<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[25341] 【チラ裏から】ジミーとメダルと女怪人と (銀魂×仮面ライダーOOO)
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:c79db0de
Date: 2011/09/06 01:18
何か思いついたので、練習がてら書いてみました。

とりあえず2週に1回ペース更新を目指して頑張ります。

01/09:チラ裏へ1話投下
03/29:1話~6話をその他板へ移行
04/10:7話前編を投下
04/27:7話中編を投下
05/16:7話後編を投下
05/30:8話前編を投下
06/14:8話中編を投下
07/13:8話中編2を投下
07/20:8話後編を投下
08/10:9話前編を投下
08/29:9話中編を投下
09/06:9話中編2を投下



[25341] メダルとミントンと謎の少女
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:c79db0de
Date: 2011/03/29 00:10
侍の国と呼ばれていた時代が遠い昔となってしまい、今の江戸の町は事実上「天人」と呼ばれる異星人によって支配されているのが現状である。

そのため今のこの国の有り様に不満を募らす連中、「攘夷浪士」と呼ばれる奴等なんかが現れてしまった。

「攘夷浪士」は「天人」からこの国を救うというお題目の元で行動を行っており、過激な連中なんかはテロ行為も辞さない危険な連中だ。

そんな奴等から江戸の治安を守るために彼等、武装警察「真選組」という組織は存在している。





軸足に重点を置き、体が前屈みにならないようにしてラケットを構える。
その時に体へ余計な力が入らないように意識する事が重要である、変に力を入れてしまうとシャトルへ力が伝わりにくいのだ。
頭の中でシャトルの軌道をイメージして最適な位置へ来た瞬間に一閃、何千・何万と繰り返し素振りしてきた完璧なフォームよりラケットが振り下ろさせる。
手応えとともにラケットが風を切る鋭い音とが聞こえ、見事にシャトルが相手コートに叩きつけられるイメージが自然と浮かぶようだ。

「よし、今日も絶好調!」
「何が絶好調だァァ!!」
「痛っ!?」

武装警察「真選組」の拠点である屯所内で何故かミントンの素振りをしていた男が、不意に背後から頭を小突かれてしまいうめき声をあげた。
制服から真選組の関係者と解る彼は余程ミントンに集中していたのか、自分と同じ制服を着た人間が背後から怒りの表情で近づいてくるのを気付けなかったらしい。

「痛ってー、一体誰が…。 ふ、副長!?」

誰が自分に不意打ちを与えたのか後ろを振り返って確認した所、それが自分の上司である土方十四郎と理解した男は怯えた声を漏らした。
実は過去にも仕事中にミントンをやってた事が原因で土方に折檻を与えられ、散々な目にあった経験を持つ彼は咄嗟に言い訳を始める。

「い、いや…副長!? これはけっして遊んでいた訳ではなく、次の任務に備えて緊張感を維持をするためにミントンを行なっていただけで…」
「くだらねー言い訳をしてるんじゃねぇ! いいから俺に着いて来い、お前がミントンをしながら備えていたらしい次の任務をして貰うぞ」
「は、はい!?」

ミントンをしていた男は鬼の副長とも呼ばれる真選組ナンバー2の土方には頭が上がらないらしく、彼の一喝によって驚き竦んでしまうのだった。






「潜入捜査ですか?」
「そうだ、お前には今日からこの美術館に潜り込んで貰う。何でもその美術館を襲う計画を、何処ぞの攘夷浪士が企てているらしいんでな」

先ほどまで勤務中にも関わらずミントンをしていた男、真選組の監察方(密偵)に就いている山崎退は上司の土方から新たな任務を言い渡されていた。
彼に取って攘夷浪士の中に潜り込んで計画を阻止する仕事は朝飯前なのだが、どうも今回の仕事内容を聞いて違和感を持つ事になる。

「はー、攘夷浪士がですか。 奴等が美術館なんかにどんな用が有るのか…、もしかしてその美術館には天人が絡んでるのでは?」

攘夷浪士は江戸の町を支配している天人を強く敵視している、もしその美術館に天人と繋がりが有るのなら襲撃の計画があってもおかしくは無いと山崎は考えた。
しかしその推測は土方によってバッサリと否定されてしまう。

「いや、その可能性は低いだろ。その美術館は鴻上ファウンデーションが経営しているからな」
「えっ、鴻上ファウンデーションってあの財団の…」

鴻上ファウンデーション、それは近年に突然力を付けた謎の巨大財団である。
未だに全貌が掴めていない存在だが少なくとも「天人」との繋がりについて噂される事は今のところ無く、攘夷浪士達がテロのターゲットとして選ぶ可能性は極めて低いと考えてもよいだろう。

「でも、天人が絡んで無いなら何で美術館なんかに…」
「それが解らないからお前に探って貰うんだろうが! 頼んだぞ、山崎!!」
「了解です、副長!!」

こうして土方の命を受けた山崎は、鴻上ファウンデーションが経営するという美術館へ潜入を開始した。










(はー。もう潜入してもう二週間になるけど、全くの収穫無しかー)

鴻上ファウンデーションが経営する美術館に警備員として潜入した山崎は、美術館の内部から調査を開始し始めていた。
攘夷浪士達が狙う程の物なのだから美術館を装って武器等の保管庫でも有るのかと推測してみたが、色々と内部を探って見ても此処に有るのは訳の解らない美術品だけである。
この二週間で美術館について一通り調べ尽くしたが不振な点は何も見付からず、山崎の潜入捜査は早くも手詰まりの状態になっていた。

(ヤバイ、マジで手詰まりになってきた!? もう一層、此処に襲ってくる攘夷浪士達を捕まえた方が早いんじゃ…)

捜査が行き詰まり追い詰められた山崎は、事件を未然に防ぐ事を諦めるという警察に有るまじき考えを脳裏に掠めてしまう。
しかし彼の危険な思考は、同じ警備員の服装を着た男に声を掛けられる事で止められた。

「どうしたんですか、山崎さん。そんなに難しい顔をして?」
「ああ、火野くん。 いや、ちょっとウトウトしちゃってね…」

この美術館で警備員のアルバイトをしている火野映司に声を掛けられた山崎、どうやら良からぬ考えが顔にも出ていたらしく彼に不審に思われたらしい。

「駄目ですよ、眠っちゃたら。 俺達は今日の夜勤当番なんですから」
「はっはっは、それもそうだね…」

深夜の時間帯にあたる現在、山崎は火野とともに美術館の夜間警備を行っている。
よくよく考えてみればこの時間には自分を含めた数名の警備員しか美術館に居ないため、攘夷浪士達が押し入る絶好の機会と言えるだろう。

(まずい、これは気を引き締めないとな)

攘夷浪士達の意図は結局解らなかったが、真選組として最低でも此処を守らなければならない。
自分に課せられた使命を再確認した山崎は、改めて自分の任務を全うする事を決意するのだった。











「…それでその前の上司が横暴でさー! 何につけても言葉と一緒に手が出てくるんだよ!!」
「へー、それは大変でしたね…」

先ほどの無駄な決意から数十分後、眠気覚ましに興じ始めた火野との雑談が盛り上がってしまった山崎はすっかり自分の任務を忘れていた。

「いやー、今でもあの上司の事は夢に見るよ。全く、仕事中にミントンぐらい許してくれてもいいじゃんかよ!?」
「し、仕事中にミントンはまずいんじゃないですか…」

火野の朗らかな人柄につい気が緩んでしまった山崎は、思いっきり愚痴を始めた。
勿論、彼の言う前の上司というのはあの鬼の副長である事は言うまでもない。

「本当、火野くんが羨ましいよ。火野くんは世界中を旅してるんでしょ?」
「はい、このバイトも次の旅の資金を集めるためにやっています」

聞く所によるとこの火野という青年は、世界を放浪してい回っていると言う。
本来なら警察官として定職も持たずにフラフラする青年を止めるべきなのだが、今の環境に不満が溜まりっ放しの山崎には彼の自由さがとても輝いて見えていた。

「いいよなー、旅! 俺も何処か他の場所へ旅立って、こんな面倒な仕事から開放されたいよ…」
「いやー、そうとも限らないですよ、山崎さん」
「えっ!?」

山崎の逃避願望をやんわりと否定して火野は、何かを思い出しているのか何処か遠くを見つめたような視線で語りだした。

「俺も色々とそこら中を見て回ってきましたが、解った事がひとつだけ有るんです」
「解った事って、一体どんな事が?」
「結局、何処に行っても楽園なんて物は存在しない。皆それなりに苦労して生きていました…」

楽して助かる命が無いのは何処も一緒ですよ、そう言葉を締めて火野は山崎を励ます。

「はー、やっぱりそうだよな。楽して助かる命は無いのは何処も一緒ねー…」

火野の言葉には世界中を回った経験が活きているのか奇妙な説得力が有り、現実の厳しさを教えられて落ち込む山崎であった。










「ぐーがー」
「うーん、土方のアホーー…」

その後、話し疲れた山崎と火野は夜間警備を忘れて眠ってしまった。
この間に同僚の警備員に成りすましていた攘夷浪士達が美術品を盗難しようとしていた事、そして美術品の一つに封印されていた欲望の化身「グリード」と呼ばれる怪人たちが目覚めた事に気付かぬまま…。











「んー、もう朝か? …なんじゃこりゃァァァァァ!!」

警備員の控え室で熟睡していた山崎は、顔の辺りに仄かな陽の光を浴びたに事よって目が覚めたようだ。
彼は起き抜けでハッキリと頭が動かない状態のまま辺りを見回し、そこで控え室の壁が盛大に大穴が開けられて外が丸見えになっている事に気付く。
異常な光景を目の当たりにして脳が漸く活動を始めた山崎は状況を把握するために急いで外に飛び出し、美術館がボロボロに荒れ果てた現状に驚愕の声を轟かせるのだった。

「えっ、マジ!? 俺が寝ている間に攘夷浪士達が美術館を滅茶苦茶にしちゃったのかー!!」

正確には美術館へ盗難に入った攘夷浪士のちょっかいによって目覚めたグリード達が暴れた事が原因なのだが、勿論暢気に眠りこけていた山崎が知る筈も無い。

「ヤバイ、これはマジでヤバイぞ…。この事か副長にバレたら、職務放棄とみなされて問答無用で斬られる!?」

この美術館を襲う計画を建てていた攘夷浪士達を探る筈がまんまも出し抜かれてしまい、しかも事件中に自分は眠っていたという不始末である。
このままでは確実に行われるであろう鬼の副長の制裁を逃れるため、山崎は混乱中の脳をフル回転して必死に考えた。

「どうする、どうするー! はっ、そうだ、俺が一人で犯人を捕まえればいいんだ」

考慮の末に惨事を引き起こした犯人を自分が捕まえれば、きっと失敗は帳消しされて自分は助かるのではと山崎は思い至たる。
しかし名案風に言ってはみても常識的に考えて今から犯人を捕まる事は容易で無いのだが、テンパリ中の彼にはそこまで気が回らない。

「よーし、そうと決まったら早速犯人を追っかけないとな!! …あれ、何か蹴飛ばしたか?」

彼は方針が決まったとその場から駆け出すが、しかし足元かから金属を弾いた音を聞こえて思わず足を止める。
どうやら駆け出した拍子に何かを蹴飛ばしたらしく、山崎は自分の蹴った物が気になったのか足元に視線を降ろした。
するとそこには鳥の紋様が描かれた赤いメダルが落ちているではないか、思わずそのメダルを拾った山崎はそれを繁々と眺め回す。

「これは…、何かのメダルか? …あ、こんな事をしている場合じゃ無い!?」

自分が危機的状況に瀕している事に気づいた山崎は、拾ったメダルをポケットに入れてそのまま駆け出した。











とある路地裏で明らかに人と異なる造形の存在、封印より目覚めた3体グリード達は苛立っていた。

「どういう事だ、何故俺のコアメダルが足りない!!」

体中のあちこちに昆虫の特徴を持つ緑色の怪人、ウヴァが自分の激情のままに叫ぶ。
しかしウヴァの下半身は上半身の意匠と比べ、何故か貧相な姿をしていた。

「メズール、何処だー」

他のグリードたちの比べて一回り巨大な下半身を持つ銀色の怪人、ガメルは何かを求めるように視線を彷徨わせる。
ガメルの上半身も下半身のそれと違い、貧弱な造形になっていた。

「コアメダルの在処なら解るよ、どうやらあいつが持っていったらしい」

全体的に猫科のイメージを思わす姿をした怪人、カザリがウヴァの疑問に答えた。
ウヴァの体も他と同じように、上半身が貧しい物となっている。

「何、あいつがか!? くそっ、姿が見えないと思ったらそんな真似をしてたのか…」
「本当、よくやるよね。コアを殆ど失った状態で復活した癖に…」

彼らグリードと呼ばれる存在は、コアメダルと呼ばれる9枚のメダルによって構成されている。
しかし美術館にあった石碑による800年間の封印から開放された時、グリード達は自分たちのコアメダルが何枚か欠けている事に気づいた。
そのため体の一部が不完全な状態、「セルメン」と呼ばれる姿で復活をしてしまったのだ。

「くそっ、コアメダルを取り返してやるぞ!!」

自分のコアメダルを取り戻すため、グリードの内の一体であるウヴァが動き出した。











山崎は当ても無く江戸を彷徨い、美術館を襲ったであろう攘夷浪士達を探し続けていた。
普通に考えて事件を起こした犯人が街中をうろついている訳が無いのだが、自分の命が掛かっている山崎はその事に気付けない。

「はぁ、はぁ…。くそっ、何処にも見当たらないぞ…」
「きゃっ!?」
「えっ、あの声は?」

走り疲れて息が切れた山崎は思わず立ち止まってしまう、そしてその場で息を整えた始めた彼の耳に何処からか悲鳴を聞こえてきた。
市民を守る真選組の一員である山崎は体の疲労を忘れたかのように、すぐさま悲鳴の聞こえた方向へ走り出す。






「何だあれ、新種の天人か!?」

悲鳴が聞こえた現場に辿り着いた山崎は、そこで少女に襲い掛かる謎の怪人を目撃する。
青い服を着た15・6歳くらいの少女が何かに苦しむように蹲りながら、カマキリを擬人化したような怪人と何かを話しているようだ。

「…くっ、ウヴァのヤミーか?」
「何故コアメダルを奪い、我々から離れたのだ? アンクなら兎も角、お前がそのような行動に出るとはな…」
「ふん、所詮グリードは欲望の化身よ。 こんな状態では、カザリ辺りにカモにされるのが目に見えていたからね」
「まあ理由などどうでもいい、コアメダルを返して貰うぞ」

己のコアメダルを取り戻すためにウヴァによって生み出された緑色の怪人、カマキリヤミーが少女に今にも襲い掛かろうとしていた。
その光景を目の当たりしていた山崎は、事情が解らないが少女を守るために怪人に向かって駆け出す。

「止めろ、婦女暴行の罪で逮捕する!!」
「がっ!?」

カマキリヤミーは少女の方に意識を集中していたため、運良く気づかれずに接近できた山崎は不意打ちを与えたられたが…。

「何だお前は!!」
「へっ、効いてないのかよ? うわぁーーーーーー!?」

いくら奇襲を掛けられたとは言え、人を大きく上回る強大な力を持つヤミーには余り有効なダメージを与えられなかったようだ。
こちらに気付いたカマキリヤミーから逆に反撃を喰らってしまい、山崎はあっさりと返り討ちにあってしまう。

「何なのよ、貴方は?」
「安心しろ、俺は警察だ! 此処は俺が引き受けるから、君は早く逃げるんだ!!」

突然の乱入者に驚く少女に、ヤミーから受けたダメージを圧して立ち上がった山崎は逃げるように指示をする。
そのまま少女を追い掛けようとするカマキリヤミーに対して、彼はは再び立ち向かうのだった。





「邪魔をするなー!!」
「ぐへぁーーーーーー!?」

力の差は歴然なのに関わらず、山崎はボロボロになりながらカマキリヤミーに立ち向かい続けた。
見ず知らずの自分に何故そこまで肩入れるするのか理解出来ない少女は、やがて謎の乱入者の正体にこう結論を付ける。

「…何だ、ただの馬鹿か」
「ちょっと待て!? 君のピンチに颯爽と現れた俺に対して、馬鹿呼ばわりとはどういう事だァァ!!」

身を挺して少女を守り続ける自分に対してのあんまりな評価に、山崎は目の前に入るヤミーの存在を忘れて思わず抗議を入れてしまう。
しかしその行動が原因で山崎の隙を逃さなかったカマキリヤミーから、手痛い一撃をまともに喰らう事になった。

「いい加減にしろー!!」
「ぐげェェ!?」
「あ、あれは!? ……もうこの手しか無いようね」

自分の邪魔をし続けるのが余程目障りだったのか、怒りを込めたカマキリヤミーの攻撃を受けて山崎は吹き飛ばされてしまう。
その衝撃で山崎のズボンから先ほど拾った赤いメダルが零れ落ちてしまい、それを見た少女は驚きを露にした。
そして地面に落ちた赤いメダルを拾い上げた少女は、そのままダメージを受けて蹲る山崎の側まで近付いて来る。

「君は…、逃げろって言ったじゃないか!!」
「ねえ、貴方。 名前は何て言うのかしら?」
「えっ…、山崎 退だけど…」
「そう、サガルね…」

此処から避難するように忠告する言葉を遮って少女が自分の名前を尋ねてきたため、山崎は咄嗟に己の名前を告げる。
少女は教えて貰った山崎の名前を噛み締めるように呟きながら、何処からか長方形の形をした物体を取り出した。

「サガル、貴方の勇気には感心したわ!」
「いやっ!? さっき君に馬鹿呼ばわりされたばっかりなんだけど…」

突然少女から自分に対しての評価が正反対にとなり、彼女の手のひら返しに山崎は思わず突っ込んでしまう。
少女は山崎の戸惑いを無視して、この場を潜り抜けるある秘策を提案した。

「あのヤミーは強力よ、このままでは私たちは二人ともやられてしまうわ」

そう言いながら少女は手に持った物体を山崎の腰に近づけると、外面を石膏のような物質で凸凹に覆われた長方形型のそれは光りだした。
すると光と共に表面部を覆っていた物が弾け飛び、本来の姿を取り戻したオーズドライバーが山崎の腰に巻きつく。

「うわっ、何だこれは!?」
「そ、それは、封印の…」

突然少女によって訳の解らない物を腰に巻かれた山崎と、そのベルトを見たカマキリヤミーは驚きの声をあげた。

「ふっふっふ、私が持っていたのはコアメダルだけじゃ無かったのよ!」
「おい、これは一体…」
「サガル、私たちが生き残るには奴を倒すしかないわ!!」

少女の謎の行動に山崎は疑問を示すが、それに意に介さず彼女は先ほど拾った赤いメダルを含む三枚のメダルを手渡す。
目の前に差し出されたメダルを受け取った山崎は、それぞれ鷹・虎・飛蝗の紋様が絵が描かれた赤・黄・緑のそれを目に入れた。

「メダルが三枚、此処に嵌めこむのよ! そうすれば力が手に入るわ!!」
「力が…?」
「乗せられるな!? その力を使えばただでは済まないぞ!!」

よく見たら自分の腰に巻かれたベルトのバックルにあたる部分には、少女が差し出した3枚のメダルが丁度入るようになっている。
そうして少女に言われるがままメダルを嵌めようとした山崎だが、カマキリヤミーの静止の声を聞いて手を止めてしまった。

「おい、あのカマキリ野郎が滅茶苦茶焦った声で止めたぞ!? このメダルってそんなにヤバイのか?」
「多少のリスクが何よ、このまま私と共倒れをしたいの?」
「やっぱりリスクがあるんじゃねーかよォォォ!?」
「早くしなさい、サガル! 変身するのよ!!」
「止せーーーーーー!?」





攘夷浪士を追っていたら何故か怪人と戦う嵌めになり、終いには助けた少女に変身しろと命令される。
何で俺がこんな目に遭うんだと現実逃避しかけた山崎だが、ふと昨晩に聞いた火野の言葉が脳裏に過ぎった。
その言葉に後押しされて覚悟を決めったらしい山崎は、少女に向かって意味有りげな笑みを浮かべながらカマキリヤミーの前に立ち向かう。

「な、何なのよ…」
「いや、ちょっとした事を思い出してね…」

山崎は景気付けに自分が今朝拾った赤いメダルを天高く弾いた、かんだかい金属音を鳴らしながらメダルが空を舞う。
そして重力に引かれて落ちてきたメダルを再びキャッチした山崎は、決意とともに火野から受けた言葉を口に出していた。

「楽して助かる命が無いのは何処も一緒か…、確かにその通りかもな!!」

その言葉とともに、ベルトのバックル部にそれぞれ鷹・虎・飛蝗の意匠をした3枚のメダルを嵌めこむ。
嵌んだ勢いでベルトのバックル部分、オーズテドラルが自然に斜めに傾いた。

「これを使いなさい!!」

山崎がメダルをセットした事を確認した少女は駆け寄りベルトの腰部分に接続されていた円形の物体、オースキャナーを差し出す。
少女から受け取ったオースキャナーを手に持った山崎は、バックルに嵌め込まれた3枚のメダルの上をなぞる様に滑らした。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


オースキャナーが3枚のコアメダル上を通るとともに高らかな金属音が鳴り響く、その音を聞きながら山崎は自然と呟いていた。

「…変身っ」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。


何処からか聞こえてきた歌とともに、山崎の体が光に包まれる。
そして次の瞬間、山崎の姿は「仮面ライダーOOO」へと変わっていた。





「何だ、あの歌は!? タカ・トラ・バッタって一体…」
「歌は気にしなくていいわ、それはオーズ。 それならあのヤミーに勝てるわ!!」
「気にするなって言っても…、うわ!? 何か体も変わっているぞ!!」

山崎は突然聞こえてきた歌や、光とともに自分の姿が変わっている事に心底驚いていた。
頭部は赤い鳥の紋様に緑の複眼が、上半身は黄色く腕に虎の爪のような物が備わり、下半身は緑色となっている。
そして胸部には上から腰に嵌めたコアメダルと同じように、鷹・虎・飛蝗を模った文様が描かれていた。

「くっそー、コアメダルを渡せーーー!!」
「うわぁ!?」

山崎がオーズへと変身した事に戸惑っている隙を狙い、カマキリヤミーがオーズに向かって攻めかかってきた。
カマキリヤミーが腕の部分に備わる鋭い鎌を振り下ろしてくるのを見た山崎は、咄嗟にその鎌の柄に当たる部分を両腕を受け止めた。

「…へっ?」
「くっそーー!?」

先ほどまでの自分ならあっさり吹き飛ばされている筈だったが、今の山崎は余裕でヤミーの力を受け止める事が出来た。
凄まじい衝撃を覚悟していた山崎は、予想以上にあっさりとヤミーの攻撃を防げた事に思わず気の抜けた声を出してしまう。
そうしてそのまま自分の腕に付いている虎の爪のような物で斬りかかり、今までのお返しにとヤミーに反撃を与えた。

「おおー、スゲー! 力が溢れてきた!!」
「ぐはっ!?」

山崎はついさっきまで殺されかけていた事が嘘のように、今度は連続で蹴りを浴びせていきながらヤミーを圧倒する。
その攻撃に思わずよろけるカマキリヤミーだったが、まだ余力が有るらしく攻撃の間隙に腕の鎌で斬りかかってきた。

「図に乗るなーーー!!」
「だーーっ!?」

ふとした拍子に攻守が逆転してしまい、山崎はヤミーの攻撃にまた防戦一方になってしまう。
カマキリヤミーの猛攻にたじろぐ姿を見た少女は、流れを変えるためにもう一枚のメダルを取り出した。

「サガル、これを使いなさい!!」
「えっ?」

山崎に緑色のメダルを投げ渡す少女、それを受け取った山崎は虎のメダルと交換して再びオースキャナーを滑らす。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"タカッ!"、"カマキリッ!"、"バッタッーー!!"。






オースキャナーが再びコアメダル上に滑らされた事により、さっきとは少し違う歌が響き渡りながら山崎の体が光に包まれる。
光が止むと彼の姿は虎のような黄色い爪が無くなり、代わりにカマキリヤミーと同じような緑色の鎌が備わっていた。

「ええーーー、また姿が変わったーーー!!」
「まだメダルかあったのか!? くそっ、コアメダルを渡せーー!!」

またカマキリヤミーが鎌で山崎に襲い掛かってくる、しかし山崎は逆に自分の手に備わる鎌でカマキリヤミーを切り裂いていく。
山崎の斬撃によってカマキリヤミーの体が切り裂かれていき、それに合わせて傷口から灰色のメダルが零れ落ちた。

「せいっ! せいっっ!!」
「くっ……」

ダメージが蓄積されてその場に倒れるヤミーの姿に、山崎は止めを刺そうと腕の鎌に力を溜めていく。
そして気合の雄叫びとともにカマキリヤミーに飛び掛り、両腕の鎌を振るって全力の一撃を繰り出した

「はーーーー、せいやーーーーーーー!!」
「ぐわぁーーーーーー!?」

渾身の攻撃を受けたカマキリヤミーは、爆発して自分の体を構成していたメダルがばら撒かれた。











「えっ、あのカマキリ野郎はメダルで出来ていたのか? …ていうか正当防衛とは言え、天人を殺害しちゃったよーー、俺!?」

もしあの天人が何らかの大物だったら、確実に外交問題に発展してしまう。
そうなれば自分は確実に責任を取らなければならず、もしかしたら自身だけでなく真選組全体にもとばっちりが掛かるかもしれない。

「どうすんの、俺!? どうするーーーーーー!!」
「……やっぱり唯の馬鹿ね」

最悪の想像に悶える山崎の狂態を眺めて、少女は辛辣な発言をするのであった。



[25341] 欲望とスイーツと元同僚
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:83fe980b
Date: 2011/03/29 00:11
「……ていうか、もうどうしようも無くね!? 仕事ミスっただけなら兎も角、天人まで殺害しちゃったしもう腹でも切るしか…」
「何時までやっているのよ! いい加減、それを返して貰うわよ!!」

前話からずっと悶えていた山崎からの腰からベルトを外す少女、その瞬間に山崎の姿は普段の物に戻った。
これが切欠に混乱状態から回復した山崎は、少女に今までの事態に付いて質問攻めにする。

「ちょ、ちょっと待って!? 教えてくれ、そのベルトは一体何なんだ!! それにあの天人は…?」
「ふっふっふ、まあまあの量ね。 サガル、ちょっと拾うのは手伝ってくれない?」

しかし山崎の問い掛けは華麗にスルーされてしまい、少女はカマキリヤミーから出たメダルを拾い始めてしまう。

「おい、人の話を聞けよ!」

少女の対応に流石に怒りを覚えた山崎は、地面に散らばったセルメダルと呼ばれる灰色のメダルを回収し続けている少女の方に歩み寄る。
しかし山崎が少女の傍まで辿り着いた次の瞬間……。

"キキィーーーーー!"。

「うわっ、何だ!?」
「待ちなさい!? それは私の…」

突然山崎たちの頭上から数十体にも及ぶであろう、赤と銀の体を持つ鳥のような何かが舞い降りてきた。
明らかに人の手によって造られた鳥モドキ、タカロイドと呼ばれる人工のそれは地面に散らばったセルメダルを嘴に加えて次々に拾っていく。

「くそっ、返しなさい!!」

セルメダルを取り返そうと少女は追いすがるが、時既に遅く全てのタカロイドはセルメダルの回収を終えて天高く飛び上がっていった。

「ちょっと、サガル! 何なのよ、あれは!?」
「知るか、俺もあんなのは初めて見たよ!? ていうかそろそろ事情を説明してくれ!!」

殆どのセルメダルを持っていかれてしまい、少女はあの鳥もどきに対しての怒りを山崎にぶつける。
事情も解らず理不尽に攻められた山崎の方も、ついに堪忍袋の尾が切れたらしく喧嘩腰に応じるのだった。








鴻上ファウンデーション本社ビルの一室、そこに先ほどのタカロイド達が集めたセルメダルが積み上げられていた。
役目を終えたタカロイド達は自らの体を折りたたんでいき、次々に缶形態への変形を完了させる。
目の前に出来たセルメダルの山を眺めていた一人の男性は、喜びの笑みに浮かべながら呟いた。

「たった一日でこれ程のセルメダルが集まるとは…。やはり私のライフワークには必要なのかもしれないね、グリードと…、オーズが!!」










とある病院の庭に設置されたベンチに、全身が包帯で巻かれている二人の男が腰掛けていた。
この二人は昨晩に警備員に扮して美術館にある物を狙い、最終的に美術館の崩壊に巻き込まれて重症を負った攘夷浪士達である。

「くそっ!? 折角一儲け出来ると思ったのに…、何が天人をぶっ潰せる力が手に入るだ!?」
「まあ、あの化物の力は凄かったけどね…」

この二人の攘夷浪士は先日にとある筋から、あの美術館には天人を倒せるくらいの凄まじい力が眠っているという情報を聞きつけた。
その話を信じた彼らはその凄まじい力とやらを手に入れるために美術館に潜り込み、見事美術品の一つに封印されていたグリードを解き放つ羽目になったのである。

「しかしあの化物が出てきた時に、いきなりバイクに乗って現れた連中が居たけどあれは何だったんだろうな?」
「知るかよ、化物に一瞬で返り討ちにあってた奴らなんて!? それにあのバイクの連中と化物が派手に暴れたせいで美術館が壊れて、俺たちもこんな目にあったんだぞ!!」

昨晩にグリードの目覚めを察知した鴻上ファウンデーションは自身が所有する私兵、ライドベンダー隊を美術館に派遣していた。
だが強力なグリードの力にライドベンダー隊はあっさりと返り討ちにあってしまい、しかも彼らが引き起こした戦闘の影響で美術館は全壊してしまう結果になる。
ライドベンダー隊が現れなければ美術館も崩壊せず攘夷浪士たちも重症を負わずに済んだかもしれないため、攘夷浪士の片割れは昨晩の突然の闖入者に怒りを感じていた。

「はー、やっぱり田舎に帰った方がよかったかな?」
「何言ってる! あいつらが現れたおかげで、俺たち武士は貧乏暮らしを強いられるようになったのだぞ!!」

どうやら彼らは天人襲来の煽りを受けて職を失った武士であるらしく、自分たちの生活が壊された恨みから攘夷浪士になったらしい。
散々な目にあった事で気落ちする仲間を励ます攘夷浪士の片割れは、懐から筒状に丸められた紙を取り出して見せた。

「見ろ、これは天人が利用する現金輸送車のルートだ! これを襲えば当面の軍資金は稼げるぞ!!」
「ええー、もう止めとこうぜー!」

男は密かに考えていた計画内容についてまとめた計画書を仲間に公開して、今度は現金輸送車を襲おうと提案する。
しかし攘夷浪士の片割れは昨晩の悪巧みの失敗で大怪我を負った経験から及び腰になっているようで、否定的な反応を返した。

「馬鹿野郎! この金さえ手に入れれば暫くは遊んで暮らせるんだぞ!!」
「えっ、攘夷の軍資金にするんじゃ?」
「うるさいぞ、それはそれだ!? 兎に角金だ、金さ手に入れれば何でも…」

天人をどうこうと言っていた癖に最終的に金の事しか言わなくなった相棒を、攘夷浪士の片割れは冷ややかな視線で見ていた。
目の前で手に入れた金の使い道について熱弁を振るう相棒に付き合いきれなくなった片割れは正面から視線を外し、そこで見た物に驚きの声を漏らす。

「…なっ!? お前はあの時の!!」
「うん、何だ…、はっ!?」

なんと熱弁を奮っていた攘夷浪士の背後に、昨晩に美術館で目撃した緑色の怪人が立っていたのだ。
昆虫のような姿を持つグリードのウヴァは、驚き慄く攘夷浪士たちの傍まで淡々と近づいてくる。

「その欲望、使わせて貰うぞ!」
「はわわわわ…」

ウヴァが己の体からセルメダルを取り出すと同時に、先ほどまで金の使い道について語っていた攘夷浪士の額に長方形の穴が出来る。
まるで自販機のコイン投入口のようになっている黒い穴に、ウヴァは手に持ったセルメダルを投入した。

「ひ、ひいいいい!?」
「グガァァァァ!!」

額にセルメダルを入れられた男から次の瞬間、体から白い人の形をした何かが這い出てくるのだった…。











「ふーん、この紙に書かれた料理が出てくるのね」
(メニューの見方も解らないとは…、まさか世間知らず箱入り娘ってオチじゃ無いよな?)

とあるファミレスの店内、そこに山崎は先ほど出会った少女と向かい合わせに座っている。
山崎が自分が倒した怪人やあの変身について説明を求めた時に、己をメズールと名乗った少女は落ち着いた所で話をしたいと要望したので近くのファミレスに連れて来ていた。
しかしメズールはファミレスのシステム自体理解していなかったらしく、とりあえず山崎は今まで注文の仕方についてレクチャーを行っていた所である。

「やっぱりずいぶんと変わったのね、人間の世界は…」
(人間の世界だと、やっぱりメズールは天人なのか!? しかし、メダルを吸収する天人なんて聞いた事無いぞ?)

とある切欠から密かにメズールが人ではないと考えていた山崎は、彼女が注文を終えた後の呟きから自分の推測の正しさを確信する。
傍目には美しい少女にしか見えないメズールを何故人では無いと推測したのか、実は山崎は彼女が拾った灰色のメダルを自分の体に吸収する光景を目撃していたのだ。
メズールがメダルを取り込む瞬間に一瞬だけ彼女の全身から沢山のメダルが波打っていた、まるで彼女の体自体がメダルが出来ているように…。

(さっき襲ってきた怪人も体がメダルでできていたよな、だったらメズールとあいつは同じ種族なのか?)

メダルと言えば自分が戦ったカマキリ型の怪人は、メズールと同じように体がメダルで構成されていたらしい。
しかも怪人の体から放出されたメダルを彼女が吸収していたのだ、メズールとあのカマキリには何かしらの関係が有るに違いない。
物珍しそうに周りを見渡すメズールを眺めながら、山崎は自分の疑問を思い切ってぶつけてみた。

「なあ、メズール。 もしかしてお前とさっきのカマキリ野郎は同じ種族なのか?」
「はぁ、冗談じゃ無いわよ!? 私とあんなヤミー如きを同類扱いしないで欲しいわ!!」

山崎の質問が気に触ったのか、メズールは極めて強い口調で否定した。
どうやら自分とあの怪人を一緒に扱った事が余程気に障ったようで、彼女の凄まじい剣幕に山崎は気圧されそうになる。

「いいわ、説明してあげるからよき聞きなさい…」

そこで漸くメズールは自分の疑問を答えるために語り始め、彼女の口から出た話に山崎は仰天するのであった。





グリード、800年前に封印された欲望の化身。
グリード達は昨晩、何者かよって封印が解かれて目覚めたばかりである。
グリードはヤミーと呼ばれる怪物を生み出す事が出来る、先ほどのカマキリ型の怪人もグリードによって創られたヤミーの一体。
山崎が変身したあれは、グリード達を封印したオーズと呼ばれる存在。

「それで私たちグリードは、コア…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? 少し、頭を整理させてくれないか?」
(800年前に封印されたって、じゃあこの子はこの見た目で800歳以上!? いや驚く事はそこじゃ無いだろ… )

メズールの口から紡ぎ出された荒唐無稽な話を理解するため、山崎は一時的に彼女の話を止めた。
彼はまるで何処ぞの漫画みたいな設定が話にどんどん出てきて混乱してしまい、今までの説明を理解しようと必死に頭を働かせる。
どうにかメズールの話を飲み込めて来た山崎はそこで、今までの話が本当ならグリード達は昨晩に山崎が夜勤していた美術館から目覚めたという事に気付いた。

(えっ、あの破壊跡はグリードって連中がやったのかよォォ!? でも封印ってのを解いた奴も居るらしいしな、この話がこいつの与太話って可能性も有るから…)

普通ならこんなうそ臭いなんて笑い飛ばすだけだろうが、しかし自分自身が体験したオーズとやらの力は本物だった。
とりあえず山崎はグリードの事が真実か確かめるために、彼女から聞いた話の中で感じた疑問点をメズールへ投げかける。

「…ちょっと質問だけど、メズールとあのカマキリ野郎の姿が違うのはどうしてなんだ? 君はどう見ても人間にしか見えないんだけど…」
「私のグリードとしての本当の姿は別にあるわ、これはあくまで仮の体と言った所ね」
「じゃ、じゃあその本当の姿ってやつを見てみたんだけどな?」

山崎はここでメズールがあのヤミーのように変化すれば、彼女の話に信憑性が高まると考えて本当の姿を見せて欲しいとお願いをしてみる。
しかしメズールは不機嫌そうに山崎の要求を拒否した。

「…無理よ、今の私はこの姿以外になれないわ」
「えっ、じゃあやっぱり…」

本来の姿を見せる事が出来ないと言うメズールに、今までの話が本当なのか疑わしく感じてきた山崎は何故出来ないか追求しようとする。
しかし丁度その時にファミレスの店員が注文した品物を持ってきてしまい、残念な事に話の腰を折られてしまった。





「お客様、コーヒーとスペシャルジャンボパフェをお持ちしましたー!!」
「へっ、スペシャルジャンボパフェだとォォ!?」

店員が注文された料理を確認するために品名を口に出していく、そこで山崎は優に5人分は有りそうな巨大なパフェが持って来られた事に驚愕する。
どうやら山崎が気付かない内にメズールが勝手にジャンボパフェを注文していたらしく、驚愕の表情を浮かべる山崎を尻目にメズールはパフェを食べ始めていた。

「おいーっ!? 好きなものを頼んでいいとは言ったけど、流石にそれは無いだろォォ!!」
「あら、中々イケルわね」

メズールの見た目から大喰らいにも思えなかったので、注文についての制限を特に設けていなかった事が災いしたようだ。
こんな巨大なパフェを夢にも思わなかった山崎からの抗議を無視して、メズールは黙々とパフェを食べながら説明を再開する。

「グリードの体は核となる9枚のコアメダルと、セルメダルで構成されているわ。 ちなみにヤミーにはコアメダルは無い、あいつらの体は全てセルメダルだけで作られているの」
「コアメダルって、さっきのやつが言ってたあれか?」

コアメダルが棒でセルメダルがアイスの部分、ヤミーは棒が無いアイスになるだろうとメズールはパフェに乗っていた棒アイスを食べながら解説した。
その説明でコアメダル、コアメダルと叫びながら襲ってきたヤミーを思い出した山崎の問いに、彼女は同意を示す。

「ええ、そうよ。 あいつは私が他のグリードから奪ったコアメダルを取り返し来たの」
「ちょっと待て、グリードはお前の仲間だろ!? お前はそいつらから大事なコアメダルってのを奪ったのかよ?」
「仕方ないでしょう、そうしないと私のコアが奪われていた可能性が高かったのだから…」

よりにもよってメズールは自分の仲間から、グリードにはとても重要なコアメダルという物を奪ったらしい。
メズールの仕打ちに山崎は即座に突っ込みを入れるが、彼女は悪びれる様子も無くシレッ返答する。
その発言に脱力しそうになった山崎だが、よくよく考えて彼女の話からから気になる点がある事を発見した。

「……ん、奪わるって言うのはどういう事だ?」
「…普通なら封印が解かれた時には9枚のコアメダルが揃っている筈だったわ。 けど目覚めたとき……、私のコアメダルは一枚しか無かったのよ」
「それじゃあ、元の姿に戻れないって言うのは…」
「コアメダル一枚じゃ、この姿を維持するのが精一杯って事よ。 今は体を構成するセルメダルさえも不足しているから、正直この姿で居るのもキツイわね…」

確か説明ではグリードの体は核となる9枚のコアメダルがあるらしい、つまり9枚中1枚という事はメズールの体は本来の10%強しか残ってない事になる。
彼女の体の現状と本来の姿に戻れないと言っていた言葉を結びつけた山崎の推測はあたり、彼女のコアメダル1枚という不安定な状態には問題が有るらしい。
苦しそうに自分の最悪に近い状況を明かすメズール、彼女の消耗を表すかのように体を構成するメダルが一瞬ぶれて見えた。

「だ、大丈夫か…」
「ヤミーの気配!? これはウヴァの物ね…」

メズールの弱った姿を見た山崎は彼女の状態に気遣う声を掛けるが、しかしその時メズールは何かを感じたかのように顔をあげる。
そしてヤミーが出現したらしき言葉を言い残し、メズールは即座に席を立ってファミレスを出て行った。

「おい、ちょっと待てよ!」
「お、お客様、ちょっとお待ちください!?」
「何だよ!? こっちは急いでいるんだぞ!!」

山崎は突然ファミレスから離れたメズールを追いかけようと慌てるが、ファミレスを出ようとした所で店員に後ろから止められてしまった。
早くしなければ先に店を出た彼女を見失うかもしれないと焦り、自分を止めた店員に急ぎの用だから暗に離せと要求をする。
しかし店員は山崎を放す事は無く、逆に彼へある要求を求めた。

「お客様、お勘定!!」
「……あっ!?」

山崎は店員にコーヒーとパフェの代金を要求されて、そういえば会計をまだやっていなかった事をようやく思い出す。
こうして警察の職に就きながら危うく無銭飲食しそうになった山崎は、急いで料金を払ってからメズールを追いかけた。











「きゃーーーーーー!!」

メズールの後を追ってあるビルに入った山崎は、逃げ惑う人達の中心で暴れる白い怪人を目撃する。
その怪人は人並み外れた凄まじい力でビル内に設置されたATM機を抉じ開け、中に収められていた現金を次々に奪っていた。

「あ、あれは何なんだ?」
「あれは白ヤミー、産まれたてのヤミーよ」
「ヤミー…、あいつもグリードって連中が産み出したって言うのか…」
「そうよ、あれは棒の無いアイスって訳ね」

白い包帯が体中が巻かれていてミイラ男のように見える白ヤミーは、手に入れた現金を口にあたる部分へ持っていく。
すると口元の現金がヤミーの体に吸収されていくではないか、眼の前でどんどんと金を吸収する白ヤミーを見ていた山崎はメズールに手を差し出した。

「ん、何よ?」
「ベルトを貸してくれ、あいつを倒さないと!!」

ビル内で暴れまわるヤミーと怯える周りの一般市民を山崎は黙って見ている訳にはいかず、ヤミーをどうにかしようと行動を起こす事を決めた。
彼はヤミーを人の力ではとても倒せない事を先の戦いで嫌と言うほど知っているため、メズールからまたオーズに変身できるベルトを借りようとする。

「駄目、もう少し待つのよ。 あのヤミーはまだ成長するわ」
「成長って…」
「ヤミーは餌を取れば取るほど成長して内部に沢山のセルメダルを貯めるのよ、どうせならギリギリまで成長させないと勿体無いでしょう?」
「餌って…、一体何なんだ?」

しかし山崎の決断はメズールによって止められてしまう、どうやら彼女はヤミーをもっと大きく育てたいようだ。
メズールからのヤミーの習性について教えられた山崎は、ヤミーを成長させているという餌に興味を持つ。
目の前でヤミーが貪っている現金を彼女が言う餌だと単純に思えなかった山崎の疑問に、メズールは哀れみを込めたように答えた。

「人の欲望。ヤミーは人間の欲望を糧に成長するわ」
「嘘だろっ!? あれが欲望で…」
「どうやら時代は変わっても、人の愚かさは何も変わってないようね。 あーあ、可哀想…」

人間の欲望があんな化物を産み出した事に驚愕する山崎は、呆然としながら成長を続けるヤミーを眺めていた。
その間にも攘夷浪士の金への欲望から産まれた白ヤミーは現金を吸収していき、突然ヤミーが何か悶えるように震えだした。
そして次の瞬間に白ヤミーの体から裂け、中から巨大な昆虫のような物が産み出される。

「うわっ、気色悪!?」
「ふっふっふ、中々の大物ね」

少なくとも人型であったカマキリヤミーと違い、姿が昆虫そのままの産まれたヤミーは山崎に生理的嫌悪を抱かせる。
白ヤミーから成長した巨大な昆虫形ヤミー、オトシブミヤミーが六つの足を動かして移動を開始した。











オトシブミヤミーは先ほどまで己が居たビルを六つの足でよじ登っていく、壁を食べながら上へ進んでいくオトシブミヤミーはどんどんと成長していく。
ヤミーによってビルが破壊されていき人々が逃げ惑っている様子に、山崎はヤミーに対して怒りを覚えていた。

「おい、いい加減あれを止めないと!!」
「サガル、どうして貴方は変身してあれと戦いたいの? 別に貴方には何も関係ないでしょう」
「関係ある、何故なら俺は真選組の一員だ! 江戸の市民を守るのが俺の仕事なんだ!!」

これ以上ヤミーを放って置けないと憤る山崎の姿を不思議がるメズール、どうやら見ず知らずの人間のために危険を冒そうとする考えが理解出来ないらしい。
彼女の疑問に対して、自分は真選組としての誇り故に行動するのだと決意を述べる。

「……やっぱり、ただの馬鹿のようね」
「また馬鹿呼ばわりかよ!? え、今良い台詞言ったよね、俺!!」

しかし山崎の決め台詞は功を奏さず、結局メズールによってまた馬鹿と認定されてしまう。
扱いの酷さに納得のいかない山崎の必死の抗議を無視して、メズールはオーズドライバーを取り出した。

「サガル、私と取引をしましょう。 さっき私のメダルが不足している事は話したわよね?」
「ああ、聞いたけど…」
「貴方はオーズの力で真選組とやらの仕事をする、その代わり私のメダル集めに協力して貰うわ」

自分のメダル集めを手伝えばオーズの力を貸すと持ち掛けて、メズールは山崎の目の前にオーズドライバーを差し出した。
メズールの取引内容に一瞬を躊躇いを見せた山崎だが、周りから聞こえてくる悲鳴に後押しされてドライバーを奪い取る。

「契約成立ね、しっかり稼いでくるのよ」
「早く、メダルを出せ!!」

山崎はオーズドライバーを身に着けるのを確認したメズールは、変身に使用する3枚のコアメダルを投げ渡した。
受け取ったメダルをバックル部分に全て嵌めこみ、山崎は腰からオースキャナーを握り3枚のメダルの上を滑らす。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


「変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。

メダルの力が解放されると共にまた例の歌が響き渡り、光に包まれた山崎はオーズへと変身を果たした。












「…と意気込んで見たものの、どうやってあそこまで登ろうかなー?」

ビルを登りきったオトシブミヤミーは屋上で派手に暴れている、あそこまで行くのにチンタラとビルの階段を登る訳にもいかないだろう。
悩む山崎の前に何処からか走ってきた一台のバイクが止まり、バイクを降りた搭乗者が何かを持ってこちらに近付いてくる。
自分の傍まで歩み寄るバイクに乗ってきた男に見覚えがあった山崎は、男が自分の前まで来た時にそれが誰かを思い出した。

「…あ、お前は後藤じゃないか!? 数年前に真選組を止めたお前が、どうして此処に?」
「……ある方からの誕生日プレゼントだ、受け取れ!」

真選組の元同僚がどうしてこんな所に来ているのかと尋ねる山崎の質問に無視して、何かに耐えるような表情で後藤は手に持っていた箱を開ける。
山崎に中身が見えるように開けられた箱の中には奇妙な形をした大剣、メダジャリバーと数枚のセルメダルが入っているではないか。

「えっ、これを貰って良いのか?」
「山崎、メダルをあの自販機に使うといい」

とりあえずメダジャリバーを手に取って繁々と眺める山崎、自分が普段使っている刀とは異なった西洋風の剣に興味を持っているようだ。
メダジャリバーに興味津々の山崎へ、後藤は今度は箱の残っていたセルメダルを手渡して近くに設置してあった自販機を指差す。

「おい、この状況が解っているのか!? 暢気にジュースなんて飲んでる暇無いだろうが!!」
「いいからさっさと行け、山崎!!」

ヤミーが暴れている状況で自販機に構っている暇は無いと山崎は突っ込むが、後藤から強い言葉で反論されて渋々と従ってしまう。
後藤から言われるがままに山崎が自販機にメダルを投入した次の瞬間、なんと自販機が変形を初めてバイクの形なってしまったではないか。

「はぁーーーっ!? 自販機がバイクになっちまったァァ!!」
(何故、人間がメダルを…?)

眼の前で自販機がバイクに変わってしまった事に驚いた山崎はとりあえずそのバイク、ライドベンダーに跨ってみた。
その様子を山崎の横で見ていたメズールは、何故人間である後藤がセルメダルを使っているのか疑問を抱く。
しかしその時にオトシブミヤミーによって破壊されたビルの破片が落ちてくるのに気付いた山崎は、慌てて自分の危機を回避しようとした。

「ヤバイ、乗れ! メズール!!」
"ブルルルルルルーーーー!!"

自分の傍に居たメズールを後部座席に乗せた山崎は、そのままライドベンダーを急発進させて落下してきた破片を何とか回避する。
その間に後藤は自分の乗ってきたライドベンダーを自販機の形態に戻し、投入口にセルメダルを入れてボタンを操作していた。

「これも贈り物だそうだ」
"タコカンッ!!"

セルメダルを投入した自販機の取り口から大量の缶が零れ落ちてき、後藤はその内の一つに手に取った。
すると後藤の掌に置かれた缶がタコのような形に変形を果たし、タコの足部分を回転させて空を舞い始めた。
他の缶達も後藤の持っていた缶に合わせてタコの形態、タコロイドへと次々に変形していく。

「えっ、缶がタコになっただと!?」

数十、数百に昇るであろうタコロイド達が上空に飛び上がっていく。
タコロイド達はビルの方に密集して集まっていき、最終的にビルの屋上まで道が出来てしまった。

「こ、これを登ればいいって事なのか?」
「山崎、剣の方にもメダルを入れておけ」

タコロイドたちの行動に驚いている山崎に対して、後藤はセルメダルをメダジャリバーにも投入するようにアドバイスする
よく見ればメダジャリバーに備わるメダルの投入口を見付けるが、先を急いだ山崎はそのままオトシブミヤミーへ向かう事を決めた。

「サンキュー、後藤! 何だか解らないけど、助かったぜ!!」

そう言い残して山崎は、タコロイドで出来た道をライドベンダーで駆け上がっていった。





「おらーーーーーー!!」
「ギギャーーーーーーー!?」

ビルの屋上に駆け上がった山崎はその勢いのまま、すれ違いざまにメダジャリバーでオトシブミヤミーを切り裂く。
苦痛の声を漏らし傷口からセルメダルを放出するオトシブミヤミーに、ライドベンダーを乗り捨てた山崎は向き合った。
ちなみにライドベンダーで山崎と一緒に屋上に上がったメズールは、ヤミーから放出されたセルメダルをせっせと回収している。

「うわっ、デッケー!? もうこれって怪獣じゃねえか?」
「ガーーーーーー!!」
「うわぁーーーーー!?」

成長を続けたオトシブミヤミーは優に山崎の何倍も大きさになっており、正面からだと見上げなければヤミーを視界に納めきれない。
サイズの違いに気圧されてしまう山崎に対して、先ほどの報復にオトシブミヤミーがその巨体を生かして殴りかかってくる。
ヤミーのサイズに相応しい凄まじい衝撃にたまらず吹き飛ばされる山崎、その状況にメズールはカマキリのコアメダルを投げ渡してサポートを試みた。

「何やっているのよ、早く倒しなさい!」
「無茶言うなよ!?」

山崎は受け取ったカマキリのコアメダルをトラの物と交換して、すぐさまオースキャナーを滑らした。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"タカッ!"、"カマキリッ!"、"バッタッーー!!"。


「やーーーーーーーー!!」
「ギギャァァ!?」

コアメダルを交換する事で備わった両腕の鎌を、山崎はオトシブミヤミーに向かって振るっていく。
その攻撃によって胴体部分を何回も切り裂かれてしまい、ヤミーは苦悶の声を漏らしながらセルメダルが零していった。

「おし、イケルぞ!!」
「グガーーーーーーーーーーー!!」
「 …てっ、ああああーーーーー!?」

勝利を確信して思わずガッツポーズを取ってしまった山崎は、その隙にヤミーから手痛い反撃を受けてしまう。
まともにヤミーから一撃を喰らった山崎は、その衝撃でビルの屋上から弾き飛ばされた。

「サガルっ!!」
「ぎゃァァァァ、落ちてるーーーーーー!!」

地上へと一直線に落ちていく山崎の脳裏に、自分の禄でもない人生が走馬灯のように走る。
そうして最早これまでかと諦めかけた山崎は思わず目を瞑ってしまうが、来るべき衝撃が幾ら待っても来ない事に不思議に感じた。

"タコッ、タコッ!!"。
「…へ、助かったのか?」

どうやらタコロイドたちが連なってロープ上に固まり、地面にスレスレで山崎を捕まえる事に成功したらしい。
こうして山崎はそのままタコロイドたちによって引き上げられて、どうにか屋上へ帰還する事が出来た。






「こいつめ、よくもやったなーーーー!!」
「ギギャーーーーーーー!?」

殺されかけた恨みを晴らすかのように、山崎はメダジャリバーを振り下ろしてオトシブミヤミーを切り裂いていく。
傷口からセルメダルが放出されていくヤミーは先のダメージと合わせて限界に達したのか、とうとう悲鳴をあげながらビルの屋上から地上へと逃走を試みた。

「逃がすかよ! 乗れ、メズール!!」

オトシブミヤミーを取り逃すまいと、山崎はメズールを後部座席に乗せて再びライドベンダーを走らせた。
こちらの意思を察知したタコロイドたちが作ってくれた道を通って地上に戻り、オトシブミヤミーと対峙した山崎はふと後藤の言葉を思い出す。

「あ、そういえばメダルを入れるんだっけな」
「ちょっと、勝手にメダルを使わないでくれる!?」

セルメダルの無断使用を咎めるメズールの抗議を聞き流して、山崎はメダジャリバーに3枚のセルメダルを投入する。
チャリチャリと小気味良い金属音を鳴らしながら納まったセルメダルが、メダジャリバーの透明になっている腹部分に見えた。
そしてメズールをライドベンダーから降ろした山崎は、気合の叫びをあげながらオトシブミヤミーへと突っ込んで行く

「うぉーーーーーーー!!」
「ガァーーーーーーーーーー!?」

巨大なオトシブミヤミーの股下をライドベンダーで走らせながら、山崎はメダジャリバーを突き立ててヤミーを切り裂いていく。
ヤミーにメダジャリバーを刺した状態のまま山崎は、剣の腹部分に収められたセルメダル上をオースキャナーで滑らした。

「ついでにこれだ!!」

"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Triple!"、"Scanning Charge!!"。


オトシブミヤミーの股下を潜り抜けた山崎は、ライドベンダーを方向転換させて再びオトシブミヤミーの方へ体を向ける。
オースキャナーを滑らした事でセルメダルの力がメダジャリバーに溜まるのを感じた山崎は、その力をオトシブミヤミーへ振り下ろして開放する。

「せいやーーーーーーーー!!」

メダジャリバーから凄まじい一撃から放たれ、オトシブミヤミーの体を真っ二つに分断する。
オトシブミヤミーは爆散して、その体から大量のセルメダルが落ちてくるのであった。










「一体何なのよ、あれは!? 何故人間がセルメダルを…」
「つ、疲れた…」

ヤミーとの壮絶な戦いた終わり、何かに憤るメズールの横で変身を解いた山崎は疲労からグッタリと倒れていた。

「…しかしまたあの鳥モドキにセルメダルを持ってかれるとはな、後藤が出したタコの奴と同系等っぽいし何か関係があるのか?」

どうやらオトシブミヤミーから放出されたセルメダルの殆どは、カマキリヤミーの時に現れたタカロイドたちにまた回収されてしまったらしい。
そのためメズールも戦いの最中に回収した僅かなセルメダルしか手に入れられず、彼女は悉く自分の邪魔をするタカロイドに怒りを露にしている。
タコロイドやライドベンダーの事から何かを知っている筈の後藤の姿も何時の間にか消えているため、結局事情が解らずじまいだ。

「まあともかくあのヤミーも居なくなったし、これで一件落着かな?」

色々な謎がある物のとりあえず無事にヤミーを倒せた事で気が抜けたのか、山崎は穏やかな表情を見せる。
しかし彼の表情は背後から近づいてきた男に声を掛けられた事で、すぐに凍り付いてしまった。

「なーにが一件落着なのかな、山崎くーーーん?」
「ふ、副長っ!?」

明らかに怒りが頂点が達している様子の土方が現れた事で、山崎は金縛りにあったように硬直してしまうのだった。



[25341] ネコとチャイナと記憶喪失
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:83fe980b
Date: 2011/03/29 00:32
「あれ、山崎じゃねえか? なんでー、死んだんじゃないのかよー」
「おおー、山崎!? お前は一体今まで何処に行ってたんだ?」
「局長!? それに沖田隊長まで…」

怒り状態の土方を目の当たりにして硬直状態に陥っていた山崎だったが、周りから聞き覚えの有る声が発せられた事で何とか最起動を果たした。
状況を把握するために周囲を見渡してみれば、自分の上司である真選組局長近藤や一番隊隊長の沖田総悟だけでなく他の連中達も集まっている。
よくよく考えてみればビルが半壊するほどの騒ぎに自分たち真選組が出動しない筈は無い、恐らく事件の知らせを受けて辿り着いた現場でアホ面下げて立っていた山崎を見付けたのだろう。

「山崎くーん、こんな所でボケーっとして任務をどうしたんだい? 君の任務先の美術館が昨日の晩、何故か崩壊しちゃったらしいんだけどなー!!」
「ふ、副長!? それは…、その…」

穏やかな口調で山崎に話しかける土方、勿論彼の目は全く笑っていない。
あの美術館がグリードと呼ばれる怪物に破壊されたと説明するのは簡単であるのだが、とある事情で話す事ができず山崎は土方の問い掛けに口篭ってしまった。

(どうする…!? 仮に美術館の事を正直に話そうとしたら、俺がグリードが暴れている時に暢気に眠っていた事も説明しなければならないぞ!! )
「ふ、副長。 これには色々と事情が…てっ、うわっ!?」」

自分の失態が副長に知れたら確実に粛清される、そう考えた山崎は脳内で必死に生き残る道を模索するのだった。
とりあえず適当に言い訳を始めよう口を開いた山崎、しかしその瞬間に土方は問答無用で斬りかかってくる。
山崎は咄嗟に回避を成功させて奇跡的に死の危険を逃れ、追撃を行おうとしている土方に堪らず抗議の声をあげた。

「ちょ、ちょっと待って下さい!?」
「聞く耳持たん! 理由はどうであろうと、与えられた任務を放りだす奴は真選組に必要ない!!」

そう言って土方は冗談では無く本気で山崎を殺ろうと刀を向ける、しかし絶体絶命のピンチへ陥った山崎に救いの手が差し伸べられた。

「待ちなさい、今サガルを死んだらちょっと困るわ。 殺すならもう少し後にしてくれない?」
「おいっ!? 後でなら俺は殺されてもいいのかよ!!」
「うんっ、何だこのガキは?」

ここで山崎が死ねばメダル集めに支障が出ると考えたメズールは、仕方なく土方の粛清を静止する。
メズールからの余りの扱いに抗議の声をあげた山崎だがその瞬間に、状況を打開する奇策を思いつくのだった。











「…つまりお前はあのガキを助けるために、仕方なく任務を放棄したと?」
「そうなんです、副長! 昨晩あの美術館で怪物に追われるメズールを見付けましてね、流石に見捨てられなくて一緒に逃げていたんですよ。」

真選組局内の取調室に場所を移し、山崎は土方に先ほどでっち上げた嘘八百を並べ立てた。

「その怪物は滅茶苦茶強くってあっという間に美術館を破壊しましてね、とても立ち向かえる相手じゃ無かったんでメズールと二人で必死に逃げましたよ。もう連絡を入れる暇も無いくらいに…」
「怪物ね…、天人か何かを見間違えたんじゃねえのか? それにそのメズールとかって言うガキは、何故怪物とやらに追われていたんだ?」

胡散臭い説明に疑いの目を向ける土方から当然といえば当然の質問を投げかけられ、山崎はこれまた事前に考えていた言い訳を返した。

「そ、それは解りません。 先ほど説明した通りメズールは…」
「記憶喪失ね…。 本当なんだろうなー、それは?」

何故メズールが記憶喪失であると土方に説明したのか、時は山崎が殺されかけた直後に遡る。





「頼む、メズール! 俺とお前は昨日からずっと一緒に居るって設定で、どうにか話を合わせてくれないか?」
「はぁっ、何でそんな事を?」
「しっ、声が大きい!?」

先ほど土方に斬られかけた所を助けられた山崎は、少し二人で話が有ると称してメズールと二人で真選組の面々から少し離れた場所に移動していた。
こちらの様子をチラチラと見ている土方達を横目で気にしながら、山崎は回りに漏れないよう小さな声で話を進める。

「ちょっと事情があって俺は昨晩からお前と一緒にヤミーから逃げてた事にしたいんだよ、もしお前がここで話を合わせてくれなかったら俺は副長に殺されちまうぞ!? それでもいいのか、お前はァァ!!」

グリードとしての中身は別として見た目はか弱い少女であるメズールを助けるため、已む無く任務を放棄したという事にすれば土方を誤魔化せるかもしれない。
思考の末に考え出した生き残りの秘策を実行に移そうと、山崎は最終的に自分の命を盾にしてまでメズールへ必死に協力を要求した。

「……し、仕方ないわね、特別に協力してあげるわよ」
「よーし、これで生き残れる希望が見えたぞ! サンキュー、メズール!!」

自分の命が掛かっている山崎の異様な気迫に押されてメズールは渋々と協力を承諾する、しかし彼女は協力の引き換えに一つの条件を付けてきた。

「…その代わり私もサガルに条件が有るわ、他の人間にはグリードやメダルの事を話さないで欲しいのよ」
「へっ、それは何でだ?」
「人間にメダル探しを邪魔されたくないのよ」

メダル探しを最優先に行いたいメズールは、障害となり得る要因を極力排除したいらしい。
しかしそうなるとメズールの事をどう説明すればいいのか、悩んだ山崎に有る結論が導き出されるのであった。







(…で怪物に襲われた時のショックで記憶喪失になった事にすれば、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通せるだろうと思ったんだが…。 取調べでボロ出してないだろうな、メズールの奴は…)

屯所に移動した山崎とメズールは別々の場所に移され、こちらは取調室で土方に事情を説明しているという状況になっていた。
少なくとも土方は今までの説明を全く信じてなさそうなため、正直メズールの証言が鍵になりそうである。

「副長ー、まだ俺の話を疑ってるんですか?」
「当たり前だ、記憶喪失なんて設定を出されて信じれるわけ無いだろ!? それにあんだけ堂々と打ち合わせをされたしな…」

土方は此処に来る前に山崎とメズールが自分達から離れてコソコソと話す光景を目撃しているのである、その後に記憶喪失で何も解らないとか言われても信じられる筈が無い。
そうこうしている内に山崎の居る取調室の扉が開かれ、メズールから話を聞いていた局員が現れた。

「副長、山崎と一緒に居た少女から話を聞き終わりました!」
「うん、ご苦労…。 それで何か解ったなのか?」

土方はメズールから山崎の出鱈目話を否定できる証言が出た事を期待して、彼女の取調べを行った局員へ結果を尋ねる。
しかし局員の口から出た意外な報告に仰天する事になった。

「はい、副長! どうやらあの少女は本当に記憶が失われているようでした!!」
「はぁっ!? それは本当か?」

メズールの記憶喪失とやらは山崎がサボりを誤魔化すために口裏を合わせた戯言だと考えていた土方は、予想と異なる局員の発言に驚きを露わにする。
局員はそのまま、何故自分がメズールを記憶喪失と判断したかについて説明を始めた。

「はい、彼女は記憶喪失で間違い有りません! 何せあの子はTVに写っている人間と素で話そうとしたんですよ、しかもこんな小さな箱に人間が入るなんてと本気で不思議がってましたし!!」
「それ、記憶喪失とちょっと違わなくねェェ!? どっちかというと、大昔の人間が現代にタイムスリップした時の反応じゃねぇか!!」
(副長、正解…)

800年前から封印されていたグリードの一人であるメズールは当然TVなんて物は知る筈も無い、副長の的確な例えに山崎は思わず心の中で正解と呟いてしまった。
その時山崎は局員の語ったメズールの報告の内容にふと疑問を覚え、取調べを行った局員へ質問を投げかける。

「あれ、何でメズールがTVなんて見てるんだ。 取調室にTVなんて置いてないだろう?」
「女の子に取調室は可哀想だったので、彼女には応接室で話を聞きました!」
「ちょっと待て!? 何で身内の俺が取調室で、素性も碌に解ってないメズールが応接室なんだよォォォ!!」

メズールも自分と同じように取調室で話を聞かれていると思っていた山崎は、待遇の違いに思わず怒りの声を漏らすのだった。












取調室での事情説明を終えた山崎はメズールと一緒に、局員達の集会にも使われる屯所内の大部屋に来ていた。
部屋内には山崎たちの他に、局長・副長・沖田という真選組の中核メンバーも揃っている。

「大丈夫だったか、メズール?」
「別に平気よ、あのケーキとやらも美味しかったしね」
「おいィィィ、俺は取調室でメズールは応接室でTVを見ながらおやつタイムかよォォォ!? あいつらはどんだけ女に甘いんだ!!」

メズールと再会した山崎はメズールのVip待遇を知る事になり、自分と扱いが余り異なっていた事に改めて憤りを覚えていた。
そんな中で山崎の無事を心配していた局長が慰労の言葉を懸ける。

「いやー、お前も災難だったな、山崎! まさか例の怪物にお前も襲われたとはな…」
「局長!? 例の怪物って、一体どういう事ですか?」

局長が例の怪物、グリードやヤミー達の事を認知しているような発言に山崎は驚く事になる。
山崎が怪物の話が出た事に驚いている姿を見て、土方が先ほどの言葉に対してを補足説明を加えた。

「怪物事件について目撃証言があったんだよ。 例の美術館が怪物に破壊されたとか、怪物が少女を追い回しているとか、怪物がビルによじ登っているとかの胡散臭い話がな!」
「ああー、そういう事でしたか…」

あれだけ派手にグリードやヤミー達が暴れたのだ、それを誰かに目撃されていてもおかしくない。
自身が現場に立ち会った美術館やビルの成れの果てを思い出して、山崎は土方の解説に納得を覚えた。

「しかし残念だったな、怪物に追われてたって言うその女の子が何も覚えてなくて。 記憶喪失なんかになってなければ例の怪物の事を、何か知ってたかもしれないのにな… 」

真選組は美術館やビルを襲った怪物について調査を行っていたのだが、現状ではまだ正体の糸口さえも掴めていない。
人間離れしているらしい姿から恐らく何処かの星の天人だと考えて方々を当たっても見たが、例の怪物の特徴と一致した天人の情報は何も見付けられなかった。





「近藤さん、安心してくだせい! 俺がすぐにその雌狐の口を割らせて見せますよ!!」
「お、おい、総悟!? お前は一体何を…」

突然沖田が腰に帯びた刀を抜き放ってメズールの前に突き立てる、その行動を横で見ていた近藤は慌てて行動を真意を尋ねた。
どうやら沖田はメズールの存在に胡散臭さを持ったらしく、怪物について何か知っていると断定して力付くで話を聞こうする腹積もりのようだ

「どーも俺はこの女の人間を見下したような眼が気に食わねーんですよ。 なーに、ちょっと躾けてやるだけ…」
「嫌っ!?」
「へっ…、ぐはっ!?」

S属性の沖田はサドっちくな笑みを浮かべながら、彼女を調教を施そうと前へ出る。
しかし身の危険を感じたメズールが掌から強烈な水流を放ち、その直撃を受けた沖田は吹き飛ばされてあっさりと気絶してしまった。
こうしてあえなく沖田のメズールへの調教計画は、標的となった彼女自身の手によって失敗する事となる。

「総悟ーーー!? えっ、何この子、今手から何か出したよね?」
「何だあのガキは!? カメハメ波でも使えるっていうのか?」

ただ少女と思っていたメズールが掌から放った攻撃に、近藤と土方は驚愕の表情で固まってしまう。
メズールが人外のグリードと知っている山崎は驚きこそ少なかった物の、事前に聞いていた話と違う事について彼女へ問い質した。

「おい、メズール!? あの水鉄砲は何だよ、お前は弱ってたんじゃなかったのか?」
「微量ながらメダルを集められたので少し回復したのよ、あの位の力なら何とか使えるわ」

先のヤミーから放出されたセルメダルの大半をタカロイドに奪われたとはいえ、幾らかの量は確保したのだ。
メズールは集めたメダルを吸収することで今の姿の維持と、先ほどのような水遊びくらいなら可能な程度には回復していた。

「おい、ガキ!? 総悟にやったあれは一体何なんだ!!」
「解らないわ。 私、記憶喪失だから」
「舐めてるのか、ガキ! 公務執行妨害で豚箱に叩き込んでやろうか!!」

驚愕から回復した土方の問い掛けに、メズールはお決まりのように記憶喪失と言って誤魔化してしまう。
彼女の人をこばかにした態度に怒りを覚えた土方は、沖田に対して暴行を加えた罪を利用して脅しを掛けた。

「まあ落ち着け、トシ。 今のは明らかに総悟が悪いと思うぞ…」
「くっ、解りましたよ…ガキ! 本来ならお上に手を出した罪でしょっ引きたい所だが、今回はこの馬鹿に非がある事から特別に見逃してやる!!」
「ぐはっ!? 土方…、殺す!!」

メズールとの諍いを近藤に宥められて渋々と引く事になった土方は、さりげなく先ほど水流で気絶していた沖田を踏みつけていた。
その衝撃で眼を覚ました沖田は自分を踏みつける土方を確認して、彼に対して改めて殺意を深めていた。





「…まあ女子供を守るのも真選組の仕事だ。そのせいで任務を放棄したのは問題だが、今回は特別に粛清は勘弁してやる」
「あ、ありがとうございます!!」

怪物の目撃証言やメズールの存在が山崎の作り話に信憑性を持たせた結果、山崎はとうとう鬼の副長からの粛清を逃れる事ができた。
目の前の死の危険から逃れられた山崎は、思わず顔に喜色満面の笑みを浮かべてしまう。

「ただし! 任務を放棄した罰は受けて貰う、詳しい罪状は後で伝えるからとりあえずお前は謹慎でもしてろ!!」
「その記憶喪失の子はどうやらお前に懐いているようだから、お前にはその子の面倒も任せる。 早くその子を家に帰してやるんだぞ」
「り、了解です、局長、副長!!」

近藤は見た目は少女でしかないメズールを早く家に帰してやりたいらしく、山崎に対して彼女の世話を申し付ける。
800年前から封印されていたメズールに帰る家など有る訳無いのだが、その事を説明する訳にはいかない山崎は何も言えずに承諾するのであった。















「あーあ、お腹一杯ご飯を食べたいネ…。 全く…、銀ちゃんの甲斐性無し!? 幾らか最近収入が無いからって、あのくらいの食事じゃ全然足りないアルよ!!」

とある公園にあるベンチにチャイナ服を着た少女が座っていた、少女は空腹を誤魔化すよう手に持った酢昆布をしゃぶってる。
どうやら彼女は現在の食生活に不満を抱いているらしく、もっと満足できる量の食事を取りたいと嘆いていた。
しかし彼女の食べたいという欲望は、欲望の化身であるグリードを誘き寄せる原因になってしまう。

「いいね! その欲望を使わせて貰うよ!!」
「うわっ、猫の化け物アル!?」

欲望を嗅ぎ付けてきたグリード、猫系の生物を印象つける姿のカザリが少女に近づいていく。
その手にセルメダルを握って…。












「ふーん、本当に人間の世界は変わったのね」

江戸の町を興味深そうに見回しながら歩く少女、メズールは抱いた思いをそのまま口にしていた。
視線を上を向けた彼女の眼には地球を支配した天人によって建てられた巨大な建築物、地球と宇宙を繋げる港であるターミナルとやらが映っている。

「天人ね…。 まさか封印されている間に、既に世界が支配されてるとは夢に思わなかったわ」

9枚のコアメダルが揃えて力を取り戻したら人間の世界を欲望の渦で覆おうと考えていた彼女だが、まさか世界がもう人間の手から離れているとは夢にも思っていなかった。
山崎から今の世界がどうなっているか説明を受けていたが、実際に我が物顔で町を歩く人間離れした異形、天人達が闊歩するのを見る事で漸くその事実に納得する。

「まあいいわ…。兎に角、今は力を取り戻す事を優先しないと…」

この弱った体では何もできないため、メズールはとりあえず世界の事は後回しにしてメダル集めを優先しよう決める。
視線を正面に降ろしてブラブラと歩き始めようとするメズール、しかしその瞬間に近くからヤミーの気配を感知した。

「ヤミーの気配!? この気配は…、カザリの物ね!」

丁度いいメダル集めのチャンスと、メズールはヤミーの気配が感じられる方へ駆け出した。






「神楽ちゃーーーーん!? いい加減、食べるのを止めてくれないかなー?」
「ゴメン、銀ちゃん!? 手が止まらないアル!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!? お金は後で必ず払うんで、つけにしておいて下さい!!」

ヤミーの気配の元へ辿り着いたメズールは、とあるコンビニの中で狂態が繰り広げられている事を目撃する
見たところコンビニにある食べ物をどんどんと胃袋に収めているチャイナ服の少女、神楽にヤミーが取り付いているらしい。

「嘘こけ、滅茶苦茶嬉しそうに食ってるじゃねえか!? 本当に勘弁してくれよ、俺を破産させる気かよ! よーし解った、こうなったら実力行使で…」
「ああーーー、体が勝手に!!」
「ぐへっ!?」

神楽の暴食を止めよう力づくで止めようとした死んだような眼をした銀髪の男、銀時は神楽の暴食を止めようと組みかかる。
しかし神楽の抵抗にあってしまい、返り討ちを受けた銀時は壁まで吹き飛ばされてしまった。
神楽は人と殆ど変わらない姿であるが夜兎族と呼ばれる極めて戦闘能力の高い天人の一人であるため、彼女の凄まじい力をまともに受けてしまった銀時は即座に気絶したようである。

「ちょっと神楽ちゃん! 流石にもう……、ぐはぁ!?」
「あ、悪いね、新八」

山崎と勝るに劣らない地味さを持つ眼鏡の男、新八も神楽を止めようとするが逆にあっさりやられてしまう。
どうやら今の神楽の食事を邪魔しようとすると、取り付いているヤミーが彼女の体を使って抵抗するようだ。

「ふっふっふ、早速メダル集めのチャンスね。 早くサガルを呼ばないと…」

コンビニの中の様子を覗いてヤミーがいる事を確認したメズールは、早速山崎を呼び出す事にする。
屯所から出る前に山崎から渡された携帯電話を取り出し、メズールは電話をしようとしたが…。

「…あれ? どうやって使うのだったかしら…」

800年前から封印されていて現在生活二日目のメズール様に、携帯電話は少々厳しかったようである。






「ふーー、食った食った! あ、今度は辛いものが食べたい気分ネ」

メズールが携帯電話と悪戦苦闘している内に、神楽はコンビニの中の物を殆ど食べ尽くしてしまった。
しかしそれだけ食べてもまだまだ物足りないらしく、彼女は食べ物を求めて他の場所へ移動を開始する。

「くそっ、何をやってるんだ!」

コンビニの近くでヤミーを監視していた男、後藤は携帯電話に手間取るメズールを見て苛立ちを覚える。
そうこうしている内に神楽がコンビニから離れていったため、彼は仕方なくタカロイドで神楽を尾けさせるのであった。










「何で携帯掛けるのだけで30分も掛けているんだよ!? 渡すときに使い方も教えたろ?」
「サガルの教え方が悪かったのよ!」

30分ほど時間を費やした結果、メズールは漸く電話で山崎を呼び出すことに成功した。
しかし時既に遅くコンビニの近くに神楽達の姿は無かった、恐らく神楽を追いかけたのか銀時達の姿も見えない。

「あれ、あのバイク…?」

どうしたもんかと悩んでいた山崎達の前に見覚えの有るバイクが止められる。
バイクから降りた男がヘルメットを外し、そこに後藤の顔が現れた。

「あ、後藤!」
「山崎、ヤミーの居場所を知りたいか?」

そう言って後藤は頭上を指差す、そこには何時の間にかタカロイドが飛んでいた。

「あれは前にセルメダルを持っていった、あの鳥モドキか?」
「こいつにヤミーの後を尾けさせた、着いて行けばヤミーの所まで連れってくれる。 移動にはそれを使うといい。」

後藤の視線の先には前にバイクに変形した自販機、ライドベンダーが設置されている。

「あの時のバイクになった自販機か、これに乗れって事だな。 メズール、メダルを出してくれ。」
「…仕方ないわね、ちゃんと使った分は取り返すのよ」

山崎はメズールから受け取ったセルメダルを受け取り、ライドベンダーに投入してバイク形態に変形をさせる。
ライドベンダーの座席にセットされていたヘルメットを被り、メズールを後ろに乗せて走り出そうとした山崎はある事に気付いて止まってしまった。

「どうした、山崎?」
「悪い、後藤! お前のメットをメズールに貸してくれないか?」
「…はっ!?」

ライドベンダーには山崎の分のメットが用意されていなかったため、後ろに乗せたメズールは現在ノーヘルである。
流石に警察官の端くれとして、ノーヘル二人乗りはまずいと判断した山崎だった。





「サンキュー、後藤!」

後藤から借りたヘルメットをメズールに被せて、山崎は今度こそライドベンダーを発進させる。
遠ざかるライドベンダーの姿を見る後藤の表情には苦いものが浮かんでいた。

「くそっ、何であいつが…」

内に秘めた物を抑えているような声で、後藤の口から呟きが零れた。










「ぎ、銀ちゃーーーん、助けてくれアル!? もう胃袋がパンクしそうアルよ…」
「だったらその食い物を口に運んでいる手を止めろよ!! …て、うわぁ!?」

顔を苦痛で歪ませならが神楽は目の前にある弁当を食べ続けていた、もう彼女の体は丸々と膨れ上がっている。
周りで銀時と新八が彼女の暴食を止めようとするが、その度に抵抗を受けてしまい失敗に終わった。
そんな中で二人乗りをした一台のバイクが銀時達に近づいてくる…。

「あれ、万事屋の旦那たちだ、こんな所で何をやってるんだろう…。 それよりヤミーは一体何処に居るんだ!!」
「あれよ、あれ! あの女の子供にヤミーが取り付いているわ!!」

タカロイドに連れられてヤミーの居場所まで辿り着いた山崎は、辺りを見回してヤミーらしき怪物を探すが見付からない。
近くには以前にとある縁で知り合った万事屋、いわゆる何でも屋を営んでいる銀時たちが何やら騒いでいるだけだ。
ヤミーを探していた山崎はメズールから今回のヤミーは神楽の中に取り付いていると教えられ、人の体の中にヤミーが居るという事に驚愕の声をあげる。

「ええーーーっ!? あのチャイナ娘にヤミーが取り付いているって、一体どういう事だよ?」
「その声は山崎、何そのバイク買ったの? はー、山崎の癖に生意気だぞ!!」
「山崎さん、丁度いい所に! すいませんが、ちょっと手を貸して貰えませんか?」

近くで発せられた叫びを聞きつけたのか銀時達は山崎が現れた事に気付き、すぐさま新八が助けを求める声をあげた。
しかし人に取り付くヤミーの情報を優先した山崎は、メズールから説明を聞く事に集中する。

「旦那方、ちょっと待ってください! メズール、あのチャイナがどうなっているのか説明しろ!!」
「あのヤミーは宿主の体内で欲望を吸収しながら成長するのよ、成体になれば表に出るからもう少し待ちなさい」
「そんなヤミーも居るのかよ…」

どうやら神楽に取り付いているヤミーは、彼女の食欲を餌にして成長しているようだ。
流石に宿主と一緒に体内のヤミーを倒すわけにはいかない、ていうかあの馬鹿強い神楽だと返り討ちにあう可能性もあるだろう。
どうしたものかと悩んでいる時、銀時たちは山崎と一緒に居るメズールの存在にも気付いたようだ。

「えっ、よく見たら山崎が女連れ!? おーい、こっちがこんな状況にも関わらず、そっちは楽しく女の子とデートかよーー!!」
「や、山崎さんに彼女が!? そんな…、同じモテナイ系の地味キャラ仲間だと思ってたのに!!」
「山崎の癖に女を作るなんて生意気アル!!」
「うるせーぞ、てめーーーーら! 俺が彼女を作っちゃそんなに悪いのかよ!!」

余程山崎が女性を連れている事に驚いたのか、万事屋の面々が口々に抗議の声をあげた。
別にメズールが彼女という訳では無いのだが、余りの言われように山崎は怒りを露にする。

「…はっ、そんな事をしている場合じゃ無かった! 旦那方、実はそのチャイナ娘がそうなったのには原因が有るんですよ!!」

こんな言い争いをしている状況ではないと気付いた山崎は、万事屋の面々に神楽へ取り付くヤミーについて説明を始めた。





「えーーー!? つまり神楽ちゃんの体の中に、そのヤミーっていう化け物が取り付いているって事ですか!!」
「んで、こいつの欲望を食って成長しているねー。 神楽ちゃーん、そんな性質の悪い寄生虫を一体何処で拾ったんだ?」
「うーん、解らないアル…」

ヤミーの存在を聞いて驚きを隠せない銀時、ちなみにその間も神楽は弁当を食べ続けている。
神楽は自分にヤミーを取り付かせたであろうグリードと確実に会っている、山崎そのグリードについて尋ねた。

「グリードって名前の怪物がヤミーを生み出すらしいんです、何か心辺りは無いんですか?」
「このヤミーのタイプはカザリの仕業ね、猫のような姿をした奴よ」
「あー、そういえば公園で猫の化け物にあったアル。 何かメダルをくれるっていうから貰ったアル、すぐに体の中に消えちゃったけど…」

案の定、神楽は過去にグリードと出会った覚えがあったようだ。

「や、山崎さん!? 神楽ちゃんが貰ったメダルっていうのが、まさか!?」
「…多分、セルメダルっていうヤミーの元だと思いますよ」

前にメズールからグリードはセルメダルを使ってヤミーを産み出すと聞いていた山崎は、神楽が言うメダルがそれであると確信を持つ。
しかし普通猫の化け物とやらから渡された物を素直に受け取るものかと、思わず脱力してしまう山崎であった。

「神楽ちゃーーーーん!? 知らない人から物を貰っちゃいけないって、前に教えたよねーーーー!!」
「そ、それよりどうしますか!? ヤミーとやらが成長するのを待ってたら、神楽ちゃんのお腹がパンクしちゃいますよ!!」

この状況を打破するための方法を考える銀時たちだが、そうそう上手い具合に打開策が思いつかない。
そんな状況の中、事の張本人である神楽がとんでもない行動を起こしてしまった。






「あっ、つまり私の中に入るヤミーとかってのを出せばいいアルね。 それならいい方法を思いついたアル!」
「えっ、本当!? 一体どんな方法なんだい?」
「こうするアル。 うげぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「吐いたーーーーーーー!?」

体中の力を振り絞ってヤミーの束縛から僅かに逃れられた神楽は、なんとその場でゲロを吐き始めた。
恐らくゲロと一緒に自分の中に入るヤミーも吐き出せると、神楽は単純に考えついた思い付きでの行動だろう。

「馬鹿ね、そんな事をしてもヤミーが出る訳…」
「ウニャーーーーーー!?」
「嘘っーーーー!?」

たかが吐いただけでヤミーが出る訳無いと、メズールは神楽の浅はかな行動を鼻で笑う。
しかし本当に嘔吐物と一緒にヤミーが現れてしまい、彼女は驚愕の表情を浮かべる事になった。

「うわっ、何か出て来た!? あれが山崎さんが言ってたヤミーか」
「おおー、あれが私の中に居たのかアル。 何か不細工な猫あるね」
「くっそー、あいつが神楽に付いたせいで万事屋の家計は火の車だぞ!? おのデブ猫め…」

神楽の体内で成長した肥満体系の猫型ヤミー、ネコヤミーに対して口々に感想を言っていく。
ネコヤミーは体に付いた神楽の嘔吐物が気になるらしく、嫌そうに身を悶えていた。

「どういう事、サガル!? あんな方法でヤミーを出すなんて、あの小娘は一体何者よ!!」
「いやー、あんまりよく知らないけど色々と常識はずれな娘みたいなんだよ。 と、兎に角これでヤミーは外に出せたぞ、後は倒すだけだ!!」

先ほどの神楽の行動が納得いかないメズールは、山崎に食って掛かっていた。
メズールに負けず劣らず驚いていた山崎だが、そんな事より目の前に現れたヤミーを倒すため腰にオーズベルトを装着する。

「それもそうね…、サガル! さっさと倒してメダルを手に入れるのよ!!」
「はいはい…」

メズールから渡された3枚のコアメダルをはめ込み、オースキャナーをメダルの上を滑らした。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


「変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。


またあの歌が流れると同時に山崎の体が光に包まれて、次の瞬間にはオーズへと姿を変えていた。










「はーーーーーっ!? 山崎さんが変身したーーーーー!!」
「おい、山崎! それはどっちかって言うと俺の役目だろ、キバっといくぜーーとか!!」
「うわぁーーー、似合わねーー! お前のキャラと全然合わないアルよ、それ」
「これからシリアスな戦闘シーンに入るって時に、その発言は無いだろう!? ちったー黙ってて下さいよ!! 」

万事屋の面々は、目の前で山崎がオーズに変身した事へそれぞれに驚きを見せていた。
彼らの思い思いの発言に気勢を挫かれた山崎は、すかさず突っ込みの声を返してしまう。

「シャーーーーーー!!」
「わっ、危ない!?」

しかし山崎が他に注意を向けてしまった隙を逃さず、ネコヤミーは口からメダル上の光弾を放出する。
間一髪でその攻撃を避けられた山崎は、お返しにと腕に備わった爪でネコヤミーに斬りかかった。

「くそっ、こいつでも喰らえ!!」

"グニャーッ。"

「へっ!?」

山崎の鋭い斬撃は見事にネコヤミーの体に命中、けれども攻撃が当たった瞬間にネコヤミーの丸々と太った体に跳ね返されてしまう。

「この、このっ!!」

"グニャッ、グニャッ。"

腕の爪でネコヤミーを切り裂こうと連続攻撃を加えた山崎だが、甲斐なく全てがネコヤミーの弾力がある体で弾かれた。
ネコヤミーにダメージを与えられない事に焦りを覚え、全力で殴りつけてもみたが…。


「くっそーーー、これならどうだ!!」

"グニャーーーーっ、ドーーーーン!!"

「うわっ、こっちに戻って…、ぐはっ!?」

山崎の攻撃によって吹き飛ばされたネコヤミーはそのまま壁にぶつかり、自分の体を利用して山崎の方へスーパーボールのように跳ね返ってきたのだ。
自分の力をそのまま利用されて反撃を受けてしまい、大きなダメージを受けた山崎はその場に蹲ってしまう。





「うわー、思いっきり押されているよ! あーあ、やっぱり山崎は荷が重すぎたかなー」
「流石私から産まれた猫、とっても強いアル!!」
「何でちょっと自慢げなの、神楽ちゃん!?」
「しっかりしなさい、サガル!!」

(あいつらー、勝手な事ばかり言って…)

己の劣勢に対する外野の無責任な野次とメズールの激を受け、内心に覚えた怒りに後押しされて山崎はどうにか立ち上がる。
そして山崎は力を振り絞り、ネコヤミーに対して逆襲を始めた。

「爪が駄目なら…、蹴りならどうだ!!」
「フニャ!?」

腕の爪を利用した攻撃では効果が薄いと考えた山崎は、今度はネコヤミーにバッタような強靭な足を使って強烈な蹴りを繰り出した。
その攻撃を受けてネコヤミーは思わずたじろぐ姿を見せたため、効果ありと判断した山崎はすかさず連続キックを続ける。

「うぉーーーー!!」
「キシャーーーー!?」

先ほど判断が上手くいったらしく、今度こそネコヤミーにダメージを与えることができているようだ。
山崎に集中して蹴り付けられる箇所から、ネコヤミーは徐々に体を構成するセルメダルを放出していった。

「フ、フニャ…」
「このまま決めてやる!!」

蹴りを与え続けてネコヤミーはスッカリと弱ったような様子だ、それを見て山崎は止めをさそうと決意した。
彼はネコヤミーの正面に立ち、腰にマウントされたオースキャナーを手に構える。

「確かもう一回滑らせればいいんだよな…」

メズールから聞いたコアメダルの力を引き出す方法、ベルトに嵌めたコアメダルに変身したときと同じ要領でオースキャナーを滑らした。
メダルの上にオースキャナーが滑らされるたびに、小気味いい金属音を鳴らしながらメダルの力が解放される。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


"Scanning Charge!!"。


「はぁーーーーーーーー!!」

腰のコアメダルから足元へと開放された力が伝わり、山崎の両足はまるでバッタのような形状に変形した。
そのまま山崎はバッタの跳躍のように空高く飛び上がり、ネコヤミーとの間に赤・黄・緑の色をした3つのリングが浮かび上がる

「せいやーーーーーーーー!!」

山崎は両足を突き出してリングを潜り抜けながら、ネコヤミーに向かって進んでいく。
リングを通るたびに体中に力が増していく、この必殺キックがまともに当たればヤミーは確実に倒せるだろう山崎は確信を持っていた。
そう、何も邪魔が入らなければ……。






「え、あれは!?」
「はぁ!? 何かの柱が山崎さんとあのヤミーの前に…」

なんと山崎の蹴りが当たる寸前に、ヤミーの正面に柱が何処からか障害物のように投げられてしまう。
急に方向転換も出来ず柱を破壊しながら進んだ山崎の蹴りは威力が弱まってしまい、最終的にヤミーに対して十分な威力を与える事が出来ずに終わった。

「へ、一体何が!?」
「貴方を邪魔した奴が居るのよ。 隠れてないで出てらっしゃい、カザリ」

先ほどのネコヤミーへの止めが不発に終わった事について漏らした山崎の疑問を、メズールが攻撃を妨害した者が居ると答えつつその張本人を呼びつける。
そうしてメズールの呼びかけへ応えるようにグリードが一体、カザリが何処からとも無く現れるのだった。

「あ、あれは私にメダルをくれた猫の化け物アルよ!!」
「本当、神楽ちゃん!?」

神楽は自分にヤミーを取り付かせたカザリの姿を目にして思わず声をあげてしまい、横に居た新八が彼女の確認を求める。
その間にもメズールとカザリの二人のグリードたちは、緊迫した空気を醸しながら表面上は差し障り無い会話をしていた。

「やあ、メズール。 元気だった?」
「久しぶりね、カザリ。 こんな所に何か用でもあったのかしら?」
「こ、こいつがグリードなのか…」

メズール以外のグリードを始めて見る山崎は興味深そうにカザリの姿を見て回した、仮の体であるメズールと違ってカザリの見た目はどちらかといえば天人に近い物が感じられる。
彼女の本当の姿もあんな風に人間離れしているのかと想像を巡らしている内に、グリード達の会話がいよいよ本題に進んでいた。

「…メズール、僕たちの所に戻ってこないか?」
「はあ、馬鹿を言わないでくれる。こんな状態で貴方たちの所へ戻ったら、鴨が葱を背負って来るような物じゃない!」

裏切り者であるメズールに対してカザリはグリードの側へ戻るように提案するが、コアメダル1枚の状態では何時自分の最後のコアメダルが奪われるか解った物ではないとメズールは一蹴する。
しかしカザリは自分の提案が断られた事に動じず、淡々とメズールをグリード側へ戻すための説得を続けた。

「いいのかな…。 オーズの力が有るとはいえ、そんな人間の力はたかが知れているよ。 僕たちグリードの力は君が一番知っているでしょ?」
「くっ…」
「おい、メズール!?」

カザリの説得に心が揺れているような反応をするメズール、それを傍で見ていた山崎は焦ったようにメズールを呼びかけた。
このままメズールはグリード側に戻ってしまうのか、そんな硬直状態は空気の読めない外野からの横槍でもろくも崩れてしまう。






「おらァァァァァッ!!」
「がぁっ!?」
「チャイナ娘がグリードに殴り掛かったーーーーー!?」

何と神楽がカザリに目掛けて襲い掛かってきたのだ、限界に近い量の食事を取ったばかりなのによく動けるものである。
想定外の所で不意を付かれてしまい、対処に遅れたカザリはまともにその攻撃を受けてしまった。

「こんのーーー、よくもやったアルね! あんなに食べ物を取らせて、乙女の体重が増えたらどうするアル!!」
「なーに余計な事をしてくれたんだよ! 神楽の食った飯代で俺は暫く借金生活確定なんだぞ、お前は万事屋の家計を破滅させる気か!!」
「よくも家の神楽ちゃんに手を出してくれたな、おらっ!!!」

今回のヤミーせいで色々と酷い目にあった万事屋の面々は、思い思いにカザリをフルボッコにしていく。
普通の人間の力では到底グリードに対抗できないだろうが、彼らは人間性はともかくとして実力は折り紙つきである。
不意を狙われたカザリは、万事屋たちのフルボッコをもろに喰らい続けてしまった。

「ぐはぁっ!?」
「うわっ、何か出て来た!? あれは…、メダルか?」

思わぬ所で一定のダメージを受けてしまったカザリは、その衝撃で自分のコアメダルを一枚排出してしまう。
己のコアが関わる事態に怒りが頂点に達したのか、ようやくカザリは銀時たちへ反撃を繰り出した。

「図に乗るなーーー!」
「何で僕だけ!?」

カザリの怒りを込めた人外の一撃により、逃げ遅れた新八は哀れにも吹き飛ばされてしまう。
そうしてどうにか万事屋たちの拘束から逃れたカザリにメズールは嘲笑を浮かべていた、何時の間に回収したのか彼女の手には先ほどのカザリのコアメダルが握られている。

「ごめんなさい、貴方の提案は断るわ! だって…、たかが人間如きそんな姿を見せるようでは話にならないしね!!」
「くっ…、覚えてろ!!」
「待てっ、この猫野郎!」

正に捨て台詞を言い残してその場から立ち去ろうとするカザリに対して、まだ仕返しが足りないのか銀時たちが追い掛けようとする。
しかし自分の親を守ったのかネコヤミーが銀時たちの前に立ち塞がり、その間にカザリはこの場を脱出するのだった。





「フシャーーーーーー!!」
「うわぁ、デブ猫!?」
「あ、そういえばこのヤミーを倒してなかったか」

こちらを威嚇するようの吼えるネコヤミーは今にも襲い掛かってきそうな様子だ、山崎は今度こそ倒そうと意気込みネコヤミーの前に構えた。
そこで戦いが始まる様子を見たメズールは、手にあったカザリのコアメダルを山崎へ投げ渡す。

「サガル! そのメダルを使いなさい!!」
「これは…」

メズールから投げられたメダルを手に取って眺めた、黄色のコメダルにはチーターの模様が描かれている。
山崎はバッタのコアメダルを抜き取り、カザリから新たに手に入れたチーターのコアメダルを装着した。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"タカッ!"、"トラッ!"、"チーターーッ!!"。


メダルにオースキャナーを滑らした山崎の体は光に包まれ、彼の足は緑色から黄色に変化していた。







「はぁーーーーー!!」

チーターのコアメダルの恩恵を受け、山崎は凄まじいスピードでネコヤミーに向かっていく。
ネコヤミーが反応できないくらいの速さで懐に入り、目にも留まらぬ速さ連続で蹴りを繰り出し続けた。

「おらおらおらーーーー!!」
「ブニャーーーーー!?」

ネコヤミーは連続蹴りをもろに受け続けてしまい、その傷口から多量のセルメダルを放出してしまう。
それを見た山崎は強めに放った蹴りでネコヤミーをその場から吹き飛ばし、すかさずメダジャリバーを取り出した。
メダジャリバーに投入口から3枚のセルメダルを装填して、剣の腹の部分に入ったメダルへオースキャナーを滑らす。


「よし、今度こそ決めてやる!!」

"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Triple!"、"Scanning Charge!!"。


オースキャナーを滑らした事でセルメダルの力が解放されて、メダジャリバーから凄まじい力が生み出さる。
山崎はネコヤミーに向かってメダジャリバーを振り下ろし、斬激状に力を放出した

「はぁーーーーっ! せいやぁーーーーーーーー!!」
「グニャーーーーーー!?」

メダジャリバーから放たれた時空をも歪める一撃を受け、ネコヤミーは断末魔をあげて爆散する。
そうしてネコヤミーから生み出された多量のセルメダルが地面にばら撒かれるのであった。











「またやられたわ!? だから何なのよ、あの鳥は!!」
「はーー、また根こそぎ持っていかれたな…」

あの後、山崎たちはネコヤミーから放出したセルメダルの回収を始めた瞬間に、見計らったかのようなタイミングでタカロイドが現われて前回と同じように大半のメダルを持っていってしまった。
結局今回もセルメダルを僅かしか入手出来ず、メズールは全身から怒りのオーラを放っている。

「おい、山崎! いい加減、事情を説明して貰うぞ!!」
「そうですよ、あのヤミーって言う怪物は一体!? それに山崎さんのあの姿も…」
「いやー、話せば長くなるんですが…」

そうこうしている内に銀時たちが今までの出来事に対して説明を求めてきたので、実際に被害にあった人へ適当な事を言えないと考え山崎は事情を話そうとしていた。
しかしその時に山崎たちの所に一台の車が近づき、その車から手にモニタのような物を持った女性が降りてきた。
どうやらその女性は山崎たちの用事が有るらしく、モニタ画面をこちらに向けた状態でこちらの方へ歩いてくる。

「ある方から貴方たちにお話が有るそうです」
「は、話って…」

山崎の前まで来た女はモニタを持ったまま、誰かが自分たちに話があると言ってくる。
一体どのような話か尋ねようとした山崎だがその瞬間、モニタ画面に映り始めた一人の男がこちらに語りかけきた。

「始めまして、山崎くんにメズールくん! この出会いに、ハッピーーーバースデーーーーーーッ!!」
「はぁっ!?」

モニタ越しにいきなりハイテンションに語りかける男、鴻上ファウンデーション会長である鴻上の登場に山崎は開いた口が塞がらなかった。



[25341] 居候と巣とバカ皇子
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:83fe980b
Date: 2011/03/29 00:06

「はい、注目! 今日のお仕事は、このでかい屋敷でペットの世話する事でーす!!」

万事屋一同の目の前に、広い敷地を持つ巨大な屋敷が建っている。
此処が今日の万事屋の仕事場らしく、銀時は仕事の内容について説明を始めていた。

「うわぁーーー、バカデカイ屋敷アルね!? 一体誰が住んでるアルか?」
「ああ、何でも天人のお偉いさんらしいぜ。 ここの天人様が最近ペットを集めまくっているらしいが、そいつらの世話を見る人手が足りなくなったんだそうだ」
「はー、羨ましいですね。 ペットに使う金があるなら、僕たちに回して欲しいですよ…」

銀時の説明を聞いて、新八は富の偏差を実感して思わずため息をついてしまった。
そうして仕事をするために屋敷へ入ろうしていた銀時たちに、待ったの声が掛かる。

「ちょっと!? どうでもいいけど、何で私まで連れて来られているのよ!!」
「はー、当たり前だろ! お前も万事屋に住んでるんだから、一緒に働くのは当然だろうが」
「そうアル! 働かざるもの食うべからずアルよ!!」

先日から万事屋に居候する事になったメズールが万事屋の面々に不満をぶちまける、どうやら彼女は承諾も無しに銀時たちに無理矢理仕連れ出されたようだ。
万事屋の一同は彼女がグリードと呼ばれる怪人であると知ったにも関わらず全く普段の態度を変えておらず、その図太さは流石と言えるだろう。

「……ていうか、何で俺まで此処に居るのかな」

そんな中で、メズールに呼ばれたらしい山崎は一人苦笑いを浮かべていた。
何故メズールが万事屋に居候する事になったのか話は数日前に遡る、山崎がネコヤミーを撃退してモニタ越しに初めて鴻上と話したあの日…。












「こちらは鴻上ファウンデーション会長、鴻上光生」
「鴻上ファウンデーションって、あの美術館の!?」

モニタを山崎の方に見せている女性、里中はモニタに写る人物の素性を説明する。
画面越しに何故かケーキを作りながら山崎たちに向かい合うスーツ姿の中年が映っていた。
山崎は彼がグリード達が封印されていた美術館を経営していた、鴻上ファウンデーションの会長である事に驚きの声をあげる。

「それから…、これは贈り物だそうです」
「贈り物? これは、あの時の…」

里中はモニタを降ろして、自分が乗ってきた車から何かの箱を取り出して山崎へ差し出す。
箱の中身を見た山崎は中に赤・青・緑の缶のような物が4本ずつつ詰められているのを確認する、それらは例の赤い鳥や青い蛸に変形するカンドロイドのようだ。

「何だよ、贈り物ってただの缶ジュースの詰め合わせかよ」
「いや、ただの缶じゃ無いんですよ。 お、この色は初めて見るな」

話を横で聞いていた銀時はその贈り物とやらを覗き込み、中身が平凡な物である事に落胆の声を漏らす。
山崎は銀時の落胆に訂正を入れつつ、今までに見た事が無かった緑色のカンドロイドを手に取った。

"バッタ!"

「うわっ、缶ジュースが変形した!?」
「へー、こいつはバッタなのか」

山崎が手に持った緑色のカンドロイドが缶形態から変形して、バッタ型の形状のバッタロイドとして本来の姿を見せる。
ただのジュース缶と思っていた銀時たちは、目の前でいきなり缶が変形した事に驚愕していた。

「あなたね、人間の癖にセルメダルを集めているのは!!」
「その事について話がある! 実は今日君たちにいい商談を持ってきたんだよ!!」
「商談…?」

カンドロイドを見た事で鴻上がセルメダルを横取りしていた張本人と認識し、メズールは鴻上にメダル集めの理由を問い質す。
しかし鴻上はメズールの質問を直接返さず、彼女にある商談を持ち掛けるのだった










「はぁ!? 私が集めたセルメダルを渡せですって!!」
「我が財団は君たちに武器・バイク・カンドロイドを提供する、君たちはその力を使って手に入れたセルメダルの一部を我々に提供して欲しい! なーに全部とは言わない、君たちが手に入れたセルメダルの70%で構わない!!」
「ふざけないで! 幾らなんでも取り過ぎよ!!」
「おい、ちょっと待って! メズール!!」

鴻上はセルメダルを70%譲渡すれば自分たちの装備を自由に使って構わないと提案するが、条件が気に食わなかったらしいメズールは里中に詰め寄ろうとする。
しかしメズールが里中の傍まで歩み寄った瞬間に銃撃が走り、彼女はその場で立ち止まらずおえなくなった。

「ご、後藤!?」
「次は外さない!」

何時の間にか山崎たちの近くまで来ていた後藤が、メズールに警告をしつつ先ほど使用した銃を構えた。
思わず生唾を飲み込むような緊迫した空気が場に流れ始めていた、しかしそんな状況はまたしても外野からの空気の読めない横槍に崩されてしまう。

"もしもーし、聞こえているアルか!!"
「へっ、バッタからチャイナ娘の声が!?」

自分の近くまで来ていたバッタロイドから突然、神楽の声が聞こえてきた事に山崎は驚きを見せる。
その一事で万事屋たちの存在を思い出した山崎は慌てて周りを見渡すと、そこには先ほどのカンドロイドで遊ぶ万事屋の姿があったではないか。

「うぉーー! おもしれーーな、これ!!」
「へー、どうやらバッタは通信機になっているみたいですね!」
「銀ちゃん、これ私も欲しいアル!!」
「お前らァァ!? 人の贈り物で何勝手に遊んでいるんだよォォォ!!」

思い思いにカンドロイドを弄る銀時たちに、自分が貰った物を勝手に使うなと山崎は声を荒げて突っ込みを入れる。
こうして場の空気が弛緩した事が関係あるかは解らないが、その間にモニタ越しの鴻上が話を切り上げようとしていた。

「はっはっは、我々の作ったカンドロイドは好評のようだね! 里中くん、今日はこれまでにしておこうか。 返事は後日に改め聞くよ、いい返事を期待しているよ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! まだ話が…」

メズールの静止を無視するようにモニタから姿を消す鴻上、それを確認した里中は車に戻ろうとした。
しかし突然モニタが再び写り、里中は急いでモニタをまた山崎の方へ向ける羽目になる。






「そうそう、一つ忘れていた事があった。 山崎君、君は確か真選組の一員らしいね」
「…それがどうかしましたか?」

モニタ再び現れた鴻上は何を尋ねてくると思えば、自分が真選組である事を確認してきたではないか。
山崎は素性がばれている事に驚きを覚えつつ、何故そんな事を聞くのか逆に鴻上へ尋ね返す。

「山崎君、君はオーズやグリードの事をもう真選組に話したのかい?」
「いえ、色々あってまだ秘密にしています。 けどそろそろ、皆に協力を求めようかなって思っていますが…」

メズールに口止めされた事もあり、山崎は真選組にグリードの事をいまだに伝えていなかった。
けれどもグリードたちと一人で立ち向かうのは至難の業であると解り、やはり真選組という組織の力を利用するべきかと密かに考えるのだった。
しかし山崎の目論見は、鴻上の口から語られる驚愕の事実によって止められてしまう。

「忠告しよう、真選組にグリードやオーズの事を話すことは止めた方がいい」
「はっ、どうして…」
「実は天人たち、特にこの国の中枢に関わるような大物がグリードに興味を示しているようでね。 そんな連中にはグリードの源であるコアメダルの力を引き出す、オーズという存在はとても魅力的に見えるだろう。」
「天人がオーズの力を狙っている!? しかも政府に関わっているって事は…」

武装警察「真選組」は幕府に仕える役人である、しかし天人襲来の折より幕府は国を統べる力を失っていた。
そのため幕府を裏から操る天人たちが、実質上の真選組の上役と言っても過言では無いだろう。

「自分たちの懐の中にオーズの力を持つ者が居るのを知ったら、彼らはどのような行動に出るかな? まあモルモット扱いされるのは簡単に予想できそうだがね」
「何、その死亡フラグ!? まずいぞ、こんな物を持っていたら命が幾つあっても足りないって事じゃねぇか!」

山崎は鴻上から現在の自分の危機的状況を教えられて、思わぬ事態にパニックへと陥ってしまう。
混乱した山崎はとりあえず自分の身の危険を取り除くために、オーズドライバーをメズールへの返却を試みた。

「やっぱり俺は主人公には似合わない地味キャラでした! 今度はもっと主人公っぽいオーラが出ている人に、これを渡してください!!」
「無理よ、オーズの力はもう封印を解いたサガルにしか使えないわ」
「おーーい、そんな事聞いてねーーーーぞ!? え、つまり俺はこのまま死と隣合わせの状況で、変身ヒーローを続けないといけない訳かよォォォ!!」

オーズの力を手放して死の恐怖から逃れようとした山崎だが、メズール曰くオーズの力は封印を解いた者しか使えないらしい。
つまり一回変身してしまったら最後、オーズは山崎専用の物になってしまったのだ。

「それでは今度こそ失礼するよ、君たちの健闘を祈っている!」

山崎への忠告を終えた鴻上はモニタから姿を消し、里中は今度こそ車に乗り込んで立ち去る。
里中の車が出発した事を確認した後藤も、驚愕の事実に悶えている山崎を一瞥してバイクで走らせるのであった。






「落ち着け、山崎退! よく考えてみろ、逆に真選組の連中にバレなければ俺の安全が保障されるって事じゃないか!!」

ようやく混乱から収まった山崎は鴻上から貰った情報を頭の中で整理していた、要は自分がオーズである事を他の天人に知られなければいいのだ。
幸運な事に真選組にはまだ正体を明かしていない、鴻上も忠告までしたくらいだから天人に自分の情報を伝える可能性は低いだろう。
メズールもメダル集めが邪魔される事を懸念して、基本的にグリードやオーズの事は秘密にする姿勢を見せていた。

「なーんだ、俺が秘密を漏らさなければ大丈夫そうじゃん! いやー、ビビって損したなーー!!」

山崎は自分がオーズである事を知る人間を全て思い浮かべ、全員が自分の秘密を明かす可能性が極めて低い事に気づく。
つまり自分がこのままオーズの事を秘密にし続ければ、安全は確保される事に思い至り山崎は安堵の息を漏らした。
気が抜けたのか山崎は晴れやかな笑みを浮かべた、しかしその笑顔は背後から掛けられた声によって脆くも崩れ去るのである。

「お前も大変そうだなーー、山崎くーーーん」
「だ、旦那方!? そ、そういえば旦那方も居ましたね…」

そう、山崎の秘密を知る人物が此処にまだ居たのだ…。










「グリードにヤミーね、そんな漫画みたいな化け物が本当に居たとはなー。 あ、お姉さん、パフェお代わり頂戴!!」
「お前も色々苦労しているアルなー。 あ、私はヒレステーキセット追加アル!!」
「すいませんね、こんなに奢って貰っちゃって…。 あ、こっちは和食御膳をお願いします」
「私はこの白玉ぜんざいとやらを頂こうかしら。 あ、このティラミスとやらも頼むわ」
「おーい、幾らなんでも食いすぎだろ! ていうかメズール、何でお前まで一緒に注文してるんだよ!!」

場所をファミレスに移して今までの事について事情説明を開始した山崎は、ついでに口止め料として万事屋に食事を奢る事になっていた。
万事屋の面々は全く遠慮をせずに、どんどんと好きなメニューを注文しては食べていく。
ちょっと前までネコヤミーに取り付かれて暴食を繰り返していた神楽までも一緒になっているだから、山崎は呆れ果てる他無い。

「それで旦那方、俺の事は秘密に…」
「ああ、解っているよ。 ちゃんと黙っててやるから安心しろって!」
「山崎さんには助けられましたからね。 少なくとも僕たちの口から、貴方の秘密が漏れる事は有りません」
「大船に乗ったつもりで居るアル、私は口が堅い事で有名アルよ!!」

とりあえず万事屋の面々から自分の秘密を守ってくれる事を約束して貰い、山崎は胸を撫で下ろすであった。










(さて、差し迫った問題は解決できたが…。 次はこいつの住処をどうするかな?)

横で白玉あんみつを口に入れているメズールに視線を向けながら山崎は彼女の処遇について考えた、昨日はとりあえず屯所内に泊める事はできたが何時までもそうする訳にはいかないだろう。
真選組の隊員達は基本的に真選組屯所内で寝食を共にしている、山崎もその例外から漏れていないためメズールを自分の家に呼ぶという選択も不可能である。
それに余り真選組の近くに居続けていたら、彼女がグリードである事がバレる可能性も出てくる筈だ。

(しかし事情を知らない奴に預ける訳にはいかないからなー。 グリードの事情を知っていて、真選組と関係しない人間が居れば…)

「…あっ!?」
「何よ、突然奇妙な声をあげて?」

よく考えてみれば目の前に居る万事屋の面々が先ほどあげた条件に一致する、その事実に気づいた山崎は彼らにある相談を持ちかけた。










「……こうして、晴れてメズールは万事屋に居候する事が決まったのでした。 ちなみにあいつの生活費は全部俺持ちでーす」
「何ブツブツ呟いているのよ、サガル?」

今までの出来事をモノローグ風に語りは終えた山崎の姿を、不気味そうに横で見ていたメズールだった。















「うむ、では余の可愛いペットたちを頼んだぞよ」
「は、はい!? 誠心誠意、面倒を見させて貰います!!」
(あ、あれはバカで有名な央国星のハタ皇子!?)

屋敷内に入った銀時たちは今回の依頼主であるハタ皇子と対面している、天人であるハタ皇子は所々のパーツが人間とは違っていた。
人類と区別できる一番の特徴は本人曰く、チャーミングポイントらしい頭に生えている触覚だろう。
ハタ皇子に仕事前の挨拶をしてる銀時、しかし何故かハタ皇子と話している銀時の顔から冷や汗がダラダラと垂れ流されているた。
よく見たら新八も何処か挙動不審な態度を取っているでは無いか、その様子を横で不思議そうに見てい山崎はこのハタ皇子と何かあったのかと新八コッソリ尋ねる事にする。

「新八くん。 何やら旦那の様子がおかしいように見えるけど、あのバカ皇子と前に何かあったのかい?」
「え、ええ…。 前にあの人とちょっとトラブルが有りまして…」

実は万事屋は以前に、ハタ皇子が飼っていた未確認生物を殺害したという過去があるのだ。
しかし流石に警察に所属する山崎にその事を告げられない新八は、苦笑いを浮かべながらその事実を濁して答えるしかない。

「んー、お主ら、何処ぞで余に会った事があるか?」
「し、知りませんよ!? 人違いじゃ無いんですか、地球人は皆しょう油顔ですからねー」
「そうか、ならよい」

どうやらバカ皇子は銀時の事に気付いてないらしい、それを幸いに銀時は誤魔化す事に成功したのだった。





「どういう事ですか、何であの天人が!?」
「知らねーよ!? 俺だって婆から仕事を貰っただけなんだから!!」
「おい、喋ってねえでさっさとついて来いや!!」

ハタ皇子の従者を務めるじいに連れられて銀時たちは今日の仕事場に案内されていた、じいもハタ皇子と同じ種族の天人であり同じように頭に触覚を一本生やしている。

「たっく、面倒くせーなー。 あのバカがバカみたいにペットを増やさなければ、こんなバカ供の面倒を見なくても済んだのに…」
「バカバカ言い過ぎだろ!? え、ていうか自分の主もバカ呼ばわりしたよね、この人?」
「あーん、バカをバカ呼ばわりして何が悪いんだよ? あのバカがペット集めに精を出すようなってから、こっちは碌にゲートボールも出来なくなったんだぞ!!」
「うわぁー、この人忠誠心0だよ!? いいのかよ、それで!!」

じいの主人を主人と思わないぶっちゃけトークに山崎は思わず突っ込みを入れてしまうが、じいはその指摘に悪ぶる様子もなくバカ皇子の不満を愚痴り始める始末だ。

「あれっ、あの皇子って前からペット狂で有名でしたよね?」
「前はどっちかていうと量より質って感じでな、面倒な事には変わりないがここまで手間は掛からなかったんだよ。 けど最近じゃ何かに取り付かれたかのようにどんどんペットを増やしてなー、あのバカは!!」

ハタ皇子は珍生物を好む天人として知られているので、新八は彼が今回の依頼者である事に納得を感じていた。
けれでもどうやら事情が少し変わったようで、じいの口からは皇子の行動が最近微妙に変わった事が告げられる。

(何かに取り付かれたかのように? まさかな… )

じいの語るハタ皇子の変わりように嫌な予感を覚えた山崎であった…。












「おーーーーい、あのバカはどんだけペットを集めているんだよ!?」

万事屋の面々の目の前には、屋外に設置されたペットの飼育スペースが見渡すがきりに広がっていた。
そこには無数の檻が見渡す限りに設置されて、見た事も無いような生物に五月蝿く泣き声をあげている。
目の前に存在する下手な動物園くらい有りそうな敷地を見て、銀時は早くも心が挫け掛けそうになるであった。

「ど、どうしますか、銀さん? これ、今日中に仕事が終わりますかね…」
「だ、大丈夫だって!? こ、こっちは頭数が5人も居るんだし、上手くやれば平気だろう」
「ねえ、5人って俺も人数に入っているよね!? 何、やっぱり俺も仕事しないといけないのーー!!」
「よーし、駄弁ってないでさっさと仕事を始めるぞ」
「無視するなーーーーーーー!!」

万事屋とは無関係である自分を仕事に巻き込もうとする銀時に、山崎は思わず突っ込みの声をあげる。
しかし銀時は貴重な労働力を逃さないために、山崎の叫びを無視して仕事を開始するのだった。





「すいません、何だかんだで手伝って貰って。 そういえば、真選組の仕事は大丈夫なんですか?」
「いやー実は今、ちょっと謹慎をくらっててさー。 だから仕事の方は別に平気だよ、まあ本当は屯所から出ちゃ駄目なんだけど…」
「なーんだ、じゃあ丁度よかったじゃんか。 どうせ屯所に居たってミントン位しかする事無いんだろ、だったら俺たちの仕事を手伝った方が万倍もマシだって」
「酷いですよ、銀さん! いくら山崎さんだって、ミントン以外に用事があったかもしれないのに…」
「いえ…。 メズールに呼ばれなければ、ミントンの特打ちをするつもりでしたが…」
「結局ミントンしか無いのか、あんたは!!」

山崎は前の任務放棄が原因で受けた謹慎がまだ継続中だったため、どうやら屯所の方で暇をしていたようである。
どうせ山崎にはミントンしか無いと言い切る銀時に、新八は山崎の名誉のために抗議をするのだが本人の口から同意の弁が漏れた事に声を荒げてしまう。
そんな彼らを横目に、メズールは檻に入ったハタ皇子のペットを興味深そうに見て回っている。
恐らく他の星から連れて来られたであろう異形の生物に、メズールは自分たちグリードが生み出すヤミーに近いものを感じていた。

「しかし残念ね、これだけの欲望があればいいヤミーの餌になったのに…」
「おい、まさかあのバカ皇子でヤミーを作る気じゃ無いだろうな?」

これだけのペットを集めながらまだ新たなペットを求めるハタ皇子、その飽くなき欲望は正にヤミーの生みの親として相応しいものであった。
メズールの漏らした呟きで彼女がヤミーを生み出すグリードである事を思い出し、山崎は彼女がこれからヤミーを創るつもりなのかと戦々恐々する。
しかし山崎の懸念はすぐに、メズール自身の言葉で取り払われる事になった。

「無理よ、今の弱った体ではヤミーを生み出す事は出来ないわ。 だからメダル集めのために、わざわざオーズなんかの力を使っているのよ」
「へ、そうなの!?」

コアメダルが1枚しかない弱った状態では満足にヤミーを創り出せず、自力でメダルを手に入れることすら出来ない。
そのためメズールは山崎を使ってヤミーを倒させながら、セルメダルを集めようとしているのだ。





「そういえば、サガル。 私と最初に会った時に持ってた鷹のコアメダル、あれは何処で手に入れたの?」
「えっ!? 確か、お前たちが封印されていた美術館で拾ったんだけど」
「そう…」

ふと思い出したかのようにメズールは、山崎が持っていたコアメダルの入手経緯を尋ねてきた。
山崎はいきなり話題が変わった事に驚きつつ、素直にコアメダルを偶然拾った事を教える。
拾った場所がグリードの封印されていた美術館だったので山崎は何かの拍子で落ちたメダルを自分が見つけたと思っていたのだが、その説明を聞いて考え込む様子を見せるメズールを見る限りにそう単純そうな話ではなさそうだ。

「な、なあ、メズー…」
「山崎にメズール! サボってないで、こっちで仕事を手伝えーー!!」
「あ、すいませーーーーん!? ほら、行くぞメズール!!」
「はあ、何で私まで…」

山崎は彼女が一体何について悩んでいるか尋ねようとするが、仕事に戻るように言う銀時の言葉によって遮られてしまう。
その声により不本意ながら仕事中である事を思い出した山崎は、メズールを無理やり連れて仕事に戻ろうとした。
メズールはブツクサ言いながら山崎に手を引かれて仕事に戻ろうとするが、近くで発せられたヤミーの気配に感付いて立ち止まる。

「これはヤミーの気配!?」
「何、またヤミーが出たのか! 一体何処に出たんだ、メズール!!」
「けどこの気配は……、嘘でしょ!?」
「お、おい…、大丈夫か?」

山崎はヤミーが出たと聞いて詳しい説明を求めたが、メズールは山崎が目に入ってないような様子だ。
彼女は何か有り得ない物を見たような様子で呆然している。

「何で…、何で私のヤミーの気配が!?」





「お前のヤミーの気配だって!? え、さっきヤミーは作れないって自分で言ってたよな、他の奴のと間違えたとかは…」
「…何故だが解らないけど、これは確実に私のヤミーの気配よ。 さっき会ったあのバカ皇子とかって奴がヤミーの親らしいから、多分この屋敷内にヤミーの巣が出来ている筈だわ」

メズールからヤミーが出た事を知った山崎はすぐに銀時たちの所に戻り、ヤミーについての情報を共有していた。。
そこでヤミーが本来ならメズールが創りだす筈の物であった事を知って山崎は先ほどの話と違うと問い詰めるのだが、メズール自身も訳が解ってないらしく何処か動揺した様子である。

「ヤミーの巣? えっ、ヤミーってのは神楽ちゃんの時みたいに、誰かに取り付くんじゃ無いんですか?」
「メズールの話によるとグリードの種類によって、ヤミーの生まれ方が違うみたいなんですよ。 前に出たカザリとかって奴だったら、宿主に取り付くヤミーって感じで」

ヤミーと聞いて先日に神楽が取り付いたタイプを想像した新八は、ヤミーの巣という言葉に疑問を感じた。
山崎は前にメズールから聞いたヤミーの種類についての情報を、新八に説明する事になる。

「メズール、巣って言うのはどんな感じアルか?」
「私のヤミーは成体になるまで、卵のような姿に擬態しているわ。 まあこの感じだともうすぐに産まれそうだから、放って置けば勝手に出てくるわよ」
「いや、そこは生まれる前に倒そうぜ!? 卵の状態なら簡単に処理できそうだし…」

より多くのセルメダルを手に入れたいメズールは、ヤミーを成体になってから倒したいと考えている。
しかし実際に戦いを担当する山崎的には、わざわざ成体になったヤミーと戦いたくないため卵の内にさっさと始末したそうだ。
山崎はヤミーの巣を探すために辺りを見回すが、バカのように広いこの屋敷から巣を見付けるのは至難の業のようである。





「あれ、誰かこっちに来ますよ。 屋敷の人かな?」

ヤミーの巣を探していた山崎は、こちらの近づいて来る緑色のジャケットを羽織った男が目に入る。
山崎の前まで歩み寄てきたその男は自分の隣に居たメズールをジッと見つめ、彼の口から驚きの言葉が放たれるのだった。

「久しぶりだな、メズール!」
「なっ、メズールの事を知っているのか!? お前の知り合いか、メズール?」
「私に知り合いなんて居る訳無いでしょう! 何者なのよ、お前は?」
「ああ、この姿じゃ解らないか…」

メズールの名前を知っている人間は限られている筈だが、何故か彼女の事を知っている口振りを見せる男に山崎たちは警戒心を高めた。
男は自分が何者であるか解っていない様子のメズールに対して、己の正体を明かすために全身をセルメダルに変化させる。
蠢くセルメダルが再び体の形を構成した時に男の姿は昆虫の姿を模したグリード、ウヴァの物になっていた。

「うわぁ、変体した!?」
「ウヴァ!? 何故貴方が此処に…」
「この辺りでお前のヤミーの気配を感じてな、近くにお前が居ると思ってみたら案の定だったな。 さあ、俺のコアメダルを返して貰うぞ、メズール!!」
「くっ? メズール、早くメダルを!!」

メズールのヤミーを察知したウヴァは、彼女から自分のコアメダルを取り返すために此処へ現れたらしい。
今にも自分たちへ襲い掛かってきそうなウヴァに対して、山崎は即座に腰にオーズベルトを巻きつける。
そしてメズールから変身に使用するコアメダルを受け取ろうとするが、メズールは山崎を無視してウヴァにある疑問を投げかけた。

「ちょっと待ちなさい、ウヴァ! この屋敷に巣を張ったヤミーは、貴方たちが産み出したんじゃないの?」
「ほう、その口振りだと此処のヤミーはお前が親では無いのか…。 俺は勿論こんなヤミーを創った覚えはないし、カザリやガメルもそんな事をしていた素振りはなかった」
「それじゃあ、一体誰が…」
「俺たちでは無いとすれば、考えられる奴はあいつしか居ないだろう。 封印されていたグリードの中で一番先に目覚め、俺たちが出てきた時には既に姿を消していたあいつが…」
「アンク!? じゃあやっぱり、あいつが私のコアメダルの力を…」

自分のコアメダルの力を引き出せばこのタイプのヤミーを産み出せるため、此処のヤミーを産み出した者がコアメダルを所持している可能性が極めて高い筈だ。
メズールは己の推測を元にウヴァが自分のメダルを持っているか確認するため、彼が此処のヤミーを作った張本人で無いか問い詰める。
しかしどうやらウヴァには身に覚えが無いらしい、メズールは彼が自分を騙している可能性も一考したが、グリードとしての長い付き合いから先ほどの発言が偽りでは無いという事が感じ取れた。
そうしてウヴァと話を進めたメズールは、未だに姿を見せないグリードのアンクが自分のコアメダルを持っているという結論に至る。

「まあそんな事はどうでもいい! メズール、俺のコアメダルを返せーーーー!!」
「ウヴァ、貴重な情報をありがとう。 サガル、もうこいつに用は無いから早く帰って貰いなさい」
「結局、俺が戦うのかよ!? 何だか解らないから、後で事情は説明して貰うぞ!!」

コアメダルを取り戻すためにメズールへ飛び掛ったウヴァをどうにかいなし、山崎は今度こそ彼女からコアメダルを受け取る。
3枚のコアメダルをオーズドライバーに嵌め込み、オースキャナーを滑らした。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


「変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。


ウヴァと対峙する山崎の姿は、例の歌とともにオーズに変化するのだった。










「俺のコアメダルを出せーーーー!!」
「くっ、重いっ!?」
「さーて、さっさと檻の掃除を終わらせるか。 神楽、ホースから水を出したいからそこの蛇口を捻ってくれ」

コアメダルへの執念をそのまま乗せたかのような鋭いパンチが、ウヴァからオーズへと姿を変えた山崎に降りかかる。
予想以上に早いウヴァの拳に反応が遅れた山崎は、両腕をクロスして辛うじてその一撃に耐えた。
そんな最中に周りの状況を一切気にせず、銀時は本日の仕事であるペットの世話を進める。

「まずい、もう来るのか!!」
「死ねーーーーーーー!!」
「了解アル」

凄まじいガード越しであるにも関わらず山崎に伝わり、山崎はその場から吹き飛ばされそうになるのを必死に堪えていた。
先ほどの自分の攻撃の余韻が抜けていない山崎に対して、ウヴァはミドルキックを繰り出す。
そして山崎たちの激闘の背後で神楽は、銀時の指示に従って蛇口を捻っていた。

「くそっ、このままじゃ…」
「グガァーーーーーー!!」
「銀さーん、ブラシって何処に置いてありましたっけ?」

自分のコアメダルに有るバッタのような強靭な足から放たれたウヴァの蹴りが、山崎に致命的なダメージを与えるためにどんどん近づく。
どうにか体制を立て直した山崎は、息つく暇も無く今度は自分に迫る攻撃にガードで対応した。
その頃新八は檻の掃除で使用するブラシが見当たらないのか、銀時にブラシの場所を尋ねながらその辺を探している所だ。

「…て、お前らァァァァ、ちったあこっちを手伝え!? てっ、うわっ、危ね!!」

咄嗟に防御状態のまま後ろに飛び去って蹴りの威力を吸収した山崎は、そのままウヴァとの間合いが離れた事を利用して体制を立て直した
そこで一時的に落ち着けた山崎は周辺の状況が目に入り、自分とウヴァと激しく戦っている状況を尻目に万事屋の面々は淡々と仕事を続けている姿を目撃する事になる。
ウヴァに押され気味の山崎を助けようとしない彼らに山崎は怒りの突っ込みをあげたのだが、その隙を逃さなかったウヴァから手痛い襲撃を受ける事になってしまった。

「えー、だって今仕事中だしさ。 それにグリードなんて俺たちに関係ないしなー」
「それに僕たちは山崎さんと違って変身なんて出来ませんですからね、まあ一般人は一般人らしく大人しくしておきますよ」
「仮にもお前は主人公なんだから、その位は一人で何とかするアル」
「薄情すぎるぞ!! …ぎゃっ、ヤベッ!?」
「コアメダルを返せーーーー!!」

面倒事は御免だといった感じで山崎に手を貸す気が0の銀時たち、そうしている内に山崎はどんどんと追い詰められていった。
山崎のピンチに対してメズールは万事屋の人間離れした戦闘能力が加われば状況が逆転できると考え、彼らを動かすある手段を用いる事にする。

「仕方ないわね…、貴方たち! ウヴァと一緒に戦ってくれたら、サガルがまた食事を奢ってくれるそうよ!!」
「やっぱり江戸の町をグリードなんて言う奴らに荒らさせる訳にはいかないな! 手を貸すぜ、ザキ!!」
「例え変身ができなくても、僕たちにだってやれる事はある筈ですよね!!」
「世界の平和は私たちが守るアル!!」
「解りやすいなー、お前ら!? えっ、ていうかまた俺が奢るのかよ!!」







どうやら万事屋に居候する間にキャラクターを掴んだらしいメズールは、鮮やかな手口で銀時たちを戦闘に参加させる事に成功する。
銀時たちの欲望を見事に手玉と取る姿は、正にグリードの面目躍如と言えるだろう。
ウヴァは銀時たちが自分に襲い掛かる様子を見てたかが人間如きと余裕すら感じているようであった、しかしその認識は銀時の一太刀を浴びた事ですぐに一変する事になる。

「前はファミレスだったからな、今回は何を奢って貰おうかなー」
「銀ちゃん、私は寿司がいいアル」
「いいですねー、寿司!!」
「くっ、たかが人間如きが何故こんな力を!?」

人間を完全に見下していたウヴァは慢心を突かれてしまい、人間の中で規格外の戦闘能力を持つ銀時たちに翻弄されてしまう。
百戦錬磨の侍である銀時から繰り出される木刀の一振りは、流石のウヴァもまともに受けるという選択肢を持たせなかった。
その太刀振りから間髪いれず、神楽の見た目からそぐわない怪力による一撃が続く。
銀時と神楽からの連続攻撃の間を狙ってウヴァが反撃に出ようと企てるが、その間に新八からの牽制が入り身動きを取る事が出来ない。
そんな万事屋の見事な連携プレーに呆れながら、山崎はメズールから渡された新たなコアメダルを装着するのだった。

「…本当に何者なんだろうな、旦那たちって」
「サガル、何ボーっとしているのよ! 今のうちにこのメダルに変えなさい!!」
「へいへい」


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"タカッ!"、"カマキリッ!"、"チーターーッ!!"。


山崎はメダルを交換する事でカマキリのような鋭い緑色の鎌と、チーターのように早く動ける黄色い足を備える姿に変身する。
変身を終えた直後、銀時たちの相手をしているウヴァにチーターの足を利用して高速で接近を試みた。
こちらに気付いた時に既に肉薄できていた山崎は、そのまま腕の鎌でウヴァの腹を滅多切りにする。

「うらぁーーーーーーー!!」
「ぐはぁっ!?」

まともに山崎の攻撃を受けたウヴァは、悲鳴を漏らしながらその場から吹き飛ばされる。
そしてその傷口からは複数のセルメダルと、己をを構成するコアメダルの内の一枚が放出されてしまった。
メズールはウヴァから出たコアメダルを、抜けめ無く回収する事に成功する。

「くっ、覚えていろよ!!」

こうして思わぬダメージを受けたウヴァは、捨て台詞を残してその場を立ち去るのだった。







「あ、逃げたアル」
「うわー、悪役のテンプレ的な台詞を吐いていきましたね」
「おい、山崎! 約束通り後で寿司を奢って貰うからな、回ってない方の!!」
「無茶言わないで下さいよ!? せめて回る方で…」
「ねえ、サガル。 寿司っていうのは一体何なのかしら?」

どうにかウヴァを撃退できた事で、山崎たちの間に一段落ついたかのような雰囲気が流れていた。
この屋敷に潜むヤミーの事をすっかり忘れながら…。



[25341] ペットと60%と最強コンボ
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:89b46bf6
Date: 2011/03/29 00:07

「さっきのウヴァって奴は昆虫っぽい見た目だったよな。 前に現れたカザリは猫みたいだったし、グリードってのは全員違う姿をしているのか?」
「グリードはそれぞれに固有の性質を持っていて、姿形もそれに合わせた物になっているのよ。 ウヴァなら昆虫系でカザリなら猫系といった風にね、ちなみにグリードから産み出されるヤミーも親のそれを引き継ぐわ」
「へー、そんなカラクリがあったんですか。 だから神楽ちゃんにから産まれたヤミーは、猫系になったんですね」

ウヴァを撃退した山崎たちはバカ皇子のペットの世話を再開していた、雑談をしながら分担して檻の掃除を行う銀時たち一同。
そんな中で山崎は先ほど戦ったウヴァが以前に出会ったカザリと、同じグリードである筈なのに見た目が全く異なっている事について質問を投げ掛ける。
山崎の問い掛けにメズールはグリードが持つ性質について語り、横で聞いていた銀時たちも彼女の話に興味を示すのだった。

「ふーん、性質ねー。 じゃあお前は何系なんだよ、虫に猫が出たから鳥辺りとかか?」
「はぁっ、私が鳥系な訳が無いでしょう!? 私は水棲系よ!!」
「何か水棲系って言ってもピンと来ないアルね。 それだとどんなヤミーが出てくるアル、やっぱり魚っぽい姿になるアルか?」
「まあそんな所ね。 もうすぐこの屋敷に潜んでいるヤミーが成体になるから、後で実際に見られると思うわよ」
「へっ、この屋敷のヤミー……? あーーー、そういえばまだヤミーが居た事を忘れていたーーーー!?」

水棲系のヤミーがどんな姿をしてるか気になった神楽に対して、メズールはもうすぐ見る事ができると教える。
その発言からこの屋敷内にまだヤミーが潜んでいる事を思い出した山崎は、思わず絶叫の声をあげるのだった。





「と、兎に角ヤミーを探さないと!? …そうだ、あれを使えば!!」

ヤミーの事を思い出したはいいが広い屋敷内からヤミーの巣を探す手段を悩む山崎は、メズールに呼び出された時に念のために持ってきたカンドロイドの存在を思い出した。
すぐにカンドロイドたちを取り出して起動させ、赤の缶が鷹の姿へ、青の缶が蛸の姿へ、緑の缶が飛蝗の姿へと変形を果たす。
こうして山崎は本来の姿を取り戻したカンドロイドたちに、屋敷に潜むヤミーの捜索を命じるのだった。

「よし、ヤミーを探してくれ!!」

"タカッ!"、"タコッ!"、"バッタッ!!"。

「おー、格好いいアル!!」
「へー、あの缶のロボットはこういう使い方をするんですね」
「…やっぱり使えるわね」

屋敷の敷地内でヤミーを探し始めたカンドロイドたちを見て、メズールはそれらの有効性を再確認する事になる。
山崎も今後のメダル集めのために鴻上から提案された、手に入れたセルメダルを七割譲渡する代わりにライドベンダー、カンドロイドといった装備の支援を受けられる取引に応じた方がいいと考えていた。
しかしそれにはメダル集めを行う当事者であるメズール同意が必要であるため、山崎は彼女に対して説得を試みる。

「なあ、メズール。 やっぱり例の取引に乗った方がいいんじゃないか?」
「駄目よ! 人間なんかにメダルをびた一文渡すわけにはいかないわ」
「そんなに七割って条件が不満なのかよ!? それでバイクとかを自由に使えるんだし、ここは応じた方が…」
「メダルの数なんてどうでもいいわ! わざわざ人間に譲歩するのが嫌なのよ!!」

グリードとしてのプライドから人間に屈する事をよしとしないメズールに、残念ながら山崎の説得は功を奏さなかったようだ。
しかしそう簡単に引く訳にいかないと、山崎はメズールの態度をどうにか変化させようと説得を続ける。
そんな最中、二人が口争っている姿を見ていた新八はふと重大な事実に思い至るのだった。

「あれ、ちょっと待って下さい。 たしか今まで倒したヤミーのメダルは、殆ど鴻上って人に持って行かれたんですよね?」
「そうよ、忌々しい事にね」
「じ、じゃあ…、七割譲渡の約束を結ばなかったら、これからもセルメダルは全部持ってかれて丸損になるだけでは?」
「「あっ!?」」

恐らく鴻上との取引を交わしていない状態でヤミーを倒しても、以前のようにカンドロイドに大半のメダルを取られるだろう。
つまり今後山崎たちが一定量のセルメダルを手に入れるためには、鴻上に頭を下げるしか選択肢が残っていないのだ。

「おいーー、よく考えてみたら俺たち選択肢なんて無いじゃんか!!」
「くっ、癪だけど仕方ないわね…。 サガル、今から私を鴻上って男の所に連れて行きなさい!!」
「へっ、今から!? でもヤミーがまだ…」
「だから行くんじゃない。 あの男と取引しておかないと、ヤミーを倒してもメダルが手に入らないでしょ? それに安心なさい、この感じだとヤミーが孵化するまでまだ時間も有りそうだしね」

取引を結ぶために自分を鴻上の居る場所まで送るように要求するメズール、だが山崎はこの屋敷に潜むヤミーを放っておけないと否定の意を示す。
しかしセルメダルを手に入れるためには取引を交わした上でヤミーを倒す必要があるため、メズールはあくまで今すぐに鴻上の所へ向かおうとする。
結局ヤミーはすぐには目覚めないという話をを信じて、山崎はメズールを鴻上が居る場所へ連れて行くことを決めるのだった。





「じゃあ、旦那方。 すいませんが、ちょっと行って来ますね」
「仕方ねえーなー。 まあ早く戻って来いよ、俺はヤミーとかと戦うのは御免だからな」
「山崎さんが居ない間に、ヤミーの卵は僕たちが見付けておきますよ」
「お前には寿司を奢ってもらうからな、今回は特別アルよ!!」
「早くしなさい、サガル!」

こうして山崎とメズールは一時的にバカ皇子の屋敷を離れて、鴻上の居る鴻上ファウンデーション本社ビルへ向かうのだった。












「アポ無しで来たからちょっと不安だったけど、案外すんなり通してくれたな」

先日の一件から念のために鴻上光生という人物と彼が経営する鴻上ファウンデーションについて調べていた山崎は、鴻上ファウンデーション本社ビルの所在地も既に把握していたのですんなり目的地に着く事が出来た。
この辺りの下準備の良さは、真選組の監査として日々情報収集に明け暮れている山崎ならではだろう。
本社ビルに入った山崎とメズールは以前に会った女性、里中に案内されて会長室の扉をくぐるのだった。

「会長、御指示通りに会長室までご案内致しました」
「ご苦労、里中くん! こうやって直接会うのは初めてだね。 会えて嬉しいよ、山崎くんにメズールくん!! 」
「ふん、私は別に会いたくなかったけどね」
(あれ、何であんな所にケーキが置いてるんだ?)

会長室の中で直に鴻上光生と対面した山崎は、自分と鴻上の間に設定されてい机上にホールケーキの入った箱が置いてある事に気付いた。
そこで以前にモニタ越しで話した時も鴻上は自分と話しながらケーキを作っていた事も思い出し、もしかしてあれもお手製のケーキなのかと推測する。
山崎がそんなどうでもいい事を考えている内に、メズールと鴻上は例の取引について話を開始していた。

「さて、早速本題に入ろう。 此処に来てくれたという事は、よい返事を期待してもいいのかな?」
「ええ、貴方との取引に乗ってやる事にしたわ。 貴方たちは7割、私たちは3割で我慢してあげるわよ」

人間に従う事をよしとしないグリードの誇り故に鴻上との取引を拒絶していたメズールだが、このまま我を通してセルメダルを手に入らないのは困ると考え直した結果、不承不承ながら鴻上に折れることを決意していた。
一度取引を結ぶと決めたら彼女はセルメダル自体にそこまで執着を持たないため、何の交渉も無しに開口一番で7割譲渡の取引承諾を告げる。
実は彼女が鴻上と一悶着起こすのではと心配していた山崎は意外にあっさりと話が進みそうでほっと胸を撫で下ろすのたが、しかし余りにも予想外の方向から話が拗れてしまうのだった。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ、メズールくん!? 仮にも君はグリードなんだし、もう少し欲望を前面に出した方がいいじゃないか?」
「「はぁ!?」」

何と本来なら取引が成立した事を喜ぶ立場の鴻上が、要求を唯々諾々と呑むメズールに対して異議を申し立てたのだ。









"タカッ、タカッ!!"
「あ、あそこにヤミーの巣があるみたいですよ!!」
「やっぱり便利だなー、あの缶のロボット」

山崎とメズールが鴻上ファウンデーションへ向かってから暫く経った後、屋敷に放たれたカンドロイドは漸くヤミーの巣を発見していた。
カンドロイドに連れられてとある檻の裏手にまで来た銀時たちの目の前に、無数の卵が今にも産まれるかのように蠢く光景が広がる。

「うわぁ、何か動いているアル!?」
「大丈夫かよ、これ!? もうすぐ産まれるんじゃねえのか!」
「とりあえず山崎さんが帰ってくる前に、僕たちで駆除しといた方がいいですかね?」

肝心の山崎たちがまだ戻らないがこのまま見ていても仕方ないと考えた彼らは、自分たちでヤミーの卵を排除しようと試みる事にする。
しかし不気味なオーラを放つ卵の群れに進んで誰も手を付けようとせず、万事屋の面々は誰が駆除を行うのか揉めてしまう。
結局押し付け合いの末に駆除係を任された銀時は、嫌々ながら自分の愛刀を巣に向けて振り下ろそうとした。





「くっそー、匂いとか付かないだろうな!? まあいい、さっさと片付けて寿司をたらふく…」
「これ、お前たち。 そこで何をしておるぞよ?」
「げっ!? バカ皇子!!」
「おい、こら待て! 今バカって言ったよな、おら!!」

しかし木刀がヤミーの卵に当たる寸前、この屋敷の主であるハタ皇子に見付かってしまい銀時は思わず手を止めてしまう。
どうやらハタ皇子は自分の愛するペットを見て回っている時に、ヤミーの巣の前に集まっている銀時たちが目に入ったようだ。

「てめーら! こんな所で何サボってやがる!!」
「す、すいません!? でも僕たちはサボっている訳では無くて…」

ハタ皇子のお付をしていたじいが、銀時が仕事をサボタージュしていたと決め付けて食って掛る。
よく考えてみたら先ほどより全然仕事を進めていないので、じいの指摘は正論なのだがそれを認めてしまったら本日の収入に影響が出るため、新八はどうにか誤魔化そうと試みる。

「じ、実は掃除中に変な卵を見付けたんですよ!? それで何か怪しそうなオーラが出てたんで、駆除しといた方がいいかなーって」
「はぁ、卵だと? 本当にそんな物が有るのか、ハッタリじゃねぇだろうなーー!!」
「そうなんですよ! ほら、これ!!」
「うわっ、気色悪!? マジかよー、こんな物が何処から入りやがったんだ! おい、さっさとこの不気味な卵を始末しろや!!」
「了解したアル!!」

どうにか自分たちがサボってた訳ではないと証明するために、銀時たちはじいにヤミーの巣に見せる事にする。
自分の眼で不気味に蠢くヤミーの卵を目撃した事により、銀時たちの話を信じたじいはすぐさま駆除を命じるのだった。
銀時たちはじいの指示にこれ幸いと、駆除作業に取り掛かろうとするのだが…。

「待て待て、余はその卵にちと興味があるぞよ。 どんな生物が生まれるか見てみたいから、そっとしておくのじゃ」
「おいーーー、本気か!?」

不幸なことにバカ皇子がヤミーの卵に興味を示してしまい、雇い主に逆らえない銀時たちは手を止めざるを得なくなってしまった。









「メズールくん、もっと自分の欲望に忠実になっていいのだよ! 君は本当にセルメダルを七割も渡してもいいのか?」
「しつこいわね!? 私たちは三割でいいって!!」
「いい加減にしろよ! こっちは急いでいるんだよ!!」

あれから取引内容をそのまま飲もうとするメズールに対して、何故か拒絶の意を示す鴻上という余りに奇妙な対立が続いていた。
屋敷に残したヤミーが気に掛かる山崎はさっさと話を終わらせたいのだが、取引を交わそうとしない鴻上の頑な態度のため悪戯に時間が過ぎてしまう。

「そんなに三割が嫌なら、お言葉に甘えてもっと貰ってあげるわよ! 五割、私と貴方で五分五分と言うのはどうかしら!!」
「いーや、七割っ!!」
「はぁっ!? だからこっちは三割でいいんだって!!」
「…ねえ、サガル。 この人間を殺ってもいいかしら?」

欲望に忠実になれと言う鴻上の言葉に従ってメズールは、試しにこちらの取り分を増やしたセルメダル配分五・五の譲歩を提案する。
しかし鴻上は先ほどまでの自分の言葉を忘れたかのように、あくまで七割と彼女の案を拒絶してしまった。
鴻上の訳の解らない行動に山崎は突っ込みの声を叫び、メズールは鴻上に対して殺意を覚え始めてしまう。





「全く何なのよ!? じゃあ五割が駄目なら六わ…」
「ハッピーーーーーー、バーーーースデーーーーーーー!!」

メズールから六割という言葉が漏れた瞬間、いきなり鴻上は声を張りながら机の上に置いてあったホールケーキを箱から取り出した。
突然の鴻上の行動に何事かと注目した山崎とメズールの視線は、鴻上がこちらに見せるように持つホールケーキに集中する。
そして彼らはホールケーキ上に書かれた「60%」、つまり六割を意味した文字がデコレーションされている事に気付く。
どうやら鴻上は初めから六・四で取引を成立させるつもりだったらしく、わざわざこのようなホールケーキまで用意していたらしい。

「おーーーい、おっさん!? もしかしてそれを俺たちに見せるために、今まで粘っていたのかよ!!」

実は欲望の権化であるグリードに初めから六・四の数字を掲示しても素直に応じないだろうと考えていた鴻上は、わざと自分たちに有利な七・三の取り引きを提案してから交渉で六・四まで妥協させる腹積もりを持っていた。
しかし予想外な事にメズールがあっさりと七・三の取引に応じてしまったため、仕方なく当初の予定である六・四の数字に落ち着くまで話を長引かせたのである。
得となる七・三の承諾を自分から蹴ってまでしてホールケーキを披露したかったのかと、呆れる山崎とメズールは鴻上に対して白い目を向けるのだった。















「…じ、じゃあ取引も成立したし、さっさと旦那方の所に戻ろうか?」
「…そうね、全く無駄な時間を費やした…、この気配は!?」
「どうした、メズール? …てっ、うわぁ!?」
"バッタ!、バッタ!!。"

鴻上ファウンデーション会長室の中、すぐさまヤミーの潜む屋敷へ戻る必要がある山崎とメズールだったが、先ほどまでの鴻上との交渉に疲れ果てたのか未だに室内から離れていなかった。
どうにか気力を取り戻した山崎たちは重い腰を上げて屋敷に戻ろうと動き出すのだが、隣に居たメズールが何かに感付いた様子で歩みを止めてしまう。
彼女の変化に何事かと尋ねようとした山崎も、自分の所持していたカンドロイドが勝手に飛び出してきてしまいそれ所では無くなってしまった。

"おい、ザキ!? てめー、何時まで油を売ってるんだ!!"
「この声は旦那!?」
"山崎さん、早く戻ってきてください! さっきヤミーが産まれて今大変な事に…、げっ、こっちに来た!?"
「新八くん、大丈夫か!! おい、これって…」
「今、ヤミーが産まれる気配を感じたわ。 あの屋敷のヤミーが目覚めたようね」

山崎の目の前でバッタ形態に変形したカンドロイドから銀時の声が聞こえてきた、どうやら屋敷に放ったカンドロイドの通信機能を利用して連絡を試みたようだ。
カンドロイドから銀時に替わって今度は新八の声が発せられ、山崎は彼の知らせにより屋敷のヤミーの目覚めが知らされる事となる。

「ヤバイ、さっさと屋敷に戻るぞ!!」
「解っているわよ!」
「では、しっかりと稼いで来てくれたまえ! 山崎くんにメズールくん!!」

屋敷で窮地に陥っている万事屋の面々を救うため、山崎とメズールはすぐさまバカ皇子の屋敷へ向かうのだった。










少し時を遡り、銀時たちがバカ皇子によってヤミーの卵の駆除を止められた所まで戻る。

「ね、ねぇ、ハタ皇子? こんな不気味な卵から何が産まれるのか解ったもんじゃないですよ、やっぱり早く駆除した方が…」
「そう邪険する物ではない、命の価値は等しく同じと言うではないか。 それにもしかしたらこの異様な卵に見合わない、可愛い生物が生まれるかもしれんぞ?」
「いーや、この卵から怪物しか出てこねーって!? 悪い事は言わないから始末しとこうぜ、バカ皇子さんよー」
「バカって言ったよね、今ハッキリ!!」

一応、雇い主には逆らえない銀時たちはどうにかバカ皇子を心変わりさせようとするのだが、当人は全く意思を変えるつもりは無いようだ。
肝心の山崎たちも未だに帰ってくる気配が無く、卵は今に孵化するかのように激しく蠢いている状況に銀時たちは仕方なくヤミーの事を伝える事を決める。

「ハタ皇子、実はこの卵の中にはヤミーという怪物が居るんですよ!!」
「ヤミー? 聞いたこと無い生物じゃな。 一体どんな生物が生まれるのか」
「ヤミーって言うのは、なんか欲望を食って成長するんだよ! んで、この卵はあんたのペットを集めたいっていう欲を餌にこーんなに成長したんだとさ!!」
「卵が孵ると、魚っぽい怪物が産まれるらしいアル」
「はー、ヤミーなんて聞いたことねえぞ!? てめーら、いくらこのバカ皇子がバカ面下げてるからって、そんなフカシに騙される程バカじゃねえぞ!!」
「おい、くそじじい!? お前まで余をバカ呼ばわりとはいい度胸だなぁ!!」

必死の説得も空しくヤミーの存在を信じないハタ皇子とじい、やはりいきなり自分の欲望から化け物が生まれたと言っても信じないようだ。
銀時たちはどうやって説明すれば解って貰えるか悩むのだが、そうこうしている内に時間が過ぎてしまい…。

"ピキッ!!"

「あれ、なーんか嫌な音が聞こえたような…」
「銀ちゃん、卵に罅が入っているアル!?」
「おおー、もうすぐ生まれるのか!!」

"ピキピキ……、パリンッ!!  ギギャーーーーーーーー!!"

「ヤミーが産まれたーーーーー!?」
「うわぁ、本当に化け物が出たーーーーー!!」

バカ皇子の欲望を糧として遂に成体まで成長したヤミー、鋭い牙と鳥類の翼のように大きなヒレを持つトビウオヤミーが卵から殻を破って出てくる。
トビウオヤミーは数十、数百と続々と卵から飛び出していき、屋敷の敷地内がヤミーに埋め尽くされてしまうのだった。





「バカ皇子ーーー!? てめーがグズグズしてたから、ヤミーが孵っちまったなじゃねぇかよォォォ!!」
「うううわぁ、銀さん!? こいつら噛み付いてきましたっ!!」

トビウオヤミーに囲まれてしまって身動きが取れない銀時たち、こちらに襲いかかってくるヤミーを追い払うのに精一杯のようだ。
大き目の魚程度のサイズでしかないトビウオやミーたちは一体一体はさほど強くないのだが、兎に角数が多く防戦一方の状態が続いてしまう。
しかも魚型の癖に自前のヒレを鳥のように使って自由自在に空を滑空するため、上方向からの攻撃にも気を回さなければならないようだ。

「お前たち、この可愛い魚たちが余の欲によって育てられたというのは本当か?」
「はぁーーーーっ、カワイイ魚たちだと!? 脳味噌腐ってんじゃねぇのか、バカ!!」
「だからさっきから言っているじゃないですか、これは貴方の欲望から産まれたヤミーだって! 人の話はしっかり聞いとけや、このバカ!!」」
「クソバカーーーーっ!? またテメーのペット好きが原因かこんな目に逢っちまったじゃねえか、どうしてくれるんだ!!」
「てめーら、後で覚えていろよォォ!? まあ今は特別に捨て置いてやろう、今はこの状況を脱するのが先決じゃからな」
「おい、何をする気だ!?」
「この魚たちが余の欲から産まれたのなら、こやつらは余の息子と言えるのでないか? ならきっと母親の言う事を聞いてくれる筈じゃ、さあ息子たちよ! 余の腕の中に飛び込むのじゃ!!」

万事屋たちから離れてトビウオヤミーの前に立ったバカ皇子は、彼の奇行に驚く銀時たちを尻目に迫ってくるヤミーを迎えるかのように両手を広げた。
自分の息子と称したヤミーたちがバカ皇子のに群がっていき、そして当然の如く彼の全身はトビウオヤミーによって噛み付かれてしまうのであった。

「痛ーーーーーっ!? ぐぎゃっ、噛み付かれたっ! これお前たち、早く余を助けるのじゃ!!」
「うっせーよ、バカ! こいつらはお前のカワイイ息子なんだろ、だったら精一杯遊んでやれ!!」

トビウオヤミーに覆い尽くされて殆ど姿が見えなくなったバカ皇子からの救援の声を無視して、銀時はトビウオヤミーたちとの戦いを続けた。












「よし、着いたぞ…、はぁァァァ!? どんだけヤミーが居るんだ、特撮物の怪人は一話に付き一体が基本じゃねえのかよォォォォ!!」
「あら、中々の量ね。 流石は私が生み出す筈のヤミーだわ」
「うわー、どうしよう。 こんなに量のヤミーを相手に出来るのか…ん、あれは旦那方か!?」

途中で拾ったライドベンダーに乗って漸く屋敷に戻った山崎たちの目の前に、卵から孵ったトビウオヤミーが屋敷中に広がっていた。
広い敷地を持つ屋敷内で産まれたおかげで、幸運な事にまだヤミーは外に出てはいないようだがそれも時間の問題のようである。
屋敷に群がる大量のトビウオヤミーを呆然と眺めていた山崎は、ヤミーが集中して群がっている箇所を見付ける。
よくよくヤミーが固まっている場所を見てみると中心で銀時たちが戦っているではないか、銀時たちはヤミーの相手に手一杯になっているらしくこちらの到着にも気付いていないようだ。

「くそっ、こいつらを何とかして助けないと! メズール、メダルを貸せ!!」
「ほらっ、精々ガンバりなさい」


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


「変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。


腰に巻いたオーズドライバーに3枚のメダルを嵌めこみ、例の歌とともに山崎はタトバフォームへと変身を果たす。
そしてそのままヤミーに囲まれている銀時たちを救出するために、エキゾースト音をかき鳴らしながらライドベンダーを走らせていった。





"ブルルルルルルーーーー!!"
「おらぁーーーーーーーー!!」

万事屋一同とハタ皇子たちを囲むトビウオヤミーに向けて山崎の駆るライドベンダーが突っ込み、ヤミーたちはまとめて吹き飛ばされてしまう。
トビウオヤミーたちの物量に押しつぶされ掛けていた銀時たちは、山崎の救援のおかげでどうにか命を救われる事になった。

「大丈夫ですか、旦那方!!」
「山崎さん!! よかった、助かった…」
「おお、やっと来たアル」
「ザキ! 遅いぞ、てめーー!! ヒーローが遅れてくるのはTVの中だけ沢山だ!!」
「うわっ、また変なのが来やがったぞ!?」

銀時たちの無事を確かめた山崎はライドベンダーから降りてトビウオヤミーたちと対峙したが、凄まじい数を誇るトビウオヤミーに対して苦戦してしまう。
正面から襲い掛かるヤミーを殴り飛ばしたと思ったら何時の間にか足に噛み付かれており、それを振り払ったら他のヤミーから上空から突っ込んで来る始末だ。
流石にこの数は手に余ると考えたかのか、山崎は銀時たちの手を借りようとするが…。

「くそっ、このままじゃ手が足りないぞ! 旦那方、ちょっと手伝って…、ええェェェ!?」
「よーし、後は主人公に任せて俺たちは退散するぞ!!」
「じゃあ後はよろしくお願いしますね、山崎さん!」
「ガンバレヨー、ザキ!!」
「何だか解らないが今がチャンスだ、さっさと逃げさせ貰うぜ!!」
「これ、じい!? 余を置いて行くな!!」

薄情な銀時たちはヤミーが山崎に引き付けられている内に、既に安全圏へと脱出を試みていたのだ。
こうして山崎は多数のトビウオヤミーを相手に、哀れにもたった一人で挑む事になる。











「ああ、山崎さんが危ない!?」
「おいおい、大丈夫かー、あいつ?」
「流石にこのままじゃサガルが持たないわね…」

先ほどの位置から少し離れた物陰に避難した万事屋の面々は、倒しても倒しても沸いてくるトビウオヤミーの群れに山崎が劣勢に追い込まれていく様を目撃していた。
ちなみに一緒に逃げてきたハタ皇子とじいは既に屋敷から脱出したらしく、姿が見えなくなっている。
何時の間にか銀時たちと合流していたメズールは、消耗していく山崎の姿に何かを悩んでいるようだ。

「仕方ないわ、こうなったらあれしか手は無いわね…。 サガル、これを使いなさい!!」
「これは…、新しいメダルか! よーーしっ!!」

ヤミーの猛攻に劣勢気味の山崎を見たメズールは何かを決意し、山崎に向かって2枚の緑色のメダルを投げ渡した。
メズールから受け取った2枚のコアメダル、先の戦いでウヴァから奪い取ったらクワガタメダルとカマキリメダルをドライバーに嵌め込む。
最初にセットされていたバッタメダルと合わせて3枚のコアメダル、緑色の昆虫系メダルが山崎の腰に揃う事になった。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"クワガタッ!"、"カマキリッ!"、"バッタッ!!"。

"ガッガッガタキリ、ガッ、ガタキリバッ!!!"


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


メダルの力を解放した山崎は全身から緑色のオーラを放ち、クワガタの角を模した頭部、カマキリの鎌を備える椀部、バッタの跳躍力を発揮する脚部を持つガタキリバフォームへと変身を果たした。
変身を完了したと同時にそのまま叫び声をあげてトビウオヤミーに突っ込んでいく山崎、すると彼の体が二人・四人、八人と増えていく。
最終的に数十人程までに分かれた山崎たちが、それぞれに分かれてヤミーと戦い始めるのだった。










「はァァァァッ!! 山崎さんが分裂したァァァァァァァッッ!?」
「へー、中々の威力ね。 ウヴァのメダルを使ったコンボは」
「おい、メズールさーん!? 一体何なんだよ、あれは!!」

メズールから渡されたメダルを装着した山崎が突然、目の前で数十人に増えていく光景に新八は思わず絶叫の声をあげてしまう。
内心では彼と同じように驚いていた銀時は事情を把握しているらしいメズールに説明を求め、彼女は仕方なく説明を行う事にする。

「同じ色のコアメダルを3枚揃えると凄まじい力を発揮するのよ、今のサガルのようにね。 この力はコンボをと呼ばれるわ」
「おおー、そんな必殺技があったアルか!!」
「ふーん、つまり同色が揃うと大当たりが発生して、今の山崎は確変突入状態って訳な! ったくー、そんな切り札があるならさっさと使っとけよ!!」
「まあコンボは余りに強力だから、サガルの体が耐えられるか解らなかったのよね。 サガル、ちゃんと生きて帰って来れるのかしら?」
「ちょっと待て、そんなヤバイ物を山崎さんに使わせたのかよっ!? それを知りながらよくコンボなんて使ったなー、山崎さん」
「あら、コンボの事ならサガルには伝えていないわよ」
「説明も無しにやらせたのか、お前はァァァァ!?」

実は山崎にコンボの危険性を伝えていなかったメズール、どうりで山崎が何の躊躇いも無しにコンボを行った筈である。






数十人に分かれた山崎たちがトビウオヤミーたちを蹴散らしていき、次々とヤミーがセルメダルへ還っていく。
劣勢の状況に追い込まれたヤミーたちはこのままではやられると考えたのか、生き残りが一箇所に集まっていき一匹の巨大魚を形作った。
巨大トビウオヤミーが大口を開けながら自分に迫ってくるのに対して、それぞれの山崎たちはにオースキャナーを手に取りオーズドライバーに嵌められたメダルへ滑らしていく。


"Scanning Charge!!"、"Scanning Charge!!"、"Scanning Charge!!"、"Scanning Charge!!"、"Scanning Charge!!"…。

「「「「「せいやーーーーーーーーーっ!!!」」」」」


山崎たちが次々にメダルから力を引き出し、巨大トビウオヤミーに向かって一斉に跳び蹴りを放っていった。
巨大トビウオヤミーがこちらに向けて広げられていた口から内部に飛び込み、山崎たちは体内からヤミーに攻撃を加えていきセルメダルへと還していく。
自分の腹の中に入られた巨大トビウオヤミーは何も抵抗ができずに削られていき、最終的に大量のセルメダルを放出して爆散してしまった。






「つ、疲れた…」
「山崎さん!!」
「どうやら生きているようね。 コンボに耐えられる器、以外に拾い物だったかも…」

コンボを使用した事によるダメージとヤミーを倒した事で気が抜けた事が合わさってしまい、元の姿に戻った山崎はその場に倒れ伏してしまう。
見事にコンボを耐え切った山崎の姿に、メズールは満足げに微笑むのだった。










「よぉ、実験とやらは上手くいったようだな? 中々派手にやったじゃねえかよ、アンクさんよー」

とある薄暗い部屋の中に居た人影に向けて、派手な着物を身に纏い片目に包帯を巻き付けている男が話し掛けてきた。

「高杉か…。 ふんっ、あの程度ではまだまだ不足だな。 一応メズールのコアから力を引き出す事は成功したが、コアメダルの本当の力はあんな物じゃない!!」

姿形や背中に生えた巨大な翼が鳥類をイメージさせる赤いグリード、アンクが不満そうに高杉へ返事をした。
どうやら彼にとっては不満な結果だったらしく、その口調から何処と無く苛つきを感じている事が解る。

「ほー、それは楽しみだな。 早く本当のコアメダルの力とやらを見てみたい物だぜ…」
「そう遠くない内に見せてやる、他のグリードたちとオーズが思惑通りに動いているからな。 まあわざわざ俺のコアメダルを使ってまでお膳立てをしたんだ、動いて貰わなければ困るが…」
「くっくっく…、全てはお前さんの掌の上って訳か?」
「ああ、俺が全てを掴むために精一杯踊って貰うさ!!」

アンクが右腕を上げて何かを掴むかのように握り締め、高杉の低い笑い声が部屋内に不気味に響き渡った。




[25341] グラサンと罠と花見
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:89b46bf6
Date: 2011/03/29 00:19

「zzzzzz…。」


ピラニアヤミーとの戦いの最後に倒れた山崎は、銀時たちのはからいで気絶したまま真選組屯所まで運ばれていた。
初めてのコンボによって受けたダメージが余程大きかったらしく、彼は屯所内にある私室に放り込まれてから1日近く眠り続けている。

「てめーは何時まで寝ているんだよ、山崎!!」
「ぐふぁっ!? ふ、副長!!」
「着いて来い、謹慎明けの初任務だ!!」

そんな所に彼の直属の上司である土方が現れ、腹を思いっきり踏みつけられた山崎は無理矢理に覚醒させられる事になった。
土方は彼に仕事を申し付ける腹積りらしく、腹に受けたダメージに呻めいている山崎に対して自分の執務室まで来るように命令する。






「山崎ー、お前は謹慎中に一体何をやってるんだ? ったく、よりにもよって万事屋の連中なんかに助けられやがって…」
「す、すいません!? これには色々と事情が…」
「ああ、事情はもうあいつらから聞いた。 何でも24時間耐久ミントンに挑戦して、志半ばに力尽きたらしいな?」
(24時間耐久ミントンッ!? 言い訳してくれたのは助かったけど、もうちょっとマシな言い訳を頼むよ、旦那っ!!)

自分の執務室へ着いた土方はまず謹慎中に倒れて運ばれてきた件について苦言を呈し、山崎はその件について言い訳を開始しようとする。
しかし既に事情は解っていると話を遮る土方、どうやら屯所まで運んだ際に銀時たちが適当に誤魔化してくれたようだ。
万事屋の話をアッサリと信じている土方の姿を見て彼らの心遣い感謝しつつも、もっとマトモな事を言って欲しかった山崎は内心で突っ込みを入れる。

「副長、それで新しい任務ってのは?」
「うむ、実はな…」

山崎への説教が終わった土方が真剣な表情となり、そろそろ本題である謹慎明けの任務とやらの話が始まるらしい。
真選組の監察方である自分へ与えられる役目だ、恐らく不穏な動きを見せる攘夷浪士たち対して何らかの諜報活動を命じられるのだろう。

「山崎、今からお前にある重要な役目を与える。 これは緊急を要する案件だ、お前にはすぐに動いて貰うからな!」
「!? 一体どのような任務なんですか?」
「まあ焦るな、今から説明してやる。 まずこの任務を遂行するにあたって、必須となるアイテムを渡す」
「こ、これは…?」

今すぐに動く必要があるという事は余程大事な任務を言い渡されるのかと、山崎は自然と緊張感が増していった。
そして土方から任務に必要というアイテムを受け取り、一体どんな物なのかと見てみるが…。

「…あのー、副長。 このゴザのように見える物は一体?」
「それがゴザ以外の何に見えるんだよ。 明日は真選組一同で花見をする事になってな、お前は今からそのゴザで場所取りして来い」
「ええーーーーーっ!?」

任務に必要として渡された物がどう見てもゴザにしか見えず、嫌な予感を感じた山崎は一体これは何なのか恐る恐る確認する。
案の定それは正真正銘のゴザである事が土方の口から判明し、山崎は謹慎明け早々に花見の場所取りへパシられるのであった。











「くっそー、場所取りなんて真選組の仕事は何も関係ねぇじゃねえか!? 副長は何時も俺ばっかりに雑用を押し付けて…」

馬鹿らしいと思いつつも土方の怒りに触れる事を恐れた山崎は結局、人数分のスペースをゴザで確保して徹夜で花見の場所取りを行っていた。
シーズンらしく周りが花見と称して馬鹿騒ぎしている状況の中、土方への愚痴を呟きながら負のオーラを醸し出す山崎の姿はある意味際立っている。

「ああー、何時になったら副長たちが来るのかな? もうじっと待っているの飽きたし、ミントンの素振りでも…」
「あれ、ザキ! お前、こんな所で何してるの?」
「へっ、旦那!? それに他の皆さんもお揃いで…」

真選組の連中が来る気配が無く一人で場所取りをする事に退屈した山崎は、気晴らしにミントンでもやろうかと持ち込んだラケットに手を伸ばそうとしていた。
けれども突然現れた銀時に声を掛けられ山崎はその手を止める、よく見ると彼だけでなく他の万事屋メンバーも一緒に居るようだ。

「うわっ、本当に山崎さんだ!? 体の方は大丈夫ですか、ちゃんと足は着いていますか?」
「おーー、死んでなかったアルか!!」
「ふーん。 どうやらちゃんと生き残ったらしいわね、サガル」
「何その反応!? 俺が生きていたらそんなに不味いのかよォォォ!!」

先日の戦いで試みた死の危険性さえ有るコンボのダメージを心配して、新八たちが山崎の様子を口々に尋ねていった。
しかしコンボの危険性を全く教えられない状態でやらされたので、何故周りそこまで自分の心配をするのか解らない山崎は戸惑いを見せる。

「新ちゃん、この地味そうな方は新ちゃんのお友達なの?」
「姉さんも来たんですか!? …ていうか俺の事を覚えていないのかよォォ!!」
「真選組の山崎さんですよ、姉上。 確か前に会った事があったと思うんですが…」
「あら、この人が山崎さんなの? 御免なさい、本当に見覚えが無くって…」

万事屋の面々と一緒にこの場に来たらしい20前位の着物を着た女性、新八の姉であるお妙が弟と親しそうに話している見かけない男性について尋ねる。
そこで山崎の方も彼女の存在に気付いたのだが、以前に会った事がある筈の自分を覚えていないらしいお妙の発言に思わず声を荒げてしまった。
どうやら日頃から影の薄い山崎の存在を記憶に留めていなかったらしい、彼の地味さは隠密行動を行う上で長所と言えるかもしれないが地味過ぎるのも問題である。





「へー、旦那たちも花見ですか。 奇遇ですね、実は真選組も今日此処で花見をするんですよ」
「何、お前たちも花見やるの? おいー、俺たちの税金で働いているんだから、遊んでないで真面目に働けよなー」
「いやー、そう言われると弱いんですが…、ておいっ!? 俺が徹夜までして手に入れた場所に、なに自然に陣取っているんですか!!」

山崎と同じように花見をするために現れた銀時たちは、彼が昨日からゴザを敷いて確保していた花見場所に勝手に座り込んでしまう。
銀時だけで無く他の面々も花見のために持ってきた飲み物やつまみを置いていき、こうして彼らは山崎の抗議を無視して真選組が使う筈だった場所で宴会を強行するのだった。














「そういえば山崎さん、メズールちゃんをあんなゴミ溜めみたいな場所に住まわせて何を考えているの? 女性をあんな目に合わせちゃって…」
「いや、姉さん!? これには深い事情が…」
「おい、ゴミ溜めみたいな場所ってどういう事だ!?」

結局銀時たちを退ける事を諦めて自棄になった山崎は、後に訪れるであろう土方の折檻を頭から振り切るように彼らと花見を楽しんでいた。
そうして花見が開始してから暫く経った後、何故か山崎はお妙の口からメズールの事について説教を受ける羽目に陥ってしまう。
今日初めてメズールと対面したお妙は弟の新八から彼女が山崎の頼みで万事屋に居候していると聞いており、女性をあんな怪しげな場所に住まわす山崎の神経に少々怒りを感じているようだ。

「あ、姉上!? そういえば僕、お腹が減ったなーーー!!」
「あら、そういえばもうすぐお昼の時間ね。 待っててね、今朝作ってきたお弁当を出すから」

場の空気が悪くなった事を察知した新八の機転により、お妙はお腹を空かせたらしい弟のために弁当を取り出そう荷物を紐解き始めた。
どうにか自分への追求が無くなってホッとした山崎は、気を取り直してお妙の弁当を頂こうと彼女が蓋を外した重箱の中身を覗いて見る。
しかし重箱の中には花見に似つかわしい料理が何も入ってなく、代わりに黒い塊が不気味なオーラを放っているでは無いか。

「ちょっと、サガル!? あの不気味な物は何なのよ!!」
「俺が知るかよォォ!! し、新八くん!? あのダークマターは一体…」
「すいません、姉上が料理すると何時もああなるんですよ…」
「御免なさい、玉子焼きを作ってきたんだけど少し焦がしちゃって。 でも味には影響無いと思うから、皆お腹一杯食べてね」

ただの卵を生物兵器の領域まで進化させられるお妙の渾身の一品、ダークマターを目の前にした山崎たちはそれを一向に箸を付けようしない。
グリードであるメズールにさえ危険性を感じさせるそれを口にする勇気は誰も持っていないらしく、場に硬直した空気が流れた。






「ふんっ、花見とは暢気な物だな」
「お前は…、後藤!?」

一同がダークマターの前に固まっている時、新たにこの場へ現れた一人の男が山崎に声を掛けてきた。
元同僚の突然の登場に驚いている山崎を眼中に入れず、後藤は自分の右腕に持っていた袋をメズールに差し出す。
メズールが受け取った袋には何かが入って膨らんでおり、恐らく中には金属製の物が有るらしくチャリチャリと金属音が響いていた。

「先日に回収したメダルの40%分だ、約束通り確かに渡したぞ」
「ええ、契約通りに頂いたわ」
「何だ、俺たちの取り分を持ってきてくれたのかよ。 悪いな、後藤」
「後、鴻上会長からこれも渡せと言われた。 何でも先日の侘びだそうだ」

実は先の鴻上との交渉でメズールはヤミーから放出したセルメダルの回収も頼んでおり、それで後藤は鴻上の指示で山崎たちが所有権を持つセルメダル四割を運んできてくれたようである。
セルメダルを手渡した後藤はもう片方の手に持っていた箱を山崎に差出してくる、箱の見た目から明らかに会長の手作りケーキが入っている事に気付いた山崎は呆れながらそれを受け取った。

「はー、またケーキかよ!? あのおっさんも好きだなー…、これはっ!?」
「コアメダル!? 何でカザリのコアメダルが此処に!!」

しかし受け取ったケーキを取り出した山崎は仰天をする事になった、何故ならケーキの上にコアメダルが置いてあるではないか。
ケーキ上にあるコアメダルの存在に気付いたメズールもそれに驚き、コアメダルがどうして此処にあるのかと後藤に語気を荒くしながら尋ねた。

「ちょっと、何故貴方がコアメダルを持っているの! もしかして私のコアも持っているんじゃ…」
「知らん、俺は会長に使いに頼まれただけだ。 詳しい話は会長に聞くんだな」
「くっ…、やっぱりあの人間には近い内に話を聞かないとならないわね…」
「それでは俺はこれで失礼する」
「おい、ちょっと待てよ!!」

メズールの追求を自分はあくまで鴻上に指示されたけで何も知らないと言ってかわした後藤は、そのままこの場を立ち去ろうとしていた。
後藤が何故真選組を辞めて鴻上の下についた理由が気に掛かっていた山崎は、詳しい話を聞くために慌てて後藤を止める。

「後藤、お前は何で真選組を辞めたんだ。 それでどうして今は鴻上ファウンデーションで働いている?」
「…俺は世界を救いたかった、ただそれだけだ!! 話はそれだけか、なら俺はもう行くぞ」
「世界を救う!? って、まだ話が…」

鴻上の下で働く理由は世界を救う事であると言い残し、山崎の制止を聞かずに後藤はこの場から離れていった。






「お、旨そうなケーキじゃんか! ふー、ようやくマトモな食い物に有り付けるぜ!!」
「銀ちゃん、私もケーキを食べたいアル!!」
「ぼ、僕も頂きます! 姉上の料理はもう沢山です!!」
「ちょっと、それは私のケーキよ!!」
「あら皆、そんな物で争わなくてもまだ玉子焼きが沢山残っているわよ…」

山崎と後藤がシリアスなシーンを演出している中、お妙のダークマター以外の食べ物に飢えていた銀時たちは我先にと鴻上のケーキに飛びつく。
自分の手料理をガン無視してケーキに群がる銀時たちに、殺意を芽生え始めていたお妙であった。










「仕方ないなー、お前ら! じゃあ俺がお妙さんの料理を全部頂きましょう!!」
「何処から沸いてきた、このストーカーゴリラがァァ!!」
「ぐへっェェェ!?」

自分へ執拗に付きまとう近藤が急に現れたので、お妙はすかさず会心の力を込めてそのゴリラを殴り飛ばす。
どうやら山崎が言っていた通り真選組の面々も花見にやって来たようで、手に酒やら何やらを持った真選組の隊員たちが何時の間にか集まってきたようだ。

「はぁー、何でてめーらが此処に居るんだ!!」
「おー、チンピラ警察のご登場か! 見て解るだろう、皆で楽しく花見をしてるんだよ」
「今すぐ退きやがれ、そこは俺たちの場所だぞ!」
「何で俺たちが退かなきゃならないんだよ、そう言うお前らこそどっか他の場所に行きやがれ!!」
「くっそ…、相変わらず腹立たしい野郎だ!? 山崎の野郎は何しているんだよ、場所取りに行かせた筈だが…」
「山崎ならそこで女とイチャついてますぜ」
「なんだとっ!?」

花見に現れた土方は、山崎が確保している筈の場所で何故か銀時たちが能天気な面で花見をしている事に苛付いていた。
そこは自分たちが花見を行う場所であると土方は食って掛かるも、銀時は動くどころかこちらを挑発するように寝転ぶ始末だ。
彼はとりあえず事情を把握するためにこの場に居るであろう山崎を探し始め、それを発見した沖田の指差す先を見て怒りが頂点に達する事になる。

「えっ、もうケーキがこれだけしか無いのかよォ! 俺にも少し分けろ、メズール!!」
「はぁ、これは私が貰ったケーキよ! 何でサガルに分けないといけないのかしら?」
「それは俺が貰った物でもあるだろうがァァァ! 兎に角俺にも食わせてくれ、昨日から碌な物を食べて無いんで腹減ってるんだよ!!」
「いーやーよ!!」

沖田の指差す先では山崎とメズールが鴻上お手製のケーキを巡って争っていた、どうやら後藤と話している間に大半を銀時たちに食われたらしく殆どケーキが残っていないようだ。
せめて一口位はケーキを食べようと意地を張ってメズールと揉める山崎の姿は、見ようによってはカップルの痴話喧嘩に見えなくも無い。

「山崎ー、てめぇーーーーー!!」
「ひっ、副長!?」

自分の課した任務を放棄して女にうつつを抜かす部下に制裁を加えるため、憤怒の形相で土方は山崎に向かって行く。
それで漸く土方の存在に気付いた山崎は悲鳴をあげて逃げ出すのだが、すぐに捕まってしまい折檻を受ける羽目になった。










「メズール、何処に居るんだ…」

他のグリードたちより一回り大きな図体も見せる重量型のグリード、ガメルが自分たちの根城にしている廃墟で一人嘆いていた。
彼は自分に何時も優しくしてくれたメズールの姿を捜し求めているのだが、彼女はグリードたちを裏切ってオーズに付いたため此処には居ない。
そんなガメルの様子を見ていた猫型のグリード、カザリが何かを思い付いたらしくガメルにある提案を披露する。

「ガメル、君はメズールに会いたいかい?」
「カザリ…。 俺、メズールに会いたい!!」
「なら君のメズールに会いたいと言う欲望をヤミーにするんだ、そのヤミーならきっとメズールを見付けてくれるよ!!」
「わ、解った!!」

己自身の欲望を元にヤミーを生み出す事が出来るガメルはカザリの話を受け入れ、セルメダルを自分の頭に投入してヤミーを造り始める。
目の前で行われている光景の意図が読めなかった昆虫型グリードのウヴァは、カザリに一体何の目的でガメルを唆したか問い質した。

「おい、カザリ! 一体どういうつもりだ、何故ガメルにヤミーを造らせた?」
「簡単な話だよ、ウヴァ。 僕たちに警戒心を持っているメズールも、自分に懐いていたガメルの前には姿を見せるかもしれないでしょう?」
「その時があいつからコアメダルを取り戻すチャンスと言う事か、悪くないな…」

ガメルを囮に利用してメズールからコアメダルを取り返すという、カザリの考え付いた罠にウヴァも乗る事を決める。
二人のグリードが悪巧みをする中で、ガメルはメズールへの欲望を形にしたヤミーを完成させていた。

「メズール、探す!!」
「グァーーーーーーー!!」

牛とよく似た形状を持つバイソンヤミーが、ガメルの欲望を叶えるために江戸の町へ降り立った。















「あれー、もう酔ってるのかよ…ヒック! 足がフラフラしてんぞ、お前!!」
「ヒック! そっちの方こそ、もう顔が真っ赤じゃなェェか! もう限界なんだろー!!」
「副長ー! そろそろ止めといた方がいいですって!!」
「銀さんの方も、もうヤバイですよ!!」

あれから万事屋の面々と真選組が鉢合わせになった事で一時は乱闘寸前にまで陥ったものの、結局何だかんだで場が収まり合同で花見を行う流れになっていた。
そんな中で普段から犬猿の仲と言える銀時と土方が飲み比べを始めてしまい、ベロベロになった二人を常識人枠の山崎と新八が止めに掛かる。

「あー、山崎! お前は俺が酔っ払っていると思ってるな!! ヒック、そこの銀髪野郎と一緒にするな、俺はまだまだ平気だぜ…」
「そうだぞ、新八! このマヨラーは別として、俺はまだまだ正気だぜ…ヒック!!」
「いや、僕はこっちに居ますよ!? ていうか桜に向かって話し掛けている状態じゃあ、何の説得力も無いわァァ!!」

山崎たちの説得は一切の常識が通用しない酔っ払いには功を奏さず、逆に自分は酔ってないの一点張りを押し通してくる。
しかし目の前で明らかに泥酔する二人を放っとく訳にはいかないため、山崎はある強行手段に打って出た。

「ああー、もう仕方ないな…。 メズール、悪いけどこの二人に水をぶっかけてくれ」
「面倒臭いわね…」
「「ぐふぁっ!?」」
「メズールちゃんが手から何か出したァァァ!?」

山崎は近くに居たメズールに頼み、彼女のグリードとしての特殊能力である水を操る力を駆使して酔っ払いに水を浴びせて貰う。
メズールの手から放たれる強烈な水流をまともに受けて吹き飛ぶ銀時と土方、そして彼女の特殊能力を初めて見るらしい新八は驚きの声をあげた。






「うわっ、副長たちが!? おいーー、もうちょっと手加減しろォォ!!」
「あら、ちゃんと手は抜いたわよ? 死んではいない筈だから」

酔っ払いの目を覚まさせる程度に軽く水を掛けて欲しいと頼んだつもりが、こちらの意思に反して副長たちに凄まじい勢いで吹き飛ばされる光景に山崎は唖然としてしまう。
彼はすぐさまメズールに抗議をするものの、しかし彼女からちゃんと殺さない程度には力を抜いたと悪びれなく返されてしまった。

「や、山崎さん!? 今のメズールちゃんのあれは一体…」
「メズールっ! 何しやがるんだ、てめェェ!!」
「おい、そこのガキ!? 俺をあんな前に合わせるとはいい度胸じゃねぇかァァ!!」
「はー、うるわいわね…」

目の前でメズールの人間離れした技に驚きを隠せない新八、まあ彼女は元々人間では無いのだが…。
兎に角何があったか知るために新八は山崎に事情を尋ねようとするが、先ほど吹き飛ばされた銀時と土方が怒りの表情で戻ってきた事により止められてしまう。
どうやらメズールの一撃によってすっかり酔いが覚めたらしい二人は、事の張本人である彼女へと食って掛かるのだった。

「…ん!? よく見たらそいつは前に総悟へカメハメ波を喰らわした記憶喪失のガキじゃねえか? おい山崎ィィ、どうしてこのガキが万事屋なんかと一緒に居やがる!!」
「へ、記憶喪失って何だよ?」
「ふ、副長!? これには色々と深ーい事情が有りまして…」
(ヤベッ、そういえば副長たちは一度メズールに会ってたじゃんか!?)

その内に己が受けた高圧水流の衝撃と過去の記憶が一致した土方は、漸くメズールと以前に出会っていた事を思い出した。
土方の発言により山崎の方も、メズールの事を自分が助けた記憶喪失(仮)の少女として誤魔化していた過去に気付いて焦ってしまう。
記憶喪失だった筈のメズールがよりにもよって万事屋に混じって花見に来ている理由を、土方にどう説明すればいいか山崎は必死に頭を回転させる羽目になった。

「あのー、山崎さん。 記憶喪失って言うのは一体?」
「いやー、前に副長にメズールの事を説明しなけりゃならない状況があってさ。 グリードとかの事はあいつに口止めされてたんで、適当に記憶喪失って設定にしたんだよね…」
「ザキー、お前それは不味いよー。 そうやって思い付きだけで設定を増やしていくと、後で収集が付かなくなるのは基本中の基本だろうがー」
「そりゃ無いですよ、旦那!? 俺だってこんな展開になるとは予想もしてなかったんですから…」

記憶喪失という言葉に疑問を持った新八に対して山崎は、土方に話が漏れないように小声でメズールを記憶喪失と誤魔化していた事情を明かす。
その話を横で聞いていた銀時から山崎は考え無しの行動を咎められてしまい、まさかメズールを銀時たちに預ける事になるとは夢にも思わなかったと愚痴を零すのだった。

「山崎ィィィ、何そいつらとヒソヒソ密談してるんだァァァ!! いいからさっさと事情を説明しやがれェェ!!」
「ひっ、すいません!?」
「まあまあ落ち着けよ、チンピラ警察24時」
「だーれがチンピラ警察だァァァ!!」

考えがまとまらない状態のまま土方の追求を受けてしまい、山崎は驚き竦んでしまう。
しかしピンチに陥った所に助け舟を出してくれたらしく、何やら名案がある風に自信たっぷりの表情で銀時は山崎の代わりに土方へ説明を始めた。

「いや実はなー、このメズールってガキは俺の親戚なんだよ。 だから一緒に居ても全然変じゃ無いだろ?」
「お前の親戚だー? くだらねえ嘘をつくんじゃねえ、お前とあのガキじゃ全然似てないだろうが…」
「まあ親戚って言っても遠い縁でさー、あいつは俺の親父の弟の嫁さんの従姉妹の叔父の祖父のはとこの孫の姪の娘なんだ」
「遠すぎだろォォォ!? ていうかそこまで行ったらもう赤の他人だっつーの!!」

山崎に向かって思い付きで設定を加えるなと説教した癖に、舌の根も乾かない内に銀時はメズールへ適当に新しい設定を付与してしまう。
そんな銀時のふてぶてしさに呆れつつも、土方を煙に巻くチャンスと認識した山崎は即座にフォローを試みた。

「そうなんですよ、副長! あれから色々有ってメズールと旦那が遠縁だって事が解りましてね、それで今は旦那の所に一緒に住んでいる感じで…」
「こいつとあのガキが親戚ね…。 本当に本当なんだろうな?」
「あれー、まだ疑っているのかよ? やっぱり警察って連中はいい加減シツコイねー、だから俺はメズールの母親の兄貴の娘のはとこの旦那の叔父の従兄弟の甥だって言ってるだろうが!!」
「さっきと言っている事が違うじゃねえかァァァ!?」

補足説明を受けてもなお半信半疑の様子で再度確認を求めてくる土方だったが、最終的に銀時の口八丁によって誤魔化されてしまうのだった。









「ふー、どうにか副長を誤魔化せてよかった…」

あれから土方の追求をのらりくらりかわしていた銀時だったが次第に場の空気が険悪になっていき、とうとう二人による取っ組み合いの喧嘩にまで発展していた。
そこで桜舞い散る中で派手に暴れ始めた二人の仲裁を新八に押し付けて、その場からさっさと避難した山崎は漸く人心地付く事になる。

「あら、サガルじゃない! もう話は終わったのかしら?」
「メズール、何時の間にこんな所に!? まさか俺に説明を押し付けて逃げやがったなァァ!!」

少し離れた場所から喧嘩に巻き込まれたらしい新八の悲鳴が聞こえてくるのをスルーしつつ、花見に賑わう風景を何となく見回していた山崎は近くに居たらしいメズールから声を掛けられた。
どうやらメズールは面倒な話は御免と、土方に問い詰められる山崎を見捨てて一人抜け出していたらしい。
そういえば土方と話している最中に彼女が居なくなっていた事を思い出し、山崎はその要領の良さに脱力してしまうのだった。

「はー、そういえばこんな所で何やっているんだよ?」
「ふっ、少しこの花見とやらの様子を眺めていたのよ。 欲望を剥き出しにしてはしゃぐ人間の姿が滑稽でね…」
「お前はそういう否定的な考えしか持てないのかァァ!?」

思うままに酒を煽り、食べ物を貪り、力の限り騒いでいる人間たち、まさに欲望に忠実に動いているその光景にメズールは何か思う事があったらしい。
しかしメズールの人間をネガティブに捉えた考え方に納得のいかない山崎は、人を代表して異を唱えるのだった。

「まあ気の合う仲間と飲み食いしたら、人間なんて自然とああなる物だって。 そう言うお前もグリードの仲間と騒いだ事とか無いのかよ?」
「グリードは欲望の化身よ、変に仲間意識を持って気でも許していたら何時こちらが喰われるか解った物じゃないわ。 確かにグリード同士でそういう関係が無いわけじゃないけど、それはあくまで対等に近い力関係の時にしか成立しないものね…」
「殺伐としてるなー、お前たちって…。 あのウヴァとかを見たら解らなくは無いけどさー、グリードは皆あいつら見たいな奴らなのか?」

真の意味での仲間などは存在しないと断言するメズールの言葉に、グリードたちのシビアな関係を垣間見て山崎は少し引いてしまう。
しかしメズールが言うように前に自分が出会ったグリードのウヴァなどは、己のコアメダルを奪い返すために問答無用で襲い掛かってきていた。
他のグリードたちも同じような行動原理の持ち主であった場合、メズール以外の全てのグリードと争う状況になってしまうだろう。
一縷の望みを掛けて山崎は自分の知らないグリードについての情報を伺うが、そこでメズールから意外な返事が返ってくる事になった。

「そうね……、ガメルだけなら仲間と言ってもいいかもしれないわ」
「ん、ガメル? 俺がまだ会った事無いグリードだよな?」
「ガメルは私に懐いていてね、あの子ならもしかしたら私に協力してくれるかも…」
「お、それはいいじゃんか! そのガメルって奴を俺たち側に連れて来れようぜ、メズール!!」

仲間になる可能性があるグリードが居るという情報は、四面楚歌を覚悟していた山崎に嬉しい驚きを与えたようだ。
早速メズールとそのガメルと言うグリードと接触する手立てを考えようとするが、何処から発せられた悲鳴に気付いて意識をそちらに向けてしまう。

「きゃぁーーーーーー!?」
「悲鳴!? この近くから聞こえたぞ!!」
「ヤミーの気配! これは…、ガメルのヤミー!?」

なんとすぐ山崎たちのすぐ近くで、先ほど名前があがったガメルのヤミーが現れたらしい。
即座に山崎とメズールはその場を駆け出し、悲鳴が聞こえてきた方へ向かうのだった。










「ウガァァァァ!!」
「化物が出たぞ、逃げろーー!?」
「誰か助けてーーー!!」

牛に似た形状を持つバイソンヤミーが忽然と現れてしまい、花見会場は阿鼻叫喚の坩堝になっていた。
しかし騒ぎの元凶であるヤミーには特にアクションが無く、何か探し物があるかのように辺りをキョロキョロと見回している。
そんな中でヤミーと逃げ惑う人々が目に入る所までに辿り着いた山崎は、すぐさまヤミーを止めようとメズールにメダルを要求した。

「やっぱりヤミーだ!? メズール、早くメダルを…」
「ちょっと待ちなさい、あのヤミーの動きがおかしいわ…」

ヤミーの動きに不審を持ったメズールに止められてしまい、山崎は渋々と桜の陰に隠れるようしながら様子を伺う事にする。
その間にも何も行動を起こさず辺りを見回していたバイソンヤミーだが、突然キョロキョロとさせていた視点を一点に定めて駆け出した。

「ウガ、ウガ……、ウガァ!!」
「嫌、来ないでーーーーー!?」

視線の先に居た20歳前くらいの女性に向かって突進を試みたヤミーは、見事にターゲットを確保する事に成功した。
異形の化物に近づかれる恐怖から一歩も動けなかった女性を強靭な腕で掴まえたヤミーは、何故か彼女の顔を持ち上げて覗き込む。

「ウガ……、ウガッ!!」
「キャッ!?」

そのまま女性を少しの間ジッと見ていたヤミーはやがて興味を失ったかのように女性を放し、また別の女性に目掛けて突進するという行為を繰り返すのだった。
ヤミーを近くで観察していた山崎はその行動を不審に思い、横に同じようにヤミーを伺いながら何かを考えているらしいメズールに疑問をぶつける。

「…さっきから見ていると女性ばかり捕まえている感じだが、あの牛っぽいヤミーは誰かを探しているのか?」
(ガメルは自分の欲望を利用してヤミーを産み出すわ。 あのヤミーの行動はガメルの願いをダイレクトに受けている筈、あの子が何かを探しているというならそれは…)
「…多分あのヤミーの狙いは私のようね」
「おい、メズール!? それってどういう…」

メズールはガメル製ヤミーの習性からあのヤミーは自分を探すために、自分と同じような見た目の女性を次々に調べていると推測する。
ガメルにこの人間に偽装した己の姿を見せた事は無いので、恐らくウヴァかカザリ辺りに自分の情報を教えて貰ったのだろう。
その推測を横で聞いて驚きを見せた山崎に、メズールはあのヤミーの狙いについて説明するのだった。





「…つまりあの牛頭はお前を見つけるためにガメルが作ったんだな、じゃあ話は簡単じゃないか! あいつにガメルの所まで案内して貰って、ガメルに俺たちの仲間になってくれるよう説得しようぜ!!」
「……」
「…メズール? どうしたんだ、ガメルってグリードに会うのはまずいのか?」

あのヤミーの目的がメズールである事を知り、丁度こちらからガメルと接触したいと考えていた山崎は思わぬ幸運であると喜んでいた。
彼はこのままヤミーにメズールを探し続けられていても周囲に迷惑が掛かるため、さっさとこちらから出向いてガメルの所に連れて行って貰おうと提案する。
しかし浮かれる自分とは対称に真剣な表情で悩んでいる様子のメズールに、山崎はガメルに会う事に問題が有るのかと尋るのだった。

「…ガメルの頭では私を見付けるためにヤミーを産み出すなんて発想は絶対出てこないわ、あのヤミーは他のグリード連中の入れ知恵の筈よ。 でもあいつらが、私たちが得になるような知恵をガメルに吹き込む訳無いから…」
「じゃ、じゃあ、あのヤミーは一体!?」
「兎に角、何も考えずあのヤミーに付いて行く訳にはいかないわね…」

ヤミーについて不審な点を見付けたメズールは万が一の可能性を考え、まだ己の姿を晒す段階を避けたいらしい。
だが幸運な事に怪我人はまだ出ていないようだが、現在進行形でメズールを探すために女性を襲い続けているヤミーを放っておく訳にはいかないだろう。
そうして飛び出したい気持ちを抑えながら山崎はヤミーの様子を伺い続けていると、場に新たな闖入者が現れた事で状況が一変してしまった。






「待てい、そこの牛野郎! これ以上の狼藉は真選組が許さんぞ!!」
「ウガァ?」
(き、局長!?)

バイソンヤミーによって引き起こされた騒ぎに、近くで派手に宴会をしていた真選組の耳にも入ったらしい。
局長を筆頭に真選組の面々は、市民を守るという己の使命を果たすためにバイソンヤミーへと対峙した。












「ウガァーーーーーーー!!」
「局長ーーーー、桜の木がこっちに飛んできましたァァァ!? この牛野郎に環境破壊の罪状追加ですね!!」
「言ってる場合かよォォ、総員退避ィィィ!?」

バイソンヤミーの前に颯爽と現れた真選組の面々だったが、ヤミーの持つ重量系の能力に翻弄されてしまう。
ヤミーが両腕を叩き付けるたびに、周辺の生えていた桜や花見客のゴミがその場から浮かび上がって真選組の方に飛んでいく。
どうにか障害を切り抜けた真選組の局員がバイソンヤミーに肉薄し、腰に帯びた刀で斬りかかってみても…。

"キィン!!"
「なっ、刀が弾かれた!?」
「ウゴァァァ!!」
「ぐはぁ!?」

幾多の攘夷志士を屠ってきた真選組の刀は、バイソンヤミーが属する重量系特有の硬い皮膚に難なく防がれてしまう。
そしてこれまた重量系の凄まじいパワーによって振るわれる打撃を受けた局員は、苦痛の声を漏らしながらあえなく吹き飛ばされるのだった。





「おい、メズール!? このままじゃ局長がまずい、早くメダルを出せ!!」
「…仕方ないわね、ガメルには悪いけどあのヤミーを倒させて貰うわ」

自分の同僚がヤミーに蹂躙される光景を見てられず、山崎はオーズへ変身するためにメダルを要求する。
山崎に後押しされたメズールは他のグリードの影が気になっていた事も有り、最終的にあのヤミーを通じてガメルと再会する事を諦めたようだ。
バイソンヤミーから自分の居場所が他のグリードたちに漏れないように、メズールは山崎にメダルを手渡す。

「? 何処に行くのよ、変身するんじゃないの?」
「此処で変身したら真選組の皆にバレるかもしれないだろう、ちょっと他の場所でコッソリと変身してくる…」

一応は隠れているものの山崎たちは真選組のすぐ近くに潜んでいる、オーズに変身する時には歌や光やらが出る事だし用心に越したことは無いだろう。
しかし変身ヒーローが周りから正体を隠すためにコソコソと変身するシーンは多々見られるが、まさか自分がやる羽目になるとは夢にも思わなかったと山崎は内心でひとりごちた。





「あ、メズールが居たアル!!」
「メズールちゃん、こんな所で何しているの!? あ、あれってやっぱりヤミーって奴だよね、早く何とかしないと!!」
「おーーい、あの地味な変身ヒーローは何処行ったんだよォォ!! まさか逃げたんじゃ…」
「うるさいわねー、サガルならもう少ししたら来るわよ!!」

以前の経験から真選組と立ち回っている牛頭の化け物は例のヤミーであると感付いた万事屋たちは、この状況を打破するであろう地味な青年と人外の少女を探してたらしい。
丁度山崎が変身するためにその場を立ち去った辺りでメズールを発見し、自分へと駆け寄ってきた銀時たちから口角泡を飛ばされてメズールは苛付いてしまう
彼らの問いに山崎はその内来るとぞんざいに語るメズール、その台詞にタイミングを計ったかのようにエキゾード音が花見会場に届けられた。










"ブルルルルルルーーーー!!"
「おりゃぁぁぁぁ!!」
「ウガァ!?」

密かにオーズへと変身を果たした山崎は近くに設置されていた自販機形態のライドベンダーを見付け、これ幸いにとバイクモードへ変形させてヤミーの所へ戻るのに使用していた。
猛スピードで自分へ突っ込んでくるライドベンダーへの対応に遅れたバイソンヤミーは、あえなくその運動エネルギーをまともに受けてしまう。

「はァァァ!? 今度は変身ヒーローっぽいのが来ましよ、局長!!」
「おい、あんたは一体…」
「き…、皆さん、早く逃げてください! こいつは俺が引き受けます!!」

よろめくバイソンヤミーへタカ・トラ・バッタのタトバフォームで対峙する山崎、その姿に周囲の真選組はそれぞれに驚きの様相を見せていた。
局員の戸惑いを代表して近藤勲が謎の闖入者の正体を尋ねた声に、咄嗟に局長と返しそうになった山崎はどうにか誤魔化して此処は自分に任せろと言い放つ。
真選組の反応から自分の正体はバレていない気配を感じて安心しつつ、山崎は真選組の目の前でヤミーとの戦闘を開始するのだった。





「…あれが例の仮面のヒーローって奴ですかい?」
「多分な…。 しかしまさかあの噂が本当だったとは、最近出没する怪物と戦う仮面のヒーローが居るって話は聞いていたが…」

自分たちの前で怪物と戦う赤・黄・緑という派手はカラーリングの男について、真選組の沖田と土方は心当たりが有るように話している。
少し前から正体不明の怪物が町で暴れているという目撃情報とともに、実際に美術館やビルが崩壊したという事件が頻繁に発生するようになっていた。
そのため江戸の町を守護する真選組としてはこの暴挙を看過する事は出来ずに謎の怪物とやら、恐らく何処ぞの天人であると推測しているそれについて捜査をしていたらしい。
しかし怪物について調査を進める内に彼らはある噂を耳にするようになる、その怪物と戦う仮面のヒーローが存在すると…。

「何者なんだ、あの仮面の兄ちゃんは? 山崎に辺りに調べさせるべきか…、ていうかあのアホは何処に行ったァァァァ!!」
「トイレにでも行っているですぜい、多分」

仮面のヒーローなんて者が居る筈無いと鼻から信じていなかった土方だったが、実際に目の前でそのヒーローを見たのなれば話は変わる。
とりあえず先日より謹慎が明けた真選組監査の山崎に調査を命じようかと考えるが、そこでその張本人が少し前から姿を消している事に気付いて怒りを露にした。











「おらぁーー!! …くっ、硬えぞこいつ!?」
「ウガァーーーー!!」
「うわっ、酒瓶が飛んできやがった!!」

両腕に備わるトラの爪でバイソンヤミーに斬りかかった山崎だったが、ヤミーの強靭な皮膚に簡単に弾かれてしまう。
ヤミーはお返しにと両腕を地面に叩きつけて、周囲に放置されていた酒の空き瓶が山崎目掛けて飛んできた。

「くそっ、手当たり次第にぶつけてきやがって…」
「ウゴォォォ!!」
「ぐへェ!? …なんて馬鹿力なんだよ、この牛野郎め!!」

バイソンヤミーが花見客の持ち込んだ酒瓶や残飯、終いにはカラオケ機器なんかもが空中に浮かびあがって山崎のほうに向かってくる。
次々の襲ってくるそれへの対応に手一杯になってしまった山崎は、バイソンヤミーがこちらから殴り掛かってくるのに気付けない。
ヤミーの攻撃を咄嗟に防御する事は出来たものの、ガードごとこちらを潰されそうな程の凄まじい力を受けて少なからずダメージを受けてしまった。





「メズールちゃん、このままじゃ山崎さんが危ないよ!?」
「あのトラの爪が全然役に立ってないアルねー。 あの爪が活躍した所ってあったアルか?」
「やっぱり初めからカマキリの腕にしといた方が良かったんだよ、要らない爪なんか付けないでさー」
「このままじゃまずいわね…」

戦いを近くで見守っていた万事屋の面々が口々に心配の声をあげる、まあ正確に言えば山崎を心配しているのは新八だけのようだが。
銀時と神楽との間でトラ不要論が勃発する中、このままでは山崎がやられてしまうと判断して新たなコアメダルを渡そうと前に出ようとする。

「あ、待ってメズールちゃん!? ここで山崎さんにメダルを渡したらまずいよ!!」
「はぁ、何がまずいのよ?」
「山崎さんは真選組の人たちに正体がバレる訳にはいかないんでしょう? ここでメズールちゃんが出て行ったら山崎さんの事が…」

しかし山崎の所へ向かおうとしたメズールは新八に止められてしまう、この場で自分が出て行くのはまずいと言われて。
山崎は真選組の面々に自分がオーズであると知られると、天人のお偉方によってモルモットにされるかもしれないという死亡フラグを持っている。
真選組にメズールと山崎が繋がっている事が知られているので、ここで自分が真選組の前でオーズの助けをしたら山崎の正体がバレるかもしれないと新八は心配したようだ。

「くっ、めんどうね…」
「メズールちゃんの正体を真選組の人たちから隠せればいいんですけど…」
「ちんたら悩んでる暇はないぞ、新八? 早く何かしないとやられそうだぜ、あいつ…」

山崎の正体を隠すためにはメズールの存在も知られてはならいいのだが、どうやって彼女の正体を隠すか新八は考える。
けれでも銀時が急かすように悠長に時間を使っていたら、山崎がバイソンヤミーに倒されてしまう可能性が高いだろう。
こうして打開策が見つからず悪戯に時間が過ぎていかに思えたが…





"ガサガサ…。"
「何だかうるせーなー、もう朝か?」
「長谷川さん!? なんでこんな所に居るんですか!!」
「おー、新八くん! いやーまた職を失ってさー、それで昨日は自棄酒を飲んでたんだけど途中から記憶が無くて…」
「誰よ、この小汚いおっさんは?」
「こいつはまるでだめなおやじ、略してマダオって言うネ」

突然、彼らのすぐ近くの植木辺りからグラサンを掛け一人の中年が起き上がる。
その男が銀時たちの知り合いである長谷川泰三と解り、新八は驚きの声を発した。
どうやらこのマダオは昨晩に泥酔をしてしまい、今の今まで花見会場の敷地内で眠っていたようだ。

「なんか騒がしいなー、イベントか何でもやっているのか?」
「はーい、この駄目なおっさんの事は無視して山崎くんを助ける方法を考えましょうー!!」
「そうですね、早くしないと山崎さんが死んでしまいそうですし…」
「おいおい、冷たいなー。 お、ヒーローショーをやってたのか、凄い迫力じゃんか!!」

長谷川の登場に初めは驚いた銀時だったが、こんなマダオに付き合っている暇は無いとそうそうに判断する。
そんな彼らの反応に異論を唱えつつ、山崎とヤミーとの戦いに気付いてイベントのヒーローショーだと評する暢気な長谷川であった。

「……あ、いい考えを思いついたアル!!」
「ほ、本当、神楽ちゃん?」
「大丈夫かよー、お前のいい考えに碌な思い出が無いんだけど…」

先ほどから何故か長谷川の顔をじっと見ていた神楽が、今の状況を打開するいい考えを思い付いたと言う。
神楽の奇抜な発想で酷い目にあった経験が多々ある銀時たちだったが、仕方なく彼女の案に耳を傾けるのだった。










「オーズ、これを使いなさい!!」
(この声はメズール、新しいコアメダルを渡してくれるのか! 助か…いや、ここであいつが出てきたら俺の正体がバレちゃうんじゃ…)

ヤミーの猛攻に圧されていた山崎はメズールの声を耳にして、起死回生のチャンスであると一瞬喜ぶ。
しかし彼も新八と同じ懸念に思い至り、このままメズールからサポートを受けたら自分の秘密が真選組に辿られてしまうのかと不安を感じた。

(いや、きっと旦那たちも同じ事を考えたに違いない! その上で自分の所に出したのなら、メズールに変装か何か施しているのかも…)

「…て、グラサン掛けただけかよォォォォォォォォォ!?」
「ほら、これでさっさとそいつを倒すのよ!!」

神楽の案によって施された変装、長谷川のグラサンを装着したメズールが山崎にコアメダルを投げ渡す。
まさかグラサンだけとは思わなかった山崎は力の限り突っ込みの声を叫びながら、メズールからコアメダルを受け取った。





(大丈夫かよ、幾らなんでもグラサンを掛けたぐらいで副長たちが誤魔化せる訳…)

「何かまた新しい子が出てきたぞ、総悟! へー、今度は可愛い子が来たもんだなー!!」
「そうですかい? 初めて見る面の女ですが、何か気に入らない感じですぜい…」
「…あのグラサンの女、何処かで見たような? あ、前にTVのニュースでインタビューされてた女に似ているのか!!」

(誤魔化せるのかよォォォォォォォ!? あんたらは本当に警察官なのかァァァァァァ!!)

山崎がヤミーと戦い始めた事でスッカリ観戦ムードとなっていた真選組の反応が気になる山崎は、コッソリと副長たちの方を伺った
グラサン一つで真選組の目を誤魔化せるか心配だったのだが、どうやら本当にメズールの正体が誤魔化されてしまったようである。
バレなかった事にホッとしつつも、自分の上司たちの単純さに心の中で思いっきり突っ込みを入れる山崎であった。





「と、とにかく目の前のこいつを倒すのが先決だ!!」

メズールから渡されたコアメダル、後藤から受け取ったライオンのコアメダルを装着してオースキャナーを滑らす。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"ライオンッ!"、"トラッ!"、"バッタッ!!"。


メダルをチェンジした事により山崎は、タカのそれからライオンの意匠が施された頭部へと変身を果たした。
そうして変身を果たしたととも、ライオンの形をした頭部が激しい光が放出される。

"キュィーーーーーン!!"
「ゴ、ゴァ…!?」
「!? あいつが怯んでいる、チャンスだ!!」

ライオンのコアメダル固有の能力である激しい目晦ましを直視してしまい、バイソンヤミーは視力を一時的に失ってしまいうろたえる。
その様子を好機と捉えた山崎はヤミーに逆転の一撃を加えるため、すぐさまメダジャリバーを取り出してセルメダルを投入した。
大剣の形をしたメダジャリバーの腹部分に先ほどの3枚のメダルが入るのを確認した山崎は、オースキャナーを滑らしてメダルの力を解放する。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Triple!"、"Scanning Charge!!"。


「はぁーーーーっ! せいやぁーーーーーーーー!!」
「ウゴァァァァァ!?」

開放された3枚のセルメダルによる力が斬撃の形になって開放され、空間を断裂される程の一撃がバイソンヤミーへと振り下ろさせる。
その凄まじい一撃にバイソンヤミーは耐え切れず爆散して、自分の体内に残っていたせるメダルを放出した。





「へっ、セルメダルがたった一枚!?」
「このタイプのヤミーは殆ど稼ぎにならないのよ!? それなのにセルメダルを無駄に使って、赤字もいい所じゃない!!」

ガメル自身の欲望から産み出されるヤミーは、欲望の満たす事で還元したセルメダルが自動的にガメルへ送られてしまう。
そのためガメル製のヤミーを倒しても、セルメダルが極僅かしか手に入れられないのだ。

「まあ前に稼いだからいいじゃんか、それよりさっさとこの場を離れるぞ!」
「ちっ、解ったわよ…」
「待ちやがれ、そこの仮面野郎!!」

憤るメズールを抑えて山崎は真選組の前から立ち去ろうと、来る時に乗っていたライドベンダーの後ろにメズールを乗せる。
そのままライドベンダーを走らせようとする山崎だったが、土方の制止を受けてしまった。

「何者なんだ、貴様? あの怪物とはどういう関係だ!!」
「お、俺は…、オーズです! あのヤミーとは色々あって…、とにかく今日はこれで失礼します!!」
「おい、ちょっと待てェェェ!?」

やはり土方は目の前で謎の怪物と派手に立ち回った自分を見逃す筈も無く、自分の正体や怪物の関係について口々に尋ねてくる。
しかしここで話していてはボロが出るかもしれないと考え、山崎は土方の問いを半ば無視してその場を立ち去るのだった。










「そんな、俺のヤミーが…。 メズールーーーーー!?」
「ちっ、ヤミーはオーズに倒されたようだな…」
「やっぱり厄介かもね、オーズの力は…」

メズールを見付ける筈のバイソンヤミーが倒された気配を感じて、ガメルは思わぬ事態に嘆きの声をあげる。
その声でウヴァとカザリは自分たちの策略、ガメルのヤミーを利用してメズールを誘き出すのに失敗した事を悟った。
そうして二体のグリードは、やはり自分たちのコアメダルを取り戻すにはオーズの存在が邪魔であると結論付ける。

「メズール、どうして…。……オーズ、俺が倒すゥゥゥ!!」

横でウヴァたちの話を聞いていたガメルは、オーズが自分とメズールの邪魔をしていると認識する。
こうしてガメルはメズール取り戻すため、障害となるオーズへの憎しみを滾らせた…。



[25341] 下着泥と研究と灼熱コンボ
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:89b46bf6
Date: 2011/08/10 20:38
「いいか、テメー等! あのクソ野郎が現れたら、生かして返すんじゃねぇぞ!!」

万事屋のツッコミ役である新八と、その姉の妙の実家である剣術道場・恒道館。
道場のとある一室でお妙が手に薙刀を携えながら、怒り心頭の様子で檄を飛ばしていた。

「おい、新八くーん、何この状況? いきなり呼び出された上に、どうして僕たちは物騒な演説を聞かされるんでしょうか?」
「すいません、銀さん…。 実は昨晩に庭で干していた姉上の下着が盗まれまして、それで姉上は下着を盗んだ犯人を捕まえようと躍起になっているんです」
「なにー、姉御の下着が盗まれたアルか! 女の魂とも言える下着を盗むとは許せないネ!!」
「ふっ、やっぱり人間は愚かねぇ、こんな事にまで欲望を滾らせて…」

何も事情を聞かされないままお妙から呼び出された万事屋の一同は、新八の口から漸く事情を把握する。
どうやらお妙の下着を盗んだ下着泥棒を確保するために、彼らは強制的に召集されたようだ。

「えっ、このお姉さんの下着を盗む奇特な方が居たの? はー、どうせあのストーカーゴリラ辺りが犯人だろー」
「ちょっと待って下さいよ、旦那! 幾ら家のゴリラがストーカーの常習犯だからって、流石に法を侵すほどバカじゃ無いです!!」
「あのー、ストーカーしてる時点で法を侵しているのでは…。 それでどうして此処に居るんですか、山崎さん?」
「いやー、何かメズールに呼び出されて…」

普段からお妙をストーカーしている近藤勲を怪しむ銀時に、メズールによって屯所から連れ出された山崎は真選組の名誉を掛けて自分の上司を擁護するのだった。






「あ、姉さん! その下着泥棒って言うのは多分、巷を騒がせているふんどし仮面って奴ですよ!!」
「へっ、ふんどし仮面!? その変体チックな響きの人物は一体?」
「なんでもふんどしを覆面にブリーフ一丁で江戸の町を駆け回っているコソ泥で、盗んだ下着をモテナイ男に配り歩いているらしいです」
「なんですかそれ…、ネズミ小僧のパンツ版?」

仕事柄から件の下着泥棒について心当たりがあった山崎は、上司の無実の罪を晴らすために銀時たちにその情報を公開する。
彼の口から語られるふんどし仮面なる愉快犯の説明に、万事屋一同は呆れ返った様子だ。

「今真選組でもふんどし仮面を追ってはいるんですが、中々情報が集まらなくって。 どうも下着を送られたモテナイ男たちから変に人気が有るみたいで、捜査に非協力的な人が多いんですよ…」
「ほー、じゃあこのパンツはサンタクロースの贈り物じゃ無かったんだ…」
「この季節にサンタクロースなんて出るわけ無いだろォォォォォ、ていうかあんたも貰ってたんかぃ!? モテナイ男に認定されちゃってますよ、銀さん!!」

山崎の話を聞いた銀時がポケットが何やら女性物の下着を取り出す、どうやら彼はふんどし仮面から既にプレゼントを贈られていたらしい。
4ヶ月ほど遅いサンタクロースの贈り物と嘯く銀時に、新八はふんどし仮面からモテナイ男と認定された事実を突きつけた。





「あ、旦那もふんどし仮面から下着も送られたんですね!」
「あんだよ、"も"って付けてる事はお前もモテナイ男って認定されて下着を貰ったアルか?」
「い、いや、俺じゃ無いよ!? 実は家の副長がふんどし仮面から下着を送られちゃってさー、もう怒りのオーラを全身に漲らしていてね…」
「ぶっはっはっはっは!! なに、あのクールな二枚目の土方くんが下着をプレゼントされちゃったの、マジ受けるんですけどーー!!」
「やべっ、口が滑った!? だ、旦那、俺がこの話をしたって事は副長に内緒でお願いしますよ!!」

迂闊な発言から自分もモテナイ男の仲間入りしそうになった山崎は、思わずもっとも伝えてはならない人物に上司の秘密を暴露してしまう。
あの普段から斜に構えている土方がふんどし仮面から下着を送られる図を想像して、文字通り腹を抱えて笑いこける銀時。
自分のミスに気付いた山崎は、銀時に慌てて口止めを願うもあまり効果は期待出来なさそうである。






「ともかくそのふんどし仮面って変態を今夜ぶちのめすぞ! いいなァ!!」
「了解です、姉上!!」「了解です、姉御!!」「了解です、姉さん!!」
「俺をモテナイ男と認定しやがって、ぜってーとっ捕まえてやるからなァァァ!!」
「はぁー、私は手伝わないわよ…」

こうしてお妙の号令の元、なし崩しに対ふんどし仮面に備えて道場で待ち伏せをする事になった。










そして日が暮れて暫く経った丑三つ時の頃に、恒道館の敷地内で何時の間にか怪しい男が侵入していた。
頭にふんどしを被り、ブリーフ一丁で庭に干された女性物の下着を見定める姿はまさに変質者その者である。

(ほう、今夜も下着が干してあるか。 昨日に今日で無用心だな、まあ有り難く頂いて…)

昨晩に自分が下着を盗んでいったのにも関わらず、今晩もまるで盗んでくれと言わんばかり干されている柄物のパンティ。
少し不審に思いつつもふんどし仮面は下着に手を掛けようとした瞬間、何処からか現れた男に襲い掛かられてしまい驚愕の声を漏らす事になる。

「その隙貰ったァァァァァ!!」
「なんだと!? ぐ、離せェェェ!?」

日が暮れてからずっと近くの茂みに潜んでいた山崎の苦労が報われ、ふんどし仮面は意識の埒外の所から不意打ちを受けてしまう。
突然の奇襲に対して咄嗟に抵抗を試みるも、本職である山崎の巧みな捕縛術を抜け出せずに捕まるのだった。





「ふっ、俺たちの手に掛かればこそ泥なんてこんなものだな!!」
「どうだー、万事屋の力を思い知ったアルか!!」
「てめーらは何もやってねえだろうがァァァ!? 俺一人に全部押し付けやがって、本当調子いいですねェェェ!!」
「本当すいません、山崎さん…」

ふんどし仮面が捕まった所を見計らって、屋敷内でコッソリと様子を見守っていた銀時たちが現れる。
まだ肌寒い屋外での待ち伏せ役を自分一人だけに任せて暖かい屋内でぬくぬくとしていた癖に、我が物顔で手柄を誇る彼らに山崎は腹の底から怒りをぶつけた。

「別にいいじゃねーかよ!こそ泥を捕まえるのはお前の本職だぜ、真選組の山崎さん?」
「そ、そりゃあ仕事柄、屋外での張り込みとかは慣れていますけど…」
「くそっ、サツが潜んでいやがったのか!?」

銀時は下着を餌にして現れたふんどし仮面を捕まえる作戦には、犯人の逮捕のプロである山崎が要になるのは当然だと言い放つ。
自分が真選組であるのは事実なので、結局山崎は銀時の屁理屈丸め込まれてしまった。





「どうやらこそ泥を捕まえられたようね、皆ご苦労様。 …さぁ私の下着を盗んだ報いを受けて貰おうかしらァァァ!!」
「姉さん、抑えて下さい!? こいつは奉行所に連れて行きますんで、後は俺たちに任せて…」
「離せェェ、俺はもっと下着を盗るんだァァ!? もっと、もっと下着を!!」

己の大事な下着を奪った犯人を目の前にして今にも飛び掛ろうとするお妙に、流石に縛に就いた犯人へ鞭打つ行為を見逃せずに山崎は慌てて止めに入る。
そんな中で当の本人であるふんどし仮面は、山崎によって縄で拘束された絶体絶命の状況にも関わらず女性の下着への欲望を滾らしていた。

「うわぁー、こんな状態でもまだ下着が欲しがってますよ…。 でもこの人は盗んだ下着を配っているんですよね、盗む行為事態が重要なんでしょうか?」
「盗んだ後は興味無いって事アルか、マジで変態あるネー!!」
「ある意味すっげー執念だな、おい! この下着への欲望をどう見ますか、欲望の専門家のメズールさん?」
「中々の欲望ね、十分にヤミーの素材になりそうだわ。 まあ、あんな下劣な欲望は私は御免だけど…」

ふんどし仮面の下着への欲望の凄まじさは銀時たちばかりでなく、欲望の化身であるグリードのメズールからも評される程であった。
そんなふんどし仮面もお妙の説得に成功した山崎の手で真選組まで連れて行かれそうになり、年貢の納め時かと見えたが…。











「!? この気配は…。サガル、この男はヤミーの親よ!!」
「はっ、それは本当か!?」
「キシャァァァァァ!!」
「うわっ!?」


突然メズールがふんどし仮面からヤミーの親である気配を感知し、それとほぼ同時に屋敷の庭にあった池から何かが飛び出してきた。
池から飛び出した何かはふんどし仮面を拘束した縄を携えていた山崎を突き飛ばし、即座に縄を引きちぎって解放する。

「おっ、縄が解けた!? なんだか解らないが一先ず逃げるぞ!!」
「くっ、待って…」
「キシャーー!!」

思わぬ所で拘束を解かれたふんどし仮面は、とりあえず窮地を脱するためにそのまま逃走を計る。
それを見た山崎は慌てて追いかけようとするもまたもや謎の乱入者に邪魔されてしまい、結局ふんどし仮面を取り逃がす事になるのだった。





「シャーーーーー!!」

サメに似た形状の頭部を持つ人型の異形、サメヤミーが山崎たちに向かって威嚇するように叫ぶ。
腕の部分に鳥のような羽が生えている事を除いて魚類を印象付ける造形のヤミーは、恐らく前にあったトビウオヤミーと同系統であると推測出来るだろう。

「ちょっと新ちゃん!? あの怪物は一体…」
「姉上、事情は後で説明しますんで今は避難してください!!」

お妙は突然現れた怪物の存在に狼狽してしまい、新八はヤミーについての事情を知らない姉を逃がそうとする。

「お、サメって事は水棲系アルね!!」
「メズールさーん、下劣な欲望とやらでお前のヤミーが作られますよー?」
「アンクーーー! もうちょっとマシな欲望に私のコアメダルを使いなさいよォォォ!!」

姿から明らかに水棲系と解るヤミーから、自分のコアメダルをまたも利用された事に気付いたメズールは憤りを見せていた。

「ちぃ、結局あのこそ泥を逃がされちまったか!? メズール、早くメダルを貸せ!」
「サガル、あんなふざけたヤミーはすぐに倒すのよ!!」

メズールから受け取ったメダルをオーズドライバーへ嵌めこみ、山崎は手に取ったオースキャナーをメダルの上を滑らす。



"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。


「変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。

メダルの力が解放されると共に定番の歌が響き渡り、全身が光に包まれた山崎は次の瞬間にオーズへと変身を果たしていた。










「えっ、あれって前に花見会場で出た奴よね? 嘘っ、あれって山崎さんがやってたの!!」
「ヤベッ!? そういえば此処には姉さんが居たのを忘れてたァァァァ!!」

グリードやオーズについての事情を知らないお妙の存在を忘れていた山崎は、迂闊にも彼女の目の前で堂々と変身を果たしてしまう。
彼女の驚きの声を耳して自分の過ちに気付いた山崎は、ヤミーと対峙している状況なのに思わず頭を抱えそうになった。

「すいません、この事は後で説明するんで! 今はこのヤミーを…、うぉぉぉぉ!!」
「シャァ!?」
「くっ、素早い!?」

とりあえず面倒を後で回してヤミーを優先した山崎は、両手に備わったトラの爪を振りかざしてヤミーに突撃する。
しかしサメのヤミーの俊敏な動作にアッサリと回避されてしまい、山崎の一撃は空しく空を切った。

「キシャァァァァァ!!」
「うわっ、水が爆発した!?」

こちらから距離を取ったサメヤミーが口から水の塊らしき物を飛ばしてくるが、どうにかその攻撃に反応出来た山崎は紙一重でかわす事に成功する。
しかし外れた水弾が地面に当たるとともに破裂してしまい、着弾点付近に広がった衝撃を受けた山崎は溜まらずたじろいでしまった。






(このままじゃあ埒が明かないぞ、とにかくあいつの素早い動きに付いていかないと…)
「メズール、チーターのメダルを貸してくれ! …あ、ついでにライオンのメダルも追加で!!」
「何よ、カザリのコアメダルを使ってコンボでもする気かしら? まあ別にいいけどね、ほら!!」
「あの、山崎さん、あまりコンボを多用しない方が…」

サメのヤミーの動きに追い付くためにチーターメダルの機動力を利用する事を思い付いた山崎は、ついでにコンボをやってみようとメズールからチーターとライオンのメダルを要求する。
危険性を未だに伝えられてない事から躊躇い無くコンボの使用を試みる山崎は、新八の忠告を聞き流しながらメズールからメダルを受け取った。

「よしっ、行くぞ!!」
「ちょっと待ちなさい、サガル!? こんな近くでカザリのコアの力を引き出したら…」

タカ・バッタのメダルを受け取ったライオン・チーターメダルに取り替えた山崎の腰に、カザリから奪った黄色の3枚のコアメダルが装着される。
そして山崎はそのまま、何やら焦ったような声を出していたメズールに気付かずメダルの力を解放した。



"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"ライオンッ!"、"トラッ!"、"チーターッ!!"。

"ラトラータッ、ラトラーーーーーーターーーー!!!"


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


ライオン・トラ・チーターメダルから力を解放した事にり、ライオンを模した頭部・トラの鋭い爪を供えた腕部・チーターの凄まじいスピードを持つ脚部を持つラトラータフォームへと変貌する。
全身がコアメダルの色と同じ黄色一色に変化した山崎は、雄たけびとともに体から凄まじい熱線を周囲へと発した。

「キギャァァァァァ!?」
「いやぁぁ!?」
「熱っ、ここまで熱線が来やがった!?」
「凄い、あれだけでヤミーがダメージを受けてますよ!! …ていうかメズールちゃんまでダメージ喰らってるじゃんかァァァ!?」

山崎から発せされた熱線は水棲系には相性が悪かったらしく、近くにまとも浴びたサメヤミーは悶え苦しんでいる。
ついでにメズールもダメージを受けてしまい、苦痛の声を漏らしながら体を構成するセルメダルがボロボロと零れ落ちていた。





「大丈夫、メズールちゃん!? 何か体からメダルっぽい物が出ているけど…」
「おい、ザキ!? てめーのせいでメズールが重症アル!!」
「サガル、早くセルメダルを…。 このままでは体が持たない…」
「エェェェェェ!? すまん、このヤミーを倒してメダルを持っていくからそれまで耐えてくれ!!」

新たなセルメダルを補充しなければ体を維持できない状態まで陥ったメズールは、掠れた声で下がるにメダルを要求する。
見るからに危なそうなメズールの姿に責任を感じた山崎は、彼女のセルメダルを供給するためにサメヤミーへ飛び掛った。

「おらぁぁぁ!!」
「シャァァァァッ!?」

チーターメダルの恩恵によってサメヤミーを上回る機動力を手に入れた山崎は、両腕の爪を次々にヒットさせていく。
先ほどの熱線で弱った所に体中を切り裂かれたヤミーは、悲痛の叫びとともに傷口からセルメダルを放出した。

「よしっ、さっさと止めを刺さないと!!」

サメヤミーが弱った様子を見せたので、最後の一撃をお見舞いするためにメダルの力を解放する。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Scanning Charge!!"。


「はぁーーーーー、せいやぁぁぁぁぁ!!」
「ギシャァァァァ!?」

サメヤミーとの直線状に出来た3つの黄色いリングが現れ、山崎は頭部から強烈な目晦ましを放ちつつ両腕の爪を突き立てながらリングを潜り抜けていく。
リングを通るたびに全身から力が溢れていき、目にも留まらぬスピードで全てを通過して目晦ましに怯んでいるヤミーの目の前まで接近した。
その勢いのまま獲物を狩るライオンのように爪を振り下ろし、その斬撃に耐え切れなかったサメヤミーはセルメダルを散らして爆散するのだった。








「よしっ、メズールにメダルを…。 あれ、体から力が抜けて…」
「うわっ、山崎さんまで倒れたァァァ!?」

ヤミーを撃退した山崎は変身を解いて弱ったメズールへメダルを渡そうとするが、先ほどまでのコンボの疲労によってその場に倒れてしまった。










「zzzzzz…」
「目を覚まさないわね、山崎さん…」
「やっぱりコンボをやらせるのはまずかったんじゃ無いの、メズールちゃん?」
「あら、あれはサガルが自分から言い出した事よ。 私の責任みたいに言われるのは侵害ね」

昨晩のふんどし仮面との格闘、そして彼の欲望から生み出されたヤミーとの死闘から一夜明けた恒道館道場。
その一室でコンボ使用による疲労が原因で気絶した山崎が、新八の計らいによって布団の上で寝かされていた。

「ああ、もう面倒臭いアルね! いい加減起きるアルよ、ザキ!!」
「zzzzz…ぐへぇぇぇぇ!?」
「ちょっと神楽ちゃん、それは乱暴過ぎるんじゃ!? …大丈夫ですか、山崎さん?」

目を覚ます気配の無い山崎に業を煮やした神楽は、力づくで山崎を起こそうと試みる。
神楽から腹パンというキツイ目覚ましを受けた山崎は、自分を気に掛ける新八の声を耳にしながら眠りから覚めた。

「おおー、漸くお目覚めかよ」
「あれ、此処は一体? 俺は確かヤミーと戦って…」

山崎は自分が目覚めた場所が屯所の自室で無い事に気付き、段々と昨夜の事について考えを巡らし始めた。
そうしてふんどし仮面を待ち伏せした後に、突然現れたヤミーとの戦闘が始まった事まで思い出すが…。

「サガル、昨晩はよくも私を巻き込んでくれたわね!!」
「うわっ、メズール!? …そうだ、お前体は大丈夫なのか?」

昨夜のコンボで少なからずダメージを受けたメズールが、山崎に怒りの表情で食って掛かる。
その事で完全に昨夜の情景を思い出したらしい山崎は、慌てて彼女の状態を心配するのだった。






「…さて、ねぼすけの山崎くんが目覚めたので、あのふんどし仮面の話に戻しますか」
「ねぼすけって…、そりゃ無いですよ、旦那ァァ!? えっ、ていうか今何時ですか? …ヤバイ、副長にまた怒られるゥゥゥゥ!!」

山崎が完全に目が覚めた事を確認した銀時は、さっそく昨夜に取り逃がしたふんどし仮面の対策会議を開始した。
眠っている間に真選組の勤務時間になっている事に気づいた山崎が焦った声を漏らすが、周りはスルーしつつ話を進め始める。

「昨日は惜しかったアルなー、あのサメが出なければこそ泥を捕まえられたアルのに…」
「まさかあんな化け物が出てくるとはねー、でも山崎さんが倒したみたいだしもう大丈夫なのかしら?」

山崎が寝ている間に新八からヤミーについて一通りの情報を聞いたお妙は、その存在に驚きつつも既に山崎に倒された事でもう出ないだろうと安心していた。
しかし彼女の楽観はすぐに実の弟から否定される事になる。

「いえ、そうとも限らないんですよ…。 メズールちゃん、あのヤミーは前に出たトビウオっぽい奴と同じ種類なんですよね、じゃああれも複数居るんじゃ…」
「ご推測の通りよ。 感じから言ってあれ一体で終わりって事は無さそうね、まあ他のヤミーは卵の段階から目覚めて無いみたいだけど…」

新八はサメヤミーが水棲系であると事を聞いて、前のピラニアヤミーと同じように複数居るのかと危惧したようだ。
そうして彼の嫌な予感は見事に的中し、メズールからまだヤミーが出る可能性がある事が告げられしまう。

「えっ、よく解らないんだけど、あの怪物がまだ出るって事なのかしら?」
「くそっ、俺があの時にふんどし仮面を取り逃がしさえしなければ…」

サメヤミーが再び現れる事を聞いて怯えた様子のお妙、そして山崎は昨夜にふんどし仮面に逃げられた事に改めて後悔の念を抱いていた。
ヤミーの主を確保していれば卵の段階でヤミーを駆逐出来たかもしれない、そう考えると昨夜の失敗は痛かったと言えよう。

「ふっふっふ…、どうやらあの泥棒野郎の居場所を知りたいようだな?」
「!? 何か心当たりがあるんですかい、旦那?」

落ち込む自分に対して何やら意味有りげな笑み浮かべる銀時に、山崎は藁にもすがる気持ちで頼る。
すると銀時は何も応え無い代わりに障子を空けて外の様子を眺めだしたでは無いか、彼の行動に訝りつつ山崎は釣られて一緒に外を伺った。

「お、漸く戻ったな」
「あ、あれはカンドロイド!?」

暫く外を眺めていると空から全身を赤く染めた人口の鳥、タカドロイドが道場の方へ舞い降りてきた。

「ふっ、実はあの泥棒野郎が逃げた時に、こいつをコッソリと付けさせたんだよ。 これであの野郎の居場所が解るぜ!!」
「おおっ、ナイスですよ、旦那! …あれ、でも何で旦那がカンドロイドを持ってるんですかい? …そういえばバカ皇子の屋敷で使った奴が数個未回収だったような…」

銀時の好プレーによってふんどし仮面の居場所が判明した事に喜ぶ山崎だったが、ふと何故彼がカンドロイドを持っているか疑問を持った。
そこで彼はバカ皇子の屋敷でヤミー探索に使用したカンドロイドが、回収した時に幾つか数が足りなかったと思い出してしまう。

「旦那!? あんたもしかして俺のカンドロイドをぱくったんじゃ…」
「よーし、さっさとあのこそ泥を捕まえに行くぜーーーー!!」

しかしその疑問を遮るようにしてふんどし仮面の元へ強行した銀時により、あえなくカンドロイドの謎は誤魔化されるのだった。










「…鴻上生体研究所? ここにあのふんどし仮面が居るんでしょうか?」
「えっ、じゃああのこそ泥が研究者とか何か?! うわー、世も末だねーー」
「いや、そうとも限らないんじゃ無いんですか? もしかしたら掃除とかの雑用する人かもしれないんだし…」

山崎・銀時・新八の三名をとある建物まで連れてきたカンドロイドが、役目を終えて缶形態となって銀時の掌に戻った。
念のため女性陣を道場に残してやって来た男連中は鴻上生体研究所と銘打たれた巨大な施設の前で、ふんどし仮面と研究所と言うミスマッチに困惑気味の様子である。

「うん、鴻上って事は…、あっ!?」

研究所の名前に気を取られて正面をよく見ていなかった山崎は、自分の横を駆け足で抜けようとする男に気付けず誤ってぶつかってしまう。

「す、すいません!?」
「い、いえ、大丈夫です。 俺がボーっとしてたのも悪いんですし…」
「おい、気を付けて歩けよな、ザキ!」

山崎にぶつかった白衣姿の恐らく此処の研究員であろう男は何故か自分の纏う真選組の制服を見た瞬間にぎょっとした表情を見せ、それを誤魔化すかのように視線を彷徨わせ始めた。
明らかに挙動不審の男を職業病からか怪しむ山崎だったが、今は研究所に居るふんどし仮面を優先した方がいいと考え足早に離れていく男を黙って見過ごすのだった。

「…あっ、鴻上って事は鴻上ファウンデーションと繋がりが有るんじゃ!!」
「ご名答です」
「うわっ、何時の間に!?」

研究所の敷地に入った山崎は鴻上生体研究所と言う名前から、漸く例の鴻上ファウンデーションとの関わりに思い至る。
すると何時の間にか彼らのすぐ傍に建っていた、細身の見た目に何故か肩の所に不気味な人形を載せている男性が山崎の推測が正しい事を告げた。

「あ、貴方は一体…」
「初めまして、私は此処の研究所に勤める真木と言います」

こうして彼らは真木と名乗る謎の人物から、なし崩しに研究所を案内して貰う事になる。










「おおー、すっげーーー!!」
「例の缶ロボットは此処で作られていたんですね…」

真木に連れられて研究所に入った山崎たちは、そこで大量のカンドロイドたちが製造されている姿を目撃する。
会話時に自分たちを見ずに肩にある人形へ語りかける真木を不気味がっていた山崎たちは、目の前の光景に気を取られた。

「カンドロイドが居るって事は、やっぱり此処は鴻上ファウンデーションの研究所なんですね?」
「はい、カンドロイドだけで無くライドベンダーやメダジャリバーと言うメダルシステムは全て当研究所で開発されています」
「へっ、あれも此処で作られたんですか!?」

自分がたびたび世話になったメダルシステムがこの研究所で作られた事に、山崎は驚きの様子を見せていた。
そんな彼の姿に一切興味が無いらしい真木は、淡々と研究所についての説明を続ける。

「私は鴻上会長の指示でメダルについての研究を続けています、君が使っているメダルシステムはその研究成果の一部に過ぎませんよ。 ちなみに当研究所の新しい作品です、よかったら使って下さい」
「これは…、新しいカンドロイド!?」

真木が白衣のポケットから取り出した物を受け取った山崎、それが黄色の色をした見覚えのないカンドロイドだったので早速変形を試みた。

"トラッ!!"
「へー、今回はトラかー。 これはどんな機能をもっているんですか?
「このカンドロイドは少々特殊でして…」

黄色いカンドロイド、トラカンドロイドは缶形態から四足のトラに似せた姿と鳴りその場で吼えるような動作を見せていた。
カンドロイドの機能を気になった山崎は、開発者である真木から使用方法のご教授を受ける。





「説明ありがとうございます、真木さん。 それで本題なんですが実は昨日この近くで下着ドロの被害が有りまして、その犯人がこの研究所に居るらしいという情報を掴んだんですが…」
「ああ、只野くんですね。 彼ならさっき研究所を出て行きましたよ」
「そう、その只野さんの事で話が…。 えっ、下着ドロの犯人が誰か知っているんですか!?」

新たなカンドロイドについて説明を受けた山崎は、この研究所に来た本来の目的であるふんどし仮面の話を真木に持ち掛ける。
内心では真木はそういう情報に疎そうに見えたので期待薄だったのだが、予想に反して真木がふんどし仮面の正体について明言した事に驚愕してしまう。

「彼は家の研究員の一人なんですが、少し特殊な趣味を持っていましてね」
「あんたはその只野って奴が下着ドロと知っていたのかっ!? ていうかそんな研究員なんて首にしろよぉぉぉ!!」
「研究員としては非常に優秀だったんですよ、彼は」

どうやらこの真木と言う男は、世間を騒がせているふんどし仮面がこの研究所にいる事を以前から知っていたようだ。
それにも関わらず研究員が下着ドロ趣味を放置していた真木の口ぶりに、山崎たちは呆れてしまう。

「それに彼の欲望によって成長するヤミーの観察も興味深かったので…」
「!? ヤミーの観察って…」
「先ほど申した通り当研究所ではメダルについての研究を行っています、勿論セルメダルを産み出すヤミーも研究対象の一つですから…」
「はー、じゃあてめーは研究のためにヤミーが産まれる事まで放っておいたのかよ?」

下着ドロを見逃すだけでなく研究と称してヤミーの出現まで知った上で放置した真木に大して、山崎たちとの間に険悪なムードが流れ出す。

「おい、その只野って奴は何処に居るんだ!!」
「只野くんなら先ほど研究所を出たと話したでは有りませんか、確か貴方たちと入れ替わりになったと思いますよ」
「えっ、僕たちと入れ替わりに…、まさかさっき山崎さんがぶつかった人がふんどし仮面!?」

真木によってふんどし仮面と運悪く入れ違いになった事が判明してしまい、山崎たちは一時的に混乱状態に陥ってしまった。
特に只野という人物と直接接触した上に、挙動不審な態度に不振を持った上で見逃してしまった山崎の後悔は一際大きいかったようだ。

「くっそー、千載一遇のチャンスを…。 真木さん、その只野って奴が何処に行ったか解りますか?」
「彼は昨夜の失敗に落ち込んでいました。 研究所の出る時に思い詰めた様な顔でしたので、もしかしたら再チャレンジでも試みるつもりなのでは?」
「再チャレンジって事は…、まさか家がまた狙われる!? まずいですよ、早く戻らないと…」

ふんどし仮面が再び恒道館道場を襲う可能性が高い事を知り、山崎たちはとにかく急いで道場に戻る事にした。

「皆さんがお帰りのようなので、私もこれで失礼します。 新しいカンドロイドの性能が気になりますので、ヤミーに使用した感想を聞かせて貰えますか?」
「…ていっ!」
「ううううわわわわわぁぁぁぁぁ!!??」

悪ぶれもしない真木の姿に苛付いた山崎は、研究所を離れる際に彼が後生大事に抱えている人形を叩き落としてみた。
すると突然真木がパニックを起こしながら床に落ちた人形を抱きかかえる、山崎はそんな様子の彼を無視して先を急いだ。










「大変です、姉さん! もうすぐこの屋敷にまたふんどし仮面が…」
「安心してください、お妙さん! 貴方の下着は近藤勲が責任を持ってお守りします!!」
「局長ーーーー!? なんで此処に居るんですか?」

恒道館道場に戻った山崎たちは、直ちにお妙へふんどし仮面が此処を狙っているらしい事を伝えようとする。
しかし道場内に何故か真選組局長が居るでは無いか、周りを見渡したら土方・沖田を中心に局員が数十人ほど勢揃いしていた。

「どうしたんですか、姉上! なんで真選組の人たちが…」
「それがねー、新ちゃん。 このストーカーが下着ドロの件を嗅ぎ付けたようで、後は俺たちに任せろなんて勇ましい事言いながら勝手に上がりこんだのよ」

ふんどし仮面の事を何処からか聞き付けたストーカーゴリラは、お妙の下着を守るために真選組を動員したらしい。
何処から持ってきたのか道場の一室にホワイトボードを設置して、ここで局員の配置について話し合っていたようだ。

「おい、山崎!? なんでテメーが此処に居るんだよ、屯所にも来ないでこんな所でサボってやがったのか?」
「いや、これには色々と事情が…」
「あれーー、君はよくふんどし仮面にモテナイ男と認定された土方くんではないですか!! 何、ふんどし仮面さんに下着を貰ったお礼でも言いに来たのかなーー?」

真選組の仕事をサボって銀時たちと行動を共にしていた山崎は案の定、鬼の副長に捕まってしまう。
しかし山崎を説教する土方に対して銀時は自分も下着を貰った同類であるにも関わらず、小ばかにした口調で下着の件について絡んできた。

「なっ、何でテメーがその事を知っているんだ!? …山崎、さてはお前がぁぁぁぁぁ!!」
「すいません、副長!? 旦那ぁぁぁ、副長には言わないでって頼んだのにぃぃぃぃ!!」

銀時が自分の秘密を知っている事に驚いた土方は、すぐさま山崎が口を滑らしたと直感的に気付く。
こうして山崎は哀れにも、何時も通りに土方の折檻を受けてしまうのだった。










「見てて下さいね、お妙さん! 俺がふんどし仮面を華麗に捕まえる勇士を!!」
「はいはい、精々頑張って下さいね。 あ、どうせならそのままこそ泥と一緒に近藤さんも捕まってくれませんか、ストーカーの罪で?」
「はっはっは! 冗談が上手いなー、お妙さんはー!!」

愛するお妙を救うために真選組を引き連れて恒道館道場にやってきたストーカーゴリラは、いい所を見せようとテンションを無駄に上げてうざい位に絶好調である。
彼のむさ苦しいやる気のオーラに若干引き気味のお妙は、逆にテンションはいっきに急降下気味の様子だ。

「どうしますか、山崎さん? 真選組の人たちが集まってきましたけど、この状況でヤミーが現れたら…」
「確かお前の同僚に正体がバレたら、天人様の実験動物になるんだような? …短い付き合いだったけど迷わず成仏しろよ、ザキ」
「縁起でも無い事言わないで下さいよ、旦那!? 最悪ヤミーが出たらまたコッソリと変身しに行きますんで、フォローをお願いしますね」

真選組の来訪という思わぬ事態に頭を抱えた山崎たちは、部屋の片隅で円陣を組みつつヒソヒソと作戦会議をしていた。
己の命が掛かっている山崎は真選組の面々に正体が漏れないために、離れた場所でオーズへと変身できるよう銀時たちに協力を要請する。

「おい、山崎! なにさっきから万事屋の連中とコソコソと喋っている!!」
「ひぃ、副長!?」

自分の部下が個人的に気に入らない連中と密談している事を不振に思った土方は、有無言わさず事情を吐かせるためにドスを効かせて一喝した。
普段から頭の上がらない上司からの、しかも鬼の副長と呼ばれる土方の腹の底から響く声に山崎は思わず言葉が漏れそうになる。

「うっせーな、てめーは部下の友人関係にまで首を突っ込む気かよ!? それとも何かー、もしかして可愛い部下のザキくんが俺たちに取られて寂しいのかなー?」
「ば、馬鹿言うな!? 俺は別に寂しくなんかねーよ!!」

彼のピンチを察したのか、ただ土方をおちょくりたかったのか解らないが銀時の横槍によってどうにか自爆の危機を脱した山崎だった。










「…くそっ、何時になったらあの野郎は来るんだよ!? あー、何か腹減ったなー、誰か甘い物とか持ってないか?」
「旦那、アンパンでよければ有りますよ」
「へっ、何でアンパンなんか持ってるんですか、山崎さん?」
「いやー、アンパンって張り込みとかの定番でしょう。 俺は任務の時には何時も常備しているんですよ、個人的はあんまり好きじゃないですけど…」

昨夜と同じように下着の近くの茂みで、万事屋一同と共に山崎はふんどし仮面の襲来を待ち構えていた。
周囲では他の真選組局員もそれぞれに配置された場所でふんどし仮面をてぐすね引いて待っており、まさしく万全の体制と言える状況である。

「!? 誰か来ましたよ!」
「お、いよいよか!」

茂みに待機していた山崎たちは、道場の壁を乗り越えて一人の男が潜入してきた事に気付いた。
月明かりに照らされて人影の姿、ふんどしを頭に被ったブリーフ一丁の男が辺りを窺いながら下着に近づいてくる。
山崎たちはふんどし仮面が下着の前に来た所で、タイミングを見計らって一斉に飛びかかるが…。

「貰ったぁぁぁ! …て、あれっ!?」
「ふっ、馬鹿め! 同じ轍は二度と踏まん!!」

山崎たちだけでなく待機していた他の真選組局員も同時に飛び出したが、昨夜の件によって警戒を深めていたふんどし仮面に華麗に避けられた。
直後に凄まじい跳躍力を見せて道場の屋根の上に飛び乗るふんどし仮面、その手にはどさくさに奪ったらしいお妙の下着が握られている。

「ふっはっはっはっは! 昨夜は少々油断したが、やはり俺に盗めない下着などこの世に存在しないのだぁぁぁぁ!!」
「くそっ…、この屋敷周辺は我々真選組が完全に包囲している! 無駄な抵抗は止めて大人しく投降しろ、ふんどし仮面!!」

見事に昨夜のリベンジを果したふんどし仮面が、眼下に群がる山崎たちを見下しながら高らかに勝ち誇った。
真選組局長近藤勲はまんまと取り逃がしてしまった事に憤りつつも、ふんどし仮面を恫喝するが効果は無いようである。

「仮にこの屋敷を逃げられたとしても、もうお前は終わりだぞ! ふんどし仮面…、いや只野!!」
「!? 何故俺の名を…」

全く投降の意思を見せないふんどし仮面を追い詰めるため、山崎は鴻上生体研究所で調べてきた彼の本名を公開する。
流石に自身の正体が既に握られている事に驚いたのか、ふんどし仮面は動揺を見せた。

「へっ、山崎? 只野ってのは…」
「あいつの本名です、局長。 今日俺が屯所に顔を出さなかったのは、あいつの事を調べていただけで別に遊んでいたとかじゃ無かったんですよ!!」

今日真選組の屯所に顔を出さなかった山崎は、ふんどし仮面の正体を調べた事で自分はサボっていないと局長へアピールする。

「そうそうー。 真選組のお仲間が頼りないって言うんで、わざわざ俺たちが手伝ってやったんだよなー、ザキ?」
「ふっ、無能なお前らと違って、万事屋ファミリーの手に掛かればこの位は楽勝アルよ!」
「へー、そうなんだー。 お前って俺たちを内心では役に立たないって思ってたんだー、ふーん…」
「いや、旦那たちの手を借りたのは事実ですけど、それは成り行きで…。 旦那ー、余計な事言わないで下さいよぉぉ、真選組での俺の立場がまずくなるじゃ無いですか!?」

しかし万事屋の余計な横槍が入った事で、結果として涙目になった30代の親父をフォローする事になってしまう山崎であった。





「くっ、まさか俺の正体がバレているとは!? とにかくこの場を切り抜けなければ…」
「いーや、テメーはもう終わりだぁぁ!!」
「な、なんだとぉ!?」

己の素性を真選組に掴まれている事に動揺を隠せないふんどし仮面だが、とりあえずこの場を脱出しなければどうにもならないと判断して脱出を試みる。
しかし彼がその場を離れようとしたその瞬間に、何者かが自分の背後から襲い掛かってきた。
想定外の奇襲を受けてしまったふんどし仮面は、ろくな抵抗も出来ずにあえなく拘束されてしまうのだった。

「ふっ、念のため屋根の上に張っていて正解だったな!」
「しかしなんで、あっしらがわざわざこんな所に…」
「人手が居なかったんだから仕方ねーだろぉぉ! 俺だって本当は山崎にやらせるつもりだったんだけど…」

万が一を想定して道場の屋根上に待機していた真選組の土方と沖田、彼らの活躍によって見事にふんどし仮面が捕らえられた。
しかし土方としてはこの役目を山崎に任せる予定だったのだが、彼は勝手に万事屋と行動を共にしたため仕方なく沖田とともにやる羽目になったようだ。

「くっそぉぉぉぉぉ!? 下着がぁぁぁ、俺の下着がぁぁぁぁぁぁ!!」

またもや己の下着収集を邪魔されたふんどし仮面は、昨晩に山崎に拘束された時のように下着に対する執着心を露にした。





「……ふー、どうやらヤミーは現れないようだな」
「面倒な事にならなくてよかったですねー、山崎さん」

昨晩はこのタイミングでサメヤミーが乱入してきた事から辺りを注意していた山崎たちだが、暫くしても何も起こる気配が無いため警戒を解いていた。
例のふんどし仮面の欲望を餌にしたヤミーがどうなったか疑問に思いつつも、とりあえず一安心するが…

「大変です、局長! 先ほど連絡があったのですが…、江戸の街の至る所にサメ型の怪物が現れました!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

真選組の他の局員から知らされた新たな一報に、仰天してしまう山崎だった。





「…じゃああのサメ野郎は、自分の親を無視して勝手に動き回ってるのかよ。 ちなみにそいつらは江戸の街で何をやってるんだ?」
「…各家庭に押し入っては、その家の女性の下着を食べているようです」

どうやらふんどし仮面の欲望を餌にして一斉に孵化した大量のサメヤミーたちが、江戸の街中を蹂躙しているらしい。
サメヤミーたちは各方面に散らばって行き、元となった欲望の影響か家々を襲ってはその家にある女性物の下着を貪っていた。

「まあ、あの怪物が一杯出たのね…。 大丈夫なのかしら、新ちゃん?」
「大丈夫ですよ! 僕たちと真選組の人たちで何とかするので、姉上は安心して家に居て下さい!!」

サメヤミーの出現に心配の色を隠せない姉に対して、新八は自分たちに任せろと元気付けた。
実際にふんどし仮面を屯所に護送した要員以外の真選組局員の殆どは、サメヤミーから市民を守るために既に江戸も街に散らばっている。

「メズール、メダルを出せ! 例のラトラータの奴を頼むぞ!!」
「はぁ、ヤミーは広範囲に散らばっているのよ。 あれだとサガルがすぐに力尽きてしまうじゃない」
「ふっふっふ、実は秘密兵器があってな…」

屋外でふんどし仮面を待ち伏せする事を嫌がり、ちゃっかりお妙と共に屋敷内で待機していたメズールに山崎はライオン・トラ・チータのメダルを要求する。
だがメズールはコンボでは山崎がすぐに戦えなくなってしまうため、江戸の街に散らばったサメヤミーを倒しきるのは不可能だと拒否した。
そんな彼女に対して妙に自身有りげな山崎、その手には真木から渡された黄色いカンドロイドが握られていた。










「シャーーーーー!!」
「くそっ、この化け物め!?」

各地に散らばったサメヤミーの内一体を発見した真選組の名も無き局員が、己の職務を果たすために異形と対峙していた。
しかしヤミーの強靭な力によって逆に追い詰められ、絶体絶命の状況に追い込まれてしまうのだが…。

"ブルルルルルルーーーー!!"
「せいやぁぁぁぁぁ!!」
「!? ギシャァァァァ!!」

突然猛スピードで突っ込んできた巨大な何かによってヤミーが轢き殺され、いや前輪の部分から生えた爪の様な物で切り殺されてしまった。
自分の危機を救った仮面の男と彼がバイクに乗るように跨っている、巨大な後輪と爪状のフレームを生やした前輪を左右に備えた乗機の威容に局員は呆然としてしまう。

「あ、ありがとう…」
「この怪物が居る場所が解ったら教えてくれませんか!!」

あまりの展開に呆然としてしまった局員だがとりあえず己の命を救った仮面の男、暗がりで解りにくいが全身を黄一色の姿を持つ彼に礼を述べようとする。
だが局員の礼の言葉に被せる様に、仮面の男は他の怪物の情報を求めてきた。

「た、たしか3丁目の方に目撃情報が…」
「ありがとうございます!!」

局員は先ほど怪物と対峙する直前に、仲間から伝えられた情報を咄嗟に話してしまう。
その情報を聞きつけた仮面の男は、すぐさま彼が跨っている乗機を走らせてその場を立ち去るのだった。






(凄い、このコンボが問題なく制御出来る! あの真木っておっさんは見かけによらず凄い奴だったんだな、なんとかは紙一重と言うか…)

研究所で真木から受け取った黄色のカンドロイド、トラドロイドがライドベンダーと合体して誕生したトライドベンダーに跨る山崎は驚嘆を覚えていた。
昨晩にラトラータのコンボを使用した時に山崎はメダルから発せらた力を制御仕切れずに、己自身にダメージを受けてしまってすぐ力尽きてしまった。
しかし今回はこのトラドロイドがコンボ時に発生する余剰エネルギーを制御してくれているようで、安定してコンボの力を使う事が出来ている。
加えてメダルから発せられる余剰エネルギーを動力としたトライドベンダーの力は、サメヤミーを一蹴する程の能力を秘めていた。

「よし、これならあのヤミー共をすぐに全滅させれるぞ!!」

自分の逸る気持ちを表すかのように吼えるトライドベンダーを操り、山崎は次のヤミーの元へ急行した。










「よし、お前でラストか!!」
「キ、キシャ?」

目の前に残るサメヤミーを除いて全てを倒しきった山崎、一晩中江戸の街を駆け回ったため辺りは明るくなりかかっていた。
殆どのサメヤミーをトライドベンダーの力で撃破したため、最後は己の手で行うと思ったのか山崎は乗機から降り立った。
既にトライドベンダーの武装の一つであるメダル状のエネルギー弾を浴びた事で弱っているヤミーに対して、止めの一撃を振るうためにメダルの力を解放する。


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Scanning Charge!!"。


「はぁーーーーー、せいやぁぁぁぁぁ!!」
「ギシャァァァァ!?」

サメヤミーとの直線状に出来た3つの黄色いリングが現れ、山崎は頭部から強烈な目晦ましを放ちつつ両腕の爪を突き立てながらリングを潜り抜けていく。
最後のリングを抜けて目の前のヤミーに両の爪を振り下ろして切り裂き、ヤミーは断末魔と共にメダルとなって爆散した。










「副長! 街に現れたサメの怪物は、例の仮面の男の手によって全て倒されたようです!!」
「ご苦労、各局員に屯所へ帰還するように伝えろ!」
「了解です!!」

サメヤミーに対抗するために散らばった真選組局員の指揮をしていた土方は、事態が収集したと判断して解散を命じた。

「トシ、やはり仮面のヒーローに協力して正解だったようだな」
「まあ結果としてはそうですね…」

局員を指揮している最中に仮面の男、山崎が変身するオーズがサメヤミーを倒しまわっている情報を聞いた土方はそれが前の花見会場で出会ったそれと同一人物であると直感した。
そこで土方はヤミーの始末はオーズに任せた方がいいと判断し、各方面に配置された局員に対してオーズのサポートを命じる。
おかげで山崎は江戸中に散らばったヤミーたちの場所にスムーズに辿り付け、効率良く倒すことが出来たのだ。

(また仮面のヒーロー様に救われちまったか…、確かオーズとか名乗ってたよな? 一体仮面の下にどんな不細工な面を隠しているのか、そしてあの怪物との関係は…)

状況から仕方なく手を貸したとは言え、正体も何も謎である男に対して気を許せるわけが無い。
まさかその正体が自分の部下であるとは夢にも思わない土方は謎の仮面のヒーロー、オーズに対しての警戒を強く深めた。



[25341] ウナギと三角関係と重力コンボ
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:1799a7c9
Date: 2011/08/10 20:41

「ふはーー、もう久しぶりにお腹一杯食べれたアル!!」
「プッハー、ヒック! いやー、奢ってくれてあんがとさんよ、ザキ!!」
「大丈夫ですか、銀さん? よく寿司屋なんかであんだけ酒が飲めましたね…」
「……普通三話前にした約束なんて、もう流れたと思うよね!? それがなんで今になって寿司を奢らされるんだよぉぉぉぉ!!」

以前にバカ皇子の屋敷で行った銀時たちへ寿司を奢るという約束を、この日山崎は今更ながら果たす事になっていた。
遠慮という言葉を全く知らない万事屋一同の夕食代を出したために、すっかりと軽くなった財布を懐に入れながら帰りの夜道を歩いている状況である。

「ふんっ、サガルが不用意に安請け合いするからこうなるのよ」
「ていうかお前が勝手に約束したんだろうが、メズール!! そして何故か、ちゃっかり姉さんまで居るしさぁぁぁぁ!?」
「たかが奢る人数が増えたくらいで男がガタガタ騒ぐものではないわよ、山崎さん?」

恐らく弟の新八に寿司の約束を聞いたであろうお妙も加わり、山崎は予定より1人分多く払わされて涙目であった。






「うげーーーーー! 新八、悪いんだけど背中さすってくれないか?」
「ああー、もう! いくらただ酒だからって、あんなに飲んだのがいけなかったんですよ」

先ほどから千鳥足状態だった銀時はとうとう限界を迎えたらしく、新八の介抱を受けながら路上ゲロをしている。
久々にただ酒に有りつけると張り切り、山崎の財布の心配を一切せずに飲み続けた結果がこのざまであった。

「うっ、銀ちゃんのゲロを見たら私も吐きそうになったアル!?」
「そりゃあんだけ食ったらそうなりますって! 100円寿司屋で10万以上払った経験なんて人生初ですよ、俺は…」

こちらも思うが侭に寿司を貪った神楽の見た目は、以前に猫ヤミーに取り付かれた時と同じ体系までに膨らんでいた。
そんな一杯一杯の状態で銀時のゲロを見てしまったため、彼女も貰いゲロのピンチに陥っているようだ。

「メズールちゃん、こっちは銀さんの世話で手が離せないから神楽ちゃんの面倒を見てあげて!!」
「もう、仕方ないわね…」
「姉上に山崎さん、僕たちは銀さんたちを家まで送るんで先に帰ってて貰えますか?」

本来ならこの辺りで銀時たちと別れる予定だったのだが銀時と神楽を放って置く訳にはいかず、新八は彼らを送り届けるつもりらしい。

「解ったわ、私は先に失礼するわね。 新ちゃんもその酔っ払いを届けたら、さっさと家に帰るのよ」
「じゃあ俺は姉さんを送りますね、夜道に女性を一人で歩かせるのは危なから」
「お願いします、山崎さん」

こうして新八たちと別れた山崎は、気を利かせてお妙を家まで送り届ける事になった。










「山崎さん、あなたたちが飼っているあのゴリラ、どうにかならないのかしら? 最近ますますストカーっぷりに磨きが掛かって困っているのよ」
「あ、姉さん? 局長も悪気がある訳では無いので…」
「ああー、悪気が無ければストーカーしてもいいのかよぉぉ? ていうかそういう連中を捕まえるのがおめーの仕事だろうがぁぁぁ!!」

山崎は帰り道でお妙からストーカーゴリラの件について愚痴を言われ続けてしまう、必死にフォローを試みるも日頃の局長の行いのせいで全く功を奏しない様子だ。

「あ、そういえば姉さん、実は一つお願いが有るのですが。 旦那たちにも頼んでおいたんですが、今日の寿司の件は真選組には内緒でお願いしますね」
「え、どうしてかしら?」
「なんか家の副長が、俺が万事屋の旦那たちとつるんでいるのが気に食わないらしくて…。 旦那方に飯を奢ったなんて耳に入ったら、また何か言われそうなんですよ…」

延々と局長に対する恨みつらみを聞かされていた山崎だったが、ふとお妙に頼みたいことがあった事を思い出す。
実は日頃から銀時と仲が悪い直属の上司である土方は、近頃山崎が万事屋の連中とよくつるんでいる事が感に触っているらしい。
故に山崎は今日の寿司についても、真選組の仲間には誰も告げずにコッソリ来ているようだ。





「あ、お妙さーーーん! こんな所で会うなんて奇遇ですねー、やっぱり俺たちって運命の赤い糸で結ばれているのかなーーー!!」
「げっ、局長!?」

しかし今日の事を真選組に伝えないようにお妙へ釘を刺した矢先に、たまたま現れた真選組局長近藤勲に見付かってしまう。
局長のあまりの間の悪さに、山崎は思わず声を漏らしてしまった。

「あれ、山崎! なんでお前がお妙さんと一緒に居るんだ?」
「いや、局長。 これにはちょっとした理由が…」
「お久しぶりです、近藤さん。 今日は山崎さんに夕食をご馳走になったんですよ」

案の定、山崎の存在に気づいた近藤勲が何故二人が一緒に居るのかと尋ねてきた。
山崎は慌てて誤魔化そうとうとするが、それを遮る様にしてお妙が先ほどのお願いを聞いてなかったかのように平然と食事の事を話してしまう

「食事ぃぃぃ!? え、なんでよりにもよって山崎と二人で食事なんかぁぁぁ!!」
「き、局長、別にふた…、あ痛っ!?」
「あ、ごめんなさい、山崎さん! そういえば食事の事は近藤勲さんに内緒にするんでしたよね!」

現在の状況からお妙が山崎と二人で食事に行ったと勘違いした近藤勲は、悲鳴に近い声を出しながら事情を問うてくる。
すぐさま山崎が誤解を解こうとするが何故か腕を抓られて止められてしまい、お妙が誤解を助長させるような事を言う始末だ。

「俺に内緒ってぇぇぇ!? えっ、どういう事だよ、山崎!!」
「今山崎さんに家まで送って貰っている所なんですよ、近藤さん。 ほら、早く行きましょう、山崎さん」
「えっ、なにこの状況!?」

近藤勲に見せ付けるように腕を組んだお妙は、展開に付いていけずに混乱する山崎を引っ張ってその場を立ち去っていった。

「そんなぁぁぁ、なんでよりにもよって山崎と!? お妙さぁぁぁぁぁぁぁん!!」

愛しの女性が自分の部下に連れられて目の前から去っていく様子を目の当たりにして、失恋ゴリラの嘆きの雄叫びが江戸の街に響き渡った。










「聞いたかー、お妙さんと山崎さんの話!」
「山崎さんもやるよなー、まさか姉さんを寝取っちまうとわな!! おかげで局長はショックで失踪しちまったしなー」
「まあ別に局長が一方的に求愛しているだけで別に姉さんは付き合っている訳では無いし、寝取りってのはおかしい話だけどね」
「最近山崎さんって万事屋の連中と仲良かったけど、それってお妙さんと付き合っていた事から来てたのかな?」
「しかしお妙さんも、どうしてあの地味な山崎さんなんかと付き合う気になったのかねー」
「じゃあお前が女の立場として、局長と山崎さんだったらどっちと付き合いたい?」
「…山崎さんかな」「俺も俺も」「やっぱり局長は無いだろう」「あの人は男としては格好いいんだが、付き合うとなると話が別だよなー」

山崎とお妙の仲が近藤勲に誤解されてから数日後、何処から話が漏れたのか真選組の中では今その噂で持ち切りの状態になっていた。
噂を真実付けるかのように真選組局長近藤勲が数日前から謎の失踪を遂げており、彼らの中では山崎が局長からお妙を奪ったという話が半ば事実であると認識されている。

「こらぁぁぁぁ、てめぇぇぇらぁぁぁ! べちゃくちゃと女みたいに喋りやがって、さっさと仕事に戻りやがれぇぇぇぇ!!」
「「「「は、はい!!」」」」

仕事中に雑談に興じていた局員たちに鬼の副長の一喝が下り、局員たちは慌てて仕事に戻っていく。

「あ、ついでに言伝を頼む。 山崎の奴に後で俺の部屋まで来るように伝えてくれ!」
「り、了解です!」

散らばっていく局員の一人を呼び止めた土方は、山崎を自分の私室へ来させるように命じた。






「ふ、副長…、俺に用事というのは?」
「山崎…、最近女関係でお前と近藤さんが仲違いになっているって噂だが…」
「誤解ですよ、副長! あれは局長が勝手に勘違いしただけで、姉さんが別にそういう関係では…」

土方に呼び出されて彼の私室まで足を運んだ山崎は、さっそく話題の自分とお妙の関係についての話を持ち出される。
最近の真選組内の雰囲気から用件をだいたい察していた山崎は、誤解を解くために必死に弁を解こうとした。

「ああー、解っている。 まあ男と女の仲だから仕方ないよな。 けどそのせいで近藤さんが姿を晦ましちまったし、もう少し自重をしてだな…」
「解ってねーーー、別に俺と姉さんは何も関係ないって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁ!!」

しかし男女の機微というものに不得手な土方は局内の噂を丸々と信じ込んだらしく、山崎の話に耳を傾ける様子は無さそうだ。
結局山崎が言葉を尽くした甲斐無く、土方の誤解は解けずに終わるのだった。










「お願いです、、姉さん! 俺と一緒に局長に事情を説明して誤解を解いて貰えますか!!」
「ふっふっふ、流石にあのストーカーも自分の部下に女を取られた事にはショックだったらしいわね! このまま富士の樹海辺りで首で括ってくれてれば幸いなんだけどねー」
「姉さん、あんたもしかして確信犯であんな事をしたんですか!?」

このままではまずいと考えた山崎はお妙の口から直接誤解を解いて貰おうと、わざわざ彼女の家まで訪れて今の窮状を訴える。
しかし近藤勲の失踪の話を聞いたお妙は、してやったりといった様子で笑みまで浮かべる始末だ。
彼女の反応で山崎は、漸く自分がストーカー避けのだしに使われた事に気づかされる。

「うわっー、真選組でそんな事なっているんですか。 でも近藤勲さんには少し気の毒ですがストーカー被害も無くなって家は静かになりましたし、暫く放っておいても…」
「よかねーよっ、新八くん! おかげ俺の真選組での立場は丸潰れですよぉぉぉぉ!! お願いです、ここは俺を助けると思って局長に事情を…」
「嫌よ! そんな事したらあのゴリラがまた勘違いして、私に付きまとってくるじゃない!!」

必死に頼み込む山崎の意に反してお妙は、再び自分からストーカー被害を受ける事になるのは御免だと耳を貸すつもりは無いらしい。





「ふっはっはっはっは、お久しぶりです、お妙さん!!」
「うわっ、局長!? 今まで何処に行ってたんですか?」

山崎がお妙に必死の説得をしている時に突然、数日前から失踪していた近藤勲がいきなりお妙の家に現れた。
いきなりの出現に山崎は仰天の声を漏らしてしまい、それで彼もこちらの存在に気づいたらしく親の仇を見るような眼で睨み付けてくる。

「あ、お前は山崎!? くぅぅぅ、俺の居ない間にお妙さんの家に来るようにまでなってるとは、敵とは言え侮れん奴!!」
「局長、話を聞いて下さい! 俺と姉さんの件は誤解で…」
「ふんっ、例え部下とは言え憎き恋敵であるお前の言葉など聞く耳持たん!? ザキィィィ、お妙さんを賭けて俺とミントンで勝負しろぉぉぉぉ!!」
「はぁっ、ミントンで勝負!?」

誤解を解こうとする山崎の発言を無視して、近藤勲は何故かミントン勝負を求めてくる。
よくよく彼の様子を見れば右手にミントン用のラケットを持ち、体の上下にスポーツウェアを身にまとっていた。

「女性はスポーツマンに弱いと話に聞く! 幾らマイナーとは言え貴様の得意とするミントンもスポーツの一種、貴様は日頃から鍛えたミントンテクニックでお妙さんを誑かしたんだろう!!」
「何処をどう考えたらそーいう発想になるんですか、局長!!」

どうやら近藤勲は失踪中にお妙が山崎に振り向いた理由を考えた結果、山崎のミントンが原因だと早合点したようだ。

「ザキ、 男子三日会わざれば刮目して見ろという言葉も有る! 俺が山篭りして鍛えたミントンテクニックで、貴様など簡単に粉砕してくれるわぁぁぁぁ!!」
「あんた仕事を放ったらかしてそんな事をやってたんかぁぁぁぁい!?」

お妙を取り戻すために必死にミントンの特訓をしてきた近藤勲は、いよいよ時が来たと山崎へミントン勝負を求めた。

「ふっはっはっはっは、見ててくださいね、お妙さーん。 俺の華麗なミントン捌きで山崎がぶざまに負ける姿を!!」
(くそっ、なんで局長と勝負なんて!? …待てよ、ここで局長にわざと負ければ労せずして誤解が解けるのでは)

近藤勲に挑まれた勝負に戸惑う山崎だが、ここでわざと負ける事で今までの誤解を解けるのではと思いつく。

「山崎さん、頑張ってね! ……普段からミントンばっかりやってるんだから、あんなトーシローぐらい楽勝だろうな、あぁぁぁ!!」
「は、はいぃぃぃ!?」

しかしお妙が自分を応援するように声を掛けつつ、近藤勲に聞こえないように勝負の必勝を課されてしまうのだった。










「聞いたかー、お妙さんと山崎さんの話!」
「山崎さんもやるよなー、まさか姉さんを賭けたミントン勝負で、局長相手にパーフェクトゲームを決めるなんてさ!」
「しかしこれで少なくとも山崎さんが本気だって事は解ったなぁ」
「そうだな、おかげで局長はまた失踪しちまったしなー」

お妙のプレッシャーに負けた山崎は結局、近藤勲とのミントン勝負に全力で挑んで完膚無きまでに叩き潰してしまった。
この件で真選組内で山崎が彼からお妙を奪ったと話が完全に広まってしまい、ますます屯所内での肩身が狭くなる結果に陥る。

「山崎さーーん、副長が後で部屋に来いだそうです」
「なんでこんな事になったんだぁぁぁ、俺が何をしたって言うんだよ畜生ぉぉぉぉ!!」










「くっそぉぉぉぉ、俺の愛が足りなかったというのかぁぁ! お妙さーーーーん!!」

お妙の目の前で山崎に完敗を喫した近藤勲は絶望の淵に立たされてしまい、当ても無く江戸の街を彷徨っていた。
山崎にお妙を奪われたと誤解した彼は、むしろ彼女に対する愛が増す一方のようである。

「くっくっく、その欲望、気に入ったぞ!」
「へっ?」

近藤勲のお妙への凄まじい愛、言い方を変えれば欲望と言えるそれに眼を付けた緑ジャケットの男、グリードのウヴァを呼び寄せる結果になった。










「…それで周りの局員はスッカリ噂を信じちゃって、なんか俺に対して余所余所しい態度を取るんですよ。 一体どうしたら誤解が解けるのか…」

例の自分とお妙の噂が原因で山崎は職場で肩身が狭くなってしまい、苦々しい思いをしていた。
いくら山崎が自分の口から噂を否定しようにも、近藤勲が失踪した事が噂を裏付ける決定打と思われているため誰も信じようとしないのだ。
自分一人の力ではどうしようも無くなった山崎は、藁にも縋る気持ちで万事屋に運んだが…。

「げっ、何で鯛焼きにカレーが入っているんだよ!? 普通餡子だろうがぁーー!?」
「私のはチョコレートが入っていたアル!!」
「これはイチゴの味がしますよ、最近の鯛焼きには色々とバリエーションが有るんですね!!」
「うっ、苦い!? ちょっと、私にも甘い味のやつを寄越しなさいよ!」
「食ってねーで人の話を聞けよ、お前らぁぁ!? ああー、この連中に食い物を与えるのは失敗だったぁぁぁ!?」

しかし万事屋の面々は山崎が持ってきた手土産に夢中になっており、話を全く聞いていないようだ。
普段から貧しい食生活を送っている彼らに、食べ物を渡したらこうなるだろうと予測できなかった山崎の失敗と言えよう。

「よーーしっ、ようやくこし餡に出会えたぜ!!」
「辛い!? 何よ、この赤いのは!!」
「メズールちゃんは唐辛子入りのが当たったみたいだね。 あ、これはゴマ味だ」
「だから人の話を…、ていうかもう鯛焼きが無くなってるし!? 俺まだ食ってねーんだぞ、一つこっちに寄越しやがれ!!」

結局彼らはお土産の鯛焼きを食べ尽くすまで、山崎の話に聞く耳を持つ様子は無かった。





「ふーん、お前とゴリラとゴリラ女の三角関係ねー」
「うわっ、気持ちワルっ!? こんなマダオどもに迫られて、姉御も大変アルなー」
「人の色恋沙汰、欲望の定番といった所かしら」
「人の買ってきた鯛焼きを散々食った後の台詞がそれかよ、お前らぁぁぁぁ!!」

食後にようやく山崎の事情を把握した銀時たちだが、所詮他人事だと冷たい反応を見せる。

「まあ山崎さんには気の毒ですが、お灸を据える意味で暫く誤解させたままでいいんじゃないですか? 最近近藤さんのストーカー振りに拍車が掛かっていましたし…」
「無理ー!? もう俺はあの屯所内の空気に耐えられないよぉぉぉ!?」

山崎の誤解を解いたらゴリラのストーカー被害がまた始まる事になるため、新八も同情的な反応を示しつつ非協力的なようだ。
しかし現在の針の筵状態で精神的にまいっている山崎は、もう限界だと悲痛の叫びをあげるまで追い詰められていた。

「あ、一応言っておきますけど、姉上との関係はあくまでお芝居ですからね。 …本当に姉上に手を出したら、僕が山崎さんを殺します」
「…君もたいがいシスコンだねー、新八くん」

お芝居とは言え愛する姉に男が近づく事が気に入らない弟の心情を垣間見て、苦笑いするしかない山崎だった。

「…!? サガル、ヤミーの気配よ!」
「なに、すぐに出るぞ!!」
「お、正義の味方の出陣か、ガンバレよーー」

ヤミーの出現を伝えるメズールの声を聞き、彼女を引き連れて山崎は即座に万事屋を飛び出して行く。
今回は山崎を手伝う気が全く無いらしい銀時は、暢気にエールを送った。










「や、止めろ…、うわぁぁぁぁ!?」
「ふん、こんなものか…。 受け取れ、貴様が欲しがっていた物だ!!」

自分が襲った人間の方へ手を向けるヤミー、するとヤミーの手に光りのような物が集まってきた。
ヤミーは己の手に集まった物を見て満足そうに呟き、やがて光は麟粉状になって何処かへ飛んでいく。

「くそっ、人が倒れている!? お前の仕業か!!」
「この気配、ウヴァのヤミーね!」

急いで現場に駆けつけた山崎たちだったが、間一髪遅くヤミーの近くで倒れている人を見付けてしまった。
間に合わなかった事に悔やみつつ、山崎はこれ以上犠牲を出さないためにヤミーに立ち向かう。

「…え、今回のヤミーはゴリラ型!? でもウヴァのヤミーだから昆虫型なんだよな?」
「まさかガメルのヤミー? でも気配はウヴァの物しか感じないし…」
「オーズか! 今は貴様に関わっている暇は無い!!」

蝶に似た羽や触覚を備えているにも関わらず、全身が毛深く厳つい顔のヤミーに山崎たちは何処と無くゴリラを連想してしまった。
親である近藤勲の影響を受けた姿になってしまったヤミー、アゲハヤミー(ゴリラ似)が飛び掛った。





「おりゃぁぁぁぁ…、て、あれ!?」

ヤミーを前にしてタトバコンボへ変身を果たした山崎は、両腕に備わる爪を立てて斬りかかる。
しかしヤミーは背中の羽を瞬かせ遥か上空へ飛び上がり、その攻撃を難なくかわしてしまった。

「くらえぇ!」
「ん、羽からキラキラした物が…。 がぁ、爆発した!?」

山崎の頭上まで浮遊したヤミーは、そのまま羽から麟粉のような物をを地上へ放出した。
そのままま舞い降りた麟粉は、山崎の近くまで来た瞬間に爆発をしてダメージを植えつける。

「ふ、永遠にそこでのたうちまわっていろ! 去らばだ!!」
「ああ、待て!?」

己の麟粉爆撃で山崎を怯ませたヤミーは、もう此処には用が無いとでも言うように飛び去っていく。
追おうにも空を飛ぶ手段が無い山崎は、悔しさを抑えながらヤミーを見逃すしか無かった。





「ここにヤミーが…、あれは!?」

元真選組局員で現在は鴻上ファウンデーションに所属する後藤が、山崎たちに一歩遅れてヤミーの所にまで辿り着いていた。
そこで後藤は、この場から飛び去るアゲハヤミー(毛深い)の姿を目撃する事になる

「山崎! お前、ヤミーを取り逃がしたのか!?」
「あ、後藤!? いやあのヤミーが空を飛びやがってさー!!」

近くにオーズに変身した山崎を見付けた後藤は、ヤミーを逃がした事について不満有りげに尋ねる。

「山崎、オーズの力を持っていながらその体たらくはどういう事だ! くそっ、なんでお前なんかがオーズに…」
「後藤…」

後藤は山崎がオーズを取り逃がした事より、むしろ山崎がオーズである事に対して苛立ちを見せているようだった。
そんな後藤の反応に、山崎は何も言えずただ悔しそうにする元同僚を見つめた。










(昨日のヤミーは一体何が目的だったんだろうか…。 ヤミーに襲われたのがミントン選手だった事は何か関係が有るのか?)

山崎は昨日にヤミーの襲撃を受けた人物を助けた時、それが自分も良く知るプロのミントン選手だった事を知って驚きを覚えていた。
ヤミーは親の欲望を満たすために動くため、昨日の襲撃は何かの目的があってあの人物を狙った筈だと考える。

「やーまーざーきー!! ここで会ったら百年目だ、俺ともう一度ミントンで勝負しろぉぉぉぉ!?」
「き、局長!?」

しかし屯所内を歩きなが続けていた山崎の思考は、背後から見知った人の声を聞かされて否応無く止められてしまう。
なんと失踪中のゴリラがいきなり不死鳥の如く復活して、山崎にリベンジを申し込んでくるのだった。





「ふはっはっはっは、見ていて下さい、お妙さん! 俺の愛の力によって目覚めた超絶テクで山崎を粉砕する姿を!!」
「頑張って、山崎さーーん! ゴリラなんかに負けちゃ嫌よーーー!!」
「何この状況、なんでまた局長とミントン勝負する流れになってるのぉぉぉぉぉ!?」

勝負を挑まれた山崎はなんやかんやで流されたあげく、ミントンラケット片手にコート越しにゴリラと向い合う事になっていた。
恐らく近藤勲に呼ばれたらしいお妙の白々しい声援を受けながら、山崎はままならない人生に絶望しそうになってしまう。

「うめー、やっぱりこういう見物時にはポップコーンが定番だよなー」
「いっけー、ザキっ! そんなゴリラなんかに姉御を渡すなアルよ!!」
「ねぇ、一体今から何が始まるのかしら」
「なに暢気にギャラリーしてるんだよ、テメーらぁぁぁ! ていうか何故此処に居やがる!!」

コート周りには何処から聞きつけたのか万事屋の暇人どもが陣取り、山崎と近藤勲の一騎打ちを見学するつもりのようである。
よくよく回りを見れば真選組の局員たちもギャラリーに加わっており、噂の二人の対決を興味深そうに見守っていた。

「局長ーー、頑張ってくださーーい!!」「ザキさーん、今こそ下克上の時ですよぉぉ!!」「俺、局長に1万!!」「じゃあ俺は山崎さんに5000円!!」
「いっくぞーー、ザキーー! 俺の愛の力を見せ付けてくれるわぁぁぁぁぁ!!」
(くそっ、なんか場が盛り上がり過ぎて逃げれる雰囲気じゃ無いぞ!? 姉さんのプレッシャーも怖いけど、流石に此処は負けた方が…)

今暑苦しいまでの闘士を燃やす近藤勲と、やる気ゼロの山崎によるミントン勝負の戦いが切って落とされる。










「う、嘘だ…」
「がはっはっはっはぁぁぁ! 見たかぁぁぁぁ、俺のお妙さんへの愛の力をぉぉぉぉ!!」

勝負が決したコート上に勝者と敗者、高らかと勝ち鬨をあげる近藤勲と呆然とした面持ちで蹲る山崎の姿がそこにあった。
あまりの予想外の結末に周りのギャラリーも唖然としているようで、一言も漏らさないギャラリーの中でゴリラの雄叫びが空しく響いている。

「おいおい、普段からミントンしかやってないような奴が、あんなにアッサリ負けるわけないだろう。ザキのやつ、もしかして手加減したのか?」
「いや、山崎さんの反応を見る限りわざと負けたって感じに見えませんよ。 それに近藤さんのあの動き、明らかに山崎さんを圧倒していましたし…」
(…あの男から感じられる気配、まさか!?)

ミントン狂で知られている山崎が、少し前まではミントンのミの字も知らなかったであろう近藤勲にミントンで負けた。
しかも素人眼から見ても近藤勲の動きは素人と思えないほど完成されており、一体彼はこの短期間にどのようにしてあのレベルの技術を身に付けたのだろうか。

「見ていてくれましたかぁぁぁ、お妙さん! やはり貴方にはこんな負け犬なんかより、俺のような…」
「山崎さん、大丈夫!? 酷いですよ、近藤さん、ここまでするなんて山崎さんが可哀想です!!」
「えっ、お妙さん!? 可哀想って…、俺は前にこいつからパーフェクト負けをくらった…」

山崎をミントンで倒す事によってお妙を自分の手に取り戻せると考えたゴリラの意に反して、お妙は蹲る山崎の傍まで駆け寄ってしまう。
そして追い討ちをかけられるように山崎に対しての仕打ちを糾弾されてしまい、想定外の事態に混乱した近藤勲は年甲斐もなく半ベソの状態にまでなっていた。

「お、お妙…」
「もう近藤さんの顔なんて二度と見たくないわっ!? 早く私たちの前から消えてちょうだい!!」
(うわっ、姉上。 迫真の演技だな…)

目の前で愛する女が自分以外の男、しかもよりにもよって己の部下のために悲しむ姿に近藤勲は耐えられない様子である。
しかし実の弟の眼から見れば姉が本気ではないのは一目瞭然であるため、一人新八は性質の悪い三文芝居を見ているように冷めた気持ちになっていた。

「うわぁぁぁぁぁ、何故山崎なんだぁぁぁぁ、お妙さぁぁぁぁぁぁん!!」
「局長!」「待ってください!!」

結局お妙の自分を責め立てる視線に負けたゴリラは、再び何処ぞへと消えてしまう。
そしてギャラリーをしていた真選組の局員たちはこれ以上局長不在は困ると、総員で慌てて近藤勲を追いかけていった。










「ふっ、やっとゴリラ消えたわね…。 おい、ザキ、てめーもう少し頑張れよー、たった一つの取り得だったミントンで完敗しやがって!!」
「うわー、そっこー手のひら返しやがったよ、この女…」

近藤勲と真選組の局員たちが消えた後、他には蹲る山崎と万事屋メンバーしか居ない事を確認したお妙はアッサリと本性を見せる。
先ほどまで甲斐甲斐しく心配をしていた姿が嘘のように、山崎へと駄目出しを開始する始末だ。

「おかげであのゴリラを追い詰める計画が失敗する所だったじゃないの! おい、聞いているのかよ、何時まで蹲って…」
「……うぉぉぉぉぉぉぉぉ、俺がミントンで負けるなんてぇぇぇぇぇぇ!?」

敗北のショックからかお妙の小言に全く反応を見せていなかった山崎だが、次の瞬間に面を上げて己の悔しさをそのまま絶叫として出した。

「ど、どうしたんですか、山崎さん!?」
「新八くん、俺は何処かで自分のミントンテクニックに自惚れていたようだ! だから局長なんかにあんな醜態を晒す結果になってしまって…、くっそぉぉぉ!!」

突然の狂態に驚く新八の呼びかけに耳を貸さず、山崎は自分の世界に入ったように己の敗戦の原因を分析しているようだ。

「よしっ、俺はこれから山に篭ってミントンの再修業をして来ます! 次の旦那方に会うときには生まれ変わった俺のミントンテクを…」
「はいはい、正気に戻りなさい、サガル」
「ぐへっ!?」

余程ミントンに負けた事が堪えたらしい山崎は一人で勝手に暴走を続けて、終いには山で修行するなんて事を言い出してしまう。
しかし今にも飛び出しそうな状態の山崎に対して、メズールは冷めた反応で水流を浴びせてクールダウンさせた。

「おい、メズール! 一体どういうつもり…」
「サガル、あのゴリラみたいな男がヤミーの親よ」
「えっ、局長が!?」

メズールからの仕打ちに山崎は不満を表すが、彼女からヤミーの親が近藤勲である事を聞かされて一気に頭が冷えるのだった。










「後藤くん、この新しいカンドロイドをオーズの元へ届けてくれたまえ」
「……」

鴻上ファウンデーション会長室に呼び出された後藤は、鴻上からDr.真木の新開発したカンドロイドの輸送を命じられた。
しかし後藤は会長の指示通りに動く様子が無く、鴻上に大して何か言いたい事が有るような表情でその場に棒立ちになっている。

「どうした、後藤くん! 何か私に話たい事が有るのかね、だったら早く言いたまえ、欲望はすぐに開放しなくては!!」
「…会長、どうして山崎がオーズなのですか! この時のために真選組を辞めた俺で無く、何故あいつが…」
「ふむ、君はかつての仲間である山崎くんがオーズである事に、不満が有るようだね?」

かつて山崎と同じく真選組に勤めていた後藤はグリードと呼ばれる存在に対抗するため、あえて真選組を辞めて鴻上ファウンデーションに所属する事を決めた。
だがグリードの対抗手段であるオーズの力は、偶然にも真選組の山崎の手に渡ってしまう。
グリードと立ち向かうために真選組を辞めた自分ではなく、何も知らず真選組に所属したままの山崎がオーズの力を使っている事に納得がいかないのだろう。

「山崎くんか…、彼は非常に興味深い人間だよ! 一見彼は普段から欲望を抑えがちに見えるが、ある一線を超えた時は万難を排して己を貫こうとする!!」
「ある一線ですか…」
「己の持つ矜持、心の中に決して折れない刃を持つ者。 彼も真の侍の一人という事だよ、後藤くん!!」

そう言い放ち後藤の呆然とした表情を目の前にして高らかに笑い始める鴻上、会長室に鴻上の哄笑が響き渡った。










「…つまりあのゴリラのヤミーがプロミントン選手を襲って、ザキに勝てるミントンスキルを奪ったって事か」
「他人の技術とかも盗めるなんて、ヤミーって何でも有りなんですねー」

メズールの情報からヤミーの親が近藤勲と判明した山崎たちは、ヤミーを今後の動きについて意見を出し合っていた。

「しかし俺にミントンで勝てれば姉さんを取り戻せると思ってた局長が、今後どんな動きをするのか想像が付きませんね」
「あの馬鹿ゴリラは性悪女の演技にまだ気づいていないからな。 女を取り戻すために、お前を上回る何かをまたヤミーに奪わすんだろうな」

愛するお妙を奪った山崎に勝ちたいという欲望を元に産まれたヤミーの力で、見事山崎をミントンで打ち倒した近藤勲。
だがお妙が山崎のミントンに引かれた訳では無いと解ったゴリラが、お妙を引き付けている他の原因を推測してそれを無意識にヤミーへ望むに違いないだろう。

「しかしこいつにミントン以外の長所なんか有るのか? まあ強いて言うなら地味な所くらいか…」
「おおー、じゃあ次にヤミーは新八を襲ってくる筈アルね!!」
「ちょっと待て! それは僕が山崎さんより地味だって言いたいのかぁぁぁぁ!!」

原作ならともかくここの山崎には主人公補正が掛かっているため、地味度的には新八が上回っている。
そのため山崎を上回る地味さを手に入れるため、ヤミーが自分を襲ってくるのでは無いかと推測する神楽に新八は憤りを見せた。

「それに仮にヤミーを見付けられたとしても、またあいつに飛ばれたらどうするかな…。 おい、オーズに何か空飛べるようになる力とかは無いのかよ?」
「アンクのコアが揃っていたら恐らく可能よ、けどタカメダル一枚しか無い状況では無い物ねだりと言った所ね」
(飛行能力を持つヤミー、ガメルをこちら側に引き込んで居れば何とかなったのに…。 どうにかしてガメルのメダルを手に入れれば…)

前の戦いでヤミーの空中攻撃に一方的に翻弄された山崎は、このままではまずいと打開策を考えるが上手くいかない。
メズールの方も今回のようなヤミーに対抗するには自分を慕うグリード、ガメルのコアメダル力が最適だと思案するのだった。





「おい、ザキ! もう面倒くせーから、今度あのゴリラにあったら息の根を止めておけや!!」
「あ、姉さん!? 幾ら局長でも殺したら犯罪ですよ!!」
「大丈夫だって、ヒーローが怪人を倒しても罪にならねぇだろう? お前があの姿に変身してやったら、多分ゴリラ型怪人を倒したと思って回りもスルーするって!!」
「いや、そこまで局長を毛嫌いしなくてもいいのでは…」

いい加減ストーカーゴリラにうんざりのお妙は、とうとう山崎に対して近藤勲の殺人を教唆してきてしまう。
お妙の表情が冗談では無く本気で自分に上司を殺させようとしている事が解った山崎、苦笑いを浮かべながら彼女の暴走を止めようとした。

「!? サガル、ヤミーがまた出たわよ!!」
「えっ、新八は此処に居るのにアル!!」
「だから何で僕が狙われる前提で話てるんだよぉ!」

その時メズールがヤミーの気配を察知し、自分の予想が外れた事に本気で驚いている様子の神楽に新八から鋭い突っ込みは走った。

「とにかく俺は現場へ行ってきます! 案内しろ、メズール!!」
「ふん、今度は取り逃がすんじゃ無いわよ、サガル!!」

今度は失敗するなというメズールの檄を受けつつ、山崎はヤミーを止めるため彼女を連れて駆け出していった。










「ふはっはっはっは、お前の地味さを頂いていくぞ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

どうやら山崎を上回る地味さを狙うという神楽の予想は凡そ当たっていたらしい。
しかしヤミーは一応主要キャラである新八を上回る究極の地味キャラ、名無しのモブから地味さを奪いに来たようだ。
その辺りを歩いていた通行人Bを襲ったアゲハヤミー(ゴリラ似)は、奪ったモブクラスの地味な雰囲気を親である近藤勲に送る。

「局長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? あんたは本当に俺の長所を、ミントンと地味さしか無いと思ってったんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「馬鹿いってないで、さっさとヤミーを倒しなさい、サガル!!」
「ふんっ、来たか、オーズ!!」

自分の上司が己の事をどう思っているのか知ってしまった山崎は、余りの扱いに絶叫をあげてしまう。
そんあ山崎の嘆きを気にせず、メズールは山崎にメダルを渡してヤミーとの戦いを強要した。






「…山崎さんはまた怪物と戦っているのよね。 大丈夫なのかしら、新ちゃん?」
「きっと大丈夫ですよ、山崎さんならヤミーを倒してすぐに帰ってきますよ、姉上!!」

何時もはあれな感じで隠れているが本来は女性らしい優しさを持つお妙は、戦いに出向いた山崎の事を気に掛けていた。
山崎を心配する姉に対して、弟の新八が彼女を励まそうとする。

「おや、何やら憂鬱な顔をしていますね、お妙さん! 何か心配事でも有るんでしたら、この近が…」
「どっから沸いてきた、このくそゴリラぁぁぁぁ!!」
「ぐへぇぇぇぇぇ!?」

しかし何時の間にか侵入してきたストーカーゴリラが姿を突然姿を現し、憂いの表情のお妙を元気付けようとする。
もちろん例の如くお妙の返り討ちにあい、ソッコー殴り飛ばされるストーカーゴリラであった。

「近藤さん、何時の間に屋敷に進入したんですか!? 何処かに隠れていた訳でも無いのに、声を掛けられるまで気づかなかったなんて…」
「あれ、なんかこいつ影が薄くなってね? 普段は悪い意味でうざい位存在感を発揮しているのに…」

普段、近藤勲はストーカーする時に何処かに潜んでいる時はともかく、姿を現している時には嫌でも周りが気づく程の濃いキャラをしている。
だが今の彼のこちらが注意して探さなければ気が付かない程の存在感の薄さは、まるでアシスタントが描くモブキャラのようである。

「ふはっはっはっは、どうですか、今の俺の地味さは! 山崎なんか目じゃ無いくらいの影の薄さでしょう!!」
「ほら、私の言った通り次は地味さを狙ったアルよ!」
「…山崎さんって、本当にミントンと地味な所しか無いと思われてるんだな…」

迷走の末、山崎の影の薄さがお妙の心を奪った原因と判断した近藤勲は、何時の間に山崎を上回る地味さを身に付けている自分に気づいた。
自分の欲望を感じたヤミーが地味さを送ったと知らないため、そこで自分の愛の力が生んだ奇跡と自己解釈して早速お妙の所にアピールしに来たのだ。

「もう男がぐいぐいと前にでる時代は古い、今は一歩下がって愛する女性を影から支える男がお妙さんの理想のタイプだったんですね! だから地味しか取り柄の無い山崎になびいて…」
「…近藤さんの馬鹿!!」
「お、お妙さん!?」

お妙に山崎を上回る地味さをアピールする近藤勲を遮るように、お妙は悲しげな顔を見せながら平手を振るった。
顔に受けた衝撃よりも、何時もの過激な突っ込みを行う普段のお妙とは様子が違う事に戸惑いを見せる。

「近藤さん、付いてきて下さい! 今からあなたに見せたい物が有ります!!」
「は、はい!!」

何かしらの決意を秘めた表情のお妙に逆らう事が出来なかった近藤勲は、言われるがままに彼女が案内する場所に連れて行かれた。







「今日は相手をしてやるよ! 死ねー、オーズ!!」
「くそっ、飛ぶなんて反則だぞぉぉぉ!?」

アゲハヤミーは己の利点である飛行能力を生かして、ヒットアンドアウェイを繰り返しながら山崎を追い詰めていった。
攻撃を仕掛けたヤミーは即座に空中に退避して、山崎に攻撃を与えるチャンスを奪い続けている。

「何をやっている、山崎! ヤミーめ、こいつでも喰らえ!!」
「ご、後藤! ちょ、ちょっと待て!?」

そんな中、会長の指示でカンドロイドを輸送中だった後藤が、山崎がヤミーとの戦いの気配を察知してライドベンダーに跨って現場に駆けつける。
戦闘中に所に現れた後藤は山崎の苦戦に業を煮やしたらしく、即座に装備していたバズーカをヤミーに対して放ってしまった。

「そんな攻撃などっ!!」
「ぐへぇぇぇ!?」

しかしヤミーはあっさりと上空に避難してその一撃をかわし、かわりにヤミーの近くに居た山崎がダメージを受ける惨事になってしまう。

「後藤ぉぉぉぉ、おめーは沖田隊長と同類なのかよぉぉぉ!!」
「す、すまん、山崎…」

普段から味方を巻き込んでバズーカを放つ沖田の如き行為を見せる後藤に、山崎は切れ気味に不満をぶつける。
どうやら後藤は山崎がオーズの力を持つことへの不満や、今の自分ではヤミーに対抗する力が無い事に焦りから、周りを気にする余裕が無くなっていたようだ。
そこにヤミーが山崎と後藤が揉めている隙を突いて、ゴリラのような逞しい腕を振るって山崎に殴りかかってきた。

「余所見とは余裕ではないか、オーズ! くらえ、ウフォォォォォ!!」
「ちぃ、飛べるだけでなくパワーも強いな!? メズール、何かメダルを…」

アゲハヤミー(毛深く逞しい)に対抗するには、今のタカ・トラ・バッタの基本フォームでは難しいと感じた山崎はメズールに新たなメダルを要求する。
しかしメズールは山崎の方を見ておらず、何故か携帯電話を耳にあてて電話中のようだった。

「…はぁっ、此処の場所を教えろですって? …ねえ、サガル、此処ってどの辺りになるのかしら?」
「おい、こんな時に何を言ってるんだ!? …えーっとこの辺なら、3丁目の公園って言えば解る筈だぞ」
「山崎! 何ちんたら遊んでいる!! くそっ、この時のために真選組を辞めた俺で無く、どうしてお前がオーズなんだ!!」

山崎とメズールのやり取りを見た後藤は、改めて山崎にオーズの力は相応しくないと感じる。
そしてこれまでに貯め続けていた鬱憤が遂に爆発した後藤は、ヤミーとの戦闘中の状況にも関わらず山崎に対して思いの丈をぶつけてしまう。

「答えろ、山崎! 何故お前がオーズなんだ! 何の覚悟も成しに、どうしてお前如きがオーズの力を手に入れた!!」
「知るかぁぁぁ、俺は成り行きっていうか、こいつの口車に乗ってオーズになっちまったんだよ!!」

どうして世界の平和を守る決意を持つ自分でなく、大した覚悟も無く成り行きで戦っているような山崎がオーズの力を手に入れたのかと、後藤は今までに貯めていた鬱憤をぶつけてくる。
後藤の糾弾に対して別に自分から望んでオーズになった訳ではない山崎は、一方的にこちらが悪いように言う彼の言葉に腹を立ててしまう。

「…それに仮にオーズの力を他人に渡せるんだったら、俺はお前にオーズの力を託してもいいと思うぜ!」
「何!?」
「俺は江戸の平和を守る真選組だから、オーズの力でヤミーと戦っている! お前も真選組を辞めたとは言え、それは世界の平和とやらを守るためにだから、オーズの力を皆を助けるために使う筈だろう? だったらどちらがオーズの力を持っても、結果は変わらないじゃないか!!」
「山崎…」

何の覚悟を持っていないと思っていた後藤の思惑と異なり、山崎は山崎なりに江戸の市民を守るという真選組としての誇りを持ってヤミーと戦い続けていた。
山崎の言葉を聞いた後藤は所属する組織が違えど、自分とこいつは同じ目的のためにヤミーと戦っている事に気づかされるのだった。






「…山崎、鴻上会長からお前にこのカンドロイドを渡せと頼まれた。 受け取れ!」
「カンドロイド! へー、また新しい奴だな!!」
「何をごちゃごやと話している、オーズ!!」

山崎と話した事で何かつき物が落ちたかの表情になった後藤は、鴻上会長から依頼されていたカンドロイドの譲渡を行う。
今までに見たことの無い青いカンドロイドを受け取って繁々を眺める山崎だが、そんな油断しきった状況をヤミーが見逃す筈が無く急襲を掛けてくる。

「ヤミーがっ!? 山崎、そのカンドロイドを使え!!」
「わ、解った!!」
"ウナギッ!!"
「何、体が…」

こちらに迫り来るヤミーに対して山崎はとっさに青いカンドロイド、電気ウナギカンドロイドを発動させる。
そうして次々に缶形態から細長いウナギ形態に変形したカンドロイドたちは、ヤミーに絡みつきながら連結し始めたではないか。
電気ウナギカンドロイドたちに絡めとられたヤミーは、その場に拘束されてしまい地面に転がってしまった。











「あ、あの化け物が俺の欲望から!?」
「うわっ、ゴリラからゴリラのヤミーが産まれたのかよ…」

先ほどメズールから携帯電話で聞きだした戦いの場へと近藤勲を無理やり引き連れて辿り着いたお妙と銀時たちは、オーズに変身した山崎とヤミーの戦いの一部始終を目の当たりにした。
道すがら山崎の秘密を隠しつつヤミーの事情について説明を受けていた近藤勲は、己の欲望が産んだヤミーの姿を見てショックを受けているようだ。

「近藤さん、あなたは確かにいい所なんて全く無い、ストーカーで悪臭のするはた迷惑なゴリラのような人よ!!」
「姉上、普通そこまで言いますか…」
「けどあなたは少なくとも、他人のふんどしで勝負するような人間では無かった筈よ! あなたは自分以外の力で手に入れた物に、本当に価値が有ると思っているの!!」
「お妙さん…、俺は…」

以前までの彼は確かに執拗なまでにお妙に対して求愛行動を続けていたが、それはあくまで自分自身の魅力をアピールし続けていたのだ。
しかし部下の山崎にお妙を奪われたと誤解して自身を失った近藤勲は、やがて他人の力を求めてしまい結果としてヤミーに付け入られる隙を生む事になってしまう。
自分という物を見失っていた事に気付かされた近藤勲は、呆然としながら目の前で繰り広げられるヤミーとオーズの戦いを眺めていた。

「あれ、そういえば此処に近藤さんを連れてきたらまずいんじゃないですか? 変身している山崎さんならともかく、メズールちゃんが居たら…」
「大丈夫アルよ、メズールの奴はちゃんと変装しているアル」
「あ、本当だ、メズールちゃんがサングラスを掛けている。 …ていうか長谷川さんのサングラス、まだ返してなかったんかいぃぃぃぃ!?」

ヤミーと戦う山崎の近くに佇む少女、メズールは己の正体を隠すために以前に手に入れたマダオのグラサンを装着しているようだ。
このグラサンを掛ける事で真選組の目は誤魔化せる事は以前の花見の件で実証済みのため、これで近藤勲に彼女の正体がばれる事は無いだろう。






「…くっ、お妙さん、俺はなんて馬鹿な事を………。 頼むっっ、オーズとやらぁぁぁぁ!? 俺の生み出した悪しき欲望を消し去ってくれぇぇぇぇぇ!!」
「えっ、なんで此処にきょ…、わ、解りました! このヤミーは責任を持って俺が倒します!!」

お妙の導きで己が罪を認識した近藤勲は、その証であるヤミーを打ち倒して欲しいとオーズに変身している山崎へと頼み込む。
彼の絶叫から近くに自分の上司が来ている事に気付いた山崎は、とっさに局長と言いそうになる自分を抑えて彼の願いを叶えてやると力強く同意してみせた。

「ウホォォォォォォォ! オーズゥゥゥゥゥ!!」
「!? まずい、ヤミーの拘束が!!」

しかし山崎が近藤に気を取られている内に、ゴリラのような見た目通りの凄まじい力でアゲハヤミーがカンドロイドの拘束を破ろうと試みた。
ヤミーの動きに気付いた後藤が焦って山崎に注意を促すが、どうやら彼の助け舟は少し遅かったらしい。

「ウホォ、捕まえたぞ!」
「し、しまっ…!? ぎ、ぎぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

己から目を離している間に戒めを無理やり打ち破ったヤミーは、勢いのまま山崎に向かって突進して組み付いた。
まんまと隙を突かれた山崎は今度は逆にヤミーに抱えこまれて、そのままヤミーは山崎を連れて何処かへ飛び去ってしまった。










「くそっ、俺を何処まで連れて行く気なんだよぉぉ!?」
「安心しろ、もう着いた!!」

暫くヤミーとともに無理やり飛行する羽目になった山崎だが、いきなり地上へと叩き落されてしまう。
落下の衝撃に痛む体を無理やり動かして辺りを伺い、辺りに倉庫のような建物が集まっている場所である事を確認した。

「何故俺をこんな所に…」
「それは俺がヤミーに命じたからだ!」
「お、お前はウヴァ!?」

ヤミーの行動に訝る山崎の前に、倉庫の影からアゲハヤミーを産み出した昆虫型グリードのウヴァが姿を現した。
どうやらウヴァはオーズを罠に嵌めるため、ヤミーにオーズをこの場まで運ぶように指示していたらしい。

「此処に居るのは俺だけでは無いぞ、お前に会いたがっている奴がもう一人居てな!!」
「オーーーーズ、たおーーーーーーす!!」
「まだ居るのかよ!?」

この場に自分以外の存在が居ると仄めかすウヴァの言葉通り、今度は重量型グリードであるガメルが全身に怒りを震わせながら己に向かって来た。
ウヴァは己の産み出したアゲハヤミーに加えて、メズールの事からオーズに対して強い敵愾心を持つガメルも引き連れ万全の体制を敷しいたようだ。

「ふっ、ヤミーが上手くお前を連れて来たおかげで、お前はもう袋のネズミだ! さぁ、俺のコアメダルを返して貰うぞ!!」
「オーズ、倒す! そしてメズールを取り返ーーーーーす!!」
「ウフォフォフォフォフォフォフォフォフォ!!」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

二体のグリードとヤミーに同時に襲われてしまい、山崎は絶対絶命の状況に陥ってしまう。











「く、変身が!?」
「どうした、もうお終いか?」

三対一の状況で一方的に嬲られてしまった山崎は、とうとう限界を超えてしまったらしくオーズから元の姿に戻ってしまう。
山崎の腰からオーズドライバーから外れ、装着されていたタカ・トラ・バッタのメダルが地面に散らばった

「ふんっ、やはり他のメダルはメズールが持っているか…。 まあいい、とりあえず俺のメダルを一枚、回収させて貰うぞ」
「オーーーズゥゥゥゥ!!」

山崎は変身に使用していた三枚のメダルしか持っていない事に残念そうな様子で、ウヴァは地面に落ちた己のコアであるバッタメダルを拾いあげる。
そしてガメルはメズールをオーズに取られている事への怒りが収まっていないらしく、生身で地面に横たわる山崎に対して止めをさそうとしていた。





「止めなさいっ! ガメル!!」
「そ、その声は…、メズール!?」
「おいおい、大丈夫かよ…、ザキの奴…」

しかし山崎の命が風前の灯火のようになったその時、救いの女神がその場に参上した。
銀時のスクーターをヤミーの気配を感じる場所まで走らせたメズールが、間一髪山崎のピンチに間に合ったのだ。

「メ、メズール! 俺、会いたかった!!」
「そうねぇ、私もあなたに会いたかったわよ、ガメル」

夢にまで見たメズールに出会えたガメルは、オーズの事などすっかり忘れたかのようにはしゃぎだす。

「メズール、貴様の頼みの綱のオーズはこのざまだぞ! さあ、観念して俺のコアメダルを返せ!!」
「メ、メズール! 俺の事はいいから、早く逃げろ!!」

己のコアメダルを持つメズールがのこのこと現れた事に喜んだウヴァは、早速コアメダルを返すようにメズールへ脅しを掛ける。
そんなウヴァの様子に瀕死の山崎は、グリードにコアメダルを渡す事だけは阻止するためにメズールに逃げるように諭す。

「メーズル、どうして俺の所から居なくなった! 俺、とっても寂しかった!!」
「ごめんなさい、ガメル。 私はこの時代に目覚めたときにコアメダルが殆ど無かったから、仕方なくオーズの力を使っていたのよ」
「おーい、そこのお嬢さん。 地面にのたうち回っている君の相棒を無視して、何世間話に興じちゃってるのかなーーー!!」

しかしメズールは銀時の言葉通り、山崎やウヴァを眼中に入れずに先ほどから再開したガメルとの会話を続けていた。

「私にコアメダルがあれが、あなたと離れ離れにならなくてもよかったのにね…」
「じ、じゃあコアメダルがあれば、俺とまた一緒に居てくれるのか?」
「そうね…。 あなたのコアメダルがあれば、もうオーズの力に頼る必要が無いわ」
「よし、メズール。 俺のコアメダルをあげる、だからオーズとじゃ無くてまた俺と一緒に居てくれ!!」

コアメダルさえあれば再び自分と共に居てくれると言う言葉を信じたガメルは、己の体に手を突っ込みコアメダルを取り出そうとする。
体からコアが離れる影響で体中からセルメダルをボロボロと落としながら、ガメルは三枚のコアメダル、サイ・ゴリラ・ゾウのメダルを抜き取った。

「おい、何をやっている、ガメル!!」
「俺のコアメダルを受け取ってくれ、メズール!!」
「ありがとう、ガメル!!」

コアメダルが減った事で苦しそうな様子のガメルだが、それでも声色だけは弾んだ様子でメズールにメダルを差し出す。
そんな己のコアを自分から渡すという同じグリードとして信じられない行為を行うガメルの姿に、ウヴァが焦った声をあげていた。





「…おい、ザキくーん。 なんかお前、完全に忘れられて無いか?」
「いやー、正直スルーされるのは慣れているというか…。 あ、それより手を貸してくれてすいません、旦那」

グリードたちが内輪で話し始めている間に、銀時はちゃっかり倒れていた山崎を介抱していた。
彼らが話し込んでいる間に山崎は少しは体力は回復した模様で、銀時の手を借りつつどうにかその場に立ち上がる事ができた。

「しかしなんなの、この状況? もうお前は用済みとかって話始めているぜ、あの女…」
「あのガメルって言うらしい灰色のグリードは、前に自分に協力してくれるかもって言ってましたからね…。 もう後の事は任して、今の内に逃げた方がいいのかな…」

流れ的に蚊帳の外に追いやられてしまった銀時と山崎は、注意が逸れている内に逃走を企てる事まで考え始めていた。
自分の親を含めたグリードたちのやり取りが気になるのか、アゲハヤミーもこちらを伺っている様子は無くまさに逃げ出すチャンスと言える状況なのだ。
だがメズールがガメルから三枚のコアメダルを受け取った瞬間、場の硬直がいっきに崩れる事態が発生する。

「このメダルがあれば…。 サガル、このメダルを使いなさい!!」
「えっ、ここで俺っ!?」

なんと先ほどまでオーズと手を切ると言っていたメズールが、ガメルのコアメダルを投げ渡すという手のひらを返すが如く行為に出たのだ。
突然の行動に驚きつつも、どうにか三枚のコアメダルを受け取った山崎はオーズドライバーを再装着してメダルを装填する。

「メ、メズール!? どうして…」
「ごめんなさぁい、ガメル! 悪いんだけど、私にはまだオーズの力が必要なのよね」
「変身っ!!」


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"サイッ!"、"ゴリラッ!"、"ゾウッ!!"。

"サゴーーゾッ! サッ、ゴーーーーーゾッッ!!"


サイ・ゴリラ・ゾウの重量系の属性を持つ灰色のコアメダルで、山崎は起死回生の変身を遂げる。
サイの如き鋭い一本角を持つ頭部、ゴリラのような厚い胸板と太い腕、ゾウのような重量感溢れる脚部を備え、全身が灰色系統の色となるサゴーゾコンボへと姿を変えるのだった。










「くそっ、オーズに止めを刺さなかったのは失敗だったか!? だが今度こそ…」
「オーーズ、ウフォォォォォォォォォ!!」

コンボへ変身したオーズを危険視したウヴァとアゲハヤミーは、片方は地上から、もう片方は空中から山崎対して攻撃を仕掛ける。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なに、ぐあぁぁ!?」
「うふぉぉ!?」

しかし山崎がゴリラが胸を叩く時の動作、ドラミングを始めると地上に居たウヴァと空中に居たアゲハヤミーが地上付近に漂い始めた。
重量系サゴーゾコンボの持つ特殊能力、重力操作に翻弄されてしまいウヴァたちは成すすべの無くそのまま地面に叩き落される。

「お、いい物を拾っちまったぜ!!」
「ああ、俺のコアが!?」

そして地面に落とされた衝撃でウヴァの体からコアメダル、先ほど山崎から回収したバッタメダルが排出された。
飛び出したメダルを目ざとく見付けた銀時の手によって、奪われたバッタメダルを取り返す事に成功する。

「くそっ、今日はひとまず退いてやる! 行くぞ、ガメル!!」
「メズール! メズーーーールゥゥゥゥ!?」

形勢が逆転したこの状況では分が悪いと判断したウヴァは、この場から逃走を試みる。
これ以上ガメルをメズールと一緒に居させたらまずいと考えのか、メズールの裏切りに嘆くガメルを無理矢理連れてその場を立ち去っていった。





"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Scanning Charge!!"。

グリードたちが逃走して、その場に取り残されたアゲハヤミーを倒すため山崎はメダルの力を解放する。
重力操作を用いてその場から天高く跳躍した山崎は、そのまま落下して脚部となっているゾウレッグを地面に叩き付けた。
するとヤミーの足元に亀裂が走り、足元が地面に埋まったヤミーはそのまま地面に直線上に亀裂を作りながら強制的に山崎の前まで連れてこられる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、せいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ウギャァァァァァァァァ!?」

こうして己の目の前にたどり着いたヤミーに対して、山崎はゴリラの両腕とサイの角を渾身の力を持ってぶつける。
山崎の必殺の一撃を受けたヤミーは爆散して、周囲にセルメダルを待ち散らすのだった。










「しかしお前もよくやるよなー。 本当に俺たちからガメルに鞍替えしたかと思ったぜ…」
「ふっふっふ。 悪いけど、ぼうやたちとは経験が違うのよね。 あの位の演技なんてお手の物よ」
「うげ、そういえばお前って本当は800歳以上のばあさんだったけ…」
「誰がばあさんよっ!?」

メズールの機転によりガメルからコアメダルを奪取して、どうにか危機を脱する山崎。
彼女の巧みな演技に流石は800年以上前からの経験値がものをいったという感じだが、やはり女性として年寄り扱いされるのは気に食わないらしい。

「だがこれでガメルを仲間にするって話は無くなったな。 あんな形でコアメダルを騙し取られたら、もうこっちの話になんか乗らないだろうし…」
「あら、別に大丈夫よ。 あの子はお馬鹿さんだから、次に逢ったときに私が頭の一つでも撫でてあげればすぐ誤魔化せるわ」
「うわっ、あんな目に合わせておいて、まだ利用する気かよ。 やっぱり年食った女は怖いね…」
「だから婆呼ばわりするは止めなさい!!」

結果として己からコアメダルを騙し取った自分たちにガメルは仲間になってくれないだろうと、以前からの計画が破綻した事に山崎は残念がる。
しかしメズールはあそこまでの扱いをしたガメルまだまだ利用する腹積りらしく、己を慕う男を手玉に取るその悪女振りに若干引き気味になる山崎たちであった。



[25341] メダル争奪と選択と海のコンボ(前編)
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:bb1c5361
Date: 2011/08/10 20:47

「メダルをグリードに集中させる!?」
「そうです、一つ器にメダルを集中させた時にどのようなことになるのか…、非常に興味が有ります」

日夜メダルについての研究が行われている鴻上生体研究所の一室、Dr真木の研究室に二人の男が話していた。
一方は白衣を纏った中年の男、研究室の主である真木清人、もう一方は銀髪の頭髪に帽子を被った若い青年。
傍から見たら共通項など全く無さそうな二人が、研究所の一室で同席する姿はある種の異様さを感じさせる。

「ふーん、おもしろいんじゃない。 グリードの中にメダルを集中させるなんて簡単だから、試しにやってみようよ!」

真木の提案に興味を持ったらしい銀髪の青年の体は、何時の間にかセルメダルに覆われてしまう。
そして次の瞬間、銀髪の青年の体から本来の猫科に似た姿を持つ怪人体へと戻ったグリードのカザリがそこに居た。

「では、よろしくお願いします。 全ては良き終末を迎えるため…」
「…本当、ドクターの欲望って変わってるよね」

何故グリードと敵対している鴻上側の人間である真木が、グリードのカザリと共に居るのか。
研究室に飾れている「来たるべき終末」と評された絵画、人々が悶え苦しみ姿が描かれたそれを眺める真木の姿からは彼の真意は何も読み取ることはできなかった。










「Dr真木から実験に必要なセルメダルが不足しているとの話が来てね、君はセルメダル5000枚を研究所まで運んで貰おう」
「そんなに大量のセルメダルが…。 もしかして例の新しい装備のために必要なのですか?」

鴻上ファウンデーション会長室に呼び出された後藤は、会長の鴻上からセルメダルの護送という新たな任務を言い渡される。
5000枚という桁外れの量のセルメダルを何に使うのか頭を巡らした後藤は、Dr真木が開発しているという装備のことに思い当たった。
なんでも噂の新装備はカンドロイドやライドベンダーと違い、ヤミーと直接戦うための装備であると言う話らしい。

「後藤くん、いい機会だ! ここでDr真木のご機嫌を取っておくといい、君の欲望を満たすために!!」
「!? それは…」

後藤が持つ欲望、世界を守るために戦いたいというそれは現状ではとても満たされているとは言えないだろう。
そのためDr真木の新装備を使ってヤミーと戦うことができれば己の欲望を満たせるかもしれないと、後藤の頭によぎるのも無理ない。
己心の奥底にあった欲望を鴻上に嗅ぎ分けられた後藤は、痛いところを突かれた様子で狼狽してしまった。

「会長、追加の依頼です。 赤のコアメダルも1枚、必要になったそうです」
「よろしい! 研究に必要なメダルは惜しまない方がいいからね!!」

メールで追加の注文を受け付けた会長秘書の里中は、真木からの新しい要求を鴻上に伝える。
真木からの要求を聞いた鴻上は、机から白い手のひらサイズのケースを手に取り、ケース内から赤いクジャクのコアメダルを取り出した。





「やっと見つけたぞ、俺のコアだ!!」

鴻上ファウンデーション会長室の窓を外から伺える場所に、巨大な翼を広げた赤い人影が空に浮かんでいる。
以前より密かに会長室の中を監視していたグリード、アンクが己のコアにめぐり合えたことに歓喜の声を漏らした。










「食った食った有る、もうケーキは暫く見たく無いアルよ!!」
「ふー、久々に腹いっぱい糖分を摂取出来たぜ!!」
「うーん、量はあったけど味はイマイチだったわね…。 サガル、次はもう少しまともな店に案内しなさいよ」

万事屋一同でケーキバイキングに行った帰り、一部不満が有るものの概ね満足のいくまでケーキを貪ったらしい銀時たち。
神楽が例の丸々と腹が膨れ上がっている所を見ると、店に並んでいたケーキというケーキを食べ尽くしたのだろう。

「で、なんでまた俺が奢ることになってるのかなー? まあバイキングだったから料金一括で助かったけど…。 はー、多分俺って今後もこんな風に回りにいいように使われていくんだろうな…」
「元気出して下さい、山崎さん! きっとその内いいこと有りますって!!」

3人が歩く少し後ろで、また何やかんやで彼らの食事代を払うことになった山崎がぶつぶつと愚痴を零している。
比較的山崎と同じポジションである新八は、そんな彼の姿を自分ことのように捉えてしまい真摯に励ましていた。






「やあ、久しぶりだね、メズール」

負のオーラを醸し出しながら山崎たちから少し前を歩いていた銀時・神楽・メズールの目の前に、銀髪の青年に偽装したカザリが現れた。
カザリは以前に彼女と敵対したことを忘れたかのように、親しげな雰囲気を見せながらメズールに対して声をかける。

「ん、誰アルか、あれ?」
「おい、お前に用みたいだぞ、メズール。 なんだー、もしかしてお前の彼氏とかか?」
「そんな訳無いでしょう。 私の名前を知っているとは…、答えなさい、あなたは何者なの?」

しかし人間の姿に偽装した時のカザリの姿を知らないメズールたちは、文字通り見知らぬ人間に接した反応を見せる。

「おっと、この姿を君に見せるのは初めてだったね。 どうだい、これなら僕が誰か解るだろう?」
「!? カザリ、何故あなたが此処に!!」
「えっ、マジ! こいつがあの猫の化け物!?」

彼らが自分が誰なのか解っていないことに気付いたカザリは、己の腕を正面に差し出して一瞬だけセルメダルへと変えてみせる。
その瞬間に発せられた覚えのあるグリードの気配から、メズールは目の前の青年がカザリであることに漸く気付いた。

「なに、君にちょっとした情報を伝えてあげようと思ってね」
「情報?」

メズールは突然現れたカザリに対して、露骨に警戒した様子を見せた。
しかしカザリはこちらに向けて敵意をありありと見せているメズールを意に介さず、たんたんと話を進める。

「実は今日、鴻上とかって奴の手筈でメダルが何処かに輸送されるらしいんだけど…。 そのメダルの中に赤いコアメダルが有るみたいなんだよ」
「赤いコアメダル!? まさかアンクの…」
「そ、そしてアンクは既にその情報を掴んでいるらしいよ。 アンクは自分のコアを放っておく訳ないよねー」

メズールは己のコアメダルを持っている可能性が一番高いグリード、アンクの情報が予期せず舞い込んだことに驚く。
狡猾で欲深いアンクが自分のコアの在り処を知ったのなら、確実にそれを狙ってくる筈だ。

「おい、てめー、何が目的だ? なんでわざわざお前たちに不利な情報を伝えにきた!」
「ふん、僕たちの前に一度も姿を見せないアンクは信用できないからね、ならいっそオーズに倒して貰った方がいいと思ったまでさ」

わざわざこちらが有利になることを伝えに来たカザリの行動を不審に感じた銀時は、何か裏があるのではと勘ぐった。
カザリは自分たちの所に来ないで独自路線を走っているアンクが目障りなだけとだと、銀時の追及を軽く交わす。

「じゃあ僕はこれで失礼するよ、この情報をどう扱うかは君たちに任せるよ!!」
「待ちなさい、カザリ! まだ聞きたいことが…」

伝えたい情報は話し終えたカザリは、用も無ければ長居は無用といった感じでその場から離れていった。






「これからどうするアルか、メズール?」
「もちろん、そのメダルの輸送とやらをマークするわよ! アンクが現れた私のコアを取り戻してやるわ!!」
「でも胡散臭いぞ、この話は? もしかしてカザリが仕掛けた罠なんじゃ…」

カザリが消えた後、万事屋に戻ってきた銀時たちと山崎はカザリから伝えられた情報についての話をしていた。
夢にまで見た自分のコアを取り戻せるチャンスを逃す訳にはいかないと、メズールはカザリの思惑に乗るつもりのようだ。
しかし山崎はカザリが自分たちを陥れるためにこの情報を伝えたのではと考え、今にも飛び出しそうなメズールを諌めようとする。

「ふんっ、仮に罠だったとしても、逆に蹴散らしてあいつらのコアを奪ってやればいいだけの話よ」
「おいおい、それを実際にやるのは俺の役目になるんだぞ…」

だがメズールは罠の可能性を考慮しても、ここは行くべきだとあくまで強気の姿勢を見せる。

「じゃあいいわよ、私一人で行くから、あなたはここで留守番でもしてなさい!!」
「ああー、そういう訳にもいかないだろ!? 解ったよ、行けばいいんだろう、行けば!!」
「はー、結局行くのかよ…。 まあ気をつけて行けよ、お前ら」

コアメダルが余程大事らしいメズールは、とうとう慎重論を唱える山崎を置いて行くとまで言い出してしまう。
最終的に山崎の方から折れる形になった二人は、銀時に見送られながら万事屋を離れた。










(くそっ、なんで山崎なんかを頼りにしなければならいんだ…)

メダルが積み込まれた輸送車を護送中の山崎は、護送車の背後に着いてくるライドベンダーを忌々しげに眺めていた。
もちろんあのライドベンダーは、後部座席にメズールを乗せたは山崎が走らせているものだ。

鴻上ファウンデーションから出立する直前に現れた自分の元同僚は、メダル輸送車をグリードが狙う可能性が有るので同行したいと言ってきた。
もちろん後藤はそんなことは出来ないと最初は断ろうとしたが、山崎が話した情報によってそうとも言ってられない状況だと解ってしまった。
何故なら極秘の筈のメダル輸送の件が何故か山崎たちが知っており、彼らはその情報を有ろうことかグリードのカザリから伝えられたという話である。
恐らく他のグリードたちも既にこの輸送の話が行っていることは予想し易く、山崎たちが言うように輸送中にグリードたちから襲われる可能性は極めて高いと言えよう。
鴻上会長との連絡が付かず、立場上独断で輸送を取りやめる訳にはいかない後藤はこうして渋々と山崎の同行を認めることになった。

(俺はこのままでは駄目なのか!? やはり真木博士が開発している新装備を…)

実際にグリードたちが現れた場合、正直なところ自分たちの戦力だけでは到底メダルを守りきることは不可能だろう。
山崎が現れたことは戦力的には思わぬ幸運といえるが、世界の平和を守りたいという己の欲望に相反して、オーズの力に頼るしかない現状に後藤は苛付きを覚えていた。
鴻上会長の言う通り自分の欲望を叶えるには例の新装備を手に入れなければならないのかと、後藤は輸送中に悶々と悩み続けることになる。





「この橋を超えたらもうすぐ研究所に着く、結局何も起きなかっ…、なに!?」

出発時の懸念に対してメダル輸送は順調に進め、崖下に流れる川の上を渡す形で掛けられた橋にまで差し掛かっていた。
この橋を渡りきれば研究所まですぐといった所であり、道程にグリードが現れなかったことに後藤は拍子抜けしつつもほっと胸を撫で下ろしかける。
しかし橋の真ん中に仁王立ちする2体の怪人、緑色をした昆虫型グリードのウヴァと灰色をした重量型グリードのガメルを目撃した後藤の表情が凍る。

「さぁ、セルメダルを渡して貰うぞ!」
「くっ、輸送車を止めろ!?」

急いでメダル輸送車を止めさせた後藤は、すぐさま同行していた護送役のライドベンダー隊員を引き連れて車両から降りる。
輸送車を守るように並んだ後藤たちは、各々が装備する銃器をグリードに向けて構えた。

「撃てっ!!」
「ふんっ、そんなもの…」

後藤の号令の元に発射された銃弾の雨に晒されるウヴァたちだが、彼らはそんな攻撃は物ともせずにメダルを求めて輸送車の方に駆け出した。





「おいおい…、あれってどう見てもウヴァとガメルだよな。 アンクって奴も来ないみたいだし、やっぱり罠だったんじゃ無いのか?」
「ふんっ、さっきも言ったでしょう。 例え罠だとしても、逆に蹴散らしてあいつらのメダルを奪えばいいってね!」
「だからそれを実際にやらされるのは俺だろう…。 ああ、早くメダルを貸せ、メズール!!」

未だに姿を見せないアンクがメダル目当てに現れた所を狙う筈が、実際に現れたのは毎度お馴染みのウヴァとガメル。
見覚えのある面子を見た山崎は、やはりアンクを餌にしてカザリに罠に嵌められたのではと考える。
しかし目の前で後藤たちがグリードにいい様にやられる姿を見捨てる訳にはいかず、結局山崎は罠に飛び込むしかないのだ。

「くっそー、やればいいんだろう、やればっ! …変身っ!!」


"タカッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。

"タットッバッ!"、"タトバッ!"、"タットッバッーー!!"。

メダルの力が解放されると共に定番の歌が響き渡り、オーズへと変身をとげた山崎は即座にグリードに向かって駆け出した。





あとがき

すみません、原作エピソードの病院話を飛ばしてしまいました。

申し訳ないですが進行上の関係で本編の話を全てやるのは無理っぽいので、
今後は銀魂側の話も考慮しながらちょくちょくOOOサイドの原作話を飛ばしていきたいと思います。

…ていうかそんなことより、原作でメズールが逝ってしまわれたぁぁぁぁぁぁ!!?



[25341] メダル争奪と選択と海のコンボ(中編2)
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:ee2cf98b
Date: 2011/09/06 01:17
「…もういいわ、サガル。 あなたとはここまでのようね!」
「え、ここまでって…。 どういうことだよ、メズール!?」

今だに川に浸かりながら延々と不満をぶちまけ合っていた山崎たちだが、唐突にメズールが話の内容を切り替えてきた。
先ほどまで色々と言われたことが余程腹が立ったらしく、苛立ちを見せる彼女はいきなり山崎と縁を切る話に発展させてしまう。
だが突然自分のことが不要と言われても納得のいかない山崎は、狼狽しながら彼女の真意を問うのだった。

「私にはオーズの力が必要だったのよ! もうオーズへとなれないサガルには用は無いわ!!」

たしかにコアメダルが一枚しか残っていない現状では、山崎はオーズへとなることは不可能だ。
万事屋の例があるため変身しなくてもヤミーに有る程度まで立ち向かえる可能性も有るが、やはりオーズが無ければ厳しいだろう。

「ほら、ドライバーは返して貰うわ。 じゃあ世話になったわね、サガル」
「おい、メズール!? ……くっ」

オーズに変身不能の山崎と居てもメリットが無いと判断したらしいメズールは、山崎からオーズドライバーを回収した後にその場を離れていく
静止の声を無視して立ち去る彼女の後姿を、山崎はただ見ていることしか出来なかった。










「…それでメズールちゃんを一人で行かせたんですか、山崎さん!?」
「本当に情けない男あるね!!」

あれからメズールを分かれた山崎は、彼女の顛末を伝えるために万事屋を訪れていた。
グリードに狙われる可能性の有るメズールを一人にした山崎に行動に、新八・神楽は攻め立てるように各々の思いをぶつける。

「仕方無いんだよ、新八くん。 あいつが言うようにオーズに変身出来なければ、俺はただの足手まといなのさ」

先の戦いでもオーズという力が有りながらカザリにいいようにやられて、大量のコアメダルを奪われることになってしまった。
そんなオーズで有っても役に立たなかった自分が、生身で何ができるのだろうか。
メズールが離れていくことに自分の不甲斐なさを実感した山崎は、彼女を止めることも出来ずに黙って行かせるしかなかったのだ。

「ザキよ、本当にお前はそれでいいのか?」
「…俺が旦那みたいに強ければ別ですがね。 所詮地味な脇役にはここら辺が限界なんですよ…」

銀時の問い掛けにも力なくヘラヘラと応える山崎の姿は、万事屋の面々から見ても痛ましいものに感じられた。





「…じゃあ俺は仕事が有るんでこれで失礼します。 万が一メズールが帰ってきたら…、いや、それは無いか…」
「山崎さん!?」

メズールのことを伝え終わった山崎は、もう用事が済んだと真選組の屯所に力無い足取りで向っていく。

「いいあるか、銀ちゃん? あのマダオを放っておいても」
「そうですよ、何時の銀さんなら説教で活を入れるシーンじゃないですか!!」
「嫌だよ、説教に垂れるのも以外に疲れるんだぞ。 …それにあいつに活を入れる役は別に居るしな」

心が折れた様子の山崎に対して、新八は何時ものように銀時が説教をして彼を立ち直らせることに期待した。
しかし新八の期待に応える気が無い様子の銀時は、その役目は俺じゃないと意味深に笑みを浮かべるだけであった。










(本当に俺はこのまま何もせずにいいのか? 今のメズールが他のグリードに襲われたら…)
「山崎、ちょっといいか?」

真選組の屯所に戻った山崎は、メズールのことを振り払うように一心にミントンラケットを素振りしていた。
余程ミントンに打ち込んでいるらしく、山崎は自分の上司が声を掛けていることにも気付かずにラケットを振るい続ける。

(いや、あいつも馬鹿じゃ無い。 きっと何か算段があっての行動なんだろう、多分ガメル辺りを頼りにするとか…)
「おい、聞いてるのか、山崎!!」

万事屋の面々にはああ言ったものの、やはりメズールを一人にするのが気に掛かるらしく山崎は彼女のことを考え続けている。
思考を集中させる山崎は、自分のすぐ傍で話しかける上司がいい加減切れ掛かっていることにも察することが出来ない様だ。

(それにオーズになれない俺が居ても仕方ないだろう。 そうさ、このまま何も動かないのが一番…)
「いい加減に人の話を聞きやがれっ、この馬鹿たれがぁぁぁぁ!!」
「痛ぇぇぇぇぇ!? …あれ、副長?」

結局、堪忍袋の尾が切れた土方からの鉄槌を喰らった山崎は、涙目になりながら漸く己の上司の存在に気付いたようである





「どうした、山崎? 今日のてめーは何かおかしいぞ、何かトラブルでもあったのか?」
「いえ、俺は別に…」

土方は自分の存在にも気付かない程、鬼気迫る姿でミントンをしていた山崎のことを心配してくれたらしい。
山崎は土方の気遣いに感謝しつつも、グリードのことを話す訳にはいかず言葉を濁してしまう。

「嘘はよくないぞ、ザキ!」
「き、局長!?」

しかし何処で二人の話を聞いていたのか突然、真選組局長近藤勲が彼らの前に姿を見せた。
山崎の雰囲気から何かあったことを察した近藤勲は、先ほどの発言は偽りと断じて山崎の胸の内を明かそうとする。

「お前の情けない顔を見たら、何かあったことなんて丸わかりだぞ。 話してみろ、ぶちまければ少しは楽なるかもしれん」
「…実は」

なんだかんだで隊士から慕われている局長の大らかな笑みを目の当たりにした山崎は、グリードのことを誤魔化しつつメズールとの一件を話してしまった。










「…つまりお前はメズールちゃんに、もうあなたなんて必要ないと言われて落ち込んでいると?」
「いや、なんかその言い方だとアレですが…。まあ概ねそんな感じです、局長」
「けっ、たんなる痴話喧嘩じゃねえかよ」

グリードやオーズのことを省いて無理やり説明したことで、メズールとの話を微妙に違うニュアンスで受け取られてしまったようだ。
完全に色恋沙汰のノリと受け取った局長たちに、山崎は大筋はだいたい認識して貰えたと考えてあえて強く訂正を入れない。

「情けねーぞ、山崎! たかが小娘に戦力外通知された位で、そんなに落ち込むんじゃねぇ!!」
「仕方ないんですよ…、本当に今の俺の力じゃ何の役にも立たないんです。 やっぱり俺は大して取りえも無い、地味キャラでしか無いんですから…」

土方の一喝に力なく反論した山崎は、そのまま自分の不甲斐なさを愚痴のように零してしまった。

「甘いな、ザキ、一回くらい女性に拒絶されたくらいで心が折れるなんて! 俺を見ろ、お妙さんに何度拒絶された解らないくらいだが、それでも諦めようとは微塵も思わないぞ!!」
「いや、あんたはいい加減諦めた方が…」

言葉通り恋のアタックを繰り返しながら全戦全敗中の局長は、己自身を例に挙げてその程度で気にするなと山崎を励ます。

「ていうか局長、だからこの話は別に色恋沙汰とかの浮ついた話じゃ…」
「…それに山崎、お前の職業を言ってみろ!」
「えっ、一応真選組に勤めていますが…」

流石にそろそろメズールとの関係を訂正するべきだと思ったのか、山崎は二人の認識を改めようとする。
だが近藤勲は山崎の発言を遮り、何やら真剣な表情で至極当たり前のことを問うてきた。

「じゃあ山崎、真選組の仕事内容はなんだ?」
「ええーっと、色々と有りますが基本的に俺たちの仕事は江戸の市民を守ることです」

質問に答えた山崎に対して、近藤勲は続けて彼らにとっては常識以前の問題を再び尋ねてくる。
山崎は彼の真意が何なのか疑問に感じつつ、近藤勲の質問を回答していった。

「じゃあ聞くが山崎、お前じゃ絶対敵わないような相手が江戸の市民を襲っていたら、お前は黙って見過ごすのか?」
「!? そ、それは…」

真選組は局中法度にも厳しく定められている通り、決して敵前逃亡は許されず江戸の治安を守るために戦い続けるのが職務である。
先ほどの山崎が話すような状況、己の力が遠く及ばない敵に相対しようとも真選組として市民を守るために体を張るのが彼らの誇りとも言えるのだ。

「例え相手がどんな強大でも、俺たち真選組は体を張って江戸の市民を守る! そうだろう、山崎?」
(そういえば俺は前にあいつに対して大見得切ったな…)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「サガル、どうして貴方は変身してあれと戦いたいの? 別に貴方には何も関係ないでしょう」

「関係ある、何故なら俺は真選組の一員だ! 江戸の市民を守るのが俺の仕事なんだ!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


近藤勲の語る真選組の心得を聞いた山崎は、かつて自分がヤミーを目の前にしてメズールへ大言を吐いたことを思い出す。
以前の自分はグリードやヤミーの力を深く知らなかったことも有るだろうが、真選組の有り方のまま市民を守るために彼らに進んで戦いを挑んでた。
それに比べて今の自分はただ一つの失敗を悔いて立ち止まってしまい、真選組としての誇りまで失っていたことに山崎は気付かされるのだった。





「…ありがとうございます、局長! …そしてすいません、俺今日は早退します!!」
「はぁ!? おい、山崎…」
「行かせてやれ、トシ!」

局長の話を聞いて何かを考えるように俯いていた山崎だが、やがて意を決したように顔をあげて駆け出していく。
突然の山崎の脱走劇を留めようとする土方を静止して、近藤勲は屯所から離れていく彼を黙って行かせるのだった。





「いいんですか、局長? あいつに仕事を放棄させて…」
「ふっ、あんな顔している奴に仕事を任せても失敗するのがオチだろう? 山崎も当たって砕ければ少しはスッキリするだろうしな」
「ちっ、まあ帰ってきたら腑抜けていた分までコキ使ってやりますよ!」

仕事を抜け出して女の所に駆け出した山崎の行為は本来なら処罰にあたるのだが、局長の鶴の一声によってどうにか免れたようだ。

「 …それにしても山崎ってロリコンだったんだなー。 うわっ、きしょっ!?」
「はっはっは、これも一つの愛の形というやつさ! だが人は見かけによらないなー、トシ!!」

山崎のサボりを黙認する近藤勲の判断に渋々と従った土方は、彼の意外な趣味を知って若干引き気味そうである。
少なくとも見た目は15歳位の少女で有るメズールに対して、真剣になる二十代の山崎の姿は端から見てもあっち系の趣味の持ち主であろう。
こうして山崎は真選組のトップ2に対して、無用な誤解を残したまま立ち去ってしまった。










「ハァ、ハァ…、すいません、旦那!」
「ん、どーした、ザキ? お前、仕事じゃなかったのかよ?」

先ほど仕事に行くと出て行った山崎が再び万事屋に現れた、ここまで駆けて来たらしく息が切れている様子である。

「万事屋の旦那に依頼が有ります! お願いです、メズールを探す手伝いをして貰えませんか!!」
「…しょーがねーなー、じゃあアイス1年分で手を打ってやるぜ!!」
「じゃあ私は酢昆布1年分アル!!」
「えーーと、僕はお通ちゃんのグッズ1年分で!!」

銀時の予想通り彼の仲間たちに活を入れられた山崎は、先ほどまでの暗い顔が吹っ切れた顔でメズール探索を依頼してくる。
山崎の依頼を聞いた銀時たちは待ってましたと言う笑みを浮かべながら、彼の依頼を快く引き受けるのだった。










「これを取り込めば、メズールが…」
「そうだよ、ガメル。 メズールはコアメダルを集めるためにオーズと一緒に居るんだ。 だから君がコアメダルを一杯手に入れれば、メズールは君の所に戻ってくれるよ」
「メズールが…。 じ、じゃあ、やる!!」

メズールにけしかけれられてカザリの相手をしていたガメルだが、暫くしてメズールが居なくなっていることに気付く。
そこで自分を無視してメズールを探し始めたガメルに、カザリはオーズから彼女を取り戻したくないかと言葉巧みにガメルを丸め込んでしまう。
こうして真木の研究所までガメルを誘い出せたカザリは、思惑通りガメルにメズールやガメルから奪い取ったコアメダルを体内に投入させるに至ったようだ。

「上手くいきましたね、カザリくん。 これでメダルを器を集中した姿を見ることが出来ます」
「まあこの位は楽勝さ」

計画が上手く進んだDr.真木とカザリは、メダルを次々に投入していくガメルの姿を眺めながら互いにほくそえむのだった。






あとがき

すいません、今回の話でシャウタまで行きませんでした!?

次回こそシャウタ登場で完結させますので、もう一週間ほどお待ち下さい!!

…それはさておき、とうとうフォーゼが来ましたねー!!
そういえば銀魂でリーゼントキャラだと言えば…、ま、まさかタカチンのライダーフラグが有りえるのか!?



[25341] メダル争奪と選択と海のコンボ(中編)
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:bb1c5361
Date: 2011/08/29 22:32
「こいつらは俺が引き付ける! 後藤はメダルの方を頼むぞ!!」
「くっ…。 わ、解った!」

今にも襲われそうな後藤をかばうように、山崎はグリードたちの前に立ちはだかる。
その山崎の後姿を一瞬悔しそうな表情で見つめた後藤だが、私情を押し殺して仕事を優先するために輸送車の方へ戻った。

「オーズか、この前の借りは返させて貰う! ついでにお前に奪われたメダルを回収させて貰おうか!!」
「オーーーズーーー、メズーーーールをかえせぇぇぇぇ!!」
「くっそー、変にやる気を見せやがって…。 うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

オーズへと変身した山崎と対峙して、逆にグリードたちは闘志を高めている様子だ。
彼らは先の戦いで山崎にいいようにやられたており、その復讐戦だと気合を入れているのだろう。
山崎は二対一の不利を押しのけるように、雄たけびをあげながらグリードたちへ向って行った。





「はっ、貴様の力はそんなものかぁぁ!!」
「オーーーズーーー!!」
「うわっ、あぶねぇ!?」

果敢にグリードたちに攻め入った山崎だが、やはり数の差は大きいらしく徐々に押されていく。
今もウヴァとガメルの同時攻撃を間一髪で避けた山崎だが、このままではいずれ限界が来てしまうだろう。

「やっぱりグリード二対はキツイか…。 メズール、何かメダルを寄越せ!!」
「はぁ、もう音を上げたの? 仕方ないわね…、これでも使いなさい!!」
「よしっ、これで…」

劣勢の流れを変える手段を求めた山崎は、後方で戦いを見守っていたメズールに起死回生のメダルを要求する。
願い通りにメズールが投げ渡した一枚のメダルをキャッチした山崎は、急いでそれをベルトにセットした。


"クワガタッ!"、"トラッ!"、"バッタッーー!!"。


「…てっ、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「ちぃ、俺のメダルを勝手にっ!?」
「うわぁぁぁぁ、ビリビリィ!!」

頭部をタカメダルからクワガタメダルに変えた山崎はその瞬間、クワガタを模した頭から雷撃から四方八方で放たれた。
不意の攻撃はグリードたちを怯ませることには成功したが、予想だにしなかった突然の現象に山崎自身が一番面を食らったようである。

「こらっ、メズーール! こういうことになるなら、先に言えよなぁぁぁぁぁ!!」
「男でしょう、その位我慢しなさいよ」

説明も無しにクワガタメダルの能力、雷による広範囲攻撃をやらされたことに山崎を抗議をするが、メズールは彼の不満を一顧だにする様子は無いようだ。

「と、とにかく今はグリードを優先するか…。 メズール、ついでにカマキリメダルをくれ、コンボで一気に…」
「悪いんだけど、そうはさせないよ!!」





不満は残しつつも今は争っている時ではないと思い直した山崎は、このまま押し切ろうとメズールに新しいメダルを寄越すように指示する。
しかし先ほどまで影も形も存在しなかったグリードのカザリが突然現れ、獲物に飛び掛る猫のような俊敏性で山崎に飛び掛かってきた。

「なっ、カザ…、ぎゃぁぁっ!?」
「サガル!?」

想定外の不意打ちをまともに受けた山崎の体は宙へ弾き飛ばされて、その衝撃で腰に巻いていたベルトまで外れてしまう。
オーズの変身が解けた山崎はそのまま橋の欄干を飛び越えてしまい、宙に舞っていたベルトとともに下を流れる川まで落下して行った。

「山崎!? くっ、あいつのメダルが!!」
「俺のメダルぅぅぅぅぅ!!」

装着者から外れた衝撃でベルトにはめ込まれていたコアメダルも、橋下へ落ちていく山崎とは別方向に飛び出してしまう。
とっさに山崎を助けようと動いていた後藤はこのタイミングでは間に合わないと判断して、せめてコアメダルだけはとメダルの方へ手を伸ばした
一方、ウヴァも山崎が変身に使用していた己のカマキリ・バッタコアメダルへの執着を見せ、後藤と空中でメダルの取り合う形となる。

「よしっ、俺のメダルを返して貰ったぞ!!」
「くそっ、一枚だけか…」

後藤とウヴァのメダル争奪の結果、ウヴァは念願のカマキリ・バッタメダルを掴み、後藤は残りのトラメダルしか回収できなかった。











「ちょっと、サガル!?」
「あれー、メズール。 君は自分の心配をした方がいいんじゃない?」
「カザリッ!! どうやらサガルの予想は当たった…、きゃっ!?」

橋の下へと転落していった山崎を気に掛けたメズールだが、目の前に姿を現したカザリを視野に入れてすぐに警戒態勢を取ろうとした。
しかしカザリはメズールの先手を取って接近して、まんまと彼女に致命的なダメージを与えて体内に隠していたコアメダルを放出させる。
今まで他のグリードから奪ってきたコアメダルが、己の体から飛び出して地面に落ちていくさまをメズールは蹲りながら見ているしかなかった。

「くっ、私のコアが…」
「ウヴァ。 メズールのメダルは僕が回収しておくから、君はそのセルメダルを例の場所に運んでおいてよ」
「…メズールから俺のコアを取り返したら、必ず俺に渡すんだぞ!!」

オーズやメズールが戦闘不能になったことで戦力はもう必要無いと考えたカザリは、ウヴァに一人セルメダルの輸送を任せることにする。
メズールが持っていたコアに後ろ髪を引かれつつ、カザリの申し出に従ったウヴァはメダル輸送車へと歩みを進めた。

「待て、輸送車は…」
「邪魔だ!!」

輸送車に行かせまいと立ち塞がった後藤を一蹴したウヴァは、そのまま輸送車に乗り込んで発進させる。
護衛を勤める筈の後藤やライドベンダー隊員が死屍累々と倒れる中で戦場から離れていくメダル輸送車、こうしてグリードたちはまんまとセルメダル強奪に成功した。





「うーん、これで君の持っていたコアは殆ど取り返せたかな? 後は君自身のコアを…」
「ガメルーーー! カザリが苛めるのー、助けてーーーーー!!」

メズールからコアメダルを奪い返すことに成功したカザリは、次に彼女自身を構成するコアメダルを奪おうとする。
先ほどのダメージでフラフラの状態のメズールにはなすすべがないように思えたが、彼女はこの場に残っているもう一体のグリード、ガメルに助けを求めた。

「うぉぉぉぉぉぉ、メズールを苛めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

本来ならウヴァ・カザリとともにメズールの敵として現れたガメルだが、なんと彼女の呼び声に応えてカザリへ向って突進してきたでは無いか。
実はメズールを無垢に慕うガメルは先ほどまで彼女を痛めつけていたカザリへ密かに怒りを覚えており、彼女からの助けの声にそれが爆発してしまったらしい。

「ありがとー、ガメル! そのままカザリを抑えていてね!!」
「落ち着いてよ、ガメル!? 君はこの女に騙されて…」
「メズールのかたきーーーーー!!」

ガメルがカザリを拘束している間、メズールは山崎と同じように橋から飛び降りることで何とか危機を脱するのだった。










「…起きなさい、サガル!」
「ぐへっ!? メ、メズール、ここは? …そうだ、俺はカザリの奴にやられて!?」

橋の下を流れる川まで降りたメズールは先にこの場に落下した山崎を見付け、気絶してる彼に水流を浴びせて無理やり意識を覚醒させる。
彼女からの手痛い眠気覚ましで意識を取り戻した山崎は、辺りに視線を見渡しながら段々と前後の状況を把握していく。

「おい、メズール! あれから何が…」
「…サガル、あなたはコアを何枚持っている?」
「えっ、なんだよいきなり!? ……タカのメダルが一枚だけだ、最後に使っていたメダルは何処かにいったようだな」

カザリの手によって所持していたコアメダルを全て奪われたメズールは、一縷の望みをかけて山崎が持つコアの状況を確認する。
しかし山崎の方も落下の衝撃でベルトに装着していたメダルは全て外れてしまい、残ったのはメダルチェンジ後に手元に置いたタカメダルだけであった。

「メズール、どうしてメダルの数なんか…、まさか!?」
「…ええ、その通り! サガルが頼りないんで、苦労して集めたメダルを全部奪われたわよ!!」
「そ、それって結構まずいんじゃ…」

山崎がオーズへと変身するために必要なメダルは三枚、対して現在山崎たちの手元にはタカメダルしか存在しない。
つまり今の状態では山崎がオーズへ変身することは不可能となり、彼らの戦力は激減したのである。

「おい、どうするんだよ、こんな状況でグリードに襲われたら!? ていうかやっぱり罠だったじゃねえかよ、お前がメダルに目が眩まなければこんなことには…」
「なによ、サガルがカザリにやられのが悪いんじゃない!? あーあ、やっぱり人間は使えないわねーー」
「てめー、言うにことかいてそれは無いだろう!!」

険悪な空気になってしまった山崎とメズールは暫くの間、各々の鬱憤を晴らすかの如く罵りあうのだった。










「ご苦労だったね、ウヴァ」
「カザリ、俺のメダルはどうした!」

メズールが居なくなったことに気付いたガメルが彼女を探しに行ったことにより、拘束を解かれたカザリは事前に決めていた集合場所に辿り着いた。
先に輸送車を運転して来ていたウヴァに労いの声を掛けるカザリ、しかしウヴァはメズールが持っていた己のコアメダルの所在を真っ先に尋ねてくる。

「はいはい、解ったよ…。 ほらっ、君のメダルだよ」
「おお、すまんな!!」

ウヴァの望みに応えるためにカザリは、メズールから奪取したカマキリメダルを彼の方へ投げ渡した。
だが少し投げる力が強すぎたのか、カザリの手から離れたメダルはウヴァを飛び越して彼の背後に落ちてしまう。
先ほど山崎が使用していたクワガタ・バッタメダルと合わせて、これで三枚のメダルが戻ってきたウヴァは上機嫌そうに己の後ろに落ちたメダルを拾おうと動いた。





「ぐはっ、カザリ!? 何を…」
「ウヴァ、悪いんだけど君のコアメダルを頂くよ」

だがウヴァが背中をカザリへ向けた瞬間、なんとカザリはウヴァの体に腕を突き刺してきた。
ウヴァがメダルに注意を引かれて無警戒な所を狡猾に狙ったカザリは、そのまま無慈悲にウヴァの体の中を探ってコアメダルをかき出す

「カ…、カーザーリーーーッ!!」
「あれ、全部取れなかったのかな? まあいいさ、もう一回やれば…」

カザリからコアメダルを無理やり奪われたウヴァだが自分の意識を宿す最後のコアだけは何とか守れたらしく、これ以上はやらせまいと必死に腕を振るってカザリから距離を取ろうとする。
しかしコアを抜き取られたことでウヴァの力は明らかに弱まっており、彼の弱弱しい抵抗を見たカザリは残りのコアも簡単に取れるだろうと判断した。

「くっそぉぉぉ…、うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なっ、まだそんな力がっ!?」

カザリによってコアの大半を抜き取られたウヴァは、最後の力を振り絞って頭部から雷撃を放出する。
瀕死と思っていたウヴァからの思わぬ反撃は、辺り一面に雷を撒き散らされてカザリに対しての目潰しとなった。

「…はぁ、逃げられちゃったか。 まあいいか、これだけコアメダルがあればドクターも満足するだろう」

雷撃によってカザリの視界が封じられている間に、ウヴァは必死の体で逃げ出したようだ。
カザリはウヴァのメダルを奪いつくせなかったことに落胆しつつ、一定量のコアメダルを手に入れたことにとりあえず満足したようだ。






あとがき

とうとうOOO本編が感動の最終回を迎えましたね!?
まあこれでOOO内の新設定が出てくることも無くなりましたので、
このSSはのんびりと銀魂二期のアニメが終わるまでに完結を目指してぼちぼち進める予定です。

とりあえず次は最終回を記念して1週間以内に更新できるように頑張ります!
次話は不遇のシャウタコンボテーマ、「Shout out」を脳内BGMで流しながら読んで下さいね(笑)。



[25341] メダル争奪と選択と海のコンボ(後編)
Name: WAKASHI◆504f2808 ID:cd9799e6
Date: 2011/09/18 14:36

(…さて、一体どうやってガメルと接触しようかしら?)

昨日の一件で山崎と喧嘩別れしたメズールは、彼女と協力してくれる可能性が高いガメルとの接触を望んでいた。

(ガメルを味方に付ければ、現状の劣勢をなんとか回復できる筈よ。 そして上手いことカザリからメダルを取り返せば、またサガルの力も使えるしね)

山崎の力などは不要と言い切った筈のメズールは、山崎の力を利用するという先の発言を覆すようなことを考えていた。
どうやら彼女は現在のオーズに変身できない山崎には用が無いのは事実だが、また変身できるようになれば話は別と考えているらしい。
メズールは劣勢の状況を打開するただ一つの手段を求めて、一人江戸の町を歩くのだった。










(…メダル輸送の情報があそこまでグリードたちに漏れていたのは不自然だ。 やはり今回の件には内通者が居るのか?)

先のメダル輸送の警護中にグリードに襲われて手痛い敗北を喫した後藤、彼はあの時のグリードたちの動きに有る不審点を見出していた。
真木の要望によって行われたメダル輸送は、まさに今回のようなグリードなどの横槍を防ぐために極秘裏に進められていた筈だ。
しかし実際はグリードたちは事前にメダル輸送の情報を察知しており、あろうことかこちらの輸送ルートまでも把握して待ち伏せをさせる始末である。

(やはり俺たち鴻上側から情報が漏れたとは思えない。 …やはり真木博士が何か関わっているのか)

鴻上側でこの件を知っていた人間は、自分たちにメダル輸送を命じた会長の鴻上、事務処理を担当した会長秘書の里中、実際に輸送の準備を整えて警護を担当した自分を含めたライドベンダー隊くらいだ。
彼らの中からグリード側へ情報を流す者が居るとは考えられない後藤は、必然的にメダル輸送を依頼した真木博士のことを疑い始めていた。

(今から真木博士の研究所に向うか? …いや、その前にこのメダルを山崎に届けないとな)

事実を問いただすために真木博士の所へ向おうと考えた後藤だが、己の手のひらに包まれた感触を思い出す。
後藤は握り締めていた物、山崎が使用していたトラのコアメダルへと視線を移した。
実は後藤はあの橋上での戦いで、カザリがガメルの相手をしている隙を突いてどうにかコアメダルを所持したまま逃亡することに成功していたのだ。

(しかしこの時間だと山崎は屯所の方に居るか? 流石に今から行くのは…)

後藤はコアメダルを山崎に返そうと考えるが、山崎が真選組屯所に居る可能性に思い至って行く足を躊躇してしまう。
世界の平和を守ると言う己の志のため真選組を自分から止めた後藤は、かつての職場に向うことに抵抗を感じているようだ。

(ん、あれは確か山崎とよく一緒に居る?)

そんな風に思案していた後藤の目線は、最近山崎と一緒に居る所をよく見る銀髪の侍を捕らえた。










「メ、メズール! や、やっと会えた!!」
「ガメル!?」

江戸を彷徨っていたメズールの前に、彼女が捜し求めたガメルが自分から姿を現した。
ガメルの方でもメズールを求めていたらしく、念願だった彼女を目の前にして歓喜しているようである。

(なに、ガメルから発せされるこの力は!? この子は一体どれだけのメダルを体内に投入したのよ!!)
「メ、メズール、俺一杯メダルを手に入れた! これ全部あげるから、オーズの所じゃなくて俺のところに戻ってくれ!!」

カザリの口車に乗せされて大量のコアメダルを吸収したガメルは、内から溢れ出すメダルの力を持て余しているらしく何処か苦しそうである。
だが目の前に立つメズールへの妄執が彼を支えているのか、メダルを半ば無理やり制御してどうにか意識を保っていた。

(こ、これだけのメダルが有れば…。 だ、駄目よ、こんな大量のメダルなんか吸収したら暴走してしまうわ!?)

800年前に先代オーズがメダルの力を使いすぎたことが要因となって暴走、グリードたちが強制的に封印された過去が頭によぎるメズールは今のガメルの状態に危機を抱いた。
だがグリードの性からガメルから発せらせるメダルの誘惑に抗えなく、メズールは誘蛾灯に引かれたようにガメルへと近づいてしまう。

「メズール、俺の所に戻ってくれるんだな!!」
「ガ、ガメル!? あなたの…」

あなたの全てが欲しい、メダルの誘惑に折れかけたメズールは暴走の危険性さえ忘れてガメルの全てを受け入れようとする。
しかし彼女の危険な選択を留めることが出来る、一人の地味な男が現れたことで状況が一変した。










「あれは……、メズールっ!!」
「!? サガル、どうして此処に!?」

メズールを探すために江戸中を駆け回っていた山崎は、虫の知らせか偶然に足が向いた公園で漸く彼女と対面することになる。
山崎からの呼び声に気が逸れたメズールは、メダルの誘惑を一時的に忘れることが出来たようで彼の方に視線を向けた。

「メズール! そんな奴より俺を見てくれ!! 俺だけと一緒に居てくれ!?」
「ガメル…」

自分とメズールとの間に乱入した山崎を忌々しげに睨み付けたガメルは、彼女の先ほどのように自分だけを求めて欲しいと再度願う。
しかし山崎の来訪で正気が戻ったらしいメズールは、多量のメダルを取り込むことで発生する暴走の危険性が頭にちらついた。
そうしてメダルの暴走を恐怖したメズールは、恐らく無意識にだろうがガメルから離れる様に後ずさってしまった。

「メズール、どうして…。 ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

何より大切なメズールから拒絶されたと感じてしまったガメルは、ギリギリの所で保っていた意識を手放してしまいメダルの力に飲まれてしまう。
ガメルの悲鳴のような雄叫びに合わせて、体内に吸収していたコアメダル・セルメダルが放出して体の周りに円を描く様に浮遊した。
メダルたちはガメルの体を覆う様に集まり、やがて巨大な象のような姿を形作る。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

メダルの強大な力に飲まれてもはや人間の言葉さえ発せられなくなったグリードのなれの果て、ガメルは巨大グリード暴走態へと変貌を遂げた。










「な、なんだあれ!? 殆ど怪獣じゃねえか、出る作品間違えているだろぉぉぉぉぉ!!」
「…あれはメダルの暴走よ。 大量のメダルを含んだ結果、その力を制御しきれずに逆に飲まれてしまったメダルの化け物よ」
「メダルの力であんな風になるのかよ…。 …あれ、じゃあメダルを使うオーズも実は結構ヤバイのか!?」

運良くメズールを発見できたと思ったら、その場に居たガメルが巨大な化け物へと変貌を遂げる瞬間を目撃して山崎はうろたえていた。

「それよりサガル、わざわざこんな所まで来たのだから何処かでメダルの調達ができたんでしょう? だったら早く変身して、あれを何とかしなさいよ!!」
「んな訳ねぇだろう!? 昨日今日でメダルなんて用意できる宛てなんて…、うわっ、今のは危なかった!?」
「はぁ、使えないわねー。 あんだけ発破をかけてあげたんだから、鴻上辺りからメダルをぶん取って来るぐらいすると思ってたのに…」
「無茶言うなよっ、それになんで俺がまだお前を助ける前提なんだよ!? あんなこと言われたら普通、俺がお前らグリードたちから縁を切ったと思うだろうに!?」
「あら、サガルがあの程度でオーズを止める訳無いのは解っていたわよ。 だって、あなたの馬鹿さ加減は先刻承知だものね」
「えぇぇぇぇぇっ、あの時の話ってその程度のノリで言ってたのかよっ!? それなのに俺はマジに受け取って…、うわっ、恥ずかしい!!」

先にメダルの力が無ければ役立たず発言に奮起して、自主的にコアメダルを持ってくることに期待したメズールはノープランでこの場に現れた山崎に落胆する。
山崎はメズールの身勝手な思惑にまず呆れ、そして真選組で行った覚醒イベントなどの一人相撲を思い出して赤面してしまった。

「■■■■■■■■■■■■■!」
「…ていうか今はそんな話をしている場合じゃ無いな。 と、とにかく今は逃げろぉぉぉ!?」
「さ、賛成!!」

メダルの有り余る力から来る破壊衝動に押されて暴走態は、長い鼻や巨体を縦横無尽に振り回している。
巨大グリード暴走態に成すすべない二人は、当たり構わず暴れまわるそれから逃げ惑うことしか出来なかった。










「よう、ザキ! 絶体絶命のピンチのところに救世主が登場したぜ!!」
「だ、旦那!?」
「ふんっ、この状況にあなた一人加わって何になるのよ!!」
「ふっふっふ、これを見てもそう言えるかな?」

巨大グリード暴走態に追い回される山崎たちの元に、彼らのピンチを救うために颯爽と銀時が現れた。
この状況でただの人間が現れても意味が無いと冷たい視線を浴びせるメズールだったが、銀時が手に持った物を見て驚愕の表情に変わる。

「そ、それはコアメダル!? …どうしてあなたが!!」
「さっきお前の元同僚から預かったんだよ! 前にお前が落としたメダルを拾ったんで返しておいてくれってな、ほら受け取れ!!」
「後藤が…、助かりましたよ旦那!! よし、これで……、メダル一枚増えただけじゃ意味ねぇかよぉぉぉぉぉ!!」
「へっ、そうだったけか?」

現在山崎が所持しているメダルはタカメダル一枚、そこに後藤の贈り物であるトラメダルを加えても変身に必要な三枚には届かない。
銀時の登場で見えた微かな希望が一瞬で潰えたことにショックを受けた山崎は、全力で嘆きの声をあげた。










「…この程度か。 メダルを一つ器に収めた姿を見たくてカザリを泳がせてみたが、どうやら期待外れのようだったな」

山崎たちと巨大グリード暴走態が相対する公園の状況を、密かに樹上から監視する一つの影があった。
メズールに対する餌として勝手に使われた鳥型グリードのアンクは、カザリの企みの成果に興味を持ったらしくあえて彼の行動を黙認していたようだ。

「しかしここでオーズに退場されたら、俺の計画が狂ってしまう。 さて、一体どうするか…」

期待した成果を見れずに落胆するアンクは、暴走態に追い詰められる山崎たちをどうするか考えていた。
とある思惑から己のコアメダルを使ってまでして、オーズがグリードたちが争う構図をお膳立てたアンクとしてはこの状況を見過ごすのは不本意である。

「…お、あれは確かオーズと一緒に行動しているガキどもか?」

オーズをこのまま見捨てるか悩んでいたアンクは、巨大グリード暴走態が暴れる公園へと駆けていく新八と神楽を見つけた。
暴走態の巨体は嫌でも人目に付いたようで、丁度近くでメズールを探していた新八たちは偶然異変に気付けたのだろう。

「…よし、あいつらを使うか」

山崎たちが居る公園へと向う新八たちを見て何かを思いついたらしいアンクは、すぐさま樹上から飛び降りた










「■■■■■■■■■■■■■!!」
「もう駄目だぁぁぁぁぁ!? やっぱり俺にライダーの主人公なんて無理だったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「諦めるな、ジミーーーーー!! きっとお前なら出来るよ、だからあの怪獣をさっさとなんとかしろぉぉぉぉぉ!!」

変身不能の絶対絶命の状態で今度こそ完全に心が折れた山崎は、人目も憚らず泣きべそ顔で暴走態の猛攻から逃げ回っていた。

「無理ですって、だって普通ライダーの主人公って何かしらの天才じゃん!? 無能な俺にはもともと不相応だったんですよっ!!」
「大丈夫だって、城戸くんは凡人だけど立派に主人公を勤めただろう? だからザキも…」
「あいつ最終回手前に死んだじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

銀時の見当違いなフォローも効果無く、山崎たちの絶体絶命のピンチは現在進行形で続いていた。





「ハァハァ…。 あいつの言った通り、山崎さんとメズールちゃんがあのデカイのに襲われている!?」
「早くしないと銀ちゃんたちがぺっちゃんこになるアルよ!? 新八、早くそれをザキに渡すアル!!」

メズールを探していた所で暴走態の姿を目撃した新八・神楽は、もしやと思いこの公園まで駆け付けたのだった。
暴走態の巨体に追い回されて今に踏み潰されそうな山崎たちに危機感を抱いた神楽は、新八が持つそれを早く届けるように急かせる。

「そうだね、これを山崎さんに渡さないと! 山崎さん、これを使って下さい!!」
「新八くん、どうして此処に! これは…、コアメダル!?」
「!? それは私の!!」

新八から投げ渡された物を受け取り、それが青色の三枚のコアメダルと知った山崎とメズールは驚愕する。
特にメズールはその青いメダルが、今まで捜し求めていた自分の一部だと知った時の驚きはひときわ際立ったものだろう。

「サガルっ、私のコアメダルをこっちに渡しなさい!!」
「えっ、なんでお前のメダルを新八くんが持ってるんだよっ!? …で、でも今はこのメダルに頼るしか無いんだ、悪いけどお前のメダルを少し貸してくれないか?」
「くっ………、絶対に奪われるんじゃ無いわよっ!!」

夢にまで見た己のコアメダルを目前にして色めき立ったメズールは、山崎にメダルを渡すように強い語調で迫る。
だがこの状況を何とかするのが先決だという言に折れたようで、メズールは渋々とオーズドライバーを山崎へと差し出した。
山崎はすぐさまドライバーを腰に巻き、新八から渡された青色のコアメダルをセットする。

「変身っ!!


"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"シャチッ!"、"ウナギッ!"、"タコッ!!"。

"シャ、シャ、シャウタッ! シャ、シャ、シャウターーーーーッッ!!"


メズールの属性である水棲系の力が解放されて、山崎の姿は一瞬のうちに光に包まれて変化した。
山崎は鯱を模した頭部、肩部に電撃鞭を備えた上半身、蛸の吸盤のようなものが全体に配置される脚部を持つシャウタコンボへと変身を遂げる。










「!? 危ねーぞ、ザキ!!」
「■■■■■■■■■■■■!!」

その場に立ち止まって変身する隙を突いて、暴走態が棒立ちの山崎目掛けて自身の象の如く長い鼻を勢いを付けて振るった。
山崎に向って一直線に向ってくる暴走態の一撃に、変身の硬直から解けた直後の山崎は反応に遅れてしまい直撃を受けてしまう。
しかし山崎は刹那の瞬間、なんと自身の体を液体状に変化させてその攻撃を凌ぐのだった。

「うわっ、山崎さんが水になった!?」
「おいおい、液状化はチートライダーの専売特許だろうが!?」

手応えが無いことをに不満を持ったのか、暴走態がやたらめったらと巨大な鼻を山崎に向って振りましてくる。
その猛攻に対して山崎はまたもや己の体を液体状に変化させて、攻撃を無効化しながら暴走態へと近づいていった。

「■■■■■■■■!!」
「!? ふんっ!!」

自分の足元付近にまで山崎の接近を許してしまった暴走態は、今度は前足を宙に浮かして降ろす巨体を生かした踏み潰し攻撃を試みる。
頭上から迫り来る脅威を察知した山崎は足には足にと、己の脚部に秘められた能力を開放した。
すると山崎の足が蛸の如き触手状の八本足へと変化し、蛸足を駆使して暴走態の踏み付けを真正面から受け止めることに成功する。

「あばばばばばばばばばばばばばばばっ!!」

暴走態の攻撃を掻い潜って懐にまで飛び込んだ山崎は、先ほど出現させた蛸足による連打を浴びせる。
サイズ差があるため一発一発は大して効果が無いだろうが八本の足を巧みに操り、山崎は絶え間なく蛸足を振るい続けた。

「■■■■■■■■!?」
「逃すか!!」

"キィン、キィン、キィーーーーーーンッ"。

"Scanning Charge!!"。


山崎の連続攻撃によって積み重ねられたダメージが限界を超えた暴走態は慌てて、悲鳴のような声をあげながら山崎から距離を取ろうとした。
こちから離れようとする暴走態の姿にチャンスを見出した山崎は、すかさずメダルの力を解放する。

「ふんっ! せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!?」

山崎は両肩に備わった電撃鞭を振るって暴走態を拘束し、何時の間にか二本足に戻っていた足で力強く大地を蹴って上空へと跳躍をする。
そして手に持った鞭を使って暴走態を引き寄せるとともに両足を再び蛸足へと変化させ、八本の足をドリル状に絡ませて暴走態へと突き刺した。
暴走態の体を貫いて反対側へ山崎飛び出すと共に、体のど真ん中に風穴を抉り開けられた暴走態は爆散して辺りに大量のセルメダルとコアメダルを撒き散らすのだった。





「サガルっ、早くメダルを!!」
「!? わ、解った!」

ガメルに投入されていたコアメダルが逃すまいと、暴走態を撃破した直後の山崎へメズールは回収を命じる。
メダルの重要性を認識する山崎はメズールの指示に応えて、電撃鞭を振るってコアメダルを手に入れようとした。

「…なっ!?」
「カザリ、それにウヴァも!?」

だが山崎の電撃鞭がメダルへ届く瞬間に二つの人影、カザリとウヴァが現れてメダルを奪おうと交差する。
メダルを奪うチャンスを狙っていたらしいグリード二体は、こうしてまんまと横槍に成功するのだった。

「ふんっ、こんな物か…」
「まっ、今日はこの位にしておこうかな?」
「サガル、メダルは!!」
「…駄目だ、四枚しか回収できなかった」

ウヴァとカザリはとりあえず今手に入れたメダルで満足したらしく、山崎を無視してそのままこの場を立ち去る。
最終的に山崎は大半のメダルをグリードたちに奪われてしまい、バッタ、カマキリ、ゴリラ、ゾウの四枚のコアメダルしか手元に残らなかった。










「さて、メダルも結構手に入ったし、次は何をしよう? とりあえずまたドクターの所にでも顔を出して…」

自身の策略通りに他のグリードたちが掌の上で踊り、コアメダルを複数手に入れたカザリは気分を良くしていた。

「そういえば結局、アンクは姿を見せなかったな? アンクなら自分のコアメダルの情報を嗅ぎ付けて現れると…」
「俺を呼んだか、カザリ?」

今回の動きで一切姿を見せなかったグリード、アンクの存在を思い出したカザリはその動きの無さに引っ掛かりを覚える。
だがアンクの存在を不審に感じたカザリの呟きに対して、有ろうことか誰も存在しない筈の背後から答えが返ってきてしまった。

「!? アン…、ぐはっ!!」
「詰めが甘いなー、カザリ!!」

突如としてカザリの背後に姿を現れたアンクは、うろたえるカザリの体内へと無造作に右手を伸ばした。

「ア、アンク…。 どうして此処に…」
「お前のつまらん三文芝居の見物料が、意外に高く付いてな! そこで主催者にクレームをつけに来たまでだよ!!」
「勝手なことを…! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

アンクはカザリの最後の抵抗を一切許さず、カザリの意識を宿すコアメダルを躊躇い無く抜き取ってしまう。
こうして今回の企てで散々と不意打ちを仕掛けたカザリは、最後の最後で不意討ちを受けて呆気なくやられるのだった。





あとがき

ちょっと更新が遅れましたが、どうにかシャウタを出せましたよ。

ちなみに次回更新は、もろもろの事情でまた結構遅れそうですが…。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.031934022903442