はじめまして、怪盗婦女子と言います。今回、自分史上初めてSS作品を投稿させて頂きます。某天使と悪魔な神作品が先行されている現在、自分のようなヘタレとしては非常にアレなのですが、生暖かい視線で許してやってください。注意点を表記致しますが、若干のネタばれを含みますのでご注意下さい。・本作は剣と魔法と学園モノ。シリーズの世界観をベースとしています。・ととモノシリーズの元となったシリーズの設定、世界観が当然のごとく語られます。・それに伴い、捏造設定も出てきます。・主人公がさくっとチートですが、あまり物語には関与しません。戦闘自体が少ないのです以上の事を許せるならば、お楽しみください。2011.2.13:誰も見ていないのを良い事に、さくっと全面的に書き換えてみたりする……
古代エンパイア文明―――。高度な魔法と科学技術によって、現代では考えられない超的産物を生み出した超文明。わずか一夜にしてハウル大陸を焼き尽くして滅び、その叡智の多くも失われた。現在では幻の空中都市イカロスに、その叡智の全てが眠ると言う伝説のみが残っているのみである。しかし、この超文明の存在こそが、ドラッケン学園、タカチホ義塾、そしてプリシアナ学院に至るまでの冒険者を育成する施設を生み出すに至った、そもそもの切欠である事を知る者は少ない。そのルーツを辿るには、ノイツェシュタイン王家設立よりも前、クライス王家の時代まで遡らねばならない。が、この時代の文献は基本的にノイツェシュタイン王家により黒歴史となっている。身内(と言うか、始祖?)の不祥事を消す為だ。別にこの不祥事を消す為だけなら、クライス王家の事を黒歴史にする必要は一切無い。正統なる王家の証たるニルダの杖は、ノイツェシュタイン王家に正しく譲渡されたのだから。問題は身内の不祥事だけを消しても、クライス王家の事を歴史に残せば、どうしても身内の不祥事が隠せなくなる事にあった。もういっその事、全部黒歴史にしてしまえ!と思ったのだろう。かくして、クライス王家の存在は歴史の闇に消え、その存在を知るものはいなくなった。当事者であるノイツェシュタイン王家と、クライス王家の末裔であるアルセーヌ・ジュラルド・マーフィーを除いて。剣と魔法と学園モノ。XTH#1.旅は始まるそもそも現在の学校の源泉であるとされる始原の学園にも、実はモデルがある。それがアーレハイン学府だ。クライス王家によって作られた、この学府こそが全ての学園のテストモデルとなっている。では何故、この学府が作られたかと言えば、先に述べた空中都市イカロスへと到達する為なのだ。切欠はクライス王家が発見された迷宮、ロードである。。この迷宮は魔法動力によって維持された未知なる迷宮であったらしい。ロードによって御伽噺であった古代文明の存在、空中都市イカロスの存在が初めて実証された。空中都市イカロスに外部から侵入する方法は一切無い。空を飛べば、と思うかも知れないが、空中都市イカロスは最強種であるワイバーンによって守られている。この防御を突破する事は人類種には不可能だ。となると、空中都市イカロスへの到達は諦める他無いのだが、やはりロードによって問題は解決した。空中都市イカロスに到達する為の移動手段として、イカロスの足と呼ばれるゲートキューブの存在が発覚したのだ。ゲートキューブとは異次元フロアで構成された迷宮へと転送させる為の装置だ。この異次元フロアは、数フロア移動しただけで、空間を大幅に超越して移動する事が出来るものであった。そうしてゲートキューブを探す為に、アーレハイン学府が作られた。記録によれば、ゲートキューブは幾つか発見されたらしいが、空中都市イカロスに到達する為のイカロスの足は発見出来なかったようだ。これらの事実は、今となっては三大学園の校長でさえも知らぬ歴史であり、アルセーヌの住む城……奇巌城の文書に残るのみである。奇巌城の地下図書に眠る数万にも上る文書は、ノイツェシュタイン王家にニルダの杖が譲渡される前に、ちゃっかりとクライス王家が持ち去ったものだ。その多くは迷宮や歴史、古代の遺産に関するものである。また、クラウス王家からノイツェシュタイン王家へのニルダの杖の譲渡と前後して、ウィンタースノー家にKoD's(Knight of Diamond's)アイテムが譲渡されている。神剣ハースニール、KoD'sシールド、KoD'sアーマー、KoD'sヘルム、KoD'sガントレットの5種のパーツで構成された伝説の武具一式だ。高い攻撃力と防御力を持ち、それぞれに強力な魔法の力が秘められている。この武具がウィンタースノー家に譲渡された詳しい理由については記録にも無い。アガシオン事件の功績によるものと考えるのが普通だが、何か他の理由があったのかも知れない。「アルセーヌ?」呼ばれた声で、思考の海に沈んでいた意識が浮上した。アルセーヌはセレスティアとディアボロスのハーフで、輝くような金髪と、血のような真紅の瞳を持つ少女だ。しかし、セレスティアの象徴である羽も、ディアボロスの象徴である角も受け継いではいない。「うん?どうかしたのかい、シャル?」「どうかしたのかい?じゃないわよ……何日、此処に閉じこもってるの!」シャル…艶のある黒髪を膝まで伸ばした、ヒューマンの少女の問い掛けに、アルセーヌは少しだけ考えた。最後に太陽を見たのは、何時だっただろうか?「……三日、だったかな?」「今日で四日目、ほら外に出るわよ」シャルに手を引かれ、立ち上がるアルセーヌ。アルセーヌの方が若干だが身長が高い為、立たせたシャルの方が見上げる形になる。手を引かれたまま、書庫室から出たアルセーヌは窓から差し込む太陽の眩しさに、目を細めた。「……ああ、太陽が眩しいね」「四日も地下に閉じこもってたら、そうだろうね」シャルが大きくため息を吐く。アルセーヌに近代文明的な生活を送らせる事が、自分の使命とシャルは信じているのだ。「少し気になる事があってね、調べものをしていたのさ」「国家転覆でも狙ってるの?」「うん?まあ、機会があれば国家の一つくらい手に入れてみたいとは思うけど、ね」「興味はあるんだ」「それはそうさ。世界を裏から支配してるだなんて、死ぬまでに一度は言ってみたいよ」「魔王にでもなりたいの?私は勇者になれば良いのかしら?」「……僕の妄言なんぞ、どうでも良いのだがね。それに、国家転覆は無理でも、ノイツェシュタイン王家に代わって僕が王位に付く位なら現状でも不可能では無いよ」自信満々で言い放つアルセーヌに、シャルは疑いの目を向ける。「それこそ妄言でしょう?」「そうでもないのさ」日当たりの場所に出た二人は、適当な場所に腰掛ける。奇巌城にはアルセーヌとシャルしか住んでおらず、メイドは雇っていない。「確かに正統王家の証たるニルダの杖はノイツェシュタイン王家に譲渡したけど、王位継承の証であるイアリシンの宝珠は僕が受け継いでいるからね」「イアリシンの宝珠?」「ああ、イアリシンの宝珠は善と悪の調和を象徴したものでね、遥か昔にエル’ケブレスよりもたらされた宝珠だよ」アルセーヌは胸元から下げていた宝珠を指差す。それでも、シャルは疑いの眼差しでアルセーヌを見ていた。「そんなに信用が出来ない人間かな、僕は?」「普段の行いが行いだからね」斬って捨てられ、流石に苦笑するアルセーヌ。確かに善人であるとは言い難い人間だと、アルセーヌ自身も自覚はしているのだが……「ねえ、シャル?」「……?どうしたの?」「僕が王位に就いたら、ね」「アルセーヌは……自分で決めた道を進む。私は、それに付いていくから」少しだけ迷った心を、友人は後押ししてくれた。約束された未来よりも、「……僕に王位は似合わないね。精々が悪の親玉として正義の勇者にやられる役だ」「それは大変だね。そうならないように、私が監視してないと」「……ありがとう」自分を選んでくれた。その事が、アルセーヌは嬉しかった。「空中都市イカロスを見つける……シャル、誰も辿り着いた事の無い場所まで、連れて行ってあげるよ」「うん、連れて行って」穏やかな太陽の光と、出会いと別れを運ぶ若草色の風が、始まりの季節を彩っていた。
前髪が目元を隠すようになり、流石にアルセーヌもうっとおしく感じるようになった。いつもそうであるように、髪を切るのはシャルに頼むしかないのだが、今回は後回しになる。「ねえ、シャル?」「なに?」「これからお客さんが来るんだ。準備してもらっていいかな?」シャルが呆れた顔で、ため息を吐いた。「また?今度は何をしたの?」シャルの問いに、アルセーヌはポケットから綺麗な青の宝石を取り出す。やたら笑顔のアルセーヌに、もう一度シャルはため息を吐いた。「今回は中々に洒落た置手紙を残したんだ。ルージュの伝言さ」「誰のルージュよ」「それはもちろん、我が親愛なるキルシュトルテ・ノイツェシュタント姫君のだよ。洗面台に書置きしてきた」本日三度目のため息を吐くシャル。これで、都合三回の幸せが逃げてしまった。逃げた幸せが戻ってくる方法は無いものだろうか?なんて、しょうもない事を考えてしまうシャルだが、アルセーヌはまったく気にせず、会話を続ける。「あの小さな体で、顔を真っ赤にして威嚇するのが可愛いのだよ」「本当に良い性格してるわ……」「そんな褒めなくても……ああ、どうやら到着したようだね」「褒めてないから。それと、あんまり虐めないでよ?」「それは難しいね」「アルセーヌ!!!!!!!!!!」話している間に、顔を真っ赤にしたディアボロスの小動物……もとい、キルシュトルテ・ノイツェシュタントが居間に怒鳴り込んできたのだった。剣と魔法と学園モノ。XTH#2.女王の首飾り「……344回じゃ。これが何の数字か、お主は分かっておるか?」地の底から響いてきたかの如き声で問いかけるキルシュトルテに、しかしアルセーヌは平然として答える。この程度、慣れているのだ。「婚約された数かい?モテ期の自慢でもしたいのかな?」「違う!!お主が余に対しての嫌がらせを行った数じゃ!!!」「嫌がらせとは心外だね。僕は君の事が可愛くて仕方が無いというのに」「宝石を盗んだのが153回、現金を盗んだのが106回、顔に特製のペンで落書きされたのが85回じゃ!!思い出したが、起きたらベッドごとプールに浮かんでた事もあったの!!!」「それだけしかないのかい?お恥ずかしい」「お恥ずかしい、じゃないわ!!!!!!!!!」怒鳴りすぎて、酸欠で体を震わせるキルシュトルテ。その姿が可愛くて仕方が無いアルセーヌは、さらにイヂメル事を心に決めたのだった。「冗談だよ。僕は一度たりとて、君が就寝の際に抱いている熊のヌイグルミが置かれた可愛い寝室になんか入った事さえないのだから」「何を白々しい!」「大体、今まで盗まれた物はプライド以外なら全部帰ってきてるのだろう?良心的じゃないか!」「料理の中に混入されておったり、木に吊るされておったり、枕の中に隠したりするのを良心的と言うのなら、そうじゃろう!」「悪戯をこよなく愛してるのだろう?ちょっとした茶目っ気じゃないか!笑って許してやれる器量を持ったらどうかな?」笑いながら、頭でも撫でようとキルシュトルテに手を伸ばすが、即座に払われた。肩を竦めながら椅子に腰掛け、足を組むアルセーヌ。とてもでは無いが、王族に対する対応では無い……元を辿れば、アルセーヌも王族なのだが、今は庶民である。「立ち話は疲れるだろう?座りなよ、キルシュトルテ王女。クラティウス君も、座ったらどうだい?」座るように促すアルセーヌに、キルシュトルテは黙って従ったが、クラティウスは無言で首を振り、アルセーヌの勧めを断る。そこへシャルが珈琲を一つ、紅茶を二つ持ってくた。珈琲をアルセーヌへ、紅茶を一つキルシュトルテへ、クラティウスからはこちらも身振りで断られ、シャルは静かに退室した。「そもそも、僕はノイツェシュタント王城に忍び込んで宝石を盗み出すようなリスクを背負わなければならない程に、金銭に困ってはいないよ。僕の個人資産は一つの都市の運用を賄える位なんだから」「お主は嫌がらせをしたいだけであろうが!」「証拠はあるのかい?」「ぐっ」言葉に詰まるキルシュトルテ。アルセーヌが証拠の残す程のミスを犯した事は、今まで無かったからだ。「大体だね、僕の名前で書置きがあったからと言って、直ぐに僕を疑うのはどうなのだろうね?まずは落ち着いて、自分の近辺を探してみる事さ。例えば、今、君が着ている服の胸ポケットの中とかね?」「え、なっ!何時の間に!」「最初からそこにあったのだろう?」「お主が―――」「それに、本来ならば王位に就くのは、衰退したるとは言えど我がクライス王家の方だ。ノイツェシュタント王家が王位に就いているのは、クライス王家の代わりに過ぎないじゃないか。なら、あそこにあるのは元々は僕の所有物と主張しても問題は無いだろう?」「ノイツェシュタント王家は正統王家じゃ!!!」「ニルダの杖がある以上、それは認めざるを得ないけどね……しかし、王位継承の証たるイアリシンの宝珠をアスカ・ジュラルド・マーフィーより受け継いだのが僕である以上、本来ならば王位に就くのが僕である事実も変わらないよ」首から下げた中立の象徴にして、王位継承の証であるイアリシンの宝珠を見せる。太古の昔に冒険者がエル’ケブレスより授かりし宝珠は、窓から差し込む光を受けて、わずかに輝いた。悔しそうに顔を歪めるキルシュトルテに、笑顔を絶やさないアルセーヌ。このタイミングで、クラティウスが初めて口を開いた。「姫様、お時間が……」「時間?おお、そうか!!」クラティウスとキルシュトルテの会話についていけず、アルセーヌが視線のみでクラティウスに説明を求めた。「一週間後に、姫様はドラッケン学園に入校が決まりました。その準備です」「へえ、おめでとう……と言えば良いのかな?」「ふん、心にも無い事を……見ておれ、帰ってきたならば、いの一番にお主をギャフンと言わせてくれる」「期待せずに待たせてもらうよ。それと、これは入学祝いね」「なんじゃ?」「ぎゃふん」「今言うな!!」古典的ギャグだが、言っておかねば悪いだろう……何にかと聞かれれば、アルセーヌも困るしかないのだが。「それでじゃな、アルセーヌ……」「うん?何か用かな?」「お主が良ければ、その、じゃな……」「キルシュトルテ・ノイツェシュタント王女」「!」「僕はこう見えて忙しい。用件が無いのなら、お引取り願えるかな?」はっきりとした拒絶に、キルシュトルテの顔が曇る。しかし、この時点でアルセーヌはプリシアナ学院への入学を決めていた。ちょっとした理由なのだが、それが無ければキルシュトルテの誘いに乗っていただろう。「……そうか、そうじゃな……」「なにを泣きそうな顔をしているんだい?生きている間くらいは笑っていたらどうかな?」「ふん、一緒に来なかった事を後悔させてやるわ」毎日が後悔の嵐だがね、なんて口にはしなかった。退室するキルシュトルテを見送りながら、ふと考えた。初めて会ったのが10歳の時で、それから五年の歳月が流れているのだ。(次に会うときは、少しは成長しているのだろうかね?)そう思い、ほんの少しだけ悲しくなる位には、キルシュトルテと付き合ってきたのだ。首から下げたイアリシンの宝珠を弄りながら、遠くない日に再び会った時の事をアルセーヌは考えた。
プリシアナ学院。ハウル大陸にある冒険者養成学校の中で、最も新しい学園である。歴史も古く、伝統を大事にするドラッケン学園。独自の文化と教育体系を持つタカチホ義塾。常に最新の教育を行うプリシアナ学院で、どれもそれなりに売りとするモノがある。とは言えど、プリシアナ学院の教育は多分に実験的な部分もあり、特に危険が伴うものだ。アルセーヌとしては、そんな売りよりもこの学校に納められたウィンターコスモス家の秘宝に興味を引かれたのだが……プリシアナ学院の大聖堂にあるパイプオルガン……の隣に鎮座している、半透明に輝く純白の武具一式である。剣と魔法と学園モノ。XTH#3.KoD'sアイテム大聖堂に人が来る事は、案外少ない。冒険者と言う職業柄なのか、大聖堂に来る時間を惜しんで冒険に出ているのかは、アルセーヌには分からないし、興味も無い。アルセーヌ自身、神に祈る為に此処に来ているわけでは無い。「アルセーヌさん?」「うん?ああ、はじめまして。セルシア・ウィンターコスモス君」大聖堂のドアを開けたセレスティアの少年、セルシア・ウィンターコスモスに声を掛けられる。プリシアナ学院の校長であるセントウレアの弟で、生徒会長も勤める実に優秀な少年だ。「はじめまして……アルセーヌさんも、神に祈りに来たのかい?」いかにもな問い掛けに、わずかだが苦笑するアルセーヌ。半分しかセレスティアの血を引かない彼女と違い、純血のセレスティアである彼には、やはり神は信仰の対象足り得るのだろう。「いや、僕は祈る為に此処に来たわけでは無いよ。そちらは祈るのかい?」「時々だけど、ね」跪いて十字架に祈るセルシアに、アルセーヌは少々居心地が悪くなる。邪魔にならないように、アルセーヌは口を噤んで椅子に腰掛け、足を組んでステンドグラス越しに空を見た。セルシアが神に祈る数分の間、アルセーヌは思考を廻していた。意味のある思考では無く、精々が今日の晩御飯は何だろうと言った程度の低い事だ。「……お邪魔だったかな?」「いや、こちらこそ邪魔じゃなかったかい?」「まさか、そんな事は無いさ……ところで、アルセーヌ君はどうして此処に?」アルセーヌはしばし考えた。探りを入れるべきか、否か……「あのパイプオルガンの隣に置いてある武具一式なんだがね?」「あれかい?あれはウィンターコスモス家に代々伝わっているものだよ」「代々伝わっている?何か言い伝えは残って無いのか?」「え……あ、いや……ただ、古くから伝わる武具だとしか……」「なるほど、ね」アルセーヌの問い掛けに、困惑するセルシア。今まで、気にした事が無かったからだ。「アレがどうかしたのかい?」「いや、綺麗な武具だったから……何か伝説でもあるのかと思ったのさ」実際にあるのだ。アルセーヌはそれを知っているし、聞かれたら嬉々として答えたかも知れない。しかし、セルシアはそれ以上は突っ込んでこなかった。それから二言、三言だけ会話を交わして、二人は別れた。「アルセーヌ?どうしたの?」興奮を隠せぬ様子のアルセーヌに、シャルが眉を顰める。与えられた寮室をグルグルと歩き回り、思考の海に没頭していたアルセーヌの瞳が輝く。シャルは若干だが、自分の発言を後悔した。「大聖堂のパイプオルガンの隣に武具一式が置いてあったろう?」「え……ああ、あの純白の?」シャルは少し考え、すぐに思い出す。特徴的なパイプオルガンや、綺麗なグランドテラスは直ぐに思い出せたが、武具一式は印象が薄く、直ぐには思い出せなかったのだ。アルセーヌがこうも興奮すると言う事は、歴史的に見て重要な何かである可能性が高いのだろうと、シャルは思った。「そう、あれだよ!!」「あれがどうかしたの?」「あれこそが、クラウス王家の三大秘宝の一つとされたKoD'sアイテムだよ!」「あれが?ムラサマやニルダの杖に並ぶ秘宝の一つ?」この世界に斬れぬ物は無いと称されたムラサマ。あらゆる災害や害意を持つ存在から国を守ると言われるニルダの杖。正直、ステンドグラスの横に飾られた武具一式が、それに匹敵するもののようには、シャルには感じられなかったのだ。かつて、世界を救ったと言われるダイアモンドの騎士が使っていたとされる伝説の武具こそが、KoD'sアイテムである。高い攻撃力と防御力を持つのは当然の事ながら、さらには強大な魔法の力が秘められているとも言う。「そうさ!神剣ハースニールだけでもたいした物だが、その他の武具一式も相当な物だよ!」「どの位凄いの?」「うん?武具の価値としては、そうだね……神の武具と言うのがあったろう?あれの上位互換と思ってくれれば良いよ」「……そうなの?そうは見えないけど?」首を捻るシャルに、アルセーヌはため息を吐く。「武具の単純な性能なんかどうでも良いのだよ?実際に僕もこの目で見るまでは、興味も無かったからね」「見た目が良いって事かしら?」「もちろん!実に僕の好みなのさ!それに、歴史的視点での価値も高い!」アルセーヌは武具そのものの性能よりも、歴史的価値や、自身の感性に合うか否かを重要視していた。しかし、興味が無かったと言いつつも、KoD'sアイテムの存在がアルセーヌをプリシアナ学院へと入学に走らせた理由の一つでもあり、それなりに意識していたのも確かではあったりしたのだが。「何とかして、僕の物にならないものかな?元々はクラウス王家の物なんだし、頼めば返してくれないかな?」「無理でしょうね。元はクラウス王家の物でも、ウィンタースノー家に正式な手順で譲渡された以上は、あれはウィンターコスモス家の物でしょうしね」「それは分かっているさ。しかし、話した限りでは生徒会長はKoD'sアイテムの事をあまり知らないようだし、上手く立ち回れば或いは……」「無理に決まっているでしょう?一応はウィンターコスモス家の家宝よ?他人に譲渡すると思う?その価値が理解出来ていなかったとしても」「そうだけどね……」「それに生徒会長が知らなくても、校長が知らないかどうかは分からないでしょう?」シャルの反対意見に、流石のアルセーヌも諦めるしか無いと感じた。八つ当たりとは分かっていたが、思わず涙目でシャルを睨んでしまう。「駄目か、駄目だろうね……はあ、見るだけで満足するしか無いのか……」アルセーヌのため息は、誰にも届かず、空中で消えた。