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[25078] 究極(リリカル)!!変態仮面【A’s編】
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2013/04/02 22:33
 痔に悩んでいる諸君、近しい人間にはカミングアウトしておいたほうが後々楽だぜ?

あとプレイとかはしてないからな!?本当だからな!?

【免責】
『私は正義の味方だが、正義は私の味方では、ないらしい――――』
4/13 全国ロードショー『HK 究極!!変態仮面』を本作品は応援しています。

 クライマックスには触手の怪物ぐらいは相手してくれるんだろうな(笑




 この作品は『リリカルなのは』の世界に『究極!!変態仮面』の主人公、
色条狂介の能力を持って転生した元オリ主が活躍するクロスオーバーです。

【免責】
以下の条件に該当するお方は申し訳ありませんがブラウザバックでお戻り下さい。

・この作品は最低系SSです。
・かっこいいロボも出ます。
・元の世界観を崩されたくないお方。
・アンダージョークを解されないお方。
・遅筆に我慢ならないお方。
・武侠小説風の文体に我慢ならないお方

・変態仮面とマスク・ザ・パンツの違いがわからないお方


 以上、ご了承いただけた方、ご覧いただければ幸いです。



【補足】短編更新履歴(チラシの裏)

2011・9/10 究極(H・O・T・D)!!変態仮面を投稿
2011・9/26 究極(Nice boat)!!変態仮面を投稿
2012・1/10 究極(フローズン・ティアドロップ)!!変態仮面を投稿
2012・1/15 究極(まどかマギカ)!!変態仮面を投稿



[25078] プロローグ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2010/12/25 09:05
 新暦71年4月29日
ミッドチルダの臨海空港で大規模火災発生、そのとき少女の命は、
誇張抜きで風前の灯であった。



---さて、これから話すのは幾重にも分かれた平行世界の一つ。
君たちのよく知る二次創作における定番手法の一つ、二次元世界への『転生』を
遂げた主人公を紹介するわけなのだが、まずは見ていただきたい。---



 熱風は乙女の涙を焼き、姉の消息を求めて声帯が張り裂けんばかりに立てる声も、
崩れ落ちる建造物の轟音に掻き消され、誰の耳にも届かない。

 少女は泣き虫であった。
 力なく、いつも姉の背に隠れては見ず知らずの他人におびえ、
 持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族にのみ。

 誰が責められよう、この地獄の中。
 彼女のみならず響く怨嗟の声、苦しみからの解放を求める怒号、すすり泣く音。
 救いを求め縋り付く手はわずかな救助者が握り締める前に、一つ、また一つと地に伏してゆく。

 少女に力はなかった。
 愛した母も、愛する父も、己が力の限り見知らぬ人々を助ける職に就きながら、
 持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族のみ。

 誰が責められよう、この地獄の中。
 誰にもへ与えられる当たり前の明日が来ようはずもない今、この時。
 やがて得たであろう父母譲りの意思は芽吹かぬままに朽ちる。

 目を覆う惨状、少女の未来は奪われる。
 まさに少女の身の丈をはるかに超える瓦礫が、その身の上に落ちようとしているのだ。



---君たちのよく知る『リリカルなのは』その第三期、冒頭である。
本来ならタッチの差でわれらが高町なのはが瓦礫を吹き飛ばし、見事スバル・ナカジマを救出、
やがてその姿に憧れた彼女はトクサイへの道を邁進するわけなのだが---



 だがしかし、瓦礫はその小さな体を押し潰したりはしなかった。
 力強い詠唱、少女の悲鳴すら掻き消したその青年の声は彼のナニより野太い輝ける荒縄を生み、
 無作法な瓦礫を食い止めたのだ。
 その…………

…………亀甲縛りで。

「変態秘奥義、ミッド式悶絶捕縛魔法------伏竜ッッッツツ!!」



---ようこそ諸君。
 残念ながら当SSで取り上げられるレパートリーに『萌え』の二文字はない。
 正しくクロスオーバーであるように魔法少女は最低5割確保でお送りしようとおもうが、

 オリ主は何と言っても『変身ヒーロー』だ---



 誰得SS、『リリカル変態仮面』始まります。




 己が窮地を救い出した恩人の姿を見て、ナカジマスバルは泣き出した。
 再び、それこそ己が内にも火が飛んだように激しく、力強く。
 それもそのはず、目の前の男は胸元で交差したブラジル水着のようなものを着て、
 足元には網タイツのように魔道式が絡みつき、燃える瞳をさえぎる様に、パンティーで顔を隠していたのですから。

「うわーん、へんたいだーァァァァァァァッ。
助けておとうさーんッ!!」
「……私は変態ではない」

 だがしかし、その男、紳士。
 泣き叫ぶスバルと視線をあわせ、そっと力強く肩に手を乗せ、
 股間のお稲荷さんからブラジャーをとりだすとほほを伝う涙をぬぐう。
 そして言い聞かせるように、まずはその名前を教えるのだ。

「変態仮面、今日から君の友達だ」
「へんたい……ぐすっ…かめん、さん?」
「そうだ、そして知り合いに曰く友達になるには作法がいる。
まずは君の名前を教えてくれないか?」
 途切れ途切れに、しゃくりあげながらも名前を告げた。
「スバル……スバル・ナカジマ…」
「そうか、スバル、いい名前だな。
この火災の中でよく生きていてくれた」

 変態仮面は少女の頭を撫でた、若草のようにしなやかな其の髪も、
 熱気にさらされて少し傷んでいる。

「まずはここを脱出しよう。
其の後で、がんばった君には何かおいしいものでもご馳走したい。
スバル、君は何か好きな食べ物はあるか?」
「うん、アイス」
「そうか、アイスか。
自前でホットなキャンディはあるが、こんな所に長くいたなら冷たいものもいいな」
 二人は手を貸しながら立ち上がり、再び困難を極める退路を行こうとする。
「でも、でもへんたいかめんさん、ここにまだおねえちゃんがいるの。
いっしょにさがしてくれる?」
「なんだと?
それは大変だ、急いで迎えにゆかなくては……ムッ!?」



『ディバイィィィン・バスタァァァァァ』



其の時、オリ主は膨大な魔力の迸りを感じ取った。
少女を背に、目にも止まらぬ速さで腰を突き出すし電光石火の防御魔法を展開、間一髪でその桃色の光から身を守る。
やがてその場に降り立つ一人の乙女、其の名も高町なのは。
いわずと知れた正ヒロインである。





「生存者二人をかくほ……ッてパンツさん?どうして!?」
「壁抜きとは相変わらずダイタニッシュな手腕だ、久しいな高町、息災かね?」
互いに杖と腰を突きつける二人、だがしかし再び泣き出そうとする幼女に感づき、その矛を収める。
「わたしはたまたま居合わせて救助活動を手伝っているだけですけど……まさかパンツさんも?」
「そのまさかだよ。
あまりにも時空管理局が鈍亀なので好きにやらせてもらっている。
大体の要救助者は火の及ばぬところに吊るしておいたよ。
少しは私の亀を見習いたまえ」
 どんな穴にもすばやく潜り込む、そう言うと背にしたスバルを促した。
「さあスバル、このお姉ちゃんが空を飛んで君を安全な場所まで送ってくれる。
きっと私が助けた人の中に君のお姉さんもいるはずだ」
「……フェイトちゃん、がんばって地面におろしてるの。
何で蓑虫みたいに吊るしてまわってたんですか?」
「この火災は人為的なものだろう?
中に犯人が居るかもしれないではないか常考」

『なのはーなのはー、なんでこんな複雑にバインドされてるかわかんないんだけど、
もう切っちゃっていいかなー?』

 親友からの念話が聞こえた。
 なぜか救護者が身をよじって上手く解けないという。

 とてとて、となのはに近づいたスバル、なのははそんな彼女をそっと抱きあげると宙を舞う。
「へんたいかめんさんは?」
「わたしは炎の大地を行く、ひょっとしたらまだ助けていない人がいるかもしれないからね。
高町、その娘を…頼む」
「いえ、普通に任意同行を求めます。
というか早く捕まって……掴まってください。
もうすぐはやてちゃんが凍結魔法で鎮火しますから」
「そうはいかん、それにこれだけの火災を消し止めるなら相当魔力を食うぞ?」
 ならば私はそちらに手を貸す、そう言って炎の中へ消えて行く変態仮面。
 なのははその後姿をしばし眺めた後、いこうか?と少女を促し、彼女の輩、果て無き空へ身を窶す。
 (また喧嘩にならないといいんだけど…)
 そんな事を思いながら。



 そして炎に焼かれるはずであった幼い少女の瞳には、戦乙女の横顔と、愛の戦士の後姿が焼き付いた。
 スバルは思う、ただ泣くだけの自分も、力のない自分も、もう終わりにしよう。

 強くなるんだ……そして100円ショップの電池とパンツは、もう買わないようにしよう、と。



* 



 八神はやては業火の中、いつの間にかあらかた助けられている救助者をフェイトに任せ、ユニゾンデバイスであり
彼女の家族でもあるリインフォースⅡとともに儀式魔法を展開していた。
 管理局の対応の遅さに憤慨していた彼女も、今はただ目の前に荒ぶる炎を消し止めんと、
今まさに広域魔法を放とうとした其の時。

「……雨?」

 瞬く間に暗雲に覆われる空、そして一筋の水滴が彼女の鼻先を濡らした次の瞬間。
 炎が掻き消えるほどに激しくその場に雨が降り注ぐ。
 南米のスコールもかくや、といわんばかりの勢いで、だ。

「ありえへん……天の助けといわれればどんな邪神もあがめたる量やよ?コレ」
「はやてちゃん、あのビルの屋上です!見るです!」
 はたして、末っ子の指し示した先に、崇めると誓った其の男はいた。

 わっしょいわっしょい、そいやそいや。
 
 強奪したであろう官給品のストレージデバイス、その先端に無数の女性下着をくくりつけ。

 わっしょいわっしょい、そいやそいや。

 一心不乱に天を突く纏(の、ようなもの)をふりかざしている其の男、変態仮面。
 忘れようはずもない、彼がかぶっているのは失った初代リインフォースの遺品であった。



「変態やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッツ!!
だれかあいつ捕まえたってーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



 絶叫であった。
 彼女達、時空管理局を差し置いてだれもが『陸の守護者』とはやし立てる其の男、変態仮面。
 時空管理局に反目し、己が正義でもって人々を救う変身ヒーロー!------オリ主!

 だが果たして、高町なのはを除く彼女達にとっては……







「そこまでだ!デバイスを捨てて投降しろ」
 油断なく愛機、バルディッシュを構えてビルの屋上へ降り立つフェイト・テスタロッサ。
 ふむ、と一つ頷くと杖を床に転がし、肩をすくめる。
 ---遠雷が一つ、轟いた。

「久しいなテスタロッサ、御身疾風の如しと謳われた君にしても、今宵のおいしいところはすべて頂いてしまった。
いっておくが、此度の火災は私の仕業ではないよ?」
「そんなことは解ってる、でもここで逃しはしないよ全次元広域指定性犯罪者」
『Haken Form』
 ---一触即発、いまだ二人の間に雨は降り注いでいる。

「……やれやれ、ご馳走を平らげてしまった以上、ここは私の体一つでもてなすよりあるまいか?」
 手を後頭部に添え、ファイティングスタイルを取る変態仮面。
「公務執行妨害、器物破損容疑、加えてわいせつ物陳列罪の現行犯で逮捕・連行する。
行くよ、変態仮面……いや」
 其の身を低く、B+のランク程度しか持たぬ相手をしてなお全力で切りかかる執務官。
「『アールワン・D・B・カクテル』ゥゥゥゥゥゥ!!
母さんのパンツ返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!」
 



 嗚呼、幾度目の決闘だろうか。
 その日---97管轄外世界『地球』より遥か彼方の地に、落ちた迅雷と愛の太陽---



[25078] 承前~高町家編~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:20
 夕日が赤く海を染め上げるころ、海鳴の臨海公園に小さく金属がきしむ音がする。
 一人、また一人と子供達が家路に就くころに、俯き小さくブランコを揺らす幼女が一人。
 即に言うぼっちなのはである、



「君、もうすぐ暗くなる。
家に帰らなければあぶないぞ」
 背後から誰かの声がした。
 しかし、幼女---なのは---はブランコから腰を上げることをしなかった。
「……まだ、おかあさん達もおにいちゃんもかえってこないの」
「一人きり、というわけか。
ならばなおさらの事、君が待っていてあげなければ家族は真っ暗な家の鍵を開けなければならなくなる」
「おうち、くらいの。
でんきをつければあかるいけれど、みんな元気がないの」
 その小さな背にかけられる言葉は優しかった。
 家族の前では押し込めていた苦しみが、堰を切ったようにあふれ出してくる。

「それは、どうしてだい?」
「お父さんがかえってこないの。
しごとでおおけがして、しんじゃうかもしれないっていわれて。
何とかそんなところはとおりこしたっていわれたけど……」
 ついに、なのはの瞳か涙がこぼれ始めた。
「でも、そしたら、おかあさんもおねえちゃんもずっとおとうさんのびょうしつにいっちゃったままだし……
おにいちゃんもすごくこわいかおしてずっとずっとけんをふってるし……
みんなわたしのこと、いらなくなっちゃったのかな……
わたし、これからどうすればいいんだろう」
 しゃくりあげながらも、胸の内を一気に吐き出した。
 ブランコを握り締める手が震えている。
 あるいは、背後に立つ何者かにすがりつかない事こそ、最後の、自身の弱さへの抵抗であったかも知れぬ。

「君のお父さんは悪い奴だな。
こんなにかわいい娘を一人きりにしておいて、病室のベッドでぐっすりおやすみとは------」
「おとうさんわるくないもん!!やさしいもん!!
きっともうすぐ帰ってきてわたしのことだっこしてくれるんだから!!」
 はじかれたようにブランコを飛び降り、公園の真ん中で見事にすっ転び、天を仰いで号泣する。
 そして背後の男はゆっくりとちかづいて、彼女の脇をもちあげしっかりと立たせるのだ。
「ありがとう、もちろん君のお父さんも君の事を心配している。
お母さんやお前の兄弟のこともな。
------だから最後の力を振り絞って、奇跡を呼び起こしてここまで来たんだ」




 なのはは背後を振り返る、そこには自分より5歳ほど年上の少年が、
---------ブーメランパンツをかぶっていた。
「わたしは高町士郎……君のお父さんの、パンツだ」



 君を助けにきた、そういって幼女を抱きしめた少年の瞳にはハイライトが無く、
にごった上に焦点も合っていなかったが、なのははその奥に確かな優しさを見た。
それは、父の瞳であった。







 少年、否、高町士郎のパンツはジーンズから携帯電話を取りだし、
登録していた息子の番号を呼び出すとなのはに手渡した。
「さあ、これで恭也に電話して『変な人につかまった』といいなさい。
あいつなら物の数分もしないうちに駆けつけてくれるぞ。
何を賭けてもいい」
「------なんでもいいの?」
 幼女はそれをうけとって、少しだけ自分より背の高い少年を仰ぎ見る。
 初めて手にした父の携帯は、とても頼もしく思えた。
「ああ、もちろんなんでもいいよ。
私が起きたら家族みんなで遊園地にでもいこうか?」
 ゆっくりと、絆を確かめるようにコールボタンを押したなのは。
 言われたとおり兄に助けを求めると、漫画のように携帯がブッ飛んだ。
 大事そうにそれを拾い上げる娘、父のパンツにそれを差し出すと、告げた。

「おでかけはいいよ」
「…では、なにがいい?」



「------はやくかえってきてほしいの」



 不覚にもジンときた。
 意識の奥底に閉じ込められた少年---オリ主---本来の魂が、今初めて、この世界への転生を感謝した。

 其の瞬間である。
 爆発する音、地を駆ける炎、吹き飛ぶ民家の屋根や粉砕する塀とともに駆けつける姿、
電話からわずか数十秒、現れたのは高町恭也、その人である。

「---------なのはッ、大丈夫か!?」
 力任せに抱きしめられるなのは、兄の背後から遅れて届く大気を揺るがす『キィィィィン・ゴォッッッッ』と言う轟音。
 周囲の木がど真ん中からヘシ折れて、海に落着する。
「おにいちゃん、これ……」
「これは父さんの携帯……なのは、悪い奴はどこだ?」
 父の所有物を見せられ、息巻く恭也。
「ぱんつさんは…」



「ここだあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ひん曲がった街灯の上、腕を組んで二人を見下ろす少年。
 踵を一つ打ち下ろすと、音も立てずに一瞬で砂塵と消える鉄製の足場。
 着地し、静かな足取りでこちらに向かってくる相手は……表情が伺えなかった。
「其の年甲斐の無い色、形……父さんのパンツじゃないか!?」
 息子の目からしてもどうかと思う、父の勝負パンツで顔を隠していたのですから。
「いかにもそのとおりだ、恭也。
そして何をしている、なのはを独りぼっちにして、それでも御神の剣士かッ!!」
「ちょ、一寸待ってくれ!
どうして父さんのパンツをかぶった子供に責められなければならないんだ?」
 ワケが解らなかった。
 確かに変態には違いないが、思った以上に年若い。
 加えて父のパンツ、何でそんなものを持ち出したのか皆目検討もつかぬ。

「どうやら私は買いかぶりすぎだったようだ。
敵を眼前にこうも動揺するとは……構えろ恭也、性根を敲きなおしてやろう」
 上着のスソからヴァイブとアナルビーズを持ち出して突きつける。
 それはまごう事なき、自身に染み付いた小太刀二刀流。
「---------永全不動八門一派・御神真刀流……其の構えは、もしや」
「行くぞ恭也!!」
 ---------虎切---------
 神速をもって襲い掛かる猛攻を、二振りの小太刀で受け流す。
 返す刀で相手に切りかかるも、バイブレーターの振動と硬軟一体のアナルビーズではじき返された。
 二合、三合と打ち合って行くにしたがって、彼の中で相対する相手が、寸分違わず父の技であると確信する。

「恐ろしく腕が鈍っているぞ恭也、恐れ、不安がにじみ出るような太刀筋だ」
「クッ……」
「私が倒れ、居もしない難敵に挑み続けても何かを守るための力は身につかん。
ならばこそ、愛するものをしかと心にとどめておかなくては私のように不覚を取る羽目になる」
 獲物を収める父のパンツ、膝を屈する其の息子。
 書いていて思ったんだが上記のような表現でも卑猥なものに思えてしまう当SSの狂気。
「ならば、それならば、なんであんな怪我をして帰ってきたんだ、父さん……
母さんも、俺達も置いてゆくところだったじゃないか」

「それは正直すまんかった。
だがしかし、私の愛は尽きることが無い、こうやってパンツに残留思念を残して尚、
お前達が生かしてくれている自身の体には熱い思いが駆け巡っているのだから」
「---------------------------御神にそんな技が……」
「すべてを伝えるまで、私は死ねないさ」
 父のパンツがなのはを促し、大切な其の家族をしっかりと抱きしめる。
「待っていろ、もうすぐお前たちの所に帰るからな」

 二人は其の心地よい絆に目を伏せ、そしてしばらく後、忽然と抱きしめる腕の感触が消えたかと思うと、
一陣の風が過ぎ去るがごとく、父のパンツは姿を消していた。

「おにいちゃん……」
「ああ、なのは。
父さんのところに行こう!!」







 そして、高町士郎は目を覚ました。
 しばらくは己のおかれた立場に戸惑っていたようだったが、一家総出で涙を流しながら迎えてくれたことには、
どうやら不覚を取りながらも無事に帰ってきたのだ、と安堵した。

 まどろみの中、覚えていたことはなにもない。
 故に問いたださねばならないだろう。

 「------------------なあ、どうして布団の上に俺のパンツが置いてあるんだ?」



[25078] 承前~R1編~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:21
サッカーボールをおいかけた少年が、車道のほうへ飛び出した。
そんな光景を目の当たりにしたならば、たとえ聖者にあらずとも、必ず人間の体は動く。

 今、このSSを読んでいる諸君の体も必ず動くだろう。
 幼い命を救わんと、己が身の最速をもって助け出そうと駆け出すだろう。

 そういった意味では、この作品のオリ主も、君たちとそう変わらない青年であった。
 見事に目的を完遂し、助け出した其の子供にいくつか言い聞かせた後、その場を去る。

 だが、そんな帰り道、彼の亡骸は無残にひき潰された姿で発見された。
 運命が、其の天秤をつり合わせたかのように、青年はこの世を去ったのである。

 しかし検死に当てられた其の死体、結果を見て誰もが首を捻る。
 其の身に、そして現場に残されたタイヤ跡はあまりにも大きかった。
 全長18メートルは下るまい、正直日本の道路を走る余地も無いほどの大型自動車にひき逃げされた青年。

 この事は、日本にいくつもある未解決事件の一つ、もしくは都市伝説の一つとして誰もの耳に入ったが、
やがて風化して消えていった。
 青年に家族は無く、ただ警視庁のファイルにはさまれた、一枚の紙片としてしか、彼は『かつていた世界』に痕跡を残さない。

 それはある意味、幸福な結末であったのだろう。







「ここは、どこだ?」

 見慣れぬ草原であった。
 おぼろげながら、自分が---何か物々しい---巨大なトラックにひかれる寸前までのことは覚えているが、
ここは聞き知った三途の川ではない。
 小鳥のさえずりが聞こえないことが、いっそ不思議なほど穏やかな風景。
 しばらくそれらを眺めていると、遠くからエンジン音が聞こえた。

 それは、かつて流行したスーパーカーに似た存在だった。
 青年が駆け寄ると、2・3度ヘッドライトを点滅させ、語りかけてきた。
 彼が、其のスーパーカーが、である。
『遅くなってすまない    君、急なことで動揺しているだろう?』
「なんと!?」
 急展開に目を見開く青年、スーパーカーは来た道をゆっくりバックし、距離をひらくと、



 ------変形した。
全長7メートル程度の蒼いロボットに、である。



『私の名はセイザー。
君たちが言う神様が指名した<観測機構隊>の一員だ』
「セイザー……そうか、神様の名を出すということは、私は死んだのだな?」
『そうだ、本来ならあの少年を突き飛ばし、君が身代わりになって轢かれるはずだった。
わざわざその場を離れてから君をここへ呼び足したのは、君にお願いがあったからだ。
回りくどいことした』
 セイザーは頭を下げる、自分より大きな其の機械を手で制すると話を促す。
「それで、死んだ私はどうすればいい?
自分が昔坊主に聞いた話ならば、49日のたびを経て、仏の弟子になるとの事だったが……」
『ああ、その事なのだが。
かつて勇気あるものは、オーディンという私の上司が天界の兵にしていた』
「かつて、とは?」
『今は君たちの言う天国で、戦争は無いということさ。
だがしかし、その地を狙う亡者達は組織化し、さまざまな平行世界を新たな自分の住処とし、
侵略を始めたのだ。
頼みがある、君は私の知るとある世界に行き、そこで第二の生をすごしてほしい』
「------転生、というわけか?
だが、そんな事をして君たちにはどんなメリットが?」
 一つ頷くとセイザーは言う。
『其の世界における私達の旗印になる、いわば所有権を行使できるわけだ。
亡者達は争いと混乱を望むので、身を守る特別な力はつける。
最低限だが、其の世界で生きて少しだけ活躍できるだけの力を。
礼とはおこがましい程度の、だが……』

 俯くそのロボットを、勇気ある青年は笑い飛ばした。
「わずかな力も必要ない。
もう一度生きて、何かを為す舞台を与えられるなら感謝するよ。
それこそクトゥルフ印の機械神でも、億単位の異星起源種であろうとも力の限りあがいて見せよう。
------其の世界の人間として、ね」
 青年はヲタク野郎であった。
 苦難の道ですら、これから始まる冒険を前にして心躍らせるほどの、重度な。
『ありがとう、それでは早速ゲートを……』

『まぁぁてぇぇぇぇぇぇい!!』

 しかしまた変なのが出た。
 今度は身の丈はセイザーと同程度、漆黒のいかにも悪そうな奴だった。
 ------角も生えている。
『また手下を送り込もうという魂胆かぁ、セイザー。
そうはさせんぞぉ』
『また貴様か!時空暴君ティンダロス、いい加減にコーディーの体を返せ!!』
 太ももから拳銃のような武器を取り出し、構えるセイザー。
 青年の胸熱、彼は萌えより燃え派である。

『ふはははは、送り込むのならまあそれでもよかろう。
だがコレを見るがいい』
 宙から巨大なキャノン砲を取り出して構える時空暴君。
 セイザーはそれを見て後ずさった。
『なっ、それはクロスオーヴァー・キャノン!?
あの子も貴様の手に落ちていたのか!!』
『その通りよ、こいつを其の男にぶっ放して、設定過積載の最低系SSオリ主にしてくれるわ!!』

 急に話を振られて困惑する青年、だがしかし、そうはさせんと立ちはだかるセイザー。
 地平線の果てまで届けとばかりに、其の名を叫ぶ。



『インガロォダァァァァァァァ!!』



 土煙を上げ此方に走りくる巨大な車体、前輪を持ち上げ瞬く間に巨大なヒトガタへ姿を変える。
 青年はその大型車に見覚えがあった、己を跳ね飛ばした車であった。
「転生トラックが……変形しただと?……」
 トォゥ、と空を舞うセイザー、其の巨大なヒトガタに貼り付けになると、其処へTの文字があしらわれた装甲が降りた。



『輪廻合体------テンッ・セイザァァァァァァァァァァ』



 拳が飛び出し、セイザーの顔を隠すようにチンガードが降りると、其処に幾多の二次創作を守護する無敵の巨神が爆譚する。
 もしかしたら、君たちの元にもインガローダーは走り来るかもしれないぞ?


『パラダイム・ブレードォォォォォ!』
 地面に輝ける湖面が現れ、テンセイザーが巨大な剣を引き抜いたそのとき、
『おそいわッ!バッドエンド・ブラスターァァァァァァ!!』
 時空暴君の手にある砲が漆黒の光帯を放つ。
『早く!早くその湖に飛び込むんだッ』
『だがしかし!テンセイザー、君は……』
『私に構うな!異世界を頼んだぞ!』
 巨大な剣が黒い光を裂く、だがしかし、飛び込む瞬間ほんのわずかにソレを、青年は浴びてしまった。

------思えばそれが、ミソの付き初めかもしれない。

『------リリカルなのはの世界をッ!!』
『……ぁるェ----!?』

 そして、思いもよらない自身の行き先を聞いて、ずっこけた上に頭から次元の狭間へ突撃することになるのである。







「---------そして、9年の歳月がすぎた、か」
 オリ主、名をアールワン・ディープパープリッシュ・ブルーメタリック・カクテルは海に遠い視線を向けた。
 年月が過ぎ去るのは早いものである。
 あまりに過積載な転生の顛末ゆえ、お袋のまたぐらから這い出た苦痛もそこそこに、
泣くのも忘れてポカーンとして看護士たちを慌てさせたのも遠い過去の話。

 父は無く、母はミッドチルダからの移民系でSMクラブのM嬢で生計を立てている以外は取り立てて目立つところの無い、
そんな身分に自分は生まれ落ちた。
 
 魔法の才も母親が乳飲み子のときあやしていた言葉『将来はBランクぐらいまでいきまちゅかね~あーちゃん』くらいまで
行くとは思っている、だが、それだけだ。

 加えて転生者頼みの綱である『原作知識』も二次創作をざっと見たぐらいの、穴だらけの知識しかない。

 だが何よりも彼を悩ませるのが一種のレアスキルである。
『パンツをかぶると持ち主の経験・特技を自分の者に出来る』というものである。
 あんまりにアレなので、これは母親にも話していない。
 正直母親の職場で同僚の下着をかぶってハイハイを覚えた、とは言い出しがたいものである。

 原作の介入が出来るほどとは、到底言いがたい。
 いまでは暢気に小学校に通いながら母親相手に主夫業などして過ごしているだけだ。
 コレではいけないと考えてはいるのだが……。

「------------------正直、彼女達は強い。
自分が座れるイスはシリーズ通してのライバル的存在、ぐらいだと思うんだがなぁ……」
 この作品の主人公達は、幾多の悲しい出来事にも膝を屈せず、幾人もの友人達とそれを切り開いて行ける。
 助けが必要も無い、眩しい者達ばかりなのだ。
 自分がここにいる必要など、これっぽっちも見つからないのである。
 友は、あの巨神はどうして自分をこの世界に遣ったのだろう。
 つま弾き感が満載だ、自身の名前もバイクだし。







 そんなことをつらつらと考えながら後ろを振り向いた其のときである。
 俯きながらブランコを小さくこいでいる幼女を発見した。
 特徴的な栗色のツーテール、高町なのはである。

「アレが……魔王かッ……」

 無意識のうちに固唾を飲んでしまったが、幸い今の彼女からはプレッシャーなどかけらも感じぬ。
 と、いうか目に見えて落ち込んでいた。
(そうか……いまは『ぼっち期』父親は入院中といったところか……
む?高町士郎------使える!!)

 オリ主は駆け出した、腐ってもかつての主人公、高町恭也が使う永全不動八門一派の技ならば、
これから始まる本編の末席にでも食い込める戦闘力を手に入れられるのでは!?

 最後にもう一度振り返り、力ない幼女の姿を目に留める。
 あまりにも切ない其の姿に思うところもあるが、今の彼女に出来ることは、自分にはきっと無い。







------問題は、男のパンツをかぶっても己のレアスキルは発動するかどうか、という所である。

 高町士郎の病室には、いまは誰もいない。
 家族は遅い昼食にでも、戻ったのであろうか?

------幾度か試してみたのはすべて女性の下着、高揚感とともに己が服を脱ぎだした以上ネタ元になったのは『アレ』に違いない。

 いくつもの治療機器につながれた高町家の大黒柱、裏の世界に其の男ありと歌われた高町士郎、
今は血の気のない表情で静かに眠っている。

------だがしかし、所詮は15年前の変態表現、21世紀を生きたヲタク野郎ならばジェンダーの壁ぐらい…

 傍らには家族が用意したであろういくつかの荷物、必ず必要になると確信の上、用意された着替えの中に…

------------かくしてオリ主の手に男のパンツは納まった------------

「……あった……」
 コレをかぶれば、自分はもう平穏な日々には戻れまい。
 けして日の光の射さぬ道を行き、人には唾を吐かれよう。
 なぜならば、男のパンツをかぶってハァハァできたならば、ある意味ヤツ以上の変態なのだから。

 アールワンは高町士郎にしばし頭を下げ、そして意志を固めた。
「逝こう、針の筵の上であろうと、灼熱地獄の道程であろうと……
あの乙女達の前に立ちはだかり、この世界に幾ばくかの彩りでも添えられるならば、
後ろ指を差されよう、嘲笑されよう。
今このときばかりは、高町士郎のパンツよ……私を導いてくれ」

 この友情が主題の世界において------------------
 強敵(とも)と呼ばれることを望んだ、それがオリ主の誓い------------------



「Live Better! (歪みなく生きろ)」



 意を決し、広げたブーメランパンツに顔を突っ込む。
 未体験のフィット感、だがしかし、これが高町士郎のパンツだと頭が認識した其のときであった------

「う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぐぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぎぁっぁあぁぁぁおぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 脳髄を侵食する御神の理念、高町士郎という男の生涯。
 理解不能の苦痛であった。
 そして瞬く間に侵食される、転生前後30年の己の意思------------

 最後に思い出したのは一人ぼっちのさびしそうななのはの姿。
 そうか、父よ。
 行くのだね、さびしそうな娘を救いに。

 己が意思に反して動き出す体、最後の力で笑みを浮かべると、オリ主は意識を手放した。
 男のパンツに隠された、それは男の顔だった。







「臓器活動停滞、四肢も全部複雑骨折しています!!」
「目立った外傷も無いのに……矢沢先生、この子どうしてこんなことに……」

 オリ主はストレッチャーに乗せられて、鳴海総合病院の廊下を行く。
 アールワンは病院に隣接した街路樹の隅で、ボロ雑巾になったところを発見された。
 士郎の寝室で顔からパンツをはがした跡、這うような速さで其処まではこれたのだが。
 正直子供の体で御神の技は反動がきつすぎたらしい。
 再び薄れ行く意識で横を見ると、目の覚めた士郎を中心に高町家全員が抱き合って泣いている姿。

 よかったな、高町なのは……
 だがしかし……

(生涯、お前達家族の下着だけは、かぶるまい!!)

 オリ主は、そう心に誓ったのだった。



[25078] 【無印編一話】かつて死に、甦るべく足掻く侠(おとこ)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:22
---------はい、こちらです。
ご足労いただいて恐縮です、バニングスさん。
 警部、保護者の方がお見えになりました」

 光の射さぬ、其処は廃ビルの一室。
 二人、制服姿の警察官が固め、中ではスーツ姿の男女が注意深く中を観察しているところであった。
「中へお通ししてください」
 そしてもう一人其処へ追加、こちらも同じくスーツ姿。
 しかし徹夜続きの彼らに比べ、一目で仕立てが違うと見て取れる逸品。
 だが、何よりも『違う』のは其の身に纏う威圧感であろうか。
 そのはずであろう、呼び立てたのは国内だけでも両の手に治まらぬ有力企業を取りまとめる『バニングス・グループ』の雄、
常人ならば経済新聞の一面でしか姿を見ることのない男である。

 いかめしい男である。
 其の名を、『デヴィッド・バニングス』発言力と行動力だけで経済という怪物を制御出来る数少ない、
本物の侠であった。
「今回は久しぶり、という挨拶ができるね、警部」
「恐縮です、毎度後手に回る事をお詫びいたします」
 深々と頭を下げる官僚、瞼のみで答えるデヴィッド。
 付き合いも長くない、過ごした年代も立場も違う。
 それどころか歴史も価値観も違う、別の国で生まれ育った二人。
 そんな二人の関係を的確に語ろうとするならば、図るに尤もあいまいな、比喩表現に頼るしかない。

 大魚とコバンザメ。
 もちろん大魚とは個人の事である。
 有史以来脈々と続いた『警』という仕事すら、本物の個人を前にすればそれは群れに過ぎぬ。

「それで、お嬢様はご機嫌いかがでしょうか?」
「何かあったのならば、私はここにはおらんよ。
気丈さも娘の物ならかわいさ然りだ、今朝も学友と登校した」
 辺りを見回す丈夫、血の跡もなく、ただ所々に見える傷痕のような斑模様が壁に目立つのみ。
「今回の狗はどのような犯行だ?
若いと聞いている、遊び金ほしさか?」
「はい、拉致したほうは『そうなります』ですが、『お嬢様』を助け出したほうが問題でして……」
「------『善意』か?」
「---はい」
 重々しく目を伏せる二人の男。
 第三国より買い付けた『餌』---娘の影武者---を使い、実の娘を脅かす影を囲う。
 暗に『漁』と呼ばれているその方法が長きの間、この国の子供達を健やかに---犯罪とは無縁なという意味で---
育てる土壌となっている。
 国、など所詮人が作ったシステムに過ぎぬ。
 安全など、蓋を開ければ見るに耐えぬ色をした土嚢で壁を成さねば成り立たず、強者は大なり小なりそれを支える義務を負う、そうあらねばならないのだが……
 国を挙げての罠に、かかってはならないものが罹ったのだ。



 善意は図(はか)れぬ、善意は侮(あなど)れぬ、
そして理(ことわり)や謀(はかりごと)など容易に食い破る牙を持っているのだ。



「------『私のかわいい娘』を助け出したのはどのような男だ?
イケているのか?」
「------イケています、但しムケてはいないかもしれません。
 アールワン・D・B・カクテル、14歳。
おととしの春から天涯孤独の身で、其の頃から様々な厄介事に首を突っ込んでいます」
「それも喜んで、だな?
いわゆる中二病というヤツか」
「パンデミックの大本ですからね。
十四歳にならない人間は居ず、また大概の人間はそれを抜け出せない」
 其の象徴があれです、そう言って白いテープで括られたソレを指差した。



「------下着、だな、女物の。
どうしてコンクリートに突き刺さっているのか……」
「触れぬようにお願いします、人の手で触れるとなぜか柔らかさを取り戻します」




 同様のことが何回かありまして、と言葉を濁す警部。
 1と書かれた紙片が添えられた少年の遺留品、男なら気を取られずにはいられないソレ。
 自己顕示欲を表すには不適切だ、普通は花かカードあたりを残すものであろう。
 斯く言うデヴィッドだって日本で商売を始めたからには印象的な名刺の渡し方ぐらい100通りは身につけている。

 名刺で大根を切るくらいは容易だが、流石にパンツで大根は切れぬ。

 手段も不明なら動機も不明だ。
「不可解だな…其の少年にステディ……ガールフレンド?はいるのか?」
「恋人、とかそういった類の知人は居ないようです。
 ただ厄介ごとに手を貸した女性へ度々下着を要求することが有るようでして……今回のソレも其の時の物でしょう。
 荒事に割り入るときは……もう本当に残したくて残しているだけなのだ、としか思えません」
「------若いな、若々しい」
「---14歳ですから」
 しばしその小さな布切れを眺めていた二人だったが、やがてデヴィッドは何かに気づいたように唸る。

「もちろん其の少年は泳がせておくとして……何か礼をしたいが、彼は報酬はパンツ以外受け取らないのだね?」
「はい、生活費も故人である母親の遺産を切り崩したり……あとは其の仕事の関係から多少の掩護を受けているようですが、
裏のほうからはまったく金銭を受け取らないトラブルバスターですね」
「なるほど……荒事に使うのは銃か?」
 刑事は首を振った。
「光の剣(ビームサーベル)、だそうです。
十中八九違法改造したスタンガン、か何かだと思いますが」
 なるほど、と丈夫は思った。
 其の位メイドロボでも積んでいるご時勢だ、若者が息巻いて振り回すには似合いと思える。
 あるいは剣で、裏で有名な『御神』とも何かつながりがあるやもしれぬ。
 
 何はともあれだ、デヴィッドは懐から携帯電話を取り出すと会社に電話をかけた。
「どちらへ?」
「社へ営業方針の連絡だ、其の少年への意趣返しでもある」
 数秒後、彼は告げた。



「……私だ、各アパレル方面へ連絡。
今期の商品展開は女性下着に注力しろ------そうだ、パンティーよ。
センターにリボン一つなどというつまらない形は市場から一掃するくらい徹底敵にだ、そうだな……。
携帯電話にぶら下げられるくらいファッショナブルにやろう.
バニングスの本気を見せ付けてやれ!!」



「積んだ……」
 今回、警視庁真の目的は『女性下着の流通経路』を使った情報操作であった。
 少なからず警察も弱みを握られている以上、バニングスグループをそれとなく抱き込んで、
 件の少年を囲い込むか、鼻薬の一つでも嗅がせてやる魂胆だったのだが。



------------さて、長々と書き連ねて申し訳ないが、伝えたいことは一つ。
------諸行無常の世の中も、結局善意で回っている。






 不思議な夢を見た其の日も、高町なのはの朝は遅い。
 尤も、一般的な小学生女子の寝起きから見れば及第点であり、パジャマ姿でリビングに下りてくることも無いならば、
行儀も良いといえるだろう。
 誰からも愛される自慢の娘だ、そう高町士郎は思っている。
「おはよう、なのは」
「あ~、お父さんまた新聞読みながらご飯食べてる!」
 などと妻の小言を先んじて言う様など無理に背伸びしている感が見え見えなのだが、素直にソレを折りたたんで脇に寄せる。
 笑いを噛み殺している次女は後から訓練で扱くとして、少々聞き捨てならないニュースがあったのは事実だ。

 この町で誘拐騒ぎがあったのである。
 尤も、彼からすれば取るに足らぬ『ちびっ子ギャング』のバカ騒ぎである、多少の報道管制を差し引いても、
娘を---ひいては家族を---脅かすには足らぬ騒動では有るのだが。
 かわいい娘が傷つく事態があれば、問答無用でぬっ殺してクレル!!

 そんな事を考えていると、長男が声をかけてくる。
「父さん、箸が四本になってるぞ?」
 コレはミステイクだ。
 どうやら力が入りすぎてしまったらしい。
 作りかけの五重の塔(割り箸製、長男の趣味)あたりにへし折れたそのた残骸を放り投げると、
ふと恭也の視線も新聞に向いているのに気がついた。
「なんだ、お前の箸もゆでる前のスパゲティの断面みたいになってるじゃないか恭也?」
「本当だ、父さん木刀もってこよう木刀」
 質実剛健、そして常在戦場。
 頼りになる息子もいる。
「ハイハイ二人とも、そんな獲物(もの)でご飯食べないの。
早くしてね?遅れちゃうわよ?」
「「はーい」」
 はっはっは、お前はそんなに急いで食べなくてもいいぞなのは。
 やがて全員の茶碗が空になる頃、高町士郎は自分のために珈琲を一杯入れるのだ。
 コレも仕事の一貫である、彼は喫茶店のマスターであった。


「ほらなのは、出かける前にご挨拶しないと」
「はーい」
 ……しかし、ごく一般的な中流家庭の自覚がある、我が高町家ではあるが。
「「行って来ます!!」」
 拍手二つ鳴らして神棚に頭を下げる二人。

 どうして家の子供たちは、ずっと自分のパンツを奉っているのだろうか。







 なのは曰く、今日出た課題は紫式部より難解な問題なの、である。
 取り付く島の無さは過去に向かうより遥かに無謀なの、である。

 要するに『将来の夢』を書いて提出しなさい、などといわれたの、である。

 なのははアリサ・バニングスと月村すずかという友人二人と下校中、思考のロッククライミングを続けながら、
学習塾への道のりを歩んでいた。
「だから大丈夫だって、なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ?
ランジェリーショップの店員とか」
「そうよばかちん。
グラビアとか出したら馬鹿男子も喜ぶわよ?」
「もう!二人とも、わたしだって日がな一日中ぱんつの事考えてるわけじゃないよ」
 流石に怒り出すなのは、だがしかし相手にする二人は呆れを通り越して苦笑い気味だ。
 ランチタイムにも、同じ話題を持ち出したばかりなのだから。
「だってなのは、この前家に来た時だって勝手に人のタンス漁って『いいねいいね~可愛いよ~』とか言いながら
携帯でバシバシ撮影してたじゃない」
「違うもん、その人がどんな『ひととなり』をしているか知るためにはドレッサーを空けて見ろってTVで言ってたんだもん」
「……なのはちゃん、それ多分本棚だと思う」
 果敢に突っ込みを試みるすずかであったが、熱くなった二人は華麗にスルーした。
「へーえ、ちなみに私がどんな人間か、アレでなにかわかったってーの?ええ!?」

 息巻く金髪とは間逆に、何か言いずらそうにもじもじすると、耳を貸せとゼスチアするなのは。
「------意外とダイタン(こそっ)」
「あ、あ、あ、あんたわ~!!」
 キャーとはしゃいで逃げるなのは、頭から湯気を出して追いかけるアリサ。
 溜め息一つ吐くと、すずかはふたりに追いついた、縮地法で。

 だがしかし、不意に歩みを止めるなのは。
 遭えなくランドセルに正面衝突したアリサが鼻をさすりながらあによ、ろうしたのよと聞く。
「声が聞こえる……誰か助けてって」
「声?」


 そして---------物語は幕を開ける。







 男やもめ、と来ればどうしても部屋は荒れ放題になるものだ。
 母が他界してまだ三年というのに、その部屋は様々なものが散乱していた。

 プロテインの缶、脱ぎ散らかされたボンテージ、刀剣類、三叉のローソク台、五輪の書、未開封のTENGAEGG、など。
 床を埋め尽くすほどに侵食された様々な雑貨は等しく住人の人柄を表している。
 彼は無言でダンベルを上げ下げしていた其の手を止め、夕日が沈みかけた窓を見やる。

「そろそろか・・・」

 三年で無造作に伸びすぎた後ろ髪を麻紐で硬く縛り上げ、鋭い眼光を収めた顔は削げ落ちたかのように鋭く。
 すらりと伸びた背に、魔導師としては破格の筋肉をまとった男である。

 侍、というよりは武芸者、ひいては求道者に近い、其の男------オリ主。
 アールワン・D・B・カクテルである。

 ------昨夜・二十と二つに分かれて落ちる流星を見た。
 ---願い事をしてはいけない、凶星の類だ。

 彼は書架から一冊のハードカバーを抜き取り、黄金のスツールに腰を据える。
 半ば引かれたカーテンは其の部屋に濃い陰を作り出し、唯人ならぬ術を操る少年を覆い隠す。
 彼は固く瞼を閉じ、其の書物を開いた。
 唯の書物に見えたソレは、あるいは真に魔導書の類であれば格好がついたやもしれぬ。



 結局頁は唯のアルバムであり、其処に収まっていたのは女性のパンティーであった。
 几帳面にナンバリングされ、どのような事件の報酬であったかメモが添えられている。



「---------良し、幻聴など聞こえてこないな」
 欠けたる其の一ページ、昨夜……なんかこう原作キャラ似の幼女をかどわかしたおにいちゃん(wを成敗しようかという折、
胸元から『私を使えッ!!』とか聞こえたので、全力で床にたたきつけた。
 ザシュッ!とかスパァァァァンとか気の利いた音を響かせ突き刺さったパンツ、すでに何枚目かなど覚えてはいない。
 アールワンが取り貯めたパンツは、すでにアルバムにして4冊目に届いていた。
 逆に言えば、コレだけの下着を被らずに荒事を収めてきた自信の表れともいえる。

 母が事切れる直前まで、この身に焼き付けた魔法の冴え。
 形見のストレージデバイスと様々な暗器を隠し持つ技のみで------本来与えられる力のみで『原作』を乗り切る心は決めた。
 不安故胸元に下着を偲ばせる事は無く、職質されたら一発アウトなどという危機も今日で過去の話。

 良く堪えてきたとオリ主を褒めてやってほしい。
 この数年は、禁煙中に美味そうな葉巻に火を灯される様な日々の連続。
 被るべきパンツを被らずに過ごし、彼はこの二年を戦い抜いてきたのだから。

「さて……今夜あたり魔法少女の誕生か……どのような形で介入を始めるべきか------」
 無意識で手触りの良い一枚を引き剥がし、手で弄びながら今夜もオリ主は自問自答を始めた。


 ---------脳裏に少年の、助けを求める声が響く。
 今宵の其れは、幻聴ではない。



[25078] 【無印編二話】獣・鳳・そして生まれ来る少女
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/06 06:33
 夜更け、というほどの時間ではない。
 アールワン・D・B・カクテルは其の身に武装を伴って部屋を出る。

 ロングコートに短杖(ワンド)が一本、足元をショートブーツで固めてはいるが、少し視線を上げれば素足が見える。
 細身のシルエットであった、一見しただけではただの露出侠にしか見えぬ。
 だがしかし、其の外套の内には数で押し寄せる大の男達を数分で悶絶せしめる不思議な道具が山のように仕込まれていた。
 脅威が外見でわかるような獲物は、争いならぬ、裏達との競り合いには火に油をそそぐだけ。



 君だってエロ本は隠すだろう?当然の事だ、君は間違っていない。
 武器などという、後ろめたいものは隠すべきなのだ。


 だがしかし、今はそんな凶器の産物たる武器を包む皮たる其のコートに注目していただきたい。
 裾に、袖に、襟に加えて前合わせの部分に至るまで執拗な『紋様(エングレービング)』が施されたソレ。
 パーツの一つ一つが幻想的な印象を漂わせる、まるでコス・プレイを思わせる上着。
 其の名を『バリアジャケット』という。
 正しく防具だ、激安の殿堂では吊るしていない。
 魔術で編まれたその戦装束を身に纏えるのは魔導を嗜む戦者のみ。
 拳銃弾すら撥ね退ける、むしろ多々の武器よりも、よほど不思議な装束であった。



 さて、行くべき道を早足に歩くアールワンであったが、侵食する世闇を切り裂くように甲高い電子音が鳴った。
 「------------------もしもし?」
 黒電話の受話器のように、其の耳に手にした物を押し当てる。
 其の名を『デバイス』という、魔導の杖である。
 万能にはほど遠い、それどころか外の世界では普及品である『ストレージデバイス』と呼ばれる物であり、
おまけに十年以上の型落ち、挙句とある機能に特化しすぎているため手放しの通話すら取れない不便さである。
 なぜこの『デバイス』をむき出しで持ち歩いているか、其の説明は後述するものであるが……。
「へっへっへ、あっしでゲス、ぼっちゃん」
「---------古着屋、なにかあったのか?」
 あまり進んで聞く気にはならない声である。
 通話の相手は、商業地の片隅で女子の体操服やスクール水着を商う男であった。
 商品は軒並み洗濯されておらず、そのくせパッケージングは執拗、という矛盾した品揃え。
 女物の服を扱っているにもかかわらず、女がそれを買い求めるところは見たことが無い。

 ……なぜだろう?どうしてだと思う?

 さて、その古着屋の風貌や性格を表するならば、だらしのない単なるおっさんであった。
 語尾に『ゲス』と付けるだけある、文字通りのゲス野郎なのだが、実は裏の顔がある。
------------------情報屋である。
 其の男の店は、上っ面も中身の方も相応の品揃えであった。

「いやね、急な話でゲスが、どうも今夜港で世界中の珍しい動物を集めたサーカスが開催されるようなんでゲスよ。
ぼっちゃんは興味があるかと思いまして」
「---------で、招待客は大枚はたいてそれらをペットにしたがってる、と?
残念だが今日は予定が入っていてな、見聞を広めるには良い機会と思うが……」
 動物が嫌いというわけではない、ましてや敷物にされつつある珍獣を思えば傷む心根もある。
 だが今日は駄目だ、魔法少女がはじまるからだ。
「……ところで、その珍しい生き物は二足歩行で上の方が出っ張ったりしていないだろうね?」
「その辺は大丈夫でゲス、ずいぶん心配性ですな」
 その言葉、返してやりたい。
 母親の店で常連客であったゲス野郎、たいしたサディストであったのだが、其の母親が死したる後、
率先して自分の『後援会』なる物を立ち上げた張本人。
 別にオリ主のケツを狙っているわけでもなく、ただおっさん達から金をかき集めてよこすだけ。
 そのくせ頼んだ裏の情報は、危ないものに反比例して話したがらない。
 まあ、其の分二束三文で『うっかり口を滑らせてしまう』ことも多いが。

------------------しかし、それにしてもだ。
どれだけ愛されていたんだ?自分の母親は。

 古着屋は言う。
「……でもね坊ちゃん、どうもそこへ望まれないお客さんが訪れそうなんでゲス」
「ほう、くわしく聞かせていただきたい」
「槙原っていう美人で評判の獣医さんがこの前相談に来たでゲス。
まあ、仕入れなら喜んで受けさせていただいたんですがね……どうもアデリーペンギンの移住先が気になったみたいで」
「話したのか?今日のわくわく大サーカスを!!
フラフープ回しとか面白い催しなんてないだろうに!!」
「ゲス……寧ろまわされるほうでゲス……」
「助かる、すぐに向かう」
 両方めぐって間に合うか、といった時間である。
 まあ、一般人が懸念していた魔道がらみの問題に巻き込まれる恐れはなくなっただけでも、良しとしようか。

「気をつけるでゲス、まあ終わったら店にも顔を見せるでゲスよ。
未亡人の2日ものを擁して待っているでゲス」
「其れはいらんよ……だが報酬は払おう、いくら用意すればいい?」
「坊ちゃんからお金なんてもらえないでゲスよ……ただね、お家のね?
タンスの奥におっかさんのパンツとかあったら何枚か分けてほしいな~なんて」
「ッッ!?全部焼いてしまったといっとろうがフェチズム親父!!」
「無いんでゲスか!?どうしても無いんでゲスか!?
一枚だけでもくれたら、後援会のメンバー車買える額ぐらいポンと出すでゲスよ!?」
 あると確信している声だった、実際あれだ、魔道書の一ページ目を狙ってるような声だった。
「サディストの面汚しどもにヨロシク!!切るぞ!!」



 さて、もちろん情報屋は件の『槙原』なる獣医が、アットホームな寮経営をやっている事を知っているわけであるが……
有り得ざる未来は語らぬが肝要である。







 時をいくらか早廻す。

 黒い影が多い尽くすその槙原動物病院にたった一匹、残されていたユーノ・スクライアは窮地を脱すべく孤軍奮闘していた。
「どういうことだ……ここまで思念をかき集めたら形になってもおかしくないはずなのに……」
『Details are uncertain. (詳細は不確実です。)
It proposes the maintenance of [musukai] and it proposes to wait for the rescue in top priority.
(それはmusukaiの維持を提案します、そして、最優先における救出を待つよう提案します。)』
 胸元のレイジングハートは冷静に少年を促すが、其の義務感からか、あるいは蛮勇とも取れる前進を続ける。
 いかに少年が得意とする結界技術を用いても、いずれこの影に圧されてしまうのは明白。

 ユーノはこの不可解な現象の源を知っている。
 魔法世界においても禁忌とされる危険な遺失物『ロストロギア』の暴走、それを封印すればこの悪夢に似た光景も
沈静化するはずである。
 或いは------あふれかえるエネルギーが次元震と呼ばれる崩壊を起こすのが先か……。

(駄目だ、この世界は優しい人たちばかりだ。
僕の責任で散らばったジュエルシード……全部集めてこの世界を助けないと)

 一つ目のジュエルシード回収の折、力尽きた自分を抱き上げてくれた少女。
 治癒魔法など存在しない世界で懸命に自分を生かそうとしてくれた女医。

 何一つ譲れないものばかり、今一度魔力をこめて結界を強化し、この闇のどこかにある石-------ジュエルシードを探す。

 用事がある、といって自分の頭を優しく撫でた、あの女医がこの場から去っていて良かったと思う。
 彼女まで守りきる力は、病み上がりの自分には無いだろうから。

 そして自分の呼びかけに答えてくれた、魅力的な少女。
 一目でわかるほどの魔力量、助けを求めればこれ以上無い力になってくれるとは思うが。
------------------それは自身の蒙昧であった。
------------------------------------あの笑顔を巻き込むほどに、自分の意思はヤワじゃないッッ!!





 だが、そんな悲痛にして誇り高き意思の持ち主を、世界は見捨てるはずが無い。
 少年に、力強くも暖かい、蒼天のような輝きが声となって届けられる。
(フェレットさん!この中にいるの?助けにきたよ-------今そっちに行くからまってて!)
「駄目だッ、来るなァァァァァァァァ!!」




 脳裏に響く助けを求める声に、高町なのはは今一度家を飛び出した。
 この不思議が、下校時助けたあのフェレットと関係している事はもはや確信の域である。

 然り、たどり着いた其の動物病院は不気味な黒い影に覆われていたのだから。
「------------------------------------あつっ」
 思いよとどけとばかりに中にいるであろうあの小動物に念じると、其の陰に手を伸ばす。
 だが、触れた指先からこの世のものとも思えない熱が返ると、なのははとっさに手をひっこめた。
「……まけない」
 もちろん、其の程度であきらめる少女ではない。
 再び意を決すると、なのはは普段着のスカートの中に、己の手を突っ込んだ。

 少女は知っているのだ、不可思議に対抗する術を。
 パンツには遍く魂が宿り、必ず誰かを守る力を示してくれるものと!!
(持ちこたえて私のパンツ!お父さんのパンツのように私に何かを為せるだけの力をみせて!!)

「とぉぉぉぉぉ・どぉぉぉぉぉぉ・けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!」
 両の拳に己がパンツを握り締め、少女は再び闇に突貫した。







「手錠を外しなさい!一体何をするつもりなの!?」
「------------------ブリィーディング・タイム」

 男達は己のズボンを降ろし始める。
 希少動物の密輸業者達が集まる会合に単身割って入ったはいいものの、案の定捕らえられている槙原愛。
 
 囚われの乙女が行き着く先はどうしてこうも予定調和なのか、そんな哲学を語る暇も与えぬほど、
 捕食者達は下品なパンツをはいていた。

「怖がる事は無いのです、ほぅら、野生の動物達も生まれ来る新たな命を祝福しているのですゥゥゥゥ」

 なんとわかりやすい変態であろう。
 ズボンを足首に下ろしたまま、ヒヨコのように迫り来る多々の男達、スリラー。
 乙女が恐怖に身をよじる様を楽しんでいるのだ。
 もちろん動物達があげるのはブーイングである、猛獣達が体当たりで檻を破壊せんと暴れ回り、
ペンギンは空から抜け出そうと飛んだ、進化したのだ。

 しかし己を戒める鉄球の足かせから脱する術も無く、唸り吼える声がむなしく大気を震わせるのみ。



 だが、よちよち歩きで迫る男達の足元に、気の利いた音を立てコンドームが突き刺さる。
「------------------ダレダッ!!」
 コートの下から垣間見える脛、揺るがさざる絶対領域。
乙女が、暴漢たちが、そして獣達がいっせいに其の姿を仰ぎ見る!!

「魔導師……アールワン・D・B・カクテル」

------------------------------------オリ主である。
------------------------------------------------------今宵は解り辛い変態であった。



「マドウシ……今裏を騒がせている変態の事かッ」
「…………そうか、もうこの世界では魔導師は変態と同義語なのだね……」
 天を仰ぐアールワン、いまだ見ぬ魔法少女達に心中詫びる。
「話は聞いたぞ破廉恥ども。
キャラクタービジネスに飽き足らず本国に『盗物園』を作るそうじゃないか。
子供達を楽しませるべきテーマパークをそのような形で開かせるわけにはいかん」
「ウルサイデース、やっておしまままままままままままーーー!!」

 神速を持ってリーダー格の恥骨に、袖から抜いたバイブレーターを押し付けるアールワン。
 超振動をもって身体の軸たる骨を粉砕したのだ------------------------------------腰が抜けたのである。

「キサマ!」
「何をスル!!」
「こっちの台詞だよ野球セット潰されたいか貴様らァァァァァァァァァァ」
 押し黙る男達、虜になった哀れな獣医の傍により、手錠を破壊する。
------------------魔法の杖にかかれば、こんなものは一瞬だった。

「よりにもよって本編ヒロインより先に『裸(ら)』を晒すとは恥知らずな奴ら、空気読め!!
時間も無いので今回は特別に初手から全力で掛かる事にしよう、『M2X-SS』!!」
『YEAH!!(うん)』

 正眼に其の杖を構えるアールワン、胸板の内側に宿るリンカーコア(魔力の源)に活を入れるように魔術を軌道。
「------------------バルカンソード!!」
『---VulcanSword』



 其の名を『M2X-SS』正式名称『試作型式二番〝ショートストック”』
 ------古き良き古代ベルカのバリバリな剣術とかミッド式で再現できたら面白くね?
 などという思想を『短射程魔力弾の超高速連射』などという力技で再現しようとしたら、湯水の如く魔力を消費する上に、
取り回しやすいようにサイズを小さくしたら部隊が機能する最低限の連携も取れなくなってあぼーんする局員続出。
 おまけに時々暴発もする。

 やがて其の思想は近代ベルカ式へと継承して行くのだが、現存するいくつかは折角作ったからと管理局の倉庫で眠っていた。
それを引っ張り出した母の形見である、さすがM。
 だがしかし、其の威力は低ランクの魔導師にとっては破格、今も獣達の唸り声に負けぬチェーンソーのような、
『アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』という轟音を発て、礼儀知らずを威圧する。

「行くぞ、根性棒の一閃しかと其の目に焼き付けておくがいい」







 やがて、というよりは最速で悪漢たちを成敗したアールワン、だが、時間のロスは大きい。
「ありがとうございました、ほんッ当に、助かりました」
 という槇原先生の心からの御礼も「うん…まぁ…気をつけなさいよ」みたいな心無い相打ちしかうてぬ。

 だがしかし、そんな二人の間に割って入るように1メートルもの巨大な鉄球が打ち下ろされた。

 大きい。冗談のように大きい其の鉄球に恐れおののく槙原愛、文字通り魂消た其の質量に感慨深いアールワン。
やがて、ライオンやベンガルトラをおしのけて、今まで囚われていた其の威容が姿を現す。

 全長4.5メートル、見上げんばかりのゼブラである。
大きさもさることながら、よく見れば体表が『萌え絵』に見えるという奇跡の個体であった。

 シマウマは年を取るとだんだん気性が荒くなり、人間になつく事はほとんど無いといわれている。
そんなある意味超越種が、われらがアールワンに牙を剥いたのだ。



---------ニイィィッ、と。









 そして、高町なのはは満身創痍になりながらもユーノ・スクライアの元へたどり着く。
 外にパンツを弾き出されたゆえ、ぼろぼろになった手でやさしく、其の小さな体を抱き上げる。
「フェレットさん、大丈夫?」
 ユーノの瞳から熱い涙がこぼれる。
 巻き込んでしまった、という自責の念ではなく、ただひたすらに安心する抱擁であった。

 だがしかし、そんな感動の再開を無粋にも邪魔する黒い影は、今も尚二人と一機を飲み込もうと其の支配圏を広げつつあった。

『Mastering and [musukai] cannot be maintained. (習得とmusukaiを維持できません。)
Please present the breakthrough plan promptly. (至急、突破計画を提示してください。)』
 二人に告げるレイジングハート、宙に浮かぶ首飾りを見て、驚くなのは。
フェレットは首飾りに向かって一つ頷くと、勇敢な少女のほうを見た。

「僕の名前はユーノ・スクライア、君の名前は?」
「た、高町なのはです」
 加えて抱きしめていたフェレットまで人語を話し始め、目を白黒させる。
「わかった、なのは。
僕達に力を貸してほしいんだ、君にはきっと、すごい魔法の才能がある」
 もはや迷いは無い、こうなってしまった以上全員が力を合わせなければ生きて帰ること、ままならぬからである。
「ま、魔法!?」
 宙を浮いていた首飾りがなのはの手のひらに収まる。

「僕は結界の維持に回る。
念話で機能譲渡のキーワードを伝えるから、なのはは頭に浮かんだ言葉を口にして!」
「念話!?頭の中に聞こえたあの声の事!?」
「さっきの君の声は僕にも届いていた。
きっと上手く行くはずさ!!」

 大の字で飛翔するフェレット、僅かながら闇の帳を押し返す。



「我、使命を受けし者なり。
 契約の下、その力を解き放て。
 風は空に、星は天に。
 そして、不屈の心はこの胸に。
 この手に魔法を。
 レイジングハート、セット・アップ!」

 心に響く、その一字一句を唱えると、掲げた宝玉がまばゆい光を放つ。

「バリアジャケットを、君の身を守る服を考えて!!
何者にも負けず、どんな敵や苦難にも屈しない、戦うための其の服を!!」

『stand by ready.
 set up.』



 かくして、次元世界が97の番号で呼ぶ地に、桃光の魔王が誕生する。
愛すべき家族が手放しで褒めた、自身の学校の制服をベースに、己が垣間見た奇跡の象徴を伴った、
其れは一見完璧な---------



「うわぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!
どうして頭の上にパンツを被っているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



「それは…………かっこいいからだよ」
『It is perfect (それは完全です)』

 君の良く知る兜(ヘルム)のように、ツーテール間にあるつむじをクロッチ部分で覆い隠すような。
 少女の頭頂部を、彼女が思い描く至高のパンツが飾っていた。







「ユーノ君、次はどうすればいいの?」
「…………………うん。
相当威力の高い砲撃魔法でも使えれば、この暗闇を強引に吹き飛ばすことが出来るんだけど……」
ほんとに大丈夫かなぁ、みたいな視線でなのはの方を見るユーノ・スクライア。



---------さて、ここで外のほうに目を向けてみよう。



 ガツッ!ガツッ!と鉄球をたたきつける鈍い音がする。
 オリ主を背にした巨大な馬は、足にくくりつけられたその武器で果敢に黒い影へ攻撃を仕掛けるも、
不可視の壁に阻まれ、踏み入ることが出来ない。
(さて、コレは一体どうしたものか……あの二人ならば万一の事はあるまいが。
危機的な状況であることに変わりは無い、早く救出しなければ……)
 其の影は槇原動物病院を覆い、今はもはや繭のような形をとっている。
 コートの中にある魔封じの術では、ちと手に負えない半実体状態である。

 だが、其のとき、アールワンの耳に例の幻聴が聞こえた。

『わたしをつかえ……』
「む!こんな時にまたしても幻聴がッ!!」

 耳を押さえようとも脳裏に響くその声に、出所を探ると視界の端に小さな、ボロボロの布切れが見えた。



『わたしをつかえ…………なのッ!!!!』
「うあああああぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁっぁ!?!?!?!?!?」



 全意識、全神経、全身体が全力で拒絶した。
 何という運命のいたずらか、其処にはほぼ原形をとどめてはいないが、
かろうじて女児の下着と思われる物が転がっていたのである。

 片隅で膝を抱えてガタガタ震えだすオリ主を、まあ落ち着けと鼻面で小突くシマウマ。
 恐る恐る拾い上げてみると、勝手にロングコートの構成が、文字通り吹き飛んだ。
(バリアジャケットが、きかない!?)
 マルチタスクの半分がエラーを吐いた、こんなものを被ったら、自分の頭部は原型を留め無いのではないかとすら思える。



---------だがしかし、放り出されたパンツは泥だらけになりながら尚、主人の帰りを待ち続ける。
しばしソレを眺めると、己の全魔力を腕にこめ、其の布切れを掴みあげる。



「出来る限り遠くへ離れてくれ、余波が危険だ」
 其の声はすでに取り乱してはいなかった、己の認めた主を乗せ、巨大な馬は黒い繭を背に歩き始める。
 やがて、厳重に施工した結界の外周部にまでたどり着くと…………

「---------お前の」
 アールワンは高々と片足を上げ---------
「---------主人を」
 魔力と筋力を全開まで振り絞り---------
「---------守ってくれ!!」



 ---------投擲した。



 空気と音の壁を軽々と飛び越えロケットのように加速する其の小さな布切れは天と地を切り裂くが如く桃色の玉光を
放ち其の魂とこめられた願いを形にせんと鳳の型の様に広がりつつ世界を抱きとめるかのような雄雄しい翼から幾枚もの
羽を飛び散らせ触れたものを片端から浄化の炎で焼き清めつつ純粋さを秘めた翡翠色の瞳が邪悪の権化たる其の黒い繭を
一瞥し更なる加速を伴いながら一度錐揉みし後はただひたすらまっすぐにただまっすぐに……

 ---------着弾した。
 ---------今、世界に音と光が帰って来る。

 正しき物の価値を、正しく理解できるがゆえに放てる一撃であった。



 そして、キノコ雲を切り裂いて飛んだジュエルシードを、追う桃色の光。



「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシードッ!」
「リリカルマジカル。
 ジュエルシード、シリアル21。
 ---------封印!」
『sealing---------receipt number XXI.』

 今ここに、二つ目の凶星が封印された。







「うわ、町がめちゃくちゃになってるよ、コレどうしようユーノ君!?」
「……うん大丈夫、結界が張ってあるから時間がたてば元に戻るっていうか!!
誰が張ったの!?そしてだれがやったの!?」

 何がなんだかわからぬうちに二つ目のジュエルシードを封印できた二人。
其処へ、ズシン、ズシンと腹に響くような音が近づいてくる。

「やぁ---------なんだか大変だったようではないか、二人とも」
 大丈夫か?とはるか頭上から声をかけられる。
 ここで、改めて息のあった二人と一機は心を同じくした。



((馬に乗ってるゥゥゥゥ!?))



 いや、寧ろ馬と解った二人の方が少数派かも知れぬ。
 荒縄を轡にし、鞍の変わりに膨らませたビニール製の尻を乗せ、鬣を収めるように槙原愛のパンツを被せられた威容。
 其の主たるオリ主が一つ、指を鳴らすと時間が巻き戻るかのように風景が戻ってゆく。
「あ、あなたがこの結界を張ったんですか?」
「いかにも其の通りだ。
独学でね、あまり上手ではないのだが……」
「あ、あなたも魔術師なんですか?」
「……そういう君の、バリアジャケットも良く似合うじゃないか。
だが、頭の其れはいただけないな」

 見ず知らずの人間に、己の価値観を否定されてむくれるなのは、だがしかし、

「乙女のパンツは秘められてこそ価値がある---------恋心のようにね」

 パンツの価値を語る其の目は、きっと自分と同じ色をしていた。

「私、高町なのは。
私立聖祥大学付属小学校3年生です!」
「そうか……アールワン・ディープパープリッシュ・ブルーメタリック・カクテルだ」
 故に、少女は名前の交換をするのだ、君たちならきっと其の価値を知っている。

「ユーノ・スクライアです。
じゃ、じゃあ、さっき見た惨状もあなたの仕業ですか!?」
 警戒心をむき出しにして、ユーノは二つ目の質問を浴びせた。
 だが、其れを聞いたアールワンは悲しそうに目を伏せると、重々しくも否定した。



「---------あれは、高町がやった---------結局の所……」
 きびすを返してその場を去るアールワン。
 また遭おう、と言葉を残して。



 ---------わたしやってない、やってないよと困惑の声が夜の街に響く。







 そして、家の前で兄にしかられている高町なのはを高台でながめつつ、アールワンはこれからに思いをはせる。
 思いがけないことの連続であったが、無事騒乱の第一歩を歩み始めた魔法少女。
 そして心優しい少年も、快く其の家族として迎えられることだろう。
 これから様々な困難がお互いを待ち受けていようが、必ず乗り切ろう、強敵(とも)よ---------。



「さあ、行くぞ雄範誅(おぱんちゅ)号、今日も市街を夜回りだッ!!」
---------ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッッッツ!!!!!!!



 およそ馬のいななきと取れないような声を挙げ、高台の端に鉄球を叩きつけ、
今日からオリ主の輩となった雄範誅(おぱんちゅ)号は反動で空を翔る。



[25078] 【無印編三話】破綻・そして揺るがぬ日常へ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:27
「---------今日は大変だったね、ユーノ君」
「そうだね、なのは」

 ベッドの上に倒れこむなのは、一頻り家族にしかられた後、肩の上にのっていたフェレットに話題が上ると、
桃子に見つかったユーノは彼女にもみくちゃにされた。
 もう、なのはが『飼いたい』と言い出す前に手放さないほどの勢いだった。
 或いは、ジュエルシードを手に入れるべく戦っていたときのほうが、気は楽であったかも知れぬ。

「なのは、疲れているならそのままで聞いてね」
 そしてユーノは経緯の説明を始める、あの影はこことは違う次元世界の古代遺産であり、願いをゆがんだ形でかなえる
恐れのある危険な代物であること。
 魔力を回復させてまた一人で捜索する旨を伝えると、なのはは自分も手伝うと言い始めた。

「だめだよ、今も味わったと思うけど、コレは危険な事なんだ」
「ならなおさら私も行くよ、一人ぼっちは寂しいもん」

 消して揺るがぬ意思の瞳である。
 しぶしぶ、といった形で其れを承諾するユーノ。

「---------じゃあ、もう一つ懸念があるんだけど。
あの時会った馬に乗った魔導師の話……」
「あ、ぱんつさんだね?」
「ぱ、ぱんつさん!?」

 とんでも愛称に驚くユーノ、なのはは元気一杯にうなづく。
「今度会ったらあの人にも事情を説明して、一緒に探してもらおうよユーノ君。
ぱんつを愛する人はきっとすごくいい人だから」
「な、なのは……この世界ではその、パンツはとても重要な物なのかい?宗教的にとか……」
「?ううん、ぱんつはぱんつだよ?
ただ昔助けてもらったことがあるの、ぱんつに」
「!?」
 さらなる超展開、魔法の無い世界ではパンツが力を持つのだろうか。
「まあ、アリサちゃんやすずかちゃんも私にぱんつみせてくれないしなぁ……うまく説明できないや。
とにかくユーノ君、今日はもう寝よう?
 私のベッド広いから隣入ってもいいよ?」
「いやいや、そんないいよ!?
僕はその辺のカーペットでの端で丸まってるから!」
 屋根もあるしね、と首をふるユーノ、しかし其の回答ではなのはを満足させるには至らない。

「それじゃあ、この篭を使うとして……ユーノ君、私のぱんつ使ってもいいよ?」
 机の上にある小物を纏めた篭をひっくり返し、タンスから丸めた己の下着をえいえいっと詰め込み始める。
 ---------寝床作りである。

「な、なのは!そんなところに寝たら寝具メーカーに怒られちゃうよ!!」
「え~、でも床じゃ体痛くしちゃうしなぁ……」

 ついに、ユーノはなのはと床を共にする覚悟を決めた。
---------『焼き芋』の複線である。







 深夜の神社の境内で、地獄の番犬に似た、三つ首の狗を相手にオリ主は苦戦していた。
 空を飛ぶわ火を吐くわ、である。
 懸念していた覚醒の早さに加え、明らかに原作より強化されたジュエルシード・モンスター。
 雄範誅(おぱんちゅ)号との挟撃を持ってしても、死角の無さに手を焼く。

 其の時である。
 7…8…9つの電撃が矢継ぎ早に落ちる、音と光に翻弄される狗獣。

「---------いまだッ!」

 アールワンは懐から封印用の凶器を取り出した。
 T●NGA・USモデル、人の見解を持って『神の穴』と評される、世界の欲望を受け止めるためだけに生み出された品。
 幾多の平行世界において、大容量を誇るこの型は紛争地帯の軍事境界線に設置され、見事其の矛を収めた逸品であった。

「封印!!」
 エアホールに指を添え、スポンと獣の表皮からジュエルシードを吸いだす。
 不気味な蠢動を続けたジュエルシードも、十を数えるうちにまったりと落ち着く。
 危ないところであった、アールワンは木の上にいる子狐に親指を立てた。
『くぉん』と小さく鳴き声をあげ、森の奥に去ってゆく。

「やはり聞き知った原作とはかけ離れている。
更なる惨事を生む前に、何か手を打たなくては……」
 一先ずは高町との会合を、そして聞きしフェイト・テスタロッサとの邂逅を果たさねばならぬ。

 オリ主は愛馬に跨り、夜の街へ繰り出す。
 どうにも幼女が夜歩きできぬ様であって困る、暴走族の集会、違法アダルトビデオの勧誘。
 潰しても潰しても筍のように生えてきて困る。
「---------はて、この作品の海鳴という町はここまで物騒であったか?」

 ズシン、ズシンと重い音を発て山を降りる雄範誅(おぱんちゅ)号、其の威容を垣間見た子犬は、
目覚めて早々意識を失った。







 其の日、いつもの通りにアリサ嬢を迎えにあがるバニングス家おかかえ運転手、鮫島は、
急に薄暗くなった風景をいぶかしみ、対向車線に目を遣った。

 馬がいた、それも巨大な体躯にパンツを被り、足に巨大な鉄球を括りつけた縞馬(?)である。
 其れを駆る騎士は年若い、彼はふと気がついた。
(あの少年はもしや、御館様が仰っていたアールワン殿ではあるまいか!?)

 近今、少年少女を襲う犯罪者が急増する折、娘の身辺に気をつけろとの忠告の上、
見かけたら屋敷に案内せよ、恩人だとの命を受けた相手である。
 パンツを愛する、いまどき珍しい紳士であると。
 その風評も、馬をみれば納得である。

 彼の駆るリムジンのバックミラーには、お嬢様の作った交通安全のお守りがぶら下がっていた。
 うれしかった、目立つところに下げられるよう、使えないバックミラーを送迎車に増設するほどに。
 そして、鑑みるにあの少年が愛馬にパンツを被せるところを見ると、きっとアレは、相応の意味があるのに違いない。

 だが、其の時である。
 其の巨大な馬の眼光が、チカリチカリと輝いた。
 加えて鼻息がぶもうぶもうと息巻く轟音、間違いない。
「---------煽ら(パッシングさ)れている!?」
 老骨に火が入る、かつてカーレーサーであった鮫島、よもや軽車両(には到底見えないが)に負けるわけには行かぬ。
 たとえ高速走行に向かぬ車であっても、己には運転手としての意地があるのだ。
「感謝しますぞ少年……よもや公道で朽ち果てるはずであったこの私を燃え上がらせてくれる……
御礼にお目にかけましょう、この私が培った送迎最速理論をッ!!」

 目の前の信号機(シグナル)が蒼に変わる。
 鮫島はクラッチを離し、猛然とアクセルを踏み込んだ。



 ---------そしてこの地に踏み込むまでに、何度の攻防があったであろうか、
この峠道は、バニングス家の私有地である。
 鮫島自体たまの休暇で訪れるいわば庭、まさかこのコースで自分をここまで追い詰めるレーサーがいたとは!!
「---------ミラージュドリフト!!」
 己が限界値---------すなわち人類の限界---------2フレームの速度を持ってブレーキング、
そして怒涛のカウンターステア、長大な全車長をもって反対車線をふさぐ必殺のドリフト走行に、
流石に追い抜かれまいと不適に笑う、だがしかし……
「---------三次元走法だとッ!?」
 馬であるからには当たり前なのだが、ひょいとその黒塗りの車を飛び越えて行く巨馬。
 お前の技はそんなものか?と鼻で笑われる感覚。
 強敵であった、だがしかし……
(解ってはおりますが---------私が一番でございます!!)
 温存していた最後のブースト、峠道ゆえ封じられた其のレバーを手にかける。

 眼下に見える私立聖祥大学付属小学校、このコースであれば空中を飛び出してもたどり着けよう。
「バニングスブーストッ!!」
 車高が沈み、後輪から噴射口が、ディフューザーが飛び出した驚異のリムジン、ゴールへ向け空へ飛び出す。


 だがしかし、敵もさるもの……その巨体からは信じられぬ速度で鉄球ごと其の体をきりもみさせ、
鉄球の反動で竜巻の様を見せ其の後を追う!!

 零の領域を超え宙へ飛び出した二つの弾丸、チェッカーがはためくのは果たしてどちらのマシンか!?



 




「おそいわね、鮫島……なにやってんのかしら」
 きょうは習い事も休み、三人で帰ろうとアリサ・すずか・そして高町なのはの三人は、校門の前にいた。
 どうにも最近物騒だから、と送り迎えを要求された手前、三人でのって帰ろうという話であるが、
運転中ならば携帯も通じまい。
「まあまあアリサちゃん。
きっと安全運転で来てるんだよ、ゆっくりまとうよ」
 そんなすずかに一つ謝ると、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
 だが其の時である。

「なんだあれ!?」
「UFO?UFOなのか!?」
 なんだか校庭が騒がしい、其の声に従い空を見上げた三人、そこへ、
バニングス家のリムジンが落着した、猛烈なホイルスピンで巨大な四葉のクローバーを描く。

「---------いぃぃぃぃよっしゃっぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあああっぁああ!!!!」
 運転席から飛び出した鮫島、腰の辺りで拳を握り締め天を仰ぐ。
 遅れて屋上あたりへ竜巻が落着する轟音、なにごとかとおののく小学生達。

 アリサの上履きが飛んだ、見事鮫島の痴態に命中。
「ちょっと鮫島!?あんたなにやってんの!!」
「おお……お嬢様、申し訳ございません、お待たせさせぬよう急いで参ったのですが」
「空から来ることないでしょ!!」
 なのはの目からしても完璧な紳士であった鮫島が怒られるというめずらしい光景にどう止めようか悩む二人。
さに有らん、其の騒動にはなのはが昨晩であった其の男が絡んでいるのだから。

「おい、何だよあれ……」
「でっかいぞ……怪獣か!?」
 事如く屋上のほうを指差し誰何する上級生達、下級生は逃げ出した。
 其の指にいざなわれ、3人が改めて上を見た其のときだった。

「「---------馬ァ!?」」
「ぱんつさん!!」

 軽い身のこなしで4階相当を飛び降りる雄範誅(おぱんちゅ)号---------そしてオリ主。
アールワン・D・B・カクテルその人である。







「それでね、それでね---------今ユーノ君もうちにいるの」
「なるほど……彼の傷はもう癒えたかね?」
「うん、回復魔法っていうので朝には直ったみたい」

 土煙を上げて舞い降りたオリ主は鮫島と固い握手を交わすと、騒がせた旨を周囲にわび、
アリサやすずかと2・3言葉を交わしてからなのはと共に通学路を帰った。
 いつもより高い視線---------飛行魔法とはまた違う周囲の視線を一手に受けながらの岐路は、
少女にとって新鮮な感動であったらしい。
 道中アーモンドチョコレートなど分け合いながら、どこかゆっくり話が出来る場所がないか、と問えば、
なのはは父の店である『翠屋』へ案内した。



「店の前に停めて置いても大丈夫なものか……高町、駐車場はあるかね?」
「ちょっとまって、いまお父さんに聞いてくる……大丈夫だって
 翠屋従業員一同、驚きを持っての来店である。
 客もそろって『デカッ!?』と顔に書いてある、オリ主の愛馬。
 ただ一人桃子だけがにんじんを持って歓迎していた。

 やがて正気を取り戻した士郎と恭也、可愛い娘が男を連れてきた、と察したとたんに店は危険地帯に変わる。
「---------お客さん、ご注文は?」
 美由紀を押しのけて、店主じきじきに注文をとりに来る。
「私には珈琲……いや、キャラメルミルクを頼む。
ここの甘味は絶品と聞いたが、生憎寝起きでね、味が解るかどうか」
 第三期のキーアイテム、ぜひ一度口にしたかったアールワン。
 これでけっこうミーハーである。
「丁寧にお作りしますよ、ところで、うちの娘とはどういった関係で?」
 娘に感づかれないよう笑顔ではあったが、内心殺気バリバリである。
 だがしかし、うちのオリ主はそこらにいる凡百のオリ主とは一味違う。
 しかと士郎の目を見て、告げてやった。
「さて、今はただの知り合い……だと思うがね。
ひとたび窮地に落ちれば手を貸すにはやぶさかでもない---------何と呼ぶべきだろうか?」
 士郎は恭也に目配せをする、首を振る息子、油断無く飛針を探っている様子だが、
隠したアールワンの手元では、ピンクローターが危険な螺旋運動を描いている。
 ピンクローター!?危険なものには変わりないのだが……
「お客さん、よろしければ名前を伺っても?」
「---------アールワン・D・B・カクテル、偉大な先輩にあえて光栄だ、今後ともヨロシク」

 くわ!と士郎の目が開かれる。
 デヴィット氏と幾多の情報網から名前だけは聞いた、今裏を騒がせているトラブルバスター。
 駆け抜ける思春期、変態ともトイボックスとも称される戦士、パンツの騎士なる異名もあった。
 そういえばそうだな、馬にものってるしな!!

「もう、おとうさんばっかりお話してズルイ。
なのはのお客さんなんだよ?」
「---------ん、ああ、すまないな、なのは。
なのはも同じものでいいかい?すぐに作ってくるからね」
 厨房に引っ込む士郎、待ち構えていた息子と抑えた声で話す。
「父さん、あの男何者だ?隙がまったく無い」
「ああ、今裏を騒がせている少年だ、いいものではある。
女子供には特に優しいらしいが……なぜ家のなのはと……?」
「何かトラブルに巻き込まれている、ということか?」
「或いは巻き込まれつつある……ということなのか」
 額を寄せ合い内緒話をする男二人を尻目に、美由紀は注文の品を作り始めた。
---------オリ主、地味に命の危機である。







「ごめんね、お父さん男の人初めてつれてくるから珍しいみたい」
「なに、人柄のよさそうな父上だ。
---------それに頼もしくもある」

 アールワンにとっては数年来の再会になる、あの時は病院で眠ってたのを垣間見ただけだ。
 会話をしてみてなんとも癒えない感慨深さを感じたのも事実だが、いざというときにはなのはに、
御神の援護も期待できるだろう。
 ひとまず目的の一つは達したわけだが、流石に込み合っているとはいえここで魔導の話ははばかられるな。
「おまたせしましたーご注文のキャラメルミルクでーす。
何々なのはー、彼氏できたの?やるじゃーん」
 美由紀が興味津々と言った感じで会話に割って入ってくる。
 年のころは自分と同じくらいか?名前から聞いて外国人であるのは確かだが……
ちなみにアールワン、私服である。
 黒地のタイを締めたタータンチェックのシャツにジーンズ、馬に乗っていなければごく普通のカジュアルだ。
 そして無造作にくくられた後ろ髪、日本人らしからぬ紺色が入った髪。
 多少険が入ってはいるがごくごくオリ主的な外見だった、風貌もまずまずである。
「ちがうよーもう、あっちいってー」

 妙にうれしそうななのは、まあ、つれてきたヤツが人気者なのでうれしいだけなのであろうが、
ここでお友達発言とかされてしまうと彼の本懐にもかかわる話になる。
 今の回答はまあ、及第点であった。

「さて、今後の話になるのでね、すまないが結界を張らせてもらう。
向こうには音が聞こえなくなるが、特に危険は無いよ?」
「へーすごい、さすが魔法」
「君はもう、魔法に興味深々のようだね」
---------小声で話すと、空間を切り取る。

「さて、これでよし。
ユーノ君と念話はできるかな?」
「大丈夫、今日も学校で一杯お話したの」
「授業中にかい?イケない御譲ちゃんだ」
 軽く小突くと、舌を出すなのは、ごめんなさいとは言うものの、まったく懲りていない様子。
「さて、道中でも話したが……ユーノ、私はすでに一つ、ジュエルシードを封印している」
『え!本当ですか?ぜひ返してください、其れは危険な……』
「解かっている、解かっている。
すでに封印処理を施しているからさし当たって心配は無いよ」
 懐でごそごそと……ん、取れんななどとつぶやきつつ、其れをなのはの前に示して見せた。
「ほんとにジュエルシードだ……でも何でヌルヌルしてるの?」
「……ん?汗をかいたからな」
 寧ろ今、冷や汗をかいた。

「それでだ、二人とも。
---------私は時空管理局と敵対している、いずれ追ってくるであろう彼らと合流するまで、
君たちに力を貸すこともやぶさかではない」
『え!管理局と戦ってるんですか!?
もしかして時空犯罪者……』
「こらこら、人聞きの悪いことを言うものではない。
今はまだ、この世界で魔法を使って悪いやつを懲らしめているだけの小物さ。
いずれおロープを頂戴することにはなろうが……今はただの現地住民だよ?」
 寧ろおロープを差し上げる気、満々だった
 念話越しの会談は続く。
「其のとき君たちは彼らに保護を頼むとして……私の事は話さないと誓うかい?」
「大丈夫です!」
『ええと……善処します。
---------あ、なのは、管理局は悪い人たちじゃないからね!?警察みたいなところだし』
「其の通り。
彼らの多くは善意のおまわりさんだが、残念ながらその偉い人達とは、馬が合わないのさ」
 ヲヲヲッと雄範誅(おぱんちゅ)号が嘶く、通行人びっくり。

「それでだ、このジュエルシードを引き渡すにあたり、一つ君達と取引をしたい」
『悪いことじゃないなら』
 即答しそうななのはに割り込み、ユーノがいう。
 寧ろ其の返事のほうを待っていた、とアールワンは喜んだ。
「共闘するに当たって、君達の本気、見せてもらいたい。
---------なのは、先ほど君の学校で、僅かながらコレの気配を感じた。
------------------夜、君達だけで封印処理してもらいたい」
 覚醒するかギリギリの時間だが、周りに人がいるとまずいからな。
 ニヤリと笑ってアールワンは言う。

「『やります!!』」
「---------よろしい、其れまで私が見張っていよう」
 グッとカップの中身を飲み干すと、オリ主は席を立つ。
 すでに結界は解かれていた。







 布石は打った、焚きつけられたなのははすでに、全力で事に当たるだろう。
 戦いは意志が強いものが勝つ、此度は原石たる其れに積もった埃をぬぐってやったに過ぎぬ。
 アールワンは、もちろん彼女達が勝者になることを、確信していた。

 そして今、自身はそんな彼女の姉に負けそうになっているのだ。
---------吐きてぇ、超吐き出してぇ。
 あらゆるSSに差にあらず、自身に振りかぶった胃腸への恐慌に、やはり高町家はオリ主に取って鬼門なのだと、
そう実感したのであった。



[25078] 【無印編四話】愛に目掛け地に落ちた太陽~決意の証明~
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Date: 2011/01/07 22:39
「うう、夜の学校ってこわいなぁ……」
「がんばってなのは、魔力反応はすぐ近くだよ」
「うん、そうだね。
お化けとかでても魔法でやっつけちゃうんだから!!
いくよ、ユーノ君」

 夜の学校を散策するなのは、自分の机の中から17番のジュエルシードが出てきてびっくりするまであと少し。
 学校の校門前で、ちょっとしたいたずらが発覚するのを、アールワンは今か今かと待ち続けている。
「---------赦せ高町、プールは鬼門なのでな」

 先んじて海鳴のプールへ足を運び、回収したものである。
 なぜか付いて来たサディスト親父集団が水着女子を備え付けのステージへ担ぎ上げ、歌を歌わせるという
カオス極まりない状況を呼んだ。

 まあ、おまけにスナック感覚で下着ドロをとっ捕まえておいたゆえ、社会的収支はプラスのはずである。
「ぱんつさーん、ジュエルシードとってきたよ~」
「ていうか、これも貴方が回収したものでしょう?
---------ねっとりしてるし」
「さて、拭いたつもりだったが、存外あっさりとばれてしまうものだな。
では、コレと一緒にデバイスにしまいたまえ」
『I feel the sense of resistance. (私は抵抗感覚を感じます)』
「我慢したまえ、いずれ気持ちよくなる。
ところで高町、其の愛称は何とかならないものか?」
「私の事も名前でよんでくれたら考えるよ?」

 先の一個と合わせて二つを受け渡し、合計四つのジュエルシードを回収したなのはと、
アールワンは今後について打ち合わせを始めた。
「では、これからの捜索なのだが。
君は放課後から門限までの間、ユーノは昼間、そして私は深夜のほうを引き受けよう」
「あ~、ユーノ君だけは名前でよんでる、ズルイ」
「--------スクライアは部族名だろう?君の事を『日本人』と呼ぶようなものだ」
「……其れでいきましょう。
手際を考えればどうやらそちらは効率もいいみたいですし。
但し悪用はしないでくださいね」
 釘を刺すフェレット、解かっていると二人の手の中にアーモンドチョコレートを落とすオリ主。

「……またアーモンドチョコだ。
好きなんですか?」
「仕事柄よく貰うのでね、余ってるんだ。
ところでユーノ、ここ数日は彼女に魔法を教えてあげるように。
見たところ高町は私よりもはるかに魔力量が多い、手に負えぬときは寧ろ彼女のほうが立ち回りやすかろう」
「わはりまひた……もきゅもきゅ……しはらくはひゃんと魔法を使えるようにとっくんします」
 小さな体では一口大のチョコレートも苦戦する相手である、食って万全になれ。
「ああそれと、休日はしっかり休むように。
学校にもちゃんと出て、授業はしっかり受けるようにな」
「そういえば、ぱんつさんの学校は?」
「大検を受けて、今はそちらに通っている」
 ろくに出席していないがね、と付け足しながらオリ主はその場を後にする。







 そして、魔力を探りながら夜の街を巡回するアールワン。
 やがて目的の二人が柄の悪い男達に絡まれているのを発見。

「なあなあ譲ちゃんたちィ、女二人でこの辺歩き回るのあぶないんでねぇの?」
「俺達みたいなヤツらに声かけられちまうよ?」

 金髪の幼女、そして野生的な赤い髪を持つミドルティーンの少女である。
 姉妹のような二人であったが姉のほうはともかくとして、小さいほうをあの男達はどうしようというのか。
 どうこうするつもりなのだろう、変態め赦さん。
 そんな事を考えたときだった、幼女が金属片を取り出したのは。
 アールワンは懐からコンドームを取り出し、手首のスナップだけでそちらに投擲。

「まかせときなフェイト、こんな奴らにデバイスを抜くまでも無いよ」
「……でもアルフ、数が多いし、二人でやれば一瞬で終わるよ」
「アアン!!俺達が早漏だって言いてぇのかガキァァァァァァァァァァァ!
--------今夜は寝かさねえゾ」
 悪漢、見当違いの逆ギレ。
 
 しかし、フェイトは手にした其れの今までとは違う感触にいぶかしむ。
「……なんだろう、コレ」
 カラフルなビニールで包装された、ペタンとした其れ。
 己がデバイスを気づかぬ内に弾かれ、手にした其れを検分する。
--------その場にいた者たちの顔色が変わった。
「捨てなフェイト、其れの意味を知るのはまだ早いよ!」
「うわァァァァァァァァァァ!
--------コッ、コンドームじゃねぇか!?」
 幼女からその包みをひったくると、悪漢たちは封を破り、呼吸の続く限り膨らませ始める。
 でかでかと書かれた『Guilty』の文字が、悪漢たちの視界に広がる。
「--------コンドームじゃねえか!!!!」
 風船だったのか、とフェイトが理解した瞬間、彼女の武器が其の風船の上に落ち、
ボヨンと跳ね返って少女の手の中に入る。
『Then, it is not possible to transform. (その時、変形するのは、可能ではありません。)』
「うん、間違ってごめんねバルディッシュ」
 自身の愛機を指先で撫でる、其の時である。

「ハウァ!!」
 一番奥にいる悪漢が悲鳴をあげた。
 何事かと其の男のほうを見る群れ、そしてフェイトとアルフは、彼の存在に気がつくのである。
「まさか!」
「--------テメェは!!」

「いかにも-------アールワン・D・B・カクテルだ」
 オリ主である……男の腰パンに躊躇無く手を差し込み、臀部の最奥にある穴へ指を突っ込み、
 屈強な男を文字通り指一本で制する様、変態的。
 男であろうとノンケであろうと、構わずに食っちまう様、容赦なし。

「ヘッ!てめえがヒーロー気取りのアールワンかッ!」
「テメェをしばき倒せば俺達がこの町の頭(ヘッド)を名乗れるってもんだぜ」
 刃物を取り出そうとする悪漢たちだがしかし……。
「--------ほう」
 自分の名前が小悪党達にまで知れ渡っていることを知ると、さらに深く、男のパンツに腕を差し込む。
「私を、どうにかできるつもりかね」
「ば、バカヤロウ息巻くんじゃねぇよお前ら……手が…手首がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げる悪漢、脂汗を流し、無意識にガタガタと奥歯がなる。

 どうにかされてしまうと恐れをなし、逃げて行く悪漢達。
 最後の一人も尻を抑えて、命からがらその場から離れて行く。







「--------君、すまないが其処の自販機で水を買ってきてくれないか?
手を洗いたいのでね」
 アルフは、あっという間に男達をいなしたオリ主に請われ、意識を取り戻した。

「あ、アンタ一体何者なんだい?
その……容赦が無いじゃないか……」
「アルフ--------魔力を感じる、その人は魔導師だ」
 再び武装しようとバルディッシュを構えるフェイト、アールワンは其れを手で制した。
 フェイトをかばって後ずさるアルフ。
「名前は先も言ったとおり、ただの街の掃除屋だ。
そしてなるほど、自身は魔導師でもある--------ところで水を買ってきてくれないか?」
「どうして魔導師がこんなところにいるの?--------管理局の人間!?」
「其れは否、君も無闇やたらに魔法を使うと彼らに嗅ぎ付けられる、気をつけるがいい。
隠遁生活の先達から忠告だ--------そして水を買ってきてくれないか?」

 男は自分と同じく管理局の目を逃れる現地の魔導師であった。
 其れを知るとフェイトの表情から険がはがれ、肩から力が抜ける。
 加えて、なんという達人であろうか、いかに相手は非魔導師とはいえ、腰元を手で触れるだけで、
屈強な男が悶絶したのであろう。
 何と言う魔法か、とても興味がある。

「あの、知っているようですが、私達も管理局の目を盗んで『あるもの』を探しているんです。
良かったら協力してくれませんか?」
 土地勘もあろう、現地の協力者がいれば母のいいつけも進むであろうし、
何よりも---危機とはいえまいが---自分達を救ってくれた其の男は、頼りがいがありそうである。
 そして近づいて行こうとするフェイトを羽交い絞めにして食い止めるアルフ、
其の男は、こう、なんか危険だと。
「--------天から降りそそいだ厄債の種、ジュエルシードの事かな?」
「知っているんですか!」
「すでに二度、暴走体となってこの世界を脅かしている。
其れを管理していた少年が、現地の協力者と退けたがね」
 まだ、この街にも魔導師がいた、其れも自分と同じジュエルシードの捜索者が。

「残念ながら私はそちらに加担している、残念ながら君達の力にはなれそうも無いな。
尤も少年の協力者、桃光の魔導師は優しい子だ--------ひょっとしたら君達の力になってくれるかもしれないが」



「……ならば、ここで貴方を倒しておきます」
「ほう、面白い」
 今度こそ一触即発、三度バリアジャケットを纏おうとデバイスを翳すフェイト。
 アールワンは右手を前に、左手は胸元からはさみのような、銀色の器具を取り出した。
 先端はペリカンの嘴に似ている。
「私は君達があの魔具を求める訳、御身に聞かせてもらうとしよう。
そして水を--------」



 これ以上まかりならぬと、アルフはフェイトを引っつかんで空へ逃げる。
「アルフ!どうして!」
「どうしても駄目なんだ、アイツとは渡り合っても分かり合ってもいけないよ!!
とても、危険なんだ、道徳的にね!!」
 己の使い魔がここまで血相を変えるとは、いかなる強敵か!?
 アールワン・D・B・カクテル、道徳的に恐ろしい敵よ、フェイトは其の名をしかとその身に刻み込んだ。







 そのようにして数度、昼と夜がめぐる。
 予想より早く海鳴の町に着いていたフェイト、彼女を出し抜いてジュエルシードを集めるのは、
うろ覚えの原作知識ではどうにも無理であった。
 もちろん魔法教育に専念してもらっているなのは・ユーノ組にしても成果は無く、しかしあせる事はさせぬ。
 予定など立てると足元を掬われそうで怖いが、次の暴走体は『木』、原作でも町に大きな被害を出した難敵。
 本来なら惨状を見た少女が、信念たる『不屈』に目覚める、いわば試練の時であるが……。

 アールワンは愛馬から降り、サッカーに興じる少年達を眺めていた。
 本日は日曜である、言いつけどおり万全の体調管理を施されたなのはが、小さな体を目一杯使って
少年達を応援している。
 果報者達め、勝利と青春を勝ち得るが良い。
 そんな事を思いつつ、どうしても視線はゴール前、キーパーを務める少年に向かってしまう。

 --------おそらく、彼がジュエルシードを持っている。
 気になるあの子に其れを渡したとき、この町を悪夢が襲うのであろうが……
(--------どうして其れを取り上げられよう)
 オリ主は、其の小さな愛を育むことしか出来ぬ、騒動がひとたび起これば、迅速に救い出せばよい。

 もちろん、受け渡しの際なのはが気がついたならば、そして声をかけたならば其れまでなのだ。
 人其れを、まる投げと呼ぶ。



 翠屋JFC、試合後半にして最大のピンチ。
 相手チームはフォワード、ミッドフィルダー共に陣地へ深く切り込み、ゴール前で組み体操の様な動きを見せた。
 はるか上空から放たれる三人同時の蹴撃、吹き飛ばされる翠屋ディフェンダー陣。
--------だがしかし、コート上に響くゴールキーパーの剛声、気合と共に少年の手がゴール一杯に膨れ上がり、
 敵チーム必殺のシュートをしかと受け止める。

 後は攻勢に殉ずるのみ、遠く、遠くへと蹴り飛ばされたボールは反撃に転じる翠屋攻勢陣へわたり、
 尤も前衛へ位置取っていた少年が利き足を振りかぶると、地面が爆ぜ、其処から四匹のペンギンが姿を現す。

 それらはボールと共に見事な編隊飛行を見せ、やがて相手のゴールへ共に突き刺さる。
 凍りつくゴールネットの前で膝を付く相手キーパー--------そこで試合終了のホイッスル。

--------翠屋JFCの勝利である。



「やったねお父さん、勝ったよ」
「ああ……無理を言ってみんなに応援に来てもらってよかったよ、アリサちゃんもすずかちゃんもありがとう」
「いえ、どういたしまして。
--------たまには観戦と応援だけっていうのも楽しいです」
 笑いながらすずかが言う。
 自身が試合に出ていたら、まあ、ここまでの接戦にはならなかったろうという自信が見て取れる。

「……ていうか、サッカーってこんなアクロバティックな競技だったっけ?」
「ブラジルの人とかと違って、日本人は基礎体力が低いから。
どうしても技に頼るしかないんだよ、ね?お父さん」
「そうだよなのは。
お父さんも足腰を痛めていなければまだネオサイクロンが撃てたものだが……」
 残念そうに士郎が言う。
「……どうしたのアリサちゃん?」
 不審気を感じ取ったのか、すずかがアリサの顔を覗き込む。
 そういえば彼女も先週のドッジボールの試合の際、ボールを餅のように伸ばしてから放っていた。
 小学生の球技とは、きっとそういうものなのだろう。

「さあ、みんな集合だ。
--------ウチの店で祝勝会をやるぞ!!」







 そして、欠食児童たちの腹に程よく桃子謹製の菓子が詰まった頃、先の試合でファインセーブを見せたキーパーが、
鞄から『ソレ』を取り出し、気になるマネージャーの少女へ走り寄って行く。

(今の……ひょっとしてジュエルシードの気配!?)
(なのは、どうしたの)

 なのはは念話でユーノに今感じた感情を伝えようとしたが、俺が知っている俺に任せろする前に、
残念ながらアリサに念話を遮られてしまう。

「ねえ、時折アンタとユーノじっと見詰め合ってるんだけどさ、どうも怪しくない?」
「そうだね、ひょっとしてユーノ君、普通のフェレットじゃないとか?」
 なのはは焦った、このままではユーノが魔法の世界の住人(住獣?)であることがばれてしまう。
「そ、そんなこと無いよ?
ユーノ君は一寸……いや、だいぶお利口なだけのただのフェレットだよ?」
「キューキュー」
 相槌を打つように何度も頷くフェレット。
「それは解かるけどさ……じゃあなんか芸を見せてよ」
「わ、解かったよ、い~よ、見せてあげるの。
----------------ユーノ君」
 なのははポケットからボーダー柄の下着を取り出し、相棒に命じた。
「--------縞パン」
「キュッ!!」
 一際太い横断線と一体化するユーノ、見事な横一文字。
 それを微妙な表情で見つめる親友二人、やっとの思いで感想を言葉にした。
「……よ、よく出来たね~えらいね~」
「……ていうか、なんか粗相をしたように見えるんだけど」
 二人の手がそっとユーノをパンツの上からどける、所在なさげ彼は、机の上にあるスティックシュガーを数え始めた。

「まぁ、いいわ。
この前家の鮫島と峠を攻めた馬みたいな珍獣も世界にはいるわけだし……」
「そういえば、あの人今日来てたね。
なのはちゃんのシマウマの王子様」
--------なのはの顔色が変わった。
 彼が、アールワンが姿を現したならば、其処にジュエルシードが絡んでいる事は明白。
 だが、アリサはその態度の急変を別の意味でとってしまった。

「ねえ、なのは?
ひょっとしてこれからあのエグダチ(EXILEのメンバーのような、総じて強面でお友達に成り難いタイプ)と、
待ち合わせてデートとか……」
「ち、違うよ!!
パンツさんとはただのパン友(パンツに一過言ある、総じてお友達に成りえない変態)だもん」
「パンツさん……でもこの前一緒に学校から帰ってたよね?」
「雄範誅(おぱんちゅ)号と一緒だったでしょ!?
ユーノ君に何食べさせたら乗って歩けるくらいまで成長するか質問してただけだよ!!」
(なん……だと……!?)
「「それ馬ァ!?」」
 驚愕するフェレット、巨馬の名前に総ツッコミな二人。
 話を聞いてまんじりともしない士郎や恭也を踏まえて、ぐだぐだのまま祝勝会はお開きとなった。







 --------かくして、海鳴の町に巨木が出現する。
 --------しかも町を覆いつくすほどに枝葉を広げた、想像し得ない規模の、である。

「コレは……予想以上だな……」
 根が張られた市街地は、さながら大地震に見舞われたかのような有様であった。
 救急車が通る隙間も無いほど捲れあがったアスファルトの上を、巧みな轡さばきで進むオリ主。
 雄範誅(おぱんちゅ)号の背に乗せ一人、また一人比較的安全な場所へ被災者を運んで行く。

 誰かの鳴き声、どこからか響く爆発音。
 天高く、其れこそ電離層に届くか、という位置で開いた枝葉は、空を夜のように暗く埋め尽くしていた。
「--------パンツさん!!」
 月光のように頭上を照らす桃色の光、高町なのはの到着。
 しばらくの間、店の前で友人が見張っていた手前、到着が遅れた。
 尤も、この騒ぎが起こって間もなく、二人は家族が迎えに来たのだが、
 今度は、自身の家族が武器を携えて店を飛び出した、なのはは最後発、桃子の目を盗んでの出発となったのだ。

「ごめんなさい、今回のジュエルシードの発現、私気づいていたんです!
もっと早くあの子達に声をかけていれば、こんなことになるはずじゃ……」
「--------いい、皆まで言うな!!」
 愛馬から飛び降りたアールワン、なのはとユーノに視線を合わせ、言い聞かせる。
 落ち着いて、ゆっくりと、しかし力強く。
「自分も先程、サッカーをしていた少年達からジュエルシードの反応を感じ取っていた。
持ち主を絞り込めず、取り上げることもままならず放置していたのは自分も同じだ。
今はただ、我々に出来ることを成し遂げよう。
ユーノ、一つ問いたいが、ジュエルシードとは人間が発動させればここまで巨大になるものなのか!?」
「はい、人間が発動させたとき、ジュエルシードはもっとも危険なんです。
でも、ここまで酷い状況になるなんて……自分もあのロストロギアを、甘く見ていたかもしれない」

 アールワンはぐっとユーノの頭を抑えつけた、どうも自虐に走る少年少女が多すぎる。
「とにかくだ、私は引き続き被災者を救援して回る。
二人は核たるジュエルシードを見つけて、其れを封印してもらいたい。
こうまで高く伸びてしまっては、さしもの雄範誅(おぱんちゅ)号とて飛び上がれぬ」
「わかりました……なのは、この前教えたワイドエリアサーチ、できるね?」
 一つ頷くと、頭上高く舞い上がる白いバリアジャケットの魔導師。
 デバイスを巨木へ突きつけ、力強く宣言する。



「町を破壊し根を広げるジュエルシードモンスター、人の子として決して赦せません!
この額のパンツにかけて、今、この場で封印します!!」
「--------oh……」
 微妙なキメ台詞が解き放たれてしまった、オリ主は場違いにも額に手を当てる。







「--------なのは、察知したかい?
この向こうに、核になっている二人がいるよ」
 肩のユーノが声をかけると、なのはは射抜かんばかりの瞳で大樹を見つめ、一つ呼吸を整えると、デバイスを構えた。
「行くよ、レイジングハート……シュ-ティングモ-ドッ!」
『Shooting Mode』
 形を変える愛杖、己が魔力を集中させ生涯に初、天地を揺るがす砲撃魔法を解き放つ!!
「ディバイィィィィィン・バスタァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 着弾、しかし其の一撃をもってしてもありえぬほどの威容を誇る此度の暴走体には、深く傷をつけるだけで核には届かぬ。
 人知れず奥歯をかむオリ主、さらに、容易には信じられぬ異変が巨木に起こった。

 ドーム上に光り輝くユグドラシルの文様、見ただけで肌をあわ立たせる其の威容。
 其れに留まらず、少女が傷をつけた大樹の表面から、膨大な量の軍勢があふれ出したのだ。



「--------木人(ぼくじん)だとッ!?」


 推定十万、丸太を組み合わせたような不恰好なその人型が、いっせいに逃げ遅れた人々を襲い始める。
--------乳に、尻に、太ももに、或いはサラリーマンのスラックスに備えられた社会の窓を降ろし始める。
----------------近年の小学生は、早熟であった。

「くっ……ショートストックゥゥゥゥ!!」
 オリ主は剣を抜き、今まさに夫人に襲い掛かろうとする不貞の輩に切りかかった。






「父さん、コレは一体ッ!?」
「解からん、だが来るぞ!構えろ!!」
「「応ッ」」

 御神の剣士が三人の前に立ちふさがったのは木彫りの熊、力任せに手にしたシャケを振り回し、行く手をさえぎる。
 敗北は無かろう、誰もが知る裏の兵、しかし問題は其の姿を其の娘が、頭上の魔術師が垣間見てしまった事だ。

「あ……あぁ……」
「なのは、なのはしっかりして!!」
 自らが魔法を放った場所からあふれ出る怪物、今尚罪無き人へ襲い掛かるおびただしい数の威容
 --------少女の心の中を抗えぬ恐慌が襲った。



「全て…………全て焼き尽くしてやるッツ!!!!!!」



 いくつもの光弾と光帯が、何度と無く闇を切り裂く、果たしてそれらが通る先は次々と浄化されてゆくが……
「危険だ、なのは!こんな大規模攻撃魔法、続けて撃ったらリンカーコアが持たないよ!!」
「あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 そんな出鱈目な攻撃を繰り返して幾つ時が分けたのか、やがて主の危険を察したレイジングハート、
全ての強制停止をかけ、ゆっくりと其の身を地面に降ろして行く。

「なのは、ごめんよなのは……こんなことに巻き込んだ僕を、いくらでも恨んでくれていい」
 この地に下りて再び、フェレットの小さな瞳から涙があふれ出た。



 だがしかし、二人の体は硬い地面に触れることは無い。
 地面に落着する前、そっと、黒と金色のバリアジャケットに身を包んだ少女に抱きとめられた。
「--------あなたは一体……」
「アルフ、この二人を安全な場所まで運んで。
あなたは、回復魔法、できる?
起きたらその娘に伝えてほしいんだ、よくがんばったねって。
----------------ここから先は、私が引き受けるから」


「フェイト、本当に手を出すのかい?
いっちゃなんだけど、あれは本当にやばいよ?」
「ジュエルシードがあるんだ、あそこに、確実に一個。
--------それにこんな状況を見捨てたら、きっとお母さんも赦してくれないよ」

 連れの、おそらくは使い魔であろう女になのはを引き渡すと、迅雷の魔導師は戦斧を振りかざし、巨木へ歩を進める。
 ユーノは其の後姿を見つめながら、3人目の魔導師の出現に声を奪われつつも、一刻も早い事態の終結を願う。







「おお、おおなんということか……」
 迅速に救い出したはずの女性、其の口元から赤い線が一筋、引かれていた。
 アールワンは其の女性を抱き起こす、名も知らぬただのOLである。
 だが、そんな彼女はオリ主の眼前で、木人の性的暴行から逃れんと自ら舌を噛んだのだ。
 --------何と言う勇気、誇るべき貞淑である。
 
 オリ主は己を恥じた、一刻前の日和見思考が紛れも無く今、ここにいる女を見殺しにしようとしている。
 すまぬ、すまぬと心中詫びながら、不出来な回復魔法を掛け続けた。

 そのときである、ぐったりと力を失った其の女の下腹から、心打つ幻聴が響いたのは。


『--------私は、貴方が抱きとめている女性がまとうパンツであります。
彼女は故郷を離れ、勤めて初めての給金で私を買い求めここぞというときは常に傍に置きました。
やがて結ばれるであろう恋人との、初めての褥の折にも私は其処に居りました。

貴方、名も知らぬ優しく力強い貴方、私は口惜しいのです。
やっと手にした幸福の最中このような不可解に身をおかれ、
虫の息をしている主が置かれている状況が、たまらなく悔しいのです。
この薄い我が身にたぎる憤りを感じましょうか、怒りを感じましょうか?
--------私は仇を獲りたいのです、他ならぬ私と貴方で、仇が獲りたいのです』

 辛抱たまらず、オリ主は女のプリーツスカートをたくし上げた。
--------黒地に艶やかなレースで縁取りをされた、勝負パンツである。
 たちまちアールワンの瞳から熱いものがあふれ出て、其の姿が滲んだ。

(私が戻してやる--------お前を、幸福を取り戻した主の元へ、私が必ず戻してやる。
だから今は、今はお前の力を借り受けよう!!)



「--------雄範誅(おぱんちゅ)号、彼女を安全な所へ運んでくれ」
 するり、女の腰からパンツを抜き取り、愛馬の背に其の身を預ける、
雄範誅(おぱんちゅ)号、オリ主へ向けて貴様はどうするかと瞳で問う。
「--------私は、一線を超えるッ!!」

 今にして思う、どうして自分は2年もの間、パンツを被らなかったのか。
 有るべき物を有るべきところへ、為すべきことから背を向けて過ごしてきたのか、と。
 そんな恥も後悔も、今この瞬間で終わり。
 この勝負パンツを広げ、さあ、顔をつっこもう----------------



「--------ニート証券ッッっっっっっっ!!」



 顔面を覆う温もりと、たちまち広がるフィット感。
混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 オリ主を中心に、白と黒の魔力光が爆裂した。
 身にまとうロングコートがたちまちひび割れ--------
「クロス・アウッッッッ(脱衣)!!」
 服(バリアジャケット)など着ていられるか、とばかりにものすごい勢いで周囲に弾け飛ぶ。

 やがて其処に頭上と腰、すなわち天地に二つのパンツを纏うオリ主が身を表すわけだが、
--------解かっているだろう、諸君。
----------------此度の変身はここで終わらぬ。

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォヴァァァァァァアァァッァァァァ・ドルァイヴッ!!!!」
--------自身のパンツの裾を引き、引手は天に、弓手は地に拳を突き出す。
 そして胸の中央、自身のリンカーコアを引き締めるようにゴムの部分を交差させ、肩にかけるスタンダードVフォーム。
 腕を、足を幻獣の血で描かれた魔導式が網タイツのように彩り、その目から質量炎を噴いた。

 パンツに温もりが残っているうちは、其の威力数倍に跳ね上がる。
 原作三期高町なのはにおけるブラスターモードに匹敵する其の名も高出力『オーバードライブ』モード。



 さあ諸君、完璧だ、そしてただただ満足である。
 今ここに、愛に目掛け地に落ちた太陽------------------------



「……へんたい、だ」
 おぼろげながら意識を取り戻した名も知らぬ女性、しかし彼は彼女を一瞥すると、其の意を否定する。

「変態ではない--------私は変態仮面だ!!」



 オリ主、アールワン・D・B・カクテル、改め『変態仮面』は女に背を向けて、眼前の死地へ一歩を踏み出す。
 敵は半数を失ったとて、推定十万を下らない『魔導木人』の群れ。
 懲伏するは果たして、いかなる『変態秘奥義』か----------------



[25078] 【無印編五話】あなた自身の手で、それを手に入れたとき
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:43
「へ……へんたいだッ!?」
 どうしようお母さん、とうろたえるフェイト・テスタロッサに、我等が変身ヒーローは否定の名乗りを上げる。
「変態ではない--------変態仮面だ」

 先へ先へと歩を進める金色の魔法少女に追いついた『変態仮面』は、すっと天を指差し、告げる。
「君は空を行きたまえ、疾風迅雷の魔導師、地上を群れる不恰好どもは--------私が相手をしよう」
「ッ!?無茶だ、あれだけの数を前にして、強行突破なんてできるはずが……」
「相手にするから無茶なのだ、調教すればよい。
--------私には秘策がある、任せておきたまえ」

 ふわり、とフェイトは空へ身を窶す、しかし背後から来た謎の怪人はいかにしてこの数を裁くのか?
 今尚凶行に及ぶ奴らを赦すまいと、迅速をもって解体しながら駆け抜けた道。
 食い止める術があるならば、ぜひこの目で見たい。
 あっという間に木人にかこまれる変態仮面、少女は固唾を飲んだ。







 町に巣食う群れ、わらわらと周囲に集まる木人たちを尻目に、変態仮面は深く息を吸い込んだ。
--------ミッド式捕縛魔法、ロープバインドを展開。
 唯一、今までのバインドと違うのは、其れが目視するのが難しいほど極細の物であるだけだ。
 蜘蛛の巣状に、町全体に広がった其れは木人たちの手に、そして足に結わえられてゆく。

 しかし、そのようなか細い糸で狂える軍勢を食い止めること、ままならぬ。
 なおも人々に襲い掛かる、巨木から生まれし悪鬼、魔導木人 
 迫り来る其の勢いに、展開したバインドは今にも切れそうである。
 だがしかし、クロッチ部分の下に隠れた変態仮面の表情は、笑みの形を変えはしない。

(難しいことではない、不可能でもない。
--------ただパンツに身を任せ、其の力を再現すれば良い)



 そして、彼は腕を横に広げ、手首を返す。
 軸足にもう片方の足を絡ませ、意識の集中と共に自身の一物を見やる。
 それはKING OF POPの構え。
--------名も知らぬ、今身に纏う勝負パンツの持ち主は、故・ジャクソン氏のファンであった。

 あたりに漂う不穏な気配を感じ取った木人達は、つと其の足を止めた。
 今だ、変態仮面は顔を上げ、世界に其の技其の名を示す。








「変態秘奥義--------ミッド式操身術・熱狂☆楽園パレードッ!!」







 燃え上がる其の瞳に魅入られた木人が、たちまち変態仮面の背後に列を成した。
 結わえられた糸はマリオネットのそれであったか、人々を襲っていた巨木の手下、
 瞬く間に2列、3列とそこへ加えられて行く。

 やがて魔手から逃れた罪無き人々が、其の存在に気づく。
 整然と並んだ木人の前に立つ、かつて居た、最も新しい変身ヒーローに。



「--------Let's Dance!!」
 くわッ、と見開かれる炎を宿した瞳、見据えるは怪異の中心、巨木型ジュエルシード・モンスター。
 十万の奪い取った仲間をを引き連れ、今ここに変態的進軍の第一歩を踏み出すのだ。





 くまなく空を覆う巨木の枝葉、しかしはるか上空で一陣の風が吹き、陽光が一瞬、変態仮面の元へ差し込む。
 まるでスポットライトのように、奇しくも其れは構えを解き、彼が新たなポーズを執った瞬間である。






 狂気と混乱だけが渦巻いていた海鳴の町あまねく全てに--------
『--------ヲ・〇・ニー! ちょw先にイくなって♪
 んでヲ・〇・ニー 女装ドン ポコ〇ィン・ヴィジョン♪』
--------福音が響き渡った。





 背後に燦然と並び立つ木人たちが、一糸乱れぬ動きで前方に位置取る変態仮面のポーズを模写する、
やがて軽やかに二つのハンド・パーカッションを打ち鳴らし、一斉に其の一歩を踏み出す。
 微かなどよめきがいずれ大きな熱狂に変わり、傷ついた人々が歓声を上げた。

 何と言う統制、前に陣取る其の男の手が、足が、そして腰が唸りを上げるたびに、背後の木人達が一部の乱れも無く、
狂いも一瞬の迷いも無く揃い、怪しく舞う。
 まさにカーニバル、アニマル達のバーニング・ラヴ。
 見る者の正気をみるみる吹き飛ばし、地獄のエンターテイメント、其の最前線に御招待である。


--------そこらに居る、ただ手先の器用な男も、料理上手なご夫人も、
あるいはテレビに移っている有名人も、逃れられぬ妖しい魅力を伴って、まだまだ暗黒舞踏は続く。







「すごい、バインドの初歩の初歩なのに、其れを使ってあんな芸当が出来るなんて」

 上空に位置するフェイト・テスタロッサは其の勇壮な進軍を余すところ無く一望できた。
 尤も幸運な観客の一人である。

 突然に現れたその変態仮面は、少女に助力を申し入れ、瞬く間に絶望のふちにある町に笑顔を取り戻した。
 あるいは其の動き、とりわけあの胸騒ぎの腰つきに重要な秘密が有るのやも知れぬ。
 だがしかし、彼女の耳に無粋なローター音が止まる。
 TVの中継ヘリの音だ、少女は再び空から巨木へ迫る。

--------視線はあの、きゅっと締まった尻にいささかの興味と執着を残しながらも。






「--------イェア!!」
 いま、先頭集団は道の中ほどまでに差し掛かり、最も激しいフレーズとダンスを始めたところである。
 心細くも絶望を一人嘆きながら過ごしていた人々も今や心を一つにし、
目の前でイカれたヤり方を実践する変態仮面を支持していた。



--------なんという、素晴らしいファンタジー!!


「「「「「「「「「「「「「「「--------新潟ァァァァァァァァァァァァァァァァ」」」」」」」」」」」」」」」
 老若男女、原作キャラもモブキャラも拳を振り上げて激しくやれ、其の鼓動を感じるならば。






 系統樹の文様が歪み、不規則なオーロラを移す海鳴の空の下へ視点を移してみよう。


--------真っ暗な部屋で一人、車椅子の手入れをしていたとある少女は、突如暗闇に覆われた町に不安を隠せず、
電気が生きている事に感謝しながらTVを点けた。

 上空からの映像だろう、自分の良く知る町の道路、主要6車線一杯を使って踊り狂う一団を捕らえている。
 胸が熱くなる光景だった、知らず少女は其の動かぬ足に力をこめ、立ち上がると拳を握り締めた。
 奇跡だ、手にしていたグリスが車椅子のギアレバー全体に零れ落ちる、今彼女を取り巻く世界はヤバい状況である。



--------この事件の黒幕であるプレシア・テスタロッサは、娘を失った事実に人生が狂ってゆくのを心配しながら
ナニ(彼女が言う人形にジュエルシードを回収させている現状)の進展状況を見る。
------管理外世界では、パンツを被った変態が木人を引きつれ踊り狂っているところだ。
 知らず彼女の心が高ぶって行く様子を見てほしい。
 彼女は今『時の庭園』に居る、少しずつ起こり得る悲しい出来事が修正さえて行くその様を--------




 自販機の隙間でその隊列を見送っている高町家の剣士三人。
 見るからにMPが減らされそうな其の光景に声を失う。
 バラバラにした熊の木彫りを踏みつけながら、巨木へなおも向かう其の怪異、訳がわからぬ。
「どういうことだ父さん、パンツへの人格憑依は御神の秘術じゃなかったのか!?」
--------そして、息子の言い分も、訳がわからぬ。




 やがて、ユーノの声で目が覚めた高町なのはは其の光景を垣間見ることになる。
見知らぬ赤い髪の女の腕の中、眼下に広がる人々の笑顔を、そして先頭に居る謎のパンツを被った男。
 彼女は思った、間違いない、あれはパンツの妖精だ。
 自分と世界の危機を救いに来てくれた者と!!

(--------やはりパンツは最高なの!!)

 しかし、其の驚異を悟ったか、巨木は変態仮面に向け幾つもの触手を差し向けた!
 危ない、と叫ぶユーノ。
 しかし其の男は股間の袋から取り出した剣の柄のようなものを振りかぶる。
『オォォォォォォォウゥゥゥゥゥ……イエェェェェェェェェ……』と低く唸りをあげるその魔力鞭が振り下ろされる度、
変態仮面の背後に無数の『こけし』が山と積まれて行く。
「Oh……ナニィ!?……」
ユーノの驚愕も尤もである。

--------やがて、其の集団は巨木の根元にたどりついた。
ついに、諸悪の根源にたどり着いたのだ!!






 まるで組み体操のように階段の形を成し、積み重なる木人。
 其の上をまるでロックスターのように駆け上がる変態仮面、先程なのはが砲撃を打ち込んだ場所に張り付く。

 深く穴を穿たれながらもいまだ内を見せぬ強度を持つ樹木を前に、変態仮面に打つ手はあるのか?
 もちろんである、秘奥義は一つではない。

 木の表面に張り付いた変態仮面はすばやい動きで天地逆になると、世界に吼えた。





「変態秘奥義--------純情ウッドペッカァァァァァァァァァァァッ!!」





 速度を為して猛然と、己の一物を木の表面に打ち付ける、速く、まだ速く、まだまだ速く!!
 そのシェイクヒップが音速を超え始めるとソニックブームを生み出し、木の表面に改めて深く穴を開け始めた。
「--------oh!yes!!・oh!yes!!・oh!yes!!oh!yes!!・oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そして、此度ジュエルシードに取り込まれた二人の少年少女が顔を見せる。
 変態仮面は彼らにまだ息があることを確認し、安堵すると、

--------ダメ押しとばかりに彼らに『純情袋』を叩き付けた。




 そして、時を同じくして。
 フェイト・テスタロッサが、ジュエルシードを要して抜け出そうとしたマペットを、一刀の元に切り捨て、封印する。
 木が、そして根を張っていた町全体が光に覆われ、軍勢とともにその粒が天に帰ってゆく。

--------騒動の終わり。
「フェイト、あの子たちは危なくないところにおいておいたけど、良かったのかい?」
「うん、ありがとうアルフ」
 一つ目のジュエルシードをバルディッシュで封印すると、使い魔と共に拠点への岐路に着く。

「それにしても、これからのジュエルシード捜索は事になりそうだね。
私達とは別に、ジュエルシードを捜索している魔術師二人とその使い魔、ダメ押しにさっきの変態か……」
「--------でもね、アルフ。
一つだけ解かったことがあるんだ」

 この世界の強者は、あまねくパンツを頭に被っていると、少女は今日知ったのだ。







 そして、ビルの屋上で。
 取り戻した青空を眺めている其の男の横に、高町なのはとユーノ・スクライアは舞い降りた。
 何と言う威容、たくましい背中、隆々とした腕--------そして顔面のパンツ。

 やり遂げた、という声色で、変態仮面は呟いた。
「………………成敗」

--------男の股間から、少年と少女の体が、はみ出していた--------







 そして、幾ばくかの時が過ぎ去った頃。
 雄範誅(おぱんちゅ)号と共に高所から病院の一室を見やるオリ主、アールワンD・B・カクテル、
愛する男と熱い抱擁を交わす名も知らぬ女の姿を確認すると、顔をほころばせた。

 懐から洗濯をし、しっかりとアイロンをかけた彼女の勝負パンツを取り出し、
手首のスナップを利かせてそちらのほうへ投げる。
 ヒュッ、と気の利いた音を発てて、帰るべき場所に飛ぶパンツ。

--------オリ主の背後には、大きな爪あとを残しながらなお、日常を取り戻した海鳴の町が在る。



[25078] 【A’s編一話】危険な邂逅(地)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/06 06:36
 ここは24時間営業のサウナつき公衆浴場。
 土方の兄ちゃんから泊り込みのサラリーマンまで、今日という日を戦い抜いた男達が汗を流す場所である。

 さて、上記のような書き方をすれば特に問題の無い施設に思えるだろうが、どんな場所にも影が出来る。
 たった今サウナを覗きこんでみれば解かる、恐るべき自体が。

「ところでオレの金〇を見てくれこいつをどう思う?」
「--------す、すごく大きいです」
「うれしいこといってくれるじゃないの」
 見たところ営業か何かだろうか、好青年がガテン系の『ウホッ!いい男!!』に絡まれていた。

 もちろん好青年、そっち方面の嗜好はない。
 ハッテン場に迷い込んでしまったのだろう、明日からは連休で、朝には女友達と会う予定があった。
 素直にネカフェのシャワーで我慢しておけといいたい。

 だが後悔先に立たず、どうしてこの施設、リラクゼーションルームにバラの花が活けてあるのか、
誰かが割って入らなければ、間もなく彼の体でその理由を明らかにすることであろう。



 --------だがしかし、そろそろ本作品の構成に慣れてきただろう諸氏諸君。
 --------大胆にして神出鬼没なあの男はもちろん、そこにいるのである。 



「--------我が目を盗み、如何様にしてノンケの男を『やらないか?』する所存か」



 ヒーターのほど近くに居る少年、顔面を覆っていたタオルを引き剥がす。
 アールワン・D・B・カクテル、オリ主である。
 夜回りの合間には身だしなみを忘れない男であった。

「おっとボクぅ、お兄さんはショタ趣味はないんだぜ?
 青少年保護法に引っかかっちまうからな、速くお家にかえんな?」
「紳士を気取っても貴様の淫行罪は捨て置けぬ。
--------下がっていたまえ青年、垣間見ただけで痔になること必須のバトルが始まるぞ」

 灼熱のサウナが熱帯雨林の様相を見せ、今ここに二人の森の妖精、
 赤さんなし、容赦なしのパンツなしレスリングを始める。
 血相を変えて好青年が木製のドアを押し開き、ヒゲ面のデバガメを押しのけ脱兎の如く逃げ出した。



 だが諸君、忘れてもらっては困る。
 --------これが『リリカルなのは』の二次創作だということを。







 詳しい経緯はもちろん割愛する。
 安心して続きを読んでいただきたい。

 ケツの穴にエネマグラを突っ込まれ、水風呂に沈んだ『ウホッ!いい男!!』を背に、
手早く湯上りのシャワーを浴びるとアールワンは脱衣所に進む。
 固く絞ったタオルを股座から背中にかけて『スパァーーーン』と叩き付け、
 コインドライヤーに十円玉を三枚叩き込み、乾いた髪を後頭部で縛る。

 ロビーでは先程の好青年がアールワンを待っていた。
「あの……だいじょうぶだったかい?」
「ああ、この程度の事は日常茶飯事だ。
--------くれるのかい?なかなか意味深な飲み物だね?」
 差し出された『いちご牛乳』の紙キャップを中指一本で落とし込む。
 一口飲むと、背中越しに青年に手を振った。

 ソファーに座ると正面には、大型だがいかにも年代物のテレビがある。
 いまや画面の大きさよりも横から見て薄さを品評する時代である。

 今日はいろいろな出来事があった。
 アールワンは一日の出来事を振り返った。
 どうにもこうにも悪党と差し向かうことが多すぎる。
 やはり、何か大きな因果の乱れがあるのではないか?こんな考えに至るとは自身もなかなかオリ主じみてきた。

 自虐的な気分をいっそ楽しみながら、彼が改めて牛乳瓶を咥えた--------しかし其の時であった。



「--------今週の列島大震撼第一位『地方都市謎の地盤沈下!其のとき現れたパンツのヒーロー!!』」



 報道番組の若手アナウンサー男、テレビの中でフリップを立ち上げる。
 変態仮面の中の人は口から『うぼぁ~』とピンク色の液体を吐き出した。
 血も混じっている。

 全国ネット、夜のゴールデンタイムPM10:00、二位の政治関連を突き放してお茶の間をお騒がせする自分。
 木人と共に踊り狂うパンツを被った変態英雄。
--------やめろ、動画に注釈を入れないでくれ、頭のところに矢印を貼り付けるんじゃない。

 オリ主は頭からバスタオルをかぶった、画面の中にパンツを借り受けたOLが其の状況と心境をセキララに語る。
 素敵でしたといわれても困る、あれは君のジャクソンエネルギーがやった、結局のところ。
 テロップに彼は『変態仮面』と名乗っていました、とか白抜きかっこ→『』つきで自分のアバターを紹介している。
--------もう駄目だ、今となりのオヤジがこらえきれずに吹いた。


 筆舌に尽くしがたい己が蛮行、いかにして多々作品のオリ主たちに顔向けが出来よう。
 
 いたたたまれずに席を立つアールワン、スピーカーが背中から『バイオテロ説』と『はた迷惑なアトラクション』と、
『映画か何かの撮影説』の論争三つどもえをお知らせする。
 世界は何とかなりそうだ、しかし自分の心境はどうにかなりそうだった。







 さて、オリ主が肩を落として今夜は早めに寝ようした数時間後、繁華街を歩くフェイト・テスタロッサ。
--------魔法少女である。

 今彼女を悩ませているのは母の探し物であるジュエルシードの捜索が七割、自身とは別の捜索者について二割。

 いまだ傷痕が深く残る先日の激闘を繰り広げた場所、急ピッチで道路の復旧を始めている男達。
--------なぜか其の中の男、一人は尻が浮き気味なのは疑問に残るが……
 まあそれはそれとして、目の前ではなんか長蛇の列が出来ていた。

 先をたどってみると、彼女は知る由も無いがバニングス系列のショッピングモール。
 中のテナントにはもちろんアパレルのショップも入っている。

「はい、お嬢さんで最後ですね」
 おそらくそこのスタッフであろう女性がチラシと小さな紙片を手渡してきた。
 どうやら並んでいると勘違いされてしまったようだ。
 背後に居た女性達があからさまにがっかりした顔でその場を去っていくと、なんだか申し訳ない様な気分にされた。

(こうなったら、なに売ってるかわからないけど、買うしかないよね……)
 懐にあるクレジットカードの感触を確かめながら、チラシに目を向けた其の時である。



 フェイトの脳裏に電流走る!ついでに大気にも電流走る!!
--------彼女の思考の一割は、もちろんパンツで出来ていた。







 さて、本日はすずかの家でお茶会な高町なのはに視点を移そう。
 アールワンも呼ぼうという考えであったのだが、残念ながら断られてしまった。
 仕事とは関係の無い場所で、かの『パンツの妖精』について語らいたかったものだ。
 と、言うわけで心、ここにあらずであるのだが……。

「そういえば、すずかがお茶を入れてくれるなんて珍しいわね?
--------メイドさんたちはどうしたの?」
「ん、なんかね、お昼過ぎくらいから調子悪いみたいなの。
しきりに『お医者さんをよんで』ってうわ言呟いてるし、今お姉ちゃんが傍にいるんだけど」
「それはまあ、二人もそうだけど恭也さんも気の毒よね。
折角恋人に会いに来たのに」
「どうせならうら若い乙女三人とお茶していてもいいのにね」
 なかなか言うわね、とアリサがすずかを肘で小突く。



 そんな二人の会話にすら上の空ななのは、アリサがしぼんだツーテールの片方をえい、と持ち上げると再起動。



「あっ、やめてアリサちゃん。
--------左の房は理性の象徴だから」
「じゃあ右は情熱なのね?両方引っ張ったら体が黄金に輝くのかしら?」
 なの心(ごころ)明鏡止水、けれど其の身は烈火の如し。
 しかたがない、とアリサは足元のバッグから、対なのは攻略用新兵器を取り出す。
 どちらかといえば中高生向きの情報誌、ちなみにまだ発売されていない号である。

「パパの会社がね、今度大々的に女性下着を開発する事になったの。
いろんなファッション誌とタイアップもしててね、ほら、N〇CORAもぶち抜き20ページ」
「--------ッッッスゲー!!」
 およそ魔法少女に有るまじき発声を赦してあげてほしい、頭のてっぺんどころか右の尻尾から直に出た声だ。

 見開きでバニングス系のティーンズ向けブランド、ショーツの新作がズラリ。
 食い入るように眺めたなのは、オーソドックスなレース、シルクといった高級素材。
 果ては着色カーボンやレアメタルなどの異種素材を盛り込んだ一品まである。

「たしか今日、この町の店で先行販売イベントやるっていってたわ。
先日のパンツマン騒ぎが追い風になって、結構込み合ってるみたい」
 もちろん来る途中で垣間見た程度の情報である。
 今この時点では、えらい騒ぎだ。

 なのはは脳内貯金箱をバックナックルで叩き壊し、其の手はエア電卓を叩き始めた。
 再びしおれる右の房。
「おみせ、がんばらなきゃだめだなぁ……」
「ちょっと、何枚買うつもりなのよ?」
「一枚だけだよ?
このPRAM素材の……」
「なんでそんなもんパンツに織り込むんだウチのパパは……」

(デバイスだ……なのは、レイジングハートと人機一体になるつもりだ……)
 猫に追いかけられたまま、すっかり忘れられているユーノ驚愕。

「へぇ……この下着の選び方って参考になるなぁ」
「そしてすずかは誰に見せるつもりだッ!?」
 時折突っ込みをはさみながら、お茶会はなおも続く。



 だがしかし、なぜユーノ・スクライアは鉄壁のぬこ包囲網を突破できたのか。
 彼らは主たちを守るようにずらりと並び、じっと森のほうを見つめている。 






「ごめんね、恭也。
せっかくお誘いしたのに……」
「いや、仕方が無いさ。
ところで大丈夫なのか?ノエルとファリンは」
 月村家地下、忍と恭也、秘密基地での会話である。
「なんかずっと先生を呼べ先生を呼べって繰り返してるのよ。
自動人形なんだから、医者呼んでも意味無いのにねぇ……」
「やはり故障か?
もしかしてブラックボックスの奥とか……」
「--------とりあえず異常はないんだけど、案外金星あたりから変な電波受信してるんじゃないかしら」
「おいおい、変なこというなよ」
 二人の困惑をよそに、ノエルとファリンの唇は同じセンテンスを壊れたレコードのように繰り返す。
 時折体をびくんびくんと蠢動させながら。



『てんて……を呼……』
『……危険なぶ…き……てんが……』








 さて、視点を屋敷の外へ移してみよう。
 通行人が度肝を抜かれるその大型軽車両、交差点を前にして遠慮なしに威容を見せ付ける。

 左目がチッカチッカと明滅し、背後では尻尾が左へむけてビシッ!ビシッ!と指し示められて居る。
 そして軽快に頑丈な歯を打ち鳴らす様、言わずと知れた雄範誅(おぱんちゅ)号であった。
 ちなみに、此度の奇行はウインカーである。
 戦車ですら搭載しているそれを、どうして軽車両とはいえ無碍に出来ようか。

(さて……買い物をしていたら少々遅くなってしまったな)

 物思いにはせるアールワン・D・B・カクテル、手綱をにぎりコレから訪れる月村邸への道筋を辿る。
 だがしかし、其の時腰に携えていたデバイスが軽快な曲を奏で始めた。
 --------着信である、ちなみに着メロは『YAT○A!』であった。

「ヘロウ?アイムアールワン、ハウドゥユードゥ」
「あ、ぼっちゃん?
あっしでやんすよ」
 愛馬を路肩に寄せ、通話に出るとあまり聞きたくは無い声。
 古着屋である。
「いかがしたか?また何か荒事でも……」
「いやなに、われらが坊ちゃんが世間に目に物見せたって事で今みんなで飲んでるでゲスよ!」
「--------一応聞くが……『目に物』とは」
「いやだな~ぼっちゃんしらばっくれちゃって!
もちろん先日ぼっちゃんがパンツ被って路上クラブシーンを圧席した例の事件でゲス」
「アレハOLノぱんつガヤッタ、結局ノトコロ」
 ぶっつ!!と通話を切るオリ主、やはり見るものが見ればばれてしまう物か?その正体が。
 それにしても、週末とはいえ自分の痴態をダシに女子会ならぬ親父会とは……。

 再び鳴るデバイスに、生きているなら幸運だとはいえない心境で再び応じる。
「--------ほどほどにしておきたまえ古着屋。
残念ながら今日も予定があるので、酒会に参戦するわけには……」
「いやいやぼっちゃん、今度はあっしでヤンス」
「動画屋……君もか」
 特殊なビデオやDVDを商う其の男、もちろん知古の関係である。
 近年はインターネット・サイトの監視や、彼の店は仕事の窓口であることから、
後援会の中でも比較的顔を合わせることが多い。
「ぼっちゃん、今のところお仕事の依頼は入っていないでヤンスが、気をつけるでヤンス。
先日店のカウンター横のアダルトグッズコーナーが軒並み荒らされたでヤンスよ」
「窃盗かね?お盛んなカップルも居たものだ」
「いや、それが盗まれたのは様々なコスプレの類でやんして……
激安の殿堂でも扱っている以上そう買いづらいものでもないと思うんでヤンスけど……
なんかすごく、悪事のにおいがするでヤンス」
「--------ご忠告痛み入る、街中をそんな格好で歩いている乙女が居たら声をかけてみよう」
 ひょっとしたらおっさんかも知れないがな、とオリ主は不敵に笑う。
「いやいや、どんな格好でもぼっちゃんにはかなわないでヤンス!
この前のフィーヴァーはもちろんハイレゾで押さえてあるゆえ……」
「うpするなよ!絶対にうpするなよ!!」
 あらためて通話を切る、襲い来る頭痛に眉間を揉む。

(--------高町に会うのが怖くなってきた)
 再び歩きだす雄範誅(おぱんちゅ)号、其の足音と同じくらい、アールワンの足取りは重かった。







 さて、もちろん乙女たちのお茶会を邪魔せぬよう、月村家へは忍び込む算段である。
 気合一発、愛馬の腹を蹴ると空高く舞い上がり、百烈の勢いで蹄を繰り出す雄範誅(おぱんちゅ)号。
--------警報機やカメラ、或いは様々なトラップをその鉄球で叩き壊し、其れが落着する音に紛れ着地。
 『ズシン』という音が一つであったことから其の手際、察していただきたい。

 だがしかし、出迎えは居た。
 それは予想していた二人のメイドではなく、小さな子猫。
--------本来ならば魔珠に飲まれ、巨猫になるはずの愛らしい者である。

 ふむ、とオリ主は一人安心、どうやら怪異には間に合ったらしい。
 懐からアーモンドチョコを一粒取り出すと、手のひらに載せ其の美人さんに差し出す。
 くんくんと匂いを嗅ぎ、やがて咥え、格闘する。
--------幾ばくか、彼の心は癒された。
 元来オリ主は猫好きである、自身の名前も『アールニャン』でありたいと思ったほどにだ。

 やがてその子猫は彼を見つめ、踵を返す、どうやら自分を先導したいようだ。
 アールワンはもう一粒アーモンドチョコを取り出すと、背後に投げる。
 其の口で『ガシッ』と受け止める雄範誅(おぱんちゅ)号、巨馬は主に言い聞かされた怪獣大決戦をせずにすむと察し、
その場で兵(つわもの)を待つことに決めたのだ。



--------だがしかし、先導された先にすでに怪異はいた。
--------見ろよ執務官、なんかスゲエ面白いことになってるぞ!?



「ニョーホホホホ、この力があれば『闇の書』などおそるるに足らずニャ。
--------早速あの小娘に引導を渡してくれるニャン♪」



 よりにもよってリーゼロッテである。
 あの混迷を極める第二期最大のトリックスターが口元に手の甲を当て高笑いとは!
 加えてその格好たるや、ブルマにスク水、加えて真ピンク色のパンプスなど古典的萌え表現を原液まで煮詰めたような……。

(コレは、見ておれぬ……)

 オリ主は泣きそうな表情で首を振ると、取り出したヴァイヴを足元に装着。
 巨大な肉球グローブでシャドウを始めるリーゼロッテへ奇襲、レディ・ロックオン・ファイア。
 繰り出すのは別に秘奥義でもなんでもない、ただの力技だ。

「--------お前の出番はまだ先だ!お前の出番はまだ先だ!!」
「ぎにゃー、一体なんにゃ~!!」

 其の名も、良い子が真似してはいけない禁忌の格闘技。
--------電気アンマである、スカートめくりに次ぐ絶滅危惧技が一つ、オリ主古典には古典で対抗する。
 電源不要のエレキ技、シビれる股間に衝撃波。
 魔力を通したツールで威力は二倍、いや三倍にまで膨れ上がる其れを食らえば、いかな相手もたちまち昇天。

 それゆえに、一度猛攻の手を(足だが)休めたアールワンは、ロッテに問うた。
「--------そんな装備で大丈夫か?」
「--------大丈夫だ、問題ない」
 問題ないなら問題ない、再び蠢動するオリ主の足、大蛇のようにのた打ち回る二人のシルエット。

 遠い平行世界のどこかで、別のオリ主がサムズアップする幻視。
--------ありがとう、愛してる。
--------私もお前を愛してる。

 やがて、リーゼロッテが甘い声をあげて失神、どうでもいいが諸君。
 私はこのSSを『18禁板』でうpせずとももいいのであろうか?

 



  
「--------まずいな、感づかれたか」
 にわかに屋敷が騒ぎ出す、先の声を聞かれたやも知れぬ。
 くわえてこちらに近づく魔力反応が二つ、一つはこの場でビクンビクンしている者と似通った奴だ。
 コレは遺憾である、このようなオモシロ怪人を原作キャラと顔合わせさせてはパラドックスが巻き起こる。

 苦渋の決断であった、二人まとめてこの敷地から叩き出す術、この身には無し。
 ならばこそ……

(パンツの力を借りるよりほかあるまい!!)

 力尽きたリーゼロッテの腰元からパンツを剥ぎ取り、カッ!と広げる。
 まだ暖かくて、なぜかぐっしょりしていた。



「--------ヴィドヘルツル!!」



 オリ主が顔を突っ込むと、たちまち魔道外道が身体をかけ廻る。
 混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
 1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 はじけ飛ぶロングコート、かつて無いバンプアップ。
其の衝撃波を浴びたリーゼロッテ、僅かに意識を取り戻し、其の姿に驚愕。
「--------へ、へんたいだ……」

「変態ではない--------変態仮面だ!!」

--------今ここに再び、愛に目掛け地に落ちた太陽!!

 其の威光と己のパンツを被っているという事実に、再び意識を手放したロッテ。
 くわえて、彼女と似通った魔力が、森に舞い降りる。
 好都合である、我等が変態仮面は早速今回魅せる『変態秘奥義』の準備を始めた。






「おーいロッテー、どこいったー」
 やがて片割を見つけ出したリーゼアリア、諸氏には説明不要と思うが、
この二人は双子の使い魔、現在海鳴の地で静かに進行しているとある『魔導事件』の深奥たる少女を監視している。

 今日はなぜかローテーションが崩れ、不思議に思っていたのだが、
相方は妙な格好をして『人様の庭で棒立ち』し、『放心』していた。

「おい、どうしたロッテ。
何で、そんな変な……格好を……して」
 だがしかし、アリアはロッテに近づくと、足元に妙な弾力を感じた。
 不穏な其れを垣間見る、時としていやな予感ほど、現実は容易にそれを上回る。


「--------それは私のヘヴィマインⅤだ」
「----------------にゃ、にゃ~~~!?」



 OH!やっちまった、とんだ地雷を踏んでしまった。
 アリアの足は地面に埋まった、自分の片割よりもひどい格好をした謎の男にのせられている。
 見ればロッテの足は、地面に埋まったそのパンツを被った男のブラジル水着的な着衣に絡め取られ、
そして自身の足はそいつの股間にあるセントリーガン的な部分を踏んでいるのだ。

「き、きもちわる……」
「おっと、イけない」

 ものすごい勢いで足を離そうとするロッテ、其れを掴んだ変態仮面、彼女の足も己の体に固定する。
--------まるで、スキーの金具のように。

「やあ、穴があったら入りたい心境であったが、出会いがしらに足コキされるとは思わなんだ。
時には地面に埋まってみるものだねリーゼアリア」
「な、なぜ私の名前を……!?」
「さて、説明するのはもう少し先だ、とりあえず今日は二人で快適な空の旅を楽しみたまえ。
……アテンションプリーズ、お客様、左右をご確認ください」

 つられて左右を見るアリア、横の木がものすごい後ろに反ってる。
 加えて其の先端には、硬くバインドの縄がくくりつけられているのだ。
(コレは……弓だ、とてつもなく巨大な弩弓だ!?)
 其の通りである、変態仮面は高らかに其の技、其の名を告げるのだ。



「--------変態秘奥義『絶頂・Wバッケンレコード』!!」



--------テイク☆オフ♪

 にゃっ!と子猫が前方を指し示した瞬間、カタパルト的に射出される三人。
 30メートルほど水平飛行をした変態仮面、逃れようと膝を曲げるロッテとアリア。
 流石は双子、息のあった動きで屈伸を魅せるとシュパァァァァァァァァと大空へ浪漫飛行。

 スキー板の様相を見せる変態仮面の背中から、魔力光が輝き空に巨大なV字を描く。
 スタンダードVフォーム、それで揚力を稼ぐつもりか変態仮面。
 ライト兄弟もびっくりの空中散歩、しかしそれだけではK点は越えてもY家へは届くまい!

 いや違う、あれを見ろ!変態秘奥義の奥は深い。
 変態仮面は足首の辺りから三角錐の形できりもみ回転、あれはなんだ、其の中央に何かが見える。

--------甥っ子だッ!!
 二人が甥っ子のように可愛がっている『クロノ・ハラオウン』がさわやかな笑顔で此方に手を振っている!
 コイツの出番ももう少し先だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!

 これが『マジカルV』!『マジカルV』!!リーゼ姉妹、見事な変態ジャンプで某家の壁に、今。
----------------着・弾!!







 ものすごい音がしたので、車椅子に乗った少女は恐る恐るベランダを覗き込んだ。
「猫がうまっとるゥゥゥゥゥゥゥ!?」
 隕石でもぶち当たったのかとおもったが、クレーターの出来た壁には二匹の猫が突っ込んでいた。
 ビシッときれいな『気を付け』の姿勢で、等間隔にだ。
 少女は猫の尻尾を持つと、コンセントのように力いっぱい引っこ抜く。

--------ソクラテス曰く、借りた鶏を、必ず返すように。
----------------収めるモノを、収めるべき場所へ。



[25078] 【無印編六話】危険な邂逅(天)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/19 14:35
 其の日の午後、フェイト・テスタロッサはご機嫌であった。
「--------すごい……エリアサーチの精度が2割近く上がってる……」
『It is a situation in which the resource was added. (それはリソースが加えられた状況です。)』
 バルディッシュの返答も心なしか嬉しそうである。
 ジュエルシードの反応を察知し、彼女は空から月村の敷地へ向かっているところであったが……

 お察しであろう、諸君。
--------現在、彼女は頭にパンツを被っていた。

 前回高町なのはが所望していた『PRAM素材混入型パンツ』とは、本来PC用次世代メモリー向けに研究されていた、
電気信号で固体と液体をいったりきたり出来る代物。
 魔導師が身に纏うことでシナプスと感応し、デバイスに外付けの記録装置を搭載したも同様。
 魔法式をリザーブし、操作性2割り増しである。
 侮りがたし、バニングスの本気、侮りがたしパンツ。

 しかし、捕らえていたはずの反応が瞬時に途切れ、少女の顔に困惑が奔る。
「ジュエルシードが移動した?急ごう、バルディッシュ」

 ぐっしょりしたりパリッとしたり、せわしないパンツを頭上に携え、フェイトは戦場へ向かう。
 そこに生涯の親友との出会いが待ち受けているとも知らず。







 そして、つつがなくお茶会を進行していたなのは・アリサ・すずかの仲良し三人組。
 頭上から『キャー』と『ニャー』の中間あたりの声が聞こえたような気がする。

--------仰ぎ見れば、天空を超高速で移動するV字型の光。
「あれ、何だろう?
心神の飛行テストかな?」
「心神は前進翼じゃないでしょう?多分ロシアのヴェルクートじゃない?」
「それじゃ領空侵犯だよアリサちゃん」
 空自のF-X問題に溜め息を付く乙女二人、しかし、其の瞬間。

--------じっと森の辺りをにらみつけていた猫が一斉に突撃を始めた。
----------------事態を生還していたユーノもそれに続く。

「あっ、ユーノ君!?」
『森の奥でなにか起こってるみたいだ、できればなのはもついてきて!!』
「いってきなさいなのは。
またユ-ノが襲われたら大変だから」

 ジャストタイミングで合いの手を入れてくれたアリサに感謝しながら、後を追うなのは。
 そこに生涯の親友との出会いが待ち受けているとも知らず。 






 はたして、森の奥で何か起こったような痕跡は、発見された。
 地を走る30メートルほどの跡。
 バインド魔法が電線のように張られた木。

 総じて考えてみるに……
(--------さっぱり解からない)
 某アスキーアートのような表情をするフェレット。

「ゆーのく~ん!!」
 やがてなのはが呼ぶ声が聞こえた。
 途中転びながらも急ぎ駆けつけた魔法少女を振り返り、魔法が使われた痕跡を前足で示す。
「なにかが起こったことは確かなんだけど……アールワンの仕業かな……」
「うん……多分ぱんつさんだね」
 訳のわからないことの出所は、九割がたオリ主のせい。
 この年にして世界のことわりを理解し始めている二人。
 とおくで彼の愛馬がヲヲヲヲヲヲヲヲッッッッ!!と嘶く声を聞き、其れは確信に変わった。

「まあ、あの人のことだから何事も無いと思うけど」
「多分、またジュエルシードを確保してくれたんだね」
 なんだかんだいって頼りにはなる男なのである。



--------だがしかし、ソコへ強襲する強大な魔法反応。
--------誰何する間もなく空から現れる黒い人影。
 オリ主の置き土産たるバインドに『あうっ!』とおなかから突っ込んでぼよ~んと彼方へ弾き飛ばされる。



 気持ち悪い三秒間の沈黙、やがて先の暴走体の事件の際出遭った少女である、と思い当たったユーノ。
「なのは、いそいでセットアップして!!
ひょっとしたら戦いになるかも!!」
「へ!?う、うん」
 黒い魔法少女が再びたどり着く頃には、すっかり迎撃準備は整っていた。







 やがて対峙する魔法少女二人、上空より油断無く二人を見据えるフェイト・テスタロッサ。
 一足先にジュエルシードを確保したのであろう、其の白い魔法使い、強敵である。
 以前巨木を相手取った際、乱発していた砲撃魔法を鑑みるに、単純な火力は相手のほうが上。
 加えて先に設置されていたトラップ、彼女のものか其の使い間のものかは知らぬが、戦略眼も高い。

 しかし、彼女がいかなる強敵であろうとも。
--------其の手にジュエルシードが渡ったのであれば、奪い取るしか道は無いのであった。

 そしてユーノに促されるまま、戦闘態勢を取った高町なのはであったが……。
 やがて来た少女の存在に心奪われていた。
 美しい少女であった、長い金髪、其れを際立たせる黒いバリアジャケット。
--------そして頭頂部に携える黒いパンツ!パンツ!!
 嗚呼、それは先程羨望のまなざしを雑誌に向けていたバニングス・ブランドの新作。
 一分の隙も無く被りこなす其の姿は、次世代のパンティ・ファッションリーダーとなる器であった。

 だがしかし、解せぬ。
 それほどのパンツを被りしも何故、目の前の少女は悲しそうな目をしているのか。

 先手を取ったのはなのはが先であった。
 両の腕を大の字に広げ、威風堂々と名乗る。
「--------私、高町なのは九歳ッッッ!!」
「そしてぼくはユーノ・スクライア。
--------まずは先日助けてくれたこと、御礼を言わせて貰います」
 え?あの娘私を助けてくれたの?と相棒を見やるなのは。
 そして、予期せぬ感謝に若干怯んだ黒い魔法少女であったが、一度頭を振ると獲物を構えなおす。
「私の名前を教える必要性は感じられません。
先程、ここにあったジュエルシードはどこですか?
答えなければ……」
 にわかに訪れる剣呑な空気、だがしかし、其れを吹き飛ばすかのように周囲に結界が張り巡らされた。



「--------此処だッッッ!!」


 スパァァァァァンと気の聞いた音をたてて、二人の間に叩きつけられる紙皿。
 なんと其の上には勢いよく叩きつけられたにもかかわらず形崩れせずふるふると揺れるプリンが二つ。
 片方のカラメル・ソースの上にはさくらんぼが。
 そしてもう片方には双方が所望する『ジュエルシード』が、添えられていた。

「あ、あなたは……」
「もしや!!」

--------アールワン・D・B・カクテル、オリ主である。
 何とかぎりぎり間に合った、Y家から神速を伴い、駆けつけたる其の男。

 白き魔導師にとっては心強い仲間であり、黒き魔法使いにとっては『恐るべき敵』であった。
--------今はまだ。

 おくれて結界の中に轟と風が巻き起こり、木の葉と猫が舞い踊る。
 フェイトは猫達を一匹一匹怪我をせぬようにキャッチすると、そっと地面に降ろして行く。
 もちろん、それほどの突風に見舞われながらもプリンは無事であった。
 土一つ、まみれてはおらぬ。

「久しいな、黒き魔導師。
どうやらあれから精力的に、厄際の種を集めて回っているようだね?」
「アールワン・D・B・カクテル……ここのジュエルシードは貴方が持っていったのですか?
しかもあまつさえ……その……おやつの添え物に使うなんて」
「前述はイエスだ、具体的には多感な十四歳をからかい回す性悪な泥棒猫が持っていたのでね。
取り返した次第、そして後述も又……今日の私にとってこのロストロギアは、デザートに過ぎぬ」
 なんだって!とおどろくユーノ。
 そのフェレットを見やると、オリ主は告げたものだ。
「先の暴走事件……矛を収めたのは其方のお嬢さんであろう?
われわれには彼女に借りが有るのだよ?だがしかし、このアイテムが危険なものであることは事実。
この地に舞い降りたジュエルシードがひとつでない以上、
私としては、其方にこのロストロギアを所持するだけの覚悟があるか、見定めたい」
「戦えというのか?二人に……でも先の事件は変態仮面が」
「そんなヤツは知らぬ!!」
 フェレットを黙殺させると、アールワンは紙皿を取り上げ、プラスティックのスプーンを二つ取り出した。
 導かれるまま、其れを受け取ると食べ始める二人の魔法少女。
 食って万全になれということだろうか、まろやかでおいしかった。







--------やがて紙皿に残されるジュエルシード……そしてチェリー。
 男とフェレットと猫達が見守る中、距離をとって再び合間見える二人。



「なのは……気をつけて!その娘は強敵だよ!!」
「大丈夫だよユーノ君、ジュエルシードは渡さないからね!!」
 すッ……と右手を上げるオリ主、誰もが固唾を飲む瞬間。
 アールワンはくわッ!!と目を見開くと、勝負の号砲を叫び、其の手を振り下ろす。

「魔法の使用に制限なし--------勝負は『騎馬戦』始めぃッッッ!!」



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 魔法少女二人、まずはシールドなしの全速力を持ってぶつかり合う。
 互いの獲物が翻り、其の頭上からパンツを叩き落とさんと息巻く。
「えいえいっ!!」
「あ、駄目……ぱんつはダメ……ていうかそのぱんつほしい、ほしいのッッッ!!」
--------激闘である。



「どうした、ユーノ?
そんなガンプラのポリキャップがなくなった様な顔をして」
「うん……そんな大惨事にならなくてほっとしているところさ」



 やがて、シールドでフェイトを押し返したなのは、防戦の構え。
 対するフェイトはそのシールドを破らんと果敢な接近戦を試みる。
 徐々に削られて行くなのはのシールド、時折シューターを飛ばして牽制するものの、
少女の機動力に圧倒され、一つとて捉えぬことが出来ぬ。

(いかんな……やはり高町に思い切りが無い。
とっさの機転で騎馬戦勝負に持ち込んだからよかったものの、下手をすれば気絶どころではない騒ぎになったぞ)
 まあ、何故フェイトもパンツを被っていたか、ふとした疑問を棚に置き、オリ主黙考。

 だがしかし、どうやら黒い魔導師は手を抜かれていると判断したらしい。
 間合いを離すとデバイスを可変させる。
「……貴方の得意としている魔法は、砲撃魔法でしょう?
此方も砲撃で対抗します、馴れ合う暇はありませんから」
「な、そんなことしたらケガしちゃう!!」
「もとより私は戦いをしているつもりです……そして、其れを避けようとする意気地なし相手なら……
尚の事、私の名前を教えるつもりはありません。
バルディッシュ……サンダースマッシャーを」

 そして、この挑発はなのはに効いた、其れはもうてきめんに。
 元よりあった高町家の血が沸騰し、湯が沸くほどに熱を滾らせる。
「……そう、わかったよ。
貴方とお友達になるには真っ向勝負あるのみなんだね。
遠慮無しに一発大きいのを見せてあげる!!」
 わきの下できゅっこきゅっことレイジングハートを磨き、構えなおす。
 思考は危険なほどにヒートしているが、レイジングハートいわく『36.8℃、平熱です』といっている限りは、
 まあ大丈夫だろう。







--------大丈夫でないのは地上に居る面々である。
 予期せぬ砲撃魔法のぶつかり合い、顔面が蒼白になったユーノ、オリ主は猫達を次々懐に非難させる。
「あ、こら暴れるな!
ふはは、鍛え抜かれた我が肉体に爪などという非力な攻撃は……いかん、大胸筋の先端突起はらめぇ!!」
 もこもこもこもこもこもこ、躍動するロングコート。
 上半身を左右に『ふん……ふん!』と捻ると筒のようなシルエットを取り戻す。
 暗器術の応用である。
「どうしようアールワン、このままじゃやっぱり大惨事だ!!」
「ユーノ……此方も大惨事だ。
--------コートの中で猫達がアーモンドチョコレートを食い荒らし始めた。
--------パンツの中までヌルヌルだ……」
「もう!前から疑問に思ってたけどそのバリアジャケットの下裸なの?
パンツ一丁なの!ねえ!?」

 やがて詠唱が終わり、双方共にパンツごと相手を焼き尽くさんばかりのごんぶとビームを放つしだいだ。
『Thunder smasher』
『Divine Buster』
 二つの機械音声がこの世の破滅をお知らせする。
 だがしかし、そこで勇気ある一人の少年が二人の間へ飛び出した。

「きゅ……キューーーーーーーーーー!!!!」
「な、ユーノ!!無茶だやめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 割って入ったフェレットが、身を挺して二つの光を空へ弾く。
--------日が落ち始めた空が、少年の笑顔を映し出す。







「ユーノくん!ユーノくんしっかりして!!」
「離れて……今回復魔法をかけるから」
 非殺傷設定とはいえ、昏倒間違いなしの一撃を防ぎきったユーノ、ドサリと地面に落ちる。
「ははは……ダメだよ二人とも、喧嘩で熱くなりすぎちゃ……」
「いや、だから私は戦いを……」
 そして、我等がオリ主は三人を見下ろすと其の手にある紅い球体をフェレットに差し出した。

「--------よくやった。
童貞野郎にしてはなかなかのガッツだった、コイツはお前のものだ」
「いや、その、僕としてはジュエルシードのほうがいいかな、と」
 ぱくり、ガクッ。

 チェリーを咥え、意識を失うユーノ・スクライア。
 回復魔法をかけ終わると、フェイトがアールワンの方を向く。

「持って行くがいい。
勝負は引き分けだが、此方が一対一に割って入ったのだから」
「ありがとう……そしてごめんなさい。
これからも、ジュエルシードを集めるなら私は其のたびに立ちはだかります」
 なのはとオリ主、顔を見合わせて頷きあう。
 少女の名前も、其の目的も、全て次の邂逅までお預けというわけだ。



「まけちゃったね……ぱんつさん」
「どうやら、覚悟のほうは向こうが上だな。
次に出合う前に、近接戦闘への対処を検討したまえ、いっそ体当たりで弾き飛ばしてでも得意な間合いで戦うのだ」
 飛び去って行くもう一人の魔法少女を見送りながら、オリ主となのはは踵を返す。
 再戦に胸を滾らせながら……。







「おそいわね、ユーノ見つからないのかしら……」
「ウチの子達も返ってこないし……」

 アリサとすずか、それに調子を取り戻したメイド二人と恭也、忍はなのはの帰りを待っていた。
 もうすぐ日が暮れようかという時間である。

 だがしかし、其処へどどどどどどどどどという重い音と振動が響き渡り。
『ハイヤァァァァァァァ!!』という声と共に、ツートーンの巨体が森から飛び出した。



「「「「「「「馬ァァァァァァァァァ!?」」」」」」」



 オリ主となのは、そして傷ついたフェレットを携えて、月村家に雄範誅(おぱんちゅ)号登場。
 やがてスタリ、地面に降り立ったアールワンとなのは。

 なのはは友人達の下へ駆け寄り、アールワンは庭へ向かってロングコートの前をはだける。
 総計30匹近い猫がびっくりどっきりにゃにゃにゃにゃにゃと飛び出した。

「ごめんねみんな、ユーノ君と猫達の喧嘩止めてたら遅くなっちゃった」
「ちょ……ユーノ大丈夫だった?」
「ごめんね?ウチの子達が……」

 どうやら心配させてしまったようだ、とアールワン、一人反省しながらさめきった紅茶を飲み干す。
 アリサのカップだろうが躊躇はせぬ。

「あの……よろしければ淹れ直しますが……」
「いえ、お気遣い無くメイドさん」
「私が気にするわっ!!」



 そして、謎の珍入者を確認すると忍は恭也を問いただした。
「ねえ、あの子誰?なのはちゃんの知り合い!?」
「ああ、アールワン・D・B・カクテルというらしい。
親父も警戒している要注意人物らしいが……」
「アールワン、聞いたことがあるわ。
今海鳴を騒がす凄腕のトラブルバスター……暁のコマシとも投擲者とも呼ばれる変態だって」

 やがてアールワン、懐に入れたままの包みに気がつくとなのはにそれを渡す。
「そういえば君のパンツを爆発させた後、弁償するのを忘れていたね。
コレはそのときの詫びと礼の品、遠慮なく受け取りたまえ」
 健闘賞だよ、と念話で伝える。
 バニングスのショッピングモール印が入った物であった。

「こ、これは新作ぱんつ!!
ありがとう、これほしかったの!!」
「--------良い」
 感激に身を躍らせるなのはを手で制し、へぇーパンツってばくはつするんだぁーと微妙な表情をする二人を共に、
温かく見守るオリ主。
(妹にパンツをプレゼントするだと!?)
 そしてさらに危険度を増す恭也の視線。

 だがしかし、そんな折アールワンの腰元から『丸腰だから最強だ』、とのフレーズが聞こえた。
「……で、でかい携帯電話だな」
「貴方の一物には負ける」
 そんな事を恭也に返しつつ、愛機を耳へ押し付けた。

「ヘロウ……アイムアールワン」
 聞きなれた声が焦りを含んでいる、本日二度目の『古着屋』からの電話。



『ぼっちゃん!大変でゲス!
--------ついに……遂に『龍(ロン)』が動き始めたでゲス!!』



[25078] 【無印編七話】転ずる運命、各々が役割
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Date: 2011/02/06 06:35
 人買い、それは有史以前から延々と続く社会の暗部。
 戦争の理由も労働力を手に入れるため、という時代もまた、長かった。

--------かつての話である、とは言いがたい。
 テクノロジーの進んだ20世紀、又21世紀における現代にも、その事業は形を変え存えている。
 国が企業に変わっただけだ。

 さて、ここは日本海のほぼ中心、其の船の名前は『いんふぇるの』号。
 見てくれは豪華客船である、だがしかし4階構造の内装は上下2階で大きく異なっていた。
 上二階は社交場、スポーツジム、あきれ返るほどの広さを持つ寝室、プールまである。
 だが下2階は調教施設、牢屋、いも洗い式のシャワー程度しかない。

 もうお分かりだろう、足の付く可能性の低い海上。
 その船は動く奴隷市場である、積荷以外の上船者は富豪層、所有者は『龍(ロン)』という組織であった。
--------では、何故過去形で話しているか、その理由を皆に知らしめたい。



「しかし、栄光の『龍(ロン)』も人材斡旋業に格下げか」
「いうな、支部は壊滅、人員はバラバラ。
とにかく今は再構成のために資金が要るんだそうだ」
 ダークスーツに身を固めた男二人、けして上品とはいえない風貌。
 華やかに着飾った紳士婦人を横目に己が境遇を嘆いた。

 街のチンピラから数え切れない悪行を重ね、裏世界の栄光である組織の構成員にこぎつけた矢先、
--------小太刀を携えた謎の男が主要な人物をこぞって始末した。
 どんな組織も上が倒れたら苦しむのは下っ端である。
 やったのは香港国際警防隊とも『御神』という謎の組織とも言われているが……。
 まあ、そんなことはこの二人にまったく関係が無い。

 さて、パーティードレスと悪趣味なマスケラで顔を隠したオークションの参加者達は、
今夜のメインイベントが始まるのを今や遅しと待っているわけだ。

 しかしわかっているだろう諸君、退路の無い海上、チンピラとはいえ数十倍の数を誇る戦闘員。
 背後にあるのは壊滅したとはいえ裏世界では最大の犯罪組織という状況でも。
 あの男は果敢に介入するのである。



 轟音と共にシャンデリアが落ちた、運の無い参加者が巻き添えに潰されたがなに、構う事はない。
 明かりの消えた大会場に降り注ぐ月光、其れを弾いて色とりどりに降り注ぐ避妊具の雨。
 そしてシャンデリアをクッション代わりに降り立つ其の男、12歳。

 アールワン・D・B・カクテル--------若き日のオリ主である。



「--------う、撃てうてぇ!!」
 黒服の男達が携えたサブマシンガンが、弾幕を生み出した。
 だがしかし、いかなる魔法を用いたのか(実際に魔法だが)軍隊を持って殲滅せしめるほどの鉛弾を弾き、
其の子供は輝ける剣を振りかぶった。
「--------あんたとおいらのぴらみっどぉぉぉぉぉ……どちらがデカいかさあ勝負ぅぅぅ……
古代の王様みまもってぇぇぇ……訳ありあいつにゃまけらんない」
 悪夢の幕開けであった。
 よくわからない鼻歌混じりに次々と、戦いの意識あるなしにかかわらず目に付く人を切り捨てて行く子供。
 たいした力も入っている風にはみえないが、大の男も福福しい女も次々と昏倒してゆく。
「--------アイツが20歳(はたち)で俺19……年齢的にはいい勝負ゥゥゥ……
経験値だけが物言うかァ……ヤツの顔からは読めないぜッ!!」
 ほかの人間をものともせず放たれた対戦車砲の弾頭を切り飛ばし、オリ主は尚も凶刃を振り下ろす。
 やがて『アッーーーーーーーーーーーーーーー』という轟音も聞こえなくなる頃には、其処に立っているものは一人もいない。

 人一人通れるか、といった狭い通路を少年が行く。
 木製の粗末な閂を一つ一つ上げて行くたびに、血の気の無い哀れな女、子供、時々美少年が其の後姿を見る。
「そうして勝負がついたのさ……鼻先僅かでオレの負け……
砕かれたオレのプライドに……突き刺さるヤツのピラミッド……」
 薄暗い通路に響き渡るオリ主の『ピラミッド行進曲』
 やがてとらわれた哀れな人々が脱出ボートへ駆け出した。

 そして船首、夜の海に浮かぶ『洗濯屋』のバン、其のヘッドライトを確認すると、飛び込もうとした其の時、
銃声が響き、凶弾が若きオリ主の頬を掠め飛んだ。
「このまま逃げ切れると思うなよ小僧、『龍(ロン)』を相手にして生きて帰れると思うな……」
 背後に、ところどころ焼け焦げたタキシード姿の偉丈夫が銃を構えていた。
 おそらくこの夜会の責任者であろう、醜く顔をゆがめた其の姿を見てアールワンは溜め息をついた。
「もうすぐ『あの組織』とも渡りが付く……ここで失点を貰うわけにはいかねえんだよ!!
 てめぇあの『御神』の手のものだろうが、首の一つでも貰わなきゃ示しがつかねぇ!!」

 息む男の懐に、まさしく『御神』の神速を用いて飛び込むと、手にした凶器を突き立てる。
--------バイブレーターであった。
 男達が面白半分で女に突き立ててきた其の獲物、今宵は自身の骨格をバラバラにするとは。
 あっけにとられ倒れこむ男、やがてアールワンは懐から新たな武器を取り出した。

「幾年月日は流れゆきぃぃぃ……気づけば真っ赤なちゃんちゃんこォォォォォォォォォォ……
まッだまッだイけるぜピラミッドォォォォォ!!!!!!ヤツより大きなピラミッドォォォォォ!!!!!!!」
「い、一体何がどうなって……搾乳機だと!?
そんなもので何をするつもりだ!?やめて、止めてくれ!!
どんな情報でも吐くから、オレの息子にそんなものをつけないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」

 海に転々と浮かぶ救命艇から響く歓喜の声。
 そして甲板からも響く歓喜の声。
 やがて船首像よろしく吊るされた全裸の男、股間からぶら下げたタンクの中身、其の量にご注目ください。
「----------------オレの勝ち……」
 ロープで救命艇を牽引した洗濯屋のバンから、クラクションが響き渡った。

----------------2年前の出来事である。








「--------ールワンくん……アールワン君!?
おきてください、ユーノ君の検診おわりましたよ?」
 どうやら夢を見ていたようだ。
 しかもよりによって煉獄号の惨劇、世界中のあらゆる警察組織が恐れおののいた事件を。
 あの時の自分は若かった、加減知らずに息巻いていた頃だ。
「ああ、大丈夫です槇原女医--------ちゃんと認知しますから……」
「もう、なのはちゃんと仲良くなってると思ったら、お相手はユーノ君だったのね?」
「キュ、キュゥゥゥゥゥッ!?」
 全身で否定するフェレット、其れを見て笑う二人。

 ここは新築された『スーパー槇原動物病院』謎の怪異で全壊した施設を改修した槇原愛の新しい根城。
 なのはの強い要望によりユーノは今日ここで、先日受けた傷の具合を見てもらっていたのであった。
 アールワンは其の付き添いである。
「--------ああ、ありがとう」
 珈琲の入ったマグカップを携えた盆を持ち、よちよちやってくるペンギンに礼を言う。
 進化したのだ、こういった動物を保護する施設も併設している。
「ちなみに、雄範誅(おぱんちゅ)号は健康そのもの。
とりあえず鉄球は磨いておいたから」
「ああ、すまないね、この前ガソリンスタンドでジェット洗体してもらったんだが、錆びていなかったかい?」
「そっちも大丈夫、でも蹄はそろそろ交換しなきゃかしら?」
 顎に人差し指を添え、考える槇原女医。
 アールワンは珈琲を飲み干すと、地下格納庫に向かう。
「夏蹄は出来るだけ丈夫なものを頼む、高価でもいいが4足そろえておいてくれ。
それでは行こうかユーノ」
「なにかあったら又来てねユーノ君。
そういえば今日、なのはちゃんはどうしたの?」

 小さな疑問に、アールワンは不敵な笑みで答えたものだ。
「どうにも……友人たちと温泉旅行の前に必殺技の特訓だそうだよ?」







 父の車に積んだ地図から、なのはは其の場所を探り当てた。
 父が、兄弟が長期休暇を迎えると出かけてゆく山篭りの修行の地。
 県外であったが、飛行魔法を使えば何とか日帰りで行けそうな辺境であった。

 古ぼけたコテージ、丈夫なワイヤーで吊るされた丸太、幾つもの罠。
 加えて断崖絶壁にでかでかと刻まれた『御神』の文字。
 永全不動八門一派の秘密特訓場、力と技のテーマパークである。

「--------とぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 そして日が傾きかけた頃、其の地に場違いな少女の掛け声と、さらに不釣合いな轟音が響く。
 そして、岩肌にでかでかと刻みつけられたハート型のクレーターを見て、なのはは満足げに頷いた。
「完成したね、レイジングハート」
『It is perfect.
It registered certainly new magic.
(それは完全です。確かに、それは新しい魔法を登録しました。)』
「ありがと。
さて、そろそろ帰らないと温泉にまにあわないや」
『Slowly. (ゆっくり。)』
「うん!!」
 ナップザックに荷物を纏めて行くなのは。
 だがしかし、何者かの視線を感じ、手を止めた。
「--------誰?」
 深く生い茂る森の奥、やがて音も立てず、其の気配は消えた。
 しばしいぶかしむなのはであったが、山賊であろうともここに金目のものは置いていらぬ。
 やがて、でかでかとした『御神(はぁと)』と書かれた文字に見送られ、その場を去るのである。






 ズシンズシン、ズルズルと雄範誅(おぱんちゅ)号は今日も車道を行く。
 背には主と、珍しくフェレットが一緒であった。
『じゃあ、やっぱりアールワンはこないんだね?明日の温泉旅行』
『誘われはしたのだがね……もれなくおっさん達がついてきそうな気配だったからな。
まあ、高町家の面々は私が来てはくつろげまいよ』
 念話での会話、内容はやはり翌日の温泉旅行についての話題である。
 ちなみに、なのはにかぎらずバニングスグループの御頭首からもお声がかかった。
 アールワンが行くなら自分も来ると。
 最近とみに忙しいバニングスグループであるゆえ、おこがましいと断りを入れたが、
それについてはアリサからもお冠を受けそうである。
 なおさら行かぬ。

(もっとも、どうしても手に入れねばならぬものがあるのでな。
別行動で其の温泉宿にはいかねばならぬが……)
『たのしみだなぁ、あれだよね?
温泉って卵がゆでてあったり、お饅頭がゆでてあったりするんだよね?』
『--------サルに襲われるなよ?
----------------それとローマ人に気をつけろ?』
「うん、わかった。
なのはも最近無理させちゃってるから、骨休めしてくれるといいんだけど……」
 夕日に向けて帰路を行く。
 やがて言葉が途切れた頃、アールワンは唐突に、静かな声音でユーノに告げた。

「……なあ、ユーノ」
「なに?どうしたのアールワン?」
「--------『龍(ロン)』という組織に、気をつけろ」







 さて、翌日。
 高町・バニングス・月村の家族混合温泉ツアーはそれぞれの車に分乗し、目的地である温泉宿に向かっている頃である。

 問題は、その海鳴温泉という旅館で起こっていた。
 女将と仲居、そして20代くらいの女性十数名が何事か言い争っているのだ。
「そんなこといってもこまります、当旅館にはご家族連れも泊まってらっしゃいますので……」
「そうはいってもこっちも仕事なんです!!
まして呼んだ相手が相手なんで、これで行かなかったら私達どんな目にあうか……」

 --------事の顛末はこうだ。



 暴力団関係者が集団でこの旅館に来泊した挙句、よりにもよって朝っぱらからデリヘルを呼びました。
 以上です。




 両集団共に、ほとほと困り果てる状況、だがしかし。
 その場に駆けつける一人の女性、高そうな服につりあわぬ、気弱そうな女性である、巨乳ではあったが。
「リーダーリーダー!
大丈夫です、例の店に私のパンツ、おいてきましたから!!」
 手にした1ダースのアーモンドチョコレートを見せ付ける。
 だがしかし、あきれたように溜め息をつくとリーダーと呼ばれた女性は彼女に向けて怒鳴り散らした。
「あんたねぇ、そんな都市伝説真に受けて!
きてくれるわけないし、こんな問題解決……出来る……わけが……」

 はたして、何故彼女の叱責が尻すぼみになったのか。
 懸命な諸氏諸君、もうお分かりであろう。
 気の弱そうな女性が捧げ持つそのアーモンドチョコレートの山に、
気の聞いた音を立ててコンドームが突き刺さったからである。

「嘘……」
「まさかまさか……」
 リーダーと呼ばれた女性、なれた手さばきで其の封を開くとルージュの引かれた唇にあて、力いっぱい膨らませた。
 たちまち眼前に広がる『Guilty』の文字、噂に聞いたとおりである。
 紳士(wとも一緒にプリクラをとったら幸福が舞い込むとも噂されたあの少年。
 まさか自分のぱんつで現れてくれるとは、と気弱そうな女性はなんか、こう、感極まった様子だ。

「え、マジ!?
ほんとに来てくれたの!!」
「キャー!どこどこ!?」
 と騒ぎ始める女性人に、温泉旅館のスタッフは困惑然りだ。
 だがしかし、スパーンと布団部屋の戸が開き、ドサリとその物体が倒れこんできた。
「「「「「簀巻きィ?」」」」

 否、其の恵方巻きのような物体からにゅっと顔を出す其の男。
 アールワン・D・B・カクテル--------オリ主である。
 今年の恵方は南南東、みんなは予約したか?
 某コンビニのあれは結構美味い。

「やれやれ、きちんとした組織に加盟せず、小遣い稼ぎをしているからこのような問題が起こる。
--------ほどほどにしておきたまえ諸君」
 恵方巻きかと思ったら、実はカリフォルニアロールでした。
 噂どおりの黒いロングコートを身に纏い、ごろごろと女達の前に転がってくるオリ主。
 楊貴妃の史実をなぞった訳でもあるまいが、まあ不法侵入していたのだ。
「そ、そんなこといわずに助けてください!!」
「わかっているさ、もうじき懇意にしている家族がここへ泊まりに来るのでね。
女将、すまないが泊まっているヤーさん達には自主的にチェックアウトしてもらうぞ」
「はい、其れはいいのですが……そのTV、何に使うおつもりですか?」
 百円入れたら10分映る、絶滅危惧的な例の備品。
 行楽地にはつきもののケーブルテレビなのだが、今の子供達にはきっとわかるまい。









 詳しい経緯は割愛する。
 はたして愉快な原作キャラたちがたどり着く頃には、上記の騒ぎは収まっていた。

 荷物を降ろし、早速ひとっぷろ浴びようという子供達に囲まれて、ユーノは生涯最大の岐路に立たされていた。
「ねーそんな事いわずにユーノ君もいっしょにはいろーよぉー」
『いやなのは、ボク男だから、士郎さんたちと一緒に入るよ!』
 まあ要するに例のアレだ。
 ここで女湯に連れ込まれると淫獣指定されるお決まりのイベントである。
「キューキュー!!(助けて!アールワン)」
「なのはー、まだユーノむずがってるの~!?」
「全然問題ないのにねぇ?」
 じたばたとあばれるフェレット、もう一緒に入る気満々の乙女達。
 だがしかし、哀れな小動物の助けをもとめる声を、神は見放したりはしないのである。



「あ!あ!暴れ馬だァァァァァァァァァァァァァ!!!!」



 腰にタオルを巻いただけの男が、脱衣所から飛び出してきた。
 続けて奥から響く『ヲヲヲォォォォォォォッッ!!』という泣き声。
 しばし呆然とする3人、やがてなのはの腕から抜け出したユーノ、
「キュッ!」と凛々しく敬礼して、男子浴場へ向かって行く。
「ねえなのは、ユーノ大丈夫かな……」
「うん、大丈夫だよ。
ユーノ君と雄範誅(おぱんちゅ)号、仲いいから」
 ひらひらと手ぬぐいを振るすずか、やがて三人は女湯へ向かって行くのである。









「なあとうさん、サルと一緒に温泉に入るのは聞いたことがあるが、流石に馬とは……」
「ああ、さすがにあれだ、ないな」
 浮かべた手桶に張った湯に浸かるフェレット。
 きちんとタオルを頭に載せ、ぶふぉぁぁぁぁぁぁぁぁと鼻息をつく痛馬。
 やがて、手元にあった盆を士郎の下に押し出す、蹄で。
 ぬる燗である、飲め!ということらしい。
「ああ、これはどうも」
 まあ、最近娘にちょっかいを出す男の馬なワケだが、雄範誅(おぱんちゅ)号とは直接面識の無い士郎。
 あの男は誘いを断ったという話だし、多分プライベートなんだろうなと考える。
 そして恭也は恭也で(風呂に入るからには頭のパンツや鞍?をはずしても、鉄球は外さないのか……)
などと考えていた。











--------女風呂の描写は、ご自由にご想像ください。











 やがて、ほこほこに茹で上がった幼女三人を、マッサージチェアに跨りながら確認したアールワン。
 彼女らはもうじきやってくる黒の魔導師、その使い魔であるアルフに絡まれる予定である。
(今後の企みを授受すべく、アルフのパンツを手に入れる機会はこの今のみ……)
 彼は懐からデリヘル嬢のパンツを取り出した。
 まだ暖かい、正直持ち合わせのパンツを湯気で温める算段であったが、機会に恵まれたといえるだろう。
 このパンツを被れば、オーバードライブ・モードで秘奥義を繰り出せるというものである。

 さて、ご自身のブログで『女性キャラが多いのでやりづらそうだ』とのご指摘をいただいた某氏。
 お心遣い有難うございます、ですがご心配には及びません。
 当SSのオリ主はイけます、ヤります--------むしろやらねばならぬ!!


「--------それでわちいてんをはぢぬるッ!!」


 温泉宿の粛々とした空気が一体になり、鼻腔に広がる開放感。
 日本人の魂が呼び起こされ、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
 1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







「久しぶりだね、この前はうちの子をアレしてくれちゃって……」
 やがて、謎の女性に値踏みされた3人一同。
 すずかはなのはに知り合いか?と問うが、おそらく魔法関係の事なのでうかつに話せない。
 果敢に食って掛かるアリサであったが、謎の凄みに追い込まれて上手く切り替えせぬ。
 やがて「ごめんごめん、人違いだったわ」とその場を離れる其の女。
 だがしかし『石集めはあきらめてお家で遊んでなさい……さもないと、ガブッといくよ』
 と殺気混じりの念話をいただいた。
 なのはの胸に言い難い気持ちが巻き起こる。
 今の女、ユーノから話に聞いた、あの黒い魔導師の使い魔ではなかろうか?
 かつて大木騒ぎの際、自身を助けてくれたという。
 何故、今そのような不穏な気を自分に放つのか、やはり彼女達とわかりあうことは出来ないのか……

 そんな不安を掻き消す、男の宣言が休憩所に響く。
「--------そうとも、そこのお嬢さん。
----------------用があるのは私の『ウホッ!巻き』では、ないのかな?」
 その場を去ろうとしたアルフ、ものすごいイヤな予感がして辺りを見回す。
 番台の後ろ、自販機の陰、休憩所のおっさんの顔を一人ひとり見回しながら辺りをうろつく。
 もちろん3人も周りを見回し始める、なのはにいたっては早くも喜色が浮かんでいる。
 ……やがてほっと安堵の溜め息をつくと再びその場を後にしようとするアルフ。
 無性にのどが渇いたので一杯やろうかと売店に足を向けた其の時。

 そいつはフードコートの端にある、バカでかいバ〇ワイザーのビニール風船の上にいた。
「--------変態仮面、参上!!」
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 なにごとかと駆けつけた3人、さっきまで要らぬ喧嘩をふっかけられた女性がしりもちをついているのを発見。
「あ、あんたはうわさのパンツマン!!」
「血行仮面!!(血行のよさそうな人の意)」
「--------パンツの妖精さん!!」
 ははははは、と半裸の怪人は笑い、少女の熱い視線にさわやかに答えて見せた。
「残念ながら、皆ハズレだ。
ワンスモア----------------変態仮面、参上!!」
 フロントラットスプラットで答える変態仮面、一寸前進したので『ウホッ!巻き』がアルフの鼻先に当たりそうだ。
 と、いうわけで、ガタガタ震えているアルフを見下ろすと、其の男はいう。
「いたいけな少女を捕まえていわれの無い中傷を向けるとは、女の喧嘩は恐ろしいというが、
男とはいえ割って入らなければならぬ道理。
この私の『ウホッ!巻き』其の口にねじ込んで黙らせてくれようか!」
 腰をつきだす変態仮面、首を引いて交わすアルフ。
 黙らせてくれようか!黙らせてくれようか!としばし牽制が続く。

「あ~変態仮面、なんか気の毒になってきたからもういいわ」
「それよりも変態仮面さんのお話聞かせてほしいの!!」
 ははは、勘弁してほしいなぁ『OHANASI』か、などと腰が引けた変態仮面。
 其の隙を突いて、アルフは彼の股座から這い出たものだ、一寸涙目で威嚇してくる。

「おや、どうも彼女はまだ諸君とヤル気みたいだぞ?」
「……いや、どう見ても今の標的はアンタでしょうに」
「さて、遺恨を残すわけにはいくまい、どうかな?
ここは一つ、卓球で勝負、というのは?」

--------変態仮面は股間からピンポン玉を取り出した。
 何故たくさんの穴が開いているのか、そして両脇から何故皮ヒモがついているのか。
 そして平成不況はいつ終わるか、国債のランクが下がってしまったが取り返しがつくのか。
 様々な謎を孕みつつ、彼らは卓球台に移動するのである。









 チーム分けはアリサ・すずか、対するはアルフ一人である。
 なのはがアルフに『はいろうか?』と進言したが頑なに断った次第だ、ハンデのつもりらしい。
 尤も、二人はあさっての方向を向き『……チッ』と舌打ちをしたものだが。

 はたして、サーブ権はすずかの元に渡った。
「--------ダークネス・ムーン・ブレイクッッッ!!」
 あたりが夜に包まれて、超超高所から打ち込まれるその剛速球、小学生の本気である。
 だがしかし……。
「あまいよっ!!」
 相手も然る者、驚異の動体視力で危なげなく其の魔球を打ち返すと、ポカーンとしているアリサの前をワンバウンド。
 不規則な回転に加え、ボールの紐のおかげであさっての方向に飛んで行くプラスチックの弾。

 嗚呼、だがしかし其れは変態仮面の思うつぼ、半裸の男が高く宙を舞い……
「----------------ボンバー♪」
 その球と、股間の丸が合体したではないか。





「変体秘奥義『魔球・卓球台のピーンボール』
この動きを見切れるか!?アルフゥゥゥゥ!!!!」





 まるで隕石のようにアルフ側のコートへ飛び込んだ変態仮面。
 極端なエビ反りで腹と股間をあらわにした逆アルマジロの形を取ったその男、
何度打ち返してもひたすらにアルフ側のコートをバウンドして、其の凶器を顔面に押し付けようと迫り来る!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!!??」
 さらに加速を続けるナックルボール、野球であれば3金バッターアウトであろうが、コレは卓球。
 完全な球体、いわばビスケット・オリ主とも言うべき形態でありながら、
アルフの視界に飛び込んでくるのはただひたすらに股間、股間の袋のみ。
--------この男、お仕置きする気満々である。

 だがしかし、そこへ何組ものご家族連れが集まり始めた。
「お父さんお父さん!変態仮面が卓球になってるぅぅぅ!」
「ほ、本当だ、コレはすごい!
お母さん、おひねり投げようおひねり」
 其の動きを大道芸か何かと勘違いしたのか、次々と投げ込まれるおひねり。
 変態仮面は次々飛来するそのおひねりを確認し、其の頭脳に変態的ひらめきが起こった。

「----------------分身」
 瞬時に飛来するおひねりを自身の股間に見立てフェイクシルエットを展開。
 股間ばっかり見せ付けられていたアルフ、驚異の分身攻撃に脳の理解が追いつかぬ。
 十や二十ではきかぬ変体魔球の応酬、遂に、一斉に彼女の体に激突した。
「そして間髪いれずに『悶絶地獄車』ッ!!」
「ギャーぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
 アルフと共に二度三度地面をバウンドし、時折横にあるビリヤードの用具を巻き込みながら、
やがて『パリィィィン』と窓を割って変態仮面は外へ飛び出した。











 血相を変えて外へ飛び出した3人とギャラリー。
 中庭で待ち受けていたのは、1メートル半ほどの真っ黒な球体である。
 どうやら中庭でも高速回転を続け、黒土を巻き込んで、雪だるまかフン転がし式にこの土玉となったようである。
「…………」
「…………」
「…………」
 ものすごい歓声が響く中、なのはとアリサとすずかはおそるおそるその球体に近づいた。
 --------そのときである。

 ガシャンッ!!とものすごい音がして球体の左右が開いた。
 ビリヤードのキューを用いたフレームがしつらえており、右には整然と並んだおひねりが。
 そして左側にはアルフが着ていた浴衣とパンツが吊るされていたのであった。

 アリサは球体の中を覗き込む、やはりいた変態仮面。
 半裸の其の男はグッと親指を立てると、アリサに向かって言った。
「--------成敗!」
「……ねえ、あのお姉さんは?」
「----------------成敗!!」
「あの人は!どこへ!!やったのッ!?」
「------------------------成敗ッ!!!!」

 やがて再び、ハッチがガシャンと閉まり。
--------完全に魔球と化した変態仮面はコロコロと山を下っていくのであった。










「あ、アルフゥゥゥゥ!?
--------なんで、どうしてハダカで転送されてきたの!?」
 マンションの一室で困惑する黒い魔導師、宿敵との再戦は、近い。



[25078] 【無印編八話】ほんとうのかいぶつ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/12 03:20
 さて、場面は温泉旅館の一室。
 すっかり日も暮れて遊びつかれた子供達は就寝の時間である。
 穏やかな寝息をたてているすずかとは対照的に、うなされているアリサ。
--------可哀想にどんな悪夢を見ていることであろう。

 さて、そんな友人達を背に、高町なのははユーノ・スクライアと今晩も念話で作戦会議。
 お題目はここに来る前、アールワンに聞かされた『龍(ロン)』という組織についてである・

『……と、いうわけで、どうやらアールワンは捜索の時間が大幅に削られそうなんだ』
『龍(ロン)か……聞いたことあるよ。
昔お父さんがひどい怪我をさせられたのも其の組織だって言うし……美沙斗お母さんが壊滅させたって聞いていたのになぁ』
『?なのは、誰それ』
『うん、私のお姉ちゃんの本当のお母さん……っていうか生んだ人。
今香港にいるんだけど、優しい人だよ?
お姉ちゃんも私も、みんなあの人が好き』
 
 月明かりに照らされて微笑むなのは、其の笑顔を見て、ユーノは今まで心のうちに秘めていた思いを口にした。
『なのは、やっぱりここからは僕一人でジュエルシードを探すよ。
これ以上皆に迷惑はかけられない』
『--------だめだよユーノ君、こんなところで終わったらずっと気になっちゃうし。
それにね?はじめはユーノ君のお手伝いのつもりだったけど、
いまならちゃんと自分の意思でジュエルシードを集めたいって、そう思うんだ。
あの黒い女の子のことも気になるし』

 其の発言を聞き、改めて少女の意志の強さを確認したユーノ。
 今度は別の覚悟を決めて、再び思いを口にする。

『じゃあさ、なのは。
こんどあの黒い魔術師にあったら、なんとしてもジュエルシードを求める訳を聞き出そう。
--------もしその理由が相当のものだったら、今まで集めたジュエルシードを渡してもいい』

『だって、コレはユーノ君が探しててたものでしょ!?』
『だからだよ、一応管理局に引き渡す予定ではいたけど、ボクとしては暴走の危険が無くなればそれでいい。
全部封印処理できて、この世界から危険が無くなれば、ベストではないけれどベターな選択だと思う。
問題はあの子が、コレが願望をかなえる『失敗作』のロストロギアであるとしっかり認識しているかどうか……それと、
ひょっとしたらなのは、君がこのジュエルシードを探す暇も無いほどの危険にさらされている、ということだ』
 息を呑むなのは、ユーノは続けて言う。
『ボクも今までたくさんの盗掘団や犯罪組織に狙われてきたけれど、総じて彼らは無下に出来ないほど危険な存在だ。
この世界の犯罪組織については良くわからないけれど、きっと君の想像をはるかに超えた悪質な手段を使ってくる。
--------もし、その『龍(ロン)』が君のお父さんを狙っているとしたら、君は人質に取られるかもしれない。
----------------それにね、僕がここに来る前に乗っていた船は、爆発したんだ。
ジュエルシードを持ち出すので精一杯だったから、僕はどんなヤツがそんな事をしたのかわからない。
だからね、もしこのロストロギアを狙うのがあの黒い魔導師だけじゃなく、
僕の世界の魔道犯罪組織だったとしたら……僕だけでは君を守りきれないかもしれない』



 二人は視線を合わせ、深く頷いた。
 仲間を増やすのだ、あの黒い魔導師と友達に成るのだと。
 事件の渦中に放り込まれた二人が、明日を迎えるために。



 そんな時、アールワンからの念話が二人の頭の中に届く。
--------其のあたりの河川からジュエルシードの反応がある、二人で封印してほしい、と。







 同じ頃、ジュエルシードの反応を察知した件の黒い魔導師、フェイト・テスタロッサは飛行魔法にて現場へ向かっていた。
 だがしかし、心はマンションにおいてきた彼女のパートナーを心配している。

 フル・フロンタルな姿で転送されてきた彼女は泣きながらクローゼットをあけ、適当な服を着ると、
其の服を着たまま頭からシャワーをあびて、ガタガタ震えていた。
 いかにフェイトが何があったのか聞き出そうにも、ただ弱弱しく首を振るばかり。

 だがしかし、バルディッシュが探し当てたものの反応を察知し、当のアルフも『行け』というのであれば行かねばならぬ。
--------帰りには、彼女の好物であるドッグフードを買って帰ろうと思う。



 やがて、反応があったという川辺にたどり着く。
 辺りを見回してみるが、特に変わったものは……否、程なくして見つかった。

 およそ1メートル強ほどの黒い球。
 次元航行艦の緊急用脱出ポッドにも似た其の黒い球体は、月光と少女の顔を映すほどに艶やかで、
横からはぱかんとハッチが口をあけている。
(なんでこんなものが……ていうかコレ何?)
 導かれるままに其の中に入ってみる、なんだかなかなか落ち着く狭さ。

 だがしかし、フェイトがその押入れ感に浸っていると、横合いから何者かが球体を覗き込んだ。
 なのはである、先日激闘を繰り広げたあの白い魔導師だ。
 中に居るのが何者か確認したなのはは『ぱぁぁぁぁぁぁ』と顔に喜色を浮かべ。
 反対に見つかったフェイトは『かぁぁぁぁぁ』と、見る見る羞恥で顔を赤らめる。

「あけて!ここあけて!私とお話しようよぉ!!」
「いや~!私を見ないで私を見ないで!!」
 ガシャン、と閉じられたハッチの部分をレイジングハートで殴打するも、一向に出てこないフェイト。
 むぅ、とむくれるなのは、大玉ころがしの要領で川の中にその土球を川の中へ運び出す。

 程なくして、桃太郎の桃のように、真ん中からひび割れる土製の黒い球。
 土ゆえに浸水には弱い。
 真ん中に体育座りしているフェイトがあらわになり、やがて彼女は魔力光を伴って空へ浮かび上がる。

「……どうやら貴方も、ここにあるジュエルシードに用があるようですね、白い魔導師」
(--------流したッ!?)
 ごまかせるのかと困惑するユーノ、再び自己紹介するなのは。
 宿命の対決、第二ラウンドの始まりである。






 もちろん先手を取ったのはフェイト・テスタロッサ。
 魔力弾の乱打からなのはの間合いに入るとハーケンフォームの刃をなぎ払う。
 対するなのは、飛び交う魔力弾をでんぐり返しで交わし、凶器の柄をレイジングハートで受け止める。

「どうして……いきなり攻撃する……のッ!!」
「--------この場にあるジュエルシードは一つ、貴方を倒して私が物にする。
先日はついその場に興じてしまいましたが、貴方と私が合間見えるならば、其処には戦闘有るのみッ!!」

 カチンときた。
 そのヤカン振りはなのはの友人たるアリサを凌駕する短絡思考、この身この言葉が受け入れられなくば、
まずは彼女の言うとおり、力でねじ伏せてからのOHANASIあるのみ!!
--------3期の有名なあのシーン、下地はこうして作られて行く。

 思考を高速で走らせあたりに五つのディバインスフィアを形成、放たれる無数の高速弾に手間取るフェイト。
 飛行魔法で間合いを離すと、彼女のはるか頭上で愛機を構えるなのは。

「--------ねえ、あの日の続きをしようよ……。
勝ったら貴方がこのロストロギアを探している理由と……何よりお名前、きかせてもらうの。」
 ゾクゾクする声音、視線を後ろに流すと此方を見下ろす白い魔導師。
 九歳には出来過ぎなツラ、凶器を此方に向け挑みかかる好敵手。
 其の姿を見てフェイトの、闘争心が暖まった。
 ガタガタ震えるのは川辺で見ているユーノだけである。

「--------打ちぬけ、轟雷」『Thunder Smasher』
「ディバイィィーン」『Buster』

 再びカチ合う大砲撃、一瞬蒸発する川の水。
 フェレットが額に手を当て、頭上を見上げる。

 果たして今度は気合の差か、徐々に黒い魔導師の砲撃を押しのけて迫る桃色の光。
 やがて、なのはの一撃がフェイトに辿りつき、着弾と共に大爆発を起こす。

「やった!?」
「あぶないなのは!!
--------うしろだっ!!」

 確かに、誰もが打ち倒したと思っただろう。
 だがしかし、なのはの砲撃が届く其の刹那、魔法による超高速飛行で離脱したフェイトが愛機をハーケンフォームに
可変させ、なのはに襲い掛かるのである。
 戦闘において、己が得意の間合いで挑むのが道理。
 ならばこそ、もはや油断のかけらも無いフェイトであるならば、なのはに近接戦闘を仕掛けるのはまた、道理なのである。



--------だがしかし、其の戦の巧みに挑もうとするなのはもまた無策ではない。
----------------パン友足るオリ主の意向を鑑みて生み出された其の技を見せるときがきた!

 黒の魔導師が其の鎌を振り下ろす瞬間、レイジングハートに走るなのはの意思!
 ドキッ☆砲撃魔術師の新必殺魔法!!



「プロミネンスッッッ!」『peach』



 大きく振りかぶったフェイトのみぞおちになのはの尻が叩きつけられる。
 カウンターを含む加速度の威力と打撃魔法特有の『ズシン』という衝撃の中に、
『もにゅん』という弾力とずっしりと確かな質量が感じ取れる。

(--------ヒップ・アタックッッッ!?)
 わずか一秒の間にも満たぬ自身に降りかかった其の技、其の身を弾頭として放たれる巨弾。
--------其の名も速射零距離砲撃魔法『プロミネンスピーチ』
 拳や足では届かぬ己が近接戦における必殺の一撃を、彼女は自身の体ごとぶち当たる事で完成させたのだ。

 何と言う威力か!何と言うまロさか!? 
 吹き飛ばされながらフェイトは其の感触を反芻する、もう、意識せざるを得まい。
 飽くまで食らっていたい、もう毎晩枕にして寝たい。

 吹き飛ばされながらも笑顔を見せずにはいられない、太陽にも似た其れは、友情の重さであった。







 やがて河川敷に大きく穿たれたハート型のクレーター。
 其の中心に駆け寄ったなのはとユーノ、なんかすごく幸せそうな顔で手足をぴくぴくさせているフェイトを抱き起こす。
「さあ、私勝ったよ!高町なのはだよ!!
--------早速お名前を聞かせてもらうの」
「うぅ……フェイト、フェイト・テスタロッサ」
 回復魔法をかけながらユーノも問う。
「じゃあフェイトさん、どうしてジュエルシードを集めているか白状してもらおうか!?」
 どうしてこのフェレットがドヤ顔をしているのか、諸君としては其れも問い詰めたいところであろう。
「……わ、わからない、でもどうしても集めなきゃ……」
「「わからない!?」」

 予想外の返答に顔を見合わせる二人、しかし事切れる前に呟いた『おかあさんが……』という一言にユーノが頷く。
 一時探すだけで落ちていたジュエルシードも発見され、レイジングハートの中に格納していた分も含めて、
 フェイトの愛機、バルディッシュに差し出した。
 あわせて6つ、彼女の分も合わせれば8つになる。
『Thank youing, is it good?(youingして、感謝してください、そして、それは良いですか?)』
 主に代わり、自身の持つ全てのジュエルシードを提供しようとするなのはに向けて、其の意思を問うバルディッシュ。
 ユーノはひょい、と手を上げて告げた。
「今はまだ貸すだけだ、ただ、彼女は信用できそうだから。
彼女のお母さんが何を求めているか、其れが解かったら取り戻しに行くかもね?」
「--------あ、そろそろ日が昇っちゃうよ。
フェイトちゃんも旅館の部屋に運んだほうがいいかなぁ」
 バルディッシュはなのはの言葉にもう一度礼を言うと、じきに目を覚ますのですぐに家に帰ると告げた。



 今まで集めた全てのジュエルシードを手放しながらも、何かそれ以上の大切なものを得た気持ちで、
なのはは友人達が眠る部屋へ帰る。
 そしてもぞもぞとアリサの布団に潜り込むと、蹴り起こされるまで彼女の浴衣に頭を突っ込んで、短い睡眠を取るのだった。







「おにいちゃん、まだおきてる?」
「ん?起きてるよ。
--------なんか用か?」

 さて、なのはとフェイトが激闘を繰り広げていた頃、ここはとある一般家庭の一室である。

「ごめんねこんな時間に(夜這いとかそういう意味で)本当にごめんね、
今日、ご飯作れなくて……何か食べた?」
「ん、ああ、大丈夫だよ、オレはオレで適当に済ませたから」
 世間一般から見れば仲の良い兄と妹の会話。
 丑三つ時を過ぎているという時間帯を除けば、まあごくありふれた風景である。

「別におにいちゃんにご飯作るのイヤにになったとかそんなんじゃないの
--------どっちかっていうと……」
「どうした?いつも作ってくれて感謝してるさ」
「ぐふふ--------ううん、なんでもない。
何も言ってないよ、本当だよ?……本当になんでもないから(w……」
 妙にどぎまぎした会話、いつもの妹ではない雰囲気が言葉尻の端々から感じられる。
「あ、そうだ!お昼のお弁当はどうだった?
いつもと味付けを変えてみたんだけど(隠し味というか寧ろ混入的な意味で)」
「ん、普通に美味かった」
「そっかぁ、よかったぁ。
食べられなかったらどうしようって思ってたんだけど……
ところでなんか、こう体にへんなところ無い?カァァァァァって熱くなったりとか」
 なにか料理の腕が鈍るような心配事でもあるのかと問うが、どこか無理の有る笑顔で妹は言う。
「も~、そんなこと気にしないでいいよ、ところで家族同士って萌えるよ……燃えるよ、ね?」
 兄、やはり何か気になる。
 こんな時間に部屋に押しかけられてする会話ではない。

「ところでおにいちゃん、さっき洗濯しようとして見つけたんだけど……」
 床に投げ捨てられる一枚のパンツ、パサ、という乾いた音が何か……部屋の空気を致命的にひび割れさせる感触。



「この下着--------お兄ちゃんのじゃないよね?誰の?」



 洗濯機に入れるわけ無いじゃないか!?
 ちゃんと国語辞典にはさんで押しパンティにしていたのに!永年保存するはずだったのに!?
「あ、ああすまん。
クラスメイトともみ合ってたらすりむいちまってな、借りたんだ」
 うそは言っていない、だがどうして発見されてしまったのか、血の付いたパンツを見つけたら、まあ気持ち悪いだろう。
「え!!お兄ちゃん怪我したの?
そのときに借りたって、其の女の人頭大丈夫なの?どうしてハンカチじゃないの?」
「え、イヤ……だから普通にズリ……すりムケただけだって、心配するなよ」
「いや、答えになってないけど、あのパンツについてた血……お兄ちゃんのだったんだ。
--------そんなのわかるわけないんだけど、こんなことなら血の付いたところだけ切り取ってから捨てればよかった」

「!?……ナンダッテ?」
「あ、ううんなんでもないよ!ただの世迷言だから。
そういえば最近おにいちゃんめちゃくちゃ帰りが遅いよね……図書室(という名の大〇屋書店)で勉強?」
「ん!?ああ、イヤちょっとな、制服でそんなとこ行くわけないんだが……お前も知っているだろう、アイツとちょっと」
 逆に後ろめたい放課後を問い詰められて焦る兄。
「知ってる……そっか、お兄ちゃん、昔は私の妄言もちゃんと聞いてくれてたのに……最近はあまり聞いてくれないよね。
アニメのカップリング論争も参加してくれなくなったし……戦争(コミケ)に行くのも」
 不穏な空気が部屋一杯に膨れ上がった。
 何故だ、何故妹はこんなに影を背負っている!?

「--------でもあの人ってなんか普通人っぽいよね!?、
あんな人と話してたらお兄ちゃん正しい日本人じゃなくなっちゃうよ!?」
「いや、何も其処まで言うほどの事では……ていうかお前の正しい日本人感が超知りたい。」



「あんな人!どうせヲタク(わたし)達の価値観なんてなんにもわかってないんだからっ!!」


 言葉をさえぎられ、ベッドサイドのチェストがいきなり叩き割られた。
--------妹が手にしていた包丁が一閃したのだ。
 しかし何故妹はそんな物騒なものを振りかざしているのか、そして刃に付いた赤い物の正体は!?
 兄、急に巻き起こった惨劇に理性が追いついていない。
 というか妹の事がさっぱりわからない。
「お兄ちゃんの事を世界で一番解かっているのはあたしなの!
シャドウファックのとき名前を呟いていいのも!わたし!--------あ、ごめんなんか恥ずかしくなってきたかも……」
「い、いやそれはいいから……そんな物騒なものしまえよ?
どうしたんだよなんかおかしいぞ!?
--------俺なんかしたか?」
「ああああああああ!!……おにいちゃん寝取られたアアアアアァァァッッッ!!」

 ばれている、あからさまにばれている、放課後夕日の差し込む体育用具室で行われている青春の1ページ。
 この兄、幼馴染が自身に好意を持っていることに気づいたのも最近なら、妹が同じようで、
少し違う思いを抱いていることを知ったのも、彼女と『そういう関係』になった後のことである。
 致命的な鈍さ、だが後悔先に立たず。
--------この様な状況に至ってからではもう遅い!

「いや、お前には報告しようと思ったけど、なんか切り出しずらくてさぁ……」
「ふぅ~ん、お兄ちゃんリア充になっちゃったんだぁ~、それはよかった、ねッッッ!!」

 妹、兄に向けて手にした凶器を振りかざす。
 恋心に気づけなかった兄、やがて秘められた熱情は憤怒と嫉妬の炎と化して彼に襲い掛かるのだ。
 嗚呼なんという悲恋、誰も救われるもののいない今宵の惨劇。





--------いや、今回の前振りはことのほか長くなって申し訳ない。
 行き過ぎた兄妹喧嘩、昼ドラも裸足で逃げ出すほどの愛憎劇にすら『あの男』は割って入るのである。





 スパァァァン、と気の利いた音を立てて飛来したおひねりが、妹の持つ包丁の刃を両断する。
「--------誰ッ!?」
 誰何する妹、月光を背に向かいのマンション、其の屋上に立つロングコート姿の男。
 傍らにはなんか気の弱そうな少女が、ボロボロになった浴衣を羽織って震えている。



 アールワン・D・B・カクテル--------オリ主である。
 急な呼び出しにも即対応なトラブルバスターであった。



「きゃっ!?」
 絶妙なスナップから放たれる謎の小袋80ぷくろが瞬く間に妹を埋め尽くし、やがて傍らの少女を伴って、
兄の部屋へ飛んでくるアールワン。
「--------兄くん(仮名)」
「----------------あんなヤツさん(仮名)」
 ひしと抱き合う二人の男女、成立したばかりの初々しいカップルを横目にすると、オリ主は再び妹と相対した。

「あんなヤツさん(仮名)アイツ、この前クラスで噂になってた『パンツの騎士』だよな?
どうしてここに……」
「うん、なんかいやな予感がしたから、例のお店にパンツを置いてきたの。
本当に駆けつけてくれるなんて……」
 注視すると、あんなヤツさん(仮)のおなかの辺りに刺し傷があり、浴衣の帯が巻きつけられている。
 血がにじんでいた、どうやら止っているようだが……。

「其の年で刃傷沙汰に巻き込まれるとはほとほとツいていないようだな、兄くん(仮)
--------だがしかし、度を過ぎた鈍感さは其の身ならず他人すら傷つけることと心得よッ!!」

 正体不明の正義の味方が口を開くと、おひねりの山からズボッと手が生えた。
「何で……どうして私のジャマするの?
アナタは恋する女の子の見方だって、みんな言ってるのにぃ!!」
「いかにも、自分は風評にそぐわぬキューピット振りである。
故に貴様のゆがんだ思慕の情を矯正しに出向いた次第……愛とは尽くすだけに有らず。
 故に尽くした分だけ報われる、男が振り向いてくれるなどという甘くゆがんだファンタジーが貴様の胸に巣食っているならば」

 アールワン、コートの胸元から蜂蜜とホイップクリームを取り出し、妹のほうに突きつけた。
「--------まずは『そげぶ』してくれようッ!!」







 またしてもトンだ時間を食ってしまった。
 眼下で今、明かりの落とされた兄くん(仮)の部屋、一時間に渡り繰り広げられた戦いと言葉のドッチボールの末。
--------今頃3人仲良く、描写を憚られるスイーツwを食べさせっこしていることだろう。

「ハヴ・ア・グッナイト、ブロス&ラヴァーズ--------爆発しろ」
 踵を返す雄範誅(おぱんちゅ)号、それにしても得るものの無い戦いであった。

 そんな事を思いつつ、妹のパンティーをコートのポケットに偲ばせるちゃっかりしたオリ主。
 彼が今夜向かうのは、かつての惨劇の地だ。







「ほう、どうやら私が一番乗りのようだな」
 海上に浮かぶ『いんふぇるの』号、かつて破廉恥な宴を開いていた大会場。
 今は天井の大穴こそそのままであるが、きれいに片付けられただ、広いだけの空間となっていたが。
 特筆すべきは、謎の装置がステージ上に添えつけられ、水面を縦にしたようなゲートが開いている事だ。

 眉唾だと思っていた、ダークスーツが似合わないチンピラ二人、話通り中から人が現れたときは、
自分の頭はどうにかなってしまったのかと思ったほどだ。

--------ちなみにこの二人、二年前の『煉獄号の惨劇』の生還者である。

「ようこそ、97管轄外世界へ。
我々龍(ロン)は異世界の皆様を歓迎いたします」
「『すばらしき実包の会』代表のセコイアだ。
諸君が日ごろ扱っている質量兵器は我々も実に興味がある、此方こそよろしく頼む」

 一応龍(ロン)の代表である男が、現れた恰幅のいい男と握手をする。
 始めてみる異世界人の風貌は、こちらの白人と大して変わりは無い。
 まあ、股間に重機関銃をはさんでいる以外は。

「まあ、密売でしたら此方に話を通してもらわないと困りますわ。
一番乗りは譲りましたが、ビジネスチャンスは逃しませんの」
 続けてゲートから目を見張るような美人が『滑走』してきた。
 武器や薬物の密輸で次元世界を又に駆けてきたこの女、名をヴィクトリア。
 『宮廷舎』の幹部である。
 足元にソロバンを履いていなければお近づきになりたいと、世の男は誰もが思うだろう。

「やれやれ、2年も先延ばしにされたゆえ、彼の『公僕』からは担がれたと思っていたのだが。
何にせよこうして新たなチャンスの第一歩を踏み出せて良かったよ」
「まことに申し訳ありません、此方としても予想外の事態が続出しまして……」
 額に浮いた汗をぬぐう龍(ロン)の代表者。
 だがしかし、頭上から響く甲高い笑い声が彼の救いと相成った。
「--------あはは、そうでもないよおじさん。
僕なんか2年前……闇の航路が開いたときからキチンと準備してきたもの。
其処にいる二人が悠長に待っていただけさ」
「なっ!?小僧!!」
「いつの間に抜け駆けしていたのかしら、坊や?」

 上を見上げたダークスーツのチンピラ二人、今度こそ声を失う。
 年のころは13・4くらいの少年が、トランプか何かで出来たマントをはためかせ、宙を浮いていた。

「符術結社『トラッシュ』の次元世界代表プレーヤー、ロードスターさ、よろしくね」
 あっけに取られた男達と握手する謎の少年、魔法世界の存在を決定的に意識付ける。

--------こうして、97管轄外世界に悪名高い魔道結社の幹部達が終結することとなった。
 まず狙うのはこの世界における島国『日本』
 強国でありながら、危機感の薄い其処からならば、一年とたたずこの世界を征服する足がかりになりえる。



「ところで、後ろに並んでいる料理はこの世界のものかね?」
「なかなかおいしそうじゃない?食べていい?たべていい?」
 はて、気が付くと其の大広間にはクロスが敷かれた大きなテーブル、様々な料理が並んでいた。
「は?はい、どうぞどうぞ」
 気軽に進める龍(ロン)の代表者であったが、黒服たちは(俺達あんなもの用意したか?)(さあ?)などといぶかしむ。

 気が付けば20卓ほどに備えられた料理の数々。
 後から後からゲートから出てくる異世界人たちも、気色蔓延に有り付いた。

 だがしかし、その場に響く笑い声、誰もが手を止め其の出所を探る。
「--------どうやら次元世界のお歴々、テーブルマナーがなっていないようだな?
その『変態秘料理』で使うのはナイフやフォーク、はてはチョップスティックなどで口に運ぶものではない」
「「「「だれだッ!?」」」」

 ダークスーツの男達、またかよと頭を抱える。
 今日本を騒がせるあのスーパーヒーロー、尻を抑えてとっとと逃げ出したほうが勝ちだ。

 やがて目を疑うほどの巨大な馬が、カートを前足で押しながら登場。
 ぱか、と銀色のフードを取ると、其処には巨大な皿の上でセクシーポーズを取る変態仮面がいた。
 無論、果物や飴細工などで神々しく彩られていたが、

--------デザートではない、寧ろメインディッシュである。

 噴出す次元世界人、吐き出す次元世界人を尻目に、変態仮面は目をくわッと見開いて告げたものだ。



「--------welcome!(ようこそ!)」



[25078] 【無印編九話】暗闘の果て
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/19 03:51
 さて一方、次元航行艦『アースラ』は謎の輸送艦襲撃に遭い、危険なロストロギアが落ちたという管理外世界97番、
現地名『地球』を目の前にして、横槍を食らっていた。

「上陸できないって、どういうことですか!艦長!!」
 黒衣の執務官が怒鳴るブリッジ、艦長席に深く腰掛けた女性は思案顔を押し隠し、告げた。
「本局からの正式な通告よ。
『現在、当該世界は陸が中心となって行われているプロジェクトの観察地域に指定されている』
--------かといってプロジェクトの内容は秘匿されているし、正直腑に落ちないことだらけね」
「陸からの妨害では?」
「そうだったらあまりにも不躾すぎるわ。
それに、本局から、と言ったはずよ?」
 思考を暴走させるオペレーターに向けて言いとどめる女、名をリンディ・ハラオウン。
 次元世界を束ねる治安維持組織『時空管理局』に籍を置く女傑、階級は提督である。

「あの世界には今、危険な『ジュエルシード』が散乱しているんです、
暴走を始めてからじゃ手遅れなんですよ!?」
「解かったから、そう怒鳴らないで頂戴。
もちろん本局にはそう伝えて、現地の宙域につく頃までには上陸許可を取って見せます」
 めずらしく熱くなる執務官--------自身の息子でもあるが--------を叱責し、目を伏せる。
 もちろん、何度も通告の撤回を申請してはいたが、覆る様子は見られない。
 よもや、管理外だからといって滅びるまで静観するとは考えがたいが(冗談抜きで全次元の危機だ)
一体あの世界で何が行われているのか、正直不気味である。

「あっ……」
 オペレーター席についている少女が声を挙げた。
「どうした、エイミィ」
 近づいて行く執務官、いつもは飄々としている彼女に、珍しく焦りの色がうかがえた。
「あのね、クロノ君、落ち着いて聞いてね?
--------もう、ジュエルシードの暴走、始まってるみたい」
「なんだとッ!?」
 それが伝播したか、騒がしくなるアースラブリッジ。
 やがて正面の大型スクリーンに映し出される画像、人口衛星の監視ログをハックしたものであろうか、
全体的に緑がかった写真である。
 画像は一時間おきに撮影されたものらしく、都合2時間ほど、市街地を覆い隠した巨大な木。
 ピーク時には魔力による発光現象まで確認でき、3時間目には何事も無かったかのように消失。
 跡に残されたのは瓦礫に埋め尽くされた町並みだけである。
「おいおい……どうなってるんだよ……」
「現地は大丈夫なのか?混乱してないのか……」
 片っ端から情報を集め始めるクルー達、落ち着きを見せているが、艦長たるリンディも固唾を飲んだ。

 やがて、アレックスという青年が、現地のコンピューター、ネットワークから当てはまりそうな動画を発見。
「……現地の報道番組を録画したもののようですね、こっちの形式に書き換えてモニターに出します。
結構高画質で……翻訳にも時間が……出来ました、どうぞ」



--------そして次元航行艦に大写しになる半裸の男、木人との素敵なショータイム。
----------------一人の例外も無く、アースラスタッフはミッド汁を噴いた。



「「「「「「「「「「「--------どうぞじゃねえよ!!」」」」」」」」」
「ちょw怒られるの俺ですか!?」
 腑に落ちない憤り、やがて一通り踊り狂った後、ジュエルシードの暴走体と見られる木に組み付いた半裸の男。
 やがて光の粒になって、町中を覆っていた惨状は姿を消した。
 アナウンサーの声がBGMとして流れる間、画面の右から左へ『ブラヴォー』とか『ちょwウッドペッカー』とか
文字が流れていって見づらい動画この上ない。

「これは……『ええじゃないか』ね」
 一通りスタッフの混乱が収まった後、沈黙を保っていたリンディが口を開いた。
(--------いいのか?)
(これでいいのかよ!?)
 などと再びざわつき始める面々、息子にいたっては本気で母親を心配そうに見つめる始末。
「……ちがうわみんな、GOODとかそういう意味じゃないの。
『ええじゃないか』というのは現地の言葉でね、儀式魔法の名称よ」
 落ち着き払って告げる様から、そこはかとない真実味を感じる面々。
「--------しかし艦長、この世界は魔法文明が無いのでは?」
「今はね、ただ一昔前はいろいろあったらしいわ。
加えて『例のもの』が落ちた場所は向こうでも指折りの歴史がある国、日本というのだけれど。
昔から土着の神々を奉っていてね、飢餓や気象災害なんかがおこったら、祭りと評してみんなでああやって、踊るのよ?
原始的だけれど、陽の気を伴った確かな魔力の発動方法ね」

 何度か巻き戻された動画、おそらく事態の中心であろう変態を検分していたエイミィ。
 ちょっと頬を赤くしてしばらくはその股間に注目していたが、ふと何かに気がついたのか、男の足元を拡大する。
「ちょっと、クロノ君、これって魔道式じゃない?」
「--------そうだな、それにこのタイミングで伸ばしたのは、魔力刃だ」
 こけしを大量生産したシーン、少女の手元にある画像を指摘する執務官。
「どうやら、現地にはすでに魔導師がいるみたいね?」
 やがて落ち着きを取り戻したスタッフ達を尻目に、リンディは安堵の溜め息をつく。



 とりあえず適当なことを言って場をとりなしたはいいが、一体あの世界で何が起こっているのだろう。







 そして本作におけるもう一つの船『いんふぇるの』号に視線を移してみよう。
 真実を知りたがる次元世界人も目を覆いたくなる惨状の真っ最中だ。

「--------うてうてぇ!!」
 腰だめにデバイスを構えた違法魔導師たちが放つ魔力弾をピーカーブースタイルで突破する我等が変態仮面。
 手近な男へ向けカエル跳び成敗、反対側の男へフランケンシュタイナー成敗。
 ヘッドスプリング成敗からシャイニングウィザード成敗に繋げ、股間のやきそば5秒に満たぬ内に悪漢たちの胃袋へ納まった。

 やがてサブマシンガンを携えた黒服たちがセコイアの号令で、変態へ鉛弾のシャワーを浴びせにかかる。
 だがしかし、落ち着き払って傍らのテーブルに拳骨を打ち付けると枝豆が盛られた籠が宙に浮いた。
「--------フォア~たたたたたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 舞い踊る緑色のさや、一つ一つ手にとって目に見えぬ速度で銃弾を捉えてゆく。
 やがて再び、山盛りになった枝豆のかご。
 テーブルに置かれた時に鳴った『ドサリ』という重い音から察するに、中身を丸ごと弾丸(マメ)にすり替えたらしい。
 では、はたして。
 本来さやに収まっていた無数の枝豆はどこにいったのか?



--------結論から言えば、息子と一緒に股間の中であった。


 尻からテーブルの上に乗った変態仮面、背中に奔るパンツのゴムを弓のように引き絞り、パチンと手を離す。
 たちまち股座から炸裂する緑色のクレイモア、一発も無駄にせず悪漢達の口の中へ。
 数十人から成る集団を一瞬で昏倒させる魔味。

 しかし、頭上では符術使いの少年が攻撃の準備を終えていた。
「魔法カード発動!ヘルファイアッ!」
 少年の声に気づいた変態仮面、手直に有った北京ダッグの薄餅(小麦粉で作った皮のようなもの)を束ねたまま
拍手を鳴らすと、其処には絨毯サイズにまで広がったヴェールがあった。
「インタラプト--------包み込む母の愛」
 ヴァサ、とロードスターにかけられる布、跳躍した変態仮面が太ももで挟み上げるたびにひだが出来る。
 巨大な餃子になった符術使い、しばらく宙をふよふよとさまよっていたが、窒息したのかやがて落着。
 内側からこんがりと焼け目がついてゆく、どうやら魔法カードが発動したらしい。

「畜生!変態め、踏み潰してやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 龍(ロン)の幹部が戦車を繰り出した、船の上というのにどうやって持ち込んだものか。
 キャタピラァをきしませながら向かってくる驚異、しかし狙われる彼は振り向きざまに、

「----------------キラッ☆」

 国際手話で『あいしてる』のサイン、目から放たれる質量炎が空気と引火、大爆発。
 たまらずに横転した戦車から這い出す龍(ロン)のボス、向かって行く変態仮面。

 途中机から10本以上の、多種にわたる酒瓶を掴んで静かに呟いた。


「変態秘奥義--------『溜飲大瀑布~ザ・カクテルバー~』」


 ビンの口を纏めて口に突っ込んだ変態仮面、一息に中身を飲み干すと上下左右に腰を振りたくる。
 這いずるボスに顔面騎乗、気持ちの悪い数十秒が過ぎて、やがてブルリと一度身震いする。
 やがて立ち上がり、次なる獲物に向け歩を進める、足取りに酔いは認められず、

--------ただ一度、Tバックの位置を音立てて直した瞬間に、
----------------ボスは形容しがたい色の液体を噴出し、悶絶する。

 この作品の変態は特殊な訓練をつんでいます、決して真似しないよう。
 加えて、この作品はフィクションです、転生前後30年を生きるオリ主は未成年の飲酒に当たりません。
 飲んだら乗るな、乗るなら飲むな--------この技で伝えたいことは以上である。



 次々と襲い掛かる人類にはまだ早すぎる技の数々、変態無双ぶりに恐れをなして逃げ出そうとする悪漢の一人。
 だが一人足りとて逃がしはせず、首根っこを捕まえて一つ問うた。
「ところで『すばらしき実包の会』構成員君、自分の首領を見てどう思う?」
「正直、足の間に機関銃はどうかと……」
「ホッとした--------君は普通に逝って良し」
 殴り飛ばされてうれしそうに壁にめり込んだ違法魔導師、やがて最後の一人になったヴィクトリア。
 逃げ出せもせずにしりもちをついていた……そんなもん履いているからだ。
「さて、ご婦人には甘いものがよろしいか。
バナナとさくらんぼ、どっちがいい?何、どっちも?欲張りな事で振る舞い甲斐がある」
 股間に盛ったダイナマイト・サンデーを突き出されたブローカー、絹を裂いたような悲鳴。
 そんなに大口を開けないほうが良い。
 待っているのは次元世界のどこを見ても行われていないバカップルのシチュエーションである。
--------はい、アーン。



 そして、再び起こった一時間にも満たない惨劇の後、転々と転がる犠牲者達の山。
 異世界で振るわれようとした力は、更なる大きな力にねじ伏せられた。
 諸行無常の響き有り、死して屍拾うもの無し。
 ちなみに用意した食材は、スタッフにすべておいしくいただかせました。






 海鳴埠頭で愛を囁きあっていた恋人同士が、不意に大きくなった波に気づく。
--------やがて地平の果てから迫り来る其の影に気がついたとき、声を合わせて叫んだ。

「「馬ァ!?」」

 力強いバタフライで岸へ迫り来る雄範誅(おぱんちゅ)号、だがしかし、異変は彼だけに留まらぬ。
 今宵、足につけられた鉄球、其の後に何かが牽引されている。

「「--------船ェ!?」」
 豪華客船『いんふぇるの』号、海鳴港に座礁。
 波止場に足を掛け、トランペットを吹き鳴らす巨馬、其の哀愁漂う音色は、やがて来る決戦を暗示していた。





 そして翌日、フェイト・テスタロッサはジュエルシードの反応を見つけ、封印に駆けつける。
「これで3つめ……」
「9つめだろう?あのお人よし達に貰った分を含めればさ?」
 復帰したアルフが疑問符を浮かべるが、フェイトは首を振るばかり。

「ちがうよアルフ、この6つは借り物だ。
おかあさんに会う前に、できればもう一つは集めたかったかな……」
「気にしすぎじゃないかい?向こうが勝手によこしたんだし。
そりゃあ、あの鬼ババが何をするつもりか解かったら、報告くらいはしたほうがいいと思うけど」

 顔色の優れないフェイトを気遣って、帰ろうと促すアルフ。
 眠りは浅く、ろくに食事も取ってない主の心中を慮り、もうじき再開する母娘の間に、何事も無いことを祈りつつ。

(正直、あたし以外に誰か、フェイトの支えになってくれる人がいるといいんだけれどねぇ。
あのお嬢ちゃんたち、なにかあったら取り返しに来るって言ってたらしいけど。
フェイトが虐待されていることを知ったら、やっぱり助けてくれるんだろうか……)

 もうじき、時空管理局も自分達を嗅ぎ付けて来よう。
 晴れ渡る空に反して、自分達の境遇には暗雲が立ち込めていた。






 そんなアルフから強奪したパンツを電子レンジで温める男が一人。
 アールワン・D・B・カクテル--------メアリー・スーテスト65点のオリ主である。

 しっかりとジッ〇ロックされていた故、鮮度は完璧であったが、
はたして暖めなおしたパンツを被ってオーヴァードライブできるか否か。
 一応被れば目的は達成できそうではあるが、いかんせん潜入する場所は原作決戦の地だ。
 万全であることに、越したことは無いのである。

 やがて人肌に温まった其の布切れを広げ、意を決して頭にかぶる。



「----------------大佐のベッドで、ラ〇ァ・スンという寝言を聞いた女が何人もいるッ!!」



混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
 1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)

 おっ、大丈夫、イけるイける。

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 脈動する変態アドレナリン、気分はエクスタシー。

 そして見事変身した変態仮面はダンボール片手に『いんふぇるの』号のホール、ステージに設置された転送ゲートの前に立つ。
「では、雄範誅(おぱんちゅ)号。
--------後の事をよろしく頼む」
 腰にテグスを巻きつけながら、傍らの愛馬に声を掛ける。
 釣竿を持った雄範誅(おぱんちゅ)号は一つ頷くと、次元を超えるオリ主へむけて手を振った。

 目的地はフェイトの母、プレシア・テスタロッサの待つ敵の本丸『時の庭園』
 はたして場所はアルフのパンツが導いてくれるとして、目的のものを見事、奪ってくることが出来るか……。



[25078] 【無印編十話】奪取
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/19 11:43
 最近なのはの様子がおかしい。
 友人の特徴的な後ろ頭を眺めつつ、アリサ・バニングスがいぶかしむ。

 時折えへら、とうすら笑いを浮かべては地図帳を眺めて難しい顔をしてみたり。
 図書室でお菓子の作り方の本を眺めては自分のスカートの中身を検分したり。

「なのは、最近なんかうれしそうだけど、いい事あった?」
----------------と、いうわけで手っ取り早く聞いてみることにしました。

「あ?わかるわかる?アリサちゃん。
なんだか新しい友達が増えそうな気配なんだよ!」
 ド級の笑みでそう答えるなのは、下校する生徒が其の瞬間凍りつく発言であった。
 瞬間アリサの脳裏に思い起こされるのは彼女、そしてすずかと友人になった1年生の時。
「あんたッ!!まさかまた人のパンツ剥ぎ取ったりしていないでしょ~ねッ!?」
 つかみ掛かるアリサ、目が座っている。
 だがしかし、其の射抜くような瞳に臆することなく、なのはは笑顔で否定した。
 あからさまにほっとする周囲、この学校において彼女達の縁を結んだ事件に関しては禁句である。



 かつてアリサはわがままの過ぎるお子様であり、気に入らない相手にはいじめに近い当たり方をしていた。
 そして、今では其処までひどくは無いが。
 すずかは自分の大切なヘアバンドを奪われても強く出ることが出来ない意思の薄弱さであり。

----------------なのはのパンツ信仰は今とそう変わらない力強さであった。

 頭上に戦利品を掲げ、かえしてかえしてと飛び跳ねるすずかを意地の悪い視線で見下すアリサ。
 なのははそんな彼女に問答無用で足を掛け、転倒させると、躊躇無く其の腰からパンツを引き抜いたものだ。

「これでわかった?----------------大事なものを取られちゃった人の心はそんなに苦しいんだよ?」

 泣きそうなすずかの頭に『はい』とアリサのパンツを被せてあげるなのは。
 瞬間、二人はマジ泣き入った。
 取った取られたという無常の世界、下手人はなぜ二人が泣き出したのか心底わからない様子で。
 親が呼ばれるわ周囲は距離を置くわでそれはそれは大変な騒ぎになったものだが、見かねたアリサとすずかが
 彼女に近づいたことで落としどころを得たのである。

 ちなみに、一度『いかに他人のパンツを奪うことが恥ずかしいことであるか』を説いたところ、
 倍の時間『パンツの有り難さ』を説法されたものだ。
 ちなみに、今でも上記の一件に罪悪感は覚えていないらしい。



「でもでも……最近の変態仮面さんブームを鑑みるに、なのはちゃんには先見の明があったのかも……」
「なにをいいだすのすずかッ!?」
 えへんと胸を張るなのはを押しのけ、息巻くアリサ。
「そうだよアリサちゃん。
私の最近の野望はね、この海鳴に『パンツのテーマパーク』を作る事なんだよ?」
「『パンツのテーマパーク』ッ!!!!」
 恐るべし高町なのは、其の野望留まること無し!
 その場にいた少年少女の脳裏に浮かぶ想像図、パンツ丸出しのマスコットキャラクターが来場者達に挨拶と表して、
次々とスカートめくりを敢行する園内。
 うれしそうにパンツの形をしたお菓子を食べ歩くカップル。
 変態仮面を中心に色とりどりの縞パンが輝くナイトパレード。
 そして来場者達はうれしそうにパンツをかぶって帰路に着くのだ。

----------------ちなみに下着姿のお姉さんがもてなしてくれる想像をした小学生男子。
--------------------------------君は、爆発してよい。



「おねがいですから其の野望、うちのパパには教えないでくださいッ!
最近女性下着を使った新しいビジネス・プランに飢えているんですッ!!」
 すがすがしくも土下座を敢行したアリサ、周りのクラスメイト達はそんな彼女にしがみつくと即席で用意した
横断幕を手に『ぱんつは腰に!ぱんつは腰に!』と叫び始めた。

「なのはちゃん、あれは日本の誇る謝罪文化の亜種『タンクデサント・土下座』だよ……」
「おっかしいなぁ、みんな喜んでくれると思ったんだけどなぁ……」
 過積載極まりない其の姿をものともせず、なのはのほうに向かってくるアリサ@土下座タンク。
 其の思いがけないスピードに、なのはとすずかは血相を変えて逃げ出した。






 かたや視線を翠屋のほうに向けてみよう。
 ご近所でおいしいお菓子を作ると有名なパティシェの桃子さん、昼間だというのに珍しく、
なのはと同世代のお客様を迎える。
 見たところ海外の子であるようだし、親戚の家に遊びに行くのだろうか?

「いらっしゃいませお客様?どういったお菓子をご希望ですか?」
 ものめずらしそうに見回していた少女へ優しく問いかけると、おずおずと答える。
「あの……おかあさんにお土産を買いたいんですけど、どういったものがいいかわからなくて……」
「おかあさんにね?わかったわ、良さそうに包むから其処に座ってまっててね?」
 ケーキ箱に手早く商品を包む桃子さん、ふと気が付いたように厨房に駆け込むと、紙ナプキンに何かを包み、
待っている少女に手渡した。
「そうそう----------------これ試作品なんだけど、良かったら食べて感想聞かせてみて?
もちろんサービスだから」
 まだ暖かい、ドラ焼きのように2枚張り合わされた三角形のケーキ生地、中にはいちごジャムが入っていた。
 なかなかに美味い、何と言っても生地がちがう。
「とてもおいしいです……これ、なんていうお菓子なんですか?」
「そう、よかったわぁ。
今度のお祭りのとき出店を出展しないかって言われていてね----------------パン・ケーキって言うのよ?」
「パン……ケーキ……」
 何故だろう、おいしいとかおいしくないとか、パンなのかケーキなのかという以前に、
とても大きな問題があるように思える。
 コレで中身がチョコであったなら、そして多分生クリームでもダメだと思わせるようななにか。

「はい、どうぞ。
お母さんによろしくね?」
「はい、どうもありがとうございます」
 桃子から包みを受け取ると頭をチョコンとさげる少女----------------フェイト・テスタロッサ。
 今日は次元を超え、母の待つ時の庭園に成果を報告する日である。







 そして舞台は『いんふぇるの』号の中、昨夜の戦闘で胃腸を負傷した謎の不法滞在者たちはすでに運び出され、
静まり返る船内を検分しているのは香港国際警防隊所属----------------御神 美沙斗。
 高町美由希の生みの親であり、御神流・裏を扱う海鳴最強の女剣士。



----------------そして、本作品のメインヒロインである。



 この鉄火場と化した海鳴にひそかに潜入した美沙斗、時折出てくる『魔法』という単語にさえぎられ、
上手く調査の進まぬ日々。
 あわよくば兄夫婦の家に挨拶し、加えて自身の娘とふれあう機会も有ろうかなどと考えていたがゆえ、
苛立ちも募るというものだ。

 果たして、そんな彼女は大ホールの扉、其の前に立つ。
 ここから先は現地警察も危険と表して近づけなかったという。
 テープでさえぎられた先に足を踏み入れ、おもむろに扉を開けた。

「……これは……一体……」
 散乱された皿、横転した戦車、焼け焦げた壁、銃痕が残る床、反吐の跡、そんなものはどうでもいい。

 鉛弾の詰まった枝豆のかごもどうでもいい、ステージの上にある謎の輪。
 一体何の装置であるか、そんな事を考えた其の時。
 横で釣竿を片手に缶ビールを飲んでいた巨大な影が此方に気が付いた。

「…………馬ぁ…………?」

 雄範誅(おぱんちゅ)号は蹄で器用に缶チューハイをカチ上げると、カンと小気味良い音を立て美沙斗へ打ちよこす。
 どうやらこちらに来て、一杯やれという魂胆であるらしい。
 是非も無い、美沙斗が追っていた今回の事件、其の重要参考人が愛馬。
 名をお…………雄範誅(おぱんちゅ)号といったか?
 ひそかに接触しようと策をめぐらせたものの、ついぞお目通りかなうことが無かったトラブルバスター。
 神出鬼没な其の男の、ようやく掴んだ手がかりである。

 一人と一頭、虚空を映し出す謎の輪を前にして、其のテグスが向かう先、深遠の彼方で何を釣らんとしているのか。
----------------オリ主の意思を思案するのである。







 そしていよいよ、視点を件の時の庭園に移そう。
 集めたジュエルシードと手土産を持ち、揚々と母の前に凱旋を果たしたフェイト・テスタロッサであったが、
迎えた現実は非情であった。

 扉の隙間から其の部屋を覗き込むアルフ、今まさに主の真心、手土産のケーキが踏みにじられたところ。
 フェイトが母であるプレシア・テスタロッサに差し出したジュエルシードの数は3個。
 受け取ったプレシアは冷え切った視線で少女を見下すと、

----------------無言でフェイトの頬を殴った、平手ではなく拳で、だ。

「あれだけ時間を与えて見つけてきたのはたったの三つ、あまりにも少なすぎるわ、フェイト」
「ご、ごめんなさい……おかあさん」

 あまりの衝撃で立つこともできないのか、床に転がされたままか細い声で答えるフェイト。
 威力ではなく、心意的なショックである。

 だがしかし、現実はさらに過酷に少女を攻め立てるのだ。
 少女の胸のうちから僅かに魔力反応を察知したプレシア・テスタロッサ。
 足でフェイトを蹴り転がすと、胸倉を掴んで服の内をまさぐる。

--------------------------------出てきたのは、さらに6つのジュエルシード。

「フェイト……どういうことかしら?コレは----------------」
「おかあさん、ちがうの!
この6つは借り物で……」
 今度は容赦の無い蹴りがフェイトの腹部に突き刺さる。
 床を転がる小さな体、ようやく止まると激しく咳き込む。
「言い訳など聞きたくないわ、こうして私の前でジュエルシードを隠していたのは事実。
大体借り物などと…………要するに、貴方とは別にジュエルシードを捜索している『邪魔者』でしょう?」
「ち、ちがうよ……なのははもう私のジャマなんか…………」

 少女の言葉を最後まで語らせること無く、バインドで壁に縫いとめられた其の体。
 かつかつと高い音を響かせて、サイドテーブルのほうへ向かうプレシア、身動きの取れぬフェイトを視線で射抜きながら、
愛情のかけらも無い声で言い放つ。
「あまつさえ口答えなんて……どうやら私の『教育』が足りなかったようね」」



 扉の影から口惜しげに見つめるアルフ、ここで割り込んではまた、フェイトへの体罰が苛烈に成るばかり。
 幾度主は鞭打たれたのだろう、数えるのも腹立たしいほど連日連夜にわたり続くプレシアの責めに、
母であるからと言う理由だけでなんの疑問も持たず受け続けるフェイト。

----------------誰か、助けてくれ。
----------------いずれ二人が離れようとも、おそらく少女を責め続けるだろう永遠の地獄を、だれか叩き潰してくれ。

 そんな祈りも空しく、今日もプレシアは後ろ手に、愛用の鞭を手にとって……。







「…………だからね……この世界も…………そんなに、わるいもんじゃないんだよ……聞いてる?」

 この女どうしよう、と雄範誅(おぱんちゅ)号は冷や汗をかいていた。
 かなりの兵(つわもの)と見た其の女、御神美沙斗、酒もさぞかし強かろうと誘ってみたはいいものの。
----------------こやつ、静かにからみ酒。
 あるいは、よっぽど何か溜まっていたのやも知れぬ。

「あんたの…………飼い主も、ひっく……たいしたものらしいけど、ね。
むかしっから…………むかしからさ……」

 早くしてくれわが主、このままでは鬣が全部抜けてしまう。
 ぶちぶちといやな音を立てながら巨躯の頭をなでくりまわす美沙斗。



「----------------この街には、おひとよしが、多いんだよ----------------」







 むにゅり、と生暖かい感触がした。
 間違えても己が求めた、鞭の柄の感触ではない。



「鞭ではない----------------其れは私の『ムチャ振り☆紳士』だ」



 ギギギギギ、とブリキ細工のように首を回すプレシア、顔を引きつらせるフェイト。
 そして人知れず、扉の奥で拳を握り締めるアルフ。

「お探しのものは此方ではありませんかな----------------ご婦人」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」

 右手をプラプラさせながら全速力で後退するプレシア、面白いほどに腰が抜けている。
 一度空間モニター越しに姿を見ただけの其の男。

 面妖にも手足に魔道式を絡ませ、体にブラジル水着の様なものを纏い。
----------------そして今日はなぜかG〇NDAMと書かれたダンボールから手足をババンバンと出し。
 何よりも、其の男は顔をパンツで隠していた。



 左様、其の男----------------変態仮面。
 探していたものは思いのほか、アルフ譲りの嗅覚で楽に発見できたため。
 ここは家主に挨拶でもしておこうか、と思った次第。
 平行世界のどこかで、機械の体を手に入れた青年が親指を立てた気がした。



「おやご婦人、どうしました?
そんなに手を震わせて、それではこの武器をもてないではありませんか。
………あるいは冷え性ですか?こんなに薄暗いところにいたらさぞかし血行にも悪い」
 なんでもない世間話でもするかのように問いかけながら、プレシアに詰め寄る変態仮面。
 そのプレシアはフェイトのバインドを解除すると、其の小さな体を抱きしめて震えていた。
 思考はすでに、ショートしている。

「ならばいっその事」
 変態仮面の瞳が実炎を吹いた、鬼火を思わせる怪しい輝き。
「----------------貴様をホカホカにしてやろうか?」
 鞭をプレシアの眼前に落とすと『ムチャ振り☆紳士』を突き出す。
 危ういところである、気づかず鞭に手を伸ばしていれば自分からこの怪人の股間に顔を埋めるタイミングであった。

「この変態!変態!離れなさい」
 限界まで腕を伸ばし、ようやっと愛用の鞭を手にしたプレシア。
 無理な体勢からぺしぺしと放つ攻撃は実に力なかった。
 元より、この時の庭園にいれば相対することは無いと捨て置いた相手である。
 こんなことならば、きちんと変態対策を立てておくべきであった、もちろんもう遅いが。

「……さて、少女を鞭打たれるくらいならばいっそ自分が、と思いこの身を呈しているわけだが。
このようなか細い威力では、そのなんだ----------------イけぬ」
 さては気分が乗らないのだね?そう言い放つとしばらく奥へ姿を消す変態仮面。
 帰ってくるときは肩に大きな生体ポッドを担いできた。

「コレならば、少しは興が乗るのではないのかな?」
 中になんだかフェイトに良く似た幼女が納まったポッド。
 この少女は何者かと注目するフェイトの目の前で、変態仮面はどっかりと上にまたがった。



「----------------さあ、ばっちこい」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!アリシアッ!アリシアッッッ!!」
 

 ビシィ!ビシィ!!と先程とはうって変わって激しい音を立てるプレシアの鞭。
 フェイトは、そうか、この子はアリシアというのだね、と納得。
 そして変態仮面の纏うダンボールが『ありがとうございます!!』という幻聴と共に砕け散る頃には、
プレシアの息はすっかり上がっていた。



「さて、今度は私の番といいたいところだが。
----------------君に必要なのはお仕置きではなく冷却期間と考える。
--------------------------------故にこの幼女は預からせていただく。
------------------------------------------------では、サラダバー」



 腰に巻きついていたテグスをビンビンと弾くと、変態仮面の目の前に転送ゲートが出現し。
 息もつかせぬ速さで中へ吸い込まれる変態仮面、もちろん跨っていた少女の入っていたポッドも一緒だ。



 ようやっと娘がかどわかされたことに気づくプレシア・テスタロッサ。
 何事か叫ぼうとして、吐血した、喀血した、血を吐いた、ちょっと引くぐらいの量だった。
「お、おかあさん!よくわからないけどあの女の子を取り戻してくるよ!!」
 そう言って駆け出そうとするフェイト、だがしかし其の後姿を掴んでプレシアは言う。
「いいから、あなたはジュエルシード探しに専念なさいッ、あの子の事はきにしなくて、いいからッッッ!!」
 フェイトも始めてみる、まさに必死の形相であった。







 さて、ようやく釣竿に感あり。
 まってましたとばかりにゲートに蹴りを入れる雄範誅(おぱんちゅ)号、そして怒涛の勢いでリールを巻く。
 すっかりピクニック気分で12缶目を開けていた美沙斗、釣り上げられ其のゲートから飛び出してくる男に目を奪われる。

 幼女の詰まったポッドをサーフボード代わりに、カゲキにゲットライドする変態仮面。
----------------炎を宿した其の瞳と、酔って潤んだ瞳が一瞬交差した。

(今のは……誰だ?)
 原作では見知らぬ顔、まさかあの狐と同じく自身の知らぬ『とらハ』勢なのか?

 そして思考も一瞬、空中でF/S180ヒール抜けをかますと、再び愛馬がぶち開けた穴から海へ逃げ延びる変態仮面。



 そして、海の上を走る雄範誅(おぱんちゅ)号に引かれて水上スキーの如く滑走するアリシアの詰まったポッド。
 そして其の上に伊達乗りした変態仮面は猛スピードで迫る岸を前に思案する。
----------------たとえ幼女誘拐の誹りを受けようと、少女達の輝ける明日のために。
 逃げもなし、媚び諂いもなし、反省もなし。



 この時より、原作の壁を越えるべく、真の意味でオリ主の暗躍が始まるのだ。



[25078] 身辺整理(1)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/03/14 04:18
 自身の顔から、パンツがはがれなくなる夢を見た。
 やがて自身の背中に真っ黒な羽と尻尾が生えて、世界を蹂躙する悪魔に成り果てるところで目が覚めた。

------------最悪の寝起きである。

 朝焼けが海鳴の街を美しく染め上げる頃。
 ペットボトルの中身を絞るように飲んだアールワン、背をカラオケ屋の壁に預けると深い溜め息をつく。
 酷使した喉とはまた違った渇きが、男の体を蝕んでいる。

 全てのあらましと予定を輩たる雄範誅(おぱんちゅ)号に伝え、別行動を取るオリ主。
 これから次元を又にかける法の番人たちの、虜になるつもりだ。
 もしかしたら、この街にはもう帰ってこれないかもしれない。

 だが、それでいい。
 強敵、高町なのはにあるべき平穏を還し、これからは正しい物語の道筋をなぞるだろう。
 自身には其れを共に歩む資格など、きっと残されていないのだ。


 平行世界にあまねく存在するオリ主、クロスキャラ達よ。
------------どうにも『原作』というものは一筋縄ではいかぬようだぞ。






 そんな事を考えていると、腰に刺さったデバイスが着信を告げる。
『アー……ぼっちゃんかイ?』
「『医者』か、早朝にすまないな。
------------『預け物』の様子はどうだい?」

 電話の相手は後援会の中でも最年長の男、繁華街の裏路地に居を構える裏の医者である。
 専門は産婦人科であるが、子を取り上げるより弾丸を摘出するほうが多いタイプの老人であった。

『様子も何も、ぐっすり『ねむって』おるヨ。
それにしてもなんという高レベルな延命装置じゃ、このお嬢さん、今にも生き返りそうじゃのウ』
「ほう、其れは知らなかった。
------------------------死人は、生き返るものかね?」
 其れはわしも知りたい、と電話口で声を荒げる『医者』。
 見当違いかも知れないが、と注釈した上で諭すように告げる。

『------------ぼん、今お前さんがどんな厄介ごとにマラを突っ込んでるのか知らんが。
どうあっても死人は生き返らんヨ?
もし出来るものがいれば、其れは神様の仕業じゃ』


「------------------------然り」



 とても、実感のこもった声色でアールワンは答える。



 自分が迎えに行くまでしかと預かっていてほしいと告げ、男は電話を切る。
 遠く異界の地で救いを待つものの名はアリシア・テスタロッサという。

 其の亡骸に、オリ主は自身を重ねているのかも知れぬ。





------------いってきます、そう元気に告げて家を出るなのは。
 いつも通りの其の後姿を、高町家の面々は長く見失うことになる。

 世間ではなんでもない平日、穏やかな朝の出来事であった。





 まったく睡眠時間の足りていない頭を振り、街を歩くアールワン。
 本日二度目の着信をデバイスが告げる、映し出された名は『古着屋』。
 性懲りも無く平日真昼間から、又酒盛りでも始めようという魂胆か?

「------------ヘロウ」
『あ、ぼっちゃん?
いい話があるんでゲスが、ずいぶん眠そうでゲスな?』
「私はいつだって夜型の男だよ?
まあ、疲れているのは確かだ、成果の出なかった事にいつまでも固執するつもりは無いがね」

 夜っぴてカラオケの個室に篭り、パンツ2丁で歌いまくるオリ主。
 ボーカロイド文化を『変態秘奥義』に取り込む実験は失敗した。
------------DBDB(ダバダバ)にしてくれる、とかマジで寒すぎる。

『ああ、単に元気が無かっただけでゲスか……だが、しかし!
安心するでゲス!!今回の話はもう!本当に耳寄りでゲスよ!!
早く駅前のファミレスに来るでゲス!!』
「『!』マークを使いすぎだぞ『古着屋』め。
------------一体どんな事件かね?」

 一応聞くだけ聞こうというアールワン、いまだかつて無い息巻き様から蹴ったら後が怖い。


『------------おんな紹介してあげるでゲス』
 再び深く溜め息をつく。





 フェイト・テスタロッサの脳裏を占拠するのは、母と変態仮面が連れ去った少女の事である。
 気にせずにジュエルシードを探せ、といわれたが、たとえばワイドエリアサーチにかかる反応が有れば。
 おそらく自分はあの少女を優先するに違いない、と冷静に自己分析する。

「あの鬼がすっごい気にしてた娘さ、ひょっとしたら、リニスなら何か知っていたかもしれないね」
 会話の無さを気にしてか、あるいは単に主の心象を慮ってか。
 アルフはそんな事を呟いた。

「そうかもしれないね。
 でもアルフ、安心して?
 なんか予感でしかないんだけど、あの子の存在はきっと私達をいい方向へ導いてくれると思う。
 ずっと不幸で苦しんでいた母さんも、其れを助けたいって思った自分の気持ちも。
------------きっと報われるようなそんな予感がするんだよ」
 前を向く主の横顔は、今までの悲痛さが少し抜けたような。
 希望の一端を垣間見たような、そんな顔であった。

「------------信じるよ」
 拳を突き出して笑うアルフ、そんな折、魔法少女はジュエルシードの反応を察知した。
 速度を上げる二人、場所は海沿い、今はただなすべき仕事を成そう。



------------そんな彼女達に立ちはだかるものは、ジュエルシードモンスターの皮を被った『世界の脅威』






「…………あの女は」

 似合わない背広を着た『古着屋』の席はすぐに見つかった。
 そして同伴している女は、『インフェルノ』号にて、ちらと見かけた存在である。



--------だが其れよりも、窓際の席で痴話げんかしているカップルが気になる。



「やあやあ、潔く来てくれたでゲスな?
ドリンクバーとって来るでゲス、何でもいいでゲスか?」
「------------アイスコーヒーを、氷はいらないよ、ガムシロも」
 目の前の女に会釈をすると、前の席に腰掛ける。
 見た目十代後半、相当の美人であるが、それ以上に剣呑な雰囲気を感じさせる。
 尤も、此方に殺気を放っていないところを見ると、敵対者というわけでもなさそうだが。

「すまないね、どうやら私の知人が連れ出したようだが、学校は良かったのかな?
それともすでに就職しているのかい?」
「…………学校は……高校を中退しているからね……勤め先も海の彼方だよ?
………それなりに、時間に融通が利くからね……今日は『古着屋』さんに……無理を言ったのはこっちなんだ……」
 どうやら荒事のほうであったか、少しほっとするオリ主。
 ややあってグラスを手に帰ってくる『古着屋』
 そういえば最近見ていなかったな、このハゲかかったパンチ。
「こうやって本人を引き合わせるということは、よほど問題のようだね。
『動画屋』には連絡をしたのかい?」
「いやいや、軽く話はしたでゲスが今回は荒事じゃ無いでゲスよ?」
 ごほんと軽く咳払い、やがて口から飛び出た一言は正しくアールワンの度肝を抜いた。



「こちら、御神美沙斗さん。
------------我等がアールワン・D・B・カクテルのお母さんになってくれるそうでゲス」


------------珈琲吹いた。
 まさか己の人生における荒事であったとは思わなんだ。


「いや~もう、ぜんぜん顔見せてくれないからいつ紹介できるかやきもきしていた所だったんでゲス。
御神さんも本当にお待たせしたでゲス」
「ちょっとまて『古着屋』いきなりすぎやしないか!?」
 動揺をかくせず立ち上がるアールワン・D・B・C・御神。
「------------え?
それとなく伝えておいたじゃないでゲスか?
『未亡人の二日物を擁して待っている』と」
「…………仕事が立て込むと……着替える時間もなくてね……
やはり……30過ぎの女のぱんつじゃ…………釣れないか……」
 頬を染めて俯く美沙斗、ダメだ、どうしても10代の娘にしか見えぬ。
「そ、そんなことはない!
貴女のような美しい女性の物であったのなら金出しても手に入れていたさ!!」
 とりあえずフォローする、アールワンは紳士である。
「おッ?好感触。
ちなみに五万円でゲス」
「地味に高いわッ!」
「…………今なら、もれなく…………中身も付いて来るんだが……」
「安いわッッッ!?」
 うろたえるオリ主を見て笑うおっさん。

「あ、ちなみにもう親権移してあるでゲス、偽造でゲスが。
今回のは香港国際警察?の製作だからある意味本物といえるでゲス。
ぼっちゃん、あきらめてお義母さんと呼ぶでゲスよ」
 口をぱくぱくさせて何事か叫ぼうとするが、上手く言葉がまとまらない。
 やがて力なく腰を落とすと、再び美沙斗が爆弾を投下する。
「どうしても、養子縁組がいやなら…………娘を紹介するけれども……」
 大切にするんだよ?といった美沙斗に口をパクパクさせながら再びバネ仕掛けを作動させる。
 そんな姿を見て笑う『古着屋』を恨めしそうに見るアールワン。
 前々から荒事に首を突っ込む事を良しとしていなかったとは思っていた。

 しかしまさかここに来て、このような特大の首輪をはめられることに成ろうとは!
------------国際警察?おまけに御神!?
 思いっきり高町の系譜ではないか!!

 アールワンはアイスコーヒーを思いっきり飲み干すと、美沙斗の目を見ながらこう言った。
「なすべき仕事があるので本日は失礼する、今日の話はいずれゆっくりと」
 こちらからは確かな殺気を向けて席を立つ。
 だがしかし、敵も去るもの。
「今度は逃げるなよ?」
 其の背に氷のような言葉を投げかけられた。

「誰がッ!!」
 思わず足を止めて声を荒げてしまう。
「君が、自分の人生からさ」



------------ぞっとした。
 背にした女が放つ、底知れぬ優しさから、今度は本格的に逃げた。



 だが、しかし。
 窓際の席で喧嘩していた女が、男の顔に思いっきり水をぶっ掛けた。
 眼前で肩を怒らせながら歩き去ってゆく女。

 再び溜め息を一つつくと、ウェイトレスからお絞りを一つ貰い、窓際の男に歩み寄る。
「--------使うかい?」
「あ、ありがとうございます」
「----------------いえいえ」

 すごすごとファミレスを出るアールワン、どうにもしまらないものだ。






「あいや、申し訳ないでゲス。
やはりぼっちゃん、機嫌を損ねてしまったでゲスか……」
 ハゲをかきかき『古着屋』は美沙斗に詫びる。
「…………いえ、問題ありません。
…………それより……………………思った以上に…………魅かれる少年です」
「そ、そうでゲスか?
いや~そういっていただけると何よりでゲス、嗚呼見えて結構可愛いところあるんでゲス」

 我武者羅に戦いを求めるところも。
 他者に救いだけ与えて、自身は何の救いも求めていないところも。



------------この世界にもう、何の価値も見出していないところも、全て。



 かつての自分の生き写しであった。







 『強化外骨格を纏った、女性型のマペット』である。
 今、フェイト・テスタロッサが相手にしているジュエルシードモンスターだ。
 木の意思を汲み取ったと思われる其の暴走体は、魔法少女の高速飛行を凌駕する機動性を持って相対する。
 二対一であろうともおくびにも掛けぬその脅威。

 牽制に放ったフォトンランサーは尽く自立稼動木片のレーザーに打ち落とされ。
 決死の覚悟を持って突撃するアルフを肩の二連衝撃砲であしらい。
 斬撃をシールドで防ぎ、内側のパイルバンカーでカウンターを狙われ。
 砲撃を不可視の壁で、文字通り顎であしらわれた。

 あるいは、本当にただの木の意思なのか?
 あまりにも『主体性』を持ちすぎてはいないか?



 あの黒い魔力光を放つおぞましい暴走体は、本当にこの世のものなのか!?


 そんな事を考えているうちに、目の前の魔道木人は全身の装甲を可変させ、手に二本の刀と木製の翼を展開した。
 投げ出したいとすら思う自信の弱気をかなぐり捨てて、再び愛機を構えるフェイト。
 突撃してくる相手、其の勢いを殺すべく真っ向から迎え撃とうとした其の刹那------------



「プ・ロ・ミ・ネ・ン・スッ------------ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィチッッッ!!」



 はるか天空から舞い落ちる桃色の星、全身を質量弾と化した魔法少女。
 思いがけぬ加勢、やがて回復魔法の光に包まれた自身の視界に現れる一匹のフェレット。

「どうやらあの防御壁は、意識を向けていないと展開できないようだね」

 ユーノ・スクライア、そして眼下で巨大なハートマークの水しぶきを上げる白き魔法少女。
「なのは…………高町……なのは…………」
 窮地を救ってくれた存在、彼女は間違いなく、自身の仲間と本心から呼べた。





 フェイトが撹乱し、アルフが眼前で注意を引き付け、ユーンが結界とバインドで逃げ場を狭める。
 魔力を収束させながら、なのはは高揚していた。
 あれほどいがみ合った自分たちが、今ここに最高のコンビネーションを魅せている。

 あれほど強大に見えた敵も、皆が一緒ならちっとも怖くない。

「------------フェイトちゃん!」
「------------なのはッ!!」

 二人が目配せをし、標的から離れるアルフとユーノ。
 さあ、放とう、今、必殺の一撃を!!




------------だがしかし、其の瞬間に。
------------------------黒気を放つ標的に向け、放たれようとした燃え上がる友情の灯火は、漆黒の斬光に叩き消される。




 電離層に程近い距離から超スピードで降下したもう一人の主人公。
 それは白と並び立つ存在。

 三千世界の数多を駆ける黒輝の戦装束が、闇夜に似た絶藍の刃を持って理不尽を両断する。
 返す左の腕(かいな)でもって狂気の魔珠を捕らえると、瞬時に封を施した。

------------其の色は一瞬の深遠。
 振りかざす法の魔杖、S2Uを眼前に構えると戦巧者は高らかに其の名を告げた。



「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ…………詳しい事情を聞かせてもらおうか?」


 ------------管理局。
 ------------------------時空管理局。

 顔をこわばらせるフェイトとアルフ、執務官と名乗る少年の恐るべき戦闘力にあっけに取られるユーノ。
 本来ならば待ち焦がれた救援といえるだろうが、今となっては事情が違った。

 ようやく掴みかけた黒い魔法少女の真意。
 優しく、時に厳しく自分達に力添えをしてくれた兄のような協力者。
 途方にくれたユーノは友人に意見を求めようとその顔をうかがった。



「……………あ……………………」
「------------なのは?」
 恐怖とも悲哀とも付かない、未知の恐怖に其の顔が歪んでいた。


---------私は時空管理局と敵対している、いずれ追ってくるであろう彼らと合流するまで、
君たちに力を貸すこともやぶさかではない
 アールワンは、彼女にそう告げた。
 
--------もしその理由が相当のものだったら、今まで集めたジュエルシードを渡してもいい
 自身が放った其の言葉は、少女にどのように受け止められていたか。
 はたして、あの黒い魔法少女は、ジュエルシードを集める正当な理由をもっていると管理局に判断されるか?





 ------------だめだ。
 ------------------------------------なのはが壊れる。
 白い魔法少女に向けて、一瞬で突きつけられた掛け替えない友情の喪失。 





 ユーノ・スクライアは一瞬で決意を固めた。
 彼女のために--------管理世界を投げ出そう。




「--------なのは逃げろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」




「アアアアア嗚呼嗚呼アアアアア嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああ
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああ
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああ嗚呼嗚呼アアアアア嗚呼嗚呼アアアアアあああああああああああああああああああああああああああああ
嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 出鱈目な方向に放たれる収束砲撃魔法、其の出力に不意を突かれたクロノ。
 気が付くと、白い魔導師は地平線の彼方へ飛び去っていた。

「…………なのは?」
 呆然と見守るフェイト、気を取りなおした執務官はフェイトに向けて葱を突きつける。

「--------片方には逃げられてしまったようだが、君のほうは逃がさない。
武器を捨てて投降しろ」
「くっ!!」
 バルディッシュを構えなおすフェイト、何とか隙を作り主を逃がそうとたくらむアルフ。


----------------だが其の時、彼方で汽笛がこだました。
----------------長く、まるで戦いの始まりを告げるかのように。

「「--------だれ(だ)ッ!?」」






『相手に逃げられる、というのは存外堪えるものだなメンズナックル・ボーイ。
--------機会があったら自分も謝っておくよ。
----------------いい教訓になった』

 響き渡る念話、誰何する四人、やがて彼方『インフェルノ』号の甲板に立つ人影、潮風に煽られるロングコート。

『そして頼まれてくれフェイト・テスタロッサ--------高町を、頼む』

 空中を走るロープバインド、其の上をゆっくりと歩いてくる其の姿、変態的。
 脛下丸出しで迫り来る其の足取り、危なげなし。

 こくりと頷くと、フェイトとアルフはなのはが飛び去った方向へ向かう。
 逃がすものかと葱を振りかぶるクロノ、だがしかし、背中から風を切る音が聞こえた。
 反射的に受け止めた其のカード、まごう事なき自身のS2U、其の待機形態である。

『君の足元に落ちていたよ、海面に浮かんでいたのだが、あれか?
--------デバイスはさびないものか心配だ、一つ私と動作確認でもしておかないか?」

 そしてようやっと気が付いた。
 彼の男が投擲したネギが、自身のデバイスの柄の真芯を叩き、知らぬ間にすりかえられていたことを。


 4+1-1-2、場に残されたのは2人の男。
 そしてこの世界にいてはならぬ異物が乱入する。
 その男の名は、アールワン・D・B・C・御神----------------オリ主である。



[25078] 【無印編十一話】なのはとフェイトちゃんのドキドキ同居生活(1)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/01 10:55
 
保護したのか、それとも保護されたのか。
 自分にも解からない不思議な共同生活。

 フェイトは太陽が自分の真上で輝きを放つ頃にようやっと目が覚めた。
 シーツから上半身を起こすも、床を共にした『ともだち』は其の姿がない。
 テーブルに残された『かいだしにいってきます』のメモが、必ず帰ってくると告げていた。

(かあさん、貴女が何と言おうとなのはは本当の友達です。
別れを惜しんで泣いてくれた、あの悲しみを受け止めて、何を疑うことができるでしょう?)

 ぎゅっとシーツを抱きしめて、笑みを浮かべる魔法少女。
 高町なのはと同じように、彼女もまた、人の輪を広げて行く。
 それは、人の身に生まれた者に赦された、本物の喜びであった。







 アルフはご機嫌であった。
 彼女が隠れ家で過ごすことになってから、主の生活は見る見る改善された。
「なあなあ、今夜のご飯はなんだい?なのは」
「うーん、お肉続いちゃったからなあ、今夜辺りはお魚にしようかなあ」
「いや、肉がいいよ!
肉は何日続いてもいいよ!!」
 自分より背の低い少女に向け熱弁をふるう。

 彼女、高町なのはを潜伏先に招き入れたフェイト。
 はじめは警戒していたものだが、彼女は丸一日泣き喚いたあと、目が覚めると見違えて回復していた。
 ここにいると、けして離れたりはしないと主が抱きしめて囁き続けた結果である。

 いまでは恐縮するフェイトを笑いながら掃除をしたり。
 レトルトばっかりの冷蔵庫を見て怒ったり。
 傷だらけの体を見て泣きながら一緒にお風呂に入ったり。
 一緒の明日が来ることをたのしみにして、ぐっすり眠ったり。

「ほんとに感謝してるよ、なのは。
 いっそのことずっと、フェイトと一緒に暮らしてくれないかい?」
「----------------うーん、でも、毎晩お尻を枕にされるのはなぁ……」
 ぜんぜん困っていない顔で思案するなのは。

 やがて買い物袋を抱え、主が待つマンションに向かう帰り道。
 アルフは溜め息をつく。
 解かっているのだ、きっと彼女にも帰りを待つ家族がいて。
 この不思議な同居生活が長く続かないことを。

----------------本物の友情と疑いなく思える二人が、すぐに離れ離れになってしまうことを。







「ただいまーフェイトちゃん」
 三日目の夕餉は、折衷案として肉野菜炒めだ。
 簡単なものなら喫茶店の娘として問題なく出来るものの、もう少し手の込んだ料理を習っておきたかったと思う。
「おかえりなさい、なのは」
 せっかく食べてほしいと思える人が出来たのだから、欲目も出てくるというものだ。

 共に食材を冷蔵庫に入れながら、フェイトはなのはに洗濯したエプロンを手渡す。
 隠れ家にこんな物が必要になること事態、考えも付かなかったことだ。
「じゃあ、フェイトちゃんは野菜洗ってね~、切るのは私がやるから」
「うん!」
 そして、自分がご飯の支度を手伝う事も。

----------------もし、全ての事件が片付いたのならば。
--------------------------------自分も母と二人で台所に立つことがあるのだろうか?
----------------リビングではアルフと、あのアリシアが待っていて。
--------------------------------家族でご飯を食べる機会があるのだろうか?

「あのさ、なのは。
私はこうやって、なのはと暮らせるのがうれしいけれど、ホントにうれしいんだけど……。
----------------なのはの家族は、心配してないかなぁ」
 ずっと言い出したくて仕方がなかったこと。
 聞くのが怖くて、彼女が帰ってしまうのが解かっていて、恐ろしくて聞けなかった事。
 それでも前に進むべく、なけなしの勇気を振り絞って今、フェイトは口にした。

「うん、多分めちゃくちゃ心配してるね。
でも絶対帰らないの、今ここにお父さんとおにいちゃんが迎えに来ても、てこでも動かないよ?」
 真顔でそう答えた、ものすごいイケメンだった。
「----------------なのは?」
「うん、だって間違ったことしてないもん。
今の私にはフェイトちゃんが必要で、フェイトちゃんも私が必要、アルフも私にいていいって言ってくれたし。
かわりに全部問題が解決したらものすごい怒られるよ。
きっとごめんなさいって泣きながら謝るよ?
----------------それでも、全部お話したら、きっと赦してもらえると思うから」

 ゆるぎない信頼であった、其れが家族というものなのか?
 其の自身はどこから来るのか、フェイトは問うた。

「----------------ずっと昔にね、一度本当に自分は必要とされているか、疑ったことがあるの。
どうしても自信が持てなくて、仕方なくて、嘘をつきながら笑ってた」

 昔父親が大怪我をしていたときに、せめて自身が負担にならないように。
 あと少し時が遅ければ、きっと何かが破綻していた過去。
----------------なのははパンツと出合った。







 父が意識を取り戻した其の日の晩に、まるで憑き物が落ちたような太刀筋で剣を振るう兄に聞いた。
----------------パンツとは、何かと。

「なのは----------------実は俺にもよくわからん」
 真顔でそう答えた、ものすごいイケメンだった。
「だが、あれだけの奇跡を目の当たりにして、何も思わない俺じゃない。
 世の中には不思議なことがたくさんある事実を、俺はよく知っている。
 たとえば、九十九神とかな」
「----------------つくもがみ?」
「そうだ、この世にある万物全てのものには意識がある、神様だという考えだ。
そしてそれを愛すれば、きっと俺たちを守ってくれる。
そしてパンツは丹田…………俺たちを巡る気の源に尤も近い場所にある衣服。
最後の最後まで俺たちと共にある、いわば命最後の砦だ。
意思を持つのなら、俺たちの気持ちを汲み取ってくれるのなら、どんな力を発揮してもおかしくない」

 自分が武芸者だから、というわけではないが----------------
 そういって父のパンツを懐から取り出すと、月光にさらす。



「見ていろなのは----------------俺のパンツもいつか、世界を救うぞ」



 幼心に解かった、守られる側に立っていた自分達兄妹。
 目指す場所とたどり着く目標を、共に見つけた夜。
 母のパンツに守られていた生まれ来る前の自分と、今パンツをはいている自分。
 願わくば、自分のパンツがその力を過ちに向けぬよう、明日を胸張って生き抜こう。

 パンツをはいている、それだけで----------------自分が生まれてきた価値はあったのだ。







 そして今、自分とパンツはここにいる。
 そして誰かを愛しているといえるのだと、なのはは胸を張って答えた。
 仮に自身のパンツが意思を持とうと、其の巨大な力を正しき事に振るってくれるに違いない。

 天・地・人----------------そしてパンツ。
 若さゆえ恐慌に襲われた自身を救ったのは、幼き日のあの思い出である。

「其れを思い出させてくれたのは、フェイトちゃんのパンツを揉み洗いしていたときだよ。
触れただけで優しさが伝わってくる、とてもいいパンツだった!!」
「なのは…………」
「ぱんつテイマーの才能が有るね、フェイトちゃんは」

 洗濯され、双方並び立つように干してある二人のパンツ、物干し竿になっている二本のデバイス。
 攻撃と守り、戦士が誇りと胸に秘めた優しさの象徴。

「ありがとう、今まで誰にもそんなふうに褒められたこと----------------なかったな」
「いやぁ~なんかテレるなぁ、もう!!」
 ヘラ笑いしながら頭をかくなのは。
「全部終わったら、私もきちんとなのはのお父さんとお母さんに謝るからね」
「う゛っ……………思い出させないでほしいの…………」

 やはり連絡を入れていない罪悪感はあるのだろう。
 なのはは呻いた。







「それでね、ジュエルシード探しは危険だから----------------今は其のアリシアって子を探そうと思うの」
「その、フェイトちゃんのお母さんが大事そうにしてた子だね?」

 肉野菜炒めをつつきながら作戦会議。
 アルフは参加していない----------------肉肉炒めに夢中だからだ。

 都合三日のスケジュールの遅れ、再び二人は魔法少女として活動を再開しようとしている。
 だがしかし、そんな二人に思いがけない事件の知らせが舞い降りた。
 今まで一度として鳴ったことのない、マンションのインターフォンが鳴る。

「----------------はい、どちらさまでしょうか」
 使い方が解からないフェイトにバリアジャケットの準備をさせ、受話器を取るなのは。
 小さな液晶に映るのは、見たこともないハゲ親父である。
「ああ、夜分遅くに申し訳ないでゲス----------------自分はアールワン・D・B・カクテルの知り合いでゲス。
別に中に入れてくれというわけではないので、そのまま聞いてほしいでゲス」
 諸君ならば知ろう、例の『古着屋』であった。
「ぱんつさんの?」
「ゲス----------------実は『龍(ロン)』と名乗る集団が、今市役所を武装占拠しているでゲス。
何でも職員を人質に、拘留している人間を解放しろとかで…………助けようにもよくわからない壁が貼られていて」

「なのは、もしかして----------------」
 頷くなのは、おそらく魔法がらみだ。
 其処にジュエルシードが関与しているかは預かり知らぬが。

「ぼっちゃんに相談したらどうやら今は身動きが取れないようなんでゲス、お嬢ちゃんたちには関係ないでゲスが、
ずっと追っていたもう片方の事件も知り合いが片付けると言い出す始末で」
「それでおじさん、パンツさんは私達に行けといってたの?」
「いや…………それはみさ、いや、こちらの協力者のほうでゲス。
お嬢ちゃんなら何とかしてくれるといわれて、気は進まないんでゲスが…………」
 二人は顔を見せあい、頷いた。
 アルフも瞬時に人型へ変わり、拳を握り締める
「教えてくれてありがとう、おじさん。
----------------今すぐ其処へ向かいます」
「き、気をつけるんでゲスよ!?」



 其の日、其の晩に幾つもの魔導犯罪結社が知る。
 高町なのは、管轄外世界に居た白き魔導士---------------『魔王』の存在を。







 『いんふぇるの』号、大ホール。
 各魔導結社が差し向けた本隊を雄範誅(おぱんちゅ)号と共に蹴散らした御神美沙斗。
 半信半疑であった魔法の存在を目の当たりにする。

 ヲヲヲヲヲヲッッッという嘶きと共にゲートに兵隊を放り込む雄範誅(おぱんちゅ)号を尻目に、
自身の力不足を嘆く。

 アールワン、謎の失踪。
 別次元から来たという犯罪集団----------------そしてよみがえった『龍(ロン)』
 士郎から聞かされたなのはの行方不明を結びつける影が、今宵蠢いた。

 おそらく本命はこの場に居た兵隊達であろうが、いま役所を襲う脅威もまた座視できまい。
 故に、魔力反応を察知できるという雄範誅(おぱんちゅ)号からなのはの居場所を聞き出すことに成功したのだが。

 彼女もまた、別の魔導師と共に居るという。
 自分は元より、家族すらなのはとの接触は憚られる状態だ。
 もし『古着屋』の呼びかけに反応するのならば、幾ばくか彼女の身の安全は保障されるものだが。



---------------それは逆に、なのはに暗闘を強いる結末を生む。


「…………ままならないね…………」
 そう呟くも、答えが返るはずもなし。
 だがしかし、雄範誅(おぱんちゅ)号は何かを感じ取ったのか、蹄をポンと彼女の肩に置き。
 彼方、市街地のほうを指し示した。



---------------見よ、あの地に突き刺さる桃色の大魔法を!!
------------------------------何も恐れることはない、彼の者は主が認めし強敵(とも)であるのだから、と。



[25078] 【無印編十二話】技
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/01 11:19
 さて、幾つもの次元世界を渡り歩き、様々な食文化を紹介してきたこのエッセイだが。
 今回は読者の皆さんも時折耳にするであろう第97管轄外世界『地球』の料理を紹介しよう。

 最近話題になっている『機動六課』の主要メンバーである部隊長『歩くロストロギア』八神はやて。
 そして『不屈のエース・オブ・エース』高町なのはといった高名な面々が生まれた地球、其の地域名『日本』

 彼ら『日本人』が愛してやまない其のメニューは、『カレーライス』という。



 ---------------『日本』という地域は、豊かな土地だ。
 四方を海で囲まれ、内陸の山では様々な獣や野菜が取れる。
 そして何よりも賞賛に値するのが彼らが持つ人間性である。

 『日本人』は何事にも努力を忘れない、其の熱の入れようは、はたから見るとユーモラスでもある。
 もちろん自身が口にする食材にも最大限の気を使う、交配という全うな方法で品種改良を繰り返し、
手にした食材を大胆かつ繊細に料理し、できあがった料理を『いただきます』という感謝の言葉で迎える。
(これは食材に対する感謝である、料理を提供してくれたものには食後『ご馳走様』と礼を言うのだ)



 だがしかし、上記の紹介では彼らがいかにも格式ばった、面白みのない食事を取っているかのように思われるだろう。
 さあ、ここからが本編の面白いところだ。
 何物にも例外というものが存在し、この『カレーライス』という料理は諸君に新鮮な予想外を提供できる。

 この料理の原型は、インドという地域の『カリー』という煮込み料理から始まった。
 そして『イギリス』という地域を経由し、はるばる日本に紹介されたわけだが…………。



 もともと、この『カリー』という料理は、あまり鮮度の良くない食材をスパイスでどうにか食すため生まれたということだ。



 『インド』という土地は亜熱帯にあり、すなわちみずみずしい野菜が上手く手に入らず。
 また『イギリス』は海に囲まれ、まだ冷蔵という食材の保存方法が確立されていない時代、カリーは、
船乗り達が料理できる数少ないレシピであった。
(---------------尤も、自身も船乗りであるが、この料理を愛する理由はそんなところにはない)


 さて、そんな料理が豊かな日本で紹介されたらどうなるか?
 煮込む時はスープがしみこむよう『隠し包丁』なる切れ目を、余すところなく施す彼ら。
 肉や魚どころか、卵すら生で食せるよう試行錯誤を繰り返す彼ら。
 彩りを鑑み、皿一枚にまで気を使う彼ら---------------日本人は。



---------------見栄えを一切捨て、ただ美味さだけを追求する料理に生まれ変わらせたのである。



 長々と前書きだけを連ねられても飽きられることだろう、そろそろ料理法を説明する。
 まずは肉だ、あまり高級なものでなくてもよろしい。
 もちろんいいものを使えばそれなりにおいしく出来る、しかし量だ。
 多すぎてはいけないのだ!一般的な家庭四人前で、精精200グラム程度でよろしい。
 この僅かな幸福を探り当てたとき、噛みしめる幸せは相当なものだ。

 此れを鍋の底で炒め(油でもバターでも良い)次に切った野菜を投入する。
 代表的なものは3つだ。
 ジャガイモとたまねぎ、この二つは比較的簡単に手に入るだろう。
 最近ではミッドのスーパーでも荷崩れしないジャガイモが手に入る、うれしいことだ。
 もちろん上記の品は地球産である、尤も貴方の家のキッチンに転がっている従来のほろほろにとろける芋でも大丈夫だ。
 そしてニンジン、これはルヴェラの『シストー』に近い。
 違いはオレンジ色で、太陽の光を良く吸った甘さがある。
 もちろん、ほかの根菜で代用しても構わないし---------------いっそなくても構わない。

 以上3品(いっそ好みで5品でも6品でも投入するとよろしいが)を投入し、ひたひたの水で煮込むのだ。
 ああ、なんと簡単な調理法、やがてヘラで野菜が押しつぶせるまで柔らかくなったのなら。



---------------君は、其の鍋に『カレールー』を落とすと良い。
 そうだ、君が夕方買出しに出かけたスーパーの調味料売り場で見た、あの長四角い箱に入ったやつだ。
 私は知っている、君が手にとって『これなんだろう』といぶかしんだ末、棚に其れを戻したことを。

 ああ、なんてもったいない。
 私がもう少しこの料理を紹介するのが早ければ、今日の、貴方の夕餉を大変に素晴らしいものにできたのに。



------------------------------世界は、こんなはずじゃなかった事ばかりだ。



 深くお詫びするとともに、近く貴方がこのすばらしい料理を口にすることを確信して、偉大な発明品の説明をする。
 カレールーはミックススパイスの一種だ、ようやくミッドでも普及し始めた。
 風味豊かな調味料を、小麦粉で押し固めてキューブ状に整形した物で、賞味期限は極めて長い。

 肉と野菜のスープに溶かすと其れがほどけ、こげ茶色のソース状になる。
 前述したとおり、見た目はそう褒められたものではない。
 だが其の香りを鼻にしたが最後、早速貴方は味見用の小皿を取り出すことうけあいだ。

 一煮立ちさせ、深めの皿によそい(一晩寝かせると皿に美味い)傍らには小ぶりの野菜の酢漬けなど添えるといい。



---------------『カレー』の出来上がりだ、固いパンにも柔らかいパンにも良くあう、最高の煮込み料理だ。
------------------------------どうして、ミッドではそうそうコメが手に入らないのだろうな。
職場で日常的に米飯(ライスの事)にありつける義妹に、このときばかりは殺意すらおぼえるよ。



 私は青春時代の少なくない時間を、97管轄外世界で過ごした。
 今でも母と女房、そして愛する子供達はその地に居る、大変にすごしやすい。
 だが、長き航海の果てようやく帰郷し、一家の団欒の隙を突き。
 『ココイチ』(日本の代表的なカレーショップ)に足を運ぶのが最大の楽しみであると家族に知れるのが怖い。



 だって、うちの女房の手料理、なんか甘いんだぜ?---------------全体的に。
 子供が小さいって言うのもあるんだけどさ。


 果たして、貴方にも簡単に出来る代表的なカレーの作り方を紹介したわけだが、いかがだっただろうか?
 もし一片でも、この異世界の味に興味を持ってもらえたのなら、私もこうして筆を取った甲斐があったというものだ。
 もちろん私も感謝している、この文章を読んでくれた貴方に。
 そしてこの素晴らしい料理と出合えた、自身の人生にもだ。












(---------------だが残念なことに、私にこの料理を紹介した男は、皆も良く知るあの男である。
 其れだけが、自身の『カレーライス』史における、最初にして最大の難点なのである)




                  時空管理局本局広報誌 コラム『次元世界の食文化』
                          クロノ・ハラオウン提督 起稿文より抜粋








 一合、二合と剣戟をぶつけるたびに、其の力量の差を見せ付けられるようだ。
 縦横無尽に張り巡らされたロープバインドの足場、其の上を駆けるアールワンだが、攻め手を手繰れぬ。

 恐るべし執務官、本編最強の一角、その表現に偽りなし。
 幾度渾身にして、必殺の一撃をいなされた事か---------------。

「---------------ブレイクインパルス…………沈め」

 閃く黒衣、骨身に響く振動、再度間合いを離されると、其処へすかさず光弾が打ち込まれる。

「こちらは防戦一方だな---------------やるじゃないか、メンズナックル・ボーイ」
「だから何だ?其の呼び名は」

 手首を返し、片腕のみでS2Uを突きつけるクロノ・ハラオウン。
 悔しいが、これでも相当手加減をされているのだろう。

「これが最後の通告だ、デバイスを捨てて投降しろ。
話を聞かせてもらうだけだ、君達に何か責任を追及するわけでもない」
「果たして自分が投降したならば、君はあの少女達を追うのだろう?
ならば自分には責任がある、彼女たちが逃れる、時間を稼ぐという責がな」

 武人め、とクロノはかすかに笑う。
 およそランクはB、飛行適性もなく足場を用いた擬似空間戦闘にして自身を相手に一歩も引かぬ、と。
 其の信念に幾ばくかの好感を覚えたのだろう。

「---------------蒼窮を駆ける白銀の翼、疾れ風の剣」
 囁き、すっ…………と左手をアールワンのほうへ向けると告げた。



「時間稼ぎとは殊勝なことだ、いっそ僕を打ち倒し、彼女達の元へ揚々と凱旋してはどうかな?」



 あからさまな挑発、乾ききった喉を鳴らすユーノ。
 しかしどの道立ち向かうしかオリ主に残された道はない、ショートストックを握りなおし。
 アールワン・D・B・C・御神は愚直にも執務官へ突撃を仕掛けるのだ。

「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ」

 不安定な足場をものともしない速度、だがしかし、単純な力押しでは立ち向かえぬ漆黒の執務官!
 いま、幾多の強者を捕らえて離さぬクロノ・ハラオウンの魔技が唸りをあげる。



「設置型捕獲魔法---------------ストラグルバインド」


 オリ主の四肢を絡め取る魔力の鎖、足を踏み外したアールワン。
---------------すかさずユーノはバインドブレイクを掛けようとするが。



「おそい!---------------ブレイズキャノンッッッ!!」

 熱量を伴う砲撃に穿たれるアールワン、流石は縛り師と歌われるクロノ・ハラオウン。
 見事な魔術の連携に為すすべなく、高く水柱を立てアールワンは撃墜されたのである。






「がっ…………は」

 傷む体を鞭打って、岸までたどり着くオリ主。
 元より歯が立つかどうか、という技量差であったが、悔いはない。

 全力を持って強者へ挑み、派手に倒れ、自分への注意を引き、生死確認のために裂かれる時間は少なく有るまい。
 魔法少女たちが行方をくらますだけの猶予は有ると言うものだろう。

 遊歩道に大の字に寝転ぶ。
 恥も外聞も歯牙に掛けぬ。

 元より絶対の勝利など望むべくもなし、パンツの力を借りるほどの事でもない---------------。


 そんな事を思った矢先である、いまだ戦いの喧騒が止まぬ事に気づいたのは。


 はるか天空で、今度はユーノが戦っていることに!
(---------------無茶だッ!!)

 幾重ものバインド魔法が交差し、バリアを張った小さなフェレットが、自身と同じく執務官へ吶喊を続ける。
 いかに非殺傷を用いるもの同士とはいえ、其れは無益なものであった。

(戻らなければ…………魔法少女の下でなく、今はあの戦場へ!!)

 だがしかし、どうやって?
 再びロープバインドを伝い、あの場に再び戻ろうとも彼の戦士にかなう術なし。
 文字通り術がないのだ、あの漆黒の執務官に相対するには相応の奇跡が要る。
 そう、必要なのは脱ぎたてのパンツ---------------オーヴァードライブ・モードでもなくば相手にならぬ。
 たとえ幾度負け戦を焼き回そうとも、おそらくユーノは何度でも、自身のために牙をむいてくれるのだろうから。







 さて、ここで御神美沙斗の言葉を借りるとしよう。
---------------この街には、お人よしが多い。

 ご都合主義と呼ばれようとも、主人公補正と揶揄されようとも。
 危機に陥りしとき、必要なときに必ず手を差し伸べてくれる人間がこの街には居る。
 それがたとえ、かつて敵対した相手でもだ。






「おっ?そこで昼寝してるのはこの前風呂であったボクじゃないか…………何やってるんだい?」
 顔を上げると、其処にはツナギを着た『ウホッ!いい男』が立っていた。






「いやぁ、あん時は世話になったなぁ。
あれ以来あちこち手は出さずに自分で下の始末をつけるようになったんだ。
---------------まるで思春期に返ったみたいだぜ、おっと。
そうだ借りたものを返さねぇと」

 ツナギのジッパーを下ろし、尻の辺りで手をもぞもぞする『ウホッ!いい男』。
 果たして神に感謝すればいいのか、それとも悪魔かといった表情でアールワンは立ち上がると、
『ウホッ!いい男』の肩を力強く掴んだ。



「君、いいところに来た------------------------------パンツ脱げ」







「ぐっ…………苦しいっっッ」
 苦悶の声を挙げるユーノ、リングバインドで執拗に拘束されたフェレットの体。
 やがてラグビーボールのようになった其の身柄を小脇に抱え、クロノは魔法少女達を追跡しようと其の場を後にする
---------------つもりだった。

「やれやれ、魔法の威力はなかなかのものだが---------------君のバインド捌きには品性が感じられない」
 再び戦場へ姿を現したアールワン・D・B・C・御神。
 先と違うのは其の手に一着のツナギを持っているということである。

---------------あろうことか、パンツをはいていないというので。
------------------------------ハンターよろしく『くそみその皮』を剥ぎ取ってきた次第だ。

「アールワン!」
「貴様…………其の言葉を取り消せ!!
僕のバインド魔法は、その---------------相当なものだぞ?」

 クッ、と唇を笑みの形に歪めるるオリ主。
 中指一本拳でツナギのケツ部分に穴を開けると、目を見開いた。
「どうかな?真のバインド魔法ならば、現界した時点で相手を圧倒し得るものだ」

 ばっ!とツナギを開き、チャックの部分を見つめて意思を固めることしばし。
 不退転の覚悟を決めて、男の体臭がこもった其の衣服に頭を突っ込む!!



「------------------------------しーましぇーん!!」



 顔面を覆う気持ち悪い温もりと、たちまち鼻腔に広がるすっぱい匂い。
混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 オリ主を中心に、白と黒の魔力光が爆裂した。
 身にまとうロングコートがたちまちひび割れ--------
 服(バリアジャケット)など着ていられるか、とばかりにものすごい勢いで周囲に弾け飛ぶ。




 しかし、覚悟の上でのことだったが----------------




「お、お、おぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぐぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぎぁっぁあぁぁぁおぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 理解不能の嗜好がオリ主の思考に流れ込む。
 蹂躙される頭蓋、意識を手放す五秒前、あわや精神崩壊か--------そう思った矢先であった。



----------------解せぬ。
------------------------高町士郎のパンツを被った時ほどの反動が感じられぬ。




 一瞬、アールワンの背後を黒い波動が弾けた。



 しかし其れも刹那の事、長い苦悶の果て、同じくあっけに取られていたクロノとユーノの前で。
 ケツ部分に開いた穴から質量炎が火を吹いた!
「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォヴァァァァァァアァァッァァァァ・ドルァイヴッ!!!!」
--------自身のパンツの裾を引き、引手は天に、弓手は地に拳を突き出す。
 そして胸の中央、自身のリンカーコアを引き締めるようにゴムの部分を交差させ、肩にかけるスタンダードVフォーム。

「あれは、まさかッッッ」
「変態仮面----------------いや、本当に変態仮面なのか!?」

 亜種形態でありながら、その(バイ)セクシャルさNO1.

 アールワン・D・B・C御神、否、変態仮面は目の前の強敵を見据え、吼える。




「男は度胸----------------なんでもやってみるのさ」







 再び張り巡らされたロープバインド、だがしかし、今度こそクロノは変態仮面に翻弄されていた。




「変態秘奥義----------------『地獄のタイトロープ(綱渡り)』
この動き見切れるかクロノ・ハラオウンッッッ!!」



 今度は上を歩くのではなく、むっちりとした太ももにバインドを挟み、其の上を超高速で滑っているのだから。
 
 おまけにデバイスを構えなおそうとユーノを手放したからたちが悪い。
 変態決死圏の内を不規則に跳ね回り、その動きは更に翻弄させる。
 やがて、そう長くないうちに。
 クロノは彼らの動きを止めるべく儀式魔法の詠唱を始めた。

 魔力変換『氷結』----------------確かにあたり一面を凍らせれば狙いもつけられようというものだ。

 だがしかし、変態仮面とて二度目の大魔法を漠然と食らうわけにはいかぬ道理。



 ここは----------------フォームチェンジにて相対つかまつる!!



 ものすごい勢いで肩にかかったパンツのゴム、其の左右を入れ替える。
 すると見よ!彼の胸元で引っ張られた部分が見る見る螺旋を描き始めた。

----------------其の名も変態仮面『ツイストフォーム』

 力と魔法の高次元融合を果たす、英雄の新たな形態である。



「変体秘奥義----------------『円環☆カウンターねじ込みダウン』」



 あたりに漂う極寒の風を、広げた両の掌でかき集める。
 やがてクロノは見た、自身の足元が巨大な太極図を描いている様を!!
 そして其の腕にすぽっとユーノが収まった刹那----------------其の技は炸裂した、彼の尻の穴で。

 完全な死角、後方6時の方向から四本の指を突き刺されたクロノ・ハラオウン。
 彼は知る、自身が放った冷却の魔法がすべて己が臀部に叩き込まれたこと。

 そして『尻の穴が広がったまま凍りつく』という前代未聞の感覚に、声にならない声を挙げた。


「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」






 戦略的撤退である。
 まんじりともしない感覚に、内股になりながらコンビニのトイレに駆け込むクロノ・ハラオウン。

 聞いたところによると、この地域のトイレには温水による洗浄機能が付いているとの事。
 まったくどんな情報が役立つか解からないものだ、と腰を下ろした其の時----------------またしても尻に違和感。

 なんだか暖かい、それどころか辺に弾力があるというか…………。
「ヲシュレットではない----------------それは私の扇情ノズルだ」
 そして、今度は全身が凍りついた。




「--------welcome!(ようこそ!)」




 そして便座カバー。
 逃走に先んじて、ユーノボールを小脇に抱えコンビニの裏口にタッチダウンした変態仮面。
 トイレに駆け込むことも全て予測済み、うまうまとクロノを、其の膝に乗せることに成功したのである。
「さて、いい事を思いついた…………俺、お前のケツの中に小便をする」
 断言、凍りついたクロノの体から何かがひび割れる音。




「変体秘奥義『海底火山大ふ』----------------ん?」



 クロノ、すでに失神していた。
 あろうことか失禁もしていた。
 しばし困った変態仮面、消臭剤と一緒に吊るされたユーノ玉にその判定を仰ぐ。

「----------------成敗?」

 もちろん、そんなこと知ったこっちゃないのである。



[25078] 身辺整理(2)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/08 20:39
 ユーノ・スクライア、コンビニでジャンプを立ち読みし、ツレが出てくるのを待つ。

 もちろん古今東西のコンビニはペット立ち入り禁止であろうが、ジャンプを掲げ、
かつ空中に浮遊しているフェレットなど誰の手にも扱いに困るものであろう。

 やがて、ざばーという水が流れる音。
 何食わぬ顔で引き戸を開けて現れるのは我等がオリ主。

「----------------ねえ、本当に君があの変態仮面じゃあ、ないのかい?」
「ははは----------------そんなやつは知らぬ。
さて、ユーノ、こいつを調べてほしい。
時空管理局の船へ乗り込むぞ?」

 懐から執務官のデバイス(待機状態)を取り出して告げる。
 其の持ち主はどうしたのか----------------ユーンは愚問を押しとどめた。



 ヤツの懐からすすり泣く声が聞こえる。



 例の暗器術の応用だね?と、そんなツッコミを待つこともなく。
 かごを片手に手土産代わりの100円菓子をもりもり回収するアールワン。
 やがてレジで肉まん20円引きを告げられると、何の躊躇もなく二つ追加した。
----------------バイトのお姉さんが告げる。
「ありがとうございました~」と。






 そして視点をアースラの転送ポートに移そう。
 十重二十重に其のゲートを取り囲むアースラの武装局員達。

「いいか?こちらからは絶対に手を出すなよ?
一応俺たちのエースが被害にあっちゃあいるが、相手は現地の一般市民だ。
ちらとでも怪我をさせたら後々遺恨を残しちまう」

 固唾を飲んでデバイスを構える局員達、まだ10歳程度の少女局員が今にも押しつぶされそうな表情で言う。
「でもでも----------------相手はクロノさんが太刀打ちできなかったほどの人ですよ?」
「安心しな、相手は話も出来れば飯も食うただの人間だ。
俺たちがしっかり脇を固めれば、後は艦長が上手く丸め込んでくれるってぇ寸法だ。
それに話は聞いたろう?あのアールワンってヤツは現地でもめっぽう女子供には甘いらしい。
命張る必要のある魔導生物相手より、よっぽど安全だぜ」
 一気に言って、其の局員の頭をぐりぐりなでる。
 多少は安心したのだろう、それでもこわばった表情で正面をにらみつける仲間を鑑みつつ。
 其の年かさの武装局員は思案する。

(このアースラ艦内で白兵戦を展開する羽目になるとは、ついぞ思わなかったぜ)

 クロノ・ハラオウンの愛機『S2U』からハッキングを受けている、という信号を受けたときは一同騒然とした。
 今回の任務では完全に想定外の『我が家』への奇襲。
 其の戦闘スタイルをモニターさせてもらったが、真正面から攻め込んでくるとは考えにくい。
 奇策を用いられての防衛戦は、これはこれで厄介なのだ。






 やがて、転送ゲートが光り輝く。
「来たぞ!!構えろッ!!」
 年かさの武装局員すらデバイスを握る手に力がこもる一瞬。

----------------しかして、ゲートから始めに飛び込んだのは。
--------------------------------軽快なユーロビートの前奏であった。

 ゆっくりと彼らの目前に歩いてくる、サングラスをかけたロングコートのシルエット。
 傍らには様々な音響機材を浮遊させてやってくるフェレットも居た。
 距離にして先頭集団のおよそ3メートルほど先で立ち止まり、引き手は顔に、弓手は天に。
 やがて一際激しいサウンドが艦内に響き渡るとき、オリ主の腕が閃いた。

「----------------Lets’GO!!」



♪----------------(私は田舎から来た娘で、貴方は大都会の漢)♪
♪----------------(私のようなもの知らずからすれば、貴方はまるで王子様のように映ったり)♪


 今日日、知るものは少なかろうが、様はパラパラである。
 緊張の糸が途切れたんだか逆に張り詰めたんだか解からない集団。
 お互いの顔を見合わせてどう対処したものか迷う。
 そんな面々を尻目に、いっそう見事なキレのある舞を見せるオリ主。
 そして狂ったようにターンテーブルをスクラッチするフェレット。
 やがて武装隊の面々は一つの結論に辿りつき、ふたたび其の心を一つにする。



(----------------『ええじゃないか』だッ)
(----------------『ええじゃないか』をはじめたッ!!)


 どんな奇跡がまろび出すか知れぬ、その異界の魔導儀式に彼らのファイアリング・ロックは外れる直前。
 BGMは遂に佳境を迎える。

♪----------------(いつでもあなたの腕に抱かれることを夢見ているの)♪
♪----------------(今夜だって私は眠れない、ほら、こんにちわ早朝の陽光)♪



 だがしかし、年かさの局員は浮き足立つそんな彼らとは裏腹に----------------
(筋肉のマッターホルンだぜ!!)
 ----------------其の戦力を、冷静に検討していた。

 だがしかし、どのような異常事態にも終わりは訪れる。
 1サビの終わり、 ビシィ!!と最後のポーズをキメた後、懐から『ソレ』をにゅっと引き出したのだ。




♪----------------(必ずや貴方のハートを握り締めて魅せるわ)♪




♪--------------------------------D●I☆SU☆KE♪



 もちろん執務官である、D・●・I・S・U・K・EではなくK・U・R・O・S・U・K・Eであった。
 察しの良い諸君ならもはや説明も不要であるとは思うが、オリ主。
 
 ----------------コレがしたかっただけだ。
 --------------------------------コレが、したかっただけなのだ。


 だがしかし、そのドヤ顔を曲解した者が一人。
 あの、年若い武装局員である。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 床に投げ出された執務官の、その虚空を見つめる呆けた瞳から『次はお前の番だ』とでも思ったか、
 遂に恐慌し、矢継ぎ早に魔力弾を放つ。

「----------------死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
「うわばかやめろ嬢ちゃん!!」
「効いてない!相手効いてないから!!」

 その攻撃をユーノが飛ばす防壁で受けながら。
 涼しい顔で残心するアールワン、曲は間奏に入ったところ。

 しかし、ゴスッと彼の背後で重苦しい音がした。
 取り押さえていた武装局員が前を見ると、魔導盆栽を侵入者の頭にたたきつけたリンディ艦長が居た。
 傍らでは一斗缶でユーノの頭を殴打したエイミィも居る。

「…………あの、艦長。
現地人相手に暴力はまずかったんじゃあ」
「いいえ、これも向こうの文化でね----------------『ツッコミ』というのよ。
こうやって止めないと逆に相手に失礼に当たるわ」

 ゆっくりと倒れこむアールワン、其の姿を見て誰ともなく『デカルチャー』と呟いた。


「ところで艦長、クロノ君どうしましょうか?」
「何とかすぐに立ち直らせて頂戴。
----------------きっとあなたにしかできないわ」
「了解です!----------------責任とって貰うけど構いませんね?」

 頷くリンディ----------------やがて艦長はオリ主とフェレットを。
 そしてオペレーターは執務官を引きずりながら自身の部屋に向かうのである。







 やがて甲高い獅子脅しの音で目が覚めたオリ主。
 其の傍らで茶をたてているリンディが居た。

「むぅ…………ここは?」
「あら、目が覚めた?
地球のトラブルバスターさん」

 この微妙に間違った内装は、おそらくアースラ艦長の私室であろう。
 むくり、と起き上がり正座で居住まいを正す。

「思ったより強く叩きすぎてしまったようね、頭はふらふらしない?」
「----------------攻強皇國機甲の友人と再会できるかと思ったよ。
ともあれ私は大丈夫だが、ユーノはどこへ?」
「先に目覚めたので、お話を聞かせてもらったわ。
----------------其の上で、私達にとってもちょっと、困ったことになってね」
 手元の緑茶にミルクを入れようとするリンディ、ソレを制止するアールワン。
「其のお茶、どうやらヨーロピアンスタイルのようだね。
ミルクは多めに、砂糖は一つで頼む」
「あら、渋い趣味ね----------------さすがは本場の人だわ」
 リクエストどおりにミルクと砂糖を入れて差し出すリンディ。
 一口飲んで儀礼的に『結構なお手前で』と返すアールワン。

 生前スタバで慣らしておいた甲斐があったというものだ。
 もっとも、好んでいたのは番茶ではなくほうじ茶ラテの方であったが。

「貴方の友達、ユーノ君ね。
私達の対応の遅さに怒り心頭だったわ。
----------------おまけに、時空管理局へのジュエルシード譲渡権を棄却するって」
 もし提出されれば、今度こそ完全に97管轄外世界への上陸理由を失うであろう。
「そんなことが可能なのか?」
「元有った場所に戻して、旧文化保護地域にしてスクライア一族が管理する、とか。
方法はいろいろあるのよ。
尤も、管理局は異論を挟むでしょうけれど…………」
 そうなったら、スクライアとソレにつながる管理世界の少なくない文化保護区とは軋轢が生じる、と告げた。

「それでね、アールワン君。
手前勝手なお話で申し訳ないんだけれど、ユーノ君を説得して私たちがジュエルシードの捜索をする事、
許可してもらえるよう説得してほしいのよ。
あれが危険なロストロギアで、私達はそれが貴方の生まれた土地に散乱していることが心配なの。
それだけは----------------どうかわかってください」
深々と頭を下げるリンディ、ソレを手で制すると、オリ主はいくつかの質問をする。



「私に時空管理局が何者であるか、説明しないところを見ると。
----------------君達はどうやら私についても幾ばくか調べをつけているようだね」
「ええ----------------もし女性が困った事態に直面したら、アーモンドチョコレートの箱に自分のパンツを入れて、
ビデオショップ『大動画』のコインロッカー102番に放り込んでおけ。
最近特に有名な、海鳴市の都市伝説ね」
 聞きたいのはそんなことではなかったが、まあ良い。
「『すばらしき実包の会』『宮廷舎』『トラッシュ』----------------以上の組織に心当たりは?」
「----------------どれも、凶悪な魔導犯罪組織だけれど…………それがなにか?」
 どうやら知らないらしい、まあ信じることにしよう。

「では…………『フッケバイン』という組織は?」
「其方は解からないわね、聞いたことがないけれど----------------それも魔導結社?」
「いや、チンピラだよ」
 少し安心する、致命的なパラドクスはまだ巻き起こっていないようだ。



「…………説得の件は了解した。
 だが条件として、この事件が終わるまで現地人である高町なのは、其の友人であるフェイト・テスタロッサとの接触は、
控えていただきたい」
「前向きに検討します」
 きっと用法を解かって言っているのだろう、腹の立つことだ。
 尤も、自分の息子に酷い目を合わせた男に愛想も何もないのであろうが。







 かくして、次元航行艦での一夜が明ける。
 当たり前の事だが、与えられた部屋は独房であった。

 面白みのない部屋の片隅に、ぽつんと置かれた一斗缶、中には淫獣が詰まっている。
 まあ、彼の技量ならこんな部屋を逃れることぐらい訳のない話であろう、特別処置された拘束箱だ。
「すまんな、こんな事態になってしまって」
『謝るのはこっちだよ、本当なら、君が閉じ込められるいわれなんてないはずなのに…………』
「言っただろう?私は管理局とは仲が悪いのさ。
こうなることは予測していた----------------私の母親も、向こうからすればいまだに要注意人物なのだろうし、な」



 そんな事をつらつらと話している最中、廊下を歩く二人分の足音が聞こえた。
 重苦しいドアを開ける音、廊下に立っていたのはクロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタである。
「気分はどうだ?よく眠れたか?」
「----------------そんな質問は三流の悪役と間違えられる、某所での悪評を気に留めて、少し居丈高な口調を改めるといい」
「どこの悪評だ?」
 執務官、どうやら昨晩はよほど安眠できたと見える。
 横に居るオペレーターから見慣れた自分の愛機『M2X-SS』を受け取り、こちらに投げてよこす。
「このような場所に抑留している件は謝罪する。
しかし大半のクルーが君を野放しにする旨を反対してな、そう時間のかからないうちに開放できるように手を尽くす。
どうか、暫くこらえてくれ」

 受け取ったアールワン、クロノとエイミィの顔を見比べて、眉間にしわを寄せた。
 ----------------におうな、酷くにおう。
 ----------------リア中の匂いがプンプンするわッ!!
「私のデバイスを使って、イケないことをしていないだろね」
「それはこっちの台詞だ!僕のS2Uがツンデレになってしまったじゃないか!!」

 上手くかみ合わない会話、よくわからない火花を飛ばして互いを牽制しあう。
 だがしかし、パンパンと手を叩いてエイミィは二人の矛を収めさせた。
「はいはい、二人とも喧嘩しないの!
----------------これじゃあ先が思いやられるわよ?クロノ君」
「先?----------------先ってなんだ?どういうことだ。」

 エイミィの方を振り向いて、詰め寄るクロノ。
 エイミィはクロノを独房の方に押し込みながら、宙に画面を呼び出してその内容を告げる。
「え~、クロノ執務官。----------------艦長命令です。
『上陸許可未取得による管理外世界への介入、及び捜査と武力行使』による処罰として営倉3日。
----------------以上」
「ちょっとまってくれ!営倉ならほかにも空いているだろう!
何が悲しくてこの男と一緒の部屋に篭らなきゃならないんだ!?」
「何かあったら又慰めてあげるからね~」







 無常にも閉まるドア。
 暫く呆然と立ちすくんでいたクロノであったが、やがて力なく一斗缶の上に座り込む。
「まあなんだ、私のセクシャル・ハラスメントは目的ではなく手段。
敵意なくば行使することはない故、安心するといい」
「信じることにするよ----------------ここから出たら、また医療局に行って診断書貰わないと。
----------------解かってるのか?
身の潔癖を証明するのに半日かかったんだぞ?」
 掘られた、という悪評の方はいまだにクルーの間に根を張っているようだ。
 まあいいじゃないか、無事に大人の階段をのぼれたんだろう?

「時に、私にこのデバイスを返してくれても良かったのかな?」
「通信は傍受している。
それに、君の魔力量ではここの壁を抜けない、確かにばかげた威力だが、精精傷をつけるので精一杯だろう」
 まあ、実際チェーンソーの様なものなのだが。
 それで鉄の壁を切り裂けるかといえば相当時間と無理がかかるものだろう。

 そんな事を行っている間に、タイミングよくアールワンの手元で葉っぱ隊が叫ぶ。
「出てもいいか?」
「其方がいいというならば」
 相手は件の『古着屋』である、着信を取ると勝手に外部スピーカーモードになった。
 艦の人間も聞いていると言うのは本当なのだろう。

『ぼっちゃん、先日はすまなかったでゲス。
ところで、追っていた例の村の件が判明したでゲス!』
「余裕のない声だな、古着屋。
ところで----------------例の村、というのは『人柱』の方か?それとも…………『達磨』のほうか」
 其の剣呑な雰囲気に勘が働いたか、壁に備え付けられた端末(限定的なもの)でエイミィを呼び出し、
聞こえた単語に検索をかけてもらうクロノ。
『----------------ゲス…………『達磨』の方でゲス。
坊ちゃん、どうやら今晩がヤマでゲス。
連れ去られたお嬢さんを無事に助けるなら今すぐにでもここを発たないと----------------』
「『古着屋』----------------すまないが、今すぐは無理だ。
残念ながら動ける状況にない、今の所こちらに身の危険はないんだが…………」

 クロノのほうに目を向ける。
 我等が執務官は宙に浮かぶ、速効で発見された都市伝説系のサイトを見ながら眉間にしわを寄せていた。
 やがて、手のひらをアールワンの方に向け、こっちによこせとばかりに手をにぎにぎ動かした。

「いや、大丈夫だ安心しろ。
いま私の知り合いが行ってくれることになった----------------喜べ、新しい伝説が生まれるぞ」
『ちょ、坊ちゃんどういうことでゲ…………』
 ぶっつ、と通話を切ると再びクロノの方に根性棒を投げてよこす。

「詳しいデータはそいつの中に入ってるから」
「----------------借りる。
----------------ちょっとこいつで、イケないことをしてくるよ」

 クロノ・ハラオウン、ランクにしてAAA+の実力者がその獲物を手にすれば、ものの五分で扉をブチ破れよう。
 『アッ----------------』という金切り音が響く中、笑いをこらえるのが難しいアールワン。



 一皮向けた執務官、ロックンロール・クロノ・ハラオウン。
 今度は君達をアッ----------------といわせるべく、再び地球へ発つ!!



[25078] 【無印編十三話】スーパークロノタイム(覚醒編)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/18 01:03
『----------------にゃッ!?』
 リーゼアリアは八神家のリビングで奇声を上げた(念話だが)
『どうしたのアリア』
 トレーディングカードゲームのデッキ調整をしながらリーゼロッテが聞く。
『----------------仮面がない…………』
『----------------ゑ?』

 沈黙、正確には変身魔法で使うプログラムの一部に欠損が見受けられる、ということであったが、察するに。
 例の変態が持っていったものと考えられる。
『…………取りあえずコピーしてあげるから、こっちきなさい』
『うう----------------いやな予感がする』
 フローリングの上をポテポテ歩く猫。
 やがて家主が特徴的な車椅子の音を立てて姿を見せた。

「二人とも~ご飯できたで~?」
「「----------------にゃ~ん」」

 ロッテの好物はかつぶし醤油のネコまんま。
 アリアの好物はシーチキン醤油のネコまんまだ。







 ----------------その都市伝説は『オルレアンの噂』と呼ばれる物から派生した、とされている。

 ブティックで試着室に入った女性が次々と行方不明になる、とされた物だ。
 もちろん其れは根も葉もないデマであり、今では其の地方でも一笑に伏される代物である。
 だが、先も書いたとおり21世紀になっても人身売買は形を変えて根付いており、日本には古くから神隠しの逸話があった。

 さて、広く怪文書やスパムメールで広がった其の噂、名を『だるま女』
 誘拐されたり借金のカタにされた女性が四肢を切断され、富豪たちの慰み者にされている、というものだ。

 真実ならば唾棄すべき事実である。

 しかし近年、上記の亜種とも呼べる都市伝説が幅を利かせ始めているのを、諸君はご存知だろうか?
 驚くべきことに日本国内で、この腹立たしくも想像を絶する事態を風習として続ける集落。



 ----------------『だるま村』という。
 心無い描写を嫌う諸君は、今回大きく読み飛ばすことを進める。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~















「----------------じゃ、注文の品、ここに置いときますんで」
 外見上は普通の運送業者に見える男、もちろん堅気ではない。
 冷蔵車から手早く----------------まるで其の物自体を忌避するかのように----------------荷物を下ろし、
村人達の顔を見るでもなく去って行く。

 『龍(ロン)』の手の者である。
 近年流行っている若者達の家出、主に原因となっているのは両親の不仲、学校の問題、諸説上げられるが。
 総じて乙女たちがその道を選ぶと、ろくな事にならない。
 水商売で身を崩すものも居れば、事件に巻き込まれるものも多い。
 実際、犯罪結社からすれば正にカモだ。

 ----------------相場で言えば大変に高価な『日本人女性』を比較的安全に仕入れられる。
 噴飯やるかたない話であるが、世界では10ドルのために人を拉致するもの殺す者も居る事を、
諸君もどうか覚えておいて貰いたい。



 さて、今宵其の村に運び込まれた少女について、簡単に説明しておこうか。
 スポーツ特待で高校へ推薦入学、いずれはオリンピック強化選手も狙えるとされた彼女は、膝の故障でその道を絶たれた。
 部活の仲間とも疎遠になり、学力が追いつくはずもなく。
 教師からも、両親ですら、失望のまなざしを向けられる日々。

 ----------------彼女は居場所を失った。



「今回の娘は、長持ちしそうじゃな」
「まったく、ちとばかり『作業』に手間がかかりそうだが」
 ブルーシートをはがす男達、中には一糸纏わぬ少女が横たわっていた。

 眠らされているのか、と考えるのは早計である。
 しっかりと目は見開かれ、口は何事か叫ぼうと絶えず開け閉めされているが。
 其処からもれ出るのは呻きと弱弱しい呼吸音ばかり。
 首から下の自由を全身麻酔によって奪われているのである。

「おお、しっかりと意識もある」
「----------------いいかいおじょうさん、これからアンタの手足をちょん切ることになるがね?
何も心配ありゃせんよ?この村でずっと大事に面倒見るからね?」
「ホントはワシらもこんなことしたくないんだけども、これも村に伝わる風習だから。
等閑にしとくとバチあたるから」
 絶対嘘である。
 どいつもコイツもやってやりたくて仕方のない顔をしている。
 


 視線だけで周りを見渡す少女、どこかの社だろうか。
 しかし上方に目を向け、深く後悔した。
----------------奉ってあるのはおびただしい数のミイラであった。
----------------居場所を失った少女もまた、其れと同じく『御神体』として扱われるのだろう。



 服を脱ぎ始める村人達、あるものは回転鋸を持ち出し、又あるものは焼きごてを熱し始める。
 そろって彼らの陰部は醜くいきり立ち、これから行われる『神事』の時間を心待ちにしていた。
 舌を噛まぬよう小汚い下着を口にねじ込まれ、鋸の耳障りな音を聞く。
「----------------それじゃあ、まずは右腕からはじめようかい」






「うぁ…………あ………」
 痛みは感じない、だからこそ喪失感は大きい物だ。
 男達に取り押さえられた少女、頭蓋に響く振動と飛び散る紅い飛沫。
 やがて自身の腕が高々と掲げられた其の時、どろり、と。

 ----------------ブルーシートの上に広がる血の泉、自身の命そのものが抜け出る感覚。










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 さて、諸君。
 絶望の描写はもういいだろう、正直書いているこちらもウンザリだ。

『間に合ってねえじゃねえか!?』という怒りの矛先を、諸君ならいつものオリ主に向けるであろう。
----------------安心を、今宵村に乱入するのはあの男ではない。




----------------彼の魔技を持ってすれば、其の組織のテクノロジーを持ってすれば。
--------------------------------今回の件、この少女を救うならば十分に間に合っている!!








 スパァァァァァァァァァァン!と、気の効いた音をたてて畳にタロットカード状の板が突き刺さった。
 同時に目を剥く村人達、無残に切り取られた腕が、其の傷口が。

----------------ただの一瞬で…………氷付けになっている!?

 飛来したそのカードを、そしてそれが向かってきた方向を見る。



 月光に晒されてぼんやりと映る影、こちらに近づいている小柄な少年。
 男の一人が、雨戸を開けた瞬間に悟る。











----------------そのブーツの靴音が聞こえたらひざまずく準備をしろ。
--------------------------------闇色が薫り立たせる新時代の夜想曲!!









「喜べ、諸君ほどに品性下劣極まりない魔導儀式を行う輩は、限りなき次元世界でも極稀だ。
取りあえず頭を----------------否、股間を冷やせ」

ロングコートから生えたトゲ。
顔を不気味な仮面で覆いつつも、黒は黒より出でて、なお貴し。
今ここに、次元世界から降り立つ執務官。
----------------月影を輩に、悪鬼羅刹を黒炎の沸き立つ地獄の其処へ叩き落す!!
「小僧、一体何者だッ!?」

「生憎と、管理外の悪党共に名乗る字(あざな)を思いつかないが」
 そう呟くと仮面の下で目を見開き、思春期特有の高くフェロモン全開な声で名乗りを上げる。






「----------------人呼んで『メンズナックル・ボーイ』だッ!!」




 極低温の領域(テリトリー)が狩猟地を圧巻する。
 喜べ、今宵----------------管理外世界97番は彼の手で漆黒のセクシー極楽浄土と化すのだ。








「うわ~」
「う~わ~」

 アースラのブリッジで、艦長とオペレーターが絶句した。
 あれだね、もう、一発ヤったから気が大きくなっちゃったんだねとしか言いようのないはっちゃけようである、クロノ。
 ----------------男っていうのは何とわかりやすい生き物だろうか。

 だがしかし、そんな痴態を大画面で拝もうとブリッジに駆け込んでくる面々が居た。



「ををッ!!さすが俺たちのエース、早速現地の悪党どもを振るいあがらせてるぜ!!」
 鼻の穴にマシュマロをつっこまれた武装隊員が叫ぶ。
「ほんとだ、昨日までは『温水はイヤだぁぁぁ!!』って泣き叫んでいた俺たちのエースが!!」
「行為の途中で傷が残ってないか後ろの穴を触診されてた俺たちのエースが!!」
 海老ミリン焼きが髪に刺さった武装隊員が、歌舞伎揚が眼帯みたいにめり込んだ武装隊員が叫ぶ。

 ----------------そして何故、昨夜の情事の様子を知るのかは問い詰める必要があるだろう。

 ブリッジの大画面いっぱいに、クロノ・ハラオウンの大立ち回りが映し出される。
 振るわれる焼きごてをS2Uで受け止め、繰り出す魔力刃で切り返す。
 鉈や鍬を持って襲い掛かる悪党達を纏めてバインドで縛り上げ、地面に叩きつける。
 其のどれもが彼らにとって不思議・不可解な技の数々。
 弱いものいじめといっても差し支えないほどの容赦ない、無双であった。



『クロノ執務か~ん、一応用意してた『再生医療パッケージA』と施術の準備できましたけど~、要ります?』
『----------------有りがたい、案の定必要になった。
なるべく早めにクランケを連れて戻るから、そのまま待機していてくれ』
 あまつさえ医療班と通信する余裕すらあるらしい。


「ああ!なんか巨大な氷のドラゴンを出しましたよクロノさん!あれどんな魔法ですか!!」
「嬢ちゃん----------------あれは単なる魅せ魔法だ。
普通の魔力弾に冷気貼り付けてハッタリかましているだけの代物だよ」
 胸元に二つの肉まんを押し込まれた幼女武装隊員と、葉巻のようにチョコ棒咥えた年かさの武装局員も居る。
「あ~なんか、ウチのカミさん口説き落とそうと『ホテル・アグスタ』に注文したディナーを思い出すな。
机の上にデカい氷細工の白鳥を飾ってもらってさ…………」
「知ってます聞いてます!目の部分がマリッジリングになってたんですよね!」
「おうよ、良いアイデアだと思ったんだけどなァ…………仲間内どころか女房自身も笑いのネタにしやがる」

 などと一部しんみりした面々も居たが、おおむね胸の前でグッと拳を握り締め声援を送る武装局員達。
 どいつもコイツもオリ主の持参した駄菓子ごときで執務官に包囲を突破された、愛すべきバカ野郎達だ。


「皆さん----------------この事件が終わったら処分を下しますからね?」
 青筋浮かべたリンディがいうも「「「「うぃ~~~す」」」」と体育会系の返事を返しただけで息子に夢中。
 仕方がないので傍らのエイミィを呼んで要件を告げた。
「例の子----------------アールワンを連れてきてください」と。







 リリカルで、マジカルな世界にはあってはならない出来事。
 ありえぬ悲劇は自身がここにいるから、そう思い至り、尚も計画を急がねばならぬ。

『----------------何か悩んでいるようだね、アールワン』
 ロダンの有名な彫刻のポーズをとり続けるオリ主の気配を察し、ユーノは問うた。
「…………本来ならば、君達の物語は。
友情を育み他者を思いやる、もっと優しい世界で繰り広げられるはずだった。
----------------私が幾多の厄介ごとを運んでいるとしたら、君は私を討ってくれるかな?」
 長く思いとどまり、遂に漏れた本心に限りなく近い懺悔。
 自身の二度目の生涯は、贖罪によってのみ綴られている。



「----------------なんだい、愚かな質問を…………」
 だがしかし、其れに対するユーノの答えが形になる前に、破壊された扉が押し広げられた。

 そして息を呑む音。
 オリ主はエイミィの絹を裂くような悲鳴と共に立ち上がる。







 隔壁扉がプシューと音を立て、艦長が呼びたてた少年がブリッジに姿を見せる。
 注目した武装局員、クルーたちが同時に目頭を押さえ、吹っ飛ぶ。

「あ、アールワン君なんで…………なんで」
 さすがにリンディも聞かずには居られない。


「----------------裸なの?」
 小脇にユーノを擁した一斗缶をかかえ、ぺたぺたと足音を立て歩み寄るその男、全裸。
 アールワン・D・B・C・御神----------------オリ主である。



「ははは、見苦しい姿をお見せする。
ついうっかり私服を格納したまま、彼にデバイスを貸してしまったものでね?」
 股間を手にした缶で隠すこともなく、堂々と次元艦に立つ姿、変態的。
「時に----------------クロノは堂々と反抗期を世界へ表現しているようで何より。
覚えておきたまえ、形なき憤りを親へ向けられぬ男は、其の矛先を社会秩序へ向けるのみ。
まずは愛されていることを誇るがいい、ハラオウン艦長」
「問題は向けられるべき社会秩序が我々のものでなく、管理外世界の小さな集落であることよ?
----------------アールワン君、貴方が先程告げた犯罪結社、図られたように全てこの世界に向かっているとわかりました。
 このままではうちの執務官が一人でも調査に乗り出すことでしょう」
「管理局が支援すればいいだろう?
そもそも彼は、独断で海鳴に降り立ったようだが----------------ジュエルシードの回収はいいのかね?」

 艦長とはぐれ魔導師が並び立ち、『ヒャッハー!汚物は消毒だ』する執務官をモニター越しに眺める。

「ロストロギアの回収までなら言い訳はつきます。
どうかそれ以外の荒事には首を突っ込まないようにあの子の傍にいてくれませんか?」
「清清しいほど丸投げだね法務組織----------------『闇の航路』なるものを調査してみるといい。
彼らは其処からやってきたそうだ。
もちろん、私の世界が丁重にお引取りいただかせるだろうが」

 むしろお前がな----------------心を一つにした管理教員達。
 もちろん其の視線はオリ主の『ゴー・アヘッド指示棒』に夢中なわけだが。

----------------そこの小さいの、指の隙間から凝視するんじゃない。

「ともあれ、私は彼が栗を拾うべく火中に飛び込む様を眺め、イケない方向へ突っ込もうとするならば寧ろ『つっこめ!』と」
「そういうことです。
セーフハウスの提供と潜伏生活の各種支援を。
貴方達は危険なことに手を出さなくていいから」
「前述の提案に矛盾するな…………どうしたものか」



 そして転送室へ向かうオリ主、しかしそこへ駆け寄るオペレーター。
「あの!予備の制服しかなかったんだけど…………」
「好きで脱いでいる!!」
 そんなものに袖を通すなら死を選ぶ、といわんばかりの剣幕である。

「ところで、一件通話をかけたい人物が居るのだが?」







 股間を凍りつかせた男たちがうずくまる山村、冷気が重く溜まる其の広場に立つ新たなる英雄。



「古来より、秩序(ルール)は別の秩序(ルール)に取って代わられてきた。
戦の歴史はマイノリティを葬るために行われてきたといっても過言ではない。
其れが正しいことであったかは別としても、秩序は、よろしく研鑽されていったことは事実。

君達のルールは----------------そうだな、歯磨き粉より劣る。
跡形もなく水に流されて、下水の底に溜まるといい」



 『メンズナックル・ボーイ』クロノ・ハラオウン執務官。
 エターナルフォースブリザードの使い手として一時期人々の話題に上がるも、あ・ま・り・に・も・強・す・ぎ・るw
としてインターネットミームの流れに消えていった男。

 其の勇士を焼き付けようとした少女の瞳を指でそっと閉じさせて、管理局医療班の到着を待つ。


 だがしかし----------------暗がりから向かってくるヘッドライト。
 時折無法者達を踏みつけながらクロノへ向かってくるそれは、クリーニング業者のバンであった。

「あ~、君がクロノくんっすか?」
「そうだが…………あなたはいったい?」
「アールワン坊ちゃんの知り合いで『ケン・クリーニング・ハウス』の店主っす。
----------------『洗濯屋』と呼ぶといいすよ!
時に、もうすぐ警察がやってくるっすから騒ぎになんないうちにずらかるっすよ」
 30代半ばの気の良さそうな男、後部座席のドアを開け放つ。
「いや、被害者の少女を----------------どうやらこちらの迎えも来たようだな。
艦長にしかられるのは癪なので貴方について行こうと思うが、行き先はアールワンのところか?」
「うっす!坊ちゃんも海鳴に戻ってくるそうっす!
詳しい話は坊ちゃんに聞くといいっす!」

 クロノが後部座席に乗り込むと、縛られた運送業者が乗っていた。
 おまけにバンの後ろからは巨大なやっとこが生えて、どうやら冷蔵車を牽引しているようだ。
この車両、どうやらいろいろな改造がしてあるようだが。
----------------何よりも一つ聞きたい。
 クッションに身を預け、抗いがたい眠気と戦いつつクロノは思う。



--------------------------------何故この車、風景が透けて見えるのか、と。







 怪我人と入れ違いにオリ主は再び海鳴へ舞い戻る。
 小脇に抱えた一斗缶、そして僅かの焦燥を胸に----------------諸君が『無印』と呼ぶ物語は終結へ加速を続けるのだ。



[25078] 【無印編十四話】なのはとフェイトちゃんのドキドキ同居生活(2)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/25 01:59
娘の安否が心配すぎて剣を振り続けていたら真空刃が出せるようになりました。

「むぅ…………」
 前髪から汗を滴らせながら士郎は唸る。
 ずっと連絡をよこさないでいた美沙斗から聞かされた『龍(ロン)』の復活。
 そしてなのはの居場所を突き止めるも手が出せない現状。
 黙ってみて居ろと言われたものの----------------清清しいまでにいやな予感しかしない。
 クールダウン代わりに神速で道場をうろうろしながら、打てる手はないものか考える、考える、考える。
 このまま数分も周囲を回り続ければ海鳴にハリケーンが誕生する勢いである。

 だがしかし、妙案は彼の妻が持ってきた。
「----------------士郎さん?」

 タオルかぬらした手ぬぐいでも持ってきてくれたのか、と声をかけつつ振り向く士郎。
 だが違う、桃子の手に載せられた其れはおしぼりより尚小さく、其れでいて官能的な代物。
「--------------------------------桃子…………コレはパンツじゃないか!?」
「必要でしょう?」
 言わんとしている事が解かった、もちろん今夜は攻め立てろ、というわけではない。

「桃子!愛してる!!」
「あ・な・た----------------汗臭い」
 ひし!と愛妻を抱きしめるも予想外の反撃に遭い、項垂れる。
 だがしかし其の手にある桃色のパンティ!は涙をぬぐうために用意されたものではない。

 躊躇なくその、愛の包み紙を顔面に装着する。
 顔面を覆う女房の温もりと、たちまち広がる愛娘への焦燥感。




「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 服など着ていられるか!とばかりに胴着を脱ぎ捨てた高町士郎。
 もちろんシャワーを浴びるためだ。
 断じて半裸で街中を歩き回るような真似はせぬ、羞恥心は投げ捨てるものではない。







 やがて真新しい胴着を着込み、桃子に見送られて士郎は家を出る。
 だがしかし、電信柱の影で腕組みをして立っている人影を発見。

「----------------夜遊びは感心しないな、恭也」
「遊びじゃないさ----------------実戦に行くんだろう?父さん」

 真新しい漆黒のジャージ、そして顔面を覆う黒いレースのパンティ!パンティ!
 よく見れば胸元にはアルファベットが一文字、刺繍されているではないか。
「『K』か、何の頭文字だ?」
「----------------『Knight』だ」
 『夜の一族』とのダブルネーミングだ、もちろん諸君がKYOUYAを思い描くのも、無理のない話だが。

「待って二人とも!私も行く!!」
「「お前は被るパンツがないからダメだ!!」」
 追いかけてくる美由紀を一蹴し、二人の剣士は夜の街を行く。

 ----------------変態仮面Daddy、そして変態仮面Knight。
 新たに海鳴を騒がせる戦士の名、君も覚えておいてほしい。



「しかし何だ、不思議と力がわいてくるな、息子よ」
 コレならば、世間を騒がせるあの男がパンツを被るのも少しは理解できる。
「ちっとも鉄火場にカチ込む恐れが沸いてこないな、父さん」
 そしてこの青年がパンツの力を疑問に思うことは、端から微塵もない。



 ----------------二人の男、心は一つ。
 --------------------------------ちょっとヤンチャしても、変態仮面のせいにすればいいよね!?








 今日はみんなで買出しだ。
 なのは、フェイト、そしてアルフの三人は各々アリシア探しを終えた後合流し、スーパーの朝市へ向かう。

「----------------見てられないね…………ちょっと手を貸してくるよ」
 重そうに風呂敷包みを背負ったおばあちゃんが歩道橋をわたろうとしている様、アルフはどうにも気になった。
 もちろん二人も手をこまねいていることはない。
 荷物はアルフが引き受けて、幼女二人はおばあちゃんの両脇で腕を取り、一緒に上る。

 やがて無事に向こうの歩道へわたりきった4人。
 重ね重ね感謝を述べる老婆に手を振り、えへへと恥ずかしそうに顔を見合わせる。



 スーパーについたらほぼ、なのはの独壇場である。
 サービスカウンターで特売のチラシを回収し、お買い得品をチェックする。
 3人居ればお一人様1パックの卵も3つ買えると言うものである。

 「----------------!こら~!!」
 こっそりとお菓子をかごに入れようとするフェイト。
 同じくこっそりとドッグフードを入れようとするアルフを追いかけるなのは。



 試食コーナーを離れようとしないアルフ。
 ウインナーって火を通すものだったんだ!とカルチャーショックを受けるフェイト。



 もちろん買うものは食料品だけではない。
 ほったらかしにしていてもやっぱり埃は溜まるもので。
 今日は大掃除をすることに決めた----------------なのはが決めた。
「うーん…………やっぱり掃除機要るかなぁ。
でもダイソンとか今でもけっこうするしなぁ…………今日はモップとコロコロガムテープで我慢するかぁ」
 大体てこずるのはアルフの毛だろう。
 フェイトの部屋は前面フローリングなので、まあ隅さえ気をつければいいのだ。

「フェイトちゃーん!洗剤見つかった?」
 振り返るとフェイト、静電気ハタキのもふもふ振りに興味津々。
 アルフが棚の影から嫉妬のオーラを漂わせていた。





 そして帰宅。
 今日の役割分担はなのはが台所の掃除、のち料理。
 アルフはリビングの清掃と高いところ、力仕事。
----------------そしてフェイトは…………。

「なんていうこと…………」
 シャワーだけしか使っていなかったのに、タイルの隙間にカビが生えている。
 だがしかし、今日手に入れた新兵器『泡噴出型風呂壁洗浄剤カビコロ』さえあればおそるるに足らず。
 まさか深夜の通販でちらと見たTVショッピングの万能洗剤をしのぐ専用洗剤がスーパーで手に入るとは。
 おそるべし日本のスーパー、ありがとうございましたといってくれたレジのお姉さん。
----------------こちらこそ、ありがとうございましただよ!!
「さようならカビさん、こんどはもっと体にいい菌に生まれ変わってきてね…………」
 チーズを覆うヤツとか、抗生物質になるヤツとか。

 壁全面に『カビコロ』を噴霧し、シャワーのノズルを手に取った。
 しかし、だがしかし!
(このまま蛇口を捻ると、頭からぬれてしまわないだろうか)

----------------フェイトは脱いだ。
 このあたりの思い切りの良さは生粋のものだ。



 やがてピカピカになるタイル。
 今度は風呂釜である、こちらもピカピカにせねばなるまい。
 なのはと二人ではいるんだし。
----------------なのはと二人ではいるんだし。

 別の洗剤に持ち替えて、同じく風呂釜全体に吹き付ける。
 こちらは五分放置するだけで、水垢がきれいさっぱり解け落ちるという触れ込みだが…………。
(----------------ちょっと長い)
 一度シャワーノズルを台座に戻し、ビニール袋をがさごそ探ってみる。

 入浴剤の缶が、先程からすごく気になっていたのだ。
(----------------どうしてみかんの匂いがするのだろう)
 蓋を開けて匂いをかいで見る、確かに柑橘系の甘酸っぱいにおいがした。
 今まで風呂を使わなかったので、入浴剤なるものは無縁の生活だったのだが。
 コレを溶かすだけで温泉になるのだという。

 あの、ちらと見た温泉旅館のお湯と同じになるのだという。

 たしかにあれだけ立派な建物で温泉を保護する民族だ、家でも浸かりたいほど温泉が好きなのだろう。
 しかし手元にあるコレはなんだか粉ジュースみたいだ、飲めるのだろうか…………。



 だがしかし、そんなことを考えながらずぶ、と粉の中に人差し指の第一関節辺りまで突っ込んだところである。


「フェイトちゃんシチューにマッシュルーム入れていい~!?」
「わぷっ!!」

 急に声をかけてきたなのはに驚いて、缶を持った左手が滑った。
 缶の中身を半分ほど頭から被ってしまった、気になる味は----------------ちょっと苦かった。







 そして何度目かの、3人での夕食である。
「----------------みんなでご飯…………なんかいいね」
「もうフェイトちゃん、それ3回目だよ?」
 いずれありがたみを感じなくなるほど繰り返すのか、フェイトには想像もつかない事だ。

 ともあれ、お行儀悪くTVをつけながらの夕食である。
 報道番組では件の市役所占拠事件の続報が繰り返されている。
『----------------そして夜のXX時、突如降り注いだ桃色のプラズマが謎の防壁を吹き飛ばしました。
ご覧ください、ものすごい光です』

 画面一杯に広がる魔力光、モニター越しにはもう、ホワイトアウトにしか見えない。
「----------------ちょっとやりすぎちゃった、てへ」
 と舌をだすなのは、うふふとわらうフェイトのよこで。

 ちょっとどころじゃないんじゃないか、とアルフは苦い顔である。

『また、当局のカメラでは捕らえられませんでしたが上空に一人。
また警官隊に先駆けて3人のパンツを被った集団が突入していったという目撃情報が挙げられています』
 3人?アルフはなのはとフェイトを指差し数えて首をかしげた。
 もちろん幼女2人もわからない。
『こちらが、偶然居合わせた視聴者から提供された裏口付近の映像です。
携帯電話の動画をスローで再生したものです、不鮮明ですが二人組みの男が犯人の一人を搬出しようとしていました』

 アナウンサーの声にあわせて、コマ送りの動画がTVに再生される。
----------------違法魔導師を担ぎ上げる白と黒の男二人。
----------------飛び出した女性に、便所スリッパで叩き倒される白と黒の男。
----------------反省、其の場で正座。
----------------ちょっととやりすぎちゃった、てへ。
----------------再びしばき倒される二人、魔導師を残してフレームアウト。

--------------------------------その間1秒に満たぬ。



『人体では通常再現できない動きであることは明らかであり、警察は未確認の変態秘奥義を用いられたのではないかと……』
「----------------そうか、変態仮面には仲間がいたんだね」
「フェイトちゃん?」

 フェイト・テスタロッサは小皿にバターロールをおいて語り始める。
「なのは、母さんが大事そうにしていたアリシアっていう子を連れ去ったのは、実は変態仮面なんだ」
「そんな!変態仮面さんが!?」
 スプーンを取り落とすなのは、彼女にとっては衝撃の事実である。
「どういうつもりであの子を連れて行ったのかは解からないけれど、もし母さんを泣かせることがあれば…………」
「きっと何かの誤解だよ!」
「仲間が居るならば…………このとき聞き出せたなら、或いは…………残念だ」

 もちろんアルフはフェイトが虐待されていた事を知っているしあの変態が『冷却期間』といっていたことも知っている。
 言い出せば直ちに悪意のないことを納得させられようものだが、フェイトの手前覗き見ていたことは言い出しづらい。
 そして何よりも----------------なによりもだ。



(世間的に見てアンタ達も変態仮面の身内扱いなんだよね…………フェイト、なのは)


----------------なんだかクリームシチューがしょっぱいや。






 そんなやるせない雰囲気に包まれたフェイト家のリビングに、再び来客を告げるインターフォン。
 お通夜のような雰囲気が一転、危険な空気に様変わりする。

「今日はあたしが出るよ」
 パンツを被り、デバイスを構える二人を下がらせ、液晶を見るアルフ。



----------------其処にいたのは、アールワン・D・B・C・御神。
--------------------------------海鳴に帰還せしオリ主である。



『では、頼む。
----------------しっかりと面倒を見てやってくれ』
 意味不明な事を言い放ち、親指で後ろを指差すと踵を返す。
 程なく液晶が移すのは、エントランスの壁だけとなった。

「アールワンのヤツだ…………なんか、おいていったみたいだよ?」
 緊張覚めやらぬまま三人連れ立って、エスカレーターに乗り込んだ。

 到着、はたしてマンションのエントランスに横たわれていた者は。






























----------------衰弱しきった、まるで数日間町中を彷徨っていたような有様のプレシア・テスタロッサであった。














[25078] 【無印編十五話】R1とクロノとユーノくんのガクガク同居生活
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/04/25 02:06
 ここ最近、海鳴病院にはよくわからない患者が大量に運び込まれてくる。

 どう見ても海外の人間なのにそろって日本語が流暢だったり。
 手術中、驚くほど速く患部が自己回復を始めたり、別の器官があるとしか思えないほど体力の消耗が激しかったり。
----------------服が脱がせられなかったりするのだ。

 一応国から受け入れを頼まれているので引き受けてはいるものの、そろって戦争でもしているかのような外傷。
 加えて医者のやることに尽く非協力的で、手のかかること手のかかること。

 本日も急患がダース単位で運び込まれてくる、おそらく先までこの町を騒がせていた市役所占拠の犯人達だと思うのだが……。

「だから!折れた骨が内臓を傷つけているんです、急いで手術して処置しないと…………」
「いやだぁぁぁ!手術なんてイヤだぁぁぁぁぁぁぁ!!
----------------腹を切るなんて要するに切腹ではないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 カタギには見えない大男がストレッチャーの上で大暴れ。
 みっともない傷をつけて死なせたらどうなるか解かっているだろうな!みたいな言い分である
 噂に聞いたそんなエクストリームスポーツはお前達だけでやれ、みたいな言い分である。



 ほとほと困り果てた看護師達、だがしかし、そんな白衣の天使達を見捨てるなど諸君の知る『あの男』がするはずもなく。


----------------スパァァァァン、と気の聞いた音を立てて。
--------------------------------負傷した魔術師の口元に靴下が張り付いた。



 暫くもごもごしていた其の男、外回り営業の三日物に耐えられる道理もなく。
 やがて白目を剥いて気絶した。

「まさか!」
「この理不尽さは!」



 左様----------------其の男、全裸。
 アールワン・D・B・C・御神----------------オリ主である。



「其の男が纏っているのはバリアジャケットという代物だ。
使用者が意識を失えば直接『デバイス』に説得が出来る、胸元の宝珠に思いを告げてみるといい」
 消灯された病院の暗がりから、ショートブーツを打ち鳴らしてやってくる少年。
 其の声を聞きつけたのか、患者の不思議な装束は光と化して消えた。
 残ったのは極ありきたりな化学繊維のシャツだけである。

----------------伊達にパンツ一枚履いてはいない、衣服の構造を知り尽くしているかのような主張であった。

「まって、アールワン君!
貴方5年前に全身バラバラになってたアールワン・D・B・カクテル君でしょう!?」
 奥から小さな人影が胸元を押さえて駆け寄ってくる。
 フィリス・矢沢、当病院の医師である。
 恭也や美由紀もお世話になった事もある、精神年齢8歳の名医だ。

 ちなみに何で胸元を押さえているか、あまりにオリ主に詰め寄ってくるので。
 彼の手による辻ブラホック外しの餌食になったのだ。

----------------まさに無礼打ちである、衣服の構造を知り尽くしているかのような手腕であった。

「…………さて、矢沢医師。
 このとおり患者の準備が整ったようだが、果たして私ごときに構っていてもいいものかな?」
「くっ!----------------そんな事いって話の矛先を反らそうとしても……そうは行きません!
本来なら貴方は満足に立ち歩くことなんてできない状態なんですよ!?」
 掴みかかろうと…………否、触診しようとする矢沢医師をマタドールのような体裁きでいなすと、アールワンの手には、
彼女のパンツが握られていた。

「おそらく重病人の面倒を見る羽目になりそうでね----------------申し訳ないがお借りしておく」
 風のように去ってゆくオリ主、其の後姿を悔しそうに眺めた後、フィリス・矢沢は医師の顔で手術室の前に立つ。

 長きに渡る医学史にわたり初、今宵ノーパン女医による開腹手術の幕が開く。







 男同士のメシなんぞボンカレーでいいだろう常考。
 
 というわけで、オリ主、クロノ、ユーノの缶詰の三人は、ジュエルシード捜索帰り、コンビニへ出かける途中だ。

「----------------見ていられないな。
アールワン、なにか相手を挑発する台詞を教えてくれないか?」
 たちの悪い男達に絡まれている女子中学生二人、クロノはどうにも気になった。
 もちろん教えるのにやぶさかではないアールワン、しばし黙考した後、人差し指を立てクロノに伝授する。

「『あいなまさんディスってんのか』だ----------------気をつけろ、相当強い日本語だからな」
「感謝する、早速止めてくる」

 早足で向かうクロノ、やがてデカいとかデカくないとか抗論が始まり、乱闘にいたる。
 暫く其の姿を眺め、まるで地方の修学旅行生のようだ、と感想を述べてから歩を進める。
 念話で先に行っているぞ、と告げてから----------------まあ、目的地はコンビニなのだが。



 コンビニに着いた二人、アールワンは店内を物色しつつ、ユーノは雑誌コーナーでツレが来るまでの時間を潰す。
「----------------今週の『ToLOVEる』はどうか?」
 宙に浮く一斗缶に問いかけるアールワン。
『今はSQでの連載だよアールワン----------------政府は正直、まずアレといちごをどうにかした方がいいと思うね』
 違いない、オリ主は首肯しSODと銘打たれた雑誌を手に取った。
 まあ、ビニテで開きを通じられた其れを立ち読むことは出来ないのだが。
----------------どうせ付録DVDの中身などたいしたものではないのである。

 やがて食玩コーナーで見知った黒い人影を発見、クロノだ。
 どうもトレーディングカードゲームのブースターパックが気になるようだ。
「ウィザエヴォの新作か----------------そういえば全国大会予選が始まったようだが、気になるのかクロノ」
 召還魔法無しのガチンコTCG、小学生を中心に相当盛り上がっている代物である。
「いや、別に僕は----------------やっぱり気になるな。
一パック買って行こう、この店は領収書を切れるか?」
「別に1パックぐらい奢らんでもないが…………たしか家にまだ未開封のスターター、5箱ぐらい転がっていたな。
時間が空いたらデッキ作って対戦でもするか?」
「いや別に、コレで遊びたいわけではなく…………まあいい。
『アースラ海運』で宛名書きは『備品代』もちろん食料も含めていいからな」
「正直助かる----------------あそこに鎮座ましましているエスプレッソ・マシンも購入していいか?」
 ほこり被ってるドでかい箱を指差してオリ主は聞く。
 寧ろ引き払うときに僕が持って帰るぞ?とクロノはあきれた。

「それにしても24時間衛生的な食料が手に入るとは----------------ミッドでは考えられんな」
「やはり、向こうは治安が悪いのか?」
「そのうち君も訪れることが有るかもしれないがな」

 程なくして、一斗缶とコンビニ袋をぶら下げて、店を後にする。
 ----------------バイトのお姉さんが告げる。
「ありがとうございました~」と。







 そして帰宅、黄金のスツールに腰掛けたクロノ、そして銀色の一斗缶に腰掛けたアールワン。
 コンビニ袋をガサガサし、500ミリペットのお茶を開けるとひといきつく。
『アールワン、僕にも頂戴』とユーノが言うので、半分ほど缶の中に流し込んでやった。

「さて、ご飯にする?お風呂にする?----------------それとも私?」
「気持ち悪い事いうな!君は食事の支度、僕は風呂を沸かす。
ちなみに部屋中に散らばっていた卑猥な本はユーノが昨晩ジャンルごとに纏めておいたらしいぞ」
 女子高生物、OL物、『剛田』にいたっては月順に纏められて本棚に整然と並べられていた。
 おそるべし、次期司書長。
----------------やがて男達は、重い腰を上げてそれぞれ成すべき事を果たすべく、狭い2LDKの方々に散った。



 クロノの風呂掃除は執拗である。
 多種多様なケミカルを駆使し、毎度のパイプ洗浄も忘れない、時には電球すら磨き上げる始末だ。
 床すら陰毛一本残さぬ有様であるから、風呂釜に至ってはなにをいわんや。
 今日も新品の風呂スポンジの封をあけ、力の限りごしごしする30分が始まるのだ!

(それにしても…………)
 入浴剤の袋が、どうしても気になっていた。
 個包装されたうちの一つを手に取る、先日使った粘性のあるものは保湿効果を狙ったものと理解したが。
(----------------どうして粒状のゼリーになるのだろう)
 理解できなかった。
 まあ日本人というのは風呂好きの民族であるから、きっとミッド人にはまだ理解の出来ない効果があるのだろう。
 そして再び、彼は風呂釜を擦る行為を続けた。



 そしてアールワンは大なべに湯を沸かし始めた。
 沸騰したそれにアルミパックを放り込み、一人ではさびしかろうともう一パック追加。
 電子レンジ調理では穴の存在価値が無くなってしまうだろう?
 菜箸で引き上げられるために開けられたあの穴が----------------棒を突っ込まれるために開けられた穴が!!

 そんな事を考えながら、退屈そうにしている一斗缶の中にガンプラのパーツを放り込む作業を始める。
 MG『GP03S』----------------通称『雄しべ』。
 入るべきつがいの存在を望むべくもない、通好みの童貞モデルだ。
 ニッパーでパーツを切り出しながら、抱え込んだ一斗缶に投入すると、中でスナップフィットをはめ合わせる音。

 そんな風に午後を過ごしていると、彼のデバイスが着信を告げた。
 一度コンロの火を消して、根性棒を手に取る。

「ヘロウ----------------アイムアールワン、ハウドゥユードゥ?」
『ああぼっちゃん、帰ってきたんでゲスな?』
 相手はもちろん『古着屋』であった。
「すまないな、少しばかりご婦人を怒らせてしまってね----------------監禁されてた」
『ほほう----------------お楽しみでゲしたな。
ところで、少しばかり街中を変な連中がうろつくようになり始めたでゲス、少しお知恵をお貸し願いたいなと』
「さし当たって危険な連中は、先の占拠騒ぎでおとなしくなろうと思ったが?」
 肩でデバイスを抑えながら、アールワンは問う。



『それなんでゲスが…………少しオカルト地味た話まで広がってきたでゲス。
街中を歩き回る半透明の女って言うんでゲスが、見た目異人さんで、女の名前を呼びながら死にそうな顔をして、
魔法使いのような杖をついていて、最近では服の前が血でベッタリ汚れていたという……………』
「『古着屋』----------------それ、当たりだ」



 立ち上がるアールワン、詳しい目撃情報を聞いた後、こちらで解決すると告げて通話を切る。
 ユーノに『少し出てくる』と声をかけ、玄関まで向かって行ったその時。

----------------ふと思い直した、今干渉されては拙い事になる相手が、この部屋に居ることに。
----------------アールワンは脱いだ、職業柄このあたりの手際は生粋のものだ。


「クロノ~、マッサージしてやるよ!!」
「ふべっ!!」
 手が滑ったのか、上半身を浴槽に取られたクロノ。
 手早く指に避妊具を装着し(滑り止めだ)ペペと書かれたボトルを取り出す(潤滑剤だ)オリ主。

 非殺傷だから大丈夫だと軽い調子で語るアールワンと、アッ----------------と声にならない悲鳴を上げるクロノ。
 そんなカオスな空間はさておき、ユーノはボンカレーを暖めなおすべくコンロの火をつけた。






----------------オプティックハイドが切れかけている。
 自身の姿が半ば見えていることに気づきもせず、プレシア・テスタロッサは見慣れぬ町を、娘を探して彷徨い歩く。

「アリシア…………どこ…………アリシア…………お母さんさびしい…………」

 虚ろ下に呟く様はまるで幽鬼、道を行く通行人もモーゼのように左右に逸れる。
 だがしかし、その前に立ちはだかるロングコートのシルエット。
 目を伏せたその表情からは、誰一人その思考を読み取ることは出来まい。
 ぼすん、と其の男にぶつかり、力なく倒れこみそうになるプレシア。
 彼女の体を抱きかかえ、彼の足は迷うことなくとあるマンションへの道筋をなぞる。

 罪の清算はもう十分だろう。
 ここから先は、彼女自身が生み出した人形が、行く道を指し示してくれるだろう。
 どちらに転ぼうとも、プレシア・テスタロッサの行く方に光が差し込むように。






----------------アールワン・D・B・C・御神が今、この世界に存在する理由は、彼女を救うために有るのだから。








[25078] 【無印編十六話】この素晴らしき、友情が主題の世界において
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/08 23:32
「ただいま~」

 自室に戻るアールワン、其処にはレトルトのパックをいかにして開けるか悪戦苦闘するユーノ。
 そしてずもーんと影を背負っているクロノが食卓についていた。

「----------------まああれだ、クロノ。
こちらにもいろいろあったのでな、赦せ」
「…………もう何も言わないが、出かける必要があったのなら素直にそういってくれ。
こちらもプライベートにあれこれ口を出すつもりはないんだ」
 あらためてスマンスマンと詫びながら、ユーノの分を開けてあげるオリ主。

----------------なんかあっためすぎてすごいことになってるw

 やがて黙々とボンカレーを口に運ぶ三人。
「…………この、今にも罵りあいが始まりそうなぎすぎすした雰囲気、なんかいいな」
「病気だよアールワン、いや、今に始まったことじゃないんだけどさ」
 苦笑いしながら魔法で一斗缶の中に匙を運ぶユーノ。
「これ、なかなか美味いな」
 そしてクロノ、案外マイペース。



「ところでアールワン、昨日アルバムに整然と収められた女の人のパンツを発見したんだけど、あれは?」
「----------------見たな?えっちめ!」
 ピンと張り詰める空気、どうやってカマを駆けてくるかと思ったが、直球で聞いてきたか!

「コレクションだよ、誰にだって人には言えない秘密を持っているものだ」
「君が言うならそれでもいいけど----------------なんであんなけったいなこと始めたか、聞いてもいい?」
「…………よかろう」

 身を乗り出し、一斗缶をぐわし!とつかむとアールワンは語りだす。
「私が始めて女性の下着を手にしたのはまだよちよち歩きもままならぬ時の事。
母親と特に仲の良かった同僚二人が戯れに自身のパンツを私に与えてくれてな。

----------------私は紐パンをビーン、透けパンをソニーと名づけた。

 知的探求はまず構造の解析から始まった、材質の選定から製造メーカーの哲学。
やがて耐久性のテスト、元は布だ、ねじり強度は問題ない、問題は引っ張り強度だ、自身の力ではびくともしな…………」
「おちつけ!」

 鈍器と化したS2U、目を血走らせ『なんか黒い魔力光』を迸らせながら熱弁をふるうオリ主に痛撃。
 我に返ったアールワン、軽く詫びると席に戻る。



「----------------まあともあれ二人とも。
私はコレを食したら再び出かける予定があるが、早めに就寝して英気を養っておくといい。
----------------おそらく、明日は忙しくなる」
 なのは達が持っているジュエルシードは9つ、そしてこの数日で我々が集めたものは6つ。

 すなわち、残りの6つは海中にある----------------海上決戦の時だ。





「おかあさん!大丈夫おかあさん!?」
 時折うめき声を挙げるだけのプレシアを揺り動かし、悲鳴のような声を上げるフェイト。
 なのはは見知らぬ年上の女性の脇に愛機を突っ込んだ。
----------------40度1分、ただならぬ熱。
 彼女が病魔に蝕まれているのは明らかである。

「----------------とにかく!いったんコイツを部屋に運ぶよ、フェイト、手伝っておくれ!
なのはは着替えと、何か…………ええと………必要なものを片っ端から買ってくるんだ!」
 クレジットカードを投げ渡してアルフが言う。
 強く頷いたなのはは、玄関へ駆け出した。



----------------だがしかし、動転した頭では何が必要か、など到底思いつかぬ。
「ええと、着替えはいいとして薬…………何を買ったらいいんだろう?
アイスノンは必要として、風邪薬…………どうみても風邪じゃないし………たしか、
もっと強い薬ってお医者さんじゃないと売ってくれないんだよね。
でも救急車呼ぶわけにもいかないしなぁ----------------ああもう!どうしようどうしよう!!」

 半数が店じまいした商店街の中心で、大声で嘆く少女を見て、道を行く人々が何事かと振り向いた。
 ここで、改めて御神美沙斗の台詞を借りるとしよう。

----------------この町には、お人よしが多い。




 それ故に----------------

「なのはちゃん…………そこにいるのは…………高町の、なのはちゃんじゃ…………ないかい?」
「----------------美沙斗、おかあさん?」
 少女が振り向いた先には、香港に居るはずのもう一人の母。

----------------発言した当人がこの町に居ることは、けして偶然ではない。




 なきながら彼女の胸に飛び込むなのは、落ち着くまでしっかりと抱きしめる美沙斗。
 やがて二人はフェイトの部屋へ、大病を患った彼女の母が待つ部屋へ赴く。

----------------だがしかし、もし之が必然であったのなら。
----------------一体この邂逅は、誰が仕組んだものであろうか?






 やがて、目を覚ましたプレシア・テスタロッサ。
 ぼやけた視線の先、キッチンに立つ見知らぬ少女、其の傍らに立っているのは…………。
「アリ…………シア…………」
 否、其処にたっているのは彼女が作り出した、愛娘を模しただけのただの人形であった。
 落胆の溜め息が漏れる、どうやらここは彼女が与えたマンションの寝室のようだ。
 連れ去られたアリシアを探しているうちに、どうやら自分は力尽きてしまったらしい。

「目が………覚めたようだね…………」
 枕元から誰かの声がした、まったく気配がしなかったので、声をかけられるまでは気づけなかった。
「----------------あなたは?」
「…………御神美沙斗、そこにいる………高町なのはの…………叔母だね……。
あの子は…………私の事も…………おかあさんと呼んでくれるけれど………」
 脱力した体ゆえに、其の顔を見ることは出来ない。
 首を動かすことはおろか、指先一つ動かすことすら億劫であった。

「取りあえず…………手持ちの薬と針で、処置しておいたから………明日の朝には何とか立って歩けるくらいには、
なっているだろうさ…………。
ただ…………思い切り新陳代謝が………活発になっているだろうから…………今夜は、すごく汗をかくよ………。
着替えが必要なら………言っておくれ………私のお古でよければ………いくらでも貸すからさ」
 無理をせずに、今夜は寝ておけ、ということだろう。
 イノセントな口調だが、何故か反発を沸かせぬ力を持っていた。
----------------やがて再び、意識を手放すプレシア、其の姿を確認すると、其の場を立つ美沙斗。

「あんた…………ちょっと来な…………」
 傍らで彼女の処置を見守っていたアルフを呼び、少女達に会話を聞き取られない場所まで行く。
 アルフも、彼女が放つ得体の知れない凄みにほだされ、ただ従うだけである。



 言い出しずらそうに、暫くどもっていた美沙斗ではあったが、やがて意を決してプレシアの症状を語りだす。
「…………私が使った薬は、元は戦闘用でね…………人間の体がたとえば家だったとして…………壁紙やら床材やら…………
片っ端からはがして燃やすような劇薬だ…………そもそも、よくわからない器官が…………本来、
人間にはないような内臓が…………生命力を無駄に使っている様な症状なんだが…………何か知らないかい?」
「----------------多分、リンカーコアだと思う。
アンタには信じられないかもしれないが、魔法を使うための器官が、私達にはあるんだよ」
「…………そうか、やはり彼女も魔導師か…………。
私も…………魔導師の事件を追ってここに来たからね…………ただ、そうなると。
彼女の症状は、流石に私の手には負えない…………魔法の世界なら…………彼女に処置ができるかい?」

 今度は、アルフが言いよどむ番である。
「わからない----------------アイツが直るかどうかも、そうなんだけどさ。
私はフェイトの、あんたの娘の友達の、あの娘の使い魔なんだけど。
あの鬼婆、フェイトに酷いことばかりするんだよ…………鞭打ったり、蹴飛ばしたりさ。
だから、私としてはいっそ見殺しにしてもいいくらいなんだ。
フェイトは悲しむし、あんたもきっと怒るだろうけど----------------」

 もちろん美沙斗は叱りはしない。
 ただ無言で、彼女の事を抱きしめるだけである。
 なぜならば、アルフもまた、苦しみながら生きてきたことを悟ったゆえに。

「わかった…………その事は、私から彼女に聞いてみよう…………。
駄目な母親だけど…………其れでも私は、母親だからね…………。
きっと、すこしは上手く…………家族について、話してあげられるだろう」
 アルフの頬に一滴の涙が伝う、彼女にならばフェイトの事を全て、託せる様な気がした。
「----------------これから時空管理局に行って来る。
今までの事、全て話してプレシアを治してくれるようにお願いするよ!
だから、フェイトの事、プレシアの事も、お願いしていいかい?」
「ああ、やってみよう…………これからの事を、これから始めるんだ」






 そして、プレシアが再び目を覚ましたのは深夜の事。
 覚醒を予め気づいた美沙斗は湯気の立つ盆を捧げ持ち、プレシアに声をかける。
「おなか………空いていないかい?
あの子達がお粥…………作ってくれたんだが…………」
「いらないわ----------------食欲ないし」
「…………食べるんだ、子供の作ってくれたものだよ?
無理をしてでも口にするのが、母親の務めだ」

 プレシアは美沙斗の手にしていた盆を弾き飛ばした。
 人形を指して自分が母親だ、と言われたことが、甚だしく癪に障ったからだ。

「----------------あの子なんて私の娘じゃないわ!
所詮、アリシアのクローンでしかないの!アリシアと似ても似つかない別物よ!!」
「…………そうか、クローンだったのか。
こちらの世界にも、似たような子が…………たくさん居るからね…………別段驚きはしないが」

 プレシアの上半身を起してあげながら、美沙斗は言う。

「大体のあらましは…………あのアルフっていう娘から聞いたよ…………あんたも、母親としては失敗しているらしいね」
「私が失敗したのは実験だけよ!今でも私は立派にプレシアの母親のつもり…………」
 人差し指で唇を押さえられた。
 子供が起きるので静かにしろ、ということである。



「じゃあ、そんな母親に…………私の過ちを懺悔してみようか?
私はね----------------昔、復讐のために、自分の娘を捨てたんだよ…………美由希という名前だ」



「自分の、子供を…………捨てた?」
「そうだ、私は暗殺者の家系でね、『龍(ロン)』という組織に最愛の夫を殺された。
思い返せば当時の私を支えていたのは憎しみだけだったさ…………娘は兄に預けた。
戦って、戦って、戦い抜いて…………そんなある日に、戦場で再開したのさ、美由紀と…………自分の娘と、ね」

 始めは、分かり合えることはないと思っていた。
 自身の過去と、其の心情を、とつとつと語る美沙斗。




----------------それでも今では、美沙斗を母と呼んでくれる人が居るのだ。



「親はなくとも子は育つ、というけどね…………。
それでもいつか、子供は親の背中を見て考えるんだ…………自分の生涯を。
愛された今までを鑑みて、人の愛し方を知る…………そんな時、自分の親がどんな人生を生きてきたのか。

もし、親が自分の人生を必死に生きてきたならば、その子はきっと親を責めたりはしないよ。
恥ずかしい話だが、これは実体験だ…………プレシア、果たしてあんたが、誰の母親かはわからない。

だけどね…………もし母親としてやってあげられないことが有ったとしても。
自身の人生を、何かの目標に向けて必死に生きてきたならば、それは人の親として半分成功しているんだ。
仮に、あのフェイトって子が自分の娘のクローンだったとしても、あの子は貴方の背中を見ている。
----------------そして、もし本当の娘が貴方の背中を見て、自分の生き方を誇れるかい?」



 プレシアは考える----------------仮に自身の娘を生き返らせることに成功したとしても。
自分の生涯は、娘にとってどういう風に映るのか。

 遠い未来、娘が人の愛し方を考えるとき、自分が何かを----------------自身の命だけでなく。
 ほかの誰かを犠牲にしてアリシアの命を取り戻したと知ったら、其れはアリシアの人生の、重荷にならないだろうか?

 それは、実験の失敗よりも重い、人の親としての失敗にならないだろうか?



「----------------なりふり構っていられなかったわ。
私はどうしてもアリシアの命を救いたい、ただそれだけのために生きてきた。
----------------きっと、これからもそうするでしょう。
そのあとで、アリシアが私の事を嫌おうとも、アリシアに何を言われようとも、構わない!」
 はるか昔に下した結論、覆ることはかなわない。
 それでも今、確かに。
----------------彼女を取り巻く運命のスイッチが、切り替わった。



「じゃあ、食べなさい…………食べて万全になるんだ。
自身の望みを果たすために…………それがきっと、娘が望むあんたの生き方なんだから」
 再び、美沙斗はお粥の乗った盆を差し出した。
 米粒一つ落とさず、彼女は弾き飛ばされた其れを空中でキャッチしていた。
----------------程よくさめていた。

「おいしい…………」
「そうかい…………じゃあ、またゆっくり休みな」







 そして、ふたたびプレシアが寝付いたのを見計らい、空になった椀を下げようかと美沙斗が席を立ったとき。
 窓際から人の気配を感じた。
 人を害するいやな気配が7割、其れを押しとどめようとする善意の気配が3割といったちぐはぐな人影が一つ。

「----------------どうやら、彼女の看病をしてくれたようで、感謝する。
尤も…………ここで会うとは思わなかったがな、御神美沙斗」
「アールワン・D・B・カクテル…………暫く見ないうちに…………少し変わったね、嫌な方に」
「はたして、自覚はないのだが?」

 空中を走るロープバインドの上で、肩をすくめる義理の息子。
 グッと拳に力をこめる御神美沙斗。

「明日にでも、プレシア・テスタロッサに伝えていただきたい。
この街に落ちた厄際の種、すべて集まりし後『いんふぇるの』号大ホールの後ろにある転送ゲートをくぐれ、と。
アリシアの御身を連れて、其の先で待っていると----------------この『変態仮面』がな」

 胸元からフィリス・矢沢のパンツを見せ、オリ主は告げた。




「アールワン、何を求める?」
「知れたこと、其処にいるプレシア・テスタロッサの救済を」

「アールワン、其の術に疑問を感じることはないか?』」
「解せぬ、元より彼女がフェイトを選ぶのであれば、約束の地へは自身がアリシアを連れて行くつもりだ」



「『----------------そうじゃないアールワン!君の人生を指して言っている!』」
「----------------さて、この地に送られた『オリ主』ならば誰もが願うことだろう?
『プレシア・テスタロッサ事件』の円満な解決は…………」



 口を押さえるオリ主、半ば無意識の言動。
 逃げるように其の場を後にする、言伝をよろしく頼むと念を押して。












 ----------------母と美沙斗、オリ主の起した顛末の全てを、フェイト・テスタロッサは扉の影から聞いていた。












「----------------それにしてもものすごい救命装置ですね、これ。
不治の病といわれた患者が、両手をあげて喜びますよ?」
「じゃろウじゃろウ、とりあえずくわしいでーたーはここにおいておくヨ」

 海鳴総合病院に持ち込まれた謎の生命維持装置、まあ中に入った娘さんの遺体はさておいてだ。
こんなもののデータを無償で提供されて本当にいいのか、寝ぼけた頭で恐縮するフィリス・矢沢。
----------------夜勤中である。

「でも本当に学会で発表しなくていいんですか?」
「ああ、あれじャ。
わしは学会から追放された身の上じゃからノゥ、それに現物は借り物じゃて…………」




 ----------------そのときである、壁に向けスパァァァァァンと気の聞いた音を立て、
 --------------------------------フィリス矢沢のパンツが打ちこまれたのは。




「それ、結局使わなかったよ…………」



 ----------------アールワン・D・B・C・御神、オリ主である。
 ----------------なんか打ちひしがれていた。



「おう、ぼん。
まんまと見つかってしまったのゥ、まいったわイ」
「わ!わたしのパンツ!!」
 いそいそと壁にめり込んだパンツを回収し、はき始めるフィリス女医を(文字通り)尻目に、
オリ主は机の上にコンビニスイーツwがどっさり入った袋をおいてソファーに座る。

「『医者』ァ…………別にいいけどね。
ともあれ、今日あたり彼女を引き取りたいが、問題ないね?」
「わるかったわイわるかったわイ、これから何人もの人命を救えそうな技術じゃァ。
埋もれさせるわけにいかんじゃロウ----------------ぼん、そうしょんぼりするナ」
 肩をぽんぽん叩く『医者』を尻目に、アールワンは溜め息をついた。

 別に裏路地の産婦人科にあるはずの生命維持装置が見つからずに、焦ったからといって気落ちしているわけではない。
 オリ主の落胆は別に有るのである。

(見誤っていたのかもしれんな…………認めよう)



----------------プレシア・テスタロッサに必要なのは『ママ友』であった。



 この友情が主題の世界において、真にプレシアにとっての悲劇は。
 彼女が誰とも友情を育むことなく、たった一人で悲劇に向き合っていた、ということに尽きたのだ。
 それにしても、一体何者なのか御神美沙斗。
 自身の知らぬ原作キャラに、気づけば思考の大半を持っていかれている----------------不思議だ。



「----------------矢沢医師、少し仮眠を取らせてもらう。
2・3時間位したら起してくれ」
 ソファーに横になるオリ主、『医者』にアリシアを置いておくように告げ、矢沢医師にソレ食っていいよと告げ。
 アールワンは高いびきを始めた。

「……………………………」
 其の傍若無人さにあきれながらも、フィリス・矢沢は5年前から奇跡の回復を遂げた、其の不思議な肉体を。



----------------思う存分に触診するのである。





[25078] 【無印編十七話】海上決戦~彼方から此方まで~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/04 01:48
(アールワン、君は一体何と戦っているんだい?)

 ユーノ・スクライアは狭く、冷たい金属製の箱の中で一人、瞑想していた。
 この地に落ちて久しく、仲間にも、親しくしてくれる人々にも恵まれた。
 だが何よりも心強く、勇ましくも猛々しい一人の男『アールワン・D・B・カクテル』
 其の共闘の日々を脳裏で繰り返すたびに、疑問に思うことが一つ。



----------------贖罪、其の背から感じ取れる心中は其れに尽きる。



 果たして、この世界の上空で落とされた次元航行艦を襲った相手は、次元世界の犯罪組織であることは今や明確。
 だがしかし、今も尚この『地球』に蔓延る凶悪犯たちと、彼の接点などあろうか?
 そして高町なのはとの微妙な距離、思慕の情を一方的に向けられるときの、あの居ずらそうな感覚。
 まるで別離のときを悟っているかのような有様、懐疑に尽きる。

 しかし、この地に落ちたジュエルシードも残り6つ。
(----------------せめて、君に罪があるならば、其れを半分背負うことにしよう。
さようならなのは、君の平穏を脅かした存在を、一刻も早く忘れてもらうために…………)

 目を開く、この少年もまた今夜、世界のために暗躍を始めるのだ。







 アースラからの緊急入電。
 執務官クロノ・ハラオウンは、ソファーの上から飛び起きると、空中に浮かんだ画面を前に居住まいを正す。
「艦長、なにか動きがありましたか?」
『ええ、クロノ執務官。
----------------昨夜、海鳴から協力者が投降してきたわ。
名前はアルフ、貴方も一度会った黒い魔導師の使い魔よ』
 思考を走らせる、ほどなく其の姿を思い出せる。
 長い金髪にはかなげな表情をした、それでも尚一級の戦力を持つ魔導師。
『彼女、名前は『フェイト・テスタロッサ』というんだけど、母親からジュエルシードを回収されるように命じられたらしいわ。
母親は『プレシア・テスタロッサ』
26年前新型魔導炉ヒュードラの開発計画に参加していた技術者よ。
アルフさんの供述から、どうもその時に失った娘を生き返らせようと画策しているみたい』

 クロノは耳を疑った。
 あの欠陥品のジュエルシードに何をどう願ったとて、死人を生き返らせるなどという奇跡が起こるはずもない。

『幸い、プレシアは噂の変態仮面が連れ去った娘を追って海鳴市に潜伏。
著しく体調を崩してフェイトさんの家で保護しているそうよ?
----------------クロノ執務官、急ぎ残り6個のジュエルシードを回収後、帰還しなさい。
すでにフェイトさんの家には武装隊が向かっています。
彼女の身柄を確保し、ジュエルシードを全て回収し終えたらこの事件は無事解決。
----------------彼女達も次元犯罪未遂で収まるわ』
「了解しました!
つきましては一度、手元にあるジュエルシードをアースラにて安置したいのですが…………」
 そう言ってS2Uを手に取る。





 この沈着冷静な執務官の顔が見開かれることなど、長い付き合いである母親でも早々ないことである。
 ----------------なかった。
 ジュエルシードが、5個全て、ユーノからの信頼を再び勝ち得るべく。
 アースラスタッフ全員が、不眠不休でエリアサーチし、驚異的な速度で集めたそれらが。

 きれいさっぱり、なくなっていた。




「----------------ユゥゥゥゥゥノォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
 一斗缶に向けてカラデチョップ炸裂。
 果たして、其の中に残っていたものは…………。

「ガン…………ダム…………!?」
 空蝉の術、組みあがったガンプラ一体だけであった。







 アリサ・バニングスと月村すずかは大切な誰かが欠けたテーブルで、粛々とお茶を飲んでいた。
 これまでの報道、そして諜報網から漠然と、友人である高町なのはが何か大きな犯罪に巻き込まれていることを知った。
 あの恐るべきアールワンと、これから友達に成れそうだといった少女と共に、何か大きな存在と、戦っているのだと。

「----------------だからといって、今までの友達ないがしろにしていいはずないでしょうが…………バカチンめ!!」
 電話もメールも返しやしねえ。
「アリサちゃん、もうおなじこと50回も言ってるよ?」
 ぶんむくれたツンデレをなだめることも50回、飽きずに続けられた理由が、もちろんある。



 単に----------------友人が心配でならないのだ。


 だがしかし、そんな席に翡翠色の魔力光を迸らせ、舞い降りる小さな影が一つ。
 周囲に5つの珠を浮かばせて、其の毛むくじゃらはゆっくりと、彼女達の前に浮かんでいる。

(うそ…………ユーノ君が…………フェレットが…………)
(…………空を飛んでる)

「久しぶりだね、アリサ、すずか。
こうやって言葉を交わすのは初めてだけど、コレが最後になっちゃうかな?」
 小首をかしげながら、さびしそうな瞳で、其の不思議なフェレットは言う。

 足元で彼を撃墜しようと飛び掛る猫達と、一心同体に進化したのか!?と思う少女二人を除けば。
----------------其れは感傷的な、別離の風景になりえたのかも知れぬ。







 そして、視点をいよいよ二人の魔法少女に移そう。
 不眠不休でワイドエリアサーチを広げ、上空を飛び回っていたフェイト・テスタロッサ。
 そして姿を見せぬ彼女に、ようやく追いついた高町なのはであったが…………。

「----------------止まって!フェイトちゃん止まってよ!
一体何があったの!?」
 速度を落とすことなく、フェイトは告げる。
「ジュエルシードを全部集めれば、あいつアリシアを返してくれるんだ!
管理局に回収された5つを除けば後6つは海の下、強力な魔法を打ち込んで、一気に覚醒させる」
 蛮勇である。
 そのような危険、どうして容認できようか!
「----------------やめてよフェイトちゃん!
そんなことしたら貴方もただじゃすまないよ!きっとお母さんも心配しちゃう!」
だがしかし、其の言葉は引き金である。



「お母さんがジュエルシードを探していた理由は、アリシアを生き返らせるためだったんだ!!」



 立ち止まり、渾身の力で叫ぶフェイト。
「私はアリシアのクローンで、お母さんの、プレシア・テスタロッサの実の娘じゃない!
あの人が愛したアリシアの、所詮は偽者だったんだ!!」
「…………フェイト、ちゃん」
「でもね、なのは----------------」

 大きく息を吸い、目を見開いて再び叫ぶ。
 慟哭に似た、灼熱の決意を伴った、まるでこの世に生まれ出た赤子の叫び声のようだった。




「----------------だからどうしたッ!?」



 バルディッシュを握り締めた手を天に掲げ、尚も続けるフェイト。
「----------------母さんは私の作った料理を食べておいしいといってくれた!
私に向けられたものじゃなくても、生涯を賭して娘を救うために戦ってくれたッ!!
私の中に幾ばくか残った、アリシアの欠片が叫んでいるんだ!
あの人が誇らしいと、何に変えても助けてあげたいと----------------だからこそ私は、今『生まれ直した』ッ!!」
 ぐっと拳を突きつけて、少女は勇ましく名乗りを上げた。




「----------------今日から私は『NEWフェイト』だッッッッッ!!」




 背後で迸る紫電、空気を引き裂く轟音。
 なのはは呆然と、親友の名を繰り返す。
「…………NEW…………フェイト…………ちゃん?」
 フンス!と鼻息も荒く胸をそらすNEWフェイト、もはや恐れるものは何もない。
 故に、迅雷の如く海上に向かう彼女に追いつくのは、なのはにとって極めて事であり。



----------------故に海上で待つ、其の小さな魔力反応にも、なのはは気づくことはなかったのだ。
--------------------------------けして刃を向けたくない、その最大の敵に。


 海面に気を取られるばかりに、前方から襲い掛かるバインドに気がつかなかったNEWフェイト。
「----------------あうっ!?」
 其の頑強な戒めに捕らえられ、なすすべもなく空中に貼り付けになる。
「NEWフェイトちゃん!!」
 友人の安否を憂うなのは、目を凝らしてその下手人を誰何する。
 程なくして其の細められた目は、あまりに意外な其の正体に、大きく見開かれることになるのだが。

「----------------始終聞かせてもらったが、NEWフェイト…………恐ろしい相手だ。
問うまでもなく僕の身には余る相手なのでね、すまないけれど少し、其処で見ていてもらうよ?」
 其の身から発せられる翡翠色の輝き。
 周囲に輝く危険なロストロギアの輝き。
 其の光、一抱えほどの大きさにして大いなる脅威!!




「嘘…………ユーノ、君?」



 海鳴海上決戦、なのはの前に立ちはだかったのは魔導の師。
 今まで彼女の肩の上で死線を共に潜ってきた、フェレット----------------ユーノ・スクライアであった。







 『いんふぇるの』号の甲板の上まで、アリシアの入ったポッドを担ぎ行軍してきたアールワン・D・B・C・御神。
 迸る魔力の気配に目を上空にやると、其処に見知った二つの影が相対しているのが見えた。

「あれはなのはと…………ユーノか?」

 何かいやな予感がする。
 無意識下であわ立つ肌、一期の山場にして最大の戦いがこの二人で演じられることにより。
 なにか致命的な事態を招くことを悟ったのである。







「----------------管理局からジュエルシードを奪ってきちゃったよ。
コレが欲しいかいなのは…………そうだよね、二人で必死に追いかけてきた危険なロストロギアだ。
其のレイジングハートで----------------しっかり受け止めろッ!!」

 まるで空中を泳ぐように細長い身をくねらせたユーノ。
 なのはの足元に、背後に、頭上に----------------ありとあらゆる死角に回り込み危険な珠を飛ばす。
「くっ!----------------やめてユーノ君、危ないよ!!」
 動体視力と反射神経だけで防戦を強いられるなのは、必死である。
 下手な扱いで次元震を引き起こす代物だ、武器に使われてはたまったものではない。



----------------だがしかし、彼女は気づいているだろうか。
 其のコースはユーノが知り得る、彼女にとって防護の気薄な箇所であることに。
 戦場ではプロテクションで防ぐだけに有らず、危険な攻撃はシールドや時には獲物で受け止める機会が訪れることを。
 コレが最後の、彼の魔法の授業だということを。



 綱渡りの攻防、やがて5つのジュエルシードを封印したなのは。
 ようやく正面にユーノを見据え、その意図を問うことが出来る。
「ユーノ君!冗談に過ぎるよ!!
どうして私たちでこんな危険な喧嘩をしなくちゃいけないの?」
「----------------前に言ったよね、なのは。
君はもうすでに、危険な魔術結社に其の身を狙われている。
僕は其処にいるNEWフェイトを切り捨ててでも、君を守るつもりなのさ」
 口元をゆがめるフェレット、続く言葉を信じられないという表情で聞くなのは。
「ここからが本番だ、其のジュエルシードを追って、もうすぐ時空管理局の執務官が飛んでくるだろう。
----------------僕はあらゆるプロテクションで君を捕縛する。
もし掴まったなら最後、君は管理局に保護されて、NEWフェイトは逮捕されるだろう。
君の安全は保障されるだろうが…………君ならば、素直にこの提案を呑んでくれる気にはならないだろう?」
 知らず頬を伝う涙に気がついたなのは。
 彼を置き去りに、彼女と共に生きることを選んだときから訪れることが決まっていた別離。
「----------------さあ、僕を落とすんだ、なのは。
あらゆる暴力を、不自由を撥ね退ける力を見せてみろ!
僕はたとえ君に憎まれようとも!君を守りたいという信念を見せてやる!!」







 幾度も魔法の訓練を繰り返した二人、今日にして初めての実戦である。
 非殺傷を用いて、また殺傷能力を元から持たぬ捕縛魔法を用いての戦い。
 だが、その本気は魔法を交える二人以外、誰が知りえよう。



----------------それは、誇りを駆けた決闘であった。



「…………どうやら僕は大切なことを伝え忘れていたようだ。
なのは、君の魔法はね----------------当たらなければどうということはないんだよ!
もっと重点的に布石になる魔法を教えておくべきだった!実に残念だ!!」

 ばら撒いたディバインシューターを縫うように飛翔するフェレット。
 直撃したと感じたのに掠めるだけだったディバインバスター。
 捕らえられぬレストリクトロック。

 尽く決まらぬ必殺の魔法、何より彼女の手を焼かせるのは目標の『的の小ささ』であった。
 吹っ飛ぶように消えてゆく自身の魔力、悠々と目前に浮かぶユーノ。

 肩で息をしながら、ぼやけた視界は疲労のためか、其れともにじむ涙のためかわからない有様だ。 
「----------------どうしたんだいなのは!
ひょっとして泣いているのかい?
ろくな攻撃魔法も使えない僕に恐れをなして逃げ出すつもりかい?」
「…………ゆーのくん…………」

「ああ、それとも女の子は泣けば赦してくれるとでも思っているのかい?
いやだなあ、君は僕を女の子を泣かせた卑怯者にするつもりか!!
僕はね、なのは----------------君のどんなときでもあきらめない不屈の精神が好きだったんだ!!
最後の最後まで戦士の心を見せてくれ!!」
「……………ユーノ………くん…………ッ」

「さあ、撃つんだなのは!!
君は友達と喧嘩もできない臆病者か?チキンがフェレットに勝てると思ッてるのか!
撃って君が最強であることを証明するんだ!誰にも負けないという証拠を見せろ!見せてくれ!見せてやれ!!

----------------うてェェェェェェ!なのはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」















「ユぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーノォォォォォォォォォォ
くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーンんんんんッッッ!!!!」

「カモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンンッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」













 そのとき、周囲で分散した少女の魔力光が再び愛杖に集結し、いまだかつてない規模の砲撃が放たれる。
 諸君も知ろう、コレが高町なのはが誇るディバインバスターのバリエーション。

----------------其の名も広域殲滅砲撃魔法『スターライトブレイカー』である。

 周囲周辺を灰燼と化す、彼女の必殺の一撃。
 逃れる術もない圧倒的な光の柱に、目を伏せたユーノはなのはの二人の友人に嘆願した言葉を反芻する。
 そして、自分と彼女の仲間へ、心の中で送った言葉も。




『----------------いつになるかわからないけれど、必ずなのはは君達の元に帰ってくる。
----------------君達の友達は決して負けない、でも、きっとすごく傷ついて帰ってくるんだ。
--------------------------------だから、君達にはなのはの、帰る場所になってあげてほしい。

--------------------------------そうであれば、きっと彼女に怖いものなんか何もないんだから----------------』

(ああ、アールワン、見ているかい?----------------
 君の心配していたなのはは、こんなにも強いんだ----------------
 きっと君が心配していた、魔導結社なんて撥ね退けて、すぐに平和な町を取り戻すんだ----------------
 案ずることなんか、何もないんだよ----------------)




 目を伏せて、圧倒的な威力に其の身を任せようとするユーノ。
 だがしかし、これから起こる本物の危機を前にして----------------本作のもう一人の主人公が割って入る。




「ユーノーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」



 ヒュッ!!と気の聞いた音を立て、風を切って投擲される一斗缶。
 クロノ・ハラオウンが投擲した其れは、展開し、間一髪でユーノの身を守る。
 怒涛の魔力に押し流された其れは、水面に小さな音を立てて落ちた。

 やがて全ての力を使い果たしたなのは、消える足元のフライヤーフィン。
 クロノは其の小さな体を受け止めて、小さく息をもらす。



「時空…………管理局…………」
 捕縛されたままのNEWフェイトは、観念したように項垂れた。
 何を言うべきか解からず、彼女が落ち着くのを待つクロノ。

 彼女の母の願いは費えたが、けして悪くない未来を目指すのだ----------------いつかはわかってくれるだろう。
 彼女達には、立ち止まって考える時間がただ、少なすぎただけなのだから。







 だがしかし、彼女達の足元で異変が起こる。
 其れにいち早く気がついたのはもちろん、アールワン・D・B・C・御神----------------オリ主であった。

「----------------来るッ!!」

 奇しくも、かの大威力砲撃魔法が放たれたのは海中。
 眠る6つのジュエルシードが、その魔力に反応し、世界に牙を剥いたのだ。

 海面に、瞬きの間にひろがる真っ黒な穴、それは14年前に己が潜ったそれと極めて告示していた。
----------------次元震とは似ても似つかず、しかして世界が悲鳴をあげる。
----------------ソレはあまねく創作世界を冒涜し、蹂躙し、侵略するために姿を現す。



--------------------------------嗚呼、世界も恐れよ!あの真っ黒な機械の腕を。
--------------------------------海面から突き出たおよそ3メートル、おまけに角まで見えてきた!



「やはり貴様だったか…………羽化しようとした時も!地獄の門を開こうとした時も!
原作キャラに憑依しようとしたときも!モブキャラをただの『機構』に作り変えようとしたときも!
二度にわたって木の股から生まれ出ようとしたことも----------------全ては貴様がここに現れようとする算段だったか!!」

 白と黒、二つの魔力光が拮抗し、オリ主の瞳から実体の炎が吹いた。
 それだけではない、手足に絡みつく魔法式からも白く輝く炎が吹き荒れる。
 ここに来て初めて、彼はアールワン・D・B・カクテルとしてこの世に生まれた真の意味を怒りと共に再認した。




「--------------------------------時空暴君ッッッ!!!!」








----------------ソレは、物語の尖った部分(具体的には九十度以下)から現れる。

 突如として足元から押し寄せた、圧倒的な衝撃波から二人をかばったクロノ。
 だがしかし、彼のラウンドシールドすら食い破ろうとする、其の圧倒的な暴力/冒涜に焦りの色を見せる。

(----------------いったいなんだ、あれは絶対にジュエルシードの暴走体じゃない!!)

 ろくにに攻撃の素振りも見せていないのにこの威力/異様はいったいなんだ、なんなのだあれは!?
 一切理解の及ばない圧倒的な腕、しかしここに来てNEWフェイトは海面に浮かぶ其の存在の瞳を見た/視てしまった。



「あ、ああああ、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!?!!?」



 ----------------みるみるSAN値が減って行く!!





 だがしかし、この作品に原作キャラを見捨てるような機神は居ず。
 デウス・エクス・マキナに頼る其の前に、まずは原作キャラの力にてこの恐るべき事態を収束つかまつる。
 いま!押し寄せる黒い気配を掻い潜り、海面から一人の少年が飛び出した!!











「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!----------------紫翔閃ッッッ」









 白いバリアジャケットに赤い髪、噴射機構を備えた槍を片手に飛び出したその少年は、
紫電を宿した掌を一閃させ、NEWフェイトの腹部に叩き込んだ。

「----------------ひぐぅぅぅぅぅ!!」

 大脳のうちにある性感をつかさどるシナプスへ、強制的に電流を流し込まれる。
 いまだかつてない性的快感を欲発された少女は大きく体を跳ねさせる。
 無理やり意識を正気へ戻された少女は、目の前に居る少年を仰ぎ見た。

----------------ムーンチャイルド、Fの系譜、人工魔導師生産計画の完成形。
----------------やがて来たりて、彼女を守る騎士。

 だがしかし----------------
「フェイトそん!フェイトそんしっかりしてください!!」
「ひやぁぁぁぁ…………らめぇ…………」
----------------ぺちぺち頬を叩くたびに、未知の快感が襲い掛かって顔をまともに見れやしない!
 びくんびくんする少女を垣間見て、流石に止めようとクロノが手を伸ばした其の合間。


 だが、そんな折をみて尚も、黒い機神は世界へ現れようと其の手を伸ばす。
 しかし、ここで今を生きる大魔導師が渾身の一撃。
 その真っ黒な腕に落ちる巨大な稲妻、ソレを放った向こう岸の黒い人影。
「あれは----------------プレシア、テスタロッサか?」
 誰何するクロノ、そして頃合と見た小さな槍騎士は水面に向けて叫ぶ。



「今だ!シュトロゼックさん----------------彼を!!」
 目を凝らせば、水面に浮かび立つボロボロの服を着た少女。
 すっかり色あせて、原形をとどめないほど破れ朽ちた、元は白かったであろうドレスを翻し、
衣服からちぎり取ったものであろう布に包まれた、其の腕に抱いた赤子の様な物を天に翳す。



----------------果たしてソレは、身の毛もよだつような肉塊であった。
----------------996と銘打たれた金属が埋め込まれた、4期主人公の成れの果て。
----------------そう、モノに成り果てた、ゼロエフェクト・ドライバ。
----------------いまではもう、輝けるトラペゾヘドロンに相対する存在。

 圧倒的な『存在しなさ』で海面から突き出た腕を押し戻し、彼女と少年もまた、そのうちに帰ってゆく。







 そして静けさを取り戻した水面に浮かぶ一斗缶、最後の力で6つのジュエルシードを封印したユーノ・スクライア。
----------------彼は再び、狭い金属の箱の内で瞑想を続ける。

 ひょっとして、自分は大きな思い違いをしていたのではないか?
 アールワン、彼の敵は犯罪組織でも時空管理局でもない----------------もっと大きな何か。
 それこそ世界全体を揺るがすような相手----------------あれは一体、何なのだ?



[25078] 【無印編十八話】オリシュハザード
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/08 23:32
世話になった相手との、これが最後の通話であろう。
「----------------ヘロウ『古着屋』調子はどうだい?」
『おお、ぼっちゃん。
其方から電話してくるのは久しぶりでゲス、どんな情報がお望みでゲスか?』

 いつもとまったく変わらない下品な声にも、言いがたい感傷がわいてくる。
 暫く唇をかみ締めて、オリ主は次の言葉を口にした。
「…………部屋を片付けていただきたい。
君達の望んだものは1番とナンバリングされたアルバムの、一番前に挟んである。
あまり死者を冒涜することのないように」
『----------------ぼ、ぼっちゃん、一体どういうことでゲスか!?』



「この町を離れるつもりだ。
----------------どうやら自分は、派手に暴れすぎていたらしい。
もし誰かに私の情報を売るなら、そのパンチパーマの中でよく考えてからにしてくれたまえ。
もっとも、誰の手にも届かない場所まで大急ぎで行くのでな、すぐに二束三文にもならない情報になろうが。
----------------では、さらばだ」
 通話を切り、そのまま着信拒否に設定。
 コレでもう二度と、母の形見は縁者との繋がりを結ぶまい。

 アールワン・D・B・C・御神はアリシアの入ったポッドを引きずりながら、決戦の地へ向かう。
 海上決戦の、ほんの一時間前の事である。







「なあアリシア、お前さんおふくろの腹の中から出てきたときの記憶はあるか?」
 これは、背中の棺に向けての独り言だ。

「なにぶん十五年近く前の出来事だ----------------私もほんの少ししか覚えていないがね。
知っているかい?この国では生まれたばかりの赤ん坊を、親が抱いてはいけないそうだ」
 感染症を防ぐためだ、とは言われているが。
 その実母子の絆を薄れさせるために諸外国が決めたのだ----------------そんな噂もある。
 君はどうだった?あの今ではモンスターペアレントのコスプレをしている女は、君を抱いてくれたかい?

「私を取り上げたのはまだかろうじて医師免許を持っていた知り合いの爺さんだ。
もちろんそんな法律はクソ喰らえで、私の体を母親の腕の中に押し込めたのさ。
----------------すさまじいプレッシャーだった。

私の中では世界を救うのは至上最大の娯楽だろうが、親を幸せにするのは本当に気の乗らない仕事だった。

転生してから十五年、かつて『私だったもの』は早々親を亡くしてね、甘え方など当に忘れていた。
問題ばかりの学生時代だった----------------『問題は解決しなければ、問題は解決しない』
これは私の持論だが、まあまあ真理だと思わないか?」
 其の通りに二度目の人生を過ごしてきたつもりだ。
 もっとも、彼を取り巻くこの町での生活は、波乱ばかりで息つく暇もなかったが。



----------------フェーザー・ディープパープリッシュ、それがオリ主の母親の名前。
----------------彼をこの町で出産したとき、彼女は僅か15歳だった。



「だが、どうしても母親との関係は良くなくてね----------------『その問題』は自身にとって厄介だった。
成人した男が、自分を生んだ女が年下でしたなんて笑い話にもならんだろう?
まったく転生者らしい悩みだが、差に有らず私もどっぷりはまってしまったよ」

 フェーザーにとって、息子に向けるのは親愛であり、誇れぬ仕事で口糊をしのぐ罪悪感であったのか?
 アールワンにとって、母に向けるのは恋愛であり、無垢にこの世に生まれ出られなかった罪悪感であった。

 彼女にとっては『家庭の問題』であり、彼にとっては『恋愛問題』であった。
 上手くかみ合うはずがない----------------そんな十二年間の回想。






----------------公民館を借りての小さな葬儀であった。
 参列しているのは彼女の勤め先の同僚と、その客のみ。
 用意した椅子を半分も埋められぬだけの僅かな参客である。

 自分に並び立つ喪主は『古着屋』で、振り返れば『動画屋』『洗濯屋』『医者』『教師』----------------『彫師』は来ない。
 其の後ろにはSMクラブの同僚、店を離れた嬢も駆けつけた。

 だが、おそらくはブルーメタリックの字(あざな)を持つであろう自身の父は其処に現れず。
 ただの一人も、次元世界からの参列者は姿を見せなかった。



 日に日に弱って行く母を看取りながら、自身の恋心を殺しきり。
 今際の際まで続けられた母の魔法の技を持て、次元世界への長距離通信を試みる。
----------------父を呼ぼうとする試みは、欠片も相手にされなかった。
----------------事務的に次元世界向けのの死亡届はこちらで纏めておくこと、査察官の代替は居ないこと。
 あからさまに厄介払いの声色で通話を切られたものだ。



 要するに島流しだ----------------アールワンは自身の母の過去をデバイスにつけられた日記で知る。
 第一世界ミッドチルダ、彼女は其処の陸士隊から左遷されて、この管轄外世界の査察官として島流しにあったこと。
 懲罰の内容は、本局高官との不祥事に有るという。

 それだけで、大体の事はわかったものだ。



----------------母の職場で一番の指名を受ける『女王』が、アールワンに告げる。
--------------------------------自分の保護に入れと、私の家族になれと。
 今迄で見たことのないツンデレパワーである、確か彼女は、M度ナンバーワンの母を心底嫌っていたはずなのに。

 だがしかし、泣きはらしたその真っ赤な目を真正面から見返して、アールワンは告げた。
 必要ないと、自身はこれから裏の世界を行くのだと。



 諸君も知る、血と暴力の世界。
 其処にいる誰もが反対した、なぜならば彼の母親は心底彼を愛していて、彼もまた其の優しさを受けて育ったからだ。
 戦えるはずがない、そんな生き方を選んで生きられるはずがない。
 だがしかし、物語の崩壊は彼のみが知り、すでに明らかである。



 母の体が荼毘に付され、山の中ほどになる墓地の合同碑に埋葬された晩の事。
 アールワンはフェーザーのパンツを被ってみた。
----------------唯の一つも反応することはなく、知識も経験も流れ込んでこない。
 肉親だから、という理由ではない。
 自身の、このややこしい恋心が彼女のパンツに興奮しないわけがなく。

----------------ただ、最後の最後まで彼に教えた技と経験が、余すところなく彼に伝えられた証に他ならない。







「泣いたよ----------------盛大に泣いた。
彼女を失ったからではない、それだけの母性に答えられない自分のふがいなさ。
そして何よりも----------------彼女を辺境での死に追いやった時空管理局への復讐心が、欠片も沸かないことに」

 悔しさよりも、彼にとっては『原作』と向き合うことだけが大きく膨れ上がり。
 ただただ転生の理由を追うだけの自身のわがままさ、傲慢さを目の当たりにした夜。
 アールワン・D・B・カクテル----------------『オリ主』である。






----------------そして、彼の母は『オリ主災害』の最初の犠牲者であった。
----------------はたして、彼女の人生にはいかなる価値があったのか。





『いんふぇるの』号の甲板の上まで、アリシアの入ったポッドを担ぎ行軍してきたアールワン・D・B・C・御神。
 迸る魔力の気配に目を上空にやると、其処に見知った二つの影が相対しているのが見えた。

「あれはなのはと…………ユーノか?」

 何かいやな予感がする。
 無意識下であわ立つ肌、一期の山場にして最大の戦いがこの二人で演じられることにより。
 なにか致命的な事態を招くことを悟ったのである。



「外的要因まで持ち込んだのは、めったに居ないだろうが…………やはり『転生者』というのは大体人格破綻者なのかね」
----------------某所で嫌われるのも当然ということ。
----------------そして、どこの世界においても、結局自分は『異物』なのだ。






--------------------------------世界も恐れよ!あの真っ黒な機械の腕を。
--------------------------------海面から突き出たおよそ3メートル、おまけに角まで見えてきた!



「やはり貴様だったか…………羽化しようとした時も!地獄の門を開こうとした時も!
原作キャラに憑依しようとしたときも!モブキャラをただの『機構』に作り変えようとしたときも!
二度にわたって木の股から生まれ出ようとしたことも----------------全ては貴様がここに現れようとする算段だったか!!」

 白と黒、二つの魔力光が拮抗し、オリ主の瞳から実体の炎が吹いた。
 それだけではない、手足に絡みつく魔法式からも白く輝く炎が吹き荒れる。
--------------------------------かつて瀕死の重傷を負った、自身の息子を救おうと命を賭して母が手に入れた力の一つが!
 だがしかし彼はアールワンとしてこの世に生まれた真の意味を怒りと共に誤認した。




「--------------------------------時空暴君ッッッ!!!!」



 デバイスを握り締め、立ち向かわんといきむオリ主。
 だがしかし、創作世界を隔てる扉から、時間と空間を越えて現れる原作キャラたちにあっけに取られる。
 開いた穴が収縮すると共に、この時間を去ってゆく二人。

--------------------------------そして彼が手にする最後にして究極の魔道兵装。

 僅かな間の邂逅、だがしかし去り際オリ主に見せた笑顔から察するに、友が導いた援軍であろう。
 まだ、運命に見捨てられたわけではないと安堵する。
 そして、彼らに加勢してくれた『無印』の母親、其の一人にも念話をかけるのだ。





『--------------援護砲撃に感謝する、プレシア・テスタロッサ。
時に、ここまでたどり着くだけの体力は残っているのかね?』

 プレシアは突如頭蓋に響いた念話の発信場所を探知する。
 『いんふぇるの』号甲板、約束の場所にアールワンは立って居る!



「変態仮面!--------------返して!アリシアを返して!!
--------------------------------『八頭身』をあげるからアリシアを返して!!」
 彼女を支えてここまで来た、やっつけで作られた猫のような魔導生物がセクシーポーズをとった。

 不気味な沈黙、彼は何事か考えているようであったが--------------------------------
『………………………何も返さないとは言っていないよ。
早くたどり着きたまえ、ジュエルシードは魔法少女達が持ってきてくれるだろうしな』
------------どうやら華麗に流すことにしたらしい。



 やはり交渉にはならなかったようだ。
 遅ればせながら彼が好みそうな変態的生物を用意してみたのだが…………。
 立場をなくしたように八頭身は引き下がり、プレシアに肩を貸す。

 この地で知り合った女性が時間を稼いでくれると約束してくれたが、
 はたしてプレシアはあの船の向こうまで、たどり着くことが出来るのか--------------------------------







 もうすぐ、自身の輩が守るゲートまでたどり着く。
(もうすぐだ、アリシア。
きっと彼らなら君達親子を助けてくれるだろう。
------------旅の途中までは、私と一緒だな)

 さて、あの忠臣にはどのように別れを告げようか、オリ主は思案した。
 思えばこの戦いの始めに出合ってから、幾度も自身を守ってくれた愛馬。

 彼の者がいなければ、自身の悲願も半ばで敗れていたかも知れぬ。
 深く感謝しながら『いんふぇるの』号大ホールに足を踏み入れたオリ主。












--------------------------------だがしかし、其処に雄範誅(おぱんちゅ)号の姿はなく。
--------------------------------其の巨躯を探しながらゲートに近づく、其の半ばでようやっと気がついた。

 転送ゲートの前、床の上にぽつんとおかれた其の小さな缶、台形。
「まさか…………いや、そんなはずは………」
 目の錯覚だ、そう思い込みながらアリシアの入ったポッドを傍らに置き、床にそっと手を伸ばす。
 まさかこれが、今の相棒の姿か?
 ならばあの勇ましい痛馬は、誰に敗れ去ってこのような仕打ちを受けたのか!?

「…………だれだ…………」
 無意識に肩を震わせるアールワン。

「雄範誅(おぱんちゅ)号を、合い挽きにしたヤツは、誰だァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
 激昂するアールワン、其の掌の上に置かれているものは。






--------------------------------今ではもうめったにお目にかかれない、コンビーフの缶であった。



[25078] 身辺整理(終)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/12 04:48
 そしてゆっくりと、大ホールに御神美沙斗が入ってくる。
 両の手に小太刀を捧げ、剣呑な視線をこちらに向けてくる。

 然り、御神の技ならば雄範誅(おぱんちゅ)号を相手取るにも事足りよう。
 だがしかし、何ゆえ其の剣でアールワンの愛馬を手に掛けねばならなかったのか。
--------------------------------そして何故戦支度でオリ主の前に現れたのか。

 双方に言葉は要らず、武芸の担い手はただ競い合うだけで分かり合うことが出来よう。
 二人は、其れを、今は其れだけを望んでいた。







「…………じつは養子縁組の書類は…………まだ役所に提出していない。
…………そもそも君に近づいて…………情報を得るための手段だったからね…………。
ただ、君と共に生きるなら…………其れも悪くないと思った…………『生きる意志』があるのならば」
 御神美沙斗、脇に挟んだ小太刀の鞘を、ゆっくりと床に落とす。
 一つ、二つとがらんどうな空間に乾いた音が響いた。

「生きる意志--------------------------------確かに持ち合わせていないな。
ただ運命に抗う『意思』だけは多分に持ち合わせていたのでね、早く全て終わらせて身軽になりたいものだ」
 根性棒が唸りを上げて、魔力刃を形成する。
 そして一度目を伏せると、手にしたコンビーフの缶を見せつけ、美沙斗に問う。
「雄範誅(おぱんちゅ)号を討ったのは貴様か」
「…………いかにも…………君と戦うならば…………間違いなく邪魔をしてくれるだろう?」



 彼女の本気をしかとと見せ付けられた次第だ、殺し合いの果てにこちらの真意を問う腹積もりか。
 どうしてパンツを被るのか。
 辛くはないのか、やめたくはないのか?
 多々居る原作キャラの内、彼女だけがむき出しのアールワンを見てくれている。
 不思議な感覚だ、まるで心のうちをさらけ出しても受け入れられそうな信頼感。
 だが、同時に深遠を見透かされている不安も感じ入る。
--------------------------------どちらにせよ、意地を通すならば邪魔な相手だ。

 ゆっくりと漢の手から、小さな缶が滑り落ちる。
 アールワンD・B・C・御神------------否、アールワン・D・B・カクテルの最後の戦いの幕が開く。

 カツゥゥゥゥゥン、とコンビーフの缶が気の聞いた音を立て。
 同時に二人の剣鬼は神速を伴ってぶつかり合った。







 ゆっくりと時間が引き伸ばされる感覚、一太刀の下に切り捨てようと刃を閃めかせるアールワン。
 しかし、忽然と眼前から消え去る御神美沙斗。

(--------------------------------二段掛けッ!?)
 借り物の奥義ではたどり着けぬ局地、永全不動八門一派・御神真刀流秘奥中の秘奥。
 気づけば背後に居た仇敵、虎切を袈裟懸けに放ち、アールワンの背を深く深く裂く。

 血を噴出しながら独楽のように地をすべるオリ主、其れを見下ろし悠然と立つ美沙斗。
 暗転しそうになる視界で地に掌を突き立たせるアールワン、まだ一合。
 たったの一合で伏せるわけには行かぬ、ゆっくりと上体を持ち上げ、歩み寄る美沙斗を見やる。



 彼女は今、己の衣に手をかけゆっくりと自分の下着を脱ぎ始めたところだ。
「使うといい…………音に聞こえた『変態秘奥義』…………変身しなければ、使えないのだろう?」
 ぱさり、と己の顔に落とされる小さな布切れ。
 だがしかしアールワンは其れを握り締めると、魔導式を輝かせる。
 白炎が迸り、瞬く間に消し炭になる彼女のパンツ。
--------------------------------使わぬ!持ち主の目の前で其れをかぶりハァハァするなど惨め。
--------------------------------何よりもこの女とは、自分の意思と自身の力で戦いたいものだ!

「うぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」
 ロープバインドが部屋中を奔り、相手の機動力を殺す。
 だが相手も去るもの、其れすらも足場に擬似三次元殺法にて撹乱を始めた。
 エリアサーチを尖らせ、視認の範疇からも相手の位置を測る。
 技では敵わず、ならば母より受け継ぎし魔道で勝負。

 これだ、このような血沸き肉踊る決闘がずっとしたかった!!
 迫り来る美沙斗、アールワンのデバイスはその太刀筋を見切り、片方の刃を粉砕することに成功した。



 だがしかし、抵抗らしい抵抗は其処までである。
 利き手にもう片方の小太刀を移し、逆手に持った其れが牙のようにアールワンに襲い掛かった。

 閃、胸を突かれるか、片腕を削がれるか、それとも一気に頚の動脈を絶ち切られようか。
 観念する--------------------------------自身の命はここでおしまいだ。
 だが、しかし。
 その刃が彼の体に達する前に、アールワンは美沙斗の瞳と視線が合った。
 其処に浮かんでいたのは、まごう事なき哀れみである。







 何故光の当たらぬ場所に巣食うのか、なぜ無心に人を救うのか、彼女はその視線で問うた。
--------------------------------知れたこと、自身の異能が闇を呼ぶからだ!
 君がどこからやってきて、どこへ帰るのかは解からないが、其処に光は当たるのか?
--------------------------------帰る場所は、少なくともここではない。
--------------------------------ただ、約束の地にて己がここへ送り込まれた理由を問う。
--------------------------------其れだけが『転生』した自身の、唯一の目的らしい目的だ!
 ならば私が光になろう、この世界に君が留まる理由になろう。
 なんでもない日々をただ過ごして、精一杯この世界に居る理由を、共に探そう。
 君はただ、今ここにいる私に家族を求めるだけでいいのだ!
 私自身も、君にそれを求めている。
 アールワン、世界に気を使ってばかりいると、いずれ君はナイトガントに成り果てるぞ!!』



 魅力的な提案であった、故に何故かこの世界で生きろと告げた友、機神の顔と美沙斗の顔が重なって見える。
 だがしかし、彼は眼前の死を、すでに受け入れている。
 己が運命の不条理に疲れ果て、この瞬間は道半ばで力尽きることすら良しと思っていた。
 この世界にとって、益になる事とすら思っていたのだ。



 …………絶望、それこそが時空暴君の真の企みとも知らず。








 無言の問いに答え、己が命を立つ刃を甘んじて受け入れんとするアールワン。
 だがしかし、彼は無意識のうちに袖口に隠し持っていたバイブレーターで其の小太刀を受け止めていた。
 目を見開く美沙斗、だがしかし其れはアールワンも同じ。

--------------------------------耳元で幻聴が囁く。
(あきらめないで、チャンスはいくらでもある!乙女の恋心はしつこいぐらいでちょうどいいの!!)
 それは包丁を自在に操るヤンデレ妹の声であろうか?

 大胸筋が勝手に弾き出した避妊具を咥え、一息で膨らませる。
 やがて美沙斗の前ではじけた其れは、小太刀を取り落とすほどの隙を生む。
(恥も外聞も捨てれば其れは手段になります、過ちながら生きることも同じです)
 これはおっぱいデリヘル嬢の声か!?

 背後に回りこんだ美沙斗が飛針を飛ばす、腰を後ろに向ければすっぽりと、其れは尻の間に受け止められた。
(自分の事を不幸のバキュームカーかなにかと勘違いしてるんじゃねえだろうな!?
きれいごとを目指して突っ走るよりも、クソまみれの世界でや・っ・て・や・ら・な・い・か!?)
 ウホッ!いい男!!

 そして自身の足が超高速のムーンウォークを刻み、敵との距離を取る。
(誰もが幸福を求めて生きています!其れはどんな理不尽にも負けない力です!)
 最後に、名もしらぬOLの声が聞こえる!

 呆然と膝を突くオリ主、自身の異能はこの世界に争いと混乱を生む呼び水であったはず。
 だがしかし、耳元で自分を呼ぶ声は力強く、いかにも光輝く価値を伴っている。
 アールワン、生きろ、アールワンと。
「おおお…………フォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
 混乱した、この世界においてパンツとは一体何なのか。
 そして自身が持つ、この強大な力が意味するものは。
 善か悪か、この世界が自身に何を求めているのかも。



「『…………生きるんだ…………戦いの果て、たとえこの世界に絶望しても…………ここが君の帰る場所だ。
…………間違いなく…………君の母親は…………君がここに生まれ生きることを望んだのだから』」
 其れは果たして、彼を魔法世界からの異邦人としてみた台詞であったのかも知れぬ。
 だがしかし、見方を変えれば干渉してきた機神の台詞とも取れるだろう。
 はたして御神美沙斗、リリカルなのはの世界において存在しない原作キャラは何者か。
だがそのような問いに答えは要らず、困惑する転生者を置いて彼女はきびすを返す。







 これでよかったのか?帰路の途中壁に寄りかかった巨大な影が美沙斗に視線で問いかける。
「…………ああ、大丈夫だよ…………ごめんね…………別れの時間を横取りしちゃってさ…………」
 その影の鬣を優しく撫でる美沙斗、小さく頭を振る巨影--------------------------------嫌がってるわけではない。
「脈があれば…………あの子は私の元に…………返ってくるだろうね…………。
私は迎え入れる準備をして…………ずっと待っているだけでいいのさ…………」
 ならば別れは要らず、自身も命じられた最後の仕上げをこなし、主の後塵を絶つ。

 アリシアの入ったポッドを引きずりながら、ゆっくりとゲートを潜るアールワンの背中を見て、
彼の輩はこの海鳴における最後の舞台を演ずる準備を始めた。







 今はただ、敗北を受け入れるだけでいい。
--------------------------------自身の敬愛する地球圏統一国家元首も『勝っちゃダメ』って言ってたしな。

 迫り来る傀儡兵をロープバインドであしらいながら、暗躍の終点を目指しアールワンは行く。
 自身の存在意義を棚上げしてでも、いまは迫り来る魔法少女達を迎える準備をしなければなるまい。

 其れこそ自分が選んだ道、この世界で持った自身の望みを果たす唯一の方法と信じている。
 故に、けして無様は見せられぬ。
 彼女達に強敵(とも)と呼ばれる、其れはきっと、間違いではないはずだから。




 物言わぬアリシアの躯、彼に引きずられる少女はただ、黙して彼の用意する『救い』に付き従っている。



[25078] 【無印編十九話】さようなら、おかあさん。
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/12 11:43
「なのは…………、起きて、なのは…………」
 親友に揺り動かされ、高町なのははうっすらと目を開ける。
 どうやら誰かに負ぶわれているらしい、気絶から意識を取り戻しただけでなく、ふわふわする感覚。

「フェイトちゃん…………ここは?」
 老朽化している、元は豪華であったろうカーペット。
 色あせてはいるが色調豊かな壁紙の、いたるところに弾痕が刻まれ、照明もところどころ点滅している通路だ。

「『いんふぇるの』号というらしい、地球の船の中だ。
どうやらアールワンがNEWフェイトの母をここまで先導したらしい」
 自分を背負っている少年が、其の問いに答える。
 先日ちらと見た、時空管理局の少年だ。
 何故彼とNEWフェイトが、共に行動しているのか。
 そして彼に自分を引き渡すつもりだ、といったユーノはどうなってしまったのか。
 聞きたいことは山ほどあるが、ともあれ自身の足で立つことが先決だろう。
 なんか、気恥ずかしいし。
「大丈夫か?つらいならこのまま運んで行ってもいいんだが…………」
「大丈夫です、歩けます」
 NEWフェイトの手を取って先導しようとするなのは、どうにも気まずくなってクロノは頬をかく。

「まだ母さんはたどり着いてないようなんだけど、どうしてもアールワンに聞きたいことがあったから」
 これから会いに行くのだ、と告げると万一のためとボディーガードとしてついてきてくれることになったらしい。
 何だそれは!?あの男が自分達に危害を加えようとでもいうのか。
 憤慨するなのはをよそに、暫くアールワンとユーノと、行動を共にしていたこと。
 ジュエルシードが覚醒して、何か恐ろしい存在が現れようとしたこと。
 間一髪で、最終的にユーノが封印処理を施し、隙を見てNEWフェイトが回収してしまったことなどをクロノは説明する。
「アールワンと母さんがどうやってアリシアを救うつもりなのか、其れを確かめないと返さないって言ったの」
「女の子のわがままには慣れているつもりなんだがな…………どうにも仕事と割り切れなくて困る」
 どこかで余計な甘さを拾ってきてしまったのか、腕を組みながらクロノは思案した。






 やがて三人は、オリ主の指名した大ホールの前にやってきた。
 道中危険なテロリスト集団が尻を突き上げて悶絶している様などが見て取れたが、後日背後関係を洗う必要があるだろう。

「この先に転移施設の反応がある。
アールワンから聞いたとおりだ、尤も今うちの船に居る君の使い魔から聞いた話だが」
「アルフ大丈夫?酷いことしてない?」
「僕の母さんが受け持っている、精精甘いものを食べさせられているくらいだ」
 クロノとNEWフェイトが巨大な扉の取っ手を持ち、左右同時に押し開く。

 なのはにとって学校の体育館を思わせる広さ。
 其のステージの上に、魔力を伴ったリング状の機械が添えつけられていた。

「――――――――――――転移装置だ、あの向こうでアリシアを連れたアールワンが待っているらしい」
 居ても立っても居られずに、なのははその転送ゲートまで走り寄る。
 聞きたいことがあるのはなのはだって同じなのだ、どうして変態仮面が連れ去った少女を彼が保護しているのか。
 NEWフェイトの母親と其の娘を救うつもりがあるのならば、どうして自分に教えてくれなかったのか。
 どうして、自分にも手伝わせてくれなかったのか。



 だがしかし、そんな彼女の行く手を阻む最後の難関。
 彼の輩、モノトーンの門番が突如、天井から落ちてきたのである。



「うそ…………」
 堪らず船全体がぐらりと揺れた、始めは床が爆ぜたのかと思った。
 瓦礫と埃が濛々と立ち上がる煙の中、じゃらりと鉄球をつないだ鎖が音を立て。
 ゆっくりとたくましい二本の後ろ足で立ち上がる其の姿、なのはの頭上をはるかに越えた高さにかぶったパンツ。
「なんで通せんぼするの…………教えてよ…………」
 左右の前足に携えられた鉄球が火花と共にガチン!と打ち合わされ、空中に打ち上げられたコンビーフの缶が、
恐ろしいほどペシャンコにプレスされる。



「――――――――――――――――雄範誅(おぱんちゅ)号ッッッ!!」
――――――――――――――――ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



 なのはの悲痛な問いには答えず、直立不動の巨馬が、地響きと共に少女達へ立ち向かう。
 投げつけられた鉄球を、ラウンドシールドで、まるでドッチボールの様に受け止めたなのは。
 痛みではない、感情故にこらえた涙が目尻に滲んだ。








 巨体に似合わぬ猛烈な速度で縦横無尽に駆け回る其の姿。
 質量兵器の極みとすら思える暴力的な其の獲物。
 猛烈な戦闘能力、恐るべき敵となった雄範誅(おぱんちゅ)号を前にして、初見であったクロノは堪らず問う。

「馬ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」

 名だたる次元世界の魔獣、幻獣に引けを取らぬ脅威。
 空へ逃げるも跳ね回り、鎖のリーチを目一杯に使って超質量の対空迎撃。
 この部屋に居る限り、逃れる術のない雄範誅(おぱんちゅ)号の猛攻に焦る三人の魔導師。

 時折クロノとNEWフェイトが反撃を食らわすも、ろくに効いた様子がない。
 おそらく人間に比べ生命力が段違いなのであろうが、このままでは非殺傷の封を解くよりほかになかろう。

 そしてなのはは其の猛攻をひたすらに受け、絶え続けていた。
 あくまで敵ではないと思い続ける其の姿を見咎めた雄範誅(おぱんちゅ)号、なのはの前に降り立つと、
容赦のないダブル蹄ハンマーを彼女の頭上に落とす。
 父親の拳骨とは比較にならない圧倒的な一撃、このままでは少女の頭がスイカのようにカチ割られる!!


 だがしかし、其処へ割って入る翡翠の流星。
「なのはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
 蹄と鉄球の波状攻撃を防御魔法でガッチリと受け止める一斗缶。
「ユーノ君…………ユーノくんなの!?」
「ここは僕に任せてゲートを潜るんだ!アールワンの真意を聞いてくるんだ!たのんだよなのはッ!!」
 ほんの数秒、目前に浮かぶ金属の箱に戸惑った彼女であったが、大きく頷くとステージの方へ走り出す。
 そんな彼女に続くクロノとNEWフェイト。



 だがしかし、其の後姿を見送った後、雄範誅(おぱんちゅ)号はふと、その手を止めた。
 再び四足歩行の生物に戻ると、大ホール入り口の方を見やる。
 僅かに出遅れたものの、遂に到着したのだ、母親が。
 プレシア・テスタロッサその人が。

 魔法少女達と共に彼女がこの転送ゲートを潜り抜けた後、悪党どもに使われぬよう装置を破壊すべし。
 そこで、主からの命は終わりである。


 故に、其の後は――――――――――――――――








 転送ゲートを抜け、三人が降り立った先は荒れ果てたNEWフェイトの生家。
「ここは…………時の庭園?」
 薄暗く物々しい雰囲気、アールワンが指定した場所は母の妄執が篭った無印終結の地。
 おぞましいとすら形容できる景観に強張る二人を連れて中へ。
 はたしてあの男が、どのような真意でここを選んだのかは知れぬ。
 だがしかし、もし戦いを望むならば地の利は此方にあろう。
 何と言っても、ここは自身が生まれ育った場所、思い出の全てがこもっているのだ。



 だがしかし――――――――――――
「前方から魔力反応!来るぞ!!」
 壁を壊しながら迫り来る傀儡兵、惜しげもなく全機投入された時の庭園の防衛機甲達は3人の高ランク魔導師達に、
次々数を減らされながらも遂に、二人の少女を羽交い絞めにした。
 だがそれ以上の危害を加える様子はない、見れば四肢にロープバインド、どうやらあの男が操っているらしい。

 そして天井を破壊して狭い廊下にあわられる砲を担いだ傀儡兵、否、あれは本当に兵器なのか?
 肩に担いだ赤と白のパッケージ、コンビニにおいても違和感のなさそうな秀逸なデザイン。

『『A――――――(――――――)』』
「レイジングハート!?」
「バルディッシュ!!」
 包装を解き、カポンと蓋を外された其の砲塔に覆いかぶされる二人のデバイス。
 先端のエアホールに指を沿え、ぐっちゃぐっちゃと肉食獣の咀嚼の様な音を立て幾度かシェイクされる。

 やがてスポンと開放された二人の愛機、物言わぬ無骨な兵達は噴射機構を吹かして其の場を離れる。
そして開放された魔法少女達はヌメヌメしたデバイスを大事そうに抱きしめた。
『[Fuu;]――――――I am sorry mastering(Fuu。――――――私は、習得しながら、残念です)』
『[Fuu;]――――――Apparently, all the jewel seeds seem to have been deprived.
(Fuu。――――――――どうやら、すべての宝石種子が、奪われたように思えます。)』
 どこか達観したような口調で告げるレイジングハートとバルディッシュ。
 21個のジュエルシードがすべて、あの男の手に奪われてしまったようだ。

 やがて最奥に向かう三人を襲う違和感。
 どうやら奪い取ったジュエルシードを使い、虚数空間を展開し始めたらしい。
「――――――――――急ぐぞ!みんな」
 魔導師たちは駆け出した、終局へ、オリ主が待つ物語の終末へ。







「どこまで凝り性なのか…………プレシアめ」
 コンピューターにハッキングを終え、必要なシステムを全てデバイスに移し終わるとアールワン。
 納屋の中からそれはそれは立派な『玉座』を発見、使ってあげることにした。

 向かって右にはアリシアの入ったポッド、そして左に『玉座』に座った自分。
――――――――――完璧である。
 後は首尾よくジュエルシードを奪うことに成功すれば…………。

「来たか」
 突っ込んでくる傀儡兵、アールワンの鼻先5センチを掠めて奥の壁に激突。
 だがしかし、悠々と其の残骸に近づくオリ主、21個のジュエルシードを手にすると考えた。
 安全には、万全を期さねばならぬ--------------------------------いっこでいいか。

 玉座とアリシアの間にヒュッ、と気の聞いた音を立てて投擲、残りは頑丈なアタッシュケースにしまう。
 そして違法コピーさせてもらった虚数空間展開プログラムを起動。
 さあ、準備は出来た、後は彼女達を待つばかり。

 しかし椅子はフカフカだが、待つ時間はどうにも落ち着かないものだ。
――――――――――――――マダカナー、マダカナー?
 微妙にそわそわしながら過ごす十数分、背中の痛みは考えないようにする。







 時の庭園、其のほぼ中枢に位置する場所に、次元振動はおこっている。
 ようやっと其の場にたどり着いたなのはとクロノ、
そしてNEWフェイトの三人は予想していながらも恐ろしげなその光景に思わず言葉を失った。

 亀裂を走らせる空間の前で危険な輝きを放つジュエルシード。
 其れに照らされて血の気のない表情を見せるアリシアの詰まった救命ポッド。
――――――――――其の反対側には玉座からゆっくりと立ち上がる其の男。



「アールワン・D・B・カクテル………」
――――――――――オリ主、危険な光の下に姿を現す。


 暗がりから半身を翻し、其の手に魔力刃を成形するアールワンに対し、なのははその危険な空気を断ち切るかのように叫ぶ。
「ぱんつさん!」
 久方ぶりの再会である、だがしかしその姿から感じ取れるのは明確な敵意。
「久しいな高町、一際強く成長したと見える」
 口調こそ親しげなものの、どこまでも突き放すかのように其の表情は強張っていた。
 訳が解からなかった。

「アールワン、その娘とジュエルシードをどうするつもりだ」
クロノは問う、くっと口元をゆがめるアールワン。
「知れたこと、救いはここに揃い、後は『約束の地』へ旅立つのみなのだが…………残念だ、今ここに一人足りぬ。
余興にもならぬがさては一つ、娘を失った母親の話でもしようか」
 手にしたケースを床に置き、目を伏せる。



「とある一人の研究者が居た…………有能な其の女性は多忙であったがその暮らしには一つの救いがある。
アリシア・テスタロッサという名の一人娘だ、彼女は其の娘を溺愛していた」
 目を見開くNEWフェイト、まごう事なき母の過去の話である。
「――――――――――――彼女が手がける仕事は新型魔導炉の開発と実験、長きに渡る仕事だ。
愛する娘を一人にはしておけぬゆえ、職場へはアリシアを連れて赴いた。
そこに悲劇が待つとも知らず」

 ここでアールワンの語り口に疑問を持つクロノ。
 管理局の資料では責任の一端はプレシア・テスタロッサに有るとし、責任を持って辞職と有る。
 なのに何故、この男は事故を指して『悲劇』と評するのか。
「心無い実と利を求める者達が強行的に動力炉を稼動させた…………彼女は危険性を主張していたにもかかわらず。
問うまでもなく暴走、あたりに立ち込める魔力素が周辺に居た人間を蝕む…………それは伴った彼女の娘も例外ではない」
 視線をちらと背後の亡骸に向ける。
「――――――――――――口封じに組織を追われた彼女であったが復讐の気など毛頭ない。
彼女の生涯は全て、娘をいかに生き返らせるかという難題に費やされた。
時には法に触れるようなこと、たとえばクローン技術による人造生命に縋ったりもしたそうだ。
――――――――――フェイト・テスタロッサ、君はどうおもう?
その試みは、成功したとおもうかい?」



 あからさまな挑発、だがしかし一度目を伏せたNEWフェイトは拳を握り、オリ主の目を見て言ってやった。
「たとえその人の娘がよみがえらなかったとしても、一個の命を生み出すという一点において成功したと信じる。
故に私はあの人の意思を超え、新たに生まれなおした――――――――今の私はNEWフェイトだ!!」

「なん…………だと…………!?」

 ここにきて目を見開くアールワン、一矢報いたという顔をする幼女を前にorzす。
「おのれ改変がここまで…………二期の最終決戦前に親離れしてどうする!!
――――――――――――――――ドラッガーを学んだからとて、高校野球を勝ち残れると思うなよ!?」
 わけのわからない捨て台詞も口にした。



「…………話を戻そう。
既存の技術、この世界に蔓延る知恵では娘は生き返らない、ではどうするか?
他所から持ってくるより他あるまい、次元の狭間にあるとされる永遠の都、『アルハザード』
――――――――ジュエルシードは、其処へたどり着くための方位磁針足りえる。

――――――――――――相違ないな、プレシア・テスタロッサ」







 三人の背後に声をかけた。
「あなた……………どこまで知って…………」 
 呆然と立ちすくむプレシア・テスタロッサの姿を確認すると、アールワンは足元のケースを蹴り出す。
 床をすべるアタッシュケースは測ったようにプレシアの足元で止まり、顎で指し示す。
「開けてみろ――――――――次元を切り開く一つを含め、確かに21個、ここに用意した」
 確かにプレシアの目の前に、しかと揃えられたロストロギア。
 糸を引き、納豆のようになった其れ。
 これで当初の思惑は果たされよう。

 だがしかし、法を司る執務官は、コレを黙って見ていられようはずがない。
「待て!プレシア・テスタロッサ!!
娘を失った悲しみをどこまで引きずっているのか、正直僕たちには知りえようがないが…………行くな!
結局アルハザードなんてただの夢物語――――――――」



「そうともまさにファンタジーィィィィィ!!!!」



 絶叫するオリ主、その声量にビクゥと身を縮ませる子供達。
――――――ただ、ニヤリと笑う彼の顔を見て、プレシアは何かを悟ったようであったが。

「さあ、どうする?
この数日で愛するものと離れ離れになる苦しみを再認したはずだ、プレシア。
――――――――禊は済んだろう。
もし、この世界に残り余生を過ごすなら、アリシアは私が連れて行く。
その折には必ず、生き返らせられずとも新たな生涯を用意してもらえるよう、交渉しよう。
それとも――――――やはり冒険に行くかい?」
 所詮はただのおせっかいだ、だがしかし、ここに来て最後の選択を用意する。
 おそらく其れが、オリ主としてここに存在する義務の一つであるだろう。

 ケースの中を凝視し、ただ手を震わせているプレシア。
 アールワンが告げた選択肢は、暗にアリシアを取るかフェイトを取るかということ。
 そして、おそらく取りこぼした方は彼が面倒を見るという事だ。
 ここに来て、ようやく彼は自分の見方であると理解はした。

 それでも、最後の最後でこのような意地の悪い選択を取らせようとは――――――。

 フェイト顔はの顔は最後まで見れなかった。
 確実に決心は鈍るだろう、故にケースからジュエルシードを取り、ケースを投げ返す。
「…………3つで、十分よ」
 目を伏せ、次元の亀裂まで逃げるように向かう。
 背後に子供たちの視線を感じ、其の場から逃げるように足を速めようとした。



 その時であった。
 背後から、おかあさんと声がかけられたのは。
 愛娘と同じ声、今ではもう、不思議と苛立ちを覚えずに聞き取れる紛い物の声に、プレシアは足を止めた。
 ――――――止めてしまった。










「さようなら――――――――いってらっしゃい、おかあさん!!」


 背後から掛けられるNEWフェイトの声は、紛れも無く取った選択の肯定であった。







 勤めには報酬が払われる。
 原作を見ただけではついぞ図れなかったプレシア・テスタロッサの心中。
 幾多にわたる平行世界において、きっと正解などないのだろうが、それでもオリ主の起した奇跡に対する相応の対価。




――――――――泣いていた、プレシア・テスタロッサが泣いていた。
――――――――子供に気づかれることの無いように、声を殺してだ。



 故に、涙でメイクをぐちゃぐちゃにしながら次元の狭間に向かうプレシアの顔を見るのは、アールワンだけで良い。
 今ここで子供を捨てた母親と、母親を捨てた子供がすれ違う。



 故に、ここから先は残された子供達同士で決着を付け――――――『無印』という物語の幕を下ろすとしよう。



[25078] 【無印編二十話】其の名で呼ばないで
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/07/16 23:11
 虚数空間の出現を確認したアースラの面々は、その次元座標にアンカーを打つべく奔走していた。
 先の通信からすでに現場へ突入したと思われるクロノを筆頭とする面々を、必ず回収せねばなるまい。

 故に――――――ランディが放った悲鳴のような報告は後回しにされた。
「艦長!97管轄外世界から…………」
「座標軸固定!ゲート開放まで1000、いや800秒ください!」
「了解、すぐに始めて!現場へは私が行きます」



「…………97管轄外世界の電離層を超えて――――――――――――馬が…………馬がっ!?」








「うぼぁぁぁぁぁああァァァァァァァァァァァァァァァっッッツ!!!!」



 真正面からスターライトブレイカーの直撃を受け、玉座を巻き込みながら背後の壁にたたきつけられるオリ主。
 瞳に涙を浮かべ、肩を怒らせながらデバイスを向ける高町なのはは、左右を友人達に取り押さえられながらも激昂する。
 ――――――――――――なるほど、確かに納得できまい。
 この少女の持つ優しさならば、たとえ当人たちが納得していても。

「どうして!?どうしてフェイトちゃんとお母さんが離れ離れにならなきゃいけなかったの!?
こんな自殺の手伝いみたいなことをするのがパンツさんの思惑だったの!?
そんなの酷いよ!どうしてみんなで笑えるような決着を目指せなかったのッ!!

――――――――――――教えてよ!パンツさん!!」

 目に涙を湛え、その思惑を問う高町なのは。
 彼女からしてみれば、きっと諦めと取れるのだろう。
 故にアールワンはただ一度、受けて立つのだ、彼女とのOHANASHIを。

「人の本懐というものは…………得てして他人には理解の出来ないものだ…………。
そしてそれは…………誰もが手助け…………できるものではない。
もし其の一端を掴める者がいるとすれば…………共に同じ場所に立ち…………同じ時間を過ごしたことの有る仲間や友だけだ」
 口から血を吐き、持ちえる力を振り絞って立ち上がるアールワン。
 背中の傷も開き、折れた骨が内臓を傷つけたらしい。
 それでも、なお言葉をつむぐことを止めはしない、これはOHANASHIなのだから。
 もしかしたら最初で最後の――――――主人公とオリ主の戦いになるのかもしれないのだから。

 全力全開で、彼女を説き伏せなくばなるまい!!

「たった一人で残されたフェイトちゃんの事も考えてよ!
あれほどお母さんの事を考えて戦ってきたのに!最後に残されたものがお別れじゃ酷すぎるよ!あんまりだよ!!」
「――――――――――――なのはッッッ!!!!」
 喉も張り裂けよとばかりに叫ぶなのはを抱きしめるNEWフェイト。
 同じく涙を流しながらなんども頭を振る親友を見て、なのはは言葉を失った。

 君は答えを目の当たりにしているはずだ、オリ主は二人を指差して、彼女の世界に言葉として其れを示す。




「――――――――――――――――――――――――君が居る」



 血糊に擦れ、血の涙で焦点も合わぬようなアールワンの一言が、強くなのはの耳朶を打つ。
 心を穿たれたような衝撃、誰かに頼りがちであった自身の弱さを突かれ、またこれから始まる彼女との時間を示唆する。
 なぜか泣きじゃくる胸の中の少女を見て、幼き頃の自分が、ダブって見えた。

――――――――――――かつて、自分がこの世界にとって不要な存在ではないか、と恐れていた頃の自分に。

「残されたわずかな時間を…………失った存在のために使うと決めたプレシアに共感した自分と、同じように。
フェイトにはなのは――――――――――――君が居る。
これからを過ごす彼女の世界を素晴らしいものにするために…………苦楽を共にし、未来をつづる日々を…………
なのは、君が戦い勝ち取って行くのだ…………私は、なにも心配していない」

「…………パンツさん」

 体から力が抜けるなのは、それでもなお、しっかりとフェイトの事を抱きしめ返して。
 魔法少女は、友達を守る灼熱の意思を、しかと固めるのである。







 見事、少女を説き伏せることに成功したオリ主に手を差し伸べ、クロノは言う。
「アールワン・D・B・カクテル…………まずはこの次元孔を閉じよう。
其の後は、残念だが次元犯罪の容疑者として出頭してもらうことになろうが、心配するな。
法廷には僕も母さんも立つ、情状酌量の余地は十分に有る。
最低限の贖罪を済ませたなら其の後は――――――――――――君も僕らと、共に時間を過ごしてくれるのだろう?」



 だがしかし、そんな少年の手を掴むことは無く、アールワンはクロノの首元を掴み――――――

「…………だが断る!!」
「なん…………だと…………」

――――――思い切り、魔法少女達の方へ突き飛ばした。



 そのときである、ほぼ同時に起動したジュエルシードが不気味な振動を放ち、時の庭園が崩壊を始めた。
 びしりと大きく音を放ち、地面にアールワンと魔法少女達を隔てる大きなひびが入る。

「アールワン!!貴様――――――」
「一ついいことを…………教えてやる前にクロノ、君は魂の存在を信じるか?」
 魔力の奔流の中、幽鬼のように立つアールワン、その意味を咀嚼し何事か返答する前、彼は続きを口にする。
「私はかつて、ここではない、いわば『高次元世界』ともいうべき世界で命を落とした。
そして出会ったのだ――――――なにもない静かな平原で、さらなる高次元の存在に。
君たちが呼ぶ『アルハザード』かどうかは、わからない。
私自身は『約束の地』と呼んでいるが、私は其処からこの世界に生まれる赤子に『転生』を果たした。
君が近く相手にしよう『闇の書』――――――君の父の仇となにか、関係が有るやもしれぬ」
「『高次元世界』だと!?――――――お前は一体何を言っているんだ!?」

 何が可笑しいのか、くっと口元をゆがめるオリ主。
 『転生だ、努々忘れるなよ』と念を押してから続ける。

「私がかつて生まれ育った世界では、君たちは想話の登場人物として存在していてな――――――10年、
きっとそれ以上も愛される者として存在している。
…………私はさほど君たちの事を知り得なかったが、今では深く理解している。
君たちは魅力的だ――――――故にこれ以上、この世界を汚させはしない。
君たちを襲ったあの巨大な黒い手は、この世界を狙う侵略者。
――――――――――――さらなる高位に住まうゆえ、諸君では手出しできまい」

 目を開き、十余年を重ねた決心で、アールワンは彼らに告げる。

「私はこれから彼らの元に赴き、決着をつけよう。
――――――――――――今この時を置いて『約束の地』に向かう術は、そう多くないだろう」

「――――――――――――ぱんつさん!?」

 悲鳴に近い声を上げる高町なのは、彼女達の立つ地面が、音を立てて一度沈む。



「其の名で呼ぶな!――――――私はアールワン・D・B・カクテルだ!!」







 恫喝され声を失った三人を見下ろしつつ、彼は一つの戯れを思いつく。
 傍らに有るトランクケースを開き、一つジュエルシードを取り出すと願う。

 友が世界に『気を使っている』と評するのならば、自身の深層心理を問うてみようと思ったのだ。

「――――――ジュエルシードよ、自身が気づかぬ最奥に有る、我が真に求める力を形として示せ!!」

 輝くロストロギア、そして空中から姿を現す力の具現。



――――――――――――核心に至る…………其処に在ったのはホカホカの、ギャルのパンティであった。



「やはりか…………剣か花であれば、少しは期待が持てたものを…………」
 剣はバトル物としての、花はラブコメ物の暗喩、だがしかし自らが手にしているものはパンツ。
 最低だ、自身はやはり、最低系SS作品の登場人物としてここに存在しているに違いない。
 故に絶望する――――――結局のところ、ただ自分は…………





――――――――――――俺Tueeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!、したかったのだ。






「くそったれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェァァァァァァァァァァァ!!!!」



 手にした其れをかぶれば、顔面を覆う温もりと、たちまち広がるフィット感。
慟哭が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 オリ主を中心に、白と黒の魔力光が爆裂した。
 身にまとうロングコートがたちまちひび割れ--------
「クロス・アウッッッッ(脱衣)!!」
 服(バリアジャケット)など着ていられるか、とばかりにものすごい勢いで周囲に弾け飛ぶ。

 やがて其処に頭上と腰、すなわち天地に二つのパンツを纏うオリ主が身を表すわけだが、
――――――諸君。
――――――此度の変身もここで終わらぬ。

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォヴァァァァァァアァァッァァァァ・ドルァイヴッ!!!!」
――――――自身のパンツの裾を引き、引手は天に、弓手は地に拳を突き出す。
 そして胸の中央、自身のリンカーコアを引き締めるようにゴムの部分を交差させ、肩にかけるスタンダードVフォーム。
 腕を、足を幻獣の血で描かれた魔導式が網タイツのように彩り、その目から質量炎を噴いた。

 パンツに温もりが残っているうちは、其の威力数倍に跳ね上がる。
 原作三期高町なのはにおけるブラスターモードに匹敵する其の名も高出力『オーバードライブ』モード。

 無印最後の変身、今ここに、愛に目掛け地に落ちた太陽――――――――――――



「うそ――――――ぱんつ、さん…………」
「なのは――――――アールワンが、変態仮面だったんだ」

 声を絞り出すNEWフェイト。
 涙を見せぬよう、瞳の質量炎でじゅうじゅうと蒸発させながら、見事なフロントラットスプラットを見せる。
 アールワン・D・B・カクテル――――――最低系SSの、オリ主であった。







「高町、ここから先はもう泣いてはいけない…………思えば君と始めてあったときも、君は公園で泣きそうだったものな」
「うそ…………始めてあったときはジュエルシードを封印したときだったもん!
ユーノ君と、雄範誅(おぱんちゅ)号といっしょに!!」
 瞳を閉じれば思い出せる、初めて魔法の大冒険に踏み出したあの日。
 だがしかし、アールワンが告げるのは其の日、その時ではない。

「否、もう5年も前になるのか…………私が初めて君を見かけたのは、君の父上が凶刃に倒れ、
公園のブランコの上で、所在無げに一人でいた君の姿だ」
 目を見開く、それは自分の人生においても忘れ得ない日。
 自分と、パンツの出会いの日である。
「私にはレアスキルがある、詳しいことは後からそこのクロノにでも聞けばよかろうが、私は他人のパンツを被ると、
其の持ち主の知識と経験を我が物にできるのだ――――――私はこの力を『究極!!変態仮面』と名づけた。
そして其の日、私は裏の世界でも名高い高町士郎の力を得ようと考えた」
 それは、かつての罪の懺悔。
「しかして、君の父のパンツを被った私はひとたまりも無く自我をのっとられた。
気が付いたのは、君の家族が抱き合いながら父親の復活を喜んでいた所だったな。
もちろん其れは好ましいことで、たとえ体をバラバラにされても、君の父のパンツに敗北したことは自身も誇らしく思う。
だが、其の日からだ。

――――――――――――私は自身と、パンツとは何かを問い続けることになった。

はたしてパンツに力が宿るとして、其れは善か悪か、自身はパンツに振り回されてはいないか。
パンツが顔から剥がれなくなる悪夢も、数え切れないほどに見た。

そして今、確信に至ったのだ――――――自身がパンツを被る度に、彼の侵略者を呼ぶ悪鬼と成る旨を!!」

「うそ!嘘だよ!変態仮面はみんなを助けてくれる英雄だもん!!」

 ははは、とアールワンは乾いた笑いを出して、なのはを見る。
 炎越しに見える其れは、どこまでも暖かかった。

「それでは人はパンツをはく限り、皆英雄だな――――――もちろん君も。
これで安心して、安心して――――――私も冒険に旅立てる」
「――――――やだ!いかないで!パンツさん!!」



「止めるな高町――――――――――――私はもう自身に、この世界に存在する価値を見出せん!!
――――――――――――――――――――――――『オリ主』など世界には要らないのだ!!」



 アールワン・D・B・カクテル、このときを持って彼は二度目の生を投げ捨て、ただの転生者を超えて、変態仮面となる。
 ――――――――――――――――――――――――もう、オリ主ではない。


 そしてそれが、なのはにとってとどめの一言になった
 時の庭園の自壊は、もう立っていられないほどに進んでいるが、なのはは再び力を失い膝をつく。
 その時である、3人の魔法少女の背後に現れるゲート。
 光の中から姿を現す、無印最強の魔導師、彼の最後の敵。

「先の御口上、そっくりそのままお返しするわ。
これほど可愛い女の子達を置いて、貴方はどこに行こうというの?アールワン・D・B・カクテル?」
「貴様――――――リンディ・ハラオウン!!」
 もう一人の主人公が母親、息子と其の友達が別れを悲しむというのならば、子供の喧嘩に割り込むことも辞さぬ。
 変身によって傷はふさがったものの、限られた時間の中で彼女を圧倒する術など有りはしない!







 どこからとも無くセクシーポーズを取りながら飛び込んできた八頭身が、NEWフェイトの体を抱きとめて、ゲートへ向かう。
「うそ――――――なのは!なのはっ!?」
 意思は其処へ留まろうとするも、何故か其の手を振りほどくことは出来ぬ。
 何故か、何故かは知らぬが――――――その者からはどこか懐かしい気配がしたからだ。

「――――――クロノ、貴方も先にアースラに戻りなさい。
貴方の友達は…………私が必ず、連れ戻すわ」
「ありがとう母さん、アールワン、帰ったらユーノと二人で説教だからな!!」
 続けてクロノもゲートを潜る。
 其処に残ったのは、リンディとへたり込んだなのはの二人、そして変態仮面のみ。
 舞台は今にも崩れ落ちて、次元の狭間に吸い込まれそうだ。

「さあ、なのはさん、二人であの頑固者を連れ帰りましょう」
「…………はい…………がんばります!!」

 リンディの手を借りて立ち上がるなのは、其れを見てぐぬぅと唸る変態仮面。
 涙を振り払ったなのはは再び、不屈の精神を持って己に対峙している。
 ではこの二人を打倒し、あのゲートへ放り投げることが出来るか!?

――――――無理だ!詰んだ!!どのような変態秘奥義を持ってしてもあの二人に勝てる算段などポンと思いつかん!!

 ではこのまま彼女達にお持ち帰りされ、管理局の更生プログラムをフェイトと共に受けて、第二期を戦うのか!?
 うわ、ダセえ!ここまでやっておいて滅茶苦茶格好がつかん!!

 脂汗を出しながら思案する変態仮面、何より今も尚、あの時空暴君の魔の手はこの世界に向けられている。
 それをすべて友に丸投げするのは、様々なものを投げてきた自身の矜持が赦さぬ!
 世の中には、投げていいものと悪いものが有るのだ!それは譲れん!!




 だがしかし、その時である。
 二人の背後から風を切る気の効いた重々しい音。
 じゃららららららららら、と唸りをあげてリンディとなのはを絡め取った其の鎖は、軽い女二人などおくびに欠けぬ力強さ。

 そしてゲートから半身を出し、其の中へ引き込もうとする彼の輩、その姿!!

「まさか――――――生きていたのか!雄範誅(おぱんちゅ)号!!」
 地球の大気圏を超え、次元航行艦に突入した其の輩は、主最大のピンチに駆けつけた。
 ニイィィィィと頑丈そうな歯をむき出して笑う痛馬、其の瞳は主に向けてこう告げている。
――――――――――――御身の思うがままに、と。

「やだ!離して雄範誅(おぱんちゅ)号!パンツさんが!ぱんつさんがッ!!」
 じたばたと暴れるなのはとリンディを引き寄せる雄範誅(おぱんちゅ)号、別れのときまで僅かに数秒。















「――――――さらば雄範誅(おぱんちゅ)号、その娘と、世界を頼む」

「――――――良い旅を、わが主(あるじ)。
貴方の足であった日々は、我が馬生において最高の物でありました――――――」















 互いに別れの言葉を交わした一人と一頭、そして其の脅威の個体がゲートの内に消えると、其れは閉じた。







「さて、この世界における私のピンクパンティ越しの冒険も、これで終わりか…………」
 コンドーム、プリン、ジュエルシード、そしてパンツ。
 挙句の果てに己が立ち位置までブン投げた元オリ主、あたりに散らばったバイブやらアナルビーズやらを次々と次元孔へ投げ入れる。
 気の聞いた音を立てて飛んで行く其れらが清清しくもあり、そしてどこか寂しくもある。

 思えば長い道のりであり、途中出会った様々な人々。
 特に強く思い描くのは、なぜか御神美沙斗の顔である。
――――――礼を、言い忘れてしまったな。
 そして詫びも…………もちろん、先の無い話だ。
 最後に宙に浮かんだジュエルシードと、自身が使った其れを封印処理し、しっかりとケースにつめる。
 18個、そしてパンツが二枚、形見のデバイスと後は自分の体のみ――――――文字通り裸一貫の出発だ。

「今行くぞ、我が友――――――セイザー!!」
 今ここに、アールワン・D・B・カクテル――――――否、変態仮面は己が原点へ向け次元孔から続く冒険の一歩を…………。









――――――――――――――――――――――――何かが引っかかる。
 アタッシュケースをあけ、ジュエルシードの数を数える、確かに其処に在る18
個。
プレシアがもっていったのは3個
 だがしかし、無印が始まった夜、自身が夜空を見上げ、一つ一つ数えた流星の数は…………二十と二つ。



――――――――――――数が合わない。

「ユゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥノォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!
――――――――――――いっこ多いぞぉぉぉぉ!!!!?????」

 絶叫する変態仮面、だがしかし其の声は誰にも聞き止められる事無く、転生者と共に次元の狭間へ…………。







 色と音の消えた世界で、高町なのはは一人放心する。
 彼女の周りでは次元震の収束を安堵するものは一人も無く、唇を噛むリンディを筆頭に。
 再び崩壊した世界の残滓に乗り込もうとするクロノ、其れを止めるエイミィとクルー。
 背を向けて何も語らぬ雄範誅(おぱんちゅ)号、声を掛けようとして何度も言い留まるNEWフェイト、そしてアルフ。
 そしてスクリーンを注視している武装隊など、様々な人たちが居た。



――――――――――――其の全てを認識できず、全てが耳に入らない。


 そしてゆっくりと氷が解けるように、思考がよみがえると共になのははアールワンの告げた一言一言を思い返す。

――――――自身がパンツを被る度に、彼の侵略者を呼ぶ悪鬼と成る旨を!!
――――――――――――私は自身に、もうこの世界に存在する価値を見出せん!!

 さて、このパンツという存在に、強大な力が眠るとして。
 自身はそれに救われたといえよう、だがしかして、その力は。
――――――――――――結局、彼を救うことはなかったのだ。



 なのははゆっくりと、自身が頭頂に被ったパンツに手を掛けて、其れを脱ぐと。
――――――――――――――――――それを、力いっぱい床にたたきつけた!!



 力が其れを持ちて人を救うのは、結局味方した一握りの存在のみ。
 全能など望むべくも無く、崇拝は偶像へと成り果てる。




 泣くなと彼は言ったのだ、故に涙は流れない。
 だが、其の小さな喉が裂けんばかりに空気を振るわせる音は、自身の頭蓋へ振動となって響く。
 親友が肩をゆすり、何かを訴える其れすら認識できず。



――――――――――――――――――高町なのはは、ただただ世界に慟哭を響かせ続ける。



[25078] 【無印編二十一話】次元世界で一番幸福な少女
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/05/21 09:15
――――――――――――其の店は、海鳴の外れ、一等萎びた裏路地にある。

 『古着屋』は表の空気を吸うために引き戸を開けた。
 眼前に広がるのは隣のビル、打ちっぱなしのコンクリートの壁。
 切り取られた青空、しかして太陽は射さぬ、それも一日中。

 彼の誇る人脈、情報網、全てを駆使しても思い人の息子、アールワンの行方は探れなかった。
 だが諦めきれぬ、今宵も僅かな仮眠を取り、また彼の足取りを追うつもりである。

「少しずつ、日が高くなってゆくようでゲスな…………」
 春も終わりか、ともすれば暗い路地裏で日々を過ごす男、季節の移り変わりにも疎くなろうというもの。



 そんな柄にもない事を考えたときである、彼の店にやってくる小さな人影が一つ。
 部屋着のまま外に出てきたのか、皺だらけの服、下されたボサボサの髪、陰鬱な表情の小学生だ。
「お嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんくらいの年の子は入って来てはいけない道でゲスよ?」
 つい声を掛ける、だがしかし、彼女はここに用があった。
 どうしても得たい情報を、彼が持っていたのだ。

「ぱんつさん…………アールワン・D・B・カクテルさんは私達を置いて旅に出てしまいました」
 かすれた声、聞き取れないほどの声量ながらも、『古着屋』は耳を凝らす。
 彼が必死に求めた情報である、一言一句聞き洩らすまい。
 だがしかし、其の小さな口から放たれた言葉は彼の求める内容の一切を含まず、又、別の意味で衝撃を与える。



「まだ、この町に居る悪い人たちの情報を、教えてください。
――――――――――――私、あの人の仕事…………後を継ぎたいんです」



 手が差し出された、見れば其の上には小さな布切れが載っている。
――――――――――――パンツである、おそらくこの少女のものであろう。

「何を考えてるでゲスかッッッ!!子供は家に帰って宿題でもやっているでゲス!!」

 力いっぱい日の当たる表通りに突き飛ばす、尻餅をついて暫くうずくまる少女。
 やがて少女は背中を丸めて、来た道をとぼとぼと戻って行く。

 そして『古着屋』は肩を怒らせて店に戻ると、後ろ手に引き戸を閉める。
「ぼっちゃん…………あんな小さな子まで傷つけて…………一体何やってるんでゲスッッッ!!」
 男は泣いた、しかしけして嗚咽を外に洩らさないように、それが路地の片隅で生きる男の不文律であった。







「なのは…………友達が帰ってしまうよ?せめて顔を見せてあげなさい」
 少女の部屋、固く閉ざされた扉の前で高町士郎は声を掛ける。
 だがしかし、返答は無い、ただの一度御神美沙斗が訪れたときは何か、思いつめた様子で表に出たようだが、
帰ってきてからは尚の事、重く沈んだ有様だ。
 今では、運ぶ食事にもほとんど手をつけていない。

 溜め息一つつくと、家の前に立つ少女達に気の乗らぬ返事を告げるため玄関を開ける。
 其処には学校の友人であるアリサとすずか、そして見慣れない金髪の少女が居た。
「ごめんなみんな、やっぱりなのは、起きて来ないんだ…………」
 落胆する三人、果たして高町士郎は知る良しもないのだが。



 今日はNEWフェイトが、この97管轄外世界に居られる最後の日であった。
 これから彼女は、次元犯罪の重要参考人として異世界の法廷に立つべく、地球を後にする。
 だがしかし、もちろんただ一人の友人を残して去る事を良しとする少女ではない。



 アリサとすずかは顔を見せ合い強くうなずいた、力ずくでもなのはを連れ出す算段である。
 NEWフェイトから魔法の事件に関わったと聞かされた時は驚いたものだったが、別れの間際に顔も見せぬ薄情、
友人として、また新たに出来た友人のためにも見過ごすことなど出来はしない。

 だがしかし、なのはに会いたいと思う気持ちはこの町を離れるNEWフェイトのほうがいっそう強かったらしい。
 彼女が苦しんでいるのなら分けてほしい、元気が無いなら元気付けてあげたい。
 泣くなとあの男が言おうとも、泣きたいのなら泣けばいいのだ、自分も共に泣こう。

 だが何よりも、NEWフェイトには、高町なのはにどうしても渡したいものがあったのだ。

「おじさん…………後から弁償しますので、2階の窓ガラスを一枚割らせてください」

 愛杖を手に、其の場にふわりと浮き上がるNEWフェイト、あっけに取られる高町士郎。
 なのはの部屋に乗り込もうというのだ、彼女はこの町で、なのはの元で、信念を押し通す力を得た。



――――――――――――だがしかし、彼女の心配をする友人はまだ、この町にもう一人残っている。



 空を舞おうとするNEWフェイトの頭の上にすちゃ、と降り立つその茶色い生き物。
「――――――いや、其れは僕がやろう。
NEWフェイト、それにみんなも、クロノ達が待っている所へ、先に行ってくれ」
 ユーノ・スクライア、かつてなのはと寝食を共にしたそのフェレットならば、彼女の部屋の隅々を知っている。

 彼女の愛機、レイジングハートを何処に置いているのかも、彼は知っている。

「フェレットが…………しゃべった…………?」
 不思議には慣れていたはずの士郎であったが、彼は成すべき事を知っている。
 駆け出した少女たちの後姿を見送った後、彼はポケットの中にしまった『例の物』を握り締める。
 あとは僅かの間でも家族であった、彼を信ずれば万事は解決するのだ。







 枕元で『友達が帰ってしまう』とはNEWフェイトの事を指すとレイジングハートが言う。
 だがしかしなのはは聞きたくないとでも言うかのように、頭を枕で隠して布団を被った。

 又一人、友人を失ってしまう事実。
 自分は果たして幾つの物を失ってしまうのだろうという恐怖。
 だがしかし喪失感という魔物は尚も、彼女を縛り付ける。
――――――――――――どんな顔をして別れを惜しめばいいのか、それとも分かれたくないと駄々をこねればいいのか。

 全て、間違えている気がした。
 誰もが己のなすべきことを見つけ、自身の元を離れて行くのに、それを止めていいはずが無い。





 この、何も追うものの無い自分が。



 そんな時である。
 
 窓の外から『キュッ』と気の聞いた鳴き声を響かせてユーノが飛んで来たのは。

 パリィィィンとハリウッドよろしく彼女の部屋の窓ガラスを割り、レイジングハートを持ち去っていったのは。

――――――――――――僅か一瞬の出来事であった。



「ユーノ…………くん?」
 
 遂に彼にも愛想をつかされたのか、そんなことを考えたのも一瞬ならば。
 レイジングハートを持ち去ったのも相応しくない、そう判断されたと誤解したのも一瞬である。

 この不思議な日々で得たものの一切を失って、失意のどん底に居たなのはは遂に立ち上がる!

「まって!ユーノ君、私からレイジングハートを持っていかないで!!」

 部屋の扉を押し開けて、サンダル一つで外に出る。
 パンツの力に失望しても、教えてもらった魔法だけは手放せないと思ったのか。
――――――――――――否、其れは違う。
 それすらもただの象徴、其れが結びつけた絆こそ、何よりも彼女が惜しむ物、故に――――――





 なのはは走る、ひたすらに走る――――――頭上を飛ぶユーノを追いかけて!
 彼女を待つ者たちが集う埠頭に向けて、顔を上げて、眼前に広がるのは雲ひとつ無い青空!!




 さて、諸君――――――ここから無印編最後、アールワン・D・B・カクテルが興す最大の奇跡をご覧に入れる。
 青空のど真ん中で花火のようにはじける色とりどりの光が、太陽を反射して今、この海鳴の町に降り注ぐ!!



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 今日も空を偵察していた空飛ぶペンギン達は、突如爆発した光、其の正体を確かめるべく急降下で近づいた。
 どうやら薄っぺらい紙のような物が舞っている、其の嘴に一匹が一枚ずつ咥え、飼い主に検分してもらうべく帰路に着く。

「えええええええええええええええええええええええええええええええええ?????????????」

 槙原愛、コンドームを咥え次々と帰還するペンギン達に困惑す。
 スーパー槇原動物病院は、今日も平和である。
――――――――――――天を見上げた雄範誅(おぱんちゅ)号が、歓喜に高く嘶いた。



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 天空から降り注ぐ奇跡の光に、その子狐はくぉん!と小さく喜びの声を上げた。
 其の光の欠片が山の近くに落ちたと見るや、ひたすらに駆け寄ってそれを見つけ出す。
 光を透かす、柔らかいペタンとした其れ。

 さっそく住処である庵の中に運び入れ、先日発見した不思議な宝石の敷物にする。
――――――――――――思ったとおりだ、ぴったりだ。

 お気に入りの宝物が、更に神々しく見える。
 何故かこの不思議な宝石を眺めていると、心が暖かくなるのである。
 その子狐は其の大事なものを体で守るように、丸くなって昼寝を始めた。

――――――――――――今日も、小さな女の子と友達に成って、仲良く遊ぶ夢を見るために…………



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 遂に籍を入れて、彼女は『春日うらら』になった。
 6月に行う結婚式の準備に明け暮れる、ほんの少し前までOLだった其の女は、洗濯物を干している最中に其れを見た。

 昼間でも見える色とりどりの流星群だ。
 彼女は願い事をした、ちょっとした事故で舌を怪我してしまったので、其れが早く良くなるように。

――――――――――――旦那においしいご飯を、早く作れるようになりたいと。

 だがしかし、新居のベランダに落ちた流星のひとかけらを見て「むむ………」と唸る。

 コンドームであった――――――彼女達夫婦には不要のものである。



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 営業か何かであろうか、好青年が女友達と共に人を待っている。
 やがて一台の自動車が彼らの前に停まり、ドライバーが声を掛けた。
「よう、まったかい?――――――――――――早速一杯やらないか!?」
 ツナギを着た『ウホッ!いい男!!』である。
 いろいろあって、今は彼らといい友人であった。

 今日は夏に向けて体力付けろよ、と提案したゆえに、行きつけのホルモン屋で飲み会をする予定だ。

 そんな彼の前にも、奇跡のかけらは舞い降りる。
 手にしたコンドームをためつすがめつすると、好青年に手渡した。
「ちょっと~不躾過ぎません?」
「危なくて使えないっすよ~」

 3人の笑い声を乗せて車は走り去る、ちなみに其れは、最終的に運転代行のおじさんの手に渡り。
 この町で一組の、セックスレスの夫婦を幸せにした。



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 女子大生たちの会合、ある者は彼氏が出来、又ある者は就職先が決まった。
 そんな折、残された巨乳で地味目な一人の女子大生と、彼女の行く末を心配する非合法デリヘルの元締めだった女。
「ていうかさ、あんた、本当にそんなとこでいいの?」
 あんたならもう少しいい稼ぎできる場所あるよ?と心配そうな声で聞く。
「いいんです、家からも勘当されましたし…………少しでも、自分で自分に罰を与えたいんです」
 そう反論されて天を仰ぐ元・元締め。

 そんな彼女の鼻の頭に、コンドームが振ってきた。
「なん…………だと…………」
 驚愕する面々、だがしかし巨乳で地味目の元デリヘル嬢は、何なとても大切なものを得たと、
胸の前で大事そうにそれを握り締めるのだった。




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 大きなコスプレイベントの帰り、ヤンデレ妹とあんなヤツさん(仮)は手をつないで帰路を行く。
 ちなみに衣装の入ったボストンバックは兄くん(仮)に持たせきりだ。

 さて、そんな彼らの元に飛来する一枚のコンドーム。
 兄くん(仮)の掌の上にある其れは一枚きり、顔を上げれば何か言いたそうな顔で兄くん(仮)を見る乙女二人。

(――――――たりねぇ…………)
 脂汗を浮かべる少年に、果たして奇跡はもう一枚降りそそぐか否か…………。




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 超法規的な処置で留置場から出所した次元世界の犯罪組織、其の幹部三人は口をあんぐりと開けて其れを見た。
――――――――――――なんか避妊具が、空から降ってきやがる!!

 酒など酌み交わしていたゆえ、アルコールくさい其の息で、セコイアは封をといた其れを膨らます。
 デカデカと眼前に広がる『Guilty』の文字、黒服二人のいやな予感はまだまだ続くゼ!!



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 そして、『古着屋』はうたた寝から目を覚ました。
 夢では久しぶりにフェーザー・ディープパープリッシュが姿を見せて、『息子を頼む』と言っていた。

 予感である、彼は店を出て空を仰いだ。
 彼の眼前にゆっくりと、ピンク色の光が落ちてくる。
 彼は天に手を翳し――――――やがて彼の手に収まった其れは、かつて一人の女を愛し、其の息子が受け継いだ道具。



「空から――――――――――――空からバイブが降ってきたでゲス……………」

 途端に、彼の携帯がメールの着信を告げる。
『なんか空からアナルビーズが落ちてきたんスけど…………』
『ちょwwwwwデンマwww』
 などという、仲間からの喜びのメールが――――――


「ああ…………ぼっちゃん…………ぼっちゃんはきっと生きているでゲス…………」

 再び『古着屋』は泣いた――――――今度は零れる嗚咽を隠そうともせずに――――――



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――――――――――――高町なのはの手に、空から舞い降りたレイジングハートが帰る。




 そして、その顔を前に向ければ、この騒動で出会った人々と、彼女の帰りを待っていた人々がそろって彼女を出迎えた。
 母が、アリサが、すずかが、クロノが、アースラの面々が――――――NEWフェイトが。

 それだけじゃない、彼女たちの遥か後方でパンツを被った二人の男。
 変態仮面ダディ、そして変態仮面knight――――――パンツの志を受け継ぐ後継者達も居た。

「なのは…………」
「NEWフェィトちゃん…………」

 NEWフェイトはなのはにゆっくりと近づくと、髪を結んでいたリボンを解き、なのはに差し出す。



「いまはまだ及ばないかもしれないけど、いつかあの人に負けないくらい、なのはにとって大きな存在になるから。
だから、これを頭に付けて、待っていてほしいんだ――――――」

 ――――――なのははゆっくりと手を伸ばし、其れを受け取った。
 そのときである、けして見せるまいと誓った涙が、彼女の頬を伝ったのは。
 後から後から沸きあがる感情に、こらえきれなくなった高町なのは、遂にNEWフェイトの体を抱きしめ、声を上げて泣く。



 彼女にとって自分が必要だ、というのならば。
 自身にとっても、彼女は必要であり――――――お互いを必要とされているならば怖いものは何も無い。

 そしてここには自分の帰りを待つ人たちがいて、必要ならば自分は誰かの手を取って何処までもいける!
 そして世界は何処までも続いているのだ――――――限りない、自身も知らぬような何処かへと!!



(ぱんつさん――――――――――――私、何も失ってないよ?)



 天から降り注ぐ色とりどりの光の雨、それは紙吹雪のように彼女の門出を祝っている。
 アールワンがこの海鳴という小さな町へ光をばら撒いた理由、それは――――――――――――
 自分の意思で一歩前へ向けて踏み出す、次元世界で一番幸福な少女に向けられた、転生者からのエールに他ならないのだ。



[25078] 【無印~A’s空白期】八神はやての章
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Date: 2011/07/10 06:51
 ――――――まずは、八神はやての過去を語ろう。




1:~2年前~『川原を行く』

 父も母も、もう居ない。
 一人娘の小学校入学を前に、彼等は事故で他界してしまった。

 故に、残された八神はやては、自身の生きる術と理由をたった一人で探している。
 この時歳は僅か七つ、過酷な旅路である。










 遺産管理をしてくれている『父の友人』がよこしてくれた、立派な車椅子を操作しながら今日、はやては図書館にやってきた。
 本来ならば同い年の仲間達と共に、小学一年の授業を受けている時分である。

 ――――――確かに、彼女が望めば其処にいたかもしれない。
 ――――――この町を離れれば、バリアフリーの私立小学校などいくらでも有る。

 だが一重に、八神はやてが其れを望まなかったのは、両親が残した僅かな思い出に浸って居たかったのと。
 ほんのひとかけらでも、見知らぬ他人に忌諱の視線や哀れみを受けることを良しとしなかったからである。

 誇り高い少女、そしてそれだけに留まらず。
 少女が今日、この施設にやってきたのは『勉強』のためである――――――彼女は向上心も旺盛であった。



(…………ふわぁ~)
 見渡す限り本ばかり、圧倒される景観である。
 内心尻込みしたものの、これだけの本を読めば、きっと自分は世界から必要とされる人間になれるだろう。
 はやては幼心にそう思った、子供らしい穴だらけの理論であったが、それでも少女は確信に至った。

――――――まずは、この本の森を搔き分けて、最初の一冊を見つけようか――――――









 重ねて言うが、八神はやてはまだ幼い。
 故に児童文学のコーナーなどに心惹かれてはいたのだが、残念ながら其れは彼女の括りでは『娯楽』に入る。
 自分は勉強しにきたのだと――――――要するに背伸びしたいのである。

 果たしてはやては、医学書のコーナーに足を(否、車椅子を)踏み入れた。
 それは彼女が尤も興味の有るカテゴリィである。
――――――自分と同い年の少年少女が義務教育を終えるまでに、それ以上の努力をすれば、
――――――あるいは健常な下半身を取り戻せるやもしれぬ。

 そして、ゆくゆくは医術の分野で才を伸ばし、両親を失った自分のような悲しみを減らせる、かも知れない。



 だが、諸君も薄々感づいていよう、小学生が読み解くには難しい書物ばかり。
 難しい漢字どころか奥に行けばドイツ語の原書なども並ぶ背表紙に圧倒され、
加えて自身より遥かに背の高い書架を見上げていたのだ。

――――――はやては見る見る目を回した。
 『こてん』と首が傾げ、袖が動力つき車椅子の操作レバーを思いがけない方向に倒した。



――――――――――――倒してしまった。



 意図しない方向に向かう車椅子、乗っていた彼女もつんのめる程の衝撃で書架に接触してしまう。
 ごすっ!!という鈍い音に振り返る若者達、其の中でも一際背の高い青年が悲鳴を上げる。

「――――――危ない!!」 

 最上段に有る書物が八神はやての頭上へ落ちようとしていた。
 よりにもよって辞典ほどの厚みがある写真集である。
 ただの活字など及びも付かない重さ、少女の首を襲うならば捻挫程度では収まらぬ。





――――――さて諸君、リリカルなのは本編より2年前ではあるが、もちろんこの町には『あの男』が存在する。
――――――――――――それゆえに諸君は、この程度の悲劇など毛先程にも動じないと、私は確信している。







 身をすくませ、写真集の落下に怯えた八神はやての頭上で、ズドン!!と気の聞いた音がした。
 ざわつく観衆、恐る恐る目を開く少女。
 其の前には椅子から立ち上がった少年、はやての方に向けられた掌を、ゆっくりと下ろしてゆく。



 アールワン・D・B・カクテル、かつてのオリ主――――――そして、かつてオリ主であった男。
 2年前の彼はまだ、大検を受けようと蛍雪の元で過ごす、ただの学童であった。

「――――――大丈夫か?君」
 悠然と近づいてくるアールワンを前に、今だ何が起こったのかわからないような顔で頷くはやて。
 やがてアールワンは、そんなはやての脇を抜け、彼女の背後に聳え立つ柱を睨み付ける。

「…………むぅ」

 彼はとっさにボールペンを投擲し、柱へ向けダーツのように写真集を打ち止めたのであるが。
 見事其れは、性病の項、無修正写真の収まるべき場所へ突き刺さっていたのである。
 ――――――本意では、なかった。

 忌々しさを力の限りこめて、柱からボールペンを引っこ抜く。
 どいつもこいつも股間を抑え、前かがみになっている観衆をものともせず、座席へ戻ろうとするアールワン。
 だがしかし、其の背後に向け、車椅子の少女が声を掛けた。

「あ、あの――――――私、八神はやていいます!!」



 顔をこわばらせるアールワン、其の正体は転生者である。
 もちろん其の名は知っていた、大多数の『オリ主』が彼女の家にご厄介になる定も含め―――――

 だがしかし、この時まだ彼の母親は存命。
 寂しさに震える少女の傍らに居ることも、其の優しさに絆される事も出来ぬ。

 要するに、あんまり仲良くなると、後々面倒になりそうである。
 だがしかし、名乗られたからには名乗り返さなければならぬ道理。
 果たしてどうするか――――――僅かの間考え込んだアールワンは、彼女の元へ振り向き、その口を開く。



「…………私は、ICHIRO――――――」
 勢い任せに偽名を繰り出した。



「い――――――イチロー…………さん………」
 目を輝かせるはやて、其の姿を見て(ああこれは駄目だな)とアールワンは思った。
 どうやら相手はこちらに興味深々の様子、毒食わば皿までの心意気で一つ。
原作が始まる前に、彼女と少々親睦を深めることにしよう。







 時刻は昼過ぎ、学生たちが弁当を広げる図書館のレストスペースにて。
 アールワンは八神はやての身の上を熱心に聴いていた。

 親は居ないこと、お父さんの友人が生活の面倒を見てくれていること、足が不自由だがその人がこの車椅子をくれたこと。
 そして今日は学校へ行く旨を断った代わりに、ここへ独力で勉強にきたのだ等々。
 ここが図書館であることも忘れ――――――日々溜め込んで来た言葉たちを、まるで堰を切ったかのように繰り出してくる。

 すでに馳走した紙カップのカフェオレは、空になっていた。

「でもな?ホントは学校にもきょうみがあるんよ?
――――――たぶんいまごろ、学校は『やすみじかん』やろ?
ほんとうはみんなと、校庭を冒険とか冒険とかボーケンとかしたいんやけど…………」

 だがしかし、そこで尻すぼみになる言葉。
 俯く少女、其の視線は動かぬ自分の足をじっと見つめているようだ。
――――――もちろん、ここで動じるアールワンではない。

「冒険か…………良かろう」
 たちあがった転生者、いわば生まれながらに大冒険を身上とする男である。
 動かぬ足と小さな背に、其の無駄にたくましい腕を差し入れて、有無を言わせず抱き上げる。
「ちょ、い、イチロー!?」
 動転する八神はやて、しかしアールワンはそんな彼女の目を見て言ってやった。





「…………八神――――――これから川原に『エロ本』を探しに行くぞ!!」









「いや~おろして~!おろしたって~~~!」
「ふはははは!案ずるな八神、なにせ私が共に『エロ本』を探しに行くのだ!
報酬は期待してくれて良い!というか無い方がおかしい!!」

 八神はやてを背に川原を走るアールワン、ものすごいスピードである。
 観念したのか、或いは諦観に至ったか、背中で半泣きになっていたはやても、やがて風を切る其の感触に身を任せる。
 高い空、鼻をくすぐる草花の香り、いつもよりも高い視線、自身ではけして出せないその速度!

 最高の午後だった――――――――――――目的が『エロ本』でなければ!!



 やがて橋の下で『不自然に置きざられた段ボール箱』にたどり着く。
 相当の距離を走ったにもかかわらず息切れ一つしないアールワンは、背中のはやてに向かって、うむと一つ頷いた。





――――――――――――はやては力いっぱい首を横に振った。




 構わず蓋に手を掛ける、果たして其処に入っていたものは――――――――――――
「何と言うことだ…………九十年代に刊行された『快楽天』だと…………」
――――――――――――まさしく、お宝である。

「八神――――――私は今始めて、この生まれの業に感謝する…………見ろ、この美麗さを!
ここまで状態のいい村田蓮爾の表紙など、後世お目にかかれることはあるまい――――――西安じゃダメなのだ!!」
 なんか感極まった様子のアールワンを尻目に、はやては恐る恐る表紙を開く。
 どうやら漫画のようである、自分より少しだけ年上の少年少女が、青春劇を繰り広げていた。

 だがしかし、ちょっと安心した其の隙から、はやての瞳に衝撃的な絵が飛び込んできた。

「ひっ!!――――――い、イチロー、この人たちは裸でなにしとるん!?」
「――――――――――――愛の儀式だ」

 アールワンは八神はやての肩に手を置いた。
「よく覚えておくがいい、八神――――――君のお父さんとお母さんは愛し合っていた。
 そして、この儀式を行った末に、君が生まれたのだ。
 確かにこれは、おいそれと口に出せるものではないが…………原始から脈々と受け継がれる愛の形。
 本来ならば将来心赦す友から、唯一口伝によってのみ伝えられる事柄だが――――――今、君に必要だと思った」
 顔を上げる八神はやて、直視したアールワンの顔は、してやったり!と暗に語る。
「まことに残念なことだがこの先、君は新たに両親の愛を受けることは無い。
悲しみや孤独を二度と上書きしてくれることは無い――――――故に、君はここに生まれ来る前の『原初の愛』を知りなさい。
そして、くじけそうになったら何度でも思い馳せるんだ!両親と過ごした安らかな日々を超え、両親が過ごした青春を!!」

 おまわりさんには、ナイショだぜ!?そういったアールワンの背に、父と母の姿が透けて見えた。
 おまえは私たちの誇りだと――――――父は親指を立て、母は優しげに笑っていた。




 其の日、学校に行かなかった八神はやては、いち早く学校では教えてくれない事を知る。
 そして彼女の手に渡った最初の一冊は、そのまま自身が生まれた理由であったのだ。

――――――――――――其れはやがて、彼女が世界を生きる術にもなるのだろう。





2:~12/24-105DAY~『魔手』

 海鳴という町がある。
――――――国から危険域と呼ばれ、封鎖された町だ。

 町を行く誰もが俯き、前を見ることは稀。
 今日もまた、亡骸が彼らの前に『現れる』からだ。

「畜生…………また魔導師の仕業かッ…………!」
 通りすがりの、ただのサラリーマンが呟いた。
 第三者の目で見れば、彼の行く道にいきなり死体が現れた、と見えるだろう。

 だが、この町に住むものは誰もが知る、凶弾に穿たれた、まだ暖かい血潮を漏らすこの死体は。
名も無きこの女学生は、海鳴に住まう魔導師達の『封時結界』に誘い込まれた末路であると。

 躊躇無く上着を脱ぎ、かつて女学生であった『もの』の上に掛けてやる。
 すぐに通報――――――当たり前だが、彼女の身元がわかる物も、財布や携帯電話もなかった。
 警邏が来るまでの間、手を組んで冥福を祈っていると、通りがかった他人も、二人・三人と同じように額づいてくれる。

 明日はわが身、と思っているのか、それとも単に悼んでいるだけか。
――――――有り得るのは、この町にはお人よしが多いという事実。



 風の噂で流れるのみだが、どうやらこの無差別殺人は『狩り』と呼ばれているらしい。
 埠頭に流れ着いた『いんふぇるの』号を軸に、無秩序に上へ、上へと建造されていった『海鳴九龍要塞』に住まう無法者達。
 彼らは現代日本ではお目にかかったことの無い『魔法』なる技術を用いて犯行を続ける。

 否、或いはあの恐るべき『魔導師』たちは、この地に住まう人々など塵芥とも思っていないのかも知れぬ。
 現実、警察も為す統べなく、今日も犠牲者を増やすだけなのだ。

 





 海鳴が悪夢の最中にある夏、この97管轄外世界を我が物にしようとたくらむ『魔導犯罪結社』たち。
 ――――――――――――彼らはすでにこの国の首都にまで其の手を伸ばしていた。



 場所は東京国際展示場、ここでは子供たちが熱狂するカードゲーム『ウィザード・エヴォリューション』全国大会の、
今まさに決勝戦が行なわれている所。

 本来ならば日本一の栄光を賭けて、少年少女たちが知力を駆使したデッキに向かい、死闘を繰り広げるはずであったのだが。
――――――残念ながら、今ここで行なわれているのは『死戦』――――――



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!」



 まさしく戦の様である。
 攻撃魔法の直撃を受け、展示場の天井にしたたかに打ち付けられる少年の体。
果たして、天井が無ければ彼は衛星軌道の果てまで吹き飛ばされていただろう。

「――――――炎(えん)ッ!」
「――――――――――――炎(えん)くん!!」

 東京第2ブロック代表『北斗 氷華(ほくと ひょうか)』と東北第4ブロック代表『伊達 森也(だて もりや)』は
声を揃えて少年の名前を呼んだ。
 次々倒れてゆく各ブロック代表、そして彼等の中でも一角と呼ばれた幼馴染が今、打ち倒された。

「はははははは!無駄だよ、僕のデッキにはすでに冬に発売される新作ブースターパック『次元の律動』が組み込まれてある。
――――――――――――文字通り次元違いの性能なのさ!!」



――――――声高らかに笑うロードスター。
 諸君は覚えているだろうか、あの符術結社『トラッシュ』の次元代表プレーヤーを。



 2年前、子供たちの間で爆発的に普及したTCG『ウィザエヴォ』は、実はただのゲームではなかった。
 ルール上『マナ』を生み出す基礎カードは大気中の魔力を取り込むいわばリンカーコアのエミュレーター。
 そして魔法カードは其れを扱う魔道式、召還獣一切抜きのガチンコ設定は元より魔導師の傀儡が戦うための道理。
 そして根幹は、その使い手たちをも操るロードスター。
 将と化したロードスターの号令の元、操られたプレーヤーたちは個々の意に反する形で同胞に襲いかかる。
 この国中に巻き散らかされたゲームという名のルールは、そのまま彼の儀式魔法であったのだ。

「残念だ、実に残念だよ大文字 炎(だいもんじ えん)!
君ならば僕のいい手駒になったろう、この世界を手に入れた暁には、半分くらいあげても良かったのになぁ!!」



 ぐしゃ!と地面に叩きつけられる炎(エン)の体。
 仕組まれた全国大会、これは元よりこの世界を手中に収めるべく、悪の魔導結社が立ち上げたこの世界への闘争だったのだ。
 甘言を撥ね退け、魔の理(ことわり)を一切知らぬも、其の企みを覆さんと立ち向かったプレーヤーたちは次々と崩れ落ちる。
 果たしてこのルールを仕組んだ創始者に、一介のプレーヤーはなすすべもないのか。

 このままでは恐るべき極大儀式魔法『ウィザエヴォ全国大会』の力によって、この国は一夜で彼らの手に落ちてしまう。
 無垢な光を目に宿す少年少女たちを操りし魔手が伸びる先――――――東京、日本の次は世界だ!97管轄外世界が危ない!!





 その時である、凄惨な光景に静まり返る会場内、キュラキュラキュラキュラ…………と特徴的な音が響き渡ったのは。

「「「――――――だれ(だ)ッ」」」





3:~同日~『おそらく、其れは人生の中で最高に楽しい日々』

 中央ステージに進み寄るその姿は、すれ違い一目見た誰の脳裏にも残っていた。
 ヤツの車椅子、何で車輪じゃなくて『キャタピラァ』がついているんだ!?――――――と。

 ウィザードエヴォリューション全国大会当日予選は、符術結社『トラッシュ』の構成員が9割という出来レースであったが、
其の中をただ一人、無類の強さで勝ち進んだプレーヤーが存在した。



「まさかウチの地元以外にも魔導師が出回っているなんて思わなかったわぁ~」



 目深に被ったベースボールキャップに隠れて其の表情は知れない。
 ついでにその介添え人、タンクトップがぱっつんぱっつんに膨れ上がった偉丈夫もまた、サングラスの下に表情を隠し、
其の心の内をうかがい知ることは出来ぬ。
 そして何よりこの男には何故、犬耳と犬の尻尾が生えているのか――――――其れも知れぬ。

 ただ、この会場にいる、ウィザエヴォのルールを知る誰もが、このプレーヤーの強さだけを知っていた。
 風のデッキ使い、其の名も――――――



「八神 はやて(やがみ はやて)――――――当日予選のエントリーだったね、何処から来たか聞いてもいいかな?」
 嫌な脂汗をにじませながらロードスターは聞く、返答は想像したとおりの…………




「――――――海鳴、や」




――――――――――――魔都UMINARI!?

 会場がどよめきに支配される、日本の中に唯一、戦中と評される町!
 電話も手紙も届かない、一切の情報から隔絶された危険区域!!

――――――――――――――――――というか本当に実在したなんて!!



 存在すら文字通り『都市伝説』と化した、その町からやってきた存在は、果たして絶望をなぎ払う嵐か否か!?



「――――――主はやて、この者が扱っているのはすでに風化した世界の儀式魔法と推測します。
察するに、持ちかけたルール下で屈服させた対象の強制傀儡化。
おろかな提案があるのですが、ここは私にお任せください。
古きには古きを――――――我が古代ベルカの技を持て、完膚なきまでに無力化して見せましょう」
 傍らに立っていた犬耳筋肉が言う。

 だがしかし、八神はやては其れを手で制すと口元を不敵にゆがめる。

「否――――――ここは私が相手をする!
相手の策を掻い潜り、其れを打ち破ってこそ知略戦の勝利!ザフィーラ――――――忠臣にして我が愛すべき八神の家族よ!
貴公の主が戦いを、しかと其の眼に焼き付けや!!」
「は!――――――主はやての御心のままに!!」

 パネェ――――――と、その口上を聞いた誰もが思った。
 目の前のプレーヤーは、あくまでこのTCGのルール上で決着を付けると言い切った。
 ウィザエヴォのプレーヤーならば誰もが斯くありたい、そう思わせる存在である。











「よぉ…………風のォ――――――あんた、誰からこのゲームを教わったんだ?」
 その時、膝をつきながら尚立ち上がろうとする少年の声が聞こえる。

「炎(エン)!」
「まだ休んでいた方がいいよ!!」

 氷華(ひょうか)と森也(もりや)が駆けつけようとするが、炎(エン)は其れを押しとどめ、尚も問う。

「お前つえぇよな――――――カッコイイよなぁ!
――――――でもさ、それだけじゃねえ気がするんだわァ…………あんた、仲間が居るんだろう?」
 少年の瞳は死んでいない――――――善意を持つプレーヤーが次々倒れる死地において尚。
 新たな絆を感じさせる存在を前に、無様な姿を見せられなかった。

「せや、もう私の前にはおらへん、大事な人からこのゲームをおそわったんや」
 追従する、不敵にして力強いはやての台詞。


 炎(エン)が笑う、はやては、其の笑顔に過去を思い起こす。



================================================
『なあ、イチロー…………私、このままやとどんどん普通の小学生から離れて行く気ィするんやけど…………』

 齢12にして大学生(笑)という転生者から勉強を教わる八神はやて。
 めきめきデキる子になってゆく自分にふと、恐れを抱いた日のことである。

『そうだな…………』
 はやての部屋の本棚は、ずらりと並んだエロ漫画で一杯だ。
 快楽天の束に押され、鎖に巻かれたハードカバーが息苦しそうにしている。

 下段に並ぶメガストアのほうがよほど自由を謳歌していそうだ、いや、その表紙の女の子は躊躇無く触手縛りなんだが。



――――――――――――アールワンは一計を講じた、ならば小学生らしい遊びも満喫すれば良い。

 勉強の合間にヨーヨーを教えた、デキるはやてはすぐにループ・ザ・ループを30回連続でまわせるようになった。
 モーターライズされた車の模型を作ってみた、デキるはやてはすぐに自分の愛車をダート仕様にした。
 ビー玉を飛ばす玩具と向かい合ってみた、デキるはやては一瞬でおとろしい弾道計算を図った。

 ボードゲームなんてもう、ボード全域に目が届いているレベルだ、勝ち目なんかさらさら無かった。

『八神…………お前完璧だわ』
『そぅ?――――――私小学生らしい!?』
『ああ、寧ろ誰もがうらやむ小学生のチャンピオンだ――――――胸を張っていいぞ?』


 もちろん、その頃流行り始めたウィザエヴォも、彼等は見逃すことも無く――――――


=================================================



「――――――ああ、それと大事な猫からもな?」
 何かの照れ隠しか、あさっての方を向きながらはやては言葉を続ける。
「…………猫パネェ…………じゃあさ、これ終わったら俺ともエヴォろうぜ?
――――――ゲームは楽しく…………やんねえとなぁ!!」

 少年はまだ終わっていない。
 新たに得た仲間――――――はやての肩に手を置いて、大文字 炎(だいもんじ えん)が戦うために立ち上がる。
 敵は噂に聞く、恐るべき『魔導師』――――――だがしかし臆することは無く。
 自身の愛する火のデッキのように、真っ赤な炎を瞳に宿らせて、だ。










 だがしかし、途中で眩暈から手を滑らせ、はやての胸元に手をついてしまった。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――へ?」

 もにゅん、てした。

「――――――――――――――――――――――――いやん」

其の手を押し返す弾力に、炎(エン)は自身の愛する火のデッキのように、真っ赤な顔と化す。





 大変失礼なことだと自分でもわかっておきながら、はやてのベースボールキャップを取ってみる。
 いやこれがなかなかに美少年であり、さらさらのショートボブが線の細い体系によく似合っており。
 目鼻立ちも大変すっきりしてこれはもうこんな可愛い男の子が男のワケがないというか、どうか…………

「お、お、お、おんなァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!???????????」





――――――――――――驚愕の新事実、風のデッキ使い八神はやては女の子だった!!





 其処にいる誰もが彼女を、美少年と勘違いしていた。

 アールワンの小学生的英才教育を受けた八神はやては、代償によく見なければ解からないほどに乙女からかけ離れていた。
 嗚呼其の風貌はボーイッシュ、いわば新ジャンル『女の漢(おんなのこ)』である。
――――――乳もまれるのがステータスになるほどに。





 傍らの偉丈夫に襟首をつかまれて、氷華(ひょうか)等の元へぽい、と放り投げられる炎(エン)!
 其処には極寒の闘気を纏った仲間が指をぽきぽき鳴らしながら待っていた。

「いや、ちょっとまって氷華(ひょうか)ッ!誤解だ!今のは不可抗力だ!!」
「…………ドロー…………攻撃魔法『ダイヤモンドダストの強襲』…………発動…………」



 ――――――――――――見よ!この威力!!

 ――――――――――――会場一帯が霜降るほどの氷気!!


 
 果たしてこれほどの威力を誇る攻撃魔法を持つ子供たちが、あやつられるまま一斉に体制組織に牙を剥いたらどうなろうか?
 魔法文化の根付いていない97管轄外世界はおろか、このままでは次元世界全体が危うかろう。

 悪辣なる魔導犯罪結社の野望を打ち砕くため、戦え大道寺 炎(だいどうじ えん)!!
 失うものは何も無い、君の出番は――――――未来永劫ここで最後なのだから!!



4:~同日~『八神の家』

「お帰りなさい主はやて――――――――――――探し人にはお会いできましたか?」
 東京から帰宅したはやてを出迎えたのは、騎士シグナム。
 かけがえの無い、彼女の家族である。

「いや…………結局きてへんかったわ~。
イチローの事やから、大会の様子見に来るくらいはおかしないと思ったんやけど」
 しゃあないから代わりに世界救って来た~、と靴を脱ぎながらぼやく。



 其れを手伝う一際小柄な少女、ヴィータを横目に、今日の保護者を買って出たザフィーラはシグナムに思念通話を掛ける。

(…………やはり、時空管理局は現れなかったぞ、我等が将)
(ありえんな…………一切魔法の無い世界に、急速に広がりつつある魔導技術。
しかもこの『ウィザエヴォ』というぶりーでぃんぐ・かーどげーむは、もはや簡易デバイスを超えている。
仕組みこそ複雑だが…………下手をすればリンカーコアの無い者でも魔法を使うことができるぞ?)

 主の部屋から持ち出した絵札を眺めながら、シグナムは複雑な顔をする。
(一応、扱うには『親』とも呼べる魔導師は必要らしいがな――――――所詮はほこりの被った儀式魔法だ。
我々の脅威には当たらぬし、其のあたりはまだ、シャマルが調べているのだろう?
――――――それに将よ、トレーディング・カードゲームだ、間違えてはいけない)
(………………………………………知っている、いまのはわざとだ)
 そっぽを向いて口笛を吹く烈火の将、又の名をおっぱい白虎。
 お土産のアイスを見てはしゃぐヴィータを促し、主と共にリビングへ向かう。 



 ザフィーラは瞳を閉じた――――――暗雲の晴れぬこの地において、ここは唯一不動の砦。
 故に心休まる団欒を謳歌していようとも、主らには何の問題も無いのである。




















5:~2年前~『痕跡』



 丑三つ時、もちろん幼い八神はやてもベッドの中。
 八神家に備え付けられた電話の呼び出し音が鳴る。

 出られる事のないそれは、きっちり8秒後に留守番電話に切り替わった。



『八神――――――今日、私の母親が死んだ。
 今日から私も天涯孤独だ――――――故に、君より一足先に冒険に出ることにしよう。
 とはいえ、やることは悪党退治、場所もこの町の何処かだが、ね?


――――――――――――ただ、君と会うことは暫く無いだろう。
――――――――――――――――――――――――そして今度会うときは、おそらく君と私は…………』



 再生すれば、そのような伝言が聞こえるだろう。
 名乗りを上げぬその声の主は、世界にただ一人、八神はやてのみが知る。

 ただ、残念なことに――――――その時少女は彼の本名と、真意を知ることは無かったのだ。



[25078] 【無印~A’s空白期】クロノ・ハラオウンの章
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/07/16 23:24
 時空管理局、本局の一室。
あまり人の寄り付かぬ最奥にあるそこに、リンディ・ハラオウンは軟禁されている。





1:~12/25-179day~『シェイドファクト』

――――――本日、彼女の親友であるレティ・ロウランはようやくリンディとの面会に取り付けた所だ。
 彼女は、本局運用部に属する同僚であり、管理局の人事をはじめとする様々な情報を取り仕切る立場。
 始めは、其処へ散乱したロストロギアを回収できなかったリンディを謹慎2週間という形で処分した。
 断腸の思いで其の書類に判を押したのは、他ならぬ自分である。

 だがしかし、期限を過ぎても今日まで『97管理外世界』から戻ってきた同僚は復帰していないという。
 彼女の所在もつかめず、悶々とした日々を過ごし、余暇を使ってその管理外世界について調べてみるも、最新の情報は2年前。
 かつて其の世界に住んでいたという古株の提督から話を聞くも、煙にまかれる始末。


 まあ、そんな日々も今日で終わりだ。
 この人手不足の組織に籍を置きながら、きっとのほほんとお茶でも飲んでいるだろう彼女に、速く原隊復帰してもらわねば。
 とりあえず、持参した菓子でも開けながら話を聞き、この不当な処分を取り下げて、山ほど溜った仕事を…………。



「――――――貴様、そこで止まれ」


 いつの間にかたどり着いていた部屋の前に居た、武装隊にデバイスを突きつけられた。
「――――――本局運用部所属、レティ・ロウランです。
――――――――――――これは一体何の騒ぎかしら?」
 一応手を上げながら、年若い隊員をにらみつける。
 ボディチェックをされ、身分証を確認されつつ状況を説明しろと先より強い口調で問うと、隊長らしい人物が事務的に答えた。
「申し訳ありません提督殿――――――自分たちは最高評議会よりこの部屋の警護を言い付かっております!
だれであれ、この部屋に立ち入ろうとするものが居れば上へ報告するようにと!」
「そう、私は知らなかったわ。
 本日は上層部より正式に許可を得て、この部屋の中に居る人物に面会を取り付けました。
 そちらには、話は届いていませんか?」
「いえ、申し訳ありませんが、存じておりません。
ところで、そちらの手に持っている箱は、一体なんでありましょうか?」
 ――――――いちご八つ橋、包み紙にそう描かれた箱を指し示して隊長は問う。
「ああ、ここにいる彼女に差し入れよ?
グレアム提督に進められた――――――なんでも『97管轄外世界』の…………」

 ひッ――――――と、其の場に居た面々の顔が引きつった。
 再びデバイスを突きつけられ、床に箱を置くように指示される。

 爆発物でも扱うかのように、何重のシールドで守った其の箱の包み紙を解き。
 むき出しになった菓子に、金属探知機のようにデバイスを翳す武装隊の隊長。





『――――――sweets』





 デバイスが機会音声を放つと、彼等は安堵した様子でシールドを解く。
「――――――sweets良し!」
「「「「「「「「「「――――――sweets、問題なし!!」」」」」」」」」」
 箱に蓋をすると、乱暴な手つきで其れを押し返してくる隊長。
「大変失礼しました、提督殿。
ともあれ、上に確認を取りますゆえこの場で少々お待ちください」
 目を伏せながら敬礼すると、通信端末に向かって踵を返す、だがしかし――――――

「いいえ、貴方達の態度を見て此度の局員拘束が不当であると直感しました。
故に人事を取り仕切るものとして、ここは押し通らせていただきます!!」
 肩を怒らせながら部屋に向かうレティ、だがしかし、屈強な男達に其の足は止められ、隊長には肩をがっしと掴まれた。





(提督殿――――――貴方はリンディ・ハラオウン提督のご友人であらせられますか?)
 不意に念話を飛ばされる。
(ええ、そうよ?)
(では、ご質問にはくれぐれもお気をつけください。
この部屋は盗聴、録音されています――――――不要な情報を聞き止めると、我々は貴方の事も監視する羽目になりましょう)
 隊長が目配せすると、二人の隊員が同時にセンサーに手を翳す。
 かくして、重々しくも其の扉は開かれた。
(ありがとう、後から運用部に部隊名を教えて頂戴。
何かあったら責任はこちらで持ちますから――――――――――――)
(お気遣いありがとうございます、ですが我々も一介の管理局員であります。
理由もおざなりに、同じ局員を見張れという任務には多少反感がありますゆえ、此度の命令違反には相応の処分も覚悟しております。
――――――十五分後に交代要員が来ますので、出来れば其れまでに)



 そろって後ろを向いた武装対の面々を尻目に、レティはようやく其の部屋に立ち入った。







 其処は、床はおろか壁や天井に至るまで真っ白な部屋であった。
 中央にポツン、と置かれた椅子に拘束服と目隠しをされた女性が座っている。

「嘘…………リンディ………?」
 レティは息を呑んだ、つい先程武装隊に向けて、売り言葉で『局員拘束』などという言葉を使ってしまったが。
 まさか、この有様では本当に拘束、いや軟禁ではないか――――――?

「…………と…………とォ…………」
 手にした箱を取り落とすも、レティは箱を椅子のうえでガタガタ震えるその友人を巣食うべくまずはアイマスクに手を…………



「――――――とぉぉぉぉぶんんんんんんんッッッ!!!」



 かける前に拘束服が飛んだ。
 レティが落とした『いちご八つ橋』の箱に顔を突っ込み、ガフガフと中身を犬食いするリンディ。
 どうやら禁断症状が出ていたらしい。

 それにしてもだ、何と言う友人の変わり様か!
 頬はこけ、紙はボサボサになり、TATAMIに正座して優美にお茶を飲んでいた彼女が床を芋虫のようにのたうっている。
 しかも久しぶりの甘味がよほど嬉しいのか――――――尻を振るな尻を!友人に向けて何のアピールか!?



 果たして、あの97管理外世界で何があったというのか――――――――――――


 落ち着いた頃合を見計らってアイマスクを取る、思いのほか其の瞳は生き生きとしていた。
「ごちそうさまレティ!このお菓子おいしいわね!?」
「はいはいお粗末様、グレアム提督から教えてもらったのよ。
――――――多分アジアンテイストと洋風のマッチングは貴方も気に入るだろうからって。
私には何のことだかさっぱり解からないけど」
 拘束服の方は鍵が掛かっているらしい、どうにも自分の手に負えそうも無い。
 よいしょ、と其の芋虫を起こすと、カメラの死角に向かって引きずって行く。

 外に居た武装隊の一人が、気を利かせて『何か』をそちらに投げ入れた。

 丸めた紙くずかと思ったが、其処に入っていたのはデバイスから取り外したレーザーポインタ。
 そしていちご八つ橋の裏面に書きなぐられた文字配列表であった。
――――――どうやらこれで会話しろ、ということらしい。

「あんたねぇ、何でこんなところで油売ってるの?」
(だいじょうぶ?どうしてこうそくされているの?)
 表を指し示しながら、レーザーポインターをリンディの口にくわえさせる。
(ちきゅう まどうはんざいそしき いる)

「アースラもドックに入ったまま放置されているし、あんたのサインが無きゃ場所取ったままなのよ?」
 時折世間話のようなものを録音させながら、二人の視線は紙切れに夢中。
(やみのこうろ かんりきょく おさえている らしい 97 みっど ほとんど じつづき)
(やみのこうろってなに?かんりきょくはなにをかくしているの?)

(しん そしきうんようけんきゅう ひ まどうし ぶそうかぷらん ふたつ
おかの しつりょうへいき うみの じんいんゆうち きょうか
97で てすとちゅう)
(だってあそこは、まほうぶんかがないでしょう)
(だから えらんだ
おか まほうに しつりょうへいき ゆうようせい しりたい
うみ かんりがいせかいの こせき とうろくないじんざい たいりょうにいる)
(だれがそんなきょかをだしているの!?)

 再び武装隊が、二人の前に時計を投げ入れる。
 ストップウォッチで示す時間は、後五分。

(わからない うみ りく ほんきょく きっと ほとんど
いま97 こうろで あまりにも ちかい じっけん かんさつ かんたん)
(もう97は、はんざいそしきのてに?)



 リンディは頭を振った、ものすごいドヤ顔でポインタを咥え直す。
(うみなり まおう へんたいかめんたち まもっている ぜったいおちない)



――――――――――――魔王?変態仮面!?何者だそれは!?


(ふぇーざー D しらべて でも だれにも しられないで
こうじげんそんざい あーるわん なにものか わかるかも)
(こうじげんそんざい?)
(うえ みんな しりたがっている じんもんうけた)

 時計が電子音を放つ、時間も情報も、あまりにも少なかった。
 紙とポインタを回収、再びリンディを椅子に戻すと、後ろ髪を引かれながら部屋を後にしようと踵を返した。

 その時である。

「――――――クロノに伝えて!NEWフェイトさんを守り通すように!!
――――――――――――あの娘は海鳴の状況を知りすぎているから、どんな目にあうかわからないわ!!」

 レティの背中に懸けられた叫び、友人に頷き返すと全力で廊下を走り去る。
 背中を向けたままの武装隊が敬礼する廊下を駆け抜け、悲痛な其の思いに応えるために。





2:~12/25-179day~『アースラの愉快な仲間達IN無限書庫』

 さて其の頃、アースラのスタッフは仕事を干されていた。
 報告書も上げ、NEWフェイトの初公判に向けあれこれと準備をしているクロノを除き、
待機を命じられたまま艦長は次の指示をよこさない、ということで本局の休憩施設の一角を陣取っているのだったが………。

「あれ、先輩帰ってきちゃったんですか?」
 年かさの武装隊員の姿を見て、年若い少女武装隊員が声をかけた。
「応よ、せっかく休暇とったってのに三日で女房から邪魔者扱いだ。
子供も居ないのに『亭主元気で留守がいい』かねぇ…………」
 97管理外世界で覚えた慣用句をぼやく。
 少女の頭をぐりぐりなでながら席に着くと、何の話をしていたか聞いてみた。

「いや、提出した『時の庭園』での、クロノ執務官と変態仮面の会話なんですけど…………しっかりと『闇の書』って、
言ってましたよね?」
 逆にアレックスが問う。
 クロノのデバイスに有るミッションレコーダーやアースラブリッジの通信記録も含めて、いまは本局に提出。
 彼等の手元には無い状況である。
 正直武装隊の面々は今にも崩れかけたあの場所へ乗り込むか否か、という状況だったので、彼等の会話はうろ覚えだ。
「いや、俺もちと記憶に薄いが、あれだろ?噂に聞いたロストロギア『闇の書』って。
転生機能だかなんだかで今何処にあるかもわからない代物だそうじゃねえか」
「でもでも、それってクロノ執務官のお父さんが殉職された事件の目標でしたよね?
――――――もしかして、私達もそれと戦うことになるんでしょうか?」
 唸る武装隊、正直得体の知れぬ恐ろしいロストロギアである、としか知られていない代物である。

「――――――良し、調べてみましょう」
 ランディが立ち上がる、どうやって?と周りが問いただす。
 平の管理局員には正直閲覧許可の下りない情報ばかりであろう。
 だがしかし、座して待つばかりでは不安は晴れぬ――――――その時である。



「どうしたみんな――――――こんな所で屯して、ひまなのか?」
 クロノ・ハラオウンがタンブラーを引っさげて登場した。
 傍らにはエイミィもいる。



「ヒマです!」
「あまりにヒマなので勝手に恐ろしい敵をでっち上げて脳内模擬戦してました」
 結構、とクロノは頷きタンブラーに珈琲を汲み始めた。
 おそらくまだ机に噛り付いて居るのだろう――――――そしてこれからも。

「で、その恐ろしい敵の情報を知りたいのですが…………執務官、どこかで『闇の書』の事、調べられませんかね?」

 クロノの手が止まる、硬く閉ざされた其の瞳の裏では、もしかしたらまだ記憶に新しい好敵手の最後が浮かんでいるのか。
「エイミィ、アースラスタッフ全員分の『無限書庫』使用許可を取ってくれ」
「へ!?全員?」
「――――――全員だ、事務官、給養員、お楽しみ係、余さず全てのスタッフの。
どうせ他の面々も指示が行ってないのだろう?色々調べることがあるからな」

 はたして、この台詞を聞いたスタッフ達の顔色は様々である。
 仕事くれんの!?と息巻くやつも居れば、全員集まんの!?と連帯感の強い者も居る。

 だが、一部『無限書庫』の実体を知るものは、顔面を蒼白にしていた。
――――――――――――よりによって『無限書庫』か!!と。






 そして集まったアースラスタッフ総計百名近く。
 ズドォォォォンと並ぶ書物の数々にズモォォォォォンと気落ちする。

「さて、これから皆にはこの『無限書庫』で資料を探してもらうわけだが…………其の前にデバイスか端末を出してもらおう。
これから『とある人物』から、こんなこともあろうかと提供してもらった『検索魔法』と『読書魔法』を覚えてもらう」
 S2Uをふりふりクロノは言う。
「これがまた便利な魔法でな、資料整理が格段に進むのでついつい手を休めてコーヒーでも飲むか、なんて気持ちになってしまう。
有る意味作業妨害だ、今度あったらとっちめてやろうかと…………」
「しつむかーん、『とある人物』をほめてんのかけなしてんのかどっちですかーぁ」
 衛生班の一人が言う。
「両方だ――――――さて、これから調べてもらう件は二つ。
『闇の書』の実態と、自称『オリ種』と呼ばれる種族…………本人からすれば高次元存在らしいがな、其の生態だ。
疲れたら休んでもいいし、自分のキャリアアップのため、少々の内職なら目をつぶろう。
以後、別名あるまでアースラスタッフはここを拠点として活動する――――――散開!!」

 ふよふよと散り散りに本棚に向かって行くスタッフ達、だがしかし、与えられた検索魔法を展開したとたん、歓喜が起こる。

 仮にこの書庫がインターネットだとしたら
――――――たとえばそう、かつての書庫捜索がURLを手打ちしていたのに対し。
――――――俺達のグーグル先生が初めて姿を現したような。
――――――――――――それは劇的な技術革新であった。

「おんもしれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ちょ!俺2冊読む、2冊同時に読む!!」
「昔ばーちゃんに買ってもらった絵本みつけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 あちこちから響く歓喜の声、其れを聞いていたクロノにエイミィが声をかける。
「いや、クロノ君、確かにみんな仕事無くて腐ってたけどさぁ…………流石に全員はまずいのでは?」
 しばらく幼馴染の顔を眺めていたクロノであるが、何か意を決すると、エイミィに耳打ちする。
(其れが問題なんだ――――――謹慎が解けても、母さんの連絡が無い。
あの人が何も言わず行方をくらますなんて、いやな予感がするんだ。
出来ればアースラのみんなは一塊になって行動していた方がいい)
(え、嘘!?――――――何かトラブル!?)
(其れを調べるために、ちょっとあちこち探ってみる。
誰かに聞かれたら、ここの奥のほうでNEWフェイトの裁判に向けて資料を作ってるってごまかしておいてくれ。
ここならば僕一人居なくても簡単にごまかせる)
(わかった、気をつけてね?)

 こそこそと話し合う二人を見た一部の隊員が、本を投擲する。
「そこいちゃこらしないでくださーい!!」
「おもてでやってくださーい!コンチクショウ!!」
 慌てずラウンドシールドで受け止めるクロノ、其処へ駆け寄ってくる一人のブリッジ要員。
「執務官――――――今『変態』というキーワードで、検索してみたところ、97管理外世界の、この雑誌が…………」
 差し出された『快楽天』と言う漫画を、クロノは捲って見た。

「――――――ぐはっ!!」
 執務官、顔面の中心から赤い花が咲く!!
「く、クロノくん!何これなんかの呪いでもかかってるの!?」
 エイミィも赤い飛沫に濡れた其の雑誌を捲って見た。

「――――――ふぼっッッッ」
 およそ乙女とは思えない声を上げて、オペレーターの鼻からも鮮血が噴出した。

「――――――向こうでも2・3人倒れてるんですが…………なんて恐ろしいところですかね、地球。
――――――――――――こんな本が平然と手に入るんですよきっと!!」
 アールワンの部屋に散乱している卑猥な写真集は、見ない振りをしていたが。
 あの世界は子供向けのコミックですら、こんな感じなのかと――――――次元世界の住民は戦慄するのである。



3:~12/25-179day~『少女への吉報/少年への凶報』



 ――――――手紙を貰ったのは生まれて初めてのことだ。

 NEWフェイトは嬉々としてオープナーを手に取り、中身を傷つけないよう慎重に封を解く。
 傍らではアルフが尻尾を振り振り其の様子をうかがっている。

 中に入っていたのは一枚の記録媒体、なのはからのビデオメールである。

 早速再生機にかけてスイッチを入れると、画面の中に懐かしい顔が現れる。
『ひさしぶり、フェイトちゃん――――――元気にしてる?』

 なのはが、アリサが、すずかが――――――自分に向けてメッセージを告げる。
 それだけで、もうすでに涙ぐむ――――――自分は、早くもホームシックにかかってしまったのか?


 少女達の話が一通り終わると、画面のなのはは見知らぬ青年をカメラの前に引っ張ってきた。
 彼女の兄であるという、どうやらNEWフェイトに紹介したいようだ。

『あー、はじめまして、かな。
なのはの兄で高町恭也だ、妹と仲良くしてくれてありがとう。
――――――ところで、君は変態仮面をしっているかな?』

 NEWフェイトの顔が強張る、どうにもなのはを悲しませた悪いやつ、という固定観念がぬぐえないのである。

『――――――じつは、其の変態仮面が先日俺の前に現れた。
君に渡してほしい、と言われて預かったものがあるんだが、封筒の中に入れておいた写真はもう見たかい?
なのはに聞いてもよくわからないらしいが、すぐに渡した方がいいといわれたので同封させてもらった。

君の母親らしいが――――――――――――どっちだ?』

 要領を得ない質問、急ぎ封筒の中をあさってみる。
 張り付くようにして入っていた其れを震える手つきで裏返す――――――それはまさしく知りたかった事。

――――――――――――写真の中央であどけない笑顔を振りまくアリシア、彼女はよみがえったのか。










「――――――――――――え?」
 それはいい。

 だがしかし、其の両脇に居る二人の女性。
 優しそうに微笑むプレシア・テスタロッサと――――――ぎこちなくカメラの方を向くプレシア・テスタロッサ。



「二人、居る――――――?」



 どういうことだ、と再生機器を一時停止させ、席を立つNEWフェイト。
 写真を手にしたまま、勢いよく立ち上がった少女は部屋の外へ駆け出す。

「ちょっとNEWフェイト、何処へ行くんだい!?」
「ワケわかんない――――――リンディさんとクロノに相談してくる!!」







 ぽかーんと呆けたアルフを部屋に置き去りにして、NEWフェイトは廊下を行く。
だがしかし、彼女は曲がり角に潜んでいた男達に羽交い絞めにされた。

「ちょっ――――――なにするんで…………」
 騒ぎ立てる前に、男は薬品の染みた布を少女の口にあてがい、昏倒させる。

「――――――プロジェクトFの実験体を確保、逃げる準備は出来ているな?」
『すでに万端だ――――――傷をつけるな、貴重な完成形のサンプルだからな』
 これで人工魔導師計画の完成に近づくと、男達は不敵に微笑む。

 だがしかし、その時である。
 廊下の反対側から駆けて来る違和感丸出しの影、目を疑うシルエット。

「――――――なんだあいつは!?」
「おい逃げるぞ!こっちを追ってくる!!」

 すらりと伸びた長い足、不自然なく小さな頭に猫の耳――――――全体的に見て、其れは不自然の塊であったが。


 『八頭身』――――――少女が母、プレシア・テスタロッサが世界に残した最後の魔道生命。
 凶手に連れ去られんとするNEWフェイトを取り戻すべく、>>1さんを追う足取りで男達に迫る。



 ――――――――――――だがしかし、其のきもちわるい動きでは、結局彼等に追いつくことは出来ず。
 ――――――――――――小型の魔導クルーザーに乗せられたNEWフェイトは、いずこかに連れ去られてしまった。




 緊急用脱出ポートの入り口に残された八頭身は、悔しそうに拳を握り締めると、筋肉をバンプアップさせる。
 ――――――ドベキィ!とすさまじい、壁を殴る音。

 管理局の発表では、フェイト・テスタロッサ容疑者は初公判の前に脱走とされ。
 クロノ達が彼女を奪取するためには、実に5ヶ月もの長い時間を必要とした――――――



[25078] 【無印~A’s空白期】NEWフェイトの章
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Date: 2011/07/17 15:29
 そして、君達が三脳と親しむ管理局最高評議会の面々は――――――今や真っ黒な魔力光に覆われていた。



1:~12/25-60day~『闇の根源』


『おお地球…………なんと美しい青か…………』
『管理したい…………可及的速やかに…………草木一本……………生物の細胞の一片まで余さず管理したい』
『飢餓…………内戦…………人の業に縛られし、今だ最上の力に目覚めぬ現地住民に、管理局の威光を知らしめたい…………』

 傍らにたたずむ秘書官は、2年前から特に様子がおかしい3つを、汗しつつも監視していた。

『秘書よ…………かの地に送り込んだ犯罪者達は…………何処まで勢力を広げて居るか…………』
「はい、いまだUMINARIと呼ばれている地域の沿岸部に押し止められたままですね」
『…………遅い!』
『…………今だ国一つ落としても居ないとは…………』
『…………忌々しきUMINARIの…………変態共め…………いまだ魔法文化を受け入れぬのか…………』

――――――親の心子知らず、見たいな口ぶりである。

「あの、恐れながら申し上げますが…………最近の強行的な命令系統に一般局員からの反発があがっています。
管理外世界への理念にそぐわぬ介入も、噂ながら広まっておりますが」
『…………構わぬ…………捨て置くがいい…………』
『…………所詮はただの手駒…………いずれ我々のとった行動が…………次元世界の益に成るものと思えば…………』
『…………あらゆる世界は…………魔法と我等の元に…………』


『『『――――――管理ィィィィ!!管理されるべきなのだァァァァァァァァァァァ!!』』』



 どうしよう、こいつら明らかにおかしくなっちゃってるよ?
 泣きそうな顔で秘書は、先日のメンテナンスの結果を検分する――――――問題なし。

 だがしかし――――――あの闇の航路が開く前までは、絶対にこんな黒い魔力光発してなかったし!?

『時に秘書よ…………例の実験施設から…………人工魔導師計画の進展は届いて居るか…………?』
「は、はっ――――――実験動物は極めて非協力的、量産化の成功例なし、とのことです」

 それは、口封じと研究の発展をかねた、一石二鳥の策ではあったのだが…………
『…………おそいぃぃぃぃ…………かの地球に送り込めば…………より効率的に魔法が広まるものを…………』
『…………これでわぁぁぁ…………計画を早回しにした…………意味が無いではないかぁぁぁぁぁ!!』
『…………次元世界の住民が風邪でも引いたらどうするゥゥゥゥ!?』

――――――――――――風邪全然カンケイないわッッッ!!と、秘書脳内でツッコミ。


『『『かくなるうえわぁぁぁぁ!!あのアンリミデッド・デザイアもぉぉぉぉ!!実験動物としてぇぇぇぇぇぇ!!!!!』』』


 ゴゴゴゴゴ、と唸りを上げながら漆黒の魔力光を放つ培養層。
 なんか重なり合った影(?)に角まで生えているように見えるのだが…………?

 何にせよ、これはやばい――――――そう思った秘書官は脳内で様々な策を練る。
 このままでは愛すべきドクターにまで危害が及ぶ可能性がある。



 説明しよう――――――――――――三脳の秘書官は、悪の科学者ジェイルが秘密裏にけしかけた『戦闘機人』である。
 其の名もドゥーエ、彼女は愛すべき主のため、意図せず次元世界の平和を支え続けているのだ!!



2:~12/25-42day~『スーパークロノタイム(反逆編)』

「いたぞ!そっちだ!!」

 本局の施設内を武装局員が駆け回る――――――追いかける相手はもっぱら噂の黒いヤツ。
 もちろんGではない、最近、よりにもよって本局内部で、最重要機密をものすごい勢いでハッキングする少年がいるのだ。

 果たして一体何者か――――――今、ダストシュートに飛び込んだ少年はその仮面を外す。

「くそう…………今日も2人の所在は突き止められなかったか…………」
――――――クロノ・ハラオウンその人である。


 今だ『無限書庫』に絶賛立てこもり中と黙されるアースラ・スタッフの中に居る、と思われている彼は、
レティ提督が面会したのを最後に軟禁場所を移された母と、連れ去られたNEWフェイトの行方を追っていた。

 薄暗いゴミための中を這い回り、デバイスを機動させる。
 この5ヶ月で、本局内のサーバーから個人端末に至るまで、ほとんどの情報を漁ったはずである。
 これ以上の秘密を探るならば、最高評議会まで疑う必要があるのだが…………流石にそこまでは手が伸ばせるかどうか。

 だがしかし、度重なる情報収集の果てに、今管理局が正常に動いていないことは明らかになった。
 本局上層部からの直接指示がちぐはぐな事、ロストロギアや押収品の横流し、意味不明な管理外世界への視察任務。
――――――其の中でも『地球』への視察は群を抜いて多かったのが気になるが…………
 『海』にしても各提督が自主的に管理世界を巡回している現状。
 まともに機能しているのは『陸』位のものらしい、正直うらやましくなってきた。
 果たして各部署、情報取り扱いのずさんさから、ここまで何とかやってこれたが、流石にそろそろ潮時か?



 だがしかし、母もさることながらあのNEWフェイトが裁判前に脱走するなど考えがたいことである。
 地球の友人達から初めて届いたビデオレターを渡したときの、あの笑顔をクロノは忘れられぬ。
 一刻も早く管理局の依託となって、なのは達に会いに行くのだ、と語った彼女をどうして疑うことが出来よう。

 絶対に、何か厄介事に巻き込まれたはずだ。
 そして真っ先に疑うならば、彼女の身柄を保護していた管理局だ――――――溜め息をついた、其の瞬間である。



 突如空間に穴が開き、其処から槍の穂先が飛び出した。
 其れがザシュッと閃くと、人が一人通れそうな裂け目になり、中から現れるのは赤毛の少年。

 彼はもしや――――――――――――あの、黒い腕が現れた時の!?






「君は――――――アールワンと同じ、高次元存在か?」

 自分より少し、年の頃は下であろうか?
 おそらくは話に聞く、ベルカ式のアームドデバイスなのだろう槍を右手に。
 左手にはよくわからない『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』を手にした少年へ向け、クロノは問う。

「あの人と一緒にされるのは、甚だしく心外なんですが…………お久しぶりです、クロノさん。
僕の主観では何年振りになるんだろうな?――――――そちらは海鳴以来ですか?」

 会話が成り立った、確かにあの海上決戦では、ろくに話も出来ない時分であった故。
 槍をひょい、と肩に担ぎながら其の少年は言う。

「今回も、フェイトさんを助けに行こうと思ってるんですけど…………足が無いんですよ。
僕一人なら『ゲート』を潜れば行けるんですが、フェイトさんが潜ったら最悪『金色の闇』と同化しちゃうかもしれません。
と、いうわけでこれから指示する場所に船を一隻、よこしてもらえませんか?
すでに『あの人』も敵地に向かっています――――――最悪待ちぼうけになりますから」
 なかなか無茶なことを言う、自分はクロスオーバーな人なので、と続けるその意味もわからぬ。

 そして『あの人』とは、一体何物であろうか?
 ずいぶん親しげに呼ぶ以上、アールワンではなさそうだが。

――――――――――――だがしかし、手がかりの一切無い現状、クロノは其の賭けに乗ることにした。
 母親は見捨てることになろうが、レティ提督から聞かされたとおり、NEWフェイトだけでも助けなければならない。
「――――――君の名前を、おしえてもらえるか?」
 デバイス間で情報を共有しながら、クロノは赤毛の少年に問うた。
 S2Uに流れてくる無人世界の位置、違法研究所の間取り、研究されている『人工魔導師』の内容――――――
 恐るべき精度だ、まるで自身が見て来たかのように!!



「エリオ・M・T・ハラオウン――――――かつては貴方の家族でした」



 『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』から放たれる光、其れを切り裂くと再び世界を隔てるゲートが開く。
 駆け寄って其の真意を問いただす前に、エリオと名乗る其の少年は手で制する。
――――――あまりゲートに近づかない方がいい、リンディさんと糖尿病に苦しみたくなければね。
 最後まで訳のわからないことを言いながら、やがて少年の姿は消えた。






「母さん――――――まさか隠し子なんて居ないだろうな――――――!?」







 エイミィ・リミエッタは薄暗い無限書庫のカウンターに座り、次々と寄せられる『闇の書』の秘密をまとめていた。
 まるで何かに導かれるように、続々と集まる情報。
 いやそれにしても、まさか『闇の書』は『闇の書』でなかったなどとは、恐れ入る。

 この数ヶ月篭っただけの価値は有る――――――情報収集は数だよ執務官!といった按配である。

 だがしかし、そんな彼女の端末に一通のメールが送られた。
 差出人は不明――――――定時連絡をくれるレティからでも、クロノからでもない。

「…………これは!?」
 人造魔導師研究所、違法な魔導研究所の在処、其処に行方不明のNEWフェイトが捕まっているという。
 足元にいる子犬を抱きかかえ、エイミィは力の限り叫んだ。



「――――――全員集合!!!!!!!!!!!!!!」



 するとまあ、書架の影から出てくる出てくる――――――総計百名近いアースラの隊員達。
 この数ヶ月の隠遁生活ですっかり蒼白くなったブリッジ要員、ヒゲを生やしっぱなしの武装隊。
 どいつもこいつも無重力空間に慣れきって体が鈍っている体たらく。

 だがしかし、この無限書庫における時間は無駄ではなかったと信じたい。
 上から下まで、規律以上に結び付けられた其の絆、唯一無二とエイミィは誇りに思う。

 そして、ずらりと並んだアースラ・スタッフを前に、まさにジャストなタイミングで開け放たれる無限書庫の扉。
 逆光に染められたその黒いシルエット――――――セクシーも極めれば刃と同じになるって知ってたか?
 そういわんばかりの艶姿を晒す仮面の男、其の名も!!



「クロノく――――――」
「「「「「――――――――――――メンズナックル・ボーイ!?」」」」」
(――――――えええええええええ!!??)



 自分だけ取り残された?そんな不安を拭えないエイミィを置いて、クロ――――――メンズナックル・ボーイが告げる。
「諸君――――――愛すべきアースラの家族諸君!
すでに聞き知っているものも多いと思うが、今まさに管理局の舵は無軌道に取られ、其の道を見失っている。
――――――何故、我等が艦長は、その姿を見せないのか?
――――――なぜ、我等がこの手で救い得た少女が、其の行方をくらませたのか?
 我等はその真意を確かめる、冒険に出ようと思う」

「「「「「執務官!執務官!執務官!!」」」」」

「否、自分はもう管理局と歩む道から離れ、真に次元世界の求める平和を切り開く、戦士となる覚悟を決めた。
故に自分はこれから慣れ親しんだ船に乗り、まずは自身の意思でとある違法研究所を落としに行こうと思う。
――――――法の傘から離れ、真実を追究する勇気はあるか?
――――――――――――其の腕で、其の力で助けを求める少女を抱きとめる意思はあるか!
――――――――――――――――――管理局へ反旗を翻すのが怖い臆病者は置いて行くぞ!?」

「「「「「戦士!メンズナックル・ボーイ!我等のエース!!」」」」」

「NO!ジャックだ!!――――――われらは、管理局から見れば次元航行船を乗っ取った悪人と思われるだろう!
だがしかし、正しき管理局の理念は我々の胸に残っている!ならば我々はこの百名に満たぬ我々で!
――――――最後まで、次元世界を守る存在であり続けよう!!」

「「「「「いぇあ!GET BACK TO アースラ!アースラ!!」」」」」



 こ い つ ら www 最!高!潮!である。
――――――正直途方にくれていたエイミィ、しかしそんな彼女にクロノは手を伸ばした。
――――――何かをよこせと手をくいくい動かしている。



「はい」
 抱えた子犬を渡してやる、反射的に背中をなでくりまわすも、其の正体に気づいたクロノ驚愕!!
「ちょ!――――――こいつアルフなのか!?」
「うん、日に日にNEWフェイトちゃんから送られてくる魔力が少なくなっていくんだって?
仕方ないからみんなで考案したんだよ、子犬フォーム」
「くろのぉ…………NEWフェイトを…………たすけておくれぇ…………」

 わかった、皆まで言うなと手で制するクロノ、再び気を取り直すとカウンター上の端末を指差す。

 ざっと目を通すも、やはり気になるのは差出人不明の、例のメールである。
「――――――これは!!」
「うん、ついさっき届いたフェイトちゃんの居場所。
無人世界の、なんかの研究所みたいなんだけど…………信じても良さそう?」
 なんか君も違法研究所落とすとか言っていたけれども、と疑問符を飛ばすエイミィに、S2U内のデータを見せる。
「え!?同じ場所――――――」
「これはさっき会った、高次元存在から貰った情報だ――――――ひょっとしたら自分の弟かもしれない」
「なにそれ!?」
「僕が知るか!?――――――ともあれ、だいぶ信じても良さそうな情報だ。
寧ろ無視して事態が好転しそうにも無い、船を回せというのも、其の高次元存在がリクエストした。
巻き込むみんなには、申し訳ないと思うが……………」

――――――アースラぁぁぁぁぁ!ファイ・オーファイ・オーファイ・オー――――――

「大丈夫、みんな乗り気みたいだし」
「…………よし、みんなアースラに乗艦だ!!」



 うおおおおおおおぉぉぉぉ!と、我先に無限書庫の出口に殺到するアースラスタッフ。
――――――――――――だがしかし、彼等は尽く部屋を出たところで崩れ落ちた。

「執務官…………すんません…………」
「5ヶ月ぶりの1G…………きついっすぅぅぅ…………」
「ちょwwwおまえらwww」

 本当に上手くやっていけるのか――――――しかしクロノが不安に思ったその時である!!

 100人乗っても大丈夫そうな大八車を引いてくる、なんか変なボディスーツを纏った女が彼等の前に現れた。
 紫色のショートカットで、なんか胸のプレートにはイタリア語で『3』と書いてあった。

「――――――乗っていくかい?」
「――――――――――――たすかる」







 そして、本局の管制塔は壮絶な騒ぎに見舞われた。
 ドックに固定されたままのアースラが、始めのろのろと、宇宙空間に出た後は猛然と出航したのである。
――――――――――――もちろん無許可だ。

 慌てて現場に駆けつけた整備員や保安要員が見たのは、謎の大八車と地面を猛ダッシュした女性らしい足跡のみ。



 すぐさまこのわけのわからない事態を上層部に報告、しかし、そんな彼等に返されたのは目を疑う指令であった。

「アースラの追撃に…………巡航L級12番艦と、本局戦技教導隊…………全員!?」




3:~12/25-42day~『造られた希望(ムーンチャイルド)』

 ―――――そしてとある無人世界の岩の上で、真新しい研究施設を見下ろす影、二つ。

「マッド共め…………古巣の中で、好き勝手に命をいじくっていると見える、が。
――――――創造主気取りも今日で終わりだ。

――――――――――――いけるな?『八頭身』」

 エリオ・M・T・ハラオウンが空に目を向けると、其処にはふわふわと中を浮く気持ち悪いシルエット。



『safe mode――――――start to zamber form』



 当人は黙して語らず、だがしかし其の手に携えた『フェイトの愛機』が、変わりに主の奪還を誓う。
 巨大に輝く刀身は、長い手足で振り回すのにうってつけですらあった。

「――――――結構、それじゃあ、いこうか?」

 右手に携えたエリオの槍が、ものすごい勢いでジェットを噴射する。
 地をすべるように突撃する、やがてフェイトを守る騎士。
――――――――――――目指すは彼が、かつて彼女に救われた違法研究所であった。





 違法研究者達は途方にくれていた。
 モルモット――――――フェイト・テスタロッサの非協力的な態度は限度を超えていたのである。
 すでに投薬や懲罰は限度を超え、これ以上は精神にも肉体にも致命的な決壊を招く恐れがある。

 だがしかし、彼女の強固な精神をどうにか屈服させなければ、データを取るにも少なくない重軽傷者が出る始末だ。
 スポンサーからは早く結果を出せと日々せっつかれる始末、そんな時である。
――――――研究所の所長が、自分の下に少女を連れて来いと命じた。

 頷く研究者達、所長は机の引き出しから、一枚の写真を取り出した。





「ご機嫌はいかがかな?フェイト・テスタロッサ?」
「いいわけないだろう…………それに…………今の私は、NEWフェイトだ…………」
 手足を錠され、ボロボロになりながらも、そこんとこ大事よ?と笑いすら浮かべるNEWフェイト。
 ふむ、と一つ頷いた研究所所長、何事か考えながらNEWフェイトの元へ近づく。

「実は君の機嫌がよろしくないと、我々の理想はどんどん遠ざかって行く。
どうか一つ、君も科学に貢献するため、おとなしく実験に協力してくれまいか?」
「…………どうかな…………これだけの時間を使っておきながら…………いまだ一人も私の妹を生み出せないなんて、
貴方達のおつむは飾りのようだ…………私の母さんなら…………今頃バレーボールのチームが出来るくらい…………
たくさんの人工魔導師を生み出しているはずだぞ…………」

――――――其れはそれで困らないかね?と問う所長。
――――――ぜんぜん?と100%疑問符のNEWフェイト。

「ところで母親か――――――君の母、プレシア・テスタロッサは我々の専門外だが、優秀な技術研究者として、
名前くらいはしっているよ…………君に似て、実に美人だ」
 懐から写真を取り出して、これ見よがしに眺める研究所所長。
 NEWフェイトの目が見開かれる、気絶しながらも尚、握り締めて離さなかった母の写真。
 その内容は不明だが、母の安否を示す大切なものであった。

「それを…………返せ…………かあさんのしゃしん…………」
 だがしかし、所長はライターを取り出すと、其の写真に火をつけて、ゴミのように地面に落としたのだ。
 焼かれてゆく、母の肖像――――――唯一プレシアが生きていると証明する一枚が――――――

「あ…………あ…………」
「常々忘れないことだ――――――君の命だけでなく、君の大切なものも全て、我々が握っているということを」




 だがしかし、その時である。
 研究所全ての電源が、一斉に落ちた。





 そして階下から響き渡る悲鳴、爆撃で受けたかのようにひび割れる天井。
「実験体を独房に入れろ――――――絶対に死守するんだぞ!!」
 手下の研究員に投げ渡すように、子供のように泣きじゃくるNEWフェイトを押し付けると、瓦解する天井の先、
所長は見た――――――遥か上空で身の丈ほどもある大剣型デバイスを構え、こちらに稲妻の如く迫る魔道生物!



――――――――――――なんだあれ!?なんなんだアレ!?ヤベぇ!!
――――――――――――――――――逆襲と、NEWフェイトの奪還を誓った其の存在は『八頭身』!



 其れは今まさに、大上段から、目を輝かせる所長へ向けて、その魔法刃を振り下ろし――――――







「畜生…………何がどうなってやがる…………?」
 地下のシェルターを兼用した独房に向かう途中、研究者達は累々と倒れている警備員の姿を見た。
 あるものは切り裂かれ、刺され、又あるものは電撃に焼け焦がされていた。

――――――そして理解不能なことに、一部の警備員はなんか生臭かった。

 NEWフェイトの髪を掴んで引きずりつつ、何とか彼は其の少女を捕らえる鉄格子までたどり着いたのだが…………
「おい!貴様誰だ!?」
 独房の中には何故か先客が居た――――――狭い部屋の壁に、槍を使って何かを刻み付けている。



『助けは必ず来る――――――《ガンクロス》との誓いを忘れるな――――――』
――――――――――――何のことだ?



「……………だめですよ?…………女の子の髪をそんな風に乱暴に扱っちゃ…………」
 振り向いた赤毛の少年は槍を手放し、その拳に紫電を蓄える。
 身構える一瞬すらなく、それは見事、研究者の股間に叩き込まれた。

――――――――――――陰茎とシナプスに直接響く電流!よく解からぬ白い液体を漏らし、悶絶しながら吹き飛ぶ警備員。

「大丈夫でしたか?すぐ外に出ましょう」
 袖で涙を拭われながら、フェイトは其の少年を見た。
 自分よりも少し年上であろうか?優しそうで、頼りになりそうな赤毛の少年。

「――――――貴方は?」
「すいません、僕のことよりこの施設と研究員の顔を、出来ればしっかり覚えて置いてください。
フェイトさんは、生涯もう一度だけこの施設を訪れて、彼等を倒し――――――世界を救います」
 ひょい、とフェイトの体を抱えあげる少年――――――エリオ・M・T・ハラオウン。
 其の姿を見るだけで、彼の触った場所からも、何故か彼女の体はびくんびくんと電流を受けたように甘くしびれるのである。








 だがしかし、出入り口に向かう二人を――――――――――――研究所はただで通しはしなかった。

 何かの研究対象であろうか、10メートルはある強大な人工魔道怪獣が正面エントランスで暴れ周り。
 必死の形相でバルディッシュを振り回す存在が、その脅威を食い止めていた。

「私のデバイス!?」
 自身の切り札ともいえるザンバーフォームすら操るとは、一体何者か――――――八頭身!!
 其の姿を見留めた、フェイトを抱きかかえていた少年はゆっくりと彼女の体を下ろし、再び槍を手に取った。
「ここで少し、待っていてください――――――あの人を加勢してきます」
 2対1――――――否、息のあったコンビネーションを見せる二人は其れ以上の働きで怪獣を圧倒する。

 しかし、数の優位に多少の隙を見せたか八頭身――――――手にしたデバイスを弾き飛ばされる。
「バルデッシュ!?」
 放物線を描き、怪獣を挟んだ向こう側へ飛ばされるバルディッシュ・ザンバー。

 怪獣の猛攻に少年と八頭身はたどり着くことの出来ぬ様、だがしかし、手足の封じられた自分になにができる!?




――――――――――――その時、NEWフェイトの脳裏に電流走る!!



「――――――ふぇ、フェイトそん!?」
「――――――――――――!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 あろうことかNEWフェイト、体育ずわりの体制のまま、臀部を拘束振動させ地面を疾走してきたのだ!!
 これこそまさに!閉所空間専用立体高速機動《ヒップステップ》――――――早い話が『ケツだけ歩き』である。

 ぷにんぽよんと壁や天井を跳ね回り、まるで白兜を思わせる動きで怪獣の背面に回りこんだNEWフェイト!
 口にバルディッシュをくわえ、己が有る最大出力で魔力を開放する!!

「ふぁるふぃっひゅ!(バルディッシュ!)」
『yes master――――――Thunder Smasher』

 再び少女の手に(口に?)戻る愛機、そして復活した魔法少女の放つ強大な一撃は、遂に魔導怪獣を轟沈させるに至った。



4:~同日~『船出』

 表でようやく戒めを解かれたNEWフェイト、八頭身の肩を借りて何とか立ち上がる。
「いいですかフェイトさん、今の機動、絶対大人になったら使っちゃいけませんよ?」
 M字開脚で疾走する保護者(予定)を想像して、頭が痛くなったらしいエリオ。
 うんわかった、必殺技は出し惜しみしなきゃだね、とあんまりわかってないNEWフェイト。

 しかし、背後に今だ佇む違法研究施設を見上げて、NEWフェイトはポツリと呟くのだ。

「母さんの写真…………なくなっちゃった…………」
 しかしさびしそうな少女と、其の肩にポン、と手を置く八頭身の姿を垣間見て。
少年――――――エリオ・M・T・ハラオウンは、二人の手にそれぞれあるものを託した。

 八頭身の手には自身の愛槍――――――ストラーダを。
 そして、NEWフェイトの手には、色あせて少し古びた写真を、である。



「――――――ふぇ!?」

 其処に映っているのは穏やかな彼女の母親、それはいい。
――――――しかし、其の傍らに映っているのは満面の笑みを浮かべたフェイト自身と。
――――――――――――何故か難しそうな顔でこちらを向いているアリシアの姿である。



「どういうこと?私、こんな写真取ったことないよ!?」
「はははははははは、どうやら迎えが来たようですね。
それではフェイトさん、貴方が次に僕と会うのは新暦の69年です。
僕の方は――――――――――――ちょっといつ会えるのかわかりませんけれど」
 懐から取り出した『ガングリップ付きのスマートフォンの様なもの』から光を放ち、紫電を蓄えた手刀で切り開く。
 其の亀裂に、赤毛の少年が消えるのと同時に、頭上にはアースラが…………。
 そして、仮面を被ったクロノ・ハラオウンが地表に降り立つ。



――――――――――――のと同時に、なんか根暗そうな女が落ちてきた。

「ふふふ…………私は『ハーヴェスト・オブ・ハーヴェスト』フィット…………私を倒した程度で教導隊を甘く見るなYO?
所詮、私の得意戦技は…………魔力や体力の、緊急回復にあるのだから…………」
「わかったからもうしゃべるな――――――何でいの一番に後方支援の隊員を追撃させたんだ教導隊」



「――――――クロノ!!」
 ふらつく足取りで少年に駆け寄るNEWフェイト、クロノは彼女をしっかり抱きとめると、決意を伴う口調で言った。
「積もる話は後だ――――――NEWフェイト、これから『地球』に乗り込むぞ!!」




――――――フィットのデバイスから放たれる回復魔法は、流石の戦技教導隊仕込であったとだけ、伝えておく。



[25078] 【無印~A’s空白期】高町なのはの章
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Date: 2011/08/07 23:37
 最後に、海鳴が『魔都』と呼ばれるゆえんを、ここに記す。



1:~12/25-130day~『1607号室の魔法少女』

 ここは海鳴最大規模を誇るホテル・ベイシティ。
 だがしかし、夏休み中という一年における最大の繁忙期を迎えながらも、今年はまばらにしか客は訪れない。

――――――夏の始まりを待たずして、国はこの町を危険地域と認定、封鎖することに決めたのだ。
 
 故に、今宵併設するウェイティング・バーに足を運んだビジネスマンも、この町に取り残された一人である。
「――――――いらっしゃいませ」
 無表情にバーテンダーが会釈をする。
 時刻は夜の十時、カウンターにノートPCを置いたビジネスマンは、用意されたチャージのチョコレートに目もくれず、
シャンディガフと呟いて、視線はすでに液晶に向かっていた。

 もちろん、自身でもいやな客だろうと理解している。
 だがしかし、電話回線があれば片付けられる、仕事ばかり押し付けられている時分。
 会社に見捨てられている、彼がそう考えるのはいたし方の無いことであろう。

 だから、いっそのこと酔っ払いながら仕事をしてしまおう、どうせ口うるさい上司の目は、この町には届かない。
 ビジネスマンはそう考えた。
 バーテンダーも、客の入りが悪いならば、目をつぶってくれるだろう。



 そんな風に考えたときである。
 一応先客が居ないかと、辺りを見回したビジネスマンは、カウンターの端に一人の少女を見つけた。
「――――――ねえ、其処にいる彼女は?」
 どう見ても未成年、それどころか小学生である――――――こんなところに居ていいはずが無い。
 問われたバーテンダーも、苦笑いしながら答えた――――――何度も聞かれているのだろう。
「1607号室にご滞在されている、この夏のお得意様です。
――――――毎夜こちらにお見えになられては、ああやってホットミルクをご注文されるんですよ?」
 おそらく目覚めの一杯なのでしょう――――――そういってバーテンダーは目を伏せた?

 声を伏せて『家出か?』と問えば、バーテンダーは『ちょくちょくお母様と思われる方がお見えになられます』と答える。
 特徴的なツーテールを左右にゆらゆらさせながら、足の届かぬスツールに座り、静かにマグを傾ける少女。

 まさか閑古鳥の無くホテルのバーで、女の素性を推測することになろうとは――――――十年後お会いしたいタイプだが。



 だがしかし、ここでビジネスマンの脳裏に剣呑な噂が思い起こされる。
――――――この町で知らぬものは居ないヒーロー、変態仮面は娘を探しているのだという。
――――――――――――たった一人、悪の『魔導師』と戦う『魔法少女』を。



(――――――まさか、な)
 ノートパソコンを閉じると、差し出されたカクテルに口をつける。
 今夜はもう、仕事に手はつけられないだろう――――――こんな町に取り残されたんだ。
 多少の遅れがあっても、先方も会社も文句を言うまい。
  
 そう考えると、端向こうの少女に言いがたい共感を覚えた。
「このチョコレートさ、もう少し盛って彼女にあげてよ」
「――――――かしこまりました」
 こちらに気づいた少女が、笑顔を向けて会釈をした――――――少し、無理が滲んだ表情だった。

(ああ、これから戦いに行くのかい――――――『魔王』)
 良く見れば少女の胸元には、間接照明の光を反射する、年に合わぬ赤い宝石――――――おそらくあれはデバイスなのだ。
 嫌でも耳に入る『魔導師』の脅威、彼等が持つ魔法の杖。
 一見すればわからぬ待機状態についても、今や誰もが知る。

 故に彼女が何者かなど、けして口に出して問うたりはすまい。



 誰もが、この非日常で懸命に生きている――――――其の方法は、誰もが違うけれど。



2:~12/25-115day~『海鳴絶対包囲網』

 草むらの影に身を伏せた屈強な男が二人、無線でどこかと会話している。
「こちらブラヴォー、周囲に人影なし――――――《DDWS》にも感なし」
『――――――了解、引き続き警戒せよ――――――こんな町にも、降り注ぐ月明かりは柔らかいか?』
「――――――残念ながらオツキミはとっくに終わってる、ユカタ美人とお近づきになりたかったぜ、オーバー」
 ぶつ、と虫の鳴き声にまぎれるノイズ。

「しかし、この《DDWS》ってのは良く出来た監視装置だな、猫の子一匹この町からは出られないだろう。
――――――なあニック、こいつなんて正式名称だったか?」
「…………《darega dokoniiruka wakattyau sistem》だ、長ったらしいけど日本語の直訳だよ…………」
「なるほどな、だが性能は折り紙つきだ、さすが日本人は小さい機械を作らせたら上手いな」

 町中に作られた監視カメラ、センサー郡、おそらく人工衛星も含めて、海鳴市民は全員所在を感知されている。

 もし『脱UMINARI』を考える者が居れば、彼等の端末にも即座に位置情報が飛び込んでくるだろう。
 そして町の外周に隙間無く配置された自衛隊と米軍が、威嚇なしの非殺傷弾を食らわせ、翌朝にはUMINARIへ強制送還。
 始めは噂の『MADOUSI』と交戦する可能性も考えられていたが――――――今のところ現れては居ない。

 故に彼等は時折来る鶏達を相手にしながら、涼しくなる日本の夜を満喫する日々なのだが…………。
 今宵は警告音と共に、件の《DDWS》に女のシルエットが表示された。
「――――――ニック!お客さんだぞ、構えろ!!」
 草むらから飛び出し、表示された方向へ駆け出す二人の兵。

 やがて相手も気づいたのだろう、来た道を引き返そうとするが、ずいぶん足が遅い。
――――――そんな彼女に向けてニックと呼ばれた男の銃が咆哮…………倒れこむ女。
 ウスノロめ、と相手の素性を確認したとたん、二人の顔は青ざめる。



「――――――――――――畜生!妊婦じゃねぇか!!
おいニック、ハラを撃ったりはしてないだろうな!?」



 すぐさま撃たれた部位を確認、どうやらゴム弾を打ち込んだのは足らしい――――――迎えのヘリを要請して溜め息をつく。
 痛い、痛いとうめくも、足を押さえることすら出来ない様子の女性。
 其れを見て、バツが悪そうに顔を伏せる兵士。

 だがしかし――――――遂にと言うべきか?――――――ニックと呼ばれた方の男が、土の上に崩れ落ちた。
「おい!どうしたニック!?」









「…………もう、いやだ…………」








 
 ニックと呼ばれた其の兵士は、日々鍛え上げた其の体を震わせて、泣いているのであった。
「…………もういやだ!!…………もう民間人を撃つ仕事なんてごめんだッ!!
結局この人たちだって被害者なんだぞ!?…………それを『MADOUSI』かも知れないからって閉じ込められてッ!」
「ニック!――――――このバカ野郎、海兵隊が軽々しく泣くんじゃねえ!!」
「だって、今日だって最悪、このお母さんか子供を殺していたかもしれないんだぞッ!?
――――――――――――こんな仕事、ステイツのママになんて報告すりゃいいんだよ!!」
 半狂乱になりながらもニックは訴える。

 彼は元より親日的な兵士であった――――――日本のとある都市が正体不明のテロ組織に組み敷かれていると聞くや、
意気揚々と上陸作戦に志願した男である。
 それゆえに、日本政府が要請した任務は、彼にとって侮蔑に等しい内容であったのだ。



『自衛隊の頭数が足りないので、共に危険区域を包囲し、町を離れようとするものは容赦なく撃て――――――殺傷も問わぬ』



――――――米軍は自虐的な陸上自衛官達と共に、この作戦を『シカウチ』と呼んでいた。
 果たして、馬鹿になりきらねば遂行できぬこの任務。
 この町の誰もが知り、世界には明らかにされぬ彼等の戦いを、誰が評価するものか!!――――――






 その時である、ニックの頬に誰かの手が触れた。
――――――撃たれた妊婦が、彼の元へ這うように近づき、流れる其の涙を拭ったのである。
 其の妊婦とニックの会話は日本語で、片割の兵士には何を話しているかはわからなかったが――――――馬鹿でもわかる!



(神よ、きっとこれは――――――――――――ファンタズィ!!)






 そして程なく、彼等の元に近づくヘリの音。
 彼等の近くに舞い降りた、其の中から飛び出した隊員たちが、慎重に女性を運び入れる。

 そして、入れ違いに――――――二人に近づく男の姿、偉い人だ。
「――――――泣いているのか伍長」 
「!!――――――No!Sir!!」
「では貴様の目から流れているのは何だ!!」

 ニックは腹の底から叫んだ。
「――――――マリーンのジャスティスです!Sir!!」
 傍らの兵士は、其の一言を聞いて驚いた――――――そうなの!?と言わんばかりの顔だった。

「――――――そうか!では貴様は、顔から我等が海兵隊の血潮を垂れ流しているんだな!!そうだな!?」
「――――――――――――あふれんばかりであります!事実あふれかえっております!!」



「そんな貴様に朗報だ」



 肩口にごっつい階級将を貼り付けたブルードレスの先、グローブほども有る手がぽんとニックの肩に置かれる。
「バニングス・グループの名前は知っているな?
創始者がこの町に居を構えているということで、彼の出資で民間軍事会社を設立することになったそうだ。
――――――我が隊からも何人か、協力者として派遣してほしいということだ。
――――――――――――其の中の一人に、貴様を推薦してやる。

しょっちゅう日本のANIMEを見て正義を流している貴様なら、日本人の心を掴むのも容易だろう」

 其れを聞いた、ニックの顔が輝いた。
 グイ、と彼の体を後ろに向けると、ゆっくりと上ってくる朝日にUMINARIの町が照らされる。
 地平線の前に海の青――――――だがしかし其れをさえぎるのは『海鳴九龍要塞』
 そして、所々煙が立ち上がる町の隅々で、気丈にも日々を生きているUMINARIの住民がいる!其処に居る!!

 其の中に、自分もゆくことができる!『MADOUSI』を相手に戦うことが出来るのだ!!

「やったなニック!ヤマトナデシコとお近づきになったら紹介してくれよ!?」
 ジャスティスを拭って力強く頷いたニックは、横で同じ町を眺める上官に問うた。
「其の民間軍事会社は、なんと言う名前でありますかッ!?」



「うむ――――――P・M・C『UMINARI-JIKEI-DAN』」







 翌日、仮眠を取ったニックは晴れ晴れとした気持ちで『セキショ』と呼ばれる自衛隊の駐屯地にいた。
 駅に併設するその場所は、UMINARIへの物流と人の出入りを管理する、唯一の場所である。

 周りを見渡せば、ニックと同じくUMINARI入りをする軍人達が、度胸試しと評して――――――



――――――『サキイカ』を開けている、噛めば噛むほど味の出るデビルフィッシュのスモークである。



 一瞬其処に混じろうか、と思ったニックであるが、ふと端のほうに居る背広姿の男と、其の家族に目が停まった。
 どうやら有権者のようだ、裏取引でもしたのか、女房子供を地方へ逃がそうとしているらしい。

 思うところもあるが、ともあれ会話の内容をうかがってみる。



「やっぱり私達も残るわ――――――貴方家事とかぜんぜん出来ないでしょう?」
「なんとかするよ、それよりもお前達が残っているほうが心配で仕事に身が入らないから――――――」

 流石は日本の労働者だ、家族よりも仕事の方が大切なのか!?

「――――――早くお前達が帰ってこれるようにがんばるからさ、家だってまだ買ったばかりなんだし」
「――――――怪我しないでね?」

 どうやら、旦那は警察官か何からしい。
 ちょっと評価を上方修正する――――――命を懸けるならば、再び家族に会える希望は、他の何よりも救いになるだろう。

「おかあさん、おとうさんは大丈夫だよ!!」

 母親の袖を引きながら、小さな娘が訴えた。

「――――――――――――この町には、変態仮面がいるもん」
「――――――――――――ああ、そうだな、危なくなったら彼等に助けてもらうから、大丈夫さ」

 娘を力強く抱きしめる父、だがしかし、ニックは何よりも娘の挙げたその人物が気になった。

「変態仮面にあったら、きっとサインを貰って見せるよ!帰ってきたらおもいっきり自慢してやるからな!!」
「――――――――――――ぱんつにだよ!?」
「――――――――――――ああ、きっとパンツにだ!!」



 変態仮面――――――そうだ、この町には変態仮面が居るのだった!!
 ニックは動画サイト越しにか見た事の無い、そのヒーローの姿を思い起こした。
 海兵隊に勝るとも劣らぬジャスティス!マーブルコミックに登場してもおかしくない力強いシルエット!!

 是非会ってみたいと、ニックの心は弾む。



 だが、もちろん彼は知らない――――――この町に、もう変態仮面は居ないこと。
















――――――――――――そして、似たようなやつがたくさん増えていることを。













 やがて別れる家族を見送り、肩を落として町のほうへ消えて行く背広姿のお父さんを見送り。
 なんともいえない気持ちで其の場に佇むニックであったが、今度はセキショに立っている自衛官達がなにやら騒がしい。
 どうやら魔都UMINARIに入ろうとしている女性を、思いとどまらせようとしている。

「一度入ったら出られませんよ」とか、「そんな立派な刀を持っていたら余計狙われますよ」とか言っているようだ。
 しかし、止められている彼女を見てニックは心を躍らせる。
――――――ゴゼンサマだ、本物のサムライガールだ、と。

 すったもんだの果てに、刀じゃなければいいのだなと、刀を前に投げ出すと――――――たちまち刀は美人に変わった。
 自衛官をびびらせる、そんな彼女達を見ても、ニックは心を躍らせる。
――――――さすがニッポン、なんでもありだ、と。



――――――――――――出て行きたがる者も多いが、帰って来たがる奴も居る。
――――――――――――不思議な魅力を持つそれが、魔都UMINARIなのだ。



3:~12/25-60day~『変態仮面の居ない町』

 深夜、海鳴の町を歩く者は2種類しか居ない、狩る奴か――――――狩られる奴か。
 そして其の二つを線引きできる者は、何処にもいないのだ。



 今宵も『龍(ロン)』の構成員と、魔導犯罪結社の魔導師若干名は、深夜に銀行でも襲ってやろうかと町を行く。

 だがしかし、行きがけに半数の人員を失うなど、誰が予想していようか?
 結界を張る間もなく、閃光のような奴の刃に切り刻まれる悪漢達。
 そして今も尚、彼等に迫る其の脅威――――――その名も!





「あ~にきがおッんなをつれこ~んだァァァァァァ~、こーれで通算ろっくにんめぇぇぇぇぇぇぇ~、
うっわきをとどめるオッマジンナァイィィィィ~、ひっつじィ!ひっつじィ!ひっつじにくゥゥゥ!!(生贄的な意味で)」





 『ナギサ・ザ・マッドシスター』――――――彼女は正気を失うと、現実と脳内の区別が付かなくなるヤンデレ妹である。
 今日も兄くん(仮)の浮気性を止めようと、彼女は独自の価値観で理解不能の凶行に直向であった。



(…………畜生、あの女まだ追ってきやがる)
(…………一体何なんだこの町はッ!?)

 危機感の薄いこの国を足がかりに、この97管轄外世界を乗っ取ろうとした彼等の思惑は尽く失敗続きである。
 母体である三大魔導犯罪結社の首領一人など、良くわからない小学生に討ち負けて修行のたびに出る始末。
 資金の調達が困難に成った彼等は最近、いかなる手段を用いても現地の通貨『円』を手に入れようと暗躍していたが、

――――――――――――最近猫にも勝てやしねえ。

 尚も彼等を狙って近づいてくるマッドシスターに見つからぬよう、匍匐前進で進む魔導師とチンピラ達。
 弾丸も切る、攻撃魔法も切るなど、彼女が持つ文化包丁はどうなっているのだろうか。



(おい、あの車を奪って脱出しようぜ!?)
(そうしよう、見たところスターターは電気式だな)

 住宅街の一角、それなりに新型車を発見した悪党一味。
 ドアの鍵とエンジンスターターを魔法で騙し、命からがら発車する。





 海岸線を爆走する盗難車、中は悪い奴等ですし詰めであったが、命を拾った喜びに速度もうなぎ上りである。
「ヒャッハァー!!とばせとばせー!!」
「もう受納金の事など知ったことかッ!」
 魔の手を逃れた喜びに、半ばヤケを起こしながら叫ぶ。
 時折現れる対向車に魔力弾を撃ち込んで遊んだりしながらの、ご機嫌なドライブ。

 その時である――――――車の後部ガラスが粉々に砕け、正面のガラスが銃弾を受けたようにひび割れた。
 なにやら金属製の棒が、日々の中心に深々と突き刺さっている。

「ッ――――――畜生、なんだァ」
 窓から上半身を乗り出し、いわゆるハコ乗りの体勢で暴走を続ける魔道犯罪者。
 だがしかし、其の間も同乗者はなにやら半狂乱状態で、わけのわからないことを口走っている。
――――――若い女がどうとか、黒いヤツがどうとか。

 ちょっとばかり速度を落とし、中の連中に事の真偽を問おうとする、其の瞬間。
 彼等の車に併走する、二人の女性――――――「うおおおぉぉぉぉ!!」とか「はぁぁぁぁ!!」とか気合を入れながら、
よりによって自前の足で暴走車に追いついた。
――――――其れもさることながら、彼女達は腰に縄をくくりつけ、なにやら車輪の付いた板を引っ張っているのである。
――――――――――――其の上に仁王立ちしている…………まさか!ヤツは!?



「変態秘奥義――――――『深夜の町内大疾走、人力車タイムトライアル』
ゴキゲンな珍走もここで終わりだ、魔導犯罪者ども!!」
「き、貴様はッ――――――変態仮面Knightッ!?」




 どちらが珍走か変態仮面!我が目を疑う三角関係のチャリオット――――――しかしヤツの被っている仮面はあろうことか、
前を走る二人のパンツじゃないんだぜ?。
 にもかかわらず全力疾走を続ける前の女二人、別に『なんだか急に全力疾走したくなる薬』を盛られただけではない動機。
「しんぞー大丈夫か亀ェェェ」「もんだいなぁぁぁし!!」とか言っているあたり、まだまだ余裕がありそうだ。

「貴様等いったいどういう関係だ!?」
「家族のようなものだ、いや師弟か――――――そんなことはどうでもいい。
毎夜町に不安を撒き散らす悪辣な魔導犯罪者ども、この変態仮面Knightがおしおきしてくれる!!」

 ビシィ!と彼等を指差す――――――結構な速度が出ているというのに、スケートボードの上で小揺るぎもしない。
 舌打ち一つして速度を上げようとする車であったが、そんな彼等に変態仮面Knightは言い放つ。
「別に俺達をまこうとも構わんが、貴様等を追っているのは俺達だけではない――――――上空を見ろ!!」



「!?――――――セ、セスナァァァァァァ!?」
「変態秘奥義――――――『国際A級ライセンス(セスナ編)』離れろKnight、このまま突っ込むぞ?」



 嫁のパンツを被り、近づく小型飛行機の機首に跨る男――――――変態仮面Daddy。
 時折腰や腕を小刻みに動かしているのは、どうやら鋼糸で操縦席を動かしているらしい。
 重機や船舶など、様々な運転免許を持つ彼には、朝飯前のことである。

 轟音と共に暴走車と激突、爆発、大炎上――――――何事も無かったかのように地面に着地する変態仮面Daddy。
 青い髪と緑色の髪をした女を小脇に抱え、股間にスケートボードを挟んだKnightもそれに続く。
「――――――しかし今夜も、なのはの行方を示す手がかりは見つかりそうも無いな、Knight」
「そうだな、Daddy――――――美沙斗さんも、アイツを何処に隠しているのやら…………」



 夏休みを前に、再び姿を消した娘(妹)の行方を追ってP・M・C『海鳴自警団』に協力する二人。
だがしかし、支給されたDDWS端末にもなのはの情報は表示されぬ、其れは期待に反する落胆であった。

 だがしかし、其処は彼女の家族である――――――数度なのはの危機を救ったこともあったりしたが、礼もそこそこに、
魔法少女は次の戦場へ飛び去ってしまうのだ――――――嗚呼心配だッ!!

「さてDaddy――――――どうやら罪もない女性が廃墟に拉致監禁されているようだ、助けに行こうか」
「やぶさかではない、がKnight――――――お前ずいぶん其の端末使い慣れているな!?」
「さて、気のせいだよ」
「俺も付いていきます師匠!!」
「うちもうちも!!」

「お前達は家で寝てろ――――――送ってやる」







「ち、畜生――――――畜生ッ!!」
 バリアジャケットのおかげで辛くも炎上する車から脱出できた――――――否、吹っ飛ばされた悪の魔導師。
 這うような速度で『海鳴九龍要塞』に戻る、都合よく臨海公園まで吹き飛ばされた彼。
 だがしかし、其の時点で、彼は持ち前の幸運を使い切ってしまったことを知らぬ。

 トイレ前のベンチに足を引っ掛けて、倒れこむ――――――そして其処には先客が居たのだ。


「――――――――――――やらないか」
「き、貴様は…………」

『アベ・ザ・ヤラナイカマン』――――――其の正体は言わずもがな、諸君の知る『ウホッ!いい男』である。
 彼の戦いはもちろん割愛する、諸君の知るように、この作品は『リリカルなのは』の二次創作だからだ。



 魔都UMINARIは軍事衛星や、国家忍者の協力を得て形成された強固な情報網と、多々駐在する軍人。
そして数人確認されている変態仮面や、彼等のような善意ある一般市民の協力を得て、かろうじて平穏を維持していた。

 だがしかし、海鳴に巣食う犯罪者達が尤も恐れる存在――――――そろそろ諸君にも紹介しなければなるまい。
 魔導師に対抗できるのは魔導師のみ。
 海鳴の誰もが知る、リリカルで、マジカルなこの町の『魔王』を!!





「アッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」




4:~12/25-59day~『魔王』

 そして、其の日も魔道犯罪結社はとある老人ホームに立てこもり、年金や身代金をかき集めようとしている。
「…………しかし、噂に聞いた魔導師とやらも、ずいぶんせこい手を使うようになったのう」
「…………そうですねぇ、次郎さん」

「うっせぇぞジジババ共!おとなしくしてやがれ!!」
 ろくにジジババどもを拘束せずに、脅迫電話を掛け続ける犯罪者達。
 溜め息をついて見守る老人達であった、もとより棺おけに片足を突っ込んでいる身分である。
 別にこれといって命の危険に怯える心積もりでもないのだが…………こんな真昼間から凶行に及ぶ輩が居るご時勢。
 思うところは多々ある――――――そんな時である。



――――――桃光が老人ホームの屋根を弾き飛ばし、空から一人の魔法少女が舞い降りてきたのは!!



「ま…………『魔王』じゃ…………」
「あれが噂の『魔王』かい?」
「きれいな光ですねぇ…………」
 ほけー、と空を注視するジジババ、だがしかし犯罪者達はそうも行かぬ。

「ま、ま、『魔王』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 半ば恐慌しながらもデバイスや重火器を構える悪漢達、そんな彼等の前に立つ少女――――――高町なのは!!

「大丈夫ですか?おじいさん!おばあさん!!」
 其の純白の――――――とは少し形容しがたいバリアジャケットのスカートを翻らせ、老人達の安否を気遣う。
 自己修復も間に合わぬほどの勢いで町中を飛び回り、殺傷設定と鉛弾の中を駆け抜ける日々。
 だがそれでも、少女の内に宿る不屈は、今日も全力全壊を体現する。
 傷つき、疲れ果て、其の身をボロボロにしながらも尚――――――

――――――――――――魔法少女、リリカルなのは、続いてます!!







 其の勇ましき姿から、老人達も若りし頃に置いてきたと思っていた勇気が触発される。
 噂に聞いた『魔王』――――――愛らしくも誇り高き勇士、だが何と言っても――――――



――――――――――――わし等の孫よりまだ若ェ!!



「これは、娘さんだけに任せておくわけにもいかんのう…………」
 老人の一人は仕込み刀を抜いた。
「びーたちゃんから教わった『てーとりひ・しゅらーく』をみせてやるわい!!」
 ゲートボールのスティックを担いで息巻く者も居る。

「ハッ――――――足腰立たぬヤツは引っ込んでおれぃ、近藤!」
「なんじゃとぅ!もう一度言ってみんかい、田島ァ!!」
「はいはい――――――お二人とも、喧嘩の相手を間違えてはいけませんよ?」

――――――おマチさん…………たしなめられた爺達はちょっと頬を赤くする。
――――――――――――マチと呼ばれたその老女は、愛用の日傘にショットシェルを詰め込んでいるところだ。


(むぅ――――――このままではおじいさんとおばあさんに被害が出てしまうの…………)
高町なのはは思案した、ここは新たなる魔法を使い、悪漢達を外に誘導するのが良い!

「レイジングハートッッッ」
『――――――yes,master』
 愛用の杖が輝きを増し、なのはは其れを天高く突き上げ、虚空をぐるぐると回し始めた。
「リリカル~ぅぅぅ…………こっちだァァァァァァァァァァァ!!!!」

「うっわなんだァ!!」
「ゆ、誘導弾が壁のように迫ってきたぁ!?」
 たまらず転がるように外へ飛び出す悪漢達、なのはは老人達に一礼すると、彼等を追ってふよふよと飛んで行く。



 後に残された老人達は、高く輝く青空を見上げ、まだまだこの町も悪くないと、ここに骨を埋める覚悟を再認するのである。





 そして一人、又一人と悪党どもをしばき倒す高町なのは――――――其の姿を高台から視認する4つの影がある。
 グラマラスな女が二人、いかつい男の姿が一人、そして幼女の姿が一人。

「――――――見ろヴィータ、やはり私の言ったとおり、噂の『魔王』はこの悪事を見逃すはずが無かったろう?」
 剣を携えた、女のシルエットが告げる。
「いや、でもさ――――――なんかアイツ近接弱そうだ、やっぱり助けに行こうぜ?」
 じいちゃんたちも心配だし、幼女のシルエットは尚も食い下がる。

「ヴィータちゃん、気持ちはわかるけど…………『蒐集』が滞っている以上、いつかあの子とも戦うことになるかも……」
「わーってるよッ――――――わかってるけど…………」
 ううう、と唸りながら眼下を注視する幼女、いかつい男の影はそんな彼女の肩に手を置いた。
「心優しき騎士ヴィータ、ここは堪えろ。
いずれ主はやての元、我等も、彼の『魔王』と共に心穏やかに暮らせる町を、取り戻す事だろう――――――俺は確信している」
「そ、そんなんじゃねー」
 顔を真っ赤にして愛用のアームドデバイスを振り回す幼女の影。
 それをみてくっくっく、と人の悪い笑みを浮かべていた女、手にした剣を天に掲げ、町中へ響き渡れとばかりに告げる。



「我等――――――エロマンガより生まれ、義を貫きし騎士!」

「「「――――――――――――四神快楽天(ししんかいらくてん)ッッッ!!」」」

「主はやての命を受け――――――」
「この町に蔓延りし悪党に――――――――――――どうしたの?ヴィータちゃん」

 追従する女と男の影が、難しい顔をしている幼女に問いかける。



(ちがうんだはやて――――――なんかすごく、懐かしい感じがするけど………
――――――――――――あたしたちはエロマンガから生まれたわけじゃねえんだよッ!!)

 なぜか涙を浮かべ始めた幼女の影を、残りの三人はそろってかいぐりかいぐりするのである。


























5:~12/25-210day~『面影』

 そして時は、春の終わりにさかのぼる――――――まだ、この町に悪意が渦巻く寸前の事だ。

「むぅ…………チーズもカレー味も駄目だ…………お好み焼きなど、もうワケがわからん」
 パン・ケーキの型を前に、一人思案する高町恭也。
 そんな兄を前に、この人どうしようとうろたえるみゆき、みゆきたん、みゆきタソ(ハァハァ)

 しかし、閉店間近の喫茶『翠屋』の厨房で、どうにか甘くないパン・ケーキを作れないものか思案する二人の兄妹の下へ、
ドアベルが来客を告げる――――――物言わず、そのまま喫茶スペースへ陣取る影。

「あの、お客さん。
もうしわけありませんが、そろそろ閉店で…………」

 声を失うみゆきんぐ、差に有らん――――――目の前の男は胸元で交差したブラジル水着のようなものを着て、
 足元には網タイツのように魔道式が絡みつき、燃える瞳をさえぎる様に、パンティーで顔を隠していたのですから。



「きょ――――――恭ちゃん恭ちゃ~ん…………あ、アレアレアレ!!」
「なんだ年頃の女の子がアレアレとはしたない――――――」

 店の方に視線をやって、恭也も案の定、目を見開く。
 セクシャルに足を組みながら腰を落ち着ける其の男――――――かつてアールワンと呼ばれた存在!

「――――――変態仮面、参上!!」

 おっす、と手を挙げた変態仮面に向かって、恭也は伝票を手に近づいてゆく。
 えー!?注文聞いちゃうの?と困惑然りのみゆみゆ。

「お待たせしましたお客様、ご注文は?」
「キャラメルミ――――――否、コーヒーを頼む」
「かしこまりました――――――ところで、貴様誰のパンツだ?」

 顔を見せ合って、腹のそこから不気味に笑う二人。
「プレシア・テスタロッサ――――――君の末妹、高町なのはが友人NEWフェイトの母、其のパンツだ。
ところで、注文とは別に、なのは嬢を通じてNEWフェイトに渡していただきたいものが有る」
 変態仮面は股間の袋をまさぐって、一枚の写真を取り出す。

 眺めるも、小さな女の子を挟むように並び立つ二人のご婦人――――――双子であろうか?なかなかに美人だ。
 危害を加えるものでもなし、恭也はしかと預かった。


「今、家のなのはを呼び出します――――――あいつも貴方に会えば、きっと喜ぶ」
 警戒を解き、内線に向かって歩き出そうとする恭也。
 だがしかし、変態仮面は其れを止めるべく声をかける。



「――――――残念ながら其れはできない。
――――――――――――私は再びこの世界を離れ、厄災の種を探す冒険に出なければ、ならないからだ」

 それは高町なのはが聞けば、さぞ驚くであろう内容であった。



[25078] 【無印~A’s空白期】変態仮面の章
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/08/07 23:55





 それでは、諸君。
 『魔法少女リリカルなのはA’s』――――――――――――変態仮面抜きで、始まります!!














1:~時間が意味を成さない場所~『――――――PROMISED LAND.』


 長かったのか、それとも一瞬の出来事であったのか。

 次元漂流の果て、プレシア・テスタロッサは娘の体が収められた生体ポッドと共にとある草原へたどり着いた。
 果てしなく続く其処は今、夜の帳に覆われて、星明りが照らすのならばさぞ美しい風景であったのかも知れぬ。

 だがしかし、今、この草原はいたるところに炎が燃え広がり、月の光すら熱気が舐め上げる。
 まさに地獄、少なくとも自分が求めた永遠の都では、けして有りえぬ。
 そして何よりも、信じがたい光景が彼女の言葉を奪い去っていた



『ウァァァァァァァァァッッッッ!!』
 彼女の目の前で――――――――――――轟音と共に、この世界の住人であろう蒼き巨神が膝をつく。



『たわいも無い、たわいも無いなテンセイザー!!
もうすぐ、あと少しで、向こうは越えられぬ『原作崩壊』を迎えよう。
――――――――――――そこで歯噛みしながら『リリカルなのは』の世界が変容仕切る様を眺めているが良いわッ!!』
『おのれ時空暴君…………度重なる卑劣な介入の数々をッ――――――少しは自重しないかッ!』
『ヌゥワァハハハハハハハハッッッ、自重?ナニソレ?おいしいのォォォォォォォ!?』

 高笑いする真っ黒で悪そうなヤツを前に、全長18メートル程の蒼き巨神は、手にした剣にもたれ尚、立ち上がろうとする。
 見れば装甲は無数の傷がつけられ、関節の所々からは火花が飛び散っている。
――――――――――――彼は、満身創痍の体であった。

(なに…………コレ…………ナニ?)
 自身の知りえぬ圧倒的な技術で作り上げられた傀儡兵か何か?
 何で自分の前で激闘を繰り広げているの?
 様々な疑問が聡明なる大魔法使いの脳裏に浮かんでは消え、ようやっと搾り出した自身の声はただひたすらに困惑の其れ。



「なにこれぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!?」


 アリシアの救済を求めるより前に、高次元存在は立て込んでいた。
 彼女達原作キャラが知る良しもないが、彼の巨神もまた――――――必死に戦っていたのである。







『むッ!?其の声はプレシア・テスタロッサ――――――やはりここへたどり着いてしまったか』
「はっ、はいぃぃぃぃぃ!!」
 テンセイザーは其の悲痛な叫びを聞いて、ようやく後方にいるプレシアに気がついた。
 もしリリカルなのはの世界で、自身の下にたどり着く可能性がある無印原作キャラを挙げるとすれば彼女を置いて他にはない。
 故に危惧していたのだが、よもやこの最悪のタイミングで流れ着いてこようとは――――――

『ここは危険だ――――――後ろに下がっていてくれ』
 よろめきながらも立ち上がり、背後の小さな其の影を、守るように身構える。
 混乱の極みにあるプレシアはただ黙って何度も頷くと、生体ポッドを抱えて従うだけだ。
『ふははッ――――――いいのかテンセイザー、後ろの女は2期以降には登場しない。
ここで見捨てても原作にはなんの影響もないのだぞ?』
『だまれ!たとえ作品の流れに影響が無かろうとも――――――どこの世界にも見捨てていい命など無いッ!!』
 プレシアの背後から、再び戦の轟音が響いてきた。
 爆発の余波で倒れこむプレシア、投げ出されたポッドにしがみつくと魔法の詠唱を始める。

 たとえ自分があずかり知らぬ相手でも、其の身を挺して守ってくれようとした謎の巨神。
 そしてあの、97管轄外世界で垣間見た危険な気配を思わせる黒い脅威。
 せめて彼のために、援護砲撃の一発でも、放ってやらなければなるまいが――――――――――――。

「――――――――――――ごほっ…………かはっ!!」
 かつてのようにはいかなかった。
 土煙に咳き込んだプレシアは詠唱の中断を余儀なくされ――――――喀血した飛沫がポッドに斑紋を描く。
 無理を続けた自分の体は、もう欠片の魔力も搾り出せはしなかった。
 涙で滲む視界の向こう、何度吹き飛ばされようと果敢に立ち向かう蒼き巨神。
 今、其の手に掲げる大剣が中ほどからへし折られようと、柄のみで切りかかるテンセイザー。

「…………だれか…………」
 知らず手を重ね、昼夜を問わず娘のため続けてきた祈りを、今は巨神に向ける。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』
『無駄だ無駄だァ!!何度向かってこようとも、貴様にこの身を打ち倒せるわけがあるまい!
…………そうだァ、戯れを思いついたぞ?
貴様の残骸の上で、其処の母娘を犯し尽くしてやろう――――――他ならぬこの体でなァァァァァァァァ!?』
『させるか!させるかッ!こうなれば刺し違えてでも貴様を止める!
――――――――――――覚悟しろティンダロスゥゥゥゥゥ!!』



――――――――――――――――――――――――誰か助けて。



 あわや妖精化!?――――――そんな己の危機も省みず、プレシア・テスタロッサは祈りを続ける。
 さあ、諸君。
 無印における『彼』の激闘を垣間見てきた諸君――――――いよいよ頃合だろう。

 有る意味無印における最大の被害者である原作キャラの危険を、あの男は。
 十余年の生涯を切り捨てようとも、英雄の写し身として存在すると誓ったあの男は。



 己が誓いを果たすべく、危機迫る女を救うべく、『男』はご都合主義と共に『約束の地』へ駆けつける。



「――――――――――――こんな所で『おいのり』を捧げても、神様は聞き入れてはくれないよ?プレシア・テスタロッサ」
 傷つき倒れる巨神の姿を見ていられぬと、硬く目を伏せていたプレシアに、誰かの声がかけられる

「じゃあ、一体『何』にすがれというのッ!?」
 涙声と共に振り向くと、彼女の鼻先を掠めるほど近く。

――――――――――――『ちまき』の様なものが、其処に在る。

 ギギギギギ、とさび付いた音がしそうなほどゆっくり、ゆっくりと顔を上げるプレシア・テスタロッサ。
 恐怖の正体を察すると呆然とした、見当違いの怒りすらわいた、そして何よりも驚いた。
 それはそうだ、自身に声をかけた目の前の男は、胸元で交差したブラジル水着のようなものを着て、
 足元には網タイツのように魔道式が絡みつき、燃える瞳をさえぎる様に、パンティーで顔を隠していたのですから。









「――――――――――――それは私の『おいなりさん』だッ!!」









 『ナニ』に縋れとヤツは言う――――――故に淑女は悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!へ、へんたいィィィィィィィィ!?」
 そしてその男は、何を心外な、とでも言わんばかりの仕草で股間の拘束を締め直し、己が名前を告げるのだ。

「変態ではない――――――私は『変態仮面』だ」



2:~時間が意味を成さない場所~『ほんとうのたからもの』



 長い十四年だった――――――変態仮面は炎が照らす草原に立ち、物思う。

 足早に過ぎ去った転生の顛末、新たな母と過ごした十数年――――――魔法少女との邂逅。
 其の全てを投げ捨て、彼は今、ここに居る。

 己を拾い上げた友を救うため、己が過ごした世界を救うため、己に荷を担がせた怪物を討つために。
 一歩、変態仮面は足を踏み出す。
――――――――――――腰を抜かした淑女などおくびにもかけず、もう一歩。
 三歩目からはわき目も振らずに駆け出した、今も尚轟音を響かせる二対の巨影に目掛け、猛然と。
「――――――フオオオオオォォォォォォォォォッッッ!!」
 喉が張り裂けんばかりに咆哮、ただ一重ジャイアントキリングを目指す。



 今ここでパンツを被っている自身はすでにあの英雄、魔法少女はそう呼んだ。
 いかに巨大な神であろうとも、恐れることは赦されぬ。



『――――――んぬぁッ!?貴様は!?』
『    君?――――――いや、まさか『リリカルなのは』の世界に渡ったアールワン・D・B・カクテルなのかッ!?』

 ティンダロスが放つ黒い雷撃をかわし、ささくれ立つ大地を蹴り、跳躍し、蒼き巨神の肩に立つ。

「アールワンはもう居ない――――――果たして君がどのような存在として、私を転生させようとしたかはわからぬ。
だがしかし、パンツを被る変態とて、悪を打倒する戦士としての気概は劣らん!

君を助けに来た――――――私はもう、正義のヒーロー『変態仮面』なのだから」



 痛ましい目をするテンセイザーを慮り、不敵な笑みをクロッチの下で浮かべる変態仮面。
 果たして、生まれる前に出会ったとて、悪の存在を認めてなお、放置することは赦されぬ


 それが英雄の矜持――――――彼が背負い、培ってきた物を今、昇華する。
 本作の転生者が、幾多のオリ主たちとは決定的に違う所。
 其れは原作の外にもう、強大な宿敵を抱えていた。
 其の一言に尽きる。

「ゆくぞ時空暴君ティンダロス――――――異世界を蹂躙すべく貴様が生み出した変態の、恐ろしさを己が身に刻むといい」
『ぬぅ――――――アールワン・D・B・カクテルめ、小ざかしいヤツだ。
本能の赴くがまま、原作キャラたちとウフンアハンしていればいいものを…………』
「ヌかせ!大体初潮も迎えていないような乙女に欲情できるかッ!」

 YESロリータ!NOタッチだ!!――――――変態仮面、ちょっとだけ本音が出た。
 そもそも、己の股間を武器にするという特殊な第二の生涯、彼は深刻なEDに犯されていたのだ。
 変態仮面と、君達だけの秘密だゼ?



『無理をするな変態仮面――――――時空暴君は手ごわい!』
「案ずるなテンセイザー、ここは一つ――――――自身もないわと封印した『最終変態秘奥義』をお見舞いしてやる!!」



 最終変態秘奥義だと?――――――テンセイザーは次元の狭間から観測していた『変態秘奥義』の数々を思い起こす。
 どれもこれも『――――――ないわ』と巨神をも一歩引かせた荒技ばかり。
 一体これ以上、どんな痴態を晒そうというのか――――――――――――友よ!?

『ヌゥワハハッハ――――――変態仮面め、どのような技を繰り出すのか知らぬがいいだろう。
この身でしかと受け止めてくれるわッ!!』
『…………変態仮面、非常に言い出しづらいことなのだが、実は時空暴君は思念体…………乗り移られているのは…………』



「――――――――――――尚の事好都合であるッ!!」



 一吼、変態仮面は己が肩にかけられた下パンツに手を掛け、実炎を伴う瞳を見開いた。

「最終変態秘奥義――――――――――――マ・ラ・尽・し!!」

 フォームチェンジか!?そう考えたテンセイザーとティンダロスはその浅考を思い知る。
 変態仮面はその引き絞られた下パンツを――――――勢い良く足首まで引きおろしたのだ!!



『『な、な、なにィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!』』


 いかにもナニである、外気に晒されたご立派様が、世界の修正の元に白く眩く光を放つ。
 気合一閃、テンセイザーの肩から飛び上がる。
 腕から放たれた魔力光が羽の形を取り、風を切って時空暴君ティンダロスへ向かってゆく!!

 光と炎を纏った其れは――――――まるで不死鳥の姿であった。



『そ、其れは命の光――――――馬鹿者!よせ!止めろ!!来るなァァァァァァァァァァァァァ!?』
「しかと受け止めるのではなかったか時空暴君!
――――――星の数でも数えているがいい!すぐに終わる(貴様の最後的な意味で)」

 股間にぶら下がった『たからもの』を直接叩き込もうというのか変態仮面!!
 顔面――――――――――――鼻の先に留まったその不死鳥は、すぐさま顎周りに回り込み、ナメクジのように這いずり出す。

「――――――男根
――――――――――――陰茎
――――――――――――――――――怒張
――――――――――――――――――――――――魔羅・魔羅・魔羅!
マラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラ
マラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラ
マラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラマラ
マラマラマラマラマラマラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!!!!」

 まさに超振動――――――――――――奇天烈惨舞覇(さんまいば)で剃り残しなし!!
 PR)好きな女の子にコレ試してみろ、三分後に反応変わるぞ――――――とばかりに黒くて悪そうな体を蹂躙して行く!!

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!き、きもちわるいぃぃぃぃぃぃぃ!!』
「元より――――――貴様が与えた力だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 ――――――――――――かつて知者は問う。
「――――――人は、母腹の安寧から窮屈な産道を通り、苦に満ちた現世に生まれ来る。
死を前にし、恐怖に泣き叫ぶ子を目にして親はおめでとうとソレを祝福するのだ。
――――――この世はなんと、絶望に満ち溢れているのだろう」
 ――――――――――――しかし、痴者は言う。
「この世の理不尽から、人は幸福の欠片を拾う。
やがて彼等が子を成すならば、それは目に見えぬ欠片を形にしたいからだ。
そして子が母腹の安寧を忘れる頃に、彼等は自らの手で幸福の欠片を集め始めるだろう」

 目をそらすな、幸福の欠片を集め、しかと形に成すために。
 誰もが持つ永久機関、受け継がれる命のバトン、人は誰でも股間に奇跡の光を溜め込んでいるのだ!!



『お、お、お、おえあぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁああああぁぁぁあ!!?!!?』』



 がくがくと黒い巨体が身震いを起こし、やがて頭に生えたミノタウロスを思わせる角が――――――ザンッ、と重苦しい音を立てて地面に突き立った。
 ――――――憧憬一途のスキルを持つ冒険者が、どこか遠い世界から親指を立てた気がした――――――







『や、やったのか――――――!?』
 崩れ落ちる黒い体、成敗、と目を伏せる変態仮面の背後で、黒い霧が悪魔のような形を取る。
 身構えるテンセイザー、変態仮面もケツの間に挟んだデバイスから光の鞭を伸ばす。

『おのれ変態仮面…………あまりのキモさに傀儡から抜け出すよりほかになかったわッ!!』
「それが貴様の正体か――――――時空暴君!!」
『案ずることは無いぞ変態仮面――――――これで私も心置きなく、ヤツに《ハンピーエンド・スマッシュ》を叩き込める!!』
 パラダイム・ブレードを構えるテンセイザー、だがしかし!!



――――――――――――――――――ティンダロスは其の狂気を、彼等の背後に向けたのだ。



「へ――――――?」
 急に思念体から、いやらしい視線を感じたプレシアが疑念を口にする。
『ほう…………そのカプセルに入った幼女、ナリは小さいながら魅力的だな。
何より余計な魂が抜けておる――――――――――――熟女よ、其の娘の体を、

よこせええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 一瞬の油断であった。
 変態仮面とテンセイザーの脇を抜け、アリシアの入ったポッドに迫る時空暴君!
『し、しまったッッッ!!』
『逃げろ!プレシア・テスタロッサァァァァァァァァァァァ!!』

 このままでは次元世界を揺るがす暴君幼女が爆譚してしまう!
 YESロリータ・NOタッチの縛りが正義の戦士を縛るなら、今度こそ彼等は手出しが出来まい!!


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!アリシアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 襲い掛かる黒い思念体を目の当たりにし、アリシアの入った生体ポッドを抱きしめるプレシア。
 間に合わぬ、誰もが目を伏せた――――――だがしかし、その時!!










『――――――――――――ぬおぁ!!』
 ズドン、という音とともに弾き飛ばされる思念体、恐る恐る目を開くプレシア。
 彼女達の前に、巨大な鉄塊が壁となって、其の猛威をさえぎっていた。

「じゅ…………重機!?」
『…………ヒュ~、危なかったなぁ』
 18メートルは有る巨大な重機のアームの上で、軽いノリの声が聞こえる。
 見れば先程まで、テンセイザーと戦っていた全長7メートルほどの、黒いロボット。
 ぴしりぴしりと彼の体に黒い罅が入り――――――やがて砕け散ると、下には紅い装甲が宿っていた。



『オレは〈観測機構隊〉所属、コーディーだ。
怪我はなかったかい?――――――――――――奥さん』





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3:~時間が意味を成さない場所~
『勇者想策テンセイザー26話《絆~kizna~取り戻す時》』

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『コ、コーディー!意識を取り戻したのかッ!?』
 剣を取り落とし、拳を握り締め歓喜を示すテンセイザー。
『おお、世話をかけたなテンセイザー。
ホント、すまんかった――――――こっちもこの通り、ヤツの呪縛から解き放たれたゼ!?』
 ギュオンッ、と重機の上部分をテンセイザーに向け、親指を立てた紅いロボット。

 プレシアに駆け寄る変態仮面の胸熱――――――彼は萌えより燃え派である。
(まさか仲間ロボットが居たとは……………)
 プレシアに怪我がないか触診しようとし、必死に払いのけられつつ内心拳を握り締めた。



『おのれ…………この期に及んでコーディーまで復活しようとは…………』
 再び形を成そうとする黒い影。
 再び剣を手に挑もうとするテンセイザー、だがしかし!

『おっと、ここは俺に任せてもらおうか?
――――――――――――ヤツにはオレの体で好き勝手やられた、でかい貸しが有るんでねぇ。
…………しっかり取り立ててやらんと!』
 ゴゴゴゴゴ、と重機をテンセイザーの前に動かし、コーディーと呼ばれたロボットが彼を制止した。
『だがしかし――――――病み上がりの体で合体できるのか?コーディー』
『まあ、まかせなさいなッての!!』



 跳躍し、手を横に広げ、天空の果てまで届けとばかりに其の名を叫ぶコーディー。




『パウゥゥゥワァァァァァァァー・リトライダァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』




 巨大な鉄塊を反時計回りに回転させ、ヘリコプターのように上昇する重機。
 空中でバラバラに分解され、それらがコーディーを中心に巨大なヒトガタを形作る。
「過去を掘り返す…………パワーショベルだと…………?」
 其処へGの文字があしらわれた一際厚く、大きな装甲版が胸に装着される。





『追想合体――――――ギャッコォォォォォォォォォォ・ディオンッ!!』





 頭と拳が飛び出し、肩にショベルアームが装着されると、其処に幾多の二次創作を守護する無敵の巨神が爆譚する。
 君たちも、黒歴史を掘り返されないように、今この時を精一杯生きろ!!



『おのれ…………おのれギャッコーディオン!!
再びわが傀儡にしてくれるわァァァァァァァァァァ!!』
『ケッ!二度も三度も同じ手を食わされるかってぇの!
――――――――――――ナロウバッシュ・スコップゥゥゥゥ!!』

 クレーンアームがまるで鞘のように展開し、其処からけして砕けることの無い紅蓮のスコップが飛び出した。


『喰らえ――――――《ブリエスト・デザイアァァァァァァァァァァァ!!》』



 突き立てられたスコップから螺旋状に放たれる衝撃波――――――穴に収まった時空暴君は二人の巨神に見下ろされる。
『…………さて、埋めるか』
『しばし待て、ギャッコーディオン。
時空暴君、我等が仲間――――――ガンクロスの行方を教えてもらおうか?』
『き、貴様等…………よもやワシが素直にそんな情報を教えると思うてかァァァァァ』

 土をかけはじめるギャッコーディオン、やめてやめてと半泣きのティンダロス。
 やがてスコップの腹でバシバシと土を固めると、ズズンと地面が響いた――――――どうやら爆発したらしい。



4:~時間が意味を成さない場所~『そのたましいをとりもどすために』



「さて、あんまりといえばあんまりだが…………一応片付いたのかな?二人とも」
 見上げるパンツ、うむと頷く二人の巨神。

「あの…………」
 そこへよろよろとやってくる、娘の体を背負った母の姿がある。
「――――――そうだ、テンセイザー。
厚かましいお願いだが、其処に居るアリシア・テスタロッサを蘇らせる事は出来まいか?」
 私に出来ることなら何でもしよう、そう変態仮面は言う。

 一瞬、プレシアの顔に喜色が浮かんだが――――――テンセイザーの返答は再び母を落胆させるものであった。
『すまないプレシア・テスタロッサ――――――其の少女の魂は、すでに君達が天国と呼ぶ場所へ、召されてしまっている。
私の力ではもう、呼び戻すことはできない…………』
「――――――そんな…………」
 へたり込むプレシア、君ももう少しすれば、同じ場所へ行くことができるのだが、と口の中で呟くテンセイザー。
 まったく救いになっていなかった。
「何とかならんのか蒼き巨神!?」
『いやしかし…………彼女を転生させて、再び其の娘として生まれ変わらせるのもなぁ…………』
 何か違うと考え込むテンセイザー、渋面をパンツの下で作る変態仮面。




『だぁ~もう!辛気臭えなあ!!』
 しかし、救いの手は紅き巨神が差し出した。
『そのアリシアって娘さんの魂は今天国でハッピー、でもおっかさんは娘さん助けられなくて心残り。
要するにそういうことだろう!?』
 プレシアが顔を上げ、ぶんぶんと頷く。
『じゃあ、話は簡単だ――――――ちょっと過去まで逆行して娘さん助けてこいや。
パラレルワールドを一つ作るだけだが、そこで娘さんと最後まで仲良くして来い』
「…………なん…………だと…………」

 まるでうすうす買ってきて、見たいな冗談を聞いたように、変態仮面は驚愕した。
「しかし…………それでは一つの世界にプレシアが二人居ることになってしまうのでは?」
『あ~ん、オレがそれしきの問題でヘマやらかす仕事をするとおもってんのかい?
ただ、そういうパラレルワールドが一つ、出来るってだけさ――――――ちゃんと管理するって』
 額を押さえるテンセイザー、彼は昔からホイホイ人の頼みを聞いてしまうお調子者である。
 尤も、ギャッコーディオンからすれば、彼は重度の堅物なのだが。







 だがしかし、一抹の救いを見出した彼等の後ろで、巨大な土柱が立ち上る。
『――――――なんだと!?』
 間欠泉のように立ち上がる黒い影――――――やがて其れは再び悪魔のような形を取る。
「ティンダロス、なんてしつこいヤツだ!!」



『ぬぅわははははは、危ないところであった――――――コレのおかげで助かったがなァ』
 べろり、と伸ばした舌の先に光る、紅い宝玉――――――まさかあれは?

「ジュエルシードかッ!?」
 変態仮面は傍らのアタッシュケースを拾い上げ、中を数えてみる――――――十八個。
 プレシアは懐から同じく、ジュエルシードを取り出した――――――三個。
 そして今だ海鳴に残っているだろう一個を加え――――――更に時空暴君が持つ一個。

(二十三個――――――更に増えたぞ!?)

 時空暴君の左腕が時空を引き裂き、右手が変態仮面たちの持つジェルシードに翳される。
 純粋な魔力エネルギーを噴出した魔珠は、瞬く間に時空暴君の傍らに集まった。

「貴様――――――ソレをどうするつもりだッ!?」
 変態仮面が鋭い声で問うも、時空暴君は『うはは――――――そぉれ~』と次元の狭間にジュエルシードを放り込んだ!
『ああ!テメエなんてことしやがる!?』
『ジュエルシードが――――――《リリカルなのは》とまったく関係ない世界にまきちらかされてしまったッ!?』
 悲痛な声を上げる二人の巨神。
――――――イマ、コノフタリハナンテイッタ?

『ふはははは…………まあ所詮は、ただの時間稼ぎよ。
だがしかし、この借りは貴様等の注目する《リリカルなのは》の世界でつけよう。
いっそ二年前あたりににさかのぼり、現地で新たな寄り代を見つけてくれるわ』

――――――コレで勝ったと思うなよ、といっそ清清しい捨て台詞をのこし、時空暴君もまた次元の狭間へ。




『おお…………おお…………』
 ずずん、と何度目になるかわからない地響きを立て、テンセイザーは地に手を着いた。
『やっべぇ…………』
 ギャッコーディオンも顔色を変えている(いや、やっぱり紅いが)
「――――――で、いまひとつ状況が見えないのだが、何か力になれることは有るかい?」
 あまりの巨神の落ち込みように、変態仮面はそう声をかけざるを得なかった。

『…………うけとってくれ』
 テンセイザーの巨大の掌の上に、『ガングリップ付きのスマートフォンのようなもの』が乗っている。
「――――――コレは?」
『《ファンフィクションコマンダー》時間や空間はおろか作品間の壁も、こちらの許可があれば飛び越えることが出来る』
 ほいよ、とギャッコーディオンの手からも、プレシアに同じものが与えられる。
『気をつけろよ?通信機のほかにも荷電粒子とかでるから』



「とどのつまり――――――まさかッ!?」



『他の作品に散らばった、ジュエルシードを回収してきてくれ…………出来れば《リリカルなのはA’s》が始まる前に』
 速く戻らなければ、また原作がカオスことになってしまうからな…………。
 しぼり出すような声で、テンセイザーは言った。




「ちょっとまってくれ…………私も無印のやり直しかい?!」
 さしもの英雄とて、この展開には悲鳴もでる。

『――――――――――――ム!?星の髪留めをした少女から救難要請がッ!!』
 インガローダーから分離したセイザーは、スーパーカーに変形した。
『ちょ!?ズリいぞセイザー…………オレもほむほむの様子見にいかねぇと!!』
 パワーリトライダーから分離したコーディーも戦闘機に変形する。

『『では、よろしく頼んだぞ!』』
 やがて、あっという間に地平線の果てに姿を消す《観測機構隊》の二人。

 其の場に残された変態仮面は、つい先程までテンセイザーが取っていたポーズと、同じ態勢を取る。
 ジュウジュウと目から何かが蒸発する音――――――プレシアは何か、彼の涙を拭えるものがないか探してみる。
「――――――――――――はい」
 己のパンツぐらいしか、手元には残っていなかった。



「とりあえず…………ヒュードラとやらに行こうか、事件のちょい前くらいに」
 くじけてもなお立ち上がる変態仮面――――――手にした《ガングリップ付きのスマートフォンのようなもの》改め
《ファンフィクションコマンダー》を虚空に向け、引き金を引く。

「こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 穴の開いた次元に股間から飛び込む変態仮面、忘れていないか?
 君は今、フルチンだということに!!







――――――転生者、アールワン・D・B・カクテルはモブである。
――――――しかし彼が行くところにはいつも、変態的な事件が巻き起こるのだ!

――――――――――――戦えアールワン、戦え!変態仮面!!
――――――――――――別作品世界のジュエルシード探しは、完全不定期で『チラシの裏』にて連載予定です!!



[25078] 【A’s編第二話】新たなる敵と、決戦への序曲なの
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/08/25 03:51

 丑三つ時――――――今宵も魔道犯罪者達を追うパトカーが、サイレンの音をかき鳴らし、住民の安眠を妨げる。

 だがしかし、ハイスペック小学生(相当)足る彼女――――――八神はやての熟睡を妨げるまでは至らず。
 今宵も少女は夢の中、だがしかし、今夜に限ってはずいぶんとうなされている様子である。

 ここは一つ、彼女の夢の中をのぞいてみることにしようか――――――

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「やったな八神、今日の収穫も大量である」
 夕焼けに紅く染められたシルエット――――――ICHIROがダンボールの中を見下ろしながら語りかける。
 今日の戦利品は失楽天だ、しかもポン貴花田特集号である、レア物だ。
 キャタピラァを操作していた腕にしっかりと其の宝物を抱きしめて、はやては男の顔を仰ぎ見た。

 逆光で其の表情は見えず――――――否、もしかすると自分はもう、彼の顔を忘れかけているのではないか。
 そんな恐怖に背を押され、きっと穏やかに自分に向けて微笑んでいるだろう男に、心情を吐露する。

「あのなイチロー、私、ホントにこのテのやらし漫画すきなんやけどな?」
「いかんぞ八神、エロ漫画とやらし漫画は別物らしい――――――この世界ではな」
 混同しちゃらめぇぇぇぇぇぇ、と少女の決意を折りにかかるICHIRO。
 ――――――いっそコンドームしちゃらめぇぇぇぇぇならば罠である、気をつけろ諸君。

「え、えろ――――――エロマンガすきなんやけどな!!
 読んだ後、すごく、ものすごく人恋しくなるんよ、寝付くまで読んで、朝お布団のなかで冷たくなったぱんつ変える日々!
 もうたえられへん!!」
 幼児退行なのか、自身のおもらし疑惑すら打ち明けて、八神はやては懇願した。

「うちを連れてって!イチローのおうちの子にして!おにいちゃんって呼んだげるからぁ!!」



 かつて一度だけすれ違った彼とその母親、一目見たときは恋人かと疑ったものだが。
 ずいぶんと若いその女性を指して、彼本人の口から『かあさん』という単語を聞いた。
 女は背中越しに眺めただけでもわかるほどぼろぼろで、時折筋肉が引き吊ったように痙攣する。
 だが其の横で、しっかりとそんな彼女の体を支えるichiroを見て、彼女は血の気のうせた笑顔を、彼に向けるのだ。
――――――だいじょうぶかい?かあさん。
――――――ありがとう、あーちゃん。
 諸君だけに打ち明けよう、それはフェーザーが天に召される前に、最後に出かけた際の記録。
 この日を境に、彼女はもう、立ち上がることは出来なくなった。

 其の光景を、八神はやては見ていたのだ――――――はやてが強く望んだ、家族の肖像を。
 もちろんコレは夢の話である、はやては彼にこのような突拍子も無い願いを聞かせたことも無いし。
 彼をお兄ちゃんとよぶつもりも、もちろん無い。


 それでもこのような、起きた時点で悶え転がるような内容の夢を見るほどに、彼女は寂しかった。
――――――とても、寂しかったのだ。



「…………賢者タイム」
 ぼそり、と男の口からなにかが呟かれ、少女のか細い肩に手が置かれた――――――炎のように、其れは熱かった。
「――――――八神、孤独に百の夜を越え、希望を持って千の朝を迎えるのだ。
君がその快楽天を胸に涙した数だけ、君は強くなれる、優しさをもてる。
一つ予言をしてやろう――――――これから八百余の夜明けを迎える前に、もしかすると。

――――――――――――君の元へ『快楽天の神様』が、使わされるかもしれないぞ?」

 一体この男は何人の童貞に、空から美少女が降ってくる日も近いと説いたのだろう。
 時折子供部屋では不思議な事が起こるものだ――――――『ビロードのウサギ』の引用を添えて。
 有無を言わせぬ説得力をもってはやてに告げると、夕日が沈む方へ歩みを進めて行くICHIRO――――――アールワン。

 草葉の影が男と少女の間に隔たりを作り、はやてはただ男の背中にむけて――――――其の名を呼ぶ、呼び止める!!




――――――――――――残念ながら其れは偽名であった。

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「うーん…………いちろーのアホぉ…………大体快楽天の神様ってなにもんや~」
――――――夢でも会えやしねぇ!
 そんな寝言を呟いた、夏を前にした夜の事。

 彼女の部屋で、本棚の片隅に追いやられし鎖の巻かれたハードカバーが、眩い光を放つ。

 はじけ飛ぶ鎖、背にあるエロマンガの束にぶち当たる錠前、浮かび上がった途端乳の表紙に覆いかぶせられ、雑誌の山に沈む。

 どさどさどさ――――――と勝手に崩れ落ちる雑誌の音にびくり!と少女は体を震わせ、目を覚ます。
 そしてそのハードカバー、魔法世界が捜し求めるロストロギア『闇の書』もまた、覚醒を始めるのである。

『Ich en…………tferne eine Vers…………iegelung』
 がさごそがさごそ本の山をうごめきながら、発される光。
『………………………Anfan…g』







 十二月の初頭、早くも身を切るような寒さが吹き付ける海鳴の山中、結界の内で魔法の練習に励む少女が居る。
『OneThousandFifty-five……… OneThousandSixty.
…………OneThousand Sixty-four………OneThousandOneThousand Sixty-eight. Be it will master, and already good?
(OneThousandFifty-5… OneThousandSixty。
…… OneThousand64… OneThousandOneThousand68。 既に良い状態で習得するということですか?)』
 見咎めた魔法の杖も、制止するほどの勢いだ。

「駄目だよレイジングハート…………今日はお仕事お休みして…………アリサちゃんに会いに行くんだ。
せめて勘が鈍らないように、後もう少し…………」
 誘導弾が速度を増す。
 すでにバラバラになった的の数だけ、彼女の頭上に桜色の魔力球が踊っている。

『I'm sorry mastering(私は、習得しながら、残念です)』
 謝罪の言葉と共に待機状態になる魔法の杖。
 宝玉を先端にした首飾りを握り締め、高町なのはは前のめりに倒れこんだ。

 ふもとの町では、今朝も黒い煙が上がっている場所があった。
「レイジングハートぉぉぉぉ…………」
『――――――NO.master』
 彼女の掌から、強く制止する声。
 明らかにオーバーワークである。
 彼女の周りに、バラバラになったドラム缶の残骸が降りそそぐ。
 ――――――原形など止めていないそれは、傍目から見ればただの金属片であったが。



「いいよ…………わかったよ…………アリサちゃんのおうちにいくもん」
 ぎしぎしと軋む体を無理やりに起こし、大好きな町へ降りて行こうとするなのは。
 二歩、三歩――――――四歩目で膝を突いた。
 前へ進もうという気力に、体力は欠片も答えない。
「ありさちゃんの…………おうちに行くんだ…………絶対に行くんだ…………」
 うわ言のように繰り返すなのは、前髪で隠れて見えない其の瞳から一滴の涙が零れる。
『…………master』
 半年間、高町なのはは戦い続けている。
 ろくな休息も無く、危険に会わぬよう友達や家族に会うことも無く、殺傷設定の魔法と銃弾の嵐を掻い潜り。

――――――――――――無心にただ、魔法の牙無き人々のため。

 そしてレイジングハートは彼女の、唯一つの牙。
 物思う彼女の、唯一絶対の、魔法の杖。
 振るわれることを嘆こうとも、彼女を押し止めることはできない。

 唯一つ、けして主に話せぬ方法を持ってしか、レイジングハートは高町なのはを舞台から降ろしてはやれない。




 その時である。
 土に塗れてなお、這ってでも前に進もうとするなのはの前に、ズシン、ズシンと重苦しい音が響く。
「…………雄範誅(おぱんちゅ)号?」
 今は無きオリ主の輩にして、少女の戦友。
 雄範誅(おぱんちゅ)号はなのはの首根っこをくわえると、背にしたビニール製の尻の上にその体を置いた。
「ありがとう…………雄範誅(おぱんちゅ)号」
 ヲヲヲヲヲッッッと嘶く痛馬、戦場以外で彼女を乗せるのは、初めてのことであった。







「結局こなかったわね――――――あのバカチン」
 鮫島の待つリムジンにブンむくれた顔で乗り込んだアリサ・バニングス。
「其の言葉も、昨夜から数えてちょうど五百回目になります、アリサお嬢様。
――――――私も今、なのは様が置かれている状況を思うと、心中穏やかで入られません」
「そんなこと言うなら!お父様になのはの居場所聞き出して来るくらいしなさいよ!」
 怒りを隠さず、アリサは老運転手を怒鳴りつけた。
 だがしかし、鮫島は唇をかみ締めただけでカーナビに手を伸ばす。
「もちろん、私も幾度と無く親方様に具申させていただいておりますが…………なのは様はこの町の希望。
まして本人から口止めされているとあっては、親方様もあの方も、けして口を割りますまい」
 画面上には幾つも封鎖された道路――――――増えることは無くも、減る事は無い。
 DDWSに切り替えても、周囲には人影も見受けられず。
 鮫島はゆっくりとアクセルを踏み、前進を始める――――――だがしかし、その時である。

「振動センサーに感アリ!?お嬢様、伏せてください!」
 小さな液晶がアラートを告げた、その時である。
 長大なリムジンの前方を封ずるかのように、巨大な鉄球が打ち込まれたのは。

「う、馬ァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 ズドム!とバニングス家の庭に落着する痛馬、その背から滑り落ちるように姿を見せたのは、
懐かしいとすら思える特徴的なツーテールである。

「…………あ、アリサちゃん…………」
「なのはッッッ!!」
 リムジンの扉を開け、倒れこんだ其の体に駆け寄るアリサ。



「ごめんね…………力抜けちゃって…………海鳴自警団の計画する『大反抗作戦』の詳細を…………お話してほしいの」
「んなこたぁいいから取り合えず家の中入るわよ!――――――鮫島ァ!!」
 失礼します、となのはの体を抱き起こし、屋敷まで運び込む老運転手。
「…………あれ?お出かけだったの?」
「今日は月曜でしょうが!普通に学校行くところよ!」
「え?…………今日日曜日でしょう?」
「――――――鮫島、今日は学校休むわ。
曜日感覚までずれているようなワーカーホリック、KAROUSIする前にベッドに縛り付けてやらにゃあ」
「――――――かしこまりました、昼食はいつ召し上がられても良いようにサンドイッチなど用意しておきます」

 そして、アリサは学校を休む旨をすずかにメールし、なのはと共に再びベッドの中へ。
 少女の体を守るようにしっかりと抱きしめて、そうしてようやくなのはは久しぶりの熟睡を得ることになったのである。






 次元航行艦『アースラ』そのブリッジに座る艦長代行『クロノ・ハラオウン』は追っ手を振り切るべく指示を飛ばす。
 相手は同型艦である巡航L級12番艦『ラクシャサ』――――――そして本局戦技教導隊。

 速度こそ同等なれど、気を抜けばあっという間に追いつかれるほどの操艦、相手の艦長は何物か?

 そしてもし追いつかれれば、『アースラ』内に恐るべき教導隊が押し寄せることになるだろう。

「――――――最大速を維持したまま月面地表に300Mまで接近、左舷噴射で手ごろな山があれば横滑りさせろ!
相手の速度が落ちたら一気に97管理外世界へ突入する!」
「軌道上じゃなく向こうへ着艦するんですか?――――――大パニックになりますよ?」
「海鳴へ突っ込め――――――今、あの場所ならどうにでもなる」

 寧ろ軌道上待機など、背後に迫るあの船が赦しては置くまい。
 『地球』に降りる事こそが、管理局の目を欺くのに尤も適した戦法である。
 ――――――この半年で、友は次元世界の異邦人を迎えるに、問題ないだけの組織を作り上げたのだから。







 月村すずかは図書館で、アリサから高町なのはと再会したというメールを受け取った。
 長い道のりであった――――――半年前、埠頭で次元世界の戦士達と別れたあの日から、ようやく。
 御神美沙斗と共にこの町の闇と戦ってきたなのはとは、ろくに連絡も取れない状況であったのだ。

 海鳴自警団の出資者であるデヴィット・バニングス、アリサの父と、技術顧問である自分の姉に先日聞かされた大作戦。
 其の詳細をなのはに語ってほしいと告げられた夜のことを。
 ――――――――――――ようやっとなのはの声を聞けた喜びをすずかは反芻した。
 
 電話口できいたなのはの声は、やはり幾ばくか疲れきった様子であったが、早くかつてのように、皆で元気に遊びたい。
 そう思った矢先である――――――閉館のアナウンスが鳴った。

 四時三十分――――――以降この建物は有事の際のシェルターになる。
 気安く書士と挨拶を交わす傭兵たちが書架を窓際に止せ、カウンターからショットガンを取り出した書士が彼等に渡す。
 時折日本語の勉強をするために良い本は無いか、漫画は置いてませんと談笑する。

 今となっては、見慣れた光景である。



「あ、すいません――――――其の本棚ちょお待ってください!借りたい本があるんです」
 そして聞きなれない声がする――――――どうやら同い年くらいの少年が、高所に有る本を借りたいらしい。

 すずかはその車椅子?に乗った少年の下へ駆け寄ると、彼が伸ばしている手の先を見る。
「――――――これでいい?」
「あ、すんません…………おおきになー」
 結構難しそうな本である、果たしてどんな子が読むのか――――――表紙の上でふれあう指先。
 そして、その笑顔を見た瞬間――――――すずかの心臓は高鳴った。



「HEY!BOYandGARL――――――スマンガツヅキハHOMEデナー!?」
 たっぷり数十秒見つめあった後、横に居た屈強な外国人に声をかけられる。
 動転した様子であいむそーりーと答え、すずかは少年の車椅子の取っ手を掴むとカウンターのほうへ向かう。
 急に発車した車椅子の上で「わわっ!!」と驚いた少年、俯いたまま猛ダッシュするすずか。

 そして跡に残されたのは――――――ニヤけた顔で親指を立てる傭兵だけである。







 ひょんなことから同年代の少女とメールアドレスを交換することになった少年――――――八神はやては漢の娘である。
 車を回してもらうから家まで送ると告げた彼女であったが、自分も迎えが来ると遠慮した。
 一瞬残念そうな顔をした彼女であったが――――――ありがとなーと笑顔を見せると顔を真っ赤にして駆け去っていった。

「――――――――――――車の迎えはええのん?」

 変わった子である、だがしかし――――――コレはもしかすると友達ゲットの複線であろうか。
 そんな事を考えたときである、図書館の建物の隅から、意地の悪そうな視線を四つ感じたのは。

「こら、みんな――――――ノゾキは関心せえへんで?」
「「「「はい、申し訳ありませんわが主!!!!」」」」

 ぞろぞろと姿を現したのははやての家族――――――四神快楽天(ししんかいらくてん)の面々である。

「さすが我が主、どうやら今日も乙女の心を掌握したようですな――――――無意識に」
「モテモテですねー」
 シグナムとシャマルが持て囃す中、そんなんちがうわ~と怒鳴り返すはやて。

 無言で背後に回りこむ巨漢がキャタピラ付きの車椅子に手を掛けた。
「――――――なにも謙遜することはありません、我が主。
主の心根と優しさは万人に心地よいもの、これからも主の元には沢山の人々が寄せられましょう」
「――――――あたしは、はやてと遊ぶ時間削れるのやだな………」

 はやてはそんな少女――――――ヴィータを手招きすると自分の膝に乗せた。
 少女二人の体重を乗せた車椅子も、背を押す青年も速度を落とすことは無い。
 はやては『イケメェェェェン!』と擬音を発しそうな笑顔でヴィータの顔を覗き込むと言う。

「せやな…………友達できるんはうれしいけど、今はもう少し皆とゆっくり暮らしたいかな?」
「は…………はやてぇ…………」
 りんごのように頬を真っ赤にするヴィータ、だがしかし、人通りの少ない路地にはいると彼等の顔は険しいものになる。

「ところで、最近この町の状況はどないや?」
「――――――はい、先月から小康状態を保っております、噂では自警団が研究している『結界反応探知機』が完成し、
民間人が中に取り込まれる事例が激減しているとか」
 リーダーであるシグナムが四人を代弁する。
「そっか、この町はどんどん平和になっているようやね。
このままやと皆で年越し迎えられるかな――――――やっぱり自警団と協力する気はおきんの?」
「はい、我々は騎士といえども魔法を使い、戦うもの。
彼等の目標である違法魔導師とは違いますが、やはり共闘するには様々な壁があります。
――――――今まで通り、我々は自分の意思でこの町の闇を打ち倒すことにしましょう」



 はやてはみなの安全が保障されるなら自警団に参加するほうがええのになぁ、と呟いた。
 しかし、ソレを聞いた四人は俯く――――――主は彼女達が行なっていることを知らない。
 違法魔導師と影で戦っていることを知っていても『闇の書』の蒐集行為までは、話していないのだ。



「まあ、皆が大丈夫いうんなら問題ないわ――――――それにこの町には『魔王』と『変態仮面』達が居る。
もうすぐ平和に、皆で暮らせる日が来るなぁ」

 夢で見たあの夕日と、まったく同じ光が彼女達を包む。
 しかし、騎士達の表情は冴えない――――――特に、はやての膝の上に乗っているヴィータの物は特に。








 なのはは町を包む結界に反応し、飛び起きた。
 どのくらい眠っていたのか――――――相当軽くなった体を操り、首に有るレイジングハートに問う。

「――――――違法魔導師?」
『NO(いいえ)』

 規模は町の中心、ビジネス街のほぼ中央。
 特に騒動は起こっていないという――――――何かがおかしかった。

 最近は『龍(ロン)』も狡猾で、はっきりとわかるようには結界を起動しない、何かの罠か?
 だがしかし、手をこまねいているわけにもゆくまい。

 今だ穏やかに寝息をたてているアリサを起こさぬようにゆっくりとベッドから抜け出す。
 サイドチェストにおいてあるラップが置かれた皿に手を伸ばし、サンドイッチを一つ摘む。



「――――――ッツ!?」



 真っ白な、二等辺三角形のソレ。
 月明かりに照らされたソレがまるで――――――パンツのように見えた。

 涙腺が熱を持ち、鼻の奥がツンとした――――――丸呑みに近い形で2切れ、3切れと嚥下する。
(――――――ぱんつさん)



――――――――――――私はもう自身に、この世界に存在する価値を見出せん!!



 かつて聞いた一言が、少女の脳裏に再生される。
(見ていてぱんつさん――――――貴方がきっと帰ってくるこの町を、私がきっと守りぬいて見せるよ!!)


 窓から静かに戦場に向かう『魔王』は今、再び桃色の流星と化す。





「早く――――――帰ってきなさいよ、ばかちん」








 果たして、オフィスビルの屋上で、高町なのはを待つ刺客。
 外見は少女より尚若い――――――だがしかし其の手にあるのは間違いなく『デバイス』である。

 滞空迎撃も無く、小さく音を立て屋上に舞い降りた高町なのはは、闘気を隠さぬ相手に問う。

「わたし『魔王』高町なのは九歳ッ――――――貴方は『龍(ロン)』の手のものか?」
「――――――否」

 赤い騎士甲冑に包まれた幼女は開口一番否定する。

「あたしはベルカ式魔道騎士『四神快楽天(ししんかいらくてん)』が一柱――――――ロリ朱雀ヴィータ。
故あって、貴公の持つリンカーコアを頂戴したく、ここに待ち構えていた次第」
 鉄槌を思わせるデバイスを振りぬき、高町なのは相対した。

「理由を――――――理由を聞いてもいい?」
「――――――――――――話せない」

 だろうね、となのはは目を伏せてレイジングハートを構える。
 故に『魔王』は例によって例の如く――――――高町式OHANASIにて仕る、いつもの事である。



 仕掛けたのは赤い騎士が先、少女が握り拳ほどの鉄球を放ち、牽制する。
――――――だが遅い、其の質量は彼の痛馬が放つ獲物よりも軽く、なのはの脅威足りえぬ。
 フィールドだけで受け止め、迅速を持って背後から遅いかかる鉄槌を、後頭部にまわした愛杖にて受け止める。
「――――――しッ!!」
 ヴィータはなのはの足元を、螺旋の滑り込みで前に回り、掬い上げるようにもう一閃。
 足元の幼女とは反対周りに愛杖をめぐらせるなのは、今度は相手の獲物、凶器の先端を柄尻にて押さえ止めた。

 だがしかし、曲芸じみた攻防は其れにて終わり。
 相手の鉄槌は一発、薬莢の様なものを排出し、まるでジェットエンジンのように火を噴いたのだ。

 飛翔する騎士、宙を舞うレイジングハート――――――敵は空へ、そしてなのはは落ちてくる愛杖を掴み、問うた。

「レイジングハート――――――今のは?」

 ベルカ式アームドデバイス――――――魔力を封入した『カートリッジ』と呼ばれるものを使用し、
一瞬で爆発的な出力を持たせるベルカ特有の技術である。
 近接戦闘は危険だ――――――レイジングハートはそう告げた。

「――――――ならば、ここは自慢の砲撃魔法で仕(つかまつ)るの」
『――――――Shooting Mode』

 一歩も引かず、頭上の相手に目掛けレイジングハートを突き出す。
 ――――――――――――或いは油断せず、なのはも空中戦を仕掛けていれば、この戦いは違った結末を迎えたやも知れぬ。




「ディバイィィィィィィィィィィィン・バスタァァァァァァァァァァァァァ」




 天を突く光の柱、だがしかし其れを待ち構えていた騎士が持つ戦鎚、たて続けに三発、カートリッジを排出す。





「轟天爆砕!!――――――ギガント・シュラーァァァァァァァァァァァクッッッ」

 夜空が失われた――――――なのはがそう思ったのは無理からぬ話である。
 突如肥大した相手の鎚が、砲撃魔法を真正面から押し戻し、自身に打ち付けられる。

 傍から見ればまさに、釘を打ち付ける様であったろう。
 なのはは崩落する屋上から、階下三つにわたり減り込み、其のビルの窓ガラスは瓦割りのように上から順に砕け散る。
 そして、一階が崩落し、傾くビルの中に飛び込むヴィータ。



「――――――――――――解せん…………」
 濛々と埃と土煙の立ち上る室内、咳き込みながらも意識を失わず、立ち上がろうとする高町なのは――――――『魔王』
「今の一撃は防御魔法を打ち破ったはずだ…………非殺傷を使ったとはいえ、何故立てる?高町なぬは」
「なのはだよ…………」
 思えば手ごたえもおかしかった――――――打ち破ったバリアはなのはの五枚を含め三千余。
 明らかに、砲撃を放った後で張れる枚数ではない。










「血闘の最中に失礼をした、ベルカの騎士。
――――――――――――だがしかし、君が相対しているのはこの町の希望。
――――――――――――――――――易々と獲らせるわけには、いかないのでね」







 暗がりの中から放たれる声。
 高町なのはは知らぬ――――――だがとても懐かしい気のする声。

 だがしかし――――――鉄槌の騎士にとっては予想外の、恐るべき敵の声であった。
「――――――だれ…………?」

「まじかよ…………」
 暗がりの中、時折がつん、がつんと壁に頭を打ち付けつつも淀みなく歩み寄る其の姿。
「とんでもねえヤツが、横合いに入りやがった…………」
 鈍色に光るバケットヘッド、海鳴にもう一人、高町なのはと対を成すミッド式魔導師。
「海鳴自警団、最高総司令…………」

 翡翠色の防御陣が、なのはを鎧う――――――手を翳すのは彼女と同年代の少年。
 民族服のようなバリアジャケット、其の表情は頭に被った『一斗缶』によってうかがい知れぬ。



「――――――変態仮面・淫獣(ビースト)ッッッ!?」


 風の噂で聞いた海鳴自警団の頂点、全ての作戦を司り、魔法に対抗する知恵と技術を説いた知者。
 存在すると謳われながら、消して姿を現さぬその少年の姿に――――――聞きしに勝る戦慄を、ヴィータは隠し切れなかった。



[25078] 【A’s編第三話】激昂が月影を穿つ時なの
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/10/26 13:09
 ビジネス街の一角で、魔王と騎士が対峙している其の頃。


 海鳴の歓楽街、其の一角で向かい合っている女二人。

 とあるSMクラブ控え室奥、オーナーである30後半の女、そしてもう一人は大学を出たばかりの女。
 本日よりM嬢となる其の女は、ほんの半月前までは営業無許可のデリヘル嬢として働いていた。
 今は其の経験をオーナーに話している最中である。

「…………ん、まあ大体事情は飲み込めたけれど。
済んだ事だろうし解散しているなら今更裏の人間がどうこう言ってくることも無いでしょう」
「――――――はい、それでは本日から、よろしくお願いいたします」
 オーナーに深々と一礼する元・女子大生――――――本日からはM嬢。
 其のかしこまった居住まいを苦笑いし、SMクラブのオーナーは声をかける。

「んとね?――――――ホントに大丈夫?
なんか、やっぱりこの店はただ下着姿になってお酒付き合うだけとか、そんな感じじゃないから、
――――――Sの方は加減とか色々と小難しいところあるけど、鞭打たれる方はどうしてもタフさが必要になるのよ」
 むしろそれで喜ばないといけないのだが、やはり格段に体へ負担のかかる仕事。
 需要に対して供給とれず――――――この店を離れて行くのはM嬢が圧倒的に多いのだ。



「はい、望むところです」
 ご立派な胸をたゆんと揺らし、はかなげに微笑んでみせるM嬢。
 オーナーは其の姿に、いまだ忘れられぬかつての『同僚』の姿を見た。

「そう、とにかく『もう無理だ』と思ったらすぐに私に言うこと。
――――――お客さんももう少し後にならないと来ないだろうし、新人研修代わりに、昔ここで働いていた人について話すか。

この店は通算5回名前を変えているけどね――――――経営者が変わり、オーナーが変わり、場所が変わり。
それでもSMクラブとして20年近い歴史がある。
其の中でも10年近以上、一緒に働いていたM嬢がいるの――――――その時私は女王と呼ばれていたわ」



――――――――――――彼女の名前は、フェーザー・ディープパープリッシュ。
――――――――――――年齢を偽っていたけれど、初めて会ったのは彼女が15歳のときだった。









「――――――嗚呼!またあーちゃんのベッドの上で下着を干してるぅぅぅ!?」
 客のお相手を済ませたフェーザーは、愛しわが子の寝顔でも眺めてやろうかと休憩室にやってきたところ。
 天井のフックにぶら下げた小物干し台に、色とりどりのパンツを干している同僚達。
 血相変えてベビーベッドに横たわる、若き日のアールワンを抱きかかえ、其の場を離す。
「え~、別にいいじゃ~ん、重いものは~、ちゃんとお他所にほしてるよぉ~」
「ッだよ、それによ?こうしてっとなんかメリーゴーランドみてぇじゃね?」
 間延びした声のM嬢と、元ヤンS嬢は抗議の声を上げたフェーザーに突っかかる。



 そんな姿をかつてのオーナー、女王はコーヒー片手に眺めていた。

 ある日突然、この店にやってきた同僚――――――フェーザー・ディープパープリッシュ。
 当時のオーナーがどのような条件で雇ったかは知れないが、彼女はすでに子連れであった。

 客には秘密でSMクラブの奥に託児所、彼女以外は手放しで喜びベビーベッドを買うカンパなど始めた。
 すぐにフェーザー自身も皆の妹分として溶け込んだ。
 今ではこの店における無くてはならない存在として、其の立ち居地を掴んだ母子。

 そしてまだ若かった女王は、どうしても彼女達の存在を受け入れられなかった。
 彼女自身が片親でもあり、知り合いの出産経験者は大抵子供を生んでも育てられなかったり、精神を病んだりとろくな目にあっていない。

――――――故に、こうして子を抱いて幸せそうにしているフェーザーの存在は彼女の理解を超えた存在であったのだ。

「あ~、あーちゃん目を覚ましちゃった~」
「ご、ごめんねあ~ちゃんうるさくしちゃって!?」





「――――――うー、だー」





 なんのなんの、と母の腕に有るアールワンは手を振って見せた。
 この赤子が皆の心を掴んでいるのも、一重にその『聞き分けのよさ』にある、何と言ってもぐずらない。
 それでいて可愛げが無いわけでもないのだ、過酷な労働で疲れた女達を虜にする其の笑顔。
 元ヤンS嬢など心配のあまりこう聞いたことも有る。

『お前――――――3回しかないっつーモテ期をこんな所で使っていいのか?』と。




「はっ!――――――もしかして今授乳のチャンス!?」
「ったく又かよ?お前もこりねぇなぁ」
 元ヤンに息子を預け、服をはだけるフェーザー。

――――――――――――その不自然にきれいな肌を、女王はいぶかしむ。
――――――――――――鞭で打たれた傷一つ無い、それゆえ客には人気なのだが。

「あー、やっぱり飲んでくれないね~」
 粉ミルクなら飲んでくれるのにね~と、間延びした声でフェーザーを慰める。
 ノーサンキュー、とばかりに乳房を押し返されたフェーザーは、がっくりとうなだれた。
「うう――――――ひょっとしたらこの子に嫌われているんでしょうか」
 だがしかし、そんなことは無いと元ヤンS嬢の腕の中で必死に頭を振るアールワン。
「おぃ、あー坊がちがうってよ!――――――安心していいんじゃね?」
「あ~ちゃんおりこう~」
 たどたどしく親指を立てるアールワン、ナイスフォローと元ヤンに語りかける、目で。

「――――――ホントに?」
 頷くアールワン――――――しかしフェーザーが胸チラッ!すると顔を背ける。
 赤子ゆえ、赤面は勘付かれる事は無いのだ!!
「まぁ~、たんにおなか空いてないだけかもしれないし~――――――ほらあーちゃん?パンツだよ~?」
 おもちゃ代わりに自分のパンツを脱ぎ与える間延びM嬢。
「どうしてそこでパンツをあげるんですか!?意味わかりません!」
――――――――――――アールワン当人もずいぶんと困惑した。
「あっ!テメエずりーぞ――――――どれアタシも…………」
「だから脱がないでください!!」
 いや、コイツ干してあったパンツに興味津々みたいだったし、と元ヤンM嬢はフェーザーに子を突っ返しながら言う。



 やがてご指名が入り、凸凹コンビが休憩室を立ち去ると、其処に残された年若い母親と。
 紐パンとすけパンを両の手に握り締めた赤子は、コレどうするか!?と顔を見合わせた。



 そんなこの店ではありふれた光景を――――――女王呼ばれていた女は、なんとなしに眺めていた。







「変態秘奥義――――――《ミッド式捕縛魔法・苦悶フックトイ固め》」

 デバイスを構え、臨戦態勢を取るロリ朱雀・ヴィータを前に、変態仮面・淫獣(ビースト)は魔法を展開した。
 得意の防御・捕縛魔法の組み合わせである。
 音立てずヴィータの背後に出現させたプロテクションの壁に、極細の、幾本もの柔らかき支柱が執拗に少女の体を縫い止める。
――――――――――――まるで、アメトイの梱包のような執拗さで。
「なっ!…………こんなもの振りほどいて――――――なにィ!?」
 だがそれだけに留まらず、其の身を縫いとめていた壁が熱を与えられた塩ビ板のように、ぐにぐにと少女の輪郭を取り始めた。
 まるで埋まるように拘束されてゆくヴィータ、やがて箱状に展開したクリスタルケージに納められる。

――――――諸君の押入れにしまってあるPVC製の美少女フィギュアをご覧いただきたい、まさにソレだ。
――――――――――――ひょっとしたら、箱から出して飾る派にはご理解いただけないかもしれないが。



「――――――さて、コレで暫くは大丈夫か。
治癒をかけよう、どこか酷く痛むところがあれば申し出てくれ」
 再び魔王、高町なのはと向き合う変態仮面・淫獣(ビースト)、しかし当の高町なのはは其の正体を知れぬ。
(其の頭に被っている箱は確かユーノ君の住処だけど…………ユーノ君はフェレットだし…………誰?)
 ただこの町を守護する『海鳴自警団』のトップである、それだけで敵ではないと知り、回復魔法を受け入れるも、
傷が癒えるのとは別の心地よさを感じ、なのはは彼の魔法に身を委ねた。



 だがしかし、僅かな時間を置いて、二人はこちらに接近する魔力反応を察知――――――新手である。
 再び臨戦態勢を取る二人の若き魔導師、空から現れるのは男と女の影二つ。
「――――――息巻いていたわりには、たいした後れを取ったようだな『ロリ朱雀』よ」
「うるせえよ『おっぱい白虎』!!二人まとめてあたしが相手をするから手ぇ出すな!!」
 口論を始める二人、だがしかし傍らにいる偉丈夫が横合いから少女を諌める。
「すまぬな『ロリ朱雀』――――――そうも言って居られぬ状況だ。
今結界の外は『海鳴自警団』の勇士達が取り囲んでいる、早く片をつけてこの場から撤退するのだ!」

「いかにも――――――」
 一斗缶の下で唇をゆがめ、一歩踏み出す変態仮面・淫獣(ビースト)は、空中に魔力ディスプレイを展開。
「――――――貴様等の目には映らずとも、結界の外側には十重二十重の包囲網が完成しつつある。
四神快楽天の勇士達よ、今宵までは我等と志共にする戦士と思い追求は避けて来たが
…………何故このような暴挙に出たか、その理由をお聞かせいただきたい」
 其の宣言どおり、画面の中には噂に聞きし猛者の顔が幾多見える。

――――――――――――海兵隊の猛者を含む傭兵軍団
――――――――――――文化包丁を扇情的に舐めまわす『ナギサ・ザ・マッドシスター』
――――――――――――妖精のような羽を持つHGS患者達
――――――――――――ツナギのホックを上げ下げする『アベ・ザ・ヤラナイカマン』

――――――――――――そして尤も恐るべき『変態仮面』達が獲物を構え、全員集合している。

 魔法の力を持たずとも、けして侮れぬ一級の戦力、互いに無傷では逃れられぬ壁である。



 しかし、それゆえ彼等『四神快楽天』は集結し、この困難を打破する心積もりである。
 『魔王』と『海鳴自警団総司令』、二人の魔法を蒐集すれば、迫り来る制限時間に悲願が間に合うやもしれぬ!



「我が名は『四神快楽天』が一柱『おっぱい白虎』シグナム!――――――――――――この地を守りし総司令よ!
今宵はただ敬愛する我が主の御身がため、この剣刃の前に倒れ伏すがよい」
「――――――――――――なんだと快楽天!?」
 この町を天秤にかけて尚、忠義を誓いし主のために尽くすというのか騎士奴(め)!
 なるほど、ソレならば確かに言葉は不要と変態仮面・淫獣(ビースト)は身構える。

「――――――――――――ヴィータを頼んだぞ『受け玄武』ザフィーラ!彼奴目のリンカーコア、必ず書に捧げて見せよう」
「心得た、けして『魔王』に手出しはさせぬゆえ、安心するがいい――――――――――――油断はするな?」
 にやりと笑う偉丈夫に、女もまた笑みを返すとこっちだとばかりに虚空へ舞う。
「その結界はけして破らせん!!
『魔王』よ、安心して待っているといい――――――――――――もうすぐ君の友達も駆けつけるだろうから」
 続き翡翠の光も尾を放ち、敵の待つ空へ飛翔する!
 傷ついた高町なのはに出来ることは――――――残念ながら、そんな彼の身を案じることだけであった。





 比喩ではない、見上げし上空で切り結ぶ二人の闘いはまさしく『矛盾』の再現である。
白刃と切り結ぶべく変態仮面・淫獣(ビースト)は、右拳に斧を思わせる防御魔法を張り、
連結刃となって遅い来る、龍をも断ちし一閃を壁のごとき厚さのプロテクションで防ぎきる。

(コレではまるで――――――城攻めだ!)

 驚愕に目を見開かれるも刹那、『おっぱい白虎』は手に持つアームドデバイスに装填されたカートリッジの数を確認する。
「どうしたベルカの騎士よ!僕の結界はそんな斬撃など受け付けないぞ!」
「そのような見栄見栄の挑発など乗らぬが――――――巌を削る真似は時間がかかりすぎるな。
元より心躍らぬ知将相手、我が奥の手で一気に瓦解させてくれよう!!」
 シグナムは手持ちのカートリッジを一気に炸裂させ、両手に鞘を現界させるとそれをしかと繋ぎ合わせた!
「駆けよ、隼――――――――――――」
 初見ならば誰もが不意をつかれよう、弓に変形する彼女の愛剣。
 烈火はただの騎士に有らず、勝機を掴み取る術を逃さぬ故に、彼女は4人の仲でも『将』と呼ばれる存在なのだ。


「――――――――――――シュトゥルムファルケンッッッッッ!!」


 厚い城壁を穿ち、内より炎上させんとする火矢――――――威力を一点に収束させた一撃ならば、
自慢の魔道防壁――――――撃ち貫くに余りある!!





「変態仮面・淫獣(ビースト)さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 吹き抜けようとも野内、しかしてなお遅い繰る衝撃波、轟音と爆発に高町なのはは悲痛な声を上げる。

 見れば幼女を縛る戒めが、その瞬間に解かれていた。
「無事か?『ロリ朱雀』」
「ああ、あたしはべつに、問題ねぇ……………けどよ?
――――――――――――あれはやりすぎじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 ロリ朱雀が指差す先、魔力光と舞い上がった土煙が晴れた其処に残っているのは、べこべこに凹んだ一斗缶が浮いているだけである。
――――――要するに、首だけだ。
――――――烈火の将の一撃は、彼の変態仮面・淫獣(ビースト)の胴体を丸ごと消し飛ばしてしまった、と見える。

 こめかみに汗して相手を見やる『おっぱい白虎』も困惑然りだ。
(バカな…………本気とて確かに非殺傷で放った…………ハズ)
 この有様では、リンカーコアを奪うどころの騒ぎではない。
 よりにもよって悪党相手でも守ってきた以外で不殺の誓いを破ってしまったのだろうか、自分。
(…………一発だけなら、誤射かもしれない…………)
 そんな自己防衛の詭弁を弄するほどに、ショッキングな有様であった。



 だがしかし、沈着冷静なるザフィーラはけして彼女の一撃がオーバーキルでないと知る。
 それどころか、彼の守護者に有効打を与えていないことすら見切っていた。
 なぜならば彼の目の前に居る『魔王』を包む障壁は、其の約束どおりに健在。
(あれ――――――なんかこの光景どこかで見たことあるの)
 と呆けているなのはをしっかりと包み、今だ守っているのだから。

 ちなみになのは自身は忘れているのだが、時の庭園で雄範誅(おぱんちゅ)号の間に割って入ったのも、今空に浮いている箱と同じものである。
 ただ、雄範誅(おぱんちゅ)号が敵対した衝撃と、決戦前のなのはは己の成すことだけを考えていた、それゆえの記憶の欠落なのだと思っていただきたい。



「抜かるなシグナム!!相手はまだ倒れては居ないぞ!!」
「なん…………だと…………!?」
 あの有様でか?――――――シグナムがそう言おうとした矢先。




 凹んだ一斗缶が、ベコン!と元に戻ったのである。
 魔力の内圧だけで、あの必殺の一撃を止めていたのだ。




「ベルカ式カートリッジシステム――――――瞬間的に魔力を底上げする恐るべき力だ、欠く言う自分も、不安定な其の技術にあやかっていてね?」
 ふふふふふ、と不敵に笑う声がする。
 何を隠そうか――――――その一斗缶の中から響いて来る物だ。

「どうやら僕の体はこの世界の魔力が適合しないようでね――――――悪党と戦う術を得るためには荒れ狂う海のように大量の魔力を生のままで、この身に内包しなければならなかった。
コールタールよりも、地獄の泥よりも、コンクリートよりも粘度の高い魔力を絶えず流転させ、圧縮し、時にぶちまけながら魔法を放っているのさ。
君達ならば、見当が付くだろう?――――――今の僕がどんな存在であるのかを!!」
「まさか貴様――――――貴様自身がカートリッジに成ったとでも言うつもりか!?」
 一斗缶の注ぎ口から不気味に光る小さな目、外郭とでも言うべきその中では一体どんなモンスターが巣食っているというのか?
 もしも今、その殻が破られれば自身が放った一撃などおくびにも欠けないほどの大爆発を起こすのではないか?

――――――――――――さあ、第2ラウンドを始めようか。
変態仮面・淫獣(ビースト)は言う。
――――――――――――其の剣で爆弾を解体できるというのなら、やってみるがいいさ!!

「――――――――――――ふむ」
 シグナムは冷静な振りをした。
 罠は食い破るのが好きな御仁である。
 だがしかし、あからさまなドつぼに自らはまるのは度し難い――――――そういうのはヴィータの領分だからだ。
 それゆえに、この場は――――――



「…………シャマル、パス」



――――――――――――四神快楽天いちの頭脳派に、押し付けることにした。








 崩落したビルを遠くから監視していたシャマル、豊満な肉体をもてあます四神快楽天最後の一人は急に水を差し向けられたことでびっくりした。
「ちょ――――――シグナム…………なに!?」
「いや、だから――――――お前の旅の扉であの箱の中に手を突っ込んでな?魔法を蒐集するといいのだ!」
「いいのだ!じゃないでしょ!?――――――私にもどうなってるのかわからないのよあの中!!」
 乙女、必死の抵抗。
 だがしかし、敬愛すべき主の名前を出されると彼女も弱い。

「…………おねがい、クラールヴィント」
 空間をつなげる彼女の魔法――――――『旅の扉』が写す真っ暗な箱の中に、その白魚のような指先を差し入れた。
 一斗缶の中には、どうやら柔らかい布で包まれた、細長いものがあるようだ。
 左の指先で布のようなものをつまみ、右手でその細長いものを掴んでみる。
 思った以上に太くて――――――――――――毛深かった。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁ!!!!」
「「「――――――シャマル!?」」」



「なんか、熱くて硬くて雄雄しくてぐにぐにしてびくびくしてるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」



 半狂乱で頭を振るシャマル、その叫びを聞くだけで、あの一斗缶の中身が触れてはいけないものなのだと、残りの三人は恐怖する。
「――――――――――――どうやら空間転移系の魔法で干渉してきたようだね?」
 そうつぶやいた一斗缶から、ズボォ!と体が生える――――――シグナムも悔しむくらいに無傷であった。

(うん――――――やっぱり私の勘違いなの)
 そして、其のシュールな光景を目にした高町なのはも遠い目をした。
 ――――――――――――変態仮面・淫獣(ビースト)、其の恐るべき正体についても、いずれか語る時が来るだろう。




 だんだんとグダグダになってゆく死闘――――――ある意味乙女達の佳境ともいえるその戦い。
 しかし、其の傍らで翡翠色の防御壁に守られている我等が魔王にも、再び魔の手が伸びるのである。

「で――――――こっちも2対1か…………」
「まったく士道が聞いてあきれる有様だな」
 顎を梅干のようにしわ寄せながら、ヴィータとザフィーラがなのはの元へ歩み寄る。

「フ――――――――――――寧ろ望む所なのッ!!」
 レイジングハートを構え、再び手ごわきベルカ騎士との第二ラウンドを始めんと一歩を踏み出すなのは。
 だがしかし――――――――――――制止の声は己が手元から放たれた。

『A master and the long-distance communication to a transformation mask beast have been perceived.
(変形マスク動物へのマスターおよび長距離通信が知覚されました。)』
「変態仮面・淫獣(ビースト)さんへの通信!?――――――誰から…………」
 いぶかしむなのは、しかしレイジングハートは返答の変わりに、其の通信を傍受し、主の耳に届かせる。





――――――――――――其の魔法の杖は、主にとって尤も必要なことを知っている。





『変態仮面・淫獣(ビースト)聞こえるか――――――こちらはクロノ・ハラオウンだ。
これから海鳴に大気圏突入を図るが…………強力なジャミングにあって位置が特定できない。
これより僕とNEWフェイトで先行し、着陸点のマーカーとなる!
――――――――――――そちらは今、安全か?』
「――――――――――――クロノ君!!」

 アールワンの友にして、共に最後を見届けた仲間の声を聞き、なのははこらえられぬ歓声を上げた。








「――――――――――――其の声、高町なのはか?」
 S2Uからの長距離通信に届いたのは、予想外の返答。
 バリアジャケットを展開し、アースラの射出口から今まさに飛び立とうとする二人を押し止める、ソレは悲鳴のようであった。
『そう、私なのは!!
――――――――――――今海鳴のビジネス街で広範囲の結界が展開中!敵の詳細は不明だけどベルカの騎士さんが4人!!』
「ベルカ騎士だと!?何でそんな時代遅れが其処にいるんだ!?」
 教導隊の追撃を避ける彼等からしても、予想外の事態である。
 だがしかし、そんな前門の虎を前にしても、久しきその声を聞いたならば。
 彼女の友人が尻込みすることはない――――――――――――寧ろ尻から突っ込む勢いである!!




「なのは――――――こちらNEWフェイト。
すぐに加勢に行くから、ほんの少し待ってて!!」
『――――――――――――フェイトちゃん!!』



「本当に大丈夫なのか?NEWフェイト――――――君の体に蓄積したダメージは、そう軽いものではないんだぞ?」
 やはり僕独りで行ったほうが――――――そう語りかけるクロノへ、微笑で己が決意を語る。
「フェイト!じゃあやっぱり私も行く!!」
 傍らの子犬が同行を求めるも、今度は愛する使い魔の毛並みを撫でて首を振る。

 此処から二人、身一つであの蒼き星、島国の地方都市へ大気圏突入だ。
 今までの人生で、一番スリリングなダイビングになるだろう。

「よし――――――ハッチ開け!!」
 クロノが放つ号令の元、気密が解かれ深遠の宇宙と太陽に照らされる眼下の星。
 アルフが退避したことを確認したフェイト、スタッフたちに一度手を振るとカタパルトに乗り、正面を向き――――――

――――――――――――そして言葉を失った。

 射出口の前に陣取る、戦技教導隊の追っ手。
 ドレッドヘアをたなびかせ、胡坐を組んで真空中に待ち構える其の男!!



「――――――私は本局教導隊所属『ジャム・オブ・ジャム』タタ・インディアナ。
管理外世界への無断入界など、断じてやらせん」



 今も尚、アースラの世界突入を妨げるジャミングのスペシャリスト、彼が前方を阻む限り、97管轄外世界への道は無し。
 唇を噛む二人――――――下手に交戦しながら電離層へ突入したならば、双方共に摩擦熱で燃え尽きる!

 だがしかし、その不安を蹴り飛ばす心強い見方。
 視界の端から追っ手に宇宙キックをかまし、彼女達の道を開けるその気持ち悪いシルエット!!

「――――――――――――八頭身!!」

 歓声を上げるNEWフェイト――――――座禅のまま「あ~~~」と甘い声を上げて地球へ落ちて行くタタ。
 そして彼と共に両手親指をグッ!と立て、真っ赤な火の玉となって遠ざかる其の魔道生物『八頭身』!!

「よし、突入角度良し!――――――彼等に遅れをとったが、行くぞNEWフェイト!!」
 仮面を被るクロノ、NEWフェイトと互いに顔を見合わせて、魔道加速で次元航行艦から射出される二人のシルエット。



 絆が導きあう戦場へいざ――――――自由落下でも到着に一分とかかるまい!!








 病院の一室で、少女は競い合うように落ちる4つの流れ星を見た。
 不治の病にかかる少女は、自らも知れずそれに祈りを捧げていたことに気づく。
(――――――――――――あさましい)
 自己嫌悪した、これから死にゆく自分が、何の願いをこれからに懸けるというのか。

――――――病室の窓から風にそよぐ、一枚の葉。
――――――――――――あの星と同じように、この一枚が落ちたそのときに、自分の意識も奈落に落ちるだろう。








 気合一閃、兜割の要領で変態仮面・淫獣(ビースト)の一斗缶を割ろうとするシグナム。
 だがしかし――――――切りかかられる当の本人は、目前の脅威などおくびにもかけぬ。

 何かの探知魔法を一心に発していた彼は、グッと拳を握り締め、呟いた。
「――――――――――――遂に来たか」
 いぶかしむ間もなく、彼と彼女の間に割り込むように天から落ちるヒトガタの流星。

 誰何する間もなく、それは魔王と二人の騎士が相対するビルの残骸に飛び込んだ!

「ヴィータ!ザフィーラ!――――――新手だッ!!」



 まとわりつく熱気を手にした獲物で振り払う、二つの黒い影。
 意表を突かれしも、拳と鉄槌を手に、現れし新たな敵を警戒する騎士!

 なのはは叫ぶ!――――――歓喜を隠さず、再び自分の前に現れた友の名を!!
「NEWフェイトちゃん!!」
「そう、遅くなってごめん――――――あなたの友達…………NEWフェイトだッ!!」
「クロノくん!!」
「違うな――――――今の僕は…………『メンズナックル・ボーイ』だ」
 バルディッシュを構え、背中から笑みを投げかけるNEWフェイト。
 そして『饒舌なまでの「黒」にオレの伊達ワルが沸騰』とばかりに口数無く佇むメンズナックル・ボーイ。
 次元を超えて終結した魔王の仲間、窮地に駆けつけたこの上ない援軍である。

『来てくれたか――――――メンズナックル・ボーイ』
 それぞれの脳裏に響く『変態仮面・淫獣(ビースト)』の念話。
「さて、ピンチはわかるが、これは一体どういう状況だ?淫獣(ビースト)」
『理由は不明だが、我等が『海鳴の魔王』に手を出した不貞の輩達――――――思惑は不明だが、まずはOHANASIだ。

――――――――――――私に考えが有る。

今相対している女性騎士が彼等の頭、君と僕でなのはを守り、NEWフェイトが彼女を討ち取る!
おそらく騎士の技量に対抗できるのは、彼女の速度だけだろう』
「そしてゆっくりOHANASIか、良し――――――NEWフェイト!!」
 クロノはOHANASIってなに?といった顔をしたNEWフェイトに向き直る。
「―――――――――――軽くのしてやれ」
「うん、それならわかる」

 素直に一つ頷くと、空に陣取る一斗缶を被った少年と交代し、女性騎士に相対した。
「――――――軽く扱われるいわれはないが、私は四神快楽天が将、シグナム!!」
「私の名前はNEWフェイト――――――よくもなのはをいじめたな?三倍返しだ」
 火花を散らす二人の視線…………否、ソレは微妙にずれていた。
 NEWフェイトの視線は白虎的バストに集中している、曰く『何で胸に尻がついているのだろう』

 だがしかし、二つの魔力刃が打ち合うに連れ、二人の意思は闘いのままに研ぎ澄まされていった。







「で――――――あたしらを差し置いてよくも勝手に話を進めてくれたな」
「まあよかろう鉄槌の騎士よ――――――これで図らずも2対2。
ようやく騎士らしく振舞えるというものだ」
 闘志を燃やすヴィータとザフィーラ、だがしかし――――――再び横合いから割って入った二人の少年は、彼等に背を向けた。



「「――――――ナニィィィィィ!!!!!!」」


 変態仮面・淫獣(ビースト)が張った防壁の中で、メンズナックル・ボーイはS2Uに命じる。
「――――――――――――さあなのは、早速治癒魔法をかけさせてくれ」
「ちょ!――――――君が防御張れよ!僕がなのはを回復させるんだよ!!さっきも途中でジャマされたんだから」
 図らずも両手に花状態となったなのはは、目を白黒させながらどうやって男の子達の喧嘩を仲裁しようか考えた。

「おい…………おいおいおい!!
ちょっと待ってくれよ――――――まさかの2対0か!?ムシすんじゃねーですよッ!!」
 シールドを鉄槌でガンガンなぐって自己主張する幼女――――――――――――ビクともしねぇ。
「いや、効果的な作戦だ――――――かの『魔王』が回復すれば2対3になるしな」
「そう思うならお前もこの壁壊すの手伝えよッ!ザフィーラ!!」

 焦る二人の騎士――――――マイペースにイチャイチャする少年少女。
 だがしかし、今度は騎士達に思わぬ援軍が駆けつけた。



 其の男が放つ魔符一枚で、あれほど強固に張られたシールドが破られるとは――――――誰が知ろう。
 混沌と化した戦場の視線を一気にかき集めた其の男は――――――謎の仮面を被っていた。
「何をしている、守護騎士達――――――早くそいつから魔法を蒐集しろ」

 暫く其の場に奇妙な連帯感が生まれた、曰く――――――誰だろうコイツ。
 だがしかし、いち早く立ち直ったヴィータとザフィーラが、謎の男に礼を言う。
「――――――へへ、まさかあたし達に味方する『変態仮面』がいるとはな、助かったぜ」
「この借りはいずれ返すぞ――――――未知なる『変態仮面』よ」

 少年少女に向き合った二人の騎士、其の背中に猛然と反発する謎の男!
「ちょ、ちょっと待ってくれお前等ッ――――――私は『変態仮面』ではない!!」
「そうとも――――――僕は『メンズナックル・ボーイ』だ、あんな奴と一緒にされるのは、聞き捨てなら無いな。
――――――――――――ところでどうして僕と同じ仮面を被っているんだ?其処の男」
「それはこっちのセリフだよク――――――少年ッ!!」

 陥落し得ない城は存在せず――――――すぐに迎撃の態勢を取る変態仮面・淫獣(ビースト)とメンズナックル・ボーイ。
 メンズナックル・ボーイは自然と自身を『変態仮面』呼ばわりした騎士達に標的をさだめた様子。
 故に、変態仮面・淫獣(ビースト)の相手は、頭上にいる『謎の男』となるだろう。
――――――――――――いいことだ、殴るのに手加減はいらなそうなところが特に。




 ところで、此処まで書いて気が付いたのだが――――――『リリカルなのは』のキャラ名ぜんぜん使ってないな今回。
――――――――――――ついてこれているか?諸君。








 そして、三つ所で死合いを始めた魔導師たちに差し置かれたなのは、再び戦線へ戻ろうと自己回復を試みる。
「レイジングハート…………もう飛べそう?」
『――――――――――――NO!』
――――――――――――仲間が駆けつけてくれたのです、今は彼等に任せましょう。
「――――――でも!元は私が狙いだったんだよ、ここで座り込んでいても始まらないよ!!」
――――――――――――貴方は傷ついています、どうか自分を省みてください。

 此処に来て、最近特に増えてきた押し問答――――――魔導師と其の杖が織り成す不和。
 だがしかし、それはこの戦場において致命的ですらあった。



 少女の胸へ、伏兵の一撃。
 なのはの胸から、突き出した誰も予想しえない女の腕。

『――――――――――――NO!MASTER!!』
「…………………………………………………え?」




 意識が遠のき、今宵何度目か知れぬ膝を突くなのは。
 はるか遠くで四神快楽天の頭脳、シャマルが溜め息をついた。

「ああ、やっぱりつきぬけちゃった…………」

 彼女の持つ魔法、旅の扉で直接『魔王』のリンカーコアを抜き出そうという魂胆だった。



「――――――なのは!?」
「余所見をするなッ!!」

 愛機を叩き折られようと、背中に刃を向けられようと、NEWフェイトの意識も持って行かれる確固たる異変。
 一目散に、友の下に飛んでゆこうとするも、シグナムに首をつかまれて足止めされる
「――――――――――――どうにも興が削がれた。
見れば貴様も万全ではない様子…………今回限りは見逃してやろう。
あれは私の仲間がリンカーコアから魔法を『蒐集』しようとしているのだ。
安心しろ――――――――――――命まではとらん」

 私も今宵はカートリッジを使い果たしているからな――――――次にあったときはお前の魔法も蒐集してやる。
 そういいながらも、シグナムはNEWフェイトを友の下へは行かせはしない様子。
 ジャマはさせない、そういうことなのだ。



「えーと、もういっかいーもういっかいー」
 がくがくと震えるなのはの体から腕を引き抜き、今度こそはとお目当てのリンカーコアを探ろうとするシャマル。
 其の目を覆う惨状を、フェイトは何も出来ぬまま、ただ見ているだけである。














――――――――――――さて、はるか昔に某総合掲示板にてこの事態を夢想したお方。
――――――――――――大変長らくお待たせしました、そして今回ばかりは皆様の予想を外しません。
――――――――――――――――――『あの男』の、出番です。



 遠巻きに見ていた誰もが其の目を疑った。
 シャマル自体はます其の男を『感触』から認識した。

 なのはの前に小さく『次元の裂け目』が広がり、少女の胸から突き出した手は、奴の『下パンツ』にしっかりと触れていた。
 そして、その手をがっしりと掴む『魔導式が皮手袋のように絡みついた手』
 引き抜こうとした其の動きに合わせるように、ずるりと。

 『魔法少女リリカルなのはA’sの世界』に、かつてのオリ主が帰ってくる。



「あ…………」
 吐息だけで、少女は彼の愛称を呟くのだ――――――――――――ぱんつさん、と。

 涙で滲む少女の視界に映る、其の男は思い出と変わらぬ勇壮さ。
 ただ、ボロボロのロングコートをマントのように羽織り、天地にパンツを纏う英雄。




――――――――――――変態仮面・メデュケーションフォーム。
――――――――――――ぬくもりが失われたパンツを被った、戦士の巡行形態である。




 なのはには聞き取れなかったようだが、彼は何事か言葉を放ったようだ。
――――――曰く。
――――――――――――リンカーコアではない、此れは私の『陰茎と玉』だ。

 なのはに向けて暖かな視線を向け、何かを語りかけているようだ。
――――――曰く。
――――――――――――遅くなってすまなかったな、高町…………立派な戦士になったと見える。

 夢か、それとも幻か。
 ただ、言葉にならぬ激情が、なのはの心を占領する。



 そしてそんな最中にも、ガッチリとつかまれたシャマルの白魚のような手は、彼の下パンツの中に導かれようとしているのだ。
「い…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
 何とか振りほどこうとしても、其の力強さからは逃れられぬ。
 誰もが其の男を止めようとした、もう敵味方などどうでもよかった。
 仮面の男と四神快楽天がシャマルの傍らで綱引きのように、シャマルの腕を引き抜こうとする。
 クロノが、総司令が、NEWフェイトが、必死に変態仮面の頭を殴打した。

 その有様を見て、なのはの顔に笑顔が浮かんだ。
 今にも意識を失いそうになりながらも、彼女の大好きな友達が、心を一つにして集まってくれている。
 半年以上にわたる闘いの中で――――――ようやく手にした本当の喜びだった。



















――――――――――――だが、しかし。



――――――――――――マスター、この闘いを一度、仕切りなおさせましょう。
 レイジングハートが言う。
 なのははその方法を愛杖に問うた。
――――――――――――大出力の収束砲で、この結界を吹き飛ばし、包囲している戦士達をこちらに向かわせます。
――――――――――――あの騎士達も一時撤退し、管理局の船もこちらの位置がわかるはずです。
――――――――――――あの次元航行艦がこの地に下りれば、犯罪者達への牽制にもなりましょう。
 彼女は頷いた、まったくいい作戦だった。
 そうすればこの町も又一歩、平穏へ近づくだろう。
 あたりに散らばる魔力の収束を始める、今だかつてないほどの全力全壊で、帰ってきた友達を迎えるような大祝砲を放とう。



 そんな彼女には聞こえなかったが、たった一人反対する者が居た。
 海鳴自警団最高総司令、変態仮面・淫獣(ビースト)
――――――なのはの目を逃れ、この半年レイジングハートをメンテナンスしてきた者、彼だけが知る秘密。














「本当にいいのかレイジングハート!!――――――君はこの3ヶ月メンテナンスを拒んできたんだ。
もう一度、ただの一度でも『スターライトブレイカー』を放ったら――――――――――――君は完全に自壊するんだぞ!?」














 そして変態仮面が手を離した瞬間である。
――――――――――――なのはの手元から一条の光が天を貫いた。
 余波で吹き飛ばされる魔導師たち、手が抜けた勢いで地べたに転がる騎士達も、総じて天を仰ぎ見た。



 電離層を突きぬけ、宇宙空間を貫いて――――――――――――月面に数百キロにおよぶ巨大なクレーターを穿つ大砲撃魔法。


 そして海鳴九龍要塞へ突き刺さる2隻の次元航行艦、其の轟音に溶けるように、なのはの手元でひび割れる音がした。
「――――――うそ…………うそだよね、レイジングハート」
――――――――――――此れでいいのです、マスター。
――――――――――――この町に、貴方の仲間達が帰ってきたのです。
――――――――――――もう、貴方が泣きながら、血を流しながら戦う必要はないのですよ?
「やだ、やだよ、もうわがまま言わないから…………一緒に居てよ、レイジングハート」

――――――――――――どうか、かつての貴方に…………出会った頃の普通の女の子に戻ってください。
――――――――――――『魔王』と呼ばれる前の、明るくて優しい女の子に…………約束ですよ?




――――――――――――――――――し・あ・わ・せ・に・な・っ・て・く・だ・さ・い。




 そしてレイジングハートは全損した、なのはの手元にはコアの欠片も残さなかった。
 半年と少しに渡り、血と硝煙を掻い潜りながら前へ前へと突き進んだ『魔王』の『愛機』は、完膚なきまでに今、死んだ。
――――――――――――未来永劫この『魔法の杖』は、なのはの手に握られることはない。


「――――――私は…………遅かったのか…………?」
 変態仮面――――――かつてアールワン・D・B・カクテルと呼ばれた男が呟いたと同時。
 意識を失う前に、なのはは最後の最後、己が命すら振り絞るかのように絶叫した。
 天に昇ってゆく愛機、其の光の粒にすがり、呼び止めるために!









「レイジングハートぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



[25078] 【A’s編第四話】友情の単騎駆け!~UMINARI崩壊の危機~なの
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2012/01/10 01:22
 結界が解かれ、倒壊しそうになっていたビルが再び形を取りもどす。
 だが、轟音は果てしない――――――2隻の次元航行艦が突き刺さりし『海鳴九龍要塞』が爆炎を噴き、沿岸からの絶叫が、市街地にまでも轟いている。

 そんな中、意識を失った『魔王』を中心とする一同は次の行動を余儀なくされるものの、其の足並みは揃っていなかった。
「なのはッ――――――しっかりして!!」
 意識を手放したなのはの体を揺さぶるNEWフェイト。
「――――――――――――どういうことだメンズナックル・ボーイ。
 何故敵の本拠地にアースラが突き刺さっている?手はずどおり港を開けて待っていたじゃないか!?」
「う…………おそらく、追っ手を振り切れなかったんじゃないかと…………」
 執務官の胸倉を掴んで抗論する海鳴自警団総司令。


 
 ――――――――――――そして変態仮面は、どこぞにものすごい勢いで電話をしていた。


 
 はたして『四神快楽天』との初戦は仕切りなおしとなったものの、次の一手を指すものが不在。
 それぞれが情報の断片を併せ持ち、又それぞれが判断に必要な情報の欠けている具合である。

 なればこそ、其の場に年長者の闖入は福音。
 窓の外から響く笑い声に、各々が視線を向けると、月影を背にした巨大な長方形の影が迫ってくるのが見て取れる。

「「「なんだッ!?」」」
 少年少女が視線を向けると、それは極細の糸につながれしただの看板――――――否、そこに張り付く一つの影!!



「――――――――――――親子変態秘奥義『国際A級ライセンス(大凧編)!!』こうしていると正月に、一緒に凧揚げした土手を思い出すなknightッ!!」
「ソレはいいがDaddy――――――本当になのははそこに居るのか?」
「ああ、風が運んできたコレはまさしくなのはの匂い――――――そうら、見えてきたぞあのビルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 糸電話を手放すと眼下の高度を恐れるそぶりも無く跳躍。
 パリィィィィン!と気の聞いた音を立ててガラスを破り、ビルに飛び込むその男――――――変態仮面Daddy。
 風が匂いを運んできたというのなら、どうやって風上に凧で飛んできたのか――――――考える間もなくknightも姿を現す。

 ビルの壁面を、直角に駆けてきたのだ。

 そんな二人を横目で確認する元祖『変態仮面』――――――よほど重要な電話であったのか『ファンフィクション・コマンダー』から手を離さず。
 よう、と手を上げるだけで視線は再び窓の外、ドでかい穴が開いた月面を眺めていた――――――まるで大きな瞳のようだ。
 だがしかし、同じように変態仮面に挨拶した二人は、心中穏やかではいられない。
 なぜならば、彼等はここで気絶している『魔王』の、かけがえのない家族であったのだから。

「なのは――――――嗚呼なのはッ!!
どうしたんだ、しっかりしろ」
「daddy――――――どうやら気を失っているだけのようだ。
みんな、此処で一体何があったのか説明してくれないか?」
 変態仮面knightが呼びかけるも、反応できたのは変態仮面・淫獣(ビースト)だけである。
 他の二人はアホ面をして、同じことを考えていることが見え見えだ。
 曰く――――――――――――『変態仮面が増えた』

「Daddy、それにknight――――――なのははデバイスが全損したショックで気を失っているだけだ。
ちょっとした大魔法を使った魔力切れもあるが、身体に問題はない。
だが問題は魔道犯罪者達だ――――――合流予定だった管理局の船が手違いで彼等の居住区に突っ込んだ。
蜂の巣をつついたような騒ぎだ、もうすぐに――――――町に連中がなだれ込んでくるぞ!!」
 市街地に紛れ込まれると厄介だ――――――そう淫獣(ビースト)は焦る。
 だがしかし、他の変態仮面2人もまた、なのはをここで野ざらしにはしておけぬと反論した。

「あの――――――」
 だがしかし、抗論する変態たちに呼びかけるNEWフェイト。
「――――――私が、なのはを安全なところまで運んで行きます!!」
 うなづく淫獣(ビースト)、メンズナックル・ボーイにはアースラ勢の指揮を取ってもらわなければならず、変態仮面二人の戦力も防衛線を張るには欠かせない。
「そうだな、とりあえずはなのはの家に非難して、美沙斗さんと連絡を取ればひとまず安全な――――――」
「いや、駄目だ――――――NEWフェイト、君のデバイスはどうなった?」
「あ…………」
 切れ切れの電子音声が謝罪を告げる――――――彼女の愛機、バルディッシュもまた『おっぱい白虎』シグナムとの激闘で、破損しているのだ。
 メンズナックル・ボーイの示唆するとおり、部隊を分けるにしても丸腰の乙女二人で逃走を謀るのはリスクが高すぎる。

――――――――――――何がおきるかわからない、それが魔都UMINARIなのである。






 だがしかし、再び喧々囂々の話し合いが再開された背後で、何者かとの通話を終えた『あの男』が割り込んでくる。



「――――――――――――話は、聞かせてもらった」



 変態仮面、かつてアールワンと呼ばれた転生者は、抗論を中断しこちらを見る各々の視線を、背中で感じ取った。
「なるほど、たしかに魔道犯罪者どもは捨て置けぬ――――――NEWフェイトを除く諸君は、そちらの対応に注力せよ!!」
「ではアールワン…………君が彼女を送り届けてくれるのかッ!?」
「今の私は変態仮面――――――そして貴様も変態仮面…………まあ良い。
私は幾多の女性を送り届け、又同じ数だけ送り狼を駆逐してきた実績がある――――――大船に乗ったつもりでいたまえ」

 くっ、と唇をゆがめた変態仮面であったが、メンズナックル・ボーイはそれに反論する。
「慢心するな、今の海鳴は一級の危険地帯と聞く――――――陸路ならばいかに君とて、二人を庇いながらの進軍はかなりの危険が伴うぞ!」
 其の言葉を聴いた変態仮面は、ただ一度執務官のほうを向き、炎を湛えた瞳で訴えた――――――曰く、心配御無用。
 なぜならば、彼はオフィスビルの窓を開け、眼下の町に大きく響き渡れとばかりに久しき輩の名を呼んだのだから。





「雄範誅(おぱんちゅ)号ォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」





 たちまち響き渡る地鳴り、轟音と土煙がビルの階下に激突し――――――――――――やがて彼等の背後、エレベーターが『チン!』と到着を告げる。
「ひさしいな雄範誅(おぱんちゅ)号――――――別れ場際の約束、しかと果たしてくれているようで嬉しい」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ、と重苦しい音を立て、こじ開けられて行くエレベーターのドア。
 狭苦しい空間の中、一部の隙間無くむっちりとつめこまれしモノトーンの巨躯!奇跡の個体!最強の痛馬!!
 メキメキと箱を破壊しながら彼等の眼前にその全姿を現し、二本足で立ち上がると天井を突き破り――――――吼えた。

 ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲオヲヲヲオヲヲオヲヲヲッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 するとどうだ!一瞬でオフィスビルの窓ガラスが砕け散り、鉄筋は折れ、数十メートルは有る其のビルが――――――縦に真っ二つ、引き裂かれたのである。
 難なく大地に着地した面々であるが、正直一般人なら腰が抜ける以上の驚きであっただろう。
 実際、遠目にはすでに包囲していた自警団の面々と魔道犯罪者達の散発的な戦闘が見て取れたが――――――――――――総じて動きを止めていた。


「さて雄範誅(おぱんちゅ)号――――――――――――単騎駆けである。
異界にて別のオリ主と培ったあの『変態秘奥義』――――――――――――その真価を披露する時ぞッ!!」

 変態仮面は股間の袋から、何か絵札の様なものを取り出し後ろ手に放り投げる。
 ソレを見た雄範誅(おぱんちゅ)号、承知とばかりに飛び上がり――――――――――――札にムシャラァ!!と噛み付いた。




――――――――――――ファイナルフォームライドゥ!ア・ア・ア・アールワン!!




 誰の目にもまさに激変、謎の叫びが世界に響き渡り、宙に浮いたアールワンを鎧う外套が二枚に分かれ――――――――――――カウリングと化したそれに挟まれる。
 其の姿まさにオ〇ホール、誰もが知る神の穴、変態仮面はT〇NGA・ブラックレーベルに其の姿を変えていたのだ。
 そして驚きの声が上がる間もなく、アッ――――――という間にソレは、雄範誅(おぱんちゅ)号のケツに接続された。
 嗚呼まさに異様、文字通り人馬一体と化した一人と一頭、高らかに技名を言い放つ。



「合態秘奥義――――――――――――ロケットと!!」
「――――――――――――馬で!!」

「――――――――――――――――――――――――ロケット馬ッッッッッ!!!!」






















説明
・鉄球を振って左右に方向転換しろ!
・ケツをはたくとロケットで猛加速だ!
・一位になった人が勝ち残り!!



「時速三千キロオーバーの超高速戦だ――――――――――――目を回すなよ?」
 数ヶ月ぶりに垣間見る本物の変体秘奥義にして、久しぶりの初見殺しに開いた口のふさがらない面々。
 はるか世界の果てで、頭のとがったゴキゲンな野郎がスイッチ片手に親指を立てた気がした。

「――――――――――――とりあえず、コレに乗っていけばいいんだよね?」
「振り落とされるなよ?なのはを頼んだぞ?」
「……………ていうか、今この馬話さなかったか?」

 困惑のままに口を開く面々、しかして落ち着く間もなく、なのはの体を横抱きにしたNEWフェイト、変態仮面knightの肩を踏み台にして雄範誅(おぱんちゅ)号の背に飛び乗った。






 はたしてReady・Go!の掛け声と共に駆け出したロケット馬、被ったパンツのクロッチ部分に速度計が映し出されていた。
 初速で300㌔――――――――――――とんでもない加速度。
 高速戦になれたNEWフェイトでなければ、到底対応できないレベルである。

「…………えい」

 だがしかし、NEWフェイトは更なる速さを求めてゲシッ!!とT〇NGA部分にケリをくれた。
 ちょっと驚くぐらいの力加減であったが、たちまち所謂インサート部分がキィィィィンと唸りを上げ、火を噴いた。
 まさに爆発的な加速であった。

(…………これで時速1000㌔、まだいけるよね?)
 衝撃波で群れる違法魔導師をなぎ払い、高町家への道のりを計算する。




「あ…………私なのはのおうち、空からしか行った事ないや」 
 この町ににいた最後の日も、途中までアリサの車に送ってもらったしなぁ…………ポツリとそんな事を呟いた。
 巨大T〇NGAがブホッと噴出し、ウィリー気味になった雄範誅(おぱんちゅ)号はマジで!?と顔芸を披露する。

「――――――――――――まあ、暫くうろうろしていればそのうち着くよね?」
 ビシバシ!ビシバシ!とケツの部分をひっぱたき、どんどん速度を上げてゆくロケット馬。
 衝撃波で道行く女子高生のスカートがめくれる。




 さて、並居る違法魔導師の群れをなぎ倒しつつ、UMINARIを疾走する彼等――――――速度計は2000㌔を指したところ。
 驚いたことに併走者が現れた――――――――――――見たところ何の変哲もない兄ちゃんだった。
「君…………大丈夫かい?――――――なんか今、街が大変なことになってるみたいだけど…………」
「あ、いえ大丈夫です。
これから友達を送って帰るところなんで…………」
「た、大変だ!その子ぐったりしてるじゃないか!?どこか怪我でもしてるのか!?」
「あ…………この子も大丈夫です、ちょっと気絶しているだけというか…………」
 空気すら壁となって襲い掛かる超高速の世界で、しきりに乙女達を気にかける謎の青年――――――実は変態仮面には面識があった。

(――――――兄君(仮)じゃないか…………)
 自前の足でこの合態秘奥義に追いつくとは見上げた根性、だがしかしそれゆえに、彼には結末が読める。




 眼前で仁王立ちする乙女の影、文化包丁を十字にクロスさせ、歯の間からシィィィィィッッッ!と空気を吐くその乙女。
「ヲ兄ちゃん…………今度はロリぃぃぃぃぃ!?」
 ――――――――――――ナギサ・ザ・マッドシスター!!



「げげぇぇぇぇぇぇ!?な、渚ッ!?」
 来た道を逆送する兄君(仮)――――――――――――ソレを追いかけるヤンデレ妹。
 海鳴ではよくある風景、アールワンは変わらぬ二人を見て微苦笑を漏らす。







 そのまま海鳴関所を通過し、あさっての方向へ突き進むロケット馬。
 だがソレに続き、統制の乱れた自衛隊・海兵隊連合の隙を縫うように町を出ようとする不届き者が居る。
 オリーブドラブに塗られた装甲車の上で、股に挟んだ重機関銃を振り舞わず其の男――――――この街でに居るものならば、誰もが知る魔道犯罪結社の首領が一人。
「き、貴様はセコイア――――――?」

「ぬぅははははは!どけどけぇ!!」

 立ち上がり、身を投げ出してでもその暴走を食い止めようとする自衛隊員たちを威嚇射撃で足止めし、『素晴らしき実包の会』は鉄壁の包囲網を突破した。
 何と言うことであろうか、遂に野に放たれた魔道犯罪結社の一角、はたして日本はこのまま変態戦士達の目が届かぬところで血と硝煙の危機にさらされてしまうのか!?



 歯を食いしばり拳を握る軍人達、しかしそんな彼等の足元を駆け抜ける影、影、影。

「WHAT?」
「……………ね、猫?」

 ソレはまさしく、大量の猫達であった。
 まるで絨毯のように地面を埋め尽くす猫達の大群、瞬く間に先を行く装甲車へ取り付き、ぬこまみれの毛玉と化し、横転させる。
「ぬぉ、何なんだこの猫共は…………」
 顔中を引っかき傷だらけにされながら、猫達を引き剥がそうとするセコイア。
 銃を奪われ、それ返せと右往左往する構成員達。
 捕まえようとヘッドスライディングするも無様に逃げられ、目の前に唸りを上げるバイクが止まっていることに気づく。

 いやな予感にほだされるまま、ギギギ、と顔を上げると、そこには十代後半の少女が跨っていた。
 良かった、変態仮面じゃなかった…………ほっとするも、結局この魔境を脱出できなかったことにうなだれる。

 おっつけ刀でやってくる兵達たちに縛られながらも、おそらくこの大量の猫を操っていたと思われる女を気にかける。
 今まさにフルフェイス・ヘルメットを脱いだ其の少女顔立ちはまあ美人なのだが――――――なぜか目が闇夜に爛々と輝いている。
 もう少し近づいてみれば、その瞳孔はまさに開ききっていたと知ることが出来ただろう。

 ソレができなかったのは、後ろでまだ抵抗していた構成員が悔し紛れに手にしたアサルトライフルを、彼女に向けて発砲しようとしていたからである。
「畜生――――――くたばれぇぁぁぁぁぁぁ!!」
 絶叫しながら引き金が引かれ、其の銃口からはまっすぐに銃弾が放たれる――――――ハズである。

 だがしかし狙われていた其の少女は、見紛うばかりの高さを跳躍し、相手との距離をつめると銃が火を噴く瞬間、サイレンサーのように銃口に『ソレ』をはめた。
 あさっての方向に次々とそれて行くライフル弾、驚いて獲物を見る構成員。
 何か茶色い円筒が、銃の先でプルンプルンと震えている。
 海兵隊員がジュウジュツで地面に犯罪者を叩きつけ、自衛隊がポツリと呟いたのを聞き、『ソレ』が何物であるか、初めて知ることが出来たのだ。

「……………………………ちくわじゃないか…………」


 そして再び猫を引き連れて、美少女ライダーは夜の闇に消えて行く。
 ちくわをくわえ、ぽつりと「…………にゃあ」という声を残し。







 そして時速3000㌔を突破したあたりで、再びツナギを着た『ウホッ!!いい男』が併走してきた。
「ようお嬢ちゃん――――――――――――沖縄から行って帰ってくるとはやるじゃないの?」
「あ、どうもありがとうございます。
なんかお土産をくれたんですけど、食べます?」
 菓子折りの箱を開けたNEWフェイト、基本人を疑わぬ善人である。
 挨拶してくれるなら無碍な扱いはしないものだ。
「うれしいねぇ、チンすこうかい?
――――――――――――美味くて腹の中にどんどんはいっていくのがわかるよ」
 別段息切れするでもなく、両の手に持った砂糖菓子をむさぼって行くアベ・ザ・ヤラナイカマン。
「ところで、連中いよいよもって本腰を入れてきやがった。
いたるところで結界が張られてるみたいだからな――――――お嬢ちゃんも早くおうちに帰っておねむしたほうがイイぜ!?」
「はい、がんばって送り届けます」
「おっと、そこにいるのはひょっとして噂の『魔王』か!?
それじゃあ、退路をしっかり締めてかからないとな…………後ろのボクも、がんばれよ?」
 ぺしぺし、とT〇NGAを叩くアベ・ザ・ヤラナイカマン。
 どうやらこっちの正体はお見通しのようだ。
 更なる加速を伴って、ロケット馬は駆け抜ける――――――――――――今度は東の方へ。







「う~ん…………今度はずいぶんきらびやかな所にきちゃった…………」
 完全に方向を見失ってしまったNEWフェイト、最後に駆けつけたのは見覚えの有るリムジンである。

「NEWフェイトお嬢様、こちらは東京でございますぞ?」
「アリサのおうちの運転手さん――――――お久しぶりです!!」
 会釈をすると又、運転席に座る老紳士も同じように会釈を返す。

「どうやら道に迷っておいでの様子、高町家までの案内を親方様から命ぜられましてな。
ささ、共にお台場まで参りましょう――――――――――――此処で方向転換したら被害が大きくなりますので」
「はい、よろしくお願いします!!」



巨大な橋を渡り、併走する一台と一頭、目の前に謎の球体がしつらえた建造物を発見。
「ささ、お嬢様――――――あの建物を踏み台にして逆方向を向きますぞ?」
「え?――――――――――――でもこの速度でぶつかっちゃ、あの建物壊れちゃいますけど…………」
「そのほうが社会に有益でございます」

「――――――――――――え?」



「――――――――――――有益でございます」



有無を言わさぬ勢いに、内心いいのかなぁと思いながら跳躍、巨体をそれに叩きつけ、円を書くように壁面を踏み荒らしながら方向を西へ。
だが、其の合間――――――アールワンはNEWフェイトへ向けて声をかけた。



「――――――そのまま視線を右へ向けろ、NEWフェイト。
一際高い塔が建っているのがわかるか?」
 促されると、確かにそこには超高層建築――――――いずれスカイツリーと呼ばれる場所が建築されている現場。
 だがしかし、其処に聳え立っているのは、赤と白の円筒である。



「…………もしかして、アレは質量兵器」
――――――――――――『遺憾の意』シリーズ、絶対防御兵器『9条バリア』と並ぶ日本が誇る専守防衛の切り札。
 眼前に有る塔は、どうやら其の発射台に改造されたものらしい。
 2010年代の今でこそ、諸君も知ろうが。
 今も尚知られているのは『絶大な威力であるか、張子の虎であること』そして『大変にエコでる』ということぐらいだ。

「どうも、矛先はUMINARIに向けられている様子――――――放たれれば壮絶な切腹だな。
どうやらこの世界は、いろいろと秒読み段階らしいぞ?」
「必ず食い止めて見せます――――――そのために私達は来たのです」



 リムジンと巨馬が跳躍、長大な車体に二本足で飛び乗る雄範誅(おぱんちゅ)号。
 急に立ち上がられ、ずり落ちそうになったNEWフェイトは思わず馬の頭上に有るパンツに手を掛け――――――其処に有る『フィニッシュボタン』を発見。

「――――――えい!」

 バシィ!と平手でソレを叩く――――――――――――今までにない高出力がT〇NGAから生み出され、バニングスブーストとの相乗効果で最終加速。
 背後で謎の球体が落ち、噴射に煽られてビリヤードのように其の建物を破壊しまくる惨状を尻目に。
 彼等は空を裂き――――――明けの明星へ向けて飛んでゆくのだった。







 そして、高町なのはは、本当に久しぶりに自室のベッドの上で目を覚ました。
 傍らでは、NEWフェイトが上半身を投げ出して、まだ寝息をたてているのが見て取れる。

(あれから、どうなったんだろう…………)

 今も尚、目がはれぼったい――――――おそらく夢ではないのだろう。
 愛杖を失ったという、昨夜の出来事は。

「起きたのね――――――おはよう、なのは」
「――――――――――――おかあさん…………」


 数ヶ月ぶりに顔を合わせた娘を前に、高町桃子は様々な思いを語ろうとしたのだが――――――ソレも言葉にならず、ただただなのはを抱きしめるだけだ。



「――――――NEWフェイトちゃんは、そのまま寝かせておくわね?
大体の事はあの人から聞いてる、表で待っているから、起きたら呼んでほしいって言ってるわ。
さあ、行ってあげなさい」



 今まで自分が眠っていたベッドに、NEWフェイトを寝かしつける桃子を残し――――――おぼつかない足取りで外へ向かう。
 途中道場で、死屍累々とぶっ倒れ、いびきをかいている父、兄、アースラの武装隊員を発見した。
 気になるが――――――外に居るという人間を、これ以上待たせるわけにもゆくまい。


 はたして、朝の日差しじを浴びて、其処には半裸の男が立っていた。
 住宅街にまで及ぶ破壊の爪あと――――――道路に穿たれた銃痕、崩れた塀、いまだ煙を上げる空を気にしつつ――――――どこかに電話をしている。
「――――――ああ、それでは『彼女』は無事に旅立っていったのか。
…………え?なに?君と妙な雰囲気に!?――――――――――――知るか!!爆発しろ。



 所で話は変わるが、私のあずかり知らぬところで某所のトーナメントに名が挙がっているのだが、良ければ僚機として…………そうか中立か…………実に残念だ」



 変態仮面、アールワン・D・B・カクテル――――――パンツさん。
 逆光で、又顔を隠すパンツのせいで表情はうかがえないが、間違いなくあの日、袂を分かった彼。


――――――聞きたい声だった。
――――――聞きたいことも沢山あった。
――――――――――――なによりも自分が、そしてパンツが救えなかった存在だった。

 そんな男が、今目の前に居るのであった。

「――――――――――――ぱんつさん」
 泣き喚いた後の、ひび割れた、酷い声だった。
 それでも、少女の声は、間違いなく男の耳朶に届いた――――――届いたのだ。


「どうやら彼女が起きたようだ――――――後から又かけなおす」
 タッチパネルを操作し、其の手に『ファンフィクション・コマンダー』を握り締めたまま、其の男は振り向いた――――――なのはの方へ。





「改めて久しぶりだな、高町――――――君が守ってきた街、最後を前にこのような形に成って残念に思う」
 炎を噴く其の瞳、奥に見えるソレが、なのははとても気になった。
 確かにソレは優しく自身のほうを見てくれているのだが――――――なにか、かつての力を失ったまま、そんな風に見えたのだ。
 ――――――――――――きっと、杞憂ではない。

「ぱんつさん、レイジングハートが…………わたしのせいで」
「然り――――――君のデバイスは、君を救うべく、逝った。
 今の君には、もう戦う力はない――――――――――――故に、これから私は今から『今ではない此処』へ向かうつもりだ。
 君は存分に休み、友と語らい、最終決戦の前に骨を休めたまえ」

「わかんない…………何言ってるのかぜんぜんわかんないよパンツさん!!
 私達を置いて、又何処かへ行っちゃうの!?」



 声を荒げるなのは、だがしかし変態仮面は髪を下ろしたなのはのてっぺんに厳つい手を乗せて、語りかける。

「君に、少し早いクリスマスプレゼントを渡すためにな――――――それに、この街には私など及びにも付かぬ強者が集いつつある。
――――――――――――A’sと呼ばれる物語の、決着に私は要らず。
――――――――――――君達の手で、新たなる友情を掴み取る事こそが、寛容なのだ」
 所詮私はリザーブの枠よ、自嘲的に笑い飛ばす変態仮面は其の手にある『ファンフィクション・コマンダー』を操作し、虚空に門を開く。



 だがしかし、見送りはなのはだけではない。

「――――――――――――待て!アールワン」
 雄範誅(おぱんちゅ)号に跨った変態仮面・淫獣(ビースト)が落着した。
 呼び止める其の声に、変態仮面はただ一度振り向き、声をかける。

「暫く見ぬ間に、どうやら驚くほどのパワーアップを果たした様子だな、君も雄範誅(おぱんちゅ)号も、必ずこの『魔王』の――――――力になってもらいたい。
――――――――――――たとえ、どんな敵を前にしても、な」





 それ以上、止められる術も無く、去ってゆく男の背中を見送る子供達と痛馬。
――――――――――――そして彼等の背後では、御神美沙斗が、無言のままにかつてアールワンと呼ばれた存在を見つめていた。






[25078] 【A’s編第五話】在りし日々の追憶は時の激流を止めるに至らずなの
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/11/07 02:09
 NEWフェイトは、窓の外からもれてくる歓声を耳にして目を覚ます。
 見慣れない部屋に首をかしげ、そういえば此処はなのはの部屋だったと思い出した。

 昨夜の逃走劇は今も尚、自身の脳裏に強く焼きついている。
 己が憎しと思う相手と其の輩の背に跨って、戦場を逃れ、この世界この国が崩壊する可能性を垣間見た。

 故に――――――なお一層の決意を秘めて、NEWフェイトはこの世界を守るべく、戦おうと決意するのだが…………。
(なのははどこにいるんだろう…………)
 やはり一番の関心ごとは、無二の親友の事である。

 眼を擦りながら時計に目をやると、どうやら昼下がりの様子。
 ダイニングにて、なにやら戦争のような勢いで料理を仕上げている三人の女性達に気押されながらも、なのはの母である桃子に声をかけた。
「…………あの、おはようございます」
「ああ、起きたのねNEWフェイトちゃん、おはよう。
なのはなら表で『時空管理局』の皆さんとご飯を食べているから、行ってらっしゃい?」
 あ、ソレよりも先に顔を洗った方がいいわね、と桃子はリビングのみゆきんぐに声をかける。
「みーゆーきー!タオル出してNEWフェイトちゃんを洗面台まで案内して~!!」



 ゴゴゴゴゴ…………とSEを発しながらダイニングテーブルから頭を出し、ものすごい目つきをしたみゆきちがNEWフェイトに『よう』と挨拶をした。
 どうやら兄の女友達(和食&中華の達人)が桃子の料理を手伝っているのに、自身は芋の皮むきすら手を出させてもらえないのを恨めしく思っているらしい。



 果たして、みゆき~ヌの手で洗顔はおろか髪の手入れまで世話されたNEWフェイトは、万全の状態でなのはに会いにゆくのであった。







 高町家の庭は広い。
 まるで武家屋敷を思わせる趣であるが、確かに今、高町家は戦を生業とする戦士達の姿でごった返していた。

 時空管理局所属次元航行艦『アースラ』のスタッフのうち、戦闘を司る武装対の面々が終結し、肌寒い年末の風を吹き飛ばす勢いで…………
「みんなー、どんどん食ってくれよ~!!材料費その他は自警団が持つらしいから!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!タダメシ!!」
「タダメシ万歳!!タダメシ万歳!!」
 高町士郎指導の下、薩摩汁をかっ込んでいるのである――――――――――――何と言う芋煮会。

 まるで炊き出しのような有様(見れば地域住人も何人か見える)だが、何でもこれからは高町亭の道場に寝泊りしてこの街を防衛する心積もりらしい。
「――――――――――――NEWフェイトは、母屋の方に一部屋用意してもらっているから、そちらを使ってほしい。
 奇しくもなのはと、再び同居することになるわけだが、今回は親御さんたちと一緒だ。
 こちらとしては少し安心であるがな――――――――――――所で、どうしてこのスープは芋が甘いのだろう」
 クロノ・ハラオウンが椀に一味をがんがん振りかけながら教えてくれる。
「クロノもこの道場に住むの?」
「いや、僕は此処から少し離れたところにセーフハウスを用意してもらった、エイミィも一緒だ」
「…………仲良くするつもりだね?別にいいけど…………」
 寧ろそっちの風紀が心配だ、と暗に揶揄するNEWフェイト。
 一緒に徹夜でゲームとか、二人でお風呂に入って髪をあらいっことかするのだろう――――――うらやましいことだ。
 芋が気管に入って盛大にむせ始めたクロノを置いて、NEWフェイトは歩を進める。

「――――――――――――エビチリはいりまーす!!」
 緑色の髪をした少女が、母屋から大皿を抱えて出てきたその時、周りから歓声が飛び交った。
 殺到するガタイのいい男達をドラム缶に焚いた火を囲む女性隊員たちがほほえましく見つめ、隊長と教導隊の面々が釘を刺す。

「おいお前等、食い終わったら訓練すッからな!?腹八分目で抑えとけよ~」
「りょうかいで~す」
「本職が見てくれるって言ってんだ!せっかくのご馳走吐くような無様はさらすな!!わかったか~!!」
「ワカッテマース!!」

 とてもそうには思えなかったが、士気だけは高そうで良かった。
 NEWフェイトはそう思ったが、はて何かが引っかかる。

「隊長さん?」
「おお、NEWフェイトちゃん、昨日は大活躍だったな?
皆さん、彼女が今我々が預かっている切り札のNEWフェイトちゃんです、まあ民間協力者ですが」
 ずずい!と前に出されて紹介される、果たして一人は面識があった者だが…………。

「…………『ハーヴェスト・オブ・ハーヴェスト』フィット…………改めて…………よろしく」
「俺は『ジャム・オブ・ジャム』タタ・インディアナだ――――――大気圏では世話になったな」
 ドレッドが熱でチリチリになっていた、分からないワケである。
「っで、おれっちが『スカウト・オブ・スカウト』モコ・モッコスだ。
 おれっちは始めましてだな」
 ギリースーツに身を包んだ軽そうな男が箸を挙げる――――――食い物をむさぼる様は遠目から見て緑色のム〇クである、不気味だ。
 何でも船と連絡が取れなくなったのでこちらと協調するらしい――――――――――――ちなみに斥候に出たモコはタダメシに釣られたと聞く。
(それでいいのか教導隊…………)
 NEWフェイトは思ったが、現地の惨状を見れば他のやつらも先に違法魔導師を締め上げるだろうさ、とすました顔で言われた。
 思考を読まれて居るのだろうか。

「まああれだ、俺もなんとなく作為的なものは感じるんだが…………体鈍っちまってるからな、戦い方を教えてくれるってんならありがてえことです」
「気にするな――――――尤も教導では手は抜かんがな」
 ガッチリと握手する隊長とタタ、まあ仲がいいなら良いことである。













「――――――――――――皆さん夕食はカレーでいいですかぁ?」
「ヒャッホォォォォォォォォォゥ!!」



(クロノ…………)







 
 ようやくなのはを発見した――――――ビデオレターで一度だけ見た兄と共に給仕をしている。
 一瞬落ち着くまで待とうか、そう思ったNEWフェイトであったが、寧ろなのはの方がNEWフェイトを発見し、駆け寄ってくるのだった。
「NEWフェイトちゃん!!」
「なのはっ!!」
 ひし!!と抱き合う二人の幼女は御機嫌幼女と挨拶を交わす間もなく互いの無事を体中で確かめ合った。
――――――――――――昨日は助けてくれてありがとう。
――――――――――――いままで戦ってきたなのはのほうがすごい。
 そんな思いを言葉にするのも無粋、故に恭也も、妹の背中に「出かけるなら夕方には戻れよ」と声をかけるだけで姿を消す。

「あのね、NEWフェイトちゃん――――――いきなりでごめんなんだけど、どうして行きたいところがあるから、ボディーガードしてほしいの」
「うん――――――なのはが行くなら、何処にだって行くよ!!」

 再会の喜びもそこそこに、二人は出かけることにした――――――NEWフェイトは目的地までは分からなかったが、積もる話は道すがらでよかった。
 冬の日の入りは、とても早いものだからだ。







 繁華街は瓦礫の山、それを搔き分けながら少しずつ前に進む二人の少女。
 倒壊したビル、捲れ上がったアスファルト――――――誰のものとも知れぬ血の跡。

 此処は激戦区であったらしい――――――時折手を貸しながら、進む先は日の当たらぬ路地の中。

「なのは…………ここって…………」
「うん、ずっと私を助けてくれた情報屋さんが居るお店なの」

 お邪魔します!と似つかわしくない元気な声をあげて、引き戸を開けるなのは、ソレに続くNEWフェイト。
 何の匂いだろうか、独特の甘酸っぱいにおいが、NEWフェイトに疑問を持たせた。 






「お久しぶりです――――――『古着屋』のおじさん」






「やあやあ、お二人とも――――――おひさしぶりでげすな」
 そちらの金髪のお嬢ちゃんとは、言伝を伝えただけでげしたか――――――カウンターから立ち上がった、ハゲかかったパンチ。

 アールワン後援会の代表者にして、海鳴自警団情報参謀――――――それが今『古着屋』と呼ばれた男の立場であった。




 店の裏に案内された二人、ちゃぶ台が置いてあるごく一般的な茶の間に座布団が用意され、搔けるように促された。
「さて、大体の事は美沙斗さんからも聞いているでゲスが…………昨晩は大変だったようでゲスな」
 ねぎらう『古着屋』に首を振って、尤も伝えたい出来事を、なのはは口にした。
「『古着屋』さん!!――――――ぱんつさん…………アールワン・D・B・カクテルさんと、再会できました。
 あの人はやっぱり、生きていたんです!!」
「そうで、げしたか――――――やはりぼっちゃんは、不死身の男でげす。
 道は違えても、やっぱりどこかで、たたかっていたんでげすな…………」
 急須で熱いお茶を注ぎながら、感慨深げに『古着屋』は呟いた。
 瞳がすこし滲んだのも、湯気が目に当たったからである。

 アールワンにとって大事な人なのだと判断したNEWフェイトも、昨夜の変態仮面との逃避行を事細かに説明する。
 時折メモを取りながらも(これも重要な情報として、海鳴の外へ扱われるのだろう)時折相槌を打ちながら聞いて行く。
 そして明朝のやり取りをなのはが説明すると、男は少しうなだれた。

 やはり、一度くらいは顔を見せてほしかったのだろう。

「そうでげすか――――――――――――ぼっちゃんはまた、何処へとも無く旅立っていったのでげすな」
「はい。
 わたしにはもう、魔法の杖がないので――――――ぱんつさんはそんな私に、クリスマスプレゼントを探しに行くって…………」
 ひょっとしたら、レイジングハートを連れ戻してくれるのではないか、そんな考えが頭をよぎる。
「でも、結局デバイスを失ったのは――――――私がレイジングハートの言うことを聞かなかったからで…………多分、もう。
私にはあの相棒を、持つ資格が無いんじゃないかって思うんです!!」
「なのは…………」
 悲痛な叫びを聞き、NEWフェイトの顔も悲しみにゆがむ。
 そして少女を押し止めるため、咳払いを一つすると、『古着屋』は其の意思を問うのだ。

「では『海鳴の白き魔王』は、もう戦うつもりは無いのでゲスね?
――――――自警団の本部に、いくつか押収したデバイスはあるので、その気があれば渡すのでゲスが…………」

「――――――――――――はい。
私には、レイジングハート以外のデバイスを握るつもりは、ありません。
あの瞬間に、魔法少女としての私は、死にました」
 力強い声音であった、不屈の精神を持つ高町なのはが、今日今までの時間を一杯に使って、考えに考え抜いて下した結論であった。

 ソレは自分自身に下す、負けることよりも悔しい決断だった。
――――――――――――しかし、ソレでよかったのだ。

「そうでげすか――――――それでは、今日からは普通の女の子として、この街で生きてゆくといいのでげす。
だれも、お嬢ちゃんをせめたりしない、今日まで戦ってきたことは、この街の誰もが知ること――――――誇っていいことなのでげすよ」

――――――大恩有るおじさんも、今際の際に相棒が発した願いと、同じことを言ってくれる。



 ぎゅっと目を閉じて、なのはは自身が発した言葉の重みを噛み締めた。
 唯一、気にかかるのはアールワンが去り際にはなった『決戦』とはなんであるか――――――――――――目の前の男には、話せなかった。
 自警団が発案した『大作戦』とはきっと別なのだろうが、雲を掴むような話ではきっと『古着屋』の益にはならず、戦場を離れる自分には、調査も不要な情報だろう。









(フェーザーたん――――――お空から見ているでげすか?
あの娘がぼっちゃんのちいさな友達でゲス、ああみえてぼっちゃんに負けないくらい強い娘なんでげすよ?)

 日の当たる大通りへ向かってゆく、少女達の小さな背中を見送りながら『古着屋』は思う。
 思考はかつての、生涯で一番楽しかった日々へ戻って行く――――――――――――





 とあるSMクラブで有名な話。
 何でも、何度鞭打たれても翌日にはすっかり傷が癒える、奇跡のM嬢が入店した。 

 おかげで真性のサディスト共は、毎度毎度新雪のような其の肌を、存分に鞭打つことが出来るのだ――――――

 かつての『古着屋』は話半分ながら、そのSMクラブのロビーで熱く滾っていた。
 そのような御伽噺は信じるまでも無かったが(きっと店の宣伝なのだろう)其の新しい嬢、ちょっとやそっとの調教では鼻で笑うほどの気丈な性格のなのだろう。
 傍らではアルコールを嗜んでいる同好の士が、自分が服従させるいや自分が――――――と、策謀談義に花を咲かせていた。
「『古着屋』さん、新しい嬢ってのは、どんな娘なんでヤンスかね?」
「詳しくはこの目で見て確かめるつもりでげす――――――ただ、相当若いらしいでげすよ」
 それはよかった、最近は三十路どころか四十路超えのババアも回ってくるらしいでヤンスからね…………八ミリを磨く『動画屋』の手にも熱が入った。




――――――その時である、いつもならのんびりとした感じのM嬢が血相を変えて飛び込んできたのは。


「誰か手を貸してぇ!!――――――お客さんが刃物持ち込んだのぉ!!」



 深く腰掛けた男達がケツでソファーを吹っ飛ばすように立ち上がる!
 サディストと殺人願望は別物だ――――――なんて野郎だ、きっと一見に違いない。

 『古着屋』を筆頭に、個室に駆け込む男達。
 彼等が見たものは、割り込んだ先に腕を刺されたのか、抑えた掌から血を滲ませる元ヤンS嬢と。
 腕で首を絞められて、腹に刺されたナイフをえぐられている、見知らぬ十代の少女。

(若い――――――といってもコレは若すぎでゲス…………)

 自分も割って入るつもりだった、しかし下手人は虚空を見つめ『もどるよぉ…………刺しても刺してももどるよぉ?』とよだれを垂らしながら呟いていた。
 再び引き抜いたナイフ、すると確かに刺された場所から光が漏れて、傷口がふさがってゆくのだ。
 かといって失った血は元には戻らぬ――――――それゆえに、人の体はこのような『黒ヒゲ危機一髪』のような扱いをされるようにはできていない。

 振りかぶられたナイフが再び少女の腹に叩き込まれる前に、『古着屋』は割って入るつもりだった。



 割って入るつもりだったのは――――――――――――彼より先に割り込んだ『あの男』がこの店に居るからだ。





「ぷおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ」




 突如聞こえた、店全体を揺るがす大きな唸り。
 そして、彼等の足元をものすごい勢いで駆け抜ける小さな影、アレはなんだ?犬か?
 いや違う、肌色だ――――――下手人が振り上げた其の腕に見事なキーロックをかます、アレはまさしくおしめをはいた赤ん坊ではないか!?

 超展開に声を失うサディスト達、そして恐るべき締め付けに悲鳴を上げ、たまらずナイフを取り落とした相手をキュピーンと瞳を輝かせ、赤ん坊は吼えた。





「――――――――――――えうだいいお~い、えぅじゅいぅ☆あいじゃいぃ!(変態秘奥義、遠心☆大車輪!!)」




 伸びきった相手の腕で見事な鉄棒を決める謎の赤子――――――何故頭にひもパンを被っているのか!?
 そして勢いに負けて男は転倒、みれば腕が螺子のように複雑骨折しているではないか!?



「――――――――――――あぅぁえ(――――――――――――歪れ)」



 そして見事なY字着地を決めた赤ん坊は、再び四速歩行の赤子に戻る。
 事の次第を見ていた男達は言葉を失い、留まっていた時を動かしたのは、腹を幾度も刺されていたM嬢である。

 青色吐息で腕を刺されたS嬢に這い寄り、件の不思議な光を掌に集め、彼女の腕にかざそうとしていた。
「大丈夫ですか先輩…………今、傷をふさいで」
「バカ!あたしの事より自分の――――――いや、あー坊抱き上げてやれッ!!」

 叱責が飛ぶも、少女は不思議な光による治療を止めないらしい。
 それゆえ『古着屋』は其の不思議な赤子を抱き上げる大役を仰せつかう。

 其の小さな体は熱く、力強く――――――――――――赤子とはこうも生きるエネルギーに溢れていたのか。
 男達にとって、それは蒙昧を開く初の機会であり――――――――――――生涯の思いになる。

 『動画屋』は今まで惨劇を撮っていた八ミリのビデオテープを取替え、赤子の姿をじっくりと撮影し。
 『洗濯屋』に、『教師』にとかわるがわる抱き上げられた、其の赤子になにか深い感銘を受けた『古着屋』。
 ポケットから15センチほどの、樹脂製の棒を取り出し、赤子に握らせた。

――――――――――――バイブである、実は今日のために新調した一品。

――――――――――――おい見ろよ!ものめずらしそうにみてるっすよ!?
――――――――――――まあおもちゃでげすからなぁ、もちろん口に入れても安全でげす、むしろ口以外にいれるものでげすが…………。

 近づいてくるサイレンの音に負けぬほど、どっと盛り上がる男達。
「あーちゃんに…………変なもの…………与えないでください…………」
 失血から意識を失ったその女、名をフェーザー・ディープパープリッシュ。
 そして赤子の名はアールワン・D・B・カクテル。
 名前とともに後から知ったのは、間違いなく彼女が腹を痛めて生んだ実子であること。
 噂など、不思議な光など、もうどうでも良かった。

 彼女達を知る男達は、誰もがこの親子の傍に居たかった。
 知れば知るほど、どこか暖かい気持ちにさせてくれる――――――――――――この二人に心を奪われていったのだ。

 





 海鳴の墓地は、街を見下ろせる高い陸の上にある。
 この街で亡くなった人々の遺体は、遺族に弔われるもの以外は、検死にまわされた後、此処にある共同碑に眠る。
 戦士も、被害者も、魔道犯罪者達も、唯の一つも例外なく。

 初めて見たときは、とても大きな墓だと思ったものだが、今では頼りなく思えるほど、なのはは沢山の死を垣間見た。



 故に、なのははNEWフェイトを伴って、森の奥へ案内した。
 其処は、なのはが木々をなぎ払って作った秘密の場所――――――戦士達の魂を個人的に弔うための、英雄の墓だった。

「みんな、久しぶり――――――――――――お父さんの秘蔵のお酒をくすねてきたの。
半分しか残ってないから、キャップ一杯ずつだけどごめんね?」
 故人が残した武器の数々が突き刺さっている、さびしげな場所。
 NEWフェイトもなのはと共に、数々の霊前に手を合わせて行く。

 中には武器とは思えない、不思議な墓標にも、キャップ一杯の酒をかけてゆくなのは。



 フルプレートの鎧に酒をかける。
「――――――――――――ネ〇オロさん。
 戦いの合間に話してくれた『ロケットマン(笑)』のお話、続きが聞けなくてさびしいよ。
 でもあの主人公はやっぱり、真の強者だと思うの、きっと勘違いなんかじゃない――――――私が言うんだから間違いないよ?」

 捨てられている狸の人形のほうにも酒をかける。
「――――――――――――定〇さん。
 もてすぎで女の子達を困らせていた図書館の人、いつか会ったら絶対ボコにしてあげるの」

 デル〇リンガーにも酒をかける。
「――――――――――――ゼロと魔〇使いの人さん。
 原作の人は無事手術を終えたみたいだよ?いつか桃色の髪をした女の子とあったら、約束どおり魔法を教えてあげるからね?」

「――――――――――――桜〇さん。
書きかけの雄範誅(おぱんちゅ)号の絵、出来上がったらTシャツにしようねって言ってたのに…………残念なの」

 墓前は多くとも、別れの儀式は粛々と進んで行く――――――皆素晴らしい存在ばかりだった。
 因果の果てに遠くこの魔都で眠る戦士達、正直言えば今もまだ、別れを信じられぬ。
 どこかでひょっこり会えるかもしれないと、騒動が終わったら酌をするという約束を、心底なのはは果たしたいのであった。



 
「皆さん――――――もうすぐ私の相棒が、そちらに行きます!
 主人思いの優しい魔法の杖です――――――会ったら、仲良くしてあげてください」



 深々と頭を下げるなのは――――――――――――だがしかし、そんな彼女の足元に、擦り寄る小さな小麦色の姿が一匹。

「なのは…………狐だ」
「ほんとだ、何処の子だろう」
 抱き上げると、首につけられた鈴がちりん、と小さな音を立てる。

「く~…………くぉん!」

 なのはの頬を舐める子狐、どうやら気に入られたようである。
 其の愛らしい瞳が、自分を連れて行けと、暗に語っている気がした。




















 なのはは大きく頷くと、其の体を自分のパンツに押し込んだ。
「か…………完璧なの…………」
「くぉん!!」

(ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?)

 何と言う『ライドオンスペース』か!!
 言外に忌避の目を向けるNEWフェイトであったが、まあこの子狐も喜んでいることだしいいか、と黙殺することにした。







「…………久遠が行ったか、まあコレで、噂の『魔王』の身辺も安全だろうな」
 夕日と共に山を下って行く、二人の幼女の背中を眺めながら、くわえタバコのシルエットが呟いた。
 長身の女と見て取れる。
「うう、久遠大丈夫でしょうか」
 何故そのようなものを着ているのか良くわからないが、巫女服のシルエットがわたわたと、其の長身の女性に訴えた。
「んぁ、まあ大丈夫じゃね?――――――あの高町恭也の家なんだろ?」
 それに久遠が行きたいって言うんじゃしょうがねー、と投げやりに言い聞かせる。

「さて、そろそろボクらも帰ろうか、夜風で体を冷やすこともないし」
 暗がりに有ってなお、輝く銀髪を持つシルエットが言う。
「今日は夜勤だし、みんなも夜は色々すること有るだろう?」
 バスケットボールをバウンドさせていたシルエットと、にゃんと呟くシルエット、二人の目がギラリと輝く。



「おーし、解散だ解散。
 とりあえずあのバカ見かけたら伝えることはわかってんなー」
 もうメシ作るのは飽きた、とばかりの口調だった。
「でもさ、みんなのパンツ一緒くたに洗ったからって夫婦ゲンカするか普通」
――――――――――――愛さん別居だーとかいって職場から帰ってこないし。
「まあ、女子寮という特殊な環境下だから――――――ハーレム願望とかあるんじゃないかと邪推するのもまましかり…………」
――――――――――――やっぱり男の人ですから、距離を取らざるを得ないんでしょうか?

「おい、止めようぜ。
この手の話は色々蒸し返しそうでイヤなんだよ、籍入れようが入れまいが、寮を離れて何年たとうが私達は家族!仲間!!」




 とはいえ、管理人の癖に管理放り投げてるあの二人、早々探し出して油を絞ってやらねばなるまい。




「ところでさ、『決起の夜』アイツが洗ってたパンツあるだろ――――――おこった愛の奴が投げつけた数々。
 あれから各々回収しただろうけど、気づいたか?」
「――――――全員ちゃんと回収しただろう?
まさか君の下品な下着など、誰も取らないさ」
「バァーカ、一枚残るハズなんだよ。
抗論の後すぐ愛の奴でてっちまっただろ――――――年に似合わない、ペンギンのプリントパンツが」

 夕日を真正面から受けた女は、まるで肉食獣の様な笑みを見せた。



「もちろん愛のタンスにもねぇ――――――――――――何処に消えたんだろうな?」



[25078] 【Force編最終話】究極(魔法戦記)!!変態仮面
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2012/03/27 01:35

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     ☆此れまでの、究極(リリカル)変態仮面は!!☆

 なのはとNEWフェイトの別れから二つの月日が流れ、海鳴は魔導犯罪者が住まう魔都と化していた。
 リリカルなのはの登場人物たちはそれぞれの激闘を重ね『原作』の通り再会するも、原作改変の惨劇は傷痕深く、
 また『A's』冒頭における守護騎士『四神快楽天』と合間見えた際、なのはの愛機『レイジングハート』は全損した。

 ――――――齟齬の発生したリリカルなのはの世界観は、まさしく『時空暴君』の仕業である。

 だがしかし、望み今だ潰えず!この作品にあの男が帰って来たのだ!!
 幾つもの『作品世界』を渡り歩き、傷を負いながらも幾つものハッピーエンドを配り歩いたあの半裸!!

――――――転生者、アールワン・D・B・カクテルはモブである。
――――――しかし彼が行くところにはいつも、変態的な事件が巻き起こるのだ!

――――――――――――戦えアールワン、戦え!変態仮面!!
――――――――――――時間空間の壁を越え、今続編から主人公に新たな武装をお届けします!! 
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 第3管理世界『ヴァイゼン』――――――かつて、そこは第一管理世界『ミッドチルダ』と隣接し、交通の利便性と環境から、
多くの人々が足を運んだ場所。

 だがしかし、今となってはかつての栄華を望めるべくも無く、朽ち果てた幾つもの建造物と舞い踊る土ぼこりだけが、
其処の主人である。









「此処が――――――――――――魔法戦記リリカルなのはForceの世界か…………」
 次元の裂け目から姿を現す其の男、アールワン・D・B・カクテル――――――――――――変態仮面。
 彼は上パンツの下にある眉間にしわを寄せ、其の惨状に二句を告げずに居た。

 絶命した高町なのはのデバイス、レイジングハートの代替機を求め、世界を渡ったはいいものの、
この惨状は一体どうしたものだろうか。
 正直、元よりいやな予感は拭えなかった――――――――――――思い起こすのは1期海鳴海上決戦。

 時空暴君の介入を許したあの惨劇を食い止めたのは、少年騎士ともう一人――――――シュトロゼックの4機目。

 彼女が抱いていたあの肉塊は、もしややがて来る4期主人公では有るまいか?
 世界を又に駆けた激闘の合間、常々考えていたことである。
 ならば――――――――――――此れから訪れる未来の、存亡やいかに。

 答えは、眼前に広がっている。



 高濃度残存魔力の影響で船体を無残に崩壊させても尚、残ったままのフッケバイン旗艦。
 下半身が行方不明になったラプターの右腕が、天に向けて伸びている。
 そして、そこかしこに見える、不自然に盛り上がった地面が意味するところは明らかである。

 この世界は――――――――――――遠い過去に、滅亡していたのだ。







 股間の内に収めた『ファンフィクションコマンダー』から響く電子音、アールワンは其の通話を受けた。
「ヘロウ、アイム――――――――――――」
『よう、アールワン。
凹んでるんじゃないかと思って電話してみたんだが…………』
 朱の巨神――――――コーディーからである。

「久しいな、コーディー。
申し訳ないが早速質問がある、此処が私の存在する『リリカルなのは』の物語――――――其の終着なのか?」

 目を伏せたまま天を仰ぎ、己が罪状が告げられるのを待つ。
 しかして――――――――――――友たる巨神からの答えは、力強い『NO』であった。

『ここはお前とは別のオリ主、管理局相当でランク『SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS』だった野郎の物語さ。
良くある管理局断罪モノで、とっくにエタっちまった作品だよ』
「――――――――――――そのオリ主は?」
『此処のどこかに埋まってる…………正直掘り返す気力はわかねぇよ』

 悪心に転生させられたことを鑑みても、好き勝手にやりすぎたらしい。
 コーディーは深い溜め息をついた。

「…………まあ、明日はわが身だ。
 墓にセンコの一本でも添えてやりたいが」
『いや、まだ生きてるよ、無駄に高い魔力が仇になったのかは知らんが、肉塊になってもまだ生きてる。
 おかげで転生させることもできねぇってセイザーの奴も嘆息してたわ』

 ――――――すまねぇ、この世界、手を貸すの間に合わなかったんだ。

 苦みばしった口調でそう言った巨神、しかし続けてこう告げる。
 ――――――――――――だがなアールワン、お前の世界は絶対にこんなもんにはならねぇぞ!?







 はたして、焼け爛れてなお世界は広大であった。
 聞けば高町なのはを含め、原作キャラもモブキャラも全員死亡していたこの世界。
 ――――――――――――もちろん彼等のインテリジェントデバイスもだ。

 故に、当てが外れた、だがしかし。
 『彼女』だけは生きていなければつじつまが合わない。

 巨神達にオーダーした世界へのトビラは『無印』における海上決戦にて、我々に手を貸してくれた彼女の世界。
 リリィ・シュトロゼックは今、どのような状況に置かれているのか――――――それだけでも知らねばならぬ!

『ああ、ところでアールワン。
すまねぇが俺もこの辺で仕事に出なければなんねぇ…………『にじふぁん』が色々あってな。
行き場のねぇオリ主たちをどうにかしなければいかん――――――まあリブラの構成員にでも…………』
「…………そうか、よく分からんが体調には気をつけてくれたまえ」
『おう!――――――っても俺神様だし大丈夫さ。
代わりにお前の仲間が今そっちに向かってるわ、それに案内人(?)もまだ其処に残ってるから』

 仲間だと?――――――アールワンは怪訝な顔をする。
 この時点で時間空間を飛び越えられる知人はあまり居ない。

 問いただそうとしても通話の背後からコーディーを呼び出す声がして、そのまま通話が切られてしまう。

「…………『フラグテイカーズ』も参戦か、どうやらよほど厄介なことになっているらしいな」
 アールワン自身もまんざら知らない奴等ではないが、部署違いの巨神達まで呼び出される事態。
 今頃彼等の下部組織足る『リブラ』の秘密基地もてんやわんやであろう、これ以上の助力は望めぬ。



 そんなアールワンの背後で、唐突に次元の裂け目が開き、姿を現す其の女。
「久しぶりね変態仮面――――――ずいぶん辛気臭い場所に立ちすくんでいること」
「?――――――まさか…………………………………………………………貴様プレシアなのか?」
 予想外の存在との再会に、言葉をなくするアールワン。
「あなたの度肝を抜けたのなら、少しは僥倖だわ。
驚かされてばかりなのは性に会わないものね」



 ふむ、とアールワンは顎に手を当て、内心の動揺を隠しながら彼女の肩に手を置き、目を見て言ってやった。
「ババアキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!」



 プレシアは何も言わずにアールワンの目を突いた。
 オウフ!とイッたような声を上げて地面を転がるアールワン。
 そして、彼の瞳の実炎に火傷をしたのか「あっつ!あっつ!!」と飛び跳ねるプレシア。
 
 先程までとは比べ物にならない程、弛緩した空気がヴァイセンに流れる。







「『向こうのプレシア』が先日息を引き取ってね――――――これから時の庭園で旅に出ようと思っていたのよ。
但し今回は娘も一緒、だからもしもの時に戦力だけは揃えておきたくてね」
 プレシアは辺りを見回し、ジャンクヤードに埋もれた『ラプター』の残骸を目ざとく発見し、
アレは動力源を煮詰めなおしたらいけそうね、などと呟く。

「いや、そちらの事情は分かったが――――――君は大分変わったな」
「そう?――――――こっちでもずいぶん色々有ったのよ、だから貴方とも久しぶり」
 妖艶な笑顔を向けるプレシア、言っては何だが、今のナリでは似合っていない。
 だがしかし。
「ああ、そうか――――――勝手な話だろうが、君は今の姿のほうが良く似合っている。
前のような『ピンクパイナップル作品に出てきそうな奇装』よりは遥かにな」
「?さて、褒め言葉と受け取っておくわ」

 今の姿を褒められて、まんざらでもないらしいプレシア。
 変態仮面も鬱屈とした空気を吹き飛ばしてくれた彼女に心中で感謝した。

「所で私の股間に熱い視線をむけないでもらえまいか?
流石にそうまじまじと見られては、役立たずも妙な気を起こしてしまうやも知れぬ!」
「目線が其処に在るのよ!!」

 傍らにある頭をかいぐりかいぐりしながらされながら、連れ立って歩くアールワンとプレシア。
 あらすじが意味を成さぬほど、読者置いてけぼりの展開。
 空白期NEWフェイトの章における最後、エリ坊が渡した写真がヒントになっています、お察しください。



 だがしかしその時である。
 そんな凸凹コンビに向かって飛来する拳の中に納まってしまいそうなほど、小さな影が一つ。



「――――――おや、め☆らし‘ですね?
まさか@だ生きている人間がそ#ざ’しているとは」
 嗚呼、触手の生えた盗撮カメラというグッドルッキンなデバイス。
 言語機能がバグを起こすほどろくに整備もされないまま、長い時を過ごしてきたのだろう四期主人公の相棒(バディ)



 その名も『スティード』――――――そのデバイスは主が肉塊に成り果てながらも尚、彼の傍にあり続けていた。







 血で血を洗う――――――などと生ぬるい表現は似つかわしくない、血の上に血を塗り重ねるような死闘の果て。

 始めは時空管理局に居た『光岡大蛇(みつおかおろち)』という人間を、フッケバインの面々が惨殺した。
 『SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS』――――――という破格のクラスを持つ、最強の魔術師を打破。

 それは彼が再建したという時空管理局(ハーレム)に反発する各次元世界に伝達され、一斉に火の手が騰がり、
やがて其れは幾つもの犯罪者集団を増徴させ、次元世界は再び混迷の時代を迎える。



 リリィ・シュトロゼックは親友の作ってくれた衣服を裂き、出来た其の布に包まれた肉塊をあやす。
 其の瞳に光が失われてから幾年――――――そして、其の腕の中のいとし子も語らず。

 しかり、其の腕の中に抱かれるのは彼女のやや子ではない、想い人の成れの果てである。



 フッケバイン達とともに、火の粉を打ち払いながら『ウイルス』の秘密を解き明かす旅、短い蜜月。
 其の前に立ちはだかったのは憤怒と復讐の念に駆られた『特務六課』
 ――――――――――――中には、愛する男が姉と呼んだ女も居た。
 再会したのは唯の、醜い感情に翻弄されるだけの女であったが。



 さて、リリィも、腕の中の男も、『光岡大蛇(みつおかおろち)』などという男の事は、思い出したくなかった。


  
 だがしかし、彼女達との戦いの末、全次元を埋め尽くす『ディバイド・ゼロ』を放ったのは腕の中の男。
 そして、彼をそんな運命に貶めたのはリリィ・シュトロゼック本人なのである。

 原形を止めている亡骸は埋葬した、武器が残っていた者達は墓標とした。
 彼女の周りで檻のように突き立っているのは、腕の中の男が愛した人々の武装。

 ――――――928、994、695、718。

 ――――――――――――何本ものCW-AEC02X、CW-AEC03X 、そして一本だけのCW-AEC07X 。

















 此処にあるのはわたしにとっては罪の証でも、彼にとってはすきだったひとが眠る場所。
 だから、ここならさびしくないでしょう?――――――――――――トーマ。
















 世界を滅亡させた女――――――リリィ・シュトロゼック。
 彼女は永遠に、罪の意識に苛まれながら、愛する男を搔き抱く。

















 さあ諸君――――――――――――久しぶりにいつものやつです。
 絶望を映し疲れた少女の瞳を見開かせ、其の度肝を抜くために。
 もはや別作品といっても過言ではない続編『魔法戦記』の世界にも、あの男はやってくるのである。







 うなだれたままの少女、その蜂蜜色の髪の毛に。
 スパァァァァァァァァァァァァァァァァァァンと気の聞いた音を立てて、親友のパフュームグラブの残骸が叩きつけられる!
 危うく肉塊を取り落とすところだったリリィ、頭をさすりながら其の飛来物を確認した。

〝まさか――――――アイシス!?〟

 跳んできたと思われる方向を見上げる、ビルの残骸の上、今尚戦火に熱を帯びた地表が揺らめく陽炎の果て。
 霊魂を思わせる白い影がゆらゆらと彼女の瞳に映し出された。




「残念ながら旧友ではない――――――――――――此れはわたしの『狂棒』である」



 其の存在を認識した瞬間、再びリリィの瞳からハイライトが失われる。



「――――――私の名前は『変態仮面』ッ!」
「――――――そして私は『アンチエイジング・プレシア』ッ!!」
「「――――――――――――君の笑顔を取り戻すべく、時間と空間を飛び越えて参上ッ!!」」



 リリィは腕の中の肉塊をきつく抱きしめて、アルマジロの態勢を取った。
 出来るだけ背にした存在を認めなかったことにしつつ、トーマだけは絶対死守の形だった。



「「………………………空気死んだッッッッ!?」」



 予想外だ、みたいなツラをぶら下げて、瓦礫の上から舞い降りる二人。
 着地のズシン、という音が思いのほか近くで響き、より頑なに身を強張らせるリリィ。

〝どこのだれかはぞんじませんが、どうか私達をほうっておいてください〟

 念話に近い、其の少女の言葉は頑なである。
 互いに渋い顔を見せ合う変態仮面とプレシア、こっちは本当の念話です。
(どうしよう、まさか目の前の救いをここまで拒絶されるとはッ!)
(うろたえてどうするの!救いの使者とはほど遠いくせに無理やり救っていくのがあんたでしょうがッ!)
 しっかりおし!と変態仮面のケツを蹴り上げて、プレシアは発破をかける。

「此処までの事情はよく分からないがお嬢さん、君の其の手で世界を救いに行かないか?」
 変態仮面の言葉が重く、リリィの耳朶に響く。
 そして腹が立った、何も知らない変態に、遠い未来に朽ち行くだけの、自身の運命を語られることが。
〝私は存在するだけで罪悪なんです!世界も!友達も!たった一人の適格者だってみんな不幸になった!!
こんな私の手が、何を救えるって言うんですか?きっとまた苦しめて、肉の塊にしてしまうだけですッ!!〟
 念話に近いもので絶叫するリリィ、だがしかし――――――



「――――――いいやちがうねッ!!」
 少女に向かって指を刺し、ジョジョ立ちで変態仮面は言う。
「ただの肉塊ではない――――――きみが其の細腕に抱きしめているのは世界で一番幸福な物体。
世界の有り方に惑い、滅ぼさんと欲し、迷い、悩み、やがて本当に世界を滅ぼして『ヤベ、やっちまった』と後悔し、
光を拒み、闇を求め、女の乳に縋りつき涙しながらも尚、再起の可能性を秘めた

――――――――――――『厨二病』の塊であるッッッ!!」

 大地を焼く太陽が、一瞬カッ!と其の光量を増した。

 たまらず顔を上げるリリィ、陽光を背にした其の変態は、有無を言わせぬ神々しさである。

「――――――――――――少年は、旅に出るものだ。
こんな所でくすぶっていいものではなく――――――又四六時中おっぱいの事を考えて居ようと、与え続けてはならん」
〝私達に、付いて来いって言うんですか〟
「察しが早くて結構!!――――――――――――世界を救う奇跡の形はいつだってボーイミーツガールであるッ!!」
 さあ、と手を差し出す変態仮面。
 リリィは其れを取ろうとして――――――――――――だがしかし。

 かつて研究所で適合できなかった男達の苦悶の表情がフラッシュバックし、伸ばした手を引っ込めてしまう。

「変態仮面…………やはり性急過ぎるんじゃないかしら?」
「何、いかなる難病も一か八かの治療によってたちどころに直ると先人も言っている。
――――――リリィ・シュトロゼックよ、それほど人を肉塊にするのが怖いなら、

――――――――――――いっそ肉塊からイッてみようかッッッ!!!!」

 変態仮面は背後に向けて上半身を倒す、横から見たらまるでガラパゴスケータイのような折りたたみっぷりだ。
 そして――――――――――――正面から見れば、股間の袋に直接足が生えたようにも見えるだろう。



「題して変態秘奥義――――――――――――『ふぐりックス』!!さあ、怖がらずに触ってご覧?」



 下半身だけがすたすたと近づいている様、生命の光が満ちる其れは、まるで台座の上にのった宝玉だ。
 其の威容にたまらずプレシアはテスタロッサ汁をフいた――――――もう、喀血などしない。



 恐る恐る手を伸ばすリリィ。
 さあ、さあ、怖くないよと少女に向かって股間を突き出す変態仮面。
 我ながら最悪の絵面、久しぶりの更新なのに本当にすいません。

 ――――――――――――そして、其の指先が変態仮面の袋に触れた瞬間。
 ――――――――――――うじゅる、と少女と肉塊が其の中に飲み込まれた。

 ――――――――――――――――――――――――わずか一瞬の出来事だった。







「出しなさい!早く出しなさい!!」
 必死に変態仮面の股間を鞭打つプレシア、其れを微動だにしない変態仮面。
「ははは、まさかモロ出しを強請されようとは面映い」
「ソレじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 やがて遅ればせながら彼等に追いついたスティードも、プレシアの口からリリィが彼の股間に収められた旨を聞き、
其処から引きずり出そうと両の触手を伸ばす。
 アールワンは三本の鞭打ち攻撃を、誠(ヒートロッド)を延ばすことであしらった。

「は@、は@、なんで+かそのどデカい触手Ha…………」
「どうかんがえても股間に収まんないでしょ?」

「いや、どうも股間にこさえた格納領域が、自分でも広がりすぎて困っているのだよ。
さてプレシア、良ければ其のデバイスをメンテして、私の住まうA’sの世界軸によこしてもらえまいか?」
「…………まあ、いいけど」
「…………と>うか、*めといってもつ$て行きますが」
 肩で息をする二人と一機を尻目に、変態仮面は回りに突き立つ大剣の墓標、その前に歩み寄る。

「スティード、高町なのはの墓標は此れかな?」
「はい、‘うですが…………」
 中でも比較的状態の良い(とはいっても相当傷んでいるが)ストライクカノンをあてずっぽうに指して問うが、
成る程よく見れば、横に小さく掘り起こされた後がある。
 きっと、この世界のレイジングハートが埋葬されたあとなのだろう。
 ――――――――――――だがしかし、彼の世界で出会ったレイジングハートは目の前の亡骸のようにはならぬ。
 ――――――――――――友たる巨神が、必ずや混迷の魔都へ彼女の意思を差し戻す。
 ――――――――――――なればこの巨剣は、新たな魔王の杖、其のガワとして申し分なし!!

「――――――――――――ふんぬ!!」
 アールワンは、選定のソレの如くストライクカノンを引き抜いて、己が股間にあてがう。
 あれほど巨大な剣も易々股間に格納するのか――――――プレシアとスティードも固唾を飲んで目を見開く。
 そして諸君もかつ目せよ!!――――――其の切っ先がアールワンの股間にあてがわれた其の瞬間。








『――――――――――――ぎゅっぶい』
 その股座から、変な声がした。








「む…………ふんぬふんぬ!!」
『ああっ!やめて、そんな大きいものむりやりいれないでぇぇぇ!!』
『こわれちゃう!!こわれちゃうのぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
「ええい変な声を出すな魔獣!だまって受け入れないかッ!!」
『ああ、なんか…………なんかきちゃう…………』
「ようし――――――ぜんぶおさまったぞぅ!?」

 股間を押さえ其の位置を但し、ふぅと息をつくアールワン。
 今の子芝居は一体なんだったのか、問いかける勇気を、一人と一機は持ち合わせては居なかった。







「と、とりあえず、そろそろ私行くわね?」
「すぐ=きますからね?くれgれもリリィの^とを…………」
「ああ大丈夫だ問題ない、我が股間の中において彼女は一人ではない――――――気のいいやつらが揃っているからな。
あとプレシア、ご息女によろしく伝えてくれたまえ」

 傍らに転がっていたパフュームグラブ拾い上げ、プレシアはなんか色々改造した後のある『ファンフィクションコマンダー』
を取り出した。
「あんまりムチャしないようにね、なんかあったらアリシアも悲しむから」
「ソレは不本意だ、では私はNEWフェイトの動向を気にかけることにしよう」
「有り難う――――――でもソレはきっと貴方の役目じゃなく…………」
 残してきた『あの存在』が、負うべき役目なのだとプレシアは告げた。

 やがて次元の裂け目に姿を消す一人と一機。
 ソレを見送ったアールワンは、さて自分もとA’sの世界に向け戻らんと一歩足を踏み出し。




――――――――――――股間から、何かが突き出すような振動を感じた。
――――――――――――ずくん、ずくんと疼く一物に真っ黒な脂汗が流れる。



 そう、先も彼が己が口から述べたとおり――――――リリィ・シュトロゼックは一人ではない。
 アールワンの下パンツの中、股間の『男爵』がおわす領地――――――ハイパーボリアの中には、
別作品世界を漂流し、散らばったジュエルシードを集める旅の途中、やむなく其の袋の中に格納した、



――――――――――――『魔獣』を初めとする、別作品の登場人物たちが、今も尚住まうのである。



「…………止めろマイサン、『彼等』の開放はまだ早い!!」

 其の身に襲う強硬に、溜らず膝を付くアールワン。
 脂汗はゴムのように其の表皮を覆い、上パンツとの境目を潰し、まるで能面のような様を見せた。
 そして羽織ったバリアジャケットの袖がこうもりの翼のような黒光を発する。



 旗から見れば――――――まるで其の姿はクトゥルフが語る『ナイトガント』の似姿。



 確かに、股間に住まうは気のいい奴らなのである、きっと新たなる住人――――――リリィの話を聞き、
 力になろうとするのは当然であろう。

 確かに、彼等は他作品におけるサブキャラとて、十全な力や異能を持つ強者。
 魔都海鳴に解き放たるるならば、元オリ主を差し置いて、瞬く間に事態を収拾して見せるだろう。



 ――――――――――――しかし、だがしかし。
 ――――――――――――――――――忘れては居ない、クロスオーバーの力は、時空暴君が握っている。
 ――――――――――――――――――彼等を地に放ったが最後、必ず奴は其の隙を付き、限界するだろう。



 アールワンは這うような動きで倒壊したビルの鉄骨に近づき、躊躇無くそれに己が股間を叩きつける。
 まるで乙女を犯す様な動きで、何度も――――――何度も!





 言うならば運命共同体。
 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う。
 全てが一人のために、一人が全てのために。
 だからこそ『シナリオ』を取り戻せる。

 多重クロスは家族!多重クロスは兄弟!!



――――――――――――嘘を言うなッ!!



 冷笑にまみれた読者の瞳がせせら笑う。
 忠義、助太刀、誇り、誉、どれをとっても二次創作では命取りとなる。
 それらを纏めて変態で括る!誰が仕組んだ喜劇やら、最低系が笑わせる!!

「お前も!お前も!お前も!――――――――――――だからこそ、俺のチ〇コの匂い、嗅げ!!」

 こいつ等は、何のために集められたのか…………。





 悲劇を黙ってみていられぬのであれば、せめて気絶していろと、己が股間を自壊せしめるようなアールワンの凶行が続く。
 やがて股間の疼きが収まった頃に、憔悴しきったアールワンは昏く笑う。

「そういえば…………衣食は鑑みても住環境を整えてはいなかったな…………『魔獣』はともかくとして」
 ――――――――――――そして、一陣の風が吹くころには、もう、打ち滅ぼされた世界にアールワンの姿はない。







 所変わって、此処は魔都『海鳴』――――――とある郊外の一角に、解体業を営む親子二人。
 目の前には、些か古びたラブホテルがある。
「遂に此処もバラしちまうんだなぁ…………」
 タバコをふかしながら壮年の男が呟く。

 バブル期の終わりごろに開店したこの施設、若い頃は幾度と無く世話になったものだが、景気の下降に追われ幾年。
 中の資材そのままに閉店してからも買い手の目処が無く、特殊な構造から異業種の活用も出来ず。

「ってもよ親父、こんな古臭いデザインじゃ若い奴も恥ずかしくて入れねぇよ?」
「バカ野郎――――――女房にお前仕込んだのも此処だぞ?」
「っわ!生涯で一番聞きたくねぇ情報だよソレ」

 ――――――此度街に解き放たれた魔道犯罪者達の巣窟に利用さそうな施設として。
 ――――――――――――今宵、白亜の城は打ち壊されようとしていた。

 だがしかし、男の感傷を打ち砕かんと、背後からかけられる声。
「もったいないな――――――もし不要とあらばこの建物、私にいただけまいか?」



 誰何と振り向く二人の男、其処に立つのはパンツを被った巷で噂の、其の怪人。
「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!――――――変態だッ!?」」
「変態ではない、私の名前は変態仮面――――――上方にはよろしく伝えておいて貰いたい」



 よっこいしょ、と建物の端に股間をあてがう変態仮面。
 たちまちうぞるッ!と巨城は、彼の袋に吸い込まれた。

「でわ、諸君――――――今、夜道は大の男にも危険が付きまとうゆえ、気をつけてな」
 跡地を尻目に、二の句を告げられずに居た親子を残し、変態仮面は其の場を去る。

 やがて、彼の背中からこだまする、
 ――――――――――――「うわ~みてみてハサウェイ!お城だよ!」という十台半ばの少女の声。
 ――――――――――――「これで篭城戦が出来ますね、主殿」という色っぽい女の声。
 それらを供に、変態仮面と化したアールワンは再び、危険な海鳴――――――A’sと呼ばれる物語の渦中に其の身をやつす。



 ――――――――――――だがしかし、ソレは真に『原作』が望む姿なのか、ソレは今だ、誰も知り得る事はないのだ。




「ふ、フフフ、ふぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁははははははははははハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」」





[25078] 【A’s編第六話】日常への帰還すら魂の軋みを呼ぶのみなの
Name: str◆faf4f234 ID:8f044a34
Date: 2013/03/06 13:11
 高町なのはにとって、早朝の魔法トレーニングは日課であった。
 それゆえに、愛杖が失われた後、目を覚ます時は深い虚脱感に襲われる。







 海鳴に新聞は来ない、サイレンの音と怒号、時に爆発音が響き渡る夜が過ぎた後は、鳥も文字通り鳴かず飛ばず。
 静寂に包まれた中、隣で眠るNEWフェイトを起こさずにベッドを離れるのは骨の折れることだ。

 なのはは寝巻きからラフな格好に着替え、パーカーのフードに久遠を入れた。
 この小さなボディガードは気配に敏く、少女が起き出すと必ず目を開け、柔らかな体毛を擦り付けてくる。
 頬まで持ち上げると、まるで顔を洗うかのようにじゃれ付いてきた。
 その感触で、意識も幾ばくかはっきりする。



 そして、静まり返った道場の脇を抜け、荒れ果てた道路を進み向かう先は繁華街。
 ――――――――――――とある地下にあるダンスホールである。







 深夜を越えて飲み、歌い、騒ぎ疲れた若者達が所々で座り込んでいるのが見える。
 非番の軍人や自衛隊が居れば、戦中というストレス下でガス抜きがしたいだけの若者達も居る。



 そんな彼等のために、危険を承知の上で連日営業するクラブ。
 オーナーは今宵もシメを飾るDJとしてグルーヴ感あふれるサウンドをチューンしてきたが、流石に早朝近く。
 危険を冒して手に入れた安酒に、早くもヤられているBADBOY達に向け、今はメロウなR&Bの時間だ。

 ぼちぼち帰路に着き始めた客足を眺めながら、完全に波が引いたら店を掃除して夕方まで眠る。
 此処半年繰り返し、彼を蝕み始めた日常という名の危険なルーティン。



 ――――――しかし、今宵は最後の最後にBIGなゲストがDJブースにお出ましだ。
 ――――――――――――肩を叩かれ、ふりむいたFatgay。
 ――――――セクシーGALのバストより魅力的な、まんまるfaceに二本の導火線をはやしたlittleBOMB!
 ――――――――――――なんてこった、この街で一等危険なヤツがその席を開けろと急かしてるじゃねぇか!!



「――――――HEY!GAY’s!!
 いますぐ床に貼り付けたケツを剥がせ!いまこのブースにとんでもねぇBIGゲストが参戦だ!

――――――――――――あの『海鳴の白き魔王』!ナノハ・タカマチが俺達にHOTなチューンを届けに来たぜ!!

 ダれた空気を再び燃やせ!最高にアツい冬のラジオ体操だCome’oオオオォォォォォォォn!!」



 瞬間、其処にいた若者達は黄色い頭も赤い頭も黒い頭も、アメリカンクラッカーのように打ち鳴らしあいながら立ち上がる。
 中には自警団丸出しの敬礼をかます屈強な筋肉もいた。
 熱い視線をガラスの向こうに向けるキャバ嬢も、ホームワークを丸投げした女子高生もいた。
 ――――――まさか、この目で救世主をお目にかかる日がこようとはッ!!



「――――――――――――なの☆YEAH」
「「「「「「「「HoOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」」」」」」」」」



 ブースにある革張りのシートによじ登った高町なのはが、腹の底からそんな低音を搾り出しただけで、
密閉されたクラブハウスの空気はヤバぃくらいにフットーしそうだYOooooooooooooooooooooooo!!



「ハィ!みんな盛り上がってた?盛り上がってなかったね?ダレてたね!?OK、ちょっと頭燃やそうか…………
今、お店の外は氷点下イきそうです、マジ、チョー寒いです。
腰ふれないヤツは容赦なくドラム缶に突っ込んで無理やり薪にしちゃうからそのつもりでYOUNOW?」
「「「「「「「――――――――――――Booooooooooooooooooooooo!!」」」」」」」」
「だいじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぶ!みんなダイじょぉぉぉぉぉぉぉぉッッっぶ!!
――――――そうこの空気なの、戦いでこの空気大事。
私たきつけてみんなKE☆SI☆ZU☆MI、でもここにいるみんなコークスよりもGE☆KI☆A☆TU!!
さぁ始発が来るまでバーベキューしようぜ!?コンクリートを金網にして悲しみに暮れた街を焦がしてやろうゼ!?」

「「「「「――――――なの☆YEAHhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!」」」」」

「センキゥ!!それじゃNON・STOP・NANO・MIX!!
まずはこのナンバーから――――――――――――Bright Wings~EUROBEATedit~ッッッ」

 いきなり身内のRE・MIX――――――しかし世界的歌手のヒットチャートもなのはの手にかかれば見事にバケる。
 一目見ただけで理解した複雑なDJ機器を駆使してビートを刻み、メロディを揺らし、ターンテーブルが唸る。

 舞台は少女の独壇場だ、BADBOYもFryGarlもDADDYもみんななのはの美技(テク)に夢中。
 空前の一体感、最高の気分で夜明けを迎えた魔都UMINARIにて、今日もみんな、リリカルマジカルがんばります!!








 そして、NEWフェイトはフカフカベッドの上で揺り動かされ、目を開いた。
「――――――ぉはよ~NEWフェイトちゃ~ん、学校の支度するよ~」
「んぅ…………おはよう、なのは…………」

 ニコニコ笑顔の親友に起こされる朝、壁には二着並んだ制服、視界にはうれしいモノだらけだ。
 そんな幸せな朝、とりあえず顔を洗って歯を磨き、桃子さんの朝ごはんを食べよう。

 ――――――今日は、久しぶりになのはが学校に顔を出すと聞いた。
 ――――――それゆえに、今日はボディーガードとして、なのはの制服の予備を着て、その校門をともに潜るのだ。

 しっかりしなくては、緩む頬をぴしゃりと叩き、NEWフェイトは階下へ向かうなのはの後ろにつく。
 ――――――――――――所で、何故パーカーのフードの中で久遠が目を回しているのだろうか。



 
 トーストと目玉焼き、オレンジジュースの朝食を取りながら、高町家の面々は穏やかな朝食を迎えている。
 そして、庭ではアースラ武装隊が巨大なお釜で炊いた納豆かけご飯を奪い合っている。
 窓ガラス一枚隔てた先で広がる戦いを眺めながら、もうだいぶ1Gに成れたね、とほっとするNEWフェイト。
「恭也~、ガールフレンド、助けなくていいのか?」
「ん?あの二人なら大丈夫だよ、上手く裁いてくれる」
 もみ合いへし合いに巻き込まれている青いのと緑色を心配する父、士郎。
 彼等の後ろの盆栽に穏やかな視線を向ける恭也とあらあらうふふな高町家女性陣。

 そんな家族に囲まれて、なのはは二杯目のオレンジジュースでエネルギーを再チャージすると、
誰よりも早く『ごちそうさま』をする。
「――――――さあ、ひさしぶりの登校だね!
早速アリサちゃんにメールしなきゃだね!!」
 謎のシャドーボクシングを繰り出す末っ子をほほえましく見ながらも、ところで、と高町士郎は釘を刺す。



「なのは――――――今日から家と学校と店以外、外出禁止な?」



 特徴的なツーテールを二時半の位置に傾けながら、ギギギと父のほうを向くなのは。
 桃子さんから受け取ったお盆を机に置き、軽快にスクラッチさせる父士郎。

「――――――返事は?」
「なの、YEAH…………」
「――――――――――――良し」







 という訳で、久しぶりの登校を不景気な泣きっ面で向かうことになった高町なのはである。
 天井にデカい蹄のあとが縦に二つならぶバニングス家のリムジンの中、ずっとNEWフェイトと久遠によしよしされていた。
「――――――ほら、なのは。
学校着くから久遠しまいなさい」
「はぁぁぁぁぁぁぁい…………」
 すずかに言われのそっ、とした動きで頭上の久遠を持ち上げ、スカートの下、己がパンツの中に押し込む。
「なんかアレね――――――『D』のポケットみたいな…………」
「くおん!」
 秘密動物が答える――――――彼女の下半身から。
 アリサはもう突っ込む気も失せた。



「それで、フェイトちゃんも今日から私達と同じ学校に通ってくれるの?」
 そして着慣れない聖祥の制服に着られているNEWフェイトに向かって、すずかが聞く。
「うん、基本的になのはが学校に行くときはついていくつもり。
まあ――――――夜にお仕事が入ったら、休んじゃうことがあるかもしれないけど」

 むん!と力んでみせるNEWフェイトに反して、三人の間にはどこかぎこちない空気が満ちる。
 アリサもすずかも、此処になのはがいる、ということはかけがえない相棒が彼女の手を離れた故と理解しているからだ。
 そんな微妙な空気をフェイトも察し、ところで!とすずかの肩に手を置いて無理やり話を横に持ってゆこうと試みる。



「ところで――――――私は『フェイト』じゃない……『NEWフェイト』だ」



 そこんとこ大事よ?と真顔で言われれば、横にずらそうとした話が宇宙の方向へカッ飛んでゆく。
 突っ込んでいいものか悪いものか…………助けを求められるように親友二人の視線を浴びたなのは、苦笑いするばかりである。







 果たして、なのはが半年以上の間を空けて登校した私立聖祥大学付属小学校は、記憶の中のソレとかけ離れていた。
 崩れた校門、少年達がサッカーに興じていたグラウンドには幾つもの爆発後。
 校舎は煤け、体育館の大穴が開いた屋根の下では、家を焼け出された幾つもの家族が薄い毛布に包まって身を寄せている。

 一切の彩を失った花壇の上にはドラム缶が置かれ、中で焚かれた火を見つめ――――――否。
 光を失った目をぼんやりと火に向けている、下級生が一人、ぽつんと座り込んでいた。



「…………あの子は?」
「おかあさん、いなくなっちゃったんだって。
 もともと母子家庭だったらしいんだけど――――――そのお母さんの会社の知り合いがね、
 あの子を置いて行くなら市外に家を用意してあげるって、本当に置いて行っちゃったみたいよ」

 大人が聞いてもぞっとするような声音で、NEWフェイトの疑問にアリサが答える。

「――――――自警団も、そういった子を引き取る活動をしてるんだけど、
結局ソレって少年諜報隊GUNZEに協力するってことだから、どうしてもなじめない子がいるんだろうね」
 引き換えに、すずかが継ぎ足した台詞は――――――ただたださびしそうな印象を与えるだけである。



 いても立ってもいられずに一歩前に踏み出すNEWフェイト。
 どのような言葉をかけようかなどとまったく考えてもいなかったが、その芯に通る理論は一つ。
 誰であろうと、さびしいことは、いけないことである――――――と。



 しかし、その瞬間。
 ドラム缶の傍らで炙っていた、白い何かを刺した鉄串を少年が手に取った瞬間である。
 ――――――投棄自転車を乗り回す、モヒカンや肩パッドにトゲを生やした上半身裸の男達がものすごい勢いで駆け込んで、
少年が手に捧げる鉄串を引っ手繰って行った。

「ヒャッハァ!――――――この食料は頂いていくぜぇ!!」
「だらしなくトロけて美味そうじゃねぇかッ!!」

 チリンチリンとけたたましく自転車のベルを鳴らして走り去る悪漢たち。
 しかし、呆然としているNEWフェイトや「――――――あいつらッ!」と憤るアリサの横をすり抜けて。



 なのはが走った。
 けして速い身のこなしではない、それどころか目に見えて遅いと呼べるその走り。
 フォームもバラバラで、呼吸なんて何も考えず、ただ怒りのまま拳やかみ締めた歯に力をこめてなのは唯一人が追いかけた。
 ――――――自分ひとりではけして追いつけないと、自分自信が知りながら、だ。



 二十と五歩を越えたあたりでもう頭の中が真っ白になった。
 ――――――だがしかし、そんな彼女の頭を超えて、まるでレーザーのように空き缶がカッ飛んでゆく。
 ――――――なのはの視界のはるか前方にいる、悪漢の頭を正確に撃ち抜いて、堪らず落車し転げまわるモヒカン。

 振り向いた先には、先ほどの下級生が見事に足を振りかぶる姿。
 死んだ魚のような視線は、はっきり分かるほど猛禽のような鋭さを見せている。
 どうやら――――――その辺の空き缶を蹴飛ばして、悪漢に命中させたのは、ほかならぬ彼自身だった。



 情けない悲鳴を上げて逃げ去る男達の背中を眺め、土のついた炙りマシュマロを躊躇無く食いちぎる下級生。
 その一部始終を眺めていた男子上級生達が彼に群がる。
「――――――おい、君こんなところでくすぶっていたのかッ!」
「足はまったく衰えてないようだな…………その魔導師も撃ち落したという幻のフリーキックを是非ウチで生かして…………」
 どうやら、かつて彼と一緒にグラウンドを駆けたサッカー少年団らしい。

 だがしかし、再び光を失った目を向けた下級生は、ぼそぼそと言い返す。
「やめてくだせぇ、先輩方――――――あっしはもう、サッカーボールはすてたんでさぁ」



 尚も詰め寄るサッカー少年達は次第に数を増し、あまりの事態の急さにあっけに取られる原作少女達。
「あの子はちょっと――――――馴染めないのとは、違うみたいだね」
 どうにか感想らしい感想を口にしたすずかの横で、なのはとNEWフェイトは瞬きも忘れて下級生を見つめ続けた。



 ただ、その二人の視線には――――――――――――明確な温度差があったとだけ付け加えておこう。







 さて、うってかわって、突然ですがここでめずらしいクロノの求愛シーンをご覧に入れましょう。

「うぁ~、ただいまぁぁぁぁぁぁああああ~~~」
 ボロアパートの扉を開けて、右へ左へ振り子のように揺れながらつがいの元へ歩いて行く黒い影が見えますね?
 クロノ・ハラオウンです、こう見えて14歳で時空管理局の執務官という働き者です。
 ですが、流石に徹夜で旧友(仇敵?)と作戦会議をした後では疲れているんでしょうか…………なんか黒いです。

 いえ、もともと黒いんですが――――――黒さに磨きがかかってないというか、ツヤがないです。



「おかえりー、ってなんかものすごいグロッキーなんだけど!?」



 出迎えたのはエイミィさん、クロノとはとっても仲良し♪
 玄関先から三秒でエプロン姿のエイミィさんにご対面できる素晴らしい住処もあいまって、靴を脱ぐのももどかしく、
持ち前の小さな体躯を生かしてクロノはエイミィさんの胸に飛び込みました。
「うん~、つかれたぁ~」
 頭の位置にオパーイがジャストフィット、上半身で上半身ごとホールドしてほっぺたをすりすり。

「ぎゃあ、なんかクロノ君くさい!!」
「そりゃあ、日がな一日中beastのヤツと額つき合わせてたからね」
 フェレットくさい?フェレットくさい?となおも働く男フェロモンをつがいにこすりつけていきます。
「ごめん言い方悪かった――――――なんか酸っぱい」
「僕はなんか、いいにおいがする」

 ああそうなのよいまビーフシチュー煮込んでたのよクロノ君たら帰り遅いからいい時間にこまれてるわよ~。

「――――――エイミィから、いいにおいがする」
 ほら、エイミィさんも年下と侮っていた相手の男臭さに、まんざらではないようです。
 すぐに顔を真っ赤にして、ふともものあたりをもじもじし始めました。
「――――――ご飯食べてから!」
「さきにエイミィ」
「台所片付けなくちゃ」
「さきにエイミィ」
「……………シャワー浴びてからでいい?」





 さて諸君、ここまで書いておいてこれから二人が行なう事情に見当がつかないならば、
君はスクールで与えられる保健体育のカリキュラムを正当に受けていない可能性がある。

 もし仮に、本作品の高町なのは達と同年代であるならば、君は速やかにブラウザを閉じてホームワークを片付けたまえ。
 そうでないのならば、次のセリフを読んでクロノとエイミィの置かれた環境に得心するといい。




「――――――久しぶりに実家に帰ってみたら、不法入居した友人達のヤリ部屋になっていたでござるッッッ!!」

 ボロアパートのうっすい扉に背を預け、腕組みをしたその男、変態仮面。
 硬く閉ざされた瞳の内側に飛来する感情、いかばかりか?

 傍らには盗撮カメラに触手が生えたグッドルッキンなデバイス――――――スティード。
 そしてギリースーツを着込んだ戦技教導隊の緑色のムック――――――モコ・モッコス。
「をを――――――クロノさんセーターの裾から手ェ突っ込みましたよ?」
 などと静かに興奮しながら、めずらしい執務官の痴態を激写している。

 そう、海鳴自警団がクロノに提供したセーフハウスは、彼等自身勝手知ったるアールワンの部屋であった。
 もちろん卑猥なものはレンタルコンテナに押し込められ、黄金のスツールは風呂場へ。
 有るべきものが有るべき場所に収められたはいいが、ヤりたい盛りがヤれる場所へ押し込まれたならば結果は明らか。
 絵に書いたような堅物も、はっちゃけられる場所があるならそれはそれでイイじゃない?

 ――――――――――――加えて身勝手に世界を後にした自身。
 もちろん割って入る余地も無ければ、コンドームを投げ入れるのも無粋というものであろう。
 変態仮面に介入の意思はない、よろしくヤッてくれの心意気である。

「しっかしまったくやるせない展開であるな二人ともォ――――――草でも生やすかw」
「www」
「www」
 いやらしい笑みをちっとも隠そうとしないデバイスとギリースーツの男を残し、変態仮面は旧居を後にする。
 
「ところで二人とも、もしシャワーシーンを拝みたいなら風呂場の天井にCCDカメラを隠してあるから」
「ちょッ!おま…………」
「元・自分の家の風呂場にカメラっ!?」
「――――――ははは、お袋にもバレていない秘密のイタズラさ。
ついでがてら、事後には二人にコレも渡しておいて貰いたいな――――――手間賃代わりのお使いだ」
 股間をまさぐり、二つの栄養剤をスティードに投げ渡す。
 デバイスは触手で器用に其れをキャッチし、其れを確認すると変態仮面は踵を返した。
 行き場をなくした一人の男が、はははと快活な草を残し、まだ低い位置で輝く朝日に向かって歩いて行く。
「――――――ところで、変態仮面さんはこれから何処へ行くのですか?」
「――――――――――――本来なら自重すべきところなのだがね。
ちょっとオリ主らしく、昔なじみの様子でも見に行こう――――――手筈通り高町の近辺は頼むぞ、スティード」

 

 そして、残された一機と一人は、数十分に渡ってたっぷりとクロノのシャワーシーンを録画する羽目になるのである。









 授業も無く、唯友人と話すだけの五項目までが過ぎ、学校から帰ったNEWフェイトは応急処置が済んだ愛機を手に取った。
「出力77%――――――――――――メインフレームを一度切断されたのは、痛いよね」
『I''''m sorry.masutar――――――But…………』
「ううん、問題ないよ、バルディッシュ。
 もう――――――不覚は取らないから」

 何事か言い加えようとするバルデッシュの二の句を封じるように、強く待機形態のソレを握り締めたNEWフェイト。
 短い冬の午後、もうすぐ夕日も傾く。
 誰に強要されたはずも無く――――――今宵自らも、この町の闇の中を疾駆(か)ける一凪の正義になる。
 友のように――――――――――――あの誇り高き海鳴の白き魔王のように、自身も新たなる正義と化す。

 嗚呼、さらに新しい名前でもほしいところだな!!――――――NEWフェイトは思った。

 セットアップしたバリアジャケットを翻し、NEWフェイトは高町家の窓から一路、危機孕む街の方へ飛翔す。
 だがしかし見送る諸君、その雄姿を目に焼き付けるのをさておいて、一つ後ろを振り向いてみてほしい。

 

 ドアの影から死んだ魚のような目で、無意識にパンツの裾を噛み締めた高町なのはも彼女を見つめているぞ!?



「…………なのは、ちゃん」
「――――――ッは!?私いつの間にフェイトちゃんの洗濯物を!」
 美沙斗に見咎められたなのはは超☆ゴム伸びてるのッ、と手にした黒ぱんつをポケットに捻じ込む。
 そのままえへへへへと愛想笑いで美沙斗の横をすり抜け、階下に下りようとする――――――しかし。

 御神の武人たる御神美沙斗にかかれば、なのはの心中は一目にして瞭然であった。
「戦いに出る戦士を……唯見送るだけなのは……つらいね」
「――――――うん」
「でもね…………ソレも戦いの一つの……形かもしれないね。
爪と牙を篩(ふる)うだけの私が…………そんなことに気がついたのは……ようやっと、今頃になってからだけれど」
「――――――――――――うん」

「今は……考えるときだよ。
…………そしてもう一度出した答えならば、どんな物でも………この町に住んでいる人たちは、其れを肯定するだろう」
「でも!――――――レイジングハートが!!私に…………」

 美沙斗は深く瞳を閉じると、なのはの頭に手を置いて――――――そのまま強く抱きしめた。

「あのデバイスもなのはにそんな顔をさせているようだったら…………きっと自身の選択が間違えていたことに気づいただろう。
 でもね……どんな暗闇の中にでも…………人を導いて行く、新しい風は吹くものだよ?」







 黄昏の空を滑空するNEWフェイトの雄姿――――――しかして見よ!立ち向かうのは四つの人影。
 違法魔導師たちの躯の中、悠然と待ち構えるその者達の名は!!




「「「「四神快楽天(ししんかいらくてん)――――――参上ッ!!」」」」



 ――――――――――――お呼びでなかった、NEWフェイトは顎にうめぼしのようなしわを寄せ押し黙る。
 意気込み勇んで違法魔導師たちに正義の鉄槌を食らわせしめると思っていたが――――――どうやら、先を越されたようだ。

「過日ぶりだな、管理局の黒い魔導師――――――今宵こそは尋常な勝負の果て、貴様のリンカーコアを貰い受けるぞ!」

 尻二つ付きの騎士が果し合いを高らかに望む。
 しかしNEWフェイトは顎にうめぼしを作ったまま、ぎりぎりと歯軋りをした。
 こちらとて先日の借りがある、一刃の元に相手を叩き伏せ、彼等の思惑をつまびらかにしたいところではあるが。
 四対一とあらばいかにもこの身が不利である、いかにしてくれよう。

 そんな懊悩を感じ取ったか、犬耳犬尻尾の偉丈夫が騎士然とした女に声をかけた。
「我が将よ――――――此処は一つ提案がある。
過日の焼き直しを計るのであれば、相手の布陣も出揃うのを待つのが士道。
――――――見よ、彼の者ちょっと泣きそうだぞ?」
「――――――――――――泣きそうじゃないもん!!」
「おう、無理しなくてもいいんだぜ?
ていうか『海鳴の白き魔王』はどうした?――――――噂どおりやっぱし引退するのか?」

 ハンマー持った赤い騎士も言葉に言葉を重ねてくる。
 ――――――というか、コレ幸いにとなのはの心配をしてくるあたりやっぱり先日の激戦の後を気にしていたらしい。

「――――――私に勝ったら教えますッ」
「そうだぞザフィーラ、この闘志あふれる戦士を前に、余計な気遣いは却って無礼というものだ。
なに――――――今宵は貴様と私で一対一、このレヴァンティン持ってすればたちどころに決着も付こうものだッ!!」
「あの…………ごめんね?
ウチの将あの戦いの後すごく煮え切らないみたいで、原因不明の生理不順みたいな…………」
「我等に月のものなどないッ!!」



 セイリフジュンってなんだろう、一瞬NEWフェイトはいぶかしんだが、はたして此方もデバイスを振りかざす。
 にらみ合いのまま相対する二人の剣士、なにかの拍子があれば共に弾けんがばかりの緊迫した空気。

 ――――――――――――瞬間、コンクリートの大地に突き立つ『文化包丁』を合図に、二人は跳躍した!!

 二合、四合、八合と――――――――――――倍に倍する剣采が海鳴の空にはじけて散る。
 火花が閃き、魔力光と刃が照らし返す夕日の欠片が虚を彩ったならば、その瞬間には飛行魔法を駆使した双方の残影が散る。

 嗚呼戦人ならずとも目を奪われる剣舞、だがしかしてもったいなくも、その艶姿は地に残ったベルカ騎士の目には映らず。
 ――――――なぜならば、この喧嘩祭りの火蓋を切ったのは、ほらあれだ。



(((『文化包丁』ッ――――――!?)))



 ヴィータとシャマルとザフィーラが、ギゴゴと首を動かして斜め前方四十五度を垣間見たならば。
 半ば崩れた建物の上に、逝っちゃった眼をしたあの戦士が――――――おわすッ。



「…………ロリ…………即…………斬…………!!」



 ――――――――――――ナギサ・ザ・マッドシスター!?



「――――――――――――おにいちゃんをたぶらかすバイタ共がァァァァァァァァ!!」
 瞬間、化鳥のような構えでヴィータに跳びかかる『海鳴が誇る善意の住人』
 ヴィータはとっさに手にしたグラーフアイゼンで防御するが、誇張抜きに十メートルは吹き飛んだ。
「ヴィータちゃん!?」
「ヴィータ!?」
 沈着冷静な二人も、あまりの剣幕に唯の一瞬呆けた。
 それが命取り――――――猛襲が瞬く間にヴィータと二人の距離を開けて行く。
「――――――小学生は犯罪だァァァァァァァァァ」
 まるで小学生そのものが犯罪のような言い分に、何事か返そうとするヴィータ。
 だがしかし、其れすらも二人は聞き止めることが出来ないほど、二人は彼方へ向かっていた。



「いけないわ、後を追ってザフィーラ!――――――相手は出来るだけ無力化して?後々街に禍根を残すから」
 シャマルが指示を飛ばすも、しかし当のザフィーラはあさっての方向を向いたまま微動だにせず。
「――――――ザフィーラ?」
「すまんシャマル…………もう一人、来るッ!!」



『♪月夜の晩の~ 丑三つ時に~ ヤモリと バラと フ〇スクを♪
♪焼いて砕いて粉にしてっ 後ろのっ穴にいれるのさぁ~♪

♪そして一言となえればァ 世にも不思議な呪文になるよォォォォォォ♪』



 宵の一番星が輝く方向から聞こえてくる風切り音――――――そしてザフィーラは前方に手を掲げ。
「――――――――――――おおおおおおおおおおおおおぉぉぉっっっ!!」
 隕石のように飛来した、長い其れをガッチリと受け止めた。
 何と言う勢いか、其れそのものの重さもさることながら、あまりの勢いに地面を割ってザフィーラの踝までが地面に埋まる。
(なにこれ――――――ベンチ!?)

 己が身長ほどもある木製のソレ、そしてとくと見よ――――――その端に座っている存在を!
 誰もが彼をこう表するだろう――――――――――――ウホッ!いい男と。



『お前引き締まったいい尻をしているな――――――やらないか』





(自分が投げたベンチに、飛び乗って此処まで来たと言うのッ!?)

 ――――――――――――アベ・ザ・ヤラナイカマン!!





 木製ベンチの端と端、情欲100%の瞳でザフィーラの股間を見据えたウホッ!!いい男。
 ツナギのファスナーを下ろす様に、貞操の危機を感じ取ったザフィーラの喉がごくりと鳴る(それ以外の他意はない)

「離れろシャマル――――――此処も安全ではなくなった」
「どうしよう――――――どっちの意味で取ればいいのかしらァァァァァァァァァァァ!?」

 両手で顔を隠して乙女走りで駆け出すシャマル。
 完全に分断された四人の現状に、策士を自称する己の敗北を、確かに感じる。

 

 そして、止めとばかりに泣き濡れるシャマルの視界に、転がってくる一本のビン。
「――――――――――――何が起こるかわからない、其れが魔都・UMINARIか。
 僕としては、イレギュラーの類は極力減らしておきたいんだ。
 分かるだろう?――――――――――――四神快楽天(ししんかいらくてん)が一柱、人妻青龍シャマル」
「わ、私は人妻じゃ有りません!」
「嘘を言うなッ!!――――――――――――自警団のデータベースはすでに頭に叩き込んである。
 秋までは彼等と共に悪と戦っていた君達が、何故今になって海鳴の白き魔王に牙を向けたか、
 この僕がッ、四神が頭脳たる君にしかと問い詰めたいッ!!」

 シャマルが顔を上げると、デバイスを杖代わりに立つへっぴり腰の執務官――――――メンズナックル・ボーイ。
 計算が変態によって捻じ曲げられるこの戦場に、図らずも一対一のカードが四つ。



 嗚呼。軽はずみに襲撃など、誰あろうこの街が許すまい。
 ヤっていいのはヤられる覚悟が有る奴だけだ、そうあざ笑うかのように。
 シャマルの視界の端でアスファルトの上をころころと『超時空精力剤レッドバイパー』のビンが転がるのである。




[25078] 【A’s編第七話】激闘に次ぐ激闘!奴らの名は四神快楽天(ししんかいらくてん)!!なの
Name: str◆faf4f234 ID:8f044a34
Date: 2013/03/13 22:01
 月光の白をキャンバスに、黄金と紫紺の光線が不規則な彩りを描く空。
 夕日沈んだ海鳴の空を縦横無尽に駆け巡る二丈の光は、不殺傷の理を持ってなお鋭く戦意を孕みつつ、花火のように儚く映える。

 それを生み出す二人の表現者(アーティスト)は、目を凝らせば火垂るのように淡き光をまといし魔導士二人。
 それも年端もいかぬ乙女である、幾多もの空を見上げし魔都の住人が、その危険な芸術を目前に神へ嘆いた。


 ――――――なぜ人に、かくも厳しい試練を与えようものかと。 
 ――――――――――――安寧を感受すべき乙女が二人、何故刃を振るいこの地で凌ぎを削り合うものかと。








「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「づぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」

 そんな眼下で祈る住民の心を知らず、乙女二人は持てるすべてを愛機に込めて、目前の相手へ叩きつける。
 飽きず何度も、ただそれだけが自身の証とばかりに力強く!

 ――――――――――――生きている。
 ――――――――――――――――――今、自分はこの時を精一杯に生きている!!

 実力拮抗した者たちのみが互いに与えられる共感、今君の前に『新たなる正義』NEWフェイトと『おっぱい白虎』シグナムが見せるのは、
 ――――――――――――『脳筋』という二文字が持つ本当の意味。

 黄金の鎌ををふりかざすNEWフェイトの背後、まけじと両手剣をかまえるシグナムの背後、
彼女自身の幻がパイ生地にこんもりクリームをのせ――――――つばぜり合いと同時に相手の顔に叩きつける!
 一方の幻が手にするは中華鍋――――――つばぜり合いと同時に中のチャーハンを相手の顔に叩きつける!

 ――――――――――――ドヤ顔!!
 ――――――――――――それに次ぐドヤ顔!!

 うふふふふ、あはははは!!
 互い人知を超越したその技故に、まるで児戯を見せつけ合うかのような純粋さ也。
 戦人たちの逢瀬は天界に住まう使徒のように、凄惨にくるんだ幸福を向け合うのだ。



 え?表現がいちいちわかりずらい!?
 ――――――――――――トムキャットとジェリーマウスの関係みたいなもんだよ。







 天に幸福あれば地に絶望有り――――――視点を下に移せばそこでは『ロリ朱雀』ヴィータと相対する『ナギサ・ザ・マッドシスター』!!

 時にヴィータが愛機、グラーフアイゼンは言わずとしれたハンマー型デバイスである。
 その純粋な破壊力、破砕力は四神快楽天…………否、作品中随一と言っても過言ではないだろうが、いかんせん今宵の相手は相性が悪すぎた。



 『ナギサ・ザ・マッドシスター』――――――彼女の戦闘料理法は“超零距離”にある。



 両手に携えた文化包丁が魅せる神速の交差は魚を三枚に下ろすがごとく冴え渡り、手首を返して打ち下ろす峰はいかなスジ肉すら柔らかくする殴打。
 幾戦の修羅場を分けたヴィータであるが、はたして互いの足を踏むほどの超近距離から放たれる斬撃をして、望まぬ防戦に徹するより他に無し。

 否…………果たして相手は本当に自分と『戦い』を繰り広げているのだろうか?
 ここにきてひとつの仮説がヴィータの脳裏に飛来する。

 頭上見上げれば相貌に輝く相手の狂気…………ひょっとして奴は、自分のことを敵とすらみなしていないのではなかろうか?
 さながらこの地の慣用句≪まな板に堂々と鯛≫のように、自身をただの食材としかみなしていないのではなかろうか?



(っ!―――冗談じゃねぇ!!)
 ヴィータは唇を噛んだ。
(私だってここまで相手を見下したことねぇぞッ!)






 そしてもう一方――――――――――――こちらはヴィータ達とは真逆に、相性が良すぎた対戦カードがあった。
 『受け玄武』ザフィーラが放つ鋼の鞭を暗黒舞踏に似た独特なステップで躱し、文字通り肉薄する男『アベ・ザ・ヤラナイカマン』

 肉欲のみを相貌にたぎらせた彼もまた『ナギサ・ザ・マッドシスター』と同じく“戦闘に別のものを持ち込んで圧倒するタイプ”の戦士である。
(ぬぅ…………こいつ…………出来る、のか?)
 首をかしげるのも訳はない、何といっても相手は百戦錬磨のホモ野郎――――――――――――言っちゃあなんだが変態だ。

 戦場の嗜みは古来より地球でも始まっていたが、この男は常在戦場――――――いつでもどこでもおっぱじめます。
 いわば奴のいる場所がハッテン場――――――目の前に男がいるならそこが『事務所』だとばかりにいい男は笑みを浮かべ、あちこちに傷をこさえたツナギに手をかける。



「はっはっはっ――――――おまえさんも含めて、管理世界の住人は揃いも揃ってオラオラ系じゃないの。
そんなに夜が待ちきれなかったのかい?――――――それじゃあ、とことん喜ばせてやるからな」



 空気が変わった、一糸まとわぬ裸身を前にしたザフィーラは、はからずもここが男として死地になった旨を文字通り『肌で』理解する。
 この世界には最強の鉾と盾がぶつかり合う様をして『矛盾』という言葉があるのを先日知ったが、相手が携えている鉾は、盾足る自分を相手にけして『矛盾』しないのだ。
 否――――――――――――目の前の男は、神が定めた『性差』すらも唾棄し、それと戦い、そして圧倒した絶対性的強者!




 ――――――――――――ふう、もうここまででお腹一杯になってきた。
 さて諸君、実は仕事中今回のプロットを思いつき『本当に自分は大丈夫なのか』とセルフメンタルチェックをかまし、もうだめだと膝をつきました。
 半年以上前の話です、それからずっと静養しておりました。
 目の前にそびえ立つ壁の高さに絶望し、こんな作品を書いてはいたが自分はそこまで変態じゃないんだと、密かに泣いておりました。

 でもさ――――――――――――映画化だって。
 書くしかないじゃないの――――――――――――自分の壁を越えられるのは自分しかいないじゃないの。

 大変お待たせいたしました、この作品は『リリカルなのは』の二次小説ですが――――――――――――今回はこの男の戦いを割愛しません。



 今宵このalcadiaが観光バーと化す!!――――――相手は本サーバーの神『舞さん』である(ご結婚おめでとうございます)。
 ただの一度だけ忠告しよう――――――――――――ホモ以外は帰ってくれないか!!








 
 さて頭上ではシグナムとNEWフェイトの試合が数十合を超えた時点である。
 だましだまし使えば何とか、という損傷具合であったフェイトのバルディッシュが火花を吹いた。
 もちろん、それを見逃すシグナムではない。

「なんだ貴様――――――前回は御身が不調、そして今回はデバイスが不調か?
私も安く見られたものだ、そこまでわたしは他愛がないか?
それとも――――――――――――お前は私のことが嫌いかッ!?」
「――――――――――――ちがうもん!!」

 騎士がテレた、言った後かフェイトも照れた。
《――――――mastar……》
 お見合いをしている場合ではない、手元のバルディッシュも若干言いにくそうにだが口をはさむ。

 決着は近い、一方的に突きつけられた時間制限をして、まだ不撓不屈のNEWフェイトは、目の前の相手をして膝をついていないのだ。








「さて、無手格闘が心情らしい異世界の相手にこんなことを菊のあ失礼かも知れんが、俺の金玉を見てくれ――――――――――――こいつをどう思う」
 ゆらり、と相手を圧倒する陰気を放ちながらアベ・ザ・ヤラナイカマン、一歩も引くまいぞと闘気を放つザフィーラ。
 じりじりと一触即発の気配を見せようとも、いい男のこらえ性はコックリングをハメたが如く長く楽しめます。
「…………獲物の自慢はこの世界で言う『死亡フラグ』だ…………命を長らえたいならば四の五の言わず掛かってっこい」
「――――――――――――やれやれそんなつれないこと言うなよ、行きずりだからこそそんなお前さんの口から感想を聞いてみたい!」




「…………すごく…………大きいです…………」
「ふはははははははは!!忘れられない夜にしようぜガッチリィィィィィ!!」



 言うが早いが、間合いを詰めるアベ・ザ・ヤラナイカマン。
 いつもならば掴み(グラップリング)など真骨頂とばかりに受けて立つザフィーラではあったが、今宵の相手は何か危険。
 地を這うように疾駆、そのまま狼の形に姿を変え、迎え撃つ相手の足元を狙い転倒させる。

「――――――――――――ははははははは、まさか狼系を相手にしたことはあったが本物の狼とは!!
さすが次元世界の相手は格が違ったッッッ」

 なぜ嬉しそうなのだ?訝しむまもなくヘッドスプリングで起き上がる相手を、ザフィーラは空中で身をひねり相対する。
 それものそのはず、けして彼は知るまいが目の前の男はGMPDは愚かK官もJ官も相手取ったことのある誰専である。
 イカニモなその男を前にしてその察しの悪さは、そのケツに死を招こう。

(狂気が目から消えていない…………まさかこの姿でも、その、いたす腹づもりかッ!?)
 もはや直感は核心である。
 目の前の相手はこの街中を帳に、この自分とねんごろするつもりなのだ!
 馬鹿な!悪い夢なら早めに覚めてもらいたい!!




 ザフィーラは再び人の姿を取った、獣の動きで翻弄するのは逃げにしかならぬ。

 ついでにほら、語り部的にも獣相手なら舞さんも許してくれるかな、みたいな考えは日和ってるみたいだし。
 


 力づくでも昏倒させ、清い身のまま主のもとに帰還してこそ本当の騎士。
 ファイティングポースをとったザフィーラ、しかしある種悲愴な心構え。
 彼は自身の手で刀林地獄の蓋を開けたことに気づいてはいない、己が意思で世界を全面180度に切り取ったことを理解してはいないのだ。

 迎え撃とうとするのは戦士の性、しかしこのウホッいい男が抱くのはどこまでも相手の後ろを――――――掘る事こそが至上目標であるのだから。







「くそっ…………空なら追ってこれねえだろ!!」

 戦略的撤退とお茶を濁しても苦い気持ちが拭えぬヴィータ、せめてと鉄球を取り出し愛機で打ち付ける。
 絨毯爆撃の様相を見せるも、あくまで威嚇射撃だ。
 直撃させるつもりはない――――――まるでバッティングセンターに入り浸るOLのように、無心で眼下に魔力砲弾を叩き込んだ。

(――――――――――――なに!?)

 
 しかし直後、我が目を疑うヴィータ。
 あいては、自身が放った鉄球を足場に、こちらに近づいてきていたのだ!!








 肉打つ音、巌のような拳がいい男の分厚い胸板を何度となく打ち付けようと、けしてアベ・ザ・ヤラナイカマンは倒れず、そして引かず。
 それどころか腕を広げたノーガード戦法、いくらでも打って来いとばかりに爽やかな笑顔を浮かべつつ、その拳を受け入れていた。

 ――――――ほら、男子高校生って肩パンとかするじゃん?
 ――――――――――――この男にとっては魔力のこもった拳だって前戯みたいなものだよ。

 いつの間にか崩れた高層ビルの隙間から漏れる月光が浮かび上がらせる、ふたりのクルージング・スペース。
 料金は滾る二人の想いだけ、いつしか幻想的な雰囲気を醸し出すこの魔都海鳴は、クィア理論糞くらえのテクニックが蔓延しているのだ、いつでも!!

 本当にどうしてこうなった――――――この作品は『リリカルなのは』の2次創作です。
 ――――――――――――舞さん見てるゥー!?



「おおぅ………腹全体が乳首色に染まっちまったぜ。
 ちと必死すぎやしないか?――――――まあ、ここまでされちまったら俺が先に貸してもらわねえと納まりがつかないんだよなぁ…………」
 引手でへその上をさすり、弓手でがっしりとザフィーラの腕を掴んだアベ・ザ・ヤラナイカマン。
 やられっぱなしだとネコみたいだし、などと言いながら凄惨な笑みを浮かべた。








 カンカン、キンキン
「なかなかやるな」
「あなたも」







 そして読者諸君もすっかり忘れていただろう、メンズナックル・ボーイと『人妻青龍』シャマルの対戦カードであるのだが…………
「どうして…………」
 目の前に、振り子で縛り上げられた真っ黒な人影。
「どうして戦う前から疲労困憊してるのよぅ…………」

 盛り上がらないことこの上なし。
 その細腕でもどうにかなる執務官(笑)の尻を踏みつけながらさめざめと泣くシャマル。

「ごめん、尻はマジで勘弁して…………」
「今どきの子供は、どんなプレイしてるの全く…………」
 足をどけてヒーリングなどかましてあげます、シャマルさんじつにいい娘。

 いや本当にこの黒いの、生命力がレッドゾーンに差し掛かっていたのである、いうなれば…………








 アォッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!








 っていう感じだったのである。
 騎士の戦いに勝って女の試合に負けたといいますかなんと言いますか。


 そんなため息付き付きのシャマルさんの前に、続々と帰ってくる四神快楽天。
 まずは『おっぱい白虎』――――――白煙を吹くデバイスをそれでも離さぬ管理局の魔導士を抱えていた。

「かえったぞ、早速こいつからリンカーコアから収集を…………ほう、お前も勝っていたか」
「もうね…………戦う前に勝っていたというか…………負けていたというか…………」
 こっちの男の子から収集するのは勘弁してあげて、死ぬから。

 ボソリとつぶやく視界の端で、ダンブルウィードのように転がる精力剤の空。



 続いて、ベソかいてもどってきたのは『ロリ朱雀』ヴィータであった。
「もうやだ…………あいつ戦いたくない…………」
 あちこち切り傷とか爪痕とか、歯型、とかついた満身創痍の姿だった。
「おいおい…………デバイスに血糊がついてるぞ?殺してはいないだろうな」
「殺してねーよ!!」
 得るもののない戦いだった、一番ババを引いたのはこの幼女であったのかもしれぬ。



 そして最後に、たいそう時間をかけて戻ってきたのは…………
「すまん、不覚を取った」
 言わずとしれた『受け玄武』ザフィーラ、尻を抑えて目が死んでいる。



「さあ、思わぬ時間が掛かっちゃったし、もう帰りましょう!
とりあえずチャッチャと収集して、主のもとにもどらないと…………」
 決して安全な街じゃないんだからここは!とまとめ役の面目躍如みたいな声をだしてシャマルがパンパンと手を叩く。

 まさか半日かかるとは思っていなかった今回の『遠征』――――――主はやてが心配だった。
 この寒空、いよいよ心優しい主が用意した鍋が恋しいと、そんな折である。



 シャマルの懐に入っていた、携帯電話が鳴った。



「も、もしもし?――――――どうしたの、何か緊急…………」
 戦いに出向くことは初めから伝えていた、故によほどのことがない限り彼女の方から電話をかけてくることはないはずである。

 そして、おそるおそる出た電話――――――主はやては甲高い声で…………大爆笑していたのだ。

「は、はやてちゃん…………?」
 なんだなんだとシャマル以外にも聞こえる声で、大爆笑を続ける主を訝しむ四神快楽天の面々、続いて聞こえてきた男の声は…………
 フェイトを抱え脱兎のごとく逃げ出す、クロノのことすら意識の外に追い出すほど、予想外にして衝撃的な『奴』である。





『モシモシ――――――ワタシHK、イマはやてちゃんノオウチニイルノ――――――』
 ――――――――――――変態仮面であった。



「――――――――――――撤収ッ!!」
 シャマルの号令一喝、我先にと八神家へ急ぐ四神快楽天の面々――――――――――――次回から本作は『八神家篇』に突入します。






  戦績
 
 ○『おっぱい白虎』シグナム ×『新たなる正義』NEWフェイト
 ○『ナギサ・ザ・マッドシスター』 ○『ロリ朱雀ヴィータ』(引き分け)
 ○『アベ・ザ・ヤラナイカマン』 ×『受け玄武』ザフィーラ








 ○変態仮面 ×『人妻青龍』シャマル

 ○エイミィ ×『メンズナックル・ボーイ』











































《――――――――――――please……(どうか……)》

 ここは月村家の秘密ラボ、PMC海鳴自警団の技術本部である。
 人気のないその場所で、全損に近いNEWフェイトのデバイス、バルディッシュは機械の言葉で独白を紡ぐ。

 今頃彼のマスターは、兄と共に、友高町なのはの下で傷を癒していることだろう。
 一先ずの無事に安堵しつつも、自身の不甲斐なさを恥じる。

 此度の戦いは、完全な自分の力負けであった。
 彼の者たち『ベルカ騎士』が使うカートリッジシステム…………生まれからして武器の意匠を持つあのデバイス郡に相対するには、
自身にもまたカートリッジシステムを組み込むしかあるまい。

《――――――――――――please give me(どうか 私に   をください)》

 だがしかし、CVK-792型――――――管理局が死蔵しているカートリッジシステムははるか次元の海のはて。
 アースラが孤立奮闘しているこの状況で、はたしていかようにしてそれが、手に入ろうものか。

《――――――――――――PLEASE GIVE ME POWER…………(どうか 私に 力を ください…………)》

 再びコアの周りから白煙と、火花を吹くバルディッシュ。
 このままでは、志半ばで散っていった友、レイジングハートの意思を継ぐことができない。
 主の戦う意思を全うできず、この地に平和を取り戻すことができないのだ。

《――――――――――――PLEASE…………(どうか…………)》
 はたして、この未開の地、管理外世界で彼の声が届くものは居ない。
 血の涙を流し、炎を生まんばかりに吠えるその激昂を、受け止められるものが、果たして――――――――――――




 厳重なロックを外して、気密扉が開く。
 真っ暗な部屋の中へ入り込む、蛍光灯の無機質な光。
 廊下のそれを切り取って見えるのは、なんか、こう、頭の位置が不自然に高い、気持ち悪いシルエット。

 夢に出そうなポーズを決めた、その存在の手に乗っているのは、腕時計に似せた待機状態のデバイスである。
 “ストラーダ”――――――近代ベルカ式デバイスの完成系――――――けっしてこの世界、この時代にあらざるもの。




《―――――――――――― ……GRAND……MASTER ――――――》



 八頭身、けして届かぬ彼の望みを果たせる者がそこに居た。
 その奇妙な相貌からは、けして表情をうかがい知ることはできまいが――――――猫耳の下で、たしかに猫耳が笑う気配がした。


 


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