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[25729] VIPな俺らの冒険譚【VRMMO】
Name: TENGA◆782c983e ID:8e33bb3e
Date: 2011/02/02 15:17
VRMMOものです。
主人公たちが凄くハレンチな名前ですが、コンセプト上仕方なかったということを理解して頂きたい。
ちなみにデスゲームなのですが、何せVIPPERが主人公なので主人公が思いっきり悪役です。
そのことを許容できない方は読まないほうがいいかもしれません……



[25729] 1.びしょぬれこなあばずれまん光
Name: TENGA◆782c983e ID:8e33bb3e
Date: 2011/01/31 18:25
 断頭台の丘は名前の通りとても大きな断頭台が連なって配置されていた。
 剥き出しの岩盤は人の手が加えられていて粗一つない平面になっている。磨き抜かれた地面は真っ赤に燃える太陽を写しだし、鮮烈な輝きを反射していた。
 不気味な場所である。
 赤く染め上げられた大地の上にたたずむ断頭台の刃はぬめり気を帯びていて、つい先ほどに首を刎ねたばかりではないか、と想像させる。
 首をはめこむ窪みがある。
 そこは死に最も近い場所だ。好んで近づくものもいないだろう。
 だが、窪みのある木の拘束具の上には凹凸コンビと言いたくなるほど身長に差がある少女が二人座っていた。
 このような血生臭い場所とは縁遠い世界に住んでいるような風貌の二人である。
 小さい方は夕暮れの空にも負けない紅の髪は血によく似ている。量の多い髪を両端で結う、つまり、ツインテールにしていた。
 やや吊り目がちの瞳は大きく、勝ち気な性格をよくあらわしているのだろう。透き通るような肌は触れればさぞ気持ちいいだろうことを想像するのは難くなく、やや大きめの唇は潤いに満たされていた。
 しかし、服装があまりにもミスマッチに過ぎた。
 無骨なレザージャケットとレザーパンツには装飾など何もなく、ただただ機能性を追求した形である。腰につけたホルスターには数本のナイフが見え隠れし、背中には矢筒と長弓を背負っている。貴族風の派手な少女には似合わない地味な格好である。
 大きい方は夜を彷彿とさせる黒髪黒瞳である。ボーイッシュに切り揃えられた髪と常に浮かべている笑みが相まって少年のようにも見える。頬には小さいハートのタトゥーが彫られており、凛々しい顔立ちにはそれが妙に似合っていた。
 服装は――派手である。いや、服装というよりも武装と言うべきか。
 背中には身の丈を大きく超える長大なハルバード。豪奢な装飾が施された刃は青い灯を宿しており、通常の武器ではないことは容易に知れる。
 身に纏うのは白銀のブレストアーマーと大腿部を覆い隠す鱗のパンツか。何の鱗かはわからないが、光沢の残るそれはまだ生きているのではないかと思わせるほどに生気を放っていた。
 ただものならぬ二人組である。
 そんな二人が深刻な顔をして互いの顔をちらちらと窺っていた。

「ミスったなぁ、って正直思ってるんでしょ?」

 話しかけたのは小さい方である。
 足元にある小さな石コロを蹴飛ばして遠くを見る姿は絵になった。

「そりゃ思うさ。びしょぬれこって名前は最高にハイな名前だと思ってたんだぜ? まさかMMO世界に取り残されることになるとは思ってなかったからよ。俺は一生びしょぬれこって名前を背負って生きていくのかと思うと股間が濡れ濡れになっちまうぜ」

 股間を思い切り掻きながら苦々しく言い捨てたのは大きい方だ。びしょぬれこという名前なのか。自分の名前に対して酷い嫌悪を露わにしている。
 喋り方はまさしく男である。行動も男である。少年のようにも見える顔立ちとは似合っている。
 だが、ブレストプレートで隠れてはいるがその下には張り裂けんばかりの豊満なバストが膨れている。腰のくびれも抱き締めれば折れるのではないか、と思わせるほどに細い。お尻も盛り上がっていて、正しくボンキュボンである。男の大好きなそそるスタイルなのだ。
 いわゆる『お姉さま』と呼びたくなるような外見のせいか、眉間に皺を寄せて吐き捨てる姿は下品でありつつもどこかクールだ。
 不機嫌なオーラを隠さないびしょぬれこの隣でふんと小さい方は鼻息を鳴らす。その程度で悩むのか、と格下を蔑む表情だ。びしょぬれこはむっとして立ち上がると、胸を張って小さいのを見下ろした。小さい方も負けじとびしょぬれこを見上げるが、上を見るために首を上げるのが疲れたのか。首の後ろのほうを手で揉みながら、はふぅと可愛らしくタメ息を漏らす。

「その程度ならいいじゃないですか。僕の名前なんかあばずれまん光ですよ。百歩譲って光さんと言ってもらえるかもしれないですけど、あばずれまんこなんて言われた日にはおしまいですよ。どうやって生きていけばいいんですか」

 一筋の涙が零れた。
 今にも両膝を折って前にのめり込みそうな少女――あばずれまん光は涙を止め処なく溢れさせていく。びしょぬれこも貰い泣きしてしまった。不覚にも二人はネタでつけた名前のせいで辛く苦しい現実にぶち当たっているのである。
 ある日、世界初めてのVRMMOのベータテストが実施された。その名も【リアルワールド・オンライン】である。
 VRMMO――つまりはヴァーチャル世界をリアルに体験できるオンラインゲームだ。専用のヘッドギアを装着してゲーム世界に飛び込む。そこでは五感が再現され、まさにその世界で生きているという感覚を与えてくれる。
 もともとは長期入院の病人に対する娯楽、もしくは身体障害者のリハビリの手伝いなどのために開発された技術なのだが、今回初めて多数の人間相手に娯楽としての提供がなされたのだ。
 今までは画面内で動くキャラクターはただのデータだ。いくら強くなってもダメージの数値が変わるだけだったのが、このVRMMO内では全てに左右される。簡単に言えば現実世界では非力な人間であろうとも、STR(筋力)の数値が高ければ天下無双の力持ちになれるのだ。要するに、実感としてキャラの強さがわかるのである。
 多くのオンラインゲーマーはベータテストのテストプレイヤーに応募しまくった。
 びしょぬれこもあばずれまん光も迷うことなく投稿したのである。メールアドレス四千個ほどをマクロで作成し、全てにデータを入力して――ここまでくるともはや病気であるが、彼らは総じてニートなので時間には余裕があったのだ。
 あぁしかし――ベータテスト当日に不運にも発覚したものがある。
 ログイン中にもしサーバーの電源が落ちたらどうなるのか。ゲーム内に接続している意識はどこへ行くのか、それらの検証が未知だったのである。
 病院で運用されていたときは専門家が隣についての徹底指導のもとに実施されていたのだが、何せオンラインゲームである。世界中で実施されるのである。全員の隣に専門家がいるはずもない。
 故に、事故が起きた。
 掃除のおばちゃんがサーバーのコンセントに足を引っ掛けて転んだのである。そのせいでサーバーの電源は落ち、ログアウトできなくなったのだ。
 それから三カ月。ある程度のコミュニティが形成された【リアルワールド・オンライン】は実に混沌としていた。

「――ハッ! VIPな俺らに引き返す道などあるはずもねぇな。最高に厨二病な現実だぜ。胸が熱くなる」

 VIPとはハタ迷惑な奴らの総称である。

「今日も今日とて狩りの開始ですね。あそこでつるんでる男女のペア。見てるだけで殺意がわきますよ」

 彼らは嫉妬しか知らず、周囲に当たり散らすことを快感とする。好き勝手絶頂のプレイが大好きで、人の目など気にしない。
 ネーミングセンスからして確定的に明かなのは間違いのない事実であり、まさしく自業自得なのだが、わかっていても当たらずにはいられない。
 断頭台の丘に続く階段は長く、上から見下ろせばここに向かう愚かな男女のペアが見える。
 どちらも初期装備を着込んでいることからLVは高くないのだろう。

「行くか、あばずれ」
「行きましょう、びしょぬれまんこさん」
「びしょぬれこだっつってんだろ!」
「僕のことは光でよろしく!」

 互いに武器を引き抜くと、階段から『ヒャッハアアアアアアアア!!』と叫びながら飛び下りた。
 追記しておこう。
 彼らはネカマである。



[25729] 2.濡れ衣と勘違い
Name: TENGA◆782c983e ID:8e33bb3e
Date: 2011/02/01 15:17
 大きい男である。
 身長はおおよそ常人の二倍はあろうか。
 横幅も太く、ごつい。
 首も、胴も、腕も、脚も、なにもかもが人間離れしていた。
 何せ彼は人ではなく、オーガだったからだ。
 戦うために生まれた戦闘種族であるオーガは根っからの戦闘狂。節くれだった木の幹のような拳は容易に石を砕き、地面を叩き割る。口から生えた猛々しい牙は敵対者の首を噛み千切り、脚で踏み砕いて殺すのだろう――と種族説明では書かれているが、実際のところ彼はただの生産者だった。
 みらくる☆えんじぇる。
 肩に刻まれた日本語は妙にすっとぼけていて、浅瀬にぼんやりと座って釣竿を垂らしている。もともとの顔が酷く獰猛なはずなのに、穏やかに口笛を吹きながら魚が釣れるのを待つ姿はどこかメルヘンチックであった。

「鯛でも釣れないかしら。いやいや、何でも食えたらそれでいいよ。私はお腹が減って死にそうですっ、てね」

 ふんふんと機嫌良く流行りのポップを口ずさみ、地面に釣竿を突き刺した。
 手持無沙汰になると脇に置いていた大きな鞄から何かを取り出す。
 ハンマーだ。
 いや、これはハンマーと言っていいのだろうか。攻城兵器と評すべきではないのだろうか。
 身の丈三メートルは越えるでかさを誇る彼よりもさらに大きな鉄槌。
 叩かれたら死ぬだろう。間違いなく、苦しむ暇もなく胴体が引き千切れて死ぬだろう。
 オーガと攻城鉄槌。
 組み合わせが残虐すぎて何かを虐殺する妄想を駆り立てるそれは、随分と平和な使い方をされた。
 鉄槌の周囲に薪をくべ、燃やす。鉄槌が熱せらると、さらに取り出した卵を鉄槌の上で焼き始めた。
 目玉焼きである。
 完璧ね、と舌舐めずりする姿は獲物を前にした狩猟者そのものだが、なんとも緊張感に欠ける光景である。
 そして釣竿の糸が張りつめた途端――

「お前らが仲間を殺したのか!!」

 鋼王の海に隣接する断頭台の丘から大きな声が聞こえた。

「何かしら?」

 まずは腹ごしらえ~、と伸び伸びと釣竿を引き上げると、連れた鯛を火にくべてじゅるりと涎を垂らす。
 食事を開始し始めたのはみらくる☆えんじぇると肩に刻印したオーガ。彼は基本的にマイペースだったのだ。

 ◆

 死ねばどうなるのか。どこへ行くのか。
 現実では宗教などで天国や地獄へいく。輪廻転生の環に戻る。完全な無になる。などといろいろ言われているが、【リアルワールド・オンライン】でもそれは同じである。
 つまり、ゲームで死ねばどうなるのかがわからない。わかっていることと言えば死んだものは二度と復活できないということと、その後死者の姿を見たものはいないということだけである。
 だから、ユーザーたちはこう考えた。
 ゲーム内の死=現実世界の死ではないのだろうか、と。
 一般ユーザーは死を恐れた。
 魔獣は強く、ソロだったら負けるようなものがほとんどである。
 前衛も後衛も支援職もそれぞれが決死の思いで立ち向かってようやく戦えるほどの敵も数多く存在する。
 仲間のミスが己の死に繋がる。
 そう考えるだけで多くのものが足を震わせ、心が折れるのだが――一人の男が立った。

「俺がお前らを守ってやる!」

 男の名はクロード・シュヴァルツハルト。
 ギルド【完全なる勧善】を立ち上げた弱き民を守る勇者である。
 彼の心意気に打たれて彼の下についたものも多く、今や【リアルワールド・オンライン】の中で最も強大な力を持つギルドとなってしまった。

 ◆

 断頭台の丘に続く階段の中腹で戦闘は勃発していた。
 初心者の服装を着込んでいた男女のペアは今や神々しい光を放つ装備をし、輝きを纏っている。

「お前らが仲間を殺したのか!!」

 アクティブスキル【ディヴァインオーラ】――ジョブクラス【聖騎士】が初期に覚えるスキルだ。効果は輝きの範囲内では敵対するものも攻撃力を下げ、仲間の攻撃力を上げる自己中心の範囲支援魔法である。
 男女のペアはどちらも【聖騎士】なのか。重複した【ディヴァインオーラ】は効果が倍増し、範囲内にいるびしょぬれこの攻撃力を極端に下げていた。ハルバートの青い炎も心なしかくすんで見える。
 男が大きな剣を大上段から振り下ろす。
 パッシブスキル【両手剣マスタリー】で強化された剣速はまさに閃光。
 咄嗟にハルバードの柄で防御するも衝撃は殺せず、びしょぬれこは大きく後ろに退いた。

「そうだ、と言ったらどうなんですか?」
「正義の名の下に断罪する!!」

 あばずれまん光は遙か後方から矢を番えると、ぎりぎりまで力を込めて、一気に放った。
 その矢はまさに必殺。
 砲弾となって矢は空気を切り裂き、男に向かって飛んでいく。
 男は剣を振り下ろした後の隙を衝かれ、動くことができない。
 決めた、とあばずれまん光は思ったが、そうはいかなかった。
 女が男の盾になるように前に出ると、両手を突き出したのだ。

「ディバインシールド!!」

 生み出されたのは六角形の小さな盾。これは【聖騎士】の初期スキルの絶対堅固の防壁だ。どんな攻撃だろうと一撃だけ防ぐ。
 対するあばずれまん光が先ほど放ったのはアクティブスキル【キャノンアロー】――一部ではネタスキルと馬鹿にされているが、【射手】の中では最大火力であり、なおかつ貫通性能を持っている。障害物無視だ。問題は仲間に当たった場合も容赦なくダメージを与えるということだろうか。このスキルをびしょぬれこに当てるたびにびしょぬれこはマジギレしてあばずれまん光に殴りかかっている。今回は悪ふざけできるような状況ではないのでびしょぬれこも美貌を冷やかに歪めるだけだ。実はちょっと掠ったのである。
 両者はお互いに睨み合う。
 びしょぬれことあばずれまん光は獰猛に笑む。楽しい宴が始まった、と次の日の遠足を楽しみにする幼児のような笑顔だ。
 男女は義憤の焔を瞳に宿し、何かに駆られるような使命感を感じさせる。

「何故だ」

 唐突に男は口を開いた。
 大剣を地面に突き刺し、唸るような咆哮で。

「何故、お前らはプレイヤーを狩る。お前らのせいで幾人の人が死んだと思っているんだ!」

 男は怒っていた。
 びしょぬれことあばずれまん光の悪事を知らないものは【人間都市アリアス】に住んでいるものにはいない。彼らのせいで行商人が死に、釣りなどを営む職人が死に、ダンジョンを攻略する冒険者たちも死んだのだ。
 その中には男と同じく正義を志していた【完全なる敢然】に所属していた仲間もいたし、街の中でともに飯を食った友達もいた。男の愛用している大剣を鍛えてくれた職人もいたし、ただの顔見知りのやつもいた。
 良い奴だった。
 それなのに――そいつらは全て悪に滅ぼされたのだ。
 女も同じく苦渋に苦虫を噛み潰している。ぎりぎりと歯軋りを立てて、あばずれまん光とびしょぬれこをキッと睨みつけていた。
 だが、責め立てられている二人はぽかーんと呆気にとられているだけだ。

「行商人たちは俺たちを奴隷として売り払おうとしたし、ダンジョン攻略してたむさい男たちは俺たちをまわそうとしたぞ! 殺して当然だろ! こんな容姿してるせいで苦労してんだよ! お前らにわかるか!? 組み敷かれて下半身素っ裸にされる気持ちがよ! まだ殺された方がマシだっての! そうさ。だから俺たちは復讐してやるのさ!」
「えぇ、えぇ、あの苦痛は忘れません。童貞捨てる前に処女を捨てるとか話になりませんよ。僕だってまだ女を知らぬ身。このままでは魔法使いになってしまう。その前に僕は――死ね、リア充!」
「落ちつけ、あばずれ。先端を入れられたことなら黙っててやるから」
「挿れられてないし! 入れられてないし! 僕の貞操は不敗神話を守り続けてますよ!!!!!!」
「お前って奴ぁ……!」

 男女は硬直した。
 涙ながらに語る二人の叫びは聞くだけで心を掻き毟るほど悲痛な音色が伴っていた。
 嘘はついていなさそうだ――男女がそう思った瞬間である。

「――って言ったら信じる?」

 びしょぬれこのハルバードから蒼い炎が噴き上がる。
 若々しい脚線で地面を踏み砕くほどに踏み込み、隆起した右腕でハルバードを大きく振るう。
 ここは【ディバインオーラ】の範囲外。つまり、攻撃力は全く減っていない。
 そして、びしょぬれこのジョブは【狂戦士】。攻撃力と敏捷性に全てを費やした典型的なアタッカー。
 アクティブスキル【筋力増強】【狂戦士の血】【目覚めの波動】【鬼神の宴】を全て併用して限界ぎりぎりまで強化されたステータスをもって、男女二人に切り込んだ。
 目に止まらぬ速度など生ぬるい。目に映らぬ速度で超高速戦闘を得意とする【狂戦士】はハルバードの射程を有効活用し、【ディバインオーラ】に入らぬように一方的に攻撃を加える。
 男女は歯噛みする。
 一瞬でも同情したのが命取り。根っからの悪人に善なる心があるはずもなく、彼らは容赦なく他殺する。
 情け容赦ない刃の閃きを男女は必死に受け止め、それでも押される。【狂戦士】の自己支援スキルは全て凄まじい性能を誇る。しかし、もちろん弱点もある。

「あと少しだ。耐えろ!」
「わかってる!」

 効果が三十秒も持たないのだ。
 瞬間火力は比肩するものがないほどに圧倒的だが、持続力に欠けるのだ。
 しかし。

「常識的に考えたらわかるでしょう? 【聖騎士】はタンカーです。アタッカーである【射手】と【狂戦士】に勝てるはずがないでしょうに……」

 呟きは風に溶けて消え、狙いすまされた矢が男に襲来する。
 矢は男の頭を貫通し、断頭台の麓にあった小屋を破砕した。
「終わりだ、女ァァ!」
 力なく吹き飛んだ男の後ろで、女は悲痛な叫びをあげていた。
 手に持つ剣は小振りなものだ。ハルバードを防ぎ切れる耐久力などないだろう、びしょぬれこはそう思ったのだが、いきなり力が消失した。
【筋力増強】――筋力を増加するスキル。効果が切れるとしばらくの間筋力が低下したままになる。
【狂戦士の血】――体感速度を速める。瞬間的な判断力が倍増する。効果が切れるとしばらくの間思考が停滞する。
【目覚めの波動】――武器の攻撃力を上げ、特性を完全に引き出すスキル。効果が切れるとしばらくの間武器に破壊属性がつく。つまりは当分の間使用不可能になる。
【鬼神の宴】――全てのステータスを大幅に増強する代わりに効果が切れるまで体力を消失し続ける。
 全ての副作用がかかり、ハルバードが渇いた音を立てて地面に落ちる。
 びしょぬれこの絶体絶命の危機だが、女は幽鬼のように生気が抜けた顔でじりじりとあばずれまん光に近づいていく。

「レイスを……殺した」

 ゆらゆらと揺れて、剣を引きずりながら階段を登っていく。

「誰ですか、それ」

 とぼけた調子であばずれまん光は言う。可愛らしい顔をさらに可愛く見えるようににっこりと微笑ませて。
 笑みの狙いは正しく成就した。

「あなたが殺した男の人――私の旦那よ!」

 女が怒り狂って叫んだのだ。

「リアルでの結婚相手ですか?」
「ゲーム内……けど、これはリアルよ!」

【リアルワールド・オンライン】には結婚システムがある。男女関係なく、男同士だろうと女同士だろうと結婚できるシステムだ。
 あまり使用するものはいないが。

「うわ、ゲーム内結婚とか気持ち悪い。そもそもあなたは女ですか? 相手は男ですか? それすらもわからないのに結婚などと、浅はかですね。そこに愛はあるんですか?」
「うるさいいいいいいいいい!」

 あばずれまん光の嘲笑の効果は劇的だった。
 怒り狂った女は剣を掲げると一気にあばずれまん光に襲い掛かる。
【射手】は遠距離職であり【聖騎士】は近距離職である。
 近づかれたら【射手】などはただの雑魚職であり、みんながみんな近づかれないよう戦略を練るのだが――
 横薙ぎの閃きをスウェーでかわし、あばずれまん光は装備していたナイフを鞘から抜いた。
 ぎざぎざの不格好な刃のそれを逆手で持って【聖騎士】の剣閃をするりするりとかわしていく。
 そして、とうとう女の凶刃があばずれまん光をとらえた――そのとき、あばずれまん光はナイフで剣を受け止めた。
 女の剣はあとかたもなく砕け散った。
 呆然とする女の腹を蹴り飛ばすと、あばずれまん光は哄笑する。

「つい最近手に入れたものなんですけどね。前から言いたかったんですよ」

 ナイフを天に掲げて女を見下ろす。

「そのふざけた刀剣ぶち壊す! これが僕の【刀剣殺し(ソードブレイカー)】なんちゃって! なんちゃって!」

 反応はない。ちなみにソードブレイカーというのはこのナイフの名前である。あらゆる剣に一定時間破壊属性を付加する効果を持つ。

「って、気絶してますね。一人芝居だなんて、寂しいじゃないですか」

 しょんぼりと肩を落としたとき、動かなくなっていたびしょぬれこが再起動を果たした。
 のそりと立ち上がるとハルバートを背に担ぎ、常の機敏な動きとはかけ離れた鈍重な動きであばずれまん光に近づいていく。

「あー、痛ぇ痛ぇ。【狂戦士】選んだの間違いだったかなぁ。バフ切れた瞬間気絶とかたまんねぇわ」
「圧倒的な強さを誇ってると思いますけどね。で、これどうします?」

 これとは男女のことである。どちらも階段の上で無様に転がっていた。

「どうするって……死んでないだろ。さっきの男吹っ飛ばしたのもスタン攻撃だろ?」

 スタンとは気絶という意味である。相手の意識を刈り取るスキルを【射手】は数多く持っていた。

「えぇまぁ……【射手】にタンカーを一撃で殺す火力なんてないですよ」
「知ってるけどよ。で、殺すか?」

 躊躇いのない言葉。今からご飯食べようぜ、と言ってるかのように気軽に『殺す』と発言している。通常の神経の持ち主なら委縮するが、あばずれまん光は「う~ん」と小首を傾げてつんつんと女の頬を突いていた。

「というよりも、僕たちがプレイヤーキラーって勘違いされてるみたいですね」
「殺したらデメリットでかいからな。俺も何度か殺したことあるけど、しばらくの間銀行使えなくなるんだぞ。さすがに焦ったわ」
「僕もです。ワープポーションを飲んでも効果なくなったのは本当に困り果てた経験があります。ダンジョンの中で独りぼっちは肝を冷やしましたね」

 銀行とは倉庫のようなものである。ユーザーが全てのアイテムを持ち歩けるはずもなく、当然のように重量制限がある。これ以上持てない、となったものは全て銀行に預けるのだ。そしてワープポーションとは飲んだら街に飛べる優れ物である。どちらもプレイヤーキルをしすぎたら使えなくなる。
 メリットのない殺しをしてデメリットを受ける気のない二人は思案する。

「よしっ!」

 何かを決めたのか。あばずれまん光はとてもイイ笑顔を浮かべていた。

「装備を奪いましょう。額に肉と書いて、ついでにぐるぐる巻きにして街道に転がしましょう。MPKで都合よく死んでほしいものです。まぁプレイヤーに助けられてもいいですけどね」
「だなぁ。それがいい」

 MPKとはモンスタープレイヤーキルである。モンスターに殺されるようにプレイヤーで仕組むことである。もちろんいけないことだが、デメリットはない。
 これからの予定を決めるとびしょぬれことあばずれまん光は男女の装備を全て奪い、素っ裸にして縄で縛り、階段をのそのそと降りていた。もちろん男女は担がれるのではなく、引きずられている。一段降りるたびに階段に頭をぶつける乾いた音が鳴る。
 そんなときだ。
 丘の麓に降りたとき、大きな鞄を背負い、大きな籠を手に持ったオーガが現れたのだ。何故か籠の中には魚がいっぱいである。
 オーガはしげしげと二人を見つめ、後ろにいる男女を見つめると、静かな一言を放った。

「わぁお、逆レイプ?」
「いや違う」

 VIPの二人は即座に否定した。 



[25729] 3.捕獲
Name: TENGA◆782c983e ID:8e33bb3e
Date: 2011/02/02 15:15
「誰だよ、お前」

 縄で縛った二人を後方に放り投げ、階段から飛び降りてびしょぬれこは問うた。
 ハルバードを突き出し、冷やかな美貌を歪ませている。満身創痍だった身体は既に癒え、いつでも戦闘ができる状況だ。
 かすかに浮かぶ感情は好戦的なものだ。
 深紅の唇をぺろりと舐めて、巨大なオーガに対して威嚇している。

「ん、私を知らないなんて珍しいわね」

 オーガは威嚇などどこ吹く風といった体で飄々と受け流し、魚のいっぱい入った籠を地面に置くと、決めポーズを取った。
 腰に左手を当て、右手の親指で自分を指差し、にかっと豪快に笑った。並ぶ歯はぎらついていて、垣間見えるどす黒い舌はうねっていた。

「奇跡天使みらくる☆えんじぇるとは私のことよ!」

 大きな声だった。
 ただの自己紹介なのに大気が震え、砂埃が舞う。それは肉厚な弾丸によく似ていた。
 びしょぬれこは堂々と風に立ち向かったが、小さな身体のあばずれまん光はぐっと両脚に力を込め、乱れるツインテールを両手で抑え「だから面倒くさい髪型は嫌なんです。ツインテールはするものじゃなく、させるものですね」とうそぶいている。何かの悟りを得たようだ。
 野太い声で「がはは」と笑い続けるオーガの名は奇跡天使……。

「名前が似合わなさすぎるだろ。突っ込みどころしかねえよ」
「ぬれこさん。僕たちは人のことをとやかく言えるような高尚な名前じゃありません。まだあっちのほうがマシです」

 お互いの顔を見つめ合うと、深い深いタメ息が漏れた。いろんな意味で哀しくなったのだ。

「で、結局誰なんだよ。あのおっさん」
「聞いたことがあります。一匹狼の生産職人。釣りや料理、あげくに鍛冶師など何でもこなす上に――ジョブクラスは【重戦士】ですよね。強そうです。だけど、中身は女だとか」
「あれが?」

 太く、ごつく、でかい男である。あげくに醜い顔立ちのオーガである。

 それが女――?

 びしょぬれこは相手のセンスに絶望した。

「失礼ね! 私はでかい男が好きなの。だからでかい男になったのよ」

 あばずれまん光は訝しげにじっと奇跡天使を見つめるが、やがて興味を失った。
 ごつんごつんと痛そうな音を響かせながら縄で縛っている男女を階段から下ろすと、アイテム袋から【痺れ薬】を取り出し、気絶している二人に飲み干させる。
 無表情で淡々と行う姿は傷薬を飲ませてるように見えたが、実際は真逆だった。
 真相を知らない奇跡天使は何をやっているのかとしげしげと見ているだけだが、びしょぬれこはおおよその予想がついていたらしく「うへぇ」と嫌そうに頭を振っている。
 苦痛の吐息を漏らす男と女を地面に転がすと、ぽんぽんと手について汚れを叩いてあばずれまん光はゆるりと奇跡天使を見た。

「で、何か用ですか?」

 大きな瞳を細めて、射抜くような視線を向けている。
 対する奇跡天使は飄々としたもので、どこ吹く風としていた。

「そこにのびてる素っ裸の子がさ。一応私の顧客なのよね。装備だって私が製作したものだし」
「だから何だと言うんですか?」

 関係ないだろ、と暗に切り捨てるあばずれまん光に対し、奇跡天使は不敵に笑う。

「置いてってくれない? これあげるからさ」

 地面に置いていた籠を力任せに放り投げる。
 弧を描いて宙を飛んできたそれをびしょぬれこが受け止めた。

「魚かよ。釣り立てで美味しそうだな」
「馬鹿にしてるんですか?」

 緊迫する。
 空間が歪曲していくような錯覚。
 びしょぬれこは口角を釣り上げてハルバートを腰だめに構えてじりじりと距離を狭めていく。
 それでもなお、奇跡天使の余裕は崩れない。

「命を助けてあげて、さらには魚をプレゼント。すごく良い取引だと思うわよ。死にたくないでしょ?」

 背負った鞄から取り出したのは一振りの鉄槌。
 堅固な城壁だろうと一撃でぶちぬくだろう圧倒的な威容。
 それを軽々と片手で振り回す膂力。
 さらにはこの状況で焦ることなく冷静なまま振舞う胆力。
 強敵だな、とびしょぬれこは胸を高鳴らせていた。

「オーガですか。一番不人気の種族だから戦ったことないんですよね。けど、まぁやってもいいでしょう。ここで退くのも嫌ですし」

 あばずれまん光は不機嫌を露わにして弓に矢を番えると、奇跡天使の額に狙いをつけた。
 しかし、射線を遮るようにびしょぬれこがあばずれまん光の前に立つ。

「邪魔すんなよ。俺一人でやる」

 怜悧な視線は奇跡天使に向けられたままだ。

「戦闘狂」
「狂戦士だしな」

 数秒の間沈黙が続いたが、諦めたのはあばずれまん光だ。

「わかりました。僕は矛を収めましょう」

 弓矢を筒の中に戻すと、転がしたままの男女の隣にどっかと座り込む。
 可愛らしい顔立ちは不愉快を露わにしているが、びしょぬれこはお構いなしだ。

「本当にいいのかしら?」

 奇跡天使は確認し、

「あぁいいぜ。行かせてもらうっ!」

 びしょぬれこは男らしく吼えた。

――良い感じじゃねぇか。

 すり足で距離を縮めていき、彼我の間合いは一足飛びで懐に踏み込めるほどだ。
 しかし、両者の武器はどちらも大型。
 ハルバードは長柄もありリーチにおいては圧倒的に有利だが、鉄槌と威力を比べるのもおこがましいほどに差があるだろう。

――喰らえば死ぬな。

 わかりきった答えを思い浮かべるも、どうにもびしょぬれこは負ける気がしなかった。
 開戦の合図。
 風が吹き、砂埃が舞う。
 本能に任せ、びしょぬれこは刃を走らせた。
 胴を狙った斬撃が横合いから奇跡天使に向かっていく。
 必殺の一撃。
 だがしかし、それは意外な展開で幕を閉じた。 

「ごめぇぇぇぇえん!!!」

 奇跡天使はびしょぬれこの攻撃を見ることなく、土下座した。
 頭の上をハルバードが通り抜ける。

「私実は生産職人ばっかやってて、対人とかやったことないの! ここらのモンスターは弱いからどうにかなるけど、ちょっと自信ないわよ! 退きなさいよ!」

 びしょぬれこは呆然としていた。
 あばずれまん光は腹を抱えて爆笑していた。
 いつのまにか夕陽は落ち、夜の帳が幕を開けている。
 星空が輝く夜空の下、大きな男が涙ながらに自分の弱さを訴える姿はひどく滑稽だった。

「まじかよ。あれだけでかい態度しててただのほら吹きかよ。許せねぇなぁ。許せねぇよ。俺のドキドキを返しやがれ」

 ハルバードの穂先を地面に叩きつける。
 こんな結末では盛り上がっていた自分があまりにも馬鹿みたいではないか、とびしょぬれこは憤慨する。

「まぁまぁびしょぬれまんこさん」
「びしょぬれこだ!」

 憤怒の形相を浮かべるびしょぬれこの肩をぽんぽんと叩いたのはあばずれまん光だ。押し隠せない笑いを必死に殺そうとしている。ぷくく、と時折笑いが噴き出す。そのたびにびしょぬれこの青筋が増えた。

「とりあえず聞いてくださいよ。良いこと思いついたんですよ」
「なんだ?」

 あばずれまん光は思い切り背伸びしてびしょぬれこの耳元に唇を近づけ、ぼそぼそと意図を伝えた。
 びしょぬれこはにやりと笑うと大きく頷く。
 何を話しているのか不安げに見上げているのは土下座したままの奇跡天使だ。見かけ倒しのオーガである。
 ふむふむ、とにやにやと悪戯っ子がよく浮かべる意地の悪い表情であばずれまん光は奇跡天使のすぐ近くに膝を下ろした。

「この二人は解放しましょう。貴方のことも見逃しましょう」
「本当っ!?」

 奇跡天使は歓喜に震えた。
 あばずれまん光はその様を満足気に見下ろしている。

「えぇ、本当ですよ。本当ですとも。僕は生まれて十七年、嘘をついたことがありません」
「今嘘ついたな」
「黙っててください」

 あばずれまん光はいらないことを言ったびしょぬれこを振り返り、キッと睨みつけた。
 柔和な印象を与える少女の容姿なのに、悪役染みた行為が似合っている。堂に入っているというべきか。

「で、ものは相談なんですけど、僕たちは自由奔放に【リアルワールド・オンライン】を楽しんでいましてね。いろいろと困ることも多いのですよ」
「困ること?」
「例えばですね。僕たちってお尋ねものでしょう?」

 うん……? と奇跡天使は二人を見た。
 確かに見覚えのある顔だなぁと呟き、はっとした。

「あんたら【おまんまん姉妹!?】」
「ひどい呼び名ですけど、たぶんそれです。びしょぬれことあばずれまん光と言えば僕たちのことですよ」
「本当に酷いな。さすがに凹むわ」

 むっつりと頬を膨らませるびしょぬれことポーカーフェイスを装うあばずれまん光。
 おほん、とあばずれまん光は咳をした。

「で、物は相談なんですけど……家、くれませんか?」

 あばずれまん光は知っていた。
 ちなみに家とは大金を払って手に入れるセーブポイントのようなものである。
 宿屋や生産機具、倉庫の代わりにもなるここは全ユーザーの憧れの的である。高すぎて普通は買えないのだ。そう、普通は……。
 生産者はすべからくそれなりにお金を持っていて、【リアルワールド・オンライン】の中でも名の通っている鍛冶師の奇跡天使である。廃人生産マニアと蔑称をされることもあるほどにひたすらに廃人プレイをする奇跡天使が家を持っていないはずもない。

「家ェ!? 待ってよ! あれ手に入れるの大変なんですけど!?」

 やっぱり持ってるんだ、とあばずれまん光はほくそ笑む。

「あぁいいですよ。構いませんよ。今度はあの世で家を建てるために努力して下さい。微力ながら精いっぱい応援させていただきます」
「あひぃぃぃぃ!」
「というのは冗談で……、僕たちってけっこう目立つ容姿じゃないですか? だから変装するための服と、住む為の一室を頂ければそれでいいです」
「殺して奪ったほうが早くね?」

 びくりと奇跡天使は身体を震わせたが、

「んー、それはそれで構わないんですけど。以前プレイヤーキルしたペナルティが後二日で治るんですよね。また二週間もペナルティ課せられるなんて嫌ですし、今回は強請……おっと、善意で協力して欲しいところですよね」

 がくがくと首が折れるのではないかと思うほどの勢いで奇跡天使は首肯する。首肯しまくる。

「わかった! わかったから助けてください! 何でもしますぅ!」
「ありがたいですね。何でもしてくれるそうです。あーでも、後ろの二人は生きていたら不都合ですよね。変なこと言いふらされても困りますし」
「だな。確かあっちのほうにダンジョンがあったからそこに放り込んでくるわ」

 縄で縛っている二人を片手で持ち上げて肩に担ぐと、びしょぬれこは口笛を吹きながら歩き出そうとして――

「助けてくれるんじゃないの!?」

 歩みを止めた。
 にやにやと笑いながらあばずれまん光のことを見ている。あばずれまん光は笑いを押し殺すと一転し、真剣な眼差しを奇跡天使に向けた。

「いいですけど、何かくれるんですか?」
「い、家にある強化アイテム全部消費してでもあんたたいの武器の補正を一気に上げてあげるから! 勘弁して!」

 強化アイテムは軒並み高価である。それこそ廃人ユーザーですらなかなか手に入らないほどに。
 相手にならない雑魚プレイヤー二人を残して危険に陥るか、自分たちの武器をフル強化するか――悩むまでもなく、あばずれまん光の中で答えが出た。

「……わかりました。ぬれこさん」
「あいよ」

 びしょぬれこは二人を地面に放り投げると、アイテム袋から取り出した眩い光を放つ石を放りつける。
 石が二人に接触した途端に光は拡散し、円形状のドームが展開された。結界と呼ばれるものである。魔獣たちの脅威を防ぐことのできる野宿のための必須アイテムだ。

「結界石です。これで朝までは大丈夫でしょう。彼らの実力なら裸でも街まで戻れるはずです」

 連れて帰るつもりはないのだということを理解した奇跡天使は渋々頷いた。命があるだけマシだ。

「では、行きましょうか」
「はい……」

 奇跡天使も手に縄を縛りつけられ身動きを封じられた。

「向かうは【人間都市アリアス】! 久しぶりだな」
「そうですね。美味しいものをいっぱい食べましょう」

 呑気に笑う二人の中、どんよりとした空気を放つオーガ。

「私、いったいどうなるんだろう」

 奇跡天使は悲しみのどん底にいた。


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