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[24204] 【状況開始っ! 二次創作】状況開始!! 予科練青春記 
Name: オスプレイ◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/06/18 17:53
pcゲーム 状況開始っ!【ジャンル 軍事学園恋愛アドベンチャー】
と言う作品の二次創作を書いてみました。
原作知識の無い軍事オタの少年があの非常識空間に突っ込むとどうなるのかがテーマです。

原作・公式設定等になるべく忠実に書いていますが、穴がある所等は独自解釈、独自設定で埋めています。

開始時期は原作開始の1年前(入科)なんで、学校に馴れるまでヒロイン・原作組との交流は待ってください。

プロローグ少し変更

最新話より作者名変更しました。




[24204] 【プロローグ】憑依?入寮。
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/13 06:50
「俺達ゃ歩兵の本領は!!朝から晩まで走ること!!」
「「「「「「俺達ゃ歩兵の本領は!!!あっさからばんまではっしるっこと~!!!」」」」」」

クソ暑い中、俺含む迷彩服の集団は隊伍を組んだままグラウンドをひたすら走る。

「雨も泥も潜り抜け!!敵を見つけて連発だ!!!!」
「「「「「「雨も泥もくっぐりぬけぇ!!敵をみっつけて連発だぁ~!!!!」」」」」」

ダルイ、足が痛い、胸も痛い、ああ早く終わらねーかな。
「よし、小休止!!!!5分後に整列。」
教官の一声に俺達は地面に倒れ伏した。

状況開始!!予科練青春記

西暦2010年、日本は近隣諸国と領土問題でトラブルになっている以外はおおむね平和だった。

「オイオイ、MAMORI売り切れかよ。しゃあねえな月間PAK買って帰るか。」
いつもの様に書店で雑誌を購入し、俺は家に帰った。母さんがパソコンの前で合格者発表を見ながら嬉しそうに言った。
「浩一!防大の一次試験通ったって!!あした学校で調査書請求しなさい。」
俺は先日、防衛大学校人文・社会学を受験したのだ。なんとか一次試験を合格し、二次試験に備えている。
俺は石破浩一。何処にでも居る、軍事オタの高校三年生だ。成績はというと英語以外は極めて優秀で皆勤。
二次試験までに小論文と面接の練習しておかないとなあ。
自衛隊とはこういう組織だ。

日本の国防組織「自衛隊」憲法では戦力とされず警察力とされている。最高指揮官は内閣総理大臣。
防衛省の管轄で、陸上・海上・航空の三種があり、08年3.31時点でのデータで自衛官は23万291人でさらに
即応予備・予備・予備自衛官補などの定員外人員(データなし)を含めると推定24万人前後である。
陸上自衛隊は5つの方面隊、海上自衛隊は5つの地方隊、航空自衛隊は3つの方面隊と1つの混成団で日本を守っている。

そして出動実績は、領空侵犯と領海侵入、災害派遣・PKOや人道復興支援である。
ここ数年でようやく認知され始め、アニメ・ゲーム・映画などの各種メディアに登場するようになった。
しかし、なぜか一部の国民に忌み嫌われ、内閣や政治家ですらよく知ろうとしない組織である。
大東亜戦争がトラウマになっており、日本語の言い換えが好きな(必要だった)組織でもある。
兵士は隊員と、歩兵科は普通科と、憲兵は警務隊と、脱走は脱柵と、どんな戦闘艦でも護衛艦である。
昔はもっと極端で戦車を特車、戦闘攻撃機を支援戦闘機と呼んでいた。(つい最近“戦闘機”に統一された)

とにかくこんな感じの組織だ。さあ明日は学校だ。寝よう。

翌朝、俺はいつものように朝メシ喰って、ニュースを見た。
内容は芸能で誰それが結婚したとか尖閣諸島沖事案の映像流出についての二つだった。
コメンテーターも政治家も論点がずれてると思う。ダレが漏らしたかより、フルバージョン公開とかそっちのほうが
重要じゃねえか?真実を明らかにしたんだからどっかの国みたいに愛国無罪論でうやむやにしてもいいんじゃねえの?
とか思いつつ自転車を漕ぐ。そして丘の上の学校目指して一気に加速!!自転車や歩行者が流れるように後ろに消えていく。
「ワ・レ・ニ・オ・イ・ツ・ク・ジ・テ・ン・シ・ャ・ナ・シ」とどっかにメールしたい衝動に駆られるくらいの快速っぷり。
そして近道を発見した俺は“存在しない”はずの道路・・・・・・鏡の道に突っ込んでしまった。眩い光が俺を包み込んだ。

俺は目を覚ました。いつものように朝飯を・・・・・・緑の異様に短い制服だったか?ウチの学校。そしてこんな制服いつ買った?
確かに陸上自衛隊の新迷彩服はサバイバルゲーム用に買った。だが制服は購入した覚えないぞ。というか短っ!!!!
みぞおち位までしかねーぞ。肩章の位置も左側になってるし・・・・・・名札が医者の先生みたいに顔写真入りになってるぞ!!!!
そこに母さんが現れた。
「浩一、早く着替えて電車乗らんと入寮に遅れるよ。初っ端から遅刻するな。急げ。」
何を言ってるのか分からなかったが、とにかくこの制服もどきに着替えて地図どおりに電車に乗った。見たことも無い町並みだ。
どうやら異世界に来たらしい。普通、転生モノ・憑依モノはトラックに跳ねられたりすんのがお約束だろうが。
死んだって実感無いから夢なのかも知れん。普通に考えたら鏡の道が非現実的なんだよな。

駅や新聞での情報収集の結果、少しだけ現状を把握した。

・意識のみ異世界に飛ばされていること。そしてこれから皇立国防陸軍士官学校鎚浦高等部という学校に入学すること。
・国名は眞州(しんしゅう)、暦は世暦2055年、眞暦2715年、元号は平世16年、今日は4月5日。公用語は日本語(眞州語?)、通貨は円(¥)。
・議会制民制なのに国皇(こくおう)が居るが、政治はせず軍事のみに専念していること。
・民生主義国家の連合と共和主義の連邦という二大勢力が居て冷戦状態であること。眞州は連合側に属していること。

地形は地球に酷似しているなあ。日本の位置に眞州、アメリカの位置に合州国があるのか。
俺の居た世界のNATO側国家で連合、WTO側国家群が連邦か。
民生主義≠資本主義、共和主義≠社会主義として判断しておこう。知識も無いのに先入観で断定するのは危険すぎる。
世暦は西暦、眞暦は皇紀みたいなもんで、議会制民制は議会制民主主義みたいなもんだな。
眞州憲法でどんな位置づけなんだろうな、国皇。天皇と違って国事行為を行うだけのタダの象徴ではないことは確かだ。
最高指揮官が国皇というのが気になる。内閣と軍部は分離しているのか?文民統制に似て非なる政治体制であることは確かだ。
国防陸軍ということは日本国憲法の戦力の不保持のような規定はなさそうだ。どこかで法律書読まないと不味いな。
治安維持法・不敬罪の様なものがある可能性も考慮してハッキリするまで滅多なことは言わんほうがよさそうだな。

「次は~鎚浦~鎚浦~、皇立国防陸軍士官学校予科鎚浦高等部にお越しの際はバスにお乗換えください。」
いろいろ考えているうちにどうやら着いたようだ。改札を出ると緑と黄色の路線バスが居る乗り場と灰色のバスが4台止まっているところがあった。
「新入科生の皆さん!こっちに集合してください!!!!」迷う暇も無く声がかかる。まるで駐屯地祭のときの駐車場から駐屯地までの送迎バスのような状態だ。
「え~揃いましたね。皆さん今日は人員輸送車ですが、帰省や休暇の際は路線バス使ってください。部屋割りは棟前広場にて発表します。」
輸送車は俺達を乗せ、玄関前に降ろすと、また駅のほうに走っていった。
それから俺達は団地の様な所に案内され、煙突がそびえ立ってる昔ながらの銭湯の前の広場に集まった。
「志願番号、7050~7056、一番棟101、7057~7062、一番棟102・・・・・・」6人1部屋らしいがどんな部屋なんだろう。やっぱり病院のような感じなんだろうか。
志願番号読み上げが始まった、決まった奴から案内されている。女子は、頭にWが付いてW8760といった感じだ。

俺の部屋は二番棟の304号となった。北側から2番目で3階の4番目の部屋だ。
ドアを開けるとそこはフローリングで、パイプで出来た3段ベッドが二つ。細長い金属ロッカーが6つ。
大型の木製学習机(スタンドライト付き)が一つとイスはキャスター付きが4つ。部屋は裸電球。窓を開けるとシャープペンのような電柱がよく見える部屋だ。
軍事施設の寮っぽくない・・・・・・テレビの特集で新隊員教育があったが、全然別物だ・・・・・・しかも朝の点呼、教室でやるんだぜ?
私物をロッカーに入れ、廊下に出る。そしてぞろぞろと多目的会議室に向かう。

そこで、作業服、半長靴(はんちょうか)を受領し、諸注意を聞く。
・亡失及び破損した際はPXにて購入すること。
・検査直前には員数合わせが横行するのでしっかり掌握するように。
・採寸品は時間がかかるので早めに購入申請すること。
・あす一〇〇〇(ヒトマル マルマル)より新入科生入科式典・・・・・・入学式のようなモノだ。0840に一年次、普通科教室に集合点呼。0935より移動。
・連絡会議と呼ばれる上部組織があり、そこから委員が派遣され誘導業務に当たるため従うこと。

部屋に帰った俺達は自己紹介もせず、2200時に初めての就寝ラッパを聞くことも無く深い眠りに落ちていた。



[24204] 【1-1】新入科生入科式典
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/13 07:01
眞暦2715年4月6日、0600
起床ラッパが鳴り響く。あれ、何か抜けてるようなメロディだなあ。
陸上自衛隊の起床ラッパに慣れているとどうも違和感を覚える。
ワイシャツを素早く着て、ズボンを急いで履き、奇妙なデザインのベストは省略し、上着を着用する。
ベッドのシーツを急いで折りたたみ、毛布を一箇所に固めて置く。制帽を傾かないように被る。
伊丹(駐屯地勤務)の叔父さんに教わったとおりにこなしたが・・・・・・何も始まらない。他の奴はゆっくり起きて来て支度する。
シーツや毛布も汚く敷きっぱなしだ。検査に来ないからって、これはひどい。やっぱり軍隊っぽくない。
新入科生朝食会場と書かれた紙が貼られた食堂に行く。そこでご飯、焼鮭、味噌汁、紅白饅頭が出された。
祝 入科おめでとう。と言う紙が紅白饅頭の下に敷かれていた。
食事ラッパも鳴らないし、何より、この大雑把さは何だ?この世界の軍はどうなっているんだ?
眞州国防軍がおかしいのか?それとも鎚浦がこうなのか?と考えているうちに食べ終わり、教室へ。

0840、教官が現れて点呼を始める。
「出席番号2番、石破浩一」
「ハッ!!」しまった!つい癖でやっちまった!!これで目ぇ付けられた!!
「いい返事だ。覇気があっていいな。石破。」ニヤニヤ教官は笑っている。
目を付けられるとろくな事が無いのだ。面倒事を押し付けられたり、しょっちゅう呼ばれたりするのだ。
「出席番号7番、久我山耕平」
「アン?なんでえ?」いかにも不良といった感じの奴がタメ口をきいた。教官は低い声でこう一言。
「久我山、起立。前へ。」久我山は教官のほうに肩を揺さぶりながら歩いていき、よせばいいのにガン付ける始末。
次の瞬間、久我山は左に飛んだ。教官のフックが側頭部に入ったのだ。
「久我山、言葉遣いと態度には気をつけろ。戻れ。」
教室は水を打ったように静まり返り、久我山はよろよろ座席に戻った。
久我山のように威勢の良かった不良少年たちもマトモに返事するようになった。

0935、諸注意を終えた教官が退出するのと入れ替わるように、2年次の連絡委員が入ってきて体育館前に誘導してくれた。
1000、「新入科生、入場」の声と共に2年次の先輩が号令を掛け、進む。バラバラの動きで着席した。
「これより、平世十六年度新入科生入科式典を開会します。全員起立、敬礼。」
進行の先輩の号令に合わせ、動作するのだがどうも合わない。先輩や教官の一糸乱れぬ動きにやっと軍隊であるという実感を覚えた。

校歌斉唱、学長祝辞までよどみなく進行していった。龍門学長のお言葉のあと、在校生祝辞があり、来賓の祝辞があり、式は終了した。

そして先輩の施設案内が始まった。まず最初は体育館に一番近い食堂に案内された。
「えーっと、ここは君らが朝食を摂った食堂だな。昼飯時は戦場となる。場所取り、人気のパン争奪戦。」
「コッペパンがハズレくじのような扱いなんだが、それにも負ければ飯抜きになっちまうから、泣きたくなければ人垣を掻き分けろ。」
争奪戦・・・・・・なんなんだここは。普通、食堂は全隊員が食べられるようになってるんじゃというか固定メニューじゃないのか!?
貰った給料速攻使っても飯は食べられる・・・・・・んじゃないのかよここは!!!!

「次、PX。ポストエクスチェンジの略で早い話が売店だな。生活必需品、被服等装備品、食料品とか売ってるお店だ。クリーニングもある。料金表はアレだ。」
ここは駐屯地のPXとあんまり変わってなくて良かった・・・・・・なんで東亜マルイ製の電動ガン置いてんだよ。隣には1/1スケール装弾筒付き翼安定徹甲弾の模型が・・・・・・
アヲヂル味のレーションとか色々不思議すぎるラインナップだなあ。 パンツァーファースト弁当とかクレイモア型海苔弁当って武器の名前じゃないか!!

「ここは衛生室、衛生科の魔窟だ。傷病したときに利用しろ。恐ろしさは後でわか・・・・・・志津教官!!!!」
「藤巻ぃ、いい度胸だぁね。」
なにかけだるそうな白衣の女性に殴られる藤巻先輩。見た目は普通の保健室だ、何が恐ろしいのだろうか・・・・・・。

別の棟に入り、鍵の開いている部屋に案内された。理科室みたいだが、コンクリート製の壁は穴だらけだ。
「ここは実習棟、小火器の整備実習、分解結合の練習やるところだ。」
「あの、この穴って何なんですか?」一人の女子科生が質問をぶつけた。俺も思っていた。
「こいつか?暴発事故で開いた穴だ。アレは馬鹿が連発で暴発させやがった時の穴だな。お前らも馴れて来たら危機回避力付くから安心しろ。」
なんで整備実習や分結の練習で実弾装填してんだ!!!!危機管理とか安全性とかそんなものが欠落している。
薬莢が転がってるところをみると、実話なんだろう。つーか年間で死人はどれ位いるんだろう。

実習棟から出ると、グラウンドへ出た。見た所普通の陸上競技場の縮小版みたいな作りだ。トラックがあって、幅跳び用の砂場がある。
「ここは処刑場・・・・・・じゃなくてグラウンドだ。しこたま走らされて、吐くまでしごかれる。そして休み時間に使うときは気を付けろ。」
なんだかとっても嫌な予感がする。シゴきもランニングも軍隊ではある事だ。最後、もっともやばそうだ。
「機甲科二種の馬鹿どもが色んな物を投げてるからな。ハンドグレネード・・・・・・破片手榴弾や砲丸には特に気をつけろ。当たると大ダメージか二階級特進だ。」
やっぱり。ここの人等は危機管理的な何かを棄ててる。というか武器の管理とかってどうなってるんだ。

「あの実習棟の向こうに見える建物が図書館だ。普段は本好きしか入らない、試験前に勉強する奴が入るくらいだな。閉館は1800時だ。」
俺達は分厚いコンクリートの壁を抜け、格納庫に来た。
「ココはハンガー。格納庫だな。整備科と機甲科の巣窟だ。武器の受領等で来る事になるからしっかり見とけ。」
科生達がざわつく。「戦車だ!」とか「おっきい!」とかそんな感じで。男子科生も女子科生も興奮している。
「おーいヨーヘイ、お客さん連れてきたぞ。いつもの奴やっちゃってくれ!」藤巻先輩は機甲科の科生に話しかけた。
するとハンガーの奥の戦車が急発進し、ハンガー入り口で見ている俺達の横をスピード出して通過し、土嚢と鉄骨で出来たジャンプ台の前で急旋回!!
そして勢いを付けるとジャンプした。湧き上がる新入科生たち。そして俺達の前で止まり、油圧姿勢制御によって高くなってから前傾姿勢にし、お辞儀をした。
それをみて女子科生達が「かわいい」と叫ぶ。俺には90式戦車が姿勢制御しているようにしか見えないんだが。
「この戦車は九九式主力戦車です。ここ鎚浦予科練には五両配備されており、鎚浦のモットー“実戦的教育”に大きく貢献しています。」
ハンガーのスピーカーから声が聞こえてきた。ノリが駐屯地祭だ・・・・・・というかアレまんま90式戦車じゃねえか。こっちのは眞暦2699年に制式採用された戦車らしい。

「最後に、演習場だ。軍用語でヤマっていうから覚えとけよ。そろそろだな。」
なにがそろそろなんだ。ココの校風理解する前に死ぬかもしんねーな俺。やりそうな事がうっすら分かってきた。祝砲ぶっ放す気だな。
「3、2、1、よし来た。」藤巻先輩が空を見上げた時、遠くからポンポンポンと音がした。迫撃砲を祝砲代わりにしていた。
そしてヒューンと風を切る音がし、時限信管が発動したのか次々と花火が開いた。上がる歓声。発射方向を見ると軽迫撃砲が3基、重迫が1基。
だが、最後の一発は炸裂せず、校舎の方へと消えていく。
「ありゃりゃ、歓迎弾は12発だったような・・・・・・軽迫に実弾混じってたかな?ま、いつものことか。」
そして、校舎の方向に弾着。着発信管が作動し爆発。黒煙が立ち上った。
騒然とする新入科生たち。俺は藤巻先輩に話し掛けた。「先輩、毎回こんな事が起こってるんですか、ココ。」
先輩は苦笑いしながら言った。「ああ、まだマシなほうだな。1週間程度で謹慎とけるだろ。」

それから色々あった気がするが覚えていない。解散してすぐに寝たと思う。
こうして入科式典と新入科生案内は終了した。




[24204] 【1-2】授業一日目
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:27
眞暦2715年、4月7日0600 起床ラッパ前に起床し身支度を終えた俺は朝メシを食べるために寮を出た。
支給された背嚢(はいのう)・・・・・・リュックサックに筆記用具と教科書を入れて食堂に向かったが、朝食は0700からと言う事を思い出し、散策する事にした。
食堂前広場は花壇があり、広々としているが、木に弾痕があったり、藪に対人地雷のトリップワイヤの様なものが張られていたりし、デンジャラスな雰囲気が漂っている。
食堂近くの掲示板に、研究会・・・(部活みたいな物だ)が勧誘のポスターを貼っている。内容は“来たれ!新入科生!! 火薬研究会”や
“対人障害のキワミ!! 対人障害研究会”などやばそうなものが多い。というかアレ対人障害研究会の仕業じゃねーのか。
市街戦研究会とか、不正規戦研究会とかあるけど電動ガンでやってんだろうなあ・・・・・・ココの奴らなら実銃使いかねないなあ。

朝礼、訓練分隊の編成表を見せられる。俺は19分隊だった。

一時間目、最初の授業は石堂教官の“基礎課程Ⅰ”である。30代後半くらいに見える白髪の教官が入ってきた。
「全員、起立、敬礼、着席。」出席番号1番が号令を掛けるが当然、動きはバラバラだ。石堂教官はそのまま授業に入った。
「最初の議題は、まず、命令と集団だ。今のザマだと貴様らは全く役に立たない。いいか、命令を受けたらバネ仕掛けのようにすぐ動け。」
統率の無い集団は烏合の衆以外の何者でもない。新隊員教育に「砂は手づかみで投げてもたいした事無いが、袋に入れた砂は威力が大きくなる」と言うのがある。
バラバラの砂を投げても威力は無いが、土嚢を投げつけられたら威力がでるのと同じように、集団も統率という袋があることで大きな力を発揮する事が出来るのだ。
「岡崎!返事はハイだ!そして分からないからと言って黙るな!!すぐ返事しろ!!返事の遅れで死人を出す事もあるんだぞ!!」
「ハイ!!分かりましたッ!!」少し考えているうちに、授業が進んで・・・・・・いなかったようだ。返事や、即答について説教が始まっている。
岡崎正宗という武将みたいな名前の奴が“教材”になってしまったようだ。

二時間目、“全体教練”はグラウンドに出て、実際に動作をする教育だ。担当は石堂教官だ。予科練は座学担当教官と動作訓練担当教官が別れてないのか?
更衣室で二種演習装備を装着する。二種演習装備とは迷彩作業服に国防色の89式鉄帽を装着し、弾帯を付け、半長靴を履いたものだ。
迷彩作業服がどうみても陸上自衛隊新迷彩にしか見えないんだが。そして、89式鉄帽の作りが変なんだよな。
偽装取り付けバンドを留めているパーツが一体成型なんだよな。普通、偽装取り付けバンドは迷彩カバーに付けないか?
考えているうちにグラウンドへ整列していた。石堂教官の号令にあわせて動く。
「かしらー右!」「全体、前へ!」「列を乱すな!歩調合わせ!」「腕をしっかり振れ!!顎引き胸張れ!!」
これを50分間何度も繰り返した。終わった頃には皆、疲れていたがすぐ着替え、教室に戻る。

三時間目、“現代文”文法も日本語と同じだったため、普通に受ける。唯一日本での経験が通用する教科じゃないかと思う。
歴史系はこの世界の事を知らないから全滅だろうな。古典・現代社会も同じく。英語は比較的弱いからツライ。
化学・生物は見たところ、日本での経験が通じそうだが、まだ分からない。
数学は・・・・・・苦手だ。数学がダメだったから、理系と違って競争倍率が異常に高い防衛大の人文社会学科受験したんじゃないか!
ここは試験無かったらしいが、士官学校や国防大学校といった教育機関があり、難しいらしい。そこ目指してみるかな。

四時間目、“数学Ⅰ”因数分解ってどうやるんだっけ、一次関数がy=αxで、二次関数がy=2αxだったっけか。
高二で数学を捨てて文系に走った俺には辛いぜ。

昼休み、課業終了のラッパと共に食堂へ科生たちが突撃を掛ける。俺は全力で食堂に急行する。その時隣を走る二人と目が合った。
同じクラスの岡崎正宗と吉光藤志郎であった。その場で昼飯同盟(吉光命名)を結び、人垣の中に突入して道を築く、そこを岡崎と吉光が三人分調達する。
これによって、授業初日の昼飯は確保できた。三人で座席を探していると、いかにもお嬢様な女の子があの人垣の中に入っていく。
その瞬間モーセの十戒の如く人垣が割れるではないか!吉光が「おおぃ!なんだありゃ!」と一言。女の子は無傷でパンを5個抱えて、女の子たちの集団に入っていった。

五時間目、“眞州史”

世歴1992年、民政主義を掲げる連合と共和主義を唱える連邦の衝突から大西洋西部地域で世界大戦が勃発する。
世暦2002年12月、眞州海を連邦艦隊が通過、南海の連合機動艦隊を攻撃。眞州海事件と言う。これに中立条約違反だと怒った連合軍は眞州に対して同盟要求。
これを断った眞州に対し、時の合州国大統領ドワイト=アイゼンハマーは宣戦布告。2003年1月、ミッドウェー海戦。眞州海軍第三艦隊は合州国海軍航空隊の奇襲を受け壊滅。
2004年2月。大陸の植民地に連合王国軍が侵攻、大牟田中将、白骨街道を築きながら脱出。島嶼部において散発的な抵抗を行うも悉く玉砕。
国皇、連合との講和を宣言。軍は解隊される。警察保安隊創隊。連邦政府は対眞州政策を“敵対的国家政策”に切り替え、北洋の漁船の無警告撃沈、拿捕を行う。
警察保安隊と連合軍によって北洋の安全化作戦実施。北洋艦隊壊滅。同年6月、連合軍、ネヴァダで世界初の核実験。8月、連邦、ノヴァヤゼムリヤで核実験。
世暦2005年、ユトレヒト講和条約が締結され世界大戦が終結するも、冷戦に突入する。
世暦2007年、高麗戦争特需景気。連合軍の休憩所として働き、巨額の収入を得る。2009年、停戦。北鮮と南韓に分裂する。
世暦2008年~2028年の間に、眞州改造計画や高度経済成長があり、眞州は豊かになるが竹田島領土問題が発生する。この頃世界では越南戦争・クメール国内戦発生
世暦2030年代、中東で湾岸戦争が勃発する。連合、眞州に派兵を要求。法律上の問題が発生するため警察保安隊廃止、国防軍となるも戦力が足りないため、掃海隊のみ派遣。
古くから軍人教育が盛んであった眞州は、量を質で補うべく幹部候補教育の強化を決定。その一環に、高校に相当する予科高等部の教育強化も含まれていた。

日本に似ているような似ていないような様な歴史だな。教官が歩兵を普通科と言うのは保安隊時代の名残であるといってたな。
入学試験も無くて志願表が書ければ入れるところって事はいまの国防陸軍はバブル期の自衛隊の様な状態なのか?

こうして、一日が終了した。今日知り合った二人と一緒に二番棟の前まで帰った。岡崎・吉光は一番棟303に住んでるらしい。

そして、翌日、訓練分隊による訓練が始まった。



[24204] 【1-3】訓練分隊編成
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:27
4月8日 訓練分隊による訓練が始まった。訓練分隊とは、1年次から3年次までの全科生で年次をまたいで兵科別に編成され、
一分隊あたり4名から6名で編成される。何故このような方式を採るのかというと、教官数と科生の数の差である。
“教官1人に45名担当させるより、上級科生と組ませて上級科生が教官役をする事できめ細かい指導ができる。”
そういう発想から訓練分隊制が導入されたそうだ。

俺の今年一年の訓練分隊は第19訓練分隊だ。グラウンドで分隊ごとに集合した。
分隊員は俺含め5名で1年次が2名、2年次が2名、3年次が1名だ。
「今年一年ヨロシクぅ!!ガンガン行くぜぇ!!」この妙にハイテンションな人は、普通科1種3年次 岡田弘人(オカダヒロト)分隊長だ。
「あの、その、よろしくお願いひゅ・・・・・・いたたた。」この気が弱そうな女性は、普通科1種2年次 古河奈緒子(フルカワナオコ)先輩だ。
「ま、ボチボチいこうや。ヨロシクな。」関西系のイントネーションのこの人は、普通科1種2年次 有川良太(アリカワリョウタ)無線手だ。
「今年一年、よろしくお願いしますっ!!」普通科 1年次 岡崎正宗
「皆さん、よろしくお願いします。」俺、普通科 石破浩一

「まず、最初は体力を付けるぞ!!グランド10周からスタートゥ!!」分隊長はよく分からないノリで走り出す。
それを追うようにして走り出す俺達。そして6周目、俺と岡崎はヒィヒィ言いながら走っていたがその横を古河先輩が抜いていった。
結局、ビリが俺で4位が岡崎だった。先にゴールしていた分隊長は、ヒマそうにしていた。

気づいたら午後の訓練だった。今日やった事のまとめは、・走った・登った・腕立て伏せ の三点である。

訓練分隊による訓練、1年次だけでやる週3回の全体教練、石堂の戦術、教官達のその他座学を受ける毎日が始まった。

4月30日、普通科だけで3教室分、130名近く居た一年次ももう100名ほどになった。
辞める第一の山、分隊訓練初日。ここでナメていた連中の大半が辞めていく。
次に、4月後半、ストレスでジワジワと潰れる者が出てくる。ウチのクラスでも2人居なくなった。
そして、大型連休のある5月。連休明けの訓練時にかなり居なくなってるそうだ。
30kgの背嚢と、5kgの小銃をもってハイポートしている時にわざわざ教官は教えてくれるが、逆に辞めずに頑張って行こうと決意した。

今日の分隊訓練が終わったとき、石堂教官が演説台の上に立って、終了を告げずに話し始めた。
「歩兵と言うのは何十キロも行軍しなければならない。また、その道は平坦ではない。」
「来月第二週、全科合同で、演習所山野の徒歩行軍演習を実施する。」
おいおい、ついに本格的な演習かよ!!まだグラウンドでのハイポートですらキツイのに、何させる気なんだ。
まるで欠点ギリギリかアウトかのテストの返却を待つときの不安感に似ている。他の奴らも同じだったようで、口々になにかを言ってる。
俺の脳裏に、徹夜で徒歩行軍し装具を付けたまま寝る、自衛隊の幹部候補生の訓練映像が蘇った。
そんな俺達を見た石堂教官は「静かにしろ」と黙らせると内容を話し始めた。
「内容は、第一種演習装備で30kmを踏破する演習だ。平地を歩くのとはワケが違う。上級科生の指示をよく聞き、準備するように。」
といって今回の分隊訓練は終了した。




次回から客観的視点による徒歩行軍演習の準備始まります。
まだ、恋愛の「れ」も無い展開です。だって、軍学校なんだぜここ・・・・・・
心配しなくても彼らが原作時間(二年次)になって学校に慣れたら恋愛します。






[24204] 【1-4】 ある5月の予科練
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:28
5月4日、石破浩一、岡崎正宗、両科生はいつものように第一種演習装備でグラウンドでハイポートしていた。
ハイポートとは小銃を抱えた状態で走る訓練である。決してぶら下げてではない。
自衛隊に入隊するか、似た経験がしてみたい人は、5Kg の重りを両手で抱えたまま走ってみると良いだろう。
「どうした!お前らのソウルはそんなモンかよ!もっと熱くなれよ!!」岡田弘人科生はグラウンド脇で叫び続けている。
各訓練分隊は5月20日に実施される合同徒歩行軍演習に向かって特訓を行っていた。
合同徒歩行軍演習などの成績は士官学校や国防大学校への進学、実戦部隊任官組でも部署等に響くのだ。
だから、当然分隊で評価されるため“お荷物"の1年次をいかに育てるかは上級科生の腕次第なのである。
「分隊長、トイレ行ってもいいですか?ホンマにヤバイんですわ。」有川良太科生はすごくヒマそうに言った。
「いいぞ。ただし、ドリンク買ってくるのを忘れるなよ。」
「おおきに、んじゃあミネラル水と電解☆水どっちがええんですか。」
電解☆水とは、人の汗に似せた調整をしているため吸収がいいという謳い文句のスポーツドリンクだ。
ミネラル水とは“何とか山の水”という商品なのだが誰もそんな名前で呼ばない。何とかシウム何%含有と言う表示が無駄に大きくて多いのでそう呼ばれる事に。
「電解☆水は甘ったるいからなあ、ミネラル水でいい。」
そんなやり取りをしている傍を周回遅れで未だにゴールしていない岡崎と浩一が走りぬける。
「あと、何周よ・・・・・・岡崎っ・・・・・・」浩一は左を走る岡崎に話しかける。
「俺・・・・・・はっ・・・・・・2周、お前は・・・・・・」岡崎は苦しげに答える。
「俺も・・・・・・・2周だ・・・・・・」
「二人とも、後2周だよ・・・・・・・がんばって。」古河奈緒子科生が激励する。しかし、声が小さく、二人には聞こえなかったようだ。

午前の分隊訓練が終了し、昼休みになった。吉光藤志郎科生、岡崎正宗科生、石破浩一科生の三名は食堂に突撃した。
戦果は、ホットドッグが2個、サンドウィッチが1個、牛乳が3本だった。
そこで浩一と岡崎は有川先輩と出会った。吉光に紹介する岡崎。お互いの自己紹介が終わると、確保していた座席に座った。
「ところで、有川先輩、あれ何なんですか。」吉光は、モーセ現象(浩一命名)の方を指差した。
「ああ、ありゃ衛生科の女の子やからな。衛生科に白衣の天使像を抱いとるから優しくしてるんや。紳士協定みたいなモンがあるらしいで。知らんけど。」
割れ目から、桃色の隊種標識を付けた女の子が出てきた瞬間、死闘は再開された。
「あの、普通、軍組織の食事って決められたメニューが出てきて、全員に行き渡るはずなんですが。」
「鎚浦の教育精神に『実戦的な教育』ってあるやろ、その一環で、攻撃精神を養うためにこの形式とっとるらしいで。」
そう言ってる時にはもう人垣は無く、コッペパンと水あるいは、牛乳を持った敗者たちが食堂前広場で敗北の味をかみしめていた。

午後の座学“基礎課程Ⅰ”が始まった。担当は石堂教官である。
「士官には2種類ある。ラインオフィサーとテクノオフィサーだ。ラインオフィサーとは、実戦士官のことだ。テクノオフィサーは技術士官だ。」
黒板に石堂教官はラインと書いた赤丸と、テクノと書いた青丸を描いた。
「貴様らが士官になってもこっちのラインオフィサーだ。テクノは整備科の人間がやる。」
普通科、機甲科、航空科、と赤丸のなかに書き込み、整備科と青丸に書き込む。
「ラインはテクノを指揮できない。テクノはラインを指揮できない。つまり、指揮の範囲は同一兵科の中が限界だ。」
「次、命令とは絶対ではない。命令とはある程度の命令違反が許可されている。命令違反と言うのは誤解を与えるな。現場指揮官の判断が優先されると言った方
が正しいな。階級は命令違反させる為にあるようなものだ。上部は会議室の中だ、現場は一刻一刻と変わっていく。自分で判断しろ。」
35名中4名ほどが寝ている。食事後の授業が眠いのは、何処の世界でも同じようだ。石堂教官は一番近い科生の頭に拳を振り下ろした。
殴られた彼は、額を机で強打し、二重のダメージで起きる。その凄まじい音で残りの3名も起きた。
何事も無かったかのように授業は続く。いちいち「暴力だ!!」などと騒ぐような繊細な者は早々に辞めて居ない。
軍隊というモノに馴染めない者は夏を超えることなく消えていくのである。

そして課業終了のラッパが高らかに鳴り渡る。号令当番員が号令をかけて、休み時間となった。
「おい、正宗、浩一。次って実習棟で小火器の分結だったよな。行こうぜ。」
吉光・浩一・岡崎は他愛も無い話をしながら、実習棟の小火器実習室に向かった。

「他の予科練では弾抜きとかヌルいことやってるみたいだけど、ウチはそんなの関係ないから死にたくなかったら話を聞けェ!!」
小火器担当教官のロック先生(本名不明)は早速弾けているようだ。軍人より、ミュージシャンの方が向いていそうな先生である。
陸上自衛隊の89式小銃に酷似したデザインの99式5.56mm小銃が人数分渡され、指示通りに分解して組み立てる。
石破は、軍事雑誌で見た図面と経験談を思い出しながら組み立てたため比較的早かった。授業が終わりかけたとき、事件は起こった。
一人の科生が暴発させたのだ。ア、レ、3、タの順の切り替え金がレの位置にあった状態で引き金を引いたため、青い訓練弾が連発で吐き出され、脆い壁に吸い込まれていった。
沸き起こる悲鳴に対し、ロック先生は涼しい顔で生徒を見渡しこう言った。
「オメーら、こんな事でビビってんじゃねーよ。オメーらはこれから状況によっては硝煙臭立ち込める戦場でドンパチやらかす訳だ。この程度の銃声で喚いてたら、死ぬぞ。」
「壁は跳弾しづらい様に脆い素材で作ってるから安心しろ。当たらなければどうってこたあねえ。じゃあ解散だァ。教本読んどけ!!」

終礼が終わり、寮への帰路につく浩一、岡崎、吉光。
「しっかし、ビビったよなあ。暴発しても平然としてんだぜロック先生。ネジぶっ飛んでるって!絶対。」
吉光は岡崎と浩一に向いて話しかけた。その時、遠くの方で爆発音が響いた。
「多分この学校じゃ、普通の事なんだろうなあ・・・・・・人間の適応力って恐ろしいよな。入学当初の俺だったら、信じられないと連呼してたんだろうな。」
浩一はしみじみと言った。それに合わせて頷く岡崎。その後ろを77式3トン半トラック4台が走っていく。
荷台には速乾性コンクリート、陣地構築用構造材といった材料を積んでいる。整備科の工作車両隊が爆発音のした方角に走っていった。

翌日の朝礼で、3名は爆発音の正体“対戦車ミサイル誤射事件”を知る事となる。

浩一のコメント。
「爆発した実習室近辺を3時間で完全に修理する事のほうがビックリだよ!!」




次回、合同徒歩行軍演習始まります。







[24204] 登場人物・兵器情報 ~1年次5月現在
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2010/11/23 21:23
1年次時代の人物情報 髪型等は特に指定が無い場合は短髪です。

石破浩一(イシバコウイチ)
16歳、身長173cm、体重59kg。坊主頭。
本作の主人公の肉体となる。軍事オタクで鎚浦予科練を志願していた。
              
石破浩一(イシバコウイチ) 
18歳、身長175cm、体重65kg。本作主人公の精神。
精神のみ『状況開始っ!世界』に飛ばされる。肉体は不明。
防衛大学校の人文・社会学科の1次試験を通るほどの秀才だが数学が壊滅的だった。
やっぱり、軍事オタクである。そして読書家でもあり、幅広い知識を持つ。

岡崎正宗(オカザキマサムネ)
16歳、身長176cm 原作主人公、元軍人の父を幼いころ亡くし、母子家庭で育つ。
何でも小器用にこなせるが、突出したものはなく、器用貧乏気味。
学費がタダで学生の内から給料をもらえるし、就職先にも困らないという理由で鎚浦予科練に入る。周囲からはマイペースで変わりものと見られている。
昼食同盟を組んだ事がきっかけとなり浩一の友人となる。

吉光藤志郎(ヨシミツトウシロウ)
16歳、身長183cm 正宗の中学校時代からの友人。
正義感と向上心が強いらしいが、不真面目である。
昼食同盟立案者。浩一の友人その2。無造作に爆発した髪型が特徴的

石堂教官 (セキドウ)
30台後半ぐらいに見える白髪頭の教官。
浩一・正宗・藤志郎たち普通科1年次を教える教官。
座学でも訓練でも幅広く登場する教官。
戦史・戦略と動作訓練どちらも指導している。

志津教官 (シズ)
20代後半の女性で衛生科の教官。いつもけだるそうにしている白衣の女性。
「~だあね」という口癖(訛りか?)をもつ。縫合が趣味らしいが真偽不明。

岡田弘人(オカダヒロト)
18歳、普通科1種3年次 第19訓練分隊分隊長。ハイテンションで歌を愛する男。

古河奈緒子(フルカワナオコ)
17歳、普通科1種2年次、第19訓練分隊隊員。気が弱い小柄な女性。
普段はポニーテールだが鉄帽着用時はまとめている。

有川良太(アリカワリョウタ)
16歳、普通科1種2年次、第19訓練分隊無線手。
関西地方の出身で、関西系のイントネーションで喋る。


兵器情報

九九式主力戦車 
眞暦2699年に制式採用された国防陸軍の戦車。
主砲はライノメタル社製120mm滑腔砲L44。
七七式車載機関銃が二梃(車長用/主砲同軸)
最高路上時速70km/h 全備重量50t、姿勢制御機構付き。
鎚浦予科練には五両配備されている。
陸上自衛隊の90式戦車に酷似しているデザインである。

77式3トン半トラック
別名“大トラ”“3トン半”大型のトラックである。
派生型が多く作られている車台でもある。
整備科には通常のタイプ以外にも、ダンプタイプやクレーン付きの物もある。
普通科の場合はバス代わりに運用。
本科の衛生科には手術室コンテナを取り付けた手術車や、電源車などの野外手術システムが存在するが鎚浦には配備されていない。
イメージが湧かない人は濃い緑のトラックだと思ってください。

99式5.56mm小銃 
眞暦2699年に制式採用された新型自動小銃。
5.56mm連合基準弾を採用しており合州国の小銃と弾薬共用可能。
ガス圧利用方式で、切り替え金は、安全(ア)・連発(レ)三点バースト(3)単発(タ)の4段階。
弾種には、ゴムで出来た演習弾(青)、徹甲弾(赤)、普通弾(黒)、曵光弾(黄)、空包弾がある。
※空包弾を撃つ際はアダプターを装着しなければガス圧が足りず、ピストンが動かないので2発目は撃てない。
銃剣・二脚取り付け可能。
固定銃床と折曲銃床の2種類があり、機甲科では折曲銃床を運用している。
陸上自衛隊の89式小銃に酷似しているが、弾薬の規格が多少異なるため共用は不可能。


「人物の容姿が想像し辛い」との意見が出たため設定をまとめてみましたが
どうも分かりづらくてすみません。
描写力が足りなくて、いまいち感情移入しづらいかもしれませんが、研究改良を行っていきますのでご容赦のほどを。



[24204] 【1-5A】合同徒歩行軍演習1日目
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:28
5月20日、1430時、天候は快晴。合同徒歩行軍演習が実施される事となった。
科生たちは訓練分隊ごとに整列している。全体の左側から、普通科、機甲科、衛生科、整備科、情報科の順だ。
第19訓練分隊もその中にいた。中には1年次が全員辞めてしまい、他の分隊と合わせられてしまった分隊もある。
たとえば第35訓練分隊は6名編成であったが1年次3名が辞めてしまい、残った2・3年次の科生は第45訓練分隊と統合され、
35分隊は今年度は欠番となった。そういう分隊もちらほら見られる。
石堂教官が演説台に立って口を開いた。
「これから、合同徒歩行軍演習を開始する。その前に話がある、心して聞け。」
「これはただの演習ではない。与えられた任務を遂行するという事に実戦と差異は無い。」
「科生に期待するのは努力という経過ではなく結果だ。ただし、どのような手段でもという訳ではない。軍人である事を忘れるな。」
「次、昨日言ったように、棄権・規定時間超過・救援要請・助言要請は減点対象となるので忘れるな。」
石堂教官の訓示が終わり、後方支援担当の整備科担当教官の訓示が終わった。

「では、明日、裏山の向こうで会おう。時計合わせ用意。現在時、1445、開始時、1500。」
一斉に全科生が時計に指を掛ける。時計合わせは近代戦争において必要な行動である。
時計が合ってないと、友軍と落ち合えずに未帰還になったり、友軍に誤爆されたり、といった悲劇が待っているのである。
時計合わせのやり方は、支給されたクロノグラフの左下のリセットボタンを教官のゼロの合図と共に押し込むのだ。
そうする事で秒針がゼロに戻る。こうして秒単位であわせるのだ。
「3、2、1、0、状況を開始する。」石堂教官が開始を宣言したとき、他の教官が状況開始ラッパを吹いた。
いつものスピーカーから流れる電子的な音と違い、年季の入った金色の進軍ラッパは深みのある音色を奏でた。

第19訓練分隊も、他の分隊と共に「ヤマ」へと踏み出した。
1512時、開始から12分。まだ普通科訓練分隊の共通ルートに19分隊もいた。まだ話し相手も多く、体力があることから雰囲気は和やかで遠足気分だ。
よく踏み固められた30度ほどの登り傾斜を上っている。どの分隊の1年次もまだ元気そうだが、個別ルートに入った頃に次々とヘバっていくのだ。

「さて、歌でも歌うか!!曲目は『予科練ドレミの詩』有川!古河!歌うぞッ!!1年次ども!!よく聞けッ!!」
岡田分隊長と有川、古河は息を吸い込み、歌い出した。
「ドんなときでもー!レーで連射してー!ミーで皆突撃!ファはファンファーレー!ソーで狙撃されー!」
浩一と岡崎はあまりの歌詞にコケそうになった。そして、日本で知られているドレミの歌のメロディで歌っているのは古河だけだ。
後の二人は叫んでいるだけだ。これが正式なものと間違って覚えた岡崎は2年次の合同徒歩行軍演習で歌う事となる。
「ラで乱射してー!シーで屍を!さあ踏み越えろぉぉぉ!!!!・・・・・・という事で岡崎、石破、歌え。覚えるまでな。」
かなり体力を使いそうな歌だなあと思った浩一・岡崎は歌いたくないと思ったが、悪い予感は当たる物で、結局歌う羽目になった。
「ドんなときでもー!レーで連射してー!」二人は二回歌わされた。その頃には個別ルートに入っていた。

・石破視点・

1510時、俺達はまだ共通ルートにいた。14コ分隊位で行軍していたが先ほどの分岐で西ルート組の7コ分隊と別れ、俺達は上り坂を上っているが、次のY字路でさらに減る。
段々、道も徐々に細くなってきて、木々の枝が空を覆い、木漏れ日も少なくなり薄暗くなってきている。苔の生えた場所もあり、足元にも気をつけないと歩けなくなりそうだ。
隣の岡崎は、俺がアドバイスしたとおり、前傾姿勢で斜面を登っている。とても歩きやすく疲労しづらいのだ。元の世界で読んだ本の知識が結構役に立つなあここ。
SASサバイバルマニュアルとか、海兵隊戦闘マニュアルがこんな所で活きてくるとは思いもしなかったな。

「さて、歌でも歌うか!!曲目は『予科練ドレミの詩』有川!古河!歌うぞッ!!1年次ども!!よく聞けッ!!」
予科練ドレミの詩って何だ?やっぱりあのドレミの歌か?この世界にもドレミの歌はあったんだな。
「ドんなときでもー!レーで連射してー!ミーで皆突撃!ファはファンファーレー!ソーで狙撃されー!」
歌じゃなくて叫んでんじゃねーか!!体力かなり使いそうだなあ。この状況で普通息切れ寸前まで声張り上げるか?
しかもどんな時でも連射して突撃ってソビエト軍の軍歌並みだなおい。てか狙撃されるよなあ。
あれっ?古河先輩が小さい声で歌ってる。この二人が音痴?なだけじゃ・・・・・・
「ラで乱射してー!シーで屍を!さあ踏み越えろぉぉぉ!!!!・・・・・・という事で岡崎、石破、歌え。覚えるまでな。」
軍隊において上位者の命令は絶対に近いものがある。こんな所で抗命権を行使してもいい事はひとつも無いので素直に従う。
「ドんなときでもー!レーで連射してー!」
半ばヤケクソ気味に叫ぶ。岡崎はそういう歌だと割り切って歌っているみたいだ。
「ソウルが足りねー!全員で行くぞぉぉぉ!!!!」分隊長、体力ホントに最後まで持つんですか?あの稜線を突破しないといけないんですよ?

・石破視点 了・

1700時、普通科第19訓練分隊は第二中継ポイント“赤陣地”に到着し、印を付けて定時連絡を行い、ここから分隊単独行動が始まる。
「演習司令本部、演習司令本部こちら、普通科第19分隊。第二中継ポイントに到着。送レ。」
19分隊では無線手の有川が分隊無線機を使って連絡した。ほかの2コ分隊でも同じようにする。そして返信を確認すると三方向に分かれて出発した。

稜線に近い森の中を進む19分隊、時刻は既に1830を回っていた。支給品のL字ライトと浩一の私物のLED懐中電灯の明かりを頼りに、日が落ちて真っ暗になった森を進んで行くと開けた場所に廃墟が現れた。
コンクリート製の4階建て建造物は月光に照らされてボンヤリと輪郭を浮かび上がらせている。
「よし、今日は此処で行動停止だな。部屋割りはどうすっかな。」岡田は廃墟を指差し、おどけた口調でそういった。
「分隊長!襲撃のおそれもありますから雑魚寝なんてどうでしょう。ええネタありますよ?」有川もそれに乗った。
「幽霊とか出てきそうですよねここ。」古河が少し弱々しく言った。
「幽霊か・・・・・・怪談なんてどうですか?」岡崎が提案する。林間学校に来た小学生のように興奮していた。
「岡崎、よく言った。なら今晩は怪談大会だ!予科練に伝わる軍曹シリーズを大公開だぁぁぁ!!!!」
浩一は、全体を見て記憶を辿る。どこかでこういう風な作りの建物を見たことがあるはずだ、聞いたことがあるはずだと。
19分隊は玄関と思われる開口部より、内部に侵入した。中は病院のようだった。
受付と待合室を通過すると、階段と幾つかの部屋がある。浩一、岡崎コンビが安全確認要員として派遣され、手前の部屋から順に調べることになった。
「なあ、石破。ここって病院だよな。なんでこんな人気の無いところに建てたんだろうな。」岡崎はナースステーションの中に入って呟いた。
「あくまでも俺の仮説だが聞いてくれるか。ここってさ、生活臭しないくせに妙に状態がいいんだよな。ふつう管理していないと、コンクリートがもっと痛むんだよな。」
「こないだの授業で県立病院革命派占拠事件ってやったよな。石堂が地図と突入作戦について話してただろ。その病院の作りに似てないか?」
岡崎はようやく気づいたようだ。そして、この間取りと、事件の教訓から那良篠と鎚浦に閉所戦闘訓練施設が建てられたという話を思い出した。
「気づいたみたいだな。ここは訓練施設だな。じゃあ戻ろう。分隊長!!崩落等危険箇所無し!!」
浩一と岡崎は待合室で待機している3名を呼び、ナースステーションの隣の宿直室で夜を明かした。

第1日目終了




次回、2日目



[24204] 【1-5B】合同徒歩行軍演習2日目
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:28
合同徒歩行軍演習二日目0540時

普通科第19訓練分隊は閉所戦闘訓練施設を出て、稜線を下っていた。
本日1300までに到着できなかった場合、減点が開始されるのだ。15分毎に1点減点される。
なお、1300と同時に点数は付かなくなるから、1301に到着するのも1314に着くのも同じ“0点”である。
救難要請を出した場合、欠席扱いとなるため点数が入らないだけであるが、皆勤賞は飛び、進路にも影響するのだ。
軍という組織は“任務遂行”に重きを置いた組織である。そのような組織において任務を放棄する人材を欲しがるだろうか?
答えはノーである。つまり、本科の配属・昇進等に影響するのだ。

「分隊長、後どれくらいで着くんですか。」岡崎が前を歩く分隊長に聞いた。
「あと四時間半くれーで着くけど、お前ら四時間全力でダッシュ出来るか?つーことで五時間半。」
岡田分隊長は割と普通のテンションで答えた。どうやら寝起きで本調子ではないようだ。
石破・古河は列の最後尾で左右を警戒していた。
「石破君・・・・・・何かいる。あそこ・・・・・・」
古河が指差したところにはL字ライトの光を受けて輝く4つの目があった。大きさは茂みでよく分からないが中型くらい。
「あれは、何だ。鹿か何かか?」『鹿は、肉食じゃねえよな。』などと考えながら答えた。
浩一と古河が瞳の方を注視していたその時、遠方から声が聞こえてきた。
『うわあぁぁぁぁ熊だあぁぁぁぁ逃げろぉぉぉ!!!!』
「分隊長、アレ、熊ちゃいますよね?絶対に。」
「俺にもわからん、アレが熊たんだった時は有川、お前がデゴイ(囮)となれ。熊たんへの供物ブチ撒きながら逃げるんだ。」
19訓練分隊は瞳のほうを警戒しながらその場を立ち去ろうとした時、音を立てて藪から瞳の正体が現れた。
小熊が二頭現れ、19分隊のほうをじっと見つめるような素振りを見せる。
「背中を向けると不味いらしい、熊の気を引く物を投げながら離脱するのがベストだそうだ・・・・・・」
浩一は憑依前の世界でみたニュース番組を思い出して口走っていた。
「熊ってなにが好きなんでしょうか・・・・・・あうぅ・・・・・・果物も笹も無いですよぉ・・・・・・」
古河も混乱のあまり、どこかヘンなことを口走っていた。
「笹はパンダじゃ・・・・・・というか小熊がいるって事は親熊もいるかもしれないよな。」
岡崎は冷静で、古河の台詞に突っ込んでいた。
パニックを起こす列最後尾二名。対して列前方は・・・・・・硬直していた。真ん中の岡崎が一番落ち着いていた。
熊はこちらを窺っているような素振りをみせた後、深い藪の中に去っていった。
小熊が去って2分後、ようやく回復した浩一と岡崎によって行軍開始が告げられるまで岡田・有川は硬直していた。


0949時、ようやく開けた場所に出た19訓練分隊。至る所に情報科の通信車両が停められている。
無線中継車・無線搬送装置1号といった車両が見えてくると、ゴールまであと少しである。
山中からの定時連絡を教官が受け取る為に配置されているこの車両群を抜けると、天幕群が見えてくる。
ここが集合ポイントである。
「あと少しだ、がんばろう。」浩一は自分に言い聞かせる為に呟いた。が、激励と受け取った分隊の皆の士気は上がった。
疲れていても、足取りはしっかりしており、休む事も忘れたかのように前へ、前へと進み続ける。

そして1023時、19分隊集合地点到着。状況終了。
「よく頑張った、終了式まで寝ているといい。学校までのアシはあっちだ。」
石堂教官の判子を貰い、19分隊の皆は大型トラックに乗リ込むとすぐに眠ってしまった。
汗と付着した土で緑色の戦闘服は茶色になり、背嚢のあった背中は汗で楕円形に濡れていたが、疲労で気にならなかったようだ。

1430、合同徒歩行軍演習終了式

「結果発表を行う。普通科、遅延分隊は6個分隊、傷病者発生による救難要請分隊は4個分隊・・・・・・」
石堂は各科の成績を発表し、講評を行い、終了式を終わらせた。





期末試験が終わったので続き投稿。なるべく早く1年次編終わらせてヒロイン出さないと・・・・・・







[24204] 【1-6】小銃射撃訓練
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:29
5月25日
99式小銃の軽い音が先刻より断続的に響いている。合同徒歩行軍演習が終わり1年次の実射訓練が始まったのだ。
「オラ、ガキ共!!しっかり握杷(あくは)握れ!!オメーらの命綱だ!!」
屋外射場では電子標的に向かって単発・連発・三点射撃の伏射(ふくしゃ)、つまり伏せて撃っている「ねうち」とも呼ばれる。
二脚で銃を立て、足を肩幅に開き、頬を銃床の上部につけて、照門と照星をあわせ、指示を待つ。
射撃は二人一組で、射手とコーチ・・・・・・指導するわけではなく、同じ学生で、仕事は薬莢拾いである。
正式名称は「射撃係」と言うらしいが何故かコーチと呼ばれている。
浩一は女子科生とペアを組んでいた。その組み合わせ発表の際、藤志郎が「女の子と組めるお前がうらやましいぜ!!」と喚いていた。
岡崎は藤志郎とペアである。・・・・・・射撃訓練の何処に色気があるのだろうか。
小銃を受け取ると、すぐに7つの射撃場所(射座)に移動する。隣と射座が離れている上、会話している暇など無いので基本的にみな、無言である。
「目標正面の的、伏撃ち、150、零点規正3発、時間制限無し、右かた用意」
標的は点数ごとに塗り分けられており心臓・頭部の中央から、赤色50、黄色45、緑色40、青色35、白枠10、である。
「右かたよし」女子科生がロック先生に報告する。
「射撃用意」
科生達は切り替え金を「ア」から「タ」に切り替え、「うて」の合図を待つ。
「撃て!!」ロック先生の号令が掛かった後、7人が7つの的に向け一斉に引き金を絞った。
発射音と共に薬莢が飛ぶのをコーチが虫捕り網で捕りながら発射数を数える。
「射ちおわり。安全装置っ!!!!」射手の靴裏を軽く蹴ってコーチが伝える。中には4発目まで撃ってしまう者もいるのだ。
「2的、射ち終わりです!」女子科生がロック先生に伝える。ロック先生は「おっし、今日はココまで。片付けたら解散!」と言って出て行ってしまった。
この結果は次の授業でプリントアウトされて手渡される。
結果は150ポイント中浩一が145P、正宗が140P、藤志郎が135Pだった。

・浩一視点・
ようやく、コイツを撃つ事が出来るのか。何か緊張してきた。その前に射撃係やら無いといけないんだっけか。
何度も軍事雑誌・書籍を見て夢見た事がまさか異世界で実現するとは・・・・・・
虫取り網で飛ぶ薬莢をすくい取るのは大変そうだな。
最初は動作確認射と言って、どの位置でどのような動きをするのか「撃って知れ」ということで自由射撃だった。
9発入りの弾倉を挿入し、女子科生が“乱射”する。弾が無く、安全に気を使いすぎる自衛隊じゃ絶対にありえない訓練だなあ。
「撃て!!」
ロック先生の号令が掛かったと同時に、お嬢さんはフルオートでぶっ放してくれましたよ。
排莢孔に網の口を向けた瞬間、発射音と共にくすんだ黄土色の物が網に飛び込んでゆく。
アニメでは金色に輝いているが、実際は硝煙ですすけて暗い黄土色になる。そして、すごく・・・・・・火薬臭いです。
「カ・イ・カ・ン・・・・・・いいわぁこれ。」うっとりした表情で、銃床に頬擦りしている。
おいおい、この娘トリガーハッピーかよ・・・・・・
3回の自由射撃と成績射・・・・・・要するに点数になる射撃を行い、第一射群が終わると次は第二射群、つまり俺達の番だ。
「撃て!!」
まずフルオートで撃ってみた。銃床が反動を肩に伝えてくれる。
電動ガンとは違う感覚に少し戸惑ったが、コツさえつかめば撃ちやすい。最初は弾を広範囲にばら撒いていた感じだったが
段々赤色近辺にまとまってきた。
次は三点射撃。1回引き金を引くと3発ずつ発射される機能だ。
音にするとタタタ タタタ タタタ カチィンという感じで9発の弾を3発ずつ撃てるようになる。
恐慌状態の新兵がフルオートで瞬間的に全弾撃ち尽くす事を防ぐ為に開発された機能である。
三点射撃を最初に取り入れた米国の小銃・・・・・・アサルトライフルにM-16A2という銃がある。
この銃は、ベトナム戦争時に実戦投入されたM-16シリーズの2番目の改良型で、連発、つまりフルオートを廃止し、3点射にしてしまったのである。
しかし、一部の兵士から“使いづらい”という意見もありフルオート機能を復活させたA3が製作され、A4が現れ現在に至る。
何が言いたいかというと、俺は三点射機能はあまり使わないだろうということだ。3発撃つ時は引き金を短く引く“指切り三点”を使うだろう。

最後に成績射撃。この射撃で授業成績が決まるので、皆真剣だ。好成績者は特技射手枠で士官学校の推薦を受けられるのだ。
「安全装置を確認しつつ、弾込め。」
新しい弾倉を差込み、槓桿を引く。これで薬室(やくしつ)に弾が入った。
「射撃用意」
切り替え金を「ア」から「タ」に切り替える。パチンパチンという切り替え金を動かす音だけが射場に響き渡る。
切り替え金を「ア」から「タ」に切り替えるといっても、アからタに直接切り替わるわけではなく
“ア、レ、3、タ”の順に反時計回り270度回さないといけない。
照門で左右を、照星で上下をあわせる。人形標的、通称“人的(じんてき)”の中央部を狙う。照準の再確認が終わった時に号令がかかる。
「撃て!!」
一斉に銃口が火を噴く。いち、に、さん。終わりっ。
コーチに靴底をコンコンと軽く蹴られ、射撃終了が伝えられる。

・浩一視点 了・

ようやく小銃を撃てるようになった事に喜ぶ科生たち、しかし中間考査の後の特技区分検定試験が待っている。
特技区分、通称MOS(モス)は資格のようなものである。(Military Occupational Spesialityの略でMOS)
但し、国防軍内でしか使えない。例を挙げるならば、国防陸軍にこんな人がいる。“医師免許持ちの戦車兵”“一級建築士だが普通科歩兵”
どういう事かというと、社会で使える資格と軍事用特技区分は別なのだ。医師免許があっても、医療MOSが無ければ衛生職種には配属されない。
射撃訓練の際に仮の軽火器MOSを与えられているが、検定試験を通過することで正式に軽火器MOSを与えられる。
普通科であれば他にも迫撃砲(81M・107M・120M)や、重火器、無線通信、装輪操縦といったものを取らされるのだ。

槌浦予科練では軽火器MOS(全員取得)、重火器MOS(普通科・機甲科)、迫撃砲(81M・107M・120M)、装輪操縦、装軌操縦MOS(情報科などでは任意取得)
そして、整備科で車両整備MOS・野戦築城MOSが、衛生科で医療MOSが、情報科で電子戦MOS、情報システムMOSが取れる。
これ以外にも細かいものをたくさん取得しているため、本科に配属された時に非常に重宝されるのだ。
同じ新隊員でも、一般入隊で3ヶ月前後の前期教育と後期教育を受けただけの隊員と槌浦っ子では大きく初期能力が異なる。
さらに、槌浦っ子は教育方針のせいか“鬼のような力”を持った隊員が多く、槌浦っ子の部隊ではそれだけで士気が高い。

「ふぅ、今回は死んだかと思ったぜ・・・・・」
「俺はそこそこだなあ。」
「おいおい、正宗、吉光。こんなんで大丈夫かよ。」
「浩一、ソイツは優等生の意見か?」
「そこそこ取れたら大丈夫じゃないか。成績優秀者推薦枠目指すわけでもあるまいし。」
「優等生以前に吉光、誤字と脱字で点を大きく落としている、落ち着いて回答しろ。」
「ウソォォォォォォォォ!!20点分・・・・・・」
石破浩一、岡崎正宗、吉光藤志郎は無事に中間考査と特技区分検定試験を通過し、6月に入った。
その頃、検定試験及び中間考査に問題があった者は補習と追試を受けている。

そして6月10日、機甲科実機演習見学が行われた。


今回は制度説明回だなあ。
次回、機甲科実機演習見学

12/27一部変更・追加



[24204] 【1-7】機甲科実機演習
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2011/01/08 14:30
6月10日

機甲科実機演習とは槌浦予科練の“実戦的教育”の代表格だ。
他の予科練や、本科の初任期間ですら実車に触れることはできないのだが、ここでは1年次の中盤で既に実車演習がある。
99式戦車を想定した机と椅子に乗り3人1組で大声を張り上げる見立て実習は1年次の前半でしかやらない。
ある程度操作できるようになるとすぐに実車に放り込まれ、1年以内に本科の戦車兵と同等の技量を持つことになる。
そのため、文句が出ないのだ。
毎年、最初の実機演習は他の科にも戦車を知ってもらう為に、午後の分隊訓練は全科見学となる。
但し、2年次以上の機甲科・整備科にとっては見せ場であるため、失敗が許されないのだ。

1255、授業終了と同時に浩一、正宗、吉光の三人はあらかじめ用意していた弁当を持って西演習場の端に陣取った。
1325より演習が開始されるため、科生達が時間とともに集結してくる。
浩一は、連休中の自由外出の時に購入したデジタルカメラを持ってきていた。やはり、この世界でも軍事オタである。
「なあ、浩一。そのカメラでパンチラ写真撮ってくれ。そして俺がさばく。分け前はちゃんと渡すからよ。」
吉光が手を合わせて浩一に頼み込むが、正宗にツッコまれた。
「この間、真織のマル秘写真とか言って修学旅行の写真を売りつけてクラスメイトに追われていたのは誰だったかな。」
「うっ・・・・・・そろそろ始まるぞ。」
吉光は苦し紛れに誤魔化した。
「シートをひいて、弁当もって、戦車を鑑賞ってなんか駐屯地祭みたいだな。」
浩一の一言に正宗が反応した。
「駐屯地祭か、親父が生きてた時に行ったなぁ。」
思い出すような正宗の一言に、浩一は思わず謝った。
「何か思い出させてしまったんなら悪い。ごめん。」
「別にいいよ、顔すらよく覚えてないし。それに病死だしな。」
そんななんとも言えない空気を貫くように開始のサイレンが鳴った。

『これより、機甲科実機演習を行います。砲撃音にご注意ください。』
機甲科の女子科生の声がスピーカーから流れてくる。1年次たちはびくびくしている者と、期待している者に分かれていた。

『砲撃前に偵察部隊が侵入します。偵察部隊は自動二輪と軽装甲機動車です。』
男子科生の声でアナウンスが入ったと同時に、演習場西端の坂道からバイクが4台、軽装甲機動車が2台突っ込んできた。

「おおおお、軽装甲機動車じゃねーか。テンション上がってきたぁ。」
興奮する浩一が写真を撮り始めている横で、正宗は軽装甲機動車の運転手に目を奪われていた。
頭が少ししか出ていないのだ。そう、たとえるならば、小学生が父親の車の運転席に座ったときのような・・・・・・
「浩一、アレどう思う。小学生が運転しているみたいだよな。」
正宗の言葉に、浩一は手前の軽装甲機動車の運転席をズームして撮影する。防弾ガラスで分かり辛いが、奥の運転者より頭3つ分位小さいのはわかる。
「確かに、相当小さいがさすがに小学生ではないだろう。それにしてもかなり上手いな。」
バイクがジャンプして離脱、軽装甲機動車はまるでラリーカーのようにドリフトし、上部のハッチから分隊機関銃を乱射し赤い板の近くの的を粉砕する。
「スゲー!Gツーリスモのダートレースみたいだな正宗!!」
吉光はレースゲームのような軽装甲機動車の動きに叫びっぱなしだ。
『次に、戦車が突入します。白の台に砲撃を開始します。砲撃音にご注意ください。』
男子科生のアナウンスの後、先程の女子科生がオペレーター役になっているようだ。
『第一分隊、目標、白の台装甲車群。』
『1号車了解。行進間射撃を実施する。』
無線の会話が流れ、赤い旗が砲搭上に立てられて見学者に発射可能であることを示していた。
99式戦車はディーゼルエンジンの独特な音を響かせながら、凄い速度で進入してきた。
そして白の台のほうに砲塔を旋回させながら観客席の前を通り抜けて旋回するが、砲口はぴたりと白の台を捉えたまま動かない。
『てっ!!』
99式戦車の砲口が光り、二秒後に音と衝撃が来た。そして共和主義陣営の代表的装甲車BTR-60の形状の的を次々と粉砕した。
先程から浩一は何枚も写真を撮っているが、この写真が後に石堂教官によって対戦車歩兵戦術の教材にされることになる。
「スゲ-なこの衝撃。腹にズドンとくるよな正宗。」
「そうだな、結構音でかいよな。浩一はどう思う。」
「戦車砲なんてまだマシだ。155mm榴弾砲・・・・・・牽引式野砲の発射はえげつないぞ。光ってから4秒後に来るんだが本当に凄い。」
「ま、装薬量とか口径が違うからしゃーねーよな。」
「夏の総火演では暑い中俺たちも参加なんだよな・・・・・・・」
「正宗、詳しく教えてくれ。」
「入学前の書類に行事予定書いてなかったか?山の麓の東演習場で全力射撃って。」
「読み飛ばしてたわソコ。それよか『全力射撃』ってなんだそりゃ。どっかのリリカルな魔法少女・・・・・・魔法将校か!!!!」
「お前が一番好きそうな所なのに読んでないのは意外だなあ。」
浩一は、憑依者なのでボロを出しそうになったが何とか誤魔化した。
1号車は速度を落とさず走りながら10発発射し、去っていった。
『第二分隊、目標、白の台装甲車群。』
『2号車了解。短停止射撃を実施する。』
今度は砲塔側面に血文字のような字で「弐」と描かれた99式戦車が進入してきた。
1号車と同じくらいの速度で入ってきたが観客席中央でピタッと止まり、10発連続発射した。
「おいおい、10発中当たったの8発かよ。」
吉光が思わず叫ぶ。他の科生も同じようなことを思ったようで、ブーイングが至る所から起こる。
浩一はデジタルカメラの液晶画面を覗き込みながら思わず漏らした。
「10発中8発は許容範囲だと思うぞ。それより、自動装填装置速いな。1発あたり3秒か。」
「浩一、お前発射時間カウントしていたのか?」
正宗の問いに、浩一は腕時計を指差して肯定の意を示した。

4台目の行進間2バースト射撃辺りから観客も飽きてきたようで、歓声もブーイングもあまり起こらなくなっていた。
そして1号車と同じ車両を使った6号車が短停止射撃を行おうとした時、事件は発生した。
一人の男子科生が6号車乗員の悪口を本部無線の近くで言ったのだ。それが無線に入ってしまった。
『じゃ、俺、四枚抜きに2000円。』
『2枚に1000円。』
『米山の砲撃が当たるわけねーだろ。アイツ、ド下手くそやもん。俺、1万円ゲットォ。』
『じゃあ俺、1400円を・・・・・・馬鹿ヤロ!!無線スイッチ入りっぱなしだぁ!!早く切れ!!』
『ド下手くそで悪かったなあ!!!!お前らに当ててやんよォォォ!!!!2時方向、距離230、弾種、HEAT。テッ!!!!』

パニックに陥る演習場内。出口に殺到する科生達。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!何処の世界に観客席に砲向ける戦車がいるんだぁ!!!!」
浩一は思わず叫んでいた。今まで数々の基地祭・駐屯地祭に行った浩一だが、観客席に砲を向けた戦車・兵器なんて見たことが無かったからである。
『オラァ早く発射しろやぁ!!!!スパナでド頭ぶん殴るぞ!!』
『ええぃどーにでもなれぇ!!!!ファイヤ!!!!』
「1年次!!はよ対砲迫姿勢とらんかい!!!!危ないのは分離したサボ(装弾筒)だけやあらへんで!!」
有坂先輩が叫ぶ。その声で近くの上級科生が男女問わず棒立ちの1年次を押し倒す。
一方、低い姿勢の浩一は口を半開きにして第二ほふくで戦車の斜め後方に移動した。
「よし、発射シーンゲット。見せてもらおうか、120mm滑腔砲の発射炎とやらを!!!!」
後方で吉光と正宗が何事か喚いているけど気にしていない。
連写モードに切り替えてシャッターボタンを押した。
発射音と閃光、そして衝撃波。浩一は意識を闇に落とした。

・浩一視点・

「おはよう。浩一君」
髪をポニーテールにし、戦闘服の肩に“救護”と書かれた腕章を付けた女子科生が俺の顔を覗き込んでいた。
誰だ、この女子科生は。というかここは何処の病室だ。窓の外は真っ暗だ、多分18時以降であることは確かだな。
「ああ・・・・・・ここ何処だ・・・・・・君は・・・・・・」
うーん女子相手だと未だに上手く喋れねーな。中学卒業と同時になんとか連絡とかの業務的な会話くらいは出来るようになった筈なんだがなあ。
「ここは衛生科実習棟、私は杉野真琴(スギノマコト)、衛生科一年次。あなたを此処まで引っ張ってあげたのよ。」
「ありがとうございました。ところで、今、何時ですか。」
消え入りそうな声でどうでも良さそうなことを聞いた。
「19時半過ぎ。だから4時間弱眠っていたことになるわねぇ。」
確か俺は、写真撮影に気を取られて危険エリアに入ってることを忘れてたんだっけか。
それで発射の際の衝撃波で・・・・・・所持品はどうした。カメラはどうなった。
「あの、所持品は、カメラはどうなりましたか。」
「所持品ならあそこの棚においてるわ。それにしても浩一君、カメラなかなか放さなくて大変だったんだよ。」
ベッドから気だるい体を起こし、棚の上のカメラと上着を手に取った。
カメラは砂で汚れているものの、外傷は特に見られない。
「それは、スマン。カメラだけは死んでも放すなって教わったから・・・・・・」
「なにそれ。」不思議そうな表情で杉野は聞いてきたので、ボケてみた。
「うーん、戦場カメラマンかな?」
「ふーん。ところで、私のこと覚えてない?中学の時の委員長。」
ヤバイ、コイツ知り合いだったのか。“俺”になったのは入寮式の日だぞ。記憶引継ぎとかないから初対面だ。
「スマン、忘れてた。それに今まで会わなかったから入科してたなんて気づかなかった。」
その時、見舞い客が杉野の後ろから現れた。
「大丈夫そうだな浩一。まあ閃光音響手榴弾喰らったようなもんだからあまり心配してなかったが。」
吉光だった。遅れて正宗が入ってくる。
「大丈夫か、浩一。それにしても無茶するよなぁ。ところでその人知り合いか?」
「だったらしい、忘れてたけどな。」
ホントは忘れていたんじゃなくて“知らなかった”んだけどな。さすがに異世界の俺に憑依した俺なんで知りませんなんて言えないしなぁ。
言った瞬間心療内科送りだ。流石に精神病判定もらうのは勘弁したい。
「私は浩一君の中学校の時の同級生だった杉野真琴。よろしくね。」
「浩一君の友人の吉光藤志郎です!こちらこそ宜しくお願いします杉野さん!!!!」
吉光が急に敬礼して自己紹介を始めた。美人を前にした時のお決まりの反応だな。
「俺は岡崎正宗。普通科一年次で浩一の友人です。」
「はあ・・・・・・岡崎君と吉光君ね。」吉光のテンションに少し引き気味ながら返事を返した。
この学校の男子科生どもは、顔は普通なのにもてない。その理由はテンションが高く、馬鹿みたいに騒ぐからだと思う。
正宗がモテる理由は多分比較的落ち着いているからだと思う。そのかわり、トラブルによく巻き込まれるが。
それより、喧嘩に重火器とか模擬弾使うなよお前ら・・・・・・あと嫉妬大爆発がある限りもてないな。
考えてみてくれ、「ねたましい~!!俺らのナントカさんを~!!」とか叫んで、彼女作った男に対して殴りかかる男に魅力を感じる女子が居るだろうか?いや、居ない。

そして杉野、俺、吉光、正宗の四人で雑談していると、志津教官が入ってきてだるそうに言った。
「起きたら寮に戻りな。いつまでもくつろいでるんじゃないよ。」
志津教官に病室から追い出された俺達三人は寮に戻った。

・浩一視点 了・







[24204] 【1-8】創立祭準備~開幕
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/08 14:30
6月24日

「26日に実施される第44回創立祭における注意事項を伝達する。」
石堂は、心の中では“ああ、言っても多分駄目だろうな”と思いつつ口を開いた。
「一つ目、外部からの来校者に危険が及ばないようにする事。」
「連絡委員の指示には従うこと・・・・・・」

全体教練のランニングの最中に吉光は異様な雰囲気を醸し出している一角を見た。
「整備科の連中、何作ってんだ。あそこの兵器、浩一、分かるか?」
吉光は指を指しながら隣を走る浩一に聞いた。
岡崎もグラウンド横の整備科の野外整備用天幕の方を見た。
天幕の横にはいろんな装備が置かれていた。
浩一はこの世界の兵器図鑑を思い出しながら答えた。
「ホーク改対空誘導弾、40㎜連装機関砲、106mm自走無反動砲の砲塔部分、海軍の艦艇用40cm探照灯、127mm単装速射砲・・・・・・」
「創立祭って言うより要塞の準備をしてんじゃねーのか。」
「陸軍の退役装備を引っ張ってくるのは良いとして、海軍の艦砲なんてどこから調達してきたんだ。」
正宗が思わず突っ込んだ。当たり前である。
陸軍の兵器は用途廃止するとしばらく倉庫の片隅で放置されたり、駐屯地で展示されたり、補修部品となるのだが、海軍は船もろとも鉄くずにされるのである。
そして最大の理由は、国防海軍と国防陸軍の仲が悪いことである。
もし、海軍に退役した装備の譲渡を要請しても「陸には弾一発たりともやれん」の一言で断られるだろう。
次期揚陸戦闘車開発計画が頓挫したのもやはりこの問題だ。海軍が揚陸艦の使用を拒んだため搭載・運用予定艦が無いこの計画は中止された。
「貴様ら、無駄口を叩くな。」
石堂教官に注意されるまで浩一たちは何人かで想像を語り合った。

6月25日

創立祭準備のため、全授業・全訓練はお休みだ。
だからといってヒマなのかというとそうでもない。1年次は強制参加の創立祭開催式典の準備と練習が入っている。
2年次以上は各出し物の準備、連絡委員は全体の調整、と皆忙しいのだ。

・浩一視点・
「ようやく、立ったり座ったりから開放されたぜ。」
「浩一、飲み物買いに行こうぜ。」
「おう、そうだな。って何じゃありゃぁ。見に行くか。」
正宗と俺は正面玄関のほうに向かった。

・・・・・・そこは、ベトナム戦争の米軍基地か、大西洋の壁だった。
トーチカが建造され、外周のフェンスはコンクリ壁となり、探照灯が取り付けられ、上空をホークと40㎜対空機関砲が睨んでいる。
さらに鉄骨で障害が組まれ、掩体(えんたい)構成材のコルゲート材(蛇腹状の金属板)で検問所が作られ、67式重機関銃が設置されている。
来客者をベトコンか連合軍兵と間違えているんじゃなかろうか。しかし、防御としては文句の付けようが無い。思わず声に出てしまった。
「実にすばらしい・・・・・・」
それを傍にいたつなぎを着て、髪をゴムで纏めている整備科の女子の先輩に聞かれてしまった。
「そうだろうそうだろう。何せ我々の研究成果なのだからな。どうだ、野戦築城、陣地作成技術の極みは。」
「空挺侵入・ヘリボーン侵入は困難ですし、自爆車両・強襲車両は障害で止まるか、撃破可能ですし、歩兵は検問所近辺で足止め可能。理想的な要塞ですね。」
「何か足りない点はあるかな。」
「あそこの防御板、垂直じゃなくて傾斜させてみてはいかがですか。避弾経始(ひだんけいし)も考慮して。」
「なるほど、考え付かなかった。君は普通科だね・・・・・・てっきり機甲科の科生かと思ったよ。」
避弾経始とは装甲を傾斜させ弾を斜め上方に弾く事である。戦車作りにおいて避弾経始を重視するとお椀を引っくり返したような形状や台形の様なデザインとなる。
「おーい、4番から7番装甲40度にして。跳弾でホークが吹っ飛ばないようにヨロシク。」
ようやく、自分がヤバイ入れ知恵をしてしまったことに気が付いた。この人もトコトンやる人だ。
「名前を直接聞いていなかったな。君の名を教えてほしい。私は整備科2年次の野呂田芳乃(ノロタ ヨシノ)だ。」
「普通科1年次、石破浩一です。・・・・・・兵器、好きなんですか?」
「ああ、大好きだ。兵器がいじりたくてこの学校に入ったといっても過言ではない。君とは楽しい話が出来そうだ。」
野呂田先輩と握手をした俺は、向こうで呆然としている正宗の元へといった。
「何話していたんだ、知り合いか?」
「いや、初対面。どうやら俺と同種らしい。野呂田芳乃さん、整備科2年次。」
「おいおい、流石に兵器が好きでも、戦車の危険領域に入って気絶するのはお前だけじゃないか?」

・浩一視点 了・ 

6月26日 創立祭当日

創立祭開催式典も終わりが近づいてきた。これから始まる楽しい祭典に1年次たちの気分はだんだんと高揚してくる。
来賓の挨拶が終わり、祝電披露、そして龍門校長の挨拶と開始宣言
「敬礼!解散!」の号令とともに歓声を上げ出口に殺到する1年次の科生達。
教官席の近くの連絡委員席から怒声が飛ぶが、土石流の前の土嚢の如く全く効いていない。
こうして、創立祭は幕を開けた。




[24204] 【1-9A】第44回創立祭 【前編】
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/08 14:31
6月26日 開始宣言から15分

1055 講堂前広場

「正宗、ココなんてどうだ?あれ、吉光はどうした?」
浩一はパンフレットの出し物を指差した。
「アイツは岡島達と別行動。金魚すくい名人マサムネと呼ばれた俺の実力見るがいい!!」
ソコには、『フラッシュ!!!!金魚すくい』とあった。
行く途中、浩一は合同徒歩行軍演習の訓練施設を思い出し、正宗に言った。
「行ったら目をつぶって何かでまぶたを覆って、ちり紙を濡らして耳に詰めろ。」
「何でだよ。」正宗は不思議そうな顔で聞いた。
「フラッシュで始まる装備品といったらフラッシュバン。眞州語名称で音響閃光手榴弾・・・・・・通称閃光弾」
ようやく解ったようだ。あわてて逃げようとしたが時既に遅し。
面体を付けた科生が開始宣言と共にピンを抜き、水槽に落とし、数歩下がった。
陸軍が使っている閃光弾Mk24は6秒ヒューズで、ピンを抜き、レバーが外れてから6秒で発動する。
普通は、投げ返されないように4カウントで投げるのだが今回はすぐ落としているため、約6秒後に発動するのだ。
その間に正宗と浩一は正宗の紙コップに残った氷水にちり紙を浸し、両耳に詰め込み、地面に伏せた。
その行動に奇異の目を向ける一般の来場者。しかし、2秒後彼らはひどい目に遭った。

閃光と爆音。そして衝撃。

二人は耳の奥がキーンと言う音で埋め尽くされているが立ち上がることが出来た。
周辺にいた人々は地面でのたうち回っている。閃光で視界を漂白され、爆音で耳をやられているのだ。金魚は全滅であった。
フラッシュバンは破片こそ発生させないが、窓ガラスを破損させ時計を壊すほどの衝撃波を発生させるのだ。
屋台の人間は全員突入用面体を付けていたため無事で、水槽は爆圧を上に逃がす構造で、原形をとどめている。

「あっちゃーミスった。訓練用弱装弾じゃなかった。無事なのはあそこの二人だけかぁ」と一人がのたまった。
浩一と正宗はボコボコにしばき上げたい衝動に駆られたが、我慢して救助活動を行った。

人を救護所まで背負って、あるいは支えて運ぶ。
その最中も、市街戦攻撃訓練実演の流れ弾を潜り抜け、その背後で「大序曲1855」が流れており銃砲の発射音が響いている。
「衛生兵!衛生兵!来てくれ!」と言う声が聞こえ、まるで戦場だ。連絡委員の数は圧倒的に不足しているため、事件を阻止できていない。

・浩一視点・

4歳ぐらいの男児を背負って救護所まで走る。背嚢より少し軽いのである程度の速度で走れる。
「うちの子は、大丈夫なんでしょうか・・・・・・」
母親が後ろから必死で付いてきているがその顔は泣きかかっている。俺は母親に向かって言う。
「大丈夫です、閃光弾の音と衝撃で失神しているだけですから!!」
フラッシュバンの衝撃波は健康な成人ならば悶絶ですむが、幼児・老人・心機能衰弱者には大きなダメージを与える恐れがあるのだ。
だが、言えそうも無い。俺自身が不安なのだ。心音等は正常だが目を覚まさないことが不安なのだ。
砲や銃の音が音楽に混ざって聞こえてくる。俺の好きなチャイコフスキー 序曲『1812年』みたいな曲だ。
だが、今の状況で聞きたくは無い。中学校の平和教育で見せられた大東亜戦争ネタのビデオを思い出してしまう。
ようやく赤十字の天幕が見えてきた。ソコにはトリアージタグが付けられた負傷者が結構いた。
「浩一君?って早く見せて!!意識なし、呼吸脈拍、異常なし、出血なし。ベッドで休憩させたら大丈夫。」
「よかった。杉野、ありがとう。じゃ俺は次、行くわ。」
「待って!」
俺は次の人を休憩所に運ぼうと背を向け、走り出そうとしたが杉野に呼び止められた。
「何だ。」
「そのさ・・・・・・なにがあったの?」
「ドアホが閃光弾ブチかましやがった。で、失神者4人、体調不良訴えた人が16人で閃光弾に気づいて健在だった正宗と俺が救助作業中」
その時、高機動車が天幕の前に止まった。
「病人連れてきたで。って石破ここにおったんか。ご苦労さん。岡崎を見てやなぁ事情聞いたら事件発生しとる。で教官の許可とって高機使って輸送っちゅうわけや。」
高機動車の観音開きの戸を開けると、4人は降りてきた。そして失神している最後の2名も担ぎ出された。

こうしてやることの無くなった正宗と俺は、やばそうな出し物を回避しつつ、13時を迎えた。
「それにしても、何処もかしこも火力火力。唯一楽しめたのがいけすかない情報科の暗号解読ゲームだったってどういうことだ。」
古典的な暗号文解読体験が一番面白かった。射的に対物狙撃銃使ってみたり、リアル(ランド)マインスイーパーとかどうして装備を使いたがるんだ!!!!
「俺は決めた、浩一。来年、絶対爆発物系の出し物はやらない。実弾・実物混入パターンが多々あるからな。」
正宗は、しょっちゅう危険に遭遇していた。
たとえば本物地雷を踏みそうになったり、どっちの爆弾ショーではサバイバルゲーム用の煙玉花火じゃなくてトラップ用ゼロ秒手榴弾だったりシャレにならない物が多い。
俺ははずれたとしても比較的安全な爆竹地雷や、煙玉花火の模造品が当たる。
演習場の特設ステージで岡田分隊長たちのライブがあることを思い出した。
「なあ正宗、昼飯も食ったことだし、分隊長のライブに同じ分隊のよしみで見に行ってやらねえか。」
「ああ、それで良いな。後々めんどくさそうだし。」
俺と正宗は食堂前広場から演習場に向かって歩き出した。その道中にちっさい連絡委員が危険な屋台を摘発している光景に出会ったがスルーした。
だってあのヒト説教長そうだし。関わってしまったが最後、「貴様もだ!!ソコに正座しろ!!わかっているのか・・・・・・」と説教されるだろう。

そして演習場に作られたステージの前に座った。人はまだ集まっていないようで前のほうが取れた。
1320
ライブが始まった。人はかなり多く、演習場外周にまであふれ出していた。
岡田分隊長と仲間たちがステージに入ってきた。
「俺の歌を聴いてくれっ!!! やるよー!!やっちまうんだよー!!」

・浩一視点 了・




[24204] 【1-9B】第44回創立祭 【後編】
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/08 14:31
開始2分前。彼は目を閉じて入科してからの生活を思い出していた。
高校に進学できそうも無い成績で、両親に見放されていた彼は、追放されるかのように試験の無い槌浦予科練高等部に入科させられた。
社会に反感を持っていた彼を矯正してくれた教官、歌の世界に引っ張り込んでくれた先輩。
何度も地面に倒れ伏した1年次
要領よくこなせる様になったが責任が要求されるようになった2年次、
そして、最後の創立祭となった3年次。
「ヒロト、時間だぜ。俺たちの歌を聞かせてやろうぜぇ!お客さんによ!!」
「しんみりなんてらしくねーなぁ俺!!!!さあ始めようぜ!!!!」
ツチウラソルジャーズの四人は舞台に飛び出した。

「俺の歌を聴いてくれっ!!! やるよー!!やっちまうんだよー!!」
彼はマイクを掴むと、最初の曲を歌い始めた。
「最初の曲は『突撃しようよ』」
浩一と正宗は会場の雰囲気に着いてきていなかった。
二人の脳内では“ハイキング”の時の光景が再生されていた。
“岡田分隊長のイメージ=歌好きだが音痴”だったのである。
浩一は某作品のガキ大将を思い浮かべていた。

俺達は突っ込む どんな時でも♪銃火の中に~♪苦しい時も、痛いときも♪

軽快なリズムの曲が始まる。ロック調ではなく、どちらかというとフォークソングのような感じだ。
「あれ、上手いな。まさかあの歌い方はワザとか?ってことはアレがあの曲の本来の歌い方か?」
浩一が思わずつぶやいたが、古河の歌い方を思い出してアレが本来のものではないと結論付けた。
間違った伝統は正宗に引き継がれてしまった。その事実を彼は知らない。

苦しいことも分かってるさ♪俺が付いてる♪

「爽やかな歌い方も出来たんだなあの人。」
正宗は意外な歌い方に驚いていた。

突撃しよう~♪突撃しよう~♪あの娘のために~♪

それから2曲目が始まり、3曲目が始まった時いきなりイメージが変わった。
いきなりロックになったのだ。今まで置かれていた楽器の空席に移動するメンバーと新たに3人入ってきた。
ヒロトはボーカルなので動かない。
ファンは違和感を感じないようであったが、1年次や初見の人々はギャップに唖然としていた。
「行くぜっ!『アイツは戦車兵ッ!!!!!!』」
「ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
その時会場が沸いた。浩一も正宗もつられて叫ぶ。

好きなアイツは戦車兵 俺の彼女は戦車兵 装甲のようなお堅い女の子

銃声のようなドラムだと思って浩一と正宗がステージ端を見ると2人が99式小銃を空包射撃していた。
「赤いニヤニヤ動画のAKドラムをこんな所で見るとは・・・・・・AKじゃないけど中々いいな。」
「AKドラムが何かは知らないけど、よく考えたなあ。」
浩一はロシアの首相がモチーフの動画を思い出しながら感動していた。正宗は意外さにただただ驚いていた。

俺を戦車に乗せてくれないか 君とならあの丘の向こうまで あの地平まで!!

「タンクデザントか、死亡率高そうだ。まさか3番まであって男死んだりせえへんよなぁ・・・・・・」
浩一がそう呟いている間に2番が始まった。

俺は歩兵 しがないいち歩兵 君が好きないち歩兵
俺とデートしないか スポーツカーなら乗れるのさ ハイウェイで!!

「あれ、お休みの話になってる。戦友死亡とかの鬱展開なしかこりゃ?」
「鬱展開求めるなよ・・・・・・昔の軍歌じゃないんだから。」
「こういうラブソングも唱歌も60年後には一括りにされて軍歌扱いだよ!!」
浩一は兵器が出ている戦前の曲=軍歌という扱いになっているという実例を知っている。

「これが、最後の曲になります。みんな、ありがとう。それでは『エマージェンシー』」
浩一も、正宗も何も言わず黙ってステージを見る。ファンの中には涙を浮かべているものもいた。

所属不明の爆撃機 俺の心を侵犯する グレーのバンカーも シルバーの機体も 役には立たないぜ

エマージェンシー エマージェンシー 
「被害甚大なり」

夜を破る呼び出し音 俺を電話に向かわせる ブルーのカーディガン グリーンのジャケットも 着ずに飛び出した

エマージェンシー エマージェンシー
「アイツの家へ」

「みんな、本当にありがとう。そして槌浦予科練よ、ありがとう。こうしてステージに立てたのも、バカやれたのも皆さんのおかげです。」
 そして惜しまれながら彼らはステージから去っていった。


そして後夜祭が始まった。やはり銃火器乱射大会のような様相を呈し始めたが石堂教官の強襲により、参加者は2日間の謹慎を言い渡された。
ほかにもキャンプファイヤーを除染用火炎放射器でダイナミックに点火したり
野外で行為に及んでいるカップルに対して暗視装置等で“偵察行動”をとった集団がいたり
彼女といちゃついてる奴に対し私刑を行った集団がいたり、
焼夷手榴弾や曵光弾を持ち出して火祭りをする輩が出るなどのトラブルはあったものの44回創立祭は終了した。
浩一・正宗・藤志郎は大多数を占める“独り者”で、いちおう常識人なので全く関係ないが。




[24204] 【1-10】総火演・・・・・・そして 【1年次編最終話】
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/08 14:32
そして夏、総合火力演習、“花火大会”や“総火演”と呼ばれる一般公開の実弾演習に槌浦予科練は参加する。
何故かというと「本科の部隊より練度が高い」と言われているからである。
戦闘職種であっても毎日実射訓練しているわけでもないし、ましてや危険なことなどするはずが無い本科の隊員たちと、毎日銃器で戯れ?爆発を楽しんでいる?戦争バカと呼ばれている彼らとは訓練時間も経験も違いすぎるのだ。
槌浦では、暴発や乱射騒ぎで常に生と死の狭間にいて、回避能力が無ければ死あるのみで鍛えられているのだ。

期末試験成績不振者が弾薬係をやらされ、合格したものはひたすら射撃を楽しんだ。
浩一の指導もあり、正宗・藤志郎は合格組として62式分隊機関銃、通称“62式言う事キカン銃”を乱射した。
合格者の中でもハズレくじのようなポジションだが1日中弾薬箱運びよりはマシである。

ちなみに第19訓練分隊は本科の部隊に組み込まれ、特別編成の第二小隊3班となった。
分隊長、岡田弘人
無線手、有川良太
分隊機関銃手、岡崎正宗
小銃手、古河奈緒子・石破浩一
である。

機甲科や特科、航空科はとても注目されるため精鋭しか参加できない。そのため、槌浦では多くが帰省している。

槌浦予科練機甲科からは第一分隊、第二分隊、そして今年度末より自前の装脚戦闘車配備予定の第零分隊が参加する。
第零分隊は多脚戦闘車乗員養成のための分隊で、今は不二(ふじ)学校の10式装脚戦闘車を借りて訓練している。
本科からは不二戦車教導団が参加する。
槌浦には特科が無いのである。したがって本科の部隊しか参加しない。
航空も同じく。航空は飛行学校の領分で、予科卒業後の教育課程だ。

演習の流れ

最初に偵察ヘリOH-2が侵入し敵情を視察して帰還。
偵察バイクと軽装甲機動車による偵察
88式偵察警戒車による威力偵察。25mm機関砲実射展示
那良篠の第一空挺団が降下。空挺レンジャー隊員によるゲリラ戦
司令部より攻撃命令発令
ヘリボーンによる歩兵投入。汎用ヘリUH-60SV・輸送ヘリCH-47SVからのロープ降下展示
対戦車ヘリ隊の攻撃。AH-2・AH-64Gによる射撃展示
戦車による敵戦闘車両の排除開始、75式戦車、99式戦車機動・射撃展示
特科部隊による砲撃展示、高射特科による対空戦闘展示
普通科部隊による対戦車戦闘展示、90式歩兵戦闘車・14式多目的誘導弾による攻撃展示
敵高機動戦闘車出現、10式多脚戦闘車と交戦する。(月山機)
敵陣地攻略を開始、87式装輪装甲車で増援到着。迫撃砲射撃展示(浩一たちの出番はココから)
交戦しつつ敵防衛線付近に展開。空軍のF-2戦闘攻撃機の近接航空支援を受ける。
全軍突撃 (←現在ココ)


『敵陣地の赤の台に対し、普通科隊員が前進し射撃を行います。』
『最終弾、弾着~いまっ!!』
火工品の白い煙が軽い音と共に上がる。
『第二小隊、前へ。』

「行くぞ正宗。部品の結合は十分か?」
「言う事機関銃の製造者に言ってくれ。俺は知らん」
某ゲームの台詞調に言った浩一だったが、あっさり言い返されてしまった。
「援護射撃をお願いしますね、正宗君。」と古河
「後ろ弾したら・・・・・・分かってんだろうなあ。」と分隊長
「命令掛かったことやし、いこか。」
有川が攻撃開始を伝えたと同時に男三人は「オウ!!」と返事をし、突撃した。

立ったり伏せたりを繰り返しながら正宗の援護射撃の下を進む3班。
それに続いて歩兵戦闘車が35mm機関砲を撃ちながら突っ込んでくる。
砲塔があって、装甲があり、戦車に見えるが普通科の車両である。
ただお値段が高く、年間5~7台しか作られないの不二と蝦夷にしかいない数少ない車両でもある。

上空を細い胴の攻撃へりと大型のレーダーを載せた攻撃ヘリが飛んでゆき、機関砲とロケット弾を発射する。

浩一が敵陣の上でカメラに向かって旗を立てたと同時に状況終了ラッパが高らかに鳴り響く。
浩一は達成感よりも、不二・蝦夷限定装備を含んだ豪華メンバーに感動した。
「うーん。すばらしい。後で写真とっとこう。」

こうして夏が終わり、冬が来た。


【1年次編終了】



[24204] 1年次編人物設定
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2010/12/30 14:53
状況開始!!予科練青春記 人物設定 1年次編

石破浩一 本作の主人公で憑依者。入寮前の肉体の記憶が無く、関西弁も混じることから、中学時代の同級生との会話では大きな弱点となるだろう。
重度の軍事オタクで最近こちらの世界の兵器・軍隊にも詳しくなってきた。
熱中すると周りが見えなくなる性質があり、改善が望まれる。
元の世界では中学卒業まで異性と会話するのが苦手だった模様。
岡崎正宗・吉光藤志郎とは友人関係。

岡崎正宗 原作主人公。浩一とは友人関係で、藤志郎とは中学時代からの腐れ縁。軍人の父親とは死別し母子家庭。
数少ない常識人で、トラブル吸引力が働いているかのようによくトラブルに巻き込まれる。
創立祭においては実物の爆弾ばかりが当たる能力を見せたが、無事生還した。
総合火力演習では分隊機関銃手に任命された。

吉光藤志郎 浩一の友人で正宗の腐れ縁。ムードメーカーで軽いノリのツンツン頭。
女性に弱く、すぐ馴れ馴れしく話しかけるが空回りしている模様。成績は中の下であるが、原因は誤字脱字にあった。

岡田弘人 浩一と正宗が所属する第19訓練分隊の分隊長。歌を愛する男。
創立祭ではバンド『ツチウラソルジャーズ』のボーカルを3年間務めた。ファンも多い。
予科練ドレミの詩は音痴である先輩の歌唱法を真似ただけであり、彼自身の歌唱力は高い。

有川良太 第19訓練分隊の無線手の2年次科生。関西弁で話す2年次科生。装輪操縦・無線通信MOSを持っている。
機甲科実機演習の誤射事故(書類上では)の際に対砲迫姿勢を取るよう叫んだり、
創立祭の最中に発生したトラブルの被害者を高機動車で搬送するなど結構活躍している。

古河奈緒子 第19訓練分隊の小銃手。一番目立たない普通の女の子。よく浩一とコンビを組まされている。

杉野真琴(スギノマコト) この世界の浩一の中学時代の委員長で衛生科所属。
現在はポニーテールだが中学時代はストレートだった。
普段はおとなしいお嬢さんだが、特定条件下で裏人格が見えると噂されている。
友人に長船真織・小村愛美がいるが、この二名が本作に登場するのは2年次編からである。

野呂田芳乃(ノロタヨシノ)整備科2年次の女子科生。兵器が好きで整備科に入科するほどの兵器オタ。
浩一とは創立祭正門・玄関の飾りつけ(要塞化?)の際に出会う。
浩一を同種とみなしており、趣味仲間のように思っている。
ツナギとゴムで纏めた髪型がトレードマークで、身長は175cmで胸も比較的大きくイイ感じの女の子だが何故かモテない。

月山香耶(ツキヤマカグヤ)機甲科2年次、多脚戦闘車両操縦課程選抜で機甲科第零分隊所属。
連絡委員としても活動している優秀な女子科生。ただし、説教を始めると途轍もなく長い。
身長143㎝と大変小柄である。装輪操縦・装脚操縦MOSを取得している数少ない内の一人。



[24204] 1年次編兵器設定
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2010/12/30 14:59
兵器設定

自動二輪
機甲科偵察部隊が使用するバイクのこと。国防陸軍では2種類のオフロード用バイクを運用しているが、
モンキータイプの物も身長制限の厳しい装脚戦闘車乗員向けに配備されているらしい。

軽装甲機動車(LAV)
装甲の無い74式小型トラック(パジェロに酷似した車両)に小火器からの乗員保護能力を付加しようと言う計画の結論
追加装甲に限界を感じたメーカー側が完全に新設計の『7.62mm連邦基準弾に耐える装甲を持った装甲車』を提案し、採用される。
翌年より陸・海・空の3軍で導入され、恐ろしい速さで各部隊に行き渡った。全国どこの駐屯地でも見られる車両。
自衛隊の軽装甲機動車に酷似しているデザインである。

高機動車(HMV)
合州国軍の高機動多用途装輪車両ハンヴィー・・・・・・に影響されて開発した4輪駆動の車両
後部はオープントップで、普段は幌を装着している。車体後部に10名の兵員を搭載できる。
いわゆるソフトスキン車両で防弾能力は無いが、海外派遣仕様は全体的に防弾改修、限定的であるが防爆改修が施されている。
そのほかにも様々なバリエーションが製作された。
自衛隊の高機動車に酷似している。
民間仕様のグランドクルーザーも一時期販売されていた。空軍・海軍が空港での作業車にしていた。
※(ハンヴィー HMMWV:High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)

BTR-60 
共和主義陣営で運用されている装甲8輪輸送車。
連合軍側からは「ダックスフント」というコードネームが付いている。
容易に生産でき、生産数がとても多くてバリエーションが多いため世界の紛争地帯で最も出会うお友達。
民生主義側の運用している装甲車に比べて2世代くらい古い。近年、後継車BTR-80が登場し始めた。
現実世界の兵器と同一のものであるかは不明。

ホーク改対空誘導弾
牽引式3連装対空ミサイル。現実世界の兵器に酷似しているが性能は不明。
創立祭の時の飾りとして登場。弾はイナート(不活性)弾であったため発射不可能だった。

40mm連装機関砲
牽引式対空機関砲。大戦時に生産開始された名対空機関砲、通称「ポンポン砲」に光学照準機を付けたもの。
国防軍の前身である警察保安隊時代の装備品で退役済み。砲のほうは未だに合州国や連合軍で運用されている。
創立祭の時の飾りとして登場。現実世界のボフォース社製40mm機関砲に酷似した兵器である。

106mm自走無反動砲(106SP)
106mm無反動砲を4連装した小型装軌車両。別名「豆タンク」
普通科の対戦車兵器で砲塔が上下に伸縮し地形に合わせて待ち伏せ攻撃を行う兵器。
反動を消すための後方ガスが凄まじく、発砲後居場所が露呈するため反撃が来る前に全速力で退避しなければならない。
砲の構造上再装填に時間が掛かるために、1発で仕留め損なった場合、必殺の2門目で仕留める。
2発同時発射を行った場合大抵の戦車が行動不能になると考えられていた。退役済み。
創立祭の飾りとして砲塔部分のみ登場。トーチカの中に設置されていた。
陸上自衛隊の60式自走無反動砲の試作型4連装タイプがモデルの兵器

40cm探照灯
大きなサーチライト。発光信号にも用いられる。

127mm単装速射砲 
127mm54口径の単装速射砲。海軍の駆逐艦に装備されている艦砲。
自動化が進んでおり、無人砲塔である。射撃管制装置(FCS)の性能によっては対艦ミサイルを撃墜することも可能な対空対地両用砲
とても大型であり、大掛かりな兵器システムであるにもかかわらず玄関付近に設置されていた。
入手経路、輸送法、管制システムのどれをとっても謎な飾りである。
実際に発砲可能な状態であったらしい。創立祭終了後演習場の端に移築され、敵の砲台となった。

67式重機関銃
12.7mm50口径の重火器。J・ブロウニンと言う何処かで聞いたことがありそうな天才の開発した重機関銃をライセンス生産したもの。
本家のM2との違いは銃身の取り付け方法が異なっている点と、軽量化が施されていることである。
ヘリや戦闘車両のみならず、艦艇の自衛火器にも用いられており、世界中で「代替不可能な兵器」と呼ばれている。
実在のM2に酷似している存在だが、デザインは多少異なる。

62式分隊機関銃
7.62mm弾を使用する分隊機関銃。部品が取れる、数発で弾詰まり、銃身がよく吹っ飛ぶ、引き金を引くのをやめても出続ける。
薬莢袋の中には部品片、たまに調子が良くなり15連発越え、射撃可能状態に復旧させるのに30秒以上掛かる。
「言うこと機関銃」「三点射撃機関銃」「無いほうがマシンガン」「クソ銃」と言う呼び名がある。
海外派遣の際、合州国からM249を購入した。「俺達を殺す気かぁ」と現場からの猛反発があったためである。
実在の兵器においても評価は最悪である。

OH-2偵察ヘリ
国産偵察ヘリコプターでOH-6の後継機。細い胴体が特徴。ローターマストに偵察ポットを搭載し、黒っぽい対赤外線塗料で塗られている。
なお胴体左右のスタブウイングには各種武装を取り付けることが出来る。バリエーションに攻撃ヘリ仕様のAH-2がある。

AH-2攻撃ヘリ
OH-2の派生系として登場した機体。老朽化したAH-1の後継機
緑、茶、黒の三色迷彩が掛かっており偵察ポットが無くて、機首に20mm機関砲が装備されているのが特徴。
スタブウイングの4つのパイロンに対戦車誘導弾ATM-4を8発、ロケットポットを2個同時に搭載可能で、それ以外にも何通りかの武装がある。

AH-64G
合州国が共和陣営機甲部隊に対抗するために開発したAH-64の改修型
実在の兵器であるAH-64Dにデザイン等は酷似しているが、全くの別物。
火器管制システムの改良、構造材の強化、核・生物・化学兵器対策が施されているE型に中距離戦術核ミサイル発射機能が付いているタイプ。

UH-60SV・CH-47SV
両機とも実在の兵器であるが、眞州仕様のため細かい点で異なる。
CH-47を眞州向けに生産したものにSINSYUの頭文字からSを付けようとメーカーに提案するが
改修記号が合州国軍特殊戦機と被る為変更しろとの要求があったためSinsyu VerからSVとなった。
そのためSH-60が導入された際も同じ命名基準でSVとなった。

75式戦車(75TK)
99式主力戦車の前の主力戦車。105mm砲を搭載し避弾経始を考慮したデザインの砲塔が特徴的。
陸上自衛隊の74式戦車に酷似している。

88式偵察警戒車(88RCV)
機甲科偵察部隊の車両。大松製作所製の車体にエリート社製25mm機関砲を搭載している。
路上最高時速は100km/h
陸上自衛隊の87式偵察警戒車に酷似している。

87式装輪装甲車(87WAPC)
8輪駆動の装輪装甲車。舗装化が進んだ眞州の道路事情を鑑み開発された車両。マイクロバスほどの大きさである。
乗員は2名+8名の歩兵。
67式重機関銃を取り付けたA型と40mmてき弾銃を取り付けたB型があるが、換装する為にはキューポラこと取り替えねばならない。
陸上自衛隊の96式装輪装甲車に酷似している。



90式歩兵戦闘車(90IFV)
普通科の装軌戦闘車両。合州国のM2ブラットレーに影響されて開発されたAFV(装甲戦闘車)
35mm機関砲を装備し、6名の普通科歩兵を車体後部の兵員室に乗車させることが出来る。
非常に高価で年に少数しか生産されないため不二と蝦夷の部隊にしか配備されていない。
陸上自衛隊の89式装甲戦闘車に酷似しているが、対戦車誘導弾は搭載されていない。

14式多目的誘導弾(MPMS)
高機動車の車体に多目的誘導弾発射機とアウトリガ装置が取り付けられた車両。
空気圧で発射機から射出され、ロケットモーターに点火。
画像誘導方式で光ファイバーのコードを引きながら飛んで行き目標上面を貫く。
ダイブモードと呼ばれる放物線状突入機動と、延伸モードと呼ばれる水平機動の2種類の発射方式が選べる。
通称「14マルチ」浩一君は、「96マルチ」と呼んでいたそうです。
実在の兵器である96式多目的誘導弾に酷似しているが、車台が1トン半小型トラックになっているタイプもある。

10式多脚戦闘車両(10ATAW)
戦闘車両の中でも異端児扱いされる装甲車。合州国との戦車保有数条約上装甲車であるが、戦車並みの装甲と主砲を擁する。
主砲は80口径88mm滑腔砲。その直角侵徹体穿孔力は均質圧延鋼換算で800mmと言う驚異的な威力を誇り
全備重量は28.9t、路上最高時速132kmという高速度。1kmから撃ちこまれても回避可能の機動力という化け物戦闘車
(20mm機関砲や発煙弾発射機を装備した23号車以降の全備重量は29.8t)
後継車両に15式多脚戦闘車両がいる。
同種の兵器に合州国の装脚式核弾頭発射機や、連邦の装脚核戦車がある(いずれも名称不明)。
切り詰めた設計上、搭乗者は身長155cm以下でかつ男性に比べて高G環境耐性の強い女性しか搭乗できない。

※ATAWとはAnti Tank Armored Walkerの略で対戦車装甲歩行戦闘車と訳す。(Walkerは歩行戦闘車を指す軍事用語)
AW単体では使わない。(自走高射機関砲と被るから。例、87AW・・・・・・87式自走高射機関砲)

F-2A/B戦闘攻撃機
国防空軍の国産戦闘機。多用途機で、対艦戦闘・核爆弾投下もこなせるユニークな戦闘機。
双発エンジンで尾翼付きクリップドデルタ翼を持ち、垂直カナード(先尾翼)を装備しているのが特徴。
操縦系統には4重フライバイライト(FBL)が使われている。T-2CCVの研究データが生かされているようだ。
アクティブフェイズドアレイレーダーや炭素系複合素材を多用した画期的な機体でもある。
搭載量はとても大きく、翼下のパイロンに対艦ミサイルを4発搭載し、翼端ランチャーに自衛用空対空誘導弾を装備することが可能である。
航続距離は大容量翼内タンクとコンフォーマル燃料タンクによって長く、さらに600ガロンドロップタンクを4つ取り付けた場合グアムまで無給油で飛行可能。
単座型(A型)は三佐和基地(みさわ)や椎木基地(ついき)に配備されている。複座形(B型)は満津島の教育部隊や、義府の飛行開発実験団に配備されている。

使用爆弾は、Mk82通常500ポンド爆弾、M117通常750ポンド爆弾、CBU-87クラスター弾、B83核爆弾等である。、
※誘導爆弾化キットJDAMを取り付けることによって誘導性能を付加することが可能。

ブルーの洋上迷彩の機体と、グレー系の制空迷彩の機体がいる。
実在の航空自衛隊F-2とは全く関係ない。デザインはF-15に垂直カナードを追加したような形。






[24204] 【番外編】あるかもしれない未来【本編とはあまり関係ありません】
Name: すたーりん◆c86439d4 ID:0ec5a351
Date: 2010/12/14 19:34
戦闘歌、または進軍追撃行進曲というのはご存知だろうか。
海外から仕入れてきた賛美歌に『見渡せば』という題名と歌詞を付けて唱歌にしたものを軍歌にしたものだ。
『見渡せば 寄せて来たる 敵の大群面白や』と言う歌詞で始まるこの曲は日露戦争の影響を色濃く受けている。
大東亜戦争終戦後『むすんでひらいて』と新たな歌詞を付けられ童謡として復活し、現在でも用いられておりひろく親しまれている。
なぜ、こんな話をしたかというと、いま、俺は作詞を始めているからだ。
合同徒歩行軍演習の時に分隊長に覚えさせられた『予科練ドレミの詩』がとてもヒドイ歌詞だったからだ。
音楽は憑依前の世界の動画サイトを中心に浸透した歌唱ソフトの歌だ。
後に知った事だがこの世界ではまだヲタク文化が浸透していないらしい。そのため、日本のアニソン・J-POPが新鮮なようだ。

「疲労の、限界を超えて我々は進むぞ、機械化されてないけど出来れば欲っしいな~♪」
「あのね早く予算回してよ~♪どうしたのアルミ(合金装甲)じゃ満足できない~君の事はっちの巣にしてあげる♪」
「アシはまだね徒歩だけれどはっちの巣にしてあげる、だからちょっと覚悟をしておけよ♪突撃開始♪」

同室のメンバーが歌い始めた。どうやら大変気に入ったらしい。
声を出して作詞していたのが不味かったようで、歌詞と調子を覚えたやつが歌い始め、段々と感染者が現れ始めた。
石堂教官に“新軍歌歌唱”の許可を求めると、あっさり許可が下りた。普段お堅いけどやはりこのヒトも鎚浦の人間だなあ。

この世界に飛ばされてきて結構時間が経った。そうするといろいろな事が分かってくるのだ。
例えば、アニメはあるが、ネットにおけるそういう分野がまだ発展していないのだ。
分かりやすく言うと、Nちゃんねるの様な大型掲示板もニヤニヤ動画等の動画サイトもまだ無く、アスキーアートも、ボーカルロボも無い。
しかも、「萌え」の概念もまだ無いようだ。歌の雰囲気も平成一ケタ世代(90年代初頭)の様な感じだ。
そう感じた俺(1992年生まれ)は(ヲタク)文化大革命を起こさんと活動を開始した。

最初のターゲットは同室の面々ではなく予科練歌集に載せることだったのだが、作詞中に聞いていたメンバーの一人がリズムにハマり、
歌い出し、それが全科に広まってしまった。さらに感染を拡大させる事件が発生した。
情報科のある科生が、業務用コンピュータを使用しネット上の匿名掲示板に発表してしまったのである。後に彼は卒業後大型掲示板の管理人となった。
匿名掲示板『フシギナセカイ』内で話題となっただけでなく、テレビ等でも大々的に紹介されることになった。
ソレがきっかけでなんと眞州中に広まり、定着してしまったのだ。

それから数年後、俺は実戦部隊にいた。
部下たちと戦車の後ろを歩く。戦車の砲塔側面には「魔法将校リリカルなのか」のイラストが描きこまれ、
砲塔後部には「SAVE ME NANOKA」の文字が・・・・・・
「石破分隊長。分隊長は確か鎚浦の出身でしたよね。」部下の伍長が話しかけてきたので振り向いた。
「ああ、そうだが、どうしたんだ。」
「鎚浦と言えばアノ鎚浦ですよね。凄いなあ。自分なら1ヶ月持つかどうか分かりませんね。」

鎚浦予科練卒業者には凄い噂もしくは実話が広まっており、一目置かれている。
曰く、敵が居なくなるまで暴れまわる蹂躙戦車隊
曰く、即死者以外は回復させる衛生科員、別名「へヴンキャンセラー」
曰く、何かと拳銃を乱射したがる憲兵、別名「歩く弾薬庫」
曰く、アニメ・ゲームブームの火付け役
曰く、大型匿名掲示板管理人「ひろき」
などこれ以外にもたくさんある。しかも知り合いだったりするから何ともいえない。

「往生せいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
向こうで回転拳銃を乱射しているのは同期のオオタ。歩哨をやらせると誰何(すいか)した後に無駄に発砲するのだ。
銃器の管理等が緩いこの世界においても特殊な存在らしく、人気の無い弾薬庫によく配置されている。
蹂躙戦車隊のメンバーはかつての機甲科の先輩たちだ。特に月山香耶中尉率いる装脚戦闘車連隊「月山ヴァルキリーズ」の
活躍ははっきり言って異常だ。10機対25機で、10機とも無傷で一方的に敵機を全滅させたり、色々な話を聞く。
1年次のときのルームメイトの一人はTVにヲタク文化研究家として出演し、彼はアニメやゲームの魅力を語っている。

「おーい分隊長。聞いてます?」
伍長の呼ぶ声にやっと気づく。
「ん、どうした。」
「なのかのハヤミ部隊長に萌えるんですけど。分隊長は好きなキャラって誰ですか?」
ヲタクを世の中に普及させたのは良いが、どうしたもんかね・・・・・・
「俺はなぁ・・・・・・」



転生・憑依物でお約束の“文化ネタ”がやりたかっただけです。





[24204] 【間章】正月休暇
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/01 07:06
【正月休暇】

『あけましておめでとうございます。今年は眞州では眞暦2716年、元号は平世17年になりました。』
母親が起きてきたようで、アナウンサーの声が居間から聞こえて来た。
「母さん、俺ランニング行って来る。」
「気を付けてね。」
浩一はドアを開けると、放射冷却厳しい青空の下に駆け出した。
世暦2056年、世界情勢は新たな展開を迎えようとしているが、浩一たちの町は正月の朝らしく静かだった。

浩一は体力維持のために、帰省してからずっと0600にランニングを始めるのを日課としている。
31日までは人通りのあった道も、今朝は閑散としている。毎朝散歩している老人も見かけない。
大通りに出ると、初詣に行こうとする車が結構通っていた。隣町の寺に向かっているようだ。
浩一はランニングルートを予備のものにした。混雑が予想されている寺院の前を走り抜けるのは危険だと判断したからだ。
商店街のなかを抜けて丘の上の中学校の前の道を通って、丘の頂上にある公園へと向かうことにした。
走りながら左右を見ると、どの店もシャッターが閉まっており鏡餅のポスターと、休業のお知らせが張っている。
そして、T字路を右に曲がり住宅地の中に入った。
この2車線の生活道路は緩い傾斜から始まるが、段々ときつくなってきて、造成地のコンクリート斜面が見え始めた時に大きく蛇行し始める。
「まだうちの高校のバス道の坂のほうがきついけどこれより短くて楽だ。こんな所に学校建てんなよ。」
彼は知らないが、“浩一”は丘の上の中学校、榊町北中学校に通っていたのである。
門松が至る所にある住宅街を抜けて灰色の斜面が見えたとき、道路は大きく左に曲がり傾斜が少し緩やかになる。
浩一は初めてのコースということもあってそろそろ体力が切れ掛かってきた。
右には真新しい洋風の家がびっしり立ち並んでいる。左側の視界は大きく開けており、市街と海が一望できる。
浩一は坂の途中のバス停の自動販売機で缶コーヒーを買い、朝陽に照らされる町並みを見ながらバス停のベンチで休んだ。
「熱ッ・・・・・・・寒さのあまり買ったけど熱すぎてよう飲まへん。」
彼が猫舌と言うわけではない。
缶ジュースは缶の外側が少し冷えたからと言って油断して飲もうとすると、思ったより熱くて痛い思いをする。
勢いがあった場合、舌だけでなく喉や胃に独特な痛みを覚える。喉元を過ぎても熱いものは熱いのだ。
フーフーと音を立てて缶の口に吹いて冷やそうとする浩一。缶の口の湯気が息に合わせて出たり消えたりしている。
その時、コートを着た女の子が浩一のベンチに座った。
「あけましておめでとうございます。浩一君、こんなところで何してるの。」
浩一は右を向いてすぐ、杉野真琴の顔が近くにあったので驚いたが、すぐに恥ずかしくなって照れ隠しとばかりに逆に質問した。
「あけましておめでとう。そっちこそ何やってんだよ。」
浩一の顔が赤いことにニヤリとすると真琴はバス停の斜め上方の少し古い2階建ての住宅を指差しながらすぐに答えた。
「私の家があそこだから。見えるんだよね~バス停。で、私の質問は?」
「ランニングだよ・・・・・・体力維持の。これでいいだろ。」
「ふーん。それでそれで、どこまで行くつもりなの?」
「羽が丘公園。」
「ああ、あそこかぁ。じゃあ、私も一緒に走ろうかな。どう。」
「別に・・・・・・いいけどさ・・・・・・予定とか無いのかよ。」
「はいはい照れない照れない。もう冷めてるんじゃないの?コーヒー。」
「冷えすぎて温いなぁ。」
一気に飲み干した後、自販機の横のゴミ箱に缶を入れ、ベンチに戻った時、真琴は準備運動をしていた。
「いっちに、さんしっ、にいにい、さんしっと。」
所々間違っているラジオ体操をしている。その様子を見た浩一は、人通りが無くて本当に良かったと思った。

二人は全体教練でのランニングと同じ速度で公園まで行き、同じルートを下る。

「家、寄っていく?」
「いや、いい。あんまり遅くなっても不味いからな」

バス停で真琴と別れた浩一は自宅に帰った。


1月5日

「じゃ、元気にやるのよ。お父さん、浩一が出るって。寝てる場合じゃないでしょう。」
「んああ・・・・・・・正月なんだから寝てても・・・・・・今日か。」
「親父、寝ててもいいぞ。見送りいらねーって。春か夏に帰って来るから。」
強引に付いて来た浩一の両親は電車がホームを離れるその時まで手を振り続けていた。

「恥ずかしいから手を振るなよ・・・・・・やっぱりこの世界でもあの二人は変わらないな。」
浩一は元の世界の両親のことを思い出して少し、涙ぐみそうになったがこらえた。
そして路線バスに乗り換えた時、見覚えのある2人組と出会った。
「おう、正宗、藤志郎。あけましておめでとう。」
「あけましておめでとう。お前も50分の電車に乗ってたのかよ。」
「あけましておめでとう。正宗、お前は寝てただろうが。それよりその荷物なんだ?」
「これか、家の軍事雑誌と、サバイバルゲーム用に買ってた私物のポーチ類、トランシーバーだな。」
「私物って・・・・・・お前、本格的過ぎるだろ。」
藤志郎は唖然としている。正宗は大型の迷彩リュックサックをぼーっと眺めている。
「藤志郎君、キミはサバイバルゲーマーの本気を舐めている。」
「まだ上がいるのかよ・・・・・・」
正宗に浩一は月刊コンバットを手渡した。
そこにはフル装備でゲームをしているサバゲーマーたちの姿が・・・・・・
「こいつら、本職よりいいもん持ってんじゃねーか。」
吉光が突っ込んだ。
「まあ、国防軍もお役所だしな。決まったメーカーからしか買えんわけで。」
「さらに『俺達の装備品は最低価格で入札されたものってことを忘れんな』だったっけか。」
「そういうこった。経済の植本教官の授業だな。」

バスは予科練前に到着した。私服の科生が教官室の前に整列する。
「石破浩一科生、ただ今帰隊しましたっ!!」
「岡崎正宗科生、ただ今帰隊しました!!」
「納山重次科生、ただ今帰隊しましたぁ!!」
このように帰隊報告を行う。すると担当教官が氏名の書いた木札を外出から取り外し、在校の場所に掛ける。
「以上!!普通科1年次43名帰隊。」
こうして正月休暇は終了した。
20時以降になっても帰隊しない者も現れるが、それは脱走扱いにならず辞めたことになる。
本科の場合は自衛隊でいうところの脱柵にあたり、捜索隊が編成される。
そして脱柵者が捜索費用を全額負担しないといけない。但し、平時に限る。
戦時下の場合は国防軍法23条の脱走に問われ、懲役15年又は死刑が求刑される。
戦闘中においては、利敵行為と同じように本国の軍事法廷を通さなくても現地の司令官の判断で緊急執行が許可されている。



[24204] 【劇場版予告編】※本編とは関係ありません。
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/05/02 02:51
バトルが書きたいと思って作ってみました。
最初は劇中劇と言う形で出してみようかと思ったのですが本編が進まないため、予告CMもどきとあらすじだけ作りました。


「民警は優秀だ、だが所詮奴らは警官。工作員を止めるほどの力は無いよ。」
「武装偵察局13課・・・・・・魚商888(ギョショウパルパルパル)という水産加工会社に聞き覚えは?」

 状況開始 劇場版
THE MOVIE ~工作員を殲滅せよ~

「敵です、敵襲です!!!!」
「ガース!!!!」
「うわぁぁぁ!!!!」
「助けてくれぇ!!!!」

正体不明の襲撃者

「奴らは我々を挑発している。国皇の命令があっても内閣の承認が無いと出られない事を知ってやがるんだ。」
「国皇陛下!!我々に防衛出動命令を!!」
「執行実包を装填し、抗弾ベストを着用して警戒に当たれ。」
「本部より各員、拳銃の使用を許可する、拳銃の使用を許可する。」
「警察力の底力を見せてやれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

立ちはだかる法と権力の壁

「最初に確認されたのは三時間前の越賀海岸」
「敵コマンド兵は近藤山中に潜伏中。」
「どうした、応答しろ偵3、偵3!!」
「奴らは私の部下たちを惨殺した、絶対に許さん。」

一人、また一人と消えていく戦友たち

「どうして戦えるのかって?そこに戦友がいるからさ。」

 状況開始 劇場版
THE MOVIE ~工作員を殲滅せよ~
2・26公開(冗談です) 


あらすじ

越賀(おか)海岸で薄汚れたウエットスーツを発見した警察官が何者かに殺害され、翌朝発見された。
数十分前、海上警備隊の巡視船が不審な無灯火漁船を発見し近づいたところ急発進。
追跡したところ、ウエットスーツの集団が海中に飛び込んで行った後、銃撃戦となり不審船は自沈した。

この2つの事件から眞州政府は工作員侵入事案と判断し、新田県警に緊急配備を命令した。
隣接する明田県、戸山県との道路を検問で封鎖し、封じ込め作戦を実行した
市内で発生する銃撃戦、凶弾に倒れる警察官達。ガスで襲撃される駐屯地
内閣は議会派と皇権派に分かれて対立し、なかなか最高指揮官である国皇の防衛出動命令を承認しようとしない。
警察官と独自判断で動いた陸軍の部隊の活躍によって工作員を新田市街から近藤山に追い込むことに成功する。
ようやく出た防衛出動命令により国防軍の管轄となり、東北方面隊隷下の全部隊と特殊作戦群SFGpが投入される・・・・・・・・・






[24204] 【2-1】ガス体験訓練 
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/01/08 14:26
「まず化学剤の種類には大きく分けて7つ、窒息剤・びらん剤・嘔吐剤・催涙剤・神経剤・血液毒・精神化学剤だ。」
「窒息剤にはホスゲン、塩素ガスがある。コイツは呼吸器で取り込まれ、呼吸困難を引き起こす。」
教官は黒板に窒息剤と書き、ガスの名前を書き込んだ。
「びらん剤、イペリットやルイサイト。コイツは皮膚を爛れさせるから全身防護衣が必要だ。吸った場合、呼吸困難になるから気をつけろ。」
「嘔吐剤、アダムサイトなんか有名だな。こいつは吐き気を催させる。吐しゃ物が詰まり窒息することもあるのでばかにするな。」
「次、神経剤。サリン・タブン・ソマン。コイツは大変危険だ。吸ったが最期、呼吸などが出来なくなって死ぬ。」
教官の話に浩一は化学兵器テロとも言える事件を思い出した。この世界ではまだ民間人が製造し市街地で使用するといった事件は無かったようだ。
「催涙剤。CSガスやCNガスだ。死にはしないが粘膜を刺激するガスだ、涙と鼻水が止まらなくなる。暴徒鎮圧にも使われている。」
「血液毒。青酸化合物系のガス等だな。非常に致死性が高い。体内に微量でも取り込んだら短時間で死亡するから気を付けろ。」

2月14日 全体教練 ガス体験訓練

グラウンドに催涙ガスを充満させた気密仕様のテントが張られ、その前で1年次たちが整列させられていた。
教官たちはビニール袋を配布し、水道までのルートを説明すると面体を装着した。
今日はバレンタインデーと浮かれていた1年次科生達だったが、全体教練の内容を朝礼で知らされた時、お祭りムードは粉砕された。
教官は出席番号順に突入させては面白くないとでも思ったのか回りを見渡し、拡声器で叫んだ。
「男子科生の諸君、漢を見せる時が来た!!我こそはと思う者は真っ先掛けて突入しろ!!!!」
浩一も正宗も藤志郎も他の科生達と同じように恐れていたが覚悟を決めた。
「よし、行くぞ。催涙ガスだ、死にはしない、ええいどうにでもなれやぁ。」
浩一は普通科の中で最も早くテントの中に突入した。2番目は正宗、続いて藤志郎と突入していった。
こうなると躊躇していた他の男子科生も雰囲気に当てられ次々と突入していった。

・浩一視点・

衛生科の手術用気密テントの中に入った瞬間ソレは来た。
頭を洗っている時に泡が目に入った時のような痛みが襲ってきて、鼻は風邪を引いた時の様に鼻水を滲出させ始める。
そして余り開かない・・・・・・開けられない目で進むと教官がいた。そこで信じられ無いものを目撃した。
面体も付けていない化学の山城教官がタバコを吸っていた。そして普段どおりの表情で話しかけてきた。
「1番手は石破か。痛いか?慣れると一服できるようになるから今のうちだけやぞ。」
教官・・・・・・あんたホントに人間か?
「出口は向こうじゃ、石堂教官が待っとるど。」
俺は正宗の「目がぁ~目がぁ~」という叫び声を後ろに聞きながらテントを出た。
石堂教官が背中を押して水道まで連れて行ってくれた。
そこで目と鼻をしっかり洗うが、まだ痛い。
俺の様子を見た女子科生達が「ひっ!!」と怯えている。何故かと聞くと彼女達の一人が手鏡を貸してくれた。
目の周りと鼻の穴周辺が真っ赤になっていた。涙と鼻水、そしてガスの刺激のせいだ。
「どうだった・・・・・・その、痛そうだけど。」
普通なら格好つけて「大丈夫だよ!!痛くねーよ!!」と言うのだが口からは別の言葉が吐き出された。
「頭洗ってる時に石鹸が目に入ったような感じで痛い。それと山城はホントに人間かアイツ・・・・・・」
最初、ポカーンとしていた女の子たちはどうやらギャグと捉えたらしく、笑い始めた。
「アハハッ・・・・・ありがとう。大分緊張がほぐれたよ。それじゃ行って来るねっ。」
女の子達はテントの中に入っていった。

・浩一視点 了・

「アーッツ、まだ目が変だぜ。これじゃチョコレートの味も分からん。」
「藤志郎、貰えるアテでもあるのか?この学校において『キャー藤志郎君かっくいー』なんてのは噂でも聞いたことねえぞ。」
「ウルセー!!浩一!!お前は何かと女の子に話しかけてもらえるじゃねーか!!」
「浩一、『かっくいー』って何時のネタだよ・・・・・・」
食堂で夕飯を3人で取っていた時、食堂のテレビに速報が流れた。

『眞州海で国籍不明の不審船2隻が逃走中。海上警備隊・国防海軍が現在追跡中』

「なんか、きな臭いな。連邦側の情報収集船と工作船かなアレ。」
「どうしてそんなこと言えるんだ?お前のことだから根拠はあるんだろうが。」
「藤志郎、アレ漁船にしてはアンテナが多すぎるんだよ。それと航跡が幅広い。多分スクリューが4軸ぐらいある。」
「まあ、普通の船にしては速すぎるよな。」
正宗がテレビを見ながら言った。画面には海上警備隊提供の画像が映し出されている。
『第二大成丸』と船尾に手書きされた船と、船尾に『第九豊穣丸』と手書きされて、押せば割れそうな線が入っている船の二隻は北鮮・連邦の方向に航行していた。

「浩一君、久しぶりだなあ。君達、隣に座っていいかね。」
「ええ!!もちろんですとも。喜んで!!」
藤志郎は美人にはめっぽう弱いのだ。
「別に構いませんよ。・・・・・・野呂田先輩。」
正宗はどう呼んでいいか一瞬迷ったようだが、苗字で呼んだ。
「硬いな、普段は芳乃で構わんよ。堅苦しいのは苦手でね。」
芳乃は浩一の隣に座った。髪は下ろしており、背中の真ん中くらいまでの長さだ。。
浩一は流れるような黒髪に見とれていたが、芳乃の一言で意識を引き戻された。
「海上警備行動はきついだろうな。実行するかどうかの話し合いをすると、『やめとこう』に持って行こうとするだろうな。」
「外交問題でも穏便にしたがる・・・・・・事なかれ主義な国だからですね。」
浩一は、元の世界の九州南西沖工作船事件と能登半島沖の事件を思い出していた。
テレビの画面では、2組の並走する不審船と巡視艇が映しだされている。
もしどちらかが停船して、海警行動を許可したとしても、海軍の船乗り達に立ち入り検査は無理だろうと思った。
何故なら、ヘルメットと拳銃、警棒しか装備していないのと、閉所戦・・・・・・歩兵どうしでの戦闘の経験が全く無いのだ。
その時、浩一の考えを読んだかのように芳乃は浩一に尋ねた。
「何か気づいたって顔しているね。浩一君の考えを聞こうか。」
「まず、領海侵犯するような船が大人しく無抵抗で捕まるとは思えません。乗船検査する際に銃撃戦・自爆・拉致の危険性があります。」
浩一は立ち入り検査の際に発生するであろう事案を述べた。
「まあ、そうだろうなあ。スピード違反でとっ捕まるのとは訳が違うよな、国際問題に発展するわけだし。」
藤志郎は真面目な顔で同意した。軽いノリの彼であるが真剣に話している時にふざけたりしない常識は持ち合わせているようだ。

その時、ニュース番組は新しい話題に移った。
『卒業式シーズンにTE10が新曲発表予定』

「岡崎、TE10とは何だ?教えてくれないか。」
「藤志郎、TE10って何だ。」
話題を切り替えるために浩一と芳乃は同時に聞いた。
あまりにも息がぴったり合っていたため正宗と藤志郎は笑った。
「じゃあ俺が説明しますよ。」
正宗が説明を引き受けた。
「TE10(テイト)っていうのは、10人のアイドルグループで、名前はTEitoと10を組み合わせているんですよ。」
浩一が思ったことを口に出した。
「帝10って表記したら華国の兵器みたいだよな・・・・・・」
「ところで、浩一って好きな芸能人居るのか。正宗は松本優作だってよ。」
「特に居ないなあ。というか俺、芸能関係全く知らねーんだよ。」
「やはり、君もか。私も軍事情報以外には疎くてね。よく同期にからかわれるよ。」

こうしてしばらく話した後、お開きとなった。
寮までの道は寒く、PXで買ったあったかい飲み物をカイロ代わりにして走る。
2月の夜空は、まだ赤くて熱いまぶたをよく冷やしてくれた。

海上警備行動は実施され、P-3C 哨戒機からの警告爆撃、駆逐艦の警告射撃が行われたが15日0121、2隻は経済水域より離脱し
その直後、北鮮方向から戦闘機2機が接近し、スクランブル発進した。
こうして「眞州海登尾灘不審船事件」は表向きは終了した。
国防3軍統合幕僚部、情報本部、在眞米軍は「陽動である可能性」が高いとし警戒態勢を30日まで維持していた。



[24204] 【2-2】2年次初日
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:cdcfb849
Date: 2011/05/02 02:52
「総員、駆け足しながら復唱!『俺たちゃ槌浦予科練生!』」
石堂教官の声がグラウンドに響き渡る。
「俺たちゃ槌浦予科練生!」
「『欲しがりません勝つまでは』」
「欲しがりません勝つまでは」
「『マラソン十キロ朝飯前』」
「マラソン十キロ朝飯前!」
石堂教官の後を復唱する浩一たち。
浩一は、すぐに突っ込みたい衝動に駆られたが耐えた。
「よし、眞州男児に二言ナシだ。そのまま続けろ、20周まわったら終了だ。」

彼らは第一種演習装備でハイポートさせられていた。
「初っ端からこれは・・・・・・ひでえなあ」
「欲しがりません勝つまではって敗戦フラグ・・・・・・」
「おい、正宗、浩一、聞こえるぜ。」
「そこの3人、聞こえてるぞ!!私語は慎め!」

「ゼエゼエ・・・・・・きっつー」
「クソ・・・・・・水飲みてー」
正宗と藤志郎、ほとんどの科生達は20周を終えると同時に倒れていた。
「いい運動になったな。・・・・・・大丈夫かお前ら。」
『大丈夫かじゃねーよ!!!!体力馬鹿が!!!!』
迷彩柄の死体が転がる中でただ一人だけ立っている者が居た。浩一である。
「なんだなんだ。そのザマは。まさか春期休暇中サボってたわけじゃないだろうな。」
「そんなことで国が護れると思ってるのか!!気合が足りん。」
石堂教官は倒れ伏す科生の前を練り歩きながら得意げに説教を始めたが、立っている一人の科生の姿に驚愕した。
「・・・・・・とにかく、石破を見習って訓練するように!!いつまで寝ている!!終わったらさっさと戻らんか!!」

浩一達は2年次となった。その最初で最後の全体教練が終了した。
基礎的な動作を叩き込む全体教練を修了すると特技実習となる。
特技実習とは、MOSを取得させる為の実習である。何教科かは選択制になり、1種と2種の2種類に分かれる。
1種は戦闘要員で2種は会計科等の事務方である。女子科生の多くは2種を選択し、1種の男女比率が女子1に対し男子3となる。

現段階では全員、軽火器MOS・無線通信MOS・迫撃砲(81M) しか持っていないが2年次が終わるころになると、個人の兵員としての性格に大きく差が出ている。
具体的に言うと1種であれば対戦車兵向きになっていたり、個人携帯対空火器を全種類使えるようになっていたり、装軌・装輪を取って運転手になっていたりする。

4月4日
「では、本日の議題に入る。これより、普通科1種2年次の連絡委員を選定する。」
教室がざわめいたが石堂教官の咳払いで静かになった。
「石破、連絡委員とは何をする役だ。」
「ハッ!!連絡会議の構成員であります!」
浩一は聞いたことのある連絡会議という言葉と、連絡委員という単語から関係性を推測し発言した。
「まあいいだろう・・・・・・連絡会議とは一般の高校の生徒会みたいなものだが、自治能力は無い。」
「一般の学校と違い科ごとに役割のあるうちでは委員会が存在しない。連絡会議は科ごとの連携を取り、行事の準備・進行の式を取る組織だ。」
「行事だけでなく、科生同士の紛争、風紀の乱れ、校則違反の取り締まりとそれらの解決も委任されている。」
「さらに各種報告書を教官に提出する。つまり連絡委員は小隊長。連絡会議は指令本部。さらに憲兵隊も兼任しているという感じだ。」

正宗は思わず、「つまり・・・・・・雑用係か。」と言ってしまった。これが彼の未来を決定した。
「その分それ相応の厚遇がある。まず第一に・・・・・・寮個室の使用権が与えられる。」
「第二に、年10日間の座学免除権がある。演習は休めない。また成績考慮はされない。」
「最後に、PX内の教員用食堂の使用許可が与えられる。」
しかし多くの科生はこの餌には食いつかねえぞと心に決めた。
行事の準備は肉体労働が予想され、さらに実弾が必要以上に飛び交うこの学校において紛争・風紀維持・校則違反取締りは生命にかかわる任務なのだ。

「さて岡崎、ここで質問がある。仮に貴様が連絡委員になったとする。その際の正しい心構えを俺が出す例題の中で示してもらおう。」
正宗は物騒なたとえ話をするなよと思いながらも黙って聞く。
「例えば・・・・・・目の前に小銃の組み立てが上手く出来ずに困っている科生が居たとする。」
「その科生は同学年でしょうか。」
「そうだ」
自分の小銃の管理は自分ですることが常識だが、おそらく別の回答が求められているのだろうと正宗は考えた。
「このケース、貴様が連絡委員だったらどうする。」
「はい、自分なら無視します。」
「なぜだ」
「自分の一部でもある小銃も扱えない無能を気にかけることはありません。」
「一兵士であればそれで構わないが連絡委員・・・・・・将校の立場でそれは許されん。」
「では手伝えと」
「それも違う。将校とはその兵自身を指揮して成功させるのが役目だ。手伝うこととは同義ではない。」
「今のやりとりで分かった。岡崎、お前は上に立つ者の心得を全く理解していない。」
「すみません、どうやら適性が無いようです。」
「ならばちょうどいい機会だ、岡崎、普通科1種の連絡委員に任命する。」
「え・・・・・・自分には無理です。荷が重過ぎます」
正宗は一瞬呆けた後すぐに拒否した。
「もちろん本科であればその能力があるものがなるべきだ。だがここは予科練だ。出来ない奴にこそ出来るようにさせる。」
「下士官、士官候補生になるべき者を育てる機関だ。その決定に異を差し挟む気か。」
「いえ」
「では、普通科2年次1種の長として立派に勤めあげてこい。」
この瞬間、正宗を除いたクラスの大多数の心は一つとなった。代表して藤志郎が声を掛けた。
「よお、偉大なる委員閣下。良かったな、これから貴重な放課後は雑用三昧かー俺もあやかりたいぐらいだよ。」
「ぐっ」
「無駄なことやらされるんだろうな。備品チェックに倉庫の掃除、誰も居ない教室で誰も読まない報告書を書く。正宗、お前は科生の鏡だよ。なーはっはっは」
他の科生も口には出さないが、皆「俺じゃなくてよかったあ」と言う表情だ。
「ふむ、岡崎。一つ言い忘れていた。連絡委員は1名補佐を選ぶことが出来る。お前の補佐をする者を指名しろ。」
「補佐?」
「そうだ、お前の片腕として信頼できる奴を選べ。」
「教官、俺は吉光藤志郎を補佐に指名します。」
「教官!!俺より石破のほうが適任です!!」
藤志郎は苦し紛れに浩一に振った。
「石破、どうだ。」
「別に構いませんよ。自分でよければ。」
浩一は元の世界で中学・高校と委員長をやっていたからそういう仕事は手馴れている。
個室と昼食が付いていると言うのも大きかった。
「ホントにいいのかよ浩一。めんどくさそーだぞ。」
正宗は浩一の答えに思わず問いかけた。わざわざ雑用仕事をやりたいと思う物好きが居るとは想像してなかったようだ。
「藤志郎よ、昼食争奪戦、がんばれ。君は自由と昼食を引き換えたのだ!それに、お前のことだ、サボるんだろ。」
「くっ・・・・・・やられたっ!!さすが浩一、なかなか鋭いな。」
「補佐は石破浩一で決定だな。本日1400時から第1回の会議がある。場所は東棟の連絡会議室だ。岡崎、忘れずに参加しろ。」
「ハイ」
「補佐には出席義務は無いのだが・・・・・・お前なら問題ないだろう。ではHRを終わる。」

「よっ、岡崎。災難だったな。ま、そう気を落とすなよ。」
「食券1枚で“話だけ”は聞いてやるよ」
クラスの連中が正宗と浩一に話しかけ、教室から出て行く。
「ま、頑張ってくれよ委員閣下。補佐殿。」
皮肉を言う者もいたが反応は・・・・・・・予想外のものだった。
「おう、やるだけやってみるわ。ただし、お仕事がある時はお前らにも働いてもらうからヨロシク。」
「げっ、コイツ皮肉が効いていない・・・・・・」
「普通、落ち込むところだよな。何でアイツ生き生きしてんだ?」

こうして石破浩一変人伝説に新たな1ページが刻まれた。





連絡会議の前に原作ヒロインとの対面があるわけですが、浩一君と正宗のコンビが廊下を走るわけも無く発生しません。
多分オリジナルストーリーになると思います。



[24204] 【2-3】はじめての連絡会議
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:e19c55a4
Date: 2011/05/06 18:09
連絡会議室の戸を開いた時、女子科生が三名、男子科生が七名ほどいたが一人を除いて六列目以降に座っていた。
「お久しぶりです芳乃先輩。隣、いいですか?」
「浩一君に、正宗君ではないか!君達も連絡委員なんだな。何故か前の方ががら空きでな、誰も座ろうとしない。」
正宗の提案で後方に座ろうとしていた浩一だったが、最前列に独りで座っている芳乃を見つけ、隣に座ることにした。
「あえて最前線に立つこともないじゃないですか。ただそこにいるからといった理由で仕事に任命されたり・・・・・・」
「正宗、さっきも言ったように全員が後方に陣取ったら前線が後退するだけじゃないのか・・・・・・」
「正宗君、私も同意見だ。前線をいたずらに後退させるのはあまり頭のいい戦術ではない。」
浩一と芳乃の意見に納得した正宗は後方に陣取っている科生達のほうをじろりと見た。瞬間、皆一斉にあらぬほうを見て口笛を吹いた。

開始4分前、2名の女子科生が入室してきた。
「あ、正宗君だ。ひさしぶり。隣座っても良いかな?」
正宗の右隣にその女子科生は座った。正宗は一瞬驚いたような表情になったが、すぐいつもの顔に戻った。
「久しぶり。えーっと、コイツは長船真織、俺と藤志郎の古くからの友達だ。」
浩一と芳乃は「どうも」と軽く頭を下げると、軽く自己紹介をした。

____浩一視点

長船さんと正宗は思い出話をしている。
俺と芳乃先輩は空気を読んで黙っている。俺は当たった時のために準備班の編成を考えている。
気分は督戦隊に睨まれた懲罰部隊のようだ。
後方からなんか物騒な言葉が聞こえてくるんだよな。
“あれ、衛生科の長船じゃないか?アイツ何馴れ馴れしく話しかけてんだよ”
“アイツの隣も女連れだぜ。生意気な奴らだ”
“そういや狙撃の成績Aの奴いたな。いや、投擲Sに吹っ飛ばして貰うか。”

いやさ、俺だって憑依前には“リア充もげろ・爆発しろ”と思ったことはあったよ。
でもな・・・・・・お前らが言うとシャレになんないぐらい怖いんだよ!!!!
馬鹿が銃を乱射し、爆発物を爆発させるココだったらありうる・・・・・・。

と思っていると二人の科生が入ってきた。
ちっこいのとデカイのだ。ちっこいのは月山香耶。全校で一番の有名人だ。
ATAW(対戦車装甲歩行戦闘車)の乗員に選抜されたただ一人の女子科生。
・・・・・・歩くのに車というのもおかしな話だが。
合洲国の装脚式兵器に影響を受けて作られた軍事用語なのだから仕方ない。
そして、とても説教が長いことで有名なのだ。
大きい人は物凄く体育会系っぽい。俺の高校の陸上部にいた姐御を思い出す短髪だ。

月山先輩は連絡会議室の全体を見回すと会議の開始を告げた
「全員揃ってるようだな、それでは本年度第一回連絡会議を始める。私は機甲科3年次科生、月山香耶だ。」
そして
「本年度連絡会議の議長に任命された。早速だが、明後日行われる新入科生歓迎式典の段取りを決める。」
どよめきが起こる。ま、生きる伝説みたいなものだからな。無理も無いか。
「入科式か、ここははっちゃけて『貴様らはココでは平等に価値の無い以下略だ!』って感じで・・・・・・」
「正宗君ったら・・・・・・」
このドアホッ!!失言王!!状況読めよ正宗ッ!お前が調子に乗って喋るととろくな事にならん!!
「実に楽しそうだなそこ。会議中、私語は慎め」
正宗と長船さんはすぐに謝るが、遅かったようだ。あとで説教確定だなこいつらと連帯責任で俺。 
「なるほど、普通科一種2年次と衛生科には無駄口を叩く余裕があるようだ、なら式典準備は・・・・・・」
やっぱりこうなったか。万が一の事を考えておいてよかったぁ・・・・・・
この後副議長選出があり、立候補者のところでいかにもウザそうな眼鏡が立候補してたが俺にとってはどうでも良い。
「アイツの名前はきっと山田土左衛門だよ」
正宗のおふざけゲージはマックスのようだ。もうどうでも良くなったんだなコイツ。
町田よしひら・・・・・・は訂正してきたようだ。長船と何か話している。
町田は月山先輩に何か言ってる。凄く嫌そうな態度で返す月山先輩。こうして会議は終了した。

________浩一視点・了

「待て、岡崎、長船・・・・・・あと委員補佐の石破」
香耶は正宗と真織、ついでに岡崎の補佐の浩一を呼び止めた。
浩一は退室する芳乃に手を振ると正宗の隣に立ち、香耶から見て左から順に長船、岡崎、石破の順番で整列した。
「先の態度だが、委員としての自覚を持て。模範となるべき連絡委員があのような態度では新入科生に示しがつかん」
香耶は正宗と、真織に対し説教を始めた。連帯責任で浩一も気を付けの姿勢で聴いていた。
2時間が経過した頃、浩一曰く“短髪の姐御”青江が説教を終わらせた。

「俺が言おうとしていた台詞、全部持って行きやがった・・・・・・正宗、士気の低さを露呈させてどうすんだ」
夕焼けの廊下での浩一の台詞に正宗はPXに逃げ込み、新人の店員さんとその娘たちと出会う。
その頃、浩一は新しい個室に荷物を移し明日の作業の計画表を作成していた。

翌日、正宗と浩一は伝達時に案の定殺害されかかるも
衛生科との共同作業であることを伝えて男子科生達の士気を高め、あらかじめ作っておいた作業班に分け、
浩一自身が率先して作業に掛かり素早く準備を終わらせた。


平世十七年度新入科生入科式典準備報告書

担当者_岡崎正宗・石破浩一
作成者_石破浩一
実施日_平世17年4月5日
実施場所_体育館

1300時_課業開始、モップ等清掃器具を用い、清掃を行う。
2コ作業班を編成し、工程を同時進行させる。

1350時_岡崎指揮下の第1班は底面保護シートを運搬する作業を開始。
    石破指揮下の第2班は清掃作業を継続

1400時_衛生科到着。放送機材等搬入作業開始。シート敷設作業開始。
第1班、数名が作業を放棄し衛生科支援に回ろうとしたため口頭注意。
第2班、物品保管庫から椅子を運搬し、これを敷設する。
衛生科、紅白幕敷設、舞台上設備配置作業。支援希望者多数あるも口頭注意
怠業者に対し口頭注意。
1435時_式典準備完了 解散

___________石破浩一の活動報告書




受験が終わり、時間が出来たと思った頃にPC破損。全データお亡くなりに。
大変お待たせしました。



[24204] 【2-3+】PXにて・・・・・・
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:e19c55a4
Date: 2011/05/07 17:52
___正宗視点

4月4日_17時頃

月山先輩に説教され、浩一にまで説教されるとだるいので俺はPXに駆け込んだ。

ったく、面倒なことになったな。あした俺は死ぬかもしれないな。
死ななくても半殺しくらいは覚悟した方が良いかも。結局のところふざけてた俺が全て悪いんだが。
浩一のことだ、何か策ある筈だ。いや、あって欲しい。藤志郎なら・・・・・・多分駄目だ。
それにしても、説教が趣味なのか?浩一と気が合いそうだなあの人。
食堂は明日まで休みだから夕食買って帰ろうか、と俺は食料品の棚に向かった。
弁当コーナーには今年から新商品が増えていた。

「パンツァーファウストⅡ弁当、炎の空挺団弁当、一七式弁当・・・・・・凄いネーミングだな」
でかいソーセージと揚げ物が詰まった重量感満点のパンツァーファウストⅡ弁当は1000円とイイ値段がする。
真っ赤な衣の激辛から揚げと、ターメリックライス、パラシュートみたいないなりが入った炎の空挺団弁当は
680円だが、とっても辛そうだ。爆熱地雷チャーハンの隣に陳列されている。
最後の一七式弁当は国防色のパッケージで、箱上面には弾薬箱風のステンシル文字で
「製造番号、賞味期限、内容、価格」と国防軍のマークが記入されている。
500円するのだが、中身が見えないため買おうかどうか悩む。
結局弁当はやめカップめんの棚に移動した俺は定番の味噌ラーメンにするか、新商品のとんこつスペシャルにするか考えていると
後ろから女性に声を掛けられた。
「あのーすみません。こちらの方棚卸ししたいんですけど、後ろよろしいですか?」
「あ、はい、どうぞ」
俺は少し脇へどき、声の主を見るとなんと若い女性だった。新人さんなのだろう、見た目は20代前半っぽいな。
「えーっと、プロテイン1kg入り3個、どみのえんぺらー、どみの?ど、ど?」
どうやら商品の場所が分からなくなったのだろう、ドを繰り返し始めた。ドミノなんて商品あっただろうか?
棚を見ると『アミノ・エンペラー』があった。これの事じゃないだろうか?直訳するとアミノ皇帝って意味だな。
「すみません、お探しの『どみの』ってあの商品のことですか?」
俺はアミノエンペラーを指差した。店員さんは納得したかのように
「あ、アミノ・・・・・・あら、本当。私見間違えてたんですね。ありがとうございます。」と言った。
話しついでに聞いてみる。
「見かけない方ですけど、入ったばっかりなんですかココ」
「はい、この春からここで働かせていただくことになりました友成楓と申します。これからよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします。自分は普通科一種2年次科生岡崎正宗です」
ペコリと頭を下げた店員さんに対し何故か、“着帽時”の敬礼をしていた。
脱帽時の敬礼は十度のお辞儀で、国皇に対しての最敬礼でも45度のお辞儀と地味なのだ。
「ふふ、やっぱり学生さんでも敬礼なんですね。あ、ここでは科生さんでしたね。」
やけに丁寧な言葉使いはここでは珍しい。教官や上級科生は命令口調だし同期はいわずもがなだ。
棚卸しの邪魔になってはいけないので弁当コーナーに向かった。
凶悪なサイズのソーセージ3連装がウリのパンツァーファースト弁当(1000円)を買うことにした。
そこには二人の子供がいた。スカート姿の元気そうな女の子と、黒髪の大人しそうな男の子だ。
「ほえーこのソーセージでかーい」
「お姉ちゃん、おみせの売り物で遊んじゃ駄目だよ・・・・・・」
歳は・・・・・・小学校高学年くらいかな。
「ほら、でっかいよ」
「うん・・・・・・そうだね・・・・・・」
どうやら姉弟らしい。でも、どこから湧いて出たんだ?
ソーセージの何が面白いのかパンツァーファースト弁当をいろんな角度から観察する姉。
食べ物で遊ぶのは駄目だし、それ買いたいしとりあえず注意しとくか。
「こら、ガキども」
「はえっ?」
声を掛けるタイミングが悪かったのか、驚いた姉の手からブツは・・・・・・滑り落ちた。
まったく重力とは恐ろしいもので、地上に浮いてるものが落っこちてしまうのだから。
あれよあれよと思う間に弁当は・・・・・・逆さに落ちた。
見るも無残に散った弁当の前には3人の人間がいた。俺、姉、弟だ。
姉は墜落した弁当をつつき、「死亡確認!」と一声。
弟があわてて弁当を拾い上げるも中身は悲惨なことになっていた。
「どーすんだコレ」
「すみませんすみませんっ!!」
弟は必死に謝っている。姉は・・・・・・
「だいじょーぶ。ワンタンメンがこういったら生きてるから!」
誰だそいつら。メンって複数形だっけか?ってワンタン麺!!なんじゃそりゃ?
「その、お前が謝っても仕方ないだろ。俺に謝るんじゃなくて・・・・・・店員さんに謝るべきじゃないか?」
ついでに疑問もぶつけてみる。
「そもそもお前ら何処から来たんだ?保護者はどこだ?」
向こうから先ほどの店員さん・・・・・・友成さんがやってきた。
「どうかなさいましたか?」
俺は事情を説明した。すると友成さんは二人の方を向き
「こら、由実、由樹なんてことしてるの。売り物で遊んだらいけません!バックヤードで大人しくしてなさい」
「だってぇ、つまんないんだもん。由樹は一人でパズルして相手にしてくれないんだもん」
姉が由実で由樹が弟か。ん、友成さんはこの二人の関係者か?
「あの、店員さん。この二人は店員さんの?」
「はい、すみません。ご迷惑をおかけしてしまって。」
そうか、この二人は店員さんの妹と弟だったんだな。
「こら、おねーさんに迷惑かけたらだめじゃないか」
「お姉ちゃんは由実だよ?」
由実は自分を指している。そうじゃなくて・・・・・・目で店員さんを指しながら聞く。
「ママだよ?」
なんですとー!!この姉弟の姉ではなくて母親?
「申し訳ありません。由樹は大人しいのですけど由実の方は見てのとおり落ち着きが無くって・・・・・・双子のなのに似てなくて」
「えーっと本当に、双子のお子さん?」
「ええ」
まさか二児の母だったとは。娘が小学生くらいって仮に20で生んだとして26歳以上・・・・・・
「でもそんな風に見えないですよ。あんまり年上に見えないって言うか・・・・・・その・・・・・・」
由実がニヤリとして
「おじさん。ひとづま好み?」
誰がおじさんだ!!というか意味分かってんのか?この子。
「コラ!由実。すみません。この子ったらおしゃべりで・・・・・・」
友成さんは何度も何度も頭を下げ、謝った。それからレジで購入物品数点の会計を済ませた。
「お買い上げありがとうございました。またいらしてくださいね。」
由樹君は何か言いたそうにしていたが結局何も言わなかったので寮に帰った。

今日から部屋が個室だと喜んで帰った俺は自分の6人部屋から荷物を持ち出し、別棟の個室に持っていく。
そしてドアを開けるとそこには浩一がいた。
「おいおい、引っ越し祝いか?気が早すぎるぜ。」
浩一は顔を上げると真顔で言った。
「正宗、何を勘違いしているんだ、説明にあったろ。委員と同補佐が二人一部屋だと。」
「一応聞いておくが、2段ベッドどちらが良い?あと、明日の作業班編成についてだが・・・・・・」
俺は下だと答えるとベッドに座った。テーブルの上には名簿と手書きの工程表、それと作業規則と書いた紙があった。
「浩一、作業規則ってなんだ。見せてくれないか?」
「ああ、いいぞ。しっかり読んでおくように」

___作業規則

一.許可無く作業を離れないこと。
二.支援は要請があり、かつ作業班長の許可が下りた場合のみ行うこと
三.軍人の本分は任務を遂行することにあり。不平不満を言う前に作業せよ。

________石破浩一作成

「正宗、委員たるものサボりは許されん。むしろ率先して任務に当たれ。よろしいか?」
浩一の方がどう考えても委員に向いているじゃないか。石堂めなんて大変な仕事を・・・・・・




____________
敬礼角度訂正しました。













[24204] 【2-4】平世17年度新入科生入科式典
Name: すたーりん◆c7e217d1 ID:e19c55a4
Date: 2011/06/16 06:36

「あれから、もう1年か。帰還の手がかりもなく、俺はこっちの生活に慣れちまったな。」
浩一は式典準備を終え自室に向かって歩いていた。彼の目線の先には挙動不審な科生の集団がいた。
すぐに入寮の新入科生だと分かった。浩一は、あの出来事から1年が経った事を思い出した。

4月、いきなり入寮することになり、自衛隊や軍隊との違いに突っ込んでばっかりだったこと。
5月、合同徒歩行軍演習。熊に出会って大変驚いたこと。そして初めて小銃を撃ったこと。
6月、機甲科実機演習見学で気絶したが、撮影した写真が「歩兵による肉薄攻撃」の資料として使われたこと。
そして、散々だった創立祭。岡田先輩最後のステージ。
7月、総合火力演習という舞台に立ったことと装備を観賞して満足だったこと。
8月、夏休みに帰省せずに短期自動車教習と学科試験。装輪MOSが手に入ったこと。
9月、タコツボ壕、機関銃陣地作成訓練で肩・腰・腕の筋肉痛とマメに苦しんだこと。
10月、中間考査と資格取得に苦しんだこと。
11月、全科合同大演習で戦闘団を組んで敵目標に大損害判定を与えたこと。
12月、期末考査の後、帰省したときにどうこちらの両親に会えばいいか2日間悩んだこと。
1月、冬季戦闘体験として新田県の山中で現地部隊と合同演習。銃に触れ凍傷になった科生がいたこと。
2月、ガス体験訓練、眞州海登尾(とお)灘不審船事件が発生し、周辺国との緊張が高まってきたのを実感したこと。
3月、岡田先輩との別れ。住む棟が変わり、2年次棟に引越し。

感傷に浸るとか、らしくねえなぁと浩一は首を振ると
「明日は新入科生入科式典か。俺達がやる事は新入科生の引率と式典参加、馬鹿騒ぎの警戒か」
浩一は気持ちを切り替えるようにそんなことを呟き、寮の階段を上った。


「おう、お邪魔してんぜ浩一。」
「おかえり、浩一。俺達も去年はあんな感じだったんだろうな。」
藤志郎と正宗が部屋にいた。浩一はいつもどおりに戻っていた。
「ただいま。今日はご苦労さん。しっかり休んで明日に備えとけ。」
浩一はバックパックから報告書と引き換えに渡された行動予定表を広げると担当箇所を赤鉛筆で書き込んでいく。
「えーっと、0935、体育館前誘導。1年次普通科教室一・二組が俺、三・四が正宗」
「1000、新入科生入場。連絡委員席着席。」
藤志郎は何かを思い出したかのように口を開いた。
「なあ、今年の新入科生はどのくらい生き残れるんだろうな」
正宗は少し考え
「そうだなあ、俺達の期と同じくらいだと考えると半分ってところかな」
「浩一はどう思う」
藤志郎の問いに浩一は作業をしながら答えた。
「引率する四クラス分の人員が1年後一種と二種の2クラスになる所を見ると、おおよそ半数かね」
「そうすると、さっき見たどっちかは脱落するかな?」
正宗と藤志郎は先刻目撃した二人の女子科生を脳裏に浮かべながら会話を始めた。浩一は案内の仕方についての項を読みはじめた。
正宗は「確率的にはな。両方とも辞めるかもしれないし、生き残るかもしれない。」といった後で
「まあ結局、生き残るのはノリについてこれる奴?」
「ノリかよ!!」
正宗の軽率な行動が今日の作業担当という結果につながった事に、思わず浩一は口を出した。
「正宗、ノリは勘弁してくれ・・・・・・昨日の事を忘れるな・・・・・・」
「うっ・・・・・・」
正宗は呻いたあと藤志郎との馬鹿話に戻って行った。そうしているうちに消灯ラッパが鳴った。

0600:起床 
浩一は毛布を畳み、制服を着るとあまり使わない制帽を被る。制帽からはロッカーの香りがした。
姿見で何度も確認する。浩一がナルシストで、姿見に映る自分の容姿に酔っているわけではない。
ネクタイは曲がっていないか、徽章は曇っていないか、ほこり、シミはついていないか、靴は革靴かどうか?
式典で広報官のカメラが回っているだけでなく、初めて接する上級科生の服装で新入科生は学ぶ。
だからしっかり確認するのだ。

0822:連絡会議室にて最終確認。
「・・・・・・以上だ。岡崎、石破の両名は担当クラスの引率に当たれ。」
月山先輩の命令を受けた連絡委員達は担当部署に向かって駆け出した。
途中、正宗は廊下の曲がり角で女子科生と衝突した。急いでいるようで制帽を落としたまま彼女は駆けていった。

新入科生入場には順番があり、普通科、機甲科、情報科、衛生科、整備科の順に入場する。
体育館前が混雑するため2回に分けて移動させるのだ。
人数の割合は新入科生全体が10とすると普通科3、整備科3、衛生科2、機甲科1、情報科1だ。
機甲、情報は教育装備数の問題と、任務の性質から募集数が元々少ないうえ、厳しい試験がある。
普通科と整備科は人数が結構いる。歩兵は消耗率激しく、装備品の整備には結構人が要るからだ。
それと、辞める者が多いのだ。6ヶ月で1.9前後にまで減る。そこからはあんまり減らない。

「新入科生の皆さん。おはようございます。これより、式典会場に移動します。」
浩一は三組と四組の科生を廊下に整列させる。教官が内線電話で指示をうけ、合図を出した。
正宗の担当する一組、二組の集団の跡に続いて2列縦隊で体育館前広場に移動した。
機甲科と情報科はすでに到着していた。普通科と機甲科が入場するころに、第二集団の衛生科と整備科が列後方に到着する。
正宗は制帽のない女子科生に拾った制帽を手渡した。どうやら彼女が先刻ぶつかった女子科生のようだ。
陸軍分列行進曲が館内から聞こえ、「新入科生入場」の声を合図に正宗が号令をかけた。
「よし、全員入場だ。前へ」
浩一も「二組の後に続け」と号令をかけると、体育館の扉を開いた。
新入科生たちは足並みもバラバラで、号令で座るのも合わない。
しかし、1年が経つと足並みを揃えて行進し、一斉に着席することが出来るようになっている。
「それでは、これより平世十七年度、新入科生入科式典を開会します、全員起立、敬礼。」
式典進行の青江科生の号令にあわせ、連絡委員と教官が一糸乱れず動作する。
校歌斉唱の後、龍門学長の学長祝辞へ。
「えーみなさん。今日は入科おめでとうございます。これから3年間がんばってください。以上です。」
所要時間約10秒。浩一は「おいおい、そりゃねーよ。小学生でももっとましな祝辞するぞ」と思った。
「学長、いくらなんでも短すぎでは?」あまりの祝辞に石堂教官が学長に意見した。学長は笑いながら演台のほうを見た。
「いいんですよ、どうせ次が長いでしょうから」青江科生は在校生祝辞を告げた。壇上に上がり、演台に立つ月山先輩。
「このたび諸君は、国防陸軍を背負っていく道の第一歩を踏み出したわけですが・・・・・・」
月山先輩の容姿を見た新入科生のなかからざわめきが起こる。
「チビっ娘が代表?案外楽そうジャン」そんな感じの言葉が所々から聞こえる。
「コラ、私語やめろ!!」
すぐに浩一は注意した・・・・・・が意味なかったようだ。
「新入科生、気をつけぇい!!!!」
会場は一瞬にして静まり返った。
「諸君には、まだ予科練生になったという自覚が無いようだな!」
説教が始まってしまった。20分以上スラスラととてつもない迫力の説教は続いた。
ふらつき始めた事も説教のネタになった。もうすでに半泣きの者もいた。そして無理やりなシメで演説は終わった。
「・・・・・・ということで挨拶を終わらせていただきます。」
「次は防衛技術振興会会長、山路清さま。」
来賓の挨拶が始まったが先の説教が効いたのか全員とても短く、文の量が昨年度の4分の1以下になっている。
式は流れるように進み、新入科生は無事?退場した。







[24204] 【2-5】槌浦予科練施設案内
Name: オスプレイ◆c7e217d1 ID:e19c55a4
Date: 2011/06/18 17:50
4月5日 0900:グラウンド
浩一、正宗が最後の打ち合わせをしている時、藤志郎や他の科生たちはランニングをさせられていた。
そう、迫撃砲祝砲事件があったためである。科生たちを訓練で拘束することによって再発を防止することが狙いだ。
「くっそー正宗のやつ楽しやがって~頼れる副官に丸投げかぁ~」
「吉光、黙れぇ!!貴様だけもう一周増やそうか?」
叫んだ藤志郎に科生の4列縦隊の横を並走する教官が注意した。
「すみません!!鉢巻教官!!」
鉢巻教官とは迷彩作業服に身を包み頭に赤い鉢巻を巻いた中年男性で、空挺レンジャーを持っている猛者である。
式典に参加している石堂教官の替わりだ。ちなみに第一空挺団から槌浦予科練に入って2年目である。
「黙ってたら喋るか・・・・・・連続歩調ぉ、ちょー、ちょー、数えー!!」
「新入科生のみんな!!」「新入科生のみんな!!!!」
「地獄へ!!」「地獄へ!!」
「ようこそ!!」「ようこそ!!」
「かんげいの!!」「かんげいの!!」
「れんぞくほちょー!!」「れんぞくほちょー!!」
「1、2、そーれ!!」「そーれ!!」
「2」「そーれ!!」
「3」「そーれ!!」
藤志郎達一般科生はは鉢巻教官の掛け声にあわせて走った。


1100:式典終了、体育館前
「これより、槌浦予科練施設案内を行う。・・・・・・っとまあ堅苦しいのはおいといてそんじゃ紹介行きますか」
浩一は先刻の月山先輩の説教のダメージを考慮して崩した話し方をすることにした。
担当の三組と四組の科生たちを引き連れてまず最初に食堂とPXに向かった。
「ここは食堂。見りゃ分かるわな。でもここの食堂には罠がある。じゃそこの少年」
同種の香りを感じた男子科生に話を振った。
「えーっと食堂といっても国防陸軍なんですから決まったメニューだけど無料で食べられるんですよね」
「想定していた回答ありがとう。俺も最初そう思ってた。しかしここは実戦的教育、弱肉強食の槌浦予科練。争奪戦だ、負けたら飯抜き」
弱肉強食のあたりで新入科生たちが不安そうな顔になったのを見た浩一は笑顔でこう続けた。
「大丈夫。攻撃精神発揮して突っ込んでいけばか弱い女の子でもコッペパンと牛乳だけは確保できるようになる」
ま、人気の焼きそばパンとかシュークリームとかは1年次生にはキツいだろうけどなと思った浩一だった。
「あとPX、ポストエクスチェンジの略だな、要するに売店。糧食やら下着、バックはここで売ってる」
浩一は電動ガンを指差して言った。
「東亜マルイ製の電動ガンも置いてる。しかし購入者はあんまりいない。サバゲ好きがいたら注意しろ」
そこで電動ガンや装具に興味を示している男子科生数人を見た。
「ここの連中は模擬弾を装填した『実銃』を乱射しやがる。実弾も混ざってることがある。だからうかつにサバゲーをすると怪我するぞ」
浩一はレジ横のカウンターを指差した。
「ここがクリーニングサービスと被服販売のカウンター。作業服とか制服、防寒具、寝袋、白衣が売ってる」
「価格表はこれ。迷彩作業服(上)280円とか書いてるやつ。給与が出たら予備のやつ買っといたほうがいい」
次はグラウンドに向かった。そこではまだランニングが行われていた。

「ここがグラウンドだ。別名、処刑場。見てのとおりひたすら走らされる」
新入科生達の目の前を3年次普通科の集団が横切っていく。
「1、2、3、4、ファイトー!!」「1、2、3、4、ファイトー!!」
「我ら!」「我ら!」
「槌浦予科練!!」「槌浦予科練!!」
「休み時間に運動するときも気をつけろ。機甲科の筋肉馬鹿が砲丸とか投げてるから」
「あのっ、バズーカみたいなやつ、重くないんですか?」
男子科生が鉢巻教官を指差した。鉢巻教官は84mm無反動砲カールグスタフを持って走っていた。
「グスタフ、かなり重いよ。あの人は第一狂ってる団出身だからどっかおかしいねん」

衛生室に移動した。
「えーっと、ここは衛生室。在籍中五度はお世話になるところ」
「志津教官をはじめとした衛生科の戦場。訓練、演習、暴発事故の時はこの前の廊下が負傷者で埋まる」
表を見ると、志津教官は新入科生と病室棟に出かけているらしい。
「衛生科は女の子が多いから、たいした怪我でもないの無駄に来るやつがいる。そんな奴は志津教官にいたぶられる」

実習棟2階の小火器整備室から順番に説明していく。
「ここではありえない話だが弾込めて分解・結合やる。実戦的な教育って奴らしい」
「ここが迫、迫撃砲を整備するところだ。教材は81mm迫撃砲L16ってやつだ」
「最後、誘導弾整備室。対戦車誘導弾や個人携帯対空誘導弾を扱うのがここ」
「じゃ、ハンガーに行くか」
浩一と新入科生一行は実習棟を出てハンガーに向かった。

「えーと今、押収物もあるんでここに誰も入れるなという通達がありまして、その・・・・・・」
「分かった、それじゃ説明だけしていくわ。」
警備の整備科科生に止められたため浩一は門の前で説明を始めた。
「ここがハンガー。眞州語で格納庫だな。戦車、装甲車、トラックから重迫撃砲まで何でもある」
「演習のときに物品受領しにここに来ることになるからよく覚えておくように」

「ここが演習場。東演習場、西演習場、射撃訓練場、閉所戦闘訓練施設がある。ここは東演習場」
グラウンドと演習場を繋ぐゲートを越え、金属製の演説台前に移動した。
「全科合同演習ではグラウンド使うけど普段の訓練ではこっちで集合するから間違えないように」
斜面に刺さっている色つきの板を指差した。
「あの板のところは台というから覚えとけ。例えば、『赤の台に展開中の敵装甲車5両に対し攻撃せよ』とか言われるから」
そのとき、列後方の男子科生が何かを見つけたようだ。
「あのーこれ何ですか?」
浩一は男子科生が指差したほうを見た。そこには赤色の腕輪のようなものが散らばっていた。
「あっ!!それ迫の装薬だ!!・・・・・・いいか?ここではこのように実弾・火工品・不発弾が転がっている。不審な物に不用意に近づくな」
浩一は腰の無線機でぶちまけられた装薬赤の回収を要請した。おそらく「祝砲」に迫撃砲を使うつもりだったのだろう。
数分前に正宗が案内したときは、一人の女子科生が81mm弾体「新入科生歓迎用・タマヤ13号」を拾っていた。

「よし、これにて解散。後はゆっくり休んでくれ」
こうして新入生施設案内は終わった。






[24204] 【2-6】昼食戦線
Name: オスプレイ◆c86439d4 ID:e19c55a4
Date: 2011/08/27 21:06
4月7日_1000_普通科一種二年次教室

「これより、訓練分隊の割り当て表を配布する」
石堂はプリントを各列の先頭に配った。先頭より回されてくるプリントには今年の訓練分隊が記されていた。
「正宗、浩一、何分隊」
藤志郎が隣の列の正宗と、斜め左前の浩一に問いかけた。
「35、お前は?」
「俺は33、藤志郎はどこよ?」
「俺は38。バラバラだなぁ~」
正宗は35分隊、浩一は33分隊、藤志郎は38分隊となった。
正宗は藤志郎と一緒ならズルするのも楽だったのになぁと思ったが、三学年あわせての人数で同じ班になるのは奇跡的な確立だと思い諦めた。
浩一は名簿の名前と年次を確認する作業に入った。男子科生と女子科生が半々といったところか・・・・・・
藤志郎はというと他の数名に話しかけていた。
「いいか。初の分隊訓練は、明日だ。それまでに配属隊員の名前はしっかり覚えておけ。それでは座学を始める」
石堂はそういうと座学『戦史Ⅱ』を始めた。
「で、あるからして、この武田島近海は、前世紀からずっと続いているゆゆしき問題で、現在でも工作船や電子戦機がしょっちゅう現れる。」
浩一の脳裏に2月の不審船事件と北朝鮮による工作船事件が浮かんだ。
そして授業時間が残り20分になった頃、いびきが聞こえてきた。発信源は正宗ほか数名。
「誰だ、いびきをかいてるのは。・・・・・・岡崎」
石堂の声に飛び起きる正宗。
「は、いえ、ちぐぁいます、アレは腹がなった音です。しばらく食べてないもので・・・・・・」
よだれをぬぐいながら正宗は弁明した。
「そうか、これでも喰ってろ」
石堂は正宗の頭に一発コブシを入れた。
「腹は満ちたか?・・・・・・おかわりならあるぞ」
「満腹であります!!」
痛そうにしていた正宗だが、おかわりを貰うわけにはいかないので堪えた。
この後、残りの数名にもコブシがふるまわれた。

昼休みになり、早速教員食堂に向かう浩一と正宗。藤志郎はわめきながら食堂へと走っていった。
「くっそぉ~正宗ぇ~浩一~ずりぃぞぉぉぉぉ~~!!」
「恥ずかしいから叫ぶな!!って長船?」
藤志郎の背中に叫ぶ。その時、真織が歩いてきた。
「おお、真織。選ばれしものよ!」
「え、えーと、正宗君、どうしちゃったの?演劇部にでも入ったの?」
芝居がかった正宗の言葉に真織は良く分からないという顔をした。
「なんじゃそら・・・・・・」
浩一は“また正宗のビョーキが発動したぜ”とあきれた様な顔をした。
「悪い悪い、真織、これからメシか?」
「うん、学食だよね。一緒に行く?」
真織の誘いに乗り、真織、正宗、浩一の三人は教員食堂に向かった。
「月山先輩、こんなところで何を?」
「岡崎か、青江が来るのを待っている。一緒に学食に行こうと思って」
「青江さんと言えば会議の時の副官役の・・・・・・」
浩一が人物の容姿を確認する。
「そうだ・・・・・・青江は戦車をいじりだすと長いからな。今日は来ないかもしれないな」
「だったら、一緒に行きませんか?」
真織の言葉に少し考える素振りを見せたあと
「分かった、ではともに行くとしよう」
同行することを決めたようだ。学生食堂片隅での死闘に注意を払う者はいなかった。

同時刻、学生食堂
中曽根鈴莉はパン売り場での激闘に参加していた。
「正宗と浩一がいなくても!!俺は!!勝ち取るッ!!おばちゃんカツサンド1つ!!」
「良しゃあ!!焼きそばパンゲットォ!!!!ってっテメ!!俺の焼きそばパン!!」
「アホか!余裕ぶっこいてるオメーがアホなのだよ!!」
「焼きそばパンは完売だ!!売り切れだよッ!!」
「バームクーヘンはやらせん!!」
「女だからってなめるんじゃないよ!!おばちゃん!!コロッケパン頂戴!!」
押され揉まれの争奪戦。1年次科生たちは数種類に分かれていた。
特攻し散る者。ただ傍観する者。闘気に怯え、傍観すらできずに逃げ出す者・・・・・・
鈴莉は特攻する者の中にいた。
「どいてどいて!!買わせて~」
しかし人ごみから弾き飛ばされ、地面にへたり込んだ。しかし誰も助けてくれないし、助けようともしない。
なぜなら皆初年時に経験しているうえ、同情心から手を差し伸べてしまうとこの闘争に適合できなくなり、今後の食料闘争を生き抜けなくなるかもしれないからだ。
「ううううううう~」
売れ残ったコッペパン1つと牛乳が鈴莉の昼食となった。パンと牛乳の味は美味しかったが、特製ソースのついた焼きそばパンが食べたいと思った
鈴莉であった。

教員用食堂に到着した浩一一行は空き座席を探すより先に食券を購入していた。
「月山先輩、ここの献立って選べるんですね。」
「ああ、食事自体は科生も職員も同じだ。学生食堂の献立は日替わり固定だが、こちらは選べる。」
正宗と香耶はそんなやり取りをしながらカウンターに向かった。すばやくメニューを決めた真織、浩一は先に料理を受け取っていた。
「えーと俺は、卵とじカツ丼で、長船がサラダうどん、で、結局何にしたんだ正宗?」
「俺は・・・・・・イノシシの踊り食い定食!こら、逃げるなウリ坊!!」
「食べ物で遊ぶなよ、ってか知り合いか?」
コロッケで遊ぶ正宗をスルーした浩一はカウンターの方に視線をやった。するとおばちゃんに香耶が絡まれていた。
「おや、香耶ちゃん。久しぶりじゃないかい、友達かい?あんた達、教員食堂で始めてみる顔だね、新しい連絡委員の子かい?」
おばちゃんは浩一達に気づくと声を掛けてきた。香耶は青い顔になっている。
「お、お久しぶりです。当麻さん」
「当麻さんじゃないでしょ、ちゃんと当麻のおばちゃんって呼んでくれなきゃ」
おばちゃんの前では普段の威厳にあふれた雰囲気は消えうせ、弱弱しい雰囲気になっていた。
「香耶ちゃん、なに頼むんだい、ほら、よそってあげる。あんた、ちっちゃいんだからたくさん食べないと」
「いや、わたしはこれでも十分」
おばちゃんは焼きそばとご飯をどさりと盛り付ける。そしてから揚げも多めだ。味噌汁は並の量だが・・・・・・
「そうかい、しっかり食べなよ」
豪快に笑うおばちゃんと、反対にげんなりしている香耶が対照的だった。
座席を探しながら正宗は「あのおばちゃんって何者なんですか?」と香耶に尋ねた。
「このPXの責任者で当麻浅子という、いつも私に強引に大量に食べさせようとする・・・・・・いまさらたくさん食べたところで育つわけでもないだろうに」
そこで皆は察した、香耶が教員食堂に行くことを渋った理由におばちゃんの“善意のサービス”があるんだなと・・・・・・

「あっ、あそこの半分空いてるよ」
真織が4人で座れる座席を発見した。
「お、本当だあそこにしよう。」
「待て、岡崎。あそこはよそう」
「何でです?席も近いし、うってつけじゃないですか」
硬い表情の香耶、しかし座席はそこしかない。
「でも座席ありませんよ。苦手な人でもいるんですか?」
「ああ、だから食事中は話しかけないでくれ。いないものと思ってくれると助かる」
人がいる側に正宗、浩一が座り、通路側に香耶、真織が座った。
「浩一、あの人すげえな・・・・・・」
「確かに、メガ盛りってレベルじゃなくてギガ盛りだな・・・・・・」
整備科であろうツナギの若い女性はすごい速さで量を減らしていった。
一息付いたとき、何かに気づいた。
「おー月山、なにやってんのよ。挨拶ぐらいしなさいよー水臭いわねぇ」
「いえ、一文字教官の食事を邪魔しては悪いと思い・・・・・・」
「月山先輩、お知り合いのかたで?」
「あ、ああ・・・・・・」
浩一が問うと再び弱弱しい雰囲気を纏い始める香耶。
「ん、あんたら新しい連絡委員?」
「ハッ!」
三人は敬礼しようとするがトレーを持っていたため、返事だけする。
「ああ、メシ中だしいいわよ。アタシは整備科の一文字京、いちもんじって長ったらしいからみやこで良いわ」
その女性教官はすごく砕けた調子の人で、石堂教官の反対側にいる様な人だった。
岡崎はなぜかふざけて「京センセ」と呼んだ。
「岡崎ッ!!教官に向かってその呼び方はなんだ!!」
「・・・・・・ッ!!なんちゅう事をッ!!」
香耶は即座に注意し、浩一は「やりやがったコイツ」と言いたげな表情になる。しかし本人は・・・・・・
「ぷ、ははははははっ、お調子モンだねアンタ。ホントに京で呼んだ奴はアンタが始めてよ。京センセか・・・・・・良いじゃない。特別許可するわ」
席に座りなおすと、真織が質問する。
「でも、月山先輩、どうして整備科の教官と知り合いなんですか?」
座学だけの教官は別として、教官は専門職ということもあり科ごとに分かれており、全科が利用する衛生科を除いて
他の科の教官とはあまり面識がない。
「アタシは整備科の教官であるけれど、同時に月山の教官でもあるわけ」
「え、それってどういうことですか?」
「アンタ達、月山がドコに所属してるか知ってる?」
「機甲のATAW課程でしたよね」
「そ、多脚戦闘車両って最近制式化したばかりだから専任の教官いないのよね~知らないもんは教えられないじゃない」
「だから中身判ってるアタシが教官に選ばれたわけ。ま、それも無茶な話よね。本科でもあんまり教導体制整ってないからね」
「一文字教官はテクノオフィサーであって戦技は担当してないはず。戦技はどこでやってるんですか?」
浩一の質問に京は少し考えた後
「今は不二の戦車学校の教官と、教導隊が先生よ。自前で教官持つのは月山が巣立った後であるのは間違いない」
というとすぐに食堂を出て行った。
その後、香耶の食事の量的問題を解決するために、正宗と浩一が死力を尽くして任務に当たった。





次回位、2年次訓練分隊メンバー登場です



[24204] 【2-7】第33訓練分隊初日
Name: オスプレイ◆c86439d4 ID:e19c55a4
Date: 2011/08/27 21:06
4月8日_

__浩一視点__

「員数確認、事故三名、事故内約。熱発二名、呼出し一名、以上」
教官が来る前に連絡委員が員数確認をする。
事故と聞くと何か大変なことがあったように感じるが、ここで言う事故とは理由のことだ。
熱発(ねっぱつ)とは発熱のことだ。シャバなら「欠席三名うち二人が発熱でお休み」という。
同室の奴によると、呼び出された奴は昨日、4人位で靴紐の末端処理をしていたらしい。
その最中にオイルが切れたので、注油し作業をしていたら、半開きだったライター用オイル缶を倒し、引火。
テーブルを火祭り状態にしたらしい。当然、末端処理をしようとしていた半長靴は燃えたそうだ。
「村田が熱発だから今日の日直は、俺か・・・・・・」
正宗はだるそうに言うと座席に戻った。
「起立、敬礼ッ、着席」
「岡崎、妙な笑みを浮かべてどうした」
「いえ、何でもありません!!」
何か、馬鹿なことを考えていたであろう正宗の号令が終わると、石堂が全員に気合を入れる。
「さて、貴様ら。今日は午後から分隊訓練だ、1年次に恥ずかしいところを見せるんじゃないぞ」
そして古代戦術史の授業が始まった。・・・・・・今回は軽装歩兵大活躍の巻か。無産市民舐めんな!!
そういや元の世界の世界史の冴場先生元気かなぁ。あの人今も箒とちりとりで重装歩兵やってるんだろうか?
元の世界の古代史と違う古代史を覚えながら、感傷に浸った。もちろん正宗のように表情に出すヘマはしない。

昼休みになった。俺と正宗、藤志郎の三人であらかじめ買っておいた弁当片手に中庭の隅に移動する。
一度冷えた関係は弁当のように簡単に温められないからな。
「そういや正宗、お前、入科式の時の女の子とこないだ会ってただろ。どうなった?」
「浩一ぃ、マジか?正宗に女の子の知り合いだと~詳しく聞こうか。」
「入科式の時に制帽渡した女の子がお礼言いに来て、別の情報科のキツそうな女の子に殴られそうになってた所を庇って以下略」
あえて微妙なところで話を切った。すると藤志郎が乗ってきた。
「なに!二股で修羅場か!俺の見てないところでなんといううらやま・・・・・・ケシカラン事をッ!!」
正宗は慌てた顔で否定し始めた。というか俺と別行動の時に何があったんだ・・・・・・
「アレは千手院に鈴莉がぶつかって・・・・・・というかお前見てただろ!」
「ほぉ・・・・・・鈴莉?名前で呼ぶような関係にまで・・・・・・浩一、どう思う」
「俺と別行動の時に何かあったんちゃうか?」
藤志郎と二人で正宗をいじりながら昼食をとっているとき、パン売り場で話題の1年次科生がパンを盗られていた。
「あれが噂の女の子。今パンを横から掻っ攫われて途方にくれている子」
「かわいそーに。しかし手を差し伸べてしまうと次から食べられなくなるからなぁ」
「鈴莉、今日も負け決定だな」
藤志郎も正宗も救いの手を差し伸べようとしない。その時、メガネの女の子が近づいていって何か言ってるようだ。
「えっと、鈴莉ちゃん。ジャムパンいるかな?」
「じゃ、じゃむぱん・・・・・・ううう、いらないよ邦ちゃん」
「どうして?コッペパンだけじゃ・・・・・・」
「いらないもん・・・・・・武士は、武士は・・・・・・つまようじだもん!!」
それを言うなら高楊枝だ!と思ったその時、パン娘(仮称)はこちらに気づいたようだ。正確には正宗かな?
正宗はパン娘に近づいていった。
「正宗先輩、また負けてしまいました・・・・・・」
「俺のレーションやるよ。ほれ」
正宗は紙袋の中のコッペパンと水を見て、かわいそうになったのか余ってた緑色のクッキーとシリアルバーを渡した。
パン娘は意地を張っていたが正宗は『分隊の上官命令』で渡した。パン娘は驚いた様子だった。割り当て表見てないんか?
「割り当て表?そういえばもらったような気がします」
正宗はパン娘の頭に拳骨を落とすと短い短文3つで言った。
「読め、知れ、そして食え」
「そんないっぺんに言われてもー」
監督責任がどーたらこーたら言って、納得させていた。正宗の口から責任という言葉が聞けるとは・・・・・・
「これって、いったい何味なんですか?」
「アヲヂル味だ、最高品質のアヲヂル粉末を6割も使用した、国防陸軍開発の傑作レーションだ。大人気だぞ」
「まてや、アレのどこが傑作だ。特殊な味覚でグリーンデビルを人に押し付けんな・・・・・・」
正宗、お前の味覚をパン娘に押し付けんな。アヲヂル味のクッキーは青臭さから水分を多く必要とし、通称グリーンデビルと呼ばれている。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は石破浩一、普通科一種二年次でコイツの補佐やってる。よろしく」
「普通科1年次の長曽根鈴莉ですッ!!鈴莉でいいですよッ!!邦ちゃん、こっちの人が正宗先輩」
「えーと、衛生科一年の長谷部邦香です、鈴莉ちゃんとは同じ中学の出身です」
「俺は吉光藤志郎。よろしくッ」
パン娘改め鈴莉ちゃんとメガネの長谷部ちゃんな・・・・・・正宗、後輩に慕われてんなぁ。
自己紹介を終え、昼休みが残り10分ということで俺たちは駆け足でそれぞれの教室に戻った。

__浩一視点・了__


更衣室で迷彩作業服と戦闘靴を着て、丸天帽を被りグラウンドに整列する。
第33訓練分隊の集合地点で浩一は待っていた。
「神宮司、早いな。君らが33分隊の子?」
「「ハイッ!!」」
「自己紹介は全員揃ってからやろう。後は分隊長待ちだな」
女二人に男三人の分隊で3年次が一人、2年次が二人、1年次が二人だ。
「ごめん、遅れた。じゃ、自己紹介いこうか。」
分隊長から順に自己紹介が始まった。
「普通科一種三年次、不二拓海(フジ タクミ)だ。分隊長をさせてもらうよ。みんなで幸せになろうよ。次」
彼はどこか緊張感のなさそうな声で自己紹介をすると浩一に振った。
「普通科一種二年次 石破浩一だ。神宮司と交代で無線担当やることになってる。よろしく」
浩一は不動の姿勢で自己紹介をした。
「普通科一種二年次 神宮司真理香(ジングウジ マリカ)だ。よろしく頼む」
薄いブラウンの髪をまとめている女子科生で、男言葉であるが胸は・・・・・・とても女らしい。
「僕は・・・・・・自分は!普通科一年次、山本真司(ヤマモト シンジ)です!!よろしくお願いします!!」
黒髪の小柄な少年は緊張した声で、少し早口で自己紹介を終えた。
「自分は、普通科一年次、小村佳奈(コムラ カナ)です。よろしくお願いします」
黒い髪をまとめているメガネの女の子は、深窓のお嬢様といった雰囲気で軍隊に似合わない気がした。

「井上のとこはもうランニングか・・・・・・もっとまったりいこうよ」
「正宗は・・・・・・走ってるな。鈴莉ちゃんとあと一人も・・・・・・以外とまともだなぁ」
「分隊長、我々は何をすればいいのでしょうか?」
走っている35分隊を眺めている分隊長に神宮司は問いかけた。
「神宮司、焦んなくたっていいよ。どうせ全体教練で粗方の動き叩き込まれるんだ。のんびりいこうや」
凄くのんびりした調子の分隊長に苛立ってる様子の神宮司。
「神宮司、焦んなくっても5分くらい待てばやる事見つかるはずや・・・・・・たぶんな」
浩一はとりあえず分隊長の方針に従うことにした。
そして五分が経過し、グラウンドのあちこちで腹筋やら腕立てやらが行われている時、ようやくやる事が決まった。
「まず校舎五周いくぞー。一年次組はきついと思うけど頑張ってね~」
校舎の周りを回り、三周目で1年次組がふらつき出した。
「後・・・・・・二周で休憩だ、頑張れ山本ッ!!石堂の教練のほうがえげつないで!!」
「小村!あと二周だッ。まだ辛いかもしれんがいずれ慣れる!!・・・・・・というか馬鹿体力のアンタに言われたくないな」
浩一は山本に、神宮司は小村に声援を送りながらゆっくり走る。
「慣れると歌いながら走ることになるで!!」
こうしてランニングが終わると、他の班の見学に行くこととなった。
正宗たちは腹筋の最中だった。30回を3セットやっている。藤志郎の分隊はグラウンドの端で懸垂を行っていた。
33分隊は分隊長の意向で自由行動になった。浩一は小グラウンド近くの自販機前で休憩中の真琴と出会った。
「浩一君、久しぶりだね。何分隊?うちは21分隊」
「33。そっちも休みか?」
「うん。普通科みたいなハードな腕の筋力トレーニングはやらないけどね」
衛生科では腕の筋肉を酷使するトレーニングは禁止されている。手先が震えて正確で細かい作業ができなくなるからである。
だからマラソン等による全身の体力強化と実技訓練を中心に行う。
「うちの分隊の皆が来たみたい」
真琴の後ろから4人ほど女の子が現れた。
「真琴、こんなところにいたの。石破君、正宗君は?」
「石破先輩、休憩ですか?」
「真琴さん、お知り合いの方ですか?」
「正宗は35分隊で、筋トレの最中。ああ、長谷部さん・・・・・・だっけ。鈴莉ちゃんも同じく筋トレ中」
「マナみん、中学時代のクラスメイトだった石破浩一君」
浩一は顔見知り二人に返事をした。真琴は振り返り手で浩一を指し、紹介を始めた。
「小村愛美(コムラ マナミ)です・・・・・・よろしくお願いします」
その時後ろから声がかかった。
「お姉ちゃん!」
「佳奈・・・・・・どこの分隊?」
「33分隊」
「えーっと、うちの小村さんのお姉さん?」
「はい。妹をよろしく頼みますね、石破さん。」
浩一は佳奈と愛美を見比べる。顔はそっくりで、違いは愛美が三つ編みで、丸メガネだったことだけだ。
「へー、マナみん妹いたんだ。浩一君、いじめちゃだめだからね。」
「おーい、石破、小村。雑談はそこまでにして訓練再開しようか?」
浩一が返事をしようとしたその時、分隊長がグラウンドのほうから声をかけた。
「はいッ!!ただいま戻ります。・・・・・・じゃ、がんばってな」
浩一と佳奈は駆け足で訓練に復帰した。

「石破、神宮司。一年の指導頼むわ」
分隊長は浩一と神宮司の実力を見て、良かったら丸投g・・・・・・訂正、指導担当にしようと考えていた。
「危ないからロープと巻き上げ機に近づくなよ。全体教練でも習うが、巻き上げ機に巻き込まれる死亡事故も起こってるからな。」
神宮司がロープ受けに金具をはめ込み、分隊長が巻き上げ機を動かす。モーター音と共にロープが張られてゆく。
少したわむぐらいで巻き上げ機のレバーを下ろし、安全装置をかけ、安全具を着装し、落下防止索のカラビナをロープにつける。
「えーと、ロープ渡過の方法は幾つかあるが、使用頻度が高いのは二種類、モンキーとセーラーの2つだ。」
浩一は1メートルの高さに張られたロープの上に腹ばいとなり、右足首をロープに引っ掛け、左脚を下に垂らす。
「こいつがセーラー。両手で交互に手繰って進む。左右のバランスさえ崩さなかったら楽だ。」
するすると進み、ぐるんと体をロープの下に落とし、そこからかかとをロープに引っ掛け、腕の力でぶら下がった。
「この吊られた獲物みたいなのがモンキー。手の力で体を保持し、かかとでバランスとる。交互に手繰って進む」
分隊長が持ってきた安全具を配っている間に、浩一はロープを1往復していた。
「安全具の着装方法について説明する。まず、腰と太ももにベルトを通す。腰の後ろで腰ベルトと腿ベルトが繋がってるようにしろ。」
神宮司はオレンジ色の安全具を実際につけて説明している。
「・・・・・・山本、落ちたときにタマが衝撃で潰れるぞ。腰の後ろに交差が来る様に着けるんや」
山本が前後反対に着けていて、浩一が注意した。落ちたとき安全具に体重すべてが掛かるため、不適切な着用や不具合があると命にかかわるのだ。
「それじゃ、終了20分前までやろうか。石破、神宮司、一年次の面倒見てやってくれ。俺はここで後片付けの用意しているから」
時間いっぱいまで屋内訓練施設でロープ渡過の基礎練習をして分隊訓練初日は幕を閉じた。



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