、レンネンカンプはヤンにしてやられた記憶しかない。
 まあ、ただ留守番というのもあれなので、勝利した暁には二人とも大将への昇進を約束する。

 そもそも裏を衝かれなければいいわけで、ミッターマイヤーとシュタインメッツの艦隊を別ルートでキフォイザーへと向かわせる。

 そしたら、

「よろしいのか? 司令長官も私が賊軍のロイエンタールと友誼があることはご存知のはずだが」

 とか寝ぼけたことを仰った。
 オーベルシュタインがギラリと義眼に鈍い光を点す。怖いよ。

「問題ない。ミッターマイヤー大将が軍令に背くことは無いと確信している。別働隊の指揮を任せる」

 原作を知っていればミッターマイヤーが裏切る事がないのは自明の理である。
 僕がそう言うと、彼は複雑そうな顔で了承した。

 で、最後に実質的にアーダルベルトさんが指揮を執る、僕の本隊がキフォイザーを目指すわけだ。
 途中での戦闘が無ければシャンタウ星系でミッターマイヤーの別働隊と合流、キフォイザーのガルミッシュ要塞で決戦である。
 ゼークトのヒゲが合流してくれれば相当有利なのだが、イゼルローンの轍があるから果たしてガイエスブルクから出てくるかなあ。
 そのへんはシュトライトさんとシューマッハさんに期待するしかないか。

 という感じで作戦は決まった。




 12月26日、オーディンを出征。

 12月29日、フレイア星系のレンテンベルク要塞に到着。

 いい事思いついた僕は、アーダルベルトさんとオーベルシュタインを呼んで相談。
 アーダルベルトさんは笑いながら、オーベルシュタインは相変わらず良く分からない表情で肯定の意を示す。

 よし、二人がいいと言ってくれれば成功したも確実である。
 早速、実行に移すことにした。




『賊軍に告ぐ。貴様らに帝国貴族としての矜持が残っているのであれば、正々堂々私との決戦に応じよ! 繰り返す、賊軍に……』





「早速してやられたな、ロイエンタール。貴族どもはフレーゲルの挑発に怒髪天を衝く勢いだ」

「うむ、メルカッツ総司令が盟主を諌めているが……まあ、意味があるまい」

「どうする? 当初の予定ではここで打撃を与え、中立の連中をこちらに引き込むはずだが」

「いや、フレーゲルの挑発に乗る」

「というと?」

「戦場であいつを殺せば、こちらの勝ちだ。あちらとしても長引くのは不本意だろうが、こちらとしても長期戦はその後に影響が出るからな。ここで一気に勝負に出る」

「偶然、両方の利害が一致したわけか? これがフレーゲルの策だとしたら……厄介な話に巻き込んでくれる」

「勝てば良いのさ、ケンプ。それに、フレーゲルの策ということはあるまい。策だとしたら例のオーベルシュタインとかいう男だろう」

「ほう。たしか先の撤退を立案したとかの?」

「そうだ。フレーゲル自身は無能ではないが平凡な男だ。が、人を見抜く才に長けている。おそらく一目で対象をある程度まで把握できるはずだ……最早異能に近いな」

「それで、よく敵対する気になったな。それならばフレーゲルの元でも出世は望めるわけだろう?」

「簡単な話だ。それだとファーレンハイトの上にはいけん。奴も門閥貴族の常で身内に甘い、俺がファーレンハイトより優れているとしても奴が頭角を伸ばす前からの側近の上には置かんだろう」

「要はファーレンハイトの下につきたくないということか? くそ、やはり貧乏くじか。そうなるとルッツの話もウソか?」

「さあな、それは知らん。さっきも言ったが、勝てば良いのさ」

「……それしかないということか。となれば、別働隊と合流する前に叩きたいところであるが」

「ミッターマイヤーが遅れることはありえん。が、先にシャンタウに陣取れば各個撃破……いや、私兵連中にそこまで期待するのは無駄だな。ワーレンに15000ほど指揮させて足止めに徹するの限界か」

「それでようやく数で互角か、練度を考えると頭が痛い」

「長期戦でも同じように出てくる問題だ。ぼろが出る前にけりをつけるしかあるまい」




 見事、僕の策は成功した。

 罵られた賊軍の貴族たちは盟主と共にガルミッシュ要塞を出立したと偵察艦隊から連絡が入る。

 その戦力、実に70000。
 全力出撃である。

 あれ? オーディンに20000、別働隊に25000。
 今、本隊55000?

 なんかやばくね?




 やばかった。

 ミッターマイヤーの別働隊は本隊と同時にシャンタウ星系に到着してくれたのだが、ルートが違うのでまだ合流していない。
 賊軍はそれを見越していたのか、15000ほどの艦隊を別働隊の押さえに当て、残る全軍でこちらに突っ込んできたのである。

 アーダルベルトさんは歓喜の笑みを浮かべ、オーベルシュタインは相変わらずの無表情。
 対する僕は、半分意識を飛ばしかけながら提督席に座っていた。

 つーか、賊軍強くね?
 いや、原作でもメルカッツさんとアーダルベルトさん指揮の部隊は普通に強かった。
 指揮官がよければ練度はさほど問題にならないということなのか?
 ……あー、ヤン艦隊もそんな感じだった気もする。
 そういや、獅子に率いられた羊の群れ云々という話もあるしなあ。

 そんなどうでもいい事を考えているうちに二時間ほど経過していた。

 今のところ五分五分。

 ミッターマイヤーの別働隊は優勢だが突破までは至っていない。

 だんだん乱戦気味になってきたし、例の戦法の出番かな?

 装甲擲弾兵吶喊のお時間である。

 本来、ラインハルトをぶっ殺すために考えていた戦法であるが、先の同盟領侵攻時にも有効だったため、僕的には必殺技みたいなもんである。
 お、ついにワルキューレの戦闘範囲に敵旗艦を含んだ艦隊が入ったか?

 数こそこの場ではほぼ同数だが、ほぼ正規兵で構成されるこちらは相手に比べて有利な点がある。
 貴族の私兵に空母は殆ど無い。
 よってワルキューレが縦横無尽する乱戦で優位に立てるのだ。

 そしてオフレッサーのおっさん率いる装甲擲弾兵はこちら側である。
 ゆえに艦載機の支援のもと、揚陸艦の敵旗艦強行突入が可能になるのだ。




『ケンプ提督、戦死!』

「なにっ? 詳しく話せ!」

『はっ、オフレッサー上級大将率いる装甲擲弾兵に突入され戦死なさいました』

「ちぃ、あの時の作戦か。聞いた時には石器時代の勇者のよい活用法と感心したものだが、確かに突入されたらあの男を止めようが無いな……」




 よし、賊軍の一部が崩れた。
 オフレッサーのおっさんからの通信(音声のみ)後、指揮官のケンプが死んだので艦隊運動が一気に適当になった。
 どうもこの戦法、ラインハルトの首を上げるためだけに考えていたから気づかなかったのだが、指揮官と共に旗艦の幕僚陣もミンチになるため、分艦隊の指揮官が優秀じゃないとそのまま艦隊が崩壊する利点があった。
 特に今回は貴族の私兵なのでそれが顕著である。

 ふふふ、次はロイエンタール貴様の番だ。

 ミッターマイヤーの別働隊もそろそろけりがつく。
 死ね、ロイエンタール! オフレッサーのおっさんに首を刈られて死んでしまえ!




『オフレッサー上級大将、戦死!』




 な・に・が・お・き・た!



[25829] 22話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/27 09:12
『総監、敵指揮官いまだ発見できず!』

「ちっ、逃げられたか」

『おかげ様でな』

「ほう、ロイエンタールか。わざわざ生存報告ご苦労なことだ」

『俺も忙しいのでな、貴様のごとき野蛮人の相手などしてはおれん。これ以上貴様に暴れられるわけにはいかんのでな、ここで死んでもらう』

「ふん……まあ、先にヴァルハラで待っていてやろう」

『撃て』




(この半年、実に充実していた……悪くない。感謝するぞ、小僧)




 オ、オフ、オフレッサー……死んだ?

 マジか?

 ロイエンタールの旗艦が吹っ飛んで、入ったのがオフレッサーのおっさんの戦死報告。
 訳がわからねえってレベルじゃないぞ?

 僕が衝撃のあまり、提督席で金魚のように口をパクパクさせていると、

「総司令官、オフレッサー上級大将は戦死されました」

 オ、オーベルシュタイン、殺しても死ぬような人じゃないぞ? あのおっさん。

「おそらく旗艦を囮にしたのでしょう。が、準備不足ですな。メルカッツ提督の本隊が前に出てきます」

 メックリンガーさん、すごく冷静ですね? それに戦況報告されても困っちゃいますよ?

「敵は混乱している、千載一遇の好機だ。オフレッサーの仇を取るぞ?」

 ……アーダルベルトさん。

 僕は混乱しながらも頷いた。

「うむ。ビッテンフェルト艦隊に知らせ! 『前進し、前進し、前進せよ』!」




『メルカッツ艦隊、前に出ます!』

「なんだと!」

「どうも盟主の指示のようで……」

「ええい、盟主が! ほんの五分も堪えられんか! 旗艦を移したことを伝えろ。今更戻してもどうにもならん、この勢いに乗じてフレーゲルの首を取るしかあるまい」

『ロイエンタール提督、前線が!』

「今度は何だ! っ、黒色槍騎兵艦隊……ここであの猪か!」

『メルカッツ艦隊と接触!』

「支援は、間に合わんか……」




 僕が半分くらい放心している間にも戦闘は続く。

 オフレッサーのおっさんが戦死した直後に発生した敵艦隊の乱れは、多分致命的なものになったはずだ。
 現に、前進する黒色槍騎兵艦隊を止められないでいる。

 ビッテンフェルトは原作だと散々なイメージもあるが、一定時間ならロイエンタールも勝てないと太鼓判を押す強力な攻撃力を持っている。
 というわけで、アーダルベルトさんと相談した結果、最後の一撃か戦況を決めるタイミングで使おうと決まったのである。
 なので今まで最後尾でようやく参戦したのだ。

 つーか、ほんとに強いなあ。
 いくら殆ど貴族の私兵とはいえ、あのメルカッツさんの艦隊が溶けるように無くなっていく。
 勿論被害が無いわけじゃない。
 が、一隻落とされる間に二隻、三隻落とし返すバカげた攻撃力だ。

 その攻撃で開いた穴を、アイゼナッハ艦隊がじわじわと広げる。
 うん、地味だけどこういう仕事はアイゼナッハの得意技ではないかな。

 そして目立たぬながら、個人的に殊勲はミュラー。
 ずっと最前線でケンプ、ロイエンタールの攻撃を受け止めてくれていたのである。

『メルカッツ艦隊旗艦、ネルトリンゲン轟沈!』

『ミッターマイヤー艦隊、敵別働隊を突破! 敵後方に接近します!』

 ……よし、勝った。

 勝ったよ、オフレッサーのおっさん……




「負け、か」

「ロイエンタール提督……」

「オフレッサー一人にしてやられた、ということだな。イゼルローン、アルレスハイム、そしてここシャンタウで。奴は斧一本で戦局を変えたのか。……いつの時代であろうと、勇者は勇者、か」

「突出した一個人の武勇が戦略戦術をもひっくり返す、と」

「ちっ、認めたくないものだがな! 残存兵力を再編するぞ、包囲網を完成される前にここを突破する!」




 ついにオストマルクが逃げ出した。

 無論逃がすつもりは無い。
 のだが、ロイエンタールがしぶとい。

 巧みな艦隊運動でオストマルクがいつの間にかに包囲の外に。
 その代わりに残存艦隊の半数以上を包囲に取り込めたわけだけど。

 ロイエンタールは旗艦を変えたから、包囲に囲めたかはわからんなあ。

 逃げられたか?

 わからないなあ、逃したリッテンハイムも惜しいが、包囲した20000を殲滅することにする。

 運が良ければおっさんの仇を取れるかもしれん。




「逃げ出せたのは、一万ほどか?」

「はっ、盟主も無事脱出したとの事です。ですが、ワーレン提督は殿となって……」

「……そうか、ワーレンにも悪いことをしたな。周囲の離散した艦艇を集めつつガルミッシュ要塞に戻るぞ」

「はっ」




 包囲した艦隊の中にロイエンタールがいるかもしれないので、念入りに殲滅しているといつの間にやら半日ほど経過していた。

 そのころには抵抗も止んでおり、メックリンガーさんが降伏した者の受け入れを進言してくれた。
 まあ、僕もそれなりに心の整理はついたし、ロイエンタールはともかく一般兵には恨みは無いので許可を出す。

 救出活動にしばし時間をとられたが、アーダルベルトさんもオーベルシュタインも反対しなかったので戦況には問題ないのだろう。
 なお、重傷者の中にワーレンがいた。
 片腕が柱に潰されたとの事だが、運が良ければ助かるとのこと。先に負傷者と一緒にオーディンに送り返そう。

 要塞に向けて出発、というところで連絡艇がやってきた。
 どうも、ゼークトのヒゲがガルミッシュ要塞に向かっているとのこと。

 シュトライトさんかシューマッハさんのどちらかが、うまくあのヒゲを操縦したに違いない。
 オーベルシュタインが色々シカとされてたのはヤンと同じで、上司とコミュニケーションが取れてないのが原因だしなあ。
 というか、この世界の有能な人って上司も有能じゃないと、いまいち実力を発揮できない人が多いよ。
 それでも優秀だからそれなりに出世してるんだけど。

 さて、僕らも要塞に向かうとしよう。
 さっさと始末をつけて、おっさんのお墓を建てなくては。




『ガルミッシュ要塞、ブラウンシュバイク軍に囲まれています!』

「何だと! よもやガイエスブルクの別働隊か!」

(俺は、ここまでなのか? この程度の男であったか?)

「……少々疲れた、自室で休む」

「はっ」




「ロイエンタール提督、おやめくださ……い?」

「どうした、ベルゲングリューン? 俺が死ぬとでも思ったか?」

「……失礼ながら、そう思っておりました」

「ふん。……まあ、正直に言えばどうするか迷っている。勝ち目が薄いのは承知の上、とはいえここまで一方的にしてやられると自信も揺らぐというものだ」

「降伏はされないのですか?」

「流石に門閥貴族の中でもフレーゲル自身が温厚な方とはいえ、オフレッサーを殺しておいてそれは無理だろう。奴に殺されるぐらいならここで死んだほうがましだ」

「では、再起をお考えで?」

「そう、だな。まだ俺の飢えは満たされていない。フレーゲルにファーレンハイト、それにミッターマイヤーとも満足するまで戦ったとはいえん。となると、叛乱軍、いや、自由惑星同盟か」

「しかし、先の侵攻作戦もあります。我々を受け入れるでしょうか?」

「逆だな、あれだけの被害を被ったのだ。軍も民も限界であろう、我らを受け入れねばどうにもなるまい」

「そううまくいきましょうか?」

「この際何年かかっても構うまい。一旦フェザーンに居を据え、黒狐に媚を売るのも視野に入れねばな」

「私もお供しましょう。いろいろ面白い体験ができそうですからな」

「ふん、卿も言うな。後悔せぬことだ」




 僕らがガルミッシュ要塞に着いたときには、要塞は既に陥落していた。

 どうも内部で反乱が起きたらしい。

 なんでも、シャンタウから逃げ出した賊軍は要塞に逃げ込む直前に、ヒゲの別働隊に補足されたとの事。
 真っ先に要塞に逃げ込んだリッテンハイムが、まだ外にいる味方艦隊ごと別働隊に主砲を撃とうとしたのだ。
 それに部下が反対し、その部下を射殺したら司令部で反乱が発生、リッテンハイムはその騒ぎの中死亡するという醜態を晒すこととなった。
 しかも、その最中も別働隊の要塞攻略は行われており、哀れガルミッシュ要塞は原作並みにあっさり陥落した。

 しかし、リッテンハイム。僕が言えたものではないが、マジ人望無かったなー。

 結局、ロイエンタールは見つからなかった。
 生死不明である。

 正直、おっさんが死んで気が抜けたから探すのもメンドイ。
 賞金だけでも懸けとくか。




 帝国暦488年、1月8日。ガルミッシュ要塞陥落。

 勅令から、実に3週間足らずでリッテンハイム事件は終結した。



[25829] 最終話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/28 11:27
 オーディンに帰還した僕は伯父上から大いに褒められた。

 早速、三長官を兼任しようと薦められたが断る。
 粛清フラグは早めに叩き折らねば。

 僕は部下の昇進をお願いし、討伐に参加した将兵は大体一階級昇進した。

 主だったところでは、アーダルベルトさんとゼークトのヒゲが元帥に、ミッターマイヤーが上級大将。
 メックリンガーさんにミュラーとかの諸提督が大将。
 シュトライトさんとシューマッハさんが中将、フェルナーくんは少将となった。
 唯一、生者ではオーベルシュタインのみ二階級特進で上級大将である。

 戦死したオフレッサーのおっさんは帝国元帥に、役職はそのまま装甲擲弾兵総監。
 同じく戦死したおっさんの部下も二階級特進、お墓は公営墓地の一角にまとめることにした。

 おっさんのお墓自体は普通のものだったが、僕の希望で『銀河最強の戦士、ここに眠る』と入れてもらった。




 さて、続いては陰謀のお時間である。

 帰りの最中、オーベルシュタインから粛清の危険性を説かれるまでも無く、僕の立ち位置の微妙さは承知していた。
 過去の歴史を見てもわかるように、いかほどの親族血族が権力を争って殺しあってきたか。
 
 その上、エリザベート陛下ちゃんの婿候補第一位らしいので、他の貴族からの嫉妬がやばいらしい。

 というわけで出る杭が打たれる前に、さっさと頭を引っ込めねば。

 まずは宇宙艦隊司令長官をゼークトのヒゲに譲る。
 その押さえと僕の連絡役にシュトライトさんを起用。

 領地はあえて辺境を貰い、ついでにイゼルローンの指揮権も強請ってみる。

 伯父上はご機嫌だったので、だいたいの要望は通った。
 司令長官を引くと言うのには不思議顔であったが、僕が自分が地位に固執していると伯父上の派閥の人たちに悪い、みたいな事を言っら納得してくれた。
 オーベルシュタインのカンペはすごいなあ。

 こうして、僕はフレーゲル辺境伯となり私兵10000と共にイゼルローンに赴任することとなった。
 同行したのはアーダルベルトさんとオーベルシュタインにメックリンガーさん、シューマッハさんにフェルナーくん。
 ついでに親友アルフレットも同行した。
 なんでも辺境の民の暮らしを詩にしたいとか。




 僕のイゼルローン赴任と共に、シュトックハウゼンともう一人の大将は中央へと栄転していった。
 要塞司令官は僕、フレーゲル元帥。
 駐留艦隊司令官はアーダルベルトさん、ファーレンハイト元帥である。
 駐留艦隊は私兵を合わせて25000。
 私兵といっても最初期からのファーレンハイト艦隊を中心に連れてきたので練度などは問題なかった。

 あと領地に貰った辺境星域の内政官にには、一緒に連れてきたカール・ブラッケとオイゲン・リヒターを起用。
 シルヴァーベルヒには断られた。あとは忘れたのでさそっていない。
 財源はないけど搾取はしないから税収でがんばってね、と下からの改革を目指す二人に丸投げする。

 正直、原作で何がどうなった的なことが無かった気がしていたので、気軽に改革が成功したら他の辺境星域にも施行して良いよと言ったのだが。
 まさか、本当に数年で人口・税収を倍にしてくるとは思わなかった。

 メックリンガーさんは日々の業務の間に辺境星域を視察、暇を見つけては風景画などを描いている。

 親友アルフレットは毎日暇なので、ちょくちょく辺境星域を旅し、しんみりくるポエムを創っていた。




 イゼルローンに拘ったのはオーベルシュタイン。
 理由は不明であるが、オーベルシュタインの言うことに間違いは無いので素直に聞く。

 アーダルベルトさんが言うにはロイエンタールが同盟に亡命した場合、色々と面倒になるとのことだ。
 なるほど、ロイエンタールか。
 メルカッツさんは戦死したので、そのへんのことは一切考えてなかった。

 幸い、その後数年にわたり叛乱軍がイゼルローンに攻め寄せることは無かった。




 あと地球教を思い出したので、オーベルシュタインと対策を練る。

 このまま大きな軍事行動も無ければ、無事天寿をまっとうできるかな~と考えているときに思い出した地球教。
 あの連中、帝国と同盟が平和になるとまずいんだった。

 僕は原作通り連中の本拠地を襲撃するしかないと思っていたのだが、流石オーベルシュタインは格が違った。

 なんと、連中の手先であるルビンスキーのハゲ野郎を巻き込んで、一気に殲滅することを提案してきたのである。
 まあ、実際あのハゲからしても連中は目上の瘤だろうし、うまくいくやもしれん。

 一応最悪を考えて、フェルナーくんに指示し地球教の巡礼者に紛れさせて情報部の人間を派遣し、地球の位置を確認しておく。
 アーダルベルトさんに頼んで高速戦艦中心の機動艦隊5000を即座に展開できるようにする。
 ハゲとの交渉が失敗したときの保険だ。

 幸いにも、ルビンスキーのハゲはこちらの提案に乗ってきた。
 なんだかんだで、あのハゲもうるさい老人どもには辟易していたということだろう。

 その後、ロイエンタール捜索の名目でフェザーンに乗り込み、地球教幹部を一斉に検挙する。
 同時に、本拠地である地球の地下施設もじっくり軌道上から爆撃。
 地球襲撃艦隊は爆撃後も半年ほど軌道上に留まり、脱出者の検挙に務めた。
 帝国、同盟に存在する教徒はルビンスキーの息がかかった人間に、それまでどおり表向きの活動をさせることでテロリストとしての側面をゆっくりと消していく。

 足掛け3年ほどかかったが、ルビンスキーとオーベルシュタインという悪夢のコンビにより、地球教はだいたい無力化された。
 まあ、ルビンスキーのハゲの力が増したのは面倒だが、僕にはあまり関係ないのでよしとする。




 そんなこんなで、僕はイゼルローンでそれなりに平和に過ごしていた。




 帝国暦493年、6月。副宰相リヒテンラーデ侯死去。

 中央で伯父上と暗闘を繰り返していた陰謀家の爺がついに死んだ。
 伯父上を排除すべく、いろいろと策謀を練っていたようだが、結局私有の武力を持っていなかったことと、僕がさっさと辺境に引っ込んだことでだいたい失敗したらしい。
 まあ、伯父上も爺を排除するのに手間取り、あまり国政を好き勝手できなかったようではあるが。

 なんだかんだで爺を死ぬまで排除できなかったのは、リッテンハイム事件が短期で終わってしまったため、権勢を手にしたのが初めに伯父上の味方をした門閥貴族のみだったことに起因する。

 で、伯父上も日和見した連中にはリッテンハイム派から奪った富の分配などしなかったので、潜在的には伯父上派だった連中も爺の誘いにのる場合が多々見られたとの事。

 しかし、なんだかんだで軍は伯父上側であり、私兵も他の連中の私兵とは比べ物にならないほど練度に勝っている。
 結局、爺が武力で伯父上に対抗することは無かった。

 それでも、爺も死ぬまでぼろを出さなかったこともあり、伯父上も中々好き勝手できなかったようである。
 まあ、僕には関係の無い話だが。




 同年、8月。

 アンスバッハさんに呼ばれたので、オーベルシュタインの進言に従い私兵10000を率いてオーディンに帰還。

 理由は不明だったのだが、オーディンについて判明した。

 伯父上が危篤である。




 ……これもオーベルシュタインの仕業だろうか? 正直、怖くて聞けない。




 伯父上は僕にエリザベート陛下ちゃんと結婚し、ブラウンシュバイク家を継ぐように言うとそのまま意識不明に陥った。

 僕は一緒にいたエリザベート陛下ちゃんと共にあわあわと混乱していたのだが、アンスバッハさんとオーベルシュタインが抜かりなく事を進めてくれました。
 そして伯父上はそのまま目覚めることなく、ヴァルハラへと旅立っていった。

 結局、僕の両親のこととか聞かず仕舞いだったけど、伯父上のこと大好きだったよ。
 うん、結構無茶振り振られたりもしたけど、今じゃいい思い出だしね。

 オットー伯父さん、ブラウンシュバイク家のことは任されました。




 翌日、僕はエリザベート陛下ちゃんと結婚し、帝国宰相となった。




 さて、人事である。

 とくに考えることなく、オーベルシュタインを軍務尚書に任命。
 アーダルベルトさんは統帥本部総長に、ゼークトのヒゲは留任。

 国務尚書にマリーンドルフ伯。
 工部尚書にシルヴァーベルヒを任命したら今度はちゃんと来た。
 あとは辺境でちゃんと成果を上げたカール・ブラッケとオイゲン・リヒターをそれぞれ民政尚書、財務尚書とする。
 残りは覚えていないので、マリーンドルフ伯とカール、オイゲンの推薦で残りの尚書を決めた。

 まあ、伯父上の派閥連中は大反対したが。
 反対しなかったのは、身内人事でそれなりのポストを手に入れた昔の取り巻き連中ぐらいか。

 おかげで反乱祭りである。

 というか、意図的にオーベルシュタインがルビンスキーを通じて反乱に誘導しているらしい。

 しかも、ここ5年戦争が無かったもんだから軍の連中も張り切ってる。
 特に平民出身は、出世できて貴族を倒せて二度嬉しいらしい。

 反乱はオーベルシュタインのコントロール下で小規模に多発し、軍功の稼ぎ場となった。
 また、辺境星域の行政改革成功は貴族領内での暴動につながり、自滅する貴族も多く見られるようになる。

 この反乱祭りは3年ほど継続したのだが、大規模な戦闘は起きず、しかも祭りの前には2000以上いた貴族が500以下に減少した結果、帝国の国力は普通に上がったのである。

 そして、叛乱軍はこの期間もイゼルローンに押し寄せることは無かった。




「我が友ヨヒアム、日々忙しそうだね」

「いや、まあ意外とそうでもない」

「というと?」

「宰相というのもこの二言があれば、まあ何とかなるもんで。『その案件はオーベルシュタインと協議して決定するように』と『その案件はオーベルシュタインの裁量に任せる』って言っとけばまず間違いない」




「我が友ヨヒアム、ファーレンハイト元帥とオーベルシュタイン元帥の意見が対立していた場合はどうするんだい?」

「オーベルシュタインを選ぶ」

「ほう?」

「公務ならアーダルベルトも正しいが、オーベルシュタインのほうがより正しい。無論、私事ならアーダルベルトを優先するけど」

           ~アルフレット・フォン・ランズベルクの日記より~





 帝国暦498年。待望の第一子誕生である。

 子供が生まれた翌日、オーベルシュタインが王朝をブラウンシュバイクに変更してはどうかと進言してきた。

 ようやく、オーベルシュタインがいままで協力してくれたことに納得がいった僕は頷いた。




 帝国暦499年、ブラウンシュバイク王朝成立。新帝国暦元年となる。





 新帝国暦15年。

 フェザーンにてブラウンシュバイク朝銀河帝国と新自由惑星同盟の国交正常化式典が執り行われた。

 両国の代表は、帝国宰相ヨヒアム・フォン・フレーゲル公爵と同盟初代大統領ジェシカ・エドワーズ。

 両者が書類にサインを終え、握手を交わすと、式典会場から盛大な拍手が起こった。




 それを会場端で眺めるのは端麗な容姿をそのままに見目麗しく初老の域に達したオスカー・フォン・ロイエンタール。
 新自由惑星同盟で統合作戦本部長ユリアン・グリーンヒル元帥の下で、次長の職務にある。

 かつて、最大の敵と目した男が成し遂げたこの結果を考える。

(まあ、もっとも奴自身はたいした事をしていないのであろうが)

 そう思い、実際にそうであるのだが、ロイエンタールは感慨に耽る。
 そんな彼に、同年代、いや少し老けているであろう頭一つばかり背の低い男が近づく。

「ひさしぶりだ、ロイエンタール」

「ミッターマイヤーか」

 帝国軍教育総監ウォルフガング・ミッターマイヤーは四半世紀ぶりの再会に顔を綻ばす。
 宇宙艦隊司令長官を経て、教育総監に就任したミッターマイヤーはフェザーンから時折伝え聞くかつての親友の名に、一縷の望みを懸けてこの式典に出席したのだ。

 変わらぬ長身の親友に、最近背が縮んだ自身に苦笑する。

「元気か?」

「ああ」

 実に四半世紀の間、顔をあわせていなかった二人であるが、結局その間戦争も無く、恨みやらなにやらも死別することも無く再会を交わした。

「この後、どうだ?」

「卿の奢りか?」

「バカいえ、ワリカンだ」

「ケチになったな。まあ、よかろう」

 一晩で語りきるのは無理であろう二人のこれまでの人生。
 しかし、共に再会することは無いと考えていた嘗てを思えば、これから先時間はいくらでもあるといえるだろう。




 この国交正常化式典がフレーゲルの最後の公務となった。

 帰国後、宰相を引退。
 21年にわたる長期政権に幕を閉じた。

 同時にブラウンシュバイク朝初代皇帝、エリザベート1世も退位。
 息子のフランツに帝位を譲り、リップシュタットの別邸で夫婦生活を営む。

 その後、フレーゲルが天寿を全うするまで両国間で大規模な戦闘は発生せず、後世に『繁栄の半世紀』などと言われる時代に、平凡ではないが平穏な人生を送ることとなる。




 一人の凡人による物語が、英雄たちの伝説を始まることなく銀河の歴史へと埋もれさせた。

 これはそんなお話である。




  ~ 完 ~



[25829] あとがき
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/28 11:46
これにて銀河凡人物語は完結です。

ここまで見ていただき感謝しております。
感想をくださった方々も、最後のほうは返信できませんでしたが非常に励みになりました。

ほとんど一発ネタでしたが、投稿した日が休みだったこともあり感想がつくまでの間に5話分ぐらいストックが溜まったりもしました。
まあ、その日のうちに投稿してしまいましたが。

一話一話が短く、しかも原作崩壊も甚だしかったので正直不安でしたが、思った以上に好評で書いているこちらも結構楽しかったです。

一応、外伝構想もあり、

アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト列伝
ユリアンとジェシカの同盟再建物語
トリューニヒトとロイエンタールが手を組んだようです

などがあったりします。

また、それぞれの話の裏側、キルヒアイスが死ぬところやヤンが死ぬところなども考えてはいましたが、ペース優先で本編に組み込みませんでした。
このあたりを第○話・裏みたいなかんじで書いていくのもありかなーとか思っています。

あと、この人はどうなった? とか疑問に思われたら感想で聞いてくれれば、考えてある限りはお答えします。
外伝とか裏話でも出ない人はかなりいますんで。

最後に、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


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