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[25789] 【ネタ完結】魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:59
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 一度削除した作品ですが、SS捜索掲示板にてお探しの方が居ましたので、再度、投稿させていただきました。
 参照:No.94258 [特定] 魔法少女リリカルなのは ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~

 以下、このSSの主要な注意事項になります。

 ・~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ を書く前に作成したギャグ系のSSです。
  こちらを先に書いたために本編が出来ましたので、所々で似ている箇所があります。
 ・ストーリーは、IFを入れるため、有り得ないことが多数発生します。


 …


 最後に……。

 また、お世話になります。
 読む時も書く時も、非常に重宝しています。
 このサイトを管理運営してくれている管理人さんに感謝を致します。
 本当にありがとうございます。



[25789] 第1話 フェイトさん、やさぐれる
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:51
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 ジュエルシードにより、巨大化してしまった子猫。
 それをデバイスという杖を持って、封印しようとする少女が二人。
 一人は、白い防護服に身を包んだ栗毛の女の子。
 一人は、黒い防護服に身を包んだ金毛の女の子。
 しかし、彼女達は、協力関係にはない。
 今日、会った初対面同士。
 お互いの目的のためにぶつかり合わなければならない定め……。

 そして、埋めることの出来ない経験の差が如実に表れ始める。
 状況は、黒い防護服の女の子が、圧倒的有利で進んだ。
 しかし、魔法を覚えて経験の浅い白い防護服の女の子は、諦めることをしなかった。

 それが引き金になった……。

 白い防護服の女の子の撃った魔法は、強力な砲撃。
 未熟な腕で無理をしたために在らぬ方向に飛んで行く。
 本来なら、当たることのない攻撃。
 しかし、黒い防護服の女の子は、自ら砲撃に当たりに行った。
 その方向に居た彼女の使い魔を身を挺して庇ったのだった。



  第1話 フェイトさん、やさぐれる



 使い魔である十五、六歳の赤毛の少女が、主人である黒い防護服の少女に近づく。
 主人は、気を失っている。
 直ぐ側に立つ木に付着している血……。
 主人の額に流れている血が付着したものだと直ぐに分かった。
 使い魔の少女が、白い防護服の少女を睨みつける。
 白い防護服の女の子は、一言謝りたかったが鋭い視線に言葉を飲み込む。


 「あんた!
  絶対に許さない!」


 使い魔の少女は、主人を抱きかかえるとその場を後にした。
 白い防護服の女の子は、自分のせいで傷ついてしまった黒い防護服の少女に何も言えなかった。
 ショックで、ただ立ち尽くす。
 そして、暫くして我に返ると自分の仕出かしたことに大声をあげて泣き叫んだ。


 …


 黒い防護服の少女達の住処であるマンションに、使い魔の少女は、主を連れて戻る。
 直ぐに出血箇所を止血し、適切な処置を行なう。
 傷は、見た目より浅かったが、ぶつけたところが頭だったので、心配が込み上げる。


 「フェイト……。」


 力なく主の名を呼び、主の目覚めるのを待つ。
 この時点で、気が動転していた彼女の頭には、病院へ連れて行くという考えが抜け落ちてしまっていた。
 使い魔の少女は、主の目覚めを待ち続けた……。


 …


 一時間後……。
 黒い防護服の少女が目を覚ます。
 ゆっくりと上半身を起こすと頭をガシガシと掻く。
 掻いたところの毛が、少しクセを残す。


 「フェイト!」


 目覚めた少女は、三白眼にクマを作った目で、自分の使い魔を見る。


 「…………。」


 何も言わない主に使い魔の少女は、声を掛ける。


 「私のことが分かるかい?」


 主の少女が、ゆっくりと口を開く。


 「バ……。」

 「……バ?」

 「バルス……。」

 「違うよ!
  私は、そんな滅びの呪いみたいな名前じゃないよ!」


 主の少女は、額に手を置き考える。


 「ア……。」

 「そうだよ!
  『ア』から、始まる名前だよ!」

 「アルフィ……。」

 「おしい!
  一文字多い!」


 更に主の少女は考える。


 「……ルフィ。」

 「ゴム人間になっちゃったよ……。
  ・
  ・
  フェイト……。
  本当に私のこと、覚えてないのかい……。」


 主の少女は、頷いた。
 使い魔の少女は、涙目になる。
 主の少女は、そんな使い魔の少女に声を掛ける。


 「ごめん……。
  アルフ……。」

 「しょうがないよ……。
  あれだけ、酷く打ちつけたんだから……。」

 「痛かったよ……。
  アルフ……。」

 「傷は、浅かったから平気だと思うよ。
  ただ頭だから、少し……。
  ・
  ・
  ん? アルフ?
  フェイト!
  私の名前を思い出したんだね!」


 使い魔の少女に笑顔が戻る。


 「バルスだっけ……。」

 「元に戻ってるよ……。」


 使い魔の少女は、項垂れると主の少女を見る。
 しかし、その目と口元に浮かんでいるのは、邪悪な笑み。


 「まさか……。
  ワザと間違えていた……。」


 主の少女は、『フフフ……』と不気味な笑い声を漏らした。
 使い魔の少女は、主の変わり様に言い知れない恐怖を感じた。



[25789] 第2話 やさぐれた理由
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:52
 == 魔法少女リリカルなのは × ルパン三世 ~フェイトと赤いジャケットのおじさん~ ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 主の少女……フェイトに浮かぶ邪悪な笑み。
 使い魔のアルフは、半歩下がって警戒する。


 「あんた……。
  本当にフェイトなのかい?」


 フェイトは、にやりと唇の端を更に吊り上げ、邪悪な笑みを濃くする。


 「あたしは……。
  お前を倒すために地球からやって来たサイヤ人……。
  穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……。
  スーパーサイヤ人……!」

 「それは、どっかの野菜戦士じゃないか!」


 アルフのグーが、フェイトに炸裂した。



  第2話 やさぐれた理由



 フェイトは、殴られた頭を擦る。


 「あ~あ……。
  怪我してる頭を殴っちゃった……。」


 アルフは、ハッとしておろおろする。


 「な~んてね……。
  さっきの砲撃が直撃するぐらいの威力で、
  あたしの頭をぶっ叩かなきゃ大丈夫……。」

 「フェイト……。
  本当に、どうしちゃったんだい?
  目つきも悪くなっちゃったし、
  クマも出来てるよ……。」


 三白眼の目の下に出来たクマが、弥が上にも可憐な少女を邪悪な者に変える。


 「仕方ないよ……。
  あたしは、フェイトであって
  フェイトじゃないんだから……。」


 アルフは、目をパチクリとする。


 「ど、どういうことだい?」


 フェイトは、ガシガシと頭を掻くと、さっきのクセ毛を酷くする。


 「ちょっと、待って……。
  今、スイッチを作るから……。」

 「スイッチ?」


 フェイトは、目を閉じるとパチンと指を弾いた。


 「いいよ……。
  今の指を弾くのがスイッチだから……。」

 「一体、何のスイッチだったんだい?」


 アルフが、首を傾げる。


 「フェイトに記憶の制限を掛けた……。」

 「フェイトは、フェイトだろ?」

 「あたしは、フェイトの擬似人格だよ……。」

 「へ?」

 「フェイトに緊急事態が起きたら、
  勝手に出て来るんだ……。」

 「ちょ……。」


 アルフが、額に手を置いて、フェイトに手で静止を掛ける。


 「さっぱり、分かんないよ……。」

 「うん……。
  それを説明するために、
  フェイトに記憶の制限を掛けたんだ……。
  知れば、ショックを受ける……。
  フェイトには知らされていないから……。
  ・
  ・
  話を聞いてくれる……?」


 アルフは、頷いた。


 「え~とね……。
  フェイトは、人工的に作られた存在なんだ……。」

 「…………。」


 アルフは、言葉を失っている。


 「『プロジェクトF.A.T.E』と呼ばれていた計画で作られたの……。」

 「どうして……。」

 「作られたのは分かるんだけど、
  作った人間の思惑までは分からない……。
  ・
  ・
  でね……。
  フェイトを作った思想は、二つの人間の思想の合作なんだ……。
  あたしは、基礎理論を作った人物の副産物的な存在……。
  フェイトが、脳にダメージを受けた時に、
  脳を修復する間だけ、フェイトを守る存在……。」

 「それで、擬似人格なんだね?」


 別人格のフェイトは、頷いた。


 「ただ……。
  少し今回は、特別……。
  本当は、フェイトが気を失った時点であたしと切り替わって、
  敵を殲滅して消えるはずだったんだけど……。
  ・
  ・
  フェイトが、アルフを庇ったから、
  プログラムにない条件で目覚めちゃった……。
  殲滅する敵を持たない……。
  本来、もっと凶悪で敵を殲滅するまで、
  どんな手を使ってでも戦い続けるのに……。
  あたしを作ったもう一人が、
  別の人間の記憶をフェイトに植え付けたのも良くなかった……。
  その人間が優し過ぎたせいで、
  こんな中途半端な性格で目覚めちゃった……。」

 「なるほど……。
  それは、よく分かったよ。
  ・
  ・
  でも、疑問がある。」

 「何……?」

 「あんたの漫画やアニメのネタは、
  どっから得たものなんだい?
  少なくともフェイトは、私とアニメなんて見てないよ。」

 「アルフは、ネタを知ってたから、
  アニメとか見てたんだね……。
  あたしの知識は、基礎理論を作った人物から……。
  アニメとかから、戦う知識を覚えさせようとして……。」

 「馬鹿じゃないの……。」

 「いいじゃん……。
  あたし、アニメも漫画も好きだよ……。」

 「間違いなくフェイトじゃない……。
  フェイトは、元に戻るのかい?」

 「うん……。
  今、データの修復をしてる……。」

 「データ?」

 「うん……。
  この体、あたしモードになると肉体が活性化するんだ……。
  脳の修復は、大方、終わっているんだけど、
  失われたデータを復元するには、フェイトの判断がいるから……。
  例えば、アルフのご飯を魚にするか肉にするかの優先順位とか……。
  戦闘で攻撃を回避するか受けるかとか……。
  失われたデータが膨大だから、フェイトは、直ぐに出て来れない……。
  特に後者だと、緊急性が高いから優先的に治さなきゃいけないし……。」

 「そうか……。
  じゃあ、暫くフェイトに会えないんだね。」

 「うん……。
  でも、修復が進めば、
  フェイトは、ちょくちょく出て来るよ……。
  データの順位付けが進んで似たようなものが一杯ある時は、
  フェイトは、それの処理待ち状態になるからね……。
  最終的には、それが頻繁に繰り返されるようになるから、
  あたしとフェイトの入れ替わる時間は、
  徐々に逆になっていくと思うよ……。」

 「少し安心したよ……。」

 「まあ、その間は、好きにさせて貰うけど……。」

 「え?」


 アルフが固まる中で、別人格のフェイトは、防護服であるバリアジャケットを解除する。
 そして、元のフェイトの着ていた服を見る。


 「機動性に欠ける……。」


 ポイポイッと服を脱ぐと箪笥を漁る。


 「これがいい……。」


 別人格のフェイトは、黒いシャツと白いパンツを取り出した。
 白いパンツを履いて、黒いシャツを着る。
 シャツは、第二ボタンまで開けている。


 「どう……?」


 「どうって……。
  服替えただけじゃないか。」

 「…………。」


 別人格のフェイトは、舌打ちした。


 「寝る……。」


 別人格のフェイトは、またベッドに寝転がった。


 「これから、どうしよう……。
  兎に角、あのやさぐれたフェイトが
  別人格で安心したよ……。」


 アルフは、頭を掻く。


 「呼び方、分けようかな……。」


 ここから、別人格のフェイトは、やさぐれフェイトで統一する。



[25789] 第3話 やさぐれ初日・昼
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:53
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 アルフが起きてから五時間近くが過ぎ、もうお昼近くになる。


 「あのやさぐれっ子は、
  一体、いつになったら起きるんだい。
  これじゃあ、ジュエルシードを探しに行けないよ。」


 そして、目を擦り寝癖全開で、やさぐれフェイトが現れる。


 「おはよう……。」

 「もう、お昼だよ……。」

 「お風呂入って来る……。」


 やさぐれフェイトは、ダラダラと重い足取りで風呂場の方に消えた。
 アルフは、それを見ると溜息を吐いた。



  第3話 やさぐれ初日・昼



 食パンに噛り付きながら、やさぐれフェイトは、テレビを見ている。
 その後ろでは、アルフが丁寧に髪を梳かしている。


 「ごめんね……。
  召し使いみたいなことさせちゃって……。」

 「いいさ。
  これは、私の役目でもあるから。」

 「フェイトは、いい家族を持ってるね……。」

 「家族……。」

 「うん。
  フェイトは、そう思ってるよ……。」

 「そうかい。」


 アルフは、嬉しそうにやさぐれフェイトの髪をいつものように二つに結う。
 そして、髪を整え終えた時、インターホンが鳴った。


 「何で、この家を訪ねて来る人が居るのさ……。」

 「多分、あたし……。」


 やさぐれフェイトは、食パンを食べ切ると玄関の方へと走って行った。
 そして、数分後、荷物を抱えて戻って来る。


 「何だい? それ?」

 「ノートパソコン……。」

 「へぇ……。
  ・
  ・
  は?」

 「この家、パソコンないから……。」

 「ちょっと、待った~!」


 やさぐれフェイトは、首を傾げる。


 「そんなもんを買うお金が、何処にあるのさ!?
  いや!
  そもそも、どうやって買った!?」

 「ジャパネットたかた……。
  深夜に踊ってた……。
  使わないソフトてんこ盛りのノートパソコン頼んだ……。」

 「お金は!?」

 「その引き出しに入ってた……。」


 アルフは、生活費が入っていた引き出しまで走る。
 そして、中を確認して青ざめる。


 「さ、三百円しか残ってない……。」

 「プロバイダーの契約とか諸々をしたら、
  ちょうど、それぐらいだった……。」

 「明日から、何を食べて生活するのさ!?」

 「アルフのドッグフード……。
  一日七粒ずつ食べる……。
  七粒で十日は、お腹が膨れる……。」

 「ドッグフードは、仙豆じゃないよ!」


 しかし、既にやさぐれフェイトは、箱の開封をしていてアルフの話など聞いていない。
 そして、ノートパソコンのセッティングを始める。


 「……これは、殴っていいのかな?」

 「生活水準を安定させるために
  パソコンは、必需品……。」

 「そのせいで生死の危機に関わりそうだよ……。
  ・
  ・
  ところで、ここの世界の言語なんて読めるのかい?」

 「漫画読むために初期設定されてた……。」

 (この子に罪はない……。
  絶対にこの子の基礎理論を作った馬鹿が元凶だ……。
  ・
  ・
  いつか、シメル……。)


 アルフは、拳を握った。


 …


 三十分後……。
 ノートパソコンで、インターネットの閲覧が可能になる。


 「よし……。」

 「一体、何を見たかったんだい?」


 アルフは、やさぐれフェイトの後ろから、パソコンの画面を覗き込む。


 「犯人探し……。
  フェイトの頭を攻撃した……。」


 アルフの眉が、少し吊り上がる。


 「調べられるのかい?」

 「予想……。
  あの子、まだ魔法を使い慣れていない……。
  きっと、一緒に居たイタチみたいな動物が協力者で、
  あの子に力を与えたと思う……。
  そして、バリアジャケットは、
  魔導師本人のイメージに左右され易い特性から考慮すれば……。」


 やさぐれフェイトの手が、マウスをダブルクリックする。


 「きっと、あの歳で通う学校の制服が近いと思う……。」


 そして、ある学校の制服の画像が映る。


 「私立聖祥大附属小学校……。
  ここが怪しい……。」


 アルフは、唇の端を吊り上げる。


 「さすが、私のご主人様だ……。」

 「やっぱり、現地の情報を知るには、
  現地の情報収集手段を利用するに限る……。」

 「じゃあ、挨拶をしに行こうか。」


 やさぐれフェイトが頷く。
 やさぐれフェイトとアルフは、前回の白いバリアジャケットの女の子と接触するため、外出の準備を始める。
 そして、家を出る際にやさぐれフェイトは、最後の生活費三百円をポケットに突っ込んだ。


 …


 私立聖祥大附属小学校の前を、やさぐれフェイトは、素通りした。


 「何でさ!」

 「今日、日曜日だった……。」

 「が……。」


 アルフは、精神的ダメージを受けた。
 そして、項垂れながら話し掛ける。


 「……じゃあ、今日は、ジュエルシードを探すのかい?」

 「ううん……。
  遊びに行く……。」


 アルフが、やさぐれフェイトに迫る。


 「何で、遊ぶんだ!
  さっさとジュエルシードを探すのが先だろう!」

 「…………。」

 「じゃあ、生活費を稼ぐ……。」

 「どうやって!」

 「それは言えない……。
  でも、持ち金を十倍にしてみせる……。」

 「いや、十倍にしても三千円だよ……。
  とてもじゃないけど、今月乗り切れないって……。
  しかも、当初の金額が三ヵ月分とかだったら、
  私達、餓死するよ……。」


 やさぐれフェイトは、溜息を吐く。


 「アルフは、細かい……。」

 「至極、真っ当な意見だと思うけど……。」

 「江戸っ子は、宵越しの金を残さない……。
  こち亀の両さんなんて、
  こんな修羅場は、何度となく踏み越えている……。」

 「誰だか知らないけど、自業自得だよ。
  そして、私達のこの状況も同じ。
  まあ、原因は、あんたなんだけど。」

 「だから、責任は取る……。
  十倍にする……。」

 「だから、三千円じゃ生活出来ないって……。」


 やさぐれフェイトは、舌打ちする。


 「うるさい……。」

 「え?」

 「あたしが、ご主人様……。
  アルフは、黙ってジュエルシードを探していればいい……。
  生活費は、何とかするって言っている……。」

 「頼りにしていいのかい?」

 「任せて……。
  いざとなったら、体を売るから……。」

 「絶対にするな!
  それは、フェイトの体であんたのじゃない!」

 「なるべく穢さないようにする……。」


 やさぐれフェイトは、振り向くとアルフを置いて街へと歩き出した。
 アルフは、心底不安になる。


 「大丈夫なのかな……。」


 不安は増す一方だったが、アルフは、仕方なくジュエルシードを探すことにした。


 …


 やさぐれフェイトは、ある店の前で三百円を握る。


 「一攫千金を目論むなら、これしかない……。」


 パチンコ店へ突入。
 しかし、五分後には摘まみ出された。


 「国家権力の犬め……。
  何とか大人を味方に引き入れなければ……。」


 やさぐれフェイトは、街の通りを見回す。


 「あの人がいい……。」


 やさぐれフェイトは、パチンコ店に入るであろう人物のズボンを掴んだ。


 「あぁ?」


 リーゼントに金縁のサングラス。
 赤いシャツに白いジャケット。
 胸元には、金バッチが光る。


 「何だ? お前?」

 「お願いがあるの……。」

 「お願いだぁ?」

 「うん……。
  あたしは、一攫千金をするために
  ここに入らなくちゃいけないから、
  今だけ、保護者になって……。」

 「…………。」


 金バッチの人が、しゃがみ込む。


 「パチンコやりたいのか?」


 やさぐれフェイトは、頷く。


 「あたし、最高のあげまん……。
  連れて行って損はない……。」

 「お前、意味分かって使ってるか?」

 「付き合った男性の運気をあげる……。
  エッチな方の意味じゃない……。」

 「誰だ? こんなガキに仕込んだの?」

 「基礎理論を考え人……。」

 「訳分からねぇ……。」

 「お願い……。」


 金バッチの人は、溜息を吐く。


 「まあ、いいや……。
  付いて来な。」

 「ありがとう、パパ……。」


 金バッチの人は、ガクッと肩を落とすと、やさぐれフェイトとパチンコ店に消えた。


 …


 パチンコ店で、やさぐれフェイトは困っていた。


 「三百円じゃ、玉が買えない……。」


 金バッチの人を見る。


 「千円分の玉から、三百円分売って……。」

 「聞いたことのないことを要求するな……。
  多分、十分と持たないぞ……。」

 「大丈夫……。」


 そして、機種を選ぶ。


 「店に入る前から決めてた……。
  これ……。
  CRスラムダンク……。」

 「お前が台決めたら、
  俺は、必然的に付き添わないといけないじゃねぇか。」

 「機種だけは譲れない……。」

 「わ~ったよ。」


 金バッチの人が台を決めるとやさぐれフェイトは、隣に座る。
 金バッチの人は、何だかんだで三百円分の玉を分けてくれた。
 そして、パチンコを開始する。


 「来た……。
  1で揃った……。」

 「は?」


 やさぐれフェイトは、金バッチの人にチョキを出す。


 「これが実力……。」

 「マジかよ。」


 その後も確変が続くが、やさぐれフェイトはイライラしている。


 「どうした?」

 「三井のイベントが来ない……。
  スラムダンクは、三井 寿の物語……。」

 「違うだろ。」

 「安西先生……。
  カム ヒアー……。」


 ~ 三時間後 ~


 「何故、来ない……。
  何故、三井のイベントだけ起きない……。」

 「そんなことより、
  どんだけ、玉出す気だよ……。」

 「三井のイベントが出るまで……。」

 「その執念に、三井に対する愛は感じるけどよ……。」

 「むぐぐ……。
  今日は、閉店まで粘る……。」

 「勘弁してくれ……。」


 …


 夜七時少し前……。
 やさぐれフェイトと金バッチの人は、パチンコ店を出る。


 「半分返す……。」

 「半分って……。
  四十三万もあるぞ。」

 「生活費には十分……。」

 「まあ、いいか。」


 金バッチの人は、やさぐれフェイトの差し出す金を受け取る。


 「これから、どうするんだ?」

 「TSUTAYAに行って、DVDを借りる……。」

 「そうか。」

 「困ったことがあったら、言うといい……。
  この恩は忘れない……。」

 「既に百倍以上になって返って来てるけどな。
  ・
  ・
  そうだ。
  時間があるなら、付き合ってくれ。
  今夜、麻雀するんだ。
  その運で、代わりに打ってみないか?」

 「何時間……?」

 「この後、直ぐ。
  お遊び程度で。」

 「いいよ……。
  TSUTAYAが閉まらないうちに飛ばす……。」

 「やっぱり麻雀も知ってやがった。
  誰だ? この子に教えたの?」

 「基礎理論を考え人……。」

 「訳分からねぇ……。」


 やさぐれフェイトの実力は?


 …


 とある雀荘……。
 やさぐれフェイトは、金バッチの人の代打ちをしている。


 「ツモ……。」

 「ちゅ、九蓮宝燈!」

 「だけで、7回目……。」

 「オイオイ……。
  今日帰ったら、死ぬなんてことないだろうな?」

 「大丈夫……。
  それより……。
  親が終わんないから終われない……。
  ハコワレなしとは思わなかった……。
  まだ、やるの……?
  また、パチンコ屋みたいになるよ……?」

 「そうだな。
  そろそろ代わるか?」


 金バッチの人の友達は、項垂れながら呟く。


 「もう、勘弁してくれ……。
  さっさと代わってくれよ……。
  何処の玄人だ? その子?」

 「時の庭園……。
  次元の魔女に伝授された亜空間殺法を駆使する……。」

 「鳴いてないから、
  明らかに違うよな……。」

 「細かいことは聞いちゃいけない……。
  兎に角、これで終わり……。」


 やさぐれフェイトは、立ち上がる。
 金バッチの人が、やさぐれフェイトの席に座る。


 「助かったぜ。」

 「これだけ勝っとけば、負けないと思う……。」

 「ああ、十分だ。」

 「じゃあね……。」

 「今度、何かあったら、
  俺が助けてやるぜ。」

 「期待してる……。」


 やさぐれフェイトは、雀荘を出た。


 …


 麻雀終了後……。
 やさぐれフェイトは、TSUTAYAに行って「グラップラー刃牙」を借りる。


 「魔法少女と生まれたからには、
  誰もが一生のうち、一度は夢見る地上最強……。
  魔法少女とは、地上最強を目指す格闘士のことである……。」


 やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
 彼女の未来が、明後日の方向に歩き出した。


 「帰ったら、半分グラップラーみたいなアルフと見よう……。
  ・
  ・
  あ……。」


 やさぐれフェイトは、光るひし形の石を拾う。


 「ジュエルシードが落ちてた……。」


 やさぐれフェイトは、ポケットに突っ込むと家路の途についた。
 フェイト → やさぐれフェイト : 運↑ EX



[25789] 第4話 やさぐれ初日・夜
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:53
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 アルフは、疲れて帰って来た。
 いつもは、二人で分担する広域探査の魔法を一人で行なったのだから無理もない。
 そして、何の成果もないという結果は、疲れをより一層感じさせる。
 なのに……。


 「おかえり……。」


 主は、塩せんべいを齧りながら、グラップラー刃牙を見ていた。



  第4話 やさぐれ初日・夜



 疲れて磨耗した神経のせいで、導火線が短くなっている。
 アルフは、思わず声をあげる。


 「何を寛いでんのさ!
  こっちは、必死にジュエルシードを
  探していたっていうのに!」


 やさぐれフェイトが、アルフを睨む。


 「黙って……。
  今、夜叉猿と戦ってるところだから……。」

 「私の話を聞きなよ!」


 やさぐれフェイトは、溜息を吐くとDVDを一時停止する。


 「何……?」

 「『何』じゃないよ!
  お金がないのにそんなもの買って!」

 「十倍にして来た……。」


 やさぐれフェイトの指差す先には大量の万札……。
 アルフは、手に取ると声を失くす。


 「あんた、まさか……。」

 (褒めてくれるかな……?)

 「遂に銀行を襲ったの!?」

 (何故、そっちの発想に……。)

 「そんなことしてない……。」

 「じゃあ、本当に体を売ったのかい!?」

 「それもしてない……。」

 「じゃあ、どうしたのさ!?」


 やさぐれフェイトは、チョキを出す。


 「一攫千金……。
  パチンコで稼いだ……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「子供が、そういうところに行くな!」

 「意外……。
  アルフごときにそんな知識があるとは……。」

 「失礼だね……。
  ・
  ・
  それにしても、あんたには賭才があったのかい?」

 「ううん……。
  運気の底上げ……。」

 「……何だい?
  その妙に変な有り得なさそうな能力は……。」

 「人は、何かを得るには何かを失わなければならない……。
  元のフェイトのAAAクラスの魔法の才能が、
  ゴミクラスまで落ちた代償……。」

 「そうか……。」

 「…………。」


 アルフは、やさぐれフェイトに駆け寄る。


 「どういうことだい!?」

 「どうもこうもない……。
  あたしに切り替わったせいで、フェイト本来の力を発揮出来ない……。
  空を飛ぶより、走った方が早い……。」

 「何で、そんなことになるのさ!」

 「基礎理論を作った人が、遊びで組み込んだ……。」

 「馬鹿じゃないの!?」

 「あたしも、そう思う……。
  だって、戦闘になったら、
  運なんかよりも魔法スキルが欲しい……。」

 「こんな状態のフェイトとあの子が戦闘になったら、
  拙いんじゃないの……。」

 「まあ、死にはしないと思う……。
  もう一つの能力が付加されているから……。
  一応、作った人間も底なしの馬鹿じゃない……。」

 「……その能力って?」


 アルフは、疑いの目で、やさぐれフェイトを見る。


 「AMF:アンチ・マギリンク・フィールド……。
  AMFC:アンチ・マギリンク・フィールド・キャンセラー……。
  それと、この前言ってた肉体の活性化……。
  ・
  ・
  AMFが、あたしの半径5メートルに作動している……。
  あたしに近づくほど、魔力結合出来なくなる……。
  アルフも気を付けて……。」

 「AMFCは、何に使ってるんだい?」

 「あたし自身のリンカーコアの魔力を肉体活性に回しているから、
  それをキャンセルしている……。
  つまり、魔法が使えない相手との戦闘を想定して、
  あたしの肉体を活性化してる……。
  簡単に言えば、タイマンで負けない設定……。」

 「あのフェイトの馬鹿魔力が、
  全部肉体活性に注ぎ込まれているのか……。」

 「そう、ほとんど……。
  一応、落下防止出来るぐらいに
  お粗末程度に魔法を使える……。」

 「結構、凄い設定じゃないか。」

 「うん……。
  あたしが本気を出せば、
  範馬勇次郎の1/3ぐらいの強さを
  発揮出来るかもしれない……。」

 「誰?」


 やさぐれフェイトが、テレビの画面を指す。


 「今、夜叉猿と戦っている人のお父さん……。」

 「…………。」


 画面には、巨大猿と戦う少年の画像。
 アルフは、頭が痛かった。


 「ま、まあ、分かったよ……。
  そうすると問題があるね。
  あんた、広域探索の魔法を使えないってことだよね?」

 「うん……。」

 「ジュエルシード探しに支障が出るね。」

 「フェイトが目覚めるまでは無理みたい……。」

 「そっか……。」

 「でも、とりあえず見つけて来た……。」

 「……は?」

 「DVDを借りたついでに拾った……。」


 アルフは、やさぐれフェイトから渡されたジュエルシードを握り締めて震えている。


 「ついでに拾ったって……。
  私が、あんなに苦労しても見つからなかったのに……。」

 「でも、それ封印出来てない……。
  あたしから、離れてバルディッシュで封印して……。」


 やさぐれフェイトは、斧杖形態のバルディッシュをアルフに渡す。


 「多分、暴走前だからアルフでも出来る……。」

 「や、やってみるよ。
  バルディッシュ……。
  封印頼めるかい?」

 『がってんだ!』

 「…………。」


 やさぐれフェイトとアルフは、固まった。



[25789] 第5話 やさぐれと白い服の少女①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:53
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 目の前で、確かにジュエルシードは封印され、バルディッシュに吸い込まれた。
 しかし、バルディッシュの発した言葉が耳に残る。


 「が、がってんだ?」

 「『がってんだ!』って、言った……。」

 「何これ?
  また、あんたが、何かしたのかい?」

 「今回は、冤罪……。
  でも、きっと、あたしのせい……。
  正直、今回の設定はショック……。」

 「だよね……。
  私だって、自分の目覚まし時計が、
  ある日、ベルを鳴らさずに『がってんだ!』なんて言ったら、
  ショックだよ……。」


 フェイト → やさぐれフェイト:
 バルディッシュが、日本語使用になるらしい。



  第5話 やさぐれと白い服の少女①



 とりあえず、その日は、それ以上は深く追求しないで終わりにすることにした。
 アルフは、ジュエルシード探索の疲労で深い眠りにつき、やさぐれフェイトは、借りて来たDVDを制覇。
 そして、アルフが寝ていることをいいことにインターネットの通販を利用して、刃牙のコミックを一揃い注文した。


 …


 翌日……。
 やさぐれフェイトも、アルフも、十時近くまで起きれなかった。
 その安眠を破ったのは、宅配業者の人間だった。
 眠い目を擦り、やさぐれフェイトは、刃牙のために玄関へと向かう。
 代金引換で商品を受け取ると、アルフが起きる前に自分の部屋へと急ぐ。
 が……見つかった。


 「おはよう……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「朝っぱらから、何をしてるんだい!」

 「ううう……。
  不可抗力……。
  これは、フェイトを立派な魔法少女にするための必需品……。」

 「嘘をつくな。」

 「嘘じゃない……。
  この本を読んで、
  フェイトは、新卍や新コブラを駆使して、
  悪の魔法少女をやっつけていく……。
  そんなサクセスストーリー……。」

 「っなわけあるか!」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「これが大人のやることか……。
  アルフ……。」

 「大人の躾だよ。」

 「そうやって、暴力に訴えるのはよくない……。」

 「だったら、まず、理解出来る言葉で説得してごらんよ。」

 「世紀末に起きる核戦争のせいで、あらゆる武器が失われる……。
  魔法も例外ではなく、力こそ全ての時代がやって来る……。
  そんな時代を生き残るため、
  魔法少女として目覚めたフェイトは、刃牙を読み込んで技を覚える……。
  そう……。
  この本は、フェイトが生き残るのに必要な戦い方が詰まっている……。」

 「中身は、刃牙のコミックか。」

 「誘導尋問とは卑怯な……。」

 「いい加減にしなよ。
  フェイトが意識を取り戻した時に
  自分の本棚が刃牙だらけになってたら驚くよ。」

 「嬉しくて……?」

 「悲しくて!」

 「理解の相違……。
  でも、これは譲れない……。」

 「明日、捨てるからいいさ。」

 「そうしたら、生活費全てを刃牙に注ぎ込む……。」

 「その本にどんな魅力があるんだい……。」

 「DVDを見れば分かる……。」

 (何処かずれてるよね……。
  この子……。)


 アルフは、家中が刃牙だらけになるのを避けるため、捨てるのだけは我慢した。
 そして、二人で朝食を取ると、昨日、先延ばしにしたもう一人の魔法少女に会うために家を出た。


 …


 私立聖祥大附属小学校:十一時少し過ぎ……。
 やさぐれフェイトとアルフは、校門の前に居る。
 校舎の中に居る生徒の制服が、あの時の少女を連想させる。


 「間違いなさそうだね。」

 「うん……。」

 「後は、ここら辺で、アイツが出て来るのを待つだけだね。」

 「うん……。
  ・
  ・
  今、立った子……。
  似てる……。」

 「どれ?」


 やさぐれフェイトは、校舎の真ん中を指差す。


 「間違いないね。
  アイツだ。」

 「少し見て来る……。」

 「バレないようにね。」

 「任せて……。」


 やさぐれフェイトは、学校に入ると件の少女の居たクラスの下まで歩いて行く。
 そして、壁に張り付いた。


 …


 アルフの顔が引き攣る。


 「ま、まさか……。」


 アルフは、嫌な予感がした。
 そして、それは現実になる。
 やさぐれフェイトは、校舎でロッククライミングを始めた。
 アルフが校門に手を着き項垂れる。


 「私が馬鹿だった……。
  あの子を信じていいわけないじゃないか……。
  ・
  ・
  何で、命綱なしで登っちゃうのさ……。」


 …


 やさぐれフェイトは、壁を素手で登ると目的のクラスの窓まで辿り着く。
 そして、ビタンッと張り付く。
 教室の中では、窓の外から頬を押し付ける金髪の少女のせいで、阿鼻叫喚の叫び声が木霊する。


 …


 アルフは、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 「もろバレじゃないか……。
  何やってんのさ……。」


 …


 教室の中では、泣き出す子や窓から離れようとして転ぶ子など、大パニックになっている。
 そして、やさぐれフェイトと件の少女と目が合った。
 やさぐれフェイトは、にやりと笑う。
 そして、窓を開けた先生に捕まった……。


 「あなた!
  何をしているの!」

 「…………。」

 「何とか言いなさい!」


 やさぐれフェイトは、件の少女から視線を先生に移す。
 そして、ゆっくりと口を開く。


 「ワタシハー ココニキタバカリノー
  ガイコクジンダヨー
  キノー タスケテモラッター
  アノコガミエテ ココマデキタヨー」


 外国人による似非外国人だった……。
 件の少女の友達のグーが炸裂した。


 「分かり易い嘘ついてんじゃないわよ!」

 「何故かバレた……。
  ボビーより、イケてると思ったのに……。」

 「あんた!
  教室を恐怖に陥れて、何のつもりよ!」


 やさぐれフェイトは、件の少女を指差す。


 「あの子に用があるの……。」


 友達の少女が振り返る。


 「なのはに?」

 「そう……。」


 やさぐれフェイトは、にやりと邪悪な笑みを浮かべる。
 一方の指を差された少女は青ざめる。
 念話でパートナーのフェレットと会話をしたからだ。
 内容は、次になる……。


 …


 『ユーノ君、この前の子が来てる……。』

 『え?』

 『この前のこと謝らないと……。』

 『なのは!
  それどころじゃない!
  彼女がそこに来たということは、
  君の友達を全員人質に取られたってことだよ!』

 『!』


 …


 なのはと呼ばれた少女は、緊張で顔を強張らせる。
 もしかしたら、ここで魔法少女としての正体を曝さないといけないかもしれない。
 最悪は、ここで目の前の少女が暴れて、誰かを傷つける行為に出ることだ。
 やさぐれフェイトが語り掛ける。


 「少し話しがしたいんだ……。」


 なのはが頷く。


 「色々とお礼も言いたいし……。」


 なのはは、少し考えると先生に声を掛ける。


 「昇降口まで、案内します。」

 「高町さん。
  どういう関係なの?」

 「それは……。」


 やさぐれフェイトが割り込む。


 「悪い人に頭を殴られたところを助けて貰ったんです……。
  ・
  ・
  ね……。
  悪い人に……。」


 なのはは、俯く。


 「はい……。」

 「そうなの?
  ・
  ・
  でも、勝手に余所の学校に入っちゃいけないのよ。」

 「すいません……。
  やっと、見つかったもので……。」


 なのはは、やさぐれフェイトの遠回しの言い回しに恐怖を覚える。
 今の会話は、遠回しに『頭を殴ったお前を見つけた』と言っているからだ。


 「じゃあ、案内してくれる……?」


 やさぐれフェイトが、なのはの手を握る。
 なのはは、その手が酷く熱く感じる。
 自分の手が冷たくなっているのだ。


 「少し席を外します……。」


 なのはは、やさぐれフェイトの手を引いて、教室を後にした。


 …


 昇降口で、なのはは、やさぐれフェイトから慌てて手を放した。
 そして、身構えながら気丈に話し掛ける。


 「い、一体、何しに来たの!」

 「何しに……。
  君に会いに……。」

 「み、皆を傷つけるなら、
  今、ここで戦うよ!」


 やさぐれフェイトは、笑い出す。


 「そんなことしないよ……。
  ちょっと、からかっただけだよ……。」

 「…………。」


 やさぐれフェイトは、頭を指差す。


 「気になってたんじゃない……?」

 「う、うん……。」

 「それに何か言いたそうだったし……。」

 「聞いてくれるの?」

 「うん……。
  あたしは、フェイトより真剣じゃないからね……。」

 「?」


 やさぐれフェイトの言い方に、なのはは、首を傾げた。


 「今日の放課後……。
  会えないかな……?
  何処でもいいよ……。」

 「じゃ、じゃあ、公園!」

 「分かった……。」


 やさぐれフェイトは、踵を返す。
 その後姿になのはが叫ぶ。


 「あ、あの!
  ごめんなさい!」


 やさぐれフェイトは、振り返ると頭をガシガシと掻く。
 頭には、くせ毛が出来る。


 「それ、あたしに言っても、
  あまり意味ないんだよね……。」

 「え?」

 「まあ、それも含めて話すよ……。」


 やさぐれフェイトは、私立聖祥大附属小学校を後にした。



[25789] 第6話 やさぐれと白い服の少女②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:54
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 白いバリアジャケットに身を包んで、なのはは、いつでも戦える用意をしていた。
 ジュエルシードを探す切っ掛けになったフェレット形態のユーノのアドバイスである。
 ユーノの結界により、人払いの済んだ夕暮れ時の公園で、なのはとユーノは、やさぐれフェイトを待ち続けた。



  第6話 やさぐれと白い服の少女②



 なのはとユーノが緊張して待っていると何か聞こえて来る。


  ・
  ・
  チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪
  チャララ♪ 
  チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪
  チャララ♪
  チャララチャ~チャ♪
  チャララ♪
  チャッチャッチャッチャッチャ~チャ♪」


 なのはが呟く。


 「歌ってるよ……。」

 「そうだね……。」


 二人の距離まで、かなりあるのに歌は鮮明に伝わる。
 そして、歌が変わる。


 「タンタンタンタン♪
  タンタンタンタン♪
  タ~ンタ~ンタ~~ンタン♪
  タンタンタンタン♪
  タタタ♪ タタタタタン♪
  ・
  ・
  お待たせ……。」


 プールバックを片手に登場したやさぐれフェイトに、なのはとユーノは、一気にやる気がなくなった。


 「バリアジャケットまで着て、
  何してるんだろう……私。」

 「間違ってない!
  なのはは、間違ってないよ!」


 なのはを励ますユーノを無視して、やさぐれフェイトは、なのはに話し掛ける。


 「戦うの……?」

 「そういう可能性もあるかと思ったの……。」

 「期待させて、ごめん……。
  じゃあ、あたしも変身するから……。」


 やさぐれフェイトは、三角形のプレート形態のバルディッシュを起動する。


 「実は、変身するのは初めて……。
  ・
  ・
  天光満つる所に我はあり……。
  黄泉の門ひらく所に汝あり……。」

 「ユーノ君!
  あの言葉は!?」

 「彼女のデバイスを使う時の呪文だ!
  なのはのレイジングハートと同じ!」


 なのはとユーノが身構える。


 「出でよ、神の雷……。
  インディグネイション……。
  バルディッシュ・セットアップ……。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「呪文が違うっぽい……。」


 なのはとユーノがこけた。


 「何でなの!?」

 「いや、呪文を知ってるのはフェイトだから……。
  ちょっと、待って……。
  知ってる呪文を全部試すから……。」

 「い、今から?」


 やさぐれフェイトは、無視して呪文を唱え出す。
 ここで攻撃しないなのはは、本当にいい子だ。


 「リ-テ・ラトバリタ・ウルス……。
  アリアロス・バル・ネトリ-ル……。
  我を助けよ、光よ甦れ……。
  バルディッシュ・セットアップ……。
  ・
  ・
  違う……。
  ・
  ・
  黄昏よりも昏きもの……。
  血の流れより紅きもの……。
  時の流れに埋もれし偉大な汝の名において、我ここに闇に誓わん……。
  我等が前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに我と汝が力もて……。
  等しく滅びを与えんことを……。
  バルディッシュ・セットアップ……。
  ・
  ・
  違う……。
  ・
  ・
  土に根を下ろし、風と共に生きよう……。
  種と共に冬を越え、鳥と共に春を謳おう……。
  バルディッシュ・セットアップ……。
  ・
  ・
  違う……。
  ・
  ・
  たった一夜の宿を貸し、一夜で亡くなるはずの名が……。
  旅の博徒に助けられ、たった一夜の恩返し……。
  五臓六腑を刻まれて、一歩も引かぬ侠客立ち……。
  とうに命は枯れ果てて、されど倒れぬ侠客立ち……。
  とうに命は枯れ果てて、男一代侠客立ち……。
  バルディッシュ・セットアップ……。
  ・
  ・
  これも違う……。
  フェイトの趣味は、理解出来ない……。」

 「途中から、呪文でも何でもないような……。」


 やさぐれフェイトは、諦めると溜息を吐く。
 そして、バルディッシュを斧杖形態にすると話し掛ける。


 「バルディッシュ……。
  頑張れ……。」

 ((デバイスに丸投げした!?))

 『がってんだ!』


 それでもバルディッシュは、健気に応える。
 なのはとユーノは、デバイスの素晴らしさだけが胸に染み入った。


 「「「あ……。」」」


 しかし、バリアジャケットは、無情にもバルディッシュの下の地面に落ちただけだった。


 …


 やさぐれフェイトが、バリアジャケットを拾い上げる。


 「何故……。」


 そして、なのは達に振り返る。


 「変身するから、待ってて……。」


 やさぐれフェイトは、プールバックからゴム付きのバスタオルを取り出すと首のところまですっぽりと被り、パチンパチンとボタンを留める。
 そして、ごそごそと服を脱ぎ出した。


 「ユーノ君……。
  着替えてるよ……。」

 「そうだね……。
  ここで、攻撃したらいけないのかな……。」

 「出来ないよ……。
  こんな変身する魔法少女を攻撃なんて出来ないよ……。」

 「…………。」


 会話が止まる。
 居ても立っても居られずになのはが、やさぐれフェイトに質問した。


 「あ、あの、フェイトちゃん?」

 「あたし、フェイトじゃない……。」

 「え? で、でも……。」

 「君に名乗ったのは、間違いなくフェイト……。
  今のあたしは、フェイトの擬似人格……。」

 「擬似人格?」

 「頭打った時にフェイトの自己防衛機能が働いて出て来た……。
  アルフは、やさぐれたフェイトって言ってた……。
  一応、注意したいだけだったから、フェイトって呼んでもいい……。」

 「名前……ないの?」

 「好きに呼んでいい……。」

 「じゃ、じゃあ!
  やさぐれちゃん!」

 「ん……?」

 「あなたのことは、
  今から、やさぐれちゃん!」

 「…………。」

 (あだ名のつもりなんだろうけど……。
  やさぐれが入ってる……。
  意味分かってないんだろうな……。
  ・
  ・
  でも……。)

 「それでいいよ……。
  名前があるのは嬉しいから……。」


 なのはは、満面の笑みを浮かべるが、隣でユーノは、微妙な表情をしている。
 ユーノは、やさぐれるという意味を知っているに違いない。


 「やさぐれちゃん。
  プール行ってたの?」

 「うん……。
  バタフライを覚えたくて……。」

 「どうして、いきなりそんな難しい泳ぎなの?」

 「設計ミスで、時速20キロで流れる殺人プールを
  泳がなくてはいけなくなった時のために……。」

 「ないよ!
  そんな流れるプールないよ!」

 「そうかな……。」

 「それにバタフライも間違いだよ!」

 「でも、今日、覚えて来ちゃった……。」

 「そ、それはいいことだけど……。」


 ごそごそと動くやさぐれフェイトの下で、シャツの上にパンツが乗る。
 ユーノは、赤くなりながら、それとなく視線を外す。
 そして、事件が起きる。


 「「あ。」」


 パンツが、風に飛ばされた。
 小高い上にある公園から、夕日に照らされてパンツが舞い上がる。


 「…………。」


 やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻くとクセ毛を作る。


 「まあ、いっか……。
  パンツぐらい……。」

 「よくないよ!」


 なのはは、ユーノを肩に乗せたまま飛び立った。


 …


 空中でなのはは、パンツを握った。
 少し湿って、カルキの匂いがする。
 きっと、体を丁寧に拭かずにパンツを履いたに違いない。
 やさぐれフェイトのずぼらさが見え隠れする。


 「ユーノ君……。」


 なのはは、湿ったパンツを握りながら呟く。


 「私、ユーノ君にお願いしたいことがあったんだ……。
  戦い以外に空を飛ぶ魔法を使わせてって……。
  それがまさか……。
  戦い以外に初めて使う空を飛ぶ魔法が、
  パンツを掴むためだとは思わなかったよ……。」

 「なのは?」

 「はは……。
  私の初めての空飛ぶ魔法は、パンツのためか……。」

 「ノーカウント!
  今のは、ノーカウントだよ!」

 「……本当?」

 「本当だよ!
  これは、戦いだよ!
  あの子だって、変身(?)してるんだから!」

 「そ、そうだね。
  そうだよね。」


 一瞬、悲しい話になりそうになったが、ユーノのフォローで何とかなった(?)。
 そして、やさぐれフェイトの下に戻るとやさぐれフェイトは、バリアジャケットと格闘していた。


 「ぐぐぐ……。
  赤い留め具が一向に開かない……。」


 やさぐれフェイトは、バリアジャケットについている留め具を力任せに取ろうとする。
 しかし、本来は、魔法で換装するためか一向に外れない。


 「己……。」


 そして、決定的な音がするとバリアジャケットが裂けた。


 「…………。」

 「信じられない……。
  素手でバリアジャケットを引き裂くなんて……。」

 「ユーノ君。
  注目するところは、そこじゃないと思う……。」


 やさぐれフェイトは、バリアジャケットを投げ捨てるとなのはに近づき、パンツを受け取る。
 そして、服に着替え直すと変身自体なかったことにした。


 「さあ、来い……。」


 なのはの視線が下に下がる。
 引き裂かれたバリアジャケットとビーチサンダルの魔法少女。


 「戦えないよぅ……。」

 「さあ、来い……。」


 やさぐれフェイトは、昨日見た世紀末戦隊のような掛け声を繰り返した。



[25789] 第7話 やさぐれと白い服の少女③
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:54
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 本来、戦うべき定めにある少女達が、ベンチに隣り合って座っている。
 なのはもバリアジャケットから、普段着に戻っている。
 そして、あらためて話すことが出来る状態になる。


  ・
  ・
  と、こんな感じで頭を打って、あたしが出て来た……。」


 なのはは、やさぐれフェイトに話し掛ける。


 「あのね……。
  この前は、ごめんなさい。」

 「悪いと思ってるんだ……。」

 「当然だよ。」


 やさぐれフェイトは、邪悪な笑みを浮かべた。
 これは、主導権を握れると……。



  第7話 やさぐれと白い服の少女③



 やさぐれフェイトは、なのはに話し掛ける。


 「具体的に何が悪いと思ってるの……?」

 「そ、それは……。
  怪我させちゃったこととか……。
  ずっと、謝れなかったこととか……。」

 「つまり、君は、あたしに許して貰うことで、
  その心の苦しみから抜け出したいだけなんだね……。」

 「違う! 違うよ!」


 やさぐれフェイトが、なのはを手で制す。


 「分かった……。
  許す……。
  これで、いい……?」


 なのはが首を振る。


 「駄目……。
  それじゃ、私は謝ってない。
  無理やりに言わせただけ。」

 「そう……。
  具体的な罰があれば、いいのかな……?」

 「罰……。
  やさぐれちゃんが、それを望むなら。」

 「分かったよ……。
  あたしも、なのはのために条件を出す……。」

 「うん。」

 「でも、これはあたしの分……。
  フェイトが目覚めたら、フェイトにも謝って……。」

 「約束するよ。
  ところで、私の名前をいつ知ったの?」

 「デビルイヤーは、地獄耳……。
  会話が聞こえただけ……。
  じゃあ、罰を発表するね……。」


 やさぐれフェイトは、ゆっくりと立ち上がり、なのはの少し前に立つ。
 腰を落として両手を前に突き出し、手の付け根を合わす。


 「り~……。」


 両手をゆっくりと右の脇に添える形で引き戻した。


 「り~……。
  か~……。
  る~……。
  な~の~……。」


 そして、バッと両手を突き出した。


 「波ーっ……!
  ・
  ・
  ここで、レイジングハートを突き出して、
  ディバインバスターを撃ってくれるのを見せてくれたら、許す……。」

 「明らかにおかしいよね!」


 やさぐれフェイトは、首を傾げる。


 「何が……?」

 「これの何処が罰なの!」

 「カメハメ波が見たい……。」

 「……そんなのヤダ。」


 やさぐれフェイトは、大げさに溜息をついてみせる。


 「がっかりだよ……。
  結局、謝る気はないんだ……。」

 「違うよ!
  でも、こんなの変だよ!」

 「当たり前だよ……。
  罰なんだから……。」

 「でも!」

 「君は、謝るのにも形から入るの……?
  相手が納得しないのに自分が納得すれば、
  謝ったことになるの……?」

 「…………。」


 なのはは、俯いた。
 ユーノは、尤もらしいことを言っているが間違っていると思って聞いている。


 「あたしだって、こんなの君の前でやりたくない……。
  恥ずかしい……。
  でも、恥ずかしいと思うことをやるのが罰……。」

 「…………。」

 「仕方ない……。
  別のパターンで……。
  あたしが『ドドドドドドドド……』って言ってるから、
  君は、こう叫びながらシューターを撃つ……。
  ・
  ・
  リリカル……。
  リリカルリリカル……。
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  リリカル! リリカル! リリカル! リリカル!
  ウゥゥゥリリリリィィィカァァァルゥゥゥ!!
  マァァァジイイイィィィカァァァルゥゥゥ!! と……。」

 「それ、七つの傷を持つ人!?」

 「おしい……。
  スタープラチナ……。」

 「知らないよぉ……。」

 「これで……。」


 なのはにズーンと黒い影が落ちた。


 「さっきのヤツでも、どっちでもいいよ……。」

 「ううう……。
  ・
  ・
  じゃあ、さっきので……。
  それやれば、本当に許してくれるの?」

 「うん……。
  それどころか親友にもなれる……。」


 なのはは、大きく息を吐いて覚悟を決めるとレイジングハートを起動する。
 そして、頬を染めながら、腰を落とす。


 「り、り~……。
  り~か~る~……。
  な~の~……波ーっ!」


 やさぐれフェイトの前で、カメハメ波を撃つ体勢でディバインバスターが発動した。
 なのはが、顔を真っ赤にして振り返る。


 「こ、これで、許してくれるんだよね!」

 「…………。」

 「やさぐれちゃん?」

 「ごめん……。
  本当にやるとは思わなかった……。」


 なのはは、さっき以上に顔を真っ赤にしてやさぐれフェイトを追い回した。


 …


 ユーノは、ベンチの上で溜息を吐いた。
 一体、何の話をしに来たか分からなくなってしまった。
 目の前では、レイジングハートを振り回して追いかけるなのは。
 逃げ回るやさぐれフェイト。


 「もう! ばかばかばかばか!」

 「冗談……。
  もう怒ってない……。
  許すから……。」

 「私が許さない!」


 ユーノは、再び溜息を吐く。
 そして、視線を戻すと先行して逃げるやさぐれフェイトがふらつき出した。
 なのはが、立ち止まる。


 「やさぐれちゃん?」


 するとやさぐれフェイトが振り返り、なのはに抱きついた。


 「ふぇ!?」

 「あれは、私じゃないから!」

 「わ、私?」


 なのはの目の前の少女には、クマがない。
 三白眼じゃない。
 綺麗な目に涙を溜めている。


 「私は、あんな変なことしないから!」

 「も、もしかして……。
  フェイトちゃん?」


 少女は、頷いた。


 「少しだけ出て来れたんだ。
  それで……。」

 「わ、分かるよ。
  悪戯していたのが擬似人格さんだよね?」


 フェイトが頷いた。


 「修復が、まだ終わってないから時間がない。
  お願い。
  あの子が悪さをしたら、止めて。」

 「へ? ええっ!?
  私達は、敵同士……じゃなくて!
  私は、謝りたくて!」

 「ごめん……。
  お願い……。」

 「ちょ……!」


 目の前の少女が三白眼に戻り、クマが出来る。


 「時間切れ……。
  本日のフェイトタイムは、ここまで……。
  ・
  ・
  何かエライこと頼まれちゃったね……。」

 「何で、人事なの!?
  ど、どうしよう!?」


 なのはは、ユーノに振り返る。


 「ど、どうしようって……。」

 「無視すればいいんじゃない……。」

 「こ、困ったよぅ……。」


 事態は、変な方向に捻じ曲がり始めた。



[25789] 第8話 やさぐれとプレゼント
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:55
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 なのはに大いなる問題を残して、やさぐれフェイトは、自宅のマンションに帰って来た。
 すると直ぐにアルフが慌てて玄関まで走って来た。
 実は、アルフは、『付いて行く』と言って、やさぐれフェイトと行動を共にしようとしたが、途中で煙に巻かれ、やさぐれフェイトに置いてきぼりにされていた。
 その後、色々と探したが、やさぐれフェイトは発見出来なかった。
 それもそのはず……やさぐれフェイトは、室内プールでバタフライを会得していたので見つかるはずもない。


 「何処に行ってたのさ!」

 「昨日も同じこと言ってなかった……?」

 「言ったよ!
  私を置いて、何処に行ってたのさ!
  アイツにも会えなかったし、
  また、ジュエルシードを探せなかったじゃないか!」


 やさぐれフェイトは、ポケットを漁る。


 「今日の分……。」


 アルフは、ジュエルシードを受け取った。


 「これのせいで怒るに怒れない……。
  ジュエルシードが憎い……。」

 「複雑だね……。」

 「ホントだよ!」


 アルフは、行き場のない怒りを溜め込んでいた。



  第8話 やさぐれとプレゼント



 やさぐれフェイトは、品物の入ったスーパーのレジ袋をアルフに渡す。


 「何だい? これ?」

 「お肉……。
  スーパーで、一番高いヤツ……。」

 「どうしたの?」

 「一緒に食べよう……。」


 アルフは、少し驚いた顔をするが、直に微笑む。


 (何だかんだ言っても、
  この子もフェイトなんだ……。)


 アルフは、嬉しそうに返事を返す。


 「分かったよ。
  ジュエルシードをバルディッシュに封印したら、
  直ぐに調理するよ。」

 「焼き加減は、レアで……。」

 「そんなの食べられるのかい?」

 「任せて……。」


 こうして、『がってんだ!』の声が響いた後で、アルフは、調理に掛かった。


 …


 やさぐれフェイトの前に、レアで焼かれたステーキが置かれた。
 やさぐれフェイトは、優雅にナイフとフォークで一切れ分を切り分ける。
 そして、ゆっくりと口に運ぶ。


 「ハム……。
  モニュ……。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「…………。」

 「ゴクン……。」


 やさぐれフェイトは、皿ごとアルフに差し出す。


 「ごめん……。
  あたしは、グラップラーにはなれないみたい……。
  ハンターを目指すから、弱火でじっくり焼き直して……。」

 「だから、言ったんだよ。」


 アルフは、こうなることを見越して焼き直しに入り、自分の分も調理するのだった。


 …


 焼き直したステーキでの夕食……。
 さすがに高い肉を使っているだけあって、味の方は、文句の付けようもなかった。
 食べ終わった二人は、満足顔でソファーに体を預けていた。


 「美味しかった……。
  思わず栗田ゆう子のように
  解説をしてしまいそうになった……。」

 「味皇みたいに叫んでたけどね。」

 「それは仕方がないこと……。
  元のフェイトだって叫ぶに違いない……。」

 「絶対に叫ばないよ。」

 「そんなことない……。
  ああ見えても、フェイトは、感情豊かな娘……。
  今日は、なのはに叫んでた……。」

 「なのは?」

 「例の女の子……。」

 「ああ……。
  あれ? フェイト?」

 「今日、出て来た……。」

 「そっか。」

 「…………。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「先に言え!
  何で、黙ってんのさ!」

 「なのはのこと……?
  フェイトのこと……?」

 「両方だよ!
  訳分かんないし!
  フェイトが、敵の子に叫ぶって!」

 「アルフ……。
  大事なのは想像力……。
  ちょっと考えれば分かる……。」

 「そ、そうかい?
  ・
  ・
  一向に分からない……。」

 「諦めるのが早い……。
  諦めたら、そこで試合終了……。」

 「いや、諦めるとかそういう問題じゃないよ。
  過程もなしにフェイトは、叫ばないって……。
  過程を教えておくれよ。」

 「アルフも言うようになった……。
  使い魔の成長を見るのがこんなに嬉しいとは……。」

 「ありがとう。
  さっさと説明して。」

 「感慨にも浸れないとは……。
  まあ、いい……。
  ・
  ・
  アルフの居ないところで、なのはと会う約束をした……。
  そして、なのはに会って来た……。」

 「何で、除け者にされるのさ……。」

 「アルフが居ると暴力に訴えて話にならないと思った……。」

 「……その通りだけど。」

 「それで、とりあえず……。
  あたしを腐らせるには十分な待ち時間だったから、
  プールに行きながらネタを仕込んでた……。
  魔法少女などと自己満足の似非正義に溺れおってと
  沸々とからかいゲージが溜まり……。
  悪・即・斬の下、なのはの全てを否定してやった……。」

 「……で?」

 「暴走したあたしに絶望したフェイトが、
  貴重なゴールデンタイムを費やして現れた……。
  そして、『私じゃない』となのはに叫んだ……。
  ついでに暴走したあたしを止めてくれとも頼んでた……。」


 アルフは、激しく項垂れた。


 「もう、あの子に復讐出来ない……。」

 「ちなみに今日のフェイトに会う時間は、
  それでなくなった……。」

 「なんてことをしてくれたんだよ……。
  復讐対象をなくした上に
  楽しみに待ってたフェイトとの会話を……。」

 「でも、安心するといい……。
  フェイト復活の兆しが見えた……。」

 「まあ、そうだね。」

 「これで、時の庭園に帰れる……。」

 「ん?」


 アルフは、首を傾げた。


 「そろそろ、お母さんとの面会日……。
  あたしが居ると魔力を結合出来ないから、
  正気のフェイトに転送して貰うしかない……。」

 「そうだよ……。
  忘れてた!」

 「馬鹿犬が……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「誰のせいで忘れてると思ってんだよ!」

 「アルフの可哀そうな頭のせい……。」

 「殴ろうか?」

 「もう殴ってる……。
  ・
  ・
  そんなことよりも……。
  明日、付き合って……。」

 「何を?」

 「プレゼント買うの……。
  あたしは、別にいいけど、
  フェイトの印象は大事……。
  プレゼントを渡して喜ばせてポイントアップ……。」

 「あんた……。」

 「あたしは、フェイトの味方……。
  この気持ちだけは嘘じゃない……。
  それにプレゼントを選ぶのもあげるのも、
  とっても楽しいこと……。」

 「うん、そうだね。」

 「フェイトのお母さんは、少し顔色が悪い……。
  だから、元気になるようなものがいいと思ってる……。」

 「それがいいよ!」

 「ありがとう……。
  でも、プレゼントは秘密……。
  それの方が面白い……。」

 「確かにね。
  じゃあ、私は、何を手伝うんだい?」

 「可愛い包装紙を選んで……。
  綺麗なリボンも……。
  あたしのプレゼントとアルフのセンスの合作……。
  大成功間違いなし……。」

 「いいね!
  明日が楽しみだ!」

 「うむ……。
  じゃあ、今日は、これから一緒に刃牙を見ようか……。」

 「それは、遠慮する……。」

 「アルフの恥ずかしがりやめ……。
  本当は、失禁するほど見たいくせに……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「誰が失禁するか!」

 「刃牙にそういう表現がある……。」

 「未成年が読んで大丈夫なの!?」

 「不安なら見る……?」

 「ううう……。」


 アルフは、葛藤した。


 …


 次の日……。
 やさぐれフェイトとアルフは、デパートを訪れる。
 アルフは、犬耳と尻尾を隠しての同行だった。


 「ここで別れよう……。
  あたしは、プレゼントを買う……。
  アルフは、包装紙とリボン……。
  後、好きなものを買うといい……。」

 「何でもいいのかい?」

 「勝負下着でも何でも買うといい……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「っんなもん!
  誰が買うか!」

 「素敵な青い犬の彼氏が出来るかもしれない……。」

 「青い犬なんか居るか!」

 「遠吠えで幸せを呼ぶのに……。」

 「どんな設定の犬なんだい……。」

 「遠吠えで、三人の美女を呼び出す……。」

 「そいつに私は要らないだろ。」

 「人間の女に興味はないから、大丈夫……。」

 「もう、いいよ。
  適当に回って来るから。
  買い物終わったら、ここに集合。」

 「了解……。」


 やさぐれフェイトとアルフは、デパートの中で別れた。


 …


 アルフは、溜息を吐く。


 「まったく……。
  本当に困った子だよ……。
  念話は通じないし……。
  魔力も出てないから感知も出来ないし……。
  知らないところで、悪さばっかりしてるんじゃないの?」


 アルフは、文房具屋の前まで来る。


 「ここに売ってるかな?
  ・
  ・
  ちょっと待った……。
  あの子は、どれぐらいのプレゼントを買う気なんだい?」


 アルフは、包装紙の大きさを考える。


 「まあ、三種類ぐらいの大きさを選べばいいか……。」


 アルフは、文房具屋に置いてあった包装紙を選ぶ。


 「どれがいいかな?
  黄色? 赤? フェイトの色は……。」


 黒。


 「それはない……。
  そんな色の包装紙でプレゼントを渡したら、
  あの女がぶち切れる……。
  ・
  ・
  腰のあれは、ピンクだったね。
  腰のあれ?
  あれって、何だろう? スカート?」


 腰みの。


 「それはない……。
  キタキタおやじじゃあるまいし……。
  誰の影響だよ……。
  ・
  ・
  ああ、いい単語があった。
  パレオで、いいんじゃない。
  じゃあ、包装紙はピンク。」


 アルフは、ピンクの包装紙を三種類の大きさ選ぶ。
 次にリボンを選ぶ。


 「フェイトの色は……。」


 黒。


 「だから、ないって……。
  後は……赤?」


 ピンクに合わない。


 「よく考えれば、フェイトに構成されている色って少ない……。
  肌色は却下して……。
  髪! 金……は、派手だから、黄色!」


 アルフは、黄色のリボンを選ぶとレジへと向かった。


 …


 アルフが戻るとやさぐれフェイトが居た。


 「随分と早いね?」

 「買うものを決めてた……。
  フェイトのために考え済み……。」

 「意外だね。」

 「失礼な……。
  ・
  ・
  アルフ……。
  頼まれたものしか買わなかったの……?」

 「うん。
  何かね……。」

 「仕方ない奴め……。
  そう思って、あたしがアルフに買っといた……。」

 「ホントかい?
  嬉しいねぇ。」

 「泣いて喜べ……。」


 やさぐれフェイトは、スケスケのパンツを取り出した。


 「悩殺……。」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「そこから離れろ!」


 やさぐれフェイトは、地面に突っ伏した。



[25789] 第9話 やさぐれとプレシア①
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:55
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 やさぐれフェイトとアルフは、自宅のマンションへと帰宅していた。
 プレゼントが分かると詰まらないと少し離れた部屋で、やさぐれフェイトは、一人で包装紙と格闘中。
 それを遠目で見ながら、アルフは、微笑んでいた。


 「フェイトも、きっと、ああやって一生懸命に
  プレゼントを用意するんだろうな……。」


 アルフは、今は、表に現われていない主人を思う。


 「少しこのフェイトの元気を分けてあげたいよ……。」


 アルフは、いつも寂しそうな目をしている主人にやさぐれフェイトを重ねていた。



  第9話 やさぐれとプレシア①



 準備万端。
 やさぐれフェイトの指示で、アルフは、一緒にマンションの屋上で本来の主の目覚めを待つ。


 「多分、もう直ぐ……。」

 「楽しみだね。」

 「だけど、そうも言ってられない……。
  時の庭園に転送して貰わないといけないから、
  ゆっくり話せない……。」

 「そうだね。
  少し残念だけど、我慢するよ。」

 「うむ……。
  それともう一つの理由……。
  帰りもお願いするから、
  なるべくフェイトの出ている時間を節約したい……。」

 「それもあるのか。」

 「うむ……。
  ・
  ・
  あ、来た……。」


 やさぐれフェイトが、目を閉じる。
 そして、クマが消えるとゆっくりと目が開かれる。
 そこには優しい目があった。


 「フェイト!」


 アルフは、フェイトに抱きつく。
 フェイトは、優しくアルフの髪を撫でる。


 「アルフ……。
  本当に……ごめん。」

 「大丈夫。
  あの子とも仲良くやってるよ。
  それに悪い子じゃないから。」

 「……ありがとう。
  でも、どんどん叩いていいから。」

 「…………。」

 (フェイトの性格が少し変わった?)


 フェイトは、少し前に出る。


 「時間がないから、直ぐに開く。」

 「分かった。」


 フェイトが集中し出すと地面に魔法陣が輝く。


 「次元転移…次元座標…876C 4419 3312 D699 3583 A1460 779 F3125。
  開け誘いの扉……。
  時の庭園、テスタロッサの主の下へ!」


 そして、激しい光の閃光と共にフェイト達の姿が消えた。


 …


 高時空内にある『時の庭園』……。
 転送が完了し、アルフがフェイトを見た時にはクマが出来ていた。
 アルフは、少し寂しかったが、それを口に出すのは言われた人間が傷つくと言葉を飲み込む。


 「報告に行こうか?」

 「初めての生プレシア……。」

 「生って……。」

 「ふふふ……。
  この短期間で、ジュエルシードを四個……。
  ボーナスの支給もあるかもしれない……。」

 「ここは、会社じゃないんだよ?」

 「分かってる……。
  そして、褒められるのが分かっているというのも、
  少し照れるものだ……。」


 アルフは、溜息を吐くとやさぐれフェイトの先を歩いて、プレシアのところへと案内することにした。


 (しかし、このフェイトをあの女に会わせていいのだろうか?)


 …


 やさぐれフェイトとアルフが、プレシアのところへと行き、結果を報告する。
 しかし、プレシアの口から出た言葉は、予想外のものだった。


 「たったの四つ……。
  これは、あまりにも酷いわ。」

 「は……?」

 「こんなに待たせて置いて、上がって来た成果がこれだけでは……。
  母さんは、笑顔で貴女を迎えるわけにはいかないの。
  ・
  ・
  分かるわね? フェイト?」

 「分かるわけがない……。」


 やさぐれフェイトの反論にプレシアは、固まった。
 アルフは、額に手を置き、項垂れている。


 「もう一度、言ってくれる?」

 「分かるわけがない……。」

 「……アルフ。」

 「何だい?」

 「この子、どうしたの?」

 「あんたの言葉も『どうしたの?』なんだけど……。」


 この中で正論を言っているのは、アルフだけだろう。
 プレシアが、手で静止を掛ける。


 「どっちから質問しようかしら……。
  ・
  ・
  ……決めたわ。
  フェイトがおかしいことを教えて。」

 「向こうで、ちょっとね……。
  頭を打ったら、擬似人格が出て来ちゃったんだよ。」

 「擬似人格?
  ああ、先駆者が作った機能の……。」

 「あまり言わないでおくれよ。
  フェイトは、知らないんだから。」


 やさぐれフェイトが、アルフを突っつく。


 「言ってもOK……。
  記憶の制限を変えた……。
  この前の指パッチンをフェイトに解除されたから、
  NGワード形式に変えた……。」

 「何で、NGワードなのさ?」

 「NGワードを見つける方が大変だから……。
  フェイトは、記憶の制限の解除を諦める……。
  それと前回のスイッチは、安易過ぎた……。
  反省してる……。
  ごめん……。」

 「いいよ。
  フェイトを思ってのことだから。」


 アルフは、プレシアに向き直る。


 「さっきのは無し。
  話してくれて構わないよ。」

 「じゃあ、遠慮なく話させて貰うわ。
  その擬似人格は、どうなっているの?
  仮にもフェイトを守る存在のくせに、私に盾突くなんて。」

 「それが……。
  私も、よく分からないんだよね。
  正直、困ってんのは、あんただけじゃないんだよ。」


 プレシアは、頭が痛そうに額を押さえる。


 「もう、いいわ。
  もう一つの質問に答えて。
  ・
  ・
  ……さっきの私の言葉は、おかしかったかしら?」


 プレシアから無言のプレッシャーが掛かると、アルフは、少し険しい表情で睨み返す。
 そして、その質問には、やさぐれフェイトが答えた。


 「ちゃんちゃらおかしい……。
  あたしは、あの短い期間で四個も集めた……。
  もっと、褒めて……。」

 「分かってないようね?
  ……全然足りないのよ。」

 「ふざけるなと言いたい……。
  あれを探すのは、凄く大変……。
  そこまで言うなら、何とかして……。」

 (苦労しないで拾って来ただけのくせに……。)

 「ドラゴンレーダーみたいのを作って……。
  ジュエルシードの位置が分かるヤツ……。
  そうしたら、それを使って探して来てあげる……。」

 「そんなものはないわ。
  それに貴女には、その力があるのだから、
  それで探して来なさい。」

 「魔法のこと……?」

 「そうよ。」

 「それ、ない……。」

 「は?」

 「基礎理論を作った人の設定で、
  あたしの魔法資質は、ゴミクラスまで低下してる……。」

 「ちょ、ちょっと待って。」


 プレシアが、アルフに質問する。


 「どういうことよ?」

 「どうもこうもないよ。
  フェイトを生み出したのは、あんただろ?
  擬似人格が目覚めたら、AMFが働くの知ってたんだろ?」

 「知らないわよ……。
  あの藪医者……!」


 プレシアは、歯をギリリと噛み締める。
 そして、再び額に手を置くと溜息を吐く。


 「どうすればいいのよ……。」


 プレシアは、不治の病に掛かっていて無理出来ない状態でもある。


 「自分で探せば……?」

 「それが出来たら、貴女に頼まないわよ……。
  探しに行けないのよ……。」

 「体調悪そうだもんね……。」

 「何で、気付くのよ?」

 「ピッコロ大魔王の気が弱まっている……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「誰が大魔王よ!」

 「意外と元気……。
  まあ、それは置いといて……。」


 やさぐれフェイトは、プレシアに近づく。
 そして、今日のために用意したプレゼントを差し出す。


 「プレゼント……。
  あたしとフェイトから……。
  体を大事にしてね……。」

 「フン……。」


 プレシアは、プレゼント叩き落とした。
 何かが割れる音がするとアルフは、声を張り上げた。


 「なんてことをするんだよ!
  それは、フェイトが一生懸命に選んだものなのに!」

 「頼んでないわ。
  こんなものより、ジュエルシードを
  さっさと探して来て欲しいのよ。」

 「あんたは……。
  あんたは、一体何なんだ!
  あんたは、母親で……この子は、あんたの娘だろ!
  こんなに頑張ってる子に……!
  こんなに一生懸命な子に……!
  何で、こんな酷いことが出来るんだよ!」


 アルフは、箱の中で割れてしまったプレゼントを指差す。


 「使い魔の作り方が下手ね……。
  余分な感情が多過ぎるわ。」

 「フェイトは……。
  あんたの娘は、あんたに笑って欲しくて……。
  優しいあんたに戻って欲しくて……。
  あんなに! っ!」


 やさぐれフェイトは、アルフの腕を強く引っ張った。


 「もういい……。」

 「でも……。
  でもさ!」


 やさぐれフェイトは、首を振った。
 アルフは、やさぐれフェイトに話し続ける。


 「あんなに一生懸命に包装紙を巻いてたじゃないか……。
  リボンも綺麗に……。」

 「うん……。」

 「だったら……。」


 アルフは、これ以上は言えないと唇を噛み締める。
 やさぐれフェイトは、アルフの肩に手を置く。
 アルフは、悲しそうな目で、やさぐれフェイトを見つめる。


 「多分、こうなると思って、
  もう一つ用意しといた……。」


 やさぐれフェイトは、後ろから予備のプレゼントを取り出した。
 アルフとプレシアがこけた。


 「私の切ない気持ちは、何処に行った!」

 「明後日の方向に……。」

 「このどうしようもない気持ちは、
  どうすればいいんだ!?」


 アルフは、バリバリと頭を掻き毟った。
 そんなアルフを置いて、やさぐれフェイトは、プレシアに視線を向ける。


 「受け取って……。」

 「要らないわ。」

 「そう……。」


 やさぐれフェイトの瞳が、キュピーンと光った。
 床を蹴るとプレシアに飛び掛かる。


 「馬鹿な娘ね……。」


 プレシアが、やさぐれフェイトに杖を向ける。
 しかし、杖は、先端が光っただけだった。


 「な!?」

 「馬鹿は、あんただ……。
  さっきアルフが、AMFが働いていると言った……。」

 「しま……。」


 やさぐれフェイトは、プレシアを押し倒して馬乗りになる。


 「マウント取った……!」


 呆然とするアルフの目の前で、やさぐれフェイトは、バリバリと包装紙を破り捨てる。


 (あの子、何してんだろう……。)


 やさぐれフェイトが、プレシアの顎を掴む。


 「プレゼントは二つ……。」

 「むー! むー!」


 やさぐれフェイトは、小瓶の蓋に親指を掛けるとグリッと回す。
 蓋は、回転しながら小瓶から外れ、床に転がる。
 そして、小瓶の口をプレシアの口に突っ込むと一気に中身を流し込んだ。


 「そして、もう一つ……。
  これで、胃まで流し込む……!」


 今度は、大瓶の蓋を同じ要領で開けるとプレシアの口に突っ込んだ。


 「飲んで……。」

 「~~~!
  ~~~!
  ~~~!」


 アルフの目の前で大瓶の中の液体が勢いよく無くなっていく。
 プレシアは、小瓶の中の何かを大瓶の中の何かの液体で、全て飲み干してしまった。
 やさぐれフェイトは、持っていた空瓶を投げ捨てた。
 アルフの横で、激しく割れる瓶……。


 「これは、どっちを止めるべきだったんだろうか……。」


 アルフの中で、どうしようもない葛藤が生まれる。
 直にプレシアが、やさぐれフェイトを突き飛ばして立ち上がる。


 「何を飲ませたのよ!?」

 「薬……。」

 「薬!?」

 「笑点の途中のCMで流れてた……。」


 アルフには、心当たりがあった。


 「そ、それって……。
  救心と養命酒ってヤツじゃ……。」

 「そうだよ……。」

 「用法用量を守って、正しくお使い下さい!」

 「ん……?」


 やさぐれフェイトは、投げ捨てられた箱を拾い上げて読む。


 「…………。」


 ガシガシと頭を掻くと、くせ毛が出来る。


 「地球人じゃないし、大丈夫……。」

 「「大丈夫なわけあるか!」」


 何故か、アルフとプレシアがシンクロした。



[25789] 第10話 やさぐれとプレシア②
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:56
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 プレシアは、不機嫌全開で、やさぐれフェイトに話し掛ける。


 「いつになったら帰るのよ……。」

 「フェイトが目覚めるまで……。」

 「こんなにフェイトを待ち遠しく思った日はないわ。」

 「そう……。」


 やさぐれフェイトは、頭をガシガシと掻く。
 掻いた後がくせ毛になる。


 「フェイトの目覚める気配がないから、
  魔王の城を探検して来る……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「だから、魔王と言うな!」


 やさぐれフェイトは、鼻で笑って、プレシアの機嫌を逆撫ですると部屋を出た。



  第10話 やさぐれとプレシア②



 やさぐれフェイトは、部屋という部屋を回る。
 そして、一箇所開かない部屋がある。


 「怪しい……。
  秘蔵のエロ本を隠していると見た……。」


 そんな訳はない。
 やさぐれフェイトは、好奇心に突き動かされて扉に手を掛ける。


 「ふふふ……。
  あたしの力は、バリアジャケットすら切り裂く……。
  ゾルディック家の扉だって押し開けてやる……。
  ・
  ・
  せーの……。」


 バキバキと鍵を粉砕する音を響かせながら扉が開く。
 そして、直ぐに警報が響いた。


 「セコムしてたのか……。
  でも、無視……。」


 そこにあったのは……。


 「フェイト……?」


 生体ポッドに浮かぶフェイトそっくりの少女だった。


 …


 やさぐれフェイトは、生体ポッドを前に腕を組む。


 「フェイトの元の素体か……。
  死んでんのかな……?
  ・
  ・
  そんな感じはしないけど……。
  レッツ・呼び掛ける医療……。」


 やさぐれフェイトは、生体ポッドを叩く。


 「元気ですか~……。
  元気があれば、何でも出来る……。
  返事して……。」


 中の少女の反応はない。


 「仕方ない……。
  最近あったプレシアの話を……。
  少し酒臭い……。」


 やさぐれフェイトに、グーが炸裂した。


 「何をしてんのよ!」

 「呼び掛ける医療……。
  今から、酒臭くなったエピソードを語るところ……。」

 「語らないで!」

 「これ、何……?」

 「無視しないで!」

 「そんなに構って欲しいか……。
  この寂しがりやめ……。」

 「違うわよ!」

 「で……?」

 「この空気で説明させる気?」

 「一生に一度、味わえるか味わえないかのシチュエーション……。
  奥さん、運がいいよ……。」

 「……何処のセールスよ。」

 「で……?」


 プレシアは、大きな溜息を吐く。


 「アリシアよ。」

 「ふむ……。
  少し小さいね……。」

 「五歳で成長が止まってるから。」

 「ほう……。
  何で、起きないの……?」

 「それを何とかしたいから、
  ジュエルシードを集めているのよ。」

 「そうか……。
  七つ集めて、神龍を呼び出すんだね……。
  なんて燃える展開……。」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「何を訳の分からないことを!」

 「冗談も言えない……。
  じゃあ、ジュエルシードって、何なの……?」

 「純粋なエネルギー結晶よ。」

 「それを流し込むの……?
  刺激が強過ぎない……?」

 「何で、流し込むのよ。
  危険じゃない。」

 「じゃあ……。」

 「これを使って、アルハザードへの道を開くのよ。」

 「具体的には……?」

 「次元の狭間にあるアルハザードへ、
  次元震を起こして旅立つのよ……。」

 「え~……。
  そんなもののために集めるの~……。」

 「そんなものとは、何よ!」

 「もっと、確実に助けられるように
  研究すればいい……。」

 「それが出来れば苦労しないわ。
  私には、もう時間がない……。」

 「病気……?」

 「そうよ……。」


 やさぐれフェイトは、眉間に皺を寄せる。


 「少し質問していい……?」

 「ええ。」

 「アルハザードってとこに行って、
  寿命が尽きたら、どうするの……?」

 「え?」

 「いや、だから……。
  アリシアを連れて行って、
  そこでプレシアの寿命が尽きたら……。」

 「…………。」


 プレシアは、顎に手を当てる。


 「……考えてなかったわね。」

 「オイ……。
  延命が先じゃないの……?」

 「でも、不治の病って診断されたし……。」

 「似合わない……。
  何を潮らしく……。」

 「悪かったわね……。
  たった今、最後の希望を誰かに摘み取られたからよ。」

 「とりあえず、病院行けば……?」

 「うん……。」

 (何……?
  この可愛いおばさん……?)


 プレシアは、しゃがみ込むと指でのの字を書き始めた。
 やさぐれフェイトが、プレシアの背中を叩く。


 「元気出せ……。」

 「でも……。」

 「仕方ない……。
  手を貸してあげる……。
  アリシアに呼び掛ける医療を試みる……。」

 「効くの?」

 「やる前から諦めない……。
  いい……?
  『せーの』で、アリシアを呼ぶ……。」

 「分かったわ。」

 「せーの……。」

 「アリシア!」
 「アリシア……!」


 やさぐれフェイトとプレシアの叫ぶ声が、時の庭園に響き渡る。
 アルフは、その叫び声に気付いて、アリシアの居る部屋を訪れる。


 「ついに壊れたか……。
  やさぐれフェイトの影響がここまでとは……。」


 多大な誤解が渦巻く中で、叫び声は、響き続けた。


 …


 アルフが、声を掛ける。


 「何をしてんだい……。」

 「叫び続ける医療……。」

 「名前変わってるわよね!?」

 「あたしとプレシアの織り出す不協和音に
  ストレスを蓄積させたアリシアが、
  怒りによって目を覚ます……。」

 「「アホか!」」


 プレシアは、やさぐれフェイトの襟首を掴んで、縦に振りまくる。


 「そんなことに私を利用したのか!」

 「どんな結果であれ、
  アリシアが蘇れば、万事OK……。」

 「起きないじゃない!」

 「アプローチが間違っていたみたい……。」

 「当たり前よ!」

 (一緒にやってたけどね……。)


 やさぐれフェイトが、指を立てる。


 「今度は、間違いない……。」

 「信用ならないわ。
  先に説明して。」

 「うむ……。
  アリシアに嫉妬させて目覚めさせる……。」

 「一応、聞くわ。
  どんな方法?」

 「アリシアは、プレシアが大好き……かもしれない……。」

 「大好きよ!」

 (言い切った……。)

 「そこで、あたしとプレシアがイチャイチャして、
  アリシアに嫉妬を促す……。
  嫉妬に狩られたアリシアは、嫉妬に狂って止めに入るはず……。」

 「なるほど……。
  それはイケるかもしれないわね。」

 (イケるわけないじゃないか。
  馬鹿になったの?)


 アルフは、頭痛しかしなかった。
 やさぐれフェイトの寸劇は続く。


 「では、スキンシップを……。」

 「何処からでも来なさい。」


 やさぐれフェイトは、頷く。
 そして、プレシアに腕を絡め、足を絡める。


 「新卍……。」

 「違う!
  これ、何か違うわ!」

 (ギシギシ……。
  ギシギシ……。)

 「じゃあ、こう……?」


 やさぐれフェイトは、形を変えて腕を絡め、足を絡める。


 「新コブラ……。」

 「だから、違う!」

 (ギシギシ……。
  ギシギシ……。)


 プレシアは、涙目だ。
 アルフは、壁に爪を立ててズルズルと床に蹲った。


 「これが親子のスキンシップか……。
  フェイトも、これがしたかったに違いない……。」

 「~~~!」


 プレシアは、タップする。


 「アリシアは、嬉し泣きだ……。」

 「悲しくて涙目だよ……この馬鹿!」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「痛いじゃないか……。
  だけど、技は解除しない……。
  今、あたしには、サブミッションの神様が降臨している……。
  ここから、テキサス・ブロンコの超人による
  テキサス・クローバーホールドを……。」

 「掛けるな!」


 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。
 三割り増しのグーで、やさぐれフェイトのサブミッションが外れた。


 「己……。
  アルフ……。
  アタル版マッスルスパークで葬ってやる……。」

 「あんたは、母親を殺す気か!」

 「乙女心と秋の空……。
  今のあたしは、そんな気分で変わっていく……。」

 「嫌な乙女だね……。」

 「さて、アリシアの様子は……?」

 「変わってるわけないだろ……。」

 「この馬鹿娘が……。」


 全員の視線が、生体ポッドに向かう。
 生体ポッドの中で、アリシアが笑った。
 しかし、瞬間に溺れた。


 「…………。」

 「アリシアのツボだったみたいだね……。」

 「そうだね……。」

 「そんな、のん気にしてる場合じゃないでしょう!」

 「大丈夫……。
  肺がLCLで満たされれば、
  直接血液に酸素を取り込んでくれる……。」

 「そんな設定はないわ!」


 プレシアは、壁のスイッチを叩くように押す。
 しかし、何も起こらなかった。


 「何……?
  そのギャグ……?
  『こんなこともあろうかと……』とか言って、
  空間磁力メッキでも張るの……?」

 「ギャグじゃないわよ!
  暫く使わなかったから、緊急排出用の装置が動かないのよ!」

 「ちゃんとメンテナンスして置きなよ……。」

 「うるさい!」


 やさぐれフェイトは、溜息を吐くと大きく体を捻る。


 「おおおぉぉぉ……!
  震えるぞハート……!
  燃え尽きるほどヒート……!
  刻むぞ血液のビート……!
  ・
  ・
  砕けろ……!
  打震……!」


 生体ポッド目掛けて、左手を打ちつける刹那に右手を打ちつける。
 格好だけの技は、馬鹿魔力を肉体強化に注ぎ込まれたせいで実現する。
 生体ポッドが粉砕する。


 「また、詰まらぬものを砕いてしまった……。」

 (ジョジョのセリフを語っているのに
  最後に鎬 紅葉の技を再現しちゃったよ……。
  しかも、力任せで間違っている……。)


 アルフが呆れてやさぐれフェイトを見る中で、プレシアが、アリシアに駆け寄る。


 「アリシア!」


 確かに呼吸はあるが、一向に目を覚ます気配がない。


 「もしかして、壊したら拙かった……?」

 「そんなことはないわ。
  急がないと溺れていたわ。
  ・
  ・
  それに……。
  自発的に呼吸をしているだけでも、大きな進歩よ。」

 「そうなんだ……。」

 「今までは、ただ保っていただけ。
  生きているとも死んでいるとも言えなかった。
  でも、今は、呼吸をしてる……。」


 プレシアは、アリシアを強く抱きしめる。


 「あたし、少し分かったことがある……。」


 プレシアが、やさぐれフェイトを見る。


 「アリシアは、やっぱりプレシアの娘……。」

 「貴女……。」

 「だって、笑いのツボがドSだった……。」


 プレシアは、視線でアルフに合図を送った。
 アルフのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「いつから手を組んだ……。
  二人であたしを虐めて、そんなに感じたいか……。
  この変態共が……。」

 「そんな理由で殴るか!」
 「そんな理由で殴らせるか!」

 「仲良くなったもんだ……。
  あんなに憎しみ合っていたのに……。」

 「あんたの個性が強過ぎて、
  手を組まざる得ないんだよ……。」

 「この大魔導師が小娘一人に手間取るなんて……。」

 「魔法が使えなければ、魔導師も形なしだね……。」

 「当たり前でしょ。
  魔法が使えなければ、ただの病人よ。」

 「病人か……。
  体を厭えよ……。」

 「ええ……。」


 やさぐれフェイトは、アルフを見る。


 「アルフ……。
  地球には、あたしだけが戻る……。
  アルフは、プレシアを看てて……。」

 「フェイト?」

 「ジュエルシードは、あたしとフェイトで何とかする……。
  アリシアを看ながら闘病なんて出来ない……。
  プレシアが病気を治す努力をしている時は、
  アルフがアリシアの面倒を看る……。
  ・
  ・
  出来る……?」

 「そ、それは、出来るけど……。
  私は、フェイトの使い魔で……。」


 やさぐれフェイトは、そっと自分の胸に手を置く。


 「きっと、これはフェイトの意思……。
  それは、アルフが一番分かってると思う……。
  フェイトは、優しいから……。」


 アルフは、少し考えると頷いた。


 「プレシア……。
  あたしは、アルハザード案は反対派……。
  でも、ジュエルシードは、探して置いてあげる……。
  フェイトの思いは裏切れない……。」

 「……感謝するわ。」

 「その言葉は、フェイトに掛けてあげて……。
  あたしは、そんなものは要らない……。
  ・
  ・
  そう、あたしには、笑いの種さえあれば……。」


 プレシアは、アルフにアリシアを預けると、やさぐれフェイトにグーを炸裂させた。


 「だったら、前払い済みよ!
  とっとと戻って、ジュエルシードを探して来て!」

 「ううう……。
  行って来る……。」


 やさぐれフェイトは、アリシアの居た部屋を出ると時の庭園の転送の間に向かった。


 …


 転送の間で、やさぐれフェイトは、静かに己が中のフェイトに話し掛ける。


 「さ、フェイト……。
  お願い……。
  ・
  ・
  もしかしたら、優しい母さんが戻って来るかもしれないよ……。」


 やさぐれフェイトが目を閉じるとクマが消える。
 そして、ゆっくりと目を開ける。


 「ありがとう……。
  もう一人の私……。」


 フェイトは、転送魔法で地球への道を開き、時の庭園を後にした。


 …


 フェイトのマンション屋上……。
 フェイトは、再びやさぐれフェイトへと戻っていた。


 「ふ……。
  これで、うるさいアルフからも解放されて自由の身だ……。
  フェイトも、ころっと騙されて道を開いてくれたし……。
  さ~て……。
  今日は、夜更かしして刃牙でオールだ……。」


 やさぐれフェイトは、コンビニで大量のジャンクフードを買い込み、刃牙を読みながらダラダラと過ごす。
 この計画がバレるのは、再びフェイトが正気に戻る時であった……。



[25789] 第11話 やさぐれの休日
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:56
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 フェイトは、泣き濡れていた。
 目覚めたマンションの一室は、変わり果てていた。
 本棚に有るのは……。
 グラップラー刃牙…バキ…範馬刃牙……。


 「何で、私の部屋が格闘漫画だらけに……。」


 そして、床に散らかるお菓子の食べカス。


 「部屋を掃除してる間に、
  今日の表に出ていられる時間が終わっちゃうよ……。」


 フェイトが溜息を吐くと、後ろから鳴き声が聞こえた。



  第11話 やさぐれの休日



 目の前には、黒猫。


 「ど、どうして?」


 そして、斜め向かいに灰猫。


 「…………。」


 白猫。
 三毛猫。
 etc...。


 「な…に……これ?」


 猫達は、フェイトに近づき鳴き続ける。
 どうやら、エサを求めているようだ。


 「餌付けしたんだ……。
  間違いない……。」


 フェイトは、部屋を見回す。


 「猫のエサの缶詰……とミキサー?
  何に使うんだろう?」


 フェイトは、目を閉じて記憶を辿る。
 思い浮かぶのは、アルフの怒る姿。
 『野菜を残すな』と怒られている。
 そして、やさぐれフェイトは、アルフが目を放した隙に野菜をビニール袋に入れてフェイトの部屋に放り投げる。
 その後、ミキサーで猫の餌と混ぜて……。


 「処理させたんだ……。
  猫って、野菜食べられるの?」


 多大な不安も残るが、目の前の猫達は大丈夫なようだ。


 「それより、何処から入って来たんだろう?」


 フェイトは、ベランダを見る。
 特に変わったところはない。
 次に玄関を見る。
 力任せに引き裂いて出来た猫用の通り道がある。


 「あの子、ドア引き裂いたんだ……。」

 (ありえない……。)


 フェイトは、手を床について項垂れた。


 …


 やさぐれフェイトが表に出る。


 「部屋が片付いてる……。
  これが噂に聞く妖精さんの仕業……。」

 そんな訳がない。
 フェイトが、しっかりと片付けたのだ。
 そして、真面目にジュエルシードを探す気がないのもバレた。


 「ん……?」


 置き手紙がある。
 手紙は、半分濡れている。


 「もしかして、涙の跡……?」


 やさぐれフェイトは、フェイトからの手紙を読む。


 「猫をどうにかしろ……。
  部屋を掃除しろ……。
  ジュエルシードを探せ……。
  規則正しい生活をしろ……。
  要約するとこんなところ……。
  ・
  ・
  小姑か……。」


 やさぐれフェイト……反省する気なし。
 そして、フェイトの手紙をグシャグシャに丸めて投げ捨てる。


 「とりあえず、今日は、出掛けよう……。
  歩いていれば、またジュエルシードを拾えるに違いない……。」


 やさぐれフェイトは、街へと散歩しに向かった。


 …


 やさぐれフェイトは、深呼吸する。


 「街の空気が新鮮……。
  魔王の淀んだ城とは大違いだ……。
  胸も少し躍る……。」


 街の大きな通りを離れ、裏道へ……。


 「何故かここに引かれる……。
  ジュエルシードが呼んでいるのか……。」


 しかし、見つけたものは別のもの。
 男が少女を襲っている。


 「……チッ!」


 やさぐれフェイトは、舌打ちをすると踵を返す。


 「む~! む~!」


 男に襲われて口を塞がれている少女は、大声をあげられない。
 その代わりに足を振り抜き、靴をやさぐれフェイトにぶつけた。
 やさぐれフェイトがゆっくりと振り向くと、クマのある目で睨む。


 「何するんだ……?」

 「む~! む~!
  (あんたこそ! 何してんのよ!)」

 「面倒ごとには関わらない……。」

 「む~! む~!
  (せめて、人を呼んで!)」

 「ヤダ……。」


 襲っている男が話し掛ける。


 「お前ら、何で、それで会話が成り立つんだ?」

 「あたしのことは、気にせず続けて……。
  少女でいられる賞味期限は極めて短い……。
  襲うなら、今……!」

 「む~! む~!
  (馬鹿か!?)」

 「いいことを言うなぁ。
  だけど……。
  実は、お前の方が好みだ。」

 「…………。」

 (ターゲットが変わった……。)


 やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻く。
 くせ毛が出来ると溜息を吐く。


 「面倒ごとになった……。」

 「む~! む~!
  (あんた、代わりなさいよ!)」

 「お断りだ……。」


 やさぐれフェイトは、男に顔を向ける。


 「あたしは、勇気と正義の使者……。
  少女を襲う暴漢を倒すために現れた……。」

 「お前、さっきコイツを見捨てようとしたよな?」

 「自分に身の危険が及べば別……。
  あたしを助けるついでに助けてあげる……。
  後で、お礼をして……。」

 「む~! む~!
  (ふざけんな!)」

 「あたしは、ここから脱兎のごとく
  走り去ることも出来る……。」

 「む~……。
  (本当に倒せるんでしょうね?)」

 「さあ……。」

 (駄目かもしれない……。)


 男は、イライラしながら話し出す。


 「無視するなよ。
  方針を変えた。
  お前ら、二人を襲う。」

 「へ……?」


 男は、襲っていた女の子を壁に叩きつけるとナイフを突きつける。


 「逃げたら、お前から殺すからな。」

 「…………。」


 女の子は、無言で頷いた。
 そして、男が、やさぐれフェイトに目を向ける。


 「お前も逆らうか?
  コイツみたいに躾けてから、
  襲ってもいいんだぜ?」


 やさぐれフェイトは、女の子を見る。
 さっき気丈に振舞っていた女の子は、無理をしていたのが分かる。
 目が怯えて、頬には痣がある。


 「口を塞いでたから、分からなかったけど……。
  叩いたの……?」

 「ああ。」

 「少し頭に来た……。
  元々、助けるつもりだったけど、
  三割り増しでぶっ飛ばす……。」

 「ほう……。」


 やさぐれフェイトが構える。
 右足を踏み込む震脚。
 地面には皹が入る。
 力瘤を作る形で両手を開くとどっしりと突き出して前傾姿勢になる。


 「トリケラトプス拳……!」

 「…………。」


 男と女の子は、沈黙した。


 …


 女の子は、絶望していた。


 (本当に駄目かもしれない……。
  よりにもよって、助けに来たのが馬鹿だった……。
  暴漢に向かって、トリケラトプス拳って……。
  そもそも、トリケラトプス拳って、何?
  ・
  ・
  私は、死ぬのか……。
  なのはやすずかにも会えず、
  馬鹿みたいな格好して助けようとする変態のせいで……。)


 男も、絶望していた。


 (駄目だ……。
  俺の趣味じゃない。
  天然の女の子なら、兎も角。
  馬鹿過ぎる女の子は、許容範囲外だ。
  何だ? この構え?
  トリケラトプス拳?
  馬鹿じゃないの?)


 やさぐれフェイトが動く。


 「行くよ……。」


 地面を蹴ると、一気に男の懐に潜り込む。


 ((絶対にトリケラトプスは、こんなに早くない……。))


 角で、かち上げるイメージで左手を鳩尾に、右手を胸に叩き込む。
 男の体が宙に浮く。
 衝撃で、男の手からナイフが落ちる。


 「刃牙を舐めるな……。」

 「技じゃねー……。」


 やさぐれフェイトが、女の子に振り返る。


 「三割り増しということになってる……。
  残りの三割を本当に痛めつけるかは、
  君に一任する……。」


 女の子は、ギンッと目を吊り上げると、親指を下にひっくり返した。


 「オーダー入りました……。」


 やさぐれフェイトは、ゆらりと脱力する。


 「この技は、体をリラックスさせるのがコツ……。」


 体を捻り腕を鞭のようにしならせる。
 体より一呼吸遅れて、腕が振り下ろされる。
 男の背中に紅葉が出来る。
 男は、バタバタともがいている。


 「鞭打……。」


 正直なところ……。
 やさぐれフェイトは、鞭打を再現出来ていない。
 鞭打の見よう見真似をしただけ。
 鞭打ならぬ、ただのビンタだった。
 しかし、そこを補っているのがアホ設定である。


 「もう一回……。」


 力任せの鞭打もどきが決まると、男は、痛みで気絶した。
 やさぐれフェイトは、女の子に近づく。


 「悪は滅びた……。」

 「あんた、滅茶苦茶するわね?」

 「今のあたしは、刃牙になり切っているから……。」

 「なり切ると大人の男の人をボコボコに出来るわけ?」

 「女の子には秘密があるんだよ……。」

 「私は、あんたを女の子と認めないわよ?」

 「じゃあ、お姉さんでいい……。」

 「もっと、イヤ!」

 「我が侭さんめ……。」


 やさぐれフェイトは、溜息を吐く。
 やさぐれフェイトは、地面に転がる男を壁の方に蹴り飛ばすと歩き始める。


 「ちょっと!
  待ちなさいよ!」

 「何……?」

 「その……ありがとう。」

 「お礼を言えるんだ……。
  あたしは、人格破綻者かと思ってた……。」

 「そんなことないわよ!
  ・
  ・
  あれ?」

 「どうしたの……?」

 「あんた……。
  この前、窓から侵入して来た子よね?」

 「あたしにグーを炸裂させた人か……。
  奇妙な縁だね……。」

 「本当……あ。
  私、アリサ・バニングス。」

 「あの有名な……?」

 「知ってるの?」

 「お父さんは、ジム改に乗ってた……。
  階級は大尉……。」


 アリサのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「それは、サウス・バニングよ!
  私は、バニングス!」

 「痛いけど、ちょっと感動……。
  このネタで突っ込んでくれるとは思わなかった……。
  これがツンデレの底力か……。」

 「失礼極まりないことを並べ立てないで。」

 「まあ、いい……。
  じゃあ……。」

 「待ちなさいよ。」

 「ん……?」

 「あなたの名前は?」

 「なのはは、やさぐれちゃんと呼ぶ……。」

 「やさぐれ?
  ・
  ・
  あははははは!
  何? そのなのはにしては、最高のネーミングは!」

 「多分、分かってないで呼んでる……。」

 「そうよね。
  でも、いいわ。
  私も、やさぐれって呼んであげるわ。」

 「意味知ってる人がそう呼んだら、
  虐めじゃない……?」

 「いいじゃない。
  一人も二人も同じよ。」

 「それもそうだね……。
  じゃあ、今度こそ……。」

 「ええ。
  何か困ったことがあったら、
  今度は、私が助けるわ。」

 「じゃあ、猫を引き取って欲しい……。」

 「猫?」

 「そう……。
  少しベジタリアンな……。」

 「どんな猫よ……。
  でも、友達に猫好きな子が居るから、
  頼んであげるわ。」

 「ありがとう……。
  住所教えて……。
  そこに行くように伝えるから……。」

 「猫と話せるの?」

 「何となく意思疎通出来る……。
  嫌いな野菜を食べて貰ってる……。」

 「その猫、危険じゃないでしょうね?」

 「どういう意味だ……。」

 「まあ、いいわ。」


 やさぐれフェイトは、アリサに住所を教えて貰うとその場を後にした。
 アリサが呟く。


 「変わった子だったわね。
  ・
  ・
  あ、そうだ。
  よくもやってくれたわね!
  この痴漢が!」


 アリサは、壁の近くでピクピクしている男を蹴り上げる。


 「ぐふぅ!」


 アリサは、男がダメージを回復出来ないのを確認すると携帯で執事の鮫島を呼び出す。
 そして、男は、警察に突き出された。


 …


 一方……。


 「おお……。
  また、ジュエルシードが落ちてた……。
  きっと、因果応報の法則に違いない……。」


 やさぐれフェイトは、またジュエルシードを拾っていた。



[25789] 第12話 プレシアの憂鬱
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:56
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 思わず溜息が漏れる。
 娘のために延命する努力をすると誓ったものの、いざ、自分の症状を医者に見せるとなると憂鬱になる。


 「診断しても変わらないでしょうね……。
  ・
  ・
  でも、あの変なものを飲まされてから、
  吐血はしなくなったのよね。」


 プレシアは、本日、アルフにアリシアを任せて、裏の世界で名の通った医者のところに行くことになっていた。



  第12話 プレシアの憂鬱



 とある世界の海の見える岬の上に大きな洋館が建っている。
 プレシアは、そこに住む医者を訪ねることになっていた。


 「こんな辺鄙なところに家なんて建てるんじゃないわよ。
  こっちは、病人なんだから、
  もう少し労わったところに建てなさいよ。」


 プレシアは、大きな木造の洋館の前で深呼吸するとドアをノックする。
 ちなみに今日の服装は、フェイトの写真立てに写っているものと同じだ。

 中から、リボンをつけた小さな女の子がドアから覗く。
 そして、直ぐに振り返ると大声をあげる。


 「ちぇんちぇ~!
  お客さんが来たわさ!」

 「ああ、連絡を貰っている。
  上がって貰ってくれ。」


 女の子が、プレシアに視線を戻す。


 「どうじょ。」

 「ええ。
  お邪魔するわ。」


 プレシアは、女の子に続いて廊下を進む。
 書斎を思わせる造りの部屋に通されると件の医者が居た。
 若そうだが、髪の半分が白髪になっている。
 そして、顔を横切るような縫合の痕が目につく。
 医者がプレシアに声を掛ける。


 「どうぞ、座ってください。」


 プレシアは、手で示された椅子に座る。


 「今日の用件は、何ですかい?」

 「折り入って頼みたいことがあるの。
  この病気なんだけど、治るかしら?」


 プレシアは、数ヶ月前を最後に取ったカルテを医者に見せる。


 「こいつは酷い……。」

 「分かっているわ。
  そのカルテを作った医者は、匙を投げたから。」

 「当然でしょうね。」

 「…………。」


 医者がカルテを見ながら質問する。


 「この末期の状態は、随分と前のものですね?
  どうして、今頃?」

 「……言わなきゃいけないかしら?」

 「構いませんよ。
  ただ、興味がありましてね。」

 「そう。
  じゃあ、結果だけを聞かせてくれないかしら?」


 医者は、溜息を吐く。


 「この状態の時に来てくれれば、
  何とかなったんですがね。
  今は、どうなるか分かりません。」

 「……残念ね。
  その時、貴方を知っていれば良かったのに……。
  でも、診ていただける?」

 「一億払って貰いましょう。」

 「ちょ……!
  助かるかどうかも分からないのに
  そんなに吹っ掛ける気!?」

 「嫌ならいいんですぜ?
  こっちだって慈善事業をしているんじゃないんだ。
  モグリで医者をやっている以上、
  訳ありの患者も診察するんですから。」

 「っ!
  医者と名の付く男は、どういつもこいつも……!
  藪だったりモグリだったり……!」

 「何のことです?」

 「こっちのことよ!」


 プレシアは、唇を噛み締める。
 そして、それでもと顔をあげて医者を見る。


 「それでも構わないわ。」

 「こういう患者はいいな。
  治そうという意思が出ている。」

 「……娘が居るのよ。
  まだ、一人じゃ巣立てない娘が……。
  だから、死ぬわけにはいかないのよ。」

 「……その言葉が聞きたかった。」


 医者は、立ち上がると助手の女の子に声を掛ける。


 「検査の用意だ。
  現状のカルテを作る。」

 「アイアイチャー!」


 女の子は、足台を持って来ると棚から、検査に必要な器具を用意し始める。


 「この子が助手なの?」

 「ああ。
  そこいらの看護師なんかよりも、
  よっぽど役に立つ。」

 「そうなんだわさ。
  そして、あたちは、ちぇんちぇいの奥さんなのよさ。」

 「…………。」

 (大丈夫なのかしら?)


 プレシアの胸に不安が募った。


 …


 レントゲン、採血、問診、etc...。
 長い検査が終わると日が暮れだした。
 その日は、一泊し、検査結果を翌日に聞くことになった。
 そして、翌日……。


 「…………。」


 プレシアは、真剣な眼差しでカルテを眺める医者の答えを待っていた。
 医者がゆっくりと口を開く。


 「奥さん。
  私をからかっていたのかい?」

 「からかう?
  どういうこと?」


 医者は、数ヶ月前のレントゲンと昨日撮ったレントゲンを並べる。


 「肺の影が消えている。」

 「そんな……まさか!」


 プレシアが、並べられたレントゲンを見比べる。
 『プロジェクトF.A.T.E』に携わっていたため、プレシアは、レントゲンを見比べることが出来る。


 「何……これ?」

 「こっちが聞きたいよ。」

 「アッチョンブリケ!」


 医者の横で、助手の女の子が奇妙な言葉を口走った。


 「一体、どんな治療を施したんです?
  レントゲンの臓器のラインから、
  この患者が同一者であるのは間違いない。
  だが、末期とも言えた状態から、完全に治っている。」

 「何って……。
  この前まで吐血だって……。
  ・
  ・
  ……あ。」


 プレシアは、思い出したくないことを思い出した。
 そして、額に手を置き、項垂れる。


 「どうしました?」

 「異世界で手に入れた得体の知れない薬を
  無理やり飲まされた……。
  それも用量と用法を無視して、
  瓶ごと中身を一気に……。」

 「……は?」

 「それしか考えられない……。」

 「一体、何の薬なんです?」

 「注意書きには、滋養強壮と気付けって書いてあったわ。」

 「絶対に治りません。」

 「私もそう思うわ。
  でも、異世界の薬だから、
  何らかの効果が働いたのかも……。」

 「信じられませんな。」

 「私もよ。
  しかも、あんな馬鹿な展開で治ったなんて、
  絶対にありえないわよ。」

 「馬鹿?」

 「それだけは言えない……言いたくない。」

 (一体、何が?)


 プレシアは、健康を手に入れたのに頭痛が消えない。


 「あのサブミッションも影響してたり……。」

 「サブミッション?」

 「何でもないわ。
  とりあえず、言われた額のお金は払うわ。
  それで、お願いだから、
  貴方の治療で私が治ったということにして。」

 「どういう理由ですか……。」

 「誰にも知られたくない理由よ。
  そんな時のためのモグリの医者なんでしょう?」

 「違います。」


 プレシアは、大きな溜息を吐くと自分で制限していた魔法を使う。


 「治ったのなら、使っても問題ないわ。」


 プレシアは、転送魔法で取り出したダッシュケースを医者に渡す。


 「言われた金額が入ってるわ。
  好きに使って。」

 「しかし……。」

 「偶には、その子とご飯でも食べてくれば?
  今だから分かるけど、
  一緒に居られる時間というのは貴重なものよ。」

 「……そうですか。
  では、遠慮なく。」

 「やった~!
  ピノコ、お子様ランチがいい!」


 医者は、苦笑いを浮かべ、プレシアは、そんな二人を自分とアリシアに重ねていた。
 そして、医者の下を後にした。


 …


 プレシアは、納得いかないままだが、少し晴れた気分で心にゆとりが出来る。


 「思えばフェイトには、酷い仕打ちをしてしまったわね……。
  時間がないからって……。
  でも、本来の寿命に戻ったなら、焦る必要もない。
  アリシアも快方に向かっているから、
  アルハザードに行く理由もない。
  ・
  ・
  ジュエルシード……。
  要らなくなったわね……。」


 プレシアは、ガシガシと頭を掻く。
 その姿は、誰かにそっくりだった。


 「とりあえず、フェイトにはジェルシードを集めさせて置くわ。
  何かの役に立つかもしれないし、
  あのふざけた擬似人格にアリシアの治療を邪魔されたくないし……。」


 フェイトを呼び寄せない理由は、やさぐれフェイトのせいだった。
 プレシアは、大きく伸びをする。


 「これから忙しくなるわ!」


 そこにあったのは、険の外れた母親の顔だった。



[25789] 第13話 フェイトとなのは
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:57
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 やさぐれフェイトが、珍しく溜息を吐く。


 「最近、フェイトの活動時間が増えて来た……。
  あたしの自由に遊んでいられる時間は、
  少なくなって来たのかもしれない……。」


 やさぐれフェイトは、拳を握る。


 「ここは、そろそろ最後の食い溜めを
  するべきなんじゃないだろうか……。」


 やさぐれフェイトは、甘食を求めて街に繰り出した。



  第13話 フェイトとなのは



 喫茶翠屋……。


 「あたしの最後の暴飲暴食は、この店に決めた……。」


 やさぐれフェイトは、店内に入ると一番奥の隅の席に座った。


 「こういうカビの生えそうなポジションが落ち着く……。
  さて、メニューは……ん?」

 「あ。」


 コップに入った水を持って来たのは、あの時の魔法少女。
 やさぐれフェイトとなのはの再会だった。


 …


 やさぐれフェイトが、なのはに話し掛ける。


 「いらっしゃいませ……。」

 「私のセリフだよ……。」

 「なのはのセリフ……?
  ここの店員さんなの……?」

 「そうだよ。」

 「家が貧乏で働かされているんだね……。」

 「違うよ!
  ここ、私のうちのお店!」

 「おお……。
  喫茶店の子か……。
  新体操で甲子園目指しちゃうの……?」

 「新体操もしないし、
  新体操で甲子園も目指せないよ……。」

 「いい切り返しだ……。
  腕を上げたな……。」

 「あ、ありがとう。」

 「ところで……。
  店員さん、ここのお勧めは……?」

 「シュークリームがおいしいよ。」

 「じゃあ、焼きそば……。」

 「おかしいよね!?」

 「冗談……。
  シュークリームを筆頭にお勧めを沢山……。」

 「お金あるの?」

 「とりあえず、十万用意した……。」

 「どれだけ食べる気なの……。」

 「胸焼けして一ヶ月ぐらい
  甘いものを見たくなくなるぐらい……。」

 「病気になるよ。」

 「大丈夫……。
  あたしの奢り……。
  なのはも一緒に食べて……。」

 「うちの店の商品を食べるって、どうなんだろう?」

 「これも接客……。
  大事なお仕事……。」

 「そう?
  じゃあ、少しだけ。」


 やさぐれフェイトとなのはの妙な会話が始まる。


 …


 やさぐれフェイトは、テーブルの上に広がる桃源郷にご満悦になる。
 そして、お勧めのシュークリームを口に運んでいる。
 そんなやさぐれフェイトに、なのはが話し掛けた。


 「あのね。
  やさぐれちゃんに会いたかったんだ。」

 「ん……?
  あたしに……?」

 「うん。
  大事な話を忘れてたの。」

 「そうか……。
  そんなにあたしとにゃんにゃんしたかったのか……。
  いいよ……。
  今日一日、あたしは、なのはの恋人……。」

 「よく分かんないよ……。
  猫と恋人に何の関係があるの?」

 「…………。」

 (やっぱり、こっちの方は疎いみたい……。
  純真な奴め……。)

 「愛い奴め……。」


 なのはは、首を傾げた。


 「あの、それでね。
  話したいことは、ジュエルシードのことなの。」

 (もぐもぐ……。)


 やさぐれフェイトは、頷いた。


 「やさぐれちゃん達がジュエルシードを集める理由を知りたいの。
  教えてくれないかな?」

 (もぐもぐ……。)

 (もぐもぐ……。)

 (もぐもぐ……。)

 (もぐもぐ……。)

 (もぐもぐ……。)


 やさぐれフェイトは、アイスティーを一気飲みする。


 「よく分からない……。」

 「え?」

 「この前、フェイトの母親に事情を聞いて来た……。」

 「じゃあ、知ってるんじゃないの?」

 「そうなんだけど……。
  ところで、イタチは……?」

 「お部屋で寝てる。
  ユーノ君も、ジュエルシード探しで疲れてるから。」

 「そう……。
  見つけるの大変だもんね……。」

 「うん。」

 「…………。」


 なのはが、やさぐれフェイトに聞き返す。


 「質問の答えは?」

 「今ので誤魔化せると思った……。」

 「もう騙されないよ。
  今日は、しっかりと聞くつもりだから。」

 「面倒臭い……。
  でも、いっか……。
  どうせ暇だし……。」

 (暇じゃなければ教えてくれないんだ……。)

 「え~とね……。
  フェイトの母親が、フェイトにジュエルシードを集めさせてた……。」

 「何で?」

 「ジュエルシードを集めて、
  次元震を起こそうとしてたから……。」

 「次元震?
  言葉からするとあまり良くないような……。」

 「下手すると異次元に吸い込まれる……。」

 「洒落になってないよ!」

 「だよね……。」

 「何で、そんなことするの!」

 「話すから、少し落ち着こう……。」

 「う、うん。」

 「次元の狭間にアルハザードって言う世界があるらしい……。
  そこに行けばどんな願いも叶うらしい……。」

 「でも、そんなことしたら、
  沢山の人に迷惑掛けちゃうよ。」

 「そうだね……。」


 なのはは、少し真剣な顔で、やさぐれフェイトを見つめる。


 「やさぐれちゃんは、それが分かってて手伝うの?」

 「あたしは、どうでもいい……。
  時間が来れば居なくなる存在だし、
  フェイトが決めればいいと思ってる……。」

 「そんなのずるい。」

 「何が……?」

 「やさぐれちゃん自身の答えを
  フェイトちゃんに押し付けてる。」


 やさぐれフェイトは、腕を組んで椅子にもたれる。


 「ふむ……。
  あたしが答えてもいいのか……。
  いずれ消える存在だから、
  あたしの意見は重要じゃないと思っていた……。
  でも、聞いてくれるなら答える……。」


 なのはは、頷いた。


 「正直、半々……。
  迷惑を掛けちゃいけないとは思っている……。
  でも、フェイトの母親の願いも叶えてあげたいとも思っている……。
  欲張れるなら両方叶えたい……。
  ・
  ・
  そして、最終的に結論を出すなら時間が欲しい……。
  あたしは、やっぱり主人格のフェイトと相談した上で決めたい……。
  これは、押し付けじゃなくて、あたし達が二人で一人だから……。」

 「難しいね。」

 「うん……。
  でも、あたしは、次元震には反対の傾向……。
  そこを強くフェイトと話すつもりでいる……。
  理由は、初めて知った世界は意外と楽しいことだらけだから……。」

 (そうだ……。
  やさぐれちゃんは、今しか居られないんだ。
  フェイトちゃんの頭の修復が終われば消えちゃうって……。
  それなのに色々問い詰めて……拙かったかな?)


 なのはは、少し俯く。


 「……ごめんね。」

 「どうしたの……?」

 「やさぐれちゃんは、今しか居られないのに……。
  私は、やさぐれちゃんの立場も考えないで、
  きついことを言って答えを求めて……。」

 「分かってる……。
  親切の裏返しは厳しさ……。
  なのはが、あたしのために
  真剣に意見を聞いてくれたのは嬉しい……。
  気にしてない……。
  ありがとう……。」

 「こっちこそ……ありがとう。」


 二人は、少し笑みを浮かべる。
 しかし、直ぐになのはは悲しそうな顔をした。


 「また、ジェルシードを求めて戦わなきゃ駄目なのかな……。」

 「フェイトの意見を聞かないと分からない……。
  あたしは、ジェルシードを見つけたら回収する……。
  なのはにはあげれない……。
  フェイトに託す……。」

 「でも、こんなにお話出来たのに……。」

 「フェイトの中で母親は絶対……。」

 「…………。」


 暫く会話が止まると涙がテーブルを叩いた。
 自分ではない涙に、なのはが目を移す。


 「フェイトちゃん?」

 「母さんは……。
  母さんは、もう直ぐ居なくなっちゃう……。」


 やさぐれフェイトは、いつの間にかフェイトに変わっていた。


 「もう一人の私の記憶を辿った……。
  私に負担を掛けないように色々と記憶に制限を掛けているけど、
  分かってしまったこともある……。
  母さんが病気なんだ……。」

 「お母さんが?」

 「時間がない……。
  だから、母さんが望むなら、
  世界中の人を敵に回してもジュエルシードは集める。
  君が私の前に立ちはだかるなら、
  私は、君を倒してでも奪って行く。」

 「フェイトちゃん……。」

 「間違いでも構わない。
  恨んでくれてもいい。
  でも、私には、たった一人の母さんなんだ。」

 (だから、フェイトちゃんの目は寂しそうで……。
  それでも優しいんだ……でも。)

 「私は、理由を知っても、フェイトちゃんを止めるよ。
  やっぱり、間違いだと思うから。
  そして、やさぐれちゃんと話したら、
  フェイトちゃんが考えを変えてくれるとも信じてる。
  ・
  ・
  どうしても駄目な時は……。
  私の持っているジュエルシードと
  フェイトちゃんの持っているジュエルシードを懸けて戦う。」

 「君は、失う人がいないから……!」


 なのはは、首を振る。


 「違うと思う……。
  私が同じ立場になって同じことをしようとしたら、
  今度は、フェイトちゃんが私を止めるはずだよ。」

 「…………。」

 「理屈じゃないと思うんだ。
  人は、自分だけの気持ちじゃ間違う時もあるから。
  だから……友達が必要なんだと思う。」

 「……友達?」

 「私は、フェイトちゃんと友達になりたいと思ってた。」

 「私は……。」

 (私は、どうなんだろう……。
  確かにずっと気に掛かっていた……。
  アルフ以外に、私に気を掛けてくれた子……。
  ・
  ・
  分からない……。
  何が正しいのかなんて……。)


 フェイトは、ポケットからお金を取り出すとテーブルの上に置いた。
 そして、無言で立ち上がると呟いた。


 「ありがとう……。
  でも、どうしようもないんだ……。」


 フェイトは、振り向かずに翠屋を後にすると行く当てもなく走り出した。



[25789] 第14話 やさぐれとフェイト
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:57
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 当てもなく走り続け……。
 自問自答しても答えは出ず……。
 頭の中で色んなことが入り乱れる。
 誰も居ない公園で、フェイトは、ベンチに腰掛けた。


 「どうすればいいんだろう……。」

 『分からないから逃げ出した……。』


 フェイトの耳にやさぐれフェイトの言葉が響いた。



  第14話 やさぐれとフェイト



 確かに声が聞こえた。
 自分の中から自分に響く。


 『修復が途中まで進むとありえないことが起きる……。
  二人とも覚醒しているから話し合える……。
  きっと、優先順位的には対等なんだろうね……。』

 「もう一人の私……。」

 『あたしは、隠しごとが下手みたいだ……。
  記憶に制限を掛けていたのに
  フェイトにほとんど見透かされてた……。』

 「…………。」

 『もう、隠しごとはしない……。
  辛いことも包み隠さず話す……。
  多分、そういう時期に差し掛かってる……。』

 「うん……。」

 『まず、自分のことから知ろう……。
  フェイトの誕生のことから……。』


 やさぐれフェイトは、ゆっくりと語り出した。


 …


 やさぐれフェイトから、フェイトに出生の秘密が語られた。
 フェイトは、少し気落ちしていたが、やさぐれフェイトの予想以上には落ち込んでいなかった。


 『思ったより、落ち込んでない……。
  これは、少し意外だ……。
  あたしの苦労は、一体……。』

 「そのお陰なんだ。
  キーワードに制限が掛かっていたから、
  何かの拍子にキーワードへ当たる度に少しずつ気付かされた。」

 『あたしの策略って、底が浅い……。』

 「常に考えていることが伝わるからね。
  完璧な制限は出来ないよ。
  それに……君の気持ちは伝わってた。
  私を気遣ってくれてた……。」

 『うむ……。
  主人格が馬鹿だったら、自殺することも考えた……。
  だけど、フェイトは、とってもいい子だった……。
  だから、あたしも安心して好き勝手を……。』

 「そこは間違い!
  周りの人が変な目で見てたよ!」

 『大丈夫……。
  別人格であることもカミングアウトした……。』

 「その設定自体が変な人なんだよ?」

 『今後のフェイトの人生に幸あれ……。』

 「今、諦めたよね?」

 『…………。』

 「もう……。」


 フェイトは、少し怒りながら、そっぽを向いた。


 「私、こんなに話せたんだな……。」

 『自分自身だから、遠慮がないんじゃないの……?』

 「そうかもしれない。」

 『満更、悪くもないでしょ……?』

 「うん……。」

 『あたしの暴走って、フェイトの欲求も加味されてたのかもね……。
  フェイトは、少し話さなさ過ぎた……。
  その反面、あたしは、言いたいことを言える……。』

 「そうだね。」

 『あたしの図々しさも悪いことだけじゃないはず……。』

 「どうかな?」

 『そこは、嘘でも頷く場面……。』

 「……違う気がする。」

 『まあ、いい……。
  それは置いとく……。
  次は、アリシアについて……。』

 「母さんの本当の娘……。」

 『うん……。
  どうする……?
  フェイトの立場は、取って代わられるよ……。』

 「私は、母さんの娘じゃなくなるから……。
  それでもいいかな……。
  母さんに優しい笑顔が戻るなら。」

 『もし、アリシアが助かったら、
  フェイトは、どうするの……?』

 「アルフと別世界で静かに暮らすよ。」

 『フェイトがそれでいいなら、
  あたしも従って眠りにつく……。
  でも、諦める前に話すべきだと思う……。
  プレシアが、アリシアを見て母親であることを思い出せば、
  プレシアにも変化がおきるはず……。』

 「そうかもしれない……。」

 『気持ちは分かる……。
  今のフェイトとプレシアは、少し離れているから……。
  そして、そのせいでプレシアに自分の気持ちを伝えられない……。
  もちろん、これも要因の一つでしかなく、
  フェイトが、プレシアの病気に心を痛めているのも知っている……。
  ・
  ・
  でも、一言いい……?』

 「うん。」

 『さっきのなのはの言葉を思い出して欲しい……。
  人は間違える……。
  一人じゃ気付けない時もある……。
  プレシアは……フェイトの母親は、
  間違いを犯そうとしているかもしれない……。』

 「でも……。
  それでも、私は……。」

 『分かっている……。
  最後まで、プレシアの味方でいてあげて……。
  だけど、間違いを間違いだとも言葉にしてあげて欲しい……。
  これは、なのはがフェイトにしてくれた優しさで、
  フェイトがプレシアに出来る優しさ……。
  その上で、プレシアがジュエルシードを求めるなら、
  フェイトは、なのはと戦えばいい……。
  時間はないようだけど、まだある……。
  有効に使えば間に合う……。
  ・
  ・
  フェイトも、次元震を起こす危険性は理解しているよね……?』

 「うん……。」

 『なら、なのはと友達になる日が来た時、
  対等に話をするためにプレシアとも話して置く……。
  やるだけやって、なのはとぶつかろう……。
  少し辛いけど、フェイトの人生を歩むための試練……。』

 「…………。」


 フェイトは、目を閉じる。
 そして、自分の中で気持ちを整理していく。


 「逃げればいいってわけじゃない……。
  でも、諦めればいいってわけじゃ……もっとない。
  これからの自分を始めるために
  今の自分の気持ちをぶつけよう……。」

 『敵は、魔王プレシア……。』

 「違うよ!
  しっかり、お話しするの!」

 『冗談だよ……。』

 「折角、覚悟を決めたのに!」

 『台なしだね……。』

 「自分で言うんだ……。」

 『それがあたしの生きる意味……。』

 「本当に何で、こんな擬似人格が生まれちゃったんだろう……。」

 『フェイト……。
  君だけは、あたしの誕生を祝福してくれると思ってた……。』

 「微妙だよ……。
  今さっきまで感動してたのに……。
  ・
  ・
  思い起こせば、刃牙とか……。
  パチンコとか……。
  猫とか……。
  学校来襲とか……。
  敵の子に迷惑掛けて仲良くなるとか……。
  その友達にも迷惑掛けて……。」

 『あたしの功績が羅列されている……。
  照れる……。』

 「褒めてないよ?
  そして、一番落ち込んでるのが、
  母さんにした仕打ちだからね?
  これから、話しに行くのに顔を合わせづらいよ……。」

 『逆に考える……。
  あれだけのことをしたんだから、
  恐れるものは何もない……。』

 「会ったら、後悔と自責の念が噴出しそうだよ……。」

 『優柔不断な奴め……。
  あたしが付いてる……。
  気をしっかり持つといい……。』

 「……そうだね。
  こんな爆弾を抱えてるんだから、
  気をしっかり持たなくちゃ。」

 『フェイト……。
  言うようになったね……。』

 「皆、君のせいだよ!」


 こうして、フェイトは、再び時の庭園へと向かうことを決めた。



[25789] 第15話 フェイトとプレシアとやさぐれと
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:58
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 フェイトは、時の庭園を訪れる。
 しかし、今度の訪問は、意味が違う。
 自分の意思で話し合うために訪れたのだ。

 フェイトは、プレシアの下へと歩き出した。



  第15話 フェイトとプレシアとやさぐれと



 ある程度の日数を開けてからの訪問。
 決意の意思を目に宿しながら、フェイトは、プレシアに話し掛けた。


 「母さん。
  只今、戻りました。
  ・
  ・
  そして、母さんと話がしたくて訪れました。」

 「そう……。」


 プレシアは、何処か上の空で耳を傾けている。


 「もう一人の私の記憶から、全てを知りました。
  自分が作られたこと……。
  母さんがジュエルシードを求める理由……。
  ・
  ・
  そして、その理由がアルハザードへと向かうことで、
  ジュエルシードは、次元震を起こすためのものであることも。
  だから、私は……。」


 フェイトは、最後の母親に逆らう言葉を口にするのを少し躊躇う。
 やはり、その一言を言うのは勇気がいるのだ。
 そして、プレシアが続きを促す。


 「それで?」

 「私は……違う方法を考えて欲しい。
  母さんに時間がないのも分かっています。
  それでも、他の人達に迷惑を掛ける方法を取って欲しくない。
  母さんが望むなら、今まで以上に辛いことだって頑張ります。
  だから……。
  だから……。」


 プレシアは、必死に訴えるフェイトを見続ける。
 今までの焦っていた状態と違って、今日は、落ち着いてフェイトを見ることが出来る。
 プレシアは、フェイトに話し掛ける。


 「フェイト……。
  いらっしゃい。」


 その言葉にフェイトは、体を硬直させる。
 また、鞭で叩かれることを想像した。
 しかし、前に出る。
 今日は、自分の気持ちを伝えるために来た。
 だから、結果がどうあれ、いつもとは違うのだ。

 プレシアは、フェイトが自分の前まで来るとマジマジとフェイトを見詰め、両手でそっとフェイトの顔を包む。


 「やはり、貴女は、アリシアとは違うのね。」

 「母さん……?」

 「こんなに必死な顔をして……。
  まだ、私を母さんと呼ぶの?」


 フェイトは、少し悲しみを瞳に湛えると話す。


 「私は……。
  私は、アリシア・テスタロッサじゃありません。
  あなたが作った、ただの人形なのかもしれません。
  だけど、私は……フェイト・テスタロッサは、
  あなたに生み出して貰って、育てて貰った……あなたの娘です。」

 「……こんな人が母親でいいの? 貴女は?」

 「私は、あなた以外、母さんを知らないから。
  そして、母さんだと思っているから、
  アルハザードへの道を開くのを止めに来ました。
  この行動で嫌われるかもしれない。
  でも、私が言わなければいけない。
  それが娘としての私の役目……。
  ・
  ・
  そして、それでも母さんがジュエルシードを求めるなら……。
  私は、世界中の誰からも……。
  どんな出来事からも……。
  ・
  ・
  ……あなたを守る。」

 「馬鹿ね……。」


 その言葉にフェイトは俯いた。
 自分の言葉は……気持ちは、届かなかったと。


 「私は、本当の馬鹿……。
  こんな板挟みの選択をさせられてしまって……。」


 プレシアが、フェイトの頬を撫でた。


 「もう、大丈夫……。
  ジュエルシードは、集めなくてもいいわ。」

 「でも、それだと母さんの願いが……。」

 「それも大丈夫……。
  アリシアは、もう直ぐ目覚めるはずだから……。」

 「でも……。
  でも……。
  母さんの時間は……。」


 フェイトは、涙を溢す。
 一番の理由……死が迫っている母親に尽くしたいこと。
 そして、やっぱりプレシアが大好きで縋っていたくて、死という別れをしたくないのだ。
 だから、優しい言葉を掛けてくれたプレシアの言葉は胸に残り、歯を食い縛って涙を流すしか出来ない。


 「それも大丈夫……。
  ちゃんと治療して来たから。
  フェイト……今まで、ごめんね。
  これからは、ちゃんと母親をするから……。」


 プレシアは、フェイトを抱きしめた。
 そして、髪を撫でて視線を落とす。


 「…………。」


 プレシアの顔が引き攣る。
 クマのある三白眼の目が軽く手を上げる。


 「ごめん……。
  時間が切れた……。」

 「台なしよ!」


 プレシアは、やさぐれフェイトにグーを炸裂させた。


 「また、この落ちか……。
  読者も飽きる……。」


 …


 やさぐれフェイトは、プレシアに話し掛ける。


 「どうした……?
  急に潮らしくなって……?」

 「何で、上から目線な言い方なのよ?」

 「気にするな……。
  このやさぐれさんに話してみろ……。」

 「話したくないんだけど……。
  貴女に話して解決するとも思えないわ。」

 「話さなくても解決しない……。
  そして、今は、記憶の制限がないから、
  この会話は、フェイトにも伝わる……。
  フェイトに話すもあたしに話すも、丸っきり同じ……。」

 「雰囲気も大事なんだけど。」

 「そんなにフェイトがいいか……。
  あたしとあんな仲のくせに……。」

 「あんな仲って、何よ?」

 「目と目が合う……。
  手と手とが触れる……。
  あ~ん♪ 的な関係……。」

 「小遊三か!」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「何で、知ってるの……?」

 「アルフに教えて貰ったのよ。
  あの謎の薬のCMが必ず入る番組。」

 「見たの……?」

 「仕方なくね。」

 「じゃあ、分かるよね……?」

 「何が分かるのよ?」

 「あたしとの関係……。」

 「分からないわよ。」

 「体を重ねた仲じゃないか……。」

 「ふざけないで!
  サブミッションを掛けられただけじゃない!」

 「あれだけ体を密着して、
  あたしの体を弄んだのに寂しいこと言うな……。」

 「誰が弄んだのよ!
  訳の分からない技の実験台にしたんでしょうが!」

 「ふざけるな……。
  あれは、刃牙が研究し尽くした新しいサブミッションだ……。
  決してふざけてなどいない……。
  素人などには簡単に外せない崇高な技だ……。」

 「私は、素人よ!
  何を目的で掛けたのよ!」

 「スキンシップ……。」

 「聞いたことないわよ!
  スキンシップを求めて、
  母親にサブミッション掛ける娘なんて!」

 「過ぎたことをネチネチと……。
  だから、こんな魔王みたいなところに引き篭もる……。」

 「だから、魔王の城って、言うんじゃないわよ!」

 「うるさいな……。」

 「貴女が思い出させたんでしょう!」

 「分かったから、理由を言え……。
  フェイトに優しくなった理由を聞いてやる……。」

 「だから、何で、上から目線なのよ……。」

 「言わないと更なるトラウマを引き出すよ……。
  汚名を挽回して、名誉を返上させるような……。」

 「私は、どんなトラウマを握られているのよ……。
  いいわよ。
  話してあげるわよ。」

 「いい子だ……。
  後で、食べ掛けのポッキーあげる……。」

 「要らないわよ!」

 「で……?」

 (また、こんなどうしようもない空気で話をさせられるのか……。)


 プレシアは、溜息を吐き、がっくりと項垂れると語り出した。


 「貴女が地球に行った後で、病院に行ったのよ。
  そこで、診察を受けて病気を治して来たのよ。」

 「本当に……?
  不治の病が数日で治るの……?」

 (余計なことに鋭いわね。)

 「治ったのよ。」

 「あたしの薬のせいじゃないの……?」

 「ち、違うわよ!」

 「何故、怒る……。」

 (あれが効いたなんて言えない……。)

 「怪しい……。
  まあ、信じてやる……。」

 「それは、どうも。」

 「信じてくれる友達いなさそうだもんね……。」

 「大きなお世話よ!
  何で、そんなに人の神経を逆撫でするのよ!」

 「突っ込める人間が居るというのは、とても幸せなことだよ……。
  プレシアの暗い人生の中で、
  今、ささやかな光が差したんだから……。」

 「私は、どれだけ暗い人生を歩んでいるのよ……。」

 「冗談……。
  子供持ちである以上、男が居たんだから、
  少なくとも一人は理解者が居たことになる……。
  暗くはないけど、灰色なだけ……。」

 「殺すわよ?」

 「魔法なしで……?」

 「ぐ……!」

 (誰かこの娘に天誅を……!)


 やさぐれフェイトは、ガシガシと頭を掻いて、くせ毛を作る。


 「まあ、大体分かったか……。
  死なないと分かって心に余裕が出来たら、
  浅はかにも自分の愚かさを認識したと……。」

 「本当に殴っていい?」

 「これは、フェイトの体だ……。
  グーまでなら許す……。」

 (人質を取られた……。)

 「それにしても、単純な奴め……。
  こんなことで潮らしくなるとは……。」

 「本当に大きなお世話よ。
  ・
  ・
  こんな馬鹿をしてる場合じゃないわ。
  どうしようかしら……。」

 「何が……?」

 「フェイトのことよ。
  あれだけ酷いことをしたのに……。」

 「厚顔無恥……。
  我田引水……。
  唯我独尊……。
  そんなプレシアが一体……。」

 「真面目に相談しているんだけど……。」

 「失敬……。
  でも、今のあたしのプレシアのイメージだから……。」


 プレシアは、青筋を浮かべた。


 「まあ、しかし……。
  これでもあたしは、女の中の女を自負する者……。
  頼られたからには、期待に応えなければならない……。
  プレシアにサプライズを用意しよう……。」

 「本当に?」

 「うむ……。
  地球に行くといい……。
  あそこに数々の仕掛けを用意した……。」

 「仕掛け?」

 「そう……。
  あの街には、フェイトが馬鹿にされる要因がある……。」

 「何でよ?」

 「あたしが暴れたからだ……。」

 「貴女、碌なことしないわね。」

 「そのお陰でフェイトは、あの街に行けば、
  後ろ指を差されること間違いなし……。」

 「何てことをするのよ。」

 「そのせいで、時には泣くかもしれない……。」

 「貴女、何を仕出かしたのよ?」

 「そこは、置いとけ……。
  兎に角、泣いてる時がチャンス……。
  そっとハンカチを差し出して慰める……。
  行けるなら、肩も抱いてしまえ……。
  これで、フェイトは落ちる……!」

 「何の作戦なのよ……。」

 「目と目が合う……。
  手と手とが触れる……。
  あ~ん♪ 的な作戦……。」

 「繰り返すな!」


 プレシアのグーが、やさぐれフェイトに炸裂した。


 「でも、地球には行かなきゃでしょ……?」

 「は?」

 「ジュエルシードを返さないと……。」

 「誰に?」

 「管理局……。」

 「無視すればいいわよ。
  私、あそこの組織嫌いなのよ。」

 「好き嫌いの問題か……!
  数で負ける……!」

 「負けないわよ。
  いざとなったら、ジュエルシード砕いて撒けばいいのよ。」

 「撒いて、どうする……?」

 「次元震を押さえるために混乱するんじゃない?
  その間に痕跡消して逃げるのよ。」

 「あたし……。
  自分の性格が歪んでるのを認識してる……。
  それは、基礎理論を組んだ人のせいだと思ったけど、
  プレシアの影響だった……。」

 「失礼ね。
  貴女ほど歪んでないわよ。」

 「よく言う……。
  砕いて撒くって、馬鹿じゃないの……?」

 「勢いに決まっているじゃない。
  貴女如きに真面目に答えて、どうするのよ?」

 「絶好調だね……。
  そして、話が訳分からなくなったのは確かだ……。
  地球に何しに行くのか……。
  管理局に接触するのか……。
  フェイトと仲良し大作戦を実行するのか……。
  話している間にこれだけ脱線するプレシアとあたしのセンスは侮れない……。」

 「精神汚染されてる……。」

 「さて、纏めようか……。」

 「私には無理……。
  この話を纏められないし、纏める要素も見つけられない……。」

 「ふ……。
  理解レベルの低い奴め……。
  あたしが纏めてやろう……。
  プレシアは、フェイトと一緒にジュエルシードを返しに地球へ行くのだ……。
  そして、数々のあたしのトラップを掻い潜り、親子の信頼関係を取り戻す……。
  危機を乗り越えた二人の間には、言い知れない連帯感が芽生える……。
  ・
  ・
  訪れた管理局の犬の住む喫茶翠屋で高町なのはと接触し、
  管理局の大ボスを呼び出す……。
  ここで、プレシアが大人としての毅然とした交渉をして、
  フェイトから尊敬の念で見られる……。
  あら不思議……。
  隙間風の吹いていた親子の間には、暖かい春風が包んでいる……。
  ・
  ・
  どう……?」

 「あの話がどうして纏まったのかしら……。
  軽い洗脳を受けた気分で、実行したくなって来たわ。」


 大丈夫か? プレシア?


 「地球に行くわ。
  行って、フェイトとの関係を修復する。
  そして、管理局を倒してハッピーエンドに雪崩れ込むわ。」

 「管理局を倒すのは違う……。」


 こうして、軽い洗脳状態のプレシアは、地球へと向かうことになった。



[25789] 第16話 そろそろ幕引き……
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:96ed7643
Date: 2011/02/02 22:58
 == 魔法少女リリカルなのは ~ちょっとだけ、やさぐれフェイトさん~ ==



 引き続きアルフによるアリシアの看病が続く……。
 実は、一番頑張っているのはアルフだったりする……。

 そして、地球のフェイトのマンション……。


 「これ誰の部屋よ……。」

 「フェイトが片付けるのを諦めたあたしの城……。」


 刃牙!
 バキ!
 範馬刃牙!
 ジョジョ!
 ドラゴンボール!
 etc...。


 「男の子の部屋じゃない……。」

 「こっちの方がまだマシ……。
  依然は、まともな家具もない……。
  まるでホラー映画の殺される女主人公のような、
  何もない虐められっ子の部屋だった……。」

 「……本当?」

 「本当……。」


 やさぐれフェイトの嘘で、プレシアにフェイトへの同情心が膨らんだ。



  第16話 そろそろ幕引き……



 やさぐれフェイトが、プレシアに話し掛ける。


 「最近は、あたしよりもフェイトの時間が多い……。
  今は、あたしが出ているけど、
  活動時間は、二時間ぐらいしかない……。
  フェイトが目覚めたら喫茶翠屋に行って、
  高町なのはを訪ねるといい……。」

 「分かったわ。」

 「そして、街を遠回りで回って、
  フェイトと話すといい……。」

 「そう。
  後、どれぐらい?」

 「二十分あるかないかだと思う……。」


 プレシアが、やさぐれフェイトの手を取った。


 「最後かもしれないから、貴女とも話して置くわ。
  途中でフェイトに代わるんでしょう?」

 「うん……。」

 「じゃあ、行きましょう。」


 プレシアとやさぐれフェイトは、海鳴の街を散歩することになった。


 …


 プレシアは、普通の母親の格好。
 やさぐれフェイトは、初日に自分で選んだ服。
 手を繋いで歩いている。


 「少し考えたんだけど……。
  貴女、意外とお節介よね?」

 「それはね……。
  フェイトは、あたしの宿主だし……。
  ・
  ・
  あ……。
  あっち……。」

 「何があるの?」

 「あたしが手をつけてない領域……。
  プレシアのイベントが減らないで済む……。」

 「本当に何したのよ?」

 「一つネタバレすれば、あそこの曲がり角の家に住むツンデレの犬に
  ごんぶとの眉毛を書いたので襲って来る……。」

 「貴女ね……。
  善行はしていないの?」

 「猫を助けた……。
  今は、優しい女の子に飼われている……。
  そこで、芸を仕込んだ猫が迷惑を掛けていないかは確認してない……。」

 「微妙ね……。」

 「でも、子供らしい悪戯……。
  フェイトは、そんなこともしない……。
  自分が少し皆と違うと分からせるには、
  大げさなことをして理解させるのもいい……。」

 「へぇ。」

 「でも、これからはプレシアが教えてあげて……。
  フェイトは、アリシアじゃない……。
  アリシアは、アリシア……。
  フェイトは、フェイト……。
  一つの体には、一つの魂しか宿らない……。」

 「……そうよね。
  当然だわ……。」

 「きっと、楽しい……。
  暫く離れていたけど、アリシアとフェイトの居る生活は、
  プレシアに大事なことを思い出させる……。
  少し活発なアリシア……。
  巻き込まれて困るフェイト……。
  想像すると楽しくない……?」

 「そうね。
  ・
  ・
  ……貴女は、どうなるの?」

 「ん……?」

 「フェイトが目覚めた後の貴女よ。」

 「詳しいことはフェイトに話す……。
  でも、漠然としたことを言えば、また眠りにつくだけ……。
  フェイトが怪我をすれば出て来るかもしれないし……。
  これを最後に出て来ないかもしれない……。」

 「そう……。」

 「どうした……?
  寂しいか……?
  あたしが居なくなれば、清々するだろ……?」

 「……寂しいわね。」

 「え……?」

 「寂しいわ。
  結果は、どうあれ。
  貴女が、切っ掛けだもの。
  ・
  ・
  それに私に話し掛ける人は居なかったから。」

 「あれ、冗談だよ……?」

 「そういう生き方をしていたのよ。」

 「今度、聞いてあげるよ……。
  フェイトが何かの試験を受けて、
  落ちたショックで自暴自棄になって、
  ガンガン柱に頭を打ちつけて脳に損傷が出来たら……。」

 「そんなシチュエーションでは会いたくないわね。」

 「そう……?
  あの子が本気になったら、凄い勢いで頭を傷つけるよ……。」

 「絶対しないわよ。」

 「甘い……。
  フェイトは、上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想を持つ……。
  このタイトルを格闘少女グラップラーフェイトにするためには、
  どんなことでもする恐ろしい子……。」

 「さっきの本は、貴女のものだって言ったじゃない。」

 「しまった……。
  ネタバレした後だった……。」


 そして、時間が訪れる。


 「プレシア……。
  これで、お別れみたいだ……。
  アリシア、フェイト、アルフと仲良くね……。」

 「ええ……。
  貴女も私の娘だったわ……。」

 「腹黒いところだけ受け継いだの……。」

 「最後なのに……。」

 「じゃあ、よろしく……。」


 やさぐれフェイトは、ゆっくりと目を閉じる。
 そして、クマが取れるとゆっくりとフェイトが目を覚ます。


 「あ……。」

 「フェイト?」

 「これが最後だって……。
  後は、私の中でしか話せないって……。」

 「……あの子が全部繋いでくれたわね。」

 「はい……。」

 「あの子は、天使だったのかしら?
  悪魔だったのかしら?」

 「……きっと、天使だよ。
  凄く悪戯好きな。」

 「そうね。
  行きましょうか?」


 プレシアは、あらためて手を差し出した。


 「はい、母さん。」


 フェイトが手を握り返す。
 そこには、やさぐれフェイトの気遣いなど無用だった。


 …


 しかし、気遣いは、無理に発生した。


 『ママ!
  あのおねーちゃんが、僕を虐めたんだ!』

 『うちの子に何をしたの!?』

 「すいません!
  すいません!
  すいません!」

 「ごめんなさい!
  ごめんなさい!
  ごめんなさい!
  ・
  ・

 『やさぐれ!
  うちの犬に眉毛を書くなって、
  何回言えば分かるのよ!』

 「すいません!
  すいません!
  すいません!」

 「ごめんなさい!
  ごめんなさい!
  ごめんなさい!
  ・
  ・

 『やさぐれ!』

 『ちょっと、あなた!』

 『そこの君!
  ・
  ・

 「……フェイト。」

 「はい……。」

 「逃げるわよ!」

 「はい!」


 街中を走り抜ける親子。


 「何で、こうなるのよ!
  健康な体を取り戻したのは、
  こういう使い方をするつもりじゃないはずよ!」

 「ごめんなさい……。
  母さん……。」

 「全部、あの子のせいよ!
  やっぱり、悪魔だったわ!」


 確かに二人には連帯感が生まれた。
 そして、どうしようもない状態なのだが、何故か笑いも込み上げて来ていた。


 …


 少し息を切らせながら、喫茶翠屋に着く。
 面識のあるフェイトがなのはを呼び出した。


 「フェイトちゃん……。
  あの、今日は?」


 フェイトが頷く。


 「君にお願いがあって……。
  君から頼んで、管理局の人に会えないかな?」

 「それって……。」

 「君のお陰……。
  君の後押しで母さんと話すことが出来た。
  そして、話せたことで後ろめたさもなくなった。
  だから……。
  ・
  ・
  君が言ってくれた言葉……友達になりたいって。」

 「うんうん!」

 「私に出来るなら、私でいいならって……。
  だけど、私……。
  どうしていいか分からない……。
  だから、教えて欲しいんだ。
  どうしたら、友達になれるのか……。」

 「簡単だよ……。
  友達になるの凄く簡単。
  ・
  ・
  ……名前を呼んで。
  初めは、それだけでいいの。
  君とかあなたとかそういうのじゃなくて、
  ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。
  私、高町なのは。
  なのはだよ。」

 「なのは……。」

 「うん! そう!」

 「ありがとう……なのは。」

 「うん……。」


 プレシアは、フェイトとなのはの姿を見ると店内に居たフェレット形態のユーノに目を向けると念話を飛ばす。


 『貴方も、魔法に関わりを持つ者でしょう?
  あの子達を二人にしたいから、
  貴方が管理局に連絡を取ってくれる?』

 『どうするつもりなんだ!』

 『嫌われてるわね……。
  まあ、慣れてるけど。
  ・
  ・
  ジュエルシード……。
  それ相応の組織が管理するのがいいんじゃなくて?』

 『それじゃあ……。』

 『ええ。』

 『分かった。
  連絡を取るから、話す用意が出来るまで……。』

 『ええ。
  この店で、あの子達と待たせて貰うわ。』


 ユーノは、店内から姿を消す。
 そして、プレシアは、カウンターから不思議そうな目を向けるなのはの母に微笑むと近づいて行く。


 「すいません。
  ちょっと珍しい動物だったもので。」

 「なのはが……娘が連れて来たんです。」

 「そうですか。
  こういう店は初めてで。
  メニューをお任せで三人分お願い出来ますか?」

 「三人?」


 プレシアは、なのはとフェイトに振り返る。


 「仲良くなれたみたいなんで……。
  少し相手をして貰っても……。」

 「ええ、構いませんよ。」

 「……ありがとう。」


 プレシアは、カウンターの席に腰掛ける。
 そして、なのはとフェイトは、店内の席で座って話し始めた。


 「人も捨てたもんじゃないわね……。」


 プレシアは、ユーノからの連絡があるまで、なのはの母と久しぶりの世間話をするのだった。


 …


 数時間後……。
 場所は、時空管理局の艦船アースラの一室に移動する。
 畳や提燈など、何処か日本を思わせる小さな部屋。
 そこは、艦長リンディの部屋だった。
 中ではリンディと向かい合って、プレシア、フェイト。
 そして、ジュエルシードについての会話が始まる。


 「まずは、これをお受け取りください。」


 プレシアは、『粗品』と書かれた箱をリンディにお辞儀しながら渡す。


 「これは、ご丁寧に。」


 リンディは、その箱をお辞儀しながら受け取る。
 稀代の大魔導師と時空管理局の艦長のこのやり取りは、貴重なのかもしれない。
 フェイトは、少し緊張しながら、そのやりとりを見ていた。
 リンディから、プレシアに話し掛ける。


 「早速ですが、ジュエルシードのことについてお伺いしたいのですが、
  お聞かせ願いますでしょうか?」

 「こちらとしては、回収したジュエルシードは、
  そのまま時空管理局に届け出るつもりです。」

 「届け出る?」

 「ええ。
  あくまで、私達は、ジュエルシードを拾っただけですから。」

 「…………。」


 リンディは、プレシアの言葉でシナリオを理解した。
 つまり、大人しくジュエルシードを返すから、聞くな触るなということだ。
 リンディは、少し困った顔をすると決心して話す。


 「難しいことを簡単におっしゃいます。
  でも、そうなるように善処しますわ。
  最初の原因は、輸送船の事故ですから、
  非があったのは、こちら側ですからね。」

 「……管理局にも話せる人間は居るのね。」

 「は?」

 「あ、いえ。
  一応、管理局に勤めてたこともありまして、
  その時の対応から、人間嫌いになったというか……。
  まあ、そういった経緯があります。」

 「そうですか。
  管理局も一枚岩ではないので、
  中には強引な手段を取る方もいますから。」

 「その様子だと、経験談がありそうですわね?」

 「それは……企業秘密ということで。」

 「…………。」

 「「おほほほほほほほ……。」」

 (昔と変わってないみたいね。)

 (昔から、そうだったみたいね。)


 再度、リンディとプレシアの視線が合うと二人は笑い合う。


 (何か怖い……。)


 フェイトは、時空管理局の裏事情を見た気がした。


 …


 話は、滞りなく進み、特に法的な手段も取られることなく、ジュエルシードを返還することだけで話は収まりそうだった。
 プレシアが、フェイトに声を掛ける。


 「フェイト。
  回収したジュエルシードを出してくれる?」

 「はい、母さん。
  ・
  ・
  バルディッシュ……。」

 『Yes Sir.』


 バルディッシュに封印されていたジュエルシードが、フェイト達の前に姿を現す。


 「え?」
 「は?」
 「うそ?」


 バルディッシュが吐き出したジュエルシードの数が三十を超えている。


 「あの、ジュエルシードって……こんなに?」


 フェイトの質問にリンディが額を押さえる。


 「情報だと二十一個……。
  そのうち、こちらで海から回収したのが六個。
  なのはさんが集めてくれたのが七個。」

 「…………。」

 「「「数が合わない……。」」」


 プレシアは、バルディッシュの周りを回っているジュエルシードを注意深く観察する。


 「これ、ジュエルシード以外のロストロギアも混ざってない?
  ジュエルシードは、ひし形だけど、
  これなんかは、楕円形の形をしてるわよ。」

 「そういえば……。」

 「あの子、どうやって回収してたのかしら?」


 フェイトは、暗い影を落として語り出す。


 「もう一人の私は、魔力感知出来ないから……。
  主に拾い集めてて……。」

 「拾う?」

 「信じられないかもしれないけど、
  都合よく落ちてるのを拾うだけ……。」


 リンディとプレシアが額を押さえる。


 「じゃあ、何?
  この地球には、ジュエルシード以外のロストロギアも、
  散乱して散らばっていたの?」

 「多分……。
  もしくは、もう一人の私のトラブルを起こす能力が原因かも……。」

 「ま、まあ、兎に角……。
  予想以上のロストロギアの発見は、
  管理局も、願ったり叶ったりですから。」


 フェイトとプレシアは、何処か納得いかないと溜息を吐き、リンディは、苦笑いを浮かべた。
 こうして、グダグダの展開でジュエルシード事件は、幕を閉じようとしていた。


 …

 長い一日が終わり、フェイトとプレシアは、地球で一泊してから、時の庭園へと戻ることにした。
 そして、刃牙だらけの本棚のある自分の部屋で眠るフェイトは、夢を見ていた。


 「もう一人の私……。」

 「うん……。
  今から眠りにつくから、最後の挨拶に来た……。」

 「少し寂しいな……。」

 「ありがとう……。
  フェイトにそう言って貰えると擬似人格冥利に尽きる……。
  そして、最後のお願い……。」

 「出来ることなら、何でもするよ。」

 「うん……。
  とっても、簡単なこと……。
  いつも笑っていられる生き方をして欲しい……。」

 「え?」

 「あたしは、眠るけど……。
  フェイトの行動が夢になる……。
  フェイトが笑っていれば楽しい夢だし、
  泣いていれば詰まらない夢になる……。
  だから、今までみたいに俯くことが多いと困る……。」

 「……ごめんね。」

 「うむ、許してあげる……。
  でも、これからは心掛けて……。
  あたしの何分の一でもいいから楽しんで……。
  ・
  ・
  プレシアが居る……。
  アルフが居る……。
  アリシアが居る……。
  そして、友達も出来た……。
  もう、大丈夫だよね……?」


 フェイトは、静かに頷いた。


 「うん……大丈夫。」

 「良かった……。
  安心して眠れる……。
  その棚の本は、フェイトにあげる……。」

 「要らないよ……。」

 「残念……。
  フェイトには魔法少女より、
  グラップラーを目指して欲しかった……。」


 やさぐれフェイトの冗談に二人は笑い合う。


 「じゃあ……。」

 「ありがとう。」


 フェイトの呼び掛けにやさぐれフェイトは、微笑んで返すと消えていった。


 …


 数年後……。
 管理局に入り、なのはと同じ飛ぶ空で、フェイトに次元犯罪者の魔法弾が直撃した。


 「フェイトちゃん!」


 心配するなのはの声を余所に、晴れ始める煙から除く邪悪なフェイトの笑み。


 「おやおやおやおや……。
  ゆっくり寝ていることも出来ない……。」


 なのはは、独特のしゃべり方と目の下のクマに戦慄する。


 「ま、まさか……。」

 「ちゃんとフェイトの説明書を読まなかったみたいだね……。
  『頭は狙っちゃいけません』って書いてあるのに……。」


 悪魔は、フェイトがピンチになると舞い降りる……。
 呼び出さなければ、ただの気絶で済んだのに……。
 何年かに一度、次元犯罪者の断末魔が響く……。
 そして、それは基礎理論を生み出した人も例外ではなかったりする……。


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