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[25646] 瀬世良瀬良は女運が悪い
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/01/27 05:35

はじめまして。
ここに投稿するのは始めてですが、よろしくお願いします。
読んで下さるにあたり、注意事項は下記の通りとなります。



1 この物語はハーレム系ではありますが、萌えの要素はたぶんありません。

2 色々な意味で、際どい台詞があります。

3 世界設定とか質問されても困ります。

4 主人公は顔以外がチートの女不信です。

5 作者は遅筆です。


それでも読んで下さる方に感謝。



[25646] -瀬世良瀬良は女運が悪い-瀬世良瀬良の凡夫なる1日編(始)
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 05:20


その男、腕は一流、顔は二流、三四がなくて、女運、極悪極まり



     セセラ セラ 
名前 瀬世良 瀬良 

性別 男

年齢 15歳

国籍 日本 

生年月日 200X年 4月4日

身長 174.3cm

体重 59kg

血液型 A型

家族構成 姉2人、妹2人、母1人、父不明

顔つき やや吊り目、常に仏頂面

体格 同世代に比べ細身にて筋肉質







今日の新聞に予備校の教師の談話が載っていた。

教師が言うには世の中は全て数字で説明できるらしい。 

確かに数値化された自分のデーターを見れば、自分は極々一般的な高校生になるかもしれない。

だが数字だけで表現できるのだろうか。

例えばだ。

この家の玄関を開ける時、心臓は重く響き、意識は千切れそうなほどに細く鋭くなり、自分と世界との境界線が曖昧になる。

これを数字で表せば、脳波の変化、アドレナリン増加、心拍数上昇、血圧上昇といった薄っぺらい数字で表されるのだろう。

なるほど。

数値を読み解くと、俺は緊張しているという訳だ。

なら扉を開いた先で起き得る未来を完全に数字で説明できるのだろうか。

そんなこと出来るわけが無い。

完璧に数字で説明できるなら、俺もこの先に待ち受ける未来を納得しよう。

けれども残念ながら数字で説明できるのは過去と現在のみ。

まだ見ぬ未来というのは、生命の意思という不確定要素が含まれるからだ。

例えばこの扉を開いたら、いきなり銃で撃たれるかもしれない。

例えばこの扉を開いたら、いきなりヘリに追い立てられるかもしれない。

例えばこの扉を開いたら、いきなり日本刀で斬られるかもしれない。

こんな事がもっと不確定かつ理不尽な生命、つまり人間の意志によって、この先の未来で引き起こされるかもしれない。

かもしれない未来。

数字で説明できない意思と、数字で説明できる世界を掛け合わせた説明出来そうで出来ない未来。

人は未来をどんな事が起きても説明できるよう確率および可能性と苦し紛れに表現した。

これならどんな突拍子も無い可能性が現実になろうとも、確率的に天文学的数字の現実が起きようとも、数値の範囲内と説明できる。

なら、そんな可能性、即ち確率の可能性を説明できるのか。

可能性の可能性。

確率の確率。

永遠に続く連鎖を、人はさらに苦し紛れに運と説明したのであった、マル。



「……」



ああ……なるほど。

数字っつう人の領域では説明できないので、神様っつう最強の説明を持ってきたわけだ。

つまり神様に文句言えっていうのか。

運という糞たっれチートの暗黒神を相手に、数式だとか法則だとか人類のエクスカリバーを振りかざしても、無駄な抵抗と言いたいのか。

そうか。

つまり、諦めろ馬鹿って言いたいのかっ。

バグってる俺の運をなめんじゃねえよっ。

この糞チートっ。



「……はぁ、アホらし。時間だ」



最期には当てつけ暴走気味の自己完結になった現実逃避を止め、携帯を畳む。

正面を睨み付け、息を整え、腰を上げ、ゆっくりと玄関を開ける。

まずは、そっと2センチ程。

弱々しく流れ込んでくる朝の空気を押しのけ、外を覗く。

まるで追われるように、制限速度無視で爆走する車。

まるで逃げるように、全力前進で通勤するOL。

外に広がるいつもの朝の光景。

緊張を解かず、耳を澄ませ、僅かな音を拾い、慎重に音を選別していく。

異常なし。

深く呼吸を吐き、目を閉じ、頭の天辺から足の指の先まで神経が伸びていくように思い浮かべる。

そして目を見開き、一気に扉を開け、玄関の門柱まで走る、走る、走る。

ほんの10歩の距離をひた走る。

着いたらすぐに門柱に背を預け、周囲の気配を探る。

オールグリーン異常なし。

空は晴天、一点の曇りも……無いはずだった。

それはまるで悪魔のように唐突に災厄を片手にぶら下げ、飛来する。

背中を舐めあげる嫌な予感。

続いて来たのは雷の如きジェットエンジンの轟音と、鉄槌の如きローターの風圧、金切り声の如きグリップ音。

それは運命に抵抗できない贄を嘲笑うかのごとく、どうしよもないスピードで迫りくる。
 


「今日も女運が最悪だっ」
 


携帯型RWR警戒装置が元気に振るえ、M230機関砲がゆったり回転し、84mm無反動砲が勇ましく黒光り。

そして、俺は自分でも嫌になるぐらいの冷静さで鞄を頭の上に掲げる。



「おにいちゃんは、きょうも、ちこくです」





妹の声が聞こえたのを合図に、戦闘機と軍事用ヘリと大型バイクを背にして死に物狂いで駆けていく。

口元からドップラー効果付で悲鳴が後ろへと駆け抜け、さらに後から銃弾とミサイルとロケット砲が追っかけてくる。

数値でもっ、グラフでもっ、胡散臭い講釈でもいいっ。

誰か納得いく説明をしてくれっ。

この女運の悪さをっ。



 

 



 
瀬世良瀬良は女運が悪い
 

 

 




 


-瀬世良瀬良は今日も女運が悪い-





今日も平和に、街中で銃声が鳴り響き、炎が昇り、建物がドミノ倒し。

ふざけた話だが、どこの戦地かと言いたいぐらいのこの被害は一日で復旧される。

それもこれも今、ヘリからロケットランチャーで悪趣味な市長の銅像の頭部を吹っ飛ばしたお嬢様のおかげだ。

防弾、防爆ガラスの窓が小刻みに揺れる。

マスコミ、政府、司法に対する情報操作、隠蔽工作も完璧だ。

それもこれも今、携帯用地対空ミサイルでヘリを撃墜したお姫様のおかげだ。

ビルに突っ込みかけたヘリが突然バラバラになり垂直落下。

死者や怪我人がでないよう避難誘導も完璧だ。。

それもこれも今、飛行機から飛び降り、日本刀でヘリを叩き斬った実業家のおかげだ。

そしてこの騒動の原因は、私の弟である瀬世良瀬良が原因だ。


 
「ええっと……公式に当てはめて、ここの答えを使って」

「なんだよ。その問題まだやってんのかよ」



慣れたもので、私以外は誰も外を見向きもしない。

例え自分の家が壊されても、何度目の新築になるのかと数えるぐらい慣れたものだ。



「いいでしょ別に。あんたに関係ないでしょ」

「仕方ねぇな。教えてやるから見せてみろよ」



私の隣の席で青春が繰り広げられる中、騒動が何かを追うように家屋や道路を爆砕し進み、学校に近づいてくる。

振動でこの学校のちょっとした名物、桜並木が一斉に花弁を散らす。



「まずは何時も通りに一日が始まった……お姉ちゃん、心配だよ」

  

こうして弟を心配する事しか出来ない我が身が恨めしい。



「瀬良く~~~ぅん!! お姉ちゃんの為にっ、しっかり童貞守るんだよぉ~~!!」
 
 

私の青春の叫びによって、いい雰囲気になっていたクラスメイドが、両者の顔に向けて吹き出し、窓の外では一際大きな爆煙が立ち昇る。 

それと時同じく、崩れ落ちていくビルのあたりで悲鳴がこだました。

 

 

 

 

瀬世良瀬良争奪ゲーム

 

 

ルール

 

その1

 

ゲームに一般人を巻き込まない

 

その2

 

ゲームにおいて如何なる場合であっても、無差別大量殺戮兵器に類するもの、または毒物およびウイルスの使用は不可とする

 

その3

 

ゲームによる被害は各自弁償する

 

その4

 

ゲームの期間は登校から下校の間のみとする



その5



ゲーム外での競争者同士の私闘は禁ずる



その6

 

瀬世良瀬良を愛し、婚約の意思ある者のみゲームの参加資格を有する

 

その7



瀬世良瀬良に拒否権は一切無いものとする




 

日本国憲法第666条 瀬世良瀬良争奪ゲーム基本規則より一部抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



銃弾を鉄板入りのカバンで防ぎつつ、文字通り転がって桜舞う校門を転がり抜ける。

 

「はぁはぁはぁ……今日も手加減なしかっ。糞たっれっ」

 

誰もいない校門の前にへたり込み、振り返れば燻る瓦礫と弾痕の山。

襲ってきた黒服38人。

襲ってきた傭兵52人。

襲ってきた無人機42機。

砲弾23発、手榴弾18発、催涙弾11発、閃光弾8発、撃たれた銃弾数知れず。

これで怪我一つないんだから、毎日、局地的奇跡のオンパレードだ。

奇跡の起し方が間違ってやがる。

後ろを振り返り、空に向けて中指を突き立てる。

指の先に広がるのは、黒煙を上げる戦場と化した街並み。

早くも復興工事用のクレーン車や資材を運ぶ大型ヘリなどが、学園前大通りの向こう側からやって来る。

その機体にプリントしてあるマークは六花弁の花、ライオンと二本の剣、ニコニコマークの三種類。

六花財閥、キルメスカ王家、セメルのマークだ。

六花は重工業から製造、流通、小売まで日本で、いや、世界で六花の企業が無い国は無いとまで言われる財閥。

キルメスカは世界の宝石の3割を産出し、金や銀、プラチナまで産出する宝石国家。

セメルはここ数年で急成長した金融会社で、国債、証券、為替、このグループが動けば世界経済も動くと称される金融グループ。

 

「本日の朝のお勤めご苦労様でした。ご主人様」

 

微塵の気配も感じさせず、背後からタオルを持った手が伸びる。

それを奪い取り、煤だらけになった顔と頭を拭き、後ろに投げ捨てた。



「登校するのに、ミサイル銃弾ロケット弾の雨あられを潜り抜ける学生って、世の中に何人居るっつうんだ?」

「私が知る限り、ご主人様一人と存じ上げます」



後ろからまったく抑揚がない声で返事が返ってくる。



「そうだろう。そうだろう。でだ……お前は今まで何所に居やがった?」

「私はメイドですから、勿論、ご主人様の邪魔にならぬよう背後に控えておりました」




後ろからまったく反省の色がない声で返事が返ってくる。



「そいつはメイドの鏡だな」

「お褒めに預かり恐悦で御座います」

「はっはっは……誰が褒めるかっ。昨今のメイドは主人を盾にするのが流行りかっ」

 

振り向くついでに怒りのバックブローをかます。

後ろにいた金髪女は避けもせず、悦楽の表情でそれを顔面で受け止めやがったっ。

 


「嗚呼……勘違いなさらないで下さいご主人様。メイドが主人の前に立つなどもっての外。しかしながら、主人のピンチとあらば命を投げ打ってでもお救いするのが、メイドに産まれた者の定め」

「なら今すぐ捨てろっ。投げ捨てろっ。放り捨てろっ。そしてあいつ等をどうにかしろっ」

「それは無用の手出しかと」

「なんでだっ。毎日っ、毎日っ、毎日っ、毎日毎日毎日毎日っ、主人のピンチだぞっ」



今日だって何度死にかけたことかっ。

税金の無駄の象徴の市長像の頭が飛んできたりっ。

墜落してきたヘリに潰されそうになったりっ。

崩れ落ちてきたビルに巻き込まれそうになったりっ。



「私のご主人様は、あの程度のラブアタックを受け止められない男では御座いません」

「背景に爆発効果付きの殺人アタックをレシーブ出来る男がいるかっ」

「記念すべき50回目の走馬灯を迎えたご主人様に、私の子宮へアタックチャンス」

「誰がそんなことろに飛び込むかっ」
 



拳を女の頬に押し付け、捻りまくる。

この無表情で鼻血垂らしている女、見た目は20歳程度の映画に出てきそうな長髪金髪外人。

だが中身はポルノすら出演拒否されそうな発禁害人。

そしてこの恍惚とした危ない表情になってきた女、見た目はメイド。

だが中身は冗談と混沌と卑猥と非常識を混ぜ合わせたカオス4倍濃縮冥土。




「ご紹介ありがとうございます。しかしながら、重要な紹介文が入っておりません。私、靴を持って海辺ではしゃぐのが似合う、甘酸っぱい食べごろ長髪超絶美少女メイドで御座いますれば」

「地の文読むなっ。美少女言うなっ。過大広告するなっ。酸っぱい匂い漂わせるなっ。ゴミ箱に詰め込むぞっ。この賞味期限切れの産地偽装スクラップ生物っ」

「よろしいのですか? メイドは一宿一飯の恩を忘れませんが、怨みも忘れませんよ?」

「捨てたらどうなるっていうんだっ。 あんっ?」

「少なくともご主人様は、世界中からご飯のおかずになってしまわれるかと」


 

発禁メイドが胸下からデジカメを取り出し、俺に見せる。

ピンボケしているのか、霧が出ているのか、液晶画面に何が映っているのかよく分からない。

何か肉の塊のような物がぶら下がっているように見える。
 


「……なんだ、その写真は」

「性器の傑作ご主人様の恥ずかしい名チン場面集です」

「……」

 

無言でデジカメを奪い取り、叩きつけ、踏みつけ、蹴り飛ばす。



「ああ!? なんてことを!? ササキーズに出せば100万ドルの値は固いお宝写真が!?」

「お前に主人として問おうっ。メイドの精神とはなんだっ」

「もちろん仕える主人にニコニコ絶対服従。犯らせろと命令されれば喜んで股を開く。そんなビッチな精神で御座います」



足を揃えて片手を挙げ、ビッチ宣誓をする変態メイド。



「そうか、そうか。自分で言うだけあって、主人の入浴写真を盗撮するとは、たいしたビッチだ」

「お誉めに預かり、恐悦至極で御座います」

「貶してんだよっ!」
 


ビッチの顔面を掴み、ピッチにフェイスクラッシャー。

技が決まったと同時に、校舎で『祝 瀬世良瀬良 瀬良ゲーム連続生還24日目』の垂れ幕が降ろされ、花火が上がる。

今日も朝から順調に最悪だっ。


 

 

 

 

「おう! 今日も無事に生きてるな! チッ、死ねばいいのに」

「おう! 今日も災難だったな! チッ、まだ死んでねぇ」

「おう! チッ、早く死ね」

「おかげさんで、どうにか生きてますよ。あと最後、建前ぐらいつけろっ」

 

級友の心温まる挨拶に応えながら窓際の自分の席に着く。

あの女どもが来てからといもの、街もそうだがこの学校は変わってしまった。

並の神経をしている者は去り、並みの神経をしていない者達が大挙してやって来のだ。

例えば俺が生きているのを残念がる男達は、各国から派遣された駐在武官。



「うげ。マジ生きてる。なんで死んでねえの。ありえなくね。また解剖できねえじゃん。今日、赤マンなのにマジうぜえ、このSKYM」



MON-MONを読みながら、携帯片手に俺の生存報告をする黒人だが顔グロだか分からない女は、大手製薬会社カイザーの生命工学研究員。



「日本鬼子はやっぱり鬼子。だが、遺伝子は使えるね。遺伝子強奪作戦は我が国で有効利用。愛国無罪」

「彼は堕落しきったエデンに神が使わした黙示録第二の騎士。私と彼でこのエデンを浄化ようぞ」

「なあ、聞いてくれ。連休を利用して国へ帰ったら娘が俺の顔忘れてんだよ。せつねえ……」



他にも遺伝子をパクリにきた諜報員、世紀末破滅思考の妄想者、あの女どもの関係者等々、国際色豊か、人格豊か、年齢詐称豊かな者達。



「母艦にあの男の悲鳴が奏でるニューカルチャーを送信しなければ……なんだ貴様、邪魔をする気か」

「アノエモノハ、ワレワレ、ワレデーターノモノダ」

「何をほざく。このデーターは我々ゼンコラーディーのものだ。ワレるな。呼吸音まで音割れしているワレ厨め。その不細工な面をコラージュするぞ」



おまけに自称狩猟タイプ宇宙人に自称戦闘人造人までいる。

これでも一般人がまだ半数も残っているのだから、日本人の適応力というものは恐ろしい。



「はぁ……」



カオスな教室から目を逸らし、窓を開ける。

2階の窓からは、破壊の限りを尽くした街がビデオの早回しを見てるように復興していく。

すぐ傍の木の枝では気楽そうに雀が歌い、カオスの権現が逆さ吊りで、これまた気楽そうに春風に揺られている。



「ご主人様、ご主人様。菱縄縛りとは、マニアックでナイスチョイス!……と、絶賛賞賛いたしたいとこですが、いけない想像が脊髄を逆流し、脳が圧迫され、性的にも生的にいってしまいそうです」

「そのまま鬱血して、あの世にでも逝ってしまえっ」

 

鞄で変態メイドをぶん殴ると、ビリッと持ち手の端が破けた。

そろそろ鉄板を仕込んだこの鞄も寿命のようだ。

持ち手が取れかかっている。

1週間も持ったのなら良く持った方ではあるが、これで何個めだろう。

アラミド繊維製の防弾学生鞄を特注した方が手っ取り早いのかもしれない。

 

「あ~あ、今日もまた瀬良の事、捕まえ損ねちゃった」

「いい加減、諦める。それが無駄の無い効率的ベストな選択」

「ようやく諦めるのですか。ふっ……所詮、下賎な成り上がり。最後の最後まで、私の相手になりませんでしたね」



こちらも気楽そうに教室へ入ってきたトリオ・ザ・元凶。

俺が50回目の走馬灯を迎えたのも、毎日ピンチなのもこいつ等のせいだ。



「諦める? 何処の誰がぁ? 腹黒姫と性悪女が諦めてくれるの?」

「その決定的に足りない頭で考えるといい。どうせ脳細胞の無駄使いだがな。おっと、すまない。無駄遣いする脳細胞もないか」

「貴女達が根本的に足りていないのものは、知性だけではく、女性としての魅力もでしょうに。そう、言うならば貴方達は、女性として無駄な存在でしょうか」
 


日本刀ぶら下げたインド人に、ドレス姿のアラブ人に、ランドセル背負った日本人の突っ込みどころ満載のトリオだが、彼女達を紹介する前に、まずは自己紹介をしておこう。

俺の名は瀬世良瀬良。

一部を除き、ごくごく普通の高校2年生だ。

家族構成は姉が1人、妹が2人、母1人、父不明。

母親は職業不定、一番上の姉貴は既に結婚し、二番目の姉と妹2人はまだ学生、父不明。

さっきから父不明になっているのは、姉と妹達、そして自分は全員とも父親が違う異父姉弟だからだ。

つまり俺達には父親がそれぞれ別にいる。

その父親のうち2人は生きているが、残り3人は生死不明。

俺の親父は、生死不明の2人のうちの1人で、顔すら見た事がない。

あの人類規格外の母が言うには、唯一、自分が負けた男らしい。

何に負けたのか、なぜ負けたのか、聞きたくも聞かされたくもないが。

そんなおかしな家庭に産まれたせいで、俺には昔から女運が無い。

あの母から産まれた時点で、女運など尽き果てているのは分かってはいる。

いや、尽きたのならまだいい。

どこぞの悪魔が、尽きたはずの女運の底を掘り返して魔界の門で掘り当てたのだろう。

俺の前には、ろくでもない女が次から次へとゴールドラッシュのように湧いてくる。

産まれてすぐに旅行先の船に母に忘れられ、インドの孤児院で過ごし。

もの心ついた頃にはイギリスのショタコン女スパイに拉致。

やっと解放されたかと思いきや、助けた女はロシアの特殊部隊の隊員で、何故か気に入られ、またもや拉致。

ロシアではCIAと接触し、助けを求めたが、そいつも女でまたまた拉致。

男装趣味のCIA女から逃げ出したら、マフィアの女に目を付けられ監禁。

それから、麻薬の密売現場に連れて行かれたところで逃げ出し、拉致監禁逃亡がデフォの日常を繰り返しつつ、メキシコから中東に不法入国し、12歳の時、日本へようやく帰ってきた。

日本に戻ってきたら戻ってきたで『あっ、やっぱり生きてたの。帰ってくるのが遅いわよ』とのたまう母。

自分の女運を嘆きつつ、さらに数々の悪運を積み重ねて今に至る。

ちなみに鼻ちょうちんを膨らませて、逆さまに吊り下げられながら寝てるメイドは拾い物だ。

拾ったというより、とり憑かれたいうのが正しい。

深夜に寝てる最中、母と姉に縛られカナダに荷物持ちとして連行された際、出会ってしまったのだ。

 



場所 

1年ほど前、カナダバンクーバー国際空港にて

状況

瀬世良瀬良、サンタ狩りに行く母と一番上の姉に荷物持ちとして連行されたが、存在を忘れられ、朝の9時から夜の18時まで空港に放置

それまで寄って来た女

国際的テロリストな女

警察と称して誘拐しようとした女

コートの下は真っ裸の女

黒服に追われるわけありっぽい女

妙な黒いマントを着て、杖を持った女

おーっほほほと高笑いする頭が悪そうな女

前世がアトランティスの巫女だった女

その他諸々変人多数

最後の仕上げにこのメイド

 

『ちょっと、そこのお方。そう、そこのぎらついた目で女性を物色する、そこの貴方です。私、ご覧の通り野良メイドで御座います。聞くところによりますと、昨今、日本ではメイドが流行してるとのこと。ここでファイト一発如何でしょう』

『なにが、如何でしょうだっ』

『今ならもれなく、垂れ流しするほど、豪華なおまけもお付けします」

『なにが垂れ流れるっ』

『主に下半身から享楽が。あと堕落あたりでしょうか』

『そんなもの垂れ流すなっ。ムーニーパンで蓋をしろっ』

『それがご主人様の命なら』

『誰かご主人様だっ』

『この場には、白い視線で私を汚す観衆と、ご主人様しかいませんが。嗚呼っ……この恥辱っ。まさに視姦の醍醐味で御座いますっ』

  

瀬世良瀬良、母と姉を置いて日本に逃げ帰る。

 

『遅いご到着、ご苦労様でした。ご主人様』

 

だがメイドは先回りして不法入国、三つ指立てて不法侵入。

以後、居座られ、今に至る。

 

  

家族は面白がって認めたが、とり憑かれた俺はたまったもんじゃない。

警察に突き出し強制送還しても、トロール船に引き上げられ戻ってきたり、国際郵便で戻ってきたり、空からパラシュートで戻ってくる。

つい数日前には簀巻きにして、川に放流してやったのに、いきなり地面から竹の子のように生えてきやがった。

 

「ねぇ~、聞いてよ瀬良ぁ~ あの性悪女、今日はビルを5つも倒壊させたんだよぉ。もう信じらんな~い。野蛮だよねぇ?」



この昨日『きゃっきゃきゃっきゃ、ビルがゴミみたい』とビルを24棟倒壊させ、記録更新をかましてくれた日本人は六花アヤメ。

年齢11歳、身長130cm、六花グループ会長の孫娘、IQ286、保持特許数は132、11才でMIT卒、日本の奇跡と呼ばれている女。

事は4年前、いや、3年前だったか。

どうにか日本に帰ろうと、インドネシアからフィリピンに密入国しようとした際の事だ。

密入国しようと乗った輸送タンカーが女海賊に乗っ取られ、しかも俺が気に入られ、何故か俺まで海賊仲間扱いされ、あげくにそのタンカーで襲撃した船が日本の大型客船。

すったもんだのあげく、たまたま乗っていたコイツの婆さん、現六花の会長である六花辛夷とコイツを結果的に助けた事になり、結果的に好かれてしまったっ。

ちなみに俺はっ、すったもんだのあげくっ、2週間ほど海を漂流したがっ。



「情報は正確に伝えるべき。正しくは4つ。1つは貴様のヘリが追突し、倒壊させた」



この昨日『私に斬れぬものはコンニャクだけだ』と90式戦車を一刀両断、市役所前広場を一面焼け野原にしたインド人はセメル・アヌラーダ。

年齢15歳 身長162cm、セメルグループ代表取締役、保有資産時価総額3兆8826万2872円13銭、桐間静心流居合術免許皆伝、アジアの虎と呼ばれている女。

コイツとの出会いは6年前、欧州向けに人身売買を行う犯罪組織が所有する列車の中。

イギリスのショタコンに拉致されていた頃の事だ。

インドに仕事をしにきたそのショタコンから隙を見て逃げ出し、追われながら逃げた先が長距列車。

乗り込んだその列車の正体は、何故か人身売買のオークション会場。

俺まで売られそうになったので、列車を脱線させたら、捕まっていたコイツと子供達もどさくさ紛れに逃亡。

そして何時の間にか好かれてしまっていたっ。

コイツはその時の子供達で会社を作り、大もうけで大成功。

俺はその時の犯罪組織と出席者どもにっ、デッドオアライブの懸賞金を賭けられっ、世界中を逃げ回りっ、大損の大失敗だったがっ。



「ご安心ください。品性のない成金女の不始末は、未来の妻である私が元通りにいたします。当然、未来の夫である瀬良様の安全と将来も、私が守ってさしげあげます」



この昨日『オールハンデッドガンパレード! 全軍突撃! 私の未来の為に!』と俺に向けて催涙弾、閃光弾、ゴム弾、投網放出型ロケットランチャー、広範囲粘着物散布爆弾、その他諸々、計426発+本物のサイドワインダー3発ぶっ放してくれたアラブ人はセルメスカ・ギュゼル。

年齢17歳、身長154cm、セルメスカ国王位継承権第4位第一王女、国有企業セルメスカジュエリー専属モデル、私軍3128人保有、セルメスカの宝石と呼ばれる女。

名前の後には長ったらしい名前が付くが、覚えちゃいない。

コイツは8ヶ月ほど前に出合ったばかり。

場所は夜の東京千葉ディスティニーランド。

姉貴と妹に拉致られ、茂みからナイトパレードを見つつ俺を襲うというとんでもない逆レイプパレードに連行された時の事だ。

レイプ寸前で全裸に近い格好で逃げ出し、人気がない場所を移動中に見つかり、悲鳴を上げられ、パレードのど真ん中で警備員と格闘。

で、悲鳴を上げたのはお忍びで来ていたコイツ。

悲鳴を上げた原因は、連れて来ていたボディーガード達に拉致されそうになったから。

俺が格闘していた相手は、実は反王政組織に加担していたボディーガード達。

俺は勘違いしたまま大立ち回り、疲れたところで本物の警備員登場、俺逮捕、警察へ俺連行。

釈放されたらされたで、また何故か好かれてしまったっ。

コイツは命が助かり、ボディーガードが吐いた情報を元に反王政組織を国内から一掃の一石二鳥。

俺は猥褻物陳列罪、強姦未遂罪、傷害罪の前科三犯になりかかったがっ。



「お前らっ……安全と将来なんて言葉っ。爆破されるわっ、叩き斬られるわっ、乱射されるわっ……こっんなのが当たり前の毎日でっ、どうやったら口に出せるんだっ」

 

綻びたズボンの裾を縫いながら、ボロボロになった鞄を元凶どもの前に突き出す。

もはや制服を縫うのも日課で、片手で縫えるほど慣れてしまったっ。

この女どもは本当にっ、俺に好意を持っているのだろうかっ。

俺に殺意を持っているの間違いじゃないだろうかっ。



「分かっておりますとも。俗悪成金女どもが居なくなれば、万事全て解決ですね。セバス、我が誉れ高き精鋭の出撃準備を」

「殺るなら悔恨の欠片も残さず徹底的。それが戦争の常識。中東の傭兵達に連絡。馬鹿女どもを駆逐せよ」

「大統領に、ちょっ~っとおねだりして、原子力潜水艦かしても~らおっと」



擦り傷や打撲よりも頭が痛くなるこの女どもっ。

バブロンの飲みすぎで、優しさにも慣れてしまったというのにっ。

誰か俺にっ、バブロンを超える優しさを教えてくれっ。



「そこの子供が見たら泣いて逃げ出す寝顔の変態メイドっ。主人の命令だっ。こいつ等を止めろっ」

「はぁ、はぁ。駄目、駄目よ、お兄ちゃん。私達、兄妹なのよ。嗚呼っ……そんな、嫌っ、お願い止めてっ。そんな敏感なとこ突っついちゃ駄目っ」
 


裁縫の手を止め、カラスに鼻っ柱つっつかれている変態メイドに変態現実回帰用特製ボールを投げつける。

このボールは胡椒、七味唐辛子、粉わさびを1600万スコヴィルの某限定ソースで捏ねた物。

たかがこの糞メイドの為に、手袋をはめてこのボールを作るのは屈辱だが、

 

「お兄ちゃんのピー!!が熱いの!? 熱いのが中に入ってきて痛いの!?」

 

駄メイドの悶え苦しむ姿を見れるぐらいの価値はある。



「ご主人様、ご主人様。そのようなツンデレっぷりを発揮しなくとも、この私、ご命令とあらば喜んで三角木馬だろうが、蝋燭責めだろうが、鼻フックだろうが、洗濯ばさみだろうが、喜んでお付き合いいたします。いえ、むしろ是非とも今すぐご命令していただきたいっ」

「お前を生命科学で分類したら、何に分類されるんだろうなっ」

 

ものの数秒で復活し、鼻息荒く、優しいはーどえすえむと書かれた箱を胸元から取り出す変態メイド。

多種多様性が認められる現代ではあるが、この進化論を無視した変態メイドの派生は異常だ。

もし現代にダーウィンがいたら、頭を抱えてオーマイゴットと石に頭を叩きつけるだろう。
 


「それは勿論、冥途で御座います。その歴史は古く、時は遡り三万年前、生命としてより楽しく生き残るために……」

「ほざくなっ。使用済みダッチワイフの股から産まれてきた下品種下劣科下手目めっ」

「それにどじっ子も付け加えていただければ、モ~アベタ~……かと。てへっ☆」

 

いったいどこで自分の人生は間違えてしまったのだ。

いったいどこで自分の神経は間違えてしまったのだ。

メイドを冥途と聞き分けてしまった自分が嫌になる。

 

「あっ、大統領? ちょ~っと、お願いがあるんだけどぉ。二、三発ICBM撃って欲しいなぁ~ ええっ? 国際問題になるから駄目ぇ~? ロシアの誤射だって誤魔化せばいいじゃん。撃ってよう。これで終わりにするからさぁ」

「お母様、私です。陸軍、海軍、空軍、全師団に緊急要請を出していだけますか? 王室直属の特殊部隊にも命令を。ええ、最終戦争です。我が国の誇り高き国民も全て動員ねがいます」

「傭兵ども準備はいいか。貴様らが大好きな戦争の時間だ。馬鹿女の首を取った者には、追加報酬として1000万ドルの報奨金を出す。これが最後だ。命を惜しまず励めよ」

 

あの母親の股から生まれてきた時点で、人生の半分以上が失敗しているのは分かっている。

だが、どの女の股から産まれるかなんて自分で選択出来るだろうか。

選択出来るなら、産まれる前の俺に忠告したい。

お前の選択は産まれた後でどんな選択をしても、不幸になるしかない選択だと。

 

「おいこらキモメイドっ。人類の命運に終止符を打つ第三次世界大戦が起きる寸前だっ。てへって☆を出す暇があるなら奴らを止めろっ」

「ご主人様を巡って女の戦い。男冥利に尽きる萌えな状況で御座いますね」

「日本が燃え尽きるほどの男冥利を欲しい奴がいるならっ、自己調教済み変態メイド付きのオタクなセットでくれてやるっ」



欲しい奴がいるならっ、おまけに姫に天才に金持ちもくれてやるっ。

死ぬほど変態なメイドにっ、愛情表現で人を殺そうとする女どものっ、貰って御陀仏な4点セットだっ。



「さすがご主人様。お徳とオタクと御陀仏をかける高等テクニック。座布団1枚で御座います。ちなみに1枚溜まると、私とベットで一発一泊一生の旅へご招待」

「たった一枚でおまえとベットインかっ。それっ、最悪の罰ゲームだろっ」

「本日はお日柄も良く、私、危険日ということもあり、まさにいい日旅立ち」

「今すぐ産廃処理場に旅立てっ。この危険物っ」

「その鬼畜な言動。思わず想像妊娠してしまいます。嗚呼……臨月突入っ、破水しそうで御座いますっ」

 

人類の臨界点を突破した変態メイドを当てにした俺が馬鹿だった。 

大陸間弾道弾の飛距離、軍の先発隊の日本までの到着時間、ターゲットの捕殺報奨額が飛び交う激戦区に自ら体を張って飛び込み、平和を訴えるしかないだろう。

そもそもだっ。

いったいこの街でっ、何回っ、何回っ、何回っ、リアル日本沈没の危機が発生した事かっ。

その度に日本を救ってきた俺には何の報いもないっ。

極めて不運だっ。
 


「あ~~……そこ? 人類滅亡へのカウントダウンかましてくれてる奴等? ちょっと聞け。F16だとか、クラスター爆弾だとか、チャレンジャー2Eだとか、殲滅戦だとか、戦後保障だとか、KILL!KILL!KILL!だとか、いいから聞け。重大発表だ」

「あっ、ごめんねぇ~ 彼、ついに結婚してくれるって言うからもういいや。代わりに彼に大統領の地位ちょーだい。ええ~? いや~? へぇ・・・そう言うこと言っちゃうんだぁ。急にキューバへ商談に行きたくなっちゃったなぁ」

「お母様、全軍に緊急要請。国をあげての祝賀パレードに変更して下さい。それと各国の報道機関に私達の婚約の連絡を。特に日本のテレビ局は全て買い占めていただけますか。世界に向けて結婚式から子供が出来るまで生中継したいので」

「傭兵ども目標変更。私の夫の為に国会議事堂を占拠せよ。そこを我々の新居とする。作戦名はピジョンブラッド。本日、日本時間0900を持って開始だ」



今度はどこぞのビックな国の大統領に脅迫だとか、恐ろしい人生露出テレビ計画だとか、自分勝手的国家テロ予告が飛び交い始まりやがったっ。

この女どもっ、一から十まで世界を滅茶苦茶にしないと気がすまないのかっ。



「いいから聞けっ! うちのメイドが俺の子を勝手に想像妊娠しちまったんだっ! もう結婚は出来ないっ!」

「ええ!? そんなのアリ~!? 私だって妄想の中では、結婚して子供が2人独立してるのにぃ!!」

「そ……そんな馬鹿な。想像妊娠だなんて、こんな低俗卑猥物が、この私のみに許された高等プレイをっ」

「白濁した妄想でマイスイートハニーを汚すな、ビッチ。汚していいのはこの世で私だけだ」



俺の平和協定申し出に目の色を変えて騒ぎだす女ども。

同時に教室の窓から変態メイドに向けて銃器が並び、外では重火器が変態メイドを取り囲む。



「ご主人様、ご主人様。この所業、いささか素敵に鬼畜過ぎでは御座いませんか?」
 


ここで普通に変態メイドを殺されては、かなりもの凄くとても非常にまことに残念だが困る。 

諦めの溜息を吐き、繕い終えた糸を口で噛み切る。

糸の先を玉止めし、針と一緒に小袋にしまう。

結局は自らの血も流さなければ、戦いは終わらないのだ。



「人類滅亡へのカウントダウンの針を戻したら、3秒だけ夜の妄想を許す」



覚悟を決め、顔を充血させながらぶら下がっている変態メイドに命ずる。



「うほっ。3秒もあればご飯10杯おかわり3杯は逝けますが、よろしいので?」

「3秒もお前に俺が汚されるのは、血の涙を流したいぐらい癪だが、ここは人類の為に潔く犠牲になろうじゃないか」


 

その気になれば国一つ動かせる奴等なんて、女運が悪いだけの一般人の俺がまともに相手に出来るわけがない。

だからといって、ここで暴走を止めなければ、瀬世良瀬良争奪第三次世界大戦勃発だ。

後世の教科書に『瀬世良瀬良を巡って戦争が起きたので、前文明は滅びちゃいました。恨むならコイツを恨みましょう』なんて、写真つきで載るのは真っ平ごめんだ。

 

「私、そんな尊いご主人様に御仕えでき、メイド冥利につきます。さぁ、メス猿、メス犬、メス猫のお三方。白く泡立つご飯10杯おかわり3杯の為、この萌えるメイドがお相手いたしましょう」

「殺る気か。いいだろう。皆が今日こそ貴様にHENTAI漬けにされ、ダンボールハウスにヒッキーしたス二ーク大佐の敵を取ると意気込んでいる」

「セバス、現時点での最大戦力をもって、私にあの地球害生命体の首を捧げなさい。塩漬けにしてユダヤに送りつけてやりましょう」

「あっ、総理? 悪いんだけどぉ、自衛隊、1セット貸してくれる? もちろん、人員Lサイズ、スナイパーつきのテイクアウトで。バリューセット1億4000万? おっけぇーおっけぇー。総理のお母さん経由で振り込むね!」

 

ぶら下げられた変態に向かって、一般住人の迷惑考えず外に待機していた黒服達が突撃銃構え。

さらに校庭に許可なく掘られた蛸壷に隠れていた傭兵達が手榴弾投擲準備。

おまけに人様の家の屋根から緊急発進した小型無人飛行機が機銃掃射可能。

まだまだ街から空から戦車やヘリが大殺到。



「嗚呼、これは良いご飯の前の運動になりそうで御座いますね。ご覧あれ、ご主人様……」



変態がぶら下げていた鎖をいとも簡単に引き千切り、服を脱ぎ捨てる。



「このイカ臭くいきり立つっ。私の火照った煩悩をっ」




全身黒タイツの変態に朝から俺の気分が萎え、代わりに警報が大きく鳴り響く。

煩悩と銃弾が着弾する前に窓が自動で閉まり、窓から銃を突きつけていた者達は駆け足で校庭に向う。

防爆防弾防火防音も兼ねている窓の外では噴煙に包まれ、マズルフラッシュと爆音が阿鼻叫喚を奏でる世界になっているが、気にはしない。

変態メイドの高笑いも聞こえる気がするが、気にはしない。

人が窓に張り付き、手の形をした血痕を残してずるずると落ちていったが、気にはしない。

俺以外にも誰も気にはしていない。

壁一枚向こう側が戦場であっても、適応出来ない奴はこの学校から既に去っている。

 

「ところで瀬良ぁ~、割り引きチケット貰ったんだけどぉ、一緒に行かない?」

「一人で大回転してろっ」



ラブホの割引券を突っ返すっ。

 

「あ……あの、今度の大安の日。もし、お時間があれば、ご一緒してくませんか」

「お時間が無いからお電報とお花束を贈ってやるっ」

 

結婚式場のパンフレットをゴミ箱に投げ捨てるっ。

 

「マイスイートハニー、愛と平和の為の署名運動だ。ここに署名を」

「カスアンドビッチっ」

 

婚約届けに変態メイドと書いて渡すっ。

 

「Hahahahahah!!! 母ちゃんの腹にチン○を忘れてきたかぁ! それともヤンデレにチン○食いちぎられたかぁ!」

 

煙の中から打ち上げ花火のように人間が空に向かって飛んでいく。

以前、世界各国が暴発女どもの誰の勢力に付くかで冷戦化したことに比べれば、ちょっと人が飛ぶ程度、些細な事だ。

俺だってアメリカ軍に捕まり、輸送される最中にHALOで脱走した事がある。

その道のプロならば、30メートルほど錐揉み状に飛んでも無事に着地できるだろう。

 

「このクラスは今日も随分と騒がしい。オイ、そこの一級戦犯。もう授業始めていいか?」



声をかけられ前を向くと、いつの間にか英語を受け持っている駿河が教壇に立っていた。

今日もホームルームが始まった事も終わった事も気付かずに、1時限目開始の時間を迎えていたらしい。



「ああ、先生。いつもすんません。ほらっ、授業の邪魔だっ。失せろっ。消えろっ。帰れっ」

「もう、世良ったらぁー 一枚で足りないならぁ、素直にそう言えばいいのに。はい、1万枚綴り」

「なるほど。世良様は日本式が好みですか。しかし……着物は下着を履かないものと聞き及んでおります。恥ずかしいですが、世良様の為、私、勇気を持って挑戦させていただきます」

「いきなり結婚は嫌か。なら手始めに主人と奴隷の関係から始めよう。私は主人でも奴隷でも、どちらでもかまわない」

「花びら万回してろっ。勇気を持って諦めろっ。その関係は始まる前に終わってるっ」



女どもを追い払いつつ、授業中は持つだろうかと、もう一度だけ外の様子を見る。

そこにはまた吹っ飛ばされた奴が窓に張り付いていた。

張り付かれたままでは授業の邪魔。

窓を叩いて落として、ブラインドを閉める。 

『ヘルプ!?』と聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。



「たく、今日もサボリが多いな。まあいい、昨日の続きからいくぞ。ええ、レッスン14……ウィアード・アル・ヤンコビック伝記から。この教科書、いい趣味してんなオイ。瀬世良、ちょっとFAT歌ってみろ」

「待っててくださいっ。朝から満腹で教科書出す暇もなかったんでっ」



あの様子なら3~4時間は健闘するだろう。

ここ数日ですっかりボロくなった鞄から、まだ新しい英語の教科書を取り出す。


「……」



あの誰もが認める変態メイドっ。

23ページ目だけデブをビッチに摩り替えた上に、卑猥なスラングで埋め尽くしやがったっ。



「She is bitch! She is bitch! You know it!」

「んな事は俺も知ってる。瀬世良、廊下に立ってろ」




結局、授業だってまともに受けられやしないっ。

誰でもいいっ。

誰か俺に英語の教科書を貸してくれっ。





[25646] 2-瀬世良瀬良は昼休みも女運が悪い-
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 04:36
2-瀬世良瀬良は昼休みも女運が悪い-


 

昼休みの鐘と同時に脇目を振らず屋上までダッシュ。

学校の中では休戦協定が結ばれているが、そんなものは表向きだ。

裏ではそんな協定関係ない。

休み時間のたびに俺の席は戦場へと変わる。

今日の昼休みはチャイムと同時に床に穴が開く罠。

穴の下には檻とベットが待ち構え、危なくベットインだった。

 

「……はぁ。いつになったら食堂で飯を食えるんだ」

 

この学校に入ってから、食堂なんて逃げる際に通ったことしかない。

もちろん、まともに昼食を取れたためしもない。

したくもないのに、制服の裏の胸ポケットにカロリーメタボを常備するはめになっている。

水気のないパサッてるそれを齧りつつ、周りを見渡す。

春の陽気に浮かれてか、カップルらしき男と女が『はい。あーん。美味しい?』『うん。美味しい』なんてやってやがる。

 

「チッ……なにが美味しいだっ。食いすぎてメタボにでもなってしまえっ」

「愛にメタボは御座いません。されど私は常に愛のカロリー不足」
 

 
壁をよじ登ってきたのか、金網を乗り越え、しれっとした顔で変態ビッチが現れた。

怪我一つどころか、メイド服にはチリ一つ付いてない。

相手をしていた連中はどうなったかと校庭を見やる。

あちらこちらにテントが立ち、負傷者が運ばれ、野戦場になってやがった。



「傭兵も兵隊も機械も役に立たない奴等だ。せめてコイツの首を飛ばしてから空を飛べばいいものを」

「さて、ご主人様。さっそくで恐縮ですが、卑しい私めにも昼食を」

「ハトの糞でいいか」



前方ムーンウォークで擦り寄ってくるビッチを、顔面鷲掴みにして止める。



「色は似ておりますが、私が欲しいの糞ではありません」

「まだ春だ。蝉のションベンなんてないぞ」



それでもにじり寄ってくるビッチを足の裏で止める。



「おしい。確かに排泄器官から出ますが、お小水では御座いません。さて、答えはなんでしょう?」

「赤玉」



俺の我慢の限界が打ち止めという意味で。。



「まったく、1リットル出しても打ち止めなんてしないくせに。焦らすのがお上手な方……いけず」

「焦らすも何もっ、変態にやる餌はないっ」



打ち止め寸前なのにっ、コックを捻ろうとするこの変態っ。




「私から変態を取ってしまったら単なる萌えメイドになってしまい、世の男達の破滅で御座います。ですのでご主人様の暴れ亀を私のお口に」

「世の男達のために萌え尽きてしまえっ。この萌えカスっ」



スッポンのように尖らせた口にっ、反対側の胸ポットに常備してある変態メイド殺人用特製ボールを詰め込むっ。

この特製ボール、シュールストレミング、ホンオフェ、キビヤック、世界三大腐臭の汁を小麦粉で練り、匂いを出さぬよう表面を特殊コーティングしたもの。

この腐れメイドの為にガスマスクをしながら作るのは癪だが

 

「臭い!? 臭いの!? お兄ちゃんのアレのカスが臭いの!?」

 

この屑メイドの悶え苦しむ姿を見るぐらいの価値はある。

 

「本日の餌付け完了っ」

 

気を取り直して2個目のカロリーメタボを食べようと思ったその時だ。

背筋に悪寒が走った。

今まで潜り抜けたくない修羅場を潜り、養いたくないのに養われてきた危機回避本能がアラートを発する。

額から滲む油汗、心臓が早鐘を打ち、頭の中で変態メイドがパラリラパラリラと昭和の暴走族のように走り回る。

間違いない。

どんな危機かは分からないが、これは生命の危機。

咄嗟にコンクリートの上をのた打ち回る変態メイドの襟を掴み、盾代わりにする。

 

「……どこからだ」

 

姿が見えない危機の種類を想定し、対策を練る。

屋上入り口からの強襲。

給水塔の影からの狙撃。

飛行機からの爆撃。

落とし穴、時限式爆弾、もしくは非飛散性ガストラップ。

生徒が買収されている場合、いきなり襲ってくる可能性もある。

となるとだ。

あのカップル達も偽装で、俺を苛立たせる心理トラップの一種かもしれない。

むしろトラップであれば、堂々と張った押せるので都合はいいが。

まあ、それはいいとして、危機が確実に迫っている事だけは確実。



「……今日はどんな手だ。マッチョの人海戦術か、麻酔銃の狙撃か、それとも鳥もちの絨毯爆撃か」



見渡しても、異臭を放つ変態メイドを除いて異常はない。

そもそも床まで改造してくる相手に、罠の絞込みなんて無駄な努力なのかもしれない。

ならば、まずは逃げ道の確保。

ここに来る途中、追っ手どもから失敬したスタングレネードで目くらましをかまし、屋上入り口、または壁を伝う排水管からの脱出ルートが妥当だろう。

残る問題はどこから仕掛けてくるかだ。

屋内からか、屋外からか。

それとも全方位か。

いったい、どこから仕掛けてくる。

 

「いたいたっ! 瀬良くーんっ!」
 

 
何が来るかと唇を舐めた瞬間、ついに屋上の入り口から破滅の声と足音がやってきた。

 

「よりによって最悪の危機かっ!?」

 

最悪の危機が屋上入り口の扉を開き、1人の女がこちらに駆け寄ってくる。

ゆっるい声に対して、獲物を狙うチーターのようなその速度、体感時速83キロ。

腰まである髪が尾を引き、Eカップの胸が揺れる残像を残して差し迫る。

高性能弟探知機搭載、発情戦闘モードに入ってるあの女に、スタングレネードなんて小細工が通用する筈なし。

即座に判断を下し、切り札を危機に向かって投げ飛ばす。

 

「あ~~~れ~~~!?……で御座います」

「えいっ」

 

女は力が抜けきった声で飛んでいった変態メイドを、負けじと気の抜けた声を発して頭を鷲掴み、レーザービーム返球。

 

「おたわむれを~~~!?……で御座います」

「やっぱり無駄だったかっ」

 

唇を突き出して飛んできた変態を裏拳で脳天撃墜。

さすが最悪の危機をもたらす女の1人。

この程度は足止めにもならない。

だからといって、逃げ足ではかなわない。

こうなったら一か八か近接戦に持ち込み、なんとか隙を突いて倒すしかない。

覚悟を決め、距離を合わせ、遠慮無しに顔面を狙ったロングフック。



「えいっ」

 

しようとしたのだが、さらに加速した相手に距離を詰められ空振り。

体勢を崩されたところで、両手を腰にまわされサバ折り。



「うげぇぇっ!?」



鉄筋コンクリートもへし折れそうな怪力にっ、俺っ悲鳴を上げりっ。
 
 

「もう瀬良君、駄目でしょっ。女の子に暴力振るっちゃ。そんな男の子に育てた覚えはないぞっ」

「光源氏計画といってっ、人を自分好みに育てようとするから歪んだんだっ。離せっ。この歪曲率120パーセントっ」

 

Eカップの胸に俺の顔面を埋め、抵抗を鎮圧しようとする女。

男なら羨ましいと思うだろう。

んなもんあり得ない光景だと思うだろう。

普通の女だったら俺だって幸せだっ。

 

「もう反抗期なんだからっ。ほら、お姉ちゃんのオッパイでも吸って大人しくなりなさいっ」

「そこのバカップルっ! 『一番美味しいのはお前だけどな』『いや~んばかばかぁ』なんてやってないでっ、この猥褻率160パーセントの路上ストリッパーを止めろっ!」

 

このブラまで捲くって授乳しようとする肉圧系馬鹿女。

名前は瀬世良瀬耶。

この女が1つ年上の2番目の姉貴だっ。

他人にとっては頭脳明晰、スタイル抜群、人望ありの理想の姉貴。

だが残念な事に、あの母の血を濃く引いてしまっている。

帰国した当初、日本語が上手く話せず、この姉貴が教えてくれようとしたのだが、その時に使った教本がアレだった。



『小学生でもわかる48手』



トラウマだっ。

なんで自分は48手っ、しかもっ、やり方から注意点まで全てを英語で訳せる姉貴と一緒の血を引いてしまったのかっ、トラウマが残ってしまったっ。

 

「はいはい。姉さん、その無駄に育った脂肪をしまってください」

 

気配も感じさせずに、いつの間にか姉貴の後ろにいた第2波の危機。

身長161cmの姉貴の背に対し136cm。

ロングウェーブヘアーに対しボブカット。

騒がしいの対しもの静か。

Dカップに対しAカップ。

しかし波の大きさは、姉貴に匹敵するビックウェーブ。

 

「何度も言ってますが、兄さんはロリコンペド野郎なんです。ふけ専相手には消化不良のゲロを撒き散らす幼女スキーなんです。巨乳アレルギーなんです。未熟な赤い果実をしゃぶり尽くしたいんです。黒より白。白よりストライプ。シルクより木綿が好きな真性なんです」

 

人を冷静沈着にロリコンペド野郎分析しやがるこの肉薄系馬鹿女が俺の妹だっ。

名前は瀬世良瀬莉。

歳は俺の1つ下。

家族といえど俺の近くにいる女なので普通じゃないっ。

さっきから実の兄の手を、スカートの中の危険地帯へと誘導しようとしてやがるっ。

 

「そこのバカップルっ! 『じゃあ、デザートは、わ・た・し。なぁ~んちゃってっ』なんてイチャついてないでっ、この湾曲率200パーセントの暴走姉妹を止めろっ!」

 

姉が山ならこの妹は谷。

お約束のごとく小学生と間違えられるほど成長していないこの妹も、あの母の血を濃く引いてしまっている。

帰国した当初、妹の本当の年齢を知らず一緒に風呂に入ってしまい、そこで惨劇が起こった。



『THEソープ』



トラウマだっ。

なんで自分はっ、風呂場で本番付きのソープを強要する妹と一緒の血を引いてしまったのかっ、トラウマが残ってしまったっ。

こんなのが後に2人も控えているっ。

それに母を加えれば3人っ。

さらに倍率ドンの変態メイドで不幸のどん底だっ。

 

「禁断の近親相姦姉妹丼で御座いますね。嗚呼……私も血が繋がっていればっ」

「縁起でもないっ。地球上でお前と血が繋がっているのはクマムシだけで十分だっ」

「確かにどのような環境でも生き残れる自信が御座います。しかし、ご主人様の愛がなければ死んでしまう子ウサギな私」

「死ねっ。今すぐ愛に飢えて死ねっ」

「嗚呼……その病的な愛っ。満腹すぎて、もはや致死量っ」

 

芋虫のように這い寄ってくる変態メイドにっ、人に授乳しようとする姉にっ、人を後ろ指差される人生に引きこもうとする妹っ。

ちくしょうっ。

俺の周りの女はこんな奴等ばっかりだっ。

 

「そんなに愛が溜まってるなら、お姉ちゃんと保健室行こっかっ。いっぱい愛を搾り出してあげちゃうっ」

「純白の愛をで御座いますね」

「待ってください。愛を出すなら私とトイレに行きましょう。滅多に人が来ない穴場があるんです」

「穴に入れるだけに穴場で御座いますね」

「そこの地球温暖化の一因になってるバカップルっ! 死角に隠れて制服青姦プレイで臨界点突破する前にっ、こいつらを埋める穴場を教えてくれっ!」

「これがジャパーニーズエロゲーならハーレム展開で御座いますね」

「こんなハーレムっ、主人公も逃げ出すわっ!」

 

こんなのが俺の日常だっ。

変態のハーレムなんて要らないっ。

たった1人の普通の女が欲しいっ。


 

「ご主人様。そんな身の丈に合わない願望は、さっさとお諦めになったらよろしいかと」

「諦めたら人生終るだろっ。ひぎぃっ!?」



諦めなくてもっ、俺の背骨が終わりの声を上げるっ。 


 
「もう瀬良君ったらっ、勝手に1人でいっちゃうなんてずるいぞっ」

「大変です。それは年増中毒です。早く私の未熟なエキスを注入、いえ、私に毒を排出しなければ命にかかわります」

「嗚呼……屋上にいる皆様方、これが本当の兄姉愛で御座います。ご覧下さい。あまりの素晴らしさに、ご主人様が白目を剥いております」


 
誰でもいいっ。

誰か白い目で見られる生活から俺を救ってくれっ。
 



[25646] 3-瀬世良瀬良は帰宅しても女運が悪い-
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 04:41
3-瀬世良瀬良は帰宅しても女運が悪い-






 

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁーーーー……今日も無事に生きて帰れたか」

 


昼休みは、屋上のど真ん中で姉と妹にズボンどころか下着まで脱がされかけ、

放課後は、装甲車、迫撃砲、強襲ヘリ、遠隔操作型ロボット、無人ステルス機に追い立てられ、

日に日に過激さを増していく包囲網。

今日だってセーフティーラインである家の門に飛び込まなければ、尻にサイドワインダーがぶっ刺さるとこだった。



「もう少しで黄猿のケツの穴を掘れたのによぉ」

「ケツ狙いは大穴過ぎんだろ。今、賭け金なんぼよ」

「ケツ穴1万ドルだ。ちっちゃえ穴のくせして、でっけえ穴だ」



家の門の前では兵士と黒服が爆笑しながら撤収を始めてやがるっ。

あの野郎どもっ、俺を捕まえる前に殺す気かっ。

 

「わふーん?」

「あー……よしよし。お前だけが俺の理解者だ」

 

憔悴した俺を出迎えてくれたのは、まだ子供のシベリアンハスキー。

名前はオス。

性別がオスだからって、なんとも可哀相な名前を付けられたうちの飼い犬だ。

 

「ご主人様、犯るなら豚か鶏をお勧めします。もしくは私」

「好きなだけ○大のハムでも咥えてろっ。糞っ垂れ、まだ背中が痛ぇ……」

 

今までどこに居たのか、俺の股の間から生えてくる変態。

職業は変態。

種別、人種、性別、全てを超越してるからといって、どこにでも生えてくる変態だ。



「わふわふわふぶる……ぶるぶるわふわふ……」



そんな変態にオスは前足で頭抱えて震えだす。

すっかり爆音や銃声に慣れたこのオスでさえ、今だこの変態に慣れていない。

犬と俺だけがまともなこの一家。

どうして俺は、この変態一家の中で普通に生まれてきてしまったのかと思う。

いっそのこと、この変態代表のように壊れてしまえばいいのだろうか。

そうすれば、こんな苦労を背負い込む必要もなくなるのではないだろうか。



「駄目だ。その考え方は駄目だ。変態どもに思考が犯されてきている。俺は意地でも普通に生き抜いてやる」



変態思考を振り払い、股の間に生えた変態メイドの顔面を踏みつける。



「これは失礼いたしました。すぐに靴をお綺麗にいたします。ついでにご奉仕中にお仕置きしていただければっ、メイドの本懐で御座いますっ」

「ふんっ!」



変態の本懐を遂げさせてやろうと、変態顔面に踵落としかまして顔面変形させる。

こんな靴をしゃぶろうとする変態と同じになって、人間失格の烙印を押されるのは絶対に嫌だ。



「あっ……あっ…嗚呼っ。し・あ・わ・せぇぇぇっ!」



まだ股の間にすがりつく変態の顔面に膝を落とし、腰を屈めて玄関までの道筋をチェック。



「待ち伏せなし。工作の形跡なし。ブービートラップは……ないな」



帰宅後の気が抜けたこの瞬間が一番危ない。

門を潜り抜けた先にあるのは家族との戦争の地。

俺の下校時間は授業終了から10分後と定められているので、俺が帰宅するまで他の生徒は帰れない。

その為、本来ならばこの時間帯に家に居るのは、母と小学2年生の一番下の妹ぐらい。

だが、姉貴達なら誰にも気付かれず授業中に抜け出して、家にトラップを仕掛けるぐらい平気でやってくる。

姉貴達が下校の戦争に参加せず、トラップなんてまどろっこしい事をする理由は単純明快。

俺争奪戦争に参加する資格がないから。

俺争奪戦争に参加出来ない理由はただ1つ。

日本の憲法上、結婚の意志はあっても、実際に結婚できないというまともな理由。

そう、あんな無茶苦茶な憲法を作りながら、近親婚を禁じる法律は改正されなかったのだ。

さすが空気の読めなさで、海外から大絶賛される日本の首相。

『姉妹じゃ駄目なんですか』と発言したどこぞの議員とは違う。

民法第734条および第740条ばんざいだ。

改正されないと分かった時、俺は姉貴達と血が繋がってて初めて良かったと思った。

初めて感謝した。

心の底から泣いた。

何度も空の上に変態メイドを放り投げた。

あとは発言がぶれまくる首相が『近親相姦の美味しさについて、認識を新たにした』とか余計な事を言わないのを祈るしかない。

あの戦争の中に最終兵器姉妹を投入されたら、もう白旗をあげるしかないのだから。

 

「ご主人様、ご主人様。どうせお踏みになるのなら、子宮に響くようもっと思いっきり踏んでくださいまし」



この最終変態は踵落とし程度で白旗をあげないようだ。

むしろ日の丸を振って歓迎してやがるっ。



「地球に響くようにだなっ。スレッジハンマーはどこだっ」

「そこに御座います。ほら、黒光りするゴールデンハンマーが股間にぶら下がっているでは御座いませんか」



近くにあるらしいゴールデンハンマーを指差す変態メイド。

俺の近くにいるのは頭を抱えたオスしかいない。



「オス……おまえ、こいつを叩きたいか?」

「きゃいん!? きゃいん!?」

「そうだよな。お前にも選ぶ権利があるよな……よしよし、俺が悪かった」



よだれを飛ばしながら、狂ったようにブンブン首を振るオスを宥める。

同じ男としてお前の気持ちはよく分かる。

だけどな、俺には選ぶ権利も無いんだぞ。



「嗚呼、なんて失礼な犬っころ。ご主人様は毎晩子宮の奥深くまで叩いているというのに」



こんな奴等が俺を毎日指名してくるんだぞっ。



「地中の奥深くだなっ。パイルドライバーはどこだっ」

「48手第24番立ち松葉をご指名で御座いますねっ。悦んでっ」

 

玄関に寝転がり、カニバサミで俺の腰を固定する変態メイド。

俺はあえて逆らわず、そのまま密着して腰に手を回す。

 

「ご主人様、ご主人様。私、なんとなく次の展開が読めてしまいました」

「俺にはいつもお前の次の展開が読めないからなっ」

 

変態メイドの体を持ち上げ、そのまま地を蹴って飛ぶ。

空中で膝を使って変態メイドの体を固定。

そしてセメントの地面に打ち込み完了っ。

 

「奥に響くぅぅんっ!」

 

キモ声を上げ、玄関に頭から直立不動に刺さる変態メイド。

だが腰を悪くしたせいで、どうも刺さりが甘かったようだ。

地面に首までしか刺さっていない。

 

「2度と抜けないよう、何かで固定してしまおう」

 

セメントでは乾くのが遅い。

アロンベータ瞬間では心もとない。

時間と強度、どちらのリスクを取るか悩みどころだ。

 

「そうか……瞬間接着剤で借り止めした後、セメントを流し込めばいい。っ……」

 

そのまま墓代わりにもなるグットアイディアを思いついた瞬間に携帯が鳴った。

鳴った瞬間に誰だか予測できたが、一応、念のため、勘弁しろ、止めてくれよと願いつつ電話に出る。

 

『ハロー、ご主人様。さて、ここで問題です。私が今どこにいるか、お分かりでしょうか?』

「どうやって携帯をかけてやがるっ」



質問に答えるように、足を素早く複雑に交差させる変態。

この変態っ、足で手旗信号発信してやがるっ。

その発信内容は『あの世から毒電波でズビズバ~ンとお送りしております』だっ。



「この世の迷惑だっ。この電波障害メイドめっ」

『失敬なっ。私のアソコには快適マークがついておりますっ。合法快適ですっ』

「頭にJASマークも付けろっ」

 

変態メイドの足を思いっきり捻り込むっ。

変態の癖してっ、なかなか地面に捻り込まないっ。

 

『嗚呼……子宮に愛が響いてまいりました。ところで私、さきほど頭蓋骨が陥没したようです。本日の陥没確率30パーセントで御座います』

「どうせ1時間後には0パーセントになるんだろっ」

『ただ今の乳首陥没確率は20パーセントで御座います。興奮すると0パーセント』

「目指せっ。生存確率0パーセントっ」

 

オスの鎖を外して、品質保証外の垂直落下式変態メイドの足に何重にも巻く。

巻き終えたらっ、全力で鎖を引くべしっ。



『あ~れぇ~~~!? いつもより余計に回っております!?……で、御座います』



変態ドリルは独楽のように回転しながら地面を掘り進み、やがて姿を消す。

だが、この程度は変態相手に気休め程度。

だてに萌えない使えない価値が無いの3無いゴミではない。

今頃はマントル突き破って、地球の裏側を目指し掘り進んでいるに違いない。



「おかえりなさい。おにいちゃん」

「ただいまっ。まだセメントが物置に残ってたよなっ」

「はい、あります。でも、せめんとでうめるまえに、なまごみをつめて、うえからねっとうをそそぐのが、いいとおもいます」
 
 

オスが穴を埋めるために、必死でコンクリートの地面を蹴る中、パタパタとスリッパをつっかけて玄関から出てきたコイツは末っ子の妹。

名前は瀬世里セーラ、小学3年生。。

妹と俺の名前が似ているのは、あの母が俺の事をすっかり脳内で亡き者にしていたからだ。

コイツは日系イタリア人の父と日本人である母の間に産まれたクォーター。

髪は黒いが、愛くるしい顔にヨーロッパでも珍しい青い瞳が輝いている。

コイツの父親だけは俺達の父親の中でただ1人、直接会った事がある。

フランス第2外人落下傘連隊に所属し、年に数回だけ会いにくるからだ。

もちろん、あの母の子。

人形っぽい可愛い容姿に惑わされてはいけない。

自分を青パセリと呼んだいじめっ子に対し、ラジオ、テレビ、インターネット、PTAに事実を誇張し投書。

教育委員会も妹の容姿と演技に騙され、大問題へと発展。

結果、いじめっ子を転校させ、本人はケロッと『だまされるなんて、おとなは、ちょろいです』の一言。

それ以来、楯突く者を謀略でことごとく制裁し、小学校を恐怖で支配したつわものだ。

噂によると、先生方の給料まで支配してるらしい。

家族の立ち位置でいえば、次女が力の1号、三女が技の2号、そしてセーラが知の3号。

長女と母は3身合体を3回ほど繰り返した無敵超人。

長男は凡人兼被害者兼ヤラレ役でっ、合言葉は『ヒーッ!?』だっ。



「生ゴミはいいがっ、熱湯は駄目だっ。3分で復活するっ」

『ご主人様の下半身から出る熱々の液体なら、0.003秒で復活いたしますが』

「ぶっかけはつたいけんは、せーらのよやくぶっけんなので、だめです」



この知の3号は物理的手段に訴えずっ、こうして精神的にヒーヒー攻めてきやがるっ。

そしてコイツに関しても当然トラウマがあるっ。

帰国して初めて迎えたコイツの誕生日、プレゼントは何が言いかと聞いたら希望はコレ。



『おにいちゃんの、はつがんしゃ』



トラウマだっ。

なんで俺はっ、実の兄に顔射をねだりっ、しかもっ、毎年誕生日がくる度にプレイの内容を濃くしてくる妹と一緒の血を引いてしまったのかっ、トラウマになってしまったっ。

今では顔、口、足がコイツの予約物件だっ。



『妹様が仰ると、まるで復活の呪文のようで御座いますね。卑猥でありながら、ほのぼのといたします』

「卑猥とほのぼのは同居しないっ」
 


変態メイドが掘った穴に、下駄箱の上に飾ってあった花瓶を落とす。

落とした花瓶は高さ70センチ、重さ6キロの分厚いクリスタルガラス製。

母の選んだ物だけあって、振り回したり頭に落としたりするのに丁度いい花瓶だ。



「いいおとがしました。いまごろ、あなのなかは、ちじょうはでは、おみせできないようなことに、なってます」

「ほっとけ。どうせ5分後には便器から生えてくる」

『申し訳ありません。最近この辺りの栄養を吸い過ぎたせいか、土地が痩せております。お隣様の家庭菜園から吸って来ますので、少々お待ちを』

「今から生ゴミを準備するから少々待てっ」



息絶え絶えで家に帰ってきてもっ、この有様だっ。

誰でもいいっ。

誰か俺に安らぎをくれっ。




[25646] 4-瀬世良瀬良は帰宅した後も女運が悪い-瀬世良瀬良の凡夫なる1日編(終)
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 04:46
4-瀬世良瀬良は帰宅した後も女運が悪い-



夕食。

変態メイドの廃棄処理を終えたら終えたで、また憂鬱な時間が来た。

部屋の中で大人しく引きこもりたいところだが、瀬世良家では既に結婚した長女を除き、全員が家で夕食を食べるのが義務付けられている。

その為、否応でも母と姉と妹×2+変態メイドと顔を合わせなければならない。


 
「瀬良、今日も誰とも交尾しなかったの」



毎日毎日聞き飽きた母の言葉を左から右へ聞き流す。



「そこの変態メイド。醤油を寄こせ」



今日もがっかりな事に居間に全員揃っている。

まずは、端っこで一緒に飯を食う、生ゴミから養分を吸収して、俺の部屋のゴミ箱から生えてきた変態。

俺の右隣には『世界共通。姉萌えは正義』と書かれた茶碗で飯を食う瀬耶姉貴。

左隣には『姉萌えは邪道。妹萌えこそ正道』と書かれた茶碗で飯を食う瀬莉。

右正面には『ハーフの幼女。これぞお約束』と書かれた茶碗で飯を食うセーラ。

左正面には『交尾。人類繁栄の基本』と書かれた茶碗で飯を食う母。

そして『近親相姦。ゲームの中だけでお願いします』と書かれた茶碗で飯を食う俺。



「誰が赤マムシドリンクを寄こせと言ったっ」



『貴方のアソコも真っ赤か。彼女のアソコも真っ赤か』と書かれたお徳用赤マムシドリンク3リットルボトルを右から左へ投げつける。

この滅茶苦茶な夕食、ボイコットしようにも不可能。

何故なら夕飯にコンビニで弁当を買おうものなら、そのコンビニは次の日には撤退し、外食で済ませようものなら、食った店は次の日から客が入らなくなる。

その理由はもちろんこの母のせいだ。

俺も自分の身が可愛いので、母の実年齢は省略させてもらうが、見た目は20代。

容姿はお世辞抜きにトップモデル並。

100人の男がいれば100人振り向き、そして全員骨抜きにされる。

だが、声をかけたら最後。

声を掛けた奴は全員骨を折られる。

いや、良くて全身粉砕骨折。

悪くて全身消滅。

『私を抱きたければ、強さを示しなさい』がモットーのこの母。

その正体は町内、いや県内、いや日本、いや世界中の主婦を束ねる化け物。

国際主婦ネットワークBENTEN代表、クイーンオブマザー瀬世里瀬依。

変態メイドを片手であしらうほどの戦闘力。

変態メイドを鼻で笑えるほどの非常識力。

他にも多々恐ろしいポテンシャルを持っている母ではあるが、俺にとって、もっとも恐ろしいのがその情報力。

情報はデジタルが主流の世の中だが、主婦の口コミネットワークは時にデジタルより恐ろしい。

どれほど恐ろしいかというと、母に風呂上りの素っ裸を見られた際、10分後には電話一本だけで世界中の諜報機関に、俺のナニのサイズが知れ渡ってしまった。

その際、調査書に書かれたナニのサイズは若干右曲がりフランクフルト210g、お値段プライスレス。

トラウマだっ。

なんで俺はっ、息子のナニのサイズをフランクフルトっ、しかもグラム単位で置き換える母から産まれてしまったのかっ、トラウマになってしまったっ。

おまけにもう1つトラウマだっ。

この母は息子のナニのマックスサイズをっ、伊藤さんちの炭火焼ボンレスハム830g(時期によって大きさは若干変動します)、お値段時価と世界中に伝えやがったっ。
 
ついでにもう1つトラウマだっ。

帰国して家で最初の夜を迎えた際っ、いきなり夜這いされてっ、『私を抱けるぐらい強くなりなさい。そして母子相姦という男の夢を叶えなさい』とっ、問答無用にマウントポジションからフルボッコにされたっ。

さらにもう1つトラウマだっ。

若干右曲がりなのはっ、その時の後遺症だっ。

俺は自分のナニを見るたびにっ、あの男としての悪夢が蘇ってくるっ。



「おにーちゃんは、このままいくと、いっしょーどーていで、まほうつかいに、なってしまいます」

「大丈夫っ! かならずお姉ちゃんが貰ってあげるからっ!」

「馬鹿なことを言わないで下さい。兄さんの初めて私のものです。私の未熟な体で成熟するんです」



次々と皿に盛られたソーセージをフォークで刺しながら、宣言する家族達。

まるでそのソーセージがっ、俺の未来を暗示しているように見えるっ。



「その際は是非とも私めもご相伴に。僭越ながら、準備運動をお手伝いさせていただきます」

「そこの変態メイドっ。下品にソーセージをしゃぶるなっ。セーラっ、お前も真似するなっ」



しかも変態メイドよりもっ、セーラーのしゃぶり方が生々しいっ。

我が家の情操教育はどうなってやがるっ。



「そう……やっぱりまだ誰も襲って無いのね。我が子ながらこの歳で一度も襲わないなんて嘆かわしいわ」

「まったくで御座います、ご主人様のお母上。おかげで私、本日で記念すべき101回目の想像妊娠をいたしました。童貞といえど、さすが股間に黒光りするアナコンダ8インチを持つご主人様。腐らすのは勿体ない一物」

「長く重いストロークから357マグナム弾で私の幼い体を撃ち抜いて欲しい……」

「お姉ちゃんが使い込んで、初期不良のなしの立派なアナコンダに仕上げてあげたいなぁ……」

「かおも、おくちも、どこでもねらえる、しゅーてぃんぐしようも、ありだとおもいます」



箸を置いて呆れたように溜息をつく俺の母っ。

ねとっりとした溜息をつく変態のメイドっ。

それに続けてっ、うっとりとアナコンダの話に耽りながらソーセージを舐める俺の姉妹達っ。



「もうアナコンダの話は止めろっ」

「アナコンダがご不満なら、ベビーメーカー黒金とでもお呼びいたしましょうか?」

「もっと止めろっ。既に腐った連中から苦情が来そうだっ」

 

飯をかっ込みっ、味噌汁で胃に流し込むっ。

変態メイドに姉と妹×2、さらに母がいるこの状況ではっ、夕飯代わりに俺が食われてしまうっ。



「そんな小さい事を気にしてるから、自主訓練の空砲ばかっりなのよ。思い切って実射なさい。実射を」 

「おにいちゃんは、ちいさくありません。にほんだんじに、ふさわしい、きょほーしゅぎです。からうちなしの、いっぱつねらいです」

「狙いすぎて一度も主砲を打つことなく、轟沈するので御座いますね」

 

母が焼きすぎて破裂したソーセージを俺に突きつけ、それをセーラが人差し指で銃を撃つ真似をする。

そしてっ、ダンボール箱をちゃぶ台代わりにして飯を食っている変態メイドの納豆のような視線がっ、ある一点に突き刺さるっ。

 

「どこに向かって喋ってるっ」

「当然、ご主人様の剛チンにで御座います」

「大丈夫っ! お姉ちゃんが引き金を引いてあげるからっ!」

「兄さん、今日こそ私の中で暴発して下さい」

「一生空砲撃ってた方がマシだっ」



こんな奴等に実射したらっ、俺の人生が暴発して轟沈するっ。



「情けない事をいわないでちょうだい。貴方はね、たった1発で私を仕留めたデザートイーグルの血を引いてるの。だからもっと自分の息子に自信を持ちなさい」

「大口径一発で御座いますか」

「あの渋い夜は今でも覚えてる……私の13発に対し、あの人はたった1発だけ。たった1発でど真ん中に着弾よ」

「息子の顔が思わず渋くなる事実を聞かせるなっ」

 

興奮剤が仕込んであった茶を変態メイドにぶっかけ、席を立つ。

この家で安全な場所はただ一つ、自分の部屋だけだ。

後方から放たれた吹き矢は、着いてこようとした変態メイドの顔面で防ぎ、リビングを出る。

階段には際どいどころか、全裸モザイクなしの姉の手作りグラビアがばら撒かれているが、わき目も振らず踏み躙る。

自分の部屋の前には、ストライクゾーンすれすれどころか、ワイルドピッチ即退場的な下着がばら撒かれているが、足で寄せ集め、妹の部屋に蹴り込む。

妹の部屋を開ける時は素手でドアノブを掴むようなマネはしない。

毒針が仕込んであったり、電流が流れていたりするからだ。

今日は催眠ガスだったがっ。

 

「……」

 

ハンカチで口と鼻を押さえながら自分の駆け込む。

そしてドアを閉め、特注の鍵をかけ、鎖でドアノブを固定。

元々は一番上の姉貴の部屋であったこの部屋は、姉貴によって改造されており、気密性が高く、外側から迫撃砲を受けてもビクともしない。

九二式重機関銃や十一年式平射歩兵砲などの運べるものは、新居に持っていったが、部屋に埋め込まれたセンサー類は残っている。

欲を言えば、庭にあった三八式野砲も残していって欲しかった。

まあ、無い物は仕方がない。

まずは換気扇を回し、その横にあるガスセンサー、圧力感知器、赤外線センサーをチェックする。

次に盗聴器探知機とサーモセンサーを片手に部屋をチェック。

窓に問題なし。

壁に問題なし。

床に問題なし。

天井に問題なし。

ベットに問題なし。

机に問題なし。



「私の体と心のチャックは常に全開。準備万端で御座います。さあご主人様。社会の窓を全開にして、どうぞ食後のデザートをお召しあがり下さい」



変態メイドに問題ありっ。

クローゼットの中にいた変態メイドをそのままに、引き出しの鍵をかける。

次に机に埋め込まれているコントロールパネルを押す。



「これでよし」

 

変態メイド撃退用の薬が引き出しの中で噴射したはずだ。

 

「さて、これでお前達の世話をしてやれるぞ」

 

窓際に並べられた趣味の盆栽を一つ一つ手に取りながら眺める。

植物はいい。

男も女も無い。

だが、雌雄異株だけは駄目だ。

隣の家のキューイの蔦が首にからまり、窒息死しそうになったことがある。

イチョウの木の下を歩いたら、一斉に銀杏が振ってきたことがある。

 

「土の湿気も十分。病気もなし、害虫もいない。お前達はほっんとうっに良いな」

 

毎日、盆栽の成長日記を付けて楽しむ。

僅かな成長を発見し、記録を残すこの一時が一番に心休まる時だ。

 

「ごひゅんひんはま、ごひゅひんはま。いふのはに……きぇーーーーーっ! ごほん。ご主人様、ご主人様。何時の間にセボフルレンを入手なさったのですか?」

「麻酔薬も効果は薄いと……」

「観察される私。ご主人様の汚れた視線で丸裸にされる私」

「次回はバルカンカメムシジェットと……」

「なんという天才的新感覚プレイの試み。その喜びを表現したい私。ですが、何故かここから出られない私」

「悪霊封印の札は効果絶大と……」

「監禁束縛放置プレイへの期待で身を震わせる私」

「電気ショッカー作動と……」

「びがちゅーーーーーーーーーー!? で、御座いますぅぅぅぅ!?」



世界的変質者に対し、世界的人気者の10まんぼると攻撃。



「さて、変態が焼きあがるまで本でも読むか」
 


盆栽を元の場所に戻し、机の端のフックに掛けてある鞄から本を取り出す。

女が出てこない学問の本はいい。

物語のある本は駄目だ。

特に漫画は絶対駄目だ。

俺が読むものは何故かヒロインが電波だったり、変態だったり、猟奇的だったりする。

例え連載中の漫画であっても、俺が読み始めると、次号でヒロインが殺されたり、寝取られたりする。



「あの2人が諦めるまで半分は読めるな」



あの2人とは、もちろん学校で襲ってきた姉と妹だ。

まだ諦めずに俺が部屋を出るのを、手ぐすね引いて待ち構えているに違いない。

だが、備えは磐石だ。

防災用のトイレ、飲料水、食料、風呂代わりのウェットティッシュが3週間分あるので、その気になれば3週間は部屋を出ずに済む。

2週間分というのは、姉貴と妹の危険日が続けてくる事を計算に入れている為だ。

もしセーラにまで生理が始まったら1ヶ月分は必要になるが……



「完全性定理、不完全性定理、カット除去定理の基本3定理よりっ、安全日、準危険日、危険日、3姉妹生理の方がよっぽど問題だっ」



六花に借りたゲーテルの本を閉じ、引き出しから姉貴と妹の生理チェックノートを急いで取り出す。

このノートには2人の体温と襲ってきたパターンを1日刻みで書き込んである。

今日の妹の体温は低かったはず。

姉貴の体温は若干高かったはず。

妹は危険日前になると、嘘と泣き脅しのハメ技から逆レイプフィニッシュを決める傾向がある。

姉貴は危険日前になると、赤ちゃんコンボから逆レイプフィニッシュを決める傾向がある。

以上を加味するとだ。



「搾乳プレイで気付くべきだった。今日から姉貴の危険日だ……」



今日から1週間は部屋に朝まで篭城しよう。

昨日、妹の危険日が終わって2日目の危険を冒して、風呂に入っておいて良かった。

昨日を逃したら、1月の半分もまともに風呂に入ってない状態になるところだった。



「ちなみに一昨日のお風呂の水は、保存用、観賞用、飲料用に採取させていただきました」

「リミッターオフと……」

「らいじゅーーーーーーーーーーー!? で、御座いますぅぅぅぅぅぅ!?」



これで本当にセーラに生理が来たら、最悪1月の3分の2は風呂に入れない。

生理が来たら襲われるという前提自体が間違ってる、と思う奴が世の大半だろう。

8歳児に襲われるなんて、どんだけ痛い妄想してんだ、と思う奴が世の大半だろう。

子供の言う事なんて、冗談に決まってんだろこの犯罪者め、と思う奴が世の大半だろう。

だが、セーラの言う事を冗談だと思う事なかれ。

セーラは常々言っている。

『ごはんに、おせきはんがでたら、かくごしてください」と。

俺は知っている。

セーラが俺を狙う女達をどうやって出し抜くか、構想を練っている事を。

俺は知っている。

セーラが着々と俺との逃亡生活資金を溜めている事を。

俺は知っている。

セーラが手下を集める目的で小学校を支配した事を。

俺は知っている。

セーラが母から男を篭絡させる108の技を会得した事を。

俺は断言できる。

生理が始まればセーラは、姉貴と妹を上回る怪物となって俺の前に立ちはだかるだろう。

伊達にクリスマスのケーキに別なクリームを要求する妹ではない。

けれど、その時は俺も大学生か社会人。

この家から脱出して一人暮らしをしてやる。

そして女が少ない工業系の大学に通うか、ガテン系の仕事で食っていくか。

それが駄目ならマグロ漁船か、山奥か、無人島0円生活。

 

「……はぁ」
 


溜息と一緒に鞄がフックから落ちる。

ついに持ち手が取れたようだ。



「……せめて普通の女が1人でも寄ってくれば」



俺だって女運が極悪なだけの普通の男。

普通の恋をして、普通の結婚をして、普通の家庭を築いて、普通の生活していきたい。

高望みはしない。

ごくごく普通でいいのに。

 

「ご主人様。私に命じていただければ、筆立たせから筆降しまで、フルコースでしてさしあげますのに。弘法筆を選ばず。嗚呼……されど筆を折ってしまいそうな私」



俺に寄って来る女はっ、こんな人として折れた進化した奴ばっかりだっ。

誰でもいいっ。

誰か俺に普通の女を紹介してくれっ。

 

 



[25646] 5-瀬世良瀬良は今日も女運が悪い……のか?- 瀬世良瀬良のボーイミートガールな毎日(始)
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 05:40


「ご主人様。グットモーニングで御座います。今日も清々しい朝で御座いますよ」

「……で? 今日は何をやらかしやがった?」



清々しいとは程遠い朝。

ベットの上で、部屋に入ってきた変態メイドを睨みつける。

口から煙を吐いている以外はいつもと同じ、何を考えているか分からない変態面だ。



「ご主人様に、朝から愛の手料理をと思いましたところ、料理中に爆発が起きてしまいました」

「原因はお前の愛だ。世界が蕁麻疹でも起こしたんだろ」



ぱかっと煙を吐き出し、便所の落書きによくあるΦマークを作る変態。

さすが24時間キ○ガイですかの変態だ。

常時常識バブル崩壊で、朝から夜まで俺を苛立たせてくれる。



「いえ。ご主人様にドキドキしてもらおうと、ニトログリセリンを隠し味に使ったのが原因で御座います。嗚呼……ドジっ娘の私が恨めしい」

「はっはははっ! ニトログリセリンかっ! お前は本当に変態だなぁっ! そいつは爆発して当然だろっ! 死ねっ! この変態メイドっ!」




爆発音で無理やり起された感がある体を引き起し、ベットの下に予め準備をしておいた縄を投げつける。



「はっはははっ! 生きるっ! ところでご主人様。この私を簀巻きになさって、朝っぱらから、どんな愛の名を騙った陵辱行為をなさるおつもりで」



投げつけた縄は、カーボンナノチューブを撚り上げ、先端に錘の分銅が付けられた縄。

先日、目を爛々とさせているアレを木から吊るした変態捕縛用の縄は、あの騒動で引き千切られてしまった。

なので、コレは昨日に物置からセメントと一緒に出した、さらに太いもの。

母の猛獣捕獲用か、一番上の姉貴が置いていった趣味のものだろう。



「3日後、どっかの半島っぽい所から『デブボン-北の国から愛と虚勢を込めて-』を打ち上げるらしい」

「ジャップの腑抜けた政治家売国奴風柳腰味に表現いたしますと、遺憾の意で御座いますね」

「まだ宇宙に捨てことは無いからな。期待大だ」



巨大風船を括りつけ、成層圏近くまで飛ばしても、ムササビの術で戻ってくる変態だが、宇宙なら期待が持てる。

打ち上げに失敗して大爆発を起してくれれば、尚良い。

デブボンが俺の希望になってくれればいいのだが。



「お星様になる私。そして乙女は星座となり、空の上からご主人様をレッツストーキング」

「そのままブラックホールにでも飲み込まれてしまえっ」



どうやデブボンは希望にはならないらしいっ。

こいつなら平気で流星に乗って帰ってきそうだっ。



「最近、私は思うのです。何故、人類はあの穴の事をブラックホールと呼ぶのでしょうか。そして前の穴は何と呼べばいいのでしょうか。宇宙の神秘に耽ると興奮して夜も眠れません」

「お前が居るだけでっ、朝もっ、昼もっ、夜もっ、俺は不安で眠れないからなっ」

「一日中、私で妄想していたとは。それは知らずに失礼いたしました。さあ、遠慮なさらずに溜まったものを、私の愛のホワイトホールへレッツインサート」

「レッツっ、ダストホールへインサートっ」



ルパンダイブかましてきた変態メイドの額にリサイクル券を貼りっ、勢いそのままにっ、脇に抱えて2階の窓からゴミ捨て場目掛けてスカイダイブっ。

廃品ではなくっ、リサイクル不能の廃人だがっ、500円も貼れば持っていってくれるかもしれないっ。


「……」


廃人がゴミ捨て場に着弾したのを見届け、窓を閉めようとする。

ちょうど2階のベランダに洗濯物を干している隣のおばさんと目が合った。



「お早うございます。今日は良い天気で、洗濯物が良く乾きそうですね」

「……ひぃ!?」



愛想よく挨拶したつもりたっだが、おばさんは干そうとしていた布団をベランダから1階に落とし、腰を抜かして這うように部屋へ逃げていく。



「糞っ……不当評価っ」



あの変態メイドのせいでっ、俺は普通の近所付き合いも出来やしないっ。










5-瀬世良瀬良は今日も女運が悪い……のか?- 










俺の身の安全が保障されている時間帯は、夜の23時から朝の8時まで。

この時間帯は、俺争奪のルールが定められているふざけた憲法において保障されている。

とって付けたような人権上に基づいた憲法だが、今ではなくては生きていけない憲法。

何故なら人間から大きく外れた変態メイドでさえも、この時間帯には手を出せないからだ。

理由は簡単。

この憲法を無理やり成立させたのが、俺の母方の祖母だから。

政界に顔が利くというより、拳を利かせ。

財界にコネがあるというより、無理をゴネまくり。

裏社会に太いパイプを持っているというより、鉄パイプで殴りこむ。

瀬世良家家訓第一条『全ては力で勝ち取るもの』を地で生きる祖母。

祖母の前では変態メイドどころか、母ですら蛇に睨まれた蛙状態。

いや、ゴジラに睨まれた西宝自衛隊のようになってしまう。

そんな祖母はどんな化け物かというとだ。

昔、祖母の家に行った時、けっこう大きな地震が起きた。

だが、祖母が一喝しただけで揺れは止まった。

ニュース速報によると、M県沖マグニチュード5.3、M県S市震度4、曾祖母の家があるS市の一部の地区だけ震度0。

他にも、指一本であの母を『あべし!?』と吹っ飛ばしたり、一睨みしただけであの変態メイドを『うひぃ!?』と大往生させたことがある。

姉達は声を掛けられただけで『いぴゅ!?』と失禁+失神したことがある。

祖母は瀬良家の生きる伝説。

祖母は化け物マックスチート。

祖母は化け物の中の化け物。

そして俺は……俺はっ、俺はっ、俺はトラウマだっ。

祖母の家に行った際っ、記憶では初めて会った祖母にっ、『どれ若造。どれぐらい男として成長したかの』とっ、出会い頭に玉と棒を鷲掴みにされたっ。

それだけじゃない。

俺は……俺はっ、俺はっ、俺はっ、俺はっ、祖母の手練手管によって精通してしまったっ。

トラウマだっ。

祖母に『大きさと量だけは一人前じゃが、早漏じゃの。今までナニをしておった。この未熟者が』とっ、蔑まれてしまったっ。

何故っ、俺は瀬世良家に産まれてしまったのかっ、トラウマになってしまったっ。

確かにっ、その祖母の影響力のおかげでっ、どうにか深夜から早朝までは普通の生活が送れるのは感謝してるっ。



「けれどっ、いつか独力で普通の生活を送ってやるっ」



その為には、まず今日を生き残らなければならない。

決意を新たに制服へと着替える。

着替え終わったら、盆栽の水気をチェック。

次に変態撃退用七つ道具をチェック。

昨晩直した鞄をチェック。

最後に宿題を入れ、忘れ物がないかチェック。



「盆栽よし、七つ道具よし。鞄に異常なし。教科書、宿題……」

「ご主人様、忘れメイドで御座います」

「ゴミの始末を忘れていたと」



ベットの下から生えてきた変態メイドの顔面を掴み、ちょうど窓の下に来ていたリサイクル回収車の荷台に投げ捨てる。



「今度こそ忘れ物はなし。行くか」



姉貴と妹と変態メイド侵入チェック用機材のスイッチを入れ、部屋を出る。

廊下には昨晩と違って。トラップや下着はない。

それでも念の為、違和感がないかチェックする。

廊下、天井、壁、ドア。

いずれも異常は無い。

若干こげ臭いだけだ。



「ここまでは辛うじて普通だ。辛うじて、ここまでは」



こちらも異常が無い階段を下りていく。

俺の登校時間は、必ず避けるよう憲法で決められているので、姉貴と瀬莉は既に登校しているはず。

今、この家にいるのは母と一番下の妹だけ。

とりあず洗面所には誰もいないようだ。

どうせ1時間後には汚れるのだが、朝ぐらいは普通を味わいたい。

顔と髪ぐらいは手を抜かずに洗っておくとしよう。



「今日も抜け毛が酷い……」



洗い終わった髪と顔をタオルで拭き、鏡で身だしなみと円形脱毛症をチェック。



「よしっ、禿げてないっ」



顔を叩いて気合を入れ、居間に向う。

毎日こんな人生つまづかない生活を送りたいのだが。



「おはようございます、おにいちゃん。ちゃんと、きょうもげんきに、あさだちしてましたか?」



さっそくっ、普通をぶち壊す妹のセクハラオヤジの挨拶につまづいたっ。

髪の毛も10本くらいごそっと抜け落ちたっ。



「お早うっ。朝からお前の学校生活が心配になる挨拶をするなっ」

「だいじょうぶです。がっこうでは、かんこうれいをしいてます」



居間のソファーでっ、子供向けの番組を見ながら得意げにVサインをかましてくるセーラっ。



「まずはお前の口に緘口令を敷けっ」

「ぽーるぎゃくは、せーらには、はやすぎるとおもいます。あと3ねんまってください」

「3年後でも早すぎるっ」



小学生相手に、まさか変態メイドと同じ扱いをするわけにもいかず、八つ当たり気味に椅子に座る。

周りを見渡しても、焦げ臭い以外は何もおかしな所はない。

あの祖母の娘である母だ。

爆発程度、気合一つでどうにかしたのだろう。

その証拠に居間から見える庭の壁には、爆風に晒された痕がある。



「あら、起きたの瀬良? 今日こそちゃんと犯りなさい。そろそろ腐るわよ? こうなったら、誰でも良いわ。覚悟があるならセーラでも構わないから」

「……親が朝から息子に服の洗濯薦めるようにっ、近親相姦薦めるなっ」




庭で洗濯物を干しながら、近親相姦を薦める親なんて世界でここにしかいないだろう。

もしいるなら、その息子か娘と一晩ぐらい血涙流しつつ語り合いたいっ。



「半分しか血が繋がってないじゃない。それに、あの子達も駄目、瀬耶も駄目、瀬莉も駄目なら、セーラしかいないじゃない。それとも私に挑戦する? よっとっ」



母はシーツを宙に放り投げ、正拳突き。

空圧が居間まで響き、シーツは宙で綺麗に広がり、物干し竿に落下。

さらに片手を洗濯物が入っている籠に突っ込み、もう片手にハンガー。

両方を放り投げ、百烈拳。

次々に物干し竿に洗濯物が架かっていく。

何処にいけば洗濯拳なんてものを学べるんだっ。



「せーらは、あいがあれば、せけんさまから、ひなんちゅうしょうされても、たえてみせます。ぴーてぃーえーも、どんとこいです」

「我が娘ながら良い女ね。それに比べて我が息子は……」

「耐えるなっ。比べるなっ。俺は普通に生きたいんだっ」

「きわめて、むだな、ていこうだと、おもいます」

「瀬世良家の血を引いているのに、まだ普通に生きられると思ってるの?」

「誰が諦めるかっ」



誰でもいいっ。

誰か俺にっ、家庭を選ぶ選択権をくれっ。











「ああ……今日も鼻血だ」



変態がいない分、少しはまともな朝食を食い終わり、鼻血が垂れないよう上を向きながら玄関に向う。

鼻血が出ているのは、母に殴られたわけではない。

セーラがわざと脇の下見せた胸に興奮したわけでもない。

鼻血の原因は朝食にある。

瀬世良家の朝食はパンが主体。

パンは市販されているこんもり男の大祭りで有名な製品なので問題ない。

問題はパンと一緒に必ず出されるスープだ。

毎日毎日、あの母は朝食に高麗人参やらマカやら亜鉛やらスープに混ぜてきやがる。

今日は鹿の珍宝入りだったがっ。



「一度、鼻血の出しすぎで、貧血になったのを忘れたのか……」



先月、さすがに嫌気がさして、スープを飲むのを拒否したら、母が俺の口に漏斗を刺し、スープを流し込まれてしまい鼻血が大噴火。

出血大サービスで気絶して、病院行き。

その時、医者から『精力剤に頼るのは止めなさい。EDは正しく治療すれば治りますから』と言われ、ひつ尿科に行くのを薦められたのはトラウマだ。

薦めるなら、心療内科を薦めろってんだ。



「おにいちゃん。はい。わすれものです」

「……忘れ物なんかあったか?」



首の裏を叩きながら、しゃがんで靴を履いていると妹が小走りで駆け寄ってきた。

その手に握られいるのは小さな箱。



「うすくて、じょうぶな、ろーしょん、いぼいぼつきの、にくいやつです」



『はい』と手渡された箱。

その箱に描かれたデフォルメウィンナーが、妙に生々しい。

しかも、『ウィンナーじゃねえよ。俺はフランフルト120gだよ。定価530円だよ。文句あるか』と書いてやがるっ。

止まりかけた鼻血が大出血するほどっ、文句があるに決まってるだろうがっ。



「どこで買ったのか知らないがっ、小学生がこんなもの買うなっ」



手の中で憎たらしく唇を吊り上げているウィンナーを握り潰すっ。



「きんじょのおくすりやさんで、おにいちゃんのなまえで、いっぱい、おとながいしました」

「俺名義で買うなっ。しかも大人買いするなっ」



ただでさえっ、近所のドラッグストアはっ、うちの家族や変態ご用達になって大人の玩具まで扱っているのにっ。

この様子ではっ、もう絆創膏すら並んで無いだろうっ。



「わたしの、おとうさんは、ぎょうむよう120こいりを、いっしゅうかんでつかいきりました」

「はぁはぁはぁ……そうか。俺には越えられそうにない。お兄ちゃんの分まで、お前は頑張って越えてくれ」



自慢気な顔で語るセーラへの説教を諦め、流血惨事な俺の顔をティッシュで拭く。

このまま出血大サービスで卒倒しそうだ。



「はい。せいりがはじまったら、おにいちゃんと、しっぽりがんばります」

「大問題が起きる前にっ、お前は一度っ、都知事にしっぽり説教してもらえっ」



なんて、怒りで卒倒しそうなコミュニケーションを交わし、玄関の扉を叩き閉める。

あと数歩あるけば、そこはさらに普通じゃない日常が待っている。
 


「……」



筈なのだが、何故か家の門の前に、ちょうど人ひとり入れそうな大きさのダンボール箱が置いてある。

どうやら、今日は箱に当たる日らしい。

鼻にティッシュをつめ、場所確認、人気確認、持ち物確認、問題なし。

怪しすぎるその箱を横目に通り過ぎ、30メートルほど離れた電柱の影で遠隔起爆装置を起動。




「3、2、1、発破っ」




すれ違った際に箱の上に置いたC-4を発破。

スニークと物々交換した萌え絵が描かれている痛爆弾だが、性能はまもとだったようだ。



「さすが元伝説の傭兵。ギャルゲーの限定版プレミアムをフライング入手するのに、手段を問わない伝説の廃人となっても、物だけは確かだ」



結果に満足し、箱の中身がどうなったかも確かめず、その場を足早に去る。



「ぴんぽんぱんぽーん。本日のお天気は、晴れ時々美少女メイドで御座います。時おり爆発が起こりますので、飛散物にはご注意ください」



ろうとしたら、後ろから変態メイドが一回転して俺の前に着地っ。



「今日も晴れ常々伝説の変態かっ。C-4食らってなんで生きてんだっ」



変態メイドが手に持っていた10点の札を奪い取りっ、それで往復ビンタっ。



「ふぅ……さすがの私でも、エッチーフィールドを張らなければ、危ないとことで御座いました」

「煩悩全開の変態めっ。煩悩ごと飛散してっ、少子化社会に貢献しろっ」



謎のピンク色の膜に阻まれっ、札がぶっ壊れたっ。

素手で殴り続けたいのは山々だがっ、それでは変態フィールドに精神がピンクに犯されてしまうっ。

だから鞄で往復ビンタっ。



「なるほど。私の煩悩を爆発させれば、日本、いえ、地球の人口爆発も可能でしょう」

「お前の煩悩一つで人口爆発かっ。そいつは危なかったなっ」 



鉄板仕込んだ鞄がはじき返されやがるっ。

はじき返したのはっ、変態フィールドから生えてきた気色悪い触手だっ。

さらに触手で『GO! GO! SERA』なんて形作ってがるっ。




「しかしながら、リサイクルセンターで使用済みダッチワイフと肩を並べた際、メイドとしてのアイデンティティーが戻ってまいりました。私のアイデンティティーは、人類に奉仕する事ではなく、ご主人様の下半身に御奉仕すること!」

「下半身に限定するなっ。使用済みダッチワイフより処分に困る変態性廃棄物めっ」

「顔、資産、身長、学歴、職業、そんなもので人の価値は決まりません。この世は快楽、悦楽、享楽、淫楽が全て。真面目に働いたら負けかと思ってます。よって私は下半身以外にまったく興味が御座いません! えっへん!」

「俺はお前を人として認めたら負けだと思ってるからなっ」

「ところで、妹様はやり手で御座いますね。こちらのコンドーム、全て先端に穴が開いておりました。なんとも頼もしいお子様でしょうか。私、日本の将来が楽しみで仕方ありません」

「俺は自分の将来が不安で仕方がないっ」



鉄板は防ぐわっ、C-4は防ぐわっ、触手は蠢くわっ、コンドームを口から吐くわっ。

なんなんだっ。

この変態はっ。

誰かこいつの正体を教えてくれっ、と言いたいがっ、誰も答えられないだろうっ。

誰か知ってる奴がいたら教えてくれっ。











「はぁ……なんで朝からごっそり体力を削られるんだ」



変態フィールドにごっそり体力を削られ、学校へ向う。

よくよく考えてみれば、かまえばかまうほど図に乗る変態だ。

最初から相手にしなければ良かった。

骨折り損のくたびれ儲けだ。


 
「ご主人様、ご近所の皆様には、既にご挨拶を済ませております。そういう事なので、私の下半身貫通工事を突貫して下さいまし」

「貫けっ。俺の足っ」



そいう事なので、歩きながらクネクネと気持ち悪く踊る変態メイドの顔面に足の裏を突貫させる。

すると、さっきまでの苦労はなんだったのかと思うほど、普通に変態は顔面をひしゃげて倒れた。




「やはり、私達の愛の前には壁など無意味。処女膜破ってうきうきドッキング、前突いて、後ろ突いて、いいっともで御座います」

「脳膜破ってふみふみショッキングだなっ」



腰をくねらせ地面に発情し始める変態っ。

どうやら変態フィールドはっ、こいつの気分しだいで解除可能らしいっ。




「……それにしてもおかしい。今日は妙に静かだ」




変態メイドの頭蓋骨を踏み抜いて黙らせつつ、周りを見渡す。

俺の通学の時間帯は決められており、その間は通学路も人払いされる。

それに俺の通学路は後半に進むにつれ、あの女どもの過激度が高まる故に、居住率が0に近くなっていく。

だから一般人の気配が無いのは問題ない。

だが、通学路の3分の1まで来て、殺気どころか淫気すら感じないのはおかしい。

戦闘機の影も見えず、戦車のキャタピラの音もしない。

閃光の代わりに春光が差し、爆風の代わりに春風が吹き付ける。

変態メイド以外は全て正常。

あの女どもが学校に来て以来、こんな事は初めてだ。




「……間違いなく罠。気を抜いた瞬間を狙うつもりか。それとも精神をすり減らす持久戦か」

 

 

13歳の時、姉に1週間監禁され、興奮剤を飲まされた上に『お姉ちゃん大好き、お姉ちゃんLOVE、お姉ちゃん犯りたい』と耳元で聞かされ続けた事に比べれば、この程度の精神戦どうってことない。

しかしながら、あの女達が並みの攻撃を仕掛けてくる筈もない。

背後に立たれるのが嫌いな超一流のスナイパーを雇った可能性もある。

油断禁物。

自分の経験を過信せず、ここは慎重にいこう。

まずは護身用の伸縮型警棒を準備しておく。

念には念を入れ、いつもより狭い間隔で建物と電柱に隠れつつ、トラップ発見用スナイパー身代わり用変態メイドを蹴り転がし、進んでいく。

場所的には学校まで残り10分、二車線の道が一車線の道と交差する、終盤戦の山場となる場所まで辿り着く。

俺指定通学路となっているこの交差点は、アパート等の比較的背の高い構造物が密集し、視覚が悪く、待ち伏せにはもってこいの場所。




「……」




やはり気を抜かずにいたは正解だった。

十字路の角、右方向から何かの気配がする。

だが、これは囮の可能性がある。

ブロック塀に背を付け、変態メイドの口を足で塞ぎ、他に気配がないか探る。

他に気配は無く、スナイパーらしき姿も反射光も無く、空は晴天、雲以外は浮いてない。

どうやら右方向の気配は囮ではなく、本命のようだ。



「ええっと……ここ、どの辺……人っ子一人いない……やだなぁ……気味悪い」



気配の持ち主は、なにやら呟きながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

足音から考察するに軽装備の人間。

こちらが隙を見せないので、痺れを切らしたのか。

それとも隙を作りにきたのか。

いや、焦るな。

極たまにいる事情を知らない外からの一般人、もしくは好奇心と無謀を履き違えた一般人の可能性もある。

いや、この街に駐在する俺争奪戦争監視委員会が、この時間帯の一般人の介入を見逃す筈はない。

しかも、聞こえてくる先は絶好のポイント。

いや、待ち伏せするなら、わざわざ声と足音を立てるだろうか。

この足音は鬼の足音か、蛇の足音か。

この異常な状況下で判断を間違えれば、即逆レイプに繋がる。



「……」



足音が迫る中、その足音でふと思いつく。

俺の足元には、鬼よりも蛇よりも怖い奴がいるではないか。

異常には異常で対抗させてもらおう。

気配が近づいてくるタイミングを見計らい、足音の持ち主に向って踏んでいた変態メイドを蹴り飛ばす。



「嗚呼っ! ご主人様の足と私の顔の合体っ! 気持ぢいぃぃぃぃっ!」

「きゃっ!?」



変態メイドの不意打ちを喰らった相手の前方に転がり出て、警棒を喉元に突きつける。



「手を上げろ。所属および目的を言え。拷問は禁止されているが、拷問に近い事は出来る。この変態の爪の垢を飲まされたくなければ、素直に言う事を聞け」

「えっ? あの? あれ? アナタはこの先にある学校の生徒……ですか?」

「一般人? 何をやっているんだ。ここは今、避難命令が出てて危ない……女か」



警防を突きつけた先には、固まっている女。

視線を下げると、俺と同じ制服。

さらに下げると、膝丈上まで上げられている『私、下着を見せても恥ずかしくないもん』的なスカートに、いかにも『私、流行に乗ってるもん』的な鞄。

今度は視線を上げると、テレビか本にでも出てそうな『私、自称清純派女子高生だもん』的な顔に、セミロングの片方をまとめて結った『私、可愛いもん』的な髪型。

頭部には感度の良さそうなアンテナまで装備している。

なるほど。

童顔、アホ毛、勘違いまで揃えられた、上から下まで女子高生的な女。

だが、俺は外見では騙されない。

人間の皮を被った変態が、この世に山ほどいるのを身をもって知っている。



「そこの疫病神、金が目当てか、体が目当てか、政治犯か、思想犯か、愉快犯か」

「は……はい?」



女子高生的な女は警防を突きつけられているくせに、のんきに小首をかしげる。

その仕草に危機感もなく、不自然さはない。

まるで茫然自失の普通の女子高生だ。

おまけにアホ毛の揺れ方にまで違和感がない。

これだけの演技が出来るアホ毛を持つ女。

この女……やはりただの一般人ではない。



「普通の女を装ったって無駄だ。俺に普通の女が寄って来るはずがない。そもそも『きゃっ』って言う女が現実にいるもんか。目的を言え」

「えっと……その……学校はどっちに行けば」

「分かったぞ。案内しろと言って、俺を油断させるつもりだな」

「はい?」



案内中に油断している俺を後方から殴り気絶させ、攫うつもりなのだろう。



「どこの新人か知らないが、嘘を言うな。お前の呼吸数は上がりっぱなしだ」

「わけのわからない事、言わないで下さいっ! 当たり前じゃないですかっ! さっきから人に警棒を突きつけてっ! だいたいなんですっ! 大声出しますよっ!」



誘拐、そしてこの異常な状況。

俺の頭の中で2つの線が繋がり、1つの結論が導き出される。



「そうか。誘拐なんて、やけに回りくどい手を使ってくると思ったら、そういう理由か……どこの組織か知らないが思い切った作戦に打って出たもんだ」



あの毎日毎日襲い掛かってくる3人の女どもには敵が五万といる。

その理由の3割が性格のせいではあるが、一番大きな理由は3人とも巨大な力を持つ集団の権力者だから。

この女は、そんな女どもを疎ましく思う敵対組織から送り込まれたに違いない。

そして作戦が終わるまで、何らかの手段を使って、あの女どもを足止めしているのだろう。

今日が異常に静かなのはそのせいだ。



「……」

「な……なんですか」



わざわざ俺の目の前に現れるという事は、俺に用事があると言う事。

あの女どもへの脅迫材料にでもするつもりか、それとも抹殺こそが目的か。 

どちらにせよ、この女の本命は俺。

素早く女を観察する。

この女からは、火薬の匂いを隠す香水の香りがしない。

スカートから覗く足は、鍛えられた形跡も無く、傷が付きやすい手足にも傷跡一つ無い。

見た限りアホ毛も天然で、引っこ抜けば刃物になる様子もない。

普通過ぎて疑う余地がないのは、さすがプロと誉めたいところだが、この女は決定的なミスを犯している。

これまでの経験上、俺に寄って来る女は絶対に普通ではない。

普通の女が俺に寄ってくること自体おかしいのだ。

つまりこの女は、毒物や神経系麻薬を使用するエージェント、もしくはその手の業者。

一般人に化けやすい上、秘密裏に事を進めるには、うってつけの存在。

あの女どもを足止め出来るという事はハーモサッド、統一戦線工作部、FSBあたりの大きな組織が一枚噛んでいるのかもしれない。

最悪、複数の組織が関わっている可能性もある。

 

「……変態、俺の体から異臭がするか」

 

変態メイドは犬の嗅覚より鼻が鋭い。

もし、ぶつかった際に毒を仕込まれたのなら、嗅ぎ分けられる。

 

「ご主人様、大変で御座います。ほんのり烏賊臭いです。ティッシュで噴火を抑える最終工程に失敗しましたか? まあ、ご主人様の息子様な美味ん棒な活火山で御座いますから」

 

這い蹲いりながら鼻を鳴らす変態メイドの鼻に、警棒を持っていない手でチューブ山葵を突っ込み、一気に絞り出す。

  

「となると無臭、即効性は無く遅延性……」

「日本の侘び寂びが沁みるのぉ!? 粘膜に沁みるのぉ!? 生でいれちゃらめぇ!?」



遅延性となると俺の誘拐の線は消える。

誘拐は下調べに時間を掛け、実行はスピード勝負。

わざわざ遅延性の薬物を使う理由はない。



「となると、俺の抹殺が目的。ウイルスの可能性もある。最悪だ……」

「この人達、さっきからなに言ってるんだろ……頭おかしい人達なんじゃない。初日から面倒なのにぶつかったなぁ。最悪……」

「どこの組織の新人か知らないが、もう後がないぞ。さっさと従いワクチンを寄こせ。でなければ、こちらとしても考えがある。この変態メイドを開放するからなっ」

「もうわけわかんないっ! もう付き合ってられないっ! 学校いこっ!」



拙いっ。

学校だとっ。

追い詰め過ぎたようだっ。

まさか最低最悪のテロリストに走るとはっ。



「待てアホ毛っ! 正体がばれたからといってっ、学校でテロを起こす気かっ!」

「止めてっ! この変態っ!」

 

女は鞄を振り上げ、肩を掴もうとした俺を横殴りにしようとする。

もし、鞄にショックで爆発する指向性爆薬でも詰まっていたら、木っ端微塵にされてしまう。

慌てて鞄を持つ女の腕の内側に体を滑り込ませ、一本背負いに持ち込む。

一瞬、抱きかかえてしまった鞄が爆発し、木っ端微塵にされるビジョンがよぎったが、相手は凄腕。

下手な躊躇は爆弾よりも危険だと判断。

そのまま女を塀に投げ飛ばす。



「ぐげっ」



空中で体勢を整えるかと思いきや、女は塀にぶつかり、無様に頭から落ちた。

 

「……なんだ、こいつ。相当の手ダレかと思ったら弱い。一般人だったか?」

 

口ではそう言いながら、やはりコイツは油断ならない恐ろしい女だと確信する。

蛙みたいな声を上げ、気持ち悪い白目を剥き、鼻血を垂らし、首を60度近く捻ってまで一般人の振りをし通すとは徹底している。

このまま逃げおおせるつもりなのだろう。

なら、それを逆手に取ってやる。

 

「まずいな。しかも同じ学校の奴か。見たことないアホ毛と顔だが、誰なんだ」



奪い取った鞄を、こちらも騙されている振りをしつつ調べる。

毒もしくはウイルスを特定できるものがあればベター。

ワクチンもしくは解毒剤を持っていればベスト。

それらの物を持っている可能性は少ないが、ウイルスだった場合、俺だけの問題では済まない。

ここは危険を冒してでも、早く情報が欲しい。

耳を澄ませ、鞄の内部で機械の作動音がしないか確かめる。

中から何も音は聞こえてはこない。

女に怪しまれないよう、ほんの僅かに鞄を傾け、中を確かめる。

見えるのは教科書らしきもの。

トラップは見える範囲には無いようだ。

次に僅かな違和感も見逃すまいと、指先に神経を集中し、鞄を開けていく。

ほどなく開き、中身を覗く。

中には教科書、ノート、筆記用具らしきもの、何かの小物入れ、そして缶ジュースが見える。

よほど自信があるのか、女は今だに気絶した振りを止めていない。



「……」



腕は良くとも、中身は甘い女だ。

この女はもう一つミスを犯した。

この缶ジュースはフェイク。

普通の女は、ぬるくなる危険を冒してまで、殺人的な甘さのドクドクペッパーを学校に持ち込まない。

この中身はワクチンか解毒剤、もしくは毒物そのものだ。

自信過剰な甘い女を鼻で笑いたくなる。



「……」



しかし、そのドクドクペッパーによって俺の甘い余裕はすぐに消えた。

このドクドクペッパー、あまりにも露骨過ぎる。

この首を60度近く捻った女は、本当に甘い女なのだろうか。

捲くれあがったスカートから見える下着は疑問のシマパンだが、他は完璧な日本の女子高生。

それなのに、女子高生の一般的な持ち物に関しては調査不足なのだろうか。

調査不足ではなく、わざと露骨にドクドクペッパーを仕込んだのではないか。

そして俺がドクドクペッパーの中身を確かめた瞬間、ドカンといく。

間違いない。

ドクドクペッパーの中身は爆弾だ。

いや待て。

ドクドクペッパーに注意を向かせ、違和感のない筆箱や小物入れに爆弾を仕掛けているのかもしれない。

わざと異物を混入し、いたって普通の物にトラップを仕掛けるブービートラップ。

それともドクドクペッパー自体がトラップ。

単にドクドクペッパーは時間稼ぎとも考えられる。

考えれば考えるほど可能性は膨らむ。



「……俺の方が甘かったという事か」



ここまで人の心理を読むとは、この女、ドクドクペッパーのようには甘くない。

まるでメッコーラのような辛口の女だ。
 

 
「はぁはぁ……朝から鼻プレイを堪能させていただきました。おかげでお鼻がお汁お噴出のおぬるぬるで御座います」



犬代わりの変態の鼻を壊したのは失敗だった。

鼻汁を滝のように流している変態では、爆発物の匂いを嗅ぎ取れないだろう。

額に滲んだ冷や汗をぬぐい、考える。

どうする。

監視委員会に連絡し、俺の体を検査してもらうか。

それともこの女を拘束し、何をしたか吐かせるか。

どちらも女の自決、もしくは逃亡の恐れがある。 

単独犯ではなく、複数犯の可能性も考慮しなければならない。

 

「ところで、このメス豚、全裸にして奥の奥まで調べますか? それとも拉致監禁して飼育いたしますか? それともメス豚の私を調理いたしますか?」



とりあえず、現状を確認しよう。

まず、今のところ俺の体に別状はない。

毒を仕込まれたとしても遅延性だと思われる。

となると、この場で問題になるのは、仕込まれたのがウイルスだった場合。

空気感染するウイルスだと仮定しても、幸い人払いが済んでいる為、感染は広がらない。

だが、女の仲間が既に他の場所でウイルスをばら撒いている可能性もある。

では、事態を監視委員会に連絡するか。

俺の体を検査してもらえば、すぐに何を仕込まれたか特定できるだろう。

自分が動かない分、女を拘束するより安全パイ。

しかし、携帯を取り出そうとした際、さらなる現状の悪化に気付く。

監視委員会がこの非常事態を受けて、何も動きがないのはおかしい。

既に監視委員会も、この女によって手を打たれているという事だ。

でなければ、女どもが足止めされている時点でこの現状はあり得ない。

では、警察に連絡はどうだ。

警察が無事であっても、連絡は無駄だろう。

市民を守るはずの警察は、何故か市民である俺を守ってくれないからだ。

例え連絡しても『ああ……また君? そういうのはね。病院か人生相談室に相談しなさい』と無視されるのがオチだ。

では、拘束して吐かせるか。

これだけの凄腕、簡単に自白するとは思えない。

拘束

尋問

拷問

自決

毒物

爆発物

ウイルス

空気感染

ワクチン

様々な選択肢と可能性が廻っていく。

下手すれば、大勢の命に関わる事態だ。

いつものように自暴自棄になるわけにはいかない。

この場で頼れるのは自分だけ。

さてどうする?




[25646] 6-瀬世良瀬良は今日の女運が大吉である……たぶんメイビーおそらくね-
Name: G0◆8f298388 ID:42a9ac4d
Date: 2011/02/17 05:44
6- 瀬世良瀬良は今日の女運が大吉である……たぶんメイビーおそらくね -



「……顔を見合わせたのは、ほんの僅かな間だ。このまま放置して逃げよう」

「縛り上げ、目隠しして、全裸にして、股を広げ、ローションを塗り、浣腸して、穴に二股バイブで栓をして、放置プレイで御座いますか。さすがご主人様。並みの人間では妄想で終ることを、躊躇無く実行いたしますね。何故、私にその妄想を実行してくれないのか、まことに残念無念で御座いますっ」



今まで生き延びてきた経験をフルに使って、結論を出す。

ここにある貴重な情報源は、自分とこの女の2つ。

英雄ぶって鞄を漁り、トラップに引っかかり自分が死ぬのは愚行。

拘束し、女に自決されるのも愚行。

この場は、いかに両方の情報源を生かすかが鍵となる。

ここはこのまま拘束せず、気絶した振りを止めるまで、隠れて様子を見ることにしよう。

女は俺が鞄の中を探った事に気付いているはず。

どちなると、ワクチンか解毒剤があれば、奪われたかどうか確かめるはず。

確かめる動きを見せたら、即、変態メイドを突撃させて奪取。

確かめる動きを見せないのならば、即、変態メイドを突撃させて拘束。

この場で拘束するより消極的な方法ではある。

だが運が良ければ、女を拘束でき、尋問するリスクを負わず、直ぐにワクチン、解毒剤を確保できる。

運悪く、ワクチンも解毒剤も無く、女に自害されたとしても、自分の身の安全だけは確保できる。

問題は俺に残された時間だけ。

 

「起きる前に逃げるぞ。変態」



鞄から手を抜き、素早くポケットに突っ込む。

これはもちろん鞄から何かを持ち去るふりだ。



「バッチ来いで御座います」
 


寝転んで足を開く変態メイドの股に石をぶん投げたくなったが、余計な運動で心拍数を上げ、ウイルスや毒を活性化させたくない。

深呼吸っ、我慢っ。
 


「そういえば、ご主人様。本日はご主人様のクラスに、転校生様が来る事をご存知ですか?」

「ホームルームの時、言ってたらしいな。どこかの変態メイドが発情したおかげでっ、俺は聞こえなかったがっ」

 

股を広げた姿勢を保ちっ、鼻汁の軌跡を残して追ってくる変態メイドっ。

子供が見たらっ、一生のトラウマになりそうなぐらい不気味だっ。


 
「その転校生様は、淫乱公衆肉便器メス豚女らしいのもご存知ですか?」

「また女かっ。俺には近寄って欲しくないもんだっ。あとそこの変態エイリアンっ。それ以上近づくなっ」

「ちなみにその転校生様、身長152cm、体重42kg、バスト78cm、ウエスト56cm、ヒップ80cmの稀に見る不細工らしいのもご存知ですか?」

「不細工だろうが美人だろうがメス豚だろうがっ、俺に近寄ってこなければどうでもいいっ。あと下着ぐらい履けっ」

 

しかもご丁寧に下の毛をハートマークに剃毛してやがったっ。

 

「それはどちらも無理な話で御座います」

「お前は痴女でっ、俺の女運は最悪だからとでも言いたいんだろっ。クソッ、ここから生きて帰ってもっ、また命の危機かっ」

「何を仰っております。既に第一種接近遭遇を済ませているではありませんか」

「どこでだっ。のこぎり持って『アナタをバラバラにしたいほど愛してるわ』って追っかけてきた電波女かっ。毎晩毎晩『好き好き好き好き……』って電話を掛けてきたストーカー女かっ。それともノーパン変態メイドかっ」

「そちらのメス豚様で御座います」

 


変態メイドが、まだ気絶している振りをしている女を足で指す。

その隙に、変態メイドの体重を支えている方の足を払う。

変態大侵攻は尻餅をついて、ようやく止った。
 

 

「……コイツか。転校生はテロリストって、どこの地雷ゲーのストーリーだよ」

「そちらのメス豚様、アホ毛で薬物中毒で不細工で淫乱で公衆肉便器以外は普通のメス豚様ですが?」

「アホ毛で薬物中毒で不細工で淫乱で公衆肉便器でメス豚でテロリストの普通の奴か。俺の女運はついにここまで達した……おい、そこの変態。今なんて言った」

「私はご主人様専用淫乱肉便器のメス豚に御座いますっ」

 
 

尻餅状態のM字開脚から、V字開脚に変体するど変態メイドっ。

しかもこのど変態っ、今度は首を軸に胴体を回転してっ、飛びやがったっ。
 

 
「足を広げるなっ。宙を飛ぶなっ。ぶーんって言うなっ。お前が変態でキチ○イで論理外痴的生命体のメス豚なのは知ってるっ。俺が聞いたのはこの女の事だっ」

「強姦魔に襲われ、無残にも後ろと前の処女を散らしたあげく、鞄を物色された、ごくごく普通の哀れなアホなメス豚様のことで御座いますか?」



俺の周りを蝿のように飛ぶ変態蝿。

そんなことよりも、聞き捨てならない単語が出たような気がする。

俺には一生縁のない言葉を聞いたような気がする。



「おまえ……今、普通って言ったか?」



普通に変態に聞き返してしまうほどの衝撃。

はっきり言って、俺は今、普通に動揺している。



「はい。私に比べれば、かなりの不細工では御座いますが、普通のメス豚様で御座います」

「……ふん。騙そうとしてもそうはいかないぞ。今まで俺に近づいてきた女は全員イカレタ奴等だ。コイツは暗殺者に決まってる」



脳裏に浮かんでくるのは、俺の人生を通り過ぎていった女達。

訂正だ。

通り過ぎたのではなく、当て逃げしていった女達。

それも訂正だ。

当て逃げしたあげく、現在進行形で俺に損害賠償を請求してくる女達。



「沙紗羅佐緒里(ササラサオリ)15才処女、本日をもって前後非処女。母の仕事の都合で転校。趣味はカラオケ、学業優秀、運動神経上の下、友人多数、あだ名はサオリン。中学生の頃に初恋破れ、高校デビュー。そして転校直前に振られた相手に告られるも、見下した態度で振る。おやまあ、街角メス豚図鑑に載った事もあるようで」

「つまりだ。俺は普通の女と第一種接近遭遇し、普通の女だとも知らずに投げ飛ばし、普通の女の鞄を物色し、あまつさえ、60度近く首を捻った普通の女を放置していると言いたいのか」

「はい。ご主人様らしい鬼畜行為で御座います」

「自分で言ってて馬鹿らしくなってきた。はぁ……俺が普通の女と第一種接近遭遇する? 隕石が俺に直撃する確率より低い」

 

動揺していた自分が急激に冷めていく。
 
俺が第一種接近遭遇する女は、スリか、美人局か、詐欺師か、誘拐犯か、殺人鬼か、暗殺者か、テロリストか、電波か、変態か、変人か、宇宙人か、人類規格外かのいずれかだ。

この女が普通の女である確率は、万馬券を拾い、その金で宝くじを買ったら前後賞合わせて当選、さらに、その金で家を買ったら庭から徳川埋蔵金と石油が出るぐらいの確率。

夢の中ですら出てくる女はっ、ろくでもない女だというのにっ。



「あり得ないっ。だいたい見ろっ、この状況をっ。首から下だけ回して飛んでる変態がいるのが俺の現実だっ。白目を剥いてっ、60度近く首を捻ったアホ毛の普通の女なんて絶対あり得ないっ」



空飛ぶ変態がいるぐらいだっ。

60度近く首を捻れる白目の暗殺者がいてもおかしくないっ。



「それがあり得るので御座います。本日のモンタの顔色占いによりますと、ご主人様の女運は2000年に1度の大吉で御座いますから」

「くじを引いてもっ、占い師に見てもらってもっ、雑誌を見てもっ、テレビを見てもっ、俺の女運は大凶しか出たことがないっ。モンタも黒い顔しか見たことがないっ」

「それが本日のモンタには、死相が浮かんでおりました。本日が2000年に1度のモンタの代変わりの時期なのでしょう」

「嘘をつけっ。どうせ今日もモンタの顔は黒いんだろっ」



変態行為をしながら真面目な顔で語る変態がいるのが俺の現実だと確認する為、携帯を開き、テレビを見る。

この時間なら、まだモンタが稼動しているはず。

  

『やー、奥さん。今日はまいちゃったよ。朝起きたら歯槽膿漏と一緒に死相が浮かんでてさ。一回死んじゃったんだよ。まいっちゃったね、ほんと。あ? ボク? ボクは弐号機。だから、今後の番組編成にはなんの問題もないから、視聴者の皆さん、安心してくださいね』



テレビの中では、前に見たよりも黒々しいモンタが、より胡散臭い笑顔でオヤジギャクを振りまいていた。



『あとこれ、聞いた? NASAが発表しちゃったんだけど、今、日本に大型の隕石が接近してるらしんだよね』

『政府が慌てちゃって、宇宙人からの友愛メッセージだとか、分けわかんないこと言い始めるし』

『しゃあないから、ボクの予備の参号機から伍号機にツルハシ持たして飛ばしてさ。隕石を粉々にしちゃおうと思うんだよ。ん? 大丈夫。ボク、壱零号機までいるから。朝も夜も6000年先まで現役でいけちゃうから』



モンタの隣に立つ女子アナが『凄いですね。世界初の試みですね』と馴れ馴れしいモンタを適当にあしらう。

それに合わせて、周りのコメンテンターがヨイショし始めたのを機に携帯を畳む。



「……もう一度だけ聞く。あの女は普通なのか。特に精神的に」



変態の精神保障なんて当てにはならないが、念のために聞いておく。



「私に比べれば、アホ毛以外まったくもって特徴の無い、ただの淫乱メス豚様で御座います」

「普通の女だと仮定して、今日の異様な静けさはどう説明する。分かった。やっぱりコイツは普通じゃない。体内から人を遠ざけるガスを発しているんだ」



ガスが効かない俺は人ではないのかとか、そんなものはどうでもいい。

この首を60度近く捻った女が、普通ではないことを証明できれば、もうどうでもいい。



「ご主人様好みの香ばしいガスで御座いますね。ですが、この静けさの原因は単にメス猿様、メス犬様、メス猫様のお三方に、席を外せない急用が入ったからで御座います」

「何を言われても、もう騙されないからなっ。どうせ初代モンタもお前が壊したんだろっ」

「モンタもメス豚も胡散臭いのは無理も御座いません。ですが、ズバッっと留守電をお聞き下さい」

「留守電? 朝っぱから掛けてくる奴なんかっ、ワタシワタシ詐欺かっ、いたずら電話だっ」


 

と言いつつも、震える手で、普段は確かめもしない留守電をチェックする。

今日もどこの不審者だか知らないが、朝から留守電が入っているようだ。

 

『メッセージは4件です』

『はぁはぁはぁはぁ……きょ、今日のパンツは何色で御座いますか?』



留守電には、散々聞き飽きた声で、散々なメッセージが入っていた。



「それは私のハニーボイスで御座います」

「着信拒否」

「着床拒否はさせてくれないくせに……」

「存在拒否っ」

 

気を取り直して、次のメッセージを再生する。



『瀬良ぁ? 今日ぉ、なんだか朝から昨日の献金の事でぇー、マスゴミが五月蝿くてさぁ。朝の挨拶にいけなくなっちゃった。ごめんねぇ。まったく~、なんで1億4000万ぐらいでごちゃごちゃいうのかなぁ。おっかしいよねぇ? 首相なんてもっと脱税してるのにさぁ』

『おはよう御座います、瀬良様。本日の朝のご予定ですが、残念な事にキャンセルとなってしまいました。インターネットの掲示板ニコチャンネルにて、瀬良様の暗殺計画を企む不届き者を発見いたしましたので、今から兵を率いて討伐に向かわなければなりません。ですが、体が離れても、私の心は常に貴方様のお傍に』

『マイスイートハート、グットモーニングと言いたいところだが悪い知らせだ。本日、朝5時43分12秒。我が社のサーバーが保有するマイスイートハート秘蔵写真4テラ分が、オトコスキーリスクに流出した。私は対策の為、朝から会議に出席しなければならない。2時限目には必ず戻る。以上だ』

 

なるほど。

メッセージの意味を素直にそのまま受け取れば、この静けさを説明する理由にはなる。

手が込んでいるものだ。



「最近の合成音声は良く出来てる。技術の進歩は末恐ろしい……」

「嗚呼……さすが私のご主人様。決して自分の過失を認めないその態度。ご立派です」

「まあ……念のため確認だ。念のためだぞっ」
 
 

さらなる確認の為に、電話帳から昔馴染みの番号を呼び出す。

呼び出すのは、俺を超常現象呼ばわりし、1月ほど俺に付きまとったFBI捜査官。

名前はフォックス・スター・モレダー。

あまりに頭に神様がご降臨過ぎて、一度FBIを首になったが、今ではなんとかFBIに復帰して、俺の担当になっている。

宇宙人だとか超能力だとかUMAだとか絡むと、政府に消されるとか言い始める困った奴だが、超常現象以外なら意外と信用できる。
 


「ああ、モレダー? 久しぶり。ああ? お生憎様っ。まだ童貞だっ」

「今度は金星人の女にでも拉致られたか? それは5年前に経験済みだっ。羨ましいじゃないっ。今日、俺と同じ学校に転校してくる女を調べて欲しいんだよっ」

「はぁ? アホ毛の普通の女だから俺には関係ないだろ? 自分でもそう思うんだが、実際こいつに道端でぶつかってんだ。だからっ! 自分でも信じられない嘘を言うわけないだろっ! いや、だから調べてくれと……切れた」



アハハハーンとムカつく呆れ声を最後に、携帯が切れた。



「さて、ご納得いただけましたでしょうか」

「おい、変態メイド。お前、モレダーのどんな弱みを握った」



最近のアイツの弱みといえば、コマゾンからイカ型宇宙人抱き枕を買った事。

もしくはそれが届いた際、あまりの衝撃にヨーツベにアップしてしまった、狂喜のモレダー乱舞動画。

2つとも、本人は汚点だと心の底から思っていないが、アイツの相方であるスカラーにばれれば、レッドカードで一発退場。

スカラーに『モレダー……あなた頭に憑かれてるのよ』と頭にスカラー波発生装置を取り付けられ、人間としても一発退場。

アイツの事だ。

うちの変態メイドを利用して、他にも怪しいグッツを日本から仕入れ、その際に弱みを握られたのかもしれない。



「ご主人様、私は朝は淫乱、昼も淫乱、夜はど淫乱のただの美少女メイド。FBI捜査官の弱みを握るなど、到底無理で御座います」

「嘘をつけっ。抜いても抜いてもっ、どこからともなく生えてくる変態メイドがっ」

「まったく……疑り深いくせに、底が浅いチキンなご主人様で御座いますね。そんなご主人様なんて、カーネルさんに掘られてしまえ」

「これ以上嘘をつくならっ、チキンな頭をフライドしてっ、堀に沈めるからなっ。1人で寂しければっ、いきだおれ八郎とすぽこん修造と一緒に沈めてやるっ」



俺の人生万年Bクラスでいいからっ、24年間といわずっ、コンクリートを流し込んでっ、永遠に沈めておきたいっ。

神様っ、仏様っ、バータ様っ。

どうか変態の存在もっ、普通の女の存在もっ、嘘だと言ってくれっ。



「それはアゲアゲな素敵3P提案では御座いますが、残念ながら真実で御座います」

「おかしい……この変態メイドが、こんな美味しいチャンスを逃すなんて、あり得ない。まさか本当に……」
 


ゆっくりと女の方へ振り返る。

女はまだ逆立ちに失敗したような格好をしている。

首がさらに5度ほど悪化し、四肢が痙攣している。

昔、ゲリラの女に拉致られた際に見たことが光景だ。

ゲリラの女に銃底で頭をぶん殴られたゲリラの新兵が、ああなって、翌日には姿を消していた。



「いいか……最後の質問だ。真面目に答えろよ。コイツは、ほんっ…………とうにっ! 普通なのかっ。一般的な基準だぞっ! お前の世界基準じゃないぞっ! 人類としてのグローバルスタンダードだぞっ!」

「見ての通り、ごくごく普通のぴくぴく瀕死のげらげら阿呆のメス豚で御座いますが?」

「……なぜ、最初にそれを言わなかった」



今ここに、神も仏もバータ様も死んだ。

慈悲もなく、変態力銀河一の変態民族に首をへし折れられた。



「当然で御座います。ご主人様のお仕置きを受ける、またとないチャンス。誰がこのチャンスを逃すのでしょうか。いえ、逃さない。ハンターチャンス。思わず反語で答えてみました」

「なるほど……それはお前の道理に適っている」

「それとこちら、ご主人様が投げ飛ばした瞬間、ご主人様が鞄を開ける瞬間の写真で御座います。パンチラも逃さない。シャッターチャンス。思わず激写してしまいました」
 

 
飛んでる変態メイドの口からインスタントカメラのように写真が出てくる。

無言で口から2枚の写真を受け取り、画像が浮いてくるのを待つこと30秒。



「……」



1枚目に浮き出てきたのは、茄子とトウモロコシを両手に女に跨っている男。

2枚目は茄子を舐めつつ、女の口にトウモロコシを突っ込む下半身素っ裸の男。

2枚ともご丁寧に、目元と下半身にモザイクつき。
 


「曲線がたまらない茄子に、荒々しい粒々のトウモロコシ……このパンチラ少女はこれからいったいどうなるのでしょう。さあ、ご主人様。レオナルド森本さん風のナレーションは終わりました。ずぶっと続きをどうぞ」

「勝手に事実を脳内変換するなっ」
 
「あっ!……あっ!……あっ!……嗚呼ぁぁぁ! ご馳走様で御座いますぅぅぅ!」

 

男ならっ、黙ってどすっと4連撃っ。

顔面正拳四段突きを喰らった変態は墜落して悶え狂う。

 

「……思わず変態に餌を与えてしまった。だがどうする。普通の女なんて初めてだ……まさかっ!? 首を捻ったぐらいで死んでないだろうなっ!?」 



駆け出して直ぐにふと思い、足を止める。

普通の女に俺が触れて大丈夫なのだろうか。

学校で試しに何度か触れたことはある。

だが、触れられたことに気付いた奴は全員、大声を上げて泣きながら逃げられてしまった。

あれはトラウマの1つだ。



「だが待て。それはあくまで俺の悪評を知っているからであって、知らない奴なら触れても大丈夫だろ」



あと数メートルというところで、またふと思い、足を止める。

普通の女にどうやって声をかければいい。

まずい。

声をかけたら、常に普通じゃない女だったもんだから分からない。

そもそも普通の女は、どうやって扱えばいい。

少し冷静に考えてみよう。

このまま止めを刺す?

いや、それは相手が変態メイドや暗殺者の場合だ。

眼が覚める前に、簀巻きにして電柱からぶら下げる?

いや、それは相手が変態メイドや電波の場合だ。

まいった。

これまでの人生の中で、普通の女なんて近づいてこなかったから、まったく分からない。

 

「……本当に逃げるか」

 

後ずさりしたところで、またまたふと思う。

普通の女が目を覚まして、警察に駆け込まれたら厄介だ。

逮捕されのるが恐いのではない。

逮捕され、あの3人の権力、財力、軍事力によって保釈されるのが恐いのだ。

あの3人に貸しを作るのは、後が恐ろしい。
 


「……まずは証拠隠滅だ」

 

俺が通る通学路は、避難が完了しており無人。

目撃される心配は無い。

倒れている女の両手両足を縄で縛り、ハンカチを口に押し込み、ビニールテープで封をする。

問題はこれをどうするかだ。

 

「埋める、流す、捨てる……どれも駄目だ。決定打に欠ける」



いずれも時間稼ぎにはなっても、決め手にはならない。

もっと確実に殺れる方法を考えねば。



「ごひゅんひはま、ごひゅひんはま……きぇーーーーーーーーーっ!! ごほん。埋める、流す、捨てるは使用済みの非処女で御座います。処女厨のご主人様には相応しく御座いません。なので、ここは一つ肉棒で突くという選択肢を選んでみてはいかがでしょうか?」

「口からスタンガン突っ込んでっ、電流爆破を希望かっ。変態めっ」



変態メイドが、もう4連撃から復活しやがった。

しかも、気合一発で口をふさいだビニールテープを吹き飛ばし、尺取虫のように擦り寄ってくる。



「お待ち下さいご主人様。ちゃんとウィッキーぺディアをお読み下さい。SMをググレカスすると、きちんとプレイ方法から注意点まで載っております。ちなみに私、ボンデージの項を読み、深く感銘いたしました」

「このプレイにセーフワードは無いっ。首くくれカスっ」

「私にも安全日というものが御座いません。常に危険日の心構え。さあっ、ご主人様っ、腹くくって中に出すっ」

「常識もないだろっ。おかげで俺は毎日危険日だっ」



証拠隠滅=目撃者抹殺。

倒れている女=変態。

つまり変態メイド抹殺。

普通の女を背中に担いで、目撃者たる変態のメイドを蹴り転がす。

変態メイドは、なだらかな坂を自分から転がっていき、電柱にぶつかり、顔面からブロック塀に激突。




「はあはあはあ……なんという新感覚ハードプレイっ。私、股間と一緒に新しい世界が広がって逝きそうで御座いますっ」




さすが変態。

鼻から血を垂れ流して、もの凄いヘブン顔。



「ううん……」



変態メイドのペースに乗せられて、騒がしくしすぎたか、普通の女が背中で身じろぎする。

首は曲がっているが、どうやら生きているようだと、ほっとするのも束の間、今の現状に気付く。

肩に首を60度近く捻った女を担いだ男。

ヘブン状態の血まみれ変態。

即ち俺=変態誘拐犯。

このまま起きられたら、明らかにあらぬ疑いをかけられてしまう。



「まだ朝じゃないっ。寝てろっ」

「ぐぎゃっ」



とりあえずの時間稼ぎにデスバレーボム敢行。

脳天から叩き落ち、踏まれた蛙のような声を上げる普通の女。

首に対する顔の角度が120度まで悪化し、口から泡も吐いている。

これで完全に失神しただろう。

さて、時間を稼いだところで、これからどうする。



「カウント、1、2、3。ご臨終で御座います」

「……」



坂を転がって戻ってきた変態メイドが、3回ゴングを鳴らす。

そんな中、慌てず騒がず深呼吸。

呼吸、心拍、瞳孔チェック。

呼吸音低下。

心拍数低下。

瞳孔対光反射若干有り。

そしてただ今、呼吸音消失。



「おおさおびっちよ、しょじょのまましんでしまうとはなさけない」

「復活の呪文を書いたメモはどこだっ」



いつもの癖で変態用の投げ技を喰らわせてしまったっ。

慌てふためき気道確保っ、人工呼吸っ、心臓マッサージっ。



「死姦という禁断のテーマに果敢に挑むそのお姿。それでこそっ、私のご主人様で御座いますっ」

「まだ死んでいないっ」



アホ毛を掴みながら人口呼吸っ、アホ毛を掴みながら心臓マッサージっを繰り返すっ。

まずいっ、アホ毛がヘタってきてるっ。

これでは気道確保が出来ないっ。



「なるほど。ならば、せめて腹上死をというわけで御座いますねっ。私もこれからちょっと死に掛けますのでっ、ぜひ私めにもっ」

「いいからお前は深く死んでろっ」



襲撃は無いわっ、罠も無いわっ、普通の女に会うわっ、変態は飛ぶわっ。

なんなんだっ。

この異常な朝はっ。



「ご主人様……それが普通というもので御座います」

「いたって真面目に普通に諭すなっ」

「それでは……これが普通というもので御座いますっ」

「だからといってブレイクダンスしながら諭すなっ。しかも死にかけの奴の上で踊るなっ」



死にかけている普通の女にっ、その上で両手両足縛られながらもっ、ヘッドスピンかます普通じゃない変態っ。

そんな変態に普通を諭される俺っ。



「実に踊りやすいまな板でしたので、つい」

「まっ平らだからって踊るなっ」



胸から払いのけてもスピンし続ける変態は無視っ。

アホ毛の蘇生措置続行っ。

立てっ、アホ毛28センチっ。

じゃなかったっ。

蘇れっ、まな板の鉄板っ。



「しかしお三方がご不在でも、ご主人様は今日も通常運行で御座いますね。私も付いて回る甲斐が御座いました」



そうだったっ。

これが俺の普通の朝だったっ。

全てこの普通の女のせいだっ。

この普通の女が出でこなければっ、いつもの普通の朝だったのにっ。



「全ての元凶っ。黙ってアホ毛を垂らしてないでっ、責任取って生き返れっ」

「なんという強引な責任転嫁っ。そんなご主人様に私の下半身のドラムがフィーバーっ。12番台大当たりで御座いますっ。モーニング設定ゆるゆる妊娠可能で御座いますっ」

「俺は朝から大はずれだっ。責任者呼べっ。この変態の人物設定がきつ過ぎるっ。あっ……」



フィーバーした変態によって穴あきコンドームがばら撒かれる中、普通の女の口から吐き出してはいけないものが吐き出された。

それはコンドームに祝福されながら、天に昇っていく。



「待てっ。そこの普通の魂っ」



昇天していく魂を掴もうと手を伸ばす。

が、肉体と同じ凹凸のない魂に手が滑る。



「胸が駄目ならっ、アホ毛だっ」



塀を使って三角蹴りっ、魂のアホ毛っぽい部分を掴んで引き止め成功っ。



「今度こそ生き返れっ。アホ毛の貧乳の普通の女っ」



掴んだ魂を口の中に突っ込むっ。



「う~ん……」

「おや? 天保山並の微乳様が息を吹き返したようで」

「もう安心しろっ。お前の貧乳アホ毛魂も4.5メートルあたりで救出してやったからなっ」

「ぐぅっ……」




呼びかけに普通の女は声を上げ、アホ毛を立たせ、身を震わす。

どうやらアホ毛も普通の女も息を吹き返したようだ。

3秒ルールでギリギリセーフ。

あと1秒遅れていたら手遅れだった。

掴みやすいアホ毛に感謝だ。



「おいっ。しっかりしろっ」

「……」



命綱であるアホ毛を掴んで揺さぶるが、今度は返事がない。



「疑惑のBカップ様の断末魔で御座いましたか」

「だっ・・・誰が疑惑のBカップだっ」

「死ぬなっ。そのまま死ぬなよっ」

「……」



掴んでいたアホ毛が『もうアホ毛の時代じゃないよ。さようなら』とでも言いたげにヘタっていく。




「遺言は『私は疑惑のAカップじゃない。間違えてもらっては困る。正真正銘のダブルAカップだ』で御座いますね。しかと私が承りました」

「私はっ……余裕のBカップっ」

「よしっ。そのまま余裕で生きてろっ」

「……」



アホ毛が『アホ毛時代カムバック!』と一度は頑張ったが、またヘタっていく。




「寄せて上げての見得のメス豚様が、今度こそご臨終なさいました」

「寄せてっ……ないからっ」

「根性寄せ集めて生きろっ。アホ毛の普通の女っ」

「……」



このアホ毛、何かおかしい。

さっきから変態の呼びかけだけに反応している。




「どうやらこちらのメス豚様、アホ毛より並盛りの胸に並々ならぬこだわりがあるようで。これが一杯330円のプライドでしょうか」

「誰が2つでっ……税込み660円だっ」

「言わずとも分かっております。紅しょうが山盛りの悲しい大盛りで御座いますね」

「誤魔化してなんかっ……ないもんっ」



なるほど。

まな板に並ぶ並盛2つに、山盛りの紅しょうがを追加したくなるほどコンプレックスがあるようだ。

その証拠にアホ毛が『アホ毛ある故に我あり!』とまた立ち始めた。

それならば、俺がやるべき事はただ1つ。



「庶民に優しい並盛り女っ、脂肪注入で偽装してでも生きろっ。今、医者に連れて行ってやるっ」



それはっ、並盛への徹底的侮辱による救命行為っ。



「私はっ……安全安心国産天然偽り無しっ」



アホ毛を掴みっ、普通の女を担ぎ上げるっ。

担ぎ上げたらっ、並盛に関するあらん限りの罵声を浴びせつつっ、学校へ全力ダッシュっ。

俺の隣には変態がヘッドスピンしながら並走っ。

いったいこれはなんの競技だっ。




「死をも超越するこのMっ気。このメス豚侮れない……ついに私のライバルが現れましたか」




普通が異常になっているこの異常な生活っ。

誰でもいいっ。

誰か俺に普通の普通ってものを教えてくれっ。


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