それは
絶望の闇に包まれた世界で
光の力を手にして
闇と戦った一人の人間の物語
「・・・・ん・・・・ここは・・・・・」
白銀武が目を覚ますと、そこは一面に闇が広がっていた。
「あれ・・・俺、何でこんなところに・・・・」
白銀武は今日の一日を思い出す。
確か、いつものように純夏が起こしに来て、それで目が覚めたら隣に変な女が居て、そして学校に行ったらその女と双子の姉ともう一人の女の子が転校してきて、そしてなんか皆を見ていると懐かしくなってきて・・・・・。
そこまで思い出したとき、武の脳裏にフラッシュバックのようにとある光景が蘇った。
それは、凄まじい閃光に包まれる一機のロボットの姿
「・・・・・ぁっ・・・」
そしてそのロボットに乗っていたパイロットの名前は・・・。
「め・・・・いや・・・・・」
それをきっかけに武は次々と思い出していった。
BETA達が侵略する世界に飛ばされたこと。
その世界で出会った自分の友人達にそっくりな人物たちと共にBETAと戦ったこと。
・・・そして最後の桜花作戦で仲間たちを失ったことを。
「・・・そうだ、思い出した・・・」
武はそう呟いてうつむいた。今、武の居る場所は上も下も前も後ろも真っ黒な闇に塗り潰されている。その為うつむいて下を見ても、そこには目の前と同じような真っ黒な風景が広がっているだけであった。
「俺は・・・あの戦いの後・・・あの世界から飛ばされて・・・・元の世界に戻ったはずじゃあ・・・」
しかし、武の目の前に広がるのは暗闇に包まれた漆黒の空間のみ。間違いなく自分の元々いた世界ではない。ということは・・・・。
「また、別の世界に来ちまったって事か・・・」
武は何の感慨もなくそう呟いた。地面に座り込んで目を上に向けても、漆黒の空が広がるのみである。
「でも、いいか。世界は何とか救えたんだし」
武は自分に言い聞かせるように呟いた、が、その言葉はどこか空しく聞こえた。
と、突如武の頬に涙が流れた。
「はは・・・・、何泣いてるんだ?俺・・・。あの世界を、救えたんだぞ?喜ぶ、べきだろ・・・・」
そう自分に言い聞かせても、涙は止まることはない。そしてその涙に比例するかのように、武の心の中から、徐々にある感情が湧き上がってきた。
悲しみと
贖罪の感情が。
「う・・・・ああああ・・・・・」
武は、ついに膝を折って泣き崩れた。
彼は、確かに世界を救った。
しかし、その為に多くの人々を犠牲にした。
「委員長・・・・彩峰・・・・・たま・・・・・・美琴・・・・・まりもちゃん・・・・・冥夜・・・・・純夏・・・・・」
武の口から、死んでいった仲間達の名前が零れ落ちる。
そのたびに、彼の心には、段々と後悔の念が膨らんで入った。
自分が未来を変えようとしたから彼女達は死ぬことになったのではないか・・・・?
自分があの世界に行かなければ彼女達は死なずに済んだのではないか・・・?
自分が居たから・・・。自分が居たせいで・・・・。
「あああああああああああ~~~~~~!!!!!」
そう思い至った武はあらん限りに絶叫を上げる。
そして地面に跪くかのように膝を折り、喉が裂けんばかりに泣き叫んだ。
なにが世界を救った、だ!!!なにが多くの人々を救えた、だ!!!
結局自分の大切なものは守れなかったじゃないか!!!!
誰よりも生きていて欲しい人達が救えなかったじゃないか!!!!
結局、何のために過去を遡った!!!
何のためにあの地獄に行った!!!
さらに絶望を深めただけじゃないか!!!
武は、絶叫を上げながら泣き続ける。死んでいった人達に贖罪するかのように・・・。
「・・・力が、無いから・・・・」
武の口からそのような言葉が零れた。
そうだ、力が無いから・・・。力が無いから彼女たちを犠牲にした・・・。
ただ、過去を遡るだけじゃだめなんだ・・・・、力が、皆を守れる力が無きゃ、駄目なんだ・・・。
「力が・・・欲しい・・・・」
何時の間にか武の口からそのような言葉が出てきた。
と、其の時
『・・・力が欲しいか?』
暗い闇のどこからか声が聞こえた。
「!?だ、誰だ!!」
突如聞こえた声に武は弾かれたように辺りを見回す。
しかし、そこにはただ闇が広がるばかりであった。
だが、その闇の中から、再び声が聞こえる。
『そのようなことはどうでもいい。もう一度聞くぞ。
力が、欲しいか?白銀武』
その声の言葉にしばらく言葉を失っていた武は、しばらくすると返答を返した。
「ああ、欲しいな」
『何故、そう望む・・・』
「俺の・・・、大好きな人達を、・・・守れなかったからだ・・・・、力が無かったせいで・・・」
そう言って武は再び俯いて肩を震わせる。声は、しばらくの間沈黙していたが、やがて武に再び語りかけ始めた。
『もし、力を手に入れたら、何をしたい?』
その質問に武は迷いなく言い切った。
「もう一度あの世界で・・・純夏を、冥夜を、いいや、BETAとの戦いで死んでいった仲間達を救いたい!それだけだ!!」
武の返答を聞いた声はなおも問う。
『その為に、再びあの地獄を味わう覚悟は、あるか?』
「・・・ある」
『力を手に入れた代償を支払う覚悟は、あるか?』
「・・・・ある!」
武が全ての問いに答えると、声はしばらく沈黙の後、再び口を開いた。
『お前の覚悟は分かった。ならば、お前に与えよう、戦うための力を。そして行くが良い。お前が仲間を失ったあの世界へ』
声が終わると同時に辺り一面がまぶしい光を放った。
「うっ!?」
突然の閃光に武は目を押さえるが、やがて光に慣れてきたのでゆっくりと目を開いた。
と、そこには、巨大な人型の石像が三体立っていた。
「なっ!?こ、これは!?」
その石像を見た武は驚きの声を上げた。なぜならその石像の形は、武のよく知っているものだったからである。
『恐れるな、白銀武』
武が驚いていると、再びあの声が響いた。
『この巨人こそお前の求める力を与える存在。さあ、この巨人の前で自身の願いを告げよ。心からの望みを言うがいい』
声に促された武は、少々躊躇っていたが、やがて意を決して三体の巨人像の前に立った。
三体の巨人像は、まるでまだ生きているかのようで、今にも動き出しそうであった。
武は巨人像に向かって、自身の望みを告げ始めた。
「・・・俺は、前に住んでいた世界から、BETA達が人類達を襲っている世界に、飛ばされた。最初は、自分でも何がなんだか分からなかった・・・」
「でも、そこで元の世界にいた皆と同じ姿をした人達と共に付き合い、戦っていくうちに、考えるようになったんだ。この世界を、皆を守りたいって・・・・」
武の脳裏には、仲間達と過ごした思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
「・・・最初の世界では、オルタネイティブ5を止められずに、結局、人類は地球を放棄してしまって、地球に残された俺達はBETAに敗北した。再び過去に遡れたときは少しだけ嬉しかったよ。これで未来を変えられる、地球を救えるって。実際『桜花作戦』は成功、一時的だけど人類は救われた。でも・・・・」
武の瞳から、再び涙が零れ落ちた。
「でも、その代わり俺の仲間達は・・・!皆、死んだ・・・!結局BETAに勝ったといっても、人類の寿命は30年延びたに過ぎない・・・・!!その、三十年の為に、皆は・・・!」
武は涙を流しながら独白した。その目は、涙を流し続けたせいで赤く腫れ上がっている。
「・・・俺は、無力だった・・・!仲間が死んでいくのをただただ見ているしか出来なかった!!俺は、力が欲しい・・・!今度こそ、仲間を、世界を守りぬけるだけの力が!!」
武が叫ぶと、突然武の体が光り輝き、中央の巨人像に吸い込まれていった。
そして、残り二つの巨人像も、光となって中央の巨人像と一体となった。
『へ!?ちょっ!な、なにが起こって・・・』
『白銀武、お前の願いは聞き届けられた。お前は今、光の力を手に入れたのだ』
『光の力・・・!なら、これは、やっぱり・・・』
突然の出来事に武は戸惑っていたが、声の言葉に何か確信をしたようであった。
すると、再び目の前から凄まじい閃光が放たれた。
『さあ、ゆくがいい白銀武よ、あの世界の、お前の愛した者達の未来を変えるために』
『へ!?ぬわあああああああああああ!!!』
三体の巨人像と融合した武は、その光の中に再び吸い込まれたいった。