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[22701] (ネタ)ストライクウィッチーズ:R
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/08 06:15
ストライクウィッチーズでアニメとはちょっと違う宮藤芳佳が逆行&転生する。といった話です。
初SSという事はないのですが、自分の筆力及びネタ走り傾向を考えてチラシの裏に投稿させていただくことにしました。


追記、「逆行」を「逆行&転生」に変更しましたmig21さんありがとうございます
記事番号3番の最後を修正。H.Kさんありがとうございます
記事番号1番と0番を修正。KSGさんありがとうございます
タイトルに話数を付けました。KSGさんありがとうございます
501 2話のタイトル及び設定ミスを修正しました。FREさんありがとうございます
501 2話のタイトルミスを修正しました。アサヒナさんありがとうございます
ガリア戦線 3話の名前ミスを修正しました。アサヒナさんありがとうございます
501 2,5話の本文を修正しました。a4さんありがとうございます
501 2話の本文を修正しました。アサヒナさん何度もありがとうございます
ガリア戦線 1話の名詞ミスを修正しました。アサヒナさんありがとうございます
ガリア戦線 3話の年代ミスを修正しました。qweさんありがとうございます
501 1話の階級ミスを修正しました。バタフライエフェクトさんありがとうございます
501 3話の名前ミスを修正しました。アサヒナさんまたしてもありがとうございます



501 1話を投稿 10月25日
501 2話を投稿 10月30日
501 2,5話を投稿 11月2日
501 3話を投稿 11月7日



[22701] ガリア戦線 1話 ウィッチ
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2011/01/03 15:08
今思い返してみれば、運が悪かったのだろう。
今思い返してみれば、運が悪かったのだろう。
その日は嵐の中の戦闘で、場所も場所だったから気温も低くて、そういえばエンジンの調子もあまり良くなかったような気がする。

いくらトップエースだと騒がれていても死ぬときは死ぬものだ。

それは501や扶桑の皆が証明していた。
私が、最後のストライクウィッチーズだったのに、もう誰も残ってはいないのに。
そう考えれば、少しもの悲しさもある。
できることなら、終戦まで戦い続けたかった。
20年戦い続けて、ようやく見つけた終わりへの道標。
できることなら、駆け抜けたかった。
最後まで戦って、勝利に笑う人々を見るのが仲間を失った『宮藤芳佳』の最後の戦う目的だった。
守るものはもうなかった。
501の皆も扶桑の皆も消えてしまって、無関係の人々を守りたいと思うほどこの『宮藤芳佳』は強くなかった。
失うものはもうなかった。
自分の持っていた絆を全て失くして、それでも皆の死が無駄でなかったことの証の為にと戦い続けて、最後にはあの人型との絆さえ、自らの手で断ち切って。

お前にしかできないことがあるだろう?

坂本さんが死ぬ間際に私に言った言葉だ。
あれは、いったい何だったのだろう。
リーネちゃんも、ペリーヌさんも、501だけじゃない扶桑の皆が細部こそ違えど同じような言葉を私に送った。
結局、最後までわからなかったな……、『私にできること』。
いや、むしろわからないからこうなってしまったのかもしれない。
初めて空を飛んだ時には、わかってたと思うんだけどなあ。

もし、もしもあの時、ストライクウィッチーズが11人揃っているあの時に戻ることができれば、わかるのかな。







……ばぶう。










































私ヴィオレーヌ・ファルシネリ、『宮藤芳佳』の生まれ変わりですのよ!
……何か恥ずかしいな、これ。
もうガリアで生まれなおして10年になるけど、いまだにこの口調の人に会ったことがないのは何でなんだろう。
ペリーヌさんは貴族で、私の住む家は一般家庭……ではまあないけど普通の家だからかな。
10年、10年も経ったなんて信じられないよね。
10年前『この世界』に生まれなおして、訳分からないまま孤児になって、先生に拾われて、尻餅ついた拍子に使い魔と契約しちゃって、学校にいって文字が全然わからなくて、お姉ちゃんやお兄ちゃん達が卒業して(時々帰ってくるけど)、私にも妹や弟ができて、洗濯してご飯作って掃除して皆と遊んで、また魔法の勉強を始めてそして、

そしてネウロイが現れた。

前と同じ1939年のことだ。
最初はオラーシャ次はオストマルクそしてその次は、この場所ガリアに。
もうすぐ、ここも戦場になるらしい。
その為に孤児院の皆と疎開の準備をしている。
先生が軍の偉い人と知り合いらしくて、早めに避難することができるみたい。
疎開先はエスパニアの奥地。
海岸線に近い場所でいざという時、船で逃げることも可能だから、って。

私はどうしたらいいんだろう。

『宮藤芳佳』としてなら、きっと戦える。
この体に比べて遥かに魔力が多かったりだとか、一生魔法と付き合っていける体質だとか、そういう理由じゃなくて単純に、『宮藤芳佳』なら皆を守るために戦える。
でもヴィオレーヌ・ファルシネリとして、私は自国、あるいは世界を守りたなんて思えない。
今私が守りたいとしたら先生と院の皆だけ。
闇雲に戦いを続けても、仲間を犠牲にしていくだけだ。って、もう私は知ってるから。
私がいなければ、死んでしまう人もいるかもしれない。
でも、そんなの関係ないよね。
目の前で死なれるより、私の見えない場所で死んでほしい。
こういう考え方はきっと間違ってるんだろうけど、大切な人を目の前で失うことに比べたら、見知らぬ誰かから冷めた声で『あの人は死にました』と伝えて貰う方が、ずっと楽だ。
何で死んでしまったのか。って、叫べばいいから。













「ヴィオレーヌ、準備はいいかな?」

先生が私に問いかける。
先生は親に捨てられた私を拾ってくれた人だ。
もちろん拾われたのは私だけじゃなくて、先生は親に捨てられた子供や望まれぬまま生まれてきた子供たちを集めて、孤児院を経営している。
普段から温厚で、厳しい時もあるけどすっごく優しい人だ。

「大丈夫です、先生!」

私が大きな声で返事すると先生は、元気がよろしい、と満足げに頷く。
その時にチリチリに伸びた髭が襟に当たってクシャってなるのが、少し面白い。

「あれ?先生荷物は?」

私の隣にいた弟の一人が声をかける。
その言葉につられて私も先生の周りを見渡すが、鞄どころか、袋の1つさえない。
先生は物を多く持つ方の人じゃないけど、それでも鞄には収まらないぐらいものがあるはずだ。

「ん、ああ……。そうだな、私は少し遅れて出発することになってね」

先生は、やってしまったとでもいう顔をしながら私たちに言った。
先生は、顔に表情が出やすい人で、そういう意味では実質的に嘘がつけない人だ。
普段なら、何か事情があるのだろうと聞かないで置くものの、今はネウロイが近い。
私の知ってる限りだとガリアは早いうちに激戦区になり、確か、私がストライクウィッチーズに入る直前にカールスラントが陥落して、カールスラントはかなり長い間持ちこたえたはずだから、今ネウロイはかなり近いところにいるはずだ。

「えー、せんせー一緒にこないのー?」
「せんせーがいないとヴィオ姉ちゃんすぐおこるのにー!」
「クロードおにーちゃんなんか、もうボコボコなんだよー」

子供たちは先生にここぞとばかりに普段の不満をぶつけている。
私そんなに怒ってないと思うんだけどな。

「すぐ走らされるんだよー」
「ねー。いざという時の為にとか言ってるけど」

……。

「はっはっは。しかし体力はつけておいて損はないのですから、あまり文句ばかり言ってはいけませんよ」

ヴィオレーヌのは、少しきつ過ぎですが。と、先生は付け加えて言う。
その後、先生はしばらく子供たちと話し込んだ後、年長組を集めた。

「ヴィオレーヌ、クロード、カリーヌ。君たちには話しておかなければならないでしょう」

急に真面目な雰囲気になって先生は話し始めた。

「君たちも知ってるとは思いますが、もうすぐここにもネウロイがやってきます」

私達年長組は顔を見合わせた。
そんなのは当然のことだ、っていうのもあったけど、何より、先生が今までに見たこともないような顔をしていたからだ。

「現在市内ではオストマルクで戦闘中という事になっているようですが、昨日既に、オストマルクはネウロイに敗れました。あと、1週間とたたずここにやってくるでしょう」

そこで先生は、一息ついて、続きを言った。
その次の言葉にはクロードやカリーヌとは違う意味で、私も動揺せずにはいられなかった。

「先生は、この町を守らなければならない立場にあります」

私達に気を使ってか、『軍』という表現は使わなかったが自分は軍人かもしくはそれに準ずる立場にあると明かした。
そして、人に命令を下す立場でもある、自分がいなくては戦う事すらできなくなる、とも言った。
つまりそれはここに残って戦うということで、またそれは未来を知っている『宮藤芳佳』からすれば、これから死にます、と言っているのと変わらない。

「だから、大変だと思うが、君たちにあの子達を任せたい」

そう言うと先生は最年長のクロードに紙袋を渡した。
その大きさから多分、お金、ということなのだろう。
クロードはそれを受け取ると、すぐに、私に手渡した。
どういう意図か図りかねていると、クロードは私に、ごめん、と小さく言った後先生の方を向いて、こう言った。

「先生、僕にも戦わせてください」

落ち着いた声で放たれたその言葉は、まるで、本物の新兵のような姿を思わせた。
これには先生も面食らったようで一通り狼狽したあと、これを断った。

「だめだ、クロード。君は、下の子達の支えになってほしい。そう言ったはずだ」
「ヴィオレーヌとカリーヌがいます。二人は下の子達からも懐かれています」
「君は、君自身わかっていないところで皆から頼られています。君には、私にも、誰にもできない役目がある。もし私のために戦ってくれるというのなら、皆と共に行くことで私の背中を守ってくれ」

先生の言葉にクロードは一瞬押し黙ったが、今度はこちらに話を振った。

「ヴィオ、カリーヌ!お前たち、皆を守れるよな?」
「!それは、その、私は、あんまり……自身が無いです」

先にこちら側の同意を取ることで断る理由を潰そうという狙いだが、カリーヌはそれをやんわりとだが、確実に断った。

「ヴィオ、お前はどうだ?できないか?」
「やめなさいクロード。二人はまだか弱い。君は彼女たちを守らなければならない」

クロードは普段から温厚な人物で、誰から見ても優男だが好青年だった。
あのクロードが戦いを求める理由は、いったいなんなのだろう。
戦いに参加するには、理由が必要だ。
それは『宮藤芳佳』の最後が示したように、明確な理由を持ち続ける事ができなければ道半ばで尽き果てる。
でも、普段はどんな大迷惑をかけられても笑って協力するこの男がこれ程こだわる理由があるのなら、私は。
私は、戦うのも構わないと思う。
戦う理由は人それぞれで、貴賤も上下もない。
戦う理由が心の一番奥に立っているのなら、人は戦える。
それは、『宮藤芳佳』が守りたいものを失った後、戦う理由を求めた時に心底思ったことであった。
……私は結局戦う理由なんて見つけられなかったけど、もしクロードがもうその戦う理由を見つけているのならば、私はそれを応援したい。
そうして、ヴィオレーヌはクロードに協力するつもりで『皆を守る』とそう言おうとした。
しかし、口に出そうとした直前でクロードのある言葉に遮られる。

「守りたいんだ!」

ヴィオレーヌは自分の眼が見開かれるのを感じた。
周りの音全てが消えて、クロードの次の言葉に全感覚が集中していくのがわかった。

「守りたいんだ!先生を!自分にできることをしたいんだ!俺は、あんたのために戦える!だから、戦わせてくれ!」

そこからは気づいたら、だった。
気づいたら私はクロードの頬を思いっきり叩いていた。
自分でも何故だかわからない。
過去の自分と重なったからなのだろうか、『守る』というのを戦う理由にするのには欠陥があると、そう知っていたからか。
それとも、ただ、その道には行かせたくないと、そう思ったからか。
先ほどクロードに渡された紙袋を喋ろうとしているクロードの口に突っ込む。

「先生、私に戦わせてください」

茨の道を歩くのに折角の綺麗な服は勿体ない。

「いや、しかし……」
「先生」

どうせ傷つくのなら、新品の服より、ボロボロに擦り切れた服の方が都合がいいはずだ。

「ネウロイの弱点は、魔法なんですよね?」

先生の顔が義務と責任と、そして希望に歪んだ。














不快な電子音が奔る。
街に常設されたスピーカーから流れる、警報の音だ。

「――!――!」

市街地の方から悲鳴や叫び声が聞こえる。
私がまた戦うことを決めた時から32時間。
ネウロイはこの町にやってきた。
先生、いや司令の最初の予想では一週間後だったけど、国境の防衛線が本当に存在するのかという速度で突破されてしまい、僅か2日という驚異的なスピードでネウロイはガリア中央部まで侵攻してきた。
別にありえなくはない、と思う。
ネウロイは基本的に単騎で攻め込んでくることが多いけれど、稀に大挙して攻め込んでくるときがある。
多分オストマルクの山から大量の金属を汲み取ったんだ。
正直、戦う理由とかそんなのにこだわってる場合ではなくなってきた。
観測班の予想だとあと4~5時間でここに到着するみたい。
今、軍部の人たちが必死になって皆を避難させている。
そもそもガリアは、軍事意識の低い国だ。
かってフランク王国がカールスラントやガリアその他に分裂した際に戦を好まなかった人達が寄り添ってできた国なのだ。
さらに激動の時代を続ける欧州の中にあってロマーニャと共に戦争から遠ざかってきた、悪く言えば、弱い国。
地形的にも民族的にも潜在的な能力は決して低くないはずなのに、こうまでいいようにしてやられるのは、単純に意識が低いからだろう。
逆に言えば、その意識を持たせるまでの時間を稼げればそこから盛り返す可能性は十分にある。

(紫電とは言わないから、ストライカーさえあればなあ)

魔力増幅機能がついてるストライカーという存在がなければ、ネウロイ戦は厳しい。
まして、多対一という状況なら高火力(非魔法武装に比べれば)で高機動を実現できるストライカーはほぼ必須とさえ言える。

(ガリア製のストライカーができるのは開戦からすぐだったはず)

量産こそ実現しなかったものの、ワンオフのストライカーを完成させることはかなり早い段階で成功させていたはず。
一機、できれば予備にもう一機。
なんとか手に入らないかな。
無理かな。
こんな最前線までくる技術屋なんて、居るわけない。

(それに、いまはそんな事考えてる場合じゃない)

身体は鍛えてる方だ。
心はまあ今更ネウロイ相手に臆することはない、と思う。
経験はこの世界じゃ一番多いはずだ。
最大の問題は、やっぱり魔力。
『宮藤芳佳』のような無茶を押し通すような量は、まずない。
あの体は頑張ればストライカー無しでも十分前線に出れるほどに恵まれていた。

(無い物ねだりをしても仕方がないかな?)

そう思いながら対物スナイパーライフルを構える。
息を止めて、試射対象に狙いを定める。

(魔法無しの状態で撃つのは、初めてかも)

まあ、なんとかなるよね。
そんな気持ちでヴィオレーヌは引き金に指をかけ、そして引いた。
するとライフルはいつも隣で聞いていた轟音をたて、その細長い銃弾を発射する。

「いっっっっっっっっっっっっっったぁーーーーーーーーーーーい!!!」

すると当然反動でスコープが眼に食い込み、ヴィオレーヌの痛覚が普段は感じる事のない量の信号を流す。

(眼が!眼が!)

痛みに耐えながら必死こいて治癒魔法をかける。
身体や魔力が変わっても感覚さえ覚えていれば治癒魔法は使うことができる。
もっとも、ヴィオレーヌの魔力を宮藤の魔力に変質させなければ発動できないのが欠点だけど。
あくまで宮藤の感覚は宮藤の魔力にのみ適用されるらしい。

(リーネちゃんは身体強化なしでも撃ってた……。――!まさか胸で?)

生まれ変わっても『残念』な体を嘆きながらも、第二射には身体強化を使う。
ストライカーをつけてない状態での魔法は効力が弱いものが多いが、身体強化はストライカーというより使い魔に依存する魔法なので耳と尻尾が出てる状態ならあまり大差は無い。
ちなみに、ヴィオレーヌは自分の使い魔を知らない。




「ふぅ」

第一射から2時間程、強化付きの状態で100~300mくらいなら当たるようになってきた。
魔法による弾道修正はストライカーのサポート無しではほぼ行えないので、スナイパーライフルの扱いに関しては素人のヴィオレーヌにはこの当たりが限界だった。
ネウロイ戦後半の遠距離攻撃はミサイルが主流になる上、前半にはウィッチ史上最強のスナイパーが常に自分の右側を飛んでいたのだから、当然と言えば当然だが。

(リーネちゃんはストライカーも強化もなしで、500も700も当てる)

ストライカーを履いていれば殆どスコープを覗きこむのと同時に撃ってもキロ単位を命中させる。
そのうえ、顔も性格もおっぱいも良いとくればそら民衆人気が一番高いのも当然というものだ。
誕生日には部屋が埋まるほどの贈り物が届くという超絶人気っぷりだった。
そして20歳前後の時にはブリタニア最高のウィッチとまで言われるようになる。

(でも、最後は私を庇って……死んだ)

そう、ブリタニア最高のウィッチは『宮藤芳佳』のために死ぬ。
いや、リネット・ビショップだけではない。
501の人間は皆、『宮藤芳佳』を守って死ぬ。
11人の翼なんて言っても、結局私は守られてばっかりだ。
『守りたい』なんて言って結局最後まで守れたのはたったひとつ、自分だけ。
そしてそれすら、一度失って。

(私はなんでここにいるんだろう。何のためにもう一度生まれたんだろう)

訓練場の端っこに座り込む。

(今度こそ皆を守る?)

そんな都合のいいことが有るものだろうか。
確かに、前に皆が死んだときは覚えている。
それを防ぐのも難しくは無い。

でも、その場凌ぎをしてどうなる?

あの人たちは魔力が枯渇した後であっても仲間の為に魔力を振り絞ってもう一度飛ぶような人たちだ。
自分の命さえ、削って。
それすら、追いかけて守り続けるの?そんなことできるわけない。
それとも、もう飛ばないようにと説き続けるの?それはきっと、彼女たちの心を壊すことだ。
なら、ネウロイを消してしまえばいいんじゃないの?無理だよ。
もしネウロイが殲滅されたなら、それは人間同士の戦いの――。

ヴィオレーヌはそこで意識を落とした。
心がマイナス方向に傾かないよう思考を遮って睡眠を取るというのは、『宮藤芳佳』の時に身に着けた戦うための『技術』だった。












「ん、…………」

眼が覚めた。
考え事して、ゴチャゴチャしてきたから寝たんだっけ。
時間は大丈夫かな。
入り口近くにかけてある時計を見る。
睡眠時間はキッカリ1時間のようで……1時間?

「あああああああ-!」

やってしまった。
開戦予想時間の2時間前には戻るって言ってきたのに、ネウロイ到着までもう1時間を切っている。

「や、ばい!えーと、服と、銃と、弾と、弾!」

必要なものをかき集める。
特に銃に関しては下手な取扱いをするとろくな事にならないというのは経験済みなので慎重に。
えーと、どこに集まれって言われてたっけ。
多分作戦室に行けばいいよね。
配置を見せて貰って狙撃地点を教えてもらわないと。
あ、もう銃と弾薬は運んできてもらおう。

とりあえず上着を着て走り出す。
試射場を出て基地内部を走っていると、奇異の眼で見られるが戦闘準備中という事もあって引き留められたりはしない。
階段を駆け上がり、2階の作戦会議室まで走る。
いやに仰々しい扉の取っ手に手をかけ、押し入る。

「申し訳ありません!ウィッチファルシネリ、遅れました!」

そして入った瞬間頭を下げる。
先手必勝の謝罪である。
私はこの方法で幾度となく軍法会議を回避してきた。
大抵の人は怒るけど、でもそれで満足する。
ミーナ大佐の場合は、怒らないかわりに許してくれないけど。

(…………!?)

反応がない。

(まさか……ミーナさんタイプ!?)

そう思いながら恐る恐る顔を上げると、そこには眼を丸くした先生、じゃない司令の顔があった。
私が頭を上げてもずっとそんな顔をしているので、私はそのことについて尋ねてみた。

「どうかされましたか?」
「いや、いつも通り話してくれて構わないよヴィオレーヌ。ただ、私はてっきり……」

先生はそこで言葉を切った。
てっきり、っててっきり私が何かしでかすような気がしたんだろうか。
嘘だ。
『前』にそういう扱いを受けてたのは分かってたけど、こっちでもこういう扱いを受けるって。
私まだ何もしてないと思うんだけどなぁ。

「てっきり、ってなんですか?」
「いや、うん。まあ、気にしないでください」

先生はすぐ顔にでる。
この顔は期待が外れた時の顔だ。
期待?
先生の期待っていうと、そっか、逃げて欲しかったのかもしれない。
そうすれば良かったかもしれない。
でも、それは絶対にできない。
1週間と聞いた時は、逃げようかとも思ったけどこのスピードでネウロイが侵攻していけば確実にクロード達に追いつく。
どの道、私は戦っていただろう。
なら、装備がある分ここで戦う方が良い。
私は501皆を守るほどの力は無かったけど、それでも家族ぐらいは守り抜くつもりだ。
もっともあの時程我武者羅にはなれないけど。

「あの銃は使えそうでしたか?」
「はい。有効な狙撃地点をお願いします」
「……やけに慣れてますね?ヴィオレーヌ」
「そう思うなら、子ども扱いしないでください、司令殿」

先生は、口では女の子には敵いませんね、と苦笑した。
その後いくつか狙撃ポイントについて話し合ったが、結局基地のベランダに居座ることにした。

「ネウロイの情報は今のところ何一つありません。分かっているのは飛行能力を有するということと通常兵器が殆ど役に立たないということ、そして魔法攻撃が有効だというだけです」

そこで言葉を一度切りヴィオレーヌの方を向き、ヴィオレーヌが今まで聞いたことがないほど低い声でこう締めくくった。

「正直、あなただけが頼りです。私と一緒に戦ってくださいヴィオレーヌ」

そうして先生は頭を下げた。















弾倉とセーフティを確認していく。
基地にある銃からさっきと同じ銃を3,4丁もぎ取ってきたからだ。
ネウロイとの戦闘中にリロードする時間があるとは限らない。
少しでも重量を減らしたい空戦とは違うのだから、何も一つの銃にこだわる必要はない。

(思ったより遠いな……)

見上げてみれば前に自分たちが戦ってきた空は手の届く範囲よりずっと遠く、あそこからネウロイが降ってくるのかと思うと寒気がした。

(300m?もっとあるよね)

ネウロイはどのタイプなのだろう。
生涯累計スコアは3000を超えた『宮藤芳佳』だが、今対応できるネウロイの種類なんて数えるほどしかない。
おそらく、殆ど何が来ても勝てないだろう。
勝てるとしたら『射程が300m以下』で『コアの位置が撃ちやすい(狙いやすい)場所』でなおかつ『眼で見えるタイプ』のものだけだ。
ネウロイとの戦いで人間側が手こずる理由の1つに対策が立てづらい事が挙げられる。
毎度の様に形を変えるため、特に立案能力を持っていない事の多いウィッチが現場の判断で戦わなければならない。
特に開戦初期は、ネウロイの形状は玉石問わず多様に渡っていて一つの戦場に何種類ものネウロイが鎮座することさえあったそうだ。

「観測班の話ではあと10分足らずで来るそうです」
「先生……。命令をだす立場の人がこんなところに居ていいんですか?」
「はははは。あの時は確かにそう言いましたが、知ってのとおり私は基本的に軍部には行ってませんでしたから。前大戦の時に与えられたお飾りの地位でしてね」

そういえば、先生は大戦時は熱血軍人だったという話を聞いたことがある。
戦争が終結した後に戦争孤児を集めて孤児院を開いたらしい。

「昔は名のしれたものでしてね。私が司令だということで、うまくいくこともあるそうです」

先生はそう言ったのち、空を見上げて少し笑った。

「でも久々に昔のひよっこに会ったら、もう歴戦の勇士のような貫禄を出していましてね。もしこの戦いが終わったら、彼を司令に指名しようと思うんです」

もっともこの戦いがいつ終わるのかというのはわかりませんが、と先生は締めくくった。
……恐らく、司令が変わることは無いだろう。
私ももう、出来る限り戦うつもりでいるけれど、限界がある。
ガリアは最前線だ。
501は確かにガリアを解放するが欧州一帯はその後も何度も激戦区になる。
いやそもそもガリア解放までの4年間、戦線を維持するのは不可能だ。
防衛は無理ならこちらから仕掛けていけばいい、というのも多分無理。
ペリーヌさんやジョーゼットさんのような国を代表するトップエースが来てくれたとしても、それはできないだろう。
何故なら巣に押し入るためには数かそれ以外の要素が必要だからだ。
それ以外の要素というのは例えば坂本さんの魔眼のような効率よく敵を排除できる力の事。
コアを探すというのは、最重要の戦闘行為であると同時に難易度が非常に高い。
この工程を一瞬で完了させられる坂本さんの固有魔法の有用性は501以外で戦った時に身に染みている。
そんな事を考えていると無線からネウロイの襲来を伝える連絡が来た。

『こちら観測班。ネウロイを確認。数は20。あと90秒で射程範囲内です』
「了解です。目視しました」

私にはリーネちゃんほどの視力は無いにしても魔力を使えば一般人よりはるかに高い視力を得られる。

「先生は基地の中に」
「いや、私もここに残ります」
「邪魔です」
「壁くらいにはなります。今は私の命より貴女の命の方が重要です」
「……わかりました。視界を塞がないようお願いします」

流石に、言い争っている場合じゃない。
まずはネウロイの種別の確認だ。
20とはいえ本体から分離したもの19と本体が20とではまるで違う。
その遠目にはカモメにも見えるようなその形状を脳みその中から引きずり出す。
私はこのネウロイと…………戦った事が、ある!
戦闘機型のネウロイだ!
コアが細長い部分にある奴だ!

「これなら……!」

スコープを覗きこみ照準を合わせる。
敵が亜音速でこちらに突っ込んできている以上、第二射は望めない。

「まずは1機を……!」

このスピードでの接近ということは恐らく町に張り付く気は無く、一撃離脱戦法だろう。
一度の攻撃でどれほどの被害がでるか分からないが、そんなことよりまず1機を落として仲間に希望を持たせたい。

「息を止めて、狙いを定めて、速度を計算して……撃つ!」

言葉と同時に爆音が起こり魔法の洗礼を受けて青色に輝く鉛玉が僅かに曲がりつつ、しかし確かにコアを破壊した。
いままさに爆弾を放とうとしていた20機の中の1機は確かに砕け、光の粒となって消えた。

「やったあ!」
「不味い!」

私は喜ぶと同時に先生の体によって私は地面に押しつけられた。
何事かと思って立ち上がろうとすると、炸裂した音と風が同時にが飛んできた。

「うわっ!」
「くっ!」

撃墜した1機以外のミサイルが近くを爆破したらしく、その余波がこっちまで飛んできていたようだ。

「怪我はないか!?」
「私は大丈夫です!先生は!?」
「私も問題ありません。あの爆弾が落ちたのは少し離れた場所のようです。それより、これはあまり楽観視できませんね」

辺りを見渡せば、町の半分は煙に埋もれていた。

(嘘……。たった1回の攻撃で、こんなに?)

数が違う。
1対20では1回の攻撃で必ず1機落としたとしても、残り19の攻撃は成功してしまう。
ストライカーもないこの状況ではウィッチが1人2人いたところでそもそも手立てなど無かったのだ。

「っつ!先生、弾薬は基地の中にしまってください!どの道20発以上使う事にはなりません!」
「わかりました!貴女は!?」
「私は反対側のベランダから引き返してくるネウロイを撃ちます!あの速度ならかなり向こうの方まで行ってから反転しているはずです!」

言うだけ言って走り出す。
少しでも遅れればそれだけ攻撃のチャンスは減っていく。
石造りの廊下を走っていく。
仲間がいれば、そう思わずにはいられない。
もしリーネちゃんのような技術があれば、私は守れたのかもしれない。

「はぁっ!はぁっ!」

基地内部は思ったよりも広く反対側まで走るだけで息が切れた。
屋上を使えれば良かったがさっきの襲撃で既に跡形もなくなっている。
息を整えもせず、無線の観測班に叫ぶ。

「ネウロイは!?」
『今反転しました!しゃ、射程距離まであと10秒!!』
「――っ!!」

その言葉を聞いて銃を構える。
この対物ライフルは300m位の距離なら多少の風は無視しても問題ない。
だからしっかり狙えば確実に1機落とせる。

(けど、それじゃだめだ!)

観測班には有効射程を300mで伝えているが、もうそれじゃ間に合わない。

(一度の攻撃で2機ずつ、できることなら3機落とす!)

そこから先は『宮藤芳佳』の人生も含めて最高の射撃をした。
1000m地点で1機、500m地点で1機、そしてほぼ直上で1機。
しかしミサイルの発射を止められたのは最初1機だけで、残り2機分の攻撃は光になる直前で爆発してしまった。

「っ――――~~~~!!」

言葉を発する事はしない。
少しでも速く反対側に辿り着いて、射撃の準備をしなければならない。
ストライカーさえあれば、いやそれ以前に仲間さえいれば。
その思いが頭に浮かぶが、それを振り切って走り出す。
走っている中でもネガティブな思考ばかりが続く。
今のような射撃を後5回も繰り返すことができるのか?
いや、その前に基地が狙われてしまうのではないか?
ヴィオレーヌは頭を振ってそれらを断ち切る

(大丈夫。絶対できる!私は、できる!!)

一番最初の狙撃地点まで戻ると既に敵が目視できるところまで迫っていた。
ヴィオレーヌはその中でも2機を撃ち落とし、またしても走り出した。
絶対に間に合わないと分かっていても、諦める事だけは出来なかったからだ。








狙撃は確実に敵を倒していき僅か7往復間に20機全てを撃ち落とした。
もっとも町は破壊され軍も瓦解しており、後方の拠点への後退を余儀なくされた。








[22701] ガリア戦線 2話 トップエースだ
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/23 20:34
深夜、一台の軍用貨物車がそのエンジンを回していた。
宮藤博士の提唱した理論を元に作られた自作ストライカーの試作機を前線にいるというウィッチに届けるためだ。
この研究者はストライカーの有用性を早くに見抜きなんとか自分の力で作れないかと苦心した。
その結果粗末ながらも完成したストライカー「VG.33試作型」。
のちにガリア軍ウィッチ部隊の標準装備となるストライカーだが、この機体を上に見せたところ一瞥して蹴飛ばされた。
結果を出せていなかったからだ。
『扶桑のウィッチ達はストライカーで飛び回ることができたが、ガリアのウィッチ達は浮かぶことすらできないではないか』
『ただし、魔導エンジンの効果は認めるので地上用に改造せよ』

「冗談じゃない!」

その研究者はさらにペダルを踏み込んだ。
この研究者は空を飛ばなければネウロイとは戦えないと思っていた。
確かにウィッチ達はストライカーを使えば地上だろうが空中だろうが無類の戦闘力を発揮するのは誰もが認めるところだ。
まずは、地上で堅実な地力を整えてから空戦装備に切り替えればいい。
上層部はそう考えているようだが、そうではない。

(自分でも見ただろう、飛べないウィッチ達を!)

いかにストライカーがあったとしても飛ぶまでには過剰な程の練習量が必要なはずだ。
この男はそれを無視し、機体の性能が足りないと楽観する上層部に反感を抱き、単身前線の『ガリア軍最初の一勝』を生み出した例のウィッチへと自作のストライカーを運んでいるのだ。
無論、地上型ストライカーの有用性も否定できないのは確かなので自分の工房の残りの研究員達に地上型への移行を任せてきている。

(結果を出せばいいんだろう!?やってやるさ!)

そんな風に上層部への研究者特有の不満をぶつけていると、無線に連絡が入った。
無線には詳しくないが、この軍用車は首都の基地からコッソリくすねてきた物なので、これは自分宛の連絡ではなくこの一帯の軍事関係者全てへの連絡という事だろう。

(そういえば、もうデジションへは近いんだったな)

恐らくそこからの連絡が紛れ込んだのだろう、と無線を受信に切り替える。

『ヘルウェティア国境線にネウロイを確認!総員第二種戦闘配置!繰り返す!――』
「ウソだろ!?」

こんないきなりチャンスが回ってくるなんて!という思いと先に死んでしまうんじゃないか?という思いが男の頭に浮かぶ。
どっちにしろ急がなきゃならん。
研究者はペダルを一気に一番下まで踏み込んだ。

「俺のストライカーを使うまで、死んでくれるなよ!」


























私達は敵ネウロイの襲撃で防衛線として機能しなくなったリヲンの町を出て、デジションという所まで北上してきた。
今回は時間に余裕もあったせいか近隣住人は既に首都パリスへと避難していた。
できることなら他国、特にブリタニアまで逃げて欲しいものだけれど、自分の国を出ることに不安を感じているのか、首都で国内の戦いの推移を見守る事に決めたみたい。
ガリア軍は首都を守るように防衛線を敷いている。
南方はオルレアからアリア川に沿って対空火砲を設置し、南西はこのデジションを拠点にしてる。
東側は言わずもがな、帝政カールスラントがある以上そう容易く突破はしてこないだろうという計算だ。
それと、首都でウィッチの銃撃訓練が始まっているらしい。
恐らくペリーヌさんもいるんだろう。
でも、ペリーヌさんが戦争に参加したのはガリアの戦いでも終盤。
そもそも首都自体がガリアの中でもかなり北部にあるのだから、そこまでは軽々しく突破されていたはずだ。
前の世界ではガリア軍は首都より僅かに北部を守り抜いたところで力尽きてしまったはずだ。
だがここで時間を稼げれば首都でネウロイを止められるかもしれない。
欲を言えばウィッチが育つまで、そうじゃなくてもストライカーが量産されるまでは首都を戦場にするわけにはいかない。

『ネウロイを確認!総員第一種戦闘配置!敵襲撃まで1時間!』

前回の攻撃から二日も経っていない。
先程まで二種だったのが一種に変更された。
恐らく敵ネウロイの目的がデジションに固定されたのだろう。
どちらにしても一度作戦室に行かなきゃいけない。
まだウィッチの価値がそれ程高くない(とはいえ日単位でその評価は高騰していくのだが)この世界では子供が戦いに出るなんて常識外の事で、無線で状況を尋ねても不振がられて内容を話してくれない。
先生から話を聞かなければならない。
先生以下リヲンの軍人達はネウロイ戦を経験した司令官としてデジションの司令部と対策を練っているはずだ。

(でも、作戦なんかない……)

前と同じだ。
ネウロイ戦にはあまりに頼りない銃で地上から狙い撃つしかないのだ。
できなければ、町が破壊されていく。

(これならいっそリヲンで戦った方が良かったかも)

もう破壊される場所がないほどに壊されつくしたあそこなら、『守れない』なんてことは無いのに。
そして司令部の扉をノックする。

「ウィッチ部隊、ヴィオレーヌ・ファルシネリです」
「入りたまえ」

先生ではないお偉いさんの声が扉の向こうからかけられる。
部屋に入るともう会議は終わって皆戦闘準備を始めているようで数人しか居なかった。

(この雰囲気にはいつまで経っても慣れないな……)

そもそも人に見られるという状況がヴィオレーヌにとってはあまり好ましい状況ではないのだが、年を食った軍人というのはほぼ例外なくそれなりの威厳を持つ。
その視線は絡み付くようでもあり、鑑定するようでもある。
何より、表情から感情を読み取ることができない。

「……君が、例のウィッチかね?」

私が、何って?

「例の、と言われてもわかりません」

分からない時は正直に分からないと言う。
指揮官とは常日頃から完璧な兵士を欲するが、それは兵士が完璧でない事を知っているからだ。
そう言うと、その男(おそらくこの基地の司令官だろう)は私ではなく、隣の先生にむかって問いかけた。

「本当に、彼女が?」
「はい、彼女です」
「信じられん……。こんな子供が」

そこでその司令官は初めて驚きの表情を露わにした。
だがそれも一瞬で持ち直し、作戦の話を始めた。

「奴らは南東からかなりの高速で迫ってきている。数は一機」
「一機?……ですか?」
「そうだ。奴らは単騎で接近してきている」

顔が強張るのを自覚する。
単騎のネウロイの殆どは複数での攻撃に比べれば時間当たりの破壊量は少ない。
しかしその代わりに特殊な性質を持つものが多い。

(もし防御型の特殊能力を持っていたら、手の出しようがない……)

「そこで我々は南東から北西にかけて直線状に対空砲を用意する。本来ならば町に入られる前に撃墜すべきなのだろうが、敵が高速飛行型となればそれは難しいだろう」
「私はどこに行けば?」
「首都へ向かって欲しい。と言いたいところだな。恐らく我々は敗北する」
「……随分諦めが早いですね」
「事実だからな。カールスラントからの話では大型のネウロイに通常攻撃は意味をなさない。そして、魔法攻撃も至近距離でなければコアまで達することは無い」

確かに、そうかもしれない。
大型のネウロイの多くは遠方からの攻撃を実現する。
それでも大和に積んであるような大型砲があれば別だろうが、ガリアのそれも主要都市でもない場所にそんなものがあるわけがない。

(確かに、負け戦だ……)

でもやるしかない。
少しでもいい、ダメージを与えればネウロイは減速または撤退する。
少しでも首都に着くのを遅らせる。
ペリーヌさんや他のウィッチの人達が戦えるように。

「私はこの基地の窓から敵を狙います。南東と北西の廊下に銃と弾を運び込んでください」

結局リヲン防衛と同じ戦法を取ることにした。
敵が張り付くにしろ離脱して再度襲撃をかけてくるにしろ、基地が町の中央を陣取っている以上ここが一番攻撃回数が多い。
1時間で、全て変わることもある。
あの時、リーネちゃんが私に時間をくれた様に、今度は私が。
私はその時、覚悟を決めた。











南西に位置する狙撃可能な窓が廊下にしかなかったので、そこに座り込んで銃と弾薬の確認をする。
今回先生は司令部で指示出しを手伝うとのことなので、私は一人だ。
スコープについている埃をふき取る。

「うん、これでいいよね」

廊下ということもあって皆が慌ただしく駆けずり回っている中、一人銃を見つめて微笑む。
……何か私変な子みたいだね。
そう思いながら窓から撃つ準備をしていると、遂にネウロイ接近を伝える警報が鳴った。
耳を劈くような不快音。
でもその分、気が引き締められる。
この戦いに、希望は無いけど。
それでも『私にできること』をしよう。

現れたのは、爆撃機のネウロイ。

(戦ったことあるなぁ。でも、)

そのネウロイは町の上空近くまで来ると一気に減速した。
そして全体を通して三角形の様なフォルムから下部にエネルギーが収束していく。
そうすると赤いラインが浮かび、そして真下に向かって100近い光線が発射される。

(これは、無理だ……)

そのまま町を薙ぎ払うつもりなのかレーザーを照射したまま上空を低速で横断し始める。
ヴィオレーヌは狙撃をきっぱり諦めて立ち上がると、屋上へ向かって走り出す。
あのネウロイのコアは上部側にあって地上から狙い撃つのは不可能ではないが、それは坂本さんのような魔眼があって初めてできる芸当だ。
もっともコアの位置が分かったところで何発も全く同じところに銃弾を撃ち込む必要があるので、余程の腕利きスナイパーがいなければ意味がないのだが。

(少しでも、この基地に手間取らせる)

ヴィオレーヌが基地の屋上に辿り着いた時、ネウロイは既にその大きさを実感できる位置にまで来ていた。
ネウロイはかなりの低速だったので屋上の部隊、というか射線上の部隊の殆どは撤退し、四方八方に分かれて攻撃を行っていた。
一か所に固まればそこを狙われるという判断からだろう。

前を見れば南西の門から中央に向かって伸びるコンクリートをその熱線でじっくり溶かしながらネウロイが迫ってくる。

(こういう時、『宮藤芳佳』は本当に恵まれていたって思うなぁ)

ヴィオレーヌは正面に手をかざす。
そうすると手の周りに魔力のフィールドが形成されていき、シールドが構築される。
それは『宮藤芳佳』の100m近いシールドとは比べるべくもないが、何とか10m位は確保した。
ヴィオレーヌ・ファルシネリの魔力は決して少なくない。
が、それ以上に宮藤家の魔力はぶっ飛んでいる。

(やっぱり、ストライカー無しだと途轍もなく時間がかかる!)

ヴィオレーヌがシールドを完全に固定化に成功した時、ネウロイは既に目の前にいた。
そして、ネウロイの光線とヴィオレーヌのシールドが接触する。

「っ!!」

いきなりズシンと肩に力がかかる。
だが、ネウロイは下の羽虫など気にせず進んでいく。

「くっ!」

それに合わせてヴィオレーヌも動き始める。
この下には作戦室がある。
いや、作戦を立てるだけならここでなくても構わないが、全軍に命令を出す連絡装置はここにしかない。
つまり、ここが崩壊すれば軍は軍として機能しなくなる。
各個判断の砲撃では回復能力の強い大型ネウロイに対して大きなダメージは期待できなくなる。

「づっ!あ、ぁああああああああああああ!」

ラスト5m。
ここさえ乗り切れば敵が引き返してくるまで、息を整える事が出来る。
手は震え視界がぶれていくが、ヴィオレーヌは息継ぎもせずシールドを堅牢にすることに集中した。

「あっち、行けぇぇぇええええええ!」

半分近い魔力を持って行かれたが、何とか防衛に成功した。
が、

「嘘っ……」

ネウロイはオマケとでもいうかのように自分の機体後方にあるブースターのようなものを分断し、それを真下に居るヴィオレーヌに向かって落下させていた。

「くっ!」

ヴィオレーヌは手を翳すが

「間に合わない!!」

高度500mから落とされたそれは固定化されてないシールドなど容易く破りヴィオレーヌを吹き飛ばした。
基地の屋上から地面まで真っ逆さまに墜落し、強化済みの肉体にも関わらず骨が軋むのを感じた。
あまりの痛みに目を瞑る。
そしてその痛みが収まってくると、ひとつ頭に浮かぶことがあった。

(もう、諦めてしまおう)

身体が睡眠を欲している。
そういう事にして眠ってしまおう。
起きたら、もう全部終わってる。
だから――





「おい!大丈夫か!?」





声に呼び戻されて、なんとか眼を開ける。
その時ヴィオレーヌの眼に止まったのは、薄汚れた白衣をきた痩せっぽい男。
ではなく、その後ろの最初のガリア製ストライカー「VG.33」だった。


















「畜生!なんだよあれ!あんなのが、人類の敵だって言うのかよ!」

研究者の男は一夜を共にした車に最後の鞭を打ちながら、デジションの中央へと向かっていた。
何故か北東の門から軍人が一人もいない事を不思議に思っていたが、途中で基地の向こう側に見えた巨大な何かを見て納得した。
あれが、直線上に町を薙ぎ払っているのだ。

「ああもう!畜生!これじゃ俺のストライカーが」

使われる機会がなくなっちまう!
という言葉を発する事はできなかった。
このまま車を走らせればそもそも死んでしまうことに気づいたからだ。
というか、横に逃げようが縦に逃げようが100本の光線の網からは逃げられない。

「基地!基地の下なら大丈夫だよな!?」

軍用の基地なら普通の建物より遥かに丈夫にできてるはず。
そう考えて、またしてもアクセル全開でスピードを上げる。

「だめか!間に合わないっ!!」

しかし基地の中に入るのは僅かに間に合わず目の前に光線が現れた。
思わずブレーキをかけて目を瞑って身を屈める。
これから来るであろう熱量に備えての事だった。
だが、10秒とたっても衝撃は無かった。
何事かと思い空を見ると、ネウロイの100の光線が基地の屋上に集中していた。
その下には何やら魔法陣らしきもの。

「あれがウィッチか!」

どうやら屋上でシールドを張って、司令部を守ることに徹しているようだ。
その上をネウロイがじりじりと通過していく。

「よし!もうちょっとだ!死ぬんじゃねえぞ!」

そしてそのままそのウィッチは光線を防ぎ切った。
どうやらネウロイの光線は横には移動できても縦には移動できないらしく、また直下広域斉射に戻った。
よし!今から屋上にコイツを──
そう思った瞬間屋上から轟音が聞こえた。
それと同時に瓦礫と、そしてあのウィッチが落下してきて、鈍い音を立てた。

『チッ!死ぬなら俺のストライカーを使ってから死ねってんだ!』

そう言おうと思った。
この男は浮世離れした男で自分の本心を隠すことはせず、言いたいことは何でも言う性質だった。
だが、その言葉は声にならず、別の言葉が口から飛び出た。

「おい!大丈夫か!?」

それ程に、そのウィッチはボロボロだった。
落ちてくる途中で瓦礫とぶつかり、そして地面に叩き付けられ、無事なわけがない。
体中擦り傷だらけで、眼の焦点はあらぬ方向を向いていた。
しばらく反応は無かったが、ピクリ、と体が動いたかと思うとストライカーの方を指さした。

「……それ」
「ん、あれか?あれはな、この俺が作った――」
「貸してください」

男は眼を剥いた。
どう考えてもそんな事言ってる場合じゃないだろう。
当然ながらそう思ったからだ。
しかし、今にも死にそうなそのウィッチは立ち上がりながらもう一度言った。

「そのストライカーを、貸してください。お願い、します」
「む、無茶言うな!あれは飛ぶのすら難しいんだ!そんなボロボロの体で──」
「お願いします」

普通なら喜ぶところだが、この少女のボロボロ姿を見て、それでもストライカーに乗せるなどできない。
そう思っていたのに、その少女の眼を見た瞬間何も言えなくなった。
その瞳には希望が浮かんでいた。
縋るような、瞳だった。

「っ~~~~~!」

男は歯噛みすると、少女に肩を貸した。

「いいか、まず足を突っ込んで魔力を出せ!そうしたら勝手に浮かぶ!」

理論上は、だが。
ガリアの魔女たちはそれが出来なかった。
恐らく、魔力は持たぬ者にはわからぬ性質があるのだろう。

「はい、大丈夫です。『知っています』」
「は?お前それどういう…」

言葉を遮って少女はストライカーに飛び乗った。
すると、あっさりと空へ浮かんだ。

「ありがとうございます!これで私は、この町を守れます!」

そう言ってそのウィッチは男に向かって敬礼すると、その辺に放りだされていた軽機関銃を引っ掴んで、ネウロイへと向かって加速し始めた。
ネウロイはそれでも行動を変化させなかったが、ウィッチがネウロイより高い高度へ達した瞬間その上部からまたしても100近い光線を発射した。
そしてそれは下部についてるような欠陥品ではなく、その全てが確かに、そのウィッチに向かって飛来していった。

「逃げろぉ!」

何百メートル、いやもしかした千何百メートルの距離で叫んでも聞こえないのは分かっていたが、それでも叫ばずには居られなかった。
だが、そのウィッチは声が聞こえたかのようにこっちに向かって手を振り、そしてネウロイに向かって更に加速した。

「…………そん、な」

そのウィッチは殺到する100の光線全てを回避してネウロイに接近していく。
それを見た(視覚があるかは分からないが、そう見えた)ネウロイは、スピードを上げ振り切ろうとする。
当然、さっきまで低速で動いていた物体が急に音速に達するということは無く、上部に張り付かれたウィッチによってあっさりとコアを破壊された。
デジションの半分を蒸発させたそのネウロイは、ストライカーを装着したウィッチによって僅か30秒足らずで撃墜された。

『し、信じられない……!ネウロイの消滅を確認!』

繋ぎっぱなしにしていた車の無線から報告が流れる。
するとあちこちで祝砲が上がった。
その後、いままでどこにいたんだ、というくらいの数の兵隊の歓声がした。

(機関銃の音なんて一つか二つしか聞こえなかったぞ……)

とはいえ、男も頬が緩むのを止められなかった。
自分の作ったものに間違いがなかったというのもそうだが、何より純粋にあのウィッチが生き残ったのに喜びを感じた。
とはいえ、その歓声は一瞬にして鳴りやんだ。




『こちら観測班!カールスラント国境からネウロイが侵入!』
『なんだ!?どういうことだ!?』
『現在カールスラントのウィッチが追撃しているようですが、追いつきません!ここまできます!』





「っ!」

無線を聞く限り、カールスラントで戦闘を行っていたネウロイが国境を越えてこちらに逃れてきたらしい。
男の行動は早かった。
手元にあった無線機を起動し、ストライカーに装着されている無線と接続する。
この男は今上空にいるウィッチと連絡を取る方法を持っているのは自分だけだと分かっていた。

「聞こえるか!?大変なんだ!カールスラント方面からもう一体ネウロイが来る!!」
『そうなんですか?了解です』

焦っている男に対して電話先のウィッチは動揺の欠片さえ無かった。
下降しようとしていたところを持ち直し、東のカールスラント国境に向けて飛び始めた。













『聞こえるか!?大変なんだ!カールスラント方面からもう一体ネウロイが来る!!』
「そうなんですか?了解です」

それにしても、やっぱりストライカーは凄い。
大戦末期の高性能ストライカー達に比べれば見劣りするにしても、十分強い。
この時期のガリアのストライカーならVG.33だろうなぁ。
さっきの人には本当に感謝だよ。
もしあの人が来なかったら私死んでたよね。
死ぬ覚悟とか決めてたしね。

『聞いた感じだと、カールスラントの魔女が追撃に入ってるらしい!少し時間を稼げればいい!』
「了解です」

今の時期のカールスラントのウィッチと言えば、バルクホルンさん、かもしれないなぁ。
バルクホルンさん、懐かしいなぁ。
20年ぶりくらいかな。
もっとも今は知り合いでもなんでもないんだから、仮にそうだったとしても話しかけるわけにはいかないんだけど。

「!──見つけた」

小型のネウロイが3機。
もし大型だったら弾が心配だったけど、これなら十分弾は足りる。
多分護衛機的な奴だから、主力はバルクホルンさん達が落としたんだろうな。
銃を構えて引き金を引く。
小型のネウロイはコアまでの層が薄いため、しっかり狙えば大体一撃で落ちる。
直前の擦れ違いで1機、反転で1機、そこからスピードを残しつつ振り返って、

「これで、最後!」

小気味いいリズムをたてながら発射された弾丸によってネウロイは光の粒子となって消えていった。

「ふう」

流石にもう来ないよね。
極力最小限で倒してきたつもりだけど、そろそろ魔力も限界に近づいてきた。
汗を拭っていると、後ろから2対のストライカーのエンジン音が聞こえた。

「カールスラント空軍第2飛行隊、ゲルトルート・バルクホルン少尉だ」
「エーリカ・ハルトマン飛行曹長だよ、よろしくー」
「ハルトマン!階級が分からない相手には敬語を使えと──!」

(この人は、本当にぶれないなあ)

この二人、本当に開戦当初から一緒だったんだ。
変なところに感動しつつ、返答する。

「ガリア空軍のヴィオレーヌ・ファルシネリです。階級はまだありません。よろしくお願いします」

その後一言二言言葉を交わして、それぞれの持ち場へと戻った。
無許可で国境を越えたとかそういうのは偉い人に任せるらしい。














『ガリア空軍のヴィオレーヌ・ファルシネリです。階級はまだありません』
『よろしくお願いします』

ゲルトルート・バルクホルンはついさっき初めて会った他国のウィッチの事を思い出していた。

「どう思う?ハルトマン」
「あの子がクリスに似てるなって話?トゥルーデはかわいい子を見つけるとすぐ……」
「茶化すな。真面目に聞いている」

低い声色で真面目な返答を促す。
コイツは分別なくふざけるから、本心を聞きたいときはしっかり『そういう』意思表示をしなければならない。

「……そうだね。まあ、一戦やらかした後ですって風貌ではあったよね」

ハルトマンの言葉に頷く。
身なりも体もボロボロだったが、あの小型ネウロイと戦ってできた傷とは思えなかった。

「そんな事より、戻りたくないなー。ミーナ絶対怒ってるよね」

ネウロイを三匹とはいえ取り逃がした話だろう。
そのまま許可を取らずにガリア領へ突っ込んだのだから、恐らく――

「しばらく、自室謹慎だね……」

ハルトマンがげんなりした声で言う。

「お前はもう3度目だろう……。私は初めての罰則だぞ」

はぁ。
二人揃ってため息をつく。
というか、ガリアがウィッチ不足だと聞いていたから救援に行ったのだが。
あの手際はどう考えても……。



[22701] ガリア戦線 3話 言ってない
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/07 21:01
デジションの戦いから2年、自由ガリア軍は東と南の両方向から来るネウロイを抑えることができず戦線は大幅に後退し、現在の防衛線は南のオルローアンと東のムラム、トロウィス間に作られた軍事施設『オートクレール』に敷かれている。

この2年の間、ヴィオレーヌ・ファルシネリ率いる東部戦線は一度の敗北も無かったが、激化するネウロイの襲撃に対して補給線が長すぎるために僅かに北上したトロウィスを基地とするが更に後退する南の部隊のフォローに回れるよう更に北上して現在のオートクレールを防衛拠点とした。
この間にウィッチの数は何とか30人程度まで増えたが、実戦配備できるストライカーは僅か10機足らず。
旧式のVG.33を含めても25機程度。
理由はほぼ連日に渡って侵攻してくるネウロイ相手ではメンテナンスをする時間が殆どなく、すぐに壊れてしまうからだ。
ウィッチの損耗率も激しい。
肉体強化のお蔭で死亡まですることは滅多にないが、戦線復帰は難しいとされる元ウィッチは何人もいる。
特にここ一月程は、一日のネウロイ出現率が150%を超えている。
昼に一戦、夜に一戦という状態で、年単位で戦闘を重ねてきたベテランさえ軽々しく撃墜されている。











「お疲れ様です、ファルシネリ中尉」
「……お疲れ様です」

ヴィオレーヌは端的に挨拶だけ交わすと自室へ直行した。
どうしても睡眠が摂りたかった。
ここ一か月くらい、全く寝てない気がする。

(寝れても、1時間か2時間)

ウィッチの殆どは南部戦線へと回されている。
大体6:1くらいの割合で南側に送られる。

(私を機械とでも思ってるのかな)

そんなことは無いだろう。
機械だったとしても、これ程酷使されれば普通壊れる。
ヴィオレーヌ・ファルシネリに対する皆の心象はただ一つ、『スーパーエース』だ。
開戦当初から戦い続けて一度も敗北していないわけだから、それは分からなくもないけど。

(流石に、きつすぎる)

もう、もたない。
確かにウィッチは数人送られてくるが、その全てが新兵。
仕方ないとはいえ、守りながらの戦いになるうえ、昼も夜も出撃しなければ貴重なウィッチが失われてしまう。
1943年に入ってからヴィオレーヌは部下を3人、失っている。
南部戦線で失われるウィッチの数に比べれば微々たるものだが、ヴィオレーヌはそう割り切れる性格では無い。

(これ以上、怪我させる訳にはいかない……)

そして、ヴィオレーヌ・ファルシネリは眠りにつく。
オートクレールでの最後の眠りに。










「はぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ、これで、終わり?」
『はい、今のが最後の1機です』

ヴィオレーヌはその日は朝から出撃していた。
昨日の昼間出撃2回、夜間出撃1回を入れて24時間で4回目の出撃となる。

「キサラギ通信兵。次の戦闘予想時間は?」
『およそ12時間後とみられています』
「ありがとうございます。ヴィオレーヌ・ファルシネリ帰投します」

(よ、ようやくまともに寝れる~)
12時間も寝れるなんて何か月ぶりだろう。
久々に、警報以外で起きれるかもしれない。
とりあえず、何でもいいから布団へ――。

『待ってください!高速でオートクレールへ接近する反応!時速1500オーバー!超音速で接近してきています!!』
「超音速!?方向は!?」
『いつも通り南東から!きます!』

きます、の言葉と同時にそいつは現れた。
背中に装着した外部ブースターらしきものが鉄片となって吹き飛んでいく。
解体されたのか、解体したのか、どちらにせよ一瞥もしないのはもう用済みだからか。
そして、音速突破の効果は当然、

「くっ」
『きゃあ!』

ヴィオレーヌは反射的にシールドを張ったが、僚機のクラリス・クロケットはソニックブームに反応できずに吹き飛んでいく。

「クラリス曹長、そのまま基地に帰投してください」
『……え。で、でも隊長は──』
「邪魔です。戻ってください」

(見たことないタイプだ)

現れたそのネウロイは人型に近く、10m程度の全長、両手にライフルを持ち、背中にはまるで翼の様に12機のブースターが付いている。

(足が付いているから、地上型?)

そのネウロイは今だ動かず、地上で静止していた。

(いや……これは、ロックオンしてる?)

「ロックオン」なんてまだ未来の技術だが、それを言ったらネウロイのブースターもミサイルも未来の技術だ。

(ネウロイ相手にそういう疑問は無意味かな)

そもそもネウロイの力があれば人類だってウォーロックのような物を作れるし。
やれるか。
実質魔力は5連戦目の状態と変わらない。
この所連戦続きで最大値すら下がっている状態なのに。
やるしかないのは、そうだけど。

「……」

VG.39の出力を上げて、目立つように上昇する。
基地をロックオンされるよりは、自分に集中させた方が良い。

(人型なら、胸のど真ん中にコアがある)

そう思いながらその黒い『巨人型』を見つめる。
人型の顔に当たる部分にある爬虫類のようなカメラが、自分を捕えたのが分かった。
すると、巨人型の背中に装着されたバックブースターが横に伸び、そこから、翼のようにブーストが点火された。

(加速?)

巨人型はこちらに向かって加速し始めたかと思うと一瞬で目前までやってきた。

「──っ!」


速すぎる!?
ヴィオレーヌは固有魔法の『外部加速』を使ってギリギリ右に回避した。
超音速は外付けブースターの恩恵じゃないの!?
そのままその場で反転すると巨人型は既にヴィオレーヌに銃口を向けていた。

「わっ!」

固有魔法を連打しながら回避するが、そこで銃撃をやめるほど、ネウロイは甘くなかった。

「ちっ!!」

それを目にするとヴィオレーヌは真下を向き加速する。
重力と外部加速に手助けされて飛行速度はぐんぐん上がるが、巨人型は肩部に装備されたユニットから『何か』を射出する。

『誘導ミサイルです!気を付けてください、数は2!』
「了解、回避します!」

耳に着けたインカムから、振り返る暇がない背後の状況が伝えられる。

「くっ!っ────!!!!」

身体を捻じりながら今までの垂直飛行を無理やり水平飛行に引き上げる。

『駄目です!振り切れません!』
「了、解!撃ち落とします!!」

加速を停止し、直立状態にして足を前に出し、減速する。
減速時に内臓に冗談で済まされない負担がかかるが、その痛みを何とか堪えて振り返ると、確かにそこにはミサイルが2、報告通り。
報告通りだが、

(分裂!?)

構えていた銃を下ろし、後部シールドを張りながら水平飛行に戻る。
すると当然後ろで尋常じゃない爆発音がする。

(14!?いや16発!?)

音からできる限りの情報を取得しよう集中していると、目の前に巨人が落下してきた。
巨人は右手のライフルをこちらに向ける、このままでは────

「まだ、まだぁ!」

ヴィオレーヌは更に加速して巨人型の肘と胴の間を潜り抜ける。
だが、巨人型の攻撃は終わらない今度は左手のライフルでヴィオレーヌの移動を制限しながら、またしても肩部ユニットから分裂ミサイルを射出する。

「──っ!」

ヴィオレーヌはシールドを張りながら上昇することでミサイルを爆発させていく。
その際の煙幕に紛れて正面から堂々と巨人型へと突撃していく。
そして背面ブースターのチャージを行っている巨人型に銃を向けると、その胸部に向かって弾を放つ。

「今度は、こっちの番!」

だが、それは黒い、バリアのようなものに防がれる。
それなら、とこちらもシールドを張ってぶつけ合う。
巨人型もヴィオレーヌのシールドに向かってライフルを放つ。
ヴィオレーヌも巨人型の胸部目掛けて撃ち続ける。

「うああああああああああああああ!!!!」

弾に込める魔力を増大させながらも、撃ち続ける。
すると、一瞬だが、バリアが消えた。
バリアが切れると巨人型は後方へバックステップし、そのまま最初の音速突破で距離を取った。
だが、バリアが無くなってからの攻撃は確かに効いていたようで巨人型の装甲を削った。
そこから、赤いコアが露出した。

「っ!逃がさない!!」

コアを確認したヴィオレーヌは追撃を開始する。
が、直感的に外部加速を使用して上へと上昇した。
その時、巨人型は緑色の何かを纏っており、そしすぐ後、それを周囲にぶつけた。
爆風が広がり木々をへし折るどころが、粉にしていく。
そしてそれは、ヴィオレーヌの長い髪の毛を僅かに削った。

(……)

「……。基地の皆を撤退させてください」
『!なにを─』
「わたしは、このネウロイには勝てません」

勝てる気が、しない。
ヴィオレーヌは優秀だった。
過剰な程の経験と、多量の魔力、理想的な固有魔法。
そのどれもが、いままでヴィオレーヌの勝利を後押ししてきた。
20年以上戦い続けた事になる『宮藤芳佳』は最後まで諦める事をしない。
諦めればそれは魔力の減少を促し、万事うまくいかなくなるからだ。
だが今は

(減る魔力すら、無い)

一撃一撃が、重すぎる。
戦っている最中は気づけなかったが、シールドによる魔力の減少が多い。
しかも張り付いての撃ち合いなんてやったせいで、かなりのところまで減らされた。
もはや飛ぶのに集中しても、長くは無い。

「時間を稼ぎます。できることなら首都より北へ避難してください」
『そんな、中──』

インカムの電源を切り、銃を捨てる。

(長くは、無い。でもシールドさえ使わなければ短くは、無い)

巨人型は、こちらの居場所を見てライフルは届かないと判断したのか背中のブースターを広げる。
ヴィオレーヌもそれに合わせて外部加速を発動する。

















「あああああああああああああああああ!!!」

ヴィオレーヌの回避は1時間近くに及んだ、所々掠ったり焼け焦げたりしているが、実質は無傷だ。


だが、それも限界だ。


そう思った瞬間ストライカーのエンジンが止まり地面へと垂直落下していく。
巨人型はそれを見て、右手のライフルの引き金を引く。

(もう、終わりだ)

が、ライフルからは何も出なかった。
すると左の銃の引き金を引くが、またしても何もでない。
肩のユニットを開くが、何も出てこない。
それを確認すると巨人型はヴィオレーヌとは逆方向を向き、翼を開いて飛んで行った。

(…………あれだけやって、弾切れで帰るの!?)

なんとか空中でストライカーを再起動させるとインカムの電源をONにした。

「キサラギ通信兵。ネウロイは、どこへ行きました?」
『ネウロイの巣、があるとされる方向へ飛んでいきました』
「そっか、音速で?」
『音速飛行と通常飛行を繰り返していますね。まあ、それより早く戻ってきてください。お話があります』
「……何の?」
『お説教です』

全く持って融通の利かない。
でもきっと帰ったら涙目で怒るんだろうなぁ。
だったらまあ、今回は、しょうが、ない、かな……。

『え、中尉!?起きてください中尉!中尉!!──!!!』






















次にヴィオレーヌが眼を覚ましたのは1か月後のブリタニアの病院で、だった。

「痛い!痛い痛い痛い痛いってばキサラギ通信へ……へ?」
「な、何だ、どうした?」

1943年12月、ヴィオレーヌ・ファルシネリ、偶然見舞いに見たゲルトルート・バルクホルンに寝起きの一人芝居を見られる。

「えーと、その、お久しぶりですバルクホルンさん」
「ああ、国境線上以来かな。覚えているか?」
「3度目の共同作戦ですよね」

確か、トロウィスを拠点としていた頃の話のはずだ。
バルクホルンさんは、懐かしいな、と言って眼を細める。
私にとっては落ち着いてバルクホルンさんと話すのが懐かしくてしょうがないのだが、これ以上評価を落としたくないので黙っておく。
しばらく小話をした後、私は1か月程眠っていたらしいという事を聞いた。
『宮藤芳佳』の時も合わせれば魔力を使い果たして眠りにつくなんて割といつものことなのだが、1か月とは、また随分長い。

「まず、どこまで覚えている?」
「巨人型のネウロイが撤退するところまで」
「何だ、意識がある間の記憶はちゃんとあるのか」

どうやらそうらしい。
バルクホルンさんが嘘をつくとすぐわかるので、信じていいはず。
巨人型との戦いで魔力を使い切った私は、墜落したらしい。
最初は基地の中で寝かせていたが、ネウロイ襲撃時刻直前になっても起きなかったので首都へと一度送られた。
が、南部戦線がまたしても1段階後退したので、ブリタニアに送られる。
そのままずっと寝ていた。
というのが、私の経緯らしい。

「ガリアは、どうなりました?」
「もう、領土は殆どない」

僅かに沿岸部にネウロイからも無視されている土地が残っているだけだ。
とのこと。

「だが、お前が負けたことでガリア撤退作戦が本決まりになり、殆どの人民とウィッチは散り散りだが避難することができた。安心していい。お前の国が失ったのは領土だけだ。いずれ取り返せばいいさ」

若干羨ましそうに言うバルクホルンさんに尋ねる。

「カールスラントはどうなりました?」

バルクホルンさんの顔が強張るのが分かった。
拳には力が入り、今にも出血しそうだ。
歯を噛みしめ、憤怒の表情を作る。
にも関わらず、その眼はいまにも泣きそうだった。

「……避難には成功した。前々から準備したのが役だってな」

そこでバルクホルンさんは話を切り。
拳を解いた。

「だが、ウィッチの半分は戦えなくなった」

そして、力が抜けたかのように笑った。

「お前と戦ったアイツだ。あの黒い閃光のようなネウロイに殆どが撃墜された。中には死んだ者もいる」

どうやら、ガリア亡き後あのネウロイはカールスラントへ向かったらしい。

「……私達は歯が立たなかった。撤退したガリア軍からアイツの動作も、武装も、弾切れで撤退するという事も伝えられていたというのに、歯が立たなかった。アイツが弾切れになる前にウィッチの半数が地面に叩き付けられた……」

その後、バルクホルンさんは私を真っ直ぐ見据えて言った。




「お前は、何者なんだ?」




時が止まったかのような気がした。
双方見つめあったまま言葉を出さず、その状態が数秒続くとバルクホルンさんが、忘れてくれ、と言って終わりになった。

「今日来たのは、見舞いもそうだが手紙を渡しに来たんだ」

そう言ってバルクホルンさんは私に輪ゴムで纏められた封筒の束を渡した。
中身は、孤児院の皆からだったり私にストライカーを届けてくれた人だったりした。
キサラギ通信兵は分厚い封筒に説教を詰め込んで送ってきていた。
今はアフリカの地で頑張っているらしい。

「それと、これだ」

そう言いながら、バルクホルンさんはおっぱいの裏ポケットから軍用の封筒を取り出した。
外側には宛先だけが書いてあって、中身は透けないようになっている。

「これはなんですか?」
「今度新設される特殊部隊への招待状だ。国籍を問わずエース級を集めた部隊らしいが、」

別に断っても構わん。
そう言った。

(どうしようかな)

別に行くことに嫌悪は感じない。
当初は昔の仲間たちと会って自分を保てるのか分からなかったけど、バルクホルンさんとこれだけ話せるのだから、別にその点は大丈夫だろうし。
私がいなくてもこの世界にも宮藤芳佳はいるだろうから、むしろ私はガリア解放に関しては邪魔かもしれない。

「まあ、今決めなくともいいさ。お前はリハビリもあるだろうしな」

私が入れば坂本さんは撃墜されずにすむだろうけど、そもそも魔力切れになってるんだよねあの人……。
そもそも501ってガリア戦線に比べたら全然危なくないんだよね。
人数多いし、皆して強いし。
新兵レベルなんて確か私とリーネちゃんくらい…………リーネちゃん?

「行きます!!」
「う、うわぁ!何だいきなり!?」
「お願いします!私をストライクウィッチーズに入れてください!!」

そうだ、私には使命がある!
もう一度、あの幻想郷へ……!













私は、できれば新設部隊になんとかコイツを引き込みたかったが何やら考え込むようだったから、判断は後でも良いと伝えて帰ることにした。
ところが、

「行きます!」
「う、うわぁ!何だいきなり!?」

いきなり立ち上がったファルシネリは私の肩を引っ掴んで叫びだした。

「お願いします!私をストライクウィッチーズに入れてください!!」
「い、いや、もちろん歓迎するが」

なんなんだ急に。
いや、こちらとしては願ったり叶ったりだが……。

「じゃあその内、また手紙か迎えを寄越す。それまではリハビリに専念していてくれ」
「はい。それじゃあまた」
「ああ、また」

そう言って部屋を出る。
しかしまた都合の良い日だな。
偶然、見舞いに来た日起きて、新設部隊なんて怪しげなものに誘ってそのままストライクウィッチーズに加入してくれるなんて。










ん?何かおかしくないか?












言い訳
・話は分量ではなく、話で区切っている為極端に短い時があります。
・っていうか1話が長すぎるだけなんだけど。
・アニメに追いつくまでは駆け足。
・分裂ミサイル+閃光+音速突破
・っていうか思ったより記事が短い。3話でも6000くらいはあるのに。
・色々突っ込みあるだろうけどそれ魔法だから


修正多し



[22701] 501 1話 1人じゃないけど3人でもない
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/23 20:48
1944年春。
ようやくリハビリを終えた私は501に連絡し、ブリタニアの首都病院で迎えを待っていた。

「んーー~~~っ」

病院はリハビリにも時間の制限を設けており、正直寝てばっかりいたため背中が痛い。

(ハルトマンさんの200機撃墜のニュースがあってたから、私はもう入隊してるなー)

相変わらず凄いなー、ハルトマンさん。
そういえば今私の撃墜数どのくらいなんだろう。
1943年に入ってからはネウロイの襲撃が一気に増えて、数えてられなかったんだよね。
表彰とか緊張するだけだから別にいいけど。
一通りの勲章は一度貰ってるわけだし。

「お前が、ファルシネリ中尉か?」

軍用車が止まったと同時に話しかけてきた。
とりあえず所属と階級を明かして証明をすます。
すると自動車の扉が開いて、

「お前を迎えにきた。501統合航空団の坂本美緒少佐だ。よろしく頼む」


あまりの懐かしさに泣きそうになったのは秘密だ。
ウィッチーズがもう一人くらい来ていたら、多分私はへたり込んでいただろう。











ウィッチーズ基地はドーヴァー海峡にある小島なので、首都ロンドンから車を走らせて……何時間くらいだろう。

「しばらく療養していたそうだが、どのくらい飛んでいないんだ?」
「リハビリ含めて3か月くらいです」

普通に寝たきりになったくらいなら自前の治癒魔法も合わせてもっと早く退院できたのだが、東部防衛線での無理を清算していたら途轍もない時間がかかってしまった。

「そうか。しかし、それなら飛ぼうと思えば今からでも飛べるな?」
「……はい?」

そう言うと坂本さんは運転席の土方さんに車を止めるよう指示した。
その後、扉を開けて車を出て私にも外に出るよう促した。
嫌な予感しかしないけど、一応車から降りる。

「土方、あれを」
「はい」

私が車を降りたのを確認すると坂本さんは土方さんに指示して私に包みを渡させた。
そんなに重さはないから、危ないものではないと思うけど。

「なんですか、これ?」
「爆弾だ!」
「ええっ!」
「あーっはっはっは。冗談だ。何、硬い顔をしているからだ」

……こんな人だったかな。

「しかし、中々の間抜け面だったな」
「坂本さ……少佐がそうさせたんです」
「そうだな。だが私はあの間抜け面の方が好きだ」

……。
もう、何も言わない。
冗談なら冗談で押し切ってくれればいいのに、最後の言葉だけ急に真面目になる坂本さんは、ずるい。

「冗談はこの辺りにしてだな。実は、お前に頼みがあるんだ」
「頼み……?命令ではなくて、ですか?」
「こんなこと命令はできんさ。その包みを開けてみてくれ」

坂本さんに言われて、包みを解いていく。
その中にあったものは、

「黒い、スーツ?」
「ネウロイスーツだ。今新人たちが訓練中でな」

……半分ぐらいわかってきたような気がする。
これを着て私に敵役をやれということなのだろう。

「何で、私が?」
「無論、私もやるさ」

そう言いながら坂本さんは上着を脱いでいく、あ……。
でも、こういうのって勝手にやっちゃあ、

「安心しろ。5人以外の基地の構成員達はみんな知ってる。これはれっきとした軍事訓練だ」
「待ってください。相手はわた……じゃないその新人だけじゃないんですか?」
「当然だ。新人たちだけなら私一人でやるさ」

それってまさか、シャーリーさんやルッキーニちゃんも?
流石にサーニャちゃんは出てこないだろうけど……。

「とはいえ全員ではない」

今度は荷台に積んだストライカーの準備をしながら言う。
……ガリア軍にあるはずの私のストライカーも準備しつつ。
まあ、でも良かったぁー、もしカールスラント組と戦えと言われたらどうしようかと。

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉だけだ。過去に同じ戦場で戦ったことがあると聞いたが」
「いや、その二人を相手にするのは、流石に」
「勝たなくても良いさ。引き付けてくれれば。10m級との戦いの資料映像は私も見た、ブランクがあるとはいえ短時間なら出来ないとは言わせん」

まぁ、今の私なら避けるぐらいならできるだろうけど。
諦めてネウロイスーツを着ながら思う。

「実銃ですか?」
「まさか、ペイント弾だ。一発撃てば訓練だってばれてしまう。撃つときは最低でも一人は仕留めるようにしろ」

普通、病み上がりの人間にここまでやらせるかな。
坂本さん、筋の通ってないことはやらない人なんだけど。

「私はお前の後ろに着く。先行して敵部隊を分断しろ」
「はい!」
「あ、あとこれだ」
「……なんですか、これ?」
「マスクだ。被れ」
「……はい」














ある程度の高度に達すると同時に、出力を上げる。
久しぶりの空だ。
なんだかんだ言いながら空を飛ぶと気持ちがスッキリする。
……マスクが視界を制限してなければもっと良かったけど。
ふと、ヨーロッパ大陸の方を見る。
ここから見る分には平和な時と何も変わらない。
けど、今あそこにはネウロイが巣食っている。

(本当の話をすれば、守りきる自信はあった)

いや、最後の巨人型さえいなければ501のような反攻作戦部隊の設立まで前線を維持できたはずだ。
ネウロイにはタイプがある。
色々な分け方があるけど、今回の事で考えられる分け方は搾取型と非搾取型だ。
搾取っていうのは前線での俗語だけど、意味はネウロイが金属を吸収して自身を補修したり、強化することだ。
多分、あの人型は非搾取型。
だから巣さえ壊すことができれば弾切れになっても撤退できる場所は無く、あの大きさなら恐らく非魔法武装でもダメージは蓄積する。
あとはあのバリアさえ、現地のウィッチが減らせば――

「ヴィオレーヌ、そろそろ索敵圏内に入ったはずだ。ここから最高速で行け!」
「了解!」

久々に魔力を思いっきり送り出す。
連戦の事を考えずにひたすら空を飛ぶのは、楽しい。
『外部加速』を4基出してさらに加速する。
『外部加速』は基本的に真横にずれたいときなんかに使うものだけど、長い直線ではこういう使い方もできる。
この体の魔力は少なくない。
ガリアではそれを満タンの状態から使ったことは無かった。
連戦に次ぐ連戦で魔力が回復する暇がなかったからだ。
そもそも魔力の回復の仕方は一定ではない。
8割ぐらいまでの回復量を10とすれば、残りの2割の回復量は5ぐらいになる。
だからまあ、前線のウィッチが満タンで戦いに出れる機会は殆どはないのは仕方がないのだ。

「ヴィオレーヌ、敵機を目視しました。二人を分断します」
「了解。やり方は任せるが、10分は持たせろ」
「了解!」

外部加速で現れたスフィア状のブースターを消滅させ、リーネちゃんに向かって突進していく。
理由は無い!
ペイント銃を構えながら突進していくと、『こっちの』宮藤芳佳がシールドを張る。
衝突しそうになってギリギリで体を捻じ曲げる。

(……あの魔力は脅威だ)

自分の恵まれっぷりに舌を巻いていると後ろから銃撃が飛んでくる。
それも、4つ!?

(そっか!ペリーヌさんもいる時の方だ!)

回避運動しつつ、雲に突っ込む。
しかし、

「逃がさん!」

下からいきなり、バルクホルンさんが現れる。
当然背後にはまだ振り切れてないハルトマンさん。
ペリーヌさんは雲に入ることを躊躇ったのか、いない。
所謂、十字砲火という状態だ。
普通なら完璧な敗北だ。
例えペイント弾でも魔力を込めたものなら小型ネウロイなら十分に通じる。
それが、マニュアルとして教本に乗るのはまだ先の話だがこの二人は今までの経験則で通じると判断したようだ。

(強い)

シールドを発動させる訳にはいかないので、姿勢制御だけで躱す。
とはいえ、この避け方じゃ、そう長くは無い。

(……試してみたい)

かって共に戦った戦士に。
年半ばにして散って行った彼女たちに。

(……見せたい!)

思考が澄んでいく。
頭の中にあった、罪の意識や、おっぱい等が吹き飛んでいく。

(『宮藤芳佳』がどこまで行けたのかを!)

そう思った瞬間、体は羽になった。

(ストライカーは、翼)

体中に力が入り込む。
だが、無駄な力ではなく空を飛ぶために考えつくされた、最適な力だ。

(羽ばたけ!私!)

そう思うと同時、ヴィオレーヌ・ファルシネリはゲルトルート・バルクホルンに突撃した。
もちろんそれに対してバルクホルンとハルトマンは銃撃を放つが、足の挙動、体のずれのせいで当たらない。
打開策が無くなったときに、正面から敵の攻撃を躱しつつ突撃するのは『宮藤芳佳』時代からの彼女の十八番である。

「くっ!」

バルクホルンさんの横を通りぬけて後ろに回る。
まずは一人だ、ハルトマンさんの銃撃をバルクホルンさんを盾にしつつ、牽制して──

「トゥルーデ、動かないで!」
「ちょ、ま、待てハルトマン!?」

タタタタタタ、とリズムよく銃声がする。

(うあわぁ!!!?)


普通に撃ってきた!
それも肘と胴の間を通してこっちを狙ってきた!
加速して一旦距離を取る。
とりあえず雲の中に隠れる作戦は意味がないと分かったので、雲の下まで降りる。

(あ、私もう撃墜されてる)

というか向こうは動きが止まっているのでどうやらネタ晴らしをしたらしい。
早すぎ。
まだ2、3分なんだけど。
後ろを確認しつつ、時間の確認をしているとインカムに連絡が入った。

『聞こえるか』
「聞こえます。坂本少佐」
『よし。こっちは終わったが、まだバルクホルン達には伝えていない。そのまま続けろ』
「でも、そっちが止まってるのを見られたらばれちゃいますよ?」
『ばれるな。こっちを見る暇も無いくらい忙しくさせてやれ』
「……了解」

やっぱり坂本さんの声を聞くと、戦闘中って感じがするなぁ。
今まで逃げていた方向から反転してバルクホルンさんの方へ向かって加速する。
さっきの場所まであと100mという所で、バルクホルンさんが単独で雲を出てこちらに向かってきた。

(いや、違う!)

バルクホルンさんの出す噴煙と雲に紛れて後ろからハルトマンさんが飛び出す。
その体には、

(固有魔法って……)

バルクホルンさんは急上昇し、後ろから迫るハルトマンさんの攻撃を躱す。
必然的にハルトマンさんの直線上にいるのは私だけになる。

『やめろ!やりすぎだハルトマン!』
『え?』

インカムから坂本さんがハルトマンさんに攻撃を止めるように連絡するが、当然間に合わない。
だけど、問題ない。

(私は、この技の弱点を知っている!)

更に加速して、真正面にシールドを張り中央部に近づいていくにつれてシールドを背中側にずらしていく。
そして私は無傷でハルトマンさんの横を通り抜けた。
その後急停止し、呆然としているバルクホルンさんとハルトマンさんにペイントを当てる。

(この方法を使われて、ハルトマンさんは撃墜された……!!)

すぐにはマスクを取らなかった。
きっと今、私は怖い顔をしている。









坂本さん曰く「れっきとした軍事訓練」が終わった後、私達は一旦集合した。

「もうマスクを取っても構わんぞ、ヴィオレーヌ」
「はい」

そう言われてようやくマスクを取る。
ふう、と息をつくと冷たい空気が喉に入ってきて気持ちがいい。
バラバラになってしまった髪を撫でて、真っ直ぐにする。
それでも汗やらなんやらでゴワゴワしてるけど。

「よし。あとでもう一回させることになってしまうが、自己紹介してくれるか?」
「はい。今日より501統合戦闘航空団に配属されるヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉です。お久しぶりです、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉。それと皆さんは初めまして」

坂本さんに促されて、軽い自己紹介をする。

「ああ。2か月ぶりだな、ヴィオレーヌ中尉」
「久しぶりー。私とは国境線以来だねー」

私の挨拶に旧知の二人は軽く挨拶を返してくれる。
私やペリーヌさんとリーネちゃんは……

「宮藤芳佳軍曹です!よろしくお願いします!」

可愛い。
が、自分が可愛く見えるのは、年を取った自分を知ってるからなのだろうか。
だったら嫌だな。
でもなんか普通の新兵さんみたいだ。
こちらこそ、よろしくお願いします、と返す。

「あ、あのリネット・ビショップ……です。階級は、軍曹です」

一応、隠しつつではあるけど、どうしても胸に目線がいってしまう。
チラリと横を見ると『私』なんかもう、凝視してる。
少しは自重を覚えないと後々しっぺ返しを食らうぞ、私。
っていうか私の胸はチラリとも見なかったんだけど……。
そして、最後、ペリーヌさん、

「わ、私はペリーヌ・クロステルマンと申します。以後、その、お見知りおきを……」
「いや、同じ階級なんだしそんな畏まらなくても」
「そう、そうですわよね!同じ、階級、なん……です、し……」

いやに歯切れが悪い。

『別にあなたが何をしようが構いませんけどね。坂本少佐に迷惑をかけるのだけはお辞めになってくださいね?』

くらいは言われるかと思ったのに。











「はい、皆さんこっちを向いてください」

まるで保母さんだ。
と思いつつ、ミーナさんの私の紹介を聞く。

「もう知ってる人もいると思うけど、本日付で501統合戦闘航空団所属となる自由ガリア国のヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉です。この名前を知らない人はいないだろうから、特に紹介はいらないわね」

どういう意味だろう。
確かにバルクホルンさんやハルトマンさん達には紹介はいらないだろうけど、サーニャちゃんはいないけど、エイラさんやルッキーニちゃん、シャーリーさんとはまだ話したことは無いはずだけど。

「それじゃ基地の案内は──そうね、シャーリーさん。任せてもいいかしら?」
「あいよー」

たまたま目に留まったからか、案内役はシャーリーさんがしてくれるようだ。

「それじゃ、今日は解散ね。一人ひとりの紹介は全員揃っている時にやりましょう」

と、ミーナさんが言うと皆立つだけ立ったが、誰も出ていこうとはしない。

「?」

不思議に思ってキョロキョロしていると、シャーリーさんが話しかけてきた。
そういえば、初めて501に来た時もルッキーニちゃんと一緒に助け船を出してくれた気がする。
おっきい上に面倒見が良い。

「いや、皆驚いてるんだよ。『ヴィオレーヌ・ファルシネリ』と言えば撃墜数200オーバーのスーパーエースだろ?どんな怪力女が来るかと思っていたら、あんまり可愛らしいもんでさ。私はシャーロット・エルウィン・イェーガー。階級はもうすぐ大尉になるが、気軽にシャーリーって呼んでくれ」

200オーバーって。
流石にもっと倒した気がする。
殆ど365日休みなしだったし、一回で何十機と攻めてきた時もあるし……。

「納得いかないって顔だな?まあ、ガリア軍撤退の時にデータが分散しちまったから公式的には200ってだけらしいしな。実際にはどのくらい倒してるか興味が尽きないところだが……」

シャーリーさんは、いきなり眼をそらした。
その目線を追いかけて、あらぬ方向を見ると、

「?――きゃぁ!!」
「ぷっ!スーパーエースも素面だと可愛いもんだな。どうだ、ルッキーニ?」
「ニシシー、…………って、あれ、よしかよりちっさぁーい」

どうやら長々とした自己紹介と、わざわざ肩を組んできたのはこの為だったようだ。
解散、の言葉の時にはちゃんと警戒していたのに。
それにしても私、そんなにちっさいのか……。
自分に負けるなん……!?

「嘘っ!そんなにちっちゃくない!」
「それどういう意味ですか!?」
「えー、ちっちゃいよー!」

他の人に負けるのは許されても、自分に負けるのだけは断固あってはならない!
ギャーギャーと不毛な会話に突入していく。

「あーっはっはっは、元気が良くて何よりだ!」
「…………」
「トゥルーデ?どこ行くの?」
「昔話をする空気ではないだろう。訓練に戻る」
「あ、私も行くよ」

それを聞くとバルクホルンは不思議そうな顔をした。

「お前はさっきの技の事を聞くんじゃないのか?」
「それこそ、今じゃなくてもいーよ」

(今のトゥルーデは、何か危なっかしいからね)











紹介された後色々な場所を回ったけど、当然の様に知り尽くした地形なのでむしろ手間取らせてしまって罪悪感。
特に前と違う所は無かった。
自分の部屋の位置が変わっただけだった。

「それじゃあ、夕食でなー」
「バイバーイ」

案内してくれたシャーリーさんとルッキーニちゃんに手を振る。

「さて、まずは片付けないと」

今まで使われてなかった部屋なのでゴミなどはないが、埃がたまっているので一度掃除することにした。








「ふぁー、やっと終わったぁー」

埃というのは本当に隅から隅へ散らばっているので、全部をふき取るのに1時間以上かかってしまった。
その後夕食とお風呂を挟んで、持ってきた(というか坂本さんがガリア軍の方から取ってきてくれたみたい)荷物を整理していたら、もう月がキレイな時間になっていた。

「わー、キレイだなー」

この窓から、いや少し位置が違うんだけど、見る月はもう何年振りかもわからないほどで。

「帰ってきた、って言ってもいいのかな……」

あの時、一緒に戦った仲間達はもういないけど。

「私一人だけ、帰ってきてもなー」

ピチャ。
石造りの窓枠に滴が落ちた。

「ぁ────」

寝てしまおうか。
そうすれば、無かった事にできる。
起きたらきっと昨日は何であんなことで泣いていたんだろうって思える。
ずっとそうだった。
ぐっすり寝れば、全部、無かった事にできるんだ。

「でも、今日くらいは良いかな」

今日は泣いても良い日にしよう。
私が弱っても、ここには仲間がいる。
だから――。

「え゛」

たまたま視線を下げると、そこに私とリーネちゃんを見つけた。
しかもあの、リーネちゃんの『お気に入りの場所』で。
それはつまり、

「え、明日ネウロイなの?」

忘れるわけがない。初めてリーネちゃんのおっぱいに顔を埋めた日のはずだ。

(……501での最初のネウロイって、どのタイプだっけ)

軍人モードのスイッチが入ってしまったヴィオレーヌは、戦闘力確保の為にサクッ寝てしまった。









ヴィオレーヌは敵襲を伝える放送を聞いて目を覚ました。
戦うのが3か月ぶりなら警告で起きるのも3か月ぶりだが、昨日の夜のうちに覚悟していたためすんなりと起きた。
シャキッとした足取りで作戦室へと向かう。
作戦室の扉を開けると、ミーナさんしかいなかった。

「あれ、私が一番乗りですか?」
「そうなるわね。ちょっと待っててね?皆すぐ来ると思うから」

私が着席した後も、ミーナさんは忙しなくブリーフィングの準備を続ける。
しばらくその場に座って待っていると、次は坂本さんがきた。

「おはようございます、坂本少佐」
「ああ、おはよう。朝練の途中で、少し時間がかかってしまった」

そう言うとそのまま、私の隣に座る。

「少し汗臭いかもしれんが。まあ、気にするな」
「気にしませんよ」

その次に来たのはペリーヌさんだった。

「お、おはようございます、坂本少佐。それと、えと、おはよう……ごさいます。ヴィオレーヌ中尉」
「年は、ペリーヌさんの方が上なんだけどなぁ」

坂本さんが誘って、ペリーヌさんは私達の席に座った。
精神年齢は、倍ぐらい私の方が上かもしれないけど。
あんまり嬉しくない。
そこからは、殆ど時間差は無かった。
一応順番で並べると、次に来たのはバルクホルンさんとハルトマンさんで、その次がシャリーさんとルッキーニちゃん。それと、最後に私とリーネちゃん。
席は、一緒に来たメンバーと殆ど一緒に座っているけど坂本さんは皆が揃った時点で前の方へ行ってしまったので、今はペリーヌさんと私で1席だ。
ミーナさんは全員揃ったのを確認するとブリーフィングを始めた。

「敵グリッド東114地区に侵入。高度はいつもより高いわ」

前(多分)聞いた通りの話で、そのあとの布陣の話も恐らく全く一緒だったと思う。










皆が飛び立っていくのを見送る。
初日は無茶させたが一応病み上がりだから、と今日は待機組に決まった。
その後待機室に戻って、座っているが当然のごとくジリリリリリリリリリリ、という警告音がなる。
ネウロイのコアが見つからず、高速で接近してくる本チャンのネウロイが見つかったのだ。

「私とエイラさん、それにファルシネリさん出られるかしら?」
「大丈夫です。出れます」
「ではこの三人で出撃します」

ミーナさんがそう言って部屋を出ようとすると、

「私も行きます!」

『宮藤芳佳』の時の様にミーナさんに止められる。
……そしてまた、『宮藤芳佳』の時の様にリーネちゃんが来る。

「2人合わせれば1人分くらいにはなります!」

その言葉を聞くと、ミーナさんは支度するよう返答した。
その姿を見ていると、不意にエイラさんが話しかけてきた。

「どうしタ?」
「へ?何がですか?」
「いや、何か怖い顔してたゾ、お前」

そう言われて、自分の頬を掴んでみる。
そしたら、エイラさんは複雑そうな目で

「やっぱリ勘違いみたいダ」

と言った。
その引き際があまりに奇妙だったので、問い詰めようとしたがミーナさんに阻まれてしまう。

「エイラさん、ファルシネリさん私達は先に格納庫に向かいます」
「了解」
「了解」










2日連続で空を飛ぶ。

(やっぱり、格納庫からの出撃が一番魔力消費が少ない)

そういう風に作ってあるのだから当然だが、ガリアには首都にしか置いてなかったため今世では殆ど利用したことが無かった。

(念のため、私も長距離ライフルを持ってきたけど……)

あと1年たったリーネちゃんなら心配する要素は無いんだけど、この時期はまだ危うい気がする。
ある程度高度が上がると、皆がついてきているのを確かめてミーナさんが陣形を説明する。

「敵は3時の方向から3機、猛スピードでこちらに向かってきています」
「へ!?」
「?どうかしましたかファルシネリさん」
「あ、いえ、何でもないです」

話を遮ってすいません、と謝りつつ、対策を必死で考える。
1機は問題ない、と思う。
私は知ってるから。
リーネちゃんが1機落とすとして、あと1機はどうしようもない。
私が対策を説明する?
いくらなんでも可笑しいし、何よりそんな時間はない。

(どうする?)

何か妙案は浮かばないか、と思って周りを見渡す。

「ん?なんダ?」

…………そもそも、『宮藤芳佳』の時何で倒し損ねたんだろう。

「敵発見!」

ミーナさんが叫ぶ。
それと同時にミーナさんとエイラさんが銃を撃つが、私は空気を読まずに突っ込む。

「ファルシネリさん!?っ、エイラさん、ファルシネリさんに合わせて!」
「世話やかせる奴ダナー」

ある程度の距離まで来ると、敵3機は海上僅か1m前後を飛行している。
私はその目の前で停止する。

「なっ!危ないわよ!」

そう言われても、これが一番手っ取り早いんです。
このネウロイは前方の方にコアがあるため前から威力のある銃で撃ち抜くのが一番良い。
私がライフルの銃口を向けるとネウロイは上に軌道をずらすが、

(最初から、そっちに撃ってたよ!)

マルセイユさんに教えて貰った射撃法を使用するが、まさに敵が自ら当たりにいったようだった。
敵ネウロイは砕け散って私に当たる直前で消滅する。

「1機撃破!」
「残りは任せロ!」

その言葉に続いてエイラさんとミーナさんが通り過ぎた敵を追撃するが、銃弾が金属にぶつかった時の特有の音がする。
すると、エイラさんが叫ぶ。

「こいつ、分裂する!」
「え!?」

いち早く気づいたエイラさんはコアを破壊することに成功したが、ミーナさんの方は分裂して逃げられる。

(これで、よし)

二人が急いで戻ろうとしている横で背伸びとかしてみる。
でもこんな風に予定外が続いたら、困る。
いずれ私の力じゃ修正できなくなるかもしれない。

(?そもそも、何で前と同じにしなきゃいけないんだろう?)

残りの1機は前と同じようにリーネちゃんと私の合体技で仕留めたらしい。













言い訳
・ストライクウィッチーズが出てくるとうまく書けない。
 ・ってかエイラがうっとい
 ・何か厳しくなれない。ヴィオレーヌだけだったら本当はコアは後部にあって  基地の半分ぐらいは吹き飛ばしての勝利だったはず。
 ・一気にいっぱい出てくるな。
・あと原作のシーンは今回みたいなガンガン飛ばしていいものか迷ってる。
 ・ってか敵を強化しない限り主人公いらない子。
・やったらめったらスクロールバーが伸びると思うけど、空白と会話が多いだ  け。
・え、意味わかんないところがある?それ魔法だから



[22701] 501 2話 ごめんなさい
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/03 08:55
501として初めてネウロイと戦った次の日、私はリーネちゃんからウィッチについての紹介を受けていた。
坂本さんに連れられて半分くらい意地になってウィッチになったから、私はこの『ウィッチ』という世界の事をあまりよく知らなかった。
ストライカーだとか魔力だとか、そういう必須なことについては赤城に乗っている間に教えて貰ったけど、それ以外の事について、坂本さんはあまり教えてくれなかったからだ。

「まず、ウィッチと言えば、とまで言われるカールスラントの人達から紹介するね」
「ウィッチと言えば、って?」
「カールスラント出身のウィッチの人たちには凄い人が多いの。撃墜数でのランキングも半分近くカールスラントの人達だから。もちろん、開戦当初から戦い続けてる国だからっていうのもあるんだけど」

501で言えば、ミーナ中佐、バルクホルン大尉やハルトマン中尉だね、とリーネちゃんから説明される。
私はミーナさんはともかくバルクホルンさんは、苦手だ。
別に嫌いとかそんな強い感情は無いけど、怖い。
でも、正しい人なんだっていうのは何となくわかる。
ハルトマンさんとは、まだあんまり喋ったことがないからなんとも言えないかな。

「次はそのカールスラントの隣国にあるガリアの話をするね」
「ガリア、ってペリーヌさんの国だよね?」
「あと、ファルシネリ中尉のね。すっごく綺麗な国なんだ。私も小さい頃、アンボワーズ城とか大聖堂とか見に行ったことあるんだけど、すごい緻密ででもおっきくて、近くで見たら圧倒されちゃって」

今は、ネウロイの本拠地の1つになっちゃってるけど……。
リーネちゃんは最後の部分は濁して言った。
本当に良い子なんだなぁ、リーネちゃんって。
それにしても、ペリーヌさんかぁ。
私あの人も苦手なんだよね……。
何故かわからないけど、嫌われてるみたいだし。
ファルシネリ中尉は良い人だと思うけど、でもまだ距離を置かれてる気がする。
あと、何か敵になりそうな気がする。
この前通り過ぎさまに『渡さないよ』って……。
あれはどういう意味だったんだろう。

「あとはスオムスとオラーシャ、リベリオン、ロマーニャだけだね。501に関係ある国としては」
「あ、リベリオンとロマーニャは分かるよ。シャーリーさんとルッキーニちゃんの故郷だよね」
「そうそう。じゃあ説明スオムスとオラーシャだけで良いかな。501にいるスオムスとオラーシャのウィッチはエイラさんとサーニャちゃんなんだけど……話した事、ある?」
「ない……と思う」
「だと思った。でも、二人とも良い人だよ」

リーネちゃんが言うにはサーニャって人は夜間哨戒を請け負っているので、昼間に会ってもあんまり喋ってくれないとの事。
エイラさんは、まだ話したことないけど何故か仲良くなれそうな気がする。
そうやってリーネちゃんと話しながら、歩いていると医務室に、誰かが入っていくのが見えた。

「あれ、リーネちゃん、今のって」
「バルクホルン大尉だね。でも、どうしたんだろう?ネウロイは来てないはずだけど……」

もしかしたら、訓練で怪我でもしたのかな?
リーネちゃんのその呟きを聞くと、私は走り出した。

「行こう!リーネちゃん!」
「へ?あ、ちょっと、芳佳ちゃん!?」

もし、怪我してるなら、私の魔法が役に立つかもしれない。
それは、誰にもできない、私にしかできないことだ。

「大丈夫ですか!?」
「何がだ?新人」

廊下を進んで医務室の扉を開けると、丁度バルクホルンさんが服を脱いでいるところだった。

「へっ、あっ、ふ、服!」
「服がどうした」
「え、着ないんですか!?」
「人を露出狂の様に言うな!……傷の手当をする間、脱いでおいてるだけだ。分かったら出ていけ。お前はここに用など無いだろう」

お、おっぱいが、丸出し!まるだ、丸出し!?
じゃない!そんなこと考えてる場合じゃない。
このままでは私は変質者だ。
ちゃんと、傷を治しに来たんだってことを伝えないと……。

「え……?」

そう思ってバルクホルンさんの体を見ると、全身に何かで切られたような傷跡があった。

「どうしたんですか、それ……?」
「お前には関係ないだろう」
「あります!私は、傷を治しに来たんです!」

私がそう言うと、バルクホルンさんは「それでか」とため息をついた。
その態度からでも私を煩わしいと感じていることは分かる。
分かるけど、

「その傷は、普通じゃない、です」
「だが、然るべき処置をすれば治ることに変わりは無い」

そう言うとバルクホルンさんは包帯を巻き始める。
包帯によって大きくもなく小さくもないその果実のようなそれが押し潰されて……。
って、違う!?

「包帯を巻くだけの治療を然るべき処置とは言いません!」
「そうか?そういえばミーナもそんな事を言っていたな」
「当たり前です!ちょっと貸してください!」

別に魔法で治すだけが治療じゃない。
最低でも洗浄とか、消毒とか。
この人が私の魔法なんか必要ないって言うならもうそれは構わないけど、それでも普通の治療くらいは……。

「やめろ。必要ない。清潔にしていれば治る」
「あ、り、ま、す!そもそも包帯っていうのは圧迫したり、吊ったりするものであって、傷口を清潔に保つには別の医療品が必要なんです!それも私できますから、ちょっと大人しく……!」
「ま、待て!来るな!やめろ!」

バルクホルンさんは嫌がるってるけど、これは本当に大事なことだ。
でも、嫌がる子には消毒液をちょっぴり強く押し付けるのは、宮藤家の家訓の1つだ。
とりあえず、その胸の包帯を――。

「トゥルーデ、シャワー室お湯入れて貰っ………………。何してるの、トゥルーデ、ミヤフジ」
「はぁ、はぁ、なに?」
「ぐへへ、え?」

気づけば、私はバルクホルンさんを押し倒して包帯をかき集めていて、バルクホルンさんは、その上半身を露わにしていた。

「っ!新人、お前!」
「あっ、いいよトゥルーデ、気にせず続けて。私達は、あー、ストライカーの調子でも見に行くから!行こっ、リーネ」
「あ、でも芳佳ちゃんが……」
「待て、待って!待ってくれ、ハルトマン!!」

あれ、何かおかしな事になっている。
いやでも、傍から見たら私が、バルクホルンさんを押し倒して、脱がして……脱がして!?
脱がしてってそんな、だって治そうと思って、私は、でも果実で、たぷんって。
違うそういう問題じゃないっていうかだってタイミングが二度とないかもしれないしふにょんってひらってスべスベでりーねちゃんでくちびるともうまっかでかみのけさらさらでなにもかもすごいやわらかもうどうでもいい、とりあえず、最後まで犯る。

「くっ!新人!お前の言い分は分かった!治療は後で受けるからとりあえず今は」
「駄目、です。初期治療は、重要、です」

どうにでもなっちゃえ。















「今日は編隊飛行の訓練を行う!私の二番機にリーネ!」
「はい!」

リーネちゃんが元気よく返事する。
良きかなよきかな、このままこっちの私と順調に成長を続ければ、間違いなく世界最高峰のウィッチになるだろう。
特に大型ネウロイの撃墜数ではトップに立つほどまで。

「バルクホルンの二番機には宮藤が入れ!」
「ひゃ、はい!」

私が12人目のウィッチーズとして入ったせいか、こっちの私はしっかりと返事することができた。
私の時は、確か返事できずに坂本少佐に怒られてたと思う。
あの時は、バルクホルンさんが怖くて怖くてしょうがなかったというか。
こっちの私は、どうやって克服したんだろう。
まだあんまり話したり、とかはしてないはずだけど。
それとも、バルクホルンさんの方に心境の変化があったのかな。

「それと、ファルシネリとペリーヌも空に上がってくれ。こちらの訓練後に余裕があれば、連戦訓練を行う」
「はい」
「はい!」

そういえば訓練中にネウロイがくるんだっけ。
まあこのネウロイはそれなりに数の多いタイプで、コアの位置も外殻の強度も覚えてるから、前回みたいに3機来たところで苦戦はしないだろう。
そもそも、移動速度さえ遅ければ前回のネウロイも何も考えずに戦えばそれで構わなかったんだけど。

「よし!二番機はひたすらリーダーの後に着いていけ。他は見るな。方向転換したら、それに着いていく。射撃指示が出たら、撃つ」

坂本さんの言葉に、はい、と返事を返す。
しかし、今になって聞けばこれは二番機への激励であると同時に一番機へのプレッシャーだ。
前を走るものはギリギリで避けるだけではならない、敵の攻撃を予測して、味方の動きを計算して動かなければならない、そう言っているのだ。

「リーダーは常に敵から目を離さず、二番機に的確な指示を出している。だから安心して着いていけ」

そういえば、ここで私とバルクホルンさんとがペアになったのは、この時バルクホルンさんの調子が悪かったかららしい。
今回もそうなのだろうか?
どうにも、クリスちゃんと私を重ねていたらしいけど……。
よく見れば、眼を合わそうとしないのはわかる。
でも、なんで頬染めてるんだろう?
バルクホルンさん病気に近いくらい妹さんが好きだったけど、ちょっと似ている子を見つけただけで体が火照ってしまうような人だったろうか。
その後、坂本さんが編隊飛行の説明を一通り終えたところで空に上がることになった。





「わー、やっぱバルクホルンさん速いなー」
「そ、そうです……わね、ファルシネリ、中尉」

20年たった後の私から見ても、いまだバルクホルンさんの技術は高い。
今から20年後でも十分に通用するであろう能力値の高さだ。
流石に装備だけは、変えなくてはいけないだろうけど。

そしてまあ、予定調和の様に、信号が出る。

「え、何……?」

ペリーヌさんが事態に戸惑っていると遠くで坂本さんが叫ぶ。

「敵襲―!」

その言葉に皆の視線が観測部隊の居る建物に集中する。

「ネウロイだ!グリッド東、07地域、高度15000で侵入!!」

銃のマガジンをペイントから実弾に切り替える。
航空訓練時には基本弾倉は二つ持っていくものだ。

「ファルシネリ中尉!」
「はい。行きましょう」

ペリーヌさんと一緒に坂本さんのいる小隊へと向かう。
こういう急の状況で現場指揮を執るのは坂本さんだ。
というか、全体的に扶桑のウィッチはだいたい急場では現場指揮官になるから、お国柄なんだろう。
もちろん、扶桑特有の無茶戦術もだいたいこういう時に行われる。
あと、基本的に扶桑ウィッチの上官は泣く。

「よし、隊列変更だ。ペリーヌはバルクホルンの二番機に、宮藤は私の所に入れ」

大事にされてるなぁ、私。
バルクホルンさんに比べれば、坂本さんは決め技以外は基本的に慎重な立ち回りだから、後ろにつく二番機はかなり安全だ。
いや、バルクホルンさんの常時突撃態勢に比べれば、の話だけど。
下手したらずっと張り付いて撃ってるような人だしね。

「ファルシネリ、お前はリーネ護衛に着け」
「了解です」

今回相手は単騎だから、リーネちゃんが反応できないような攻撃を防いでやれ、という事だろう。
本来、護衛機が必要とされるのは相手が複数いる時だけだ。
相手が単騎だと、そもそも狙撃手は攻撃を受ける回数が少ないから、最悪、シールドを張り続けて戦えばいいからだ。

「リーネ。世界最高峰のウィッチがお前の背中を守る意味、分かるな?」
「……、はい」

リーネちゃんは一瞬不安そうな表情をしたが、すぐに顔に凛々しさを伴わせた。

(こうして見ると、私とリーネちゃん、本当に成長が早い)

自分で自分の事褒めるのはちょっとあれだけど。
それでも、事実だ。
何人か新人の頃から面倒を見たことはあるけど、こんなのは、まあ、いたけど。
居たんだけど、それはそっちも凄い人達だったからだ。
事実だけ抜き出せば、『宮藤芳佳』は最高のウィッチの一人だ・
例えそこに行きつくまでに、どれだけの犠牲を払っていたとしても。

「敵発見!」
「バルクホルン隊突入」

バルクホルンさんと坂本さんの二手に分かれてネウロイに迫っていく。

「ファルシネリさん!」
「うん、もう少し近づくよ!」

あと、何でリーネちゃんも敬語。
私そんなに年食って見える?
こっちの私よりおっぱいちっさいのに?

「胴体部の真ん中!狙える?」
「……多分ここからなら、いけます。援護をお願いします!」
「了解、ゆっくり狙ってね」

一発たりとも通したりはしないから。
そう言外に言うと、リーネちゃんは少し笑って、それから「はい」と言ってくれた。

(これは、少し早いけどブリタニア最高のスナイパー誕生の瞬間を、見れるかな?)

とはいえ、バルクホルンさんとペリーヌさん、坂本さんと私がネウロイの周りを飛び回ってる以上滅多な事ではこちらに攻撃は来ない。

(……これじゃ背中を守るどころか、ただの暇人だ)

時たま飛んでくる光線の余波を受け流していると、どうやら坂本さんがコアを発見したらしい。

(やば、坂本さんより先に見つけてた)

見つけたというよりは知っていたという方が正しいけど。
まあ、ネウロイのコアが中心部にあるというのは基本中の基本だし、大丈夫かな。
そうこう考えてると、コアが露出する。

「リーネちゃん!」
「はい。行きます!」

銃弾は轟音を放ち超音速で突き進みながら、ネウロイのコアを貫いた。
それによって当然、光の粒子となりながら地に落ちる。

(やっぱり、あんまし強くなかったな)

多対一で戦いやすいネウロイなんだから、501として勝負を挑む以上そう強い相手ではない。
ひとりだと、地獄だけどね。
それにしてもあっけないけど、まあバルクホルンさんが本調子なら実際こんなもんだよね。
今日は、ゆっくり寝るかな。













言い訳
・どうしようもなく話しが思いつかなかった。
・のでギャグ回に。
・あとリーネちゃん口調が安定しない。
・三回くらい書き直して結局ギャグ回。無駄に時間が空いた理由その1。
・公式の映像記録集みたらお姉ちゃんのキャラがぶっ壊れた。
・お姉ちゃん視点で2,5話を作ってシリアス分補給したい所。
・ペリーヌ視点の1,5話もあったんだけど、3話時点のペリーヌマジ友達いなくて会話無いから途中でやめた。無駄に時間が空いた理由その2






管理人様ご多忙の合間を縫ってのメンテ、お疲れ様です。



[22701] 501 2,5話 ありがとう
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/02 19:22




視界が霞む。
血を流し過ぎたのかもしれないし、あるいは体力が底をついてるのかもしれない。
普段魔力より先に体力が底をつくことはないから、分からないが。

「もう一度だ。ハルトマン」

もう一度、その言葉を伝えるとアイツは一瞬顔を顰めたが、それでも、その華奢な体躯に魔力の嵐を纏い始める。
その姿に引け目を感じる。

(できないだろう、というのは分かっていた)

あれはあくまで超人の技だ。
自分では届かないだろう、永遠に。
長い年月の研鑽とそして磨き上げられた天性によって成される、才能の極地だ。

防護魔法。

一般的にシールドと呼ばれるそれは、技術である。
ストライカーに乗った時から手足の様に使いこなせる者もいれば、発動すらできない者もいる。
まして、それを相対速度が音速に近づく中で敵の攻撃に合わせて移動させるなんて、出来るわけがない。

(私は才能の無い部類だったな)

足りない部分は他で補う。
私が選んだのは火力だった。

一度上空に上がったハルトマンは、『あの時』の速度で急降下してくる。
まさしく砲弾だ。
威力は落としているとはいえ、恐怖で頭が塗りつぶされていくのが解る。
だが、それでも進む。
ストライカーに望むだけ魔力を与え、ハルトマンに向かって加速していく。
さっきよりグンと近づく速度があがり、心もそれ煽られる。

(呑まれるな)

魔法は心に由来する。
怯えた心に、力は宿らない。

手を翳して、前面にシールドを展開する。
向こうもこちらも際限なく速度を増していき、そして、ハルトマンのそれと、接触する。

(――っ!!)

目の前に現れたその嵐に、逃げ出そうとする心を必死に抑える。
どの道、逃げ場はない。

目の前にあった頼りないそれを背面にずらしつつ体を捻じる。
その暴風の内側だけを通り抜けるように。
しかし、僅か2,3日の技術などが天性の境地に至れるわけがない。

「っづ! あああああああああ!」

身体が切り裂かれるのを感じる。
シールドを動かす速度が足りなかったか、あるいは動かす場所が悪かったか。
どちらにしても失敗だ。
もしハルトマンがその力を全開にしていれば、私は文字通り塵だったろう。

(だが、あの時は確かに全力でやったのだ!)

私も、ハルトマンも。
あの人型のネウロイに全力で挑んだはずだ。
だが、結果としては銃弾の一撃も当てれず、挙げ句ハルトマンの固有魔法すらその技術によって粉砕された。
当然だ。
相手があのガリアの英雄では、あの結果は当然だ。
仕方がない。
あれは正真正銘の化け物だ。

(――馬鹿な)

化け物などではない。
魔力も体格も変わらないのだから。
決して届かぬ場所ではないはずだ。
例え今、身を焦がすような思いをしても届かぬ物が、アイツの持つ技術の何百分の一だとしても。
もう一度、

「もう終わりだよ。トゥルーデ」
「……馬鹿な。お前も私も、まだ魔力は残っているだろう」

何を馬鹿な事を。
弱気な顔などして、らしくもない。

「トゥルーデ、最近おかしいよ。こんな事して、何になるっていうのさ」
「戦う力になる。私達はウィッチだ。戦うための力はいくらあったって……」
「トゥルーデは!」

そこでハルトマンは一度言葉を切った。
そして、今にも泣きそうな顔で、言葉を続けた。

「……私と、戦うつもりなの?」

私は、何も答えられなかった。
無論そんな予定など、断じてない。
しかし、今までやってきたことはまるで――。

「……今日はもう終わりにしよう。私は、お風呂沸かして貰えないか頼んでみるよ」

その傷で、皆と同じようにお風呂に入るわけにはいかないからね、そう言ってハルトマンは基地に向かって飛び始めた。














ハンガーに戻るとそこには誰もいなかった。
今日リベリアンは非番の日だからこの時間ならストライカーを弄っているはずだが。
作業途中のストライカーが放置されてる所を見ると、ハルトマンが連れて行ったのだろう。

(何をしているんだ、私は)

ネウロイと戦うとあれ程息巻いておきながら、ファルシネリの奴に嫉妬して、無茶な事を繰り返して。
そして、ハルトマンにあんな事まで言わせて。

(何をしているんだ、私は!)

今すぐにでも、謝りに行きたい。
申し訳なかったと、迷惑を掛けた、と。
きっと笑って許してくれるだろう。

(まだ、私はあいつに甘えるのか……?)

許してくれる『だろう』なんて。
何様のつもりだ。

自分で提示した思いを自分で打ち消す。
頭がこんがらがってきて、眩暈がする。
血を流し過ぎたのかもしれないし、あるいは体力が底をついてるのかもしれないし、もしくは、根底が揺らいだのかもしれない。
いや、実際に揺らいでいる。
『ネウロイを倒す』
それが私の望みだったはずだ。
とりあえず、と医務室に足を動かす。
当然だが、ハンガーから医務室は近い。
そう長くもない距離なのに。
隣に誰もいない廊下は、考えられないほど長かった。






医務室に入ると特有の薬品の臭いがする。
戸棚を開けて、目当てのものを取り出す。

(まずは、昨日のを取らないと)

服を脱いでみると、体もそうだが、何より服がボロボロだった。
あのネウロイを外壁ごと削り取るようなハルトマンの固有魔法を(威力を落としているとはいえ)何度も受けているのだから当然だが。

(まいったな)

服に関しては支給されたものを使っているが、今月だけで3着は駄目にしている。
服くらいで罰則を受ける事は無いだろうが、そう何度も服ばかりを支給されれば不審がられるだろう。
何より上官がミーナでは、次の出撃のシフトから外される可能性もある。
だって、今なら単独でネウロイと渡り合える人材がいる。
『ガリア東部戦線の奇跡』、その立役者はまさにその名に恥じぬ実力なのだから。

(っ……)

これは、嫉妬か羨望か。
恐らくどちらもだ。
名誉が欲しいわけじゃない、名声が欲しいわけじゃない、ただ私も仲間を守りたかった。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
そう思って、カールスラント壊滅から必死に、呪うかのように訓練を続けてきた。

(結果が、コレか)

開戦から共に戦ってきた仲間まで泣かせて、私は何がしたかったのだろう。
嫉妬するのが悪い事か?そんな訳はないだろう。
羨望したのが間違いだったのか?そんな事はない、憧れなければ、きっと近づくことすらできない。

「大丈夫ですか!?」

そんな時、誰かが入ってきた。
この前入ってきたばかりの新人だった。
ファルシネリにばかり気が向いていて、あまり注目はしていなかったが、紹介の時の態度から甘い奴だというのは分かっている。

「何がだ?新人」

話しかけるな。と。
そういうつもりで、答えを聞き返した。
遠慮して、縮こまって帰ってくれるのを期待して。
しかし、返ってきた言葉は遠慮などではなかった。

「へっ、あっ、ふ、服!」
「服がどうした」

確かにボロボロだが、そんなに騒ぐほどでもないだろう。
だが、次にそいつの口から飛び出た言葉は、全く違うものだった。

え、着ないんですか!?

そんな訳があるか。
そんな風に言葉を返した。
どこをどう見たら露出狂のような姿に見えるのか。
確かに今は着てないかもしれないが、普段話すとは言わなくても遠くから目に入るくらいは互いにあっただろう。
その後、その新人は私の身体を一通り眺めて、そしてこう言った。

「どうしたんですか、それ……?」

傷の事だろうな。
だが、

「お前には関係ないだろう」
「あります!私は、傷を治しに来たんです!」

私が関係ないと突っぱねようとすると、その新人は更に食らいついてきた。
今は、何も喋りたくないんだ。
だから、いまはそっとしていて欲しい。

「その傷は、普通じゃない、です」
「だが、然るべき処置をすれば治ることに変わりは無い」

そういえば、新人は回復魔法が使えると坂本少佐から聞いたことがあるような気がする。
だからと言って、それを受けてやる義務はない。
目の前で更に言葉を飛ばす新人を無視して包帯を身体に巻いていく。

「包帯を巻くだけの治療を然るべき処置とは言いません!」

そんな事は知っているが、今は一刻も早くここから立ち去りたい。
だから、すっとぼけて追撃を躱そうとする。
そういえば、今更ながら風呂に入るつもりなのに今治療を施してどうするんだという話だ。

「あ、り、ま、す!そもそも包帯っていうのは圧迫したり、吊ったりするものであって、傷口を清潔に保つには別の医療品が必要なんです!それも私できますから、ちょっと大人しく……!」

だが、気だるげに適当な返事ばかりを行っていたら、いつの間にかその新人は調子付いていた。
近づいてきたかと思ったら、その明らかに年齢に不釣り合いな力で私の腕を引き上げる。
ネガティブな考え事をしていたからか、怪力の魔法を使うには魔力が足りなくなっていた。

「――っ」

何やら本気で身の危険を感じた。
抵抗する術を持たない捕虜兵などはこんな気持ちなのだろうか。

「ま、待て!来るな!やめろ!」

知らず、私は叫んでいた。
だが、そこに深刻な色はなかった。
相手を信じて、それが嘘の姿だと分かっている時の様に。
まるで妹が私の苦手なあの生き物を近づけてきた時の様に――

「ぁ」

姿がタブった。
新人とクリス、それ程に似てるわけでは無いのに、何かが。
新人もそれを察したのか、照れくさそうに笑いながら、今度は胸に手を伸ばしてくる。

「トゥルーデ、シャワー室お湯入れて貰っ………………。何してるの、トゥルーデ、ミヤフジ」
「はい?」

ハルトマン?
何でここに?
いや、これだけ騒いでいればハンガーへ向かう途中に気づいたのかもしれない。
待て、それよりハルトマンから見て私達はどう映るんだ?
さっき自分を泣かせた相手が他の奴と楽しげに笑ってるなんて、そんなの。

「っ!新人、お前!」

嫌がってる素振りを見せる。
もちろん、そんなのでアイツを誤魔化せるわけも無いだろうけど。
それでも、そうせずにはいられなかった。

「あっ、いいよトゥルーデ、気にせず続けて。私達は、あー、ストライカーの調子でも見に行くから!行こっ、リーネ」
「あ、でも芳佳ちゃんが……」
「待て、待って!待ってくれ、ハルトマン!!」

一言、一言でいいから、言いたいことが有るんだ。

「くっ!新人!お前の言い分は分かった!治療は後で受けるからとりあえず今は」
「駄目、です。初期治療は、重要、です」

そのまま新人は私を押し倒して、馬乗りになった。
私は必死に振りほどこうとするが新人は私の腕を抑えると、顔を近づけて――。



「私には、バルクホルンさん達に何があったかは知りませんけど」



新人は顔を近づけたまま、そう言った。

「でも、ハルトマンさん、嬉しそうでした。バルクホルンさんが楽しそうにしてたからじゃないんですか?」

私は、また何も言えなかった。
本当にそうだったら、と信じたかったけど、そんな虫のいい話で、いいのか。
そんな事を考えていたら、言葉が止まっていた。

「治療、受けてくれますか?バルクホルンさん」

本当に年下なんだろうか?
そう言いたくなるほどその時の宮藤芳佳は、大人びて見えた。
だが、その大人びた顔はすぐに緩んで、今度は子供っぽい顔で恨めしそうに、

「――それと、私の名前は宮藤芳佳で、新人じゃありません」

そこで私が噴き出してしまい、また少し騒がしくなった。

















リネット軍曹の銃撃で、ネウロイが消滅していく。
本当に、信じられない射撃センスだ。
ダメージが少ないせいで、まだそれ程露出していないコアに当てたこともそうだが、何より味方が飛び回る合間を縫って撃つ状況判断能力は、一流と二流を分かつ線引きを既に超えている。
ネウロイの消滅を確認して、私はハルトマンに話しかける。
先日の事を謝ろうと思っていたからだ。

「な、なあハルトマン」
「ん?どうしたの、改まって」
「この前は、悪かった。すまん……」

私がそう言うと、ハルトマンは少し目を開いて、その後楽しげに口を歪めると、

「何?エンジン音で聞こえないよー?」

絶対聞こえてるくせに、どうやらもう一回言わせたいらしい。
その上、今の大声のせいで皆の視線がこっちに集まる。

「――! ハルトマンっ! 私は真面目に、」
















言い訳
・正直今まで(自分的には)一番好き。
・短いのはごめん。
・純粋な淫獣と純粋じゃない淫獣さんが混ざってそうで怖い。
・2,5話です。



[22701] 501 3話 ソルダット・オブリージュ
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/23 20:38


「何か寒いですね、今日は」
「いや、十分暑いと思うが。大丈夫か、お前」

バルクホルンさんが私の言葉に応える。
気分は夏真っ盛りで、いつ海での訓練があるのかと心待ちにしているところにも関わらず、少し肌寒く感じる。
気温は低くない、むしろ「これでもか」というくらいには、暑い。
つまり、虫の知らせというかなんというか。
この背筋が凍えるような感触は多分、ネウロイだ。
長い間戦っていると、たまにこういう時がある。
何の前触れも情報もないのに、「あ、今日来る」、と頭にスッと入ってくる。
ヴィオレーヌ・ファルシネリとしては体験した事は無かったけど、前の時には何度かあった。
そして毎回、碌でもない敵ばかりやって来る。

(前にこれを感じた時には、私の部隊が全滅したんだよね)

ガリア戦線の時とは違う、自らの手で鍛え上げた最高の部隊だったが、長時間の戦いを強いられ、敗北した。

(とはいえ、空振り率50%なんだけど)

この感覚に陥ったとしても毎度毎度敵が来るわけでもなかった。
あくまで、経験則の延長線上。
エイラさんみたいに予知能力を根拠としているわけじゃない。
ただ、20年と戦い続けた女の勘は、馬鹿にならない。

予定調和的に、警報が鳴った。

「警報だと?また不規則な出現だな」
「そうですね。取り敢えず作戦室に行きましょう」

いまさらネウロイの突然な出現くらいでは、驚かない。
私は今更だからとして、バルクホルンさんももとは最前線の人だし。
しっかり基地の中で装備が整っている状態なら、取り乱すことは無い。
二人して作戦室へと走る。
石造りの廊下は走るたびに反響音を出していて、ちょっと走るのが楽しい。
普段走ったりしたら坂本さんに怒られるのでできないが、緊急の時は話が別だ。

「なんだ、ネウロイが出たというのにご機嫌だな」
「……すみません」

ちょっと面白がっていた所をバルクホルンさんに諌められる。
バルクホルンさんは少し顔を顰めたが、まぁいい、と流してくれた。
もう少しで、作戦室だというところで、館内放送が入る。

『ヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉とシャーロット・イェーガー大尉は直接格納庫へ向かってください!繰り返します――』


私か、と思って足を止める。

「どうやら何かあるようだな。私はこのまま行く。気を付けろよ」

そういうバルホルンさんに礼を返して、ついでに踵も返す。








ハンガーに着くと既に坂本さんが待機していた。

「ファルシネリか、こいつを着けて南へ飛べ! シャーリーはもう出た!」

そう言って坂本さんはインカムを投げる。
説明は空で行う、とにかくブライトンへ向けて全速力を挙げて飛べ。
そんな内容の事を早口で捲し立てながら私をストライカーに乗せる。
冗談じゃない様子なので、素直にストライカーに乗って上空へ飛び上がる。
ある程度高度を上げるとシャーリーさんが作ったであろう噴煙の道が目に映ったので、それに追随するように加速する。

(ブライトン、と言えばブリタニア有数の観光都市でしょ……!?)

今現在、敵と向き合う形になってる為多少人数は減っているはずだが、人口10万超えの大都市に変わりはない。
だが、観光都市という性質上そこに大した武装は無いはず。

(そんなとこに、ネウロイが向かっている?)

今更、前の世界と同じ流れになる事を盲信していた、何て事は無いつもりだったが、ここまで一気に流れが変わるとは思っていなかったのも事実だ。
スフィア状の外部加速4基を周りに展開して、最大速へと身を預ける。

『聞こえるか、ファルシネリ?』
「はい、良好です坂本少佐」
『こっちも大丈夫。でも、説明はしてくれ少佐』

坂本さんからの通信に私とシャーリーさんが返す。
そして問い質す、なぜこれほど大急ぎで私達は飛び出させなければならなかったのかを。

『分かっている。しかしこちらもあまり時間に余裕がない。質問はすべてまとめて最後に頼む』
「了解」
『了解』

時間が無い、という前置き。
そして「こちらも」という表現。
かなり焦っているみたいだ。
背後でバタバタと準備している音が聞こえることからみても、前突発で行ったような実戦訓練、とかではないようだ。

『敵は3機だ。まずウィッチーズ基地に向かっている高速型が一つ、次にブライトンとここの丁度中間地点辺りを抜けようとしている100m級以上のものが一つ、そしてブライトン向かっている魚群のようなネウロイが一つ、だ。基地に近い二つに関してはこちらから対応する。お前らはC部隊として魚群型を足止めしろ!』
『ちょっと待ってくれ!魚群型ってなんだ、それだけじゃ何もわからない!』
『私にもわからん、だが何とかしろ!ウィッチーズの中で敵がブライトンへ辿り着く前に接敵できるのはお前たちだけだ!時間さえ稼げれば最悪それでも構わん!ペリーヌ、宮藤、リーネを増援としてブライトンに送る!お前らは出来るだけ都市から離れたところで接敵し食い止めろ!』

双方から怒鳴り声が鳴り響く。
どちらも焦っているからだ。
シャーリーさんは未知の敵と都市一つの重圧を受けて、坂本さんは100m級や高速型などを前にして、その対応策を必死に頭の中で作り上げているからだ。
生きる為に、生かす為に。
見知らぬ誰かを守る為に、その能力を必死で使い果たそうとしてる。

(私は、見知らぬ誰かの為なんかに、戦えない……)

今、ここでこうしてるのだって、皆の姿に『前の世界の皆』を重ねて、守って、自己満足に浸っているだけだ。

(使命や義務でなければ戦ってはいけない、なんてことは無いと思うけど)

ただ、それを持たずに戦い続けることは難しい。
それを私は、あの戦いで痛感した。
心が折れてしまったのだ。
だからこそ、最後にあの場所で落ちる事になった。
『宮藤芳佳』には、皆の命の詰まっていたというのに。

(……何にせよ、守るんだ)

思考を切り替える。
戦いの為に思考を負の方向へと伸ばすことはウィッチには許されない。
守る、守る、と空っぽの言葉を自分に言い聞かせて、その身を戦いへと捧げるしかない。
何を守るのか、何を守りたいのかも分からぬまま、守れ守れと自分の背中を押しながら戦いの化身へと、戦士へと姿を変えるのだ。

(迷う事なんかない、考える事なんかない)

ただ戦えば、それでいい。
そうすれば、いつかきっと許される。



坂本さんももう出撃という事で、無線を切り、しばらくの間高速飛行を維持していると、シャーリーさんから無線が入った。

『こちらシャーリー、聞こえるかファルシネリ』
「聞こえています。何かありましたか?」

その声は震えていて、どうしても嫌な予感を感じずにはいられなかった。

『ミサイルだ』
「……え?」

思わず聞き返してしまう。
ミサイル、と言えば対象に衝突して爆発するあれだ。
だが、今回の敵は魚群型。
もし敵ネウロイがミサイル型だというのなら、

『100近い数だ! 全部ブライトンに向かっている!!』

どうやって、防げというのか。

『とりあえず片っ端から撃ち落とす! 早く来てくれ!!』
「――っ、はい!」

外部加速の出力を更に上げて、シャーリーさんの噴煙を追っていく。
実際の最高速ではこの時代で既に音速に近いシャーリーさんとはかなり差があるはずだけど、ものの1分と経たずに追いついた。
だが、そこで見たものは予想以上だった。
シャーリーさんが既に何機も落としているはずなのに視界の端から端まで埋める数の一直線に並ぶ全長10m、直径1.5m程のそれは、一発の着弾でも都市の10分の1程は破壊するだろう。

(巡航ミサイル……?)

何で、こんなものが。
それは、もっと先の、そのまた先の、最高水準の技術の1つ。
それが、この数。
この至近距離なら一機でも爆散すれば、周りの物も連鎖的に爆発するだろう。
全部撃ち落とすか、最悪、自分を盾にして全てのミサイルを爆発させるか。
どうやら魔法攻撃でなら爆散はせず、そのまま光の粒子になるようだが、

『何してる!? 撃てっ!』
「っ、はい!」

銃口を向け、引き金を引く。
ただそれだけの作業に時間がかかる事なんかない。
1機ずつ、1機ずつ減らしていけばいい。
ギリギリ、本当にギリギリだが、ここからブライトンまでの距離を考えれば、全て撃ち落せる。

「っ!」

1つ2つ、3つ4つ、二人掛かりでならかなりのスピードでそれは減っていく。
向こうからの反撃は無く、ただ真っ直ぐ飛んでいるだけなのだから落とすの自体は難しい事じゃない。
少しずつ後退しながらも、確実に敵の数を減らしていく。
そして、ブリタニア有数のリゾートシティ、ブライトンが視界に入り始めたころ、

「撃墜数的には、悪くないけどなぁ!」

私は右端から、シャーリーさんが左端から敵を削って遂に生の声の届く距離となっていた。
このままなら、間に合う。
予想より自分の射撃の腕が『戻っている』事もあって、少ないながらも余裕を持って撃退することが出来そうだった。

「このままなら!間に合います!」
「だな!もう少しだ!」

残り少ない銃弾を気にしながら、更に更に撃ち落としていく。
そして、ようやく、最後の1機となった。

「これで、」
「ラスト!」

シャーリーさんの銃声で最後の一発が粒子となり、海に降り注いでいく。
最後の撃墜を確認し、一通り周りを見回して敵が残って居ない事を認めると、シャーリーさんがこちらにやってきた。

「はーっ、きつかったなあ。向こうはどうなった事やら」
「そうですね。怪我してないと良いんですけど」

そう言ってインカムの出力を切り替える。
この時代のウィッチ用無線機は魔力によって出力している為、あまり距離がありすぎる場合はどこか一方に出力先を絞らなければならない。
今までは互いに合わせていたが、今度はミーナさん、というか基地周辺に合わせる。
観測班から最後の確認と、指揮官からの次の司令を貰わなければならないからだ。

「ああ、私がやるよ。一応私の方が階級は上だからな」

ただ、お前の方にも転送するから話は聞いておいてくれ、そう言うとシャーリーさんは私の無線との接続を切り替えて、基地に向かって魔力を飛ばす。

「こちら、C部隊敵を撃墜した。次はどうすればいい?」
『っ――シャーリー!? 繋がって良かった! すぐにさっきの位置に戻って!!』
「は? いやもうあそこには何もない……」
『第2波よ! さっきと同じ魚群型がまたそこに向かってる! ブライトンで弾薬の補充は頼んでおいたわ! 何とか、何とか敵の数を減らして!!』

シャーリーさんは一瞬顔を顰めたが、すぐに切り替えて、ブライトンへと行先を決めた。
ブライトンを良く見てみれば確かに、屋上や海岸線に弾薬と武装を持って、兵隊たちが待機している。

(第2波って……。このまま戦っても)

ストライカーを走らせて建物の屋上にいる兵士から新たな機関銃と弾薬を受け取り、再び上昇する。

『時間が無い。最高速でさっきの地点まで戻る』
「待ってください!」

シャーリーさんの顔からは余裕が消え失せていた。
今の時点でさっきの場所にいるという事は、今度はどう考えても間に合わないという事だ。
顔を青くするシャーリーさんを前に私は、立ち止まった。
一瞬加速しようとしたシャーリーさんはこちらに向かって旋回してくると、私に向けてこう言った。

「気持ちは分かるけど、やってみなきゃわからないだろ……!?」
「わかります! 間に合いません!」

シャーリーさんの言葉に私は事実を返す。
答えを返すとシャーリーさんは私の胸ぐらを掴んで私にそのビンタをお見舞いした。

「私にだってそれはわかってるよ! でも、やるしかないだろ! 少しだって!」

少しだって、そう言いながら拳を解いた。
だって、間に合わない。
そんな事、素人目に見たって明らかなのに、何度も現場を経験した歴戦のウィッチがわからない訳がない。
どうやっても、ミサイルを撃墜するのは不可能だ。

「……少しだって、敵を減らす。お前が行かないなら私ひとりでも、」
「だから、少し待ってください。方法が、あります」

どう考えても殴られ損だけど、作戦を説明する。
このままいっても勝てる気配が微塵もない以上、やるべきことは策を変える事だ。
それを説明しようとしただけなのに、諦めたと勘違いされて叩かれたようだけど、私は普段どんなふうに思われていたのだろう。

「……方法、あるのか? そんなのが?」
「あります。だから、話を聞いてください」

まあ叩くとき胸が揺れるのが見れたからチャラにしとくけど。
そして説明に入るが、作戦という程のものではないのは確かだったのに、シャーリーさんは楽しそうに賛成の意を示してくれた。
その内容とは、子機を倒すことより親機を倒すことに集中するというものだった。






「恐らく、対岸に居るはずです。この近辺であれだけの量の金属を補給できる場所なんてそんなに多くは無いはずですから。後は、ミサイルの弾道を辿ってください」
「了解。手を叩くと消える、で良いんだよな?」
「はい、流石に状況を見せてくれるほど便利なものではないので」

シャーリーさんのストライカーに4つのスフィアが纏わりつく。
私の外部加速だ。
これにシャーリーさんの超加速を合わせて対岸に『居るであろう』ネウロイのコアを破壊する。
コアを破壊すれば、子機のすべては消失する。
ミサイル群が子機であった以上、親機がどこかにいるはずなのだ。

「ペリーヌさん達もこちらに向かっているはずですから、第2波は恐らく防げます」

3人も増えればかなりの短時間で撃墜できるはずだから。
いくらまだこっちの私は練度が低いとはいえ、直線に動く物体に当てられないほどでは無かった筈。
それに、ペリーヌさんはこの時期でもすでに国を代表するウィッチだ。
何とか、間に合う、間に合わせる。

「それじゃ、後は任せた」
「はい、気を付けてください、シャーリーさん」

その言葉と共に、シャーリーさんは上昇し私の外部加速と共に速度を上げる。
超音速へ、向けて。

(さて、)

シャーリーさんが飛び去った方向を見ると、1列に並んだ黒い点、点、点。

(正念場、だ)

今、この戦場に味方はいない。
だったら目に留めったものから撃っていけばいい。

(何も考えなくていい。ただ撃てばそれでいい!)

外部加速に込めた魔力は自身の魔力の半分に迫る。
残る僅かな魔力を総動員させて、昔を思い出す。
味方のいない、最も強かった時の『宮藤芳佳』を、思い出す。











僅かに残る煙の後を追走して、ブライトンまでやっとの思いで辿り着いた。

(思っていたより、離されてますわね……)

C部隊が戦闘開始したとの通信から随分時間がたっているはずなのに、まだ追いつけていない。
それだけ、あの二人は早かったという事になる。
シャーロット・イェーガー大尉。
ストライクウィッチーズ最速の機動力に加えて、更に加速系の固有魔法を持つリベリオンのスピード狂。
ヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉。
ガリア東部戦線の奇跡の立役者にして、坂本少佐も認める世界最高峰のウィッチ。
どちらも、世界レベルに名を轟かせるトップエース。
それに比べて私は、『青の一番』、なんて欧州で持て囃されてるだけの、ただのウィッチ。

(別に、最強だとか、最高だとか、そんなものに憧れてるつもりはないんですけど)

それでも、手を伸ばしたくなる。
その輝きが彼女たちには、ある。

(今日は、全力を、尽くす)

今の自分を見せたい。
かって東部戦線で補給係として相対するも、何ら特徴を見つけられなかったのか、再会した際にも何も言われることは無かった。
覚えて貰えているか、もしかしたら、顔の造形ぐらいは覚えて貰えているんじゃないか。
そう思っていたけれど、結局私に向けられたのは、皆と変わらぬ視線。
ストライクウィッチーズは、彼女にとって同列で、それは当然なのだけど、それでも私は悔しかった。

(だから、今日、刻み付けて見せます)

ペリーヌ・クロステルマンという小さくとも確かな輝きを、あの金色の瞳に――。

『ペリーヌさん! もう少し西に進路を向けてください! もうかなり都市に近い場所での戦闘に入っています!』
「わかりましたわ。速度を上げます。宮藤さん、リーネさん、遅れないように」

了解、その言葉が二つ重なって耳に入ると同時にストライカーに込める魔力を増やす。
常に全速力で動いていれば普通のウィッチであれば魔力が足りなくなるからだ。
もっとも、かなり短時間でのブーストが可能なあの二人には関係ないのでしょうけど。
陸地が近づいてくる、雲の流れがグンと早くなる。

(覚悟を決めなさい、私)

憧れているだけでは、駄目だ。
追い縋らなければ、手を伸ばさなければ、気持ちを、強く持たなければ。
仲間として、認めて欲しい。
少佐にも、中尉にも。

『迷ったら、強気で行け』

少佐に言われた言葉を思い出す。
以前、自分の実力について相談した時、中尉への劣等感を露わにしてしまった時、言われた言葉だ。

(あの時、まだ中尉はいらっしゃらなかったけど、)

それでも、劣等感はあったのだ。
ガリア出身のエースという事で、ひたすらに比べられた。
方や南で量を持ってして戦っているのに、あっさりと戦線を下げていく部隊、方や、僅か数人、いや実質的に1人で戦線を支え続けた英雄。
新米の頃、補給部隊として一度だけ東部戦線に参戦した時、養成学校時代からの伝説のウィッチを初めて直接見た。

憧れた。

私もあんな風に飛びたい、可能なら、その横で飛んでみたい。
届かない距離ではないと思う。
『あの時見た』中尉の実力になら何とか僚機を務められる程度には成長したはず。
まして、その後ブランクを挟んだ今なら、仲間として戦えるはず。

(認めて欲しい)

そう頭に浮かぶ、だが、その言葉を頭を振って取り消す。

(馬鹿な)

自分を追い立てていく、最大瞬間速まで。

(認めさせる!)

意気込んで、戦場へと向かう。
全身に力が漲り、魔力の通りがスッと良くなっていく。
体の中を風が駆け巡っていくような感覚を経て、自分が今最高のパフォーマンスが出来ると確信する。
迷ったなら、強気で行く。

(私が、ガリア最強のウィッチ!)

眼を見開いて、戦場に突撃していく。
しかし、戦場には彼女の望む光景は無かった。













目の前の敵をひたすら消化していく。
目の前に現れた敵のシルエットに狙いを定め、キッチリ3発だけ撃つ。
これを100回繰り返すだけの作業だ。
だが、現実はそんな簡単にものではない。
もう町は目の前だというのに、まだ半数近く残って居る。
その上、止まっては加速止まっては加速を繰り返す為魔力消費も激しい。
加速しながら3発も当てながら駆け抜けるのは不可能、とは言えないけどどこかで必ず取りこぼしが出る。
それを後々また反転して倒さなければならない事を考えると、堅実に行った方が良いと判断した。

(何より、爆弾の残りは出来る限り片方に寄せておかないと)

いざという時、町の半分だけでも生き残るように。
そう思いながら、着実に数を減らしていくが、明らかに間に合わない。
1機毎の間が丁度誘爆ギリギリの間を取っている為意外と遠い上、恐らく、さっきよりも速度が上がっている。

(ペリーヌさん達は、まだ?)

このまま来れないようなら、残る全魔力を放出してわざと誘爆させるしかない。
シールドを張ったところで生き残れないとは思うけど、町は助かる。
そんな危ない事を考えていると、待ち望んでいた増援が遂に来た。

『ファルシネリ中尉! これより戦闘区域に入ります、ご指示を!』
「北側からお願いします! 必ず横から銃撃で破壊してください!」

何かに正面から衝突すれば爆発する。
最先端兵器を有するリベリオン出身のシャーリーさんは知っていたが、ガリア出身のペリーヌさんは知らないかもしれない。
もちろん正面からでも衝撃から爆発までの間に完全に向こうの体力を削る事が出来れば爆発は防げるが、それには相当正確な射撃が必要だ。
そもそも線と点ならまだ線の方が狙いやすいに決まっている。
通信が終わるとペリーヌさん達も銃撃戦を開始する。

流石に4人もいればかなりのもので、あっという間にネウロイの姿は消え去った。
それでも、いくらかギリギリなものもあったが。

「ありがとうございます。ペリーヌさん」
「い、いえ、こちらこそ、その、……」

敵の消滅を確認すると、弾薬を補充しつつ礼を言っておく。
もう少しで自殺特攻するところだった事を考えれば、いくら頭を下げても足りない気がする。
本当に、助かった。

「怪我はありませんか?ファルシネリさん」

ペリーヌさんとそんな事を話していると、こっちの私から尋ねられる。
この時期の私は、誰かの為になりたくて仕方がなくって、ずっとこんな風に尋ねて回っていたと思う。
それが可愛らしくて、でもそれが自分だと思うと可笑しかった。
恐らく来るであろう『第3波』に向けてまた高度を上げていく、ある程度海岸線から距離を取ったところで、シャーリーさんから通信が入る。

『こちらシャーリー、敵を発見した! 発見したが……コアが見つからない!』
「っ!相手の形状はどんな形をしていますか」
『まるで機関車を馬鹿でかくしたようなのだ! 何m有るかはわからないが、1000は超えてる! 』

(! また、未知のネウロイ……)

そんなインパクトの大きいネウロイなら忘れるわけがない。
だが、記憶には残って居ない以上、相対した事のないネウロイという事だ。

「待ってください! 本当にそのネウロイがミサイルを!?」
『ああ、間違いない。今、射出口を潰したが、恐らく第3波は……』
「それは大丈夫ですそれより中心部は!?」
『攻撃してみたが反応がない。……いや、動き出したぞコイツ!!』

自分に超加速という魔法が備わっていなかった事に歯噛みする。
いや、それでもジェットストライカーがあれば……。
駄目か、この時期はネウロイ技術が進歩していない以上まともなジェットストライカーは存在しない。
自分では間に合わなかっただろう。

『いや待て、これはまさ――』

何かを言いかけた後、爆発音がして、そして通信が切れた。

「シャーリーさん、シャーリーさん!? 応答してくださいシャーリーさん!!」

必死に呼びかけるも反応がない。
魔力が尽きたか、インカムが壊れたか。
どちらにしても、残る道は死だけだ
今シャリーさんがいる場所はガリアの海岸線のはずだ。
そんな場所で、魔力が尽きでもしたら、

(死ぬしか、ない)

それも、私のせいで?
また、私のせいで。
死んでしまうのか、いや、殺してしまうのか、二度も。
だが、状況は悲観すら許さない。

「ファルシネリ中尉、第3波、来ます!」

リーネちゃんの声が響く、私は半機械的に銃を構えた。
そして、敵に向かって少しでも距離を詰めようとストライカーに魔力を込め、視線をネウロイに向ける。
だが、

「え、?」

足が進まない。
私も、リーネちゃんも、ペリーヌさんも敵に向かって突進していく中、私だけがその場に留まっていた。
魔力はまだ残っているのにもかかわらずストライカーまで届かない、その魔力が行き先を失って体の中を駆け巡る。

(嘘――、)

魔力の暴走。
ウィッチの初歩の中の初歩の技術、それを失敗した。
呼吸も同然に身に着いていたはずの、呪いの様な、それほど深層にまでしっかりと根を張ったその技術。
それが、失敗して体内に滞留していく。

「っ!」

無理やり体内でそれを爆発させる。
魔力の暴走をねじ伏せる時の常套手段だが、今まで使ったことは、無かった。
ネウロイ化装備を使う時に、念のためと訓練していたものが初めて役立った。
何とか捻じ伏せて体制を取り戻し、ネウロイへと迫ろうかという所で、通信が入った。

『ネウロイは電波を通さないみたいだな』
「シャーリーさん! 無事だったんですか!?」
『ああ、コアの破壊を確認した。もう休んでていいぞ』

その言葉と同時に目の前に会った一列のネウロイが光となって地に落ちていく。
その姿はまるで

「すごーい! 光のカーテンみたい!」
「うん! 綺麗だね芳佳ちゃん」

私の言いたい事は、こっちの私が言ってくれた。
このまま行けば、あなた達は光の城を見ることになります。
そう言ってあげたい。
にしても、疲れた。
ずっと不安定だった気がする。
最近懐かしい事が多くて、何かおかしくなっているのかもしれない。

(でも魔力の暴走は、びっくりした)

まさか、自分があんなことをやらかすとは思っていなかった。

(初心に帰って1から訓練しなおそうかな……)

仲間が『やられたかもしれない』で諦めて、私らしくもない。
前の世界の経験で少し臆病になっているのかもしれない。
いや、多分トラウマになっているんだろう。

(向き合わなきゃ、かな)

こんなものを残したまま、戦い続けるわけにはいかない。
それこそ、仲間を殺してしまうかもしれないし、あるいは、自分を殺してしまうだろう。
過去は、認めている。
私が多くの過ちを犯したことも、その責任からいまだ逃げきれてない事も。
背負えるほど軽いものでは、ないから。

『おい、今なんかそっちに飛んでったぞ!』

シャーリーさんから通信が入る。
慌てたような声で、いや、信じられない物を見たかのような声で。

(いったい何が?)

そしたら、今度は基地から連絡が入る。

『ファルシネリさん! 気を付けてください!! 超音速でそちらに飛行する10m級ネウロイがいます!! こちらもできる限りの戦力を集めてそちらに向かいます、持ちこたえてください!』

超音速型。
それは今の所僅かしか確認されていない。
いや、10m級ならば、1機しか確認されていない。
あの『巨人型』だけだ。

(今から、は、無理だ)

身体が強張る。
もう既に魔力は空に近い。
直線飛行する物体を撃ち抜くぐらいの魔力なら残っていても、あの巨人型とまともに戦えるほどの魔力は、無い。
まして、今回はペリーヌさんや私、リーネちゃんまでいる。
標的が複数いれば、私だけに集中して攻撃を仕掛けてきてくれるなんて、有りえない。
あの時は、魔力が今よりはまだ残っていたし、何より周りに味方がいなかったのが大きいだろう。
自分に向かってくると分かっている攻撃の対処なんて、そう難しいものではない。
だけど、今は――、

「っ!ペリーヌさん、宮藤さん、リネットさん、ブライトンへ帰還してください」

少しでも、確率を上げるしかない。
私の仲間を、守る為の。










「ペリーヌさん、宮藤さん、リネットさん、ブライトンへ帰還してください」

そう告げられた時、きっと私はひどい顔をしていた。
眼を剥いて、そして叫んでやりたかった。
貴女のより私の方が役に立つ、と。
さっき魔力を暴走をさせていたのに気付いてないとでも思っているのか、と。
シャーリー大尉と何かあったとしても、仮に、今どこかにいる大尉が倒れたとしても、私なら魔力を暴走させたりはしない。
呼吸より前提に来るほどにそれは脳に刻まれている事だ。
失敗なんか、何があったとしても、する訳はない。
そう言いたかった、食って掛かりたかった、このペリーヌ・クロステルマンの方が上だと、勢いに任せて。
確かに、通常の技術では及ぶべくもない。
それは誰よりわかっているつもりだ。
けれど、今の傷だらけの貴女よりは、私は戦えるつもりです。
そう、言おうとした。
彼女のその金色の眼を見るまでは。
そこには、何もかもがあった。
全ての感情を内包しているのに、研ぎ澄まされている。
覚悟の決まった眼、というのはこういうものを言うのかもしれない。
ペリーヌは、指示通りに2人を連れて都市へ向かった。
仕方がないから、付き合ってやるか、というくらいの気持ちで。






都市に着くと、いつも少佐に付きまとっている野暮ったい新人が話しかけてきた。

「本当に、良いんですか? その、ファルシネリさん一人で」
「……」

私は、答えなかった
良いわけない、駄目に決まっている。
どうしたら、勝てるというのだ、相手はカールスラントの魔女たちを一蹴するような相手なのに。

「! 中尉が敵と戦闘を開始しました」

リーネさんは相変わらず視力が良い。
これだけの索敵能力に加え(訓練では)精密な射撃技術、恐るべき素質の持ち主だ、と思う。
今は、本や資料を参考に練習しているらしいがこれで師が付いたら、きっと化けるだろう。
そう言われてから向こうを見ると、確かに戦闘が始まっているようだ。

「行きますわよ」
「え?でも命令……」
「私とファルシネリ中尉は同じ階級です。……それに、見殺しになんて出来ませんわ」

そう言うと、豆狸が微笑みを浮かべた。

「……なんですの?」
「いえ、やっぱりペリーヌさんは良い人だったんだなぁと思って」

ここでこうするのは当然だと思いますけど。
あそこで揉めているのは確かに危険だし、1度戦場から距離を取れば奇襲を仕掛ける事もできる。
中尉を騙すような形にはなるが、それは仕方がないだろう。

(本当に、戦う力なんて残っていないくせに)

そんな風に考えて空へと飛びだす。
ペリーヌはさっきの魔力暴走の件で完全にヴィオレーヌの評価を落としきっていた。
今の彼女が戦える相手なら、自分でも十分に戦える。
坂本美緒の言葉も相俟って、彼女はこの上なく強気だった。

だからこそ、心は折れる。

初めは、リネット・ビショップの顔が少しづつ青ざめていくのを見て、敵の戦闘力を少し高く修正した。
そして次に、空に放たれた6本のビームの威力を見て、敵の戦闘能力を自分と互角と設定した。
最後に、自分の視力で問題なく視認できる距離に来て、敵と戦う心を失った。

(――なんですの、これは!)

段階が、違う。
単騎で、軽装備で、その微量の魔力で敵を圧倒している。
『守る対象』の見つかった『宮藤芳佳』は他にペリーヌ・クロステルマンの知る全てのウィッチのその遥か上に居た。

「すご、い」

ウィッチの戦闘なんてまだ1度や2度しか見たことのない宮藤芳佳でさえ、その凄さを知れるほど、その動きは凶悪だった。
全てを躱し、全てを当てる。
最小限の魔力で最大限の成果を挙げ続ける。
一歩間違えば即座に奈落に落ちる事になるような動きを続けていた。

(エイラさんでも、あんな動きは、しませんわよ……)

普段は外部加速という優秀な固有魔法をもって想像できないような動きを構築していたが、今はそれもなしで、それ以上の動きを成し遂げている。
ペリーヌには分からないが20年の染みついた動きと、ここ2,3年で培った未熟な技術が拮抗するわけも無いので、当然のことだ。
だが、そうやって立ち止まっていると当然、敵の索敵に引っかかる。

「ペリーヌさん! 危ない!!」

巨人型の右手のライフルから放たれるペリーヌへの光線を宮藤芳佳が防ぐ。
だが、防がれた事実を認識した巨人型は背中に積まれた6門の翼のような武装の照準をこちらに向けた。
先程空に放たれたであろうそれは、ライフル1つを防ぐ為に作られたシールドなど容易に貫通するだろう。

「あっ!」

それに気づいた宮藤さんはシールドに更に魔力を込めようとするが、間に合わない。

「くっ!」

私は咄嗟に宮藤さんの手を掴んで横に抜けようとするものの、敵ネウロイはそれに合わせて照準を修正する。
しかし、それの発射は中尉によって阻止される。
手持ちの機関銃を撃ちながら敵の胸部へと接近していくと、敵ネウロイは突然後方に加速して距離を取った。

「……」

中尉は1度私達の横に来ると複雑そうな視線を寄越した後、先程よりも更に速いスピードでの戦闘を開始した。
私は、その複雑な視線、に戸惑った。

(今のは、帰れ、って意味じゃ無かった……!)

よく内容こそわからなかったものの、それでも、邪魔だという気持ちは無かった、と思う。
だからこそ、どうしたらいいのか分からなかった。
自分で勝負にならない相手だって言うのは、見ただけで理解した。
あの時の中尉の指示は何一つとして間違っていなかったのに、けれど、今の視線は……。

『迷ったら、強気で行け』

もう一度少佐の言葉を思い出す。
そうだ、何を迷う必要があるのか、前に出ればいい。
私がガリア最高のウィッチだ。
そうだ、何を躊躇っているのか、少なくともボロボロの『アイツ』より、私の方が戦える。

「そうですわ。このピエレッテ・H・クロステルマンが足手纏いなんてそんなの、」

身体に電撃を通す。
相手はたった一機だ、温存する必要なんてない。
最初に決めたとおり、全力で、仲間として戦う。

「有りえませんわ!」

















やっぱり来ちゃったか。
まあ来るんじゃないかなとは思ってた。
ペリーヌさん私の事かなり不審がってたみたいだし、やけにあっさり引き下がったし。
それに、やっぱりペリーヌさんは優しいから。

「行きますわよ、ファルシネリさん」
「はい、ペリーヌさん」

敵の巨人型は応戦するが、まるで当たらない。
当然だ、ガリア最強のウィッチに、そんなものが当たるわけがない。
ましてや、今は私もいるのにそんな簡単にいくものか。
今回、ペリーヌさんの所業は無茶としか言いようがない。
もう少し先ならともかく、今のペリーヌさんではこの相手は分が悪い。
でも、分が悪いはずなのに敵の攻撃を軽々と躱していく。
恐らく私の動きを真似ているんだろう。
あの短時間でよくもあそこまで吸収したものだ、と思う。
もちろん見よう見まねでは粗があるから、そこは忘れないようにフォローを入れていく。
何時だったか、誰かに言われた言葉を思い出す。
勝利の女神は気まぐれで、誰に微笑むかなんてわからない。けれど、勝利の悪魔は前に出る者にしか微笑まない。
その後に、君は悪魔に取りつかれている、などと言わなければ素直に感心したものを。
けど、今ペリーヌさんは悪魔を味方に付けた。
自分の身体が、理想通りの姿を描いて動き回るその感触を、今感じているだろう。
あるいは、現実が理想を超えていくその感触を、体験しているに違いない。

(わくわくする)

自分ではない。
自分ではないのに、その成長を見て興奮が止まらなくなる。

(これが、私のしたいこと?)

もっと見たい、もっと上へ連れて行きたい、もっともっともっと。
そうこう考えてるうちにペリーヌさんがバリアを破ってその巨人型の背後に取りついた。

「ト、ネール!!!」

その雷撃は間違いなく、その巨人型のコアを破壊した。
















言い訳
・小説で水着会とか()
 ・とか思って好き勝手詰め込んだならとんでもないことに。全力で見逃せ。
・犬さん動かし辛い
 ・ついでに宮藤さん喋らねえ
・次話と次々話は思いっきり遊ぶ
 ・だってあの三人の邪魔してもしょうがないしね
 ・その上この話すでに複数視点だし
・速度の計算禁止
・色々禁止
・何かちょっと位不都合あるけどそれネウロイだから



[22701] 501 3,5話 賭け事
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/11/11 22:11



「ポーカー、ですか?」
「ああ、今日はルッキーニ達が早くに寝ちまってさ、良かったら入ってくれないか?」

それは、あの3地同時作戦から3日後の夜。
訓練で溜まった汗を遅めにあの広い大浴場で洗い流した後、寝る前に水分を取りたくて厨房に来た時、つまり深夜のことだ。









シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、と乾いた音が響く。
トランプを切る音だ。
シャーリーさんに誘われて、食堂からある個室へと移動すると、そこには3人の人影があった。
その後されるがままに席に着かされると、シャーリーさんがトランプの箱を開けてそれを混ぜだしたのだ。

「でも、意外です。坂本さんがこういう事されるなんて」
「まあ、賭け事は余り好ましくはないがな」

だが、禁止するほどの物ではない。
入り口から右の東側の席に座るのは坂本さんだ。
ポーカーをする、という印象はちょっと無かったけど、どうやら嫌々参加しているという雰囲気でもなさそうだった。

「私にはお前の方が意外だよ、ファルシネリ」

あなたが一番意外です、そう返したくなる。
一番右から一つ手前、坂本さんの横に座るのはバルクホルンさん。
何度かシャーリーさんとトランプで遊んでいたのは目にしたことが有るけど、この時期は、正直な話、そんなに良好な関係では無かったように思う。

「トゥルーデは、私が誘ったのよ。どうも寝付けないようだったから」
「だから、常連ぶってるけど実は初参加なんだよ、そいつ」
「だ、誰が常連ぶっているだリベリオン!」

そう言いながらシャーリーさんが私の隣に座る。
その横にはミーナさんが座っていて、私を中心に左右に2人づつという席順だ。
別に席に文句があるという訳じゃないけど、これは、

「リベリオン、向こう側の席は使わないのか? これではカードが見えるぞ」

そうだ、窓側の席に誰1人座っていないわけだから当然テーブルは多少、窮屈になる。
が、シャーリーさんはその言葉を聞くとニヤリ、と笑ってこう言った。

「いいんだよ。後々わかるからさ。今は気にしないでよ」

それより、何を賭ける?
そう言いながらシャーリーさんは慣れた手つきでカードとチップを配っていく。
どうやらディーラー役はシャーリーさんが請け負ってくれるようだ。
配られたチップは黒緑赤白5枚ずつで、最初の持ち点は655。

「今日はニューフェイスが2人もいるからな。武勇伝はどうだ」
「おっけー。それじゃ、えーと、2000くらいでいいか。2000支払われた奴は昔話。それでいいか?」

武勇伝を話す、ということはつまりそれを話のネタにされる、という事だろう。

(少し嫌だな)

そう思いつつもバルホルンさんが強気で了承の意を返したため、私もそれに倣って頷く。
別に武勇伝がない、とは言わないけど、これは絶対に恥ずかしい。

(前の世界では、無かったな……)

前の世界では、そもそもこんな時間なんてなかった。
ずっと戦って戦って戦って、巣を壊滅したらまた別の巣に。

(違う……)

ただ、時間を作らなかっただけだ。
戦場があればどこからだって駆けつけて、戦っていれば忘れられるような気がして。

(私が、逃げてただけだ……)

やろうと思えば、今の坂本さん達みたいにこういう時間を作る事は出来たはず。
でも、仲良くなるのが怖くて、繋がりを持った人が消えるのが怖くなって。
マイナス思考に落ち込みそうになるところで、シャーリーさんから声を掛けられる。

「ヴィオレーヌ、お前は何にする?」

言いながら、シャーリーさんは机の上にお菓子や飲み物を取り出していく。
私はその中から甘いものを幾つかと、扶桑のお茶を貰った。
坂本さんは、相性の良い菓子があるな、と言いながら緑茶を手に取っていた。
というよりは、厨房から自分で持ってきていたようだ。
ミーナさんはポッドの紅茶とケーキを選んだ。
バルクホルンさんもミーナさんと同様に。
シャーリーさんは炭酸飲料を手に取りながらジャンク系の菓子を引っ張り出していた。

「それじゃあ、始めましょうか」

ミーナさんがそう言って自分の手札を見る。
それに倣うように他4人も自分の手札を確認する。

(私は……)

揃っていた役は3と4のツーペア、それにハートの5。
初回からツーペアは悪くない手札だけれど、

(数字、ちっちゃ!)

自分の手札を確認し終わったところで周りを見てみると、ミーナさんはいつも通りシャーリーさんは苦々しげな顔でバルクホルンさんは得意げな顔、坂本さん神妙そうな表情をしながら頭を掻いていた。

「シャーリーさん、あなたからよ」
「あ、ああそっか。じゃあ、ん~~、チェック」

どうやらこの部屋では最初のベットはディーラーからのようでシャーリーさんから掛け金の設定を行うが、パス。
時計回りで、次のミーナさんは、

「私は賭けるわ」

そう言って緑を2枚(50)、ポッドに置く。
その後は、誰も吊り上げはしなかったものの降りなかったのでポッドには緑が10枚、合計250。
つまり、このまま終われば誰も昔話はしない、という事になる。
もっとも、まだ交換すら終わってないんだけど。

「私は、1枚」

シャーリーさんが手札を1枚替える。
ミーナさんは2枚、坂本さんも2枚、バルクホルンさんはノーチェンジだった。

「お前はどうする?」
「それじゃ、全部で」

シャーリーさんの1枚というのが、気になるのでこれで大きな手が来なければ次で降りてしまおう、という魂胆だった。
帰ってきたカードはまさにブタ、ノーペアの絵札なしという散々な結果に。

(ま、いいけどね)

最初から飛ばしすぎると後々読まれやすくなっちゃうし。
2回目のベッティングタイム。

「私は賭けるぜ」

そう言いながらシャーリーさんは黒1枚、100を賭けた。
次のミーナさんはコール、2枚替えだったし、トリプルでもあるのかな。
坂本さんはフォルド、ノーチェンジだったバルクホルンさんは当然コール、最初の手札が良かったみたいだ。
全替えの私はもちろんフォルド。

これで残ったのはシャーリーさん、ミーナさん、バルクホルンさんの3人。
この中で最も手の強かった人が勝者となり、ポッドの550を総取りする。
シャーリーさんはトリプルキング、ミーナさんはトリプルエース。
これが場に出た後、バルクホルンさんが勝ち誇っていった。

「ふ、この場は私の勝利のようだな?」

5のトリプルと7のペア、要はフルハウス。
ポッドのかけ金はバルクホルンさんの総取りとなり、バルクホルンさんの点数1025。
最後まで残っていたミーナさんとシャーリーさんが475、私と坂本さんがそれより100多い575となった。

(……これ、コール分払えなくなったらどうするんだろう)

賭ける金額が自由みたいだけど。
気になったのでシャーリーさんに尋ねると、一応コールはできるようだがもしそれで負けて資金がマイナスになったらその時点で罰ゲームとミーナさんの楽しいお金の使い方講座、らしい。
ディーラーが変わってミーナさんとなる。

「それじゃ、配るわね」

カードを全てまとめてシャッフルし、それを新たに5枚ずつ配っていく。
私に回ってきた札の中で、数字同士のペアは無かったが、代わりにジョーカーがあった。
ジョーカーは1枚とのことなので、私だけが持っている模様。
気になる各人の反応は、シャーリーさんは嫌そうな顔、ミーナさんは相変わらずいつも通り、坂本さんは今日はついてない、という顔振りでお茶を啜っていた。
全体的に駄目そうな雰囲気の漂う中、バルクホルンさんだけはまたしても得意そうな笑みを張り付けていた。
それを嫌そうに見ながらミーナさんが賭けを始める。

「それじゃ私は、このくらいからいこうかしら」

黒1枚。
100点分のかけ金をポッドに置く。

「私は、無理だ」

坂本さんは当然の様にフォルド。

「私は乗るぞ」

バルクホルンさんは嬉々として黒をポッドに支払う。
私は、最高の札、とは言わないまでもジョーカーがあるので一応勝負に乗る。
シャーリーさんがあっさりと降りて、手札の交換となる。
ミーナさんが1枚、交換した。

「ノーチェンジだ」

バルクホルンさんはまたしても手札を替えず、私の番になる。
ジョーカーと、一番強いハートのKを残して3枚チェンジする。
帰ってきたカードの中にJのペアがあり、ジョーカーを入れてトリプル。

(勝負してみようか)

折角ポーカーをしてるのに降りてばっかりでもあんまりなあ、と思って勝負に乗る事を決意する。
ミーナさんが緑を2枚、場に出す。

「ミーナ、カールスラント軍人たるものもっと強気で行くべきだ」

そう言ってバルクホルンさんが黒を2枚、上乗せする。
初回と合わせて350のかけ金となる。
もしこれに乗ってバルクホルンさんが勝つと、それでもう2000点に達してしまう。

「……私は、ドロップです」

もちろん、勝負から降りる。
トリプルで挑みたい相手ではない。

「私も降りるわ」

ミーナさんも降りたため、場の金額は400、この時点でバルクホルンさんの勝利が確定。

「なんだなんだ情けない」

そう言いながらバルクホルンさんの開示した手札はフォーセブンズ。
これには皆の開いた口が塞がらない。

「ちょ、ちょっと待てバルクホルン! お前、何かイカサマしてないか!?」
「失敬だなリベリオン。私はまだ配り手すらやっていない」

ディーラーは時計回りに交代しているので、次は坂本さんで、その次ようやくバルクホルンさんだ。

(つまり、初手で、4枚セブンが来たってことだよね……)

強運にも程がある。
流石に今日はバルクホルンさんの勝ちかな。
そうこう考えてる間に次のカードが配られる、ディーラーは坂本さんだ。
カードをめくるとそこには

(あ、あとひとつでフラッシュだ)

7のダイヤがスペードのフラッシュを邪魔している。
無理に勝負に行く必要はないけど。
このままいけばバルクホルンさんが勝つだろうから、

(勝負するだけしてみよう)

一回目のかけ金は坂本さんの緑2枚、50。

「少佐、もう少し金額が大きくても私は乗るぞ?」
「そう焦るなバルクホルン、時間はまだまだある。お前が過去の武勇伝を吐き出す時間くらいはな」

ニヤニヤしながら挑発するバルクホルンさんに坂本さんもヒートアップしていく。
普段の模擬戦闘訓練では実力が拮抗しているのであまりこういう状態にならないが、どちらも喧嘩に乗りやすいタイプだったようだ。
あるいは、夜の薄暗い個室という雰囲気が何かを後押ししているのかもしれない。

「私も乗ります」

そう言って緑を2枚ポッドに支払う。
これでポッドの合計金額は150。

「私はレイズだ!」

シャーリーさんはそう言うと緑2枚に加え黒1枚を場に出した。

「なら、私も受けようかしら」

続けてミーナさんも流れに乗って、その後全員コールしてポッドの点数は750。
ここでバルクホルンさんが勝てば、その時点で誰かしらが罰ゲーム確定となる。

「1枚だ」

カードのチェンジ、坂本さんは1枚。

「ノーチェンジ、だ」

バルクホルンさんはあくまでノーチェンジ。
また良い札が来ているとしたら、ものすごい強運だ。
私は1枚替えて、

(7の、スペード!)

これで手はフラッシュ。
いくらバルクホルンさんが強運でも、2回連続でフォーオブカインドはないだろう。

(これなら、行ける)

私が勝負の決意を固めている横で、

「私もノーチェンジー」

シャーリーさんは今にも歌いだしそうな声で、交換なしを宣言する。
その更に横のミーナさんは2枚チェンジ。
最後になるかもしれない、ベッティングタイム。
坂本さんは自分の手持ちの全てをベットした。

「え、さ、坂本さん!?」
「安心しろファルシネリ。私の標的は、お前ではない」

そう言うと坂本さんは隣のバルクホルンさんへと視線を向けた。
それに気づいたバルクホルンさんはもちろんそれに応じる。

「少佐の事は尊敬に値する上官だと思っているが、勝負の世界にその事を持ち込む気はない」

そう言いながら、バルクホルンさんも手持ちの『全て』をポッドへと移動させた。
とはいえ、坂本さんの提示した金額に皆が乗ればその時点で勝者は2000点を超えていたはずなので、あまり違いはない。
あまり違いはない、が、

(参加しようがしまいが終わるんだよねこのルールだと)

バルクホルンさんの持ち点が1000を超えている為負けたらマイナス、という事になるが、坂本さんが降りる気ないようなのでこのラウンドで必ず決着がつく。
なので、降りる意味があまりない。

「私も乗ります」

そしてそのままシャーリーさんとミーナさんも降りずに、オープンカード。

「私は、こいつだ!」

坂本さんが机に叩き付けたのはフォーサーズ、つまりスリー4枚。
どういう星の元に生まれたというのか。

「甘いな少佐! 私の方が上だ!」

またしてもカードが痛むのを気にしないかのように机に叩き付けられた手札。
役は、

「ス、ストレートフラッシュ……」
「えー……」

クラブの7スタートのストレートフラッシュ。
その役は当然、私どころか坂本さんのフォーカードよりも上に位置している。
私は素直に机に裏向きのまま手札を置く。
中身を見せないのはせめてもの抵抗となる。

「ヴィオレーヌ、お前もか……」

言いながら、シャーリーさんは手札を裏返しのまま机に置く。
せめてもの抵抗、だ。

「国を代表するウィッチ達が情けないなまったく……」

口ではまるで「嘆かわしい」と言っているような口ぶりなのに、その癖頬が引きつりまくっていた。
笑いたくて仕方がないようだ。
しばらくは我慢していたようだが、数秒もするとそれは崩壊して、ごく普通に笑い始めた。

「あははははは!そうだな、武勇伝は……リベリオン!お前に――」
「ファイブ・オブ・ア・カインド」

薄暗い小部屋、その入り口から一番左の席。
ちょうど窓からの月明かりが入らない角度となっている為、良く見えない。
そこから、そんな言葉が聞こえた。

「え、今なんて?」
「ファイブ・オブ・ア・カインドよトゥルーデ。私の勝ちね」

良く見渡すことのできないその角からミーナさんが微笑んだような気がした。

「今日の語り手はあなたよ、トゥルーデ」

ミーナさんはバルクホルンさんの武勇伝など全部知っているはずなのに、それでも罰ゲームにバルクホルンさんを選んだ。












「そこで!私は、こう言ってやったんだ」
「ほう、それはいい仕事をしたじゃないか、バルクホルン!」
「いや、待ってくれ少佐。私はカールスラント軍人として当然の――」
「――」
「――」

ポーカーの1戦から1時間後。
最初は嫌々ながら話していたバルクホルンさんも聞き上手な人たちに乗せられて、自分の武勇伝や英雄譚について長々と語っている。
そんな中、坂本さん達の話声に混ざって何かが聞こえた気がした。

「――」

私が不思議そうな顔をしているのに気付いたのか、ミーナさんがこっちを見て人差し指を唇に当てながら、ウィンクした。
その後、シャーリーさんは突然口を噤み、目を瞑った。
どうやら、耳を澄ませているらしかった。
そうすると坂本さんもシャーリーさんの様子に気づいたのかヒートアップしたバルクホルンさんに静かにするよう告げる。
最初は何が何だかわからなかったが、徐々に、鮮明になってくる。

「これは、サーニャの歌、か?」

バルクホルンさんが驚いたように目を見開きながら、気を使った小さな声で、そう言った。
それを聞くと、シャーリーさんは眼を開けてバルクホルンさんと視線を合わせると、小さく頷いた。
あくまでも喋る気はない、という事の様だ。
それを察したバルクホルンさんも口を慎み、背もたれに体を預ける。
私もそれに倣って体から力を抜いてみる。
すると、視点が窓に固定される。

(星座、かな?)

何の星座だったかは忘れたけど、以前誰かに見せて貰ったことのある、星の並びだった。

(それに、綺麗な歌声)

歌が終わるまで、私達はその椅子に腰かけたまま動かずにいた。





[22701] 501 4話 無茶言うな
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/12/29 06:18
1. Arrogant

月が眩い。例え今自分の真下に存在するであろう大地がその身を水の粒にうたれていたとしても、目の前に広がる雲の上であれば視界を遮るものは何一つとしてなくなる。雲海の上に広がる大空は、直接に宇宙をこの瞳を通じて私の脳内へと送り込んでくる。視野を埋め尽くすほどの星に、その明かりを掻き消すかのように輝き続ける月。そしてそれらをたった一人で照らし、その光に染め上げている今は見る事の出来ないこの地球を含む太陽系の主。久しぶりに戦闘時以外に見る妨げの無い宇宙は、何よりも明るく、それと同じだけ暗くそして今にも私を飲み込まんとするかのように、広い。

(サーニャちゃん、か……)

サーニャ・V・リトヴャク。本名は確か、アレクサンドラ・ウラディ……なんだったかな。もう10年、いや20年以上も前かもしれない。最後にその名前を呼んだのは。もちろん、だから忘れていいというものでは無いというのは確かだろうけど、それでも忘れたくは無かった筈なのに、忘れている。心の奥底に「忘れたい」という気持ちがあったことを否定するのは、難しいけど。でも、覚えていることもある。「リーリヤ」。扶桑で言う百合の花の事で、その種を多種多様に分かつ多年草だ。

(白いの……かな。イメージ的には)

あまりに種類が多すぎて名前までは覚えていないけど、サーニャちゃんはそれのの中でも雪白に近い色を持つその種に、近い。髪の毛は銀に近い白色をしていて、常に自分に自信の無さそうな顔をしていてそしてその表情の通り、自分の立ち位置を誇る事も自分を褒める事さえ躊躇う様な性格をしている。きっとその性格に所以するのだろうけど、確かに、軽んじられがちだ。別に皆そんなつもりはないのだろうけど、働き通りに評価されているかといえば、それはどうなんだろう。たった一人で空を飛ぶことの怖さを、どれだけの人が知っているんだろう。孤独な空をどう思っているのだろうか。空を飛ぶときに、雨が降っていて欲しいと、暴風が吹き荒れていて欲しいと思う気持ちを11人の中の何人が知っているのだろうか。まして、その白い花は誰よりも人肌を恋しがっているというのに。

『ヴィオレーヌ、離れ過ぎだ。もう少し輸送機に寄れ』
「了解」

宙に見惚れていたからか、それとも百合の花に思いを巡らしていたからか、あるいは昔の事を思い出してしまったからか、護衛任務中だというのに護衛対象から遠ざかってしまっていたようだ。私は体を捻じり足を上下左右に動かしその進行方向を輸送機の方へと、坂本さんとミーナさん、それにこっちの私の方へと、向ける。その途中で一時風に逆らうような体勢になってしまい、夜の風が身体に吹き付ける。それに対して慌てて保護魔法に込める魔力を高める。身体の奥を水が逆流していくような、もしくは奔流するに近い感覚を経て、寒さと風足を一挙に感じなくなる。

「――」

保護魔法によって風の音を制限すると、聞こえてきたのは軽やかな譚詩の唄だった。私には音楽の事はよく分からないから、それがジャズなのかクラシックなのか、極端に言えば町の流行歌なのかそれとも故郷の童謡なのかすらわからなかったけど、その歌に自分が聞き惚れているという事だけは、今、理解した。か細い声で、でも普段見る事の出来ない勇気を振り絞ったその自信の、その一文字目に手をかける程度には自負を得た音の波に聞き惚れているというのはわかった。

(……来た)

しかし、その耳触りの良い歌声は唐突に、無粋で純粋な邪魔者によって阻まれた。サーニャちゃんのレーダーが敵ネウロイの影を感知したようだ。外から見ていると様子の変化が良く分かる。しかし、それ程悲観的な様子はない。前の世界からの変容を恐れて、護衛としての随伴を申し出ては見たものの、どうやら必要ないようだ。前と同じネウロイであるのなら私やエイラさん達が危なげを出しながらも、きっと倒すだろう。

『どうした、サーニャ』
「……誰か、こっちを見てます」

唄が止まってしまった事に何かを察したのか坂本さんがサーニャちゃんにその由来を訊ねる。そういえば、何かの話の弾みでちょうどサーニャちゃんへと丁度話題が移った時にいきなり歌が止まったので、そのネウロイのタイミングに感心したような記憶がある。あれは、何の話の途中だっただろうか。何かとても重要な話だったような気がするけど、でも結局は何の意味もない話だったような気もする。そして、抽象的なサーニャちゃんの返答に坂本さんが詳細な説明を、再度要求する。

『すみません。シリウスの方向に所属不明の飛行体、接近しています』

その返答の後、ミーナさんがそれがネウロイなのか、という意図の事を聞きつめる。それにしても、思い出せない。私はあの時、「おばあさん」なんて呼ばれる輸送機の中でどんな話をしていたのだったか。別にそんな、床に落ちた消しゴムの粕を探し集めるのと変わらないくらいには、重要でない事なのだけれど、私は一度気になってしまったのでどうしても思い出したかった。何かどうも、くだらない話だったと思う。

「はい、間違いないと思います。通常の航空機の速度ではありません」

ミーナさんの質問にサーニャちゃんが応答する。流石に、くだらない事を考えている場合ではない。意識を転換して来たるべきネウロイとの戦いに意識を研いでいく。もっとも、私の記憶と軍の記録が正しければ一度目の戦闘では接近することのないネウロイだったはずだけれど。

『私には見えないが……?』
「雲の中です。目標を肉眼で確認できません」
『なるほど、そういうことか……』

前の世界では、ここでストライカーが無い以上手出しは出来ないという事で敵ネウロイとの戦闘を諦める事になったが、今回の場合は、イレギュラーが存在していた。それが良い方向に傾くか悪い方向に傾くかは別として、確かにそこに異常な因子が居てしまう事になった。坂本さんは考える間すらおかず、その指示を出した。

『ヴィオレーヌ、確認してこい』

ミーナと宮藤は、基地から応援を呼んでくれ、と続けざまにそう言った。その指示は決して間違っているものじゃない。何故ならこの時期までに現れたネウロイは僅かな例外を残しその全てが攻撃的であったからだ。戦闘になるなら護衛対象から少しでも離れたいのには私も同意だけど。

(私がこのまま突っ込むと、こっちの私と皆の溝が埋らなくなるんじゃないかな)

これは、ペリーヌさんとこっちの私が打ち解けるまでに私の知っているはずの時期とはかなりのずれがあった時にも思ったことだ。確か前の世界ではバルクホルンさんの不調やペリーヌさんのミスが重なって、その時に怪我を負ったバルクホルンさんを助けて、その時に遠慮ない間柄になったと思う。それが、今回はあの3地同時作戦、その少しあとくらいに打ち解けていたような気がする。どちらも、私が関わっている事だ。それを考えれば、ここでこのネウロイを倒してしまうのは余りよろしくないのかもしれない。何かしらの被害が出るわけでもないし、このままこのネウロイを倒さずに時が進めば私も夜間哨戒の任務を任される事になるだろう。そうなれば、それ程強力でもないネウロイを被害を出さずに撃墜することは難しくない。

(……適度に、やればいいかな)

勝手な話だけど、それでも、絆の無い人生に価値なんてない。まして、自らその絆を断つことになんてなってしまったら目も当てられない。できることなら、私の時よりも太く固いそれを。せめて、自分からそれを切り離してしまう様な事が出来ないくらいには、強く。

「了解。対象に接近します」

さっきと同様に体を捻り、その進路をネウロイへと捻じる。そして、ストライカーの角度を調節しその歪みを正す。そしてまた魔力を通し、加速していく。サーニャちゃんもどうやら援護に入ってくれるようで、その瞳に私の姿かたちとその進行方向を映し出しているようだ。ありがたい話、なのだけれど。雲の中での戦闘もありうるというのにフリーガーハマーを撃たれては堪らない。

「大丈夫です、リトヴャク中尉。中尉は輸送機の護衛に専念してください」
『……はい。すみません。余計な事を』
「そんなつもりで言ったわけじゃありません」
『あの……ごめんなさい』 

そう聞こえても仕方ないのかもしれないけど、思っていたよりもずっと卑屈に見える。前とは立場が違うからだろうか。どうにも、今日とか昨日以前から恐れられているように思える。私が知らないところで何かしてしまっていたのだろうか。

(今は考えている暇はないかな)

魔導エンジンの出力を上げて一気に加速をつける。一応念の為前との違いが無いかを確認しておきたいからだ。エンジンは魔力を吸い上げ更に勢いをつけていく。ある程度の距離を開けたところで援軍の要請が終わったのか、坂本さんからまた通信が入る。

『できれば敵の姿を確認したい。雲の上へと誘い出してみてくれ』
「了解」

高度を極端に下げ、更に針路を下方に修正する。

『! 待て、お前何するつもり……』
「すいません一度通信を切ります」

そして勢いを保ったまま雲海ギリギリを飛行していく。いくらなんでも積乱雲に突っ込んでいったら機体が壊れかねないので限りなく近いところを飛行する。大体の位置に関してはサーニャちゃんが見ていた方向と(今は私しか知らない事だけど)今回と次回の戦闘の報告書からのデータでわかっている。何故そんなものを目にしたことが有るのかと聞かれれば、このネウロイは後々特異な例の一つとして数えられ、その情報は世界を回る事になるからだ。そして、ある程度まで近づけば、聞く事ができる。

(……! これだ!)

ネウロイ特有のその嫌な音を。雲の中を奔り回る風の音によって反響しているが、恐らくこの方向で間違いない。

(このまま接近すれば、今度は風で位置が掴める)

そう思って多少の角度のずれは承知で半分勘の方向へとストライカーに鞭を打つ。しかし、その行為に意味があったかと言われれば、燃料を無駄にしただけだったと言わざるをえない。

「……声が、遠ざかってく」

オフにしていた通信を切り替える。ネウロイの音を聞き分けるなんてことをするのは前世以来なのもあって、もしかしたら勘が外れたのかもしれないと思い、サーニャちゃんから敵位置の追加情報を貰おうと思ったからだ。しかし、そこで待っていたのは坂本さんの声だった。

『敵ネウロイは撤退した。戻ってきてくれ。……無茶をするなとは言わないが、勝手に通信を切るんじゃない』

怒っておきたいが、自分が今までにしてきた事を考えるとあまり怒れない、そんな空気を感じさせる声色だった。










2. Brains muscle

私達は上空から基地に降り立った。雨に痛めつけられた服を脱いで汗と水まみれの身体を清めたのち、シャワールームから程近いレクリエーションルームで湯冷めしない内に作戦会議を行う運びとなった。

「それじゃあ、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか?」
「私は、音だけは聞きましたよ」

バルクホルンさんの質問に答える。確かに私は先程の戦闘でネウロイに接近しその金属が擦れ合うようなネウロイ特有の音色を聞いた。とはいえ、耳で聞いたというのはあまりあてにならないかもしれない。

「積乱雲の近くで、か? 聞き間違いじゃないのか」

むぅ、と私は黙り込む。バルクホルンさんの言ってることはもっともで、実際ネウロイの音を聞き分ける、なんていうのは敵の予知と同じく経験の延長上にあるもので僅かに実戦を離れていればそれは出来なくなるようなものだ。今回は方角もずれていたようだし私の勘が鈍ったのか、それとも本当はネウロイがいなかったのか。

(いや、居るんだけどね)

未来を知っている私からすればそこに居て当然で、音も聞こえるのが当然なのだろうけど、他の人の目に映るのは不確定な情報としてしか映らない。空中を高速で飛び回りながらその音を見つけるのは困難とされている上、まして今回は乱気流の直上だ。複雑に絡み合った風は聞いた事のないような不思議な音色を聞かせてくれることがある。バルクホルンさんはそれを知っている。

「けど、戦闘にもならなかったんでしょ? 近づいただけで撤退って……、それ本当にネウロイ?」

ハルトマンさんの言葉だ。今回のネウロイについてを疑っているらしい。

(やっぱり悪い方に流れたな……)

本来ならサーニャちゃんからの攻撃で僅かなり戦闘としての体裁を整えていたはずなのに、私が居てしまった事で銃弾の一発も消耗せずに終わってしまった。その分、敵の存在感が薄まってしまっているようだ。

「は、恥ずかしがり屋のネウロイ! …………何てことないですよね、ごめんなさい」

空気を読めるリーネちゃんが俯いてしまったサーニャちゃんを見つけて、雰囲気をどうにか濁そうとする。しかし、このメンバーの中ではその例えは明らかに力不足で、この雨雲のようなどんよりとした空気を追い払うには至らなかった。ルッキーニちゃんが寝ているせいか、シャーリーさんがあまり場を盛り上げようとしていないのが悔やまれる。恐らく、起きてしまわないように気を使っているんだろう。それでも、行き過ぎればフォローに入るんだろうけど自ら努めてこの状況を打開しようとは思っていないようだ。

「恥ずかしがり屋、というより幽霊のようなネウロイですわね。何もしないのなら、居てもいなくても関係無いですのに……」

ペリーヌさんのそれは悪意を持って放たれた言葉では無く、「居るだけ」というのが不気味だ、という意味で使われたものだったが、エイラさんはそれをサーニャちゃんへの皮肉と取ったようで(実際そうも聞こえる)ペリーヌさんに向かって舌を出していた。ペリーヌさんも間違えて受け取られている事には気づいたようだったが、いちいち訂正することもない、と断じたのか弁解はせず、紅茶を飲み始めた。

「だが、だからといって警戒を解くわけにもいかないだろう」

意外にも、バルクホルンさんの言葉だった。本当にネウロイが居るのか居ないのかそういった部分を真偽を疑ってはいるが、だからといってそこに居ないと断ずることもしない。冷静で優秀なカールスラント軍らしい姿勢だ。

「仕損じたネウロイが連続して出現する可能性は極めて高い」

自分の戦闘力に多くの自負を乗せながらも責務を負いそして初心を忘れない。どうにも、精神的に不安定な時期はクリスちゃんが意識を取り戻したことで完全に終わったらしい。

「そうね。そこでしばらくは夜間戦闘を想定したシフトを敷こうと思うの」

夜間戦闘。というのは一部の例外を除き嫌がられるものだ。まず、暗い、寒い、キツイ。これだけでもやりたくないのに、場合によっては耳から音が入ってこない時もある。完全に世界から切り離された空間。そこに一人でいるのはあまり好まれることではない。一夜二夜なら趣を感じ感慨に浸ることもできるだろうが、それを毎日というのはあまり好まれるものでは無い。私も、可能な限り単独の夜間哨戒はしたくない。敵を補足した後の夜間戦闘なら別に問題は無いけど、単純に視界の制限された戦闘でしかないわけだから。

「サーニャさん、ファルシネリさん。お願いできる?」
「はい」
「了解です」

まあ妥当な判断なんだろうけど、それじゃ私は墓穴を掘りまくっているだけで終わってしまう。もちろん最初に護衛機として付いて行ったのは安全の為に必要な事だったと断言できるけど、その結果私とサーニャちゃんが打ち解ける機会を自分で壊してしまっては、困る。

「はいはいはい! 私もやる!」

不味い。サーニャちゃん命のエイラさんが加わって、それをミーナさんが了承してしまう。この流れは、非常に不味い。このままだと、こっちの私が夜間部隊に加われなくなる。

(どうしようどうしようどうしよう……!)

他の接触する機会の多い人達なら別にバルクホルンさんの時の様に私の知らないところで分かり合うという事もあるだろうけど、サーニャちゃんはこの機会を逃すと殆ど接点を持たないままになってしまう。それは断じて良くない。こっちの私がどんな道を選ぶかなんてわからないけど、ここでこの接点を見逃してしまうのは理由は無いけど良くない。

「何だ、何か不満があるのか、ヴィオレーヌ」

私の表情を察したのか、坂本さんが私に問いかける。とはいえ、怒っている時の重低音ではなく、純粋に疑問に思っている時の声だった。まあ、スオムス、いや世界でもトップレベルのエイラさんがチームに入っているのにどこに不安があるのか、という事だろう。戦力的には僅かに過剰な程だ。

「あ、あのもう一人。駄目ですか?」
「夜間専従員として、か? 必要ないだろう。戦力的には十分すぎる程だ」

分隊の理想数の事言っているのか?と続ける。別にそんな事は関係ない。接近さえしてしまえば極端な話私一人でだって何とかなるレベルのネウロイでしかない。だけど、そんな事をいう訳にはいかないし、そもそも部隊の仲を良くするために、なんて馬鹿げている。部隊内でコミュニケーションを取る事は確かに重要だが、殆ど関わる事のない人物とまで親しい間柄になる必要は(少なくとも仕事としてコミュニケーションを取る必要は)無い。しかし、このまま終わってしまうと、私の気分が良くない。

(最終手段……だ)

キャラじゃない事は分かっているのだが、しかし放っておきたくは、ない。こっちの私の事なのだから、勝手に任せればいいと言われればそれまでなんだけど、親心というか何というのか。とかく見逃すことは出来なかった。

「訓練です!」
「……………………はぁ?」

坂本さんが、いやそれどころかこの部屋にいる全員が奇異の目で私を見ている。が、そんな事はお構いなしに話を続ける。

「夜の空も知らない素人を軍人と呼ぶのは憚られます。よって戦力的に柔軟な編成ができる今の時期にこそ宮藤軍曹を一端の兵へと叩き上げる絶好の好機です」
「いや、私は軍人を続けるつもりは……」
「良く言ったぞヴィオレーヌ! 確かにその通りだ。宮藤、お前は今日からしばらくの間夜間専従員として職務を全うしろ!」

恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしいながらも拳を握りながらも謎の主張をすると一時は呆気にとられていた坂本さんも私の主張に同意し、こっちの私に夜の空を飛ぶように命令した。

「え、えぇぇええええええええ!!!?」

響き渡ったのはもちろんこっちの私の悲鳴だった。










3.Daytime “pajama party”

朝食、キッチンに木の籠いっぱいにつまれたブルーベリー。リーネちゃんが実家から送ってもらったものみたい。それを見たペリーヌさんは少し弾んだ声で、驚いた。

「あら、ブルーベリー。……でも、どうしてこんなに?」
「私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは眼に良いんですよ」

そのブルーベリーは小さな葡萄のようにも見える。リベリオン北部発祥らしいんだけど扶桑では殆ど見かける事は無かった。ジャムにしたものは度々見かけたけど。

「いっただきぃ~」
「確かにブリタニアでは、夜間飛行のパイロットが良く食べるという話を聞くな」

ハルトマンさんがそれを食べ始める。その勢いとくればまさに掻き込むといった方が近いくらい。やっぱりカールスラントは有名な産地が近くにあるから、カールスラントの人は食べなれているのだろうか。

(良く口の周り汚れないなぁー)

そう思いながら、私も口の中に入れる。そうすると微かな苦みと強い酸味、そしてすっきりとした甘さが口に広がる。

(美味しい……)

流石にハルトマンさんのように食べる事はできないけど、それでもスプーンが止まる事はなかった。周りを見てみると皆そんな感じだった。そうしてそれを味わっていると、ルッキーニちゃんが話しかけてきた。

「芳佳、シャーリー! べーして、べー!」
「こう?」
「んべー」

隣で食べていたシャーリーさんと一緒に舌を出す。するとルッキーニちゃんは何が面白いのか少し微笑んだ後、自分も舌を出して見せた。

「べー」

可愛らしい顔から飛び出たのは真っ赤な舌、ではなくブルーベリーの果汁で紫色に染まった舌だった。思わず吹き出しそうになるのを必死で堪える。だけど、

「ぷっ」

シャーリーさんが少し吹き出してしまったのに折角拵えていた壁が崩壊して、攣られて笑ってしまった。





『さて、朝食も済んだところでお前たちは夜に備えて、寝ろ!』

いつも訓練訓練いってるこの人からそんな言葉が飛び出すとは考えてなくて、結局返せたのは腹の奥底からしぼり出た「へ?」という一文字だった。

「さっき起きたばっかりなのに……」

そう思わずにはいられない。前々から言っていてくれれば昨日の夜は思いっきり夜更かししただろうに。臨時の夜間専従員詰所となったサーニャちゃんの部屋は明かりが入らないように、閉め切っており、窓などからも光が入らないよう何かよく分からない物で塞がれていた。

「……何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね」

そうした方が寝やすい、というのは分かるけど。それでも、不平を言わずにはいられない。そもそも私は戦闘メンバーに入っては無かった筈なのに、ファルシネリさんが無理やり。あんな事言う人じゃなかったと思うんだけど。

「暗いのに慣れろってことだろー」

エイラさんが私の愚痴に付き合ってくれる。付き合うというよりは諌めるの方が近いのかもしれないけど、少なくともエイラさんもまだ寝る気分ではないみたいだ。本当に、さっき起きたばかりだもんね。

「ごめんね、サーニャちゃん。サーニャちゃんの部屋なのにこんなにしちゃって……」
「別に、いつもと変わらないけど」
「あぁ、そうなんだ」

サーニャちゃんはネコペンギン(だったと思う)のぬいぐるみを抱きながら、そう言った。そういえば、サーニャちゃんは常に夜間飛行ばかりしているんだから普段からこうなっていてもおかしくはないのか。そんな中外の光を塞いでるよく分からない、何か絵のような物が書いてある紙が目に入る。少し気味が悪い。

「これ、お札みたい」
「おふだ?」

そっか扶桑の文化なんだっけ。少なくとも北欧の国々にはないんだろうな。私はエイラさんにお化けや幽霊から身を守る御まじない、だという事を伝える。

「私、良く幽霊と間違われる」

その話を横耳で聞いていたからか、サーニャちゃんが自分が幽霊の様に思われている、と話し出した。確かに、夜空に煙の線が走っていればそう見えるような気がする。そうサーニャちゃんに伝えると、サーニャちゃんは何も感じていないような、それとも感じていないようなふりをしながら続きを話す。

「飛んでなくても言われる。居るのか居ないのか分からない、って」

それは……。確かペリーヌさんが昨日そんな事を言っていたような気がする。そっか、だからあの時エイラさんは怒っていたんだ。

(でも、そんな嫌ってるような風でもなかったけど)

あの巨人型との戦闘以来、私はそれなりにペリーヌさんと話すようになった。最初は苦手だったけどほんとは優しい人だって、分かったら、怖くなくなっちゃった。

「ツンツンメガネのいう事なんか気にすんなー」

エイラさんがサーニャちゃんにフォローを入れる。そういえば、今朝朝食の席で何か嫌がらせをしていたようだし、少し仲が悪かったりするのかもしれない。

「暇だったらタロットでもやろう」
「たろっと?」

聞きなれないその言葉を口にするとエイラさんがタロット、つまりは占いについて話してくれた。どうにも、エイラさんの固有魔法であるところの『未来予知』を使っているらしいんだけど、正直どういうものかわからなかった。それを見かねたのかエイラさんが私の未来について占ってくれるといった。結果として占いの内容は「会いたい人に会える」という内容だったけど、私がブリタニアまで来た理由のその人には、もう会えないはずだ。

「そう言われてもなー」

そう言いながらばたりと布団に倒れ込む。なんでもエイラさんの未来予知には限界があるらしく、結果しか分からないという事だ。……え、それって私がもうすぐ死んで天国で会う、みたいな解釈もできるのかな。

(いやいやいや)

いくらなんでもそんな事はない、はず。だって501には凄い人がたくさんいるし少なくともネウロイとの戦いで死ぬとかそんな事は――。

「あれ? ファルシネリさんは?」
「中尉はロンドンに行ったぞ。なんか軍籍を移さなきゃいけないとかで」

そういえばそんな事を聞いたような気がする。ガリア軍と分裂した自由ガリア軍のどちらに籍を置くか迷ってるって。でも新設の自由ガリア軍の方が動ける範囲が広いからとかなんとか。

「でも、夜には戻ってくるんですよね?」
「お前が何も聞いてないならそうなんじゃないか? お前を連れてきたのは中尉だしな」

そっか。元はといえばあの人のせいで私は昼間から睡眠を取るなんてことをしなくちゃいけなくなったんだった。昼間から寝るのは……嫌ではないけど、坂本さんの訓練を受けなくていいのは……少し嬉しいけど、いやそういう問題じゃない。そもそも何であんな事言ったんだろう。そんな事言う人じゃなかったと思うけど。

「私は、ちょっと苦手」
「苦手って……ファルシネリさんの事?」
「うん」

サーニャちゃんは眼を微睡ませながら、会話に入ってきた。その内容はどうにもファルシネリさんが苦手だ、とのこと。

「確かに、少し緊張しちゃうよね。何でかはわからないけど……」

どうにもあの人は年下のような気がしない。何て言えばいいのか、人生経験の違いというのか。とにかく、年相応に見えなくて真正面から見られると少し、緊張するのは確かだ。

(それに……)

あの華麗な飛び方を見て、畏怖を抱かない人はそう多くないだろう。そんなに長く飛んでいるわけじゃないけど、それでも、あの飛行の無駄の無さは分かる。動きの一つ一つが自分の次すべき事を把握し、想定した動きに違いない。

(でも、坂本さんは理解できないって言ってたな……)

その時、私が何となくわかりますって言ったら、飛行に関しての認識が近いのかもしれんな、って。そういえば、それなら訓練役を買って出たのも理解できるという話だ。私から見てファルシネリさんと私が近いってわかるのなら、私よりずっと長く飛んでいるファルシネリさんもわかるんだろうし。

(そう考えると、良い人なのかも)

別に嫌な人と思っていたわけじゃないけど。ただ、接するにあたって困る人では、有るような気がする。私と目が合うと凄く困ったような顔で笑う。あれは、こっちも困る。

「ううん。違うの。何だか居ても居なくても変わらない、って思われてるような気がして」

少し旅立ってしまっていた思考をサーニャちゃんの言葉によって戻される。

「サーニャ! わ、私はそんな事絶対思ってないからな!」
「うん。ありがとう、エイラ」

本当にエイラさんはサーニャちゃんが好きなんだな。口に出して言ったら怒られそうだから言わないで置くけど。

(にしても、居ても居なくても変わらない、か)

私はどうなんだろう。501の一人として何かできているのだろうか。ミーナさんや坂本さんはそもそも部隊を維持するために必要だ。バルクホルンさんやハルトマンさん、エイラさんにファルシネリさんペリーヌさんは、とにかく強い。そしてその力を皆を守る為に使っている。シャーリーさんとルッキーニちゃんはこの基地をあるべき雰囲気に戻してくれる、無くてはならない存在だと思う。前述の7人だけとかだったら、もの凄い殺没とした部隊になりそうだし。サーニャちゃんは探索系の固有魔法を持った変えられない役目を背負っている。リーネちゃんは(今でも十分凄いと思うけど)将来の有望株と言われていた。何故なら、私と違って戦い続ける意思があるからだ。私は、お父さんの手紙の意味を見つけることができたら、帰るつもりだ。

(特に無いなぁ、私)

私にできること、ってなんだろう。そう思いながら重心を後ろに移動させてベッドに倒れ込む。すると、サーニャちゃんの甘い匂いが鼻の穴を刺激する。

(良い匂い……)

私はそのまま眠りについた。





4.scarry




ん……。
何か聞こえる。少しうるさい。ようやく眠りについたところなのに。

(……違う、起きなきゃいけないんだ)

窓にの桟と札の間を通る光の色が、今外では夕日が浮かんでいることを示している。つまりは、仕事の時間の様だということ。
微睡む視界を何とか安定させつつ華奢な体躯とはいえ3人もの人間が押し込まれたベッドを見る。

(よく眠れたなあ……)

ものっすごい窮屈そうだけど。特にサーニャちゃんとか膝を曲げたまま寝てるし、起きた時膝が痛くなったりするんじゃないだろうか。
立ち上がって伸びをすると、もう一度声がかかった。

「おーい! 聞こえてるー!?」
「うん! もう起きたから大丈夫だよ、ルッキーニちゃん!!」

扉越しにルッキーニちゃんの声に応える。鍵は掛かっていないのに扉を開けて入ってこない事が意外だった。ごく普通に部屋まで入ってきて起こしそうなイメージがあるけど。

「じゃあ、私達はもう行くから。今から夕ご飯だから」

思っていたより(失礼な言い方だけど)礼儀正しい子なのかな?、とも思ったけれど、どうやらシャーリーさんが傍に居たからのようだ。
その後、ごはんー、ごはんー、と歌いながら声が遠ざかって行った。

「ん……、もう夕方かー?」
「あ、エイラさん。えと、おはようございます……?」

こういう時は何て言えばいいのだろう。朝起きたら「おはよう」だけど、夕方に起きて「こんばんは」っていうのはおかしいような……。

「……ん? ああ、扶桑ではgood mornigにそういう意味もあるんだっけ。ブリタニア語にはそんな意味はないから、この時間帯ならgood eveningでいいんだぞ」

ああ、そっか。おはようがグッドモーニング、ていうのは坂本さんに教えて貰ったけど、そういう細かい違いは聞いていなかった。もちろんこういう特殊な状況にでもならないと使う場面はないだろうから、必要はなかったんだろうけど。

「サーニャ、……はまだ寝てるみたいだな」

自分の名前が呼ばれると、サーニャちゃんは少し身震いしたが、まだ起きる様子ではないようだ。エイラさんはそれを見て、後半急速に声量を落とした。
エイラさんが覗き込むようにサーニャちゃんを見詰めているので、何事かと思い私も顔を近づけると、

「うわあ、サーニャちゃん可愛い……」

いつものように顔に影の落ちていないサーニャちゃんの顔は、今まで見た中でとびっきり、えと、綺麗だった。

「なっ! い、いいからお前は着替えてこい、宮藤! サーニャは私が起こしておくから!!」
「え、わ! いきなりどうしたんですかエイラさん!?」

バタン、と扉の閉まる音がした。
エイラさんが大声を出したかと思うと、私は服を引っ張られてそのまま部屋の外に追い出された。

「何だったんだろう……」

私が何か怒らせるような事をしただろうか。いやでも、怒ってるという風では無かったけど。
とりあえずは、服を着替えてこようかな





服を着替えて食堂に行くと、もう皆揃っているようだった。
その中からリーネちゃんを見つけてその隣の席に座る。すると、目の前の黄色っぽい電球が目に入った。

「何か、暗いね」
「うん、暗い環境に目を合わせる訓練なんだって」

少しの間リーネちゃんと話していると、目の前に一杯のカップが置かれた。置かれたカップは中々に高級感と気品を持つお茶だった。しかし、放たれる臭いは凄まじいものだった。

「……リーネちゃん、これは?」
「マリーゴールドのハーブティーですわ。これも、ブルーベリーと同じく目の働きを良くする効果があると言われてますのよ」

私が首をかしげていると、それを見かねたのかペリーヌさんがカップに入っている紅茶についての解説をしてくれた。その話を聞く限りではまたしても、視力、に関する物らしい。
別に悪い事じゃないと思うんだけど、わざわざ摘んできたのかな。「実家からたまたま送られてきたから」とかいうのは分かるけど、わざわざ用意したところで、流石に一日二日で効果が出るものじゃないと思うんだけど。

(それにしても、)

「山椒みたいな匂いだね」

とにかく匂いが強い。嫌い、とは言わないけど食べ物飲み物の匂いとしてはあんまり気持ちのいいものじゃない。普通に嗅ぐだけならそんなにきつくもないけど。

「扶桑に輸入されたマリーゴールドの一種には山椒菊って名づけられたものもあるんだって」

そんな風に紅茶を批評していると、隣から声がかかった。透き通るような高い、澄んだ声。ファルシネリさんだ。

「隣、いい? 宮藤さん」

あまりに唐突だったので口を開くことができないままその言葉に対して頷くと、ヴィオレーヌさんはちょっと笑って「ありがとう」と言いながら席に着いた。

「ファルシネリさん、今戻ったんですか?」

驚きすぎて声も出ない私の代わりにリーネちゃんが質問を飛ばす。リーネちゃんは意外とこの人を不得手としておらず、またファルシネリさんもその事を快く思っているようだ。

「うん。思ったより時間かかっちゃって」

ストライカーを使わせて貰えれば一っ飛びなんだけど、と冗談を言う。そう言いながらも紅茶を飲むときには一切音を立てないその姿勢は、流石、というか、綺麗だった。

(本当に年下には見えない)

その技術が、仕種が、姿勢が、とても私の知っている同年代の子達と一致しない。ミーナさんも少しそう言う所があるけど、ファルシネリさんはもっと乖離しているような気がする。

「それで、宮藤さん」
「は、はい!?」

やっぱりこの人に見られると四顧し緊張する。
さっきの衝撃が収まっていないのも相俟って緊張のあまり声が上ずってしまう私を見ると、苦笑しながら「そんなに緊張しないで」と言った。

「それで、今日の夜の事なんだけど――」
「あ、はい」

そういえば私はこの人の訓練を受けるんだった。坂本さんの訓練を休めて少しラッキーくらいに思っていたけど、ファルシネリさん次第ではもっときつい事も十分に有り得るということだ。

(訓練は嫌いじゃないけど……)

今日は初めて夜の空を飛ぶわけなんだから、少しくらい手加減してくれないかな、なんて考えている。すると、ファルシネリさんは私の心を見透かしたように、

「今日は飛ぶだけだから、あんまり緊張しないでね」
「へ、あ、はい」

安心した、というよりびっくりした。まるで心を読まれているように、欲しかった言葉をくれるものだから、拍子抜けしてしまった。
それを見て、ファルシネリさんはまた、笑った。やっぱり少し困ったような笑い方だったけど。






5.night witches

肩が震えるのが解る。初めて見た夜空は私を飲み込もうとしているのかという程広く、暗い。今は、太陽がないから、あるいは普段太陽が存在するからか、何も見えない、という状況は思っていた以上に精神的にきつい。

「ふ、震えが止まらないよ」

思わず泣き言が出てしまうのは、我慢できなかったからだ。私は、この空が怖い。怖くて怖くて、だから隣いる二人から言葉を受け取りたかった。そして私の期待通り、二人は言葉を返してくれた。私は、一人じゃない。

「手、繋いでもいい……?」

情けない話なのかもしれない。でも、普段は透き通って見える空がこんな、まるで私を敵としてみているかのような、そんな感覚は恐ろしかった。

(サーニャちゃんは、毎日こんな……)

いくらそういう固有魔法があるからって、そんなの。耐えられるものだろうか。この暗闇だけの世界で生きていくことが、出来るのだろうか。

「サーニャちゃんが手つないでくれたら、きっと大丈夫だから……」

言ってしまってから気づいたけど、今の私は二人からしたら我儘に見えるのかな。いや、きっと見えるんだろう。そもそも夜間専従員としては指名されなかったのにも関わらず(これは私のせいじゃないけど)空を飛べないなんて言葉を発しているのだから。
私は、この空も怖かったけど、それ以上に二人の反応が怖かった。
けど、二人は優しかった。サーニャちゃんはそのまま私の差し出し手を取り、エイラさんは私の空いたもう片方の手を、握ってくれた。

「さっさと行くぞ!」
「へ?」

エイラさんはそう言うといきなりストライカーを起動させた。サーニャちゃんもそれに合わせて魔導エンジンを回していく。

「え? ちょっと、まだ心の準備が、!」

私の情けない悲鳴にも取り合わず、エイラさんとサーニャちゃんはぐんぐん速度を上げていく。上に行けばいくほど、その怖さは膨れるばかりだった。どちらが上か下かもわからないような、重力だけが上下を刺激する、無知の世界。
それを、二人は手をつないだまま私と昇っていく。

「ぜ、絶対手を離さないでね!」
「もう少し我慢して、もうすぐ雲の上にでるから」

この二人はそんな事しないなんていうのは分かっているつもりだけど、それでも言わずにはいられない。ただでさえお先真っ暗だったのに雲の中に入るともう、得られる情報は殆どない。普段頼りきっている視覚は何の役にも立たず、聴覚は風の音で麻痺する。だからといってこんな場所でそれ以外の器官で情報を感じ取る事はできない。
けど、有る時、雲が切れた。高度が上がり、雲の上へと出たから。

「うわぁ……」

目に入ったのは満月の空だった。今まで何の照明もなかったのに、ここにきて月が全てを照らしていた。思わず、言葉が漏れ出していく。

「すごいなー。私一人じゃここまで絶対来られなかったよ!」

ありがとう、二人とも。

「……いいえ、任務だから」

私の礼にサーニャちゃんは返答する。その言葉は、怯えているようで、でも照れているようでもあった。
その後、数分飛び続けていると、エイラさんが私の思っていた疑問を取り出した。

「……中尉はどうしたんだ?」

そうだ。そもそも夕方の言動から参加しないなんて事は無いはずなのに。発進前は緊張で気が付かなかったけど、ここにもう一人居なくてはならない人物が居るはずなのに。
そう思っていたら、サーニャちゃんが解決してくれた。

「もう少し、先」

そこで、サーニャちゃんが、クスっと笑った。それを疑問に思い理由を訊ねてみると、

「ふふ。なんだか、子供っぽいと思って……」
「……どういう意味?」
「もう少しでわかるわ」

サーニャちゃんがこんなに楽しそうにしているのは珍しい。そう思いながらももう少しという言葉を信じて飛び続けていると、急に雲に視界を塞がれた。他の雲よりだいぶ上層にあったもののようで、それは私達の視界を遮った。
それに対して、どうするべきかと二人に判断を仰ごうかと思ったら、サーニャちゃんが迷わず飛び込んだ。どうやら雲を突っ切るらしい。
ストライカーの飛び方について教えて貰った時に積乱雲は通るな、とは聞いたけど、こういう雲は通り抜けても大丈夫なのだろうか。まあ、雲というより霧のような、うすい雲だったけど。
雲抜けて一番に目に入ったのは、

「うぇるかむ……とぅ……?」
「夜へようこそ、だって」

空に浮かぶ雲と魔力のライン。それによって描かれた文字は、私を祝福する物の様だった。












言い訳
・ごめんなさい。改変する場所もできる場所も無難に切り抜ける方法すら分かりませんでした。
 ・少なくとも文章や文体をきざったらしく変えるくらいには追い詰められた。前と今回どっちがいいですかね?ワイドモニター買ったら右側すっかすかだったんで句点で改行するのをやめたんですが……。
 ・6話神すぎる
  ・っていうか6話分だけで5種類くらい書いたけどどれもあまりにどうしようもなくて結局その中の一つの後半部分を切り取って投稿。実力が足りない。
 ・でもいつまでも次の話にいけないといきづまっちゃうのでもうおちなしやまなしすいません。


・実力不足を痛感しました。あと多くの長編ストパンSSはアニメ6話の場所でいったん止まると思う。俺はもう書かなかった。無理。
・もう今回は文体変更の試験回ということで、勘弁してください。
・あとReines Silberが完全に更新停止で心が痛い。復活を心待ちにしております

11月28日、ひっそりと追加。流石に切りどころが悪くて話を続けれなかった。
・主人公が別の人の視点で喋っている貴重なシーン
 ・だれだよこいつ




12/19修正したと思ったらできてなかったので修正












[22701] 501 4.5話 後付け
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/12/01 06:18


身体が熱い。いや、別に発情してるだとか興奮してるだとか妄想しているわけではなくて、風邪で。ハブアコールドで。
一昨日こっちの私の為に一頑張りして雲文字なんてやってみたのが、効いたらしく(その時寝不足だったこともあって)見事に風邪にやられてしまった。あるいは魔法で強引に治すという処置もありなのだけど。そうやって無理を続ければいつか崩れるのはガリアの時に身をもって知った。そもそも治癒魔法は風邪に対しては特効は無いし。
サーニャちゃんとこっちの私の誕生日会には何とか参加してみたもののその後ミーナさんに気づかれたため、そのまま強引にベッドイン。
まるで少し前の病院生活を思い出すところだけど、あくまでここは自室のベッドで、窓は狭いし窮屈だし、トイレ遠いし自動でお茶も出てこない。つまりはあんまり楽じゃないし楽しくない。

「暇だなあ……」

と呟いてしまうのも仕方がないだろう。と思う。
こんなことならもう少し私物を持ち込んでおけばよかったか。とはいえ殆どの事物は先生が持ってるだろうし、それ以外のごくわずかの物はオートクレール基地で消失している。
実はこの部屋には備え付けてあったベッドとクローゼットしかない。こんな装備でどうやって一日過ごせばいいんだ。大丈夫じゃない。

(誰かお見舞いにでも来てくれないもんかな……)

どうせしばらくネウロイは来ないんだし……。
そんな事を考えていたからか、ようやく待ち人がやってきた。




1. obstinate woman

一番最初にやってきたのはミーナさんだった。
どうやら襲い来る仕事の嵐の間隙を突いてやってきたようで、その顔は幾分実年齢より老け――いや、大人びて見えた。

「調子はどう? ファルシネリさん」
「大丈夫です。もう暇を持て余しているくらいで」
「暇は大事よ。あなたもそう思う事になると思うわ」

ミーナさんは少し眉根を引き締めて苦い顔で言った。その顔が少しも笑っていないのが、怖いところだ。
私は前世でもミーナさんのような管理職というか、司令職に就くことは無かった。一生を通して飛び続ける肉体を生まれ持ったこともあって基本的にはずっと空を飛んでいた。もちろん空の上での指揮を執る事はあったけど、ミーナさんの様に部隊の管理をしたりはしなかった。
とはいえ、私は空を飛べなくなったら軍から離れて魔法を使わない方の医療を学ぼうとでも思っているんだけど。

「まあ、簡単に言えば昇進の話が来てるわ。中尉から大尉にって話だけど、どうする?」

ああ、そういうことか。
そういえば確かに戦績だけなら大尉クラスにはあるのかもしれない。聞く話によれば、ガリアの人達からは救国の英雄と呼ばれているらしいし。私が居ても居なくても、どうせあのくらいの時分に負けちゃうんだけどね、ガリア。
私はそのごくごく短い猶予を作っただけ。あるいは、

(そのガリアを解放する、だけ)

私、じゃなくて皆でだけど。とりあえず、今は階級なんて必要ない。空の上では階級も年齢もないし、501で階級を気にしてる人なんてそうそういない。

「今はまだ、いいです」

私がそう言うと、ミーナさんはさして驚いた風もなく、答えた。

「そう。それで、理由は?」

無ければ無いでも構わないけど。そう続けた。
別に理由は無くはないけど、いやまあやっぱ普通にないや。断るほどの理由は。
そう考えているとそれを察したのかミーナさんは、それじゃ適当に考えておくわね、と言ってその話を終わらせた。私は後々これを後悔することになる。

『ガリアを解放するまで、その話は受けられません』

そんな風にガリアのヴィオレーヌ・ファルシネリが答えたという話はかなり広い範囲で浸透する事になるからだ。恐るべきはミーナさんの手腕というか、悪戯心というか。丁度その報告書を書いた時煮詰まっていたんだろう。そしてそ理由が、今からの話でもある。
その話が終わった後、ミーナさんは少しの間黙り込んでしまった。

「……」
「……? まだ何かあるんですか、ミーナさん」
「あ、いえ、……そういわけじゃないわ」

そう言って部屋を後にしようとするが、しかし、ドアノブに手を掛けたところで何かを決心したかのように唇を結び、引き返してまたベッドの横に腰かけた。

「ごめんなさい。実は今日はそれだけじゃないの」

そう言いながらミーナさんは眼を伏せた。
……何だか良い予感がしない。どうやらあんまり嬉しい話ではないようだ。少なくとも、一度は言うのを躊躇うほどには、深刻な話の様だ。
それを肯定するようにミーナさんの両目には影が差していた。

「実は……」

そこまで言って、またしてもミーナさんは躊躇う素振りを見せた。こんなミーナさんは前世含めて殆ど見たことがないような気がする。何度か見たとしても、それは毎回、本当に深刻な出来事を話すときだった。
身体に力が入るのが分かる。少なくとも501のメンバーに何かあったとは考えにくい(朝皆の姿を一度見ているし)。ならば、ガリアに関する事だろうか。でも先生たちはきちんとエスパニアに辿り着いたようだし、結局クロードは兵隊に志願したそうだけど、覚悟を決めてその道を選んだというなら私は、もし、万が一があっても気にしないつもりだし。
ミーナさんは自分に何かを言い聞かせるように二、三度頷いた後、次の言葉を絞り出した。

「実は、もうすぐ美緒、あ、坂本少佐の誕生日なのよ……」
「……………………はい?」
「それで、何かプレゼントを用意しようと思うんだけど、何が良いか迷っていて……」

……。その後1時間程坂本さんへのプレゼントについて語った後、結局最初に自分が決めていたプレゼントを持っていくことに決めたらしい。
正直他所でやってほしい。



2. speedster,trickster

2番手は意外な組み合わせだった。こんこんというノックの後、入ってきたのはシャーリーさんとハルトマンさんの二人だ。

「おっじゃま~!」
「おはよう。大丈夫か?」

まさしく元気いっぱいという感じに入ってきたのはハルトマンさん。それに続いて入ってきたのはシャーリーさんだ。どちらも心配してきた、というよりは面白がってきた感じのようだ。まあ風邪くらいでいちいち心配されてもそれはそれだけど。
部屋に入った後、シャーリーさんが眉根を寄せながら周りを見渡して言った。

「……しかし見事に何もない部屋だな」
「病院からそのまま来ましたから」
「ああ、そういえばそうか。買い物に行くときは言ってくれれば付き合うよ」

ありがたいですが、結構です。本当に申し訳ない話だけど、私はシャーリーさんの助手席は座りたくない。というか、死にたくない。

(車、か。運転できなくはないけど)

基本的には苦手だ。というより空を飛ばない乗り物は動かせる気がしない。車の運転に関しても「非常時以外は絶対に運転しない」という約束を付けてようやく合格にしてもらった程だ。普段から乗れないならあんまり意味がないと思うんだけど。

「むー、ここまでいじりがいが無い部屋だとは思わなかった……」

ハルトマンさんが呟く。この人は私の部屋に何を期待していたんだろう。私が周りからどう思われているかは知らないけど、少なくともそんな異様なものが置いてあるように見えてるとは思わないんだけど。

「普段見えないからこそ、何があるか楽しみだったのに~。これじゃイメージ通り過ぎるよ」
「私は流石にもう少し何かあると思ってたんだけどな」

とはいえ、私は皆から部屋に物を置かない人として見られていたのか。そういえば、こっちに来てからももう一人の私とか、前との違いとか、そんな事ばかり考えていてあんまり気にしたことなかったな。ここにいるシャーリーさんもハルトマンさんも似て非なる別人には変わりないのに。

「そうですね。次があれば、その時はもう少し面白い部屋にします」
「本当? 楽しみしてる!」

おかしな会話だ。隣で聞いていたシャーリーさんも苦笑しているし。本来私は文句をつける立場のはずなんだけど、それでもこんな事言っちゃうのはハルトマンさんの性格故だろうか。何となく、この人を落ち込ませちゃいけないって気になるんだよね。不思議な魅力というか、なんかそういうのがあるよね、ハルトマンさん。
そのまま少し話した後、シャーリーさんが輝かしい目で私を見た。またしても嫌な予感。今日は少し運が悪いかもしれない。

「実は、」
「はい、なんですか?」

しかしここで落胆したような口調になることは避けなければなるまい。あくまでこの呆れはミーナさんに向けたものなのだから。だってプレゼントを選ぶ(それも自分を納得させるだけ)に1時間も使うとか、失礼な話、女の子みたいだ。……いや、女の子か、ミーナさん。

「実は、お前の魔法をもう一回私に使ってほしいんだ」
「いいですよ」

断る理由もないし。別にそんなに疲れるわけ、あるけど。でも一日寝れば回復する程度の消費でしかない事は変わらないし、それに、少し訓練してみたくもあるし。あの魔法。3地作戦の時思ったけど、まだまだ深く潜れる魔法のような気がする。

「い、いいのか!? 私、あんなことやこんなことするつもりだぞ!」
「何でそこで脅しにかかるんですか!?」

一瞬で答えられたのが悔しかったのか、シャーリーさんが意味の分からない脅迫をし始めた。しかし、単にふざけているだけなので少しばかりそこ勢いで話し続けた後、どちらからともなく笑い出してしまった。

「意外だ」

ハルトマンさんがボソっとそう言った。私もシャーリーさんにも思い当たる節が無かったので、顔を見合わせているとハルトマンさんが理由を話してくれた。

「だって、キャラ違うじゃん」

ハルトマンさんが言うにはガリアに居た頃の私に比べて随分丸くなったように見える、とのことだ。確かにあの時期は色々詰め込んだ予定だったし、多少は余裕の差というか、なんというのかがあるとは思うけど。

「へぇ、ファルシネリってガリア戦線ではどんな奴だったんだ?」
「そりゃ格好良かったよ。何ていうか大人~な雰囲気出しててさ。トゥルーデも「あいつは出来る」みたいな事言ってたしさ」

その後もガリア時代の私の話をつらつらと話した後、最後に、でも私は今の方が好きかな、と締めくくった。二人はその後、昼食と水筒を運んでくれた。実は喉がカラカラで腹がスカスカだった私から見れば、まさしく天使と女神だった。




3. diamond ace

3番目の来客。つまりは午後一番の来客。それは、エイラさんだった。控えめなノックの後、返答をすると邪魔するぞーと言いながら部屋に入ってきた。

「本当に何もないんだな……」

どうやらシャーリーさんかハルトマンさんから話を聞いてきたようで、この簡素な部屋での驚きは発見の驚愕ではなく再確認の驚愕だったようだ。っていってもエイラさんもも大概質素な部屋だと思うけど。まあ私だってバルクホルンさんの部屋に入ったら「うわぁ」くらいは思う。本当に何もないから、あの部屋。
エイラさんは私の方を見ると、一度身じろぎした後、座ってもいいかと尋ねた。なんだか、長い話になるようだ。
しかし、相変わらずエイラさんは自分から話をするのが苦手、というかある一定の方向性に関して自分から話をするのが苦手だというのは分かっているので、こちらから促す。

「それで、今日はどうしたんですか?」
「あぁ、うん。いや、その……………………――さ」
「はい?」

何か言ったようだが、それは私に聞こえる声量では無かった。というか、殆どの人間は感知できないだろう。一部の感覚系のウィッチであれば聞き取れるのかもしれないけど、ここにそんな人物はいないし、わざわざ聞き取りをさせるためだけに他国から(ブリタニアにも居たような気がするけど)呼び寄せるわけにもいかない。
本人も声の大きさについては自覚しているのかどもりながらももう一度言い直した。

「だから、その……お礼を言おうと思ってさ」

お礼、というとサーニャちゃんの事だろうか。あの時、サーニャちゃんとこっちの私の誕生日を祝って、そのままネウロイと戦ってというのは前と同じだったんだけど、最後に、片方のストライカーをネウロイに破壊されていたサーニャちゃんは魔力が尽きたのもあって墜落した。もちろん、ちゃんと海に落ちる前に受け止めたけど、割とギリギリだったこともあってエイラさんは自分が助けられなかった事を気にしているようだ。でも多分、私が居なかったら基地まで飛んでいられたような気がするけど。後からサーニャちゃんから聞いたけど、私が居ることで緊張してしまったらしい。本当に、私は皆からどう思われているんだろう。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

なんやかんや理由があるとしても、ここで礼を受け取らない必要もないので、私は確かにお礼を言われました、という意味で返事をする。














言い訳
・過去一番短い
 ・CODゾンビが面白すぎるんだもん
 ・今日モンハンの発売日だもん
 ・第3巻届いたもん
  ・メガネエイラぱねえ
・さりげなく動かしにくいのは坂本さん
 ・普通にやりづらいのはリーネちゃん
  ・あとペリ様

関係ないけどバトル漫画は順当な結果の方が面白いよね。そして時々どんでん返しするのが良い。



[22701] 501 5話 courage test
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/12/29 06:34
1. courage test
肝試し。それは扶桑で多く行われる名の恒例行事のようなもので、一般的に、夜の暗い時期に幽霊や妖怪が出る場所に向かいその度胸を試す。あるいは、ある程度の人員が脅かす側に回る事で一種の娯楽として、ゲームとして行われるもののことだ。

「……何なのかしら。その、肝試し……というのは」

そしてそれを今さっきこっちの私が提案した。夏真っ盛りのこの時期いくらブリタニアは常時風の強い国とはいえ、暑い。それはもう、基地内に用意してあったはずの水分の殆どが一日で空になってしまう程度には、暑い。中でも今日は特別暑い日で、その中で何か涼しくなる方法が無いのか、という話になった時にこっちの私、つまりは宮藤芳佳が提案したのがそれだった。でもそれは涼しくなるというか、背筋が涼しくなる類のものではなかろうか。
真っ先に賛成したのは坂本さんだった。

「こっちでいう所の度胸試しだな。悪くない。たまには童心に帰ってみるのもいいだろう」

ブリタニア語での肝試し、なんて単語はこの頃の私が知ってるはずがないので、坂本さんが補足する。
次に賛成したのはルッキーニちゃんだった。

「おもしろそー!」

もちろんルッキーニちゃんが参加するとなれば保護者のシャーリーさんも肝試しに異はないようだった。そしてここまで流れが出来れば今更反対する者もおらず、私としても特に反対する理由が無かったので(私の知らない出来事が起こっていることに驚いてはいるものの)賛成の意を表明する。
すると、当然多少は計画を練る事になった。今の時刻はもうすぐ夕方になろうかという時期で、時間については今から行けばいいだろうという事になったが、逆に中々決まらなかったのは、場所だった。

「難しいな。あまり遠出するわけには行かない」

この基地はあくまで(一部私物化されてる節があるが)軍事基地なので、夜でも照明が残っている場所が多い。もちろん基地内部だけでなく外部に関しても微量とはいえ照明はある、それを考えるとあまり肝試しに使える場所がない、という事だった。

「なら、照明を落としましょう」

当然の様に皆驚いた。その言葉を発したのがミーナさんだったからだ。特にバルクホルンさんとハルトマンさんに至っては頬が引きつり上唇が引っ張りあげられている。……、そして恥ずかしながら私も同じ表情をしていることだろう。
あの規律に厳しい、とまでは言わないけどあまり寛容でないミーナさんがそんな積極的に賛成しているとは思っていなかったからだ。もちろんさっきの時点で反対はしていなかったから、隊長として許さない、という程ではないのだろうと皆思っていたのに、むしろ、かなり強い意志を持って賛成しているという事に開いた口が塞がらなかった。
ミーナさんはそんな皆の状態に気づいたのか、少し困った笑い方をしながら話しを続けた。

「そんなに驚かないでちょうだい。……ここのところ少し忙しかったから、たまには、ね?」

その発言について私は驚いた。忙しかったというか、この前坂本さんの誕生日パーティーを行ったばかりで、気を抜いたばかりだったと思うんだけど。
私がそんな事を考えていると私の後ろに居たエイラさんが周りに聞こえないような小さな声で(もちろん私にも聞かせるつもりはなかったようだっだけど)まるで目の毒だと言わんばかりの苦悶の表情で呟いた。

「……少佐に褒められてから機嫌良いだけじゃないか。……私なんかサーニャの誕生日は……」

どうやらエイラさんの見立てではミーナさんがこんな状態に陥ってるのは機嫌が良いからのようだ。そしてその理由は坂本さんに褒められたから、と。そう言うと多分坂本さんの誕生日にミーナさんの渡したプレゼントは絶賛されていた事だろうな、と思い当たる。私は何もしていないのにありがとうとお礼を言われて戸惑ったことを覚えている。
バルクホルンさんもエイラさんに負けず劣らず苦々しい顔をしていたが、一度眼を瞑って何かを考えた後、咳払いをして、現状を纏めて。

「基地内を使えるなら場所も時間も問題ないな。あと他に何か決める事はあるのか、宮藤?」
「あ、はい。……えーと、扶桑だと、脅かす側と驚かされる側に分かれます」
「それは必然的に決まるだろう。感知系の魔法を使える者は驚かされる側に回っても楽しめないだろうからな」

とりあえず、ミーナ、サーニャ、はこちら側として。そこまで坂本さんが言うとエイラさんが名乗りを上げてので、脅かす側が3人決定。次いでハルトマンさんがやりたいと言ったので4人。
そして、

「私はどうする? 一応感知系だが、暗闇では使えないが……」
「いや、少佐は脅かす側に回ってくれ!」

坂本さんの超人的な身体能力と技術を考えると、驚かされた瞬間、脅かした方がどうなるかわからない、という意味でバルクホルンさんは坂本さんを制した。死人が出そうだ、という言葉は辛うじて飲み込んだようだ。






2.ガッティーノ
そして、夜。
夜になってもやはり夏、つまり暑い。そんな中私達は談話室に集まっていた。脅かす側、つまり坂本さん達がここをスタート地点にして行うと言っていたからだ。今坂本さん達は最後の準備という事でここにいるのは私、こっちの私、リーネちゃん、バルクホルンさん、ルッキーニちゃん、シャーリーさんの6人。ペリーヌさんは坂本さんに続いて脅かす側に回った。

(まあ、肝試しにはもってこいなのかも知れないけど)

怖いの苦手なんだよね。良く見れば、こっちの私も今になって怯えているようだし、なんでこの案を出したんだ私。こんな事なら私も脅かす側に回ればよかった。

「正直、私は中佐が一番怖い……」
「……お前と意見が合うのは珍しいなリベリアン、私もだ」

高年齢層がミーナさんの罠というかなんというかに戦々恐々としている中、低年齢層の皆はなんだかんだ言いながら楽しそうだった。

「私本当は怖いの苦手なんだよねー」
「えー、おもしろそうなのに?」
「大丈夫だよ芳佳ちゃん、二人一緒なら……」

……。何か怖い。
私はどっちに混ざるべきなんだろうか。肉体年齢で言えばしての方に入っていくべきなんだけど、私は記憶の中では皆より遥かに年上だ。だから、どちらにも当てはまるし、どちらでもないかもしれない。そんな事は、自分で決めればいいんだろうけど、私はどっちに行きたいんだろう。
そんな風に考え事をしていると、坂本さんが部屋に入ってきた。

「よし、こっちの準備は終わった。二人一組だから、まずはくじを引いてくれ」

部屋に入ってきた(思ったよりもノリノリの)坂本さんは今まで散り散りになっていた皆を中央に集めて、組み分けの為のくじを引くように言った。皆特に何かをいう事もなく、早い者勝ちでくじを引いていく。私の引いたくじに書かれていたのは、黒い猫と白い狐。

(同じマーク、は)

「よろしく。ルッキーニちゃん」
「うん、よろしく、ヴィーネ!」

名前の最初と最後をそのままくっつけて短くしたのをのを、更に発音しやすくして、ヴィーネ。ルッキーニちゃんが「呼びにくい」という理由で付けた私の渾名。
私と同じく猫と狐のマークを引いたのはルッキーニちゃんだった。
私達のペアが出来たのを坂本さんが見つけると、私達を部屋の外に出るよう指示した。

「右に曲がって階段を上がれ。屋上に上がれ。そこにお前たちのエンブレムの描かれた紙が置いてある。それを取って戻ってくる。そこまでが肝試しだ。……運が良かったな」

ルッキーニちゃんのエンブレムは確か、

「木で昼寝してるやつ。早くいこーよ」

ルッキーニちゃんはそう言って歩き出した。

(声は出してなかったと思うけど)

相変わらずというか、なぜこの時期に、というか。ルッキーニちゃんはただ見たまんまを感じ取ってるだけのはずなのに、殆ど心を読んでるような事を言う時がある。それが、この頃。そして、このまま私の知っている通りに戦いが進んでいけば、いずれ……。

「……今、考える事じゃないかな」
「ヴィーネー、はーやーくー!」
「あ、うん! 今行く!」

私は声を出した後いつの間にかもう階段まで達していたルッキーニちゃんを追いかけて私も走り出す。
でも、多分良くも悪くもルッキーニちゃんの期待通りにはならないと思う。
黒い猫と白い狐。これはあの二人のパーソナルマークだ。
だから、きっとそんなに怖くない……はず。







3.揺り籠
私とリーネちゃんは、あの談話室でダックスフントとドーベルマンの描かれた紙を引いた。その後、坂本さんに言われた通りに資料室に向かって歩いているけど、去り際に坂本さんの言った、お前たちには運が無かったようだ、とい言葉が気になって頭から離れない。ついでに少し気の毒そうな表情をしていたのも気になる。
少し風が強く感じるのは周りにいる人が少なくなったからだろうか、それとも僅かな明かりさえ無くなってしまったからだろうか。

「少し怖いけど、楽しみだねー」
「そ、そうだね。芳佳ちゃん……」

私はリーネちゃんに話を振ったが、リーネちゃんはどうにも気乗りしていないようで、少し歯切れが悪い。

「怖いの?」

私はリーネちゃんに問いかける。暗くて良く顔が見えなかったけど、それでも、フラフラと動いているのが分かる。多分、周りを警戒しているんだと思う。
私の問いかけにリーネちゃんはようやくその警戒を止めて、私に答えた。

「少しだけ。……でも、芳佳ちゃんがいるから、大丈夫」

リーネちゃんは私に大丈夫と答えた。けど、その声は多分に震えていた。と思う。
だから、私は手を伸ばした。あの時、私がサーニャちゃんとエイラさんにして貰ったように、その手を動かしてリーネちゃんの手を探り当てる。
そして、私は、その僅かに体温を交換した手を捉え、そのしなやかな指の間に私の指を割り込ませていく。

「芳佳……ちゃん?」

私はそのまま手を強く握る。リーネちゃんはまだ震えている。だから今度は、もっと強く、握りしめる。そうしているとリーネちゃんは最初は驚いていたようだったけど、少し困った風に笑って、お返しと言わんばかりに私の気持ちを握り返してくれた。
私の肌にぴったりと張り付くリーネちゃんの肌はしなやかで、それでいて繊細で、それこそ絹の肌、という言葉こそが相応しいのだろう。
自分からやったこととはいえ、

(手汗とか、掻いてないよね……)

そこまで考えて、顔が真っ赤になるのが分かる。普段明るい光の下で、リーネちゃんと手を繋ぐことを恥ずかしい、何て思ったことは無かったのに。触覚から以外の情報が制限された今では、その体温に意識が集中してしまう。恥ずかしくて、また手に力が入る。そしたら、またお返しが来る。
どちらからともなく強く握り合った手は、体温だけではなく、それぞれの鼓動さえも伝えていくのが分かる。私の心拍数と、リーネちゃんのそれが早く脈打っていくのが分かる。
少し風が強くなる。

「……」
「……」

どちらも言葉を発さないまま手を握り合ったまま進んでいく。他の事なんか全部忘れてしまいそうなほど、私の心臓は早くなっていく。
もうすぐ階段に差し掛かる。けれど、どちらも言葉を発さない。
分かってる。こんな状態はおかしいんだって。だから、言葉を選ばないと、私達は『いつもの』私達に戻ってしまう。
何て言えばいいのか、なんてそんなの分かるわけない。少なくとも、私にはこの空気を保つ言葉を見つける事は出来ないのだから。

「……」
「……」

私達は、まだ喋らない。風がまた少し強くなる。
名前を呼び合う事さえ、しないままに私達は歩いていく。でも、ゆっくりと。今の私達にこの関係を続ける言葉は見つからないから、いずれ、戻ってしまう、この一夜のその僅かな時間だけの関係だから。だから少しでも長く続くように、ゆっくり、ゆっくりと歩を進めていく。きっと亀よりも兎よりも遅い速度で。心臓が壊れてしまいそうな中で。一歩一歩を、一秒一秒を確かめるように、濃密に、でも深みにはまらないように、徐々に徐々に。でもそれも、あと少し。あくまで建物の中での距離でしかない。そんな中では牛の速度でだって目的地に着いてしまう。
もう終わり。
その筈だ。その筈だったのに。

「……」

リーネちゃんは立ち止まった。

「芳佳ちゃん……」

リーネちゃんが声を出した。風が強くなる。
出してしまった。無言のうちに作り上げられた私達の境界線に、防衛線に、その上に、足を置いた。そこから、私に向かって手を伸ばした。また一段と、今度はリーネちゃんから手を握る力が強くなる。それはもう、痛い、と言えるほど、血が止まりそうになるほどの力で、だけどそれでも、私は。
私は、それを、強く強く、握り返す。まるで、この繋がりだけで充分だと、他の糸はもういらないと主張するように。

「リーネちゃん……」

私は声を出す。風が強くなる。
リーネちゃんに応えるために。そしていつの間にか向き合っていた私達はもう片方の手と手も絡めだす。しっとりとしたリーネちゃんの手は、震えていた。けれど、私の手も震えている。なのに、重なり合った瞬間にそれは無くなった。無くなってしまった。

「芳佳ちゃん」
「リーネちゃん」

名前を呼び合う。見つめ合う。
真っ暗闇。何も見えない。見えるはずもない。けれど確かに存在を感じる。だから私達はその存在感をより近くに、より強く感じようと、その体を引き寄せあう。衣擦れの音がする。私と、リーネちゃんの。まず手が繋がって。次に震えが共鳴して。そして、服が擦れ合う距離まで来て。
そしてそこから更に近づいていく。何も見えない。けど、わかる、きっと目の前に、居る事、在る事。
風が、強くなる。




4.天敵

「何とか、辿り着いたな、バルクホルン……」
「ああ、今までで最悪のミッションだった」

場所はハンガー。談話室で少佐に言い渡された通りハンガーに向けて歩いて(あるいは走って)ようやくたどり着いた。
しかし、その道中に置かれた罠の数々は決して『肝試し』、とやらではないと思う。くじに描かれたエンブレムからミーナとペリーヌがこのルートの脅かし役だ、という事には予想がついていた。
だというのに襲い来る雷の嵐とこちらの居場所を完全に把握した射撃にはひたすら恐怖を感じた。
何だったんだ、あれは。むしろ殺気すら籠った怨念じみた攻撃の数々は(私が完全にその意味を知っているわけでは無いとはいえ)およそ『肝試し』という一種の娯楽には恐らく当てはまらない。

「あー。星がきれいだな」
「そうだな」

ハンガーから少し出て、空を見上げながらそいつは言った。半ばやけっぱちで。
それはそうだ。この肝試しというのはこのエンブレムを談話室まで持ち帰らなければならないルールだからだ。
つまり、もう一度あの地獄のような通路を走り抜けなければならないという事だ。それができなければ私達は腰抜け、として名前を残さなければならない。……生死に関わる問題に腰抜けも何も無いような気もするが。
まあ、とりあえず、ここ安全地帯と思っていいらしい。だから、まあ、

「言わなければならないだろうな」

私がいきなりそう言いだしたからだろうか、そいつは、私と共に死線を潜り抜けたそいつは、怪訝そうな顔でこっちを見る。
まあ、そうだろう。私も目の前で突然こう言われたら、こういう反応をするだろう。
とはいえ、そんな事はどうでもいい。私は、ただ伝えるだけだ。

「感謝している」
「? な、何だって?」

そいつ、私の戦友であるところのそいつは、またしても変な顔をする。どうやら、私はコイツの中でそういうことを言う人物ではないらしい。
仕方がないだろう。コイツが501に入った時の私は今に比べ余程堅苦しかった事だろうから。……そういえば、その辺りの礼も言って回らないとな。ファルシネリと、ハルトマンと、……それから、宮藤か。

「感謝している、と言ったんだリベリアン。お前が居なければ私はこの道中で尽き果てていたかもしれん。まだ守るものがあるというのに」
「……それをいうなら、こっちもだよバルクホルン。あなたが居なければ私だって危うかったさ」

そいつは、私の言葉を聞いて立ち上がると、私を真正面から見据えて、そう言った。
そしてその言葉を聞いて私は手を差し出す。そいつは私の手を握る。
余計な力が入っていなければ邪念も怨念も恨みもつらみもない、互いに感謝の気持ちを込めた握手だった。
私は最後に、ありがとう、そう言おうとする。
だが、その言葉はそいつの人差し指によって止められた。そしてそいつは、私の唇を指で押さえたまま次の言葉を発した。

「シャーリー、これからはそう呼んで」

私はつい一瞬表情を歪めてしまったが、次の瞬間には頷いた、はずだ。
それを認めるとシャーリーは私の口から人差し指を離し、握り合っている手に僅かに力を込めて、

「ありがとう、バルクホルン」
「ああ、ありがとう、シャーリー」

命がけの娯楽の中で生まれた哀れな友情だった。




-2.揺り籠
あー面倒くさい。何で私がこんな事しなくちゃいけないんだ。暑いなら勝手に涼んでればいいのに。折角今日はサーニャと一緒に二人きりで夜間哨戒するはずだったのに。

『今日は疲れるでしょうから、ファルシネリさんにも夜間哨戒をお願いしておくわね』

今思い出しても腹が立つ。この前の少佐の誕生日以来ミーナ中佐は驚くほどご機嫌だ。それ自体は悪い事じゃない。大抵の申請は一瞬で通るし、いや普段から寛容な人なんだけど、特に。目の前で私ご機嫌ですオーラを出されるのは多少、いや、多大に迷惑だけど、でもそんなの我慢できる。

(でも、折角二人っきりだったのに……)

そう思ってしまう。本人からすれば自分の幸せを分けてやろうと、仕事の負担を減らしてくれてるつもりなんだろうけど、それでも。

(しかも、よりによって……)

『あの』中尉だ。ガリアの英雄、東部戦線の奇跡、フランス最強の魔女、……そしてサーニャの命の恩人。
もちろん、その事については感謝してる。欲を言えば自分で助けたかったけど、サーニャの無事が最優先だ。だから、本当に感謝しているし、悔しいながらもお礼を言いにいった。

「エイラ」

本当に、他の誰でも構わない……いや宮藤も困るけど、でもその二人以外なら誰でも構わないのに。
確かに、その実力は理解できる。もし同じチームに中尉が居れば戦力に困ることは無いだろう。私の様に回避にばかり傾倒しているわけでもなく、だけど強い。あるいは大尉の戦闘スタイルに近い。超絶的な固有魔法……という訳ではないけれど、その極めて高い性能でありとあらゆる役を引き受けられる。

「……エイラ?」

大尉は少し火力に頼ってる面があるのに比べて、中尉はまさしく万能兵器と言える。2年間、殆ど僚機が無いに等しい状態で戦い続けたというだけあって、その経験値は他と隔絶している。夜飛ぶこともあっただろうし、多数の敵を相手にすることもあっただろうし、味方を守りながら、移動しながら、接近しながら……。恐らく私では考えられない程ありとあらゆる状況に立たされ、その中を生き残ってきた。物資も人員も足りない中、常に結果をはじき出し続けた。ガリアが、中尉が落とされた、から撤退を決断したという話なんかはもう笑えないくらい、その力を意味している。
もし戦ったら、私は、勝てるだろうか。恐らく勝てないだろう。それは分かる。

(でも負けもしない)

私が私の力を信じている限り、私は負けることは無いだろう。だって数秒とはいえ未来が見えてるんだ。ネウロイの連装ビームなんかのトンデモ兵器ならともかく、いくら強かろうと、あくまで機関銃一本に負けるわけはない。……とはいえ、ウィッチ同士で戦う状況なんて予想もつかないけど。
考えに耽っていたから、私は、その声に気づいてなかった。

「エイラ!」
「わっ、ど、どどどうした、サーニャ!?」

気づいてなかったから反応できなかっただけなのに、サーニャは私の方を見て悲しそうな顔をした。

「……もうすぐ、こっちに来るみたいだから。準備しよう?」

悲しそうな顔で、悲しそうな声で、サーニャは言葉を続けた。そしてその後、相談して決めていた位置へと歩き出した。
……そういえば、サーニャは幽霊と評されているのが嫌だったんだ。

(! 追いかけないと……)

つい足を止めていた私を残してサーニャはもう曲がり角を曲がろうとしていた。
私はその背中を見失うまいと、足に力を込めた。でももつれて倒れてしまう。

「いたっ」

見事に顔面を強打した。顔がじんじんする。そして、心臓のあたりが、痛い。それは痛みのせいではなく。
赤くなった顔を押さえつつ前を見ても、サーニャは居なかった。私が転んだのは分かったはずなのに。

(そんなに怒ってるのか……!?)

何気ない日常のトラブルだったのに。ここまで怒るなんて。

(違う)

私にとっては何気なくても、サーニャにとっては違うんだ。

(言わなきゃ)

サーニャは幽霊じゃない。そう言おう。いやその前にまず謝って、それから、そう言おう。

「サーニャは幽霊じゃない」

口に出すと、指の一本一本にまで力が入る。きっと今なら、私は中尉にだって勝てるだろう。
そして、私は走り出した。












12-19少し追加。
色々カオスってるけど今まで書いてないキャラの視点でどれくらい違和感が出るかやってみた、という感じです。一応。
他にもミーナさんとハルトマンの視点も書いてみましたが、あまりに違和感ばりばりで追加しませんでした。やっぱりバルクホルン、宮藤、ファルシネリくらいが限界っぽい。それ以外の一人称はできる限り避けるか、どこかで練習するかします。



[22701] 501 5.5話 人生相談
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2010/12/29 06:16
人生相談

1.
きっと夢だろう。私は夢を見ている。過去の夢を。脳では無く、魂か、あるいはそれに似た肉体に依存しない思い出の記憶を。思い出したくもなければ、誰に話すこともしたくない、私の二番目に嫌いな夢、その内の1つ。
空には黒色と赤色のみが鎮座している。私が戦った中で最も大きく、最も多くのウィッチを地に落としたネウロイだ。何百メートルと離れているはずなのに、いまだ視界の端から端へと続いている。そしてその下部にはその大きさに見合うだけの巨大かつ多大な砲門が装備されており、近づくもの、遠ざかるものを問わず全てをその力で薙ぎ払っている。死に物狂いの特攻でようやく露出させたコアも、僅かずつとはいえ、ネウロイの黒い金属に覆われていく。

『ごめんね、芳佳』

私は必死に手を動かす。何とかしてその命を救おうと、繋ぎとめようと。まだ離れたくない、そう思って必死に魔力をつぎ込む。例え、もう助からないと分かっていても。

『ごめんね、芳佳』

夢の中の私は、何も見えていない。ただその仲間を失わないために手を尽くしている。枯れ果てていたはずの涙さえ、呼び戻して。もう泣かないと決めていたのに。

『……芳佳、泣いてるの?』

彼女は私に問いかける。そのボロボロになった喉を何とか動かしながら私に、確認する。涙は枯れていなかったのか。ようやく泣けたのか、と。夢の中の私は、その言葉にまた、泣く。

『良かった』

何も良くなんかないのに、その夢の中の女の子は私に言う。何もよくなんかない、って私が叫ぶのを無視して、良かった、という言葉を繰り返す。
褐色の肌に、柔らかい黒色の髪。
夢の中のルッキーニちゃんは最後の最後まで夢の中の私が泣いていたことを喜んでいた。




2.
ぬちゃり、と粘性の強い物特有の音がする。が、そんな音を立てながらも抵抗する意思は揺るぐことが無く、それを掻き混ぜようとするそれの動きを阻害する。しかし、それにも構わずその細く長いそれは容赦なく動かしていく。

「うわぁ……」

シャーリーさんが呻いたのにも構わず私はお箸を動かし続ける。そうすると、納豆が容器の中で糸を引き始める。

「……まだ食べるのか、それ?」

シャーリーさんが私に尋ねる。まあ、リベリオンの人達から見れば納豆が主食というのは少し不気味に思えるのかもしれない。美味しいんだけどなあ。

「美味しいですよ?」
「いや、そういう問題じゃ無くてさ。納豆ってあくまでおかずじゃないのか? 単体で食べれる味じゃないよ」
「そうですか?」

そんな事無いと思うけど。正直ご飯も納豆もあんまり変わらない気がするんだけどなあ。まあその辺は食文化の違いという物なのだろう。実際私もハンバーガーは食べられないし。どうしても間に挟まってる…………ピクルス? だっけ? それが食べられない。ハンバーグは食べられるのにどうしてかあれは受け付けない。
そのまま食の違いについてシャーリーさんと話していると、後ろから声がかかった。

「ああ、ここに居たのか」

その声の主は坂本さんだたようで、察するところ、どうやら私かシャーリーさん、あるいは両方を探していたようだ。

「どうしたんだ少佐。今日は私達は休みのはずだけど」
「ああ、それはそうなんだが、……頼みがあってな」

それを聞くとシャーリーさんは顔を顰めた。別に坂本さんからお願いごとをされる、といのが嫌なわけではなく、貴重な休日が潰されそうなことに危機感を感じているみたいだ。

「頼み?」
「ああ、聞いていると思うが、エイラが今人生相談というのをやっていてな。どうにもサーニャとうまくいっていないらしい。良かったら相談に乗ってやってくれないか」
「なんだ、それくらいなら全然構わないよ」

坂本さんからの頼みというのはどうやらエイラさんが人間関係で困っているらしく、その上で自身の力不足の分を補おうとして、シャーリーさんに話を持ってきたという事らしい。ここだけ見ると凄い良い上司の様に思えるから不思議だ。

(もしも隊長がミーナさんでなければ、きっとこの部隊は成り立たない……)

戦闘技術や作戦指揮、現場指揮としての能力はともかく、坂本さんにこつこつと積み上げるような事務的な処理能力は、ほぼ、無い。ミーナさんも最近では予算案や設備投資に関してはバルクホルンさんやその他の人に相談する事の方が多いようだ。名ばかりの副隊長とさえ言えるかもしれない。

(けど、その分、実戦では圧倒的だ)

総じて高い戦闘能力に加えて安定した精神力、その上でおよそ私の知る限り最も万能な固有魔法である所の『魔眼』を持つ。魔眼の有用性は私の外部加速のような補助型や、ハルトマンさんやペリーヌさんなんかの直接攻撃型とは比べものにならない。私が自分の経験からコアを探り出すのと変わらない。私の、坂本さんよりも長い戦闘経験の全てに匹敵する対ネウロイの切り札だ。
そんな風に全く関係ないところに意識を飛ばしていると、シャーリーさんに話しかけられた。

「私はルッキーニを探してから行くけど、どうする?」

どうやら、私もエイラさんの人生相談に付き合う事になってるみたいだ。いや、断るつもりなんかさらさらないから別に構わないんだけど。

(でも、エイラさんが悩み事って……)

っぽくない。凄くらしくない。
サーニャちゃん絡みならそういう事もあるだろうけど、それについては年がら年中悩んでいるわけで、正直、悩み、と言えるかどうかは微妙なところだと思う。
だけど、本当に悩んでいる可能性もある、のだろうか。

「あんまり大勢でお邪魔してもあれでしょうし、私は先に行ってきます」
「わかった。じゃあ、私はルッキーニを探しに行くよ」

私がそう言いながら席を立った。ついでに坂本さんから感謝の言葉を頂いた。






3.
部屋の扉をノックする。すると、中の方からエイラさんから、入ってきてくれ、と声が返ってくる。

「どうも。失礼します」
「げ、中尉!」

部屋に入った途端に嫌な顔をされた。とはいえ、エイラさんは本当に嫌いな人にはそもそも反応しないので、そういう観点から見れば、別に悪くはない、はず。……でも、げ、ってなんだ、げって。私が何かしただろうか。というかむしろ文句を言うべきはこっちじゃないかな。肝試しの時、ずっとエイラさんとサーニャちゃんがいちゃついてたせいで私とルッキーニちゃんは目的地まで何一つとして遭遇せず、そして帰り道にも何一つとして起こらなかった。あれじゃあもう肝試しではなくただの散歩に変わりないよ。
まあ、その辺りの愚痴はおいといて、

「名前」
「ん?」
「名前でいいですよ」

もちろん言うまでもなく呼び名の事だ。というか、元々の呼び方がおかしいんだけど。501に中尉が何人いると思っているのかという話だ。このままじゃ分かり辛い上に堅苦しいので呼び方を変えて欲しいと提案した。が、

「いやだ」
「……どういう意味ですかそれ」

あくまで提案で、別に強制したわけではないけど、まさか断られるとは思わなかった。しかし呼び方が分かり辛いのは事実なので、それをエイラさんに伝えるとエイラさん精一杯苦々しげな顔をしながら、

「苗字で、呼ぶ」

何か違いがあるのかな、と私は思わずにはいられなかったけど、とりあえず、距離感の問題なのだろうとその疑問は心の奥深くにしまっておくことに決めた。もし、名前で呼んでもらえる日が来たら、その時思い出そう。
にしても、人間関係とはこんなに複雑なものなのか、と思う。前に501に入った時は新兵として入った時には、これ程苦戦したような気はしないんだけど。皆の性格が少しずつ違っているのか、それとも、私が変わりすぎているのか。皆には無い前世、その分が皆との距離を突き放しているのだろうか。

(まあ、別に構わないけど)

そんなのはこれから埋めれば良い事だ。仲間でいられる時間はそう長くはないのかもしれないけど、少なくとも生きている以上、いつか分かり合えるものだ。
今朝に見た夢。あれがルッキーニちゃんの最後だった。結局死ぬまで、いや、一度死んで生まれ変わってさえ私にはあのルッキーニちゃんの言葉が分かっていない。

(今度は)

守れなくとも、でも後悔は残さない。戦いの中で死んでしまうのは避けられない。少なくとも私はそれを避ける方法を知らない。だけど、胸に皆の言葉を閉まったまま生きていくのは、辛い。それはもう体験した。だから、後悔だけはしない生き方を、今度は選ぶつもりだ。
私が考え事をして間にエイラさんはカードをシャッフルし、それを机の上に置いた。流れるような手つきで、趣味の一環と言えど相当な数をこなしてきたことが窺える。

「それで、何を占って欲しいんだ?」

ん? あれ? 私が聞かれる方なの?
坂本さんの話ではエイラさんの相談に乗ってくれという話だったけど、私が相談に乗ってもらう側になってしまっている。……ん。そういえば、前の時リーネちゃんがそんな事を言っていた気がする。エイラさんの「人生相談」と聞いて、一人エイラさんの悩みを解決しようとしていたという話を聞いた時はそそっかしいと思ったけど……。

(そういえば、そんな事もあったなあ)

今の今まで忘れていた。確かに、エイラさんが人生相談というのをやっていた事を私は知っている。シャーリーさんが坂本さんに頼まれて相談を受けに行ったというエピソードは、さっき初めて知ったわけだけど。私は、確かラジオで聞きながら、何かの仕事をしていたような気がする。それで結局終わる間際に何とか滑り込んで、占ってもらっ……占って貰ったっけ? 何か違ったような気がする。流石にあんまり覚えていない。

(それにしても、何て言えばいいんだろう)

正直に間違えてましたと言った方が良いのだろうか。それとも、何か適当に占って貰うのが良いのか。うーん。落ち込んでるのは本当みたいだし、付き合うべき、かな。多分。じゃあ、何を占って貰おうかな。
そんな事を考えていたはずだったが、

「ルッキーニちゃんは空を飛んでいられる?」

私は、自分が何を考えているのか分からなくなった。私の意思を無視して心の奥底から滑り出た言葉というのもあったけど、何より、自分が前の世界の事をそこまで気にしているとは思っていなかった。参考にはするし、目標にすることもあるだろうとは思っていたけど、まさか、ここまで。
案の定エイラさんは意味の分からない、という顔をしていた。それから、私の事を変な物を見るような目で見ながら二、三度瞬きをした後に、

「なんだそれ」

そう言いながらエイラさんは、僅かの時間私を見つめていた。そして、数秒の沈黙の後、話を続けた。

「……まあ、別にいいけど」

そう言ってエイラさんはカードを広げ、その中から一枚を選びとった。その後そのカードを見た。意図しない質問だったとはいえ私としてもこうなれば結果が知りたくなる。

「どうですか?」
「……あー、大丈夫だよ。問題なく上がりを迎えるみたいだ」

私の質問にエイラさんはカードを山札の中にしまいながら答えた。カードが何だったのかは少し気になるところだけど、エイラさんが面白みが無いと言わんばかりに投げやりに山札にしまいこんだ為に、私がそのカードが何だったのかを知る事は無かった。

(それにしても)

「そっか、大丈夫なんだ」
「ん?」

私がこの世界にいるから、という事かどうかは分からないけど、エイラさんの占いを信じる限り、ルッキーニちゃんはこの世界では墜ちて死ぬことは無いようだ。

「そっか……!」

私がルッキーニちゃんの無事を喜んでいるちょうどその時、後ろからノックの音が聞こえた。恐らく、シャーリーさんとルッキーニちゃんだろう。私と違ってシャーリーさんは(多分)真面目にエイラさんの相談に乗るだろうから、私がここに居ては邪魔になるだろう。

「ありがとうございました、エイラさん!」

私は、そこで席を立った。












言い訳
・ネタ切れで過去を持ち出してみる
 ・どこに向かっているのか
・アマツ超強い誰か助けて



[22701] 501 6話 らぶれたー秘録
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706
Date: 2011/01/03 15:06
1
「それで、ミーナさんが『厳禁です』って言って……」
「ミーナ中佐、凄く怒ってました」

午前の訓練が終わって一人優雅に、あるいは、寂しく昼食を摂っていたところ、こっちの私とリーネちゃんが愚痴りにきた。なんでも、赤城の乗組員からラブレター、と思われるものを受け取ろうとしたところ、諸々のアクシデントを挟んだ後、ミーナさんにその船員は持っていたラブレターと共に追い返されてしまったという話みたいだ。
それはミーナさんの老婆心、というか自分と同じ経験をさせたくないという一種の贖罪だとは思うんだけど、二人はそれで納得できないみたいだ。……まあ、私の事でもあるんだけど。

(……でも私は、人に愚痴ったりはしなかった。はず)

つまり、いまここに私がいるから変わった事象になる。エイラさんがルッキーニちゃんは最後まで飛び続けるとお墨付きも出てるし、僅かずつだけど差異が出てきている。それが良いのか悪いのは置いておくとして。
というか今更ながらどうして私の所に来たんだろう。と思ってはみたものの、丁度こっちの私の次の言葉で疑問は解決した。

「ファルシネリさんはどうしてるんですかこういう時」
「え、私? 私は――」

どうしてたかな? 今も前も基本的に忙しくない時期が無かったから、そういうものとは無縁だった気がする。ゼロだったとは言わないけど。501に入ってからは今回の私のようにミーナさんに徹底的に弾かれているはずだし、ファンからの贈り物、とかいうものならともかく10歳前後の子供にラブレターを送る人間は残念ながらガリアにはいなかった。というかそれ以前にガリアにそんな余裕は無かった。

「ごめんね。私も良くわからないかな。あんまり、縁が無くて……」

これが一番無難な答えだと、私は思った。良くわからないと言い訳しておけば後からどんな後付もできるし、あんまり、と付け加えておけば一応ゼロでは無いから敗北感にも陥らない。完璧だ。この状況でこっちの私とリーネちゃんの追撃を防ぎつつ私の(戦闘期間的に)先輩としての体面も保つ。昨日夜お風呂場でシャーリーさんの乳が肘に当たっただけの事はある。
なんて、考えていた私は、かっての自分自身の行動力と度胸を忘れてしまっていたという事だ。

「じゃあリーネちゃん、ファルシネリさん、他の人に聞きに行かない?」

それに私の天使たるリーネちゃんも賛同してしまったから笑えない。腕にその大きなそれを当てながら「一緒に行きましょう」なんて言われたら付いて行かない訳にはいかないし。本人は天然でやってるんだろうけど、ああいうのはずるいと思うなあ。





とりあえず、誰から聞くかという話になったけど、一番気になるのは坂本さんだという事で場が一致したので私とこっちの私とリーネちゃんは坂本さんがいつもこの時間訓練している広場に来ていた。そして坂本さんは、私達の予想通り、いつも通りにこの広場で刀を振っていた。
坂本さんを見つけるとこっちの私が一目散に走っていった。

「坂本さん! 今お時間良いですか?」
「……ん、宮藤か。構わんぞ、丁度一通り流したところだからな」

坂本さんはこっちの私が話しかけているのを認めると、あっさりと許可を出した。あまりキリが良いタイミング、とは見えなかったけど、そこら辺が坂本さんが坂本さんたる理由なのかもしれない。
坂本さんは一息ついた後、傍に置いてあったタオルで汗を拭き取りながら、私達に質問の続きを促した。

「それで、どうした?」
「実はですね、坂本さん」

坂本さんに促されてこっちの私が今日の一件を伝え始めた。話の途中で何度か坂本さんは顔を顰めながらもこっちの私が話し終えるまでは一言も発さなかった。そういえば、坂本さんはミーナさんの過去を知ってるんだよね。私が、知る事になるのはもう少し先だったと思うけど。

「……その規則については私から話すことでは無いな」

どうやら坂本さんはあの規則の成り立ちについて話すかどうかを思案していたみたいだけど、考えた結果として自分から話す理由は無いと判断したみたいだ。人の過去を語り散らすような人ではないし、例の規則について話すにはミーナさんの過去は避けては通れないからだろう。
坂本さんはそれを小さくボソボソと呟いた後、顔を上げて雰囲気を明るいものに切り替えてから、話し始めた。

「そうだな、501に入る前はそれなりに貰っていたぞ」
「えぇ、そうなんですか!?」
「それはどういう意味だリーネ。……まあ、そう思われるのは仕方ないのかもしれんが」

『女の子』と言い難い性格であることは、自覚しているつもりだ。と続ける坂本さん。だが、そんな事言いつつも坂本さんはまだ二十歳だ。少なくとも三十路を超えていまだ独身だった前の世界の私に比べれば何てことない言わざるを得ない状態だ。

「というより、少佐が、その、芳佳ちゃんみたいに戸惑ってるところが想像できなくて……」
「いや、手渡しの物は貰ったことはないぞ。郵送だと断りようがないから受け取っていたが」

多分、正確には貰ったことがないんじゃなくて、手渡しの物はその場で突き返していたんだろうな。ほら、何ていうか、

『私は、今から戦いに出向かんとしている。だというのに、どうして今その思いに応えられようか』

……少し、違うか。これは、何ていうか扶桑っぽくない言い回しだ。というか、こんな文章を作る言語体系はこの世界には無い、かもしれない。
ただ、何となくこのぐらいは言ってくれそうな気がする。こんなこと言われたら絶対、その、ああなっちゃうと思う。

「応援そのものはありがたいとは思うんだが、今はまだ、私は空から降りるつもりはない」

と、坂本さんは締めくくった。それはつまり、そういう事なのだろう。小さな差異こそあれ結局重要なところは変わらなかったという事だ。





ゲルトルート・バルクホルン大尉。カールスラントで開戦当初より戦い続けた歴戦のエース。その固有魔法にあかせた力技と、経験に則った堅実な戦い方を使い分けられる万能型のエース。という訳で、私達三人は坂本さんから話を聞いた後、バルクホルンさんの元にやってきた。坂本さんと同じく長期間の戦闘を行ってきた人で、その上国民の軍事への関心の高いカールスラント出身という事もあって実際に『そういう』経験を繰り返してきたと考えられるから。
バルクホルンさんは訓練だったのか厨房で遅めの昼食を食べていた。

「なるほど、規則か……」

バルクホルンさんも坂本さんと同じような反応を最初は返したが、坂本さんより早く切り替え、聞かれた自分の経験について語り始めた。

「まあ確かに、空を飛んでいればそういう事もある」

バルクホルンさんは確かに、とあまり肯定的ではない前置きをした後、実際にそういう事もあった、と認めた。
これに対して、こっちの私とリーネちゃんは眼を輝かせて、倒れんばかりに前のめりになりながらバルクホルンさんの次の言葉を待った。
するとバルクホルンさんも満更でも無いような顔でそれについて続きを話し始めた。

「ただ、貰ったものは余裕がある時は一通り目を通していたが、特に心惹かれることは無かったな」

バルクホルンさんは満更でも無いような顔をしては居たものの特にそれらに興味を感じる事は無かったようだ。妹命な人だし、そういう事もあるんだろう。そういえば、バルクホルンさんの妹さんが目覚めるのはもう少し先だったような気がする。

「501に入ってからはないな。皆規則を順守しているようで、良い事だ」

今回の件は新入りの整備兵たちが暴走してしまった結果だろう。なにも忘れてしまえとは言わないが、あまり気にしすぎる必要はない。
バルクホルンさんは現在の部隊についての見解を述べた後、こっちの私に今回の件についての自分の意見を述べた。こっちの私もそれに頷いた。
その後、バルクホルンさんは顔を若干赤色に染めながら、こう言った。

「……だが、まあ、なんだ、ウィッチの間でのやり取りは禁止されていない。いや、だからどう、というわけではないんだが」

バルクホルンさんは現在の規則の盲点(?)について述べた後、何故か清々しい顔で微笑み、こう断言した。

「ただ、規則で禁止はされていない、という事だ」

それだけは覚えておいて欲しい、といやに真剣な声で私達に伝えた。






シャーリーさんはいつものように自分のストライカーを弄繰り回していた。いつものように魔法繊維の服ではなく、作業着を着て口にねじを加えている姿はこの人が本当にウィッチなんだろうかという疑問が沸きあがる、
今回話しかけたのは私からだった。

「シャーリーさん」
「……ん? ふぁふぁ、ひょっとふぁってくれ」

私が話しかけるとシャーリーさんはストライカーの下から周りにばらまかれたパーツを動かさないようにしながらその豊満な体を引き出した。その後、工具箱からテープを取り出しそれに何かを掻き込んでそれを口に咥えていたねじに貼り付けた。

「ふぅ、それでどうした?」

シャーリーさんはふぅと息を吐きながら作業着を肌蹴させた。すると、中には薄いぴっちりとしたタンクトップ一枚だけであり、私は思わず呻いてしまった。こっちの私も動揺に呻いていた。
今日シャーリーさんを訪ねてきた理由についての説明はこっちの私が引き継いだ。

「実は今日、ミーナさんに怒られちゃって……」
「へー、なんで?」

話を聞くとやはりシャーリーさんも微妙な顔をした。多分精神的に大人なシャーリーさんにはミーナさんの過去云々はともかく心情については大凡察しがついているんだと思う。そして結局シャーリーさんもその事については触れないようにするみたいだ。

「メッセージなんかは素直にありがたいんだけどさ。ただ、特に食べ物はやめてほしいよな。どこから送られてきたのかは分からないんだけど、基地に腐ったケーキの残骸が届いてて。どうも私の誕生日に合わせて送ってくれたみたいなんだけど」

でも捨てるのも辛いし、だからと言って食べるわけにもいかないし。シャーリーさんは自分の思い出の中でもどうにも困ったことについて話し始めた。
その口調から、食べ物に限らず、プレゼントに関して不満があるみたいだった。

「ただ、良かったこともあるんだ」

そう言いながらシャーリーさんはストライカーを固定しているボルトに引っ掛けてあったゴーグルを私達に見せた。普段からシャーリーさんが身に着けているものだ。

「これと同じのをルッキーニが欲しがったんだけど、なかなか見つからなくて。でも、
手紙のやり取りを続けながら、ようやく見つけたんだ」

今それは、ルッキーニが持ってるよ。そう言って時計を見ると顔を顰めて私達に謝りながらも作業着を着なおし始めた。このままだと間に合わなくなってしまうかもしれないらしい。そこで、私達はシャーリーさんにお礼を言ってハンガーを後にした。
そしてその後既に遅い時間だったのでそのっま夕食を摂って早めに部屋に戻った。最近外れがちとはいえ、明日はネウロイの出現予定日だ。




2.
次の日、朝早くから警報が鳴り日居たものの、坂本さんが言った通り珍しくも予想が当たった為皆落ち着いてブリーフィングに望んでいた。
その内容はガリアから敵が侵攻してきているという話だった。もちろんこれは前と何一つ変わらない。中身がどうなってるのかわからないけど。
話が終わると坂本さんが出撃のシフトを発表した。その内容はミーナさん、坂本さんに加えて前衛にハルトマンさん、バルクホルンさん、後衛にペリーヌさんリーネちゃん隊長機とその補佐の直掩機にこっちの私。戦力的に何ら問題は無い。と太鼓判を押せるほどのエースの大量投入だ。まあ、エースしかいない、というのが501の特徴の一つなんだけど。

「それと――」

だけど、坂本さんはそれで終わりにはしなかった。戦力的な不安は、無い、はすなのだろうけど、こちらを向いて誘いの言葉を掛けた。

「ヴィオレーヌ、お前も出るか?」
「いえ、大丈夫です」
「……そうか、ならいい」

恐らくシフト的には問題なかったのだろうけど、ガリアが関わっている、という事で坂本さんからしたら私を出撃から外すのが心苦しかったのだと思う。
その後坂本さんは残りのメンバーに基地待機を命じた後、出撃の準備に取り掛かった。

「本当に良かったのか?」

出撃組がバタバタと出て行った後のろのろと待機室に行こうとしていると後ろから話しかけられた。声の出どころはシャーリーさん。多分、心配してくれたのだと思う。
その掛けられた声に、私はどう答えるべきか迷ったものの結果的に坂本さんの時と同じ言葉を返した。するとシャーリーさんも坂本さんと同じような言葉をこちらに投げた。
私が行かなくても、特に問題は怒らない。音速で接近しているとか、そういう情報があるのならともかくとして、あの人型ネウロイが来るとは限らない。それに来たとしてもあのエース部隊が負ける事は想像できない。そもそもの問題として、私は別あの国をそんなに好いてはいない。
きっとなにも起こらない。前と同じだった。だから、何も変わっていないし、変えられない。


 

そして当然だけど何も起こらず皆無傷で基地に帰ってきた。ただ、坂本さんの髪が不揃いになっているのに気づかないほど私は鈍感にはなれなかった。





3.
リリー・マルレーン。
ある詩人が北方に向かう際に残していた詩集から10年の時を経て作曲家によって曲として成り立ち、現在カールスラントやその移民先で流行している、恋の歌(だったと思う)でお間に女性歌手によって歌われている。
それを、戦いから帰ってきたミーナさんが男性を含めた場で披露してくれた。あのお堅いミーナさんがこんなことをするのだから、当時の私はかなり驚いていたと思う。……まあ、つい私も興奮してなかなか寝付けずついでに喉が渇いてきてトイレに行きたくなって、とりあえず水飲んでから出そうと思い食堂へフラフラと歩いていた。

(確か、もうすぐだ)

もうすぐあのごつごつした10m超の準人型ではなく、本当の、限りなく人間に近い人型がこっちの私の前に現れるはずだ。その時、きっと私は決断できないだろう。私と同じように。私と彼女の決着がつくのはもっと後の話だ。だから、とりあえず今は――

(ん?)

何か聞こえた、ような気がする。

(あの部屋から、かな)

扉に耳を当てると、中の話し声が聞こえてきた。

「――今でも恐ろしいわ」

少し聞こえづらかったけど、何度か身じろぎして耳を適当な位置に置くと、とく聞こえるようになった。

「それなら、失わない努力をすべきなのよ」

声は、ミーナさんの声だった。暗くて気づかなかったけど、もしかしたらここはミーナさんの部屋なのだろうか。

「なんだ? 随分と物騒だな」

話の相手は、恐らく、坂本さんだ。中で何が起こっているのかは分からないけど、坂本さんが、物騒だ、なんて言葉を出す以上は恐らく銃をミーナさんが取り出したのだろう。

(……どうしたらいいんだろう)

前の世界ではなかった話だ。いやこういう事も起こっていたのかもしれないけど、少なくとも私は知らない。というか、空が白み始めているのに起きている事なんてめったにないから、恐らく知らなかっただけなんだと信じたい。じゃないと、

(止めなきゃ、いけないのかな)

服の裏ポケットから折り畳み式のナイフを取り出しておく。銃を相手にするには心細いけど、いくらなんでも寝間着で銃なんか携帯していない。

「約束して。もうストライカーは履かないって」

ミーナさんは坂本さんにそう言う。恐らく、この頃にはもうミーナさんは坂本さんの魔力が減ってきているのを知っていたんだろう。私は、全く気付いていなかったけど。
ミーナさんは半分縋るような声であったというのに坂本さんの答えは一貫して、厳しかった。

「それは命令か?……そんな恰好で命令されても説得力がないな」

……あれ? ミーナさんまだ着替えてない? もう明け方なのに? そういえば、大浴場でミーナさんがお風呂に入ってるところ見たことが無いけど……。いやでも、前の世界ではちゃんと入っていたし、まさかそんな……?

「私は本気よ! 今度戦いに出たらきっと、」

さっきの思考が渦巻くせいでいまいちミーナさんの言葉が頭に入ってこない。

「……きっと、あなたは帰ってこない!」
「だったらいっそ自分の手で、という訳か? 矛盾だらけだな、お前らしくもない」
「違う! 違うわ!!」

ミーナさんが叫ぶ。その声は、悲痛に満ちていた。坂本さんを死なせたくないという思いと、もうひとつのなにか。それが矛盾しているせいで雁字搦めになって何もできない。
だけど、ミーナさんのそんな叫びでさえ、坂本さんに届くことは無かった。

「まだ飛ばねばならないんだ」

そう言い残して坂本さんは歩き始めた。こっちに向かって。

(あ、まずい)

私は急いで扉から離れようとしたけど、元々の体勢が悪かったせいでとてもじゃないが逃げきれそうも無かった。
もう少し時間を、そんな私の願いを無視して、無慈悲にも扉は開いていく。

「あ……」
「っヴィオレーヌ!? お前……!」

坂本さんに見つかってしまった。という事は恐らくミーナさんにもばれただろう。

「そうか、聞いていたのか……」

坂本さんは諦めた様に私の存在を認めると、一言を残して歩いて行った。

「すまない」

そう言ったあと、坂本さんは一度も振り返らなかった。ミーナさんに他言無用と命令された後、私は部屋に戻った。










言い訳
・主人公放っておくとどんどんぼっちになるのは何でなの?
・ミーナさんのセリフ本当は「~なの」で終わるはずなんだけど文章にするとあれだったから「~なのよ」に変えました。



[22701] 501 7話 閃光Ⅰ
Name: どろん◆165cf8b7 ID:7202c2ab
Date: 2014/11/29 09:26


0.
『お前の、勝ちだよ』

彼女のストライカーがあるべき姿に戻っていく。彼女にはもう戦う術はない。銃は破壊したし、通常兵器はとうに残弾なし。最後の手段も今撃ち抜いた。

『笑いなよ。……まあ、お前は優しいから、泣いてもいい』

それだけではない。振り絞っていた魔力も尽きたようで滞空さえ覚束無くなっている。

『……その顔は、可愛く、ないよ。敵の、前でもさ?』

彼女の体が傾いていく。体力も限界だったのだろう。出血も激しかったはずだ。体がくの時に折れその顔が見えなくなっていく。

『ごめん、先に――。』

楽になる。そう言ったような気がした。
冬の海へ落ちていく彼女を見る、自分の鮮明な視界。その端に入ってきた黒と赤の、甲羅に包まれたような震電。銃を手放そうとしない自分の手。
それら全てが私を責めているような気がして、でも涙も笑顔も出なかった。
この感情をどこにも吐き出してはいけないと思っていたから。
これこそが彼女たちが私に残してくれた唯一だと信じていたから。


1.
ストライカーの形成する飛行機雲が、良く晴れた空を裂きながら遠ざかっていく。こっちは、とてもまだ一年内の経験とは思えない軌道で後ろからの追撃を良く躱している。その姿が自分の物であった時には余裕が無くて、あまり自分の事を評したことは無かったけど、今なら言える。私は天才だ。それまで触ったことも無かったストライカーを起動し、空を飛び、そして戦った。才能以外の言葉で片付ける事は、多分できない。ウィッチの多く、特に501部隊クラスのエースとなれば、その殆どが不断の努力を続けているもので、それを覆すには努力だけでは絶対に足りないはずだ。これはもう、天才だと褒め称えるか、もしくは、まるで自分の為に誂えたようだ、と現実を自覚しなければならない。結果はどうあれ、そこに至るまでのヒントとして自分の存在があったことは恐らく間違いない。完全な事は、私にも分からずじまいだったけど。
ルッキーニちゃんの機体がこっちの私に迫っていく。しかし、こっちの私はそれを不安定ながらも風を利用し逆に後ろに着く。詳しくは覚えていないけど、ハルトマンさんの技を見よう見まねで使ったんだと思う。たしか、 私はそんな風に記憶している。5つの点の動きが止まる。多分、リーネちゃんが撃墜判定を出したんだ。私が、撃墜したはずだ。

「もう2,3か月もしたらエースを名乗れるかもしないな、宮藤は」

まあ、二人の油断もあったようだが。坂本さんは黒に近い茶褐色の目で今終わった模擬戦闘の方角を見ながら、喜びを隠しきれない声で言った。魔眼は使っていないはずなのに、まるで全てを見届けたかのように今回の結果を評する。少し強い風が吹き、坂本さんのそのしなやかな髪を揺さぶる。坂本さんは煩わしそうに髪を後ろに撥ね退ける。

「私の魔力は、もう減退期に入っている」

坂本さんはこちらを見ずに、こっちの私達の帰還を見守りながらそう言った。自分は、もうそう長くは飛べない、とそういう意味の言葉を私に向けて放った。私にはそれがどういう意図で言ったものなのかは理解できなかった。隊の仲間を故意に不安にさせる人ではない。それは良くも悪くも、私の知る限り変わらない。

「でも、まだ飛ぶんですよね」
「……ああ。私はまだ空にやり残した事がある」

私が水を差すような言葉を口に出すと、坂本さんはそれを肯定した。まだ終わっていない。そう言った。それが、戦いのへの未練なのか、それとも残してきた雛鳥達の事なのか、それすら、私には分からなかった。……、いや、きっと分かる方がおかしいのだろう。逃げる為に戦い続けた私とは違って、確固たる意志と目的を持って空を飛び続ける坂本さんを理解できるはずがない。もしかしたら。今、この基地に向かって飛行している雛鳥の私になら、その答えが分かるのかもしれないけど。

「私にはまだ、翼がある」

坂本さんはそう言い切った。こんな話を私にするのは、私があの夜あの話を聞いてしまっていたからだろうか。不安にさせまいとここに来たのだろうか。もしそうなら逆効果でしかない。私には坂本さんのその言葉の一つ一つが、怖い。そのボロボロの翼でどうしてまだ空に手を伸ばすのだろうか。無理だ。きっとできない。それは前の私が証明している。犠牲にしてしまった、私が。

「無理だと、思います」

止められるなら、止めないと。もしここで坂本さんを止められるなら、それはきっと間違いじゃない。きっと坂本さんは多くの優秀なウィッチを鍛え上げ、そしてそのウィッチ達は多くの命を守るはずだ。例え空を飛んでいなくても、坂本さんは十分に何かを守れるだろう。だけど、

「すまんな。空を飛ぶことは、私の誇りなんだ」

だけど、坂本さんの守りたいものはそこにはないのだろう。
坂本さんは謝ってるくせにほんの僅かの反省もなく、そう言い切った。分かってはいたけど、私にはこの人は止められない。
もちろんその結果がどうなるのか分かっているし、もしそうなってしまったら私は今無理やりにでも止めなかったことを後悔するだろう。

(でも)

信じたくなる。この人なら、私の知っている全ての過去を台無しにして、新しい未来を作ってくれるんじゃないかと、期待に心が揺らいでしまう。
ただ、何となく。何となく、今度こそ信じていい気がした。今日の事で後悔する日はこないような、そんな気がしてしまった。
坂本さんはそこまで言うと、私に背を向けて歩き出した。その足がどこに向かっているのかは、多分、私の所だろう。

「風が強い。お前も早く戻れよ」

どの道、坂本さんが進退窮まるのは、もう少し先の話だ。いま考える事じゃない。





2.
坂本さんに言われた通りベランダを後にして、格納庫に向かう。もうすぐ、ウォーロック関連のいざこざで格納庫が閉じられてしまう事を今更ながら思い出し、何とかできないかと考えての行動だった。もっとも、格納庫が閉鎖されてしまう、という話は聞きかじりでしかないけど。
格納庫に着くと、シャーリーさんとルッキーニちゃんが既にストライカーを起動させ始めていた。

「あー! ヴィーネ!」

入り口近くでストライカーに乗っているルッキーニちゃんと眼が合う。それでシャーリーさんも気づいたようで、挨拶を返してくれる。

「何してるんですか?」

確かに今日はネウロイが来る日だけど、それは私だけが知っている私の世界の話に過ぎないはず。本当にその通りに事が進むかどうかは完全に未知であって、シャーリーさんやルッキーニちゃんがここで戦闘準備している理由にはならない。

「私は見てなかったんだけどルッキーニが」
「芳佳とペリーヌが飛んでっちゃったー」
「……って言うからさ。そしたら本当にストライカーが無くて。しかも、実銃を持って行ってるみたいなんだ」

誰にも何も言わずに実銃を持って二人で飛行訓練。……確かに傍から見たら心配されてもおかしくないような行動だ。

(そっか。ペリーヌさんとの決闘)

少しだけ、懐かしい。後から聞いた話だと私に坂本さんを取られそうな気がしていたらしい。確かに、私は坂本さんに特別目を掛けて貰っていたしね。
私も行かないと。私が行けば、坂本さんが被弾することは多分防げる。それは、前と同じ地点では、という意味ではあるけど。行かないよりは良いだろう。
シャーリーさんに私も行くという旨を伝えて、準備に取り掛かる。

「ヴィオレーヌ。お前……それは」
「……もしそうだった場合を考えてこちらも実銃を持っていくべきです」

逃走の可能性。ネウロイ達の絶望を前にして逃げ出したウィッチたちとそれを追う私たち。その過程で呼びかけに応じないようであれば……、なんてまあありえない可能性。
もちろん本当はただの子供っぽい喧嘩の延長戦でしかないわけだけど。ただ、ここで実銃を持たずに出撃されると、困る事になるかもしれないから、一応、実銃の携帯を促す。

「それだけは無いと思うけどね」

私がそう言うとシャーリーさんは大したことは無い、といった口調で否定を返したが、それでも銃を手に取った。
そこで、警報が鳴った。
耳に良く響く聞きなれた音が過ぎ去った後、ミーナさんから館内放送が入る。

『グリッド東23地区、単騎よ。ロンドンに向かうコース……』
「……なんだ?」
「途切れちゃった」

しかし、その放送は途中で止まってしまう。恐らく、こっちの私かペリーヌさんかが通信を入れて、ミーナさんがそっちに切り替えたのだと思う。
この後もしばらく音沙汰が無かったがすぐにバルクホルンさんが来て私達に待機を命じた。更にその後坂本さんがやってきて、現在の状況とこれからの作戦についてを話した。その内容としては、敵の詳しい位置、速度、そしてこっちの私が先行してしまった事、それを今から追跡するとのことだ。

「どうやら敵ネウロイはガリアに向かっているようだ」

宮藤を取り戻す。坂本さんはそう言って私達を誘導し始めた。




3.

(未来はそう簡単には変わらない)

良い意味でも、悪い意味でもそうだ。

(そもそも、私はそうであって欲しいの?)

未来が変わり、私の予想をいい意味で裏切って欲しいと本当に私は願っているのだろうか。
そもそも私の考えるハッピーエンドとはなんだろうか。争いもなく、ネウロイもなくみんなで笑って暮らせる世界が欲しい?坂本さんが居て、私が居て、リーネちゃんが居てこれから先に出会うはずの人たちがみんないて、みんなが穏やかに暮らせる世界を望んでいる?
それは幸福だろう。でもそこに現実感はある?長い長い終わらない戦いを経て、それでそんな幸せを私は幸せだと思うのだろうか。悲しみのない世界は幸福なんだろうか。
私は断じれない。戦いだけが私とみんなを繋ぐ絆だったから。どんなに離れていても敵であっても味方であっても。この戦場はいつか繋がっていくんだとそう信じた過去があるから。こうでなければ出会えない幸福がたくさんあったから。戦場以外で彼女たちとの絆のつなぎ方を知らないから。
今の私程空虚な存在は無いだろう。あっちにフラフラこっちにフラフラ、守りたいという気持ちではもう立てなくて、でも座り込むこともできなくて、結局流されるだけ流されて、そしてまた戦場にいる。

(本気で未来を変えたいと思うなら、もっと別の方法はあった)

悪い方にしろ、良い方にしろ転ばすだけならいくらだって。
でもそれを実行できなかったのは、きっと空飛ぶ彼女たちの姿を何より貴いと思うから。
彼女たちの翼が何より美しいものだと知っているから。あるいは、その翼が折れる事にさえ。

(激情が欲しい)

全てを忘れて激情に駆られて生きていられたら、それはきっと間違いじゃないのに。そうなるにはきっと、知りすぎたんだと思う。死に際すら美しいなどと思っているのに、ただ生きていてくれさえすればいい、だなんて自己完結は出来るはずもない。

(ただ)

一つ思うのは、私は幸せじゃなかったからもう一度この舞台に居るんだという事。
戦って、失って、閉ざして。そうして逃げて、いきついた先で私は未練がましくこの世界とこの時間を想ったという事。

(『お前にしかできない事があるだろう?』)

ああ、この言葉だけが私の蜘蛛の糸。意味わからなすぎて半分呪いなんだけど。
答えが欲しい。

「宮藤だ。宮藤を発見した」

インカムから入る声に現実の世界を思い出す。シャーリーさんの声だ。ペリーヌさんとの合流を図る本隊と分かれ私とシャーリーさんだけが先行している。宮藤芳佳を助けるために。
こんな時でも冷静なシャーリーさんはやっぱり場数を踏んでいるのだと感心する。ネウロイの三地同時襲撃の時もそうだったけど、戦いに関わる限りは冷静さを崩さない、内心は相当に焦っているのだろうけど。

「待て!……様子が変だ」

二人の姿を完全に目視できる距離まで来て、シャーリーさんは私の動きを制した。もちろんそれは向こうからも感知できる範囲であるという事。こっちの私はこちらに完全に背を向け気づいていない。人型ネウロイの方は気づいているはずだが、現状こちらに向かってのアクションは起こさない。

(インカムはノイズを入れられてるんだっけ)

私自身は気づいていなかったが、あの人型ネウロイにはそういう能力もあったらしい。

『どういうことだ?交戦中ではないのか!?』

シャーリーさんのインカムに坂本さんが返す。

「分からない……。が、交戦中にはとても見えない。……散歩しているようにも、見える」

更にシャーリーさんが返事を返す。シャーリーさん自身も戸惑っているようでおぼつかない返事だ。散歩というのはもちろん字面どおりの意味ではなくて、初期の訓練や任務後の帰還時間などにウィッチ達がお遊びの飛行をすることを指す、俗語だ。本来通信で使われるべき言葉では無いだろうが、冗長で丁寧な表現よりもシャーリーさんは分かりやすさを望んでこの言葉を使った。
坂本さんからの返答は一瞬言葉に詰まったような間が空いたが、はっきりとしたものだった。

『宮藤の安全が最優先だ。どうなっているかわからないが、まず保護しろ。もし交戦が始まったら全力で回避。本隊が追い付いてから戦闘を開始する』

知らない展開だな、と思う。私が私の時には一番先に駆け付けたのは坂本さんだったし、あの時は相当焦っていたようにも思ったけれど(それどころじゃなくてあんまり記憶がないのはそうだけど)、インカムを通してだからというより、シャーリーさんを通したからだと思う。

「了解」
「了解です」

私とシャーリーさんの声が重なる。何はともあれ目の前の事に集中しよう。考えることから逃げられるならこんなに楽なことは無い。

「ヴィオレーヌ、サポートしてくれ」
「了解」
「……よし、行くぞ」

シャーリーさんは私の状態を一瞬確認すると叫んだ。

「宮藤!シールドを貼れ!!」

言うが速いかシャーリーさんは固有魔法をかなり強引に使って急加速した。私たちの行動に反応したネウロイがこっちの私に攻撃するのを恐れたんだと思う。

「っ!」

もちろんそれに遅れる訳にいかない私も外部加速を展開して急制動を図る。直進するシャーリーさんに射線を潰されないよう一番最初は斜め45度左へ、その後はターゲットに向けて直進する。
とはいえどんなに急いでもようやく声が届くような位置から一瞬で保護できる位置までは至らない。私たちが辿り着くまでの数秒を自身で凌いで欲しかったが――。

「シャーリーさ、ファルシネリさんこの子は、――」

危ない子だな、と思う。今の私からすればなんてことない話だけど、当時この立ち位置に居た人たちは我慢ならなかっただろうな、とは思う。

「っ」

私とシャーリーさんから突き付けられた銃口を見て、まるで宮藤芳佳を庇うかのように彼女から離れた人型ネウロイを見てシャーリーさんの口から息が漏れた。が、

「任せた!!!」

シャーリーさんはそう叫ぶとシールドを貼り発砲しながら更に際限なく加速した。人型ネウロイは反撃の為に腕を翳したが、自爆じみたシャーリーさんの突進に判断を変え回避を開始した。人型ネウロイはシャーリーさんの突進(というか本当は捨て身タックル。もしネウロイもシャーリーさんも避けなければシールドと銃を盾代わりにしてもかなり深い怪我を負っていただろう)をギリギリで躱しつつ旋回し両手からビームを放つが、シャーリーさんはそのくらい織り込み済み言わんばかりに加減速と垂直移動だけで躱し、思いっきりストライカーを前方に向け楕円を描きながら180度方向転換、それでいて速度は殆ど落ちず。
まさにエースと言わんばかりの高技術にネウロイも呼応するように速度を上げる。

「宮藤さん!」
「ファルシネリさん!」

私は兎にも角にもこっちの私を保護。見上げればシャーリーさん(シャーリーさんだけの思惑ではないにしても)はここから遠ざかるように高度を上げながらドッグファイトを開始する。

「ファルシネリさん!違うんです!あの子は!」
「うん。でも」
「きっと、分かり合えるんです!だから」
「うん」

私の腕の中でこっちの私が私に詰めかける。何故止めたのかと。このままならきっと分かり合えたのにと。
きっと私たちとネウロイとの平和の懸け橋になってくれるに違いないと、そう思っているのだ。

(ああ……)

しかし、そこに答えは出せない。少なくとも私の知る限りあの人型ネウロイが平和の懸け橋になった事はないから。むしろその逆、彼女は人類がネウロイを超克する最初の切り札。

(ストライカーのネウロイ化)

彼女はその答え。彼女は私の為にその命を削ったのだ。

「でも、ごめん。彼女はここで殺すべきだと思う」

今日を後悔しない為に。











・ひっそりと
 ・なので、前は反感くらいそうで怖くて出せなかったオリ展開を。



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