リリカルの息抜きにテンプレダンジョン物でも。
プロローグで一回書いてボツったストーリーが入ります。
物語はこのプロローグで語られた世界、その500年後となります。
それではプロローグ。
剣と魔法が未だ戦闘方法として採用され続ける世界、グラール大陸。
その大陸にいくつもある国家のひとつ。
その国家にいくつもある平民向けの学校のひとつ。
その学校にいくつもある教室のひとつ。
その教室にひとつしかない教卓で、1人の教師が歴史の授業を行っていた。
いくつかの国で構成されるこの大陸で、500年前、大国の戦争に巻き込まれその歴史を永遠に閉じようとしていた王国がありました。
皆さんも意外に思われると思いますが、それこそが皆さんが今生活しているこの国、グレイグ共和国なのです。
そう、この国は以前は王の一族が率いる王国だったのです。
ご存知の通り、この国は東にエッシャルト王国、北から西にかけてはヴァララド帝国、南にヤティーラ国家群と3つの勢力に囲まれた内地国家です。
まだヴァララド帝国が勢力の拡大に腐心していた頃、小国家群であるヤティーラは進行を受け、いくつもの領土をヴィララド帝国に奪われていました。
そして、やはり領土が隣接するエッシャルト王国も、小規模ですが侵攻を受けていました。
帝国が国家群を制覇してしまった場合、エッシャルト王国は非常に苦しい立場になる事は誰の目にも明らかでした。
その要因の最大の1つが当時のグレイグ王国でした。
先に挙げた3国家のどの国家よりも領土が小さく。群国家であるヤティーラ国家群を構成する無数の国家、その中でも中規模国家と呼ばれる国家よりやや大きい、程度の領土しか持ちませんでした。
最も、それは今でも変わりありませんが。
しかし、なぜこのグレイグ王国が戦争の行く末、しいては周辺国家に影響を及ぼすのかですが、ワッシャー君、わかりますか?
ふむ、その通りです。
グレイグ王国の地理に問題がありました。
今でこそ開拓が進み、経済の中心地として存在するグレイグ共和国ですが、グレイグ王国時代はただの台地にある高原国家でしかありませんでした。
では何故その高原国家がそれまで存在できたのか。
なぜヤティーラ国家群に吸収される事無く、戦争が始まっても真っ先に侵攻を受け、攻略されなかったのか、リファロ君、わかりますか?
えぇ、その通りです。
伝説ではグレイグ王国の王家、つまりグレイグ家の祖先はこの高原に住むごく普通の村の一族でした。
それがある日、湖の精霊に出会い湖と川の管理を命じられます。
そこから先のグレイグ王国の成り立ちについては先月行いましたので割愛しますが、グレイグ王国は水に富んだ国でした。
また、グレイグ王国からエッシャルト王国、ヴァララド帝国、ヤティーラ国家群に大きな川が流れていました。
伝説ではグレイグ王国を侵す者に流れる川は毒の川となり、やがて干上がり罪人は天に焦がされるだろう、とあります。
それが精霊の加護だったかはさておき、上流であり水源を押さえるグレイグ王国は治水に長けた国家であり、また、立地から川に毒を流す事が可能であったという事です。
この事から周囲の国家はグレイグ王国に他の国が手を伸ばす事に対し非常に敏感になりました。
それでもグレイグ王国が警戒されつつも存在できたのは、王家が建ってから一度も川が氾濫を起こした事が無く、治水を完璧に抑えていたからです。
もし仮にヴァララド帝国が最初にグレイグ王国に侵攻を掛けていたら、それこそ即座にエッシャルト王国とヤティーラ国家群との総力戦になるでしょう。
それこそ農民ですら自発的に農具を武器に義勇軍を組んで戦う程に。
それほどグレイグ王国は周囲から恐れられ、そして守られて来たのです。
仮の話が続きますが、もし歴史がそうなっていたならば、確実に地図が今とはまったく違う塗り分け方をされたでしょう。
恐らくグレイグ王国もエッシャルト王国もヤティーラ国家群も、そしてヴァララド帝国も総力戦に消耗し、さらに別の国家に飲み込まれて居たに違いありません。
以上の理由から、ヴァララド帝国はまずエッシャルト王国を牽制しつつヤティーラ国家群に侵攻。
それを制覇したの後、一気にグレイグ王国を攻め、その後エッシャルト王国に攻め込むつもりだったようです。
また、エッシャルト王国とヤティーラ国家群もその事に気付いており、連合を組みグレイグ王国をヴァララド帝国に落とされる前に攻め込もうと考えていました。
この時、グレイグ王国は周囲の国家全てから侵攻を受けかけていました。
では何故、今もグレイグ王国は共和国に名を変えて存続しているのか。
アレン君。
そうです、この時光と共に現れこの国を救い、今の形まで押し上げてくださった方こそがグレイグの聖女、ナナコ・ヤマナカ様です。
聖女様は当時自分の事を親しみを込めてナナと呼んで欲しいと誰に対しても心をお開きになったため、王族から一般市民、果ては奴隷階級に居る者ですら、聖女様を「ナナ様」と愛称で呼ぶ事が許されました。
現在もその名残は残っており、伝書や御伽噺で聖女様が登場すると必ず相手にナナと呼ぶようにと愛称で呼ぶ事を許し、以降は本文中でもナナ、聖女ナナと記載されるようになりました。
ナナ様の二つ名はいくつかあり、共和国では「精霊の使い」「魔法探求者」「智を司る女神」「東方から来た賢者」等の呼ばれ方をしていますね。
民の間では「永遠の約束」「死すら2人を別たない」「永遠の恋人」といった二つ名の方が有名かもしれません。
ヴァララド帝国では「闇の魔女」「黒い悪魔」「世界を滅ぼす蛇」とまで呼ばれていました。
時のヴァララド皇帝ですら公の場でそう口にしていたそうですから、ナナ様の存在がいかにグレイグ王国にとって救済者であらせられたか、またヴァララド帝国にとって不倶戴天の敵であったかが伺えます。
当時の文献、宮廷侍女録(宮廷の侍女が王のひとりごとや、構想だけして公布しなかった法について纏めた内部歴史資料)にはナナ様がどのようにしてグレイグ王国に光臨されたか記載されてあります。
それは帝国に滅ぼされるか、連合に滅ぼされるか、そのどちらかが近いうちに現実になる、民ですらそう身近に感じ始めた頃でした。
王宮の中庭に天から光の柱が降りたのです。
まさにそれは光の柱としか言い表す事が出来ませんでした。
後世では、太陽が延びて中庭に突き刺さった、天の使いの道であると記述が見つかっています。
その光の柱は丸1日消える事がありませんでした。
そしてその光の柱が消えた後には、大きな本を持った1人の女性が倒れていたのです。
この女性こそがグレイグの聖女、ナナコ・ヤマナカ様でした。
腰まである真っ直ぐな黒い髪は艶やかで光すら反射したと言われており、周囲の者に常に濡れていると勘違いさせる程だったと言われています。
光の柱の事もあり、ナナ様は王宮に丁寧に運ばれ、やがて目を覚ましました。
そして当時の王、王子、重鎮達との話し合いの中で、ナナ様は天の世界から舞い降りた聖女だと解りました。
また、聖女の持つ本は「天の書」と呼ばれる魔法書であり、現在は「創世の書」とも呼ばれ、アークの最下層に現在も安置されています。
さて、ナナ様を語る上で絶対に除外できないのがこの「天の書」です。
魔法使いであるならば誰もが憧れる至高の書であり、ナナ様を聖女たらしめた存在でもあります。
ではミュンツァー君、天の書がどんな書だったか、わかるかな?
うむ、そうだね。
天の書は今でも多くの伝説をこのグレイグに残しているため、共和国国民ならば子供でも知っている程だ。
逆に他国ではその余りの荒唐無稽さに話が広まっておらず、この中には知らなかった生徒もいるだろう。
当時の王家の人間もビックリしただろうね。
なんせ天の書には"何も書いてなかった"んだから。
しかし表紙に天の言葉で書の使い方が書いてあり、ナナ様だけが天の書を使う事が出来た。
「魔法探求者」の二つ名の元でもあるこの書の能力は「ナナ様だけが使える魔法の新規作成」。
ナナ様が欲しい効果を書くと、必要な呪文と代償が自動的に浮かび上がったと言われているね。
また、大きな効果を望むほど呪文の量と代償は大きくなったとされている。
しかし、あらゆる手段を講じても ナナ様以外の誰であろうとも書に文字を書くことは出来なかったといわれている。
逆にナナ様は指先でなぞるだけでも文字が書けたそうだ。
最も文字が大きくなってしまうため、一度しか行わなかったそうだけどね。
さて、望んだ魔法を新規作成するという力を司り、唯一その力を行使出切るナナ様はグレイグ王国の置かれた当時の状況に嘆き、王国を守ると約束されたそうだ。
約束は果たされた。
500年経った今でも守られ続けている事から、先に述べたように「永遠の約束」とも呼ばれるようになったんだ。
またナナ様が約束を交わす際に当時の王子ウィルヘルム殿下に指輪を要求した事から、約束を永遠に守ると誓う場合は相手から指輪を貰い、それを常に身に付け続ける事で「アナタの約束を今でも忘れていない」と意思表示の代わりとするようになったんだ。
現在グレイグ王国では婚礼の際に貧富身分に寄らず夫婦が指輪を交換しあうのも、ナナ様の伝説が発祥だね。
さて、当時のグレイグ王国だけど、ナナ様が現れるまでは酷いものだったといわれている。
なんせ明日帝国か連合のどちらか、もしくは両方が攻め込んできて滅ぼされてしまうかもしれなかったのだから。
王宮の役人は不正で私財を増やして他国に亡命をしようと企んでいたし、民も見えぬ明日に怯え暴動などの犯罪が増加していた。
戦うだけ無駄だと兵は逃げて賊になるかサボタージュするようになったし、もう攻め込まれなくても王国は自壊すると言われていた。
ナナ様はこの問題に真っ向かた取り組み、「病を治す魔法」「怪我を治す魔法」「作物が良く取れる魔法」「ゴミを肥料にする魔法」など王国の助けになる様々な魔法を作成し……
国の建て直しに失敗した。
これはナナ様が……というよりも当時のグレイグ王国がそれだけ手遅れだったとも言えるね。
また、天の書の魔法を使えるのがナナ様だけだったために、不敬ではあるけど奇跡が足りなかったとも一部の歴史家には言われている。
ナナ様は通常の魔法使いより遥かに多い魔力を持っていたが、それでも国を立て直すにはたりなかった。
また、代償は魔力だけに限らず、天の魔法は時にはナナ様の血液を体から奪ったり、寿命を奪ったりしたらしい。
そしてナナ様は最終的に、グレイグ王国が抱える問題を全て1つの魔法で解決するという結論に至ったんだ。
ナナ様とウィルヘルム殿下が2人で考えたその魔法は、確かに画期的な魔法だった。
だがしかし、望んだ効果をナナ様が天の書に記した時、書に今までとは全く違う色の文字が浮かび上がったんだ。
呪文を記載するページが足りない。
さっきも話したけど、高い効果を望めばそれだけ長い呪文と大きな代償が必要だったんだ。
そしてその時点で100ページあった天の書は62ページが使われていた。
残り38ページじゃ足りなかった。
そこでナナ様は「天の書に書き込んだ文字を消す魔法」を作ったんだ。
魔法名称は「リライト」、 呪文使用ページは35ページ、代償は10日間眠り続ける事と、さらにナナ様の寿命の半分を捧げる事だった。
この時点で残りのページは?トラン君。
そうだね、たったの3ページだ。
3ページは中度の伝染病クラスの病気を治す魔法に必要なページ数と同じだった。
つまり、新しい魔法で大きな魔法はあとせいぜい1つ、場合によっては作成できない場合の方が多いい状態になってしまった。
何度も話し合いが持たれた、そしてナナ様は天の国に住んでいただけで、神官でもなんでもなかった事が問題になったんだ。
君達がある日突然知らない国に飛ばされて、天の書を持っていたとして、魔法を行使する為に自分の寿命の半分をささげる事ができるかい?
ナナ様はそれでもリライトを使うと言い張ったのだけど、ウィルヘルム殿下やその家臣達はは泣いて止めたらしい。
そこまでナナ様にしていただくワケにはいかない、いずれナナ様はご家族や友人の居る天に帰るのだから、とね。
結局ナナ様が「天の書に書き込んだ文字を消す魔法」を作成してから一週間後、ついにリライトは唱えられたんだ。
ナナ様はリライトを唱えた後倒れ、10日間目を覚まさなかった。
ウィルヘルム殿下は10日後まで目を覚まさないと解っていながらも、日に3度、ナナ様の寝室をお尋ねになられたそうだ。
そしてナナ様が目覚めて3日後、ついに最終魔法「アーク」が唱えられた。
呪文の使用ページは効果を記載した5ページを除く全95ページだったそうだ。
さて、そろそろ時間だね。
続きは明日にしよう。