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[23706] 操演のレギオス -リリス洗礼- (鋼殻のレギオス オリ主最強)
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/12/17 00:20
初めまして「アーセ」です。

ここの掲示板のSSを良く読んでいるのですが、自分でも作ってみたいと思い筆を手に取った次第です。
初投稿の為、誤字だの脱字だのが目立ってしまうかもしれませんが、
最後まで書けるように頑張ります。

【本作品の注意点】

1.本作品は、鋼殻のレギオスの世界をオリ主中心に進んでいきます。
最初は「レジェンド・オブ・レギオス」の世界も絡まってきます。

2.説明文などがやたらと長くなり、話のテンポが遅い事があります。

3.主人公はどんどん強くなっていきます。かなり自重しない強さになる予定です。

4.更新は不定期です。
(イメージしている流れを形にするのに時間がかかる為。)

5.文法の間違い等ありましたら、指摘して頂けると助かります。

6.私は一応「鋼殻のレギオス」と「レジェンド・オブ・レギオス」を読んではいますが、
「聖戦のレギオス」はまだ読んでいない為、解釈の間違いやご都合主義のような進み方に
なる場合がございます。

7.リリスの性格が原作と違います。(似ているところもあるとは思いますが。)


では『操演のレギオス -リリス洗礼-』を宜しくお願い致します。


2010/11/17 チラ裏から移動しました。

2010/12/15 お知らせ
申し訳ございませんが、今週末にチラ裏に戻る事にしました。
再修行を含めてですが、甘い設定や無駄設定を省き、大切な設定が薄くならない様に改編します。
以前あとがきに書いていた加筆修正も込み込みです。
プロットは丸々書き直しているので、お見せできるのは来年になってからだと思います。
設定の変更により話の流れが少し変わってしまうと思いますが、宜しければまたお付き合い頂きたく存じます。

2010/12/17 チラ裏へ戻りました。



[23706] 第1話 願望
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/17 23:01
第1話 願望


どうしてこうなったのだろう。

いつものように過ごすはずだった。学校へ行き、放課後には部活に精を出し、帰りに友人と寄り道をしてから家に帰る。

どうしてこうなったのだろう。

今、起こっている事に思考が付いていかない。気付いた時には、もう自分が自分であるという認識も薄れてきている。

どうしてこうなったのだろう。

どこが上でどこが下かわからない。もう手足の感覚がないというのでなく、体そのものが消失してしまっている。そして残っているのは、消えかけの意識だけ。
薄れていく意識の中で、今いるこの場所は『ゼロ領域』であることが何となくわかった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


『ゼロ領域』に来る少し前、都市は異形の怪物に襲われた。地を這うもの、空を飛ぶもの様々だったが、共通点が1つだけあった。それは、どの怪物も形が一定ではないこと。
怪物は人間であろうと動物であろうと動いている生物を貪り続けた。喰らった物の特徴を取り込み、さらに変異する。そしてまた喰らう。この繰り返しだ。

俺は、俺たちは、怪物から逃げていた。部活帰りに何の前触れもなく襲われた。友人と離れないように手を握って逃げ続けていた。

ふと友人の手の力が引いたのを感じて、振り向いて手の先を見た。手は肘の辺りまでしか無く、その先にあるはずの体が無い。代わりにいるのは空より降り立った怪物。
その怪物が口を開け、喰われると思った瞬間、地面が爆ぜた。いや、地面だけではない。空間そのものが爆ぜた。

この瞬間、都市にいた人間は全て、ゼロ領域に叩き込まれた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


ゼロ領域とは何か。それには『オーロラ粒子』が深く関わってくる。

オーロラ粒子とは『アルケミスト』と呼ばれる科学者チームが『永久に動くものを作りたい』と言って開発した機械から発生している粒子のことである。しかし、当初この機械は永久的に
オーロラ粒子を発生させるだけで、応用する方法など全くの皆無だった。未知の粒子であるが為に、車の動力や、電気等のエネルギーといった人の生活に欠かす事の出来ないものに
転用する事が出来なかったのである。

だが、ある一人の願望から全ては一変する。

アルケミストの一人であった彼は、永久機関の完成を祝い「ワインが飲みたい」と言った。当時、飢餓や貧困で配給される物資が限られている為、嗜好品の類は、
一部の特権階級にしか回らない。だから、一介の研究者でしかない彼には飲むことなど出来ない。彼はただのコップ1杯の「水」でその時の欲求を紛らわせるつもりだった。
だが、予想外のことが起こった。欲求が強すぎたのか脳に刺激を与え、ただの「水」を飲んでいるはずなのに、味や芳醇な香りはワインそのものであったのだ。

この日より、アルケミストは原因の究明を開始する。

調査の結果、開発した機械から発生しているオーロラ粒子が『人の思念に反応して世界を形成する』という特質を持っている事が判明した。この特質を利用し、
飢餓や貧困の原因である資源の枯渇の解決策を模索することとなる。

そして、人類の希望とも言える永久機関『亜空間増設機』が完成する。使用方法は、亜空間増設機に対して、人の思念波によってデータの入出力を行うことでオーロラ粒子が反応し、
新たな亜空間を形作る。この亜空間を『オーロラ・フィールド』と名付けた。たちまち亜空間増設機は量産され、物理的には何もない場所にオーロラ・フィールドを生成し、
人が望む大地を増やしていった。既にその規模は地球の表面積を大きく上回るくらいである。本来の地球の大地として残っているのは、中央政府が都市のみとなっている。
何にせよオーロラ・フィールドの空間内では物資も自由自在に作り出すことが出来たことにより、資源の奪い合いである『資源戦争』を終結させることとなった。

というのを最近やっていたドキュメンタリー番組で見た。本当に正しいのかは数百年前の出来事の為、確認する術は無いが。

冒頭に戻るが「ゼロ領域」とは、人の思念に反応して亜空間を形成する前のオーロラ粒子のみが充満している空間のことだ。

近年、亜空間増設機の故障によりオーロラ・フィールドが崩壊し、そのフィールドの空間内に住んでいる人間がすべてゼロ領域に取り込まれるという大事故が数件発生している。
普通の機械なら故障個所を修繕することで直すことが出来る。しかし、亜空間増設機を発明した初代アルケミストは既にいない。代替わりした今のアルケミストに出来るのは
新たに亜空間増設機を作成することだけ。部品の差し替えに、プログラムの書き換え等は全くできないのである。他にも問題があり、オーロラ・フィールドの崩壊までとは行かなくとも
オーロラ・フィールド内にオーロラ粒子が噴出するという現象が発生している。通常、人間はオーロラ・フィールドが形成される前のオーロラ粒子の影響を受けると、
オーロラ粒子がその人間の願望に反応し、その人間を願望に基づく『異世界法則』を宿した人間『異民』へと変貌させる。

そう、変貌させるのだ。

元の世界の法則ではありえない特殊能力を得るのと引き換えに『人間』としての形を留められない。これは『異民化問題』として、どの都市でも問題となっている。
オーロラ粒子を調査していた初代アルケミストは、調査の過程で多量のオーロラ粒子の影響を受け、世代交代する前に存命する者は誰もいなくなってしまった。
稀に特殊能力を得た上で人間としての形を保っている異民が存在するらしいが、とりあえず俺はそうではなかったようだ。

全く、本当にどうしてこうなったのだろう。

ゼロ領域を漂う中、ふと周りを見てみる。一緒にゼロ領域に叩き込まれた名前も知らない都市民は、黒い塊となって何かに集まっていくのが微かに見える。

あれは……集まる先にいるのは何だ?人か?

いや、もういいか。意識を繋ぎ止めておく事など出来そうにない。

ふと思う。

ここがゼロ領域なら俺の願いの一つでも聞いてくれてもいいじゃないだろうか。そうだな、一人っ子だったから兄弟が欲しいな。姉でも妹でもいい。
「もし叶えてくれるなら、俺は兄弟の為に生きよう。」
体の無い状態で呟けたのか判らないが、意識はここで途切れた。



2010/11/6
少しだけ改編しました。



[23706] 第2話 姉弟
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/06 09:45
第2話 姉弟


リリスは考えていた。ニリスの事、アイレインの事、ナノセルロイドの事、イグナシスの事。そして、怨敵であるニルフィリアの事だ。

自分の分身であったニリスが、敵であるアイレインに心を開いた。その事が無性に許せず、自らニリスを砕いた。
ニリスは私以外を見ていた。アイレインはニリスの心を奪った。どちらも許せない行為だ。

ナノセルロイドのレヴァンティン、カルバーン、ドゥリンダナは、私が築き上げてきた場所を一片の慈悲も無く破壊し尽くした。
ハルペーは、何がそうさせたのかは判らないが、他のナノセルロイドと敵対する道を選んだ。袂を分かつ前に、ハルペーも一緒に破壊したが、利用出来るなら利用するとしよう。

アルケミストを名乗るイグナシスは、利用しようとした癖に、ニルフィリアの方が優秀だから私を捨てた。捨てた事は別に良い。元々、利用し利用される関係だったからだ。
だが、私と比べてニルフィリアを選んだ事が許せない。私のプライドを酷く傷つけた。

そして、ニルフィリアは存在そのものが許せない。こちらを歯牙にも掛けないあの態度が私を苛つかせる。

しかし、これらに勝つ為には、生半可な力では到底太刀打ち出来ない。私は異民であるが自身の強さは、一般人と比して何ら変わりはない。
人外の力を持つ異民とは戦うことなど出来はしない。ならば、ゼロ領域を使い私の望む力を持つ人間を作り出す。ゼロ領域内での自分の保ち方は心得ている。何の問題はない。
私は異民化しているが、見た目は変わらず美しさを保っている。いや、歳を重ねることが無くなった分、前より良くなったと言っていい。
異民化したならば、目も当てられない姿になるのが常だが、そうはならなかった。そんな自分を見続ける為に、自分と瓜二つのニリスを作ったが、あまりに許せない結果で終わった。

「ふぅ、少し考えが逸れたな。」
そう漏らすと、また考え込む。

今までに挙げた敵を倒すには、私の誰にも負けないという強い『願望』を持たせた者を作り上げるしかない。
それでいて自分に従順で無ければ、またニリスのように私から離れてしまうかもしれない。

そして、イメージする。私を想い慕い、そして暴力的なまでの強さを持つ者を。だが、私に似た容姿は最優先で反映させる。

結果として出来たのは5歳ぐらいの男の子。自分の子供の頃に似ている気がする。今は気持ち良さそうにベッドの上で寝ている。
しかし、自分で作っておいて何だがこの子は私の求める強さを持っているのであろうか。見た目からでは想像が付かない。

「ん、目が覚めるかな?」

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「ん………。」
眩しい。ここはどこだろうか?というより生きているのか?頭がぼーっとするが、状況を確認しないとならない。

なんだ?近くに誰かいるのか?
「あなたは誰?」
声を出してみて驚いた。自分の声が若い。いや、幼い。

「私はリリス。あなたの姉にして、作った人よ。」

最後の「作った人」というのが一番理解出来ない。とりあえずは、
「お母さん?」

ビシッ!

にっこりと微笑まれ、デコピンされた。結構痛い。
「お姉さん?」

「そうよ。」

「俺に姉はいなかったはずだけど?」

「だから言ったでしょ?私があなたを作ったのだと。それとその容姿で『俺』は似合わないわよ?」

「………ん?」

「はい、鏡。」

鏡に映るのは、自称姉さんを幼くした感じの顔立ちだ。男の子だろうか?疑問形になってしまうのは、中性的な顔であるからだ。かなり整っている。
「誰だ?」

「あなたよ。」

「………。」
落ち着こう。とりあえず生きてはいるようだ。ゼロ領域で意識を失い、気が付いたら姉が出来た。許容の範囲内………な訳がない。反論する為に口を開こうとすると、

「先に言っておくけど、あなたは一度消えているわ。ゼロの領域に完全に飲み込まれた。そして、私の願望を具現化する時にたまたまあなたの残留思念が呼応した。ってところね。」

「………。」

「あなたは最期に何かを願ったはずよ。それは覚えている?残留思念は感じ取れたけど、それが何の願いなのかは、私には解からない。
でも、悪い感じはしなかったからそのままにしておいただけ。」

「………、兄弟が欲しいと願った。」

「そう、ならおめでとう。願いが叶ったわね。」

そう言うと、にっこりと微笑まれた。あまりに綺麗だったから思わず見惚れてしまった。助けってもらったのだから、もう一つ思い出した事を言っておこう。
「あと、願いが叶うならその人の為に生きると誓った。」
そう言うと、リリスが目を丸くした。かなり驚いたようだ。

「あなたは、今でもそう言える?」

「言える。」
ここは即答させてもらう。ゼロ領域で消える寸前に、兄弟が欲しいと願いそれが叶った。ならあとは実行するだけだ。

「そう、ありがとね。」
頬に朱色がさす。素っ気ない態度だがお礼を言うのに慣れてないのか、ちょっと照れている。

「こちらこそ願いを叶えてくれてありがとう。」

こうして二人の姉弟の生活が始まった。弟は胸に希望を宿し、姉は黒い欲望を胸に秘めながら。



[23706] 第3話 名付
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/06 09:45
第3話 名付


「って名前を決めて無かったわね。」

「名前なら………あれ?」
名前が出てこない。

「どうやらゼロ領域に溶け込んだ時に、記憶の一部を持って行かれたわね。どの道、生まれ変わったようなものなのだから、新しい名前にしなさいよ。私が付けてあげるわ。」

「はーい。」
ちょっと可愛く言い過ぎた気がする。精神年齢が実年齢に引っ張られているのか?でも、緊張してきたな。変な名前付けられたらどうしよう…。

「あなたは今から、グラム・ダインスレイフ。どう?格好いいでしょ?」

「グラム・ダインスレイフ…。うん、変な名前付けられなくて安心したよ。」

「一体、私を何だと思っているのかしら?」
姉さんがジト目で睨んでくる。

「美人ナ姉サン。」

「嬉しい事言ってくれるけど、それは当然の事。あと、棒読みになっているわよ。」
ムスッとしているが、そんな事より聞きたい事があった。

「そういえば、ここってどこなの?さすがにゼロ領域では無いでしょ?」
この家は、いや屋敷かな。この屋敷は、一体どこにあるのか検討もつかない。ゼロ領域ではないとは思うのだが。

「ここは、私がゼロ領域から生み出した仮設のオーロラ・フィールドの中よ。大きさは、この家と小さな庭が入るぐらいの大きさ。あと、住んでいるのは私たち二人だけだから。」

「ってことは、少し外に出ても大丈夫なのかな。それにしても使用人はいるかと思ったよ。」

「前はいたけど、ゼロ領域に全員飲み込まれたわ。」

「ゼロ領域に?」

「そう、グラムがゼロ領域に飲み込まれた時より、もう少し前に私のいた都市も飲み込まれた。その時に都市民含めて、私以外全員飲み込まれたわ。」
姉さんの顔が険しくなってくる。あまり踏み込まない方が良いかと考えたが、姉さんの言葉は続く。

「私がいた都市も、グラムがいた都市も事故で無くなったのではないのよ。」

「え?」
事故ではない?亜空間増設機の故障によりゼロ領域に飲み込まれたのではないのか?

「人為的に亜空間増設機を壊した奴がいる。そいつの名前はイグナシス。イグナシスは現存する亜空間増設機を全て破壊し、全人類をゼロ領域に叩き込んだ。」

「そんなことが…。」

「事実よ。生き残った人間は皆無。生き残れるのは私達のように異民になった者だけ。だから、私は必ずイグナシスを殺すわ。もちろんグラムも手伝うのよ。」

「手伝うのは構わないよ。それが事実なら俺も許せない。それに姉さんを手伝うのは当然だよ。そう誓ったのだから。」

「ありがとう。頼りにするからね。」
姉さんが笑ってくれる。俺が戦うには十分な理由だ。だが、
「でも、気になる単語が一つあったよ。」

「気になる単語なんてあった?」

「さらっと言ったけど、俺も姉さんも異民なの?見た目が普通の人間と大差ない気がするけど。」
自分の手を見て、握って開いてを繰り返してみる。別段、変な感じはしないのだが。

「異民よ。人間から化け物にならない方法は二つ。心に蓋をして、自分の願望を表に出さないこと。そうすることでオーロラ粒子が反応しないから化け物にもならない。
これは相当な訓練が必要だし、人間のままでいる為の方法。もう一つは、自分を自覚すること。頭の髪の毛一本一本から、足の爪の先まで自分を完全にイメージが出来ること。
異民化しても自分をはっきりとイメージ出来ていれば化け物のようにはならない。私はもちろん後者。」

「俺はどうなの?」

「グラムはゼロ領域でオーロラ粒子を基に私が作ったから異民よ。体の作りは人間そのものだと思うけど、体を構成しているのはオーロラ粒子。
あと、私がグラムを完全にイメージしている限りゼロ領域内でも何の問題はない。」

「そうなのか。なら今のところ心配する必要はない訳だ。あと、異民化すると特殊能力が付与されるらしいけど、俺にもあるの?」

「結論から言えば、まだ判らない。有るかもしれないし無いかもしれない。私がグラムを作ったのは、イグナシスを倒す力が欲しかったから。
でも、グラム自身の願いは兄弟が欲しかった事。これは戦う為の願いではない。だからまだ判らない。有るならば何をきっかけに発動するかも判らないのよ。」
そう姉さんは言うと肩を竦めた。

「そうなのか。楽しみではあるし、不安でもあるな。」

「私の能力は、どんなに離れていても会話が出来る能力。判り易く言えば『テレパシー』ね。」
そう言うと、
『どう?聞こえるでしょ?』

驚いて耳を押さえてしまう。いや、聞こえるのは頭の中なのか。

「このテレパシーは私とグラムの間でしか繋げる事はできないけどね。」

「それでも凄いよ。あぁ、俺はどんな力なのかなぁ。」

出来ることなら、姉さんを守れる力が欲しい。イグナシスという強大な敵を倒す為には、生半可な力では足りない。俺にもきっと強大な力が眠っていると、そう願わずにはいられなかった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

名前に関してちょっと補足です。
グラムもダインスレフも魔剣の名前ですね。
ナノセルロイドが聖剣の名前を使っているので、
その対抗心からリリスは、魔剣の名前を与えることにしました。

いつ頃、鋼殻のレギオスの世界に行けるかはまだ未定ですが、
頑張って執筆していきます。

それにしても書くのってホント大変なんですね。
キャラの口調が中々安定してない気がするなぁorz



[23706] 第4話 離別
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/07 22:01
第4話 離別


このオーロラ・フィールド内に来て、90回目の朝が来た。90日とか約3ヵ月とは言えない。ここはゼロ領域に近い性質を持っているらしく、時間の概念が無い。
でも、概念が無いというのは、止まっているというのとは違うようだ。だから、太陽はちゃんと昇るし、沈みもする。

そして今回もまた姉さんを起こしに行く。姉さんは自分じゃ起きないから俺が起こしに行かないといつまでも寝ている。あと家事が全く出来ない。
俺が来るまでどうしていたのか聞いたら、好きな時に寝て、好きな時に食べていたらしい。ゼロ領域で、一瞬クッキングなのだそうだ。幾らなんでも反則過ぎるだろう。
異民だから食べなくても死なないし、プロポーションはイメージだけで維持できる。なんて贅沢なお方だ。せっかく立派なキッチンがあるのに使わないのも勿体無いので、
俺が使う事にしている。5歳児の体だと何かと不便ではあるが。食材は使っても次に使う時は、元に戻っている。もう難しく考えるのは止めた。

「姉さん?起きて?」

「ん~?」

まだ寝惚けているらしい。

「また朝が来ましたよ。朝食はここに置いておきますから、着替えたら食べておいてくださいね。」

まぁ、姉さんが起きるのはもうちょい先だろう。掃除と洗濯が終わった頃かな。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


リリスは、ベッドに転がりながら、グラムを作ってからの事を考えていた。

グラムは良く尽くしてくれている。利用する為に作ったのを忘れてしまっている事があるくらいだ。こんな風に時間に囚われず、二人で過ごすというのも良いかもしれない。
どんな能力かも判らないままだし、本当に何も持っていない可能性もある。

だが、心の中で黒く燻り続けているものがある。これこそがグラムの存在意義だ。私がグラムと二人で過ごす事選んだら、グラムは消えてしまうのではないか。そんな考えが頭をよぎる。

「今はまだ早計かもしれない。」

時間はあるのだから、ゆっくり考えるとしよう。

リリスはそう決めて、ベッドから出る事にした。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムは昼食の用意をしている。

「さて、今回はナポリタンでも作ってみようかな。」

食べなくても死にはしないと言っても、出来る限りは人間らしい生活を送ってはいたい。そういえば、父と母は仕事人間で家にいる事は少なかった。いる時は一緒に食事をし、
出掛ける事もあったから、嫌われていた訳では無かったと思う。結果として、家事全般は一通りこなす事が出来るようになった。生まれ変わっても続ける事になるとは
思ってもみなかったが。でも、姉さんには感謝している。一緒に居てくれるし、何より食事が一人じゃないのが良い。

突然、足元を大きな揺れが襲った。

「なんだ!?」

足元が揺れ、壁が軋めていている。ここに来てから地震は初めてのことだった。

上階から姉さんが駆け下りてくる。

「姉さん、この地震は!?」

揺れはまだ収まる気配が無い。それどころかどんどん大きくなっている。

「まさか…、見つかった!?」

何に?と聞き返す前に、

「逃げるわよ!」

手を引っ張られて、屋敷から離れる。走りながら空を見ると、所々にオーロラが出来ている。という事は、オーロラ粒子がオーロラ・フィールド内に漏れているということだ。
良く見ると漏れている箇所が、どんどん広がっていくのが分かる。

オーロラから一筋の光が走り、俺と姉さんの前に落ち、大きな衝撃音と共に土埃が舞う。ゆっくりと土埃から出てきたのは、若い女性のようだ。表情からは何も読み取れない。

「お前は……。」
姉さんが驚きの為か、声が上ずっている。

「ナノセルロイド・分離マザーⅢ・ドゥリンダナ。主の命により、このオーロラ・フィールドの破壊及び、異民である貴女方を排除します。」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


あまりに急過ぎる展開に、リリスは動揺していた。ここが見つかる事は無いはずだったし、予定としては、仕掛けるのはこちらからのはずだった。だが、後悔しても仕方が無く、
先手を取られてしまった。

どうする…。

頭の中で考えても、この状況を打破出来る考えが思いつかない。せめてグラムを逃がす為の方法を考えなければ…。

今、私は何を考えた…?グラムを逃がす?戦わせる為に作ったのに?

「ククッ」

思わず苦笑してしまった。自分の事よりグラムを優先的に考えているとは思ってもみなかった。どこかでちゃんと割り切っているつもりだったが、いざという状況になると本音は
隠せないようだ。だが、悪くない。一緒にいた時間は長くはなかったが、充実した『人間』としての暮らしが出来たと思う。グラムがこの先どうなるかは分からない。それでも、
未来を生きて欲しいと願う。出来たら強くて優しい『人間』になって欲しい。

覚悟は決まった。あとは、ゼロ領域に出てスキを突いて逃がすだけ。

「グラム、あなたは逃げなさい。」

「何言ってんだよ?一緒に逃げるんだろ?まさか、死ぬつもりじゃないだろうな!?」

グラムは声を荒げているが、顔は今にも泣き出しそうだ。

「大丈夫、姉さんに任せない。私は死ぬつもりなんか全く無いわよ。ちょっと離れ離れになるけど、あとで必ず会えるからね。」

「あぁ、その目は言った事必ず曲げない時のだ…。」

「さすがグラム、分かってるわね。そんなグラムが大好きよ。」

頭を撫でながらそう言うと、

「はいはい、それ以上は変なフラグが立ってしまうから自重してね。」

そっぽを向いて顔を見せてくれないが、どんな顔をしているのか分かる。

リリスはしゃがみ、グラムと同じ目線にして、顔を近づけ額に軽くキスをする。

「おまじない。」

グラムは額を押さえて呆けているが、もう時間は無い。

「ドゥリンダナ、別れを待ってくれた事には感謝するけど、余裕を見せすぎよ。」

ドゥリンダナが口を開こうとした時、空間が爆ぜ、オーロラ・フィールドが崩壊する。リリスは自分を含め全員をゼロ領域に叩き込む。突然の事に、
状況把握が追い付いていないドゥリンダナを尻目に、グラムの腕を掴み、力の限り、思いの限りを尽くし、遠くへ投げる。

ドゥリンダナに向き直り、手をかざす。
「あんたはここに閉じ込める!!」
オーロラ・フィールドを再形成し始める。ドゥリンダナを閉じ込める為だけのオーロラ・フィールドだ。ドゥリンダナは電撃を放ってくるが、気合いでどうにかする。ゼロ領域では、
思いの強さがものを言う。ここからは、我慢比べだ。グラムがナノセルロイドを倒せる力を得て、戻ってきたら私の勝ち。それ以外は負けだ。分が悪い賭けのような感じもするが、
グラムは必ず戻ると信じている。戻ってくるようには言ってないけど、どんな事があっても辿り着く。そんな確信がある。

「それにしても私が人の為に動くとはね。元気でやるのよ、グラム。」

オーロラ・フィールドの再形成が完了し、リリスは全身全霊を賭してドゥリンダナを封じ込めることに専念し始めた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムは慣性を無視してゼロ領域で突き進んでいた。自分の力の無さに怒りが込み上げてくる。唇を噛み過ぎて切れてしまっているが、そんな事にかまっている余裕はない。
突然、姉さんと別れることになるとは思ってなかった。今日も何時もの様に過ごすはずだった。力なんて無くても幸せだった。だがそれをナノセルロイドに壊された。

ナノセルロイドが憎い。

自分の考えや認識が甘くて、何も出来なかった。壁や床が近くにあれば、頭を叩き付けているところだ。姉さんを守る為に、作られたのに姉さんに守られてしまった。

「力が欲しい。」

そう呟かずにはいられない。そして、涙が溢れ出す。

「もう何もいらない…。欲しいのは絶対的な力だ!姉さんを守れる力が欲しい!!」

ゼロ領域のオーロラ粒子が反応し、グラムの体が光り、再構成を行っている。

「がああああああああああああああ!!」

急激な変化の為に、体に激痛が襲う。

「ぐぅぅ…。」

頭にも激痛が駆け抜ける。

「姉さんは、俺が…。」

必ず助ける。そう言う前に、グラムは光に包まれた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


グラムを包んだ光は、ゼロ領域を抜け、荒れ地の広がる大地へと飛び出る。そして光は、別の光点へと向かって飛んでいく。

こんな荒れた土地の中に都市が一つある。今、光が向かっているのはその都市だ。だが普通の都市ではない。足を生やし、荒野を移動している。この世界の都市とは、足を使って移動し、
空から降り注ぐ汚染物質を防ぐ為に、エアフィルターで覆われている都市を言う。都市に住んでいる人間は、自給自足を行い、ほとんどの人間は生まれた都市で生涯を過ごす。
文献には残っていないものの、初代アルケミストの一人であったエルミ・リグザリオにより作られ都市。それが『自律型移動都市レギオス』である。

そして光は、とある都市の外縁部に降り、光を解いていく。だが、中から現れたグラムはその場に横たわり、今はまだ動く気配を見せなかった。






あとがき

とりあえず「ゼロ領域編」はこれにて終了です。次回は「レジェンドオブレギオス」の世界から「鋼殻のレギオス」の世界に変わります。

終わりは考えてないですが、目標は考えてあります。先は長いですが途中で投げないように頑張ります。


そういえば、今回ドゥリンダナを出したのですが、一言しかしゃべってませんね。。。


それではまた次回、宜しくお願いします。



[23706] 第5話 喪失
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/13 01:54
第5話 喪失

【槍殻都市グレンダン とある屋敷の一室】

デルボネは目を覚ました。
普段は汚染獣が来た時に反応して起きるぐらいで、大抵の時間は寝て過ごしている。
しかし、今回は、汚染獣の反応は無い。
念の為、グレンダンの周りに常に待機させてある念威端子を操作するが、それでも汚染獣の反応は無かった。

「あら?」

外縁部に人が倒れている。
5歳ぐらいの男の子のようだ。
外傷は無いが、起きる気配が無い。
念威端子を近づけ、生存の確認を行う。
息はしているから、問題は無さそうだ。
だが、ここでこのまま放って置く訳にはもちろんいかない。

「近くに誰かいないかしら…。」

念威端子を動かし、近くに人がいないか探し始める。
偶然近くを歩いていた子供たちがいた為、念威端子越しに話しかける。

『こんにちは。リーリン、レイフォン。』

「あ、デルボネ様。こんにちは!」

元気良く返事をするリーリンと、

「こ、こんにちは。」

少しおどおどしているレイフォンだ。

『二人に頼みたい事があるのだけれど、頼まれてくれるかしら?』




【外縁部 エアフィルター付近】

私は外縁部に移動し、デルボネ様の指定した場所に来ていた。
レイフォンは、孤児院にいるお義父さんを呼びに行っている。

「あそこだ。」

人が倒れている所に駆け寄り、体温や呼吸をしている事から無事だと確かめる。

「それにしても、綺麗な顔をしているな~。」

と、ぼ~っと見てしまっていたが、

「見惚れていてどうする、私!」

気を入れ直して、目の前の子に向き直る。

「大丈夫ですか?」

「ん、……。」

目が少し開いたが、意識がはっきりとはしていないようだ。
でも、口を動かし何かを喋っている。
耳を口元に近付けると、

「ね、姉……さ…ん…。」

「他にも人がいるの?」

「……。」

完全に意識を失ってしまったようだ。
すると、

「リーリン!」

「お義父さん!こっちだよ!」

お義父さんとレイフォンが来てくれた。
これで病院に運んでもらう事が出来る。

「まずは病院に連れて行かねばならんな。」

お義父さんは、この子をゆっくりと抱き上げ、病院へと連れて行った。




【孤児院付近の病院】

デルクは保護した子の事を考えていた。
意識はまだ戻っていない。
体に目立った外傷は無いが、念の為、検査を受けさせている。

どうやら終わったようだ。

「どこか問題は?先生。」

「デルクさん、子供に異常は見つかりませんでした。」

「そうですか。」

ほっと胸を撫で下ろす。
だが、次に続く言葉に驚きを禁じ得なかった。

「ですが、剄脈が異常です。」

「剄脈が異常?それでは、先程言った異常が見つからなかったという事とは矛盾しておるが?」

「申し訳ない、言葉足らずでしたね。あの子の剄脈は、通常の武芸者では考えられないくらい発達しています。剄脈の太さも常軌を逸しています。」

あまりの事にデルクは目を見開き唸った。
だが、剄脈が発達しているという事を除けば、今は良いだろう。
それより他にも聞きたい事があった。

「所持品や服装から、どの家の子か分からぬか?」

「現在、都市警にも依頼していますが、所持品から個人を特定する物は無く、服装などからも判断出来ませんでした。」

「そうか……。」

今後どうするか悩んでいる所に、念威端子が飛んでくる。

『その子は、グレンダン以外の所から来たようですよ。』

「「デルボネ様!?」」

『デルク、あなたの孤児院で引き取って貰えないかしら?』

「それは、私も考えていた事ではありますから良いのですが、この子がグレンダン以外から来たというのは?」

『この子がグレンダンに来たのはついさっきですね。』

「そんな!?放浪バスが来たのは1ヶ月も前ですよ!?」

先生が、驚きのあまり大声を出してしまう。

グレンダンは汚染獣との戦闘が頻繁に起こる為、放浪バスが来る事は他の都市と比べてかなり低い。
この子が仮に放浪バスに乗って来ていたとしたら、検問を必ず通っているから、都市警ならすぐに身元が分かるはず。
逆に分からないという事は、正規の手段でグレンダンに辿り着いた訳ではないと、デルボネ様の話が真実味を帯びてくる。
しかし、

「一体、どうやって…。」

『それは私にも分かりません。ですが、こんなに寝顔が可愛い子が、悪意を持って現れたとは考え難いと思いませんか?』

私は、少し考え答えを出す。

「分かりました。私の孤児院で、この子を育てます。」

だが、この時は誰も気付けてはいなかった。
異常に発達した剄脈や突然現れた事に説明が付かない状況によって、本来あるはずのないものを宿している事に。




【デルクの孤児院】

病院に運び込まれて、3日が経った頃、助けた子が目を覚ましたと、先生から連絡を受けた。

「それでは、私は病院に行って来る。」

「行ってらっしゃい。お義父さん。」

「準備は任せたよ。」

孤児院に住んでいる皆には、病院から帰った日に引き取る事を伝えてある。
今は、皆で受け入れる為の準備をしている所だ。




【孤児院付近の病院】

「先生、お待たせしました。」

「彼は病室で待っていますよ。」

先生の後を付いて行き、病室に入る。
彼はベッドから体を起こし、窓の外を眺めていた。

「やぁ、元気にしているかな?」

声を掛けると彼はこちらを向き、

「はい、体は良くなっていると思います。あなたが僕を助けてくれたのですか?」

「病院へ運んだのは私だが、君を見つけて介抱していたのは、リーリンという君と同じくらいの歳の女の子だ。」

「そうなのですか、退院したらお礼を言いにいかないとな。」

会話を始めたばかりだが、何か違和感がある。
歳相応の感じがしない。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね。私はデルクだ。デルク・サイハーデン。」

「僕は、グラム・ダインスレフです。グラムと呼んでください。」

「では、さっそく幾つか質問をさせて欲しい。」

グラムが頷くのを確認し、デルクは質問を始める。

「グラムは何故あそこで倒れていたのだ?」

「分かりません。ここに来る前の事が思い出せないのです。」

「記憶が無いのかね?」

「みたいですね……。」

グラムは苦々しい笑みを浮かべている。
デルクは先生の方に顔を向け、説明を促した。

「外傷が見当たらない事から、私は心的要因により記憶を自ら封じていると考えている。よほど酷い事が起こり、脳が自己防衛の為に行ったのかもしれない。」

「記憶が戻る可能性は?」

「何とも言えないが、大抵は時間が解決するか、記憶を封じるのに切っ掛けとなった人、もしくは物に触れたりする事が切っ掛けとなり戻る。」

「ふむ。グラムはこれからどうするか考えてはあるのかい?」

「いえ、自分の事が分からないので、何をどうしたら良いのかも…。」

そう言うと、グラムは俯いてしまった。

「グラムさえ良ければ、私の所に来ないかね?孤児院なので、個室を貸したりは出来ないが、今後の身の振り方を考える場所ぐらいにはなるだろう。」

「……。」

グラムは悩んでいるようだ。

「実はもう皆で、歓迎会の準備をしているところなのだよ。」

「これでは断るのは失礼ですよね。よろしくお願いします。」




【孤児院の門前】

「ただいま。」

「おかえりなさい。お義父さん。」

「リーリンか。彼がこれから一緒に暮らす事になる、」

「グラムです。よろしくお願いします。」

ペコリと頭を下げてから、リーリンと呟くと、

「倒れている所を助けてくれて、ありがとう。」

「そ、そんな助けたとかは出来てないよ!?ただ、傍にいるぐらいしかしてないし…。」

「それでも、一番初めに来てくれた事が嬉しかった。」

グラムは、満面の笑みを返していた。

「さぁ、皆が待っているから入りなさい。」

やさしく背中を押し、門をくぐると、

「「「「ようこそ!デルクの孤児院へ!」」」」

リーリンに引っ張られて、皆の輪の中に入っていくグラムを見ている。
彼の未来に加護があらんことを。
デルクは、そう願わずにはいられなかった。




【孤児院 寝室】

歓迎会も滞りなく終わり、夜になったので、みんなで寝ている。
寝る場所は、いつもみんな一緒のようだ。
恥ずかしいけど暖かい感じがする。
グラムは歓迎会を思い返していた。
こんなに良くしてくれるとは思ってもみなかった。

その中でも気になったのは、助けてくれたリーリンとリーリンにくっついているレイフォンだった。
リーリンは、しっかりしていて自分より下の子の面倒を見ていた。
レイフォンはそんなリーリンの手伝いをしていたが、リーリンの色々な指示にあたふたしていたのが、面白かった。
振り回されていたと言ってもいいと思う。

二人のやり取りを思い出すだけでついつい顔がにやけてしまう。
だから、明日からはみんなと一緒に暮らせると思うとワクワクする。
まずは、自分に出来る事からやっていこう。

そう思い目を閉じて眠ろうとすると、窓から見える月が目に入った。
月を見ていると、頭の中がざわざわしてくる。
暖かい感じがするが、怖い気もする。
相反する気持ちが気になるが、嫌な感じが増してきたので、布団を頭に被って眠る事にした。




【孤児院内の道場】

孤児院に住み始めて1ヶ月が経った。
グラムはここの生活にも少しずつだが慣れてきていた。
リーリンとレイフォンの歳と同じぐらいだろうという事で、5歳として登録してある。
歳が近いということで、基本的に行動する時は3人一緒だ。
リーリンが中心となってレイフォンと僕が忙しなく動く。
任されている事といえば、弟妹達の面倒を見る事や掃除・片づけの手伝い。
最近は、料理の手伝いを少しずつ始めている。
自然と手が動くのを見て、姉達に料理をしていた事があるのかもねと言われた。

記憶が無い事を知っているのは、お義父さん以外には、年長組の兄姉にリーリンとレイフォンだ。
知らないのは弟妹達ぐらいだろうか。
最初話した時は、ビックリしていたけど、「そのうち思い出すさ。」と、兄さんに頭を撫でられた時は、嬉しかった。

ここにいても良いのだと、この時初めて思ったのかもしれない。

お義父さんと言えば、やっと自然に「お義父さん」と呼べるようになった気がする。
僕が孤児院に来る少し前からレイフォンに稽古を付けている。
武術の名は『サイハーデン刀争術』と言って、刀を主体とする戦闘術らしい。
必須のお手伝い以外、レイフォンはずっと稽古だ。
今は、僕とリーリンも休憩中だから、ついでに稽古を見学している所だ。

人の中には、剄脈というものを生まれた時から宿している人がいるらしい。
それは『武芸者』と呼ばれ、汚染獣から都市を守る為に存在しているのだそうだ。
記憶が無い僕は、『武芸者』が何なのか解からなかったので、お義父さんが丁寧に説明してくれた。

それにしても、お義父さんとレイフォンはすごい速さで動いている。
思わず目を丸くして驚いていた。




デルクはレイフォンの稽古を付けつつ、リーリンとグラムを見ていた。
リーリンはもちろん目の前で起こる速さに付いていけていない。
だが、グラムは目で追えているようだ。
驚いて目が丸くなっているのが分かるが、それでも追い付いている。
内力系活剄【旋剄】を使っているのにだ。
旋剄とは、脚力を剄で大幅に強化し、高速移動を行う剄技である。
その速度に追いついている。
素質だけを考えれば、天賦の才を持つレイフォンと比べても劣らないかもしれない。
それに、常人離れした剄脈を持っている。
この事はまだグラム本人には伝えていない。
今はまだゆっくりと過ごして貰いたいと思うのは私の我が儘だろうか。
リーリンや弟妹達に引っ張り回され続けているので、ゆっくり出来ているのか心配ではあるが、グラムは楽しんでいる様だからもう少しこのままで良いと思う。

「おっと。」

レイフォンの袈裟斬りを紙一重で避ける。
グラムを気にし過ぎて集中力が落ちている。
集中せねばならんな。




「ねぇ、グラム?」

リーリンがちょっと困った様な顔で話し掛けてきた。

「どうしたの?」

「あなたが倒れていた時に「姉さん」って呟いていたけど、誰の事なの?」

「姉さん?僕がそんな事を言っていたの?」

「うん…、苦しそうに呟いていたから、ずっと気になっていたの。」

そんな事を言っていたのか。
記憶に繋がる事なのだ…ろう……か…?

「うっ!」

突然、頭に突き刺さるような頭痛が襲ってきた。

「どうしたの?」

「頭が…痛い…!」

「グラム!?」

頭を押さえたまま、その場に倒れ込んでしまい、僕は意識を手放した。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき1
>Fさん
リリスが取り込まれていないと、念威操者が誕生しないのでは?

ということで、時間軸等の説明を少しさせて頂きます。

1.物語の冒頭
主人公がゼロ領域に取り込まれたタイミングですが、あれはイグナシスが全てのオーロラ・フィールドをゼロ領域に還す際に巻き込まれてしまい、
ニルフィリアの纏う黒い塊の一部と化します。

2.リリス登場~最後まで
アイレインがサヤの障害となるものを右目に取り込み、月となってからの話です。
月の中はゼロ領域となっており、イグナシスとナノセルロイドと黒い塊の一部、それにリリスも混在しているという設定です。
この辺がオリジナル設定と独自解釈で、やりたい放題になってしまっていますね。

時間軸を少しは考えているもののゼロ領域は時間の概念が無い為、過去も未来も交錯出来るのでは?
というのが私の考えですので、多少時間軸がズレても大丈夫かなと思って作ってます。



あとがき2

更新遅くて申し訳ないですm(_ _)m
もう3話分ほど書き貯めてあったのですが、色々見直したり、ふと思い付いたものを書いてしまったりと。。。
言い訳ですね、反省してます。

さて、本話からは「グレンダン 幼年編」として書いてみようと思っています。
レイフォンが武芸を始めたのを5歳として、天剣授受者となる10歳までの話です。
オリジナル設定が多くて、読む人を選んでしまうかと思いますが、よろしくお願いします。



[23706] 第6話 始動
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/14 15:45
第6話 始動

【???????】

「ここはどこだろう?」

気が付くと、僕はどこかの家の中に立っていた。
でも、何故だろうか。
懐かしい感じがする。
僕はここに住んでいた?

後ろを振り向くと一人の女性が立っている。
綺麗な笑みを浮かべている。

「グラム。」

名前を呼んでくれた。
それだけなのに、胸の中が喜びに包まれる。

「グラム。」

呼ばれる度に、心の底から嬉しくなる。
この人は、

「リリス姉さん。」

そう、リリス姉さんだ。
間違いなく自分の姉さんだ。
こんなに顔が似ているのだから、違う訳がない。

グラムは手を伸ばすが、触れる事が出来ない。
それどころか、どんどん離れていく。

「姉さん!!」

姉さんは白い光に包まれていく。

「行かないで!姉さん!!」

世界が真っ白になった。

目を開けると別の女性が立っていた。

「お前は…!」

無表情だがこちらを見据えている。
目を合わせると恐怖で竦み上がりそうになるが、負ける訳にはいかない。

知っている…。
僕はこの顔知っている…。
全てを奪った元凶…。
こいつの名は、

「ドゥリンダナ!!」

名前を呼んだ瞬間、ドゥリンダナは膨れ上がり、巨大な何かに変貌し、僕を包み込んだ。




【孤児院の寝室】

「!」

ここは孤児院?
夢だったのだろうか。

「嫌な夢だ…。でも、色々と思いだしたな。」

ふと、手が握られている事に気が付いた。

「リーリン。」

眠ってしまっているが、手を握ったままでいてくれている。

「名前を呼んでくれていたのは君かな?」

空いた手で髪を撫でる。

「呼んでくれてありがとう。」

リーリンは毛布も何も掛けずにいる。
このままだと風邪を引いてしまうので、握った手をそっと解き、抱き上げて自分が寝ていたベッドに降ろす。
まだ寝ているのを確認してからグラムは、孤児院の庭に出た。




【孤児院の庭】

嫌な感じがしてからあまり見なかった月を見上げる。

姉さんはあそこにいる。
夢を見て少しずつ思い出していく記憶から確信する。
そして、手を月へと翳し、

「果てし無く遠いけど、必ず逢いに行くからね。姉さん!」

これは誓いだ。
必ず成し遂げてみせる。

体がぶるりと震え、武者震いかと思ったけど単純に寒かっただけのようだ。

「早く戻ろうっと。」

みんなにはどうやって話そうかな。

そしては、グラムは孤児院の中へと戻って行った。
その様子を見ていた蝶は舞い、まるでグラムの誓いを祝福しているかのようだった。




【孤児院の寝室】

「あれ?」

私、いつから寝てたっけ?

リーリンは昨日の事を思い出していると、

「起きた?」

グラムが横に座って私を見ていた。

「グラム!」

思わず飛び起きて抱きついてしまった。

「おわっ、リーリン?」

「もう眼が覚めないかもと思ったよぉ。」

涙が溢れていくる。
無事で良かった。

「いきなり倒れてごめんね。」

頭を優しく撫でてくれる。

「記憶がね、少しだけ戻ったんだ。」

「本当!?」

「うん、姉さんがいるって事が分かったぐらいだけどね。」

グラムも泣いていた。
きっと悲しいからでなく姉がいた事が嬉しいからだ。

この後、二人を呼びに来たレイフォンが、抱き合いながら泣いている所を見て、オロオロするのは別のお話である。




【孤児院の広間】

正午を過ぎ、レイフォンと一緒に掃除をしていたので、ちょっと気になっている事を聞いてみた。

「なぁ、レイフォン。どうしてサイハーデン刀争術を習っているの?」

「うーん、武芸者って強いとそれだけお金が貰えるからかなぁ。」

「お金の為にやっているの?」

お金の為にという答えに驚いたが、次の答えで納得した。

「お金が多いとここでの生活が少しでも楽になるかなと思ったんだ。」

「みんなの為?」

「みんなと一緒に居る為だね。」

この時は、レイフォンの考え方が素直に凄いと思ってしまった。
レイフォンの顔が少しずつ無表情になっていくことを少しは考えるべきだったのかもしれない。




【孤児院の道場】

今日からレイフォンと一緒に稽古をしている。
姉さんを探しに行きたいが、何の力も持っていない今のままでは、辿り着いた所で、一蹴されるだけだろう。
待っているのは強大な力を持つナノセルロイド・ドゥリンダナ。
ナノセルロイドとは何なのか、覚えていないのか姉さんから教えてもらっていないのか分からないが、言える事は一つ。
このままでは、100%勝てないということだ。

姉がいるという記憶が戻った事は、事情を知っている人には話した。
だが、月にいるという事やドゥリンダナの事は、お義父さんにだけ話した。
笑われるかもと思ったけど、

「お前は嘘を付く子ではない。」

と、言ってくれた時は嬉しかった。
そのあと、続いた言葉にもかなり驚いたけれど。

「剄脈を宿している者を『武芸者』と言うのはグラムも知っておるな?」

「うん、お義父さんやレイフォンはそうだよね。」

「実は、グラムもそうなんだ。」

「え?」

「グラムも内に剄脈を宿す武芸者なのだ。」

「……。」

驚きで目を丸くしていると、

「黙っていて悪かったな。助けた時の検査で、発覚していたのだ。だが、剄脈や剄路の太さが天賦の才を持つレイフォンに匹敵する程だったのだ。」

「悪い事なの?」

「いや、グラムに目標が決まるまでは、黙っておこうと私が勝手に決めたのだ。異常な力は人を狂わす事があるからだ。」

「なら何故今の?」

「姉を助ける為には、力が必要となるであろう?」

僕は静かに頷いた。

「姉さんを助けるには、途方もない力が必要になると思う。」

「そうであろうな。良ければ、レイフォンと一緒に稽古を付けるがどうする?」

そして、今に至る。

それにしても、稽古初日から厳しい。
まずは、剄の基本『剄息』を覚える事からなのだが、慣れるまでは常に走っているかの如く動悸が荒くなってしまう。
目標は、死ぬまで続けるとのことだ。
その状態を出来るだけ維持し、基本体術を叩き込まれていく。

お義父さんの教えてくれているサイハーデン刀争術は、汚染獣戦において高い生存率を誇っている刀術である。
一番最初に教えて貰ったのは心構えで『絶対に諦めない』事だった。
頭では分かっていても、実行するとなるとこれが相当に難しい。
自分より強大な相手であろうと、状況がどんなに不利であろうと、逆転を行う術が見つからなかろうと、勝つ方法を考え続ける。
考える事を止めない限り、道は開けるというのがサイハーデン刀争術の考えなのだそうだ。
鍛練中、常に考え続ける事で、実践でも落ち着いて戦う事が出来るらしい。

僕が戦わなければならない相手は、強大な敵なのだから、この事は必ず役に立つ。
だからこそ音を上げる訳にはいかないのだけれど…。
普段は温厚なお義父さんがのように厳しい。
いや、正に鬼そのものなのだろう。

姉さん、僕が生き残れる事を祈っていて下さい。

グラムは少し、現実逃避してしまった。

この日は、いや、この日から全身を痣だらけにする日々が続いていくのだった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

と、リーリンとグラムがくっつきそうな感じに書いてしまいましたが、くっつきません。
フラグが立つような書き方はまた出てくるかもしれませんが、リーリン・メイシェン・ニーナ・フェリは基本的に仲が良くなる程度で留める予定です。



[23706] 第7話 実戦
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/17 23:25
第7話 実戦

鍛練を始めて3年が経った。
僕とレイフォンは8歳になり、力も相当付いてきた為、そろそろ実戦に出る話が来ている。

汚染獣との遭遇回数が、他の都市比べ桁違いのグレンダンは、武芸が活発である。
その為、若くして実戦に参加する事自体は、良くある事だ。
前例が無い訳では無い。
それでも、8歳で実戦に参加するというのは、異例である。

グレンダン最強角の一人、現天剣授受者サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。
彼も初の実戦が8歳であり、そして13歳で天剣授受者となった。

『天剣の再来』
そんな風に巷では盛り上がっている。
その話が、現実味を帯び始めたのは、二人の後見人が天剣授受者のティグリス・ノイエラン・ロンスマイアに決まってからだ。
お義父さんとティグリス様は旧知の仲らしく、実戦から離れていたお義父さんの代わりに、現役であるティグリス様に頼み込んだとの事だった。

実は、ティグリス側の思惑として、孫のクラリーベルに見合う力量を持っていれば、許婚候補に挙げようと考えているのだが、グラムもレイフォンももちろん気付いていない。

グレンダンでは通常、実戦に出るまでに、まず戦場の空気に慣れる為に外縁部から数回見学を行う。
次に幼性体から雄性体一期に対し、後見人を付けて複数人で挑むのが恒例となっている。

だが実力が他より抜けていると判断された場合は、後見人を付け、雄性体一期を一人で倒す事が、求められる。

この形式の初実戦は2年ぶりらしい。
サヴァリス様も一人で実戦をこなし、その後天剣を得た事から、この形式を経た者は、天剣候補に近いと世間では認識されている。
それが今回は二人もいるということで、盛り上がっている訳だ。

「レイフォン、緊張してる?」

「そんなにでもないかな。グラムは?」

「僕は少し緊張しているよ。次に汚染獣が来た時に雄性体が2体以上いれば、その時に行うらしいよ。」

「そうなんだ。」

その時、警報が鳴り響いた。
僕とレイフォンは視線を交わし、
頷き合って、孤児院を飛び出した。




【外縁部 エアフィルター前】

今回、グレンダンを襲ってきた汚染獣は、雄性体が7体。
内5体はグレンダンの守備部隊が引き受ける事となった。

天剣に任せれば直ぐに殲滅出来るが、一般武芸者の質の低下と、錬度の上昇を考えると雄性体までは天剣以外で引き受ける事となっている。

そして、僕とレイフォンに当てられた雄性体は一期だ。
幼性体から1回目の脱皮をしたのが一期だが、飛行能力を得ている分、戦闘能力はかなり上がっていると言っていい。

守備部隊は都市外装備を身に付け、先程戦端を開いた。
7体中5体を引き付け、2体を都市へ素通りさせる。

僕とレイフォンは外縁部で迎え撃つ事になっている。

「全力で挑め。私からは以上だ。」

ティグリス様の言葉を聞き、剄を体中に巡らせる。
待機状態から戦闘状態へと、心と体を持っていく。

彼我の差はおよそ100mだ。

「さて、始めようか?レイフォン。」

「うん、気を付けてね。グラム。」

「ん、そっちもね。」

ここからは一人一体相手する事になる為、互いにフォローは出来ない。

「「レストレーション!」」

得物もちろんは使い慣れている鋼鉄錬金鋼の刀だ。
剄の通りを見る限り、調子は良さそうだ。
錬金鋼に剄が上手く伝わっている。

そして、グラムは10時の方角、レイフォンは2時の方角へ走り出し、内力系活剄【旋剄】で一気に差を縮めて行く。

グラムはまず、先制する為に、外力系衝系【衝剄】を放つ。
羽に当てる事により、バランスを崩させ、高度を下げさせる。
下がってきたところに、大きく跳躍する。

「まずは羽を斬り落とす!」

刀身が赤く染まり出し、サイハーデン刀争術【焔切り】を繰り出す。
焔切りとは斬撃に合わせて斬剄を放つ技である。

「まだまだ!」

【焔切り】からの追撃専用技、サイハーデン刀争術【焔重ね】を続けて放つ。
一の太刀の焔切りにより相手の行動を封じた所に追撃を加える二の太刀だ。

背にある羽を斬り飛ばした勢いをそのままに汚染獣から距離を取る。
汚染獣の方は、飛行出来ずに地上に落下するもダメージ自体はそこまでない様子。

「まぁ、今のところ予定通り。これで飛んで市街地へ行く事は防げる。」

剄を刀身に纏わせ外力系衝剄【斬剄】を放つ。
汚染獣の足を一本斬り飛ばした。

「他の足も奪わせてもらうよ。」

足を減らし汚染獣の移動速度を低下させようとする。
しかし、続けて奪おうとした所を、汚染獣は残った足で大きく跳躍し、グラムを押し潰そうとする。
グラムは余裕を持って横に転がり回避した。

「ふぅ、全部予定通りとはいかないか。実戦はやっぱり違うな。」

でも、想定内ではある。
驚いたからといって、思考は止めない。
汚染獣の強さを上方修正し、同じ事をさせないように接近して全ての足を斬り落とす。

「これで終わりだ。」

内力系活剄【旋剄】で後ろに回り込みサイハーデン刀争術【波紋抜き】を叩き込む。
一拍置いた後、汚染獣は体の内側から爆散した。

その後も油断せずに汚染獣を見据え、完全に活動を停止している事を確認してから、レイフォンの方を見てみる。
汚染獣が真っ二つになっている所を見ると、外力系衝剄【閃断】で断ち切ったのかもしれない。

「さて、ティグリス様の所に戻らないとな。」




【孤児院の道場】

総評などはデルクも交えて行うことになり、道場に戻ってきていた。

「デルクよ、良い弟子を取ったな。」

天剣に褒められれた。
思わずレイフォンと顔を合わせると、レイフォンも顔が少し緩んでる。
いや、緩んでるのはいつものことかもしれないが。

「戦い方を見る限り、速さではグラム。力ではレイフォンが秀でている感じがした。技自体はほぼ同程度と言ったところであろう。」

「自慢の子ですからね。」

そう言うと、僕とレイフォンの頭を撫でてくれた。
くすぐったいけど、本当に嬉しかった。
思い返すと、6回は死に掛けて病院送りになったけど、頑張った甲斐があったな。

「二人ともまだ甘い所があるが、これからの成長が楽しみだ。」

私はこれで失礼すると言って、ティグリスは帰っていった。




【孤児院】

「ケガはしなかった!?」

開口一番のリーリンの言葉だ。

「「うわっ!」」

あまりに突然で僕とレイフォンは同時に驚いた声を出してしまった。

「心配性だなぁ、リーリンは。」

「僕とグラムなら大丈夫だよ。」

だが、リーリンはというと、腰に手を当てて、

「全くもう、グラムはしっかりしてるけど、レイフォンは普段ふわふわしてるんだから心配にもなるわよ。」

「ひ、ひどいよリーリン…。」

さすがのレイフォンもしょげている。

「あっはっはっは!」

そんな二人を見ていたら思わず笑ってしまった。
無事に戻ってこれたということを思いながら。

「もうグラムまで!」

「まぁまぁ、報奨金は貰えたんだし、夕飯の食材の買出しに行こうよ。」

「そうね。今日はレイフォンの好きなハンバークにしましょ。」

「ほんとに!?やったー!」

ヘコんでいたレイフォンはすぐに元気になり、早く行こうと二人の手を引っ張って行く。
そんなレイフォンに引っ張られて行くグラムとリーリンは顔を合わせ苦笑するしかなかった。




それからは、レイフォンと二人で組んで汚染獣と戦う事もあった。
お互いに出来る事を知っているから連携は組み易かったからだ。
逆に、二人に付いて来れる人は多くなく3人以上で連携を取るということがほぼ無かった。

前までの生活は、お義父さんの今までの功績で一般の武芸者よりは多く配給があったが、孤児院を経営するには結構苦しかった。
だけど、僕とレイフォンが稼ぐ事により、弟妹達も学校へ通える余裕が出来ていた。
僕も学校に興味が無かった訳では無いけど、強くなるという目標があったから、時間のある限り鍛錬と汚染獣戦をしていた。

レイフォンが戦う理由も改めて聞く機会があったが、その内容はかなりショックだった。
僕がこの孤児院に来る1年前に食料プラントで事故が発生し、大飢饉が起こった。
グレンダンに住む人間に対し、供給が追いつかないという状況が起きたのだ。
食料プラントの修理自体は半年で済んだが、その間に大勢亡くなった。
亡くなったのは、下層民とも言える外縁部付近に住んでいる人間だった。
もちろんこの孤児院も例外では無く、当時4歳だったレイフォンより下の弟妹達が数人亡くなった。
自分のお腹が空いていても、弟妹達に食料を分け与えていたが、朝起きると冷たくなっていた事もあったらしい。
そんな時でも上流階級の人間は、何事も無いように暮らしていたのだそうだ。
だから、それを見たレイフォンは武芸者として戦う事を選んだ。
戦えば戦うだけ配給は増えるし、報奨金が貰えるからだ。

でも、葛藤もあった。
サイハーデン刀争術をお金目的で使用している事に。
お金に無頓着なお義父さんは、気付いていないが。

だから二人で稼ぐ事を決めた。
一緒に頑張ろうと僕から言ったときは、目を丸くして数秒固まっていたが、嬉しそうに笑って頷いてくれた。
僕は『居場所をくれた孤児院に恩返しをする為に』
レイフォンは『みんなの居場所が壊れないようにする為に』
僕のは建前ではあるが、それでも本音も含まれている。

そして、2年が経ち10歳になった頃、僕とレイフォンの運命を大きく変える出来事が起こった。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

戦闘の描写って難しいですね…。
これからも試行錯誤していく事になりそうです。

あ、それと今日(2010/11/17)よりチラ裏からその他掲示板に移ってきました。
今後とも宜しくお願い致します。



[23706] 第8話 刀争
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/27 20:04
第8話 刀争

グレンダンには娯楽が少ない。
汚染獣が毎度襲ってくる為、娯楽に回せるお金が無いからだ。
そんな中で、都市民が楽しみにしている事の一つが『天剣授受者決定戦』である。
天剣授受者となれるのは12人で、現在は11人だ。
即ち、この天剣授受者決定戦で、勝ち続けるという事はそのまま天剣となる可能性があるのだ。
可能性があると言い留めているのは、天剣と定める最終決定権は、女王にあるからである。
どんなに勝とうが女王が首を縦に振らない限りは、決まらない。
だからこそ、空席が1つ空いているのだ。

だが、天剣授受者決定戦はかなり厳しい。
トーナメント方式でも、総当たり戦方式でもないのだ。
女王が、参加者に天剣を授与すると決めるまで続けられる。

余談であるが、天剣が12人いる状態で天剣授受者決定戦で認められた場合、現天剣への挑戦権を獲得した事となる。
そして、挑戦者が戦いたい相手を決めて、その者に勝てば、天剣授与という事になる。

そして、この天剣授受者決定戦で快進撃を続け、既に2年間もの間、無敗を誇る二人がいる。
グラムとレイフォンだ。

この決定戦の参加資格が『汚染獣と戦う事が出来る者』という事で、初実戦後すぐにエントリーした。
理由は天剣が欲しいからではなく、勝つとお金が貰えるからなのだが。

レイフォンは決定戦の途中から天剣が欲しいような素振りを見せているから、武芸に対する気持ちが変わったのかもしれない。
何が起因となりそうなったのかは分からないけれど、それは良い事だと思う。




【孤児院の道場】

グラムとレイフォンは今、一通の手紙を読んでいる。
グラムは険しい顔をしているが、問題というよりはとうとうこうなったかという感じだ。

決定戦には、たまに女王も顔を出す。
最近、グラムもしくはレイフォンの試合には毎回顔を出していた。

手紙の内容は、簡潔だった。
『次の天剣授受者決定戦で、グラムとレイフォンが戦う所が見たい。』
内容から既に日取りも決まっている。

この手紙の差出人はあろうことか女王アルシェイラ様からであった。

普通は決定戦で同門対決は行わない。
何故と聞かれたら、そうゆう慣例だったから、としか言えないのだが。

「どうする?レイフォン。」

「どう?って聞かれても、女王命令だから戦うしかないんじゃ?」

「そうなんだけどね…。」

あまり乗り気がしない。
どちらが勝ってもお金は貰えるだろうが、何だか損した気分になる。

「それに、僕はグラムと戦ってみたいな。」

「え?」

「鍛錬ではいつも手合わせしてるけど、試合ってした事ないから。」

「そういえばそうだね。」

考えてみれば、鍛錬を兼ねた手合わせはしているが、試合形式で戦った事は無かった。

「うん、そう考えれば面白いかも。最初で最後になるかもしれないから、全力で戦おう。」

そして、グラムはレイフォンに向かって拳を突き出す。

「もちろん僕も全力で戦うよ。」

レイフォンはそれに応えるように、グラムの拳に自分の拳をぶつけた。




道場の戸口の前にある人物の気配を感じたグラムは、悪戯心からとある事を口にした。

「もし僕が勝ったら、リーリンの唇奪っちゃおうかな。」

そのある人物がビクッとしたのを感じたが、レイフォンは気付いていないようだ。

「グラムが好きならいいんじゃないかな?」

こともあろうにそんな事を言っていた。

「え?いいの?」

悪戯心から言ったはずのグラムの方が狼狽しまう。
そして、件のとある人物は武芸者顔負けの殺剄を使っているかのように、レイフォンに気付かれる事無く後ろに立っていた。




レイフォンは殺気を感じた。
背中に来るプレッシャーとも言える圧力は、今まで戦った汚染獣の比では無かった。

まさか、これが老性体!?

そんな事を考えて、後ろを振り向いたらリーリンが立っていた。

「レイフォン?」

リーリンは満面の笑みだが、目だけは笑っていなかった。
瞳孔が開き過ぎている。

「は、はい!」

返事はしたが、口の中がカラカラと渇く。

「レイフォンの…。」

まさかと思った。
リーリンが視界から消えて、一瞬で懐に入られたのだ。
そして、右の拳が霞み、

「バカー!!!」

アゴを跳ね上げられ、天井が見えたと思ったが、そこで僕の意識は途切れた。




顔に手を当て、「あちゃー」と上を仰いでいたグラムに、

「グラム?」

「はい?」

返事をしてリーリンの方を向いたら、右ストレートを顔面にもらった。
拳が顔にめり込んだ為なのか、前が見えない。

私の唇は安くないとか喚いているが、もう意識を保っている事など出来そうに無いのでどうでも良かった。




次の日、グラムとレイフォンは全力でリーリンに平謝りをして許してもらった。
しかし、レイフォンだけは、何で殴られたのか分かっていないようだった。

「何で殴られたんだろう?」

と、言った彼はもう一発もらっていた。

口は災いの元だと、痛みをもって身に染みたグラム達だった。




【闘技場】

そして1週間後、天剣授受者決定戦の日が来た。

『本日のメインイベント!この2年間、互いに負けなし!しかし同門であるが故に戦わなかった二人が!今日!この場で!雌雄を決する!!』

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」」

闘技場は異様な盛り上がりを見せている。
いざレイフォンとの試合が近付くと緊張するなと、グラムは出番を待ちながらそう思っていた。
普段の決定戦ならここまで緊張する事は無かった。
やはり相手がレイフォンであるからだろう。

グラムの見立てでは、実力はほぼ互角だが、気を抜いた瞬間、形勢は一気に傾いてしまう程に拮抗していると考えている。

「速さなら僕が上だけど、一撃の威力はレイフォンが上だろう。ならば、攻撃は出来るだけ受け流し、隙を作る。あとは、速さで撹乱する。」

戦いの方針は既に決めていた。
今のはただ口に出して確認しただけだが、

「だけど…。」




レイフォンは緊張していた。
大丈夫だと思っていたけど、相手がグラムだと意識しているからか少し脈が早い。

「一撃の威力なら僕が上だろうけど、グラムは速さでこっちのペースを乱してくるかもしれない。なら、速さで乱してこようが攻撃してくる瞬間に合わせて、力で押し返し、隙を作ればいい。」

昨日まではそう考えていたが、

「だけど…。」




リーリンはどちらを応援しようか迷っていた。
赤ん坊の頃から一緒にいたレイフォン。
5歳の時に孤児院に来て、それからずっと一緒のグラム。

歳が同じだからか3人でいつも一緒に居たのだ。

リーリンは昨日の事を思い出す。

グラムにどっちを応援したらいいか相談してみたのだ。

「僕としては、どっちでもいいんじゃない?って言いたい所だけど、リーリンはレイフォンを応援するべきだよ。」

「どうして?」

「一緒に過ごした時間が長いってのもあるけど、それは僕にも言える事だし。でも、リーリンが好きなのはレイフォンでしょ?」

「え!?どうして分かったの!?」

グラムの目が、珍しい生き物を見ている様な目になった事にはとりあえず後で問い詰めるとして、先を促した。

「リーリンがレイフォンを好きだって事を知らないのは、当のレイフォンだけで他のみんなは知ってるよ。」

「……ぇ?」

「だから、鈍感のレイフォン以外は知ってるよ。って言ったんだよ。」

「えぇぇええええ!!?」

「それに、今こうしてレイフォンがいない時に、僕に相談している事が何より証拠だよ。」

「ぅ…。」

「だから僕の事は、気にしなくていい。全力で応援して、レイフォンに気持ちをもっとぶつけないと、あの鈍感は気付かないよ。」

グラムは笑顔を浮かべながら言っているが、心なしか表情が硬かった。
だけど、リーリンは気付く事はなく、

「うん、ありがとう。」

「応援してるよ。」

「応援する立場が逆になっちゃったね。」

「くっ」

「ぷっ」

「「あっはっはっは!」」

そして、二人とも吹き出し、笑い合ったのだった。

笑い合った後に、リーリンが「それはそれとして」と言ってグラムをしばき倒したのは余談である。




迷う事なんてない。
グラムが後押しをしてくれた。
なら私はそれに答えるだけだ。




『さぁ、ゲートが開いた!両雄、入場だー!!』

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」」

「「「「レイフォン!!!レイフォン!!!レイフォン!!!」」」」

「「「「グラム!!!グラム!!!グラム!!!」」」」

レイフォンと目が合う。
気合いと覚悟は充分。
汚染獣と戦う時のあの目だ。

「「レストレーション!!」」

『レイフォン・アルセイフ 対 グラム・ダインスレイフ』

そして、刀を互いに構える。

『ファイ!!』

開始直後、立っていた場所に土煙だけを残し、構えていた二人が消えた。
刹那の瞬間、闘技場の中央で爆発が起こる。

激しい鍔迫り合いをしている。
互いの剄がぶつかる事により激しい乱気流を生み出し、闘技場を掻き乱す。
その余波は観客席にも届くが、それが一層、観客のテンションを上げる。

会場にいる観客は開始早々激しいぶつかり合いに皆驚いているが、一番驚いているのは、当の本人達だった。
グラムは、レイフォンが速さに惑わされず、後の後を狙う待ちの戦いだと思ったのに対し、レイフォンは、グラムが速さで掻き回してスキを付いてくると思っていた。

だが、二人が取った行動は真正面からの小細工抜きの攻撃。

鍔迫り合いをしながら、視線が交錯し、互いに考えていた事が伝わる。
そして、驚きの表情から一変し、思わず二人ともニヤリと笑ってしまう。

鍔迫り合いを止め、一旦距離を置いた二人はある事を呟いていた。




「あれ?」

リーリンは鍔迫り合いを続けている二人の顔が笑ったように見えた。
そうか。
そういうことか。

「「「武芸馬鹿。」」」

リーリンが鍛錬中の二人に良く言っていた言葉を3人同時に笑みを浮かべながら呟いた。




距離を詰めず円を描くように互いにゆっくり移動する。
相手の一挙手一投足を一瞬も見逃さないようにしながらだ。
沈黙を破ったのは、グラム。
地面スレスレの位置まで体を傾け、内力系活剄【旋剄】を発動させる。
一瞬でレイフォンの懐に入り込み、逆袈裟斬りを打ち込む。

レイフォンは慌てずに、刀を振り下ろしグラムの刀を迎え撃つ。

グラムは、無理に鍔迫り合いをせず即座に距離を取る事にした。

彼我の距離は、50歩。
武芸者に取ってこの距離はあって無いようなものだ。

互いに刀を腰溜めにし、居合いの構えを取る。
直後、【旋剄】を超える超速移動を可能にするサイハーデン刀争術の一つ【水鏡渡り】を始動し、抜刀する。

サイハーデン刀争術【焔切り】

グラムの刀はレイフォンの脇腹を裂き、レイフォンの刀は、グラムの二の腕を裂いた。

傷が浅い為、出血はそこまで酷くない。

しかし、この斬り合いを皮切りに、互いの剣撃が火花を散らせ合う。
二人とも一歩も引かず、必殺の技を繰り出し合う。
刀を打ち合うだけでなく、紙一重でかわし、反撃にする。
ある時は、鼻先をスレスレで切っ先をかわす。
そしてまたある時は、神速の突きを面の皮一枚で避ける。

打ち合いが二十合目を超えた所で、レイフォンの剣が完全に空を切る。

グラムが取った行動は、後ろ向きに【旋剄】を発動させることだった。
【旋剄】をバック走の要領で、短い距離だけ発動させ、効果が切れた瞬間に今度は、前向きの【旋剄】を発動させる。

虚を突かれたレイフォンは刀を急いで返すが、間に合わず胸元を切り裂かれ、闘技場の壁へと吹き飛んだ。
だが、返ってくる手応えが浅い。
レイフォンは、刀が胸に斬る瞬間後ろに飛び威力を殺していた。
さらに空中で体勢を立て直して、壁に着地し、その壁にヒビが入るくらいの力を加えて【旋剄】を使う。
グラムとの距離が30歩を切った所で、内力系活剄【疾影】を発動させる。
グラムの知覚に残像現象を起こさせ、真っ直ぐ突っ込んでくると思わせる。
【水鏡渡り】を続けて発動し、グラムの後ろを取り、背中への斬撃を放つ。

グラムは、【疾影】に完全に惑わされる事は無かったが、背中に剣を回すも、勢いのあるレイフォンの斬撃に吹き飛ばされる。
地面を転がりながらも体勢を立て直し、剣を正眼に構える。
そして、レイフォンも剣を正眼に構える。

「「ふっ!」」

互いに一呼吸を置く。

グラムがレイフォンの次の出方を見るべきかと考えた瞬間、レイフォンは、外力系衝剄【閃断】をつ。
すぐさまグラムは、右へと飛ぶが隙を突かれた為、回避しきれず左のふくらはぎを斬られた。

しかし、グラムは残った右足で【旋剄】を使い、レイフォンの元へと飛ぶ。
だが、片足だけでは速さが足りない為、レイフォンは余裕を持って距離を置こうとする。
そこに、グラムは外力系衝剄【轟剣】を発動させ刀身を伸ばし、逃がさないとばかりに上から叩きつけ、その場に留まらせる。

通常の錬金鋼と【轟剣】を纏っている錬金鋼の鍔迫り合いとなっているが、この一瞬先の結果は誰の目にも明らかだった。

これで決着だと。

グラムもだ。

一人の少女の声を聞くまでは。

「レイフォン!負けないで!!」

レイフォンは息を吹き返したかの如く鍔迫り合いの状態のままから錬金鋼に剄を込め、【轟剣】を発動させる。

ここは引けない!

レイフォンとグラムは、ここが勝負所と感じ取り、【轟剣】状態のまま鍔迫り合いを続ける。

しかし、思わぬ形で終わりを迎える事となる。

互いの錬金鋼が黒から赤褐色へと変わり、煙と熱を放ち始めたのだ。
そして、二人の錬金鋼は剄に耐えられず圧壊した。

圧壊した衝撃で後ろに倒れそうになるが、二人の眼は互いの眼を射抜いている。

この瞬間、二人はデルクの教えを思い出していた。

不慮の事故により、錬金鋼が壊れてしまった場合、どうするか。
一つは、場を仲間に任せ、前線から引き、代えの錬金鋼を取りに戻る。
もう一つは、己の拳を武器として、全力で敵に叩き込む事だ。

二人の取った行動は、

後者だった。

倒れそうになった所で、右足を下げ、踏み止まる。
その状態から、全力の剄を込め、腰の捻転を加えた右の拳を放つ。

それらは互いの頬に直撃し、同時に吹き飛び、受け身も取れずに地面に倒れた。

ダブルノックアウトかと思われた所に、レイフォンが立ちあがった。

グラムは……立ち上がる事が出来なかった。

『勝者、レイフォン・アルセイフ!!』

「「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」」




「ん?」

体が動かない。

「僕の勝ちだね。グラム」

倒れているグラムにレイフォンが手を差し伸べる。

「あぁ、僕の負けだよ。レイフォン。」




【孤児院近くの病院】

レイフォンの【閃断】による傷が思いの他深く、グラムだけ入院する事となった。

だが、グラムは一人になりたかったから、ちょうど良いと思っている。

リーリンがレイフォンを応援した時の事を思い返していたからだ。

あの瞬間、勝ったと思った。

だが、リーリンの声を聞いた時、胸に痛みが走り押し切れなくなった。

相談を受けた時から感じていた事だが、今確信に変わった。

「あぁ、僕はリーリンが好きだったんだなぁ。」

自覚したら、恋は既に終わっていましたなんて、笑えもしない。

だが、思わず笑ってしまう。

「ははっ。」

病室に乾いた笑い声が響いた。

「うぅ…。」

泣く事を止められなかった。

「くぅ…ぅぅ…。」

今日は泣こう。

だから、明日からは、また笑って過ごそう。

グラムは布団を頭から被り、泣き声を誰にも聞かれないように泣き続けた。



[23706] 第9話 覚醒
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/25 22:03
第9話 覚醒

【闘技場】

僕とレイフォンの天剣授受者決定戦の後、女王の目に適ったレイフォンが、最後の天剣を授かる事が決まった。

そして僕達は今日、孤児院の皆総出で、闘技場に来ている。
もちろん、レイフォンの天剣授与式を見る為だ。
兄姉に弟妹達は嬉しそうに見ているが、その中でも特に嬉しそうにしているのがリーリンとお義父さんだった。

「うん、リーリンの顔を見てももう大丈夫だな。」

誰にも聞こえないようにそう呟いていた。

「何見てるの?」

「いや、何でもないよ。」

「そう?」

顔を闘技場へと戻し、レイフォンを見る。
レイフォンの顔を見ると、心なしか元気が無い様に見える。

女王の前に、跪くレイフォン。

「汝、如何なる時も、我が剣となり、我に仇なす敵を屠ると誓えるか?」

「誓います。」

「では、この時を持って、天剣を授けると共に『ヴォルフシュテイン』の名を授ける。」

「はい。」

天剣を女王から受け取り、

「レストレーション。」

そして『剣』を天へと掲げた。




「なっ!?」

レイフォンが掲げているのは間違いなく『剣』だ。
『刀』ではなく『剣』だ。
刀独特の刀身が反っていない事や、剣の特徴である両刃が確認出来るから見間違いではない。

隣を見ればリーリンとお義父さんは隠す事なく驚いた表情をしている。

「レイフォン…、何を考えているんだ?」




【孤児院】

レイフォンが王宮から帰ってきた。
みんな喜んでいるのだからこの場で問い詰めて、雰囲気の壊す事だけは避けないといけない。

弟妹達は、レイフォンに抱きついて色々聞いている。
女王様と何を話したの?とか、天剣ってどうなの?とかだ。

僕は少し外に出ると言って、孤児院の庭に出た。

「なんでだよ。レイフォン。」

一人ごちていると、

「グラム…。」

庭に出た僕にリーリンが追って来たようだ。
顔からは不安の色が滲み出ている。

「レイフォンはどうして剣を選んだんだろう…。」

「それは…本人に聞いてみないとな。」

色々考えてはいるが答えは出ないままだ。

「リーリンはどう思う?」

「私も…、分からない。でも、天剣授与式のレイフォンの顔はずっと曇ってたよ。」

「だったよね。うん、後で僕がレイフォンに聞いてみるよ。」




その日の夜、僕はレイフォンを呼び出した。

「レイフォン。」

「…グラム。」

顔が曇っているのが分かる。
僕がこれから聞く事が分かっているのだろう。

「僕が聞きたい事は分かるよね?」

「…うん。」

「どうして天剣の設定を『剣』にしたんだ?」

「……。」

「言えないの?」

嫌な沈黙が流れる。

「刀が嫌いになったとか、サイハーデンが嫌になったとかじゃないんだよね?」

「うん…。」

「……。」

「……。」

そしてまた沈黙が流れる。

「僕との一戦どう感じた?」

「すごい…楽しかったよ。」

表情がぎこちないが、本当に楽しかったのか口角が少し上がっているのが判る。

「分かった。ならこれ以上は聞かない。理由は話したくなった時に話してくれればいい。」

「グラム…。」

「この場を取り繕う為に、嘘を吐かれるのも嫌だから。でも、あまり待たせないでね?」

そう言い残しグラムはレイフォンに背を向け、孤児院へと入っていく。

レイフォンは、グラムが孤児院の中に入ったのを確認してから、一言漏らした。

「…ごめん。」




次の日、道場は凄いことになっていた。
門下生になりたいという人間が押し寄せてきたのだ。
グラムとレイフォンが無敗を誇っていた時から、ちらほらと増え始めてはいたが、レイフォンが天剣を取るまで、サイハーデンはそこまで有名では無かった。
規模は小さいが、歴史は有る武術というのが昨日までのサイハーデンの評価だ。

だが、グレンダンに於いて『天剣授受者』と成った武門というのは、大きな意味を持つ。
誰もが認める最強の称号にして、最強の存在だからだ。
だからこそ『天剣授受者』を輩出した武門に入り、自分も後に続きたいと思ってしまうのは、当然の事なのである。

そして、今この状況に四苦八苦している少女が一人いる。

リーリンだ。

「ほんとに、もうっ!」

いつも通り起きたら、道場の方が少し騒がしいので庭に出てみると、まだ開いていないのにも関わらず、長蛇の列が出来ていた。
私はその対応に追われているのだ。
道場の前に受付所を仮設し近所の人にも手伝いをお願いして対応しているのだが、昼を過ぎても人が減りそうな気配が一向にない。
むしろ増えているとさえ感じてしまう。

「リーちゃん、今のうちにご飯食べちゃいなさい。」

「はぁい。」

手伝ってくれているおばさんにそう言われ、私はその場を離れご飯を食べる事にした。

庭のベンチでおにぎりを食べていると、昨日の事を考えてしまう。
グラムはレイフォンと話してくれたようだけど、

「ごめん、リーリン。少し時間が掛かるかもしれない。」

そう言って悔しそうな顔をしていた。
今までずっと一緒にいて隠し事なんて一度も無かったからだ。
私も聞いてみようと思ったけれど、聞くに聞けず今に至っている。

お義父さんとも話せていない。
朝から新しい門下生の対応に追われているからだ。
だが、元気が無いのは遠目に見ても分かる。
皆にその気持ちが伝わらないようにしているが、私には分かった。

レイフォンは何を思って『刀』を手放したのだろうか。
その答えが分からない。
何か問題を抱えているなら相談して欲しかった。

「すいません。」

「あ、はい。」

考えに没頭していた為、驚いた様な声が出てしまった。

「こちらがサイハーデンの道場でいいのですか?」

私の前に、一人の少年がいた。私よりも年上で、眼鏡をかけた銀髪の少年は人当たりの良い笑みを浮かべていた。

「はい、そうですが、受付はあちらですので、お送りしましょうか?」

「いえ、違います。僕は外来者でして。」

外来者という事は、放浪バスで都市の外からやって来たのだろうか。
グレンダンは、放浪バスの行き来が少ない為、乗換を行うのに一週間以上掛かったりもするから短期滞在中なのかもしれない。

「先日の試合を偶然、見せて頂きました。とても感動したので、彼に直接会ってみたいと思ってしまい、足を運んだのです。」

「あぁ、そうだったのですか。でも、ごめんなさい。今日は王宮の方にずっといるはずだから、帰ってこないと思います。」

レイフォンは天剣授受者にふさわしい出で立ちとなるための準備が始められている。
天剣の設定や調整、専用の都市外装備を用意するらしい。

でも、リンテンス様の格好やバーメリン様のあの奇抜な格好は、天剣授受者にふさわしいとして用意されたものなのだろうか。

少し考えがズレてしまったが、レイフォンはしばらく王宮から出れないと聞いている。

「残念ですね、滞在期間中には会えそうにないようだ。」

「ごめんなさい。」

「いえいえ、あなのせいではありませんから。……彼と闘った方もこの道場の方と聞いたのですが、その彼には会えますか?」

「あぁ、グラムなら今、道場の前にいますよ。」

「分かりました。ありがとう。」

少年は礼を言うと、グラムの方へと歩いて行った。




グラムは昨日の事ばかり考えていて受付の手伝いが疎かになってしまっていた。
色々と考えてはみたが、レイフォンが刀を持たない理由が思い浮かばない。
その逆の剣を持つ理由として考えてもだ。

可能性を考えては否定し、考えては否定を続けていた。

話してくれるのを待つとは言ったが、気にする事を止めるなど出来なかったのだ。

「こんにちわ。」

また考えに耽りそうになる所に、銀髪の少年が声を掛けてきた。
入門希望者なのかと思ったのが顔に出たのか、

「いえ、私は入門希望者でなく天剣の方に会ってみたいと思い来たのですが、生憎彼はいないようですね。そこで、決定戦で戦った同門の方にお会いしたいと思い貴方を訪ねました。」

「あぁ、なるほど。僕の答えられる範囲でなら答えますよ。えっと…。」

「申し訳ない。名乗っていなかったね。私はカリアン・ロス。」

「ロスさんですね。僕はグラム・ダインスレイフ。グラムでいいですよ。」

「なら私のこともカリアンで。」

最初の印象は、5つぐらい年下であろう僕に礼儀正しく丁寧に接してくれる良い人だった。

立ち話というのもなんだったので、道場の縁側に座る事にした。

「グラム君は、何故その歳で汚染獣戦に出ているのだい?このグレンダンなら大人の武芸者が何とかしてくれると思ったのだが?」

この手の質問が来るという事は、おそらく外から来た短期滞在者なのだろう。
グレンダンでも子供の10に満たない頃から汚染獣と戦うなど、珍しい事ではあるが「強ければ戦う」というのがここでの常識だった。

「僕が戦ってたのは、孤児院の経営の為です。育ててもらった恩があるので。都市を守るのはついでで、汚染獣を倒すと報奨金が出るから戦っています。」

カリアンは驚いているようだが、それもそうなのかもしれない。
他の都市では、武芸を神聖視する人が大多数らしい。
都市を守る事を誇りとしているのだそうだ。

でも、自分はサイハーデンとしての誇りは持っていても、都市を守る事に誇りは持っていない気がする。
孤児院の皆の安全の為に戦っているのであって、都市は本当についでなのだ。

「軽蔑します?」

初対面なのに、質問に対し思っている事をそのまま伝えてしまったのは拙かったかもしれないと思ったが、

「いや、驚いてはいるが、私としてはそのように考えてくれている方が、親しみが湧くかな。」

今度はこっちが驚く番だった。
否定はされないとしても、肯定されるとは思っても無かったからだ。

「都市を守る事に誇りを持っている人を決して悪く言う訳ではないが、お金を稼ぐために戦うという方が人間らしくて良い気がしてね。」

「そうですか。」

思わず嬉しくなってしまった。
自分は間違っていないのだと、肯定された気がしたのだ。

「それはそうと、話し掛ける前に何度も溜息を吐いていた様だが、どうかしたのかい?」

良く見ている。
いや、今の自分はそれだけ悩んでいるのだろう。

「いや、友達とケンカしてしまいましてね。どうやって仲直りしようか悩んでいるところだったのですよ。」

さすがにこればっかりは本当の事は言えないから、ぼかしておく事にする。

「ふむ、出来るだけ引っ張らない事をお勧めするよ。長引くと互いに謝りにくくなってしまうからね。」

うーんと唸りながら、どうやって話し合えばいいか考えていた所で、突然地面が揺れた。

都震だ。

続いて、サイレンが鳴り響く。

「カリアンさん、シェルターに避難を!」

「グラム君、最後に一ついいかな?」

「短い質問であればどうぞ。」

「私が汚染獣戦に関して君に助けを求めたら、助けてくれるかい?」

「その時は、お金を頂きますよ。」

ニヤリと笑ってそう返事した。

「分かった。色を付ける事を約束しよう。」

そう聞いたのを確認してから、孤児院へ急いで戻り、都市外戦装備をチェックする。

刀の鋼鉄錬金鋼は新調した。
レイフォンとの天剣授受者決定戦で、壊れてしまったからだ。
今まで壊れた事なんか無かった。
また、壊れたらどうしようと右手に握る錬金鋼を見るが、考えていても仕方が無いと思って止めた。

錬金鋼を腰に納めて、急いで外縁部へと向かった。

「変わった人だったな。」

この時は、彼とまた再会する事など考えてもいなかった。




今回の汚染獣は、幼性体が3000体に雄性体の四期~五期が5体だ。
幼性体は、新人を含む部隊が担当し、雄性体には、ベテランの部隊が討伐する事になった。
グラムはベテランの部隊に配属された。
決定戦や今までの功績を考えれば当然の事だ。

だが、現在の戦況は芳しくない。

この部隊の戦力からすれば、問題がある戦力ではないはずなのにだ。

問題があるのは僕の方だった。

レイフォンとの事が頭から離れず戦いに集中出来ていない。
刀に流れる剄を見るが、歪な形をしていて無様な事この上ない。

おかげで、剄技の切れが悪く思うように汚染獣の殻が斬れないのだ。

「くそっ!」

思わず悪態を吐く。

落ち着きを取り戻す為に、現在の状況を頭の中で確認していく。

作戦はこうだった。
10ある部隊のうち8部隊を幼性体に向け、残りの2部隊で雄性体を倒す。
雄性体は5体の内3体をグラムが引き付け、2体を1部隊ずつで受け持つ。
1部隊約10人で構成されている為、武芸者の数は十分に足りている。
天剣となったレイフォンと渡り合ったグラムだからと、部隊長が考えた作戦だった。
部隊の誰もそれを無茶だと思ってないし、グラムもそう考え了承した。

雄性体は四期~五期で構成されているが、戦った事が無い訳ではない。
だからいつも通り戦えば大丈夫だと思っていた。

体は好調でも心が荒れていると、こうまで響くものなのかと今現在身を持って知る事となっている。

今更後悔しても仕方がないし、状況を打破するには考える事を止めてはならない。

「集中だ、集中しろ!」

自分に言い聞かせるのは、これで5回目だが時折ノイズのように、レイフォンの事が頭をよぎる。
その度に、集中力が切れるのだ。

そして、状況はさらに悪化していく。
剄息も乱れてきて、動きがさらに悪くなってきたのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

ちらりと雄性体と戦っている部隊を見るが、まだ時間は掛かりそうだった。

「っ!」

目を少し離した瞬間に、グラムを喰い千切ろうと汚染獣が襲い掛かってきた。

汚染獣の鋭い足と牙を寸での所でかわす。

敵から目を離す等、普段なら絶対にしない事なのにと思いながらも、悪態を吐く余裕はもう無い。

「ふっ!」

鋭く息を吐き、落ち着きを取り戻そうと体勢を立て直す。

グラムは作戦という作戦ではないが、全力の剄を込めた一撃でまずは汚染獣を1体減らす事を決める。

今の剄がどんなに無様な形であろうと、全力で打ち込めば汚染獣を断ち切れると考えたのだ。
それは苦し紛れではなく厳然たる事実であり、自分の力を過信しているのではない。

外力系衝剄【轟剣】を使い、刀身に剄を纏わせる。

「うりゃぁああああああ!!」

今の自分の迷い諸共、汚染獣を断ち切る為に、刀を振り下ろす。

汚染獣は耐えたかに見えたが、それも一瞬の事で、体を両断された。
切り口は、刀で斬ったとは思えないぐらい荒々しいものとなり、斬ったというより押し潰したという表現が正しい。

だがこの時、グラムは見落としていた。
前提条件を満たしていない事を。

レイフォンとの一戦後、グラムは考えるべきだった。

天剣となれるだけの剄を持ったレイフォンと張り合えた事を。

そして、その結果、錬金鋼が圧壊した事を。

グラムの全力を込めた剄により錬金鋼は、放熱の限界値を越え、溜まった熱により赤褐色へと変色する。

「またかっ!?」

そう言った瞬間に、錬金鋼は圧壊してしまった。

そしてその隙を逃す汚染獣ではない。
残った2体は、武器の無くなったグラムへと猛然と飛来していく。

「僕は…死ぬのか?」

こんな所で死ぬのか。

まだ何も成していない。

孤児院に恩を返せていない。

レイフォンとの仲がこのままでいいはずがない。

死んだらリーリンは泣くだろうな。

……。

リーリンは泣かせない。

レイフォンとだって生きてさえいれば仲直りできる。

孤児院に恩を返す。

成すのはこれからだ。

そうだ。

眼を開いてしっかりと見ろ。

ドゥリンダナを倒す。

そして、姉さんを助ける。

だからこんな所で、

「死んでたまるかっ!!」




カチリ




頭の中で何かが填まった気がした。

金髪のグラムの髪から突如として、黄色い光の燐光を放ち出す。

グラムは、突然のことで、何が起こったか解からなかった。

ただ、汚染獣の動きが全て手に取るように見える。

いや、視えるだろうか。

あれだけ頭の中がごちゃごちゃしていたのに、今ではとてもクリアだ。

グラムはこの時、気付いていなかった。
髪や眉から燐光を放ち、広範囲の情報を収集・伝達・蓄積・調査・操作を行っている事を。

人はそれを『念威操者』と呼ぶ。

通常、念威は先天性のものであり、後天的には生まれない。
そして、念威が扱える者は、通常の剄技が使えなくなる。

だがグラムは、後天的に念威操作が扱えるようになり、通常の剄技も扱えるという稀有な存在へと成ったのだ。

2体の汚染獣が飛来していくるが、その間隙を縫うように【旋剄】で飛び抜ける。

汚染獣は、地面に衝突し、グラムは逆に空へと舞う。

死に掛けていたのが嘘のように、体が軽い。

錬金鋼が無いのは痛いが、今更無い物ねだりしても仕方が無い。

それに今の僕なら、有り余る剄を使って出来そうな技はある。

手と足の計4箇所に剄を込める。

外力系衝剄の変化【閃断・嵐】

普通なら、斬撃系の武器を使って連続で【閃断】を放つ技であるが、グラムは手刀と足刀から放とうとしている。

右の手刀を掲げ、袈裟斬りの要領で振り下ろす。
一発目の閃断が汚染獣へと向かっていく。

右手を振り下ろした反動をそのままに、独楽の様に体を回し、二発目の閃断を左の手刀から放つ。

回転を止める事なく三発目の閃断を右の足刀から放つ。

最後の四発目は、胴回し蹴りのように体を捻り左の足刀から放つ。

計4つの飛ぶ斬撃が汚染獣を襲う。

「1体外したか。」

さすがに切れ味は悪かったが、1体は倒せた。

残った1体が羽を使い飛び上がってきた。

空中では、最低限の動きしか出来ないが、頭に入ってくる汚染獣の飛行速度や角度、そして大きさ等の情報から体の捻りだけでかわす。

汚染獣は、体のすぐ傍を高速で飛び去り、急激な方向転換を加え、こちらを正面に捉えた。

まだ自由落下中のグラムであるが、その顔からは焦っていた表情は消え、むしろ余裕の笑みさえ浮かべている。

汚染獣は、次こそ喰い千切らんとグラムに猛然と襲い掛かる。

「はっ!」

外力系衝剄の変化【閃断】

覇気と共に、全力の剄を込めた右回し蹴りの足刀から放たれる。

【閃断】は、汚染獣を正面から捉え、その勢いは留まる事無く、体を泣き別れにしていく。

2つに裂かれた汚染獣は、グラムの脇を通り過ぎ、地面に激突した。

地面に着地したグラムは無残に倒れ伏す汚染獣を睥睨するが、緊張の糸が切れた為か、その場に倒れ込んでしまった。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがきという名の謝罪

更新が遅れました。ごめんなさい。

主人公のグラム君ですが「俺」から「僕」に戻しました。
彼はしっくりくるそうですが、作者の私がしっくり来なくて「僕」のままに直しました。
「僕」から「俺」にする件があまりに雑だと思った為です。
レイフォンが「僕」なので、グラムを「俺」にしようかなと安易な考えでやってしまいました。

あと、今まで書いたものを加筆修正中です。
いつUPするかは未定ですが、他の方が書いているのを読んでいると、表現が薄いと感じたからです。
人は人、自分は自分とも考えたのですが、より良い作品にしたいと思いますので、ご了承願います。

とりあえず次の話で「グレンダン 幼年編」が終わる感じです。
幼年編は5歳~10歳までの話で、次の「グレンダン 少年編」が10歳~15歳のツェルニに行くまでの話となっています。

仕事が忙しくて不定期になり、皆様をお待たせしてしまうと思いますが、今後とも宜しくお願い致します。



[23706] 第10話 師弟
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/11/27 20:05
第10話 師弟

「ここは…?」

僕は寝ていたのか。
目を開けると光が目に飛び込んでくる。

「眩しい…」

眩しくて思わず目を細めてしまう。

「起きた?」

この声は、リーリンか?
体は意外と軽く、体を起こす事ができた。

「ここは病院だよ。部隊長さんが運んでくれたの」

「通りで知っている天井な訳だ」

稽古の時に何かあれば、いつも同じ病院なので、気絶して担ぎ込まれる事は何度もあった。
だから知りたくはなくとも、天井を見るだけで自分がどこにいるか分かってしまう。

それにしても不思議な感覚だ。妙に頭がスッキリしている。

「汚染獣の襲撃があってからどれくらい経った?」

「あれから5日経ったわ。グラムはずっと眠っていたのよ」

「そっか…」

「それとね…、グラム…」

何か言い難い事なのか、リーリンが珍しく言い淀んでいる。

「検査の結果なんだけど…」

「まさか…、悪い所でも見つかった?」

剄が練れなくなるとかだろうか。
いや、剄息は出来ているからそれは無いはずだ。
なら、病気でも見つかったか?
などと考えていたら、

「ううん、違うの。念威操作が出来るようになったんだって」

「へ?」

念威操作が出来る?
念威が使えるかどうかは完全に先天的な適正に左右されるはずだったと思うのだが。
いや、それよりも問題がある。

「まさか、活剄と衝剄が使えなくなった?」

そうだとするならば、今後は念威操者として生きて戦わねばならない。
戦闘を行うのに念威操者は必須だが、それはサポートとしての話で、直接的な戦闘には向いていない。
一人でも戦える力を蓄える為に、今まで頑張って来たのに、いきなり使えなくなると考えただけで背筋が凍った。

「普通は使えないはずなんだけど、念威が使えるのに活剄も衝剄も問題なく扱えるらしいよ。先生も首を捻ってた」

「そっか、良かった」

安堵の溜息が出る。
何にせよ、せっかく覚えた技が一切使えなくなる事態は避けられたようだ。

念威が使えるようになったと聞いたからか、妙に納得出来る事がある。
まずは、この頭のスッキリ具合だ。
何もかもがクリアに見えている。
見えていなかったものが見えるといった感じだ。
あれだけレイフォンの事でごちゃごちゃ考えて死に掛けたのに、今は情報が足りないから仕方ないと考えている自分がいる。

念威操者は、情報を収集・伝達すると共に蓄積も行えると聞いたが、今は何も入ってないから頭がスッキリしているのだろうか。
という事は、今の僕の頭の中はスッカラカン…。

そう考えたら、途端に悲しくなってきて両手で顔を押さえて蹲ってしまった。

「どうしたの?」

「何でもないなよ、リーリン」

無理矢理笑顔を作ってそう返しておく。
これから詰め込んでいけばいいのだし、覚えられる事が一般人より増えたとプラスに考えておこう。

「今でも使えるの?」

「ずっと寝てたから、それ以来使ってないけど、大丈夫だと思うよ」

今は危険もないから、集中しやすいように目を閉じ、あの戦闘の時と同じように、精神を集中する。
先天的に念威操者になった人間は、呼吸をするとの同じように最初から念威を使える事を体が知っているという。
なら、僕も呼吸をするのと同じように使う事が出来るはずだ。

そう考えていると、グラムの周りに燐光が輝きだす。

「どう?」

グラムは目を開けて、リーリンに聞いてみる。

「何ていうか凄いね。黄色い光がきれいだよ」

「これが念威か」

体の回りを燐光が瞬いている。
せっかくだからと、病室内の情報を読み取りだすが、普段見えている物を見ても面白みに欠ける。
ふとリーリンに注意を向けると、リーリンの情報がどんどん入ってきてしまった。
主に身体情報が数値化して…。

「あぁ~、リーリンのスリーサイズが解かるよ」

「え?」

同年代の中では凄いのではと思いつつ、つい口が動いてしまう。

「えっと上から順に…ぶっ!」

突然、むぎゅっと顔をリーリンの手に挟まれた。

「グラム…」

リーリンの髪が天を衝かんが如く逆立っている。
まさに怒髪天だ。
これは本気で怒っている。

「ずびまぜんでじだ」

顔を挟まれて上手く喋れない。
この後、小一時間説教をされてしまうこととなった。
あとリーリンの前で、今後は念威の使用禁止が義務付けられた。

「本当にすいませんでした」

「反省したなら、よろしい」

他にも聞きたい事があったので、話題を換える事にする。

「僕が寝ている間に、何か変わった事とかあった?」

潰されて赤くなった頬をさすりながら尋ねる。

「うーん、レイフォンが初の老性体戦をしたみたい。後見人はリンテンス様だったけど、待っている間は気が気じゃなかったわ」

深い溜息を吐いている所を見ると、本当に心労が凄かったのだろう。

「レイフォンもそうだけど、グラムも心配掛けさせないでね」

リーリンが僕の手をそっと握る。

「うん、ごめんね」

僕はその手を握り返した。
怪我だけは気を付けないと、またリーリンに心配を掛けてしまいそうだ。
リーリンの顔を良く見てみると、目が腫れている。
泣かせてしまったのかもしれない。

もっと力を付けないと駄目だ。
念威が使えるようになったのだし、まずは自分の能力を見極めていかなくてはならない。

「他には何かある?」

「そうだな。レイフォンはどう?」

「刀から剣に替えた事以外、孤児院の中ではいつも通りよ」

「そっか、良かった。孤児院の中でぎくしゃくしていないのなら大丈夫なんだろうな」

「レイフォン、もう刀を持たないのかな…」

「必ずまた刀を握ってくれるよ。僕が約束する。あ、もうこんな時間だし、みんなお腹空かせているよ」

「ありがとう。…そうね。今日はもう帰るね。起きれるようになったから、明日には退院出来ると思うよ」

「うん、来てくれてありがとう」




レイフォンが老性体と戦った日、女王の暗殺計画が実行された。
だが、企みは女王側に全てバレていて一蹴されることとなる。
暗殺実行者の中には、現天剣が3人もにいたが、女王はそれをものともしなかったのだ。
そして主犯は、女王と同じ三王家の一人、ミンス・ユートノールだった。

ミンスは、自分こそが天剣に相応しいのに、自分より年下のレイフォンを選んだ女王が許せなかった。
その思いから、天剣を抱え込み女王暗殺を画策するも失敗する事となる。

しかし、女王側としてはグレンダンの財政状況からユートノール家を潰す事はできず、罰ゲームと称しレイフォンと戦わせる事にした。
レイフォンに勝てたのなら暗殺の事をチャラにした上で、天剣を授けると言われたミンスは、これを好機と考えレイフォンに突撃を仕掛ける。
だが、レイフォンは錬金鋼を待機状態へと戻し、その辺に転がっている石を投げただけだった。
余裕でかわすミンスであったが、直後、石は物理的な法則を無視し、ミンスのこめかみへと吸い込まれていく。
思いもしない所からの石の直撃を喰らった為、ミンスは昏倒し、身の程を弁えない茶番劇は幕を閉じる事となる。

後に、ミンスはレイフォンを逆恨みし、陥れようとする事を、レイフォンもリーリンも、そしてグラムもこの時は全く予想もしていなかった。




「剄と念威を同時に使える人間なんて、普通はありえないなんです。何か不調や異変を感じたら、すぐに病院に来るのですよ?」

「分かりました。ありがとう、先生!」

僕は先生に手を振ってから、孤児院へと駆け出していく。

後もう少しで着くという所で、一羽の蝶が舞い降りる。
だが、この蝶は光っている。
となるとこれは、

「デルボネ様?」

『おはよう、グラム』

「おはようございます」

蝶の形をした念威端子から声が聞こえてくる。
自分も念威が使えるようになったのだから、念威操者が好んで使う重晶錬金綱が必要かもしれないと考えていると、

『グラム、この前の戦いは見させて頂きました』

「あ、はい。」

声から伝わる印象から、何か重たい話でもあるのだろうか。
妙な威圧感を感じる気がする。

『単刀直入に言いますから、良く聞いてくださいね』

「……」

『あなたをデルボネ・キュアンティス・ミューラの弟子にしたいと考えています』

急過ぎて、思考が止まった。
再起動するまでの時間は3秒。

「本気ですか?」

念威を使えるようになって1週間も経っていない人間に言う事とは思えなかった。
確かに、弟子が欲しい事は理解出来る。
デルボネ様の後継者に成りえる者は、現状現れていない。
だからこそ、齢100歳近くになっても現役を続けていらっしゃるのだ。
既に、デルボネ様が死ぬまでその席が空席になる事はありえないと言われている。

『もちろん、本気ですよ。あなたの念威を見たけれど、資質だけを考えればグレンダンにいる全ての念威操者より優れています』

「そんなにですか…」

使えるようになったばかりで、こんな事を言われても実感が湧かない。
でも、デルボネ様がこの場で僕に冗談を言うとも思えない。

『これからの伸びしろに期待と言ったところですね』

これはどうしたら良いのだろうか。
デルボネ様の下で念威を磨く事は、必ずために成る。

だが、自分の本来の目的も忘れてはならない。
姉さんを助けるには、グレンダンに永住する事は出来ない。

『あたなの本来の目的の為に、私の下に弟子入りする事は悪い事ではないはずよ?』

「知っているのですか?」

『私も【あちら側】とは無関係では無いということです』

「!」

事情を知って尚、手を引いて頂けるというのなら…。

『他に何か問題でも?』

「あの…、お義父さんに相談しても宜しいでしょうか?」

『分かりました。色よい返事をお待ちしておりますよ』

そう言うと、蝶型の念威端子は飛び去って行った。




「ただいまぁ」

「おかえり、グラム」

リーリンが笑顔で出迎えてくれる。

「お義父さんは?」

「道場で稽古をつけてるわよ」

「わかった。ちょっと行ってくる」

門下生は大勢入ってきているようだ。
道場に近づくにつれ稽古の声が聞こえてくる。

ふと、門下生が増え始めた頃を思い出す。
最初、お義父さんは門下生全員に、レイフォンと僕が受けた稽古と同じように、血反吐を吐くまでやらせるつもりだったようだ。

「それだと全員逃げてしまうよ」と、進言した所、踏み止まってくれて、本当に強くなりたいと思っている者を選別していこうということになった。

普段は一般人と一緒に働いているような武芸者や武術に触れてみたいという一般人は、一般コースへ。
汚染獣と戦う事を目的としている人には、実戦コースへ。
この2つを用意した事で、自分に合う修練が出来るようにしてもらった。
思いの他上手く回ってくれているらしく辞める人はまだ出ていない。
急に門下生が増えたからが、お義父さんの負担が増えたが、支えてくれる門下生もいるので大丈夫なようだ。
これでまた収入源が増える事となり、孤児院の安定性は前よりさらに良くなった。

「お義父さん、話があるんだけど」

「おぉ、グラムか。縁側でちょっと待っていなさい」

「うん」

さっきのデルボネ様との会話を思い出しながら縁側で座って待っていると、

「待たせたね」

「ううん、大丈夫」

「それで、何かあったのか?」

表情から読み取ってのか、そう聞いてきた。

「さっきデルボネ様から連絡があって、念威操者として、弟子にならないか?と、誘われました」

「なんと!」

お義父さんは驚いた様子だ。
それも当然だ。
今まで弟子を取った等聞いた事が無いからだ。

「でも、行っていいのかどうか正直迷っています。僕はサイハーデン以外の技を習っても良いのかどうか」

そう言った所で、俯いてしまう。
迷っているのはそこだった。
サイハーデン以外の技を習う事がお義父さんに対し悪い事をしているような気がしたからだ。
ずっとサイハーデンの刀で戦ってきた。
だからこそ他の技を習うのには抵抗がある。

「ふむ」

お義父さんは、頷くと僕の頭の上にぽんと手を乗せた。

「おまえには目的がある。学べるものは学びなさい。サイハーデンとは戦う為だけの武術ではない。生き残る為の武術なのだから。生きる確率上げる術が目の前にあるのなら、迷わず選びなさい。これから色々学んでいったら、おまえなら新しいサイハーデンを興せるかもしれんしな」

そう言って微笑んでくれた。

「ありがとう、お義父さん。僕、頑張るよ!」

さっそくデルボネ様の所へ行こうとすると、

「ちょっと待ちなさい。私からも言っておくことがある」

「はい?」

「グラムやレイフォンのおかげで孤児院の経営は軌道に乗ってきている。だからこれからはもしもの時の為に、お金は貯めておきなさい。今まで施してきてもらっている身で勝手な言い分かもしれない。だが、姉を助ける為には、色々な都市を見て回る必要が出てくるかもしれない。そう考えると、旅費やら生活費は今から貯めておくべきだ。旅費や生活費だけでなく何をするにもお金が必要になるだろう。だから…」

「うん、解かった。じゃあ、これからは報奨金の半分を貯める事にするよ。でも、大変そうになったら孤児院に入れるからね」

「あぁ、この老体には少し厳しいが頑張るよ」

「またまた~、お義父さんならまだまだいけるよ」

お義父さんが冗談を言うなんて、心に余裕が出てきたのかもしれない。
もしくは、レイフォンの事が気になりつつも元気である所を無理矢理見せている。
おそらくは、後者だ。




孤児院の門をくぐって出た所で、蝶が舞い降りた。

『答えは出たようですね』

「はい、僕を弟子にして下さい」

『分かりました。では、グラム・ダインスレフ。あなたを正式にデルボネ・キュアンティス・ミューラの弟子とします』

「よろしくお願いします!」

『さっそくで悪いですが、女王様に報告と顔見せをしてもらいたいので、王宮の方に向かってください』

「はいっ!」

僕は新たな決意と新しい力と共に、王宮へと歩き出していった。




王宮に着いたら、衛兵の方に謁見の間にまで通された。

そして今この場にいるのは、僕と女王だった。

僕は前で跪き、そんな僕を女王は値踏みしているかのようだ。

アルシェイラ・アルモニス様。
グレンダン三王家の一角にして、現女王である。
そして、天剣を纏め上げる事が出来る唯一の人物にして、史上最強の剄の使い手でもある。
実際に戦う姿を見た事は無いが、アクの強い天剣授受者達を纏めているのだから、とても嘘とは思えなかった。

「顔を上げなさい」

「はい」

「デルボネから話は聞いているわ。正式に弟子になったそうね」

「はい」

緊張してか、声が上ずってしまう。

「そんなに緊張しなくてもいいわよ。さて、弟子になったのなら、今後は『準天剣授受者』として扱って行く事になるから」

「準天剣授受者とは?」

それにしても、女王の言葉遣いが崩れてきてるような。

「まぁ、難しく考えなくていいわ。交代するとデルボネが私に進言すれば、そのままグラムが天剣授受者になるのよ。あと、他の天剣がグラムに譲ると言えば、その場合も、グラムが天剣授受者となる。分かった?」

「そういうことですか。分かりました」

「では、略式だけど忠誠を誓ってもらうからね」

空気が変わる。

「はい」

「汝、如何なる時も、我が剣となり、我に仇なす敵を屠ると誓えるか?」

「誓います」

「うん、よろしい。他に質問なんか無ければ、今日はこれで終わりだけど?」

「はい、大丈夫です」

「他の天剣への紹介はまた今度ね」

「分かりました。では、失礼します」

そしてグラムは、謁見の間を後にした。




アルシェイラは、グラムの背中を見送っていた。
デルボネからの報告では、この世界の外から来たらしい。
デルボネがそう言うのだから間違いないのだろう。

そして世界に類を見ない特殊な体質を持っている。
私でさえ、剄と念威の同時運用など出来ないというのに。

さっき視てみたが、潜在的な剄量は、どの天剣授受者よりも多い。
体の負担にならないように、成長に合わせて使える剄量が増えていると言ったところか。
私よりちょっと少ないぐらいだが【あちら側】で生まれたのであれば、成長の度合いによって越えるかもしれない。
非常に楽しみな逸材ではある。

天剣が12人揃い、そしてグラムという新たな剣も手にした。

「天剣がもう1本あれば、渡せるんだけどねぇ」

無いものねだりしてもしょうがないが、そう思わずにはいられない。
天剣の数が足りないというのは前例に無い。
今までは、天剣はあれどそれを扱えるだけの人材が存在しなかったのだ。
天剣授受者決定戦で、レイフォンに軍配が上がったから、彼が天剣を握る事となるが、あの時グラムが勝てば彼に渡していただろう。

「う~ん、それはそうとサヤに会わせるべきか迷うわね」

サヤとは、グレンダンの真の電子精霊である。
この世界の創世記から存在したとされる電子精霊の祖。
そして、武芸者の祖とされるアイレイン・ガーフィートのパートナー。
だが、今は眠りについたままだった。

天剣の面子にも会わせた事はないが【あちら側】と無関係ではないグラムになら、例え寝ている姿でも会わせる事に意味があるのかもしれない。

「でも、それは今後の経過次第ね」

一先ずグラムとサヤの事は保留にしておく。

「あとは『目』があればこちらの手札は揃ったことになるのだが」

これから来るであろう地獄のような戦場に対応するには、『茨の目』は必ず必要となってくる。
『茨の目』とは、かつてアイレンインの右目に宿っていたものだ。
その目は全てを見通し、全てを眼球に変え、そして『茨の目』という名の世界に全てを取込む。
この世界を破壊出来る敵に対抗するには、こちらも世界を持ってして挑まなければならない。

本来であればもう探す必要等無かった。
能力的に完成された私と結婚が決まっていたヘルダー・ユートノール。
彼が侍女と駆け落ちなどしなければ、私との子でアイレインと同等の力を持つ完成型が生まれたはずだ。

「ヘルダーのバカ。こんな美人放っておいて駆け落ちなんて…」

そして、彼らはグレンダンを出る寸前の所で、何者かの計略により暗殺されてしまった。
今更どうしようも無い事だが、たまに一人になると思い出してしまう。

「あ~、やだやだ。辛気臭いのは性に合わないわ。カナリスに執政権預けて学校でも行こうかしら」

頭を掻きながら、決めた事を即実行する為に、カナリスの元へ向かう。
学校へ行くと聞いたらカナリスはまた泣くだろうが、頑張ってね。

「さて、色々と楽しくなってきたかな」




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

これで「グレンダン 幼年編」は終わりです。

次回からは「グレンダン少年編」です。
デルボネの下で念威の修行をしつつ、通常の錬金鋼だと耐えられないので打開策を考えたり、特殊な能力開花させたりしていきます。

レギオスの最新刊読んで「連弾」をレイフォンが使うようになったのですが、グラムの打開策の案の一つに「連弾」みたいなのも考えてたんです。
しかし、そのまま採用しようか悩んでいます。

うーん、「連弾」とオリジナル剄技の2つで錬金鋼の強化を図ろうかな…。
どちらを使ってもグラムは全力出せませんけどね(汗)

ではでは、次回も宜しくお願い致します。



[23706] 第11話 修行
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/12/03 18:44
第11話 修行

師匠の下で修行を始め、3ヶ月が経過した。
念威の基礎をみっちりと仕込まれている最中である。
訓練の合間や休憩の時間には、剄と念威の合わせ技を考えている為、本当に休憩になっているか分からない。
合わせ技について、師匠から助言を貰っているが、こればっかりは僕が自分で考えないとならない。
剄と念威を同時に扱える人物等、グレンダンにはいない、いや、世界中探してもいないだろうから。

念威修行は基本的に5つ。

1.念威の基本操作及び情報処理
 最初の訓練は、目隠しをして、都市を移動することだった。
 これは視覚以外で情報を得る事を目的とする訓練だ。
 一般の念威操者は、生まれながらに扱い方が解かってる為、こんな訓練はしない。
 だけど、僕は後天的に発生した念威操者なので体に覚えさせ、馴染ませて行く必要がある。
 今まで視覚や剄の流れに身を任せていた為、実際やってみるとこれが中々難しかった。


「はい、これで目を隠して下さいね。」

僕は師匠のいる病院の一室で、目隠し用の布を渡された。

「はぁ」

「一つ目の鍛錬は目隠しをした状態で、都市内を縦横無尽に移動出来るようにすることです。グラムはまだ念威に慣れていません。しかし、時間がある訳でもありませんので、体に叩き込んでいくことにしましょう」

動き回るだけならきっと大丈夫だと思い、目隠しを巻いて部屋を出ようとする。

ガツン!

「痛ぅ!」

さっそくドアに顔をぶつけた。
何故だかは解からない。
知覚している感じでは、ドアまでまだ2メルトルは距離があったはずだ。

「あ、それと私がたまに知覚誤認を仕掛けますので、頑張って破って下さいね」

天剣クラスの知覚誤認を破るなんて、無茶を仰り過ぎですよ、師匠…。

念威を覚えて間もない僕が知覚誤認を破れるはずもなく、街灯に正面から突っ込んだり、排水溝に足を突っ込んだりと散々だった。

初日から顔は痣だらけ、服は泥だらけの状態で孤児院に帰ったらリーリンにこっ酷く叱られた。
世界は無慈悲であんまりだと、改めて認識した10歳のグラムであった。




2.念威端子の高速移動化
 念威端子の移動速度を上げれば上げるほど、それだけ必要な情報を取りに行く時間が短縮される為、その分戦闘が有利になる。
 一般の念威操者の場合、移動速度には限界がある。
 それは、重晶錬金鋼の念威端子そのものに限界がある為だ。
 そこで師匠が考えたのは、剄で念威端子をコーティングし強度を上げるという方法である。
 剄と念威が両方使えるからこそ可能であると言えた。


今日は天気も良かったので、病院の中庭で鍛練だ。

「念威端子の高速化を試みてみましょう」

「はい、師匠」

今、グラムが握っているのは、普通の重晶錬金鋼である。
設定はグラムが使いやすいようになっていはいるが、一般的に使われているものと変わらない。

「通常の重晶錬金鋼では、移動速度に限界があります。それは性能的な事ですので、普通は問題視しません。ですが、グラムは剄と念威の両方が扱えますから、剄でコーティングしてあげば、理論的には限界値を超える事が可能と思われます」

「おぉ、僕にしか出来ない事ですね!」

「では、さっそく端子を剄でコーティングしてみなさい」

端子に剄を込める。
端子に込められた剄が徐々に光を増し、増幅しているのが解かる。
やってみてから解かった事だが、手元を離れた端子でも剄を送り続ける事が出来るようだ。
とりあえずここまでは、問題がな…。

パリン!

調子に乗って剄を送り続けた為、端子が爆ぜてしまった。
解かっていた事なのに、量を考えないと呆気なく壊れた。

「あぁ…、剄の量に気をつけなきゃ…」

「錬金鋼は後で見てもらうとして、さっそく飛ばしてみましょう」

「はい」

出だしの移動はスムーズに行えている。
ここからさらに加速を加える。
端子を縦横無尽に飛ばし、情報を取り入れ始める。
その瞬間だった。

「うぷっ」

手で口元を押さえる。
頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回された感じだ。
超高速で流れる映像を複数の端子から同時に取りこんでしまった為、脳内で処理し切れず酔ったのだ。

落ち着きを取り戻してから、今日の修行はこれまでとなった。

「徐々に体を慣らしていくようにしましょう」

「はい…」

予想通りの結果と予定外の結果に、喜んで良いのか悪いのか分からなかった。




3.情報の並列処理
 戦場では、複数の情報が飛び交う。
 それらを整理し、纏め、的確な指示を与え、そして部隊の連携を維持する。
 万を超える汚染獣に攻められて、グレンダンが堕ちないのは、師匠の正確な指示に拠るところが大きい。
 修行の内容としては、師匠が想定する対汚染獣戦に対し、情報を整理し、的確に部隊を操作する模擬戦型の訓練だ。
 最近では、少しずつ実戦にも出て師匠のサポートに回る事もある。


「この鍛錬は、情報の並列処理が出来るようになる事を目指してもらいます。実戦の話になりますが、雄性体が1体2体程度なら例え念威操者がいなくても問題はないでしょう。しかし、万単位で攻めて来られた場合や、円を囲むようにグレンダンに取り付かれた場合は、戦力の分散や錬度の度合いによって配置を考えたりしなければなりません。例え幼性体でも数の暴力は脅威となるからです」

「なるほど」

「本来なら実戦で鍛えていきたい所ですが、慣れない内から出来る事ではないので、この鍛錬では私の端子から汚染獣との模擬戦データを送りますので、武芸者の配置や連携などを考えつつ対処してみなさい」

「戦略ゲームと言った所ですね」

「そのようなものです。」

模擬戦情報が頭の中に入ってくる。

『舞台は、グレンダン外縁部。敵総数、幼性体3000、雄性体5。配分は、北:幼性体1200、東:幼性体800、南:雄性体5、西:幼性体1000』

(ん?この戦力は…)

『そうです。グラムが念威が使えるようになった時のですね。ですが、同じように戦おうとすると全滅する可能性がありますよ』

『でしょうね。これは鍛練ですから、何の捻りも無い訳がない』

最初は、同じように戦うのも有りかと思ったが、指摘をしてくれるという事は、そのままじゃダメということだ。

(こちらの戦力はあの時と同じ、10部隊と…僕か。それにしても数値がかなり細分化されているな。部隊と個人それぞれに数値が設定されているし、差も付いている。部隊の組み合わせから、戦闘力を弾き出し、汚染獣の戦闘力と比較し、戦わせるといったところか。これは相当難しくなりそうだ。イレギュラーの存在も考えておいた方がいいな。今までの師匠の修行と性格から考えると無い方がおかしい…)

『では、始めますよ』




「参りました」

投了です。
当然です。
師匠の指示により的確に動く汚染獣とか反則だと思う。
イレギュラーは師匠本人でしたとか本当にもう勘弁して下さい。

でも、悪い事だけではない。
その後の検討で、僕の考え方や悪手等を指摘してもらえるので、非常にためになる時間だった。

そして、その後も幾度となく模擬戦を行い、グレンダンは蹂躙され続けた。

「参りました…」




4.操作可能念威端子数の増加
 操作可能な念威端子が多ければ多いほど、情報の取得や部隊ごとの連携をより密に行う事が出来る。
 そして、僕の特異性がここでも発揮された。
 一般の念威操者と比べ、10倍の数の念威端子を操る事が出来る。
 その為、ダイトメカニックに特注の重晶錬金鋼を作成依頼している。
 近日中に、テストタイプが完成するらしい。


「色々と確認しておかなければならない事がありますから、今日は念威端子がどれくらい操作出来るか測っておきましょう」

「普通はどれくらいの数を操作するのですか?」

「一般的には10~20で、20を超えた辺りから念威の才能があるとされています」

端子数が多ければ、それだけ情報収集がし易くなる。
あとはそれを統括する僕が情報をしっかりと判別出来るようになれば良いということだ。




「結果は、操作可能な念威端子の数は100ですね。予想以上に凄いことよ、グラム」

「……」

「あら?不満?」

僕は今相当不機嫌な顔をしているのかもしれない。

「重晶錬金鋼を10本展開して、それを両手で全部抱えているのです。これでは戦闘に参加出来ませんよ」

あまりに酷い格好である。

一般的な重晶錬金鋼に設定されている端子の数は10。
それをどこまで操作出来るかという事で、師匠からポンポン錬金鋼を渡されてしまったのだ。

「途中から楽しんでませんでした?」

「あら?何のことかしら?」 「はぁ…」

師匠は途中から楽しそうに渡していたから、間違いないと思う。

「でも、普通の重晶錬金鋼だと最大搭載数は50だから、グラム専用のを作成依頼しておきましょう」

「おぉ、でも特注となればお金に問題が…」

「それぐらいは私が出しますよ。私の弟子ですからね」

そう言って師匠は微笑んでくれた。
釣られて僕も微笑んだ。

しかし、

「これからが楽しい修行になりそうですね」

それを聞いた瞬間、僕の心は落ち込んだ。
気分が浮いていた分、落差が激しかった。




5.念威端子の広域展開。
 2・3・4が最大限に発揮できる為には、最低でも都市を覆えるぐらいの広域展開が必要とされている。
 天剣の弟子、そしてその後釜として考えられている為、この広域展開は必須条件であった。
 3ヶ月でグレンダンの中心からなら全域を探索出来るようになった僕はかなり頑張った方だと思う。


「念威端子の広域展開が必要になる理由は解かりますか?」

「たぶん、汚染獣をいち早く察知する為です」

「それもありますね。他には、汚染獣との戦闘になった時、各部隊との連携を密にする事が必要だからです。例えばグレンダンを囲むように全方向から汚染獣が攻めてきた場合、弱い箇所が出来ないよう各部隊の念威操者と繋ぎ、私やグラムが連携を統括するのです。穴が出来そうな所には、部隊の配置を代えて対応したり、こちらの念威爆雷で補助したりします」

「なるほど」

「部隊の念威操者には、一区画分をカバーしてもらえば良いですが、各部隊を統括すべき私たちは、グレンダン全域をカバーする事になります。最初から全域はさすがに無理ですから、少しずつ広げていきましょう。まずは、グラムの住んでいる孤児院を探索してみなさい。およそ1キルメルといった所ですから、練習にはちょうど良いでしょう」

「では、さっそくやってみます」

さっそく錬金鋼を展開するが、それは何時もの物で、新しい錬金鋼はまだ出来てない。
特注のテストタイプといっても端子の搭載数を倍にするというのは大変な事らしい。
それでも、担当してもらっているダイトメカニックの人に「まかせろ」と言われたので、出来上がりを楽しみにしている。
なので今は、普通の重晶錬金鋼を使っている。

そにしても、さっそくやってみて感じるのが、手元を離れれば離れるほど操作が難しくなっていくのだ。
だが、最終的には汚染物質の舞う都市外でも操作しなければならないだからこれぐらいで音を上げる訳にはいかない。

ふらふらと端子が飛んでいるが、なんとか孤児院に着いたようだ。

庭で遊ぶ弟妹達と、その面倒を見ている兄姉達の姿が見える。
みんな楽しそうに笑っている。

道場では、お義父さんが門下生の人たちを相手に稽古を付けている。
稽古の間は厳しい表情をするが、休憩中は門下生に優しい顔を向けている。

改めて思う。

僕が守りたいものは『これ』なのだと。

姉を助ける。
それこそが絶対の目的だが、孤児院を疎かにするつもりは毛頭ない。
今は切っても切れない家族なのだから。
血の繋がりはなくとも、固い絆で結ばれていると感じる。
皆の笑顔が絶えないように守り抜くと決めた。

決めたならば、あとは実行するだけだ。
そう自分を奮い立たせた。

そういえば、リーリンが見当たらないが買い物にでも行っているのだろうか。

(見つけた)

居間のテーブルで寝てしまっているようだ。

(こんな所で寝ていたら風邪を引くだろうに)

そう思って声を掛けようとした所で、止めた。

レイフォンが毛布を持ってきてリーリンにかけたからだ。

(何を思って刀を捨てたのか解からないけど、根っこの部分はやっぱりレイフォンのままだな)

鈍感だと言われるのは、相手が気付かない所で優しくするからじゃないかと思う。

とりあえず、ほっとした。
安心したとも言う。

そうして僕はレイフォンを信じて待つ事にした。




念威修行はなんとか順調(?)で、後5年もすれば天剣授受者になれるとさえ言われている。
師匠がそうおっしゃって下さったのだから、このまま続けていれば相当域に達するはずだ。




問題は、剄の修行が上手くいっていない事だった。
僕の剄に耐えられる錬金鋼が存在しない所為なのだが。
通常の錬金鋼でどれくらい耐えられるか試し続けたところ、全力の剄の4割に満たないぐらいで圧壊してしまう事が解かった。
ピークはまだ先だと考えると、状況はもっと悪くなりそうだ。

そこで対策案として考えた方法が以下の2つである。

まず1つ目が剄技を強化する事。
剄技を錬金鋼から放ち、そのまま錬金鋼に纏わせておく。
それを何回も繰り返し続け、同時に複数放つ事を目的とした方法だった。
しかし、この方法は化錬剄の部類に入る伏剄のように、剄に指向性を持たせて待機させるということなのだが、化錬剄の知識が無い為、練習はしているものの未だに上手く出来ない。

2つ目が剄で錬金鋼そのものを強化する事。
剄を錬金鋼に纏わせ、錬金鋼の『強度』と『放熱量』の強化を図ったのだが、こちらも上手くいかない。
剄に指向性を持たせるというのは前述の方法と同様に化錬剄の分野の為、失敗が続いている。
強度は上げるところまで出来ても、放熱が上手く出来ずに圧壊してしまうのだ。

これら2つの方法とも化錬剄が解からない以上、先に進む事が出来ず頓挫してしまっていた。

それに、そもそもこんな方法は文献にも残っていない。
グレンダンの誇る王立図書館で、その手の文献を探したり、師匠に相談してはみたものの見つからなかった。

使われない技は廃れる。
剄技と言わず、全てに於いて言える事だ。
それにグレンダンならば、それだけ剄を持っているなら天剣授受者になれる。

揃うまでならば…。

「あぁ、天剣が欲しいと思う事になるとは考えもしていなかったな…」

芝生に寝転がりながら思わずぼやく。

だが、既に天剣は12人揃っており自分が入り込む余地はない。
天剣さえあればこんな事考えずに済むのだが、準天剣授受者とは言え、本当に天剣に成れるか解からない以上、努力は怠れない。

「レイフォンが羨ましいなぁ」

最近、レイフォンとはしゃべる機会がめっきり減っている。
まだ剣を握った理由を聞かせてもらえていない。

上手くいかない事で、本音が零れてしまった。
これは嫉妬なのだろう。
あの時、天剣授受者決定戦で勝っていれば、自分が天剣になれたのではないかと。
今更思っても仕方がない事だが、思わずにはいられなかったのだ。
そんな自分が醜いと自己嫌悪しつつも、全力を出せないもどかしさから苛ついていた。




グラムはこの先約2年間を念威の修行をメインに続けることとなる。
もちろん剄の修行も行っていたが、こちらはたいした成果が現れることはなかった。
念威操者としては劇的に成長し続け、武芸者としては剄の修行が滞る。
だが、ある出来事をきっかけに停滞していた時間が動き出し、彼の成長は加速することとなる。




あとがき

師匠がグラムを弄ぶ話になってしまいました。

デルボネ様を師匠と呼ぶ事にしてみましたが、どうでしょうね。
それにしても念威の修行ってどうやったらいいのか、迷いながら書きました。
フェリ先輩とか普段どうゆう訓練してたんでしょう。

あと、私は念威端子が物質だと思ってこの作品書いてますけど、あれって剄の塊だったりするのでしょうか。
一つの錬金鋼に搭載されてるのが10~20ぐらいかなぁと思いこんな感じになりました。

あと、加筆修正の方ですが、思いのほか上手く進んでませんorz
先の話思い浮かんじゃって、そっちを書いてしまうのですよ。



[23706] 第12話 異能
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/12/07 23:12
第12話 異能

念威修行を始めて2年が過ぎた。
修行は順調で、探索可能範囲は200キルメルを越えている。
予定より良いペースのようだ。

最近になって念威を使い続けても、剄の回復速度が上回る為、常時展開の持続時間向上も修行に含まれている。
理論的には永続的に可能なのだが、脳を使い続ける事は、身体的にも精神的にも負担が大きい。
今はその修行の一環として、グレンダン全域に念威端子を飛ばし、色々と見て回っている。
主に見ているのは、武芸者の鍛錬風景。
レイフォンは剄の流れや体の動きで剄技の発動方法を見抜いた上で、自らも使えるようになる。
もちろん僕はそんな事は出来ないので、見たものを一旦データ化し脳に蓄積する。
そして時間がある時に解析ということをしている。
使えるようになることもあるが、それはごく一部の剄技だけで、それよりはどのような剄技があるか調査し、情報を纏めておける事の方が重宝している。

天剣授受者対老性体の戦闘データも残しているので、ルッケンスの秘奥等もデータとしては残っている。
秘奥と言われる類の剄技に関しては、今現在全く理解出来ないが。

今データを取り続けている技は、その類のもの。

『鋼糸』

現天剣授受者の中でも最強と謳われているリンテンス・サーヴォレイド・ハーデン様が使われている武器の名だ。

技の習得が非常に困難である為、グレンダンでも最近までリンテンス様しか使えていなかった。
理由の1つとして、天剣は弟子を持ちたがらない事が挙げられる。
自らの実力を高めるのに、育てなければならない弟子の存在は邪魔でしかないと考える者が多いからだ。
デルボネ様の弟子となった僕は例外の部類に入ると言えるだろう。
リンテンス様の場合は、その常に不機嫌な雰囲気を周囲に振りまき他人を容易に近寄らせないという理由もあった。
しかし、レイフォンが天剣を取得してから、彼に興味を持ったのか、鋼糸の手解きをしている。

情報収集も兼ねて、僕はその修行風景を見ている訳だが、リンテンス様は教えるのが上手くは無いようだ。
基本はリンテンス様が技を見せて、レイフォンがそれを真似する。
レイフォンだから成り立っている修行だった。

修行を始めたのは、天剣になってから直ぐらしく、僕がデルボネ様に弟子入りしたのとほぼ同時期。
にもかかわらず、既に相当な本数の鋼糸を使いこなしている。

リンテンス様には「俺の1億分の1も使えるようにはならない」なんて言われているようだけど、使える鋼糸の数が増えていくは楽しいようだ。




「今日はここまでだ」

そう言ってリンテンスは背を向けて歩き出した。

「先生、汚染獣にはまだ使用してはダメですか?」

「かなりの数を操れるようになったが、まだまだ足りん。だが、今はこれが限界だ。一人で練習するのは勝手だが、増やすなよ」

「…はい、ありがとうございました」

そう言ってレイフォンは自主練に入った。




端子はそのまま待機させ、情報収集を継続させる。
意識を自分へと戻し、グラムは最近の事を考えていた。

念威修行は順調にも関わらず、全力を出せないもどかしさがある。
それでも剄量は増え続け、今では通常の錬金鋼では3割も出せない。
いっその事念威操者として生きた方が楽なんじゃと思う事があるが、それでは姉さんを助ける事が出来ない。
他の人の手を借りれば何とかなるのかもしれないが、こことは別の世界へに行くのに巻き込みたくはないからだ。

2年前から行っている剄技と錬金鋼の強化法の鍛錬は今も続けているが中々実を結ばない。
化錬剄の知識が少なすぎる為だった。

「誰かに教えてもらうのが一番いいのだけれど…」

化錬剄と言えば、武芸の名門であるルッケンスがまず出てくる。
天剣授受者サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。
初代から二人目の天剣を輩出したルッケンスはグレンダンでも屈指の武門として知られている。

しかし、僕はサイハーデン刀争術を扱う者であり、デルボネ様の弟子でもある。
これ以上、他の武門の門を叩く事は躊躇われた。

あとは、特定の武門を立ち上げてはいないものの天剣の中で屈指の化錬剄使い、トロイアット様だ。
天剣授受者トロイアット・ギャバネスト・フィランディン。
サヴァリス様やルッケンスの者は、化錬剄を補助として捉えて使っているが、トロイアット様は化錬剄を主として戦うタイプである。
技は流麗にして華麗。
見る者を魅了する技は、初めて見た時見惚れてしまった程だ。
だが、性格に難がある為、教えてもらいたいとは思うのだが未だに実行出来ずにいる。

女好き且つ男嫌い。

これが僕だけでなく都市民の総意だと知った時は驚いた。
女性には紳士的な為、かなりの人気を誇っているが、逆に男には厳しい。
よって男性からは嫉妬の篭った視線で見られている事が良くあるが、天剣に手を出すよな馬鹿はいない。
結果として上手く回ってしまっているのは、さすがはグレンダンと言ったところだろうか。

中性的な顔を持つ僕なら、服装と仕草で誤魔化せないかとちょっと考えた時、本気で凹んでしまったのは誰にも内緒だ。

武芸の本場と呼ばれるグレンダンに於いても化錬剄の習得は困難で、使いこなせる人が少ない。
結局は、2年も独自に練習しているが、そろそろ限界を感じていた。

(本気で考えた方がいいのかもしれない。全力で戦えない武芸者として生きるか、全力を出せる念威操者として生きるか。この2択を)

そんな時、待機させておいた念威から情報が入ってきた。




「は?」

端子から入ってくる情報に思わず首を傾げる。
レイフォンが鋼糸で大怪我を負ったというものだ。

「練習中の事故?いや、それよりも今は…!」

レイフォンの元へ急ぐ。
移動中も経過を見ているが、この出血量は普通にやばい。
念威端子で近場の病院に連絡を入れ、応援を請う。

「レイフォン!!」

「はぁはぁ、グラ…ム…?」

剄息を使って剄を整えて出血を抑えようとしているが、最初の出血が多すぎた所為か、効果はあまり出ていない。
意識も朦朧としてきているようだ。

「今、応援呼んだからもうちょっと待って」

「ごめんね」

「謝っている暇あるなら剄息に集中して黙ってろ!」

思わず語尾が強くなる。
だが、さすがにこれは拙い。
レイフォンの下にはかなりの量の血溜まりが出来ている。

(何とならないのか!)

そう思って止血の為に傷口に触れた瞬間、傷口は淡い光を放ち、出血が収まっていく。
それだけでなくレイフォンの呼吸も整い始める。

「グラム…?何をしたの?」

「それは僕が聞きたいよ…」

レイフォンの一命を取り留めたのは良かった事だし喜ばしい事だ。
だが、この力は何なんだ?




レイフォンを助けてから一ヶ月が経った。

あれ以来、使おうと思えばいつでも使える。
便利と言えば便利なのだが、突然使えるようになった力に僕は戸惑いを覚えるばかりだった。

師匠と共に色々と調査して解かった事は、この力は治癒能力では無い事。
自分の剄を相手に分け与えて、肉体の大活性と剄の大活性を促すものだったのだ。
剄の活性には、剄路の拡張も含まれている。
これで普段体が使える剄の総量を超えても、ある程度耐える事ができる。
傷を癒したのは所謂、この力の副産物と言ったところか。

「グラムの『助けたい』という思いに反応したのかしらね」

「そうかもしれません」

確かに『助けたい』と強く願っていた。
考えてみれば、助けたい人が多い気がする。

姉を助けたい。

レイフォンを助けたい。

リーリンを助けたい。

お義父さんを助けたい。

孤児院の皆を助けたい。

助けたい人が多く、それは傲慢だと言われた事もあった。
人は自分の身を守るだけで精一杯で、それ以上を望む事は相応の対価と努力が必要となる。
それでも、こればかりは譲れない。

僕に第2の人生をくれた姉。

家族となってくれた孤児院の皆。

(一人たりとも失いたくない)

グラムは強くそう思い、拳を硬く握り締めた。




この日の晩、グラムは孤児院の庭のベンチに一人座り、ある事を思い出していた。

今まで普通に『人』として暮らしていたが、自分が『人』ではなく『異民』であるという事を。

汚染獣との戦闘等はあったが、それ以外は普通に暮らしていたので、さして気にすることもなく忘れていたのだ。

「おそらく渡しているのは『剄』というより『オーロラ粒子』」

グラムの予想は当たっていた。
オーロラ粒子を剄脈へと渡し、剄脈がエネルギーに変換させ体に巡らせていたのだ。
そして『異民』であるグラムは体内でオーロラ粒子を生成出来る。
普段は意識する事なくオーロラ粒子を生成し、剄脈に乗せ体に巡らせていた。
だからこそ無尽蔵の剄量を持つ事となった。

そしてこの能力は、生成した分の一部を分け与えるもの。

「オーロラ粒子って言っても解かる人なんて限られているだろうから、剄でいいだろうな」

そう結論付け、星を眺めている。
未だに月は遠く感じる。

肉体の大活性と剄の大活性を促す力。
自分に合う錬金鋼が無く全力が出せない為、他の人に有り余る剄を分け与える力。
不本意ながらも力を借りねば今は戦えない。
しかし今現在、自分の切り札となるべき力だった。

グラムは自分の能力を理解し、異民である事も理解していく。

この力を『剄賦活』と名付け、この力の操作と応用が念威の鍛錬と平行して続けられていく事となった。




* * * * * * * * * * *

あとがき

リンテンスとレイフォンの修行風景も書こうと思ったんですが止めました。
レイフォンの大怪我は、原作の鋼糸で怪我したっていう話です。

で、剄を渡すといういうのが異民としての能力です。
使い方は2種類あるのですが、それは次回で。

最初は錬金鋼を作りだす能力とか考えてたのですが、
某英雄王とか弓兵になり兼ねないので却下。

それにしても、色々と迷走しています。

次回はほぼ汚染獣との戦闘になります。



[23706] 第13話 防衛
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/12/09 02:03
第13話 防衛

剄賦活が使えるようになって2ヶ月が経ち、利点と欠点を洗い出し終えた所で、師匠から提案があった。

「そろそろ実戦で、中心となって動いてみましょうか」

「良いのですか?」

「予想より早く成長していますからね。あとは実戦で積んでいきましょう」

「はい!」

「念威操者としては苛烈なデビュー戦となりそうです」

「え?」

すでに師匠は次の汚染獣を見つけていたらしく、このままグレンダンが進めば3日後に汚染獣の巣を踏み抜くそうだ。
地下の探査も難なくやってしまうのだから、全くもってすごいとしか言いようが無い。
そしてそのデータが端子越しに送られて来たのだが…。

「ナンデスカ、コノ量ハ」

「あらあら、ご不満かしら?」

汚染獣の数は、幼性体が約2万と雌性体18。
雄性体や老性体はいないが、万を超える数と戦うのは初めてである。
となると、幼性体がどの雌性体から生まれたか判断出来ない以上、ある程度幼性体を残した状態で雌性体の殲滅を行う必要がある。
雌性体の特性上、30分後には救援を呼ばれてしまうからだ。
だが、全て倒してから30分後とはいかない。
全て倒しきる前に、ある雌性体が産んだ幼性体が全滅している所があれば制限時間はもっと短くなってしまう。

さらに汚染獣はグレンダンを囲むように全方位で攻めてくるらしい。

防衛部隊を1箇所に固められないのか…。
これは本当に難しいな。

「念の為に、天剣授受者であるレイフォンを待機させておきますが、あくまで念の為だけですので、グラムが防衛部隊を上手く導くのです」

「分かりました。頑張ります!」

「はい、良い返事ですね。戦場で絶対は有り得ませんが、準天剣授受者として、死人を出さないようにしなさい。それでは、良い戦場を」




それから3日間は、様々な状況を想定し、対策を練った。
準備はし過ぎても、し足りないという事は無いと、お義父さんや師匠に言われてきた事だ。

常に最悪のケースを想定する事。
想定していなかった事が起きてしまう事こそが、最悪のケースと成り得るのだ。
だからこそ準備は怠ってはならない。

直接攻めてくる幼性体2万に対し、こちらは自分を含めて約500人で戦わなければならない。
そして、全方位から攻めてくるならば、防衛部隊を分散させる必要があった。

幼性体に遅れを取るような武芸者は、グレンダンの防衛部隊の中にいないが、いかんせん数が多すぎる。

グラムは部隊を12方向12部隊に分ける事を決めた。
さらに1部隊を4チーム(1チーム約10人)に分け各隊長と念威操者に統率させる。
防衛線に穴が開かない様に、グレンダンの外縁部をぐるりと囲む様に布陣する。

これで汚染獣の出方を見たい所だが、こちらは防衛する側なのだから後手に回るのは拙い。
1部隊のノルマが約1650体。
常に先手を取らなければ、数の暴力で圧倒されてしまう。

切り札として『剄賦活』により殲滅するという手段もある。
だが、この切り札は雌性体が全て見つかってからでないと使えない。

剄賦活の用途は2つ。

1つは、疲労や怪我の回復を促す効果。
これは、体に流れる剄を整える事が目的なので、体への負担が少ない。
今回の戦闘でも、戦線離脱者が出ないよう細心の注意を払って行うつもりだ。

もう1つは、肉体と剄の大活性。
その人の持つ限界以上の力に引き上げる事が出来る。
しかし、3つの欠点がある。

1つ目は時間制限。
いくら剄路の拡張を行っていても体への負担が大きいのだ。
以前、鍛錬に付き合ってもらった人が、口から血を吐いて、全身から血が吹き出した時はかなり焦った。
よって長時間、剄賦活の状態を維持する事が出来ない。
個人差はあれど使用可能の最短時間の約10分と考えておいた方がいいだろう。

2つ目は使用後のインターバル。
剄賦活を使用された側は、個人差もあるが剄脈疲労になる場合がある。
それは即ち戦力の減衰を示すもので、殲滅すると決めた時にしか使えない理由でもある。
肉体と剄の強化を限界以上まで引き上げるので当然言えば当然である。

3つ目は強化の個人差。
どんな武芸者でも幼性体と戦えるまでは強化する事が可能であるが、そこから先の雌性体・雄性体、そして老性体と戦えるようになるかはその武芸者の資質に因る所が大きい。
今回に限って言えば、雄性体との戦闘経験者が豊富な部隊なので、欠点とはならないのが救いだった。




今グラムは、都市の中心部となる王宮の空中庭園にいる。
女王陛下に場所をお借りしたのだ。

「あとは僕の采配次第…」

使える念威端子は計100個。
各部隊のバックアップと、雌性体の走査に使う。
配分の見極めと走査タイミングを考えなければならない。

グラムは準備をしながら出撃前の事を思い出していた。

始め今回の汚染獣戦での中心となるのが僕だと言った時は、部隊員に動揺が走った。
分かっていた事ではるが、準天剣授受者と言えど、それだけ師匠の存在は大きいのだ。

僕は俯いてしまった。

そんな僕の横を何も言わずに部隊長が通り過ぎようとした時、

「任せた」

ぽんと僕の肩に手を置いて、そう言ってくれたのだ。
そして隊長に続くように、部隊員の皆が肩や頭に手を載せたり、背中を叩いたりしてくれた。

こんな12の子供に託してくれた。

部隊長や皆が手を乗せた肩に触れてみる。
そこには間違いなく皆から貰った熱さが篭もっている。

「気合は十分、覚悟も決まった。あとは…やるだけだ」

戦場を見据え、グラムはそう言い放った。

先ほど都市は"予定通り"巣を踏み抜き、汚染獣が移動を始めた。
念威端子の情報からでも分かっているが、何より都市が鳴動しているのだ。

2万もの汚染獣は地鳴りのような音を立て、移動するだけで都市を揺るがす。

そして硬い殻と同じ質を持つ節足は、グレンダンの足を突き刺しながら登り、ギチギチと音を立て、聞いた者の恐怖を駆り立てる。
その足で胴を貫かれ、その牙で引き裂かれると。

だが逃げない。
逃げ場など無いと知っているから。

武芸の本場と言われるグレンダンだが、他の都市のように武芸を神聖視する者は以外と少ない。
天剣は別格扱いされるが、それはまた神聖視する事とは違う。

なら何故戦うのか。

恋人や家族を守る為。

金や名声を得る為。

しかし、これらは結局後付の理由。

恋人がいなかろうが、家族がいなかろうが戦う。

金や名声を既に持っていようが戦う。

なら何故戦うのか。

それは遺伝子レベルで刻み込まれている原初の記憶。

とある男の因子を受け取った者達だけが解かる原初の記憶。

『目に見える汚染獣は全て刈り取れ』と本能が叫ぶ。

剣帯から各々の武器を抜き放ち、恐怖を掻き消す様に部隊員達は、活剄を込めた咆哮を汚染獣に向け、大気を振るわせる。

そしてとうとう汚染獣が各部隊の射程内に入り、それを確認したグラムは各部隊に言い放つ。

「狙撃戦開始、まずは汚染獣の出鼻を挫きます!」

『了解!狙撃戦開始!』

圧倒的な数の汚染獣との戦闘が始まった。

狙撃戦といっても、銃や弓で撃つだけではなく、衝弾や閃断といった剄技を放てる者も参戦する。
外縁部を越えて来た汚染獣をここで出来るだけ食い止める。
さすがに一発で倒せる武芸者は少ないが、かなりの量の剄弾を叩き込んでいる為、出だしは好調だ。
順調に汚染獣の屍骸が積み上げられていく。

そしてグラムは、外縁部に配置していた念威端子に剄を込める。

「砕け散れ」

外縁部を囲い円を描くように配置していた端子が同時に爆発する。
頭部が弾け飛び、腹部を抉られ臓腑を曝け出し、爆圧で胴体が半分に千切れ、次々と汚染獣は絶命していく。
この爆発は念威爆雷の規模を大きく超えていた。

衝剄念威混合変化【爆砕衝】

念威端子が耐えられる限界ギリギリまで溜め込んだ剄が相まって、一発一発の念威爆雷の威力を大きく引き上げている。

しかし、威力は大きいが連続で使用すると端子が壊れてしまうので、10分の間隔を置く必要がある。
ここからは部隊の皆に頑張ってもらわないとならない。

「500は削れたな」

端子からの入ってくる情報から屠った汚染獣の数を確かめる。
天剣があればもっと倒せたかなと頭を掠めるが、今考えるべきではないと判断し戦場に頭を戻す。
汚染獣は今も続々とグレンダンに押し寄せて来ているのだから。




レイフォンは万が一の後詰の為にグラムの後ろに立っていた。

(万を超える汚染獣は初めて見たな)

未だに都震ほどでは無くとも地面が揺れているのが分かる。
その事に恐怖は感じないが、圧迫感はある。
この圧迫感から開放される為に、自分が出て片付けたいという欲求があるが、今回ここに居るのは万が一の備えなだけで、手を出せばグラムに迷惑が掛かってしまう。

未だにグラムやリーリン、お義父さんに刀を握らなくなった理由を話していない。
孤児院には一緒に暮らしているから全く会話をしていないという訳じゃないが、どこかぎこちなさはある。
話せば楽になるかもしれないが、僕がやっている事はきっと許されない。
軽蔑され離れていってしまうだろう。
いや、僕の方が遠ざけられるのか。
そうなってしまうくらいなら、ぎこちなくとも一緒に居られる方が良い。

勝手な言い分だと分かっていてもレイフォンはそう決めてしまっていたのだった。

(こんな事言う資格など、僕には無いのかもしれない。けれど、それでも言っておきたい。)

心の中で強く願う。

(頑張って!グラム!)




戦端を開いて1時間が経過した。

6回目の爆砕衝を撃った所で、幼性体の残数は13523体。
現在は戦線を少し上げて、幼性体の屍骸をバリケードとし、進行が遅くなった幼性体に対して、接近戦へ移行している。
1チームをさらに3人~4人に分けて一組とし幼性体に倒している。
倒し方は基本に忠実な1人が注意を引き付け、残りが剄技を叩き込んで倒す。

銃や弓をメインに戦っていた部隊員の剄の消耗が著しいので、後方で待機させている。
だが、ただ待たせているだけでは戦線復帰が遅れてしまうので、

活剄念威混合変化【剄賦活・絶】

手元から離れても剄を念威端子に送れる事から思い付き、念威端子を剄脈に近い腰に当て、剄賦活を行う剄技だ。
この【剄賦活・絶】を施しながら回復に努めてもらっている。

第3小隊の方角に配置している端子から情報が入る。
幼性体が一点突破を狙っているのか分からないが、とにかくかなりの数が集まっている。

「第2・第4小隊から1チームを第3小隊のカバーに回して下さい。第3小隊の所にかなりの数の幼性体が集まっています」

『こちら第2小隊、了解だ』

『こちら第4小隊、了解した』

状況は悪くないが、気は抜けない。
汚染獣が目の前の武芸者を餌だと思っているからこそ戦線が成り立っている。
無視して強引に抜けてくる可能性もある事を頭の隅に入れて…。

「って言ってるそばから」

第10・第11小隊の間を突き抜けようと7体の汚染獣が突進を仕掛ける。
圧力に押され部隊の壁が破れそうに成るが、爆砕衝で爆殺する。

だがグラムは思わず舌打ちをする。
間を置かずに爆砕衝を使用した為、念威端子が3つ壊れてしまったのだ。
100の内の3つだが、爆砕衝の火力を考えるとここで壊れたのは痛い。
それに雌性体の居場所を走査する為にもこれ以上壊す訳にはいかない。

グラムは戦況を再確認し、戦線の維持に努めた。




リーリンは孤児院の皆とシェルターに避難していた。
都震が起こってから避難したのだが、未だに揺れている事に違和感を感じていた。
普段なら都市が揺れるのは汚染獣の巣を踏み抜いた際に大きな縦揺れが起こるだけなのだ。

止まらない揺れが恐怖を煽り、弟妹達が体を寄せ合って固まってる。

「大丈夫だからね」

慰めにしかならないと分かっていても、言わずにはいられない。

(大丈夫だよね?グラム?)

そう心の中で呟き、グラムの出撃前のやり取りを思い出していた。

「それじゃあ…、行ってくるね」

「どうしたの?」

普段と違う雰囲気のグラムに不安を感じたリーリンは尋ねた。

「念威操者として初めての戦場だからさ。緊張しているのかな…」

「……怪我、しないでよ」

「その点は大丈夫だよ。後方支援がメインだから汚染獣に直接斬り込む事はないし、それにこれまでだってちゃんと帰って来たんだから、今日も帰ってくるよ」

「でもいざとなったら倒しに行くでしょ?」

「後詰にはレイフォンが付いてくれているし、リーリンも知っているようにレイフォンはとても強いんだから心配いらないよ。な?レイフォン」

「う、うん。レイフォンは僕が守るよ」

それでも不安は消えない。
本当に危険が迫るならレイフォンも危ないという事になるから。

「じゃあ、約束してよ」

「約束?」

グラムの提案に、リーリンは目を丸くした。

「絶対に怪我しないで帰ってくるから、一週間は緑色の野菜抜きの料理にして」

「三日」

「「えー」」

嫌そうな声でグラムとレイフォンがハモる。

「だめよ、ちゃんと食べないと大きくなれないじゃない。レイフォンなんて私より小さいんだから」

「う」

差は手の平1枚分ぐらいなのだが、二の句が継げなくなる。

「ちぇ、わかったよ」

グラムが不承不承頷くと、グラムとレイフォンは「じゃっ」「いってきます」と手を上げて院を去る。
幼い弟妹達がその背中に声を掛ける。
グラムとレイフォンはさらに大きく手を振って、王宮の方へと向かっていった。

「二人とも嫌いなものなんてないくせに」

でも、約束してくれた。
今はそれを信じて願う。

(ケガだけはしないでね。信じてるよ。グラム、レイフォン)




戦闘開始から2時間が経過した。

グラムは額から垂れてくる汗を拭う。

師匠との修行で、この手の模擬戦は何度もやった。
その中には10時間を越えるものだってあった。

体を動かすだけなら、たかだか2時間でこんなに消耗はしない。

それでも、人の命を預かっての実戦がこれ程重いものだと、今改めて気付かされていた。

(気を抜くな…。研ぎ済ませろ…。奴等は油断した所を容赦なく突いて来るぞ)

そう自分に言い聞かせる。

刻々と変わる戦況に対応し、指示を出しつつ、念威端子で攻撃やカバーに回る。

『こちら第6小隊、剄の消耗が激しいチームがある。下がらせられないか?』

「了解、そのチームを後退させ剄賦活で回復させます。第7小隊の1チームをカバーに回らせます」

『こちら第6小隊。了解、感謝する』

『こちら第7小隊、第6に回した分、火力が薄くなりそうだ。』

「薄くなった分の火力は僕の端子で補います。第6のチームが復帰するまで、辛抱して下さい」

『了解した。すまないな』

『こちら第5小隊、体力と剄に余裕があるチームがあるので、第6に回そうか?』

「いえ、でしたら最前線のチームと交代しておいて下さい。端子を向かわせますので、剄賦活で回復を図ります」

『了解だ。恩に着る』

……………………

………………

…………

……

それぞれの部隊を担う念威操者との相互連携を保つために常に回線は開いている。
全て処理するのは大変だが、何が起こっているか確認する必要はあるし、自分の念威端子で見れていない事をカバーしてもらう事だって出来る。

常に部隊との連携を取り、どんな強大な敵であろうと戦略と戦術で退ける。
それが師匠が行ってきた事なのだろう。

自分はまだまだ。

部隊の連携を取る事だけで精一杯。

だけど、絶対に諦めない。

諦めてたまるか。

必ず師匠に追いつく。

いや、追い抜いてみせる!!




幼性体、残り8237体。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

やっと剄と念威の混合技が出せました。
ネーミングセンスの欠片も感じないですが、解かりやすい名前だと思ってます。
今後、グラムはオリジナルの技しか出ないかも…。

今回と次回は集団戦をイメージして書いてるのですが、作者にその知識が無い為、ル○ーシュのようにはいきませんでした。

つたない表現で、読みにくい所があるかと思いますが、今後とも宜しくお願い致します。



[23706] 第14話 殲滅
Name: アーセ◆0b88614f ID:226c432a
Date: 2010/12/12 12:45
第14話 殲滅

戦闘を開始して既に3時間が経過している。
幼性体の数も4000を切った。

(そろそろ雌性体の居場所の走査に入るか)

そう考え、各部隊に通達する。

「幼性体が4000を切りました。僕はこれから雌性体の走査に入ります。よって端子は最低限の連絡用と攻撃用のみとなるので、走査完了まで耐えて下さい」

『こちら部隊長、了解だ。任せろ』

ここで言い切ってしまうのが、流石は部隊長だなと思いつつ、端子を都市の外へ向ける。
汚染獣が出てきた穴が所々にあるのが分かる。
これなら予定より短時間で終わるかもしれない。










デルクは子供達をシェルターに残し、外縁部付近まで来ていた。
いつまでも振動が収まらず、子供達が不安がっているので、様子を見てくると言い外に出たのだ。

振動の方は大分収まってきた。
防衛部隊が、幼性体を減らし続けたお陰であろう。

これなら後1時間ぐらいで終わると思い、シェルターに戻ろうと踵を返す。
ふと、避難する時のグラムとリーリン、そしてレイフォンのの顔が思い浮かんだ。

笑顔で互いを送り出していたが、その笑顔はとてもぎこちない。

原因はレイフォンにあると分かっているが、本人は頑なに理由を言おうとしない。
グラムは気長に待つしかないと言っていた。
子供達に何もかも任せ過ぎていると思ってはいても、上手く聞き出す方法を私は知らない。
孤児院を経営しているのにそんな事も出来ない自分が腹立たしいと何度思ったか分からない。

だが今は信じるしかないのだ。
あの子達ならまた元に戻れると。

(そうであろう?グラム、レイフォン、リーリン)










地下奥深くにその巨体、雌性体は佇んでいた。
幼性体を産み出した事により、腹は裂け、今にも息絶えようとしている。
だが、その赤い複眼から放たれる光は死を目前にして尚、強い光を秘めている。

最期の最期まで、自分の腹を痛めて産んだ我が子が強く育つように願いっているかのように。










(これで18!)

走査を始めて20分で、全ての雌性体の居場所を特定した。
距離は20~35キルメルの範囲内、地下15メル~20メル。

「全ての雌性体を発見しました。最短ルートも選定完了です」

『こちら部隊長。中々早いじゃないか。で、どうする?』

部隊長は、念威端子で会話を行いながら目の前の幼性体の頭を砕く。

「奇数小隊から2チーム、偶数小隊から1チームを選抜して下さい」

『了解だ。皆聞いてたな?俺が雌性体討伐チームを統率する。副部隊長が都市防衛チームを統率しろ』

全小隊から『了解』の合図をもらい、選抜されたチームを念威端子で誘導する。

「抜けたチームの穴を補う為に、近くの部隊と連携が取れる位置まで戦線を下げます」

後は雌性体へ向かったチームが配置に着けば始められる。










デルボネは弟子の様子を上空から見ていた。
もちろん実際に飛んでいる訳ではなく念威端子でだ。

(普段はなんだかんだ言いながら意外と早く出来てしまう子でしたが、今回はさすがに苦戦していますね。ですがこの実戦を経て一皮剥けそうなのは喜ばしい事です)

落ち着いて見ている事が出来そうだと思った所、端子から送られてくる情報に、あら、と声が出てしまう。

(これはちょっと拙いかもしれませんね)

「レイフォン」

レイフォンにだけ聞こえるように端子を配置する。

『はい?』

「万が一の可能性が出てきました。いつでも出られる準備をしておくように」

『……大丈夫です。グラムなら大丈夫です。……ごめんなさい。準備だけはしておきます』

「…そうね。弟子は信じないとね」

そう言って通信を切る。

汚染獣戦に於いて、不確定要素は可能な限り取り除くのが定石。
でなければ、何が死に繋がってくるか読み切れない。
根拠の乏しい『信頼』とは不確定要素の部類に入る。

それでも今回は弟子に託したいと、そう思ってしまった。

(目の前に壁が立ち塞がったら、あなたはどうするのかしら?グラム)










その頃、焦りを覚えていたグラムは深く深呼吸をして、脳に酸素を巡らせる。

(…配分を間違えたな)

グレンダンの防衛を担当する小隊が崩れ始める。
撃破数に対して、増加数が上回り出してしまった。
雌性体の位置がそれぞれ離れすぎていた為、こちらもバラけるしか無いとの考えだったのだが、防衛に回す人数が少なすぎたのだ。

(雌性体に向かった側の配置完了は恐らく後5分。ギリギリかもしれないが始めるしかない)

重晶錬金鋼を持ち直し、念威端子の具合を確かめる。

「雌性体討伐チームに連絡。防衛部隊の壁が保ちそうにないので、先に始めます」

『了解だ。死人は出ないに越したことはない』

「都市防衛チームに連絡。防衛戦から殲滅戦に移行します」

『了解。やってくれ』

都市防衛に残った30チーム、約300人の内60人の腰に念威端子を当てる。

「幼性体の残存数は、3064体。制限時間は10分です」

『全員、留意しておけよ』

『『『了解!!』』』

活剄念威混合変化【剄賦活・発】

オーロラ粒子を剄脈に送り込まれた部隊員達の体が跳ねる。
ポンプの様に剄脈は躍動し、オーロラ粒子を純粋なエネルギーへと変換させ、全身へと繋がる剄路を腰から順に拡張していく。

腰から指先、頭、足先へと剄がいつも以上に体を巡っているのが分かる。
錬金鋼を握り直し、息を整え、構える。
錬金鋼に流れる剄が強く輝きを放ち、まるで汚染獣に向かって吼えているかのようだ。
そう感じた武芸者達は一様に、獰猛な笑みを形作る。

これならいけると。

体内に充満する剄を汚染獣へと解き放つ。

内力系活剄の変化【戦声】

部隊員達から放たれる咆哮は、戦闘前の咆哮とは比べる必要も無い威力だった。

あまりの力強い咆哮に幼性体の足が止まる。
この時、幼性体の中で「逃げろ」と本能が叫んでいた事を部隊員達は知らない。

それを見た部隊員の1人が薙ぎ払うかのように剣を横一文字に振るう。
その一撃は凄まじい剣風を巻き起こし、幼性体の腹と背中の間を斬り裂き、3体を同時に屠った。

そして他の部隊員もそれに続き、圧倒的な力で幼性体を蹂躙する。

二丁拳銃を使う部隊員は、剄弾を"点"で撃つのではなく、神速の速射による"面"で攻撃するという離れ業をやってのける。

2925、2832、2712、2637……幼性体達の生体反応として使用している赤い光点が次々と消失していく。

槍を使った突撃型の部隊員は、止まる事を知らぬかの様に槍を汚染獣に突き刺し、貫通し、また次の汚染獣の腹に喰らい付き屠り続ける。

2414、2323、2216、2109……カウンターが凄まじい勢いで回る。

大鎌を使った部隊員は、大鎌を振り抜きながら外力系衝剄【渦剄】を放ち、自分の周囲にいる複数の幼性体を大気の渦の中に取り込み、無数の衝剄を撃ち込む事で同時に絶命させている。

1924、1818、1706、1621……。

狙撃銃を使う部隊員は、常に内力系活剄【照星眼】を使い、弱点を見極め、剄弾を撃ち込み、一発で倒していく。

1430、1317、1222、1119……。

双剣を使う部隊員は、活剄を使って強化した目でも追えない速さで連撃を叩き込んでいく。

911、831、732、612……。

大剣を使う部隊員は、溜めに溜めた剄をギリギリまで引き絞り、外力系衝剄【閃断】を放ち、斬線上にいる全ての汚染獣を断ち切っていく。

423、310、232、121……。

それぞれの部隊員がそれぞれの得物を使い、今までの殲滅速度を大きく上回る速さで倒していく。
そして、待っていた合図が届く。

『こちら雌性体討伐チーム、全員配置に着いた』

「了解です。そちらも始めます」

活剄念威混合変化【剄賦活・発】

『各自、奴らが死に掛けだとは思うな。剄を最大出力で技を放て!!』

『『『うぉぉぉぉぉっ!!!』』』

気合いの声と共に放たれた剄技は、雌性体に喰らいつき絶命させた。

………0。










【剄賦活・発】を解除し、ふぅとグラムは一息吐く。

「幼性体及び雌性体の生命反応消失を確認。防衛戦はこれで完了です」

『こちら部隊長。……良くやったな。帰投する』

「ありごうございます!」

堅物で通っている部隊長から褒められると思わなかったから嬉しく感じる。

「グラム。お疲れさま」

「うん、ありがとう。いや~、本当に疲れたよ~」

「さて、帰ろうか」

「先戻ってて。僕は師匠に報告と、外に出たチームの帰投を確認してから帰るよ」

「わかった。遅くならないでね」

「はいは~い」

そう言ってレイフォンに手を振って見送る。

今回は色々と反省点があったと振り返る。
一歩間違えれば、死人が出ていた。
結果的に怪我人は多くいたが、死者は出なかった。
その事は喜んで良いかもしれない。

(反省は明日、師匠とだな。今日は帰って寝たいよ)










0………1。










汚染獣の反応が突如増え、グラムは上を見上げる。
地上と地下にばかり気を取られて空への注意が疎かになっていた。
救援を呼ばれたかと考えたが、もう来てしまっているのだから、呼んでいようが呼んでいまいが関係ないとその考えを止める。

(奴は何故上でホバリングしている)

地上にいる部隊員達も空の上を指さし、突如現れた汚染獣に驚いている。

上空1キルメルにその汚染獣はいた。
巨大な4枚の翅を背中から生やし、筋骨隆々とした体と手足を持つ。
手と足の指にはそれぞれ鋭い爪が付いており、体中には鋼鉄の鱗がびっしりと付いている。
そして頭から捻じれた双角を生やし、獰猛な顔には普通の武芸者では睨まれただけで死を予感させる双眸と、大きな口には鋭い牙がずらりと並ぶ。
飛ぶ事に特化しつつ、手足がありつつも節足で無い事から、最低でも老性二期と断定する。

だが、戦闘が終わった事により気が抜けていたグラムは、その情報を地上の部隊員に送り忘れた。
仮に送っていた所で、満身創痍の部隊員達はその場から動く事は出来なかったのだが。

そして、汚染獣は汚染物質を吸い込み始め、口から青白い光を放つ強大なエネルギー弾をグレンダンに向け撃った。

「は?」

今から退避指示を出しても間に合わない。
アレは受け止めるしかないと判断し、念威端子を急いで向かわせる。

都市防衛に使用していた端子60個に剄を込め、エネルギー弾の直線上に端子を敷き詰めるように配置する。

(もってくれよ!!)

衝剄念威混合変化【密集壁】

念威端子1つ1つにシールドを張らせ、それを密集させる事でシールドの強度を上げる。
雄性体までなら試した事はあるが、老性体に対して有効かは初めてだ。
だが、今はやるしかない。
止められなければ部隊員達に直撃し、死は免れない。

重力をも味方に付け加速するエネルギー弾が【密集壁】に直撃する。

(ぐっ!)

直撃した瞬間に解かった。
これでは念威端子がもう数瞬ももたないと。

衝剄念威混合変化【爆砕衝】

エネルギー弾を相殺する為に、端子の強度を無視した全力の【爆砕衝】を使う。

大きな爆音と共に衝撃波が来るが、上手く相殺出来たようだ。
その代償に念威端子が壊れた。

「ぐふっ」

念威端子と深く繋がっていた為、想定外のダメージを負った端子からグラムへとフィードバックし、思わず吐血する。
鼻からも血が垂れてくるが、活剄で今は押さえておく。

だが、次も同じ攻撃を放ってきたら防ぐ手段が無い…。

(どうする、どうする、どうする!)

「グラム!」

帰る準備をしていたはずのレイフォンから重晶錬金鋼を投げ渡された。
どうしてとは聞かない。
恐らく師匠がレイフォンに予備を持たせておいたのだろう。

「レストレーション!」

修行の始めの頃に使っていた重晶錬金鋼だ。
搭載されている念威端子数は20。
これだけでは足りないと判断し、一度は接続が切れてしまった雌性体討伐チームに向かわせた端子に再接続する。
剄が宿り、念威端子が色を取り戻す。

『おい!どうなっている!?』

「あー、部隊長ですか。すいません。現在、老性体がグレンダン上空にいます。端子を向かわせますので、申し訳ないですが自力で戻ってください」

『なんだと!?』

部隊長がまだ言いたそうな事がある様だが、もう待ってはいられないので、すぐさま端子を移動させる。
端子が戻ってくるまでは今ある20個で何とかするしかない。

「レイフォン!跳べ!!」

「分かった!」

レイフォンも何故とは聞かない。
グラムがそう言うなら、必ず導いてくれると信じているからだ。

衝剄念威混合変化【空境渡り】

密集壁の応用で、シールドを上向きに張り、空中に足場を作る剄技だ。
レイフォンはその端子で形成された足場を順に翔け上がり、老性体へと向かっていく。










あと300メルの距離の所で、老性体はその大きな口を開きまたもエネルギー弾を撃って来た。
避ける事は許されない。

(ならば)

レイフォンは体勢を変えつつ端子の足場を翔け昇り、剄を剣身に込めていく。

外力系衝剄の変化【閃断】

剣身で研ぎ澄ませた斬剄を放つ。
薄く薄く研がれた斬剄の刃は、エネルギー弾を断ち切り、老性体の脇腹と翅の一部を斬り裂いた。
【閃断】を追う様に翔け上がったレイフォンは老性体へと肉薄する。

「おぉぉぉぉっ!!」

翔け上がってきた勢いのまま老性体の頭に斬撃を叩き込む。

---キンッ!

しかし、その老性体の鋼鉄の硬い鱗はレイフォンの斬撃を容易に阻み、攻撃を弾かれたレイフォンは体勢が崩れてしまう。

そんなレイフォンの隙を逃すはずもない老性体は、ハエを払うかのように太い腕で振り回し、指に付いている鋭い爪で引き裂こうとする。

グラムは端子の足場をレイフォンの足元へ移動させ、レイフォンは端子の足場を縦横無尽に飛び回り回避する。
即席で行っているにも関わらず、完璧な連携を老性体に見せ付け、思わずグラムとレイフォンは戦闘中なのに笑みが零れてしまう。
すれ違っていると互いに思っていながら、こと戦闘に関しては理解し合っているのだと感じたからだ。

(本当にどうしようもない…)

「『武芸馬鹿だなぁ』」

外に飛ばしていた念威端子も合流し、足場となってレイフォンのフォローに回る。
【空境渡り】の極意は空中移動ではなく、空中で体がどんな位置、どんな角度でも足場を形成する事により、踏み込み腰の入った攻撃を繰り出す事が出来る事だ。
天剣授受者と言えど、空中戦を得意とする者は少ない。
腕の力だけで振った武器では、大したダメージを与える事は出来ないからだ。
今回のように距離がある場合は、長弓使いのティグリスか銃使いのバーメリンを選ぶのだが今回は時間が無かった。

グラムは念威爆雷で老性体の気を引き、レイフォンはその間に剣を叩き込む。
二人の連携に老性体は翻弄され続け、ついに決定的な隙を見せる。
足元で爆発した念威爆雷が気になり、老性体は首を下に向けてしまい、完全にレイフォンが視界から消える。

外力系衝剄の変化【轟剣】

「つぁっ!!」

再度頭に斬撃を叩き込むと、顔の鱗と左目が弾け飛んだ。
さらに返す剣身で、双角の一本を斬り落とす。
衝撃で汚染獣が落下し始めるが、体勢を立て直し、巨大な翅を羽ばたかせレイフォンの上へと飛翔する。

---コォォォォォォォォ!!!

そしてまた汚染物質を吸い込みエネルギー弾の発射態勢を取る。

『撃たせるな!!』

グラムから檄が飛んでくる。

「分かってる!!」

【轟剣】を維持していた天剣を今度は横一文字に振り抜き、下顎を根元から斬り飛ばす。

---グガァァァァ!!?

老性体は下顎があった辺りから体液を撒き散らし、身をよじる様に痛がる。

(ここで決める!)

『終わらせろ!レイフォン!』

飛んでいた端子の一つがレイフォンの腰に当たる。

活剄念威混合変化【剄賦活・発】

爆発的に増えた剄を天剣に流し込み、隠すように背中に構え、老性体の左上に飛んでいる端子の足場を踏み込み、剣を振るう。
剣身に凝縮された"グラムの"剄がその瞬間、消失した。

天剣技【霞楼】

左肩から侵入し一線と化した斬撃、その刃から放たれた衝剄は目標の内部に浸透する。

(まだだ!)

続いて端子の足場を翔け抜け、剣を振り抜く。
今度は"レイフォンの"込めた剄が消失した。

天剣技【霞楼】

右肩から侵入した斬撃は、胸に十字の傷を刻む様に斬り込まれる。

一瞬の停滞。

((これで終わってくれ!))

二人の願いは届き、内部に浸透した天剣クラス二人分の剄を込めた斬撃は十字の傷を中心に多数の斬撃の雨となって四散し、老性体はバラバラの肉塊となった。










王宮の空中庭園に降り立ったレイフォンは、グラムの容体を確かめる。

「グラム?」

「わりぃ、疲れたから寝るわ。一眠りしてから帰るー」

戻った時には既にベンチで横になっていた。

「了解、報告は僕がしておくよ」

「ん、頼むわー」

寝息を立て始めたのを確認したレイフォンはデルボネとの交信を始め報告を行った。










「「ただいまぁ」」

その声が聞こえたのは、リーリンがシェルターを出てきてから2時間も経ってからだった。
台所で夕飯の支度をしていたリーリンは裏口から入って来たグラムのレイフォンの姿を見て、ほっと息を吐く。

「お腹空いちゃった」

「頭使ったから甘い物食べたい」

「はいはい、もうちょっと待ってね。デザートもちゃんと用意してあるわよ」

「僕達二人ともちゃんと、怪我してないからね」

「………」

と、レイフォンが言った事にリーリンは怪訝な顔をし始める。
リーリンは軽く唸りグラムの前に立ち、軽くデコピンをすると、グラムはあっと声を出して尻もちをついた。

「怪我したわね?」

「「………」」

二人してリーリンから視線を外すがバレバレであったようだ。
しかたがないなぁと呟きながら、

「約束してた緑色の野菜抜きは今日だけだからね」

「「はーい」」

代わりに赤や黄色の野菜はたっぷり用意してあるが、お肉もたくさん用意してあると言ったら、一瞬だけげんなりした顔の後、二人とも顔を破顔させた。

「やったね!」

「あぁ!」

二人でハイタッチを交わす。

「はいはい、夕飯までもう少し時間あるから、汗かいてるならお風呂に入っちゃいなさいよ。二人とも何か臭いわよ」

「ええっ!」

「ひでぇ!」

驚いた様子で浴場へと急ぐレイフォンとグラムの姿に、リーリンは苦笑を浮かべた。






* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

あとがき

ホント戦闘ばかりですいません。
ついでにオリジナルの老性体も出しちゃいました。

今回もいくつか新技出しちゃってますが、基本的に念威メインの場合はこの5つを主軸に戦います。

【爆砕衝】は念威爆雷の強化版。
【密集壁】は所謂、ファランクスです。FF11のアレです。私はプレイした事無いので実際に見た事はないのですがね…。でも、小説は読んでいるっていう変わり者です。
【空境渡り】は最初、端子の上に乗っかるだけの物だったのですが、足場として利用する事にしました。端子に乗って移動するより、飛んだ方が速そうだったので。
【剄賦活・絶】は使い過ぎた剄を補ったり、体力の回復に使用。傷の応急処置も使える。名前の元ネタはHHのアレから取ってます。
【剄賦活・発】は肉体と剄脈の大活性を行い、一時的に通常以上の力を引き出す事が可能。作中では、グラムがオーロラ粒子をガンガン送り込んでいますが、それだけグラムの剄量が並外れていると解釈しておいて下さい。こちらも名前の元ネタはHHのアレから取ってます。

この作品を考えた当初は、人を操る剄技も考えたのですが、今のところは却下。
使えるとしたら死罪確定の罪人でないと、戦場では使えないので。




次回は、やっとリーリン以外の女の子出ます。




ツェルニへはいつ頃行けるのだろうか(遠い目


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