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[25371] (勘違い系習作)麻帆良でサバイバル(逸般人オリ主トリップ)
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/01/12 11:07
勘違い系というものを試したくなったのでちょっと書いてみました。
こんなん勘違いものではない、などという指摘は修正の種になりますので感想に書いて頂けると嬉しいです。

あと、オリ主はある種とんでもない世界からトリップしています。
特に妙な能力はないつもりです。迷子体質とかは普通だと思います。光に行こうとして萩にいける人類の私が言うのだから間違いない。
身体能力がちょっとある程度。明日菜とガチで殴り合って普通に負ける程度くらい? スタミナとサバイバル能力と森の中での逃走能力くらい?
最強系にならないよう注意したいです。

一応、「元の世界」の年表を。

1916 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル誕生
1935 ジョン誕生(MGS)
1945 大東亜戦争終戦
伊507が東京への核攻撃を阻止(終戦のローレライ)
1958 米国、探査衛星ヴァイキング1号が火星で生物を発見(muv-luv ALT)
1964 バーチャスミッション(MGS3)
スネークイーター作戦(MGS3)
1966 オルタネイティヴⅠ開始(muv-luv ALT)
1967 サクロボスコ事件(muv-luv ALT)
第一次月面戦争勃発(muv-luv ALT)
1968 オルタネイティヴⅡに移行(muv-luv ALT)
1970 サンヒエロニモ半島事件(MGS PO)
1972 ソリッド、リキッド、ソリダス誕生(MGS)
1973 喀什(カシュガル)にBETAの着陸ユニット落下(muv-luv ALT)
オルタネイティヴⅢ発動(muv-luv ALT)
中国壊滅(muv-luv ALT)
1974 ピースウォーカー事件(MGS PW)
メタルギア技術によりMTが開発される(AC)
カナダ、サスカチュアン州アサバスカにBETAユニット飛来、落着前にメタルギアZEKEにより撃破(MGS PW×muv-luv ALT)
1977 A-10A運用開始
国連の要請で出撃したユージア大陸各国の極めて異常な技量を持つエース達によりBETAの侵攻が阻止される(ACE×muv-luv ALT)
Cored MTが考案される(AC)
1980 Armored Coreが開発される(AC)
1982 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、グンツェンハウゼンに封印
1985 ベルカ、ペンドラゴン計画開始。エクスキャリバー・アヴァロンダム・XB-0フレスベルク・ラディオアクティヴデトネイター・V1・V2の開発を開始(ACE ZERO)。
1994 小惑星ユリシーズ発見。ユージアに直撃すると予想され、ストーンヘンジ・シャンデリアなどの小惑星破壊兵器が開発され始める(ACE)
エクスキャリバー完成(ACE ZERO)
1995 アウターヘヴン蜂起(MG)
ベルカ戦争(ACE ZERO)
ベルカ軍が自国で核を起爆させる(ACE ZERO)
国境なき世界クーデター(ACE ZERO)
ADFX-01,ADFX-02が実戦投入され、ADFX-01が失われる(ACE ZERO)
オルタネイティヴⅣ開始(muv-luv ALT)
ADFX-01の残骸から、対BETA通常戦闘用の切り札ともいえるECM防御システムが回収される(ACE ZERO×muv-luv ALT)。
1997 マンハッタン島封鎖事件(PE)
1998 アンブレラ事件(bh0,bh,BH2,BH3,BHOB,BHOB2)
ロックフォート島事件(BH C:V)
ストーンヘンジ完成(ACE04)
1999 ザンジバーランド騒乱(MG2)
小惑星ユリシーズ落下(ACE04)
2000 N.M.C.事件(PE2)
2001 F-22A第一期低率初期生産開始
2002 桜花作戦。A-01部隊の活躍により重頭脳級BETAの殲滅に成功。トーマス・J・ホイットマン大統領及びユージア・アネアのエース及び超兵器、そしてイレギュラー・ドミナントと呼ばれるレイヴンによりカシュガルハイヴが文字通り消滅。地球上からBETAが殲滅される(muv-luv ALT,ID4,ACE,AC)
2003 大陸戦争勃発(ACE04)
ISAFで第一期低率初期生産型F-22A及びX-02ワイバーンがメビウス中隊に配備(ACE04)。
2005 シャドー・モセス事件(MGS)
大陸戦争終結(ACE04)
いそかぜ事件(亡国のイージス)
PT事件(なのは)
闇の書事件(なのはA's)
アメリカでF-22A運用開始
2006 オペレーション・カティーナ(ACE5)
Coffinシステム、ENSI規格、AMS、電脳化技術が確立される(ACE,AC4)
2007 タンカー沈没事件(MGS2)
2009 プラント占拠事件(MGS2)
2010 環太平洋戦争(ACE5)
ベルカ事変(ACE5)
オーシア空軍ラーズグリーズ戦闘機部隊にてADF-01 FALKEN運用開始(ACE5)
2014 リキッド・オセロット蹶起事件(MGS4)
2015 エメリア・エストバキア戦争(ACE6)
2020 オーレリア戦争(ACEX)
2025 アメリカで大規模クーデター(MWC)
コジマ粒子発見(AC4)
2031 エレクトロスフィアサービス開始(ACE3)
2039 宇宙開発競争激化(ACfA)
ネクスト技術の確立(AC4)
2040 ウロボロス蜂起(ACE3)
アサルト・セル散布開始(ACfA)
2041 ついに宇宙開発が不可能になる(ACfA)
2042 国家解体戦争(AC4)
2046 リンクス戦争(AC4)
2059 クローズ・プラン(ACfA)
2060 地表再建計画開始
2067 木星衛星カリストにてメタトロン鉱石発見(ZOE)
2116 ルーデル量産計画開始
2157 カンドール事件(ZOE)
2158 バフラム結成(ZOE)
OF基礎技術の完成(ZOE)
2167 ダイモス事件(2167 IDOLO)
2172 コロニー・アンティリア襲撃(ZOE)
ドロレス脱出(2172 Dolores,i)
2174 アーマーン計画阻止に成功(ANUBIS ZOE)
2260 アンサラー跡など一部地域を除き、地上浄化が完了
2511 トリップ
2871 太陽系から人類消滅
5916 エル ・ルー ル再機動(冗)
(ここからはかすれて読めない)

ver.0.16



カオスがまだ足りないと思い、大幅に年表を修正しました。
公式年表だと矛盾が生じるので、AC4とかはACE3とZOEの間にせざるを得ないなど、独自解釈が存在しています。なぜこんな面倒な世界混ぜたし。(つか独自解釈ってのもおかしいだろ、勝手に混ぜておきながら)
フロム脳とかオリ設定とかクロスとか、そんなものの塊です。




[25371] 1ページ目
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/01/11 12:35
 ある晴れた昼下がり。世間の一部は春休み。どこか浮かれた雰囲気を醸す街の中にて、俺は若干の絶望を覚えた。
 家が消滅していた。
 コンビニに行って戻る、その数分の間に、見事に更地になっていた。
 多少は迷子体質ではあるが、数百mの距離を迷うほど俺は超人ではない。

「……解体?」

 なわけない。数分で家を解体できる業者など存在するはずがない。
 周囲を見てみる。何かおかしい。家消滅以外になにか違和感がある。

「麻帆良?」

 お隣の家の塀に、住所を示す縦長の看板があった。そこには見慣れも聞き鳴れもしない麻帆良という地名。
 読みは『まほら』で合っているだろう。そこには何もない。

「……麻帆良などなかった。あさき的に考えて。海底にへばりついて探してもあるはずがない」

 現実逃避終了。
 気持ちを切り替えて、帰る方法を探すことにする。

「は?」

 現実逃避終了と同時に、目の前の更地が店になっていた。喫茶店だ。辺りを見回すと完全に自宅周囲の光景が全く別の街に移り変わっていた。

「これはアレか、認識によって猫の生死が確定されてしまったとかいう状況か?」

 量子力学とかいうファンタジックな学問でしかこれは説明できないだろう。俺は異世界に舞い降りた時空の迷子だということを理解しなければならない。
 俺は迷っていない。ほぼ完全に把握していた自宅周囲では迷うはずがない。家が消え、住所板は麻帆良なる見知らぬ場所。そして一気にすり変わった街並み。

「かくして俺はホームレスか」

 この時点で帰還は諦めている。こんな都会に見える街中で携帯は圏外、ここが日本のどこかすらわからない。俺の同位体も存在するかどうかわからない。保険証などの身分証明書も、使って偽物と思われたらアウトだ。警察とかが「並行世界からきました」などという言葉を信じるはずがない。この状況において、調べるということは多大なリスクを負うことになる。ハイリスクノーリターンという、最悪の状況だけは避けたい。せっかく前の世界のあらゆるものから解放されて自由なのにだ。貧困などに縛られそうだが。

「衣食住の確保が先決だな……衣はこの際無視するとして……食は森さえあればどうにかできる。住居は森に住めばいいか」

 森さえあれば俺は生きていける。日本の森であれば、その生態系はほぼ完璧に網羅している。いつどこで遭難してもいいように。迷子体質の俺が生きるために。迷ったら街でなく森に行く。そのせいで発見が遅れることもしばしばあったが、死ぬよりマシだ。ましてや、この世界に俺の親兄弟友達はいない。頼れるのは己の肉体だけ。
 よし、森を探そう。



――――1日目

 さっそく森を見つけた。
 しかし、どうもおかしい。見覚えのない植物が存在している。並行世界だからか、学園都市だからか。
 ここは学園都市なる巨大な区画で、文字通り大小様々な学校を中心とした街であるらしい。研究成果とやらを都市内の森で栽培している可能性もあるし、あるいは外来種の侵略であるのかもしれない。
 ざっと見て、食糧はかなり存在する。やはり森はいい。寒暖で死ぬことはあっても、餓死はしないだろう。
 とりあえず雲行きから鑑みて数日は雨が降らないだろうと予測し、拠点を決めずに森の全容を把握するためにうろつくことにする。



――――14日目

 二週間も使って森を完全に把握した。
 広さや配置、植生、動物などのデータは完全に網羅している。これで拠点たる家を作るべき場所が決まった。
 なるべく目立たない場所で水場に近く、なおかつ食糧が簡単に手に入る場所。川からは多少離れたが、梅雨や台風で流されたり溺れ死ぬのは避けたい。それでも水汲みなどには問題ない程度の距離を取れたと思う。
 さて、肝心な家だが、穴である。垂直に5m程度の穴を掘り、高さ2mにして四畳半ほどのスペースを掘削する。逃走経路兼二酸化炭素の抜け道として、壁の足元に人一人が通れる穴を掘る。わずかに角度をつけて、雨水が入らないようにする。ここらはなかなかしっかりとした地層で、地震があっても崩落はしないだろう。いつ迷子になってもいいようにと常備していた汎用サバイバルリュック、それに入っていたスコップが役に立った。俺の慎重の半分はあるスコップ付リュックは目立っていたが、こうして役に立ったのだ、これからも常備することを心に決める。
 穴の入り口は土を盛り、森林迷彩ビニルシートで覆うことにより雨から身を守ることができる。偽装もできてパーフェクト。しかしこの森には忍者が生息しているから、少々心もとない。ほかにいくつか家を掘り、セーフハウスにする計画を立てる。こんないい場所が他にあるかはわからないが。
 そういえば、対空放火のような音が聞こえたが、もしや戦時下なのだろうか。

 夜は夜行性動物を狩る時間だ。夜目が効けば、それだけ動物性蛋白質を捕獲できる。昼に熊を解体したからしばらくはいらないのだが、訓練はしておくべきだ。夜間狙撃なんてものは暗視装置を使うばかりではない。クロスボウにアイアンサイトだけでもできるのだ。
 ところがどっこい、夜行性なのは人間も同じ。というか、あれは鬼か? 比喩ではない、鬼がうろうろしている。それを迎え討つ超人侍少女。じっと地に伏せ、愛用のやたら頑丈で断熱性に優れるギリースーツで闇に紛れ、その光景を観察していた。娯楽の少ないこの生活、こういったイベントがあるというのはなかなか嬉しい。まあ、もう二度とないのだろうけど。
 ちなみに、こういうときに動いてはいけない。息を殺し、注視して不意に視線を合わせないように少しだけ対象から視界の中心をずらし、全体を見るようにするのがポイント。もし視線が合ったとしても、視線を逸らし顔を伏せじっとしていれば気づかれないこともある。逃げるのは、相手が去った後。もし見つかれば全力で逃走する。とあるガンブレード使いみたいな技を繰り出すような相手から逃げられるとは思わないが、警察に捕獲されるくらいなら名誉の戦死を選ぶ。



――――side S.S

 先程から、視線を感じる。私を見ているようで見ていないような、しかも方向がわからない、何とも微妙な視線だ。
 術者かと思えばそれも違うようだ。殺気も敵意も感じない。そして気配も。視線からどこかにいるのは確実だが、どこにいるかはわからない。
 もし殺気を隠しているのであれば……いや、気配をこれだけ隠している時点で相当の猛者だとわかる。なにせ「いる」と理解させたうえで、どこにいるのか一切わからないのだ。いつの間にかやられている、なんてことがあり得る。
 術者であろうとなかろうと、侵入者であることには間違いない。とりあえずこの鬼どもを全滅させてから――――

「しまっ――――」

 油断した! 背後に跳んだ鬼に挟撃され――――



 ヒュン、と、何かが風を切る音。振り向くと、棍棒を振り上げたままの鬼の頭になにやら棒が突き刺さっていた。頭を押さえながらそれを抜こうとするが、その前に斬る。

「助けられた?」

 鬼は紙に戻り、金属の棒、矢が地面に落ちる。鬼に刺さっていた角度から大体の位置は割り出せるが、その方向に集中しても何も見つからない。また不意討ちをされかねないので、すぐに敵に集中する。



 鬼を全滅させ、戻ってきた。誰かがいたあの場所に。目印とばかりに、一本の短い金属の矢が落ちていた。
 視線はまだある。先程、矢が飛んできたであろう場所に歩を向ける。しばらく歩くと、やがて視線は感じなくなった。

「ありがとうございました」

 とりあえず、上に報告だけはしよう。それだけ決めて、私は森を出た。

――――side end



 教訓。銃を撃つ瞬間までは、銃爪に指をかけてはいけません。
 アイアンサイトすら覗かず、そもそも狙うどころか構えてすらいないクロスボウの銃爪に指をかけたままぼーっとするなんざ、暴発させますよと宣言するようなものだ。幸いにして侍少女には当たらなかったが。
 ちょっと眼を離した隙に彼女はこっちを見ていたから心底驚いたが、それも当然か。矢が飛んでくればそっちを見るに決まっている。顔を伏せ、激流に身を任せるがごとく自然と一体化する。ギリースーツは1m圏内に存在する中尉の眼をも騙す。それに期待するしかない。
 幸いにして少女は鬼を追い少し離れたが、まだ動くには早い。――――ほら戻ってきた。
 矢を拾うと、こっちに近づいてくる。Easy lad...Don't move...Keep a law profile...
 無敵砲台大尉の幻聴が聞こえる。動いたら負けだ。
 頭の真横の地面が踏み抜かれる。なんて幸運だ。

「ありがとうございました」

 ?
 何かに礼を言って去っていった。助かった……



10.Jan.2011 ver.0.00
11.Jan.2011 ver.0.01
11.Jan.2011 ver.0.02



[25371] 2ページ目
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/01/11 12:39
――――15日目

 白いオコジョを見つけた。
 まだ熊の肉は残っているが、狩りの練習だ。特に小動物は捕えにくい。
 一時間ほど追いかけ、結局逃げられた。



――――17日目

 森に生息する忍者の生態についてちょっとした観察日記を書けるくらいには、彼女を知ることができた。と思う。変態的に聞こえるな。
 ともかく、2日テント暮らしをした後は5日ほどいなくなる。彼女がドラム缶風呂を用意している間は我が家に戻る。俺は、文明から離れている間こそ紳士であるべきだと思っている。女の子の観察は紳士のやることではない気もするが、退屈だから仕方ない。
 それにしても、風呂とはうらやましい。俺は人に見つかる訳にも行かないので、狼煙となり得そうな火は使えない。真夜中に漁を兼ねて川で身を清めるのが日課だ。
 いくつか掘ったセーフハウスの中で、崩落の危険のなさそうなのは4つ。森林迷彩ビニルシートは貴重なので、川原で拾った直径2mほどの平たい石で蓋をしている。家も同様に石の蓋をした。森林迷彩ビニルシートだと、人工物ゆえに剥がされる可能性もあるし、何より落とし穴になる可能性もある。
 人が出入りする穴をふさいだので、空気穴と囲炉裏穴を掘った。どちらもある程度上に掘っていき、だんだんと穴を小さくしていくことで人が落ちることを防いだ。囲炉裏が使えないことに若干の絶望を覚えたが、夜なら煙も見えないだろうし、地下だから火も見えないだろうと高を括り、火を使っている間はいつでも逃げられるよう身構えておくことにした。これで川魚が食える。



――――18日目

 忍者少女、侍少女の次は魔法少年だ。木の棒にまたがって空を飛んでいた。ものすごい落ち込んでいるようだ。
 と思ったら木にぶつかって落ちた。まずいな、あれは最悪死んでいるかも。水場があったから、うまくすれば無傷かも。
 とにかく人命救助だ。ギリースーツに着替える時間はない。だいたいの位置は把握しているから、すぐに最短経路を割り出し走る。あの忍者のようにぽんぽん跳ぶことはできないし、あれほど速くは移動できないが、地に足跡をつけずスプリンターがごとく森を走れる人類はそうそういないと自負している。

「んー?」

 がさりと音がした方に眼を向けると、忍者。

「ひっ」

 悲鳴の方には魔法少年。やっちまった。うぃはぶこんぷらまいす。
 いや落ち着け、怪しくない程度に

「無事ならいい。少年、空を飛ぶときは常に周囲を警戒しろ。死角から何が飛んでくるかわからん」

 空を飛べばちょっとした不注意で大地と熱いキスを交わすのは常識だ。エースたちは幾多ものFox4を乗り越えて、スキマニア・クグロフとなる。
 敵は母なる大地や人工建造物だけではない。地を這う鋼の獣が打ち上げてくるSAMや竹槍、あるいはAAMや魔力砲撃などなど。高度9500から上では致命的な衛星兵器の攻撃があるし、衛星軌道レールガンやレーザー攻撃もあるかもしれない。今ではそれらは英雄や傭兵が叩き潰してくれた後だったが、この世界はまだ2000年くらいだろう。N.M.C.事件、桜花作戦、大陸戦争、シャドー・モセス事件、プラント占拠事件、ベルカ事変とたった十年で色々なことがあった激動の時代だったらしい。

「あ、ハイ」

「暗くなる前に帰るんだぞ」

 とりあえず逃げることにする。いくら忍者少女が素早く三次元機動ができると言っても、森を知り尽くした俺を一度見失えば二度と見つけることはできないだろう。ギリースーツがあれば完璧だが、別になくとも隠れる場所はあるのだ。
 今日は家でおとなしくしておこう。航空偵察と忍者が相手では分が悪い。



――――20日目

 不覚。魚を獲っていたら川に流される。
 最終逃走経路としていずれ調べるつもりだったので泳ぎ、遥か下流まで流される。巨大な湖にたどり着く。大きな吊橋があったり島らしき場所に巨大建造物があったり、陸には都市があったり。この湖は学園都市内にあるらしい。
 既に日は暮れて星が出ていた。流されるまま流されていたら、かなり河口から離れてしまったようだ。泳ぐのが面倒だ。しばらく休憩して森に戻ろう。
 と、しばらくプカプカ浮いていたら街の灯が一斉に消えた。ついでにどこかで爆音に銃声が聞こえた。すわテロリズムか、などと思っても俺には何もできない。とりあえず最も近い橋げたに向かうことにする、が、なんか騒がしいのが近づいてくる。魔法少年にメカ娘に魔法少女らしき存在。空を飛んできた。
 なんか爆発している。そういえばこのころはPT事件や闇の書事件があったはず。魔法なんてのは企業が求める軍事力としては認められるものでもなかったし、素質あるものが希少だったから廃れるまでもなく流行らなかったとか。似たような戦力であるネクストはあんなにも流行ったというのに。なんかおかしい。
 現実逃避はここまでにして、被害を受けないようにしないと。あ、魔法少年の木の棒が落ちてきた。回収しておこう。橋の上に上がるには陸まで泳がねばなるまい。上もおとなしくなったことだし、と思いきや、また何か光。また沈静化。これはなんだ、あれか、油断させておいてってやつか。そしてまた更に騒がしくなる。もう戦闘の音じゃない。コジマキャノンでもチャージしているのか? 何かの動力炉からエネルギーでも引いてきているのか? そんな音がする。史跡見学で見たグレートウォール動力部みたいだ。

「を?」

「やりおったな小僧……フフ……期待通りだよ、流石は奴の息子だ……」

 全裸の魔法少女が浮いていた。どうやら彼女が悪役のようだ。ついでに戦闘もクライマックスのようだ。

「だがまだ決着はついていないぞ」

 俺としては、もうやめてほしいのだが。おとなしく負けを認めてくれれば、俺は魔法少年に杖を渡し、そして森へ帰れるのだ。
 ところがどっこい。何があったのか、魔法少女が落ちてきた。棒が俺の手を離れ飛んでいくが、橋桁にぶつかる。ついでに魔法少年まで身投げをするという、何この状況。

「なんでだァァァ!?」

 どぼーんどぼーんと約二名ほど春の水泳大会にご招待。
 魔法少女は気絶、魔法少年はこの低い水温にいきなり飛び込んだせいで足でも釣ったか、溺れている。

「ああもう!」

 魔法少年はまだ多少の時間がある。まずは沈みゆく魔法少女を全力で回収する。いつの間にか都市に灯が戻り、そのおかげでどうにかその腕を掴むことができた。
 気絶している相手は暴れないからいい。背負うようにし、コートのベルトを抜き、俺の躯と魔法少女の躯を縛る。

「二人目!」

 いまだ暴れる魔法少年の背後から近づき、脇の下から手を回しその躯を掴む。

「あうあうあうあう……」

「いいか、暴れるな」

 もはや混乱の極地なのだろう。魔法少年は眼を回している。幸いにして暴れる雰囲気はない。
 棒が流れてきて、万が一の場合に備え浮力を得るためにそれを掴んで魔法少年のベルトに突っ込む。2lのペットボトルも掴み、中身を抜いてフロートにする。後は陸地を目指して泳ぐだけ。やれやれ。人力船野人号ってね。
 最も近いであろう橋のたもとを目指す。使えるのは足と左腕だけ、バラスト付。しかし森で鍛えられた足腰はそんな状況でも速力を失うことはない。



 しかし、どうしようか。魔法少女をコートで包み、魔法少年ともども簡単な診断を施したがただ意識がないだけのようだ。両方とも自発呼吸はあるし心拍数も問題ない。瞳孔反応は光源がないから心もとないが、おそらく水面で頭を叩いたりはしていないようだ。
 しかたない。この姿を見られるのはなるべく避けたいが、それでも助けた責任がある。ぺしぺしと魔法少女の頬を叩く。患者が意識を取り戻し、無事動けるようになるまでが看病だ。

「おーい、起きろー」

「う……く……なんだ、貴様」

 初対面の俺を誰何できるということは、判断能力に異常はないようだ。

「意識ははっきりしているな。よし、一応後で病院に行くこと。ちゃんと検査しないと、後で死んで後悔しても遅いからさ」

 おそらく大丈夫であろう魔法少女を放置して、魔法少年を起こしにかかる。

「おーい、起きろー」

「ううん……エヴァンジェ……あれ?」

 どうも反応が悪いな。隊長の名前を呼ぶあたり……あれ? この時代にエヴァンジェ隊長はいたっけ。

「え? どうしてあなたがここに?」

「優雅に水泳を楽しんでいたところに少年とそこの魔法少女が落ちてきた、それだけだ。まったく、もっとよく考えて行動しろ」

「え? あ、でも、杖が間に合えば……」

「杖ってこれか?」

「あ、ボクの杖! 拾ってくれたんですか?」

「見事に橋桁に引っ掛かっていたぞ、まったく。まあ、女の子を守ろうとする姿勢は嫌いではないよ。……ふむ、大丈夫そうだな。簡単に診てみたが、ちゃんと病院で診てもらえ。じゃな」

 とっととこの場を去るに限る。約二名ほどの気配が近づいてくる。これ以上目撃者を増やすわけにはいかない。
 湖に飛び込み河口へ戻る。潜水で50mも泳げば、たいていの人間は相手を見失う。なるべく水面を荒らさないようにそれなりの深さを泳ぎ、ゆっくり浮上し息継ぎするのがコツだ。



――――side E.A.K.M

 助けられたのだろう。目覚めて至近にあった顔はズブ濡れで、険しい顔で私を見ていた。知らない顔だった。

「なんだ、貴様」

「意識ははっきりしているな。よし、一応後で病院に行くこと。ちゃんと検査しないと、後で死んで後悔しても遅いからさ」

 関係者とは思えない言葉。しかしこの状況から鑑みるに一般人ではなかろう。私の隣に、これも同じくズブ濡れの坊やが寝かされていた。恐らく、この男? があの後ここまで運んできたのだろう。無謀にも私を助けようとした坊やと一緒に。あの距離を私と坊やを泳いで運ぶ、普通の人間にできることなのだろうか。私に着せられているコートも濡れていることから、こいつはこんな重装備で泳いでいたことになる。
 男? は私の様子を確認すると、坊やを起こしにかかった。どうやらこいつらは知り合いらしい。

「優雅に水泳を楽しんでいたところに少年とそこの魔法少女が落ちてきた、それだけだ。まったく、もっとよく考えて行動しろ」

 まったくその通りだ。いやマテ、魔法少女とはもしかして私のことか?
 それ以前に、この時期に水泳など、嘘をつくにしてももっとましな嘘があろう。おそらくこいつは坊やのバックアッパーなのだろう。救助に飛び込んだというのなら、恐らくあの場所の近くにいたはずだ。一切の気配を感じなかった、そして今も一般人のように気配を偽っていることから、かなりの強者であることが伺える。実際の戦闘能力はどれほどか想像もつかん。こういった手あいは厄介だ、文字通り測り知れん。もしかしたらタカミチやジジイを上回るかも知れん。

「え? あ、でも、杖が間に合えば……」

「杖ってこれか?」

「あ、ボクの杖! 拾ってくれたんですか?」

 坊やの杖まで回収するか。あの暗い、しかも水上でよくやるものだ。

「見事に橋桁に引っ掛かっていたぞ、まったく。まあ、女の子を守ろうとする姿勢は嫌いではないよ。……ふむ、大丈夫そうだな。簡単に診てみたが、ちゃんと病院で診てもらえ。じゃな」

 そう言うな否や、湖に飛び込む男?。浮いてくるかと思えば、水面は静かなままだった。やはりただものではない。今度ジジイに聞いてみるか。

――――side end



11.Jan.2011 ver.0.00
11.Jan.2011 ver.0.01



[25371] 3ページ目
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:bcdb6a14
Date: 2011/01/11 20:36
――――22日目

 やっと熊肉を全部薫製か干し肉にすることができた。血の匂いに釣られてきた野犬も餌食にしていたら、一匹も来なくなった。残念。



――――26日目

 コートを失ってからというもの、家でかなり寒い思いをすることになった。コートを買いに行くことにした。
 COAMも持っているが、この時代で使えるかどうか。企業が世界を支配していないというのに、企業保証通貨が使えるはずもない。補助通貨として旧日本銀行券が使われていた。21世紀初頭の旧日本銀行券はその偽造の難度とコスト的な問題から今でも使われている。偽造が横行した旧USドルよりは信頼できるとして、クレイドルではこれが主流だったという。恐らくこの世界でも使えるだろう。
 というわけで、金はそれなりにある。移動は徒歩か電車か。ここは思い切って電車でいこう。電車ならあまり迷うはずがない。



 麻帆良は日本のどこにあるかすら知らない俺は、無謀にも適当に切符を買い適当に電車に乗り適当に乗り換えて、今どこかを高速で移動している。時間と太陽の位置から察するに、西へ移動しているようだ。
 尿意をもよおし、トイレに向かう。流石に盗られはしないだろうと、リュックは自由席とやらの席に放置する。何が自由なのか知らんが。
 向こうの車両が騒がしい。と思ったらカエルが大量に湧いていた。ついでに魔法少年と制服の少女達も湧いていた。いやいや違う、普通に乗っていたんだろう。これは幸運だ、彼らは麻帆良の人間、地理に詳しいはず。一同についていけば元の場所に戻れる。ならばすることは一つ。姿を見られないようそこらへんの一般人類のふりをしてひたすら尾行するのみ。俺は姿を覚えられるわけには行かないのだ。行政に森を追い出され戸籍がないことを理由に国外退去とか、正直勘弁だ。
 ところが世界はそううまくいくようにはなっていないようだ。とりあえず見つからないよう別の車両のトイレに行って、飛んできたうまそうな燕を反射的に捕まえたら、侍少女とエンカウントした。なんか殺意丸出しで睨んでくるのだけど。
 とりあえず、下手に動揺したらやましいことがあるととらえられかねない。堂々と、そして普通を装う。

「それを、渡してください」

 その代名詞が何を指すのか。燕が欲しいのか? いや、そんなまさか。文明世界で生きる学生服の少女が燕を食おうなんてあり得るはずがない。
 そう思って手元を見ると、燕が手紙をくわえていた。これか。

「ん」

 手紙だけ渡す。燕はその時点で首を折る。逃げられてはかなわないからだが、途端、紙切れに化けた。
 もう驚かない。どうせこれも魔法なのだろう。

「桜咲さん! あ、あなたはあの時の!」

「やあ。あのあとちゃんと病院に行ったか?」

 魔法少年まで来る始末。
 冷静に、落ち着いて話す。下手に取り乱したら侍少女に斬られる。

「え? あ、ハイ、大丈夫でした」

「ならいい。じゃな」

 すぐにその場を去る。どうにか生き延びた。だがどうしよう、尾行しづらくなったぞ。



――――side S.S

 親書を奪った式神を先回りして撃破しようとしたが失敗してしまった。見事に避けられ、慌ててその後を追う。
 しかし、式神は術者らしき男? にの手に渡ってしまった。
 その身は隙だらけで、しかし逆に攻めがたい。どの隙を突けばいいのかわからない。あるいは、誘われているのかもしれない。私の殺気を受けて平然としているのだ、相応の実力はあるはず。

「それを、渡してください」

 一応の警告をしておく。これに従わなければ、確実に敵だ。
 男? は首を傾げ、式神に眼を向ける。やっと気づいたとでも言いたげな、白々しい芝居だ。と思ったが、何を思ったか男? は式神を壊し、

「ん」

 親書を差し出してきた。
 罠か、それとも。若干混乱しながらも、一切の敵意を感じない彼? から親書を受け取る。

「桜咲さん! あ、あなたはあの時の!」

 背後からの声に驚く。こんな近づかれるまで気づかないとは。あまりにも目の前の男? が測り知れず、必要以上に警戒していたからか。
 声の主はネギ先生。しかし、この男? と知り合いなのだろうか。やはり敵ではないのか?

「やあ。あのあとちゃんと病院に行ったか?」

「え? あ、ハイ、大丈夫でした」

「ならいい。じゃな」

 ネギ先生の身を案じるだけで、男? はどこかへ去っていった。

「ネギ先生、彼? をご存じなのですか?」

 味方なら、ネギ先生が正体を知っているはず。しかし返ってきた答えは

「エヴァンジェリンさんとの決闘で、エヴァンジェリンさんともども助けていただきました。命の恩人です」

「……魔法先生とか、応援とかではないのですか?」

「え? さぁ、それはわからないです」

 余計わからない、グレーな存在ということがわかっただけだった。

――――side end



 麻帆良の中を走っていると思っていた電車は、日本横断鉄道だったようだ。
 「京都」の文字を見て愕然とした。乗り越し料金を払える気がしないので、巧く人の眼を盗み監視カメラの視界を避け、どうにか駅外へ脱出した。魔法少年を見失ったかと思ったが、駅前でぐずぐずしてくれていたので助かった。そのまま尾行を続ける。侍少女に忍者少女もいるからかなり警戒しないと。魔法少年も含めこの三人は俺の顔を知っている。
 行先は清水寺。幾度もの戦争や汚染で消失した文化財。あの世界では再建されたとはいえオリジナルを見れるとは。感動だ。

「ここが清水寺の本堂、いわゆる清水の舞台ですね。本来は本尊の観音さまに脳や踊りを楽しんでもらう装置であり、国宝に指定されています。有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで……』の言葉通り、江戸時代実際に234件の飛び降り事件が記録されていますが、生存率は84%と意外に高く……」

 なるほど、ためになるな。
 こういったことは歴史の授業でも流す程度だったしな。そんなことよりウロボロスとか宇宙開発史とかを重点的にやっていたし。
 物思いに耽っていると、連中が移動を始めた。見つからないよう尾行しないと。

「……いいところだ」

 隠れていたため見れなかった景色に、一瞬見とれた。本当に、いいところだ。
 そして見失いそうになるのはお約束というやつか。
 階段を降りたり上ったり、木や建造物など遮蔽物が多いおかげでこっそりとついていける。
 しかしなんであんなところに落とし穴が? タチ悪いな。
 そういえば音羽の滝に行くとか言っていたな。先回りすれば隠れやすい。善は急げだ。
 見つからないよう移動する。無敵砲台大尉の教えは充分この身の糧となっている。VRシミュレータでノーキルノーアラートを出した俺の実力を見せてやる。
 Standby...ok...go!
 走る必要はない。激しい動きは目につく。普通に歩けばいいのだ。

「ふー」

 音羽の滝の屋根。なぜか酒樽があったので失敬する。酒は命の水である。どこかの言葉でアクアビット。汚染はされていません。
 しかしどうやって運ぼうか。ロープで腕にぶら下げる方向で行くか。目立つ……



 敵はホテル嵐山にあり。居場所はわかったがどこへ行くべきか。巨大なリュックと酒樽を持った俺は、不覚にも一行を見失った。あまりに目立つため、慎重になりすぎたのが原因だ。辛うじて今日の宿泊先を聞き取ることはできたが。
 とりあえず通行人の片っ端から道を尋ね、どうにかたどり着くも日は暮れていた。監視に適し人通りのない場所に移動し、飯にする。干肉を食らい、ポン酒を飲む。うむ、なかなかいい酒だ。ついつい深酒をしてしまう。
 ガサガサと誰かが近づいてくるが、酔った俺は警戒心が薄れている。あー人が来ちょるー、くらいにしか思ってない。

「おわっ!?」
「なんっ!?」

 そのまま俺の背につまづいて、酒樽に頭からダイヴイン。

「なん、そんな呑みたかったそ?」

 じたばたする綺麗な足を鑑賞する。が、だんだんと力がなくなっていく。

「焦るけぇよ。んなんじゃ、急性アル中まっしぐらぞ」

 酒樽から引っ張り出す。意識はあるようだがかなり朦朧としている。呼吸は普通。回復体位にして寝かせておけば問題はないだろう。冷えるだろうから濡れた服を全部脱がして、タオルで酒を拭き、リュックの寝袋に入れてやる。服はそこらの木にロープを渡し、干していればいずれ乾く。念のため、生理食塩水のパックと点滴を用意する。
 しかし美人だな。キツイ眼つきに長い黒髪。スタイルもいいし、かなりの好みだ。酔った勢いで襲ったりはしない。ヤリたい盛りの十代だが、俺は我慢のできる子。紳士でも変態紳士でも、寝ている間にとか、そんな至誠に悖ることはしないのである。
 興奮したらいい感じに回ってきた。ねむ……



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Date: 2011/01/14 01:43
――――27日目

 起きると美女はまだ寝ていた。地下にいながら日の出とともに起きる習性をこの数週間で得た俺は、一般人類より早く起きて行動する。この美女は酒に頭から突っ込んだからシャワーなり何なり身支度する時間が必要だろう。早めに起こしておこう。

「おーい、起きろー」

「……なんや」

「朝だ」

「そうか……頭いたい……」

 そりゃそうだ。頭から酒樽に突っ込めばそうもなろう。
 のっそりと起きだす美女に、俺は乾いた服を渡す。

「なんやこれ……」

「覚えてないか? 酒樽に突っ込んだ」

「ああ、そうなんか……え?」

 やっと気づいたか。
 俺は酒の残りを瓶に移す作業に移る。

「早く着てくれ。寝袋をしまいたい」

 色々と不可抗力だったし、ここは全てなかったことにするのが一番である。

「昨日……」

「昨日は何もなかった。お互いの幸せのために」

 そう、酔っぱらっていたからといって女性を全裸に剥いた上でその躯を拭き上げるという失態を犯している。何が眠っている間に襲わないから紳士だ。これでは俺は変態紳士じゃないか! よし、開き直ろう。あれだ、YesロリータNoタッチみたいな精神で。賢者タイムではないが、今の俺は賢者だ。心頭を滅却して煩悩の炎が涼しい。
 平静を装っても内心は混乱の極み。ああ、綺麗だったな。あの裸体は芸術品だな。

「もういいか?」

「ま、まだや」

 満ちた幾つかの酒瓶をリュックに詰め、残った酒を飲み干し、樽を分解しにかかる。リュックから工具を取り出し、パカンパカンとばらして、それもリュックに詰めていく。家に帰ったら組み直して水瓶にするのだ。

「もうええよ」

「ん」

 ロープを回収し、寝袋をたたみリュックに詰め、出撃準備が整う。

「じゃな」

 こんな美人との出会いはもったいない気もするが、こちとら自由人にしてホームレス。森での地下生活が得意な野人である。同じ自由人でも伝説の物理学者とホームレスではその意味に数百年以上前の地上とクレイドルほどの差が存在する。口説き落としたとしても戸籍も職もなのもない十代少年と付き合って、苦労以外の何ができよう。いや、苦労しかできない。

「ま、待ちぃ!」

「縁があったらまた逢えるさ」

 俺に円があれば、そして職と戸籍があれば婚姻届と一緒に辱めた責任をとりに来るのだが。本当に、お互いの幸せのために。さらば、名も知らぬ美人よ。



――――side C.A

「昨日は何もなかった。お互いの幸せのために」

 それは、ウチがお嬢さま狙おうとしたこと見逃すゆうんか? それとも、次はないって脅しとるんやろか?
 どっちにしろ、ようわからん男……なんやろか? おそらく、西のエージェント。やけどウチを拘束せんのがおかしい。
 こっちに背ぇ向けて隙だらけやし、魔力も気も感じられん。せやけど、夜にウチを酒樽に放り込んだんは間違いなくコイツや。一瞬見えた姿は普通に酒呑んどる風にしか見えんやったけど、酔っぱらいがあんな綺麗に気配消して、いや、そもそもウチの進路上におることがおかしいんや。ここ襲うんはウチと月詠はん以外誰も知らんはず。なのにここで首謀者のウチを待ち構えるなんて、どんだけ先見の明があるんや。もしかして、カエルとか落とし穴とか酒とか、ちょっかいかけすぎたんか? 音羽の滝は成功せぇへんかったけど、あ? あの酒樽、音羽の滝で使ったやつやないか! つことはコイツが?
 なるほど、コイツは因果応報とでも言いたかったんやろうけど、甘いわ。この落とし前、今つけた――――

「もういいか?」

「ま、まだや」

 いまのはマズかったわ。もし思いとどまらず襲ったら反撃食ろうとった。酒瓶を握りしめて、こっちが首をかっ切る前にウチの頭がザクロやった。
 もう一度、と思とったら、今度はハンマー握って樽を壊しにかかりおった。だめや、完全に警戒されとる。さっきまでは瓶や、うまくすれば死にはせんかった。でも今度はハンマー。確実に殺す気や。
 そうやな、せっかく今は見逃してくれはるんやから、危険冒してまでコイツ襲う意味はあらへん。

「もうええよ」

「ん」

 樽の残骸やら寝袋やらをアホみたいに大きなリュックに手早く詰めて、男? は一言

「じゃな」

つってどこかに向かう。

「ま、待ちぃ!」

 なんで引き止めたんか、ウチにはわからん。やけど、口が勝手に叫んどった。

「縁があったらまた逢えるさ」

 男? はこっちを振り向きもせず、森の奥に消えよった。
 すぐに追ったけど、一瞬で見失ったわ。あんな重いもん持って、こんな森の中で気の気配もさせずにようやるわ。
 しかし……縁があればまた逢えるか。フン、次もその余裕があるとええな。

――――side end



 魔法少年を必死に奈良公園まで追いかけた。死ぬかと思った。本気でリュックを捨てることを考えた。人間が車両に追いつけるはずがないのであれば、こっちも車両に乗ればいい。ただし軽車両。カギのかかってないチャリをちょっと借りる。見事にパンクしていたが、この際路面抵抗は無視する。森の脚力を舐めるな、だ。確か自転車に制限速度はなかったはず。たとえガスタービンバイクと同じ速度で走ったとしても何の問題もない。車道を走っても問題ない程度の速度で走っている。
 結果、疲労の極み。そして最悪なことに隠れる場所が少ない。バスの近くでじっと観察していよう。幸い、双眼鏡もあることだし。
 そういえば、あの魔法少年は何者なんだろうか。周りの生徒は中学生……に見えないが中学生らしいし、その中で10歳ほどの少年がスーツを着ている。そういえば、女子校のようだが。うーむ。何者だ、あの魔法少年。

「くそ……」

 なんか巨大建造物に入りやがった。出てくるのを待つか……
 を、出てきた。一緒にいたおとなしそうな子が。泣きながら。謎は深まるばかり。



 時々移動しながら観察。結局あのおとなしそうな子と一緒だが……
 ん? 逃げた。あれ? 何があった!? 魔法少年が倒れた!
 謎は深まるばかり……
 幸いにも、もう帰るようだ。まあ、当然か。魔法少年は重要人物らしいし。
 目的地がホテル嵐山だから、徒歩でも問題ないだろう。さーて、チャリを元の場所に戻そうか。



 また張りこみをしている。出入口は限られているから、見つからないように潜んでいればいい。
 じーっと待つこと数時間。時計がないから終わりのないマラソンのような気分になるが、日が暮れれば出ることはあるまい。
 を、出てきた。何しに? やたら落ち込んでいるように見えるが。
 あ、猫。を轢きそうになってる車!

「っ――――!!」

 反射的に飛び出す。犬は食えるが猫はダメだ。可能な限り助けなければ!
 と思ったら魔法少年が車を吹き飛ばして助けた。

「よかったよガッフゥ!?」

 何があった!? ちょ、もしかして車か!? 空気抵抗を無視できる質量と速度の物体が空中に投げ上げられた場合、物体にかかる力は垂直方向の重力だけであって、水平方向では等速直線運動をするわけだ。足が地についていないからブレーキもかけられない。
 森に生きる人類は熊や猪と戦い勝利することはできる。しかし金属の塊である車両には勝てない。

「く……」

 悲鳴を上げた手前、既に見つかっていると判断していい。下手をすれば変質者かストーカーとして国家権力に突き出されかねない。病院も却下。名簿に何かしらの記録が残るようであればアウト。全力で逃げるしかないが、この躯でどこまでできるか、それが問題だ。



――――side K.A

「よかったよガッフゥ!?」

 変な声が聞こえたと思ったら、ネギ先生が吹き飛ばした車に人が跳ねられていた。
 反射的に写真を撮ったけど、これってどうなるんだろ。猫助けて人殺しちゃだめでしょ。

「く……」

 唖然としていたら、彼? は森に消えてしまった。
 意外と元気そう……でもないか。腕が変な方向向いてたし。ネギ先生は気づいてないみたい。救急車呼ぼうにも、患者はいないし。頭を切り替えよう。
 うーん、巨大リュックの不審な……男? 面白そうだけど情報が少ないし、追いかけても見つかるとは思えないし、ネギ先生の方が大スクープだ。
 オコジョ喋ったり、飛んだり。うん、こっちにしよう。

――――side end



 森の中で誰もいないことを確認し、脱臼した右腕を元に戻す。多少の打撲以外、他におかしなところはない。脳振盪の症状もないし、頭は反射的に護るようにしている。脳には強い衝撃はいっていない。内臓も特に問題なく動いている。破裂とかはない。奇跡だ。この巨大リュックを捨てようと思った自分が愚かしく感じる。こいつのおかげで何度も命を助けられたというのに。今回だってクッションになって、アスファルトという凶器から身を守ってくれたのだ。
 とりあえず今日はもう寝よう。そう思った時。

「うわあああああぁぁぁぁぁん」

 なんじゃこりゃ。魔法少年の咆哮か? ついでにどっかで竜巻みたいな暴風が荒れ狂っているようだ。

「ボク、先生やりたいのに――――」

 魔法少年は、もしや教師だったのか? 色々納得だ。しかし……うるさい。

「なああああ!?」

 女の子の声? って、全裸にバスタオルの少女が空を……放物線を描いている。

「チィィィッ!!」

 魔法少年に関わってから厄介事ばかりだ。少女を救うのも紳士……いや、変態紳士の仕事!!
 落下予測地点に向かい全力疾走。木にロープを張り、張力としなりを利用して衝撃を緩和する!
 迫撃砲で精密狙撃する俺の位置把握能力を見せてやる!

「朝倉さん!」

 杖で空を飛び少女の手を掴む魔法少年。いいぞ、諸悪の根源!
 と思ったら、ちゅるんと手を滑らせやがった。大馬鹿野郎!!
 水平方向の速度がほぼゼロ。垂直落下しているせいで、張ったロープが意味を成さない。
 取れる行動はというと……

「うわっ! いててて……」

 木の上から飛び上がりその質量を持って少女の落下の勢いを殺し、さらにクッションになることで怪我を防ぐ。少女を救うのは変態紳士の義務……だが、痛いものは痛い。

「あ、朝倉さん! 大丈夫ですか?」

「あはは、大丈夫」

 そう、そのまま何もなかったかのようにこの少女をつれて戻ってくれ。頼むから。俺のことはいい、早く行け。これは断じて死亡フラグじゃないから。

「それよりも、大丈夫ですか?」

 少女よ、おまえもか。気付くなという方が無理な注文だとは思うが、それでも気付かないでほしいと願うのはいけないことだろうか。
 少女はその軽い躯を俺の背から退け、俺はもさーっと、多分擬音にすればそんな音になるだろう動きで立ち上がる。

「問題ない」

「あ、あなたは!」
「あーっ、さっき跳ねられた人!」

 またか魔法少年教師。なんかワンパターンだな。
 跳ねられた人って……見ていたというわけか。

「ええ!? 跳ねられたって……」

「ネギ先生の飛ばした車によ。腕が変な方向向いてたんだよ?」

「あうう、ボクはなんてことを……」

 なんかどんどん大げさになっていく。

「気にするな。それより、早く行け。騒ぎになる前に」

 脱臼していた右腕でしっしっと追い払う。そして、逃げる。
 サーマルゴーグルでもない限り、森で逃げる俺を捕えることは不可能だ。
 この緑あふれる日本にいる限り、俺の逃走能力は揺るがないのだ。



――――side K.A

 助けてもらったのはいいけど、その人はさっきの跳ねられた不審者だった。たぶん、男。
 さっき折れてた腕がもう普通に動かせていることから、たぶん、普通の人じゃないんだろう。ネギ先生も知っている人みたいだし、この人も魔法使い?

「ねえネギ先生、今の人は誰?」

「えっと、名前は知らないんですけど、よく助けてくれる人です。エヴァンジェリンさんが言うには、ものすごく強いとか。」

 確定かな。多分、修業中のネギ先生を影からサポートする魔法使いなんだろう。
 一筋縄じゃいかなそうだけど、次に会えたら話を聞いてみよう。

――――side end



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Date: 2011/01/28 16:13
――――28日目

 今日も朝から木漏れ日を浴び、だんだんと戻ってくる体温を感じながら思う。

「コート……」

 トレンチコートは偉大である。野外で寝るときは黒体放射しないよう気をつける必要があるが、体温を保持し雨を弾き白刃を防ぎ凶弾を止めてくれる。
 この旅の本来の目的は、コートを得るためではなかったか。なのになぜ俺はこんな場所にいるのだろう。機会があれば問答無用で手に入れよう。
 今や寝巻代わりのギリースーツを脱ぎ、出撃準備を完了する。今日はどんなトラブルがあるのやら。
 あ、食糧尽きてる。



 サブジェクトは私服である。サブジェクトだけではない、生徒どもも私服である。恐ろしく尾行がやりにくくなった。森林生活はプロを自称できるが、尾行はアマチュアなのだ。服の特徴をしっかり覚えて、細心の注意を以て行動しないと。今回だって裏口から脱出されてしまったのだ。少女のかしましい声がなければ脱出にすら気付かなかっただろう。
 と、さっそくゲーセンなどという混雑極まりない場所へ。裏口から脱出はあり得ないとはいえないが、可能性は少ないだろう。一応外からも観察できることだし。
 ……お、抜け出してきた。ツインテ少女と二人っきり、いや、昨日のおとなしそうな少女が尾行している。行く先は……駅。



 降り立った場所は、神社。長い石段は遮蔽物がないが、その両脇は竹林。隠れるには微妙だが……って、走り出した!
 全力で追いかける。竹林の中に入る暇はない。振り向かれたらアウトだが、その前に見失った。どれだけ足が速いんだ。まったく。とりあえず竹林に入って先を進む。この上の神社に用があるはずだから、参道に沿って竹林を進めばいずれたどり着く。はず。なのだが。
 ――――この竹、さっきもみたな。あの休憩所も、この竹も、あの竹も、あの竹も、この竹も。ループしているようだ。
 まさか、尾行がばれて閉じ込められた?
 魔法か、ぬかったわ。
 どこかにループの起点と終点があるはず。見覚えのある竹の近くに、あってはならない竹があれば、そこが終点にして起点。そこを調べれば何かできる、か・も。
 途中、おとなしそうな少女を見つけたが、隠れているようなので放っておいた。藪をつつく趣味はない。
 そんな怪しい場所はすぐ見つかる訳で。不自然に竹の密度が薄いラインが。その細い線の上には一本の竹も生えていなかったり、苔が切られたように途切れていたり。ここだ。
 竹林に仕掛けがあるとは思えず、参道に戻れば、線上に鳥居が一つ。これか。
 これに何かしらの仕掛けがあるはずだが、素人の俺が見てそれがわかる訳もなく。壊すなんて恐れ多いこともできず、そもそも壊す方法がない。どうしたものかと思っていると、ガサガサと竹林から人の気配が。

「あ、あなたは!」

 ワンパターンですねわかります。なんで君は俺と遭遇するとそう言うかな。もうどんだけ驚いても外見に出ないようになった。平常心が悟りの域に入ってるぞ、これ。
 というか、俺の尾行に気づいていたわけではないのか。とすると、こいつらも閉じ込められている? 誰に?
 完全に戦闘体制なのを考えると、嫌な予感しかしないが。

「ネギ、知ってるの?」

「はい、エヴァンジェリンさんと戦った時に助けてくれた人です。あと新幹線の中で――――」

 気絶したり溺れたりしてる子供を放置できるわけがないだろうに。まったく、英雄を見るような目でみやがって。
 向うでは何やら盛り上がっているようだ。妖精みたいなちっこい侍少女とか、喋るオコジョとかいるが、まあ、おかしくはない。野良AMIDAとかメタトロンに汚染された超人とかソルディオス・オービットとかアンサラーとかBETAとかアクアビット本社に比べれば、実害がないだけまし。敵意は抱かれていないようだし。

「そういえば、何をしてるんですか?」

 さぁて、どうごまかすか。ここで「いや、おまえらを尾行して」なんてことを言ったら即処刑なのは確定だろう。変態ストーカーに人権はないのだ。幸い、今までの遭遇は偶然と思われていることだし、こいつらもループに閉じ込められている現状を鑑みて……

「竹林を調べていた。どうやらここがループの終点にして起点のようだ」

 話題のすり替えが最良の選択肢だった。ついでに彼らにヒントを与えられるかも知れない。俺はファンタジックな能力など持たない一般人類なのだ。利用できるものを可能な限り利用しでもしなければ、こんなファンタジー世界で生き残ることなどできまい。

「ここが、ですか?」

「ちょうどこの鳥居を境界に、竹や苔が奇妙に途切れている」

「なるほど、確かに」

 ミニ侍少女が実際に見てきたらしい。百聞は一見に如かず。まあ、こんな怪しい人間の言うことなど信じられないだろうから妥当かな。

『何か仕掛けてあるとすればここですぜ、兄貴』

 やっぱそうなるか。解説ありがとう、おいしそうなオコジョ君。

『! なんか今寒気が……』

「来た!?」

 敵なんだろうな。うん。魔法少年、なんか呪文っぽいもの詠唱してるし。もしものときの自衛のためにスコップを装備しておこう。

「え? なんでそんなもの持ってんのよ?」

「スコップを馬鹿にするな。第一次世界大戦では塹壕で最も人を殺した兵器だぞ」

 こんなトンデモ連中に対しどれほどの役に立つかは知らないが。汚染があってもいいから護身用手乗りソルディオス・オービットも常備しておくべきだった。『強盗ネクストやBETAに襲われたときも安心! 自動コジマ浄化装置付! 自立飛行機能付でペットにも! 美しいコジマの光で癒し効果も! 今ならコジマ物質500発分増量!』なんて売り文句が胡散くさかったが、普通にコンビニに置いてあったし。新聞にも強盗撃破の記事が載ったし。買ったけど、確かリュックには入れてなかった。そういえばこのスコップはGA製だったな。
 ときにツインテ少女よ、なぜそんな青い顔をしているのかね?

「そんなんで人叩いたら死ぬわよ!」

「叩いたくらいじゃ早々死なない。刺し殺したり、殴り倒した敵の首に当てて足を」

「もういいわよ!」

 ほほう、中学生には刺激が強すぎたか。
 と、ぐだぐだやっているうちに戦闘は始まっていた。一応、魔法少年からは眼を離していないが。
 あ、分身みたいなの全部撃墜された。を、追撃の光の矢が命中したかな? 足が止まった……ところにサンダラ。

「ちょっと何よすごいじゃん!」

『やったぜ! さすが兄貴!』

「いえっ、まだです!」
「感電してない」

 感電したときの反応。全ての筋肉が収縮する故のあの妙なポーズではなく、腕をクロスした防御体制だった。人間は電気で動く、故に電撃を食らえば自由を奪われ、それに抗う術はない。何かしらの方法で防いだのだろう。接地しないとか、実は接地したアルミ繊維の服を着てるとか、EN防御が鬼だとか、属性防御にサンダガをジャンクションしてるとか、リコの花を装備してるとか、パラサイトエナジーとか。
 理由はどうだっていい、犬耳少年が水没王子並みの速度で接近中なのが問題だ。

「なかなかやるやないかチビ助!! 今のはまともに食らったらヤバかったわ」

 なるほど、手数が足りなかったのか。わかりやすく言うなら、武器腕コジマの後に左背コジマ、オマケのコジマミサイルまでは避けられたものの、ダメ押しのアサルトアンプリファイヤー付アサルトアーマーをかませば終わっていたという訳か。やはり未知の相手にはオーバーキル程度がちょうどいいという教訓だな。
 ツインテ少女がなにやら気合いれて啖呵切っているが、あ、避けられて回りこまれて、魔法少年にダイレクトアタック。そっからコンボ。うーむ、どうしよう。魔法少年倒されたら永久ループ脱出の術は失われるし、あの犬耳少年に皆殺しにされかねん。ツインテ少女も犬に捕獲されてるし。ん? 犬?
 盛大に腹が鳴る。毛並みはいい。栄養状態がいいと思われる。首輪はない。というか敵である。では吶喊。

「いただきます。はいだらぁぁぁぁぁ!」



――――side S.S

 リュックの人、おそらく麻帆良のエージェントが変な掛け声の後、いつの間にかエージェントを襲おうとしていた犬が全部消えてた。ほんの少しネギ先生の方を見ていた隙にだ。
 なぜか落胆して、ネギ先生にも私たちにも離れている微妙な場所でただ立ってるエージェント。何故あの人はネギ先生を助けない!?

「ハハハハ、護衛のパートナーが戦闘不能なら西洋魔術氏なんてカスみたいなもんや! 遠距離攻撃を凌ぎ呪文唱える間をやらんかったら怖くも何ともない! どうやチビ助!」

 ネギ先生がボコボコにされて殴り飛ばされて、追い打ちにかかる敵が

「How do you like me nooooow!!」

 パカーンと、変にマヌケな音がした。エージェントが、スコップを敵の足元にフルスイングしてた。さっきと同じ場所で。一歩も動いていない。

「へ……?」

「契約執行0.5秒間、ネギ・スプリングフィールド」

 そこからネギ先生の逆襲が始まった。
 ダッシュの勢いそのままに、スコップでこけてくるくる回って空を飛ぶ敵に、ネギ先生がカウンターを叩き込み、

「白き雷!!」

 視界が真っ白に染まる。

「ネギ――――!?」

 視界が回復すると、そこにはうずくまる敵と、堂々と立っているネギが。

「どうだ! これがボクの力だ!」

 呪文唱える隙というお膳立てはあったけど、まあ、納得できるかな。

「すごい……ネギ先生と敵の未来位置を予想して、しかも気も魔力も使わず最小限の力と動きだけで、相手の力を全て利用してカウンターに最適な位置に吹き飛ばす……ネギ先生も、あの状況から最高のタイミングで強化とカウンター、そして魔力パンチ。二人ともただものではありません」

『あのリュックのエージェントも完璧に兄貴とアイツのこと読み切ってたぜ! じゃねえとあんな綺麗なカウンター決まらねぇ! それにしても、付け焼き刃の魔力パンチを当てるために決定的な反撃チャンスをうかがうためたぁいえ、無茶するぜ』

 しかしあの作戦、考えてすぐできるほど簡単ではないはず。エージェントの手助けがあったものの、10歳でこの気力と才気、一体どこから……そしてあのエージェント、外見は私とそう変わらない年齢なのに、魔力も気も感じず、動作はまるで一般人の素人にしか見えないのに、あの先読みに、一瞬のスコップによる足払いは完璧とも言える美しさを伴っていた。あの若さで一体どれほどの修羅場をくぐってきたのだろう……

――――side end



 犬、狩ったら消えた。鬱。
 期待は裏切られると絶望と化す。思えば魔法でできた犬だったのだろうけど、所詮は獣、関節構造は一緒で横には素早く動けない。これは狩れる、食えると思ったのに。
 あの犬耳、どうしてくれよう?

「うおっ!?」

 俺のすぐ横を魔法少年が飛んでいった。それを追うかのようにこっちへ突進してくる犬耳。一歩が長い、即ち地に足がついていない間は方向転換ができない。予測着地点はここ。殴っても意味はないだろうから、おもいっくそ足を払う。

「How do you like me nooooow!!」

 いつぞやかの映画でみた、大統領の怒りの咆哮をあげ、スコップをフルスイング。
 人間は速度が上がるほど不安定になる。高速移動体がバランスを崩せばフッ飛ぶのは当たり前、速度を維持したまま地面にキスしたり何かにぶつかったりと追加ダメージを与えることができる。
 予想通りフッ飛び、を、魔法少年にカウンターくらってやんの。ざまぁ。
 そこから流れるように空中コンボ、『かみなり』。これは決まった。『きゅうしょに あたった!』『こうかは ばつぐんだ!』。今度は防御できなかったようだ。電撃を食らって無事な生物は存在しないのだ。
 やれやれ、やっと危険な状況を脱したかな。

『よぉっしゃ! 後はここから脱出するだけだぜ!』

 そう、この鳥居をゆっくり調べてもらって、俺はまた尾行モードに移行するのだ。

「ま、待てェ!」

 電撃を食らって無事な生物はいない。ならばこいつは何なのだろうか。そういえばアンブレラ事件で大暴れしたB.O.W.や、N.M.C.事件で暗躍したNo.9は高圧電流を食らっても平然と再起動したと聞くが……こいつもそんなクリーチャーと同類?

「た……ただの人間にここまでやられたんは初めてや……さっきのは……取り消すで……ネギ……スプリングフィールド」

 一気に頭が冷えた。なんてこったい、怒りに任せて俺はなんてことを。完璧に眼ぇつけられちゃったよ。
 しかも、第二形態。バキボキと生々しい音。あ、そんなにグロくない。



27.Jan.2011 ver.0.00



[25371] 6ページ目
Name: ADFX-01 G-2◆a9671369 ID:2c45bf09
Date: 2011/06/07 12:29
 空腹は天敵である。この世に空腹が存在する限り、人類から争いは消えはしない。どこにだって貧困は存在するのだから。この飽食の極みとも言える日本において、俺が空腹でぶちキレたように。

「うおっ」
「きゃー」

 犬耳の拳で石畳が吹き飛ぶ。だがそこまで脅威ではない。日本の特産品だったら死んでいた。
 それにしても、よく避けれたな俺。褒めてやりたいくらいだ。

『相手するこたねぇせ兄貴! 放っといて脱出だ!』

 いいことを言ったオコジョ!

「ううん……」

 なのになぜこの魔法少年は戦う気満々なのでしょう? 呪文詠唱始めているし。
 幸いなのは、さっきの攻撃を鑑みるに、犬耳は俺を警戒しているものの再優先攻撃目標は魔法少年だということ。
 ならば選択肢は一つ。魔法少年から離れること。

「早……!」

 フレスベルクがメビウスに喧嘩を売るような状況か、それともフラジールに雷電が挑むような感じか。鈍重な移動砲台が高機動ブレオン機に勝てないような、そんな状況。
 回りこまれて完全にロストしている。

「左ですセンセー!」

 左? あ、こっち右だった。なんか嫌な感触がスコップ越しに感じられたんだが。気のせいだ。
 魔法少年が殴り飛ばした犬耳がスコップの柄にぶつかって空中コンボなんて繋がってなんかいない。

「あ、右です」

 反射的に左へ跳ぶ。左に魔法少年がいて、犬耳にボディアタックなんてしていない。していないぞ。

「上!」

 今度は避けられた。犬耳が放り出したスコップ踏んでこけたりはしていない。断じて。魔法少年の攻撃でダウンしているんだ。

「右後ろ回し蹴り、だそうです」

 え? それはどこから来るんだ?

「なにぷっ!?」
「っ!?」

 頭が飛んでくる。ちゃんと躯はついているが。
 いつの間にか足元に戻ってきたスコップで、襲い来る頭をフルスイング。

「がふっ……!」

 パニックって怖いな。あれがもし味方?だったら、今頃俺は死んでいた。
 犬耳の動きが眼に見えるほど遅くなって、そのお蔭で冷静になることができたが、結構凄いことしてないか、俺。一瞬でスコップ拾い上げてフルスイングだぞ。火事場の馬鹿力というやつだろうか。
 そうこうしているうちに、魔法少年達は脱出手段を見つけたらしい。よっしゃ、脱出だ……ってオイ! 脚速いな、俺をおいていく気か!?

「お、ちょ、ちょっと、待っ」

『無間方処返しの呪!』

 あんんんんのチビ侍少女ォォォォォォ!! 俺もろとも犬耳を閉じ込めやがった!!

「アカン……もう動けへん……」

 犬耳はゲームオーバーのようだ。煙を吹きながらゆっくりと人の形に戻りつつある。今のうちに拘束しよう。

「あ? ねえちゃんも閉じ込められたんか?」

「…………」

 無言でスコップを犬耳の頭の横に突き立てる。さすがGA製、地殻も掘れると豪語するだけある。見事に石に突き刺さった。

「な、なんや」

 動けない今がチャンス。犬耳は完璧に人間の関節構造に戻っている。これならば、物理的に一切力が出せない縛り方ができる。自転車のペダルが完璧な垂直状態だと、真上からどんなに踏み込んでもクランクが回らないように。テコの作用点と支点が遠く、支点と力点が近ければ1gの物体すら持ち上げられないように。小指を伸ばしたまま固定すると握力が出ないように。
 インシュロック、各種ワイヤー、リングスリーブと圧着ペンチを取り出す。全て有澤の子会社の製品だが、恐ろしく頑丈で重宝していた。

「い、いだだっだだだ!? 何するんや!」

 俺は答えない。
 緩くては意味がない。関節の自由度を制限するのだから。そして、たとえ関節を外してとしても逃れることはできない。骨に由来しない筋肉のみの力で抜けられるほど、この拘束は甘くない。そしてどんな筋肉をしていようと、無理に降りほどこうとすれば逆に骨を砕きかねない。ついでに細いワイヤーでハムのように縛り上げれば完璧。骨を砕いて抜け出ようとしても、ワイヤーで切り身になるという寸法だ。

「ふう」

「なんが『ふう』や! いい仕事したみたいに満足げな顔しおって!」

「動くな」

 服がズタズタで、魔法少年の攻撃が上半身に集中していたのが幸運だった――――というのだろうか?とりあえず手当するために暴れられては困るので拘束した訳だが。『ねえちゃん』と呼ばれた腹いせではない。
 アルコール、添え木はそこらの竹を切り出し、針と糸を出す。ところどころに岩などにぶつけたであろう裂傷、雷による電紋や裂傷など、それらに治療を施していく。

「な、なんや、治療してくれるんか?」

「俺に危害を加えないのであれば、拘束も解く」

「なんでそんなことするんや? 俺らは敵どうし……」

「変に恨みを買うよりは、こっちのほうがいいだろ。おまえは彼らの足止めに失敗、もう争う意味はない」

 俺は敵じゃありませんよー、と、必死のアピール。元気になって即殺されてはたまらない。

「それでも、俺を殺すなりすればよかったんやないか? あんたらみたいなんは普通ここで俺を殺すで。それに、なんでさっき手加減した?」

 なんか不穏な言葉がチラホラ聞こえた気がしたんだが。え? もしかして俺何か勘違いされてる?
 殺すって、なんでそんな話になるんだ。あんな人がポンポン飛ぶような戦闘で死なない諸君を今の俺の火力で殺せるはずもないし、ならばと、治療して恩を売るつもりだったんだが。
 俺みたいなのって、俺はそんな凶悪な人間に見えるのか?
 しかも、手加減。笑うしかない。ちょっと怒って野生動物蹴散らして、偶然飛んできたところにフルスイングしただけなんだが、もしかして偶然じゃなくて俺が狙ってやったとか思っている?
 好都合か? いや、うまくごまかすべきか? ええい!

「……殺して、恨まれて、殺されて、恨んで、繰り返す。歴史の常だが、不毛だしな」

 嘘は言ってないぞ、嘘は。一度荒廃しまくって、復興したとはいえ殺伐とした世界、癒しってものくらいはあってもいいだろう。黒衣の天使とかブラックナイチンゲール呼ばわりは勘弁だったが。

「殺しとうないけ手加減したんか。随分と甘いねえちゃんに負けたんやな……あだだだだだだっ!?」

 断じて、俺は怒ってない。断じて。

「俺は食う以外にはなるべく殺さない。あと、手加減はした覚えはない」

「ッチ、俺とは戦ってすらおらんってことか」

 いやいや、なんでそうなる。あれが俺の全力だ。

「女は殴らん主義やけど、ねえちゃんは例外や。いつか本気出させたる!」

「じゃあ、さっきの二人に無傷で勝てたらな」

 うん。この条件なら問題あるまい。せっかく誤解されているんだ、前提条件が極めて高難度だから、というか無傷ってのが不可能。かすり傷でも負ったらその時点で終了。これでも機械工学と医学を修めた身、内外の損傷の一つすら見逃さない。

「よっしゃ! 二言はねーな?」

「ああ」

 もし条件を達して戻ってきたら……そうだな、今のうちから遺書は書いておくべきだな。

「じゃあな」

 ワイヤーを回収して、とっとと姿をくらます。治療は終わっているが、もうしばらくは動くことはないだろう。衰弱がみられたので栄養剤を注射したくらいだ。匂いを辿られるとまずいので、『お外の消臭元 逃走用』を設置。

「あ、待たんかい! ってもうおらん」

 ふははは、逃げ足は速いのだよ。逃げ足というか隠れる技術だが。一度見失えば二度とは見つからない。特に森では。



 さて、この閉鎖区域からどう脱出するか。
 答えは簡単。穴を掘ればよかったのだ。この無限ループは地下には影響を及ぼしていなかった。境界をざっと調べてみて、地下の植物の根に違和感を覚えたのがきっかけだった。
 まさかとは思ったが、ものは試し、横穴を掘ってみたらうまく出ることができた。石段の斜面にトンネルを開けてしまったが、緊急事態だ、許されて然るべきだろう。
 さて、現在の問題は魔法少年一行とはぐれたことだ。どうしよう?
 そういえば目的地はこの先の神社らしいし、そこなら見つかるか?
 とりあえず神社に潜伏してみることにする。また無限ループに閉じ込められても脱出手段もある。今度は逆方向に穴を掘ればいいのだ。
 GA製のスコップは結界をも掘れるのではないか? と、ふと思ったが、無限ループ脱出できることに変わりはないので気にしないでおく。
 と思っていたら何事もなく神社が見えてきた。可能な限り見つからないように、森の中から探し回る。BFFのHMD、これはいいものだ。望遠モードで遠くまで見えるのは当たり前、包囲を示してくれたり、人のみならず機動兵器や重要物を判別してマーキングしてくれたり、何ヶ所かに設置したカメラと連動したりとやたら便利だ。



 夕方。
 暗視モードに切り替えるか悩む頃、HMDでぼーっと見回す。ギリースーツなら、少なくとも見られて悟られることはない。たとえ樹の上であろうと。本当はオクトカムを装備したいが、電源と整備が確保できない現状、あまり多用できない。

「お、やっと来た」

 ぞろぞろと、魔法少年が女子を引き連れやってきた。
 大歓迎されていた。それ以外に特筆すべきことはなかった。うらやましいとか思ったことはない。ずっと待っていて、「俺ストーカーじゃね?」とか思ったりはしてない。



 様子がおかしい。何が? と言われても答えることはできないが、気づいたら背後にN.M.C.がいたような。
 振り向いても何もない。当然か。
 お、魔法少年の連れが……逃げてる? 裸足で森の中へ。別の場所では魔法少年が慌てている。何かあったな、こりゃ。
 魔法少年は強いし放置するとして、あの逃げてる小さな子の方に急がないと。あの子の向かう方は罠だらけである。致死性ではないものの、拘束されている間に殺されてしまう可能性もあるわけで。そうならないように、どうにかしないとな。

「待て」

「な、なんですか!」

「こっから先は罠だらけ、逃げるならこっちだ」

 警戒されているようだ。うーむ。

「あー、まあ、信じる信じないはそっちの勝手だがな。ああ、追っ手はいない」

 多分、HMD送られるカメラの映像は怪しい者を映しているが、それはここに向かう気配はない。5人くらいの少数だからか。厄介だな。

「じゃな」

 この子に下手についていくべきではない。疑われているのなら、俺は下手についていったりしない方がいい。
 さーて、戻って監視を続行しよう。



――――side F.A

 そこにいた人物、恐らく彼は、脅威だ。草葉にまみれ、顔に妙な機械的な仮面をつけていたが、恐らくは後者は魔導具。今回のターゲットの護衛として雇われた麻帆良のエージェントだろう。
 一度振り向いてこちらを確実に視認したようだが、動く気配はない。わずかに感じる気配は素人そのものだが、素人の気配がこんなに希薄なはずがない。僕を脅威として見ていないか、それとも。
 とにかく脅威であることは間違いないので、とりあえず石になってもらうことにした。

「その慢心、後悔するといいよ。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト……小さき王、八つ足のトカゲ、邪眼の王よ、時を奪う独の息吹よ。石の息吹」

 石化魔法を放った……が、既に彼はいない。

「な……?」

 慌てて彼を探すが、元々気配が希薄で見つけられたのが奇跡と思える程だ。もはや二度と見つからないだろう。
 そして僕は魔法を使ったことにより姿を晒してしまった。これはまずい。どこから攻撃が来るかわからない。あの希薄な気配から、彼は暗殺などが得意とみた。早く隠れないと……

「…………」

 天と地が逆転した。右足首に締め付けられる感触。罠にかかったようだ。
 なるほど、だから彼は僕を放置したのか。見れば、そこら中に罠が仕掛けられている。おそらく見えているものは囮、本命は巧妙に隠されているだろう。僕はその囮にかかったようだけど。
 すぐに縄……ではなく蔦を切り、地面に降り立ったら落とし穴。これは本当に見事に隠してあった。幸い、殺傷能力は皆無。警告の意味だろう。最初から僕達の襲撃を読んでいたにしろ、僕を発見してから仕掛けたにしろ、恐るべき脅威だ。
 彼がどんな妨害に来るとしても、まだ僕は目的を果たしていない。

――――side end



 竜巻が起きたと思ったら戦闘が始まっていた。バケモノどもに囲まれて――――あ、魔法少年が逃げた。
 侍少女とツインテ少女が戦っている。というか、あの数相手によく戦えるなぁ。
 とりあえず、流れ弾とかでカメラ壊されるわけにも行かないので回収に回る。あー忙しい。

 つつがなく回収も終わり、ぼえーっと観戦している。真・大統領無双3のプレイ動画でも見ている気分だな。あれは名作だった。と思ったら、何やら苦戦しだした。どうもボス戦らしい。
 ピンチっぽいが、俺にはどうしようも……あろ?

「これは……」

 いやいやいやいやいやいやいやいや、これは残弾が残り少ないし威力もわからないし……
 と、悩んでいる間に戦況はどんどん悪化していく。

「仕方ない。使うか」

 とっても危険な物質をその球体の尻に差し込み、鮮やかな緑色の光を確認する。
 HMDとの接続は良好。あると知っていれば、カメラじゃなくてこれを使うべきだった。
 まさか持ってきているとは思わなかった、護身用手乗りソルディオス・オービット6個パック500発増量お得パック。
 コジマ物質500発分が1カートリッジ。10+1カートリッジ*6基分で66カートリッジ。予備に買った分は300カートリッジ。コジマ物質ってアホみたいに安くて強いから兵器転用できたわけだ。コジマキャノンの弾薬費は砲の修理洗浄費やENキャパシタがほとんどだって言っていたし、ネクストの修理費にコジマ物質は含まれないし。

「さぁ、行け。あれ?」

 今度はガンマン少女と格闘少女の無双が始まってた。魔法少年の仲間、いや、たぶん生徒にあんなのがいた気がする。
 手乗りソルディオス・オービットは緑に光って目立つ。流れ弾のようなものが飛んできたり。困った。これだけの距離があるからどうにかなっているが、近づかれるとまずい。そもそもかなり弾速は遅いし、特に気にすることもない。光より速いレールキャノンとかスナイパーキャノンとかを避ける人がざらにいたし。光に近い速度でビュンビュンカッ飛ぶ機動兵器を操る軍人もいたし。というかフレームランナーはともかくリンクスを一般人類と見るべきではないか。レイヴンでいう強化人間だし。
 さっさと手乗りソルディオスを待機モードにし防コ袋に入れる。浄コキャップを取り付けリュックに放り込みスタコラサッサ。森はいい、地球が与えてくれた至高の要塞だ。こちらからは見たい放題・攻撃し放題。銃弾も重厚な樹の柵で止められる。これだけ離れていれば、今のここのような流体力学的ベストポイントに陣取れば、まず弾は当たらない。石などもなく、跳弾もあり得ない。穴を掘れば更に被弾率は下がる。今回は座るだけで充分とみた。
 再び観戦と洒落こむ。

「すげー」

 黄金柏葉剣付の魔王や管理局の白き魔王が生きてたころは、こんなのが常識だったんだろうか?
 やれやれ、いつの時代も物騒なのは変わりないということか。



――――side M.T

 依頼内容は敵の殲滅。いつも通り。
 麻帆良を襲撃する連中とそう変わりはなかった。彼あるいは彼女を見つけるまでは。
 樹の上でギリースーツを着て暗視ゴーグルらしきものをつけていた。顔も表情もわからない。気配も殺気もなく、魔眼でなければ見つけられなかっただろう。神楽坂明日菜と桜咲刹那の戦闘を監視しているようだった。
 この時点で彼――――暫定的にこう呼ぶことにする――――は、まだ敵か味方かわからない、グレーの状態だった。が、彼が放った緑の光で敵と確信した。魔力を感じないということは、秘匿に特化したアサシン系の魔法使い。あるいは、魔道具を使う殺し屋かエージェントか。
 私とクーフェイが戦闘に参加し、こっそりと何発かを彼に向けて撃った。絶対に当たる、私には確信があった。
 それはあっさりと裏切られた。あまりに自然な動作で避けられた。まるで偶然のように。
 もう一回。前より弾数を多く。今度はひょいひょいと避けられる。まるで銃弾が見えているかのように。
 隠密行動を優先しているのか、緑の魔法を消し、森の中へ逃げ込む。その最中にも攻撃をしたが、ことごとく避けられる。彼の挙動をみるたびに、私の中で当たる確率がどんどん下がってゆく。どう撃っても当たらない。至近距離でも機関銃でも避けてしまいそうだと思い始めてしまう。
 しかし彼は森の中で突然座り込み、特に何もする気配を見せない。
 これはチャンスだ。森の中だからと、もう見えてないとでも思ったのだろう。
 私はリロードを行い、14発全てを彼に向けて撃った。逃げられないよう、直撃コースと回避予測地点に向け、7発ずつ。12.7mmは一発でも命中すればかなりの深手となる。私は最悪でも、彼の行動不能にできると思った。

 そして弾丸は――――全てが彼にかすりすらせず、あらぬ方向へ逸れていった。

 背筋に冷や汗が流れる。
 結界だ。しかも呪印付の弾丸にすら効果があるほどの強力なもの。そしてその強力な結界の気配すら悟らせない、空前絶後の隠匿能力。レベルが違いすぎる。彼は、サウザンドマスターに比肩する実力者だ。
 もはや攻撃は無意味。しかし、彼は私に見つかって攻撃を断念した。楽観ではあるが、もはや攻撃はないと見ていいだろう。たとえ攻撃したとしても、それは無意味だ。
 その予想は当たり、その姿が見えなくなるまで、彼は一切の行動を見せなかった。
 今回は運がよかった。だが、次があるとは思えない。無駄かもしれないが、警戒するよう皆に伝えないと……



7.Jun.2011 ver.0.00


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