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[22797] 【ネタ】鳥の骨の義理の息子になりました【仮題】ゼロ魔転生オリ主。いろいろ崩壊
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/10/31 19:12
注意・いろいろと崩壊しています






この世界でロバートが初めに見たものは死にかけた母の姿だった。


息が荒く、血の気の失せた顔。

仕立てはいいが、あちこちが破れていたり焼け焦げているボロボロの服には少なくない血が滲んでいる。

手に持った形の整えられている木の棒は半ばほどで折れている。

「…ごめん…なさいロバート。もう限界みたい」

何のことなのかわからない。

なぜこの女性はこんなにもボロボロなのだろう。

まるで演出過多のテレビ番組を見ているかのように、ロバートの心には波一つ起きなかった。

そもそも自分はどうしてこんな状況にあるのだろうか。

末期ガンで苦しみぬいたあげく、痛みが薄れ意識が遠のいていく中で自らの死を肌で感じていたというのに。

そのときロバートは自分の体に走る激痛にようやく気づいた。

ここが病室でないということにようやく気づいた。

何一つ理解できず、されど理解出来ないことは数多い。

声を出すことすらできない痛みにロバートはただ耐えていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

女性はしきりに謝罪の言葉を誰かに述べている。

遠く、少なくともかなり離れたところからガラガラと音が聞こえてきた。

音は次第にこちらに寄ってくる。

「馬車の音…!」

女性は何かに驚いたような、そして怯えたような声を上げた。

次第に近寄ってきた音の方に顔を向けた。

昔本の挿絵で見たような馬車が近寄ってきていた。

手綱を握っている男はこちらに気づいたのか目を見開いて声を上げた。

「どういたというのだ…ややっ!これはいかん」

御者の声に、馬車の中から一人の男が顔を見せた。

顔を出した男は馬車を飛び降りこちらに走り寄ってきた。

「ご婦人、どうなされた!!」

男は女性の体を揺さぶり声を張り上げた。

「この子を…」

女性は震える手で自分を指さした。

「すぐに王都に向かい治療をせねば…誰かこちらの子を!!」

男は女性をだきかかえて人を呼んだ。

「どうか…どうかこの子だけは…ロバートだけは…」

そう声を絞り出すと、女性の手はだらりと力が抜けたようになった。

「ご婦人!!」

ロバートは痛みに耐え続けていたのだが、どうやら痛みの許容量を超えたらしく意識が遠のくのを感じた。

(この男の人かなり痩せているな。まるで鳥の骨のようだ)

深い暗闇に落ちながらロバートは男の顔を見つめていた。








ロバートが目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

どうやらベッドに寝かされていたらしく、体を起こすと布団がめくれた。

「っつ!!」

体に鋭い痛みが走った。

「ぐ…ああっ」

体を引き裂くような痛みに耐えきれずベッドを転がった。

すると、部屋のドアが開きメイド服を着た女性が入ってきた。

女性はロバートの姿を見ると大声を上げた。

「大丈夫ですか!!」

女性はロバートに駆け寄り声を駆けたが、ロバートは痛みに悶え苦しみ答えることもできない。

女性がしきりに声をかけていると、部屋にもう一人入ってきた。

「おお、目が覚めたのか!」

ロバートは聞き覚えのある声だと感じ、顔を向けた。

そこには意識を失う前に見た鳥の骨のように痩せこけた男がいた。

ロバートが痛みに慣れて体を落ち着かせると男はロバートに歩み寄り、ベッドのそばにある椅子に腰を下ろした。

「ロバート君、でよかったですな。初めまして、私はマザリーニと言う者です」

ロバートはどこかで聞いた名前だなと思いながらマザリーニを見つめた。

マザリーニはきょとんとした表情を浮かべるロバートに微笑みながら「鳥の骨とも言われておりますがな」と言った。

後にトリステインの宰相となる男との出会いだった。










[22797] 第一話 鳥の骨の義理の息子
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/10/31 19:13
マザリーニとの出会いから半年が経った。

ロバートはベッドの中で身を起こした。

「ああ~、なんか久しぶりにあの日の夢見たな」

ある意味で記念日、ある意味で厄日。

あの日はロバートにとって異世界に来た最初の日であると同時に、自分のとは言ってもロバート自身には実感はないのだが、母だったらしい女性の死んだ日でもある。

「まさか、憑依が現実に起こるとは…事実は小説より奇なりだな」

それもまさか創作物の世界だとは、とひとりごちる。

「ゼロの使い魔か」

長年の病院生活の間に読んだ本の世界に来るとは思ってもいなかった。

しばらくはただの憑依だと思っていたのだが、流石に生活を続けていると嫌でも気付かされる。

ベッドから出て服を着替えながらロバートはこれまでの生活を思い返していた。

始めは何が起こったのかもわからないし、もちろん一緒にいた母親のことも分からない。

そのうえここはどこだとか、日本に帰してくれとか騒ぐロバートは周囲の人々をひどく困らせたのだが、最終的に『精神的なショックで錯乱状態にあり記憶も失っている』ということになった。

まあそのまま騒ぎ続ければ狂人扱いを受けたかも知れないが、一週間もすれば自分に起きた現象に気づき、次第に受け入れ始めることもできたためそんなことにはならなかった。

マザリーニの調べによると、共にいた女性はロバートの母親に間違いないということらしい。

ティアレス・ド・アーネンハイツという名前だったらしい。

マザリーニが言うには、ロバートの母ティアレスはアーネンハイツ男爵家当主の妾だった。

市井のメイジであった彼女は妾になった後数年でロバートを身ごもった。

しかし、その時本妻は未だ子どもができておらず、嫉妬と焦り故かティアレスに厳しく当たっていた。

そしてさらに時が経ち、本妻もようやく子どもを身ごもり、これでティアレスへの対応も柔らかくなるだろうと思われていたのだが、本妻は流産してしまった。

それだけならまだしも、流産により二度と子どもができない体になった。

本妻は悲しむとともに、このままでは自分に代わり本妻となるであろうティアレスに怒り狂った。

本妻は金で雇った傭兵のメイジ数人をティアレスに差し向けた。

一応はメイジであったティアレスは必死に抵抗しながらロバートを連れて逃げるも、元々が市井のメイジであり戦いなど経験もしたことのない彼女は大怪我をして街道で倒れた。

そこを偶然通りかかったマザリーニに発見されたのだが、彼女自身は事切れた。

こういうことだったらしい。

ただ、彼女が幸運だったのは死に体ながらもなんとか傭兵を撒いて街道まで逃げることができたことだ。

そのおかげでロバートは今こうして生きている。

ロバートは彼女が母であるということを実感することはできないが、感謝の念を持っていることは確かだ。

服を着替え終わると、ロバートは朝食を食べに行こうとドアを開いた。

「そういや、これってオリ主ってやつか?」

病室に持ち込んでいたパソコンで読んだ二次創作の知識から適当な言葉を拾い上げた。

オリ主という言葉にわずかだが高揚を覚えた。

食堂のドアを開けると、すでに席についている男がいた。

痩せこけた体、まさしく鳥の骨のマザリーニだった。

「おはようロバート」

マザリーニはカップを手に持ち、ロバートの方を向いて声をかけた。

「おはよう親父」

ロバートにとって最大の幸運は、マザリーニに引き取られて義理の息子となったことだろう。

死にゆくティアレスにロバートに頼まれたことをブリミル様が導いてくださったに違いない、とマザリーニはロバートを引き取り義理の息子とした。

そのまま放り出されていたらロバートは今頃野垂れ死んでいたに違いないのだから。



―あの頃、私は厚顔無恥にも自らのことをオリ主だと思い込んでいた。あの頃の自分に出会えるのなら、諭してやりたいものだ。自分はオリ主ではない。もっとふさわしいやつがいる。やつの前では所詮自分は脇役に過ぎない、と―



後年に発見されたロバートの手記の一節だが、オリ主と言う未知の言葉に誰もが頭を悩ませ結局答えは出なかった。





メイドの運んできた料理を食べ終わるとロバートも紅茶を飲み、マザリーニと話を始めた。

これは最初は引き取ったばかりのロバートのことを理解しようとマザリーニが始めた朝の習慣だが、今なお慣性により引き継がれている。

「そう言えば、魔法はどの程度使えるようになった」

マザリーニはロバートに家庭教師をつけて魔法を学ばせていた。

ロバートも魔法を使いたいという願望は当然あり、マザリーニの提案を快諾した。

「系統魔法の初歩の初歩。土系統だってさ」

中身はそれなりに既に20も近くなっているためか、魔法を覚えるのは人よりも少しだけ早かった。

もっとも自分自身の才能の限界というものがあるため、今はいい調子で進んでいてもいずれは頭打ちになるのだが。

血筋を見ても世辞でもいい血筋とは言えないため、まかり間違っても烈風カリンのようにはなれないだろうと,魔力に関してはロバート自身大して期待していなかった。

「そのまま研鑽するといい」

マザリーニは頷き、紅茶を一口飲むとキッと目を鋭くしロバートを睨んだ。

「ところで、お前は座学の方はサボりがちだと聞いているぞ」

座学はロバートにとって苦痛でしか無かった。

魔法理論などに関しては興味もあるためきちんと学んでいたが、他のことには大して興味もわかなかった。

歴史や宗教や地理などは、いくら夢の溢れる異世界のこととはいえどうしても興味がわかなかったのだ。

枢機卿であるマザリーニとしては、ブリミル教に全く興味がないという点がもっとも嘆かわしかった。

「まったく、そんなことでは成人したあとはどうするつもりだ。確かに算術に関しては商人も顔負けだ。その手の職ならば今からでも歓迎されるだろうが…」

どうやらハルケギニアではまだ数学と呼べるほどには算術が発展しておらず、商人ですらも一々算盤を弾きながら計算している。

複雑ではなければ暗算で計算でき、四則計算も確立されたものを学んでおり、算盤が無くとも『筆算』というものを知っているロバートは算術の天才と呼んでもいいレベルにあった。

しかもこの体は10歳そこそこのため、周囲から見れば文句のつけようもない神童である。算術のみだが。

ロバートは誰かに筆算や数学を教えたりはしなかった。

この世界の文化への影響などを考えたわけではなく、もしも教えてみんなができるようになれば相対的に自分の価値が下がるし、算術でいざという時の職の潰しがきかなくなったら嫌だという理由からだった。

「親父が死んだら遺産を食い尽くしながら暮らそうと思ってる」

「残念だったな。私が死ねば遺産などは一切合切を孤児院に寄付するようにしてある」

「今までお世話になりましたマザリーニ枢機卿」

「お前にとって私は財布でしかないのか」

椅子から立ち頭を下げるロバートにマザリーニは嘆息した。

もちろん本気ではないためロバートはまた座りなおした。

「まあそれでも土のメイジならどっかに就職先あるし」

道の舗装や橋の建造、畑の整備など領地の管理のために土のメイジはどこかしら就職先がある。

例え就職とまではいかなくても、臨時での募集はいつもどこかしらで行われている。

ロバートとしてはそうしたことを引き受けて日銭を稼ぎながら異世界を旅いてみたいとも思っていた。

そのためにも魔法の腕に関しては磨いておこうと思っているのだ。

「そういえばデムリ財務卿にお前のことを話したら、成人したら是非雇いたいと言っていたな」

「パス」

流石にせっかく異世界での第二の人生だというのに毎日計算ばかりして人生を送りたくはない。

よほど切羽詰ったり、自分には他に道はないというのなら考えるが、ここに来て日も浅く未だ自分自身の限界すら見えない状況でそんな夢のない就職先は嫌だ。

「わがままなやつめ…」

魔法学院にはいれたら一番いいのだが、養父のマザリーニは枢機卿だが貴族ではない。

男爵家以上が条件の魔法学院に入るのは不可能だった。

ロマリアに行けば話は別なのだろうが、原作を知っている身ともなればロマリアには抵抗がある。

「む、もうこんな時間か。では私は王宮へ行くのできちんと勉強に励むように」

「気が向いたら」

「まったく、どこで育て方を間違えたのやら」

ため息を突きながらマザリーニは屋敷を出て行った。




[22797] 第二話 ロックオンされたらしい
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/01 19:05
マザリーニは王宮の一室のドアをノックした。

「姫様、マザリーニです」

「入っても構わないよ」

マザリーニは部屋に入り一礼しドアを閉めた。

今日はアンリエッタに神学を教える日だ。

アンリエッタはテラスの椅子に座り何やら本を読んでいる。

表紙に『メイドの午後』と書かれているのを見て、マザリーニは手で顔を覆った。

「姫様、何を読んでおられるのですか」

「なに、ちょっとした王族の嗜みというものだよ」

アンリエッタは悪びれもせずそう言うと、栞を挟んで本を閉じた。

「そのような下品な内容の本はよしてくださいとあれほど…」

「その下品な行為がなければ私も始祖ブリミルも生まれていないがね」

まさかエロ本で始祖ブリミルを語られるとは思ってもいなかったのだろう。

おお、とマザリーニは悲しみの声を上げた。

アンリエッタはその姿を見ながら、イタズラに成功した悪ガキのような表情を浮かべている。

「仮にも始祖の血をひくお方が何ということを」

「始祖の子孫がエロ本を読んではいけないというのは教典に書いてなかったと思うんだが」

「書くまでもないと言うことです。せめて堂々と読むのをやめてください」

マザリーニは嘆願するような声を出した。

アンリエッタは爽やかな笑みを浮かべて、わかっていると答えた。

「普段は流石にメイドや貴族には見つからないようにしているさ」

「できれば私も含めて誰にも見つからないようにお願いしたいものです」

流石に枢機卿の身には心臓に悪い光景だ。

「君はからかうと面白いからね。お断りさせてもらうよ」

あっさりと断るアンリエッタに、異端審問にかけてやろうか、とマザリーニの心中に一瞬黒い影がよぎった。

「仕方ないだろう。王宮の中は退屈でまるでこの身が朽ち果てていきそうだというのに、ろくに外出さえもさせてもらえないんだ。エロ本の一つや二つ、かわいいもんじゃないか」

退屈なことは確かだろう。

マザリーニが知る限り、アンリエッタが前に外出をしたのは一月は前になる。

それ以来外出をしていないとなると息が詰まりそうになるのも理解できる。

「君がよく言う言葉遣いも信用できる人間の前以外ではきちんと取り繕っているだろう?もう本当に気の休まるところもないよ」

流石に淑女がこの言葉遣いはどうかと思い、マザリーニはアンリエッタに言葉遣いを直すように何度も言っている。

当の本人が言うにはこれが地で直しようがないから他人の前では取り繕うということで落ち着いているのだが。

「お気持ちはわかりますが、しかしですな」

「いっそモット伯のように突き抜けてしまえばいいのかもしれないね」

それだけは勘弁してください、とマザリーニは頭を下げた。






「そして始祖ブリミルはこう言いました…姫様、聞いていますか?」

「ん?ああ、続けてくれて構わないよ」

アンリエッタは明らかに興味もないというのを隠そうともせずにそう言った。

マザリーニはため息をついた。

「ご自身の先祖のことですぞ」

「6000年も前の人なんて他人も同然だろう。私としてはメイドのカテーシャの胸部に実った豊満な果実の方が興味があるよ」

始祖をも恐れる物言いにマザリーニは戦慄した。

まさかメイドの胸にまで負けているなどと思いもしなかった。

「ふうっ…姫様を見ていると愚息を思い出してしまいますな…」

そう、まるでロバートのようだと思った。

あれも始祖ブリミルへの敬意など微塵も持ち合わせていない。

「愚息?」

と、思いもよらぬ部分にアンリエッタが食いついた。

「ええ、私の義理の息子です」

「どんな子だい?」

普段ほとんど何にも興味を示さないアンリエッタがなぜそこまで気にするのかと疑問に思いながらも、自らの知るロバートについて語った。

マザリーニ曰く

・始祖ブリミルへの敬意を持たない。

・魔法以外の勉強にはまるで興味を示さない。

・『記憶喪失』であり、昔のことを覚えていない。

・算術がすごい。なにやら『筆算』だとか『四則計算』だとか言っていたが詳細は教えてもらえていない。

・とにかく怠け者

・とにかく駄目息子

・土のドットに最近なったばかりらしい

・親の脛を齧り尽くす計画を立てていた。

・なぜか『メイドという職業に興味深々』で屋敷のメイドに色々と話を聞いている。

「なるほど…」

アンリエッタは顎に手を当てて何か考えこむような表情を見せた。

なにやら「断定するにはまだ早いか・・・」などと呟いている。

マザリーニは少なからず驚愕の念を覚えた。

普段はまず何かを深く考えこむようなところを見せることはないからである。

マザリーニにはある程度心を許しているのかこのような調子だが、それでもどこか一線を置いたような態度、発する言葉にも薄いヴェールをかけたような感じで、自分の感情を丸裸にして見せるようなことはしなかった。

マザリーニとしては王族である以上仕方のないことであり、むしろそういった部分も必須であると考えていたため特に気にもとめていなかったのだが。

まさかそのアンリエッタがそれすらも忘れてしまい、明け透けの感情を見せるとは思ってもいなかった。

ん?とマザリーニが声を上げた。

「どうかしたのかい?」

「いえ、そう言えば愚息が記憶喪失になったばかりの頃、今は落ち着いたのですが錯乱状態にあったことがありましてな。その時はわけのわからない言葉を並べていたなと思いまして」

「どんなのだい?」

アンリエッタが勢い良く身を乗り出してきたため、思わず身を引きながらもマザリーニは答えた。

「あれは確か…」

――そう、『トーキョー』とか『ニッポン』などとしきりに言っておりましたな。

「ッ!!!」

アンリエッタの口角が上がり、ニヤリとした表情を見せた。

「まあ錯乱状態の狂言だったんでしょうな。今はもう、そのようなことは全く言いません」

「ああ、そうか…。なあ、マザリーニ」

アンリエッタはまたも明け透けに楽しげな声を発した。

「…なんですかな」

マザリーニの目にはアンリエッタがまるで、望外の喜びに舞い上がりそうな体を押さえつけているかのように見えた。

顔を伏せているため表情は見えないが容易に想像がついた。

いや、想像は不可能だった。

いまだかつてここまで感情を表に出したアンリエッタを見たことがなかったため、真実の表情など見たことがないのだ。

マザリーニは、一体どうなっているのかと困惑の色を隠せずにいた。

そしてアンリエッタがゆっくりと顔を上げた時、マザリーニはあまりの衝撃に目を見開いた。

歓喜に充ち溢れた表情.

マザリーニが、いや恐らくはアンリエッタの両親である国王と王妃すらも見たことがないであろうものだった。

「その子に会わせてもらえないだろうか。今すぐに」

困惑に頭の中がぐちゃぐちゃになったマザリーニはわけもわからないまま頷いてしまった。




――あの時ほど驚いたことは未だかつて無いし、これからも無いだろう。
あの時陛下が何に感激していらっしゃったのかは今でもわからないままだ。
恐らくはロバートならば知っているのだろうが、ロバートも決して語らない。
全くもって愚かで荒唐無稽な考えだが、あの二人には何かしらの絆が既にあったように思えてならない。
そんなことはあり得ないとわかっていてもなお、なぜだか確信めいたものが自身の中にあるのだ――

                                 マザリーニ枢機卿の手記より












[22797] 第三話 呼び出し食らったorz
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/01 19:05
ロバートはまるで撤退戦のごとく大急ぎで走る馬車に揺られている。

「なあ、なんで俺王宮に連れていかれてるの?」

マザリーニが帰ってくるなり、勉強をサボって庭でメイドと紅茶を楽しんでいたロバートの首根っこを、有無を言わずつかんで馬車に引きずり込んだのだ。

メイドはついにマザリーニ様の堪忍袋の緒が切れたのかと思ったという。

そしてろくに事情も説明してもらえないまま王宮へ向かっているのである。

「姫様がお前にお会いになるそうだ」

「は?」

ロバートからすれば寝耳に水どころの話ではなかった。

マザリーニの義理の息子というだけで、これといった接点もないし会ったことも無いのだ。

「なんで」

「私だってわからない!!」

マザリーニはやけになって叫んだ。

あれから少しは落ち着きを取り戻したマザリーニの頭には様々なことが浮かんでいた。

主に、義理の愚息が失礼なことをしないかどうかということだが。

ロバートも頭を捻るが何一つ浮かんでこない。

とりあえず原作組の、それも重要人物に会えるということだ、と前向きに考えることにした。

しかし会ったところでどうしろというのか。

まさか原作について話すわけにもいくまい。

一国の王女、それも次期女王となる人間が異世界から来た伝説の使い魔とは言え一平民に惚れることになるなどと言ったら不敬罪で処罰されるに違いない。

(大人しくしておこう)

ロバートは固く誓った。

「王宮が見えてきました!」

御者が声を上げたときは苦しくも、マザリーニの脳内でアンリエッタに対し無礼を働いたロバートが打首にされる20パターン目が浮かんだ時だった。









広く豪華な王宮内を足早に進み、アンリエッタの部屋の前にたどり着いた。

マザリーニがロバートのほうを見やると「ほへ~」とだらしない顔をしていた。

胃がキリキリと痛んだ。

「姫様、息子を連れてまいりました」

マザリーニがドアをノックし室内のアンリエッタに声をかけると「入ってくれ!!」と大きな声が返ってきた。

(ん?)

ロバートはアンリエッタの口調に違和感を覚えた。

そのまま室内に入ると部屋の中央には同じ年頃の見るからに偉い人といった服装の少女、アンリエッタがいて、ロバートはアンリエッタと出会った。

「姫様。これが私の義理の息子ロバートです」

マザリーニがそう言うと、アンリエッタは「ああ」と言って頷いた。

「マザリーニ、すまないが少し外してくれないだろうか」

マザリーニはもうなにがなにやらわからなくなった。

いきなりアンリエッタと全く面識もない義理の息子を呼んできてくれと言われて呼んできたら、「じゃあお前はどっか行っててくれ」と率直に言われたのである。

「流石にそれはいけません」

いくらなんでも王女と、子供とは言え同年代の男を二人きりにするわけにはいかない。

なにかあってでは遅いのだ。

流石にロバートがいきなりアンリエッタに襲いかかることはないと思っているものの、発言で不敬罪にでもなるかもしれないとは若干心配だった。

というよりもそれ以前に、王女が同年代の男と二人きりでいたという事実だけでも危ない。

「頼むよマザリーニ。30分だけでいいから」

アンリエッタは心底懇願するように言った。

これもまた初めてだった。

「なりません」

しかし、マザリーニとしても退くわけにはいかなかった。

「マザリーニ、私が外してくれと言っているんだ」

すると、アンリエッタは口調を強めて言った。

アンリエッタの強い意志のこもった目にマザリーニは「15分…15分だけですぞ」と返した。

「すまないね」

アンリエッタの言葉を背に受けながらマザリーニは部屋を出た。

ドアを閉める時に「ロバート。くれぐれも、くれぐれも失礼のないように!」と言葉を残してだが。

マザリーニが部屋を出たのを確認すると、アンリエッタは急いでドアや窓にロックの魔法をかけサイレントの魔法を使い、ディテクトマジックを使った。

最後にカーテンをすべて閉めてロバートのほうを向き直った。

当のロバートは、急展開についていけず放心状態だった。

「さて、これでようやく話ができる。ロバート、だったね」

ロバートはアンリエッタの声にハッとして、ようやく自我を取り戻した。

「は、はい!マザリーニ枢機卿の義理の息子ロバートと申します。
アンリエッタ姫殿下におかれましてはご機嫌うるわしゅるる…オワタ…っ!!」

あまりにも焦っていたため思わず噛んでしまった。

それだけならまだしも、思わずオワタなどと口にしてしまった。

(もうダメポ…不敬罪…投獄…拷問…処刑…打首…さらし首…)

ロバートの頭の中ではすでに超展開の自らの処刑ストーリーが始まっていた。

すると、アンリエッタはプッと吹き出した。

そして笑顔で「気にしなくていいよ」と言った。

「ああ、そうさ。気にすることはない。なにせ、私たちは現時点では恐らく唯一の同郷の人間なんだからな。何一つ気遣う必要なんて無いさ」

「はあ…」

ロバートはアンリエッタが何を言っているのかわからず首をかしげた。

(同郷って、トリステインが故郷の人なんてそれこそ腐るほどいるんじゃないだろうか)

「何を言っているのかわからないと言った顔だね」

アンリエッタは心底愉快だと言わんばかりの弾んだ口調で言った。

「失礼ながら」

アンリエッタはロバートの返事に満足そうに頷くと口を開いた。

「こう言えばわかるかな。私も、君と同じ日本人だった…とね」







「え?」

ロバートは思わず聞き返した。

「だから、私も元は日本人だったって言ってるのさ」

アンリエッタは苦笑を浮かべてそう言った。

「交通事故で死んで、気づいたら赤ん坊だったこの体に入っていた」

(そんな頻繁にこんなことがあるのか?)

もう数年すれば、サイトもこの世界にやってくるはずである。

もっともサイトの場合は二人のように死んだわけではなく生きたまま召喚なのだが。

「こっちにはマックやすき家が無いというのが辛くて仕方ないよ。あのチープな味が懐かしい。
それにジャンプも愛読していたというのに、続きが読めなくて残念だ。
ああ、そうだ。冨樫は仕事をしていたかい?」

「いや、まったく」

ロバートは目の前の王女の前世が日本人であるということを受け入れた。

だというのなら、このどうしようもない口調の違和感も納得出来る。なにしろ中身が違うのだから。

「それにしても、まさか同郷の人間が私以外にいるとは思わなかったよ。それもトリステインにね」

「それは俺もそう思う・・・いえ、そう思います」

「敬語なんか使わなくていいよ」

いくら元が同じ日本人だからと言っても、今は王女である。

さすがにそれはと返すが、どうやらアンリエッタはご不満の様子で「現状唯一の同郷人にまで取り繕った物言いをされたくないんだ」と言った。

「いえ、誰かに知られると不敬罪で首が飛びますので」

それは間違いないだろう。

今の自分の身分は…よく考えると何になるのだろうか。

貴族とは言えない。

枢機卿の義理の息子とはいえ、自分自身は何の役職にもない。

一応魔法は使えるからメイジではある。

『答 ただのメイジ』

そう考えると、自分は義父が偉いというのと、魔法が使えること、そしてアンリエッタと同郷であるということしかアドバンテージが無いのだ。

それも、アンリエッタに関しては周囲にしゃべると不敬罪や狂人扱いである。

「まあそうだね。だから、二人で居るときと…そうだね、今のところ一緒にいるのが私とマザリーニだけくらいの時なら構わないよ」

そんなことをしたら親父に殺されてしまう。

ブリミル教の枢機卿な上、原作でも王家のために身を粉にしていたマザリーニは顔を真紅に染め上げて激怒するだろう。

もしかすると、あまりの怒りに血圧が上がりすぎて倒れてしまうかも知れない。

「まあ、マザリーニに関しては反応が面白いから見てみたいというだけなんだがね。ほら、あいつからかうと面白いだろ?」

「それに関しては同意です」

やはり真面目な人間ほどからかうと面白いとロバートは思う。

マザリーニも今でこそだいぶこちらのあしらい方に慣れてきたようだが、当初はもうひどかった。

「というわけだからさ。普通に話して欲しい」

「いえ…それは…」

アンリエッタは言い淀むロバートを見かねたのか、ロバートに歩み寄り右手を掴んだ。

その右手を両手でつかみこんで下からロバートを見上げるようにして口を開いた。

「頼むよ。何年もこっちでは王女をやってきて、周りの人には気を使われるし、こちらも迂闊なことを言えない。
そんな気の休まるところもない生活を送ってきたんだ。
幸運にも巡り会えた同郷の人間の前でくらいは、王女アンリエッタじゃなくてアンリエッタでいさせてほしい」

ロバートは、あまりの破壊力にたじろいだ。

原作でも語られているアンリエッタの美貌、とは言っても現時点では子供のかわいらしさといったほうが強いが、それと潤んだ目。

しかも状況的には一国の王女が自分だけを頼りにして頼み込んでいるというものである。

(あわわわわ)

「…」

アンリエッタはロバートから目をはなさない。

ロバートは、やがてため息をついた。

「わかりました・・・いや、わかったよ」

ロバートの返事にアンリエッタは、ぱあっと顔を輝かせた。

非常にまずいことはわかっているのだが、アンリエッタのそんな顔を見ていると

(まあ、これでよかったのかな)

などと思ってしまったのだった。

「それじゃあ、前世のことを話しててもしょうがないからお互いこっちに来てからのことを話そうか。
私も君があのマザリーニの養子になってからのこととか気になるしね」

「そうだな。俺も王宮の生活がどんなのとか気になるし」

座って、とロバートが示された椅子に腰を掛けるとアンリエッタはドアにアンロックをかけた。

(まあ親父が帰ってきたときにロックがかかってたりしたらヤバイよなぁ)

マザリーニは今頃そわそわとしながら廊下でも歩き回っているのだろう。




「君は、マザリーニとは上手くやれているのかい?」

「…」

ロバートは言いよどんだ。

上手くやれていると言っていいのだろうか。

「はっきり言って私は国王と王妃のことを両親だとは思えていない」

アンリエッタは断言した。

「昔から、確かに私は愛されているのだとは思う。
しかし立場上両親ともに多忙で、私の面倒を見てきたのは乳母やメイドたちだ。
それは仕方のないことで、だからただの赤ん坊であればそれでもよかったのかもしれない。
しかし私には本当の両親と過ごしてきた幸せな記憶もあれば親愛の情もある。
そんな私がこの状況で二人を心から両親と思えると思うか?」

「それは…」

ロバート自身、彼女の言うことに心当たりがあった。

「だから私は聞いているんだ。概ね同じ状況であろう君に」

「俺は…親父とは上手くやれていると…思う」

「それこそ現実の、いや前世の父親と同じように、か?」

アンリエッタは、すべて分かっているという口調で言った。

ロバートは閉口した。

「マザリーニが君を語る姿と、今の君の様子で大体のことはわかったよ。
君は養父であるマザリーニに対して、前世の父親に対する態度で接しているね」

「…」

図星を突かれてロバートは少しギョッとした。

「親父は、俺を息子として扱おうとしてくれたから…」

「なるほど、代償行動というわけだ」



ロバートもまた当初はアンリエッタと同じような状況だった。

つい先日までは自分には前世の両親がいたのだ。

彼らは末期ガンで苦しむロバートの見舞いを頻繁に行なっていた。

ロバートは両親のことを愛していたし、できる事ならもっと長く共に居たかった。

養父となったマザリーニが放任主義であれば、もしくは仕事が忙しすぎてロバートをあまり相手にできなければ話は別だったのだろう。

当初はロバートもそれこそ貴族のように丁寧な態度でマザリーニに接していた。

しかしそれは父に対するものではなく、マザリーニを他人と見ているということにマザリーニ自身は気づいていた。

それはマザリーニから見れば親を失った子供でしかないロバートに対する同情だったのかも知れない。

とにかくマザリーニは例えまがい物でもロバートの父であろうとした。

ゆえにありのままのロバートを見せて欲しいとも思っていた。

毎朝朝食を共に食べ、仕事から帰ってくると積極的に話をしていた。

ロバートともまた、マザリーニが本当に自分を息子として扱ってくれようとしていることは察していた。

ただ、やはりどうしても父として見ることはできなかった。

それは逆に前世での両親への思いを募らせていた。

こちらの世界に来て、ベッドに寝たきりということがなくなり体は思う存分動かせるようになった。

そうなると、前世の両親とやりたくてもできなかったことなどが心の奥底からふつふつと沸き上がってきて郷愁の念をさらに募らせた。

ロバート自身もまた親を求めていた。

「ロバートは、父上のことをなんと呼んでいたのだ?」と、ふとマザリーニが言った言葉に「あ…親父……です」と答えた。

仮にも貴族の息子らしからぬ呼び名に少しギョッとしたものの、マザリーニはすぐに微笑んで言った。

「なら、私のこともそう呼んでもらえないだろうか。君が父上にしていたように私にも接して欲しい」

それが皮切りだった。

親を求めたロバートは、マザリーニのことを親父と呼ぶようになった。

マザリーニはありのままのロバートを息子として扱おうとした。

それはロバートがマザリーニに一歩歩み寄っただけだった。

しかし一度歩み寄ってしまえば、ロバートの理性とは関係なく、心は際限なくマザリーニに親を求めるようになった。

そしてまた一歩、また一歩と、加速度的にペースを上げながらマザリーニに歩み寄り始めた。

マザリーニはそれを概ねいい傾向だと捉えていた。

確かに貴族らしからぬ面ばかりになってしまったが、対外的なところできちんとできるようになりさえすればそれでいい、と。


「ああ、そのとおりだ。軽蔑したか」

ロバートは自分の心の弱さを知った彼女がどういった反応をするのだろうかと恐る恐る尋ねた。

「いや全然」

あっけらかんとしたアンリエッタは続けて教鞭をとるかのごとく口を開いた。

「こんな話を知っているかい?男は恋人に母親の姿を求める」

どこかで聞いたことがある、と頷いた。

「もっともそれは全ての男に当てはまるわけではないだろうがね。
とにかくだ。それはごく自然なことなんだ。本能と言ってもいい。
恋人に母の姿を求めることがあるというのなら、養父に実の、前世の父を求めることのみを否とできるわけがないだろう」

「えっと、つまり」

「ああ、マザリーニは君の養父で君はマザリーニの義理の息子。それでいいじゃないか。
少なくとも、マザリーニは君のことを話すときどこか楽しそうだったよ」

だったらなんでこんなことを聞く。どうせ分かっていたんだろう、と恨めしげなロバートの視線を受けたアンリエッタは肩をすくめた。

「いや悪かった。どうにも君が羨ましかったものでね」

なにが羨ましいというのか。

自分には一応生みの親とも言えなくはない両親がいるじゃないか。

愛されているということを知っていて、代償行動も是とするのなら。

「先王崩御。王妃は喪に服しっぱなし」

「あ…」

これから先に起こることにようやく気づいた。

父親である王は死ぬし、母はかなりの欝になる。

恐らくは下手に情を移せば移すほど辛い思いをすることになるだろう。

だからアンリエッタは二人を親として見ないのだ。

「あーうん。ごめん、気分を悪くしたかな。もっと違う話をしようか」

結局はアンリエッタも心細いのだろうとロバートは思った。







「姫様、15分経ちましたぞ!!!」

ドアをノックすることすら忘れてマザリーニは部屋に突撃した。

すると

「ぶっちゃけブリミル教ってどうよ」

「私は正直興味ないね」

「だよな~。俺もやっぱ宗教はなんというか…」

「始祖を崇めててもお腹は膨れないしさ」

「違いない」

そこには敬語も使ってない上に、ハルケギニア的に非常にまずいことを笑いながらしゃべる二人の姿があった。

やがてマザリーニは考えるのをやめた。




――もうなにがなんだかわからない。胃が痛い。
あの二人は一体なんだというのか。おお、ブリミル様。
なぜ私にだけこのような苦難が訪れるのでしょうか。
あなたの子孫も私の義理の息子もあなたへの敬意など持ちあわせておりません。
ロバートに敬語を使わせようとすると姫様は怒るし。
もう嫌だ。ロマリアが懐かしくなってきた――
                          マザリーニの日記より



[22797] 第四話 イカサマは無いけど頼りないカードが手に入ったよ
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/01 19:05
アンリエッタとの邂逅から数日。

特に今までと変わりのない日常を送っていた。

ロバートは食卓につき夕食をとっている。

(まあ、そういうもんだよな)

あの時はアンリエッタの強行で会うことができたが、そんなことはそうそうできるもんじゃない。

枢機卿の息子、それも義理の息子というだけで他には何も無い自分が王女と会うことなどできようはずもない。

(まあそれでも会えてよかった)

同じ国に同郷の人間が一人でもいるという事実だけでも心強いものがある。

これが頻繁に会うことのできる立場の人間だったのならと思わないでもないが、それは流石に贅沢な欲求だ。

肉厚のステーキをナイフで切り分けていると、玄関の扉が開いた音がした。

恐らくはマザリーニだろうと、特に気にもとめずに食事を続けていたのだが食堂に入ってきたマザリーニを見て驚いた。

なんというか、いつもよりも痩せこけて見えるし、全身から悲壮感が漂ってくる。

マザリーニはふらふらと食卓の自分の席に着くと頭を抱え込んだ。

「お、親父…?」

恐る恐る声をかけると、マザリーニは気だるそうに顔を向けた。

「姫様の…算術の教師にお前が任命されることになった」

ロバートは思わずナイフを落としてしまった。

「な、なぜ…」

「姫様たってのご希望だそうだ」

マザリーニ曰く

アンリエッタ「デムリ財務鏡が言ってたんですけどマザリーニ枢機卿の義理の息子さんが算術の天才だとか。是非ともご指導して欲しいですわ」

マザリーニ「いえ、それは…」

フィリップ「そうなのか?それはいいことだ。マザリーニの息子なら何も心配はいらんだろうしな」

マザリーニ「いえ、ですから…」

マリアンヌ「よろしくおねがいしますねマザリーニ枢機卿」

マザリーニ「………はい。息子に伝えておきます」

という流れらしい。

「なあ親父、元気だせよ」

ロバートは驚いたものの、先日のアンリエッタとの会話を考えるとそこまで突拍子もないことではないと判断した。

それよりも、マザリーニがここまで悲嘆にくれていることのほうが驚きだった。

「親父、息子が信用できないのか?」

「ああ」

「おお、始祖ブリミルよ。我が父はあろうことか息子である私のことをかけらほども信じてくれません」

白々しくもブリミルに祈りを捧げるロバートをマザリーニは冷め切った目で見ていた。

メイドが紅茶を運んできた。

マザリーニは紅茶を一口飲むと少し落ち着いた気がした。

「ところでさ、それって給料でるんだよな」

「でない」

ロバートは驚愕した。

まさか王族に雇われるというのに給料が出ないとは予想外だった。

ただ働きはロバートがもっとも嫌うことの一つだった。

「王族に雇われるのに給料が出ないとはこれいかに」

「私が責任持って子供に過分な給料はいらんと言っておいたからな」

「余計なことを!!」

胸を張るマザリーニの胸ぐらをつかんで思い切り揺さぶった。

前後に激しく振られ、ただでさえ痩せているため折れてしまうのではないかとメイドはハラハラとしながら見守っている。

「給料はでんが、きちんと対価は出るぞ」

「それを早く言ってくれ」

パッと手を離すと席につきロバートもまた紅茶に口をつけた。

(さて、どんな対価があるのだろうか)

さすがに貴族になれたりはしないだろうが、相手は王家だからなにかしらいい物がもらえるだろう。

場違いな工芸品のエロ本がもらえたりすれば王家に忠誠を誓ってしまうかもしれない。

マザリーニは乱れた服を整えるとコホンと咳をついた。

「なんでも、マンティコア隊の指導が受けられるとか。
まあ既に前線を退いた、年で引退間近の隊員だが有益なことは確かだろう」

「いらん」

ロバートはバッサリと切り捨てた。

ただ指導が受けられるだけでどうしろというのか。

富か名誉か権力か、どれかをよこせとロバートは言った。

「実は対価を決めたのは姫様なのだ」

「あのパッパラパーめ」

「姫様をパッパラパーとな!!」

マザリーニは大声を上げた。

メイドはハラハラを通り越して耐え切れなくなったのかいなくなっている。

(あいつ何考えてるんだ?)

ロバートはいまいち考えの読めないアンリエッタの行動に悩まされた。

疑問が解決されることのないままアンリエッタの最初の授業の日が訪れようとしていた。







「姫様、ロバートです」

ロバートがドアをノックすると了承の返事が帰ってきた。

部屋に入るとアンリエッタは既に席についていたが、やはりというか立ち上がって例のごとくロックやサイレントをかけ始めた。

一通りの作業が終わると二人そろって席についた。

「それで、なんのつもりなんだ?お前だって数学くらいできるだろ」

「まあね。下手に目立つのもなんか嫌だったから手を抜いていただけだよ。
そのおかげで君とこうして話す時間が取れた」

「まあ一番の問題はだ。給料は現金にしてくれ」

「やだ」

アンリエッタは切って捨てた。

「そんなのオリ主っぽくないだろ」

「スクウェアどころかトライアングルになれるかも怪しい血統、領地の経営や商売の知識もなく、美形でもなく、金持ちでもないし貴族でもない。さてどうよ」

「もしかするとダイの大冒険のポップみたいに成長するかもしれないじゃないか」

「少なくとも、ポップは序盤で既にメラゾーマが使えてたんだよな。
俺なんかいいとこで、まぞっほレベルじゃないか?」

しかも土系統である。

便利なことは確かなのだが、地味だ。

「俺が火系統だったら『今のはメラゾーマではない。メラだ』とか言うために超頑張るのに。それか風」

「私も水系統だからね。できれば風か火がよかったよ」

やっぱり風の偏在は魅力的すぎるということだった。

風最強説を唱えるギトー先生の気持ちも分からんでもない。

「まあとにかくだ。給料は現金がいいという話だ」

「現金でもいいけど、将来的には指導受けといたほうがいいと思うよ。
ほら、オーク鬼とか倒せるようになれば賞金稼げるし。この世界だと強いほうがきっとモテるさ」

ふむ、と顎に手を当てて考え込んだ。

確かに大工さん的な役割をしながらでも金は稼げるが、オーク鬼退治などの方が稼げるのは確実だろう。

しかも極めつけにモテるかもしれないなどと言われれば、ロバートには特に断る理由が見つからなかった。

仕事の給料は未来への投資ということだ。

「よし、交渉成立だ」




――思っていたよりも簡単に騙されてくれた。
まあそれ自体はよかったことだ。彼には少しでも力をつけてもらわないといけない。
せっかく原作に何のしがらみもない同郷の人間が現れたんだ。
城内の者は誰の息がかかっているものかわかったもんじゃない。
例え現時点では全く頼りにできなくとも、ようやく誰一人イカサマしていないカードが手に入った。
それでなくとも、やはり一人でも同郷の人間が近くにいるのは心強いものがある――
                                           アンリエッタの日記より




[22797] 第五話 大地の力を感じろ
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/02 10:43
アンリエッタとの授業が終わると、ロバートはメイドに連れられて練兵場まで連れていかれた。

どうやらすでに例の老兵は待っているらしい。

ロバートはアンリエッタが自分の返答などお見通しだったということを悟った。

「わしはお主の指導をすることになったアルベルト・ド・ミューランと言う」

練兵場でロバートを待っていた老メイジはそう名乗った。

髪はすでに白髪になり、顔にはシワも浮かんでいるが、顔つきは精悍そのものだ。

体つきもがっちりしており、見るからに強者といった印象を与えてくる。

「ロバートと言います。よろしくお願いしますミスタ・ミューラン」

アルベルトは黙って頷いた。

「先に言っておくが、わしはお主が子供だからといって優しくはせんぞ。覚悟しておくんじゃな」

「わかりました」

ロバートは内心ため息をついた。

厳しい特訓になるのだろう。

ハートマン張りの特訓にならなければいいのだが。

「それと、わしのことは師匠、あるいは先生と呼べ」

この人は熱血に違いないと思った。






「どうだロバート!感じるか!」

「いいえ、何も感じません師匠!!」

ロバートは練兵場の隅の地面から首だけだした状態で埋まっている。

「感じろ!大地の力を感じるんじゃ!!」

なんでも土メイジらしいアルベルトが言うには、まずは大地の力を感じるところから始めるのだとか。

アルベルトの杖の一振りで生み出されたゴーレムの掘った穴にロバートは瞬く間に埋められてしまった。

「人は足を大地につけて生きておる!大地の恵みの作物を食べて生きておる!思いだせ、大地は常にお主と共にあったのじゃ!!」

「うおおおおお」

アルベルトは埋まった状態のロバートに向かった檄を飛ばしている。

ロバートは、大地の力ってなんだよとか思いながら必死になって何かを感じようとしていた。

そんな二人の姿を見ながら、練兵場の他の兵士たちは

「ああ、俺も昔あれやらされたな。懐かしい」

「土メイジって変な特訓するんだな」

「俺は水だからか、親に川に突き落とされたことがあるぞ」

「で、結局あれって意味あるのか?」

「まあ気持ちの問題だろ。思い込みだって役に立つことはあるってこった」

などと話していたがロバートには聞こえてこなかった。

「うおおおおお…ん?…ぬ、おおおおおおお!!!!」

「どうした!感じたのか!!」

もちろんロバートは大地の力を感じたわけではない。

単に鼻の頭が痒くなっただけだ。

しかし身動きできないロバートはそれを掻くこともできない。

必死になって抜けだそうするがビクともしない。

「固い!!ビクともしません師匠!!」

「そうじゃ!!大地は固い!!大地を盾とすればそれはまさしく鉄壁よ!!」

どこか咬み合っていない二人の会話。

「ぬおおおお…ん?」

ロバートがふと練兵場の入り口に目を向けると、そこには従者を引き連れたアンリエッタの姿があった。

それに兵士たちも気づき、すぐに訓練をやめて最敬礼を取った。

アルベルトも急いでロバートを地面から出そうとしたのだが

「構いません、お気遣いなさらず。
私は我が国を守ってくださるために日々研鑽を積む皆さんの姿が見たかったのですから」

とアンリエッタが言ったため出してはもらえなくなった。

兵士たちは「おお、姫様」などと言って感激している。

アルベルトなどは涙まで流している。

「それではみなさん失礼します」

と、アンリエッタは優雅に身を翻して練兵場を出て行った。

しかしロバートは見ていた。

アンリエッタが去り際にちらりとロバートのほうを見て、にやりと笑ったのを。

ロバートは、アンリエッタが自分の醜態を笑いに来たのだと確信した。

「ぬおおおおお!!うがああああああ!!」

体の奥底から沸き上がってくる屈辱や憤怒といった感情に身を任せてロバートは地面に埋まったまま暴れた。

しかしそんな姿を見たアルベルトを含む周囲の人間は

「ふはは、ロバートめ。姫様を一目見たためか燃えておるわ」

「いやいや、子供ってのは熱しやすいもんだな」

「まあかわいいもんじゃないか」

「頑張って姫様を守れるようなメイジになれよ坊主」

といった具合だった。







その後、地面からようやく出してもらえたロバートは

「体力がなくては訓練もままならん。走れ!走るんじゃ!!」

というアルベルトの言葉で練兵場の周りをひたすらと走らされている。

「うおおおお」

問題は、後ろからアルベルトの作ったゴーレムが追いかけてきていることだった。

しかも一度ゴーレムに捕まるたびに、一時間地面の中に埋められるという罰までつけられているためペースを落とすこともできない。

「うお!今かすった!!」

「ほれほれ、ペースが落ちてきとるぞ」

結局ランニングは、へとへとになって倒れたロバートをゴーレムが足首を掴まれて宙ぶらりんにするまで続いた。






「やはり土メイジとなればゴーレムを作れなければ話にならん。
対人戦、攻城戦のどちらでもゴーレムは役に立つ」

アルベルトはそう言うと、杖を振った。

すると瞬く間に地面の土が動き出し、人の形を取った。

2メイルほどの大きさの、鎧を着込んだ騎士の姿をし洗練されたゴーレムが20体ほど。

それらがザザッと整列をするその姿は、なるほど圧巻の光景だ。

「ゴーレムは作れるのか?」

「はい、一応」

とロバートもまた杖を振った。

足元の土が盛り上がり人の形を取った。

それはかろうじて人の形をとっていると言った感じの拙いもで、大きさは15サントほどしか無かった。

アルベルトはしゃがみ込み、じぃっとそのゴーレムを見つめた。

そして「うりゃ」と強くデコピンではじき飛ばした。

ただそれだけのことでゴーレムは崩れ落ち土に還ってしまった。

「ゴーレムゥゥウウ!!!」

ロバートは膝を付き、ゴーレムの残骸の土を両手で掬い上げた。

「その程度でゴーレムとは片腹痛いわ。
当面の目標は一体でもいいから2メイルのゴーレムを作り、手足のごとく動かせるようにすることじゃな。
ほれ、しゃきしゃき作れ」

アルベルトに言われて2メイルのゴーレムを作ろうと杖を振る。

土が人の形を取ろうとするのだが、1メイルを超えたあたりで崩れ落ちてしまう。

「ゴーレム生成は数をこなせ。魔力の尽きるまでゴーレムを作り続けるのじゃ」

うひー、と言いながらロバートは杖を振り続けた。

その日の成果はと言えば、1メイル10サント辺りまではゴーレムが崩れ落ちなくなったというものだった。






ロバートが魔力も体力も使い果たしフラフラになりながら家に帰ると、食卓の席には既にマザリーニが座っていた。

「どうやらずいぶんと絞られたようだな」

マザリーニはふらふらのロバートを見てにやりと笑った。

もはや反論する気力すらないロバートは食卓の席に着くとテーブルに突っ伏した。

「私も今日知ったばかりなのだがな。お前の指導をしてくださっているアルベルト殿は土のスクウェアメイジで、前線にいた頃は土石流の二つ名で呼ばれていた猛者だったらしいぞ」

「アルビオンの竜騎士団との模擬戦においては、まさしく土石流のごとき勢いで竜騎士団に迫り、彼らを心胆寒からしめたと」

「もっとも、もう5年ほど前からは前線を退いて後進の指導や王都の守備の任に当たっているらしいが」

「全盛期のアルベルト殿のことは、あの烈風カリンでさえも一目置いていたと言われるほどだそうだ」

「現隊長はド・ゼッサール殿だが、それもアルベルト殿とどちらが隊長になるものかと噂になったほどらしい」

「おい、ロバート。聞いているのか?ロバート」

ロバートは既に疲れはててそのままの体制で寝息を立てていた。

マザリーニは、まったくと呟くとメイドを呼んだ。

「すまんが、ロバートをベッドに運んでくれ。起こさんようにゆっくりとな」




[22797] 第六話 ヨシェナベ喰いたい
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/02 11:38
アルベルトとの特訓がほぼ毎日行われるように、アンリエッタとの授業も3日に1度ある。

とは言っても、ロバートがアンリエッタに教えられることなど何もなく、ただ雑談をしているだけなのだが。

「そういえば、お前練兵場までわざわざ来て俺のこと笑っただろ」

「ああ、あれは傑作だったよ。くく…それで、大地の力は感じられたのかい?」

「全然」

笑いを噛み殺しながら問う姿にロバートは憮然として答えた。

そもそも大地の力ってなんだよといった感じである。

「まあ頑張って強くなりたまえ」

「俺の神聖モテモテ王国のために、だな」

まあ強くなる理由なんて人それぞれか、と呟いたアンリエッタ。

(できれば、早く強くなってもらいたいんだけどね)

アンリエッタの考えていることを実行するためには、今のロバートでは力不足だった。

そのためにアルベルトをつけたのだ。

「それにしても、タルブに行きたいな~」

「ゼロ戦かい?」

確かに日本人としては見てみたい気持ちもある。

ましてや男のロバートからすればなおさらだろう。

「それもだけどさ。ヨシェナベが食べたい」

「ああ…たしかにね」

こちらに来て以来、日本的な和の味のするものなど口にしていない。

米を食べることもなく、基本的にパン食だ。

懐かしくもなる。

「今なら海外に出張とかする人が味噌とか醤油を持っていくのがわかる」

「それにジャンクフードも食べたいね」

王宮の食事はなんというか固すぎる、とアンリエッタは思う。

マナーもそうだが、どれもこれも手の込んだものばかりで気が滅入ってくるのだ。

おいしいことにはおいしいのだが、それが毎日となるとやはり辛いものがある。

王宮ほどではないが、マザリーニの家もそんなものだろう。

ハンバーガーにガブっと喰いつくような食事が懐かしい。

「「ああ~…」」

二人してため息をついた。

「なんというか、肉も飽きてきたよな」

ロバートの言葉に頷いた。

牛肉のステーキなどはよく食べるのだが、やはり肉の質が違うのである。

流石に魔法があっても肉の質をどうこうすることはできない。

畜産技術は日本の方が圧倒的に優れているため質が違うのだ。

まあ、それは専属の料理人の腕によって家庭で作るよりも遥かに上手く調理されているため特に気にならないのだが。

「屋台で食べたりすればジャンクフードみたいな大雑把な味に出会えるかな」

「やめときなよ。衛生面が怖いし、多分それほど期待できないよ」

このくらいの時代だと香辛料でさえ貴重だ。

香辛料をかける際は使いすぎないように小指と親指でつまんでかけるのが常識だということからもそれは伺える。

そんな状況だというのに、民間のそれも屋台でガツンとした味に出会えるとは思わない。

料理に関してはぶっちぎりに最先端で、世界中の料理の集まる日本に住んでいたからこその悩みだ。

まあ日本での庶民の生活は、少なくとも食事に置いては貴族以上に贅沢とも言えるということである。

「サイトもこんな感じだったのかなぁ」

「どうだろうね」


「そういやさ、サイトには地球出身ってこと言うの?」

「いや、言わないよ。だってなんだか周りにもバレそうじゃないか」

ああ~、とロバート。

確かに、サイト自身は黙っているつもりでもラブコメ主人公的なミスで周りにバレそうだと思った。

「王女が前世とか異世界出身とか言ってたらまずいだろ?」

「まあ、頭がおかしくなったのかと思うな」

「そもそも、彼は『違う』しね」

そう、サイトは厳密に言うと同郷ではない。

地球は地球でも、おそらくは平行世界とかそんな類のものだと二人は考えていた。

ゼロの使い魔の小説とかは流石にサイトのほうの地球には無いだろう、と。

「そういうわけだし、彼には悪いけどたった二人の同郷同士で仲良くやろうよ」

「んだんだ。サイトはどうせリア充になるしな。男の敵だ。どうせなら俺もガンダールヴになりたかった」

「七万の敵に一人で突撃したいのかい?」

「そいつはゴメンだ」

流石に一人っきりで戦争をしたくはない。

命あっての物種ということだ。

「今デルフリンガーを俺が買ったらどうなるのかな?」

「サイト終了のお知らせだね」

そんなことをすればアルビオンのワルド戦で死ぬだろう。

「そしてサイトが死んで、ルイズも殺されるか連れさられる。
虚無とゼロ戦なしでレコンキスタと戦争」

「どうやらトリステインも終了のようだ」

ようするに、いらんことをするなというわけだ。

ほうっておけば概ねいい方向に行くのだ。

「トリステインのためにも、そして俺達の平和のためにもサイト大明神様には頑張ってもらわないといけないのか。
あ~でもテファのおっぱいもやつのものか…妬ましい」

果たしてそれが幾度にも渡る命の危険と釣り合いが取れるものかどうかはわからないが、端から見ていれば妬ましいのだ。

「おっぱい要員なら、王宮にも君の家にもメイドがいるじゃないか。流石にテファほどじゃないがね」

「ああ、メイドさんはいいな。なんというか、あの声をかけて振り向いたときにロングスカートがふわっとするのがいい。
パンツとかそんなものは、あのふわっの前では塵芥だ」

「うわっ、さすがの私もそれは引く」

アンリエッタが少し距離をとった。

「所詮女には理解できんことだ」

ロバートは、仕方ないと言わんばかりに納得した表情を見せた。

「というか、エロ本を読んでるような王女に言われたくはないんだが」

「失敬な。芸術文化を嗜んでいるだけだろうに」

「そういや、モット伯は地球のエロ本とか持ってるんだよな。フーケに盗んできてもらえないかな」

「そんなこと頼んだらゴーレムに潰されるんじゃないか?」

そもそもフーケとの接点など、どちらも皆無だ。

「王女命令で取り上げておくれよ」

「流石にエロ本よこせと命令する勇気はない」

まあエロ本を差し出せと言ってくる王女に忠誠を誓う気にはなれないだろう。

「なんでもいいから娯楽が欲しい」

訓練なども嫌いなわけではないが、やはり娯楽は必要だとロバートは思う。

「王宮の図書室に入ってもいいように許可を出すから、本でも読んだら?
流石に入らせてあげるわけにはいかないところもあるけど、メイドたちでも入っていい場所はあるし」

「この時代の文学ってどうなの?親父の持ってる本は固いし難しい本ばかりでさ」

「劇の台本とかもあるよ。シェイクスピアとかヘルマン・ヘッセなんかは現代でも評価は高いじゃないか。
文学の素晴らしさに時代は関係ないさ。もちろん社会風刺なんかもあるから少しは関係してくるけどね。
まあそれも、こちらの世界のことを学ぶことにもなるし」





その日から、暇なときは王宮の図書室で本を読むようになったロバートを見て

「ついに心を入れ替えたのか」とマザリーニが感動したりしなかったりということがあった。



――ヨシェナベ食いたい――
     ロバートの日記より

この時点で彼がなぜタルブ地方の料理を知っていたのかということは歴史学者の中でも度々議論となる。
一説によると、王宮の図書館の本に載っていたに違いないと。
しかし、王宮の図書館の蔵書目録を調べてもそれらしき本はない。
一説によると、メイドの誰かから聞いたのだと。
王宮にもマザリーニ家にもタルブ出身のメイドがいた記録はない。
もっとも、知っている人間がいた可能性は否定できないが、タルブ地方はワインばかりが有名で、ヨシェナベはあまり知られていなかったため期待は薄い。
彼らの行動には未だ謎が多い。ほとんどが謎に包まれていると言ってもいい。
死後、優に1000年以上たった今でも彼らは歴史学者を悩ませている。




――今日の彼との会話で改めて実感した。
私は原作から逃げられないのだと。下手なことをすれば国が滅び、私も殺されるか利用されるだけの人形になるだろう。
原作では女王となり鳥かごから抜けだしたアンリエッタ。だが私は女王になったところで原作という鳥かごに包まれたまま。
本当に彼が来てくれてよかった。鳥かごの中は一人だと耐えきれないほどの苦痛だ。
完全に先の見えた生など、苦痛以外の何物でもない。
されど、それを壊すのは怖い。その先に待つ死の恐怖の前に立つことなど、一人ではとうてい不可能だ。
しかし、彼ならきっと共に踊ってくれるのだろう。私の手を取り、アルヴィーのように…。
私を囲う運命を壊し、その先にある死も壊し、全てが壊れてしまうほどに踊り狂おう。
私たちはこの世界でたった二人きりのアルヴィーなのだから。そう、演目はゼロの使い魔――



[22797] 第七話 俺がガンダムだ
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/04 06:53
虚無の曜日、ロバートは王宮の図書室にいたのだが自主練でもしようかと思い練兵場を訪れた。

普段はいつもそこそこに人がいるのだが虚無の曜日のためか誰もいなかった。

「そーい」

ロバートが杖を振ると土が人の形をとり始める。

すぐに1メイル50サント程のゴーレムができあがった。

見かけだけで言えば十分に合格点をもらえるだろうとロバート自身思っているのだが、このゴーレム、中身はスカスカである。

未だにこの大きさでは中身まで手がまわらないのだ。

そして外面も土で出来ている上に大して厚いわけでもないため、一撃加えられるだけで崩れ去るほどにもろい。

まだまだ戦闘に使えるほどではない。

(いや、逆に考えるんだ。空洞にしかできないんじゃなくて、あえて空洞にしているんだと)

ロバートは以前から気になっていることがあった。

中身が空洞だというのなら、自分がその中身になれないのかと。

要するに土の鎧的なものにすることができるのじゃないかということだ。

幸いにも周りには誰もいない。ロバートは決心した。

「そーい」

ロバートの杖の一振りでゴーレムは崩れ去り、構成していた土はロバートの体に張り付き始める。

自分がゴーレムに乗り込むといったイメージ、さながらガンダムである。

そしてだ。

「成功した…」

ロバートの首から下を覆うように土がまとわりついていた。

「だが…これは無い」

まず見た目がアウトだった。色が茶色というのがいただけない。

そしてかなり重い。なにより、よく考えると最初から甲冑を着ていたほうが早いと。

「一応は成功か」

しかしこれを使うことはもう二度と無いだろう。

今の自分の姿は端から見ればモビルスーツのコスプレをしているように見えるんじゃないだろうか。

「俺が、ガンダムだ」

思わず言ってみたものの、これは地球でしか通用しないだろう。

地球ならこれもネタに昇華されるのかもしれない。

しかし、一人でこんなことをしているとなんだか恥ずかしい。

「く、くく…」

誰かの押し殺すような笑い声に気づき、ロバートはハッとして声の方を見た。

「や、やあガンダム君…くくく…」

そこには練兵場の入り口で腹を抱えてうずくまるアンリエッタがいた。

ロバートの目の前が真っ白になった。







「死にたい」

ロバートはアンリエッタの部屋の隅で体育座りをして顔を伏せている。

穴があったら入りたいというのはこういう気分なのだろう。

「驚いたよ。暇だったから王宮を散歩していたらまさか…くく…ガンダムの練習をしているだなんて」

「もう一度死んでも転生できるかな…今度はチートオリ主になりたい」

「ナデポとニコポもありかい?」

「はい。ありありですハーレムです」

しかし現実は非情だ。

チート無し、ニコポナデポでハーレムどころか出会いすら無い。

まだ街にいる一般人の方が女の子との出会いもあるだろう。

「ああ、青春してえ」

魔法学院に通いたい、とロバートは思った。

「なんかさ、やっぱサイトってラッキーだよな」

ガンダールヴというチートに、周りにはかわいい女の子達。

残念なのは常に死の危険と隣り合わせということだが。

「おいおい、君も十分ラッキーじゃないか。
ほら、こんなに美しい王女様と仲良くなれているんだからね」

アンリエッタはくるりとその場で一回転。

確かに見た目はいいのだ。トリステインの華と言われるだけのことはあるとロバートも思っている。

「できればエロ本を嗜む子じゃない方が良かった。
お嬢様って感じの慎ましやかな子になって帰ってきてくれ」

「それは無理だね。君がチートオリ主になることと同じくらい無理だよ」

アンリエッタはこともなげにそう言った。

「なんという絶望感。最近師匠に『がんばったらトライアングルの端っこくらいには手が届く・・・かもしれんぞ?』と言われた俺には無理な話だ」

下手すれば一生ラインのままかもしれないという話だ。

頑張っても原作開始時のキュルケと同等である。

「ここはもうルイズに召喚してもらうしか無いな」

そしてガンダールヴ無双である。

「君がガンダールヴになったとしてもサイトほど強くなれるとは思わないんだがね。心の震え的な意味で」

「なるほど」

確かにそれはそうだ、とロバート。

既に未来を知っているロバートの感情が震えることは少ないだろう。

例えルイズがワルドに襲われてもそれは既に知っていることなのだから、サイトほど怒りはしないだろう。

「心の震えが力になるってことはだ。直情型で感情の起伏が激しいやつほどガンダールヴに向いているということなのか?」

「有り体に言えばキレっぽい人ほど向いているってことだね」

「もしかすると、マリコルヌってガンダールヴに最適なんじゃないだろうか」

「リア充か美女のどちらかが絡まないといけないけどね」

しかし、そう考えるとそのどちらかが絡めばガンダールヴ持ちマリコルヌは負けることがない気がする。

エルフでもなんだか倒してくれそうだ。

しかも原作は大抵美女が絡んでいるから問題はないだろう。

しかしマリコルヌに世界を救ったりはされたくないと思う。

「でもマリコルヌも彼女できるんだよな」

なんとも世の不条理を感じさせてくれる話である。

「君はあれかい?年齢イコールとか言う、伝説のイコーラー」

「病院生活でどうやって彼女を作れと?」

「ナースさんとキャッキャウフフできるじゃないか」

「残念ながらそのイベントにはイケメン属性が必要だったようで、俺にはなんのイベントも起きませんでした」

ロバートは肩をすくめて首を振った。

若干その背中が煤けているようにも見えた。

「転生イベントが現在進行形じゃないか」

「初期能力が低い上に限界値まで低いんです。キャラクターエディットからやり直させてください」

ロバートは頭を下げて頼み込んだ。

「王宮ではそのようなサービスは提供しておりません」

なんというお役所、とロバート。

そしてロバートはふと何かを思い出したような顔をした。

「そういやこの前図書室から帰ってるとルイズと烈風カリンっぽいの見かけた」

「ああ、ルイズはちょくちょく遊びに来るしね。カリーヌさんも、うちの母と仲がいいから付き添いでよく来るよ」

「いやーあれはびっくりした」

ロバートは思い出す。

遠くから二人を見ながら
『今はあんなに小さいルイズが大艦隊を一撃で戦闘不能するモンスターになるのか。そしてあれが烈風カリン、ブレイドで戦艦をたたき斬るモンスター。まさにモンスターファミリーだな』とか思っていた。

すると急にカリーヌがきょろきょろとし始めたのである。

どうしたのかと問うルイズに、なにやら不穏な気配を感じたと答えるカリーヌ。

すぐさま逃げ出したロバートだった。

「どうせなら弟子入りすればよかったのに。ほら、オリ主っぽいでしょ?」

「アルベルト・ド・ミューラン師匠に教わる身にして、そのような不義理ができようはずもない」

ロバートはきっぱりと言い切った。

ふむ、とアンリエッタ。

「ようするに、烈風カリンは怖いから嫌だと」

「はい」

ためらわず頷いた。








[22797] 第八話 同志達の出会い
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/04 23:45
「ヒヒヒ」

「メンヌヴィル…」

トリステイン魔法学院で、ロバートは白炎と対峙していた。

二人を遠巻きに見守る生徒たち。

どうやらコルベールはまだ来ていないようだ。

「燃やす。燃やしてやるよぉおおおお!!ヒハハハハハ!」

メンヌヴィルの杖の先に白い炎が生まれる。

あまりの熱にメンヌヴィルの姿が歪んで見える。

しかしロバートは焦りの色一つ見せずに佇む。

「ジュージューと肉の焼ける匂いを嗅がせてくれよぉおお!!」

「遅いな」

メンヌヴィルの杖から白炎が放たれた瞬間だった。

ロバートの杖の一振りでメンヌヴィルを上下左右隙間なく囲むように土の牢獄が生まれた。

必然、行き場をなくしたメンヌヴィルの白炎は土の牢獄の中で燃え盛る。

「ギャアアアアア!!」

逃げ場のない土の牢獄の中でメンヌヴィルは自らの炎に焼かれた。

メンヌヴィルの断末魔を背にロバートは杖を下ろした。

「メンヌヴィル、自らの炎に灼かれて逝くがいい。それが貴様への断罪の炎にして送り火だ」

生徒たちの方に向かい歩き出すと、まるでモーセの十戒を彷彿とさせるように生徒たちが道を作る。

ロバートは何一つ語ることもなく無表情にその道を歩んでいった。




「……ハッ…夢か」

ロバートはいつものように見慣れた部屋で目覚めた。

そしてロバートは辺りをキョロキョロと見回すと頭を抱えてベッドの上を転がり始めた。

「うおおおおお!超はずかしい夢見たーーーー!!!」

顔から火が出るとはこのことなのだろう。

ロバートの顔は真っ赤になっており、湯気でも出そうな勢いだった。

「これはもう駄目かもしれん。恥ずかしさで胸がドキドキ、破裂しそう!!」

死因・ドキドキ。

ラッキーで手に入れた第二の人生とは言えこれは無いだろう。

「ロバート様。朝食の準備が整いました」

トントンとドアがノックされ、メイドの声が聞こえてきた。

「あ、ああ。わかった。すぐに行く」

ロバートはドキドキを押し隠しながらそう答えた。




朝食を食べて、ロバートは王宮を訪れていた。

アンリエッタの教師をしている上に図書室の使用を許可されていて、さらにマザリーニの息子というトリプルコンボのためにすでに顔パスレベルになってきている。

今は図書室にも向かわずに王宮の広間の壁にもたれかかってじっとしている。

視線の先にはシーツを運ぶメイドさんや、掃除に向かうメイドさんの姿。

(ふむ、やはりいい)

ロバートは知っていた。

ここは王宮に用事のある人や働いている人が移動をするときに頻繁に通る場所であるため、一番メイドさんの通りが多いところだということを。

すたすたと移動するメイドさん、あたふたと移動するメイドさん、そしてふわりと揺れるロングスカート。

ここでじっとそれを眺めているだけでロバートはほっこりとした温かい気分になれるのだ。

流石に王宮のメイドさんというべきか、変なところで転ぶドジっ子はいない。

しかしそれもまた本来のメイドの姿であるためロバート的には好印象だった。

ロバートは心に癒しを求めるとき、いつもこうして何をするでもなく壁にもたれかかりメイドさんを眺めている。

王宮の人間には「王宮の仕事を少しでも理解しようとしている」という目で見られていることはロバートは知らない。

ロバートがしばらくそこでじっとしていると、ロバートの隣に一人の男が現れ同じように壁にもたれかかった。

「まさか先客がいるとはな」

男は感心したようにそう言った。

「では、あなたも?」

ロバートは返した。

「ああ、ここは何年も前からの私のフェイバリットスペースでね」

「なるほど、まさか先達がいるとは思いもしませんでした」

男は、ははっと笑った。

「一目見てわかったよ。君は私と同類だとね」

「光栄の極み」

「君はどう思う。あのメイドさん達の魅力についてだ」

男はロバートを試すように問いかけた。

ロバートはそれに少しも思考すること無く答えた。

「あのロングスカートのふわりとした動きがたまりませんね」

「くくく、どうやら君は予想以上に洗練された嗜好を持っているようだ」

男は心底楽しそうに笑みを浮かべた。

そして男は続けた。

「しかし見ているだけでは物足りないだろう。性欲を持て余すのではないか?
まあ君の年頃ならまだ早いのかもしれんが」

「手を出すなどもってのほかです。それでは彼女たちの魅力がなくなってしまう。
花は野に咲いているのが一番美しいのです。
もし美しいからと手折ってしまえばその美しさを保つ時間は短くなってしまいます」

「ほう、そういう考え方もあるのか」

男は目を見開いてロバートを見た。

ロバートはにやりと笑った。

「そうですね。例えばあの二人」

ロバートが指を指す先には、一人のメイドさんと無骨な軍人然とした男がいた。

男はその二人を見比べた。

「どうしてあの二人が、同じ人間であるというのにああまでも我々の胸にもたらす感傷が違うのか。
それは男と女の違いというだけでは説明がつかないものでしょう。
二人の間にある違い。私はその何かこそがもっとも重要な要素であり、直に触れることと崩れ去ってしまう。そんな儚く遠く、狂おしいほどに愛しいものだと思っています。
だから私はこうして見守ることで彼女らを愛でているのです」

男はもう一度二人を見比べた。

そして、ふっとひと息つくとロバートの頭に手を載せた。

「なるほど、どうやら今日は私の完敗のようだ。認めよう、君は私の同志であり好敵手だ。君の名前は何という?」

「ロバートと申します」

男はロバートの頭から手を離すと歩き始めた。

男は歩きながら片手を上げ、ロバートの方を振り返ること無く言った。

「私の名はジュール・ド・モット。また会おう、幼き同志よ」


モットが立ち去った後、しばらくしてようやくロバートは口を開いた。

「え?」






――ふふ、今日はいい日だった。まさかあんな少年に出会えるとはな。
ロバートと言ったか。まさか私が感心させられるほどの見識をもっているとは末恐ろしいものだ。
しかし、彼の言っていたことが正しいということはわかった。
まさか手を出さぬがゆえの感傷などというものに気付かされるとはな。
このジュール・ド・モット。この齢にして新しい世界を垣間見たわ――
                             ジュール・ド・モットの日記より



この日を堺に彼の悪い噂は勢いを弱めることとなる。
ただ、今までが今までであるため悪い噂が途切れるということまでには至らなかったが。

そして現在から未来に到るまでの誰もが思いもしなかっただろう。
アンリエッタの右腕と左腕となる二人の出会いがこんなものだったということを。
これが後の世にして愛国の盾と呼ばれることになるジュール・ド・モットと、戦姫の懐刀と呼ばれることになるロバートの出会いだった。



[22797] 第九話 我が剣は我流。我流故に無型。無形故に誰にも読めぬ。
Name: 七星◆54cd1b68 ID:8e58ac88
Date: 2010/11/06 10:16
「ロバート、今日はアースハンドの練習だ」

「はい、わかりました」

今日も今日とて特訓である。

最近は練兵場の兵士さんにも顔を覚えられてきたらしく、少し話をしたりするようになってきた。

「アースハンドもなかなか凡庸性の高い魔法でな。ほれ、このとおりじゃ」

アルベルトが杖を振ると、地面から土でできた腕が出てくる。

土でできた腕はそのままアルベルトの肩をたたき始めた。

いくらなんでもその使い方はない、と思うロバートだった。

「ほれ、ちょっとアースハンドをやってみろ」

「はい。アースハンド」

土から腕が顔を出す。

感覚的にはゴーレムを作るのと似ているためか、これは存外簡単にできた。

ただ、

「なんというマドハンド」

すごく小さかった。

しかしこれも文字通り相手の足を引っ張ることくらいはできるのかもしれない。

ロバートは自分の足を掴ませてみた。

「脆さには定評があるようです」

一歩踏み出しただけで地面から引きちぎれて土に戻ってしまった。

「こんなに情けないアースハンドは久々に見たわ」

アルベルトも目を見開いて驚いている。

「どうやら魔力の無さは折り紙付きのようなんです」

ふむ、とアルベルト。

「もういっそメイジであることを捨てて剣を持って戦ったらどうじゃ」

「いや、流石にメイジではありたいと思っているんですが」

(しかしメイジ殺しというのもなかなか…)

片手に銃を、片手に剣を。

なんだか胸が熱くなった気がするのは気のせいだろう。

(まあそうなったらデルフリンガーみたいな魔剣でもないとやってらんないな)

魔法吸収とかうらやましすぎると思う。

せめて使うとベギラゴンの効果があるくらいの魔剣が欲しい。

「そういえば、師匠は腰に剣をさしてますよね。なんのためなんですか?」

ずっと気になっていたことを聞いてみた。

アルベルトはメイジにしては珍しく、腰に剣を差している。

「ん?これか」

と、アルベルトは腰に刺してある剣を鞘ごと少し持ち上げる。

「これはわしがまだ前線におったころに杖として契約して使っておったものでな。
なんでも昔の名鍛冶師が打ったとか打ってないとか、土の精霊の力が宿っているとか宿ってないとか言われている由緒正しそうな気がする剣じゃ」

(なんというウサン臭さ)

見た目はただの剣である。

すごいオーラを発しているとか、喋りかけてきたりとかはしない。

「それでは、何か特殊な力などが…」

「無いぞ」

イッツ・ア・ノーマルソード。

残念、ただの剣だった。

「まあ正直ブレイドがあるから剣を使う必要はないんじゃがな。実際、この剣にブレイドをかけるしな」

ふはは、と笑った。

それってただ無駄に重いだけなんじゃないだろうか。

「実は子供の頃イーヴァルディの勇者に憧れておってな。どうやらその名残で未だに剣を持つことが好きなようじゃ。
まあ特殊な力はないが、頑丈さだけはお墨付きじゃ。切れ味に関してはブレイドを使うからどうでもいいからな」

つまりただの頑丈な鉄の塊ということか、とロバートは結論づけた。

しかし、男としてはやはり剣には心ひかれるものがある。

いつか自分も剣を買おうと思った。

「なんじゃ、剣に興味があるのか」

「あ、はい」

「そうかそうか。お主もか」

なにやら感慨深そうにアルベルトは言った。

まあメイジが剣を持つことは少ないから、仲間ができて嬉しいのだろう。

「なら、ブレイドの魔法と剣の使い方を練習するか?」

「はい!」

まずは素振りからじゃな、とアルベルトは練兵場の片隅に立てかけられていた素振り用の木剣を持ってきた。

手渡された木剣を手にすると、ロバートは胸が熱くなるのをしっかりと感じた。

そう、きっとここで自分の才能が開花するに違いない、とかすかな希望を胸に宿した。






「ええい、もっと体重をのせんか!そんなことでは烈風カリンのように戦艦をたたき斬ることはできんぞ!!振りがなっとらんわ!!」

「し、しかし我が剣は我流。我流故に無型。無型故に誰にも読めぬわけでして」

「止まって見える剣に読める読めぬは関係ないわ!!」

次第に感覚を失っていき痙攣を始めた手を見て、剣を持ったその日にしてロバートは後悔することになった。

その姿を見ながら、訓練中だったマンティコア隊の隊員たちはひそひそ話を始めていた。

「おいおい、ロバートのぼうず烈風カリンと比べられてるぞ」

「いや、無理だろ」

「正直エルフより烈風カリンのほうが怖いよな」

「おお、あんなのと結婚して浮気でもしたらナニなんか一発で切り落とされるだろうさ」

「流石に戦艦をたたき切ったり、砦をぶっ飛ばすような女はちょっとな」

「おいおい、そんなこと言っててもし烈風カリンが隊長として帰ってきたらどうするんだよ」

「ははは、そうなったら荷物まとめて実家に帰るしかねえわな」

「違いねえ」


彼らは、ちょっとした笑い話のつもりだったのだろう。

まさか、それが現実のこととなる悪夢の日々が訪れることになるとは万が一にも思ってはいなかった。




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