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[24348] 【完結】スーパーロボッコ大戦(銀河お嬢様伝説ユナ×スト魔女×トリガーハート×武装神姫×オトメディウス×スカイガールズ)
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2015/07/13 21:54
※当作品は同名のニコニコ動画投稿作品を元に作られた、三次創作作品となります。ご了承下さい。




スーパーロボッコ大戦

EP1

AD1945 ロマーニャ上空


「何だあれは………」

 眼帯を外し、それを見た少女の呟きが、全ての始まりだった。
 虚空に浮かぶ奇怪な渦に、皆の緊張が高まっていく。

「ネウロイの仕業か!?」
「いえ、違います。こんな反応初めて………」
「気をつけて! あれの向こう側が感知できないわ! 全機散開! 指示があるまで攻撃は…」

 命令は最後までが発せられる事は無かった。
 突如として渦が急激的に広がり、全てを飲み込んでいく。

「待ひ…」
「きゃ…」
「芳佳ちゃ…」

 退避命令も、悲鳴も、友の名を呼ぶ声も、全てが飲み込まれていく。
 そして、その場にいた者達全てを飲み込んだ渦は、まるで録画映像を急速に巻き戻すかのように集束していき、消える。
 後には、何も無い空だけが残った。
 誰もいない空が………



AD2300 ネオ東京

「おっ買い物~、おっ買い物~」

 高層ビルの立ち並ぶ地球屈指の大都会の一角、若者向けのファッション店のひしめく大通りを、一人の少女が歩いていた。
 ロングヘアーをポニーテールにまとめ、天真爛漫を絵に描いたような少女が街を歩くと、周囲の人々がざわめき始める。

「あ、神楽坂ユナだ」
「ユナりん! 新曲良かったよ」
「ありがと~♪」

 声をかけてくる人々に気さくに手を振る少女の横手、音楽店のウインドウには紛れも無く彼女自身、《全銀河的お嬢様アイドル・神楽坂ユナ》の新曲ポスターがデカデカと張り出してある。

「ユナさ~ん、待ってくださ~い」

 自分を呼ぶ声にユナが振り向くと、そこにはこちらへと向かってくる紙袋からあふれ出さんばかりのハンバーガー、正確にはそれを抱えたショートボブの少女の姿があった。

「ユーリィ、またそんなに………」
「新発売のベジタブルラー油バーガーですぅ♪ ユナさんにも1個あげるです♪」

 やや変わった喋り方をするその少女は、男でも持つのが苦労しそうな紙袋満載のハンバーガーを、歩きながらも次々と平らげながらユナのそばへと歩み寄ってくる。
 瞬く間に紙袋の中身が少女、ユーリィの口の奥に消えていく様にユナは思わずため息を漏らすが、幸せそうなユーリィの顔にそれ以上何も言えずに、渡されたハンバーガーの包みを開けようとした時だった。

「ユナ!」
「うわ!?」

 突然自分を呼ぶ声に、驚いたユナの手からハンバーガーが零れ落ちる。

「脅かさないでエルナー! 落っことしちゃったじゃない!」
「今はそんな時じゃありません!」

 ユナは声をかけてきた相手、宙に浮かぶ機械のような妖精のような、風変わりな形の小型ロボに怒鳴り帰すが、その小型ロボ、正確には《光のマトリクス》と呼ばれるアンドロイドの一体、《英知のエルナー》が慌てた声を上げる。

「なあに? せっかくのオフだからこれからショッピングなのに……」
「それが、この近辺の次元定義係数が異常値を示しています! これは次元転移の前兆です!」
「定義ケース? 次元てんいって?」
「何か来ます!」

 エルナーの警告を上げた時、突然ユナの前方に奇妙な渦が現れる。

「うわわわ!? これの事!?」
「あ~! まだ食べてないです~!」

 渦の出現と同時に、周囲を暴風が荒れ狂い、そこにいた者達が逃げ惑う。
 ユーリィだけは、暴風で紙袋から飛ばされていくハンバーガーを必死になって追っていた。

「通常の空間転移ではありません! このエネルギー量だと時間、いえもっと別の…」

 エルナーの解析は、突然響いた地響きに遮られる。
 地響きの正体は、渦から突き出された脚が起こした物だった。

「あれはいったい……!」
「ロボット!?」

 突き出されたロボットを思わせる金属質の脚に引きずられるように、渦の中から更なる体が抜け出してくる。
 それは、巨大な四本足に、戦車の車体を載せたような奇怪な存在で、全身が金属のような光沢を放ち、車体の側面に赤い光を放つ部分もある。
 問題はその巨体で、一軒家ですら軽く押しつぶせるような巨大な存在が、白昼にいきなり市街地に出現した事に、それを見ていた者達は唖然とするしかなかった。

「おっきいです~」
「エルナー、あれはいったい何!?」
「分かりません! ただ…」

 エルナーの言葉は、再度遮られる。
 突如出現したその謎の存在の車体のような部分が光ったかと思うと、そこから赤い禍々しい光を放つビームが放たれ、その先にあったブティックを吹き飛ばしたからだった。

「きゃああああ!」
「わあああ!」

 事態が全く分からないが、危険な事だけは認識した人々が口々に悲鳴を上げながらその場から逃げ惑う。

「ユナ!」
「分かってる! 行くわよユーリィ!」
「はいです~!」

 周囲にビームを放ちまくる存在に、ユナの目が真剣な物へと変わり、手を上へとかざす。
 するとその身に纏っていた衣服がボディスーツへと変わったかと思うと、更にその上にプロテクターが装着されていく。
 ユナのもう一つの姿、《光の救世主》のバトルスーツ姿へと変じたユナは、その手に剣と銃、二つの役割を持つマトリクスディバイダーPlusをかざす。
 その隣では同じくバトルスーツ姿になったユーリィが、両手に剣・槍・銃に変化する2本一組の武器、双龍牙を構える。

「オフを台無しにしてくれたお礼をしてあげる!」
「え~い!」

 二人の少女が左右へと分かれ、それぞれの武器が左右の脚を狙う。
 外しようも無い一撃は謎の存在の脚をえぐるが、突然えぐられた傷口が無数の六角形のブロックに区切られたかと思うと、新たに生じたブロックが瞬く間に傷口を覆い、即座に再生してしまった。

「ウソ!? そんなんアリ!?」
「再生能力! しかもこんなに早い……」
「じゃあもう一撃です~!」

 ユーリィの双龍牙が再度謎の存在の脚をえぐるが、その傷も瞬く間に再生してしまった。

「どうなってるのエルナー!」
「半端な攻撃は効かないようです! もっと強力な…」

 三度、エルナーの言葉は今度は間近に飛来したビームによって遮られる。

「うわわわわ~!」
「何か、何か手は……」

 転げるようにしてユナはビームから逃げ、エルナーは謎の存在への有効攻撃方法を必死になって探ろうとする。

「ちょっとそこのアンタ! 何してくれてんのよ!」

 いきなりの怒声に、三人が思わずそちらへと振り向く。
 そこには、ユナ達と同じようなバトルスーツ(もっとも何故かバニーガールを思わせる奇抜な格好)姿の女性が、手にゴールドアイアンを持って謎の存在へと突きつけていた。

「せっかく、彼が最先端モード貢いでくれるトコだったのに、あんたがビームなんて撃ち込んでくれたせいで逃げちゃったじゃない!」

 よく見るとその女性が立っているのは一番最初にビームを撃ち込まれたブティック(のガレキ)で、彼女の髪もあちこち焦げている。

「ま、舞ちゃん……」

 その女性、ユナの通う白丘台女子高の担任教師・徳大寺 舞、またの名を《六本木の舞》が体から焦げ臭い匂いを漂わせながら謎の存在を睨みつける。

「あらユナ、ちょうどいいわ。これからこいつシバくの手伝いなさい!」
「それが舞、あれは非常に高い再生能力を持ってます。下手な攻撃は通用しません!」
「あに~!?」

 私怨MAXの舞が、エルナーの言葉に更に憤怒を高まらせる。

「だったら土下座してごめんなさい言うまでシバき続けるのよ!」
「だからそれをどうやって…」

 ビームを乱射しまくる相手に、エルナーも焦りを感じ始めた時だった。

「これは、また次元転移反応!?」
「ええ!! まだ来るの!?」
「来ます!」

 エルナーの声と同時に、戦闘が行われている地点の上空に再度、謎の渦が現れる。
 だが、そこから出てきたのは小さな二つの人影だった。

「……女の子?」

 シルエットを見たユナが、小さく呟いた。



「うわぁ~!」
「きゃああ!」

 甲高い悲鳴を上げながら、二人は虚空へと放り出される。

「えい、この!」

 その内の一人、海軍のセーラー服に身を包んだおかっぱ頭の小柄な少女は、その脚にまとった魔道エンジン内臓の震電型ストライカーユニットに魔力を注ぎ込み、なんとか体勢を立て直した。

「リーネちゃん!」
「芳佳ちゃん!」

 同僚で親友の名を呼びながら、互いに手を伸ばして掴みつつ、体勢を立て直した二人のウイッチは、そのまま上昇しながらあたりを見回す。

「ここ、どこ?」
「ウソ、さっきまで……」

 改めて上空から下を見た二人は、眼下に見た事もない高層ビル群が立ち並ぶのに絶句する。

「みんなは!?」
「私達だけ……?」

 他のウイッチの姿が見当たらない事に、二人の顔に困惑が浮かぶが、それは足元から飛来したビームによって消え去る。

「これって!」
「芳佳ちゃん、あそこ!」

 おさげ頭に、大人しそうな印象(胸除く)の少女が足元に蠢く存在を指差す。

「ネウロイ! 誰か戦ってる!」
「行こう、芳佳ちゃん!」
「うん!」

 二人のウイッチは力強く頷くと、それぞれの脚のストライカーユニットに魔力を注ぎ込み、急降下していった。


 上空から飛来した銃弾が、謎の存在に突き刺さる。

「あの子達だ!」
「実弾? しかも炸薬式? そんな古い装備を使って……いえ何かエネルギーを帯びている……ユナの力にも似た?」

 ユナの顔に突然出現した謎の少女達が敵ではないらしい事を悟った笑みが浮かぶが、エルナーは別の疑問を感じる。
 急降下した二人の少女の姿をエルナーはよく観察すると、二人とも両足に変わった飛行ユニットを装備しており、そこからエネルギー体のプロペラが旋回して彼女達を飛ばせているのが見えた。
 しかも、彼女達の頭には犬猫のような獣耳が生え、腰から尻尾まで生えている。

「彼女達は一体………」
「ようし、こっちも!」

 俄然やる気が出てきたユナが謎の存在に再度攻撃しようとした時、その上部が旋回し、そこにある砲塔のような物に赤い光が点る。

「いけない!」

 それが今までと比べ物にならない威力のビーム発射の予兆だと悟ったエルナーだったが、その脇を一つの影が通り過ぎる。

「危ない!」

 足に飛行ユニットを装備した小柄な少女は、急降下から水平飛行に移りながらユナの前に出ると、そこで垂直ホバリングしながら両手を前へと突き出す。
 すると少女の前に巨大な光のシールドが現れ、放たれたビームはそれに阻まれ、四散していく。

「すごい、なんて強力なシールド……」
「大丈夫!?」
「うん、ありがとう!」

 シールドを展開させながら、声をかけてきた少女に、ユナは満面の笑みとお礼で応える。

「私は神楽坂 ユナ。あなたは?」
「芳佳、宮藤 芳佳だよ」
「ありがとう芳佳ちゃん!」

 再度お礼を述べるユナだったが、芳佳の背に似合わない巨大な機関銃、九九式二号二型改13mm機関銃が背負われているのに小首を傾げる。

「物騒なの持ってるね」
「え? ウィッチならこれくらい……」
「ウイッチ? なにそれ?」
「え?」

 てっきりユナもウイッチだと思っていた芳佳だったが、ユナの手に握られたマトリクスディバイダーPlusを見て今度はこちらが首を傾げた。

「とりあえず後! こいつやっつけないと!」
「でも街の中になんで大型ネウロイが!?」
「ネウロイ? あれの事ですか?」
「ネウロイも知らないの…」

 疑問の声に芳佳がそちらを向き、そこに浮かんでいるエルナーに思わず目をしばたかせる。

「何これ? ユナさんの使い魔?」
「エルナーだよ、使い魔とかいうのじゃないけど……」
「知ってるなら教えてください! あのネウロイとかいう存在の弱点は?」
「コアだよ! どこかコアがあるから、それを壊さないと!」
「コア? でも、どこに?」
「えっと、坂本さんがいたらすぐ分かるんだけど……」

 首を傾げるユナに、芳佳も困惑するが、そこに再度ビームが飛来し、芳佳のシールドを揺らす。

「くっ!」
「大丈夫、芳佳ちゃん!」
「これくらい平気! どんどん攻撃して、装甲が壊れればコアが見えるはず!」
「了解! この~!!」

 ユナが中心となって、ネウロイに銃撃を叩き込んでいくが、表面の装甲は剥がれ落ちても即座に再生し、コアらしき物は見えてこない。

「あ~ん、全然ダメ~」
「頑張って! 私が守るから!」

 ユナが思わず愚痴をこぼすが、芳佳はそばにいる者全てを守るべく、更にシールドを巨大に展開させていく。

「そこです!」

 ネウロイの砲塔から再度強力なビームが放たれようとしたのを、上空からもう一人のウイッチ、リーネことリネット・ビショップが自分の身長ほどはあるボーイズMk1対戦車ライフルで正確に砲身を狙撃。
 装甲目標破壊用の強力な13・9mm弾が直撃した砲塔は放たれようとしたビームも巻き込んで誘爆するが、それもフィルムを逆に回すように再生していく。

「このままでは追い詰められる一方です! 私がサーチしてみます!」
「お願いエルナー!」

 エルナーがネウロイの周囲を旋回飛行しながら、ありったけのセンサーでネウロイをサーチしていく。
 飛来するビームをかわしながらのサーチに、苦労しながらもようやくエネルギー反応の違うポイントを発見した。

「有りました! 胴体部中央、コアらしき物の反応です!」
「ありがとうエルナー、って中央?」
「あの装甲の中!?」

 ようやく探り当てたコアが、分厚い装甲の中にある事を知った皆の顔が驚愕に彩られる。

「弱点さえ分かっちゃえば、簡単じゃない! こういう奴は腹が弱点って相場が決まって…」

 一人、息ようようと舞がネウロイの足をかわしながら胴体下部に潜り込み、ゴールドアイアンを構えるが、暗かったはずのネウロイ胴体下部に、無数の交点が出現する。

「え? うきゃあああぁぁ!」

 途端にネウロイの胴体下部全てから一斉にビームが照射され、舞が命からがらその場から転げ出す。

「そんなんあり!?」
「やはり上部を狙うしか……でもこの装甲の硬さでは……」
「うわあ! こっち来る~!」
「でもどうにかしないと街が……!」

 こちらへと突撃してくるネウロイにユナが慌てふためき、芳佳もシールドを解除して宙へと舞い上がった時だった。

「お待ちなさい!」

 凛とした声と共に、どこからともなく一輪のバラがネウロイの前に突き刺さる。

「かよわき花に迫る悪の影…けれどこの私が散らせはしない! お嬢様仮面ポリリーナ! 愛と共にここに参上!!」

 声のした先、そこに覆面を着け、手にステッキを持った一人の少女が立っていた。
 名乗りを上げるその少女、ポリリーナに皆の視線が集中する。

「きゃあ~! ポリリーナ様だ~!!」
「何だろ、あの人………」
「さあ………」


 黄色い歓声を上げるユナと対照的に芳佳とリーネは突然の登場に呆気に取られる。
 だがネウロイは容赦なくポリリーナに向かってビームを発射するが、ポリリーナは身軽な動きで宙へと舞い上がりながらビームを回避する。

「バッキンビュー!」

 ポリリーナが宙を舞いながら手にしたステッキを投じ、旋回しながらネウロイへと襲い掛かるが、その分厚い装甲を僅かに砕いただけでステッキはポリリーナの手元へと戻ってくる。

「キャ~! ステキ、ポリリーナ様~!」
「……ペリーヌさんみたい」
「そうだね」

 歓声を上げ続けるユナの隣へと着地したポリリーナだったが、自分の攻撃がほとんど効いておらず、しかも再生していく事に目を見開く。

「いい所に来てくれましたポリリーナ!」
「エルナー、あれは一体?」
「ネウロイと彼女達は呼んでいます」
「あの子達?」

 上空を舞う二人のウイッチを認めたポリリーナが、視線をネウロイへと向ける。

「あの胴体部の中央に弱点のコアらしき反応があります! しかしあの装甲と再生能力の前に手も足も出ません!」
「ならば、こちらも向こうの手と足を封じるのよ! 舞、足を狙って!」
「分かったわ!」

 ポリリーナが駆け出し、舞もそれに続く。
 飛来するビームをかわしながら、ポリリーナの手にしたステッキがムチへと変化し、舞の両肩からスパークを帯びた球体が発射される。

「バッキンビュー!」
「爆光球!」

 ムチがネウロイの左の前足を絡め取り、放たれた爆光球が右の前足を痺れさせる。

「今よ!」
「ユーリィに任せるですぅ!」

 ネウロイの動きが止まった所に、ユーリィが駆け出し、ネウロイの足を伝って胴体へと登っていく。

「クルクル~パ~ンチ!」

 掛け声と共に、ユーリィの腕が振り回され、拳がネウロイの胴体上部に叩き込まれる。
 見た目と裏腹に強力な威力の篭ったパンチが、一撃でネウロイの上部装甲を大きく歪ませた。

「すごい! 私達も!」
「芳佳ちゃん、一緒に撃って!」
「うん!」

 ユーリィの怪力に目を見張りながらも、芳佳がリーネを肩車するようなフォーメーションを組み、二つの銃口から魔力の篭った弾丸がユーリィが歪ませた装甲へと叩き込まれていく。
 次々と銃火と共に装甲が剥がれていき、やがて分厚い装甲の下から赤い光を放つクリスタルのような物が姿を現していく。

「見えた!」
「コアだ!」

 二人のウイッチが思わず笑みを浮かべた瞬間、二人の銃が同時に乾いた音を立てて銃火が止まる。

「あ……」
「弾切れ……」

 残弾が尽きた事に二人のウイッチの顔から血の気が引いていく。
 銃撃が止むと、ネウロイの装甲がすぐに再生を始める。
 コアが再度覆われていく直前に、コアを影が覆った。

「ライトニング~、スマーッシュ!!」

 上空へと飛び上がったユナが、大上段から光の力を帯びた刃を振り下ろし、コアが覆われる寸前に一刀両断する。
 光の一撃の前に、コアは一瞬で粉々に砕け散り、それに続いてネウロイの体も光の粒子となって砕け散り、霧散していく。

「やったあ~♪」
「ざまあみなさい!」
「ふう……何とかなりましたか」

 ユナ達が歓声をあげる中、芳佳とリーネも降下してきて間近へと着地する。

「ユナさん、すごかったよ」
「芳佳ちゃんもね。それに、さんじゃなくていいよ」
「え、でも……」
「一緒に戦ったんだから、お友達でいいでしょう? ね♪」
「……うん! そうだねユナちゃん!」

 笑みと共に差し出されたユナの手を、芳佳も笑みと共に握り返す。

「じゃあ改めて。私は神楽坂 ユナ、現役アイドルで《光の救世主》もやってるんだ」
「私は宮藤 芳佳。扶桑皇国海軍 遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊 連合軍第501統合戦闘航空団、軍曹だよ」
「ユナさんのパートナーで妹分のユーリィ・キューブ・神楽坂ですぅ」
「私はリネット・ビショップ。ブリタニア空軍 第11戦闘機集団610戦闘機中隊 連合軍第501統合戦闘航空団曹長です」
「軍曹に曹長って、あんたら軍人なわけ?」
「その年で?」

 舞とポリリーナの疑問の声に、逆に芳佳とリーネが首を傾げる。

「え? でもウイッチは大抵10代でしか戦えないし……」
「そもそも、ここはどこなんですか? 私達はロマーニャの上空にいたはず……」
「ロマーニャ? ここはネオ東京ですよ?」
「ネオ東京……東京!? ここが!?」
「そもそも、あなた達は扶桑皇国海軍とかブリタニア空軍と名乗ってますが、そんな国も部隊も存在しませんよ?」
「ええ!?」

 エルナーの説明に、芳佳は思わず大声を上げる。
 だが、リーネは別の物に気を取られていた。

「芳佳ちゃん、芳佳ちゃん、あれ……」
「あれって何リーネちゃん?」

 リーネが困惑の顔で、ある物を指差す。
 芳佳がその指の先を見ると、そこには戦闘被害を免れたカレンダー表示機能付き屋外時計があり、カレンダーにはAD2300 5 7と表示されていた。

「AD2300って……」
「何言ってんの、今年は西暦2300年じゃない」

 呆れた顔で言う舞の言葉に、リーネの瞳が大きく見開かれた。

「だって、私達がいたのは、西暦1945年ですよ!?」
「じゃあ、ひょっとしてここって……」
『未来!?』



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP2
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/11/21 19:27
EP2


 芳佳の手から発せられる暖かい光が、舞の体を包み、各所の傷が見る間に消えていく。

「これで大丈夫です」
「アンタ、便利な技持ってるのね~」
「芳佳ちゃんすご~い♪」
「負傷者はこれで全部、芳佳ちゃんの治癒魔法のお陰で全員生命の問題は無いだろうって言ってたよ」
「後はお巡りさんが片付けてくれるそうです~」

 負傷者の救出搬送、手当てを手伝っていたリーネやユーリィも駆け寄り、皆が安堵のため息を漏らす。

「安心したら、お腹すいちゃった」
「あはは、そうだね」
「ねえねえ、どこかでご飯食べようよ」
「え、でもお金持ってない……」
「助けてもらったお礼に、おごっちゃうよ♪」
「よ~し、ユナのおごりね」
「いっぱい食べるです~」
「舞ちゃんはおごられる理由ないよ……」
「うふふ、まあいいじゃない。それに、どこかで落ち着いて話をしたい所だし」
「ポリリーナ様がそう言うんだったら……」

 おごりと聞いて張り切る舞とユーリィを白い目でユナは睨むが、ポリリーナが笑いながらの賛同に渋々了承する。

「芳佳ちゃんは何食べたい? おいしいパスタ屋さん知ってるんだ」
「あの、おごってもらうんだったら、ぜいたくは……」
「それに、彼女の知らない物も多いでしょう。パスタでもなんでもいいですから、行きましょう」

 エルナーが急かす中、一行は空腹を満たすべくパスタ屋へと向かった。



「ごちそうさま~」
「ご馳走さまでした」
「すいません、私までおごってもらって……」
「いいからいいから。あっちに比べれば……」

 オープンカフェスタイルのテーブルで、食事を済ませた芳佳とリーネが礼を述べる。
 その隣のテーブルではユーリィがぶっ通しでメニューの端からパスタを次々と平らげて空の皿を重ね、臨席では一番高いメニューを頼んだ舞が食事しながら携帯電話で彼氏(別口)との会話に余念が無かった。

「さて、では話を始めましょう」
「何の?」
「彼女達についてです!」

 マジボケしているユナにエルナーが声を張り上げる。

「そ、そうだね。本当にここって、未来なの?」
「それなのですが、どうにも正確には貴方達の言う歴史と、この世界の歴史は違うようなのです」

 芳佳の問いに、エルナーは仮説交じりで説明を始める。

「貴方達の話だと、20世紀初頭、ネウロイと呼ばれる存在と人類は全面戦争に突入、特に貴方達のようなウイッチと呼ばれる存在が最前線に立ったそうですが、その時代、そんな未知の存在からの攻撃はありませんでしたし、ウィッチという言葉自体はありますが、意味がどうにも少し違うようです」
「けど、彼女達は確かにここに実在する」
「ええ、その通りです」

 ポリリーナの指摘に、エルナーも頷く。

「そして彼女達の装備です」

 オープンカフェの植え込みに立てかけてあるストライカーユニットと機関銃を見ながら、エルナーは続ける。

「この銃、今じゃ博物館でも行かなければまずお目にかかりませんし、ましてや実用に使える物なんて皆無でしょう」
「そうなんだ……」
「ちらっと見たけど、お巡りさんが見た事もない形の銃持ってたよ……」
「ああ、あれは非殺傷用のインパルスガンです。軍隊でも、リニアガンが今は主流ですからね」
「インパルス? リニア?」
「えと、それ何ですか?」
「まあ、それは後にしましょう。問題はこのストライカーユニットと呼ばれる物です。簡易サーチですが、確かに個々の部品は随分と古めかしい物です。しかし、システム自体は私自身、見た事も無いような理論構築で形成されています。恐らく、今の最新技術を持ってしても、製作は不可能でしょう」
「そこまで……つまり全く違う技術体系の産物という訳ね?」
「間違いありません。このストライカーユニットの設計理論を構築した人物は、相当な天才でしょう」
「それ、芳佳ちゃんのお父さんが作ったんだよ」
「え? 本当?」
「うん……もういないんだけどね」
「うわあ、すごいな~家のパパとえらい違い」

 ストライカーユニットを撫でながら、ユナが心底感心する。

「それともう一つ、これを見てください」

 エルナーの目から光が照射されたかと思うと、テーブルの上にある映像を映し出していく。

「これって、映写機?」
「エルナーさんって、頭いいだけでなく、こんな事も出来るんだ……」
「いいですから、これを」

 テーブルの上には、芳佳達が見た事のある戦闘機が遠くに飛ぶ中、一人の少女の後ろ姿が映し出される。
 その少女は、ユナと似てはいるがどこか甲冑のような古めかしいデザインのバトルスーツに身を包み、山中を駆けている。
 そしてその少女の前に、突然敵が現れると、少女はマトリクスディバイダーを手に立ち向かっていく。

「これって!」
「ネウロイ!?」

 芳佳とリーネがその敵、確かに彼女達が戦っていたネウロイと戦う少女を見て目を丸くする。
 だが、次の瞬間更に二人は目を大きく見開く。
 そのネウロイと戦う少女の顔が大写しになるが、それは芳佳そっくりの顔だった。

「私!?」
「ウソ……」
「いえ、彼女の名前は宮藤 ユウカ。ユナから何代か前の光の救世主です。そして彼女はこの敵を怪異と呼んでいました」

 その少女、ユウカは怪異を次々と倒し、更に先へと進む。
 彼女の進む先には、巨大な漆黒の竜巻のような物が、天高くそびえている。

「これって、ネウロイの巣!」
「どういう事だろ……」

 そこで映像は途切れ、芳佳とリーネは思わず互いを見つめる。

「ちょうど貴方達が居たという時代、突如出現したこの怪異に、当時光の救世主だった彼女は敢然と立ち向かい、これを封じた記録が残っています。かなり古い記録ですが」
「それってどういう事?」
「………」

 小首を傾げるユナに、エルナーはしばし沈黙する。

「……パラレルワールド」
「恐らくは」

 ポリリーナが発した一言に、エルナーは頷いた。

「パラレル……ワールド?」
「私、聞いた事ある……異世界とか、並行世界って呼ばれてる」
「ええ、つまりこの世界とよく似た、別の世界。芳佳が光の救世主だった世界、逆にユナが光の救世主じゃなかった世界、そういう様々な世界がこの宇宙とは違う時空に存在する。もっとも、私も実際に見るのは初めてですが………」
「う~ん、よくわかんない……」
「ユナはそうでしょうね。ただ、確かに彼女達は今、ここにいる。それはなによりも確かです」
「でも、じゃあどうしたら元の世界に戻れるんだろう………」
「501のみんなも無事だといいけど………」

 うなだれる芳佳とリーネだったが、そこでポリリーナがある事に気付いて口を開く。

「あのネウロイ、あれは貴方達がこの世界に飛ばされる前から戦ってたの?」
「あ、いえあの大型は似たようなタイプだったら別の部隊との交戦記録はあったけど……」
「私達は見るのも戦うのも初めてです」
「それって、貴方達とは別に飛ばされた可能性もあるって事じゃない?」
「あ……!」
「だとしたら、芳佳達の世界とユナ達の世界の接点は、他にもあるのかもしれません」
「本当ですか!?」
「それに、ひょっとしたら一緒に飛ばされた仲間達も、案外近い所にいるかもしれませんよ」

 エルナーの意見に、芳佳とリーネは顔を輝かせる。

「よし、じゃあ探しに行こうよ!」
「ユナちゃん……」
「お友達のお友達、ならほっておけないじゃん」
「……うん!」

 ユナの無邪気な笑みに、芳佳も笑みを返す。
 ちなみに、未だにユーリィは空の皿を積み重ね続け、舞は電話に夢中なままだった。



同時刻 ネオ東京郊外

 丁寧に整えられた巨大な庭園に、大きなテーブルがセットされている。
 その最前席に、一人の栗色の髪の少女が優雅な佇まいで座っている。
 そばに控えるメイドが彼女の前に芳醇な香りの紅茶をカップに満たし、背後へと下がると少女はカップを手に取り、静かに一口含む。

「エリカ様、今日はお招きありがとうございます」
「いいえ、今日は貴方達の日頃の努力をねぎらうために呼んだのだから、ゆっくりなさい」

 カップをソーサーに戻しながら、己の左右の席に並ぶエリカ7と呼ばれる少女達に少女は笑みを返す。
 その少女、この庭園を有する巨大な邸宅、そしてその主である香坂家の令嬢、香坂 エリカは、自分の取り巻きでもある左右の少女達にねぎらいの言葉をかける。

「ただ、久しぶりにみんなそろうと思ったのに半分というのが残念ね」
「アコとマコは銀河カップのために遠征、セリカは惑星スピドでレースの真っ最中です」

 エリカの右脇に座る、ややたれ目がちの少女、演劇部キャプテンの銀幕のミキこと白鳥 美紀がこの場にいないメンバーのスケジュールを応える。

「セリカは特に総合優勝がかかってますからね。気合入ってました」

 その隣、茶色の髪でプロポーションのいいフィギュアスケート部キャプテンの氷のミドリこと佐々木 緑が前に会った時の事を思い出す。

「こっちはリーグ終わっちゃったからな~」
「あ~、そういえば来月から強化合宿だった」

 エリカの左隣、短髪のいかにも熱血そうなソフトボール部キャプテン、闘魂のマミこと星山 麻美が呟く中、その隣、同じく短髪の快活そうなサッカー部キャプテン、ストライカー・ルイこと留衣・マリア・マーシーが小さく声を上げる。

「今日くらいはみんなゆっくりなさい。こんな優雅な日くらい…」
「ぁぁぁぁぁああああ!!」

 そう言いながらエリカが再度紅茶を手に取った時、どこからともなく声が近づいてきたかと思うと、上から降ってきた何かがテーブルに直撃、盛大な音と共にそれぞれの前にあった紅茶とケーキが宙を舞う。

「あいたたた、ここはどこですの?」

 ケーキと紅茶を派手に被りながら、テーブルに直撃した声の主、長い金髪に眼鏡をかけた少女が顔を上げる。

「ちょっと、そこの貴方」
「は、はい?」
「この香坂 エリカの優雅なティータイムに随分と派手な飛び入りね」
「こ、これはすいません! このガリア貴族ペリーヌ・クロステルマンの不覚です!」

 その少女、ペリーヌが慌てて頭を下げた時、唖然とその光景を見ていた他の者がペリーヌの両足のストライカーユニットと、背にあるブレン軽機関銃Mk.1、そして頭から生えるネコ耳と腰の尻尾に気付く。

「……この近くでこんな舞台の予定はあった?」
「いいえ、こんな変な戦争物はないわ」
「今貴族とか言ってなかった?」
「うん聞いた。でもガリアなんて聞いた事ないな?」

 エリカに怒られて平身低頭するペリーヌに、エリカ7は首を傾げる。

「あの、所でここはどこなのでしょう? 私はロマーニャ上空にいたはず………」
「ここはこの香坂 エリカの住まう香坂邸。ネオ東京の郊外よ」
「東京!? ここは扶桑だと言うんですの!?」
「扶桑? 貴方何を言って……」

 話が全く噛み合わない事をエリカがいぶかしんだ時だった。
 突然、テーブルの向こう側の空間に巨大な渦が出現する。

「何かしら、あれ……」
「あの渦は、あの時!」

 振り返ったペリーヌが、その渦が自分が飲み込まれた時と同じ物だと悟った時、突然そこから無数の影が出現する。

「今度は何ですの!?」
「ネウロイ! いえ違う?」

 その影、小型の戦闘機や戦車を模した無数の機械達が、渦から続々と庭園に溢れ出す。
 その機械が、一斉にこちらへと向いた瞬間、ペリーヌは直感的にテーブルからそちらへと飛び出しながらシールドを展開する。
 直後、謎の機械達から放たれた弾幕がペリーヌのシールドに阻まれる。

「きゃあ!」
「攻撃してきた!」
「エリカ様下がってください!」

 皆が驚く中、ペリーヌはシールドで必死になって皆を守り続ける。

「何がどうなってるか全然分かりませんが、ここは私に任せてくださいまし! 早く避難を!」

 ペリーヌが叫ぶ中、機械達の放った弾は庭園を穿ち、向こうにある邸宅にまで被害が及びかける。

「ふ、うふふふ……この香坂邸に攻撃とは、舐められた物ですわ! セキュリティ、オートディフェンス!」

 エリカの声と同時に、庭園の各所からランチャーやガトリングが競りあがったかと思うと、機械達に攻撃を開始する。
 だが、機械達の予想以上の固さに、放たれたミサイルや銃弾は弾かれ、逆に次々と破壊されていく。

「もう許しませんわ! この香坂 エリカ自ら不埒者を成敗してくれますわ!」

 怒号と共に、エリカの姿が紫を基調としたバトルスーツへと変ずる。

「あ、貴方ウイッチなんですの!?」
「ウィッチ? 何の事かしら?」

 ペリーヌが驚く中、エリカはその手にエレガントソードを構える。

「行きますわよ!」
『ハッ!』

 エリカの号令と同時に、エリカ7達も次々とバトルスーツ姿へと変じていく。

「私とエリカ様で相手をするわ! ミキは避難誘導、マミとルイはその警護を!」
「分かったわ!」「おっしゃあ!」「OK!」

 ミドリの指示で三人が腰を抜かしているメイドを引っつかみながら邸宅の方へと向かい、残る三人が機械達へと対峙する。

「空は任せてくださいまし!」
「任せましたわ!」

 事態が飲み込めないが、ともかく被害を最小限に留めるべく、ペリーヌがストライカーユニットの出力を最大にして飛び上がり、その真下でエリカとミドリが突撃していく。

「食らいなさい!」
「行きなさい!」

 エリカのエレガントソードとミドリの放つツララが戦車型を貫き、破壊していくが敵は更に沸いて出てくる。

「そこ!」

 邸宅へと向かう戦闘機型にペリーヌは銃撃を加えていくが、敵の多さに明らかに火力は足りていなかった。

「いけない!」

 邸宅目前に迫った戦闘機型に銃口を向けた所で、ペリーヌはその向こう、邸宅の窓から驚愕で凍り付いているメイドの姿に気付く。

「くっ!」

 とっさに銃口を下ろし、最大速度で邸宅の前へと出たペリーヌはシールドを張るが、そこに一斉攻撃が加わり、抑えきれずに邸宅へと弾き飛ばされ、窓の一枚を割って中へと飛び込んでしまう。

「あつつ………」
「だ、大丈夫?」
「これくらい平気ですわ! それよりも早く避難を!」

 先程のメイドが恐る恐る声をかけてくるのに、ペリーヌは怒鳴るように返しながら立ち上がった所で、そこが古めかしい武具が飾ってある部屋だと気付く。
 そしてそこに、立派な拵えのレイピアを見つけると、迷わず手に取った。

「これ、少しお借りしますわ!」
「え、それは…」

 メイドの返答も聞かず、ペリーヌはレイピアを鞘から引き抜き、それを手に再度舞い上がる。
 そして目前まで迫ってきた戦闘機型へとその切っ先を突き刺す。

「トネール!」

 掛け声と共にペリーヌの体から電撃が放たれ、それはレイピアを通じて相手を一撃で粉砕する。

「急いで! 邸宅の被害なんてエリカ様は気にしませんから!」
「食らえ、イエローカード!」
「大リーグシューター!」

 ペリーヌが電撃交じりの剣戟と銃撃で必死に防ぐ真下で、ミキが必死に使用人の避難誘導を行い、そこに押し寄せる敵にルイの放ったイエローカードとマミの大リーグシューターからの球撃がガードしている。

「行きますわよ、サイキックピース!」
「オーロラファンネル!」

 エリカのテレキネシスが、破壊された敵の残骸を操って敵に襲い掛かり、ミドリの操るファンネルがそれを援護する。
 だが、敵の多さとその防御力に、じわじわと押され始めていた。

「エリカ様! 避難は完了しました! ここは一時撤退を!」
「撤退? なぜ私が私の家から逃げ出すというのです!」
「しかし! く、スポットライトビーム!」

 ミキが手にしたスポットガンからのビームで応戦しながら撤退を進言するが、エリカは頑として応戦を続ける。

「そうです! 一度退けば、そう簡単に取り戻せないのです!」
「けどこの数は……!」

 ペリーヌも縦横無尽に宙を舞いながら戦うが、ファンネルでそれをサポートするミドリの目にも劣勢は明らかだった。

「もう二度と、家を、故郷を失う人を出すわけには!」

 ペリーヌが押し寄せる戦闘機型に銃口を向けてトリガーを引くが、手にした銃からは乾いた音だけが響き、銃弾は出てこない。

「弾切れ!? しかしまだ私にはこのレイピアがありますわ!」

 銃を投げ捨て、ペリーヌがレイピアを構えた時だった。

「シュトゥルム!」
「はあああぁぁ!!」

 突如上空から旋風が駆け抜け、無数の銃撃が機械達を貫く。

「これは!」
「ヤッホー、ツンツンメガネ無事?」
「苦戦しているようだな、クロステルマン中尉」

 ペリーヌのそばに、小柄で金髪で無邪気な顔をし、ダックスフンドの耳と尻尾を持つウィッチと、大型機関銃を二丁で持った黒髪を二つに束ね、気難しそうな顔にジャーマンポインターの耳と尻尾を持ったウィッチが飛来してくる。

「ハルトマン中尉! バルクホルン大尉!」
「何かこっちでドンパチしてるのが見えてさ、トゥルーデと来てみたんだ」
「話は後だ! ネウロイではないようだが、民間人への無差別攻撃は見過ごせないぞ!」
「へいへい、ともあれ、行くよ~!」

 新たに来た二人のウィッチ、大気を操る固有魔法を持つエーリカ・ハルトマンと怪力の固有魔法を持つゲルトルード・バルクホルンが戦場へと飛び込んでいく。

「エリカ様! 上空にまた誰か!」
「味方みたいです!」
「この際、手伝ってくれるのなら誰でも構いませんわ!」

 上空の敵を次々と薙ぎ倒していく二人のウイッチに、地上で応戦しているエリカ達も俄然勢いを取り返し、なんとか戦況を拮抗状態へと盛り返していく。

「このまま、一気に押し返しますわよ!」
『オー!』
「トゥルーデ、こっちも!」
「分かっている!」

 決着をつけるべく、全員が猛攻に打ってでる。
 謎の機械達もみるみる数を減らし、壊滅まであと僅かの時、突然先程とは比べ物にならない巨大な渦が虚空に現れる。

「な………」
「何あれ!?」

 予想外の事態に誰もが絶句する中、そこから巨大な機械仕掛けの足が進み出る。
 渦から現れたのは、巨大な歩行戦車、いや歩行戦艦とも言えるとてつもない巨大な敵で、その背後から新たなる敵影が無数に続く。

「これがこいつらの旗艦か!」
「こ、こんなのとどう戦えば……」
「何を言っているのです! この私とエリカ7の力を会わせれば…」
「危ないですわ!!」

 エリカがエレガントソードを歩行戦艦に向けた時、歩行戦艦の砲塔が光り、放たれたビームをウィッチ達が急降下して張ったシールドが辛くも防ぐ。

「うわ、なんて火力!」
「堪えろ!」
「くううぅ!」

 すさまじい出力に、三人のウィッチは魔力を振り絞り、シールドを張り続ける。
 ようやくビームが途切れた時、魔力をほとんど使ってしまったペリーヌの猫耳と尻尾が消え、地に手をつく。

「ツンツンメガネ!」
「下がれクロステルマン中尉! ここは私達が……」

 歩行戦艦の向こうから現れた無数の敵に、さすがのバルクホルンの顔にも焦りが浮かびそうになるが、それを気力で払いのける。

「まだ、戦えますわ……」
「無理よ! 貴方ずっと無理して…」

 立ち上がろうとするペリーヌを、ミキが慌てて支える。

「エリカ様!」
「……皆は退きなさい。私が後始末を致します」
「ダメです! ならば私達も…」

 エリカも多過ぎる敵に、プライドだけでその場に残ろうとする。

「あれ……?」

 そこで、ハルトマンが向こうから高速でこちらに向かってくる影に気付いた。

「……ウイッチ?」

 少女の影に機影が重なったそれを、ウイッチかと思ったハルトマンだったが、どんどん近づいて来るその姿がウイッチともエリカ達とも似て非なる物だと確認したが、それが何かを考えた時だった。

「行って、ディアフェンド!」

 掛け声と共に、三角形のアンカーがこちらへと飛来してくる。

「今度は何!?」
「分かりませんわ!」

 エリカとペリーヌも混乱する中、飛来したアンカーが戦闘機型の一体に突き刺さる。
 すると、アンカーから放たれたエネルギーが戦闘機型を侵食し、完全に捕らえた。

「行っけええぇぇーー!!」

 少女の掛け声と共に、アンカーは捕らえた敵ごと振り回され、そのまま周囲の敵を巻き込み、破砕していき、そして放たれて更に多くの敵を破壊していった。

「何あれ……」
「トゥルーデより無茶してる………」
「ヴァーミス! 地球はこのTH60 EXELICAが守ってみせる!」

 エリカ7もウィッチ達も唖然とする中、とんでもない戦い方を見せ付けた謎の少女、エグゼリカが機械達を指差して宣言する。
 すみれ色の髪に童顔、小柄なその少女は、格好は白いバトルスーツにも見えるが、その周囲に半自律随伴砲撃艦「アールスティア」とアンカーユニット「ディアフェンド」を従え、その目に闘志を漲らせている。

「ねえねえ、そこの君。あれはヴァーミスって言うの?」
「そうですけど、貴方は?」
「私? 私はカールスラント空軍第52戦闘航空団第2飛行隊・501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》のエーリカ・ハルトマン中尉って言うんだ」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》」
「……エグゼリカでいい?」
「ええいいですよ」

 間近に飛んできたハルトマンの問いにエグセリカは笑顔で答えるが、すぐにその顔は真剣な顔になる。

「そこのお前! あれを知っているなら、弱点は!」
「トゥルーデ、もうちょっとやさしく聞くとかさ……」
「ヴァーミスは金属細胞と生体装甲を持つ自律戦闘単位集団です! 圧倒的な破壊力で完全に破壊しない限り、接触した相手から情報を取り込んで更に進化した兵器となります!」
「ようは、ネウロイと一緒か!」
「多分ね」
「行きます!」

 エグゼリカの説明をなんとか理解したバルクホルンとハルトマンだったが、エグゼリカは単騎で突撃していく。

「アールスティア!」

 突撃するエグゼリカをアールスティアが砲撃で援護し、ディアフェンドで再度ヴァーミスをキャプチャーして振り回しながら叩きつけていく。
 それを見ていたバルクホルンだったが、ふと手を叩く。

「そうか、ああすればいいのか」
「………トゥルーデ?」

 何か嫌な予感がしたハルトマンがバルクホルンを見るが、すでにバルクホルンは真下の戦車型ヴァーミスに急降下しながら、両手のMG42機関銃を投げ捨てる。

「う、おおおおぉぉぉ!」

 手近にいたヴァーミスを、バルクホルンは固有魔法の怪力で持ち上げていく。
 そしてそれを力任せにぶん投げるが、一体を巻き込んだだけで、しかも小破に終わる。

「力が足りんか………!」
「こっちだこっち!」
「センタリングだ!」

 破壊力が足りない事を悟るバルクホルンだったが、そこでマミとルイが前へと駆け出す。
 意図する事に気付いたバルクホルンが、再度ヴァーミスを持ち上げ、マミへと全力で投じる。

「ダブルヘッダー!」

 マミは手にしたビームバットで飛んできたヴァーミスをジャストミートし、全力で打ち上げる。
 打撃の破壊力で粉砕されながら他のヴァーミスを巻き込んで直撃、爆発四散するのを見たルイが今度はこっちだとサインを送る。

「おりゃあああ!」
「ハリケーンシュート!」

 飛んできたヴァーミスを、マミの全力のシュートが蹴り上げ、別のヴァーミス二体を巻き込んで爆発四散する。

「よっし!」
「じゃあ今度は2ランだ!」
「おりゃあああ!」
「こっちはハットトリックだ!」
「どりゃああ!」

 バルクホルンの怪力で投じられたヴァーミスをマミとルイが打ち返し、蹴り返して敵がどんどん減っていく。

「うわあ、無茶苦茶だ……」
「アンカーユニットも無しにあんな事が出来るなんて……」

 上空からその様を見ていたハルトマンがあきれ返り、エグゼリカもさすがに唖然とする。

「よし、私達は大物を相手しますわよ!」
「心得ましたわ!」

 小型のヴァーミスが次々と倒されていく中、エリカとペリーヌは歩行戦艦型ヴァーミスと対峙する。

「攻撃を大型に集中させてください! 小型と装甲は段違いです!」
「じゃあ行くぞ!」
「ここからクライマックスシリーズだ!」
「チャンピオンシップはもらった!」

 エグゼリカの忠告を聞いたバルクホルンが、マミとルイへの投擲の方向を変え、マミとルイが攻撃を大型ヴァーミスへと集中させる。

「サイキックピース!」
「トリプルアクセル!」
「イルミネーションレーザー!」

 エリカが破壊された鉄くずや敵の破片をまとめてぶつけ、ミドリの華麗なスピンが穿ち、ミキのパラスポキャノンから放たれた七色のレーザーがえぐっていく。

「ディアフェンド! 最大出力!」

 エグゼリカが残っていた小型ヴァーミスをまとめてキャプチャーし、最大出力で振り回す。

「行っ、けえええぇぇぇーーー!!」

 巨大な塊となったヴァーミスが大型ヴァーミスに直撃、その装甲が一気に破壊されていき、その中央に浮かぶ制御コアを露にする。

「そこが弱点ですわね!」

 ペリーヌが残った魔力を振り絞って舞い上がり、コアへと突撃していく。
 そこへ、己のテレキネシスで強引に飛んだエリカも併走した。

「独り占めなんて許しませんわよ?」
「なら、私達で優雅に行きましょう!」

 二人の顔に笑みが浮かび、それぞれの剣が構えられる。

「エレガントダンス!」
「はああぁ!」

 エリカの振るうエレガントソードが優雅な舞を伴った剣舞と共に振るわれ、ペリーヌの振るうレイピアが無数の斬撃と突きとなり、制御コアを刻んでいく。

「これで、終わりですわ!」
「その通り! トネール!」

 エレガントソードの斬撃がコアを大きく両断し、そこに突き立てられたレイピアから放たれた電撃がコアを貫き、限界に達した制御コアが粉々に砕け散る。
 力を失い、爆破するヴァーミスからペリーヌはエリカを伴って脱出、離れた所に降り立つ。

「やりましたわね」
「この香坂 エリカにとって、これ位当然ですわ」
『オホホホホ!』

 まるでそろったように、二人は口元に手を当てて哄笑する。

「うわ、ペリーヌが二人いるみたい……」
「あの方、エリカ様に似てるみたいですね」

 遠巻きからそれを見ていたハルトマンとミドリが思わず呟く。

「まさか、ヴァーミスがこの地球にまで来るなんて………」

 そこへ舞い降りたエグゼリカが、残存した敵がいない事を確認しながら漏らす。

「ヴァーミス、と言ったな。あれはどこから来たのだ?」
「地球って事は、他の惑星から?」

 バルクホルンの問いに、ミキが続けた所でその言葉にバルクホルンが怪訝な顔をする。

「他の惑星? そんなSF小説のような事があるのか?」
「何を言ってるの? 今銀河には居住可能な惑星が無数にあるじゃない」
「ま、待て。銀河にだと!? 我がカールスランドでもまだ有人宇宙飛行にすら成功してないぞ!?」
「? それこ何を言ってるの? 確か、人類が宇宙に出てからもう300年以上は経ってるのよ?」
「300年!? 今は一体西暦何年だ!?」
「今年は西暦2300年だけど?」
「うん間違いない」
「ば、馬鹿を言うな! 私達が居たのは西暦1945年だぞ!」
「はあ?」「それこそそんな馬鹿な事が……」

 ウイッチとエリカ7のかみ合わない会話を聞いていたエグゼリカの顔がこちらへと向けられ、その顔に驚愕が浮かぶ。

「ひょっとして、あなた達も時空転送に巻き込まれた……」
「時空転送? 何それ?」
「もう何が何やら……そういえばこれ、お返ししますわ」
「いえ、私達を守ってくれたお礼に差し上げますわ」

 混乱しながらも、ペリーヌがレイピアをエリカに差し出すが、エリカが笑みを浮かべてそれを断る。

「しかし、これは相当な…」

 高価な業物だと気付いていたペリーヌが何気なくそのレイピアを見た所で、その柄に刻まれた紋章に気付く。

「こ、これはクロステルマン家の紋章!? なぜここに?」
「? それは大分昔に、あるフランス貴族の令嬢が我が香坂家に嫁ぐ時、花嫁道具の一つとして持参したとか……」
「クロステルマン家が? 扶桑に? そんな話聞いた事もありませんわ!?」
「そう言われましても………」

 別の意味で混乱の度合いが深まる中、エリカの懐で軽快なメロディが鳴る。

「はい?」
「あらユナからだわ」

 エリカは懐から携帯電話を取り出し、着信ボタンを押す。
 そこから3D映像が浮かび上がり、送信相手を映し出した。

「な、何ですのそれ!」
「3D携帯電話も知りませんの? はいこちらエリカ」
『あ、エリカちゃん! ちょっとお話があるんだけど!』
「すいませんけどユナ、こちらはちょっと立込んでまして…」
『ひょっとして、ウィッチを名乗る少女がそこにいませんか!?』

 通話にエルナーが割り込み、エリカの視線がペリーヌやバルクホルン達に注がれる。

「……おりますけど」
『やはり! 大規模な時空転移反応があなたの家の方角からあったんです! そこにいるウィッチは、パラレルワールドから来た人達です!』
「パラレルワールド? どういう事ですのエルナー?」
『だ、誰がいるんですかそこに!』
「ちょ、宮藤さん!?」

 3D映像に割り込んできた芳佳に、ペリーヌも思わず割り込む。

『あ、ペリーヌさん! 他にも誰かいますか!』
「バルクホルン大尉と、ハルトマン中尉がいますわ!」
『こっちはリーネちゃんと一緒です!』
「宮藤とリーネもいるのか!」
「え、どこどこ?」
「ちょっと、そんなに割り込まないで下さい!」

 バルクホルンとハルトマンも割り込み、エリカも思わず悲鳴を上げる。

『ともかく、今からそちらに向かいます! 重要な話がありますから!』
「こちらにも、それに詳しそうな方が一人おります。お待ちしておりますわ」

 エグゼリカの方をちらりと見ながら、エリカは電話を切る。

「避難していた者達に帰還を。それと新しくお茶の用意をさせておきなさい」
「一体、何が起きてるんでしょう?」
「さあ? 厄介な事なのは間違いないですわね」
「確かに」

 ミドリの呟きに、エリカとペリーヌは同時にため息を漏らした。



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP3
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/11/21 11:01
EP3


 ティーカップに満たされた琥珀色の液体を、エリカは優雅に口腔に入れる。
 広がる芳醇な香りと味わいに、思わず吐息を漏らす。

「このケーキおいし~」
「ユーリィこれとそれも食べるです~」
「ユーリィちゃん、お腹壊すよ?」
「うわ、アッサムのゴールデンチップス……王室御用達の紅茶だよこれ」
「あなた達、お茶くらいもう少し静かにたしなめませんの?」
「すまないが、今は栄養の補充が優先だ」
「あ、これお替り~」
「皆さん余裕ですね……」

 新たにセットされた大きなテーブルの両脇で、少女達がハイティー方式で出されたケーキと紅茶を次々と流し込んでいく。
 その向こうでは、先程のヴァーミスとの戦闘で破壊された香坂邸の復旧がすでに始められていた。

「何か、すごい状態になったわね」
「まったくです」

 居並ぶ面々を見たポリリーナが、紅茶をすすりながら思わず漏らした言葉に、エルナーも反応する。

「何がどうなっているのか、誰か説明してほしいものですわね」
「そうだ! 一体どうなっている!」

 エリカのぼやきに、バルクホルンも反応して立ち上がる。

「トゥルーデ、クリームついてる」
「はっ!?」

 ハルトマンに指摘され、バルクホルンは慌てて口元を拭う。
 その光景に思わず笑みをもらしながら、エグゼリカが立ち上がった。

「ここを襲撃した敵は《ヴァーミス》と言います。私の住んでいた星系に突然襲撃を仕掛けてきた、自律戦闘単位集団。超惑星規模防衛組織チルダは、そのヴァーミスに対抗するため、私達、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》を製造投入。戦況は激化の一途を辿り、私はその途中でヴァーミスの撤退転送に巻き込まれ、この地球に辿り付きました」
「待て。製造投入、だと?」
「そうか、あなたは機械人のような存在なんですね?」
「はい」
「へ~、亜弥乎ちゃんと同じか~」

 エグゼリカの説明に、ウィッチ達は困惑するが、似たような存在を知っているユナ達は一応納得した。

「けれど、そんな闘いの話なんて聞いた事ないわ?」
「そうね、香坂財閥のネットワークでもそんな情報は皆無よ」
「それが、転移その物が不完全な物だったらしく、元の星系の場所すら私にも分からないんです。そのため、私は姉さんと共に、戦闘による破損を修復しながら、この地球で暮らしていく事にしたのです。まさか、今になってヴァーミスが地球襲撃を開始するとは………」
「ええい、さっぱり分からん!」

 話に全くついていけないバルクホルンが思わずテーブルを立ち上がりながら叩き、その反動で幾つかのティーカップが転げて中身をぶちまける。

「わあ!」
「まだ飲んでる途中だったのに!」
「あ、すまん………」

 あちこちで悲鳴が上がり、バルクホルンが身を小さくする。

「まだ断定できませんが、恐らくエグゼリカ、貴方もパラレルワールドから来た可能性があります」
「私も? じゃああの人達も………」
「だから何の話だ!」
「ここは、貴方達のいた世界とは似て非なる世界だという事です」

 エルナーの説明に、思考が追いつかないバルクホルンは顔を更にしかめる。

「そうですね、向こうで動いている作業機械を見てください。似たような物はそちらでもあるでしょうけど、あそこまで進んでましたか?」

 エルナーの示した先、作業中の無人機械やホバー機械の数々に、バルクホルンは言葉を詰まらせる。

「………あんな物は、カールスラントにもまだ無い」
「そうでしょ、なぜなら貴方達のいた世界にはまだ存在していない機械です。逆に、貴方達のようなウイッチ、そしてストライカーユニット、それはこの世界には存在してません。そういう存在していない物が存在しあう異なる世界、それがパラレルワールドです」
「……信じられん」
「信じるも信じないも、今こうしてこんな事になってるじゃん」

 あっさりと状況を受け入れたハルトマンが呟くが、バルクホルンは未だに混乱している。

「……ここがどこか違う所だという事は認識した。で、どうやったら戻れるのだ」
「……それなんですが」

 エルナーは言葉を濁し、ちらりとエグゼリカの方を見る。

「元世界の空間座標と、大型転送装置があれば……」
「それはどこにある!」
「………彼女が転移に巻き込まれて、そのまま地球にいる。つまりそういう事ですよ」

 エルナーの言葉の意味を理解したバルクホルンの顔が、ゆっくりと青くなっていく。

「つ、つまり私達は帰れないという事か!?」
「まだそう決まった訳では……」
「貴方達がこの世界に転移された要因を見つけ出し、解析していけば、何か糸口が分かるかも」
「そんな悠長な事をしてられるか! 一刻も早く戻らねば、私は脱走兵になってしまう! 敗北主義者として扱われ、今までの戦歴も勲章も抹消され、命惜しさに逃げ出した惨めな軍人崩れになってしまうのだ! いや、私だけならいい! その汚名はクリスにまで及んでしまう! 何が何でもそれだけは避けねば!」
「落ち着いてくださいバルクホルンさん!」
「大尉、気を確かに!」

 完全に錯乱しているバルクホルンを、芳佳とリーネがなんとか押さえてなだめようと苦心する。

「もうちょっと落ち着きのある人に見えたけど……」
「根が真面目過ぎると、こういう時ああなる物らしい……」
「どうしよ、あれ?」
「さあ……」

 エリカ7もどうすればいいか迷うが、それまで妙に静かだったペリーヌが席を立つと、紅茶の道具が置いているワゴンに近寄り、予備のカップにそこにあるビンの中身を入れる。

「バルクホルン大尉、失礼します!」
「むぐ!?」

 カップを手に、バルクホルンの前まで歩み寄ったペリーヌはその中身、紅茶の香り付け用においてあったブランデーを一気にバルクホルンの口内に流し込む。
 薄めもしないブランデーを一気に飲み込んだバルクホルンの顔が一気に赤みを増し、そして静かになる。

「げ、げほほ!」
「大人しくなりましたね」
「それ、20年物のXOコニャックですわよ? 一息に飲む物ではございませんわ」
「エリカちゃん、それ以前に未成年にお酒は……」
「カールスラントだと16歳以上はOKだよ。バルクホルンは全然飲まないけど」
「あ、あらりまえだ! 軍人はる者、アルほールなぞ…」

 アルコール度50はある蒸留酒を一気飲みしたため、バルクホルンのろれつがやや怪しくなっている。

「ほらほらトゥルーデ、指揮官なんだからしっかりしないと」
「指揮官?」
「だってそうじゃん。ミーナ隊長も坂本少佐もいないし、それだと階級はトゥルーデが一番上じゃん」
「そうか、そうだな、うん。カールスラント軍人、しかも指揮官たる者、冷静を務めねば……」

 まだ顔が赤いが、なんとか普段の落ち着きを取り戻したバルクホルンが席に座る。

「すいません、騒がしくして……」
「いえ、多分彼女の反応が普通なのかもしれないわね」
「私も地球に飛ばされた時は随分と混乱しました………」

 芳佳が謝るが、ポリリーナとエグゼリカがむしろ認めるようにしてその場を諭す。

「ともあれ、今分かっている事を整理しましょう。彼女達501小隊ウィッチが謎の時空転移に巻き込まれ、この世界に飛んできた。それよりずっと前にエグゼリカもこの世界に。そして今、ウィッチ達の転移と同時に彼女達が戦っていた敵、ネウロイもこの世界に出現、それと一緒に、エグゼリカが戦っていたヴァーミスも出現した。私には、これらがバラバラの事とはとても思えません」
「私も同意見ね」
「つまり、どういう事?」

 エルナーの推論にポリリーナが賛同するが、ユナは首を傾げる。

「パラレルワールドからの多数の転移、これは偶然ではなく、何かの要因があるという事です。もっとも大規模な災害か、人災かまでは分かりませんが………」
「待ちなさい。だとしたら、これで終わりではなく、始まりという事かしら?」
『!!』

 エリカの言葉に、全員に緊張が走る。

「その可能性は大いにあります」
「我々とネウロイ以外に、まだ何かが来ると言うのか!?」
「もしくは、別の世界にすでに現れているか。断定はできませんが、否定もできません」

 バルクホルンの言葉と、それを肯定も否定もしないエルナーの言葉に、全員がざわめき始める。

「そしてそれが何であれ、この世界に仇なす存在ならば、光の救世主であるユナは立ち向かわねばなりません」
「それが光の救世主の宿命、だもんね」
「ユーリィもいるです~」
「私もいるわ」
「めんどくさいけど、やるしかないみたいね~」

 意気を上げるユナの周りに、ユーリィ、ポリリーナ、舞が集う。

「ここがどこであれ、ネウロイが襲撃してくるならば、我々501小隊は立ち向かうのが仕事だ」
「それが、私達ストライクウィッチーズです!」
「そうだね、芳佳ちゃん!」
「その通りですわ」
「ネウロイ以外の相手するのも、面白そうだしね」

 バルクホルンの宣言に、芳佳が力強く立ち上がり、リーネ、ペリーヌ、ハルトマンもそれに頷く。

「ヴァーミスの襲撃が始まったのならば、戦うのがトリガーハートの目的、そしてこの地球を守るのが私の選んだ目的です」

 エグゼリカがその意思を強く表す。

「敵が何であろうと、私の家を破壊した御礼はしてさしあげませんと。無論その黒幕がいるとしたら、その方にもたっぷりと返してあげますわ! この香坂 エリカの名の下に!」
「エリカ様がそう言われるのでしたら」
「私達、エリカ7はそれに付き従うだけです」
「フェアプレー精神の無い連中が相手みたいだし」
「取られたゴールの分、倍にしてやる!」

 エリカが誓うのを、ミドリとミキが静かに従い、マミとルイはリターンマッチに闘志を燃やす。

「それでは、皆さん力を合わせ、この一連の転移解決のため、共に戦いましょう!」
『お~!!』

 少女達が皆、拳を突き上げて一致団結を誓う。

「だとしたら、まず問題がある」
「補給、ですね?」
「ああ、残弾が少ない。どこかで補給する必要があるが……」

 バルクホルンの問いかけに、エルナーは悩む。

「貴方達ウィッチの使う銃は、今では完全に骨董品ですからね……弾薬のアテは……」
「あら、なんでしたら最新型のを香坂財閥で用意しますわよ?」
「それが使えればいいのですが……」

 ある懸念を抱いていたエルナーだったが、そこにヘルメットに執事服を着た初老の男性が、一冊の本を持ってくる。

「見つかりました、お嬢様」
「ご苦労」

 すこしホコリっぽいその本を手に取り、エリカはあるページを探す。

「ありましたわ」
「見せてくださいまし!」

 エリカが指差したページを、ペリーヌはものすごい勢いで本をひったくって覗き込む。

「あの、その本なんです?」
「香坂家の家系記録書ですわ。彼女が知りたい事があるというので」

 芳佳の質問にエリカが答えるが、そこでペリーヌがその本を手に小刻みに震えているのに気付く。

「え……いや………あの………」
「ペリーヌさん?」
「何か面白い事書いてるの?」
「どれどれ?」

 ペリーヌのただならぬ様子に、皆も不審と興味を持ち、ハルトマンが硬直しているペリーヌから記録書を抜き取り、テーブルの上に広げた。

「あれ?」
「な!?」
「これって……」
「ペリーヌさん!?」

 そのページには、モノクロで随分古びている一枚の女性の写真が載っている。
 しかもその女性は、メガネをかけておらず、随分と大人びているがペリーヌそっくりの顔をしていた。

「これは……どうやら彼女の並列存在のようですね」
「光の救世主だった私みたいな?」
「ええ」

 エルナーも興味を持ったのか、そのページを読み上げる。

「ええと、香坂 ピエレッテ。旧姓ピエレッテ・H・クロステルマン。フランス貴族、クロステルマン家の血筋に生まれ、戦後フランス復興と文化財保護に尽力。同じく文化財保護運動をしていた後の8代目香坂家当主、香坂 満雄と出会い、その妻となる」
「貴族としては、随分と変わった名前ね」
「確か、ピエレッテって女ピエロって意味だたはず」
「その名で呼ばないでくださいまし!」

 フランス語の名前の意味を知っていたポリリーナとミキが呟いたのを、硬直していたペリーヌが思わず怒鳴り帰し、はっとして口をつむぐ。

「その名とは?」
「………ピエレッテ・H・クロステルマンはお婆様がつけてくれた、私の本名ですわ」
「じゃあペリーヌってのは、あだ名なんですか?」
「ええまあ……坂本少佐にしかお教えしてなかったのに………」

 バルクホルンと芳佳が、顔を赤くしながらそっぽを向いて応えるペリーヌと写真の女性を交互に見る。

「ちょっと待った。これって、彼女のご先祖なんだよね?」
「ええ、そうですわよ」
「じゃあ、この人、ペリーヌの子孫って事になるんじゃない?」
「正確には並列存在の子孫ですから、微妙に違いますが……」

 ハルトマンの指摘にエリカとエルナーが補足した所で、再度ペリーヌが硬直する。

「……子孫? 私の………?」
「そういえば、エリカ様に雰囲気は似てますけど」
「普段からエラそうなトコはツンツンメガネと一緒だし」
「いや、並列存在だからと言っても、性格とか遺伝子も一緒とは限りませんが……」

 好き放題言う面々にゆっくりと振り返りながら、ペリーヌが完全に彫像と化す。
 だがそこで、エリカが席を立ち上がるとペリーヌの前まで歩み寄り、両肩に手を置く。

「私は、貴方のような方が先祖というのなら、誇りに思いますわ」
「え?」
「先程の闘い、そしてそのプライド、貴族のお嬢様として、これ程完璧な方は見た事がありません。このような方の血を受け継いでいるのなら、この私の完全無欠なお嬢様ぶりにも納得がいきますわ。何一つ、恥じる事はありません」
「エリカちゃんがあんなに人の事褒めるなんて……」
「暗に自画自賛してる気もしますが」
「まあ、ペリーヌさんも悪い気はしないと思いますけど」

 どこか恍惚とした目でペリーヌを見ているエリカに、ユナ、エルナー、芳佳がひそひそと呟く。

「改めて、このレイピアは貴方の物です。銀河一のお嬢様としての責務を果たすため、共に戦いましょう!」
「ええ! 分かりましたわ!」

 完全に意気投合したのか、二人が手を取り合い、目じりに涙まで浮かべている。
 その光景を、皆はどこか生ぬるい視線で見つめていた。

「え~と、まずはこの後の行動方針を決めないと」
「必要なのは補給と情報だ。補給は何とかなるようだが、情報が全く足りん。他の501小隊のメンバー6名の安否も気になる」
「坂本さんやサーニャちゃん、どこにいるんだろう……」

 エルナーの提案に、即座にバルクホルンが答える。
 その内容に、他のメンバーを心配してウィッチ達の顔が曇る。

「う~ん、私のセンサーでは限度がありますからね………ここはもっと高度なシステムを持つ所を頼る事にしましょう」
「高度……こうど……ああ、ミラージュね」
「ええ、永遠のプリンセス号なら、何か分かるかもしれません」
「また随分と大層な名だが、戦艦か何かか?」
「そうですよ、見てビックリしないでください」
「あの、次元転移反応なら、微弱なのを姉さんが感知して向かってます。太陽系外からかもしれないと言ってましたが」
「う~ん、それも気になりますね。ミサキにも連絡を取っておきましょう」
「ミサキちゃん元気かな~。最近お仕事忙しくてメールもあまり来ないんだ」
「じゃあ、上に上がる準備をしましょう。クルーザーはこちらで用意するから、全員支度を」

 エグゼリカからの情報も気になるが、とにかく思いつく限りの手を打ちながら、ポリリーナが準備に取り掛かる。
 ちなみに、他の全員はまず目の前のケーキを食い尽くす所から始めていた。

「よし、栄養の補給は完了した」
「トゥルーデ、今度は鼻についてる」
「ミドリ、アコとマコ、セリカに連絡を」
「分かりました」
「私は先に行ってます。上の戦艦にですね?」
「単騎で大気圏出れるんですか。それではミラージュには連絡しておくので、現在分かっているデータを全てお渡しします」
「医療品は私が持ちます! 実家は診療所やってるんです!」
「こっちも、呼べる人みんなに連絡してみる!」
「じゃあ、出発よ!」
『お~!』



 乾いた音を立てて、最後の弾丸を吐き出した銃が沈黙する。

「くっ……!」

 連射のし過ぎで、すでに銃身が焼け付きかけていた銃を少女はためらい無く投げ捨て、片手に握っていた扶桑刀を正眼に構える。

「こいつは、なんだ?」

 呟きながら、少女は刀を握っていない手で右目を覆っている眼帯を外す。
 眼帯の下からは、瞳に魔力の篭った赤い光を宿した《魔眼》がその固有魔力で今彼女が戦っている相手を文字通り見透かした。

(コアが無い、という事はネウロイではない。だが、機械とも生き物とも分からない?)

 その相手、三角翼の巨大な爆撃機のような敵に、少女は持てる力の全てをぶつけ、戦っていた。

(他の者は返答も姿も無い……一体ここはどこだ?)

 虚空を旋回しながら、眼下に広がる雪原に少女は疑問を浮かべるが、今はまず目の前の突如として襲ってきた謎の敵に専念する事にした。

(魔力がもうほとんど残っていない………これで、決める! 胴体部中央、ネウロイの物とは違うが、コアらしき反応。そこに狙いを定める!)

「はああああぁぁ、烈風斬!!」

 残った魔力を全て注ぎ込み、手にした扶桑刀からオーラのような光が立ち上がる。
 そして、揺らめく白刃を大上段に構え、一気に振り下ろした。
 白刃からは凝縮された魔力の斬撃波がほとばしり、相手の胴体部を半ばまで一気に両断した。

「これで……う!?」

 魔力の大規模使用で、少女の体から力が抜け落ちていく。
 なんとか残った力で雪原に不時着しようとした時、相手の体が今までとは明らかに遅いが、再生を始めている事に気付いた。

「浅かったのか………!」

 再度上空へと舞い上がろうとした少女だったが、両足のストライカーユニットを起動させる魔力も無く、雪原に倒れこみかける。

「せめて……一太刀………」

 杖代わりに雪原に突き立てた扶桑刀を手に少女は構えようとするが、疲労感がそれを上回っていく。

(これまでか!?)

 少女が歯噛みし、覚悟を決めた時だった。
 突然、どこかから強力なビームが飛来し、再生しかけていた相手のコアを貫く。

「!?」

 驚いた少女が、ビームの飛来した方向を見るが、そこには何も見えない。
 魔眼を使おうと眼帯に手をかけた所で、とうとう限界が来た少女はそのまま倒れこんでしまう。

「次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。現時点を持って貴方を私のマスターとして登録いたします」
(誰かいるのか……マスター? 一体……)

 薄れていく意識で聞こえてきた声に、少女は疑問を覚えるが、疲労が彼女の意識を完全に途絶させる。
 その彼女のそばに、小さな影が降り立つ。

「生命反応、低下。緊急の救助措置が必要と認識。救助ビーコン、発動」

 小さな影が呟くと程なく救助ビーコンが全方位に流される。
 それ程時間を待たずに、上空に一隻のクルーザーが姿を現していく。

「マスター、もう少しの辛抱です。私には、貴方が必要なのです………」



「う………」

 短く呻いた後、少女はゆっくりと目を開ける。

「ここは……」

 そこは小さな部屋で、あちこちに見慣れない機械が置いてある。
 その中央にあるベッドに寝かされた自分の体を見れば、手当てがほどこしてあり、枕元に愛用の眼帯と銃、そして扶桑刀が立てかけてあった。

「そうだ、私は…」
「目が覚めたようね」

 部屋のドアが突然スライドし、そこから一人の少女が姿を現す。
 長い黒髪を二つにわけ、どこか静かな雰囲気をまとった少女は、手にしたカップを差し出した。

「コーヒーでいい?」
「ああ、すまない」

 ベッドの上にいる、こちらも長い黒髪を後ろでしばった少女は、半身を起こしながら差し出されたコーヒーを受け取り、それを静かに嚥下する。

「落ち着いた?」
「一応は。すまないが、ここはどこだ?」
「私のクルーザーの中よ。あなたは、謎の敵と戦って倒れてたの。そこを私が救助した。いえ、正確には助けてくれたのは彼女よ」

 そういって、コーヒーを差し出した少女はベッドのそばにあるデスク、その上にある小さなベッドのような機械と、そこに寝かされている全長15cm程の白い少女の姿をした人形を指差す。

「? 人形ではないのか?」
「見た目はね」
『チャージ完了。リブートします』

 そこで突然小型ベッドから電子音声が響き、横たわっていた白い少女人形が目を覚ました。

「!?」
「再起動確認、そちらのお加減はいかがでしょうか、マスター」
「な、何だこれは!? 使い魔か!?」

 小型ベッドから起き上がり、声をかけてきた少女人形に、ベッドの上の少女は狼狽する。

「武装神姫ね。大分昔に流行した、大会用のバトルフィギュア。ただし、彼女は明らかにデータにある物とはエネルギーの桁が違い過ぎるわ」
「待て、大昔だと? こんな物、扶桑でもカールスラントでも作れないはずだ!」
「扶桑? カールスラント?……貴方、軍人みたいだけど、所属は?」
「私は扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊、連合軍第501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》副隊長、坂本 美緒少佐だ」
「……私は一条院 美紗希。銀河連合評議会安全保障理事局特A級査察官、コードネームは『セイレーン』」
「私は武装神姫・天使型MMS アーンヴァル」と言います」
『………』

 三人がそれぞれ名乗った所で、微妙な沈黙がその場に下りる。

「何だそれは?」
「それはこっちの台詞」

 ベッドの少女、美緒と介抱した少女、ミサキが互いに疑問を述べる。

「銀河連合? 何の冗談だ?」
「貴方の言うような組織は、銀河連合のどこにも存在しないわ」
「待て、そんなはずは………」
「待ってください。貴方達の所属する組織は、それぞれ並列世界にある物と思われます」

 首を捻る二人に、武装神姫のアーンヴァルが訂正を入れる。

「……どういう事だ」
「私は起動と同時に、インストールされていたプログラムに従って行動しました。プログラム内容は『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。それにより、私は貴方をマスターとして登録しました」
「次元転移? 何だそれは?」
「待って、次元転移!? 通常転移は一般化してるけど、次元転移なんてまだ理論段階よ! 実現化すれば、それこそ異世界からの転移が…」

 そこまで言った所で、ミサキがはっとして美緒の枕元の装備を見た。

「美緒、この装備、どこから?」
「軍の備品だ、この《烈風丸》は私が打ち鍛えた物だが」

 美緒は枕元の扶桑刀を手に取り、僅かに鞘走らせる。
 僅かに見えた白刃の怪しい光を見ながら、ミサキはある推測を口に出した。

「その銃、今から300年以上も前に使われていた記録がデータバンクにあったわ」
「300年!? そんな馬鹿な!」
「けれど、貴方が履いていたと思われるこのユニット、今の技術でも作れない。全く違う技術体系の産物よ」
「………理解できん。だが、その前に聞きたい。私のそばに、誰かいなかったか?」
「いいえ。サーチ反応があったのは、あなたと彼女だけよ」
「私のセンサーでも同意です。生体反応、有機反応、どちらもマスターだけでした」
「………そうか」

 それだけ言うと、美緒はベッドから降りようとする。

「まだ寝てた方がいいわ」
「そういう訳にいかん。私は部下を探しに行かねばならない。それが上官の務めだ」
「残念ながら、それは不可能です。マスター」
「なぜだ」
「こういう事よ」

 ミサキは腕の小型コンソールを操作し、部屋の一部を透明化させる。
 そこに広がる光景に、美緒は絶句した。

「な、何だこれは!?」
「このクルーザーは、今ケンタウルス星系から太陽系に向かっているわ。貴方を見つけたのは、偶然ある星の地表から奇妙な転移反応をサーチしたから。さすがに生身で宇宙空間は移動できないでしょう?」
「う、宇宙空間!? 私は今宇宙にいるのか!?」

 その光景、視界全てに広がる見た事も無い無数の星々に、美緒は驚愕するしかなかった。

「信じられん………一体、どうなっているんだ……みんなは、無事だろうか………」
「他に怪しい転移反応は無いという事は、この周辺宙域にはいないと思うわ」
「私もそう思います、マスター」
「けど、今地球で奇妙な事件が起きてるらしいわ。そしてそれに私の友達が関わってるという情報を聞いたの。だから今地球に向かっている。そこで何か分かるかもしれないわ」
「そうか………」
「地球につくまで、まだしばらく掛かるから、休んでいた方がいい。負傷急速治療装置の効果が悪くなるわ」
「……機械で宮藤のような事が出来る時代、か」
「マスターは私が守ります。だから安心してお休み下さい」
「起きている方が、悪い夢を見ているようだ……」

 正直な感想を漏らしつつ、美緒は再度ベッドに横になる。

(みんな無事でいてくれ………ミーナ………)

 コーヒーを飲んだ事よりも、精神的な不安で美緒は眠れそうにも無かった……



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP4
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/01/04 21:59
AD2084 太平洋中央部

「こちら雷神 一条、目的地到着まであと30秒」
「こちらバッハ エリーゼ、今の所何も見えないよ?」

 快晴の空と青い海の中央を切り裂くように、二つの影が飛んでいた。
 高速の噴煙を上げて飛ぶその姿は、飛行機のそれとは大きく異なる。
 まるでオモチャのフレームのような姿に、むき出しのコクピットにタイトスーツ姿の少女が二人、それぞれの機体を操縦している。

 ゴールドの機体に乗った黒髪の少女が、探索目標地点までのルートをチェックしながら、センサーに目を走らせる。

「ワームではないようね……全然反応が無い」
『けど、奇妙な磁気反応があったのは確かです。もう片方には音羽さんと可憐さんがそろそろ到着します』
「う~ん、やっぱり何もいないよ?」

 青灰色の機体に乗った小柄、というか幼い少女が首を傾げる。
 彼女達が乗る飛行外骨格《ソニックダイバー》はその名の通り、音速の速度で旗艦である特務艦《攻龍》のセンサーが捕らえた異常反応のポイントへと向かっていた。

「そろそろ……何だあれは!?」
「ウソ? 人間?」

 目の前にある光景に、二人のパイロットは思わず声を上げた。


「あれは何!?」

 高速で近づいて来る謎の機影に、彼女は思わず銃口を向ける。
 だが、向けられたのは一瞬の事で、あまりの速度差にその二つの機影はすぐさま通り過ぎてしまう。

「ジェットストライカー? いえ違う……」

 赤髪の合間から伸びる灰色狼の耳を動かしながら、固有魔法を発動。

「魔力を感じない、という事はジェットストライカーではない。けれど、確かに人間が乗っている………」

 自分の持つ三次元空間把握能力の固有魔法で相手を認識したが、更に深まった謎に警戒を更に強める。

「一体、あれは……」


「こちら一条、目標地点に奇妙な人物を発見!」
『あの、奇妙って?』
「足に変なユニット付けた赤毛の女の人が空飛んでる!」
『はあ?』
『おい一条、エリーゼ、気は確かか?』
「確かです大佐! 今映像送ります!」

 オペレーターのみならず、指揮官にすら正気を疑われるような報告に、自分の目すら疑いながらも、再度二機のソニックダイバーは目標に近づいていった。

『………おいおい、ありゃ何だ』
『え~と、確かにエリーゼの言った通りですね………』
「大佐! 指示をお願いします! どう見ても人間ですが………」
『頭と腰に生えてる物以外はな。通信は?』
「それが、何か発しているのですが、どうにも上手く拾えません」
『よし、速度をあわせて接触してみろ。サインを忘れるな』
「了解」

 ゴールドの機体のソニックダイバーは謎の人影の前に出ると、そこで戦闘用強化外骨格形態のAモードに変形、速度を落としながら翼を左右に振って戦闘の意思無しのサインを送る。


「変形した!? けどあれは……降伏サイン?」

 謎の機体が自分の前に出て戦闘機での降伏サインらしき物を出すのを見た赤毛の少女は、手にしたMG42機関銃にセーフティーを掛けると、それを背負ってこちらもストライカーユニットを左右に振って戦闘の意思が無い事を示す。
 それを見た謎の機体が、その場に直立して静止、両者は互いに近接した状態で空中に停止する。

「随分と大型のストライカーユニットね」
「それはこちらの台詞だ、何だその小型の飛行外骨格は」
「私はカールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐」
「私は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊リーダー、一条 瑛花上級曹長」
『……それどこの部隊?』

 きせずして、双方の紹介の後に全く同じ台詞を二人は発する。

「瑛花~、大丈夫そう?」
「向こうも敵意は無い。こっちは同じくソニックダイバー隊のエリーゼ・フォン・ディートリッヒ」
「ミーナよ、よろしく」

 赤毛の少女、ミーナがにこやかに手を差し出すのを、幼い容姿の金髪の少女、エリーゼがいぶかしみながらも握り帰す。

「所でここはどこかしら? 私達はロマーニャ上空を飛んでたはずなんだけど………」
「ロマーニャ? ここは太平洋のど真ん中よ?」
「太平洋!? ウソでしょ!?」
「本当だ。そもそも、お前はそんな奇妙な物でどこから飛んできたんだ?」
「? ストライカーユニットを見た事が無いの?」
「……大佐、接触には成功しましたが、訳の分からない事を言ってます」
『………どうしたもんか』

 対応に困った瑛花が隊長に指示を求めるが、通信機からはため息が帰ってくる。
 その時、突然アラームが鳴り響く。

『ワーム反応! そこから南西500m! D-クラスです』
「それなら、私とエリーゼだけで対処できるわね」
『ええ……! 待ってください! 誰か交戦中です!』
「誰が!?」

 オペレーターからの言葉に、瑛花が驚きながらも反応のあった方向、そこから微かに見える戦闘の銃火らしき物を捕らえる。

「私の仲間かもしれないわ! 行きます!」
「ちょっと待て! そんな火器じゃ…」

 静止の声も聞かず、ミーナがそちらへと向かう。

『一条、エリーゼ、すぐに向かえ! どうやら中佐殿はそんなに速度が出ないようだ!』
「了解!」
「行くよバッハ!」

 ミーナの後を追った二機だったが、相対速度の違いで即座に追い越す。
 即座に目的地についた所で、また異様な光景を二人は目撃する。

「この、この!」

 小型のワーム複数相手に、一人の少女が戦っている。
 少女はソニックダイバーともストライカーユニットとも違う、小型の戦闘機のようなユニットを腰かけるような姿で駆り、ワームと互角の戦闘を演じていた。

「今度は何だろ?」
「知らないわ。雷神エンゲージ、交戦に入ります!」

 思わず投げやりに言いながら、瑛花のソニックダイバー《雷神》が両肩の20mmガトリングを連射する。

「バッハ、行くよ! MVランス!」

 エリーゼのソニックダイバー《バッハシュテルツェV‐1》が分子振動槍《MVランス》を抜いて熱帯魚のような姿をした小型ワームを貫いていく。

「あ、スカイガールズだ!」
「そこの貴方! 危ないからどいてなさい!」
「そういう訳には行かないんです! これは亜乃亜のお仕事ですから!」

 戦闘機型ユニットを駆る少女、亜乃亜が胸を張って言いながら、ワームに攻撃を続ける。

『ワーム、残数5、4、あと3体!』
「これで2!」
「ラスト!」

 最後の一体を雷神の大型ビーム砲が貫いた瞬間、突然ワームが半分に分裂して襲い掛かってくる。

「しま…」

 予想外の攻撃に反応が遅れた瑛花だったが、飛来した銃撃が分裂したワームを貫き、爆散させる。

「合体分離型ね、気付かなかった?」
「助かった、ありがとう」

 銃撃を放った相手、ミーナに礼を述べつつ、瑛花は周辺を確認。

「敵影無し、戦闘終了」
「で、この人はアンタの仲間?」
「いいえ、初めて見る人ね」

 エリーゼが亜乃亜を指差し、ミーナは首を傾げる。

「貴方、所属組織と階級は?」
「あ、はい! 秘密時空組織「G」所属天使、空羽(あおば) 亜乃亜です」
『…………』

 その場に、微妙な沈黙が降り立つ。

「………大佐。指示を」
『もう全員連れてこい。艦長には適当に言っとく』

 思いっきり投げやりな指示を出して、通信が切れる。

「……それじゃあ、色々話したいから母艦に来てほしいんだけど」
「仲間を探すのには、そちらに一度行った方がいいみたいね」
「う~ん、必要の無い接触は禁止なんですけど、必要かな?」
「もうエリーゼ訳わかんない!」
「私もよ……」

 深くため息を吐き出しながら、瑛花は飛行速度ギリギリでミーナと亜乃亜をエスコートして母艦である特務艦攻龍へと向かった。

「見た事の無いタイプの船ね」
「改装だけど、新型だからね」
「これが攻龍ですね。ニュースで見ました」

 二期のソニックダイバーが着艦する後ろで、ミーナと亜乃亜も着艦する。

「ふう」

 一息ついたミーナがストライカーユニットを外し、その頭と腰にあった灰色狼の耳と尻尾が消える。

「へ~、それ本当に生えてるんだ」
「あら、ウイッチを見るのは初めて?」

 興味深そうに見る亜乃亜にミーナは微笑むが、そこで攻龍のメカニック達が二人のユニットに集まってくる。

「おいおいまたかよ……」
「また、って?」
「いやさっきも音羽が連れて来たのが」

 ストライカーユニットをしげしげと見ていた男性メカニックが、開いている格納庫ハッチの向こう、置いてある一組のストライカーユニットを指差す。

「ファロット G.55S、という事は…」



「ルッキーニさん!」
「びわーーーー!!」

 案内された食堂に入った所で、耳をつんざくような鳴き声が響き渡る。
 その鳴き声の主、幼い容姿の褐色黒髪の少女が、周囲もはばからずに泣き続けている。

「あ、貴方の仲間?」
「ええ、ロマーニャ公国空軍第4航空団第10航空群第90飛行隊・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》のフランチェスカ・ルッキーニ少尉よ」
「少尉? これが? 冗談でしょ?」

 食堂内にいた瑛花が耳を塞ぎながら少女、ルッキーニを見る。

「と、とにかく泣き止ませて!」
「見つけた時からずっと泣き通しで……」
「びーーーー!!」

 ルッキーニの右側で耳を塞いでいる茶髪ボブカットの元気そうな少女、ソニックダイバー隊《零神》のパイロット桜野 音羽が悲鳴を上げ、左側でなんとか泣き止ませようとする灰色の髪をツインテールにした大人しそうな少女、ソニックダイバー隊《風神》のパイロット園宮 可憐が困り果てた顔をする。

「どうしたの? ルッキーニさん」
「ミーナ隊長……シャーリーが、シャーリーが見当たんない~……!」

 ミーナの問いに僅かに鳴き声を小さくしたルッキーニだったが、再度大音量へと戻る。

「シャーリーって?」
「ルッキーニさんとコンビを組んでるリベリオン空軍の少尉なんだけど、見かけなかった?」
「いいえ、周辺には他の人の反応は全く……」
「びーーーーー!!」
「弱ったわね……シャーリーさん以外にルッキーニさんをなだめるとしたら……」
「あの、いいですか?」

 そこへ、メガネをかけた軍服姿の少女、ソニックダイバー隊のオペレーターを勤める藤枝 七恵が様子を見に訪れる。

「冬后大佐が話を聞きたいから作戦会議室に全員来て欲しいそうですけど………」
「この状態で?」
「う~ん」

 一向に泣き止まないルッキーニに、全員がほとほと困り果てる。
 ふとそこで、ミーナが七恵の事をじっと見つめていた。

「え~と、ちょっといいかしら?」
「はい? 私ですか?」
「こっちに来て、ルッキーニさんの後ろに立ってもらえる?」
「こうですか?」

 にこやかに微笑みながらのミーナの提案に、若干の不信感を覚えながらも七恵が言われた通りにルッキーニの背後に回る。

「身長差を考えると、これくらいかしら……そのまま両足をしっかりと踏ん張っててね」
「え?」
「はい」

 言われた通りにした七恵を確認したミーナが、いきなりルッキーニを軽く押し倒す。
 バランスを崩したルッキーニがそのまま後ろの七恵、正確にはその豊かな胸へと後頭部から倒れこみ、頭をうずめるような形で支えられる。

「きゃっ!?」
「う~……」
「あ、止まった」
「……なんで?」
「あの、恐らく………」
「胸?」
「え? ええ?」
「うじゅ~~」

 先程までの泣きっぷりがウソのようにルッキーニが泣き止み、ソニックダイバー隊も呆気に取られる。
 いきなりの事に七恵が混乱するが、ルッキーニは更に頭を動かし、七恵の胸に更に埋めていく。

「うじゅ………」

 だが、動きが止まるとなぜかその顔に不満そうな表情が浮かぶ。

「あの、何か?」
「シャーリーより小さい………」

 ルッキーニの一言に、ソニックダイバー隊全員が氷像と化した。

「小さい? 小さい?」
「七恵さんが?」
「ウソ、そんな………」
「よ、世の中上には上が……」

 四人全員が力を失って崩れ落ちそうになるが、かろうじて堪える。

「ルッキーニさん、落ち着いた?」
「うん……」
「シャーリーさんや、他の皆は?」
「分かんない。気付いたら、一人で飛んでた」
「私と同じね。だとしたらみんなも?」
「あ、そう言えば遠くの方に反応があったような………てっきりノイズかと」
「お~いお前ら何やってんだ?」

 悩む皆の所に、フライトジャケット姿に無精ヒゲの男がふらりと姿を現す。
 そこで、ルッキーニが七恵の胸に埋もれているのを見て男は更に微妙な表情になる。

「ホントに何やってんだ?」
「あの、こちらの事情で………失礼ですが、貴方は」
「この人がソニックダイバー隊の部隊指揮官、冬后(とうごう) 蒼哉(そうや)大佐です」
「それは失礼しました。501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。こちら部下のフランチェスカ・ルッキーニ少尉です」

 敬礼をするミーナに、男、冬后は返礼しながら、顔をしかめる。

「冬后だ。で、501ってのはどこの部隊だ? オレはそんな部隊、全く知らん」
「え……501は現在ロマーニャ上空のネウロイの巣対処のために行動中ですが……」
「だから、2072年に人類統合軍が出来て以来、そんな部隊は存在しねえって」
「2072年!? 私達がいたのは、1945年です!」
「………は?」
「え?」
「1945年って言うと………」
「第二次世界大戦が終結した年です……」
「世界大戦? ネウロイ大戦とは呼ばれる事もあるけど……」
「待て、ネウロイってのは何だ?」
「え、ネウロイを知らない?」

 全くかみ合わない双方の会話だったが、そこで食堂の隅で勝手にもらったクリームソーダを味わっていた亜乃亜がポンと手を叩く。

「なるほど、謎の転移反応って貴方の事だったんですね」
「転移反応?」
「はい。今回「G」から受けた指令は、太平洋上にあった謎の転移反応を調査する事。質量は小さいみたいですけど、エネルギー総量の大きさから、時間軸だけじゃなくて次元軸まで飛んだ可能性があるって言われました~」
「………つまり、どういう意味だ?」
「つまり、そこのリーネさんとルッキーニさんでしたっけ? 貴方達はこの世界の人間じゃなくて、別の世界の人間なんですよ」
「えっと、それってパラレルワールドって奴?」
「そんな馬鹿な事があるわけ無いじゃない!」
「じゃあ、その二人の力と装備はどう説明します?」

 驚く音葉の隣で瑛花が否定するが、亜乃亜の断言に言葉を詰まらせる。

「……おい、誰か夕子先生呼んできてくれ」
「り、了解……」

 冬后の船医を呼ぶ提案に、可憐が引きつった顔をしながら返礼した。


30分後 攻龍医務室

「三人とも脳波異常無し、精神鑑定正常、肉体的には極めて健康体ね。ミーナさんは少し硬直性疲労が見られるけど」
「最近デスクワークばっかりだったから………」

 攻龍の船医とソニックダイバー隊専属医療スタッフを兼任するメガネの女医、安岐 夕子が一通りの検査結果を出す。

「つまり、どこにも異常無し」
「そうね、妄想癖や解離性障害の兆候は皆無。なんなら、心拍計でもウソ発見機に使う?」
「でも夕子先生、さっき尻尾生えてたけど……」
「尻尾?」
「これの事?」

 エリーゼが指摘すると、ルッキーニが使い魔の黒い毛並みの耳と尻尾を出してみせる。

「ちょっと触ってみていい?」
「いいよ」

 少しキョトンとした顔で夕子がルッキーニの耳と尻尾を撫でてみる。

「こんな物、検査の時は無かったのよね……」
「ウイッチは魔力を行使する時、使い魔の特徴が現れるんです。こんな感じに」

 ミーナも自分の耳と尻尾を出して見せるが、夕子はしばらく考えてから検査機材のスイッチを入れる。

「ルッキーニちゃん、ちょっとそこに立ってみて」
「こう?」

 スキャナーの光がルッキーニをスキャンし、その結果が医療用コンソールに現れる。

「あら?」
「どれどれ」「どうなってるの?」「ちょっと見せてください」「エリーゼが見えない~!」

 ソニックダイバー隊も興味津々で覗き込むが、そこには耳と尻尾のある場所に影らしき物があるだけだった。

「これから見ると、物理的実体が無い事になるけど……」
「え? あるじゃん」
「だよね」
「ちょ、ルッキーニの引っ張っちゃや~!」
「実体のあるエネルギー体? そんな物……」
「そろそろいいか?」

 外で検査が終わるのを待っていた冬后が医務室内に入ってきて、ルッキーニの耳と尻尾を弄り回すソニックダイバー隊を見て呆れた顔を浮かべる。

「何やってんだ?」
「冬后さん、これ本当に生えてるんですよ」
「不思議ね、どうなってるの?」
「で、夕子先生の診察結果は?」
「彼女達の言ってる事は、間違いなく本当だろうって事ね」
「……マジかよ」
「あ、冬后さん。こっちも結果上がりました」

 頭を抱える冬后の所に、音羽の駆る《零神》の専属メカニック、橘 僚平がレポートを持ってくる。

「ストライカーユニットの方は、部品単位なら確かに130年位前の技術ですが、起動原理が分からないそうです」
「分からない?」
「エンジンはあるんすけど、燃料庫がどこにもないんです」
「それはそうよ。ストライカーユニットはウイッチの魔力で動くんだから」
「魔力って、マジ? ああ、それとそっちの方のユニットなんですけど、こちらは丸で見た事無い部品と技術の塊で、こちらも起動原理はさっぱり……」
「ライディングバイパーは天使のプラトニックパワーで動くから」
「……夕子先生、すいませんがオレも見てください。頭痛薬と胃薬がもらいたいんで」
「私も検査結果疑いたくなったわ………」

 自分達の常識が通じないような結果に、冬后と夕子も思わずため息をもらす。

「亜乃亜さん、でしたわね?」
「なあに?」
「転移反応っていうのは、他にもあったの?」
「え~と、この近隣に四つ。二つはミーナさんとルッキーニちゃんだから、あと二人いるかもしれません」
「じゃあ、シャーリーいるかもしれないんだ!」
「可能性はあると思いますよ」
「まだいんのかよ………」

 本気で頭痛薬の使用を考え始めた冬后だったが、そこで携帯端末がコール音を鳴らす。

「はい冬后」
『冬后大佐、回収した不審者の方はどうなってる』

 端末の向こうから、厳しい声が響いてくる。

「副長、それがなんと報告したらいいのやら……」
『回りくどい事はいい。要点を言いたまえ』
「要点と言われましても……」

 根幹から理解不可能な事態に、冬后は頭を掻き毟りながら言葉を濁す。

「あれ通信機? 魔導インカムでもないのに、あそこまで小さくなってるのね」
「まあ、技術格差から言えばそうなりますね」
「それより、副長になんて説明する?」
「そのまま言ったら、怒られちゃうよね?」
「エリーゼだって信じられないのに、あの副長絶対信じないよ」
「つっても、どうにか説明しねえと……」

 上官への説明に苦悩するソニックダイバー隊を見ていたミーナだったが、ふと何かを思いついたのか、しどろもどろになっている冬后のそばに近寄り、その肩を叩く。

「何だ、今ちょっと立て込んでるだが」
「ちょっとお貸し下さい大佐」

 半ば強引に端末を手に取ったミーナが、見様見真似で話しかける。

「失礼致します、この船の上官の方でしょうか?」
『副長の嶋だ。君は?』
「私は501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」
『501? そんな部隊は聞いた事もないぞ』
「こちらも状況を説明したいのですが、部下が数名、近隣空域で遭難している可能性があります。指揮官として、部下の救助に向かわなくてはなりません。誠に失礼なのですが、この船から発艦及び、有事の際の救援をお願いいたしたいのですが」
『待て! この船は特務艦だ! 早々何者とも分からん連中を…』
『許可しよう』

 通話の途中で、別の随分と年のいった男性と思われる声が割って入る。

「貴方は?」
『攻龍艦長の門脇だ。遭難している者がいるのなら、見過ごす訳にはいかんだろう』
『しかし艦長…』
『太平洋の真ん中で遭難者を無視しろというのかね? それこそ出来ん話だ』
「ご配慮感謝致します、艦長」

 見えないにも関わらず、敬礼をしたミーナは冬后に端末を返す。

「それじゃあ、こちらも遭難者捜索のため、出撃します」
『……あまり時間をかけるな。ソニックダイバーの運用にどれだけ経費が…』

 副長のグチを最後まで聞かず、冬后は端末を切る。

「上官のあしらいが上手いな、あんた」
「こういうのって、時代が変わっても似たような物のようね」
「違いない」

 感心した声を上げる冬后に、ミーナは小さく笑みを浮かべ、冬后も思わずそれに続いた。

「じゃあさっきと同じ編成、一条はエリーゼと、桜野は園宮とに別れて捜索に向かえ」
「了解しました」
「亜乃亜さん、反応があったポイントを転送してください」
「ええと、ちょっと待ってて」
「ルッキーニさんはそちらのチームと一緒に行って」
「シャーリーどこかな?」
「ま、とにかく行ってる間に艦長と副長にはどうにか言っておく」
「それではお願いします」

 敬礼して出撃のために向かう少女達を見送った後、冬后は思いっきり顔をしかめさせる。

「さて、ああは言った物の、なんつえば言いか………」
「カルテ持って行くといいわ。少しは信憑性出るから」
「だといいが……」

 船医から渡されたカルテを手に、冬后は必至になって説明文を考えていた。



「出撃します!」
「行っくよ~!」

 二つのストライカーユニットの魔導エンジンの出力が上がり、真下に光の魔法陣が浮かび上がる。
 動き出したユニットにあわせて魔法陣も動き出し、やがて推力を得るまでに高めて二人のウイッチが飛び上がる。

「一体どういう仕組みやろ?」
「さあ……」

 格納庫からその光景を不思議そうに見ている雷神の専属メカニック・御子神 嵐子と可憐の風神の専属メカニック・御子神 晴子、性格が正反対の双子姉妹が珍しく同じ表情でウイッチ達を見送る。

「亜乃亜、ビックバイパー行きま~す♪」

 それに続いて、亜乃亜のライディンバイパーが垂直に浮上したかと思うと、一気に加速してウイッチ達に続く。

「あっちもどうなってんやろ?」
「さあ……」

 メカ専門の自分達の知識外にある機体に種々な興味を抱く中、攻龍のカタパルトが展開していく。

「雷神 一条、発進!」
「風神 園宮、出ます!」
「零神 桜野、ゼロ行くよ!」
「バッハ エリーゼ、テイクオフ!」

 続けて四機のソニックダイバーが連続してリニアカタパルトで射出されていく。

「全機Aモードにチェンジ、相対速度を向こうに合わせて」
「了解!」
「レシプロ機位の速度しか出ないみたいですし……」
「それ以前に、どうやってあんな変なので飛んでんだろ?」

 瑛花の指示で、先に出たウイッチ達を追い越した所で四機とも近接戦闘用の外骨格モードに変形、所定のチームに分かれる。

『それじゃあ、反応の出た周辺地帯を1km単位で捜索、見つからなくてもナノスキン限界五分を過ぎた所で帰還しろ』
「了解しました」

 冬后からの指示の元、捜索が開始された。


「まったく、この大事な時に奇妙な物を拾ってきおって………」
「仕方ありませんよ副長、ほっておく訳にもいきませんし」
「ストライクウィッチ、とか名乗っていたか。そんな物、聞いた事も無いぞ」
「確かに……」

 愚痴をもらす初老の副長をオペレーターの七恵がなだめるが、その隣の通信士の速水 たくみも首を捻る。

「あっちのちっこいビックバイパーに乗ってるのは、秘密時空組織「G」所属天使とか言ってたな~」
「「G」? Gの所属と名乗ったのか?」

 冬后の呟いた言葉に、それまで無言だった老齢の艦長が反応する。

「艦長、何かご存知で?」
「少しな」

 副長の問いに相槌だけ打って、艦長が再度黙り込む。

(まさか「G」の関係者がこの船に乗り込んでくるとは……一条提督の判断を仰ぐ必要があるか?)

 中将の地位にある自分の判断すら簡単に下せない状況になりつつある事を、艦長は己の胸の中に潜ませた。



「悪いわね、手伝ってもらって……」
「遭難者の捜索なら、断る理由も無いわよ」
「でも、もうちょっと速く飛べない?」
「巡航速度としては、これくらいが限度ね……魔力消費を考えないんならもう少し出るんだけど」
「ちなみに、魔力とやらが切れるとどうなる?」
「魔導エンジンが停止して海に落ちるだけよ」
「は~、結構難しいんですね~」

 一番遅いミーナにあわせて皆が飛ぶ中、皆が口々に色んな事を喋る。

「この速度だと、捜索時間はあまり取れないかもね」
「時間制限があるの?」
「エリーゼ達はナノスキンジェルを塗布して擬似生体バリアを張って飛んでるの。でも、21分32秒しか持たなくてさ~」
「よく分からないけど、だとしたらウイッチよりも行動可能時間が短い訳ね」
「こっちはそんな事ないけどね~」

 のんきな亜乃亜の言葉を聴きながら、瑛花は雷神のセンサー出力を最大にしていく。

「エリーゼ、そちらのセンサーに反応は?」
「今の所は何も?」
「こっちの通信もダメね……」
「もう直ポイントのはずだけど……」

 それぞれが捜索を始めるが、人影は見当たらない。

「う~ん、ホントにここ?」
「飛んで何処かに移動したのかも」
「ありえるわね……でもどっちかしら?」
「周辺を旋回しながら半径を広げていこう。それほど遠くには行ってないはずだ」
「そうね、目標も何も無いと近くにいるはず」

 編隊を組みながら、反応のあったポイントから渦を描くように四機は飛行して捜索を進める。

「ん? 待て何か反応がある!」
「こっちもよ、通信みたいだけど、弱くて誰かまでは……」

 静止して僅かに入る通信ノイズを瑛花とミーナは確かめる。

「エリーゼに任せて。さっきタクミにあんた達の周波数用のプロトコル組んでもらったから」

 エリーゼが通信ノイズを拾い、それを解析させる。

「可憐の風神だったらもっと鮮明に拾えるんだけど……」
「向こうに行ったから仕方ないし、っとこれでOK」

 プロトコルを展開し、ついでに外部スピーカーに繋げたエリーゼが通信を入れる。

『サーニャサーニャサーニャサーニャァァァ!! どこだサーニャ~!!』

 いきなり飛び込んできた泣き声に、ミーナ以外の三人が目を丸くする。

「何これ?」
「誰か探してるみたいだけど……」
「間違いないわ、スオムス空軍飛行第24戦隊第3中隊、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉よ」

 少し赤面して咳払いしながら、それが仲間の物である事をミーナが確認する。

「あの、サーニャって?」
「エイラさんとコンビを組んでるオラーシャ帝国陸軍586戦闘機連隊、サーニャ・V・リトヴャク中尉の事ね」
「……失礼だが、501とやらはこんな連中ばかりか?」
「いやまあ、そうとも言い切れないけど……」
「あ、こっちでも位置分かりました。南東の方向、こちらに向かってきます」
「それじゃあ迎えに行くか」
「そうね」

 何か恥ずかしい所ばかり見られているのに困りつつ、亜乃亜が示した方向にミーナは向かった。
 やがて、雪色の髪を無造作に伸ばし、何か不安定な機動をしているウイッチの姿が見えてきた。

「エイラさん、聞こえてる?」
『ミーナ隊長!? サーニャが、サーニャが見あたらナイんだ! さっきまでいたのに!』
「落ち着いて。私はそちらから見て7時の方向にいるから、合流しなさい。他にも捜索している人達がいるから」
『え?』

 こちらを向いたエイラの顔を確認しようと瑛花とエリーゼがカメラを望遠にするが、そこに涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔がアップになって思わず呆れ果てる。

「さっきよりひどいな……」
「ひよっとしてウイッチってこんな連中ばっか?」
「まあ、変わってる子は多いけど……」

 反論できない状況にミーナが乾いた笑いを漏らす。

「ミーナ隊長~~~~サーニャが~~~」
「分かってるから。もう一つ反応があった方向にはルッキーニさんが向かってるから、ね」

 とめどなく涙を流すエイラに合流したミーナが、なんとかなだめようとする。

「こちら一条、遭難者一名発見。一応大丈夫のようです、身体的には」
『身体的って事は、精神的に何かあんのか?』
「……後で説明します」

 冬后からの質問に答える気力もなくしつつ、瑛花は再度センサーのレベルを上げる。

『こちら可憐、何か奇妙な電波を拾いました』
『奇妙?』
『ええ、何か独特の波長でして、今解析してますけど……出ました』

 可憐からの通信の後、その謎の電波が通信に流れてくる。
 それは、静かで、透明な少女の歌声だった。

『これは……』
「サーニャだ! これはサーニャの歌だ!」

 耳ざとくその歌声を聞いたエイラの顔に喜色が浮かぶ。

「間違いないわ、これはサーニャさんの固有魔法よ。位置は?」
『そちらから見て北東20kmくらいです』
「サ~~~ニャ~~~!!」

 可憐からの返答を聞くと同時に、エイラが急加速で飛び出していく。

「ちょっとエイラさん!」
「方向ピッタリです。あ、ちょうどその位置に島がある」

 亜乃亜が上空衛星にコネクトして得た情報を確認すると、四機でエイラの後を追いかける。

「あそこか」
「! 誰かいる!」

 無人島と思われる小さな島、そこにある僅かな砂浜に立っている人影をバッハのカメラで捕らえたエリーゼは画像を拡大。
 砂浜に立ち、静かに歌っている緑の瞳とグレイの髪の少女を確認するが、彼女の頭の両脇にアンテナのような光が浮かんでいるのに首を傾げる。

「このアンテナも魔法って奴?」
「リヒテンシュタイン式魔導針の事ね。サーニャさんはそれで周囲の状況を感知できるの」
「生体レーダーという訳か」

 島の間近まで近づいた所で、エイラがサーニャに飛びつくようにして抱きついてるのを見た瑛花は、クスリと小さく笑って速度を落とす。

「亜乃亜、他に反応は無いのね?」
「問い合わせてみたけど、無いよ」
「四人、501小隊は全員で11人……」
「7人も足りないの!?」
「ひょっとしたら時間軸がずれてるか、それとも別の世界に飛ばされたか……」
「別の、世界?」
「話は後だ。全機帰投」
『了解!』

 今後の事を考えるのは後回しにして、瑛花を先頭に全員が攻龍へと向かった。



「2084年!? 本当カヨ?」
「私もまだ信じられないけど、本当みたい」
「そういや、変なストライカーユニットだと思ったケド……」
「今更!?」
「私は信じる。皆を探してた時、変な電波あちこちから感じた。あれの通信だったんだ………」
「サーニャがそう言うのなら……」
「そこで信じるんだ……」

 シャワーを借りてから再度食堂に集まったウイッチ達が、現状の説明を受けて愕然としていた。

「で、どうやったら帰れるンだ?」
「どうすればいいの? 亜乃亜さん?」
「え~と、それが私もこんなケース初めてで、今本部に問い合わせてるんだけど……」
「そちらの出方待ちって事ね」
「それまで、攻龍に居てもらうしかないだろう」
「でも、副長がどう言うか……」
「艦長がOKだとよ」

 瑛花と可憐が悩んだ所で、そこへ現れた冬后が意外な事を告げる。

「よろしいんですか大佐? 私達はそちらと命令系統その物が違いますが……」
「オレもよく分からんが、そっちのが「G」所属って言った途端、艦長が艦内での自由を認めるとか言い出してな。何がなんだか……」
「ホントですか!? 良かった~、しばらくその場で待機とか無茶言われてたんです~」
「あ、でも部屋どこか開けないと」
「7号船室空いてたろ、物置になってたが」
「じゃあお掃除しないと」
「寝るとこ無いと大変だからナ~」
「! 待って、何か来る」

 音羽の提案で食堂を出ようとした時、サーニャの魔導針が展開して食堂の入り口を指差す。

「貴方達ね、急に現れたって言うのは」

 食堂に一人の若い女性士官が姿を現す。
 だがサーニャはその後ろ、褐色の肌を持ったサーニャ以上に物静かそうな少女を見ていた。

「その人、人間だけど、人間じゃない?」
「……変わった周波数を出してる。貴方は誰?」

 白と褐色、見た目は対照的だが、どこか似た少女が互いを見つめあう。

「それが魔法という物かしら? 私は周王 紀里子、この船の艦内技術研究班。彼女は助手のアイーシャ・クリシュナムよ」

 女性士官、紀里子が褐色の少女、アイーシャを紹介するが、サーニャは警戒を解かない。
 どころか、それに続けてウイッチ達も警戒態勢に入り、エイラにいたっては使い魔の黒狐の耳と尻尾まで出して臨戦態勢になっていた。

「ちょ、ちょっと待った!」
「アイーシャは敵じゃないよ!」
「彼女は、ソニックダイバーの開発パイロットで、ナノマシンとの融合体なんです」
「普通の人間とは違う反応が出て当たり前だ。だから落ち着いてほしい」

 ソニックダイバー隊が慌ててアイーシャの周囲に回りこんで彼女を擁護する。
 しばし、そのまま緊張状態が続くが、サーニャが魔導針を引っ込めた所で緊張が解けた。

「ずっと歌が聞こえていた。あれはお前か?」
「うん」
「そうか」

 それだけ確認したアイーシャが、無表情なままその場を立ち去る。

「……そちらにも変わった子がいるのね」
「いやまあ……」
「彼女は特別よ、色々な意味でね」
「ま、色々あるだろうが、しばらくよろしく頼むぜ」
「こちらこそ」

 冬后が差し出した手を、ミーナが握り帰す。
 それが、これから始まる戦いへの同盟となる事を知る者は誰もいなかった………



『確かに「G」の所属と名乗ったと?』
「ああ、この目で確認もした」

 艦長室の中で、何重にもプロテクトのかかった秘匿直通回線を通し、門脇はある人物と話していた。

『まさか、そんな所で「G」が関わってくるとは……』
「今後の作戦の事もある。そちらの判断を仰ぎたい」

 通信の向こうの相手、日本海軍提督で瑛花の父親でもある、一条 瑛儀少将が顔をしかめる。

『今問い合わせているが、恐らく間違いは無いでしょう。だとしたら、密約の通りに動くしかない』
「「G」からの技術提供と引き換えの、行動黙認、あるいは協力、という事か」
『「G」の技術が無ければ、ビックバイパーも完成しなかった』
「「G」の天使と名乗った少女は、小型のビックバイパーのような物に乗っていた。あれがオリジナルという事か?」
『いや、あれもコピーとの噂があります。それを上回るオリジナルがあるらしいが、詳細は不明らしい』
「では、今後の攻龍の行動は?」
『向こうとの交渉次第だが、場合によっては作戦の一時中断及び、「G」への全面協力の可能性もありえます』
「一時中断? そこまでする必要が?」
『なぜ統合人類軍上層部が「G」の活動を容認しているか、聞いた事は?』
「いや」
『「G」が相手をしているのは、ワームよりも遥かに厄介な相手だという噂がある。統合人類軍を持ってしても困難な……』
「……つまり、我々がそれと戦わねばならなくなるという事になる、と?」
『かもしれません。一体何が起きるのかは全く不明でしょう。判断は中将に一任します』
「了解」

 そこで通信が途切れ、門脇はしばし考え込む。

「あの少女達に、一体何が待ち受けているというのだ………」




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP5
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2010/12/01 20:42
「それで、一度スオムスに戻ったんだケド、大慌てで戻ってきてみたら501の皆が戦闘中でサ」
「占いで?」
「当たるのそれ?」
「エイラの占いは当たるよ、それなりに」
「サーニャ、それなりって……」
「私も後で占ってもらっていいですか~? 恋愛運とか」
「シャーリーのいる所!」
「う~ん、タロット持って出撃はしなかったカラな~」

 今夜の寝床を確保するべく、物置と化した部屋をソニックダイバー隊、ミーナを除くウイッチ、亜乃亜の計八人がかりで急ピッチで掃除していた。

「ねえねえ見て! これブウブウ言って面白~い♪」
「なんだヨ、あれ?」
「掃除機見た事……無いか」
「もっと大きいのなら見た事ある」
「やっぱり未来なんダナ。これなんダ?」
「予備の端末だよ、持ってたら? 使い方教えるから」
「そうですね。整備班の人達に頼んで皆さんの分用意してきましょう」
「亜乃亜は自前の持ってます」
「……何か変なボタンいっぱいついてない?」
「支給品、機能いっぱいで覚えるの大へ~ん」
「便利なのか不便なのか分かんないナ」
「皆さん片付きました?」

 そこへタクミが様子を見に来る。

「タクミさん、もうちょっと掛かりそうです」
「あれ、一人足りなくありません?」
「ミーナ隊長なら士官だから個室だってサ」
「あれ、空きの士官室って冬后さんが魚拓製作場に使ってたような?」
「ありゃ、それはマズイんじゃ……」
「消臭剤ありましたっけ?」
「ともあれ、片付いたら皆さんの分の夕飯用意してるんで来てくださいね」
『は~い』



「あ~、ちょっと生臭いが勘弁してくれ」
「いえ、士官個室が貸してもらえるとは思ってませんでしたから」
「そうか」
「幾ら空いている部屋とはいえ、妙な使用は困りますね」

 墨だの刷毛だの、更にはこの時代では貴重品の和紙まで用意してある部屋を冬后、ミーナ、紀里子の三人で手早く片付けた所で、締め切った部屋で三人が向かい合って座る。

「さて、じゃあ始めるとするか」
「ウイッチについて、ね。さてどこから説明すればいいのかしら?」
「私も技術者だからね。ウイッチの能力については興味があるわ」
「それに、どんな力持ってるか分からん連中をほいほい乗せておくのも問題があるからな」
「確かに。この世界のワームの侵攻は13年前からだそうだけど、私達の世界の敵 《ネウロイ》の出現は、紀元暦の29年頃が一番古い記録とされてるわ」
「な!? じゃあ1000年以上も戦ってるのか!?」
「いえ、あくまで最初は散発的な物だったらしいわ。そして、ウイッチの魔力がネウロイにもっとも効果的と分かって以来、ウイッチ達が秘密裏に対処するようになった。けれど1939年、全世界でネウロイの一斉侵攻が開始、世界中の都市が次々と陥落する中、扶桑の天才科学者、宮藤 一郎博士がかねてより開発していたウイッチの能力を引き出し、ネウロイとの決戦兵器となりうるストライカーユニットをロールアウト。これにより、全世界でウイッチ達とネウロイの全面戦闘となった。それが今の私達よ」
「なるほどね。ある意味、ソニックダイバーも似たような物かしら」
「全くだ。もっともこっちは全世界で使える程数は無いけどな」
「一度、その宮藤博士とお会いしてみたいわね」
「残念ながら亡くなられました、正確には研究所がネウロイの襲撃を受けて行方不明になられたそうよ……実は501には宮藤博士の娘さんがいて、父親の遺志を次いで一緒に戦ってるわ」
「……本当にそっくりね」
「確かに。で、そのネウロイってのの特徴は…」

 三人の士官の話し合いは、深夜遅くまで続いた。



 満天の星の輝く中、攻龍の後部甲板に佇むサーニャの姿があった。
 その口からは静かに歌が紡がれ、水面へと消えていく。
 波の音に紛れて流れる歌が、不意に途切れた。
 歌うのを止めたサーニャが振り返ると、そこにアイーシャが立っている。

「……何?」
「歌が聞こえた。ずっと歌っていたのか?」
「うん。みんながどこかにいるかもしれないと思って……」

 まだどこか警戒しながら、サーニャはアイーシャの問いに答える。

「どこで歌っていても、お前の歌は私の中に響いてくる」
「迷惑?」
「いや」

 アイーシャがサーニャの隣に来ると、そこで夜空を見上げる。

「ずっと同じ歌を歌っている。なぜ?」
「これは、お父様が私に作ってくれた歌なの」
「そうか」

 アイーシャはサーニャを少し見ると、また夜空を見上げる。

「私のこの体も、お父様が作ってくれた」
「え……?」
「生まれつき、難病に冒されていた私を助けるため、お父様は医療用ナノマシン開発に腐心した。結果、私の命は救われたが、世間はそれを人体実験だと言って、私とお父様は社会を追われた」
「そう、なんだ……」
「けれど、お父様の手を離れた医療用ナノマシンは、システム増大の結果、ワームとなって人類を襲い始めた。ワーム出現の可能性をお父様は誰よりも早く気付いてたが、誰も信じなかった。そして、お父様は人類の未来を私に託した。この体はそのための物、私はお父様の遺志を継いで今ここにいる」

 アイーシャの話をじっと聞いていたサーニャだったが、アイーシャと同じく夜空を見上げる。

「「その力、多くの人を守るために」ストライカーユニットを作った、芳佳ちゃんのお父さんの口癖だって。芳佳ちゃんも、その言葉を守るために一緒に戦ってる」
「そうか。その人も多分お父様と同じだったんだろうな」

 そこで会話が途切れ、二人は黙って夜空を見上げていた。

「あ、いた! サーニャ! ってお前、サーニャに何してるんダ!」
「あれ、アイーシャも一緒?」

 姿が見当たらないサーニャを探しに来たエイラと音羽が、慌しくこちらへと向かってくる。

「エイラ、少し彼女と話してた」
「そうなのカ?」
「アイーシャと? この子すごい無口なんだけど……」
「少し気になった事があったから」

 口数の少ない二人の取り合わせに、エイラと音羽は首を傾げる。

「とにかく、明日他にも反応が無いか問い合わせてみるって亜乃亜が言ってたカラ、今晩はもう寝ようサーニャ」
「うん」
「アイーシャも、夜更かしして倒れたら周王さんに起こられるから」
「分かった」

 四人がそう言いながら船内へと引っ込んでいく。
 あとには静かな空と海だけが残る。
 静か過ぎる、空と海が………



『合同演習?』

 朝食が済んだ所で、全員が作戦会議室に集められて告げられた言葉に、疑問符を浮かべる。

「正確には、演習というかデータ採取ね」
「上で何があったか知らんが、しばらく行動を共にするとのお達しがあってな。何かあった時のために、そっち側のデータを取っておく事になった」

 ミーナと冬后の言葉に、皆がそれぞれ(普段の夜間時間から抜け出せずにうたた寝気味のサーニャ除く)思案を巡らす。

「あの、冬后さん。私達もですか?」
「まあな。もっともデータを欲しがってるのはそっちのウイッチ達だが」
「貴方達の乗るソニックダイバーの特性を見ておきたいのよ」
「それは、彼女達も共にワームと戦う、と取っていいのでしょうか?」
「……分からん」

 音羽の質問への応答を聞いた瑛花も質問を投げかけるが、冬后は珍しく真剣な顔で首を左右に振る。

「え~と、亜乃亜もですか? 何をすればいいんでしょう?」
「メニューはフォーメーション飛行と実弾演習、もっともダミーをそんなに積んできたわけじゃないからな」
「弾薬の余裕も無いし……この船に積んでいる銃とは規格が微妙に違うのよね」
「ともあれ、午後からだから昼飯までに準備しとけ」
「あの、フォーメーション飛行って何すれば……」
「こっちで指示するから、機体の準備だけしておけ」
「はあ……」

 軍隊式のデモ飛行なぞ全く知らない亜乃亜が首を傾げるが、ともあれそれぞれのチームで演習の内容が決められていく。

「そう言えば、ソニックダイバーって奴、五機なかったカ?」
「でも、四人しかいないよ?」
「ああ、もう一機はアイーシャさんの使ってたプロトタイプのカスタム機だそうよ。特別な運用をするらしくて、滅多に使わないそうだけど」
「ふ~ん」
「アイーシャは飛ばないの?」
「体力的にそうそう簡単に飛べないらしいわ」
「昨夜言ってた。お父さんが難病を治してくれたって」

 まだどこか重たいまぶたを開きながら、サーニャが呟く。

「さて、四人だけと言っても、ストライクウィッチーズの名に恥じないようにするわよ」
『了解!』


「この演習って、誰が言い出したんです?」
「周王だ。オレも賛同したがな」
「じゃあやっぱり……」
「でもあの人達、使い物になるの?」
「エリーゼ、そういう話はちょっと……」
「昨夜ウイッチについては説明してもらったが、この目で見ない事にはオレも何も言えん。向こうも同じ考えのようだからな。何でも、少し前に実験機のテストを部隊内でも有数のベテランにやらせたそうだが、欠陥機で危ない事になった前例があるそうだ」
「得体の知れない相手と簡単に共同前線は張れない、という事ですか?」
「お互いにな。お前らも恥かかないようにな」
『了解!』



「始まります」

 七恵の声と同時に、攻龍の後部甲板から四人のウイッチが飛び立つ。
 同時に、攻龍の全センサーが一斉にウイッチ達の解析に取り掛かる。

「ウイッチの体表面に力場発生を確認」
「これが魔力って奴ね。ナノスキンの代わりを自前で発生させている……」
「飛行もかなり独特ですね。ストライカーユニットから発生したエネルギーをユニットだけでなく、体全体で制御してます」
「面白いわね、文字通り体その物が機体という訳……」

 七恵と紀里子が二人がかりで次々と集められたデータを解析していく。

「ソニックダイバーを初めて見た時、非常識な機体だと思った物だが、これは更にその上を行っているな」
「向こうもそう思ってるでしょう」

 宙を縦横無尽に飛び回るウイッチ達を見ながらの副長の呟きに、冬后も思わず返す。

「そろそろ、実弾演習を」
「了解」

 技術の違いで通信が送れない事から、発光信号でその事を伝え、ウイッチ達が銃を構えた所を確認してターゲット用ダミーバルーンが攻龍から射出される。
 虚空でダミーバルーンが広がったかと思う間も無く、四つのダミーバルーンが瞬時に破壊される。

「早っ!?」
「かなり実戦慣れしてるわね。射撃データ取れた?」
「一応。発射された弾丸にも体表面と同質と思われる力場が確認されました。ただ、エネルギー量はかなり違いますね」
「これなら、それなりの破壊力になりそうね……と言っても破壊力を測定できるようなダミーまで用意してなかったわね」
「さて、次はこっちの番だ」
「ソニックダイバー隊、発進してください」


 ウイッチ達が宙で見守る中、四機のソニックダイバーが発進していく。

「速~い♪」
「最高速度はマッハ2以上、ナノスキンと言われる物を体に塗布して最適化する事で、パイロットの防護をするって聞いたわ」
「シールドとか無いノカ?」
「エイラ、あの人達ウイッチじゃないから」
「ただ、21分32秒しか持たないから、その前に帰らないと危ないって話よ」
「う~ん微妙~」

 空に雲を引きながら、ソニックダイバーが見事なフォーメーションを描いていく。

「いい動きしてるわね。大分訓練してるわ」
「訓練ならこっちも負けてないゾ」
「実弾演習に入るみたい」

 放たれたダミーを、ソニックダイバー各機が次々と撃ち抜いていく。
 最後には、零神が手にしたMVソードでダミーを一刀両断する。

「ウワ、坂本少佐みたいダ」
「ここでも、ああいう戦い方する人いるんだ……」
「エリーゼはランスが得意って言ってた~」

 ウイッチ達が感心する中、ソニックダイバーが帰投し、代わりにライディングバイパーが上がってくる。


「え~と、どうすればいいんですか?」
『さっきみたいに飛んでみてくれ。無理に真似しないで、自由に飛んでいいから』
「分かりました! 行くわよ~!」

 冬后からの指示で、ライディングバイパーが急加速する。

「そ~れ!」

 ややたどたどしいながらも、亜乃亜のビックバイパーが虚空を飛び回る。

「こんな感じ?」

 他の面々に比べて流麗とは言えないが、ライディングバイパーの性能を出すべく亜乃亜は力を込める。

『よし、実弾演習に入る』
「いっけー!」

 放たれたダミーバルーンに向けて、強力な一撃が発射。
 破壊どころか半ば蒸発する形でダミーバルーンが霧散する。

『……すげえ威力。よし、帰投してくれ』
「は~い」



「なかなかやるな」
「そちらこそ」

 演習が終わり、少女達が全員浴室で汗を流していた。

「はあ~、なんか緊張した~」
「空羽ももうちょっと訓練した方いいゾ」
「じ~………」
「ウイッチの皆さんも結構すごいですね」
「みんないたらもっとすごいよ♪」
「エリーゼ達だって実戦ならもっとすごいんだから!」
「じ~……」

 皆がはしゃぐ中、音羽は湯船の中で何故か静かに皆のある一点を見つめていた。
 やがておもむろに拳を握り締める。

「よし、規格外はいない」
「あの、何の話ですか? 音羽さん」
「いや~、七恵さん以上の怪物がいるって聞いたから、他の人もまさかとは思ったけど……」
「それって、これの事?」

 ルッキーニがいたずらっぽい笑みを浮かべ、音羽の胸を後ろからわしづかみにする。

「きゃあっ!?」
「う~ん、ちょっと残念賞」
「あの、ルッキーニちゃん?」

 いきなりの事に音羽が悲鳴を上げるが、ルッキーニはすこし顔をしかめ、隣にいた可憐に視線を向ける。

「そっちはどう~かな~?」
「きゃああっ!」

 思わず悲鳴を上げる可憐にルッキーニが容赦なく襲い掛かる。
 とっさに潜ってルッキーニの魔手から可憐は逃げおおせるが、ルッキーニの手は向こうにいたエリーゼの胸へと当たる。

「ちょっ! 何して……」
「……ものすごい残念賞」
「え、エリーゼだってこれからなんだから!」

 すごく残念そうな顔をするルッキーニにエリーゼは思わず食ってかかる。

「貴方達、もうちょっと静かに…」
「こっちはどうかな?」

 髪を洗い終え、注意をしながら湯船に入ろうとした瑛花の胸をもルッキーニは容赦なく掴む。

「キ、キャアアアァァ!」
「お、これはこれで……」
「な、何するのよ!」

 一番過敏な反応を見せて瑛花がタオルで胸をかばいながらルッキーニから離れる。

「ごめんなさいね。どうにもルッキーニさんはまだ甘えたい年頃らしくて……」
「セクハラよこれ!」
「セクハラ? 何だソレ?」
「あの、いつもやってるんですか?」

 ウイッチ達が呆れと苦笑を浮かべる中、可憐が何気に問い質す。

「う~ん、いつもはシャーリーと一緒だからナ」
「たまにふざけてやるくらいだよ」
「どんだけ規格外なの、そのシャーリーって人」
「シャーリーも大きいけど、リーネはその次に大きいよ。七恵はその次かな~?」

 ルッキーニの一言に、音羽とエリーゼが凍りつく。

「二人? 規格外が二人も?」
「そんな……ウイッチって一体? でもひょっとしてすごい太ってるとか……」
「リーネは大きいの胸だけだゾ。普段は気も小さいシ」
「大人しいよね。胸以外」
「「………」」

 エイラとサーニャの追加意見に、音羽とエリーゼが湯船の隅で影を背負う。

「それじゃあ、私は先に…」

 亜乃亜が上がろうとした所で、ルッキーニの目が獲物を狙うように亜乃亜の胸へと突き刺さる。

「え、あの……」
「うじゅ~~!!」
「キャアアアアアア!」



『原さん、牛乳ちょうだい!』
「お、おお」

 風呂から上がってくると同時に、食堂でどこか鬼気迫る表情の音羽とエリーゼに、料理長はどこかたじろぎながら長期保存用牛乳のパックを二本差し出し、二人はそれをラッパで飲んでいく。

「何があった?」
「あの、なんて言うか……」
「女の事情よ」

 いぶかしがる料理長に可憐は言葉を濁すが、瑛花は一言で終わらせる。

「そんなに気にすんなヨ~」
「大分気にしてたみたい………」
「ルッキーニさん、あまり無闇にやっちゃダメよ?」
「うじゅ~……」

 牛乳を一気飲みしている二人にウイッチ達が声をかけるが、届いていないのか牛乳を嚥下する音だけが響いてくる。

「えと、あまり一気に飲むとお腹壊すよ?」

 亜乃亜が恐る恐る声をかけるが、そこで音羽は飲むのを一度止めて鋭い視線で亜乃亜の胸を一瞥、その視線でそのまま亜乃亜の顔を睨む。

「裏切り者!」
「そうくるんですか!?」

 ちょっと涙が出そうな目をこらえ、音羽はびびる亜乃亜を指差すと再度牛乳に取り掛かる。
 そこで複数の端末が同時に鳴り、送られてきたメールをソニックダイバー隊が確認する。

「15分後に全員作戦会議室に集合。演習についての反省会だそうよ」
「あれだけで何か分かったのかしら?」
「お互い、飛んでいる所は奇妙にしか見えないからね。何言われても怒らないで」
「無理難題言われるのは慣れてるわ………」

 瑛花とミーナが先頭になりぞろぞろと作戦会議室へと向かう。
 途中で抜け出そうとしたルッキーニをエイラとサーニャが両脇を掴んで作戦会議室へと入ると、あれこれ準備している冬后と紀里子が待っていた。

「来たな、適当に座ってくれ」
「ちょっと長くなりそうだから」
「ルッキーニ長いのイヤ~」
「コラそういう事堂々と言うナ」
「オレも長々とした会議は嫌いだが、時と場合に…」

 冬后が頭をかきながら始めようとした時、突然サーニャの頭に耳と魔導針が出現し、その色が変わる。

「……来る」
「ネウロイか!?」
「違う、これは…」

 ウイッチ達がそれの意味する事に気付くと同時に、けたたましいサイレンが攻龍内に響き渡る。

『ワーム接近中! 各員は第一種戦闘態勢に入ってください! 繰り返します! ワーム接近中! 各員は…』
「ちっ、長話の邪魔か!? ソニックダイバー隊、出撃準備!」
『了解!』
「貴方達はここで待ってて! 戦闘状況はモニターするから!」

 慌しく戦闘態勢に入っていく中、取り残されたウイッチと亜乃亜が顔を見合わせる。

「こっちは出撃しなくていいノカ?」
「え~と、あまり軍との戦闘に関わるなって言われてて」
「この世界の敵が何か、見ておく必要はあるわ」



「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」
「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」
「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」
「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」
『ソニックダイバー隊、発進してください』

 七恵のナビゲートに続いて、ソニックダイバー各機がリニアカタパルトで次々発進していく。

『実戦でのお前らの戦い方、お客さん方に教えるいいチャンスだ。かっこよく頼むぞ』
「了解!」
「よ~し、やるぞ~!」
「お~!」
「皆さん無理しないでくださいね」

 冬后の指示に皆が気合を入れる中、ソニックダイバー隊は編隊を組んでワームへと向かっていった。



 作戦会議室で手持ち無沙汰に皆が待つ中、壁の大型ディスプレイに映像が現れる。

「うわ、何これ映画?」
「外の様子映してるんだけど」
「こうやって見れるのカ、便利だナ」
「今出撃した」

 サーニャが言う通り、海の上を来る影に向かってソニックダイバーが出撃していく。
 程なくして攻龍の望遠カメラとソニックダイバーのライブカメラから敵の姿が映し出される。

「お魚?」
「イルカだゾ、あれ………」
「ワームは、発生した時そばにいた生物に擬態するって聞いてたけど」
「どうやらそのようね……」
「感覚はネウロイに似てる」
「始まるゾ!」



『目標はB-クラス、本艦に向けて高速接近中!』
『遠距離からの攻撃でセルをなるべく潰せ! 園宮、相手の行動パターン解析を急げ!』
「了解!」
「アタック!」

 先手を切って瑛花の雷神から大型ビーム砲の一閃が伸びるが、イルカ型ワームは泳ぐような動きで機敏にかわす。

「速い!」
「回避パターン予測、行きます!」

 続けて可憐の風神から飛滞空ミサイルがまとめて発射されるが、イルカ型ワームの口から発射されたリング状のビームで撃墜されていく。

「遠距離からじゃ無理ね。エリーゼ、音羽、足を止めて!」
「了解! MVソード!」
「MVランス!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェV―1が近接戦闘用の分子振動剣と分子振動槍を取り出し、突撃していった。



「なかなかやるナ」
「すご~い」
「ルッキーニも行きた~い」
「動きは生物的だけど、戦闘方法はネウロイと似てるようね」

 映し出されるソニックダイバー隊の闘いに、皆がそれぞれ感想を述べる。
 だが、サーニャは静かに固有魔法を発動し続けていた。

「もう一体いる」
「なんですって!?」



「レーダーに反応! 海面下にもう一体います!」
「下!?」

 可憐の通信に、思わず真下を見た瑛花の目に、水面下から一気に踊りだしてこちらを狙う同型のイルカ型ワームが飛び込んでくる。

「くっ!」

 とっさに回避させようとするが、かわしきれずに僅かに引っ掛けられ、雷神が大きく揺らぐ。

「瑛花さん!」
「大丈夫! こっちは私と可憐で…」

 体勢を立て直し、反撃に転じた瑛花だったが、相手の動きの速さになかなか対応しきれない。

(まずい、ロックには最低三機必要。けれど一機だけでこれは止められない!)
『無理をするな一条! 攻龍で援護するから、こちらに誘導しろ!』
「やってみます!」
「うわあ!」
「きゃあ!」

 なんとか誘導を試みるが、二体のイルカ型ワームは互いにコンビネーションを組むかのような動きで、逆に攻龍からどんどん遠ざけられていく。

「どうすれば………」

 リーダーとしてどう戦えばいいか、瑛花は必死に思考を巡らせるが、相手はその時間すら与えてくれそうになかった。



「押されてるゾ!」
「あああ、どうしよう!?」
「ミーナ中佐!」
「…………」

 苦戦してる様をリアルに見せられ、ウイッチ達と亜乃亜に動揺が走る。
 無言でその光景を見ていたミーナだったが、やがて目に決意が宿る。

「501小隊、出撃!」
『了解!』



「一条! 桜野! 園宮! エリーゼ! 何とか退け!」
『そ、それが!』
『相手のコンビネーションは完璧です! 撤退の機会がありません!』
「なんとかならないんですか!」

 悲鳴に近い通信に、タクミが思わず叫ぶ。
 ブリッジ内に緊張した空気が満ち、誰もが状況打開の方法を必死になって模索していた。
 その時、不意に格納庫から通信が入る。

『タクミ、チャンネル8から11まで繋いでくれ』
「僚平さん? 何を……」
『予備インカムを貸したんでな』

 不思議に思いながらタクミがチャンネルを開いた所で、それぞれのチャンネルにウイッチ達の顔が表示される。

「あんたら…」
『ストライクウィッチーズ、ソニックダイバー隊援護のため、出撃します!』
『亜乃亜も行きます! デストロイ・ゼム・オール!!』

 冬后が何かを言う前に、ウイッチ達とライディングバイパーが攻龍から飛び立っていく。

「な、外部の人間を戦闘に参加させるなぞ……」
「どうこう言ってられる状況じゃないでしょう、島副長」
「しかし……」
「戦えるのかね、彼女達はワームと」
「恐らくは」

 艦長の問いに、ブリッジに姿を現した紀里子が応える。

「先程のデータと、私の予想が適合するのなら、彼女達は大きな力になってくれるでしょう」

 遠ざかっていく者達の姿を見つめながら、紀里子は小さく微笑んだ。



「このおっ!」

 全開で振り回したMVソードが、何かに食い込んで止まる。

「あっ!」

 刃筋を通し損ねた事に音羽が気付いた時、イルカ型ワームの背びれから発射した小型のセルミサイルがこちらへと向かってきていた。
 だがセルミサイルは飛来した光線に次々と撃墜され、事なきを得た。

「助けに来たよ! 今ウイッチの人達も向かってきてる!」
「亜乃亜さん!」

 駆けつけた亜乃亜が戦線に加わり、戦闘はなんとか拮抗状態になっていく。

「なんとかこいつらのフォーメーションを崩せば……」
『それじゃあ、一体はこちらで受け持つわ』

 突然響いてきた通信に瑛花が驚くと、こちらに向かってくるウイッチ達の姿が視界に飛び込んでくる。

「待て、その火力では無理だ!」
「時間稼ぎくらいにはなると思うわ。最低でも」
「それ~!」

 先陣を切ってルッキーニのブローニングM1919A6が銃火を吐き出し、かなりの速度で動き回っていたイルカ型ワームに全弾が命中、その体が揺らぐ。

「十発十中だよ! すごいでしょー!?」
「え?」
「効いてます! 彼女達の攻撃はワームに効いてます!」
「ウソ、あの口径で?」

 目の前で起きた事と、可憐からの報告に瑛花は双方を思わず疑った。



「どういう事だ?」
「彼女達ウイッチが《魔力》と呼んでいる力、それがワームのセルに局所的ですが過負荷を与え、破壊してるんです。これなら口径の違いは関係ありません」
「信じられん……」
「だが、行ける!」

 紀里子の説明に、ブリッジは半信半疑だったが、事実ウイッチ達の攻撃はワームに確実にダメージを与えていた。

「片方は501に回せ! 一体を総動員で倒せ! 以上!」
『了解!』



「ワームはネウロイと違ってコアを持ってないわ。過剰攻撃で破壊するしかないそうよ」
「めんどくさいナ~」
「エイラさんとサーニャさんで頭上を押さえて! ルッキーニさんは左翼、私は右翼から攻撃!」
「行くよ~!」
「行くゾサーニャ!」
「うん!」

 ミーナの指揮でウイッチがそれぞれの位置に向かおうとするが、させじとイルカ型ワームがリングビームを放ってくる。
 即座にルッキーニとミーナがシールドを展開し、それを防いだ。

「何だそれは!?」
「ウイッチのシールドよ。言ってなかったかしら?」
「聞いてない!」
「すご~い! ゼロにも欲しい!」

 瑛花の驚いたような声に音羽の歓声が重なり、ミーナは思わず笑みを浮かべるが、即座に真剣な顔になるとMG42機関銃を構えて攻撃を開始する。

「ここで釘付けにするわ!」
「了解! それ~!」

 ウイッチ達の一斉攻撃がイルカ型ワームに突き刺さり、構成セルを潰していく。
 だが、徐々にだが再生していき、致命傷になりえない。

「うげ、こんなとこだけネウロイ並カヨ……」
「エイラ、来る」
「ソウダナ」

 前方に居るエイラとサーニャに向かって、セルミサイルが一斉発射される。
 それぞれが複雑な機動を描きながら向かってくる中、エイラは平然と前へと踊りだす。

「危ない…」
「♪」

 可憐が思わず叫ぶが、エイラは鼻歌交じりに次々とセルミサイルをかわし、撃墜していく。

「え? パターン解析も無しに……」
「私の固有魔法は『未来予知』。こんなのかわすの朝飯前なんだナ」
「よ、予知能力!?」
「エイラ」
「おう」

 サーニャの声にひらりと避けたエイラの影から、フリーガーハマーから放たれた20mmロケット弾が飛来、背びれを粉砕する。

「これでしばらくさっきのは来ないゾ」
「うん」
「それ~!」

 ルッキーニが縦横に飛び回りながら、イルカ型ネウロイを蜂の巣にするが、ネウロイと違ってコアの無い相手に致命傷を与えられない。

「倒れな~い!」
「あっちはどうやって倒してんだヨ!?」
「ナノマシンのテロメア効果とか言われたんだけど、何が何やら………」
「うじゅ~~、シャーリーが居ればビュ~ってしてドッカーンって出来るのに~」
「ビュ~ってしてドッカーン?」

 通信を聞いていた亜乃亜がしばし考え、やがて何かを思いついたのか顔が明るくなる。

「ビュ~ってしてドッカーン、ね?」
「分かったのかヨ?」
「ビックバイパー、モードセレクト《IDATEN》モード! スキャン全開、エネルギーコアサーチ!」

 エイラの突っ込みも無視して、亜乃亜はビクバイパーのモードを変更、更にワームの全身をスキャンしてエネルギーの高い部位をサーチしていく。

「発見! そこ!」
「援護するわ」

 亜乃亜が何かをするつもりらしいと気付いたミーナが、イルカ型ワームに突撃する亜乃亜の軌道を確保するべく、援護射撃に入る。
 援護を受けながら亜乃亜はエネルギーの高い部位のセルを見つけ出すと、攻撃してその部位を切り離し、回収するとそのエネルギーを吸収していく。

「ゲ~ット! これなら! スピード最大、ミサイルゲーット、オプションもらい!」

 セルから吸収したエネルギーを元に、ビックバイパーの兵装が次々と強化されていく。

「セルのエネルギーを吸収してます!」
「できるのそんな事!?」
「どういう仕組みよ」

 ソニックダイバー隊が唖然とする中、ビックバイパーのバーニアが噴煙を増し、複数のオプションが出現していく。

「あっちもすごいナ」
「うん」
「亜乃亜いっきまーす!」

 ウイッチ達も感心する中、先程とは比べ物にならない高速でビックバイパーがイルカ型ワームの周囲を旋回し、小型ミサイルと貫通レーザーを叩き込んでいく。

「よ~し、掴まってルッキーニちゃん!」
「了~解!」

 銃を背負ったルッキーニが亜乃亜の足に掴まり、二人が急加速してイルカ型ワームに突撃していく。

「いっちゃえ!」
「え~い!」

 加速しながら亜乃亜から発進したルッキーニが己の固有魔法の光熱多重シールドを展開。
 そのまま体当たりしてして一気に大量のセルを破壊していく。

「トドメ行くわよ! どいて!」
「うじゅ~~♪」
「ドラマチック……バーストー!」

 亜乃亜のプラトニックパワーを最大に取り込んだビックバイパーから、無数のサーチレーザーが放たれ、イルカ型ワームを貫く。

「一斉攻撃!」
『了解!』

 セルの再生が始まる前に、ウイッチ達の一斉射撃が次々とイルカ型ワームへと突き刺さる。

『セル破壊率、70、75、80%! 構成限界突破します!』
「崩壊と同時に爆発するそうよ! 防御を!」
「こっちだサーニャ!」

 連続の強力な攻撃の前に、とうとう限界に達したイルカ型ワームが崩壊、大爆発を起こして消滅する。
 前もってその事を聞いていたミーナの声に反応してそれぞれがシールドを張り、エイラはサーニャを連れて爆発範囲から素早く待避する。

「やったよ!」
「敵、破壊を確認!」


「……倒しちゃった」
「信じられません……」
「こっちも行くわよ! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 負けじと四機のソニックダイバーがイルカ型ワームの直上を取ると、急降下しながら取り囲む。

「行くよゼロ!」

 他の三機が援護射撃する中零神が突撃し、イルカ型ワームにMVソードを突き刺す。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、イルカ型ワームを囲むと同時にMVソードからナノマシンと融合中のナノマシンデータを直接送り込み、ホメロス効果を強制的に発動させる。

「セル転移強制固定、確認っ!!」
「アタック!!」

 瑛花の号令と同時に、人工重力場内でセル組成が急激崩壊していくイルカ型ワームに全火器を発射。
 限界に達したイルカ型ワームはとうとう爆発して完全崩壊した。



『こちら雷神 一条。ワーム殲滅を確認』
「よくやった。全員戻って…」
『まだいる』 

 帰投指示を冬后が出そうとした時、サーニャの呟きにブリッジがざわめいた。

「園宮!」
『レーダーには何の反応も……』
『来る』
『散開!』

 ミーナの指示で全員が散る中、海面から何かが飛び出したかのような水しぶきが上がった。



「何かいる!」
「どこ? どこ?」
「何も見えないよ!?」
「そこ!」

 敵の姿が見えない中、唯一サーニャだけが反応して20mmロケット弾を放つ。
 噴煙を上げて飛来したロケット弾が何かに命中し、画像がぶれるようにヒラメと思われる平べったい異様な姿のワームを数秒だけ映し出す。

「ワーム!?」
「今少しだけ反応が……光学、電子両方の迷彩機能を持ってます!」
「亜乃亜!」
「はい!?」

 サーニャの呼びかけにその場を動いた亜乃亜の髪の先端を、高速で通り過ぎた何かが千切る。

「きゃああ! 髪が!」
「見えた?」
「私の未来予知も、相手が見えないと分からないゾ!」
「動体、赤外線、速すぎて捕らえられません!」

 完全に透明なヒラメ型ワームに、全員がたじろぐ。

「サイズは恐らくC-。けど……」
「そこか! そこか!」
「出てきなさい! 卑怯者~!」
「円陣を組んで弾幕を! サーニャさん指示を!」

 闇雲にMVソードを振りまくる音羽やデタラメにレーザーを撃ちまくるエリーゼに、ミーナが鋭く指示を出す。

「全員背中合わせに! 死角を作らないで!」
「サーニャさんを中央に! 分かるのは彼女だけよ!」

 瑛花とミーナの指示に基づき、全員がサーニャを守るように背中合わせに円陣を組む。

「どこ! ワームはどこに!?」
「9時の方向、離れてる。今こっちに……潜った」
「え~ん、分かんな~い」

 全員がかりで周囲全てに視線を巡らせるが、姿が全く見えない相手に異常なまでの緊張が続く。

『大丈夫か!?』
「敵の位置が全く分かりません。サーニャの力に頼るしか……」
「私もやってみるわ」

 未知の能力を持つワーム相手に冬后も瑛花も打つべき手が分からず、ミーナも己の能力でワームを見つけるべく固有魔法を発動させる。

「危ない!」
「真下!?」

 まるで能力発動で無防備になる瞬間を待っていたかのように、ヒラメ型ワームが姿を消したまま海面から飛び出し、その口から無数の半透明の触手がミーナへと襲い掛かる。

(シールド、この数では間に合わない!)

 相手の攻撃が自分の四方から同時に来る事が分かるが、防御が間に合わない事を悟ったミーナの眼前に、半透明の触手が襲い掛かる。

(美緒!)

 思わずこの場にいない副官の事を思った時、突然半透明の触手の先端が弾け飛ぶ。

「え?」

 四方から迫ってきていたはずの触手の先端が次々と弾け飛び、のみならず触手その物にまで次々と穴が開いていく。

「攻撃か! 誰だ!」
「私じゃない!」
「私でもないゾ!」
「そもそも、誰も撃ってません!」

 何が起きているのかまったく分からない者達が叫ぶ中、サーニャと可憐がその何かの存在を掴んだ。

「何か、小さな物がワームを攻撃しています!」
「すごく小さい……感じるのがやっとだけど、大きな力を感じる」
『一体何が起きている!』
「そ、それが……」

 伸びてきていた触手全てが無数の穴で千切り飛ばされ、ダメージで僅かに姿を晒したヒラメ型ワームが再度海面下へと潜っていく。
 そして、高速で動き回りながらワームを攻撃していた物が、動きを止めてミーナの前に姿を現した。

「次元転移反応確認。指定条件に全項目一致。今からあんたが、ボクのマスターだよ」
「人形!?」

 それは、全長が15cmくらいの少女の姿をし、灰色のボディスーツに漆黒の戦闘用アームを装着した、奇妙な存在だった。



「何ですかアレ!?」
「知らん!」
「まさか……武装神姫、だと?」

 カメラに映し出された、小さな応援の姿にブリッジ内が騒然とする中、島副長がポツリと呟く。

「島副長、知っているのかね?」
「いや、私が若い頃に、従兄弟が熱中していたオモチャに似てるのです。ただ、それはただのオモチャだったはず………」
「だが、あれはどう見ても兵器だ」

 艦長の言葉通り、ワームと戦える程の力を持った黒の武装神姫の姿に、二の句を告げる者はいなかった。



「ボクは武装神姫・悪魔型MMSストラーフ、あんたは?」
「ストライクウイッチーズ隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」
「ふ~ん、って後だね。また来るよ!」

 ストラーフの言葉通りに、海面からまた何かが飛び上がる。

「そこ!?」
「アタック!」

 姿は見えないが、大体の位置を予測して皆が撃ちまくる。

「違うって! もうあっちにいったよ!」
「何で分かるんですか!? 風神のセンサーでも捕らえられないのに?」
「そこ」

 ストラーフが指差した方向に、サーニャの自分でも感知した場所と重ねて攻撃するが、わずかに外れてロケット弾はそのまま飛んでいく。

「ストラーフ、だったわね。相手の位置が教えられる?」
「もっといい方法あるよ!」

 ミーナの問いかけに、ストラーフは笑みを浮かべて飛び出していく。

「地獄の門を、ノックするよ!」

 ストラーフは格闘戦用大型武装腕GA4“チーグル”アームパーツを振り回し、そこにある物を殴りつける。
 オモチャサイズとしか思えないはずの格闘腕が殴りつけると、まるで巨人にでも殴られたかのような衝撃で、透明だったヒラメ型ワームが姿を現す。

「もう潜らせたりしないよ!」

 水中に逃げる暇すら与えず、連続しての左右の打撃が炸裂すると、その度にヒラメ型ワームの体が歪み、轟音が響く。
 ヒラメ型ワームの動きが完全に止まり、そこにダメ押しでシュラム・RvGNDランチャーのグレネード弾が叩き込まれる。

「きゃはははっ!」

 爪楊枝の先端程のグレネード弾が、まるで強力な爆発物でも食らわしたかのような爆発を起こし、皆が驚愕する。
 ストラーフの小さな体とは裏腹の破壊力に、ヒラメ型ワームの透明化は完全に消え、セル修復のために動きが止まっていた。

「今の内! クアドラフォーメーション!」

 その隙を逃さず、ソニックダイバーがフォーメーションを展開、クアドラロックで相手を捕らえた。

「アタック!」
「攻撃!」
「お返し!」

 瑛花の号令と同時に、ソニックダイバー隊だけでなくウイッチと亜乃亜も一斉攻撃を開始。
 過剰砲火の前になす術も無く、ヒラメ型ワームは爆散した。

「やったぁ!」
「倒した~♪」
「敵殲滅を確認!」
「負傷者0、上出来ね」
「ふぅ、作戦完了!」

 音羽とルッキーニが歓声を上げ、瑛花とミーナが素早く現状を報告。

『全員よくやった。すぐに帰投しろ』
「了解」
「助かったわ、ありがとうストラーフ」
「えっと……これからよろしくマスター!」
「これから?」

 ストラーフの言葉に、ミーナが微かに違和感を覚えた時だった。
 ソニックダイバーとビックバイパーが同時に甲高い警報を鳴らす。

「なんダ!?」
「異常磁力反応確認! これは、ミーナさん達が現れた時と同じです!」
「間違いない、転移反応! 何か来る!」
『今度は何だ!?』
「……来る!」
「え、何ダァ!?」

 全員が騒然とする中、サーニャが上空を見つめる。
 つられてそちらを見たエイラが、そこに見える予知に絶句した。
 そこに、ウイッチ達が飛ばされた時と同じ渦が出現すると、中央から巨大な影が飛び出してくる。

「な、何あれ!?」
「ミサイル!?」
「違うわ! でも一体何!?」
「飛行機でも船舶でもありません!」
「まさか、宇宙船!?」

 奇妙に尖ったシルエットを持った、見た事も無い機影を持ったそれは、亜乃亜が思わず叫んだような、SF映画に出てくるような宇宙船のような姿をしていた。

「待って、中に誰か乗ってる……けど、人間じゃない!?」
「どういう事!?」
『何が起きている! 状況を報告しろ!』
「謎の大型機体が突如として出現! 中に何かが乗っている模様!」
『何かってなんだ!?』
『待ってください! 出現した機体から通信を傍受しました!』

 ミーナの固有魔法解析が更なる混乱をもたらす中、タクミが更なる情報をもたらすのだった……


『ティア、フェイン…ティア、フェインティア聞こえていますか?』
「聞こえてるわよ!! ここ何処? どーなたの!?」
『それは、私に対する質問ですか?』
「ちーがーうー!! …ってまあ、質問には違いないか」
『状況の整理を提案します、フェインティア』
「はあ、…続けてちょうだい」
『我々は脱出直後に、何らかの手段で超長距離転送されたと思われます。今のところ、それしか分かりません』
「わかんない? ここ未知の宙域なの? 計画されてた掃討戦はどうなったのかしら。私たちも脱出したはいいけど、帰還できないこんな状況なんて。マズったわね。こちらTH44 FAINTEAR! 現在宙域不明! ここは、どこ!?」



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP6
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/01/12 21:56
『複数の熱源感知、及び周辺に戦闘による物と思われるエネルギー残滓を確認』

 艦載AI《ブレータ》からの報告に、フェインティアの顔に驚愕が浮かぶ。

「戦闘!? 敵? 味方? それとも…… モニタリングできる?」
『可能です』

 映し出された外の画像と、そこにいる者達にフェインティアは更に驚く。

「何? まさかトリガーハート?」
『違います。全員から生命反応を確認、この惑星の有人機動兵器と思われます』
「何と戦ってたの? 分かる?」
『不明です。ただ彼女達の武装及び兵器の内在エネルギーから、かなりの高エネルギー戦闘が行われたと推測できます』
「どことも知れない宙域で、よりにもよって所属不明の機動兵器の真ん前に出ちゃったようね……… パージしたあたしのユニットパーツはどうなった?」
『それも分かりません。敵に回収された可能性があります』
「ぐ」
『現在搭載している、アンカーシステムのテスト用砲撃艦のみ使用可能です。随伴艦喪失状態。戦闘は可能ですが、状況は楽観できません』
「例のガルシリーズ二艦のみ、…ね。あんたも出力低下中だし、どーしよっか? 何事もパーフェクトにこなす私にとって、汚点になりそうな状況ね。最悪だわ」
『サイアクですか。……現地機動兵器のエネルギー出力上昇、戦闘もしくは準戦闘待機態勢に入ったと思われます』
「このまま落とされるなんて冗談じゃないわ! 出るわよ!」
『ユニットシンクロ、準備完了。…フェインティア、残念ですが、そろそろ私も限界です』
「離脱後はあんた、一旦隠れてなさい」
『了解。フェインティア出撃後、欺瞞モードへ。幸運を祈ります』
「ようし、行くわよ! ガルトゥース、ガルクアード!!」


「出てくるわよ」

 ミーナの言葉に、全員が一斉に戦闘体勢を取る。
 突如として出現した謎の宇宙船の中から、高速で何かが飛び出す。

「え?」
「女の子? 私達と同じくらいの………」
「違う、人間じゃない」

 中から飛び出してきた、オレンジ色の髪に赤いプロテクターとスーツをまとい、二機の小型武装ユニットのような物を従えた少女の姿に全員が一瞬呆気に取られるが、サーニャの一言に我に帰る。

「オールサーチ………体の半分は組成不明の合金と無機物、体表面と内臓らしき物と思われる有機物反応がありますが、こんな物は今の技術では作れません!」

 可憐が素早く風神の全センサーを使って相手をサーチするが、そこから導き出された少女の正体に悲鳴に近い声を上げる。

「大佐! 指示を!」
『………向こうから手を出さない限りは手を出すな。コンタクトは取れるか?』
『先程、こちらと極めて近い言語パターンを傍受してます! コンタクトは可能かと……』
「向こうに話す気があればね」

 冬后とタクミからの通信に、ミーナが僅かに焦りを浮かべながら、手にした銃の残弾を脳内で計算する。

「オイ、あの変な船だかなんだか、消えてくゾ!」
「さっきのと同じ光学迷彩!」
「まさかあいつの仲間!?」

 宇宙船の姿が消えていくのに気付いたエイラに、亜乃亜とエリーゼが先程戦ったワームの事を思い出す。

「マスター、彼女とさっきの宇宙船から高レベルの次元転移反応を感知したよ。マスターとほぼ同じレベル、間違いなく別の次元から来てるね」
「問題はそこじゃなくて、敵かどうかって事よ」

 ストラーフの報告に、ミーナは謎の少女から目を一切逸らさず、自分の固有魔法を発動させ続ける。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR、ここはどこ?」

 謎の少女、フェインティアからいきなりかけられた言葉に、皆が僅かに動揺する。

「私達は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊。まあ他の部隊も混じってるけど」
「極東方面? ここはどこの恒星系のなんて惑星? ヴァーミスとの闘いはどうなったの?」

 瑛花が代表して応えるが、フェインティアからの返答に更に困惑が広がる。

「どうしよ、訳の分からない事言ってるよ……」
「私達と同じね。なんて言えばいいかしら?」
「恒星系ってどういう意味?」
「え~と学校の授業で一応習ったような……」
「ここは銀河系オリオン腕太陽系第3惑星、地球です」

 音羽を中心として皆が顔をつき合わせて密談する中、可憐がすらすらと答えた。

「銀河系オリオン腕? どこの辺境よ?」
「局部銀河群の棒渦巻銀河の端っこですから、確かに辺境と言えば辺境ですけど……」
「可憐ちゃんすご~い」
「何言ってんだか全然分からナイゾ」
「亜乃亜にもさっぱり………」
「どうやら、とんでもない所に飛ばされたって事だけは分かったわ。それで、貴方達は何をしてたの?」
「ソニックダイバー隊の作戦目標はワームの本拠地《ネスト》の調査及び殲滅だ」
「ワーム? ネスト? 聞いた事も無いわね」
「………」

 話してみて、まるで人間と変わらない反応に、瑛花は迷う。
 だが、それ以上に過敏に反応していた者が一人だけいた。

「一つだけ教えて、貴方は人間じゃないの?」
「私はトリガーハート、最強にして最高、パーフェクトな兵器よ」
「つまり、ワームと同じだ!」

 静止の間も無く、エリーゼのバッハシュテルツェがMVランス片手にフェインティアに突撃する。

『交戦は許可してないぞ!』
「人間の姿をしただけの奴なんか、信用できるもんか!」

 冬后の通信に怒鳴り帰しながらも、MVランスの切っ先がフェインティアに突き出されようとした。

「ガルクアード!」

 だが、フェインティアの従えた二機の攻撃ユニットの一つ、砲撃&アンカー艦《ガルクアード》から光のラインを引きながら放たれたアンカーが、MVランスに突きつけられる。

「この!」

 エリーゼはとっさにアンカーを弾こうとするが、そこで奇妙な現象が起こった。
 ぶつかったMVランスとアンカーが、弾かれもせずにくっついたかと思うと、アンカーがMVランスに侵食していく。

「何これ!?」
「それを放して!」

 サーニャの言葉に、エリーゼがMVランスを手放し、そのままMVランスはアンカーに完全に侵食される。

「セイッ!」

 フェインティアはアンカーを勢い付けて回転させると、バッハシュテルツェに目掛けてMVランスを投げ帰す。

「危ない!」

 予想外の相手の反撃に、ミーナがとっさに前へと出てシールドを展開、シールドに直撃したMVランスはその場で爆発、四散する。

「なあに今の!?」
「爆発した!? そんな機能は付いてないはず!」
「離れて! もしあれがストライカーユニットやソニックダイバーに当たったら大変よ!」
「わあ! ゼロ取られたら大変!」

 全員が慌てて散開する中、フェインティアは彼女達を観察する。

(大した事は無さそうね。たださっきのバリアシールド、完全にこっちの攻撃を防いだ? しかも発生装置らしき物は見当たらない。どういう事?)
「このお!」
「エリーゼ!」

 フェインティアが怪訝に思う中、エリーゼが予備のMVランスを抜いて再度襲い掛かる。

「同じ手を何度も!」

 フェインティアが再度アンカーを繰り出すが、エリーゼが唐突にアンカーへと向けてMVランスを投げつけた。

「それはこっちの台詞!」

 アンカーにわざとMVランスを侵食させる事で逆にアンカーを封じたエリーゼが、腕部の可変出力レーザー砲をフェインティアに向ける。

「ガルトゥース!」

 ほぼ同時に、フェインティアのもう一つの攻撃ユニット砲撃専用艦《ガルトゥース》から高出力レーザーが射出される。

「え…」
「危ないゾ!」

 バッハシュテルツェのレーザーをあっさり飲み込み、迫ってくる高出力レーザーの前にエリーゼが一瞬硬直したのを、未来予知でそうなる事を見ていたエイラが強引にレーザーの範囲から押し出す。
 ガルトゥースのレーザーはエイラの後ろ髪をわずかにかすめ、そのまま海面へと直撃すると、海面が強大な水蒸気爆発を起こして盛大な水柱が上がる。

「なんて威力………」
「ソニックダイバーを遥かに上回る出力です! 直撃したらひとたまりもありません!」
「落ち着いて! 交戦理由は何も無い…」
「たあぁぁ!」
「この~!」

 雷神の大型ビーム砲を軽く上回る破壊力に瑛花が呆然とし、可憐が素早くそのエネルギー数値を確認して悲鳴を上げる。
 ミーナがなんとか戦闘を止めさせようとするが、MVソードを抜いた音羽の零神が挑みかかり、お返しとばかりにルッキーニが銃撃を繰り出す。

「そんな攻撃!」

 フェインティアはアンカーで零神を狙い、ルッキーニの使っているのが旧式銃火器だと思って軽くかわすだけに留めるが、音羽はMVソードでアンカーを絡め取るような動きで明後日の方向に弾き飛ばし、ルッキーニの銃撃はガルトゥースの装甲を遠慮なく削っていく。

「な……どういう事!?」
『フェインティア、相手を甘く見てはいけません。特に脚部のみに飛行ユニットを装着した者達の生体エネルギー量は独自のパターンを形勢、恐らくはサイキッカーです』

戦闘超能力者コマンドサイキッカー!?」
「たあああぁぁ!」

 ブレータからの報告に驚くフェインティアに、音羽が上段から斬りかかる。

「く、この!」
「うじゅ!」

 とっさにガルクァードから至近距離で砲撃を繰り出すが、それを読んでいたのかルッキーニが零神の背後に回りこんで両者の間に多重シールドを展開。
 双方のエネルギーが直撃し、爆発を起こして双方が吹っ飛ぶ。

「うわああぁ!」
「うきゃああぁ!」
「キャアアァ!」

 悲鳴を上げて三人がそれぞれスピンしながら宙を舞うが、海面に直撃する前に全員が立て直して再度宙へと飛び上がる。

「び、ビックリした………」
「音羽! 交戦許可は出てないわよ!」
「うじゅ~、危なかったぁ………」
「フランチェスカ・ルッキーニ少尉! 何を勝手に戦ってるの!」

 音羽とルッキーニが互いのリーダーに怒られる中、フェインティアは先程まで持っていた相手のイメージを完全に捨てる事にした。

「なんて連中よ……相当戦闘経験積んでるわ」
『フェインティア、ここでの交戦は無意味と推測します』
「やってきたのはあっちよ。なら、受けて立つまで!」
「隙あり~!」

 ブレータからの勧告を無視して、フェインティアは直上から襲ってくるエリーゼのバッハシュテルツェに向けて砲口を向けた。


「もしもし! もしもし! こちら亜乃亜! 現在所属不明のメカ少女とスカイガールズが交戦中! 指示を! ってこっち向けて撃たないで~!」

 なし崩し的に戦闘に突入してる現状に、亜乃亜が大慌てでG本部へと連絡を取る。

『こちらオペレッタ。現状は認識しています』
「じゃあどうすれば!? 戦っていいのかどうか……」

 Gのミッション管理オペレーションシステム《オペレッタ》からの返答に、亜乃亜は狼狽どころか半分泣きが入る。

『現在、状況処理のために新たに二名、天使が急行しています。到着までの間、双方の戦闘中断に尽力してください』
「どうやって!?」

 思わず叫んだ亜乃亜の背後で、再度巨大な水柱が立ち上る。

「え~い、もう頑張るしかない!」

 半ばヤケクソで、亜乃亜はビックバイパーの機首を戦闘空域へと向けた。



 静かな海面を、二つの機影が高速で通り過ぎ、その後に巨大なソニックブームが海面を断ち切っていく。

「始まってるわね。亜乃亜はちゃんと仲裁できてるかしら?」
「このエネルギーのぶつかり合いだと、ダメっぽいよ?」

 前方を行く、赤と黄色のシャープなライディングバイパーを駆る桃色の髪をポニーテールにした少女の呟きに、後方を行く艦首砲とブースター部分のみという極めて風変わりなライディングバイパーを駆る黄色の長髪を青いリボンで数箇所縛ってツインテールにした少女が送られてくるデータを解析しながら返す。

「急ぎましょう、被害が出るのだけは防がないと!」
「高速仕様に改造してる暇があったら………あれ? 何だろこの反応?」

 ツインテールの少女は、自分達と反対側の方向から、同じ目的地へと向かう小さな反応に首を傾げていた。



「うわわわ! サーニャこっちダ!」
「うん」

 飛んでくる高出力レーザーに、エイラとサーニャは大慌てで回避する。

「ミーナ中佐! これどうすればいいンダ!?」
「もし彼女が私達と同じような状態なら、なんとかして戦闘行動を中断させるべき…」

 そういうミーナの脇を、アンカーに取られて侵食されたMVソードがすっ飛んでいき、海面に接触して爆発する。

「マスター、ボクが止めに入る? ちょっとどっちかの手足破損するかもしれないけど」
「それは幾らなんでもまずいわよ………せめてまともに会話できれば………」
「この状況で?」

 最初に手を出したエリーゼを筆頭に、音羽、ルッキーニの三人が中心となってフェインティアとの激戦を繰り広げている状況に、残った者達はどうするべきか戸惑っていた。

「止めるも何も、火力が違いスギル!」
「全然話聞いてくれそうも無い……」
「どうする? こちらも参戦して力尽くで抑えるか?」
「それしかないかしら………」
「待ってください! 今Gの天使が二人、こちらに向かってます! そうすればなんとか…」

 臨戦態勢を取ろうとする瑛花とミーナを亜乃亜が抑えようとするが、そこでガルトゥースのビームがかすめ、一撃で亜乃亜のビックバイパーのシールドが消失する。

「え………」
「どうやら、やるしかなさそうだな」
「ええ」



「なんて戦闘力だ………ワームなんか目じゃねえぞ」
「やはりあれは、敵なのか!?」
「いや、現状を理解していないだけかもしれない。なんとか回線は開けないか?」
「さっきからやってますが、戦闘の影響か上手くいきません!」
「ソニックダイバー隊のナノスキン、活動限界まで5分を切りました!」

 攻龍のブリッジ内で、フェインティアとの戦闘状態に突入した事に、どうすればいいかを誰もが迷っていた。

「至急ソニックダイバー隊を撤退」
「了解、と言いたい所ですが、難しいですね艦長……」
「いっそ、撃墜しては?」
「そう簡単に撃墜できる相手には見えんよ」
「でもこのままじゃ!」

 七恵が悲鳴を上げる中、ブリッジの扉が開くと、アイーシャが姿を現す。

「私が説得してみる」
「なに?」
「出来るのかアイーシャ!」
「はっきりとは分からないけど、彼女の制御神経系にナノマシンが使われている感じがする。恐らく有機CPUも使ってるから、可能のはず」
「けど、また倒れたら…」
「でも、私しかいない」

 ブリッジの全員が不安気に見る中、アイーシャは目を閉じ、精神を集中させて自らのナノマシンを活性化、シグナルを送信させる。



(サーニャ、聞こえる?)
「アイーシャ?」
(彼女を説得する。けど距離があって難しい。手伝ってほしい)
「分かった。私を中継して」
「何言ってんダ、サーニャ?」

 アイーシャからのシグナルを受信したサーニャが、エイラが不思議そうに見る中、自らの固有魔法の探査能力をフェインティアに集中させる。

(私の声が聞こえるか。フェインティア)
「な、何!?」
『どうかしたのか、フェインティア』
「私のナノニューロンに何かが直接アクセスしてきた! どういう事!?」
(私はアイーシャ、そこにいるのは私の仲間。貴方と戦う理由は無い)

 突然頭の中に響いてきたアイーシャの声に、フェインティアは露骨なまでに狼狽した。

「先にやってきたのは向こうよ!」
(それは謝る。エリーゼは前にワームに家族を殺されて、過敏に反応しただけ)
「じゃあ他の連中は!」
(みんな戸惑ってる。私達は、貴方のような人間に見える人間じゃない存在を知らない。だからどうしたらいいか分からない)
「じゃあ教えてあげるわ、私がパーフェクトなトリガーハートだって!」

 アイーシャの説得も聞かず、フェインティアが砲口を二つともバッハシュテルツェに向けると、エネルギーをチャージし始める。

(ダメだ!)
「大丈夫、飛べなくなるくらいに吹っ飛ばすだけだから!」

 明らかに撃墜する気満々でフェインティアがレーザーを発射する直前だった。

「主砲発射用意! 撃ぇ!」

 どこかから声が響いたかと思うと、小さな弾丸がフェインティアとエリーゼの間に放たれ、凄まじい閃光が炸裂する。

「閃光弾!?」
「誰だ!?」

 ウイッチ達もソニックダイバーも装備してない武装に、ミーナも瑛花も目をかばいながら飛んできた方向に目を向ける。

「く、目くらましなんて原始的な!」
「うう、くらくらする………」

 視覚素子を回復させながら、フェインティアが周囲をサーチして閃光弾を放った相手を探そうとする。
 だが、それは恐ろしい程間近に迫っていた。

「次元転移反応確認、指定条件に全項目一致。現時刻を持って、貴方を私のマイスターとして認識する」
「な、なにこれ?」
「武装神姫!?」

 フェインティアの目の前に、戦車の主砲を思わせるユニットとパイルバンカーを搭載した、重武装の武装神姫が一体、対峙していた。

「私は武装神姫・戦車型MMSムルメルティア、マイスターをサポートするようプログラミングされている。そして忠告する、彼女達は敵ではない」
「はあ!? いきなり現れて何言ってんのアンタ!」
『フェインティア、確かにここで戦うメリットは無い』
「あんたまで! 仕掛けてきたのあっちだから、応戦したまでよ!」
「今度こそ、もらったぁ!」
「このお!」
「カモーン! ゲインビー!」

 再度二人が激突しようとした瞬間、今度は丸っこくて巨大な寸詰まりで腕の生えた奇妙な機体が突き抜け、両者を弾き飛ばす。

「今度は何!?」
「きゃあぁ!」
「あれはゲインビー! ってことは!」
「双方そこまでです!」

 その攻撃に見覚えがあった亜乃亜が、上空からの声に歓喜の顔で振り向く。

「エリュー! マドカ!」
「えへっ♪ 亜乃亜大丈夫だった?」

 赤と黄色のライディングバイパー、ロードブリティッシュを駆るポニーテールの少女、エリュー・トロンと、原型を留めない程に改造されたライディングバイパー、マードッグバイパーを駆るツイテンテールの少女、マドカの姿に、亜乃亜は胸を撫で下ろす。

「この近辺に発生した次元転移災害は以後Gの管轄になります! 必要外の戦闘行為は許可されてません! 即刻戦闘を中断してください!」
「次から次へと……!」
『フェインティア、ここは従うべき。状況を理解するべきと提案する』
「仕方ないわね」

 フェインテイアが戦闘態勢を解くのを確認したミーナが胸を撫で下ろす。

「良かった。なんとか収まったみたいね」
「こちらもな」

 瑛花の視線の先には、ゲインビーの両手にソニックダイバーの頭を押さえられているエリーゼと音羽がもがいており、その脇には亜乃亜に肩を、ストラーフに尻尾を掴まれたルッキーニがむくれていた。

「離せ、この丸!」
「分かった、分かったから押さえるのやめて」
「ぶー、もう少しだったのにー」

 文句を言う3人にそれぞれの隊長が睨みを飛ばす。途端に3人とも沈黙した。

「エリーゼ、音羽」「ルッキーニさん」
『帰ったら覚悟しておきなさい』
『ひぃー』
「怖いわね~、貴方達の隊長さん」

 抵抗の意思が無いのを確認したマドカがゲインビーを帰還させながら苦笑。

「それじゃルッキーニちゃんも大丈夫だよね」
「マスターに後は任せるよ」

 亜乃亜もそれにならい、ストラーフは手放した手をムルメルティアに向けてサムズアップ。
 それにムルメルティアは敬礼で返す。

「それではソニックダイバー隊は至急帰還! ナノスキンの限界が近いわよ!」
「わあ!」「急げ~!」「すいませんが後で!」

 ソニックダイバー達が慌てて帰還する中、
ミーナがフェインティアへと近寄る。

「貴方も来てくれる? 多分、私達と同じ状況だと思うから」
「同じって、あんた達もどこかから転移してきたの?」
「ええ。詳しく聞きたいなら、着いてきて」
「行きましょう、マイスター」
「しょうがないわね………ブレータ、行ける?」
『低速航行なら可能です』
(ありがとうフェインティア。船で待ってる)
「自分で止めたんじゃないわよ………」

 ため息を吐き出しながら、フェインティアとウイッチ、そしてGの天使と武装神姫達は攻龍へと向かった。



「固定急げ!」
「おい、沈まないだろうな?」
「ブレータ、状況は?」
『前方の水上艦との曳航状態ならば維持可能。微低速運行状態にて自己修復開始』

 攻龍の整備班が総出で、フェインティアの乗ってきた脱出艦と攻龍をワイヤーで繋ぐ。

「確かにこりゃ宇宙船みてえだな……」
「宇宙船曳航した船ってこれが始めてじゃないっすかね?」
「多分最初で最後やと思うわ」
「そやそや」

 曳航される脱出艦を皆が興味深げに見る中、フェインティアの視線はそのまま横へと向き直る。

「で、これは何してるの?」
「ううう………」「しくしくしく………」「う~~~………」

 曳航作業が続く攻龍の後部甲板で、頭にたんこぶをこしらえたエリーゼ、音羽、ルッキーニの三人が水の満載したバケツを両手に立たされていた。

「命令違反の懲罰だとさ」
「学生じゃあるまいし……」

 整備班長が呆れるが、涙目で立たされている三人は曳航される脱出艦と同様に興味の対象となっていた。

「この船、営倉も無いからちょうどええんやないか?」
「あのウイッチの中佐、中々慣れてはるで」
「冬后さんがやったら問題になるけどな」
「誰がやっても問題よ!」
「ええやないか。希望通り頭には一発で許してもらえたんやし」
「頭の方がよかったかもな」
「うう………」

 一番最初に突撃したエリーゼは、多めにもらう所を明晰な頭脳を盾に拒んだ結果、モーションスリットの下から僅かに見えるお尻が赤くなっていた。

「何で私がこんな事……」「ミーナ中佐怒ると無茶苦茶怖い………」「ずきずきする………芳佳がいたら治してくれるのに………」
「少しは反省した?」

 そこに懲罰を与えた張本人のミーナと瑛花、それにカメラ片手のタクミが顔を出す。

「あの、ミーナ中佐いつまでこうしてれば………」
「それなんだけど、30分後にミーティングと冬后大佐に言われてきた」
「だから、そぞろ止めていいわよ」
『やった~♪』
「これの後にね」

 三人が歓声を上げた時、こちらに向かって一眼デジタルカメラを構えているタクミに気付いた。

「ちょ、まさか……」
「あの、タクミさん?」
「うえ!?」
「時間が無いから、写真張り出して懲罰代わりだそうです。じゃあ行きますよ~」
「ま、待って! こんな姿…いやああああぁぁ………」

 エリーゼの悲鳴が響き渡る中、無常なシャッター音がその場に鳴った。



「秘密時空組織「G」所属権天使、エリュー・トロンです。今回の時空災害調査のリーダーを命じられてます」
「同じく、「G」所属大天使、マドカ。よろしく♪」
「特務艦攻龍艦長の門脇だ」
「副長の嶋だ」
「そしてオレがソニックダイバー隊の指揮官の冬后だ。よろしくな」

 ブリッジに現れた二人の天使に、ブリッジの管理職達も名乗る。

「それで、彼女がか」
「所属は?」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ 対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器 《トリガーハート》TH44 FAINTEAR。ヴァーミスから逃げ出して転送した時、妙な時空振動に巻き込まれて、ここに来たわ」
「………正直、何を言ってるのか全く理解できんな」
「超惑星規模、という事は地球以外の惑星の出身なのね?」
「製造って言った方が正解ね」

 嶋が首を傾げる中、エリューの補足にフェインティアが頷く。

「タイムスリップかと思えば、今度はエイリアンか? 冗談にしても程があるだろが………」
「異星人なら、ここにも二人います」
『!?』

 エリューの言葉に、ブリッジの全員の視線がそちらに集中した。

「私は惑星グラディウス、マドカは惑星メルの出身なのです」
「じ、じゃあエイリアン!?」
「まるで普通の人間に見えますけど………」

 七恵とタクミがエリューとマドカをまじまじと見つめるが、外見上は全く普通の人間と変わらない。

「生物学的には私もマドカも地球人と大差ありません。ただ、彼女は違うようです」
「少女の姿をした兵器、か。どんな奴が何考えてこんなのにあんだけの戦闘力ぶち込んだ?」
「トリガーハートの作戦目標はヴァーミスの殲滅、それ以外に意味は無いわ」

 冬后の呟きにフェインティアが応じるが、それが冬后の表情を更に複雑にさせる。

「今、君の乗ってきた船のAIともデータリンクさせているが、詳しい状況を確認したい」
「後でいい? 先にボディ洗浄したいから。洗浄ユニットはどこ?」

 艦長の提案を、フェインティアはあっさりとあしらう。

「おい、何を勝手な事を…」
「副長、彼女はこちらの指揮下にありませんから、強制は出来ませんよ。洗浄って事は風呂か? 藤枝、は手が空いてないか。速水、案内してやれ」
「え、はい」
「今他の連中も入ってるから、覗くなよ」
「覗きませんよ! じゃあこっちへ」

 タクミがフェインティアを伴ってブリッジを離れると、誰からともなくため息が漏れる。

「一体、どうなっとるんだ?」
「Gでも把握できてません。偶発的時空転移にしても、異常です」
「問題は今何が起きているかよりも、これから何が起きるかだ」
「出来れば、これ以上増えてほしくはないな。攻龍の設備にも限界がある」
「整備なら任せて! メカなら得意だから!」
「あの、マドカには任せない方が……」
「整備がそちらで出来るならそうしてもらいたい。整備概要も分からん機体が増える一方では困る」
「にぎやかになってはいいんですけどね」

 冬后の漏らした言葉に、副長の冷たい視線が容赦なく突き刺さった。



「じゃあここ、みんなも今入ってるから、ケンカしないようにね」
「洗浄が共同なんて、不衛生もいいとこね」
「他の設備がスペース取ってるから……」

 タクミが乾いた笑いを浮かべつつ、途中で用立てた入浴グッズをフェインティアに渡す。

「くれぐれもケンカはダメだよ?」
「向こう次第よ」

 ものすごく不安を感じるが、さすがに中にまで入るわけに行かないタクミが何べんも念を押してその場を離れる。

「まったく、とんでもない所に転送されたわね………」

 説明を受けた通り、脱衣所で空いているカゴにボディスーツを脱いで入れたフェインティアが、ぶつくさと文句を言いながら浴室へと入る。

『あ』

 予想外の顔に、中で入浴中だった者達が思わず間抜けな声を上げた。

「あれ、お風呂入るの?」
「こっちはお前のせいで今日二回目ダゾ」
「誰かのせいで、体表がミネラルまみれなのよ。洗浄しないと」
「撃ってきたのはそっちじゃない!」
「先に仕掛けたのはそっちだ」
「お陰でこっちは頭一回、お尻三回もぶたられたんだから!」

 音羽がさも不思議そうに問いかける中、エリーゼとフェインティアが真っ先に睨み合う。

「海水流したいなら、源さんに言って熱湯でも被ってくればいいじゃない!」
「そんな事したら体表組織が痛むでしょうが! ユニットとシンクロしてないと防御が弱いんだから!」
「それじゃあランドリーにでも入ってきたら? ロボットなんだからそれでいいでしょ!」
「私を機械部品と一緒にしないでくれる!」
「エリーゼ、落ち着いて」
「ほらフェインティアも」

 一触即発の両者を可憐と亜乃亜が何とかなだめながら引き剥がす。

「うわ、柔らかい」
「そうなのカ?」

 フェインティアの体が予想と反して人間とほとんど変わらない事に、亜乃亜が思わず声を漏らす。

「フレームはともかく、ボディは人工有機素材よ。触感的には貴方達と左程変わらないわ」
「へ~、スゴイですね」
「何言ってんだか分からないゾ………」

 鼻を一つ鳴らしながら、フェインティアが空いていたシャワーの前に腰掛ける。
 外見上は人間とまったく変わらないフェインティアに、周囲の視線が無遠慮に突きつけられる。

「これどうするの?」
「ここ捻ると出てくるよ。こっちに回してお湯で、こっちだと水」
「原始的ね」

 隣に座っていた音羽に教えられながら、シャワーからお湯を出してフェインティアが髪を洗い始める。
 その背後に近寄る影があった。

「せ~の!」
「うきゃあ!?」

 いきなり背後から抱きつかれ、フェインティアの口から意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、柔らか~い」
「ちょっと何するのよ!」

 抱きついてきた相手、ルッキーニにフェインティアは文句を言うが、ルッキーニは無遠慮にフェインティアの胸を背後からわしづかみにしてその感触を確かめる。

「ねえねえ、これ本当に作り物?」
「離しなさい! そんな事して何が楽しいの! ちょっと、うひゃああ!?」

 ルッキーニを引き剥がそうとするフェインティアが再度意味不明の声が漏れる。

「ホントだ、全然作り物に見えない」
「ちょっと!?」

 隣に座っていた音羽が、フェインティアの尻を指で突付いていた。
 フェインティアがそちらを睨んだ所で、ふと他にも無数の視線がこちらを向いている事に気付いた。

「ほ~、どういう仕組みになっているンダ?」
「今の技術じゃ、こんな完全なバイオアンドロイドは作れませんし」
「不思議ね~、人間と全く変わらないようにしか見えないわ」
「確かに」
「感触は本当に普通でしたよ?」

 亜乃亜の最後の一言に、全員の目が何か危険な色を帯びる。

「……触ってみていい?」
「どうして!?」

 サーニャの言葉に、フェインティアが露骨に反応する。

「ちょっとでいいからサ」
「後学のために……」 
「ホントに人間と変わらないの?」
「興味はあるわね」

 ゆっくりとにじり寄ってくる者達に、フェインティアがどんな戦場でも感じなかった奇妙な恐怖を襲う。

「ルッキーニ、ちょっとそこ変わってクレ」
「うじゅ~、もうちょっと確かめてからでダメ?」
「何を確かめてんのよ!」
「洗浄手伝いますから、ちょっとだけ素材の質感を……」
「そうね、みんなで洗ってあげる代わりという事で」

 気付いた時には、すでに周囲は完全に包囲されていた。

「ちょ、待ちなさい! 何を……いやあああぁあぁ……………」



「まだ風呂から出てこないのかあいつら?」
「心配ですし、様子見てきましょうか?」

 ミーティングの予定時間を過ぎても来ない一同に、冬后と七重が不安を感じ始める。

「あのフェインティアっての、見た目はあいつらと変わらないが、一応兵器だからな。かといって女湯に武装して入るわけにもいかんだろうしな………」
「大丈夫だと思うよ? 多分」
「でも万が一という事もありえる」
「やっぱり見てきます」
「すいません、遅れました~」

 準備をしていたマドカが能天気な事を言うが、エリューも心配した所で、そこへ何かやけに楽しそうな音羽を先頭に、全員が作戦会議室へと入ってくる。

「お、大丈夫だったか?」
「はい! みんなで親睦を深めてきました!」
「親睦?」

 冬后が首を傾げた所で、エイラと可憐に肩を借り、やけに肌や髪がキレイになってるフェインティアがフラフラと室内に入ってきた。
 その目はどこかうつろで、先程の戦闘の時に感じた危険な雰囲気は微塵も感じられない。

「………何をした?」
「あ、皆でお風呂の使い方を教えただけです」
「ソウソウ」
「まあ、ちょっとアレとかコレとか………」
「この星の原住民は変態ばかりなの……」

 かすれた声でフェインティアがそう呟いたが、生憎と冬后の耳には届かなかった。

「ところで、どうしたんですかこれ?」
「いつの間にか、この船にあったそうだ」

 音羽が作戦会議室に持ち込まれたテーブルの上、ノートPCに繋がった小さなベッドのような物に横になって眠っているらしいストラーフとムルメルティアを指差すが、冬后も説明しようがなくただそれを見つめていた。

「ひょっとしてこれ、メンテナンスハンガー?」
「クレイドルって言うらしいですよ。充電とデータ整理を行う事が出来るそうです」
「彼女達の事、何か分かったの?」

 フェインティアも不思議そうにそれを見、七恵が説明した所でミーナがふと疑問を口に出す。

「副長が教えてくれたんです。昔、この子達そっくりのオモチャがあったとかで」
「だが、あの戦闘力は半端じゃない。その説明も聞きたい所だが………」

 そこでノートPCから電子音が鳴り響き、二体の武装神姫が同時に目を覚ます。

「データバンク並列化終了………起きるのね、はいは~い………」
「データ交換終了……ん、起床時間か………」

 人間そっくりに起きる二体の武装神姫を、全員が興味深そうに見つめる。

「さって、何する?」
「まずは戦況見解の統一だ」
「確かにな」

 苦笑しながら、冬后がミーティングを開始した。

「お前らが風呂に入ってる間に、あの宇宙船の『ブレータ』とかいうAIから事情は聞いた」
「あの、AIって何でしょう?」
「あんた、そんなのも知らないの?」
「無理を言わない。マスターはまだ電子頭脳も無い時代から来たんだから」
「は?」
「データにはウイッチと呼ばれるこのコマンドサイキッカー達は、この時代より更に前、まだ大陸間ロケットすら無い時代からこの世界に転移してきたそうです、マイスター」

 ミーナとフェインティアの凄まじいジェネレーションギャップを、それぞれをマスターとした武装神姫が補足する。

「ま、それによりゃ、彼女はオレ達のでもウイッチ達でもない、全く別の世界の人間、いやトリガーハートって事になる」
「それによれば、彼女の生まれ故郷は星系国家を形成していた惑星の一つ。そして、そこにヴァーミスと呼ばれる自律戦闘単位集団が来襲、それに対抗するために作られたのが彼女達トリガーハートとの事よ」

 エリューの説明に、その場にいた半数は微妙に困惑した表情を浮かべ、残る半数は全く理解できないのかただ首を傾げる。

「全然意味分かんないゾ」
「私も」
「星系国家なんて、とても信じられないし……」
「分かんないけど、フェインティア柔らかかったし」

 自分達の常識の完全に外の話にウイッチ達は特に混乱していた。

「オレにもよく分からん。ただ言えるのは、彼女もオレ達も、戦ってる敵もやってる事もほぼ似たような物って事だ」
「今ブレータからこっちの戦闘データを回してもらったけど、ワームっていうの、確かにヴァーミスに似てるわ。ヴァーミスの方が色々厄介だけど」
「システム的には、ネウロイの方に近いようね」

 ブレータから回されたらしい戦闘データが作戦会議室のディスプレイに幾つか表示され、それを見たミーナが辛うじて理解する。

「それで、この子達はどこから?」
「それが、分からんらしい」
「は?」
「ボク達は起動した時はすでにこの世界にいたんだよね」
「インストールされたプログラムに従い、『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。その作戦内容を忠実に実行したまでだ」
「つまり、他には何も覚えてないんですか? 内部データは?」
「調べてみたんですけど、この子達自身も操作できないブラックボックスみたいなデータがあるだけで、他には皆さんと会うまでのデータしかないんです………」

 可憐の問いに七恵が応えるが、ウイッチ達はやはり首を傾げていた。

「どういう事?」
「言ってみれば動いたばかり、生まれたばかりって言った方がいいかな? そういう状態なんですよ」
「でも、戦闘データだけはインストールされてるよ?」
「私もそれは認識している。起動したて、というよりも余計なデータを削除されているのかもしれん」
「余計な物は持ち込まない、か。昔のSF映画でそんな理由で未来から素っ裸でワープしてきたマッチョがいたな」
「でも、私らは色々持ち込んでるヨナ?」
「何でわざわざ消去して送り込んできたのかしら?」

 謎だらけの状況に、全員が首を傾げる。
 そんな中、エリューが口を開いた。

「とにかく、ウイッチ、そしてトリガーハート、更には武装神姫。これら異世界からの連続転移はGのデータにもほとんどありません。原因及び帰還方法の探索のため、しばらく皆さんと合同調査を行う事になります」
「どちらにしろ、私達には他に行くアテは無いようだからね」
「なんだって私がこんな原始的な船に………」
「あ、あんたの船は自己修復の限界で大気圏内行動が限界って聞いてるぞ。こちらで直そうにも、技術レベルが違いすぎて無理って整備の連中が言ってたな」
「サイアク………」
「私が出来うる限りのサポートをする。マイスター」

 げんなりした顔のフェインティアを、ムルメルティアがなだめる。

「とにかく、これ以上何が起きるか分からんが、ネストへの接近が原因の一端って可能性もある。攻龍は進路このまま、あとは出たとこ勝負だ。正直、これ以上増えてほしくないってのが本音だがな」
「増えたくて増えたんじゃないわよ!」

 冬后のぼやきにフェインティアが吠えるが、そこでいきなりドアが開くと、アイーシャが室内へと入ってくる。

「アイーシャ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫、前よりも負担は軽い」
「ダメだよアイーシャ、無理しちゃ……」

 フェインティアへのナノマシン干渉の後、倒れそうになって医務室に行ったと聞いていたアイーシャの姿に、ソニックダイバー隊が心配そうに声を掛ける。

「何そいつ?」
「あなたを説得した人」
「じゃあ、私にハックしてきたのは!」
「ハックじゃない。説得。それで貴方はここに来てくれた」
「十分ハックよ! 一体どうやって!」
「アイーシャは、ナノマシンと生体融合してるの」
「だから、ナノマシンに干渉できるんです。フェインティアさんにも、使われてるんですよね?」
「そりゃあ、ナノニューロンの構築と伝播はナノマシンだけど………」
「だから分かった。貴方は敵じゃない」
「ぐぐ……」

 無表情なまま淡々と断言するアイーシャに、フェインティアは完全に気圧されてしまう。

「とにかく、色々含む所はあるだろうが、休戦協定って事で納得してくれ」
「マイスター、彼女達との戦闘で得られる戦果はない。休戦は打倒と判断する」
「分かったわよ………アンタ本当に私の味方?」
「私の作戦目標は条件に一致した人物をマイスターとしてサポートする事だ」

 冬后の提案を支持するムルメルティアにフェインティアはジト目で睨みつつ、ため息をもらす。

「さて、次の問題だが」
「まだあるのカヨ」
「ある意味、一番深刻な問題です」
「一気に三人、いやこいつら含めれば五人増えたが、部屋の空きが無い」
『………あ』

 冬后の一言に、全員が思わず声を上げる。

「え~と、布団の予備持ってきてなんとか」
「ベッドの空き無いよ?」
「ルッキーニのとこ使えばイイ。昨夜も途中でどっか抜け出して寝てたゾ」
「ひょっとして昨日格納庫の上で人影が見えたのって……」
「私の使ってる士官室なら、まだ空いてるわよ?」
「え~と、エリューもマドカも枕なんて持ってきてないよね?」
「来る訳ないわよ」
「なんなら、ベッドくらい作ろうか?」
「私は乗ってきた脱出船で休息するからいいわ」
『フェインティア、残念ながら現在修復中で居住用には不可能です』
「ぐ」
「じゃあ今空いてるのは、士官室が一つ、一般船室が一つ、あと一つどこか………」
「狭いけど私の部屋が空いてる。フェインティアが来るといい」
「何で私があんたと同じ部屋なのよ」

 アイーシャの提案に、フェインティアが即答で反論する。

「ミーナ中佐は一応士官だからな。入るとしたら士官クラス、となると必然的に」
「エリューか」
「え? リーダーと言っても臨時で」
「あとはタコ部屋だぞ? 風呂ですら共同嫌がってたじゃねえか」
「冬后さんタコ部屋なんてひどい! せめてイカ部屋で!」
「どう違うんダヨ?」
「じゃあマドカがリフォーム改造する?」
「止めなさい、原型留めないから」

 妙な所で議論が白熱する中、アイーシャとフェインティアは互いに無言で(フェィンティアの方が一方的に)睨みあう。

「あなたの体は、ダメージが残っている。自己修復に専念するなら、静かな部屋の方がいい。私は騒がない」
「そこまでバレてんの………確かにヴァーミスからの脱走とこいつらとの戦闘でちょっと無茶したけど………」
「じゃあ決定という事で。普通のベッドで大丈夫です? 簡易型だからちょっと寝心地悪いかもしれませんが」

 勝手に決めた七恵がてきぱきと部屋割りの詳細を出し、皆が準備のために格納庫へと向かっていく。
 後には冬后とアイーシャ、フェインティアとムルメルティアの四人が残された。

「色々言いたい事はあるだろうが、この船にいる間は大人しくしててくれや」
「大丈夫、すぐに慣れる」
「なんで私がこんな事に……」
「戦況は変動する物だ、マイスター」

 重い重いため息を吐き出すフェインティアだったが、そこでアイーシャがいきなり彼女の手を取って握り締める。

「な、なによ?」
「頼みがある。お父様はワームの発生は予見できたけど、こんな事態は予見していない。これから何が起こるか、誰も分からない。だから、力を貸して欲しい」
「何で私がそんな事…」
「あなたが強いから」

 無表情のままのアイーシャの断言にフェインティアは一瞬呆気に取られるが、段々その顔に自慢げな笑みが浮かんでいく。

「もっと褒めてくれていいわよ。褒められるの好きだから」
「エリーゼと音羽、それにルッキーニと一人で戦ったんだから、誰も弱いなんて思ってない。それは事実」
「本気出したら勝ってたわよ」
「そうかもしれない。だから、力を貸してほしい。私は戦いたいけど、戦えない。こちらで出来る事は何でもする。これから起きる事に、みんなで立ち向かうために」
「何かが起きるってのか? これ以上厄介な事が」

 冬后の問いに、アイーシャはしばし無言だったが、小さく頷く。

「ワームの戦い方が変わってきている。これからもっと変わる。対抗するには、全員の力を合わせる必要がある。無論私も、フェィンティアも」
「トリガーハートは戦うために作られた兵器だからね。私は異論無いわよ」
「……一つだけ言っとく。オレはソニックダイバー隊を戦うために集めたんじゃない。だから、戦うために作られたなんて言葉はあいつらの前では言わないでほしい」
「案外ナイーブなのね。ま、いいわ。それで私の部屋はどこ?」
「案内する」
「私の待機場所はあるか?」

 アイーシャがフェインティアとムルメルティアを連れて作戦会議室を出て行った所で、冬后はおもむろにコンソールを操作して先程の戦闘データを再生させる。
 最初のイルカ型ワーム、次のヒラメ型ワーム、そしてフェインテイアとの戦闘データを並べると、その中からヒラメ型ワームとの戦闘データを拡大、一連の戦闘状況を再度確認していく。

「確かにこいつは、明らかにウイッチ達を狙っていた感じがある。だとしたら、その先に何がある? ワームの狙いは、一体なんなんだ?」

 言い知れぬ不安に駆られる中、ふと先程まで騒いでいた少女達の顔が脳裏に浮かぶ。

「あれだけいりゃ、なんとかなるだろ。いや、何とかするのがオレの仕事か………」

 己自身にそう言い聞かせると、冬后は少女達の全データを整理し、頭に叩き込むためにその場を後にした………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP7
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/01/30 21:31
 朝日が差し込む攻龍の甲板を、トレーニングウェア姿の瑛花がジョギングしていた。

「はっ、はっ……」

 どれ程走りこんだのか、額に大粒の汗が浮かび、それでも普段の鍛錬から呼吸は一定を保たせて走りこむ瑛花だったが、ふと上を見上げて眉根を寄せる。

「今度はあそこか………」
「ZZZ……」

 攻龍の主砲の上にまたがり、幸せそうな顔で眠っているルッキーニの姿にあえてそれ以上の事を考えないようにして瑛花はジョギングを続ける。

「あら、早いわね」
「あ、ヴィルケ中佐」
「ミーナでいいわよ。他の人達はまだ寝てるみたいだけど」

 ハッチを開けて姿を現したミーナの姿に、瑛花は足を止めて首に巻いていたタオルで汗を拭う。

「中佐こそ早いですね」
「目がさえちゃって。色々あったから」
「そうですね………」

 そこで両者はここ数日で起きた色々な事に思いをはせ、思わずため息が漏れる。

「ねえ、あなたこの後どうなると思う?」
「さあ………私は軍人としての職務をまっとうする、それだけです」
「職務をまっとう、ね。私はどうすればまっとうできるのかしら………501の仲間も半分もいない、ネウロイの姿も無い。けれど、敵はいっぱいいるしね」
「……今Gで戻る方法を探してるって亜乃亜が言ってました。他の人達もきっと見つかりますよ」
「そうね……そう思う事にするわ」
「ふにゃあああああ……」

 ミーナがそう言った所で、上の方から能天気なあくびが響き、二人が思わずそちらを見るとルッキーニが大きく伸びをしていた。

「あらあら、ルッキーニさんはやっぱり外の方がいいのかしら?」
「彼女普段からああなんですか?」
「ええ。どこでも寝れるのはある意味たのもしいわね」
「う~ん………」

 やはりウイッチは自分達とどこか違うんだろうか? という疑問は瑛花の中では解けそうにない。

「それにしても、美緒や他の人達はどこにいるのかしら………」



AD2300 ネオ東京 私立白丘台女子高等学校・裏山

「うわあ……」
「すごい………」

 自分達の目の前にある宇宙船の姿に、ウイッチ達は絶句するしかなかった。

「これはすごい……カールスランドでもまだ宇宙用ロケットなぞ完成していないというのに」
「正確にはこれはスペースクルーザーよ。それじゃあ早く乗って」

 バルクホルンですら感心する中、ポリリーナがてきぱきと発進準備を進めていく。

「でもなんで学校の裏山にあるんですか?」
「未来じゃそれが普通なんじゃない?」
「普通じゃないんだけど………」

 リーネの率直な問いにエーリカが適当に応えるのを、ユナが返答に困り果てる。

「航路確定。目的は衛星軌道、永遠のプリンセス号」
「医療品はこれで全部ですか? え~とこれは説明書かな?」
「後にしてください。来れる人達は大体来ましたか?」

 エルナーがブリッジでコンソールを遠隔操作する中、芳佳は運び込まれた医療品を開封しようとしてたしなめられていた。

「エリカさん達は別の船で荷物を受け取ってから来るそうですわ」
「食べ物い~っぱい積んだですぅ♪」
「何だこのお菓子の山は!」
「ちょっと減らしとく?」
「ユーリィの勝手に食べちゃダメです~!」
「緊張感の無い人達ですね………」

 エルナーが呆れるが、そこで外部からの通信が届く。

『こちらエグゼリカ! 私も乗ります!』
「あれ? 確か自前の艦で行くって言ってませんでした?」
『それが、姉さんが乗ってちゃって………あと、私達の支援艦 《カルナダイン》が転移反応の位置をほぼ特定、姉さんとそこに向かったそうです』
「それって!」
「誰かがそこにいるんですね!?」
『ウイッチの人かどうかまでは……』

 通信を聞きつけた芳佳とリーネが思わず詰め寄るが、エグゼリカは確証がないので言葉を濁す。

「それは何よりです。詳しい話は上で聞きましょう。乗ってください!」
「ユナさ~~~ん、遅れました~~~~」
「ちょっと、私を置いてくつもりじゃないでしょうね!」
「なあなあ、あの派手な戦闘、やっぱあんたらか?」
「お店臨時休店にしてきたネ!」
「さあ行きますわよ!」

 元暗黒お嬢様13人衆を名乗っていたユナの仲間達もぞくぞくと乗り込み、シートに腰掛けていく。

「そう言えば、艦名をまだ聞いてなかったな」
「前のクルーザーの大規模改造版だから、決まってないのよ。誰か決める?」
「う~ん、芳佳ちゃんは何かある?」
「え? え? 急に言われても………」
「前はなんて名前だったんですか?」
「エレメント・フェアリィ号だったんだけど、亜弥乎ちゃん元気でやってるから、別のにしたいな~って」
「よし、アイゼン・ヘクサ号で!」
「ドイツ語で鉄の魔女ですか、それはちょっと………」
「ならばブループルミエで」
「それはペリーヌの通り名じゃん………」
「エイピッタン号で!」
「誰かもうちょっとマトモなのありません?」

「それじゃあ、皆さんの総称で可憐な戦乙女プリティー・バルキリーというのは?」

 エグゼリカの提案に、全員が互いの顔を見ると、手を一つ叩く。

「それじゃあ、プリティー・バルキリー号、発進!」

 ポリリーナが操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込む。
 数多の戦乙女達を乗せ、プリティー・バルキリー号は天へと舞い上がっていた。

「思っていたよりもGがきつくないな」
「Gイレーサーが効いてるからね。今じゃそれが常識よ」
「前に成層圏のネウロイを攻撃した時は、501総員掛りで二人を上げるのが精一杯だったからな」
「生身で行ったの………」

 バルクホルンの言葉にポリリーナが呆れた所で、艦体は成層圏を離れ、窓から青い地球の姿が映し出される。

「うわあ、すごい………前はここまで見れなかったんだ………」
「きれい………これが地球………」
「ガリアは、あそこらでしょうか………」
「トゥルーデ、すごいよ!」
「軍人たる物、少しは落ち着け!」

 見た事もない光景にウイッチ達がはしゃくが、バルクホルンも口ではどうこう言いながらも窓へと近寄っていく。
 だがそこで、別の窓から何かが見えた気がしてそちらに振り向き、見えた物に絶句する。

「なな、なんだあれは!?」
『え?』

 バルクホルンの驚愕の声にウイッチ達が一斉に振り向き、反対側の窓いっぱいに広がろうという、とんでもなく巨大な宇宙戦艦が目に飛び込んでくる。

「すごい、大和より大きい………」
「あ、あれ戦艦なんですか!?」
「この時代には、こんな物があるんですの………」
「近づいてるって事は、あれが?」
「そ♪ ミラージュが乗ってる、永遠のプリンセス号だよ」
「こんな物が宇宙に浮かんでて、よく問題にならんな……」
「まあ………色々ありまして」

 バルクホルンの率直な疑問に、エルナーが言葉を濁す。

『いらっしゃい、ユナさん』
「ミラージュ!」

 永遠のプリンセス号から入ってきた通信に、温和そうな女性の顔が映し出される。

「ミラージュ、状況は先程送りましたが、詳しい話が色々あるので、着艦許可を」
『はい、それでは二番デッキに着けてください。おもてなしの準備は出来てます』
「おっつけエリカ達も来ます。まずはどこから話せばいいのか………」

 長くなりそうな状況に、エルナーはどれを優先させるべきか迷っていた。

「ガイドビーコン、エンゲージ。微速前進………着艦完了」

 所定のデッキに着艦したプリティー・バルキリー号にタラップが伸び、皆がぞろぞろ降りていく。

「すごいなこれは………」
「大和よか広い……」
「迷子にならないでくださいね」

 予想を上回る永遠のプリンセス号の内部にウイッチ達が度肝を抜きながら、エルナーの先導で一同はブリッジへと向かった。

「ようこそ、永遠のプリンセス号へ。私が艦長のプリンセス・ミラージュです」
「501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》のゲルトルード・バルクホルン大尉だ。臨時で指揮を執っている」
「超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート 《TH60 EXELICA》です」
「話は聞いてます。それぞれ違う世界から来られたとか。確かに地球上で幾つかの高エネルギー転移反応が観測されてます」
「幾つあったんですか!?」

 ミラージュの言葉に、芳佳が敏感に反応する。

「エネルギー相対的に見て、地球上で観測されたのは五つ、ちょうど皆さんの分ですね」
「そうですか………」
「じゃあ他の人達は………」
「いえ、ほぼ同時間に同レベルの転移反応が別の惑星系でも感知されてます」
「その内の一つには、今姉さんが向かってますね」
「それなら、あと二つですね」
「二つ?」

 ミラージュが星系図を展開させ、反応のあった箇所を表示させていく。

「ケンタウルス星系、今姉さんが向かっているのはここです」
「一つはサーキス星系・惑星スピド、あと一つは……」
「あれ? ここには惑星なんて………あ」
「ええ、リューディアの艦隊に一つ」
「リューディアの所に?」

 元光の救世主の仲間の名前に、ユナが小首を傾げた。

「通信を繋げたいんですけど、今ちょうどブラックホールが間にあって、繋がらないんです。もう少しで繋がるはずですから、少しお待ち下さい」
「スピドには繋がりますの?」

 そこで遅れてきたエリカ達が姿を見せ、表示されている星系図に目を通す。

「ええ、可能です」
「でもエリカ様、時間的にセリカは今レース中です」
「それはマズイわね………最中じゃ手の空いてるスタッフもいないでしょうし」
「もう直終わるでしょうから、それまで待ちましょう。リューディア、ハイレーシングチャンネル映る?」
「今映します」

 ミドリが指摘しながらも、レースを中継しているはずの星系放送を別窓として表示させた。
 そこでは、爆音を轟かせるモーターカーが凄まじいデッドヒートを繰り広げていた。

「やってるやってる」
「さすがセリカ、トップじゃん」
「これならまた独占優勝確実かしら」
「でもないようよ?」

 画面は先頭を走る二台の凄まじいトップ争いをアップで映し出していた。

『すさまじい事になってきました! 総合優勝確実と思われた香坂モータークラブの挙母(ころも)瀬里加、突如として現れた謎の新人、シャーロット・E・イェーガーと凄まじいトップ争いだ! 勝負の行方はどうなるか私にも分かりません!』

 興奮した口調で実況しているアナウンサーの声に、そのトップ争いを見る者達はただ呆気に取られていた。

「シャーロット・E・イェーガー? そんなドライバーいたかしら?」
「あんな腕のドライバー、いたら絶対有名なはずですけど……」
「あれ、どうかした?」

 マミが後ろを振り向くと、そこで床に崩れ落ちているウイッチ達に気付く。

「シャーロット・E・イェーガー? レース中だと?」
「お、同じ名前の別な人とか………」
「芳佳ちゃん芳佳ちゃん、あれ………」

 額に青筋が立っているバルクホルンの背後で芳佳がなんとか否定しようとするが、リーネはトップ争いをしているマシンに描かれている、ウサギをモチーフにしたエンブレムとその下に描かれたGLAMOROUS SHRLEY(グラマラス・シャーリー)のロゴに最早弁解は不可能だった。

「知ってる人? ってひょっとして!」
「ああ、間違いない。あれはリベリオン陸軍第8航空軍第357戦闘飛行群第363戦闘飛行隊出身、501統合戦闘航空団のシャーロット・E・イェーガー大尉だ! あの馬鹿は一体何をしている!!」
「落ち着こうよトゥルーデ」
「ここで怒鳴ってもどうになりませんわ」
「通信が繋がると言ったな! すぐに繋げろ!」

 激怒しまくっているバルクホルンをハルトマンとペリーヌがなんとかなだめようとする。

「………状況はともかく、無事のようで何よりです」
「そうだね………」

 エルナーが慰めるように声をかけてくるが、芳佳からは乾いた笑いがかろうじて帰ってきただけだった。

「あと二人、誰と誰だろう……」
「シャーリーさんがいるって事は、一人はルッキーニちゃんかな?」
「それでも、足りませんわ……坂本少佐はご無事でしょうか…………」
「ミーナ中佐もだ。エイラとサーニャは、感知には長けているから大丈夫だとは思うが………」
「私らが大丈夫だから、大丈夫じゃない?」
「きっと大丈夫! こんなに友達が思っているんだから、また無事で会えるよ!」

 どこにいるとも知れぬ仲間達の安否を気遣うウイッチ達を、ユナは満面の笑みで励ます。

「そうだよね。うん、みんなきっと無事でまた会えるよ!」
「そうだな、沈んでいても始まらん。っと、装備は届いているか?」
「ええ、登録が必要ですし、試射もしておいた方がいいですわね」
「それなら、シューティングデッキへどうぞ」

 残弾の心許無いウイッチ達は、エリカが用意してくれた銃器を受け取るべく、ミラージュの案内でシューティングデッキへと向かった。

「うわ、ここも立派~」
「というか、この巨大さは砲の試射でもするのか?」

 端っこがかすんで見えない無駄に大きいシューティングデッキに、ウイッチ達は呆気に取られる。

「これなら、狙いがヘタでも問題ないですわね」
「失敬な! 一応全員軍人だ!」
「全然らしくないのもいるけどね」
「それはお前だ!」
「じゃあこの中で一番銃の扱い慣れている方、こちらに手を」

 運びこまれた最新型のリニアガンのケースを開けたエリカが、個人登録の準備をすると手招きする。

「じゃあ私が。だがなんだこれは?」
「指紋、DNA、静脈パターンの登録ですわ。これを行えば、登録した当人にしか扱えませんの」
「それでは、有事に寮機の武装が使えないのでは?」
「そういう時代なので」
「むう………」

 何か納得しない表情のまま、バルクホルンが登録パッドに手を当て、得られる個人データが登録されていく。

「これでよし」
「見た目は大分違うが、基本は変わらんようだな。これが安全装置、こちらがマガジンか」
「バッテリーと弾体がセットですから」
「銃に電池が必要なのか?」
「まあ、詳しい説明は後回しにして、撃って見てください」

 リニアガンをいじくり回すバルクホルンだったが、エルナーの指摘にそれを構える。

「スコープも標準装備か」
「FCS(火器管制システム)ですけどね」
「ふむ。では」

 手馴れた構えでバルクホルンはリニアガンを構え、トリガーを引く。
 だが弾体は発射されず、リニアガンから甲高いエラー音が鳴り響く。

「なんだ!? 故障か!?」
「そんな馬鹿な!? 最新型を取り寄せたはず!」
「あたりが悪かったんじゃない? じゃあ私が」

 今度はハルトマンが同じように別のリニアガンを個人登録すると、それを構えてトリガーを引いた。
 だが結果は、同じように甲高いエラー音が鳴り響くだけだった。

「あれ?」
「二つ連続!? これを持ってきた奴をすぐに呼び寄せて…」
「待ってください。ひょっとしたら………」

 エラー音を停止させた二つのリニアガンを調べていたエルナーが、ある可能性に気付く。

「すいませんが、今ここにいるウイッチの中で一番魔力が高いのは?」

 エルナーの問いに、ウイッチ達は一斉に芳佳を指差した。

「では芳佳、ちょっとやってみてください」
「う、うん」

 芳佳はまた別のリニアガンに個人登録を済ませ、それを構える。

「撃ちます!」
「気をつけて」

 エルナーが間近で見守る中、芳佳はトリガーを引いた。
 しかし、そこでいきなりリニアガンがスパークを起こし、驚いた芳佳はそれを取り落としてしまう。

「うわ!」
「芳佳ちゃん!?」
「無事か宮藤!」

 リーネとバルクホルンが慌てて駆け寄る中、床に落ちたリニアガンはまだスパークを続けている。

「こ、これは一体?」
「やはり………魔力です。ウイッチ達は攻撃の際に自分達の魔力を付加させるのですが、その魔力にリニアガンの電子回路が耐えられないようです」
「ちょっと待て! じゃあ私達はこの時代の銃火器は扱えないという事か!?」
「そう、なりますね………」
「本当ですの!? もう残弾はほとんど残ってないんですのよ!」
「これでは、私達は戦えない! どうすればいいんだ!」
「薬莢拾ってきてリロードするとか………」
「炸薬その物が無いでしょうね……」
「どうしよう………」

 ウイッチ達が沈み込む中、そばに通信ウインドゥが開く。

『皆さん、リューディアに通信が繋がりました。そちらに繋ぎますね』
『はい、こちらリューディア』
「久しぶりですリューディア。話は聞いてますね」
『ええ、ミラージュから聞きました。確かにこちらの艦内にウイッチを名乗る方が一名、転移してきてます』

 エルナーからの問いに、リューディアが応えると沈んでいたウイッチ達が一斉に起き上がる。

「誰なんですか!?」
「坂本少佐ですか!?」
「それともルッキーニちゃん!?」
「誰でもいい! 無事ならば…」
『それなんですけど………』

 リューディアが通信枠越しにウイッチ達をじっと見つめると、少し困惑した顔になる。

『とにかく、今替わります』
「………え?」
「あれ?」

 リューディアと入れ替わりに現れた顔に、エルナーとエリカはキョトンとした顔になると、通信枠の顔と、こちらの顔を交互に見る。

『お久しぶりです、姉さま。そして501の皆さん』
「あれ、ウルスラじゃん」
『ええええ!?』

 通信枠に移った顔、ハルトマンそっくりでメガネをかけた少女の姿にハルトマン以外の全員が絶叫を上げる。

「ウルスラ・ハルトマンさん!?」
『はい』
「な、なんでお前がそこにいるのだ!?」

 その少女、エーリカ・ハルトマンの双子の妹のウルスラ・ハルトマンに姉以外の全員が唖然としていた。

「姉さま、という事は妹さんですか」
「うん。けどウルスラはあの時あそこにいなかったはずだけど?」
『状況は分かりませんが、私は新理論の反応型ストライカーユニットの実験中、大規模な爆発事故が起きて、気付いたらここに』
「またやったんだ」
『……また?』

 何か不吉な言葉に、リューディアの片眉が跳ねる。

「ともあれ、探していたお仲間ではなかったようですね」
「まあ、他にも飛ばされてきた者もいるかもしれないという事だけは分かった……」
「他にも爆発で来てる人いたりして?」
「そんな理由で来てる人が何人もいてたまる物ですか!」
「ちょうどいいやウルスラ。ちょっとこっちで問題が発生してたんだ」
『問題?』
「先程戦闘があってな、敵の殲滅には成功したが、残弾をほとんど使い果たしてしまった。この時代の銃火器は魔力に耐えられない造りらしく、このままでは我々は戦えなくなる」
『なるほど……故障の詳細は分かりますか?』
「電子回路のショートが原因ですね。今データを取っておいたので送ります」

 バルクホルンの説明に、ウルスラは頷き、そこへエルナーが今おきたばかりのショートの様子を解析したデータを向こうへと送信する。

『これ、どう見るの?』
『ここをこうして。ああ、確かに外からの負荷でショートしてますね』
『なるほど………』

 送られてきたデータをリューディアに見方を教わりながらウルスラがチェックする。

『電磁式射出銃、この時代じゃ実用化してるんですね』
「分かるんですか?」
『魔力で似たようなシステムを構築できないか試した事が。上手くいきませんでしたけど』
「ああ、あの私が試射に行って研究室半分吹っ飛んだ時か」
『吹っ飛んだ?』

 技術格差を理解できない芳佳達と違って、ウルスラはある程度理解しているらしい事にエルナーは驚く。
 ただその会話を聞いているリューディアはたまに混じる不穏な単語に敏感に反応していたが。

『この世界の銃火器が大なり小なりこのシステムなら、むしろ私達の世界の銃火器に近い物を作った方がいいですね。でないと、システムその物を一から再構築する事になります』
「う~ん、それしかないでしょうね………リューディア、そういう設備はその船にありましたか?」
『ラボならあります。多分可能だと思いますけど、失礼ですが先程から何か不吉な事を言ってませんか?』
「ああ大丈夫、ウルスラが実験で部屋吹っ飛ばすのは昔からだから」
『……あの、私の船でそういう危険な実験は』
「こちらで経費と修理費は持ちますわ。香坂財団が仲間の装備すら用意できないなんて沽券にかかわりますし」
『だから爆発前提で話は…』
『それではすぐに取り掛かります。でも、受け渡しはどうすれば』
「リューディアの船には転送装置がついてます。こちらのビーコンパターン送りますから、出来たらすぐに送ってください」
『転送、そこまで出来るなんて……分かりました』
『ちょっとエルナ…』

 通信が途切れ、後にはちょっと微妙な沈黙が降りる。

「妹さんの方、ウイッチというよりはエンジニアなんですの?」
「ウルスラは昔から本ばっか読んでたからね」
「今ではカールスランドの誇る優秀なウイッチエンジニアだ。ウイッチ専用の武装を幾つも開発している」
「見た目だけはそっくりですけど、中身は全然違うんですね~」

 ハルトマン(姉)とバルクホルンが胸を張るのを、エリカとエルナーが妙な方向で感心する。

「ともあれ、銃と弾丸が届くまで、このレイピアで頑張るしかありませんわね」
「電子回路がダメとなると、下手な装備は何一つ用意できませんし……武具専門の骨董商でも用意します?」
「坂本さんなら扶桑刀だけでも戦えるけど、私はちょっと……」
「弾丸が無いなら、ハンマーでもなんでも構わん。私は戦える限り戦うぞ」
「バルクホルン大尉なら大丈夫でしょうけど………」
「こちらの人員も集結してますから、そうそう厄介な事にはならないでしょう。ともあれ、今後の方針も決めなくてはなりませんから、ブリッジに戻りましょう」
「今後、か」

 エルナーの言葉に、芳佳はどうするべきかを必死に考えたが、何も思い浮かびはしなかった。



「お帰り~、使えそうだった?」
「それが、色々問題があったんですが、リューディアの方にウイッチエンジニアが転移してたそうで、なんとかなりそうです」

 ミラージュと一緒に情報収集に取り組んでいた(正確には脇で見ていただけだが)ユナに、エルナーが状況をかいつまんで話す。

「レースの方、終わりました」
「すごい熱戦だったな」
「でもセリカが総合優勝です!」
「さすがね。で、あれがお仲間?」
「間違いない………」
「確かに」

 画面に映る表彰台、一番高い所で優勝カップを掲げているグレーがかった黒髪の少女の隣で、シャンパン(※ノンアルコール仕様)を降りかけているブラウンの髪のレーシングスーツの上からでも分かるやたらと豊かな胸をした少女の姿に、ウイッチ達が引きつった顔を浮かべた。

「すぐに回線を繋げ! あの馬鹿を呼び戻す!」
「惑星スピドまで何光年あるか分かってますか?」
「まあ連絡はしておいた方がいいでしょう」
「こちらで繋げましょう。ピットに直通で繋がるはずですから」

 見るからに顔を憤怒で赤くしているバルクホルンに、ミラージュとポリリーナが困った顔をする中、エリカが通信回線を繋いでいく。



「やるな、あんた」
「いやあ~、もうちょっとこっちのマシンに慣れてればな~」

 表彰台から降りてきた二人、エリカ7の一人、ハイスピード・セリカこと挙母 瀬里加と、シャーロット・E・イェーガーが肩を叩きあいながらピッドへと向かっていた。

「どうだい? 仲間が見つかんなかったら、このまま正式に内の所属になんないか?」
「う~ん、魅力的なお誘いだな~」

 派手なデッドヒートの末に完全に意気投合した二人だったが、そこでピットの方で呼ぶ声に気付いた。

「シャーリー、あんたに電話だ」
「あたしに? 誰から?」
「知らんが、えらい剣幕だ」
「ここに掛かってきたって事は、直通のはずだけど………」

 セリカも不審に思う中、シャーリーが教わった通りに通話ボタンを押す。
 まず最初に表示されたのはどアップのバルクホルンの憤怒の表情だった。

『シャーロット・E・イェーガー大尉! 貴様そこで何をしているか!!!』
「お~、バルクホルン大尉じゃないか。元気だった?」
『元気だった、じゃない! 何で軍務中の軍人がレースなんて出ている!』
「いやあ、なんでか分かんないけど、いきなりこのレース場の中飛んでてさ~。そしたら空飛ぶあたしのお尻見たドライバーが一人事故っちゃって、替わりに出場してみた」
『ふざけるな!! まったく貴様はいつもいつも…』
『ば、バルクホルンさん、それくらいで』
『話が進みませんから』

 映し出された映像に背後から止めに入る芳佳とリーネの姿に、シャーリーは笑みを浮かべる。

「宮藤とリーネも一緒か」
『私とペリーヌもいるよ』
「って事はあたしとバルクホルンと宮藤とリーネとハルトマンとペリーヌ、半分は見つかったわけか」
『あ、ウルスラも来てるよ。ここにはいないけど』
「そっか~、ルッキーニは見なかったか?」
『いえそれが………』
『他の人達はどこにいるかはまったく………反応はあと一つあるんですけど』
「あと一つか………」

 シャーリーはそれが自分といつも一緒にいた無邪気な少女であってほしいと願ったが、口にはさすがに出しはしない。

『あの、質問があるのですが』
「ん、なんだ……って今のは誰だ?」
『失礼しました。私は英知のエルナーと言います。質問なのですが、あなたもウイッチなんですよね』
「ああ、そうだよ?」
『今こちらで分かった事ですが、ウイッチの魔力に現在の電子回路は耐えられません。銃火器ほどでないにしても、レーシングカーも電子機器は多用しています。あなたはそれをどうやって運転したんですか?』
「ん? ああなんか調子悪いから全部切って、この子が替わりに制御してたんだ」

 シャーリーがそう言うと、その肩に人形と言って差し支えない小さな影が現れる。
 巫女装束のような格好に飛行ユニットが付いた、まるで扶桑の陸軍ウイッチをそのまま縮めたかのような姿に画面越しの皆の目が丸くなる。

『何だその扶桑人形のような物は?』
「人形ではありません。私は武装神姫・戦闘機型MMS 飛鳥(あすか)。指定条件に一致したお姉様をマスターとして認識しております」
『お姉様?』
『おいシャーリー、お前何をそれに吹きこんだ?』
「最初っからこう呼ばれたんだけど」

 物静かに話す飛鳥を前に、ウイッチ達はどう反応すればいいか分からず、エルナーの方を見た。

『武装神姫? 貴方の言う指定条件とは?』
「私にプログラミングされている条件とは、『次元転移反応を持ち、戦っている者をマスターとして登録し、サポートする事』。お姉様はその全てに一致しておりました」
『待って。セリカ、そちらで何かありました?』

 飛鳥の述べる条件を聞いたエリカが通話に割り込む。
 セリカはしばし考えるようにしてシャーリーと目配せすると、おもむろに口を開く。

「エリカ様、実はレースの行われる少し前、妙なのと戦いました」
「黒くてグライダーみたいな奴。ネウロイに似てたけど、何か違ってたな~。で、それと戦ってる最中にこの子が飛んできて、色々教えてくれて」
「数が少ないのと、レースに影響が出るかと思って、二人だけ、いや飛鳥も含めて三人の秘密だったんですが」
「それで、仲間探すには何か名前売っておいた方が手っ取り早いと思ってレースに…」
『そこで何でそうなる!』
「事実、お姉様の仲間からすぐに連絡が来ました」
『う、それは………』

 怒声を上げるバルクホルンだったが、飛鳥の指摘に口ごもる。
 だが、そこでエグゼリカが通話に割り込んできた。

『待ってください。その戦闘データ、ログはありますか?』
「記録しています。転送しますか?」
『お願いします!』
「転送します」

 飛鳥から送られてきた戦闘データ、確かにシャーリーの言うようなグライダーにも似た機体に、宙を舞うシャーリーと地表を高速で動き回るセリカの連続攻撃が次々と炸裂していく光景が再生されると、エグゼリカの瞳が大きく見開かれた。

『これ、ヴァーミスの偵察機です! こんな所にも!?』
『………セリカ、彼女を連れてすぐにこちらに戻ってきなさい。そちらの宇宙港に香坂財団のプライベートクルーザーが有ったはず、使用許可をすぐに出します』
「わ、分かりました!」
「……一体何が起きてんだ?」
『覚悟しておけシャーリー。どうやら、我々は今まで経験した事の無い闘いに巻き込まれそうだ』

 普段冗談なぞ絶対言わないバルクホルンの言葉に、シャーリーの顔が少し険しくなり、肩にいた飛鳥がそれを心配そうに見つめていた。

『戻ってくるにしても、スピドまでは大分ありますから、どこか別の惑星で待ち合わせては?』
『それがいいわね。こちらの準備が出来次第、出発するわ』
『転移反応のあったポイントからだと、惑星ダンボーなんかどうでしょうか?』
『わ~い、温泉だ~♪』
『え? 温泉あるんですか!』
『遊びに行くんじゃありませんよ! それじゃあそこまで来てください』
「OK、エルナー」

 温泉で有名な観光惑星の名にはしゃぐユナと、温泉と聞いて目を輝かせる芳佳をバックに電話は切れる。

「どうやら、祝勝会してる暇はなさそうだね」
「あっちでも何かあったみたいだ。待ち合わせ場所までどれくらいかかるんだい?」
「普通なら三日、とばせば二日半か? 状況にもよるが」
「急ぎましょう、お姉様。仲間の元へ」
「ああ!」

 着替えもそこそこに、セリカとシャーリー、飛鳥は宇宙港へと急いだ。



『こちらに向かってくる宇宙船感知、船籍登録不明』
「!?」

 突然のクルーザーの制御AIの警告に、ミサキの目つきがするどくなる。

「まさか宇宙海賊!? 映像を!」
「宇宙にまで海賊は出るのか………」

 飲んでいたコーヒーのカップを手にしたまま、ミサキと美緒がコクピットに乗り込んでくると、前方からゆっくりと迫ってくる青と白のカラーリングの宇宙船の姿が映し出される。

「すぐに接近注意を警告! 準戦闘体勢、フィールド展開準備!」
『接近中の不明船から通信、戦闘の意思は無い模様』
「え?」

 一戦を覚悟していたミサキだったが、直後に届いた降伏信号と一緒の通信に緊張を僅かに緩める。

「通信を受理、ただしウイルス混入の可能性を考慮、フィルターをレベル3で」
『了解』

 まだ完全に敵ではないと判断するには尚早と考えたミサキが用心深く回線を繋ぐ。
 通信枠越しに赤髪の若い女性の姿が映り、その女性が僅かな笑みを浮かべて口を開いた。

『こちら調査艦 《カルナダイン》、次元転移反応の調査をしています。何か異常はありませんでしたか?』
「あるわね、調査艦と言ったけど、貴方の船はどこにも船籍が登録されてないわ。それにそのエネルギー出力、どうみても戦闘艦ね」
『いえ、これは………』

 間髪入れないミサキの指摘に、赤髪の女性がたじろぐ。
 それを見ていた美緒は眼帯を外し、己の固有魔法の魔眼で船体と宇宙空間越しにカルナダインとその搭乗者を見た。

「そいつ、人間ではない!」
『!?』
「………貴方、何者? 機械人? それとも? 目的は何?」

 美緒に正体を見透かされ、赤髪の女性を見るミサキの視線は更に鋭くなっていく。
 赤髪の女性はしばし迷った顔をしたが、即座に真剣な顔へと変わった。

『私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》。この船は私達のサポート艦です。ただ、次元転移反応の調査に来たのは本当です』
「チルダ? そんな組織はこの銀河に存在しないわ」
「少女型兵器だと? そんな物がこの世界には存在するのか!?」
『……貴方はひょっとして、ウイッチですか?』
「なぜそれを!?」

 更に緊張を高めるミサキと美緒だったが、TH32・クルエルティアの指摘に逆に驚く。

『私の妹機に当たるTH60 EXELICAから報告がありました。地球でウイッチを名乗る不思議な少女達と共に、我々の敵ヴァーミスと戦っていると』
「地球にウイッチが! 本当か!」
「ヴァーミス? 何者?」
『詳しくはデータリンクでお教えします。ランデブーの許可を』
「……許可するわ」
『感謝します』

 二隻はそれぞれ併走するように接近し、データリンクで地球から送られてきたデータが全てミサキのクルーザーへと送られてくる。

「間違いない、501の仲間達だ」
「エリカに、ユナ! 彼女達も一緒に戦ってるの………」
『今は永遠のプリンセス号という船で戦闘準備を行っているそうです』
「永遠のプリンセス号なら、こちらから通信が繋がるかも」
『サポートします』

 そこでいきなり淡い青色の髪をした、どこか幼い少女の容姿をした小さな人影が通信枠に現れる。

「彼女は?」
『私はカルナダインの搭載AI 《C’r_na》。間違いないです、転移反応はあの眼帯の彼女からです』
「AI? 武装神姫とは違うのか?」
『……失礼だけど、貴方は一体どこから来たの?』
「ざっと350年前、まだ電子頭脳の初期型が完成するかどうかの頃ね」
『350年!?』
『だとしたら、時空軸のズレは相当な物です。多分私達がここに転送された来た時よりも……』
「……かたやレトロなサイキッカー、かたやオーバーテクノロジーの少女型兵器、報告書になんて書いたらいいかしら………?」
『通信繋がりました』

 ミサキが頭を抱えそうになるが、そこでカルナの声が響き、新たな通信枠が開く。

『こちら永遠のプリンセス号、カルナダインからの通信をキャッチしました』
『姉さん、そっちは大丈夫?』
『エグゼリカ、無事に目標との接触に成功。確かにウイッチと呼ばれる存在よ』
『本当ですか!?』『誰なんですの!?』
「おお宮藤にペリーヌ、無事だったか」
『坂本さん!』『坂本少佐! ご無事でよかった……』
「危ない所、彼女達に助けられてな」
「あ、ミサキちゃん! 久しぶり~♪」
「ユナ、聞いたわ。大変だったみたいね」
『おや? そこにいるのは、武装神姫ですか?』
「はい、天使型MMSアーンヴァルと言います」

 通信枠に次々と入れ替わりに皆が押し寄せ、最早誰が何をしゃべってるのか分からない混線具合になっていく。

『あの、皆さん順番に……』
『姉さん! 地球にヴァーミスが!』
『ミサキちゃん、そっちは何か起きてない?』
『坂本さん、シャーリーさんも武装神姫連れてましたよ!』
「………これでは話にならん。どこかで落ち合ってからの方がいいのでは?」

 さすがに美緒も少し顔をしかめ、実際に会った方がいいと判断する。

『こちらは装備を整えてから、惑星ダンボーに向かうわ。そこで全員合流しましょう』
「分かったわ、ダンボーね」
『座標は、ここね』
『これならそんなに時間はかかりません』

 ポリリーナの提案に皆が賛同し、座標を確認したクルエルティアとカルナも頷く。

『じゃ、水着忘れないでね』
「……現地調達ね」
「水着?」
『ミサキちゃん、皆で待ってるね~♪』

 能天気なユナの声と共に、通信が切れる。

「ともあれ、全員ではないが無事は確認できたな」
「けど、銀河全体精査した訳じゃないから、他に転移してきてるかどうかまでは………」
『こちらでも探査してみたけど、他の反応は感知できなかったわ』
『時間軸の誤差がどれくらいか、それとも全く別の時空に飛ばされたか。判断はつきませんね……』
「……無事だといいのだが」

 カルナの言葉に、美緒は顔を曇らせる。
 だが、ミサキは別の事を考えていた。

「ウイッチ、トリガーハート、それらがユナを中心とした光の戦士達の元に辿り着いた。これは果たして偶然?」
「偶然ではなく、必然です」

 そう言ったアーンヴァルに全員の視線が集中する。

「何か知っているのか!?」
「いえ、そうプログラムに登録されています。他は何も分かりません」
『……彼女も、謎の存在ね』
『データから見れば、明らかにこのような事態を想定し、サポートするための存在です。つまり、誰かがこの事態を予見していた?』
「分からん。一体誰が………」

 その場に、重い沈黙が降りる。
 だがそこで、ふとクルエルティアが先程言われた事を思い出す。

『そう言えば、水着が必要と言ってたのは何ですか?』
「ああ、ダンボーは観光惑星なの。温泉やジャグジーで有名ね」
「温泉か! それはいいな」
『温泉、確か地熱で暖かくした鉱泉の事ね』
「何だ、入った事ないのか? 温泉はいいぞ」
『トリガーハートに効果はあるかどうか……』
『さあ? とにかく向かいます!』

 様々な謎を含み、二隻の宇宙船は進路をダンボーへと向けた。



「第2攻撃目標にて、異常発生」
「トリガーハート確認、警戒態勢上昇」
「他、不明の敵性体、多数確認」
「警戒態勢、最高にまで上昇」
「第1攻撃目標に戦力を集中、早期の制圧を持って敵性体に全力を持って攻撃に当たる」
「ふふ、トリガーハートがここにいるなんてね……私が完璧になるため、アンカーユニットが欲しかった所よ」
「第1攻撃目標制圧のため、イミティト部隊の完成を急務とする」

 無数の情報会話が続く中、一つの影がほくそ笑む。
 その背後で、無数の何かが製造されていた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 番外 バレンタイン編
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/02/14 22:27
※この章は時節に合わせた番外であり、小説本編及び原作の時節とは全く関係ありません。ご了承下さい。



「え~と、温度はこれくらいかな?」
「ミルクも温めておくね」
「これおいしいですぅ~」
「ユーリィ食べちゃダメだって! あとでちゃんとあげるから!」

 食堂の方から漂ってくる甘い匂いとにぎやかな声に、前を通りかかったバルクホルンは何事かと中を覗き込む。

「何をしている?」
「あ、バルクホルンさん。今みんなでちょこれーとを作ってるんです。何でも、この時代だと2月14日のばれんたいんでーにはちょこれーとを配るのが風習だってユナさんが」
「そうなのか? バレンタインには夫が妻に花を贈る物だが」
「へ~、変わってるのね。男どもにちょっと凝ったチョコ送ると、何倍にもなって返ってくるもんよ?」
「それは舞ちゃんくらいだって………」

 ちょっと歪んだ舞のバレンタインに、ユナが困った顔をするが、そこでバルクホルンは再度首を傾げる。

「それにしても、今この船には男は乗ってないはずだぞ?」
「お世話になった人とか友達とかにも送るそうです。ちゃんとバルクホルンさんの分もありますから」
「そうか。ルッキーニ少尉あたりがいたら大喜びしたろうな」
「案外どっかでもらってんじゃない? あと今聞いたんだけど、この時代だと女が好きな相手にチョコ送るんだってさ」

 どこから用意されたのか山と積み上げられたチョコの材料をユーリィとつまみ食いしていたハルトマンの一言に、バルクホルンの動きが止まる。

「……カールスラントとは逆なのだな」
「他にも義理チョコとか友チョコとか、色々あるってさ」
「よく分からん………」
「ゲルトさんも一緒にやる?」
「いや、お菓子作りはちょっと………」
「それで、ここでバラの花びらを入れて……」

 ふとそこで、ペリーヌがテーブルの端で何かの本を凝視しながら、色々変わった材料をチョコの中へと入れていた。

「ペリーヌさん、さっきから何見てるんです?」
「れ、レシピ本ですわ!?」

 リーネが声をかけると、なぜかペリーヌはやたらと狼狽して見ていた本を背後へと隠す。

「何かおいしい作り方が書いてあったら、私にも見せてください」
「私もお願いします」
「いえ、これはその………」

 芳佳とエグゼリカの問いかけに更にペリーヌは狼狽し、後ろ手にしていた本が床へとこぼれ落ちる。

「何々?《魔女のおまじない百科》?」
「著 香坂・ピエレッテ?」
「はう!?」

 何気にそれを拾ったミキとミドリが、その古びた表紙と著者名に首を傾げる。

「あの、エリカさんが書庫から出てきたからってもらいまして………」
「クロステルマン中尉、自分で自分の書いた本を読んでいたのか?」
「いえ、私はこういうのを教わる前にお婆様が亡くなりまして………」
「あ、それはすまない………」
「で、一体何を……」

 バルクホルンの問いで少し空気が気まずくなる中、ミキが栞が挟んであったページを開く。

「……意中の相手に自分だけを見つめさせるおまじない?」

 その一言に、ユナとリーネの目が鋭い光を帯びる。

「あはははは、それ坂本少佐に食べさせる気だったんだ」
「べ、別に他意はありませんわよ!?」
「まったく、ウイッチ相手に効くのかすらも…」
「これを使えばポリリーナ様が………」
「これを使えば芳佳ちゃんが………」

 ハルトマンが笑い出し、バルクホルンが呆れた声を出そうするが、その時ユナとリーネがブツブツと何か呟きながら食い入るようにそのおまじない百科を凝視していた。

「ねえねえ、食べさせた相手を奴隷にするのとか無い? そうしたら彼氏作りたい放題よね~」
「確か相手が言う事を聞きやすくなるのでしたら………」
「他にも色々書いてるわね」
「何でも、こちらの香坂・ピエレッテ女史は晩年、こういう子供向けのおまじない本を多く書いていたそうですわ」
「ウイッチの老後か。なるほど、そういうのもあるのか………」
「材料がハチミツ、バラの花びら、ハーブに自分の髪の毛、それと×××を」
「そんな物どこから用意する気だ?」

 途中から怪しげな材料が混じるのをバルクホルンは呆れて聞きながらその場を後にする。
……なお、相手が言う事を聞きやすくなるおまじないを密かに施したチョコをハルトマンから貰うのは、翌日の事だった。




「え~と、温度はこれくらい?」
「あ!? お湯が入っちゃいました!?」
「取って取って!」
「何やってんだお前ら?」

 攻龍の厨房から漂う甘い匂いと姦しい声に、冬后は何事かと覗き込む。

「あ、冬后さん。今皆でバレンタインチョコ作ってるんです!」
「チョコって、そんな材料この船にあったか?」
「亜乃亜がひとっ飛びして買ってきました!」
「さっき偵察とかいってすげえスピードで飛んでったのはそれか………」
「エリューには内緒にしといてくださいね?」
「へ~、どういう意味?」
「あ………」

 冬后の背後にいたエリューが凄みの聞いた笑顔で亜乃亜を睨みつける。

「RVをお使いに使うなんて……」
「あ、あはは。ちゃんとエリューにもあげるから」
「はいはい、温度ちゃんと見て。あ、そっちは混ぜすぎちゃダメ」
「こうカ?」
「そうそう、型の準備できてる?」

 お菓子作りが趣味のマドカの指示でウイットやスカイガールズが作業を進めていく中、意外な顔が混じっている事に冬后は気付いた。

「お、アイーシャとフェインティアもやってんのか?」
「うん」
「彼女に連れてこられたのよ。なんで私がこんな事」
「そこ、チョコは手際が命♪ てきぱきやって!」
「分かった」
「まったく………」
「マイスター、分離しかけてます」
「トリガーハートのプログラムにお菓子作りなんて入ってないのよ!」
「じゃあ入れてあげる?」
「止めといた方いいよ、マドカにいじらせたら何されるか………」
「うく、早く元の世界に帰りたい…………」

 涙目になりつつ、フェインティアは作業を続行した。


「は~い、バレンタインチョコの配給に来ました!」
「………この有事に何をしていると思えば」
「まあいいではないか」

 カートにチョコクッキーやカップケーキを載せてやってきた面々に副長が顔をしかめるが、艦長がなだめてチョコ菓子がブリッジ内に配られていく。

「ありがとうございます」
「上手くできましたか?」
「マドカちゃんっておかし作りすごい上手なんですよ」
「機械だけでなく、そっちも出来るなんてすごいですね」
「あとで習っておこうかな?」
「レシピは聞いておきたいですね」

 七恵とたくみに音羽と可憐が手渡していく中、ふと音羽はある事を思い出す。

「そう言えば、アイーシャも渡したい人がいるって言ってたけど」
「え? 誰に?」
「さあ………周防さんとか?」
「でも、最初バレンタインって何って言ってましたけど………」
「クリスマスも知らなかったからね~。ちゃんと理解してるのかな~?」
「何か間違えてる可能性は大いに………」


 生まれて初めて自分で作った菓子を、アイーシャは無言で相手の前へと置く。
 その相手、フォトフレームの中で微笑んでいる、自分のもっとも敬愛する父親の前で、アイーシャは静かに黙祷していた。

「あんたのあげたい人って、それ?」
「うん」
「私にはよく分からないわね。すでにいない相手にあげるなんて」
「自分が一番好きな人や一番親しい人にあげる物だって音羽は言ってた」
「………だったらそういうのもあるのかもね」

 いまいち納得しきれないフェインティアの前に、アイーシャがもう一つのチョコを差し出す。

「……え? 私に?」
「うん」
「……………なんで?」
「仲間になってくれたお礼」

 困惑するフェインティアに、アイーシャはあっさりと言い放つ。

「なったと言うか、なるしかなかったって言うか……とりあえず、くれるならもらっとくわ」

 一応物は受け取りつつ、先程聞いた言葉からどう受け止めればいいかをフェインティアは真剣に悩んでいた。


「いっぱい作って正解ね」
「うん♪」

 食堂のテーブルの上、余った分をエリーゼとルッキーニが端から平らげている真っ最中だった。

「おいおい、あんまり食べると太るぞ」
「源さん、女の子はお菓子が主食だから、太らないよ~だ」
「そうそう」
「じゃあ虫歯だな」

 料理長の一言に、二人の手が止まる。

「あははは、そう簡単になる物じゃないし、歯はちゃんと磨いてるし………」
「うじゅ~、虫歯はイヤ~」
「じゃああんまりいっぱい食べない事だな。たとえば寝る前とかに」
「何でしってるの!?」
「そりゃ寝る前に食料庫からこそこそお菓子持ち出してれば、やる事一つだろ。夕子先生は歯科専門じゃないから、麻酔して抜く事になるな」
『………』

 まだ大量に残っている菓子を前に、二人はすさまじい葛藤を味わう事となった。


「艦内がやけににぎやかだな」
「楽しそうでいい事だと思いますけど?」
「ちょっと騒ぎすぎという気もしますが」

 攻龍の後部甲板で貰ったチョコをかじりながら釣り糸を垂らしている冬后と、その隣でどこから持ってきたのかテーブルとイスを用意して紅茶を飲みながら同じくチョコをかじっているミーナに、瑛花はどういう態度を取ればいいのか分からず困惑した顔をしていた。

「ま、騒げる時に騒がせとけ。今後どうなるか分かんねえからな」
「そうですね、今の内に親睦を深めておくのもいいでしょう」
「はあ……」

 二人の佐官の言葉に、瑛花は曖昧な返事を返す。
 ふとそこで、ミーナが用意しておいたテーブルにクッキーが幾つかの小皿に分けておいてあるのに気付く。

「あの、なんでそんなに」
「あら、ちょっとしたおまじないみたいな物ね。用意しておいたら、他の仲間も来るかもしれない、って思って」
「はあ………」

 そう言いながらミーナがカップを置いた隣に、手をつけられてないチョコと湯のみが置いてある。
 それが誰かにあげるために用意したものだと瑛花は気付くが、あえて口には出さない。

「まったく、大丈夫なのかしらね……」
「隊長なら、もっと部下を信用してやる事だな。お、かかった!」


「えと、その、サ、サーニャ、これ………」

 赤面しつつ震えながら、エイラは一際大きいカップケーキを差し出す。

「ありがとうエイラ」

 満面の笑みでそれを受け取ったサーニャが代わりにとやたらと丁寧に作られたチョコクッキーを差し出す。

「これは私から」
「あ、ありがとう!」

 飛び上がらんばかりの嬉しさを滲み出させながら、エイラがそれを受け取る。
 その様子を、影からじっと見詰める人影があった。

「……なあ、あの二人、どう思う?」
「……前々からなんか怪しいとは思っとったけど、あれはどう見ても……」

 嵐子と晴子が何かを確信しながら、影で囁きあう。

「ルッキーニが言ってたんだけど、部隊内でやたらと仲のいいウイッチが何人かいるらしいぜ」
「それってデキてるって事じゃ…」
「かもしれん」

 遼平が仕入れてきた情報に、三人の喉が思わず鳴る。
 そしてまた三人はまたこっそりとエイラとサーニャの様子を伺う。
 二人はそんな事お構い無しに、互いのチョコを分け合っている最中だった。

「なあ、もしあんなのが他にも来たら、どうする?」
「どうする言うても………」
「なるようにしかならんやろ」
「せやな~。バレンタインの悪夢という事で見なかった事にしよや」
「そやそや」
「おいおい」

 何か釈然としない遼平を置いて、嵐子と晴子はその場を後にし、遼平も慌てて二人を追う。
 そして、静かに甘い時間だけがその場に残されていた………

2月14日 大切な人に思いをこめて…………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP8
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/03/31 21:35
『目標まで、あと2時間半の予定です』
「船籍登録完了、ダンボーのドッグの予約も取ったわ」
『ありがとう、何から何まで』
『助かりました~』

 査察官の特権を利用してカルナダインの登録関係の一切合財を済ませたミサキに、クルエルティアとカルナが礼を述べる。

「着くまでの間、そちらから貰ったデータをこちらでも少し調べてみるわ」
『お願いするわ。こちらのネットワークにはまだ不慣れで』
「はっはっは、私はこの船のドアの開け方すら分からんぞ」
「マスター、それくらいは覚えてください」

 普段どおりの剛毅な笑い声を上げる美緒に、アーンヴァルが冷静に突っ込みを入れる。

『それでは、詳しい話は向こうについてから』
「了解」

 通信が切れた事を確認した美緒は、即座に顔を冷静な物へと変える。

「今更言うのはなんだが、向こうを無条件に信用していいのか?」
「私もそう思うわ。けど、ユナは信用してるみたいだから、私も信じる事にする」
「ああ、さっきの通信の………随分と彼女を買っているんだな」
「少し違うわね。ユナは、光の救世主としての力もあるけど、それ以上にすごい力を持っているの?」
「それは?」
「自分を狙ってきた敵とでも、友達になれる力よ」

 ミサキが小さく笑い、美緒は思わず呆気に取られる。

「リア…いえポリリーナも、エリカも、そしてこの私も、元はユナを狙っていたの。けれど、ユナはそんな私達を闇の力から救い出し、友達になってくれた。だからみんな、ユナについていくの」
「敵と友達になる力、か。確かにそれは最強だな」

 吊られて美緒も小さく笑うが、ふと似たような事をやりかけた人間が身近にいた事を思い出す。

「あの時、私があいつをもう少し信用していれば、何か変わったのかもしれないな………」
「あら、ちょっといい?」
「ん?」
「これなんだけど………」

 ミサキが送られてきたデータの一部、ユナや芳佳達が戦っている所を報道関係者が取ったらしい画像を映し出した所で、美緒の顔色が変わる。

「これは、ネウロイだ! 前にリバウで同型と戦った事がある!」
「それだけじゃないわ。トリガーハートが戦っていたヴァーミスらしい存在との戦闘報告が今銀河ネットワークのあちこちから上がってきてる………詳細情報を今調べてるけど、どうやらダンボーでのんびり出来る時間は少なそうね………」
「……皆にはまだ言うな。せっかくの骨休めを中断させるまでの確証が無い」
「……そうね」
「了解しました、マスター」

 迫り来る戦闘の予兆を感じつつ、二隻の宇宙船は惑星ダンボーへと向かっていった。



 その頃、再度地球攻撃への用心のために永遠のプリンセス号を地球圏に残し、プリティーバルキリー号はダンボーへと到着していた。

「うわあ、すご~い!!」
「これが全部温泉!?」
「未来はなんでもスケールがすごいですわね……」

 自分達の目の前に広がる、一大温泉テーマパークにウイッチ達が歓声を上げる。

「ここは通称「火の惑星」と呼ばれる程地殻活動が活発で、そのお陰で大量の温泉があるんですよ」
「色んな温泉あって、全部回るの大へ~ん」
「私は~全部~入りました~」

 やけにのんびりとした喋り方をする元暗黒お嬢様13人衆のひとり、おっとりの詩織こと神宮寺 詩織が懐から常連の証である会員カードを見せる。

「へ~、どれくらいかかったんです?」
「毎月通って~、三年かかりました~」
「ええ!? そんなにかかるんですか?」
「彼女の行動はものすごくスローモーですから、参考にしない方がいいですよ?」
「うかれるな! 私達は観光に来たわけじゃないぞ!」

 変な方向に驚いている芳佳にエルナーが注意するが、そこでバルクホルンの一括が響く。

「まあまあトゥルーデ、せっかく来たんだから。で、どこから入ろうか?」
「ハルトマン! ここで脱ぎ始めるな!」
『エリカ様~』

 軍服のボタンを外し始めたハルトマンをバルクホルンが慌てて止める中、こちらに向かって手を振りながら来る二人の人影が有った。

「あ、あの人達も同じ顔してますよ」
「アコちゃんとマコちゃんだ♪」
「こっちはそっくりな双子みたいですね」

 その二人、伸ばした髪をそれぞれ右と左のボリューム違いでまとめてる事以外は見分けがつかないくらいそっくりの双子、エリカ7の閃光のアコと疾風のマコこと、卓球部部長・副部長を務める緋川亜子と緋川真子がエリカのそばへと駆け寄ってくる。

「言われた通り、香坂財団の保養所、確保しておきました!」
「いま来てない人達への連絡及び交通手段も確保しました!」
「ご苦労様、貴方達がここにいてちょうど良かったわ」
『いえ、エリカ様の言いつけでしたから』
「それじゃあ皆さん、こちらで用意した保養所に荷物を置いたら、温泉を堪能いたしましょう。ここは水着着用ですから、それも準備してますわ」
『わ~い!!』

 シンクロして返事したアコとマコに笑みで答えると、エリカが皆に保養所へと案内する。
 歓声をあげて皆がそれに続き、荷物もそこそこに手ごろな水着をまとって温泉へと繰り出していった。

「それじゃあ行くぞ~!」
「ねえねえリーネちゃん、どこに行こう?」
「う~ん、芳佳ちゃんはどこがいい?」

 淡い黄色のワンピース水着に身を包んだユナを先頭に、同型の淡い緑の水着をまとった芳佳、それに連れられてピンクのフリル付きワンピース水着(胸の露出を限界まで抑えようと苦心した)を着たリーネが続く。

「え~と、なんて書いてありますの?」
「こちらの効能は肩こりや腰痛、そっちは美肌効果だそうですわ」

 シンボルカラーでもある青一色のワンピース水着をまとったペリーヌが効能の書かれた看板をメガネ無しのボヤけた視界で睨みつけ、ペリーヌに合わせたのか(ボディライン以外)同じ青のビキニをまとったエリカが説明する。

「わ~い」
「泳ぐなハルトマン!」
「温泉卵おいしいです~」

 どこにあったのか迷彩柄のワンピース水着をまとったハルトマン(※砂漠ブラウン迷彩仕様)が温泉の中で犬掻きするのを、同じく迷彩柄のワンピース水着をまとったバルクホルン(※グリーン迷彩仕様)が一喝し、お湯飛沫がかかってくるのも気にせずに紅白ツートンカラーのセパレート水着をまとったユーリィが温泉卵を端から平らげていく。

「これが温泉、確かに有機部品の再生効率は上がりそうですね」
「確かあっちにサイボーグ用温泉があったけど、貴方には効くかしら?」

 興味深そうに温泉を眺めていた何故か胸に「えぐぜりか」の名札が付いた紺のスクール水着姿のエグゼリカに、トリコロール柄のビキニをまとったミキが首を傾げる。
 それぞれ思い思いの水着姿の少女達のかしましい声が、周辺に響いていった。


「皆楽しんでるようね」
「羽目を外しすぎてる気もしますがね」

 皆が思い思いに温泉を堪能する歓声が響いてくる中、ポリリーナとエルナーは保養所に残り、設置してあるターミナルから情報収集と整理に腐心していた。

「やはり、地球に現れたヴァーミスは威力偵察の先遣隊でしょう」
「エリカ達にこっぴどくやられて、一時手を引いたようね。その変わり、あちこちの星に偵察を出してるらしいわ」
「ユナにはまだ言ってませんが、佳華、マリ、アレフチーナにエミリー、それぞれが別々の星で偵察機らしき物と交戦したようです。今こっちに向かってますが」
「でも散発すぎるわね………ひょっとして、どこかで大規模戦闘が起きてる?」
「でもどこで? 近隣の星系ではそんな情報は無い模様ですが………」
「私もその可能性が高いと思うわ」
「けどそんな情報は無いわ」

 いきなりの声に二人がそちらを向くと、今着いたばかりらしいクルエルティアとミサキの姿があった。

「あら、早かったわね」
「急いで来たから」
「君が指揮官か?」

 二人に続いて姿を現した美緒に、ポリリーナは笑って首を横に振る。

「私はポリリーナ、戦闘部隊リーダーみたいな物ね」
「私は501統合戦闘航空団副隊長、坂本美緒少佐だ」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》」
「私は英知のエルナー、軍師と言った所ですかね」
「私は武装神姫・天使型MMS アーンヴァルと言います」

 美緒とクルエルティアから差し出された手をポリリーナが握り返し、エルナーには美緒の肩に座っていたアーンヴァルが名乗りながら頭を下げる。

「ふむ、なら指揮官に会いたいのだが……」
「あいにく、私達は軍隊じゃないから、指揮官なんていないわ。リーダーっぽいのはいるけど」
「光の救世主、神楽坂 ユナか」
「どこにいるのかしら」
「今向こうの温泉でくつろいでるわ」
「随分と緊迫感の無いリーダーのようだな」
「あの子はそれでいいのよ」
「そうね」

 ポリリーナとミサキの言動に、美緒とクルエルティアは少し首を傾げた。

「それなら、こちらも温泉に行くとするか。あいつらに無事な顔を見せてこないとな」
「行ってきて下さいマスター、データの整理はこちらで行います」
「頼むぞ、私はその機械の使い方なぞ分からないからな」

 美緒の肩に乗っていたアーンヴァルがターミナルの前へと降り立ち、キーボードの触り方すら分からない美緒は豪快に笑いながら脱衣室へと向かう。

「ヴァーミスの目撃データを。トリガーハートにはヴァーミスの行動パターンが予測できるかもしれないから」
「それではお願いします。もっともあまり詳しいデータは………」
「こちらにもマスターとの交戦時のエネルギーデータがあります」
「そのサイズで、随分と高度な装備してますね~」
「それはそちらも同じかと」
「………一体誰が作ったのかしら?」

 エルナー並とは言わないが、かなりの高性能なアーンヴァルに興味を持ちつつ、残った者達は今あるデータに加え、集められるデータを全て集め、解析に乗り出していた。


「そうか、そちらではそんな事があったのか……」
「坂本少佐こそ、よくご無事で」
「まあな。多分私が戦ったのもそのヴァーミスとやらだろう」

 ネィビーブルーのワンピース水着をまとい、温泉にゆったりとつかりながら、美緒は他のウイッチ達が地球で戦った相手の事を聞いていた。

「それにしても、ペリーヌの子孫までいるとはな」
「微妙には違うそうですけど………」
「その人が、芳佳ちゃん達のボス?」

 話し声を聞きつけ、向こうの温泉からこちらに来たユナが美緒のそばへと寄ってくる。

「501副隊長の坂本 美緒少佐だ」
「光の救世主、神楽坂 ユナです」
「救世主とは大層な肩書きだな」
「あははは~、エルナーには自覚が足りないってよく言われるけど」
「もっとも、それに恥じない活躍をしているとも聞いている。以後よろしく」
「こちらこそ」

 挨拶が済んだ所で、ユナがそっと芳佳のそばに行くと耳打ちする。

「美緒さんって、何かかっこいい人だね。いかにも軍人さんって感じで」
「すごい強いし、扶桑有数のウイッチとしても有名なんですよ。私も坂本さんにスカウトされてストライクウィッチーズに入ったんです」
「へ~、すごい人なんだ………あの眼帯なんかいかにもって感じ」
「お~いミヤフジ~、こっちになんか胸が大きくなる温泉があるって~」
「ホントですかハルトマンさん! リーネちゃん行こ♪」
「あの芳佳ちゃん、私はこれ以上は………」
「あそこ前に散々入ったけど、全然効かなかったよ………」
「はっはっは、温泉で胸が大きくなるのか? どれ試しに私も行ってみるか」
「お、お供しますわ!」

 効能を全然感じなかったユナが呟くが、皆が面白がってその『豊乳の湯』の方へ向かう。

「うふふふ、でもここで待ってればその内ポリリーナ様と一緒に………」
「温泉卵追加お願いです~」
「あらあら~、ユーリィさん~、皆さんの分も~、残しておかないと~~~」

 なお、ずっと待っていたユナと豊乳の湯に入り続けたペリーヌが湯あたりで搬送されるのは、二時間後の事だった。


「う~ん………ポリリーナ様~……」
「はうう………本当に効果あるんですの………」
「まったく、二人して何やってんのよ」
「幾ら珍しい温泉といっても、入りすぎは毒だぞ」

 保養所のリビングに寝かされたユナとペリーヌに、舞と美緒がやや呆れた声をかけてやる。

「これなら、冷やしていればすぐよくなりますよ」
「ありがと芳佳ちゃん」
「うう、坂本少佐の前でこんな惨めな姿を…
…」
「あとは水分だな」

 てきぱきと冷やした濡れタオルを二人にあてがう芳佳に、ルイがスポーツドリンクを手渡す。

「まったく、たるんどるぞ!」
「トウルーデがあがるの早すぎるんだって」
「は~い、夕飯できたアルね。中華バイキングよ~」
「他にも色々ありますから」

 元暗黒お嬢様13人衆の一人、チャイナの麗美こと紅 麗美とリーネが料理を次々と運び込み、皆がそれに一斉に群がる。

「すいません、お料理途中までしか手伝えなくて………」
「いいネいいネ、これも将来に向けての修行アル。あんたも色々忙しかったらしいから、タンと食べるアル」
「ゴハンゴハン………」

 芳佳が湯あたりした二人の治療で抜けた事を麗美に謝るが、当人は気にせず料理を盛り始め、匂いにつられたのかユナがはいずりながらテーブルに近寄ろうとする。

「ユナさん、もうちょっと休んでないと………」
「でも、早く食べないとユーリィに食べられちゃう………」
「やっぱり麗美さんの中華料理おいしいですぅ~♪」

 ユナの危惧通り、大皿に盛られた料理を小分けもしないでむさぼっていくユーリィに、皆が大慌てで自分達の分を取り分け始める。

「すさまじい食欲だな………腹が減っては戦は出来ぬというしな」
「ユーリィがお腹空いてない時なんてあるかしら?」
『ないない』

 美緒が感心するのにポリリーナがぼそりと呟くと、ユナの仲間達が一斉に首を横に振る。

「どういう消化機構してるんでしょう?」
「さあ? 恐ろしい程効率がいいか、恐ろしい程燃費が悪いのか………」

 生体部分維持の栄養だけ取れば問題ないエグゼリカとクルエルティアが、自分達と似たような存在のはずなのに並んでいる料理を片っ端から平らげていくユーリィに興味と畏怖を同時に感じていた。

「こんな事もあろうかと、ちゃんとユーリィ用に用意しておいたネ! この特製カオルゥツゥー!!」
「どいてくださ~い!」

 麗美とリーネが二人がかりでユーリィの前に巨大な牛の丸焼きを叩きつけるように置いた。

「わあい! おいしそうですぅ!」
「いや、さすがにアレは………」
「明らかにやり過ぎです」
「どう見ても生体消化機構の処理能力限界を超えてるんじゃ………」

 明らかに己の体積以上の肉の塊にユーリィが嬉々としてかじりつくのを、美緒とアーンヴァル、クルエルティアは戦慄を持って見つめる。
 10分後、皿の上に肉片どころか骨一片すら残さず、次の皿に取り掛かったユーリィにウイッチ達とトリガーハートはこの世界の恐ろしさの一端をまざまざと感じていた。
 なお、しばらく経ってようやく起き上がったペリーヌがテーブルの上に何一つ残っておらず、急遽デリバリーで過ごす事になったのはまた後の話。


「お腹いっぱい~」
「半分以上ユーリィが食べちゃったけどね」
「よくあれで平気ですね~」

 食後のお茶を飲みながら、芳佳、ユナ、エグゼリカが一息ついていた。

「エグゼリカちゃんもいっぱい食べた? エルナーがこの後忙しくなるかも、って言ってたから、食べられる時に食べておかないと」
「大丈夫です。私はユーリィさんほど大量には有機燃料は摂取しませんから」
「燃料………」

 どこか考え方が違うんだな、と芳佳が感じた所で、ふとユナがある疑問を口にした。

「そういえば、芳佳ちゃんはどうしてウイッチになったの?」
「私は、元々ウイッチの家系なんですよ。お母さんもおばあちゃんも、その力で診療所をしてて、私もそこを継ごうと思ってたんです。けど、そこにお父さんからの手紙が届いて………死んだと思ってたお父さんが生きてるかもしれない、だから探しに行こうと思って坂本さんと一緒に赤城に乗って、501に入ったんです」
「へえ~」
「けど今は、みんなを守りたいから飛んでいる。お父さんもそれを望んでいたんだと思う」
「……分かる気がします。私にも、お父さんと呼んでいる人がいますから」
「え? そうなの?」

 エグゼリカの告白に、思わずユナは首を傾げる。

「転送のトラブルで地球近隣に飛ばされた私と姉さんが混乱していた所を、お父さんは拾って面倒をみてくれたんです。その内に、私は地球を新しい場所だと思うようになっていたんです。
けど、トリガーハートとして造られた私は自分の存在意義を悩むようになってました。けれど、地球にヴァーミスが現れた時、思ったんです。この星を守りたいって」
「それでいいと思いますよ。「その力を多くの人を守るために」、父さんの口癖だったそうでうす」
「そうですね。そういえば、ユナさんは?」
「いや~、そんな立派な理由の後じゃちょっと言いにくいんだけど………あたしは元々普通の女子高生だったんだけど、銀河お嬢様コンテストのグランプリを取っちゃってアイドルやってたらいきなりエルナーが現れて、私が光の救世主だって言われて。
そしたら、いきなり闇の力に犯された子達が襲ってきて……でも、戦ってる内に思ったの。戦いたくないのに戦わされてる子達を助けたい、そしてこんな事をしてくる奴を許せないって。だって、戦うよりも、お友達になった方がいいじゃない♪」
「戦うよりも、友達に?」
「そうですね、それが一番ですね!」

 ユナの突拍子もない戦い理由に、エグゼリカが目を丸くするが、芳佳はむしろそれに賛同する。

「……私はそんな事、考えた事もありませんでした」
「まあ、エグゼリカちゃんは変なのと戦ってたみたいだしね……」
「でも、みんながみんな、友達になれたら、きっと余計な闘いも無くて、平和でいい世界になりますよ!」
「……そうですね、そうなるといいですね」
「そうなるといい、じゃなくてするんだよ。みんなで! みんなの力で、悪い奴をやっつけちゃえば、あとは戦わなくていいじゃない!」

 力説するユナに、エグゼリカはしばし唖然としていたが、やがてその顔に笑みが浮かぶ。

「そんな事言う人、初めて見ました」
「あはは、そう?」
「でも、私もそれでいいと思います。戦わないために戦うっていうのも」
「私もそう思います!」
「じゃ、これからがんばろ!」
「はい!」
「分かりました」

 いつの間にか、三人の手は合わさり、強く握り締められていた。


「…………」

 三人からは物陰となる位置で、それとはなく三人の会話を聞いていたバルクホルンが、壁に背を預けながら押し黙っていた。
 その眼前に、いきなりお茶の入ったカップが突き出される。

「そんな難しい顔をしていたら、保養になりませんわよ」
「……そうかもしれんな」

 カップを差し出してきた相手、エリカの方を見ながら、バルクホルンはカップを受け取り、その中身を口に含む。

「どこかで甘いと一喝する気だったが、言いそびれた」
「言っても効果ありませんわよ、ユナには」
「だろうな。あれはハルトマン以上の楽天主義者だ」
「だから、私も、そしてみんなも着いていくんですわ。彼女は、私達を闇から救い出してくれた、光その物なのですから」
「光の救世主、か。随分とふざけた奴だと思っていたが、何があってもあれは変わりそうに無い」
「だからこそ、仲間がいるんですわ。ユナは、お友達としか思ってないでしょうけど」
「……本当にふざけた奴だ」

 残った茶を飲み干しながら、バルクホルンの顔には、小さな苦笑が浮かんでいた。



「ふう………」

 夜も大分更け、静かになった温泉に白地のビキニ姿で訪れたポリリーナは、そっと足を湯船に入れる。
 その場で周囲を見回し、誰もいない事を確認すると、マスクをゆっくりと外した。
 お嬢様仮面ポリリーナではなく、リーアベルト・フォン・ノイエンシュタインへと戻った彼女は、ゆっくりと湯にその身を沈めた。
 そこで、間近に別の水音を聞いたリアは素早く外したマスクを着けようとする。

「おや、入っていたのか」
「あら、坂本少佐…………」

 現れたのが美緒だと気付いたリアは、しばし迷ってからマスクを再度外した。

「ずっと気になっていたのだが、そのマスク、何か意味があるのか?」
「そうね、半分はユナのためかしら? リーアベルト・フォン・ノイエンシュタインでなく、あの子の憧れのポリリーナとしているために」
「残る半分は?」
「願掛け、かしら? ずっとユナの友達でいれますようにって」
「なるほど、確かにそれは外せないな」
「貴方の、それは?」

 リアが美緒の眼帯を指差すと、美緒はそれを外し、その下にある魔眼を見せる。

「これのためのフタのような物だな」
「なるほど、その目が貴方の固有魔法って奴ね」
「それが、私の正体を見抜いた能力ですか」

 第三者の声に二人が振り向くと、そこに白地のスクール水着姿(胸に「くるえるてぃあ」の名札付き)のクルエルティアの姿があった。

「はは、奇遇だな。こんな夜更けに」
「そうね、確かに偶然としか言い様が無いわね」
「でも、ちょうどいいわ」

 リアの声が真剣な物になった事に、他の二人も気付くと、静かに三人で輪を描くように湯船の中で固まる。

「この三人だけで、聞きたい事と話したい事があるわ」
「つまり、実質的隊長達だけでか」
「ええ、まずはクルエルティア。今分かっているヴァーミスの動きと、貴方の知っているヴァーミスの作戦は同じかしら?」
「いいえ、明らかに違うわ。ヴァーミスは攻撃に出る時はもっと徹底している。けれど、地球でエグセリカ達が交戦した部隊以外に、実質的な部隊は発見されていない。つまり、これはヴァーミスの第一目標が他にあるという可能性が高い」
「地球に現れたのは威力偵察か。ペリーヌやバルクホルン、そしてエリカやエグセリカ達に叩きのめされたようだが」
「そして坂本少佐、地球に現れたネウロイ、どこから来たと思う」
「私達の世界なのは確かだ。だがあれは陸戦用ネウロイ、私達の作戦圏内にはほとんど存在していなかったはずだ」
「以後目撃報告すら無いみたいだから、それは後回しにしてもいいでしょう。やはり今の所最大の問題は」
「ヴァーミスの本隊の目標」

 クルエルティアの言葉に、リアと美緒も頷く。

「今必死になって探してるけど、どこにもそれらしい戦闘報告は無いわ」
「ひょっとして、別の銀河系?」
「かもしれないわ」
「これ以上地球から離れるのは勘弁してもらいたいな。さすがに宇宙の果ては私の魔眼でも見えん」
「そういう訳にもいかないわ。ひょっとしたら、貴方達の転移にもヴァーミスは関わってるのかもしれない」
「………本当か?」
「推測の域は出ないわ」
「けど、時空間に異常が出る程の転移装置を持ってるとしたら、ヴァーミス以外に考えられない」
「それとも、それ以上の〈何か〉か」
「!? ヴァーミスの上に更に何かいると………」
「分からない。情報が少なすぎるわ…………」
「つまり、今後の我々の目的は敵の本拠地の捜索か」
「この銀河系より先ともなると、検討もつかないけど……何か心当たりは無い?」
「判断できないわ。どんな小さくても、手がかりがないと」

 クルエルティアがうなだれると、他の二人も押し黙ってしまう。

「一つ提案があるんだけど」

 横からいきなりかけられた声に三人が驚く。
 いつ来たのか、そこに青地に白のラインで縁取りされたセパレーツ水着のミサキの姿があった。

「ミサキか、提案とは?」
「銀河中央アカデミーに、時空工学と超能力研究の第一人者がいるわ。その人なら何か分かるかも」
「銀河中央アカデミーなら、今エミリーがいるはずよ。何かとんでもない新理論の発表があるとかで、それを聞くまで来れないって興奮してたけど」
「多分その新理論を発表した人ね。私のESP開発にも関わってるわ。それに気になる事があって………」
「それは?」
「………今は確証が無いから言えないわ」
「ま、これで今後の方針が決まったわ。みんなの用意が整ったら、銀河中央アカデミーに向かいましょう」
「それまではここで骨休めか。あまりゆっくりもできそうにないが」
「数日はあるわ。ここの半分は巡れるわよ?」
「はは、半分か。それはいい」
「その間に、私達もなるべく調整を済ませておくわ。全力までは無理かもしれないけど、それになるべく近い状態に」

 僅かな休息の時に、静かに闘いの決意は高まっていく………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP9
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/03/31 21:36
「おはようございま~す」
「遅い!」

 普段より遅めに起きてきた芳佳に、美緒の一括が飛ぶ。

「す、すいません坂本さん!」
「ま、色々あったからな………ただ、あれを見るとそうも言ってられんが」
「あれ?」

 美緒が保養所の外を指差し、それにつられて芳佳も外を見る。
 そこでは、ある光景が繰り広げられていた。

「はっ、はっ……」
「あと五周行く!」
「OK!」

 トレーニングウェア姿のマミとルイが、保養所の周りを黙々とランニングしていた。
 二人の額にはかなりの汗が浮かんでいたが、まったくペースを落とそうとはしない。

「ふぅ、はあ、ふっ!」

 保養所に隣接したスポーツエリアの一角で、ペリーヌがレイピアを手にフェンシングの型を黙々と行っている。
 しばらく忘れていた基本を思い出すかのように、型を一つ一つ反復していく。

「1、2!」「1、2!」

 また別の一角では、アコとマコが卓球ラケット片手に素振りを行っている。
 他にも発声練習をしてるミキや拳法の演舞をしている麗美、朝からトレーニングに勤しんでいる者達の姿があちこちにあった。

「うわあ………」
「我々も負けていられんぞ」
「マスター、ご要望の品これでいいですか?」

 美緒の元へアーンヴァルが土産物らしい刻印の入った木刀(なぜか洞爺湖だの悪即斬だのと入っている)を運び、それが芳佳にも手渡される。

「おはようございます」
「遅いぞリーネ、早朝訓練を開始する!」
『はい!』



「ふむ、まあ何とかなるな」
「ええ、今の所だけど」
「これ以上は無理、という事もあるけど」

 宇宙船ドッグに係留されているプリティ・ヴァルキリー号の中で、ずらりと並んだストライカーユニットをチェックしていたバルクホルンが頷き、そのデータをまとめたミサキとクルエルティアも頷く。

「やはり一番ダメージが大きいのは坂本少佐のね。まあかなり派手に戦ってたみたいだったから」
「メインシステムに異常は無いと思うわ。もっともあくまでこちらの観測ではだけど」
「これ以上は、ウルスラ・ハルトマンに見てもらうしかないな………彼女なら分かるはずだ」
「他に整備出来そうなアテもないでしょうし……」
「そういうそちらは大丈夫なのか?」
「こっちは大丈夫、エネルギーさえ残っていれば自己修復も効くし」
「私もエグゼリカも、一応戦闘行動は出来るけど、本来のスペックまでは無理ね。転移前の戦闘行動と転送時のダメージも回復しきってないから、70%も出せてないわ」
「あれで7割か、すさまじいな………」
「少女型兵器は伊達じゃないようね」
「チルダに帰還しない限り、完全な調整は不可能ね」
「それはこちらも同じだろうな……かといって帰れるアテも無し」
「ああ、それなんだけど……」



「皆さ~ん、朝ごはんですよ~」
「和洋中好きなの食べるアルね~」
「いっぱいありますからね~」

 芳佳、麗美、リーネの三人で用意した朝食の匂いに、トレーニングを切り上げたりシャワーを浴びたりしてきた皆がぞろぞろと食堂に集まってくる。

「料理上手が何人もいると、こういう時はいいな」
「そうね、種類も豊富だし」
「あの、人数足りなくありません?」

 並んだおかずをあれこれ選ぶ美緒とポリリーナだったが、エグゼリカの一言で周囲を見回す。

「はてそう言えば……」
「あ………」


 二階のやたらと室数のある寝室の幾つかから、寝息と寝言が漏れている。

「えへへ、ポリリーナ様~」
「むにゃ、まだまだ食べられるです~」
「う~ん、あと3時間」
「ユナ起きてください! ユーリィも!」
「起きんかハルトマン! 軍人足る者規則正しい生活は鉄則だ!」

 朝からトレーニングや整備に勤しんでいた者達とは対照的な能天気な寝言を呟きながら今だ寝ていた三人を、エルナーとバルクホルンが叩き起こそうとする。

「くん、くんくん、おいしそうなゴハンの匂いです~♪」
「ほらユナもちゃんと起きて! それでも光の救世主ですか!」
「え~、関係ないよ~」

 僅かに目を覚ますと同時に、ユーリィは食堂へと突撃していくが、ユナは今だ寝ぼけ眼のままでしゃんとしない。

「貴様もだハルトマン! それでも501のトップエースか!」
「トゥルーデ、あと2時間………」
「いいかげんにしろ~!」

 怒声と共にバルクホルンが布団を剥ぎ取り、そこで硬直する。
 上の下着以外、何一つ身につけていないハルトマンの寝姿に。

「き、貴様そのままで寝たのか!?」
「う~ん、どこ脱いだかな………」
「待て待て待て! そのまま食堂には行くな! ウイッチ全体の品性が疑われる!」
「え~、別にいいじゃん」
「いい訳がなかろう! さっさと着替えんか!」

 脱ぎ散らかしてあった軍服をハルトマンに叩きつけ、バルクホルンが息を荒げる。

「お互い大変ですね………」
「まったくだ」

 エルナーの呟きに、バルクホルンは呼吸を整えながら同意する。

「ところであっちはいいのか?」
「彼女は起こそうとしても起きるタイプじゃないんで………」

 バルクホルンはユナ達と同じ寝室の奥、これだけ騒いでいるのに全く動じないで安らかな寝顔のままの詩織を指差すが、エルナーは諦めきっているのかユナを突付いて食堂へと促した。



「これおいしいですぅ~」
「ちょっとジャム取って」
「お代わり!」
「あ~、全員そろっているか?」
「一応……」

 にぎやかに朝食が進む中、美緒が周囲を見回し、エルナーがようやくまだ半分寝てるような状態で起きてきた詩織を確認して頷く。

「食事は続けながらでいい。今後の方針についてだが、我々は到着予定の人員及び装備が整うまでの数日間、ここに逗留する」
「その後、銀河中央アカデミーに向かうわ。そこに時空工学と超能力研究の第一人者がいるそうよ。その人なら、今回のこの異常について何か分かるかも」
「本当に分かるのか?」

 美緒に続けてポリリーナも方針を述べるが、そこでバルクホルンから意見が出る。

「断言は出来ない。けど、他に頼れそうな人物に心当たりは無いわ。確証が無くても、正直どんな情報でも欲しいというのが現状よ」
「ぬう、確かに………」

 代わって答えたミサキに、バルクホルンは小さく唸りながら朝食を続ける。

「そういう事だから、各自休養だからと気を緩めすぎんように、以上だ!」
『は~い』

 再度にぎやかな朝食が進む中、ミサキが空になった食器を下げようとした所でふと給仕をしていた芳佳の事をじっと見つめる。

「あ、お代わりありますよ」
「いえ、結構よ」
「あの、お口に合いませんでした?」
「いえ、おいしかったわ。貴方、確か名前は宮藤 芳佳だったわね?」
「はい、そうですけど………」
「お代わりですぅ!」
「あ、すいません。はい、どうぞお代わりです」

 ユーリィのお代わり(ジャーごと)を差し出す芳佳だったが、なぜかミサキはまだ芳佳の方を見ている。

「芳佳、さっきの話聞いてたわね?」
「みんな集まったら、中央アカデミーって所に行くんですよね?」
「アカデミーって大学の事だよ、芳佳ちゃん」

 芳佳の隣でスープを分けながら(ユーリィは鍋ごと飲んでいた)リーネが注釈する。

「多分、あなたはそこに行かなくちゃ行けないと思う」
「え? 大学にですか?」
「詳しい事はその時が来たら話すわ」

 それだけ言うと、ミサキは食器を置いてその場を離れていく。

「確かあの人、ミサキさんでしたよね」
「銀河連合の査察官と言ってたから、憲兵に近いのか? 宮藤に何があるのか知らんが………」
「ミサキはいっつもあんな感じネ。ユナはよくあんなのと付き合えると思うアルが………ちょっとユーリィ、皆の分残すアル!」

 ミサキの言葉に首を傾げる芳佳に、美緒も小首を傾げる。
 麗美はそれを笑いながら、端から食い尽くしていくユーリィを怒鳴りつける。

「ねえねえ芳佳ちゃん、ご飯終わったらテーマパークの方に行ってみない?」
「でも、こっちの片付けもあるから……」
「え~、そんなの後でいいじゃん」
「ユナも手伝ったらどうです? どうせ出発するまで遊びほうけるつもりなんでしょう?」
「えるなー、そ、そんな事ないyo?」

 図星を指されてユナの声が裏返り、エルナーは思わずため息をつく。
 結局、寝坊をした罰としてユナ、ユーリィ、ハルトマン(※また寝た詩織はスルー)で皿洗いを手伝う羽目になっていた。



「坂本少佐、皆して遊びに行ったようだが、いいのか?」
「多少なら構わん。朝少ししごいておいたからな」
「こちらはこちらでやる事がありますからね」

 会議用にも使える多目的室に、美緒、バルクホルン、エルナー、ポリリーナ、エリカ、ミサキ、クルエルティアとアーンヴァルが一堂に会していた。

「じゃあ始めましょう」
「今後の行動の詳細についてね」

 エルナーとポリリーナの声でミーティングが始まる。

「とりあえず朝話した通り、準備が整い次第銀河中央アカデミーに向かいます。ただ、場合によってはたどり着く前に戦闘に遭遇する可能性もあります」
「宇宙空間でか? ウイッチなら短時間ならなんとかなるかもしれんが、そもそも宇宙での戦闘経験なぞ我々は無いぞ」
「私達トリガーハートも本来は宇宙戦闘も想定されてますが、今の状態では少し………」
「その点なら、戦闘時には私をコアとしてバトルフィールドを展開させます。フィールド内なら大気圏下と同じ戦闘が可能です。ただし、直径で言えば200m、頂点部は100mが限度ですが………」

 エルナーが3D画像で展開させられるバトルフィールドの縮尺を表示させる。

「200の100か、ストライカーでの機動戦闘には少し狭いな………」
「もしこれから出たらどうなるのだ?」
「皆さんの話が本当なら、少しは持つでしょうが、後は窒息ですね」
「地上戦に近いなら、こちらで迎え撃ってそちらはサポートというのが順当ではありません事?」
「私もその意見に賛成です」

 エリカの提案に、アーンヴァルが同意を示す。

「そうだな、経験が無い兵士が手探りで戦闘方法を模索するのは危険だ」
「扶桑海事変はそれで大変な目にあった物だ……」
「……まあその辺の事は後で聞くとして」

 渋い顔で頷くバルクホルンに、美緒はどこか遠い目をしていたが、エルナーは強引に区切って話を続ける。

「もう一つ、可能性が無いと言い切れない事が」
「また違う所に転移した場合か」
「ええ」

 エルナーが発する前に美緒が呟き、ポリリーナもそれに頷く。

「もし再度のパラレルワールドへの転移が起きた場合、再度チームが分裂する可能性があります。その場合、ここにいるメンバーの誰かがその場にいる者達を一時的にまとめてください」
「その点は心配無いと思います」

 エルナーの提案の途中で、アーンヴァルが断言する。

「それはどういう事?」
「分かりません、ただその点は大丈夫とプログラムされています」
「それではさっぱり分からん。根拠は?」
「マスター、根拠はお答えできません。そうプログラムされています」

 アーンヴァルの意味不明な回答に、質問したミサキと美緒を含め、全員が首を傾げる。

(まさか、彼女は………)

 エルナーはある可能性を思いつくが、声には出さないでミーティングを続ける。

「それでは、戦闘時のフォーメーションについて…」



「では、以上の事柄を念頭に置いておいてください」
「はい、分かりました!」

 渡されたレポートを手に、頭にこの星の伝説として伝えられる火の鳥を模した帽子を被った芳佳が元気よく答える。

「え~と、地上戦、空中戦、その他諸々のフォーメションについて?」
「ユーリィそんなの全然わかんないですぅ~」

 買ってきた温泉七色饅頭を食べながら、ハルトマンとユーリィも渡されたレポートに目を通す。

「まったくめんどくさいわね~」
「どこかで練習できるといいんですけど」

 同じくレポートに目を通しながら、やけに肌がつやつやしている舞がぼやき、同じくやけに肌がつやつやしているリーネがエステのガイドブックを脇に置いて熱心に目を通す。

「………お前ら一体今日一日何をしてきた?」
「もっちろん、皆で遊んできたんだよ♪」
「すごく面白かったです! 坂本さん達も来ればよかったのに」
「姉さん達は忙しかったみたいですけど」
「本当に何してきたの?」

 バルクホルンの問いに帽子どころか火の鳥を模したポンチョをまとったユナが宣言し、芳佳も同意する。
 その隣でポンチョどころか火の鳥のきぐるみに全身を包んだエグゼリカが並んでいる事に、クルエルティアもなんと言ったらいいか分からず、困惑の表情を浮かべる。

「まあいい。明日にはシャーリーも合流するはずだし、ウルスラ・ハルトマンの装備も試作だが届くらしい。そろい次第、フォーメーションの訓練をするぞ」
『はい!』
「え~、明日は残った温泉全部一緒に回ろうと思ってたのに~」
「そうだよね~、折角遊ぶ所いっぱいあるんだし」
「ユナ! 貴方も一緒に訓練です!」
「ハルトマン! カールスランド軍人としての自覚をもう少しだな!」
「………本当にこれで部隊編成して大丈夫かしら?」
「さあ………」

 クルエルティアの呟きに、エグゼリカは苦笑するしかなかった。


翌日

「へ~、すごいすごい!」
「なるほど、未来はこうして訓練するのか」
「なんか不思議な感じですわね………」

 ダンボーにあった多目的シュミレーションルームを借り切り、専用ヘッドセットとベクトル操作型フライトスーツを装備したウイッチ達が魔力を使わないで飛んでいる事に歓声を上げる。

「あくまで擬似的な物ですからね、感覚だけ掴んでください。銃ほど直接魔力を注ぎ込むわけではないでしょうが、それでもショートの危険性もあります」
「地上でのフォーメーション訓練のような物か」
「この狭い空間ではロッテも組めん」

 エルナーの説明にうなずきながらも、美緒とバルクホルンがヘッドセット内に投影された擬似バトルフィールドの狭さに顔をしかめる。

「あっ! 芳佳ちゃんどいて!」
「きゃああぁ!」
「ちょ、なんですの!?」

 言ってるそばから、空中衝突を起こしたリーネと芳佳、それに巻き込まれてぺリーヌが地上へと落ちてくる。

「不用意に動かず、範囲内を旋回する形で円陣を組むのが妥当か?」
「そうだな、限定範囲内ではそれがいいと私も思う」
「それ~!」
「エグゼリカは右翼! 私は左翼に!」
「はい姉さん!」

 シュミレーション飛行しながら陣形を考える美緒とバルクホルンを差し置いて、ハルトマンは器用に範囲内を飛び回り、トリガーハートの二人は的確に範囲内に展開していく。

「飲み込みの早い人は早いですね」
「あっちもか?」

 地上では、ユナを中心とした班とエリカを中心とした班に別れ、地球で実際に戦ったネウロイとヴァーミスの擬似データ相手にシュミレーションが行われていた。

「足を狙って! ビームに注意!」
「そらあ!」
「アイヤー!」
「攻撃を集中! 上空との連携が大事ですわよ!」
「え~い!」
「こんのぉ!」

 それぞれ実際に戦ったポリリーナとエリカの助言を受けながら、3D画像の敵に同じく3D画像のそれぞれの得物が繰り出されていく。

「ふぎゃん! きゅ~………」
「ユナさん大丈夫ですかぁ?」
「相変わらずトロいわね~」
「あたたた……」

 攻撃に失敗しておもいっきり顔面からコケたユナに、上空から見ていたバルクホルンは小さくため息を吐いた。

「あれで本当に指揮官が務まってるのか?」
「いや御恥ずかしい………指揮官ではなく、リーダーといった所ですけどね」
「少しは見所があるかと思ったが、私の思い過ごしか……」
「まあ、直に分かりますよ」

 エルナーが少し言葉を濁しつつ、シュミレーションは進んでいった。
 なお、安全には万全の配慮が払われているはずのシュミレーションルームで、極一部の人間だけが傷だらけになったのはまた別の話。



「あたたた………」
「傷に効く温泉があってよかったですね」
「他の人は全然怪我してないけどね………」

 ユナを先頭に、芳佳とリーネが打ち身切り傷に効く効能の温泉にゆっくりと浸かる。

「やっぱり、ストライカーユニット無しで飛ぶのって全然違うね」
「そうだよね。ハルトマン中尉やバルクホルン大尉は途中から結構慣れてたけど……」
「運動神経いいんだね~あたしは全然だけど」
「ユナさん前に一緒に戦った時は結構強かったように見えたけど………」
「あははは、戦ってる時はムガムチュー、とかいう奴で」
「お、宮藤にリーネか!」
「え? シャーリーさん!」
「いつ来たんですか!?」

 突然呼びかけられた声に芳佳とリーネが振り向き、そこにいるシャーリーの姿に驚く。

「ついさっき。ちょうど入れ違いになったみたいで、誰もいなかったから一っ風呂浴びようと思ってさ。で、そっちのが?」
「あ、神楽坂 ユナです。よろしく」
「シャーロット・E・イェーガー。シャーリーでいいよ」

 気さくに手を差し出したシャーリーにユナも応じて握手した所で、ちょうどかがむ形になったシャーリーの真紅のビキニ水着越しでもはちきれそうな胸が目に飛び込んでくる。

「………おっきい」
「あっはっは、よく言われるよ」
「リーネちゃんといい、なんでおっきい人が……あたしのグラビアなんて一部特定趣味用なんて言われてるのに………」
「お~い、気にしすぎると更に小さくなるぞ~」

 湯船の隅で何か陰を背負っているユナに、シャーリーが声をかけると更にユナは隅で小さくなる。

「……所で、ルッキーニや他のみんなの事何か分かったのか?」
「いえ、それがまったく………」
「エルナーさんは、どこか別の世界にいるかもしれないって言ってました」
「そっか………」

 それだけ聞くと、シャーリーは押し黙って湯に顔まで沈み込む。

「私達も大丈夫だったんですから、きっと無事です!」
「そうですよ、特にルッキーニちゃんは身軽ですし」
「……そうだな、きっとどこかでダダこねてるだろ」

 芳佳とリーネの励ましに、僅かに顔を上げてシャーリーが少しひきつっているが笑みを浮かべる。

「お姉様、よろしいですか」
「お、飛鳥。なにか用?」

 そこへ飛鳥が飛来し、シャーリーの上で停止する。

「装備が届いたそうなので、確認作業をしてほしいそうです」
「OK、今行く」
「うわあ、これがシャーリーさんの武装神姫ですか。扶桑人形みたい」
「本当~」
「データ認識、宮藤 芳佳軍曹とリネット・ビショップ曹長ですね? 貴方達も来てほしいそうです」
「分かりました、それじゃあユナさんお先に」
「アイドルにはやっぱりもうちょっと………」

 お湯から上がっていく三人に目もくれず、ユナは何かと呟いている。
 そして顔を上げると、黙って豊乳の湯へと向かっていった。



『フレームはこの時代の合金をベースに、バランスウェイト用の重金属を組み合わせました。あまり軽すぎるとむしろ扱いにくいと思いましたので。
炸薬はゲルタイプのハードモデルのケースレス型、トリガーはハンマー型とスイッチ型のミックス、弾頭は試作型の魔力サーキット内包型、威力は増しているはずです』
「ディ・パーフェクチオン(完璧)だ、ウルスラ・ハルトマン」

 プリティー・バルキリー号に転送されてきた試作型ウイッチ用マシンガンをいじっていたバルクホルンが予想以上の出来に喝采を上げる。

「これ、シャーリーに頼まれて集めた部品だ。あんたらのユニットの整備に使えそうなのをかき集めた」
「それはすまんな」

 セリカが運んできたパーツ類に美緒が目を通していく。

「シャーリーも言ってたが、実際当ててみないと使えるかどうか分からねえぞ? あいつのユニット、今フランケンシュタインみてえになってるし」
「ちゃんと動くのだろうな? まあシャーリーはストライカーユニットの改造なら得意のはずだが………」
「我々のはウルスラ・ハルトマンが来てからにしよう。それと試射をしてみたい所だが、さすがに射撃場まではないか………」
「どこかの施設を借りるしか無いわね。近くにあったかしら………」

 ミサキが近隣の惑星の心当たりを調べる中、通信映像がウルスラからリューディアに変わる。

『それでは、約束通り経費の請求書はエリカに送ります』
「分かっておりますわ………って何ですのこの金額!?」
『水増しはしてません。純粋に掛かった経費と製作時の爆発事故3回分の修理代です』

 何か貼り付けたような笑みのまま、リューディアが情け容赦なくエリカが引きつるような額を請求してくる。

「あ~、こちらとしても払いたいのは山々だが、あいにくと持ち合わせが……」
「これくらい、この香坂 エリカにとっては端金ですわ! お気になさらず!」

 話をそれとなく察した美緒が恐る恐る声をかけるが、エリカは毅然と断って入金処理をしていく。

『確認しました、今領収書を送ります。弾薬の補充が必要ならいつでも発送します』
「これだけあれば、しばらくは大丈夫だろう」
『それでは、私も銀河中央アカデミーに向かいます。そちらで合流しましょう』
「迷子になんないようにねウルスラ」
「お前じゃあるまいし。ストライカーユニットの整備の件も相談したいので、早めに頼むぞ」
『分かりました、バルクホルン大尉。それでは、向こうで』

 通信が途切れた所で、思い思いにウイッチ達が届いたばかりの銃の点検を始めていく。

「問題は、これをいつどこで使う事になるかですね…………」

 エルナーの危惧は、予想を遥かに上回る形で現実の物となる事を、誰も知る由は無かった…………




「敵は更に降下してきます!」
「第一小隊、壊滅寸前です! 玉華様、ご指示を!」
「一体あれは………強い闇の力を持ったあれは何なのでしょう………やはり、ここは彼女に救援を求めるしか………」
「光の救世主、神楽坂 ユナ殿ですな」
「至急使いを…!」
「大変です! 前線指揮に当たっておられた亜弥乎様が、亜弥乎様が………!」



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP10
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/04/15 21:38
「それでは、全員乗りましたね?」
『は~い』

 エルナーが全員の返事と、プリティーバルキリー号の席に座るメンバーのリストを照合していく。

「航路の設定及び航行プラン、認可下りたわ」
『航路設定リンク、こちらはいつでもOKです』

 操縦席に座ったポリリーナの言葉に、カルナダインのAIカルナが続ける。

「それじゃあしゅっぱ~つ!」

 ユナの能天気な声と同時に、プリティーバルキリー号とカルナダイン、二隻の宇宙船はダンボーのドッグから出発していく。
 ミサキのクルーザーをそのままドッグに停泊させ、二隻で統一した一行は、一路銀河中央アカデミーへと向かっていた。

「到着まで、三日と言った所でしょうか?」
「星から星が三日か、すごい話だな」
「正確には、銀河中央アカデミーは超巨大複合スペースコロニーよ」
「すぺーすころにーって何ですか?」
「あのね、宇宙空間に浮いてる街って言えば分かるかな?」
「街が浮くのか?」
「後で映像資料を見せましょう」

 首を傾げるウイッチ達に、ポリリーナとエルナーはジェネレーションギャップを感じながら苦笑していた。

「途中何もなければいいのだが」
「そほまへきにひなくていいんじゃなひ?」

 バルクホルンが思案してる所に、口に何かをいっぱいほお張っているハルトマンが声をかけてくる。

「………何をしているハルトマン」
「ん? あっちあっち」

 ハルトマンが両手にスナック菓子を抱えながら指差した先では、ユナが中心となって持ち込んだお菓子を広げている最中だった。

「わ~い、お菓子お菓子♪ 芳佳ちゃんも好きなの取っていいよ?」
「え~と、じゃあこれを」
「あなた達、まだ出発して30分も立ってませんんわよ!」
「ちゃんとペリーヌさんの分もあるよ♪」
「そっちのはユーリィの分ですぅ~」
「ちょっとそれアタシが取ろうとしてたのよ!」
「早いもの勝ち~♪」
「ジュースまだあります?」
「お、この時代もコカコーラあるんだな」

 にぎやかにおやつに興じている面々に、バルクホルンの頬が引きつる。

「あいつら………」
「ノンキというべきか、大物というべきか。もっとも戦地に赴く訳ではないからな」
「しかし少佐!」
「ユナはしかってもこりないわ。それにやる時はちゃんとやるから、大丈夫」
「だそうだ。それがこちらの流儀なのかもしれん」
「むう………」
「はいトゥルーデと少佐の分」
「お、すまんな」
「まったく」

 ハルトマンが持ってきたお菓子に、美緒とバルクホルンが手を伸ばす。

「さて、我々は本当に元の場所に戻れるのだろうか………」
「確証は無いけど、可能性はあるわ」
「ならば、その可能性を我々で広げるまでだ」

 ミサキの言葉にそう言って豪快に笑う美緒を見ながら、ミサキは心中の言葉をあえて口には出さなかった。

(私の予想が正しければ、恐らく………)
「それにしても、ミーナ達は今頃どこで何をしているのだろうな………」



AD2084 太平洋中央部 特務艦攻龍上空

 浮かび上がった訓練用バルーンに素早く弾丸が撃ち込まれ、四散する。

「エイラさん! ルッキーニさん!」
「了解!」「りょ~かい!」

 同じく浮かび上がる訓練用バルーンに二人の弾丸が突き刺さり、四散していく。

「サーニャさん!」
「了解」

 最後にサーニャが構えたスティンガーミサイルが発射されるが、何故か放たれたミサイルは明後日の方向へと飛んでいき、そして海面へと落ちる。

「誘導装置に異常が起きてるよ、マスター」
「不発弾はまずいかしら?」
「誘爆させるよ」

 ミーナの肩に乗っていたストラーフがシュラム・リボルビンググレネードランチャーをスティンガーミサイルの落ちたポイントに向けて発射、数秒後大きな水柱が上がる。

「訓練完了、帰投します」



「またかい。分かったか?」
「ええ、やっぱり撃つ直前に回路がショートしてます」
「こっちもFCS(※ファイアーコントロールシステム)にエラーや」
「やっぱ魔力とかいう奴のせいやろか?」

 攻龍の甲板上で、ウイッチ達に貸し出した銃火器の状態をモニターしていた整備班が首を傾げる。

「分かりました?」
「ああ、大体な」

 降りてきたミーナに、整備班長の大戸が今出たばかりのデータを見せる。

「あんたらが使うと、電子回路に妙な負荷が掛かりやがる。FCSくらいならあんたら無くても構わんのだろうが、誘導兵器の類は無理だろうな………」
「ボクのセンサーも同じ結果だね」
「なあなあ、もうちょっと口径大きくて弾数多いのないカ?」

 エイラが手にしたM4アサルトライフルのマガジンをイジェクトしながらボヤく。

「そないな事言われてもな………」
「それ以上言うたら、ソニックダイバー用の銃火器くらいしかないで?」
「あれはさすがにおっきすぎるよ~」

 ルッキーニも不満を漏らすが、本来ならば数人で扱うはずの重機関銃を平然と持って飛んでいたウイッチ達の要望にはなかなか答えられない。

「これ、お返しします」
「すまねえな、ご要望に応えられなくて。あんたの装備は、合う弾すらねえし」

 サーニャから使用済みのスティンガーを渡されながらも、大戸も顔をしかめて思案する。

「しゃあねえ。遼平、その嬢ちゃん達連れて武器庫漁ってこい。他に使えるのあるかもしれねえ」
「FCS無しってなるとキツいっすね………」
「こんなのいらな~い。邪魔なだけ!」
「ちょ、それ高いんやで!」

 銃からFCSを外そうとするルッキーニを慌てて嵐子が止める。

「変な所でギャップ問題が出てきたわね」

 甲板に姿を現した瑛花が、残弾の少ない自前の武装代わりの武器がなかなか見つからないウイッチ達を見回す。

「やっぱり100年以上の差は大きいか……」
「困りましたね」
「あんた達さ、魔女ってくらいなんだから、ホウキからビーム出したり、ロッドからス○ーライトブ○イカー出したりとかできない?」
「………何の話かしら?」
「ペリーヌだったら雷ドカーンって出せるし、坂本少佐だったられっぷうざんでズバ~って出来るよ」
「私らそんな固有魔法持ってないゾ」
「うん」

 ソニックダイバー隊も頭を捻るが、解決策は出てこない。

「ちょうどいい、お前らも一緒に武器庫行ってみてくれ。使えそうなら、こちらでどうにか都合つけてやる」
「は~い」

 少女達がそう言いながらその場を去っていくのを見届けもせず、大戸は置いていかれた銃火器を調べる。

「無駄弾はまったく撃ってねえ……あの歳でなんて連中だ」
「ホンマや。能力的にはこちらと十分タメ張れるんやろが………」
「その能力を発揮しきれんとは、難儀な事や」
「それをどうにかするのがオレ達の仕事だ。それ片付けがてら、お前らもなんか見繕うの手伝ってやれ」
『は~い』

 双子の整備員がアサルトライフルと弾薬ケースを抱えながら武器庫に赴く中、一人残った大戸は腕組みしながら考える。

(何か、とんでもない事が起こりそうな予感がしやがる………急がねえと………)



『こちらフェインティア、周辺空域に異常無し』
『こちら亜乃亜、小型ワーム一体と遭遇、もう倒しました!』
『こちらエリュー、小型ワームを発見! ランクはD-クラス、殲滅します』
『こちらマドカ! 周辺空域に転移反応その他まったく無~し』

 周囲の探査兼哨戒に出たメンバー達からの報告が続々と届く中、攻龍のブリッジには不穏な空気が漂っていた。

「妙だな………」
「ええ」

 副長の呟きに、冬后も頷く。

「ワームの攻撃が散発過ぎる。しかも出てきても小型ばかり………」
「今までに無いパターンです。あえて上げるなら、前大戦終結直後、似たようなパターンがあったらしいとの報告も……」

 ワーム研究の第一人者でもある周王も首を傾げる。
 全面的な攻撃に出るわけでもなく、思い出したかのように小型が出る現状に、ブリッジにいる誰もが言い知れぬ疑念と、そこに起因する不安を感じていた。

「トリガーハート、ライディングバイパー、四機とも帰還コースに入りました」
「帰還したら、なんでもいいから気付いた事があったら報告しろと言っといてくれ」
「了解、まあ聞く感じ前とまったく同じみたいですけど……」

 ここ数日、代わり映えのしない状況にタクミも苦笑しながら、その事を皆に告げる。

「ワームの連中、急にやる気なくしちまったのか?」
「馬鹿な。そんな事はありえん!」

 冬后の呟きに、副長が思わず声を荒げる。

「私もそれはありえないと思えます。しかし、納得の行く説明も………」
「いや」

 周王の困惑した言葉を、それまで沈黙していた艦長が遮る。

「一つだけ、思い当たる事がある。最近のワームは倒されるために出てきてるのではないかと思う」
「はあ?」
「まさか、威力偵察!?」
「ありえません! ワームの中枢はあくまで医療プログラムです! そんな戦術プログラムは想定すらされてません!」
「だが、そう考えればすべて納得できる。こちらに参加した者達の戦力を探るため、捨て駒を出してきてると考えれば、つじつまは合う」
「しかし!」
「私もそう思う」

 周王が艦長の意見に真っ向から反対する中、意外な所から賛同の声が上がる。

「アイーシャ………」

 ブリッジに姿を見せたアイーシャのきっぱりとした(元からでもあるが)口調に、周王も声のトーンを落とす。

「お前がそう言うなら、当たりかもな。けど、根拠は?」

 冬后の問いに、アイーシャはしばし考えてから話し出す。

「はっきりとは言えない。けど、確かに最近のワームはどこかおかしい。どこかで何かが外れてる。そんな気がする」
「え~と、それってどこが?」
「分からない」
「う~ん、そう言われても………」

 恐らく彼女にしか分からない根拠に、タクミと七恵はそろって困惑の笑みを浮かべ、上官達を見回す。
 冬后と副長はそろって黙って考え込み、周王も首を傾げるだけだったが、一人艦長だけはしばし考えてから視線を前へと向ける。

「艦内に第二種待機を発令、常時スクランブル態勢を発動可能状態に。戦闘要員をチーム分けして順次哨戒に当たらせるように」
「艦長、しかし」
「全兵装確認。異常発見次第、即第一種戦闘態勢に移行する」
「り、了解! 第二種待機発令!」
「藤枝、戦闘要員を全員ブリーフィングルームに集合させろ」
「はい!」
「総員に通達します、第二種待機態勢が発令されました。各自、持ち場状況の確認及び、発動準備を行ってください。繰り返します」

 にわかに騒がしくなったブリッジ内で、周王も持っているワームの行動パターンを全て見直そうと自室に向かおうとした時、ふとアイーシャがどこかを見ている事に気付いた。

「アイーシャ、どうかした?」
「……今、誰かに見られてた気が」
「え?」
「何の反応もありませんよ? 気のせいじゃ?」
「………」

 七恵が慌ててレーダーを見るが、着艦しようとする四機の反応以外、何も見当たらない。
 それを聞いたアイーシャが無言でブリッジを出ようとした時だった。
 アイーシャの体、正確にその体に完全に融合しているナノマシンが、何かの衝撃を感じた。
 あまりの衝撃の強さに、アイーシャは思わずバランスを崩し、その場に片膝を付く。

「アイーシャ!?」
「どうした!?」
「アイーシャさん!?」
「大丈夫。でも今のは………」

 今まで感じた事の無い、奇妙な感覚にアイーシャ自身困惑する。

(今のは、何? 衝撃、いや鼓動?)
「アイーシャ、無理をしちゃダメよ?」

 周王が心配そうな顔でこちらを見ているのに気付いたアイーシャが小さく頷いて立ち上がる。
 そして、鼓動を感じた方向をじっと見つめてみる。

「分からない……けど、何かが、生まれた………」

 呟いた言葉の意味を、アイーシャ自身も理解する事は出来なかった………



「そういう訳で、全員で順次哨戒飛行に出る事になった」
「はい! 威力偵察って何ですか?」
「まずそこからか………」

 冬后の説明に、元気良く質問した音羽に皆の視線が集まる。

「音羽、そんな事も知らないの?」
「実際に攻撃してみて、相手がどんな戦力を持っているか調べる事よ」
「へ~」
『え?』

 瑛花が呆れ、ミーナが説明した所で他の多数の口から声が漏れた。

「ひょっとしてさっきのワーム………」
「ありえるわね」
「オイ、私もサーニャと哨戒に出た時、サーニャとそれぞれ倒したゾ!」
「はん、あの程度で何が分かるっての?」
「マイスター、少なくてもこちらの攻撃パターンは分かる」
「けど、威力偵察なら戦況報告が必要。他に反応は何も無かった」
「そ、そうだよね?」

 サーニャの一言で、慌てていた皆が他に反応が無かった事を思い出す。

「それなんだよな~。ワームが偵察機出してたなんて話は聞いた事もねえし」
「情報を順次送信してたというのは?」
「それならそういう反応が出るはずよ。サーニャさんなら気付くはず」
「艦長の考えすぎじゃない?」
「いえ、Gのオペレッタも威力偵察の可能性を示唆してる」
「じゃあ、どうやってでしょう?」
『う~ん………』

 可憐の一言に、全員が一斉に首をかしげてうなりを上げる。

「ま、取り合えず勘違いで済むならそれに越したコトは無い。つう事でチーム分けとシフト組むぞ~」
「こちらは今この時代の装備を私達用に少し改良してもらってますから、残弾数から言って連続は無理ですね」
「私達はすぐにでも行けます」
「エリュー、あの今帰ってきたばっか……」
「ソニックダイバーで哨戒なんてやる事になるなんて………偵察と即戦闘、どちらの前提で?」
「私はサーニャと一緒で!」
「トリガーハートが偵察機の真似事なんてね……」

 それぞれが好き勝手な事を言う中、それぞれのリーダーが中心となってチームが決められていく。

「じゃあ、大体決まりだな。夜間シフトの連中は今の内に寝とけ。オレはシフト表を艦長に提出してくる」

 ようやく決まったチームとシフトを入力して持っていこうとした時、ふと冬后は先程ブリッジで起きた事を思い出す。

「お前らの中で、何かさっき妙な事感じた奴はいるか?」
「妙な事?」
「いや別ニ」
「何も反応はなかったけど」
「こっちも」
「………ならいい」

 アイーシャの呟いた言葉がどこか心の隅に引っかかりながら、冬后はブリッジへと向かった。


翌日

「ふ~」
「よう、お帰りって異常なしみてえだな」
「敵影の欠片すら無かったわ。こちらがもうちょっと速度があればいいんだけど……」
「やっぱこの編成無茶あるんじゃない?」

 零神から降りた音羽に遼平が声をかけた所で、同じチームだったミーナが小さくため息を漏らし、ミーナの肩のストラーフがポツリと呟く。

「それ言うなら、ソニックダイバーだって機動時間短いっすからね~」
「一長一短ね。戦闘スタイルは似ているけど、性能差が大きいわ。戦力と能力の均等配分を香料すると哨戒パターンは感知系を中心として、速度のある機体が周辺を電子および目視で確認という形で」
「お~い、ウイッチの隊長さん。一応武器の改造が済んだから見てくれんか? 遼平、お前も来い!」
「今行きます。じゃあ桜野さん、ブリッジに報告お願いできる?」
「はい!」
「今行きます!」

 大戸に呼ばれ、ミーナ+ストラーフと遼平は武器庫へ、音羽はブリッジへと向かう。

「試作型次元レーダー出来たよ~、ってあれ?」

 ミーナ達と同じチームで哨戒から帰ってくるなり、何かを作り始めたマドカが奇妙なマスコットみたいなレーダーを抱えてくるが、そこで格納庫が無人な事に気付く。
 左右を見回し、人影一つ無い事を知ったマドカは、視線を格納されたばかりの零神へと向けた。

「う~ん、こうじゃないな~」

 しばらく零神を見つめたマドカは、手にしてた試作レーダーを床へと置くと、その手に自前の工具を握り締めた。


「これなら、なんとかなりそうです」
「7mm以上の機銃なんてそんなに無かったからな最悪はファランクス用のガトリングガン外そうかと思ったくらいだ」
「いや、さすがにそれは無理っしょ………」
「あら、聞いた話だと、88mm担いで飛んだウイッチがいるらしいわよ?」
「どんな化け物なんだか………」
「いやあああぁぁぁ!!」

 改造が済んだばかりの銃器を担ぎながら格納庫へと向かう大戸、ミーナ、遼平の三人の耳に、音羽の悲鳴が聞こえてくる。

「何だ!?」
「桜野さん!」
「音羽!」

 三人が慌てて格納庫に飛び込むと、そこに零神のハンガーの前で崩れ落ちる音羽の姿が飛び込んでくる。

「どうした!」
「ゼロが、私のゼロが………」
「零神がどうし…」

 慌てて駆け寄った遼平が虚ろな声で呟く音羽に吊られてハンガーを見上げ、そこにある物を見て完全に石化する。

「どう? 可愛くなったでしょ?」
「こ、これあんたがやったのか?」

 つい先程まで遼平自身が整備していたはずのソニックダイバーの形は欠片も無く、代わりにまるで巨大なきぐるみのような物がハンガーに鎮座していた。

「これぞソニックダイバー・マドカカスタム! 前からあの鋭角なデザインが可愛くないって思ってたのよね~」
「ああああ、ゼロがガ○ャピンに………」
「おいあんた! 軍の備品になんて事を!」
「大丈夫! エネルギー効率は20%アップ! 更に試作型次元レーダーも搭載! 更に兵装のMVソードはZOソードにして攻撃力もアップしたから!」
「つってもなぁ………」
「ゼロが、ゼロが………」
「あらあら、すごい事になっちゃってるわね」
「うわあ、すごい……」

 原型を留めない、という言葉しかない零神の状態に、ミーナもストラーフもさすがに二の句が告げないでいたが、次のマドカの言葉は更なる危険要素だった。

「あ、そっちのもカスタムしといたよ」
「そっち?」

 ミーナが何気なくあり合わせで作られたストライカーユニット用のハンガーの方に頭を向ける。
 そして、自分用のメッサーシャルフ Bf109K‐4が収納されているはずのハンガーに、奇妙な物がある事に気付く。
 それは、あえて言うならアニメの魔法少女でも履くようなやけに可愛いデザインのブーツで、かかとの部分にプロペラのような部品が付いている。
 どう間違えても、ストライカーユニットには見えなかった。

「そっちは苦労したよ~。システムが独特でさ。RVのシステムに似てるのに気付いてからは…」

 マドカの説明の途中で、神速の動きでマドカの頭を向こうを向いたままのミーナが片手で鷲掴みにする。

「え?」

 そのままゆっくりとミーナの顔がマドカへと向けられる。
 そこには、貼り付けたような笑顔があった。ただし、目は1ミリも笑ってはいない。

「マドカさん、直しなさい」
「あの、せめて説明だけでも…」
「直しなさい」

 頭部に使い魔の耳が生え、まるで本物の狼にでも睨みつけられているような感覚にマドカがようやく自分の失敗を悟る。

「あの…」
「すぐに」
「は、はいい~~~!」

 マドカが段々危険な域の握力に達しつつあったミーナの手から頭部を引き抜き、脱兎の勢いで工具片手にストライカーユニットだった物に向かって猛然と修復に取り掛かる。

「それが終わったら、桜野さんのソニックダイバーもね」
「分かりました~!!」
「大丈夫、ちゃんと戻してくれるそうよ」

 そう言ってミーナは音羽に向かってにっこり微笑むが、そこには互いに青い顔で遼平と拳を握り締めあう音羽、ついでにいつの間にか音羽の頭の後ろに隠れているストラーフの姿があった。

「こ、怖ぇ………マジモンの魔女の迫力って奴か………」
「冬后さんよりも圧倒的に怖い………」
「あ、あれはボクにも無理………」
「あらあら、恥ずかしい所見られたかしら?」

 攻龍艦内に、ミーナ中佐には絶対逆らわない方がいい、という話が伝わるには、それほど時間は掛からなかった。
 なお、二機の修繕が終わったマドカが、その後にミーナに懲罰と称して個室に連れ込まれ、その夜、虚ろな顔で小刻みに震えながらもう二度と勝手に改造しません、だからそんな所に挟まないで下さい、とうなされていたのはまた別の話。


二日後

「定時夜間哨戒、異常ありませんでした」
「ご苦労さん」

 エリューからの報告を聞いた冬后が、手渡された哨戒データをチェックするが、そこにはなんの平凡もないデータしかなかった。

「この二日、全く動きが無い」
「ええ、まるでこっちが警戒し始めた事に気付いたみたいに」
「馬鹿な………」

 副長の呟きに、冬后も自分で言った事に確証が無い事を再認識する。

「オペレッタも次元異常は確認してません。しかし、確かに何かおかしいです」
「その何かが分からない。当分哨戒は続ける」
「艦長、ですが………」
「こちらでも攻龍周辺の重点探査を進言します」
「まったく、何かが起きるなら早目にしてほしいもんだ」
「それはそれで勘弁してほしいような……」

 タクミの呟きは、ほどなくして覆される事に、気付いている者は誰一人としていなかった。



「う~ん…………」

 攻龍の食堂で、テーブルに広げられたタロットカードを見ながら唸るエイラの周囲に無数の人影がある事に、たまたま訪れた周王が気付いて歩み寄る。

「何をしてるの?」
「あ、周王さん」
「いや、動力室担当の千草の奴が趣味で持ってたタロット巻き上げて、占いやってみてんすけど」

 音羽と遼平が簡単に説明するが、エイラは出たカードを見て唸り続けている。

「星の正位置、つまり希望ダナ。他のウイッチ達は無事みたいダ」
「じゃあシャーリーも!」
「無事みたいダ」
「それはよかったですね!」
「破壊の塔の正位置、これは破壊とトラブルダナ」
「トラブルって、どう?」
「ごっついワームが出てきよるとか」
「それは勘弁してほしいで」
「戦車の正位置、闘いを意味してるナ」
「それならもうやってるよね?」
「イヤ、多分大きな闘いを意味してル」
「本当かそれは!?」
「皇帝の逆位置、……これが分からナイ」
「本来の意味は?」
「う~ん、多分独裁を意味してるんだと思うんダガ………それ以上が分からないんダナ」
「つまり、まとめてどういう事なの?」
「………仲間は集まル。けど、大きなトラブルの果てに闘いが起きル?」
「いいんだか悪いんだか分からん占いやで」
「ホンマや」
「おいおめえら! なにサボってやがる!」
「やば!」
「すぐ行きます!」

 大戸に怒鳴られ、全員が蜘蛛の子を散らすように食堂から出て行く。

「まったく………」
「う~ん………」
「まだ悩んでるの?」

 残ったエイラが未だにタロットを見ながら唸り、周王もそのカードを見ながら首を傾げてる事に気付いた大戸は、僅かに興味を持ってそちらへと歩み寄る。

「なんか妙な相でも出たのか?」
「そうなんだケド………」
「じゃあもう一回やってみりゃいい。占いなんて気にし過ぎる方が悪影響だ」
「そうか……」

 エイラが一度カードをまとめ、シャッフルを始めた所で突然艦内に警報が響き渡る。

「ち、来やがったか!」
「ワームか!?」
「まだ分からないわ!」
「いきなり来るナ~!」

 エイラがカードを慌ててまとめて食堂を飛び出し、大戸と周王も持ち場に戻ろうとした時だった。
 エイラの手から一枚のカードがこぼれ、床へと落ちる。
 思わずそれを拾った周王がその事を告げる間も無く、エイラの姿は通路の影に消えていた。
 後で返そうと思って何気なくそのカードを見た周王は、そこに描かれているアルカナに顔を少ししかめる。
 描かれていたのは悪魔のアルカナ、意味は呪縛と暴力、そして、闇。



「小型ワーム、2時方向から多数接近! それに不明の反応も8時方向から多数!」
「不明とは!」
「ワームとは明らかに違いますが、パターン登録がありません! まったくの未知の存在です!」
「ソニックダイバー隊、出撃準備。未知の反応の解析急げ」
「はい!」

 ブリッジがにわかに慌しくなり、七恵からの報告に応じて矢継ぎ早に艦長の支持が飛ぶ。

『こちらエリュー! 未知の反応に心当たりがあります! 確認のため、先行出撃します!』
「許可する。確認しだい報告を」
『了解、エリュー・トロン、行きます!』
『空羽 亜乃亜、頑張ります!』
『マドカ、いってきま~す!』

 三機のライディングバイパーが飛び立ち、空を駆けていく。

「ソニックダイバー隊、出撃。ワームを殲滅せよ」
「ソニックダイバー隊、出撃してください」
『雷神 一条、発進!』
『風神 園宮、出ます!』
『零神 桜野、ゼロ行くよ!』
『バッハ エリーゼ、テイクオフ!』

 続けて四機のソニックダイバーが出撃し、向かってくるワームへと機首を向ける。

『こちらミーナ、私とルッキーニ少尉をソニックダイバー隊、リトビャク中尉とユーティライネン中尉をライディングバイパー隊の援護に当たらせます』
「許可する」
『じゃあ私はその未知の反応とやらに行くわね。ヴァーミスかも知れないし』

 ウイッチ達が飛び上がった後、艦長の許可も待たずにフェインティアが飛び上がり、高速で反応のあった方向へと向かっていく。

「双方の詳細反応は?」
「どちらも数は多いですが、小型です。ワームはどれもDクラス、未知の反応も同クラスと思われます」
「それならクアドラロックをかけるまでもないな。だが、なぜ?」
「確かに、妙な布陣だ」

 艦長からの問いに七恵が報告するが、それに冬后と副長が同時に首を傾げる。

「第一種戦闘配置、囮の可能性もある」
「目標は本艦!?」
「有り得る。総員探索及び状況報告を密にせよ!」
「ライディングバイパー隊、未知の目標と接触します!」

 接触と同時に、未知の反応の数が減っていく。

『こちらエリュー、敵はバクテリアン! 私達の敵です!』
「Gの殲滅目標!? なぜここに!」
『これくらいなら、亜乃亜達だけで十分!』

 意外な敵に副長が思わず声を上げるが、亜乃亜の声が示す通り、レーダーに映るバクテリアンの反応は瞬く間にその数を減らしていく。

『こら~、こっちの分も残セ!』
『あんた達が遅いのよ!』

 フェインティアとエイラ、サーニャも合流し、更にバクテリアンはその数を減らしていった。

『こちら一条、敵ワームに攻撃を開始します!』
『とりゃ~!』
『え~い!』

 瑛花の声と同時に、音羽の零神とエリーゼのバッハがワームへと突っ込んでいき、こちらも次々と数を減らしていく。

『うじゅ~、ルッキーニの分!』
『わあ! ちょっと待ってください!』
『焦っちゃだめよ』

 遅れまじとルッキーニも飛び込み、可憐の悲鳴にミーナのたしなめが入る。

「……おかしい」

 次々と入る戦果報告に、艦長は不信感を覚え始めていた。



「おかしいわ………」

 手にしたFN MINIMIパラトルーパー、分隊支援用の7・62mm弾仕様機関銃を一度下ろし、自らの固有魔法を発動させて周囲を注意深く探っていく。

「ミーナ中佐」
「あなたも気付いた?」
「はい、ワームの動きがおかしいです」

 自分と同じ違和感を感じ取った可憐が、ミーナの隣で風神のレーダーを全て駆使し、情報収集に当たる。

「まるで、自ら倒されに来てるような……」
「私も……そう思えます」


「マイスター、敵の様子がおかしい」
「確かにね。こんな弱いんじゃ話にもならないわね」

 小型の飛行ユニットのような形や、ワーム同様海洋生物の形をしたバクテリアンが次々と落とされていく中、ムルメルティアの判断にフェインティアも頷く。

「ちょっと、あんたらこんなのに手焼いてたわけ?」
「それが、普段ならもっとすごいんですけど………」
「気をつけて! 指揮を取るボスがどこかにいるはず!」
「なるほど、コアね。ヴァーミスに似てるわ」

 エリューの指摘に皆が緊張するが、程なくして最後の一機が落とされる

「………あれ? 普段ならここらでドーンと大っきいのが来るんだけど?」
「妙ね………」
「反応無いよ?」
「ちょっと、話違うじゃない!」
「あっちも終わったみたいだゾ」

 手ごたえの無さにフェインティアが文句を言う中、ワームもあっさりと殲滅されていた。



『敵殲滅を確認。だが妙です。手ごたえがなさすぎます』
「オレもそう思う。しばらく待機、周辺探査を」
『了解』
「確かに妙だ……ワーム発生初期ならともかく、今なぜこんな無意味な攻撃を?」
「おびき出されたかもしれん」

 副長の呟きに、艦長がある可能性を述べる。

「まさか!?」
「周辺を精密探査、この前のようなステルス型もありえる」
「了解!」

 七恵がコンソールに向かって幾つもの検索操作を行っていく。
 そこへ、アイーシャがブリッジへと訪れる。

「お、ちょうどいい所に来たな。ちょっとアイーシャの方でも妙な反応が無いかたし…」
「来る」

 冬后の依頼より先に、アイーシャが虚空を見つめて呟いた。

「ワームか!」
「分からない……ワームであってワームでない物が来る」
「何ですかそれ?」

 思わずタクミが突っ込んだ時に、レーダーが何かの反応を捉える。

「大型反応! 正面方向、距離2000!」
「ワームか!? クラスは!」
「そ、それがワームと反応パターンが微妙に異なってます!」
「何だと!」



「来る、ネウロイ?」
「本当かサーニャ!」
「でもどこか違う………」
『全員攻龍上空に待機! デカいのが来るぞ!』
「了解!」

 冬后の指示で、皆が一斉に攻龍へと向かう。

「お先に!」
「先陣です!」

 他の機体を置いてけぼりにして、フェインティアが最速で攻龍の上空に戻ると、その場でガルトゥースを構え、肩に乗っていたムルメルティアも主砲を構える。

「負けないわよ~!」
「さすがに早いわね」
「こっちも!」

 続けてライディングバイパーが到着、それぞれの機首を正面へと向ける。

「うわあ、Gモードでも負けたぁ!」
「すごい性能ですね」
「感心しない! 全機Aモードにチェンジ、戦闘態勢!」
「了解、今度はもっと早く飛んでやるぅ!」

 ソニックダイバーも攻龍上空に到達すると、Aモードで武装を展開していく。

「やっぱり最後ね」
「マスター遅い!」
「うじゅ~、シャーリーだったら負けなかったかも」
「無茶言うナ、こっちはこれでも全速力だ」
「反応、更に近づいてきます」

 最後にウイッチ達も来ると、ミーナとサーニャが固有魔法で近づいて来る物を探査する。

「来たわ、かなり大きい………」
「ネウロイに似てる。けど違う」
「あの、アイーシャもワームであってワームでないとか言ってるんだけど」
「待って! バクテリアンの反応も出てる!」
「ホントだ! どうして?」

 サーニャの固有魔法、アイーシャのナノマシン感応、更にはライディングバイパーのレーダーがそれぞれ向かってくるのが別の敵に似た物だという結論を導き出す。

「見えたわ! 攻撃準備!」

 瑛花の言葉に、全員が一斉に銃口をそちらへと向ける。
 正面から近づいて来る影は、やがて大きくなっていき、その姿を露にしていく。

「ん? なんかどこかで見たようナ?」
「なんか私にもそう見えるような……」
「マスター、偵察してこようか?」
「待って、すぐに分かる……え?」
「ええ!?」
「ウソ………」
「あ、あれって!」
『攻龍!?』

 全員が近づいて来る物のシルエットがはっきりと分かるようになった時点で、同じ言葉が口から飛び出す。
 虚空をこちらへと向かってくるそれは、漆黒の異様なスタイルをしているが、そのシルエットは紛れも無く、攻龍その物だった………



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP11
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/05/18 22:18
「な、なんだあれは!?」
「攻龍!? まさか!」

 漆黒のシルエットを持つ、攻龍そっくりの謎の飛行物体に攻龍ブリッジ内にも混乱が広がっていく。

「船籍登録パターン感知、照合は特務艦101号、《牙龍(がりゅう)》です!」
「牙龍! 牙龍だと! 有り得ん!」

 七恵からの報告に、副長が怒声にも近い声を上げる。

「牙龍は10年前のワーム大戦に沈んでいる。副長の目の前でな」
「し、しかしパターン信号は間違いなく……」

 艦長からの指摘も入るが、七恵は再度謎の船から感知された船籍パターンを照合、同じ結果が表示される。

「おかしいですよ! あのシルエットはどう見ても攻龍その物です!」
「ああ、攻龍はソニックダイバー運営用に改造されている。10年も前に沈んだ船が、なんで攻龍そっくりで飛んでやがるんだ?」

 タクミの指摘に、冬后も同じ疑問を持つ。

『あんなの、前にも見たよ!』
『おい、アレって!』
『うん、赤城と同じ………』
『冬后大佐! あの船は間違いなくネウロイ化しています! 極めて危険です!』
「ネウロイ化、とは?」

 ウイッチ達が愕然としながらの報告に、艦長が僅かに首を傾げる。

『私達が戦っていたネウロイは、金属を吸収、同化する特性があるんです! 前に一度、そのネウロイのコアを使用した試作兵器が暴走、空母赤城を取り込んであれと同じような状態に!』
「……つまり、あれは牙龍を取り込み、攻龍を模しているという事か」
『恐らくは』

 艦長の推察を、ミーナは肯定。
 そこでブリッジに鈍い音が響き渡り、全員が何事かとそちらを見ると、コンソールを叩き付けて激昂している副長に気付く。

「ふざけおって………!」

 普段から怒りやすい副長だったが、ここまで激昂しているのを初めて見る者達が思わず息を飲む。

「……牙龍の艦長は、副長の友人だったそうだ」
「……なるほど」
『冬后大佐! 指示を!』

 艦長の呟きに、冬后は一言だけ返して瑛花に指示を出そうとした時だった。
 宙に浮かぶ艦影の主砲の片方が旋回し、攻龍へと狙いを定め、その砲口に赤い光が点る。

『撃ってくるゾ!』
「緊急回頭!」

 エイラの声と同時に、艦長が叫ぶ。
 とっさに攻龍は面舵を切り、そこへ放たれた赤いビームが船体をかすめそうな至近距離で通り過ぎ、曳航していた脱出艦の尾翼の一部を蒸発させながら海面へと命中、凄まじい水柱が巻き起こる。

「なんて威力だ………」

 桁違いの相手の火力に、爆発の余波で翻弄されるブリッジ内で冬后は呆然と呟くしかなかった。



「うわあ!」
「ひぃい!」

 たった一発の発射で、攻龍上空に待機していた者達よりも高く上がった水柱が、雨となって皆に降り注ぐ。

「こんな威力のビーム、見た事ナイゾ!」
「ていうか攻龍そっくりなのになんでビーム!?」
「いや~ん、髪が………」
「こんなの食らったら、ナノスキンなんて一発で消し飛ぶわよ!」
「ライディングバイパーのフィールドでも持たない!」
「ブレータ!」
『外装が一部損傷、被害は軽微』
「じゃあお返し! イミテイト風情が!」

 フェインティアが先陣を切って攻撃しようとするが、そこへもう片方の主砲が上空にいる者達へと狙いを定める。

『全員回避!』
「散開!」

 冬后とミーナの指示で全員が一斉に散るが、ちらりと狙いを定めようとした主砲を見たエイラの顔色が変わる。

「広がって撃ってクル!?」
「拡散掃射! もっと離れてください!!」

 可憐が叫ぶが、次の瞬間赤いビームが扇状に拡散、範囲内で逃げ切れてない者達を襲う。

「うりゃ~!」

 気合だかどうか分からない声を上げながら、ルッキーニが多重シールドを展開しつつ、拡散しきる前のビームに突撃、そのほとんどを受け止めるが、ビームの消失と同時にシールドも消失し、小さな体が吹き飛ばされる。

「ルッキーニさん!」
「ルッキーニちゃん!」

 ミーナが悲鳴を上げるが、旋回していくルッキーニを近寄った音羽が零神でなんとか受け止める。

「大丈夫!?」
「うじゅ~………目が回る~………」
「怪我は無いみたいです! 目を回してますが………」
「でも助かったわ。Aモードじゃかわしきれなかった………」

 可憐が風神のセンサーでルッキーニのライフデータをチェックし、瑛花は拡散域の広さに思わず唾を飲み込む。

「ルッキーニのシールドで互角なら、私らのシールドなんて役に立たないゾ!」
「芳佳ちゃんがいたら……」

 今までパワー負けした事が無いルッキーニの固有魔法で相殺がやっとの威力に、エイラとサーニャの顔色も変わる。

「今度はこっちから行くわよ~!」
「待って亜乃亜!」
「その威力じゃ、連射は無理ね!」
「待てマイスター!」

 次弾が放たれる前に亜乃亜とフェインティアが制止も聞かず、左右から回りこもうとする。
 だが、今度は艦首の両脇が開いたかと思うと、そこから妙な突起物が四つ付いた丸い塊が左右に複数放出される。

「テトラPOD!」
「爆雷!」

 それが何かを知っていた瑛花と悟ったミーナが同時に叫ぶ。

「え…」
「しま…」

 速度を出していたため、放出された物体に二人は突っ込みそうになるが、激突する前に物体は炸裂、至近で爆風が吹き抜けるが、なんとかダメージを免れた二人は慌てて距離を取る。

「間に合った………」
「危険は回避した、マイスター」

 制止は間に合わなかったが、なんとか迎撃に成功したエリューとムルメルティアが、胸を撫で下ろす。

「何から何まで攻龍パクるんじゃんないわよ!」
「何から何まで?」

 エリーゼが怒鳴りながらバッハシュテルツェのレーザー砲を向けるが、その一言に可憐の脳裏に攻龍の武装スペックが思い浮かぶ。

「正面から回避してください!」

 可憐が叫んだ時、艦首下部から何かが射出された。

「魚雷!?」
「空飛んだらミサイルよ!」

 ミーナと瑛花が叫びながら、同時に迫ってくる飛行魚雷に銃口を向け、それぞれが放った銃弾が何とか撃墜する。

「まるでハリネズミね………」
「下手に近付かないで! CIWSみたいな物まで見えるわ!」
「離れたら主砲来るよ…」

 ストラーフの語尾は、再度主砲から放たれたビームの音にかき消された。

「冬后大佐! 火力が違い過ぎます! 指示を!」

 瑛花の声は、半ば絶叫に近かった。



「なんて奴だ………」
「武装は攻龍その物ですが、性能も破壊力も段違いです!」
「どこまでもふざけおって………」
「兵装は全部ワームの分裂体に近い物で構成されてますが、こんな物は前大戦のデータにもありません」
「あれが狙っているのは、攻龍じゃない。音羽達だ」

 七恵と周王の報告が響く中、冬后と副長が相手の驚異的な戦闘力に奥歯を噛み締める中、アイーシャが小さく呟く。

「ソニックダイバー相手に、フリゲート艦用意したって言うんですか!?」
「違う、音羽達だけじゃない。サーニャ達も亜乃亜達も、フェインティアも狙っている」
「艦長! 反撃を!」
「主砲発射用意、射線確保」
「皆さん下がって下さい! 攻龍で…」
『ダメです! 幾ら攻龍でも、通常艦ではあのビームには耐えられません! 安全域まで撤退を!』

 艦長の命令を、ミーナが大慌てで否定する。
 直後、向こうから発射された主砲が攻龍の間近の海面に直撃、再度攻龍は爆風と荒波で翻弄される。

「でもそれなら皆さんも!」
『対ネウロイ戦では、通常兵器はウイッチ到着までの時間稼ぎにしかなりません!』
「それは君達の世界の話だろう! この攻龍は…」
「攻龍を安全圏まで待避、ただし主砲はいつでも撃てるように」

 ミーナの指摘に副長が反論しようとするが、艦長は即座にその意見を汲み取り、一時待避を指示する。

「艦長!」
「我々はワームとの戦い方は知っているが、ネウロイとの闘い方は知らない。なら、経験者の意見は重要だ」
「しかし!」
「今ここで攻龍が沈められる訳にはいかん」
「……分かりました」
「いいか、全員距離を取れ! 動き続けて狙いを定まらせるな!」
『了解! しかし、攻撃しても硬い上にすぐに再生してます!』
「くっ………」

 冬后の指示で全員が的確に散開するが、攻撃が効いていない事に誰もが焦りを感じ始める。

『バラバラに戦ってはダメ! 赤城相手の時は、501小隊ウイッチ11人総がかりでようやく倒せたのよ!』
「11人?」

 ミーナの声に、艦長が僅かに反応する。

『なら、楽勝じゃん! 今こっちにはスカイガールズ4人にストライクウイッチーズ4人、Gの天使が3人、それにトリガーハートで12人もいる!』
『ちょっと、ボクらもいるよ!』
『私とストラーフも総合戦力とすれば14名、空母相手に11名の兵力だったなら、十分勝算はある』

 音羽の根拠のあるような無いような断言に、武装神姫達が訂正を入れる。

「いやまあ、確かに数の上だけならそうですけど………」
「そう簡単に数だけの話ではないぞ!」

 タクミが困惑する中、副長が怒号を上げる。
 だが、そこで艦長が小さく笑みを浮かべた事に気付いた者はいなかった。

「ヴィルケ中佐、あれと類似タイプとの戦闘経験は参考になりそうか?」
『武装その他がこちらとは大分違いますが、多少は』
「現時刻を持って、当該目標を攻龍・イミテイトと呼称、現場での総指揮をヴィルケ中佐に一任。攻龍は全能力を持って彼女達を援護、攻龍・イミテイトを殲滅する」
「艦長!?」
「今あれを倒さねば、今度はこちらが海底に沈む事になる」
「……そうですね」

 とんでもない英断に副長が声を上げるが、艦長の毅然とした態度に、冬后もその意味する事を悟る。

「皆さん、今からヴィルケ中佐に現場指揮権を委譲、攻龍は全力でサポートします!」
『……501小隊ヴィルケ、了解します』
『ソニックダイバー隊一条、了解!』
『Gエリュー・トロン、了解!』
『仕方ないわね。チルダ・フェインティア、了解!』

 タクミの通信にそれぞれのリーダーが答えた所で、計14人の少女達が一斉に攻龍・イミテイトに向き直る。

『行くわよ皆!』
『オ~!!』



「瑛花さん達は右翼、エリューさん達は左翼! 私達は上方から攻撃、目標の攻撃能力及び再生能力を確認! フェインティアさんはその間に背後に回って!」
「了解! 行くわよ!」
「私が先頭、亜乃亜の後にマドカ!」
「下から回るわ!」

 ミーナの指示で全員が分かれて攻龍。イミティトの四方を取り囲むように動きつつ、一斉に攻撃を開始する。

「兵装を狙って! 少しでも攻撃力を削がないと!」
「く~! 近寄ればMVソードで一気にいけるのに!」
「ダメです! CIWSのバルカンファランクスがずっとこちらをマークしてます! これ以上近付けば蜂の巣にされます!」
「この~!」

 ソニックダイバーが遠距離から銃撃を集中させるが、命中した端から再生していく事に皆が焦りを感じる。
 しびれを切らしたエリーゼがMVランスを投じるが、穂先が深くめり込んだかと思うと、柄が黒く変じながらブロック模様のような物が浮かび、そのまま飲み込まれていく。

「うえ!」
「取り込まれた!」
「不用意な近接攻撃はエサを与えるだけよ!」
「それを先に言って!」
「撃ち続けなさい!」

 ミーナの声にエリーゼが文句を言うが、瑛花が一括して火力を集中させていく。


「この、この!」
「なんて再生速度! サンプル取っていい?」
「こっちがサンプルにされるわ! 主砲にドマチックバーストを集中させ…」

 ライディングバイパーの火力を持ってしても徐々に再生が追いついていく事に、エリューは一気に相手の火力を削ぐべく、プラトニックパワーを高めていく。
 だがそこでテトラPODが射出され、そちらの迎撃に専念するためにドラマチックバーストの発射を中断せざるをえなくなる。

「火力が違いすぎる………どうしたら………」
「なら、スピードで!」
「亜乃亜それでさっきアレにぶつかりそうになったよね?」
「う……」
「きっとどこかに弱点があるはずよ、それが見つかるまで!」
『そうね、それまで頑張ってね』
「え……」

 突然響いてきた通信に、エリューだけでなく亜乃亜とマドカの顔も一瞬戸惑うが、すぐにそれがほころぶ。

『今そっちに向かってるわ』
『7分以内に到達する。それまで生きてて』
「トゥイー先輩! ティタ!」
「来てくれたんですね!」
『もうちょっと早く来るはずだったんだけど、色々手間取ってね』
『ティタ2世、全速力』

 それが同じユニットの仲間からの通信だと悟った天使達が、その顔に一気に喜色を浮かべる。

「今私達のユニットのリーダーと新人がこちらに向かってきてる!」
「あの二人が来てくれたら、一気に戦力増加だよ!」
「じゃあそれまで、負けないわよ~!」


「ブリッジを狙って!」
「それ~!」

 ミーナの指示で、ウイッチ達は一斉にブリッジ周辺に向けて銃弾を叩き込む。

「でも効くノカ!?」
「これが攻龍を模しているのなら、ブリッジ周辺に電子探知機器が集束してるはずよ!」
「多分あれ」

 XM312重機関銃から12.7mm弾を連射してるエイラが叫ぶ中、サーニャがXM307オートグレネードランチャーの25mm高速グレネードを連射、レーダーと思わしき物体を破壊する。

「やったカ!?」
「ダメ、再生してる!」
「任せて!」

 即座に再生を始めていくレーダーに向かって、ストラーフは小型の剣フルストゥ・クレインを次々と投射していく。

「まだまだぁ、どんどん行くよぉ!」

 計八本の小剣を投じたストラーフは、手に湾曲した剣アングルブレードを持って突っ込んでいく。

「これでどうだ!」

 ストラーフが小剣で囲まれた部位の中央に剣を突き立てると、その周辺が無数の光の小片となって砕け散っていく。

「これは!?」
「周辺のナノマシンを崩壊させたよ! これでここは再生できない!」
「そんな便利なのあるなら、最初から使えヨ!」
「エイラ!」

 ウイッチ達がストラーフの意外な能力に驚くが、そこでバルカンファンラクスがこちらに狙いを定めた事に気付いて慌てて回避する。

「え~い!」
「次はあの対空機銃をどうにかしないと!」
「お前、またさっきのアレやってきてクレ!」
「あのテトラPODどうにかしてもらえないと、ボクが食らったら消し飛んじゃう!」
「その前に、主砲をどうにかしないと………」

 応戦しながらも、ウイッチ達は次の手を必死になって考えていた。



「マイスター、後方から3、いや4発!」
「分かってるわよ! 迎撃できる!?」
「作戦認識、これより交戦状態に入る」

 攻龍・イミティトの下部を潜ろうとするフェインティアに向かって、テトラPODと飛行魚雷が次々と飛来してくる。

「落ちろっ!」

 後方から高速で迫る飛行魚雷に向かって、フィンティアの隣にいたムルメルティアは振り返るとメルテュラーM7速射拳銃を連射、弾頭部分を撃ち抜いて撃墜していく。

「マイスター、こちらの処理限界だ。一発抜ける」
「そうね、ガルクアード!」

 ムルメルティアの弾幕を潜り抜けてきた飛行魚雷に向かってフェインティアのアンカーが伸び、それをキャプチャーすると、旋回させて周囲のテトラPODを一掃、続けて船腹へと叩きつけ、爆発を起こす。

「これでどう!」
「ダメだ、すでに再生が始まっている」
「なんて再生速度よ!」
「本来なら水上船舶は喫水(きっすい)線下は装甲が薄いはずだが、これは逆のようだ」
「ちっ、早く後ろに回るわよ!」

 フェインティアとムルメルティアはそのまま真下を潜り抜け、攻龍・イミティトの後部に回りこむ。

「じゃあ、一気に攻撃…」
「! 後部ランチャー発動確認! 待避を!」

 一撃をお見舞いしようとしたフェインティアだったが、ムルメルティアの警告にとっさに強引にバック。
 そこへ、後部格納庫上にあるランチャーから一斉に何かが発射される。

「こちらに向かってこない?」
「ガス噴出確認! FAEB(※燃料気化爆弾)だ!」

 発射された弾頭から気化爆薬が噴出されているのにムルメルティアが気付いた瞬間、弾頭が着火。
 周辺をまとめて焼き払う凄まじい爆風が、攻龍・イミテイトを赤く照らし出した。

「うわあ!」
「何々!?」
「フェインティアさん!」
『フェインティアのシグナル確認、損害軽微のようです』

 いきなりの事に皆が戸惑う中、ブレータからの報告に皆が一様に胸を撫で下ろす。
 爆風が掻き消え、その向こうにフェインティアが姿を現す。

「あちちち、まさかあんな物まで装備してるなんて………あんたは無事?」
「問題ない、マイスター。我々でよかった。生身ならただではすまなかっただろう」
「こっちも一部は有機素材よ、ちょっと焦げたじゃない!」

 わずかに焦げた髪を見ながら、フェインティアが怒鳴りつける。

『一度そこから待避だ! 後ろが一番やばい!』
「言われなくても! たく、なんて重武装よ!」

 冬后の指示にいやいや従いながら、フェインティアとムルメルティアが上空へと逃れる。

「全員上空へ! 作戦を立て直します!」

 それに続くように、ミーナの指示で全員が攻龍・イミティトの上空へと集まっていく。

「データ収集及び解析、終了してます!」
「弱点どっか無い!?」
「ワームのセル結合に類似した組成ですが、かなり厚いです。これではどれだけ攻撃しても再生が追いつきます」

 可憐の解析結果に、思わず亜乃亜が飛びつくが結果は絶望的な物だった。

「そちらで前にあれみたいなのと戦った時は、どうやったの?」
「皆でドカ~ンってやって、私とシャーリーでズバ~ってやって、そこから芳佳とリーネとペリーヌが中に入って、コアドカ~ンってしたの」
「………つまり、内部に入るしかないわけか」

 瑛花の問いにルッキーニが答えるが、その意味をなんとか理解したエリューがむしろ顔を曇らせる。

「あれのどこからどうやって入るってのよ!」
「どてっぱらにぶち込んでやったけど、すぐに再生したわ」
「でも上からだと対空機銃の的になるゾ」
「後部格納庫ハッチ、そこが一番結合が薄そうです」
「後ろに回ったら黒焦げになっちゃう!」
「それなら問題ない。至近で防護フィールドが間に合わなければ、遺体も残らず蒸発する可能性が高い」
「もっと悪いわよ!」
「オイ、こっち向かってくるゾ!」

 明確な作戦を立てる暇も無く、攻龍・イミテイトがその巨体を回頭させ、上空にいる少女達へと向かってきていた。

「撃ってくる! 下へ逃げロ!」
「船腹なら主砲は当たらない!」

 エイラが叫びながらサーニャを連れて逃げ出し、瑛花もそれに続いて他の者達も一斉に砲撃範囲から我先に逃げ出す。

(このままでは打つ手が無いわ! 何か、何か!)

 最後尾となったミーナのすぐ後ろを拡散発射された真紅の閃光が宙を貫く。
 ウイッチとしての経験上でもない強力すぎる攻撃と、死角の無い武装の数々に、ミーナの思考は半ば空回りしながらも、必死になって対抗策を講じようと回転する。

「この位置だとテトラPODと魚雷が来ます!」
「散開!」
「もう来た!」

 両脇から降ってくる爆雷と弧を描きながら迫る飛行魚雷に、それぞれが回避しながらも迎撃していく。

「可憐さん! 攻龍と比べて、武装の残弾数は!」
「それが、もう攻龍の搭載限界を超えてます!」
「当たり前よ、内部からエネルギー反応、生成してるわね………」
「プラントまで自前!?」
「う~ん、やるな~」

 フェインティアの指摘に、瑛花が仰天し、マドカが妙な感想を漏らす。

「じゃあ弾切れ無し!?」
「イカサマもいいとこじゃない!」
「じゃあエネルギーは! ワームでもある限度を越えれば、セルの再生速度が落ちるはず!」

 音羽とエリーゼも仰天する中、瑛花が別の可能性を指摘する。
 だが、データ解析を進める可憐からは更に悪いデータが告げられた。

「これまでのワームと桁違いのエネルギーです! 今までの攻撃で再生速度は全く落ちてません!」
「やはり、どうにかして内部のコアを破壊するしかないわね………」
「どうやって!」
「近寄る事も出来ない……ドラマチックバーストを撃つ隙も………」
「また来るわよ!」

 それぞれのリーダーが攻めあぐねる中、再度攻龍・イミティトがこちらへと艦首を向けてくる。

「避けてマスター!」
「このままでは追い込まれる!」

 二体の武装神姫が叫ぶ中、再度皆が砲撃範囲から散開していく。

(このままではいずれ、主砲に捕らわれる! いつまで逃げ続けられ………逃げ続ける?)

 ミーナの脳裏に、相手の戦闘パターンに奇妙な違和感が浮かぶ。

(幾ら宙を飛んでいるとはいえ、戦闘艦が小型機を追い回すのは有り得ない。つまり、追わなければならない理由が…………!)

 再度発射された閃光をかわしたミーナが、自分の仮説にある種の確信を得た。

「可憐さん! 向こうの主砲の攻撃範囲及び発射所要時間を割り出して! 他の皆は相対速度を目標に合わせて、船腹に向かって一斉攻撃!」
「は、はい!」
「エイラさんとサーニャさんは爆雷と飛行魚雷の対処!」
『了解!』
「もうじき応援が来る! それまで持ち応えれば!」
「エリュー、マドカ、ドラマチックバースト発動までの時間稼ぎお願い!」
「OK!」

 全員が一斉に船腹へと向けて弾幕を叩きつける。

「余計な物が来ないなら! MVソード!」
「MVランス!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェが先陣を切って突っ込み、投じられる爆雷が撃破される爆風を縫って切っ先を相手の船体に突き刺し、そのまま一気に斬り割いていく。

「爆雷が増えてきたゾ!」
「手伝って!」
「分かってる!」
「亜乃亜急いで!」

 次々と投じられるテトラPODに、エイラとサーニャだけで処理しきれず、瑛花の雷神とエリューのロードブリティッシュも迎撃に食われる。

「ゲージ充填! ドラマチック…バーストー!」

 亜乃亜のビックバイパーから放たれた無数のレーザーが、二機のソニックバイパーが付けた斬撃を更に広げるように穿っていく。

「これはオマケよ!」

 ついでにとばかりにフェインティアがテトラPODと魚雷をまとめてアンカーで叩きつけ、更なるダメージを叩き込んだ。

「これなら!」
「いや、再生している!」

 ありったけの総攻撃の前に、攻龍・イミティトの船腹が大きくえぐれるが、即座にそれは無数のブロックが構築され、再生していく。

「今までの砲撃から砲撃範囲及び発射所要時間、出ました!」
「死角があるわね? 恐らく真上」
「確かにその通りです」

 ミーナの推察に、可憐が計算結果を転送表示さていく。
 それを見た瑛花も、相手の動きの意図を悟った。

「そうか、それでさっきからこっちを追い回してるのは!」
「主砲旋回範囲及び拡散範囲から計算して、攻撃範囲は水平範囲220°、垂直範囲82°!」
「後ろに回って、直上から突撃すれば、主砲は当たらない!」
「あのさ、後ろに回るとあのランチャーがあるわよ?」
「背後を取るのは不可能に近い作戦だ」

 活路を見出したかと思った矢先に、フェインティアとムルメルティアの指摘に皆の顔が曇る。

『ナノスキンの限界時間、半分を切ってます! 急いでください!』
「迷ってる暇は無いようね………」
「装備を整えて再出撃、なんて暇はもらえないでしょうし」

 タクミの焦った声に、瑛花とミーナは決断した。

「機銃と爆雷はこちらでなんとかします! エリューさん達はランチャーの発射を阻止、フェインティアさんは魚雷を!」
「その間に、私達が主砲を叩くわよ!」

 瞬時に部隊を分け、それぞれが己の役割を果たすべく機体を巡らせていく。

「エイラさんとサーニャさんは爆雷を! 私とルッキーニさんで機銃を叩き続けるわ!」
「サーニャは右、私は左! そちらに四つ続けて出る!」
「分かった」
「それ~、十発十中!」
「再生し続ける! 撃ち続けて!」

 次々と投じられるテトラPODが爆破され、その爆炎の間から放たれてくる銃弾同士が交差し、片方はシールドに当たり続け、もう片方は再生し続ける相手を破壊し続ける。

「てぇい! つぇい! えい!」

 飛来する飛行魚雷をフェインティアはアンカーでキャプチャーすると、旋回させて他の飛行魚雷と誘爆、次々と爆散させていく。

「いけぇ!」
「レーザー、ミサイル、全弾斉射!」
「再生してる間は、向こうも撃てないはず! でも再生が早すぎるよ!」
「音羽ちゃん達が成功するまで、絶対撃たせない!」

 三機のライディングバイパーの一斉攻撃が後部ランチャーを破壊し続けるが、破壊されたランチャーが動画を高速巻き戻しするような勢いで再生していく。

「ダメ! 待って!」
「再生に、追いつかれる!」
「ああ、間に合わない……!」

 マドカが絶望的な悲鳴を上げた瞬間、ランチャーの多目的弾頭が三人の天使へと狙いを付ける。

「本当の私を見せて差し上げます!…全て、砕け散りなさい!!」
「我、プランクの刹那よりその力を形作らん…みんなひかりにかえれー!!」

 ランチャーが発射された瞬間に、巨大な爪の生えた複数の触手と、すさまじいレーザー爆撃が発射された弾頭ごと、ランチャーを吹き飛ばした。

「今のは!」
「リーダー!」
「ティタだ!」

 亜乃亜達の物を遥かに上回る破壊力を誇るドラマチックバーストに、三人が歓喜の顔で振り返る。
 そこには、対艦強襲型RV、セレニティバイパーを駆るメガネをかけたエキゾチックな少女、亜乃亜達の学校の先輩で亜乃亜達の天使ユニットのリーダー、ジオール・トゥイーと、バクテリアン兵器と似た形状の奇妙なRV、ビッグコアエグザミナを駆る左目をアイパッチで覆った無表情な少女、ティタ・ニュームの姿が有った。

「危ない所だったわね。三人ともよく頑張ったわ」
「さっきからティタも参加します」
「攻龍、聞こえますか? こちら秘密時空組織「G」グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイー及び新人天使、ティタ・ニューム、今から敵殲滅に協力します」
『こちら攻龍、お二人のシグナルを登録しました!』
「なんか再生してる」
「あら。それじゃあみんな、行くわよ!」
『お~!』

 五期のRVから放たれる一斉攻撃が、ランチャーへと向かって解き放たれた。


「他のみんなが相手をしてる間に、主砲を叩くわよ!」
「転送した攻撃有効範囲に気をつけてください!」
「りょ~かい! 行くよゼロ!」
「突っ込むわよバッハ!」

 音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェがそれぞれ近接武器を構える。

「スピードが命よ、失敗したら次は無いわ!」
「ソニックダイバーが、ゼロが速さで負けるなんてありえない! いっけええぇぇ!」
「バッハ、最大出力!」

 零神とバッハシュテルツェが更に加速し、攻龍・イミテイトの主砲に向かっていく。
 それに気付いたのか、主砲が限界ギリギリまで角度を上げ、更に船体を傾けて四機のソニックダイバーを狙う。
 だが次の瞬間、高速で通り過ぎた二機のソニックダイバーがすれ違い様に主砲の根元を両断する。

「発射!」「はい!」

 直後に、雷神の大型ビーム砲と小型ミサイルが直撃、主砲を跡形も無く吹き飛ばす。

「やった!」
「まだよ!」
「行くよ!」
「吶喊する!」

 風神と雷神の背後にいた二体の武装神姫が、攻撃の余波から再生を始める主砲へと向けて突撃していく。

「ちゃんとやってよ!」
「誰に言っている! お前こそぬかるな!」

 高速で突撃しながら、ストラーフは大型腕部パーツGA4チーグルアームパーツを展開、ムルメルティアはインターメラル 超硬タングステン鋼芯をセットする。

「地獄の門をノックするよ!」
「こいつはわたしのお気に入りでな とくと味わうがいい!」

 ストラーフが再生しようとする主砲を異常なまでの破壊力で破壊、トドメにアングルブレードを突き刺し、ムルメルティアは主砲機関部の中心にタングステン鋼芯を叩き込み、同時に双方に仕込まれていたナノマシン崩壊システムが発動、主砲の再生を完全に封じた。

「完勝! 完璧! 完全無敵!」
「戦闘に勝利した。中佐の読み通りだったな」

 二体の武装神姫が勝ちどきを上げながら待避。

「艦長!」
『全員待避して下さい!』
『主砲、連続発射!』

 攻龍・イミテイトの主砲を完全に封じた事を知った攻龍が、前進しながらこちらの主砲を連続発射していく。
 連続の砲撃が攻龍・イミテイトの装甲を削っていくが、それでもなお再生は続いていく。

「しぶとい……」
「やはりコアを破壊しなければ!」
『皆聞こえる! 今イミテイトの再生と組成パターンを解析完了したわ!』

 攻龍の連続砲撃に持ちこたえる攻龍・イミテイトに瑛花とミーナが内部突撃の手段を考えた時、周王からの通信が入る。

『ワームのセル程ではないけど、ホメロス効果で崩壊はムリでも、動きは封じられるはず!』
『総員、ソニックダイバーを援護! クアドラロックで動きを封じ、内部コアを…』
「目標に動きが!?」

 冬后の指示が飛ぶ最中、攻龍・イミテイトの異常に可憐が真っ先に気付く。

「あれ、なんか出てきたよ?」
「カタパルト!?」
「亜乃亜達が出撃する時と同じだね?」

 攻龍の甲板に、紛れも無いカタパルトが展開していく事に全員がある予感を感じる。

『クアドラフォーメション、急げ!』
「クアドラフォーメーショ…」
「来たわ!」

 四機のソニックダイバーがフォーメションに入るより早く、カタパルトから何かが発射される。

「なんだアレ!?」
「ネウロイ!」

 エイラとサーニャが思わず叫んだ時、一番最初に発射された物が何かを振りかざしたのを見た音羽が思わずMVソードを眼前に構え、その一撃を受け止める。

「え、ええ!? ゼロと私!?」

 それは、漆黒のシルエットをしていたが、姿形はMVソードを構えた零神その物だった。
 そのコクピットには明らかに音羽にそっくりの姿をし、だが顔だけは何も無いマネキンのような者が乗っている。

「いけえぇ!」

 先手必勝とばかりに亜乃亜が撃ったレーザーをかすめ、まったく同じレーザーがすれ違っていく。

「ってええ!? 何よあれ!」

 そこでそのレーザーを撃った相手が漆黒のシルエットを持つビックバイパーで、それに乗っているのが同じくマネキンのような何も無い顔の亜乃亜そっくりの何かだった。

「まさか、これは………」
「うきゃ~~!!」

 響いてきたルッキーニの奇妙な声に、ミーナがそちらを見つめる。
 そこには、同じく顔に何も無い、しかし姿形だけはストライカーユニットを履いたルッキーニそっくりの者が浮かんでいた。

「コピーネウロイ………ソニックダイバーやライディングバイパーまで?」
『なんなんですかアレ!?』
『そこまでパチ物そろえてんのか! いや、それ以前にもうナノスキンの残時間が五分きってやがるぞ!』

 迷ったのは僅かな間、悲鳴染みた攻龍からの通信にミーナは即座に決断する。

「フォーメーションの準備を! こいつらは私達でなんとかします!」
「なんとかって言われても……!」

 完全につばぜり合いの状態で動きが取れなくなった零神だったが、何かが横合いからコピー零神のMVソードを弾き飛ばす。

「こいつはボクに任せて!」
「近接戦闘武装ならある!」

 MVソードを殴り飛ばしたストラーフと、主砲と鋼芯を展開したムルメルティアが両者の間に割って入る。

「こっちもいるわよ!」

 更にフェインティアのレーザーがコピー零神をかすめ、相手は目標をそれらに変更するように向きを変える。

「この偽物~!」
「エリュー、マドカ、亜乃亜を手伝って。こっちは大きい方を相手をするわ」
『了解!』

 二機のビックバイパーが壮絶なドッグファイトを始める中、更に二機のライディングバイパーがそれに加わる。

「サーニャさんとエイラさんは瑛花さん達のサポート! こちらは私とルッキーニさんで相手します!」
「ルッキーニは一人で十分だよ!」

 銃撃した相手にルッキーニがシールドを展開しながら突撃し、ミーナも指示を出しながらそれに続く。

「今の内! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 皆が奮戦している最中、上空へと舞い上がった。

「行くよゼロ!」

 四機が急降下しながら攻龍・イミテイトを取り囲み、零神のMVソードが甲板に突き立てられる。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP12
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/05/18 22:19
 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、ホメロス効果を強制発動させようとする。

「やはり、セル強制固定までは出来ません!」
『ホメロス効果発動を最優先! 人工重力場は最低、いや切って!』
「誰かが、内部に突入するしかないわ!」

 ワームとは勝手が違う相手に、周王とミーナの声が飛び交う。

「後部格納庫ハッチだったわね?」
『牙龍及び攻龍双方の内部図面を転送できるメンバーに全転送します!』

 ジオールのドラマチックバーストが攻龍・イミテイトの後部格納庫ハッチを吹き飛ばし、七恵がデータ転送を開始する。

 だがそこで、三機のコピーネウロイがまるで行く手を阻むように立ち塞がった。

「邪魔よ!」

 コピー零神に向かってフェインティアのアンカーが飛び、相手はそれをMVソードで弾こうとして逆にキャプチャーされる。

「目標補足、主砲発射用意! さあ、どうする? もう逃げられんぞ!」

 そこへムルメルティアの主砲弾が炸裂、搭乗していた者の体を大きく吹き飛ばし、胸の中にあったコアを露出させる。

「くたばれ!」

 コアへと向けてストラーフが突撃、アングルブレードでコアを両断する。
 直後、コピー零神の体が無数の光の粒子となって砕け散った。

「まず一機!」
「弱っ!」
「音羽! クアドラロックに集中して!」

 あっさりやられたコピー零神に音羽が思わず漏らすが、瑛花の檄に慌ててロックに集中する。

「じゃあ中のコアを破壊すればいいのね!」
「その通りだマイスター」
「マスター、行って来るね!」
「エイラさんとサーニャさんも行って! 内部で何が起こるか分からないわ!」
「了解! ………おい、機銃が動き始めるゾ!」

 武装神姫二体を伴って突入するフェインティアにエイラとサーニャも続くが、突入間際にとんでもない未来視結果をエイラが残していく。

「ホメロス効果、限界です! 活動停止しきれません!」
「マドカにおまかせだよ!」
「はいはい、消えて消えてー」

 可憐の悲鳴染みた声に続けて、攻龍・イミテイトの兵装が幾つか動きそうになるが、ライディングバイパーが即座にそれを破壊していく。

「負けないわよ~!」

 速度を上げる亜乃亜のビックバイパーに、コピービックバイパーが追随、すかさず亜乃亜が縦ロール機動しながらミサイルをコピービックバイパーへと向かって発射していく。
 ミサイルの直撃を食らったコピービックバイパーだったが、瞬く間に損壊箇所が再生していった。

「コアを破壊しなければダメよ!」
「いや~、やっぱ自分そっくりなのを撃つのはちょっと……」
「じゃあ私がやるわ!」
「亜乃亜さんも内部に突撃して!」
「分かりました~!」

 亜乃亜を押しのけるようにエリューがコピービックバイパーの前に進み、ジオールの指示で亜乃亜も慌てて格納庫ハッチへと向かっていく。

「手伝う?」
「いらないわ。こいつ、そっくりなのは見た目だけだもの」

 隣に来たマドカに断りつつ、エリューはロードブリティッシュを突撃させる。

「モードセレクト、RIPPLE。マルチプル!」

 ロードブリティッシュからリング状のレーザーが放たれ、射出されたマルチプルオプションからも同様のリングレーザーが発射、コピービックバイパーを弾幕で破壊していく。
 急降下、さらに回避行動を取ろうとしたコピービックバイパーに向かってエリューは容赦なくミサイルを発射し、相手の再生速度を上回る破壊力を叩きつけていく。
 やがて、コピービックバイパーに騎乗していた者の胸部が崩れ、そこにあるコアが露となった。

「モードセレクト、C.LASER! 落ちなさーい!」

 トドメを刺すべく、エリューはレーザーを貫通直線型へと変更。相手へと急接近しながら発射しようとした時だった。
 それまで何も無かった相手の顔がうごめき、そこに紛れも無い亜乃亜の顔が現れる。

「!!」

 予想外の事に、エリューは思わずトリガースイッチを押す指を止めてしまう。
 至近距離で急制動をかけて停止してしまったエリューは、相手の顔を間近で見てしまう。
 ルームメイトとして、仲間としていつも見ている亜乃亜と同じ顔に、表情が生まれた。
 本物の亜乃亜なら絶対浮かべない、悪意に満ちた邪悪な笑みを。

「い、いやあああぁぁ!」

 それを見た瞬間、自分でも訳の分からない絶叫を上げながら、エリューはドラマチックバーストを発動。
 至近距離で炸裂したスプレッドボムがコピービックバイパーを大きく吹き飛ばすが、そこに更に連続してスプレッドボムが叩きこまれ、コアどころかコピービックバイパーを完全に吹き飛ばし、消滅させていく。

「はあっ、はあっ………」

 バーストを撃ち尽くし、トリガーを引いても発動しない事でエリューはようやく我に返る。

「ど、どうしたの?」

 ただならぬ様子に、ジオールもこちらへと寄って来るが、エリューの顔は明らかに青ざめていた。

「あいつ、亜乃亜そっくりの顔になりました……」
「……後で詳しく聞くわ。今は戦闘に集中して」
「はい!」

 即座に機首を返して攻龍・イミテイトへと向かうエリューにひとまず胸を撫で下ろしたジオールは、すでに欠片も残っていないコピービックバイパーのあった空間を見る。

「あれは一体、何なのかしら………」
「避けて!」

 思考は上から響いてきたミーナの声で中断される。
 ジオールが機体を強引に横滑りさせ、シールドをかすめて小型のビームの連続発射が過ぎていく。

「そういえばまだ一つ残ってたわね」
「直に片付きます。資料程手ごわい相手ではないみたいですし」

 ミーナの言う通り、上空ではルッキーニとコピーウイッチのドッグファイトの真っ最中だったが、自由奔放なルッキーニの機動に、やがてコピーウイッチが追随しきれなくなっていく。

「それ~」

 大きく開脚しながら強引とも言えるターンで瞬時にしてコピーウイッチの背後を取ったルッキーニが、銃弾を叩き込む。

「カッコだけルッキーニそっくりで、勝てるわけないじゃん!」

 背後から連続で撃ち込まれた弾丸がコピーウイッチの装甲を穿ち、露出したコアが貫かれる。

「これで…」

 胸を撫で下ろしたミーナだったが、コピーウイッチの体が砕け散る寸前、コピーウイッチの顔が蠢き、ルッキーニそっくりの顔が浮かび上がる。

「!」

 思わず銃を向けたミーナだったが、その口が何かを呟くように動いただけで、すぐにコピーウイッチの体が光の粒子となって砕け散った。

(今のは……)

 まるで何かを誰かに伝えるようなコピーウイッチの動きに、ミーナの頬を生ぬるい汗が伝う。

『ナノスキン限界まで3分! 急いでください!』

 それが何かを考える間も無く、切羽詰ったタクミの通信にミーナは思考を後回しにして取って返す。

(私達は今、何と戦っているの…………)

 ミーナの胸の中に浮かぶ漠然とした不安は、どうしても拭い去る事は出来なかった。



「右! 3機来ル!」
「分かってるわよ!」
「マイスター、このまま直進だ」
「隔壁が降りてきてる」
「任せて!」
「後ろの隔壁再生してきてるよ!」
「コアを破壊すれば、全部崩壊スル!」
「また来た!」

 攻龍・イミテイトの内部へと突撃した6名だったが、内部から湧き出してくる小型ワームや小型バクテリアン、そして先手を打つように徐々にしまっていく隔壁に手を焼いていた。

「なんで中にこんなに敵がいるのよ!」
「想定の範囲だ。内部は牙龍そのままになっているのは好都合だけに、許容すべきだろう」
「赤城の時は、中でビームの嵐だったらしいカラ、だいぶマシだけどナ」
「外部と全然通信繋がらないし!」
「私の探知も上手く働かない。エイラの未来視が頼り」
「任せろサーニャ! また5機来る!」
「どきなさい!」

 現れた小型ワームをレーザーで一掃し、フェインティアが閉じた隔壁にアンカーを打ち込み、強引に引き剥がす。

「正面、あの隔壁の向こう!」
「気をつけて! 今までと厚さが半端じゃない!」
「いっけえ~!」

 亜乃亜が先導してレーザーを叩き込むが、隔壁の表面が焦げただけだった。

「ええ!?」
「一発でダメなら、もっとダ!」
「内部エネルギー数値、上昇確認。マイスター、このままだと相手の行動が活性化する」
「何やってるのよ外の連中は!」



「く、この………」

 MVソードを突き刺しながら、音羽はクアドラロックをかけ続ける。
 周辺の兵装が動いて攻撃しようとしてくるが、その度にウイッチや天使達が撃破していった。

『ナノスキン限界まで、残る120秒!』
『コアの破壊はまだか!』
『内部との通信、極めて不安定で状況が確認できません!』
『カウントが30切ったら、クアドラロックを解除して帰投しろ!』
『大佐! それでは内部に突入した人達が…』

 緊迫した通信が連続する中、音羽は零神から伝わってくるMVソードの手ごたえに変化が起きている事に気付く。
 何事かと思ってMVソードの切っ先を見た時、そこが黒く変じてきている事に気付いた。

「MVソードが!」
『どうした!』
「侵食です! MVソードの侵食が始まってます! このままではロックが……!」

 素早く状況を解析した可憐が悲鳴じみた声を上げる中、MVソードへの侵食は更に進み、刀身の半ば以上が黒く変じていく。

「音羽それを離して!」
「ダメ! これを離したら中に入った皆が……!」

 瑛花が叫ぶ中、音羽はそれでも手を離そうとしない。
 だが侵食は一気に進み、柄から零神へと及ぼうとした時だった。
 突然侵食が止まり、どころかゆっくりと黒く変じていた部分が戻っていく。

「あれ?」
「構成ナノマシンに外部からの干渉! 一時的に機能が停止して…」

 可憐の説明の途中で、それが何を意味するのか悟ったソニックダイバー隊全員が一斉に攻龍の方を振り向いた。

『アイーシャ!!』
『私なら、少しだけ抑えられる……急いで………』

 それがアイーシャの奥の手とも言えるナノマシン干渉だと気付いた皆が一斉に叫ぶが、攻龍のブリッジ内でアイーシャは己自身に極度の消耗を強いるその力を行使し続ける。

「は、早くして! じゃないと、またアイーシャが倒れちゃう!」
「ロックに集中! 私達にアイーシャのために出来るのはそれが一番よ!」

 エリーゼが慌てるが、そこへ瑛花の一括が入る。

『ナノスキン限界まで、あと100秒!』



「何よこれ!?」
「内部エネルギーが低下している」
「アイーシャがやってる………」
「今なら破れる! 行くよムルメルティア!」
「分かってるストラーフ!」

 突然のエネルギー低下に、皆が驚く中でそれを起こしたのが誰か悟ったサーニャが呟く。
 そこで好機と見た武装神姫が、己の得物を展開して隔壁中央へと突撃する。

「これでどうだ!」
「たああっ!」

 繰り出されたアームパーツと鋼芯の一撃が、隔壁中央を穿ち、そこから生じたヒビが瞬く間に広がり、隔壁を崩壊させていく。

「手早く終わらせるわよ!」
「行くぞサーニャ!」
「うん、エイラ」
「それ~!」

 フェインティアが一番に内部へと突入し、エイラ、サーニャ、亜乃亜と続いてストラーフとムルメルティアも内部へと突入する。

「これがコアね」
「な、何だコレ!?」
「ネウロイのコア……だけじゃない」

 内部にあった高密度のエネルギー源を見た者達が、それの予想外の形に絶句する。
 それは、三つのコアが正三角形を構成するようになっており、それぞれがまるで鳴動するように明滅を繰り返していた。
 頂点にあるのは、多面体で構成された赤い光を放つ、紛れも無いネウロイのコアだった。

「あ、あれバクテリアンのコア!?」

 左下にあるのは真紅の球体で、バクテリアンでもボスクラスの物が持つコアに間違いなかった。

「あれって………」
「攻龍のデータと一致する。あれはワームセルだ」
「うん。間違いないね」

 右下にあるのは青白い光を放つ多面体で、ワームを構成するセルの一つに間違いなかった。

「これって、どういう事?」
「分かるカ!」
「こんなの、見た事も聞いた事も………」

 皆が困惑する中、突然どこかからアラームが鳴り響く。

「ソニックダイバーのナノスキン限界、60秒を切ったようだ」
「そうみたいだね。じゃあまずやっちゃおう!」

 アラームをセットしていたらしいムルメルティアの言葉に、困惑していた四人も目的を思い出す。

「ガルクアード、アンカー固定! ガルトゥース最大出力!」
「サーニャ、残弾全部撃ち込むぞ!」
「うん!」
「バーストゲージMAX、ドラマチックバースト発動OK!」
「目標、攻龍・イミテイトコア」
「それじゃあ、撃つよぉ!」

 それぞれの銃口から、一斉に攻撃が解き放たれる。
 高出力のレーザーが、魔力を帯びた高速グレネード弾と12・7mm弾が、ロックオンから放たれるサーチレーザーが、小型だが高密度のエネルギーを内包した3・5mm砲弾とマイクログレネード弾が三種の合体したコアに炸裂。
 無数の爆発を起こし、三つのコアが同時に破壊されていく。
 全てのコアが砕け散ると同時に、動力室の周辺、やがて攻龍・イミテイト全体にもヒビが入っていき、そして一気に全てが砕け散った。

「やったわよ!」
「勝ったぞサーニャ!」
「うん!」
「エリュー、マドカ! 先輩にティタも大丈夫!?」
「大丈夫よ」
「うし、みんなの勝利!」
『ナノスキン限界まであと30秒!』
『急いで帰投しろ!』
「わあああぁ!」

 MVソードを握ったまま零神でガッツポーズを取った音羽だったが、もう時間が無い事に気付いて大慌てで他の三人と攻龍へと向かっていく。

「敵、殲滅を確認」
「これより、そちらに着艦します。私とティタの着艦許可を」
『全員の帰投を許可。ご苦労だった』

 作戦完了報告を入れたミーナと、着艦許可を求めるジオールに艦長からの返信が入る。

「お疲れ様。自己紹介がまだだったわね。私はカールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ」
「エリュー達から報告は聞いてるわ。私は秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーよ」

 二人のリーダーがお互い手を伸ばし、硬く握手をかわす。

「お互い話しておきたい事は山程あるけど、まずは帰艦ね」
「ええ、そうしましょう」
「ルッキーニお腹すいた!」
「亜乃亜もすきました~」
「はいはい、じゃあまずは帰ってご飯ね」

 ぞろぞろと皆も攻龍に着艦するべく向かう中、ミーナはすでに何も残っていない空間を見つめる。

(……考えすぎね)

 思わずため息をもらし、ミーナが最後に攻龍へと向かおうとした時、何かを感じた。

「!?」

 思わず背後を振り返るが、そこには何もない。

「………見られていた? 誰に? いや何に?」

 感じた視線のような気配に、ミーナが生唾を飲み込むが、やはり何も見当たらない。

(………気のせい、であってほしいけど………)

 湧き上がる不安を頭を振って払いのけると、ミーナも攻龍へと向かった。



「何とかなりましたな」
「ああ……」

 胸を撫で下ろす副長に、艦長も小さく吐息を漏らす。

「アイーシャ! 大丈夫!?」
「大丈夫………」

 崩れ落ちそうになったアイーシャを慌てて周王が支えるが、アイーシャは辛うじて意識を保っていた。

「早く彼女を医務室へ。帰投した者達も負傷者は治療を」
「ライフデータを見る限り、問題は無さそうです」

 艦長が指示を出す中、七恵が戦闘終了間際のモニターデータをチェックしていく。

「で、今あいつらどうしてる?」
「格納庫からの連絡だと、皆さんしてシャワーもそこそこにお腹空いたと言って食堂になだれ込んだそうです………」
「そんだけ元気なら問題ねえな。食い終わったら一条とヴィルケ中佐、それとフェインティアとGのリーダーさんに作戦会議室に来るように言っといてくれや。藤枝、それまでに今の戦闘データまとめておいてくれ」
「分かりました。皆さんのご飯も作らないと」
「30分ほど下さい。あ、そう言えば本部にはなんて報告すれば……」
「まずそこからか………」

 冬后が渋い顔をしつつ、席から立ち上がる。

「手伝うか?」
「ええ、お願い」

 そこでアイーシャを取り合えずその場で座らせていた周王に声を掛けるが、アイーシャがブリッジの外をじっと見つめている事に気付くと、何気なくその視線の先を見る。

「アイーシャ、何かいるのか?」
「見られてた。今の闘い、最初から最後まで……」
「何に?」
「分からない」
「藤枝」
「何の反応も有りませんけど……前も似たような事言ってませんでした?」

 ブリッジにいた全員が首を傾げながら、アイーシャの見つめる先を見るが、やはりそこには広がる空以外に何一つ、見つける事は出来なかった………



「これおいし~!」
「それ私の!」
「お代わり!」
「皆さんタフですね……」

 食堂に雪崩れ込んだ一同が、すさまじい速度で出された料理を食い尽くしていく。

「うおらタクミ! 急いで作れ! 間に合わねえぞ!」
「分かってます親方!」
「マドカ特性プリン、もう直できるからね~」
「このスープ変わった味だけど、けっこうおいしい」
「サーニャのシチーだナ」
「ザワークラウトが有ったから」

 マドカとサーニャが厨房でそれぞれ得意な料理を作っていたが、他のメンバーはただむさぼるように食う様は、激戦の証とも言えなくもなかった。
 なお、エリーゼ、ルッキーニ、ティタはすでにスプーン片手にマドカ特製プリンが出来るのを今や遅しと待ち構えていた。

「あの三人、一番食べてたわよね?」
「育ち盛りなのよ」
「甘い物は別腹って言うし」
「そうそう」

 瑛花とミーナが呆れる中、三人の後ろに同じくスプーン片手の音羽と亜乃亜も並ぶ。

「プリンってそんなにおいしいの?」
「マドカの作るのはどれもおいしい」
「ふ~ん、それじゃ私も…」
「マイスター、時間だ」
「各リーダーは作戦会議室に集合だよマスター」
「あらあら、もうそんな時間?」

 二体の武装神姫の言葉に、ミーナも時計を確認する。

「残念ね、プリンは後でいただきましょう」
「作戦会議室ってどこかしら?」
「案内するわ」
「早く終わらせましょ」

 瑛花を先頭に、ジオール、ミーナ、フェインティア、そしてストラーフとムルメルティアが食堂を離れる。

「は~い、出来たよ!」
『いただきます!』

 直後、出来立てでまだちょっと熱いプリンに無数のスプーンが突き立てられた。



「来たな」
「では始めるとしよう」

 作戦会議室では、艦長と副長、そして冬后と周王を含めた攻龍の上官が勢ぞろいしていた。

「改めて初めまして、秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーです。皆さんの事はすでに伺ってます」
「そうか、では余計な事は抜きで本題に入ろう」

 副長がそう告げると、作戦会議室中央の3Dディスプレイに先程の戦闘の様子が表示されていく。

「この攻龍・イミテイト、今まで我々が戦ったどの敵よりも厄介な相手だった」
「だが信じられん……何から何まで攻龍その物だ」
「けど、中身は牙龍のままだったよ」
「二種の図面と比較したが、突入したルートでは攻龍の内部とは明らかに違っていた。他は確認してないが、変化していたのは一部分だけではないかと推察する」

 ストラーフとムルメルティアが内部突入時のデータを3Dディスプレイに表示させていく。

「中は小型のワームとバクテリアンが結構いたわ。そして何より問題なのはこれね」

 フェインティアが破壊直前に記録しておいたコアを表示させる。

「これは、何?」
「何って、コアよ。これを破壊したら本体もキレイさっぱり消えたし」
「こんなコア、見た事も聞いた事も無いわ………」
「おいおい、ワームセルが混じってるぜ」
「こちらはバクテリアンのコアね………こんな混合型のコアなんてGの記録にも無いわ」
「つまり、攻龍・イミテイトは牙龍をベースとし、ワームセル・ネウロイコア・バクテリアンコアの三種の混合したコアを持っている、全く前例の無い存在、という事かしら?」
「そう、なるでしょう」
「実際この目で見ても信じられませんけど」

 周王の出した結論に、ミーナとジオールも頷く。

「信じられん……一体なぜこのような物が」
「確かにこれも問題だが、こちらも深刻だ」

 副長も呆然と呟く中、艦長が別の戦闘データ、コピーネウロイ達を映し出す。

「ヴィルケ中佐、君はこれをコピーネウロイと呼んだ。このような存在を知っていたのかね?」
「……はい。ここまでではありませんが、ウイッチを真似たネウロイと接触した事もあります。ただここまで似たコピーネウロイは、スオムス義勇独立飛行中隊の戦闘記録を読んだだけで………」
「その戦闘記録にはなんと?」
「それが、ネウロイとの戦闘中に行方不明になったウイッチがネウロイによる精神操作を受け、中隊メンバーのデータをネウロイに送信し、そのデータを元に作られたらしいと」
「待て! それでは今攻龍にスパイがいるという事か!?」
「副長、それは無いと思います」

 ミーナの言葉に思わず身を乗り出した副長だったが、瑛花がそれを否定。

「あのコピー零神ですが、カタパルトで射出されたにも関わらず、最初からAモード状態でした。それに動きも本来の零神ほどのキレがありません」
「それはこちらも言えます。あのコピービックバイパー、追加兵装の類を一切使ってきませんでしたし、機動性もイマイチ………」
「確かに。スオムス義勇独立飛行中隊の記録では、あまりに似た戦い方をするのでかなりの苦戦を強いられたそうですが、そこまで苦戦はしませんでした」
「じゃああのコピーネウロイは、不完全なデータで作られた?」

 周王の仮説に、三人のリーダーが一斉に頷く。

「はっ、とんだアマチュアね。多分主砲潰されて、大慌てで不完全な兵器を投入してきたって所かしら?」
「どうにも信じられんが、そう考えればつじつまはあうな………」

 フェインティアの呆れ声に、冬后も首を捻りながらも頷く。

「現代戦術を知らない者が作戦を立てたのならば、火力のある母艦の方を脅威とみなしていた可能性も十二分にありえる」
「ボクらの方がずっと脅威だったけどね」
「そうね。そのサイズで強いなんて普通思わないわね」

 ムルメルティアとストラーフの意見に、ミーナが思わず微笑む。

「それと、もう一つ気になる事が………アイーシャが、誰かに見られてたと言ってるのよ……」
「………私も戦闘終了後、一瞬ですが、何かの視線を感じたような気が」
「何の反応も無かったわよ?」
「ええ、こちらも………」

 フェインティアとジオールが思わず顔を見合わせ、首を傾げる。

「取り合えず分かってるのは、あれはとっくの昔に沈んだはずの船をベースにしていた。改造技術はこの世界に無いはずのネウロイらしい、しかも攻龍そっくりの兵装をしていた。そして…」
「複数のコアの融合を持っていた」

 冬后が指折り数える中、周王が最後の一つを口にする。

「そもそもワームにはコアに該当する物は存在しないわ。そちらで似たような事例は?」
「異種のコアを併せ持つネウロイなんて聞いた事もありません」
「ヴァーミスなら指揮中枢機にメインコアがあるけど、複数なんて事は無いわね」
「ここまで幾つもの世界の技術が混合されている事例は、Gでもありませんわね」

 周王の問いに三者三様の否定意見が上がる。
 その返答に、攻龍の上官は全員そろって頭を抱え込みそうになった。

「これでは、上層部になんと報告すればよい事か………」
「問題はそちらではない。今後、似たような敵が現れる可能性があるかどうかだ」

 一番難しい顔をしていた副長だったが、艦長の言葉に息を飲み込んだ。

「………その可能性はあります。もしあれがネウロイをベースとしているなら、次の対抗手段として新型の投入が行われるのがこちらでの通例となってます」
「技術革新が常時行われる、という訳ね。ワームよりもずっと戦闘的のようね………」
「おいおい、またあんなの出てこられたら洒落にならねえぞ」
「大型が連続して出る、と決まったわけではありません。ただ、どのような新型が現れるかは全くの不明としか」
「しばらくは警戒を厳重に。それと分かる限りのネウロイのデータをリストアップ。他のバクテリンやヴァーミスのも必要になるかもしれん」
「一条艦隊との合流を早めては?」
「まだ距離がある。何より本来の作戦に弊害が出る可能性もあるだろう」
「もう十分に出てる気もしますがね………」

 艦長の判断に、冬后があごをかきながらボソリと呟く。

「ソニックダイバー隊のみならず、全パイロットに向こう24時間の静養を通達。頼みの綱は彼女達にある」
「了解。一条以下ソニックダイバー隊四名、別名あるまで静養待機に入ります」
「ヴィルケ以下501統合戦闘航空団四名、同じく静養待機に入ります」
「有事の際は、小規模の場合は私とティタで対処します」
「私も自己調整に入るわ。24時間あれば、大抵の事には大丈夫なレベルにまでは持っていける」
「マスター、ボクもそろそろ……」
「我々も静養休眠に入る。最低6時間は作戦行動が無ければよいのだが」
「お前らも疲れたなら寝てろ。食堂にいる連中にも食ったら寝ろと言っておけ」

 眠そうな武装神姫二体を冬后は手で追い出すような仕草をしつつ、戦闘に参加したメンバーを部屋から退去させていく。

「さて、と………一条艦隊の合流に、最速でどれくらいかかります?」
「作戦を一時中断し、こちらから向かったとして………」
「最短でも72時間」

 冬后の問いにルートを示した副長と、素早く計算した周王が数値を弾き出す。

「一条艦隊のビックバイパー隊と合流できれば、リスクはかなり低くなりますね」
「だが、作戦その物を見直す必要が出てくる」
「ネスト探索という我々の作戦目標が執行できなくなるな」
「だが、現状ですでにネスト探索その物が不可能に近くなってきているのは事実だ」
「しかし………」
「攻龍の進路変更、一条艦隊との合流を優先する。合流までの間、再度所属不明の敵機と遭遇した場合、ビックバイパー隊の援護も要請する事とする」
「了解、関係各所に通達します」
「今後、同型出現の場合のフォーメーションを緊急立案、他のパイロット達との連携も考慮」
「了解、もっともあんな戦闘データ入れて攻龍のデータバンクがまともな判断出しますかね……」
「アイーシャの様子は?」
「大分疲労してますが、一晩休めば大丈夫だそうです」
「恐らく、現状で一番状況を理解しているのは彼女だろう。それでも何が起きているかを把握は出来てないだろうが………」
「回復次第、分かっている事を聞いてみます」
「72時間、何も起きなければいいのだが………」

 艦長の言葉は、今その場にいる者達全員の総意その物だった。
 なお、各リーダー達が食堂に戻った時、すでにプリンはエリーゼが死守したアイーシャの分を除き、食い尽くされていた。



「ん………」

 深夜、ふと何かの気配を感じてサーニャは目を覚ます。

「えへへ、サーニャ~~~………」

 隣ではだらけきった寝顔でエイラが寝言を呟いており、他のベッドでも疲労のためか半ば雑魚寝に近い状態で一つのベッドに数人が熟睡していた。
 エイラを起こさないようにそっとベッドを出たサーニャは、固有魔法を発動させてその気配を探っていく。
 足音を立てないように静かに歩いて辿り着いた先は、誰もいないはずの食堂だった。
 そこで明らかに何かの気配がある事に、サーニャは無言で電気を付ける。
 そして、冷蔵庫や棚を片っ端から開けているティタと目が会った。

「……何してるの?」
「ティタはお腹空いた」

 サーニャの問いに、もっとも分かりやすい返事でティタは即答。
 ただ、サーニャの記憶では彼女はオヤツから夕食まで自分の倍以上食べていたはずだった。

「勝手に探すのはいけないから、明日の朝まで…」

 サーニャが最後まで喋るより先に、ティタのお腹から否定意見のように音が鳴り響く。

「何か作る?」
「すぐ出来るなら。最高五分」
「………」

 余程お腹が空いているらしいティタに、サーニャはどうするべきか迷う。
 音羽達がお湯を注ぐだけで出来るインスタント食品が有ると教えてくれた気もしたが、置き場所までは教わっていない。
 なんとか探そうかと思った時、背後から足音が響く。

「何をしているんだ?」
「アイーシャ、大丈夫?」
「問題ない。少し疲労しただけ」

 医務室にいると聞いていたはずのアイーシャの姿にサーニャは少し心配そうな顔をするが、アイーシャは相変わらずの無表情で答えた。
 そこで再度、ティタのお腹から空腹を告げる音が鳴った。

「分かった。お菓子でよかったら私の部屋にある」
「いいの?」
「前にトランプで勝ったら音羽達がくれた。私はあまり食べない。それに二人に話があった」
「二人?」

 サーニャが首を傾げるが、ティタは無言でアイーシャに近寄り、じっと彼女の顔を見詰めていた。

「部屋まで来て欲しい、話は食べながらでもいい」

 無言で頷いたティタとサーニャを伴い、アイーシャは自室へと向かう。
 無言で部屋の扉を開けた所で、勝手にスナック菓子を開けて口に入れようとしていたフェインティアと鉢合わせした。

「あ………」
「フェインティアもお腹空いたのか?」
「いや、ちょっと有機再生分のエネルギーが足りなくなりそうだったんで………」

 気まずそうな顔で弁明するフェインティアだったが、口数の少ない三人の視線が集中し、それに押されて大人しく袋をベッド脇のテーブルの上へと置いた。

「わかったわよ! だから無言で見つめんじゃないわよ!」
「いや、一言言ってくれればあげるつもりだった。皆で分けよう」
「じゃあさっきのは何よ………」
「マイスター、就寝時間中に騒ぐのは静養の邪魔になる」

 テーブルの上のクレイドルで眠っていたムルメルティアにまで寝言で突っ込まれ、フェインティアがぶつくさ言う中、アイーシャは備え付けの棚からトランプで巻き上げた(アイーシャ自身に自覚は無いが)御菓子をあれこれ出すが、ベッドに腰掛けていたティタは無言でそれを端から貪り始める。

「あんた、さっきも随分食べてたわよね?」
「有機体なら、食べるのは常識」
「彼女は多分、私に近い存在」
「……それは私も感じていた。アイーシャに似てるような、違うような感じがする」
「またややこしいのが増えたみたいね………」

 ティタがむさぼる隣で、他の三人も思い思いに菓子に手を伸ばしていく。

「三人に聞きたい。昼間の戦闘で、何か感じなかったか?」
「何かって、具体的には?」
「私はチルダのデータバンクにも無いような奴と戦ったって事だけね」
「………」

 アイーシャの問いに、サーニャは首を傾げ、フェインティアは呆れたような口調で呟く。
 なお、ティタは視線だけはこちらに向けるが、相変わらず無言で御菓子を端から平らげていた。

「何かが、ずっとあの闘いを見ていた。そんな気がする」

 アイーシャの言葉に思わずサーニャとフェインティアは顔を見合わせ、同時に首を横に振る。

「そんな反応は無かった……」
「トリガーハートのセンサーにも、ブレータのセンサーにも余計な物は引っかかってないわよ」
「あれか」

 二人が否定する中、パーティーパックのポテトチップスを一人で食べていたティタがボソリと呟く。

「感じたのか」
「プランクの狭間から、じっと見ている奴がいた。それが多分今回の黒幕」
「ちょ、ちょっと待った! 私ですら感知できなかったのを、なんであんた達が!」
「分からない」
「細かい事は気にしない主義」
『…………』

 今一どころでなくよく分からないアイーシャとティタの即答に、フェインティアとサーニャはそろって黙り込んでしまう。

「ま、72時間以内に別の部隊と合流するらしいから、対処はその後で考えましょ」
「またあんな大きいの出てきたら困るしね………」
「その時はまたみんなで倒せばいい」
「下手の考え休むに似たり、と言います」
「………ま、確かにこのパーフェクトな私とあんた達がいれば、多少のイレギュラーは問題ないでしょうね」
「だといいんだけど………」

 自信があるのか、ただの楽観主義か、判断が付けにくい状況に、サーニャは少し困った顔になってしまう。
 そこで、最後の袋が空になったのを確認したティタが空袋をゴミ箱に捨てて立ち上がる。

「おそまつさまです」
「お腹いっぱいになった?」

 ペコリと頭を下げるティタに、サーニャが問うとティタは無言で首を縦に振る。

「ティタ、もしまたあれに気付いたら私に教えてほしい」
「……わかった」

 それだけ言うと、ティタは部屋を出て行き、サーニャもそれを追っていく。

「さて、私も調整休養に入るわ。お休み~」
「お休み」

 追加設置された簡易ベッドにフェインティアが横になり、アイーシャもそれに続けて多少食いカスの散らばっているベッドを払って横になる。

(そうだ、みんながいればきっとなんとかなる………きっと………)

 胸の中に残る僅かな不安を、頼れる皆の顔でかきけしながら、アイーシャは眠りへとついた………



「第3攻撃目標、模造艦撃破確認」
「現地での敵性体、戦闘力を上方修正」
「これ以上の第3攻撃目標への侵略は一時停止」
「第3攻撃目標、機械体群への干渉強化を優先」
「他目標機械体群への干渉強化を最優先事項に変更」
「同時に敵性体の詳細データ解析の必要あり」
「敵性体、最終目標への障害の可能性、極大………」



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP13
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/08/29 21:06
「う~ん……」

 妙な寝苦しさを感じ、音羽は目を覚ます。
 目に入ってきたのは、小麦色の細い足だった。

「あり?」
「うにゅ~……」

 視線を下へと動かすと、何がどうなってるのかは不明だが、上下逆になっているルッキーニがこちらの足に抱き付いていた。

「あの、ルッキーニちゃん?」
「すぴ~」

 音羽は恐る恐る声を掛けてみるが、ルッキーニは熟睡していて起きる様子が無い。

(昨日は大変だったからな~)

 攻龍・イミテイトとの激戦を思い出しつつ、音羽は相変わらず熟睡しているルッキーニを見る。

「シャーリー……」

 そこで、ルッキーニの口から呟きが洩れる。

(シャーリー? 確かルッキーニちゃんの保護者代わりの人だっけ………胸が七恵さん以上の)
「シャ~リ~………」

 ウイッチ達から名前だけは聞いていた相手の事を思い出した音羽だったが、ルッキーニが再度その名を呟く。
 上下反対なのでよく見えないが、その目じりには僅かに涙が浮かんでいるように見えた。

(……いきなり見た事も無い場所に飛ばされて、訳の分からない敵と戦ってるんだから、さみしくなって当然だよね……!?)

 突然感じた感触に、音羽の思考が断絶する。
 足を掴んでいたはずのルッキーニの両手が、しっかりと音羽の尻を掴み、挙句に揉んでいた。

「ちょ、ルッキーニちゃん?」
「……うじゅ、残念賞」

 思わず赤面しながらなんとか剥がそうとした音羽の耳に、ルッキーニの呟きが飛び込んでくる。
 15分後、上下逆さのルッキーニに足にしがみつかれたままの音羽のすすり泣きで目が覚めた可憐とエリーゼは、状況が理解できずに顔を見合わせた。



「システムならレシプロ機に近いが、配線が独特だな」
「そうっすね、特に動力周りなんて意味不明に近いし……」
「私もそこまではよく分からないのよね……今の所不調は無さそうなんだけど」
「外装だけならこっちでもなんとかなりそうだ。ただ、このままだといつオシャカになるかは責任持てん」
「う~ん………」

 格納庫の中で大戸と遼平、そしてミーナが半ば手探り状態でストライカーユニットの整備に取り掛かっていた。

「応急処置以上の知識を持ってるウイッチ自体、それほどいないのよ。シャーリーさんは自前で改造してたけど」
「技術体系が違い過ぎる。本格的に整備するなら、まずどこぞの研究機関で専門研究する所から始める事になるぞ」
「こんなんどう研究すりゃいいんだ?」
「エネルギー工学の専門家がひっくり返りそうなのは確かね」

 背後から聞こえた声に三人が振り返ると、そこに電子レポート片手の周王が立っていた。

「戦闘時その他のデータを見せてもらったけど、私でも機動理論は理解不能よ。そもそも、このサイズで信じられないエネルギー効率の数値が出てるわ。純粋な出力比ならソニックダイバーやRVの方が上だけど、独自性はストライカーユニットの方が上ね」
「となると、この時代ではストライカーユニットはオーバーホール不可能という訳ね………」
「残念ながらな」
「でもウイッチの人達は回避うまいっすから、ダメージは最低限で済んでます。まあしばらくはなんとか……」

 どうにか遼平が整備をしている時、格納庫の扉が開いてどこか虚ろな目をしてうつむきながら音羽が木刀片手に現れる。

「どうした音羽、暗いぞ?」
「………遼平」

 習慣の剣術訓練にでも来たのかと思った遼平だったが、顔を上げた音羽の目が涙ぐんでる事に、思わずたじろぐ。

「あたしってそんなに貧相かな………」
「……何の話だよ?」
「………ルッキーニちゃんに」
「彼女の基準は気にしない方いいわよ? 大丈夫、これからまだまだ魅力的になれるわ」
「ミーナさん……本当ですか? 信じていいんですか?」
「ええ」

 ミーナの助言に、音羽の顔が段々明るくなっていく。

(のせるのが上手いな)
(ウイッチの隊長というだけあるわね)

 その光景を大戸と周王が感心していると、遠くからローター音が響いてきた。

「あれ? なんか搬入予定ありましたっけ?」
「いや、ねえな……待て、ありゃ……」
「来たようね」

 遼平と大戸が外を見る中、一機のヘリがどんどん近付き、やがて後部甲板に着艦する。
 そして機内から鋭利な目つきをした若い男性士官が降りてきた。

「げ、緋月さんだ………」
「一条艦隊に行ってたんじゃ………」
「誰?」
「ソニックダイバー隊の元副官さ。もっとも冬后とは反りがあわねえ事が多いが」

 明らかに苦手そうにしている音羽と遼平の様子に、ミーナが首を傾げた所で大戸が説明する。
 当の緋月は出迎えた周王と何か話し込んでいたが、やがてミーナの方に鋭い視線を向けるとこちらへと向かってくる。

「貴女が、ウイッチ隊の隊長ですね?」
「ええ、初めまして。カールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団 《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」
「統合人類軍 極東方面大隊 技術開発本部所属、緋月 玲少尉です」

 ミーナの敬礼に、緋月も返礼で返す。
 だがその目は、ミーナを油断無く観察しているようにも見えた。

「早速ですが、少し会議を行いたいので、ご出席願えますか?」
「分かりました。私だけでいいでしょうか?」
「極秘事項なので」

 それだけ言うと、緋月は素早く艦内へと消えていく。

(なるほど、音羽さんが苦手な訳ね……どこかマロニー少将に雰囲気が似てるわ。もっとも彼の方が何枚も上手のようだけど)

 第一印象ですらどこか謎を感じる緋月に、ミーナは油断しない事を心中で決める。

「一条さんとトゥイーさんも読んだ方がいいわね。ちょっとこちらで判断できない事が起きたわ……」

 周王の言葉に、尋常ならざる事態が起きつつある事を、ミーナは薄々悟っていた。



「これは、本日未明に一条艦隊所属ビックバイパー隊が撮影した物です」
「おいおい、どうなってやがるんだこりゃ………」

 士官室の中で映し出される映像に、冬后は絶句していた。
 だがそれは、その映像を見ていた他の全ての者達も同じだった。
 映し出されたのは、無数のワームがどうやら二つに別れ、争っている光景だった。

「ワームが同士討ちだと? そんな事は聞いた事も無いぞ!」
「オレもです。ワームとは散々戦ったが、こんな状況は一度たりとも………」
「ワームとの戦闘資料にもこんな記述はありません」

 副長が声を荒げる中、冬后も瑛花も自分の知りうる限りの対ワーム戦闘データを脳内で探ってみるが、こんな事例は欠片も無い。

「有り得ないわ………ワームの根幹は医療プログラムよ。同士討ちなんてそもそも組み込まれてないわ」
「……似たような光景を見た事があります」
『!?』

 ミーナの発言に、全員の視線が彼女へと集中する。

「私達の世界で、ネウロイのコアを利用したウォーロックという無人兵器が製造された事があります。ウォーロックの最大の兵装は、内蔵されたコアをネウロイに干渉させ、同士討ちさせるコアコントロールシステム。それを使用した時、ちょうどこれと同じ事が起きました。
ただ、システムその物が未完成だったため、ウォーロックは完全にネウロイ化して友軍に攻撃、最終的には赤城と融合、我々501小隊が総力を持って撃破する事態となりました」
「つまり、これは何者かがワームに干渉してきた結果だと?」
「恐らくは………」

 緋月の恐ろしい仮説にミーナが頷き、その場がざわめき始める。

「不可能よ! ワームに干渉どころか、完全に乗っ取るなんて事、アイーシャにすら………」
「確かに私にも出来ない。けど、ワームの中枢プログラムに匹敵、もしくはそれ以上の能力を持つシステムがあれば可能」

 周王がその仮説を否定しようとするが、それまで無言だったアイーシャが仮説に補足事項を足す。

「ちょ、ちょっと待って。仮にそれができるとして、それってどれくらいの物が必要なのかしら?」
「………攻龍の全電算能力をそれに集中させても、不可能ね」
「一条艦隊の全艦艇の電算機を並列化させても不可能でしょう」
「………この世界に中枢本部並の能力を持つ移動要塞でもあれば可能なんじゃない?」

 ジオールの問いに、周王と緋月が少し考えて絶望的とも言える可能性を述べ、ついでとばかりにフェインティアが余計な突込みを入れる。

「だが、現実に起きている。他に可能性は?」
「残念ながら、現在の我々の技術では、ワームにこれほどの電子攻撃を行うのは不可能です」
「Gの中枢オペレーションが総力をかければ可能かもしれませんが、それ程の干渉は許可されてません………」

 艦長の疑問に、周王、ジオールがそれぞれ否定意見を述べる。

「つまり、我々のあずかり知らぬ所で、ワームに干渉できるほどの能力を持った何かが行動している、と考えるのが妥当という事ですか」
「……認めたくは無いが、そうとしか考えられん」

 緋月の導き出した答えに、艦長も重々しく頷く。

「……あいつだ」
「あいつ、とは?」
「分からない。けど、最近ずっとこちらを見てる奴がいる。あいつしか考えられない」

 アイーシャの意味不明な言葉に、緋月が周王の方を見るが、周王も困った顔をして首を傾げる。

「どうやら、アイーシャにしか感じられない何かがいるらしいんだけど、他の誰にも……」
「私も一瞬何かを感じた事はあるのだけど、彼女程は………」
「分かりました。私はすぐに一条艦隊に戻り、今後の対策を統合軍本部と協議します。ワームに直接干渉出来るような者がいるとしたら、ネスト攻撃作戦が根底から覆される可能性が…」
「マスター!」「マイスター!」

 そこへ、今まで姿を見せなかったストラーフとムルメルティアが慌てた様子で士官室へと飛び込んできた。

「あら、やっと起きたの?」
「大変、大変だよ! 大規模な時空歪曲エネルギーが発生してるよ!」
「それって!」
「時空転移の前兆だ! しかもとんでもない大型の…」

 それぞれのマスターに慌てた様子で報告する二体の武装神姫に続けて、ジオールの携帯端末がけたたましいアラームをかき鳴らし、同時に虚空にオペレーションシステムのオペレッタの姿が映し出される。

『緊急報告、そちらの座標に大規模な時空歪曲を確認。至急その場から離脱してください。繰り返します…』
『み、皆さん! 外、外が!』

 更に続けて、艦内放送から慌てふためいたタクミの声が響く。

「何事だ!」
『わ、分かりません! けど外が!』

 副長の怒声にも要領を得ないタクミの様子に、艦長と副長、それにアイーシャを除いた全員が一斉に室外へと駆け出す。

「第一級警戒態勢発令、隔壁降下用意」
「外の映像を!」

 艦長と副長が次々と支持を出す中、外部の映像が画面へと映し出される。

「これは………」
「……呼んでる、誰?」



「おいおい、なんだこりゃ!」
「何が起きてるんや!」
「全員中に入れ!」

 攻龍のクルー達が外の光景を見て絶句する中、士官室から飛び出してきた者達が後部甲板へと飛び出し、そこから見える光景に絶句する。

「な、こいつは………」
「アレは何!?」
「時空歪曲! しかも大型!」
「あれは………!!」

 全員が絶句する中、それが何か分かったジオールと、見た事があるミーナの顔色が変わる。
 それは、虚空に突如として出現した奇妙な渦、他でもないウイッチ達がこの世界に飛ばされた原因と全く同じ物に見えた。
 だが、その直径は比べ物にならず、攻龍を丸ごと飲み込めるほど巨大だった。

「みんな艦内に待避して! 隔壁を!」
「すぐにRVの発進……間に合わない!」
「ちょ、なんか吸い込まれてない!?」

 フェインテイアの言葉通り、攻龍は徐々にその渦へと向かって引き込まれつつある。

「ブレーダ!」
『干渉不可能、相対エネルギーが違い過ぎます』
「す、吸い込まれたらどうなるんや?」
「そりゃ、ウチらがウイッチの皆はんと同じ身分になるだけや!」
「逃げられる連中だけでもどうにか逃がせ! ソニックダイバーの緊急発進…」
「無理よ、ブレーダの脱出艦の出力でも無理なのが小型機の出力で脱出できる訳ないじゃない!」
「下手すれば歪曲に引きちぎれるぞ。マイスター程の強度があればなんとかなるかもしれんが」
「ち、発進停止! 早く中に入れ!」

 推力全開でなんとか渦から逃れようとする攻龍だったが、脱出艦もバーニアを吹かして協力するがすでに渦から逃れる事は不可能な領域に到達しつつあった。

「総員艦内待避完了、隔壁閉鎖!」
「ほい!」
「どうやら、覚悟決めなあかんようやな……」
「どんな覚悟だよ!」

 遼平が思わず怒鳴った時、渦の吸い込む力が急激的に強くなっていく。

「きゃあああぁぁ!」

 音羽が思わず悲鳴を上げて手近の柵にしがみ付いた時だった。

(音姉………)
「誰!?」

 突然響いた声に、思わず音羽が叫ぶが、周囲にその声の持ち主はいない。

(気をつけて……あれは………機械を…統べる……もの……)

 途切れ途切れの声が音羽の脳内に直接響くように聞こえてきた時、凄まじい振動が攻龍を襲う。

「おわああぁぁ!」
「地震かぁ!?」
「違う、攻龍が浮いたんや!」
「馬鹿な! 攻龍が何tあると…」
「何かに掴まって! 飛ばされるわ!」

 ジオールの声に、全員が手近の物にしがみ付いた時、攻龍と脱出艦、二つの船が、その世界から消えた。
 後には、何も無い、静かな海が広がっていた………



AD2300 銀河中央アカデミー

「以上が私が導き出した理論です。これを利用すれば、より効率的かつ、安全な能力使用が可能となります。最大の利点は、空間断層をはさむ事により、能力使用者の危険を最大限に減らす事が出来る点となります。何かご質問は?」

 巨大な議場の中央、一人の男性がある新理論の発表を終えようとしていた。
 直接、回線越しを含めて数千人以上の科学者がそれを聞き終え、全ての科学者達がその新理論に目を見張り、互いに意見を交換しあう。
 だがそこで、一つの拍手が起きる。
 見れば議席の中央、恐らくはこの場で最年少と見えるメガネを掛けた三つ編みの少女が、一人手を叩いていた。
 それに同調するように拍手は広がり、やがて満場の拍手となって新理論は受け入れられる。

「それでは、これで発表を終わります」

 壇上の男性は小さく頭を下げ、その場から降りる。
 後には、なかなか鳴り止まない拍手だけが残っていた。



「もう直到着ですよ」
「うわあ、あれが全部学校?」
「すごいな、まるで城だ…………」

 見えてきた銀河中央アカデミーの姿に、ウイッチ達は絶句していた。

「学部だけでも150以上、生徒数だけでも数万、関連研究機関を含めればちょっとした国家惑星並の巨大コロニーだからね」
「この銀河の最先端技術の半数以上がここから生まれてるわ。私の武装もここの関連施設で作られたの」
「凄まじいな………」

 ポリリーナとミサキの説明に、バルクホルンですらも絶句していた。

「リューディアは先程到着したようです。こちらも」
「入港許可は出てるわ」
「エミリーちゃんがデッキまで今迎えに来るって。あと、ミサキちゃんから頼まれた事、アポ取っておいたとかメールに書いてあるンだけど、何?」
「ちょっと気になる事があって」
「ふ~ん、ねえねえ見学とかしていいのかな?」
「頼めば許可は出るみたいですよ、もっとも下手に横道にそれると遭難する程広いそうですが」
「毎年新入生がそれで捜索されるって噂もあったわね」
「ハルトマン、貴様はここで大人しくしてろ。捜索の手間が省ける」
「え~」

 興味しんしんのユナにエルナーとポリリーナがどこか危険な事を呟き、それを聞いたバルクホルンがハルトマンに釘を刺す。

「とにかく、ここで集められるだけの情報を集めましょう」
「私のIDなら、ここの中央図書館のAAレベルまで閲覧可能よ」
「じゃあ私とエグゼリカはそっちに。ヴァーミスの情報が見つかるかも」
「香坂財団はここにも出資してますの。私はそちらから当たりますわ」
「私達はウルスラ・ハルトマンと合流してストライカーユニットの整備を依頼しておこう」

 ドッグに接岸した所でそれぞれが行動を開始し始める。

「それでは、その第一人者とやらに会ってみるか」
「ほら、ユナも」
「は~い」
「私も行きます。エグゼリカは先に図書館へ」
「分かりました姉さん」

 ぞろぞろと皆が降りてくるのを、三つ編みにメガネをかけた少女、元暗黒お嬢様13人衆の一人、「教養のエミリー」ことエミリア・フェアチャイルドが出迎える。

「いらっしゃい、ようこそ銀河の知の中枢へ」
「久しぶりエミリーちゃん」
「話は聞いてるわユナ。パラレルワールドからの異邦者に別銀河の機械戦闘体、非常に興味をそそられるわね」

 そう言いながら微笑むエミリーの目に尋常ならざる光が宿っているのを美緒は見逃さなかったが、多少変わった人物らしいとの話を聞いていたのであえて何も言わないでおく。

「その件はあとでデータを渡します。それよりも今は現状のデータ解析を」
「あら、この子がミサキが言ってた武装神姫ね」

 美緒の肩にいたアーンヴァルが先導を促すが、エミリーはそちらにも視線を送り、メガネを少し動かす。
 同時にメガネに仕込まれたセンサーが発動、アーンヴァルの簡易解析データが次々と表示されていくが、そこでエミリーが首を傾げる。

「どういう事かしら? このサイズでこのエネルギー量、メルトダウンくらい起こしそうなんだけど………」
「めるとだうんとは何だ?」
「それは私も気になりましたけど、その辺もあとで調べてみましょう。やる事は山積みです」

 エルナーに促され、色々と名残惜しそうな視線のまま、エミリーは頷く。

「そうね、まずは先約から済ませましょう。学会の前に入れておいたのは運がよかったわ。発表の後、アポがひっきりなしで全然取れないらしいの」
「そんなにすごい発表だったの?」
「ええ、能力開発の関係者がひっくり返ってたわ。世の中、天才ってのはいる者ね。私以外にも」
「はあ………」

 ポリリーナの問いかけに少しアレな返答を返すエミリーに、同行を促された芳佳は生返事を思わず漏らす。

「あの、坂本さん。坂本さんならともかく、なんで私がその学者さんに会わなければならないんでしょう?」
「私にも分からん。だが、ミサキは何か思う所があっての事だろう。無駄な事を好む人物には思えんし」
「待ってください!」
「あ、ウルスラさん。お久しぶりです」
「挨拶も無しに何をそんなに慌ててるんだ?」

 そこへ、背後からウルスラが駆けてくる。
 彼女をよく知る者なら驚いただろうが、ウルスラは極めて珍しく慌て、手には先程公表されたばかりの理論式が表示された端末を持っていた。

「これ、本当にここで発表されたんですか?」
「そうだけど………」
「その人に合わせてください、すぐに」
「これから行く所だ。どうかしたか?」
「この理論式は、間違いなく…」

 途中まで言った所で、ウルスラが芳佳の姿に気付いて口をつむぐ。

「いえ、会ってからにします」
「?」

 首を傾げる芳佳だったが、一向はそのままアカデミー内を進み、ある部屋の前で立ち止まる。
 そこでミサキが一歩前に進み、インターホンを押した。

『はい、誰かな?』
「一条院です」
『ミサキ君か、どうぞ』

 インターホンから聞こえてきた男性の声に、芳佳はふと何か懐かしさを感じる。

(今の………)

 芳佳がその懐かしさが何かを思い出す前に扉が開き、皆がその中に入る。

「失礼します」
「急用って言ってたけど、一体…」

 室内にいた白衣姿の男性が、書類を手にしながらこちらへと振り返る。
 その顔を見た芳佳は、一瞬自分の心臓の鼓動が止まった気がした。

「お父………さん?」
「芳佳? 芳佳なのか?」

 そこにいた人物、写真や記憶より少し老けたような気もするが、それは紛れも無く、父親の宮藤 一郎に他ならなかった。

「大きくなったな、芳佳」
「お父さん!!」

 父親が、記憶にある通りの笑顔を浮かべた時、芳佳は思わずその胸に飛び込み、泣きじゃくる。

「本当に宮藤博士なのですか!?」
「美緒君か、立派になったな」
「あ、いえ……」

 予想外の人物に、美緒すらも呆然としていた。
 だが、ウルスラだけは予想していたのか小さく頷く。

「やはり、これは宮藤理論………しかもかなり進化した物ですね」
「おや、君もウイッチか」
「ウルスラ・ハルトマンです。しかし、宮藤博士は行方不明と聞いてましたが……」
「そうだ。私がいない時に、研究所がネウロイの襲撃を受け、遺体は見つからなかった……」
「さて、何から話せばいいのかな………そうだ、まずはミサキ君にお礼を言わないと。君が娘を連れてきてくれたのだからね」
「いえ、博士には前に色々とお世話になりました。それに、前に見せてもらった娘さんの写真が、彼女とそっくりだったので………」
「お陰で、また芳佳と会えた。ありがとう。ただ、あまり喜んでもいられないだろうね」

 宮藤博士の言葉に、泣きじゃくっていた芳佳がふと泣き止む。

「そ、そうだ! お父さん、私達元の世界に戻らないと!」
「その前にこの世界にネウロイが確認されたのです!」
「ヴァーミスがこの銀河に侵攻を開始しました!」
「他にも色々異常が起きてます。ぜひとも博士のお考えを…」
「皆さん、取り合えず落ち着きましょう」

 全員が矢継ぎ早に話す中、エルナーがなんとか話をまとめようとする。

「そうだな、ひとまず君達の船に行こう。色々と確認しなければならない事もある」
「分かりました。こちらもまだ情報収集の途中ですし」
「まずは………」



「宮藤博士が生きてた!?」
「芳佳ちゃんのお父さんが?」
「行方不明と聞いてましたけど……」
「でもなんでここに?」
「次元転移がもっと前から起きてたんじゃ……」
「あ、ちょうどいいや。ストライカーユニット見てもらおう♪」

 宮藤博士来訪の情報に、ウイッチ達を中心として皆が騒ぎ始める。
 色々と憶測が飛ぶ中、プリティーバルキリー号の中央会議室で主だったメンバーが集められて緊急会議が行われていた。

「まずは自己紹介をしておこう。私は宮藤 一郎、芳佳の父でストライカーユニットの理論設計をした者だ」
「その人がなぜここに?」

 エリカの問いに、宮藤博士の口からその時の事が語られ始めた。

「あれは7年近く前になる。ストライカーユニットの汎用小型化に成功し、私は次の段階の研究に取り掛かった。それはまた新たな理論を用いた、完全な新型ユニットの試作だった」
「エーテル反応型ユニット」

 ウルスラの発した言葉に、宮藤博士は頷く。

「まだ理論も手探りの中、試験用モデルの製作に取りかかった時だった。そのモデルが突如として異様なまでのエネルギーを発し、その結果、ネウロイを呼び寄せる事となった」
「そんな事が………私は何も聞いてませんでしたが………」
「まだ危険度すら分かってない研究だった。軍にすら極秘に研究していた物で、とても報告が出来る状態ではなかった。だが、その危険度を一番最初に気付いたのはネウロイの方だった」

 その時の事を思い出したのか、宮藤博士の顔に苦渋の表情が浮かぶ。

「ネウロイの爆撃が行われた時、試験用モデルは更に異常なエネルギーを発し、爆発と同時に私は気を失った。気付けば、この世界の病院に私はいた。当初は見た事も無い物ばかりある世界に驚いたが、やがて少しずつ状況が飲み込めた。あれは、空間どころか次元にすら干渉できる代物だったと」
「なるほど、それで私がこの世界に飛ばされた理由も分かりました」
「そんな物騒な物研究してたんですか……」
「未知に立ち向かわずして何が科学と!」

 ウルスラが妙に納得する中、エルナーが呆れてなぜかエミリーがやけに興奮していた。

「そして、私は記憶障害の一種として治療を受けながらも、この世界の技術を学び、宮藤理論の再構築に取り掛かった。たまたまそれがこの時代の能力研究者の目に留まり、その研究室に招かれて今に至っている」
「待って。それが事実としたら、宮藤博士とウルスラがいるのは説明できる。けど、他のウイッチ達は?」
「確かに。我々はそんな物は使っていなかった」

 ポリリーナの質問にバルクホルンが頷き、宮藤博士は考え込む。
 だがそれよりも早く、エルナーがある仮説を口にした。

「考えたくはありませんが、異なる世界にまで干渉できる存在、それが何らかの行動を起こしている可能性があります」
「それが、我々やネウロイをこの世界に呼び込んだと?」
「そう考えるのが一番妥当です」
「そんな存在がいるのなら、ヴァーミスにも干渉してる可能性があるわね………」
「だとしたらヴァーミスの襲撃の場にペリーヌやバルクホルン達が居合わせたのも納得できる。ひょっとして我々は、試されたのではないだろうか?」

 美緒の恐ろしい仮説に、その場に冷たい空気が流れ込む。

「つまりそれは、この私の家を襲っておいて、テストだったという事ですの?」
「考えたくはありませんが………恐らく」
「でも、そんな事が本当に可能なのでしょうか? 長距離転送でも相当な施設とエネルギーが必要なのに、次元間ともなると………」
「仮説だが、否定要素が今の所存在しない。ならば、まずは相手の目的を調べる事だ」
「今ありとあらゆる方面で情報を収集、解析しています。ただ、ヴァーミスの目撃情報に統一性が見当たらなくて………」

 宮藤博士の提案だったが、エルナーが現在入ってきている情報の一覧を見て芳しい結果が出ていない事を告げる。

「ここまで来て宮藤博士と会えたのは行幸だったが、今後の行動指針が一切分からない、という事か………」
「もう少し情報収集を行えば、何か分かるかもしれないわ。それにあなた達のストライカーユニットのオーバーホールも行った方がいいでしょう」

 思わず唸る美緒に、ポリリーナが提言。

「そうだな、いいですか宮藤博士?」
「分かった。もっとも私のやってた頃と随分と変わってるかもしれんが」
「基礎設計は変わってません。というよりも、宮藤理論で構築された部分は私でも改良できませんでした」
「見学させてもらっていいかしら? 宮藤理論で構築された物というのに興味があるわ」

 技術関係の面子が出ていった後、残された者達が考え込む。

「状況が理解しきれんが、我々はこの世界に呼ばれ、何らかの実験に使われた。という事か?」
「証拠はありませんが………」
「あなた達だけでなく私達や、そして恐らくネウロイやヴァーミスもね」

 バルクホルンの仮定に、エルナーは言葉を濁すが、ポリリーナが更に恐ろしい仮定を告げる。

「だが、なぜ?」
『…………』

 美緒の疑問に、沈黙がその場に降りる。

「敵と味方の確認のためでは?」
『!!』

 美緒のそばにいたアーンヴァルの言葉に、全員が一斉に虚を突かれる。

「敵とは私達、そして味方とはヴァーミスやネウロイ、そういう事?」
「そうシュミレートできます」
「それなら、敵の攻撃が散発的だったのも納得が行くわね」
「きちんと返り討ちにしてさしあげましたし」

 クルエルティアが問いかけるとアーンヴァルは頷き、ポリリーナとエリカは自分達が戦った時の事を思い出す。

「だとしたら、なぜその後向こうは手を出してこない? 脅威ではないと判断されたのか?」
「舐めるな! 我々はそんなに安い相手ではない!」

 美緒が低く唸るが、激昂したバルクホルンが思わずその場に立ち上がる。

「落ち着いてください。私も皆さんが弱いとは欠片も思っていません」
「しかし、今の所目立った行動を起こしていないのも引っかかるわ………ヴァーミスはもっと苛烈に攻めてくるはず」
「本隊がどこかにいる、という事?」
「そうなるとは思いますが、それらしい情報は何も………」

 エルナーがなだめる中、クルエルティアとポリリーナの疑問にエルナーも体を傾けるようにして疑問符を浮かべる。

「一つ言える事は、このままでは済まない。きっと何か大きな事が起きるだろうという事です」
「それがいつ、どこで、どれくらいの規模かという事が問題か」
「準備を万全にしておくしかないわね」
「また返り討ちにしてさしあげますわ」

 皆が新たなる闘いの予兆を感じながら、それに備えるべく行動を開始する。
 その予感は数日後、現実の物となった………





[24348] スーパーロボッコ大戦 EP14
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/08/29 21:05
「よいしょ、っと」
「いっぱい買ったね~」
「すいません、お金は後で返しますから……」
「経費で出すからってポリリーナさんが言ってましたよ」
「そもそも、私達ここで使えるお金持ってないよ………」

 大量の食料を手にした芳佳に、それにつきあったユナ、エグゼリカ、リーネがそれぞれ買い物袋を手に船へと戻ろうとしていた。

「それにしても、大学なのに大きなお店とかもあるんですね~」
「何でも、野菜なんかの新種開発もここでやてて、その販売モデルも兼ねてるとか」
「ユーリィ、なんかエミリーちゃんの知り合いに新種の試食とか言われて連れてかれたけどね………」
「それって毒見なんじゃ………」
「ユーリィは大抵の事じゃお腹壊さないから大丈夫♪ 第一、ユーリィに食べ物持たせたら帰る途中で全部なくなっちゃうよ~」
「ルッキーニちゃんみたい……」
「あの時は持たせた経費全部オヤツで使っちゃったんだけどね」
「お父さんは見つかったけど、ルッキーニちゃんとサーニャちゃん、あとエイラさんとミーナ中佐、どこにいるんだろう………」
「大丈夫だって芳佳ちゃん! 何年も見つからなかったお父さんだって見つかったんだから、他の人もきっとどこかで元気にしてるよ♪」
「うん、そうだね。ようし、じゃあお父さんにご飯作ってあげないと!」
「手伝うよ芳佳ちゃん」
「そう言えば、お父さんオムレットにちゃんとエサあげてるかな?」
「確かネコちゃんだよね? ここからなら地球にメール届くよ」

 少女達がにぎやかに話しながら、ドッグへと向かっていく。
 ドッグに辿り付いた時、大型のコンテナが幾つも運び込まれているのに気付いた。

「リューディア!」
「あらユナ、お買い物は終わったんですか?」

 コンテナの受け取り確認をしていたリューディアにユナは声を掛けると、向こうも作業の手を一時休めて声を掛けてきた。

「うわあ、これは何ですか?」
「資材よ、艦内であれこれ作るためのね」
「資材?」

 買い物袋を抱えたまま、芳佳とリーネも運び込まれるコンテナをポカンとした顔で見つめていた。

「エルナーに、今後何が起きるか分からないから、私はここで資材の中継をする事になったの」
「なるほど、ここなら色々そろいますね」
「ゴメンねリューディア、色々させちゃって」
「いいのよユナ。それに今回の事件、恐らくそう簡単に終わらないと思うわ」
「え? そうなの?」

 思わず呟いた言葉に、ユナが首を傾げる。
 そこで余計な不安を与えないようにと、とっさにリューディアは笑顔を浮かべて言葉を続けた。

「だから、私がここでバックアップするわ。補給は心配しないで」
「ありがとうリューディア!」

 そう言って笑みを浮かべるユナに、リューディアも心の底から笑みを返す。
 なお、見るからに怪しい新種野菜(らしき物)を大量に手土産としてユーリィが持ち帰り、芳佳が調理に苦心するのはこれから2時間後の事だった。



『いただきます!』

 プリティーバルキリー号のミーティングルーム兼食堂で相変わらず皆が騒がしく食事をしていた。

「お父さん、どう?」
「うん、うまい。上手になったな、芳佳」
「よかった~、いっぱいあるから、たくさん食べてね」

 娘の手料理を食べる宮藤博士が、娘の満面の笑みにこちらも笑みを返す。

(母親の味そっくりだな……これも遺伝するのかな)

 ふとその懐かしい味にまだ扶桑にいた時の事を宮藤博士は思い出していた。

「お父さん、そう言えばお仕事の方は?」
「ああ、しばらく有給取ったから大丈夫だ」
「正確には、しばらく身を隠した方がいいって事になってるけど」
「え?」

 エミリーの一言に、芳佳どころか周囲の者達全員が首を傾げる。

「新理論発表後、宮藤博士の引き抜き合戦が裏で激化してるの。各惑星国家の軍隊から民間企業にいたるまで。能力関係の開発をしている所で、彼の頭脳を欲しがらない所はないわね」
「新型ストライカーユニットを完成させた時もそうだったな。世界各国の軍から民間企業に至るまで、あらゆる所が宮藤博士を欲しがった物だ」
「色々苦労した前例だからね……」

 エミリーの説明に、美緒が宮藤博士の下でテストパイロットをしていた時の事を思い出し、宮藤博士も当時を思い出して苦笑していた。
 そこで横から声が入ってきた。

「皆さん! 食べながらでいいから聞いてください。この数日、収集できる限りの情報を集めましたが、正直、ヴァーミスの明確な目的がつかめてません。何でもいいですから、変わった情報はありませんか?」

 エルナーの声に、皆が顔を見合わせる。

「あったか?」
「聞いてないわね~」
「保障関係で揉めてる所はありましたわ」
「どこかで捕獲に失敗したようよ」
「素手で倒そうとして重傷負った人がいるって話も……」

 取り留めの無い情報にエルナーも思わずため息を漏らす。

「これからどう動けばいいのか、判断情報が少なすぎますね………」
「地球でも新たな敵の目撃は無いわ。ヴァーミスがあれだけの行動で終わるはずは無いのだけど」
「ストライカーユニットのオーバーホールは終わっている。こちらは戦闘に支障は無い」
「う~ん、一体…」

 クルエルティアと美緒の言葉に、エルナーもどうすべきか悩んだ時だった。
 突然船内に警報が鳴り響く。

「むぐ!?」
「何!? 何!?」

 何人かが思わず喉に詰まらせそうになる中、それぞれのリーダー達が食事を中断してブリッジにすっ飛んでいく。

「何が起きたの!?」
「救難信号よ! しかもこの船向けの!」

 ブリッジで一人作業をしていたミサキの言葉に、全員に緊張が走る。

「強力なECMが掛かってる!」
「こちらでECCMを掛けます!」
「各センサー最大!」

 エルナーとポリリーナがコンソールを次々と操作し、救難信号を何とか拾い上げる。

『こち……香……ユナ……この通信を……敵に襲げ………』
「この通信パターン、機械化帝国の物よ!」
「亜弥乎ちゃん達の!?」

 ご飯茶碗片手にようやくブリッジに来たユナが、その言葉に過敏に反応した。

「場所はどこだ!」
「近いわ、30分とかからない!」
「すぐに行こう!」
「分かったわ、緊急発進準備!」
「カルナダインに戻ります! こっちの方が早いかもしれません!」
「座標データ送ります!」
「501小隊、総員出撃準備!」
「え~、まだご飯の途中……」
「早く食えハルトマン!」
「リューディアはここに残ってください!」
「出港許可が出たわ! 急ぐわよ!」

 突然の事に皆が慌てて食事をかきこみ、それぞれの準備を整えていく中、二隻の宇宙船が高速で救難信号の発信元へと向かっていった。

「ますますECMが強くなってくわ! このスクランブルパターンは銀河連合のデータバンクに存在してない!」
「位置を見失わないように! 最高速度まで上げるわ!」
「装弾急げ! ユニットは大丈夫だな!?」
「アールスティア、ディアフェンド、リンク開始!」
「救難信号、弱くなってきてる!」
「あと10、いえ7分持ってくれれば!」

 戦闘準備を整えつつ向かう少女達に、遠くから僅かに見える爆発のような光が航行用ディスプレイに写し出される。

「エルナー、フィールド展開準備!」
「分かってますポリリーナ!」
「こちらはすぐに出れる!」
「こちらもです!」

 皆が焦りを覚えつつ、エルナーが戦闘用フィールドの展開準備に入る。

「目標補足、減速開始!」
「フィールド展開します!」
「TH60 EXELICA、発進します!」
「TH32 CRUELTEAR、発進!」

 救難信号を発してる宇宙船がフィールド範囲内に入るギリギリでフィールドが展開され、即座にトリガーハートの二人が出撃する。

「間違いない、ヴァーミス!」
「エグゼリカは右翼、私は左翼から! 敵の注意を引く事を最優先!」
「了解姉さん! 行ってディアフェンド!」
「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」

 トリガーハートの二人が素早く散開、同時に二つのアンカーが射出され、宇宙船に攻撃を加えていたヴァーミスの小型ユニットの一体をキャプチャー、そのまま振り回されて周囲の小型ユニットを次々と巻き込んで破壊、そして明後日の方向に投じられて爆散する。

「うわあ、エグゼリカさん達すごい………」
「こちらも出撃する!」
「負けてられんぞ!」

 芳佳がトリガーハートのすさまじい戦い方に感心する中、美緒の号令と同時に美緒とバルクホルンを戦闘にウイッチ達が出撃していく。

「フィールド外は真空です。ご注意をマスター」
「分かっている」
「……速度の出しすぎは禁物です、お姉様」
「う~ん、やりにくいなあ……」

 アーンヴァルと飛鳥がそれぞれのマスターに忠告するのを聞きながら、ウイッチ達は銃のセーフティを外す。

「目標は襲撃されている船の保護だ! 射線に注意! 攻撃開始!」

 美緒の号令と共に、一斉に銃弾が吐き出される。

「宮藤とリーネは目標に近接してシールド展開、防御に専念! ペリーヌは二人の護衛! 他は私に続け!」
『了解!』

 こちらに攻撃をしかけてきたヴァーミスを掻い潜り、芳佳が巨大なシールドを展開、その反対側でリーネもシールドを展開させていく。

「敵はこちらで受け持つ! 救出を急げ!」
「お願いするわ!」
「この!」
「ええい!」

 遅れてきたユナ達がトリガーハートとウイッチが敵を撃退する中、目標の宇宙船へと肉薄していく。

「まずいわ! 損傷がエンジン部にまで達してる!」
「直にあの船、爆発するわ!」
「ええ!?」

 ミサキとポリリーナの指摘に、ユナが思わず悲鳴をあげ、周囲で戦っていた者達も驚愕する。

「ミドリ!」
「分かってます!」
「手伝いますわ!」

 エリカの言わんとする事を察したミドリが己の操る氷で消化作業に入り、元暗黒お嬢様13人衆の一人、お茶の佳華が己の操るレーザーウォーターでそれを援護する。

「急がないと!」
「ハッチが開かない! 壊れてるわよこれ!」
「ユーリィ!」
「はあい! クルクル~パーンチ!」

 ユナが急いで中に入ろうとするが、外部スイッチが一切利かない事に舞が思わず悲鳴を上げる。
 だがユナは間髪いれずにユーリィに頼み、ハッチを強引に叩き壊させる。

「気をつけて! 中にも少し入り込んでるわ!」
「外敵は私とエリカ7で止めますわ! 早く中へ!」
「お願い!」

 徐々に減りつつはあるが、更に湧いてくるヴァーミス相手にミサキとエリカがハッチの両脇で己の得物を構え、ユナを先頭に何人かが中へと飛び込んでいく。
 だが直後、エンジンの一部が小爆発を起こした。

「エリカ様! 長くは持ちません!」
「ユナ急いで! きゃあ!」

 消化活動に当たっていた二人だったが、すでに己達に止められるレベルではなくなっている事に焦りを覚え始めていた。

「いかん! 持たないぞ!」
「だが、こちらは手が離せん!」

 美緒とバルクホルンが戦闘を続けつつも、最早一刻の猶予も無い状況に必至になって考えを巡らせる。

「水上艦なら、キングストン弁を抜くという最後の手段があるが………」
「この時代の船に使えるのか!?」
「それ以前にどこに水があるんだ!? いやいっそフィールドを解除して真空にするってのは!」
「……ダメですお姉様。この時代の反応炉では使えません」

 シャーリーの提案に、彼女のそばで三七式一号二粍機関砲を速射していた飛鳥が否定。

「手が無いわけでありません、マスター」
「どうすればいい!」
「バーニア部分を切り離せば、少しは持つはずです」
「バーニア、噴出口か!」

 アーンヴァルのとんでもない提案に、美緒は即座に背負っていた烈風丸を抜いた。

「先端部から順次パージしてください。余剰エネルギーを分散できます」
「……エネルギー分布測定しました。まずは先端部から5m程を分離してください」
「あそこらかな? シュトルム!」

 飛鳥が頭部のウサミミのような三八式特殊電探を駆使して分離箇所を指定、ハルトマンが固有魔法を発動、己を中心とした竜巻状の衝撃波となってバーニア先端部を吹き飛ばしていく。

「これで少しは持ちます! 救助を急いでください!」
「いや、どうやらそれよりも先にやる事が出来たようだ」

 アーンヴァルが急かすが、美緒は構えていた烈風丸を別の方向へと向けて構え直す。
 そこに、星の光を遮るような大きな影が浮かび上がってきていた。

「……9時の方向、巨大反応があります」
「な、こんな近くに来るまで気付かなかったのか!?」

 飛鳥の言葉に全員がそちらにある物に気付く。
 そこには、無数の小型ユニットを従えたヴァーミスの大型ユニットの姿があった。

「コアユニット! あれを破壊すれば、ヴァーミスは統率を失います!」
「エリカさんのお宅を襲ったのよりも、大きいですわね………」
「だが、関係ない!」

 こちらの宇宙船よりも巨大な敵影に、ペリーヌが少しだけ頬を引きつらせながら、片手に銃を持ったまま、もう片方の手で腰のレイピアを抜き放つ。
 敵影に恐れず、バルクホルンが先陣を切って接近、銃撃をお見舞いするが、魔力を帯びているはずの弾丸はあっさりと大型ユニットの外部装甲に弾かれる。

「何!?」
「この~!」
「スポットライトビーム!」

 驚愕するバルクホルンを追い抜くように、ハルトマンの銃撃とミキのビームが直撃するが、それすら弾かれてしまう。

「いけない! 地球での戦闘データが取り込まれてます!」
「エグゼリカ! 目標をコアユニットに変更!」
「はい姉さん!」

 トリガーハートの二人がアンカーを大型ユニットへと向けて射出、アンカーをロックオン状態にし、攻撃を集中させる。

「攻撃の手を緩めるな! いかな頑強な装甲でも、無限に耐えられるわけではない!」

 美緒が叫びながら、大型ユニットの多数の砲塔から放つ弾幕を機敏に回避し、斬撃を食らわせるが、それも表面に傷を負わせるだけで、しかも即座に修復が始まっていく。

「厄介だが、そんな物はこちらもネウロイ相手に慣れている!」
「坂本少佐!」
「馬鹿者! 己のポジションを崩すな!」

 シールドを張っていたリーネが援護しようと銃を構えるが、そこで美緒が一喝する。

「けど、うわ!」

 芳佳も銃を構えようとするが、そこへ小型ユニットが直接シールドへと突撃し、僅かに体勢が揺らぐ。

「トネール!」
「縦横無尽!」
「レ~ザ~発射~!」

 再度突撃しようとした小型ユニットを、ペリーヌの固有魔法とエミリーと詩織の攻撃が粉砕、更にエリカ7が二人と背後の宇宙船を護るべくフォーメーションを組む。

「アーンヴァル! あの船はあとどれくらい持ちそうだ!?」
「えと……」
『あと五分、それが限度だ』

 美緒の問いかけに、船内から戦闘の様子をモニターしていた宮藤博士が代わりに答える。

『私の計算でも同じです。急いでください!』
「その前に、こいつを倒さねばな………」

 カルナからも同様の報告に、美緒は集中攻撃を受けながらも平然と応戦してくる大型ユニットに向けて魔眼を向ける。

「コアは、恐らくアレか? 私の魔力をすべてこめれば………」
「けど少佐! 攻撃が更に激しくなってきたぞ!」

 シャーリーの指摘通りに、大型ユニットの攻撃は更に激しさを増していく。

「これじゃあ近寄れないよ!」
「きゃあ!」
「エグゼリカ! くっ!」

 あまりに激しい弾幕に、ハルトマンが思わず弱音を吐き、攻撃を開始し損ねたエグゼリカが体勢を崩してロックオンが外れ、一瞬そちらに気を取られたクルエルティアも弾幕がかすめていく。

「じゃあスピードでかく乱すれば!」

 シャーリーが固有魔法の超加速を発動、高速でユニットの間を掻い潜りながら弾幕をばら撒き、反転しようとする。

「お姉様!」
「あ……」

 そこで随伴していた飛鳥が叫び、限定フィールド内だった事を思い出したシャーリーがシールド併用で急ブレーキをかけるが、曲がりきれずにフィールドから片足が出てしまう。

「まずい!」
「カルノバーン・ヴィス!」

 途端にストライカーユニットが機能を停止、危うくそのまま出そうになった所で、飛来したアンカーが彼女をキャプチャー、強引にフィールド内に引き戻す。

「助かった! ありがと!」
「ここではその能力は使わない方がいいわ」

 寸での所で救出に成功したクルエルティアが苦言を呈した所で、再度大型ユニットの攻撃が激化してくる。

「……ルッキーニがいたら、なんとか突破できるのに」
「いない人間の事を言っても始まらん。私がなんとか切り開く!」
「何を言ってるんだ少佐! シールドの張れないウイッチがどうやって…」
「マスター、私が道を開きます。見ててください!」
「……お姉様、あなたが勝利を願うなら……わたしは負けない!」

 突破口が見出せないウイッチ達を見た武装神姫二体が、一気に加速して大型ユニットへと突撃していく。

「エンジェリック・スカイ発動! これはどうっ?」

 アーンヴァルのリアウイングが可変し、その移動速度が一気に上昇、その小ささと併用して弾幕を一気に掻い潜りながら、手にしたGEモデルLC3レーザーライフルを構える。

「マスター、見ててください。これが私の本気です!」

 放たれた高出力レーザーが大型ユニットの砲塔を次々と破壊、明確に弾幕がその数を減らしていく。

「鬼よ………我に宿りたまえ」

 飛鳥も腰の霊刀 千鳥雲切を抜いて頭上に構えると、その刀身に光を宿して、軽快な動きで弾幕を避け、砲塔を次々と斬りさいていく。

「うわあ、やるな~」
「一気に決める! 援護を!」

 予想以上の武装神姫の攻撃力に、シャーリーが思わず感嘆する中、美緒は烈風丸に魔力をこめていく。

「一斉攻撃ですわ!」

 エリカの号令と同時に、各々が自らの得物で大型ユニットに攻撃を集中させる。

「エグゼリカ!」
「姉さん!」

 トリガーハートのアンカーが周囲の小型ユニットをまとめてキャプチャーし、勢いをつけて大型ユニット目掛けて投じられ、炸裂する。

「今だ! 烈風斬!!」

 その隙を逃さず、美緒が全魔力をこめた烈風丸から凄まじい斬撃波が放たれ、大型ユニットを半ばまで両断、内部の制御コアを斬り割き、その巨体が僅かな間を持って大爆発を起こす。

「やった~!」
「撃破確認!」
「救出は!?」

 皆から歓声が洩れる中、冷静な何人かが振り返る。
 そこには、あちこちで小爆発を起こす宇宙船の姿と、壁をぶち破って人影を護るように飛び出すユナ達の姿が有った。

「こっちは大丈夫! みんな離れて!」
「総員待避!」

 ユナの声と美緒の号令に、全員が慌ててその場を離れようとする。

「くっ…」
「大丈夫!?」

 だが、体勢を崩して落下しかけた美緒を慌ててクルエルティアが支え、その場から離脱する。
 全員が船へと戻ろうとする直前、宇宙船は爆発を起こした。

「あ、危なかった~………」
「助かりました、皆さん」

 芳佳が胸を撫で下ろし、そこでお礼を言われてユナが連れている人物を見た。

「私は白香(パイシャン)と言います。機械化帝国の者で、ユナさんのお友達です」

 そう言いながら微笑む、中国風に思える格好に長髪、そしてカタツムリのようなシェルを背負った少女に皆の視線が集中した。

「いやあ~、まさか白香が乗ってるなんて思ってなかったよ。お久しぶり~」

 ユナの能天気な挨拶に、先程まで極めて危険な状況にあった緊迫感がその場から消え失せていく。

「しかし、なぜ貴女はヴァーミスに襲われていたの?」
「………実は、私はユナさんに救援を頼むために来ました」
「! 機械化帝国に何かあったんですか!?」
「実は…」

 クルエルティアの問いに、白香が重い口調で呟く。
 その一言にエルナーが敏感に反応するが、それ以上言葉を発する前に白香の体が崩れ落ちそうになる。

「わわ! 白香大丈夫?」
「話を聞くのは後にした方がいいだろう。まずは負傷者の治療を」

 ユナが慌てて支える中、出迎えに来た宮藤博士が全員の状況を見回し、激戦を物語る皆の状態にまずは手当てをするように促す。

「じゃあ私が治します! まずはその人から…」
「あの、芳佳ちゃんの魔法って機械人に効くかな?」
「自己治癒できますから大丈夫です。少し休んでからですが」
「ユナは白香を医務室へ。他に重傷の子は?」
「エグゼリカが少し損傷したけど、カルナダインで簡易修理させるわ。それよりも彼女を……」
「私は大丈夫だ」
「無理をするな少佐、先程の一撃で魔力を使い果たしてるのだろう? ペリーヌ、少佐も医務室へ」
「わ、分かりましたわ」
「リューディアから回復アイテムが送られてきました。こちらは請求書だそうです」
「こっちで払っておくわ。多分これ魔力の回復にも使えると思うから、ウイッチの人達にも渡しておいて」

 ウルスラが持ってきた回復アイテムをポリリーナが仕分ける中、皆が軽症の者に手当てを施したり、先程の戦闘の詳細を確認していく。
 ふとそこで、ポリリーナは宮藤博士がその様子を興味深そうに見ているのに気付いた。

「博士、何か気になる事でも?」
「いや、聞いた所だと、こうして皆で戦うの初めてではなかったかな?」
「まあ……地球で少しは闘いましたけど」
「その割には、随分と統率が取れてるなと思って。ウイッチ同士でも息を合わせるのは大変なんだが………」
「統率なんて取ってませんわ。ユナが白香を助けようとしたのを、みんなが手助けした、ただそれだけです」
「ああそうか、君達は軍人でも何でもなかったからな。友達を助ける、か。確かにそれが一番の方法だな」

 ポリリーナの言葉に、宮藤博士は少し苦笑して頭をかく。

「じゃあこちらはストライカーユニットの整備にとりかかるとしよう。彼女が話を聞けるようになったら呼んでくれ」
「ええ」



数時間後

 プリティーバルキリー号のミーティングルームのテーブルに、白香を中心として中心メンバー達が集合していた。

「心配をおかけしました」
「白香、起きて大丈夫?」
「あまり無理はしない方がいいわね。メインシステムは無傷だけど、各部にダメージがまだ残ってるわよ?」

 どこか顔色のよろしくない白香をユナが心配し、状態をチェックしたエミリーが診断結果を手に僅かに眉を寄せる。

「それでは聞かせてもらえますか? 今、機械化帝国で何が起きているか、を?」

 エルナーの言葉に、白香は背中のシェルをまさぐり、一枚のデータチップを取り出す。

「今から半月前の事です。突然機械化帝国に謎の戦闘機械群が攻撃をしかけてきました。交渉の余地すらない状況の中、白皇帝・玉華(ユイファー)はやむなく交戦を決意、私達は一致団結して闘いは優位に進んでいました……しかし、5日前の事です。敵は突然新型を投入、戦況は一気に逆転されました。それに………」
「それに?」

 口ごもる白香に首を傾げるユナだったが、しばし迷ってから白香は次の言葉を告げる。

「前線指揮に当たられていた亜弥乎様が、敵に捕らえられました」
「亜弥乎ちゃんが!?」

 驚きのあまり、ユナが座っていたイスから立ち上がる。

「それで、どうなったの!? 亜弥乎ちゃんは無事!?」
「落ち着いてユナ」

 思わず白香に詰め寄るユナだったが、ミサキがそれを制止する。

「……亜弥乎様の状況は、分かりません。私はその直後に玉華様の命を受けてユナさん達に助けを求めるために出立したので……」
「そんな………エルナー、すぐに助けに行こう!」
「待ってユナ、まずは敵の情報を解析しないと」
「そんな!」
「その機械化帝国とやらは、ここからどれくらいかかる?」
「そうね、この二隻なら四日もあれば」

 ユナをなだめながら、ポリリーナは美緒の問いに少し考えてから答える。

「その間に敵を調べる時間は十分にあるはずだ。それが敵のデータだね?」
「はい」

 宮藤博士が白香の出したデータチップを受け取り、それをミーティング用のコンソールにセットする。
 程なくして、テーブルの中央に立体映像が浮かび上がった。

「これは、ヴァーミス! そうか、この星がヴァーミスの侵食目標!」

 その映像を一目見たクルエルティアが思わず声を上げる。

「だとしたら、地球に現れた理由も納得できますね。機械化惑星は、ネオ東京をモデルにして都市設計されてるんです」
「ふむ、だがこれは………」

 映像は、ヴァーミスと機械化帝国の機械兵の衝突へと切り替わり、それを見た美緒とバルクホルンが顔をしかめる。

「すまないが、私にはどちらが敵か味方か区別できん………」
「私もです、少佐」
「……それは後で覚えておいてもらいましょう」
「あら、別口が出てきたわよ?」

 ウイッチ達の危険な発言にエルナーが言葉を濁すが、そこでエリカが映像を指差す。
 そこには、先程と打って変わって、見た目は人間と左程変わらないシルエットが映し出されている。
 周囲に無数の攻撃ユニットを従えたシルエットが段々大きくなっていき、オレンジの髪と赤いプロテクターをまとった少女の姿が確認できた。
 だが、それを見たクルエルティアの目が大きく見開かれる。

「そんな、まさか………」
「知ってるんですか?」
「フェインティア! これは私達と同じトリガーハート、TH44 FAINTEARだわ!」
「何? 味方だったはずの者なのか?」
「ええ。ヴァーミスに捕獲されて行方不明とは聞いてたけど、どうして………」
「し、少佐これを!」

 美緒の問いに答えるクルエルティアだったが、そこで今度はバルクホルンが声を上げた。

「どうし、な、まさか!?」

 映像は、フェインティアに率いられる無数の黒い影を映し出す。
 漆黒のマネキンにも似た姿に、両足にユニットのような物が付いたその敵は、ウイッチ達に見覚えのある存在だった。

「これは、ウイッチもどきだ!」
「間違いない! あの時、宮藤と遭遇してたネウロイとそっくりだ!」
「……間違いないのかね?」

 宮藤博士の問いに、ウイッチ二人は静かに頷く。

「だがなぜ? なぜこの人型ネウロイがここに………」
「人型の報告は宮藤の時を含め、数件しか報告が無かったはず……だがこの数は……」

 映像はフェインティアに率いられた無数の人型ネウロイによって、戦況が一変。
 機械化帝国側が一気に不利となっていく中、緑の髪を長いツインテールにした、どこか幼い容姿の少女がフェインティアに向かっていく。

「亜弥乎ちゃん!」

 その少女、ユナの親友でもある亜弥乎の姿にユナが声を上げる中、奮戦むなしく、ボロボロになった亜弥乎を人型ネウロイがどこかへと連れ去っていく。
 そして、映像は途切れた。
 後には、奇妙な沈黙がその場に満たされていた。

「………どういう事だ?」

 最初に口を開いたのは、美緒だった。
 その一言が、今その場にいる者達全ての心境だった。

「分かりません。分かったのは機械化帝国こそがヴァーミスの目標だった事、そしてヴァーミスの側に何故かトリガーハートとネウロイがいる事、そして亜弥乎が連れ去られた事。以上です」
「早く助けにいかないと!」

 エルナーの上げた要点、その三つ目にユナが過敏に反応する。

「落ち着いてほしい。連れ去った、という事は何か目的があるはずだ。その目的がある以上、すぐに彼女に危害が与えられる可能性は低いだろう」
「私もそう思います」

 宮藤博士の意見に、ミサキも賛同する。

「けど、何されるか分からないって事じゃん!」
「もちろんすぐに機械化惑星に向かうわ。全ては、そこにあるのだから」

 ポリリーナの言葉に、全員が顔を見合わせ、静かに頷く。

「全ての鍵は、確かに機械化惑星にあるでしょう。進路を機械化惑星へ!」
「亜弥乎ちゃんと、機械化帝国のみんなを助けに!」

 エルナーとユナの宣言に、全員がその場から立ち上がり、それぞれ指示を出すべく室内から出て行く。

「美緒君、あとでちょっといいかな」
「あ、はい」

 部屋から出て行こうとうする美緒を、宮藤博士が呼びとめ、声だけかけると彼女を見送る。
 それを見ていたミサキが足を止めると、宮藤博士の方へと歩み寄った。

「……宮藤博士」
「ミサキ君も気付いたか」
「……はい」



「失礼します」

 地球時間で言えば夜半に当たる時間帯、全員が機械化惑星に向けての準備の慌しさが一段落した後に、美緒は宮藤博士にあてがわれたラボ代わりの部屋を訪れた。
 ドアが開けて入ると、そこには厳しい顔をした宮藤博士とミサキの姿が有った。

「あの、宮藤博士、何の御用でしょうか?」
「……まずはこれを見て欲しい」

 宮藤博士がコンソールを操作し、画面に先程戦闘に参加したメンバー達の顔と共に幾つもの棒グラフが表示されていく。

「これは先程の戦闘時、みんなの個体エネルギー、ウイッチで言えば魔力を測定した物だ」
「ほう、そんな事まで出来る時代とは……」

 グラフの上の方、もっとも高い数値を表しているのはユナ、ポリリーナ、エリカ、芳佳、エグゼリカといった面々で、その下にユーリィやハルトマンといった者達が並んでいた。
 だがそのグラフの一番下、一人だけ格段に低く表示されている者がいた。

「……なるほど、話とはその事でしたか」
「……ああ」

 その一番下、上位陣の四分の一すら満たせてない人物、他の誰でもない美緒自身の数値に、三人の顔が険しくなる。

「君は確かもう二十歳になっていたね? 本来ならもう引退している、いや引退していなくてはならない時期のはずだ」
「……分かっています」
「それだけじゃないわ」

 ミサキがコンソールを操作して別のデータ、美緒が烈風斬を放つ映像を映し出す。

「この技、そして貴女の刀、これは貴女の生体エネルギー、すなわち魔力を著しく消耗している。私の目から見ても、あまりに危険すぎるわ」

 映像は烈風斬を放った後、体勢を崩してクルエルティアに助けられるシーンになっている。

「……ストライカーユニットの開発者として言わせてもらう。坂本少佐、君は…」
「博士!!」

 宮藤博士の言葉を、美緒は大声で中断させる。

「………分かっています。自分の事ですから」
「なら………」
「しかし、今はまだ飛ばなくてはならないのです。ストライクウィッチーズの、副隊長として」
「…………」

 毅然として答える美緒に、宮藤博士は無言で厳しい表情を崩さない。

「私はいつも言ってたはずだ。その力を、多くの人を守るために。決して君を危険にさらすためにストライカーユニットを作ったわけじゃない」
「美緒、貴女の魔力、こちらで言えばサイキックエネルギーは安全保障理事局の基準でも実戦使用の許可が出るレベルではないわ」

 宮藤博士とミサキ、両者続けての通告に、美緒は強く拳を握り締める。

「それでも私は!」
「私がサポートします」

 そこに突然響いた声に、皆がそちらを振り向く。
 いつの間に来たのか、アーンヴァルが美緒の背後に立ち、三人をまっすぐ見据えていた。

「私がマスターの矛となります。ウイッチの方々には、まだマスターの指示が必要です。だから、足らない部分は私が補います。それこそが私の使命なのですから」
「アーンヴァル………」

 強い言葉で宣言するアーンヴァルを、美緒はそっと両手ですくい上げる。

「……ありがとう」
「あ、いえ………」

 面と向かって礼を言われ、アーンヴァルが思わず照れる。

「……確かに、彼女の火力なら不足しているサイキックエネルギーを補えるかもしれないけど………」
「……条件は戦闘時にアーンヴァルを随伴する事、後方指揮になるべく徹する事、そして烈風斬を無闇に使わない事、この三つを守ってほしい」
「は! 了解しました!」
「了解です!」

 片手にアーンヴァルを持ったまま、もう片方の手で美緒が敬礼し、アーンヴァルもそれを真似して敬礼する。

「それと、これを渡しておくわ」

 ミサキはそう言うと、懐から一つのアンプルケースを取り出す。

「それはなんだ?」
「サイキックブースター、私のような特別査察官に支給される、サイキッカー用の特殊増強剤よ」
「ミサキ君! まだそんな物を持っていたのか!」

 ケースを開き、中に並ぶ無針アンプルを見せたミサキに、宮藤博士は思わず立ち上がる。

「それは使用禁止薬物のはずだ!」
「分かっています。博士がこれの使用禁止を唱えた第一人者だという事も……」
「つまり、危険な代物だという事か………」
「そうだ。使えば脳に障害が起きたり、一時的な増強と引き換えに力の安定を欠いたりする可能性がある」
「私達でも、使用は最緊急時に限られてるわ。あくまで最後の手段よ」
「なるほどな………」

 二人の説明に思わず唾を飲み込みつつ、美緒はそのアンプルケースに手を伸ばす。
 それを、横から宮藤博士が掴んで止めた。

「これは、君の烈風丸と同等、もしくはそれ以上に危険な薬品だ。それを留意しておくように」
「分かっています」
「マスター……」
「アーンヴァル、もし必要以上に彼女が使うようなら止めてくれ」
「分かりました、博士」

 宮藤博士がゆっくりと手を離し、アンプルケースを受け取った美緒が、それをそっと己の懐に仕舞う。

「それでは失礼します」
「いいか、決して無理はしないように」
「はっ!」

 再度敬礼すると、美緒はアーンヴァルを伴って部屋を去っていく。
 戸が閉まると同時に、宮藤博士は重いため息を吐いた。

「立派に成長したかと思っていたが、変わってないな……昔と同じだ」
「そうなんですか?」
「一度決めた事は絶対に譲らない。私の下でテストパイロットをしてた時もそれで苦労してたよ……ミサキ君、君にも頼んでおく、美緒君が無茶をしようとした止めてくれ」
「分かりました」

 それだけ言うと、ミサキも部屋を出て行く。
 一人残った宮藤博士は、しばらく何か考えていたが、やがてコンソールに向き直ってものすごい速さで何かを設計していく。

「彼女達には彼女達にしか出来ない事がある。ならば、私は私に出来る事をしよう」

 持てる知識を総動員させ、宮藤博士は少女達の力となるべく全力を発揮させ始めた。
 彼女達を、守るために………





[24348] スーパーロボッコ大戦 EP15
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/10/04 22:16
「機械化惑星、センサー有効範囲に入りました」
「衛星軌道にヴァーミスの母艦らしき反応、三機確認」
『ヴァーミス母艦ユニット、大型です。小型ユニット投下を確認、まだ戦闘中の模様。大気圏下に侵蝕コアが複数あると思われます』

 機械化惑星まで目前と迫った二隻の宇宙船は、一度停戦して双方のセンサー、レーダー等をフルに活用して情報収集に入っていた。

「惑星首都直上にシールド確認、まだ機能しています」
「そうなると、やはり首都に直接降下は無理か」
「けどマズイですね……このまま行けば母艦に補足、攻撃されます」
「でも、早く助けに行かないと!」
「制空権が抑えられている。無策で行けば返り討ちにあうのは必然だ」

 エルナーの言葉にユナが反論するが、美緒がそれを嗜める。

「手はあります。ミラージュ、準備できてますか?」
『はい、エルナー。準備万端です』

 エルナーの問いかけに、通信用ウインドゥに浮かんだミラージュが答える。

「さて、地上と連絡が取りたい所ですが……」
『高レベルジャミングを確認、地上との情報通信は絶望的です………当初の予定通りの作戦遂行を』

 カルナからの返答に、エルナーは体を傾けるように頷く。

「全員、準備は出来てますか?」
『こちらミサキ、準備完了』
『こちらエリカ、準備できてますわ』
『こちらバルクホルン、いつでも行ける』
『こちらカルナダイン、クルエルティア、エグゼリカ、双方出撃準備完了』

 各部隊の返答を聞いた所で、操縦席に座っていたポリリーナが無言で頷き、後方指揮を行う事になった美緒とエルナーもそれに応じるように頷く。

「じゃあ行こうみんな! 友達を助けに!」
『お~!』

 ユナの掛け声に、全員が応じる。

「それでは、作戦開始!」
「カウント開始します」

 美緒の号令と同時に、アーンヴァルがタイムカウントを始める。
 同時に、二隻の宇宙船が加速を始める。

『敵艦レーダー感知! 迎撃態勢移行までおよそ40秒!』
「座標位置確認、永遠のプリンセス号に転送完了!」
「まだだ! 早ければ他の艦に気付かれる!」
『他の2艦は動きません! 迎撃ユニット、出撃を確認!』
「自動迎撃起動! 最大戦速!」

 向かってくる小型ユニットに向けて、プリティー・バルキリー号とカルナダインの迎撃機銃がレーザー弾幕をばら撒く。

「シールド最大出力!」
「ギリギリまで引きつけるんだ!」

 展開したシールドに小型ユニットからの攻撃が幾つも命中する中、美緒はどんどん大きくなっていく敵艦を見つめていた。

『シールド損耗率、40、50、60、まだですか!?』
「まだだ! 速度を落とすな!」
「動力炉、出力限界! 敵攻撃激化中!」
「マスター、もうそろそろです」
「………今だ!」
「ミラージュお願い、助けて!」
「ユナさんをいじめる人は私が許しません! ファイアー!」

 敵を限界まで引き付けた所で、突然二隻の前にワープゲートが展開、地球にいる永遠のプリンセス号までのワープゲートが開放。
 地球側では、予め送っておいた座標に照準しておいた永遠のプリンセス号がエネルギーをフル充填させていた主砲のトリガーを引いた。
放たれた情け容赦ない砲撃が周辺の小型ユニットごと、敵艦を貫く。

『敵艦沈黙! 小型ユニット、殲滅率80%以上! 予想以上です!』
「降下するわ! 総員対ショック体勢!」

 永遠のプリンセス号からのワープ砲撃で強引に突入ルートを確保した二隻が、他の艦が反応する前に大気圏へと突入する。
 外の光景が真っ赤に染まる中、美緒は眼帯を外して周囲を見回す。

「早いな、もう下の機体が迎撃に向かってきている」
「想定の内ね。カルナダイン、大丈夫?」
『成層圏突破と同時に、トリガーハート、出撃します!』

 大気との摩擦熱が消え、外の光景が見えるようになってくると、同時に下から上がってくる小型ユニット達が視界へと飛び込んでくる。

「射出用アクセラレーター開放!」
「リアクタ、サイティングデヴァイスリンク、チェック。ユニットシンクロ、フィールド展開!」
「フィールド展開! 展開形状最適化、各艦リンク! 随伴砲撃艦カルノバーン、アンカー突撃艦カルノバーン・ヴィス、旗艦クルエルティア出撃!」
「随伴砲撃艦アールスティア、アンカー突撃艦ディアフェンド、旗艦エグゼリカ出撃します!」

 下降速度をやや減速させながらもカルナダインから二列のアクセラレーターカタパルトが展開、そこから二機のトリガーハートが随伴艦を伴って出撃した。

「目標は降下ルートの確保! 敵ユニットを可能な限り殲滅! こちらの母艦の降下時間確保が第一作戦目標よ!」
「了解姉さん!」

 高速で敵へと向けて突撃しながら、二機のトリガーハートは互いに頷く。

「カルノバーン!」
「アールスティア!」

 敵が攻撃有効範囲に入ると同時に随伴砲撃艦から集中型ショットレーザーと拡散型ショットレーザーが射出、向かってくるヴァーミスの小型ユニットを次々と撃破していく。

「行きなさい! カルノバーン・ヴィス!」
「行って! ディアフェンド!」

 敵の第一陣を薙ぎ払ったトリガーハートは、今度はアンカー突撃艦からアンカーを射出。
 手近の敵ユニットをキャプチャー、スイングを開始する。

「カルノバーン・ヴィス、フルスイング!」
「ディアフェンド! フルパワー!」

 高速でスイングされる敵ユニットが周囲の敵を巻き込んでいく中、スイングの速度は加速していき、やがて近寄る事すら困難な二つの竜巻と化す。

「やあぁっ!」
「当たれぇ!」

 回転速度がMAXにまで高まった所で、キャプチャーされたユニットがリリース、高速の砲弾と化したユニットはその軌道上の他のユニットを無数に巻き込み、爆砕する。
 そうして開いた空間へと二隻の宇宙船はその船体を潜り込ませていく。

「降下ルート、確保確認!」
「降下速度低下!」
「ストライクウィッチーズ、出撃!」

 降下速度が安全域にまで達した所で、美緒の号令と同時にプリティー・バルキリー号の格納庫ハッチが開いていく。

「準備はいいな、行くぞ!」
『了解!』

 美緒に代わって前線指揮を取る事になったバルクホルンの号令に、大型機関銃を手にしたウイッチ達が返礼、同時に全員のストライカーユニットのエーテルプロペラが回転を始め、それぞれの足元に魔法陣が浮かんでいく。

「出撃!」

 両手にそれぞれ大型機関銃を構えたバルクホルンが先陣を切ってハッチから飛び出し、他のウイッチ達も続けて空へと飛び出していく。

「私とハルトマン、シャーリーで先陣を行く! クロステルマン中尉とリネット軍曹、宮藤で後方及び母艦を援護!」
「うわあ、敵がいっぱいだあ!」
「はは、違う星の空を飛ぶのも面白い!」

 指示を出しながらもバルクホルン、ハルトマン、シャーリーが敵へと向かって突撃しながら銃を構える。

「攻撃開始!」

 同時に三つの銃口から放たれた銃弾が次々と敵ユニットを撃破していく。

「ハルトマン、右翼を! 私は左翼! リベリアンは中央突破!」
「りょ~かい! 一気に行くよ、シュトルム!」
「行っけえぇ!」

 それぞれのポイントに付いたハルトマンとシャーリーが固有魔法を発動、竜巻状の衝撃波が敵を薙ぎ払い、高速飛行しながらの射撃が次々と敵を撃ち落していく。

「おい! 先行し過ぎだ!」

 フォーメーションをガン無視の二人にバルクホルンが注意するが、二人はお構いなく縦横無尽に飛び回って敵を撃墜していく。

「まったく!」

 一人取り残される形となったバルクホルンに敵が集中するが、バルクホルンが身勝手な二人に怒りながら、銃を手の中で旋回してバレルの方を握り締める。

「ハルトマンといい、リベリアンといい、軍人としてなっておらん!」

 怒声と共に、棍棒がごとく振るわれたバルクホルンの固有魔法の怪力と相まって敵ユニットに直撃、巨人の一撃を食らったかのように変形、粉砕しながら下へと落ちていく。

「軍人なら! 規律と! 任務を! わきまえんか!」

 悪態と共に振るわれる銃が次々と敵ユニットを粉砕、最後の一言と同時に両手の機関銃がバットのスイングがごとく振るわれ、打ち出された敵ユニットがホームランボールのように飛んでいき他の敵ユニットを巻き込んで爆発する。

「うわあ、バルクホルンさんもシャーリーさんもハルトマンさんも頑張ってるな~……」
「宮藤さん! 余所見してる暇は有りませんわよ!」

 次々と敵を撃破していく先輩達を見ていた芳佳だったが、ペリーヌの言葉に我に返って銃を構える。

「来たよ、芳佳ちゃん!」
「攻撃開始!」

 ペリーヌの言葉と共に、三人がそれぞれの方向に銃弾をばら撒く。

「敵影、20、いえ30! まだ増えます!」
「トリガーハートのお二人と大尉達が引きつけてくれてるとはいえ、敵が多過ぎますわね」
『あと少しだけ持ちこたえて! こちらも出るわ!』
「大丈夫ですわ、これくらい。トネール!」

 ポリリーナからの言葉に余裕で答えながらペリーヌは腰のレイピアを抜くと、そこから固有魔法の雷撃を発動、近寄ってきていた敵をまとめて撃ち落す。

「まだまだ行けますわよ」
「ペリーヌさん、次々来てます!」
「あともう少し! もう少しで…」

 母艦を必至になって守る三人だったが、そこで中型ユニットがこちらへと向かってくるのが見えた。

「行けません! あれは少しまずいですわ!」
「私がやります!」

 リーネがそう言うと自分用に開発された大型狙撃銃を照準、中型ユニットへと向かって速射する。

「芳佳ちゃん! 一緒に!」
「うん!」

 トドメとばかりに二人の息のあった集中砲火に中型ユニットもたまらず、撃墜される。

『降下予定高度に到着! 皆さん出撃してください!』

 地表が間近にまで見える程の高度になると同時に、エルナーが叫ぶ。

「ようし、行くよみんな!」
『お~!』

 そこでユナを先頭にした光の戦士達が、飛行機にも似た変わったユニットにサーフボードのように跨り、次々と格納庫ハッチから出撃していく。

「調子は順調のようです。宮藤博士」
「ライトニングユニット。急造だったが、なんとか間に合ったか………」

 格納庫に残ったウルスラと宮藤博士が、出撃していく光の戦士達を見て胸を撫で下ろす。
 旧型ストライカーユニット試作機を設計ベースに、速度ではなく安定性を重視し、光の戦士達の力を魔力代わりに使って飛ぶライトニングユニットが無事使用できてる事に宮藤博士は安堵する。

『感謝します、宮藤博士』
『これでこちらもウイッチの人達ほどじゃないけど、空戦が可能となりました』
「これからだ。この星の首都にたどり着くまで安心はできない」

 エルナーとポリリーナの謝辞に、宮藤博士はむしろ顔を険しくする。

『まだこれは先陣だ。敵の本隊が動きだす前に、この星の防衛戦力と合流する事こそがこの作戦の最終目的となる』
『そろそろ向こうも気付いてるはずですが、間に敵戦力がかなりいますからね……』

 美緒が画面に表示される戦況を凝視する
 3Dディスプレイには高空と成層圏から降下してくる敵を抑えている二機のトリガーハート、その下に母艦二隻と同高度で攻撃と守備についているウイッチ、その真下をユナ達光の戦士達が進撃していた。
 宇宙空間から永遠のプリンセス号の砲撃で先制、その後部隊をそれぞれの能力に応じて順次出撃、それぞれの高度で敵を征圧しながら、惑星守備軍と合流するというエルナー提案の作戦は現状では予定通り進行していた。

『マスター、敵後方に動きあり。どうやら気付いてくれた模様です』

 アーンヴァルが画面後方の敵の動きの乱れと、別シンボルで表示される別軍の存在を示す。

「通信は繋がるのか?」
「極短距離は繋がってますが、まだダメですね……じゃあやはりアレで」
「ふむ」

 皆が奮戦しているのを画面表示で確認しながら、美緒は取り付けたばかりのレバースイッチに手を伸ばした。



「当たれぇ~!」

 ライトニングユニットに乗りながら、ユナがマトリクスディバイダーPlusを連射。

「よおしっ、てあれえええぇぇ~~!?」
「ユナさんが回ってます~!」

 だが連射の拍子にバランスを崩し、ユニットごと奇妙な旋回を始めたユナを慌てて隣にいたユーリィが止めた。

「ちょっと、なにやってんの!」
「バランス制御をフルオートにセットして! それで大丈夫なはずよ!」

 舞に怒鳴られる中、ミサキが宮藤博士からのマニュアルを思い出して操作させる。

「うう、練習少ししかしないでみんなよく平気だね~……」
「こんなの、サーフィンしてるみたいな物じゃない。結構いけるわよ!」

 舞がセミオートで滑空しながら、敵ユニットをゴールドアイアンで撃破してみせる。

「宮藤博士が習熟の時間も無い事を考慮して、ほとんどオートで動くように設計されてるわ。もっともエリカ7の人達はほとんどマニュアルでやってるけど」

 ミサキの言葉どおり、運動神経に自信のあるエリカ7は一際自在にライトニングユニットを操り、敵を撃破していた。

「上はこちらで押さえる! そちらの役目はあくまで低空、地上の制圧だ!」
「分かってる! ドッグファイトはそちらに任せるわ!」

 上から響いてきたバルクホルンの声にミサキが答えながら、リニアレールガンを構えて連射していく。

『全員聞こえるか。どうやら向こうでも気付いたようだ。こちらと合流するべく、部隊を展開し始めた。これから信号を送るので、誤射に注意してほしい』

 美緒からの通信が響くと、プリティー・バルキリー号の艦首にビームライトが点灯、それがあるパターンを持って明滅する。

「アレで本当に分かるのかな~?」
「大丈夫、内容はこちらの暗号に変換してあります」

 ユナの背後、こちらもフルオートでなんとか乗っている白香が発光信号で送られるモールスを読みながら答える。

「問題は、この敵の数ね……」
「座標指定が出来れば、ミラージュが全部引き受けるって言ってたけど………」
「この惑星に下りてから、回線が繋がりません~ユーリィ頑張ってるんですけど~」
「どこかにいる電子戦機を破壊するしかないようね………」

 皆が奮戦する中、ミサキはどこかにいるジャミングを起こしているであろう敵ユニットを探す。
 その時、遥か上空から眩い光が走る。

「ミラージュからだ!」
『永遠のプリンセス号からの援護砲撃です。敵母艦、二隻目機能停止確認しました!』
「回線、弱いけど繋がりそうですぅ!」
「敵母艦がそのまま電子戦をしてたの?」
「そうみたいですぅ! でも地表を狙うにはもっと正確なデータ送信が必要みたいですぅ!」
「けど……」
「うわあ、なんかいっぱい来たぁ!」

 母艦を二隻も落とされたせいか、ヴァーミスの攻撃は更に苛烈さを増してきた。

『いかん! 一度進行速度を落とせ! 分断されると各個撃破される!』
「全員速度を落として! 敵のかく乱を優先!」
「任せて! デンジャラスパウダー!」
「お眠りなさい! 子守唄!」
「茶釜アターク!」

 美緒の声と同時に、慌ててミサキが全員に通達。
 全員が円陣を組むようにフォーメーションを組み変える中、お花のマリがばら撒いた混乱を引き起こす花粉や、ヴァイオリンのアレフチーナの奏でる子守歌、とどめとばかりにお茶の佳華が茶釜を叩き落して敵ユニットを昏倒させ、敵を一時的に混乱させる。

「上は!?」
「さすがにウイッチの人達は軍人さんだけあって、すごいな~」

 ミサキが上を見上げると、ユナが感心するだけあってウイッチ達は即座にフォーメーションを組み直して戦闘を続行していた。

「あの~~~………誰か~~~足りないような~~」
「ちょっと! セリカは!?」
「シャーリーさんも先にいっちゃってます!」

 詩織に言われて、エリカとリーネがそれぞれ足りない人物の事に気付く。
 彼女達の視線の先に、スピード重視の二人+武装神姫一体が見事に敵の中央で孤立していた。


「……お姉様、先行しすぎです」
「まずいな~、いっぺん戻った方が…」

 固有魔法発動で一気に先に出たシャーリーだったが、肩にいた飛鳥の声に我に返って戻ろうするが、すでに逃げ道がふさがれつつあった。

「まずい、飛ばしすぎた!」

 声に気付いてシャーリーが下を見ると、同じ状態に陥りつつあるセリカ(※実は二人で密かにライトニングユニット改造済み)の姿を確認、互いに顔を見合わせて苦笑する。

「お姉様?」
「大丈夫、ちょっと待ってりゃ、すぐにみんな来てくれる」
「それまで、ここで粘るぞ!」
「ああ!」
「分かりました!」

 三人は同時に互いのユニットに力を注ぎ込み、一気に己のユニットを加速させる。

「ドリフトターン、得意か?」
「もちろん!」
「………つまり」

 三人はその場で加速しながら、円運動を描き始める。

「近付くと、跳ね飛ばすぞ!」
「おらおらおらぁ!」
「参る!」

 三人は円運動を描きながら、己の得物で外に向けて攻撃を開始する。
 ばら撒かれる銃弾やヘッドライトからのビーム、霊刀の斬撃が近付く敵を片っ端から叩き落していく。

「タイヤが付いてないのがアレだが、結構いけるなこのユニット!」
「あたしも初めて空飛んだ時そう思ったけどね!」
「……お姉様、このままの体勢を維持すれば、300秒以内に皆さんと合流できます」
「それまで、ここいら片付けておくか!」
「OK!」

 三七式一号二粍機関砲を連射しながら、飛鳥は三八式特殊電探で周辺の様子を精査、割り出された合流予定時間にシャーリーとセリカが嬉々として回転速度を上げていった。


「何をやってるんだリベリアン!」
「面白そうだよ、行ってきていい?」
「ダメだ!」
「うわあ、すごい………」
「たった三人でサークルフォーメーションなんて……」
「私達にはとても無理ですね」

 進撃速度を落とし、プリティー・バルキリー号の護衛に重視したウイッチ達が、シャーリーとセリカ、それに飛鳥で繰り広げられている戦闘に感心していた。

『あれなら問題ないだろう。それと今この星の防衛軍から発光信号があった。こちらとの合流を優先させてくれるそうだ』
『もう少しよ、合流すればあとは防衛戦に…』

 美緒とポリリーナが苦戦しつつも、なんとか作戦通りに進んでいると思った時だった。

『ワーニング! ワーニング! 上空母艦から援軍降下を確認! データに有った新型多数!』

 カルナからの緊急報告が警報と共に短距離通信に割り込んでくる。

『こちらクルエルティア、降下多数! 止められない!』
『これまでの敵とエネルギー総量が違いすぎます! きゃあぁ!』
『高出力ビーム確認! とんでもない攻撃力! エグゼリカ、回避を最優先!』
『分かったわ姉さん!』

 高空で戦っていたトリガーハート達の悲鳴交じりの報告に、美緒とポリリーナの顔色が変わる。

「私も出る!」
「私も行くわ! エルナー、操縦をセミオートに!」
「分かりました! 総員警戒態勢!」

 ブリッジから二人が出撃に向かう中、エルナーがプリティー・バルキリー号の操縦システムを自分とリンク、セミオートで操縦しながらも降下してくる敵を見極めようとする。

「これは、一体……」


「宮藤博士! 準備は!」
「出来ている、だが出撃は必要な時だけと……」
「今がその時です!」
「私の分のライトニングユニットは?」
「アイドリング済んでます。要望通り、加速性を重視したセッティングです」
「マスター、降下敵ユニット視認できます」
「坂本 美緒、出る!」

 格納庫で準備をしていた宮藤博士とウルスラに見送られる中、美緒とアーンヴァル、ポリリーナが出撃する。

「前衛の三人を下がらせろ! ウイッチもどきが来るぞ!」
「防御体勢を! トリガーハートが苦戦してるわ!」
「生憎、それは出来そうにありませんわ………」

 フォーメーションを組みなおさせようとする美緒とポリリーナだったが、エリカの言葉に前方を見る。
 そこには、巡洋艦程はある巨大な影がこちらへと向かってくる所だった。

「カルナからのデータ検索。侵蝕コア、陸上艦タイプと推測されます、マスター」
「退いてる暇も守りに徹する暇も無し、か」
「シャーリーさん達が!」
「行くわよみんな!」

 アーンヴァルからの報告に、美緒が僅かに頬を歪ませる中、命令も聞かずに芳佳とユナが陸上艦タイプへと向かっていく。

「待て宮藤!」
「ユナ!」
「芳佳ちゃん!」
「ユーリィも行くですぅ~!」

 美緒とポリリーナの制止も聞かず、リーネとユーリィも二人の後を追っていく。

「宮藤の奴、前よりはマシになったかと思えば!」
「いつもの事じゃん。じゃあお先に!」
「頼む。我々が追いつくまで、無理はするな」

 悪態をつきながらのバルクホルンと楽しげに笑うハルトマンに後を追わせ、他の者達は戦列を組んで陸上艦タイプへと向かって進撃を開始した。

「総員総火力を結集! 上空からの降下前に片をつけるぞ!」
「殿(しんがり)は私とエリカ7で持ちますわ!」
「気をつけてください! 装甲、火力共に桁違いです!」

 エリカ7が立ち止まってこちらに向かってくる小型ユニットと、今だ点に見えるかどうかの降下してくるウイッチもどきと相対する中、他の者達は一斉に速度を上げていく。

「もう始まってますわ!」
「なんて大きさだ……」

 ペリーヌの言葉通り、先行していた三人と駆けつけた者達がすでに陸上艦タイプとの戦闘を繰り広げていたが、その巨体ゆえに苦戦していた。

「これでどうだ!」
「おらぁ!」

 シャーリーの銃撃とセリカのタイヤ攻撃が炸裂するが、相手の分厚い装甲を僅かに削るだけに終わる。

「私は右を!」
「じゃあ左!」

 芳佳とリーネ、ユナとユーリィで左右の砲台に向かって攻撃を加えるが、砲台ですらも強固な装甲に阻まれる。

「ダメ~、全然効かない!」
「こっちもです!」
「なら、効くまで撃ち込むまでだ!」
「そのと~り!」

 バルクホルンとハルトマンもそれに加わり、銃撃が苛烈さを増すが、向こうはそれを上回る弾幕を繰り出してくる。

「防御体勢!」
「ユナさんこっちに!」
「うひゃああ!」

 美緒の指示と同時にウイッチ達が一斉にシールドを展開、ある者はその背後に隠れ、ある者は回避したり、自前のシールドで防ぐ。

「まずは砲台を潰せ!」
「ミサキ!」
「分かってる!」
『テレポート!』

 ポリリーナとミサキの姿が一瞬で掻き消え、砲台の背後に出現したかと思うと同時に左右の砲台へとゼロ距離で攻撃を叩き込む。

「いけっミルキー!」「ミューー!」
「もう手加減しない!」

 ポリリーナのペットのロボットネコ、ミルキーが高エネルギーを持って突撃し、ミサキのリニアレールガンの最大出力射撃が砲台を撃ち抜く。

「今だ!」
「トネール!」
「そこです!」

 更にそこへ追加でペリーヌの固有魔法とリーネの狙撃が叩きこまれ、砲台は限界に達して爆発する。

「よし、これで…」
「まだです!」

 美緒が攻撃の弱体化を確信しかけるが、それを白香の言葉が止める。
 彼女達の目の前で、爆発したはずの砲台に替わり、新たな砲台が姿を現す。

「装備を換装しただと!?」
「そんなキープ君用意してんじゃないわよ!」
「マスター、恐らく全方位拡散砲台です!」

 バルクホルン、舞、アーンヴァルがそれぞれ叫んだ時、先程よりも攻撃力は低い物の、それを上回る濃密な弾幕が放出される。

「回避だ!」
「皆さん、私の後ろに!」
「言われなくても!」

 全員が慌てて回避に入る中、芳佳が全力で巨大なシールドを張り、回避しきれない者達が慌ててその背後に飛び込む。

「シュトルム!」
「縦横無尽!」
「プラスマリッガー!」

 広範囲攻撃を使える者達の一斉攻撃が弾幕を迎撃するが、弾幕は際限なく発射され続ける。

「これじゃ攻撃できないぞ!」
「ひるむな! いつか必ず弾幕が途切れる! それまで持ち応えるんだ!」
「……その必要はありません」
「私達が行きます」

 シャーリーと美緒の言葉を遮るように、飛鳥とアーンヴァルが前へと出る。

「私達なら掻い潜れます」
「……お姉様、あなたが勝利を願うなら……
わたしは負けない!」
「行けるのか?」
「おいおい、無茶するなよ?」

 それぞれのマスターに向かって頷くと、二体の武装神姫は同時に加速する。

「私は右、貴女は左を!」
「……心得ました!」

 その小さな体と驚異的な飛行能力を駆使し、アーンヴァルは速度で、飛鳥は旋回性能で弾幕を掻い潜って二体の武装神姫は一気に砲台へと向かっていく。

「マスター、見ててください これが私の本気です!」
「鬼よ……我に宿りたまえ」

 アーンヴァルがウイングに増層パーツをコネクト、GEモデルLC3レーザーライフルを最大出力で発射。
 飛鳥が霊刀 千鳥雲切で砲身を次々と切り裂いていき、トドメとばかりに両翼の三六式高空爆弾を投下していく。
 砲身の中に直接叩き込まれた高出力レーザーと小型とは思えない強力な爆撃が、砲台を左右同時に吹き飛ばした。

「よくやった!」「ありがとうございます」
「やるじゃん!」「……ありがとうございます」

 離脱して所でそれぞれのマスターの賞賛を受けた武装神姫達が顔をほころばせる中、地上艦タイプが再度武装を換装させようとする。

「させるな!」
「艦隊中央、そこに制御コアらしき物がある!」

 バルクホルンが叫び、魔眼を晒した美緒の声と同時に全員が一斉に攻撃を開始する。
 だが、それだけの攻撃を食らいながらも、相手の装甲の厚さに有効打と言えるだけのダメージは与えれていなかった。

「ダメ! 効かない~! どうしよう~?」
「トネール!」
「行くですぅ!」
『いけえ! ロボットピンポン!』

 ペリーヌが固有魔法の電撃を放ち、ユーリィが双竜牙を連射、更にアコマコ姉妹が巨大ロボットピンポンを出してぶつけるが、それでもなお分厚い装甲を歪ませる程度のダメージにしかならかった。

「誰か、この装甲破れる者はいないか!」
「ルッキーニがいたら……!」
「ミラージュとはまだ繋がんない!?」
「まだ無理ですぅ!」
「こうなったら……」

 美緒が覚悟して背の烈風丸を抜こうとするが、いつの間に来たのかミサキが柄を掴んでそれを止める。

「ダメよ、今それを使ったら、次の相手と戦えなくなるわ!」
「だが!」
「え~と~~~~あれを~~~撃てば~~~~いいんですね~~~」

 そこへ、あまりの遅さでようやく皆に合流した詩織が、相変わらず間延びしきった声で陸上艦タイプを指差す。

「そうだが、半端な火力では……」
「! 全員離れて!」
「ちょ、詩織ちゃんが!」
「逃げるわよみんな!」

 美緒が怪訝な顔になるが、ミサキは逆に顔を青くして叫び、ユナとその仲間達が詩織がこちらに向かって構えているのを見て全員逃げ出す。

「え~~と~~~レ~~ザ~~発射~~~!」

 ノンキな声と一緒に、詩織のバトルスーツの全火器が一斉照準。
 直後、凄まじいレーザーが照射され、周囲を光で染め上げながら、陸上艦タイプに直撃。
 凄まじい爆音と共に装甲が大きく穿たれた。

「…………随分と鈍そうで大丈夫かと思ったが、こういう事か」
「まあね………」

 あまりのすさまじい威力にウイッチ達は絶句し、美緒が辛うじて言葉を振り絞り、ミサキが静かに頷く。

「ようし、突っ込むよ! 援護を!」

 ダメ押しとばかりに、ハルトマンが固有魔法を発動させながら突撃する。

「ポイズンニードル!」
「茶筅ミサイル!」

 それを見たマリと佳華が毒のニードルと茶筅型ミサイルを発射。
 ハルトマンのシュトルムがそれらを巻き込み、ニードルとミサイルを伴った竜巻が陸上艦タイプに直撃。
 凄まじい爆発と共に、とうとう陸上艦タイプが限界に達し、崩壊、爆散していく。

「やったぁ!」
「まだだ! 先陣を倒しただけに過ぎん!」

 思わず喝采を上げるユナに、美緒が怒鳴りつけながら上空を見る。
 その時、こちらに向かって人影が落ちてくるのに皆が気付いた。

「誰か落ちてくる!」
「いかん!」
「任せろ!」

 バルクホルンがいち早く飛び出し、片手でまとめて二丁機関銃を持つと、もう片方の手で落ちてくる人影をとっさに受け止め、そのまま地表近くへと移送する。

「エリカちゃん!?」
「エリカさん! 大丈夫なのですか!? 宮藤さん早く!」
「はい!」

 それが、ボロボロになったエリカだと気付いてユナとペリーヌが顔色を変え、慌てて芳佳が固有魔法で治癒に入る。

「これくらい、なんて事はありませんわ……」
「しゃべっちゃダメだよ! 一体誰にやられたの!?」
「彼女をここまでするとは、一体………」
「あれですわ………」

 傷が癒えていく中、エリカが鋭い視線で虚空を睨みつけ、一点を指差す。
 全員がその一点に視線を送ると、そこには三つの人影があった。
 上空から降りてきたらしいクルエルティアとエグゼリカ、そして二人と対峙する彼女達と良く似た、赤いスーツをまとった少女と。

「そこそこやったけど、まだまだね」
「あなた、フェインティア!? いや、そんな……?」
「やっぱり、私の相手が出来そうなのは貴方達トリガーハートだけのよォねえ」
「姉さん! やはり彼女は……!」
「はッ、何をブツブツ言ってるの!? 来い!」
「待って! フェインティア!」

 宣言と同時に、赤いトリガーハートの周囲に複数の攻撃ユニットが旋回を始める。

「く、カルノバーン!」
「アールスティア!」

 それに応じるように、二人のトリガーハートも己の随伴艦の照準を相手へと向けていた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP16
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/12/31 10:29
「記憶領域をスキャン完了、目的の機密情報は発見できない」
「パーソナリティーを完全置換するには問題が多い。ロックの後に、戦闘用簡易パーソナリティーを移植」
「戦闘能力維持を最優先」
「擬似人格制御。コントロールコア移植。上位存在の認識を改変」
「リンク完了。サンプル01覚醒」
「あれ、ここは………あたし………」
「コントロールコアを起動」
「……あ!? 何? 何かがあたしの中に! イヤ! やめて! ユナ……! ………………たおす……てきを………てき………」
「起動成功」
「終了。発進準備を」



「ファイアー!」「シュート!」

 二機の随伴砲撃艦から、二種のショットレーザーが射出される。

「へえ~」

 赤いトリガーハート、フェインティアはそのショットレーザーを驚異的な機動力でいともたやすく避けていく。

「あんた達、そんな物なの? 期待はずれもいいとこね」
「くっ………」
「姉さん、あの機動力、やっぱり本物のトリガーハート?」
「分からないわ………けど、あの回避パターンは…」
「ごちゃごちゃうるさいわね、今度はこっちから行くわよ!」

 クルエルティアとエグゼリカがまだ困惑している中、フェインティアの周囲の無数の外部拡張攻撃ユニット群《ファルドット》が展開していく。

「いけない!」「ディアフェンド!」

 とっさに二人はアンカーを射出、手近のヴァーミスの小型ユニットをキャプチャーして前へとスイング、そこへファルドットからの凄まじい弾幕が降り注ぐ。

「きゃあああ!」
「うわああ!」
「こっちだ!」
「早く下へ!」

 流れ弾は下まで降り注ぎ、下にいた者達が逃げ惑い、ウイッチ達のシールドへと慌てて非難する。

「な、なんだあのデタラメな火力は!」
「まるで戦艦ね………」
「エリカちゃん、あんなのと戦ったの!?」
「とても我々の出る幕ではないな……」

 ウイッチ、光の戦士双方が愕然とする中、シールドにしたヴァーミス小型ユニットが消し炭となってそばへと落ちてくる。

「マスター、あちらは任せた方がいいと思います」
「確かに。それに、我々の相手も来たようだ………」

 アーンヴァルの提言に美緒が素直に頷く中、彼女の視界に、こちらへと迫ってくる無数の人型ネウロイが飛び込んでくる。

「気をつけてください! あの赤い少女と人型ユニットの軍勢に、こちらは一方的に壊滅寸前にまで追い込まれました!」
「ああ、よく知ってる。一体だけでもこちらの手に負えなかったからな………」

 白香の声に、バルクホルンも頷きつつも、その頬に一筋の汗が流れる。

「私とシャーリー、ハルトマンで敵をかく乱、バルクホルンとペリーヌがそれを援護。リーネと宮藤は後方で防護に当たれ!」
『了解!』
「行くぞぉ!」

 号令と同時に、美緒は先陣を切って突撃、烈風丸を手に手近の人型ネウロイへと切りかかる。

「行っけえ!」
「シュトルム!」

 人型ネウロイの両手から発射されるビームを掻い潜りつつ、シャーリーとハルトマンも固有魔法を発動、超高速と疾風で人型ネウロイを薙ぎ払っていく。

「こいつらのビームは下手なシールドは軽く吹き飛ばす程の威力がある! 回避を徹底しろ!」

 叫びながらも一刀の元に人型ネウロイを斬り捨てた美緒が、何か奇妙な違和感に気付く。

「何だ、何かが……」
「マスター! 来ます!」

 その違和感を探る暇も無く、背後を守るアーンヴァルがGEモデルLC3レーザーライフルを速射しながら叫ぶ。

「何かが違う、何だ?」

 次々と襲い来る人型ネウロイに、美緒はどんどん大きくなる違和感を感じながら、白刃を振るい続けた。

「こちらにも来るぞ!」
「トネール!」

 迫り来る人型ネウロイに向かって、ペリーヌが先手を打って電撃を解き放つ。
 何体かを確実に破壊する中、それを上回る敵が向かってくる。

「一撃離脱だ! 格闘戦に持ち込まれれば、火力で押し切られる!」
「遠距離攻撃できる人は撃ちまくって! 速度のある人は動きを止めないで! それ以外はシールドから出ないで!」
「は~い」「わかりました~」

 バルクホルンの警告とポリリーナの一番最後の指示に、ユナと詩織がもっとも的確に反応して芳佳のシールドの下で得物を構える。

「芳佳ちゃん、こんなのと戦ったの!?」
「ううん、前に会った時は全然攻撃してこなくて……」

 ユナの問いにシールドを張りながら答える芳佳だったが、そこに強力なビームが何発も直撃し、慌てて銃撃で応戦する。

「違う、前にあった子はこんな事してこなかった!」
「じゃあ違う奴って事よ!」

 芳佳のシールドから飛び出しながら、ミサキがレールガンを連射して迫ってきていた人型ネウロイを撃破する。

「こんなのインチキよ! 火力が違い過ぎるじゃない!」
「当たるとすごく痛そうです~」

 降り注ぐビームに前へと出られなくなった舞とユーリィがぼやく中、戦闘は更に激化していった。

「……お姉様、敵更に増援来ます」
「おいおい、勘弁してくれ………」
「坂本少佐! 何か変だよこいつら!」
「確かに、だが何が……!」

 増え続ける人型ネウロイに段々苦戦していく中、美緒は魔力の温存を諦め、眼帯を剥ぎ取って魔眼を発動させる。
 そこで、違和感の正体に気付いた。

「こいつら、コアが無い! ネウロイではない!」
「え?」
「あ! 確かに!」

 シュトルムで破壊した人型ネウロイが爆発する瞬間、コアらしき物が全く無い事を確認したハルトマンも叫ぶ。

「これは、まさか………」
「恐らく、イミテイトです。マスター」
「偽物だというのか!? だが、この姿、攻撃力、我々が知っているウイッチもどきと瓜二つだぞ!」

 そこまで言った所で、はたと気付いた美緒が上空を見る。

「では、あの赤いトリガーハートも!」



「あなた、フェインティアなの!? もしそうなら、コミュニケーションリンクの識別コードで応えて!」
「…何よそれ!? うっさいわね!」

 クルエルティアの必至の呼びかけを、フェインティアは無視してファルドットを突撃させてくる。

「わたしとどうしても戦うというなら…もう容赦しないわ!」
「いいの姉さん!?」

 覚悟を決めて随伴艦を向けるクルエルティアに、エグゼリカは思わず問いかける。

『聞こえるかクルエルティア! こちらのネウロイは偽物だった! だとしたらそちらも!』

 そこに飛び込んできた美緒からの通信に、トリガーハート二人の顔色が変わる。

「イミテイト!? ここまで精巧な………」
「でも、それなら随伴艦無しで敵対する理由も納得できるわ!」
「あら、ばれちゃった?」

 通信が聞こえたのか、フェインティア・イミテイトがいたずらっぽく舌を出す。

「まあいいわ。アンカーユニットはあんた達を叩き潰してからゆっくりとね。実働データを丸ごといただいて、私がより完全になる材料になってもらうわ。そして最後はオリジナルを超えてみせる。覚悟なさい!」
「やはり、コピー……じゃあ本物はどこ!?」
「応えてもらいます!」
「はっ! 本体は灰になってもらうわ!」

 それぞれの目的のため、二つのアンカーが射出され、更に猛烈な弾幕が上空に解き放たれた。


「たああぁ!」

 振りかぶった烈風丸が、ネウロイ・イミテイトを半ばまで斬り割く。
 だがそこで不意に手ごたえが重くなり、構わず美緒は強引に白刃を斬り通す。

「はあ、はあ………」
「マスター、体内エネルギー量が低下しています。これ以上は危険です!」
「魔力限界か……だがここで下がるわけには……」
『下がるんだ』

 アーンヴァルの警告を聞きながらも再度白刃を構える美緒だったが、そこへ宮藤博士の通信が飛び込んでくる。

「宮藤博士、しかし………」
『美緒、周囲を見てください』
「え……」

 エルナーの言葉に、美緒は周囲を見回す。

「どおりゃあああ!」
「ホームラン!」
「シュート!」

 ビームをかいくぐりつつバルクホルンが叩き落したネウロイ・イミテイトを、マミとルイが打ち返し、蹴り返して他のネウロイ・イミテイトを撃破していく。

「怪我した人は言ってください! 私が治します!」
「手伝います!」

 負傷した者達は芳佳がシールドを張りながら治癒魔法を発動させ、白香もそれを手伝っている。

「距離200、風速北東から2、ここ!」
「はっ~~しゃ~~~」

 リーネと詩織が二人がかりで狙撃し、ネウロイ・イミテイトの遠距離攻撃の陣形を崩していく。

「私も行きますわ……」
「まだ無理ですわ。ここは私が!」
「私のカンフー、見せてやるアル!」
「しゃあないわね、つきあったげるわ」

 まだ回復が済んでないエリカを押さえ、ペリーヌ、麗美、舞が中心となって近接戦闘に秀でた者達が突撃をかけていく。

「ようし、燃えてきたぜ!」
「お眠りなさい」

 姫のロックが周囲の者の攻撃力を挙げ、アレフチーナのバイオリンがネウロイ・イミテイトの動きを止めていく。

「参ります。ついてきなさい」
「おーっほっほ!」

 礼節と冷徹を併せ持った少女、元暗黒お嬢様13人衆最強を誇る高貴な沙雪華こと綾小路 沙雪華がハンドビームを連射して道を開き、その後ろをボンテージ風バトルスーツにアイマスクという危険な格好をした家柄と血筋のルミナーエフことルミナーエフ・ド・クロソウスキーが愛鞭のクレッセント・ビュウを振り回して更に道をこじ開けていく。

「みんな行くわよ! プラズマリッガー!」
「縦横無尽!」
「エレクトロンブレイク!」
『サイクロンカット!』

 こじ開けられた道で敵陣中央へと乗り込んだ葉子、エミリー、かえで、アコとマコが広範囲攻撃を一斉に炸裂。敵陣中央に大穴を空けていく。

「上を押さえる! 手伝ってくれ!」
「OK!」
「……お姉様、上空戦闘は継続中、ご注意を」

 スピードに秀でたシャーリーとセリカ、飛鳥が上空へと舞い上がり、上下からの流れ弾を回避しながら攻撃を加えていく。

「さっきのもう一回行くよ! シュトルム!」
「ポイズンニードル!」
「茶筅ミサイル!」
「オーロラファンネル!」

 ハルトマンの固有魔法に、マリ、佳華、ミドリのニードル、ミサイル、ファンネルが合わさって敵陣を穿っていく。

「みんな頑張って!」
「でもいっぱいいるですぅ~」
「大丈夫よ、ほら」

 お互い背中合わせになりながら得物を連射しているユナとユーリィだったが、そこへポリリーナがある方向を指差す。

「リフレクトレーザー!」
「食らえぇ!」

 その方向から、周辺にレーザーを発射する細身の青い装甲と、大剣を振るう巨躯の赤い装甲の二人の男性型機械人に率いられた機械人の部隊が戦場へと合流した所だった。

「鏡明(ジンミン)さん! 剣鳳(チュンフォン)さん!」
「ユナ殿! はるばる地球からの御助勢、感謝いたします!」
「遅れて申し訳ない! 我々も戦いましょう!」
『おお!』

 機械帝国を治める三賢機が内の二人、右丞相・鏡明と左丞相・剣鳳を先頭に、参戦した機械化帝国の部隊を交えて戦況は拮抗から徐々に優勢へと変わりつつあった。

『みんな、力を合わせて頑張っています。貴女が無理をすれば、その分みんなの負担になりかねません』
「……そうだな」
「美緒、貴女の生体エネルギーはもうサイキッカーの実戦投入可能レベルを下回ってるわ。一度撤退して。その分は私が埋める!」
「それとも、こういたします? クランクイン!」

 それでもなお撤退を躊躇う美緒を、ミサキが強引に促し、ミキが間近まで近寄ったかと思うと、突然その姿が美緒そっくりに変身する。

「な……それが君の固有魔法か」
「私の演技力で、短時間なら貴女の真似くらいは出来るから」
「そうか、だが魔眼は使いこなすのに慣れが必要だ。使わない方がいいだろう」
「分かったわ。それじゃあ行くぞ!」

 美緒の口調まで完璧に演技しながら、美緒そっくりのミキが白刃を手に敵陣へと突っ込んでいく。

「マスター、私が援護します! それと、気になる事がありますので、解析を優先すべきかと」
「お前もそう思うか。よし、後は任せる!」

 美緒が烈風丸を鞘へと収め、アーンヴァルと共にプリティー・バルキリー号へと帰還していく。

「今戻った! 戦況の解析を!」
「エルナーがすでに始めている」
「それと、先ほど衛星軌道の敵旗艦最後の一隻が撃墜されました。通信網も回復しました」
「そうか」

 宮藤博士とウルスラの言葉に頷きながら、美緒はブリッジへと向かう。

「現状は!」
「こちらやや優勢、なのですが……」

 ブリッジに飛び込むなりの美緒の言葉に、エルナーは言葉を濁す。

「旗艦は全艦撃墜、戦況は優勢。だが、向こうに焦りが見られない」
「ええ、恐らくあのトリガーハートのコピー体が指揮官だと思われますが、この戦況に我関せずといった感じでクルエルティア、エグゼリカと交戦中、こちらも2対1なので優勢と言った感じなのですが………」
「通信を全員に繋いでくれ。恐らく気付いていない者もいるはずだ」
「ユナは絶対気付いてませんね………」
「こちらも何人気付いている事やら」

 思わずため息をつきながら、美緒は通信ようレシーバーを手に取った。

「こちら坂本! 先程、上空で通信妨害をしていた敵旗艦は三艦とも撃破した! 戦況はこちらに有利だ! だが、恐らく敵は何か手を隠している! 総員、注意せよ!」



「ふ~ん、どうやら結構できる指揮ユニットがいるみたいね」
「やはり、何かを隠しているのね?」

 通信を傍受したフェインティア・イミテイトが頷くのを見たクルエルティアが鋭く聞き返す。

「そうね、そろそろ着くと思うわよ?」
「何が……上空に転移反応!」
「でも、何が………」

 エグゼリカが感知した転移反応の精査に入り、クルエルティアがその反応の小ささに首を傾げる。
 突如としてネウロイ・イミテイト達が空中に場を空けていき、そこに小さな渦のような物が虚空に生まれ、渦から小さな人影が宙へと浮かび上がる。
 それは、中華風の衣装を身にまとい、長い髪を二つに分けておさげにした一人の少女だった。
 額にフェインティア・イミテイトと同じ奇妙なサークレットを付け、虚ろな目をした少女が真下を見る。

「あ、亜弥乎ちゃん!!」
「ああ、本当ですうぅ! 亜弥乎ちゃんがいますぅ!」
「え?」

 遠くからその少女、妖機三姉妹の末妹で大の親友でもあった亜弥乎の姿を確認したユナが大声を上げ、ユーリィの口からもそれに劣らない驚愕の声が上がる。
 光の戦士達もその姿を確認すると、口々に驚愕の言葉を上げる。

「敵に捕まったはずじゃ?」
「まさか偽者!?」
「分からないわ! ユナ注意を…」
「亜弥乎ちゃ~~~ん!」

 ポリリーナの注意も聞かず、ユナが亜弥乎へと向かって突き進んでいく。
 何故かネウロイ・イミテイト達がユナに攻撃しない事を何人かが気付いた時、亜弥乎は虚ろな瞳のまま、片手をユナの方へと向ける。
 すると、突如として地面が盛り上がったかと思うと、そこから無数のケーブルが意思持つ触手のように噴き出し、ユナへと襲い掛かってくる。

「バッキンボー!」
「当たれぇ!」

 ケーブルがユナへと届く前に、ポリリーナとミサキの攻撃がケーブルを撃墜する。

「亜弥乎ちゃん!? どうして……」

 背後からの爆発音に、ユナが愕然として思わず動きが止まり、亜弥乎の方を見つめる。
 亜弥乎は相変わらず虚ろな瞳のまま、もう片方の手もユナへと向けると、そこから放たれた電撃がユナへと襲い掛かる。

「ユナさぁん!!」
「トネール!」
「うわあぁ!」

 ユーリィの絶叫が響く中、放たれた電撃を相打つように、ペリーヌの電撃魔法が放たれてユナの手前で壮絶なスパークを撒き散らし、直撃こそ免れた物のユナはバランスを崩して墜落していく。

「危ない!」

 芳佳が空中で何とかユナを受け止める。
 ダメージこそほとんど無い物の、ユナの目は攻撃してきた親友を凍りついたように見つめていた。

「亜弥乎ちゃん………何で? 最近忙しくてメールしてなかったから? ユーリィと二人きりで食べ歩きした事教えたから? それとも、それとも………」
「ユナちゃん! しっかり!」
「さては、あいつもパチ物ね!」

 呆然としているユナを芳佳が必至に気付かせようとする中、舞がアイアンを亜弥乎へと突きつける。

「……いや」
「固有パターンが一致している。あれは紛れも無く、本物の亜弥乎殿だ………」

 鏡明と剣鳳の言葉に、他の者達も呆然と亜弥乎を見る。
 虚ろな瞳のままの亜弥乎の周囲には、ネウロイ・イミテイト達が従卒が如く集い、陣形を形成していった。

『洗脳か! 似たような事がスオムスでも会ったと聞いている!』
『気をつけてください! 亜弥乎の能力は機械人の中でも…』

 その光景を見た美緒とエルナーの言葉が最後まで響くよりも早く、亜弥乎が両手を左右に広げる。
 それに呼応するように、戦場の真下の地面から、一斉に膨大な量のケーブルが吹き出してくる。

「きゃああぁぁ!」
「何だこれは!」
「うひゃあ!」

 予想もしてなかった攻撃にウイッチ達が上昇や旋回を繰り返してケーブルをなんとか回避していく。

「あの子、洗脳のついでに強化手術でも受けたんじゃない!?」
「あ~~~れ~~~~~」
「逃げるですぅ!」
「きりがないアル!」

 光の戦士達も逃げ惑うが、かわしきれずにダメージを食らう者も出始める。

「止むをえん!」
「だめえええ!」

 上空にまで伸びてくるケーブルをかわしながら、バルクホルンが銃口を亜弥乎へと向けるが、そこへユナが飛び出してその前へと立ちはだかる。

「どけ! 安心しろ、急所は外す!」
「ダメ、絶対にダメぇ! 亜弥乎ちゃんを撃つなんて絶対にさせない!」

 泣き叫びながら亜弥乎への攻撃をさせまいと必死に立ちはだかるユナに、バルクホルンの銃口も震え始める。
 そこで、ある事に気付いたバルクホルンの瞳が大きく見開かれる。

「後ろだ!」
「え…」

 ユナが振り向く間も無く、衝撃と共にユナの長髪の一部が宙に舞い、力を失ったユナが落下していく。
 後には、手に電磁ロッドを持った亜弥乎が虚空に佇んでいた。

「き、貴様…」

 バルクホルンが思わず怒声を上げようとした時、虚空を滑るように瞬時に間合いを詰めた亜弥乎の二の太刀がとっさに前へと突き出した重機関銃を二丁まとめて苦も無く両断する。

(つ、強い!)

 スクラップになった重機関銃を投げ捨て、後ろへと飛びながらバルクホルンは護身用の拳銃を抜く。

「トゥルーデ下がって! 私が…」
「気をつけろ! こいつ、見た目とは桁違いの怪物だ!」

 ハルトマンと位置を変わりながら、バルクホルンが威嚇のために拳銃を連射。
 だが、その全てが地面から伸びてきたケーブルによって阻まれた。

「なんの!」

 ハルトマンが突撃すると見せかけて体を捻り、伸びてくるケーブルを機敏にかわしつつ水平旋回、亜弥乎の背後を取る。

「そこだ!」

 ハルトマンは即座に銃口を向け、トリガーを引いた。
 魔力を帯びた弾丸の一斉射が亜弥乎へと迫るが、そこに突然ネウロイ・イミテイトが引き寄せられるように出現し、壁となって弾丸を阻む。

「もらいましたわ!」

 ハルトマンに注意が向いた隙に、ペリーヌがレイピアを手に突撃するが、必殺の突きはアヤコの電磁ロッドに止められる。

「まだまだですわ!」

 そこからさらにペリーヌは突きを繰り出し、ときたまフェイントも交えて亜弥乎を狙うが、異様なまでの冷静さで亜弥乎はレイピアの切っ先を捌き、フェイントは完全に無視して衣服が切り裂かれるのも無視していた。

「く、トネール!」

 駄目押しに至近距離で電撃を発動させたペリーヌだったが、亜弥乎も電撃を放ち、双方相打ちに近い形で食らうが、ペリーヌだけが弾き飛ばされるように落下していく。

「危ない!」
「く、間に合いなさい!」

 落下速度が増していく中、リーネが飛び出し、エリカがとっさに念動力で落下速度を緩めていく。

「確保しました!」

 落下速度がほとんどなくなった所でリーネがペリーヌを受け止める。

「やられましたわ……体が動きません………」
「こちらへ! 私なら回復させられます!」
「お願いします!」
「バルクホルン大尉にハルトマン中尉、それにペリーヌさんの三人がかりで手も足も出ないなんて………」

 電撃で麻痺したペリーヌを白香の元へと運ぶ中、リーネが愕然と亜弥乎を見る。

「え~い、仕方ないわね!」
「ちょっとだけ眠っててもらうアル!」
「大人しくしてもらおう!」

 そこに舞と麗美、ミキ(※美緒に変身したまま)が三人同時にアイアン、閃空槍、扶桑刀を振りかざすが、亜弥乎は電磁ロッドのたった一閃で全員を弾き飛ばした。

「うぎゃあ!」「アイヤー!」「きゃあああ!」

 三人はそれぞれ弾き飛ばされ、ミキに至ってはクランクインが解けて元の姿に戻りつつ落下していくのを、慌てて手近の者達が救い上げる。

「亜弥乎ちゃん………」
「しゃべっちゃダメです! もうじき治ります!」

 芳佳の治癒魔法を受けながら、その光景を見ていたユナが呆然と呟く。

『皆さん! 近付いてはいけません! 恐らく亜弥乎はより戦闘用になるように調整されてます!』
『距離を取って一撃離脱を繰り返すんだ!』
「でも坂本少佐! このケーブルが邪魔だ! うわ、危な!」
「動きを止めないで! 狙われるわ!」
「でもどうすれば! きゃあ!」

 エルナーと美緒の指示が飛ぶが、亜弥乎の操るケーブルの触手がウイッチ達の機動力を奪い、その数に光の戦士達の攻撃は阻まれる。
 更にそこへネウロイ・イミテイト達が容赦なく攻撃を仕掛け、それをなんとか掻い潜って亜弥乎に近付いたとしても、亜弥乎自身の電磁ロッドと電撃の前に攻撃を加える事すら出来ないでいた。

「あらあら、あちらは大変ねえ」
「何て事をさせるの! あの子は彼女達の仲間なんでしょう!?」
「早くもどしなさい!」

 フェインティア・イミテイトが嘲笑する中、クルエルティアとエグゼリカが攻撃をしながら問い詰める。

「さ~あ、どうしたら戻るのかしらね? いっそ破壊してみたら? そうしたら攻撃は止むわよ♪」
「そんな………」
「出来るわけないでしょう!」
「そ~お? あっはっはっはっはっは!」

 猛攻の怒号と、その合間に負傷した者達の悲鳴が響く中、フェインティア・イミテイトの哄笑が周囲に響き渡る。
 戦況は、徐々に悪化の一途を辿っていた。




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP17
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2011/12/31 10:29


 その哄笑は、地表で治療をしている芳佳と治療を受けているユナの元にまで響いてきた。

「ひどい………なんでこんな………」
「………して」

 そこでユナが何かを呟く。
 芳佳にその呟きは届かなかったが、突如として治癒魔法が弾かれる。

「きゃああ!」
「どうしたの芳佳ちゃん!」
「わ、分かんない………」

 突然の悲鳴に護衛をしていたリーネが振り向くが、今まで無かった現象に芳佳も唖然とするが、そこで治療を受けていたはずのユナが立ち上がっているのに気付いた。

「返して……」

 再度ユナが呟き、変化が訪れる。
 彼女の純粋さを現したような白いバトルスーツが、墨でも流したかのように黒く染まっていく。

「え………」「何あれ………」

 芳佳とリーネが絶句する中、変化は更に進み、ユナの全身を黒ずんだバトルスーツが覆っていく。
 そして、変化の終了を示すように、ユナの目から零れ落ちた涙が地面へと落ちる。
 同時に、ユナの全身から凄まじいエネルギーが溢れ出す。

「何? 何?」
「ゆ、ユナさん?」
「な、何よあれ!」

 状態に気付いたウイッチ達や光の戦士達も変貌したユナの姿に絶句するが、それすら上回る驚愕が次の瞬間に起きた。

「亜弥乎ちゃんを返せええぇぇぇ!!!」

 ライトニングユニットも無しに、ユナが地面を踏みしめてジャンプする。
 いかな力がかかったのか、一撃で金属製の地面にクレーターが浮き、ユナの体はロケットのような勢いで上昇する。

「返せええ!!」

 二歩目は上空へと伸びていたケーブルの束、一撃でその束を軒並み蹴り飛ばし、ユナの体が更に上昇していく。
 ユナを迎撃するため、数体のネウロイ・イミテイトが彼女の前へと立ちふさがる。

「邪魔だあぁ!!!」

 ユナはそれに対し、無造作に腕を一閃、たったそれだけでネウロイ・イミテイトは粉々に吹き飛んでいく。

「何だ、あの力は!」
「な、なんかやばいよ!?」
『い、いけません! 皆さんユナを止めてください!』

 歴戦のバルクホルンとハルトマンも、恐怖を感じるような圧倒的な力を振るい、襲ってくるネウロイ・イミテイトを石ころのように扱いながら更に上昇していくユナに、エルナーが慌てて制止を叫ぶ。

「あれは……」
「ユナさん!?」
「うわあああぁぁ!」

 ケーブルやネウロイ・イミテイトを踏み石にして、とうとうユナがトリガーハート達が戦っている高度にまで到達する。

「この! 壊れろ!」
「ああああぁぁ!」

 ユナの異常なまでの戦闘力、いや破壊力にフェインティア・イミテイトもファルドットを襲ってくるユナへと差し向け、無数の弾幕やレーザーがユナを襲う。

「返せええぇぇ!」

 だが、その無数の弾幕やレーザーをユナは力任せに弾き飛ばし、ファルドットですら踏み壊しながらフェインティア・イミテイトに迫っていく。

「ひ、いやああぁぁ!」

 むき出しの感情そのままに迫るユナに、とうとうフェインティア・イミテイトの口から悲鳴が洩れる。
 ユナの手がとうとうフェインティア・イミテイトへとかかる直前、その動きが止まる。

「ダメです! ユナさん! ディアフェンド!」

 直前でアンカーでユナをキャプチャーしたエグゼリカが、出力を上げてなんとかユナを留めようとする。

「ユナ! 落ち着いて!」
「ダメよユナ!」
「そのままでは、貴女も兵器になってしまう!」

 更にようやく追いついたポリリーナとミサキ、クルエルティアも加わって二人+アンカー二つで何とかユナの動きを止める。

「ば、化け物! こんな事、聞いてないわよ!」
「亜弥乎ちゃんを、亜弥乎ちゃんを……」
「亜弥乎! こいつを壊しなさい!」

 恐らく初めて覚える恐怖に、フェィンテイア・イミテイトが亜弥乎に命じる。
 命令に応じて、亜弥乎がこちらへと向かってきた。

「いけない! このままだと下手したら……」
「両方無事ではすまないわ!」
「どうせなら、両方壊れちゃえ!」
「貴女!」
「ど、どうしたら………」
『額だ!』

 ユナを何とか抑える四人が向かってくる亜弥乎と両方どうすればいいか悩んだ時、通信に美緒の声が響いてくる。

『私の魔眼で確かめた! その額飾り、それだけが外から接続されている! 恐らくそれが…』
「コントロール・コア!」
「あれを破壊すれば、彼女は開放される!」

 美緒の言葉を、トリガーハートの二人は続けるように叫ぶ。
 それを聞いたユナの動きが止まり、ゆっくりとバトルスーツの色が白へと戻っていく。

「本当? あれを壊せば、亜弥乎ちゃんは戻るの!?」
「間違いないわ! 短時間でシステムを完全に書き換えるのは不可能! だとしたら外部からコントロール・コアで制御するのが妥当よ!」
「じゃあ、彼女も………」

 ユナの問いにクルエルティアが断言する中、エグゼリカがフェインティア・イミテイトの額のコントロール・コアを見る。

「ふ~ん、やれる物なら、やってみなさい!」

 フェインティア・イミテイトがユナとそれを抑えたままだったポリリーナとミサキへとファルドットを向ける。

「ミサキ!」
「ええ、テレポート!」

 放たれた弾幕を避けるため、ユナを連れて二人が一気に地表へとテレポートする。

「ポリリーナ様、ミサキちゃん、みんな……さっきはゴメン」
「ユナさん大丈夫? あんな無茶したら危ないよ?」

 芳佳が心配して駆け寄る中、ユナが皆に頭を下げる。

「ま、あんな笑われ方したら誰だって切れるからね~」
「舞さん、いつもあんな感じですぅ」
「そう~~ですね~~~」
「取り合えず後よ。話、聞いてたわね?」

 ユナの謝罪を笑って皆が受け入れた所で、全員の視線が亜弥乎へと向けられる。

「あの趣味の悪いティアラをぶっ壊せばいいのね」
「問題は、どうやって近付くか………」
「……お姉様、私がやってみます」
「私達なら、あのケーブルを掻い潜れます」

 亜弥乎の絶対的ともいえる防御に、飛鳥とアーンヴァルが名乗りを上げる。

「それはいけません」
「亜弥乎殿は見ての通り、機械を操る能力を持つ。見た所、全身機械の君達は至近距離まで近付くのは危険行為だ」

 それを鏡明と剣鳳が制止、向かおうとしていた武装神姫の動きが止まる。

「じゃあ、どうすれば!」
「私が行きます!」

 ユナが戸惑う中、芳佳が立候補する。

「私のシールドは501で一番頑丈なんです! だから大丈夫!」
「危ないよ!」
「私とミサキがテレポートで近付けば…」
「あれの攻撃は全方位に来る、奇襲は無意味だ!」
「しかし!」
「悩んでいる暇は無い!」

 攻めあぐねる皆に、美緒の一喝が飛ぶ。
 再出撃してきた美緒の手にはすでに抜き放たれた烈風丸が握られ、もう片方の手には何本ものボトルがまとめた物が握られていた。

「全員これを。先程送られてきた、飲めば消費した分の魔力が回復できるそうだ」
「本当ですか!?」
『こちらではまだ理論上のエーテル補充薬のようです。坂本少佐で効果は実証済みです』
「未来には便利な物があるんだ♪」
「リューディアからね」

 ウルスラの説明を聞きながら、美緒から渡された回復エキスを受け取った皆が一気にそれを飲み干す。

「三方向で行く。宮藤は正面から、ポリリーナとミサキは左右から彼女に回り込む。他の者はそれの援護、突破口をこじ開ける。以上、質問は!」
『了解!』

 全員が一斉に返答し、亜弥乎へと向き直る。

「突破口は私が開いてみせますわ」
『私たちも!』

 芳佳の治癒魔法と回復エキスで半ば強引に回復させたエリカがエレガント・ソードを手にして立ち上がり、エリカ7もそれに続いて陣形を組む。

「芳佳ちゃん! 私も一緒に!」
「うん、行こうユナちゃん!」

 半ばスクラップになったライトニングユニットを破棄したユナが、芳佳の背におぶさる。

「それでは、行くぞ!」

 美緒が先陣を切って飛び出し、ウイッチと光の戦士達が続く。

「マスター、敵機増援、多数!」
「分かっている、烈風斬!」
「これが私の本気です!」

 こちらが相談している間に体勢を立て直したネウロイ・イミテイトと無数のケーブルが向かってくる。
 それを迎え撃つべく、魔力の大斬撃と高出力レーザーが解き放たれる。

「エリカ7、私に続きなさい!」
『お~!』

 美緒とアーンヴァルの攻撃で開いた隙間に、エリカを先頭としてエリカ7が突っ込んでいく。

「ハルトマン! サイドは私達で防ぐぞ!」
「了解!」
「リーネさん! 援護を!」
「分かりました!」

 切り込むエリカ7の両脇を、ウイッチ達の猛攻撃が防壁を築き上げる。

「後ろからも来るわよ!」
「ユナさんの邪魔はさせないですぅ!」
「いえ、貴方達はユナを守ってください。私達だけで十分」

 振り向いて応戦しようとしたユーリィと舞を抑え、沙雪華を筆頭にエミリー、かえで、葉子が残る。

「貫きなさい!」「縦横無尽!」「エレクトンロンブレイク!」「プラスマリッガー!」

 次々と解き放たれるレーザーや衝撃波、電撃が防衛線を気付く中、皆は前へと進んでいく。

「ユナさんを援護する!」
「ケーブルを断線させろ! 後の修復は考えるな!」

 地表で鏡明と剣鳳に率いられた機械化帝国の兵達が、上空へと伸びようとするケーブルを次々と破壊していくが、それでもなお、無数のケーブルが亜弥乎へと向かう乙女達を狙っていく。

「そっちにも来たぞ!」「鬼よ……我に宿りたまえ」「茶筅ミサイル!」「ポイズンニードル!」「レ~~ザ~~発射~~!」

 伸びてくるケーブルを、シャーリーと飛鳥が速度と運動性を活かして、住華とマリ、詩織が遠距離攻撃を活かして迎撃していく。

『敵は全戦力を投入してきた模様です! 孤立すれば集中攻撃されます! 注意してください!』
「……つまり、孤立すれば敵の注意を引きつけられるという事か」

 エルナーからの通信を聞いたバルクホルンが、上昇を止めて先程受け取ったばかりの予備の重機関銃二丁を構える。

「バルクホルンさん!」
「構うな! ここで一体でも多く引き受ける!」
「うんそうだね。だからミヤフジ達は先に行ってて」

 振り返ろうとする芳佳を一喝するバルクホルンだったが、いつの間にかハルトマンが隣に来ていた。

「ハルトマン、お前まで……」
「よく見ようよ」

 ハルトマンが周囲を指差すと、姫、アレフチーナ、ルミナーエフ、麗美も同様に残っていた。

「それじゃあ、お次はこのナンバーだ!」

 姫が攻撃力上昇のロックを奏で、それを聴いた全員が力の高まりを感じると、一斉に頷き、次の瞬間には全員がそれぞれ違う方向へと飛び出していく。

「行くぞ!」「シュトルム!」「お眠りなさい! レクイエム!」「オーッホッホッホ! 狂喜乱舞!」「ファイブアニマルカンフー!」

 それぞれが必殺の攻撃を繰り出しながら、襲い来る敵陣に風穴を開けていった。

「もう少しよ!」
「亜弥乎ちゃん!」

 亜弥乎の姿が間近にまで迫ってきた事に舞とユナが声を上げた時、突然周囲にあったケーブルが奇怪な動きを見せた。

「いかん、止まれ!」
「何よこれ!」

 美緒が叫ぶ中、皆が慌てて止まる最中にケーブルは前方に集まっていき、やがてそれは編み物でもするように編みこまれ、大きなドームを形成していった。

「これは……!」
「破壊します!」
「食らうですぅ!」

 突如として前方に形成された、グラウンド一つは雄に収まりそうな巨大なドームに皆の動きが止まるが、リーネとユーリィが破壊しようと大型狙撃ライフルと双龍牙を速射する。
 放たれた弾頭とエネルギー弾がドームに風穴を開けるが、即座に周囲のケーブルが蠢き、穴を埋めていく。

「修復するのか!」
「こんな物でこの香坂 エリカが止められると思って! 皆、総攻撃で…」
『待って!』

 美緒が驚愕する中、エリカがエリカ7とドーム内に突撃しようとするが、そこで両サイドから先行していたはずのポリリーナの声が通信で響いてくる。

『これは敵の罠よ! それの向こう側には敵が集結してるわ!』
『私達が片付けるまで、待機して!』

 同じく先行したミサキの声と、戦闘音が向こう側から響いてくる。

「ポリリーナ様! ミサキちゃん!」
「迂回しましょう! 二人きりでは危険ですわ!」
「……どうやらそうも言ってられないようだ」

 ユナが叫ぶ中、ペリーヌが慌てて反転しようとした所で美緒がそれを静止する。
 僅かに動きが止まった間に、ドームの周囲にはネウロイ・イミテイトが集結しつつあった。

「完全に追い込まれた。今戦列を乱せば、敵に集中砲火を食らう。だがこのまま進めば追い詰められるだけだ」
「でも坂本さん!」
「だから、こういう場合は殿(しんがり)に相手をひきつけられるだけの実力を持った者を置いて時間を稼ぐ物だ」

 そう言いながら、美緒が二本目の回復エキスを一気に飲み干す。

「ま、まさか坂本少佐! お一人で!」
「私も一緒です」
「無茶です! 私も…」
「ダメだ! 彼女の電撃に同じ電撃を使う者と、宮藤が防護に回る間に回復できる者が必要になる」
「しかし!」

 アーンヴァル以外にペリーヌと白香が殿を申し出るが、美緒はそれを却下。

「坂本さん!」「美緒さん!」
「香坂達であのドームを破壊、同時に応戦しつつ飛び出せ。速度が命だ」
「でも、危ないよ!」
「急げ!」

 芳佳とユナの声を振り切り、美緒は烈風丸を手に集結しつつある敵陣へと突っ込んでいった時だった。
 下方から同様に突っ込んでくる二つの影が、ネウロイ・イミテイト達を次々と蹴散らしていく。

「! 誰だ?」
「反応は機械人のようですが……」
「邪魔だぁ!」
「おどきなさい!」

 両肩に翼を思わせるパーツを着け、長髪を長いポニーテールにして手にメタルブレードを持った者と、中華風のゆったりとした衣服をまとって手に電磁ブレードを持った二人の女性型機械人が、凄まじいまでの強さで敵陣をかく乱していった。

「あれは!」

 遠目からでも分かる、その特徴的な姿と見覚えのある戦い方にユナの顔がほころぶ。

「幻夢(げんむ)さん! 狂花(きょうか)さん!」
「すまない! 遅れた!」
「その分、働かせていただきますわ!」
「誰?」
「亜弥乎ちゃんのお姉さんだよ!」

 その二人、妖機三姉妹の長女・幻夢と次女・狂花もユナの姿を確認すると、顔に笑みを浮かべせつつ、敵の包囲を崩していく。

「ようし、あちらは任せて行きますわよ! ミラージュビーム!」「必殺魔球、受けてみよ!」「ハリケーンシュート!」「燃やしてやるぜ、バックファイヤー!」「スポットライトビーム!」「オーロラファンネル!」「いくわよマコちゃん!」「OKアコちゃん!サイクロンカット!」

 それを見たエリカが真っ先にドーム内に突撃して腐食性ビームでドームを攻撃、そこにエリカ7の総攻撃でドームが一気に破壊され、皆が突撃していく。

「亜弥乎の事は、ユナに任せておこう」
「こちらの方が大事のようですしね」
「ああ、そうだな」
「敵かく乱を最優先です」

 その様子を見届けながら、残った四人が期せずして背中合わせになる。
 ふとその時、美緒は幻夢の額と、狂花のブレードを握る手に、どこかから漏れ出した潤滑液が滴っている事に気付く。
 それが、今しがたの戦闘に因る物で無い事も。

「……その体、あとどれくらい動かせる?」
「あと10分、も怪しいな……」
「他の六花戦や四天機よりはマシなのですけれど、無理を言って出てきたのですわ」
「この星は陥落一歩手前だったわけか……正直に言えば、私も全力ならそれくらいが限度だ」
「ユナと亜弥乎が無事なら、それだけ持たせれば十分だ」
「そうですわね」
「援護いたします、マスター」

 四人は笑みを見せ合って頷き、そして一斉に敵影へと向かっていった。


「亜弥乎ちゃ~~~ん!」

 襲い来るケーブルとネウロイ・イミテイトやヴァーミス小型ユニットを掻い潜り、撃墜しながらユナと芳佳が亜弥乎へと向かう。

「雑魚は私達がどうにかするわ!」
「援護します!」
「亜弥乎さんの元に行ってくださぁい!」

 エリカがエリカ7を散開させて防衛線を構築し、リーネとユーリィが銃を連射して突破口を開く。

「先に行くわよ!」
「突破口は開いてみせますわ!」

 ユナと芳佳の前に、舞とペリーヌが先陣を切って亜弥乎へと迫るが、そこに周囲をくまなく覆う亜弥乎の電撃が襲い掛かる。

「行けぇ! 爆光球!」
「トネール!」

 それを迎え撃つべく、舞の両肩の爆光球から放たれた電撃とペリーヌの固有魔法が放たれる。
 都合三つの電撃が直撃し、周囲をすさまじいまでのスパークが荒れ狂う。

「舞ちゃん!」「ペリーヌさん!」
「く、このお!」「負けませんわ!」

 あまりにすさまじいスパークにユナと芳佳が二人を呼ぶが、スパークが己の体をあちこち焦がしながらも、双方電撃を放ち続ける。
 大気その物を焦がすような電撃同士のぶつかり合いは、あたりを眩く染め上げ、そしてとうとう均衡が破れる。

「うきゃあ!」「あう!」

 最初に舞の両肩の爆光球が爆砕、続けて魔力を使い果たしたペリーヌの体勢が崩れ、二人とも落下していく。

「ああ! 二人とも落ちてくよ!」
「助けないと!」
「構うんじゃないわよ!」
「今ですわ!」

 落下しながらも、二人が叫ぶ。

 その言葉どおり、こちらも力を使い果たしたのか亜弥乎の電撃が止んでいた。

『テレポート!』

 二人が命がけで作った隙を逃さず、ポリリーナとミサキがテレポートして亜弥乎の両腕を掴んで動きを封じる。
 しかし、余力を残していたのか、亜弥乎は体内の残ったエネルギーで直接電撃を二人へとお見舞いする。

「うあぁ!」「くうう!」
「ポリリーナ様! ミサキちゃん!」
「今よ!」

 直接電撃を浴び、苦悶を漏らしながらも二人は亜弥乎の腕を放そうとしない。

「亜弥乎ちゃん!」
「危ない!」

 ユナが亜弥乎の額のコントロール・コアに手を伸ばそうとした時、突然それを遮って芳佳がシールドを最大展開。
 そこへ上空から強力なレーザーが直撃した。

「そう簡単にはいかないわね~」

 亜弥乎の目前まで迫った二人へと向かって、フェインティア・イミテイトがファルドットからの攻撃を浴びせ、笑みを浮かべる。

「もう少しなのに!」
「どいてください!」
「そう言われてどくわけが」
「カルノバーン!」「アールスティア!」

 だが、そこに伸びてきた二つのアンカーが一つはフェィンティア・イミテイトに、もう一つがファルドットへと突きこまれる。

『キャプチャー!』

 同時にアンカーを繰り出したクルエルティアとエグゼリカだったが、何故かクルエルティアのアンカーはフェインティア・イミテイトをキャプチャーできず、エグゼリカのアンカーはかろうじてファルドットを止める。

「ち、まあいいわ。私にそれ効かないから」
「!? これは、ナノマシンコーティング! どこからそんな技術を!」
「どいて姉さん! アールスティア、フルスイング!!」

 トリガーハートにすら使われていない未知の技術に、クルエルティアは驚くが、そこにエグゼリカが全力でアンカーをスイング、猛烈な勢いでキャプチャーされたファルドットがフェインティア・イミテイトへと襲い掛かる。

「この! うわあぁ!」

 とっさに他のファルドットでそれを防ぐフィンティア・イミテイトだったが、爆風までは防ぎきれずに吹き飛ばされる。

「今です!」
「はい!」「亜弥乎ちゃん! 今助けてあげる!」

 エグゼリカの声に押されるように芳佳が一気に亜弥乎へと近寄り、ユナの手がコントロール・コアを掴み、一息に破壊した。
 直後、亜弥乎の体から力を抜け、落下しそうになるのを体を抑えていたポリリーナとミサキが慌てて支える。

「………あれ、あたし」
「亜弥乎ちゃん! 大丈夫!? どこか痛い所とかない?」

 瞳に光が戻った亜弥乎が、目の前にいるユナを見つめた所で、その目が大きく見開かれ、涙を浮かべ始める。

「あ、あたし、ユナにひどい事………」
「いいの、私はもう大丈夫だから。だから気にしないで」
「ユナ………ごめん、ごめんね………」

 優しく、そして力強くユナは亜弥乎を抱きしめ、亜弥乎はその腕の中で泣きじゃくり始める。

「よかった………本当によかった………」
「亜弥乎ちゃん無事でよかったですぅ」
「うん!」

 芳佳も思わず貰い泣きし、ユーリィとリーネも亜弥乎の無事を喜ぶ。

「ちぇっ。つまんない事なったわね」

 そこへ、爆風に吹き飛ばされていたはずのフェィンティア・イミテイトが戻ってきて舌打ちする。
 彼女の眼下では、あれほどいたはずのヴァーミスの戦闘ユニットもネウロイ・イミテイトも、皆の奮戦でほぼ駆逐されようとしていた。

「ほう、それは詳しく聞きたい所だな」

 三本目の回復エキスを飲み干しながら、美緒が白刃を手に上昇してくる。

「貴女も、そのコントロール・コアを破壊すれば」
「聞きたい事もいっぱいあるわね」

 随伴艦を向けるクルエルティアの隣で、ポリリーナがバッキンビューを構える。

「だが、簡単にいかないのだろう? 力尽くだな」
「そうですわね」

 銃身の焼きついた銃を投げ捨て、バルクホルンが両拳を鳴らし、エリカもエレガント・ソードを構える。
 他にも、敵を撃破した仲間達が続々と上空のフェィンティア・イミテイトを包囲していく。

「降伏してください。最早状況の挽回は不可能です」
「……さもなくば、実力を行使します」

 間近まで迫ってきた武装神姫達に勧告された所で、フェインティア・イミテイトの顔に笑みが浮かび、やがてそれは徐々に哄笑へと変化していく。

「あは、あはははは、あっはっはっは!」
「……おかしくなったかな?」
「これほどの戦力差ならば致し方ないでしょう。奥の手も奪われたのですし」

 ハルトマンが首を傾げ、沙雪華が笑みを浮かべる。
 だが、その言葉にフェインティア・イミテイトはその顔に邪悪な笑みを更に深くする。

「奥の手? ああそれの事? そんなのは鹵獲サンプルの有効利用よ。奥の手なら、ちゃんと用意してあるから」
「今、なんて!?」
「総員警戒態勢!」

 亜弥乎を指差しながらの予想外の言葉に、ミサキが驚愕しつつ周囲を見回し、美緒が全員へと向けて叫ぶ。

「見せてあげる。とっておきをね!」

 フェインティア・イミテイトが片手を高々と上げると、指を一回鳴らす。
 直後、真下の地表にとてつもなく巨大な渦が現れる。

「あれは!」
『巨大な転移反応確認! 注意してください!』

 それが自分達がここに来た時に飲み込まれた物と同じだと気付いたウイッチ達が警戒する中、エルナーの警告が響き渡る。
 だがその次に起きた事は全くの予想外だった。
 突如としてその渦から、膨大な量の水が噴き出して、周囲に瞬く間に溜まっていく。

「いけません!」「待避! 急げ!」
「危ない!」「急げ!」

 地上にいた機械人の兵達が鏡明と剣鳳の指示で慌てて逃げ出し、水に飲み込まれそうになった兵達をシャーリーとセリカを中心とした数名が救助に向かう。

「この水、しょっぱいぞ!」「海水だ!」

 救助の傍ら、溢れ出す水を少し被ったシャーリーとセリカが、それから漂う潮の匂いに気付く。
 救助が進む中、水は更に溜まっていき、とうとうそれは巨大な湖、否、海のようになっていった。

「海ができちゃった………」
「ウソ………」
「一体何をするつもり!」

 ユナと芳佳が呆然とその凄まじい光景を見詰める中、ポリリーナが問い質す。

「マスター! 水面下に巨大な動体反応!」
『何か、何かがいます! とてつもなく巨大な何かが!』

 アーンヴァルとエルナーの声が響く中、水面に影が浮かぶ。
 それは、徐々にその大きさを増していく。
 水面下にいるその巨大な影に、皆は固唾を呑む事しか出来なかった…………






[24348] スーパーロボッコ大戦 EP18
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2012/02/27 22:16
『全長80m以上が一体! 他5m前後の反応多数! 注意してください!』

 エルナーの警告が響く中、皆が己の得物を構え、固唾を飲んで水中の影を見つめる。

『予備のライトニングユニットを調整した。ユナ君に!』
「取ってくるですぅ!」

 宮藤博士の声にユーリィが慌ててプリティー・バルキリー号に向かい、珍しくまっすぐ(そもそも寄り道できる食い物屋が無いが)戻ってくる。

「ユナさん早く!」
「亜弥乎ちゃんはそのままで大丈夫!?」
「うん、なんとか!」
「来る!」
「総員構え!」

 ユナが急いでライトニングユニットを装備する中、ポリリーナと美緒が叫び、それはとうとう水しぶきを上げて、その巨体を露にした。

「なんだあれは!」
「おっきいエビですぅ~!」

 美緒が叫ぶ中、誰もが思いついた言葉をユーリィが口にした。
 それは大きな二つのハサミと甲殻に覆われた細長い体と尾、複数の節足を持った、巨大なエビのような姿をしていた。
 だがどこか歪さを感じさせる巨体が、半身を海面に沈め、目玉と思われる部分でこちらを見据える様に、誰もが絶句するしかなかった。

「伊勢エビかな?」
「ロブスターじゃないのか?」
「知るか!」
「なんか小っちゃいのも来たわよ!」

 初見で感じた事を思わず口走ったユナとシャーリーの感想に、バルクホルンが怒鳴り返す。
 だが、そこで舞の指摘通り、巨大エビに従うかのように、ヤドカリや熱帯魚のような姿をした物が無数に水上へと飛び出してきた。

「水中からという事は、ネウロイではない! コアらしき物も見当たらん!」
「こんな連中、こちらも初めてよ」

 美緒が烈風丸を、ポリリーナがバッキンボーを構え、謎の敵群へと突きつける。

「一体どこからこんな物を……」
「さ~あ? 戦ってみれば分かるんじゃなあい?」

 クルエルティアも見た事も無い敵に注意を向ける中、フェインテイア・イミテイトがそう言い放ちながら、人差し指を立てると、それを巨大エビへと向ける。
 そこからレーザー信号が放たれたのをトリガーハートと武装神姫だけが気付いた時、敵は一斉に動き始めた。
 巨大エビはその巨大なハサミを片方掲げて開く。
 そこに生じたビーム光に、正面にいた者達が一斉にその場から飛び退くが、そこから放たれた太目のビームが、突然空中で散開、無数のビーム散弾となって周囲に降り注ぐ。

「ちょ、何よこれ!」
「総員、防御体勢!」
「皆さん、私の後ろに!」

 完全に予想外の攻撃に、皆が慌てふためき、美緒の号令で一斉にシールドを展開したウイッチ達の背後に慌てふためきながら回りこむ。

「ディアフェンド!」「カルノバーン!」
『キャプチャー!』

 こちらに向かって弾を放ってきた小型の敵を、エグゼリカがヤドカリ型、クルエルティアが熱帯魚型をアンカーでキャプチャー、スイングして敵陣へと叩き込む。

「姉さん!」
「ええ、ヴァーミスに似てるけど違う。まったく未知の敵………!」

 キャプチャーした時に分かった敵の情報が、該当するデータが己達に無い事に二人のトリガーハートが緊張を高める。

『こちらで解析を進めます! 注意して戦ってください!』
「この位置では狙い撃ちされる! 水面近くまで降下しながら、速度の有る者は小型をかく乱しつつ撃退! 防御に秀でた者を先頭に、大型の懐に潜り込む!」
「スプレッドビームに気をつけて! 放出と同時にウイッチのそばへ!」

 エルナーが中心となって敵の解析が進められる中、美緒とポリリーナの指示が飛ぶ。

「私が先頭に立ちます! 皆さんは後ろに!」
「いや、それなら我らが…」
「そうです…う……」

 シールドを展開する芳佳の前に、幻夢と狂花が出ようとするが、そこで体勢を崩して慌てそばにいたハルトマンとミサキが二人を支える。

「ちょ、服の下ボロボロじゃん!」
「こんな体で戦ってたの!?」
「お姉様………」

 予想以上の二人のダメージに、支えた二人が驚き、亜弥乎も呆然とする。

「ふふ、ユナには亜弥乎が世話になってばかりだったからな……」
「たまには、姉らしい事もしませんと………」
「ダメだよ無理しちゃ!」
「盾くらいは出来る………」
「ダメです! 盾なら私のシールドで十分です!」
「はっきり言おう。足手惑いだ」

 皆の制止を振り切ってでも戦おうとする幻夢と狂花に、美緒が一言で斬り捨てる。

「お姉様になんて事言うの!」
「坂本さん、言い過ぎです!」
「事実だ。もっとも、私もだがな」

 亜弥乎と芳佳が抗議するが、美緒は撤回せずに己もその中に加える。
 顔には出さないようにしていたが、美緒の呼吸は荒く、その顔には多量の汗が浮かび、手持ちの回復エキスも使い果たしていた。

「闘いが長引き過ぎた………魔力消費に、回復が追いつかん……」
「貴方達は一度撤退を。美緒はエルナーと解析に回って」
「すまない……バルクホルン、しばらく前線指揮を頼む」
「はっ!」
「マスター、援護します」
「こちらへ」
「亜弥乎ちゃんも………」
「あたしは大丈夫、ユナと一緒に戦う!」

 アーンヴァルと白香に援護されながら、三人がプリティー・バルキリー号へと撤退していく。

「それでは行くぞ!」
「攻撃開始!」

 バルクホルンとポリリーナの指示に、一斉に巨大エビへの攻撃が始まった。



「3Dスキャニング開始!」
『カルナダイン、全センサー全開! 解析開始します!』

 エルナーとカルナの二人が、突如として出現した謎の敵の解析を進めていく。

「これ程の巨体なのに、コアらしき物が見当たらない……どういう事だ?」

 続々と送られてくる解析データに目を通しながら、宮藤博士は首を傾げる。

『全長82m、30cm前後のナノマシン集合体が集結して構成されてます。こんな兵器はチルダのデータにも存在しません』
「待ってください。これは、どこかで………」

 詳細データが分かるに連れて、エルナーがそのデータに見覚えがある事に気付く。

「これは………そうだ! これはW.O.R.M(ワーム)!」
「ワーム?」
「今から200年程前、ある闇の力に捕らわれた天才科学者が生み出し、当時の光の救世主によって倒された侵略機械兵器群。ただ、その時の個体はここまで巨大ではなかったのですが………」
「それはどうでもいい、対処方法は!」

 帰艦した直後、息を切らせながらブリッジに飛び込んできた美緒の言葉に、エルナーは当時のデータを思い出す。

「対処方法はあったのですが、今の状態では………」
「どういう事かな?」

 言葉を濁すエルナーに、宮藤博士は問いかける。

「ワームには、中枢プログラムとなるコアが別個に存在するのですが、それがどこにあるか分からなければ、手のうちようがありません。もし別の世界から転移してきたのなら、中枢プログラムから隔離されて機能を停止するはずなのですが、それも見られません。これ以上の事は私にも………」
「物理破壊は不可能なのかな?」
「可能です。構成されているナノマシンの自己修復速度より早く、構成体の半分以上を一瞬で破壊すれば」
「あれの、半分か………よし、それなら……あっ」
「危ない」

 それを聞いた美緒が再度出撃しようとするが、足をもつれさせ転倒しようとした所をブリッジに入ってきたウルスラに支えられる。

「坂本少佐、貴女も治療が必要です」
「大丈夫だ、大した怪我は負ってない」
「ダメだ。君はどう見てもすでに戦える状態にはない」
「そうです。その疲労では、回復限度もおのずと限られてきます。今出て行けば、命の保障はありませんよ」
「しかし………」

 ウルスラ、宮藤博士、エルナーの三人に諭され、美緒はうつむきながら、拳を握り締める。
 その拳を、小さな手がそっと握り締める。

「私が、マスターの分まで戦います。指示をお願いします、マスター」
「アーンヴァル………しかし、幾らお前がその体に似合わぬ火力を持っていても、相手があれでは………」
「火力ならこちらにもあります。ミラージュ!」
『はいエルナー』

 エルナーの声に、ミラージュとの通信枠が開く。

「今からそちらにデータを転送します。ミラージュ・キャノンで、あのエビ型ワームの構成体を半数以上、破壊できるか計算をお願いします」
『分かりました。ただ、先程からこちらでも解析を行ってるのですが、どうやらある種のECMを発生しているらしく、詳細なサイティングが不可能です』
『詳細座標データはカルナダインから転送します。けど、タイムラグは出ますね……』
「なにより、あの強力な砲撃、この星その物にも被害が及ぶ」
『構いません』『被害はこちらで抑える。我々は首都への防衛線構築に全力を注ぐ!』

 幾つもの問題点、何より惑星への被害への懸念に、鏡明と剣鳳がそれを了承する。

「つまり、あの猛攻を掻い潜り、無数の敵群を破壊しつつ、あのワームとやらを攻撃して足止め、艦砲でトドメを刺す。そうだな?」

 美緒の作戦に、その場の全員が一斉に頷く。

「美緒、指揮をお願いします。こちらは全員に作戦概要を転送します」
「よし、総員に通達! あの大型目標はワームというらしい。まずは周辺の小型ユニットを撃破しつつ、ワームをウイッチの速度でかく乱、攻撃をそらしつつ、光の戦士達の攻撃で足止め、トリガーハートのアンカーで固定の後、上空からの艦砲射撃で撃破する!」
『了解!』

 返答が帰ってくる中、美緒は今だ整わぬ呼吸のまま、交戦状況が映し出される画面を凝視していた。

「……美緒君、せめて座ってた方がいい」
「しかし…」
「ここで貴女が倒れたら、誰が指揮を取るんですか? あんな大物と戦った経験なんて、こちらにはほとんどありません。そちらでは大型ネウロイとの戦闘経験も多いと聞いてます。戦歴が長い人間が、的確に指揮をしなくては、勝てる戦いも勝てませんよ?」
「ふ、そうだな………」

 エルナーの進言に、美緒は大人しく空いていたナビゲーター席に着席する。

「それではマスター、行って来ます」
「気をつけろアーンヴァル」
「はい!」
「ウルスラ君、君はユニットの応急処置の準備を。今ストライカーユニットが破損しても、代替は直ぐには不可能だ」
「分かりました」
『小型ユニットの解析も終了、データ転送します』
「こちらは金属細胞で構成されてますね。機械人に似た構造です」

 カルナから送られてきたデータに、エルナーが解析を進めていく。

『ヴァーミスにも似てますが、基礎設計が違います。違う技術体系で設計、製造された兵器群と推測できます』
「そうですね、いやこれ………ああ!」
「どうしたエルナー?」
「こちらにも覚えがあります! ワームが倒されてから更に後、一度だけ亜時空星団と呼ばれる存在が地球に向けて侵攻し、新たな光の救世主が立ち向かい、中枢コアを破壊して退けた事があります! そう、その時の敵が、このバクテリアン!」
「つまり、どちらも過去にこの世界に出現した事がある敵という事か?」
「ええ、ただ私のデータと詳細は一致するのですが、外見その他はまるで違うのです………」
「そういう世界から来た、と考えるべきだろうね。問題は、どうやってだが」
「宮藤博士、それは後にしましょう。今は、倒す事が最優先です」
「ああ」

 美緒の言葉に促されながらも、宮藤博士の中に沸き起こった疑問は、いつまでもくすぶり続けていた。



「ペリーヌは左翼、ハルトマンは右翼から! 私とシャーリーは正面から行く!」
「了解ですわ!」「了~解!」

 海面を半身浮かべた状態で悠然と泳ぐ大型ワームに向け、バルクホルンの指示でペリーヌとハルトマンが左右へと分かれ、バルクホルンとシャーリーが並んで銃口を向ける。

「食らえ!」

 バルクホルンの気合と共に、三方向からの銃撃が大型ワームへと炸裂するが、魔力で破壊力が高められた弾丸を持ってしても、表面が削れるといったレベルでしかダメージを与えられていなかった。

「硬いよコイツ!」
「ならば、トネール!」
「リネット軍曹!」「はい!」

 思うようにダメージを与えられない事に、業を煮やしたペリーヌが固有魔法の電撃を放ち、後方に控えていたリーネがバルクホルンの指示で大口径狙撃銃を叩き込む。

「よし、効いてる!」
「……でも再生しています、お姉様」

 大型ワームの直撃した場所から体液のような物が噴出し、今度は確実にダメージを与えれた事にシャーリーが思わずガッツポーズを取るが、飛鳥の言うとおり、破損した部分が光を帯びてすぐに再生し始めていた。

「ええい、こういう所はネウロイ並か!」
「危ない!」

 バルクホルンが悪態をついた時、リーネと一緒に後方に控えていた芳佳が叫ぶ。

「パッキンボー!」

 飛来した細長い何かをポリリーナが迎撃するが、別方向から同じ何かが飛来し、とっさにシールドを張ったシャーリーとバルクホルンを弾き飛ばす。

「うわあ!」「何だ!?」

 弾き飛ばされながらも、バルクホルンは自分達を攻撃した物に視線を送る。
 それは細長い触手のような物で、自在に動きながら、更に他の者達を襲おうとしていた。

「これ、ヒゲですわ!」
「離れよう! 近いとこれが………え?」

 その触手が、大型ワームの頭部に当たる部分から生えているヒゲだと気付いたペリーヌが叫び、ハルトマンが距離を取ろうとした時、その頭上から影が指す。

「ハルトマン!!」

 影の先、海面から高く掲げられて振り下ろされようとするハサミがハルトマンを狙い、バルクホルンが思わず叫んだ瞬間にハサミは振り下ろされた。

「シュトルム!」

 とっさにハルトマンは固有魔法を発動、巻き起こった疾風でハサミを辛うじて弾きながら距離を取る。

「止まったらダメ! 距離を取って動き続けて!」
「ネウロイと似てるが、戦い方がまるで違う! 不用意に近付けば直接攻撃が来るぞ!」

 ポリリーナとバルクホルンが叫び、皆が慌ててそのようにするが、そこへバクテリアンが襲い掛かる。

「これでどう? サイキックピース!」
「これでも食らえ~!」

 エリカの念動力が周辺のガレキや敵の残骸をまとめて叩きつけ、ミサキのリニアレールガンが最大出力のレーザーを放つ。
 直撃したバクテリアンが破壊される中、即座に別のバクテリアンが襲い掛かってくる。

「こいつら、次から次へと!」
「編隊で攻撃してくるわ!」
「ええ!? 危ない人達なの!?」
「そっちじゃないわよ!」

 個々はそれ程強くないが、的確に編隊で攻撃してくるバクテリアンを前に、いらん事を言ったユナが舞に突っ込まれる。

「攻撃を止めないで! 数で押し切られる!」
「エリカ7! フォーメションよ!」
『はい、エリカ様!』

 ミサキの声に応じてエリカの指示が飛び、エリカ7が素早くエリカを取り囲むようにフォーメションを組み上げ、一斉に攻撃を開始する。

「まだまだ出てきますぅ!」
「そ~~です~ね~~」
「亜弥乎ちゃん、さっきのケーブル出せる!?」
「ダメ! 水の中じゃ操れない!」
「こっちも複数で組んで! 遠距離攻撃できる人中心に!」

 エリカ7に習い、他の光の戦士達も数人ずつでチームを作って攻撃するが、バクテリアンは水中から続々と現れ、迎撃しそこねた敵機はそのまま水中へと戻り、また襲ってくる。

「数は多いけど、動き自体はそれほど複雑じゃないわ! 次出てきた時、一斉に撃つ!」
「OKミサキちゃん!」

 ミサキの指示で遠距離攻撃が出来る者達が一斉に構える。

「いけません!」
「下がって!」

 だが一斉攻撃が行われる直前、上空にいたアーンヴァルが叫び、芳佳が前へと出てシールドを全開で展開、そこへ大型ワームの拡散ビームが飛来する。

「く、これくらい!」
「今、どこから撃ってきたの!」
「水中です! 一度ハサミが水に潜ったと思ったら、そこから撃ってきました!」

 アーンヴァルの警告と芳佳の機転で何とか難を逃れた皆だったが、大型ワームの巨体は水しぶきと共に水中へと沈んでいく。
 僅かに背中が見えるまでに沈んだ大型ワームの水中からの攻撃に、皆が悪戦苦闘していた。

「これでは、艦砲攻撃の狙いが定められん!」
「水中用のストライカーユニットなんてないしね~」
『敵は無限とは限りません! 迎撃を優先させてください!』
「だが、あのエビをどうにかせん事には!」

 エルナーですら決定的な対処法が思い浮かばず、皆が焦り始めた時だった。
 プリティー・バルキリー号の格納用ハッチから何かが投じられ、水中に没したかと思うと、しばらくして大爆発を起こす。

「何あれ!?」
「まさか、爆雷か!」
『ありあわせの物で爆雷を作ってみました。取りに来てください』
「ありがとうウルスラ!」
「我々は爆雷装備のために一時撤退する!」
「こちらで防ぐわ、急いで!」

 エーリカとバルクホルンを先頭にウイッチ達が一時撤退する穴を、ポリリーナが中心となって素早く塞いでいく。

「早めにお願い!」
「うん!」

 ユナが無数の敵影に向かってトリガーを引きながら呼びかけ、芳佳はそれに頷いてそれぞれが勝機を掴むために、行動を開始した。



「下は大変みたいね~」

 フェインテイア・イミテイトが意地悪く笑みを浮かべながら、更なるファルドットを呼び出す。

「カルノバーン!」「ディアフェンド!」

 それが攻撃を開始するより早く、二つのアンカーが飛来して一つのファルドットをキャプチャー、それを二人がかりでスイングして放たれたビームや弾幕を全て受け止め、爆砕させる。

「トリガーハートが二機そろって、防戦一方なんて笑い話にもならないわ」
「それはどうかしら!」

 クルエルティアが爆砕で生じた一瞬の隙を逃さず、カルノバーンの砲口をフェインティア・イミテイトに向けてショットを発射。

「ちぃ!」
「そこです!」

 フェインティア・イミテイトは舌打ちしながらそれを避けるが、その回避行動を見越していたエグゼリカがアールスティアを向けていた。

「こいつ!」

 拡散型のショットを回避しきれず、何発か食らいながらもフェインティア・イミテイトはファルドットを周囲に呼び寄せ、防護を固める。

『姉さん……』
『分かってるわ。このままでは、お互い決め手に欠ける。しかし、このフォーメーションを崩したら、下に攻撃の余波が向かう……』

 相手に悟られぬよう、コミュニケーションリンクで会話しつつ、エグゼリカとクルエルティアも焦りを感じていた。
 二人係のコンビネーションなら相手に有効な攻撃は十分与えれるが、相手の攻撃が下に流れてしまう可能性もあり、そして向こうも攻撃に集中し過ぎれば防御に隙が生じ、そこを突かれる。
 トリガーハート同士の戦いは、こう着状態になりつつあった。

「もうメンドクサイ! まとめて焼き払ってあげるわ! アンカーユニットは守りなさい!」

 業を煮やしたフェインティア・イミテイトがありったけのファルドットを召喚、膨大なエネルギーをチャージし始める。

「いけない! あれが照射されたら!」
「確実に下の皆さんに被害が!」
「させません!」
「……この身に変えても、防ぎます!」

 今までで最大の攻撃に、二人のトリガーハートがなんとか防ごうとアンカーを投じる脇から、二つの小さな影が前へと飛び出す。

「うおおおぉぉぉぉーっ!」
「空襲警報、発令!」

 飛び出したアーンヴァルが手にしたアルヴォPDW9機関銃を連射、放たれた弾丸が炎を帯びた竜へと変じ、急加速で上空を取った飛鳥がサイレンと共に三六式航空爆弾を投下、双方がフェインティア・イミテイトへと直撃、爆発を引き起こす。

「こ、のフィギュアサイズが!」

 予想外の急襲に完全に攻撃の出鼻をくじかれ、致命傷にはほど遠いながらもダメージを食らったフェインティア・イミテイトが激怒しながら二体の武装神姫を睨みつける。

「貴方達……!」
「マスターからの指示です。ここは私達が受け持ちます!」
「……下への増援をお願いします」
「けど!」

 アーンヴァルと飛鳥からの言葉に、クルエルティアとエグゼリカも驚く。
 だが、それ以上にその言葉に過敏反応した者がいた。

「はあ? あんた達が私の相手? 舐めてるのかしら? それとも、そのマスターとやらはとんだマヌケかしらね?」

 表情を引きつらせ、こわばった笑みと化しながらフェインティア・イミテイトがあまりにサイズ差が有りすぎる相手を睨み殺さんばかりに凝視していた。

「ふざけてはいません」
「私達がお相手します」
「じゃあ、記憶素子の一片も残さず焼却してあげるわ!」

 激怒しながらフェインティア・イミテイトがファルドットを武装神姫へと向けるが、即座に武装神姫達はその加速度と旋回性能で逆にファルドットの影へと潜り込む。

「ち、ちょこまかと!」
「アタック!」「参る!」

 相手がこちらを見失った隙に、死角へと潜り込んだ武装神姫が同時に攻撃を開始。

「つ、この!」

 フェインティア・イミテイトがそちらへと振り向いた時には、すでに武装神姫の姿は消えている。

「まだまだ行きます!」「……覚悟をしてください」

 当惑するフェインティア・イミテイトが周囲を見回す中、二体の武装神姫は動き回りつつ、ヒット&アウェイを連続していく。

「……エグゼリカ」「はい姉さん」

 その様子を見ていたトリガーハートはお互い目配せすると、反転して下へと向かっていく。

「ちょっと、待ちなさい!」
「行かせません!」
「あなたの相手は私達です」

 トリガーハートを追おうとするフェインティア・イミテイトの眼前に進み出たアーンヴァルと飛鳥が同時に銃口を向け、とっさに身をひるがえしたフェインティア・イミテイトの髪を放たれた弾丸が千切っていく。

「この……」
「マスターの指示です」「……ここは通しません」
「分かったわ。まずあんた達から壊させてもらうわ!」

 ファルドットを繰り出すフェインティア・イミテイトを前に、アーンヴァルと飛鳥は己の翼を全開で稼動させた。



「クルクル~パ~ンチ!」

 能天気な掛け声とは裏腹のユーリィの強力な一撃が、大型ワームの僅かに見えていた背中に叩き込まれ、その巨体が逆エビ状態に反り返り、水中に沈んでいた頭部が水しぶきと共に跳ね上がる。

「行くよ、離れて!」

 そこへシャーリーが持っていた一抱えほどはある円筒形の爆雷を投下、水中に沈むと程なく爆発して、大型ワームの巨体が更に揺らいだ。

「連続で行くぞ!」
「待ってトゥルーデ!」

 続けて同じ大きさの爆雷を三個束ねた特製のを投下しようとしたバルクホルンだったが、直前でハルトマンが背後についたかと思うとシールドを展開、そこへ振るわれたヒゲが直撃する。

「く、一度距離を取れ!」
「はい!」「ちょっと重いねこれ………」

 バルクホルンの指示で、慣れない手つきで爆雷を運んでいた芳佳とリーネが大型ワームから離れる。

「効果的なのは確かなのですけれど、有効距離まで近寄るのが一苦労ですわね……」
「我々は爆撃隊では無いからな。私自身、爆撃の経験はそれ程ない。反跳爆撃(※水面で跳ねさせて水きりの要領で目撃に到達させる爆撃)など練習も無しでは出来た代物ではない」

 なんとか片手で爆雷を抱えながら銃撃を行うペリーヌに、バルクホルンも何か有効的な方法は無いかと、今までのウイッチ経験を総動員させる。

「高高度からの急降下爆撃か、逆に低空からの近接爆撃が行えればいいのだが、制空権が確保できてない以上、どちらも不可能か………」
「上からも下からも攻撃されてるしね~」

 上空で繰り広げられている武装神姫とフェィンティア・イミテイトの闘い、そして低空で行われている光の戦士達とバクテリアンの戦いに挟まれ、そして勝手の違うワームとの闘いに、ウイッチ達は苦戦する一方だった。

「どうにかしてウイッチ達を爆撃可能距離まで近寄らせないと………」
「こっちだって手一杯よ! 誰か暇な奴に行かせて!」

 なんとか活路を見出そうとするポリリーナの隣で、舞が悲鳴染みた声を上げながらアイアンを振るっていた。

「舞、後ろアル!」
「へ?」

 前方の敵に注意を取られていた舞が、麗美の声に慌てて後ろを振り向こうとして、背後でこちらに砲口を向けるバクテリアンに気付く。

「マズ…」
「カルノバーン!」

 回避も防御も間に合わない事を悟った舞だったが、そこへ飛来したショットがバクテリアンを撃ち落す。

「危ない所だったわね」
「皆さん大丈夫ですか!?」
「遅いわよ!」

 上空から降下してきたトリガーハートに、舞は助けてもらった事も棚に上げて声を荒げる。

『上空の方は武装神姫に任せた! これより状況の打開に移る! トリガーハート達により、爆撃ルートを確保。ウイッチ隊は即座にそこから爆撃を行い、目標の大型ワームの動きを止めた後、総攻撃を行い、目標を完全に固定、艦砲射撃にでトドメを刺す!』
『こちらは爆撃を行うまでに大型ワームへの牽制攻撃を行ってください!』
『アンカーユニットによる攻撃によって目標大型ワームへの通路確保、及び近接格闘用アームへの攻撃を!』

 美緒、エルナー、カルナからそれぞれ支持が飛び、それを聞いた全員が一斉に攻撃を開始する。

「エグゼリカ! 周辺小型ユニットをキャプチャーして、私は右腕、あなたは左腕を狙って!」
「了解姉さん! ディアフェンド!」「カルノバーン!」

 二つのアンカーが飛び、バクテリアンをキャプチャー、それをフルスイングして発射する。
 放たれたバクテリアンは周辺のバクテリアンを吹き飛ばしつつ、狙った通りに大型ワームの両方のハサミに直撃して爆発を起こす。

「今だ、突撃!」
『了解!』

 アンカー投擲によって生じた空洞を、バルクホルンの号令でウイッチ達が一気に抜けていき、大型ワームに肉薄していく。

「援護射撃よ!」
「ヒゲを狙って!」
「後ろからも来るよ!」

 ウイッチ達の背後に続きながら、光の戦士達が大型ワームや残ったバクテリアンを攻撃、ウイッチ達の邪魔をさせじと奮戦する。

「投下!」

 トリガーハートと光の戦士の援護を受けたウイッチ達がなんとか爆撃可能距離まで近付き、次々と手にした爆雷を投下していく。
 立て続けに海面下で爆発が生じ、大型ワームの巨体が激しく悶える。

「効いてるぞ!」
「攻撃を集中させて!」

 のたうちまくる大型ワームに、バルクホルンとポリリーナの号令で更なる総攻撃が開始される直前、大型ワームの体が一際激しくのたうち、そのまま虚空へと巨体が飛び出しきた。

「なに!?」「ちょっと、あのエビ飛んでるよトゥルーデ!」
「どうなってるのこれ???」「おいしそうですぅ!」
「予測可能範囲よ、攻撃続行!」「はい姉さん!」

 空中へと飛び出した大型ワームに皆が驚くが、ある程度予測していたクルエルティアが構わず攻撃を開始、皆もそれに続いて攻撃を続行する。

「むしろ好都合よ、これでも食らえ!」
「その通りですわ、トネール!」
「エリカ7、背中に回って一斉攻撃よ!」『はい、エリカ様!』
「ユーリィ、芳佳ちゃん、お腹狙うよ!」「はいですぅ!」「リーネちゃんも!」「うん、一緒に!」
「麗美、マリ、佳華、アレフチーナ、姫は私と左翼から! 舞、葉子、かえで、沙雪華、ルミナーエフ、エミリーは右翼から!」
「どこか殻の薄い所ないか!?」
『先程までの喫水線下は若干薄いようですが、さほどの違いはありません!』
「撃ちまくれ! どんな装甲が厚かろうが、これだけの攻撃が効いていないはずはない!」

 全方位から攻撃を受けながらも宙を泳ぐように動く大型ワームに、シャーリーが漏らした言葉に、カルナが解析結果を告げ、バルクホルンが皆を鼓舞する。

「ならば、モロくすればいいだけですわ!」
「エリカ様! 危ない!」

 ミドリの制止を振り切り、攻撃を掻い潜って大型ワームへと肉薄したエリカがほぼゼロ距離まで接近する。

「食らいなさい、ミラージュビーム!」

 大型ワームの背中へとエリカは腐食性のビームを次々と叩きつけ、結合のもろくなった部分にエリカ7が攻撃を集中させる。

「よし、もう一撃…」
「エリカ様!」

 再度ミラージュビームを放とうとしたエリカに向けてヒゲの一撃が振るわれるが、直前で切断され、千切れた破片が宙を舞う。

「離れて下さいまし! 狙われてますわ!」
「図体の割に細かい奴ですわね!」

 レイピア片手でエリカの窮地を救ったペリーヌに促され、エリカは再度振るわれたもう片方のヒゲをエレガント・ソードで切り払いつつ、距離を取る。

「再生速度は落ちてきてるけど、体積が大き過ぎる! 致命的なダメージが与えられていない………」
「目標をキャプチャーできるまでにエネルギー量を消費させられれば……」
『サイティングまでの時間さえ稼げればいいのですが………』

 クルエルティア、エグゼリカ、エルナーがそれぞれ状況を分析するが、好転する要素はまだ見出せない。
 そんな中、大型ワームが片方のハサミを開き、そこにエネルギーが集束し始める。

『いかん、避けろ!』
「うわああぁ!」「またいっぱい来るですぅ!」

 スプレッドビーム発射の予兆だと気付いた美緒が叫び、ユナとユーリィが率先して逃げ出す。

「シールド全開! 私達の後ろへ!」
「ダメ、何人か間に合わない!」

 バルクホルンの指示でウイッチ達がシールドを張るが、散開していたのが災いしてポリリーナが何とか救い出そうと瞬間移動に入るが、とても間に合いそうにない。
 それを見ていた芳佳が、ふとある手段を思いつく。

「シャーリーさん! 私をルッキーニちゃんみたいに投げてください! 早く!」
「な! 無茶だ宮藤…ええい、死ぬなよ!」

 突然の提案に拒否しようとしたシャーリーだったが、すでにスプレッドビームが発射目前なのを見て、半ばヤケクソで己の固有魔法で芳佳を加速させ、発射する。

「させない!」

 シールドにありったけの魔力を注ぎ込み、極限にまで大きくした芳佳はシールドごと発射直前のビームへと突撃、双方がぶつかり合い、大爆発を起こす。

「芳佳ちゃん!」「芳佳ちゃん!!」『宮藤!』

 爆煙が周囲を覆い、皆が芳佳の身を案じる中、爆煙から小さな影が飛び出す。

「ディアフェンド! お願い!」

 慌ててエグゼリカがアンカーを投じ、その影、爆発で吹き飛ばされた芳佳をキャプチャーする。

「大丈夫!?」「はい、なんとか………ちょっと頭がくらくらしますけど」

 かろうじてシールドで身を守れた芳佳の声に、皆が安堵する。

『相変わらず無茶をする奴だ』
「芳佳ちゃんすご~い」
「見て!」

 美緒が半ば呆れ、ユナが歓声を上げるが、そこでミサキが大型ワームを指差す。
 爆煙が晴れていくと、そこには片方のハサミを失い、半身も大きく焦げた大型ワームの姿があった。

『いける!』『皆さん、もう少しです!』
「よおし、行くわよ!」

 美緒とエルナーが声を上げる中、ユナが銃口を向け、全員が一斉に構える。

「攻撃開始!」

 バルクホルンが叫びながらトリガーを引き、そこへ全員の攻撃が大型ワームへと集中する。
 先程のダメージと相まって、今度は瞬く間に体が削れて行く事に、大型ワームは身もだえ、海面へと向かおうとする。

「水中に逃げ込ませるな!」
「誰か抑えて!」
「どうやってよ!」

 バルクホルンとハルトマンの声に、舞が思わず怒鳴り返す。

「あの~。ちょっと~~」
「ん、なんだ?」

 いきなり声をかけられ、銃撃を続けながらシャーリーが振り返ると、そこに詩織が何かを思いついたのか、小首を傾げながら話しかけていた。

「私を~~~先程の~~方の~~~……」
「あ、うんなんとなく分かった。でも大丈夫か?」
「その子鈍いから多少のダメージは平気よ」
「葉子、沙雪華、コーティングを!」

 詩織のやろうとしている事に気付いたシャーリーが問う中、舞が余計な事をいい、ポリリーナが防御増強能力を持つ者を慌てて呼ぶ。

「く、潜られる!」

 攻撃を食らいながら、大型ワームが水中へと逃れようとする時、用心して弱めに投げられた詩織が、大型ワームに直撃する。

「……なあ、あれ大丈夫か?」
「……さあ」

 さすがに無策で直撃するとは思わなかったシャーリーが投擲の体勢のまま硬直し、舞もさすがに顔を引きつらせる。
 だが平気なのか気付いてないのか、詩織はそのままの体勢で顔だけ起こす。

「スロ~~~ム~~ブ~~」

 さらにそこで詩織が特殊な光を発射、それを浴びた大型ワームの動きが、突然ゆるやかになる。

「あんな固有魔法持っていたのか!?」
「いいな~、トゥルーデ用に私も欲しい」
「何に使うつもりだ!」
「これなら、エグゼリカ!」
「はい姉さん! ディアフェンド!」「カルノバーン!」

 好機と見たトリガーハートが、アンカーを左右から投じる。
 水面に潜る直前にアンカーは大型ワームに突き刺さり、キャプチャー体勢に入る。

「侵蝕開始!」「キャプチャー率、10、20、30……」

 動きが遅くなりながらも、キャプチャーから逃れようと大型ワームは身をよじらせ、トリガーハート達は全エネルギーをアンカーユニットに集中させていく。

「トリガーハート達を防御!」
「まだ小さいのも残ってるわ! もう少しよ、みんな!」
「詩織ちゃんを剥がしてこないと!」
「宮藤~、回復準備を」

 トリガーハート達がキャプチャーに集中できるよう、ウイッチ達と光の戦士達が周囲を防御、今だ残るバクテリアン達の掃討に入る。

「60、70」

 キャプチャーが進む中、なおも身をよじる大型ワームだったが、不意に残っていたもう片方のハサミが千切れ、海面へと落ちる。

(あちらのハサミ、それほどダメージを負ってなかったと思ったけど?)
「エルナー、ミラージュに砲撃準備打電!」
『やってます! サイティングポイントほぼ確定、キャプチャー完了と同時に発射します! 皆さん射程範囲から待避してください!』

 ポリリーナの脳内に僅かに浮かんだ疑問も、ミサキとエルナーの切迫した声に霧散する。

『サイティングポイント確定、砲撃射程範囲及び退避距離を確認。クルエルティア、水平座標にW20移動。エグゼリカはそのままの位置で』
『シャーリー、ハルトマン、6時方向に退避!』
「ユナ、そっち危ない!」
「わあ! ミラージュちょっと待って!」

 カルナと美緒の退避指示が出され、遅れそうになったユナを亜弥乎が慌てて引っ張る。

「90、100!」
「キャプチャー完了、座標送信!」
『座標送信完了、皆さん対閃光防御を!』
『総員シールド全開、衝撃に備えろ!』
「ミラージュ、お願い!」
『分かりましたユナさん、ファイアー!!』

 動きが完全に止まった大型ワームに向けて、地球上空の永遠のプリンセス号の主砲が発射。
 放たれたエネルギーの奔流はワープゲートを突き抜け、機械化惑星上空へと転移。
 そこから送信された座標、固定された大型ワームへと直撃する。

「きゃああ!」
「うひゃあ!」
「これはすさまじい……」
「耳が痛い~」

 眩いエネルギーの奔流が目標へと突き刺さり、そして海面にぶつかって水蒸気爆発を起こす。
 吹き荒れる爆風と水しぶきがしばし続き、そしてようやく止んだ。

「目標は!?」
「あれ見て!」

 誰かが叫び、皆が煙の吹きぬけた向こう、巨体の6割以上を失った大型ワームが、残った部分も粉々に砕けつつ、海面へと落ちていく。

「やったああ!」
「ありがとうユナ!」

 ユナが歓声をあげ、亜弥乎が歓喜の表情でユナへと抱きつく。

「よし、残った敵の掃討を…」

 作戦の成功を確信し、バルクホルンが残った敵の掃討支持を出そうとした時だった。

『水上に高エネルギー反応! 先程の大型ワームと一致します!』
「なんですって!」
「姉さん、あれを!」

 カルナからの報告に、クルエルティアが驚愕し、エグゼリカが海面のある場所を指差す。
 エグゼリカの指差す先、先程千切れ落ちたと思われたハサミが海面に浮かんでいたが、そこからエポキシ素材でも膨らませるように何かが湧き出していく。

『何が起きている!』
「うそ………」
「そんな………」

 美緒の質問に、答える者は誰もいなかった。
 全員が凍りついた状態のまま、ハサミから湧き出した物はどんどん膨れ、形を成していく。
 程なくして、そこには、つい先程倒したはずの大型ワームと寸分たがわぬ姿が出現していた。

「再生した………」
『そんな事が! そんなデータはこちらにはありません!』

 状況を表す一言を呟いたポリリーナに、エルナーが思わず声を荒げる。

「こ、こんな馬鹿な話があるか!?」
「あるよ、今目の前で」
「理不尽ですわ! あれだけ苦労したと言うのに!」

 バルクホルンが狼狽するのをハルトマンが客観的にいさめるが、ペリーヌも声を荒げている。

「自切再生、トカゲのシッポのように危険回避のために体の一部を切り離すだけならともかく、全身を再生させるなんて………」
「エミリー、何か対策は!」
「データが少な過ぎるわ。けど、そう何度も再生できる程のエネルギーがあるとは思えないわ」
「何べんも同じ事やれっての!?」

 状況を理解できたエルナーの呟きに、ポリリーナが思わず対策を問うが、その返答に舞が怒号を上げた。

「あらら、残念ねえ………」

 絶望感が漂うその場に追い討ちをかけるように、上空からフェインティア・イミテイトが姿を現す。

「あの子達は!?」
「さあて、どうなったかしら?」

 クルエルティアの問いにフェインティア・イミテイトは意地悪く首を傾げる。
 だが、遅れるように二つの小さな影が上空から降下してきた。

「おい、大丈夫か!」
「……かろうじて大丈夫です、お姉様」
「けど、これ以上の戦闘は困難です」

 シャーリーが慌てて近寄り、左のウイングが消失している飛鳥と、右のウイングが消失しているアーンヴァルがお互い肩を貸し合っているのが痛々しいばかりだった。

「しかし、ダメージは与えてます」
「……無駄に損傷したわけではありません」
「後は任せて休んでていいよ、あとはこっちでどうにかするから」

 シャーリーが小さな体で頑張った武装神姫達の帰艦を促しつつ、フェインティア・イミテイトを見る。
 武装神姫達の言葉どおり、フェインティア・イミテイトの全身にはあちこち弾痕のような跡や刀傷のような物が生じていた。

「ふうん………それじゃあ、飼い主に責任を取ってもらおうかしら?」

 ファインティア・イミテイトが顔を引きつらせるような悪意の篭った笑みを浮かべると、その周囲に無数のファルドットが出現していく。

「この状況で、あの二体を相手にすれば……」
「けど、撤退しようにも………」

 圧倒的な戦闘力を持つトリガーハートのコピー体と、総力を持ってようやく駆逐したはずが再生した大型ワーム、そしてこちらは負傷・疲弊した者達ばかり。
 バルクホルンとポリリーナの脳裏には、この絶望的状況を覆せる要素は何一つ思い浮かんでこない。
 皆同じ気持ちなのか、全員の顔に暗い影が指そうとした時だった。

「もう一回やろうよ!」

 ユナの声が、その場に響き渡る。
 その声に、疲弊した仲間達、そしてフェインティア・イミテイトですらユナの方を見つめた。

「みんなの力があったから、あのエビを倒せたんじゃない! だったら、またみんなの力を合わせればもう一回くらいできるよ! だから、やろうよ!」
「ユナ………」

 ポリリーナが完全に呆気に取られた顔でユナを見る。
 ユナの顔には、先程までその場に満ちていた絶望は欠片もなく、ただ純粋に皆を信じる希望だけがあった。

「いいよユナ、やろうよ!」

 隣にいた亜弥乎が一番最初に賛同し、スタンソードを構える。

「うん! そうだね! もう一回くらい!」

 芳佳も賛同し、手にした銃に残ったマガジンを叩き込む。

「ユーリィお腹すいたですぅ! はやくあの人達倒してゴハンにするですぅ!」
「あはは、そうだね」

 せかすユーリィに苦笑しながら、リーネが銃口を大型ワームへと向ける。

「まだ負けを認めたわけではありませんわ………」
「その通りですわ!」

 エリカとペリーヌが背中を合わせるようにしながら、切っ先をフェインティア・イミテイトへと向ける。

「カルノバーン、カルノバーン・ヴィス、予備エネルギーバイパス解放!」
「アールスティア、ディアフェンド、ユニット リ・シンクロ!」

 クルエルティアは随伴艦の残っていたエネルギーを開放、エグゼリカは再調整を施し、再戦の体制を整える。
 やがて、その場にいた者達は全員、先程とは打って変わり、疲弊した体に鞭打って闘志を漲らせる。

『こちらミラージュ、エネルギー最充填はあと15分程で完了します』
『フォーメーションを組みなおせ! 残弾に余裕のある者を先頭に!』
『回復は早めに! 回復アイテムはまだあります!』
『目標、再活性化始まります!』

 ミラージュ、美緒、エルナー、カルナからの報告や指示が飛び、再戦の準備は整った。
 その光景に、フェインティア・イミテイトは憤怒で顔を引きつらせていく。

「まだ勝てるなんて思ってるの? それじゃあ、今度こそ完全に…」

 フェインティア・イミテイトが殲滅コマンドをファルドットと大型ワームに入力しようとした時、不意に彼女のセンサーに異常な反応が生じる。

『転移反応! しかも今までで最大です!』
『総員警戒態勢!』
「まさかここで増援!?」

 エルナーと美緒の声が飛ぶ中、ミサキが更なる最悪の展開を予想するが、フェインティア・イミテイトの明らかに狼狽した表情にその考えを否定。

『来ます!』

 カルナの声と同時に、虚空に巨大な渦が現れる。

「なんて大きさだ!」
「戦艦でも来るっていうの!?」
「まさか~………」

 自分達が巻き込まれた物とは文字通り桁違いの大きな謎の渦に、バルクホルンが驚愕し、ポリリーナがいやな予感を口にするが、ハルトマンは思わず否定。
 だが、程なくしてその渦から現れた物に、敵味方全てが絶句する事になる。
 渦から海面へと落ちていく、二つの艦影に………



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP19
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2012/04/30 20:44
「おわあぁ!」
「きゃああぁ!」
「ひいぃー!」

 凄まじい衝撃が攻龍を揺さぶり、各所で悲鳴の声が上がる。

「現状を確認、報告せよ」
「は、はい!」

 まだ艦が揺れ動く中、かろうじてブリッジに戻った艦長が冷静な声で命じ、続けてブリッジに戻ってきた者達がいまだ戸惑いながらもそれぞれの席について情報収集に入る。

「各部署、現状を報告してください!」
「攻龍、センサー・通信系異常無し!」
「格納庫! ソニックダイバーに被害は!?」
「一体何が起きた………」

 タクミ、七恵、冬后が仕事に入る中、副長が席に付いた時だった。

『周辺に高エネルギー残留を確認、現地域は戦闘中と推測されます』
「ワーム反応確認! A+級です!」
「何!?」

 ブレータと七恵からの報告に、副長の顔色が変わる。

「機関部、電算室、弾薬庫、異常ありません! 負傷者が若干出てますが、いずれも軽症だそうです!」
「格納庫にも異常無し、パイロットも無事、すぐに行けます!」
「衛星リンク途絶! 現在位置は不明です! 上空に大型艦と思われる飛行物体2、それと小型反応が多数!」
「小型?」
「あああ、あれは!」

 現状が把握しきれない中、タクミが外を指差す。
 そこには、見覚えのある格好をした少女達と、見た事も無い格好をした少女達の姿が空に舞っていた。

「ウイッチか! だがどこから?」
「……逆かもしれん。我々がウイッチのいる場所に来た可能性もある」
「艦長、それは…」
「通信複数! 見た事も無い通信形式です! 今調整中!」
「電子攻撃の可能性は!」
「いえ、そこまで強力な物では……繋ぎます!」
『こちらプリティーバルキリー号! そこの水上艦、聞こえてますか!』
『こちらカルナダイン! 通信繋がりました!』



「全員無事か!」
「いってえ………」
「り、遼平大丈夫?」
「お尻痛いよ~」
「なんて無茶な転移………」
「どこのどいつよ、あんな事やらかしたの!」

 格納庫のあちこちから苦悶や怒号が飛び交う中、大戸が頭を振りながらいち早く状況を確認する。

「ソニックダイバーにダメージが無いか確認、急げ!」
「は、はい!」「外の様子どうなっとる!?」「誰か見といて」
「シャッターはまだ開けるな!」
「私見てくる!」「私も!」

 大戸の号令で整備スタッフ達がソニックダイバーの確認に入り、音羽と亜乃亜がシャッター脇のドアへと向かい、そっと開けて外の様子を覗き見る。

「あれって、ワーム!?」
「バクテリアンもいるわ!」

 覗き見るだけのつもりの二人が、先程までいなかったはずの敵の姿に思わず扉を全開で開ける。

「え、ちょっとあれ!」
「誰か戦ってる! あれって、ウイッチ!?」
「うじゅ?」

 ウイッチという単語に、お尻を押さえていたルッキーニがドアから外を見る。

「う、あ、あああああああ~!」
「ルッキーニちゃん?」
「ど、どうしたの?」

 外を見たルッキーニがいきなりつぶらな瞳を大きく開け、大声を上げる。
 思わず耳を塞いだ二人が問いかけた時には、ルッキーニは普段以上の機敏さで格納庫を突っ切り、自分のストライカーユニットに飛び込むように足を入れると、即座に始動。

「おい! 外は危ない…」
「うりゃあ~!」

 大戸の制止も聞かず、ルッキーニは狭い格納庫をストライカーユニットで突っ切り、整備員達が思わず頭を引っ込めた所で、今だドアの所に立っていた二人を押しのけるようにして外へと飛び出していく。

「ルッキーニちゃん!」
「トゥイー先輩! ウイッチがいるっていったらルッキーニちゃんが飛び出していっちゃいました! 私も出ます!」

 音羽が呼び止めようとするがルッキーニは今まで見た事もない加速で飛んでいき、亜乃亜が慌てて後を追おうと連絡を入れながら自らのRVへと向かう。

「遼平! ゼロを早く出させて!」
「もうちょっと待て! つうか出撃命令出てねえだろうが!」
「音羽はんはスプレッドブースに行っときや!」
「一体何がどうなっとるんや………」
「決まってんだろ。戦場のど真ん中に放り込まれたんだ!」

 大戸の一言は、この場の状況をもっとも的確に言い表していた………



「何あの船!?」
「水上戦闘艦に、片方はシャトルかしら? でも何故?」

 突如として出現した謎の二隻に、ユナは目を白黒させ、ポリリーナは二隻を冷静に分析しつつも、困惑していた。

「まずいぞ。あの船、狙われる!」
「でも、敵か味方かも分かりませんわ」
「ネウロイじゃなさそうだけど………」

 ウイッチ達も困惑する中、ふと水上戦闘艦から小さな影が飛び出す。

「何か出てきたみたいですぅ!」
「敵? 味方?」

 何人かが警戒する中、影はどんどんこちらへと向かってくる。
 その輪郭がはっきりし始めた所で、その影から声が響いてきた。

「……リ~………シャ~リ~……シャ~~リ~~!!」
「あ、あれって!」
「ルッキーニちゃん!?」

 その影が、同じ501統合戦闘航空団の最年少隊員の姿だと気付いたウイッチ達が驚く中、名を呼ばれたシャーリーが顔をほころばせる。

「シャーリー!」
「ルッキーニ!」

 互いの名を呼ぶ中、ルッキーニは思いっきりシャーリーの豊かな胸に飛び込み、顔を埋めて久方ぶりの感触を堪能する。

「やっぱりこれは本物のシャーリーだ♪」
「ルッキーニ、無事だったんだな」
「うん!」

 優しく頭を撫でてくるシャーリーに、ルッキーニは大きく頷く。

「彼女もウイッチ? じゃああの船は………」
「残念だが、私達の知ってるどの艦種にも当てはまらない」
「あれね、攻龍って言うんだよ」

 幾分緊張を緩めたポリリーナだったが、バルクホルンはまだ緊張を解いていない。
 だが、ルッキーニは無邪気に船名を教えた。

「ルッキーニ、他に誰かいるのか?」
「あのね、サーニャとエイラ、ミーナ中佐と、音羽と亜乃亜とストラーフと可憐とフェインティアと…」
「……後半誰?」 
「ミーナもいるのか!」「サーニャちゃんとエイラさんも!?」
「ちょっと待って!」

 見当たらなかった仲間の名前と、聞き覚えのない名前にウイッチ達が一喜一憂するが、その名前の一つにクルエルティアが反応する。

「フェインティアがあの水上艦に!? 本当なの?」
「うじゅ! いきなりおっきいのに乗って現れて、つい攻撃したらミーナ中佐にバケツ持って立たされた………」
「つまり、あの船に仲間のウイッチやトリガーハートがいるって事?」
「今確かめるわ。カルナ、コミュニケーションリンク、フェインティアの識別コードをサーチ!」

 なんとかルッキーニの言う事を理解したポリリーナに、フェインティアが慌ててコミュニケーションリンクを開いた。


「あいたぁ~、なんて乱暴な転移よ」
「マイスター、どうやらここは戦場だ」
「でしょうね。ブレータ、周辺の全ユニットの識別開始」
『了解、フェインティア』
「マイスター、上空2時」
「なあに?」

 文句を言いながら、デッキに出ながらムルメルティアの指摘した方向を見たフェインティアが、そこに浮かぶ白いトリガーハートの存在を認識して目を見開く。

「トリガーハート!? 元の座標に戻れたの!?」
「マイスターの友軍と見ていいのか?」
「あの子は見た事無いけどね」
『フェインティア! こちらTH32 CRUELTEAR! いるなら返答を!』
「クルエルティア!? 本当にクルエルティアなの!」
『フェインティア! 本物のフェインティアなのね!』

 コミュニケーションリンクに飛び込んできた、かつて共に戦ったトリガーハートの通信にフェインティアも驚く。

「あなたもいるって事は、元の座標に戻れたのね!」
『残念だけど、違うわ』
『フェインティア? じゃあオリジナルの……あ、初めまして。TH60 EXELICAです』
「TH、クルエルティアの妹機ね。オリジナルってどういう事?」
『フェインティア、気になる反応が存在します。座標を』
「そっち?」

 状況が上手く飲み込めないフェインティアだったが、ブレータが示した方向を見た所で、その目が大きく見開かれる。
 その座標に浮かぶ、自分そっくりのトリガーハートに。

「………あんた誰!?」

 大声を上げたのが聞こえたのか、それとも別の理由か、上空にいたフェインティア・イミテイトが攻龍とそこにいるフェインティアに気付いて大きく口を歪ませる笑みを浮かべる。

「まさかあなたに会えるとはね~、オリジナル」
「あんた、私の!」
「ちょうどいいわ、あなたのユニットいただこうかしら?」
「誰があげる物ですか!」
「あなたはいらないから、あなたを消去して、ユニットだけもらうの。紛らわしいし」
「私の方が可愛いから、区別は簡単よ! でも、イミテイトがいるってのはいい気しないわね! ブレータ! ガルシリーズユニットシンクロ準備!」
『了解』
「行こうマイスター、戦友が待っているようだ」
「ユニットシンクロ、各艦リンク! 砲撃専用艦ガルトゥース、砲撃&アンカー艦ガルクアード、旗艦フェインティア出撃するわよ!」

 ムルメルティアを伴い、フェインティアが虚空に赤い残影を残し、一気に飛翔した。


「状況は!?」
「まだ把握できん。だが周りは敵だらけのようだ」
「確かにね」

 ブリッジに飛び込んできたミーナとジオールに副長が分かっている事だけを伝える。

『私は英知のエルナー、現在この惑星はヴァーミスの攻撃に晒されてます。そしてヴァーミスはワームとバクテリアンという存在を使役し、私達は現在交戦中です』
「ワームを知っているのかね?」
「バクテリアンが!?」

 エルナーの説明に、艦長とジオールが同時に驚く。

『知っているのか! 我々は現在苦戦中で…』
「美緒!?」

 通信ウィンドゥに表示された美緒の姿に、今度はミーナが驚く。

『ミーナ!? その船に乗っているのか!』
「ええ、こちらには私とエイラさんとサーニャさん、それにルッキーニさんがいるわ」
「あの、ルッキーニちゃんならさっき出て行きましたけど………フェインティアさんも」
『なら、501は今ここに全員そろっている! 苦戦中だ、援護を!』
「ええ、分かったわ!」
『こちらブレータ、現在位置座標不明、当該戦闘空域にTH32 CRUELTEAR及びTH60 EXELICAの二機を確認、交戦中と推測されます』
「他のトリガーハートもここにいるってのか!?」
『周辺にウイッチに近似と思われる生体エネルギーパターンを持つ有機生命体多数、サイキッカーと推測』
「もう何でもありかよ!」

 ブレータからの報告に冬后が思わず怒鳴り返す中、ジオールが通信席の方へと歩み寄る。

「待って、私は秘密時空組織「G」グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイー。バクテリアンがなぜここに?」
『分かりません。バクテリアンとの戦闘経験が?』
「Gは対バクテリアン防衛組織よ」
「そしてこの攻龍は、対ワーム用戦闘艦だ」
『! 全戦闘データを送ります! 現在交戦中のワームは、一度破壊したのですが、破壊前に分離した部分から再生したんです!』

 ジオールと艦長の言葉に、エルナーは即座にデータの転送を始める。

「A+、しかも自切再生型だと! 一体どうやって一度倒した!」
『説明は後です! 対処法は…』
『ミサキちゃん、これでいいの? もしもし、これ繋がってる?』

 情報が複雑に錯綜する中、突然そこにユナの顔が表示される。

「君は?」
『あ、私は神楽坂 ユナ! 光の救世主やってます! それで、あなた達は、あのエビの倒し方知ってるんですか?』
「……まあな」

 いきなりの事にブリッジが呆気に取られる中、冬后がぶっきらぼうに答える。

『それじゃあお願い! 力を貸してください! 亜弥乎ちゃんの星を救うために!』
「……501統合戦闘航空団、友軍援護のために出撃します!」
「「G」グラディウス学園ユニット、バクテリアン殲滅のために出撃します!」
「待て、まだ…」
『ありがとう!』

 ユナの言葉に呼応するように、ミーナとジオールが副長の制止も聞かずに出撃を宣告してブリッジを飛び出し、ユナは満面の笑顔で微笑む。

「艦長、どうします?」
「状況はまだ把握できないが、ワーム殲滅は我々の最優先事項だ。ソニックダイバー隊、出撃」
「了解! 全員、出撃だ!」
『ありがとう!』

 艦長の決断に、ブリッジが更に忙しくなる。
 そんな中、艦長は静かに表示が消えていくユナの顔を見ていた。

「状況も勢力も分からぬのに、少女のただ一言で協力体制が整うとはな………十年前、我々もこうできていれば………」



「全機出撃だ! シャッター開けろ! 手の開いてるのは他の奴の兵装手伝え!」
「外にみんないるノカ!?」
「うん、間違いない」
「進路開けて! RV出すわ!」
「起動チェックしてないよ!」
「そんな暇ない。すぐそこにいる」「危ない、伏せて」
『え?』

 ソニックダイバー、ストライカーユニット、RVそれぞれが出撃準備に取り掛かる中、格納庫のシャッターが開いていく。
 だがそこで、ティタとサーニャの言葉通り、こちらを狙っているバクテリアンと目が会った。

「やべえ!」「伏せろ!」
「エイラ」「分かった!」

 整備員達が仰天してその場に伏せ、サーニャが前へと出てシールドを展開、エイラが銃を構える。

「あ」

 そこでエイラが一言呟いたかと思うと銃口を下げ、更に上空からの銃撃がバクテリアンを撃墜する。

「よおし、間に合った!」
「皆さん無事ですか!」
「たぁだいま~」

 上空からの攻撃でバクテリアンを撃墜したシャーリーとリーネが、ルッキーニを伴って後部甲板に降り立ち、そのまま援護に当たる。

「ありがとう、助かっちゃった!」
「ルッキーニが世話になったみたいだから、これくらいはお安い御用さ」
「もう少しだけ持たせて!」

 亜乃亜がお礼を言うとシャーリーが笑顔で返し、エリューが叫びながらも出撃準備を進めていく。
 更にそこへ突然格納庫の中にミサキがテレポートして現れる。

「おわ!?」「い、今どこから!?」
「これがこの船の格納機? このユニット大型だけど、出撃所要時間は?」
「えと、スプレッドブースでナノマシン塗布して、リンクさせてだから」
「三分はかかる!」
「出撃方法は?」
「前部カタパルトから順次射出だ!」
「了解。こちらミサキ、エルナー、この船の機体出撃までの護衛を回して!」
『すでにエリカがエリカ7と向かってます!』
「前部のカタパルトに向かわせて! 後部格納庫はこちらでなんとかするわ!」

 エルナーに現状を報告しながら、ミサキは格納庫の中からリニアレールガンを構える。

「出撃急いでください!」
「弾が残り少ないんでね!」

 向かってくるバクテリアンを三つの銃口から放たれる銃火が迎え撃つ。

「……すげえ」
『どこ見取るんや!』
「ルッキーニちゃんの言ってた通りだ……」

 射撃の度に反動で揺れるシャーリーとリーネの胸を思わず凝視した遼平に、御子神姉妹の怒声が飛び、出撃準備を進める亜乃亜も小さく呟く。

「皆そろってる!?」
「全員出撃よ!」

 さらにそこへミーナとジオールが格納庫へ飛び込み、防衛に当たっているシャーリーとリーネ、そしてミサキを見つける。

「あなたは?」
「私は一条院 ミサキ、ヴィルケ中佐はどっち?」
「私だけど………」
「美緒から話は聞いてる。こちらのウイッチは連戦ですでに限界が近いわ。すぐに援護を」
「そうするわ、エイラさん、サーニャさん、ルッキーニさん、準備はいい?」
「準備は出来テル!」「はい」「うじゅう~!」

 エイラとサーニャが魔力を込めてストライカーユニットを発動、銃を携え、足元に魔法陣が浮かぶ中、ルッキーニは我先に銃を手にとってシャーリーの援護へと向かう。

「ストライクウイッチーズ、出撃!」

 それに続けて、ウイッチ達も次々と発進していく。

「こっちも行くわよ!」
「ビックバイパー、起動!」「ロードブリティッシュ、リンク確認」「マードックバイパー、システムオールグリーン!」「ビッグコアエグザミナ、行ける」「セレニティバイパー、プラトニックパワーリンケージ、全機発進!」
「空羽 亜乃亜、頑張ります!」
「エリュー・トロン、行きます!」
「マドカ、いってきま~す!」
「ティタ・ニューム、容赦しないからね」
「ジオール・トゥイー、出ます!」

 ジオールの号令と共に、RVを駆る天使達が次々と発進、格納庫を守る三人の脇と敵の攻撃をすり抜けて飛び立っていく。

「なんだあれ、ジェットストライカーか? すげえ速いな~」
「違うみたいですけど………」
「RVって言うんだって」
「ふ~ん、後で見せてもらおう」

 高速発進していくRVを興味深く見ているシャーリーだったが、背後が更に騒がしくなる。

「ソニックダイバーの準備は!?」
「全機大丈夫だ!」

 大戸の言葉を聞いて、ナノスキン塗布・最適化を終えたスカイガールズが次々と自分の乗機に騎乗。

「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」
「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」
「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」
「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」
『ソニックダイバー隊、発進………待ってください!』
「え?」

 カタパルトへと移動する途中でいきなりの七恵の制止の声に、思わず音羽がマヌケな声を上げる。

「前方に敵機! 発進一時停止を…」

 カタパルト内で、前方に見える敵に気付いた瑛花が後続の停止を促すが、そこで突然見えていた敵機が爆散する。

「今のは……」


「エレガントソード!」

 攻龍前部、ソニックダイバー発進用のカタパルトが展開していく所へ押し寄せようとしたバクテリアンが、エリカの一閃で爆散する。

「エリカ7! カタパルト周辺に着きなさい!」
『はい、エリカ様!』

 エリカの号令と同時に、エリカ7がカタパルトの左右に展開、それぞれの得物を構えた。
 都合、ブリッジの真ん前に立つ事になったエリカが背後のブリッジに振り向き、笑みを浮かべる。

「ここはこの香坂エリカとエリカ7が守ってさしあげますわ。何か分かりませんが、早く出させなさい」
「……ソニックダイバー、発進!」
「は、はい! ソニックダイバー、出撃してください!」

 いきなりの事に呆気に取られたブリッジ内だったが、艦長の指示で即座に出撃シーケンスが続行、ソニックダイバーが次々発進していく。

「あれもウイッチでしょうか?」
「何か違いません?」
「まあ、助かったのは確かだ……」

 ある意味、ウイッチよりも風変わりな光の戦士達にブリッジ内に微妙な空気が流れるが、その確かな戦闘力に考えを改める。

『つまり、そちらでも同種の特性を持ったワームと交戦経験があるのですね?』
「そうだ」
「自切部位と電気信号でリンクしている以上、本体と自切部位、同時の攻撃殲滅が必要だ」
『その点なら問題ない。そちらが本体を攻撃、自切部位をこちらで受け持つ』

 戦場に次々と少女達が出撃していく中、攻龍とプリティーバルキリー号で作戦が手早くまとめられていた。

『ホメロス効果によるナノマシン統合体崩壊、そんな手が有ったとは………』
「だが問題は、前回の闘いではワームは自切部位を二つ続けて切り離した事だ。片方はソニックダイバー、もう片方はそちらで受け持つとして、もう一つの対処を…」
『お任せ下さい』

 エルナーと艦長の会話を遮るように、通信ウィンドゥにジオールが現れる。

『もし自切部位が二箇所なら、片方は私達が受け持ちます。RVのドラマチック・バースト一斉掃射なら、殲滅可能でしょう』
「確かに、あの火力なら可能だ」
「そういや、そっちのトリガーハートはどうした? あの戦闘力なら…」
『それが、現状だとこのようになってるので』

 冬后の問いに、カルナがある映像を映し出す。
 そこには、真紅のトリガーハート同士が壮絶な激闘を繰り広げる様と、それをサポートする濃紺と白のトリガーハートの姿があった。

「な、フェインティアが二人!?」
『片方はヴァーミスで複製されたイミテイトと思われます。オリジナルとイミテイト、二体のフェインティアの戦闘は現状の大型ワームとの戦闘とほぼ同レベル、そしてイミテイトの火力、機動性、防御力から推察して、トリガーハート以外での交戦はきわめて難しいと思われます』
『しかも、もしあれが大型ワームと共闘するような事になれば、対処は格段に難しくなります。トリガーハートの三人に任せて、こちらで対処するしかないかと………』
「確かに、トリガーハートの戦闘力は桁違いだからな」

 高速、大火力、そしてユニットとアンカー艦を使う高レベルかつ独自の戦闘光景に、冬后は苦い顔をして頷いた。

「そう言えば、そちらでは何で一度殲滅したのだ?」
『上空からの艦砲射撃だ、今はそうとだけ言っておこう』
「……上空、まさか攻撃衛星か!?」
『いえ、宇宙船艦です』
『……は?』

 副長の問いへの美緒とエルナーの返答に、ブリッジ内の数人が同時に疑問符を浮かべる。

「この際、些細な問題はいい。ソニックダイバー隊にワームへの攻撃を開始、クアドラロック使用可能状態になった時点で、カウントダウンをデータリンク」
「了解しました!」
『総員、大型ワームへ波状攻撃! こちらの合図と同時に、先程同様に艦砲射撃を行う!』
『こちらカルナ、戦闘データリンクOK! 各トリガーハートに送信開始!』
『リューディア、データリンク及びカウントダウンリンクを!』

 複数の指示が通信で飛び交い、それを上回る銃火が戦場を飛び交い始めていた。



「うわ、大きい!」
「A+でもここまで全長を誇るのは滅多にありません」
「あのウイッチの子達、どうやって倒したんだろ?」
「今に分かるわよ、相手は自切再生型、前と同じ手で殲滅する事に決まったわ。それじゃあ攻撃開始!」

 対ワーム部隊である自分達ですら滅多に見ない大物に、ソニックダイバー隊も驚愕しながらも、一斉に攻撃が始まる。
 ビームとレーザー、対空ミサイルが一斉に発射され、ワームへと直撃する。

「よおし!」
「待ってください、これは!」

 思わず喝采を上げた音羽に、可憐が何かに気付いて風神のセンサーでデータの収集に入る。
 爆風が消えると、そこには表面が僅かに焦げただけのワームの姿があった。

「ウソ!? 全然効いてない!」
『ワームセル損傷率10%未満! 前例の無い結合率です!』

 エリーザの驚愕の声に、七恵の報告が続く。

「攻撃を続行します! 全機Aモードにチェンジ、至近攻撃でセルを破壊! 可憐はその間に結合率の低い箇所を探して!」
「了解」
「MVソード!」「MVランス!」

 ソニックダイバーが高速飛行のGモードから強化外骨格形態のAモードへと変形、音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェがそれぞれ近接戦闘武器を構える。

「それじゃあ突げ…」
「待って! バッキンボー!」

 突撃しようとした時、突然の声と同時に飛来したバッキンボーが、零神へと向かっていた何かを叩き落す。

「不用意に近寄ると、あれを食らうわ!」
「音羽さん、ヒゲです! ヒゲを近接武器として使うようです!」

 零神のそばに来たポリリーナの警告に、可憐が追加で情報を付け足す。

「あ、ありがとう。あなた、ウイッチ?」
「いいえ、私はお嬢様仮面ポリリーナ、そう呼ばれてるわ」
「………何それ?」

 一際風変わりなポリリーナの自己紹介に、エリーゼが思わず呟く。

「お互い、自己紹介は後でゆっくりね。ヒゲとハサミに気をつけて!」

 それだけ言うと、ポリリーナはその場からテレポートして消える。

「うわ! 消えた!」
「あっちにいる!」
「質量が完全に消えてる……本物の瞬間移動?」
「無駄話は後にしなさい! 散開!」

 予想外の事に驚く皆を瑛花が叱咤した所で、再度振るわれたヒゲを回避するために四機のソニックダイバーは散開、そのまま各自で攻撃に入る。

「仮面の超能力美少女戦士か~、結構かっこいいかも」
「それってポリリーナ様の事かな?」

 一度距離を取って間合いを見ていた音羽の呟きに答える声があって音羽が仰天、いつの間にか背後にいたユナの方に振り向く。

「ポリリーナ様と私は運命の糸で繋がってるんだから♪」
「………え~と」

 夢見るような瞳で語るユナになんと言えばいいか判断しかねた音羽だったが、上空から刺した影に双方とっさに左右に分かれる。

「うわ!」「危な~!」

 振り下ろされたハサミを回避した二人が、期せずしてハサミの根元を辿る同一の動きを取る。

「ゼロ、行くよ!」
「いっけえ~!」

 MVソードとマトリクスディバイダーPLUSがハサミに繋がる腕を左右から斬り裂こうとするが、予想外に重い手ごたえに二人の顔に苦悶が走り、刃を振りぬく前に再度離れる。

「硬っ!」
「さっきより頑丈になってるよこれ!」

 攻撃の効果が左程無い事に二人が手にした得物を確かめ、思わずぼやく。

「音羽さん! 下です!」
「へ?」

 そこで可憐からの警告に音羽が思わず下を向くと、そこから間接を反転させて振り上げられるハサミに気付く。

「まず…」
「クルクル~パ~ンチ!」

 予想外の攻撃に回避が遅れそうになる音羽だったが、そこへユーリィが拳を振り回して叩きつけ、ハサミを弾き返す。

「そこです!」

 さらにそこへ可憐の風神からの対空ミサイルが次々と打ち込まれ、その間に音羽は体勢を立て直す。

「ユーリィ! ありがと!」
「ユーリィお腹すいたですぅ! 早く終わらせてご飯にするですぅ!」
「音羽さん大丈夫ですか!?」
「なんとか。にしてもすんごい怪力……」
「それが、どうにもあちこちにフェインティアさんみたいなアンドロイドがいるみたいです。あの赤毛の人もそうみたいですけど」
「ここどこだろ……」

 遠くに見える未来的な街並みに首を傾げながらも、音羽はMVソードを構え直す。

「普通に攻撃してもセルが破壊できません! 連続して攻撃を仕掛けて、外殻部を破壊、内部の結合の弱い部分を狙ってください!」
「え~と、つまり殻を壊して中を攻撃すればいい訳?」
「はい!」
「とは言ってもね……」

 脇で可憐の説明を聞いていたユナが問い質した所で、音羽は改めて大型ワームの状況を観察する。

「食らえ~!」
「アチャ~!」

 エリーザの駆るバッハシュテルツェのMVランスと麗美の閃空槍が同時に突き出されるが、双方穂先が僅かに食い込むだけで、すぐに弾き飛ばされる。

「何よこれ!」
「さっきと違うアル!」
「攻撃の手を緩めないで! 少しずつでもダメージを与えれば!」

 そこへ瑛花の雷神が接近しながら、大型ビーム砲とガトリングを同時に斉射、重火力を持ってセル破壊を試みるが、ソニックダイバー1の火力を持ってしても、表層を僅かにえぐっていくだけだった。

「くっ……」
「冬后大佐! このワームの結合率は半端ではありません! こちらの攻撃はほぼ無効化されます!」
『攻撃を続けてそいつを足止めしろ! 攻龍の主砲で狙い打つ!』
「了解! 攻龍の射線を確保しつつ、攻撃続行!」
「あの船、攻龍って言うんだ。かっこいい名前だね!」
「いや~、そう言われると照れるな~」
「音羽! そういう事は後でしなさい!」

 ユナに母艦を褒められ、顔を緩ませる音羽に瑛花の檄が飛び、音羽は大型ワームへと向き直る。

「私は桜野 音羽、この子はソニックダイバー零神。あなたは?」
「神楽坂 ユナ、こっちはユーリィ。よろしくね♪」
「こっちこそ。それじゃあ、行くよユナちゃん!」
「OK音羽ちゃん!」

 出会ったばかりの二人の少女が、同じ目的を持って、剣を手に敵へと向かっていった。



「うわあ、見たトゥルーデ!? あれ変形したよ、かっこいい!」
「見た事も無いユニットか………あれも我々同様、どこか別の世界から来たわけか」
「そこどいて~!」

 目の前で変形したソニックダイバーにハルトマンが歓声を上げ、バルクホルンも興味を持つが、そこをビックバイパーを駆る亜乃亜がニアミスを起こしそうになる。

「うわあ!」
「速い! なんだあのユニットは!」
「ライディング・バイパー、通称はRVだそうよ」

 聞き覚えのある声に二人が振り向き、そこにいるミーナの顔に驚愕と安堵の顔をする。

「ミーナ! 無事だったんだ!」
「あの船に乗っていたのか……友軍と捉えていいのか?」
「友軍も何も、ワームはソニックダイバーの、バクテリアンはRVの対抗兵器だそうよ」
「敵の敵は味方、か」
「そう捉えてもらって結構よ」

 そこへミーナの隣にジオールが並ぶ。

「あなたは?」
「私は秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイー、彼女達のリーダーよ。貴方達がミーナさんが探してた仲間ね?」
「ゲルトルート・バルクホルン、階級は大尉、こっちはエーリカ・ハルトマン中尉だ」
「よろしくね」
「彼女達は501のWエースよ」
「へえ、それはすごいわね」
「ジオール、来た」

 簡単な自己紹介の最中に、いつの間にかジオールの後ろにいたティタが呟く。
 その言葉どおり、バクテリアンの一群が迫ってきていた。

「それでは、お互い別の自己紹介と行きましょう。右のはそちら、左はこちらで」
「了解、それじゃあ二人とも」
「ああ」

 頷くとウイッチと天使達は同時に動いた。
 ウイッチ達が機敏な動きでバクテリアンの攻撃を掻い潜り、次々と撃墜していく。

「うわあ、やるな~」
「こっちも行くわよ!」
「D―バースト以外の全兵装解除、バクテリアンを殲滅!」
『了解』

 一味違う501エースの戦いぶりに亜乃亜が感心し、エリューとジオールが号令をかける。

「マドカにお任せ♪」
「あ、ずるい!」

 マドカのマードックバイパーが先行、バクテリアンを撃墜し、残ったパワーカプセルを回収していく。

「ぱっ! ぱっ! ぱわー! あーっぷ!」
「私だって!」
「上空はこちらで押さえる!」
「ティタ、下からのをお願い」
「急行」

 バクテリアンを次々と撃墜、そのエネルギーで兵装を増していくRVに、今度はウイッチ達が仰天する。

「敵のエネルギーで兵装を増加させる!?」
「う~ん、こっちも出来れば、今頃私とトゥルーデですごい事になってるんだけどな~」
「さすがに無理よ……」
「それじゃあ、ボクも行くよマスター!」

 ミーナが苦笑した所で、肩に乗っていたストラーフが飛び出す。

「これでどうだ!」

 小型のストラーフのGA4“チーグル”アームパーツの一撃がバクテリアンの一体の中央を陥没、墜落させる。

「武装神姫! そちらにもいたのか!」
「そちらにもって、こっちにも?」
「さっきまでいたよ、ちょっと無茶して今撤退してるけど」
「あれの相手をしてもらったのでな」
「あれ?」

 バルクホルンにつられて、ミーナも上空を見る。
 そこには、凄まじい速度で激戦を繰り広げる、二つの赤い機影の姿があった。



「ガルトゥース! ファイアー!」
「このう!」

 オリジナルとイミテイト、二人のフェインティアの戦闘は目まぐるしく双方の位置が入れ替わり、無数の砲火が飛び交う凄まじい物となっていた。

「ガルクアード! フルスイング!」
「させるかぁ!」

 フェインティアのアンカー艦がスイングを始めた矢先、イミテイトがファルドットを直接ぶつけ、強引にスイングを中断させる。

「なんて戦い方すんのよ!」
「ユニットなんて幾らでも代わりはあるわ!」
「そんな奴に私の随伴艦は渡さないわよ!」
「だから奪わせてもらうわ!」
「マイスター、もう少し周囲への影響を考えた方がいい」
「はあ?」
「先程からマイスターの僚機が下への流れ弾の防御に専念しているのだが」

 ムルメルティアに言われ、フェインティアはようやく他のトリガーハートの状況に気付く。

「クルエルティア、どうやら尻拭いさせてたみたいね」
「構わないわ。こちらは今までの戦闘のダメージが蓄積してる」
「私と姉さんが対処しますから、そちらはお願いします!」

 クルエルティアとエグゼリカが下へ被害が及ばないように尽力するのを確認したフェインティアは、イミテイトに再度随伴艦を向ける。

「フェインティア、イミテイトはナノマシンコーティングを全身に施してるわ。アンカーキャプチャーは不可能よ」
「私達もそれで苦戦しました」
「ナノマシンコーティング?」
「マイスター、ひょっとしてナノスキンでは………」
「だとしても、ソニックダイバーの物とは別物ね。クルエルティアからの戦闘データだと、とっくに耐久時間は過ぎてるわ」
「ごちゃごちゃうるさいわね、来ないならこっちから行くわよ!」
「上等よ!」

 僅かな疑問を考慮する暇も無く、再度二つの赤い閃光が、戦場の空に火花を散らしてぶつかった。



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP20
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2012/04/30 20:45
「バクテリアン、殲滅率80%突破しました! しかし、ワームには今だ有効なダメージが与えられていません!」
「主砲、徹甲榴弾装填。射線上を開けるよう通達」
「了解…ワーム、潜行を開始しました!」
「なんだと!?」
『ワームから高エネルギー反応! スプレッドビーム来ます!』
『総員、防御体勢を!』

 攻龍のブリッジでオペレーターの七恵が戦況を継げる中、カルナとエルナーの警告が通信越しに響き渡る。

「面舵いっぱい、急速回頭」
「はい!」

 慌てて攻龍が舵を切る中、水中から発射された高出力ビームが上空に舞い上がり、そこから無数に拡散して降り注ぐ。

「総員ショック体勢!」
「避けきれねえ!」

 副長と冬后がそのあまりの数の多さに、攻龍への被弾を覚悟するが、周辺の海面に無数の着弾で波が立つ以外は、なぜかビームは攻龍に落ちてこない。

「何だ? 避けられたのか?」
「いや。助けられたようだ」
「上です!」

 冬后も首を傾げる中、状況を理解した艦長が頷き、タクミがブリッジの窓越しに上を見た。

「ま、間に合った………」
「サンキュー、宮藤!」「芳佳すごーい!」「ありがとう芳佳ちゃん!」

 攻龍の上空、攻龍と脱出艦を全て覆い尽くす程のシールドを展開させていた芳佳に、攻龍護衛に当たっていたウイッチ達が手を振る。

「なんと巨大なシールドだ………こんなウイッチもいるのか」
「ウイッチのシールドは魔力と呼ばれる生体エネルギーの総量に比例して大きくなる、だとしたら彼女の魔力は桁違いと考えるべきね」
「なるほど、興味深いですね」

 副長が唖然とする中、ブリッジに紀里子と緋月が姿を現す。

「即興ですが、送られてきた戦闘データの解析が終わりました」
「正直、データその物を疑いたい内容でしたが、この現状を見る限り、信じるしかないでしょう」
「ご苦労」

 二人から渡された解析データを、艦長が素早く目を通していく。

「艦首をワームへ向けて回頭、艦首魚雷発射準備」
「了解!」

 艦長が解析データを元に素早く戦術を構築、ワームを水中からおびき出すために魚雷攻撃を試みる。

「魚雷照準しました!」
「一番二番、発射」
「発射します!」

 攻龍の艦首発射管から魚雷が二発発射、航跡を描いて命中するが、ワームは水中から出てくる気配が無い。

「一番二番命中、しかしダメージありません!」
「なんて奴だ! N弾頭魚雷を用意!」
「待て、あれは周辺への被害が大き過ぎる」
「しかし艦長!」

 副長が対大型ワーム用の殲滅魚雷を用意させようとするが、艦長が制止、そこでブリッジの外からエリカがノックをしていた。
 何かこちらに向けて話しかけるが、分厚い対爆ウインドゥ越しでは聞こえるはずもなく、七恵が慌てて手振りで聞こえない事を教える。

「そちらの人が何か言ってますが、通信プロトコルをあわせられますか?」
『今やってます! よしこれで』

 タクミからの要請にエルナーが急いで通信を繋げ、エリカの顔が攻龍の通信ウィンドゥに現れる。

『よろしいかしら? この船、爆雷とか積んでませんの?』
「対潜用のテトラPODがあるが、有効距離まで近付く前に、先程の拡散ビームを食らう可能性がある! 使いたくても使えん!」

 窓の外から話しかけてきたエリカに、副長が怒鳴るように返す。
 そこでエリカが少し考えて、何かを思いつく。

『その爆雷、ショックで破裂とかします?』
「余程の衝撃ならともかく、それ以外はワームにしか反応しないように設計されている。何をするつもりだ?」
『届かないなら、こちらで届かせますわ。バルクホルンさん、こちらで私の家でやったアレ、またやってくれます?』
「アレってなんですか?」

 何を思いついたのか分からない七恵が思わず問い返すが、エリカは構わずエリカ7に指示を出す。

「マミ、ルイ、アコ、マコ、あの下品なエビ、あぶりだしますわよ!」
『はい、エリカ様!』
「なるほど、戦艦なら積んでるだろうからな」

 何をする気か悟ったバルクホルンが、銃をスリングで背負って両手を鳴らす。

『爆雷発射、お願いできます?』
「おい、何を……」
「テトラPOD発射」
「テトラPOD発射します」

 副長が問い質す前に、艦長がテトラPOD発射を指示、攻龍の艦首左右から次々と発射される。

「ふん!」
「はあ!」

 弧を描いて発射されたテトラPODが落下するより前に、バルクホルンが固有魔法の怪力で、エリカが念動力でテトラPODを更に上へと跳ね上げさせる。

「な……」
「おいおい………」
「あの、まさか……」

 予想外の事にブリッジ内の誰もが驚く中、その後の行動は更に皆の度肝を抜いた。

「おらあ!」「とりゃあ!」

 上で待ち構えていたマミのバットとルイのキックが、バルクホルンの跳ね上げたテトラPODを打ち出し、ワームのそばへと着水、勢い余ってワームに激突しながら爆砕する。

「いくわよマコちゃん!」「OKアコちゃん!」『サイクロンカット!』

 更にエリカが跳ね上げたテトラPODをアコとマコのラケットが同時に打ち、旋風を伴ってワームに直撃、爆砕させる。

「これはすごいわね」「非常識とも言いますが」
『次、どんどんよこしなさい!』
「あの、艦長……」
「テトラPOD、順次発射」

 紀里子と緋月も感心、絶句する中、エリカの要請にしたがってテトラPODが次々発射、それを受け止め、ワームへと打ち出していく。

「面白そうな事やってんじゃない、アタシにもやらせなさい! そうれホールインワン!」
「RV各機、ワームにミサイル攻撃開始!」

 テトラPOD打ちに舞も面白がって加わり、そこへRVが水中のワームに向けて降下ミサイルを雨あられと降り注がせる。

「ワーム、回避行動に移ってます!」
「効いてるな! 通常魚雷も追尾発射!」
「効いてはいますが、自切分離までには至ってません。結合率だけでなく、衝撃を受け流す特性もあるようですね。もっと強烈な打撃が必要です」

 七恵の報告に副長が更なる攻撃を指示するが、そこに紀里子がワームへのダメージを計算し、いやな現状を導き出す。

「これ以上強烈となると、N弾頭を使うしか……」
『待って欲しい。衝撃を受け流すという事は、直接打撃ならどうだ?』

 話を聞いていた美緒の問いに、紀里子は少し考える。

「ワームに有効な直接打撃を与える方法がそちらに存在するの?」
『ああ、シャーリー、ルッキーニ、あれはいけるか?』
『坂本少佐、こっちはOK!』『よおし、びゅ~んて行くよ~』
「片面では受け流されるかもしれないわ。出来れば両面から同レベルの直接打撃を与えなければ」
『む、両面か………』
『こちらに考えがあります! ユーリィこちらに! エグゼリカ、こちらに来れますか!』
『はいですぅ!』
『分かりました、姉さんこっちはお願い!』
『作戦概要を送ります! タイミングを合わせてください!』
「な、こんな戦法が可能なのか!?」
「ほう、これは興味深い」
「………全データリンクを密にせよ。作戦概要を各自に転送。主砲発射態勢のまま待機、ワームに照準固定」
「了解!」

 エルナーから送られてきた作戦に、攻龍のブリッジ内で副長が驚き、緋月が感心する中、艦長は即座にそれを実行に移すべく準備に入らせる。

「ソニックダイバー隊にクアドラフォーメーション準備!」
『ペリーヌ、ワームが水面下から出ると同時に固有魔法を使え! 他電撃を扱える者も全員前へ!』
『了解しました少佐!』
『……応急処置が終わりました。飛鳥、お姉様のサポートにつきます』
『爆雷もっとありませんの!』
「今ので最後だ」
「何ですって!?」

 もう少しで勝機が見えそうな所で、テトラPODの残弾が尽きた事にエリカが怒号と悲鳴が入り混じった声を上げる。

「それなら、ハルトマン来い!」
「何か考えあるの?」

 それを聞いていたバルクホルンが、ハルトマンを伴って攻龍の格納庫へと飛び込んでくる。

「おわ!」
「こんなとこに飛びこむなんて危ないで!」
「そやそや!」
「すまん、だが非常時だ。あの大型ユニットの装備で何か使える物はあるか!」
「ソニックダイバーの装備って、持てんのか?」

 いきなり飛び込んできた二人のウイッチに整備員達が声を荒げるが、更なる無茶な要求に顔を引きつらせる。

「一応予備のガトリングを手動起動可能にした物と、機械式信管のミサイルが………」
「だが大丈夫か?」

 ウイッチにも使用可能を前提として改造した大型ガトリングポッドと、無数のミサイルを遼平が指差すが、どう見ても手に余りそうな代物になっている事に改造を主導した大戸自身が問いかける。

「借りる!」
「持ってくね~」

 生身で背負うには巨大すぎるガトリングポッドを、バルクホルンがためらい無く背負い、ハルトマンがミサイルをありったけ両腕で掴む。

「あれで飛べるんかいな………」
「確かあのガトリング総重量200kgは超えてるはずや…」
「ふん!」

 嵐子と晴子の不安を他所に、バルクホルンは気合と共に魔力を込め、足元の魔法陣が浮かび有るとそのまま巨大なガトリングポッドを背に再度空へと舞い上がっていく。

「……88mm担いだウイッチってあの人じゃないのか?」
「違うよ、トゥルーデの最高は50mm」
「50………」

 大砲としか言いようのない装備を聞いた遼平が凍りつく中、バルクホルンの後を追ってハルトマンも再度飛び立っていく。

「……ウチに来た連中、大人しい方やったんやな」
「……比較対照間違えてると思うわ、多分」
「すいません、弾が切れちゃいました! 口径合う弾か代わりの銃ありますか!?」

 嵐子と晴子が呆然と見送った所で、今度は艦の護衛に当たっていたリーネが飛び込んでくる。

「え~と、ソニックダイバー用試作アンチマテリアルライフルあったよな」
「向こうのコンテナだ。FCSの調整がまだだが、あんたらはいらないんだったな」
「すいません、お借りします! う、重い……」

 リーネが一礼して自分の背丈よりも長い試作アンチマテリアルライフルを少しよたつきながら抱えていく。

「…後使えそうな物あったら全部出してこい」
「はい!」
「何でも持ってきたい奴は持っていけ。それで嬢ちゃん達が勝てる、いや死ななくてすむならな」

 慌しくなる格納庫内で、大戸の呟きを聞いている者はいなかった。


「うわ! それソニックダイバーの機銃じゃン! 大尉よく持ってきたナ~」
「さすがにこのユニットでは馬力が足りん! 高機動が出来んから、先導を頼む!」
「了解しました、バルクホルンさん」
「トゥルーデ欲張りすぎ」

 重武装して攻龍から発進してきたバルクホルンをエイラとサーニャが驚いた目で見るが、やはり無理があったのか、機敏性に欠ける事を自覚したバルクホルンが二人に露払いを頼み込む。

「来ます」「真下ダ!」

 感知能力と未来予知の二つの固有魔法を持つペアの指摘に、バルクホルンとハルトマンが普段ほどではないが機敏に真下から振り上げられたヒゲを回避する。

「右から」「水平ニ!」
「くっ!」「おわっ!」

 振りあがったヒゲが弧を描いて真横から来るのを、バルクホルンが上に、ハルトマンが下に回避し、大型ワームへと接近する。

「ハルトマン! 後ろから狙え! 私は頭を抑える!」
「OK~」
「私らはここで注意を引くゾ!」
「うんエイラ」

 バルクホルンとハルトマンが素早く左右に分かれると、エイラとサーニャがその場に静止して弾幕で大型ワームを牽制。

「うぉおおぉぉぉ!」
「食らえ~シュトルム!」

 そこへ水中の大型ワームの頭部で魔力を込めた20mmの斉射が襲い掛かり、後部から魔力を込めたミサイルが固有魔法で叩きつけられて誘爆する。

「今よ、目標後部に攻撃集中!」
「モードセレクト、LASER!」「C・LASER!」「R‐PUNCH!」「A・LASER」「SHADOW!」

 更に急降下しながらのRV全機による一斉攻撃が命中、とうとうこらえられなくなったのか、水中から大型ワームが一気に海面上へと踊り出す。

「危ない、逃ゲロ!」
「うひゃあ!」
「く!」

 更なる攻撃を加えようとした所で、エイラの声で大型ワームの周囲にいた者達が一斉に回避行動に入り、それを追う様に双方のハサミとヒゲが縦横に振るわれる。

「そこです!」「レ~ザ~発射~」

 右のハサミにリーネの大口径の狙撃が、左のハサミに詩織のフルパワー砲撃が炸裂し、その動きが大きく反れる。

「まだよ! もっと上空に誘導させて!」
『ペリーヌ!』
「分かりましたわ少佐、トネール!」「しびれえちゃえ!」「スタンオール!」「プラズマリッガー!」

 瑛花の指摘に、美緒の指示の元にペリーヌを先頭として電撃が次々と大型ワームへと集中していく。

『シャーリー、エグゼリカ、今です!』
「カウント開始します!」
「カウント受諾、お姉様、3、2、」
「1! ディアフェンド、フルスイング!」
「行っけ~、ルッキーニ!」「うじゅ!」
「頼みます!」「みんな、行くですぅ!」

 電撃で身もだえする大型ワームの両面に向けて、シャーリーの固有魔法で加速して射出されたルッキーニが固有魔法の多重シールドを展開、反対側からエグゼリカのアンカーで発射されたユーリィが無数の分身体を生み出し、一斉に突撃していく。
 ウイッチの中でも有数の攻撃力を誇るルッキーニの多重シールドアタックと、ユーリィの無数の分身を伴った一斉攻撃、双方に大型ワームは挟み込まれ、すさまじい轟音が周辺に轟く。

「うわあ、すご~い!」
「ユーリィちゃん、あんな奥の手が有ったんですか」

 予想以上の破壊力に、ユナが声をあげ、芳佳も呆然とする。

「今の攻撃で、ワームのセル結合率が弱まりました!」
「射線確保、主砲発射!」
「射線確保確認、主砲発射します!」
『皆さん、一斉攻撃です!』

 その瞬間を待っていた攻龍の62口径76mm全自動砲が大型ワームに向けて連続発射され、エルナーの声に全員が一斉に大型ワームへと攻撃を集中させる。

『一気に決めるぞ! 残弾を惜しむな!』
「瑛花さん達とジオールさん達はトドメの準備をお願い!」
「了解、クアドラフォーメション準備!」
「D・バースト、用意はいい!?」

 美緒とミーナの声が飛び交う中、ソニックダイバー隊と天使達がそれぞれ準備に入る。

「エグゼリカ、二つ目のハサミが落ちたらアンカーを! ミラージュの方に座標転送は!?」
「了解です。カルナ、座標の転送とタイミングのリンクは?」
『どちらもすぐに行けます!』

 ポリリーナの指摘にエグゼリカがアンカーを準備し、カルナは順次データを転送させていく。
 総員の猛攻に晒され、上昇していく大型ワームから右側のハサミが落ちる。

「右鋏部、自切確認!」
「撃ち方止め! カウントダウン準備!」
『自切部位に向けてD・バースト発射準備!』
「カウントダウン開始! クアドラフォーメーション!」

 七恵からの報告に艦長とジオールの準備を知らせる声が重なり、冬后の声が作戦開始を告げると同時にカウントが表示された。

「行くわよ! クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」
「501小隊、ソニックダイバー隊を援護!」
「音羽ちゃん達の邪魔はさせない!」

 瑛花の号令に、四機のソニックダイバーが編隊を組みながら上昇、それをミーナの指示とユナの号令で一斉に援護射撃が行われ、支援を受けながらソニックダイバーは大型ワームの直上を取ると、散開して急降下しながら四方を取り囲む。

「行くよゼロ!」

 零神が単騎で突撃、大型ワームにMVソードを突き刺すが、それに反応するように左側のハサミも落ちていく。

『エグゼリカ!』
「行って、ディアフェンド! カルナ!」
「永遠のプリンセス号に座標送信開始!」
『座標確認、ミラージュキャノン発射用意! カウントリンク確認します!』

 それを待っていたエグゼリカのアンカーが再生を始めるよりも早くキャプチャー、カルナを通じて座標が送信、ミラージュが砲撃体勢に入る。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』


「へえ、あれがあの方達の必殺技かしら?」
「すごいですわ」
「完全に決まりましたわね」
「まだだ」

 攻龍の甲板で四機のソニックダイバーが発生させた人工重力場に大型ワームが取り込まれていくのを、エリカとエリカ7が見つめる中、突然後方下から声をかけられる。

「うわ!」
「いつからそこに!?」

 いつからいたのか、甲板上にいる褐色の少女、アイーシャにマミとルイが同時に声を上げる。

「お待ちなさい。まだってどういう意味かしら?」
「あのワームはまだ奥の手を残してる。私には分かる」
「なんですって!? エルナー!! あいつはまだ、切り札が…」

 アイーシャの言葉に、エリカは声が裏返りそうになりながらも、エルナーにその事を告げようとした時だった。
 人工重力場に全て捕らわれる直前、大型ワームの体の一部が、更に自切して海面へと落ちていった。

「なに!?」
「シッポを切り離した!?」
『電気信号確認! あれも再生部位です!』

 予期してなかった三箇所目の自切に、攻龍ブリッジ内に同様が走り、素早く信号を確認したカルナの悲鳴のような声が響き渡る。

「主砲、対ワーム用弾頭で斉射…」
「ダメです! 射線上に他の部位破壊班が重なってます!」
「誰か、誰かあれを破壊できる者はいないのか!」

 艦長が素早く攻龍主砲で攻撃しようとするが、運悪くその軌道上にRVが重なっており、副長の叫びが、通信を介して総員に伝わっていた。



「そんな、ここまで来て…」
「カウントダウンまであと10秒、時間が…」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで、エルナーと宮藤博士も何か手を打とうとするが、時間がそれを許さない。
 だがそこで、脱兎の勢いで美緒がブリッジを飛び出していた。

「待て、美緒君…」

 制止の声も聞かず、美緒は全力で艦内を走りながら、懐からミサキにもらったサイキックブースターの無針アンプルを取り出し、首筋に叩きつけるように打ち込む。

「く、ぐ!」

 全身を興奮と不快感が同時に遅い、美緒の口から苦悶が洩れるが、構わず格納庫に飛び込み、己のストライカーユニットに足を突っ込み、魔力を全力で注ぎ込む。

「坂本少佐!?」

 ウルスラが驚く中、美緒は烈風丸を抜き身で持ちながら、一気に空へと飛び出した。

「マスター」
「アーンヴァル、カウントを!」

 いつからいたのか、肩に止まっているアーンヴァルにカウント報告を命じながら、美緒は増強された魔力を総動員させ、一気に虚空を飛ぶ。

「どけえええぇぇ!」
「美緒!?」「坂本さん!?」

 響いてきた声にウイッチ達が振り向き、そこに烈風丸から膨大な魔力を噴出させながら向かってくる美緒に全員が仰天する。

「カウント続行! 総員攻撃準備!」
「カウント続行! 残る一つはこちらでなんとかします!」

 美緒が叫びながら烈風丸を大上段に構え、ミーナが慌ててその事を攻龍に伝える。

「カウント5、セル転移強制固定、確認っ!!」
『4、ミラージュキャノン、発射態勢!』
「3、ドラマチック・バースト、用意!」
「2、マスター!」
「烈・風・斬!!」
「アタック!!」
『ドラマチック……バースト!!』
『ミラージュキャノン、ファイアー!』
「総攻撃!」

 美緒の烈風斬が大型ワームの尾を両断、四機のソニックダイバーが人工重力場内でセル組成が急激崩壊していく大型ワームに全火器を掃射、五機のRVから強力なレーザーやボムの一斉斉射が、上空から永遠のプリンセス号の主砲が、そして全員が残った全ての力で攻撃を全ての部位に叩き込み、そして四つの部位全てが、立て続けに爆発、完全に消滅する。

「状況は」
「ワーム殲滅、確認しました!」

 七恵からの通信に、少女達が一斉に歓喜の声を上げる。

「やったか………」「マスター!」
「美緒!」「テレポート!」

 その声を聞きながら、余力を全て使い果たした美緒が使い魔の耳すら消えて海面へと落下していく。
 それに気付いたミーナが悲鳴を上げるが、予見していたミサキがテレポートでとっさに救い上げた。

「無茶するな~、アーンヴァルのマスター」
「早く美緒を医務室へ!」

 ストラーフも呆気に取られる中、ミーナが慌てふためきながらも美緒の元へと向かっていった。

「あっちは!?」
『まだ戦闘中です!』

 エグゼリカが上を見ると、そこには今だ激戦を繰り広げる二つの赤い閃光の姿が確認できた。


「ちぇっ、下はやられちゃったみたいね」
「残念ね、ついでにあんたもやられなさい!」

 舌打ちするイミテイトに、フェインティアはガルシリーズの砲口双門を向ける。

「もう切り札は無いはずよ、覚悟なさい!」
「今降伏するなら、士官待遇を上層部に具申する」

 クルエルティアもカルノバーンの砲口を向け、ムルメルティアもインターメラル 3.5mm主砲の狙いを定める。

「潮時って奴かしらね~」
「逃がすか~! ガルクアード!」
「カルノバーン・ヴィス!」

 転進しようとするイミテイトに、二つのアンカーが飛ぶが、そのどちらもがイミテイトのナノマシンコーティングに弾かれる。

「油断大敵だ、とくと味わうがいい!」
「!?」

 だがアンカーの影に潜んでいたムルメルティアが、インターメラル 超硬タングステン鋼芯をイミテイトの胴体へと突き立てる。

「がはっ! これは……!」
「マイスター!」「ガルクアード!」

 ムルメルティアの一撃がナノマシンを崩壊させていき、そこに狙い済ましたアンカーが突き立てられる。

「トドメよ!」
「うあ…」

 ガルシリーズの高出力レーザーが直撃する直前、突然イミテイトの背後に渦が出現し、イミテイトを飲み込んでいく。

「ああ!」「く……」

 レーザーがかすめたかどうかで、イミテイトが渦の中に消える。
 アンカーが飲み込まれかけたのを戻しながら、フェインティア、クルエルティア双方が思わず声を漏らす。

「こちらクルエルティア、フェインティア・イミテイトの殲滅には失敗。これより帰投します」
「あともうちょっとだったのに!」
「仕方ないマイスター。再戦の機会はすぐに訪れる」
「その時は絶対倒してやるんだから!」

 怒声を喚き散らすフェインティアと共に、クルエルティアはカルナダインへと向かう。

「それじゃあフェインティア、そちらで何があったか、データをもらえる?」
「……いいけど、多分信用性に欠けるような内容よ?」
「こちらも同じような物ね、きっと」

 こちらに向かって手を振っているスカイガールズやウイッチ達の姿を見たトリガーハート達は、苦笑しながら降下していった。



「やったよ亜弥乎ちゃん!」
「うん! ありがとうユナ!」

 歓喜の声を上げて抱き合う二人に、皆も喝采を上げたり抱き合って互いの奮戦を労う。

「あの~………喜んでる最中あれなんですけど」
「え、なあに?」
「ここってどこですか? オペレッタとのリンクも切れちゃってて現在地不明なんですけど」
「ここは亜弥乎ちゃん達機械人の人達の星、機械化惑星だよ」

 恐る恐る声をかけてきた亜乃亜に、ユナは気さくに答えた所で、Gの天使達が顔を見合わせる。

「機械化惑星だって、聞いた事ある?」
「私は無いわ」
「私も~」
「ティタは聞いた事あるかもないかも」
「弱ったわね、どうやらGの管轄外の時空に転移したみたい」
「ちょっと待った! じゃあここって地球じゃないの!?」

 天使達の会話に音羽が慌てて割り込み、光の戦士達が全員頷く。

「改めて聞くけど、貴方達はいつのどこから来たの?」
「………さっきまで西暦2084年の太平洋にいたわ」
「じゃあ芳佳達よりは近いわね。今は西暦2300年だから」
「うそ………」
「2300年!?」

 ポリリーナの問いに瑛花が恐る恐る答え、帰ってきた答えにスカイガールズ全員が絶句する。

「大佐、あの信じがたい話なのですが………」
『今こっちでも聞いてるよ。取り合えず全員帰艦、これからどうするかはそれからだ』
「……了解」
「今度は、私達が別の世界に来ちゃったんだ……」
「あの、これからどうなるんでしょう?」
「エリーゼに聞かないで!」

 驚愕、不安入り混じった顔をしながら、ソニックダイバーが攻龍へと戻っていく。

「え~と、ルッキーニはどっちに戻ればいい?」
「そういやそうか、って中佐は?」
「坂本少佐連れてこっちの宇宙船に戻って行ったよ」
「じゃあ501はあちらが旗艦という事になるか。その前にこれを返してこよう」
「え~と、宇宙船っテあの宇宙船カ? 小説とかの?」
「フェインティアの船に少し似てるね」
「まあ、色々あったから」

 ウイッチ達もプリティーバルキリー号に戻ろうとした時、空中に巨大なウィンドゥが表示される。

「なんだ!?」
「あ、あれって………」

 思わずバルクホルンがガトリングを構えようとするが、そこに陰陽マークを模した帽子を被った、白い装束の柔和な女性の姿が映し出される。

『この星を救ってくださり、本当にありがとうございました、ユナさん、そして多くの戦士の方々』
「玉華(ユイファー)さん!」
『どこから来たのかは存じませんが、ユナさんに協力し、危機を救ってくれた戦艦の方々にも心からお礼を申します。私は白皇帝・玉華、この機械化帝国を治める者です』

 頭を下げる玉華の姿に、攻龍のブリッジ内にもざわめきが起きていた。

「全チャンネル及び外部スピーカーをオープン、こちらからも呼びかける。マイクをこちらに」
「了解、全チャンネル及び外部スピーカーをオープン」
『こちら統合人類軍 極東方面大隊 特務艦 攻龍、艦長の門脇だ。この特務艦 攻龍はワーム殲滅特務のため、先程のワームと交戦、これを殲滅した。だが、現状を把握しきれていない。現状把握のため、そちらとの会談を求める』
『分かりました。迎えの者を向かわせますので、しばらくお待ち下さい。もし皆さんが来るのがもう少し遅ければ、私達はこの惑星から脱出する所でした』
『了承した』

 通信を終えた所で、副長が思わず重い息を漏らす。

「何がどうなっているのか、果たして把握できますかな」
「把握せねばならん。ここが地球でないとしても、ワームが現れたという事実だけは変えようが無い」
「た、確かに」
「ソニックダイバー隊、全機帰艦しました。RV隊も帰艦、ウイッチ隊は別艦に帰艦した模様です」
「あちらとの会談の前に他の艦との情報交換を。どうやら向こうも複数勢力の混合部隊のようだ」
「それぞれの代表にこちらに来る様に連絡、それと攻龍のダメージチェックを急げ」
「ソニックダイバー隊はしばらく準待機、まああれだけ大物が出てきたら、しばらくは何も出てこないと思うがな」
「そうだといいのですが」

 艦長と副長の指示が飛び交う中、冬后の呟きに緋月が小さく呟く。

「艦長、技術相談のために向こうの艦に行ってみたいのですが、許可をいただけますか?」
「許可する」
「よろしいので?」
「そちらも急務だ。今後の補給の問題もある」
「……確かに。先程の戦闘で、大分装備を消費しましたからな」

 周王の提案に即答した艦長に、副長が問い返すが、もっともな問題に副長も思わず顔をしかめて唸る。

「宇宙船が目の前を飛んでて、ここはどうやら機械の星、もう頭がおかしくなりそうです………」
「ミーナさん達もそんな気持ちだったんですかね………」

 タクミと七恵の言葉は、ある意味現状をもっとも表現していた。



「向こうの技術者が来たいそうだけど、何か迎えに出せる物はあるかな?」
「ああ、整備用の小型ポッドがあります。それを出しましょう。あと玉華との面談にこちらからも代表を出してほしいそうですから、私とポリリーナが行きましょう。ウイッチからも誰かを」
「話しておこう。まずは美緒君の状態が心配だ」
「白香が診てくれるそうです。任せておいて大丈夫でしょう」

 プリティーバルキリー号のブリッジで宮藤博士とエルナーがてきぱきと今後の事を決めていく。

「それにしても、対ワーム部隊が今この場に現れるとはね」
「出来すぎ、と考えるべきか、それとも………」
「それとも?」
「いえ、まだ確証が無いので」

 言葉を濁すエルナーが、先程の戦闘データをチェック、その中で零神を駆る音羽と、ビックバイパーを駆る亜乃亜の姿をピックアップする。

(間違いありません。この二人はかつての光の救世主のパラレル存在。だが、どうして………)



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP21
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:734d0d6b
Date: 2012/08/23 21:18

「攻龍、若干の損傷はありますが、航行、戦闘共に支障はありません。ただ、弾薬の方が補充率が30%前後となっております」
「上空の、あれは宇宙船か? 現状までのデータ交換は可能か?」
「今やってます。ただ向こうとの規格差がかなり………あちらで合わせているようですが」

 攻龍のブリッジ内で報告と指示が飛び交う。

「ソニックダイバーのダメージは!」
『今チェックさせてる! かなり派手な戦闘だったが、思ってたよりダメージは少ないみてえだ………向こうの嬢ちゃん達のお陰だな』

 格納庫からの返答を聞きながら、冬后は改めて上空の二隻の艦影と、そこに帰艦していった少女達を思い出す。

「なかなか面白い物が見れましたね」
「ええ、光の戦士だったかしら? 明らかにウイッチと同じタイプの特殊能力を使用していたみたいだけど………」
「それよりも先程のワームです。こちらのデータに無い新型でした。こちらの世界のがここに転移してきたのか、それとも………」

 熱心に議論しながらデータの整理、解析に没頭する緋月と周王に、そこでこちらに向かってくる機影に気付いた。

「ヴィルケ中佐があちらの代表と来た模様です」
「どうしますか艦長? まだこちらも片付いてませんが………」
「作戦会議室へ通してくれ。副長、後を頼む」
「はっ!」
「冬后大佐と周王君も一緒に会議室へ。緋月少尉はあちらに出向を」
「了解」「了解しました」「すこしこちらのデータをまとめてから行きます」
「玉華女史に連絡、状況整理のために少し時間が欲しいと通達を」
「了解しました」

 艦長の指示が次々と飛ぶ中、冬后はふと窓からミーナの先導で降りてきた者達を見つめる。

「どこでも、似たような連中が似たような事やってる、てのは本当かもしれんな………」

 向こう側のウイッチやバトルスーツ姿の光の戦士達を見ながら、冬后は小さくそう呟いていた。



「うわあ、すごい船~」
「この船がいたのは西暦2084年ですか………」
「ええそうよ。いきなりソニックダイバーが目の前に現れた時は驚いたけど」
「今は西暦2300年やて!?」
「間違いないわ。どうやらまた違う世界からのようね」
「今銀河連邦のデータバンクで検索してみたわ。攻龍という船は確かにその時代に存在したけど、イージス艦で仕様が全く違うようね」
「敵が違うだけで、やってる事は我々とそう変わらんか……」

 ミーナに伴われて攻龍の後部甲板に降り立ったユナ、エルナー、ポリリーナ、ミサキ、バルクホルンが、格納庫内へと案内されながらソニックダイバーのダメージチェックをしていたメカニック達と現状を確認して双方が驚く。

「やれやれ、オレにはここが地球じゃないって話の方が信じられんな」
「こちらの歴史だと太陽系内航行が確立されたかどうかの時代ですからね」
「……そんな余裕ねえな、ワームにやられちまって」

 バッハシュテルツェをチェックしながらの大戸の呟きに思わず答えたエルナーだったが、その返答にエルナーの動きが思わず止まる。

「そこまで壊滅的な世界から来たんですか………」
「……この船の乗員が若いのはそういう理由だからな」
「情報を精査する必要がありますね。ワームはそちらの世界の敵と聞いてますけど、それがなぜこの機械化惑星に現れたのかが気になります」
「こっちはここが地球じゃないってのが気になるがな」
「まあ、確かに……」「さっきまでウチら確かに太平洋にいたはずやで?」「ま、その内わかるやろ」

 地球じゃないと言われても、今一ピンとこないメカニック達が首を傾げる中、エルナーの視線がミーナ、正確にはミーナの肩にいるストラーフへと向けられる。

「ボクに何か用?」
「唯一共通事項を上げるとすれば、彼女のような武装神姫の存在です。これほど異なるパラレルワールドから集まってきている者達に、必ず武装神姫がサポートについている。これには何かの意味が…」
「あ、来た来た。ユナちゃんお疲れ様~」
「あ、音羽ちゃん! そっちもお疲れ~」

 格納庫へと姿を現した音羽が無邪気に駆け寄り、ユナも無邪気に手を振る。

「いや~、さっきのワーム手ごわかったね~」
「みんながんばってくれたお陰だよ。亜弥乎ちゃんも喜んでたし。あ、後で紹介するね」
「あら、もう友達になってるわね」
「ま、ユナにとってはいつもの事です」
「あらあら、ずいぶんと気さくな子なのね」

 和気藹々と話す音羽とユナに、ポリリーナとエルナーだけでなく、ミーナも感心する中、他のソニックダイバー隊の面々に緋月も一緒に現れる。

「あなたは?」
「私は統合人類軍 極東方面大隊 技術開発本部所属、緋月 玲少尉です。そちらの代表はあなたですか?」
「いえ、私はサブリーダーって所ね。お嬢様仮面ポリリーナ、そう名乗ってるわ」
「変わった階級ですね」

 顔色一つ変えずにポリリーナの紹介を聞いた緋月が、ポリリーナの差し出した手を握り帰す。

「私は統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊リーダー、一条 瑛花 上級曹長よ。そちらのリーダーは?」
「彼女よ」

 初見の面々に自己紹介しながら見回す瑛花に、ポリリーナがユナを指差し、音羽と楽しげに談笑しているその姿に数秒間沈黙する。

「………冗談よね?」
「本当よ。まあ彼女はリーダーの自覚どころか、私達を統率する気もないんだけどね」
「待ってください。それでは、あなた方は一体どういう組織なんですか?」
「組織なんて物はありません」
「私達はユナのお友達、ただそれだけよ」
「お友達?」「………何よそれ」

 エルナーとミサキの断言に、瑛花の後ろにいた可憐とエリーゼも首を傾げる。

「私も不思議だが、何でかそれでまとまっている。おっと、私はカールスラント空軍第52戦闘航空団第2飛行隊司令・501統合戦闘航空団所属、ゲルトルード・バルクホルン大尉だ。こちらで指揮を取っていた坂本少佐の代理で伺った」
「坂本少佐って、あのすんごい必殺技でワーム真っ二つにした人?」
「ああ、我々ストライク・ウィッチーズの副隊長で、扶桑有数のウィッチだ」
「けど、無理をしすぎたらしくて、魔力の過剰使用で今医務室に………」
「大丈夫なんですか?」
「命に別状は無いそうだが、しばらく安静が必要だそうだ」

 ミーナがうつむき加減に言う美緒の状況に、可憐が心配して問いかけるが、バルクホルンもややうつむきながら答える。

「それはよかったですわ」
「D・バースト並のエネルギー放出なんて、とんでもない事すると思ったけど……」

 そこへジオールを先頭に、Gの天使達が格納庫に現れる。

「私は秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーよ」
「ああ、あの重火力のユニットに乗ってた……」
「到着して早々、どこに行ってたの?」
「ブレータのシステムを借りて、オペレッタの、Gのオペレーションシステムとの交信をチェックしていた」
「時間がかかりそうだから、マドカに任せてきたの」

 自己紹介するジオールに、バルクホルンは先程の戦闘でのRVを思い出す中、瑛花の問いにエリューが応え、ジオールがそれを補足する。

「待て、交信だと? お前達がどこから来たのかは知らんが、可能なのか?」
「Gは元々時空テロ専門の組織なの。もっとも、ここまで派手な事件はこちらでも前例が無くて………」
「オペレッタとのリンクが復活すれば、多少なりとも全容がつかめるかもしれない」
「本当か!?」
「すぐには無理でしょうね。まだ誰も何が起きているのか把握すら出来ていない」
「確かに。リンクが復活したらこちらにも回線を繋いでください。何か分かるかもしれません」

 ジオールとエリューの説明に色めき立つバルクホルンだったが、緋月とエルナーはあくまで冷静に対応。

「それに、ブレータとあちらのAI、カルナだったかしら?とのデータリンク及びトリガーハートのダメージチェックに処理を取られて、それが済むまで処理容量をあまり回せないらしいわ」
「こちらもダメージチェックの最中だけど、それが済んだらシステム系をある程度回せるわ」
「亜空間通信は装備してる? それなら通信プロトコルも回してもらえるとありがたいんだけど」
「OK、連絡しておくわ」
「何を言ってるのかさっぱり分からん………」
「私もよ」
「マスターの時代じゃまだ通じないか~……」

 エリューとポリリーナの会話に、バルクホルンが首をかしげ、ミーナもそれに同意、ストラーフが技術格差に思わず肩を落とす。

「それでは、すいませんが情報交換のためにそちらの船に伺いたいのですが」
「そうでしたね。ミサキ、案内を頼みます」
「分かったわエルナー」
「エリュー、あなたも一緒に行ってもらえる?」
「分かりました」
「それじゃあ、他の人達は作戦会議室へ。艦長がお待ちです」
「さて、どこからどう説明すればよいのか……」
「多分こっちも似たような状況よ。あった事をそのまま報告してもらえればいいわ」
「マスター、ボクはちょっと休息させてもらうね~」
「色々あったわね。話が通じる艦長さんだといいけど」
「本国に報告すれば、こちらの正気が疑われるな………」
「確かに。艦長は平然としてるけど……」

 瑛花の案内で作戦会議室に向かうバルクホルンが腕組みして唸る中、ミーナとポリリーナが苦笑。

「ところで、あれはあのままでいいの?」

 背後を振り返った瑛花が、格納庫の方を指差し、一行はそのまま振り返る。

「へ~、亜乃亜ちゃん達は天使って呼ばれてるんだ。なんかかっこいいね!」
「ユナちゃんの光の救世主って方がかっこいいと思うよ♪」
「う~ん、私も何か通り名考えようかな~」

 そこには、会って間もないはずなのに話に花を咲かせているユナ、亜乃亜、音羽の姿があった。

「あれがユナの特技ですからね。気にしないでください」
「どこにも似たような人はいる者ね………」
「確かにね。後で宮藤さんも呼んであげましょう。きっと仲良くなるわ」
「あらあら、それは楽しそうね」
「あの、音羽と同レベルが増えるのはちょっと………」

 そこはかとない不安を感じながら、瑛花は作戦会議室への足を早めた。



「ほう、これはなかなか……」
「星系間大型航行船ね。ここまでのは私もあまり見た事ないわ」

 用意された小型浮遊ポッドに乗り、プリティー・バルキリー号に近付いた緋月とエリューが、感嘆の声を上げる。

「あら、あなた確か2084年の出身って………」
「正確には、マルチバースの惑星グラディウスの出身。Gにはそういう人が結構いるわ」
「なるほどね」

 ミサキが首を傾げたのに、エリューが言葉を補足する。
 その内に小型ポッドは開いていた格納庫ハッチから中へと入り、そこで停止する。

「ようこそ。私は一応技術顧問のような事をしている宮藤 一郎といいます」
「統合人類軍 極東方面大隊、緋月 玲少尉です」
「秘密時空組織「G」所属権天使、エリュー・トロンです」

 出迎えに来た宮藤博士に自己紹介しつつ、それぞれが握手を交わす。

「さて、まずは何から説明するべきか………生憎と立て込んでいてね」
「こちらもです。あれだけの激戦を繰り広げたのですから、後処理も多いでしょうからね」

 話しているそばから、走っていく足音と会話があちこちから聞こえてくる。

「破損箇所のチェック、急ぎなさい!」
「負傷者は医務室へ!」
「データ交換できてる!?」
「ああああ! 食料庫がひっくり返ってるですぅ!」
「……もうちょっと後から来た方がよかったかしら?」
「いいえ、情報交換は互いに急務です」

 忙しそうな声にエリューが少したじろぐが、宮藤博士にせかされてブリッジへと向かう。

「外装破損箇所27%、整備ユニット出します」
「環境システムに若干の問題あり、大気圏外航行は難しいようです」
「大変アル! ユーリィがひっくり返った食料片付けるついでに食べ始めてるアル!」
「食い尽くされる前に止めに行くわよ!」
「私は疲れたから寝る~」
「私も~~~そうします~~~」

 ブリッジから慌しく出て行く面々とすれ違うように入った緋月とエリューが、そこで指示を出していたエリカと視線を会わせる。

「あら、あなたさっきの。先程は挨拶もできませんでしたわね。私は香坂 エリカ。香坂財閥令嬢にして、エリカ7を束ねている者ですわ」

 バトルスーツを解いたエリカが、緋月の方を見ながら、スカートの端を軽く持ち上げながら優雅に自己紹介する。

「統合人類軍、緋月 玲少尉です」
「秘密時空組織「G」所属権天使、エリュー・トロンです」
「統合人類軍にG、また聞きなれない組織の方々のようですね」
「それはお互い様だと思いますが」
「問題は、どこまで類似性があるか。こちらの天体図を持ってきたので、まずはそれを一致させたいのですが」
「それはこっちでやりましょう。もう一つのも」
「もう一つ?」

 エリューが持参したGの天体及びマルチバースの概要図を3D投影すると、ミサキが空いているコンソールを指差し、もう一つという言葉にエリューが首を傾げた所で、ブリッジの通信ウィンドゥにカルナの姿が表示された。

『こちらカルナ。トリガーハート三機のセルフチェック終了しました。フェインティアのダメージは軽微ですけど、クルエルティア、エグゼリカ両名は戦闘能力が60%以下に低下してます』
「トリガーハートが? どうやらこちらが来るまでに相当な激戦があったようですね」
『そりゃあ、大気圏外からの降下突入作戦でしたから』
「………こっちも結構無茶してきたけど、そっちも大変だったみたいね」

 カルナからの報告に、緋月が興味を示し、エリューが呆れ果てる。

「カルナ、並行世界の天体図が届いたわ。そちらのとも照合よろしく」
『了解しました』
「下のシャトルのAI『ブレータ』をベースに、Gのオペレーティングシステムへの接続を試みてる。一応リンクを張っておいて」
『報告来てます。今こちらからもリンクを試みています』
「さて、それではこちらはソニックダイバーの基礎概要を持参しました」
「なるほど。じゃあこちらからも概要その他を………」

 慌しい艦内の中、双方の技術交流が急ピッチで行われていた。



「なるほど、状況は理解できました。場所や状況は違うとはいえ、双方に発生している事はほぼ同一と推測できます」

 攻龍作戦会議室の中央、互いに現状の報告を終えた後、エルナーがそう断言する。

「特徴的なのは、どの世界でも敵対しているのは戦闘機械体と呼べる存在である事。そしてそれに対抗しているのは有人もしくは擬似有人兵器である事。それは全てに一致しております。これはとても偶然とは思えません」

 そこまで言った所で、攻龍の士官達がじっとこちらを見ている事にエルナーは気付いた。

「何か?」
「いやちょっとな」
「武装神姫とそうサイズは変わらないのに、随分と高度な倫理演算機能を持っていると思って感心していたの」
「これが私、英知のエルナーの役割ですから」
「エルナー君。一つ聞きたい。つまり君は、これらの事象が全て、人為的な物だと言いたいのかね?」
「………恐らくは」

 艦長の確信を突く発言に、エルナーは小さく頷く。

「待て! では我々は、故意に集められたという事か!?」

 思わずバルクホルンが席から立ち上がり、他の者達も思わず顔を見合わせてざわつく。

『待ってください。必ずしもそうとは限らないかと』

 カルナダイン内部でセルフチェック及びメンテナンスの途中のため、通信で会議に参加していたクルエルティアがその意見を僅かに否定する。

『他の人達と違い、私達の転移は明らかに偶発的な事故による物です。ヴァーミスの進行目的がこの銀河系であった可能性は高いですが、他の擬似世界にまで目標に出来たとは考えられません』
「むう、そう言えば宮藤博士とウルスラ・ハルトマンも事故でここに来たと言っていたな」
「フェインティアさんも敵から逃げる時に転移に巻き込まれたと言ってたわね」
「それこそおかしいわ。なんでウィッチ達が多く飛ばされてきたこの世界に、都合良くストライカーユニットの技術者がいるのかしら?」
「そりゃあこっちも同じだ。なんでワームがこの機械だらけの星に現れて、そこに都合よく対ワーム部隊のオレ達が現れる?」
「分かりません………敵の反応を見る限り、幾つかの転移は明らかに向こうにとってもイレギュラーです」
「気になるのは、こちらでもそちらでも、敵がこちら側のコピー体を出してきた事。特にあのフェインティアのコピー体はこちらで確認した物の数段上をいくレベルのようだし」
「その件なんですけど、あのコピーネウロイ、実際に遭遇した人が来ています。後でその時の資料を確認してもらいましょう」
「全く、ドンパチは片付いたが、問題は山積みだな、オイ………」
「ワームが存在し、破壊活動を行っている以上、我々はこれの殲滅を第一義務とする。早急にワーム存在の原因を究明、解決し、本来のネスト探索任務に復帰する。以上だ」

 会議室内が紛糾する中、艦長が力強く断言する。

「確かに。まずは一連の転移強襲の原因を究明しなくてはなりません。そのために、皆さんで協力する。そういう事ですね?」
「ストライクウィッチーズ、その意見に賛同するわ。一連の事件が片付くまで、全面協力します」
「『G』グラディウス学園ユニット、同じく全面協力いたします」
『トリガーハート三機、ヴァーミス及び転移敵性体の殲滅まで全面協力に賛同します』
「光の戦士一同、皆さんに協力します。ただ、こちらのリーダーはここで仲良くなったお友達を助けたいだけでしょうけど」
「攻龍、これより各組織と協力し、原因究明にあたる」

 それぞれの代表が協力を宣言し、全員が大きく頷く。

「さて、となると指揮権はどうなる?」
「半分は軍隊ですが、残る半分は違いますし、元々こちらは組織ですらありませんからね~」

 冬后の問いに、エルナーも唸る。

「階級で言えば、中将である門脇艦長が最高位になりますが………」
「それを言うなら、Gは統合軍から独立不干渉権を有してます」
「ややこしいな、つまりどうなる?」

 冬后の一言に、全員が首をかしげて唸る。

「一時的に、門脇中将の指揮下に入ってもらうというのは?」
『運用面の問題が』
「組織形態がバラバラですし………」
「………指揮ではなく、指示形態とし、私とエルナー君で最高指示権を保有。各部隊はそれぞれリーダーの指揮形態をそのままとし、こちらの指示に応じてそれぞれを運用という形にしたい」
「つまり、あくまで命令でなくて依頼という形という事になる訳ですか……」
「うむ」

 指揮権について喧々諤々の論議がなされる中、艦長の一言にエルナーがしばし思考。

「つまり、現状の体勢をそのままで合併するという事?」
「まあ、その方が面倒が無いっていやあ無いが………」

 ミーナと冬后が要約した所で、それぞれのリーダーが顔を見合わせる。

「それに、宇宙船の指揮はした事がないのでな」
「あ、なるほど」

 艦長の一言に、思わずエルナーが頷き、その場にいた面々が思わず噴き出す。

「今後どうなるかは分かりませんが、門脇中将とエルナーさんの双方の協議によって大まかな方針を決める、という事でいいですね?」
「オペレッタとのリンクが復活すれば、もう少し状況がはっきりするかもしれませんし」
『了解、それではトリガーハートは一時措置として指示権を両者に委託します』

 ミーナとジオールが取りまとめた所で、クルエルティアが委託を表明、他の者達もそれに賛同する。

「賛同に感謝する。………人類統合軍発足の時はここまで簡単ではなかったがな」
「現状では統合軍というより、少女独立愚連隊に近いですからね~」
「失礼な! 我々はちゃんとした部隊だぞ!」
「まあまあトゥルーデ、みんなで協力できれば愚連隊でも問題ないわよ」
「ま、こっちも人の事言えた義理はねえな」
「音羽ちゃん達も軍人って感じしませんしね。それでいいと私も思いますわ」
「ユナは友達が増えるって喜ぶわね」

 話がまとまった所で、通信を示す電子音が室内に鳴り響く。

『艦長、玉華女史からの迎えがもうそろそろ着くそうです』
「すぐに向かう。冬后大佐も来たまえ」
「それでは我々も。クルエルティア、来れますか?」
『通常行動に問題無し、すぐに行きます』
「トゥルーデ、この艦に残って通信伝達系統の確認頼めるかしら?」
「了解した」
「私も残るわ。エルナー、そちらはお願い」
「一条にでも案内させよう」
「それでは後部甲板へ」

 会談に向かう者、残る者の二者に別れて皆が作戦会議室から出て行く。
 最後に部屋から出た冬后が、ふと前を行く者達の後姿を見て小さく吐息を漏らす。

(なんとかこっちはまとまった。だが、これから先、オレみたいな目にあわせないにはどうすればいい?)
「冬后大佐、何か?」
「いや、何でも」

 バルクホルンに適当に答えつつ、冬后は尾の己自身に問い続けていた。



「なるほど、それであの巨大な敵にも対処できた訳ですか」
「正直な所を申せば、すでに我々にあれだけの敵を相手するだけの余力は残ってはなかった。任せてしまい、申し訳ない」
「いやまあ、なんと言うか………」
「攻龍は対ワーム用特務艦で、私達は対ワーム部隊ですから、あまり気になさらずに」

 後部甲板に辿り付いた一行の前に、細身の青い男性型機械人と、赤い巨躯の男性型機械人が音羽達と会話している光景が見えてくる。

「あっと、艦長来た」
「艦長さんって、あのおじいさん?」
「ええ。高齢ですけど、指揮能力は相当ですし、なにより中将ですから階級も高いですよ」
「ふ~ん、そうなんだ………」

 こちらに向かってくる艦長の姿にユナが音羽達に聞く中、艦長が二人の機械人の前へと立った。

「極東方面軍 特務艦113号《攻龍》艦長の門脇 曹一郎、階級は中将だ」
「私は三賢機が一人、右丞相・鏡明と言います」
「我は同じく三賢機が一人、左丞相・剣鳳、先程の御助勢、誠に感謝いたす」
「一足先に、我らから礼を言いたくはせ参じました」
「この二人に先程の白皇帝を加えて三賢機と呼ばれてます」
「つまり、この国の指導者の側近というわけか………」
「あの、ちょっと言いにくいんですが……」

 頭を深く下げる二人の機械人にエルナーが説明を補足、艦長が納得する中、ジオールが自分達の事をどう説明するか悩みながら口を開く。

「状況はこちらの方々から聞きました」
「異なる歴史の世界から来られたとか。我らにもにわかには信じがたいが、転移時のエネルギー量はそれを一言にウソとは言い切れない事を示している」
「分かるのですか?」
「ええ、この世界ではワープ技術は確立された一般的な物なのです」
「しかし、この船の出現時のエネルギーは明らかに大き過ぎる」
「なるほど。後でその辺りを検証する必要がありますな」
「性急にも。まずは白皇帝様にお会い下さい」
「迎えも今来たようです」

 剣鳳の言う通り、大型のホバーリフトが近寄り、攻龍へと隣接するとそこから一人の女性型機械人が攻龍へと下りてくる。

「私は四天機が一人、天鬼院・美鬼(メイクイ)と申します。皆様方のお迎えに上がりました」
「美鬼さん!? どうしたのそれ!」

 迎えに来た美鬼が、車椅子代わりの小型浮遊ポッドに乗っているのに気付いたユナが思わず声を上げる。

「ユナさん、気になさらずに。直している暇が無かった物で」
「今は彼女が技術局の長官になっておるのです」
「そのため、負傷者の修理が彼女の仕事となっており、相次ぐ負傷者の増加に自らの修理も出来ない状態でして………」
「そう言えば、亜弥乎ちゃんのお姉さん達もボロボロだったっけ………」
「今まともに戦えるのは三賢機のお二人だけです。私以外の四天機も六花戦もまともに動ける状態ではなく………」
「つまり、将校・士官クラスもほとんど負傷で行動不能って訳か。前のワーム大戦を思い出すぜ………」

 後方でユナと機械人達の話を聞いていた冬后が思わず顔をしかめる。

「よく陥落しなかった物だ」
「その辺りの説明も後ほど。それではこちらに」
「おっと、クルエルティアも来ましたね」
「あの方、機械人のようですが………」
「その辺の説明も必要ですね」

 艦長も思わず唸る中、門脇艦長、冬后大佐、ジオール、ミーナ、クルエルティア、そしてユナとエルナーに三賢機の二人も乗せてホバーリフトは動き出した。

「待って~マスター! ボクも行く~」
「あら、起きたみたいね」

 そこに会議の前、抜け出してクレイドルで休息してたはずのストラーフがミーナに追いつき、慌ててその肩へと止まった。

「はて、その小型………」

 その様子を見た鏡明が小さく首を傾げる中、一行は会談の場所へと向かっていった。



「う~ん」
「なるほど………」
「出来れば、こちらにも説明を貰いたいのですが」
「私にもさっぱり……」

 天体図を見つめて唸っているエリューとミサキに、緋月と宮藤博士が説明を促す。

「そうですね、まずはこれを。Gでは並列的に近似的存在の無数の宇宙の存在、これを《メガバース》もしくは《マルチバース》と呼び、その宇宙群の一つにある、惑星グラディスが私の出身です」
「つまり、Gにとってパラレルワールドの存在は珍しくない、と?」
「ええ、それでおそらくこの世界もマルチバースの一つじゃないかと思って、天体図を照合してみたんですが………」
「似ている、と言えば似ているんですが、どうやら完全に一致する物は無いみたいなんです」
「もしそのマルチバースと言うのが本当だとしても、まだ未発見の宇宙の一つと言う事か」

 ミサキの説明に、宮藤博士も考え込む。

「オペレッタとのリンクが復活すれば、もう少し絞り込めるかもしれません」
「それが分かれば、元の地球に戻れると?」
「多分ですが」
「転移装置自体はこの世界にもありますから、そこで元の宇宙の次元座標さえ分かれば………」
「我々は元の世界に戻れる、という事ですね」
「確実に、とは言えませんが」

 緋月の問いにミサキは少し首をかしげながらも肯定する。

「そのマルチバースという物、こちらの、ウイッチ達の世界は観測されてないのかな?」
「生憎と、聞いた事ありません………」
「う~ん、だとしたらこちらの帰還は難しいか………」
「幾つか、転移時のエネルギーデータが記録されてるはず」
「けど、それだけでは何とも………」
「視点を変えてみましょう。なぜ、これだけ多くの人達が、この世界に飛ばされてきたのか? 何か心当たりは?」

 緋月の言葉を皮切りに、その場にいた者達が顔を見合わせ、真剣な表情で考え込む。

「偶然、と言うには確かに出来すぎているわ………」
「確かに、それにそれぞれの世界の特徴を合わせ持った敵の存在も確認されている………」
「誰か、それとも何かが故意にこの状況を引き起こしている?」
「だがそれでは、攻龍がこの世界に来た理由が見当たりません。ソニックダイバー無しでは、あのワームを倒す事は実質不可能だったでしょう」
「倒せないとは言い切れない、けれど被害は確実に深刻な物になっていたのは確かだわ」
「それはこちらでも同じね。こちらで攻龍・イミテイトが出現した時、ウィッチの人達がいなければ、倒し方は分からなかった」
「ひょっとして、この転移現象は、要因が複数あるのか?」

 宮藤博士がある仮説を立てようとした時、部屋のドアがノックされ、エリカが姿を現す。

「失礼、こちらのチェックが一段落つきましたので、お茶でもご一緒にいかがかしら?  色々お話も伺いたいですし」

 後ろにティーセットを乗せたカートを押したミドリを従えつつ、エリカの誘いにその場の緊張が和らぐ。

「そうですね。せっかくだからいただきましょう」
「話しておかなければいかない事は、お互い山ほどあるようだし」
「やれやれ、確かにお茶でも飲みながらがいいだろうね」
「上になんて報告すればいいかしら………」

 用意されていく紅茶を前に、四人はそれぞれ苦笑しながら、ティーカップを受け取っていく。

「ユーリィもお茶にするですぅ~」
「駄目アル! あんたが行ったら、お茶菓子全部なくなるアル!」
「ちょっと誰か、この子抑えなさい!」
「今何かお菓子作りますから!」
「わ~い! 芳佳のお菓子だ~」

 遠くから聞こえてくる声に、カップを手にしたままミサキとエリカの頬が引き攣る。

「一つだけ、どちらもにぎやかなのは間違いないようで」
「そうですね」

 表情一つ変えずに、その声を聞きながら紅茶を嚥下する緋月に、宮藤博士は微笑しながら自分も紅茶を嚥下した。



「これはすげえ………」
「こんな施設があるなんて………」
「なんて巨大なのかしら………」

 玉華との会談のために案内された一行は巨大なエレベーターに乗り、機械化惑星首都の地下、そこに広がる巨大な地下施設へと向かっていた。

「あれ? 前に来た時こんなのなかったよね?」
「この《マシンクレイドル》は、前回の《黒皇帝の乱》の後に建造された物です」
「これのお陰で、非戦闘員のほとんどをここに避難させる事が出来ました」
「よもや、完成直前になってすぐ使う事になろうとは予想外だったが………」
「都市丸ごとのシェルターとは………」

 機械人達の説明を聞きながら、エレベーターの外、文字通りの都市その物が何層にも分かれて地下へと広がっている光景に、全員が驚嘆するしかなかった。

「生産拠点もここに新しく作られています。必要な物資があるなら、すぐにでも用意しましょう」
「……その前に一つ聞いておきたい。我々が間に合わなければ、脱出するつもりだと聞いたが、どのようにして?」
「それは簡単です。このマシンクレイドルには、緊急時用に複数の転移装置が設置されているのです」
「まだ完成はしていなかったが、それが完成すれば、このマシンクレイドルごと、他の星系にワープが可能となる」
「つまりここ、巨大な脱出ポッドになってるんですの?」
「とんでもねえ話だ………」
「私には、とても信じられませんね……」
「ヴァーミスも稀に軍団ごと転移撤退しますが、さすがにこれ程のは………」

 艦長の疑問に鏡明と剣鳳が答え、その場にいた全員が絶句する。

「他のみんなも一緒に来ればよかったかな~、こんなすごいの早々見れないよ?」
「ま、それは後からにしましょう。まずは玉華との会談が先です」
「ウチの連中がこんな所に来たら、確実に迷子になるな………」
「Gの中枢指令センター並ですわね」
「これ程巨大な地下施設なんて、こちらでは建造も不可能でしょうし………」
「確かにこれなら、ヴァーミスの猛攻に防衛戦に徹する事が可能でしょう」

 皆がそれぞれの感想を口にする中、エレベーターは停止し、機械人達に案内されて一行は厳重な警備が敷かれた通路を進んでいく。

「防護シャッターに警備システム、警備員まで配置してるって事は、重要区画なんじゃないのか?」
「そうです、この先は中央区画となります」
「惑星全体を管理可能な情報指揮システムが構築されている。ここが完成していなければ、貴殿達の増援は間に合わなかったろう」
「いいのですかな、そんな重要な所に部外者である我々が入って」
「すでに皆様は部外者ではありません。あそこが、中央会議室です。白皇帝様がお待ちです」

 冬后と艦長が軍人らしい事を聞き、機械人達がそれに答える中、通路の先に一際頑丈そうな巨大な扉が現れ、それがゆっくりと開いていく。
 扉の向こうには会議用と思われる大きなテーブルと、その端で待つ一人の機械人の姿が有った。

「初めまして皆様。私がこの機械化帝国を治める白皇帝・玉華です。この度の助勢、この星を代表してお礼を申し上げます」

 先程の映像に映し出された、ただ予想していたよりも小柄な女性機械人、白皇帝・玉華が深々と頭を下げ、その両脇に鏡明と剣鳳が控える。

「まずはお席におつきください。大体の事は白香から報告を受けております」
「ふむ」
「それでは」

 空いている席に皆がそれぞれ付くと、会談が始まった。

「改めて、統合人類軍 極東方面大隊 特務艦 攻龍、艦長の門脇 曹一郎、階級は中将だ」
「攻龍所属第十三航空団ソニックダイバー隊、指揮官の冬后 蒼哉、一応大佐」
「カールスラント空軍JG3航空団司令・501統合戦闘航空団《ストライクウィッチーズ》隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」
「ボクは武装神姫・悪魔型MMSストラーフだよ♪」
「超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH32 CRUELTEAR》」
「秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイーと申します」
「アイドル兼光の救世主、神楽坂ユナで~す♪」
「ちょっとユナ………」

 皆の自己紹介につられてユナも能天気な紹介をした所でエルナーが思わずたしなめ、何人かが小さく吹き出す。

「なるほど、白香からの報告通り、随分と色々な組織の方々が集結しておられるのですね」
「ま、成り行きというかなんと言うか………」
「いやまあ、指揮官クラスの人達がしっかりしてますから………」
「フェインティアさんとは危なく交戦状態になりましたけどね」
「あの子、何をしたの………」

 玉華の感心の声に、それぞれの指揮官が苦笑を交えつつ、お互いを見る。

「問題はそこではない。どうやら、それぞれの敵が一同に襲撃してきているらしいという事だ」

 艦長の言葉に、全員が頷く。

「この惑星に起きた、ヴァーミス襲撃の全容を教えてください。チルダのデータと比較します」
「そうですね、まずは………」

 それぞれが遭遇した敵、戦闘概要、そしてこれからの方針について、会談は長時間に及び、かなり白熱した議論が交わされる事となった。
 途中で居眠りを開始したユナを除いて。



「通信系はこれで統一された訳だな」
「はい、ウィッチの方々の通信順位はヴィルケ中佐と坂本少佐を上位に設定しました」
「人数が多いから、通信もこれから大変になると思うけど、大丈夫かしら?」
「あちらの、カルナさんでしたっけ? そちらと並列して行う事になりますから」
「バックアップをもう少し考えるべきか……」

 攻龍のブリッジ内で、バルクホルン、タクミ、ポリリーナ、七恵の四人が通信その他の体制を整えていた。
 ふとそこで、バルクホルンがブリッジ内の人間の視線が自分に集中しているのに気付く。

「私がどうかしたか?」
「いえ、なんかちゃんと軍人だな~って」
「? 何を言っている。当たり前だろう」
「ああ、こちらの知ってるウィッチって、ヴィルケ中佐はともかく、他の人達はどうにも軍人に見えなくて」
「ま、こっちもですけど」
「んん!」

 タクミと七恵がミーナ以外の三人のウィッチおよび、スカイガールズを思い出した所で、副長の咳払いに慌てて口を塞ぐ。

(あいつら、何をしていた? ハルトマンがこちらに来ていたら、ウィッチの面目は丸つぶれだったな………)

 そこはかとない不安を感じつつ、バルクホルンは視線を思わず逸らしていく。

「確認しておきたいが、敵の再攻撃の可能性は?」
「トリガーハート達が言うには、侵蝕コアと呼ばれる攻撃の中枢存在は破壊したので、今後しばらく、というよりも実質的に再攻撃は不可能に近いらしいです」
「それはよかったですね。攻龍も激戦が続いてて、消耗も激しかったですし」
「音羽さん達もしばらく休めそうですね」
「休息と部隊再編の時間は確かに必要だからな」
「それでは、一段落ついたので私達は戻ります」
「そうか。これからどうなるかは分からんが、互いに協力できる所は協力する、そういう事になるだろう」

 副長の言葉に、ポリリーナは微笑を浮かべる。

「大丈夫、ユナはすでにソニックダイバー隊の人達と友達になってますから。協力しない理由はありません」
「相変わらず、単純な理由だな」
「だから私達はユナに着いていくのよ。これからもね」

 バルクホルンも呆れるが、ポリリーナはそう言いながらウインクする。
 今一理解出来ないタクミと七恵は、その場で互いに首を傾げるしかなかった………



「ヴァーミスの目的が、この惑星の侵蝕にあった事は確かです。今回の戦闘で侵蝕コアの破壊に成功したため、再度の侵蝕の可能性は低いでしょう」
「ただし、それは相手がヴァーミスに限った場合ですね」
「………はい」
「もう一人のフェインティアがいたように、ヴァーミスにコピー兵器製造能力があるのは確かだ」
「だが、そうするとあのワームの説明がつかねえ………明らかにこっちの奴よりも強かった」
「ヴァーミスが時空間を超越してワームに干渉していたのなら、Gがその痕跡に気付かないはずはありません」
「だとしたら、ワームの方がこちらに?」
「そんな話、聞いた事ねえな………」
「個体としての戦闘力は確かに強力でしたが、転移能力まで持っていたとは思えません」
「こちらでの戦闘データでも、ワームと呼ばれる個体は先程の物以外、観測されてません」
「え~と、つまりそれって、どういう事?」
「何者かが、ワームをこの世界に持ち込み、そして同様に我々の世界にネウロイを持ち込んだ………」
「そう考えるのが妥当でしょう」

 会談の場に、冷え切った空気が満ちていく。
 複数の生唾を飲み込む音が響き、やがて誰かが口を開く。

「この後、一体どうなるのか………」
「分かりません。ただ、その何者かが諦めたとは到底思えません」
「あのエビ型ワーム、そしてこちらの攻龍・イミテイト、出現状況とその戦闘力から明らかにこちらを狙っていると考えていいだろう」
「侵蝕コアを破壊した後に、更なる増援を送ってくるというケースはチルダでも確認された事はありません」
「ましてや、ワームとやらのあの攻撃力だ。最初から出していれば、いや我々が来た時点で即座に投入していれば、対処しきれなかった可能性が高いだろうな」
「つまり、あのエビ型ワームの投入は予定外だったという事かしら?」
「狙いは、私達その物?」
「その黒幕の興味は、この惑星の侵略から私達に移ってきている………」
「そう考えれば、つじつまは合います」
「なんと………」
「だが確かに………」
「迎撃準備を整えとく必要あり、か」
「こちらとしては、あなた方への協力はおしむつもりはありません」
「だが一体、何者でしょう? 複数の世界に干渉し、そして我々に興味と敵意を持つ相手とは………」

 その問いに、答えられる者はいなかった………



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP22
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:c1740f14
Date: 2012/12/19 20:20

「う…………ん………」

 全身に異様な気だるさを感じながら、美緒はゆっくりと目を開ける。

(ここは、確か………)

 普段と違う目覚めに、美緒が寝る前の事を思い出そうとした所で、心配そうにこちらを覗き込む二つの顔に気付いた。

「坂本少佐! 目を覚まされたんですね!」「マスター! 体調は大丈夫ですか!?」
「ペリーヌにアーンヴァルか………そうか私は……」

 二人の顔を見ていて、ようやく自分が戦闘中に失神した事を思い出した美緒が、寝かされていたベッドから体を起こそうとする。

「まだ起きてはいけません少佐!」「マスターは49時間35分も寝ていました……」
「丸二日? そんなにか………道理で体が重いと………」

 先程よりさらに心配そうな顔になった二人を前に、美緒は起こそうとした体を戻す。

「戦闘はどうなった?」
「安心してください、少佐のご活躍で無事撃破に成功いたしました!」
「現在、この星の設備で各艦が復旧作業中です。今後の方針については連日会議が行われてます」
「そうか………会議の内容を見れないか?」
「あ、確かレポートが」
「ちょっと待ってて下さいマスター」

 ペリーヌが席を立ちかけた所で、アーンヴァルがベッド脇のコンソールを操作して会議レポートを探し出して表示させる。

「はいどうぞマスター」
「すまんな。これはどう見ればいいのだ?」
「ここをこうタッチして…」
「ぬぬぬぬ………」

 アーンヴァルがコンソールの美緒の間近でコンソールを操作してるのを見たペリーヌが、徐々に顔を引き攣らせていく。

「あちらの、攻龍だったか? 部隊データは?」
「まだまとめてる最中です。他にもGと呼ばれる組織も一緒です」
「ふむ、これは………」

 レポートに目を通しながらアーンヴァルにあれこれ質問する美緒とそれに答えるアーンヴァルの姿に、ペリーヌの視線が徐々に殺気を帯び始める。
 ふとそこで医務室の扉が開き、そこから芳佳とナース服姿の詩織(※本職、コスプレにあらず)が室内に入ってきた。

「よかった~坂本さん目が覚めたんですね!」
「おお宮藤か、心配かけたようですまん」
「でも~~まだ~~無理をしては~~~いけませんよ~~~」

 詩織がそう言いながら美緒のベッドに内蔵されている機器を操作、美緒の現状のライフデータを確認していく。

「あ、そうだ。目が覚めたら安岐先生に知らせてって言われてたんだった」
「今~、カルテ~~まとめますね~」
「安岐先生?」
「攻龍の船医さんです。機械だけじゃなくてちゃんと診察した方がいいって何度か回診に来てもらってるんですけど………」
「それでは、私が呼んでまいりますわ」
「そうか、頼むペリーヌ」
「はい少佐!」

 ペリーヌが喜び勇んで医務室を飛び出していく。
 それを見ながら、美緒は僅かに苦笑。

「私が寝ている間に、何か変わった事は?」
「そうです! 私達元の世界に戻れるらしいですよ!」
「え? 私聞いてませんが」
「ついさっき、亜乃亜ちゃん達の、Gの本部の方と通信が繋がったそうなんです! すでに私達ウィッチの世界の場所も調査中で、それが分かればこの星の機械で戻れるそうなんです!」
「本当か!?」
「今すぐ~~では~~ないそう~~ですけど~~」
「戻れるアテが出来るならそれでいい。私もすぐには動けんようだし………」
「マスター、まずは休養と栄養補給です。まずはスポーツドリンクでも」
「あ、私何か作ってきますね!」
「食事は~~診察の~~~後に~~」

 周囲が騒がしく動く中、美緒は再度レポートに目を通す。

(果たして、無事に戻れるのか?)

 胸中に湧いた疑問はあえて口に出さず、今自分に出来る事はこのレポートを読む事くらいな事に美緒は僅かに焦りを感じていた。



「え、本当?」
「うん、さっき夕子先生が診察に行ったって」

 臨時に設置されたドッグで修復を受けている攻龍を横に、オペレッタから届いたばかりの座標データを見ていた亜乃亜と、日課の素振りをしていた音羽が美緒が目覚めたとの話をしていた。

「お見舞いに行こうかと思ったら、まだ目が覚めたばかりだから明日にしなさいって怒られちゃった」
「う~ん、確かにすぐ行ったら迷惑だしね………」
「むう………」

 音羽が素振りの手を止め、じっと握っている木刀を見つめる。

「どうかしたの?」
「ねえ亜乃亜ちゃん、必殺技ってどうしたら出来ると思う?」
「え?」



「様態は安定してるわ。でも念のため今日明日はここで大人しくしている事、無理な運動もしばらくは止めておきなさい」
「そうですか………体が鈍りそうで」
「ダメよ、私もこの仕事してそれなりになるけど、あんなに衰弱してた患者は滅多に見た事ないわ。元が鍛えてあったのと、ここの医療設備が優秀だったから早く回復しているだけの話。完全に回復するまで出撃は絶対禁止ね」

 夕子先生の診察結果に、美緒は難しい顔をするが完全にたしなめられる。

「お粥作ってきましたけど……」
「数日はそういう軽めで消化にいい物を食べさせて。胃腸も弱ってる可能性があるから」
「分かりました」
「それではお大事に」
「ありがとうございますわ」

 診察を終えた夕子先生に深々とペリーヌが頭を下げる。

「さて、しばらくは訓練もダメか……」
「坂本さんならすぐに治りますよ。え~とテーブルは」
「これです」

 ため息をもらす美緒の前に、アーンヴァルが操作してせり上がってきたテーブルに芳佳がそっとお粥の入った土鍋を置いた。

「少佐! 私が食べさせてあげますわ!」
「いいえ! 私がやります!」
「そのサイズでは鍋に入って煮えてしまいますわ!」
「そこまで非力ではありません!」
「あの、二人とも………」
「病室では静かに」

 お粥を挟んでにらみ合いを始めたペリーヌとアーンヴァルを芳佳がどうにか止めようとするが、そこへ別の声が割って入る。

「中佐!? は、確かにそうですわね………」
「すいませんでしたマスター」

 医務室に入ってきたミーナの姿に、ペリーヌは驚き、アーンヴァルは美緒に頭を下げる。

「ミーナか、会議は終わったのか?」
「ついさっきね。主だった所はもう決まったし、まだまだ決められない所も多くて………」
「あんな会議、やるだけ無駄だと思うけどな~」

 ミーナは空いていたイスに座り、彼女の肩のストラーフが会議の内容を思い出して顔をしかめる。

「そちらにも武装神姫がいるとはな」
「ええ、彼女達のお陰で何かと助かってるわ」
「マスター、コンソールすら使えないからね~」
「こちらのマスターは自動ドアの開け方すら分かりませんでした………」
「時代の差って奴ね。悪いけど、これから会議の内容について話すから、宮藤さんとペリーヌさんは席を外してもらえるかしら?」
「はい、分かりました」「中佐がそう言うのでしたら………」

 芳佳は素直に、ペリーヌは渋々医務室を出て行く。
 ドアが閉まって少し待った所で、ミーナの顔が真剣な物へと変わった。

「……美緒、正直に答えて。あのワームを両断した烈風斬、今の貴女にあれだけの魔力が放出できるとはとても思えないわ。それにこの衰弱、一体何をしたの?」
「気付かれていたか」
「答えて! 一切何を…」
「サイキックブースターよ」

 罰の悪そうな顔をする美緒をミーナが問い詰めるが、そこで突然別の声が割ってはいる。
 ミーナがはっとして振り返ると、そこには何時入ってきたのか、ミサキが携帯端末を手に立っていた。

「サイキック……ブースター?」
「サイキッカー用の特殊増強剤、副作用が問題視されて現状ではほとんど使われていない物よ。私が緊急時用に渡しておいたの」
「副作用!? そんな危険な物をどうして!」
「使ったのは私の判断だ。ミサキを責めるな」
「けど!」
「………美緒のアレが無ければ、私達は勝てなかった」

 狼狽するミーナに、美緒とミサキが冷静にたしなめようとするが、ミーナの顔から困惑の色は消せなかった。

「検査の結果、医学的な副作用の類は発見されなかったわ。けれど」
「けれど?」

 ミサキは無言で持参した携帯端末を操作してあるデータを呼び出す。

「現状での美緒の生体エネルギー、つまり魔力の総量は、明らかに前回より激減してるわ。宮藤博士の試算だと、飛ぶだけならともかく、戦闘に耐えられるのはあと数回が限度だそうよ」
「そんな!?」
「………覚悟はしていたが、そこまでとは」

 突きつけられた残酷な試算に、ミーナは絶句し、美緒はうなだれ、シーツを強く握り締める。

「それは単独で戦闘に参加した場合の試算なんですね!? 私がマスターをサポートして戦えば」
「すでにそれも計算済みよ。確かに現状で武装神姫の戦力は重要だけど、完全に代用が効くわけじゃないわ」
「しかし!」
「いいんだアーンヴァル。私の戦える時間がもう少なくなっている事など、十分承知していた」
「マスター………」
「美緒、どうやら私は貴女を過小評価してたようね。サイキックブースターを使用しても、あそこまで爆発的な力を引き出せる物ではないわ。悪いけど、サイキックブースターは返してもらったわ。もう一度使えば、今度は命の保障が無くなるかもしれないから」
「一つでいいから残してもらえないか?」
「ダメよ美緒!」「ダメですマスター!」

 ミーナとアーンヴァルに強烈に反対され、美緒は思わずたじろぐ。

「言ったはずよ、命の保障が無くなるって。私としても、そんな危険な事をさせたくはないわ」
「そうだよ、そんな危ないの使ったらダメだよ~」

 ミサキも頑として反対し、ストラーフも同意の旨を告げる。

「だが、私には…」
「まずは体を治す事ね、そうしたらやる事がたくさん溜まってるわよ。戦う事だけが501副隊長の仕事じゃないでしょう」
「ふ、書類仕事はあまり得意じゃないんだがな……」
「今各チームの戦力分析及び合同戦術構築の準備を進めてるわ。動く許可が出たら、美緒にも手伝ってもらうわ」
「そうね私一人じゃやりきれないし」
「そうか、分かった」
「それじゃあお大事に」

 ミサキが室外へと出て行った所で、美緒の顔色が暗い物へと変わる。

「私は………あとどれくらい、ストライクウィッチーズの一員でいられるのだろうか………」
「美緒………」「マスター………」

 室内を重い沈黙が覆い、ミーナもアーンヴァルも掛ける言葉が見つからない。

「え、え~と、ほら冷めちゃうから、ね?」

 沈黙に耐えられなかったストラーフがミーナの肩を降りて、テーブルに載せてあるお粥を薦める。

「ああ、そうだな………」

 呟きながら、美緒が普段の彼女からは考えられないのろのろとした動きで、粥をすすり始める。

「すまないが、この件は皆には……」
「なんとかごまかしておくわ。今は回復を優先させて」
「ああ、そうだな………」

 後はただ、沈黙の中に粥をすする音だけが響いていた。



『次元…動計す……安定。回線安定、データ通信状況、オールグリーン』
「これで大丈夫ね。念のため、回線は常時接続にしておいて」
『了解しております。支部長からの指示及び現在判明している全データ、転送を開始します』

 機械化帝国の機材も借り、ようやくオペレッタとの回線が安定した事にジオールは胸を撫で下ろす。

「取り合えず、これでここの転送システムとリンクできれば、私達はいつでも戻れるわね」
『そちらの次元座標は確定済みです。ですが、安定性という点を重視するならば、こちら側の転送システムだけでの転移は確実性に欠ける可能性があります』
「攻龍を丸ごと転移させなくてはいけませんしね………後でどうツジツマあわせるのかしら?」
『すでに支部長が統合軍との情報操作に乗り出しています。多少の事なら問題ありません』
「すでに多少は通り越してる気がするんだけれども………とにかく、そちらはお願いと言っておいて」
『了解しました』

 通信を終えたジオールは届いたばかりのデータを展開、内容に目を通していく。
 しばらくそれを熟読したジオールは、しばし考えた後、そのデータを携帯端末に転送、攻龍へと持参する事に決めた。

「正直に帰れそうにはないわね。しばらくは他のユニットと共同前線を…」

 その内容、攻龍がこちらに転移した後も頻発しているらしい、ワームの同士討ちの報告に、ジオールの表情が険しくなる。
 だがそこでふと、遠目にだが攻龍のそばに人だかりが出来ているのに気付く。
 何事かと思って近付いていくと、そこには何か難しい顔をした亜乃亜の前で木刀を手にした音羽が何か奇妙な気合と共にやけに素振りをしている。

「やっぱそうじゃなくって、こうもうちょっとダイナミックに」
「ちぇすとおおお、ってこんな感じ?」
「う~ん、もうちょっと回ってみるとかさ」
「無駄な機動はどうかと思いますが」
「やっぱり、たああぁぁってやらないとダメなんじゃない?」
「いや、やっぱり前降りが大事だよ」
「もうちょっとこう、パターンを」

 シャーリー、飛鳥、ルッキーニ、ユナ、エグゼリカなどもそれを見ながら、口々に勝手な事を言っている。
 その度に音羽は何か神妙な顔をして、奇妙な素振りを続けていた。

「何をしてるのかしら?」
「あ、トゥイー先輩」
「それがさ、音羽が必殺技が欲しいって」
「必殺技?」

 声をかけた所で振り向いた亜乃亜に代わり、シャーリーが答える。

「坂本さんの必殺技、すごいかっこよかったから、ああいうのをどうにかできないかな~って」
「確かに、あれはD・ースト並どころか、それ以上の破壊力があったわね~」
「すごかったよね~」
「あまり使える技じゃないそうですけど。坂本少佐、先程ようやく目が覚めたそうです」
「エネルギーを使いすぎるのね。そもそも、ソニックダイバーってそういうシステムになってたかしら?」

 ジオールの一言に、全員の動きが止まる。

「……となると、まずはゼロからか………」
「う~ん、さすがにそっちの機体のいじり方は分からないしな~」
「あ~、でも前にマドカが変な改造してミーナさんに怒られてたし」
「いや、現状のシステムでも使い方いかんで」
「まずは運動限界から…」

 真剣な顔で明後日の論議を始める皆を見ながら、ジオールは笑みを浮かべながらその場を去っていく。

(この調子なら、こちらは問題なさそうね)

 いつの間にか、時代も世界も超えて仲良くなっている一同に、ジオールは安心しながら攻龍のブリッジへと向かった。



「………」「………」「………」「………」
「………何をしてるんだ、あいつらは?」

 美緒の代わりに戦術構築のミーティングに参加するべく攻龍を訪れたバルクホルンは、攻龍の甲板で佇んでいるアイーシャ、サーニャ、ティタ、詩織の四人を見かけて足を止める。

「さあな、さっきからずっとあんな感じだ。日向ぼっこでもしてるんだろ」

 同じようにそちらを見ていた冬后も、それくらいしか言えずに首を傾げる。

「30分前もあそこにいた気がするけど」
「いや、私が来た時にも見たから、その倍は経ってるはずなんだけど……」
「ひょっとして、全然動いてない?」

 同じくミーティングのために集まった瑛花、ミサキ、エリューも唖然として四人の方を見る。

「………」「ちょっと騒がしいね」「騒がしいのは元気な証拠」「そう~~ですね~~~」

 あちこちから整備や資材搬入の騒音が響く中、時たま取り留めの無い会話のような物をしたかと思えば、また四人は黙ってそこに佇んでいる。

「……詩織のペースについていける人達がいるなんて、パラレルワールドって怖いわね」
「それを言うなら、ティタと普通に会話してる方が驚きなんだけど」
「あちこちの世界を見れば、似たような奴はいるって事か」
「それって、ああいう事ですか、冬后大佐」

 瑛花がそう言いながら四人の後方を指差す。
 そこには、物陰からそちらの方を睨むように見ているエイラとエリーゼの姿が有った。

「………何をしてるんだ、あいつらは?」
「さあな、見張りでもしてるんだろ」

 先程と同じような言葉を思わず呟いたバルクホルンと冬后が半ば呆れた視線を向ける。

「ひょっとして、あっちもあのまま?」
「さあ? あのペースに割り込むに割り込めないんでしょう」
「それは有り得るけど………」
「すいません、遅れました」

 他の三人も呆れる中、遅れてきたクルエルティアがミーティング予定のメンバーが見ている方向に視線を向け、そこに佇んでいる四人(+二人)を見つけると視線を戻す。

「何をしているんでしょうか?」
「さあな」
「さて、と。そろった事だし、ミーティング始めるとしようか」
「了解」

 その場はそのままにして、メンバーがぞろぞろとミーティングルームへと向かう。
 なお、数時間に及んだミーティングが終わった後、今だ四人(+二人)がそのままの状態でいた事に驚く事となるのはまた別の話。



「ええ、そうですわ。こちらに回せます? ……そう、それでは解析の方はよろしく。ええ、そのように。そちらの方は? もう少し詳しくまとめてもらえて? 早急に」
「あの~………」
「エリカちゃん、冷めちゃうよ?」

 夕飯の時間になっても何か忙しいといって食堂に来なかったエリカの部屋に夕飯を運んできた芳佳とユナが、幾つもの回線を繋げてあちこちに連絡をしているエリカの姿に、どうすればいいか分からずにたじろぐ。

「もう少しで終わりますから、そこに置いておいてください」
「随分と忙しそうだね」

 エリカの隣で何かのデータ整理をしていたミドリが空いているテーブルを指差し、ユナが持ってきた夕飯のトレイとお茶をそこに置いた。

「香坂財団の総力を尽くして情報収集してるんですけど、エリカ様の直接指示じゃないと末端は反応が鈍いらしくて」
「それだけじゃありませんわ。香坂財団関連のシンクタンクや兵器・戦略研究所にもこの前の戦闘のレポートを回して、解析を頼んでおきましたわ」

 ようやく話が終わったのか、回線を切ったエリカが一息ついてユナの持ってきたお茶に手を伸ばす。

「………これ、冷めてますわ」
「あ、すいません。入れなおしてきます!」
「エリカちゃんが長電話してるからだよ~」

 芳佳が湯飲みを手に慌てて食堂に戻り、ユナが呆れながらも夕飯を温め直してこようかとトレイを手に取るが、エリカがそれを制して少し冷めた夕食にようやく手を着ける。

「ユナ、ここでしたか」
「あ、エルナー。玉華さんとのお話どうだった?」
「取り合えず、各艦の整備が終わってから転送準備に取り掛かるという事になりました。幾ら人的被害を抑えたと言っても、惑星外表部にはかなりダメージが出てますから、しばらくかかりそうです」
「う~ん、芳佳ちゃん達も早く帰りたいだろうけど、どうせならしばらくいれた方が何かと楽しそうだしな~」
「攻龍の方は転移装置さえ動けば直ぐですが、ウィッチの人達は安全が確認されるのにしばしかかるようですし。完全な次元間転移なんて私にも未知の領域に近いですからね~」
「ユナさ~ん、マドカさんがデザートの差し入れくれました~。おいしそうですぅ~♪」
「わあユーリィ! 全部食べちゃダメだよ~!」

 聞こえてきたユーリィの声にユナが慌てて自分の分を確保しに行く。
 それを見送った所で、エルナーがおもむろにエリカの方を向いた。

「それで、頼んでおいた事は?」
「香坂のネットワークで調べておきましたわ。こちらでの部隊をほぼ壊滅させてやった後でも、あちこちの惑星で正体不明の存在が確認、交戦の報告もありましたわ。ただ、数はかなり少なくなってますわ」
「ミサキからも同様の報告が来てます。ただ、クルエルティアが言うには、ヴァーミスは侵蝕コア破壊後はそうそう攻めてくる事は無いはずなのですが………」
「詳しくはレポート待ちですわ。被害は大きくないようですし、こちらでの戦闘レポートも回しておきましたわ」
「ありがとうございますエリカ。これで何か分かるといいのですが………」

「これおいしいですぅ♪」
「わあユーリィ、そんな食べたらみんなの分なくなっちゃうよ!」
「早い者勝ち~!」
「やめんかハルトマン!」
「ちょっと、それあたしの分よ!」
「エリカ様の分を死守するのよ!」
「うじゅ~!」

「何をやっているのでしょうか………」
「………退屈はしそうにありませんわね」
「全くです」

 遠くから響いてくるデザート争奪戦の喧騒に、ミドリとエリカは苦笑し、エルナーはうなだれる。
 ちなみに数分後、お茶を入れ直した芳佳とボロボロになりながらエリカの分のデザートを死守したエリカ7が訪れ、エリカを更に呆れさせたりした。



『改造シミュレーション、完了しました』
『こちらでも演算終了しました。現状の体制よりも、カルナダイン単艦をトリガーハート旗艦として運用する方が効率的です』
「そうなると、改造にどれくらい掛かるかね………」

 カルナダインのブリッジで、カルナとブレータ双方にシミュレートさせた結果をクルエルティアは思考する。

「正直、私もあのシャトルはそろそろ限界だと思ってた所よ。使える所をブレータごとカルナダインに移植した方がいいと思うわ」
「元は脱出用にマイスターが奪った支援艇だというなら、有効的な活用法の一つだと思う」

 隣でその結果を見ていたフェインティアとムルメルティアも、それに賛同する。

「トリガハート三機同時運用ともなると、カルナダインのスペックギリギリの改造になるわ。幾らこちら優先に整備させてもらってるとは言え、時間的にも余裕があるかどうか」
「ま、一応そういう事出来そうな心当たりもいるから、後で話してみるわ」
「そういえば、Gの天使にエンジニアがいたな。妙な改造をしてミーナ中佐に制裁を食らったと聞いたが」
「……大丈夫なの? その人? まあ、ウィッチにもいたけど………」

 あれこれ考えている内に、ふとフェインティアはコンソールの端に飾ってある写真に気付いた。
 そこにはクルエルティアとその隣に大人しく座っている一頭の犬、まだ小さい猫を抱いているエグゼリカ、そして彼女達の真ん中に立って柔和な笑顔を見せている初老の男性の姿が有った。

「これは?」
「ああ、父さんの、地球で私達の面倒を見てくれている人と犬のワットと猫のオムレット。殺風景だから、これでも飾っておきなさいって言われてね」
「ふ~ん……クルエルティア、貴女少し変わったわね」
「そう? 貴女もよフェインティア。サポートなんて受けたがるタイプじゃなかったのに」

 写真とクルエルティアを交互に見ながら呟くフェインティアに、クルエルティアはフェインティアの肩にいるムルメルティアを指差す。

「こっちも色々あってね」
「マイスターはいささか協調性に欠ける点がある。今後の戦略的にも、他の部隊との共同前線を張らねばならないのにそれでは大いに問題だ」
「悪かったわね! あれはあっちが先に攻撃してきたのよ!」
「私が仲介に入らなければ、危ない所だった」
「その前に制圧してたわよ!」

 肩のムルメルティアと論争するフェインティアに、クルエルティアが思わず吹き出す。

「何よ」
「いいえ、お互い様ね。この闘いが終わったら、地球に来て。父さんに紹介するから」
「その前にチルダに戻りたいわね………」
『残念ながら、私達のいた世界への転移座標はまだ検索中だそうです。見つかるかどうかも不明らしくて………』
『現状では、まずは侵蝕行動を行っていると推察される存在への対処が優先です』
「分かってるわよ、全く妙な所に転移して以来、このパーフェクトな私が振り回されっぱなし………」
「マイスター、それは皆に言える事だ。盟友と共に戦うのみ」

 AI双方の突っ込みに、フェインティアは頭を抱えそうになる。
 更にそこへムルメルティアの腕組みしながらの宣言に、本気で頭を抱え込む。

「今戻りました」
「エグゼリカ、それでどうだった?」
「はい、数日中には重傷患者の修理も一段落するので、私達の整備もしてくれるそうです。完全に、とはいかないそうですけど、限りなくフルスペックに近い状態にはできるみたいです」
「二人とも、すごい状態だしね。カルナダインの整備ユニットじゃ限界か………」
「あなた達ももう休みなさい。明日も何かと忙しくなりそうだから」
「そうさせてもらうわ」「了解した」「お休みなさい。姉さんも無理しないでね」

 三人がブリッジから退室した所で、自分もそろそろ休もうかと思っていたクルエルティアだったが、そこで一つのデータが送られてきた。

「これは………」

 そこには、《現状に置ける武装神姫解析データ》とタイトルがふられていた。



翌朝

「はっ、はっ……」

 まだ人影もまばらなドッグ周辺を、日課のジョギングを行っていた瑛花の前に、同じくジョギング中のエリカ7が姿を見せる。

「おはよう、早いのね」
「そっちも」「他のメンバーはやらないのか?」
「どうにも、こちらのメンバーは軍人としての心構えがなってないと言うか、そもそも無いというか……」

 挨拶をかわした所で、先頭を走っていたマミとルイの問いに、瑛花は少しばかり顔をしかめる。

「あれよりはいいんじゃない?」
「昨日より更に高い所に行ってるよ………」

 マミが指差した先、整備用に設置されたばかりのクレーンの上に毛布一枚で寝ているルッキーニの姿に、さすがに全員唖然とする。

「あれはあれでトレーニングかもしれないわね………」
「こっちに来る前も?」
「砲身とかレーダードームの上で寝てたわ………」
「変わった子だね。こちらも人の事言える面子じゃないけど」
「そうかな?」「そうだよ」

 マミが表現に困る中、後ろを走っていたアコとマコが顔を見合わせる。

「それじゃあ後で」「おう」

 再度両者はジョギングを再開する。
 なお、足元からこちらを見上げる人達で騒がしくなってきてルッキーニがようやく目を覚ますのはこれから一時間後だった。



「修理概要の最終結論が出ました」
「やはり、一週間はかかるか………」
「部品は用意してくれるそうですが、まずその部品の設計図と組成から、てんだから………」
「弾薬の補充もせねばならん。今度は我々が時代遅れになってしまったが」

 攻龍のブリッジ内で、ブリッジクルーが先ほど来たばかりの修理概要に目を通し、それぞれの理由で顔を曇らせる。

「未来の技術で手軽にパワーアップ、とはいかない物なんですね~」
「それだと、一から設計しなおす羽目になるって宮藤博士は言ってたな」
「規格は同一でも、材質から違う物ばかりではそうなるだろう。特にソニックダイバーは少しでもバランスが狂えば致命的になりかねん」

 タクミがぼそりと呟いた事に、冬后と副長も同意、難航している修理にタダでさえ普段から険しい副長の顔が更に険しくなっていた。

「転送装置については、こちらの修理が終わってからになるそうですから、半月ほど先になる可能性も………」
「そんなにか?」
「安全性確保のためだそうです。Gの方でも準備を進めているそうですから、もう少し早くなるかもしれないとか」
「どちらにしろ、それだけ作戦が遅延するのは由々しき問題だ。だが、我々にはどうする事もできん」

 七恵からの報告を艦長は淡々と受け止める。
 事実、攻龍だけでは戻る手立てがないのも確かで、機械化帝国に任せるしかない現状を確認しただけだった。

「そういや周王と緋月は?」
「周王さんはクレイドルの方へ、緋月少尉はプリティー・バルキリーの方へそれぞれ技術出向してます。周王さんは昨日の朝から泊り込んでるみたいですけど………」
「技術格差の摺り合わせも一苦労だな。最大で400年は開いている計算になるわけだからな」
「それで共闘出来てるんですから、不思議と言えば不思議ですね~」
「まあ装備はともかく、やってる事はそんなに変わらないしな」
「あれ、周王さんから何か来ましたが」

 そこで、七恵は周王名義のデータが送られてきた事に気付く。
 それのタイトルを見た七恵は将校レベルの規制を設けて攻龍のデータバンクに登録、それぞれが送られてきたばかりのデータに目を通した。

「武装神姫の解析データ? この世界の技術を持ってしても製造は極めて困難だと?」
「これほどの出力をあのサイズで安定使用は困難、問題はそこだけではない。各神姫のブラックボックスは強度なセキュリティブロックで解析不可能、ただし一部の封印が解かれ、開放されたデータからこの星の技術で製造可能な専用装備を開発中という点だ」
「ただしエネルギー系統は神姫自身からの供給。伝導経路は解析不能、か………神姫達は、この星に来る事を知っていたというのか?」
「え?」「そんな事は一言も………」
「もしくは、あいつらを造った奴が、かだ」

 送られてきたデータから艦長と冬后が辿り付いた結論に、タクミと七恵は思わず絶句する。

「……この事はこの場にいる者だけの機密とする。セキュリティがかけられていたという事は神姫自身もその事は自覚していない可能性が高い」
「確かに………」
「またさらに話がややこしくなりそうだ………」

 冬后のボヤきは、くしくもその場の全員の共通認識として一致していた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP23
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:c1740f14
Date: 2012/12/19 20:25

 薄暗い室内で、大型ディスプレイにあるシーンが映し出される。
 そこには、コピー攻龍と化した牙龍から次々とこちら側の機体を模したコピーネウロイが飛び立つシーンで、その後にそれぞれが記録したと思われる各コピーネウロイとの戦闘シーンが映し出されていく。
 最後のコピールッキーニが撃墜されると、映像は終わり、室内が明るくなっていく。

「これとよく似たネウロイと遭遇したのは本当かね?」
「本当です」

 攻龍のミーティングルームで、副長からの問いに問われたウルスラはそう言いながら小さく頷く。

「それでは、貴女が遭遇したコピーネウロイとの相違点があったら、言ってみて」

 ミーナからの提言に、少し考えてからウルスラは口を開いた。

「まず私が遭遇したコピーネウロイの詳細を。事の起こりは私がかつて所属していたスオムス義勇独立飛行中隊・第二中隊にジュゼッピーナ・チュインニ准尉が配属されてきた事です。ジュゼッピーナ准尉は戦闘中に撃墜、行方不明になるも自力帰還しましたが、記憶喪失になっており、リハビリも兼ねて配属されたのですが、その実はネウロイに洗脳暗示を施されていました。
そして中隊の一員として戦闘に参加しながら、こちらの機動データを蓄積、ネウロイになんらかの方法で送信していたと思われます。その結果、これとよく似た、というよりも中隊メンバーの完全なコピーとも言えるコピーネウロイと遭遇、抗戦にいたりました」
「それで、どう対処したんだ?」

 誰もが思った疑問を、冬后が一番最初に口にする。
 帰ってきた答えは、簡単な物だった。

「こちらで遭遇したコピーネウロイは、あくまで中隊個人個人の機動データをコピーした物であり、フォーメーションプレイの対処が出来なかったんです。だから、私達は中隊全員で協力し、各個撃破していきました」
「それで、その洗脳されていた准尉はどうなったの?」

 ポリリーナからの問いに、更にウルスラは続ける。

「そのコピーネウロイとの戦闘の後、正体を看破され、隊長だった穴拭中尉と抗戦、ストライカーユニットを破壊されて撃墜後、そのショックで洗脳暗示が解け、その後中隊の一員として戦列に復帰しています」

 説明が終わった所で、その場にいた全員が難しい顔をして唸りを上げる。

「ウルスラが遭遇したコピーネウロイと、攻龍が遭遇したコピーネウロイ、明らかに状態が違いますね」
「確かに。こちらで遭遇した物は、その機動も戦闘力もオリジナルとは比べようもない杜撰な物と言ってよかった」
「私の経験とも確かに違います」

 エルナーと艦長の意見を、ウルスラが補足。

「それで、その洗脳されてた奴ってのは何か特徴あるのか?」
「まず極めて感情表現が乏しくなります。行動もおかしく、特に戦闘中に露骨にこちらを観察するようになり、後から思えばですが、完全にスパイとしか思えない行動を取っているようでした」
「そこまで怪しかったら普通はバレるだろ………」
「その当時は、まさかネウロイがそんな絡め手を使うとは誰も思ってなかったので」

 聞いてみた冬后本人が呆れるような特徴に、バルクホルンが言葉を濁しながら答える。

「でも、そんな人攻龍にはいないわよね?」
「それ以前に、撃墜されて戻ってきたなんて状況が無かったわ」
「いや、一度ウチのパイロットがまとめて行方不明になった事はあったな。もっとも平然とサバイバルしながらバカンスしてやがったが」
「じゃあ違うと思います。洗脳その物はそれ程長時間掛かる物ではない模様ですし、簡易的な物は一日もあれば可能です。私が見た限りで、雰囲気的には……」

 そこでウルスラがミーティングルームの端、ずっと無言で話を聞いていたアイーシャへと視線を送る。

「アイーシャは少し感情表現が下手なだけよ! スパイなんかじゃないわ!」
「いやそれは攻龍の全員が知ってるし、そもそも彼女が行方不明になった事なんて一度も無いからな」

 それに気付いた周王が激昂し、冬后がなんとかなだめる。

「……スパイはしていない。けれど、何かが私に干渉しようとしているのは確か。私だけじゃない。ティタもそれは感じている」
「干渉って、どういう事?」
「例の、誰かに見られてたって話ね」
「報告は受けているが、漠然とし過ぎていて何とも言えんな」
「………そいつが全ての黒幕って訳か」
「今の所、それ以上の事は何も分からない訳ですね」

 エルナーの言葉に全員が唸りを上げ、結局それ以上の成果は無いまま、その場は解散となった。

(もし、現状のメンバーであの時と同じ事が起きたら………やはり、あれの開発を始めよう)

 そんな中、ウルスラはある決意をすると、足早にその準備を始めるため、まずは姉の元へと向かっていた。



「必殺技が欲しい」
「は?」

 何か真剣な顔で格納庫に来たかと思えば、両拳を握り締めての音羽の要求に、零神のオーバーホール中だった遼平は間抜けな声を漏らした。

「必殺技って、クアドラロックがあるやないか」「そやそや」
「ち~が~う~!!」

 隣で雷神、風神のオーバーホールをしていた嵐子と晴子が頷くが、そこで音羽が首を左右に激しく降りまくる。

「見たでしょ、坂本さんの必殺技」
「ああ、アレか………」
「ありゃすごかったで」
「もっとも本人ぶっ倒れてまだベッドの上聞いとるけど」
「あんなのがゼロにも欲しい」
「出来るわけねえだろ」

 力説する音羽に、遼平は即答。

「そんな~~少しは考えてみてくれても~」
「ソニックダイバーにそんな余裕ねえよ! その坂本少佐にでも教わってこいって」
「それが、誰にも烈風斬は教えるつもりはないって言われて………」
「さっきやけに張り切ってお見舞い行ったもんやと思えば、そういう話かい」
「じゃあ諦めた方いいで」
「だから、どうにかこっちで付けられないかと……」
「付けたげようか?」

 格納庫の一部を借りてRVのオーバーホール中だったマドカが、こちらに顔を向けてにこやかに微笑む。

「……え~と」
「あんたまた懲りてないのか。ヴィルケ中佐にめっちゃ怒られてたのに」

 零神を原型止めなくした前科があるマドカの提案に、音羽はしばし悩み、遼平は呆れ帰る。

「あ、あはは、もうストライカーユニットは改造しないよ?」
「ストライカーユニットは、かい………」
「懲りとらんな」

 引き攣って少し青くなったマドカが乾いた笑みを浮かべるが、ソニックダイバーはとは言ってない事に御子神姉妹も呆れる。

「言っとくが、こっちに手出したら承知せんからな」「そやそや」
「う~ん、ゼロが原型止めなくなるけど、必殺技が付くのなら」
「おい! つまンねえ事喋ってる暇が有ったら手動かせ!」

 そこで所用から戻ってきた大戸班長が怒鳴りつけ、メカニック達が思わず肩をすくめて手を早める。

「ほら、あんたも仕事の邪魔だから訓練でもしててくれ」
「え~、今大事な話の最中…」
「必殺技か? 一体どんなのを使いたいんだ?」
「どんなのって、こうすごいのを……」
「それがどんな物でソニックダイバーのスペックで出来るかどうかを考えてから来るんだな」

 体よく追い出された音羽は、考え込みながら艦内を徘徊していく。
 腕組みしながら唸りつつ歩く音羽の姿に、たまたま見かけたエリーゼが首を傾げた。

「音羽、どうしたの?」
「あ、エリーゼ。ゼロに必殺技付けてって言ったら、怒られちゃった」
「必殺技~? そんなの付けられるんだったら、とっくの昔にバッハに付けてるわよ」
「でも欲しいよね、必殺技」
「………欲しい」

 しばらく考えたエリーゼも頷き、二人で腕組みして考え込む。

「あの、お二人して何してるんです?」

 奇妙なその光景に、たまたま見かけた可憐がおずおずと尋ねる。

「ねえ可憐ちゃん」「ねえ可憐」
「何ですかお二人して……」
『ソニックダイバーに必殺技って付けられる?』
「………え?」

 予想外の質問に、可憐が思わず硬直する。

「可憐ちゃんだったら、何か思いつかないかな~って」
「急に言われても………」

 三人に増えた一同が、またしてもその場で考え込む。

「………何してるの、貴方達」
「あ、瑛花さん」
「聞いたわよ音羽、妙な事言って格納庫追い出されたって」

 通りかかった瑛花が、呆れ顔で三人を見つめる。

「ソニックダイバーで必殺技なんて出来るわけないでしょう。どうしても欲しいなら、持ってる人にでも聞いてみたら?」
「おお! さすが瑛花さん!」

 瑛花の言葉に、音羽は手を一つ叩いて外に出て行く。

「エリーゼも行く~」
「………まさか本気にするなんて」
「まあ、音羽さんですから」

 エリーゼも音羽の後を追っていくのを、残された二人は複雑な顔で見送っていた。



「必殺技? そんな物そう簡単にあるわけなかろう」
「え? ウィッチの人って、てっきり全員持ってるかと」

 最初に出会ったバルクホルンに、開口一番に否定されて音羽は意表を突かれる。

「ああ、クロステルマン中尉やルッキーニ少尉のように、攻撃に特化したり転化できる固有魔法を持つウィッチもいる事はいるし、坂本少佐の場合は経験と訓練による物だ。一朝一夕に出来る物ではない」
「はあ………」
「っと、済まんが仕事の途中なのでこれで」

 今一納得しきれない音羽の前で、バルクホルンはいきなり固有魔法を発動、自分の前に有った大型コンテナを持ち上げ、それを運んでいく。

「………すごい怪力」「ソニックダイバー用の装備平然と持って行ったって聞いたよ、あの人………」
「すいませ~ん、そこどいてほしいですぅ~」

 地響きがしそうな重さのクラスのコンテナを運ぶバルクホルンを音羽とエリーゼが呆然としている中、背後から掛けられた声に二人が振り向くと、今度は本当に地響きを響かせながらユーリィが更に巨大なコンテナを運んでいた。

「こっちだそうだ、気をつけて運んでくれ」
「はいですぅ! 芳佳さんのゴハンできるまで頑張るですぅ!」
「………必殺技いらないね、あの人達」「………うん」

 重機クラスの怪力を持つ二人から、音羽とエリーゼはすごすごと離れていった。



「必殺技~? そんなの適当にやってればそれっぽくなるわよ」
「適当って………」

 プリティー・バルキリー号の艦内で、舞の投げやりすぎる回答に、音羽も二の句が告げららずに考え込む。

「まあ……光の戦士は元から固有技能を特化してますからね。ある程度汎用性を持たせているソニックダイバーと仕様から違うと思いますよ」
「そう言えばそうね。所で、これ何してるの?」

 エルナーの説明にエリーゼが頷いた所で、二人の間、机に座って何か必死に書いているユナを指差す。

「補習よ、この子これ以上日数足りないと怪しいからね」
「うう、舞ちゃんヒドイ………」
「何言ってるんですかユナ。この間オフだからと夜更かししすぎて、翌日寝坊したのが悪いんですよ」
「ほらほら、それ全問解いたらOKなんだから、早くやっちゃいなさい」
「うう、ユーリィったら終わったらゴハンって聞いたらものすごい速さで終わらせちゃうし………」
「そう言えば、あんたら学校は?」

 ゆっくりとその場を離れようとしていた音羽とエリーゼが、その一言に思わず停止する。

「あ、私はもう海女として仕事してるんで………今はパイロットですけど」
「エリーゼはもうそのクラスならとっくの昔に卒業してるモン」
「あらそう? どうやら一番のおバカは決まったようね」
「舞ちゃんヒドイ!」
「ほらほら、あと二問。頑張ってくださいユナ」

 まだ騒がしい室内から、二人はこそこそと逃げ出した。



「必殺技? 何よそれ?」
「敵にもっとも有効的かつ壊滅的なダメージを一方的に与えられる戦法という事か」

 どこから持ってきたのか《安全第一》と刻まれたヘルメットを被ってカルナダインの改造作業を指揮しているフェインティアと、その肩で同じく神姫サイズのヘルメットを被っているムルメルティアに首を傾げられ、音羽は少し凹む。

「そんなの、こっちが強ければいいだけの話じゃない」
「マイスターの話にも一理ある。ならば自身の特性を考慮し、有効的なアクションを構築すればいい」
「え~と、それってどうすれば?」
「それくらい、自分で考えれば? こっちはクルエルティアとエグゼリカが交代で修理中で私一人で色々忙しいのよ」
『あの~、私もいるんですけど』『改造プランはこちらで組んでいます』

 それとなくカルナとブレータが自己主張するが、フェインティアは無視して改造を手伝っている機械人にあれこれ指示を出している。

「ま、戦闘データの交換でもしてみたら? 特に似たような戦闘パターン持ってる個体のデータなら参考になるでしょ」
「音羽と似たような戦闘パターン………」
「………一人しかいない気がする」
「いや、もう一人いる。参考になるかどうかは分からないが」
「え?」



「……必殺技、ですか?」

 惑星地下のマシンクレイドル内開発室で、装備改修中だった飛鳥が問われて首を傾げる。

「……そもそも、なぜ私に?」
「いや、他に剣使ってる人にも聞いてみたんだけど、フェンシングとかばっかで剣道やってるのは私と坂本さんとあなたしかいないみたいで」
「高速移動しながら近接格闘戦なんて、難易度高いからね~」

 飛鳥の隣で出来上がったばかりのジレーザ ロケットハンマーを振り回しているストラーフに、エリーゼが視線を集中させる。

「そんなちっちゃいハンマー、役に立つの?」
「これはこうするんだよ!」

 そう言いながらストラーフはいきなりロケットハンマーを噴射させながらそばにあったデスクの一つに叩きつける。
 そのサイズからは考えられない轟音と共に、デスクは一瞬で粉砕していった。

「すご………」「………ウソ」
「物質結合連鎖崩壊、《アポカリプス・エクゼキューション》。全力だったらこんなんじゃない威力だよ」
「へ~、それはすごいわね」
「あの、ここで技の試射は止めてくださいと言いませんでした?」

 ポカンとしている音羽とエリーゼにストラーフは胸を張って見せるが、そこでドアを開けてミーナと白香が姿を現す。

「どうマス、ター……」

 ミーナにも胸を張ろうとしたストラーフだったが、その目が全く笑ってない事に気付いて言葉を詰まらせる。

「ついさっき、あそこのイスを切り刻んでもうしないって言わなかったかしら?」
「いやその、役に立つかなんて言われたのでつい………」
「あらそう。すいません、後でどうにか弁償しますから」
「いえ、これくらいなら大丈夫です。ちょうど余っていたデスクですし」
「本当にすいません。後で言って聞かせますから」
「え?」

 白香に平謝りしながら、ミーナの手がストラーフを鷲掴みにする。
 いつの間にかその頭部には使い魔の耳が伸び、予想以上に強い握力にストラーフの脳裏にストライカーユニットを勝手に改造した後のマドカの事が思い浮かぶ。

「あの、マスター………」
「それじゃあストラーフさん、一回の注意で足りなかったようだから、ちょっとこっちに」
「待って! ちょっと待ってマスター! うわああああぁぁ…………」

 何とか束縛から逃れようとするストラーフを掴んだまま、ミーナがその場を離れ、ストラーフの段々小さくなっていく悲鳴がその場に残される。

「……それで、必殺技についてでしたね」
「うんそう」

 強引に見なかった事にした音羽が飛鳥に力強く頷く。

「……私の《飛燕》は霊刀 千鳥雲切のエネルギーと私自身の運動性を駆使した技です。音羽さんのソニックダイバーは運動性よりも速度を重点として設計されていると思いますので、その点を考慮した方がよろしいかと」
「速度、ね~」
「確かにそうだけど、ソニックダイバーのスピードと音羽の剣か~」

 とりあえずのヒントを貰い、二人はその場を後にする。
 ちなみに数時間後、自分用のクレイドルでどこかから持ってきたハンカチを引っかぶりながらゴメンマスター、もう勝手に物を壊しませんと言いながら震えているストラーフがハンカチの持ち主であるペリーヌに発見され、首を傾げられていた。



「それで、必殺技見つかった?」
「う~ん、いまいち………」

 夕飯の席で、向かい合った亜乃亜に音羽は難しい顔をする。

「ソニックダイバーにはD・バースト付いてないしね」
「一応ヒントらしい事は聞けたんだけど………」
「武装神姫にまで聞きに行ったけどね」
「そこまでしたの……」

 エリーゼがオカズのカツレツをやたら細かく切りながら呟き、隣のテーブルのエリューがスープカップを手にさすがに呆れた顔をする。

「未来に来ても、そうそう簡単に未来の技術でパワーアップっていかない物なんですね」
「食材がワープだかなんだかですぐに送られてくるのは驚いたが」

 厨房で話を聞いてたタクミが首を捻るが、料理長は送られてきた新鮮その物の野菜に技術格差を感じていた。

「なんでも規格も材質も違うから、下手に組み込めないって聞いたよ」
「マドカもそれで苦労してるって言ってたね」
「たしかにそれはありますね……」

 タクミが缶詰らしき物体、但し開け方が全く分からないそれの説明書を苦労して読みながらもなんとなく納得。

「無理にハードを追加しなくてもいいのでは? そうですね、テンションが足りないのではないでしょうか?」
「いや、トゥイー先輩みたいになられても………」

 礼儀正しい仕草で夕食を口に運ぶジオールだったが、亜乃亜を始めとした皆が戦闘時のやたらと好戦的なジオールの姿を思い出して僅かに頬が引き攣る。

「音羽、まだ言ってるの?」「気持ちは分からなくもないですが………」

 そこに遅れて夕食に訪れた瑛花と可憐が呆れや困惑の顔を浮かべながら夕食の注文をする。

「だって~、他のチームはどこもかっこいい必殺技持ってるし」
「だからって、ソニックダイバーで真似できる訳ないでしょ」
「そうそう、あちらから頂いたデータで造ったシミュレーション、明日あたりには完成しそうですから、完成したら即何セットかやっておくようにって冬后大佐から言われてます」
「う~ん、そこに何かヒントが………」
「しつこいわよ」
「参考くらいにはなるかもしれない」
「これ芳佳から昨日のデザートのお礼だって~」

 まだ諦めてない音羽に心底呆れる瑛花だったが、そこへ重箱を手にしたアイーシャとマドカが現れてそれをテーブルへと置いた。

「何々?」
「こっちはお饅頭、こっちはおはぎですね」
「ほ~、なかなか立派なモンだ」
「おいしい、これ」
「うわわ!? ティタ食べるのは皆で分けてから!」
「早くしないと全部食べられちゃう!」

 皆が中身を確かめている間に、二人の後ろから来たティタが端から口の中に入れていく。
 慌ててマドカや亜乃亜が制止に入り、そこに音羽やエリーゼが慌てて自分の分を確保していく。

「………何やってんだお前ら?」
「あ、冬后さんも早く!」
「ティタ、だからそんな食べたらダメだって!」
「……ああ、なんとなく分かった」

 食堂に顔を見せた冬后が、そこで行われている争奪戦に思わずため息を漏らす。

「仲がよくって結構な事だな」
「いがみ合ったり、無視しあったりするよりはな………」

 段々激しさを増していく争奪戦に、冬后は我関せずを決めてコーヒーを注文する。
 なお、この後遅れてきたメカニックメンバーも加わって更に壮絶な争奪戦が繰り広げられる事になった………



(……以上だ。理解した?)
(はい。理解しました)(条件に一致するマスターをサポートすればいいんだね)(そして作戦終了まで行動を共にする)(……共に戦うために)(んにゃ~、やってみるよ)(しかし、我々だけで大丈夫なのですか?)
(色々考えた結果、現状では最小限の影響で最大限の効果を出すにはこれしかなかった。これからメモリーを一部シールドするけど、時が来ればリリースされる。頑張ってきてほしい、これから出会うマスターと、仲間達のために………)

「うにゅ……う、ううん………」

 どこか間抜けな声を漏らしながら、アーンヴァルが起動していく。
 医務室のベッド脇に移動したクレイドルで目を覚ましながら、アーンヴァルは先程まで見ていた事を思い出す。

(あれは、確か………)

 まだ起動しきらない電子頭脳で考えながらベッドの方を見た時、そこが無人な事に気付く。

「………マスター、トイレですか?」

 状況を認識しきれない中、アーンヴァルは布団がちゃんと畳まれている事、そして用意してあった美緒の軍服が消えている事に気付き、一気に電子頭脳が覚醒する。

「まさか!?」



 まずは呼気を整える。精神を集中させ、手にした刀を正眼に構えた。

「ふっ!」

 鋭い呼気と共に、刀を振り下ろす。そしてゆっくりと腕を引きながら、次は刺突を繰り出す。
 動きが僅かに鈍い事を認識しながら、再度型を繰り返そうとする。

「マ~ス~タ~~~~~!!」

 そこへ大声を上げながらアーンヴァルが戦闘スタイルで急加速しながらすっ飛んでくるのに気付いた美緒は、手にした刀を一度下ろした。

「おお、起きたかアーンヴァル」
「何をしてるんですかマスター!」
「見ての通り、朝の訓練だ」
「どうやって医務室から出たんですか!」
「二日間も人の出入りを見てれば、なんとなく分かった。もっともずっと寝ていたから、やはり少し体が鈍っているようだな」
「ダメですよ病み上がりなんですから!」
「だから軽い型稽古くらいで…」
「せめて安岐先生の診察が終わってからにしてください! それまでこれは没収です!」

 アーンヴァルが怒鳴りながら、美緒の持っていた刀を奪おうとする。

「あ~、危ないぞ」

 美緒が警告するが、僅かに遅れて美緒の手から離れた刀が勢い余ってアーンヴァルの髪を一部切り落としながら地面へと突き刺さる。

「あ………」
「言わん事ではない。怪我はないか?」
「だ、大丈夫ですマスター………」

 流石に人間用の刀は重過ぎたのか、危ない所だったアーンヴァルが美緒の腕にすがりつきながら地面に突き立った刀を見つめる。

「坂本少佐~」「坂本さ~ん、どこですか~」
「ぬ、ペリーヌに宮藤か。どうやら朝の訓練はここまでのようだな」

 遠くから自分を呼ぶ声に美緒は地面に突き立った刀を引き抜くと鞘へと納める。

「それでは、安岐先生の回診が来るまで大人しくしててください、マスター」
「ああ分かった。こうも心配されるようではな」

 袖から肩へと来たアーンヴァルに諭され、美緒は苦笑しながら声のしてくる方向へと向かって歩き出す。
 そこでふと、アーンヴァルの髪を見る。

「後で誰かに整えてもらった方がいいな。生憎と私はあまり器用ではないのでな」
「そうですね」
「見つけましたわ坂本少佐!」「まだダメですよ坂本さん!」

 心配そうな顔でこちらに駆け寄ってくる二人に手を上げながら、ふと美緒は遠くを見た。
 その視線の先にある、今だ修理中の各艦の姿に美緒の目が僅かに細められる。

「せめて、元の世界に戻るまでの間は……」
「マスター?」

 アーンヴァル以外に、その呟きが聞こえる事は無かった………



「ふ~~~~」
「大丈夫か、マイスター」

 疲れ切った吐息を漏らすフェインティアに、ムルメルティアが声を掛ける。

「やっとカルナダインの改造とクルエルティアとエグゼリカの修理の目処が経ったからね~。もう次はこっちがフルメンテしてほしいわ」

 現状のレポートを攻龍に提出してきたフェインティアが、再度カルナダインのドッグに戻ろうとした所で、今だ地表上に広がったままの海の上に浮かぶボートと、そこから釣り糸を垂らしている冬后の姿に気付く。

「………何してるの」
「うん? 魚釣り見るのは初めてか?」

 声を掛けてきたフェインティアに首だけ向けた冬后が、それだけ言うと再度視線を竿へと戻す。

「釣り、原始的狩猟方ね。でも何か採れるの?」
「まあ待ってろ。今に大物を……」

 言葉に反して、水面に浮かぶ浮きはピクリとも反応しない。
 だがボートから少し離れた所で水音がしたかと思うと、そこからダイビングスタイルの音羽が姿を現した。

「おう桜野、そっちは?」
「底の方に少しありました」

 音羽はボートの方へと泳いでくると、そこに網とその中に入った貝やタコを持ち上げる。

「そうか、おっと来た来た~!」

 そこでようやく当たりが来たのか、冬后が勢いよく竿を引くと、結構なサイズの魚が一気に上がってきた。

「うお、なかなか!」
「タモ無いですか!?」
「そんなのは釣り上げた後だ!」

 暴れる獲物を何とか釣り上げようとする冬后だったが、釣られた魚は大きくジャンプしたかと思うと、針が外れてしまう。

「ムルメルティア」「了解した」

 魚が海面へと飛び込んだ瞬間、急加速で接近したムルメルティアがインターメラル 超硬タングステン鋼芯を魚へと叩き込む。

「うぉい!?」
「問題ない、出力を抑えてポイントも外して有る」

 一撃で仕留められた魚が水面に浮かび上がり、それを冬后がタモで引き寄せる。

「何、食料でも足りないの?」
「いや、違うな。これは研究調査用だ」
「研究?」

 冬后はボートにおいてあったケースを開くと、そこに音羽が採ってきた貝やタコ、それに先程の魚を詰め込んでいく。

「ついでだ、これをプリティー・バルキリー号に届けてくれ」
「私を何だと思って………」
「この海がいつの時代のどこの海かを調査するのにサンプルが必要なんだって」
「あ……なるほどね」
「さあて、今度こそちゃんと大物を」
「じゃあこっちももうちょっと」

 そう言いながら再度釣り糸を垂らす冬后と潜水する音羽に呆れながら、フェインティアはムルメルティアを伴ってサンプルを運んでいった。



「海水の成分、プランクトンの種類、サンプルの体内含有成分から胃の内容物、全てを比較検証してみた結果が出ました」
「………間違いないわね」

 プリティー・バルキリー号の一室で、エミリーから渡された各種サンプルデータを確認した周王が、こちらで用意したデータとほぼ同一な事を認識した。

「この大量の海水は、間違いなく私達がいた世界の西暦2084年前後、しかも攻龍がいたのとほぼ同一海域の物と見て間違いないわね」
「問題はあのエビ型ワーム、そちらで確認された事が無い個体という事ですね?」
「ええ。攻龍のデータバンクを徹底的に見直したけど、あれほどのワームはほどんと確認された事は無かったし、同型は皆無だったわ」
「おかしいですね………じゃあアレ、どこから来たんでしょう?」
「まったくの新種か、それとも………いえ、確証が無いわね」

 現状で確認された幾つものデータを並べながら、エミリーと周王は結論が出ずに唸りを上げる。

「ヴァーミスの撃退には成功したけど、何がしかのバックがあるのは確実のようらしいけど」
「エルナーが機械化帝国の方でも解析を進めてますが、正直検討もつかないそうです。これだけの複数次元に干渉できるなんて、どれだけの技術とエネルギーがいるんでしょうか?」
「生憎と、そっちは専門外ね。次元工学なんて、こっちではまだ理論体系も出来てないわ。宮藤博士はなんでか初歩を確定できてるけど」
「どの世界でも、技術が一部だけ不自然に発達してるのも特徴ですね。そちらのナノマシン技術、こちらの物と比べても遜色ありません、と言うかアイーシャさんの体に使われている技術理論は、私でも構築できるかどうか………」
「彼女はクリシュナム博士が文字通り命懸けで調整した娘だからね。あのレベルは恐らくこちらでもしばらくは…」

 そこでふと、周王は何かを思い出した。

「そう言えば、アイーシャがここに飛ばされる前に、何かを聞いたような事を言ってたわね」
「何かって、何ですか?」
「さあ………本人も確証が無いみたい。後で聞いてみるわ」
「そうしてください。それじゃあ次は…」

 何気ない会話が、後に重大な意味を持つ事になるのを、当の二人は知る由も無かった。



「あれ、誰か飛んでる」
「う~ん、同じ顔が二つ? ああそういえばエーリカさん、双子の妹さんも来てるって言ってたっけ」

 RVの微調整をしていた亜乃亜と、素振りをしていた音羽が格納庫の外に見える二人のウィッチの姿に互いに手を休めてそちらを見た。

「………あれ?」
「なんか……」

 程なくして、色々な飛行パターンを行う姉妹の動きの違いに二人は気付いた。

「なるほどな、双子って言ってもこういう違いもあるわけか」
「そりゃ双子だから言うても、なんでもそっくりなわけないやろ」「そやそや」

 双眼鏡を手にその様子を観察していた冬后の呟きに、嵐子と晴子が呆れながら首を縦に振る。

「片方の動きが鈍いんじゃなくて、片方の動きが良すぎるんだな。だからどうしても差が目立つ」
「それはそうでしょう。エーリカさんはトップエースだし、ウルスラさんはトップエンジニア、ウィッチでも畑が全然違いますもの」

 冬后のそばで同じく双子の飛行訓練を見ていたミーナがそう言いながら微笑。

「あ~、そう言えばそんな話だったっけ」
「あれ、じゃあ妹さんも参戦するの?」
「いいえ、何か思いついた事があるから、飛行時のデータを取りたいと言われてね。今向こうで宮藤博士が計測してるはずよ。きっと新型の開発ね」
「新型! そうかそれとゼロを合体させれば…」
「攻龍にそんな余裕無いぞ」

 新型の言葉に音羽が過敏に反応するが、冬后が一言で切り捨てる。

「そんな冬后さん……この星のすごい未来技術でゼロのパアーアップパーツを作るとか………」
「あのな、基礎設計から始めてどれくらいかかる思っとるんや?」
「ソニックダイバーはただでさえ調整の難しい機体なんや。そうほいほい新型だの合体だのはできひんで」
「うう~………」

 御子神姉妹に駄目押しされ、音羽は項垂れながら唸り声を上げる。

「音羽」
「んひゃあ!? ってアイーシャ……」

 いきなり気配も無く掛けられた声に、音羽が思わず素っ頓狂な声を上げるが、それはアイーシャだと分かると胸を撫で下ろす。

「音羽、聞きたい事がある」
「何? 私に分かる事?」
「この星に飛ばされる直前、誰かが何かを言っていた。音羽は聞かなかった?」
「飛ばされる時? う~ん………そう言えば、
何か聞いたような………あっ!」

 思わず声を上げた音羽に、皆の視線が集中する。

「どした桜野?」「桜野さん?」
「確かに聞いた! 気をつけて、あれは機械を統べるもの、って」
「おい、そんな話聞いてないぞ」
「いやその、すっかり忘れてて………」
「まあ、すぐにあの激戦じゃね。でも何それ?」

 照れ隠しに頭を掻く音羽に、亜乃亜も賛同。
 だが、その前の言葉を音羽は口に出す事をためらった。

(あの時確かに、音姉って私の事を呼んだ。あれは、まさか優希? でも……)

 行方不明になった弟の事を内心に隠し、音羽はその言葉の意味を考えていた。



「聞きましたか、玉華」
「ええ、先程報告を受けました」

 マシンクレイドルの最深部、皇帝の私室で余人を退け、厳重にプロテクトを施した上でエルナーと玉華は密かな会談を行っていた。

「機械を統べるもの、確かに音羽はそう聞いたそうです」
「でも、まさか………」
「私も信じられません。しかし、それならつじつまは合います」
「ですが、あれは神話の時代、時空の彼方に封じられた。そのはずです」
「間違いありません。私のもっとも古いデータにも、そう記憶されてます。だが、封じられただけ、倒されてはいないのです………」
「だとしたら、あれが復活したのなら、今の我々に対抗できる力は!」
「………今ある全ての力を結集させても、対抗するのはかなり難しいでしょう。それにまだ、確証があるわけではありません」
「この事は………」
「しばらく我々だけの秘密にしておきましょう。もっとも、明らかにした所で信じてはもらえないでしょうが………」
「ええ、何せ相手は、《神》なのですから…………」




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP24
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:b4edbee6
Date: 2013/04/01 21:29
「名前、ですか?」
「そうだ」

 その問いに、武装神姫達は顔を見合わせた。

「君達武装神姫は、起動と同時に幾つかのセットアップを必要としていたはず。一つはマスターの認識、そしてもう一つは命名による自己の認識だ。だが、話を総合すると君達はそのセットアップを行っていない」
「そう言われましても………」
「ボクらは最初からマスターを見つけて行動するようにってプログラムされてるよね?」
「名前も登録済みだ」
「……それ以外の事は何とも」
「いや、タイプ名の他に個別呼称を登録するはずなのだが………」

 武装神姫達の返答に、質問した副長が首を僅かにかしげて唸る。

「戦闘データの方はどうなっている? あれだけの戦闘力、実働データの蓄積無しでは不可能だ。マスター登録以前の事は本当に何も覚えていないのかね?」
「そう言われてみればそうですが………」
「でも何か覚えてる?」
「覚えてはいても、プロテクトされている可能性はある」
「……実状では何も問題ありませんし」
「そうか。ご苦労だった。持ち場に戻ってくれ」

 副長に開放され、武装神姫達がそれぞれのマスターの元へと戻っていく。
 その小さな後姿を見送ると、副長は質疑用に使っていた自室からブリッジへと向かい、タクミを介して通信を入れた。

「取り合えず、一通りは聞いてみた」
『お手間を取らせてすいません。当時の武装神姫の事を知っている方が他にいませんでしたので』
「まあ私の場合は直接扱っていた訳ではないが」

 通信相手のエルナーが礼を言うが、副長が謙遜しながら返す。

(それにしては詳しすぎるような………)(そういう事にしておきましょう)

 脇でそれを聞いていたタクミと七恵が内心思った事はそのまま心中に仕舞いつつ、通信が続けられる。

『それで、結果は?』
「基本スペックは雲泥の差だが、基本システムはかつての競技用武装神姫と同一と考えて間違いない。だが、何者かに初期設定及び実働データをインストールされている、と考えられる。そちらの推測にも当てはまるな」
『やはり………恐らくそれは彼女達を造った張本人でしょう。何者かは不明ですが、こちらのサポートのために送り込んできたのは間違いありません』
「つまり、何者かが我々の手助けをしている、と?」
『ええ、そしてその人物は今回の一連の件に深く関わっているとも考えられます。しかし、その情報を必要以上出さないようにしているとも考えられます』
「それがプロテクトの理由か……だが何故?」
『………推察は出来ますが、まだ確定はできません。ただ、今後事態が変化した時にはっきりするはずです』
「悪化しなければいいのだがな」
『そこまではなんとも………』
「誰かが味方をしてくれている、それでよしとすべきではないかな」
「ですが……」
『私もそう思います。全面的とは言えませんが、武装神姫達の存在は確実に皆をサポートしています。今後も必要な事は間違いありません』
「そうか………」

 それまで黙って通信を聞いていた艦長が口を開き、副長は思わず唸るが、エルナーも賛同した事で納得せざるを得なくなる。

『そうそう、白香から転移装置の設置が予定よりも早く進んでいるとの連絡がありました。数日中に実験に取り掛かれそうです』
「本当か!?」
『ええ、オペレッタとの転移座標確定が終われば、あなた方はすぐにでも元の世界に戻れます』
「まずは一安心、と言った所か………」
「全くです。一日でも早く本来の任務に戻らねば」
『他の問題もあれこれありますが、まずは皆さんが無事に元に戻れる事は優先事項ですからね。それではこれで』

 エルナーからの通信が途切れ、ブリッジにいた者達が胸を撫で下ろす。

「いやあ、元の世界に戻っても、地球じゃない惑星に跳ばされたなんて、誰に言っても信じてもらえないでしょうね~」
「確かに」
「それ以前に軍機扱いになるだろう」
「いや、G関連の情報は更にその上の最高機密扱いになる可能性が高い」
「うわあ、じゃあ誰にも言えないわけか………」
「今言っても信じてもらえないって言ってたじゃないですか」

 タクミが思わず呟き、七恵が吊られて小さく笑うが、副長と艦長の言葉に更にぼやきが洩れる。

「G関連のレポートは将官クラスでも簡単には閲覧できない。もっとも今回の件で多少は閲覧許可が下りるかもしれないが」
「今の状況を鑑みるに、見ない方が身のためかもしれませんな」
「亜乃亜さん達に聞けば分かるんじゃないですか?」
「それこそ最高機密だろうけど」
「おじゃましま~す」
「回覧で~す」

 そんな話をしている中、当の亜乃亜と音羽が情報端末を手にブリッジを訪れる。

「これ皆さんに」「七恵さん達もどうぞ」

 手渡された情報端末に書いてある事を読み上げた皆が、顔をしかめたり驚いたりとそれぞれの反応を示す。

「何だねこれは」
「書いてある通りですけど」

 副長の問いかけに、音羽はストレートに答える。

「お茶会開催について。明日、各員の交流と慰労を兼ねてお茶会を開催したいと思います。参加は自由、持込その他も自由、各員こぞってご参加下さい………」
「主催はヴィルケ中佐とエリカさんになってますね」

 書かれている事をタクミが読み上げ、七恵もそれに続く。

「都合がついたら参加するとヴィルケ中佐に伝えておいてくれ」
「分かりました!」
「艦長、よろしいので?」
「交流と慰労目的とあれば、無下に断るのも失礼だろう」
「それじゃあ伝えてきま~す」「あと知らせてないのどこだったっけ?」
「あ、僕もちょっと親方と相談を」

 騒がしい二人に続けて、タクミも何か作ろうと思ったのか食堂へと向かっていく。

「そう言えば、ミーナさんが部隊でよくお茶会開いていたって言ってましたね」
「それをここでもやろうという訳か」
「考えてみれば、まともに自己紹介している暇も無かったか」
「あ、確かに………」

 忙しさのために忘れていた事を今更ながら思い出した七恵が、手を一つ叩くと何かを思いついたのかある作業に取り掛かる。

「どのようなお茶会になるのやら………」

 何か一抹の不安を抱いた副長の呟きは、あながち的外れでも無かった。



翌日

 茶釜から湧いたばかりの湯が抹茶の入れられた茶碗へと注がれ、無駄の無い手つきで茶が立てられる。

「粗茶ですが」
「いただこう」

 お茶の佳華の名の通り、銀渓流茶道の腕を遺憾なく発揮し一切の無駄なく立てられた茶を艦長は受け取り、一口飲むと隣へと回す。

「こんな所で本格的な茶道をたしなめるとはね」

 受け取ったジオールが優雅な動作でお茶を飲み、また隣へと回す。

「こういう心得のある人はこちらにはいないわね」

 半ば見よう見まねでお茶を受け取ったミーナが残りを飲み干し、空になった茶碗を佳華へと返す。

「いえ、ちゃんと受けてもらえる人がいて嬉しいですわ。まあそちらの方々はともかく」

 茶碗を受け取りながら、佳華が茶席の隅、茶道にチャレンジしようとして、その前に足の痺れでギブアップしている面々を横目で見つめる。

「うう、足が……」「なんでお茶飲むのにこんな事しなくちゃいけないの!」「トゥルーデ、手貸して………」

 亜乃亜、エリーゼ、ハルトマンが呻く中、仲間達が何とか助け起こして用意されているテーブルへと引きずっていく。

「点心できたアルよ~」
「紅茶お代わりあります」
「ミルクは?」
「こちらもまだありますよ」

 和・洋・中どころか、皆がそれぞれの国のやり方で様々な茶が茶菓子が用意され、皆が思い思いにお茶会を楽しんでいた。

「なんだか、ちとカオスなお茶会だな」
「皆楽しんでいるからいいのでは?」

 七恵の提案で、胸に名前や所属部隊、階級か通り名の印刷されたネームプレートを付けた冬后のそばで、宮藤博士が娘の用意したおはぎに口へと運ぶ。

「こういうの付けてると、お見合いパーティーにでも出席してる気がするけどな」
「そちらだとそういう風に見合いをするので?」
「年収聞いてこないだけマシか? いやそうでもないか………」
「これもそれもおいしいですぅ~」「うんおいしい」「ルッキーニの分も!」
「わあ! ユーリィ食べ過ぎ!」「他の人の分も残して!」「あまり501の恥を晒すな!」

 冬后の視線の先、お茶菓子を絨毯爆撃がごとく次々と平らげていくユーリィ、ティタにルッキーニまで加わり、他の者達が慌てて止めに入る。

「なるほど、剣の師は祖父か」
「はい。お父さんも強かったらしいんですけど、私が小さい時に亡くなって………」
「資料で見たが、いい太刀筋をしている。君の祖父の教え方は良かったようだな」
「えへへ、そうですか?」

 美緒と音羽が向かい合って剣術談義に花を咲かせる。

「へえ~、皆さん同じ学校に通ってるんですか」
「うんそう。そう言えばウィッチの人達って学校は?」
「人によりけりですね。退役してから復学する人もいますし」
「私も今大学休学中です」

 芳佳、亜乃亜、リーネ、可憐が学業について雑談を交わす。

「芳佳ちゃんは将来お医者さんになるんだって」
「いや~、家が代々診療所やってるから、その後継ぎたいな~って」
「立派だよ。私はまだ進路なんて考えてないし」
「私は研究の方に行ってみたいと……しばらくは先の話ですけど」
「むう……結構しっかり考えてるんだ……」
「進路相談だったら聞くわよ~、一応教員免許持ってるし」

 悩む亜乃亜に、後ろのテーブルで舞が声を上げる。
 後で光の戦士全員から、あれはダメな例だと教えられ、妙に納得する事となったりした。

「つまり、四機同時運用が条件という事か」
「ええ、それによってソニックダイバーはもっとも性能を発揮するようになってるわ」
「相手が大型中心なら、その運用は間違ってないわね」
「RVは個体性能が高いから、ユニット全機出撃ってのは少ないわ」
「ウィッチの場合は、二機、もしくは三機編成を常としてだな…」

 お茶会とは思えない真剣な顔で、バルクホルン、瑛花、ミサキ、エリューが各部隊の戦術運用について論議を重ねている。
 ちなみにその周囲では興味深そうに聞き耳を立てる者と、逆に離れていく者とで二分していた。

「う~ん、教皇の逆位置、これは多様性を意味してるナ」
「うんうん」
「皇帝の正位置、リーダーを意味してる」
「それでそれで?」
「戦車の正位置、勝利の意味ダナ。つまり、皆をまとめて戦う事が勝利に繋がるって事ダ」
「………あの~、恋愛運とかは?」
「出てないゾ」
「そんな~! もう一回!」
「ちょっとユナ! 順番よ!」

 エイラの座るテーブルには、なぜか行列が出来て、タロット占いの順番待ちとなっていた。

「……なんでこうなってるんダ?」
「タロットが珍しいんだと思う」
「ここまでせがまれたの初めてダ………」

 すでにぬるくなっているエイラの紅茶を新しいのに変えながらサーニャが笑い、エイラは渋い顔をしながらタロットをシャッフルする。

「それジャ、次の人~」

 投げやりなエイラの前に、意外な人物が座る。

「あれ、お前カ?」
「うん、お願い」

 相変わらず表情の読めないアイーシャに、エイラが首を傾げる。

「占いに興味あるなんて知らなかった」
「興味じゃない。けれどウィッチの能力に興味はある。参考として」
「後で文句いうナヨ。それデ、何を占ってほしい?」
「これから私は何をすればいいのか」
「これから?」

 サーニャも小首を傾げる中、エイラはシャッフルしたタロットを並べ始める。

「え~と………うン?」

 タロットをめくり始めた所で、エイラが顔をしかめる。

「どうかした?」
「いヤ………何を言っても怒るナヨ?」
「怒らない」
「そうか………運命の輪の逆位置、これは不運を意味してル」
「うん」
「塔の正位置、トラブルや状況の悪化ダナ」
「うん」
「力の逆位置、無力を意味してル……」
「うん」
「……ここまでひどい結果は見た事が無イ」
「うん」
「ちょっと! なんでアイーシャのがそんなにひどいの!」

 ようやく足のしびれから復活したエリーゼが、エイラの占い結果に横槍を入れてくる。

「そんな事言われてモ……」
「もう一回やり直しなさい!」
「いやいい。後ろが混んでいる」
「あんま気にしない方いいぞ~」

 なおも異論を唱え続けるエリーゼだったが、アイーシャはあっさりと席を立ち、後ろのテーブルでどこから用意したのか極彩色のマシュマロを小型コンロであぶっていたシャーリーが声を掛けてくる。

「エイラの占い、当たるかどうか分かんないし」
「……そうなのですか?」
「まあ、当たる時は当たるんだけど、それ以外はどうも曖昧で」

 焼けたマシュマロを頬張りながら呟くルッキーニに、マシュマロを串に刺していく飛鳥が首を傾げ、シャーリーは苦笑する。

「……その割には、皆さん並んでますが」
「占いが珍しいんだろ」
「ちょっとまだ~?」「順番です」「占いってトリガーハートでも見てもらえるんでしょうか?」

 種々の目的、もしくは興味本位で順番待ちしている行列に、シャーリーは呆れながらマシュマロの焼き具合を見ようとする。

「これもおいしいですぅ~」「うん」

 なお、余所見した僅かな間に、マシュマロは全てユーリィとティタによって消失していた。


「これをここに…」
「攻め方が甘いです」
「一気に攻めれば!」
「守りが出来てませんよ」
「何をしている、陣形を維持する事を優先すれば」
「戦況の先を読まなくてはなりません」

 誰が用意したのか、一つのテーブルにチェス板が三つ、それぞれアーンヴァル、ストラーフ、ムルメルティアが陣取り、それを鏡明一人が相手していた。

「それでは、チェック、チェック、チェック」
「あ」「う」「ぬ」

 三人同時にチェックメイトされ、神姫達が声を上げる。

「また負けました………」「そんな~」「すまぬ、もう一度!」
「いいですよ」

 余裕の鏡明相手に、三人の神姫は再戦希望し、そしてまたあっさりと破れる。

「あなた方は戦闘データはあるようですが、それを全然活用出来てません。これがその証拠です」
「完敗です………」「おかしいな~、途中までは優勢だったのに~」「誘い込まれたのだ。残念ながら、戦術蓄積は彼の方が圧倒的に上だ」
「3対1でなんて様よ」

 途中からそれを見ていたフェインティアが呆れるが、神姫達が一斉にそちらへと視線を向ける。

「そう言われても、やはりデータの蓄積が違います」「なんなら、自分でやってみたら?」「そもそもマイスターはチェスを知っているのか?」
「似たようなのなら、チルダのスタッフがやってたわ。私もやった事あるし」
「ならば一局どうですか?」
「ふふん、見てなさい」

 鏡明の誘いに、フェインティアが意気揚々と席に座る。
 だが、30分と経たずしてキングが盤上から消えた。

「あれ?」
「悪くはないですな」
「も、もう一回!」

 フェインティアの剣幕にギャラリーが集まってくる中、再度対局。
 今度は15分と掛からずにキングが消える。

「………なんで?」
「あなたは個々の能力に頼り過ぎです。相互的に駒を使わないと、隙が生じます」
「ぬぬぬぬ………」
「当たってるわね」「こういうゲームは性格が分かるそうだから」「確かにね」
「そこうるさい! もう一回よ!」

 後ろで囁いていた瑛花、エリュー、ポリリーナに怒鳴り帰し、フェインティアが駒を並べ直して再戦しようとする。

「そんなに頭に血が上っていたら勝てないわよ」
「血なんて通ってないわよ。生体リキッドなら潤滑してるけど」
「いや、そういう意味じゃなくて。ちょっといいかしら」

 明らかに激昂しているフェインティアに替わって、ポリリーナが席へと座る。

「一手お願いしてもよろしいかしら?」
「もちろん構いませんよ」

 にこやかに両者の対局が始まる。
 的確に駒を進めてくる鏡明に、ポリリーナは守りに徹したかと思うと、即座に攻撃へと転じてくる。

「ほう、なかなかやりますね」
「そちらも」

 手堅くポーンを前衛に押し出し、着実に陣形を縮めてくる鏡明に、ポリリーナはルークとナイトで背後を突こうとしていく。

「機動性重視ね」「大胆な打ち方するわね~」「でも面白いですわよ」「戦術的にはどうかしら?」

 いつの間にかギャラリーは更に集まり、瑛花、ミーナ、ジオール、クルエルティアと各部隊のリーダー達がポリリーナの真後ろで真剣にチェス板を見詰めていた。

「そちらに助言しても構いませんよ。私も持てる知識をフルで使わせてもらいます」
「随分と余裕ね」「私達と戦歴が世紀単位で違うでしょうからね」「あの、お幾つなんですか?」「多分、年齢という概念その物が違うと思います」

 余裕その物の鏡明に多少の不満と違和感を感じつつ、結局五人がかりで盤上を凝視する。

「そうね、貴女ならどうする?」
「え? あの、私はルールを知ってるくらいで……」

 いきなり話を振られて瑛花が困惑しながら、ルークを一つ手に取り、前へと進める。

「なるほど」

 鏡明はそれを見るとナイトを動かし、ルークの動きを封じようとする。

「だったら、こうね」

 今度はミーナがこちらのナイトで今動かされたばかりのナイトを取る。

「ふむ」

 しばし黙考した鏡明は、ビショップを退かせる。

「退くのなら、容赦なく攻めさせてもらいますわね」

 ジオールがビショップで敵陣へと切り込む。

「退くのもまた手ですよ、次に攻めるために」

 鏡明は空いた穴を逃さず、一気にクイーンを進ませてきた。

「なら、こちらは更に食い込むまで」

 クルエルティアがこちらもクイーンを進ませ、相手のキングの間近まで進める。

「機動力に頼りすぎるのは危険ですよ」

 すると鏡明は控えておいたポーンで逆にクイーンを狙ってくる。

「だったら、周りでカバーすればいいだけね」

 ポリリーナがポーンを前に進ませ、クイーンを狙っていたポーンを取る。

「なるほど、これがあなた方の闘い方というわけですか」
「互いの長所で攻め、足りない所を互いに補う。この前の闘いも、そしてこれからの闘いもそうなるでしょうね」
「これから?」

 ポリリーナの一言に、瑛花が僅かに首を傾げたが、他の者は聞き逃すか、もしくはその真意に気付いていたがあえて口には出さない。
 対局はその後も白熱したが、戦歴の差を埋めるには至らずに鏡明の勝ちとなった。

「結構いい所までは行ったのだけど……」
「それは認めますよ。もう少し、皆さんの能力をよく理解しておくべきでしょう」
「それは今、やってます」

 奮戦の痕跡残る盤上を見つめるポリリーナに鏡明が助言をするが、ミーナは微笑しながら入れなおされた紅茶を口に含む。
 ミーナの言葉どおり、他のテーブルでは茶と菓子を手に、それぞれが部隊や時代の垣根を越えて雑談や論議、またはこのテーブルと同じくゲームに熱中している者達の姿があった。

「なるほど、このお茶会は成功のようですね」
「まあ、一部を除いては」
「それは、ひょっとして後ろの事かしら」
「多分………」

 ミーナが言葉を濁す中、ポリリーナとジオールがゆっくりと背後へと視線を向ける。
 そこには、用意された茶菓子の半分以上を平らげながらも、なおも食欲が衰えないユーリィとティタの姿があった。

「一体どういう消化器してたらあんな……」
「私にも分かりません。ユーリィさんの有機処理能力はトリガーハートよりも遥かに上だという事は確かですけど」
「ティタの方は元からああいう子だから」
「パラレルワールドと言っても、食欲という点は変わらないみたいね」
「追加だよ~」
「もっと食べられるですぅ~♪」「いただく」「これも美味しそうだよ♪」「ちょっとこっちの分も残しておきなさいよ!」

 マドカが新たに運んできたババロアにいまだ食い足りない面々が群がっていき、各リーダー達はいささか肩身を狭くしつつ、無言で紅茶をすする事となった。


「なるほど。ここ以外でも所属不明の敵機が確認されていたと」
「機械化惑星での攻防が終わって以降、かなり少なくなっているわ。この惑星を拠点にしての侵略、そのための偵察行動と見ているけど」
「そう考えるのが妥当でしょうね」

 一つのテーブルを挟み、緋月とミサキが情報交換をしながら、紅茶をすすっている。
 だが、両者の雰囲気は他のテーブルとは明らかに違い、ミサキに至っては敵意すら篭った雰囲気を漂わせていた。

「……それで、先程から私を監視している理由はなんでしょうか?」
「分かってるようね。そちらのメンバーのデータは一通り目を通したし、この目で確認もしてる。その中で、一番危険だと思った人物が今目の前にいるわ」
「その理由は?」
「昔の私と同じ目をしてるからよ。命令さえあれば、手段を選ばない人間の目をね」
「………なるほど」
「冬后大佐からも、貴方には気をつけろと言われてるわ。そちらの世界ではそういう判断も必要だったのかもしれないけれど、ここは私達の、そしてユナの世界よ。あまり貴方をこちらに、特にユナには近づけさせたくないの」
「彼女の潜在能力については、確かに興味はありますね」

 緋月の一言に、ミサキはティーカップをソーサーに戻すと、ゆっくりとその手が懐にある何かを掴む。

「ご安心ください。今はこちらだけで手一杯ですから。それに、作戦への復帰が最優先目的です」
「……本当にそれだけなら、いいわ」

 そう言いながらも、ミサキの手は懐から出る事は無い。

「ねえねえ、ミサキちゃんさっきからあのクールな人とずっと一緒だよね」
「ああいうのが好みなんじゃない? いい趣味とは言えないけどね~」
「あの、確かに緋月少尉は少し付き合いにくい人ですけど………」

 両者に漂う殺気に全く気付かないユナと舞が少し離れたテーブルで話し合うのを、可憐が困った顔をしながら補足する。
 一部から妙な誤解を受けつつも、当の二人は茶会が終わるまで、その場を動く事は無かった。


「ま~ったく、このパーフェクトな私が何だってこんな所でこんな事に………」
「鏡明様は三賢機のお一人ですからね。頑張られた方だと思いますよ」
「残念ながら、戦術理論では私でもマイスターでも敵わない」

 チェス惨敗という結果に、テーブルに突っ伏してうなだれているフェインティアに、白香が機械人用のお茶をムルメティアの分も含めて勧めていた。

「ヴァーミスに捕まって以来、ロクな事が無いわ………脱走に成功したかと思えばドコかも分からない宙域に転移するし、原住知性体は妙な連中ばかりだし、いきなり飛ばされたかと思えば偽者は出てくるし………」
「確かに、不運と言えば不運ですけど………」
「で、チルダに戻れる方法はまだ分かんないの?」
「オペレッタさんとも色々調べてみたんですが、まだトリガーハートの皆さんのいた時空の特定は出来ないそうです」
「このまま帰れなかったどうしよ………」
「なら、この星に住んでみてはどうでしょうか?」

 いきなりの声にフェインティアが突っ伏したまま顔をそちらに向けると、そこには公務の合間を縫って訪れた玉華の姿が合った。

「玉華様! 今お茶を用意いたします」
「ええ、お願いできるかしら」

 白香が慌てて茶器を用意する中、玉華はフェインティアの隣へと座る。

「この星ね~、確かにここならトリガーハートも目立たない存在かもしれないけど」
「あなたの偽者には随分と手を焼きました。それを撃退してくれたお礼と言うのも何ですが、それなりの役職を用意する事もできます」
「う~ん、条件としては悪くないかもね。前提条件がアレだけど………」

 玉華の出した待遇に、多少立ち直ったフェインティアが腕組みして悩む。

「でも、地球も結構いい所ですよ」

 そこへ茶菓子を手にしたエグゼリカが玉華とは反対の席へと座る。

「そお? 正直地球にはあまりいいイメージないんだけど」
「ファーストコンタクトのアレは挑発したマイスターにも非があると思うのだが」
「それだけじゃなくて、色々とね」
「攻龍の人達に聞きましたけど、短い期間、しかも水上船の上だけだと、分からない事の方が多いんじゃないですか? 私と姉さんは地球にいる間に地球が好きになりましたけど」
「そうですね。地球はいい星ですから」
「本当に~?」

 白香の入れた茶を手にしながら、エグゼリカの言葉を肯定する玉華に、フェインティアは大きく首を傾げる。

「疑り深いな、マイスター」
「あんな恥辱にあった星の事好きになれって言われてもね」
「え?」
「いやこっちの話」

 攻龍の浴場であった事をすでに冷め始めた茶で強引に飲み込み、フェインティアは一息入れる。

「今後の事を考慮するのは、作戦が完全に終了してからでもいいだろう」
「作戦?」
「それは………」
「いや、何かそう思っただけだ」

 ムルメルティアの奇妙な発言に、他の三人は顔を見合わせる事となった。


「皆さん楽しんでいるみたいね」
「お茶会としては成功といった所でしょうか。まあ若干の問題に目を瞑ればですが」

 ミーナが誰が持ってきたのか分からない極彩色の奇妙なお茶を平然と飲む中、エルナーが若干の問題(※食い尽くされていく茶菓子や占い結果への異論)をスルーしてミーナへと向き直る。

「順調ならば、早ければ一週間以内に攻龍は元の世界に戻れるかもしれません」
「順調ならば、ね………」
「ええ」
「そうは行かない可能性もある、と取っていいのかしら」

 エルナーの言わんとする事を、ミーナの隣の席に座りながらクルエルティアが呟く。

「ヴァーミスとワーム、異なる世界の戦力まで投入して苛烈な攻撃をしかけてきた存在が、ここ最近一切何の活動もしてきません」
「諦めた、とは言えないわね」

 クルエルティアの反対隣に、瑛花が座りながら述べた言葉にエルナーが静かに頷く。

「敵の目的が何なのか、そもそも何者なのか、それすら私達には分かりません」
「分かっている事は二つ、G以上にマルチバースへの転移能力を持っている事。そして機械敵性体への強力な干渉能力を持っている事」

 ジオールが抹茶の入った茶碗を手に、ミーナの向かい側の席へと座る。

「もう一つある。明らかに我々に興味を持っているという事だ」

 ジオールの隣に座りながら、美緒が飛ばされた直後の事を思い出す。

「それならば、私の屋敷が襲撃された事にも説明がつきますわ。ちょうどあの時はエリカ7とお茶会の最中でしたし」

 エリカが美緒の隣に座りながら、そばにいたミドリにお茶のお代わりを持ってくるように頼む。

「私達を観察しつつ、攻撃をしかけてきている。目的は分からないけど、私達は前の闘いで総力を出して撃退には成功した」

 ポリリーナが手近のテーブルから空いていたイスを引き寄せ、空いているスペースへと座る。

「次に相手が何をしてくるのか、はっきり言ってしまえば想像もつきません」
「ただ一つ、私達を目標にしてくる可能性は高いと言う事だけは確かね」
「それが何か、何が来るのか」
「想像も出来ないわ………」
「正確には想像を上回る事をしてくる、という事では?」
「確かに、私ではもう何が起きるかすら分からないな」
「何が起きるか、ではなくてどう対処するか、ではなくて?」
「何が起きるかも分からないのでは、対処方法も決めようもないわ」

 テーブルに座った面々が、全員がうつむいて熟考するが、結論は出ようはずも無い。

「あ、いたいた。ポリリーナ様~、それに皆さんもユーリィに食べられる前にどうぞ♪」

 そこに場の空気を一切読まず、死守してきた茶菓子をユナがテーブルにどさっと置いた。
 いきなりの事に皆が呆気に取られる中、ユナはそれを皆の前へと配っていく。

「さあさあ、早く食べないと、ユーリィに見つかっちゃうから」
「………ぷ」「はは」「ふふふ……」
「どうかしたかな?」
「ユナは相変わらずね。今真剣な事話してた所だっていうのに」

 誰ともなく思わず吹き出し、やがて一人、また一人と笑いが洩れていく。
 ユナが首をかしげる中、エリカも小さく笑いながら説明する。

「今後の対応について、あなたは何か考えてる事は?」
「対応って言われても………どうにかなるんじゃない?」

 毒気を抜かれて茶菓子に手を伸ばしながらの瑛花が問うが、ユナの返答に思わず手が止まる。

「どうにか、って何を根拠にしてるのかしら?」
「だって、私達もいるし、芳佳ちゃん達ウィッチも、エグゼリカちゃん達トリガーハートも、それに音羽ちゃん達スカイガールズも亜乃亜ちゃん達の天使の人達も、武装神姫の子達だっているし。これだけいたら、何が来たって怖くないよ♪」

 ジオールが優しく問いかけると、ユナは笑いながらそう答える。
 しばしの間があった後、全員の口から一斉に爆笑が洩れた。

「あれ? 何か変な事言ったかな?」
「いや、全くの正論だ。私とした事がそんな簡単な事に気付かんとはな」

 美緒が一際大きな笑い声を上げながら、ユナの方を見る。

「そうね、これだけの戦力がそろってるのなら、何も怖い事なんて無いわね。せっかくのお茶会だから、難しい話はここまでにしましょう」
「それもそうね」
「そうしましょう」

 ミーナが手を一つ叩くと、皆もそれに賛同していく。

「やっぱり、ユナにはみんな敵わないなね」
「ポリリーナ様、何か言いました?」
「なんでもないわ。それじゃあいただくわね」

 相変わらず首を傾げているユナに、ポリリーナはどこか安堵しながら、茶菓子へと手を伸ばした。


「う~む………」
「副長はお茶会に行かないのですか?」

 攻龍のブリッジで、当直をしながら何かを見ている副長に、仕事が残っているので早々に切り上げて作業をしている七恵が話しかける。

「私がいてはくつろげんだろう。それに気になる事が有ってな」
「気になる事?」

 副長は唸りながらも、録画しておいた武装神姫との質疑応答を何度も見直していた。

(なぜここまで強固にプロテクトを施す必要がある? 敵にも味方にも明かせない何かを神姫達は記録している? それは何だ?)
「御免、少しよろしいだろうか」

 そこへ、ブリッジに剣鳳が入ってくる。

「あら剣鳳さん、何か御用ですか?」
「嶋副長に、少し伺いたい事があってな」
「私に?」
「うむ、エルナーから副長が武装神姫について詳しいと聞いてな」
「私が知っているのは、おもちゃの方ですが………」
「それなのだ」

 そう言うと、剣鳳は眼前に手をかざして虚空に幾つかのデータを表示させていく。

「これはこちらの技術で武装神姫を解析した結果だが、あえて既存の武装神姫のデータに沿って作られているような痕跡がある」
「つまり、彼女達はオリジナルをオマージュされて作られていると?」
「何者かは分からぬが、武装神姫を作り上げた者は相当な技術力を持っている。だが、あえてこのような形にしたのは何らかの理由があるのでは無いかと思った物でな」
「理由………」
「親しみやすさじゃないですか?」
『!』

 脇で二人の話を聞いていた七恵の一言に、二人の老将は虚を突かれたように七恵の方を見た。

「それはどのような意味で?」
「あ、いえ。こちらで初めて武装神姫を見た時、副長が説明してくれなかったら、もっと怪しい物に見えたんじゃないかな~と思いまして………」
「……言われてみればそうかもしれん。今までその事に気付かなかったとは」
「それともう一つ。これはごく一部の者にしか教えてない事なのだが」

 剣鳳はそう言うと、別のデータを表示させる。
 そこには、ある複雑な方程式が表示されていた。

「これは?」
「こちらでは馴染みある物、ワープ理論方程式だ。これが武装神姫達のプロテクトの冒頭に書かれていた」
「へ~、何が何だか全然分かりませんけど」
「これが冒頭にあるという事は、別の意味がある」
「それは?」
「ワープ理論形成初期の頃、ワープの危険を示唆するためにこの方程式を表示していた事があった。つまりこれは、プロテクトへの干渉がなんらかの危険を伴う事を意味してるのかもしれん」
「……そこまでとは」

 剣鳳からもたらされた武装神姫の秘密に、副長は思わず絶句してしまう。
 だが構わず剣鳳は続けた。

「これらのデータとそちらからの話、総合すれば武装神姫達は次元間に影響を最小限にしつつ、マスターとなった者をサポートする事を目的としているのではなかろうか?」
「理論的にはよく分かりませんが、そうなるでしょうな」
「一体どんな人が作ったんでしょう?」
「こちらを助けようとしている者だという事は分かる。そして」
「そして?」
「プロテクトが解けていないという事は、何らかの対処とも思える。つまり、今後何かが起きる可能性が極めて高いという事かもしれん」
「………素直には帰してもらえないという事か」
「ええ!?」
「あくまで可能性の話だ。有事の際は、我々は全面的に協力しようぞ」
「その時はお願い致します。もっとも起きない方がいいのでしょうが」

 そう言いながら副長が差し出した手を、剣鳳が力強く握り返す。
 だが、その有事が予想だにしない形ですぐそこまで迫っている事に、気付く者はいなかった………



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP25
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:f8f13963
Date: 2013/07/08 19:59

「当該目標、全交信パターンを確認」
「α、β、θ、δ、各レベルに設定」
「作戦目標は各ユニットのデータ入手及び無力化」
「作戦開始まで2:00………」



「五番アンカー、出力上昇」
「水平を維持、速度微速」

 攻龍の船体が重力アンカーに支えられ、ゆっくりと整備用船台へと移動していく。

「う~む、クレーンも無しにあれだけの物が宙を浮くというのはな」
「見ていて少し恐い物があるわね」
「今の時代はコレが普通よ。クレーンにもワイヤーが付いてないでしょ」

 攻龍が移動させられるのを見ていたバルクホルンと瑛花が呟いたのを、後ろを通りかかったミサキが答える。

「最初は壊れているのかと思った」
「私も……」
「トリガーハートのアンカーの方がもっと進んだ技術で造られてるわ。出力的には今動いてる工業用アンカーと同等かそれ以上よ」
「なるほど、道理で同じように投げようとしてもうまくいかない訳だ」
『え?』

 さらりとバルクホルンが言った事に、思わず二人がそちらに振り向く中、重々しい音を立てて攻龍が船台にセットされる。
 先だって急ごしらえのハンガーに収納されているプリティー・バルキリー号、カルナダインと並び、三隻の母艦がその船体を露にしていた。

「こうやって見ると、改めて技術格差ってのが分かるな………よく共闘出来たモンだ」
「案外、下手に考えるよりも体が動くタイプの人達だったから上手くいったのかもしれませんね。それなりの微調整は必要でしょうが」
「それがオレらの仕事か」

 水上戦闘艦、宇宙航行艦、トリガーハート支援艦と三艦三様を見た冬后が呟き、エルナーもそれに共感する。

「ようし、取り掛かれ~!」

 大戸の指示の元、待ち構えていた機械人、攻龍双方の整備スタッフが攻龍の点検整備に取り掛かる中、そのそばに人垣が出来始めていた。
 作業中に足を止める者、興味本位で場所取りをしていた者、その他諸々の人垣は、その中央で対峙する二人の女剣士に熱い視線を注いでいた。

「ガンバレ音羽!」「頑張ってください音羽さん!」
「お~し」

 エリーゼと可憐の声援を受けながら、音羽は気合十分に竹刀を正眼に構える。

「少佐! 頑張ってくださいまし!」「坂本さん! まだ無理しちゃダメですからね!」
「もうそこまで心配される程でもない」

 ペリーヌと芳佳の声援を受けながら、美緒は竹刀を下段八双に構えた。

「それでは、お二人とも準備はいいかしら?」
「はい!」「いつでもいいぞ」

 音羽の少し強引に提案された両者の試合に、審判を買って出たジオールが両者を交互に見ると、片手を上げる。

「それでは、始め」

 開始の合図と同時に手が振り下ろされる。

「でああぁぁ!」

 開始と同時に、音羽が気合と共に一気に間合いを詰める。
 そのまま上段から一気に竹刀が振り下ろされるが、美緒は構えを崩さないまま、僅かに後ろに下がってその一閃をかわす。

「力が入りすぎているな」
「まだまだ! たああぁ!」

 追撃とばかりに音羽は横薙ぎの一撃を繰り出すが、美緒は手にした竹刀でその軌道をずらして回避する。

「もっと相手をよく見るんだ」
「はいっ!」

 音羽は矢継ぎ早に竹刀を繰り出すが、そのすべてがかわされ、受け流され、防がれる。

「予想はしてたけど、それ以上ね」
「音羽もかなりの腕だけど、美緒は更にその上をいってるわ。戦歴の違いが如実に出てるようね」

 冷静に試合を観察していた瑛花とポリリーナが、端的に感想を述べる。

「はあ、はあ………」

 体力には自信のある音羽だったが、焦りが出たのか、呼吸が荒くなってくる。
 それに対し、美緒は息一つ乱してなかった。

「そろそろ、こちらから行くぞ」

 宣言と同時に、鋭い一撃が音羽を襲う。
 とっさに竹刀をかざしてその一撃を受けた音羽だったが、竹刀越しに伝わってきた衝撃に一瞬呼吸が止まる。

(重い! おじいちゃん並か、それ以上!)
「次っ!」

 下段からの切り上げを音羽はなんとか捌いてかわすが、それでも手に衝撃が伝わってくる。
 攻防転じての美緒の攻勢だったが、音羽は一撃一撃を受け止めるか弾くので精一杯だった。

「改めて見るとすごい腕ですわね」「一撃のエネルギー量がまるで違うわ。同じ武装とはとても思えないわね………」

 エリカとフェインティアが美緒の剣の腕に素直に感嘆する。
 手数こそ音羽に比べて少ないが、一撃の鋭さと重さは丸で違う。
 徐々に押されていった音羽が、とうとう人垣間近にまで後退してしまう。

「ガンバレ音羽!」「反撃です! 音羽さん!」「しっかりしろ音羽!」「こっちは貴重なオヤツ賭けてんやで!」
「勝手に賭けるな!」

 仕事を抜け出してきたらしい遼平や嵐子の声援に思わず怒鳴り返す音羽だったが、そこに更に鋭い上段からの一撃が襲う。

「わあっ!」
「余所見は禁物だぞ」

 なんとか竹刀を両手で横に構えて受け止めた音羽だったが、美緒は容赦なく力をこめてくる。

「こ、のおっ!」
「やるな!」

 力任せに美緒の竹刀を弾いた音羽が、竹刀を構え直す。

(つ、強い………おじいちゃん以外にこんな強い人は見た事が無い………)

 完全に乱れている呼吸を何とか戻そうと音羽は深呼吸を試みるが、中々呼吸は整わない。
 見れば美緒の呼吸も少し荒くなっていたが、あちらは数度の呼吸で見事に整える。

(これ以上、長びいたら勝てない。だったら……!)
「………たああぁぁ!」

 一度大きく息を吸った音羽は、それをありったけの気合と共に吐き出しつつ、大上段から最大限の一撃を繰り出す。

「むっ!」

 美緒は竹刀を頭上にかざしてその一撃を受け止めるが、強力な一撃に体勢が崩れる。

「やっ…」

 一瞬勝利を確信しかけた音羽だったが、渾身の一撃が半ばまで振り下ろされた所で止まる。

「え?」
「いい一撃だ。申し分ない」

 音羽の一撃の前に体勢が崩れた美緒だったが、勢いに逆らわずに後ろに下がり、下半身のバネで勢いを吸収する事でしのいだ美緒が音羽に向かって笑みを浮かべる。

「次は、こちらから行くぞ」

 音羽の竹刀を弾きながら美緒は立ち上がると、数歩下がってから竹刀を正眼に構える。
 数度呼気を整えたかと思うと、美緒の雰囲気が変わっていく事に音羽は気付いた。

「ちゃんと受け止めろ。手加減は無しだ」
「え、あの………」
「はあああ、烈・風・斬!!」
「きゃああぁぁ!」

 魔力こそ篭ってないが、文字通り噴きつける烈風がごとき上段からの大斬撃が音羽へと解き放たれる。
 音羽とは比べ物にならない凄まじい一撃が美緒の手から放たれ、なんとか音羽は受け止めようとするが、あまりの威力に体ごと弾き飛ばされ、地面へとしりもちを付いた。

「それまで!」
「音羽!」「無事か!?」

 ジオールが決着を宣言した所で、仲間達が音羽の元へと駆け寄る。

「あたたた、お尻打った………」
「それで済めばいい方だろ」
「あの、音羽さん、竹刀………」
「え?」

 可憐に指摘されて音羽が竹刀を見ると、美緒の一撃を受けた部分から完全に砕け、使い物にならなくなっていた。
 もしまともに食らった時の事を想像し、音羽の顔から血の気が引いていく。

「流石ですわ少佐!」「マスター、水分補給を」
「お、すまないな」

 ペリーヌとアーンヴァルからタオルやスポーツドリンクを受け取った美緒だったが、そこでドリンクボトルを手に音羽へと歩み寄る。

「桜野、筋は十二分にいい。後は経験を積んでいく事だ。無駄を無くし、攻撃の配分を考え直せ」
「はい! ありがとうございました!」

 慌てて立ち上がって砕けた竹刀を手に頭を下げる音羽に、美緒はその頭に軽く手を置いてからその場を後にする。

「攻撃の配分か……やっぱりなんとかさっきの技を…」
「さあて、それじゃあ約束の物」

 ぶつぶつと呟く音羽の隣を、どこから用意したのかダンボール箱を手にしたハルトマンが通り過ぎる。

「あ~、分かったよ!」「持ってき!」
「あ~ん、音羽なら勝てると思ったのに~」

 その箱に遼平達がオヤツを投げ入れるのを見た音羽と可憐が苦笑するが、そこに見るからに顔を引き攣らせたバルクホルンが駆け寄ってくる。

「何をしてるかハルトマン!」
「何って、見ての通り少佐の勝ちだったから勝ち分の収集」
「少佐の試合で賭け事とは何を考えている!」
「だって向こうから言ってきたんだし~」
「貴様はカールスランド軍人としての自覚をだな…」
「さあ仕事に戻るとするか」「そやな」
「中々面白い物が見れましたね」「時間があったら私もペリーヌさんあたりとやってみましょうか?」

 激昂するバルクホルンと聞き流しているハルトマンの二人を置いて、皆は持ち場に戻っていく。
 話を聞いたミーナが止めにくるまで、バルクホルンの説教は続いた。



「ふ~む………」
『ふむふむ………』
「素晴らしい練度だ」

 カルナダインのブリッジで、フェインティアとカルナ、ムルメルティアが先程の美緒と音羽の試合の映像を真剣な表情で解析していた。

「何してるの?」
「ちょっとね。音羽の近接戦闘力も結構な物だと認識してたんだけど、上には上がいるな、と思って」
「余程の訓練と戦歴を誇っているのだろう」

 調整が終わったばかりのクルエルティアが聞くと、フェインティアは視線だけそちらに向け、その肩にいたムルメルティアが素直に賛辞を述べる。

「美緒ね、何でも戦歴が八年はあるとか聞いたわ。しかもほとんど最前線で」
「八年も最前線いるトリガーハートはいないわね………なるほど、戦闘データの蓄積が全然違うってわけ」
『フェインティア、必要ならば解析データをユニットに入力しますが』
「ガルシリーズでどうやるってのよ」
「私にも刀剣系の武装は無い」
『なら…ば』
「ブレータ?」

 AIから一瞬走ったノイズに、フェインティアが眉を潜める。

『あれ、接続がどこか問題でもあったんでしょうか?』
『不明、セルフチェックを走らせます』
「カルナダインで三機体制は限度ギリギリだしね。念入りにやっておいて」
『了解』

 AI二つ同時の返答を聞きつつ、フェインティアはデータ解析を終了させる。

「エグゼリカは?」
「最終調整がもう直終わるわ。私の方がダメージが大きかった分、先に調整してもらったから」
「早い所済ませてもらわないとね。次の敵襲がいつ来るか分かった物じゃないし」
「そのためにも、万全の体制を整えねば」
「そうね………」

 二人のトリガーハートと一体の武装神姫の懸念は、有る意味外れていた。
 悪い方向に。



「? ユナ何か言った?」
「ううん何も言ってないよ?」
「あれ?」

 転移装置の設置準備を進めていた亜弥乎が首を傾げ、手伝っていたユナも周囲を見回すが、皆忙しそうに動いているだけで声をかけてきそうな人影はいなかった。

「これが完成すれば、音羽ちゃんや亜乃亜ちゃんはお家に帰れるのか~」
「うん、ちょっと質量大きいけど、何度か実験すれば大丈夫だって玉華様も言ってたし」
「ねえねえ、行ったり来たりってできないかな?」
「う~ん、どうだろ?」
「そうしたらいつでも遊びに行けて便利なのに~」
「ユナさ~~ん、そこどいてくださいです~」
「ユーリィ、こっちこっち」

 そこへ大きな機材を掲げたユーリィが現れ、亜弥乎の指示でそれを転移装置のそばへと置いていく。

「そう言えばユナさん、ユーリィの事呼びませんでした?」
「呼んでないけど? どうして?」
「おかしいですね~誰かに呼ばれた気がしたんですけど」
「ユーリィも?」
「二人とも、疲れてるんじゃない? 特に亜弥乎ちゃんはまだ無理しちゃダメだよ?」
「そう、かな?」
「ユーリィは元気いっぱいですぅ。でもそろそろお腹すいてきたですぅ!」
「さっきオヤツ食べたばっかじゃない………」
「もう30分も経ってるですぅ!」
「まったくもう………」

 二人が感じた気配の事を、ユナはすぐに聞き流してしまっていた。
 だが、それこそが始まりである事を知るまで、さほど時間はかからなかった。



「あれ?」

 ソニックダイバー隊が四人そろってシミュレーションをしている最中、映像にノイズが走る。
 だがそれは一瞬の事で、即座に映像は元に戻った。

「あん? 調子でも悪いのかな?」
「いえ、現状では問題ないようですが………」
「ちょっと停止させてください。何かバグかもしれません」

 そのノイズを見た冬后がシミュレーション機器をチェックし、瑛花はシミュレーション自体にはなんら問題が無いので続行しようとするが、可憐が大事を取って停止を進言する。

「全員そこまで。色々あったから、目に見えない所で故障してる可能性もある」
「え~、いい所だったのに!」

 順当に架空スコアを上げていたエリーゼが文句を言う中、シミュレーションは中断、映像が消えた所で全員がシミュレーション用のHMDポッドを頭から外した。

「おっかしいな~、チェックは何度もやったはず………」
「もう一遍頼む。向こう戻ってから壊れてましたじゃ話になんないからな。誰か藤枝に頼んでスキャンもかけてもらってくれ」

 遼平がぶつくさ言いながら機材の確認に入り、冬后が念には念を入れてチェックを入れさせる。

「なに、どうかしたの?」
「いや、多分気のせいだと思うが……」
「マドカ呼びます?」
「また妙な改造されたら、たまんねえからやめてくれ」

 シミュレーションを見学していた亜乃亜も首を傾げるが、遼平が顔をしかめて手を左右に振って断る。

「そういや昨日から見てないが?」
「何でも、宮藤博士にストライカーユニットの講義を受けに行くって言ってました」
「資料渡されたの見たけど、オレは駆動原理すら理解するのがやっとだったな」
「また変な改造し始めないといいんだけど……」
「ミーナ中佐がいる限り大丈夫だろ。なんでかあれ以来ヤケに怖がってるが」
「何やったんだか……」

 些細なトラブルのための点検、それが後に行幸となるのを当人達は知る由も無かった。



「う~ん」

 プリティー・バルキリー号の一室で、ホワイトボードに描かれた図面を前に、ウルスラは唸り声を上げる。
 マジックを手に、出来たばかりの図面の問題点を考慮するが、考慮すべき事が多過ぎて図面を消しては書き、修正しようかと思えば手が止まるを繰り返していた。

「ここをバイパスさせると、こちらに負荷がかかる。けどこっちを強化するとバランスに問題が……」
「失礼しま~す、ってあれ?」

 そこにドアを開けてマドカが入ってきた所で、ウルスラの書いた図面が目に入ってくる。

「あなた、確かGの」
「マドカよ、これってストライカーユニットの設計図?」
「今設計中の試作機。分かる?」
「宮藤博士に教わってきたばかりだから。へ~、なるほどなるほど」

 興味深く図面を見ていたマドカが、ホワイトボードに置いてあったマジックを手に取り、回路図の一部に修正案を書いていく。

「そっちにあるか分からないけど、こうしてみたら?」
「なるほど。けどそうしたら強度の問題は?」
「う~ん、素材の張力から見直してみるとか」
「重量問題もある。ましてやこれだと一番大事なのは回路の同調性にあるから」
「じゃあここはこうして」
「失礼します。こちらに…あら?」

 さらにそこへ資料を取りに来たエミリーが、二人があれこれ修正案を出している図面を目に止める。

「これ、この間言っていた新型ですね?」
「ええ、けどなかなかまとまらなくて」
「ちょっと失礼、対反応理論ってまだでしたね?」

 エミリーがテーブルからマジックをとり、図面のあちこちに方程式を書いていく。

「この理論を使えば、強度問題も大丈夫です」
「しかし、そうなるとバランスの問題が」
「じゃあ、ここはこうして……」


「そうなると、互換性は無理という事ですわね」
「こちらの機械技術と魔導技術はちょうどそちらと正対しているといっていい開きがありますからね。ソニックダイバーのシステムが応用できれば、ウィッチ達の損害ももっと減らせるんですが………」

 講義が終わった後も意見交換をしていた周防と宮藤博士が、色々と問題点を上げながら資料室代わりの一室のドアを開け、その場で同時に硬直する。

「こちらのバイパス、確かにそうすれば安定化できる」
「じゃあ、こっちはこうしてみる?」
「待ってください。今理論計算をしてみます」

 ウルスラ、マドカ、エミリーの三人が、ホワイトボードだけでは足りなくなったのか、壁や床にまで図面や回路図、方程式をびっしりと書き込んでいる。

「これは………」
「学者が三人集まると何も決まらないって言うけど、どうやら彼女達は逆みたいだね」

 凄まじい状態になっている室内を周王が唖然とするが、宮藤博士は興味深そうにその一つ一つを見ていく。

「これって、ひょっとして……」
「はい、タンデム型ジェットストライカーの試作図面です」
「戦闘用のタンデム機は魔力同調の問題があって実用化してなかったはずだけど、なるほどこれなら………」

 それが二人乗りストライカーユニットの図面だと理解した周王と宮藤博士が頷きながらもしばし考え込む。
 やがて、周王が手にしていたデータデバイスから何かを呼び出し、エミリーへと手渡す。

「これは?」
「ソニックダイバーのMOLP理論とその算出方程式。何かの役に立つかしら」
「これって、ソニックダイバーの根幹システムでは?」
「ええ、本来は統合軍の機密事項なのだけど、活用できるかと思って」
「すでに所属をどうこう言える状態ではないからね」

 宮藤博士もそう言いながら、図面の各所に的確に修正案を足していく。

「これが完成すれば、大きな戦力になる。早急に開発を…」
「あら?」

 そこでいきなり、エミリーが覗いていたデータデバイスの画面がブラックアウトする。

「どこか変な操作でもした?」
「いえ、何も…」

 周王も画面を覗き込んだ時、再度画面が表示されたが、次々とウィンドウが開き、内部のデータがドンドンと表示されていく。

「え………」
「そんな!? どうして……」
「何々?」
「どうかしましたか?」

 エミリーと周王の顔色が変わる中、マドカとウルスラも画面を覗き込む。
 だが表示されているデータに厳重にロックがかけられているはずの機密データが混じり始めた事に周王の口から悲鳴が洩れる。

「まさか、ハッキング!?」
「! どこから…」

 周王がその状態の真相に気付き、エミリーが思わず周囲を見回そうとした時、室内の照明が突如として明滅を始める。

「あれ? 今度はこっちの方が……」
「ま、まさか………」

 それが先程のデータデバイスと同じ状態の事に気付いたマドカの手から、マジックが滑り落ちて床で音を立てる。
 その音が、始まりの合図となった。



「何が起きている!」
「攻龍のメインデータバンクに異常発生! プロテクトが次々と突破されています!」
「艦内各所から異常発生の報告! イージスシステムが勝手に動作を始めました!」

 全くの唐突に始まった攻龍の異常に、副長が声をあげ、七恵とタクミが次々と異常を知らせてくる。

「イージスシステムを止めるんだ! 周囲には作業中の人員がいるんだぞ!」
「それがコマンドを一切受付けません! 強力な電子攻撃です!」
「イージスシステムの回路を切断」
「止むをえんか……!」
「り、了解しました!」

 艦長の英断に、副長が緊急時用の停止スイッチをカバーごと叩き割り、七恵がコンソール下の緊急停止レバーを押し下げる。

「イージスシステム停止しました!」
「ハッキングは続行中、後は最終プロテクトだけです!」
「何だと!? こうも簡単に…」
「何が起きた!」

 副長が再度声を上げる中、異常に気付いてブリッジに飛び込んできた冬后が混乱状態のブリッジを見て生唾を飲み込む。

「大規模な電子攻撃です! 今防護プログラムを……間に合わない!」
「攻龍を完全停止させる」
「艦長! しかし…」

 七恵が悲鳴を上げながらハッキングを防ごうとするが、侵蝕を示すゲージが瞬く間にプロテクトを食い破ろうとしている。

「駆動キー停止行動」
「……了解」
「3、2、1」

 艦長と副長がそれぞれのコンソールにある駆動キーに手を伸ばし、艦長のカウントと同時にキーを回す。
 一瞬攻龍の全電源が落ち、停止が成功したかと思われたが、僅かな間を持って再度攻龍のシステムが起動する。

「おい!?」
「サブシステムが勝手に起動しています! もうそこまで!?」
「うわああぁ! 通信システムももう!」
「最終停止シーケンス実行」
「了解!」

 攻龍が乗っ取られるのが時間の問題かと思われた時、艦長の命令に反応した冬后がブリッジに配備されていたトマホークをカバーを叩き割って取り出し、ブリッジの床に走るメインデータバンクと動力の直結ケーブルのカバーを開けると、そこに走るケーブルにトマホークを振り下ろす。
 攻龍の動力炉から走るメインケーブルが一撃で断線され、今度こそ攻龍が完全に沈黙した。

「ま、間に合いました………」
「しかしこれでは………」
「おい、この電子攻撃、攻龍だけか?」

 胸を撫で下ろした七恵とタクミだったが、冬后の一言でまさかと思ってそれぞれ左右を見る。
 そこでは、明らかな異常を起こし、混乱状態に陥っている地獄絵図が広がっていた。



「うう……」「きゃあぁ……」

 最初の声は誰だったか、それすら分かる間も無く、各所で作業していた機械人達が次々と悲鳴や苦悶を上げて倒れていく。

「な、なんだこれは!?」「え? え?」

 何が起きたか分からずにいる者達の前で、被害は瞬く間に拡大していった。

「ユ、ユナ………」
「亜弥乎ちゃん!? どうかしたの?」
「ユナさん……ユーリィ頭痛いですぅ………」
「ユーリィまで!」

 ユナの目前で、亜弥乎とユーリィが頭を押さえて倒れこむ。

「ちょ、ちょっと誰か来て! 亜弥乎ちゃんとユーリィが…」
「は、早くその二人をカルナダインへ……」

 慌てふためくユナの前に、顔に苦悶を浮かべながらエグゼリカがらふらふらとした足取りで近寄ってくる。

「エグゼリカちゃんも!?」
「これは電子攻撃です………トリガーハートの防壁を持ってしても、食い止めるのが精一杯………戦闘用じゃないその二人の電子頭脳が持たない可能性が………カルナダインで完全閉鎖すれば………」
「わ、分かった!」
「手伝います!」「あちらに運べばいいんですね!?」

 ユナの声に駆け寄ってきた芳佳とリーネが肩を貸しながら、三人をカルナダインへと運んでいく。

「動ける者はマシンクレイドルの中へ!」
「急いでください!」

 向こうを見れば、同じように顔を苦悶に歪めながら、剣鳳と鏡明が誘導を行い、ウィッチ達が中心となって倒れた機械人の搬送を行っていた。

「これはどうなって………」
「マス、ター………システム保護のため、緊急閉鎖を……」

 愕然とその光景を見ていた美緒の肩の上で、アーンヴァルが呟いたかと思うとその表情が茫洋とし始め、数度揺れたかと思うと突然力を失って美緒の肩から滑り落ちる。

「アーンヴァル!? どうした、おい! しっかりするんだ!」

 慌てて美緒がすくい上げて声をかけるが、アーンヴァルは目を閉じたまま、ただの人形のように微動だにしない。

「美緒!」
「ミーナ! 何かが起きて…」

 聞こえてきた声に美緒がそちらに振り向くが、ミーナの手に同じようにストラーフが抱かれている事に気付くと事態の深刻さを思い知らされる。

「そっちもか!」
「機械人や武装神姫、それにトリガーハートの人達も同じような状態になってるわ! これは一体何が起きてるの!?」
「激しく動かしてはいけません!」

 慌てふためく二人に、突然誰かが声をかけてくる。
 その方向に二人が振り向くと、そこには通路に鎮座するカタツムリの殻のような物があった。

「………え~と」「ひょっとして、白香か?」
「はい」

 白香が普段背中に背負っている防護シェルの中央部分が開き、そこに白香の顔が映し出される。

「これは電子頭脳を狙った電子攻撃です! 電子頭脳を持った全ての存在に無差別にハッキングとクラッキングをしかけてきています! 早く仕掛けてきている敵を見つけないと!」
「攻撃、これは攻撃なのか!」
「ちょっと待って! 電子頭脳を持った全ての存在って、確か未来の兵器は大抵付いているって聞いたんだけど………」
「………いかん!! 誰か攻龍へ!」



「うわあああぁぁ! なんだなんだぁ!?」
「あかん! システムが踊り始めてるで!」
「防壁張りや! 早く!」

 ソニックダイバーに突如として生じた異常に、専属メカニック達が大慌てで対策を講じようとするが、相手の攻撃はそれよりも早かった。

「やべえ! メインブレーカーを外せ! 早く!」
「おやっさん! けどすぐには…」

 遼平が思わず叫んだ所で、突如として零神が音羽が乗っていないのに身震いを始める。

「ダメや! 間に合わん!」
「ソニックダイバーが、乗っ取られる!」

 零神を始めとして、風神、雷神、バッハシュテルツェ、そしてシューニアカスタムまでもが勝手に動き始める。

「マジか!?」「洒落になっとらんで!」
「遼平!」
「くそっ間に合え!」

 完全にAIを乗っ取られ、暴走を始めたソニックダイバーから皆が逃げ出す中、遼平は無理やり零神に乗りかかり、振り落とされようとするのを必死にしがみ付いて強制停止用のメインブレーカーを引っこ抜き、かろうじて零神だけは停止した。

「ええい、ウチらも!」「待ちいや! ただ動くだけならまだしも、攻撃なぞされたら!」
「弾は込めとらん! 大丈夫…」

 整備中だったので実弾は装填されてなかったが、思わずその場から飛び退いたメカニック達に向けて複数のビーム砲が向けられる。

「やべ………」
「どぉりゃああああ!」

 零神から降りた所に向けられた雷神の大型ビーム砲に、一瞬走馬灯がよぎりそうになった遼平だったが、そこへ凄まじい気合と共に雷神が吹っ飛ばされる。

「ええい、何が起きてるか分からんが、状況は分かった!」
「トゥルーデ、やり過ぎ………」

 固有魔法の発動で雷神を蹴り飛ばしたバルクホルンが、どこか困惑した表情はしているが、全身に魔力を漲らせて勝手に動き回るソニックダイバーの前に仁王立ちする。

「私が動きを止める! その間にどうにかして動力を落とせ! 行くぞハルトマン!」
「え~?」

 疑問符のハルトマンを無視して、バルクホルンは向かってきたバッハシュテルツェの両手を掴むと、そのまま固有魔法でバッハシュテルツェを持ち上げていく。

「うおおおおおお!」
「うげ!?」「ウソやろ………」
「どおりゃああ!」

 絶句する御子神姉妹の前で、そのまま気合と共にバルクホルンはバッハシュテルツェを向かってきた風神へと投げつける。
 直撃した二体のソニックダイバーは壮絶な音を立ててもつれ込んでいく。

「オーバーホールしたばっかやのに!」
「文句は後で聞く!」
「ああああ! バッハが!」

 凄まじい音に格納庫に駆けつけたエリーゼが予想外の事態に悲鳴を上げる。

「遼平! ゼロは…」「一体何を…」
「うおおおぉ!」

 同じく格納庫に来た音羽と亜乃亜の目に、シューニアカスタムをジャイアントスイングに持ち込んでいるバルクホルンの姿が飛び込んでくる。

「どけえぇ!」

 怒声と共に、ぶん投げられたシューニアカスタムが壁に直撃、そのまま沈黙する。

「次!」
「あ~、それくらいにしといたら」
「う~! この~!」

 力任せにソニックダイバーをねじ伏せていくバルクホルンに、固有魔法で立ち上がろうとしているソニックダイバーを風圧で押さえ込むハルトマンに、駆けつけたルッキーニがシールドで更に動きを押さえつけていた。

「今の内だ!」「は、はい!」「………バルクホルン大尉って、ミーナ隊長と違う意味で恐い人やな」「……そやな」

 大慌てで非常時用のメインブレーカーをメカニック達が外しに入る中、ウィッチ達がソニックダイバーを押さえ込み、なんとかソニックダイバーが停止していく。

「な、なんとか最悪の事態は免れたぜ………」
「あああ、これ直すの手間やな………」
「それよりも、原因究明が先…」
「あの………」

 そこへ亜乃亜が恐る恐る声をかけてくる。

「どうした?」
「次はこっちお願いしたいんですけど………」
「ダメだ、緊急停止が効かない!」
「押さえろ!」

 そう言う亜乃亜の後ろ、エリューや騒ぎを聞きつけてきたメカニック達が押さえ込もうとするのを無視するかのように、無人のままのRVが浮き上がり始めていた。

「次だハルトマン!」
「………後でいい?」
「あの、お手柔らかに………」

 拳を鳴らしてRVへと対峙するバルクホルンに、亜乃亜の背中を冷たい汗が滑り落ちていった。



「機関閉鎖! 急いで!」
「なんて侵蝕速度!? ありったけの防壁出して!」
「今やってます! 主電源落とす準備も!」
「誰かハンガーの固定確認!」
「各部署の安全を大至急点検! 全システムが停止するぞ!」

 整備用ハンガーに鎮座したままのプリティー・バルキリー号が各所のランプや装備がデタラメに明滅や稼動をする中、そのブリッジでポリリーナが叫び、マドカとエミリーが電子攻撃を食い止めようと悪戦苦闘し、宮藤博士の指示の元、各所の緊急点検が行われていた。

「ストライカーユニット、若干電子装置に負担が掛かっている模様ですが、大丈夫です!」
「カルナダインから緊急連絡! 状態悪化の防止のため、トリガーハート三人と共に緊急閉鎖するそうです!」
「攻龍は全システム停止! 現在ソニックダイバー、RVの暴走を鎮圧中!」
「手の開いてる人は下に来て! 機械人達をマシンクレイドル内部に避難させるわ!」

 口頭伝達以外の方法が無い中、次々と報告が飛び交い、皆が被害を食い止めるべく右往左往している。
 それとは対照的に、隣のハンガーに鎮座しているカルナダインは完全に閉鎖されているのか、外見上は完全に沈黙している。
 そしてハッチの所には、ユーリィや亜弥乎を運び込んだユナ、芳佳、リーネの三人が心配そうにカルナダインを見つめていた。

「避難完了後、マシンクレイドルを閉鎖するそうです! 閉鎖後は外部との連絡はほとんど不可能になると!」
「ユーリィがぶっ倒れてカルナダインに運び込まれたアル!」
「ちょっと! バトルスーツも使えなくなってるわよ!?」
「バトルスーツだけじゃないわ………」

 ポリリーナがちらりとブリッジのコンソール、緊急事態に対処するためにプリティー・バルキリー号の制御コンピューターと直結して自己閉鎖作業をしているエルナーの方を見る。

「いまこの船を失うわけにはいかない、けどエルナーでも自分諸共自己閉鎖するしかないなんて………」
「すいません! 宮藤軍曹いますか!?」

 そこへ血相を変えたエリューが飛び込んでくる。
 その背後では、ジオールがぐったりしているティタをおぶさっていた。

「怪我でもしたの!?」
「それが、急に苦しみ出して………医療システムも使えなくなってるから、宮藤軍曹の魔法なら………」
「いえ、恐らくダメね………」

 険しい顔をしたジオールが、背中のティタを見つめる。

「この子はちょっと訳ありなの。多分この電子攻撃の影響を受けているんだと思うけど……」
「じゃあこちらじゃなくてマシンクレイドルへ! 閉鎖すれば、影響も少ないはず!」
「どっちにしろ治療は必要よ!」
「でも、魔法治療が可能なのかどうか………」
「オイ! 宮藤はいるカ!?」

 どうすればいいか分からず手をこまねく皆の元に、今度は血相を変えたエイラが飛び込んでくる。

「他にも誰か倒れたのか!」
「そんな生易しい状態じゃナイんだ! 早く宮藤を攻龍に!」
「まさか………」

 狼狽しているエイラの様子に、もう一人電子攻撃の影響を受ける可能性のある人物がいた事に、エリューの顔色は更に青くなっていった。



「く、ううう、あう………」
「しっかりして、今芳佳ちゃんが来るから」
「あ、ああ………」

 攻龍の医務室のベッドで、普段無表情なアイーシャが苦悶に呻き、額には大量の脂汗が浮かんでいる。
 付き添っているサーニャが声をかけるが、それにすら答えられない程、アイーシャの状態はひどい物だった。

「これは一体………」

 医療機器が動かない中、何とか治療を試みる夕子先生だったが、見た事のない症例にどうすればいいかを必死に考えていた。

「アイーシャが倒れたって!?」
「大丈夫なの!?」

 そこへソニックダイバー隊のメンバーや周王が医務室へと飛び込んでくる。

「アイーシャ! しっかりして!」
「何がどうなって………」
「分からないの。機械がおかしくなってきた時、突然苦しみ出して………」
「まさか、アイーシャのナノマシンにまで攻撃を受けているの!?」

 アイーシャが倒れた場に偶然居合わせたサーニャの説明に、周王の顔色が一気に変わる。

「ちょっと待って! それって、アイーシャもゼロみたいに………」
「そんな! どうにかならないの!?」
「こんな強力な電子攻撃なんて想定した事無かったわ………早くなんとかしないと、アイーシャの体、いえもっとも影響を受けるのは………」

 つい先程格納庫で繰り広げられた光景を思い出した音羽とエリーゼが周王に問うが、周王は完全に顔色を無くしたまま呟く。
 そして、一番ダメージを受ける可能性があるのは、人体のデータバンクにあたる脳だという事に気付いた周王は、対処法をなんとか見つけようと必死になって考えを巡らせる。

「宮藤連れてきたぞ!」
「怪我人はどこですか!」
「やっぱり!」

 混乱する医務室に、エイラと救急箱片手の芳佳が飛び込み、更にエリューとジオール、背負われたティタも入ってくる。

「そちらも!?」
「ティタさんも寝かせてください! 今治療を…」
「それよりもあっちに運んだ方がいいんじゃないノか!?」
「ダメ」

 それまで無言だったティタがベッドに寝かされながら呟く。

「この子の干渉力はティタより結構上………電子閉鎖しても、干渉されるかも。それに、この船の被害が大きいのは、この子を中継したため………」
「そんな………」
「喋らないで下さい! 今治療を…」

 芳佳が二人同時に固有魔法で治療を試みるが、すぐに違和感に気付く。

「これ………何ですか!?」
「………二人して機械と生体の融合っぽい。生体活性化の効果は半分半分」
「え? え?」
「つまり、芳佳さんの魔法でも治療は完全にはできない………」

 ティタの説明を、ジオールが結果だけ端的に告げる。

「じゃあどうするの!? このままじゃアイーシャが!」
「落ち着いて! 今対策を…」
「対策はあります!」

 突然響いた声に全員がそちらに振り向く。
 そこには、医務室のドアからこちらを覗いているミーナと、彼女が抱えている防護シェルの姿があった。
 防護シェルの中央が開き、そこから白香の顔が表示される。

「この電子攻撃は、攻龍近辺から仕掛けられています! つまり、この船のそばにいる大元の本体を叩けば、この攻撃は収まります!」
「本当!?」
「探してくる!」

 白香の言葉に、音羽の顔が僅かにほころび、最後まで聞かずにエリーゼは医務室を飛び出していく。

「ところで、機械人はみんな倒れたようだけど、貴方は平気なの?」
「私には黒皇帝・玉鷲(ユイジョー)様が作ってくれたこの防護シェルがあります。この中ならばいかなる攻撃をも防げるのですが、見ての通り動く事が出来ないので………」
「それ、もう一人二人入れない?」
「さすがにそこまでの余裕は………」
「武装神姫だけでも入れて欲しかったんだけど、今フタを開けるのも危ないらしいわ」

 夕子先生の問いに答えた白香に、周王が防護シェルをじっと見つめながら聞いてくるが、白香の困った顔が表示され、抱えているミーナも顔を曇らせる。

「ティタならしばらく問題あったりなかったり。それよりそっちが危ない」
「うう………」

 芳佳の治癒を受けながらかろうじて喋れるティタに対し、アイーシャは先程よりは幾分マシには見えるが、いまだ苦悶を浮かべていた。

「サーニャさんなら敵の居場所が分からない?」
「やってみる」

 ミーナの指示でサーニャが固有魔法を発動、魔導針が頭部に浮かんだ矢先、突然それが破裂するようにして消える。

「あ……!?」「サーニャ!」

 目を白黒させながら倒れそうになるサーニャをとっさにエイラが支える。

「サーニャさん!?」「大丈夫!?」
「はい……けど、敵を探知しようとしたら急にすごい負荷がかかって………」
「魔法にまで干渉されるの!?」
「止めといた方推奨。生だからその程度で済んでるぽい」

 感知手段の全てを封じられた事に気付いた周王が愕然とする中、ティタの助言が更に場に混乱をもたらす。

「攻龍の全システムはダウン、レーダー系も完全停止、サーニャさんの感知魔法も使えない………どうやって敵を探せば………」
「一つしかありませんわね」
「有視界探索、つまり目で探すしか………」
「待った! サーニャが出来ないナラ、私がなんとかシテみる!」
「ひょっとして占いで探すのかしら?」

 周王、ジオール、ミーナが深刻な顔で相談する中、エイラが意気込んで医務室を飛び出していく。

「どいてどいて!」

 今度はそれと入れ替わりに何か資材のような物を抱えたマドカを先頭に、同じく色々と抱えたウルスラとエミリーが医務室へと飛び込んでくる。

「何を持ち込んで…」
「ここに簡易的だけど防護フィールドを形成してみる! 少しだけど影響が少なくなるはず!」
「30秒待って! 最適なサイズに設計し直します!」
「宮藤軍曹は治療を続けてください!」

 エミリーが手書きで方程式を計算し、それに合わせてマドカとウルスラが資材を組み上げていく。

「………ここは任せるわ。私は艦長にこの事を報告してくる」
「私もブリッジへお願いします。分かっている限りの事を教えておいた方がいいと思うので」
「それぞれ手分けしてこの攻撃を仕掛けてきている敵の捜索を。サーニャさんも念のためにここにいて」
「はい」
「私はRVの状態を確認してくるわ。この状況だと起動も不可能かもしれないけど………」
「急いで。出来る限りはするけれど、私と芳佳さんでどこまで出来るか……」

 それぞれがなすべき事を定めて医務室を出て行く中、夕子先生は今使えるアンプルや器具を総動員して苦しんでいる二人に出来うる限りの治療を施そうとしていた。




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP26
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:f8f13963
Date: 2013/07/08 20:04

「エリカ7は他に逃げ遅れた人がいないかを確認! 急ぎなさい!」
『はい、エリカ様!』
「敵は攻龍周辺に潜んでいるそうよ! ちょっとでも異常を発見したら知らせて!」
「総員ストライカーユニット装着! 上空から捜索を!」
「敵の正体は分からん! どんな小さな物でも見逃すな!」
「システム閉鎖の影響がどこに出ているか分からないわ! 機材のそばに近寄る時は注意して!」

 各リーダー達の矢継ぎ早な指示が飛び交う中、辛うじてストライカーユニットが使えるウィッチ達以外は、全てが生身による人海戦術で各種作業が行われていた。

「ストライカーユニットもいつまで持つか分からない! 不調を感じたらすぐに帰還するんだ!」
「進んだ技術が、こんな形で仇になろうとは………」

 次々と発進していくウィッチ達に叫ぶ宮藤博士の隣で、出撃禁止状態の美緒が周辺の状況を見ながら呟く。

「アーンヴァル達の方は?」
「武装神姫達はあの地下施設の中に避難させてもらっています。白香が言うには、すぐに緊急閉鎖をしたから影響は少ないだろうとは言ってましたが………」
「だがこの状態が長く続けば、直に全ての機械が使えなくなる。もしそこを襲撃されれば………」
「それもありますが、攻龍で治療中の二名の事も問題です。宮藤の治癒魔法でもどれくらい持たせられるか分からないらしく………」
「それが一番の問題か………」
「魔眼は使えます。私も捜索に」
「敵を見つけても戦闘は避けるんだ、いいね?」

 宮藤博士の警告に頷きながらも、美緒は扶桑刀を片手に捜索へと乗り出す。

「マシンクレイドルがもう閉鎖されるそうよ!」
「他に避難が必要な者はいないか再確認を!」
「向こうのクレーン、傾いて来てる!」
「今押さえる!」

 ウィッチの魔力や元から有している特殊能力以外、人力に頼るしかない状況でも、少女達は必死になって状況を打開しようとしていた。

「何か見つかりました!?」
「いいえ、何も………」
「近くってどこだよ~」

 攻龍上空を中心に、目視で索敵を行うウィッチ達だったが、敵影を発見出来ずに焦りばかりが募っていく。

「まさか、ここまで……」

 攻龍の直上、足元の攻龍を見ながら固有魔法を発動させたミーナだったが、彼女の空間把握もノイズが入り乱れ、攻龍の形すら明確に把握する事が困難だった。


「早く、早く見つけないと亜弥乎ちゃんやユーリィが出て来れないよ!」
「でも、探せって言われてもどこ探せばいいのよ!」
「誰も気付かなかったという事は、誰も気付かない場所よね?」
「だからそれがどこかって言ってんのよ!」

 オロオロしているユナに思わず舞が怒鳴り、エリカが冷静に考えようとするが、逆に舞が更に怒鳴るだけだった。

「え~とえ~と、こんな時はどうすれば………あ! そうだエイラさんに占ってもらえば!」
「それって、アレ?」

 ユナが名案と手を叩くが、舞が呆れた顔で上空を指差す。
 そこには、両手に何かを握ったエイラが攻龍の周りを旋回していた。

「おかシい………どうなってるンだ?」

 エイラがありあわせの鋼材で用意した鉤状のロッド、ダウジングロッドと一般的に言われる探知用ロッドで周辺の探査を試みていたが、なぜかダウジングロッドは攻龍の方ばかり指している。

「攻龍にはあれだけ人がいて探してるシ………それでも見つからないトなると………」

 エイラの脳裏に、一度戦った光学迷彩ワームが思い出されるが、それならセンサーに引っかかるはずだったと思い出し、再度ロッドを手に攻龍のそばへと近寄っていく。

「まさカ……攻龍の中に?」



「機関部点検急げ! 遮蔽を確認するんだ!」
「見れる限りの配線をチェックするんだ!」「電源落とせる機械は全部落とせ!」

 電源の一切無い攻龍の中、懐中電灯を手に整備スタッフ達が異常の確認に走り回っていた。

「何かあったらすぐに報告するんだ! 内部潜入の可能性もあるぞ!」
「また動力室になんて入ってねえだろうな!」
「そちらは確認済みです!」
「常時誰か警備に張り付くんだ! ヤバイ所は全部!」
「銃火器のFCSを外せ! どうせ役に立たん!」

 冬后と大戸の指示が飛び交う中、時間だけがただ無為に過ぎていく。

「クッソ! クレーンも何も動かせねえから、ソニックダイバーもハンガーに戻せねえし、直し様がねえ!」
「でも、ブレーカー入れたらまた暴走やで」
「そやそや」

 艦内の捜索に狩りだされた遼平を先頭に嵐子と晴子、三人そろって文句を垂れ流しながら懐中電灯片手に異常の確認をしていた。

「整備中だから厳重に警戒はしてたはずだぜ? 一体いつ潜り込まれたんだ?」
「ここまでするような奴やで? とんでもないステルス使ったんやろ」
「普通そんなんはレーダーはともかく、目には見えるはずなんやけど……」

 ふとそこで、最後尾を歩いていた晴子の足が止まる。

「なあ、今なんか聞こえんかった?」
「へ?」
「まさか敵か!?」
「いや、そんなんやなくて……」

 足が止まった三人の耳に、か細い声が響いてくる。

「……なあ、今の」
「猫の声やなかったか?」
「……猫型の敵、って事はないやろな?」

 三人が思わず顔を見合わせた時、再度泣き声が響いてくる。

「下か!」
「でもこの下、何もあらへんで?」
「でも何かいるで………」

 生唾を飲み込み、三人は手に海中電灯や大型スパナ、技術交流のついでに作った軽金属ハリセンを手に攻龍の最下層へと向かう。

「……うぶ………から………でも………」

 か細く響く鳴き声に混じり、微かに話し声のような物も響いてくる事に、三人の緊張は一層高まる。
 やがてある扉の前に立ち、そこが音の元だと確信した三人は無言で頷くと、一気に扉を開く。

「誰だ!」

 先頭の遼平が叫びながら中を照らすが、明らかに話し声がしたはずなのに人影は無い。

「あら?」「妙やな………あ」

 続いて入ってきた二人も首を傾げるが、やがて部屋の中央に何かがいる事に気付き、晴子がそれを抱き上げる。

「みゅ~~」「鳴き声の正体はこれやな。ペットロボット?」
「確かこれ、ポリリーナさんのペットや。ミルキーとか呼んどったで」
「なんだ人騒がせな………一応医務室連れとくか。これも攻撃食らってキツイんだろうし」
「………これ喋れるんか?」
「さあ………」

 他に何もなさそうな事を確認した三人が部屋を出ようとするが、何故かミルキーが床へと向かってか細い鳴き声を上げ続ける。

「どうかしたんか? 今少し楽になれるとこ連れてってやるさかい」
「何かいるんか? 幽霊とか」
「おいおい、妙な事を………何か?」

 そこである可能性に気付いた遼平が、突然二人と一匹を置いて走り出す。

「ど、どないしたん!?」
「オレ達は何かいるのを探してたんだろうが! ひょっとしたら!」
「あっ!?」

 遼平の言わんとする事を悟った二人も走り出す。
 彼らが去った後、無人と思われた部屋に小さな音が響いた。

「ん~……違うなあ~………あたしのオーナーどこだろ?」



「見つかった!?」
「いいえ!」
「上空にも何もいません!」
「じゃあどこに!」

 皆が必死になって敵を捜索していたが、一考に見つからない敵影に焦りがどんどん濃くなっていた。

「くソ~………やっぱ適当なノだったからおかしいのカ?」

 手にしたダウジングロッドを睨むエイラだったが、そこに攻龍の甲板に飛び出してくる三人に気付いた。

「下だ!」
「へ?」
「この子が下に何かいるって言ってるんや!」「誰か見てきてや!」

 ミルキーを指差しながら叫ぶ三人にエイラが、修理用の船台に上げられている攻龍の真下へと潜り込む。
 そこで手にしたダウジングロッドが跳ね上がり、攻龍の船底を指し示すように湾曲した。

「ここダ~~!!」

 エイラが大声で叫び、それに気付いた皆が一斉に近寄ってくる。

「どこ? どこ?」
「何も無いわよ!?」
「間違いなイ! ここにいる!」
「どいてくれ!」

 そこへ美緒が集まった皆を掻き分け、眼帯を引き剥がして魔眼を発動させた。

「いた! そこか!」

 叫びながら、美緒は手にしていた刀を抜き放ち、魔眼が見つけた場所へと向かって投じる。
 白刃の切っ先が船底へと激突する瞬間、何かが高速で攻龍の船底から飛び出していった。

「いたぁ!」「船底に擬態してたなんて!」
「追撃!」

 飛び出した何かを追って、ミーナの号令にウィッチ達が一斉に後を追い始める。
 擬態を解いたそれは、全長2mくらいのコバンザメにも似た容姿をしていたが、体表は金属の光沢でぬめるように光り、体の各所から触覚を思わせる無数のアンテナが伸びていた。

「早い!」「トネール!」

 高速で逃げる敵に向かってリーネが照準を定め、ペリーヌが電撃を放つが、予想以上の高速機動で照準は定まらず、電撃はただ虚空に散る。

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉は右から、私とエイラさんは左! リーネサンとペリーヌさんは上を抑えて! シャーリーさんとルッキーニさんで一気に…」

 ミーナの指示が終わるより早く、突如として敵は動きを変えてこちらへと向かってくる。

「シュトルム!」

 とっさにハルトマンが固有魔法を発動、小型の竜巻となって突撃を試みるが、なんと相手は竜巻の周囲を同速度でバレルロールして回避、そのままハルトマンの脇をすり抜けていく。

「ウソ!?」
「うじゅ!」

 さらに向かってくる敵に向かってルッキーニが多重シールドを発動、だが敵は先程よりも高速に関わらず、シールド直前で直角に曲がり、そのまま上空へと回避していく。

「なんて速度に運動性だ!」
「スピードなら!」

 バルクホルンが思わず呻くが、相手を逃すまいと今度はシャーリーが固有魔法の高速飛行で敵を追う。
 上空へと登っていく敵にシャーリーは何とか追いすがろうと限界まで速度を上げていく。
 相手との距離が段々狭まってきたかと思われた時、いきなり速度が落ちた。

「なんだぁ!?」

 まさかと思ってシャーリーが自分のストライカーユニットを見ると、エンジン部分は無事だったが、制御部分からスパークが上がり始めていた。

(ストライカーユニットもいつまで持つか分からない!)
「こういう事か! でもまだ!」

 失速していく中、なんとか敵を捉えようと銃を構えるシャーリーだったが、その狙いが定まる直前、ユニットの制御部分がショート、完全に機能を停止したストライカーユニットと共にシャーリーの体が落下を開始した。

「こいつ!!」

 落下しながらもトリガーを引いたシャーリーだったが、敵はその場を離脱、また攻龍へと向かっていった。

「シャーリー!」「シャーリーさん!」

 下でルッキーニとリーネがなんとか落下してきたシャーリーをキャッチ、そのまま離脱させる。

「ダメだ中佐! 近付きすぎると、ストライカーユニットでも持たない!」
「そんな!? じゃあどうすれば………」

 シャーリーの報告に、ミーナのみならず、その場にいた全員が顔色を失っていった。



「なんて奴だ………」
「前大戦のワームの電子戦機に酷似してますね。けれど、せいぜい無人機を狂わせるのがせいぜいだったはずですが、能力は比べ物になりません」

 ブリッジから見える戦況に副長が歯軋りし、緋月が淡々と解析していく。

「どうやら、ある種の電磁パルスやエネルギーパルスを自在に操れるようです。攻撃してこない所を見ると戦闘力はない模様ですが、ストライカーユニットにまで影響が出るとなると、ウィッチによる格闘戦は不可能でしょう」
「それ以前に速度が違い過ぎる。何か手は……」
「交差する瞬間に攻撃するしかありません。しかし………」

 ブリッジに運び込まれた白香も苦戦しているウィッチ達の状況に何か手は無いかと考えるが、何も思い浮かびはしない。

「ソニックダイバーはどうにか動かせないのか?」
「それが乗っ取られそうになったのをバルクホルン大尉が止めてくれたそうなのですが、その状況でメインブレーカーを抜いたのでどうにも………」
「それ以前に、この電子攻撃を止めるか無効化しなければ無理でしょう」

 艦長の呟きに副長と緋月がそれぞれ答え、艦長の顔も険しくなっていく。

「………手はあります。私のエネルギーを全開にすれば、短時間なら多分この電子攻撃を無効化できます」
「本当か!」

 白香の提案に、副長が色めき立つ。

「ですが、せいぜい数分。しかもこの船くらいがやっとで………」
「それでは意味が無い。何か、他に無い物か………」

 艦長が熟考する中、また一機ストライカーユニットが機能停止に陥っていた。

「もう時間が………」

 白香の呟きは、誰もが感じ取っていた………


「出力が安定してない! そっちのダイヤル二つ回して!」
「計器から目を離さないで!」
「こっちの回線が焼けてきてる! バイパスを!」

 攻龍の医務室では、マドカが設計した防護フィールドを、アナログな制御装置を駆使してエミリーとウルスラも一緒に必死になって維持させていた。

「このバッテリーじゃこれが精一杯か………せめてブースターが使えれば………」
「私の計算でもこれが限度よ。後は外の皆に期待するしか……」
「大丈夫です! 私が二人を護りますから!」

 マドカとエミリーが設計図や数式を手作業で見直すが、それを横目で見た芳佳が魔法による治癒を続けながら断言する。

「容態は安定はしているわ。けれど長時間は………」
「まだもっといけるかも」
「うう……」

 二人の脈を取った夕子先生が顔を曇らせ、ティタはなんとか言葉を返すが、アイーシャは相変わらず苦悶している。
 その様子を見ていたサーニャがおもむろに立ち上がった。

「私も行く」
「ダメよ! 感知系はむしろどんな影響を受けるか!」
「けど、このままじゃアイーシャもティタも………」
「大丈夫! この防護フィールドと芳佳ちゃんの治癒魔法があれば、二人を護りきれるよ!」
「出力より安定性に重視すれば、まだしばらくは持つ計算です」
「今、姉さん達が頑張っています。信じて待ちましょう」
「でも……」
「マドカ!」

 サーニャが言葉を濁すが、そこに亜乃亜が慌てて飛び込んでくる。

「エリューがいい事思いついたって! ちょっとこっち来れる!?」
「でも今ここを離れたら……」
「何か分かりませんけど、私とウルスラさんで何とかします。行って下さい」
「バイパス出来ました! これでしばらくはなんとかなります!」
「ゴメン! それじゃお願い!」

 亜乃亜と飛び出していくマドカを見送った二人は、再度フィールドの調整に取り掛かる。

「さて、それでは有言実行と行きましょう」
「はい」
「芳佳さんは大丈夫?」
「はい! 魔力だけはいっぱいありますから!」

 それぞれが出来る事を頑張る中、サーニャは黙ってティタとアイーシャの手を握る。

「もう少しだけ頑張って。きっと大丈夫」
「信じるはもちろん」
「………」

 苦しむ二人の手を、サーニャは握り締め続けた。



「もう何やってんのよ! そんな速度じゃ追いつけないわよ!」

 カルナダインの一室、緊急用退避ルームの中で、外の戦闘の様子を見ていたフェインティアが思わず怒鳴る。

「仕方ないわ……あれでも彼女達の最高速度なのよ」
「ったく! この私が行ければ!」
「私達が持っても、随伴艦が持ちません………」

 外部から完全に遮断され、映像も外部の緊急時用光学カメラを手動で操作するという原始的としか言いようの無い方法を取りながら、クルエルティアもエグゼリカも狭い退避ルームで固唾を呑んで見守るしかなかった。

「電子攻撃にのみ特化した敵性体、機械体であるこの星の住人や私達にはあまりに危険過ぎるわ」
「確かに………」

 クルエルティアの分析に、エグゼリカが退避ルームの一角、本来なら自分達トリガーハートが退避時損傷していた場合に使用するはずだったハンガーカプセルに眠っているユーリィと亜弥乎を見る。

「こちらの二人は閉鎖が早かったからなんとかなりましたけど、攻龍の方は大分ひどいみたいです」
「そりゃ、あんな原始的な水上船じゃね~」
「こちらもカルナ、ブレータともに閉鎖状態よ。あまり他の事は言えないわ」
「そもそも、あれは一体なんなのよ! トリガーハートやカルナダインのレーダーまで潜り抜けてどうやって潜り込んだってのよ!」
「作業の隙を突かれた、としか考えられないわ」
「警戒はしてたはずですが、まさかあんな小型の電子戦機とは………」
「ああもお! この私が出ればぱぱっと片付くのに!」
「ここは…」

 喚き散らしながら、室内を歩き回るフェインティアにクルエルティアは声をかけようとした所で、フェインティアがその手に緊急閉鎖状態で動かなくなったムルメルティアをずっと抱いている事に気付く。

「何が万全の体制よ………いきなり閉鎖状態になっちゃって………」
「あっ……」

 そこでエグゼリカがふと何かを思い出す。

「そう言えば、カルナダインの閉鎖前に何か小さな転移反応があったような………」
「この上何が来るっての!?」
「それが、反応が小さすぎててっきりノイズかと思って………けど、多分質量的には………」

 エグゼリカの瞳は、フェインティアの手の中で動かないムルメルティアに向けられる。

「まさか………」



「私が出る! 烈風斬ならあるいは!」
「ダメだ! 速度も運動性も違い過ぎる!」
「それに、今出撃したら貴女は!」

 出撃しようとする美緒を、宮藤博士とミサキが二人がかりで引き止めていた。

「ではどうしろと言うのだ! このままでは、私達は全滅してしまう!」
「バトルスーツ無しでも、私のESPなら多少は……」
「多少では意味が無いではないか!」
「落ち着くんだ! 今マドカ君が中心となって対抗措置の準備をしている! それまで持ち堪えれば!」
「耐えられなかったらどうするのです!」
「それは………」

 美緒の言葉に、宮藤博士も言葉を濁す。
 誰もが焦り、状況の打開の糸口すら掴めていなかった。



「お願い遼平! ゼロを動かして!」
「バカ言うな! さっきの見てただろ! メインブレーカー入れたらゼロも乗っ取られる!」
「けどこのままじゃアイーシャが!」
「分かってる! 分かってるけどよ!」

 音羽が懇願するが、遼平もそれは無理な頼みだと分かりきっているだけに、苦渋に顔を染める。

「ソニックダイバーのスピードだったら、あの敵に対抗できるかもしれない、けれど動かしたら途端に乗っ取られる………」
「相手の動きを今計算してますが、けどこれをどうやって入力すれば………」
「でも、早くしないとアイーシャが!!」

 格納庫に集まった瑛花、可憐、エリーゼもなんとか出来ないかと考えるが、何も思いつかない。

「今動かせる状態にあるんは零神だけやが………」「マドカはんが頑張ってるようやけど、難しいみたいやで」
「そんな………」

 絶望的な表情で、音羽が零神へと歩み寄る。

「お願いゼロ………力を貸してよ………このままじゃ、アイーシャだけでなく、みんな………」

 涙ぐみながら零神に音羽が手をかけた時だった。

「いいよ」

 突然響いた声に、全員が零神の方に振り向く。

「今の誰や!?」「まさか零神が…」「違う! 零神の上!」

 遼平が指差した先、零神の頭部に小さな人影が座っていた。

「え~と、え~と、あ。次元転移反応確認、今から貴女があたしのオーナーだよ」
「武装神姫!?」
「え、でも武装神姫は全機動けなくなったって………」
「ストラーフ? いや似てるけど違う!」
「あたしは悪魔夢魔型ヴァローナ、よろしくオーナー」

 刃物を思わせる鋭いウイングにロングトマホーク、漆黒のボディスーツにストラーフよりやや短い緩やかなウェーブの掛かったツインテール、そしてなにより眠そうな目をした武装神姫、ヴァローナが音羽に自己紹介しながら尻尾のようなパーツを左右に振る。
 全ての電子機器が使えない状態で平然と動いている武装神姫に、その場にいた全員が目を丸くするが、音羽が先程の言葉を思い出す。

「ヴァローナ、だっけ。ゼロを動かせるの!?」
「あたしは電子戦特化型だよ。少しなら電子攻撃を無効化出来るよ。短い間だけなら~」
「何分!?」

 音羽の問いに、ヴァローナが手をかざすとそこに小型の3Dディスプレイが現れ、それが零神の前で何かを表示していく。

「う~ん、多分五分か、もっと短いかも………」
「でもナノスキンが無いと乗れねえだろうが!」
「それ以前に動力がないで!」
「それならなんとかなりそうです」

 表示結果を見たヴァローナの返答に、皆がどうにか出来ないかを話している時、突然緋月が格納庫に姿を現す。

「白香さんが、数分間だけなら防護できるらしいので、その間に予備動力を起動、スプレッドブースを動かせれば」
「……なるほどな。どうせ動かせる時間は限られてる。やるだけやってみる価値はあるな……ようし、準備だ!」
「了解!」

 大戸の指示の元、メカニック達が零神の起動準備に取り掛かり、音羽はスプレッドブースへと急ぐ。

「問題はタイミングですね」
「ほれ、手開いてるのはお前さんだけだ」

 有線・無線双方で通信が出来ない状況でブリッジにどう知らせるか悩む緋月に、大戸がどこからか引っ張りだしてきたモールス用ライトを手渡す。

「武装は最低限でいい! 速度が大事だ!」
「ハッチ強制排除! 他の艦に連絡を!」
「何でも用意しておく物ですね」

 緊急用のパージボルトが起動、吹き飛んだハッチから外に出た緋月が、ブリッジとプリティー・バルキリー号へとモールスで作戦を知らせる。
 程なくブリッジからは冬后がハンドサインで返答し、プリティー・バルキリー号からはしばし待てとのモールスが送られてくる。

「何を…」
「桜野が出るのか!」

 疑問に思った緋月の後ろに、突然ミサキのテレポートに連れられた美緒が姿を現す。

「どうやら、対電子戦装備の武装神姫が現れたようでして、協力してくれるそうです」
「このタイミングで?」
「細かい事は後だ!」

 ミサキがあまりのタイミングの良さに疑念を抱くが、美緒は構わず格納庫へと走る。

「確かに、タイミングが良すぎますね」
「後で聞いてみるしかないわ。今は、あの敵を倒すのが優先よ」

 緋月も同様の疑問を口にするが、現状ではそれすら些細な状況なので二人とも口を紡ぐ。

「始まります」


「よし、頼む」
「分かりました」

 副長の合図と同時に、白香が防護シェルから出てくる。
 同時に電子攻撃を食らって少しよろめき、冬后が慌てて支えるがそれを断ると、白香は精神を集中させる。

「行きます! リフレ~ッシュ!」

 白香は自らの持つ状態異常回復能力を最大限で開放、同時に攻龍の予備電源用の回線が接続される。

「攻龍、一部機能回復しました! ただしレーダー関係は探索不能、通信も…」
「零神の出撃にのみ出力を集中、急げ」
「は、はい!」

 艦長の指示の元、七恵が攻龍の機能から必要な物だけ次々と回復させていく。

「スプレッドブース起動を確認! ただしナノスキン精製率は30%ほどです!」
「6分弱か………もっとも新しい武装神姫が防げるのはもっと短いらしいからな」
「本当に可能なのかね? この時代の物ですら強制遮断するしかない状況を………」
「信じるしかあるまい。我々に出来るのは、零神を無事出撃させるようにする事だけだ」
「ナノスキン最適化完了、後は零神が動けば…」



「よし、繋がった! 起動させるぞ!」

 メインブレーカーを接続、零神を再起動させると、遼平は超高速で内部のチェックに取り掛かる。

「頼むぜ……無事に動いてくれよ……」
「大丈夫だよ~多分」
「遼平!」
「あと1分待ってくれ!」

 ナノスキン塗布を終えた音羽が駆け寄ってくるが、零神のチェックはまだ終わらない。

「桜野!」
「坂本さん!」

 そこへ美緒が格納庫に飛び込んでくると、起動準備に入っている零神と音羽を交互に見る。

「起動可能時間は?」
「この船出たら五分がいいとこだね~」

 美緒の問いにヴァローナが答えると、美緒はしばし考えて音羽の肩を掴む。

「いいか。あの速度と運動性では、巴戦に持ち込むのは難しい。相手の直角線上を取り、相手が回避する前に高速交差して斬れ。出来るか?」
「はい! やってみます!」
「お前の、いやソニックダイバーの最大の利点はその速度にあると私は思っている。隙は他の皆が必ず作ってくれる。自分と、そしてこの場にいる全ての仲間を信じるんだ」
「はい!!」
「よし、チェック完了! 急げ音羽!」
「行くよオーナー~」

 美緒に見送られ、音羽は零神に乗り込む。
 それに合わせてヴァローナも再度3Dディスプレイを展開、対電子戦の準備を行う。

「ゼロ、行くよ!」

 機体を起こすと同時に、バーニアを点火。
 急加速させながら零神は格納庫から飛び出していく。

「行けぇ~音羽!」
「頼んだぞ、桜野………」



「AモードからGモードにチェンジ。速度上がるよ、大丈夫?」
「FLO15 エクスタス・ジャミングユニット、出力全開。大丈夫だよオーニャー」
「ニャーって………」

 高速のソニックダイバーに平然としがみ付いているヴァローナのノンキな返答に音羽は少し困りながら機体を変形、敵へと向けて加速していく。

「直角線上を取って交差する一瞬……どうすれば………」
「オーナーオーナー、向こうで何かしてるよ」

 美緒に言われた事をどう実行するべきか音羽が考えていた時、ヴァローナが横手を指差す。
 何気に音羽がそちらを向くと、そこに光の戦士達が集まり、何かの準備をしていた。


「アップ、ダウン、アップ、アップ………」

 ロックの姫が双眼鏡を覗きながら、敵の動きに合わせて何かを呟きながら足でリズムを取る。
 隣でバイオリンのアレフチーナがそれに合わせて即興で楽譜を書いていた。

「間違いないようね、ある主のリズムで動いている」
「二人ともあんな早いのによく分かったね………」
「ビートが早かったから、むしろ分かったぜ」
「よし、これなら!」

 ユナが感心する中、相手のリズムを解析したアレフチーナが、それを元にした曲を即興で演奏し始める。


「これは……!」

 聞こえてくるバイオリンの即興曲の意味に一番最初に気付いたのはミーナだった。

「みんな、聞こえてる!? この曲に合わせて!」
「合わせろって言われても……」
「そういうのは苦手だ!」

 突然の事にハルトマンとバルクホルンのWエースは戸惑うが、なんとか合わせようとしながら敵を追う。

「リーネさん」
「はい、なんとか」

 むしろ動かず、その曲に耳を済ませていたペリーヌとリーネは、同じタイミングで電撃と狙撃を撃ち放つ。
 双方の攻撃は敵の前後を挟み、慌てて敵は上空へと回避していく。

「いけますわ!」
「けど当たらない!」
「とどめは音羽さんに任せる事になるわ! なんとかして相手の動きを少しでいいから止められれば!」

 あくまで相手の牽制を狙うミーナだったが、そこで近接戦を狙っていたハルトマンとバルクホルンのストライカーユニットの電子部品から白煙が上がり始めている事に気付く。

「二人とも下がって! シャーリーさんとルッキーニさんに続いて、貴方達まで行動不能になるわ!」
「あう~もうちょっとだったのに~」
「無念!」

 Wエースの脱落に、ミーナは残ったメンバーでどうするべきか考える。

「ダメだ~! サーニャだったら分かるンだろうけど、私じゃ全然分からナい~!!」
「エイラさんは未来予知で何とかして」

 自分の音痴ぶりを嘆くエイラに、ミーナがなんとか励ます。

「そう言われテも………ん?」

 ふとエイラが見えた未来予知に、攻龍の方を見る。
 そこからモールスでの発光信号と、何かを準備しているGの天使達に今見た光景が重なった。

「皆回避ダ! すごいのが来るゾ!」
「すごいのって………」
「回避、急いで!」

 その意図を理解したミーナが回避を指示、ウィッチ達がその場を離脱する。

「オーニャー、何かしてる」
「信号見えてる! その場から回避?」

 ヴァローナの言葉と、零神が解析した発光信号に音羽は零神を上空へと向ける。
 敵が再度攻龍へと向かおうとした時、攻龍の甲板で何かが光った。

『ドラマチック・バースト!!』

 天使達の声と共に、無数のスプレッドボムが発射、爆破に巻き込まれまいと、敵は急速回避に移る。

「よ~し!」「かすっただけだけど、効いてる!」「けどもう一発は……」「何とかやってみて!」

 ロードブリティッシュから引きずり出した回線を制御装置を介さずに、急ごしらえのインターフェイスで天使達の手や首筋にくっ付け、天使達総員のプラトニックパワーを直接注ぎ込む、という荒っぽい方法で現状でもっとも有効と思われるDBを叩き込んだ天使達が歓声を上げる。
 だが本来想定してない運用法に、ロードブリティッシュから白煙が上がり始める。

「ダメ! もう一発撃ったら爆発するかも!」
「そんな!」「あと少しなのに!」

 マドカが悲鳴を上げ、亜乃亜とエリューが少しは動きが遅くなった敵を見つめる。

「少しはこちらのやる事も残しておいてほしいですわね」

 そこへエリカがエリカ7を伴って現れる。

「何か手があるのかしら?」
「エリカ7を舐めないでほしいですわ。準備は?」
『OKです、エリカ様!』

 そう言うやいなや、マミとルイが矢面に立ち、そこにアコとマコがボールを投じる。

「そおれ!」「シュート!」

 そのボールをマミのバットとルイのキックが飛ばし、ボールに内包されたチャフをばら撒き始める。

「3、2、いきな、さい!」

 更にそれをアレフチーナの曲にあわせながらエリカがバトルスーツ無しで、ありったけの力を込めてテレキネシスで加速させ、敵の逃げ道を塞いでいく。

「敵、チャフから逃げてます!」
「どんどん行きなさい! リズムを合わせて!」

 ミドリの報告を聞きながら、エリカの指示にセリカが有り合わせで組み立てたエンジン式のピッチングマシーンまで持ち出し、次々とチャフがばら撒かれていく。

「これ、で………」
「エリカ様!」

 バトルスーツ無しで無理をしたのか、エリカがその場に崩れ落ちそうになるのをミキが慌てて支える。

「後は頼んだよ、音羽ちゃん!」

 出来る限りの援護をした者達を代表するように、亜乃亜が零神へと向かって叫んだ。



「オーナー、ジャミング限界まであと二分。でも相手の動きが今なら捉えれるよ」
「分かってる!」

 上空からその様子を見ていた音羽が、零神を急降下させて敵を狙う。

(皆が作ってくれたチャンス、これで決めないと! こんな時、必殺技でもあれば…)

 零神を降下させながら、音羽はそんな事を思いだしていた。

「一撃、一撃で………」(ソニックダイバーの最大の利点はその速度にある)

 音羽の脳裏に、美緒の言葉が響く。
 相手の姿がどんどん大きくなっていく中、音羽は徐々にプレッシャーを感じ始める。

「一撃で倒さないと、みんなが………一撃?」

 自分の呟いた言葉に、突然音羽の脳裏に何かの記憶が呼び起こされる。

(一瞬で散る花のごとく、これが奥義だ)

 それは幼い時の記憶、父が出征する前夜に、祖父が父に伝授していたのを隠れ見た時の事。

「思い、出した………必殺技!」

 顔をほころばせながら、音羽は更に零神を加速させていく。


「おい、速度が速すぎる! あれでAモードにチェンジしたら零神が持たないかもしれねえぞ!」
「音羽! 一体何を!」「音羽さん!」「音羽っ!」

 無茶すぎる急加速に、遼平が思わず叫び、ソニックダイバー隊の仲間達が音羽を呼ぶ。

「オーニャー、大丈夫なの!?」
「任せて!」

 ヴァローナも思わず問う中、音羽は渾身の笑みを浮かべていた。

「振り落とされないで! Aモードチェンジ!」

 高速急下降の速度のまま、零神をAモードに変形、敵はすでに目前にまで迫っていた。

(相手との交差の刹那、それに全てを叩き込む、これが…)
「MVソード! 桜野無敵流奥義!!」

 零神の各所に負荷が掛かる中、音羽はMVソードを抜刀、急降下の速度を乗せ、一気に白刃を振り抜いた。
 交差の刹那、零神の腕が高速でMVソードを数閃。
 警告のレッドアラートが各所から鳴り響く中、音羽は零神の各バーニアを全開。機体を急停止させながら、相手の方を確認した。

木花咲耶このはなさくや………」

 敵はしばし何事もなかったかのように進んだかに見えたが、体の一部に直線上の亀裂が走る。
 次の瞬間、敵は花が散るような六つの破片に分断、そのまま破片のまま落ちていきながら、途中で無数の破片に分解していく。

「やった! ゼロ、無茶させてゴメン。ヴァローナも大丈夫?」
「………気持ち悪い」

 音羽が歓声を上げるが、アラートが鳴りっ放しの零神と音羽の頭の上で目を回しているヴァローナに気付き、苦笑しながら攻龍へと向かう。

『通信、回復しました!』『桜野、よくやった!』
「はい! これより帰還します!」

 通信からタクミと冬后の声が響き、満面の笑みで音羽は答える。

「音羽ちゃんすご~い!」「よくやった! 「かっこよかったよ~!」

 攻龍の甲板上から声援を送ってくる仲間達に手を振りながら、零神はゆっくりと格納庫へと向かっていった。



「なんとかなりましたね………」
「おっと」

 そう呟きながら卒倒しかける白香を、今度こそ冬后が支える。

「無理をかけさせたようだな、大丈夫かね?」
「はい、なんとか」

 そのまま床に座り込んだ白香に艦長が声をかけ、白香は疲れが見える笑顔で辛うじて応える。

「主電源の復旧および全部署点検、特にメインCPUの確認を重点的に」
「格納庫無茶苦茶だって言ってたな………ちょっと見てきます。ついでに医務室に行くか?」
「いえ、大丈夫です」

 副長の指示が飛ぶ中、冬后がブリッジを出る前に白香に声をかけるが、白香は小さく首を左右に振る。

「一時はどうなるかと思った………」「全くです。この後のチェックが大変そうですけど」

 タクミと七恵が思い一息を吐くと、それぞれの担当のチェックへと入る。

「………妙だな」「ええ」
「何がですか?」

 艦長と副長も自らのコンソールをチェックする中の呟きに、白香が思わず反応する。

「先程の電子攻撃、なぜ追撃が無かった?」
「確かに、もし物理的敵襲が有れば、我々は対処する術は無かった」
「あれだけの電子攻撃ですから、向こうも手を出せなかったのでは………」
「直接攻撃は無理でも、爆撃なり何なり、手は幾らでもあったはずだ」
「あっ!」「そう言われれば………」

 艦長と副長の言いたい事に気付いたタクミと七恵が同時に声を上げる。

「周辺索敵、可能か?」
「は、はい! 予備電源だと出力は弱いですが、何とか」
「主電源の復旧を急がせろ。しばらくは周辺警戒を厳に」
「通達します!」

 チェックと並列しながら、レーダーと艦内放送に電源が入る。

「もしや、別の狙いが……」

 艦長の呟きは小さく、誰の耳にも届く事は無かった。


「う……ん」
「くぅ~」
「良かった……二人とももう大丈夫みたい」
「ありがとう、貴女のお陰よ」

 穏やかな表情になったアイーシャと寝息を立て始めたティタを見ながら、夕子先生と周王は胸を撫で下ろし、芳佳の労をねぎらう。

「いえ、これが私に出来る精一杯でしたし」
「医療機器が使えるようになったら精密検査が必要だけど、この様子なら心配なさそうね」

 照れ隠しに頭を掻く芳佳に、夕子先生が二人の脈を確かめながら微笑む。

「生体組織は宮藤軍曹の魔法で大丈夫だろうけど、ナノマシンへの影響がどこまで及んでいるか………」
「アイーシャは!?」「ティタ大丈夫!?」

 周王がアイーシャの頭を撫でながら考えた所に、音羽と亜乃亜を先頭にソニックダイバー隊と天使達が医務室に大挙して押し寄せる。

「医務室では静かに。もう大丈夫」
「よかったぁ~………」「芳佳ちゃんありがとう」

 胸を撫で下ろす音羽に、亜乃亜は芳佳の手を握って思いっきり上下に振って礼を述べる。

「さて、それじゃあ格納庫に行って自分の機体を直してこないと」
「まずは起こす所からね………ウィッチの人達呼んできた方がいいかもしれないわ」
「あ……」「忘れてた………」

 瑛花とジオールの言葉に、格納庫が凄まじい状態になっていた双方のメンバーが肩を落とす。

「あの、私手伝いますか?」「芳佳ちゃんは疲れてるだろうから、いいからいいから」「その前にこのマドカの張ったフィールド装置外さないと」
「そうね、お願いできる?」

 やる事が山積みな事に皆が気を重くする中、とにかく医務室の片付けを始める。

「頑張ってねオーニャー………あたしは眠い………くーくー」
「私の頭の上で寝ないで………」
「変わった武装神姫だね、この子のクレイドルもどこかにあるかな?」
「それも探さないといけませんね」
「しばらくは音羽の頭がベッドだね」
「む~」
「はいはい、だから静かにね」



『シールド順次開放、電子攻撃の完全停止を確認』
『物理遮断リリース、回線回復』
「プリティー・バルキリー号再起動、チェックプログラム走らせます」

 カルナとブレータからの通信が届く中、エルナーも自己閉鎖を開放してプリティー・バルキリー号のチェックに入る。

『マシンクレイドルからも閉鎖終了の連絡が来ています』
「お互い、閉鎖が早くて事なきを得ましたが、一時はどうなる事かと………」
『トリガーハート三機、セルフチェック中。現状で異常無し。こちらで保護していた二名はどうするべきでしょうか』
「ユーリィと亜弥乎はマシンクレイドルでやってもらうしかありませんね………」

 ブレータからの報告を聞きながら、エルナーはある種の違和感を感じていた。

『こちら攻龍、プリティー・バルキリー号、カルナダイン、応答してください』
「こちらプリティー・バルキリー号、現在復帰作業中」
『こちらカルナダイン、セルフチェックまもなく完了、完了と同時に全機能使用可能です』
『うらやましいですね~、こちらはメインケーブル切断しちゃったんで、完全復旧に時間かかりそうです』

 タクミからの通信にそれぞれ答える中、通信ウインドゥに艦長の姿が表示される。

『双方、索敵機能は働いているか?』
「ええ、完全ではありませんが」
『こちらでは現状第二種戦闘態勢で索敵中、セルフチェック完了と同時に第一種に上げられますが……』
『すぐにそうしてほしい。今回の電子攻撃、どうにも妙だ』
「……やはりそう思いますか」
『確かに、他に敵影は感知されてませんし………』
『電子攻撃は陽動で、他の目的の可能性も十分ありうる。しばらくは警戒態勢を引き上げておいた方がいい』
「了解しました」
『了解、トリガーハートにも伝達しておきます』

 通信が切れると同時に、エルナーはしばし考え込む。

「どうにも敵の行動パターンが読めません………一体、なぜここまで手の込んだ事を?」

 その問いは、程なくして解ける事となった。



「うん………」
「あら、目が覚めた?」

 アイーシャがゆっくりと目を開けると、そこには幾つかの検査機器を動かそうとしている夕子先生とそれを手伝っている白香、ついでに隣のベッドでまだ寝ているティタの姿があった。

「そうか、私は………」
「まだ無理をしてはいけません。周王さんから貴女のデータをいただきましたから、体内のナノマシンへの影響をマシンクレイドルで見てもらいましょう。何かあってもすぐ治療できます」
「……攻龍にはそこまでの設備は無い。頼む」

 体を起こそうとするアイーシャを白香が起きないように促し、アイーシャは大人しくそれに従う。

「う~ん、これはここの機械も見てもらった後の方いいわね」
「そうですね、どんな影響が出てくるか分かりません。データチェックも必要でしょう」
「データ………」

 そこで何かを思い出したアイーシャが跳ね起き、医療機器をチェックしていた二人が思わず振り返る。

「だから無理をしてはダメって…」
「みんなに伝えてほしい。敵に干渉されて分かった事がある」
「え……それは?」
「敵の狙いは、みんなのデータ。こちらの対抗手段を封じつつ、こちらのデータを奪う事が目的だった。けれど、対処が早かったから各艦のデータバンクへのハッキングは不完全。私を除いて」
「仮定の通り」

 いつから起きていたのか、ティタがアイーシャの言葉を肯定する。

「それって、一体どこまでです!?」
「ソニックダイバーとこちらに来ていたウィッチと天使達のデータを持っていかれたと思う」
「まさかそんな事が………」
「エルナーに教えてきます!」

 白香が慌てて医務室から出て行く中、アイーシャがベッドで半身を起こしたままうなだれる。

「アイーシャ悪くない。悪いのは多分あっち」
「分かってる。でも何か手が」
「悩むの無駄。だから寝る」

 そう言うやいなや、ティタはまたベッドで寝息を立て始める。

「アイーシャも休んでなさい。何かあっても、みんながなんとかしてくれるから」
「うん………」

 力なく答えながら、アイーシャは再度体をベッドに横たえる。

(信じよう、みんなを。この先何が起きても、みんなと力を合わせれば、きっと……)

 そう自分に言い聞かせながら、アイーシャは瞳を閉じた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP27
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:f8f13963
Date: 2013/11/04 21:27
「全目標データ解析完了」
「想定危険数値、0・87」
「許容危険数値を大幅に逸脱」
「作戦を変更、変更内容は………」



「全装置、設置確認」
「接続の確認を。くれぐれも厳重に」
「いや~、一時はどうなるかと思いましたが、これで一安心ですね」

 攻龍を中心に、転移装置の設置終了を聞いた鏡明が確認を支持する中、種々のチェックを行っていたエルナーが思わず声をもらす。

「これで明日にでも実験に入れるでしょう」
「再度の襲撃も懸念されますので、用心に越した事は無いはずです」
「こちらでも警戒は厳にしています。対電子戦装備の準備も進んでおります」
「なるほど、あれがそうですか」

 鏡明の説明に、エルナーはふと向こう側を歩く影、まるで鎧のような重装備をまとった小柄な人物を見る。

「……重い」
「仕方ありません。これでも小型化したんですが………」
「これじゃあ思うように動けないよ~」

 文句を言う人影、試作型防護アーマーをまとった亜弥乎が、隣を歩く白香に文句をもらす。

「やっぱり脱ぐ!」
「改良の余地ありですね………」

 その場で防護アーマーを脱ぎ始める亜弥乎に、白香が項垂れる中、上空を影が通り過ぎる。

「これだけ厳重に警戒してれば、次は直ぐに見つかると思いますし」
「それもそうだね」

 二人の上空、ウィッチと天使がそれぞれ上空警戒に当たり、さらにその上空をカルナダインが常時索敵を行うと言う厳戒態勢が敷かれていた。

「ユナは夜の担当になったってボヤいてたよ」
「無事に攻龍が戻れるまでの辛抱ですね」

 前回の襲撃以降、総員が交代で警戒にあたり、起動時間が短いソニックダイバーですら交代で準戦闘体制を維持するという状態の中、打って変わった平穏が続き、それぞれの修理及び転移装置の設置はつつがなく終わろうとしていた。



「なんか、拍子抜けだね」
「いいんじゃない? またバッハぶん投げられても困るし」

 念には念を入れた警戒態勢にも関わらず何も起きない事に、音羽は攻龍の艦上で思わずぼやき、エリーゼはむしろ喜んでいる。

「エリーゼはもう少しでも早く戻りた~い」
「色々あったからね。私はもうちょっといてもいいかな? 坂本さんにもう少し剣術教わりたいし」
「だったら早い方がいいわよ」

 そこへジオールが何か含むような笑みで声をかけてくる。

「早くって?」
「さっきオペレッタから通信があって、ウィッチの人達の世界の座標が特定されたそうよ。すでにエージェントを一人向かわせたらしいわ」
「え? じゃあウィッチの人達もすぐ帰っちゃうんですか?」
「装置の実験が終われば、後は座標を入れるだけだから、そうなるわね」
「そっか、じゃあやっと元通りになるのね」
「え、ええそうね」

 エリーゼが無邪気に言う中、ジオールはそれに付随していた情報を言うべきか僅かに迷うが、心中に留めておく。
 不確定だが、ウィッチの世界に多数の転移らしい反応があったという情報を。

「じゃあ、その前に坂本さんに剣の修行を」
「音羽、その前に頭の上の置いてった方が」
「むにゃむにゃ………」
「そうね」

 ここ数日、音羽の頭の上を寝床にしているヴァローナを指差し、ジオールも思わず小さく笑う。

「いや、なんでか私の頭の上が気に入ってるらしくて………クレイドルよりも、私の頭の上の方が多いんじゃないかな」
「い~っつもそこで寝てるし。音羽の脳が始終暖かいとか」
「他の武装神姫と大分雰囲気が違うのよね、この子」
「寝てばかりで全然サポートしてないし。音羽に合わせたらこうなったとか」
「む~、そこまで言わなくても」
「ふにゃ? オーニャー、あと五分………」

 言いたい放題のエリーゼに音羽が膨れるが、そんな中ヴァローナは一度起きたかと思うと、また音羽の頭の上に横になる。

「何か、こちらに来てからアンドロイドという物の認識が変わりそうですわね」
「やっぱり早く帰りたい………」
「そう言えば、この子達武装神姫ってどこから来たんだろ? 一緒に連れて帰っていいのかな?」
「………そう言えばそうだよね?」
「私もそこが気になってたのだけれど、エルナーさんはそのままでいいって言ってましたわ」
「いいのかな~」

 音羽が首をかしげた拍子にヴァローナが音羽の頭からずり落ちそうになるが、寝たまま音羽の髪にしっかりしがみ付き、そのままスリープモードを続行する。

「ま、難しい事は頭のいい人達に任せとこ」
「音羽じゃ知恵熱出すのがいいとこだしね」
「む~、どうせエリーゼみたいに数ヶ国語出来るほど頭よくないよ!」
「あらあら」

 どうこう言いながらも艦内へと向かう二人をジオールを微笑しながら見送る。

「あの様子なら、伝えない方がいいでしょうね」
「武装神姫の作戦目標を、ですか?」

 呟いた独り言に反応した人間がいた事にジオールが振り向くと、そこにはデータパッドを手にした可憐が立っていた。

「そろそろ、気付く人がいるとは思ってたわ」
「ええ、他に気付いてる人はいますか?」
「エルナーさんは気付いてるわね。核心持てないけど、薄々気付いてる人も何人か」
「どうにも信じられないけど、他に考えられません」
「そうね。私達Gは他の宇宙に行く事は珍しくないけど、そうでない人達には信じられないでしょう。一応、他の人には内緒にね」
「はい。なぜなら武装神姫の本当の目標は………」



「ふああぁぁ~………ねむ~い」
「ユーリィも眠たいですぅ~」
「ほらほら、あと二時間で交代ですから、しゃんとしてください」

 くじ引きで夜の警備当番に当たってしまったユナとユーリィが、エルナーにせっつかれながらも一応パトロールと称してとぼとぼとドッグ周辺を歩いていた。

「ねえエルナー、芳佳ちゃん達も帰れるって本当?」
「ええ、Gの方でウィッチの世界を発見したそうです」
「そっか。じゃあさ、帰る前にみんなで打ち上げパーティーとかどうかな?」
「パーティーいいですぅ! 御馳走いっぱい食べられるですぅ!」

 ユナの提案に、ユーリィが先程とは打ってかわって目を輝かせながらよだれを垂れ流しそうになる。

「う~ん、無事に帰れる事が決まったら、という事になるでしょうけど………」
「実験済んだらいいんでしょ? だったらいいじゃん♪」
「確かにいいですね~」

 そこへ上空からRVにまたがった亜乃亜が降りてきて賛同する。

「亜乃亜ちゃんもそう思う?」
「せっかくみんなで頑張ったんだから、少しは楽しい事しないともったいないし」
「だよね~」
「実験が無事に済んだらよ」
「でもいいんじゃないですか? 折角ですし」

 さらにそこへ上空からエリューと芳佳も降りてきて、ユナの意見にあれこれ述べていく。

「ようし、じゃあ明日の実験が終わったら、みんなでパーティーの準備しよう!」
「さんせ~い!」
「分かりました!」
「わ~い、ユーリィいっぱい食べるですぅ!」
「………いいの?」
「明日の実験次第、ですけど………」

 勝手に盛り上がる面々にエリューがエルナーに問うが、エルナーは諦めたのか一応了承する。

「じゃあ私、上にフェインティアさんいたから教えてきます!」
「私もエイラさんとサーニャちゃんに教えてきます!」
「お願いね~」
「まったくユナはこういう事だけは積極的なんですから………」

 エルナーは完全に呆れるが、今更止めるのもどうかと思って、それ以上は口を出すのを止めた。

(果たして、無事に皆さん元の世界に帰れるといいのですが………)


翌日

「それでは、本日正午から一回目の転移実験を行うそうです」
「各員、第一種戦闘体制で警戒に当たるように。敵襲も十分考えられる、些細な事も見逃すな!」
『了解!』

 ミーナと美緒の説明に、501のウィッチ達は一斉に返答するが、直後にパーティーの話題に切り替わる。

「それで、いつやんの?」「玉華さんが会場用意してくれるそうですから、数日中に」
「バーベキューやろうバーベキュー」「わ~い!」
「お前達! 今日の実験が無事に終わってからだぞ!」「私お茶用意します」「私も手伝いますわ」
「何か作りたい。材料は?」「リューディアが用意してくれるって。費用はエリカが持ってくれるってさ」
「もうみんなパーティーの事でもちきりね」
「いいのマスター?」

 騒がしい部下達にミーナが微笑むのを、肩にいるストラーフが首を傾げる。

「この実験が上手くいけば、我々も戻れるのだ。羽目を外したくもなるだろう」
「外しすぎるのも問題が………」

 豪快に笑う美緒に、アーンヴァルも思わず苦言を漏らす。

「……お姉様、バーベキューは実験の後で」
「おう、そうだな。じゃあ警備の準備に入るぞ」「早く終わらせよ~」

 飛鳥に促され、シャーリーとルッキーニがユニットの点検に向かう。

「そう言えば、亜乃亜さんの仲間の人が私達の世界に行ったって聞きましたけど?」
「それなんだけど、その後連絡が取れないみたいなの。しぶとい人だから大丈夫だろうとは言ってたのだけど………」
「はあ………私達の世界でも何か起きてるんでしょうか?」
「何とも言えんな、確かめようもないし。とにかく、今は実験を成功させる事だ」

 芳佳の問いに、ミーナと美緒も言葉を濁す。

「それでは全員、装備を確認の上、定時までに配置につくように。昼食は各自の判断に任せるけど、軽めにね」
『は~い』

 皆が思い思いに準備を始める中、ミーナと美緒はしばし考え込む。

「もし私達の世界で、似たような事が起こっていたら………」
「大丈夫、501以外にも優秀なウィッチは世界中にいる。何かあったらこちらの世界から救援に来るとも言われてるしな」
「それで済めばいいのだけど………」
「ボクらもいるし、大丈夫だって」「そうです。全力でマスターをサポートします」
「そうね」「頼もしい事だ」

 小さな応援に、二人は頷きながらも、各々の準備に取り掛かった。



「パーティー~? なんだってそんなのに出なけりゃならないのよ、この間やったんじゃないの?」
「あれはお茶会名目だったしね。なんでも今度は各自何か余興をするのを推奨だそうよ」

 カルナダインのブリッジでフェインティアがふてくされる中、クルエルティアが回ってきたパーティーの詳細に目を通す。

「マイスターはパーティーに何か不信感でもあるのか?」
「うぐっ!?」

 パイルを磨きながら何気なく聞いてきたムルメルティアの一言に、フェインティアが露骨に言葉に詰まる。

「ああ、アレね」
『何ですかアレって?』

 クルエルティアも何かを思い出したのを、興味を持ったのかカルナも聞いてくる。

「あれはソトス星系の防衛戦の後、戦勝記念パーティーで正装だって言われてピンクのフリルドレスを…」
「わ~~~!!」

 思い出したくも無い過去を晒されそうになたフェインティアが大声をあげた所で、アラームがブリッジに鳴る。

『予定時間です』
「あら、詳しい事は後でね」
「言わなくていい!」
「姉さん、そろそろ準備をしないと」

 そこへエグゼリカがブリッジ内に入ってくるが、何か慌てているフェインティアに首を傾げる。

「何かあったの?」
「マイスターがパーティーへの参加を拒否している理由についての説明を…」
「ストップ!」

ムルメルティアの口をフェインティアが強引に塞ぎ、そのまま掴むようにしながら慌ててブリッジから出て行く。

「え~と……」
「後で説明するわ、それでは随伴艦との接続の後、所定の配置へ」
「はい。実験、うまくいくといいですね」
「失敗率は0・1以下よ。でも念のために」
「………うまく行ったら、私達もチルダに戻れるようになるのかも」
「そこまでは分からないわ。エグゼリカは戻りたい?」
「………私は、このまま地球のおとうさんと暮らすのもいいかなって」
「そうね。それじゃ準備を」

 実験に期待と不安、それらが入り混じった複雑な物を感じながら、トリガーハート達は警戒態勢へと入る事にした。



「全センサー、異常なし」
「通信リンク、オールグリーン」
「実験開始まで、あと30分」

 攻龍のブリッジ内で、種々のチェックが進められる中、艦長は攻龍前方にある転移ゲート発生装置を凝視していた。

「本当にあんなので帰れるのか?」
「今回は小さなゲート開けて、確認用のセンサーポッド入れるだけって話ですからね」

 副長も首を傾げる中、冬后は渡されていた資料に再度目を通す。

「手順だとまず直径3m前後のゲートを発生、そこへ各種センサー内蔵ポッドを投入、もし問題ないなら、向こうでGがポッドを確認、回収して異常が無いかをチェックする事になってます」
「面倒くさいモンだな。この間みたいにいきなり戦場に叩き落されるのも困るが………」
「我々に取っては完全に未知の技術だ。安全を最優先に考慮せざるをえない」

 七恵の詳細説明に、冬后も顔をしかめるが艦長の言葉にブリッジの誰もが同意する。

「ソニックダイバー隊、スプレッドブースにて待機」
「全兵装、安全装置確認」
「実験開始まで、あと15分です」



「装置最終確認完了」
「全接続ライン、点検完了」
「周辺および衛星軌道上、異常確認できません」

 機械人達が次々と報告を上げる中、今回の実験の総指揮を取る事になっている天鬼院・美鬼(相変わらず自分の修理を後回しで浮遊ポッドのまま)が自らも安全を確認していく。

「皆さん、配置完了しています」
「それでは、時間通りに始めます」

 そう言いながら美鬼は配置を再度見直す。
 転移装置の上空にカルナダインを配置し、その三方を囲むようにトリガーハートが待機、その下をプリティー・バルキリー号が配置、その周辺及び艦上に光の戦士達が待機し、Gの天使とウィッチが高空と低空を旋回するように巡回警備に当たり、転移装置の正面に攻龍、その艦上にエリカ7が警戒に当たり、ソニックダイバー隊もいつでも出撃可能な状態のまま待機している。
 完全臨戦態勢の警戒網が敷かれる中、蟻の子一匹通せそうに無い状態で今まさに実験が始まろうとしていた。

「時間です」
「動力炉に接続、エネルギーフィールド形成を…」

 まさに転移装置が動き出そうとした瞬間、突然謎の閃光が周辺を覆う。

「何事です!」
「転移装置が、勝手に動き出しました!」
「すぐに停止を! 動力遮断!」
「それが、まだ動力炉に繋いでません!」
「回線を切断! 動力炉も停止!」
「やっています!」

 美鬼の指示が飛ぶ中、機械人が大慌てで実験の停止作業に入る。
 だが、その時すでに、転移装置を中心に転移用ホールが形成され始めていた………



『緊急事態! 転移装置が暴走!』
「全員、手近の艦内に退避してください! 急いで!」
「そんな馬鹿な! 動力無しで装置が発動するはずが!」
「転移用ホール、形成されます!」

 プリティー・バルキリー号のブリッジ内に緊急事態のアラームが鳴り響き、エルナーの指示で皆が大慌てで艦内へと戻ってくる。
 宮藤博士とエミリーが必死になって現状を調べ上げ、原因を探ろうとする。

「やはり、装置と動力は完全に断線している! これは外部からの操作だ!」
「でもどうやって!? これだけのホール、外部からの操作だけでは開きません!」
「……信じられないが、恐らくはホールの向こう側からエネルギーを供給しているんだ」
「次元間のホール操作!? そんな事が………」
『こちらカルナダイン! トリガーハートおよびGの天使を収容!』
『こちら攻龍! 何がどうなってるんですか!』
「これは攻撃だ! 何者かが、我々をどこかに引きずり込もうとしている!」
「カルナダイン、重力アンカーを攻龍に射出! こちらからも打ち込んで攻龍を引き止めます!」

 悲鳴のような報告があちこちから響く中、皆の前で、とてつもなく巨大な渦が形成されていった。

「なんと巨大な………」
「通常転移でも有り得ません! これでは…」

 宮藤博士が絶句する中、エミリーも悲鳴じみた声を上げる。

「固定用アンカー射出! 攻龍牽引を開始!」
「カルナダイン降下中! アンカー射出距離まで後200!」

 ブリッジに待機していたミサキやポリリーナの声が響く中、とうとう各艦が渦へと引き込まれ始める。

「全員艦内に戻りましたか!?」
「それは確認したわ!」
「出力全開! 攻龍牽引のまま、安全距離まで退避!」
「地上の様子はどうなってますか!?」

 エルナーの言葉に、ミサキが外部モニターを見て奇妙な事に気付く。

「地上にはほとんど影響が出てないわ! このホールは、私達だけを狙っている!」
「指向性転移!?」
「時代もサイズも違うが、戦闘艦や準戦闘艦三隻を!? 一体、何が…」

 下の機械人達がこちらを指差しながら何かしようとしているのが見えるが、すでに巨大な渦からの吸引力はこちらの限界を超えようとしていた。

『こちら攻龍! アンカーを切除してください! 艦長が巻き添えを防げとの命令です!』
「残念だけど、それは出来ない相談ね。それに切除しても、もう間に合わない!」

 ポリリーナが叫ぶ中、更に吸引力は高まり、各艦を大きな振動が襲う。

「きゃああぁ!」
「エルナー! 一体何が起きてるの!?」
「ユナ! 伏せてください! 総員対ショック体勢!」
「ダメ、みんな吸い込まれる………!」

 ブリッジに飛び込んできたユナと亜弥乎にエルナーが叫んだ時、今まで最大の衝撃が各艦を襲った。

「艦体制御不能! 離脱不可能! 転移に巻き込まれます!」
「またぁ!?」
「全システム緊急閉鎖! ダメージを最小限に抑えろ」
「り、了解!」
「オペレッタ! リンク出力最大! 転移先を推定して!」
『了解しました』
「ちょっとちょっと! 問題ないんじゃなかったの!?」
「知らないわよ! いいから伏せなさい!」
「帰れると思ったのに~!」
「伏せるか何かにしがみ付け!」
「はいマスター!」
「リーネちゃん!」「芳佳ちゃん!」

 幾つもの指示、悲鳴、怒号、それらが渾然と飛び交う中、ある者は伏せ、ある者は手近な物にしがみつき、ある者は傍らの友の手を掴む。
 そして、とうとう三つの船は渦に完全に飲み込まれ、その姿を機械化惑星から消した。
 直後、ウソのように渦は消え、あとは静かな風景だけが広がっていた。

「そ、そんな………ユナさんが………」
「転移装置オーバーヒート! 緊急冷却に入ります!」
「制御装置が幾つかダウンしています!」
「直ぐに復旧を! 玉華様に緊急連絡! それとプリンセス・ミラージュとも協力して皆さんの転移先を捜索! 全てを最優先!」
「被害状況をまとめよ! 動かせる人員、資材を総動員せよ!」
「く、こんな事になるとは………」

 我に返った美鬼と、外からの敵襲ばかりに警戒していた剣鳳と鏡明が急いで各種処理に入る。

「せめて、我々だけでも乗っていれば………」
「言うな鏡明、亜弥乎様だけでも乗っていただけ幸運と思おうぞ」
「転移装置の復旧時間と、転移先の計算を急いでください! 可能ならば、増援部隊を結成します!」

 恐らくそれは間に合わないだろう事を内心確信しながらも、鏡明も自ら転移装置の復旧へと取り掛かろうとしていた………



「うわああ! 落ちてます!」
「きゃああぁぁ!」
「今度はどこだぁ!?」

 攻龍のブリッジ内に悲鳴が響き、それに続けて大きな衝撃が響く。
 それによって生じた水しぶきを見た副長が、少なくても水上である事を確認。
 突然の着水に攻龍の艦体が何度か揺れるが、何とか揺れは収まっていく。

「艦体体勢建て直し、急げ!」
「他二艦は!?」
「上に一つ、後ろに一つ………どうやら無事か」

 上空にカルナダイン、後ろに同じく着水したプリティー・バルキリー号を確認した冬后が一応胸を撫で下ろす。

「各部署被害確認!」
「通信復旧、各システム緊急閉鎖解除!」
「通信リンク、復旧しました!」
「攻龍各部署、現状で異常発見されてません!」
「各システム緊急閉鎖解除、順次復旧………え?」

 七恵がシステムを復旧させていく中、ある事に気付く。

「2時方向、巨大な艦影を確認!」
「敵か!?」
「分かりません! 今確認を………不明艦、接近してきます!」
「イージスシステム復旧は!?」
「今復旧しました!」
「第一種戦闘態勢を…」
「ちょっと待った!」

 そこで双眼鏡で謎の艦を観察した冬后が、思わず手を伸ばして戦闘態勢発動を制止する。

「どうした!?」
「あれ、見覚えが………でもまさか………」

 今見た物を、信じられない冬后の声は、ただ震えていた。



「着水確認!」
「あいたたた。亜弥乎ちゃん、大丈夫?」
「うん、なんとか」
「異常確認の後、浮上!」
「攻龍、カルナダイン、双方無事です!」
「待って! 謎の大型艦、接近! 距離1000!」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで皆が起き上がりながらも、矢継ぎ早に復旧作業に入る中、突如として確認された大型艦に色めき立つ。

「確認、急いで!」
「変位エネルギーの類は確認されず、船長260m前後の水上艦!」
「どうやら、現地の船のようですが………」
「現状はどうなっている!」

 ブリッジに入ってきた美緒の目に、拡大された謎の大型艦の映像が飛び込んでくる。

「これは………!」
「知ってるんですか美緒?」
「知ってるも何も、あれは……大和だ!」
「大和……って戦艦大和!?」
「間違いない! ではここは私達の世界か!」
「マスター、そうとも限らないと思います」
「大和、砲塔旋回開始! こちらを狙ってます!」
「いかん! 通信を! 周波数全域!」
「こちらではあいません! 攻龍を通します!」
「攻龍、こちらプリティー・バルキリー号! 接近中の戦艦は大和と判明! こちらからの通信を全周波数で回してください!」
『了解、って本物の戦艦大和ですかぁ!? ってうわああ! 主砲こっち向いてます!』
「だから急げ! 46cm砲に攻龍が耐えられるか!?」
『耐えられません! 繋がりました!』
「大和に告げる! こちら扶桑皇国海軍所属、坂本 美緒少佐! 当方三艦は敵に有らず! 繰り返す! こちら扶桑皇国海軍所属、坂本 美緒少佐! 当方三艦は敵に有らず!」
「もしこれでここがウィッチの世界じゃなかったら………」
「大和と一戦交える事になる可能性が………」
『返信来ました! 回します!』
『こちら大和。本当に坂本少佐が乗っているのかね? そもそも上空の巨大飛行艇は一体………』

 美緒の呼びかけを不安な気持ちで聞いていたポリリーナとエルナーだったが、タクミからの声と続いての返信に胸を撫で下ろす。

「どうやら、助かったみたいですね」
「そのようね。他に反応は?」
「遠方に他複数の水上艦隊らしき反応、でもかなり離れてるわね」
「作戦行動中でしょうか?」
「一体、何が起きてるのでしょう………」



「オペレッタとのリンクは?」
「断線したまま! もう少し待って!」
『プリティー・バルキリー、攻龍とのリンクは異常ありません』
「予想外だったわね………まさかこんな場所に飛ばされるなんて」
「向こうから転移先を操作するなんて………ヴァーミスですらそんな技術は持ってなかったわ」

 カルナダインのブリッジで、マドカがブレータの協力の元、Gとの通信リンクを復活させようと頑張っていた。
 その間にカルナダインのセンサーで周囲の状況その他を調べていたクルエルティアとジオールが完全に予想外の事態に眉根を寄せる。

「うわあ………軌道衛星の一個も無いなんて、どんな原始時代よ」
「どころか、周囲には化石燃料機関の水上艦しかない。戦力として当てになるかどうか」
「それ、ウィッチの人達の前では言わないでね」

 表示されていくデータを流し見していたフェインティアとムルメルティアが同じように腕組みして唸るが、亜乃亜は乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。

『リーダー、大和の艦長が攻龍で会談を行うそうです』
「そう、私もそっちに行くわ。みんなも念のため、いつでも出れるようにしてて」
「了解!」
「私も行きます。カルナ、ここをお願い」
『は~い』

 ジオールとクルエルティアが攻龍へと向かう中、フェインティアはある疑問を感じていた。

「てっきり、引っ張り込まれたから何か待ち構えてるかと思ったけど、何もいないわよね」
「マイスターの言う通りだ。トラップにしては何か妙だ」
『でも、哨戒に出たエグゼリカも何も発見してませんよ?』
「もしくは、これから何かが………」

 ムルメルティアの危惧は、すぐに現実の物となる事を、誰も知る由が無かった。



「なんとも奇妙な………」

 大和のブリッジ内、大和艦長・杉田 淳三郎大佐とブリッジクルー達が、三隻の奇妙な船を双眼鏡や肉眼で凝視していた。

「あれが情報にあった船なのでしょうか?」
「分からん。坂本少佐がこちらに来るそうだが」
「うわっ!?」

 そこまで言った所で、誰かの悲鳴に皆がそちらを振り向くと、そこに先程までいなかったはずの三人の少女の姿が有った。

「お久しぶりです、杉田艦長」
「坂本少佐!? 今どこから?」
「驚かれるのも無理は無い。これが一番手っ取り早かったので」

 そう言いながら、美緒は一緒に現れた二人を紹介する。

「この二人はミサキとポリリーナ、分かりやすく言えば、未来のウィッチだ」
「乗艦許可も得ずに乗り込んで、失礼しました」「初めまして」
「未来!?」
「まさか本当に………」
「坂本少佐! 御無事だったんですね!」

 皆が驚く中、一人の若い軍人が駆け寄ってくる。

「おう、土方か。大和に乗っていたとは」
「一ヶ月以上も、一体どこにいたんですか!?」

 その軍人、美緒の従兵を勤めている土方 圭介の言葉に、今度は美緒が驚く。

「一ヶ月!? そんなに経っているのか!」
「正確には501の謎の集団失踪が確認されてから明日で40日になる。その間、こちらでも色々と起きている」
「悪いのですが、その説明は向こうの艦長の前でしてもらいたいのですが」

 杉田艦長が告げようとする言葉を、ポリリーナが遮って攻龍を指差す。

「ふむ、情報交換は確かに必要ではあるな。ではボートの用意を」
「それは必要ない。すぐに行ける」
「すぐ?」

 土方が首を傾げる中、美緒が小さく笑う。

「ではポリリーナ、杉田艦長を」
「ええ、これ位の距離なら大丈夫」
「あの、何を………」
「この二人の固有魔法、瞬間移動だ」
「じゃあ行くわよ」

 美緒が告げる中、ミサキが美緒の、ポリリーナが杉田艦長の手を握ったかと思うと、四人の姿がブリッジから掻き消える。

「うわあぁ!?」
「本当に消えた!」
「あの、確かに向こうにいます………」

 残された全員が驚く中、監視手が攻龍の後部甲板を双眼鏡で覗き、そこに現れた四人を確認した。

「坂本少佐は、一体どこで何をしてきたのでしょうか………」
「こちらが聞きたい。だが、こちらの想像できる事では無いようだ………」



「これは驚いた………」
「私も初めて見た時は同じ事を思った。こんな固有魔法を持つウィッチは知らないので」
「こちらから見たら、ウィッチの能力の方がすごいのだけれど」
「失礼します、大和の艦長の方でしょうか」

 そこへモーションスリットの上に軍用コートを羽織った瑛花が声をかけてくる。

「ああ、扶桑海軍・大和艦長、杉田淳三郎 階級は大佐だ」
「自分は、統合人類軍 極東方面第十八特殊空挺師団・ソニックダイバー隊リーダー、一条 瑛花 上級曹長です。当艦攻龍の艦長の命で、大和艦長を案内するように言われました。あの、坂本少佐から当艦の事は……」
「未来から来た、とだけ聞いている。一概には信じられないが………」
「内部を見学してもらいながら、との命です。すぐには信じられないかもしれませんが、艦内を見てもらえれば多少は分かってもらえるかと」
「見学させてもらえるのはありがたい。それと一つ聞きたい」
「なんでしょうか」
「彼らは何をしているのかね?」

 杉田艦長の視線は、攻龍の甲板でそれぞれどこかから持ってきたカメラやビデオカメラで大和を撮っている攻龍のクルーの姿が有った。

「すげえ、本物の大和だぜ大和!」
「もっと近寄ってくれねえかな?」
「46cm砲でけえ!」
「望遠ないか望遠!」
「誰か速水から借りてこい!」

 興奮しているクルー達の姿に、瑛花は赤面しつつ咳払いの真似事をする。

「申し訳ありません。私達の世界では、大和と言えば文字通り伝説の戦艦でして………」
「伝説か。出来れば軍機に抵触しかねないので、撮影は遠慮してもらいたいのだが………」
「い、今止めさせます! ちょっと貴方達!」

 瑛花が慌てて駆け寄るが、杉田艦長はそれをどこか複雑な表情で見ていた。

「つまりこの船は、大和が伝説として扱われる程の未来から来たという事か」
「確か、ざっと130年弱だったと聞いている」
「私達はそれから更に220年程先という事になりますけど」
「どうにも私の頭脳では理解しきれんな………」
「私も未だ理解しきれてない。まあ手助けがあったから何とかなっている」
「お、お待たせしました……」

 そこへ息を切らせながら、没収したカメラを首や両手に吊るした瑛花が案内を再開しようと来る。

「そこまで頑張って制止してもらう程でもなかったのだが………」
「いえ! 軍機に触れる事は止めさせませんと!」
「未来にバレても問題ないと思いますけど?」
「確かにそれはあるかもね」

 没収したカメラをどうしようかと悩む瑛花のそばに、ジオールとクルエルティアが着艦する。

「彼女達もか………」
「初めまして、私は秘密時空組織「G」所属グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイーと申します」
「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート・《TH32 CRUELTEAR》」
「一体幾つの組織が連合を組んでいるのかね?」
「は、話は中で。皆さんも」
「マスター、資料持ってきました!」
「お、すまんなアーンヴァル」

 艦内に向かおうとした所に、データパッドを持ったアーンヴァルが向かってくるのを見た杉田艦長が今度こそ驚きに目を見開く。

「それは………」
「ああ、これは武装神姫と呼ばれる物らしい。驚くのは無理もないが、かなり助けてもらっている」
「本当だったか………」
「え?」

 杉田艦長の呟きの意味を美緒が知るのは、すぐ後の事だった。



「攻龍艦長、門脇 曹一郎中将です」
「大和艦長、杉田 淳三郎大佐です」

 攻龍の士官室で、二人の艦長が握手をかわす。

「突然の事で、色々驚かれたでしょう」
「正直、半信半疑でしたが、確かにこの船の設備は何一つ、我が国どころかどこの国でも造れないでしょう」

 途中で見てきたソニックダイバーや各種設備、ついでに連絡用携帯端末などに杉田艦長は正直な感想を述べる。

「だが、一番驚いたのはこれです」

 杉田艦長の視線は士官室の中央、そこにある3D地球儀に向けられる。

「これが、我々とワームの戦いの結果です」
「ひょっとしたら、これが我々の闘いの結果になるのかもしれぬ………」

 無差別破壊兵器の影響で虫食い状態になっている地球儀に、杉田艦長の顔が青ざめる。

「さて、まずは何から始めるべきか」
「まずは我々がいなくなった後の戦況が知りたい。そもそもなぜここに大和が?」

 首を傾げる門脇艦長に、美緒が一番気になっていた事を問う。

「現在地は北大西洋、ジブラルタルから約2000kmの海域だ」
「大西洋、まあ前は太平洋に飛ばされたから近いと言えば近いわね」
「待て、確か大和は地中海からアドリア海に向かう予定だったのでは?」

 ミーナと美緒、二人のウィッチが顔を見合わせる中、杉田艦長の顔が深刻な物となる。

「状況が大幅に変わってしまったのだ。実は…」

 杉田艦長がある深刻な状況を述べようとした時、突然室内に甲高い警報が鳴り響く。

「何事だ!」
「カルナ! まさか!」
『レーダーに反応! 10時方向から無数の反応を確認しました!』
「映像回して!」

 それがカルナダインからの警報だと知ったクルエルティアが叫ぶと、クルエルティアの前にカルナダインからの映像が表示される。

「こ、これは………」

 その映像を見た全員が絶句する。
 そこには、おびただしい数のネウロイがこちらへと向かってきている光景が映し出されていた。
 それに一歩遅れて、プリティー・バルキリー、そして攻龍のレーダーも敵影を感知した。

「すまないが、話は後でという事で。第一種戦闘体勢!」
「大和に帰還する! すまないがすぐに向こうへ!」
「分かりました!」

 ミサキが杉田艦長の手を掴み、その姿に瞬間移動で掻き消える。

「マドカ! オペレッタとのリンクは!」
『あとちょっと!』
「亜乃亜、エリュー、ティタは私と出撃! マドカはリンクが回復次第に!」
「ユナ! 敵が来るわ! 急いで準備を!」
『分かりましたポリリーナ様!』
「エグゼリカ! 先陣をお願い!」
『了解です姉さん!』
「私達も!」「だが、なぜここにこれだけのネウロイが………」

 美緒の疑問は、別の疑問で消える。

『3時方向、別種の反応! パターン登録あり、ヴァーミス……って7時方向、ワーム反応複数………5時方向、バクテリアン!? 総数、約400体! 更に増加の傾向!』
「400、だと………」

 カルナが提示したそれが最低限の数字だという事に、門脇艦長も流石に冷たい汗が頬を流れるのを感じた………



「何て数………」

 こちらへと迫ってくるネウロイの大群と、カルナから送られてきた別方向からの軍勢に、エグゼリカは思わず呟かずにいられなかった。

『エグゼリカちゃん! 今行くから! ユーリィ、亜弥乎ちゃん、準備はOK?』
『エグゼリカさん! 今向かってますから無茶はしないでください!』

 通信から聞こえてくるユナと芳佳の声に、ふとエグゼリカの顔に笑みが浮かぶ。

「みんな直ぐに来るから。だから、行くよアールスティア、ディアフェンド! TH60 EXELICA、これより交戦に入ります!」

 向かってくるネウロイの大群へと向けて、アールスティアからの砲火が走る。
 それがこれから始まる激戦の開始の合図となった………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP28
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:1c3d92b6
Date: 2014/02/12 19:30

「敵襲! 総員攻撃態勢!」
「何? 何?」
「東西南北、全てから敵が迫ってきてます!」
「兵装を全て出せ! 迎撃態勢を整える!」
「これは一体………」

 プリティー・バルキリー号の艦内全てで、蜂の巣を突付いたかのような騒ぎと化していた。

「まずは情報の統一化が先です! 確か緊急用のターミナルユニットがありましたね?」
「積んでたわ! 大和に持っていく!」
「私も行こう! こちらと指揮権が統一されてない大和に助言が出来る人間が必要だ!」
「私も手伝います!」

 エルナーの指示の元、ミサキと美緒とアーンヴァルが高度情報通信用のターミナルユニットを倉庫から持ち出すと、即座に大和へと瞬間移動する。

「個々に対応しては行けません! 各艦でフォーメーションを組んでください! カルナダインを頂点として十二時方向に、中間にプリティー・バルキリーを六時、攻龍と大和で前後逆転の縦陣で三時と九時に配置! 索敵はカルナダインとこちらで行います!」

 エルナーの示す陣形がカルナダインと攻龍に伝えられ、攻龍から大和へと伝えられると即座に各艦が90度ずつ背中を向けあう陣形を取っていく。

『こちらカルナダイン! トリガーハート各艦、ネウロイと交戦中!』
「そのまま防衛線として維持してください!」
『こちらマドカ! 限定的だけどオペレッタとのリンクを接続! 今そちらを仲介して機械化惑星とのリンクを繋げてみます!』
『こちらジオール! バクテリアンとの交戦を開始するわ!』
『こちら攻龍! ソニックダイバー隊、ワームへと向けて発進しました! 敵影が射程範囲に入り次第、援護攻撃を開始します!』
「エリカ! エリカ7を率いてソニックダイバー隊に合流! 501小隊と光の戦士はトリガーハートの両脇に!」
『了解ですわ!』『こちらミーナ、もうそろそろ接敵! ストライクウィッチーズ、フォーメーション・サジタリウス!』『行くよユーリィ! 亜弥乎ちゃん!』

 各所から出撃、交戦の報告が飛び交い、それに対応する指示が乱れ飛ぶ。

「ミサキ! 大和へのターミナル設置急いでください!」
『分かってるわ!』『今私も手伝ってます! 設置後、オペレートは任せてください!』『対空、対潜警戒! 発射態勢維持のまま、指示を待て!』

 大和からの返信を聞きながら、エルナーは3Dコンソールに表示される敵影の異常としか言いようの無い数に焦りを感じていた。

「信じられん。ここまでの数とは………」
「機械化惑星の時より多いかもしれません。明らかに、人為的な布陣でしょう」

 宮藤博士も愕然としながら、減っては増えていく敵影に絶句していた。

『こちらミーナ! 敵は間違いなく本物のネウロイよ! コピーじゃないわ!』
『こちら雷神 一条! ワームはDクラス中心にCクラス複数、今Bクラスを確認! クアドラロックの許可を!』
『こちらエリカ! 雑魚はエリカ7でお相手するわ!』
『こちらクルエルティア! 今増援が到着! このまま防衛線を構築します!』
『こちらジオール! 水中からバクテリアン多数接近! なんとか押し止めてみます!』

 次々と入る通信に、戦闘音が無数に入り混じる。

「完全に嵌められました………まさか、こちらが転移するのを利用して、ここにおびき寄せられるとは」
「転移装置を外部操作か………詳しい仕組みまでは知らないが、可能なのかい?」
「正直、信じられません………それほど高度な次元操作が出来る存在は…」
『大和に入電! 後方に待機していた秋月、高雄双方の側を敵編隊が通過! 全く攻撃の意思感じられず! 敵の狙いは我々だけだ!』
『こちらでも確認! どの敵もこちら以外の水上艦は完全にスルーです!』

 エルナーの言葉を遮るように響いてきた美緒とカルナの報告に、宮藤博士の顔が険しくなる。

「ウィッチの、いや彼女達の搭乗している船以外は無視か。聞いた事の無い状況だ」
「ここに飛ばされた時から、可能性は考慮していましたが………やはり、敵はここで私達を、殲滅するつもりです!!」
『こちらカルナ! 敵、更に増加! 総数約600!!』

 エルナーの断言を肯定するように、カルナの悲鳴のような報告が響いてくる。

「まずい………このままでは………」
『こちらミサキ! ターミナル設置完了! 私も出るわ!』
「アーンヴァル! 大和の全武装とその弾数と射程範囲を入力!」
『了解です!』
『杉田艦長には話を付けた! 攻撃の指示はそちらに一任する! それと後方に艦隊が控えているそうだ! 増援の打電は打ったそうだから、秋月、高雄と合流した後にこちらに向かっている!』

 エルナーは次々と送られてくる大和のデータを元に、手早く迎撃態勢を構築していく。

「皆さん聞いてください! これより、攻龍と大和は防衛戦に徹します! 皆さんは現在位置で防衛線を構築、前後共に敵を深追いせず、第一に互いを守る事、第二に敵の数を減らす事を念頭に置いてください!」
『分かったわエルナー! 皆で一緒に戦ってればいいのね!』
『…………』

 エルナーの言葉を、ユナが思いっきりはしょった事に、全員が僅かに無言になるが、押し寄せる敵に即座にユナの言葉が間違っていない事を悟る。

「防衛線を少々なら突破されても、迎撃できます! 無理だけは絶対にしないでください!」
『了解!』

 全員からの返信だったが、それがかなり難しい事は、誰もが気付かざるを得なかった。



「行って、ディアフェンド!」

 迫ってきていたヴァーミスの中型ユニットに向けてエグゼリカはアンカーを飛ばし、それをキャプチャー、それをスイングして周辺のヴァーミス、ネウロイ双方の小型ユニットを弾き飛ばしてリリース、爆発を起こして僅かに敵陣に穴を開けるが、それは新たな敵で即座に塞がれる。

「いっけぇー!」
「行かせない!」

 エグゼリカの両脇で、ユナと芳佳が弾幕を張り、敵の接近を防ごうとする。

「そこ!」
「当たると痛いですよ~」
「しびれちゃえ!」

 そばではリーネが中型以上のユニットを狙撃で接近速度を遅らせ、ユーリィと亜弥乎が乱射と電撃で足止めに徹する。

「中型、大型はトリガーハートに任せて! 私達は小型の撃破と他の足止めを!」
「言われなくたってそうするわよ!」
「魔力を節約! 大技は控えて!」
「シュツルム!」「控えろと言われたろうが!」

 攻撃力に秀でたトリガーハートを中心に、その両脇をウィッチと光の戦士がガードする形で陣形が組まれ、押し寄せるネウロイとヴァーミスの大群を次々撃破していくが、敵は更に湧いてくる。

「どこからこんなに湧いてクルんだ!?」
「分からない………私の感知範囲外からどんどん出てくる」
「こんな海の上でバーゲンでもやってるって言うの!?」
「セール品はウチらアルよ!」
「どうでもいいから撃ちまくりなさい!」
「マイスター、11時上方に中型!」

 エイラとサーニャがそれぞれの固有魔法を持ってしても掴みきれない敵の全容に、舞と麗美が思わずぼやくが、フェインティアとムルメルティアが弾幕を張って敵の接近を阻もうとするが、それでもなお敵は増えていく一方だった。

「カルナ! どこかに侵食コアがいるはず! 反応は!?」
『それらしい反応は発見できません! 今の所中型までしか………』
「それでも、この数はちょっとね………」
「マスター、また増えた!」

 クルエルティアがカルナと共同してセンサーをフル発動、ミーナも固有魔法で周辺状況を把握するが、中枢となる存在は発見できず、ストラーフがシュラム・RvGNDランチャーとフルストゥ・クレインを乱射して必死にガードにあたる。

「それでは、一斉に行きますわよ! トネール!」
「スタンオール!」
「プラズマリッガー!」

 ペリーヌを中心にかえで、葉子の電撃使いで急遽編成されたチームが、あたりを覆い尽くすような電撃の嵐を繰り出していくが、まとめて墜落していく敵を乗り越えて次々と新手が押し寄せてくる。

「マリ! アレフチーナ! 敵をなるべく撹乱して! 姫と沙雪華は皆のサポートに! ルミナーエフは私と突出してきた奴を!」

 ポリリーナが矢継ぎ早に指示を出しつつ、手にしたバッキンボーでネウロイ、ヴァーミスを双方撃破していく。

「相手の動きが完全に計算されているわね。間違いなく指揮ユニットが存在するわ」
「そういうのは最前線でやんないでくれ!」
「来たよシャーリー!」

 ネウロイ、ヴァーミス双方の動きをプロトコル解析しているエミリーに、シャーリーが怒鳴りながらルッキーニと共に弾幕を張ってガードする。

「……お姉様、敵機直上に」
「さっきから次から次と! ルッキーニ、アレ行くぞ!」
「うじゅ!」
「そぉれ!」

 飛鳥の指摘通り、上空に現れた敵群に向かって、シャーリーが固有魔法で加速させたルッキーニを投擲、ルッキーニが固有魔法の多重バリアで次々と敵群を撃破していくが、その背後を突くように敵が潜り込んでくる。

「やば! ルッキーニストップ!」
「……少しでも突出すれば隙を突かれる模様です」

 慌ててシャーリーがルッキーニの後を追いながら銃を乱射し、飛鳥も近寄ってきた敵を次々と霊刀 千鳥雲切で斬り裂いていく。

「いけない! このままじゃ孤立する!」
「それは~~~いけませんね~~~」

 エミリーが後を追うべきか迷うが、相対速度が違い過ぎるために追いつけない事を即座に悟り、そこで状況を理解しているのか怪しい詩織が、相変わらずの間延びした口調で首を傾げたかと思うと、いきなり強烈なビーム砲撃で孤立しかけていた三人の周囲を薙ぎ払って一掃する。

「ウジュアッ!」「わり、助かった!」
「……お姉様、後退を」

 礼を述べつつもシャーリーは二人を連れて陣形を組み直す。

「ハルトマン! 何機撃墜した!」
「え~、20以上は数えてないよトルゥーデ」
「細かい事数える女は男に持てないわよ」
「本来なら反論する所だが、そうは言ってられないようだ………」

 背中合わせになってマガジン交換しているバルクホルンとハルトマンだったが、そばでゴールドアイアンを振るっていた舞の呆れた口調に、バルクホルンが珍しく肯定する。
 その視線の先には、どう見ても残弾数よりも多い敵影が有った。

「あ~、あたしらひょっとしてスカ掴まされてんじゃない?」
「そうでもないみたいよ………」

 舞も思わずたじろぐ中、ミーナが他の戦闘の様子を感知していく。
 それは、他の場所の激戦を示していた。



「目標、前方Bクラス! クアドラロックのスタンバイを…」

 瑛花が眼前のヤドカリ型ワームに接近しようとするが、そこを小型のワーム達が立ちはだかっていく。

「邪魔よ!」

 雷神の20mmガトリング砲と大型ビーム砲が一斉に火を噴くが、目標になかなか近付けない。

「瑛花さん! 敵が多過ぎる! これじゃあクアドラロックが出来ないよ!」
「こいつで、永遠に眠りやがれ!」
「しかもこの子何か普段とギャップが……」

 MVソードを振るいながら何とか目標に近づこうとする音羽だったが、敵はまるでそれを阻むように迫り、音羽が捌き切れない分を普段は眠たそうなヴァローナがまるで別人のような好戦さで背のカンベーリアームドウィングを迫るワームへと射出していく。

「この、どけ~!」
「冬后大佐! 敵が多すぎてクアドラフォーメーションに必要なフィールドが確保出来ません!」
『交戦しつつ後退しろ! 攻龍から援護を…』
「必要ありませんわ。エリカ7!」
「大リーグシューター!」「ハリケーンシュート!」「バックファイヤー!」「スポットライイトビーム!」「トリプルアクセル!」『サイクロンカット!』

 エリーゼがMVランスを振るい、可憐がリアルタイムで解析したデータを攻龍に送り続ける。
 混戦の模様を呈してきた戦況に、冬后から一時後退の指示が出かけるが、そこにエリカ率いるエリカ7が一斉攻撃で周囲を一掃する。

「援護はこの香坂 エリカとエリカ7が引き受けますわ! さあ早くあのデカブツを倒してしまいなさい!」
「ありがと!」
「クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」

 周辺に敵がいなくなった隙に、ソニックダイバー四機がフォーメーションを組み、零神が一気に突撃する。

「行くよゼロ!」

 そのまま一気にMVソードを突き刺そうとした音羽だったが、突き刺さるはずの切っ先がヤドカリ型ワームの表面で弾かれる。

「へ!?」
「音羽さん! 目標のセル結合率が異常に上がってます! 明らかにクアドラロックを警戒されてます!」
「ええ!? 今までそんな事一度もなかったじゃない!」
「クアドラフォーメーション一時中止! 散開してセルの結合率の低い所を狙って!」

 可憐の予想外の言葉に、エリーゼも瑛花も驚きながら一時ヤドカリ型ワームから離れる。

『クソ! ワームがここまで警戒して戦うなんてオレも聞いた事がねえ! やはり攻龍からの援護で…』
「目標に変化あり! 足を殻に引っ込め始めました!」

 冬后が声を荒らげる中、突然瑛花が叫ぶ。

「え~と、逃げ支度?」「寝る準備とか」
「そんな訳ないでしょ! 全機警戒!」

 音羽とヴァローナがのんきな事を呟くが、それが次の攻撃の準備段階だと判断した瑛花が即座に警戒に入る。

「エリカ様!」「何か来るわよ! 注意しなさい!」

 同じ判断をしたエリカがエリカ7に叫んだ時、ヤドカリ型ワームが回転を始め、それに応じるように殻から無数の棘がミサイルとなって発射される。

「わ~!!」「危ないオーニャー!」

 飛来した刺ミサイルを音羽が叫びながらMVソードで次々と撃破し、ヴァローナも手にしたFL015 バトルスタッフを叩きつけて撃破する。

「なんて数!」
「単純追尾の数で迫るタイプです! 回避パターンを今作ります!」
「急いで!」

 瑛花が20mmガトリング砲を連射しながら回避し、可憐が回避しながらその攻撃パターンを解析、エリーゼがMVランスを手に援護する。

「エリカ様! 後ろに!」
「こんな物!」

 集合したエリカ7からマミとルイが前に出て飛来する刺ミサイルを次々と打ち返し、蹴り返していく。

「舐められた物ですわね。この程度でこの香坂 エリカとエリカ7が倒せるとお思いかしら!」
「回避パターン出来ました! そちらにも送ります!」

 自らもエレガントソードで飛来する刺ミサイルを撃破していくエリカだったが、そこで可憐が解析した回避パターンが送られてくる。

「長くは続かないはず! 攻撃が止む隙を待って!」
「待つ? この私が? そんな悠長な事はたしなみませんわ! アコ、マコ!」
「行くよマコちゃん!」「行くよアコちゃん!」『サイクロンカット!』

 エリカの号令で前へと出たアコとマコが猛烈なスピンで竜巻を作り出し、それを一気に打ち出す。

「ミドリ! ミキ! 付いてきなさい!」
『はい、エリカ様!』

 竜巻の後を追うようにエリカが飛び出し、ミドリとミキもそれに続く。

「前座はお任せを!」

 ミドリが一気に前へと出ると、可憐から受け取った回避パターンを元に、氷上を舞うような動きで次々と棘ミサイルを回避し、ついでにアイスファンネルで撃破していく。

「すごい………」「そだね」
「エリーゼだってアレくらい!」
「後にしなさい!」
「あの、さすがにあんなアレンジはちょっと…」

 ミドリの見事な動きにソニックダイバー隊が絶句する中、危険と感じたのかヤドカリ型ワームの攻撃がエリカとエリカ7に集中し始める。

「援護を! また敵が集中する前に再度クアドラフォーメーションに!」
『了解!』 

 好機と見た瑛花が一気に攻勢へと転じる。
 それに反応したのか、ヤドカリ型ワームも回転を止めると、節足を伸ばしてソニックダイバー、特に零神を集中的に狙ってくる。

「えい、この! 来るな!」
「全機、零神を援護!」
「瑛花! この足も結構硬い!」

 近接戦闘に優れた零神とバッハシュテルツェが節足を迎撃しようとするが、MVソードとMVランスを持ってしてもなかなか節足を切断出来ず、苦戦していた。

「セリカ! 隙を作りなさい! ミキ! 撹乱を!」
「はい!」「分かりましたわ!」

 エリカの指示の元、セリカが前へと一気に進み出る。

「目閉じてな! スポットライトビーム!」

 ヤドカリ型ワームに向けて眩しすぎる程のパッシングが向けられ、僅かに相手の動きが鈍る。

「エレガントダンス!」

 その隙にエリカがエレガントソードの連撃を関節部に集中させ、節足を切断していく。

「今の内、って、え?」
「あ、あの………」
「そ、そういえばそんな事言ってたような」

 パッシングの閃光が消えた後、その後ろから飛び出した、二機の零神にソニックダイバー隊が一瞬驚くが、片方がミキの変身した姿だと気づくと即座にクアドラフォーメーションの準備に入る。

「こっちで惹きつけるから、今の内に!」
「なんか、不気味………」「後だオーニャー!」

 姿形から口調までそっくりなミキのコピー零神に音羽が僅かに顔を引きつらせるが、ヴァローナの言葉にMVソードを構えて突撃する。

「顔、できれば眼球を狙ってください! そこが一番結合率が低いです!」
「分かった可憐ちゃん!」

 残った節足が迫る中、それを斬るのではなく、刀身で受け流しながら音羽がヤドカリ型ワームの顔へと向かっていく。
 ヤドカリ型ワームは攻撃を二機の零神へと集中させるが、ミキのコピー零神はソニックダイバーのスペックまで完全コピーできなかったらしく、徐々に動きが鈍っていく。

「くっ……!」
「危ない、行くよゼロ!」

 ミキが追い込まれていくのを見た音羽が、半ば強引に突撃、だがMVソードを突き刺す直前で、ヤドカリ型ワームは顔を殻の中に引っ込めてしまう。

「しまっ…ええい顔出せ!」
「危ないオーニャー!」                                                                              

 不用意に近付いた零神に向かって触手が殻の中から飛び出してくるが、ヴァローナがとっさにジャミングをかけて逸らす。

「まったく庶民はこれだから。見ていなさい」

 エリカがそう言いながらヤドカリ型ワームに接近、節足と触手がかすめる中をかいくぐり、殻へと手を触れる。

「喰らいなさい! ミラージュビーム!」

 ゼロ距離からエリカは腐食性ビームを叩きつける。
 直撃した部分が異音を立ててもろくなっていく中、お返しのつもりか至近距離から棘ミサイルがエリカへと向けて発射された。

「エリカさん!」
『エリカ様!』
「今よ! そこを狙いなさい!」

 かわしきれずに直撃を受けたエリカだったが、とっさにエレガントソードで受け止め、弾き飛ばされながら叫ぶ。

「そこかぁ!」

 音羽は一気に上昇、ミラージュビームが直撃した場所にMVソードを突き刺す。

「「クアドラ・ロック」修正座標固定位置、送りますっ!!」

 風神から送られてきた座標を元に四機のソニックダイバーはフォーメーションを再構成、ヤドカリ型ワームを完全に囲む。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 人工重力場が発生し、ホメロス効果が発動。

「セル転移強制固定、確認っ!!」
「アタック!!」
「私達も!」

 そこでエリカ7も加わった一斉攻撃の前に、ヤドカリ型ワームは重力場内で爆発、完全崩壊する。

「やった!」
「お見事ですわ」

 喜ぶ音羽に、なんとか復帰したエリカも賛辞を送る。

「さて、次はどれにしましょう?」
「そうだね」
「選ぶのに苦労するね、オーニャー」

 そう呟く三人の前、更に新手のワームが押し寄せてきていた。



「ビックバイパー、モードセレクト《ARPEGGIO》モード!」
「ロードブリティッシュ、《P.TORPEDO》セット!」
「セレニティバイパー、《L―OPTION》セット。さらに戦力アップ!」
「あ! 忘れてた。ビッグコアエグゼミナ、《S・SPREAD》セット」

 自らが駆るライディングバイパーに対地攻撃をメインとした兵装をセッティングしていった天使達は、低空から主に水中から迫ってくるバクテリアンに攻撃を開始した。

「水面からなるべく出さないようにして! 小型だったら、攻龍で迎撃できるはず! 深追いはしないで!」
「でもリーダー! 確か戦艦大和は対空迎撃力が低かったはず!」

 ミサイルをばら撒きながら叫ぶジオールに、エリューが歴史関係でかじった知識を思い出して叫ぶ。

「攻龍、大和! 迎撃態勢は準備よろしくて!?」
『攻龍、こちらは大丈夫です!』
『こちら大和! 準備は完了した! 射程範囲内に入り次第、対ネウロイ用三式弾を発射する! 射程と散布界を転送するから、注意してくれ!』

 タクミと美緒からの報告に、亜乃亜が首をかしげる。

「三式弾?」
「艦砲用焼夷散弾、当たってみる?」
「遠慮する!」

 亜乃亜が水中から飛び出した熱帯魚のようなバクテリアンにショットを叩き込みながら、妙な事を知っているティタに叫ぶ。

「マドカさん、オペレッタとのリンク状況は?」
『出力が安定してない! これが安定すれば、機械惑星とも繋がるのに!』

 攻龍に残って次元回線の再接続を試みているマドカからの報告に、ジオールは僅かに焦りを覚える。

(確か、水中移動能力を持つのはワームとバクテリアンだけ。けれど数で責められたら対処しきれるかしら………)
「トゥイー先輩! なんか更にいっぱい来たぁ~! え~い、ドラマチック…バースト!!」

 悩むジオールのそばで、更に現れた大群を相手に、焦った亜乃亜がD―バーストでサーチレーザーを叩き込む。

「亜乃亜! 大技は控えた方が…」
「無理、次来ていたかも」

 エリューが思わず亜乃亜をたしなめようとするが、ティタがそれを遮り、前を指差す。
 そこには、水中、上空共に新たな敵影が出現していた。

「……みんな、回復エキスちゃんと持ってきてる?」
「ユナちゃんがみんなにって配ってた奴なら、ここに」
「プラトニック・エナジーが回復するのも確認してます」
「お腹には溜まらない」
「まだ予備が攻龍にもプリティー・バルキリーにもあったはずね。水中攻撃力を持ってる機体は私達だけだから、多少の無茶をしてでも、ここで防衛戦を張りましょう」
「しかしリーダー…」
「更に来ていた、海の中」

 絶対攻勢を主張するジオールに、エリューが何か意見を述べようとした所で、ティタの言葉に皆が一斉に振り返る。

「亜乃亜さんとエリューさんは右翼、左翼は私とティタさんで受け持つわ!」
「了解しました!」
「亜乃亜、上空警戒お願い!」

 亜乃亜とエリューが並んで右へと回り、亜乃亜の駆るビックバイパーはレーザーで周囲をなぎ払い、エリューの駆るロードブリティッシュは貫通力の強い対地ミサイルを水中へと向かって連射する。

「エリュー、上空から更に来た!」
「行けない! 大和に向かってる!」

 新たに現れたバクテリアンが、大和に一直線に突き進んで行くのを見た亜乃亜とエリューが対処しようとするが、水中から現れた敵群がそれを阻む。

「どいて!」
「行くわよ、ドラマチック…」
『大和主砲発射します! お二人共退避を!』

 間に合わないと悟った二人が即座にD―バーストを放とうとした時、アーンヴァルからの通信と退避範囲が送られてくる。

「亜乃亜! 避けて!」
「言われなくても!」
『大和第一砲塔、一番二番、撃てー!!』

 慌てて二機が最大速度で退避した時、すさまじい轟音が響き渡る。
 周辺に凄まじい衝撃を撒き散らしながら、当時としては最強の46cm砲から放たれた対ネウロイ用三式弾が、大和へと向かっていくバクテリアンの一群に突き進み、直前で時限信管が発動、内部に封入された焼夷弾子と徹甲弾子を放射状に撒き散らす。

「うひゃああ………」「なかなか派手ね。対ネウロイ用ってだけあって、バクテリアンにも効いてはいるわ」

 亜乃亜が素っ頓狂な声を漏らす中、エリューはセンサー類を総動員させて効果を確認していく。

「半分以上は落ちてるわ。残った奴を片付けましょう!」
「分かった! けどまた撃たれない?」
「この時代の戦艦は連射できないはずよ」
『その通りだ! 砲を左右に向けてる以上、次弾まで6分ほど掛かる! なんとか持ち堪えてくれ!』

 美緒からの通信が届く中、反対側に向けられた大和の第二砲塔が再度轟く。

「よお~し、いくわよ!」「ええ!」

 更に押し寄せてくる敵へと向かって、二人はRVの機首を向けると、トリガーを押し込んだ。



「敵、10時方向射程範囲に侵入!」
「主砲斉射!」

 防衛戦を潜り抜けてきた敵影へと向かって、攻龍の76mm全自動砲が火を噴く。

「敵撃墜! いえ、8時方向また来ました!」
『こちらで受け持つ! 第二砲塔、二番三番撃て!』

 七恵の報告に、大和からの通信が入るや攻龍の後方から凄まじい轟音が轟く。

「耳がイかれそうだな、ありゃ………」
「実際甲板にいると鼓膜が破裂したらしいからな。破壊力は明らかにあちらが上だが、数はこちらでどうにかするしかない」

 ブリッジにまで響き渡る大和の砲声に、冬后が思わずぼやいた所で嶋副長が普段から険しい顔を更に険しくさせる。

「戦況は」
「今ソニックダイバー隊が三体目のBクラスワームをクアドラロックで殲滅しました!」
「大和から通信! 秋月、高雄が増援艦隊と合流、今急行しているそうです!」
「この時代の船が役に立つといいのですがね」

 門脇艦長の問に七恵とタクミが即座に返答するが、そこでブリッジで戦況を見ていた緋月が危険な言葉を漏らした。

「おい、妙な事言うなよ」
「可能性を述べたまでです」
「この時代は我々の知っている20世紀ではない。ここでネウロイと戦っているのは、ウィッチだけではないはずだ」

 冬后が緋月を睨みつけるが、門脇艦長がそれを中断させる。
 そこで冬后の席のコンソールがアラームを鳴らし始めた。

「ナノスキンの限界時間が近い! 一度撤退だ!」
『けれど冬后大佐!』
『タイムリミットがあるのは聞いてますわ! ここはこの香坂 エリカとエリカ7に任せてドレスチェンジを…くっ!』
「後部ランチャー、誘導弾発射! 彼女達を援護しつつ、ソニックダイバー隊を一時撤退!」
「ソニックダイバー隊、一時撤退を!」

 攻龍から無数の誘導弾が弾幕を形成する中、ソニックダイバーが大急ぎで帰還する。

「全員にナノスキンを再塗布! その間に全機全兵装を再装填! 大急ぎだ!」
『分かってる! 全員急げ!』

 冬后が半ば怒鳴るようにマイクに叫び、格納庫からも大戸が怒鳴り返してくる。
 ブリッジの先では、ソニックダイバーの抜けた穴を攻龍の全兵装とエリカ7が必死になって塞いでいた。

『こちらプリティー・バルキリー! 負傷者が出始めました! 白香と芳佳が治療を受け持ちますから、そちらでも負傷者が出たらこちらに!』
『こちらカルナダイン! 敵が全然減りません! このままだと防衛戦が突破されかねません!』
『こちらブレータ、マドカの次元回線復旧はあと一歩で難航中』
『こちら大和! 対ネウロイ用三式弾はそれほど多く数を積んでいない! このまま斉射を続ければ持たない!』

 各艦から苦戦を示す報告が次々と届く中、門脇艦長は状況打開の戦略を必死になって思考する。

「………敵群の増加が止まらないようならば、大和を先頭に戦域を脱出、攻龍は殿を務める」
「艦長!?」
「それが妥当かもしれませんね」

 門脇艦長の驚くべき提案に副長が思わず声を上げるが、緋月はそれをむしろ肯定する。

「正直、どの船が一番持つかって聞かれたら、どいつだろうな………」
「これだけの数の敵に集中砲火を浴びれば、たとえどの船でもひとたまりもあるまい。ならば、一艦でも生き残る手を取るのが順当という物だ」
「しかし艦長………」

 冬后が顔をこわばらせながら呟くが、門脇艦長は淡々と可能性を分析していく。
 嶋副長が何かを言おうとするが、そこで一際大きな警報が鳴り響く。

「各敵群、更に大幅増加! このままだと防衛線が、みんなが持ちません!!」

 七恵のそれは、報告ではなく、正真正銘の悲鳴だった………



「うぎゃあ!」
「舞ちゃん!」
「だ、大丈夫よこれくらい!」

 ネウロイの攻撃がかすめ、バランスを崩した舞を見たユナが悲鳴を上げそうになるが、なんとか態勢を立て直して叫ぶ。

「ミーナ中佐! サーニャが弾切れ、私もあと1マガジンしかナイぞ!」
「一度退いて再装填を! 他に残弾が少ない人は!」
「私はまだ大丈夫だ!」「回復エキス切れちゃった、取ってきて」
「私も残弾が……」
「こっちも魔力が残り少ない!」

 エイラとサーニャに撤退を指示した所で、各ウィッチ達が残弾や魔力が残り僅かな事を次々報告してくる。

「きゃあぁ!」
「マリ、掴まって!」

 攻撃を避けそこね、ライトニングユニットを破損したマリをそばにいたアレフチーナが慌てて救うが、撹乱役の二人の手が止まった所で更に敵が押し寄せてくる。

「ユニット破損した人はプリティー・バルキリーへ! まだ予備があったはず!」
「ここは私が防ぎます」

 ポリリーナがパッキンボーを振るいながら叫び、二人の抜けた穴を沙雪華がなんとか塞いでビームを乱射する。

「怪我した人はこっちに!」
「無理はしないでください!」

 後方で芳佳がシールドを張り、白香と二人で負傷者の治癒に専念しているが、戦況は明らかに押され気味になりつつあった。

「ディアフェンド、アールスティア、あそこの中型、サイティング!」
「エグゼリカ! あまり前に出てはダメよ!」
「けど姉さん! このままじゃ!」
「ガルトゥース! ガルクアード! サイティング! 同時に狙うわよ!」
「了解、マイスター!」

 破られつつある防衛戦を維持すべく、エグゼリカが前へと出るのをクルエルティアが止めるが、そこへフェインティアも一緒になって中型ヴァーミスにアンカーを打ち込み、ムルメルティアも一緒になって一斉斉射を叩き込む。

 トリガーハート二機と武装神姫も加えた一斉攻撃に中型ヴァーミスは耐え切れずに爆散するが、その爆煙が晴れる間もなく、新たな敵影が押し寄せる。

『皆さん、一度後方に下がって防衛戦を再構築して下さい! このままでは突破されます!』
『まだ余裕がある間に補給をするんだ! 簡易整備の準備は整えた!』
「みんな聞いた!? 下がってフォーメーションを立て直すわ!」
「撃てるだけ撃って! その間に!」

 エルナーと宮藤博士からの通信に、ミーナが撤退を指示、ミサキが中心となって弾幕を張りつつ、後退しようとするが、そこに大型のヴァーミスが迫ってきた。

「なあにあの大っきいの!?」
「侵食コア!? 多分分散型の一つ!」

 ここに来ての大型の出現に皆が驚くが、全員が即座に応戦態勢に入る。

「カルノバーン!」

 真っ先に飛び出したクルエルティアがアンカーを打ち込むが、突き刺さる事は突き刺さったが、特殊装甲なのか侵食までには至らない。

「おい! エビ倒した時のあれやるぞ!」
「分かりました! ユーリィさん!」

 シャーリーがルッキーニとユーリィのWアタックをするべく準備に入ろうとするが、それを阻止するように一斉に周囲からの攻撃が集中していく。

「リベリアンとルッキーニ少尉を援護!」
「みんな! ユーリィとエグゼリカちゃんを!」

 バルクホルンとユナの呼びかけに、皆がなんとか援護に入るが、突撃の隙がなかなか作れない。

「少しでいい、空間が作れれば………」「うじゅ~~」
「スイングできるスペースさえ作れれば…‥…」「ユーリィお腹すいたですぅ………」

 弾幕を張りつつ、突撃の隙を伺う両者だったが、敵の攻撃は更に激しくなってくる。

「仕方ありませんわ。僅かですけど、隙を作ってみます」
「ペリーヌさん!」「あなたももう…」

 ペリーヌが普段の優雅さをかなぐり捨てるように回復エキスを一気に飲み干し、しばし迷ってから空ボトルを投げ捨てる。

「かえでさんと葉子さんはそっちから! 私はこちらから!」
「手伝うよ!」

 二手に別れ、亜弥乎も加わった四人が一斉に構える。

「最大出力で行きますわよ」「分かった!」
「準備いい?」「任せて!」
『せえの!』

 四人がかりの電撃が一斉に放たれ、周辺の敵を一斉に駆逐していく。

「今ですわ!」
「行くぞルッキーニ!」「うん!」
「ディアフェンド、フルスイング!」「回るですぅ~!」

 四人がかりの電撃で空いたスペースを活用し、ルッキーニとユーリィが急加速でスイング、左右から大型ヴァーミスへと突撃する。

「それえ!」「みんな、行くですぅ!」

 ルッキーニの多重シールドとユーリィの無数の分身体の一斉攻撃が直撃、すさまじい轟音が鳴り響き、大型ヴァーミスの装甲が崩壊を始める。

「よおし、アールスティア、トドメを…」
「……ん!? ダメだみんな、逃げロ!!」

 一気にケリをつけるべく、無数の銃口が狙いを定めようとした瞬間、突然エイラが声の限りに叫んだ。

「え、何?」
「ユナ! みんなも下がって!」

 いきなりの事にユナが思わず振り返るが、そこを何か悟ったポリリーナがユナを掴んでテレポートする。

「全員シールド全開!」

 エイラの声に異常を悟ったミーナも残った魔力で全開にシールドを張り、庇えるだけの味方をかばおうとする。
 直後、全体にヒビが生じていた大型ヴァーミスの中から光が漏れたかと思うと、すさまじいまでの爆発が周囲を飲み込んだ。

「きゃ…」「うわ…」「な…」

 悲鳴も怒号も飲み込み、今までで最大の爆音が、戦場に鳴り響いた………



「うわあっ!?」
「何!? 何が起きたの!?」
「後方、大規模爆発!」
「全機、体勢維持!」

 ソニックダイバーが再出撃した直後に、いきなり響き渡った大爆音と続けて吹き付けてきた爆風に、ソニックダイバー、RV各機共に吹き飛ばされそうになるのを何とか堪える。

「ユナ! 生きてるなら返事を!」「向こうにいたみんなは!?」
「待ってオーニャー………全員バイタルサインあり! 皆生きてる!」
「けど、この爆発じゃ……」

 エリカと音羽が叫ぶ中、ヴァローナの言葉に皆が胸を撫で下ろすが、可憐の続けての言葉の意味を誰もが口には出せなかった。

「助けに行かないと!」
「そうだ! 私も…」

 音羽と亜乃亜が同時に救援に向かおうとするが、その前を塞ぐように小型ワームが湧いてくる。

「どいて!」「この! この!」
「ダメだオーニャー! フォーメーションを崩すと、集中攻撃食らうよ!」
「音羽戻りなさい! 貴女がいないと、クアドラロックは使えないのよ!」
「亜乃亜! 貴女までここを離れたら、防ぎきれなくなる!」
「けど!」「だって!」

 瑛花とエリュー、二人がかりで止められ、音羽と亜乃亜は反論しようとするが、そこに新たな敵が押し寄せる。

「はああっ!」

 そこをエリカがエレガントソードを一閃させ、敵を斬り捨てる。

「持ち場に戻りなさい。向こうにはウィッチの方々もトリガーハートの方々もいるわ。すぐに戦列崩壊にはならないはずよ」
「けど…」

 こちらに背を向けながら断言するエリカに何かを言おうとするが、エレガントソードを手にしたエリカの手が震えている事に気付き、口を紡ぐ。

「よおし、手早く全滅させてあっちに行こう!」
「そうだね! よおし!」

 気を取り直し、音羽と亜乃亜は敵へと向かっていった。



「何事だ!?」
「6時方向で大爆発! 敵大型が自爆した模様!」
「自爆、だと………」

 大和のブリッジ内にも響き渡った巨大な爆発音に、状況を知らせる声も霞みそうになるが、その内容はブリッジ内全てに轟いた。

「皆は無事か!?」
「今確認します………全員のバイタルサインを確認! けど負傷者多数です!」

 美緒が顔を青ざめさせながら叫び、アーンヴァルがターミナルを操作して何とかウィッチ、光の戦士双方の生存を確認する。

「やられた………大型と見せかけて、特攻機か!」
『こ……ミーナ………トゥルーデとペリーヌさんが負傷……後退を…』
『これくらい、問題ない!』『まだやれますわ!』
『ユーリィ! ユ―リィ!!』
『こっちよ! なんとか釣り上げたわ!』
『ユーリィ目が回ったです~………』
『全員生きてるわ! 負傷者は撤退を!』
『誰か手を貸してくれ! 沙雪華が無茶しやがった!』
『敵が、敵が来ますわ!』
『負傷者の撤退と治療を最優先させて! 治療が出来る子は全員こっちに!』
『こちらクルエルティア、トリガーハート全機健在、けど戦闘力平均28%低下!』

 通信から響いてくる阿鼻叫喚の状況に、美緒は拳を強く握りしめる。

「皆無理をするな! 今私も出る!」
「ダメですマスター! マスターの魔力はもう…」

 美緒がブリッジを駆け出そうとするが、そこをアーンヴァルが必死になって止めようとする。

「ダメです坂本少佐! 今の状況で、シールドが張れない貴女が出て行っては!」
「どけ土方! 今戦わなくていつ戦うと言うのだ!」

 従兵の土方も必死になって止めようとするが、美緒の決意は硬い。

『敵影、更に増加! 6時方向から一斉に押し寄せてきます!』
「三番砲塔も向けろ! 三式弾はまだあるか!」
「今装填中!」
『こちら観測班! 6時方向敵機無数! 計測不能! 繰り返す! 6時方向敵機無数、計測不能!!』

 カルナからの通信に杉田艦長も応戦しようとするが、観測班からの悲鳴のような報告に顔を曇らせる。

「他の部隊は!」
『こちら攻龍、ソニックダイバー隊は手一杯です! ソニックダイバーにも損傷が出始めました! エリカ7も限界です!』
『こちらエリュー、RV隊も離れられません! バクテリアンの大型反応も確認!』

 各隊からも悲鳴のような報告に、美緒の顔は更に険しくなる。

「増援はまだ来ないのか!」
「もう少し…あ?」
『どうやら、困っているようだな』



「新たに反応確認! 4時方向からです!」
「クソ、まだ増えるのか!」
「あれ、でもこれは?」

 七恵の報告に、冬后が思わずコンソールを殴りそうになるが、続けての疑問符に手が止まる。

「この反応は………」




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP29
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:09564a93
Date: 2014/03/18 21:55

「エグゼリカ! フェインティア! 負傷者をプリティー・バルキリーへ!」
「けど姉さん!」
「クルエルティア! 貴女の損傷も軽くないわ! カルナダインへ戻るのよ! 後は私が!」
「マイスター、新たな反応!」

 とっさの急加速離脱と、アンカーによる救出作業を並列したトリガーハート達だったが、全員が少なからずダメージを負い、それでもなお生身の者達を守ろうと押し寄せる無数の敵へと対峙する。

「ムルメルティア、あんたも下がってていいわよ」
「マイスターがかばってくれたから、私は無傷だ。まだまだ戦える」
「あっそ。さあて、それじゃあ…」
「待てマイスター、妙な反応が……これはひょっとして…」



「くたばれ!」「ちええい!」

 負傷者を守るため、二体の武装神姫が縦横に飛び、奮戦していた。

「ストラーフ! 無茶してはダメよ!」
「飛鳥! そろそろ下がれ!」
「まだまだ行けるよマスター!」
「……大丈夫です、お姉様」

 マスターであるミーナとシャーリーが声をかけるが、武装神姫達は頑として奮戦を続けている。

「ルッキーニ、大丈夫か! おい!」
「うじゅう~~~………」

 固有魔法の多重シールドで爆発の直撃はしなかった物の、吹き飛ばされた衝撃で完全に目を回しているルッキーニをシャーリーが片手で抱えながら、トリガーを引き続ける。

「動かしてはダメです! 早くこちらへ!」
「負傷者が多過ぎる! 防衛戦が維持できない!」
「エルナー、聞こえてる!? こうなったらエルラインを…」

 後方で負傷者の治療にあたっていた白香がシャーリーに呼びかけ、負傷者の多さにミサキが声を荒らげる。
 ユナが最後の切り札を使おうかと思った時、大型爆撃機程はあるネウロイが間近まで迫ってきた。

「皆、退避を…」
「あ」

 ミーナが撤退命令を出そうとした時、サーニャが小さく声を上げる。
 すると、突然爆撃機型ネウロイの動きが止まったかと思うと、爆散した。

「攻撃!? 誰が!」
「誰がとは挨拶だな、バルクホルン大尉」

 砕け散っていくネウロイの影から、一つの人影が現れる。
 それは、ピンクがかった金髪をし、使い魔らしい猛禽の翼を生やして自信にあふれた顔をした一人のウィッチだった。

「マルセイユ!」
「マルセイユ大尉!?」

 そのウィッチを知っていたハルトマンとミーナが思わず声を上げる。

「え~と、誰?」
「通称《アフリカの星》、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉。ハルトマン中尉に並ぶウィッチ4トップの一人よ」
「どうしてそんな人がここに?」

 ユナの率直な問にミーナが説明するが、別の疑問をポリリーナが口にする。

「無論、増援に来たに決まっているだろう」
「増援って………」
「それに私だけではないぞ」
「目標、前方の中型、撃って真美!」
「はい!」

 マルセイユの背後、巫女装束にも似た扶桑陸軍ウィッチの軍曹に身を包んで首からカメラを下げたウィッチの指示に、かたわらで巨大な砲を掲げた同じ扶桑陸軍ウィッチ軍曹に身を包んだ、おかっぱ頭の小柄なウィッチがその巨砲をぶっ放す。

「皆さん無事ですか! 到着が遅れました!」
「いや、いい所だったようだぞライーサ」

 マルセイユの隣、同じく鳥類の翼を生やしたウィッチが並ぶ。

「こちら第31統合戦闘飛行隊《ストームウィッチーズ》! 現時刻より戦闘に参加します!」

 カメラを下げたウィッチ、ストームウィッチーズ隊長の加東 圭子少佐の宣言に、ウィッチのみならず皆の顔が僅かにほころぶ。

「グラーフ・ツェッペリンが陸戦ウィッチを載せて今こっちに向かってるわ! 他にも機動艦隊も急行してる!」
「今の内に態勢を整えて! 治療と補給を再優先!」
「マスター! 前!」

 更なる増援の報を圭子が叫び、ミーナがストームウィッチーズが防いでる間に皆を下がらせようとするが、そこに大型のネウロイが接近してくる。

「行けない!」

 ミーナは銃口を向けてトリガーを引くが、手にした銃からは空の薬室を叩くハンマーの音が響くだけだった。

「しまった、弾切れ…」
「今助けます! ディアフェ…」

 ミーナの残弾が無いのを見たエグゼリカがアンカーを打ち出そうとするが、その横を突然何かが通り過ぎる。
 それがスイングされた小型ネウロイだとエグゼリカが認識した時、ネウロイ同士が激突して壮絶な轟音を立てる。

「え? 姉さんでもフェインティアでもない?」
「全員攻撃!」

 明らかにアンカーによるスイング攻撃だと思ったエグゼリカだったが、側を通り過ぎていった短刀を手にしたウィッチの姿に首を傾げる。

「あら、貴女ずいぶんと変わった装備してるわね」
「いえ、その…」

 肩口で髪を切りそろえた、扶桑陸軍の軍服に身を包んだウィッチがエグゼリカを見てにこやかに微笑みかける。

「角丸隊長! あいつ固いです! もう一発お願いします!」
「しかたないわね」
「ディアフェンド!」

 そのウィッチがワイヤーの付いた短刀を小型ネウロイに投じ、同時にエグゼリカもアンカーを別の小型ネウロイに突き刺す。

「せいあああぁぁ!」
「ディアフェンド、スイング!」

 2つの小型ネウロイが振り回され、同時に大型ネウロイに直撃、完全に大型ネウロイを粉砕する。

「やるわね、あなた」
「ウィッチにもアンカー使いがいるとは思いませんでした………」
「これは私の固有魔法《金剛力》よ。自己紹介がまだね、扶桑皇国陸軍飛行第50戦隊所属、角丸 美佐中尉よ」
「超惑星規模防衛組織チルダ所属、TH60 EXELICAです」
「変わった部隊ね。ここは私達が防ぐから、一度着替えてきた方がいいわ」
「え~と、姉さん!」
『一度カルナダインに撤退、緊急メンテナンスを行うわ。その様子なら少しなら任せても大丈夫だと思うし』
「じゃあお願いします!」
「さて、それじゃあもう一踏ん張りね」

 カルナダインに一時撤退していくトリガーハートを見送りながら、美佐は片手に機関銃、もう片手に短刀を構える。

「皆、準備はいい?」
『イェーガー中尉~~! 心配してたんですよ~!!』
『クロステルマン少尉、お怪我を!? 誰か回復! 治癒魔法出来る方いませんか!?』
『………済まない、今引き剥がす』

 通信から聞こえてきた元部下の情けない声に、美佐が思わず苦笑。

『フラン、アメリー、ラウラ、心配してたのは分かるけど、旧交を温めるのは後でね』
「角丸中尉! 先陣はこちらで受け持つわ! 防衛戦構築をお願い!」
「了解、加東少佐。他の部隊は?」
『あら、遅れたかしら? こちらは向こうの方に回るわね』

 ウィッチ達が新たな防衛戦を構築する中、通信機からまた別の声が響いた。
 それと同時に、新たなウィッチの一群が、攻龍の方へと向かっていった。



「何か来た!」
「ウィッチ?」

 音羽が半ばからへし折れた二本目を投げ捨て、三本目のMVソードを抜いた所で、ふと上空を指差す。
 そちらを見た瑛花が、その独特のシルエットからウィッチだと判断するが、それがどんどん近づいて来る。

「ルチアナ! マルチナ! 行くわよ!」
「分かった」「何あの大っきいストライカー!?」

 上空から、黒い軍服に赤いズボンを履いた三人のウィッチが一気に迫り、小型ワームを次々と撃墜していく。

「なんか、派手ですね………」
「もうこの際なんでもいい!」
「あらあら、何でもとは失礼じゃないかしら?」

 可憐とエリーゼも思わずぽかんとする中、ソニックダイバーのそばに美緒と同じ扶桑海軍士官服を来た、穏やかな口調のウィッチが舞い降りる。

「こちら第504統合戦闘航空団《アルダーウィッチーズ》、今から貴方方の増援よ」
「増援感謝する。私がソニックダイバー隊リーダーの一条 瑛花上級曹長だ」
「私は戦闘隊長の竹井 醇子、階級は大尉よ。まあそれは後にして」
「こちらドミニカ、勝手に始めてる。行くぞジェーン」
「はい大将!」

 お互いの自己紹介の暇も無く、向こうではアルダーウィッチーズの隊員達がエリカ7の援護に入っていた。

「いい所で乱入とは無粋な人達です事……」
「エリカ様! 手当と回復を!」
「こちらへ!」「援護するから!」

 同じ扶桑陸軍の軍服を来た長い長髪で狐の耳と尻尾を生やしたウィッチと、短い髪で虎の耳と尻尾を生やした日焼けしたウィッチがエリカとエリカ7の一時撤退を援護。
 エリカも文句を言いながら、それに従っていく。

「待って! 他の所にも援護に…」
「大丈夫よ、他の部隊もそろそろ着いたようだし」

 音羽が亜乃亜達の方を見ながら声を上げた時、淳子の言葉通り、また新たなウィッチ達が到着する所だった。



「うわあ、いっぱい来た!」
「なんじゃ失礼な奴だな、増援に来てやったというのに」

 突如として現れたウィッチ達に、亜乃亜が思わず素っ頓狂な声を上げたのを、先頭にいた黒い軍服にティアラを思わせる魔導針を発動させているウィッチが少し変わった口調でたしなめる。

「こちら第506統合戦闘航空団《ノーブルウィッチーズ》、これよりそなたらに助太刀しよう。このハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインが来たからには安心せい!」
「は、ハイン………なんでしたっけ?」
「ハインリーケさんでいいでしょう。私がここのリーダーのジオール・トゥイーよ」
「よろしく頼むぞ。行くぞ者共!」

 ハインリーケを先頭に、ノーブルウィッチーズがバクテリアンへと襲いかかる。

「………変なの来た」
「ティタ、それ言っちゃダメ」
「すいません、ウチの戦闘隊長、お姫様育ちでちょっとずれてるんです」

 思わず呟いたティタを慌ててエリューが遮るが、最後尾にいた扶桑陸軍巫女風軍服に何故か紫の袴を履いたウィッチが頭を下げる。

『皆おまたせ! 回線リンク確認! 向こうから人手はすぐには無理だけど、援護物資をどんどん送るって! 私もすぐに出る!』
『他にも多数のウィッチらしき反応がこちらに向かってきている敵群と交戦に入ってるようです!』
『増援の艦隊ももう直到着する! 巻き返せるぞ!』
「よお~し、一気に反撃するわよ!」

 ウィッチ達に負けじと、RVを駆る天使達も一斉に攻勢へと転じていった。



「すごい………これが全部ウィッチ………」
「とりあえずは、一安心と言った所かしら」

 攻龍の一室、臨時に設けられたある実験室で、宮藤博士や機械人達の協力の元に作られた装置の中央にいたアイーシャと、その観測結果を計測していた周王が胸を撫で下ろす。

「それで、やっぱり感じるかしら?」
「間違いない、こちらをずっと見てる。遠い、けど近い所から」
「遠いけど近い………」

 周王がアイーシャの脳波や他の船から送られてくる観測データを洗い直すが、アイーシャと他数名しか感知できていない〈何か〉の存在を立証出来ないでいた。

「私達をここに引きずりこむ程の力を持った存在………そんな奴相手に、どう戦えば………」
「大丈夫」

 不安げに呟いた周王に、アイーシャが相変わらず抑揚のない、ただしっかりとした声で断言する。

「音羽達も、他の人達も、そして来てくれたウィッチ達も皆力を合わせてくれる。きっと大丈夫」
「………そうね。悪いけど、そろそろブリッジに行くわ。七恵一人じゃ手が回らなそうだし。何かあったら教えて」
「分かった」

 アイーシャをその場に残し、周王は急いでブリッジへと向かう。
 その足音が遠ざかった所で、アイーシャは観測装置から身を外すと、周王が向かったのとは反対方向へと向かっていった。



「魔力が切れた者は上空の青い飛行艇へ! 弾丸と予備の銃は下の小型艦にも積んである! 攻撃を惜しむな!」
「マスター、上!」

 大和へのオペレートを処理容量の空いたブレータの遠隔操作に任せ、美緒とアーンヴァルも戦列へと加わりながら、周囲のウィッチ達へと向かって叫んでいた。

「無事だったみたいね、美緒」
「来てくれて助かった、淳子」

 かつての戦友と背中合わせの形になった所で、互いに小さく言葉を交わす。

「だが、どうしてここへ?」
「ああ、この子のお陰よ」

 そういう淳子の肩、犬の耳を思わせるようなヘッドパーツを付け、両手に十手を持った小柄な影に美緒の目が驚きで見開かれる。

「それは、武装神姫か!」
「そうよ、501が行方不明になった直後に、あちこちのウィッチの所に現れてね」
「来るぞご主人様!」
「そうねハウリン。詳しくは後で!」
「こちらも来ましたマスター!」「聞いてる暇があればだがな!」

 淳子の肩にいた犬型MMSハウリンが敵の接近に戦意をむき出しにし、二人のウイッチはそれぞれの武装神姫を従え、銃口を敵へと向けて突撃していった。



「各部隊の識別登録、完了した。我々も参るぞ陛下!」
「サポートよろしくね、サイフォス」

 全身甲冑の騎士その物の格好をした騎士型MMSサイフォスが両手剣コルヌを抜き放ち、圭子も愛用のカメラと銃をそれぞれ手に持ち、周辺を見回していく。

「こちらも行きましょうぞ、師匠!」
「無茶し過ぎたらダメよ、紅緒」

 美佐の隣で真紅の日本甲冑の武将のような姿をした侍型MMS紅緒が長槍破邪顕正を構え、美佐と共に押し寄せるネウロイに対峙する。

「マルセイユ! 負傷者に敵を近付けないで! 真美は装備を交換! 中距離戦闘を心がけて!」
「了解、ケイ!」「分かりました!」
「ラウラ、アメリー、私と防衛線を維持! フランは漏れ出た奴を各個撃破!」
「了解」「はい!」「言ってる内に来た!」
「でやあああ!」
「せやっ!」
 圭子と美佐の指示が飛ぶ中、近づいてきたネウロイやヴァーミスをサイフォスと紅緒が次々と叩き斬っていく。

「陛下には近付けさせぬぞ!」
「師匠、ここは私が死守致します!」
「なんか、剣鳳さんみたい」
「これ、いらないなら借りるですぅ!」

 ユナが思わず呟く中、下ではユーリィが真美が投げ捨てた88mm砲を持ち上げたかと思うと、そのまま旋回させてぶん投げる。

「行くですぅ~!」
「うわ!」「おっと」

 唸りを上げて飛んでいった88m砲がその軌道上にいた敵を巻き込み、しまいには中型ネウロイに激突して轟音を立ててネウロイ諸共粉砕する。

「真美以上の怪力………」
「すごいウィッチだな」
「陛下、あれは私と同じ機械仕掛だ」

 圭子とマルセイユもユーリィの予想外の攻撃に唖然とするが、サイフォスの助言に顔を見合わせる。

「それだけではありませぬ、隣の小柄な兵や先程上空の旗艦に補給に戻った三人に、向こうの白い看護兵もそうです」
「敵だけじゃなく、味方もそういうのが出てきてるのね………」
「どういう意味?」

 美佐のつぶやきに、補給を済ませて戦列復帰したミーナが思わず問い返す。

「ああ、貴方達が失踪した直後から、あちこちにネウロイとも違う妙な敵が現れ始めたの。そしたら次にこの子達みたいな武装神姫があちこちのウィッチ達の所に現れて、その敵との戦い方を教えてくれてね。
更にここで大規模な戦闘が起きるって言い始めて、世界中のウィッチ達に総動員がかかったって話」
「こっちなんか、501探索のためとかいっていきなり再結成したと思ったら、紅緒が現れて気づいたらこんな事になってるし」
「へえ~、そんなに来てるんだ」
「世界中!? そんなの司令部が認可する訳が………」
「上でも何かあったみたいよ。詳しくは後で!」

 ストラーフとミーナが圭子と美佐の話に別個の感想を漏らすが、そこで飛来したネウロイのビーム攻撃に、ウィッチと武装神姫は散って反撃に移る。

「この作戦、提案したのは扶桑からって話! 何か知ってる!?」
「上層部に、この事知らせたのは武装神姫以外にもいるって噂! 嘘かホントかは知らないけど!」
「来るぞ陛下!」「来ます師匠!」「行くよマスター!」

 お互い聞きたい事は山ほどありながらも、まずは目前の敵に対処するために、二人のマスターは武装神姫と共に敵へと向かっていった。



『トリガーハートの方々、聞こえてますか!』
「聞こえてるわ、どうしたのエルナー」

 ウィッチ達の増援で盛り返した戦況の中、エルナーからの通信にカルナダインで応急メンテナンスを受けていたクルエルティアが答える。

『こちらに向かっているウィッチ達ですが、敵の増援と交戦状態になってる模様です! 中型までなら対処可能でしょうが、幾つか大型らしい反応があります! ここはウィッチの方達と私達で応戦しますので、増援に向かって下さい!』
「了解、確かにこれなら任せられそうね」
『トリガーハート及び各随伴艦、緊急メンテナンス完了です! けれどクルエルティアは32%、フェインティアは21%、エグゼリカは19%戦闘力ダウンしています。無理はしないでください』

 カルナからの通信と同時に、各メンテナンスポッドからトリガーハート達が起き上がる。

「カルナ、座標を転送。速度の問題から一番遠い所からフェインティア、私、エグゼリカの順で急行するわ」
「分かったわ姉さん」「仕方ないわね~」

 随伴艦をリンクさせながら、三人は座標を確認、それぞれにカタパルトを向ける。

「マイスター、各ポイントからも武装神姫の反応がある。そうそう苦戦はしてないだろう」
「だといいけどね。TH44 FAINTEAR、発進するわ!」
「TH32 CRUELTEAR、発進!」
「TH60 EXELICA、発進します!」

 カルナダインから3つの閃光が、こちらに向かってきているウィッチに向かって、飛び立っていった。



「なんじゃアレは!?」
「トリガーハートの人達だね、増援に向かうって言ってたよ」
「もう妾の感知範囲から抜け出すぞ、なんという速度じゃ………」
「速度じゃあの人達が一番だし………」
「亜乃亜、右後方から来てる!」
「む、黒田中尉! 7時後方、水面下じゃ!」

 あっという間に見えなくなったトリガーハートをハインリーケと亜乃亜が見送る中、水中から飛び出そうとしたバクテリアンを即座に撃破していく。

「次は9時方向! ジーナ少佐!」
「分かった!」

 ハインリーケの指摘したポイントに、別のウィッチが銃弾を叩き込み、浮上してきたバクテリアンを撃破する。

「あれ、確かあのアンテナ、水中は分かりにくいってサーニャちゃん言ってたような?」
「そうじゃ、だがサポートしてくれる者がいるのでな」
「サポート?」
「次はどこじゃ、イーアネイラ!」
「はあい、お嬢さん」

 ハインリーケの呼びかけに答えるように、水中から下半身が文字通り人魚のようなパーツを装備した武装神姫、マーメイド型MMSイーアネイラが跳ね上がり、水中探査の結果をハインリーケの魔導針へと送る。

「うわ、あんな子もいるんだ………なんで私達の所に武装神姫来ないんだろ?」
「この際、そんな事はどうでもいいわ!」
「どっかに来てるとか」

 亜乃亜が思わず呟いた所に、エリューとティタのそれぞれの反応が返ってくる。

「こちらでは陸戦ウィッチまで動員しての総力戦じゃ! 空母に陸戦ウィッチ載せて砲台にするなぞ、誰が思いついたのじゃろ?」
「あ、道理でこっちに向かってる空母にもウィッチの反応があると思った」
「精鋭のアフリカ前線部隊が来るみたいです。私一度見てみたいと思ってたんですよ~」

 ハインリーケのボヤきにも似た絶叫に、マドカと紫の袴を履いたウィッチ、黒田 邦佳が追加で答えた。

「邦佳! 新手が来た!」
「来るなら来やがれ☓☓☓が!」
「………なんか、あっちの人達は人達で変わってるような」
「B部隊の人達はリベリオンからの義勇兵が多いので、その………」
「口が悪いのは勘弁してください………」

 邦佳だけでなく、青いリベリオン海兵隊の軍服を身を包んだウィッチも罰が悪そうに頬をかくが、次の瞬間には同時に振り返ってトリガーを引いていた。

「増援が増えるのはありがたい事だわ。礼儀作法に少し問題がある人もいるようだけど」
「少し………かなあ?」
「この際、どうでもいいわ。少しでも戦えるならね!」

 ジオールがノーブルウィッチーズを見ながら、こちらも水中から迫るバクテリアンに攻撃を叩き込んでいく。
 亜乃亜は少し首をかしげるが、途切れそうにない敵影にエリューが叫びながら別の敵群へと狙いを定めた。

「ここだけじゃなく、他の所でも乱戦状態になってるわ。全員は来れないかも」
「それはこっちでも確認してる。一体貴方達何体来てるの? 武装神姫専用っぽいデータ通信がひっきりなしなんだけど?」

 イーアネイラが海面から顔を出して告げるのを、マドカが別の疑問を口にする。

「さあ? それとGにはすでに武装神姫が一人、派遣されてるそうよ」
「え?」



 戦場より300km後方 扶桑海軍大和型弐番艦・武蔵 艦内会議室

「502統合戦闘航空団、敵群一団と接敵、交戦開始しました!」
「グラーフ・ツェッペリン交戦中! やはり敵はウィッチが搭乗してない艦には攻撃してきません!」
「507統合戦闘航空団、なおも交戦中!」
「ええい! 今一体戦況はどうなっておるのだ!」

 会議室内に設置された無数の通信機から次々と入る戦況報告に、室内に居並ぶ将官の一人が叫ぶ。
 会議用のテーブルには、各国の将官がずらりと並び、ほぼ全員が苦虫を噛み潰したような顔で戦況報告を聞いていた。

「現状では一部優勢、もしくは拮抗状態と推測されま…」
「拮抗だと! 動かせる限りのウィッチを総動員させたのだぞ!」
「これだけの状況、なぜ誰も予測できなかった!」
「動かせる部隊はすべて投入しろ! この際戦費も何も関係はない!」

 説明を求められ、参謀の一人が解析結果を報告するが、それをかき消すような怒号がどの国の将官からも飛んだ。

「ウィッチにしか興味が無いだと!? 我々を馬鹿にしているのか!」
「抽出機動艦隊はまだ到着せんのか!」
「ロスアラモスの新兵器の件はどうなっとる!」

 報告と怒号、命令が飛び交い、会議室もまたある種の戦場になっていた。
 そんな中、将官達が並ぶ席の最前列に座っていた扶桑皇国大将の階級章を付けた提督が、静かに報告をまとめて閲覧していた。

「敵群も戦果も予想を遥かに上回っている。彼女達はがんばっているよ」
「そいつぁよかった」

 提督の背後、特別に用意された席に、室内で唯一軍服を着ていない精悍な顔つきをした若い男が、手にした身の丈近くはあろうかという巨大なキセルから紫煙を燻らせる。

「君が教えてくれなければ、ここまで態勢を整えられなかった。重ね重ね礼を言おう」
「それは、戦場で頑張ってる嬢ちゃん達に言うこったな」

 不遜とも言える態度で、謎の男は笑みを浮かべる。
 よく見れば、その左頬には赤いタトゥで漢数字の五と刻まれていた。

「もっとも、その中にはオレの仲間も混じってっからな。こんな所で油売ってるなんてバレたら、後でどやされそうだ」
「じゃあなんで行かないんですか?」

 男の肩、そこに白い軽装甲に身を包んだ一体の武装神姫が間近で男を見つめる。

「行きたくても、オレのRVは壊れたまんまだからな。行きたくても行けやしねえ」
「この時代では修理出来ない模様です。つまる所、現状ではオーナーは役立たずです」
「相変わらず、小さい割には言う事キツイよな、ウェルクストラ」

 天使コマンド型MMSウェルクストラの理路整然とした辛辣な言葉に、男は僅かに顔をしかめる。

「そうでもない。我々では理解しきれない事があまりに多過ぎる。君の、いや君達の助言がどうしても必要なのだ、エモン君」
「オレもそんくれぇしか出来る事はねえしな………情けねえ事この上ねえ………」
「その状態の君をここから出させるわけにもいかんよ」

 口から盛大に紫煙を吐き出す男、Gからこの世界に送り込まれたGの中でも珍しい男の天使、エモン・5が提督の懇願とも取れる言葉に、頭をかきむしる。

「正直、頭を使うのは苦手なんだがよ」
「オーナー、センサーに反応有り。どうやら苦戦している部隊にあちらから救援を向かわせた模様です。最高速度はマッハ2・5、すぐに合流すると思われます」
「そいつぁトリガーハートって連中だろうな。ウィッチ達が見たら腰抜かさなきゃいいんだが」
「こちらから見れば、どれも驚愕する者達ばかりだ。問題は、これだけの戦力を持って対抗せねばならない敵とは、一体………」
「さあて、ね………」

 エモンは再度紫煙を吸い込みながら、目つきを鋭くする。

「オーナー………」
「ウェルクストラ、あいつの事はまだ言うな。あの化け物の事はよ………」

 エモンの目は鋭いまま、心中にしまったままの〈何か〉に向けられていた………



武蔵から250km先 空母グラーフ・ツェッペリン艦上

「FIRE!」

 号令と同時に、無数の砲火が上空から押し寄せるネウロイ・ヴァーミスその他も混ざった敵影へとばら撒かれる。

「敵は小型だけ! 十分私達だけで対処出来るわ!」

 艦上に陣取る空戦用とは違う、キャタピラ状のパーツで構成された陸戦用ストライカーユニットを装備した陸戦ウィッチ達の先頭、ブリタニア陸軍 第4戦車旅団C中隊 隊長、セシリア・グリーンダ・マイルズ少佐が激を飛ばしながら、自らも手にした52口径砲を速射する。

「やっぱ航空隊を先行させたのマズったんじゃ?」
「今更言っても遅いですよ!」
「ここを突破して、早く合流しましょう!」

 ブリタニアを中心に、リベリオン、扶桑、カールスランドの四カ国の陸戦ウィッチからなる混成部隊が、空母上で口々にボヤきつつ、襲い来る敵へと砲火を浴びせ続けていた。

「10時方向! 新たな敵影!」
「パットンガールズ! そっちお願い!」
「イエス、サー!」

 黒地の戦闘服で統一されたリベリオン陸軍所属陸戦ウィッチ隊、通称《パットンガールズ》が即座に甲板左舷へと回り、雨霰と大口径砲を連射する。

「後ろからも来てるぞ」
「フレデリカ少佐!」
「マティルダ! シャーロット! ルコ! 後部に回るわよ!」

 スリングに槍という前時代的な装備をした黒人ウィッチの指摘に、マティルダは慌てて後部にも部隊を分ける。
 甲板上に唯一空戦用ストライカーを装備した、顔に傷跡のあるやや年かさのウィッチに率いられ、アフリカから義勇兵参加した黒人ウィッチ、カールスランドの試作重戦車ユニット6号「ティーガー」を駆る小柄な少女、そして三八式歩兵銃を手にした扶桑の陸戦ウィッチというアンバランスな四人が急遽後部甲板に回り、7.92mm弾、投石、88mm砲弾、三八式実包のこれもまたバラバラな弾幕で接近してきた敵を撃破していく。

「や、やっぱりマルセイユさん達に戻ってきてもらった方が!」
「向こうも今交戦中だって! こっちよりひどい事になってるみたい!」
「ここは我々だけで戦うのみだ」
「新たに目標接近、総員構えて!」

 扶桑の陸戦ウィッチのルコこと北野 古子軍曹が押し寄せる敵に涙目で叫ぶが、ティーガーを駆るシャーロット・リューダ軍曹が通信から聞こえてきた戦況を返し、マティルダは顔色一つ変えず、投石代わりのスクラップを振り回していた。
 そこへ傷跡のあるウィッチ、ティーガーとシャーロットの顧問をしているフレデリカ・ポルシェ少佐の号令に全員が新たな敵群に狙いを定める。

『マイルズ少佐! レーダーに感あり! 大型だ!』
「何ですって!?」

 ブリッジからの通信に、マイルズは思わず叫ぶ。
 程なくして、上空から駆逐艦ほどはあろうかという大型ネウロイが接近してきた。

「行けない! 総員、敵群撃破後に大型へ集中砲火!」
「Oh、もうちょっと待って!」
「こ、こっちも少しタンマ!」
「目標殲滅率、60って所よ! まだ離れられない!」
「く、マイルズ隊、上空大型ネウロイに照準!」

 小型を殲滅するよりも大型の射程内に入るのが先と判断したマイルズがなんとか先手を取ろうとするが、さすがに上空高くにいる大型までは届くかどうかギリギリだった。

「隊長! 私が行きます!」
「ダメよフォートブラッグ! 幾ら貴方でも一人じゃ太刀打ち出来ないわ!」

 マイルズの傍ら、積み上げられた弾薬ケースの上で陸戦ウィッチをそのまま小型にしたような武装神姫、砲台型MMSフォートブラッグが突貫しようとするのを、マイルズが制止。
 グラーフ・ツェッペリンの護衛を務める駆逐艦や巡洋艦が大型ネウロイへと攻撃を開始するが、予想以上に頑強な大型ネウロイには僅かにその進行を遅らせるのが精一杯だった。

「後方片付きました!」
「シャーロット! 貴方のでアレ狙える!?」
「やってみます!」

 踵を返したシャーロットがティーガーの88mm砲の仰角を上げていく。

「照準、敵機中央部に…」
「! 総員防御!」

 シャーロットが狙いを定めようとするが、そこでネウロイの表面が発光、攻撃の予兆だと悟ったマイルズの声に、ウィッチ全員(すでに20歳を超えているフレデリカ以外)が慌ててシールドを展開、大出力のビームがティーガーめがけて発射されるが、数人がかりのシールドでかろうじて防いだ。

「なんて火力………!」
「甲板に一部被弾!」
「何発も食らったらヤバイです!」

 マイルズも思わずたじろぐ中、部下達が周辺の被害を報告してくる。

「シャーロット、撃ちなさい!」
「はい!」

 これ以上待てないと判断したフレデリカの指示の元、ティーガーの88mm砲から魔導榴弾が発射、目標の大きさゆえに見事に命中、表面装甲が剥がれて、しかもコアの一部が露出する。

「シャーロット! 二発目!」
「今装填してます!」
「あっ!」

 この機を逃すまいとするマイルズだったが、古子の声に再度上空の大型ネウロイを見る。
 そこには、確かに見えたはずのコアの一部が全く見えなくなっていた。

「今確かに!?」
「移動した。獣が身を隠すようにな」
「コア移動型!?」

 一番目のいいマティルダの報告に、マイルズが驚愕する。

「ダメだ隊長! コア反応が目標内を始終移動しまくってる!」
「くっ………総員、上空大型に火力を集中! コアが少しでも見えたら叩き込んで!」
「無理ですよぅ~、この距離じゃあ~」

 フォートブラッグもコアを狙おうとするが、距離がある上に始終コアは移動を続け、ルコに至っては涙目になり始めていた。

「私が行くわ! 航空ウィッチは私しかいないし!」
「無理です! あの威力、シールドが張れない少佐が直撃食らったら!」
「やっぱり私が…あれ? 隊長! 高速でこちらに接近する反応があります!」
「また敵!?」
「いえ、これは………」
「行って、ディアフェンド!」

 陸戦ウィッチ達が戸惑う中、高速で接近してきた純白の機体から、アンカーが大型ネウロイへと叩き込まれる。

「キャプチャー!」
「あれは………! シャーロット!」
「はい!」

 突然の事にマイルズが驚くが、ネウロイに叩きこまれたアンカーが、コアを捕捉している事に気付くと即座に攻撃を指示。
 叩き込まれた魔導榴弾が見事にコアを粉砕、大型ネウロイは光の破片となって砕け散った。

「やった!」「ブラボー!」

 陸戦ウィッチ達が喝采を上げる中、上空から降りてきた者に皆の視線が集中する。

「TH60 EXELICA、これより皆さんをエスコートします!」
「………変わったウィッチですね」
「何か違うように見えるが」
「あんなストライカーユニット見た事ないですけど」
「そもそも、あれウィッチなの?」
「え~と、なんて説明すれば」
「話は聞いてるわ。私はブリタニア陸軍のセシリア・G・マイルズ少佐よ、よろしく」

 古子、マティルダ、シャーロット、フレデリカまでが首を傾げる中、マイルズだけが敬礼してエグゼリカに声をかける。

「トリガーハートの事を聞いてる? どこから?」
「ちょっと変わった人達が戦ってるけど、味方だって、この子から」
「増援ありがとうございます! 隊長共々、礼を言わせてもらいます!」

 マイルズがフォートブラッグを手で指し示し、フォートブラッグもマイルズを真似るように敬礼する。

「私が先導します! 501と合流しましょう」
「了解。それじゃあ、パーティーに遅刻しないように急ぎましょう!」
『お~!!』

 エグゼリカを先導に、陸戦ウィッチ達を載せた空母部隊は、速度を上げていった。



「ふむ、これはまずいか?」

 フライトジャケット姿の明らかに成人していると思われる長い黒髪のウィッチが、滞空しながら腕組みをして唸る。

「後方、敵機!」
「右方片付きました! 回ります!」
「前方、更に敵機接近!」

 彼女の周囲では、護衛を務めるウィッチ達が右往左往しながら、押し寄せるネウロイと応戦していた。

「エセックスまで退いて下さい少将! ここは私達でなんとかします!」
「退くと言っても、後ろも前も敵だらけでどうやって退くと言うのだ?」
「じゃあ506の人達を呼び戻しましょう!」
「向こうも交戦中、しかもこっちよりも派手にやってるようだぞ」
「し、しかし!」

 金髪で幼いと言ってもいい生真面目そうなウィッチが叫ぶが、黒髪のウィッチは僅かに首を傾げるだけでその場から微動だにしない。

「ふむ、どいていろヘルマ」
「はい?」

 ヘルマと呼ばれた金髪のウィッチが思わずどける中、黒髪のウィッチは首にぶら下げていた小銃用のスコープを覗き込み、固有魔法を発動。
 美緒と同じ《魔眼》の効果で前方から来る敵を見据えると、もう片方の手でMG42S機関銃を構え、トリガーを引いた。
 放たれた銃弾は、射程範囲ギリギリと言ってもいい距離で次々と命中、小型のネウロイは一方的に撃墜されていった。

「すごい………」
「昔ならこんな狡い真似をしなくてもよかったのだがな。最近腕が鈍ってきているな………」
「あ、あのう、ご主人様………」

 ヘルマが唖然とする中、黒髪のウィッチの肩にいた幾つもの砲がセットされたポットに乗り、更に二丁拳銃という重武装の割には気弱そうな声を出す丑型MMSウィトゥルースが何かを確認していた。

「どうしたウィトゥルース?」
「何か来ます、すごい早いです」
「こちらでも確認しました。ネウロイではないようですが………」

 後方で黒い軍服に白髪紅瞳にメガネをかけたウィッチが、魔導針を発動させて状況を確認する。

「すれ違い様に周囲のネウロイの反応が消滅してます。相当な戦闘力と推測されます」
「ネウロイを撃墜しているのなら味方だろう。ハイデマリー、あとどれくらいで到着する?」
「あ、はい、この速度だと…」
「多分、あと5秒、4、3、2、1」
「え?」

 白髪紅瞳のウィッチ、ハイデマリーが答えるよりも早く、ウィトゥルースがカウントを開始。
 それがあまりに短い事にヘルマが声を上げた時、周辺をソニックブームが吹き荒れる。

「カルノバーン!」

 ソニックブームと共に射出されたアンカーが中型ネウロイに突き刺さり、スイングされて周辺の小型ネウロイを一掃しつつ、リリースされて残った小型諸共爆散する。

「ほう………」
「す、すごい………」
「何ですか今の………」

 すさまじい戦闘力に、ウィッチ達が全員唖然とする。
 ただ一人、黒髪のウィッチだけは鋭い目で突如として現れた者を見据えていた。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ所属、TH32 CRUELTEARです。ウィッチの方々を救援及び先導に来ました」
「出迎えご苦労、私はカールスラント空軍ウィッチ隊総監・第44戦闘団司令、アドルフィーネ・ガランド少将だ。今回の作戦を指揮を一任されている」
「総監……少将? 上位指揮ユニットと認識します。………そちらでは上位指揮ユニットも戦列参加するのですか?」
「いえ、多分この人だけです………」
「本来なら引退して後方指揮に徹するはずなのですが………」

 クルエルティアの疑問に、ヘルマとハイデマリーがやや言葉を濁す。

「こちらからも聞こう、リーネ曹長と501の連中の行方を知っているか?」
「501の方々なら向こうで交戦中です。他のウィッチ隊の増援もあり、善戦しています」
「ふむ、出遅れたか………」
「ご主人様、そもそも勝手に出撃したのはご主人様の方だったような………」
「それではクルエルティアとやら、エスコートよろしく頼むぞ」

 ウィトゥルースの提言をあっさりスルーし、ガランドはクルエルティアに片手を上げて先導を頼み込む。

「了解しました。巡航速度を超低速に設定、皆さんの先導に徹します」
「それでは行くぞ諸君!」
「少将~~!」「待って下さい~!」

 先導するクルエルティアに勝手についていくガランドに、護衛のウィッチ達は大慌てで後を追っていった。



「だりゃああぁぁ~~~!」

気合と共にレザージャケットにマフラーを巻いた小柄なウィッチが扶桑刀を一閃、小型ネウロイを両断する。

「お見事ナオちゃん」

 それをすぐ側で見ていた、細身のウィッチが賛辞を送りながら身を翻し、自分を追ってきていた小型ネウロイに銃弾を叩き込み、あっさりと撃破する。

「敵機10時上方に新たに出現!」
「ラル隊長! このままでは弾薬が足りなくなります!」
「いっぱい用意してきたつもりだったのだけど、敵もいっぱいとはね………」

 ベスト姿で狐の耳を生やした小柄なウィッチと、ヘアバンドの後ろからシロクマの耳を生やしたウィッチが左右から報告するのを、コルセットを装着したウィッチ、第502統合戦闘航空団《ブレイブウィッチーズ》隊長、グンドュラ・ラル少佐が僅かに顔を曇らせる。

「今更サンガモンまで撤退するわけにもいかないし、補給艦も向かってきてるはずだから、それと合流できれば………」
「そう簡単に合流できればいいのですが、その前の問題が………」
「たああ~~~すう~~けええ~~~てえええ~~~!!」

 そう呟くラルと狐耳のウィッチ、部隊内での教官役を兼任しているエディータ・ロスマン曹長の前を涙声で悲鳴を上げながら、スオムス空軍仕様のセーターにショートヘアのウィッチが通り過ぎる。
 なぜかその後ろをネウロイ、ヴァーミス、ワーム、バクテリアンの小型ユニットが大挙して追っていた。

「ニパさんそのまま真っすぐ飛んで下さい!」
「できればもうちょっと遅く!」
「無理イィ~~!!」

 ちょうどいいとばかりにガリア空軍の制服に身を包んだお下げ頭のウィッチと、扶桑海軍の藍色の士官服に身を包んだショートヘアのウィッチが狙い撃ちしていく。
 そんな状況でも、なぜか敵の攻撃は追われるウィッチに集中していた。

「なんでか分からないけど、アレ楽でいいね」
「そんな事言ってられませんよ! あのままじゃニパさんが持ちませんよ!?」

 何故か敵のほとんどが一人に集中し、追われてる当人以外は楽な戦いにラルが頷くが、ヘアバンドのウィッチ、副隊長のアレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉が声を荒らげる。

「こっちは片付いた!」「ニパ君今行くよ!」

 マフラーを巻いたウィッチ、管野 直枝中尉と細身のウィッチ、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉が即座に追われてるウィッチ、ニパことニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長の救援へと向う。

「マスター、何かが高速でこちらに向かってきますよ?」
「む? 敵か?」

 そんな中、ラルのそばでメガネにナースキャップ、手に注射器型デバイスまで持ったナース型MMSブライトフェザーがラルに申告。

「待って下さい、この反応は…」
「ガルトゥース! ファイアー!」
「ぴぎゃあ~!」

 ブライトフェザーが確認するより早く、飛来したレーザーがニパをちょっとかすめてその後を追っていた敵群をまとめて撃破する。

「な、なんだ今の!?」
「あれ! あいつ!」

 直江が驚く中、クルピンスキーが上空を指差す。
 そこには、増援に来たフェインティアの姿が有った。

「危なかったわね~、このTH44 FAINTEARが来たからには…」

 フェインティアが余裕たっぷりの口調で名乗った時、ブレイブウィッチーズの銃口が一斉にフェインティアへと向けられる。

「ちょっと何この扱い!? せっかく助けに来て上げたのに!」
「助け? 何言ってやがる!」
「この間、散々こっちのショバ荒らしてくれたじゃない」
「ニパさんまで撃墜しかけて!」
「今度は何が目的?」

 矢継ぎ早に叩きつけられる敵意のこもった言葉に、フェインティアがある疑問へと辿り着く。

「ちょっと待った! 私に似た奴にあった事あるの!?」
「似てる? あれは君だと思ったが?」
「違います、マスター」

 ラルまでもが警戒する中、ブライトフェザーが皆を静止する。

「極めて似てますが、兵装とエネルギーパターンが違います。なにより…」
「私が保証する。マイスターは君達の味方だ」

 ブライトフェザーの指摘に、フェインティアの隣でムルメルティアも断言する。

「あんた達が言ってるのって、ひょっとしてこいつ!?」

 フェインティアが慌てながら、イミテイトの画像をブレイブウィッチーズに向けて投影する。

「ああ、確かにこいつだ。本当にお前じゃないのか?」
「間違いないね、こんな感じのお供連れてた」
「向こうが本気じゃなかったみたいですから、なんとかなりましたが………」
「あの時は痛かった………」

 ウィッチ達の言葉に、フェインティアの顔色が変わる。

「カルナ! ブレータ! とんでもない情報よ! あいつが、私の偽者もこっちに来てるわ!」
『本当ですか!?』『詳細は分かりますか?』
「ちょっとそこの武装神姫! 私の偽者が現れた時の戦闘データある!?」
「はい、ありますけど………」
「それよこしなさい! ムルメルティア、ラインパスを!」
「了解した、マイスター」

 増援が来たのは自分達だけではない。その情報は瞬く間に激戦を繰り広げている乙女達へと伝えられていった………



[24348] スーパーロボッコ大戦 EP30
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:8435f90f
Date: 2014/06/09 20:43
EP30



「各当該監視目標、予定空域に集結中。集結率65、上昇中」
「危険数値、許容範囲を突破」
「使用可能全戦力を逐次投入」
「目標殲滅、遂行中………」



「また別のウィッチ隊が到着しました! 識別信号は507統合戦闘航空団!」
「識別信号を登録。ウィッチ隊の総指揮はどうなっている?」
『こちらクルエルティア! ウィッチの上位指揮ユニットをお連れしました!』
『届いてるか? こちらアドルフィーネ・ガランド少将。ウィッチの指揮はこちらに任せてもらおう』
『カルナダインにエスコート、ブリッジ内で指揮をしてもらいます! カルナ、各ウィッチ隊の識別登録及び識別表示は!?』
『こちらカルナ、準備万端です!』
『こちらポリリーナ、機械化惑星からの物資が次々到着してるわ! 武装、弾薬、医療品何でも持って行って!』

 次々と到着するウィッチ達によって、戦況は徐々に好転しつつあった。

「それにしても、すごい数だな………一体ウィッチは何人いるんだ?」
「現状だと、42名です。まだ到着してない部隊もある模様ですから、最終的には倍近くにはなるのでは?」

 攻龍ブリッジで嶋副長が思わず漏らした呟きに、登録数を確認した七恵が概算こみで答えた。

『ふむ、これはすごいな………こちらガランド、空中母艦に到着した。今からここでウィッチ達の指揮を取る』
「攻龍艦長の門脇だ。ウィッチの指揮を一任する。現状、複数の敵性体と交戦中だが、対処は可能か?」
『問題ない、ウィトゥルースが教えてくれる』

 通信画面に表示されたガランドの肩口のあたりにいる武装神姫の姿に、攻龍のブリッジ内で僅かな驚きと納得の表情が皆に現れた。

「本艦6時方向、小型ワーム複数体確認!」
「ソニックダイバー隊は!」
「現在格納庫にて補給中!」
『こちらで受け持とう。504、手の開いてる者から新たな敵群に攻撃を開始』
『こちら504竹井、了解しました。………余談ですけれど、少将ストライカーで飛んできませんでした?』
『気にするな』
「少将って事は、お幾つなんでしょう?」
「さあ………どう見ても坂本少佐より年上に見えますけど………」

 通信内容にそこはかとなく疑問を覚えた七恵とタクミが小声で話すが、新たな敵群の出現に即座に疑問を思考の隅に置いてそれぞれの仕事を再開する。

『こちらエルナー、敵の出現パターンから明らかに一定の感覚を持って転移してきている物と思われます! それらしいワームホール反応探知に尽力します!』
『こちらブレータ、演算を一部ワームホール探知に割きます』
『こちらアーンヴァル、増援艦隊が一部到着、交戦状態に突入しました! なおも増援がこちらに向かってます!』

 次々と状況が好転する要素に、攻龍のブリッジ内に僅かに緊張が緩む。

「なんとか巻き返せますかね?」
「敵の総戦力が不明だ。もしこちらの戦力以上に存在するのなら、決して安心は出来ない」

 冬后が僅かに顔を緩ませながら問うが、門脇艦長はなおも緊張状態を保ったままだった。

「センサーに大型反応! 8時方向から全長30m前後のバクテリアン接近!」
「言ってる端からこれか!」
「506とGが交戦に入ります!」



「な、なんじゃアレは!?」
「あれって………」

 ハインリーケの上げた声に皆がそちらに一斉に振り向き、海面を大きな波を上げながらこちらに向かってくる巨大な影に唖然とする。
 それは、どう見ても巨大なシャコ貝のような物体だった。

「あの、敵なんでしょうか?」
「敵だよ! あれ知ってる!」

 邦佳も思わず唖然とするが、そこに亜乃亜が鋭い声を上げた。
 目前まで迫った巨大シャコ貝はその口を大きく開く。
 その中には、これまた大きなアザラシが姿を現した。

「………あれ撃っていいのか?」「さあ………」
「攻撃!」

 予想外の敵にB中隊のウィッチ達も動きが止まるが、エリューの号令と同時に、皆が一斉に攻撃を開始する。

「プリンセス・セイレーン! こんな所まで!」
「違うよ! 構成元素が全く一致しない! コピーみたい!」

 その巨大アザラシ、かつてGの天使達が戦った事のあるプリンセス・セイレーンの登場にジオールが驚くが、マドカが素早く解析して違う事を突き止めた。

「ここに来る前も偽者出てきた。多分他にも出てくる」
「ええい、偽者だろうがなんだろうが構わん! 全員攻撃じゃ!」

 ティタの淡々とした指摘に、ハインリーケは半ばやけくそで叫びつつ、自らも銃口をセイレーンに向ける。

「胸のオーブ、あれが弱点よ!」
「コアという訳じゃな。狙いやすくてよい!」

 亜乃亜の指摘に攻撃がセイレーンの胸へと集中しようとするが、セイレーンはその巨体に似合わぬ高速で貝ごと海面から浮かび上がり、攻撃を回避する。

「早っ!?」
「させるか!」

 邦佳が驚く中、エリューは素早くRVの機首をひるがえし、レーザーをオーブへと集弾させる。
 攻撃を食らいながら、セイレーンは体を捻り、巨大なナイフを無数に投じてきた。

「サーカスではないぞ!」
「迎撃よ!」

 ウィッチと天使達は迫るナイフをかわし、防ぎ、撃墜していく。

「気をつけよ! 愉快な容姿と違って強敵じゃ!」
「他にも来るわよ、お嬢さん」

 ハインリーケが叫ぶ中、イーアネイラが警告を発する。
 水中から空中へと跳ね上がったイーアネイラを追うように、水中から無数の小型バクテリアンが浮上してウィッチと天使へと襲いかかる。

「この、この!」
「雑魚はこっちで受け持つ! あのデカアシカを!」「え、オットセイじゃないのか?」「トドじゃないの?」

 襲ってくる小型バクテリアンに亜乃亜が攻撃を仕掛けるが、それを遮るようにしてB中隊のウィッチ達が小型へと攻撃を集中させていく。

「急いで! こいつピンチになると、小型を一斉に呼び出すわ!」
「え~!?」
「また何か来るよ!」

 エリューの指摘に邦佳が更に驚くが、そこにハンチングハットを被ったボーイッシュなウィッチ、イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉がセイレーンの奇妙な挙動に注意する。
 直後、セイレーンはボール型に導火線という古めかしい型の巨大な爆弾を投擲、全員が仰天して一斉に逃げだし、投擲された爆弾は弧を描いて着水、爆発して巨大な水柱を上げる。

「ええい、多芸な海獣類じゃ! コアもやけに固いではないか!」
「でも効いてる! あと一押し!」
「みんな、D・バースト準備! 一気に倒しましょう!」

 短期決戦にするべく、ジオールの指示で全RVがD・バーストの発射態勢に入った時だった。
 セイレーンは突然巨大シャコ貝の中に入ったかと思うと、海面へと向っていく。

「逃げよったぞ!?」
「アレ? そんなはずは………」
「違う、狙いはあっち」

 ティタが呟きながらセイレーンの向かっていく方向を指さす。
 そこには、大和の姿が有った。

「いかん! 攻撃、攻撃じゃ!」
「大和に緊急連絡! 回避を!」

 目的が大和への体当たりだと悟った全員が一斉攻撃をかけるが、異常に固い貝に攻撃は弾かれるだけだった。

『ソニックダイバー隊、大型バクテリアンの大和突撃をなんとしても阻止するんだ!』
「了解! ソニックダイバー隊全機、目標を大型バクテリアンに変更!」
『504、506を援護し、大和防衛に当たれ』
「504竹井、了解しました。みんな、なんとしてもあの貝を止めるのよ」
『了解!』

 冬后とガランドの指示が飛び、ソニックダイバー隊と504・アルダーウィッチーズが即座に狙いをセイレーンへと変更する。

「させない、MVソード!」
「赤ズボン隊、突撃!」

 先陣を切って音羽と赤ズボン隊が突撃し、壮絶な集中攻撃を食らわせるが、それでもなおセイレーンの突撃は止まらない。

「喰らえ~、ドラマチック・バースト!」

 亜乃亜がD・バーストを発射、無数のサーチレーザーがセイレーンを襲うが、それですら貝の表面で弾かれてしまう。

「ダメ、MVソードも通らない!」
「可憐、どこか密度が弱い所は!」
「今探してますが、どこもほとんど………」
『こちらアーンヴァル、向かってくる目標の速度が早い上に水面ギリギリで、大和主砲で狙えません! 激突まであと300秒!』
『504及び506、大和前に集結してシールド全開、直撃だけは避けろ』
「ええい、それしかあるまい!」
「皆、急いで!」

 ガランドの指示でウィッチ達が大和の前に防衛線を構築しようとするが、天使とソニックダイバーはなおもなんとか動きを止めようと攻撃を続けていた。

「どこか、どこか密度が低い所が………!」

 可憐が焦りながら、必死になって風神のレーダーを総動員させていた時だった。

「おい、そこの大型ストライカー!」

 下から響いてきた声に可憐がそちらに向くと、増援で来たらしい魚雷艇の上で仁王立ちしている一人の陸戦ストライカーを履いたウィッチと目が合った。

「あの、今急いで」
「分かってるさ。だから頼みがある。私をあの貝の上に運んでくれ」
「え?」

 妙な提案に、可憐がまじまじとその陸戦ウィッチを見る。
 よく見れば、スオムス陸軍の軍服をまとったその陸戦ウィッチは銃を手にしておらず、なぜかスコップと巨大な手榴弾を手にしていた。
 凛々しいその目に何か策があるらしいと考えた可憐は、魚雷艇に近寄るとその陸戦ウィッチの手を風神で掴んで一気に舞い上がる。

「それで、何か策は?」
「策? そんな物は無い」
「え?」

 あっさりと断言された事に可憐が絶句するが、その陸戦ウィッチは貝の真上まで来ると手を話して貝に着地、そのまま一気に中央へと進んでいく。

「誰か貝の上に!」
「避けて! 危ない!」

 誤射を懸念して天使もソニックダイバーも攻撃が一時中断する中、貝の中央で陸戦ウィッチは手にしたスコップを高々と持ち上げ、そのまま一気に振り下ろす。

「ふん!」

 気合と共に、スコップの先端が今まで如何な攻撃をも弾いていた貝の表面に深々と突き刺さった。

「………え?」「ウソ!?」

 自分達が繰り出した近接攻撃も弾かれていた音羽とエリーゼが目を見開く中、スコップが貝の表面をまるで発泡スチロールでも掘るがごとく、あっさりとえぐっていく。

「はっはっはっ! この程度か!」

 高笑いを上げながら、陸戦ウィッチはそのままいとも簡単に貝を掘っていき、瞬く間にセイレーンを守っていた貝に大穴が開いていく。

「そおれ!」

 最後の一息と同時に、穴が貫通。
 中にいたセイレーンと目が合うと、陸戦ウィッチは不敵な笑みを浮かべ、そこに持っていた巨大な手榴弾を次々と入れていく。

「退避!」
「可憐、彼女を回収!」
「D・バースト発射可能な人は、あの穴に向けて発射!」

 瑛花が慌てて陸戦ウィッチの回収を可憐に指示、ジオールは予想外の好機に一斉攻撃を叫んだ。

『ドラマチック・バースト!』

 RV全機が一斉にドラマチックバーストを穴へと発射、閉鎖された貝の内部で巨大手榴弾と合わさって大爆発を起こし、巨大な火柱と共に断末魔の絶叫が響き渡る。
 セイレーンの体が貝ごと崩壊しながら海中へと沈んでいき、それを見ていた皆が喝采を上げる。

「良かった………」
「ふん、あの程度で苦戦するとはだらしない連中だ」

 可憐も安堵の吐息を漏らすが、当の陸戦ウィッチはさも当然とした顔をしていた。

「おっと、自己紹介がまだだったな。私はスオムス陸軍所属、アウロラ・E・ユーティライネン中尉だ」
「あ、私はソニックダイバー隊・風神パイロット、園宮 可憐曹長と言いま…ユーティライネン、さん?」

 自己紹介した陸戦ウィッチ、アウロラの苗字に聞き覚えがあった可憐が、思わずアウロラの顔をまじまじと見つめる。

「あの、ひょっとしてエイラさんの………」
「お、妹を知っているのか? 今どこにいる?」
「向こうの、青い宇宙…いや飛行戦艦の方です」
「そうか、ではそっちに向かうとするか」

 元乗っていた魚雷艇に降り立ったアウロラはそう言うと、艦首をそちらへと向けさせながら、可憐へと向かって手を振る。

「え~と、エイラさんのお姉さん?」
「………みたいです」
「ウィッチの姉妹って、ロクなのいないんじゃない?」
「すごいお姉さんですね~」
「すごすぎよ………」

 ソニックダイバー隊も天使達も遠ざかっていく魚雷艇を呆然と見ていたが、新たな敵群に慌てて戦闘を再開した。



「みんな、無茶はしないで! 怪我した人やお腹すいた人は後ろに!」

 プリティー・バルキリー号の上で負傷や補給に来る者達に叫びながら、ユナはマトリクスディバイダーPlusを連射する。

「ユーリィ補給完了ですぅ!」

 ダメージから復帰したユーリィもユナの隣で双龍牙を連射していく。
 なお、そばの海面にはユーリィ一人に中身を食いつくされたコンテナが数個、海中へと沈んでいく所だった。

「リューディア、送れるだけ物資を送りなさい! 幾らあっても足りませんわ!」
「エリカ様、まだ治療の途中です! 動かないで!」
『全物資を送るとなると、合計で…』

 治療を受けながら転移装置に向かってエリカが怒鳴るが、リューディアが総額を言おうとした所で転移装置にギャラクシーブラックカード(限度超無制限)を叩きつける。

『現在こちらで転移ゲートの出力強化に取り掛かってます!』
『なんとしても永遠のプリンセス号とリンクさせるのだ!』

 通信の向こうでは鏡明と剣鳳が怒鳴りながら切り札とも言えるミラージュキャノンを転移可能にさせるべく、奮闘している姿が見えていた。

「これで、魔力が回復するの?」
「実地試験済みだ、保証する」
「へ~、不思議な飲み物ですね」

 補給に立ち寄った圭子と真美がバルクホルンから手渡された回復ドリンクを不思議そうな顔をしながら、一緒に飲み干していく。

「おや、確かに魔力が回復してる。これあとでまとめてウチの部隊に配備してくれないかしら?」
「いいですね、でもどこで製造してるんでしょうか?」
「言っても信じられないだろうから、聞かない方がいいぞ」
「未来だよ」

 圭子が興味津々で次々と送られてくる回復アイテムや弾薬の方を見つめるが、バルクホルンが言葉を濁した所でハルトマンがあっさりと教える。

「………未来?」
「正確には仮定因果律線上の一つに存在し得る世界軸上の未来です、陛下」
「たまにあんたの言ってる事が分からないのよね………」

 首を傾げる圭子に、サイフォスが詳細を伝えるが、余計混乱しただけだった。

「さて、マルセイユとライーサも補給に戻らせないと」
「マルセイユさんのお陰でなんとか戦線は維持出来てますけど………」
「今から、攻勢に転じます」

 再出撃しようとした圭子と真美の背後で、誰かの声が聞こえたと思うと、何かが格納用ハッチから降りてくる。

「あなた、確かハルトマン中尉の」
「妹のウルスラ・ハルトマンです。姉さん、今まで任せてしまってすいません。けど、今完成しました」
「へえ、これって………」


「きゃあ!」
「ライーサ!」

 シールドの限界ギリギリの攻撃を食らった相方がバランスを崩しそうになるのを、とっさにマルセイユがサポートに入ってガードする。

「すいません!」
「一度補給に下がれ! ケイ達が来るまで、私が持たせる!」
「けれど…」

 一瞬ためらったライーサだったが、その脇を何かが高速で通り過ぎて行く。

「………ハルトマン?」

 通り過ぎていった謎の機体に、見覚えのある顔が笑みを浮かべていたのをマルセイユは唖然として見送った。

「ウルスラ、すごいよこれ!」
「出力調整はこちらでやります。姉さんは戦闘に集中してください」
「了~解!」

 プリティー・バルキリーから発進した円盤翼機にも似た特異なシルエットを持つ未知のストライカーユニット、幾つもの世界の技術理論の結集により完成した新型魔力同調式複座型ジェットストライカーユニット《ホルス》を駆りながら、ハルトマンは喝采を上げる。

「わ~い、早いよこれ!」
「魔導タンデムエンジン、出力安定。加速率、予測値より7%上昇。各部数値予測内」

 練習用複座型ストライカーユニットと違い、両者が前後にややずれる形となって騎乗し、上前方部でパイロットをする姉は驚異的な速度に喝采を上げ、下後方部の妹は各種計器をチェックしていく。
 試作型ジェットストライカーユニットの欠点であった魔力の過剰消費を抑えるべく、魔力の波長が近い血縁者同士の複座によって解決した新型機に、周辺の敵が反応して近寄ってくる。

「行くよ~!!」

 ソニックダイバーの余剰パーツを流用した20mm機関砲を手にとったハルトマンが、周辺に群がってきたネウロイとヴァーミスの編隊に向けて、一斉斉射。
 離れた弾幕は、周辺の敵をまとめて薙ぎ払っていく。

「うわ、すごい威力!」
「姉さんと私の二人分の魔力が上乗せされた結果です。魔力同調の効果は予想以上、消費率も問題なし」

 ウルスラが計器を確認しながら、バイパスその他を調整していく。
 妹に微調整を任せ、姉は新型ストライカーで戦場を縦横に飛び、次々と敵を撃墜していく。

「ずるいぞハルトマン! なんだそのストライカーユニットは!」
「へへ~ん、あげないよ~」
「すいませんマルセイユ大尉、現状では魔力波長の近い血縁者でしか使えないんです」

 驚異的な性能にマルセイユが文句を言うのを姉がからかい、妹が淡々と説明して断る。

「ハルトマン中尉、調子に乗って突出し過ぎないで! 他の人達は補給と治療は済んだ!?」
「大体終わってます!」「うじゅ! やるぞ~!」「お返しはさせてもらいませんと」
「ストライクウィッチーズ、出撃!」

 他の部隊のウィッチや新型ストライカーを駆るハルトマン姉妹が奮戦している間に、ミーナは501の他のメンバー達が態勢を整えた事を確認し、再出撃を命ずる。

「行こうエイラ」「分かったサーニャ………ん?」

 サーニャに伴われて飛び上がったエイラだったが、ふと妙な悪寒が背中を駆け上がる。

「い、今何かイヤな事起きそうな予感ガ…」
「何が?」
「ほう、面白いストライカーユニットがあるようだな」

 突然下から聞こえてきた声と、見えた未来にエイラの全身が凍りつく。
 理性では拒否しつつも、ゆっくりと足元を見ると、そこには魚雷艇の上からこちらを見上げているアウロラの姿があった。

「ね、ねねね、姉ちゃん!?」
「無事のようだなエイラ」
「お久しぶりです、アウロラ中尉」
「リトビャク中尉も元気そうでなによりだ」
「なんでここに居るンだ!? 一線退いて回収部隊のはずだろ!?」
「戦闘可能なウィッチは総動員との指示だったからな。あちこちから前線復帰したウィッチが集まってるぞ。それとあの新型、他に無いのか?」
「あるわけナイだろ! 姉ちゃん何するつもりだ!」
「血縁者なら乗れるのだろう?」

 嬉々とした表情でそう言う姉に、エイラの顔色がどんどん青くなっていく。

「一機しかないシ、そもそも姉ちゃん陸戦ウィッチだロ!」
「むう、そうか」
『待ってください! 設計データは機械化惑星に転送済みです! 向こうの技術力ならばすぐに弐号機が製造できます!』
『調節データも今解析している。調整すれば他のウィッチにも応用出来ると思う』
「余計な事言うナ~~~~!」

 明らかに乗りたがっているアウロラをなんとか押し留めようとしたエイラだったが、そこに飛び込んできたエルナーと宮藤博士の言葉に頭を抱え込む。

「はっはっは、それでは弐号機完成まで、久しぶりに姉妹共闘と行くか!」
「共闘した事ナんて無かったロ!」
「そうだったか? いやリトビャク中尉も交えて三人で行くとするか!」
「分かりました」
「聞くなサーニャ~!」

 エイラは絶叫しながら、押し寄せてくる敵へと向けて銃口を構えざるをえなかった。



「グラーフ・ツェッペリン到着、交戦に入りました!」
「戦線、更に拡大! 各ウィッチ隊が奮戦、なんとか押し始めました!」
「対ネウロイ用三式弾、非常時用以外残弾無し! 徹甲榴弾に変更しました!」
「ほとんどのウィッチ達は到着しました! 反撃開始です!」

 大和のブリッジ内、主砲発射の轟音が途切れない中、矢継ぎ早に報告が相次ぐ。

「一体、敵はどれくらいいるのだ? すでに相当数が撃墜されたはずだが………」

 杉田艦長が多数のウィッチ達によって次々と撃墜されているはずが、一向に数が減ったように見えない敵影に顔をしかめる。

「恐らく、あちこちからワームホールを使って転移してるようです。現在場所を特定中ですから、それさえ分かれば、敵の増援を遮断出来ます」
「幾つか分からない言葉が混じってるが、なんとなくは分かった。それまでの辛抱か」

 ブリッジ内でターミナルを操作していたアーンヴァルの説明に、何人かは顔を見合わせるが、杉田艦長は概要だけは把握出来たらしく、いささか渋い表情のまま、飛来する敵と迎撃するウィッチ達を見つめていた。

「それと、さっきから気になってるんですが、坂本少佐、何かおかしくありませんか?」

 ブリッジ内で情報整理を手伝っていた土方が、上官の戦い方に違和感を感じ、それとなくアーンヴァルに問うた。

「坂本少佐、出撃してから一度も刀を抜いていませんし、なんか腰にいっぱい下げた水筒を次々と飲み干して………」
「! マスター、すぐに帰還してください! それ以上の戦闘は無理です!」
『問題ない、ドリンクはまだ残数は残っている。援護射撃くらいはできるだろう』
「けど、マスターの魔力は戦闘行動を行うにはもう限界です!」
『………そうも言ってられないようだ』

 通信越しに、美緒の言葉に続けて銃の連射音が響く。

「限界って、坂本少佐の魔力はもうそこまで………!」
「はい、前の戦闘でかなり無理をして………」
「少佐! 帰還してください! 危険です!」

 土方も通信機に張り付いて叫ぶが、美緒は聞き流して戦闘を続行していた。

『情報が届いてるぞ、坂本少佐。撤退しなさい。指揮官命令だ』
『しかしガランド少将………』
『それに、代わりが到着した。彼女なら安心して任せられるだろう』
『代わり?』
『わ~はっはっは!』

 ガランド少将からの命令にも抵抗しようとする美緒だったが、そこで通信機から聞き覚えのある高笑いが鳴り響いた。

「な、なんでしょうか今の?」
「さあ………?」

 アーンヴァルが思わず耳に当たる部分の聴覚素子を抑える程の高笑いに、土方も首を傾げる。
 大和のブリッジ内でも首を傾げる者が出る中、その前を一人の扶桑海軍のセーラー服を着てマフラーを巻いた小柄なウィッチが通り過ぎていった。

「新しいウィッチの到着を確認、部隊認識………無し?」



「たあぁぁぁ!!」

 気合と共に小柄なウィッチが手にした扶桑刀を一閃、軌道上にいた敵を片っ端から斬り捨てていく。

「そこだぁ!」

 斬撃の軌道上から逃れた敵には、即座に身を翻して予想移動位置に斉射、放たれた弾丸は見事に敵へと全弾命中していく。

「すごい………坂本さん以外にあんなウィッチが………」
「な、なんかエイラさんのお姉さんと違う意味で強くない?」

 見事としか言い様のない小柄なウィッチの戦闘機動に、音羽と亜乃亜は思わず攻撃の手を休めて見とれてしまう。

「あの動きに予測射撃………まさか、義子か!?」
「ん? おう坂本、久しぶり!」

 美緒に気付いたその小柄なウィッチ、かつての戦友である西沢 義子 飛曹長が扶桑刀を握ったまま手を降ってくる。

「義子、あなたどこにいたの!? 連絡取ろうとしたのに、全然見つからなかったのよ!」
「そうか? そういや立ち寄った基地で何か言われてたな」

 同じく義子の姿に気付いた醇子が声を上げるが、義子は気にせずに戦闘を続けていく。

「それにしてもいいなここは! 倒しても倒しても敵が出てくる! 来た甲斐がある!」
「義子、お前状況理解しているのか?」
「わかってるぞ、最強ウィッチ決定戦が行われるってな!」

 嬉々としている義子に、さすがの美緒も一瞬表情が硬直する。

「違うのか? こいつはそう教えてくれたぞ」

 そう言いながら義子は傍らにいる大型ウィングに大剣を持った武装神姫、戦乙女型MMSアルトレーネを指差す。

「え~と、そこの武装神姫」
「アルトレーネなのです。マスターには一応説明したのです………」

 他の武装神姫と違い、何かすでに疲れてるような表情をしたアルトレーネは、それだけ言うと視線を逸らす。

「ご主人様、何があったんでしょう?」
「ハウリン、聞かない方がいいわ。なんとなく想像がつくから」
「確かにな………」

 かつて美緒、諄子、義子の三人でリバウの三羽烏などと言われた過去から、義子の性格はよく理解している諄子と美緒がとんでもないのをマスターにしてしまったであろうアルトレーネに憐憫の視線を送る。

「坂本、見てたがなんか無理でもしたか? ここは私に任せて、休んでおけ」
「…そうだな。義子、諄子これを!」

 美緒が残った回復ドリンクを二人へと投げ渡し、アルトレーネとハウリンがマスターに代わって受け取った。

「なんだこれは?」
「それを飲めば魔力が回復する。まだあるだろうから、必要ならあっちの駆逐艦か青い飛行艦の所に行ってくれ」
「おう、ありがとう」
「ひっ!?」

 礼を言うなり、義子は手にした扶桑刀で回復ドリンクの口(アルトレーネの前髪含む)を切り飛ばし、それを一気飲みする。

「色々とすごい人だね、あっちのマスター………」
「なにせ、リバウの魔王なんて呼ばれてたから。それじゃあ美緒の抜けた分、よろしく頼むわよ義子」
「おう任せとけ! 行くぞアの字!」
「アルトレーネなのです!」

 美緒の抜けた穴を埋める、という気が有ったのか無かったのか、魔王と戦乙女が、押し寄せる敵へと向かって突撃していった。



「大分出遅れたようだな」
「仕方ありません、出発も遅れてしまいましたし」
「あんた達、もっと速度出ないの?」
「無理いうな! これでも全速力だ!」

 主戦場に一番遠かった502・ブレイブウィッチーズが、すでにかなり戦況が進んでいる事を通信越しに確認しつつ、フェインティアの先導で先を急ぐ。

『フェインティア、こちらカルナ。最優先事項の変更です』
「どうしたのカルナ?」

 突然届いたカルナからの通信に、フェインティアの動きが止まる。
 それを見た502のウィッチ達も足を止め、ブライトフェザーが通信を仲介して皆にも見せた。

『こちらエルナー、サーチの結果、そこから近い場所に、ワームホールの存在が確認されました。敵群の転移も確認しています。どうやらそこから一度散開してからこちらに向かってきている模様です。座標を送りますから、ウィッチの方々と共にワームホールを破壊してください』
「なるほど、こんな所に………破壊は可能かしら?」
「ワームホールって何だい?」
「門のような物、と思って下さい」
「破壊って、壊したら素通しって事は………」
「データから考察するなら、不活性状態で安定化、転移時のみ実体化してるようです。不活性状態で飽和レベルにまで攻撃を加えれば、崩壊消失するはず」
「相変わらずお前の言ってる事はほとんど分かんないな~」

 最後の直枝の一言に、502全員が頷く。

「全く、なんだってパーフェクトな私がこんな連中と………」
「文句は後だマイスター、敵援軍の停止は最優先作戦目標だ」
「分かってるわよムルメルティア。方向はあっちね、急ぐわよ」
「だから速度が違うのだが」

 一応ウィッチ達に併せて低速飛行するフェインティアに先導され、ウィッチ達はワームホールの場所に向う。
 たどり着い先、そこには海面に巨大な半透明の渦が浮かんでいた。

「これが、ワームホール?」
「間違いないわね。かなりの大型、しかも常時接続なんてどうやってるのかしら?」

 ラルの質問に、自らのセンサーを総動員して状態を確認したフェインティアが間違いない事を確認する。

「一応これは閉じてるって事でいいのかな?」
「鍵は開いている、向こうはいつでも来れると思えばいい」

 クルピンスキーにムルメルティアが説明しながら、全兵装をワームホールへと照準していく。

「皆さん、先程言った通り、この状態を維持するのはかなりのエネルギーが必要です。再度開く前に、皆さんの魔力を全開で攻撃すれば、計算上十分に破壊できます」
「仕組みは分からないが、そういう事なら簡単だ。ブレイブウィッチーズ総員、あの渦に向けて構え! 合図と同時に、全魔力を込めて一斉攻撃!」
『了解!』

 ラルの号令の元、ウィッチ達が銃口を一斉にワームホールに向け、魔力を込めていく。

「ガルトゥース・ガルクァード、サイティング! フル出力チャージ!」

 フェインティアもフルパワーで攻撃準備に入る。
 そこで、ワームホールが発光を始めた事に気付いた。

「行けない、活性化が始まった!」
「転移が始まります! 攻撃を!」
「全員、撃…」
「そうはいかないのよね~」

 武装神姫達の焦った声にラルが攻撃を命じようとした時、突然上空から声が響いてきた。
 全員が一斉に振り返り、そこにいる真紅の影に絶句した。

「ああ、あいつだ!」
「ホントにもう一人いやがったぞ!」
「現れたわね、偽者!」

 その真紅の影、フェインティア・イミテイトの姿にウィッチ達は口々に叫び、フェインティアも怒りを露わにする。

「それ、今壊される訳にいかないのよ、だから!」

 フェインティア・イミテイトの声と同時に、周囲に一斉に攻撃ユニットが出現して狙いを定める。

「散開!」

 ラルが攻撃を中断して叫び、全員が一斉に散った直後、すさまじい弾幕が一斉に襲いかかる。

「またこれ~!」

 ニパの泣き叫ぶ声を掻き消すような攻撃に、全員が持てる限りの飛行技術とシールドなどを駆使して回避していく。
 フェインティア・イミテイトの攻撃は巧みで、ワームホールへの直撃は的確に避け、なおかつウィッチやフェインティアがワームホールに近づけないように的確に弾幕で誘導していた。

「なんて火力………! とても近寄れない!」
「ラル隊長! ロスマン曹長! こっちへ! 下原少尉!」
「分かりました!」

 身体的問題で他のウィッチよりも僅かに動きが鈍い二人を庇って、アレクサンドラと定子が二人がかりでシールドを張ってなんとか攻撃を防ぐ。

「この野郎~!」
「ナオちゃん!」

 強引に突撃した直枝が扶桑刀を抜き放ち、弾幕を回避しながら攻撃ユニットの一つを斬り裂き、クルピンスキーがそれを援護しながら銃弾を叩き込み、なんとか撃破するが、攻撃ユニットはまだ多数有った。

「ムルメルティア!」「了解だマイスター!」

 フェインティアが最高速度の高速機動で弾幕をかいくぐってアンカーを叩き込み、ムルメルティアもその小さな体を活かして攻撃の隙間から攻撃ユニットにインターメラル 超硬タングステン鋼を連続して叩き込んでいく。

「へえ、でもこれならどう!」

 次々と攻撃ユニットを破壊していく一番厄介な二人に、フェインティア・イミテイトはいきなり攻撃を一人に集中させる。

「え………」
「マズ! ガルクァード!」

 自分に攻撃が集中した事に気付いたニパが必死にシールドを張るが、圧倒的攻撃にシールドが破砕する直前、フェインティアがアンカーで強引に弾幕の外へと引っ張りだした。

「あうう………」
「ニパさんこちらに!」

 直撃は避けたが、かなりかすめたニパが目を回しかけてるのを見たジョゼがアンカーから離れたニパを回収し、ニパの固有魔法の超回復能力に自分の固有魔法の治癒魔法を重ねてかける。

「陰険ねアンタ!」
「さあね、でも何度でもやるわよ」

 フェインティアが無事だったニパの方を横目で見つつ言い放つと、フェインティア・イミテイトが庇われているラルとロスマンへと目を向ける。

「まずは、鈍いのからかしらね!」
「逃げなさい!」

 オリジナルとイミテイト、二人の口から全く逆の言葉が飛び出し、無数の弾幕が一斉にラルとロスマン、そしてそれを守るアレクサンドラと定子へと集中する。

「く、これは………」
「も、持ちません!」
「二人共、私達を置いて逃げなさい!」
「このままじゃ共倒れになるわ!」
「拒否します隊長!」
「でも、あとどれくらい…」

 シールドの限界を超えるような弾幕に、二人がかりでもシールドがきしみ始める。

「やめろぉ!!」
「させるかあ!」
「遅い!」

 直枝とクルピンスキーが攻撃を止めようと攻撃ユニットに襲いかかるが、そこへフェインティア・イミテイト自身が高速で二人を弾き飛ばす。

「この…」
「マイスター、増援を確認」

 フェィンテイアも攻撃に移ろうとした時、ムルメルティアが短く報告しながら、上空を見た。
 そして、上空から管楽器を思わせる甲高い音が響いてくる。

「何…」

 フェィンテイア・イミテイトも思わず上を見た時、何かが急降下、同時に砲撃してきた。
 急降下と同時に放たれた砲撃は、それぞれが恐ろしい正確さで攻撃ユニット一つ一つに直撃、一撃で破壊していく。

「私のユニットが!?」
「一撃! これは…」

 予想外の攻撃に、フェインティアも上空を見つめる。
 そして、上空から顔に傷跡のある、とんでもない大型の砲を装備したウィッチが通り過ぎ、そのまま海面すれすれで水平飛行に移って上昇してくる。

「あの音、そしてあの急降下攻撃、ルーデル司令!」
「ユニットトラブルで出遅れたかと思ったが、ちょうどいい所だったようだな」

 顔に傷跡のあるウィッチ、対地ネウロイ撃破数最高を誇り、マルセイユ、ハルトマン、ハイデマリーと並ぶウィッチ4トップの一人、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大佐が手にした37mm機関砲を手に、凄絶な笑みを浮かべた。

「話は聞いている。こいつらの陣地を荒らした赤い悪魔ってのは………どっちだ?」
「あっちよ!」

 ルーデルが同じ顔が2つ並んでいるのを交互に見、フェインティアが思わずイミテイトを指差し怒鳴る。

「あなた、よくも私のユニットを半分も!」
「的が大きくて狙いやすかった。次はお前か?」

 こちらも怒鳴るフェインティア・イミテイトに、ルーデルが37mm機関砲を向ける。
 その大口径の銃口を見たフェインティア・イミテイトが、ふとある事に気付いてルーデルを見つめた。

「この時代の武器は、どれも実体弾のはずよね。その砲、あと何発残ってるかしら?」
「目ざといな。だが、お前を撃つくらいは残っているぞ」
「へえ~、試してみる?」

 フェインティア・イミテイトがそう言うと、残った攻撃ユニットが一斉にルーデルへと狙いを定める。

「司令!」「ルーデル大佐!」

 危険を察したルーデルと同じカールスランド出身のウィッチ達が叫ぶが、ルーデルは笑みを浮かべたまま急降下を始める。

「逃さないわよ!」

 容赦の無い攻撃をフェインティア・イミテイトはルーデルへと向けるが、ルーデルは海面スレスレにまで降下、そのまま水平飛行をしながら放たれる弾幕やレーザーをかわしていき、水面に激突した弾幕が壮絶な水しぶきを上げる。

「へ~、それが狙い。けど、そんなアナクロな手が通じるとでも思ってんの!」

 ルーデルの目的が回避のみでなく、水しぶきを誘発しためくらましにあると悟ったフェィンティア・イミテイトがセンサーを総動員、ルーデルの場所を即座に探り当て、そこに攻撃を集中させる。

「行けない! 援護を…」
「いや、もうされているようだマイスター」

 フェインティアや他のウィッチ達が援護に向かおうとするが、ムルメルティアはある反応に気付いていた。

「主の加護を!」

 水平飛行を続けるルーデルの背中で、小さな人影がそう言いながらクロスを突き出し、応じて生じたシールドが回避しきれない攻撃を防いでいた。

「いいタイミングだ。ハーモニーグレイス」
「もちろんです、マスター!」

 ルーデルの背中でそう言いながらガッツポーズを取る武装神姫、シスター型MMSハーモニーグレイスがフェインティア・イミテイトの方を見た。

「主とマスターの御名に置いて、貴方に天罰を下します!」
「忌々しいわね、このミニマムサイズが!」
「でも、結構便りになるわよ」
「全くだ」

 ルーデルとハーモニーグレイスに気を取られてる隙に、フェインティアとクルピンスキーがフェインティア・イミテイトの左右を取って攻撃。

「その程度!」

 フェインティア・イミテイトは即座に上昇して放たれたレーザーと銃撃をかわすが、そこに待ち構えていた者達がいた。

「目標接近、照準!」
「診察のお時間です!」

 ムルメルティアとブライトフェザー、二体の武装神姫がそれぞれインターメラル 3.5mm主砲と注射器型ランチャー バスターシュリンジを極至近距離にて同時発射。

「うあっ!」

 かわす暇も無かったフェインティア・イミテイトに武装神姫の攻撃が直撃、その体が大きく揺らいだ。

「当たった!」
「畳み掛けるぞ!」

 前に戦った時はほぼ防戦一方だった502のウィッチ達が、思わず喝采を上げながら追撃をかけるべく、フェインティア・イミテイトへと銃口を向ける。

「この、人形風情が!」

 体勢が崩れたまま、フェインティア・イミテイトは強引に加速してウィッチ達の弾幕をかいくぐる。
 かわしきれなかった弾丸がかすめ、込められた魔力がフェインティア・イミテイトにわずかずつだが、確実にダメージを与えていく。

「遅い!」

 無理な加速とダメージによって動きが鈍った隙を逃さず、フェインティアが砲撃艦からレーザーを同時発射。

「当た、るか~!」

 さすがに直撃はまずいと判断したフェインティア・イミテイトが更に無茶な機動を行い、体を強引に攻撃ユニットの影に潜り込ませ、レーザーを回避。
 だが、その一瞬を狙っていた者がいた。

「そう、逃げ道はそこにしかない」
「はっ!?」

 待ち構えていたルーデルが、37mm機関砲を発射。
 フェインティア・イミテイトは体を捻って37mm弾の直撃を避けるが、攻撃ユニットに直撃した弾頭は炸裂、爆風でフェインティア・イミテイトの体は大きく弾き飛ばされる。

(なんて威力………! 内包されてる生体エネルギーとの相乗がここまで破壊力を増すなんて! けど、かろうじてナノスキンが持って…)

「だああああああぁぁぁ!!」

 致命傷だけは回避したとフェインティア・イミテイトが判断した時、こちらに向かってくるウィッチに気付いた。
 気勢を上げながらフェインティア・イミテイトに迫っていく直枝は右拳を振り上げ、そこに発生したシールドがどんどん収縮、やがて拳大の圧縮された光の塊となった。

(生体エネルギーシールドを圧縮!? まずい、今あれを食らったら、破壊される!)

 直枝の固有魔法、圧縮式超硬度防御魔方陣の内包した破壊力をサーチしたフェインティア・イミテイトが、残ったエネルギーで強引にブースターを動かそうとした時だった。

「マイスター!」「マスター!」「マスター、何かが来ます!」

 三体の武装神姫が同時に叫び、直後に海面下のワームホールが閃光を放ち始める。

「何だ!?」
「…チャンス!」

 直枝の注意が一瞬逸れた隙に、フェインティア・イミテイトはブースターを吹かして直枝の攻撃軌道から回避。
 その間にも、閃光は更に光量を増していった。

「何、これは!」
「転移の前兆です!」
「まずい、あいつに時間を取られすぎたわ! さっさと破壊を…」

 ラルの問にブライトフェザーが答える中、フェインティアが砲撃艦のサイティングをしようとする。
 だが、フェインティアのセンサーがある数値を感知し、それはどんどん増加していった。

「転移エネルギー量、50万、いえ100万、まだ増える!? 何が転移してくるのよ!」
「つまり、どういう意味?」
「この時代の戦艦、確か大和とかいうのよりも遥かに巨大な何かが転移してくる! 大気圏内に何を送り込んでくるつもり!?」
「大和より大きいって、そんな物が存在するんですか!?」
「ふ、ふふふふ、あっはっはっは!」

 狼狽するフェインティアやウィッチ達を尻目に、先程までピンチだったはずのフェインティア・イミテイトが哄笑を上げ始める。

「破壊すればいいんだろ? 早くあれを壊してしまえば」
「ダメよ! もう構成直前、今攻撃したら私達も吹っ飛ぶわ!」
「マイスター、ここは………」
「撤退、本隊と合流する」

 ムルメルティアの言葉を続けるように、ルーデルが撤退を宣言。

「ラル隊長!」
「ルーデル司令の言う通りよ、ここは撤退するわ」
「くそ、あと一歩でアイツを……!」
「残念だったわね~………それとも、見学していく? 貴方達の絶望を!」

 ラルの判断に、502のウィッチ達も従い、哄笑を上げ続けるフェインティア・イミテイトを睨みながらも、他のウィッチ達と合流するためにその場を離脱する。

「覚えてなさい! 次に会ったら絶対痛い目合わせてやるんだから!」
「すぐに会うわよ。けど、どっちが痛い目見るのかしらね~?」

 捨て台詞を言いながら殿をつとめて撤退するフェインティアに、イミテイトは嫌味な台詞を返してやる。

「マイスター、全力で離脱を進言!」
「言われなくても!」

 ワームホールは激しく明滅し、そこから感知されるエネルギーは更に増大していく。

「あははは、あーっはっはっは!」

 フェインティア・イミテイトの哄笑が再度響く中、やがてあまりに巨大な質量故に、ワームホールその物を崩壊させながら、それは巨体を出現させていった………





[24348] スーパーロボッコ大戦 EP31
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:08ace8f7
Date: 2014/08/20 21:46
EP31


「目標殲滅用大型融合体、転移完了」
「複製体先導開始」
「目標勢力、全殲滅開始………」



 まずカルナダイン、次にプリティー・バルキリー、そして攻龍のセンサーが順番に最大級の警報を鳴り響かせる。

「超大型転移確認! 地上拠点制圧母艦クラス!」
「ワームホール、質量過多による自壊を確認! なんて質量を転移させてきたんですか!」
「超大型ワームの反応、いえこれは前にも確認されたコピー複合体と思われます!」
「ワームの相当クラスは」
「ランクは…!?」

 カルナ、エルナー、七恵の報告が各艦に伝わり、最後の門脇艦長の問に答えようとした七恵が、その場で絶句する。

「どうした、相当クラスは?」
「ク、クラスは………AAAです………」
「AAAだと!?」

 嶋副長が再度問いかけると、七恵は引きつった声で報告し、それを聞いた冬后が思わず大声を上げる。

「艦長、AAAクラスと言えば………」
「………アメリカが本土の半分と引き換えに殲滅したクラスだ」

 かつてのワーム大戦を潜り抜けた者達ですら、情報でしか聞いた事のない強敵に、攻龍のブリッジ内が鳴り響く警報をそのままに静まり返る。

『こちら大和、アーンヴァル! 大和の方で先程来た敵情報の正誤を確認してほしいそうです!』
「あの、艦長………」
「すぐに分かる。全火器の準備をするように進言しておこう」
「了解。こちら攻龍、先程の情報は…」

 タクミが大和に通信を入れる中、門脇艦長は改めて軍帽を深くかぶり直す。
 その頬を、冷たい汗が一筋流れていった。

『こちらガランド、なんだこのふざけた数値は』
『あの、間違いありません………』
「ガランド少将、全ウィッチ及び全艦艇をこちらの示す安全圏まで退避。全対空火器を持って撤退を援護。大和を通じて、全艦に艦内退避を連絡。N2弾頭ミサイル、発射準備」
「え………」
「艦長、しかし」
「急げ」
「り、了解」

 今の今まで使用を禁止していた無差別破壊兵器の使用命令に、七恵は思わず手が止まり、嶋副長も問い返そうとするが、門脇艦長の有無を言わさぬ口調に、七恵は即座に準備に取り掛かる。

「ソニックダイバー隊、大至急攻龍まで退避! G、ウィッチ、光の戦士、トリガーハート、武装神姫の人達も早く安全圏へ!」
『N2兵器をこの時代で使用する気ですか!』
「幸い、ここは大西洋の中央部だ。被害は少なくて済む」

 門脇艦長のとんでもない作戦に、エルナーは異を唱えるが、門脇艦長はあくまで淡々と状況を説明する。

『ですが、全く無いわけではありません!』
「我々の世界では、北米大陸の半分と引き換えだった」
『そこまで………そんな物がこの世界で暴れたら………』
「こちらの世界を、私達の世界の二の舞いにさせるわけにはいかん」
「全安全装置解除、発射準備態勢に入ります!」
『やむを得ません………ユナ! ポリリーナ! すぐにプリティー・バルキリー内に!』
『全ウィッチに通達、各武装神姫の指示に従い、安全圏まで退避の後、手近の艦内にて対ショック体勢。今度は今度で何だこのふざけた危険域は?』

 総員退避の指示に、戦闘を中断させた少女達が大慌てで手近の艦内へと退避していく。

『一つだけ伺います。N2兵器使用による、敵の殲滅確率は幾らくらいですか?』
「不明だ。さすがに大陸を半壊させる程の弾数は無い」
『概算ですが、この世界への影響を最小限に抑えるには、一発が限度でしょう。もしそれで倒せなければ………』
「発射準備完了です!」
「総員艦内退避完了しました! 現在全艦が安全圏まで全速航行中! 残存敵勢力はAAAクラスワームに集結を開始!」

 エルナーが最悪の事態を口にする前に、七恵とタクミの報告がそれを遮る。

「目標の進行速度は?」
「約12ノット! 質量が巨大過ぎて、それ以上速度が出ない模様!」
「島がまるごと一つ動いてるようなモンだ。動くだけで小型艦は転覆するな………」

 冬后がゆっくりと、だが着実に迫ってくるAAAクラスに、そんな皮肉を言いつつ、ソニックダイバー隊の帰艦を確認。
 その顔には、深刻な焦りが浮かんでいた。



「目標確認! 測距開始!」
「測距開始!」

 攻龍から来たデータを元に、大和の観測班が肉眼とレーダーで目標となるAAAクラスワームを観測していく。

「測距終了と同時に艦内退避! 急げ!」
「班長………自分は目がおかしくなりそうであります」

 作業を急がせる観測班の班長に、測距儀を覗いていた若い兵士が声を震わせる。

「あれは、本当に敵なのですか?」
「貴様、何を言っている! 敵以外の何だと言うのだ!」
「………」

 怒鳴り返す班長に、測距儀を覗いていた兵士は無言で手招きして測距儀を指さす。

「何だ、と………」

 それを覗きこんだ班長は、測距儀に映し出される敵影と、観測された相対距離、そしてそこから概算される敵のスケールが、今まで見た事も無いような巨大さである事に気付き、絶句する。

「デカい、デカ過ぎる………」「班長………」
「何をしている!」

 そこへ、扉を破るような勢いで美緒が観測室に飛び込んできた。

「さ、坂本少佐!?」「なぜここに!」
「決まっている!」

 扶桑有数のウィッチの突然の乱入に観測班が驚く中、美緒は敵の見える位置まで駆け寄り、眼帯を引き剥がすように外し、魔眼を発動させる。

「何という巨大さだ………あんな物まで投入してくるとは………観測データは全てブリッジに送れ! そしてすぐに艦内退避! 急げ!」
「り、了解!」

 美緒の号令に、本来指示下に無いはずの観測班の班員達が大慌てでデータをまとめていく。

(もし、攻龍の切り札が通じなかった場合、我々は、アレに勝てるのか?)

 一抹の不安を胸中に隠しつつ、データを送り終えた観測班の最後に続いて美緒は艦内へと戻る。

「いや、勝たねばならんのだ。何をしても………!」

 覚悟を決めた美緒は、ブリッジへの道を急いで戻っていった。



「一体何事だ! 今いい所だったんだぞ!」
「私達だけじゃないわ、総員どころか全艦に艦内退避が出てるみたい。敵もなんでか一斉に退いてくし」

 手近のプリティー・バルキリーに退避したマルセイユが文句を言う中、圭子が周辺の様子を確認しながら呟く。

「攻龍がN2兵器の使用を決断したそうよ」
「N2兵器? 聞いた事ないわね」
「窒素使用型爆発兵器の通称の事です」
「非核反応兵器として開発されましたが、威力が過大過ぎる故、極めて慎重な使用が前提となります」

 ポリリーナが深刻な表情で呟き、美佐が首を傾げるが、そこにサイフォスと紅緒が説明をする。

「威力が過大って、どれくらい?」
「最低でも、半径5kmは効果範囲となりえます」
「5km!? そんな物使う気なの!?」
「あの門脇艦長が使用を即断したって事は、それほどの敵って事ね………」

 圭子が思わず仰天する中、ポリリーナは別の事を思案していた。

「有効半径5km………そんな物、早々使えないわね。ソニックダイバー隊の人達の世界地図が変わったのは、それの過剰使用だって聞いてるし」
「あの、それは一体どういう………」
「全員乗った!? 衝撃波が来る可能性があるから、しゃがむか何かに掴まって!」

 ミーナが攻龍内部で見せられた世界地図を思い出しながら呟き、思わずそばにいた真美が問おうとするが、そこへ最後に退避してきたミサキが叫び、全員が慌てて対ショック体勢を取り始める。

(もしこれで倒せなかったら、他に打つ手はあるの?)

 ミサキもしゃがみながら両手で頭を挟むように覆いながら、考えてはいけない事を考えていた。



「急いで! 弾薬の退避はもういいわ!」
「搬入エレベーター閉鎖!」
「隊長も中へ!」

 グラーフ・ツェッペリンの甲板から、撤退していく敵に追い打ちの砲撃を放ちつつ、フレデリカとマイルズの指示で陸戦ウィッチ達が艦内へと退避していく。

「これで最後です!」

 物資の搬入を手伝っていたエグゼリカがアンカーで残った物資をまとめて最後の搬入エレベーターへと乗せ、閉鎖を確認していく。

「一体何が起きるっての!? この過剰な防御措置は!?」
「説明してる暇はありません! N2兵器なんて本来大気圏内で使う兵器じゃないんです! 早く貴方も艦内に!」

 説明を求めるフレデリカに、エグゼリカが状況説明だけして退避を促す。

「貴方は!?」
「カルナダインに戻ります! トリガーハートの私なら、十分に間に合いますし、この距離なら単艦フィールドでも防げる計算ですから!」
「あ、あの!」

 カルナダインに帰艦しようとしたエグゼリカに、艦内退避したはずのシャーロットが声をかけてくる。

「先程は、助けてくれてありがとう………」
「いえ!」
「エグゼリカ! 後で話したい事が色々あるから! 後でね!」
「隊長、急いで!」

 礼を言うシャーロットに続けて、マイルズもエグゼリカに声をかけるが、フォートブラッグに促されて、手を振りながら扉を締める。

「後で、か………」

 こんな状況にも関わらず、エグゼリカは微かに笑みを浮かべると、カルナダインへと全速力を出して戻っていった。



「艦内退避!?」「え~と、どれに?」

 都合最も遠い位置にいた502・ブレイブウィッチーズが、突然の艦内退避の通告に慌て始める。

「艦内退避どころか、艦隊その物の退避が始まっているぞ」
「マスター、私達も急ぎましょう!」

 ルーデルもただならぬ事態を確信するが、運悪く艦隊の退避方向は、その場にいるウィッチ達の進行方向と同じだった。

「もっと速度上げなさい! 間に合わないわよ!」
「これで全速だ!」「いや~、速いね君」

 フェインティアが転送されてきた撤退範囲に自分達がぎりぎりのラインにいる事にいらだつが、直枝とクルピンスキーに怒鳴り帰される。

「マイスター、このままでは作戦に支障を来たす可能性がある」
「わかってるわよ!」
「使用される兵器がどのような類の物かは分からないが、我々のシールドで防げない物かか?」
「この距離なら可能かもしれませんが、推奨はしかねます」
「私のシールドはほとんど役に立たないぞ」
「もしもの時は、私がマスター一人くらいなら」
「ルーデル司令、ラル隊長、私達が着艦できそうな艦艇は優先的に退避した模様です! どうします!?」

 各武装神姫とそのマスター達がどうにか出来ないかを話し合うが、ポクルイーキシンはすでにウィッチが着艦可能な空母は撤退しているらしい事に慌て始める。

「一番近い空母は?」
「あそこ、おそらくリベリオンのワスプですが、ウィッチ対応ではありません!」
「この際構わない。総員、ワスプに全速力で…」
「もっといい手思いついたわ」

 ルーデルの号令でワスプに向かおうとするウィッチ達に、フェインティアがある事を思いつく。

「全員、手でも足でもいいから繋いで」
「?」「一体何を…」
「ガルクアード!」

 飛びながらも訳が分からず、一応空いている手を繋いだウィッチ達にいきなりフェインティアがアンカーをブチ込む。

「あう!?」「ニパさん!」「な、何を…」
「そのままシールド張ってなさい! ガルクアード、フルスイング! リリース!」

 訳がわからないウィッチ達に説明もせず、フェインティアはそのままウィッチ達を超高速でスイング、一気にワスプへと向かって投じた。

「あれええええぇぇ!」「過激だな~」「後で覚えてろ~~~~!」

 悲鳴やぼやき、怒号をドップラー効果で響かせつつ、ウィッチ達は一塊となって半ば叩きつけれるようにワスプへと着艦、というか墜落していった。

「よし、私達もカルナダインへと戻るわよ」
「マイスター、いささか過激だったのでは?」
「ウィッチって案外頑丈だから大丈夫でしょ」

 ムルエルティアもさすがに呆れる中、フェインティアは全速力でカルナダインへと向かっていった。



「N2兵器!? 本当に使う気なのですか!」
『艦長の判断だ』
「門脇艦長はこの世界をあちらの世界の二の舞にするつもりですか!」

 攻龍格納庫のコンソールに向かって、普段の雰囲気から考えられない激しい口調でジオールが声を張り上げるが、コンソール向こうの冬后は険しい顔をしたまま淡々と事実のみを述べていた。

「あちらの世界って?」
「え~と、何て言えば………」
「仮定因果律線上の一つに存在し得る世界、その一つから私達も来ました」

 淳子の問に音羽がどう答えるべきか悩むが、代わりにハウリンが答える。

「そう言えばそのような事をイーアネイラも言っておったな。何の事やらさっぱりじゃが」
「あらあら、難しかったかしら?」

 ハインリーケも最初に武装神姫から言われた事を思い出したが、それを正確に理解出来るウィッチは皆無と言っていい状況でもあった。

「それにしても、そんな物騒な物この船に積んでらしたとはね」
「私達の世界でも、未開惑星の開拓用くらいにしか使用用途がない代物です。それも星間条約で今や使用禁止ですが」
「何言ってるか全然分からんな」

 エリカとエリカ7もさすがに顔を曇らせる中、ただ一人義子だけが我関せずと言った顔で格納庫に運び込まれた兵糧のおにぎりを貪り食っていた。

「あのマスター、衝撃に備えてあまり食べない方が…」
「お腹空いたら戦えないだろう」
「そんくらいにしとけ! 全員乗ったな!? 閉められる所全部閉めろ! 内壁によってしゃがんどけ!」

 まだおにぎりにがっついている義子をアルトレーネが止めようとするが、大戸が半ば強引に壁際まで引きずっていく。

「おやっさん! ソニックダイバー固定終わりました!」
「各重火器も固定したで!」
「弾薬ケースも固定終わったで!」
「お前らも体を固定するかしがみつけ! 倒れてきそうな物のそばにはよるな!」
『全艦、退避を確認。最終安全装置解除、N2弾頭ミサイル、発射まで30秒』
「対ショック体勢!」「こ、こう?」

 大戸の声に、七恵のカウントダウンが重なり、瑛花が叫びながら率先して両手で頭を覆いながらしゃがみ、音羽達もそれに続く。

「RV全機、ショックアブソーバー最大!」「ティタもご飯食べる」「後で後!」
「一体どんな兵器使う気!?」「知らぬ!」「むぐ! お茶!」「マスターも早くしゃがんで!」
「20………15………10」

 天使達やウィッチ達もそれに続いてしゃがんだり何かにしがみついたりする中、カウントダウンは進んでいった。


「全エアロック閉鎖、艦内セーフティーシステム最大」「攻撃目標まで約10km、危険範囲内オールクリア」
「さて、一体何を見せてくれるのやら」

 カルナとブレータの報告を聞きながら、ガランドは顔は嬉しそうに、だが目だけは鋭く映しだされる攻龍の様子を見つめていた。

「N2弾頭ミサイル、発射確認」「遮光補正入ります」「ほう、艦載型の噴進弾か」
「着弾まで5、4、3、2、1、着弾」

 噴煙を上げて飛んで行く巡航ミサイルを興味深そうに見ていたガランドだったが、目標に命中と同時に湧き上がる巨大な噴煙に、さすがに絶句する。
 遅れてきた衝撃波に、カルナダインの艦体が揺さぶられた。

「こんな距離まで揺れるのか………」
「ご主人様、この船は大分揺れが抑えられてます」
「下を見ればそれはなんとなく分かる、だが、あんな代物を使っていれば、世界まで壊してしまいそうだがな」
「実際、彼らの世界はそうなりかけたそうです」
「ふん、リベリオン辺りの馬鹿共が真似しそうで怖いな」

 ウィトゥルースとブレータからの報告を半ば聞き流しつつ、ガランドの目は今だ爆煙の残る画像のみを凝視していた。

「………ネウロイの巣ごと吹っ飛ばせそうな威力だが、果たしてどうなった?」
「現在再スキャンによる戦果を確認中………質量確認! 目標はまだ現存!」
「燃えカスではないのか? 島一つが消し飛ぶとは思えんぞ?」
「いえ、エネルギー数値は低下も、十二分に活動範囲内。再行動を確認しました」
「ご、ご主人様………」
「落ち着けウィトゥルース。まだ倒せないと決まったわけではない」

 カルナとブレータの報告に、ウィトゥルースは怯えるが、ガランドは怯える武装神姫の頭を撫でると即座に号令を飛ばした。

「大和に連絡! 全艦砲撃を!」



「カルナダインからの報告! 目標は今だ健在! 再活動を再開したそうです!」
「馬鹿な! N2弾頭の直撃だぞ! 破壊出来なくとも、活動不能くらいには十分出来るはずだ!」
「し、しかし…」
「目標はただのワームではない。そうなる可能性もあったという事だ」

 タクミの報告に、嶋副長が思わず声を張り上げるが、門脇艦長は淡々と現実を受け止める。

「大和から入電! 目標に一斉砲撃を開始します!」
「N2兵器で止められなかった物が、この時代の兵器で止められるとは思えんが………」
「だが、撤退すればアレにこの世界が蹂躙される。それを看過する訳にいかん」

 攻龍ブリッジ内の焦りを掻き消すように、周辺から一斉に砲声が鳴り響き始めたのは、その直後の事だった。



「撃て! 撃て!」

 集結した艦隊の中でも、最大の砲を持つ大和の46cm砲を皮切りに、居並ぶ各国の戦艦が一斉にAAAクラスワームへと向けて砲声を轟かす。

「目標に着弾確認!」「予備の弾薬も惜しむな! 数値が本当ならば、今まで確認された事も無い超大型だ!」
「測距班から連絡! 砲煙で目標との正確な距離の測定が困難との報告!」
「概算で構わん! 砲撃を途切れさせるな!」

 矢継ぎ早の報告に砲撃指示が飛び交い、大和のブリッジは蜂の巣を突付いたかのような騒ぎとなっていた。

「アーンヴァル、目標の動きは?」
「………信じられませんが、動きは遅くなってますが、こちらに向かってきています」
「これだけの砲撃を受けながらか」
「はい、エネルギーの活性化が確認出来ます。恐らくは攻撃を受けながら再生してると………」

 大和のブリッジ内で険しい顔をした美緒に、アーンヴァルはカルナダインや攻龍から送られてくるデータを元に、信じられない、というよりも信じたくない事実を淡々と告げる。

「なんという奴だ、一体何隻の戦艦の砲撃を受けているかも分からないというのに」
「マスター、物理攻撃による破壊は困難かと………」
「つまり、あれを倒せるとしたら、我々だけという事か。だが、どう戦えばいい?」

 自分の長い戦歴でも、前例の無いような巨大な敵に美緒もどう手を打つべきかを見いだせずにいた。



「これほどの攻撃でもだめか………」
「旧型とはいえ、艦砲射撃の集中砲火を食らっているのに平然と進んでくるとは………」

 宮藤博士とエルナーが、プリティー・バルキリーのブリッジで各艦から送られてくるデータやこちらでの精査も加えて、相手の異常さを確認させられていた。

「目標の質量に変化はありますが、一定以下の数値になってませんね。砲撃を受けながら再生している、と見るべきでしょう」
「ネウロイとは比べ物にならない再生能力だ。しかも再生速度が全く落ちていない」
「内包されているエネルギーも桁違いなのでしょう。通常物理攻撃では破壊はほぼ不可能かと………」
「だとしたら、取れる手段は」
「構成しているナノマシンシステムその物の破壊。しかし、ソニックダイバーのクアドラロックでも、あの質量は………」
「他に手はないのか?」
「何か、何かあるはずです。きっと何かが………」

 宮藤博士とエルナー、二人共、その持てる限りの知識を持って、必死になってあまりにも強大過ぎる敵の妥当方法を模索していた。
 しかし、その答えはなかなか導き出せないでいた………




「艦長! 残弾がもうほとんどありません!」
「砲撃一時停止! 目標は!?」
「まだこちらに向かってきています!」
「何という奴だ………」

 大和のブリッジ内で、杉田艦長は持てる限りの火力を叩き込んだにも関わらず、相手の動きを止める事すら出来ない事に歯噛みする。

「やはり、魔力を持って攻撃するしかなかろう」
「だが坂本少佐、あの巨大さだ。ウィッチの攻撃ですら、ダメージを与えられるかどうか………」
「艦長! 作戦本部から、ウィッチ隊の再投入指示が来ています!」
「現状ではウィッチ達を危険に晒すだけだ! 何か、何か手は………」
「アーンヴァル、機械化惑星に連絡! ミラージュキャノンはまだ使えないのか!」
「今問い合わせます!」
「それまで、時間を稼ぐしかない………!」
「ま、待って下さい少佐! さすがにもう魔力的にも体力的にも…!」

 予備の回復ドリンクを掴み、美緒が出撃しようとするのを必死に土方が止める。

「どけ! 今戦わなければ、この世界に未来は無い!」
「勝機の無い戦闘を避けるのも戦いの内です!」
「そうですマスター! ここには多くの仲間の人達がいます! きっと何か方法を考えてくれるはずです!」
「その時間があるかどうかなのだ!」

 土方とアーンヴァルが必死になって美緒を止める中、同様の事は他の艦でも起きていた。


「エルナー、こうなったらエルラインで!」
「それも考えました。しかし、明らかに接近している目標からは闇の力は感じられますが、基本はワームをベースとした機械的融合体です。エルラインでは闇の力を封じる事を出来ても、物理的に破壊する事は困難でしょう」
「でもでも、このままじゃ芳佳ちゃんの世界が無茶苦茶になっちゃうよ!」
「今ありとあらゆる可能性を検討しています。何か、手はあるはずです!」

 ユナが無理をしてでも出撃しようとするのをエルナーが押し留め、エルナーが中心となって宮藤博士とエミリーやウルスラも一緒になって打開策を検討していた。

『ユナ殿、もう少し、もう少しで永遠のプリンセス号とのリンクが可能となる!』
『ミラージュキャノンならば、あるいは…!』

 通信越しに剣鳳や鏡明もあれこれ急いで指示を出していたが、その間にも目標はゆっくりとこちらに迫ってきていた。

「エルナー、対処法の検討を続けて」
「思いつくまでの時間、稼がないとダメのようね………」

 最早一刻の猶予も無いと判断したポリリーナとミーナが、勝ち目が無くても出撃する決意を決めた時だった。

「攻龍から緊急連絡! これは…」



「僚平! ゼロを出して!」
「バカ言うな! AAAクラスだぞ! 幾らソニックダイバーでも相手出来るレベルじゃねえ!」
「でも!」
「オーニャー、落ち着いて落ち着いて」

 出撃しようとする音羽を僚平とヴァローナが止めようとする。

「はいひょうぶ! わたひたひもてつだうから!」
「亜乃亜、飲んでからにして」

 何を思ったのか、おにぎりと回復ドリンクを片っ端から口に突っ込んでいる亜乃亜が、咀嚼しながら何かを言うが、エリューがたしなめつつも更にドリンクを渡して口の中の物を飲み込ませる。

「RV全機でドラマチックバーストを撃ちまくれば、何とかなる! 皆も早く!」
「無理、データ上の再生速度とD・バーストの破壊力を比較しても、私達全機でも足りない」
「やってみなければ分からないよっ!」
「そうだそうだ!」
「けれど、もし効かなかったら、私達は全滅するわ」
「私も計算してみました。クアドラロックでも、破壊は90%以上不可能です」
「でもこのままじゃただやられるの待つだけじゃん!」
「確かに、討って出て何か手を…」
「手はある」

 皆の意見が真っ二つに別れる中、突然響いた声に全員が振り向く。
 そしてそこにいた予想外の人物に、唖然とした。

「アイーシャ!?」
「その格好………」

 そこにはモーションスリット姿のアイーシャが佇み、完全に臨戦態勢を取っていた。

「おい、シューニアが出撃するなんて聞いてないぞ!」
「そんな命令は出ていない。私は私の判断でここに来た」
「アイーシャ、手って何かあるの!?」

 大戸ですら慌てている中、音羽はいの一番にアイーシャの言っていた事に反応する。

「ペンタゴンロック」
「ペンタゴン………ロック?」
「それは、まさか………」

 アイーシャの発した言葉に、ある事を思いついた可憐が急いでブリッジに通信を繋ぐ。

「こちら可憐、今格納庫にアイーシャが来て、ペンタゴンロックを使うって………」
『アイーシャ!? 本気なの!?』

 可憐の問に、真っ先に周王が上ずった声を上げる。
 普段の彼女から考えられない狼狽ぶりに、可憐はある確信を持った。

『ペンタゴンロック? そんな物は聞いていないが』
『………これを』

 周王が送ってきたデータを、ブリッジと格納庫の全員が凝視する。

『ソニックダイバー四機によって発生させるクアドラロックの更に上位フォーメーション。シューニアを加えた五機によりクアドラロックよりも広範囲、大質量のワームに対処出来ます。理論上ならば、AAクラスでも殲滅が可能です』
「そんなにいいのあったの!?」
「………私達も今初めて聞いたわ」

 亜乃亜が喜色を浮かべるが、瑛花はむしろ深刻な表情をしていた。

「無理だよ! アイーシャは戦える体じゃないし!」
「ティタもそれ聞いた」

 エリーゼが真っ向から反対し、ティタも頷く。

『それもあるけど、それ以前にこれはまだ理論計算段階、実際の威力や成功率はまだまだ不確定要素が多過ぎるわ。それに、AAAクラスまで対処出来るかも不明なのよ………』
「けれど、他に方法は無い」
「……………」

 周王が次々と問題点を提示するが、アイーシャは淡々と、だがしっかりとした口調で断言。
 格納庫も、ブリッジにも僅かな沈黙が訪れた。

「その成功率、私達の事も入ってるのかしら?」
『いや、それは………』
「あら、この香坂 エリカとエリカ7もお忘れなく」

 沈黙を破ってジオールが手を上げ、エリカもそれに続く。

「カルナダインやプリティー・バルキリーにもこの事教えて! 不確定要素があるなら、皆の力を合わせれば!」
『………全艦にペンタゴンロック使用の助力を打電』
『わ、分かりました!』
『艦長! しかし…』
「ゴメン紀里子。けど、私は戦う。音羽達と一緒に」
『………説明は私がします。繋いで』

 最後まで反対していた周王だったが、アイーシャ自身が頑として譲らない事に、覚悟を決めた。

「ようし、ソニックダイバーの固定解け! ありったけの装備用意!」
「了解!」
「回復アイテムを全員使って! 何としてもペンタゴンロックを成功させましょう!」
「この私が引き立て役というのは気に入りませんけど、譲って差し上げますわ。行きますわよエリカ7」
『はい、エリカ様!』

 格納庫内に湧き上がる熱気は、次々と他の艦にも移っていった。



『以上が、ペンタゴンロックの詳細です』
「確かに、これなら………けど」
「不確定要素が多過ぎね。こんなの作戦とも言えないわ」
「私も同意見だ、マイスター」

 カルナダインのブリッジで、周王の説明を聞いたクルエルティアが不安げに頷き、フェインティアとムルメルティアは真っ向から否定する。

「でも、他に方法は…!」
「端的に言えば問題点は三つ。一つ、まだ理論段階で練習すらしていない。二つ、相手が幾らなんでも大き過ぎる。そして三つ、そのソニックダイバー隊とやらの五人目は戦える体じゃないから、一発で成功させなくてはならない。以上だな?」

 エグゼリカも不安げな顔をするが、コンソールに陣取っていたガランドが指を一本ずつ立てながら問題点を指摘する。

『その通りです。確かにこれは作戦とはとても………』
「ふふ、ふふふふ………」

 周王も表情を暗くするが、何故かそこでガランドの口から笑いが漏れ始める。

「少将?」
「面白い! 今まで色んな作戦を見てきたが、ここまでの大博打は初めてだ! いいだろう、全ウィッチがサポートしてやる! 根回しは得意だ!」

 いきなり破顔しながら賛成するガランドに、トリガーハート達はあっけに取られる。

「あの、ご主人様?」
「全統合戦闘航空団にソニックダイバー隊の援護を指示! 武装神姫にも連絡!」
「分かりました」
「さて、では行くか。お前達も早く!」
「待って下さい少将、貴方も出撃する気ですか!?」
「上がりとは言え、この作戦、一人でもウィッチは多いに越した事は無い。行くぞウィトゥルース」
「でもご主人様、指揮は?」
「現場で取る。通信は繋いでおいてくれ」
「あの、これは………」「姉さん、どうしよう?」「ウィッチってこんなのばっかりね」

 まさかの展開にトリガーハート達も呆気に取られる。
 だがガランドが壁に立てかけておいたMG42Sを手に取った所で、ふと何かを思い出しかのように振り返る。

「そうだ、一つ提案がある」
『なんでしょうか?』
「作戦名だ。作戦名は………オペレーション・スーパーノヴァ」



『オペレーション・スーパノヴァ発動! 全ウィッチに出撃命令! 繰り返す、全ウィッチに出撃命令! 作戦詳細は各武装神姫に順次転送する!』
「作戦名が超新星とは、言い得て妙と言うべきか、いささか無謀と言うべきか………」
「まさか、ソニックダイバー隊がそんな奥の手を持ってたとはね。こちらでも全面にサポートしないと」

 エルナーが送られてきたオペレーション・スーパーノヴァの概要に目を通しながら呟き、宮藤博士もそれを元に修正点の検討に入る。

「とにかく、相手の能力がまだ未知数です! ソニックダイバー隊は後方に待機し、トリガーハート達で威力偵察を行って下さい!
 次にRVによる波状攻撃、効果如何によっては更に光の戦士達とウィッチ達による一斉攻撃に移ります! 武装神姫達は戦況をリアルタイムで送信、作戦内容の変更は順次行います!」
『了解、TH32 CRUELTEAR、出撃!』『TH44 FAINTEAR、出るわよ!』『TH60 EXELICA、出撃します!』

 オペレーション・スーパーノヴァの開始を告げるように、三機のトリガーハートが、高速でAAAクラスワームへと向かって超高速で出撃していった。


「なんて大きさ………侵食コアよりも大きい………」
「こんな物重力下で運用するなんて、正気の沙汰じゃないわね。ま、元々まともな連中でもないようだけど」
「姉さん、30秒後に攻撃有効範囲に入ります」
「私が正面、フェインティアが右、エグゼリカが左、目標の詳細データをスキャンして順次カルナダインに転送しつつ、攻撃開始…」
「待った、目標に動き有り!」

 クルエルティアがサイティングしようとするが、そこでムルメルティアが叫ぶ。
 視界に捉えたそれは、表面が無数の砲撃で歪になった動く島としか言い様のない巨大な物で、体の半分近くを水中に沈めて尚、展開しているどの艦よりも大きかった。
 そのAAAワームの前方、開いていく事によってようやくそれが口らしいと気付いたトリガーハート達の前に、見覚えの有る真紅の影が飛び出す。

「やっとうざったい花火が終わったようね」
「イミテイト!」

 それがフェインティア・イミテイトだと気付いたフェインティアが瞬時にガルトゥースをサイティングする。

「相手してあげてもいいけど、その前にちょっとやってほしい事があるのよね~」
「何か知らないけど、聞くと思ってるの!?」
「聞いてもらえるわよ、何せあの中、狭くってね~」
「狭い?」
「マイスター! 目標内部に多数の反応! 総数計測不能!」

 ムルメルティアの言葉に、トリガーハート達はAAAクラスワームに再度目を向ける。
 AAAクラスワームは見た目にはゆっくり、その実はあまりの巨大さ故に認識しきれない速度で体を再生させながら、口を更に大きく開いていく。
 その口腔内に、先程まで戦っていた多種の敵性体がおびただしい数でひしめいていた。

「こ、これはまさか強襲空母!?」
「姉さん!」
「それじゃあ、ちょっとこの子達の相手してくれる!」

 フェインティア・イミテイトの声を合図にするように、無数の敵が、一斉に吐き出されていった。



「AAAクラスワームから多数の敵出現! 分類はワーム、ヴァーミス、バクテリアン、ネウロイ、コピー体と思われる物も多数! 数はどんどん増えてます!」
「まだそれだけの手駒を持っていたのか!?」
「何て奴だ………」

 七恵からの悲鳴のような報告に、嶋副長と冬后が驚愕のうめきを漏らす。

「トリガーハート交戦開始! RV隊もそれに合流! ウィッチ、光の戦士も順次交戦状態に入ってます!」
「ソニックダイバー隊は後方に待機。一機でも欠ければ、作戦は成功しない」
「ガランド少将に連絡! 護衛のウィッチをソニックダイバー各機につけてもらえるように!」

 門脇艦長と嶋副長の指示が飛び交う中、攻龍のブリッジからも無数の敵との乱戦の様子が見えてくる。

「これを全部落とさないと、とてもフォーメーションには入れません………」
「幸い、ほとんどが小型のようです。皆さんに頑張ってもらうしかないでしょう」

 周王が低い声で淡々と告げるが、緋月は表情も変えずに戦況を観察していた。

「あ、AAAクラスワームのスキャンデータ来ました! 全長約1000m、形状は………これは、クジラ?」
「どんなクジラだ!」
「形状から見て、シロナガスクジラの外見に類似してるようです」
「文字通りの白鯨か」
「嫌味のつもりか、偶然か………」

 著名な文学作品を彷彿させる白鯨型ワームに、艦長、副長共に渋い顔をする。

「戦況はどうなっている」
「乱戦状態です。敵味方入り乱れて、どちらが優勢かどうかはまだ………」



「たああぁぁ!」

 気合と共にユナがマトリクスディバイダーPlusを一閃、接近していた小型バクテリアンが両断されて爆散する。

「まだまだ来るですぅ!」
「どこからこんなにかき集めてきてんのよ!」
「全員、そこで防衛線を維持して!」

 更に押し寄せてくる各種の敵の大群に、ユーリィと舞が声を上げる中、ポリリーナの指示で光の戦士達はライン上に並びながら奮戦していた。

『機動力に劣るライトニングユニットでは乱戦は不利です! 皆さんはそこでソニックダイバーに接近する敵を一体でも多く撃破してください!』
「分かったよエルナー! 音羽ちゃん達を守ればいいんだね!」
『端的に言えばそうなりますが………』

 俄然やる気のユナがマトリクスディバイダーPlusをガンモードにして連射しまくる。

「なにか~~~いっぱい~~来ましたけど~~~」
「見れば分かるわよ! 喰らえ~! 爆光球!」「フラワーミスト!」「レクイエム!」「放電!」「スタンオール!」

 押し寄せてきた大群めがけて、光の戦士達が状態異常攻撃を一斉発射、動きが鈍った所に他の光の戦士達の一斉攻撃でトドメを刺していく。

「そのままフォーメーションを維持して!」
「無理はしないで! ここが最終防衛線じゃないわ!」

 誰かに敵が集中しそうになると、テレポート能力を持つポリリーナとミサキが転移して増援するというフォーメーションを確立させ、光の戦士達は善戦していた。

「ふ、この私が露払いとは………」
「エリカ様、敵が多過ぎます」
「ここは数を減らす事が第一です!」
「分かってますわ、主役は彼女達に譲りましょう。さすがにあの巨大さは…」

 エレガントソードで敵を次々落としていくエリカのぼやきに、両脇にいたミドリとミキがたしなめる。
 だがそこで、エリカはふとある事に気付いた。

「あのクジラ、あの場から動いてない………?」

 ささいな疑問が、後々大事な意味を持つ事に、まだ誰も気付いていなかった。



「はっはっは。これはいい! 勲章が幾ら有っても足りんぞ!」
「え~、あんなの邪魔なだけじゃん」
「そうでもない、アレと引き換えに皇帝は何でも聞いてくれるぞ」
「皆さん、勲章を何かと勘違いしてませんか?」

 マルセイユ、ハルトマン(姉妹)、ルーデル、ハイデマリーのウィッチ4トップが揃うという前代未聞の状態に、周囲のウィッチ達は唖然としていた。
 彼女達の行く先の敵はことごとく駆逐され、交戦していたウィッチ達は思わず道を譲る程だった。

「すごい絵ね………」
「このまま任せておいてもいいかもね」
「ええ、でも………ってガランド少将!?」

 やや後方で戦況を確認していた圭子だったが、そこで隣にガランドが来た事に仰天する。

「後方で全体指揮してるはずじゃ………」
「前線で全体指揮に変えたまでだ。誰か手空きのウィッチに弾薬を用意させておけ。あれだとすぐに切れるぞ」
「こちらにあります!」
「準備は万端です」

 ガランドに言われるまでもなく、ありったけの予備弾薬や予備の銃火器を持っている真美とライーサが我先に敵機を撃墜していく4トップを見ていた。

「あのハルトマン姉妹の新型、なかなかの性能だな」
「でもあの火力はどちらかと言えば一点突破型で、殲滅戦向きではないかと」
「他の部隊も頑張っているようだな。502は少し下がれ、506もだ。陸戦部隊の援護と協力を」

 魔眼で戦況を確認しながらガランドは指示を出していく。

「ご主人様も少し下がった方が………」
「陛下もここはまだ危険です」

 ウィトゥルースが漏れ出てくる敵にラピットランチャーを速射、サイフォスもコルヌを縦横に振るい、なんとかマスターを守護する。

「これ以上下がれば、戦場の空気が分からなくなる。卓の前でふんぞり返っている連中と一緒にされるのもシャクだからな」
「あの、少将………私が言うのもなんですが、シールド張れないウィッチは確かに危険では………」

 片手にスコープとカメラ、もう片手に銃を持った本来なら引退している年齢のウィッチが、自らトリガーを引きながら他の部隊に指示や助言を与えていく。

「シールドが張れなかろうが、今は一体でも多く敵を落とすのが最優先だ。猫の手も借りると言うしな」
「私の使い魔狐ですが」

 苦笑しながら二人の手にした銃が同時に弾切れ、弾倉をイジェクトした所にそれぞれの武装神姫が素早く新しい弾倉を装填する。

「けど、その通りみたいで!」
「だろう?」

 初弾を装弾し、二人のウィッチは再度同時にトリガーを引いた。



「ドラマチック………バースト!」

 ビックバイパーがサーチした場所に無数のレーザーが降り注ぎ、多数の敵機がまとめて撃ち落とされていく。

「次っ!」
「亜乃亜、D・バーストの撃ち過ぎよ!」
「けどっ!」
「レーザーを範囲形に、ミサイルをスプレッドにした方が効率いいよ!」
「わ、分かった!」

 エリューとマドカの指摘に、亜乃亜は慌ててRVのモードを切り替えていく。

「それにしても、何て数なの………」
「さっきより多いかも。あの白鯨型ワーム、お腹の中に生産工場でも持ってるんじゃないかな?」

 エリューとマドカ、二人共ありったけの兵装を乱射しまくり、敵の数を減らそうと必死になるが、それでも敵はまだ数限りなくいた。

「リーダーは? 姿が見えないけど」
「50m前方、トリガーハートの人達の背後守ってる。ティタも一緒だよ」
「私達も合流したい所だけど、これは…………」
「私達の仕事は、ソニックダイバー隊のペンタゴンロックを使用可能な環境を作り出す事よ。ここは各自、一体でも多くの敵を殲滅し、目標に肉薄可能な状況にするべきだわ」
「言うのは簡単だけどね………」

 そう言う二人の背後で、再度ビックバイパーのドラマチックバーストが炸裂する。

「温存していられる状況でも無いみたいね………」
「回復ドリンクも持ってきてるし、私達もやるしかないわね」
『ドラマチック・バースト!』

 亜乃亜に続くように、無数のスプレッドボムと、複数のゲインビーの攻撃が炸裂した。



「くぅ…………」

 音羽が歯噛みしながら、眼前で繰り広げられている乱戦を凝視する。

「やっぱり私達も…!」
『ダメだ!』「ダメよ!」

 堪え切れずに飛び出そうとする音羽だったが、即座に冬后と瑛花の制止の声が響く。

『ソニックダイバーは今回の作戦の要だ。準備が整うまで、前線に出す訳にはいけない』
「堪えて音羽! やり直しは効かないのよ! 一回でフォーメーションを成功させないと!」
「でも!」
「大丈夫!」

 音羽の心境を表すように、震えるマニュピレーターでMVソードを手にしたままスラスターを吹かせようとする零神を遮るように、ガードにあたっていた芳佳が音羽の前へと出た。

「今あそこには、世界中のウィッチや、ユナちゃん達やエグゼリカちゃん達、亜乃亜ちゃん達や武装神姫の子達が一生懸命戦ってます! きっと、皆さんの作戦を成功させる時間を作ってくれます! それまで、信じて待ちましょう!」
「そうだよオーニャー。切り札は切るタイミングが大事だよ」
「芳佳ちゃん、ヴァローナ………そうだね、皆強いし、きっと………だから………」
「全機、その場で待機継続! 可憐、ペンタゴンフォーメーションの再計算を!」
「随時誤差修正しています! ナノスキンの耐久時間いかんによっては、一度帰艦も考慮してます!」
「エリーゼ、アイーシャ、いつでも発動出来るように準備を!」
「もちろん!」「問題ない」

 瑛花の指示が飛び交う中、零神のマニュピレーターの震えはいつの間にか消えていた。

「一回、チャンスは一回きり………」
「大丈夫、私も手伝う!」

 たった一度きりの撃破のチャンスを活かすべく、音羽は呼吸を整え、静かにその時を待つ事にした。

「あれ? 何か……何だろ?」

 ヴァローナが気付いた異変が、大きな転機となるのを皆が知るのは、それから僅か先の事だった。



「ぬう、いかんな。このままでは全部落とされてしまうのではないか?」
「それ以前に姉ちゃん、空戦型ホントウに大丈夫なのカ?」

 プリティー・バルキリーの格納庫内で、機械化惑星から送られてきたばかりのホルス2号機に登場したユーティライネン姉妹だったが、宮藤博士の最終調整が終わらず、出撃するに出来ない状態となっていた。

「やはり、一卵性双生児のエーリカ君とウルスラ君よりは同調に難があるか………だが十分範囲内だ。もっとも、あの二人程のスピードは出せないかもしれないな」
「あんな速度で飛べるノ、501じゃエーリカ以外シャーリーくらいだヨ………」
「確かに、速過ぎるのは難だな。狙いが付けにくい」
「………姉ちゃん、ホントウにこれ使うノか?」

 エイラは用意されているホルス専用装備と一緒に並んでいる、機械化惑星に依頼して突貫で作ってもらった、と言うかただ金属塊を整形しただけのとてつもなく長大で巨大なスコップに胡乱な視線を送る。

「はっはっは、使うのは私だ。気にするな」
「何カ、向こうのと全然違うユニットになりそうナ………アレ?」

 ふとそこで、何かが見えた気がしたエイラは、ホルス2号機から飛び降り、僅かに開いているハッチから外を覗きつつ、固有魔法の未来視を発動させた。

「え、これ………やばい、皆逃ゲロ!!」



『周辺敵性体、駆逐率25、30、35…』
『作戦レコードを再計算しました! ソニックダイバーの一時帰艦の可能性もあります!』
「それはこちらも認識している! チャンスは一度きりだ、絶対に失敗するわけにはいかん!」

 カルナとエルナーからの報告に、嶋副長が力を込めて返信する。

「敵が多過ぎるぜ………これを軒並み墜とさないと、とてもフォーメーション発動は無理だな」
「軒並み?」

 冬后の何気ない呟きに、門脇艦長が再度戦況を映し出す画面を注視する。

「これは………まさか」
「艦長? 何か…」
「全センサーをフル稼働! 目標の状態を再精査せよ! カルナダインとプリティー・バルキリーにも同様に通告!」
「は、はい!」
「ソニックダイバー隊、いや総員に警告! 敵の作戦の可能性が…」
『白鯨型ワームに高エネルギー反応感知! 更に上昇しています!』
『こちらでも確認しました! これは、まさか!?』
「いかん、攻撃だ! 総員に防御体勢を徹底! 急げ!」

 門脇艦長の懸念が的中しつつある事に、ブリッジ内の全員が遅ればせながら気付いた。
 その判断がかろうじて間に合った事は、すぐに分かる事となった。



『高エネルギー反応! 敵の攻撃の可能性大! 総員防御! 繰り返す、総員防御!』
「何事!?」
「分からない! けど!」

 エルナーの警告が複数の回線を通じて、戦場に居る全員に鳴り響く。
 音羽も驚く中、芳佳はシールドを最大に発生、異変はその直後に起きた。

「いっちゃえ!」

 フィエンティア・イミテイトが叫ぶと同時に、白鯨型ワームの頭部から、何かが大量に噴出される。

「何だぁ?」「潮を吹いた?」「違います! あれは、攻撃です!」「マスター、逃げてください!!」

 ウィッチ達が首を傾げる中、各武装神姫達が一斉に悲鳴のような警告を上げる。

「うそ、あれは………ソニックダイバー全機、生命維持最大!」

 それを見た瑛花が、一見するとクジラの潮吹きのように見えるそれが、かつて他のワームが使っていた拡散型ビーム攻撃、しかもかつて無いほど高出力な事に気付き、顔色を変える。
 噴出された超極太ビームは、ある高度まで上がると、一斉に拡散、無数のビームの雨となって周辺全てへと降り注いだ。

「きゃああぁぁ!!」「うわあああぁぁ!」

 降り注ぐビームの雨に、誰かの悲鳴やシールドへの激突音、無防備に食らった敵性体や回避しきれなかった艦艇の破砕音が重なり、周辺を文字通り覆い尽くす。

「え………」「ユナこっち!」「いけない! ハイ・リザレクション!」

 思わず動きが止まったユナに、亜弥乎が無数のケーブルでシールドを形成させてかばい、白香がそれでも間に合いそうにないと悟って、己の内部のエネルギーを全開放させた。
 そのまま数秒間拡散ビームの雨は降り注ぎ、そして止んだ。

「さあて、どうなって………あら?」

 敵味方構わずの無差別攻撃に、唯一安全圏にいたフェインティア・イミテイトが戦果を確認しようとするが、ある一点から放たれた光が、周辺一体を覆い尽くしてる事に気付いた。

「なによ、それ………」


「お二人共、無事ですか!」
「何とかな」「助かったわ、真美」

 シールドの張れないガランドと圭子を助けるべく、所持していった予備の銃や弾薬を全て投げ捨ててシールドを張った真美の背後で、二人は息つく間も無く、周辺を見渡す。

「全部隊、被害報告! 死傷者を確認!」
『そ、それが………』
「どうした?」
「う………」
「ライーサ! 食らったの!?」
「そのはずなんですけど………」

 とっさの判断に遅れ、防ぎ切れずに片腕を負傷したライーサだったが、その腕の傷が見る間に治癒していく。

「これは………」
『誰かがとんでもない広範囲の治癒魔法を使用した模様! ウィッチの中で負傷者は出ていますが、死者は確認出来てません』
「何………? 誰が?」



「みんな無事!?」「なんとかね」「びっくりしたですぅ~」「ユナは!?」
「あれ、ちょっと当たっちゃったはず…」

 ユナが自分の状態を確認していた所で、背後からの光が消えた事に気付く。
 そこには、全エネルギーを開放して窮地を救った白香が、力を失って落下し始める所だった。

「白香!」「危ない! バッキンビュー!」

 ユナが叫ぶ中、ポリリーナがとっさに白香を捉え、そのまま拾い上げる。

「まずいわ、エネルギーが尽きかけてる! 早く治療を!」
「なんて無茶をするの! 機械化惑星に緊急連絡! 危険な状態よ!」
「白香! しっかり!」

 ほとんど反応を示さない白香を、駆けつけたミサキがテレポートで運んでいく。

「あの子のお陰で、みんな命拾いしたようね」
「ええ、次は無いでしょうけど」

 舞が横目でテレポートしていく二人を見送りながら、ゴールドアイアンを構える。
 ポリリーナが周辺を素早く見回し、同じように負傷撤退していくウィッチ達はいても、重篤な者はいない事、そしてそれがこの一度限りだという事を認識して呟く。

『白香は収容しました! 機械化惑星へ緊急搬送体勢を整えます!』
「そちらは頼むわエルナー。それとみんなに連絡。もう一発、食らったら終わりって」

 淡々と告げるポリリーナだったが、事態は急激的に悪化の一途を辿っていた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP32
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:2dc13804
Date: 2014/10/24 19:52
EP32


「後部格納室と二番砲塔にかすめました! 今被害を確認中!」
「古鷹、長良被弾! 戦線離脱します!」
「ポートランド、総員退避を開始! ダナエは沈没寸前です!」
「モントレーから救援要請! ボルツァノからもです!」
「被弾場所から浸水! 修理班向かいました!」
「なんという事だ………」

 自艦も含め、次々と入ってくる被害報告に、大和のブリッジ内は先程を遥かに上回る修羅場と化していた。
 杉田艦長は嵐のように飛び交う損害と、ブリッジからも見える戦線離脱や救援の状況に、思わず拳を力強く握り締めた。

「攻龍から連絡! 現状で被害を受けた艦は四割以上! 一割は戦闘不能もしくは戦線離脱!」
「よもや、友軍ごと無差別攻撃とは………ウィッチの被害は!?」
「それが、先程の謎の光はあるウィッチによる治癒魔法だった模様! 負傷者は出ていますが、死亡や重体の者はいないようです! ただ、それを行ったウィッチが一番の重体との情報も………」
「もう一撃食らった時、我々の敗北、いや壊滅は決定するな」

 杉田艦長の言葉に、ブリッジ内の誰かがつばを飲み込む音が大きく響いた。

「二番砲塔から連絡! 破損により、旋回不能!」
「取舵20! 砲塔の向きを敵へと向けよ! 大和はまだ戦える!」
『了解!』

 友軍が次々と戦線離脱していく中、大和の乗員はまだ、戦意を失ってはいなかった。



「被害は!」
「センサー系が幾つか過負荷でダウンしました! 前部甲板一部破損、カタパルトにも被害が出た模様!」
「ソニックダイバーは全機無事!」
「通信系、回復!」
「なんとか軽症で済んだか………」
「ああ、彼女のお陰でな」

 冷や汗をかいた嶋副長が予想よりも被害が少い事に安堵し、門脇艦長はブリッジから見える機影を確認していた。


「ま、間に合っタ………」
「そのようだな」

 息を荒らげるエイラに、真下に見える攻龍の状態を確認したアウロラも大きく息を吐いた。
 自らの固有魔法の未来予知で危険を察したエイラが強引にホルス2号機を発進させ、普段滅多に使わないシールドで攻龍への直撃を防ぐ事に成功していた。

「む、なんか妙なランプがついてるぞ」
「無理ニ出てきたカラな~」
『二人共聞こえるかい? 調整が不完全な状態で急発進したから、回路に多少無理がかかったようだ。まだ許容範囲内だが、注意してほしい』

「だ、そうだ」
「イヤ、無理しないト、間に合わないと思っテ………」

 宮藤博士からの通信に、エイラは思わず言葉を濁すが、アウロラは不敵な笑みを浮かべる。

「さて、今なら味方も混乱しているが、敵も混乱している。突撃するにはいい頃合いだ」
「姉ちゃん、今無理するなっテ宮藤博士ガ………」
「無理? これくらいは私の通常行動だ、行くぞイッル!」

 右手に20mm機関砲、左手に巨大スコップを構え、ホルス2号機は今だ混乱状態の戦場へと突撃していった。



「皆無事!?」「なんとか!」「問題ありません!」「し、死ぬかと思った………」「機体に損傷は無い」

 ウィッチ達のシールドに守られ、なんとか無事だったソニックダイバー隊だったが、周辺は壮絶としか言い様のない惨状だった。

「ひどい………」

 足元で損傷、炎上、そして沈没しかけている無数の艦隊、そしてその合間に漂う無差別攻撃を食らって撃破された敵の無数の残骸に、音羽は呻くような声を漏らすしかなかった。

「拡散ビームの間合いに誘うために、乱戦に持ち込ませるなんて………どんな奴が指揮してるの!?」

 自軍の損害を無視してるとしか言い様のない敵の戦術に、瑛花も思わず声を荒げた。

「そんな、張れるだけの大きさで張ったのに………」

 ありったけの魔力でシールドを形成したが、到底間に合わなかった事に芳佳も愕然としていた。

「芳佳ちゃん、前!」

 芳佳と一緒に零神の警護にあたっていたリーネが、生き残った敵がこちらに向かっている事に気付いてアンチマテリアルライフルを速射する。

「冬后大佐! ここは一度撤退しつつ、被害艦の救援を!」
『ダメだ! こちらも混乱してるが、向こうも戦列が乱れている! 今しかない!』
「しかしナノスキンの効果時間も半分を切っています! ここは…」

 瑛花の意見を即断で比定する冬后だったが、周辺の被害に瑛花は尚も救援しつつの撤退を進言する。

『ま、待ってください! ガランド少将が今とんでもない情報を! ロス・アラモス研究所の新兵器が15分以内に到着すると!』
「ロス・アラモス………まさか!?」
「原子爆弾!?」

 タクミの通信士らしからぬ慌てた声に、瑛花のみならず可憐の顔色も変わっていく。

『こちらカルナ! 南西方向から向かってくる機体から高濃度放射線反応感知! この世界ではまさか大気圏内で核反応兵器を使うつもりですか!?』
『プリティー・バルキリーでも確認しました! 旧型ですが、ここにいる人間全員が全滅するには十分過ぎる威力があると推察出来ます!』
「え? え?」「全、滅?」


 突然の情報に、音羽と芳佳が状況を理解しきれず、唖然とする。

「時間が、もう無い。残った時間内に目標を殲滅するしか…」
「けど、下には救助を待ってる人達が!」

 瑛花と音羽が相反する事を口にした時、突然上空に次元転移のゲートとなる、黒い渦が出現する。

「まさか、まだ何か来るの!?」
「敵? 味方?」

 瑛花が愕然とし、エリーゼが臨戦体勢を取るが、そこから見覚えのある姿の者達が一斉に飛び出してくる。

「遅れて済まぬ!」「救助には我々が当たる!」

 真っ先に飛び出した剣鳳と鏡明に続いて、友軍の証と思われる、急造の赤十字の旗を掲げた機械人の救援部隊が次々とゲートから出現していく。

「救護班、負傷者を収容、安全圏まで退避! 防衛班は残存敵を近付けさせるな!」「工作班、航行可能な船の応急処置を!」

 剣鳳と鏡明の指示で、機械人が次々と散開、それぞれの作業へと移っていく。

「これなら、皆さん助かるかもしれません!」
「けど、もう時間が…!」

 芳佳が喜色を上げるが、音羽は更に減っているナノスキンの有効残時間に悲鳴を上げる。

「冬后大佐! 一度撤退を…」
『それが、カタパルトをやられた! 修復に時間が掛かる!』
「そんな!」
「待って下さい」

 攻龍の予想外の被害に瑛花も悲鳴を上げる中、そこへ白皇帝玉華自らもその場に現れる。

「事情は存じております。これを」

 そう言いながら、玉華は不思議な珠のような物を差し出す。
 その珠は虚空に浮いたかと思うと、突然五つに分裂し、それぞれのソニックダイバーの元へと行ったかと思うと、そこで破裂する。

「え?」「何!?」「きゃっ!」「ちょっ…」「………」

 いきなりの事にソニックダイバーのパイロット達がそれぞれの反応を示すが、別段変わった所はないように見えた。

「今のは?」「オーニャー、それ!」

 音羽が首をかしげる中、ヴァローナがある場所を指さす。
 音羽のバイザー型ディスプレイに表示されているナノスキンの残時間が、巻き戻しのように増えていっていた。

「ナノスキンが、回復してる!?」
「こちらで急ごしらえですが、用意した再活性システムです。完全とは言えませんが、しばらくは持つはずです」
「べ、便利な物作ったわね………」
「残時間が18分まで回復、行けます!」

 エリーゼが唖然とする中、可憐が各機のナノスキンの回復度を素早く確認、作戦続行可能を報告した。

『艦長から作戦続行指示が出ました! 今残存部隊との連携をシミュレート中!』
『こちらガランド! 戦闘可能な全ウィッチは作戦を続行! 繰り返す、作戦続行!』
『RVも全機健在! 攻撃を再開します!』
『トリガーハート、全機攻撃再開!』
『みんな無事だね! じゃあ、行くよ!!』

 各チームから返信が届き、最後のユナの一言と同時に、戦闘可能な者達が一斉に動き始める。

「今しか無いわ、ソニックダイバー全機、ペンタゴンフォーメーション可能範囲まで前進します!」
「行くよ、ゼロ!」「行こうオーニャー!」
「リーネちゃん!」「私達も行こう、芳佳ちゃん!」

 誰もが万全とは言えない状態の中、だが誰もが闘志を漲らせ、仲間と共に強大な敵へと立ち向かっていった。



『ミラージュ・キャノン、発射体勢完了です! いつでも言って下さい!』
「発射タイミングはこちらで指示します! 目標の再生力の前では、ミラージュ・キャノンも決定的とは言えません!」

 プリンセス・ミラージュからの通信を受け取りながら、エルナーは残存部隊の戦力から可能な作戦を次々とシミュレーションしていく。

「やはり、あの拡散攻撃を何としても封じなければ………」
『こちらカルナ、先程の攻撃から次の発射可能時間を試算しました! 600秒前後との結果です!』
「十分………! それまでにどうすれば………!」

 無差別攻撃で敵群は大分減ったとはいえ、試算された次弾の発射までに撃破は不可能と判断したエルナーが、更に幾つもの作戦を考える。

「攻撃を封じつつ、原子爆弾の使用を遅延させなければ………しかしまさか撃墜する訳にも………」

 エルナーは自らの演算能力をフルに活用していく中、ふと今まで無かった通信帯からの通信が入っている事に気付く。

「これは?」

 それはGで使われているのと同じ通信形式で、簡単なショートメッセージだけが送られてきていた。

《原子爆弾とやらはこちらでどうにかする。そっちを頼む E・5》

「Gからも他に誰かがこの世界に? ならば、任せてもいいでしょうか………しかし何をするつもりでしょうか?」


その頃 大西洋上空 原子爆弾搭載B29爆撃機内

「どこの兵器か知らんが、すごい威力の新兵器が使用されたらしいぞ」
「そうか、それじゃあトドメにこのデカブツ叩き込めば終わりだな」

 爆撃機のコクピット内、クルー達が自分達がいかに恐ろしい物を運んでいるかも知らずに、目標へと向かって全速力で飛ばしていた。

「ウィッチ達に任せるんじゃなく、たまにはオレらもネウロイ倒さないとな」
「こいつが量産されれば、ネウロイなんか恐るるに足らずらしいぞ」

 それがネウロイよりも遥かに危険だという認識がまだ無い中、突然計器の一つがアラートを鳴らす。

「何だ? 燃料計に異常?」
「おい、漏れてんじゃないだろうな?」
「今確認して………今度は高度計がおかしいぞ!」
「二番エンジンが急に遅くなったぞ! どうなってる!」
「レーダーも不調だ! 何だ何だ!?」

 突如として連続して起きた謎の不調に、コクピットがにわかに騒がしくなっていった。

「落ち着け! まずは燃料、次はエンジンだ!」
『こちら後部銃座! 機銃が暴発してる! グレムリンが出た!』
「グレムリン? 馬鹿を言うな!」

 当時パイロット達の間で恐れられていた機械に不調をもたらすとされる怪物の名に、機長は声を荒らげる。

「おわああ! 便所が詰まって溢れてるぞ!」
「通信にも異常発生!」
「何が起きてやがるんだ!」
「本部、本部! 謎のトラブル多発! 作戦遅延の可能性大!」

 もう機内は完全にパニック状態の中、視界の隅に何か小さな影がよぎった事に、機長は思わずそちらに振り向く。

「ま、まさか本当にグレムリンが………」
「四番エンジン停止! 速度半減!」
「グレムリンだ! グレムリンが乗ってやがるんだ!」

 機内が完全にパニック状態になったのを確認する小さな影に、気付いたクルーはいなかった。

「……こんな物でいいかな。オーナーの指示通り、落ちない程度に妨害活動実施完了。ウェルクストラ帰還します」

 クルー達の隙を見て、武装神姫が一体、爆撃機から離れていくのを気付いた者はいなかった。



「原子爆弾搭載機、なぜか航行速度低下!」
「あの、その機からと思われるエマージェンシーコールが出てるんですけど」
「まさか墜落するのではないだろうな?」
「いえ、救難信号まではまだ………」
「いっそ、海底にでも沈んじまった方が無難かもしれんが」
「こちらが済んだら救援班を出す。目標の殲滅が優先だ」

 攻龍のブリッジで、いきなりB29の速度が急激的に落ちた事に皆が首を傾げるが、門脇艦長の言葉に全員が即座にその件を思考の隅に追いやる。

「状況は」
「機械人の方達によって救援は続行中! 各攻撃部隊は白鯨型ワームに先程よりは接近してますが、残存敵の反撃が厳しく、直接攻撃には至ってない模様!」
「トリガーハートから連絡! フェインテインティア・イミテイトの攻撃が激しく、目標への攻撃が困難との事!」
「残存火器を総動員で援護にあたれ!」
「了解!」
「問題は、あのデカいのをどうやって取り付いて、セルを潰していくか………」

 通信と指示が飛び交う中、冬后は先程よりも更に激しさを増している戦況を確認、決め手に欠けている事に顔を険しくする。

「もっとこう、強烈な手がいるな」
「けど、さすがにN2弾頭をもう一回使う訳には…」

 同じ事を考えていた周王も何か手は無いかと必死になってデータを検索していたが、そこでふとある反応に気付いた。

「ソナーに何か反応が有るわ!」
「こちらでも確認しました! 大型潜水艦が目標に接近中!」
「いかん、警告を! この時代の潜水艦なぞ、ワームの的にしかならんぞ!」
「は、はい!」

 嶋副長の声に、タクミが通常波とアクティブソナーのモールスによる警告を並行して発信。
 だが意外な反応が帰ってきた。

「海底潜水艦からモールス! コチラフソウコウコク イ901、ホンカンハタイネウロイヨウケッセンカンナリ?」
「伊901? そんな潜水艦は二次大戦時に存在しない!」
「つまり、この世界のオリジナル潜水艦という事でしょう。しかも対ネウロイ戦闘用の」

 周王のデータ整理を手伝っていた緋月の言葉に、嶋副長が思わず門脇艦長と顔を見合わせる。

「ガランド少将と宮藤博士に連絡、何か知っているかもしれん」
「ガランド少将は戦闘中で通じるかどうか………」

 タクミが双方に連絡を取ると、反応はすぐに来た。

『伊901? そんなのは知らん。今忙しいから他に聞いてくれ』
『伊901、本当にそう名乗ったのですか!?』

 あっさりとしたガランドと、過剰なまでの宮藤博士の返答に、タクミは思わずたじろぐ。

「知っているのかね」
『まだこちらにいた時に計画だけ有った物です。まさか、濃紺艦隊が完成していたとは………』
「濃紺艦隊? 現状一艦だけのようだが」
『それはそのはずです。なぜなら濃紺艦隊とは…』



同時刻 伊901ブリッジ

「やれやれ、できれば出番が無しでいきたかったが」
「そうも言ってられません艦長」
「………その呼び方もまだ慣れないな」

 狭い潜水艦のブリッジ内で、扶桑皇国海軍将校服を纏った女性と、その隣で同じ扶桑皇国陸軍の将校服をまとった女性が船の指揮を取っていた。
 のみならず、ブリッジ内にいるのも全て女性、正確にはこの潜水艦を運営しているのはまだ10代前半と思しき少女と、20代を超えているらしい若い女性の二種類しかいないという、この時代ではある種異様とも言える状態だった。

「総員戦闘配置、機関変更、魔力充填開始!」
「魔力充填開始!」

 艦長と副長の号令と同時に、乗員が次々と己の持ち場にある、ストライカーユニットに似た装置に己の足を突っ込み、魔力を発動させていく。
 乗員のほぼ全員がウィッチで構成されるという、非常識なコンセプトで設計、建造されたネウロイ決戦用潜水艦が先程とは打って変わった高速で目標へと接近していった。

「ソナーに感あり! 小型の敵機が接近中!」
「ネウロイとは似て非なる敵とは聞いていたが、水中にも来るとはな………」
「シールド展開用意! シールド回路開け…」
「待て、ただでさえ安定しない状態で防御にまで回せる余裕は無い」
「しかし艦長…」
「敵機の数は?」
「6、7? あれ?」

 ソナー手を務めていた、幼いウィッチが耳を済ましていた所、突然破壊音と共に迫ってくる音源が減っていった。

「5、4、更に減っていきます!」
「口だけでは無かったようだな」

 艦内では確認しようもなかったが、伊901の周囲を小さな影が驚異的な速度で動き回り、迫ってきていた小型バクテリアンやワームを次々撃破していた。

「こんな雑魚、朝飯前ですぅ!」

 触手とも見える複数のアームで構成されたプロテクターにそれぞれ武装を持った風変わりな武装神姫、テンタクルス型MMS・マリーセレスが見た目とは裏腹の毒舌を吐きながら、ありったけの武装を駆使してサイズの違い過ぎる伊901をガードしていた。

「マスターもこんなポンコツ押し付けられて、カミカゼアタックなんて時代遅れですぅ! このマリーちゃんがいなければ、すでに沈んでいるのですぅ! おらそこの雑魚とっと沈めぇ!」

「敵機反応消失!」
「マリーセレスが頑張ってくれているようだな」
「潜水艦が人形に守られるというもアレな話ですが………」
「アレも口以外はこちらとは比べ物にならん性能を持っている。幸い敵の注意は上にばかり向いているようだしな」

 艦長がほくそ笑むが、その笑みはブリッジ内に響いてきた警告を示すブザー音にかき消された。

「魔力回路、負荷増大中! これは計算よりも早く限界が来そうです!」
「やっぱりか。試験航海も無しで実戦投入するから………もっとも乗員の半分が上がりでこれとは」

 艦長自らも魔力を発動させているが、実は乗員が確保出来ず、現役を引退した20歳以上のウィッチが半数を占めている現状ですら、すでに色々とカウントダウン状態の決戦艦に半ば呆れた声を上げる。

「目標まで距離300!」
「魚雷発射管、一番二番魔力魚雷発射!」
「発射!」

 乗員達の魔力を帯びた魚雷が水中に航跡を描きながら推進、途中で後部スクリューが脱落、代わりに魔力によるエーテルプロペラが発生し、一気に速度を上げて水中から空中へと飛び出し、見事に目標に命中する。

「命中確認! 効いてます!」
「魔力回路に更に過負荷! 予備回路開きます!」
「自分達の攻撃でも過負荷を負うとは。とんだ欠陥兵器だな、加藤副長」
「仕方ありません、宮藤博士がいてくれたら違ったかもしれませんが………」
「宮藤博士はこの計画に最初から反対してたとも聞いていたがな。魚雷装填、魔力充填完了と共に発射」
「了解です、北郷艦長」

 かつて扶桑海事変でその名を轟かせた二人のウィッチが指揮を取る未完の決戦艦が、絶望の戦況を打破すべく、攻撃を再開した。



「何今の!? D・バースト!?」
「似てるけど違う、ウィッチの攻撃よ!」
「まさか、ウィッチで潜水艦を運用してる!? 魔力同調も無しになんて無茶な事………」
「無茶はこっちも」

 下手な砲撃よりも効いている魔力魚雷攻撃に天使達が驚くが、どのRVも先程の無差別攻撃をフィールドで防げたはいいが、少なからずダメージを負っているのは事実だった。

「チャンスよ、海面下の攻撃と並列して、こちらもD・バーストを叩き込んで構成セルを潰せるだけ潰しましょう」
「けど、各機PEジェネレーターがオーバーヒート気味、威力が平均30%減の可能性が…」
「危ない!」

 マドカの説明の途中で、飛来した敵機に全機が散開、即座にエリューとジオールが応戦する。

「PEジェネレーター回復までD・バーストは使用停止! 全ウェポンを持って、周辺の敵および目標を攻撃!」
「よおし、亜乃亜、行っきま~す!」

 先陣を切るように、亜乃亜はダメージの残るビックバイパーを加速させて白鯨型ワームへと向かっていった。



「カルノバーン・ヴィス!」「ガルクアード!」「ディアフェンド!」
「このおっ!」

 三方向から同時に叩き込まれるアンカーに、フェインティア・イミテイトはとっさに砲撃ユニットを盾にする。

「パターンが単調だ」

 だがその隙間を縫うように迫ったムルメルティアが、フェインティア・イミテイトの体にインターメラル 超硬タングステン鋼芯を叩き込んでいく。

「そんな玩具!」
「でも役に立つわよ!」

 素早く迂回したフェインティアが砲撃艦からビームを発射、フェインティア・イミテイトは身をよじってビームをかわすが、ムルメルティアの攻撃が打ち込まれた箇所が余波に耐え切れずにダメージを追い始める。

「くっ!」
「幾ら貴方でも、トリガーハート三機に武装神姫一機の波状攻撃、防ぎきれはしないはず」
「4対1、ここで決着を付けさせてもらいます!」

 クルエルティアとエグゼリカも砲撃艦をサイティングした時、フェインティア・イミテイトの顔に笑みが浮かぶ。

「4対2よ」
「2? ………何!?」

 フェインティア・イミテイトの示した数値に違和感を感じた時、フェインティアは突然真下から急上昇する何かを感知する。

「ムルメルティア!」

 何かまでは分からないが、とてつもなく巨大な何かが高速で迫ってくる事に危険を感じたフェインティアは、思わずムルメルティアをひったくるように掴み寄せ、最高加速で急上昇する。

「マイスター、下からの攻撃だ!」
「でもさっきまでの何の反応も…!」

 上昇するフェインティアが迫ってくる攻撃にエネルギー反応が全く無い事に違和感を覚えた時、その体が何かに包まれる。

「これ、水!?」「海水だ!」

 攻撃の正体に気付いたフェインティアが、更に加速させて水の層を突き抜ける。

「今高度なんぼだと思ってるの!」
「マイスターの速度だから無効化出来たが、これ程の質量を高速で打ち出せるのなら、れっきとした兵器だ」

 海面から高空へ水を打ち出す、という非常識な攻撃にフェインティアは悪態をつくが、海面を精査してその方法に気付いて更に愕然とする。

「まさか、そんな原始的な方法で!?」

 フェインティアが驚く中、白鯨型ワームは尾びれに当たる部分を水中へと沈めたかと思うと、周辺に衝撃波をまき散らす程の高速で、尾びれを載せた水ごと弾き上げる。

「マイスター!」「分かってるわよ!」「エグゼリカ」「了解姉さん!」


 弾き上げられた水塊を回避すべく、トリガハートは各機散開、跳ね上げられた水塊はそのままある高度まで上がると、下へと広がりながら落ちていく。

「驚いたけど、距離を取ってれば怖い攻撃じゃないわ」
「貴方達はそうでしょうけどね。けど、下の鈍い連中はどうかしら?」
「え………」

 クルエルティアが下を確認すると、そこには生物のクジラならばあり得ない、尾びれを垂直近くにまで捻った白鯨型ワームの姿があった。

「危ない! 避けて!!」

 クルエルティアが大声で叫んだ時、尾びれが真横へと振り抜かれた。
 大量の水が、高速の津波となって押し寄せていくのを、トリガーハート達は上空で見つめる事となった………



「何だ、何をしている!?」

 目標の白鯨型ワームが奇妙な動きをしている事に、魔眼を発動させていた美緒が最初に気付く。
 だが、尾びれの動きが高速過ぎ、それが上空への攻撃だと気付くのに若干の遅れが生じた。
 そして、その尾びれが垂直に捻られた時、それが意味する事に気付いた。

「奴の真横に立つな!!」

 美緒が叫ぶが、次の瞬間、尾びれは右方向へ超高速で振るわれた。
 上空攻撃よりは遅い物の、それでも空気を凪ぐすさまじい衝撃音が響き渡り、それに追随してとてつもなく高く、広くそして高速の津波が襲いかかってきた。

「え…」「何…」

 津波の正面にいた者達は、轟音と共に突如として生じた青と白の壁が、津波だと認識出来ず、回避する事すら出来なかった。

「回避…」

 RVのセンサーで津波だと悟ったエリューが上空に回避しようとするが、乱戦状態での急上昇はほぼ不可能な事、そしてウィッチや光の戦士のような低速の者達は逃げらない事に気付き、愕然とする。

(間に合わない…!)

 エリューが思わず目を閉じた時、甲高い衝突音のような物が鳴り響いた。

「え………」

 予想外の音にエリューが目を開くと、迫ってきていた津波が、巨大なシールドで阻まれていた。

「これって…」
「皆さん、離れて下さい!」

 響いた声に皆がそちらを振り向き、そこには持てる限りの力でシールドを張った玉華の姿が有った。

「玉華様!」「玉華さん!」
「大丈夫です………」

 鏡明とユナが玉華へと駆け寄るが、玉華は明らかに必死の表情をしながらシールドを張り続ける。
 やがて津波が通り過ぎた所でシールドが解かれるが、周辺の海は嵐がごとく荒れ狂い、玉華は明らかに疲労困憊していた。

「艦隊を下がらせろ!」「目標の動きに注意! 二撃目を打たせないようにしないと!」

 ガランドとジオールの指示が飛び交い、ようやく我に帰った皆がそれぞれ動き始める。

「すまん、先程は助かった」「いえ、そちらにだけ任せる訳にはいきませんので」

 ガランドが鏡明に肩を借りてなんとか浮かんでいる玉華に声をかけるが、その状態に眉を曇らせる。

「まさか海水で攻撃してくるとはな………純粋な質量攻撃、ウィッチのシールドでも防ぎ切れん」
「防ぐ事は出来たとしても、押し流されます。二撃目を放たれる前に…!」
「どけぇ!」

 ガランドとジオールが対策を考える前に、シャーリーの声と共に、何かが二人の脇をかすめて飛んで行く。

「………人?」

 ガランドが唖然としていると、シャーリーの固有魔法で加速して投じられた詩織が、またしてもノーガードで白鯨型ワームへと直撃する。

「だ、大丈夫なんですか?」
「怪我してたら宮藤に治してもらう! 今だ!」
「スロ~ム~ブ~~」

 白鯨型ワームの尾の付け根辺りに大の字で半ばめり込んでいる詩織が発動させた技で、二撃目を放とうとしていた尾の動きが目に見えて鈍くなる。
 だがさすがに巨大過ぎたのか、遅くなったのは一部で、その結果他の部分が引きずられ、半端な津波が起きた上に白鯨型ワームの体勢が僅かに揺らぐ。

「ダメか、デカすぎる!」
「尾を切り落とすんだ!」
「しかし、これは………」

 シャーリーが思わず呻く中、ガランドが尾への攻撃を指示するが、半端に動く尾がもがくように小規模な津波を連発し、それに遮られて接近は困難だった。

「亜乃亜、マドカ、上からなんとか…!」
「よ~し…」
「ダメ! あのクジラ、全方向にデタラメに撒き散らし始めた!」
「こうなったらD・バーストで…」
「行って、ディアフェンド!」「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」

 上空から急降下しながら、エグゼリカとクルエルティアがアンカーを高速射出、二機がかりでなんとか尾の動きを封じようとする。

「出力上昇……頑張ってディアフェンド!」「侵食しきれない………! 今の内に!」

 トリガーハート二機がかりで抑えこむのがやっとの状態だが、ようやく津波が収まった事に皆が戦意を奮い立たせる。

「集中攻撃、急げ!」
『今の内です! あの津波攻撃だけでも使用不能に…』

 ガランドとエルナーの指示が飛び交うが、白鯨型ワームはその巨体を激しく身じろぎさせ、大きな口を再度開くと、そこから更に敵性体が出てくる。

「まだ入ってるの!?」
「数は少ないわ! 一気に行くわよ!」

 先陣を切っていたエリューと瑛花が若干驚くも、大した事は無いと判断し、皆もそれに続く。
 だが出現した敵性体は突然二手に分かれ、片方はこちらに近付く少女達の前に壁のように立ちふさがり、残った半分は更に三つに分かれ、身動きできないエグゼリカ、クルエルティア、そして詩織へと向かっていく。

「いかん!」
「詩織ちゃん危ない!」

 美緒とユナが叫ぶ中、狙われた三人が迎撃を試みようとするが、更にそこへ水中から巨大な何かが迫り上がってくる。

「今度は何!?」
「潜水艦!?」

 急展開の連続に音羽と芳佳が驚くが、突如として大型潜水艦が浮上、甲板が展開しそこにウィッチ用カタパルトが出現する。
 更にカタパルトへと続くエレベーターから次々と扶桑陸軍・海軍双方の軍服をまとったウィッチ達が現れ、カタパルトから順次発進していく。

「総員出撃! 周辺敵機を排除せよ! 無理はするな!」
「すでに十分無理してません? もっとも、元々こういう用途の船ですが」
「先生!? 加藤少佐も!」

 潜水艦から射出されたウィッチ達の指揮を取る、剣の師匠とかつての上官の姿に、美緒も心底驚く。

「やれやれ、懐かしい顔があちこちにあるな」
「見た事の無いストライカー使ってる人も大勢いますが」
「だが、やらなければならない事は分かった」

 北郷艦長は背に指した二本の扶桑刀を抜き放ち、構える。

「マリーちゃん参上!」

 さらにそこへ水中からマリーセレスが飛び上がり、北郷艦長の脇で複数のアームで構成されたアーク・E・トゥージスを展開、それぞれに武装を構える。

「今の私がどこまで戦えるか、試してみるも一興」
「私もですがね」
「二人共男ひでりの年増は無理しないでマリーちゃんに任せるですぅ!」
「はっはっは、手が回らん分はそうさせてもらおう」

 マリーセレスの容赦の無い毒舌を軽く受け流し、かつての扶桑海事変で活躍した、元エースウィッチ達と一体の武装神姫が同時に敵へと向かっていった。


「まさか、扶桑があんな船を建造していたとはな」
『ネウロイの侵入出来ない水中から接近、中枢へ一気に多数のウィッチを投入させるための突撃型潜水艦だ。一歩間違えればただの特攻兵器だが………』
『しかし、出てきたウィッチ達のエネルギー分布が随分と不安定なようです。恐らくは新人と引退したウィッチで構成されているのでは?』
「とんだ切り札だな。突入した部隊はそれほど持たん! 敵陣突破急げ!」

 ガランドが突如として現れたウィッチ突入用の潜水艦に感心するが、宮藤博士とエルナーの説明に呆れながらも進軍を指示。

『目標のエネルギー上昇を確認! 先程のビーム攻撃の準備段階の可能性87%!』
『ナノスキン持続時間、10分を切りました!』
「急げ! 時間が無い!」

 カルナと七恵からの通信にガランドが急かすが、無数の敵が抵抗し、突破は困難となりつつあった。

「あの尾と体内の敵、そして拡散ビーム攻撃を防ぎつつ、体積を減らす。しかも10分位内に………かなり困難だな」
「ご主人様、尾を封じる作戦があります。かなり危険を伴いますけど………」
「今更危険を伴わない作戦なぞあるか。で、どんな方法だ?」
「はい、実は…」
「………なるほど、やってみるか。他の部隊にも伝えろ。全員の協力が必要だ」
『データは受け取りました。他の二つも、どうにか出来るかもしれません』
『時間はもう限られている、残存弾薬も限りは見え始めた。やるしかなかろう』

 データを受け取ったエルナーと門脇艦長が各作戦を修正、武装神姫を通じて総員へと通達する。

「各員、攻撃開始!」

 ガランドの声と同時に、無数の銃口から弾丸が撃ち出される。
 対抗するように無数の敵が壁になるように立ちふさがり、撃ち落とされていく中も反撃をしてくる。
 だが、その攻撃の隙間を縫うように小さな影が集結していく事に敵は気付いていなかった。

「今です! 突撃!!」

 弾幕と硝煙を隠れ蓑に、結集した武装神姫達がアーンヴァルを先頭に白鯨型ワームへと突撃していく。

「攻撃開始!」

 白鯨型ワーム、その尾の付け根に向かって、武装神姫達の一斉攻撃が放たれる。
 その小さな体からは想像も出来ない高出力粒子砲やアンチナノマシン特性を持った得物が次々と白鯨型ワームへと突き刺さるが、その巨体の前には文字通り蚊が刺した程にもなっていなかった。




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP33
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:2dc13804
Date: 2014/10/24 19:53
EP 33



「下では何かやってるみたいね」
「まあね。でも、貴方はここから動かさないわよ」
「ふうん、それが何分続くかしらね」

 激戦の続く上空、イミテイトとオリジナル、二人のフェインティアが一進一退の攻防を繰り返していた。
 互いにダメージは浅からず、双方の攻撃ユニットにも損傷は及んでいた。

「不意打ちにしか使えないあんなチビ集めた所で、何をするつもりかしらね~」
「今に分かるわよ、シュート!」

 先程送信されてきた無茶としか言い様のない作戦を、イミテイトに気付かれないようにフェインティアが砲撃艦をイミテイトへと向けて発砲していく。

「そろそろ、アンカーユニット残して墜ちなさい!」
「あんたの方こそね!」

 二つの紅い閃光がぶつかり合う中、その下で別の煌きが生じた事に、フェインティア・イミテイトは気付いていなかった。


「刃持つ者は続けぇ!」

 封印していた烈風丸を引き抜いた美緒を先頭に、手に手に刀剣を携えた者達が一斉攻撃で生じた敵の隙間から一斉に突撃する。
 突撃した者達の狙う先、武装神姫達の一斉攻撃で作られた、一直線の傷跡に刃が次々と振り下ろされる。

「烈風ざ…」

 先陣を切って白刃を振り下ろす美緒だったが、刃にまとっていた魔力の燐光が相手を斬り裂く前に薄れて消失する。

「くっ、私にはもうそれだけの力も………」

 烈風丸が半ばまで食い込んだ所で止まり、美緒は愕然とその光景を見つめる。

「どうした坂本、力だけに頼るのがお前の剣か?」
「先生!?」

 動きが止まった美緒に突然掛けられた声に、美緒が振り向くと、そこには師である北郷の姿が有った。

「魔力が足りぬのなら技で補え。それで十分斬れる」

 手本を示すように、北郷はほとんど魔力の篭ってない二刀でワームの体をえぐってみせる。

「もたもたしていると、後輩に抜かれるぞ。ほれ」

 北郷が周囲を指さすと、そこには一斉に得物を振るう皆の姿があった。

「ライトニング~スマーッシュ!」
「MVソード!」

 ユナがマトリクスディバイダーPLUSを振りかざし、音羽がMVソードで連撃を刻んでいく。

「エレガントダンス!」
「トネール!」

 エリカがエレガンドソードの連撃を放つ隣で、ペリーヌが雷撃をまとったレイピアの刺突で白鯨型ワームをえぐっていく。

「MVランス!」
「おりゃああぁぁ!」

 エリーゼがランスを突き刺し、義子が気合と共に扶桑刀を一閃させる。
 その光景を見ていた美緒の顔に、鋭さが戻ってくる。

「手を休めるな! 再生する前に攻撃し続けろ! 次の段階への準備も!」

 半ば自らを叱咤するように叫びながら、美緒も白刃を振るう。
 武装神姫達によって穿たれた点が、明確な線へと広がっていった。

「退避! 次の段階へ!」
「ほらあなたも!」
「これは~~どう~~も~~」

 美緒の号令と共に、刃を振るっていた者達は一斉に退避、最後に詩織を伴ったペリーヌが距離を取る中、代わりに迫ってくる者がいた。

「魔力同調シーケンス、出力最大。行けます姉さん」
「よおし、全開・シュツルム!!」

 姉妹二人分の魔力を注ぎ込んだホルス1号機が、疾風をまとって高速旋回しながら無数の斬撃によって生じた線を更に深く、大きくえぐっていく。

「い、っけえええぇ!!」
「突破、します!」

 ハルトマン姉妹はありったけの魔力を注ぎ込み、白鯨型ワームの尾の付け根に浅からぬ傷跡を刻みこむ。

「次、行きますわよ! 全員準備!」
『おう~!』
「エグゼリカ!」「はい姉さん!」

 そこでペリーヌを先頭に電撃を扱える者達が集結し、トリガーハートがアンカーを外したのと同時に、一斉に電撃を放つ。

「トネール!」「スタンオール!」「プラズマリッガー!」

 電撃の嵐が再生しようとしていた部位を堰き止め、至らない部分は更に状態異常を引き起こす攻撃が次々と叩き込まれていく。

「あいつら、何を…」
「よそ見している暇は無いわよ!」

 ようやく下の様子がおかしい事に気付いたフェインティア・イミテイトだったが、そこにフェインティアがアンカーとビーム攻撃を同時に叩き込み、防戦に回らざるを得なくなる。

「観測位置 送信、マーカー撃ち込みます!」
「総員退避! 巻き込まれるぞ!」

 大きく穿たれ、一時的に動きを封じられた白鯨型ワームに、可憐の風神からマーカー内蔵ミサイルが撃ち込まれ、その情報が攻龍へと送られていく。
 同時に、美緒の号令で攻撃に参加していた者達が一斉に距離を取り始める。

「詳細位置、入力完了!」
「全誘導弾、発射」
「発射!」

 門脇艦長の号令で、攻龍の後部ランチャーからありったけの誘導弾が発射される。
 マーカーの情報を元に、誘導弾が次々と穿たれた傷跡に命中、大きくその体を吹き飛ばしていく。

「ようし、これなら!」
「いや………」

 爆風が吹き荒れる中、音羽は成功を確信しかけるが、魔眼を発動させていた美緒は冷静に効果を確認していた。

「攻撃部位が再生を始めています! 追加攻撃を!」
『それが、誘導弾は残弾が有りません!』
「ウソッ!?」
「火力の有る人達は再攻撃を…」

 可憐が風神のセンサーをフル稼働させて予想よりも白鯨型ワームの防御・再生力が高かった事を報告するが、返ってきたのは絶望的なタクミからの返信だった。
 エリーゼが思わず裏返った声を上げるが、そばで聞いていたポリリーナが残った火力を結集させようとした時だった。

『皆どいて!』
「総員、大和の直線上から退避!」

 亜弥乎の声と同時に、彼女が何をするつもりなのか悟ったミーナが叫ぶ。
 皆が慌てて左右へと避けた直後、轟音と共に大和から放たれた46cm砲弾が次々と再生を始めた部位にピンポイントで炸裂していく。
 のみならず、本来ならあり得ない連射速度で砲弾が発射され続ける。

「これは…」
「亜弥乎ちゃん!」

 美緒ですら茫然とする中、ユナは思わず叫ぶ。
 大和の艦上、その第一砲塔の上にしゃがみこんだ亜弥乎が、自らの能力で腕から伸ばした無数のケーブルを大和へと侵食、制御する事でこの時代にはあり得ないピンポイント砲撃と速射を行っていた。

「これじゃ足りない! そっちも!」

 亜弥乎は更に腕から伸びたケーブルを侵食させ、破損していた第二砲塔の破損部分を無数のケーブルで修復、二つの砲塔、計六門の46cm砲が続けざまに砲声を轟かせ続ける。

「すさまじいな………」
「ええ、しかし………」

 杉田艦長が明らかにスペック以上の攻撃をしている砲塔を見つつ呟くが、土方は冷静にその回数をカウントしていた。

「残弾は」「残り10発を切ります! それよりも…」
「砲塔上のウィッチに連絡! それ以上は砲身が持たない!」

 土方が持ち込まれていた通信機をアーンヴァルに教わった手順でなんとか操作しつつ叫ぶ。
 元から連射なぞ想定されてない46cm砲は、亜弥乎による連射でかなりの負荷が生じ、砲身内は赤熱化しつつすらあった。

「あと、もう少しなのに………!」

 白鯨型ワームの尾はすでに千切れかけ、あと一押しという所だったが、亜弥乎自身、砲塔の限界は感じており、ましてや旧式とは言え、これ程の大型艦の巨砲を単独で制御する無理と激戦の疲労も重なり、すでに暴発の危険性でこれ以上は撃てない事を悟らずにはいられなかった。

「艦長、こうなったらコアシステムを!」
「あれはオペレーションマルスの切り札だ、だが………」
『あと一撃、こちらで用意しよう』

 そこに飛び込んできた通信に、大和のブリッジ内では艦長含め数名が首を傾げた。

「今の声、どこかで………」


「坂本、皆を退避させろ。シールドも全開で張れ。私は無理だが」
「分かりました先生。宮藤! 済まないがこちらに来てくれ!」
「は、はい坂本さん!」
「宮藤? そうか宮藤博士の娘さんか」

 芳佳の方を横目で見ながら、北郷は懐から何かの装置を取り出す。

「急いで! 再生が始まってる!」
「先生、一体何を…」

 皆を退避させながらポリリーナが叫び、準備が済んだ事を確認した北郷は装置のフタを外し、そこにあるスイッチを押し込んだ。
 僅かな間を持って白鯨型ワームのそばにあった伊901が突然爆炎を吹き上げ、白鯨型ワームを巻き込んで爆裂していく。

「さ、坂本さん、これって!」
「自爆装置!? なんでそんな物が………」
「あれの技術を他の国に知られたくない、軍上層部の連中が仕掛けたらしい。もっともあんな欠陥品、私はハナから用が済んだら沈めるつもりだったからちょうどいい」

 爆発に巻き込まれ、白鯨型ワームが大きくを身をよじらせる。
 再生しかけていた尾はその爆発によって千切れて崩壊しながら水中へと没していった。

「よし、やったぞ!」
「次の段階へ! 負傷した者、弾薬の少ない者は下がれ!」

 皆が歓声を上げる中、白鯨型ワームは苦悶するかのように身をよじらせ続け、周囲を大波が荒れ狂う。
 そんな中、白鯨型ワームはその巨大な口腔を開き、残っていた全戦力を放出しようとした。

「待っていたぞ、その時をな」

 白鯨型ワームの正面、そこにはルーデルを中心としてナイトウィッチ達のような重火器を装備したウィッチ、そしてD・バースト発射体勢を整えた天使達が待ち構えていた。

「Feuer!!」「発射!」

 カールスランド語の号令と、ジオールの号令を合図に、無数の大口径弾とロケット弾、そして全RVのD・バーストが今まさに飛びたたんとする敵性体がひしめく白鯨型ワームの口腔へと叩き込まれていく。
 口腔内で無数の爆発が連鎖し、吹き荒れた爆炎と爆風がそこにいた全てを巻き込み、焼きつくし、押し潰して外へと噴出する。

「うひゃあ!?」
「退避!」

 吹き出した火柱に亜乃亜が思わず悲鳴を上げ、ルーデルが号令をかけるまでもなく、ウィッチ達は全弾発射と同時にその場から退避していた。

「内部の敵反応、ほぼ喪失」
「あれだけ叩き込んだのじゃ。効いてないはずなかろう」
「目標も静止、でもこれは………」

 サーニャ、ハインリーケ、ハイデマリーの三人が各個に魔導針で状況を確認する中、前後共に深刻なダメージを受けた白鯨型ワームが沈黙するように動かなくなる。

「よし、今の内に…」
「まだ構成セルが多いです! もう少し減らさないと!」
「総員次弾装填!」
「各機、LASER斉射を…」


 音羽が出ようとするのを可憐が制止、まだ相手のダメージが足らない事を素早く計算し、それを効いたルーデルとジオールが駄目押しを叩き込もうとする。

「待て、これは!」
「目標のエネルギー上昇! これはさっきのと同じ…」

 ハインリーケと可憐が同時に叫ぶ。
 説明よりも早く、白鯨型ワームの頭頂部、本来のクジラなら鼻にあたる部分に光が宿り始める。

「さっきの拡散ビーム!?」
「撃たせたら終わりよ!」
「総員攻撃を…」

 それが先程、艦隊を壊滅状態に陥れた拡散ビーム攻撃の予兆だと悟った者達が、口々に叫びながら一斉攻撃を開始しようとする。

「行くですぅ~~~!!!」
「どおりゃああああ!!」
「ええ~~い!!」

 後ろから響いてきた声に、何人かがそちらを振り向き、硬直する。
 そこではユーリィを中心とし、バルクホルンや真美のようなパワー型ウィッチも協力し、総員退避して無人となった空母を持ち上げていた。

「手が足らん! 力が余ってる者は手を貸せ!」
「貸せって言われても………」「今行きます!」
「エグゼリカ!」「はい姉さん!」

 必死になってるバルクホルンの声に圭子は引きつった顔をするが、芳佳を始めとした若いウィッチ達が次々と応援に向かい、クルエルティアとエグゼリカはアンカーを持ち上げられていく空母へと突き刺す。

「それじゃあ、みなさ~ん! せえの!」
『せえの!!』『アンカーパージ!』

 ユーリィを先導にし、ウィッチ達とトリガーハートのアンカーで持ち上げられた空母の巨体が、今にも拡散ビームを発射しようとする白鯨型ワームの、その発射口へと叩き落とされる。
 発射寸前のビームに鋼鉄の塊が衝撃を伴って直撃、すさまじい爆発が巻き起こり、周辺を赤く照らし出す。

「よし!」
「いいのかしら………」

 間違いなく大ダメージを追わせた事にマルセイユがガッツポーズを取るが、圭子は思わずカメラを構えたまま呆れる。

「ねえティナ。今の撮ったけど、売れると思う?」
「4月1日用ならな」
「後で焼き増しを頼む。執務室に飾りたい」
「はあ、構いませんが………」

 ガランドも楽しそうに見つめる中、爆炎もまだ消え去らぬ中、ソニックダイバー達が突撃していく。

「構成セル35%超喪失! セル再生速度低下! 今です!」
『ペンタゴンフォーメーション、発動!』
「ペンタゴンフォーメーション!」
「「ペンタゴン・ロック」座標固定位置送りますっ!!」

 可憐の報告を聞いた冬后がフォーメーション発動を指示、瑛花の号令と同時に五機のソニックダイバーが白鯨型ワームの直上を取ると、綿密にシミュレーションされた座標にそって急降下していく。

「チャンスは一度だけ………! 行くよゼロっ!」
「ミラージュ! ミラージュ・キャノンの用意!」
「総員援護射撃開始!」
「D・バースト用意!」
「有事に備えて各マスターの元へ!」
「上空のイミテイトを抑えるわ!」

 全員が一度きりのチャンスを絶対成功させるため、総力を上げてソニックダイバー隊を支援する。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『ペンタゴンロック!』

 無数の援護射撃の中、突撃した零神がMVソードを半ばまで一息に突き刺し、ソニックダイバー五機がかりでホメロス効果を強制発動させる。

『セル強制固定率、35、40、45』
「人工重力場の出力が足りません! このまだと目標の完全捕捉が困難…」

 七恵と可憐の報告が続く中、人工重力場に覆われ空中へと持ち上げられていく白鯨型ワームだったが、体の一部が突如として触手のように伸びたかと思うと、重力場の一部を突き破る。

「漏れてきたぞ!」
「せえのぉっ!」

 誰かがそれに気付いて叫ぶが、そこへホルス2号機に乗ったユーテイィライネン姉妹が接近、アウロラが手にした巨大スコップを漏れてきた触手へと渾身の力を込めて叩きつけ、強引に引っ込めさせる。

「さあ次はどこだ!」
「右上、一時の方向ダ! 他にもあちこち出てクルぞ!」

 エイラの未来予知で探った場所に急行する中、他の場所から漏れ出てきた触手にソフトボールとサッカーボールが直撃して叩き返す。

「大リーグシューター!」「ハリケーンシュート!」

 マミとルイが次球を用意し、別の箇所から漏れてきそうになった触手を発見すると即座に発射していく。

「反対側、誰か回れ!」
「過度の攻撃は重力場の破損に繋がるわ! 叩き返すくらいで!」

 ガランドの指示にマドカの忠告が重なり、ウィッチや光の戦士達が散開しながら漏れてきた部分を叩き返し始める。

「なんだってこんな悪趣味なもぐら叩きする羽目になるのよ!」
「最後の悪あがきだ! やり過ぎるとこのシールドは壊れそうだ!」

 ゴールドアイアンを降る舞の隣で、大型機関銃の銃身部分を握ってハンマー二刀流を振るうバルクホルンが怒鳴り返す。

「おりゃああぁ!」
「あっちの小さい子、素手で殴り返してるわよ………」
「それはやるな」
「もう少しで完全にセルが固定出来ます!」「そうすればこいつは動けなくなるよ!」

 他にも奮戦してる者達を横目で見ていた舞とバルクホルンだったが、M4ライトセーバーを手にしたアーンヴァルとジレーザ ロケットハンマーを振りかざしたストラーフがすれ違い様に告げると、二人で頷いて得物をかざす。

「これで失敗したら覚えてなさいよ!」
「覚えてる暇があればだがな!」

 互いに捨て台詞を吐きつつ、二人はあらん限りの力で得物を振り下ろした。



「はあっ………はあっ………」
「大丈夫?」
「あと少しだ。持たせる」

 明らかに呼吸が荒く、目に見えて疲弊しているアイーシャの隣で、サーニャは警護にあたっていた。
 ほとんど壊滅させたが、今だ僅かに残っている敵機が、動けないソニックダイバーめがけて集中攻撃をしかけ、ウィッチや天使達がなんとかそれを防いでいる状況だった。

『60、65、70…』
「………今の内に言っておく。皆に、手伝ってくれてありがとう、と」
「そう言う事は、終わってから皆の前で言った方がいい」
「それは出来ない。私は、この機体に乗っている間の事を記憶出来ない。MOLPが高過ぎる副作用だ」
「え………」

 いきなりの告白に、サーニャが思わずアイーシャの方を見つめる。

『75、80…』
「ウィッチや天使、光の戦士やトリガーハート、それに武装神姫の子達、皆がいたからこそ、この作戦を発案出来た。だから、ありがとう」
「今言わない、フラグ立つ」

 淡々と礼を述べるアイーシャに、近寄ってきていた敵を撃破したティタが近寄り、その言葉を遮る。

「アレは私達全部の敵、だからお礼いらない」
「そう~~~ですね~~~」
「そうか」

 いつの間にか背後に来ていた詩織もティタの意見に賛同する中、アイーシャは機体の制御に集中する。

『85、90…』
「ロックが完成したら、一斉攻撃する。準備を」
「了解」「いつでもok」「分かりました~~」
『95…』
「今だ!」



『セル強制固定完了!』
「全機退避! 一斉攻撃準備!」
「お願いミラージュ!」
『はいユナさん。転移ゲート座標設定、ミラージュ・キャノン発射!』

 セルが完全固定され、人工重力場の中に封じ込められた白鯨型ワームに全員が一斉に攻撃体勢を取る中、人工重力場の真下に転移ゲートが出現、そこからすさまじいエネルギーの砲撃が発射された。

「今っ!!」

 ユナの声を号令とするかのように、全員が一斉に攻撃を開始する。
 人工重力場ごと白鯨型ワームを貫いたミラージュ・キャノンに合わせ、直撃を受けなかった部分にも無数の弾丸、レーザー、ビーム、そして固有能力等のありったけの攻撃が叩き込まれ、限界に達した白鯨型ワームが構成セルを崩壊させながら爆散、盛大な爆炎が天高く吹き上げていく。

『目標、完全消滅確認!』
『オペレーション・スーパーノヴァ、完了です』
「やったああ!」
「私達、勝ったんだ!」

 七恵とカルナダインからの通信を聞いた者達誰もが喝采を上げ、死闘の決着をおおいに喜ぶ。

『ソニックダイバー各機、帰艦してください』
「負傷した者は手近の艦に着艦して治療を。治癒系のウィッチを集結させよ」
「RV各機、機体状況を確認」
「さて、残るは………」

 それぞれが残務処理に入る中、何人かが上空を見る。
 そこには、4つの影があった。

「今度こそ、逃がす訳にはいかないわね」
「そうだね」
「もう一戦くらいならば、どうにか」

 ポリリーナが中心となり、それにハルトマンやジオールが近寄り、残弾やエネルギー残量をチェックする。

「じゃあ、行きましょう」

 僅かにしか残ってない余力を振り絞り、ポリリーナとミサキの瞬間移動で、それぞれのエース達がその場から掻き消える。

「あれ、あれ? ニパさんがいませんわよ!?」
「あ、ひょっとしてさっき爆発に何か人型っぽいのが混じって飛んでったの………」
「大変! でもどこに!?」
「だから上に………」



「そんな、あいつが破壊されるなんて………」

 完全に想定外の結末に、フェインティア・イミテイトは茫然とする。

「みんなの、いえ私達の力を過小評価し過ぎていたのでしょうね」
「残ったのは貴方だけです!」
「さて、どうする?」

 クルエルティア、エグゼリカ、フェインティア、三機のトリガーハートが三方向からフェインティア・イミテイトを包囲し、砲撃艦をサイティングする。
 さらにそこへ、瞬間移動してきた者達が素早く展開、周囲を完全に包囲した。

「貴方には聞きたい事がたくさんあるわ」
「お礼も色々しないとダメだよね」「まだ魔力、機体共に余裕は残ってます」

 バッキンボーを構えるポリリーナの対角線上で、ハルトマン姉妹がやる気満々で魔導エンジンの出力を上げる。

「オペレッタが次元サーチを開始しています。どこに飛んでも、必ず突き止めます」
「ま、逃がす気なんてないけどさ」
「全くだ」

 ジオールがRVのコンソールから幾つか操作を行う中、クルピンスキーとルーデルが正確に銃口を突きつける。

「ふむ、これが北方戦線を荒らした紅い悪魔か。噂は聞いていた」
「気をつけて、強いわよ」

 マルセイユが銃口を向けたまま興味深そうに相手を見つめ、ミサキは少しでも動こうとしたら引き金を引くべく、人差し指に力を込める。

「はは、トリガーハートならともかく、有機生命体程度にこの私が…!」
「ぁぁぁぁぁ………」

 ほとんど撃破され、一機だけとなった砲撃ユニットをフェインティア・イミテイトが操作しようとした時、どこかから声が聞こえてきた。

「今の声、どこから…」
「あ」

 フェインティア・イミテイトをサイティングしたまま、エグゼリカが周囲をサーチしようとした時、ふと上を見上げてハルトマンが声を漏らす。

「ぁぁぁぁあああああ!!」

 それが上から響いていくる悲鳴だと全員が気付き、僅かに上に視線をずらす。
 フェインティア・イミテイトも思わず上を見た時、誰もが予想外の事が起こった。

「ああああ!?」
「!?」

 悲鳴の主、運悪くミラージュ・キャノンの砲撃で巻き上げられた破片にぶつかり、そのまま爆風に巻き込まれ、挙句にストライカーユニットが両足からスッポ抜けて高空から自由落下する羽目になったニパが、落下の勢いそのままに、偶然上を見上げたフェインティア・イミテイトの顔面に、脳天から直撃した。

『あ………』

 当人以外のその場にいた全員が、間の抜けた声を漏らすしか出来なかった。
 直撃の威力で、ニパの頭部から鮮血が、フェインティア・イミテイトの額から砕け散ったコントロールコアが両者の激突面からこぼれ落ち、僅かな間、上下逆の両者はそのまま静止したかと思うと、二人そろって力を失って崩れ落ちるようにして落下していく。

「! カルノバーン・ヴィス!」「行ってディアフェンド!」

 我に帰ったクルエルティアとエグゼリカが同時にアンカーを射出。
 クルエルティアのアンカーがフェインティア・イミテイトを、エグゼリカのアンカーがニパをキャプチャーし、そこでようやく全員が硬直から復帰する。

「大丈夫かニパ君!」
「イミテイトはすぐに拘束! そっちの彼女はすぐに手当を! 誰か芳佳さんを呼んできて!」
「オペレッタ! 特殊拘束帯を用意して!」
「………私の偽者とは言え、なんて間抜けなやられ方するのよ」
「予想外の要素とは往々にして起きる物だ、マイスター」

 皆が拘束や治療の準備をする中、がっくりと肩を落としたフェインティアの肩を、下から戻ってきたムルメルティアが小さい手で叩く。

「フェインティア! 彼女を拘束、目が覚めたら尋問の準備!」
「分かったわよ~、その前にこっちの調整整備が必要ね」

 テンションがだだ下がりしたフェインティアが、普段からは考えられない気合の抜けた動きでカルナダインへと戻ろうとした時だった。

「!!??」

 何かを感じた、としか言い様のない感覚に、フェインティアは即座に振り返って砲撃艦を向ける。
 だが、そこには何もいない。

「今のは、何? センサーには何の反応も無かったけど………まさか、アイーシャが言っていたのって………」
「マイスター、周辺に敵機0。速やかな帰艦を推奨する」
「分かってるわよ、それに、まだ全て終わってないようね………」

 先程までの気合の抜けた顔とは一転、鋭い顔つきへと戻ったフェインティアは、全力でカルナダインへと向かっていった。




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP34
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:1000324f
Date: 2015/02/11 16:24
EP 34


「うん………」

 アイーシャがゆっくりと目を開ける。
 視界に映るのが見慣れた攻龍の医務室の天井だと気付き、そのまま首を左右へと向けると、右にベッドを占拠して寝ているエリーゼが、左に備え付けのデスクに突っ伏して寝ているサーニャの姿があった。
 体を起こそうとした所で、物音に気付いたのかサーニャも目を覚ました。

「起きた?」
「うん。こうなっているという事は、作戦は成功したんだな」
「大成功したよ。皆頑張ったから。今は事後処理の真っ最中みたい」

 サーニャに言われて改めてアイーシャが耳を済ますと、外から聞こえてくるらしい航空機やボートの音に、作業音のような物が混ざり忙しく動いている様が想像出来た。

「戦ってた子達は皆寝てる。アイーシャももう少し寝てた方いい」
「そうさせてもらう。サーニャもちゃんと寝た方がいい」
「そうだけど、もう少ししたら当直が回ってくる」
「当直?」
「フェインティア・イミテイトが捕虜になってる。その監視」
「! あれを? よく出来た………」
「代わりにエイラの同僚が重傷になったって聞いてる。自己治癒能力があるから大丈夫だってエイラは言ってたけど」
「う~ん、見たかスカイガールズの底力………」

 寝返りを打ちながらのエリーゼの寝言に、思わず二人は顔を見合わせ、サーニャは微笑み、アイーシャはそれに頷く。

「じゃあもう少し休む」
「その方がいい。私はそろそろ準備して行ってくる」

 アイーシャが目をつむったのを見ながら、サーニャは医務室を出る。
 通路を歩いて行くと、攻龍の乗組員達が交代しながらも、事後処理に奔走していた。

「防護服は後無かったか!」
「第三倉庫に予備が有ったはずだ!」
「負傷者の最終確認急げ!」
「炊き出しまだか!」

 攻龍のみならず、この海域にいる全ての船が似たような状態になっている事を確信しながら、サーニャは格納庫まで赴く。
 そこでは、整備スタッフ達がダメージを負ったソニックダイバーの修理の真っ最中だった。

「お、目覚ましたか」
「うん、アイーシャもさっき起きたけど、まだ休ませてる」
「できれば、あんた達ももう少し休ませたい所なんだがな」

 話しかけてきた大戸に答えつつ、アイーシャは寝ている間に宮藤博士に整備してもらっていたストライカーユニットに足を入れる。

「気ぃつけろよ。腕利きで取り囲んでるたぁ言え、あいつに暴れられたら事だからな。それと搬送中の原子爆弾に絶対近付くなよ」
「分かりました」

 攻龍の武器庫から借りたロケットランチャーを背負いつつ、サーニャはストライカーユニットを発動、整備スタッフ達が慌てて避ける中を滑走して艦外へと飛び出す。
 外に出ると、戦闘で破損した軍艦らは修理の真っ最中で、最早どの世界も所属も関係なく、皆が協力していた。
 その中で、何か一際厳重に封印されたコンテナが搬送されていく。

「漏れてないか厳重にチェックしろ!」
「防護服着てない奴は近づけるな!」
「そこのウィッチ! もっと離れろ!」

 厳重に防護服に身を包んだ攻龍のスタッフやシールドをまとった機械人達がガイガーカウンターを手に、殺気立ってコンテナを沈みかけた軍艦の一つへと下ろしていく。

(あれが原子爆弾………そんなに危険なんだ)

 試しに固有魔法を発動させて状態を確かめようとしたサーニャだったが、あまりに封印が厳重過ぎて何も感知出来ない事を知ると、そのまま目的の船へと向かっていった。



「遮蔽は完璧だ、今の所はな」
「それでは、こちらで預かります。どこかの恒星にでも破棄しましょう」

 防護服を着た冬后と、防護フィールドを発生させている鏡明が原子爆弾の状態を念入りに確認していた。

「これを運んでいた方々は?」
「プリティー・バルキリーで寝てもらってる。洗浄は済んでるそうだ」
「これだけの放射線を垂れ流しにする兵器とは、無知とは恐ろしい物ですね」
「言うな。こっちも前の大戦じゃプラズマ兵器とN2兵器切れたんでこいつを使う直前だったからな。その前にワームが自殺行為と誤認してくれたから助かったが………」
「それでは、こちらで受け入れ体勢が整い次第、転送させます」
「くれぐれも慎重にな。安全装置は確認したが、この時代のじゃ実験兵器段階で安全がどこまで保証されるか分かった物じゃねえ。
表向きはさっきの戦闘のどさくさで消失って段取りにするそうだ。ガランド少将が手回してくれた」
「それしかないでしょう。できればもう作って欲しくない所なのでしょうが………」
「そればっかりは保証出来ないな。この世界が、オレ達の世界のようにならないとは保証出来ない。だが、あれだけのウィッチがいれば、あるいは………」

 半日と経っていない激戦の事を思い出しつつ、冬后は目の前のコンテナを見つめていた。



 サーニャは機関部に致命的な損傷を受け、航行不能となったある空母へと着艦する。
 沈没こそは防げたが、自力航行は不可能、修復も困難として廃艦が決定した船だったが、今その空母の甲板には機械人やウィッチ達が歩哨として立ち、しかも本来とは逆の内側の方を警戒していた。

「501のサーニャ・V・リトヴャク中尉です。交代に来ました」
「お待ちください………確認しました、どうぞ」

 艦内に続く扉の前に立っていた機械人に所属と目的を告げ、向こうが確認した所でようやく扉が開かれる。
 艦内も異常なまでの警戒態勢がしかれており、サーニャは途中何度か道を聞きながら、目的の格納庫へと入っていく。
 一歩中に入った所で、中に満ちている殺気にサーニャは思わずたじろぐ。

「あ、サーニャ………」
「お、もう交代の時間か」

 格納庫内に用意されていたテーブルの対面で座っていたエイラとアウロラが同時に気付き、サーニャの方へと振り向く。
 二人の両脇には空戦用と陸戦用のストライカーユニットと銃器(ついでにスコップ)が置かれており、その格納庫で何が起きても対処出来るようにしているのが見て取れた。
 だが、当の二人はエイラは目の下にクマを作ってデスクに突っ伏し、対照的にアウロラは平然としている。
 その理由は、デスクに転がっている複数の空の酒瓶が物語っていた。

「エイラ、大丈夫?」
「なんとカ………じゃあ悪いケド、あと頼む………」

 そう言いながら、エイラはデスクに突っ伏したまま寝息を立て始める。

「全く、情けない妹だ」
「アウロラさん、一応警備任務中では………」
「ん? 私はいつもこんな物だぞ。何より、あれだけやらかしたのに、休みも無しにこれだ。飲まずにやってられるか」
「言いたい事は分かるのだけど、アルコールを箱で持ち込むのは………」

 同じく警備任務にあたっていたポリリーナが、半ば呆れて転がる空瓶を見つめる。

「見張るのがアレだから。マジメにやり過ぎると保たん」
「確かにアレは………」

 そう言いながら三人(寝息立ててるエイラ除く)は格納庫の中央に視線を向ける。
 そこには、まず機械化帝国から持ち込まれたフィールド発生装置が鎮座し、内部の者が出れないように厳重にフィールドを発生させている。
 更にその中、幾つかの機械人用医療機器が内蔵されているベッドにGから持ち込まれた特殊耐久繊維製の拘束帯に縛り上げられたフェインティア・イミテイトが、ベッドの上からも複数の封印措置が施されて寝かされていた。

「こういう連中の事はよく分からないが、あれだけ暴れておいて、致命的な傷は負ってないらしい。ニパが食らわした頭部への一撃もそこにあった部品が壊れたショックで昏倒しただけだそうだ」
「亜弥乎はそのコントロールコアを破壊したら元に戻ったけれど、彼女はどうかは不明よ。攻撃ユニットは全部破壊したけれど、また呼ばれる可能性もあるし」
「あ………」

 眠ったままのフェインティア・イミテイトの方を見ながらアウロラとポリリーナが呟く中、サーニャの固有魔法の魔導針が突然発動する。

「彼女が、目覚める」

 その一言にアウロラは中身の残っていたグラスを投げ捨てながら即座に陸戦用ストライカーに騎乗して傍らにあった銃を構え、ポリリーナは応急で設置されたスイッチを叩き押す。
 要注意を示すサイレンが鳴り響き、隣室で控えていた機械人やウィッチ、光の戦士等が一斉になだれ込み、中央のベッドにそれぞれの得物を向けて取り囲む。

「皆、注意せよ。妙な動きをするようなら、即攻撃を」

 先頭で剣を構える剣鳳が周囲に指示を出しながら、ベッド上のフェインティア・イミテイトを睨みつける。

「起きろイッル!」
「ZZZ………」

 デスクに突っ伏してる妹を起こそうとアウロラはスコップでデスクの足を叩くが、甲高い金属音が響き渡ったはずなのにエイラはデスクに突っ伏したままだった。

「う………」

 そんな中、フェインティア・イミテイトがすこしうめいたかと思うと、ゆっくりと目を開く。
 身じろぎしようとして、微動だに出来ない事、そしてそれが全身を縛り上げる拘束帯による物だと気付いたフェインティア・イミテイトが露骨に顔をしかめる。

「これってどういう事?」
「どうもこうも無いわ。あれだけ暴れてくれた人を、拘束するのは常識でしょう?」

 ある意味妥当なフェインティア・イミテイトの第一声に、パッキンビューを構えたままのポリリーナが答える。

「確かにそうね。けど、今の私は貴方達と敵対する気はないわ」
「そう言われて、はいそうですか、ってのは無理だろうな。お前のお陰で何人ものウィッチが病院送りになってる」

 アウロラが冷めた目でフェインティア・イミテイトを見ながら、銃口を突きつける。

「撃ちたければ撃てばいい。ただし、私も抵抗させてもらうけど」
「その状態で抵抗という言葉が出てくるか。本気と取るぞ」
「待って下さい!」

 剣鳳の目が更に鋭い物へと変わっていく中、エルナーが格納庫内へと飛び込んでくる。

「彼女は貴重な情報源です。不用意に攻撃するのは得策ではありません」
「しかしエルナー殿………」
「それに、本当に抵抗出来るなら、わざわざ挑発しないで動けないふりをして、隙を見て脱出した方が効率的です。そうしないという事は、抵抗したくても出来ないという証明でしょう」
「………なんでそっちの小さいのはこうイヤな連中ばかりなの」

 エルナーの指摘に、観念したのかフェインティア・イミテイトは思わず愚痴を漏らす。

「その通りよ、確かにこれじゃ身動き取れないわ。けど、敵対する気が無いってのも本当。ヴァーミスは鹵獲したオリジナルを解析して私を作ったけれど、思考回路までコピーしてしまったため、コントロールコアを付けて外部から私をコントロールするしかなかった」
「よく分からんが、ニパの一撃食らってそれが壊れたから操られなくなったって訳か」
「そういう事になるわね」

 アウロラのぶっちゃけた意見に、フェインティア・イミテイトは素直に肯定する。

「とりあえず、警戒体制は一段階落としてもいいでしょう。色々と聞きたい事もありますし」
「ぬう、エルナー殿がそう言うのなら………」
「本当に信じていいのか?」「だが妙に大人しいし………」「私は信じないぞ」

 剣鳳が剣を下ろし、回りで殺気だっていた者達も口々に呟きながら、一応格納庫から出て行く。
 それでもなお疑り深い数名が警戒して残る中、エルナーがフェインティア・イミテイトの傍らへと近寄る。

「拘束の際、最低限度ですが手当はしてあります。会話に支障はありませんね?」
「今セルフチェックを走らせてるわ。話するくらいは問題ないようだけど」
「それではまず聞きます。貴方は我々に情報提供する意思はありますか?」
「提供って言っても、大した情報は持ってないわよ。私はコントロールコアに送られる命令に従ってただけだし、それ以上の事は………」
「それほど詳細な情報は求めていません。まず聞きたい事は、貴方はいつヴァーミスから別の存在に支配権を奪われたのですか?」
「エルナー殿、それは一体………」

 予想外の質問に剣鳳が思わず声を上げるが、フェインティア・イミテイトはしばし迷ってから口を開く。

「いつ、ってのは正確には分からないわ。けれど、その人達の星を攻撃してた時は完全にヴァーミスの支配下じゃなかったのは確かよ。何がどうなったかは説明できないけど、強力なハッキングで、私を含めたヴァーミスの惑星侵略ユニットその物が全て乗っ取られた。その上であの星への侵略を命じられた。私が言えるのはそれだけよ」
「そうでしたか………道理でトリガーハートの人達が違和感を感じるはずです」
「そういや、そのトリガーハート達は? 姿見えないけど」
「全員修復中よ、だからと言って逃げようとは思わないでね。ここの警戒は厳重にしてるわ」
「さっきの見れば分かるわよ、こんな破損ユニットにどんだけ戦力割いてるのよ………」

 フェインティア・イミテイトの問にポリリーナが答えると、フェインティア・イミテイトは呆れた声で今だ緊張状態を保っている面々を視界の範囲で確認する。

「戦う気も逃げる気も無いわ。どうやら、私はコントロールコアで操られてた分、乗っ取られたのもコアだけ済んでたみたいだし」
「他に何か、覚えている事は?」
「そうね、そう言えば本来トリガーハートは個体でワープ出来る能力は無いわ。けれど、こちらを乗っ取った何かは、指揮ユニットとして私を残しておきたかったのか、ピンチになったら呼び戻してたみたい」
「機械化惑星で消えたのもそれね。でも、コントロールコアを壊されたので戻せなくなった」
「多分ね、ところでどうやってコントロールコアを破壊したの? どうしてもそれがメモリーから取り出せないんだけど」
「………まあ、あれは思い出せない方がいいんでしょうけど」
「あ~、見たかったな。その光景」
「思い出せないならそのままの方がいいと思う」
「??」

 言葉を濁すポリリーナと、視線を逸らすアウロラやサーニャに、フェインティア・イミテイトは疑問を更に深くする。

「とりあえず、もうしばらく拘束は続けさせてもらいます。外はまだ事後処理でてんてこ舞いですので」
「あんだけふっ飛ばせばそうなるでしょうね。いいわ、もう少しスリープモードで復旧専念させたいし」
「勝手に直るのか? どういう作りしてるんだこいつ?」
「この時代だと理解すら不可能なレベルでしょう。これだけのダメージを修復システム無しの自己修復ならば、生身の人間より少し早い程度の修復速度しか無いそうです」
「つまり、しばらくは絶対安静の重傷患者って事か」

 なんとか解釈したアウロラが、中身が残っていたボトルをそのままあおる。

「それじゃ、私らも休ませてもらおうか。いつまでも酒でごまかすのもアレだからな。それにイッルが起きないという事は、そうそうすぐに暴れる事もないだろうし」
「後は私が」
「ZZZ………」

 残った酒を飲み干した所で、サーニャに後詰を頼んでアウロラは疲労(よりも姉に付き合わされた酒)で全く起きようとしないエイラを担ぎ、格納庫を出て行く。

「まだ信用できるかどうかは断言出来ません。臨戦とはいかないまでも、警戒は続けて下さい」
「分かってるわ。交代人員は?」
「まだ皆さん寝てる方々ばかりです。もっとも、用心して格納庫で寝てる人もそれなりにいるのですが………ポリリーナこそ大丈夫ですか?」
「仮眠は取ったわ。もうしばらくなら大丈夫」
「無理はなされるな。我々もいる」
「それに、まだ終わっていないようです」

 エルナーの言葉に、ポリリーナ、剣鳳、そしてサーニャも先程フェイティア・イミテイトの言っていた事を思い出す。

「ヴァーミスのみならず、ワーム、バクテリアン、ネウロイを軒並み支配下に置いた存在がいる」
「それこそが、真の黒幕」
「そいつは、今までの戦いをずっと見ていた。ティタやアイーシャも気付いてる」
「早急に体制を立て直す必要があります。一刻も早く………」



(う~ん………)

 何か頭がヤケに痛む事を感じつつ、ニパは目を覚ます。
 頭痛の次に妙な浮揚感が全身にあり、何か泡が立つような音も聞こえてくる。

(あれ?)

 状況はよく思い出せないが、てっきりまたベッドの上かと思ったニパが目を開ける。
 視界に妙な色合いが広がり、小さな泡が通り過ぎて行く。
 数秒の間が経ち、自分が水中にいるらしい事を理解したニパがパニックに陥る。

(!?!? 何だこれ!? 溺れてる!?)

 もがこうとした所で、手足が何かに当たり、自分が何かカプセルのような物に入れられている事もなんとなく分かった所で、視界に見覚えのある顔と無い顔が入ってくる。

『ニパさん、気がつきましたか!?』
『暴れたら~~~ダメ~~~ですよ~~』

 こちらを心配そうに見つめるポクルイーキシンと、何か操作している詩織の顔に、ニパが少しだけ落ち着きを取り戻す。
 その時になって、ようやく自分が酸素マスクのような物をしている事にも気付いた。

『声、聞こえてますよね? これ、ヒーリングカプセルとか言う医療機器ですって。これに入っていると、傷がすぐ治るそうです』
『実際~~~危ない~~~所でした~~~』
『ニパさん、頭蓋骨が割れかけてたんですって。治癒魔法を持つウィッチや、治療出来る装置が有って何とかなったけど、無茶したらダメですよ。それとニパさんの使ってたストライカーユニット、見事に大破してました。ここから出たらお説教です』
(あう………)

 心配そうな顔から、普段通りの怒り顔になったポクルイーキシンに、ニパは無言でうなだれる。

『え~~と、マスクに~~~マイク~~入ってますので~~~スイッチ~~~入れて~~~おきますね~~』
「あ、こっちからも喋れるんだ」
『聞こえました、でも治るまで大人しくしてた方いいですよ。まだ重傷なんですから』
「他の皆は?」
『ニパさんが一番の重傷です。もっともさっきエイラさんがアウロラさんに飲み潰されてきて隣で唸りながら寝てますけど』
「何やってるんだイッルの奴………」

響いてくる頭痛に悩みつつ、ニパはため息をもらす。

「それで、ここからいつ出れるんだ?」
『あと~~~半日は~~~入っててください~~~治りが早いので~~~それで~~~大丈夫~~~だと思います~~~』
『だ、そうです。大人しくしててくださいね。軽症でも治せるのは治すようにと通達が来てますから』
(軽症、でも?)

 詩織の異様な間延びも気になったが、ポクルイーキシンの言った事にニパは内心首を傾げる。

『普段なら入院する位の重傷なんですけど、強力な治癒魔法を持つ人が何人もいたから、これくらいで済んでるんです。戦闘時はもっと周囲を注意しないとダメです!』
「なんで吹っ飛んだか思いだせないんだけど………そもそもなんで頭が痛いんだっけ?」
『覚えてないんですか? なんでも頭突きであの紅い悪魔撃墜したとかで、すごい騒がれてますよ。勲章物だって噂も』
「頭突きで勲章っていいのかな?」
『いいんじゃ~~~ないですか~~~? あの方には~~~私達も~~~随分と~~困ってましたから~~~~』
「困ってた、ね~………」

 色々と気になる事はあったが、ニパは大人しく治療に専念する事にする。
 なお、ヒーリングカプセルから出る時、なぜか開閉装置の調子が悪くなったり、酸素供給が止まって危うく本当に溺れそうになったりもしていた。



「損傷度の激しいユニットも結構あるな」
「予備機も来てますので、代替も考慮した方がいいかと」

 後発で来た工作艦に、大量に並べられたストライカーユニットを前に宮藤博士とウルスラが損傷度を元に修理可能かどうかを診断していた。

「特にあの水中から発見されたのはもう無理じゃないかな? どうやって持ってきたのかは知らないけど」
「水中特化の武装神姫が拾ってきたそうです。人魚型とタコ型だそうですが」
「開発コンセプトが分からないな………」
「可愛ければいいじゃないか」

 横から聞こえてきた声に二人が振り向くと、そこにはウィトゥルースを従えたガランドの姿があった。

「これは少将」
「二人がここにいると聞いて驚いた。宮藤博士は公的には死亡となっていたし、危うくウルスラも死亡届を出す所だったぞ」
「こちらだと、彼女はどうなっていたんですか?」
「それがな、いつも通り研究室が爆発したかと思えば、彼女の姿だけ跡形も無く消えていた。機材に損傷は有ったが、人一人が木っ端微塵になるには程遠かったし、指一本も落ちてないので、皆が不思議がっていた。まあ私はどこかで生きてるだろうとは思っていたが」
「心配おかけしました」
「何、その分面白い新型も出来たようだしな。必要な物が有ったら幾らでも言ってくれたまえ。すぐに取り寄せる」
「それで間に合えばいいのだが………」
「あの、早めの方がいいと思います」

 宮藤博士の呟きに、ウィトゥルースが突然口を開く。

「どういう事だ? ウィトゥルース」
「あの、なんとなくですご主人様」
「なんとなく………」

 ウルスラもその意図する所をそれとなく察したのか、作業の手を早める。

「急ぐ事にしよう。確かに早めの方がいいだろうし」
「そうか、では頼むぞ」

 宮藤博士も作業を再開し、今一状況を飲み込めないガランドが一任してその場を去っていく。

「ホルスの3号機以降は?」
「ロールアウトは可能ですが、適合する搭乗者が………ビショップ曹長の姉を召喚しようかとも思いますが、すでに引退しているので、起動が可能かどうか」
「ならば、2号機までで対処するしかないだろうね。修理を急ごう」
「了解しました」



「う………む」

 夢すら見ない深い眠りから、美緒はようやく目を覚ます。
 そこがプリティー・バルキリー号の医務室である事を確認しつつ、ゆっくりと上体を起こす。

「目が覚めましたか、マスター」
「アーンヴァルか、何か必要以上に熟睡してたようだ。戦闘終了からどれくらい経っている?」
「32時間と26分です」
「32時間、だと? また私はそんなに寝ていたのか?」

 枕元のデスクにいたアーンヴァルから、丸一日以上寝ていた事を聞いた美緒がさすがに驚く。

「寝ていた、ではなくて寝かせていたのよ」
「私達の判断でね」

 声を聞きつけたのか、ミーナとミサキが医務室へと入ってくる。

「最低限のサイキックエナジー、そちらだと魔力が回復するまでの間、起こさないように少し特殊な睡眠薬を使わせてもらったわ。副作用は無いタイプだから、疲れは大分取れたはずよ」
「魔力の過剰使用で、かなり危ない状態だったそうよ。この船の設備が整ってたからなんとかなったけど………」
「そうか、私はもう無茶も出来んか………」
「マスター………」

 自覚はしていたつもりだったが、自分の予想以上にウィッチとしての限界が近付いている事に、美緒は半ば自嘲的な笑みを浮かべる。

「無茶は出来なくても、他に出来る事はあるわ」
「そうね、起きてすぐで悪いけれど、各隊長や副隊長クラスで会議を行うわ。アーンヴァルと一緒に来てほしいのだけれど」
「分かった、すぐに準備しよう」
「その前に何かご飯食べた方いいですよ。今芳佳さんにでも」
「さっき頼んでおいたわ。あまりゆっくりはしてられないけれど。すでに幾つかの部隊には帰還命令が出てるそうだし」
「どうにか、引き伸ばしてほしいのだけれど………戦力は一人でも多く欲しいし」

 ミサキの一言に、枕元にあったスポーツドリンクに手を伸ばしかけた美緒の動きが止まる。

「それは、どういう事だ?」
「エルナーがフェインティア・イミテイトを事情聴取したの。彼女やヴァーミスのみならず、ワームやバクテリアン、ネウロイまで操っている存在がいるらしい事を確認したそうよ」
「………黒幕がまだ残っている、という事か」
「そういう事に………なるわね」

 その場を沈黙が降りるが、そこでドアがいきなり開く。

「おにぎり持ってきました! 坂本さんは起きてますか?」
「おう宮藤、ちょうどいい所だ」
「さっきまで大変だったんですよ~起きた皆さんが全員食堂に集まってきて、料理得意な人が総動員でご飯作ったんです。皆さんいっぱい食べるし、後片付けもいっぱいで。なんとか終わりましけど」

 場の空気を全く読んでない芳佳に、ミサキとミーナは緊張を解いていく。

「あれはあれで戦場だったわね………」
「すまないわね、ユーリィがあるのを端から食べつくすし」
「激戦の後とはそういう物だからな」

 違う意味での激戦を思い出したミーナとミサキが遠い目をし、美緒は苦笑しながら芳佳が持ってきたおにぎりに手を伸ばす。

「そう言えば、他の航空団にも武装神姫がいたようだが」
「確認したけれど、他の世界の敵と接触した航空団には全て武装神姫が現れて、その助言で撃退してたそうよ」
「随分と準備がいいわね。こうなるって分かってたみたい」
「さあ………私にもなんとも」
「マスター、もうそろそろ会議始めるってエルナーが」

 別の謎に皆が首を傾げるが、そこにストラーフが端末を掲げながらミーナを呼びに来る。

「あら、もう時間?」
「む、今行く」
「ああ、坂本さん起きたばかりにそんな急いで食べたら胃によくないですよ」
「詳しくは会議でね。アーンヴァル、データまとめ終わった?」
「大丈夫です」
「攻龍の会議室でだから、私がテレポートで連れてくから」
「あそこではちと手狭かもしれんが」

 オニギリをスポーツドリンクで流し込んだ美緒は手早く身支度を整え、ミーナとミサキもデータをまとめた端末を手にアーンヴァルとストラーフを従え、攻龍へと向った。
 攻龍の後部甲板へとテレポートした一行は、甲板と格納庫に並ぶ種々のストライカーユニットに驚く。

「世界中のストライカーユニットの展覧会だな」
「これだけの統合戦闘航空団が一同に会したのは初めてでしょうからね」
「ちょっとそこどいて~」

 美緒もミーナもこれだけ種々のストライカーユニットが並ぶのを見るのは初めての中、背後から聞こえてきた声にその場を開ける。
 そこに、自分のRVに乗った亜乃亜が、背後に一人の男性を乗せて着艦する所だった。

「まったく、RVで二人乗りなんて………」
「悪いな、オレのはまだ修理中なんだ」

 愚痴る亜乃亜に軽く謝りながら、背に巨大なキセルを背負った男が降り立つ。
 彼の肩に武装神姫がいる事に気付いた美緒は僅かに首を傾げる。

「そちらは?」
「ウチのメンバーの一人。この世界に先行して来てたんだって」
「エモン・5だ。501の隊長さんと副隊長さんだな」
「天使コマンド型MMSウェルクストラです」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。Gには男性もいるんですね」
「坂本 美緒少佐だ。先行という事は………」
「オペレッタからあんた達の交戦データから何からもらって、次元跳躍反応が頻発してたここに飛ばされてな。途中でこいつと出会って、こっちのお偉方を説得してなんとか迎撃が間に合ったって寸法だ」
「なるほど、随分と戦力集結が迅速だと思ったら………」
「私とオーナーでどうにかしました。話が分かる人が軍上層部にいたのが幸いでした」

 ミサキがエモン・5とウェルクストラの説明に納得した所で、攻龍の館内放送が鳴る。

『もう直会議が始まります。各部隊の隊長方は、至急会議室へお集まり下さい。繰り返します、各部隊の隊長方達は至急会議室へお集まり下さい』
「おっと、続きは後でな。会議室ってどこだ?」
「案内します。早く行きましょう」
「そうだな」

 ミーナと美緒を先頭に、後ろにエモン・5とミサキが続く。
 ふと最後尾を行くミサキが、僅かにだがエモン・5の歩き方がおかしい事に気付いた。

(この男、負傷してる?)

 それが負傷による物だと気付いたミサキが疑惑の視線をエモン・5に向けるが、そこでエモン・5の肩にいたウェルクストラが振り向き、口元に指をあてて黙っているように頼み込む。

(訳あり、ね。この世界に転移する時、何があったの?)

 何かきな臭い物を感じつつ、ミサキは黙って会議室へと向かっていった。


 会議室内は各航空団の隊長、それぞれの部隊のリーダーや参謀役、門脇艦長や玉華なども加わり、かなり狭い状態となっていた。
 特徴的だったのは、参加者のほとんどが武装神姫を伴っている事だった。

「お~坂本、目ぇ覚めたか」
「無茶し過ぎて倒れそうになったって聞いたけど、大丈夫?」
「心配をかけたな、問題無い」

 先に来て近況を話していた義子や淳子に声を掛けられ、美緒が応じなら空いていた席に座る。

「それでは、だいたいそろったようなので始めましょう。私は叡智のエルナー、この会議の議長を努めさせていただきます」

 エルナーの開会宣言に、ウィッチ達は目を丸くし、思わず傍らの武装神姫に仲間かどうかを問い質す。

「色々聞きたい事はあるでしょうが、まずは今まで何が起きたか、そしてこれから何が起きるかが一番の問題です。色々と見慣れない物が多いでしょうが、まずは各武装神姫から送られた戦闘データの解析から入りましょう」

 エルナーがそう言うや否や、会議室の画面に幾つもの戦闘データが写される。
 そこにはウィッチ達とこの世界に突然現れたヴァーミス、ワーム、バクテリアンと言った敵達との戦闘の様子だった。

「データによれば、501部隊の失踪後、入れ替わるようにネウロイ以外の敵が各所に現れた。これは間違いありませんね?」
「間違いないわ、501の失踪と因果関係があるんじゃないかと思っていたのだけれど………」

 エルナーの確認に、淳子が片手を上げてそれを肯定する。

「会議の前に皆に話を聞いていて確信したのだけれど、それぞれの部隊に武装神姫達が現れて助言をしなければ、これだけの戦力を集中させる事は不可能だったわね」
「お力になれて光栄です陛下」

 圭子が膝の上のサイフォスを撫でながら断言し、他の隊長達も頷く。

「問題はそこです。何故、ネウロイ以外の敵がこの世界に現れたのか、そしてなぜ散発的に攻撃してきたのか、武装神姫達はどうしてそれに対処できたのか。この三つが大きな問題点でしょう」
「最後のは妾もイーアネイラに聞いてみた事があるぞ。でも分からないと言いおった」
「実際、何故と言われても答えられないし」
「待て、それはこっちでもそうだったぞ」

 ハインリーケが肩のイーアネイラを見ながら発言し、イーアネイラも首を傾げる。
 そこで美緒も発言し、皆がそれぞれの武装神姫を見つめる。

「まあ、その点は後回しでもいいでしょう」
「いいのかな?」

 エルナーのぶっちゃけた意見に、なんでか武装神姫のマスターだからという名目で会議に参加していた音羽が呟くが、内心賛同する者はいたが、別の問題の方の興味が大きく、誰も気にしなかった。

「問題は敵の方です。実際問題として、各部隊が接敵したのは、偵察部隊だと私は推察します」
「つまり、威力偵察?」
「恐らくは」

 エルナーの推察にラルが意見、エルナーがそれを肯定したために、室内がざわめき始める。

「こちらの戦力を図り、一気に殲滅するつもりだったという訳か。だが、予想外にこちらの戦力集中が早かったために、頓挫した」
「恐らくは。もっとも、殲滅する予定だったのはそちらのウィッチ達ではなくこちらでしょうけれど」

 ガランドの解釈にエルナーが補正を加え、室内で頷く者と首を傾げる者が相次ぐ。

「しかし、我々はかなりの損害を負ったが、敵勢力の撃退に成功した。殲滅戦という事は、向こうも総力戦だったと考えるのが妥当だと思うのだが」
「それも間違いないでしょう。あちらも戦力のほとんどを消耗したはずです。あちこちの世界からハッキングによる徴収をしているようですが、そうすぐには戦力は補充出来ないと推測されます」

 門脇艦長の意見が肯定され、各所で胸を撫で下ろす吐息が漏れるが、幾人かはエルナーの声が緊張状態のままの事に気付く。

「待て、そもそもそう簡単にあの有象無象共は乗っ取られるような物なのか? 雑魚もおったが、それなりに手強い連中もいたぞ?」
「確かに。あの紅い悪魔なんて、ほぼ防戦に回るしかなかった」
「コア持ってないのばかりで大変だったし」

 皆が口々に意見を出す中、画面に苦戦をしいられた白鯨型ワームが映し出される。

「全ての敵が乗っ取られたわけでなく、これに代表されるように、コピーなどで製造された敵もいる模様です。複数種の複合体も確認されてます」
「ちょっと待って。複合体って、私の見た限り、敵はネウロイに似て非なる物だったわ。そんなのを混ぜ合わせる技術なんてあるの?」
「………方法は分かりません。しかし、実在していたのは確かです」

 圭子の質問に、エルナーはしばしの沈黙を持って答える。
 それと同時に、一つの画像が映し出される。

「あれって、この船?」
「正確には、この攻龍のコピー体です。攻龍が本来いた世界で接敵、交戦したそうです。これは攻龍の同型艦牙龍をベースにし改造された物で、内部にはネウロイ、バクテリアン、ワームの複合型コアが確認されています」
「擱坐した戦車や戦闘艦をベースにしたネウロイは知ってるけど、複合型コアなんて………」

 マイルズがかつて交戦経験のある駆逐艦ベースのネウロイを思い出すが、映し出される攻龍・イミテイトの戦闘力はその比では無かった。

「それだけではなく、こちらのコピーらしき敵機も確認してるわ。もっともこれはそちらでもあったそうだけど」

 ジオールが手元の端末を操作し、攻龍・イミテイトから出てきたコピー体の画像を映し出す。

「これって、スオムスで確認されたっていう………」
「ウルスラさんにも見てもらったわ。かつてスオムスで確認された物に比べて、性能は低かったそうだけど」
「恐らくですが、この攻龍のコピー体の建造に労力を注ぎ、他まで手が回りきらなかったのではないでしょうか? 今回の戦闘にしても、大型ばかりでウィッチや他のコピーは確認されてません。殲滅戦を念頭にした、火力重視の戦力だったのではないでしょうか?」
「そう言えば、ウィッチの乗ってない船には攻撃してこなかったと言ってたな。被害のほとんどはウィッチを狙った攻撃の巻き添えか、あのクジラの無差別攻撃による物だった」

 ガランドが被害の状況を思い出しながら頷く。

「それならば、向こうはほとんどの戦力を出しきったという事ではないのか? 討って出る好機ではなかろうか」

 ハインリーケの意見に何人かも同意するが、逆に何人かは難しい顔をする。

「問題はそこです。明らかにこれだけの事をした首魁がいるのは間違い有りません。ただ、それがどこにいる何者なのか、それが分からないのです」
「ぬ………そうか………」
「それらしいのは見かけなかったの?」

 エルナーの断言にハインリーケが言葉を詰まらせ、圭子が質問する。

「それが、全く確認されていないのです。極一部、感知能力が高い人達が何らかの視線を感じているそうなのですが、物理的証拠は何も」
「誰かそんなの感じた?」
「いやそんな余裕無くて」
「妾は何も感じなかったぞ」
「ホントかそれ?」

 皆が口々に問いながら首を傾げる。
 そんな中、今まで部屋の隅で無言で話を聞いていたエモン・5がそっと手を上げた。

「多分だが、オレはそいつを見た」
『!?』

 いきなりの爆弾発言に、全員の視線がエモン・5に集中する。

「それは本当ですか!?」
「まあ、見たって程の物じゃなかったが」
「オーナーがこの世界に転移する最中、謎の存在に攻撃を受けたのです。映像映します」

 頭をかくエモン・5に代わり、ウェルクストラが自分のメモリーからその時の映像を転送する。
 皆が固唾を飲んでその映像を凝視しようとするが、映し出されたのは不可思議な色合いの空間、そしていきなり現れる光条、画面が不自然に揺れ動き、やがて空間を抜けてどこかの航空基地らしき物へと急降下、つまりは墜落しそうになっている画像へと変わって途切れた。

「………今ので何をどう判断すればいいのだ?」

 誰もが無言になる中、皆の意見を代表するように美緒が口を開く。

「どうって言われてもな。こっちもいきなり攻撃食らって、こいつの先導でどうにか逃げ延びたってだけだし」
「オーナーは悪運だけはあるのです」
「他には? 戦闘データのような物は?」
「跳躍時の不確定な空間だったので、奇妙なエネルギー不和が確認されただけです」
「どうする? 画像解析にでも回す?」
「………一応回して見ましょう。何か映ってるかもしれません」

 全くアテにならないエモン・5とウェルクストラのデータに、室内は露骨に呆れた空気が漂う。

「結局、まだ裏に黒幕はいるらしいが、どこのどいつでどこにいるか全く分からない、という事か」
「そういう事になります………」

 ガランドのぶっちゃけた結論に、エルナーが力なく頷く。

「それではどうしようも無いな。実在確認すら取れない敵相手に準戦闘待機と言っても上層部は納得すまい」
「そうでしょうね………」
「事後処理と言っても、何日もおれんぞ?」
「こっちはもう帰還命令きてるし」
「こちらも時間の問題ね………」

 ウィッチの各隊長達が首を傾げて唸る中、彼女達のすぐそばから声が上がった。

「そんなに時間はかからないよ」
「本陣に帰陣する前に事は終わります」

 ハウリンとサイフォスを皮切りに、武装神姫達が次々と口を開き、不思議な事を言い出し始める。

「お前もそう思うか、アーンヴァル」
「はいマスター」
「でもそれってどういう事?」
「あれ? どうしてだろ? でもそう思うんだよね」

 アーンヴァルとストラーフも似たような事を言い始め、美緒とミーナは思わず顔を見合わせる。

「まさかアンタ達全員、バグってるなんて事はないわよね?」
「それはあり得ないマイスター、だが私の中で警告がある」
「つまり、ボスが迫ってるって事か?」
「………そこまでは分かりません、お姉様」
「え~と、それじゃあ一体?」
「何か分かんないけど、何かあるんじゃないかな、オーニャー」

 要領を得ない武装神姫達に各マスター達は更に首を傾げる。

(やはり、彼女達は………)

 ただ、エルナーだけはある確信を得ていたが、心中に潜めておく。

「確証は全くありませんが、各部隊とも装備を整えておいてください。何もなければ幸いなのですが」
「武装はこちらで用意致します。必要なだけ申し出てください」
「あの銃、見た事ないタイプじゃが、どこのメーカーのじゃ?」
「ウルスラ・ハルトマンが作ったって聞いたけど」

 玉華の申し出に、各隊長達は必要な物資をまとめるために、会議は解散となる。

「素直に元の世界に帰れる、とは考えない方がいいのだろうな」
「残念ですが………」

 門脇艦長も険しい顔をする中、エルナーは思わず言葉を濁す。

「現在、オペレッタが機械化帝国の転移装置を使用して、スリングショットと呼ばれる方法で元の世界に戻れる方法をシミュレートし
ています。戻る分には問題無いはずなんですが………」
「前例があるからな」

 ジオールが一度機械化帝国に戻ってからまた転移する、という方法を提示するが、門脇艦長はこの世界に跳ばされた時の事を思い出し、険しい顔のままだった。

「悩んでも仕方有りません。攻龍とソニックダイバーの修理には、どれくらいかかりそうですか?」
「機械人達の助けもあって、数日中には完了するだろう」
「カルナダインもあとは最終調整さえ済めば大丈夫です」
「プリティー・バルキリーもそれまでになんとか………」

 エルナーはそこでちらりとエモン・5の方を見る。
 背中に背負っていた巨大なキセルで一服しようとして、記録係をしていた七恵に禁煙を告げられたエモン・5へとエルナーは近寄っていく。

「一つお聞きしたい事があります」
「ん? なんだい?」

 仕方なくキセルを背負い直したエモン・5に、エルナーはある問いを発した。

「記録映像はあれだけでしたが、貴方自身は何か見ませんでしたか?」
「何かって言われてもな………本当にいきなりで何が何だか」
「………巨大な歯車を見た覚えは?」

 エルナーの一言に、エモン・5の手が止まり、視線が急に鋭くなる。

「知ってんのか、あれが何かを」
「やはり、そうでしたか。信じたくはありませんでしたが………」
「エルナー、ではやはり………」
「恐らく、間違い有りません。《機械を統べる者》………」

 その言葉を聞いた玉華の顔色が瞬時に変わり、そのただならぬ様子に会議室に残っていた者達が緊迫した空気を漂わせ始める。

「その、機械を統べる者とは?」
「………まだ確証が有りません。しかし、恐るべき敵、という事は確かです」
「知っているなら、対処法とかは?」
「それもまだ………正確には、私が知っている物と、同じ状態とは思えません」
「どういう事?」
「何と言えばいいのか………」

 ミーナが問うが、エルナーは黙りこんでしまう。

「相手は知っている奴かもしれないが、現在の状況は分からない、そう考えればいいのか?」
「そういう事になるでしょう。正直、助言らしい助言すら出来るかどうか」
「知っているだけで充分だ。今まで訳の分からない相手とばかり戦ってきたからな」

 美緒の率直な意見に、誰もが思わず苦笑を漏らす。

「各自、戦闘準備を怠らないでください。あれは、必ずこちらを狙ってくるでしょう………」

 エルナーの言葉に、誰もが無言で頷くしかなかった。




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP35
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:1000324f
Date: 2015/02/11 16:24
EP 35


会議の翌日

「うへ~………」「あ~………」「うう………」

 目の下にクマをこさえた僚平、嵐子、晴子の三人が、食堂のテーブルに突っ伏して注文したコーヒーに手も伸ばさず呻いていた。

「三人共大丈夫? すごい事なってるよ?」

 三人のゾンビ一歩手前のような状態に食堂に来た音羽が思わず引きそうになるが、声を聞いた僚平がゆっくりと顔をそちらへと向ける。

「あ、音羽か………零神含め、ソニックダイバーの修理終わったぞ………」
「ここ数日、ほぼ格納庫で寝泊まりしとったわ………」
「どこもかしこも完璧に直したで………」

 それだけ告げた僚平が、せめてコーヒーだけでも飲もうとして手を伸ばすが、途中で力尽きて突っ伏したまま寝息を立て始める。

「………え~と」
「寝かしといてやれ、整備の連中は今どこも似たような状態らしいしな。タクミの奴もブリッジが忙しくて数日こっちにこれねえ」

 諦めたような口調で顔を覗かせる料理長に、音羽はしばし迷ったが、食堂の隅に置いてあった仮眠用毛布を持ってくると、三人にかけてやる。

「随分と修理急いでるんだね」
「聞いてないのか? まだ何かあるんじゃないかって噂………」
「そう言えば、そんな事聞いたっけ」
「オ~ニャ~、覚え悪すぎ」
「こっちにまで非常時用食料の配給が来てるぜ。相変わらずどう開ければいいか分からんのが難点だが」

 ギャラクシーハイカロリー乾パンと銘打たれた極彩色の缶詰らしき物を手に、料理長は説明書きをガン見する。

「はああぁぁぁ………あ、源さんカフェオレお願い」

 そこへ爆睡している三人に劣らず疲れているマドカが食堂へと入ってくる。

「だ、大丈夫?」
「やっと直せる分は終わったよ………機械人の人達が手伝ってくれなきゃ、マドカ一人で全部やらなきゃならなかったけど。エモンのは本部に戻して完全オーバーホールだね」
「あの渋い人の? そんなに壊れてたんだ………」
「ここだけの話、皆に隠してるみたいだけど、RVがああだったら、エモンもただで済んでるはずないよ。本人平気そうにしてるけど」
「う~ん、そうだ。マドカちゃんは機械を統べる者って知ってる?」
「機械を統べる者? さあ、知らないな~」
「エルナーさんはそれが大ボスだとか言ってたんだけど………」

 テーブルに突っ伏し、ストローでカフェオレをかろうじてすすってるマドカの返答に、音羽は腕組みして考えこむ。

「あ、いたいた。音羽~、ソニックダイバー修理終わったから、シミュレート訓練だって」
「分かった~、今行く~」

 顔をのぞかせたエリーゼが声をかけてきたのを聞いた音羽が格納庫へと向かおうとするが、ふと振り向くとマドカもカフェオレを飲みかけで寝息を立て始め、慌てて毛布をもう一枚持ってくるとかけてやる。

「それじゃ源さんあとよろしく!」
「おう」

 音羽が出て行った後、寝息の輪唱となっている食堂内で料理長は手を上げながら、冷め始めたコーヒーを下げる事にしていた。



『攻龍、ソニックダイバー、全面修理完了しました。まあ、整備班の皆さんはグロッキーですが………』
『カルナダイン、オールグリーン。トリガーハート及び随伴艦、戦闘力平均95%まで回復しました。7時間以内に完全回復します』
「各ストライカーユニットの修理も今日中には終わりそうだ。多少ここのではない部品も使用したが」
「プリティー・バルキリー号も修理は完了しています。なんとか間に合ったようですね」

 各艦から修理完了の報告をエルナーが受け取り、胸を撫で下ろす。

「こちらの体制が整う前に来る可能性も考慮していましたが………」
『前回が向こうにとっても総力戦なら、向こうも同じ事をしている可能性が高い。体制が整ったとはいえ、油断は禁物だろう』
『けど、本当に敵襲があるんですか?』

 エルナーの懸念が無駄に終わったが、門脇艦長は警戒を緩めず、カルナは逆に首を傾げる。

「せめて、予兆のような物があればいいんだけどね」
『今までそのような物は無かった。あればあそこまで苦労はしなかった』

 宮藤博士が冗談めかして言うが、門脇艦長が断言して皆が思わず頷く。

「たしかに、いつまで待てばいいかわからないのは問題ですね………」
『今の内に言っておくが、各航空団を留めておけるのはあと二日がいい所だ』
『二日、か………』

 ガランドの報告に、門脇艦長含め、皆の顔が険しくなる。

『そろそろ上層部を騙しておけるのも限度が…』
『警告、警告。ミッションプログラムに従い、エネルギー補充モードに入ります。クレイドルをセットしてください。警告、ミッションプログラムに従い…』

 顔をしかめていたガランドの言葉を遮るように、突然無機質な声が響く。
 突然の事に皆が驚く中、それがガランドの肩にいたウィトゥルースから発せられてるという事に気付く。

『どうしたウィトゥルース?』
『クレイドルをセットしてください』

 普段の弱気な発言とも違う、完全な機械音声のような口調にガランドが首を傾げるが、同じ事しか言わないために、ウィトゥルースと共に現れたクレイドル(※ソーラーパネル付き)に寝かせてやり、ようやく音声が止まる。

『エネルギー切れでしょうか?』
『妙な事を言っていたようだが』
「プログラムとか言ってなかったか?」

 今まで見た事のない武装神姫の挙動に皆が首を傾げる中、事態はそれだけでは収まらなかった。

「警告、警告。ミッションプログラムに従い、エネルギー補充モードに入ります。クレイドルをセットしてください」
「え、ストラーフ?」

 エルナーと一緒に現況を聞いていたミーナの肩で、ストラーフがまったく同じ口調で同じ事を言い始める。

「これは………」
「おい、アーンヴァルが妙な事を言い始めたのだが」
「飛鳥のクレイドルどこだったかな~」
「ムルメルティアがおかしいわよ!?」
「ヴァローナがあたしの頭の上にクレイドルを………」

 あちこちから聞こえてくる武装神姫達の異変に、指揮官達の顔が険しくなっていく。

「エルナー君、率直に聞きたい。この状態をどう解釈すればいい」

 門脇艦長の問に、エルナーは言葉を選びながら答える。

「………武装神姫達は、当初から何らかのプログラムに従い、パラレルワールドを渡り歩く方々のサポートに徹していると推測されます。そして、その武装神姫達が一斉にエネルギー充填に入ったという事は、次に起こりえる事はただ一つ」
「最終決戦」
「恐らくは」

 代弁するようにガランドが呟いた言葉に、エルナーは静かに頷く。

『つまり、武装神姫達は決戦が近い事を知っている、となるな』
「そう考えるのが妥当です。何故か、は今は考えない方がいいでしょう」
『考えるなというのは難しい話だが、そう言ってもいられないようだな』
『こちらも、準備に入った方がいいだろう』

 ガランドと門脇艦長の言葉に、全員が頷いた。

「今までの武装神姫のエネルギー充填時間から逆算すれば、最短で八時間前後、最長で十二時間以内でしょうか………」
『今行われている全訓練を中止、休息の後、装備の点検配備を』
『こちらも同様、半日なら上もごまかせる』
「医薬品の手配も必要ね」
『戦闘可能な艦にウィッチを分配配置しよう。各隊長を至急集結』
「機械化帝国にも支援要請を………」

 指揮官達が次々と指示を出していく中、エルナーはある不安に駆られていた。

(もし私の予想通りなら、あれはかつてのとは比べ物にならない力を手に入れているはず………勝てるのでしょうか? 彼女達の力を結集させても………)



「オペレッタ、リーダークラスリンク。リーダー権限による時空間探索の結果表示要請」
『こちらオペレッタ、リーダークラス認識。当該スペースを中心とした周辺バース探索を実施、しかし目標は認識されず』
「やっぱ隠れてやがるのか」

 攻龍の一室で行われていたジオールの通信を、後ろから見ていたエモン・5が舌打ちする。

『エモン・5とウェルクストラ両名からのデータは受諾済み、目標存在の実在は確認できましたが、接触は偶発的の可能性が高いです』
「偶然でRV壊されてりゃ世話ねえよな………」
「壊されたのはRVだけじゃないでしょう。ヒーリングカプセルに入るなり、治癒能力者に頼むなりしてきた方が………」
「一応、傷は塞がってるぜ。それにRVがすぐに直せない以上、戦じゃ役立たずだからな」
「本当なら、リーダー権限で強制帰還と強制入院させたい所なのだけど」
『受け入れ準備は完了しています』
「それをしないってのは、気付いてるんだろ? 武装神姫達は何かを隠してる。オレのウェルクストラもな。一斉に寝ちまったのはその証明だ」
「何を隠してるかは、気付いてる人は何人もいるわ。オペレッタもその可能性を指摘している。だから、皆には言えないのだけれど」
「オレが武装神姫のマスターって事は、ここにいなきゃならねえ理由があるって事か」
「門脇艦長に頼んで、ブリッジに貴方の席を用意してもらってるわ。何かあったらそっちで待機していて。オペレッタはリンクを常時フルリンク、有事に備えておいて」
「軍師なんて柄じゃねえんだがな………」
『了承しました』

 エモン・5は一応ブリッジ配属を受領し、そのまま甲板へと出て行くと、背中からキセルを取り出し、一服し始める。
 その目は虚空を鋭い目で睨みつけていた。

「さあて、あとどれくらいで来る………?」

 紫煙と共に吐き出された呟きは、そのまま風に流されていった。



「ふあああぁぁ………」
「ユナ、遅いですよ」
「ごめんエルナー、急に寝てって言われても~せっかく芳佳ちゃん達と打ち上げパーティーの準備でもしようかって話してたのに~」
「それはまた後にしておいた方がいいでしょう。さあ早くご飯食べてください。でないとユーリィに全部食べられますよ」
「それはまずいわ!」

 最後の一言で慌てて食堂に向うユナの背中を見ながら、エルナーは戦力の配備状況を検索する。

(各戦闘航空団は戦闘可能な戦艦や空母に配備、弾薬・医薬品含む回復アイテム・その他配備は完了。問題は時間ですね………)
「エルナーさん、こちらはいつでもいけるわ」
「ああミーナ、予定していた八時間は過ぎました。武装神姫達の様子は?」
「皆目を覚まして準備始めてるそうよ。ストラーフも起きてきたから何で急に寝ちゃったのか聞いてみたけど、そうしなければならないと思ったから、って言ってたわ」
「そうしなければ、ですか」
「ねえ、オフレコで構わないわ。あなたは何を知っているの?」

 先程までの雑談とは打って変わって、鋭い視線で質問を投げかけるミーナに、エルナーはしばし考えてから話し始める。

「伝説の神と戦う事を、考えた事はありますか?」
「神? そこまでは分からないわね。けれど、この世界だと伝説や神話で怪物、恐らくはネウロイの古い姿なんでしょうけど、戦ったウィッチ達の話は多いわ」
「だとしたら、それに一つ加わる事になるかもしれません」
「相手が、神様だって言うの? さすがにそれは………」
「冗談では有りません。もし私の推測が正しいのなら、相手は本物の神、と言って差し支えない相手です。そう、私のような光のマトリクスが生まれる原因ともなった………」
「!? それは………」
「エルナー、門脇艦長とガランド少将が最終調整を相談したいそうよ」
「分かりました、今行きます」

 説明の途中で、ポリリーナがエルナーを呼びに来、そこで説明は途切れる。

「神………? 機械を統べる者、神、一体それは………」

 ミーナの疑問は、間を置かずして解かれる事になる………


「おはよ~」
「あ、ユナさんおはようございます」
「ユナさん遅いですぅ」

 食堂に入ったユナに、片付けをしていた芳佳と、大量の空食器を重ねているユーリィが声をかけてくる。

「え~と、あたしの分残ってる?」
「はい、ちゃんと残ってますよ」
「あ、ありがとうって白香!? 大丈夫なの?」

 食事の載ったトレーを運んできたのが、前の戦いで無理をし過ぎて母星送りになったはずの白香だった事に、ユナが驚く。

「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「いや~、あの時は白香のお陰で助かったし」
「そうですよね。私、自分より強い治癒魔法初めて見ました」

 礼を述べながらユナは朝食に手を伸ばし、洗い物の手を一時休めて芳佳も感心の声を上げる。

「あの時は私も必死でしたから。それに玉華様がこちらにいた方がいいとおっしゃって」
「あ~~、また何か来るんだっけ? ようやく終わったと思ったのに~」

 エルナーに言われた事を思い出し、ユナが食べかけのトーストを咥えたまま表情を暗くする。

「あ、ユナおはよう………」
「亜弥乎ちゃん? どしたの、疲れてるけど………」
「お姉様達が、まだ直ってないのにこっちに来るって言うから、鏡明と一緒になんとか止めてきた………」
「二人共しばらく動けないって美鬼さん言ってたよね? ダメだよ無茶しちゃ」
「そう言ったんだけど、私が操られた時の借りを返させてもらうって聞かなくて。鏡明が直ってないなら足手まといですって言ってたよ」
「鏡明さんも結構言う時言うよね………」
「坂本さんも無理して一日半目覚ましませんでしたし………ミーナさんとお父さん二人して今度こそ出撃禁止だって言ってました」
「う~ん、でも芳佳ちゃんみたいなウィッチの人達いっぱいるし、なんとかなるよ♪」
「そうですね」

 楽観的なユナに芳佳も同意しながら、食後のお茶を入れ始める。
 ちなみに、ユーリィはまだ朝食を食べ続けていた。



「全員、準備できてるな」
『はい!』

 攻龍艦内で、冬后の確認にソニックダイバー隊とGの天使達が同時に答える。

「予想では、数時間以内に敵襲があるそうよ。臨戦態勢を維持していて」
「でも、一体何が来るんですか?」
「また大きいワームか何か?」
「小型くらいならこれだけのメンバー揃ってたら問題ないけど」
「そう簡単には行きそうにないと思うけど………」

 ジオールの宣言に、皆が口々に疑問や楽観を口にする。

「問題はそこなんだよな~親玉が来るって話もあるが、どんな奴だか」
「巨大なコンピューターとか、大っきい脳みそとか」
「う~ん、有り得る」
「もうちょっと現実的に考えなさい」「SFの見過ぎよ」

 冬后が頭をかきながら唸るが、亜乃亜の予想に音羽が腕組みして頷き、瑛花とエリューが横目で睨みつける。

「ま、あんまり緊張してても無駄なんじゃない?」
「準備万端、いつでもいける」
「エモンの以外整備も万全だし」

 エリーゼとティタはやる気まんまんで答え、マドカも笑顔で答える。

「いや、あいつはそんな簡単な相手じゃないと思う」

 そんな皆をたしなめるように、予備員として準備していたアイーシャが呟く。

「あいつって言ってもな、エモンって奴以外誰も見てないのがどうにも」
「けど、あれは…」

 言葉の途中で、アイーシャの動きが止まる。
 皆が訝しく思う間も無く、突然アイーシャがその場に跪き、己を掻き抱くようにして震え始める。

「アイーシャ!?」「ど、どうしたの?」

 突然の事に音羽とエリーゼが驚いて駆け寄ろうとするが、それに続くようにティタもその場に崩れ落ちるように膝をついた。

「ティタも!?」「まさか、またハッキング!?」

 亜乃亜とエリューが驚く中、二人は申し合わせたように首を横に降る。

「違う、これは攻撃じゃない」「来たよ、あいつが………」

 呟いた二人が同時に視線を上に向け、全員それに吊られて思わず天井を見上げる。

「一体、何が来るってんだ………」

 皆の気持ちを代弁するように、冬后が呟いた………



「な、何よこれ………」「マイスター、気をしっかり」

 カルナダインの一室で、突然感じた重圧としか言いようのない感覚に、フェインティアは思わず壁にもたれかかり、ムルメルティアが励ます。

「まさか、ここまでとはね………」

 ここ数日で一応敵対の意思無しと判断され、解析のためにカルナダインに移転、幽閉されていたフェインティア・イミテイトが、オリジナルと同じような苦悶に近い表情を浮かべながら、思わず軽口を叩く。

『演算処理に謎の負荷増大!』『電子攻撃の類は感知されず。原因不明、原因不明』

 カルナとブレータが同時に異常を知らせる中、よろめきながらクルエルティアとエグゼリカが室内へと入ってきた。

「これは一体、何?」「何か知ってるんですか!?」

 全てのトリガーハートが異常を感じる事態に、フェインティア・イミテイトも顔を歪ませながら口を開いた。

「多分私を、いやヴァーミスを一軍ごと乗っ取ったあいつだ。前に接触してきた時はコントロールコア越しだったけど、こんなに凄まじい奴だったなんてね………」
「カルナ! 臨戦態勢! 全方位探索!」
『り、了解!』
「はは、ここまでふざけた奴とはね………」

 まだ見ぬ相手に恐怖するという、ロールアウトされてから初めての事態に、フェインティアは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


「あ、あああ………」
「亜弥乎ちゃん! しっかり!」
「こ、怖いよユナ………」
「これは、威圧? まだ姿も見えてないのにこれ程………」

 震え上がる亜弥乎をユナが抱きしめ、隣では白香が思わず防護シェルの中へと退避する。

「サーニャ! 大丈夫か!」
「分からない………これが何か分からない………」

 別室では、サーニャの元々色白の顔から完全に血の気が引き、魔導針は異常を示す赤の明滅を繰り返している。
 エイラが必死になって声をかけるが、エイラ自身も得体の知れない威圧感を感じていた。

「未来が、何モ見えない………何ガ来るンダ!!」



「各艦から通達! ナイトウィッチ達が次々倒れてるそうです!」
「電探に異常発生! 原因不明!」
「全艦に非常事態宣言! 第一種戦闘配置!」

 大和のブリッジに異常を示す報が続々届き、杉田艦長が即座に臨戦態勢を指示する。

「一体、何が起きてるんでしょうか?」
「起きてるのでなく、これから何が起きるか、だ」

 副長の呟きに、杉田艦長は思わず返した言葉に自分自身が驚く。
 そこで、突然ブリッジが暗くなった。

「なんだ、曇ったか?」
「違う! 空を!」

 突如として暗転した視界に皆が首を傾げかけた時、誰かが叫んだ。
 空が、正確には見渡す限りの上空に漆黒の何かが広がっていた。
 それが、巨大な渦、つまりは今までに無いほどの巨大な転移ホールだと気づけた者は、ほんの数名だった。

「何て事でしょう………」
「ウソ、ではないようね………」

 プリティー・バルキリー号のブリッジで、転移ホールに気付いたエルナーとポリリーナが思わず呟く。
 直後に、周辺の艦艇、その中でも臨戦態勢の少女達が乗った艦のみが、虚空へと吸い込まれていく。

「対ショック体勢! 対ショック体勢!」
「しゃがむか、何かにつかまれ!」
「これで一体何度目だ!」
「考えたくもないわ!」
「来るぞ!!」

 指示と怒声が響く中、幾つもの艦艇が、転移ホールへと消えていった。



「船体停止したわ!」
「周辺状況を確認!」
「これは………」

 転移が終了したのか、動きが止まったプリティー・バルキリー号のブリッジで素早くエルナーの声が飛ぶ。
 外部カメラが写しだした外の光景に、宮藤博士は絶句した。
 それは、無数の色が不規則に入り交じる異常な空間で、周辺には一緒に吸い込まれた艦艇が浮かんでいる。

「まさか、ここは宇宙サルガッソー?」
「いえ、似ていますが違います。ここは次元の間。どこでもあってどこでもない、世界と世界の隙間です」

 見覚えのある場所に似ていたポリリーナの言葉を、エルナーが訂正する。

「各艦に連絡! 状態を知らせて下さい!」
「攻龍とのリンクを…」

 エルナーが通信を回復させようとした時、重苦しい音が響き渡る。

「何だ今のは………」
「あ、あれは?」

 何か聞き覚えがあるような無いような音に、宮藤博士が外部映像を確認しようとするが、そこに映っていた物にポリリーナが気付いた。


「12時方向、謎の熱量確認! センサーにも感あり、全長不明!」
「見えている。だが、何だあれは?」
「歯車?」

 攻龍のブリッジ内でもほぼ同時にその存在に気付いた。
 それは、その奇妙な空間に浮かぶ巨大な歯車だった。


「カルナ!」
『今解析中! けど、何なんですかこれ!』
「ブレータ、映像拡大!」

 今だ重圧を感じる中、トリガーハート達はそれの解析に映る。
 拡大された映像を見ると、それは大小二つの歯車で、しかも歯車内部に無数のパーツが複雑怪奇に入り乱れ、そのどれもが蠢いている。

「こんな物、見た事が無い………」

 異様としか言いようのない存在に、エグゼリカが絶句する。
 映像を更によく見れば、その謎の歯車を中心とした、巨大な人影にも見える存在が虚空に佇んでいるがようやく分かった。

「こいつが………全ての元凶って訳?」

 フェインティア・イミテイトが確信を突く言葉を発していた………


「外を見たか!」
「今見てるわ」
「あれは一体何!?」

 ブリッジに飛び込んできた美緒とミーナに、振り向きもせずにポリリーナは答える。

「あれが黒幕なのか! あれは一体何なのだ!」
「分からないわ………ただ凄まじい力を秘めてるのは確かよ。深く暗い、闇の力を………」

 ポリリーナの頬を、冷たい汗が滑り落ちる。
 しかし、エルナーは無言でその謎の存在を見つめ、外部スピーカーのスイッチを最大音量で入れた。

「やはり、貴方だったのですね………機械化帝国初代皇帝、機械仕掛けの女神デア・エクス・マキナ!!」




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP36
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:572fd83b
Date: 2015/03/28 21:30
EP36


「機械化帝国初代皇帝、だと?」
「そう聞こえましたな」

 門脇艦長と嶋副長が、響いてきたエルナーの声に思わず反応する。

「各種センサー系の様子は」
「今だ目標が正確に捉えられません!」
「通信はノイズが入りますが、なんとか繋がってます!」
『こち……ペレッタ………一帯空間が不安定……規模エネルギー体確認………』
『こち…カルナ、目標の…ネルギー総量は恒星クラス………』
「恒星って、太陽並だとでも言うのか!?」
「それなら、センサーや通信の異常が説明できます。エネルギー総量が違いすぎて、攻龍の方が耐えられないんです。しかし、放射線の類は全く感知出来ないので、何のエネルギーか全く不明です………」

 冬后が思わず叫ぶが、独自に解析して結論に辿り着いた周王が淡々と説明する。

「恒星並か………そんな者とどう戦えばいいのだ………」

 門脇艦長の言葉は、ブリッジ内の心境を、もっとも端的に表していた………



「あ、ああ………」
「シュナウファー大尉! しっかりしてください!」

 魔導針を出した状態で、半ば放心しているハイデマリーを、ヘルマがなんとか正気付かせようと揺さぶるが、ハイデマリーは放心したまま、小刻みに震えている。

「一体どうしたんですか! 大尉!」
「ハイデマリーだけじゃない。今ここにいるナイトウィッチは、どれも似たような状態だそうだ」

 涙目になりながらもハイデマリーを揺さぶるヘルマに、ブリッジにいたはずのガランドが姿を表す。

「どういう事ですか少将!」
「簡単よ、あいつが化け物すぎるってだけ」

 そこへ、フェインテイアとフェインティア・イミテイトがお互い肩を貸しながらガランドの後ろから姿を見せる。

「対電子戦の最高ランク防護を施したトリガーハートですらこうなるんだから、有機体が感じたら、そうなるでしょうね………」
「ふふ、恐ろしいってこの事をいうのかしら………」

 お互い元敵だったという事すら吹き飛ぶような重圧に二人は晒されながら、ふらつく足取りでハンガーへと向かっていく。

「な、何をするつもりですか!?」
「何って、出撃に決まってるでしょ」
「そんな状態で戦うつもりなんですか!?」
「誰かが先陣を切らなければ、戦う前に負ける。私も行こう」
「待って下さい、マイスター」

 ガランドも続こうとする中、ムルメルティアが止める。

「あんたは無理して来なくていいわよ。どうせ、あの化け物相手じゃサイズ差ありすぎるし」
「いや、無論私もマイスターと共に参戦する。が、まだ最終作戦は発動していない」
「最終作戦?」
「もう直始まるはずだ」
「あのそれは………」

 ムルメルティアが何か意味不明な事を言うのに首を傾げたヘルマだったが、それは唐突に始まる。
「認識誘発。記録映像個別投写開始」
「な、何これ………」「これは!?」「強制データ通信!? しかも有機体にまで!?」

 突如幾つもの電子音声を融合させたような、奇妙な声が響いてきたと思うと、その空間にいた者の脳内全てに、突然ある光景が幻像のように浮かび上がる。
 まず見えたのは無数の星が浮かぶ宇宙空間と、そこにある機械の光沢を持った惑星だった。



「な………あれは、見覚えが有るぞ………」
「機械化惑星だね………けど、何か違う?」

 美緒と宮藤博士が、脳内に浮かぶ映像がかつて突撃をかけた機械化惑星だと認識するが、その映像の機械化惑星は、前に見た物と違い、どこか暗く、重い雲に覆われている。

「これは、機械化帝国の創世時期のようです」

 エルナーが説明する中、映像は機械化惑星を拡大、それは濁ったスモッグと冷たい機械が並ぶ、現在の物とは似ても似つかぬ機械化帝国の様相を映していた。

「かつて、機械化惑星には絶対的な力を持った存在がいました。それは、機械生命体から発生した突然変異体とも、滅びた先史文明が残した超人工頭脳とも伝えられてますが、その正体は定かではありません」

 映像はまた変わり、その機械化帝国の中に君臨する存在と、使役される機械人達の姿を表す。

「その存在、デア・エクス・マキナは圧倒的な力で機械人達を支配、いえそんな生易しい物ではありません。機械人達を自分の帝国を維持する部品としか考えてませんでした。そしてその力を持って、周辺惑星を次々と征服していったのです」

 映像は、機械化惑星の周辺、緑や赤に彩られた惑星が、次々と鈍い機械の色に染まっていく様子を映し出す。

「終わりを見せないデア・エクス・マキナの欲望のまま繰り広げられる侵略戦争に、機械人達はただ絶望のまま戦場に赴き、帝国を支え続けました。しかし、ある時、とうとう使役されていた機械人達が反乱を起こしたのです」

 場面は、手に手に武器を持って立ち向かっていく機械人達の姿へと変わる。
 その先頭には、玉華に似た機械人の姿も有った。

「反乱を首謀したのは、私の先祖と言われています。けれど、あまりに相手の力は絶対的でした」

 エルナーの言葉を続けるように、プリティー・バルキリーのブリッジに来た玉華が説明していく。
 映像は、デア・エクス・マキナの前に無残に破壊されていく反乱軍の姿を映していく。

「光の救世主。敵対理由教唆」
「勝機の無い戦いに、反乱軍が絶望に閉ざされようとした時でした。彼女が現れたのは」

 打ちひしがれる機械人達の前に、突然光に包まれた一人の少女が現れる。
 光のためか、顔は判然としないが、その少女は反乱軍のリーダーに手を差し伸べ、そしてデア・エクス・マキナへと向き直る。

「彼女こそが初代の光の救世主、強大な闇の力を秘めたデア・エクス・マキナに唯一対抗出来る存在でした」

 エルナーの説明が続く。
 映像は、光の救世主と機械人が力を合わせ、エルナーを始めとした光のマトリクスを作り上げ、彼女達を先頭に、大々的な反撃へと映って行く。

「戦いは、長く激しい物でした。しかし、我々はとうとう決着をつける事に成功しました」

 画面は光の救世主を中心に、エルナーに似た巨大なロボット、光のマトリクスの集合体・エルラインがデア・エクス・マキナに光の力が込められた砲撃を撃ち込む所だった。

「光の救世主とエルラインの力によって、デア・エクス・マキナは次元の間に封印されました。それで、全てが終わったはずでした」
「けれど………」

 そこからは、エルナーも玉華も知らない映像だった。
 次元の間に封印されたデア・エクス・マキナの体が、少しずつ変化していく。

「………次元の狭間に封じられてもなお、諦めていなかったのですね。彼女は、あまりに執念深かったのです。次元の間で、傷ついた己の体を修復、そして改造を重ねていったのでしょう。しかし、封印はあまりに強固で、打ち破る事は出来なかった」
「だから、方法を変えた。そして、長い長い年月の果てに、貴女は辿り着いた。次元の間から、外の世界に干渉する方法に!」

 映像は、デア・エクス・マキナの前に、幾つもの世界の映像が現れる。

「周知事項、最終目的」
「そして知った。幾つものパラレルワールドの存在と、そこで自分と同じように世界を狙う機械体の存在に。それらを知った貴女は、前よりも遥かに恐ろしい野望を思いついた。この次元の間から、数多の機械体達を操り、その全てを手中にする事を!
今までの一連の事件の真相、それはデア・エクス・マキナによる、多次元世界同時侵略!!」
「多次元世界…」
「同時侵略、だと………」

 エルナーが辿り着いた、あまりに壮大過ぎるデア・エクス・マキナの野望に、ポリリーナと美緒は絶句するしかなかった。
 いつしか映像は消え、おぼろにしか見えなかったデア・エクス・マキナの姿が露わになる。

「なにあれ? さっきよりはっきり見えるよ」
「先程までの強制データ通信の影響でしょうね」
「この不安定な次元で自分自身をはっきり認識させる為だったのね」
「つまりは自分でちゃんと手を下すための前フリって事か」

 露わになったその姿に、誰もが絶句した。
 それは、中央に巨大な大小の歯車を内包し、ケープを纏った女神像のような姿をしている。
 だが、その体もケープも、そして顔すらも無数の小さな機械と回路で構成されており、その全てが生物のように蠢いていた。



「多次元世界同時侵略………そんな事が………」
「Gですら前例の無いケースよ。けれど、相手はそれが可能な力を持っている」

 聞こえてきた相手の最終目標に、エリューは茫然とし、ジオールはつとめて冷静に事実を述べる。
 その頬に、一筋の冷たい汗が流れ落ちていった。

「じゃああいつ、正真正銘世界征服が目的って事!?」
「それも、最低で三つ同時にです………」
「そんな奴と、どう戦えばいいの!?」

 ソニックダイバー隊も、想像を遥かに上回る敵の目的に、混乱状態に陥っていた。

「ダメだ、このままじゃ勝てない………相手は、あまりに強大過ぎる………」
「アイーシャ! でも!」
「大丈夫だよ。オ~ニャ~」

 アイーシャが誰もが密かに思っていた事を口にし、音羽がなんとか反論しようとするが、それよりも早くヴァローナが止める。

「無理、勝てない。強い」
「ティタ!」
「さっき見たよね。あいつは、誰に負けた?」
『あ………』



「ちょっと、そこのあなた!!」

 誰もが絶望しかけていた時、突然最大音量に増幅された声が響く。
 声がした方向を見た者達は、いつの間にかプリティー・バルキリー号の上に立ち、マイクを手にしたユナの姿を発見する。

「あなたなのね! 芳佳ちゃん達の仲間を迷子にさせたり、亜弥乎ちゃんの星を攻撃したり、エグゼリカちゃんの敵だった連中呼び寄せたり! 更には音羽ちゃんと亜乃亜ちゃんの世界にまで悪さした悪い子は!」
「悪い子、か………」
「彼女に取っては、その程度の認識なのね。501統合戦闘航空団、出撃準備!」

 ユナの言葉を聞きながら、美緒は苦笑と共に自分の手の中に湧いていた冷や汗が引いて行くのを感じる。隣にいたミーナもそれを感じたのか、視線を真っ直ぐにデア・エクス・マキナへと向けると二人共頷き、そして出撃準備に掛かる。

「私達も行くわよ」
「ユナだけには任せておけませんわ」

 先程までと違い、皆が強い意思を瞳に宿すのを見て取ったポリリーナとエリカも、光の戦士達に出撃体勢を取らせる。


 エグゼリカは周囲の変化に驚きながらも自分にかかっていた重圧が、すっかり和らいだのを感じる。

「姉さん!」
「分かってるわ、随伴艦リンク! トリガーハート全機出撃体勢!」
「あんなのに任せておけないわね!」

 エグゼリカが言わんとする事をクルエルティアが叫び、フェインティアも続く。

「ここまで色んな人に迷惑かけて、ただで済むと思ってるの!? 悪い事した子には、きついお仕置きが待ってるんだから!」
「お仕置き、か。攻龍第一種戦闘態勢、ソニックダイバー隊、発進を」
「ソニックダイバー隊、発進!」

 ユナの台詞に攻龍のブリッジの面々が苦笑を浮かべる。その苦笑の中に先程までの焦りはなくなっており、門脇艦長も苦笑しながら、戦闘態勢を発動、冬后がソニックダイバーを出撃を知らせる。

「出撃よ!」
「了解! アイーシャは休んでて!」

 スカイガールズ達が動き出すのを見た亜乃亜がジオールへと視線を向ける。それを受けたジオールが強く頷いてみせた。

「こっちだって!」
「秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニット発進!」

 音羽を先頭にソニックダイバー隊がスプレッドブースに向かい、亜乃亜も負けじと格納庫に向うのにジオールの号令が続いた。

「迷惑かけた人達全員に、ゴメンナサイしないとダメなんだから! 皆、力を貸して!」
「デア・エクス・マキナ、あなたの誤算は、幾つもの世界に干渉した結果、それぞれの世界から敵対する存在を呼び寄せてしまった事です! 行きましょう、ユナ。これが最後の戦いです」
「うん、分かったエルナー! アレの出番ね」
「準備万端、いつでもOKですぅ!」

 ユナの隣に来たエルナーとユーリィの言葉に、ユナは大きく頷き、右手を大きく上へと掲げる。

「ライトアーープ、エルライン!!」
「ノイですぅー!」

 ユナの言葉に応じ、エルナーを中心に無数の光が集結していく。
 光の救世主の切り札、光のマトリクスの集合体、エルラインが姿を表す。
 そこにユーリィが作り上げた強化パーツが装着され、エルライン・ノイへと更に変化していく。

「あれは、先程の映像に有った………」
「巨大ロボット!?」
「正体不明の巨大物体出現!」
「大丈夫、あれは最強の味方」

 エルラインの姿に各所で驚愕の声が出る中、そこで予想外の事が起きた。

「あれ、ストライカーユニットが…」
「芳佳ちゃん! ストライカーだけじゃないよ!?」

 突如として震電型ユニットが発光し始めたかと思った芳佳だったが、リーネが芳佳の全身までもが光を帯び始めている事に驚く。
 直後、芳佳がストライカーユニットごと、光球と化してその場から消える。

「え? 芳佳ちゃん?」

「アールスティアとディアフェンドが!?」
『随伴艦リンク係数、異常上昇! 原因不明!』
「エグゼリカ!?」

 随伴艦が光りだしかと思うと、それはエグゼリカの全身にまで広がり、エグゼリカがアクセラレーターも無しに光球と化してどこかへと飛んで行く。

「何今の!?」

「あれ、ゼロが!?」
「MOLP急上昇だと!? 80、90、100、120、まだ増える!」

 零神が光り始めた事に音羽が驚くが、光は音羽にも及んでいく。

「え? え? 何これ!?」
「大丈夫だよオーニャー、頑張ってね」

 僚平が驚く中、ヴァローナが音羽の頭から降りたかと思うと、零神ごと音羽が光球となって消える。

「な、なんだあ!?」

「ビックバイパーが!」
「プラトニックエナジー、異常上昇! こんな機能付けてないよ!?」

 ビックバイパーが光を帯びていき、亜乃亜も光に包まれる。
 マドカが付けた覚えのない機能に驚く中、亜乃亜がビックバイパーごと光球となって消えた。

「何が起きてるの!?」


「最終作戦、発動確認」「シールドデータ、全開放」「フルスペックにてサポート開始」

 突如出現した4つの光球を確認した各部隊の武装神姫達が、口々に同じ事を告げる。

『さあ、決戦の時です! 行きましょう、マスター!』


「ユナさん、何か変ですぅ!」
「変って何が!?」

 ユーリィがエルライン・ノイに向う4つの光球を指差すが、光球はそのままエルライン・ノイへと吸い込まれていく。
 直後、眩いばかりの光が周辺に溢れた。

「これは………」
「あ、あれ? ユナさん?」「ここは一体?」
「え? 芳佳ちゃんにエグゼリカちゃん?」
「ゼロに乗ってたはず、なんだけど?」「ううん、乗ってる感覚はそのままだよ」
「音羽ちゃんに亜乃亜ちゃんまで!?」

 エルライン・ノイの中に突如として現れた四人に、ユナは仰天するが、それ以上に四人は驚いている。

「ここって、あの大きなエルナーさんみたいなのの中!?」
「そのようです。けど………」

 芳佳が周囲から見える光景に、なんとか状況を飲み込むが、エグゼリカは現状をチェックしようとする。

「随伴艦とはリンクしてます………」
「そうか、そうだったのですね………!」

 誰もが状況を理解出来ない中、エルラインの中枢となったエルナーのみが全てを理解した。

「デア・エクス・マキナ、これが貴方の最大の誤算! 貴方は幾つもの世界に干渉し、その世界の守護者足りえる存在を見つけ、攻撃してきた。その結果、逆に集めてしまったのです。それぞれの光の救世主を! いまこの中にいる五人は、全員が光の救世主なのです!」
「光の」「救世主?」「私が?」「え~と、それって?」

 エルナーの宣言に呼応するように、溢れていた光はエルラインへと集結していく。
 だがその姿は変化していた。
 頭部にはウィッチのような耳、脚部にはストライカーユニットのような翼が付加され、腰の左にはトリガーハートが使用するような巨大なアンカーが、右にはソニックダイバーで使われる物を巨大化したソードが、両肩には砲撃艦とRVのキャノンユニットがそれぞれ巨大化されて装備されている。
 より強力な力を得た新しいエルラインの姿に、誰もが言葉を告げる事が出来なかった。

「すごい、すごいよ皆! これなら勝てる、絶対に勝てるよ!」

 溢れ出さんがばかりの光の力に、ユナが喝采を上げ、それを聞いていた他の四人が互いに顔を見合わせ、頷き合う。

「行こうよ」「トリガーハートの私が救世主と言われても少し困りますけど」「でも、何かカッコいいよね」「じゃあ、行きましょう!」
『私達の、そして皆の力で!』

 五人が声を合わせた所で、新たなエルラインが両腕を大きくかざし、臨戦態勢を取る。

「これこそ、五人の光の救世主の力が宿った、スーパー・エルライン! デア・エクス・マキナ、貴方の天敵です!」

 エルナーが宣言するのに相対するように、デア・エクス・マキナが動く。

「光の救世主」「最優先抹消対象確認」「全戦力を持って抹消開始」

 デア・エクス・マキナがスーパー・エルラインを確認し、宣戦布告の言葉が響く。
 その機械仕掛けの口が開いたかと思うと、ミラージュキャノンを上回るような強烈なビーム砲撃が発射される。

「危ない!」

 芳佳が思わずシールドを張ろうと魔力を込めると、スーパー・エルラインの前にとてつもなく巨大なシールドが発生。
 その場にいた全ての艦艇を庇うようにシールドは広がっていき、ビーム砲撃を完全に防ぐ。

「やるぅ♪」
「今度はこちらから! ディアフェンド!」
「MVソード!」

 お返しとばかりにスーパー・エルラインの腰からアンカーが飛び、デア・エクス・マキナを捉えようとする中、ソードを抜いたスーパー・エルラインが斬りかかる。
 そこで今度は向こうがシールドを発生させ、アンカーとソードが同時に弾かれる。

「アールスティア、ファイア!」
「ビックバイパー、《LASER》セット!」
「ライトニングシュート!」

 弾かれて体勢が崩れる中、スーパー・エルラインは両肩のキャノンと射撃形態のソードから一斉に砲撃、デア・エクス・マキナがシールド毎大きく揺らぐ。

「目標の戦闘力、修正」「更なる戦力増強必須」「複製体、投入」

 デア・エクス・マキナが宣言すると、その周辺空間の幾つもの箇所に小型の転移ホールが発生し、その中から無数の影が生まれていく。

「あれって………」
「いけません! コピー体を量産しています!」

 ユナが目をこらした所で、エルナーがそれが今まで戦ったありとあらゆる敵のコピー、しかも尋常な数でない事を確認する。

『あれはこちらで受け持つわ!』
『そっちは無理だけど、あれくらいなら!』

 ポリリーナとミーナの声に続くように、光の戦士と501統合戦闘航空団がコピー体へと向かっていく。

「随伴砲撃艦カルノバーン、アンカー突撃艦カルノバーン・ヴィス、旗艦クルエルティア出撃!」
「随伴砲撃専用艦ガルトゥース及びアンカー兼用艦ガルクアード、旗艦フェインテイア出るわよ!」
「ケジメは、つけさせてもらうわよ」

 トリガーハートが連続して出撃し、それに続くようにフェインティア・イミテイトも出撃していく。

「ソニックダイバー隊、フォーメーション! 攻撃開始!」
「各機、レーザーセット! 各個撃破を再優先!」

 瑛花の号令の元、零神を欠いた三機のソニックダイバーが陣形を組みながら立ち向かい、ジオールの指示の元にRV各機がレーザーを照射していく。

「総員出撃! 早くしないと、いい所全部持ってかれるぞ!」

 ガランドの命令が飛び、各艦からウィッチ達が一斉に出撃していく。

「攻龍、全兵装の使用を許可する。彼女達を援護」
「了解!」
「主砲、対ネウロイ用三式弾装填! 砲塔旋回、敵群に照準!」

 遅れまじと全ての船が攻撃準備を開始、コピー体に立ち向かう少女達を援護するべく、砲撃を開始する。
 幾多もの世界を巡った戦いの、最終決戦が今、開始された。


「来るわ!」「来るなら来なさい!」「返り討ちアル!」

 迫り来るヴァーミスのコピー体に、光の戦士達が一斉に得物を構える。

「ユナさんの邪魔はさせないですぅ!」
「ユナの所には行かせないんだから!」

 先陣を切り、ユーリィの双龍牙が光弾を乱射し、亜弥乎の放電が敵を捉えていく。

「バッキンビュー!」「食らいなさい!」

 放電で動きが止まったヴァーミス・コピーにポリリーナと舞の攻撃が叩き込まれていく。

「マリ、アレフチーナ、かえで、葉子、なるべく相手の動きを止めて! 詩織と芳華と姫は後方から援護! 舞、麗美、ルミナーエフは私と攻撃! エミリーと沙雪華は漏れた敵を狙って!」

 ポリリーナの指示が素早く飛び、お嬢様13人衆は素早くフォーメーションを組んでいく。

「我々は遊撃を!」「援護は無用!」「出鼻をくじいてくる!」

 そこへ鏡明、剣鳳、ミサキが突撃をかけ、敵陣を混乱させていく。

「エリカ7! 私と共に攻龍周辺に! まだまだ敵は湧いてくるわ! マミとルイは前衛、ミキとセリカは後衛! アコ、マコは攻龍の前部、ミドリは後部甲板で迎撃従事!」
『はい、エリカ様!』

 エリカが指示を飛ばしながら、自らもエレガントソードを手に向かってきたヴァーミス・コピーを斬り裂く。

「全く、まだこんだけ手駒残してたなんて!」
「残していたんじゃなく、これを造るための準備をしてたんだわ! 最悪、前回の比じゃない数が来るわよ!」

 エリカが次々とエレガントソードでヴァーミス・コピーを屠っていくが、次から次へと湧いてくる事に、ポリリーナがある確信を得ていた。

『……夫ですか………こ……リューディア。皆さん大丈夫ですか!?』
「リューディア! そちらから状況が観測できる!?」
『現状は把握してます! ありったけの物資を今用意してます!』
『こちらプリンセス・ミラージュ、オペレッタと現在転送座標を検索中! 確定次第、そちらに向かいます! あと10分程待っててください!』
『こっちも座標が来たらワープに入ります! 出力が足りるかどうかは不明ですが………』
「無茶はしないで! ここはかなり空間が不安定よ!」

 ポリリーナが聞こえてきた通信に叫んだ所で、視界に大きな影が見えてくる。

「デカいの来たわよ!」
「カニさんみたいですぅ!」

 舞とユーリィが指摘した通り、大型のサイドアームを持つ大型ユニットがこちらへと狙いを付け、サイドアームに内蔵された大口径ビーム砲が燐光を帯び始める。

「ストライク・ウィッチーズ、フォーメーション・ライブラ! 光の戦士を援護!」

 ミーナの指示の元、501のウィッチ達が即座に前へと出てシールドを発生、発射された大口径ビームを受け止める。

「結構、きつい………!」
「宮藤の分まで頑張るんだ!」

 予想以上の威力にリーネの口から思わず苦悶が漏れるが、バルクホルンが叱咤して堪える。

「行きなさいカルノバーン・ヴィス!」「行けガルクァード!」

 そこにサイドアーム双方にアンカーが突き刺さり、強引に砲口がずらされる。

「今よ!」
「行くよウルスラ!」「はい姉さん」
「なかなかやりがいのある相手だな!」「無理すんナ姉ちゃん!」

 そこにミーナの号令の元、ホルス1号機、2号機に乗ったハルトマン姉妹とユーティライネン姉妹がサイドアームに攻撃を掛ける。

「私達も!」
「レ~ザ~発~~射~~~」

 光の戦士達もまず厄介なサイドアームを破壊するべく、総攻撃を仕掛ける。

「再発射させないで! その前に破壊を!」
「どけぇ! 烈風斬!!」

 トリガーハート、ウィッチ、光の戦士の攻撃を食らってダメージを負っていたサイドアームの一本を、美緒が一刀の元に斬り飛ばす。

「美緒! 大丈夫なの!?」
「ああ、何か体が軽い。全然魔力の低下を感じないんだ」
「それは………」
「これのお陰です」

 ミーナが驚き、美緒自身も首を傾げる中、美緒の傍らにいたアーンヴァルが虚空に手を伸ばす。
 戦闘のドサクサで気付きにくかったが、周囲には光の粒子のような物が無数に舞っていた。

「スーパー・エルラインの光の力の余波がこの辺に満ちてるんだ。常時弱い回復がかけられてる」
「だから、これがある限りマスターも戦えます」
「はは、それはいい。瓶詰にでもしておきたいくらいだ」
「それはちょっと………」

 ミーナの傍らにいたストラーフの説明とアーンヴァルの捕捉に、美緒は久しぶりに豪快に笑い、ミーナは少しだけ顔をしかめる。

「ぼさっとしてる暇は無いわよ!」

 誰かがそう叫びながら、もう片方のサイドアームがビーム砲撃で吹き飛ばされる。
 ビーム砲撃が放たれた方向を見たミーナと美緒は、そこに大型ビーム砲を構えたフェインティア・イミテイトの姿を発見する。

「あ、貴方イミテイトの方!?」
「どういう風の吹き回しだ?」
「勘違いしないでね。貴方達の味方になったつもりはないわ。ただ、私を利用してくれた奴には、きっちりお返しさせてもらうだけ」

 そう言いながら、フェインティア・イミテイトはカルナダインに用意されていた予備パーツで急造した大型ビーム砲を構える。

「修理してあげた分、きっちり働きなさい!」
「あんたが直したんじゃないでしょ」
「ぐっ」
「マイスター、今は作戦中だ」
「解ってるわよ、ガルトゥース サイティング、ファイアー!」

 フェインティアとフェインティア・イミテイト、ムルメルティアの砲撃がサイドアームを失った大型ユニットへと炸裂する。

「一気に行くわよ!」
「総攻撃!」

 残った砲塔から弾幕を繰り出す大型ユニットに向けて、光の戦士、ウィッチ、トリガーハート、武装神姫の一斉攻撃が叩き込まれ、それでも尚激しい抵抗をしていたが、程なく飽和攻撃の前に爆散する。

「よっしゃ、やったわよ!」
「すぐ次が来るわ!」
「残弾を確認! 少ない人は一度帰艦を!」
「敵影接近、数約50!」

 衰えぬ戦意の中、少女達は激戦を続けていく。



「兵装ありったけ用意しろ! 幾らあっても足りねえぞ! いつ補給に戻るか分からねえし、他の連中が持ってく可能性もある!」
「はいおやっさん!」
「シューニアの準備は出来てる?」

 大忙しの攻龍の格納庫に、待機していたはずのアイーシャが姿を現した事に皆が驚く。

「出来てはいるが………出る気なのか?」
「皆戦ってるけど、音羽が抜けた分を誰かが補う必要がある」
「けど、体が………」
「大丈夫、あたしがサポートする」

 驚いた他の者達も心配する中、アイーシャの肩にいつの間にかヴァローナが座っていた。

「戦力はまだまだ必要になるよ、猫の手も借りたいって言うんだっけ?」
「病弱な猫の手を借りる馬鹿がいるか」
「だから大丈夫だって」

 睨みつけてくる大戸に向って、ヴァローナはある映像を立体投写する。
 そこでは、無理をし過ぎて戦線離脱したはずの美緒が、最前線で剣を振るう姿が有った。

「こいつは?」
「スーパー・エルラインの副次効果、生体活性因子が常時散布されてるよ。だから彼女もこの通り」
「美緒が戦えるなら、私も戦えるはず」
「………冬后大佐は何て?」
「作戦開始前から、有事に合わせて出撃と言われてる」
「いいだろう、シューニア・カスタムを出すぞ!」

 大戸の声が響く中、アイーシャはスプレッドブースへと向かう。

「待っててみんな、今行く」
「オーニャーの分も頑張るよ~」

 アイーシャの準備が整うのを待つように、ヴァローナがシューニア・カスタムの頭上に陣取る。
 程なくして、攻龍から皆から遅れた分を取り戻すようにシューニア・カスタムが発進していった。


「前方敵群に攻撃開始!」

 瑛花の号令と同時に、ソニックダイバーの火器が一斉に火を噴く。

「ワームDクラス、数は30、いえ35、まだ増えます!」
「まだるっこしい! 突撃~!」

 可憐がレーダーに映る正面敵影を確認するが、そこにエリーゼがMVランスを手に突っ込んでいく。

「2時方向、バクテリアンコピー多数!」
「《R―PUNCH》、《3WAY》セット、発射~!」
「Dバーストは控えて! どれだけ敵勢がいるかは不明よ!」
「無理、大きいの来た」

 RV各機もありったけの兵装で応戦するが、そこに大型ワームの反応が近付いてくる。

「Bクラス1、いえ後方にもう1体!」
「片方はこちらで!」
「けど、音羽が、零神がいないとクアドラロックは………!」
「大丈夫、私が音羽の代わりになる」

 攻めあぐねる瑛花に、突然シューニア・カスタムに搭乗したアイーシャが飛来し、とんでもない提案をする。

「アイーシャ!? 戦闘に出て大丈夫なの!?」
「大丈夫、今の所問題無い」
「今の所って!」

 体調を心配したエリーゼが慌てて近寄るが、そこに小さな影がアイーシャの傍らに立った。

「大丈夫だよ~、気付かない?」

 現れたヴァローナに言われ、周囲に漂う光の粒子に気付く。

「これは、生体反応が活性化? まるで宮藤さんの回復魔法のような………」
「これが漂ってる限りは、多少の無理は効くよ。もっとも大怪我とかしたら無理だけど」
「これなら私も戦える。周王からホメロス効果発動プログラムもインストールした。若干タイムラグがあるけど、電子戦特化のシューニア・カスタムなら発動させられる」
「タイムラグはあたしが補うよ、こっちにもプログラム回して」
「………冬后大佐」
『音羽の抜けた穴を埋めなきゃならん。こちらでもモニターしてるが、確かにアイーシャの生体データは安定してる』
「分かりました」

 最終判断を冬后大佐に求めた瑛花だったが、下された判断に静かに頷く。

「戦闘再開! 目標、接近中のBクラスワーム!」

ソニックダイバー隊が、向かってくるカメ型ワームに向き直る。

「周囲の小型を殲滅しつつ、フォーメーション!」
『了解!』
「行くよプロフェッサー!」
「プロフェッサー?」

 付き従ってきたヴァローナが妙な呼び方をする事にアイーシャは疑問を感じるが、カメ型ワームの攻撃を繰り出して来た事に、回避に専念する。

「中型接近! ソニックダイバー隊を援護!」「行くよご主人様!」
「大物は譲ってやる! 小物を掃討するのじゃ!」「急いでね、お嬢さん」

 淳子とハインリーケがハウリンとイーアネイラの助言を受けながら指示を出し、504・アルダーウィッチーズと506・ノーブルウィッチーズが一斉に弾幕を張る。

「周辺小型ワーム掃討率、90、95、100! クアドラロック発動領域確保!」
『クアドラフォーメーション発動!』
「たああぁぁ!」

 クアドラフォーメーション発動と同時に、ヴァローナが真っ先に飛び出し、FLO15 バトルスタッフを叩き込む。

「プロフェッサー!」「分かった」

 更にそこへアイーシャがシューニア・カスタムで触れる。

「座標固定、確認」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 ソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、そこへヴァローナとシューニア・カスタムの2機がかりでナノマシンデータが送りこまれ、ホメロス効果が強制発動される。

「セル転移強制固定、確認」
「アタック!!」
「総員援護!」

 そこにソニックダイバーのみならず、ウィッチ達の援護攻撃も叩き込まれ、カメ型ワームは爆発崩壊する。

「目標撃破、確認」「まだまだ来るよ!」
『ナノスキン残時間と残弾を留意しろ! アイーシャは体調もだ!』
「ナノスキン、残弾まだ充分あります!」
「私は大丈夫」「あたしも手伝ってるよ!」
「新たにB+クラス接近してます!」
「よ~し、次々来なさい!」
「こちらは504で受け持つわ! あっちの援護を!」
「心得た! 者共、妾に続け!」

 高い戦意のまま、少女達は次の目標に向かっていった。



「《T.MISSILE》セット、オートファイア!」

 エリューはロードブリテッィシュからミサイルを自動発射に設定、目前のウミウシ型ワームに次々叩き込んでいく。

「プラトニックエナジー、チャージモード! 各機体ともリンク! って何かきた~!!」

 攻撃しながらD・バーストのチャージを開始したマドカが、ウミウシ型ワームが発射した粘液状の何かを必死にかわす。

「きもい、退避」
「周辺警戒! 何を飛ばしてきたのか不明!」

 マドカとジオールも回避した所で、飛来した粘液はたまたま軌道上にいた小型ワームに直撃、凄まじいスパークが起きたかと思うと、小型ワームは黒焦げになって崩壊する。

「帯電流体!? そんな攻撃、ワームのデータになかったよ!?」
「混ぜたり変えたり試したり、色々してるかも」
「改造してるって事ね………距離を取ってレーザー主体攻撃、その後D・バースト一斉斉射!」
『了解!』

 ジオールの指示の元にRV各機は散開、レーザーを次々と撃ち込むが、ウミウシ型ワームは即座に破損箇所を修復させていく。

「セルの回復速度が異常に早い! 回復特化型!?」
「内部電圧上昇! 来るよ!」

 ダメージを瞬く間に回復させるウミウシ型ワームが、今度は全身から一斉に高電圧を帯びた粘液を吹き出す。

「シールド全開!」

 ジオールがとっさに叫び、RV各機がシールドを強化しようとするが、その前に粘液は別のシールドで阻まれる。

「ええい、なんじゃこの気色の悪い奴は!」
「ウミウシですね、食べても美味しくないそうです」
「扶桑人は生魚以外も食うのか………」

 ハインリーケを先頭に、ノーブル・ウィッチーズの隊員達がRVを守るように、シールドを張り巡らせる。

「貴方達………」
「見てて分かったわ! 残念ながら、こやつを倒すには妾達では火力不足じゃ!」
「時間はこちらで稼ぐ! そのユニットの火力なら破壊できるはず!」

 A部隊隊長のハインリーケとB部隊隊長のジーナが珍しく意見を一致させ、更にA・B両部隊が極めて珍しく共同でシールドでウミウシ型ワームを封じ込めに入る。

「動きはそれほど速くないわね~、能力に特化し過ぎてて色々鈍いみたい」
「まさにウミウシ、早い所仕留めてしまいましょう」
「ん?」

 肩口にいるイーアネイラの分析に、反対側から賛同する声にハインリーケがそちらを向くと、いつの間にかウェルクストラがそこに臨戦態勢で浮遊していた。

「そなた、確かあのパイプ男の武装神姫ではなかったのか?」
「機体が大破しているオーナーは役立たずなので、私が代理を。これからGの天使チームの援護に入ります」
「それなら急いで、うわっ!」

 言葉の途中で、ハインリーケのシールドに粘液が集中する。

「大尉!」
「一点集中!? 軟体生物のくせに!」
「これで!」

 A部隊の隊員達が驚く中、B部隊のカーラが固有魔法の氷結でなんとか粘液を凍らせて押し留めようとする。

「防御一辺倒じゃ押し込まれる! 攻撃を!」
「うわ、こっち来た!」

 ジーナがシールドだけでなく銃撃を叩き込もうとするが、ウミウシ型ワームは粘液の一点集中の目標を次々と変え、その威力と高電圧にウィッチ達はなかなか攻撃へと移れないでいた。

「仕方ないわね。少し足止めしてみましょう」

 イーアネイラはそう言いながら、どこかから竪琴のような武装を取り出し、それを爪弾き始める。

「何をして…」
「離れるか耳を塞いでなさい。メランコリックメロディー!」

 イーアネイラの爪弾く音が音の衝撃となってウミウシ型ワームを襲う。

「攻撃パターン解析完了、支援行動開始」

 更にそこへウェルクストラが突撃し、粘液の噴出口にアルヴォPDW11機関銃のアンチナノマシン弾の連射とSLUM-ハイマニューバAIミサイルを次々と叩き込んでいく。

「プラトニックエナジー、全機チャージ完了!」
「D・バースト発射体勢!」
「こちらも行くぞ!」
『ドラマチック・バースト!!』
『撃てぇ!』

 RV四機のD・バースト一斉発射と、ノーブルウィッチーズの一斉射撃がウミウシ型ワームに次々と叩き込まれ、とうとう回復の限界を突破したウミウシ型ワームは爆発四散する。

「目標消失確認!」
「すぐ次が来るわ!」
「キリが無い! でも撃墜手当増えます!?」
「その前に残弾確認じゃ!」
「こっちは一度補給に帰投する!」
「亜乃亜の方は…」

 506のウィッチ達が残弾が少なくなってきているのを確認している中、エリューが機首を返そうとした時、衝撃のような物がその場を突き抜ける。

「な、何これ!?」
「気付いておらんのか? 向こうはすさまじい事になっておる」
「危ないから近寄らない方がいいわね~」
「安全域はこちらで指定する」

 武装神姫達が警告するエリアの向こう側、そこではスーパー・エルラインとデア・エクス・マキナの激戦が繰り広げられていた。



「フォースミサイル!」
「S.MISSILE発射!」

 スーパー・エルラインから無数のミサイルが発射され、デア・エクス・マキナの創りだした複数の射撃ポッドを迎撃、壮絶な撃ち合いの末、ミサイルと射撃ポッドは双方爆散する。

「目標空間攻撃能力、上方修正」「中距離速射攻撃効果、微弱」「攻撃特性強化」

 デア・エクス・マキナは戦況を即座に解析、問題点を修正し、新たに砲身を伸ばした射撃ポッドを精製してくる。

「また来るよ!」
「させるかぁ!」
「アールスティア!」

 射撃ポッドの砲口にエネルギーチャージの燐光が灯り始める前に、スーパー・エルラインは剣を振るい、肩の砲を速射して射撃ポッドを撃破していく。

「大きいの来ます!」
「総員対ショック体勢!」

 デア・エクス・マキナからのビーム攻撃をスーパー・エルラインはシールドを張って防ぐが、明らかに威力を増しているビームに、その巨体が揺らぐ。

「何か、あいつどんどん強くなってない!?」
「そう見えます………」
「戦闘当初よりも攻撃パターン、攻撃エネルギー量、双方増大しています!」
「ワームだってこんなにすぐに強化してこなかったのに!」
「さすがにラスボスってだけはある!」

 一進一退を繰り返す戦闘に、スーパー・エルラインに乗り込んでいる五人は苦戦しつつも、戦意は衰えさせず、激戦を繰り広げる。
 激戦の最中にも、スーパー・エルラインからは背後で戦っている仲間達を守るように光の粒子が舞い散り、デア・エクス・マキナからは全てを殲滅するべく、コピー体が次々生み出されていく。

「また出てきてる!」
「デア・エクス・マキナのエネルギーは無尽蔵に近いとも思われます! 戦いが長引けば長引く程、こちらは不利になります!」
「けどっ!」

 音羽が普段零神を操作するのと同じ感覚で剣を振るい続けるが、また新たに出てくる敵影に思わず大声を上げ、エルナーは更に事態が悪化するような事を告げ、ユナも焦りを覚え始める。

「あっ!」
「芳佳さん!」

 そこへ、どんどん攻撃方法を進化、苛烈に変化させていくデア・エクス・マキナの攻撃がとうとう芳佳のシールドを大きく歪ませる。

「アールスティア、シールドエネルギー増加!」
「ビックバイパー、SHIELDフルパワー!」

 とっさにエグゼリカと亜乃亜が各々のシールドエネルギーを注入、スーパー・エルラインは大きく体勢を崩しかけるも、かろうじてシールドを持ち堪えさせる。

「芳佳ちゃん大丈夫!?」
「大丈夫です! ちょっと驚いたけど………」

 ユナが思わず芳佳の顔を見るが、芳佳は気丈な笑顔で返す。
 その言葉とは裏腹に、その顔には大量の汗が浮かんでいた。

「エルナー! このままだと…」
「転移反応確認! この反応は!」

 ユナが押されつつある事を口に出す直前、エルナーの言葉がソレを遮った。


「な、何だアレは………」

 他のウィッチ達を指揮していたガランドが、突然虚空から現れた巨大な艦首を見て絶句する。
 艦首に続き、これまでの戦いで覆され続けた常識を更に覆すような、とてつもなく巨大な艦体が姿を表していく。

「大丈夫、あの船は味方です」
「船、しかも戦艦だと言うのか………」

 ウィトゥルースが教えてくれた事を理解するのに、ガランドはしばしの時を要した。
 非常識な巨大さと思った白鯨型ワームよりも更に巨大な宇宙戦艦が、その全容を現した。

「永遠のプリンセス号だ!」
「リューディア艦隊も来たぞ!」

 光の戦士達が、見覚えのある戦艦とそれに続くように現れた小型、と言ってもそれもかなりの大きさを誇る宇宙船群に喝采を上げる。

「遅れましたユナさん! 今援護します!」
「全艦隊攻撃態勢! 目標、デア・エクス・マキナ!」
『ファイアー!』

 プリンセス・ミラージュとリューディアの号令と共に、次元の間へとなんとか転移してきた宇宙戦艦から無数の強烈なビームが発射され、デア・エクス・マキナへと叩き込まれる。
 容赦の無い一斉砲撃に、今度はデア・エクス・マキナの体勢が大きく崩れそうになる。

「ようし、一気に反撃よ!」
『おう~!』
「敵対戦力、増加確認」「迎撃内容修正」「戦力増強必須」

 心強い援軍を得た事で、ユナが上げた声に他の四人も続き、それを聞いたその場に戦う者達全てが、更に戦意を燃やす。
 それに対するように、デア・エクス・マキナは更に攻撃を激しく変化させていく。
 戦いは、更なる局面を迎えようとしていた………




[24348] スーパーロボッコ大戦 EP37
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:7e9d8eb4
Date: 2015/07/13 21:52
EP 37



「撃てぇ!」

 大和の46cm砲が轟音を響かせ、敵陣に風穴を開けた所に、ウィッチ達の放つ魔力を帯びた銃火が追い打ちを掛ける。

「必要以上前に出るな! 大和の援護に徹しろ! 艦砲の衝撃に巻き込まれるな!」

 大和のブリッジの真上で、北郷の指示が大和周辺に布陣しているウィッチに飛ぶ。

「………人手がある分、扶桑海事変の時よりはマシか」
「そうかもしれませんね」
「とんでもねえ修羅場潜ってませんかマスター?」

 北郷の隣で護衛にあたっている加藤も賛同する中、マリーセレスが思わず呆れるが、ちょっとでも油断すると押し寄せてくる敵群にあわててありったけの武装を構える。

「そもそもこのデカブツはなんでこうも次弾まで間が空くんですぅ! アナクロにも程があるですぅ!」
「無茶を言うな、これでも竣工当初よりは大分早くなっている」
「あっちの空飛ぶ大型戦艦はネウロイみたいな攻撃してますけど」

 加藤が大和の砲撃範囲より更に向こう、突如として現れた永遠のプリンセス号とリューディア艦隊が、ビーム砲を次々と発射している様を見つめる。

「見なかった事にしておけ。今の私達の仕事は、あちらの決着がつくまで、雑魚を受け持つ事だ」

 北郷は戦艦群の更に向こう、援護砲撃を受けて更に攻撃を増すスーパー・エルラインと、平然と反撃してくるデア・エクス・マキナへと視線を向けていた。

「戦線の維持を最優先させろ! 遊撃は統合戦闘航空団に任せるんだ! 前に出れば足手まといという事を忘れるな!」
『了解!』

 先日初陣を迎えたばかりの新人ウィッチと、自分を含めまともにシールドを張れない引退ウィッチ達に声を張り上げながら、北郷も自ら引き金を引いた。



「全複砲を順次斉射! ミラージュ・キャノンのチャージを並行!」

 ユナを援護するべく、プリンセス・ミラージュはその長い活動期間でも数える程しか記憶に無い、全力攻撃を行っていた。

『ミラージュ! こちらで受け持つので、一同後方に下がってミラージュ・キャノンのチャージを!』

 リューディアが自らの艦隊を前進させ、最強の破壊力を誇るであろうミラージュ・キャノンの準備を優先させようとする。
 だがデア・エクス・マキナの猛攻に、リューディア艦隊は何隻かが被弾し、前面に出るのは危険としか言えない状況だった。

「目標の攻撃力が更に増してきています! そちらのシールドの限界を突破されたら!」
『それはそっちもです! 被弾しているのが分からないわけじゃないでしょう!』

 リューディアの反論通り、デア・エクス・マキナの攻撃は、永遠のプリンセス号のシールドの弱い部分を何箇所か突き破り、その巨大な艦体から見ればまだ微小だが、着実にダメージが重なり始めていた。

『ミラージュもリューディアも無茶したら駄目だよ!』
『時間はこちらで稼ぎます!』
『ミラージュ・キャノンの発射準備を!』
『出来れば早めにお願い!』
『わあ! また新しいの出してきた~!』

 自ら先頭に立つスーパー・エルラインからユナ達が声を掛けてくるが、少しでも隙あらばデア・エクス・マキナの攻撃はそちらへと集中していく。

「………これから永遠のプリンセス号は攻撃・防御を全停止、全エネルギーをミラージュ・キャノンのチャージに専念します。発射までの予測時間は200秒!」
『全艦、永遠のプリンセス号を中心に輪形陣! ミラージュ・キャノン発射まで護衛を!』

 英断を下したミラージュを守るべく、リューディアが永遠のプリンセス号の周辺に艦隊を配備してシールドを最大にさせる。

『ミラージュの準備が終わるまで、相手の注意をこちらに引きつけてください!』
「分かったよエルナー!」
「私が守りますから、皆さんで攻撃を!」
「分かった! 行くよゼロ!」
「行ってディアフェンド!」
「ドラマチック、バースト!」

 エルナーの声に従うように、五人の光の救世主達は、それぞれの力を発揮しながら、デア・エクス・マキナへと猛攻を掛ける。

「巨大戦艦、戦闘行動停止」「大規模エネルギー充填確認」「最優先攻撃対象変更」

 永遠のプリンセス号の変化に気付いたデア・エクス・マキナが攻撃をそちらに向けようとするが、攻撃を開始する直前、射撃ポッドは斬撃とアンカー、無数のレーザー砲撃で撃破される。

「貴方の相手はこっちよ!」

 永遠のプリンセス号の前で、仁王立ちしたスーパー・エルラインが剣を振りかざす。
 しかし、新たに製造された射撃ポッドはスーパー・エルラインを素通りして永遠のプリンセス号へと向かっていく。

「ちょっと!? 無視なんてヒドイんじゃない!?」
「人の話なんて全然聞いてないみたいです!」
「行って、ディアフェンド!」

 まさか完全に無視されるとは思わなかったユナと芳佳が慌てる中、エグゼリカがアンカーで射撃ポッドをキャプチャー、スイングして向かっていった他の射撃ポッド諸共破壊していく。

「さっきまでこっち集中攻撃してたのに、割り切り良すぎ!」
「人格プロトコル無い機械体なんて大抵そういう物らしいよ」

 音羽は思わず愚痴を漏らしつつも剣を振るい、亜乃亜もそれに賛同しつつ、砲撃を続けていく。

「機体制御はこちらで行います! 各自で攻撃を!」

 エグゼリカが叫びながらもスーパー・エルラインを加速させ、皆もそれに合わせて攻撃と防御に専念する。

「右から3、4、まだ増えてる!」
「任せて! 速度は落とさなくていいから!」

 すれ違いざま、音羽が剣を一閃させ、次々と射撃ポッドを両断していく。

「上からも来てる! フォースミサイル!」
「こちらで防ぎます!」

 ユナが上空に向ってミサイル群を発射する中、向こうから放たれたビームを芳佳がシールドで受け止める。

「うわ、更に来た! プラトニックエナジー、チャージ確認!」
「私がまとめます! 行って、ディアフェンド!」
「ドラマチック・バースト!!」

 エグゼリカが放ったアンカーが新たに出現した射撃ポッドをキャプチャーして一箇所に集め、そこに亜乃亜が放ったレーザー爆撃がまとめて叩き込まれる。

「ミラージュ、残り時間は!?」
『あと50秒を切りました!』
「フルチャージまで充填してください! 時間はこちらで稼ぎます!」
「簡単に言わないでエルナー! わあさらに来たぁ!」
「まだ行けます!」

 悲鳴を上げるユナに、芳佳は持参していた回復ドリンクを一気にあおると、シールドに更に魔力を込める。

「半端な攻撃が効くような目標ではありません! 最大戦力を持って相対するべきです!」
「あれが一番強力だしね」
「でもなるべく早めに…ああっ!」

 エグゼリカと亜乃亜がエルナーに賛同するが、一瞬の油断か、スーパー・エルラインの手から剣が弾き飛ばされる。

「予備!」
「無いよ!?」
「ディアフェンド!」

 慌てる音羽とユナだったが、エグゼリカが即座にアンカーで剣を引き戻す。

「何個か抜けてっちゃった!」
『こちらで迎撃します!』

 わずかに攻撃の手が止まった隙を逃さず、射撃ポッドがスーパー・エルラインの脇を高速で通り過ぎて行くが、リューディア艦隊がかろうじて撃墜する。

「ミラージュ!」
『あと30秒!』
「ちょ、何か大きいの来た~!!」

 亜乃亜の絶叫が示す通り、スーパー・エルラインを上回る巨大で鋭角な機首を持った、大型砲撃ユニットが一直線に永遠のプリンセス号へと突撃しようとしているのに、全員が顔を青くする。

「させない!」

 ユナが加速していく大型砲撃ユニットを強引に抑えこもうとスーパー・エルラインを突撃させ、艦首を掴んで押し留めようとする。

「皆、力を貸して!」
「はい!」「分かりました!」「了解!」「OK!」

 ユナの言葉に続くように、芳佳、エグゼリカ、音羽、亜乃亜も力を振り絞ってスーパー・エルラインの出力を上げていく。

「抑え、きれません………! ミラージュ……!」
『あと15秒!』
「それまで、なんとか………!」

 エルナーがとても抑えるのは無理だと判断するが、それでもユナ達五人は抑えこもうと必死になる。
 そんな彼女達の努力を無視するように、大型砲撃ユニットの方が一斉に永遠のプリンセス号をロックする。

「ダメぇ!」
『よし、そのまま抑えておけ!』

 ユナが絶叫した時、声と共に大型砲撃ユニットに次々とコピー体や射撃ポッドが激突していく。

「うおりゃああぁ!」「カルノバーン・ヴィス!」「ガルクァード!」

 いきなり攻撃が飛んできた元を見ると、そこには強硬突破してきたらしい、ボロボロのバルクホルンやクルエルティア、フェインティアがありったけの敵を手当たりしだい、大型砲撃ユニットへと叩きつけていた。
 この予想外の物理攻撃に、大型砲撃ユニットはその軌道をずらされる。

「よおし、今よ! ライトニング・シュート!!」

 思い切って大型砲撃ユニットを跳ね上げたスーパー・エルラインは、その腹にありったけの光のエネルギーを込めたビーム砲を撃ち込み、大型砲撃ユニットを爆散させる。

『お待たせしました! ミラージュ・キャノン、最大出力チャージ完了です!』
「総員、砲撃線上から退避!」
「うわぁ! ここ危ない!?」
「早く退避を!」
「アールスティア! オートファイア!」
「大人しく食らって!」
「他の人達も退避してください!」

 退避がてら、ありったけの攻撃をスーパー・エルラインが放つ中、ミラージュ・キャノンの照準がセットされ、砲撃準備が整う。

『ミラージュ・キャノン、最大出力臨界到達しました!』
「お願い、ミラージュ!」
『ミラージュ・キャノン、ファイアー!』

 ユナの願いを聞くように、現状で最大の攻撃力を持つミラージュ・キャノンが、最大出力で発射された。
 周辺に眩い光が満ち溢れ、余波だけで小柄なウィッチが何人か吹き飛ばされそうになる。

「最大攻撃確認」「回避不能」「最大防御発動」

 ミラージュ・キャノンの砲声が轟く中、デア・エクス・マキナの声に気付いた者はいなかった。
 ミラージュ・キャノンが命中する直前、デア・エクス・マキナの眼前に黒い空間が現れる。

「あれって!」「転移ゲート!? でもあれだけの出力を転移しきれるはずが…」

 ユナがそれに気付き、エグゼリカが思わず可能性を幾つかシミュレートした時、それは起こった。
 今まで見てきた転移ゲートと違い、それは渦ではなく黒い波紋のような物が広がっており、そしてその黒い波紋の中に、ミラージュ・キャノンの超大出力ビームが飲み込まれていく。

「………え?」「何、何が起きてるの!?」
「ウソ! あれだけのエネルギーが!」

 芳佳、音羽、亜乃亜が絶句する中、ミラージュ・キャノンのビームは全てその黒い波紋の中へと消えていった。

「まさか、そんな事が………」

 エルナーですら絶句するが、本当の問題はその後だった。

「!?」「!!」「え…」「皆、最大防御シロ!!」

 感の鋭い者や、感知能力を持つナイトウィッチ達を凄まじい悪寒が襲い、最後にエイラがありったけの声で叫ぶ。

「手近の物と集結してシールド全開!」
「シールド最大出力!」
「一体何が!?」

 戸惑いながら、シールドを張れる者達や艦が最大出力でシールドを発生させる。
 それが、運命の分かれ目だった。
 デア・エクス・マキナの眼前の黒い波紋が、更に大きく揺らぐ。
 直後、そこから先程と同じミラージュ・キャノンの超大出力ビームが、ベクトルを真逆に、つまり永遠のプリンセス号へと向って放たれた。

「そんな!?」

 ミラージュですら信じられない光景が繰り広げられる中、永遠のプリンセス号の前にスーパー・エルラインが立ち塞がる。

「ダメエエエェェ!!!」

 ユナが絶叫する中、スーパー・エルラインが張ったシールドに反転したミラージュ・キャノンが直撃する。

「お願い、保って!」「アールスティア、ディアフェンド、リミッター解除! シールド全開!」「ゼロ、頑張って!」「プラトニック・エナジー最大出力!」

 ユナを中心に、他の四人もありったけの力を込めてシールドを張り続ける。

『全エネルギーをシールドへ!』
『こちらも!』

 ミラージュ・キャノンとスーパー・エルラインのシールドが凄まじいせめぎ合いを繰り広げ、拡散したエネルギーですら下手なビーム砲撃以上の威力を持っている事に気付いたミラージュとリューディアが少しでも被害を抑えるべく、シールドを張り続ける。

「ユナさ~ん!」「ユナ!」「ユナぁ!」「芳佳ちゃん!」「宮藤!」「芳佳さん!」「エグセリカ!」「エグセリカ!」「音羽!」「桜野!」「音羽っ!」「亜乃亜!」「亜乃亜さん!」「亜乃亜~!」

 仲間達の声が響く中、凄まじいエネルギーの攻防は数秒間続き、そして途切れた。



「被害は!」
「ソニックダイバー隊は全機反応有り! 雷神とバッハシュテルツェが一部破損!」
「スーパー・エルラインは健在! しかし、拡散したビームがかすめた艦に被害多数!」
「攻龍はレーダー系が焼き付きかけてます! 各部ダメージをチェック中!」
『こちらプリティー・バルキリー号! シールド発生装置がダウンした!』
『こちらカルナダイン! バーニア一部破損、シールドジェネレーター限界です!』
『こちら大和、被弾した第二格納庫付近で火災発生!』
『ウィッチ達に負傷者多数! 死人は出てないようだが、すぐに後退させる!』

 攻龍のブリッジ内で門脇艦長が状況を確認させるが、艦の内外から深刻な状況ばかりが飛び込んでくる。

『こちらリューディア、艦隊の半数以上が戦闘不能! 後退させます!』
『こちら永遠のプリンセス号、メインジェネレーターが非常停止、戦闘、航行共に不可能です!』

 スーパー・エルラインと共に最前線で直撃を受けた艦隊からは、更に深刻なダメージが伝えられてくる。

「今のは一体なんだ!? 攻撃がそのまま跳ね返ってきただと!」
『ミラーリンクシステムです!』

 嶋副長が思わず怒声を上げた時、それに返すようにカルナからの通信が入る。

「ミラーリンク?」
『任意空間を極限まで湾曲、もしくは同一線状に入出双方の転移ゲートを造り、相手の攻撃その物をベクトル反転して叩き返す、究極の防御システムです! 空間制御とその演算量、要するエネルギー量も桁違いで、チルダですら理論段階で頓挫してたのですが………』
「実用化してた訳ですね。これが切り札という事ですか」

 カルナの説明に、緋月だけが淡々と納得する。
 だがブリッジにいた他の者達には、今まで幾度と無く窮地を打破してきたミラージュ・キャノンが破られた事への衝撃が重くのしかかっていた。

「ソニックダイバー隊を一度帰艦、応急修理と補給を」
「一条、帰艦しろ! このままだとやばい!」
『無理です! 敵部隊の増援を確認! ナノスキン限界まで遅滞戦闘に入ります!』
「なんだと!?」

 門脇艦長の即断を冬后が知らせるが、瑛花からは予想外の返答が返ってくる。

「攻龍から援護射撃を…」
「レーダー系が半数以上機能しません! 補足射撃が不可能です!」
「マニュアル操作に移行するんだ!」
「りょ、了解! しかし、マニュアルだと砲撃速度がかなり低下します!」
「構わん! 無いよりはマシだ!」

 嶋副長は思わず怒鳴り返しながら、脳内にはかつてのワーム大戦の時を思い出していた。

(あの時と同じだ………このままでは、我々は………)

 明らかに危険な戦況の流れに、艦長と副長は密かに冷たい汗が流れるのを感じていた。



「全員無事か!」
「点呼急げ!」
「全員確認! けど負傷者多数!」
「このデカブツ、一応役に立ちやがりました!」

 とっさに部隊を大和の影に退避させた北郷が、すぐ間近をかすめていたビームに冷や汗をかきながら、状況を確認する。
 部隊の半数のシールドが役に立たない引退ウィッチを、残る半数のこの間初陣を飾ったばかりの新人ウィッチがガードする形となったが、運悪く被弾箇所のそばにいた者達が少なからず負傷を追っていた。

「大和の被害は!」
「被弾箇所で火災が起きてます! 現在消火活動中!」
「負傷者は損害を帯びてない艦に退避させろ!」
「マスター、新手が来やがりました!」

 マリーセレスが叫んだ通り、混乱状態となった隙を狙うべく、敵群が無数に迫ってきていた。

「負傷者の回収を急がせろ」
「章香!? 何を!」

 短い命令を出しながら二本の愛刀を抜き放った北郷に、加藤は狼狽する。

「何、回収の時間くらいは稼いでみせる」
「ならば、私も」
「だから、年増は引っ込んでてマリーちゃんに任せるですぅ!」

 向かってくる敵群に対峙する三人の背後で、無事だった者や負傷の軽い者が残弾を装填し、扶桑刀を抜き放つ。

「目的はあくまで防衛戦だ、無茶はするな!」
『了解!』

 残った魔力と戦意を奮い立たせ、ウィッチ達は迫り来る敵を迎え撃った。



「み、皆、無事?」
「な、何とか………」
「ダメージチェックを開始………」
「ゼロ、動ける?」
「し、死ぬかと思った………」

 スーパー・エルラインの内部で、五つの荒い呼吸音に、無数のアラートが重なって鳴り響く。

「エルナー、周りどうなってるの?」
「かなり被害が出ていますが、皆さんのお陰で致命的な事にはなっていない模様です」
「よ、よかった~………」

 ユナが胸をなでおろす中、他の四人はダメージチェックに追われていた。

「あ、あれ? 右足の感覚が………」

 先程まで感じていたストライカーユニットの感覚が無い事に芳佳が首を傾げる。
 スーパー・エルラインの右膝から先は、消失していた。

「アールスティア、出力急低下。ディアフェンドはかろうじて戦闘行動可能」

 エグゼリカが表示されるアラートを確認、スーパーエルラインの左肩の砲塔は半ばまで焼け焦げ、とても使用できそうになかった。

「ゼロ、左腕部消失!? 右腕は稼働可能、ナノスキン防護効果低下………」

 音羽が表示されているダメージに驚愕する。その通り、スーパー・エルラインの左腕は半ばから吹き飛んでいた。

「プラトニック・エナジーコンバーター、ヒートアウト寸前、Dバースト出力45%低下?」

 亜乃亜が表示を読み上げて顔色を変える。
 スーパー・エルラインの各所から白煙が上がり、限界以上にシールドを張った事で、各所にかなりの負荷が掛かっていた。

『ユナさん!』『ユナ!』
「あ、ミラージュ、リューディア、大丈夫だった?」
『なんとかシールドが持ちました! けど、エルラインが………』
『ユナ、下がって! 残存部隊でなんとか相手を…』

 リューディアがなんとか戦闘を続行しようとするが、そこで映像が大きく乱れる。

「リューディア!」
『被弾箇所で爆発発生!』『すぐに消化を!』『戦闘は困難です! 退避を!』

 通信の背後から聞こえてくる報告に、リューディアの顔色が失せていく。

『………ユナ、申し訳有りません』
「いいから下がって! まだ私達は頑張れるから!」
『……………』

 歯噛みするリューディアにユナは慌てて下がらせようとする中、ミラージュは無言である決意をした。

『ユナ、皆さんを連れて撤退してください。ワープシステムは無事ですから、皆さんをまとめて機械化惑星まで送る事は可能だと思います』
「ミラージュ!? 何を言って…」
『スタークラッシャーボムを使います』
「本気ですかミラージュ!」

 予想外の言葉に、エルナーも思わず言葉を荒らげる。

「スタークラッシャーボム?」「何それ?」「さあ?」
「まさか、惑星破壊兵器!?」

 聞きなれない言葉に芳佳を含め音羽と亜乃亜も首を傾げるが、エグゼリカだけがそれの正体を予見した。

『そうです。幾らデア・エクス・マキナが強力とはいえ、これを食らえば………』
「ダメだよミラージュ! 永遠のプリンセス号もボロボロだよ! そんな状態でそんな危ないの使ったら!」
『しかし、ミラージュ・キャノンが破られた以上、他に手段が!』
「何か、何かあるよ! だから!」
「せめて、ネウロイみたいにコアがあったら………」
「何か弱点とか無いの!?」
「一応、有る事は有るのですが………」
『え?』

 芳佳と音羽も必死になって考える中、なにげに呟いた言葉にエルナーが返答し、全員の声が重なった。

「エルナー! 何でそんな大事な事言わないの!」
「そうだそうだ!」
「落ち着いてください! 有るけど狙えないんです!」

 ユナと亜乃亜が同時に抗議の声を上げるが、エルナーが説明を続ける。

「ネウロイみたいに、隠してるとか?」
「いえ、デア・エクス・マキナの中央に巨大な大小の歯車が有りますね?」
「あのハイテクなのかレトロなのかわからないの?」
「あの歯車、クロノスギアこそがデア・エクス・マキナの本体なのです!」
「ええ? あんな目立つのが?」
「いえ、弱点を目立たせてるという事は…」
「LASER発射!」

 ユナや音羽が驚く中、エグゼリカはエルナーの言わんとする事を察するが、亜乃亜は我先に攻撃を開始する。
 スーパー・エルラインから放たれたレーザーは一直線にクロノスギアへと突き進むが、突然その軌道が湾曲したかと思うと、無数に分裂して霧散する。

「あれ? あれえ?」
「消えちゃった………」
「やっぱり………」

 撃った当人やユナも茫然とするが、エグゼリカだけは何か納得していた。

「クロノスギアは、複数の異相断層で覆われて、攻撃を完全に無効化してしまうのです! かつての戦いでも、どうやってもダメージを与える事が出来ず、封印するしかなかったんです!」
「つまり、それは………」
「インチキじゃん!」

 芳佳がいまいち理解しきれない中、ユナはものすごく率直な結論を導き出す。

「どうにか出来ない!? 何かこう、すごいSF兵器とかさ!」
「今のレーザーの拡散比率から異相断層の湾曲率、検知出来るエネルギーから断層の積層率をシミュレート、あのレベルが最低でも5層………」
「D・バーストがフルパワーでも一層破れそうにない………」

 音羽が打開策を問うが、エグゼリカと亜乃亜はむしろ絶望的な事を告げてくる。

「ユナ、ここは…」
「やってみないと分からないじゃん!」

 撤退を進言しようとしたエルナーを、ユナが強引に遮る。

「リューディアだけ残して逃げるなんて絶対ダメ!! だから、私はまだ頑張る!」
「私も、まだ行けます!」
「随伴艦損傷率37%、戦闘行動可能です!」
「右手はまだ残ってる! 充分行ける!」
「プラトニック・エナジー、再充填開始! まだ戦えるよ!」

 ユナに呼応するように、他の四人も満身創痍ながらも、闘志を漲らせる。

「行こう、みんな!」
『オ~!』

 勝機が未だ見いだせぬ中、スーパー・エルラインはデア・エクス・マキナへと向っていった。



「退艦命令が出た艦に、ヘリを派遣!」
「ソニックダイバー隊の残弾が少ない! なんとかして一時帰艦させろ!」
「506から弾丸補給のために着艦要請が来てます!」
「RV隊、格納庫内で緊急修理中!」

 攻龍のブリッジで矢継ぎ早と指示と報告が飛び交う中、一人だけ沈黙したままの男がいた。

(おかしい………これだけの力を持つ奴が、なんであの時オレを攻撃した?)

 エモンは未だ疼く傷跡に手を当てながら、黙考し続けていた。

(攻撃されなかったら、オレは気付かなったかもしれねえ………これだけの事が出来る奴が、なぜ存在がばれるような事をしやがった?)
『エモン! ちょっとパーツ足りないからクセルバイパーからもらうね!』
「後で戻せよ」

 マドカが返答を聞くよりも早く、エモンのRVをばらし始めてる事にエモンはわずかに眉を上げるが、それよりもどんどん大きくなっていく疑問の方に気を取られていた。

「何か考え事ですか」
「まあな」

 状況分析を手伝っていた緋月に声をかけられ、エモンは生返事を返す。

「あんだけの力を持った神様とやらが、なんでオレ一人を狙ってきたのかって思ってな」
「一番考えられるのは口封じでしょう」
「ああ、それなら………それなら?」

 緋月がもっとも単純な可能性を示唆した所で、エモンはある事に気付いた。

(あれだけの力、オレを消すつもりなら確実に消せるはず。だがオレは生きてる。どうしてだ? 何かがあって、やり損ねた。もしくは何かまずい物を見られて慌てた? でも姿なんて全然見えなかった………!)
「ウェルクストラ!」
『なんですかオーナー、今忙しいので後にしてください』
「こっちが緊急だ! オレが落とされそうになった時のデータまだあるか!」
『バックアップは残ってますが』
「それをよこせ! 何かがあるかもしれねえ!」
『了解しました!』

 自分が座っている予備コンソールに送られてきたデータを一瞥したエモンは、即座に全方向通信を入れる。

「誰か、これを調べられる奴は!」
「すいません、手が空いてません!」
「こっちも、今は………」
『こちらブレータ、処理容量なら少し回せます』
「今から送るデータを調べてくれ! 多分だが、あのカラクリ女神様とやらのまずい物があるかもしれねえ!」
「どういう事だ!?」
「気づきもしてなかったオレにいきなり攻撃してきた理由は、それしか考えられん!」

 嶋副長が問い質す中、エモンは辿り着いた答えを叫ぶ。

『了解、解析優先順位は?』
「順位? ちょっと待て、何を調べるってえと………」

 そこで何を調べればいいかをエモンは再度考える。

(考えろ、見てもいねえし、気づいてもいねえ奴から狙われる理由………見ても気づいても………って事は!)
「音だ! 余計な音を消せるか!?」
『ノイズキャンセラー使用、音声解析開始』

 ブレータが記録データからエモンとウェルクストラの声、攻撃音、爆音などを順番に消していく。

「もっと前、攻撃を食らう直前辺りだ」
『了解、データ開始時を精査』

 解析が進むデータを凝視、というか謹聴するエモンだったが、画面には亜空間とそこを跳ぶRVの推進音、ついでにエモンの鼻歌が響いているだけだった。

「余計な音は全部消してくれ、オレの鼻歌も」
『了解です』

 推進音と鼻歌が消され、残るのは風鳴りとも違う奇妙な亜空間の立てる音だけとなる。

「………何もないように聞こえますが」
「いや、何かある。絶対に」

 脇で見ていた緋月が首を傾げる中、エモンは耳を澄ませてそのシーンの音を何度も再生させる。
 そして、その耳が何かを捉えた。

「そこだ! 音をでかくしろ!」
『了解、音量上昇』

 ブレータが半ば無分別に音声を拡大、ブリッジ内に奇妙な音が盛大に鳴り響き、他のクルーが思わず顔をしかめた時だった。
 唸るような音に重なり、異音が確かに鳴り響いた。
 まるで、歯車が食い違ったような音が。

「今の音!?」
「ひょっとして………」
「間違いねえ、あいつがオレを攻撃した理由は、これだ」

 にやりとエモンが笑みを浮かべる。

「総員に今のデータを配信、至急原因を調べさせろ」
『了解!』

 門脇艦長の指示の下、七枝とタクミが即座にこの事を配信させていく。



「これは………」
「あいつの弱点!?」

 スーパー・エルラインの内部で、送られてきたデータを見たエルナーとユナは思わず声を上げる。

「あの歯車、どこか壊れてるんでしょうか?」
「カルナ! こちらからデア・エクス・マキナとの戦闘データを転送! 同一音源を探して!」
『了解です! 演算を再優先で解析開始!』

 芳佳が首を傾げる中、戦闘を続けながらもエグゼリカは全戦闘データを転送する。

「そう言えば、機械はいじりすぎるとどこか無理が出てくるって良平が言ってた!」
「マドカもそんな事言ってたような? って事は………」
『発見しました!』

 音羽と亜乃亜も思い当たる事がある中、カルナから解析データが送られてくる。

『デア・エクス・マキナの猛攻に紛れて分かりませんでしたが、確かにこの音が確認された直後、クロノスギアの防御が僅かな間、低下しています!』
「じゃあ、その隙に…!」
「いえ、そんな単純では有りません。第一に、向こうもその事を熟知してるらしく、今まで苛烈な攻撃でそれを隠しており、付け入る隙を与えてきません。第二に、この現象は三度確認されてますが、間隔がランダムで、法則性が掴めません」
「この弾幕の中、いつ起きるかも分からないシステムエラーを狙えって事!?」

 亜乃亜が思わず絶叫する。
 その絶叫が指す通り、スーパー・エルラインの周囲には、速射型の射撃ポッドと単射だが強力な砲撃ポッドが浮遊し、隙のない連続攻撃の前に防戦一方に追い込まれていた。

「エイラさん! 聞こえてますか!? デア何とかのシールドが弱くなる時があるみたいなんですけど、何とか予知出来ませんか!?」
『無茶言うナ宮藤! 見える範囲ジャないと見えねエし、そこまで近づけルか!』

 芳佳がエイラの固有魔法に頼ろうとするが、通信の向こうからエイラの怒声に重なるように激しい戦闘音が響いてくる。

「デア・エクス・マキナは一気に勝負を決めるつもりです! コピー体が大量に出現し、各所で激戦が起きてます!」
『退いてくださいユナ! 何とか撤退の隙を作ります!』
『戦闘不能艦から総員退避! 特攻艦として使用します!』
「何か、何かあいつを倒す方法は………」
『可能性はある』

 ユナだけでなく、皆が必死になって悩む中、一つの通信が飛び込んでくる。

『あれの中には無数のナノマシンが使われている。だったら、私なら干渉出来るかもしれない』
「アイーシャ!? ダメだよ! あいつワームの何倍強いと思って!」
『他に方法は無い』
「私も反対です! あんな物にアクセスしたら、トリガーハートですら耐えられません!」

 音羽とエグゼリカが必死になって止めるが、アイーシャの決意は変わらない。

『じゃあ一人足す』
「ティタ!? 何を言って…」
『私もやる!』
「亜弥乎ちゃん!」
『………バイパスくらいなら私も出来る』
「サーニャちゃんまで………」
「…………」

 文字通り一か八かのデア・エクス・マキナへのハッキング行為に次々と名乗り出る者達が出る中、エルナーは無言で成功する可能性を思案していく。

「確かに、こちらで誘発させられれば、ダメージを与えられる可能性はあります」
「だったら…」
「しかし、デア・エクス・マキナの演算能力は膨大過ぎます。下手な干渉は、どれだけのフラッシュオーバーを伴うか分かりません! 危険過ぎます!」
「どうにかならないの!?」
「…方法が無い訳ではありません」
「向こうの演算処理を、現状対処に集中させれば、ひょっとしたら」

 言葉を濁すエルナーの代わりに、エグゼリカがその僅かな可能性を口にする。

「え~と、つまりそれって」
「攻撃しまくって、向こうの気をこちらに引きつける、って事?」
「そういう事になります」

 音羽が首を傾げる中、亜乃亜がかなり端折って出した結論を、エルナーは肯定する。

「それなら、簡単じゃん!」
「そうですね! 隙を作るために攻撃し続ければいいって事ですから!」
「しかし!」

 単純に結論を出したユナと芳佳をエルナーは止めようとするが、そこで通信が入る。

『エルナー、このままだと時間の問題よ。どんな僅かな可能性でも、やってみる価値はあるわ』
「ポリリーナ………まだ行けますか?」
『ええ、もう少しなら』
『エルナー、この香坂 エリカとエリカ7を忘れてません?』
『ストライクウィッチーズは全員まだ戦闘可能よ』
『こちらガランド、各統合戦闘航空団は負傷者は出てるが、まだ作戦展開は可能だ』
『こちら攻龍、RV隊の応急処置はもう直終了するそうです! ソニックダイバー隊帰艦を確認、こちらも応急修理に入ります!』
『こちらカルナダイン、シールドジェネレーター一部復旧、戦闘可能です!』
『こちら大和、残弾は少ないが、遅延戦闘ならまだ行える』
「…………」

 各所から未だ衰えぬ戦意報告が届く中、エルナーは己の頭脳を現状打破の可能性を検討する。

「分かりました。これから最終作戦を転送します。これが失敗した場合、総員撤退を覚悟してください」

 いつになく真剣なエルナーに、全員の顔が引き締まり、誰からなく唾を飲み込む音が響いた。

「これが、正真正銘最後の戦い………」

 ユナもまた、滅多に見せない真剣な顔で、デア・エクス・マキナへと対峙した。



「各部隊からエースを抽出しろだと!?」
「ウチからとなると、ハルトマン中尉かしら」
「ナイトウィッチも総員集結させろだそうだ!」
「エイラさんとアウロラさんはサーニャさんの護衛を!」
「分かっタ!」「面白くなってきじゃないか!」
「マスター、抜けた分は私がサポートします!」
「フォーメーション再構築急いで!」

 敵の猛攻が続く中、ウィッチ達は必要な人員を抽出し、その分武装神姫達と共にフォーメーションを密集させていく。

「相互の部隊で連携しろ! 穴を開けるな! 戦闘可能な艦に援護砲撃を要請!」

 ガランドの指示に艦艇からの砲撃音が重なり、最後の激戦の開始を告げる。

「すまぬ、後は任せた!」
「任せて下さい大尉! 危険手当上乗せお願いします!」
「まずは生きて帰れる事を考えた方いいんじゃないかな?」

 魔導針を持つナイトウィッチ総員に集結がかかり、506A中隊戦闘隊長でもあるハインリーケの抜けた穴を邦佳とイザベルが何とか塞ごうとする。

「ナイトウィッチ総員がかりで何するつもりなんだ!?」
「向こうのデカブツに干渉するから、その隙を作れって話!」
「その隙を作る隙をどうやって作れっていうの!」

 B中隊が悪態をつきながらA中隊と戦線を構築しようとするが、敵群は更にその数を増してくる。

「押し込まれる! 弾幕をもっと厚く!」
「他の部隊は!」
「どこも似たような状態!」
「もっと火力があれば!」

 506のウィッチ達が思わず叫んだ時、敵群を大口径弾の斉射とレーザーが薙ぎ払っていく。

「応急修理に手間取った! ソニックダイバー隊、これより戦線に復帰する!」
「G・グラデイウス学園ユニット、戦線復帰します!」

 ソニックダイバーとRVが再出撃し、足りない火力を補うように弾幕をばら撒いていく。

「遅い! つうか数足りなくない?」
「音羽だけじゃなく、アイーシャも抜けて可憐もそっちのサポートに行っちゃったから、実質私と瑛花だけなんだよね………」

 エリーゼがMVランス片手に、ウィッチ達に苦笑を向ける。

「こっちは応急処置しかしてないから、長引いたらどっかから煙吹くかも!」
「どこもいっぱいいっぱいの様だな………」

 マドカが彼女らしからぬ間に合わせの修復をしたRVを指さしながら叫び、ウィッチ達は思わず顔を見合わせる。

「どちらにしろ、決着は近いって事か」
「とっとと片付けて、こんな気味の悪い所から早く帰るんだから!」
「その意見、賛成!」

 イザベルの呟きに、エリーゼが思わず叫び、邦佳もそれに賛同する。

「こちらで敵陣を撹乱します! そちらで各個撃破を!」
「無茶はするな! そっちにも限度があるはずだ!」
「気にしてる暇があるかしらね」

 回復ドリンクを口に含みながらのジオールの提案に、瑛花が明らかに顔色が悪くなってきているジオールへと注意するが、ジオールもそれは百も承知していた。

「エリュー、マドカ、行くわよ!」
「了解!」「亜乃亜とティタの分まで、行くよ~!」
「Aモードにチェンジ! ウィッチ達と防衛戦を構築!」
「こっちも撃てるだけ撃つよ!」

 所属も何も通り越し、全員が決着をつけるべく、残った戦力全てを敵へと解き放っていった………





[24348] スーパーロボッコ大戦 EP38
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:7e9d8eb4
Date: 2015/07/13 21:53
EP38


「インターフェイス、同調開始」
「ラグとかバグとか、いじっておく」
「制御系はこっちに回して」
「探査先は風神で指定します! 気休めにもならないかもしれませんが………」
「魔導針を共振するのじゃ! 理論上は可能だったはず!」
「やってみます」
「魔力を回復させておいて、どれだけ負荷がかかるか見当もつかない」

 アイーシャ、ティタ、亜弥乎が中心となってデア・エクス・マキナへのハッキング準備が進められ、可憐の駆る風神とナイトウィッチ達がそれをサポートするべく、持てる探査能力をフルに発動させる体勢を整えていく。

「エレガントソード!」
「右ダ姉ちゃん!」「そこかっ!」
「たあぁぁぁ~」「攻撃!」

 準備の進める者達の周囲で、エリカとユーティライネン姉妹、それにヴァローナとウェルクストラが護衛にあたっていた。

「準備は済みました!? なるべくお早めに!」
「準備はもう直終わる」
「問題はタイミング、まともに行ったら全員プッチリ潰される」
「ユナが頑張ってはいるけど………」

 エレガントソードを振りかざしながら叫ぶエリカに、ハッキング準備を整えた三人は仕掛けるタイミングの難しさに重い顔をしていた。

「一応聞いとクけど、潰されるっテどうなるンダ?」
「ショック死するか廃人になる」
「ちょっと待テエエ!! そんな事をサーニャにさせる気ナノか!?」
「大丈夫、ウィッチの人達はそこまでは多分いかない。行くとしたら私達の誰か、もしくは全員」
「やはり、そうなるでしょうね………」

 何気なく聞いてきたエイラの問いに淡々とアイーシャが答え、思わずエイラは声を荒らげるがエリカは予想していたのか、表情を険しくする。

「元々処理能力の次元が違い過ぎます。激流に家庭用ホースでバイパスを作るような物です」
「あたしも手伝うけど、アレの処理を何かに優先させないとチャンスは無いかな~」
「つまり、あのデカいのの気を引けばいいという訳か」
「だから、アチコチからエースウィッチ抽出したんダろ?」
「こちらの意図が気付かれる前に、上手くいけばいいのだけど」

 エースを抽出した事で、徐々に劣勢になりつつあるウィッチ達を横目で見つつ、エリカは剣を振るい続けた。

「エリカ7! 状況は!」
『エリカ様、こちらはまだ大丈夫です! 増援に向かいますか!?』
「攻龍の防衛に専念なさい! まだその船に沈まれる訳にはいきませんわ!」
『了解です、エリカ様!』

 エリカ7に指示を飛ばしながら、エリカは腰の回復ドリンクに手を伸ばし、それが最後の一本だという事に気付く。

「あまり悠長にしていられる状況ではなさそうね………」
「全くだ、ここを離れる訳にもいかんし」

 エリカの呟きに、アウロラも賛同しながら、すでに自分の分は飲み干した回復ドリンクの代わりを妹からせしめようとする。

「姉ちゃんまだそっちに残ってるダロ!」
「こっちはこっちで大事でな」

 そう言いながらアウロラはせしめた回復ドリンクを飲みかけの酒瓶に注ぎ込み、ロックで喉へと流しこむ。

「早くしてくれ宮藤! でないと役立たずの酔っぱらいが出来上ガる!」

 エイラの悲痛(どこか違うが)な叫びが、その場に響き渡った。



「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」

 飛来したアンカーが砲撃ポッドの一つに突き刺さる。
 本来ならすぐにアンカーからの侵食が始まるはずが、逆に一度突き刺さったはずのアンカーがじわじわと抜け始める。

「!? ナノマシンコーティング!」

 それが内部からナノマシンで反発されていると気付いたクルエルティアだったが、アンカーが抜ける直前、飛来した銃撃が砲撃ポッドを貫き、爆砕させる。

「どうやら、外身だけでなく中身も妙な作りになってるみたいだな」
「あなたは…」
「31のマルセイユだ。他の部隊からもエース級が集まってきている。あのデカブツに攻撃を叩き込んで隙を作ればいいんだな」
「まずは目標までどうやって近付くか、ね」

 クルエルティアのセンサーには、デア・エクス・マキナとの間に多数配備されている攻撃ポッドの存在が感知されていた。

「その点は大丈夫だろう、来たようだしな」

 マルセイユの言葉が示す通り、何人ものエース級がその場に集結しつつあった。

「行くよウルスラ!」「はい姉さん」

 先陣を切るように、ハルトマン姉妹の駆るホルス1号機が突撃、砲撃ポッドに次々と攻撃を加えていく。

「まずは、周辺のお供を潰してかないとね」
「無駄に多いがな、片っ端から行くぞ!」
「分かりましたマスター!」

 ポクルイーシキンとルーデル、そしてハーモニーグレイスがハルトマン姉妹に続けとばかりに攻撃を開始し、他にも各所からエースウィッチ達の銃撃が無数のポッドを次々と撃破していく。

「なかなかやるわね~」
「マイスター、問題は標的にどの程度の攻撃が有効かという事だ」

 フェインティアが関心する中、ムルメルティアはそのポッドの向こう、激戦を繰り広げるスーパー・エルラインとデア・エクス・マキナへと視線を向ける。

「無理に攻撃を仕掛ける必要は無いわ」
「私達がここでこれらを一体でも多く破壊すれば、その分ユナの負担が減るのですから」
「手が空いたら、援護射撃をすればいい」

 ポリリーナと沙雪華が組んでヒット&アウェイを繰り広げ、ミサキは乱射しまくりながら、ちょっとでも隙あらばデア・エクス・マキナを狙っていた。

「忌々しいけど、それが妥当でしょうね。半分スクラップだけど、アレが一番戦闘力が高いようだし」
「口が悪いのは相変わらずだね~」

 フェインティア・イミテイトが大型ビーム砲を連射する中、ポクルイーキシンは苦笑しながら次の獲物を探す。
 各部隊から抽出されたエース達は、誰もが少なからぬダメージを負っているが、誰一人として戦意は衰えず、スーパー・エルラインを援護するべく、奮戦を続ける。

「こんなのじゃダメ………もっとあいつの演算処理に多大な負荷を掛ける何かが………」

 フェインティア・イミテイトは他のエース達の戦闘を見ながら、それでは足りない事を感じていたが、打開策が思いつかない。

「オリジナル、クルエルティア」
「何よ、今忙しいの!」「………目標周辺の敵性体掃討率64%、目標の演算処理の負荷率は低いわね」

 フェインティアは怒鳴り返すが、クルエルティアはフェインティア・イミテイトの危惧している事を感じ取っていた。

「意味がよく分からんが、あのデカいのに干渉するにはまだまだ足りないという事か」
「そうなるわ。ただ、このメンバーでもデア・エクス・マキナと正面から渡り合えるかどうかは不明ね」

 マルセイユが銃撃を続けながら小首を傾げるのを、その隣でパッキンビューを振るうポリリーナが頷く。

『ポリリーナ君、聞こえてるか』
「宮藤博士! 現在スーパー・エルラインを援護中ですが、やはりデア・エクス・マキナへの攻撃は難しいようです」
『こちらでも解析した。もし、デア・エクス・マキナにハッキングを仕掛けるならば、その演算処理が最大になるタイミングを狙うしかない』
「だからそれをどうしろって言うのよ!」
「……マイスター、演算処理を最大にするという事は、向こうにとって奥の手を使った時なのではないだろうか?」
『あ』

 宮藤博士からの通信に思わず怒鳴り返したフェインティアだったが、かたわらのムルエメルティアの一言に、全員が思わず声を上げる。

「エルナー!」
『聞いていました、私も同意見です。デア・エクス・マキナに最大の隙が出来るのは最大の攻撃手段を用いた時、すなわち先程のミラーリンクシステムを発動した瞬間に他なりません』
「けど、どうするの? 永遠のナントカ号、どう見てもボロボロだけど」
「現在参戦している戦力で、永遠のプリンセス号の主砲に匹敵する破壊力を持つ攻撃手段は存在しません」
「だがこのままだと、戦線の崩壊は時間の問題だね」

 ハルトマン姉妹が防戦一方の永遠のプリンセス号を指さし、ポクルイーシキンがかろうじて拮抗状態を保っている他の部隊を見回す。

「やるしかないな、どうにかしてあいつのイカサマシールドを発動させるしかない」
「だからそれをどうやってするの? こっちの攻撃なんて、あの大きなお人形さんの足元にも及びそうにないし」
「総員の魔力で一斉攻撃、と言ってもさすがに足りないな」
「わ~はっはっは!」

 エースウィッチ達が攻撃の手を休めないまま考え込んで時、突然の笑い声と同時に小柄なウィッチが飛び込んでくる。

「待たせたな! 予備の刀を取りに行ってて遅くなったぞ!」
「マスターのアレは強奪なのです………借りてきた子ビビりまくっていたのです………」

 遅れてきた義子が笑い声を上げながら砲撃と連射をかいくぐりながら攻撃ポッドを次々と斬り捨てていき、傍らでアルトレーネが何か肩を落としつつ、援護する。

「リバウの魔王も到着か」
「なるほど、アレが………」
「ウィッチってこんなのばっかり」

 やたらとハイテンションな義子にウィッチ達は関心するが、フェインティアは呆れた顔でその戦いを見ていた。

『周辺の攻撃ポッドを撃破次第、廃棄艦を突撃させます!』
「こっちはこっちで無茶を…突撃?」

 リューディアからの通信を聞いていたフェインティアだったが、ふとある事を思いつく。

「その特攻待って! クルエルティア! 貴女アンカーでどこまで回せる!?」
「現状だと、最大値の60%と言った所だけど………」
「私も似たような物ね、随伴艦のアンカーシステムを同期させて! ちょっとデカイのをスイングするわ」
「マイスター、ひょっとして」
「あんた達! こっちの全システムをアンカーに回すから、援護お願い!」
「何を…」
「ガルクアード!」「カルノバーン・ヴィス!」

 周囲の返答を聞く間も無く、二つのアンカーが特攻予定だったリューディア艦隊の艦の一つに突き刺さる。

「随伴艦、全エネルギーをアンカーに集中! ブレータ! スイング範囲をシミュレート、範囲内友軍に回避を指示して!」「リミッター解除、侵食制御最大!」

 トリガーハート二人がかりでスイング状態へと持って行こうとするが、さすがに質量が巨大過ぎて中々思うようにいかず、周辺の攻撃ポッドがそれに気づいたのか、無防備な二人に照準を向ける。

「マイスター、気付かれた!」
「ちょっと持たせて! 我ながらこんな原始的手段しか思いつかないなんて!」

 ムルメルティアがそばで援護射撃を行う中、フェインティアはエネルギーバイパスと演算処理を全てアンカーへと回す。

「原始的だけど、悪い手じゃないわ」

 そこへ、誰かが肩に手を置いてきた事に振り向くと、フェインティア・イミテイトが笑みを浮かべていた。

「私とリンクして、処理を回して。二人よりは三人の方がいいでしょ」
「あんたアンカー使った事ないでしょ!」
「基本システムはあなたのコピーよ、データは入ってる」
「マイスター、使える物は使うべきだ」
「仕方ないわね! 変な事すんじゃないわよ!」

 フェインティアが悪態をつきながらリンクを開き、演算処理の一部をフェインティア・イミテイトに委託する。

「スイング開始、最大出力!」「速度上昇、どいてなさい!」「なるほど、これは中々………」

 艦をまるまる一つスイングするというとんでもない状況に、周囲のみならず、戦場で気付いた者達は全員度肝を抜かれる。

「速度上昇!」「アンカー制御臨界まで持ってくわよ!」「こっちの処理限界の方が先来ない!?」「マイスター、本体に気付かれた!」

 演算処理の全てをアンカーへと向けていた三人だったが、ムルメルティアの一言にわずかにそちらに意識を向ける。

「まずい、来るぞ!」
「回避を!」

 マルセイユとポリリーナがこちらに狙いを定めているデア・エクス・マキナに気付くが、そこでスーパー・エルラインが前へと立ちはだかる。

「こちらで防ぎます!」
「姉さんとフェインティアはスイングの続行を!」

 芳佳とエグゼリカの声が響き、皆を防ぐべくシールドが張られる。
 直後、デア・エクス・マキナの放ったビームが直撃する。

「こっちもシールドを張るんだ!」
「張れない奴は後ろへ!」

 ウィッチ達が率先してシールドを張り、張れない者達は慌ててその背後へと回りこむ。
 スーパー・エルラインのシールドで防がれてるとはいえ、拡散した余波が至近で直撃すれば充分殺傷力がある強力なビームに、ウィッチ達は全力でシールドを張り続ける。

「弾いてもこの威力のを、一体アレは何発食らってるんだ!?」
「当人達も数えてないでしょう」

 衝撃波が吹き荒れる中、ルーデルが驚愕するのを、沙雪華は当然と言った声を上げた時だった。

「アンカー制御限界!」「一気に行くわよ!」「分かった!」『リリース!!』

 限界まで加速が付いた艦が、二つのアンカーからパージし、アンカーから付与されたエネルギーと艦内動力炉のエネルギーが融合、臨界状態となって高速でデア・エクス・マキナへと向かう。

「よっしゃあ、行ける!」
「うまくいくといいのですが」

 義子が歓声を上げるが、アルトレーネがぼそりと呟く。
 加速した艦はデア・エクス・マキナへと直撃する瞬間、凄まじい爆発を起こした。

「やったか!?」
「いえ、寸前で迎撃された!」
「だがダメージは追わせたぞ!」

 爆煙が晴れていく中、ダメージは負っている物の、致命的とは程遠いデア・エクス・マキナの姿が現れる。

「迎撃成功」「損傷レベルBランク」「修復開始…」

 即座に修復を開始しようとしたデア・エクス・マキナだったが、そのセンサーに再びこちらに向かってくる巨大な物体が感知された。

「これでも食らうですぅ~!」

 敵陣を強引に突破してきたユーリィが、その怪力で総員退艦済みの駆逐艦をぶん投げる。

「皆も続け!」
「誰か手を貸して!」
「任せて下さい!」

 飛来した駆逐艦を撃破したデア・エクス・マキナだったが、そこに怪力や魔力付与の固有魔法を持ったウィッチ達を中心とした者達が、大破した船や敵の破片を文字通りの力任せに次々と投じてきた。

「物理攻撃多数確認」「生体エネルギー付与確認」「危険レベルC、迎撃」

 次々と飛来する破片で、魔力等が付与された物は特に危険と認識したデア・エクス・マキナは瞬時に優先順位を選定、次々と破片は撃破されていく。

「手を休めるな! 投げる物は幾らでもある!」
「はいですぅ!」
「迎撃してるって事は、当たると少しでも危険だって認識してるという事よ!」
「分かりました!」

 バルクホルンやユーリィが中心となり、他の者達も激戦の末に減り始めた敵群の隙間を縫うように投擲や攻撃を行い始める。

「物理攻撃増加確認」「迎撃レベル上昇」「懸念要素消去」

 飛来する破片を次々撃破していくデア・エクス・マキナが、それを行う者達へと狙いを向ける。

「まずい、来るぞ!」
「逃げるですぅ!」

 狙いを向けられた者達が慌てて回避に移る。
 逃さぬよう、デア・エクス・マキナは大出力のビームの発射体勢を整え、まとめて薙ぎ払おうとする。
 それが、向こうの狙いだと気付いたのは、発射直前だった。

「今よ!」

 僅かにデア・エクス・マキナの意識が逸れた瞬間、スーパー・エルラインを中心に、選抜されたエース達が一塊となって銃口を向けていた。
 デア・エクス・マキナが攻撃を中断しようとした時、複数の銃口が一斉に火を拭いた。

「攻撃中断」「エネルギー拡散ラグ発生」「シールド防御困難」

 下手に大出力の攻撃を放とうとしていた為、シールドを発生させる時間が無いと瞬時に判断したデア・エクス・マキナは、とっさにミラーリンクシステムを発動。
 放たれた複数のエネルギーを帯びた攻撃は、デア・エクス・マキナの前に発生した転移ホールへと飲み込まれていく。
 それこそが、待ち望んでいた瞬間だった。


「行こう」「そうする」「食らえぇ!」

 アイーシャの一言を合図に、ティタと亜弥乎も一緒に、三人同時にデア・エクス・マキナへとアクセスする。

「あう………」「く、なんじゃこれは………」「逆流しそう………」

 それをサポートするナイトウィッチ達も、流れこんでくる情報量に不快感を露わにする。

「もう、少し………」「ちょっと、きついかも………」「負けるかぁ………」

 ハッキングしている三人は三人とも凄まじい汗を流し、苦悶に顔を歪めながらも全力で干渉を続ける。

『そこだ!』

 気せずして、三人が同時に叫んだ時、周辺にある音が響き渡る。
 異音を立てて止まる、大小二つの歯車の音が。

「クロノスギア停止確認! ミラーリンクシステム機能不全と転移ホールの消失も確認しました!」

 虚空に浮かんでいた転移ホールが弾け飛ぶように消え去り、デア・エクス・マキナの動きがはっきりと止まった。
そこでエルナーの声が響くと同時に、最初に飛び出したのは三つのアンカーだった。

「行ってディアフェンド!」「行きなさい、カルノバーン・ヴィス!」「行け、ガルクアード!」

 スーパー・エルラインと随伴艦二隻から放たれたアンカーはクロノスギアに直撃する寸前、未だ機能していた移相断層に阻まれるが、第一層の破壊に成功する。

「まだあるわ!」
「RV、全機スタンバイ!」
『ドラマチック・バースト!!』

 フェインティアの声に応じるように、残った敵陣を突破してきた、ハッキングで疲弊したティタを除く天使達が、一斉にD・バーストを放つ。
 サーチレーザーが、スプレッドボムが、召喚されたゲインビーが、荒れ狂う機械じかけの触手がまとめて叩きこまれ、限界に達した二層目が破壊される。

「まだある! これは、ナノマシンフィールド!?」

 その下の三層目、ナノスキンに類似したフィールド層をティタが確認した時、スーパー・エルラインが突撃する。

「お願いゼロ! たああぁぁ!」

 気合と共に、音羽が片手だけとなったスーパー・エルラインを駆って剣をフィールドに突き立てる。

「皆!」
「! ソニックダイバー隊、クアドラフォーメーション!」
「「クアドラ・ロック」座標固定位置、送りますっ!!」
「ホメロス効果修正プログラム送るわ、使って!」

 音羽の意図を悟った瑛花がティタ同様、疲弊しているアイーシャのシューニア・カスタムを除く三機のソニックダイバーが突撃し、フォーメーションを組む。
 ティタから送られたプログラムを元に可憐が即座にプログラムを修正、それを元にスーパー・エルラインを中心に、ソニックダイバーがフォーメーションを組んでいく。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 スーパー・エルラインとソニックダイバーがリンクして発生した人工重力場内で、修正されたホメロス効果発動プログラムを元にナノマシンデータが送り込まれる。

「ホメロス効果発動確認!」
「ソニックダイバー全機、ロックに出力を集中!」
「やってるって!」

 どれもが軽くない損傷を負っているソニックダイバーが、ありったけのエネルギーをロックに集中させるが、出力差が違い過ぎるのか、すぐにはフィールド全体にホメロス効果が伝わらない。

「このままだと、時間が…」
「大丈夫」

 クロノスギアの停止状態がいつまで続くか分からないのに音羽が焦った時、アイーシャの声と共に一気にホメロス効果が広がっていく。

「アイーシャ! 無茶したら…」
「皆でやった………悪いけど後は頼む」

 エリーゼの焦った声にアイーシャが淡々と答えた直後、第三層が完全に崩壊する。

「まだ下に…」
「シュツルム!」
「そおら!」

 可憐の言葉が終わるよりも早く、固有魔法をまとったホルス1号機と、ありったけの魔力を巨大スコップに込めたホルス2号機が第四層へと突撃してくる。

「ウルスラ! 全開で行くよ!」「やってます姉さん!」
「はっはっは、なかなか手応えがあるじゃないか!」「倒れるなよ姉ちゃん!」

 ハルトマン・ユーティライネンの両姉妹がありったけの魔力を注ぎこむが、第四層も強固で両者の間に凄まじいエネルギーの火花が飛び散っていく。

「移相断層破壊危険域到達」「複製体制御不能」「再起動準備加速」

 全く動けないと思っていたデア・エクス・マキナから突然聞こえてきた声に、間近で聞いた者達の顔色が変わる。

「こいつまた動き出そうとしてる!」
「急ゲ! 時間が無イぞ!」

 ハルトマンとエイラが叫ぶ中、ガランドは即断した。

「各部隊ごとに集結、シールドに魔力を集中させろ!」
「ストライクウィッチーズ、突撃!」
「501に続け!」

 ガランドの指示の元、ウィッチ達が持てる魔力を全てかき集め、部隊ごとに収束させたシールドで残った敵影を強引に突破しつつ、次々と第四層に突撃していく。

「いっけ~!」

 芳佳もありったけの魔力を込めて、スーパー・エルラインの剣を振り下ろす。
 数多のウィッチ達の魔力の前に、とうとう限界に達した第四層も破壊された。

「まだ下に…!」
「おどきなさい! エレガントソード!」
「バッキンビュー!」「クルクル、パ~ンチ!」

 美緒の魔眼が更にその下の第五層を捉えた時、エリカ、ポリリーナ、ユーリィの攻撃が第五層へと炸裂する。

「はああぁぁ!」「たああぁ!」「これでも食らえぇ!」

 更に剣鳳、鏡明、ミサキも加わり、次々と光の戦士達も参加していく。

「ライトニングシュート!!」

 ユナも駄目押しとばかりに砲撃を叩き込み、とうとう第五層も破壊された。

「やっ…」

 ユナが思わず歓声を上げかけるが、そこに再び駆動しようとする大小の歯車が視界へと飛び込んできた。

(今、再起動されたら勝ち目はもう…)

 エルナーも最悪の展開を予想してしまう。
 クロノスギアを守る移相断層を全て破壊したはいいが、皆が力を使いきり、もう一撃を放つ事が出来そうに無い事を幾人かが気付いた時、突然何かがクロノスギアへと飛び込み、爆発を起こす。

「今のは!?」
「あれ!」

 吹き荒れる爆風の中から、紅い影が弾き出された事にエグゼリカが気付く。

「ガルクァード!」

 それがフェインティア・イミテイトだと気付いたフェインティアが慌ててアンカーで回収する。

「あの至近でビーム砲のオーバーブースト叩き込んでやったわ………利用された借りは返させてもらったわよ………」

 己のダメージも顧みず、ビーム砲を自爆させたフェインティア・イミテイトが破損箇所から潤滑液をしたたらせながらも、笑みを浮かべる。

「今です!」「総攻撃~!」

 駄目押しとばかりに、アーンヴァルとストラーフを先頭に、武装神姫達が己達が持つ最大の攻撃をクロノスギアへと叩き込んでいく。
 一発一発の破壊力こそ小さい物の、その全てが的確にクロノスギアの各パーツへと炸裂していく。
 全ての防壁が破られ、そして狙いすました各パーツへの攻撃に、とうとうクロノスギアが、そしてデア・エクス・マキナ自身も完全に動きが停止した。

「今です!」
「お願い皆! 力を貸して!」

 皆の力を結集させた千載一遇のチャンスに、エルナーの指示とユナの声が響く。

「私の全ての魔力を!」

 芳佳がありったけの魔力を放出させる。

「随伴艦、全リミッター解除! アールスティア、ディアフェンド、力を貸して!」

 エグゼリカが随伴艦の出力を全開まで上げる。

「ゼロ、出力全開!」

 音羽が零神の核融合エンジンを最大まで上げる。

「ビックバイパー、プラトニックエナジー全開!」

 亜乃亜がRVを通じて残った全てのプラトニックエナジーを放出させる。

「まだです! まだ足りない!」
「皆の力を、一つに!」

 エルナーとユナの言葉が響くと、それまでスーパー・エルラインから放出されていた光の粒子が、巻き戻すようにスーパー・エルラインへと集まっていく。

「これは………」「魔力が、吸い寄せられていく?」

 最初にウィッチ達が何が起きているかを気付く。

「そうか、少ないが持っていけ宮藤!」「芳佳ちゃん!」

 ウィッチ達が次々魔力を放出させ、その全てがスーパー・エルラインへと集っていく。

「フェインティア!」「分かってるわクルエルティア! 全部貸してあげるわエグゼリカ!」

 トリガーハート達も随伴艦のリミッターを解除、そのエネルギーも吸い寄せられる。

「ソニックダイバー、出力低下!」
「どういう仕組でしょうか?」
「どうでもいい! やっちゃえ音羽!」

 ソニックダイバーも出力が下がるのを、逆にリミッターを解除してありったけ出力を上げ、それも吸い寄せられていく。

「皆、RV出力全開!」
「了解!」
「プラトニックエナジー全開放、行くわよ亜乃亜!」

 天使達も残ったプラトニックエナジーを全て開放、スーパー・エルラインへと吸い寄せていく。

「ユナ! 使って!」「お腹空くけど、我慢するですぅ!」「とっと片付けなさいよ!」

 光の戦士達が口々にユナに言葉をかけながら、残った力を全てスーパー・エルラインへと吸い寄せさせる。

「最終攻撃、準備」
「リミッター解除、エネルギー装填開始」

 武装神姫達が口々に呟きながら、スーパー・エルラインへと接触してエネルギー全てを送り込んでいく。
 スーパー・エルラインがかざした砲口には、全てのエネルギーが集結し、それは最早純粋な閃光となって溢れていく。

「攻撃レベルAA確認」「致命的損傷確実」「防御不可能」

 デア・エクス・マキナは今まさに己へと向けて放たれようとする一撃に、淡々と状況を理解していく。
 その時、満身創痍のスーパー・エルラインの姿が、かつて己を封印した古のエルラインへと重なる。

『いっけえええぇぇ!!!!』

 五人の光の救世主の声が重なり、文字通り最後の一撃が放たれる。
 ただただ眩い閃光がその場を照らし出し、そして収束された光が、クロノスギアを貫き、完全に吹き飛ばす。

「クロノスギア、破損確認」「自己修復可能レベル超越」「機能不全発生、再起動困難、再起動困難」
「これが貴方の最後です、デア・エクス・マキナ!」

 エルナーの宣言を皮切りに、クロノスギアで大規模な爆発が発生、そしてそれはデア・エクス・マキナの各所へと広がっていき、やがて全身を覆い尽くす。

「各機能停止」「各所爆発発生」「全機能、起動困難………起動不可能可能性大」「敗北認識」「敗北要因不明、不明、不明不明不明不明…」

 次々と小爆発を繰り返しながら、デア・エクス・マキナの体が崩壊を始めていく。
 その状態になって尚、デア・エクス・マキナは何故敗北したかを思考し、そして理解出来ないでいた。

「簡単だよ。あんたがひどい事するから、皆怒ったんだから!」
「デア・エクス・マキナ。あなたは己の絶対的な力のみを信じ、小さな力を結集させる事が何を意味するか、それを考えなかった。それこそが、貴方の敗因です」
「不明不明不めいフメイ…………」

 ユナとエルナーの声を聞きながらも尚、デア・エクス・マキナは最後まで敗因を理解出来ないまま、最後に大爆発を起こしながら、次元の間の闇へと沈んでいく。

「お、終わった………の」
「目標のエネルギーレベル急速低下、機能停止と確認出来ます」
「や、やった!! 私達、勝ったんだ!」
「はい! 大勝利です!」
「やったあああぁ!」

 スーパー・エルラインの中で皆がようやく勝利を認識し、ユナが一際大きな喝采を上げる。
 そこで、スーパー・エルラインの合体が解け、五人がその場に現れる。

「ユナ!」「芳佳ちゃん!」「音羽!」「エグゼリカ!」「亜乃亜!」

 仲間から声を掛けられ、五人が手を振って答える。
 だが、そこで誰もが異変に気付いた。

「あれ?」
「何か、光ってません?」

 誰もが、自分達を淡い燐光が覆っている事に気付く。
 そして、徐々に自分達の姿が透けていく事にも。

「え、エルナー!? 何が起こってるの!?」
「これは、次元変動の自己修復が始まったんですね」
「それはまさか………」
「はい、デア・エクス・マキナが機能停止した事により、それまで歪められていた次元が元に戻ろうとする力が働き始めたんです」
「え~と、つまり………」
「元の世界に戻る、って事?」
「はい」
「ええ~~~!? まだ打ち上げパーティーしてないよ!?」

 エルナーの説明に、ユナが絶叫を上げる。

「あ、そういえばそうですね」
「そんな時間ももう無いみたいです」

 芳佳とエグゼリカが頷く中、燐光が徐々に強くなり、各々の姿が更に透けていく。

「あ、あれ!」

 そこで音羽が一点を指さす。
 そこには、全ての武装神姫が整列していた。

「全ミッション完了を確認」
「私達も元の世界に帰投します」
「元の世界って?」
「う~ん、喋っていいかな?」

 音羽がずっと思っていた疑問を口にした所に、ヴァローナが近寄ってきて首を傾げる。

「もう大丈夫でしょう。それに気付く人は気付いています」
「まあ、薄々は」

 エルナーの言葉に、亜乃亜は思わず苦笑する。

「彼女達武装神姫は、ここにいる誰かが、未来から私達をサポートするために送り込んできた存在、そうですね」
「その通りです」

 エルナーの説明に、アーンヴァルが頷く。

「誰かって、誰?」
「それは未来になれば分かるでしょう」
「作れそうな人も何人かいるみたいですし」

 ユナのもっともな疑問に、エルナーと芳佳が周囲を見回す。
 そんな中、一度整列していた武装神姫達が、それぞれのオーナーの元へと飛んで行く。

「お世話になりました、マスター」
「こちらこそ世話になった、礼を言うぞアーンヴァル」

 美緒がアーンヴァルへと礼を述べながら、その場で敬礼する。

「お姉様、短い間でしたが、楽しかったです」
「はは、よかったら遊びに来いよ。また一緒に飛びたいし」

 飛鳥がシャーリーに頭を下げる中、シャーリーは笑って見送る。

「元気でねマスター」
「貴方もねストラーフ、あまりイタズラしちゃダメよ」

 ミーナとストラーフが笑いあいながら、互いに手を振る。

「いい作戦だった、マイスター」
「そうかしらね? ま、色々助けにはなったわムルメルティア」

 敬礼するムルメルティアにフェインティアは首を傾げる。

「楽しかったね、オーニャー」
「う~ん、ちょっと色々ありすぎたけどね、ヴァローナ」

 笑みを向けるヴァローナに、音羽はちょっと考えるが、笑みを返す事にする。

「最後の方だけは役に立ちましね、マスター」
「おめえは最後までそんな感じか。もっともオレ一人じゃ荷が重かったぜ、ウェルクストラ」

 ほめてるかどうか分からないウェルクストラに、エモンは頬を書きながら礼を述べる。
 更にその場を覆う燐光は強まり、互いの姿の向こう側が見え始めてくる。

「芳佳ちゃん、エグゼリカちゃん、音羽ちゃん、亜乃亜ちゃん、皆、ありがとう」

 ユナがそう言いながら手を伸ばすと、他の四人も手を伸ばして互いに重ねていく。

「大変な事もいっぱいあったけど、皆に会えてよかったよ」
「そうだね、結構楽しかったね」
「そう言われれば、そうかも知れません」
「もう、会えないのかな?」
「う~ん、次元転移は余程の許可が無いと無理かも?」

 手を重ねたまま、皆が互いの顔を見、そして誰からともなく笑う。

「たとえもう会えなくても、ずっとお友達だから」
「はい!」
「そうですね」
「そうだよ!」
「そうそう!」

 五人の弾む声が、その場に響く。
 ふとそこで、エグゼリカが唯一姿が透けていない人物に気付いた。

「あ………」
「どうやら、ちょっとあいつに接触しすぎたみたいね」

 その人物、フェインティア・イミテイトはそれだけ言うと、皆に背を向ける。

「イミテイト! 何をする気!?」
「あいつが、ちゃんと機能停止したかどうか、確かめてくる。確かめたら戻るわ」

 フェインティアが制止するが、フェインティア・イミテイトは振り向かず、それだけ言うとデア・エクス・マキナが沈んでいった闇へと目を向ける。

「戻るってどうやって!」
「あんた達がそうやって戻れるんだから、あいつが完全に止まったら、私も戻れるでしょう」
「待って…」
「また後で」

 フェインティアが向かおうとするのも構わず、そのままフェインティア・イミテイトは闇へと向って一直線に飛び込んでいった。

「エルナー………」
「彼女なりの、贖罪なんでしょう。それにあながち間違った事も言ってません」
「けど…」
「帰ってきますよ、きっと」

 ユナが寂しそうな顔をするが、エグゼリカも寂しそうな顔をしつつ、フェインティア・イミテイトが飛び込んでいった闇を見つめていた。
 だが、ふと重ねていたはずの手が崩れる。
 すでに互いの手を握りあう事すら出来ない事に全員が気づくと、ユナは寂しさを振り払って笑顔を浮かべる。

「じゃあみんな、元気でね! また会ったら盛大にパーティだよ!」
「はい! 私料理いっぱい作ります!」
「私も手伝います!」
「食べる専門じゃだめかな?」
「それもいいと思うよ、それじゃあ!」

 皆が大きく笑いながら手を振り合う。
 そして互いの姿がその場から消えた。
 同じくして、そこにいた全ての者達と、戦いに参加していた艦艇も全てその場から消え失せた。
 後には、そこであらゆる世界を超えた戦いがあった事を示すような、破損された残骸のみが漂っていた…………





[24348] スーパーロボッコ大戦 EP39
Name: ダークボーイ◆072319ef ID:7e9d8eb4
Date: 2015/07/13 21:53
EP39


AD2300 地球・ネオ東京

「元の世界に戻るって、言ってたわね?」
「ええ、確かにそう言いましたが………」

 フェインティアの震える声に、エルナーが罰が悪そうな声で答える。

「それじゃあなんで、私達がまだ地球にいるのよ~~~!!」

 フェインティアの絶叫が周囲に響き渡る。
 私立白丘台女子高等学校の校庭に光の戦士達は戻ってきたが、何故かそこに三人のトリガーハート達の姿も有った。

「あ~、ひょっとしてしばらくこっちで暮らしてたからかな?」
「でもフェインティアはそうじゃないはず………」

 エグゼリカもクルエルティアも首を傾げるが、フェインティアはその場で頭を抱えてこんでいた。

「もうこんな馬鹿げた事からおさらばして、チルダに戻れると思ったのに………」
「言ってくれるわね~、馬鹿げた事ってのは合ってるけど」

 フェインティアを見ながら、舞は笑い出し、次第に他の皆も笑い出す。

『こちらミラージュ、現在地球上空です。リューディア艦隊も無事な艦は全艦確認しました』
『しばらく修理にかかりそうです』
「木星のステーションドッグに予約を入れておきますわ。迎えもこさせましょう」
「エリカ様、全員のメディカルチェックが終わりました。緊急性のある要治療者はいません」
「むちゃくちゃしんどかったわね~………誰か迎え呼ぼ」

 とりあえず全員無事な事に皆が胸を撫で下ろす中、ユナは機械人達の姿が無い事に気付く。

「あれ、亜弥乎ちゃん達は?」
「こちらへの転移は確認してます。おそらく、機械化惑星に直接戻ったのでしょう」
「そっか、あそこメール届かないしな~」
「あ、そうだお父さんに連絡しないと」

 ユナの一言に、エグゼリカがしばらく使わなかった携帯電話を取り出し、養父の番号をコールする。

「あ、お父さん? 今帰りました。姉さんともう一人も一緒に。はい、全部終わって………え? オムレットとワットが? 分かった、急いで帰ります。それと…」

 仲間が、と言いかけたエグゼリカが、ユナ達の方を見て頭を振って、言い直す。

「お友達が、たくさんできました」

 そう言うエグゼリカの顔は、どこまでも朗らかに微笑んでいた。

『セルフチェック完了、大気圏内ならなんとか飛べそうです』
『帰投ポイントを確認、スキルトール亭近辺』
「お父さんが、フェインティアも連れて来なさいって」
「はあ、仕方ないわね………」

 カルナとブレータの報告を聞きながら、フェインティアは肩を落としつつ、エグゼリカに生返事を返す。

「さて、こちらも事後処理が色々ありそうね」
「まずは、家に帰って一休み♪ あっとエグゼリカちゃん、連絡先交換交換」
「ユーリィお腹空いたですぅ~」
「私は帰って寝るわ。散々な目に有ったし」

 皆が口々にあれこれ呟きながら、解散していく。
 休息を取った後に、事後処理で忙殺されるだろうが、今は、ただ誰もが自宅での休息に向っていた………



AD1945 大西洋

「総員点呼を確認、各艦も大破した艦を除き、帰還しています」
「やれやれ、これで一安心か」

 簡易司令部を設けた艦内で、報告を受けたガランドが、伸びをしながら首を鳴らす。

「負傷者の治療と破損艦及び破損ストライカーユニットの修復、上層部への報告書の作成に各航空団の帰還、やる事が山積みだな」
「すでにウィッチ達は帰還の準備を進めております。宮藤博士を中心としてストライカーユニットの修理も順次進められておりますし、各艦も修復しながら帰還する模様です」
「ネウロイもこの事態に巻き込まれて、しばらく動きが無さそうだからな。ちょうどいいと言えばちょうどいいが」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、出頭しました」
「入れ」

 そこへ呼ばれたミーナが室内へと入ってくる。

「部下は全員無事か」
「はい、何人か疲弊が激しいようですが、休息を取れば問題有りません」
「それはよかった。どうやら501は今回の件の根幹に関わっているようだからな、詳細の報告書を上げてくれ」
「え………?」

 ガランドからの命令に、自分自身詳細を把握出来ていないミーナは思わず間抜けな声を上げる。

「それと宮藤軍曹は?」
「負傷者の治療中ですが………」
「彼女にも報告書を提出させるように。根幹中の根幹のようだからな」
「当人が理解できていればいいのですが………」

 おそらく芳佳も詳細は理解していない事を確信しつつ、ミーナは難問な命令に内心冷や汗を流していた。

(す、ストラーフを返すのが早すぎたかしら?)

 まずどこからどう書くべきか、ミーナは頭を抱え込みたいのを必死になって隠していた。


「それじゃあ、次の人」

 芳佳の前に並んでいた治癒魔法待ちの行列が、なんとか一段落つきそうになる。

「芳佳ちゃん、大丈夫?」
「うん、何とか」

 手伝っていたリーネが心配そうに声をかけるが、芳佳は頷きつつ、回復ドリンクの最後の一本を飲み干す。

「お父さんも頑張ってるみたいだし。あ、お母さんとお祖母ちゃんにもお父さん帰ってきたって教えないと」
「そうだね。けど、手が空くのはちょっと掛かりそうだけど………」

 芳佳とリーネは隣の工作艦に別途で並んでいる列を見ながら、再度治療に取り掛かる。

「そんな便利なの、簡単に飲み干しちゃって大丈夫?」
「あ! 坂本さんに一本くらい残しておくんだった!」

 列の最後となった圭子に言われて、芳佳が慌ててボトルを振るが、数滴出るだけで完全に空になっていた。

「あああぁぁ………どうしよう………」
「他の人達から分けてもらえば…」
「無理ね、皆残った分は自分達で確保する気満々よ。私も残しておくんだったわね~」
「ああああぁぁ………」

 肩を落とす芳佳をリーネがなだめるが、圭子は更に絶望的な事に言って更に芳佳が落ち込んでいく。

「よ、芳佳ちゃん………」
「ベテランが上がりそうになったら、新人がその穴を埋められるように努力するしかないわ。頑張りなさい、光の救世主さん」

 治癒してもらった傷の具合を確かめつつ、圭子は芳佳の肩を叩いてその場を立ち去る。

「そ、そうだね。私が坂本さんの分まで頑張れば!」
「はっはっは、それは頼もしいな」

 なんとか立ち直ろうとした芳佳に、突然後ろから美緒が声をかけてくる。

「さ、坂本さん!? 聞いてたんですか!?」
「途中からだがな。さて、まずはこれからだ」

 そう言うと、美緒は紙の束を芳佳に手渡す。

「あの、これは………」
「ガランド中将から。今回の件の詳細を報告書にまとめて提出してほしいそうだ」
「こ、こんなに?」
「期限は3日、細分もらさずだそうだ」
「は、はい………」
「手伝うよ芳佳ちゃん!」

 一体何枚書けばいいのか検討もつかない中、芳佳はあの渦に飲まれてからの事を思い出す。

「他の人達もちゃんと元の世界に戻ったかな………」



AD2084 太平洋中央部

「一条艦隊との通信リンクを確認しました」
「人員点呼確認、搭乗員全員及びGの天使達も全員そろってます」
「やれやれ、やっと元通りか………」
「ようやく本来の作戦に取り掛かれる」

 タクミと七枝の報告を聞いた冬后と嶋副長が胸を撫で下ろす。

「艦及びソニックダイバーの修復の所要時間は?」
「応急なら40時間前後、完全なら倍はかかるそうですが………」
「重大な作戦が控えている。不完全な状態での発動は控えるべきだろう」
「しかし、それでは作戦発動に遅延が……一条提督にも何と説明すればよいのか」
「その点は問題ないでしょう」

 門脇艦長の判断に嶋副長が異論をはさもうとするが、そこにジオールがブリッジに訪れる。

「今回の件は、Gを通じてAクラス機密案件として扱われます。すでにGから統合人類軍へと通達は行われており、詳細までは無理でしょうが、ある程度は一条提督にも知らされてます」
「統合人類軍にそこまで影響力があるとはな………」
「ただ、これだけの規模のはGでもあまり礼のない事例ですので、影響をどこまで抑えられるかは不明です。ワームへの影響を調査するため、私達もしばらく同行致します」
「君達が協力してくれるなら心強いが、そちらの損害も軽くないはずだが………」
「Gの技術班が急行しています。攻龍の修理にも手を貸してくれるそうです」
「つまり、一刻も早く直して、今回の件を無かった事にしたいって事か」
「そう取ってもらっても構いません」

 冬后が呟いた皮肉を、ジオールは平然と受け流す。

「作戦の遅延は最小限にしたい、全ての支援を受け入れよう」
「しかし艦長………」
「ここまでくれば、機密も何もあった物ではない。使える物は使い、作戦成功率を上げるのも指揮官の努めだ。何より…」
「何より?」
「彼女達はもうその気だろう」
「………なるほど」

 冬后が頷きながら、チラリと格納庫の様子が写っている画面を覗きこむ。
 そこでは、所属も関係なく、多くの者達が協力して修理に取り掛かる光景だった。


「アイーシャとティタの様態は!?」
「優子先生は疲れてるだけで大丈夫だって! 白香って子が飛ばされるギリギリまで回復してくれたお陰らしいけど」
「ソニックダイバーのダメージチェックは済んでる!?」
「もう直です!」
「ちょっと誰かこれの部品取り手伝って!」
「………オレのクセルバイパーが骨になってやがる」

 激戦が終わった直後だが、ソニックダイバー隊も天使も関係なく、一刻も早い修理に取り掛かっていた。

「詳しい事はこっちでやる。チェックだけすんだら休んでな」
「音羽、特にお前は無茶し過ぎだ。零神はちょっとかかるかもな………」
「そうさせてもらう~私もゼロもちょっと疲れたし」

 大戸と良平に促され、チェックだけ走らせた音羽は零神から降りる。

「合体のダメージってどこ調べりゃいいんだろ?」
「さあ?」
「全体スキャンで組成チェックして、OSのフルスキャンって所ね。妙な所に歪出てないといいんだけど………」
「要は普段と一緒か、もっとも内部スキャンも必要だろうが………」

 マドカの助言を元に、僚平がぼやきながらチェックに取り掛かる。

「シューニアは電装系フル交換が必要そうね。どれだけ負荷が掛かったのかしら………」

 手が足りないので自らシューニア・カスタムの点検を申し出た周王が、外装よりも内部がかなりダメージを負っている事に渋い顔をする。

「でも全員無事帰って来れたんだし、デア何とかも倒せたし、無事解決って事で」
「そっちはいいかもしれへんけど、こっちはこれからネスト探索・殲滅任務があるんやで」
「そやそや、これ直すのも一苦労やし………」

 亜乃亜が喜色満面でガッツポーズするが、嵐子と晴子に手を止めないまま突っ込まれる。

「その点なら大丈夫、今回の件はG本部からAクラス次元転移災害と認定されてます。今後の影響を調査するため、しばらく攻龍に同行する事になりました」
「じゃあ、私達もうちょっとこの船に乗ってるって事?」

 エリューが先程来たばかりの本部からの司令に、亜乃亜がきょとんとするが、その意味する事にやがて音羽と顔を見合わせ、笑みを浮かべる。

「それじゃあ、もうしばらくよろしく」
「こちらこそ」

 笑みを浮かべながら、二人は握手をかわす。

「そう言えば、武装神姫の子達ってどこ戻ったんだろ?」
「未来から来たって言ってたけど………」



AD2100 某研究所

「全ミッション終了報告、全機帰投しました」
「ご苦労様」

 無数の機器が並ぶ研究所の一室、武装神姫達がずらりと並び、アーンヴァルが代表して帰還報告をする。
 そこでその部屋の主のデスクから、コール音が響いて二つのウィンドウが表示された。

『上手くいったみたいね』

 ウィンドウの片方、20歳くらいと思われる、大人びた姿の教養のエミリーが表示されていた。

『さすがにあのサイズは無理かと思ったけど、よくまとめた物ね』

 もう片方、こちらは20代半ば位の容姿となっているマドカが表示される。

「二人とも助かった。基礎理論は私だけでも何とかなったが、動力と転移はそちらの技術が無いと無理だった」
『いえ、でもいいアイデアだったわ』
『結構楽しかったし』
「彼女からは?」
『それが、ありがとうってだけ来て、そっちの回線は完全消滅したわ』
『結局、最後まで何者か分からなかったしね』

 三人は同時に首を傾げ、少し悩む。

『多分、必要以上の接触で因果律が変わりすぎるのを警戒してたんだと思う』
「正直、そっちの方は分からない」
『さすがに因果律なんて物の計算は踏み込んでいい領域では無いでしょう』

 マドカの意見に、他の二人はかろうじて納得する。

『それでこの回線は今後どうする?』
「それこそ因果律への影響を考えれば、消去するのがいいんだろうけど、念のため封印に留めて置こうと思う」
『それは残念ね』
『う~ん、けど間違ってはいないしね。分かった、封印って事で。その子達の事、よろしくね』
「分かってる」
『それじゃあ、皆元気で』

 短い別れの言葉と共に、ウィンドゥが消える。

「あの、プロフェッサー」
「何?」
「私達は今後、どうなるのでしょう」

 アーンヴァルの恐る恐ると言った声に、プロフェッサーと呼ばれた人物は少し考える。

「まずは全機修復する。数が多いから順番に。その後、戦闘記録と機能を一部封印して民間用に転換しようかと思っている」
「そうですか………今後の事が何もインプットされてなかったので」
「余計な事は入れなかったし、メモリーも順次開放にしてたから。それじゃあ破損の酷い子から順番に。他はクレイドルで休息してて」
「分かりました。プロフェッサー・クリシュナム」
「結構楽しかったよね」
「ウチのマスターはちょっと怖かったけど」
「こっちなんか最悪だったのです………」

 武装神姫は皆口々に感想を口にしながら、それぞれのクレイドルへと向かっていく。
 その様子を見ながら、数年前、謎の人物から送られてきてたデータを元に今回の武装神姫サポート計画を発案した彼女達の製作者、そして15年前の自分の仲間達を助けるために尽力したプロフェッサーことアイーシャ・クリシュナムは小さく微笑んだ。



??? 次元の間

闇の中に漂っていた、まだ明滅しているデア・エクス・マキナの破片を、ダメージの残る右手で握りつぶしたフェインティア・イミテイトは、周辺にもはや何の反応も無いのを確認すると大きなため息をつく。

「あーあ、やっぱり戻れないか」

半ば自嘲気味な言葉と共に、ダメージの残る体を見渡す。

「自己修復も限度、空間転移方法も無し、エネルギーも残り僅か」

もはや飛行する事すらせずに、空間に身を浮かべ闇だけが覆う虚空を見つめる。

「私は結局なんだったのかな。トリガーハートのイミテイトとして作られ、管理権限を乗っ取られて本来とは違う世界で戦って、解放されたかと思えばトリガーハートと共闘して、終わったらどこにも帰れず闇の中」

苦笑した己自身を他人事のように考えているのに、呆れるしかなかった。

「もう、このまま機能停止しちゃおうか」

 それを知ったら、先程まで一緒に戦ってた連中はどんな反応をするだろうか、こんな自分でも心配してくれるのだろうか。そんな事を考えてた時だった。

(ダメだよ、あきらめたら)

 急に自分の通信回路に、今まで繋いだ事の無い相手からの通信が入ってきた。

「誰?!」

 通信先を特定しようとするが、なぜか不安定な解析しかできずフェインティア・イミテイトは警戒を強めようとする。

(少し乱暴になるけどゴメンね)

 何もなかった空間に小さな転移の渦が生じ、そこから何かが自分に向けて飛んでくる。

「随伴艦?」

 飛来してきた物が、トリガーハート達の随伴艦によく似て非なる物だと判断すると同時に、それは彼女の目の前で停止。
そこから幾つもの光の帯が発生して、彼女を覆うように包み込む。

「キャプチャー、いや違う何これ?」

 疑問はさらに大きくなるが、自分を光の帯で包み込んだ飛来物は、そのまま転移の渦へと彼女を引っ張り込んだ。
 訳もわからず転移した先、不規則な光の明滅する空間には彼女を引っ張り込んだ当人が待っていた。

「エグゼリカ?!」

 フェインティア・イミテイトの叫びに、言われた当人は首を横に振る。

「初めまして、私はイグゼリカ。神楽坂ユナの次代の光の救世主です」

 イグゼリカはフェインティア・イミテイトを覆う光を解除すると、随伴艦と似たデバイスを自分へと戻す。
それを眺めていたフェインティア・イミテイトは彼女を繁々と観察する。

「その武装、どう考えてもチルダの技術の産物に見えるけど、光の救世主って名乗ったわよね、貴方」

 その質問にイグゼリカは困った顔をしながら、それに答えた。

「私は本当ならば貴方によって壊滅寸前まで追い込まれる筈の機械化惑星出身です」
「私によって? じゃあ武装神姫を送り込んだ未来って貴方の?」
「すこし違います。壊滅寸前の機械化惑星から強引な転移をしたマシン・クレイドルに乗ってた私は偶然からチルダへと転移しました。そして、苦労の末に元の世界に戻った私が見たのはデア・エクス・マキナによって大きな被害を受けている幾つもの世界でした」

 イグゼリカの表情に悲しみが浮かぶのを、フェインティア・イミテイトはどう反応を返したらいいのか分からないでいた。

「生き残りの人達を纏め、抵抗を続けていた先代から、光の救世主を受け継いだ私は多くの犠牲を払いながら、こちらの世界のデア・エクス・マキナを倒す事には成功しましたが世界には大きな被害が残りました」

 遠くを仰ぎ見るイグゼリカに、フェインティア・イミテイトは思わず視線をそらす。
自分が、その破壊の片棒を担いでいた事実を責められているようだった。

「そして私達は、今後どうするべきかを話し合いました。その過程でこれが発見されたのです」

 イグゼリカは一つのディスプレイを空間に映し出す。
 そこには幾つもの世界が相互に干渉しあう多次元世界地図だった。

「それって、デア・エクス・マキナの使ってた転移用データね」
「そうです。これを解析した私達は、このデータを元にデア・エクス・マキナと同等の転移技術を入手し、Gの大々的な協力の元に、破滅的な時代を回避するための過去への干渉作戦を決定したのです」
「それが武装神姫ってわけだったのね」
「そうです、過度の干渉はデア・エクス・マキナに別な行動をとらせかねず、そうしたら時代は再度、破滅に向かうかもしれない。そんな危うい作戦でしたが、成功させる事ができました」

 イグゼリカの微笑に、ますます居たたまれなくなったフェインティア・イミテイトはずっと考えてた疑問をぶつける。

「で、貴方の故郷を滅ばした私に復讐でもするつもりなのかしら?」

 もしそうだとしても、今の自分には反抗する力も無い事に、なぜか僅かな安堵を感じていた。
 が、イグゼリカはバツが悪そうに頭をかきながら困った感じで返答。

「確かに私の世界ではそうでしたけど、今の貴方はこちらの貴方じゃないですし。そちらの戦いに協力してくれたなら、むしろお礼を言わせてください」
「………あの子もそうだったけど、光の救世主ってお人好しばかりなの」
「そうなんでしょうね」

 この返答に虚脱感を覚えたフェインティア・イミテイトは、自分も頭をかこうかとした時に、自分自身が燐光に包まれだしたのに気付いた。

「これって………」

 見るとイグゼリカ自身も燐光に包まれだしていた。

「歴史は変わります。私は今から戻る世界では光の救世主じゃ無いのかもしれません。だから、その前に貴方を闇から救い出したかった」
「本当にお人好しね、光の救世主って」
「行ってください。フェィンティア・イミテイト。どの世界に飛ぶのかはわかりません。けど、貴方は貴方自身をそこで見つけ出してください」
「お人好しでお節介ね」
「先代譲りです。もし、あなたの世界の私に再開できたら、私がお礼を言っていたと伝えてください」
「保障は出来ないけど分かったわ」
「では、さようなら。そしてありがとう私達の時代を救った恩人」
「ありがとう、は私のセリフ。放っておいてもよかった私を助けだした、とんだお人好しの恩人さん」

 それを聞いたイグゼリカは笑顔を共に手を振る。
それに手を振りかえしたフェィンティア・イミテイトの視界は、光の明滅する空間から違う空間へと切り替わっていく。
思わず目を閉じた次の瞬間、強い光を感じ、目を開ける。
その視界には青空が広がっていた。
空に放り出されたフェィンティア・イミテイトは自分自身を制御して低速飛行を始める。

「ホント、お人好しね」

 ふと満身創痍だったはずの体が、ある程度修復されている事に気付いたフェインティア・イミテイトは笑みを浮かべる。

「私自身を見つける、か」

 空を飛びながら、彼女は先程の戦いで共に戦った者達を思い出す。

「行こう。あの子達の様に自分の意志で戦える存在になるために」

そうしてフェィンティア・イミテイトは空を駆け抜ける、その姿には新たな目標を秘めていた。



 数多の世界を巻き込み、多くの争乱を産んだ戦いは、鋼の乙女達の奮戦により、こうして幕を降ろした。
 長く激しい戦いの中、乙女達は決して希望を失わず、仲間を信じ、そして共に力を合わせ戦った。
 深く暗い次元の間からの魔の手は、二度と伸びて来ないだろう。
 それぞれの世界へと戻っていった友の事、乙女達は決して忘れない。
 それが、彼女達にとって何よりもの戦果なのだから…………


END



















「デア・エクス・マキナの活動、完全停止を確認」
「当初予想された敗北確立、0.02」
「機械体と有機体の複合戦闘体の合併戦闘力に大幅な修正の必要あり」
「更なるサンプル観察の必要を求む」
「類似体存在世界、検索を開始………」


TO BE NEXT SUPER ROBOKKO WAR!


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