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[25428] 【習作】 ゼロの使いニャ! 【不定期更新】
Name: おっちゃん◆a0534589 ID:1c3e631d
Date: 2011/01/14 12:31

0.プロローグ


 オレは猫である。名前は「トラジ」虎縞だからという安直な名前だ。でもな、白地に黒の縞だぜ? シマウマみたいだがな!
 生まれてたぶん半年にもならないんじゃね? 片手サイズの子猫だし。

 その辺の事情はちっとばかし置いておいてだ、オレは今、困った問題に直面している。
 それは、オレを拾ってくれた主が「平賀才人」だということだ。
 それが何故困った事なのかというと、オレは猫になる前は人間だったんだよなぁ。しかも、「ゼロ魔」の読者でもあり、アニメもみんな見た。つまり、いわゆる「記憶を持った転生者」なわけだ。
 おいおい、転生じゃなくって人間のオレをルイズが召還するとか、サイトに憑依するとか他に方法はあるだろうが……
 転生するにしても、何で子猫なんだ? こんなざまじゃあ、もしハルケギニアに行ったとしても、チート能力なんて碌にないだろ……
 韻竜とかグリフォンとか、人間なら貴族の息子や娘とかにしてくれよ~~、性別変わってもモブキャラでも良いからさぁ~~。
 こんな事になるならサイトに拾われるようにニャーニャー鳴くんじゃなかったぜ……って、あの頃はあんまり目が見えてなかったからなぁ……

 おっと、鬱に入っている場合じゃなかった。
 才人が今日、秋葉原に行くんだよ。修理に出していたノートパソコンを取りに行くって言ってたから、ルイズに召還される日って事になる。
 どうすべぇ~、このまま家にいるのも良いが、サイトにくっついてハルケギニアに行くのも良いかもしれん。ぶっちゃけ、シエスタとかキュルケとかマチルダとかアンリエッタとかティファニアとか見てみたいんだよね、うん………………オレはおっぱい星人だからな。
 まあ、残って才人の父ちゃん母ちゃんが泣くのを見るのも何だしなぁ……うん……ついて行くか。
 才人が玄関で靴を履いている。側に置いてある青いパーカーなら潜り込めるさ。なぜなら今のオレは子猫。あの鈍い才人相手ならラクショーラクショー。

















 そう思っていた時期がオレにもありました。
 パーカーのポケットに忍び込んだものの、子猫の重さ分の違和感は才人にも判ったようで、すぐに見つかってしまった。

「こら、トラジ。お前は連れて行けないんだ」
「にゃー」
「そんなに悲しそうに鳴くなよ……」
「にゃうー」

 オレは耳を垂れ、悲しそうに啼く。鳴くではなく啼く。目を潤ませて才人を見つめていると、才人の顔が引きつってくる。
 お? あと一息じゃね? こうなったら秘技、小首かしげだ!!

「うにゅ?」
「うっ!?」

 才人もつられて小首をかしげた! そして溜息を一つつき、オレを片手に乗せる。

「しょうがねぇなぁ……おとなしくしてろよ?」
「にゃー」

 ふっ……子猫の小首かしげに勝てる奴はそうはいない。今回はオレの勝ちだな!
 オレをポケットに入れた才人は、いってきますと家の中に声をかけ、玄関を出た。





 さて、電車で移動中、オレはかなり窮屈に感じたので、ポケットから顔を出してみた。すると、才人はシートに座って居眠りしており、腕がオレの入っているポケットを押さえている。どおりで苦しいわけだ。
 仕方なくオレはポケットから這い出し、才人の頭の上に移動。そしてそこで丸くなって寝たふりをした。
 秋葉原に着くまでに、中学生やら高校生らしき女の子達にカワイイカワイイと撫でられそうになったが、それらを全て猫パンチで弾き返した。周りには携帯で撮影している者も居たが、オレに止められるはずもなく、仕方ないので尻を向けて寝た。

 まあともかく、無事に秋葉原に着いたサイトは、早速店でノートパソコンを受け取る。
 この野郎……ネット上にあるかわいい女の子の写真やエロ動画が見れるからって、鼻の穴膨らませながらニヤけていやがる。このカリビア○コム野郎め……だらしない顔すんなよなぁ。周りの人、特に女の人が気味悪がって避けているのに気付いてもいねぇ。

 肩にしがみついているオレがそう思っている事など知るはずもなく、エロ才人はエロサイトを巡回するように、秋葉原の街を散策していく。
 7件目のエロい看板がある店の前をガン見しながら歩いているので、進行方向に光る円板というか鏡のようなものが現れた事に気付いていない。オレは才人と共に、鏡に吸い込まれていった。




*********
あとがき

はじめまして、おっちゃんと申します
慣れない文章書きですが、よろしくお願いします




[25428] 1.使い魔ならこっちの子猫の方がらしいわよ
Name: おっちゃん◆a0534589 ID:2ef80e02
Date: 2011/02/06 10:46

 トリステイン魔法学院における春の儀式といえば、使い魔召還の儀である。それは魔法使いとしての力量と格を決定づけるといっても過言ではない。
 学院の生徒達は皆、1年生から2年生にあがる時にこの儀式を行い、自らの生涯のパートナーである使い魔を得る。
 だが極まれに、その召還ができない生徒が出る。そうなったら2年に進級する事はできずに留年となり、人によっては自主的に学園を去るのだ。
 そしてここに自主退学になりそうな女生徒が一人、懸命に召還呪文と魔法のイメージ思考を繰り返していた。数えるのもばからしい程の失敗を繰り返したため、とうとう引率教師にこれが最後だと告げられたのだ。
 薄いピンクがかったブロンドに、かわいらしい顔立ちの美少女である。身長は低く、幼い体つきだ。将来は名だたる美女になるであろうと思わせる程だが、それが10歳前後であれば誰もがそう言うだろう。
 だが、彼女は現在16才。この歳でこの体つきなら「残念賞!」と言われてしまう。いや、一部の者からすればハァハァものであるのは間違いない。
 ともかく彼女は魔法の杖を真上にかざし、これまで生きてきた年月分の願いと意志を込めて呪文を唱えた。

「どこかの宇宙にいる私の使い魔よ! 主である私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが求め訴えるわ!
 その気高く! 美しく! かわいらしさで『はにゃーん』な姿を現したまえ!」

 いろいろ間違っている気がするが、ルイズは杖を振り下ろす。そのとたん、直径20メイルの範囲が大爆発を起こし、巻き上げられた土砂が雨のように生徒達に降り注いできた。

「ぶはっ?! 何だよ、また失敗かぁっ?!」
「いいかげんにしろよ! ゼロのルイズ!」
「うわー、土だらけだよ~~……」

 突然の災いに阿鼻叫喚の生徒達。幾人かの生徒は魔法を駆使して何とか被害を押さえにかかっていたが、如何せん、降ってきた土砂が多すぎた。また、連携しているわけではないので効率も悪く、互いに干渉しあって効果が薄れてしまうのも一部では見受けられる。結局効果があったのは、風魔法で学園外にホコリを飛ばす事ぐらいか。弱いという事には変わりなかったが。
 土煙が治まるまでの約15分物間、口々に文句を垂れる生徒達であったが、深さ3メイル程のクレーターの中心に使い魔召還の光る鏡ができている事に気付く。

「や、やったわ! サモン・サーヴァントの魔法ができた!」

 かなり疲労し、やっと成功した魔法に感激を顕わにするルイズ。














 そして、その光る鏡から素っ裸の少年が「オレのベル」を鳴らしながら出て……














 おっと、作品が違うよね?






 召還の鏡から出てきたのは、見慣れぬ服装に身を包んだ同年代くらいの少年だった。

「え? あれ? 何でいきなり知らない場所に? っていうか、何か土煙がひどいんじゃないか?」

 ルイズはあまりの絶望感から死んだ魚の目というかレイプ目になり、がっくりとその場に膝をついた。確かに鏡から現れたその姿は、気高くもないし美しくもない。かわいくもなければ『はにゃーん』でもなかった。

「おおっ?! 見ろよ! ルイズの奴、平民を召還したぞ!」
「さっすがゼロのルイズ! 俺たちにはできない事をやってのける!」
「別にシビれもしないし憧れもしないけどな! はっはっはっはっはっはっ!」
「おーい、ルイズーっ! 使い魔が召還できないからって、その辺の平民を連れてくるんじゃないぞ-?!」

 辺りはからかいの喧噪に満ちていく。
 クレーターの底にいた少年は、出て来た時の向きそのままに、縁へと上っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 あ、ヤベッ!
 ルイズに見つかったら、オレの方が使い魔認定されてしまうじゃないか!
 ここはひとまず、才人のパーカーに隠れているのが良いな。
 サイトの肩にしがみついているから、そのまま才人の頭後ろに向かって移動する。落ちないように後ろ足の爪をパーカーに立て、前足を交互に動かして才人の頭の後ろに回り、フードの部分に滑り降りた。
 よ~~し、これで周りからは見えないだろう。
 同時に才人の方も見えなくなるが、これは仕方がない。ルイズが契約のキスを終えるまで待つか。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 穴の縁に上った少年の前に、ルイズがやって来た。そして開口一番。

「あんた誰?」
「俺? 平賀才人って言うんだけど……」

 いきなり美少女に話しかけられて、戸惑いながらもドキドキする才人。
 そこへ、頭頂部が見事に禿げ上がった眼鏡の中年男性がやってきた。

「ミス・ヴァリエール、あとはコントラクト・サーヴァントだけですぞ。
 念願叶って使い魔を呼び出せたのです。さっさと契約してしまいなさい」
「……ミスタ・コルベール、やりなおしたいんですけど……」
「ミス、それは認められない。我らメイジにとって、使い魔召還・契約は神聖なもの。召還した使い魔が気に入らないからといってやり直すことはできません。どっちみち彼が召還されているのですから、彼が死んで契約が切れない限り、サモン・サーヴァントは発動しませんよ」

 がっくりと項垂れるルイズ。才人は状況が判らない為、キョトンとしている。
 それからコルベールと呼ばれた中年男性に向かって言った。

「あのー、すみません。ここってどこですか?」
「君もいきなりこんな場所に呼ばれて困った事だね。ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院だよ」
「え? 聞いた事無いなぁ~……」
「聞いた事無いって……アンタどこの田舎者よ?」

 呆れた物言いのルイズにムッとする才人。

「え? トリステインを聞いた事が無い?
 ミスタ、君は一体どういう国にいたんだね?」
「俺は日本の東京という所にいました」
「ニホン? トウキョウ? ふむ、私は君の言う国を聞いた事が無い……」
「ええっ?! 世界でも有名な方だと思ってたんだけど……」

 異世界なので聞いた事がないのも当然だが、今は誰もその事に思い至らない。

「あたし達が聞いた事がないなんて、アンタよっぽどの田舎から来たようね?」
「東京を知らないっつーお前の方がよっぽどの田舎者だっつーの!」
「……こ、ここここ公爵家を田舎者だなんて……アンタ、死にたいらしいわね……」
「お生憎様! こちとら身分制度なんて無い国で育ったもんでね~。そんなんでいばられてもどんだけなのか知らんがな」
「ミス・ヴァリエール、育った環境が異なれば異なる価値観や常識があります。知らないからといってそれを蔑む事は、自らの品位を落としますぞ?」
「すみません、ミスタ・コルベール……」

 口喧嘩を始める二人を止め、ルイズを嗜めるコルベール。そして今度は才人に向き直った。

「ミスタ、身分制度のない国から来たという君には判りづらいかもしれませんが、公爵家というのはかなりの権力を持っています。国王ほどではありませんが……
 しかし、知らないという事は理由になりません。下手をすると本当に処刑される事もありますよ?」
「マジですか?!
 じゃあ、何で俺はここにいるんですか? 元の場所に帰して下さい!」

 才人の必死の懇願だが、ルイズもコルベールも沈んだ顔になる。

「ミスタ、誠に申し訳ないのだが、君を元の場所に戻すことはできません」
「ええっ?! どうしてっ?!」
「サモン・サーヴァントは使い魔召還のための魔法であり、送還することは考えられていないのです」
「そんな……」

 しゅんとなった才人はその場に膝を着いた。コルベールはしばし考え、才人に提案する。

「ミスタ、今の我々では君を帰す手段がない事は解って欲しい。ですが、今の私達が知らないだけで、帰す方法があるかもしれません。私はそれを全力で探す事を約束しましょう。だからミスタ、それまではミス・ヴァリエールの使い魔として留まってはくれませんか?
 君を召還したミス・ヴァリエールの庇護下にいた方が、衣食住は保証されるし、安全でもあります」
「安全?」
「そうです。この周辺ならばともかく、森や山にはモンスターが現れることもしばしばで、襲われれば平民では逃げることしかできませんし、そう簡単に逃げ切れはしないでしょう。そういった意味からも、彼女の使い魔でいた方がいろいろと丸く収まるんですよ」

 膝をついたまま項垂れる才人。だが、彼でも判る事がある。ルイズに頼らなければ、この地で生きるのができない事だ。
 才人は大きく息を吐くと、胡座になった。

「わかったよ! その使い魔ってのをやってやるよっ!」
「そうか! ミスタ、礼を言いますぞ! ささ、ミス・ヴァリエール、契約の儀を行いなさい」
「……はい……」

 ルイズは再びレイプ目になる。今のやりとりで才人が気に入らないらしい。大貴族の娘が平民に口づけする事は、拷問に等しいのかもしれなかった。それでも呪文を唱え、才人に口づけをする。才人はしばし顔を赤らめて惚けていたが、いきなり苦しみだした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 うわっ?! やべぇっ! このままじゃ才人に潰されてしまう!
 せっかくここまで来たんだから、何としても生き延びなきゃ!
 オレは才人が上半身を前に曲げた瞬間、パーカーのフードから飛び出した。そして急いでその場から離れる事に成功する。それからすぐに才人が転げ回った。アレに巻き込まれたら危ないってモンじゃない。オレはギリギリで逃れた事に、ホッと一息吐いた。

「うわああああああっ?! 体が熱いっ! 左手が痛ってえっ!! 何をしたんだああっ?!」
「使い魔の印が刻まれているの。しばらくしたら治まるわ」
「勝手にそんなもん刻むな!」
「私の唇を味わったんだから、それくらいがまんなさい!」

 ルイズの奴、自分の痛みじゃないから冷淡だな~。すぐ騒ぎは収まったが……

「ふうぅ~~~……いちちちち……」
「むむむっ?! これは珍しいルーンですな。ちょっと失敬……」

 コルベール先生が才人の左手を見ながらスケッチを始める。

「あら? この子猫は?」
「そいつは俺の飼い猫だ。名前はトラジ」
「ふ~~ん……って、もしかしてこの子猫の方が使い魔だったんじゃないのっ?!」
「あ……」

 ルイズが膝をつき、がっくりと項垂れる。才人も目が点になっていた。
 今頃気付いても遅いぜ。既に才人の方が使い魔に認定されたんだからな。
 クックックッ……計算どおり……
 オレは二人に背を向け、学生達の方へと歩き出す。
 その時、スケッチが終わったコルベール先生が、広場にいる学生に向かって言った。

「さて皆さん! これで全員、使い魔召還の儀式は終わりましたね!
 では教室に戻りなさい!」
「は~い」

 返事とともに男子学生達が宙に舞う。オレはある事を思い出し、全速で彼らが目指す塔に向かって走り出した。
 ちくしょう! 体が小さいからスピードが出ねぇっ! 間に合うかっ?!
 オレが塔の梺に着いた頃、女生徒達は宙に浮いていた。よっしゃああっ!! 間に合ったああっ!!
 オレの頭脳よ! 超記憶せよ!!

 白白ピンク白黄白白ベージュ白青白紫白白黒生白ピンク白白白赤白白ベージュ白白ピンク生白青白白赤……

 最後の一人が塔の窓から入るまで、オレは一心不乱に見続け…………? ……ナマ……? いや、深く考えるのはよそう……
 オレは目をつむり、先程の光景を脳内再生で堪能していると、不意に抱き上げられた。

「全くもう……使い魔ならアンタなんかよりもこっちの子猫の方がらしいわよ!」
「うっせえよ! しょうがねぇだろ!」

 言い争いながらここまで来たのかよ……

「あ~~。なんて愛らしいの、子猫って……」

 そう言いながらルイズはオレに口づけをした。その途端、オレの身体が熱くなり、股間からのとんでもない痛みが脳天まで突き抜ける。

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャウニャニャニャニャッ?!」
(いっ痛ててててててててっ!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!
 どうしたっていうの?!! オレのベルがいてええぇぇっ!!)

 あまりの痛さにルイズの手から飛び降り、辺りを走り回ってしまう。転んでは走り、転んでは走り、終いには何かに激突した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 突然走り回るトラジに、驚くルイズと才人。塔の壁に激突してやっと止まったので、才人が拾い上げた。

「一体どうしたんだろ?」
「さあ?」
「お前のキスがよっぽど嫌だったんじゃないのか?」
「……」

 頬を膨らませるルイズ。才人の手からトラジを奪い取り、塔の入り口へと向かう。

「お~い、どうしたんだよ? 他の連中みたいに飛んで行かないのか?」
「……」

 才人の呼びかけに、聞こえないくらい小さな声で答えるルイズ。

「え~~? 聞こえねぇ~よ」
「飛べないのよ」

 ちょっとだけ声を出すルイズ。それでも才人には聞こえなかった。

「全然聞こえねぇって! しゃべるんなら聞こえるようにしゃべれよ!」
「と、飛べないのよ! アタシ、魔法がほとんど使えないの! だから歩いて行くの! わかった?!」

 ルイズの逆ギレに、思わず引いてしまう才人。それから少々ばつが悪そうに呟いた。

「ま、まあできないモンはしょうがねぇよな……悪かったな、変な事聞いて……」
「い、いいのよ。貴族が魔法を使えないってこと自体、珍しい事だもの……」

 ルイズは才人の意外な素直さに驚く。何より魔法ができない事を馬鹿にしないところに。

「……馬鹿にしないのね」
「何を?」
「魔法が使えない事」
「何だ、そんな事か」
「そんな事って……魔法が使えないって事は貴族にとって……」
「貴族なんてどうでもいいし。第一、俺の居た所じゃ魔法なんて物語の中でしか存在しないものだったからなぁ……あったら驚くけど、無くても別に困る事でもねぇだろ?」

 あっさりと言うサイトに呆れるルイズ。

「あのねぇ、貴族は魔法を使って国王陛下と王家に仕え、国と領地と領民を守るものなのよ。それが使えなくちゃ役に立たないじゃない」
「使わなくても済むようにすりゃあいいじゃねぇかよ。何でもかんでも魔法で解決だなんて、バカの一つ覚えじゃあるまいし」
「ちょっと! 何言ってるのよ?! 魔法があるから、ハルケギニアは六千年以上も繁栄してこれたのよ?!」
「ハァ? 六千年? ……すげぇなぁ、マジで……」
「フフン、だからこそ伝統ある貴族として恥じないように学院に通って教養を身に付けるのよ」
「……にゃう……」

 ルイズが無い胸を反らしたところで、トラジが目を覚ました。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 お~~~~、いててててててて……何だったんだよ、今の痛みは……男として最悪な痛みだったんだが……喩えて言うなら、玉袋にム○を塗ったような、表面の皮だけが握り潰されたかのような痛みだった(冷汗)
 周りを見回すと、オレはルイズの掌に乗っているのを確認した。
 とりあえずそのまま横になり、痛かった部分、玉袋を確認する。舌で舐めながら体毛をかき分けると、平がなの「の」の字が三つ、三角形に並んでいるのが見えた。
 げげ……もしかしてこれがルイズの使い魔になったという契約の証なのか? え~? 何で~? どうしてこうなった?
 まさかコントラクト・サーヴァント魔法の効果が残っていたって言うオチじゃないだろうな……?
 いずれにせよこれは、誰にも見られないようにしないといけないぜ……厄介な事になったもんだ……orz

「あら、目が覚めたのね。いきなり暴れるから驚いたわよ」
「にゃー」

 ルイズはそう言いながらオレの頭を撫でる。使い魔になったせいか、すっげぇ幸せな気分になった。
 いかん。これはまずい。使い魔として活動するようなことになれば、物見遊山で来た意味がなくなるじゃねぇかよ。
 ここはせっかく来たんだし、本筋にちょっとずつ介入しながら遊びたいんだよ、オレは。
 だからなるべく安全なルートになるように、危ないところを注意していくくらいが関の山だろ。しゃべれないんだから……あれ? 
 使い魔になったら人間の言葉が話せるようになるって設定もあったよな……何でしゃべれないんだ? オレが子猫だからか?
 そういえば、ネズミのモートソグニルも喋れなかったよな。
 いずれにせよ、喋れないっていう状況は変わらないワケだ。ってことは、介入する為には……んーと……んーと……

 どうしよう…………

 ま、それは後で考えるとして。
 ともかく、見回すとどうやら教室に来ているらしい。大学の講堂みたいだな。
 ルイズは才人を連れて、自分の席に着く。無論才人は床だ。
 コルベール先生が来て、使い魔との信頼関係がどうとか扱いには愛情を持ってこうとか。あと、大型の使い魔が普段いる場所も指定された。動物系と幻獣系は少々扱いが異なるし、餌等についても簡単な説明があった。何を食っているのか判らないのもいたが……
 ……げっ! あの目玉は……アレはまさか……バグベアーの方じゃなくてギル○ドールの方じゃないのか? もしそうなら、早いとこ酒で懐柔しないと食われてしまうかも……
 ……げげっ! こっちの巨大ムカデは……
 何やらカオスなクラスみたいだな……どこの人外魔境だよ……
 まあとりあえず、残りの時間は使い魔とのコミュニケーションに当てろという事らしい。明日も授業はなく、中庭で過ごせとのお達しだった。

「さ、行くわよ」
「どこに?」
「私の部屋」
「わかったよ」

 ルイズが先になり、才人が不満たらたらで続く。
 ルイズはオレを胸に抱いている。滅茶苦茶不満ではあるが、されるがままだ。そしてそのままルイズの部屋に移動した。 
 え? 不満の理由? ルイズだから……これで判るだろ?




[25428] 2.なんじゃこりゃあぁっ!
Name: おっちゃん◆a0534589 ID:2ef80e02
Date: 2011/03/28 17:46
 ルイズの部屋に着いたオレ達、早速使い魔についてのレクチャーが始まった。

「なあ、ご主人様。使い魔って何すりゃいいんだ?」
「……貴族に対する言葉遣いがなってないけれど、まあいいわ。使い魔は主の目や耳の代わりになるんだけど……アンタとは繋がってないみたいね」
「それって、オレが見たり聞いたりしたものがご主人様にも見たり聞いたりできるってことだろ?」
「そうよ」
「ふいいいぃぃ……トイレ行ってるときに見られる心配が無くってよかったよ」

 あ、ルイズが真っ赤になった。そして乗馬鞭を出してピシピシピシピシ。才人の奴にはもう少し、デリカシーってものが必要だな。
 結局才人は召使いのような役回りを言われている。ちなみに才人は床で正座だ。
 まあ、普通の使い魔の能力なんて無いし、才人にできる事って言えばせいぜい召使いの真似事くらいだろう。ガダールヴの力なんて、もう少し後だしな。
 オレは使い魔という事が知られていないようで、完全にスルーされている。ありがたやありがたや……

 ……実はさっきから、ルイズ達とは別の声が聞こえるんだよ。何か呼ばれているような……
 オレはテーブルから椅子・床へと飛び降りて(無論、着地できずに転んだが)、その声に呼ばれるまま、部屋の隅に行く。そこには使い魔用の藁が敷き詰められていて、ルイズがよほど楽しみにしていたんだろう事が伺えた。
 今後はそこで才人が寝起きするんだろうけど、できれば簡単なベッドにしてやりたいと思う。オレがしゃべれたらなぁ……
 そんな事を考えながら声のする所に来ると、藁の中にほんのりと緑色に光るモノがいた。掻き分けて見ると、ちっちゃい何かだ。

『コッチ-、コッチ-』
『な、何なんだ? オレを呼んだのはお前か?』←ネコ語

 オレは藁の下にいる何かに話しかける。するとそれはふわりと飛んで、オレの頭の周りを回り始めた。
 そいつはオレの目玉くらいの大きさで、丸い毛玉のような体にトンボのような小さな羽が4枚生えているだけだ。目のような丸いモノが二つあり、鼻や口、手足はない。

『ソー、ソー』
『お前は何なんだ?』
『セイレイー、セイレイー』
『精霊なのか……どうしてこんな所に?』
『マッター、マッター』
『待った? オレを?』
『ソー、ソー』

 返事をしたそれがオレの頭に乗った。すると……

『おわっ?! なんじゃこりゃあっ?!』

 見た目の景色が変わったのだ。ルイズの部屋には、たくさんの精霊がひしめいている。
 石造りの壁、豪奢なタンスにベッド、机、テーブルに椅子、そして才人とルイズ。そのいずれにも精霊達がびっしりと張り付き、ほんのりと光って部屋の中は幻想空間だ。オレにもさっきまで見えてなかったから、才人とルイズにも見えてないんだな。というか、精霊ってこんなにいるものなんだなぁと感心する。

『ナカマー、ナカマー』
『みんな精霊なのかー。すげぇなぁ……あれ? 何でお前だけは見えたんだ?』
『トクベツー、トクベツー』
『? 特別って?』
『ハナシー、ハナシー』
『話? オレと話をする為なのか?』
『ソー、ソー』

 オレと話をしに来るとは…………? 何でなんだ?
 頭を捻りながら、何とはなしに精霊達をぐるりと見回してみた。
 あれ? 待てよ? 石壁や机なんかにいる精霊を見比べてみると、光る色が違うのに気付く。

『色が違うのはどうして?』
『ツチー、ミズー、カゼー、ヒー』
『属性が違うって事か……で、お前はどの属性なんだ?』
『カゼー、カゼー』
『そうか……他の所もここみたいなのか?』
『チガウー、ココダケー』
『どうして?』
『ココー、マホウーツカワナイー。タノシイノー』
『なるほど~』

 魔法が使えないからこそ集まってくるんだな。皮肉なもんだ。

『マホウー、ムリヤリー、キライー』
『魔法使いは、魔法を使う時に無理矢理精霊を使うから嫌だってことかな?』
『ソー、ソー』

 魔法使いは精霊に嫌われてるって事か? ま、どうでもいいけど。

『ところで、何でオレに話しかけてきたの?』
『セイレイー、ツカイー、セイレイー、ツカイー』
『精霊使い? オレが?』
『ケイヤクー、ケイヤクー』
『契約? ……』

 精霊の言う契約って、ルイズとの契約しかないだろ。オレは再び玉袋を確認する。
 足をおっ広げて、『チョットだけョ? アンタも好きね~』と言いそうになったのはナイショだ。
 三角に並んだ『の』の字を一つ指さす。先ずは右上だ。

『これは?』
『ツメー、キバー、ケモノー、オー』
『爪や牙を持つ物や獣達の王って事かな?』
『ソー、ソー』
『爪や牙ならトカゲや蛇なんかも入るよね』
『ソー、ソー』

 ってことは、獣王? 今度は下を指す。

『んじゃ、こっちは?』
『トリー、オー、トリー、オー』
『鳥かぁ、鳳王?』

 左上のが『剣』の王になったら「ライジ○オー」になっちまうなー。まあとにかく聞くしかない。

『んじゃ、こっちは?』
『セイレイー、セイレイー』

 絶対無敵じゃなかったか……ちと残念。でも、【獣の数字】じゃないってのには少しほっとしたな。尤も、オレ達の世界の文字や数字がハルケギニアでも使われているなんてありえんだろうし……
 あ、そう言えば、こいつがオレに話しかけてきた理由を聞いてなかった。

『マホウー、オオイー、タイヘンー』
『魔法が多いと大変なんだ……減った方がいいの?』
『ソー、ソー』
『魔法を減らすか……そういうのをオレに言われてもなぁ……』

 子猫のオレに一体どうしろと? オレがどうしたって、ハルケギニアの人々が魔法を使うのを減らすとは思えないんだけどなぁ……
 そっちよりも、ルイズの使い魔になってしまったオレが、何で精霊や獣や鳥の王になっているんだか……
 虚無の使い魔だからなのか? 無茶ぶりがヒデェよなぁ……

『オネガイー、オネガイー』
『お願い? オレに?』
『セイレイー、オネガイー』
『オレが精霊にお願いするのか?』
『ソー、ソー』

 どういう事?

『オレが精霊達にお願いすれば、精霊が力を貸してくれるって事?』
『ソー、ソー』

 え? それって変じゃね?
 力を貸すって事は精霊を使うって事じゃ……
 あ! 魔法使いに協力するな、と精霊にお願いすればいいんじゃね?

『ということは、魔法使いが魔法を使おうとした時、オレが精霊にお願いすれば、魔法の威力を弱めたり、逆に強くしたりできるって事?』
『ソー、ソー』

 なるほど……
 オレには使えないのか?

『オレが精霊にお願いして、魔法を使う事はできるのかな?』
『デキルー、デキルー』
『へ~~。それじゃあ、オレの姿を変える事もできる?』
『デキルー、デキルー』


 マジですか―――ッ?


 オレは驚きのあまりフリーズする。だがすぐに復活した。

『オレの想像する姿になれる?』
『デキルー、デキルー』
『そっかぁ……でも、ここではできないよな。人が見ていない所に行こうか』
『ドコー? ドコー?』
『外が良いけど、姿が変わるところを見られるのも嫌だし……屋根の上なんかどうかな……猫なら屋根の上にいてもおかしくないし……
 でも、どうやって外に出よう……』
『カベー、ツチー、セイレイー』
『そうか。壁には土の精霊がいるから、オレがお願いすれば良いんだな』

 さて、才人とルイズは日本の話をしているし、今はオレに意識が向いてないな。
 というわけで、オレはベッドの下に移動し、そこから壁に向かう。
 壁には精霊が隙間無く張り付いており、しかもぺたんこに平たくなっていた。まるで目玉焼きが並んでいるかのようだ。その辺をフラフラしている精霊はみんな丸いのに、どうしてなんだろう?
 今は精霊達が見えているから、壁の精霊達に話しかける。

『土の精霊、オレの言葉がわかるかい?』
『…………ウム……』

 返事に時間がかかるってことは、土の精霊ってずいぶんと寡黙なのか?

『ここから、壁の中を通って廊下に抜ける穴を開けてほしいんだ。頼めるかい?』
『………………ウム…………』

 すぐに目の前が変化する。壁にオレが通れるほどの穴が開き、それはすぐに廊下へと曲がっていった。
 奥を見てみると、小さく明かりが見える。おそらくあそこが廊下だろう。

『ありがとう。オレが廊下に出たら、この穴をふさいでくれ。頼むよ?』
『…………ウム……』

 よしよし。これでオレはこの建物の中を自由に出入りできるってわけだ。
 あ、特別な事がない限り、他の女の子の部屋に忍び込もうという気はないぞ? オレは紳士だからな。
 さて、階段まで来たわけだが、一段がオレの頭よりも高い位置にあるんだよなぁ……
 こういう時こそ、再び精霊にお願いするとしよう。

『お~い、土の精霊』
『………………ウム…………』
『この階段が高すぎるので、オレが上れるくらいの高さにしてくれないかな? だいたい人間の1段がオレの6段くらいなんだけど』
『………………ウム…………』

 精霊が返事をしたとたん、左に曲がりながら上に続いている階段の内側が、オレが通れるくらいの幅で段が細かくなっていった。それはもう、あっという間に……

『す……すげぇ……ありがとう、土の精霊』

 思わず声に出してしまった。
 魔法ってこんなに便利なんだというのが実感できる。
 だからこそ、このハルケギニアの人々は魔法をありがたがるんだろうな。
 そしてそれが、いろいろな方面で魔法に依存してしまう結果につながっているわけだ。
 オレは急いで階段を上り、屋上へとたどり着いた。

『ここなら誰にも見られないよな。
 よし、じゃあさっき言ってた変身魔法をお願い! 変身後は大きくなるように!』
『ワカッター、モルヨ~、チョーモルヨ~』

 もる? 盛るなのか?
 おお! 周りにいた精霊達がオレの体に集まってきた! 分かる! オレの体が大きくなっていくのが分かるぞ!
 これで少しは自由に動き回れる! オレの心はかつてないほど希望にあふれかえった!



『オワッタヨ~』
『これが今のオレかぁ……』

 目線が高くなったのが…………高くなった……?
 あんまり高くなってないんだけど……?
 バルコニーの縁に届かないんだけど?
 あっるえ~? おっかしいなぁ……
 オレは近くにあった明かり取りの窓に近づき、ガラスにオレの姿を映してみた。

『なっ? なんじゃこりゃあぁっ!』 ← 魂の叫び

 大きさは普通の大人ネコだった。ただし、頭の大きさがややおかしい。
 例えて言うと、サザ○さんちのタ○に酷似している。オレの場合は虎縞があるから別物だと分かるが、もしも真っ白なネコだったら、もろに○マだった……Orz

『やり直しを要求する!』
『イイヨー、イイヨー』
『ずいぶんアッサリだな。まあいいか。
 まずは大きさだな。鼻先がこの辺りから、尻がこの辺くらいで、しっぽの長さはこれくらい。
 ベンガルトラのような感じで、前足がついている状態で頭が大人の男性よりも高くなるように』

 頭から尻までが5メートルくらいを指示する。それくらい大きいと、ハッタリも効くからな。

『ワカッター、モルゼ~、チョーモルゼ~』
『ちょっと待ってくれ。体が大きくなるんなら、こんなに狭いときつくなるだろ。だから、屋根から飛び降りるから、その間に大きくしてくれないか?』

 いったいどこのバイト三昧女子高生なんだよ……

『ワカッター、モルゼ~、チョーモルゼ~』
『じゃあいくぞ~!』

 オレは塔の手すりから渡り廊下の屋根へと飛び降り、その縁に向かって走っていく。

『トラだ! トラだ! オレはトラになるんだ! トウッ!』

 オレはかけ声とともに、屋根の縁を蹴って空中へと飛び出した。
 すると、周りにいた風の精霊達がオレを中心に渦を巻くように集まり、ネコの体を再びモリモリと大きくしていった。
 そして、

『キャッ○空○3回○っ!』

 空中で三回転して落下の勢いをわずかに吸収すると、今度はまとわりついていた風の精霊達がオレの体を持ち上げ始める。そして後ろ両足だけでオレは地上に軟着陸した………………………あれ? 何でギャグっぽいの? 
 今度は明らかに視点も高くなった。無論、後足で立ち上がれば相当高くなるのは当然だろう。

「お~~、ずいぶん眺めがよくなったなぁ……」
『オオキイー、オオキイー』

 あれ? オレ、人の言葉がしゃべれてるんじゃね?

「オレ、人の言葉でしゃべっているよな?」
『デキテルー、デキテルー』

 まあこの方が威厳が出るだろう。
 さて、今の姿はどうなっているのかな?
 オレは建物の窓ガラスに自分の姿を映してみる。

「なっ? なんじゃごるぁああぁっ!」 ← 魂の叫び2

 またもや頭を抱えてしまうほどの姿だった! いや、実際両手で頭抱えている!
 オレはどこぞの大金持ちヒキオタわがままお嬢のペットかよ!
 もろにタ○じゃねぇか! ○マ!
 両手を見るとファンシーなデフォルメがなされ、肉球というよりも“にくきう”と呼んだ方がいいラブリーさだ。
 顔も何というか簡略化された状態。トラの着ぐるみを着た人間に見えてしまう。
 シリアス調になろうと目と眉根に力を入れたら、なぜかゴ○ゴ眉になるし……





「オレはお笑いキャラじゃねえええぇぇぇっ!!」 ← 魂の慟哭





 というわけで、三度目の正直は何とかまともでリアルなホワイトタイガーになった。
 しかも、体長は6メートルを超え、後足で立ち上がれば余裕で二階に届く程。
 トラの大きい方の種類としてはベンガルトラよりもシベリアトラが大きいのだが、本来のそれよりも遙かにでかい。
 そこはそれ、サイズをカスタマイズできるという強みを生かしたのだ。
 無論、学院内をうろつく時には大きくても3メートル程度に抑えるつもりではあるけどな。

 さて、こういう姿になったなら、名前も少しは考えなきゃいかんだろ。
 精霊の中でも特に風の精霊に良くしてもらっているから、主な属性は風か。
 それなら風を司るという意味も含めて、白虎(びゃっこ)を名乗るのが相応しいだろうな。← イイ年なのに厨二病全開
 そんでもって、才人やルイズ達がピンチの時には人知れずこの姿になって助けるとしよう、これなら喋れるし。

 いや~~~~よかった! いろいろな問題がこれで解決だぜ!
 チート能力バンザ~~~イ!! わははははははっ!

 オレは上機嫌でそのままひなたぼっこをしようとした。が……

「キャッ?!」

 誰かの叫び声でそれを中断せざるを得なくなってしまった。
 声のした方を見ると、洗濯物を山のように抱えたメイドさんが一人、こちらを見て固まっている。
 ああっ?! シエスタじゃねぇかよ! まずい、怖がらせてしまったか……
 オレの姿を怖がっているわけだから、きちんと話せば解ってもらえるはず。

「おや? こんにちは、かわいいメイドさん」
「?! ハ、ハイ! コンニチハ!」

 やはり怖がっているなぁ……

「そう怖がらなくても良いぞ。ワタシは精霊使いだ。この姿は仮のものだし、人を襲う気はないぞ」
「は……はぁ……そうなんですか……」

 少しはこわばりがとれたかな?
 オレはシエスタにこれ以上警戒させないように、その場で伏せた。

「今の姿は西の方角を守る守護獣で、『白虎』というのだ」
「ビャッコさん……ですか……」
「うむ。それでな、お前さんにチョットばかり頼みがある」
「頼み?!」

 また顔がこわばってしまった。何か悪い事を連想したか……

「うむ。今年の使い魔召還の事は聞いておるかな?」
「は、はい! なんでも平民が召還されたとか……」
「そうだ。頼みというのは、彼に色々と教えてやって欲しいのだよ。
 人であるが故に、たいした能力がないのでな、恐らく彼は、呼び出した貴族のお嬢さんの召使いとなるだろう。そんな彼に、召使いの仕事の仕方を教えてやって欲しいのだ」
「それくらいならお安い御用です」

 お、だいぶコワバリがとれてきたな。そうだ、食事の件もお願いしておこう。

「うむ。それと、彼の食事を厨房で食べさせてやってくれ。
 ああ、あと彼には飼いネコが居てな、そのネコには味付けしていない煮魚や肉を食べさせてやってくれ」
「それは構いませんが、ネコは厨房に入れられませんよ?」
「食堂前や厨房前の廊下でならば構わないだろう?」
「ええ。それなら……」
「うむ。よろしく頼む。
 ところで、君の名は?」
「あ、はい。シエスタといいます」
「そうか。シエスタは今から洗濯かね?」
「はい、そうです」
「そうか、引き留めた詫びだ。その荷物を持ってやろう。学園内も見ておきたいしな」
「そんな……悪いです……」
「気にすることはない。今後も世話になることもあるだろうしな」
「あ……ありがとうございます」

 風の精霊に頼んで洗濯物を持ってもらう。オレの方が精霊使いが荒いが気にしない。だって、オレに魔法なんて使えないし~。仕方ないじゃん。
 こっちですというシエスタの案内で、洗濯場まで来た。

「これは……狭いな……」
「そうなんですよ。でも、あるだけでやるしかありませんから……」
「そうか……」

 洗濯は時間も手間も掛かる。しかしここの洗濯場は3人しか場所をとれないくらいに狭いのだ。洗濯に時間をとられてたら、他の仕事にも影響が出るだろうに。
 機会を作って、学院長に意見しなきゃなぁ。
 まずはお知り合いにならないと……

「ではシエスタ。仕事、がんばってな」
「あ、はい!」

 オレは挨拶をすると、さっき飛び降りた時の屋根にまで飛び上がった。下の方からふわああぁという声が聞こえた……


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ふわああああぁぁっ……」

 白虎が空に舞うのを間近で見たシエスタは、唖然としながら感嘆の声を上げた。竜やグリフォンやマンティコアじゃあるまいし、翼のないあの動物が空に舞い上がるとは思ってもみなかったからだ。

「確か、精霊使いって言ってたっけ……?」

 そう呟いた時に別のメイドが三名、建物からシエスタの下へと駆けてくる。

「シエスタ?! 大丈夫?!」
「今、ものすごく怖そうな動物がいたけど?!」
「何かされたんじゃないよね?!」
「えっ?! ええっ?! 何にもなかったけど……」

 何故か心配されて、驚いているシエスタであった。
 仲間達はシエスタに何もなかったことに安堵し、気が抜ける。

「はあぁ……よかった……」
「見た目は怖いけど優しかったですよ、ビャッコさん。少しお話しましたし」
「ええ~~っ?! 喋ったのっ?!」
「はい。精霊使いだって言ってました。あと、学院のこととか、貴族の方達のこととか、先生方のこととか……」
「ふええええ~~っ?! そんなこと話してたの~~っ?!」
「意外に気さくな感じでしたよ。今後も時々いらっしゃるそうですから、その時は一緒におしゃべりしましょう」
「そうね。いいわねぇ」
「私はちょっと怖いかな……」

 賑やかに話をしつつ、シエスタ達はいつものように仕事をこなしていくのであった。




[25428] 3.なんてこった~~っ!!
Name: おっちゃん◆a0534589 ID:2ef80e02
Date: 2011/05/04 09:26
 中庭から渡り廊下の屋根に飛び乗ったオレは、精霊達にお礼を言って元の子ネコに戻る。
 精霊にお願いすれば魔法が使えるのも判ったし、要所要所で才人の手助けができればいっか~。
 オレは来た時の逆のルートを辿ってルイズの部屋に戻る事にした。風の精霊はオレの周囲を話しかけることなくゆったりと飛び回っている。
 ところが、戻る途中で視界の端に動くモノを感じたオレは、本能的にそれを目で追ってしまう。
 お?! 白いネズミッ!
 それを認識した瞬間、ぞわりと体中の血が滾り、見つけたネズミしか目に入らなくなった。そして見つからない様にと自然に身体を壁際に寄せた。続けて身体を伏せ、足音を立てない様にそろそろと近付いては止まりを繰り返していく。
 ネズミが後足で立ち、向こう側に頭を向けた時、オレは跳び出した。

「ニャニャ~~ッ!(おりゃあああぁぁぁっ!)」 ←ネコ語
「チュ~~ッ?!(なんだ~~?!)」 ←ネズミ語

 くそっ! 避けられた!
 白ネズミは跳び掛かるオレの横方向へ離れる様に走り去って行く。
 オレは反射的にそれを追おうと方向転換しようとしたら、足が短い上に力がないから身体を支えきれなくて転んだ。
 クソッ! なんというロスタイム!
 すぐに四つ足で踏ん張って走り出す!
 走れ!
 走れ! 追え!
 走れ! 追え! 狩れ!
 狩猟者としての本能がオレを突き動かす!
 こいつ、迅い!
 オレは子ネコだから上手く走れねぇ!
 なかなか追いつかん!

「ニャニャニャニャ~~ッ!(待て待て待て待て~っ!)」
「チュチュチュチュ~~ッ?!(なんでこんな所にネコが~~?!)」

 ちくしょう!
 追いつけないどころかどんどん引き離されていく!
 どべっ?!
 転んだっ?!
 げげっ?!
 階段?!

「グニャッ?! ゴニャッ?! ゲニャッ?! ムニャッ?!」

 どわあああああああっ?!
 オレは階段を転がり落ちた! しかも縦回転っ?!
 体が小さいから跳び降りるしかないのに~~~っ! 更に転ぶってどうよ~~?!
 ネコで身体が柔らかいから怪我はないけどな!
 でも体中が痛てぇぇぇっ! 特に角がっ! カドがああっ!
 階段を転げ落ちる役者さんってすげええぇぇっ!
 ああっ?! あいつはオレが精霊にお願いして作ってもらった階段を下りていく!
 ずっこいぞ!
 オレがお願いして作ってもらった階段なのに! ←大事な事なので二回
 あ、角を曲がって見えなくなった!
 角に走り着く!

「ニャッ! ニャニャ~~ッ!(見つけた! 待ちやがれ~っ!)」
「チュチュ~~ッ?!(まだ追ってくる~~?!)」

 廊下の角を曲がるたびに見失わないか心配だ!
 ああっ! また角を曲がりやがったっ!
 なっ?! いない?!
 くそっ、見失ったっ!
 ヤツの匂いは……あった!
 これを辿れば……あ、こんな所の壁に穴が空いている。むう~、流石にこの穴の小ささでは子ネコのオレでも通れないぞ。
 ちくしょう~~~~っ!
 オレの体がもう少し大きければ追いつけたのに~~っ!
 オレの体がもう少し小さければこの穴に入って行けたのに~~っ!
 ちくしょう~~っ!
 ちくしょう~~~~っ! ちくしょう~~~~~~っ!!(Cv若本)

 はあっ、はあっ、はあっ……はあ~~……




 あ…………ネコ丸出しじゃん、オレ……orz




 掴まえた所でどうこうするわけでもないのに、本能に任せてネズミを追いかけてしまうとは……
 でも、本能から来る衝動には逆らえなかった。動物の本能って怖えぇな、マジで。
 それにしてもどこだ、ここ?
 ペトペト歩きながら廊下の真ん中で見回すが、当然知らない場所だ。
 扉には文字の書かれたプレートが着いているが、オレには読めねえし。
 う~~ん、困った。この学院はほとんどが行った事のない場所だから、とたんに迷子になってしまったか。
 屋上に行くか外に出れば何とかなるだろうけど……
 ま、このまま歩き続けても何とかなるだろう。
 ごーいんぐ・前・行け~、だ。
 10分程そのまま進むと、近くのドアが開く。
 あ、誰か出てきた。
 ん? 女の人?

「あら? こんな所にネコ?」
「ニャー」

 一応返事はしておこう。
 美人さんだとついニヤケてしまうな、うん。
 あ、俺の前に来てしゃがみ込んだ。…………ふむ。白か……
 オレはその人に掬い上げられた。
 あれ? 真ん中分けの長い髪、眼鏡をかけた理知的な表情で、何よりでかい胸のこの人はもしかして、ミス・ロングビルことフーケ?
 へ~~、こんな優しい表情もできるんだなぁ……
 彼女に撫でられるまま、オレを乗せている手に頬や頭をすりつけたりしていた。誰かに撫でられるのは気分が良いもんな!

「ニャーン」ゴロゴロ~

 こ、ここここれでそのむむむむ胸に乗っけてくれたら言う事はないんだけどなぁ……
 ちなみに彼女の歳は気にならない。
 何故ならオレはオッサンだから。なので30代半ばまでならオレにとっては守備範囲なのだよ、ムヒョヒョ。

「ふ~ん、誰かの使い魔かと思ったけど、契約の印は無いのね?」
「ニャー」

 あ、撫でていると思ったら、そんなのを確認していたのか。まさか玉袋に付いているとは思わないだろうけど……
 それにしてもさすがフーケ、抜け目がないね。

「おや? そこにいるのはミス・ロングビルじゃありませんか?」
「あら、ミスタ・コルベール、こんにちは」

 お、コルベール先生じゃないか。なんか廊下が明るくなった気がするが、気のせいか?
 あ、ちょっと顔が赤い。動きもぎこちない。彼女に気があるのは間違いないな。
 それにしてもこのねーちゃん、見事にネコかぶってるなぁ。正体知らなきゃ完璧騙されるぜ。美人ってのは、それだけでイケナイ魔法だよな、うん。

「こんにちは、ミス・ロングビル。学院長は在室ですかな?」
「ええ、いらっしゃいますわ。(生きているかは別だけどな)」

 うわ、こえ~~~~。ぼそっと恐ろしい事つぶやきやがった。
 まあ、あのエロじじいが彼女の尻か胸でも揉んだんだろ。
 そんで死にかけるまで殴る蹴るの暴行を働いてきた、と。
 同情の余地はないからどうでもいいが。

「ミスタは学院長にどんなご用で?」
「本日の使い魔召喚の儀式についての報告ですよ。
 いつもならば簡単な報告で済みますが、今回は平民の少年が召喚されましてね」
「ええっ?! 人間が召喚されたんですか?!」

 あー、さすがにフーケでも人間の使い魔については知らないか。

「そうなんです。このような事態は私も初めてでして、そこで学院長へ詳しい報告をしに来たわけです。人間が使い魔になるなど、見た事も聞いた事もありませんからなぁ。はっはっはっ」
「そうですわね。私も聞いた事がありません。確かに学院長のお耳に入れておく必要がありますわね」
「ええ。ところでミス、このような場所で立ち止まって、どうなさいました?」
「ああ、この子がここにいたものですから、どなたかの使い魔が紛れ込んだのかと思いまして……」
「ニャー」

 そう言ってロングビルは、オレをコルベール先生に見せる。

「おや? この子ネコは使い魔になった少年が連れていたネコのようですよ」
「まあ、そうなんですか。では私が連れて行きますわ。使い魔の少年を召喚したのはどなたでしょう?」
「ミス・ヴァリエールです。召喚できるかどうかが一番心配だった上に何度も失敗を繰り返したのですが、よもや彼女がこのような事態を引き起こしてしまうとは……」
「驚きですわね」

 驚くと言うより呆れているな、これは。
 ま、連れて行ってもらえるなら良いか。場所がよく判らなかったし。
 それではと言ってコルベール先生と別れたロングビルは、オレを胸に抱きながらルイズの部屋に向かう。



 オレを 胸 に 抱 き な が ら ルイズの部屋に向かう。



 なんという感動……………………
 身体でこの柔らかくて暖かいモノに触れる事ができるなんて……このマジありえない程の幸福感。

 ああ、我が人生に悔い無し!

 あ、ネコ生か……



 ネコで良かった…………



「ミュウー……」
「おや? 随分泣き虫で甘えん坊だね、この子は……」

 この暖かさに眠気を誘われ、オレは意識を手放した……



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ドアをノックする音が聞こえたので、ルイズが出る。才人は使い魔になったばかりな上に応対の仕方が判らないからだ。

「あら、ミス・ロングビル」
「こんにちは、ミス・ヴァリエール」
「こんにちは。どんな御用でしょうか?」
「実は、学院長のお部屋の前でこの子を見つけたものですから……」
「あ、トラジじゃない! 一体いつの間に部屋を抜け出したのかしら……」

 そう言いながらルイズの目は、トラジとその寝床に注がれている。一瞬、羨望と怒りが入り交じった様な色を見せたが、すぐに冷静になった。

「わざわざありがとうございます、ミス・ロングビル」
「いえいえ、このくらいはどうという事はありませんわ。それよりも噂によると、ミス・ヴァリエールは人間を使い魔になさったとか?」
「え、ええ、まあ……、サイト、こっちに来てご挨拶なさい」
「は、はい」

 才人はルイズの側に立つと、頭を下げた。

「あの、初めまして。使い魔の平賀才人です。才人と呼んで下さい」
「こちらこそ初めまして。私の事はロングビルと呼んで下さい。この学院の学院長のお側で秘書をしています」

 才人は綺麗な大人の女性を前に緊張していたが、ロングビルの胸に視線をやると、とたんにだらしない表情になる。
 ロングビルは才人がドコを見ているのか判っているが、それをニッコリ笑って何も言わないくらいに大人であった。勿論、自分の容姿に自信がある事の裏返しではあるが。
 そしてそういうエロい事が許せない人物が才人に制裁を加える。

 ズダダン!

「ぐはああっ?!」

 ルイズは才人の足を踏み、全身が硬直した所を腹に肘鉄、上半身が前屈みになった瞬間に裏拳を顔面に一発。才人は堪らず、その場でしゃがみ込んだ。

「サササササイト?! アアアアアアアンタ、どどどどどこを見てるのよ?! じょじょじょ女性のむむむむむむむ胸をジッと見つめるなんて、しししし失礼よっ?!」
「ふぎゅふぎゅ……ずびばじぇぇん……」

 鼻血が止まらない才人。鼻をつまんで首の後ろをトントントン。
 ロングビルはやや顔を引きつらせながら、トラジをルイズに差し出してくる。

「ではミス・ヴァリエール、この子を」
「あ、はい。わざわざありがとうございました」
「どういたしまして。それにしても、この子は結構泣き虫なんですね」
「え? どうしたんですか、急に?」
「ええ、この子を見つけた時なんですが、随分寂しそうと言うか心細そうに盛んに鳴いていたんですの。それも、廊下に歩いた痕が判るくらいにポロポロと涙を流しながら」
「まあ、そんな事が……」

 二人はほのぼのとした笑顔になった。かわいい所もあるのねぇ、という視線を向けられていると知らないトラジは、ルイズの手に包まれて小さくうにゅ~と鳴いた。

「子ネコらしく元気な所しか見てなかったから、意外だわ」
「でもまだ子ネコですから。一人になると寂しいんでしょうね」
「え? ウチではそんな姿、一度も見せなかったけど?」
「アンタねぇ……、学院がどれだけ広いと思ってんのよ……」
「生まれて初めての場所に来てそこで迷子になったら、誰でも心細くなりますわね」
「あ……そうか……」

 二人にやり込められて頭を掻く才人。

「ふふふ、面白い使い魔ですね。それではごきげんよう」

 トラジをルイズに渡したロングビルは軽くお辞儀をして去っていく。才人はその後ろ姿がマントに隠れて見えない事を残念に思った。

「さあ、さっきまでの続き、始めるわよ」
「へ~い」

 渋々立ち上がった才人、ドアを閉め、さっきまで座っていた席に着いた。
 ルイズも椅子に座り、その太股にトラジを乗せる。するとトラジが身じろぎをし、起きあがった。

「ニャニャニャ~~~ッ!!」

 いきなり叫んだトラジに、二人は驚きの目を向けた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ふわふわで暖かいものに包まれて幸せ気分だったのが、畳の上に放り出されたような感じがする。意識が上ってきて目が覚めてくると、自分が寝ている場所が変わっている事に気付いた。
 ぼうっとしながら周りを見渡すと、どうやら見えているのはテーブルの下の面や足だと気付く。ということは、いつの間にか太股に寝かされていたのかぁ……まあ、椅子に座っているのなら、太股に移っても不思議じゃないかぁ……起きたよ~と鳴けば、また胸に乗せてくれるかもしれんな、フヒヒ。
 そう思ってロングビルを仰ぎ見ると……

 なんてこったああぁーーっ!!

「ニャニャニャ~~~ッ!!」

 思わずオレは、大声を張り上げてしまった。
 な、なんでっ?! なんでなくなってるんだっ?!
 あの豊かに実っていた、たわわな果実が?!
 大きな胸が?!
 見上げれば見えるはずの下乳が?!

 なんで大氷原より平たい胸になっているんだあああぁぁっ!!

 オレは目と口をこれでもかというくらいに開き、その残念な氷原を見上げるだけであった……



「どうしたのよトラジ? いきなり大声を出すからビックリしたじゃない?」
「お前がそんな大声を出すなんて、久しぶりだな~」

 あれ? ルイズと才人の声がする?
 あ、オレの身体が持ち上げられた。そしてその顔の前まで視点があがると、見えるのはルイズの顔。



 はい? ということは、今目の前に見える大氷原より平たい残念な胸はルイズの胸だったわけ?



 よかった~~~~~っ!
 ほっとした~~~~っ!
 ロングビルの胸が無くなったかと思っちゃったよ~~~っ!

「ふにゅう~~~~~……」

 オレは一気に気が抜け、その場でぺったりと伏せた。
 腰が抜けたとも言うな。

「あら、居場所が変わって驚いたのかしら? 大丈夫よ、ワタシがいるんだから」

 そう言いながらルイズはオレをテーブルの上に降ろす。
 四肢をそれぞれの方向に引かれ、まるで虎皮の敷物みたいだ。ちっちぇえけどな。
 ……あれ? ルイズの視線がなんとなく生暖かいような……
 オレは座り直して才人を見ると、コッチは生ヌルい視線。内心で、ぷすすーっと笑っているかのようだ。ハテ……?
 首を傾げていると、ルイズが指でオレの頭を撫でてくる。

「それにしても、アンタも意外にかわいい所があるのねぇ~」
「ニャ?」

 ? う~~ん、なんの事だ?

「お前が涙流しながら廊下でニャーニャー鳴いてるとはねぇ~。ウチでは全くそんな素振りはなかったよな?」
「ニャニャニャニャ~~~~~~~~ッ!!」
(なあんだってええぇ~~~~~~~っ!!)

 なっ?! なんで知ってるんだ?!
 オレは何ともないけど身体が子ネコだけにそれに引っ張られるように一人になった寂しさがどうしようも無くって堪らなく寂しいというか怖くなってついつい泣いてしまったんだけどそんな様子はこの二人は見てないはずなのに何で知ってるんだよモノローグにも出してないのに~~~っ!

「ミス・ロングビルに聞いたわよ」
「ニャンニャニャッニャ~~~~~~~ッ!」
(なあんてこったああぁ~~~~~~~っ!)



 ……終わった……ハードボイルドなイメージで行こうと思ってたのに、その野望が崩れてしまった……orz


 オレはフラフラと二人から離れるように後ずさり、テーブルの端で反対側を向いてうずくまる。そして床に向かってうつむき、両前足で両目をふさいだ。



 ……ナンテコッター……シクシクシクシク…………




「あ~あ、拗ねたかな?」
「そうなの?」
「たま~にこっちの言うことを理解してるんじゃないかってのが時々あってさ。だからこいつ、意外と頭良いみたいなんだ」
「ふ~~ん。変わったネコね」

 ……元々人間だからな。変わってるどころじゃないんだけどな~。

「さ、雑談はこれくらいにしましょう。じゃあ、さっきまでの続き」
「お、おう……」
「いいこと、魔法を使えるのが全て貴族とは限らないけれど、貴族で魔法が使えない者は居ないわ」
「へ~~。それじゃあ平民に見えて、実は魔法が使えるって人もいるわけか~」
「そうよ」
「……何で?」
「何でって……たとえば没落して潰れちゃったとか、御落胤とか……」
「ああ~なるほど~。それなら貴族としての道を踏み外してしまった人なんかも……」
「当然居るわね」
「へ~~。そういう所は場所が違っても大して変わらないんだな」

 あれ? 出る時は日本の話をしていたけど、今は貴族の事をルイズが教えているのな。現状把握の為には情報交換って必須だよね。
 って、まあそれはともかく、いつまでも落ち込んでいても仕方ないかぁ。窓の外も陽が沈んで暗くなってきたから、そろそろ食事時間だろ~。腹減ったし~。
 オレは才人の前へと移動し、いつもの様にメシの催促をする。

「なうー」
「ん? どうしたトラジ?」
「なうー」

 篭もった声でこう鳴くのをずっと心がけていたので、才人にはオレが腹減っているんだと伝わるはずだ。
 才人は少し考え、ポンと右手で左の手のひらを叩く。

「トイレか」
「フギャ――ッ!」(ちっがーうっ!)
「ふふふっ、その様子だと違うみたいね。わたしはお腹がすいたんだと思うわ。もう日も暮れてるし……」
「ニャッ!」(正解!)

 ルイズに向かって右前足を上げた。
 才人よ、飼い主なのに情けない……
 ルイズはさすがにネコ属性を持つだけあるねぇ。一発で判ったよ。
 オレは嬉しくなってルイズの方へと走り出すが、途中で止まって頭だけ才人の方を振り返る。そして後ろ足で才人の方へ砂をかける仕草を2回すると、ルイズの手に寄って頭をすりつけた。

「なうー」
「ふふ~ん。トラジの方が、誰が飼い主か判っているようね」
「ぐぬぬぬ……」

 才人は悔しそうにコッチを見ていたが、すいっと視線をそらした。
 そう言えば才人の家ではもっぱら、才人の母親がいつも飯をくれたんだっけ。
 味付け前の肉とか魚は美味かったなぁ……あ、ネコのオレ的にはその方が美味く感じられたんだ。味が付いてる方は逆に甘すぎの辛すぎできつかったよ。

「さ、食事に行くわよ。ついてきなさい」
「へいへい、わかりましたよ」

 ルイズはオレを手に乗せると、先に部屋を出る。才人は後に続いてきた。


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