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[25711] 【習作】傭兵の流儀(なのは オリ主)
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:600a1751
Date: 2011/02/13 17:18
 はじめまして、本作が初になる烏狂いです。
 久しぶりに昔のアーマードコアをプレイしたら何となく傭兵が主人公の作品が書きたくなりました。
 独自設定が入る駄文ですが、暇つぶしに読んでみてください。


2011年2月13日
 CASE4に手を加えました。
 自分でも読み直したら、感想でも言われた通り、変な所が多かったからです。

















『魔法』

 それは、兵器を禁じられた世界において、ほとんど唯一許容される攻撃手段。

 しかし、万人がその資質を持つ訳ではなく、また資質も大小バラつきがあった。

 勿論、魔法を主戦力とする治安組織は存在した。

 それでも人は、商売、環境、生立ち、信念、様々な理由で戦う力を必要とする。

 そんな人々に、対価さえ払えば力を貸し与える者達がいた。

 堅気の人間からは『金次第でどんな依頼も受けるゴロツキ』と言われながらも、彼等『傭兵』は依頼主の剣となり戦い続ける。




[25711] CASE1 犯罪者捕縛の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:600a1751
Date: 2011/02/01 17:19
 PIPIPI……

 はい?

 ……依頼ですか?

 ……成る程、その事件の被害者から。

 ……じゃあ、管理局と接触する必要がありますね。

 話がわかる人だといいんだけど……

 ……ああ、成る程、だから俺の所に回ってきたのか。

 了解、その依頼、受けましょう。



 次元航行艦アースラの執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンにとって、大した相手では無かった筈だった。

 その日、休日の彼女が街で偶然見つけたロストロギア強奪犯、指名手配のデータには魔導師ランクはCとされ、強奪したロストロギアも危険度が低い物とされていた。

 魔導師ランクSのフェイトからすれば、簡単な任務の筈だった。

 だが、

「ぅぅ……」

「残念だったね、おねーさん♪」

 幻覚魔法で自分より幼い子供の姿をした犯人が、足の怪我を押さえて蹲るフェイトを楽しそうに嘲う。

「不思議だよねー、おねーさんも他の局員さんもこの姿になった途端、攻撃するのを止めてくれるんだからさー♪
 なんでかなー?」

「くっ!」

 心底楽しそうに血のついたナイフを玩ぶ子供の姿を睨むしかできないフェイト。

 この街には彼女以外にも何人か高ランクの魔導師が住んでいたが、その時は運悪く皆不在にしており、応援が駆けつけるには今しばらく時間が必要だった。

「それじゃー」

 子供が手にしたナイフを振り上げる。

「バイバーイ♪
 執務官のおねーさん♪♪」

 振り下ろされるナイフに、動かない体で歯を食いしばるしかできないフェイトは思わず目を瞑る。


「ぎゃばは!!!?」


 子供の姿をした犯罪者が奇声を上げながら弾き飛ばされる。

 地面を転がる子供の姿は、何時の間にか幼子の姿から学者風の青年の姿に変わっていた。

 そして、

「大丈夫か、執務官殿?」

 フェイトの側らには黒い陣羽織を羽織った、鋭い目つきの少年が立っていた。

 年の頃はフェイトと同じ15歳位だろうか。

 手には鞘に納まった黒い刀型のデバイス。

 誰?

 目で問いかけるフェイトに少年は少し休んでろと言って、振り返る。

 青年の姿になった犯罪魔導師が痛そうに顔を押さえながら起き上がっていた。

「だ、誰だ貴様ぁ!!」

 その顔には大きな青い痣が出来ており、唇を切ったのか口から血が出ていた。

 どうやら非殺傷設定の魔法で弾き飛ばされたのではなく、身体強化した拳打で殴り飛ばされたようだ。

「教授殿。
 あんたが裏切り、発掘したロストロギアで重傷を負わせた発掘隊の人達から依頼された。
 内容は、アンタに然るべき裁きの場へ連れて行く事」

「依頼……?
 貴様、傭兵か!」

 教授と呼ばれた男の言葉にフェイトは少年を見る。

『傭兵』

 金で雇われ、違法行為にも手を染める犯罪者予備軍。

 こんな自分と変わらない年頃の少年が、そんな事を生業にしているのか?

「この金で雇われたゴロツキがああああ!!」

 少年を罵倒しながら手にした宝石を少年へと翳す教授。

 フェイトが危ないと叫びかけるが、

「そういえば、これの回収も頼まれてたな」

「……は?」

 教授の隣に立つ少年がその宝石を掠め取る。

「ロストロギア『ミラージュレイド』
 相手に幻覚を見せる幻術系魔法具。
 ただしその暗示は強力で、その幻の剣に人は傷つき、幻の獣に人は食らわれる、か。
 事前に調査隊の人の話を聞いておいて良かった」

 少年の独り言に、しかし教授は、そしてフェイトも呆然とした。

 フェイトの側らにいた筈の少年が、次の瞬間には教授の隣に現れたのだ。

 いや、一瞬魔力光らしき銀の光が見えた気がした。

 ならば、高速機動の魔法か?

 だが、フェイトは自他共に認める管理局屈指の機動力を持つ魔導師。

 そんな彼女が見切れない程の動き?

「さてと。
 あとは……」

「ひ!?」

 懐に宝石を仕舞うと少年は目を細めて教授を睨む。

 その眼光に教授は後ずさる。

「さて、どうする?
 降伏するか?それとも……」

 そう言って少年は、刀の鯉口を切る。

「わ、わかった!降伏する!だから……」

 そう言って手を上げる教授。

 しかしその手首には起動しようとしているデバイス。

「ここで死……」

 

 斬



「ね…え……え?」

「アンタみたいな奴の言葉が信用できるか。
 次からは日頃の行いに気をつけな」

 刹那の瞬間に抜き放った一太刀を受けた教授は、少年の言葉を聞きながら苦悶の表情で崩れ落ち、その手から今更起動したデバイスが零れ落ちた。

 それに背を向けながら少年は刀を鞘に納め、未だ地面に座り込んだフェイトに歩み寄る。

 その少年に何かを言おうとしたフェイトだったが、急に意識が遠のいて行く。



「ううん……?」

「気付いたか?」

 フェイトが目を覚ますと、横たわる彼女の傍らに先程の少年がいた。

「……君っ痛!?」

「急に起き上がるな、大きな傷の手当てはしたけどあくまで応急処置なんだから」

 急に起き上がったせいで痛みに強張るフェイトを再びベンチの上に横になるよう促し、彼女に掛けていた陣羽織を掛けなおしてやる少年。

 少年の言葉にフェイトが怪我をした箇所を見ると包帯が巻かれていた。

「あんたのデバイス、バルディッシュが管理局に救援を呼んだそうだ。
 もうすぐ来るから、あとはその人達に看てもらえ」

 そう言って立てかけたバルディッシュを指差す。

「それから、これを」

「!
 これは……」

 少年が差し出したのはミラージュレイドだった。

「これの封印を頼む。
 それと、向うで蓑虫になっている犯罪者の逮捕も」

 そう言って、指差した方にはワイヤーのようなものでぐるぐる巻きになった教授が転がっていた。

「え?
 で、でも……」

「俺の依頼はあいつを管理局に突き出す事だ。
 でも、管理局から見れば、俺達傭兵はゴロツキと同義だからな。
 俺が直接突き出すより、アンタに任せた方が角が立たないんだよ。
 俺にも、依頼主にも、アンタにも、な」

 そう言って苦笑する少年。

 確かに、執務官が傭兵に助けられたというのは管理局的には余り良い話では無かった。

「ま、これが傭兵の流儀だよ。
 では執務官殿、たしかに頼んだぞ」

 そう言って魔方陣を展開する少年。

 それは銀色のベルカ式魔方陣だった。

「ま、まって!
 君の名前は!?」

「イズモの傭兵、時久」

 短く名乗ると少年、時久は転移魔法で姿を消す。

 それを見送ったフェイトは少年が残していった陣羽織を握りながらその名を反芻する。

「イズモの傭兵、トキヒサ……
 ……イズモの傭兵?
 ひょっとして、あの傭兵一族の?」



『イズモ一族』

 管理世界で有名な民族の一つである。

 次元世界を渡り歩き、様々な勢力からの対価に応じて力を貸し与える傭兵一族。

 その歴史は古く、古代ベルカ期には既に彼の一族の名は存在していたという。

 

 少年、時久が転移した先は自宅の玄関だった。

 時久は靴を脱ぎながら、独り言を呟く。

「まさか隣の県の海鳴に魔導師がいるとは……
 世界って意外と狭いな……」

 そこは海鳴とは隣の県にある山の中。

 そこにある木造の一軒屋だった。




[25711] CASE2 模擬戦の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:24d57981
Date: 2011/02/01 17:49
『依頼内容の再確認をします。
 今回のあなたへの依頼は、我々航空戦技教導隊の魔導師との実戦訓練です』

 時空管理局の演習場でウォーミングアップをしていた時久は、その念話に動くのをやめた。

『こちらの空戦魔導師の攻撃を制限時間まで避け切る、あるいは撃墜させる事が出来れば依頼達成です。
 なお、そちらには本気を出してもらう必要がありますので、条件を達成しなければ依頼料は無しです』

 時久はその念話にピクリと反応するが、すぐに準備を始める。

 デバイスを起動、陣羽織を身に纏い、刀の形状へと形を変えたデバイスを腰に差す。

 そこで、ピーという電子音が聞こえた。

『スタートまで、残り30秒。
 噂の傭兵一族イズモの力、見せていただきましょう』

 まったく期待の欠片も感じられない声援に、しかし時久の表情は動かない。

 と、上空から一人の魔導師が降りてきた。

 時久より少し年上に見える白い服の少女、彼女が握るのはミッドチルダ式の杖型デバイス。

「私は航空戦技教導隊の高町なのは2等空尉です。
 君は?」
「……イズモ一族の傭兵、時久」

 白い服の少女が自己紹介に、時久も素っ気無くではあったが名乗る。

 高町なのは。

 エースオブエースとまで呼ばれるミッド式Sランク空戦魔導師だった。

 一方時久は中堅傭兵のベルカ式Cランク陸戦魔導師。

 決着は誰の目にも明らかだった。

「今日はよろしくね」

 そう言ってデバイスを構えるなのは。

 一方、時久は自然体で対峙する。


 スタートのアラーム。


 決着はすぐに付いた。



「おい!!」

 自販機でコーヒーを買う時久の耳に怒鳴り声が聞こえてきた。

 しかし、時久は気にする事無く近くのベンチに腰かけ、買ったコーヒーをチビチビ飲む。

「おいつってんだろ!!」

 そんな時久の正面に人影が立つ。

 まだ子供の身長しかない赤い髪の少女だった。

 そしてその背後には先程模擬戦で対峙していたなのはが困った表情で立っている。

 そこで時久は自分が呼ばれていた事に気付く。

「ああ、すまん。
 何か用か?」

「何か用か?じゃねえだろ!!」

「ちょっとヴィータちゃん……」

「何だよ!さっきの模擬戦は!?」

「依頼内容は達成した筈だが?」

 そう、模擬戦は時久の勝利に終わった。

 スタートした次の瞬間、なのはの背後に現れた時久の抜刀術、鞘から刀を高速で抜き放った一太刀で彼女は意識を失ってしまった。

 瞬殺だった。

「そういう事言ってんじゃねえ!!
 アタシ等は模擬戦を依頼したんだぞ!」

 傭兵へ依頼される模擬戦は勝てば良いというものでは無い。

 魔導師の実力測定、新魔法の効果検証等、試験的な目的から外部に依頼しているのだ。

 今回の依頼も、大きな作戦を前にしたなのはのデバイスの最終調整を目的としていたが、瞬殺では調整も何も無い。

 傭兵は客商売である以上、依頼主の希望に沿わなければならない。

 とは言え、

「詐欺みたいな条件付けて、依頼料踏み倒す気だった癖に文句言うな」

「「うっ!?」」

 その一言に声を詰まらせるヴィータとなのはを見て、内心やっぱりと思う時久。

 それに、すまなそうに俯くなのはの様子を見ると、今回の事は彼女以外の誰か、彼女の上司辺りが考えたのかもしれない。

 傭兵は基本的にどの勢力にも中立の存在ではあるが、それは言い換えれば管理局の敵にもなりうるという事だ。

 実際、彼女達の部隊が犯罪者に雇われた傭兵と戦った事もあるかもしれない。

 傭兵に対して悪い感情を持つのも仕方が無い。

 だがSランク魔導師との模擬戦なんて、もっと多額の依頼料で上位の傭兵へする依頼だ。

 Cランク相当である時久のレベルにするような依頼ではないし、勝たなければ依頼料0など詐欺同然だった。

「覚えておけ。
 確かに傭兵はどんな勢力からの依頼も受けるが、誠意に対しては誠意で、不誠意に対しては不誠意で対応する。
 俺達にとって依頼料は命の物差しなんだ。
 例え模擬戦でも、それを軽んじる依頼主には、俺達は相応の対応を取る。
 それが傭兵の流儀だよ」

 時久の言葉にしゅんと項垂れるなのは。

 だが、ヴィータは時久を睨むのをやめない。

「待てよ、それならテメエだってアタシ達を騙しただろうが」

「……何の事だ?」

「とぼけんな、アタシ等はお前がCランク相当だって情報を事前に聞かされていた。
 だけど、何だアレは?
 アタシ達が見切れないような高速機動が出来る奴がCランク?
 それこそ明らかに詐欺だろーが!」

 そう、時久がなのはの背後に回った動き。

 もしアレが高速機動の類なら、事前申告されていたCランク相当の実力では不可能だ。

「……自分の手札をばらすのは俺達にとって死活問題だが」

 少し迷いながらも時久は、自分の手札を開く事にした。

「あれは高速機動じゃない。
 転移魔法だ」

「……はあ!?
 おい、ウソ吐くな!
 転移魔法を使うにはどんなに速くても数秒の時間が必要だろうが!
 と言うか、転移魔法はCランクに使える魔法じゃねえだろ!」

 確かにトランスポーター等を利用しない魔導師単体での転移には、座標設定などで短くても秒単位のタイムラグが必要とされるし、それなりの魔力が必要になる。

「俺は転移魔法に対して相性が異様に良い、というより転移魔法以外の魔法が殆ど使えない。
 普通より少ない魔力量で転移魔法を使える半面、防御、射撃、バインド等、普通なら使える魔法が殆ど使えず、一応ベルカ式の適正らしく何とか身体強化と武装強化は覚えられたが、それも同格から見れば酷いモノだ。
 剣だって抜刀術以外は二流以下。
 結果、総合的な実力はCランク相当」

「だ、だけどあんな瞬間移動じみた転移魔法、レアスキルでもなきゃ……」

「転移魔法だけは徹底的に訓練したからな。
 毎日毎日、何度も何度も。
 そしたら出来るようになった。
 適正もあるだろうけど、既存の転移魔法の延長である以上、別にレアスキルでは無いよ」

 時久はそう締めくくると、ゴミ箱へコーヒーの缶を投げ入れ立ち去ろうとする。

 呼び止めようとするヴィータだったが、その前に時久がふと立ち止まり振り返る。

「そういえば高町さん。
 今回の模擬戦、ちゃんと反省しろよ」

「う、うん
 今度からちゃんとした依頼を「その事じゃ無い」……え?」

「あんたよりランクが低いからって、絶対あんたに勝てない訳じゃ無いんだ。
 油断なんてしてたら、今度は怪我では済まないかもしれないぞ?」

「あ……」

 なのはが何か言おうとしたが、今度こそ立ち去る時久だった。
  


 管理局の廊下を歩きながら、時久は昔を思い出す。

 時久が魔力に目覚めたのは山火事で死に掛けた時だった。

 死の恐怖が隠された力を目覚めさせるというのは本当の事だったらしいが、そんな恐慌状態で目覚めた魔力は当然のように暴走。

 そもそも魔法など知らず、デバイスすら持たない子供に魔力を制御出来る筈が無かった。
 
 おまけに転移に対して高い資質を持っていた事もあり、暴走した魔力はランダム転移を引き起こす。

 結果、魔獣が闊歩する次元世界に飛ばされた時久は、危うくそこで魔獣に食い殺され掛けた。

 偶然その世界に来ていたイズモ一族に助けられなければどうなってた事か。

 九死に一生を得た時久は自らの魔力に恐怖し、必死に魔力の制御と転移魔法を学び始めた。

 それと同時に身を守る術として剣技と強化魔法を学んだが、身体強化の程度が低く、せめて技一つだけでも、と抜刀術だけをひたすら繰り返す事で、抜刀術の動作だけに効率化した身体強化を身に付けた。
 
 結果、達人級の抜刀術と、約10mの範囲とはいえ瞬間転移という高等魔法を身に付けるに至ったのだが、他の技能は並以下という極端な成長の仕方をしてしまった。

 それは普通のCランクの魔導師には手が届かない力を手に入れた結果ではあったが……

「使い勝手が悪いよな……
 相手を瞬殺する戦い方しか出来ないというのも……
 せめて逃げ足くらい鍛えるまでは、模擬戦の依頼は受けられないな……」

 今回初めて模擬戦の依頼を受けた時久は、そう反省するのだった。



[25711] CASE3 捜索依頼の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:46b0a135
Date: 2011/02/05 22:39
 管理局捜査官の八神はやてが、部下でもあり家族である騎士、シグナムと共にその犯罪組織の施設に突入した時、そこは既に戦闘中だった。

 倒れ伏す魔導師や研究員、崩れた壁、奥から聞こえる爆発音……

 幸い、非殺傷設定の攻撃を受けただけのようで、死傷者はいなかったが……

「どういう事や……?」

「誰かが先に突入していたのでしょうが……」

 一体誰が?

 警戒を強めながら置くへ進んでいく二人だったが、奥の方からの物音が近くなってきた。

「主はやて」

「うん」

 二人はデバイスを構えながら進んでいく。

 聞こえてくる多数の足音と剣撃音、射撃魔法が着弾する爆音とにゃーという……猫の鳴き声?

 二人が辿り着いたのは何かの実験室だった。

 扉から中を伺うと、そこには……



 やはり、無理があったな……

 敵の魔導師等が放った多数の魔力弾を見据え、内心そう思う時久だった。

 今回の依頼、本来なら少し難しくはあったが、命に関わる事は無い筈だった。

 ところが、蓋を開けて見れば犯罪組織のアジトに単独突入という無茶をする羽目になった。

 何とか、目標を入手するまではうまくいった。

 襲い来る幹部級の高ランク魔導師を数名撃退もした。

 あとは、転移魔法で撤退するだけだった。

 しかし、ここに来て時久の弱点が出た。

 約10mの距離を瞬間的に転移できる時久だったが、長距離転移になると発動までそれなりに時間が必要なのだ。

 さすが、仮にも裏世界の荒波に揉まれてきた犯罪組織と言うべきか、その隙を見出す事が出来ないほど、敵の攻撃は執拗だった。

 また、時久が転移魔法に必要とする魔力は普通より少なくて済むのだが、肝心の時久の魔力量は決して多い訳ではない。

 そして、瞬間転移は長距離転移以上に魔力消費が激しい。

 高ランク魔導師を倒すのに瞬間転移を5回使ったが、それで魔力の大半を失ってしまった。

 長距離転移ならあと1回が限界だろう。 

 加えて、時久は一対一なら高ランク魔導師をも倒せる抜刀術の使い手であったが、抜刀術は一撃必殺の剣技であり、複数の敵との乱戦には向かないのだ。

 放った直後は完全に無防備という一撃必殺技の宿命から逃れられず、今もこうして刀を戻すのも間に合わないタイミングで魔法の一斉射撃が迫る。

 だが、依頼遂行中に足掻きもせずに諦めるのは……

 傭兵の流儀に反する!



 魔力弾の雨が時久を飲み込んだ……


 
「痛ぅ……」

 だが、何発もの魔力弾の直撃を受けた時久は、それでも何とか立っていた。

 その身に纏う陣羽織はもはや見る影も無いほどボロボロになっていた。

 イズモ一族の陣羽織、これを着てなかったら危なかっただろう。

 この黒い陣羽織は丈夫な布地の下に特殊な繊維が織り込まれており、強い攻撃を受けるとその繊維が蒸発し、フィールドのような力場を発生させダメージを軽減させる効果があった。

 あくまで使い捨ての防具であったが、魔力量の関係でバリアジャケットの類を使わない時久には心強い防具だった。(なお、先日某執務官に残した陣羽織は繊維が減った替え時の物であった)

 しかし、それでももう立っているのがやっとの状態。

 包囲する魔導師は次の攻撃の準備に入っている。

 もう陣羽織も使い物にならない。

 それでも、先程から「みぃみぃ」と懐で鳴く目標を依頼主に届けるまでは、と刀を鞘に納め構える。

 その時だった。

「紫電一閃!!」

 突然現れた一人の騎士が、その一撃で敵の魔導師等を薙ぎ払ったのは……



「ミミちゃん!」

「にゃーん」

 依頼主である8歳の少女は時久から受け取った目標、三毛の子猫を嬉しそうに抱きしめる。

「ありがとう、傭兵さん!
 本当に見つけてくれるなんて!」

「まあ、仕事だからな
 それで……」

 嬉しそうにする少女に何かを促すような視線を向ける時久

「……あ、そうだった。
 これ、依頼料です」

 そう言って銀の懐中時計を差し出す少女。

「……君の大事な物だったよな?」

「う、うん……
 亡くなったお婆ちゃんに貰った物だから……」

 少し顔を曇らせる少女だったが、時計を引っ込めようとはしない。

 時久はそれを受け取り、

「ほら、お釣りだ」

「……え?」

 銀の鎖だけを外し、時計本体を少女に返す。

「次に傭兵を雇う時は、相場という物を調べてからにしろよ。
 猫探しの依頼料なんて、この鎖で十分だ」

 そう言って、少女に背を向ける。

「あ、ありがとう!傭兵さん!」

 その屋敷の門を潜る時に聞こえたお礼の声に、時久は振り返ることなく、ただ手を軽く上げる事で返事をした。



「……犯罪組織への殴り込みって鎖一本でお願いできるもんなんやね」

「猫探しが、だよ。
 犯罪組織が関わったのは、ただのイレギュラーだ」

 少女の住む屋敷から出た時久を、はやてとシグナムが待っていた。

 苦戦する時久を助けたのは、犯罪組織のアジトに突入してきたこの二人の管理局員だった。

「で、俺をどうする?
 あの猫を引き渡すまで待っててくれたんだ。
 犯罪者相手とはいえ、未許可の戦闘をしていた俺を逮捕するというなら、大人しく捕まるが?」

 そう言って両手を差し出す時久だったが、はやては苦笑して首を振る。

「ええよ、今回は見逃したるわ」

「主!?」

 はやての言葉に驚くシグナム

「……いいのか?」

「いいわけ無いやろ。
 でも、君のおかげであのアジトを制圧できたのは事実や。
 あの子猫が飲み込んでしもうたロストロギアも、こっちに渡してくれたし」

 そう、あの子猫が犯罪組織のアジトに連れて行かれた理由は、組織の運び屋が誤って落としてしまったロストロギア(極小サイズの魔力結晶)を飲み込んでしまったからだった。

 そして、運び屋は子猫を少女から奪い取りそのまま組織に連れ去り、少女は父親が護衛の仕事を依頼していた傭兵に泣き付くように子猫の捜索を依頼。

 傭兵は運び屋を探し出して絞り上げ、子猫を連れ去った理由とアジトの場所を聞き出す。

 そして、子猫が解剖される前にアジトへ突入し、少し遅れて管理局も強制捜査の為に突入。

 それがこの事件の概要である。

「それにこんな話、正直に上に報告しても怒られるだけや。
『伊達や酔狂でこんな事する人間がいる訳無いだろ!』てな」

「……納得いかないけど、ありがたく借りにしとく」

 時久は小さく溜息を吐くと、二人に背を向けデバイスを起動し、転送準備に入る。

「所で君、傭兵に向いて無いんとちゃう?」

「……………………………………………………………………………………かもな」

 はやての容赦無い台詞に時久は反論したかったが、今回の依頼の収入と出費を考えると同意せざるを得なかった。

「どうや?
 傭兵稼業なんて辞めて、私達と仕事してみん?」

「遠慮する」

「何でや?」

 転移魔法陣を展開させると、時久ははやてへと振り向く。

 あまり表情を変えない時久が、珍しく面白そうに笑っていた。



「伊達や酔狂で戦えるのが傭兵だから、だよ」



 そう言って、時久は姿を消す。

 それを見送ったはやてとシグナムは、虚を突かれたような表情を浮かべていた。





[25711] CASE4 難破船の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:74fa4e45
Date: 2011/02/13 19:12
 そこは、ミッドチルダでは珍しい和風の喫茶店だった。

 そこの常連である時空管理局総務統括官リンディ・ハラオウンは、砂糖を大量に入れた緑茶を飲みながら、人を待っていた。(ちなみに店の者が顔を顰めていたが、すでに諦めている)

 その人物は、最近娘やその友人達から話に聞いていた。

 かつて娘の命を救ってくれた恩人であり、管理局のエースを瞬殺する程の実力を持ち、どんなに酔狂な依頼にも命がけで取り組む傭兵の少年。

 リンディの前に人影が立つ。

「あんたがリンディ・ハラオウン?」

 娘達と同じくらいの年頃の鋭い眼をした少年。

「そうです。
 あなたが、イズモ一族の時久さんですね?」 



 暗い。

 普段なら照明とコンソールの灯りが消える事が無い艦内も、今は必要最小限の光量しか無い。

 次元航行艦アースラの艦長、クロノ・ハラオウンは小さく溜息を吐き、それはその隣にいた長年の相棒たるエイミィ・リミエッタ、そして義妹でありアースラの執務官であるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンへ、更には艦橋のクルーへと伝染していく。



 アースラは現在、難破していた。



 航行中に感知した次元震の調査に向ったアースラだったが、その最中に突然アースラのほとんどの機能がダウンした。

 原因はアースラの中枢コンピュータの老朽化だった。

 すぐに整備を行い、現在も行っている最中だったが、今回の故障が中枢中の中枢だった為、修復は難航していた。

 最低限の生命維持システムや通信、警戒システムは何とかサブシステムで確保しているが、それ以外の機能は未だ復旧できていない。

 おまけに次元震の影響は日々強まっており、要請した救援もアースラに近付けないでいた。

 当然、回復の目処が立つまで物資を節約する必要があったのだが、それはクルーの食事、入浴、娯楽等の生活環境に多大な影響を与え続け、そのストレスは溜まっていく一方だった。

「……………………お風呂入りたいな」

 普段我が侭など口にしないフェイトの呟きが、クルーのストレスがかなりやばい所まで来ている事を示していた。

 と、その時久しぶりに警戒システムから警告音が発した。

「エイミィ!?」

「転移魔法確認!ってこの状況で!?」

 システムを確認したエイミィが愕然とする。

 次元航行艦さえ近付けない状況で転移魔法など、普通は自殺行為に等しい。

「転移先は……ここ!?」

 エイミィの言葉と同時に天井に銀色の魔法陣が現れ、そこから人影が落ちてくる。

「ちっ、少しずれた
 やっぱり安定しないか」 

 着地した人影が舌打しながらぼやく。

 手には刀型のアームドデバイス、黒い陣羽織を羽織り、鋭い眼をした少年。

 デバイスを構えようとしていたフェイトは、少年を見て驚く。

 一度だけ会った事があるからだ。

「君は……時久…だっけ?」

「……む?
 この前の執務官殿じゃないか」

 少年、時久もフェイトを見て少し驚く。



「つまり、君はアースラのクルーの救助を依頼されている、と?」

「ああ」

 今回、時久が依頼されたのはアースラの救助だった。

 転移魔法一点特化の魔導師である時久なら、この不安定な状況でもある程度は転移可能だった。

「プランは?」

「クルーを約10名ずつ、最長で1時間に1回のペースで次元震の影響外にいるイズモ一族の船に連れて行く」

「随分時間を掛けるな?」

「さすがにこの状況だと、魔力の消費が激しい。
 それに、さっきの転移で出る場所に僅かなズレがあったから、慎重に行いたい」

 時久の説明にクロノは考え込む。

 二人の周囲でクルー達が、これで助かるかもしれないと顔色を明るくしていたが、

「……これは、管理局からの正式な依頼なのか?」

「いや。
 この船のクルーの家族からの私的な依頼だから、管理局は関わってない。
 ちなみに、契約があるから名は伏せさせてもらう」

「……正直、僕はこの申し出を拒否したい」

「……だろうな」

 クロノの苦い顔での言葉に、時久は頷く。

「ど、どうしてクロノ!?」

「俺が傭兵だからだよ」

 フェイトが驚いてクロノに詰め寄るが、答えたのは時久だった。

「管理局、法治機関から見れば俺達傭兵は犯罪者予備軍のゴロツキのようなものだ。
 管理局からの正式な依頼ならともかく、局員の関係者とはいえ誰だか分からない人間が雇った傭兵に助けられたとあっては、その面目は丸潰れ。
 この前、あんたも俺に助けられた後に色々言われなかったか?
『傭兵に助けられたなど恥を知れ!』みたいな事を」

「う……」

 確かに、犯罪者を逮捕した事や、義兄が艦長のアースラに所属していたから頭ごなしには言われてなかったが、そういった陰口を言われていた事をフェイトは知っていた。

「そういったレッテルが艦長殿だけでなく、下手をすればクルー全員にも貼られてしまう可能性があるんだ。
 責任者としてそれは避けたいだろうし、何より提督として、いや管理局員としての意地と見栄が傭兵に頼る事を許せる筈がない。
 ああ、悪い意味で言っているわけじゃないぞ?
 意地も見栄も大切なものだ」

「そ、そうかな?」

「だって、かっこつかないだろ?」

 時久の端的な答えに、フェイトやクロノ、アースラのクルー達は目を点にする。

 その様子に苦笑しながらも、時久は言葉を続ける。

「とは言え、意地と見栄の張り所は選んでほしい。
 次元震の影響は日々強まっていて、もう封印作業も難しいそうだ。
 クルーを安全に転移できるのは、これがラストチャンスだと思って欲しい」

「……わかった。
 よろしく頼む」

 クロノはそう言って時久に頭を下げる。

 時久が「任せろ」と言おうとしたその時だった。



 強い衝撃がアースラを襲った。



「皆、無事か!?」

 クロノの叫びに、床に投げ出されながらも返事をするクルー達。

 すぐに持ち場に戻り、状況を確認する。

「た、大変だよクロノ君!!」

 エイミィが悲鳴のような声を上げる。

「次元震が急激に増大中!!」

 その言葉に全員が血の気を失う。

 データを見ると、世界一つが消えかねない規模に次元震が発展しかけていた。

 幸いなのは、この近辺の世界はすべて無人世界であるから被害の心配は無い事だろう。

 アースラ以外は。

「く、この状況で救助作業は可能か!?」

「ここまで荒れると俺だけならともかく、大人数での転移は無理だ
 それに船の方も退避を始めたようだ」

 クロノの問い掛けに、自前の端末を睨む時久の返事は無常だった。

「く、ならせめて君だけでも「何とか船を10秒位安定させられないか?」……何?」

「こうなったら賭けに出るしかない。
 10秒、最悪5秒でいいから船を安定させてくれ」



「着いたよ時久!
 この辺りがアースラの中心位置だよ!」

「……了…解…ぅ」

 フェイトに高速機動で引張られるように案内されたのは訓練施設の一角、アースラのほぼ中心位置だった。

 目が回った時久は頭を振って調子を戻し、艦橋と通信を開く。

「操船システムの方は?」

『待って!もうちょいだから!』

「急げよ、かなりやばそうだ」

 手元の端末のデータを一目見て、懐にしまう。

 もうこれ以上悪くなっても、成功確立に大差は無い。

『いいのか?
 やはり君だけでも逃げたほうが……』

 艦橋にいるクロノがそう確認してくる。

 律儀な人だ、と思った。

「提督殿
 分の悪い賭けなら逃げるけど、分の最悪な賭けなら出し惜しみしないのが傭兵の流儀だ」

『……傭兵は皆そんな考え方なのか?』

「少なくとも師匠はそうだったよ」

 苦笑する時久の言葉に、クロノとフェイトも少し笑った。

『操船システムの修理終わったよ!
 でも、3分もしたらまた全システムが使用できなくなるよ!!』

『時久!』

「了解、準備に入るから船が安定したら合図してくれ」

 刀型デバイスを鞘に納めたまま構えようとする。
 
「あ、それと執務官殿
 衝撃に備えて、腰を落としておいた方がいいぞ」

「うん」

 フェイトが地面に膝を付くのを見て、時久は準備を始める。

 手にした刀型デバイスを鞘に納めたままクルリと片手で回転させる。

 するとその栄進力で鞘に取り付けられた、レバーアクションのカートリッジシステムがカートリッジを装填させる。

 始めて見る機構のカートリッジシステムにフェイトは「わあ」と声を出したが、時久はそれに構わず装填したカートリッジを激発させ、魔力を増幅させる。

 だが……

(く……
 やっぱり、制御が乱れる……)

 普段、時久はカートリッジを使用しない。

 理由はいくつかあったが、転移魔法を独自の感性で使いこなす時久にとって、急激な魔力強化はその感性を乱す要因になるのだ。

 だが、今回は自前の魔力では足りないのだ。

 時久は集中するように目を閉じると、片手で刀印(人差し指、中指を立てた印)を作る。



 時久は、何かを唱えながら刀印を振るう……

「臨」

 それは儀式魔法の詠唱では無い……

「兵」

 それは魔法が存在しない世界の、ただのまじない……

「闘」

 九字と呼ばれる九つの文字を唱え、刀印で空中を切るそれは……

「者」

『九字護身法』と呼ばれている……

「皆」

 重ねて言うが、これは魔法には一切関係しない……

「陣」

 しかし、昔の武人達はこれを精神集中手段に使っており……

「列」

 事実、船が安定した時には魔力の制御を取り戻していた……

「在」

『船が安定した!!
 今だ!!』

「前」 



 巨大な銀の魔法陣がアースラを包み込み、消える……



 その数分後、次元震により無人の荒野しかない世界が消滅した……



 賭けだった。

 次元航行艦のような巨大な物を転移させた事は無かったし、次元震の影響もあった。

 転移の規模に比して少ない魔力を補強する為に使ったカートリッジも、今まで使いこなせなかった。

 しかし、これまで何度も長距離転移を繰り返す内に、一番転移し易い場所を見つけていた。

 すなわち、自分の家である。

 ひょっとすると帰巣本能とかが関係しているのかもしれなかったが、とにかく緊急時の咄嗟の転移だと、自宅の玄関だったり居間だったりに転移してしまう事が多いのだ。

 そして今回も追い詰められた時久は自分の家の近くに転移しようとした。

 傭兵として、住処が知られるのは正直デメリットが大きかったが、それしか無かった。

 そして……



「ほんとうに、無事で良かったわ……」

『心配お掛けしました、リンディさん』

 リンディは自宅でエイミィからクロノやフェイト、そしてアースラのクルーが無事な事を連絡された。

 イズモの船から次元震の急な活性化で救助に失敗したと連絡を受けた時は、足元が崩れそうになったが、それからすぐにエイミィからの連絡があった時は、目から涙が零れそうになった。

「それで、クロノとフェイトは?
 無事な姿を見たいのだけど……」

「え……えっと、それが……」

 あははと笑いながらも冷や汗を流すエイミィに、リンディは首を傾げた。



「えっと……
 時久、あの……」

 呆然とする時久の背中に、フェイトは心配そうに声を掛ける。

 さらにその後ろではクロノ達アースラのクルーが時久の背中を見つめていた。

 そこは、海鳴の隣の県にある山の中の廃村だった。

 今は人除けの結界を張っているが、麓までは少し距離があり、地元の者でもほとんど来ない場所だった。

 住む者もほとんど居ない……たった一人を除いて。

 時久は、フェイト達をゆっくり振り返ると……

「……悪いけど、まだ使える物を掘り返すの手伝ってくれないか?」

 不時着するようなアースラの転移の衝撃で潰れてしまった、時久の住む木造住宅を指差す。

 アースラのクルー一同は無言で頷いた。



[25711] CASE5 同業者の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:24d57981
Date: 2011/02/17 20:19
 フェイトー、いいかげん起きないと遅刻するよー

 ……わー!もうこんな時間!?

 朝食の目玉焼きを突付いていた時久が奥から聞こえてくる声に時計を見ると、時間は8時を過ぎていた。

 普段の時久なら、もっと早くに家を出ないと麓の学校に間に合わないが、現在彼は諸事情で休学中だった。

「あらあら、フェイトったら……」

 目の前の席に座る女性、リンディは奥の方から聞こえる慌しい音に呆れた様子で微笑むのを見て、彼は思う。



『俺は何故ここにいるのだろう?』と。



 現在、時久はハラオウン家に下宿していた。

 原因は、前回の依頼で次元航行艦アースラを家の側に不時着させるように転移させた結果、その衝撃で家が潰れてしまったのだ。

 さすがに自宅を潰してしまった事に時久は気落ちし、命を助けられた艦長のクロノ達はその様子に罪悪感を持ってしまった。

 アースラは現在、不時着したままで修理を行っている。

 次元航行が可能になった段階でアースラを退かし、時久の家を魔法で修復する事を時久に約束し、それまでの間の生活の場としてハラオウン家に招待された。

 勿論断った時久だったが、クロノの理路整然とした説得、そしてフェイトの涙目での善意の訴えとそれを見たアースラクルーの無言の圧力、そしてリンディの巧みな話術の前に、基本的にお人好しな時久は敗北した。

「でも、本当に良かったのか?」

 慌しく登校していったフェイトと子犬の姿で散歩に出掛けたアルフを見送り、時久はコーヒーを飲みながらリンディに訊ねる。

「何がかしら?」

「俺を、傭兵を自宅に招いた事だよ」

「まあ、私達もあなたの住む家を知った訳だし、お互い様でしょう?」

「そういう事言っているんじゃない。
 最近の管理局は傭兵に対する悪い感情が強くなっているだろ?」

 そう言って、携帯端末を開き画面を確認する時久。

 映し出されているのは、イズモ一族の依頼斡旋サイトだった。

 基本的に名指しや特殊な技能等を必要とする依頼以外は、このサイトを利用して依頼の授受を行うのがイズモ一族のやり方だった。 

「実際、管理局から、特に本局からの依頼が異様に少なくなっている。
 この前の依頼だって、本来ならあんたが自腹切る必要は無かっただろ?」

 時久の言うとおり、前回の依頼は母親として子供達とその仲間を救って欲しいというリンディ個人からの依頼だった。

 当然依頼料、それも危険な依頼だった事もあり、一個人としてはかなり無理のある額をリンディは自ら負担した。

「正直、分割払いにしてくれなかったらこのマンションも売り払う事になっていたかもね……」

「『体を売ってでも』なんて言われれば、な。
 言っとくけど、こんな返済プランにしたのは、俺がまだまだ甘いからだからな。
 もっとも、流石に危険度が高すぎる依頼を良心的値段にしたら相場に影響しかねないから、値引きする訳にはいかないし、する心算も無いが」

 依頼料の相場は特に決まった物では無いが、危険度と釣り合わない相場は他の傭兵達に悪影響しかねない。

「まあ、それはともかく……
 いくら管理局が傭兵を嫌っていると言っても、今回のケースは十分非常事態に当てはまるし、管理局からの正式な依頼としてもおかしくなかった。
 傭兵に違法行為を依頼するのは犯罪かもしれないけど、それ以外なら周囲の目はともかく公式な批判はほとんど無いだろ。
 なのにあんたは、わざわざ秘密裏に個人で依頼した。
 要するに、今の管理局は傭兵を忌避しているんじゃないか?」

 時久の問いに、リンディは溜息を吐いた。

「……タイミングが悪かったのよ」

「タイミング?」

「実はアースラの難破と同時期に、管理局の次元航行艦が撃沈されているの」

「撃沈?」

 時久は目を見開く。

 強力な防御手段を持つ次元航行艦を撃沈するなど、容易い事ではない。

「……戦艦とでもやりあったのか?」

「……イズモの傭兵、ゼンキを知っているわね?」

「そりゃあ、同族で知らない奴はいないだろ。

 魔導師の撃破数だけなら傭兵王アーシュレイすら凌ぐとも噂されてる……てまさか」

「そう、その次元航行艦を撃沈したのは、傭兵ゼンキただ一人に、よ」

「……」

 あまりの事実に絶句する時久だったが、一つ溜息を吐くと気を落ち着かせる。

「まあ……あいつなら出来ない事も無いかもな」

「私の方でも彼について色々調べてみたのだけど、情報が少なすぎるのよ。
 何か知っているかしら?」

 リンディの質問に、時久は携帯端末を操作しながら少し考え込む。

「……傭兵っていうのは信頼されないまでも、信用される必要があるんだ」

「?」

「だから、依頼主にはある程度情報を開示する必要がある。
 その傭兵が何を得意とし、何が苦手なのか・・・・・
 例え、明日には敵となる存在だったとしても、な。
 要するに、手札をさらしてポーカーをするようなものだ。
 だから一流の傭兵になるには強い手札を多数持つか、切り札(ジョーカー)を持つかする必要がある」

「ふむ……
 なら、ゼンキの手札は?」

「一撃必殺(ロイヤルストレートフラッシュ)」

「!」

「……と言われている」

「?」

「傭兵として異例なんだけど、ゼンキは手札をさらさないんだ。
 あるのは、これまでの実績すべてが相手の破滅で終わっているという事実のみ。
 一応デバイスはイズモ標準の刀型らしいんだけど、運良く生き残った者も、何をされたのか、どうやって斬られたのか解らないと言っていたそうだ」

「……つまり、君も知らないっていう事?」

「残念ながら」

 リンディがその答えに溜息を吐いた時、携帯端末を閉じて時久は立ち上がる。

「さて、それじゃ俺も仕事に行ってくるよ」

「あら、どんな依頼を受けたのかしら?」

「心配しなくても、ここに滞在している間は管理局の不利になる依頼は受けないよ。
 流石に、立場が悪くなる事を覚悟して俺を滞在させて得たゼンキの情報がこれだけなんて、あんたに悪すぎるからな」

 苦笑するリンディに背中越しに手を振り、玄関で靴を履いてから転移する時久。  



 今回の標的は同じ一族の傭兵達だった。

 一族と言っても、私達を繋ぐのは、血筋でもなければ情でもない。

 利害だ。

 だから同族と言えど見逃す事はしないし、する気も無い。

 彼等とて傭兵として生きてきた以上、その覚悟はあっただろうし、無かったのなら傭兵失格だ。

 躊躇い無く彼等を蹴散らした。

 辺りには彼等の躯が転がるが、まだ息のある者の呻きが聞こえた。

 止めを刺そうとするが、ふとこちらに近づく魔力を感じ取り、視力を強化した目を向ける。

 バイクに跨る男女と青い狼。

 バイクに跨る男、まだ少年と言っても良い年齢であったが、彼の着る黒い陣羽織がその立場を表していた。

 もう一人いたか。

 依頼内容は作戦エリア内の傭兵の殲滅である。

 騎士甲冑の上に羽織った黒い陣羽織をばさりと翻し、イズモ一族の標準デバイスである黒い刀型アームドデバイスを握りなおした。



「あ、見つけました!
 あそこです!」

 後ろに座る管理局の医務官であるシャマルが声を上げたが、言われずとも時久も気付いていた。

 荒野の一角、そこだけ鮮やかに色付いていた。

「あれ全てが薬草なのか?」

 隣を並走する青い狼の守護獣、ザフィーラが走りながら訊ねた。

「違うわよ、ザフィーラ。
 薬に使えるのは青い花だけよ」

 その言葉に時久は目を凝らすが、白、赤、黄、そして葉や茎の翠以外はこの距離では見当たらない。

 ひょっとすると見つけるのは大変なのでは無かろうか、と時久は不安に思った。



 管理局からの依頼が少なくなっているのは事実だが、それでも全く無くなった訳では無かった。

 今回の依頼は、医療班で使う薬草の採取だった。

 とある荒野ばかりの世界で数年に一度咲くという花が、特別な薬を精製するのに必要なのだそうだ。

 本来なら管理局内で人手を確保して捜索するのだが、どこも人手が足りず、また急ぎその薬を必要とする患者がいた事から、その担当医であるシャマルが個人で傭兵に依頼したのだ。

 もっとも、シャマルはもっと大人数を雇いたかったようなのだが、掲示した依頼料の低さからほとんどの傭兵が見向きせず、引き受けたのは時久だけだった為、家で暇そうにしていたザフィーラを急遽連れて来ていた。

 目標の花は咲く場所が毎回移り変わるそうで位置が特定できない事もあり、時久は捜索等の依頼で使うバイクを持ち出してきた。

 空から飛行魔法でシャマルとザフィーラが、地上からバイクで時久が捜索し、時間は掛かったが何とか目標の花の咲く場所を発見した。



「はー、すごいな」

 時久は色とりどりの花が咲く花畑に声を洩らす……が、
  
「青い花なんてないぞ」

 ザフィーラが言うとおり青い花は見当たらない。

「そんな筈は……
 あ、ほら」

 シャマルが足元の花を掻き分けると、小さな青い花が咲いていた。

 それを見た時久が同じように足元周辺の花を掻き分けるが、青い花は見当たらない。

「かなり貴重な花だから数は多くないみたい
 よく探す必要があるわね」

 やはり、大変だったようだ。
 
 とは言え、こうしてもいられないから探し始めようとしたが、

「待て」

 ザフィーラが作業を始めようとした時久とシャマルを止める。

「どうしたの、ザフィーラ?」

「……血の臭いがする」

 その言葉に腰の刀型アームドデバイスの柄に手を伸ばす時久。

 シャマルも慌てて騎士甲冑を纏う。

 警戒する3人の耳に声が聞こえた。

「花か……
 供え物には丁度良いな」

 その声の方向を見ると、一人の壮年の男がいた。

 長い黒髪を後ろに撫でつけ、手には抜き身の刀型アームドデバイス、着流しのような騎士甲冑の上に黒い陣羽織を羽織っている。

「同じイズモ一族の傭兵か?」

 そう問い掛けながら、警戒度を上げる時久。

 傭兵一族という特性上、同族同士で戦う事は良くある話だった。

 男は切っ先を時久に向けた。

「私の名はゼンキ。
 この地域の傭兵の殲滅を依頼されている」

 シャマルとザフィーラは傭兵の殲滅という言葉に、時久は男の名に反応する。

 イズモ一族の傭兵の中でも特に謎の多い傭兵ゼンキ。

 数々の依頼で目標を必ず破滅に導き、次元航行艦すら単独で沈めた男。 

「女と守護獣は依頼対象外だ。
 黙ってこの場を去るなら見逃そう」

「そういう訳にはいきません!」

 ゼンキの言葉に身構えるシャマルと無言で頷くザフィーラ。

 だが、

「そうだな。
 この場を去るのは俺とあんただ」

 何時の間にかバイクに跨っていた時久が、急発進する。。

「……な!?」

「時久君!?」

『薬草をすぐ採取しろ。
 こいつの手口次第ではこの辺り一帯焼け野原だぞ』

 ザフィーラとシャマルに念話でそう告げると、そのままスピードを上げる。

 時久の予想通り、ゼンキは追って来た。

『依頼ってのは俺個人を殺せというものか?』

 時間稼ぎの心算で念話でゼンキに話しかける。

『否、あくまで指定されたエリア内の傭兵だ』

『なら、この辺りに他にも傭兵がいたのか?』

『……その言葉からするとお前は先程の奴等とは無関係か』

『そうなら、見逃してくれるか?』

『依頼内容に変更は無い。
 運が悪かったな』

『ちなみに、エリアから逃げ出したら?』

『その前に』

「斬る」

「!?」

 突然前に現れたゼンキが剣を振るう。

 時久は刃が届く直前に瞬間転移でゼンキの剣をかわし、目標を見失った剣がバイクを斬る。

 驚くゼンキに後ろに現れた時久が、慣性そのままに体当たりする。

 それに吹っ飛ばされるゼンキと、何とか受身を取って素早く構える時久。

 本当ならそのまま斬りかかるべきかもしれなかったが、それより時久は気になった事があった。

 先程、バイクの後ろを走っていた筈のゼンキが瞬時に前に現れた。

 高速機動魔法にしてはタイミングがおかしい。

 あれはまるで……

「驚いたな」

「!」

 倒れていたゼンキの姿が消え、背後から声がした。

 咄嗟に再び瞬間転移で距離を取る時久だったが、完全には避けられず肩口を浅く斬られていた。

「まさか、私と同等の瞬間転移の使い手がいるとは」

 傭兵ゼンキ、彼は時久と同じ瞬間転移の使い手だった。
 
 その事に動揺したのは数秒だけ。

 溜息を吐き出しながら、気を落ち着かせる。

 よくよく考えれば瞬間転移は、既存の転移魔法の延長線上にある技能であり、時久以外が習得できない技術では無かった。

 ただ、誰もやろうとしなかっただけ。

 そして、時久と同じ事をした男がいた。

 それだけだった。

「ふむ、ならば」

 ゼンキは手を時久に向け、一瞬翡翠色の魔力光が見えた次の瞬間、

「これは出来るか?」

 時久の目の前でゼンキが刀を振るっていた。

「く!?」

 驚愕しながらも刀を抜こうとして気付く。

 時久は空中で横になるような体勢で浮かんでいた。

 突然、不安定な体勢にで抜き放った刀は得意の抜刀術とはとても呼べない代物で、何とかゼンキの刀を防げはしたがその剣圧に弾き飛ばされ地面にバウンドし、

「そら」

 その先にはゼンキが時久へ……空へ刀を向けたまま立っていた!

「っ!」

 落下中の時久はゼンキの刀に貫かれる前に、短距離転移で退避する。

 素早くゼンキへと構えなおすと、時久は気付いた。

 ゼンキは、最初に立っていた場所から動いてなかった。

 すぐに何をされたのか気付いたのは、同じ転移魔法に特化していたからだろうか?

「瞬間強制転移……か?」

 時久の言葉にゼンキは何も言わないが、間違いないだろう。

 瞬間的に対象を強制転移するなど、転移魔法特化型を自認する時久でも出来ない事だ。

 再びゼンキの手が上がり、時久を目の前に強制転移させ突きを放つが、

「それなら!」

 突きが決まる直前にゼンキの背後に転移し抜刀術を放つ時久。

 流石剣技も一流なのかすぐさま刀を引き戻し防御しようとするゼンキだったが、体勢が不安定で時久の抜刀術は防ぎ切れない……筈だった。

「な……」

 時久は目を疑った。

 振りぬいた刀型デバイスの刀身が半ばから消えていた。

 ゼンキに斬り飛ばされたにしてはおかしい。

 手応えが全く無かった。

「強制転移の応用だ」

 ゼンキは刀を振り上げる。

 その刃が何かの魔法を纏っている事に、時久は気付いた。

「私の強制転移魔法を纏った刃は、その接触部位を転移させながらあらゆる存在を斬り裂く」

 そして強制転移の刃を数10mに巨大化させ、さらにそれは幾つもの枝場を作り、振り下ろした。



 忘れてはならない。

 ゼンキは強力な防御手段を備えた次元航行艦を撃沈させた男なのだ。



「ふむ?」

 振り下ろされた強制転移刃は荒野に深い溝を作り、その転移部位が雨のように降り注ぎ砂塵を作る。

「同じスタイルの魔導師とやり合うのは初めてだが、中々厄介だな」

 砂塵が舞う中、ジャコンという何かの装填音が聞こえた。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 砂塵が晴れると、抜刀術の構えをした時久がいた。

 転移刃が掠めたのか右足の脹脛から決して少なくない出血をしていたが、その顔は何かの覚悟を決めた物だった。

 それを見て、ゼンキも構える。

 油断する心算は毛頭無かった。

 目の前の若い傭兵は、自分の必殺を尽く避けてみせたのだから。

 風が再び砂塵を舞い上がらせ、時久の姿を隠した瞬間、

「そう来る事は分っているぞ」

 左横に転移した時久を正面に強制転移させるゼンキ。

 後は正面に現れた時久を強制転移刃で斬るだけだった。



 なのに、何故か正面に時久は現れず、誰かが踏み込む音が背後から聞こえた。

「……二段瞬間転移!?」

 咄嗟に背後に刀を振るうゼンキは理解した。

 時久は自分の強制転移に捉えられる前に、連続での瞬間転移をした事を。

 短くなった刀で放った抜刀術がゼンキに放たれる。

 それを先程と同じく強制転移刃で防ごうとするゼンキだったが、時久の抜刀術はその防御を掻い潜った。

 だが、悲しきかな。

(間合いを間違えたな)

 急に変わった刀の長さに適応できなかったのか、その一太刀はゼンキを掠め過ぎ、

「はあああああ!!」

「何!?」

 ありったけの魔力を込めた鞘がゼンキを殴打した。



 鉄拵えの鞘という物がある。

 刀を失った時に武器にできるよう、わざわざ鞘を重い鉄で作るのだ。

 実際、イズモ一族では鞘を補助武器とする為に、丈夫な材質にする傭兵達がいた。

 だが、時久はその限りでは無い。

 抜刀術に効率化する為、時久の刀型デバイスは、鞘にカートリッジシステムを搭載する形に改造を施した。

 そんな物、もしカートリッジを装填した状態で振り回そうものなら、結果は解るだろう。

 すなわち、暴発。

 

 鞘から激しい光が溢れ出した。

 それが、時久が覚えている最後の光景だった。



 ただいま、と言う声に少し怒ったリンディが玄関に向う。

 それを見て不安そうな顔をするフェイトと、当然という顔して頷くアルフ。

 時刻は午後11時過ぎ。

 いくら下宿人とはいえ、この時間まで連絡無しというのは不味いだろう。

 当然、リンディのお説教が始まると二人は予想したが……

 な、何があったんですか!?

 リンディの悲鳴のような声に二人は顔を見合わせた。

 理由は居間に入ってきた時久の姿を見て分かった。

「と、時久!?」

「どうしたんだい!?
 その怪我!」 

 全身に包帯を巻いた時久を見て、二人も愕然とした。



 あの後、時久は特攻攻撃で意識を失ったが、かなりのダメージを受けながらもゼンキは立っていた。

 だが、時久に止めを刺す寸前で、採取作業を終えたシャマルとザフィーラが参戦。

 結果として、ダメージのせいで不利を悟ったゼンキは転移魔法で逃走、時久はシャマルの回復魔法で治療後に意識を取り戻した。

 時久の負傷は傷の箇所こそ多かったが致命傷は無く、念の為に管理局の病院に入院するようシャマルに薦められたがそれを時久は断った。

 

「いったいどんな依頼を受けたらそうなるの?」

「……花畑の捜索」

「それ絶対ウソだよね!?」

 今すぐに休めというリンディの言葉に従い、宛がわれた部屋へフェイトに肩を借りながら向う。

「いや、本当なんだけど……
 ああ、そうだ。
 これ特別報酬で貰ったからやるよ」

 時久はポケットからヒビだらけになったカード状の待機形体のデバイスを取り出し、小さな花束を出現させる。

 シャマルと別れる時に、慌てていたせいで青い花と一緒に採取してしまったという花を分けてもらったのだ。

「おやすみ」と部屋に入る時久を、呆気に取られた表情で見送ったフェイトは受け取った特別報酬という花を見つめる。

「……これも、傭兵の流儀なのかな?」

 奇行とも思える時久の行動理念に対して、理解に苦しむフェイトだった。   



 蛇足。

 これより後、ゼンキと名乗る傭兵が現れる事はなかった。

『管理局の人間が仇を取った』『これ以上管理局との溝を作る事を恐れたイズモ一族が闇に葬った』『最後に交戦した傭兵から受けた負傷が原因でこの世を去った』『管理局を潰す為に潜伏して、その準備をしている』等々、様々な憶測が飛び交ったが、真相は未だ不明である。    



[25711] CASE結 英雄と傭兵の場合
Name: 烏狂い◆2cb962ac ID:e50099c1
Date: 2011/02/18 17:16
「管理局に入る気は無いかい?」

「無い」



「けど、実際君は傭兵に向いてない気がする。
 能力的にも性格的にも。
 そこ、掛け算間違えているぞ」

「大きなお世話だ。
 ……と、本当だ」

「実際、スタンドアローンで戦うには、君の能力は偏りが有り過ぎるだろう?
 性格については……個人的なイメージとしては、もっと狡猾でないと収支を成り立てられないし、傭兵のチームに入っても孤立すると思う。
 ああ、そこは2番目の公式を使った方がいい」

「む?ああそうか。
 ……実は最近、自分でも傭兵に向いてない気がしていた」

「なら傭兵稼業から足を洗うのも、選択肢の一つだろう?
 傭兵に向いてないと言ったけど、君の転移魔法の技能はかなりの物だし、君のお人好しな所は君の良い所でもあると思う。
 管理局なら君の能力を効率的に指示できる指揮官も、連携する仲間もできる」

「……昔さ、俺も管理局に入って世の中の為に働くのもいいな、なんて考えた事があったんだ
 ここも同じ公式でいいのか?」

「ああ、そうだな。
 ならいいんじゃないか?」

「いや、今はもう駄目だ。
 何だかんだで傭兵として戦ってきた俺は、傭兵として色々背負ってしまった。
 依頼を失敗して依頼主を泣かせた事も、敵対した魔導師を傷付けた事も、誰かを助けられなかった事も、な。
 ふー、計算問題はこれで終わった」

「……
 最後の所、計算ミスがあるぞ」

「げ……
 まあ兎に角、傭兵として背負った業だ。
 向いていないから、という理由で放り出せる程軽くは無い。
 少なくとも、俺にはできない。
 たとえ、二流の傭兵で終わるとしても」

「……そうか。
 ああ、話は変わるけどアースラの修理ももうすぐ終わる。
 君の家もすぐ直せると思う。
 何かこの文章問題おかしくないか?」

「ふう、やっと帰れるか。
 で、どの辺が?」

「ここだよ。
 ……家の生活はそんなに居心地が悪かったのか?」

「今まで一人暮らしだった俺には、いきなり女所帯に放り込まれるのは結構辛かった。
 あんたはあんまり帰ってこなかったし。
 えーと……」

「ははは……
 なんとなく理解した……」

「……あんたも苦労しているんだな
 まあそれに、そろそろ学校にもいかないとやばいからな
 もっとも、引っ越そうかどうか真剣に悩んだが……
 ああこうか?」

「そうそう。
 ……やっぱり、僕達に見つかったからか?」

「まあな……
 結局、やめたけど。
 よし、これで」

「だから何でそんなケアレスミスするんだ?
 ……傭兵として、それってかなり不利なんじゃないか?」

「え?何処だよ?
 ……まあ、何だかんだで結構怨みは買っているけど……
 これは傭兵としてではなく、俺個人の問題が絡んでいるから」

「……苦言だけど、二兎を追う者は一兎を得ずと言うぞ?
 特に、君みたいな商売は。
 ついでに計算も一つずつ落ち着いてやれ」

「だから、二流なんだよ。
 むう……ああそうか」

「……
 外れ」

「うあ。
 ……俺の両親は6年前にあった山火事で、あそこに在った村の人達と焼死したんだけど……
 その前に、姉貴が親父達とケンカ別れして家を出ているんだ」

「!
 お姉さんを待っているのか?」

「いや……
 でも、もし顔を見せたらあの家は押し付けようと思っている。
 一応、あんなボロい家でも親父とお袋の形見だから捨てられないでいるけど、姉貴に譲るなら納得できると思う。
 これをこっちに……」
  
「……そうか
 所在は調べたのか?」

「その気は無い。
 縁があれば、その内会える。
 それで良いさ。
 で、どうだ?」

「……まあ、君がそれでいいなら口出しはしないが
 答えはあっているけど回りくどい計算だな。
 もっと簡単にできるぞ」

「うう……」


 ただいまー

 その声に時久とクロノは問題集から顔を上げた。

 時刻はもう夕方になっていた。

 リビングに入ってきたフェイトにお帰りと言う時久とクロノ。

「何しているの?」

「クロノに勉強見てもらっている」

「数学がここまで苦手な魔導師も珍しい」

「その分、古文や歴史は得意だ」

「ますます魔導師とは思えない」

「えーと、時久?」

「どうした?」

「実は古文の宿題が出たんだけど……」

「……依頼料は?」

「まてまて。
 人の面倒見る前に、自分のその壊滅的な数学の成績を何とかしろ。
 君は高校に進学する気なんだろ?」

「え?
 そうなの?」

「傭兵だけで食っていくのは難しいと悟った。
 副職に就くなら次元世界よりこの世界の方がやりやすい。
 もっとも、学歴として高校位は出ておかないと色々難しいけど」

「……大丈夫なの?」

「何が?」

「えっと……
 時久ってちゃんとした依頼料貰えているようには見えないから、学費とか……」

「……家の麓に奨学金制度の高校が有る」

「あ、そうなんだ」

「むしろ、依頼料貰えてないとはどういう目で俺を見ている?」

「あう……」

「実際、収支のバランスが支に傾いているだろ。
 本当に転職したほうがいいと思うが?」


 
「いいんだよ、俺は傭兵の流儀を貫くって決めているんだ」






後書き
 急な職務上の事情でネットが半年ほど出来なくなりました。
 友人にとりあえず〆の話を書いとけと言われ、あわてて書きました。
 本当は皆さんの感想やアドバイスを参考に書き直すつもりだったのに、何でこうなったやら。
 ともあれ、あくまで『人としての甘さを捨てきれない二流の傭兵』を書いていたつもりが、少しずつおかしくなったのも事実。
 時間がある時に手を加え、納得いくものが出来たらまた載せたいと思います。
 このような未熟な文を読んでくれた方々、どうもありがとうございました。


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