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[22653] プレイ日記風SS集 第二部:コレジャナイワンダーランド(DQM), 第一部完結:ああっ女神さまっ(魔神転生Ⅱ) 【ネタ】
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/12/07 22:29
【第二部】コレジャナイワンダーランド(DQM)【2011/4/20 開始】

 注意書き
 ①例によってネタバレです。

 ②一転してシリアスゼロ。
  頭の緩いお話になる予定です。予定です。

 ③勘違いものを目指しています。

 以上3点をご了承いただかずに読まれても、多分問題なかったりします。


更新履歴

prologue A                      4/20  投稿
prologue B                      4/20  投稿
第一話 B ~ 破壊神を破壊した男 ~      10/12  投稿
第二話 B ~ それは まぎれもなく ヤツさ ~  10/14  投稿
第三話 B ~ あなたと合体したい ~       11/02  投稿
第四話 B ~ 聖鳥の系譜 ~            11/03  投稿
第五話 B ~ (省略) ~               11/04  投稿
第六話 B ~ (省略) ~               11/08  投稿
第七話 B                        11/10  投稿
第八話 B                        11/18  投稿
第九話 B                        11/20  投稿
第十話 B                        11/25  投稿
第十一話 B                       12/07  投稿 New
攻略メモ                       11/05  投稿




【第一部】 ああっ女神さまっ (魔神転生Ⅱ プレイ日記風 憑依仕立て 攻略メモ添え) 【2010/11/17 完結】

 注意書き
 ①タイトルの元ネタは言わずと知れた藤島漫画。末妹最高。
  しかし本作はゴリゴリの魔神転生ⅡネタSSです。他作品とのクロスは一切ありません。
  従って女神さまは山ほど出てきますが、三姉妹は残念ながら出てきません。
  タイトルは魔神Ⅱプレイヤーであればほぼ確実に共感してもらえそうですが、
  そうでない方がこの注意書きを読まずに、ある種の期待を持って読んだ場合、
  タイトル詐欺と罵られても文句の言えない内容になっております。
 
 ②酷いネタバレです。
  ストーリーのネタバレは魔神Ⅱの面白さを一切損なうものではないと私は考えますが、
  ゲーム未プレイのネタバレを気にする方で、
  且つ何故かこれから魔神Ⅱをプレイしようと考えている方は避けた方が良いかもしれません。

 ③ゲームをプレイしながらだと3倍楽しめる仕様になっています(当社比)。

 ④設定に関しては「魔神転生Ⅱ」本編から読み取れる範囲に限定し、構成上必要な改変・捏造をプラスして。
  上記に反するような、うろ覚えに因る誤りの類は一切ありませんので、その点についてはご安心ください。
 またヘビーメガテニストの諸兄には、シリーズ他作品との絡みが無いなどの不満もあるでしょうが、どうかご理解ください。

以上4点をご了承の上、お読みください。


更新履歴

prologue     10/21 投稿   10/22 テスト板からチラ裏へ移転
第一話      10/23 投稿
第二話      10/24 投稿
第三話      10/25 投稿
第四話      10/26 投稿
第五話      10/31 投稿
第六話      10/31 投稿
第七話      11/1 投稿
第八話      11/2 投稿
第九話      11/7 投稿
第十話      11/8 投稿
第十一話     11/9 投稿
第十二話     11/10 投稿
第十三話     11/11 投稿
第十四話     11/12 投稿
第十五話     11/13 投稿
第十六話     11/14 投稿
第十七話     11/15 投稿
最終話      11/16 投稿
epilogue     11/17 投稿

元ネタ一覧    12/16 投稿
intermission   12/14 投稿



[22653] prologue     ~ It's only the fairy tale ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2010/12/09 18:38

『驚いたな。まさか意思疎通ができるようになるとは。そうだね、僕の事は「妖精さん」とでも呼ぶと良いよ。』



 その自称「妖精さん」に出会ったのは、目黒の研究所で不審な女性から受け取った「DIO-system」を起動した直後だった。
 とはいえ妖精さんが言うには、暫く前から『観ていた』との事。妙に頭がざわざわしたり、勘が鋭くなっていたりしたのは、どうやらそのせいだったらしい。正確には出会ったのではなく、DIOを通じて『意思疎通できるようになった』だそうだ。


 細かいことは追々に。
 ここに綴られるのは、怪しさギガオンの妖精さんと、それに取り憑かれた武内ナオキとが織り成すささやかな御伽噺である。



stage 0  Opening



 1995年の冬。
 その日は朝から何かがおかしかった。頭が妙にざわざわして、誰かから常に見られているような感覚。その為かどうかは判らないが、胸騒ぎと言うか、嫌な予感が消えなかった。どうやら嫌な予感の方は当たったようで、「緊急回線」からのメッセージが俺に届いた。


:EMERGENCY LINE:
「サキホド ケンキュウジョニテ ゲンインフメイノ
 バクハツジコガ ハッセイシ キデンノ リョウシンハ
 ナクナラレタ
 シキュウ ケンキュウジョマデ コラレタシ」


 すぐには信じられなかった。爆発事故? しかも原因不明?
 メッセージの中にある「ケンキュウジョ」ってのは、多分オヤジ達が働いている目黒技研(正式名称「防衛庁科学技術研究局」)のことだろう。研究内容については聞いた事が無い。恐らく機密に関る何かだろうと思っていた。
 俺は教授に断り研究室を出て、目黒にあるオヤジ達のラボに向かおうとした。だが、突如現れた悪魔の軍勢を率いる男によって東京が電撃的に占領され、身動きが取れなくなってしまった。

 魔都と化した東京。悪魔による新しい秩序の下、目黒のラボに近づく事すらできないまま一年ほど経った頃、反悪魔組織「パルチザン」の噂を耳にした。


 そもそもあのメッセージの送り主は誰だったのか。
 事故が起きたタイミングと、悪魔が出現したタイミング。
 あの事故については幾つもの疑問があった。

 悪魔が関る事件を追っていれば何か手がかりがつかめるかもしれない。
 悪魔から東京を開放すれば目黒のラボにも行けるかもしれない。
 そう考えた俺はパルチザンに入隊することにした。



stage 1 A.D.1996 TOKYO



chapter 1  SHIBUYA    ~ 渋谷開放作戦 ~

 俺は入隊してすぐに、渋谷の街を悪魔達から開放する作戦に参加することになった。パルチザンの本拠地がある新宿の周りを、確固たる地盤にするための作戦だそうだ。
 実行メンバーは「橘カオル」に「菊池トモハル」と俺、「武内ナオキ」の三人。まだ規模が小さいパルチザンとしては余り割ける戦力が無いとのこと。入ったばかりの俺に、貴重であるらしい通信用のヘッドセットを渡すとは。これは余程人材がいないのだろうか。聞けば渋谷の悪魔は烏合の衆らしいが、本当に大丈夫なのかと不安になった。

 一緒に行くことになったカオルはパルチザンのリーダーで、冷静沈着な「切れる男」だ。刀を使った近接戦闘に長けている。
 トモハルは一年前のあの日、行方不明になった妹を探していたところを悪魔に襲われたそうだ。そして危うい所をカオルに助けられ、そのままパルチザンに入隊したらしい。ボウガンが得意なお調子者だ。

 渋谷に着くと、何体かの悪魔が散らばってうろついていた。確かに全く統率されていない様子。「外道スライム」あたりは知っていたが、奥に居る骸骨は初めて見た。カオルに聞けば「邪鬼ウストック」だと言う答えが返ってきた。たまに鋭い一撃を放ってくるので注意が必要との事。ついでにこの辺で最近見かける悪魔について、基本的なことを教えてもらった。


 慎重に進撃を開始。まずはこちらの拠点に最も近いスライムを目標に。スライムが相手ということで、俺達に経験を積ませるためカオルは静観。
 まずはトモハルがボウガンで牽制し、俺がナイフでトドメ。かなり緊張していたが、拍子抜けするほどあっさりと、無傷で最初の戦闘を終えることができた。奴の屍骸の下から、箱に入ったきずぐすりが出てきた。落ちていた道具を拾おうとでもしていたのだろうか。
 近くに居たもう一匹のスライムも同様に処理し、続けて接近してくるウストックに対処。無造作に近づいてきた敵に対して、カオルが先制して体勢を崩し、トモハルがボウガンで追い討ちをかけ、弱ったところを俺がトドメ。こんな骸骨にボウガンでダメージを与えるとは、実はトモハルは凄いヤツかもしれないと思った。不思議なことにウストックがむき出しの「まほうびん」を落とした。こういうことも稀にあるらしい。肋骨辺りに挟んでいたのか。
 ウストックに集中しすぎたせいか、三体目のスライムの接近に気付けず、トモハルが近寄りざまの一撃をもらった。幸いそれほどの痛手にはならなかったようだ。最早手馴れたもので、トモハルと協力して屠ることに成功。屍骸の中から宝石トパーズが出てきた。謎だ。
 あとはカオルの指示に従って、一匹ずつおびき寄せての繰り返し。全て片付く頃には連携もかなり良くなっていた。

 敵拠点を守っていたのは「闘鬼ウェンディゴ」。マッチョで半裸と言う非常に近寄りがたい格好だったが、問題なく倒せた。ウェンディゴは姿形が人間に似ているので攻撃が鈍るかと心配したが、不思議とすんなり倒すことができた。そもそもこちらを殺す気満々の鬼に対して、手加減とか考える余裕は全く無かったというのも大きかっただろう。


 作戦行動中は妙に勘が冴え渡っていた。悪魔との戦闘など初めてなのに、何となく相手の動きが読めたり、相手のどこにナイフを突き立てればいいのかが分かったり。自分でも不思議な感覚だった。戦闘後カオルとトモハルにも褒められた。初めてとは思えない動きだったと。

 更に次の作戦までは間があるので、俺の両親の手がかりを探すため目黒のラボに行くなら付き合うとまで言ってくれた。本当に気持ちの良いやつらだ。この借りはいつかきちんと返さねば。



chapter 2  MEGURO    ~ “ 目黒技研” 突入作戦 ~


 道中特にトラブルもなく目黒技研に到着した。研究所の周囲を悪魔が囲んでいる。
 トモハルが斥候の真似事(本人談)をしてきたところ、近くにスライムと「邪霊ゾンビ」、駅の向こうにウストック二体とウェンディゴ一体、そしてラボを守るように「妖鬼モムノフ」一体と、ポツンと外れてウェンディゴがもう一体。どこが真似事だ、完璧に本職じゃないかと、ちょっとだけ見直した。

 こちらは三人、敵は多数。だがカオルに従って闘えば負ける気がしなかった。渋谷でのカオルの指示は的確そのもの。こういうのを名指揮官と言うのか。実際カオルもこの戦力なら勝てると踏んだらしく、表の悪魔を排除してラボに突入することになった。

 邪霊ゾンビ。マヒの状態異常を引き起こす魔法「パラルー」を使用するかなり鬱陶しい悪魔だ。マヒで足止めされたくなかったら、いつも以上に慎重に間合いを計る必要がある。ここでは、敢えて気にせず突っ込む方針を採用することに。状態異常の危険度は周囲の状況によって大きく左右されるのだそうだ。
 奥のモムノフは強敵。大昔の武者の亡霊と言ったところか? だが、一般に拠点を防衛している悪魔が積極的に動いてくる可能性は低いので、あまり警戒する必要は無いとのこと。


 作戦決定後、いよいよ進撃開始。目の前のスライムを鎧袖一触。
 予想通り近寄ってきたゾンビに、「パラルー」を撃たれたが不発。魔法へのレジストなんてどうしたら良いか全くわからなかったが、運が良かったと言うことか。もっとも、カオルが言うにはそうそう当たるものではないらしい。

 ゾンビの動きが止まったところで、一斉に反撃を開始。ゾンビは物理面に関しては、妙に耐久力が高いがそれ以外はからっきし。その耐久力も、三人がかりでギリギリ削りきれるレベルだった。
 その後も寄ってきたウストック達を、上手く間合いを外して一匹ずつ処理しながら前進。橋に陣取っていたウェンディゴは、相手の射程外からトモハルが一方的に削って俺がトドメ。これまでの壁役で手傷を負っていたカオルは、この隙に近くの泉で傷を癒していた。こういった体力・魔力を回復させる水が湧き出す泉は各地に存在し、それを上手くおさえることが戦いのカギなのだそうだ。
 ラボへの入り口を守っていた妖鬼モムノフも確かに強かったが、連携の取れた俺達の敵ではなかった。

 
 ここでトモハルは次の作戦の準備のために本拠地へ。ラボ内にも悪魔が居ることは予想できたが、元々好意でついてきてくれた連中だ。これ以上を望むのは我侭ってもんだろう。「無理すんじゃねーぞ!」と言って去っていくトモハルに感謝しつつ、カオルと二人でラボに侵入した。

 何故かトモハルがボウガンを置いていった。謎だ。
 


chapter 3  LAVORATORY  1F   ~ 防衛庁科学技術研究局 ~

 当然内部にも悪魔の群れがいたわけで。オヤジたちの事で気が急いていたのか「何でこんなところにまで」とか言ってしまった。はずい。

 トモハルが別行動のため、かなり厳しい戦いになることが予想された。
 とりあえず正面にある泉を確保するべく駆け寄ろうとしたら、「迂闊に泉に隣接すると悪魔に先に占拠され易い」と注意された。俺の位置からは同じく正面に見えている邪鬼ウストックも微妙に間合いの外。どうしたものかと迷っていると、カオルが「ウストックを無視して隣の部屋へ向かう」と言い出した。

 「カオルは攻撃できる位置なのに何故しないのか」と尋ねたら、「弱らせ過ぎると、相手が逃げ出して面倒になる」と言う答えが。「一息に倒せないなら、むしろ先攻のほうが攻撃を受けるリスクが高まる」とも。更にはわざと素手で攻撃して、相手の攻撃を誘う戦法すらあるそうだ。俺には思いもよらない考え方だった。


 ともかく、カオルの言葉を信じて睨み合いの状態を解消。ウストックの間合いのギリギリ内側をかすめつつ隣の部屋に向かうと、案の定ヤツがこちらに仕掛けてきた。
 「釣り」は成功。相手の攻撃を受けきって、反撃で削り、追撃で一気に落とす。大したダメージも無く、進軍もスムーズで一石二鳥。先制攻撃だけが策ではないと思い知らされた。
 俺が一人でウストックを始末している間に、カオルは隣の部屋にいたゾンビを釣り上げていた。パラルーは見事に回避したらしい。信用されるのは嬉しいが、息つく間もない連戦はちょっと勘弁して欲しい。
 釣り上げたゾンビは本来二人だけでは一息に倒しきれないので、「少しだけ削って攻撃を誘う」予定だった。しかしカオルの一撃がかなり会心の手応えだったらしく、指示されるまま一気に畳み掛けたら倒せてしまった。機に乗じる事の重要性を学んだ。
 これまで俺は全ての敵にトドメを刺してきており、カオルに「突破力だけなら既に俺より上かもしれないな」と褒められた。けど、カオルの凄さは腕力だけじゃない。もっと色々なことを学ばねば。

 入り口の二部屋の探索を終えた俺達は、最初の部屋にあった扉に向かった。特に施錠されていたわけでも無く簡単に開いたのだが、扉の直ぐ向こうにいた「魔獣タンキ」二匹と鉢合わせに。向こうはすかさず遠距離攻撃を打ち込んできた。
こちらの間合いの外からチャージを仕掛け、一撃加えたら即離脱。素早い動きにこちらの反撃が間に合わない、非常に手強い相手だ。
 今まで通りに間合いを計ってもこちらが一方的にやられるだけなので、まずは距離を詰めることを最優先。部屋の入り口を塞いでいる相手はカオルに任せて、もう一匹の壁向こうからの遠距離攻撃(どうやってるんだ?)を上手く俺の方に誘導し、カオルの負担を軽減。最後に疲弊したカオルと入れ替わり、俺がトドメを刺した。
 足を止めての殴り合いで多くの手傷を負ったカオルだったが、俺と交代してすぐに手前の泉で補給。即座に取って返し、既に満身創痍だった俺と再度交代し、もう一匹のタンキを相手取る。俺は入れ替わりで奥の部屋の泉へ。泉のありがたさが身に染みた戦いだった。そもそも無闇な突撃を敢行したのは、この泉が見えたからということもあったらしい。
 復帰した俺にタンキを任せて、カオルは更に奥にあった扉を開放。近くに潜んでいたウストックと交戦を開始した。妙に強いウストックで、カオルの一撃を受けてもそう簡単に崩れない。更に奥の部屋から二匹のスライムが突入してきて乱戦になった。このスライム達は、どうやら奥の部屋に見える謎のジェネレータから湧き出したもののようだ。

 カオルはウストックを削った後、一端後退。俺に「丁度良い相手だから一対多の経験も積んでおけ」と言った。
 戦場全体を見ることを心がけながら、相手の位置に注意して慎重に対処。だが予想に反して軽く片付けてしまい、ウストックはともかく、スライムの相手は余り鍛錬にならなかった。「本当に成長したな」とカオルが苦笑い。対悪魔戦にもかなり慣れてきた。

 二階への階段を守っていたのは、やはり妙に強いウストックとモムノフの鬼族タッグ。まず飛び出してきたウストックを仕留めた。ただ、拠点を防衛しているので動かないだろうと予想して油断していたのがまずかった。こちらの隙をつくような飛び出しで、カオルが痛恨の一撃を喰らってしまい危険な状態に。幸いモムノフの方は一向に移動する気配が無かった。好きなタイミングで戦闘を仕掛けられるならなにも問題は無い。一方的に攻撃を加えて二階への階段を確保した。


 その後、例のジェネレータを破壊しつつ考えた。そもそも人がいない研究所で、主電源が落ちていない事自体が不可解ではある。
 ……まさか外に居た悪魔が中に入ったのではなく、この研究所から生まれた悪魔が外に出て行ってたのか?
 いや、これは根拠の全く無い、単なる思いつきに過ぎない。何にせよ一刻も早くラボを封印するため、カオルは地下の動力施設へ。俺は事故の手がかりを求めて、モムノフが守っていた二階の調査に就くことに。
 正直心細いなんてレベルではないが、カオルの信頼には応えたいと思った。



chapter 4  LAVORATORY  2F   ~ DEJA VU ~

 オヤジ達は一体ここで何の研究をしていたのか。どうにもロクなもんだとは思えなかった。まさか今起きている悪魔がらみの混乱もオヤジ達が……。

 思い悩みながら歩いていると、甲高い鳴き声が聞こえた。姿は見えないが聞き覚えのある声。魔獣タンキだ。もしかしたら侵入者発見的な何かだったのかもしれない。状況次第では勝てない相手ではないが、一人では苦戦しそうだ。

 正面に現れたのは邪鬼ウストック二体。成長した俺にとっては、たまに繰り出す鋭い一撃さえ受けなければ、苦もなくあしらえる相手。ただ、手前に見えている泉を相手に取られると少し苦しい戦いになるだろう。距離的に、何も考えずに泉に向かって近寄ると、タッチの差で敵に占拠されそうだった。
 まずは気のない振りしてとにかく一歩、そろりと二歩目で泉に近寄り、ダダッとダッシュで無事泉を占拠することができた。そのままウストック二体を相手取っていると、魔獣タンキが壁越しに攻撃を打ち込んできた。相変わらず不思議だ。
 泉を確保し続ければ無視できるダメージだが、ここは敢えて壁から離れて逃げるウストックを追撃。戦場全体の状況を頭に入れつつ、タンキが壁のこちら側に来るように誘導を試みた。

 この行動は図に当たり、丁度邪鬼どもを片付けた頃に魔獣タンキが姿を現した。泉に固執するとこちらの射程外から一方的に攻撃されるので、相手に泉を取らせないよう位置取りに注意しつつ階段付近まで誘導。「弱らせ過ぎて相手が逃げ出す」ことを織り込んでの行動だ。
 先手を譲った後、相手の隙を突いて退路を塞ぐようにして攻撃を仕掛け、それでも無理に逃げ出したところを後ろから追いすがって仕留めた。一対多の経験を活かして、戦場全体のイメージを頭の中に描けたことが大きいだろう。
 かなり神経を使う戦いだったが、学んだことを活かして自分なりに巧く闘えたと少し感動。

 その後、奥に見えた泉で少し補給し、ラボ内を順調に進んで遂に最奥に到達した。突っ込んできたゾンビを、机を盾にして圧倒。扉を守っていた妙に強いウストックとの戦いも、正攻法でギリギリ勝ちを拾うことができた。



 ウストック戦で乱れた息を整え、緊張しながら最奥の扉を開くと、そこには赤いスーツの女が立っていた。
 何故こんなところに一人で? 
 明らかに怪しい人物だったが独特の雰囲気があり、問われるがままに名前を答えていた。ちなみに彼女の名前はカレンと言うらしい。意味のわからないことを一方的にまくし立てた後、何かを押し付けてきた。
 問い質そうとした瞬間、ヘッドセットを通じてカオルからの連絡が入った。どうやら地下との通信は困難らしく、内容がほとんど聞き取れなかった。切羽詰っている様子ではなさそうだったので、タイミング的に電源を落とすとかその類の連絡だろうと推測。慌てて制止したが、どうやら通じなかったらしく、すぐに主電源が落ちた。
 気がつくと不審な女の姿も消えていた。一体何だと言うのか。


 急いで撤退するべきなんだろうが、俺はコレが何なのかどうしても気になっていた。ひとまず受け取った携帯端末らしきものを起動。

 <DIO>
 アクマとの交渉、及び契約したアクマを生体エネルギー「マグネタイト」と引き換えに召喚するプログラム。
 荒唐無稽だが、これが本物なら凄い話だ。どうやって試すか。
 しばし思考を巡らせていた……。










『DIOを起動したか。これから色々忙しくなるね。』



「誰だ! 誰か居るのか!」

 突如響いた声に、俺は肝を冷やす。2階には最早誰も居ないと思っていたのに。
 慌てて周囲を警戒する。接近に全く気付かなかったのに、声はすぐ近くで聞こえた。危険だ。

『む、まさか僕の声が聞こえているのか?』
「どこにいる! 姿を隠していないで出て来い!」

 油断なく辺りを見回す。周囲には動くものの気配が全く無い。声の聞こえる方向から居場所を割り出そうと考えたが。
 この声は、まるで、俺の頭の中から……?

『驚いたな。まさか意思疎通ができるようになるとは。そうだね、僕の事は「妖精さん」とでも呼ぶと良いよ。』



 沈思黙考。テレパシーという線もあるが、もっと碌でも無い考えが脳裏を過ぎる。

「……ちょっと待て。オマエはアレか。まさかとは思うが、俺の頭の中に居るのか?」
『どうやらそうらしい。DIOの機能を考えればこんなこともありうるのかもしれないね。』

 コイツの言うことは良くわからない。良くわからないが……。
 ダメだ。激しくダメだ。頭の中の「妖精さん」と会話する、20代も半ばの男。



『まあ何はともあれ、コンゴトモヨロシク。』





[22653] A.D.1996 TOKYO     ~ Mr.? Fairy ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2010/12/09 19:01
 自称「妖精さん」のことはひとまず棚上げ(何か言っていたが全て無視)。俺はカオルとともにパルチザンの本拠地へ戻ってきた。すると驚いたことに、ここにも悪魔が溢れかえっていた。
 これまで相手にした連中と違って、統制のとれた動き。どうやら「悪魔を率いる男」による奇襲を受けたらしい。カオルが普段の様子からは想像もできないほどにブチ切れて、突っ込んでいった。

 無謀だ。そう思った自分を直ぐに恥じた。
 どうやら相手リーダー「オギワラ」の注意をひきつけて、俺とトモハルを逃がすための陽動だったようだ。もっともカオル自身は敵の司令官を討つことで、悪魔の統制を崩そうとしていたらしい。俺達はカオルの指示に従って撤退。見捨てる形になってしまったのが悔しいが、俺が残ったところで力にはなれない。俺にできるのはカオルを信じることだけだ。

 オギワラの部下らしき、でかいサングラスの男が追ってきた。正直逃げ切ることは難しそうだ。
 遂には追いつかれ、俺は……。


chapter 5  IKEBUKURO     ~ 起動 ~

 気が付いたら俺は一人でひらけた場所に居た。
 周囲を観察したところ、どうやらここは池袋のようだ。状況が全くわからない。俺はオギワラの部下に捕まったのではなかったのか?
 偶然と成り行きでトモハルの妹であるアヤと行動を共にすることに。気絶していたところを助けてもらった事には感謝しているが、俺の事を記憶喪失扱いするのはやめてほしい。天然か。
 まずはトモハル達を探すため、手がかりを求めてパルチザンの本拠地である新宿を目指して、山手線沿いに南下する。当然、自称『妖精さん』のことは黙っておく。

『仲間に隠し事はよくないな。』
「『俺の頭の中には妖精さんが住んでるんです』なんて、どう考えてもアブナイ人だろうが。」
『気苦労が絶えないね。』

 オマエのせいだ。湧き上がる怒りを抑えつつ、幾つか疑問に思っていたことをぶつける。 

「カオルから聞いた、『妖精ピクシー』とかとは違うんだよな。」
『勿論さ。僕は正しく「妖精さん」だからね。』

 全く意味が分からない。若干イライラしながら質問を続ける。

「何で俺の頭の中に居るんだよ。」
『もともと機械を使ってキミに接続していたんだ。ひょっとしたらDIOのお陰で繋がりが双方向になったのかもね。』

 ダメだ。暫く問答を続けたが、これ以上コイツの話を聞いても理解できる予感が全くしない。そもそも理解させようと言う気が無いのかもしれない。以前、卒業の挨拶に来た学部生に対して「今後は何かを教えて貰おうとするなら、まず自分の用意できる対価を考えることが大事になるよ」とか偉そうにアドバイスした事を思い出してしまった。
 仕方が無いので話題を変える。

「とりあえず『妖精さん』と呼ぶのは認められない。男の尊厳とかそういうものがダメになる気がする。」
『そうは言ってもね。気に入っているんだけど、そのネーミング。』
「断固他の呼び方を要求する。」
『うーん。それじゃあ、「戦闘妖精雪風」とか、「独立型戦闘支援ユニットADA」とかどうだろう。』
「まじめに考えろよ。」
『立ち位置的にはぴったりなんだけどなぁ。』

 ああもう、コイツめんどくせぇ。おまけに意味も全くわからない。コイツは名無しで十分だ。

『それはそうと、前方から悪魔の集団が接近しているよ。ビルの陰に隠れて見えないけど、距離800m。先頭は筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ。このまま行けば直に接触するね。向こうは風下で既に気付いているから迂回も難しそうだ。』
「何だよそれ。何でそんなことが分かるんだ。」
『妖精さんだからね。不思議な力を持っているのさ。』

 人を喰ったような物言い。有り体に言えば気に喰わない。

「わけわかんねぇ。あともうオマエを名前で呼ぶ気はないから。」
『なるほどそこに落ち着いたか。友好を深めたい僕としては悲しい限りだけど、まあ仕方ないね。』
「本気で言ってるのか? 怪しさ爆発の奴と友好を結ぶ気なんてねぇよ。」
『む、お喋りはここまでだ。来るよ。』

 半信半疑どころか疑い9割ではあるが、一応アヤに警戒するように呼びかける。驚いたことに、程なくして闘鬼ウェンディゴがビルの陰から現れた。

「確かにマッチョで半裸だが!」

 正面ウェンディゴの道を塞ぎ、アヤに近づけさせないよう必死の思いで相手を防ぐ。大して強くもない相手なのに、誰かを守りながら闘うのがこれ程難しいことだったとは。カオルはずっとこんな風に闘っていたのか。
 相手の攻撃を受けきってから反撃しようと考えていたが、いきなりアヤが飛び出してきてウェンディゴに攻撃を加えた。

「なっ?!」

 そもそも連携が取れるとは思っていなかったが、それでもこの積極性は大誤算だ。
 ウェンディゴがアヤに反撃。豪腕の一撃でアヤが吹っ飛ばされた。ウェンディゴの注意がアヤに向く。このままでは不味い。だが今この瞬間、この体勢なら一撃で仕留められる!

『待て、そいつにはまだトドメを刺すな!』
「うるさい、耳元で怒鳴るな!」

 線路の向こうには既に魔獣タンキと妖精ピクシーらしき姿が見えてきている。自称妖精がどうかは知らないが、こっちは命がけだ。加減などしている余裕は無い。結局ウェンディゴは首尾よく屠れたものの、遅れてきたウストックも合わせて、さすがにこれだけの悪魔を同時に捌くのは厳しかった。俺もアヤも、ピクシーの魔法攻撃などでかなりの傷を負ったが、辛うじて撃退に成功。正直ヒヤリとした場面もあったが、運良く相手の攻撃が外れるなどして、どうにか乗り切ることができた。
 アイツは『危なっかしいというか、動きが素人くさいというか……』などと失礼な事を抜かしていたが、勝ちは勝ちだ。


『次の敵集団までかなり距離があるし、キミもまだ聞きたい事とかあるよね。休憩がてら質問タイム再開と行こうか。』
「不思議な力って、具体的には何があるんだ。」

 とりあえずさっきから気になっていた不思議パワーって奴について聞いてみる。

『まず一つは【千里眼】。戦場の地形、敵の配置や装備・能力などを完全に把握できる。』

 ……は? 本当なら最強じゃないか、それ。

「いや、凄い能力じゃん。相手の位置をこちらだけ把握できるとか、一方的過ぎないか?」
『そうでもないよ。これで圧勝できるのは、こちらに相手を各個撃破できるだけの戦力と、戦闘を継続するための十分な物資がある場合だ。現状の乏しい戦力と物資では、幾分マシになるくらいさ。』

 そういうものか。確かに今、助言を受けても苦戦したばかりだしな。

『次に【未来視】。戦略レベルでの大まかな流れが見えるのと、戦術レベルでの高精度未来予測だね。前者に関しては正直見えるだけで、基本的に僕単体では流れは変えられない。後者に関してはどの敵がどう動くか、どのタイミングでどんな援軍が来るのかがわかる。もっとも、「5分後に四方を囲むジェネレータから大量の魔王様が湧いてくる」なんて状況になったら詰みだから過信は禁物だよ。』

 十分反則だ。

『最後に【望む未来を掴み取る力】。先に述べた【未来視】は、実はこの能力の副産物だったりするんだけどね。具体的にはある時刻を基点にして、自分の望む結果が出るまで何度でも試行を繰り返せる能力だ。勿論これにも細かい制限がある。詳細な説明は省くけど、万能ではないという事だけ意識しておいて欲しい。』

 言葉も無い。
 もしかしたらさっきの戦いで「運良く起きた事」は、コレのお陰だったんじゃないか?
 いや、それだけじゃない。「ここぞ」という危険なとき、いつも「運良く」事が進んではいなかったか?
 コイツは既に俺達に力を貸していてくれたということなのか。

「オマエの言うことが本当だという証拠は?」
『この場で証明することは難しいが、薄々認めているのではないかい?』

 図星だ。そして「やっぱり」とも思う。コイツの言葉に嘘は無いという、実体験に基づく直感。
 そもそもこんな事で俺を騙して、コイツに何か得があるとも思えない。というかコイツがいなければ、多分この最悪な状況で生き延びて今に至ることなどできなかっただろう。
 しかし、一番聞いておかなければならない事がまだ残っている。

「……なあ、何で俺に協力してくれるんだ?」

 コイツは凄い能力を持っている。俺なんかに力を貸すより、もっと凄い奴と協力すれば、コイツの言う『戦略レベルの流れ』だって変えられるんじゃないか?

『基本的には選択肢が他に無いからだね。幾つかの例外を除いて、僕達は接続する対象を自由に選べない。』

 なるほど、そういう事なのか。ホッとしつつも、何故か落胆している自分に戸惑う。

『まあそれ以上に、キミが流れに抗い行動し、そして最後まで信念を貫き通す様を見てみたいんだ。そうできるだけの力をキミは持っている。』


 驚いた。同時に随分と買いかぶられていると思う。見事に不意を衝かれたことに対する若干の照れ隠しで、揶揄するように言う。

「観客気分かよ。」
『キミにしては鋭いね。僕が観るのはキミの綴る物語。当然ハッピーエンド以外はありえないさ。』

 なるほど、コイツとはこの位の距離感が丁度良いかもしれない。何にせよ、コイツが俺達の幸せを願っていることは確かなようだ。胸の奥にわだかまっていた疑念が、少し解けた気がした。




 休憩を終えた俺達は進軍を再開し、何事も無く池袋の駅に到着した。駅の向こうにはサンシャインビルが見えている。アイツが言うには、ビルの近くにタンキやらモムノフやらがウロウロしているそうだ。

『ストップだ。これ以上迂闊に進むとモムノフの間合いに踏み込むことになる。残りの敵集団への対処を決めておこう。』
「相手の位置と射程が判るなら、俺が囮になって一匹一匹釣り出すのがベストだと思うがどうだ?」
『なるほど、カオルが多用した戦法だね。しっかり学んでいるようで何よりだ。』

 トモハルの事といい、カオルの事といい、やはりコイツは随分前から俺に力を貸していたようだ。今にして思えば初陣の時に言われた「初めてとは思えない」動きも、コイツのパワーだったのだろう。


『けど、折角だから DIO をフル活用しよう。会話が成立するやつは基本全員仲魔にするつもりで。』
「 DIO か。実際正常に動作したとして、そんなに簡単に仲間になるものなのか?」
『大体が相手の機嫌次第なんだけど、確実を期すならダメージを与えてから傷薬をプレゼントするのが有効かな。』
「酷い自作自演だな。まるでヤクザだ。」
『このくらい基本、基本。』

 どこの業界の基本なんだか。

『次に勧誘するべき悪魔について説明するよ。まずは闘鬼ウェンディゴだね。今回うっかり倒しちゃったので勧誘は無理だけど、次見たら絶対忘れないこと。』
「ぐ、さっきのはそういうことだったのか。んでも、ウェンディゴって役に立つのか?」

 正直、一対一なら片手間であしらえるレベルだ。仲間にしたところであまり役に立たない気がする。

『ぶっちゃけ闘鬼は、というか大抵の鬼族もだけど、攻撃力はあっても基本的には役立たずだね。一応弓を使えるのが唯一の取り柄だけど、実際は仲魔が少ないときの間に合わせくらいかな。』
「だったら態々勧誘する必要ないだろ。」

 べ、別にうっかり倒してしまった自分の失態を誤魔化したいわけではない。

『とは言えウェンディゴ先生には戦闘以外の大事な使い道があるんだよね。』
「もって回った言い方だな。てか、先生って何だよ。」
『うーん、今説明しても仕方が無いと言うか、追々説明すると言うか。』

 この辺についてはどうにも良くわからんが、ひとまず信用して先を促す。

『同様の文脈で妖鬼モムノフも必要だね。もっとも、槍など持たせれば結構戦闘に堪えるよ。』
「ウェンディゴに比べりゃ強いもんな。」
『あと、彼は超強力な「バーニングリング」と言う特技を覚えるんだけどね。』
「だけど?」
『覚えが悪いのさ。成長に時間がかかる。彼の特技習得に拘ると、そこがボトルネックになるので今回はスルーだ。いずれ妖精族の炎雷使い「幻魔フーリー」が覚えるから心配は要らないよ。』

 幻魔。何かカッコいいな。

『あとは育成対象としてのピクシー・タンキで終了。』
「邪鬼とかは勧誘しなくていいのか? 奴らそこそこ強いぞ。」
『あいつらと会話成立すると思う?』

 そういうものか。

『話を戻すよ。妖精ピクシーの役割は主に回復だね。彼女の存在はこの界隈では貴重だよ。』
「確かにこれまでは泉を探すか、薬を使うかするしかなかったからな。回復に手間を取られなくなるのは大きいか。」
『ひ弱さを上手くフォローする必要があるけど、魔法力の枯渇にさえ注意すれば本当に心強い味方だ。』
「タンキはどうなんだ?」
『彼は遊撃役だね。トモハルポジションって言った方がわかり易いかな。その嫌らしさは身をもって知ってるでしょ。』
「まあな。」

 確かに相当煩わされた。ちなみに、トモハルがいやらしいと言っている訳ではない。いや、帽子のかぶり方とかエロイけど。

『まずはモムノフの間合いに注意して、左手にいるピクシーを勧誘しよう。丁度泉を防衛しているし、補給には持って来いだ。』
「了解。」

 特に反対する理由もないので真っ直ぐピクシーを勧誘にいく。さすがに可愛らしい外見をした本物の妖精相手に、ヤクザ紛いの自作自演をする気にはならなかった。




『うまくやったね、このジゴロ。いやロリコン?』
「うぜぇ。」

 話しかけたら、逆に仲間になりたいと言ってきた。大歓迎だと伝えたら、仲間になるついでに何故か宝石とお金をくれた。
 俺は何も悪いことをしていないはずだ。

『続けてトレジャーを守っているタンキを勧誘に行くよ。』

 結局泉では補給せずに、そのままタンキを勧誘。どうやら一部悪魔にはアイテムに執着する習性があって、今回のタンキもそのために動かなかったらしい。そんなヤツがこうもあっさり仲間になってしまうのは果たしてどうなのか。

『鳥頭なんじゃないの。』

 酷い答えだ。

「それはともかく、こうやって片っ端から悪魔を勧誘していれば、わざわざ倒さなくても楽に進めるんじゃないか?」
『アイデアとしては悪くないんだけど、現実には色々問題があってね。』
「問題?」
『そうだ。そろそろモムノフの間合いに踏み込むね。それについても追々講義することにしよう。』
「わかった。」

 頷き、思考を切り替える。先程仲間にしたばかりのタンキとピクシーを召喚。多少のダメージなら気にしなくて良いという安心感は想像以上に大きい。まずはモムノフの一撃を受け止める事を決め、どのように勧誘するかの計画を練っていたのだが。

「まさかオマエが悪魔と会話できるとはな。」

 何故か悪魔はコイツの存在を認識できて、更には会話することさえ可能だったのだ。しかもモムノフを仲間にするとき、ついでに舌先三寸で宝石とか色々巻き上げていた。どう考えても俺より悪質だ。

『そうだね。予想の範囲内とは言え、僕も少し驚いているよ。』
「予想していたのか?」
『僕とキミ、キミと悪魔がDIOを通じて意思疎通できるんだから、僕と悪魔もできるんじゃないかなって。根拠の無い、所謂憶測だけどね。』
「三段論法ってやつか。」
『いや、違うけど。』
 

「……そろそろ行くか。」
『そうだね、そうしよう。』

 ちなみに敵拠点を守っていた「邪鬼ハンジャ」は問題なく倒せた。ピクシーの魔法攻撃はやはり強い。
 


chapter 6 SHINJUKU    ~ FRI-DAY ~

 池袋から新宿まで移動する間に、俺はアイツから各種悪魔についての基礎知識や、対悪魔の戦術論等を学んでいた。確かにアイツの持つ不思議パワーは凄いが、制約が色々あるらしい以上頼りきりにはなれないし、なりたくない。勉強は苦手ではないし、何より命が掛かっている。我ながら良いペースで吸収できているのではないか。
 ちなみに味方の悪魔の事を「仲魔」と言うそうだ。駄洒落か。

 そんなある時、アイツがいつも以上に気取った調子で話しかけてきた。

『さて。仲魔も増えたことだし、そろそろキミの育成方針について伝えておきたいと思う。』
「なんだよ急に。ていうか、『育成』とかなんか嫌な響きだな。」

 どうやらヤツも微妙な物言いだと思ったらしく、気まずい沈黙が場を支配する。

「めんどくさい。オマエに全部任すよ。」
『「オマエ」ではない。この場では「せんせいさん」と呼びなさい。』

 マジうぜぇ。

『キミにはまず筋力を極限まで鍛え上げて、示現流の達人的なサムシングを目指してもらう。』

 達人か。良くわからんが、何か心惹かれる響きがあるな。

「でもさ、オマエ前に俺の事を『素人くさい』とか言ってたじゃないか。そんな達人になんてなれるのかよ。」
『なれるよ。キミならなれる。僕と、僕の【未来視】が保証する。』

 相変わらず照れくさいことを平気で言う。
 しかし前衛として闘うなら、つよさ・はやさ・たいりょくのバランスが大事なんじゃないか?

「速さがあると二回攻撃できるから強いってトモハルが言ってたぞ。」
『二回攻撃? いらない、いらない。腕力さえあれば全ての敵を一撃滅殺、二の太刀要らず。』
「速さが無いと敵に攻撃があたらないし、反撃2回喰らうってトモハルが速さアピールしてた。」
『命中回避? いらない、いらない。僕の【望む未来を掴み取る力】があればキミ一人ぐらい、どうとでもなる。』

 何と言うか、速さが取り柄のトモハルが泣き出しそうな考え方だな。


『最終的にはベレッタで魔王様をオーバーキルできるくらいになってもらう。』
「拳銃に筋力関係ないだろ。ていうかそれ意味あるのか?」
『メリットはあんまり無いね。デメリットならそれなりにあるけど。強いて言うなら浪漫、かな。』
「オマエ猫のウンコとか踏めばいいのに。」
『キミの頭の中に猫のウンコがあれば可能かも知れないね。』

 こっちは必死だってのに。何と言うか、少しだけ、ほんのちょっとだけだが、信頼していた俺が馬鹿みたいじゃないか。

『冗談はさておき、キミにはトドメ役として働いてもらうために、やはりある程度までは筋力を重点的に上げてもらう。その結果、戦闘経験がキミに集中する事になるんだ。全体的に味方を成長させるより、一人飛びぬけて強い人間がいたほうが何かと都合がいいからね。』

 どうやら純粋にふざけていた訳ではないらしい。言われてみると正しい内容の気もするが、一つ引っかかる点がる。

「でもそうすると、アヤとか合流する予定のトモハルとか危険じゃないか?」
『それはその通りだ。ただ、そこは僕の能力とキミの戦術で何とかするしかない。僕だって誰一人途中で失う気はないからね。』

 つまり考慮済みってことか。

「オマエがそう言うからには、大きなメリットがあるんだろ?」
『……あはは、随分と信用されたものだね。嬉しいよ。勿論メリットはある。一部を除いて悪魔は自分より弱いものには従わない。つまりキミが強くなればなるほど、強力な仲魔を使役することができるんだ。』

 考える。多分これはかなり重要なことだ。これまでの講義で仲魔の重要性は理解している。なるほど仲間全員を平均的に成長させたのでは、いつまで経っても強力な仲魔を使役できないということか。池袋で言っていた「問題」ってのも恐らくこのことだろう。

「だから『育成方針』とやらをわざわざ俺に伝えたのか。」
『その通り。これらをふまえて、今後の戦術を練って欲しいということさ。』

 考えるべき事は増えたが、戦力増強の様子が容易に想像できる。何だか俺、ワクワクしてきた。

『そして矛盾するようだけど、キミが闘っても全く鍛錬にならないような弱い悪魔は、こちらの弱い仲間に倒させるように。』
「そうおかしい事でもないだろ。要するに以前カオルが俺にしていた事だよな。」
『その通りだよ。』

 何だか少し胸が熱くなる。早くカオル達と合流しなくては。
 ちなみに、アイツにカオル達はどこにいるか聞いたところ、『人事を尽くして天命を待て』の一点張り。ハッピーエンドがどうこう言ってるわけだから、将来的には会えるのだろう。だが、手を抜いてはその未来も遠ざかるといったところだろうか。

 程無くして新宿に着いたが、やはりと言うか何と言うか。カオルやトモハルは見つからなかった。そんな時、悪魔発生以来この新宿を一度も離れていないと言うツワモノ、八神製作所会長の噂を聞いた。彼なら何か知っているかもしれないと、藁にもすがる気分で八神製作所を目指す。一応アイツにも意見を聞くと、『キミの好きにすると良い』と答えが返ってきた。


『そろそろ接敵が近いな。』
「注意するべきことはあるか?」
『今の君達ならそう苦戦しないと思う。ただ一つだけ。地霊ブラウニーは必ず仲魔にするように。最優先事項だ。一匹しかいないから、いつかみたいにうっかり倒したりしないようにね。』

 結構根に持ってやがる。

「うっさいな、わかってるよ。んで、地霊ブラウニーって今見えてきたアレだろ? 随分チッコイな。」
『形姿は可愛いけど、能力は折り紙つきだよ。高い物理防御力と、抜群の対地火力を誇る高性能戦車だ。彼が仲魔にいるのといないのとでは戦闘の困難さが段違いさ。更には固有特技持ちと、言う事無しだね。』

 何そのスーパー悪魔。闘って勝てる気がしない。

「べた褒めだな。弱点とか無いのか?」
『あるにはあるけど、それを差し引いてもって奴だね。それについては追々講義しよう。』
「わかった。」


 まずは最寄の敵ピクシーを一撃で仕留める。アドバイスに従って、必要ないけどタンキとピクシーで削っておいた。アイツが言うにはこういう細かい積み重ねが大事らしい。

『気を抜かないで。来るよ。』
「わかってる。」

 予想通り地霊ブラウニーがこちらに向かって突っ込んできた。仲魔のピクシーが近寄りざまの一撃を受ける。信じられないことに、その一撃だけで既に瀕死だ。おまけにピクシーの必死の反撃は、ブラウニーに寸毫の傷もつけられなかった。話には聞いていたが、実際に目にすると馬鹿げた強さだ。
 慌てて勧誘。でも仲魔で削るのは忘れない。想像通り魔法防御は相当薄い。ちなみに性格は可愛らしい外見相応のお子様。アイツがイカサマギャンブルを仕掛けて、仲魔にするついでに色々巻き上げていた。

『狂気の沙汰ほど面白い……! 』

 何か無茶苦茶喜んでる。超大人気無い。いや、そもそも大人なのか?

 奥にいた敵ピクシーの間合いに入ったため、近寄られて魔法を撃たれる。覚悟はしていたが、俺の体力の半分近くを持っていかれるような感覚に焦りが生じる。だが近くに泉もあるし、今の俺達には仲魔ピクシーもいる。戦闘に支障は無い。もはやルーチンとなった感のある、削り・トドメの連携で屠る。
 一方、間合いに入っても全く動かない悪魔もいた。見た目の特徴から判断して、講義にも出てきた「妖魔インプ」だろう。可愛らしい外見だが、話が通じないから勧誘できないと言われていた敵だ。決して容赦せず必ず倒せとも。
 回復されると鬱陶しいので、勧誘したばかりのブラウニーを召喚し、体勢を整え一気に攻め落とす。やはりアイテムを拾おうとしていたようだ。それとは別にインプ自身が「ワーカーズはっぴ」を落とした。何だか儲けた気分だ。
 とりあえず法被を着ながら八神製作所をスルーして、奥にいる邪鬼ハンジャを釣る。こちらの思惑から寸分も外れることなく相手が動くさまは、本当に気持ちが良いものだ。そう調子に乗っていたら、ついでに更に奥にいたヌエまで釣れてしまった。まだまだ未熟ということか。とは言え、特に問題があるはずもなく。
 ちなみにヌエは「ワーカーズメット」を落とした。防具は貴重品だ。ホクホク。

 そんなこんなで良い気分に浸っていると、暫くダンマリだったアイツが唐突に話しかけてきた。

『あー、僕今から当分役立たずだから。後よろしくー。』
「何だよ藪から棒に。」
『いやね、今回ね、【望む未来を掴み取る力】使ったんだけどね、
 もうね、精神力というかね、MP(ムチムチプリンプリン)的なサムシングがね、ゴリゴリ削られちゃったのよ。
 ていうか、インプとかキミより運が高いとか、ぶっちゃけありえない。
 ていうか、【望む未来を掴み取る力】って名前長いよね。言うだけで無駄にMP減る。
 よし、以降【ハヤトロギア】と呼ぶようにしよう。そうしよう。そうしよう……』

 何だか消え入りそうな上、口調まで変わっている。これは相当ヤバそうだ。

「わかった。任せておけ。」
『かゆ……うま……。』


 気のせいかもしれないが、何かが遠ざかっていくような感覚。気持ちを切り替える。思考を冷静に。アイツのように。
 【望む未来を掴み取る力】改め【ハヤトロギア】は暫く当てにできない。失敗の許されない状況。背筋に冷たいものが走る。案外、俺の気の緩みを戒めるためだったりするのかもしれないが、仮にそうだとしてもここで手を抜いては全てが台無しだ。考えろ、考えるんだ武内ナオキ。
 落ちる寸前に、以前聞いた「視覚共有」とやらをしたのか、戦場全体を俯瞰したイメージが頭に残っている。これは大きなアドバンテージだ。考えていることは共有できないらしく、近未来情報は持ち合わせていない。落ちる前に伝えてくれよと思わないでも無いが、まあ俺には過ぎた能力だ。
 何だか「妖精さん」的思考が板についてきたな、と思わず苦笑い。

 現状残っているのは拠点を防衛しているヌエと、今回初めて見る「邪霊ゴースト」、更にアイテムを拾おうとしているタンキだ。配置から見て、この中で恐らくゴーストだけが間合いに踏み込んだら即座に襲い掛かってくるタイプ。
 しかし講義によれば、初手は状態異常魔法「ドルミナー」ほぼ一択。ドルミナーによって SLEEP 状態にされるのは痛いが、モムノフ辺りを餌に釣れば全く問題ないだろう。上手くヌエの射程外で闘えるかがポイントになる。動かない敵タンキは仲魔のピクシー・タンキで削って、ブラウニーに倒させるのもありか。

 大丈夫だ。集中攻撃さえ喰らわなければ万に一つの負けも無い相手。
 そして集中攻撃されないためのプランは既に用意した。
 あとは冷静に実行するのみ。






『ただいまー。』
「戻ってきたか。」
『すまないね。でもどうやら鮮やかに倒しきったみたいで何より。』

 むず痒い。

「しかし何だな。俺は気付かなかったけど、そんなにオマエの精神力?が消耗するような危ない場面があったのか。」
『うーん、危ない場面、というのは無かったね。強いて言うなら最初のブラウニーの一撃くらいさ。』

 確かにアレには肝を潰した。

『ただ、「ワーカーズ」装備を落とさせるためにエライ苦労したと言うか。』
「確かに防具は貴重だが、そこまでして入手するようなものか?」
『あー、これは所謂「レアアイテム」って奴なんだ。』
「レアアイテム?」
『そ。店で買えないどころか、他ではまともに入手することすらできない珍しいアイテム。』
「つっても大した性能じゃない気がするがな。」
『そう侮るものではないよ。運のパラメタ強化が大きいがひとつ。更に一式揃えてブラウニーに着せれば、大抵の物理攻撃は通らなくなる。』
「いや、運とやらはともかく後者はどっちかっつうとブラウニーが固いからのような。」

 そうなのだ。
 仲魔になって改めて思うが、あんな可愛いナリして、もの凄く防御力が高い。おまけに火力もあって頼りがいがある。味方になったらガッカリ、なんて定番のオチを蹴飛ばしてくれた。コイツが『真っ先に確保しろ』とせっついてきたのも当然か。


『あー、うー、えーと、白状すると、蒐集癖。』
「ああ、そうなのか。」
『およ、怒らないの?』
「そこまで傲慢じゃねえよ。」

 コイツの存在が俺達の生死を左右するのは確かだが、実際コイツが力を貸してくれるのは、恐らく純然たる好意によるものだ。それに「あって当然」と甘えてプラスになることは多分無い。

「まあ、何だ。可能な範囲で付き合うさ。」




[22653] A.D.1996 TOKYO     ~ Commando ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2010/12/09 19:28
 新宿で出会った八神博士にパルチザンについて尋ねたが、有用な情報は得られず。
 かわりにDIO用 Remix システム「FRI-DAY」を貰った。何やらオヤジ達の知り合いらしい。

「結局これって何なんだ?」
『悪魔合体用のプログラムさ。八神博士が趣味で作ったらしいね。』
「趣味って。悪魔が現れたのってつい最近だろ。」
『一応そういうことにはなってるね。』

 もって回った言い方。
 喋りたがりのコイツがこんな言い方をするってことは、今はまだ説明する気が無いってことか?

「どう扱ったもんかね。」
『今はまだ気にしなくていいよ。追々説明して行くから。』


chapter 7 ICHIGAYA     ~ 駐屯地奪回作戦 ~

 魔物が落とす魔貨(マッカ)。
 正直使い道が良くわからなかったのだが、どうやら特殊なショップで通用するようだ。通貨そのものも謎だが、何故悪魔が落とすのか。
 新宿を抜けた後、そんな事を考えながら件のショップに立ち寄ったのだが。

「『オヤジ、並んでいる武具全部くれ』なんて言うヤツ初めて見たよ。しかも二つずつ。」
『僕は割と良くやるんだけどね。それより僕が店のオヤジと話せた事にびっくりなんだけど。』

 何だコイツ。実はブルジョワなのか。状態異常回復アイテムも全種類5つずつ揃えていたし。

『実際消耗品を買うことも殆ど無いから、金(マッカ)は余り気味だし、何より武器は全種類あった方がいい。』
「そういや明らかにボロい剣まで買ってたよな。何でだよ。」
『効率的な削りのためさ。多すぎず、少なすぎず。丁度良いダメージを与える事が可能になれば、戦術の幅が一気に広がる。』

 確かに「弱らせすぎて逃げられる」ことは少なくなりそうだが。

「防具は?」
『イチイチ付け替え面倒でしょ。どうせお金余るし、買いすぎるくらいで丁度良いよ。』

 やっぱりコイツはブルジョワだ。
 そんなやり取りをしながら、市ヶ谷の自衛隊駐屯地にやってきた。


「FRI-DAYもそうだけど、欲しいものが手に入らずに余計なものばかり増えていくな。」
『それを余計なもの扱いなんてとんでもない。生死を分ける重要なものだよ。八神博士には感謝しなくちゃ。』

 今回だってある意味余計なものだ。永田町の敵本営を衝くには明らかに戦力が足りていないので、自衛隊が保管してたであろう火器の類を確保する目的だ。

『まるで軍放出品店を漁りにいく勇者の気分だね。』
「言うなよ。俺も少しは気にしてんだから。」
『それにしても、君達で使いこなせるのは精々拳銃くらいのものだろうに。』
「それでも無いよりマシだろ。アヤに直接攻撃させるわけにも行かないしな。」
『存外に紳士だね。』

 失敬な。

「漸く見えてきたけど、やっぱり悪魔がいるなぁ。」
『しかしどの方面軍も全く統率されていない。叩くならチャンスだね。』
「案外オギワラ、もう逃げ出していなくなってたりとかな。」
『ふむ。』


 俺の軽口に考え込んでいるような雰囲気。どうかしたのだろうか。

『まあいいか。相手の布陣は見ての通りだ。何か気付く点はあるかい?』

 【千里眼】によるイメージの共有。正面の泉付近に邪霊ゴーストと正体の良くわからない敵、右手を流れる川の向こうに「妖精ゴブリン」らしき悪魔がいる。

「川向こうにいるのは恐らくゴブリンだよな。正面にいる気味の悪いやつは?」
『ふーむ、情報の共有は完璧ではないのかな。』

 ピントのずれた応答。

『ああ、悪いね。アレは確かに正体が掴み辛い。「外道モウリョウ」さ。』

 外道モウリョウ。確か何の特徴も無い雑魚だったか。無視でいいだろう。

「まずは正面の泉だな。ゴースト辺りに取られると泥沼になりそうだ。」
『対処法は?』
「とりあえずタンキか? 獣ならギリギリ届きそうだし、泉さえ確保すれば俺達の到着まで粘ることはできるだろう。」

 ドルミナーには外れてくれと祈るしかない。

『対岸に見えているゴブリンはどうする?』
「魔法使いだったよな。魔法攻撃にだけ気をつけて、暫くは無視かな。」
『川を渡って飛んできた場合、ゴーストたちとの挟撃を喰らうことになるよ。』
「そしたら対ゴーストの前線を仲魔に任せて俺が勧誘するさ。そこはサポートしてくれるんだろう?」


 沈黙。まるで教師の採点を待つ生徒の気分だ。不正解だとは思わないが、心臓に悪い。

『わかった。序盤戦に関しては及第点だね。キミの立てた方針で行こう。』

 良しっ。

『ただ一点だけ。ゴブリンの勧誘はピクシーでも可能だ。』
「それは初耳だな。」
『所謂同族会話と言うやつだ。非常に大きなメリットがあるので、覚えておいて損は無いよ。』
「今回はピクシー使って勧誘しろってことか?」
『今はまだ選択肢の一つとして考えておく程度で構わない。今回は、まあ好きにするといいよ。』

 とはいえ前線から俺が抜けるのも避けたいし、魔法攻撃を喰らうのも避けたい。その点ピクシーでなら、間合いを計って川の上で先制攻撃、というか先制勧誘?することも可能だ。これは採用した方が良いだろう。


「他に勧誘するべき悪魔はいるか?」
『線路の向こうにいる聖獣ユニコーンは絶対。というか、可能なヤツは全部勧誘だってば。』
「聖獣ユニコーンか。何だか強そうだな。」

 想像するだけでワクワクする。

『ワクワクしているところ申し訳ないけど、聖獣ユニコーンに関しては完全に名前負けの存在だよ。』
「……絶対勧誘対象なのに?」
『まあこれはユニコーンというより、「聖獣」と言う種族の問題だね。』

 浮き立っていた気持ちが、見る見るうちに萎れていく。

『聖獣は魔獣とかに比べて何か遅くて、名前に反して大して役に立たない印象があるね。いないよりマシレベル。確か砂漠が得意とかだったけど、その特性が発揮されることはまず無いよ。』
「じゃあ、何で勧誘するんだよ。」
『答えは単純。彼の持つ特技「どくばり」が、全特技習得悪魔作成合体に不可欠だからさ。』

 俺のワクワクを返せ。

「合体とかまだよくわからんが、ゴブリンについてはどうなんだ?」
『妖精ゴブリンは対鬼族・地霊特効の炎魔法を持っている。暫くは重宝すると思うよ。そして当たり前の話だけど、こちらの鬼族・地霊は決して近づけないよう注意が必要だ。』
「まさに天敵ってやつだな。以前言ってた地霊の弱点ってのはこれの事か。」
『その通り。ブラウニーは対物理としては無欠の壁なんだけど、魔法防御がどうにも弱くてね。特に火炎と爆発は喰らうだけで死が見える程さ。』

 なるほど、これからは魔法の属性も考慮しなくてはならないようだ。敵のゴブリンには気をつけることにしよう。

「ゴブリンの覚える特技はどうなんだ?」
『特技もそれなりに役に立つけど、さして珍しくも無いものだからね。精々適当に使い倒してボロ雑巾のように捨ててやるのが関の山かな。』
「捨てる? 仮にもオマエの同族だろう。」
『たとえばソイツらがその昔、幼き頃…… 捨てられて凍えてる仔犬を助けたことがあるとしよう…… でも捨てる。』
「鬼だな。」
『この妖精さん、容赦せん。』


 本当に割り切ってやがる。少し寒気すら覚えるほどに。

『実際君達が生き残るためには、ある程度の割り切りも必要だと思うよ。アレもコレもと手を伸ばしていてはどうにもね。』

 まるでこちらの心を読んだかのようなタイミング。

「それでも、オマエなら何とかなるんじゃないのか?」
『僕が優先すべきは君達の生存さ。それ以外は悔しいけれど自分の事で手一杯だ。』

 結局コイツも俺と同じことを考えて、俺より先に現実を見据えてたってことなのか?

『ただ、キミまで僕に倣う必要は無いさ。或いはキミのような存在ならば、僕の【未来視】すら越えてどうにかするかもしれないと、そう期待してしまう所もあるしね。』

 幾度となくコイツが口にする、俺に対する期待。果たして応えることができるのだろうか。


『どうやら相手もこちらに気付いたようだね。そろそろ動き出しそうな気配だ。』
「なら先手を取って、さっさと泉を確保するか。」
『それがいい。ついでにタンキがここ市ヶ谷で特技を覚えたら言うこと無しだね。』

 タンキは異常に成長が早い。どんなときでも2回攻撃で真っ先に戦闘に参加している。一度もトドメを刺してなくとも、一番成長が早いそうだ。
 逆にブラウニーは鈍足。進軍についてくることができず、最前線から遅れることも多い。局地戦でなら壁役を任せられるので、そこそこ経験は積み易いが、特技習得は遅いらしい。


 戦闘開始。
 仲魔を召喚し、陣形を整えつつ、魔獣タンキを先行させる。攻撃力は低いが、頼りになる仲魔である。

『無事泉確保に成功したね。』
「おう、さっさと助けにいかなきゃな。」

 そんな俺達にお構い無しで、アヤが道端に落ちていた斧を拾う。

「何でこんな物騒なもんが落ちているかはともかく、ブラウニーに似合いそうだな。」
『攻撃を当てにくくなるから、常時装備はお勧めしない。獣の低い攻撃力を補うか、博打が必要な時に換装するのがベストかな。』

 念のため殿をピクシーに任せて、俺と少し遅れてブラウニーがタンキの支える前線に突っ込む。敵ゴブリンはどうやら一気に河を渡らず、橋まで迂回するようだ。
 ゴーストの一匹がタンキに、もう一匹は俺に寄ってきた。どちらの魔法も鮮やかに回避。タンキはモウリョウにしっかり反撃。想定していた中で最良の展開だ。ゴブリンの動向に注意しつつ、まずは鬱陶しいゴーストから片付ける。無駄に耐久だけは高いため、さすがに一掃とは行かなかった。当然逆撃を喰らうわけだが。 

「ブラウニーさん、マジパネェ。」
『でしょ?』

 そこそこ力があるはずの、モウリョウの攻撃でさえNODAMAGE。理不尽さすら漂うその精強さ。

『それよりゴブリンが渡河してくるよ。後もう一匹、奥の橋から新手だ。』

 促されるままにそちらを見遣ると、確かにゴブリンが二匹、間合いに進入してきている。

「一気に忙しくなったな。望むところだ。」

 魔法力が切れたはずのゴーストは一旦無視して、ゴブリンへの対処を考える。渡河してくるやつは、仕方ないからピクシーで勧誘。橋から来る奴は泉のタンキで受けるのが理想か。

『良し、勧誘失敗。』
「オィィィ!」

 何やらピクシーはゴブリンから礼儀について諭されたらしく、一回り大きくなった。

「急いでピクシーの救援に!」
『落ち着いて。ピクシーは火炎耐性が高い。ゴブリン二匹くらいなら確実に沈まない。』
「そうは言ってもだな。」

 どうにも新宿でのブラウニーの一撃が、頭から離れない。

『戦闘中の焦りや迷いは、取り返しのつかない事態しか生まないよ。まずはモウリョウを片付けよう。』
「……わかった。」

 ブラウニーを前に出し過ぎないようにしてモウリョウを屠る。タンキには申し訳ないが、もう少しだけ一人で前線を支えていてもらおう。
 ピクシーは予想通りゴブリンの魔法「アギ」を喰らったが、結構平気な様子。前線の攻撃はタンキに集中し、瀕死の状態になったが、何とか泉で回復。

『川向こうのゴブリンは退いたし、まずはこちらのゴブリンを片付けよう。ピクシーにもう一働きしてもらうかな。』

 不安だ。

『キミのそういった性質は好ましくもあるけど、仲魔を信頼することも時には必要だよ。』
「わかってる。」

 一旦ピクシーを呼び戻し、此岸のゴブリンを勧誘。如何にも怪しげなクスリを渡されて、全く疑うことなく飲んでいた。

「またか! またなのか!」
『まあいいじゃない、何事も経験。可愛い娘が成長していると思えば気も楽さ。ほら、お父さん、愛娘の尻拭いに行ってきてよ。』


 さすがに今回は放置できない。ゴーストのトドメはブラウニーに任せて、ゴブリンを一蹴。「ワーカーズぐんて」を入手した。仲魔のブラウニーもゴーストを倒し、漸く一息つけた。

『よし、この調子で頼むよ。』
「おいおい、大丈夫か。」

 アイツが妙に疲れた声で言う。レアアイテム確保か。

『ああー、まあ今回もちょっと無理したからね。このターンだけは勧誘控えておくべきだったか……。』
「レアアイテムだけじゃないのか? まあよくわからんが、ご苦労さん。休んどくか。」
『いや、平気さ。ただ申し訳ないけど、キミがメインで行動してほしい。』
「気にするな。元からそのつもりだ。」

 敵ブラウニーの駆け寄りざまの一撃を、仲魔のブラウニーが無傷で弾く。防具と言う文明の利器は偉大だな。追撃で落とせそうなので、もうブラウニーに任せてしまおう。アヤとタンキにちょっかいは出させるが。

『トドメの前に、キミが着ているワーカーズ装備をブラウニーに渡して。』
「レアアイテムか?」
『その通り。』

 着替えたブラウニーが、相手ブラウニーにトドメを刺す。素の強さが近いせいか、良い経験にもなったようだ。目出度く「ワーカーじかたび」をゲット。ここでも目に見えない【ハヤトロギア】の展開があったのだろう。より一層、アイツの死にそうな感じが増した。

『やった、やっと辿り着いた。』
「今にも死にそうな声だな。」
『まだだ、まだゴールせんよ……。』

 敵の必死の反撃で、ピクシーが川向こうからの火炎魔法「アギ」を喰らう。状態が危険水域に入ってきたので一旦泉へ引かせ、ついでにタンキに回復魔法「ディア」をかけさせる。
 相手の位置も完璧に把握し、先制されることもない。万全の体勢だ。あとは橋を渡ってくる敵戦力を一匹ずつ叩いていくだけ。

『ちょっと線路まで突出してもらえる?』
「ええ?! 嫌だよ。んなことしたら、ゴブリンの火炎喰らうじゃんか。」
『うん、むしろその為なんだけど。』

 ああ、多分断れない流れだな。

「どういうことだよ。」
『相手ブラウニーをこちらのブラウニーで迎撃するに当たって、ゴブリンについてこられちゃまずいんだ。』
「だから俺を餌にして、ゴブリンを川向こうに縛り付けると。」 
『ご名答。』

 果てしなく嫌だが、これが最上の選択だろうとも思う。ここで俺が体を張らずして、仲間に囮になれと言う指示を出すことはできないだろう。

「わかった、やるよ。」
『さすが。信じてた。あ、武器は外してね。反撃でブラウニー倒すといけないから。』
「……。」

 「武器を持たずに戦場に行け」と言うのがどれほど酷いことか、今理解した。
 予定通り、俺が相手の攻撃を一身に受けることで、相手の布陣をこちらの望みどおりに制御。インプによる回復をうっかりしていたが、ピクシーとタンキで削り、ブラウニーでトドメ。ブラウニーが、特技「かみつき」を習得した。コレが噂に聞いていた特技というやつか。少し感動。
 続いて突っ込んできた妖魔インプも一蹴。アギやら毒やらで俺の体がエライ事になっていたが、ピクシーの「ディア」で回復。ホント、ピクシーは偉大だな。

 満を持して橋を渡る。
 タンキは駅でお留守番。アヤは気付いたら道に落ちてるアイテムの回収に行っていた。放浪癖か。残った敵ゴブリンは魔法力が切れたようなので、アイツの言に従って、ピクシーに任せっきりにする。何でも『おじさん(ゴブリン)にイロイロ教わって、技覚えて帰ってくるよ』だそうだ。複雑な気分だ。
 と思っていたら、ゴブリンが橋の中央に陣取った。何と言う邪魔な。わざわざ倒されに来たのか。とりあえずアイツが宝石などを巻き上げつつ勧誘。

『またつまらぬものを斬ってしまった。』 
「いや、斬ってないし。」

 続けて聖獣ユニコーンを勧誘しようとしたが、何故か会話が成立しない。

『満月の夜は悪魔の気が昂って、勧誘できなくなるんだ。』
「早く言えよ。」
『あと、クリティカル率も上がるから気をつけてね。』

 コイツの言う『クリティカル』ってのは、邪鬼などがよく放ってくる鋭い一撃の事らしい。邪鬼のみならず、状況次第では誰でも放つことが可能だそうだ。
 歴戦の指揮官はクリティカル発生率まで読みきって、作戦に適度なバッファを持たせるとか。さらに伝説クラスになると、そのクリティカルが発生するタイミングまで読みきってタイトな作戦を立てるのだとか。どちらも俺には遠い話だ。
 仕方が無いから、駅にいるタンキで無駄にユニコーンを狙撃。うっかり瀕死状態まで追い詰めてしまった。聖獣弱ぇ。月が欠けた瞬間に慌てて傷薬を渡して勧誘。

『えー、いらないのに。』
「いいんだよ。」
『まあいいや、ユニコーンは即召喚で、残りのトドメは全部譲って。』
「随分と急だな。」
『まあね。あと、キミはいるだけで敵を倒しかねないので、とっとと武器庫へ向かうように。』

 武器庫にはピクシーを先行させていたのだが、どうも入り方がわからないらしい。そんなこんなでユニコーンを召喚し、固まっていたヌエとモウリョウを一掃。寄ってきた邪鬼ハンジャも問題なく倒した。

「オマエが言ってた通り、確かに名前負けだなコレは……。」
『でしょ?』

 何か遅い。魔獣タンキが常時二回攻撃なのに対して、聖獣ユニコーンは何か遅い。しかも弱い。正直斧が無かったら、瀕死の邪鬼にトドメを刺すことすらできなかっただろう。聖獣弱ぇ。

「そういや何で、じかたびだけ『ワーカー』なんだろうな。」
『多分メモリが足りなくなったんだよ。アイテム名は最大8文字、みたいな。』

 意味がわからない。
 気を取り直して武器庫を漁るが、残っていたのはベレッタ一丁と言う何とも寂しい結果。ひとまずアヤにベレッタを渡して、使用上の注意を伝える。

『解せぬ……。』
「何がだ?」
『ちょっと離れないと弾が当たらないってところ。』
「格闘戦の間合で銃なんか振り回しても当たんないだろ。」
『でも、寝てる相手にヘッドショットも出来ないとか。納得いかない。』
「何でそんな恐ろしいことを考え付くんだ。ていうか、そんな例外中の例外について言われてもな。」
『世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ。』

 大袈裟な。

「しかし、結局得たものは拳銃が一つだけか。駐屯地なんだからもっとバズーカとかあると思ったんだが。」
『わざわざ武器残して撤退しないでしょ。そもそも君達が重火器なんか手に入れたって、どうせ使えないんだし。』
「説明書があれば、俺もロケットランチャーとか撃てそうじゃないか。」
『そんなのは映画の中だけの話だよ。』


 世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだな。
 


chapter 8 NAGATACHO     ~ 敵本営強襲作戦 ~


 もう間も無く、敵本営のある永田町に到着する。

『アヤちゃんに諭されていたね。』
「ぐ、そうだな。無駄に殺気立っていたのは確かだ。」
『良い仲間を持ったよ。キミは。』

 我知らず、随分と凶暴な面構えになっていたそうだ。実際アヤの言うとおり、悪魔憎しの感情だけで闘うべきではないと思う。
 慎重に進撃していると、遠くに敵悪魔の集団が見えてきた。

「やたら強そうな見たことの無い鬼がいるが、あいつも勧誘するべきだよな?」
『いや、まだキミの強さが足りない。無理をすれば可能だろうが、デメリットの方が大きいね。』

 残念だ。

「他に何か気をつけるべきところはあるか?」
『まずはユニコーンとタンキに最優先で特技を習得させる。』
「ひょっとして remix ってヤツの関係か。」
『そうだ。仲魔を合体させると、元の二体の特技を引き継いだ新しい仲魔が生まれるんだ。』
「まさか元の仲魔は死ぬんじゃないだろうな?」
『死ぬというより、新しい仲魔のなかで生き続けるといったところかな。ネイルさんのように……。』
「(誰だよ……)うさんくせぇ。」
『目指せ全特技習得悪魔!ってね。』

 どうも釈然としない。 

『あとは敵のウェンディゴを二体とも殺さずに残しておくことかな。』
「何でそんな面倒なことを。」
『後で説明する。ひとまず防具フル装備のアヤやピクシーに接待させよう。』

 左翼敵ウェンディゴを無視して、奥にいた邪鬼ハンジャを強襲。タンキとピクシーとブラウニーでギリギリまで削り、ユニコーンの斧で何とか屠ることができた。聖獣弱ぇ。右翼にいた敵タンキたちはどうしようもないのでひとまず無視。左翼へ部隊を寄せていく。敵タンキの攻撃は俺に、敵ウェンディゴの攻撃は仲魔タンキに集中。理想の展開だ。
 問題は妙に強そうな件の悪魔、地獄の獄卒「闘鬼ゴズキ」が突進してきていることか。何で地獄の管理職が地上にまで出張してきているのか。

『大丈夫、ヤツの到着にはまだ余裕がある。さっさと戦場を綺麗にしよう。』

 確かに、強いヤツ相手に乱戦なんてぞっとしない。俺達の優位を生かすためにも、なるべく早くこいつらを倒さねば。
 どうやらタンキとユニコーンは特技習得のめどが立ったらしい。ブラウニーは斧に持ち替え、ユニコーンが削った敵タンキを必殺の一撃で仕留める。俺は仲間達のサポートを受け、もう一匹を手堅く仕留める。
 ウェンディゴ先生はきっと生き残ってくれるはず。

 ついにゴズキが戦場にやってきた。おまけに近くのジェネレータが稼動開始。このタイミングで邪霊ゴーストとか、最悪すぎる。
 
『慌てるな。ゴズキは耐久が高いだけで、脅威度はそれほど高くない。ピクシーやアヤの位置に気をつけて、落ち着いて仕留めるんだ。』
「了解!」

 言われてみれば何のことは無い。ピクシーのザンで半分近く削り、俺の一撃でトドメ。乱戦でさえなければむしろカモに出来る相手だ。平常心が如何に大事か、少し学んだ。あとやっぱりピクシーはエライな。ユニコーンとタンキも特技を習得。全てが順調だ。

 好事魔多し。
 ゴズキを倒すことに集中しすぎて、ゴーストの間合いに踏み込んだことに気付かなかった。当然寄ってきたゴーストにドルミナーを喰らう。幸い何とかレジストしたものの、これで眠らされていたら色々と台無しになるところだった。何度学んだと思っても、油断は完全には消し去れない。
 ブラウニーとのコンビで、さっさとゴーストを片付けて合体を開始。獣コンビと、技を覚えたピクシーを remix にかける。

・タンキ×ユニコーン→邪鬼ハンジャ
・ピクシー×ウェンディゴ→魔獣タンキ

 ピクシー……。
 まるで娘を嫁にやる気分だ。ましてや、あんな筋肉野郎と合体なんて。サイズが違いすぎる。

『ウェンディゴ先生がもう一体欲しいので、そこにいる奴を勧誘しよう。』
「お構いなしだな、オマエは。」
『あとは敵殲滅までにキミの強さを底上げするのと、ブラウニーに特技を覚えさせるのが優先事項だね。』

 ブラウニーと並んで、狭い道路を進んでいく。相手もスクラムを組んでくるため渋滞しがちだが、後ろからモムノフの槍とゴブリンの火炎でフォローが来る。「ドルミナー」で眠らされたらカフェインソーダで即座にたたき起こす。上手く連携を取って、ストレス無く進むことが出来た。

『あとでカフェインソーダ補充しとかないとね。今度は10個ずつにしようか。』
「ブルジョワめ。」
『まだ言ってるのかい。』

 湧いてくるモウリョウや、拠点を守る妖獣達も、成長した俺達の前では塵芥も同然。思うままに蹴散らして敵戦力を殲滅。俺の成長と、ブラウニーの特技「ばくだんなげ」の習得も何とか間に合ったようだ。しかしブラウニーは何処から爆弾を取り出すのだろうか。

『じゃあ拠点制圧の前に、合体を始めようか。』

・ブラウニー×ハンジャ→妖鳥コカクチョウ(ひっかき・はばたき)

『コカクチョウは最優先育成対象ね。』
「俺よりもか?」
『程度問題ではあるけれど、場合によってはキミよりも。』

 何か面白くない。子供か俺は。

「種族としての特徴は、『高速・高機動の空対空ミサイル、鳥獣に注意』だっけか。」
『その通り。ただ、それだけではないんだ。妖鳥それ自体の性能もかなり良好で、何故か杖・頭・腕・足装備可能。そしてなにより「コカクチョウ」の覚える特技が反則級の強さなんだよ。』
「随分もったいぶるな。」
『それだけの価値はあるよ。……そして!!』

・タンキ×ウェンディゴ→地霊ブラウニー
・モムノフ×ブラウニー→天使エンジェル(かなしばり・アイスストーム)


『イヤッホォォオォオウ! エ・ン・ジェ・ル 最ッ高ー!』
「いきなりテンション高っ。」
『だって、アレだよ? エンジェルちゃん、マジ天使。』
「天使か。悪魔でも天使なのか。」
『キミ、存外に細かいことを気にするね。それとも駄洒落?』

 余計なお世話だ。

『フフーフ、完璧だ。完っ璧なタイミングだ。今後はこのツートップに楽をさせてもらおう。』

 飛行タイプはもの凄く使い勝手が良い。全ての障害物を無視しての超高機動。ただ鳥獣に弱いという決定的な弱点があり運用が難しい、と習った。
 エースがどっちも飛行ではバランス悪そうだ。

『こいつら強いからね。この界隈なら、防具をフル装備すれば基本ダメージ自体碌に通らないさ。暫く対空部隊とやりあうこともないし。』

 【未来視】か。なるほど、妙に機嫌がよいのも頷ける。
 ただ、機嫌よさげなところ、水を差すのは非常に申し訳なくもあるんだが、ここはひとつ言っておかねばなるまい。

「……なあ。オマエさっきウェンディゴ勧誘するときに『remixのための材料なんかじゃない、大切な仲魔だ』とか言ってなかったか。」
『確かにそんなことを約束したな。あれは嘘だ。』
「オイ。」

 計画的犯行。以前言ってた『ウェンディゴの大事な使い道』ってコレの事か。

『ウェンディゴは犠牲になったんだ。天使エンジェルの降臨、その犠牲の犠牲にね……。』
「故意犯の上に確信犯か。オマエって本当に最低の屑だな。」
『ありがとう。最高の褒め言葉だ。』


chapter 9 BASE OF INVADER     ~ 解放 ~

 永田町で、最後のウェンディゴを勧誘した後、カオルらしき黒尽くめの男の情報を得た。何でも新橋にある、使われなくなった古い地下鉄の駅に向かったという。
 今さら引き返すわけにも行かず、ひとまずここを制圧してから向かうことに。

『やっぱり先生は大活躍だったね。』
「確かに合体には大活躍だったな。」
『ピクシーと合体してできた娘がタンキ。そして我が子タンキと合体か。父×母父インブリードとか危険な配合過ぎる。さすが三界一の種馬、ウェンディゴ先生。モノが違う。』
「誤解ウェルカムな表現だな。」

 敵司令部に突入し、コカクチョウ・エンジェル・ゴブリンを召喚。ストックにウェンディゴが居るとは言え、仲魔の数が一気に少なくなって、何やら寂しい感じだ。

 ちなみにエンジェルは「ライト悪魔」と言うらしい。
 一般にライト悪魔は妙に信心深くて、ウストックなどに代表される「ダーク悪魔」とは別の意味で会話が成立しない。ただ、remix で作成したこのエンジェルは刷り込みなのか何なのか、まるで俺が神様であるかのように懐かれている。


『合体に使って、すっからかんだからね。勧誘可能な奴は全部勧誘しよう。特にピクシーは絶対に忘れないようにね。』
「ユニコーンとかもか?」
『合体材料としての使い道があるからね。最早倒したところで、然したる足しにもならないし。』
「わかった。んじゃ、行くか。」

 エンジェルとコカクチョウを正面十字路まで先行させる。高機動は伊達じゃない。あっという間に離されてしまった。

『サラマンダーより、ずっとはやい!!』
「いや、確かに速いけど。そもそもサラマンダー飛ばねぇし。」

 サラマンダーをはじめとする各種精霊は、基本的に戦闘には堪えないと教わったのだが。

『ホラ、来たよ。僕の事はいいから先に行ってくれ。』

 何か沈んでないか、コイツ。
 ひとまず向かって右側の通路にいる妖精3匹から片付ける。まず一匹だけ混ざっているピクシーをゴブリンで勧誘。「黙って俺についてこい」的な感じで、強引なナンパに成功していた。

『ゴブリンはすごいなぁ ぼくにはとてもできない 』
「オマエはピクシーをナンパしたいのか。」

 敵ゴブリン二匹は俺が倒しても大した経験にならないので、ニューフェイス二匹に譲りたかった。だが、どうにもコカクチョウの対地攻撃力が弱く、結局一匹は俺が倒すことに。もう一匹の方は残りの全員で袋叩き。コカクチョウが無事トドメを刺したようだ。
 反対側からピクシーが寄ってくる。左右の通路奥から、ジェネレータが吐き出すウストックもやってくる。

「挟み撃ちか。前門の虎、後門の狼って奴だな。」
『それ空間分布じゃないから。どっちかというと時系列展開だから。』

 ウストックはとりあえず泉に配置したアヤに任せて、反対側のゴブリン二匹を叩きに行く。アヤがメキメキ力をつけている様子。アイツは『まりょくふりじゃー』とか意味のわからないことを言っていた。
 こちらは速攻でゴブリンどもを片付け、残るはジェネレータから湧いてくるウストックのみ。エンジェルとコカクチョウをそれぞれの通路に残し、ゴブリンを二人の丁度中間に配置。主に火炎でコカクチョウのフォローをするためだ。

 俺とアヤは中央の通路を進む。地霊ブラウニーを勧誘し、もう一匹の方も片手間で屠る。アヤに扉を開けさせて部屋に飛び込むと、魔獣ネコマタが襲い掛かってきた。
 ベレッタ装備を禁止されているので、一方的に攻撃を受ける。何でも『反撃で全部落としちゃうから』らしい。

『さあ、勧誘だ。』
「言われずとも!」

 剣をベレッタに持ち替え、ネコマタに話しかける。妙に色っぽくて良い匂いだ。何が何やらわからないまま、気付けば仲魔になっていた。

『ジゴロ爆発しろ。』
「オマエなぁ。」

 もう一匹のネコマタも反撃で仕留めて、順調に奥の部屋へ。ユニコーンとタンキも勧誘し、残ったタンキはネコマタでトドメ。こちらの制圧は全て完了した。
 残してきた仲魔はどうなっているのか。急いで引き返したが、到着したときには既に決着がついていた。頼もしい。しかもどちらも成長して能力が上がっていた。
 
 仲魔を労っていたら、エンジェルが非常にカッコいい篭手を差し出してきた。「しっこくのこて」と言うらしい。『相手の攻撃が当たりにくくなる優れもの』だそうだ。保護色、なのか?

「しかし結局カオル達には会えずじまい。オギワラも倒せなかったな。」
『むしろ後者に関しては幸運だったと思うけどね。』
「なんだよ、俺達じゃオギワラに勝てないってのか。」
『そうだよ。まだ遠く及ばない。』

 薄々わかってはいたが、改めて言われると結構クるものがあるな。

「そんなのやってみなきゃ分からないだろう。もしかしたら勝てるかもしれないじゃないか。」
『カオルから何も学ばなかったのかい。大事なのは間合い、そして退かぬ心。勇敢さの取り違えは隙をつくるだけだ。』

 確かにカオルは相手の戦力と間合いを慎重に計っていた。

「だったら何でここに突っ込むのを容認したんだ?」
『君自身も言っていただろう。「オギワラは逃げたんじゃないか」って。』
「オイオイ、本気にしたのか。ありゃ冗談だぞ。」
『だけど全ての辻褄が合うし、実際オギワラは現れなかった。』

 そりゃあ、そうだが。

「まあ、その話は後回しだ。一時的かもしれないが、折角敵本営を制圧したんだから、情報収集なり破壊活動なりできることをしようぜ。」
『そうか。』

 とは言え、めぼしいものは見つからない。まるで引越し後のように、重要な情報などが持ち去られている印象だ。まさか本当にオギワラはここを引き払ったのか?

 ふと顔を上げて辺りを見渡す。
 アヤが司令室の中央に鎮座している巨大な機械を弄り回しているのが見える。

『一応聞くけど、止めないのかい?』

 俺は少し考えて、答える。

「状況から考えて、敵の司令官が悪魔を呼び出して使役しているのは明らかだ。」
『まあそうだろうね。』
「司令官が戻ってきていない今がチャンスだ。」
『まあ何をするにもチャンスであることは確かだろうね。』
「だからこの怪しげな機械を止める。」
『何だかなぁ。』

 呆れているようだが、反対しているわけでもないらしい。これが奴らにとって、何か重要な機械であることは確かだろう。情報を得るか、最悪破壊するだけでも敵に痛手を与えられるはずだ。

 アヤの気の抜けた声と共に、謎の機械が起動する。
 辺りに光が満ち溢れ、視界が全て白一色で塗りつぶされて……。



[22653] A.D.2024 SLUM-TOKYO     ~ The valiant ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2011/04/19 18:17
 気が付いたら俺達はひらけた場所に居た。どこかで見たような展開だ。
 周囲を観察したところ、どうやらここは上野公園のようだ。やはり状況は全くわからない。あの機械はワープ装置か何かだったのだろうか。
 しかしアヤが言うように、妙に辺りが荒廃している。ビルが壊れたまま放置されているなんて、東京では見たことも無い光景だ。

 その辺をふらついていたオッサンを捕まえて、色々聞いてみる。アヤの機転で、俺は記憶喪失の気の毒な男の子になった。あとで泣かしちゃる。人の良いおっさんが、哀れな俺に同情して聞かせてくれた話によると、やはりここは上野らしい。だが信じられないことに、今は2024年10月21日だと言うのだ。

『迫真の演技だったね。』
「うるせぇよ。一体俺達はどうなったんだ?」
『どうもこうも、お察しの通りだよ。』

 本当にタイムスリップしたってのか。

「つまり、敵本営にあったあの機械がタイムマシンだったってことか?」
『そうなるのかな。』
「オマエはそれを知っていたんだよな。」
『そうだね。』

 珍しく簡潔な答え。

「何故俺達に教えなかったんだ?」
『……君達にとって、コレが必要なことだと思ったからさ。』

 短い付き合いではあるが、コイツが俺達のために力を貸しているのはわかっている。そして何かを誤魔化す事はあっても、俺に嘘をついたことは無い。

「それならいい。」
『あれ、怒らないの?』

 これもどこかで見たようなやり取り。

「オマエは俺達のことを考えて黙っていたんだろう。」
『その言い分を鵜呑みにするのかい?』

 考えるまでも無い。


「今さら疑うものか。俺はオマエを信じる。」
 
 我ながら照れくさい物言いではあるが、いつもやられっぱなしと言うのも性に合わない。たまにはこういうのも良いだろう。 


『……あ~、キミが姐さんで、かつ僕が実体を持ってそちらに干渉できていたらなぁ。』
「気持ち悪いことを言うな。」



chapter 10 UENO     ~ Where's here ? ~

 上野公園を出た途端に、敵意むき出しの妖精族に半包囲されると言う緊急事態。
 急いでエンジェル・コカクチョウ・ネコマタを召喚し、戦闘に備える。周囲が荒れまくってるせいで移動しづらいが、うちの二枚看板にとってはむしろ好都合だ。

 囲みの薄い右側ゴブリン二匹に戦力を集中。エンジェルのクリティカルもあって、一気に包囲を食い破る。
 残る敵戦力は、ゴブリン2・ブラウニー2の混成部隊。移動速度の違いでゴブリンだけが突出、厄介なブラウニーが到着するまで少し余裕ができる。狙い通りだ。
 深追いしてきたゴブリン二匹を一掃しつつ、航空部隊をブラウニーの間合いにぶら下げる。ブラウニーは絶対無敵の対地対物戦車ではあるが、上からの攻撃には滅法弱い。相手に対空要素が無く制空権がこちらにある以上、負ける要素が見当たらない。
 敵ブラウニーが堅く、コカクチョウの攻撃が通らなかったこと以外は、全て想定の範囲内。問題なく片付けて、上野駅に向かって前進。とりあえず高架の向こうにいる悪魔の群れを一掃してから、今後の予定を決めることにする。

 左手高架上の遠くにあるジェネレータから湧き出して、高架上を爆走してくる鬼共は、飛行タイプ二人を先行させて翻弄。むしろコカクチョウの糧になってもらう。

「『勧誘可能な悪魔は全部勧誘』なんだろ。ゴズキはいいのか?」
『気持ちはわかるけど、あれは罠なんだよね。地霊をエースにしないなら話は別だけど。』

 良くわからん。詳しく説明する気もないのだろう。
 その間に俺とアヤはネコマタをCOMPに戻し、ゆっくり高架を乗り越えてから再召喚。そのまま敵本隊に接近する。俺にとってブラウニーは、もはや大した経験にならない相手。だがネコマタにとっては極上のご馳走だ。上手く俺とアヤで料理して、彼女に食べさせる。
 妙に強いピクシーがいると思ったら、何と武器防具を装備していた。

「30年の歳月がピクシーを進歩させたのか。」
『「呉下の阿蒙に非ず」って? 随分気の長い話だね。第一、こいつらが湧き出したのはつい最近の話だよ。しかも既に駆逐されつつある。』
「どういうことだ?」
『キミが気にする必要はないよ。僕らとはまた違う「物語」さ。』


 別段苦戦するでもなく。最後のピクシーもネコマタでトドメ。アヤは相変わらず弱いままだが、主力の成長は順調そのもの。意気揚々と上野を後にする。

 

stage2 A.D.2024  SLUM-TOKYO





chapter 11 ASAKUSA     ~ Challenger ~

 意気揚々と上野を後にしたのは良いものの、実際のところは行くあてもなく。
 アイツに聞いても、『まだあわてるような時間じゃない』の一点張り。確かに急がなければならない理由は無い。ひょっとしたらこれも『必要なこと』なのかも知れないが、この風景の中をただ歩き回るってのも正直疲れるものだ。

「コレが30年後の東京の姿だなんて信じられないな。」
『何も全部悪魔が原因ってわけじゃない。簡単に言えば内戦だよ。』
「内戦? そんな事が日本で起こるなんて信じられないな。」
『まあ日本人に成りすました国外勢力が流入していたって説もあるけどね。定説では大恐慌の後、平等と博愛を謳う反政府グループが、脱資本主義を掲げて武装蜂起したとされている。そいつらがテロ行為を繰り返し、最後は自衛隊と衝突してご覧の有様だ。』
「博愛を謳っているのにか。」
『革命に犠牲は付き物らしい。人間誰しも、自身の矛盾には目を瞑るものさ。』


 ふらりと立ち寄った浅草で奇妙な噂を耳にした。
 どうも「召喚士」なる男が、召喚した悪魔を浅草に放っているらしい。

「何のために悪魔をばら撒くような事しているんだろうな。」
『さてね。修行か、何かの実験か。』
「けど放って置く訳にはいかないよな。」
『いいや、究極的には放置するより他に無いよ。』

 突き放すような言葉。

「どういうことだ?」
『まず浅草にいる悪魔を一掃しても、時間が経てば召喚士が再び悪魔を呼び出す為、根本的な解決にはならないのが一つ。』
「だったら元凶を断てばいいじゃないか。」
『そして次の理由がコレだ。見えるかい?』

 視覚共有による【千里眼】のイメージ。
 今見えている男がどうやら件の召喚士らしい。
 だが、この映像は……。


『どうだい。何かわかったかい。』
「何だ、コレは。気持ち悪くて吐きそうだ……。」

 見えるには見えるが、男の周囲の空間が何とも形容しがたい。こちらの理解が及ばない。見ているだけで頭痛が引き起こされる。どうしようもない生理的嫌悪感。自分でも何を言っているかわからなくなってきた。まともに頭が働かなくなる。


『亜空間と言うやつさ。我々のいる空間からでは決して辿り着くことはできないし、あそこから出ることも不可能だ。空間制御に擬似不老不死。サモナーとしての腕はともかく、魔道師としては一流なんだろうね。』
「どういうつもりでアイツはあんな場所にいるんだ? 永遠にあそこから出てこられないんだろう?」
『不思議だよね。まあ、狂人の考えなど推し量るだけ無駄だと思うけど。』

 理解できない。

「浅草は永久に悪魔の巣窟なのか。」
『浅草に限った話ではないよ。彼が何処に悪魔を召喚するか次第だ。崩れた三界のバランスを何とかすれば、或いは空間も安定するのかもしれないけどね。』

 何を言っているかわからない。いや、それよりもだ。

「ここから離れよう。一刻も早く。」




chapter 12 KORAKUEN     ~ PRELUDE ~

 結局浅草では、有用な情報は何も得られず。
 仕方が無いので都内を回っていたら、後楽園で大規模な悪魔の集団と遭遇した。統率者らしき人影を一瞬視界に捉える。驚いたことにトモハルそっくりだった。さすがにこの時代にトモハルがいる訳も無いので見間違いだとは思うが、何か気になる。

「見たことの無い邪霊がいるな。」
『あれは「邪霊ランスグイル」。多彩な特技を覚えるアジア土着の吸血鬼、だったかな。』
「でも勧誘できないんだろ?」
『そうだね。それ以前に使いにくいので、たとえ可能だとしても勧誘しないけど。』

 まあ、邪霊だしな。

「ランスグイル……。確か毒の魔法だったか?」
『大正解。魔法「ドグラドラル」だね。瀕死の状態で喰らわなければ大した脅威じゃない。』
「ひとまずはそのくらいか。後の事はとりあえず邪霊を片付けてから考えよう。」
『残念落第点。』
「えっ?!」

 正直どこに穴があるのか、全くわからない。

『目を凝らして敵陣奥深くを見てごらん。』
「鬼族に獣、鳥もいるな。そういや鳥が敵で出てくるのは初めてか。」
『そこだよ。鳥の存在を軽視しすぎている。』
「いや、いくらなんでも遠すぎるだろ。」
『それが相手の狙いさ。邪霊で君達を釣って、鳥で本拠地を一気に落とす。そうやって油断していると、一瞬で継戦能力を奪われるよ。』
「確かに鳥の機動力は異常だが……。なら邪霊を深追いしないように気をつけてみるか。」
『そうだね。特にコカクチョウがドルミナーを喰らわないように注意だ。』
「コカクチョウ? ネコマタでなしに?」

 いつでも拠点を守りに戻れるように、ということならネコマタの方を優先すべきと思うが。

『どっちでも良いんだけどね。万一深追いし過ぎても大丈夫と言う意味で。』
「しかし、空対空同士の戦いとか、あぶなっかしいな。」
『大丈夫。こちらのコカクチョウは育っているし、防具もあるし、何より地の利がある。』

 確かにな。

「育成方針はコレまでどおりでいいのか?」
『そうだね。何をおいてもコカクチョウを最優先。エンジェルは絶対止めを刺さないように。』
「で、特技を覚え次第合体か。」
『そ。エンジェルが特技もう一つ覚えるまで頑張る手も有るけどね。今回はパスだ。』

 ひとまず正面のゴーストをエンジェル・ネコマタ・アヤ・コカクチョウで沈める。俺は拠点でもう一体のゴーストを迎撃。瀕死になるように武器を調整。
 事前の評どおり、凄い勢いで敵コカクチョウがこちらに突っ込んできた。うっかり前に出ていたら、本当に拠点を落とされかねない勢い。非常に厄介な相手だ。
 ランスグイルを俺とネコマタで仕留めた後、予定通りコカクチョウを拠点に戻し、ついでに二匹目のゴーストを沈める。ランスグイルが「しっこくのぐそく」を落とした。やはり相手の攻撃が当たりにくくなるらしい。優れた足防具だ。

『だけど何故か「ワーカーじかたび」の方が回避力高いんだよなぁ。』

 アヤとネコマタは下がって相手の出方を伺う。鳥二匹は思いのほか上手く釣れて、拠点を守るコカクチョウに攻撃。かなり削ることに成功。それぞれ俺とコカクチョウで止めを刺す。

 何とか一息。
 次は鈍足の鬼族。速やかに橋まで間合いを詰めて、あっさり屠る。コカクチョウの特技、「ひっかき」の意外な強さが嬉しい。
 そうやって油断していると、視界の外から敵ネコマタの片割れが飛んできて、コカクチョウに攻撃してきた。さすが地対空ミサイル。結構削られる。ただ、能力差が大きいためか、致命的な打撃には程遠い感じ。とは言え、エンジェルの方は速度の問題で致命傷になりかねないそうだ。何れにせよ、好きにやらせて良い法はないので、奥のネコマタはコカクチョウの子守唄で足止め。手前のネコマタも仕方ないので、エンジェルの特技で金縛ることに。

「さすがにヒヤッとしたな。」
『そうだね。局地戦が始まると、視野が狭くなるのは仕方の無いことだけど。』
「皆の命を預かる身としては、そうも言ってられないよな。」
『その通りだ。お互い気をつけるとしよう。』

 単騎先行してネコマタを眠らせたコカクチョウに、見たことの無い妖鬼が寄ってきた。

「『妖鬼イバラギドウジ』か?」
『正解。勧誘可能だけど、今この瞬間は経験値にした方が良いだろうね。』
「了解。上手く釣り出して仕留めるか。」

 大江山に住んでいたと言われる伝説の鬼。その割には、あんまり強そうに見えないが。

『伝説の現物がそのまま出てきているわけではないよ。本体の射影だったり、経年劣化していたり、伝説が誇張だったりと理由は様々さ。大江山に住んでいた茨木童子が、特別な個体だったと考えるのが妥当だと思うけどね。』

 俺は前進して橋を塞いでいるネコマタを仕留め、他の仲魔はコカクチョウに合流させてイバラギドウジに対処。仲魔三体で前線を維持させながら、アヤ・俺の順で合流しようとしたのだが。

「げっ、後ろのジェネレータからゴーストが。」
『貴重な経験値だ。』
「仕方ない。さっさと仕留めるか。」

 上手いこと時間差で発動して、見事な挟撃・分断を喰らうことに。

『あはは、素早い進軍が裏目に出たね。自縄自縛の典型例だ。』
「もとはオマエが『経験値もったいない』とかほざいて、ジェネレータの封印を禁止したからだろ!」

 飛行タイプ二体を戻して、遅れ気味だったアヤと協力させてゴーストを仕留める。同時に俺は沼地に突っ込み、イバラギドウジを仕留めた。沼地は非常に不快指数が高く、いるだけで体力を削られる。
 幸い敵のネコマタはまだ眠ってくれているが、そろそろ起き出してもおかしくない頃だ。こちらのネコマタで隘路を塞ぎ、飛行タイプに敵ネコマタの攻撃が届かないようにする。
 案の定起き出した敵ネコマタだが、大した仕事もできず。同時に、気になっていた二つ目のジェネレータが稼動を開始。モウリョウが出現した。
 俺としては二つとも封印処理したいところだが、アイツ曰く『ダメ、ゼッタイ』。事情はわかるが俺としては不安で仕方が無い。出現悪魔が、コカクチョウ単騎で十分対処可能なものばかりだったのが、せめてもの救いか。この調子ならコカクチョウの特技習得も遠くは無いだろう。
 ひょっとしたらここまで見通していたのかもしれないが。

 ジェネレータはひとまず仲魔に任せて、俺は銃を持って線路に隣接。線路の向こう岸にいる獣の間合いに、敢えて踏み入ることで攻撃を誘う。ところが何と完全スルー。どうやらあの集団は専守防衛組らしい。そうとわかれば好き放題荒らしまわるのみ。
 ちなみに残っていた敵ネコマタは、エンジェルの特技で再度眠らせて、結局こちらのコカクチョウの餌食になった。コカクチョウが目出度く特技「はばたき」を習得。ネコマタもいつの間にか特技を覚えていたので、満を持して合体を開始する。

・ネコマタ×コカクチョウ→闘鬼ゴズキ(バーニングリング)
・エンジェル×ウェンディゴ→魔獣ネコマタ

「オマエが頑なにゴズキを勧誘させなかったのはこの為か。」
『うん。素のゴズキがいると、どう工夫してもエンジェルあたりの特技をエースに引き継げなくなるからね。』

・ネコマタ×ゴズキ→地霊ノッカー(麻痺噛み付き・お調子ボム)


『……穏やかな外見を持ちながら、全ての特技を受け継いで目覚めた、伝説のスーパー地霊殿、ノッカー様だ!』
「種族名に殿って。まあ、気持ちはわかるか。俺もテンション上がってきてるし。」
『人類種に友好的な鉱山妖精。オマケに可愛いなんて言う事無しだよね。』

 地霊ブラウニーの強さは言うに及ばず。その上位者たるノッカーは、一体どれほど規格外の仲魔なのか。
 とりあえずジェネレータ二基はこいつに任せておけば心配ないだろう。 

一方俺は単身線路を越えて、敵拠点を攻めていた。初めて見る「妖獣ドドンゴー」が「しっこくのかぶと」をドロップ。拠点を守っていた他の悪魔も問題なく落とし、制圧は目前。

『ストップだ。一旦停止してくれ。』
「何だよ、あと一歩なんだぞ?」
『制圧するなとは言わないさ。ただ、少し待ってくれないか。』
「何かあるのか。」
『もう少ししたら、ジェネレーターから「堕天使アンドラス」が出現する。』

 堕天使。講義ではまだ詳しくやってない種族だ。

『彼の持つアイテムを頂いてからクリアして欲しいんだ。』
「異論は無いな。俺、結構傷負ってるけど、これでもいけるか?」
『念のため傷薬を使っておこう。』

 そこそこ強い相手というわけか。もしくは魔法系か。ジェネレータから湧いてくるランスグイルを、片端から一刀両断しながら考えを巡らす。程なくしてそいつは現れた。
 かの有名なソロモン王の72柱が1柱であり、確かに強いは強い。高い機動力と強力な魔法攻撃。空を飛んでいるため、こちらの攻撃も当たりにくく、一撃で仕留めることができなかった。
 もっとも、逆に言えばそれだけ。一対一でなら決して負ける相手ではない。あっさり剣の錆にして、「しっこくのよろい」をゲットした。

『お疲れ様。』
「どうって事ないさ。」

 まあ本音を言えば、長い戦いだった。
 気付くとアヤが怪しげなおっさんと話している。あの子はホントに物怖じしないなぁ。

『良い娘だよね、アヤちゃん。』
「オマエ何か、妙にアヤに甘くね?」

 コイツが女に下心とか、何か想像できないが。
 というか、コイツはそもそも男なんだろうか。

『女子高生とか、好きだから!』
「……。」
『……いや、冗談ですよ?』



 オッサンの話を要約すると、「地下鉄の新橋駅に、昭和初期に作られたもう一つの幻の駅があって、そこが異次元とつながっている」と言うことらしい。
 怪しげなオッサンから得た、この上なく怪しげな情報だが、思い出すのは30年前、永田町で聞いたカオルらしき男の情報。そのときに出てきたのも、「新橋にある地下鉄の廃駅」だった。
 俺達には他に元の時代に戻るあてもない。このまま無意味に彷徨うよりはマシだろうと言う事で、ひとまず新橋へ向かうことにした。


『いや、ホント、冗談だからね?』
「……。」



chapter 13 SHINBASHI     ~ RUMOURS ~

 後楽園を抜け、ショップで買い物を済ます。

「またヤリやがった。」
『と言うか、ショップのオヤジ、30年前と明らかに同一人物だよね。人物?』

 やっぱり今回も武具全部2つずつ+α。しかも傷薬や、初めて見るやつ含め状態異常回復アイテムも5個ずつ揃えるという念の入れっぷり。
 どんだけ金遣いが荒いんだよ。

「お陰で財布はスッカラカンだ。」
『だって他に使うこと無いでしょ。取っておいても腐るだけだよ。』
「金が腐るわけ無いだろ。」
『いや、腐ると思うよ? 30年とかしまっておくと、貨幣価値的な意味で。』
「屁理屈を。」
『実際今持ってる全財産は、後になるほどその価値が下がる。1996年でのキミの全財産いくらだったか覚えてる?』

 一理ある、のか?

『まあ屁理屈だけどね。どうしても僕を信じられないなら、僕の信じる【未来視】を信じろ。』
「いや、ダメだよな? それ前提からして間違ってるよな?」


 新橋駅が見えてきた。
 正面泉付近にゴースト。左右にネコマタ。

「例によって泉の確保が最優先だが、ちょっと遠いよな。」
『そうだね。合体によって、育ってたネコマタが消えたのが痛い。』
「とは言え、さすがに泉を無視するわけにもいかないだろ。ユニコーンとタンキを先行させてひとまず確保。後に交代がベストか?」
『素の低レベル仲魔とか不安材料しかないけど、現状代替手段が無いからね。相手に対地火力が皆無なのが救いか。』

 左右に展開しているネコマタが鬱陶しい。うちの獣達は、まあ最悪やられてもいいか。

「あと気になるのは正面奥の鳥二匹だな。あいつらが突っ込んで来るようだと、最早収拾がつかなくなる。」
『しっかり学んでいるね。その悪い予感は大当たりさ。こちらの主力に対空要素が無い以上、タフな戦いになるよ。』

 うへぇ。読みが当たったのにちっとも嬉しくない。
 ひとまず計画通りに泉の確保に動いて、相手の出方を注視。案の定こちらの獣二匹は袋叩きにされる。
 殆ど何もしていない(眠らされて、たたき起こされただけの)タンキ達を下がらせ、入れ替わりで俺とノッカーが泉を防衛。ノッカーでゴーストを叩くも、異常に耐久が高く仕留められない。ここはケチらず「はばたき」を使うべきだったか。

 下がったタンキを合体に使用。

・ブラウニー×タンキ→邪霊ゴースト
・ゴースト×ゴブリン→妖鳥コカクチョウ


「何か前にコカクチョウを仲魔にしたときと、微妙に違ってるな。」
『永田町の事だね。あの時はユニコーンの特技引継ぎと、敵本営の鬼退治にゴブリンを残すのが目的だったんだ。今回はすぐに勧誘可能なゴブリンのかわりに、後に使う予定があるユニコーンを残すような合体ルートを選択したのさ。』

 やはり未来知識を前提に合体を考えているのか。

「また『はばたき』を覚えるのか?」
『そうできたら理想的なんだけど、現実には間に合わないだろうね。』
「何かの材料か。」
『その通り。まあ、純粋に戦力としての期待もあるかな。トドメは刺させないけど。』
「妥当だろうな。」
『相手の鳥に集中攻撃を受けたら死が見えるので、コカクチョウは一旦COMPに戻すよ。』

 俺は泥縄的にネコマタを勧誘。召喚まで込みで俺の行動を縛られるため、瞬間火力の不足が心配ではあるが、この戦局では強い味方になるはずだ。
 アヤの防御力に不安が残るが、泉を塞いでおけば回りこめるのは「凶鳥フーシー」のみ。アヤとピクシーを戦線から一歩遠ざけて、下手を打たなけりゃ何とかなる!
 そう思っていたのに。

『気をつけて。後方のジェネレータからゾンビが湧いてきてるよ。』
「クソッ、マジか!」
『慌てない、慌てない。ジェネレータから出てきたばかりの悪魔は弱い。アヤとピクシーでも十分対応可能だ。それより急務は鳥共の排除だよ。やつらを野放しにすると、まずい事になる。』

 確かにその通りだ。
 俺達は泉から動けないが、幸い俺にちょっかいかけてきて、隣接しているフーシーが一匹。予定変更してネコマタ召喚を遅らせ、まずはコイツを確実に屠る。残りの一匹は、アヤとピクシーで何とかしてもらうしかないか。
 そう覚悟していたのだが、残ったフーシーも俺に仕掛けてきたので反撃で落とす。他の連中も俺に攻撃を仕掛けてきて勝手に沈んでいく。こいつらアホなのか。

 形勢が一気にこちらに傾いた。今が好機。
 ノッカーが泉を飛び出しネコマタを仕留める。一つ目の特技「マヒかみつき」を覚えた。入れ替わりでピクシーに泉を占拠させ、アヤを回復させる。アヤは適当に遊ばせておく。
 俺も泉の上からネコマタを銃撃。空に浮かんでいるやつでなければ、大抵一撃で屠れるようになった。


「アヤが撃つとちょっと痛そうにするだけだが、俺が撃つと木っ端微塵に吹っ飛ぶよな。同じベレッタなのに。」
『そこはそれ、鍛え上げた筋力のおかげさ。そのうち何ちゃってレールガンだって撃てる様になるよ。』
「理解できない。」
『世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ。』
「オマエ、そのフレーズ大好きだよな。」

 なんちゃってレールガン。ちょっと心惹かれる響きだ。ただ、どう考えてもベレッタで電界・磁界、何より十分な長さの頑丈なレールを確保できるとは思えない。精々体からパチパチ無駄放電するような、それっぽい静電加速が関の山だろう。

『尤もらしい所で、反動に耐えられるか耐えられないかでしょ。』
「ああー、そういやアヤは一発撃つだけで反動で吹っ飛んでるもんな。」
『実際よくあれで当たるよね。その点キミは全弾とは言わないまでも、相当数一度に打ち込めるから実質的な殺傷力が上がるんだ。適当に言ってみただけだけど。』

 適当かよ。
 ちなみに残存する邪霊の相手は最早消化試合だ。
 確かにタフな戦いだった。



「……なあ。いつまで続くんだ、コレ。」
『そう言わずに。もうすぐだから。』
「無視して先に進んでも良さそうな気がするがな。」

 ジェネレータから延々湧き出し続けるゾンビ。永い、永すぎる。一向に止む気配が無い。

『慌てる乞食は何とやら、ってね。』
「絶対ぼかす所間違ってるよな、それ。」

 こいつがそう言うからには、慌てると損をするというのは事実なんだろうが。
 味方がうっかりゾンビを倒してしまい、一瞬手空きになったので、欠伸交じりにネコマタとコカクチョウを召喚。

「しかし飽きるな。」
『いくら何でも油断しすぎでしょ。』
「油断っていうか、余裕だろコレは。」
『何と言うお美事な死亡フラグ。』

 そうこうしているうちに、やっとジェネレータの動作が止まった。

「ようやく進めそうだな。」
『そうだね。この後はどう進む?』

 脳裏に浮かぶ、戦場全体を俯瞰するイメージ。
 道が左右に二本。どちらも敵の構成は変わらない。更にほぼ完全に分断されていて、互いに干渉し合うようなことはなさそうだ。
 橋向こうの駅周辺に、凶鳥フーシーが四匹とゴブリンが二匹。ついでに未稼働のジェネレータが二基。橋の手前には、ゴブリンやゴズキが、ごちゃごちゃと固まっている。

「常識で考えれば戦力を片側に集中して突破するのがよさそうだが。」
『お察しの通り、部隊を二つに分けるよ。』

 まあ、そうなるだろうな。コイツが言うところの『経験値』とやらを、コイツ自身がみすみす逃がすとは思えない。

「左翼は俺・アヤ・コカクチョウ。右翼はノッカー・ネコマタ・ピクシーで行くか。」
『95点だ。ほぼ完璧だね。強いて難を挙げるなら、君自身の戦闘能力をちょっと過小に見積もっているかな。コカクチョウは左翼では暇になると思うよ。もっとも、キミの作戦でも全く問題ないけどね。』

 尻が痒くなる。

『とりあえず右翼敵ゴブリンの火炎にだけ気をつけて。とは言え、一発なら喰らっても何も問題はないし、そのためのピクシーだろうとは思うけど。』

 ひとまずプランどおりに進軍し、左翼敵先頭の闘鬼ゴズキを勧誘。同時に右翼ノッカーもゴズキと戦闘状態に。一撃では仕留められないようだが、まさかゴズキ相手でもノーダメージとは思わなかった。地霊マジ強ェ。
 ちなみに橋手前に屯していたゴブリンズだが、間合いに入ったにもかかわらず全く動いてこない。どうやら拠点防衛行動を取っているらしい。警戒しすぎたかと思う一方、それを損したと思うようではいけないな、と自分で自分を戒める。

 予想外の展開もあった。最奥の両翼に位置していたフーシー二匹が突っ込んできたのだ。
 てっきり拠点防衛悪魔かと思っていたが、よくよく考えればそんな根拠はどこにもなく。思い込みで作戦を立てることが如何に危険なことか、身をもって知ることができた。損害は殆ど無かったので、多分アイツもわかっていて黙っていたのだろう。情けない話ではあるが、確かにこうして肝を冷やした方が、身に付きやすい気はする。
 飛来したフーシーを力でごり押しして撃墜。その勢いのまま橋手前のゴブリン達も全て一撃で切り伏せる。なるほど筋力特化の鍛錬は確かに歪だが、戦術次第と言うことか。
 乱戦のさなか、橋向こうのゴブリンがこちらに強襲をかけてきて、背中に魔法を一発喰らうも、大勢には影響なし。右翼のノッカーに注意を促さなければ。ひとまずコカクチョウを、右翼橋向こうにいるゴブリンの足止めに向かわせるのもアリか。
 右翼は鳥に苦戦しているらしい。如何にスーパー陸戦兵ノッカーでも、対空火力まで十分とはいかない。どうやら鳥を特技でマヒさせて、殴り合いに持ち込んだようだ。賢いやつめ。拠点防衛組を尻目に、ピクシーとネコマタの援護を受けて何とか撃墜に成功。ノッカーが見事に更なる成長を果たしたらしい。特技習得まで後一歩だそうだ。
 左翼に残るは駅を守るフーシーだけとなっていたが、ずっと稼動していなかった最奥のジェネレータ二基が遂に起動した。しかしこちらも泉で補給して万全の状態。駅の二匹はどうやら動かないようだし、負ける要素は見当たらない。

「慌てる乞食がどうのと言っていたのはコレか。」
『ご名答。最後に出てくる「妖精ドリアード」がお目当てさ。』

 どうせ名前からして、可愛い系の妖精だろう。このスケベヨウセイめ。
 俺はジェネレータに張り付いて、出てくる悪魔を片っ端から切り伏せる。アヤは落ちているアイテムを拾う。「妖刀ニヒル」という禍々しい剣だった。

「なんか扱いづらそうな剣だな。そもそも剣なのに『妖刀』ってのもアレだが。」
『そう言わないでよ。キミにとっては永く付き合うことになる主兵装だよ?』

 うへぇ。いかにも呪われてそうな雰囲気なんだが。 
 しかし実際に持ってみると、しっかり手に馴染む。まるで吸い付いて離れないかのようだ。
 上手く扱うには相当技量が要りそうだが、何だか急に良い武器かもしれないという気がしてきた。

「よし! コイツでジェネレータから湧いてくる悪魔を、虐・殺・DA!」
『おーい、大丈夫かー?』
「だいじょうぶだ。おれはしょうきにもどった!」
『大分侵されてるね。』







 ……本当に正気に戻ったのは、駅を守っていたフーシーを二体とも切り捨てた、その瞬間だった。
 妖刀ニヒルを握ってからの記憶が、まるで白く霞がかったかのように定かではない。

「俺、どうなってたんだ?」
『剣にのっとられてた。多分バカにした物言いが、ニヒルの気に障ったんじゃないの?』
「マジかよ。」
『と言っても、もう耐性もできたっぽいし、心強い味方だよ。多分。』

 色々と思うところはあるが、まずは状況確認だ。

「俺がラリッてる間、何が起きた?」
『なべて世は事も無し。順調そのものさ。
 ピクシーがゴブリンとドリアードを勧誘したことが一つ。
 駅を守っていたフーシー達が、異様に強かったのが一つ。
 エースである地霊ノッカーが、目的の特技を覚えたのが一つ。
 それに伴って合体を二つ、新エースとサポーター作成をこなしておいたよ。』

・ノッカー×コカクチョウ→夜魔リリム(魅惑噛み付き・イービルアイズ)
・ネコマタ×ゴズキ→地霊ノッカー


「大いに事があるじゃねぇかよ。」

 戦闘自体は楽だったようだが。

『そうだね。まさに死線を背にした戦いであった……。だが、ねんがんの「フェイクバニー」をてにいれたぞ!』
「いや、何となくしか覚えてないけど、そこはそんな激しく無かっただろ。」

 たまにある事だが、話が全く噛み合わない。何故かコイツのテンションが上がりっぱなしだ。

『それはそうなんだけどね。これが私の【ハヤトロギア】全力展開!的な意味で。』

 そういう意味での、激しい戦いか。

「そうまでして入手するってことは、いつか言ってた『レアアイテム』ってやつか。」
『洞察力とスルースキルが良い感じに鍛えられてきたね。まあ厳密にはレアアイテムとは言えないかな。後で宝石と交換で貰えるし。』
「ふーん。ならあんまり有り難味が無いな。」
『それでも宝石は貴重だからね。悪魔のドロップで得るに越したことは無い。ドリアードは無駄に運が高くて心配だったけど、いやぁ良かった、良かった。』


 やはりテンションが高いな。この喜びようはイマイチわからん。

「しっかし、そんなに大層なものか? 不思議なことに防御力はそこそこあるようだけど。」
『ああ、これは防具としての性能も勿論だが、何より重要なのは運が大幅に増強されることなんだ。』
「運、ねぇ……。」

 講義を受けているときにも思ったが、イマイチ実感が湧かない能力だ。

『そうさ。アイテムドロップ率の向上によって、【ハヤトロギア】の使用コストが劇的に減少するんだ。』
「へー、凄いじゃないか。」

 何だろう。いつも回りくどいコイツの、いつも以上に回りくどい感じ。
 嫌な予感しかしない。

『うん。というわけでコレを身に着けてくれないか。』



 ホラ来た。

「オマエ、成人男性たるこの俺に『ウサ耳カチューシャ』を着けろと申すか。」
『そうだよ?』

 それが何か?的な軽いノリで返された。

『うーん、僕にとっても結構な死活問題なんだよね。コレばっかりは譲れないなぁ。』
「知ったことか。俺は」
『仕方ない。あまり気は進まないが奥の手を使おう。』

 奥の手?と疑問に思う暇もあらばこそ。道具袋のウサ耳を俺の右手が光って掴む。

「何だ?! 体が勝手に……」
『大神隊長乙。』

 右手の動きに抗えず、結局ウサ耳カチューシャは俺の頭の上に鎮座する運びとなった。
 アヤがこっちを指差して死ぬほど笑っている。むしろおれがしにたい。


『参ったな。このダメージは戦闘に支障が出そうだ。予想通りだけど。』

 裏切ったな! 俺の信頼を裏切ったな!

「オマエが俺の意思を無視してこんな事する奴だとは思わなかった。」
『う、それを言われると非常に心苦しい。』
「もう誰も信じられない。」
『大丈夫だ。キミを信じる、この僕を信じろ。』
「うるさいだまれ。」
『参ったなぁ。コレ序の口なんだけど。』

 アーアーキコエナーイ。
 不吉な言葉なんてキコエナーイ。




[22653] A.D.2024 SLUM-TOKYO     ~ Reunion ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2010/12/09 20:05
 噂を頼りにやってきたは良いが、「結局デマでした」ってオチが相場だろう。
 そもそも異次元とか、何でこんなにあっさり信じてしまっているのか。

『そう頭から否定するものでもないよ。実際にキミは時間跳躍したわけだし。そもそも悪魔なんて存在が現実にいたわけで、異世界があっても別に不思議じゃない。』
「オマエからすりゃあ、そうなんだろうが。」

 非科学的存在の権化、『頭の中の妖精さん』に言われてしまえば返す言葉が無い。
 実は全部俺の見ている夢とか言うオチは無いよな。


chapter 14 SUBWAY STATION     ~ Underground ~

 ウロチョロしていたアヤが、何やら見つけた様子。どうも線路の向こうにある崩れた壁の先に、ひらけた空間があるようだ。ひょっとしたら30年前に聞いた、「幻の廃駅」ってやつかもしれない。しかも何故か悪魔が屯している。まさか本当に異次元につながっているのか?

「奥でジェネレータが稼動してるのかもしれないし、とりあえず調べてみるか。」
『賛成。』

 目の前の闘鬼ゴズキ三匹はそこそこ強いが、俺なら一撃で倒してしまうレベルだ。一匹は勧誘したいので、体に染み付いた反射行動で全員倒してしまわないよう、敢えて素手で間合いに踏み込む。ところが二匹は遠くに見える泉と宝箱の確保に、残った一匹は当然リリムに向かっていった。拍子抜けしつつも、俺は線路に隣接しながら突出してきたゴズキを勧誘。手前側の敵はリリムとノッカーに任せて、俺とアヤは対岸に渡ることにする。
 リリムとノッカーのコンビは大正解のようで、ノッカーが削り、リリムが魔法でどんどん敵を屠っていく。しかも泉を背景に闘っているので、魔法力が尽きることもない。こちらはこちらで、敵が近寄るそばから俺が反撃で落としていく。もはや鬼共は俺の敵ではない。

『「寄らば斬ります」とか言いながら、自ら寄って行って斬りまくる某王女を髣髴とさせるね。』
「何その危険な王国。オマエの世界色々おかしいよな。」

 アヤは相変わらずアイテムを拾って歩いている。俺は視界に入る悪魔を、ニヒル片手に片っ端から斬って回る。新橋とはうってかわって、何も考えずに進められる楽な戦闘だ。夢中になって斬っていたが、気付けば付近の敵は一匹もいなくなっていた。
 最後に穴を守っているイバラギドウジを勧誘。いつの間にか近寄ってきていたアヤが、俺を追い抜いて一番乗りを決めた。自由すぎる。

「やっぱり奥にも駅がありそうだな。」
『ゴーストステーションってやつだね。』
「本当に異次元につながってるのか?」
『異次元というのは正確じゃないが、まあ行ってみればわかることだよ。』

 気味が悪いとは思わない。ゾンビやらゴーストやらとの闘いが日常茶飯事だからだ。
 だいぶ感覚狂ってるなぁ、と思いながら更に奥へと進んでいく。


chapter 15 GHOST STATION     ~ Nightmare ~

 とりあえず最奥の階段を目指して進むことに。
 リリム・イバラギドウジ・ノッカーを召喚し、進撃を開始する。

『キミの成長が最優先。封鎖された部屋にあるジェネレータを相手取ろう。』
「わかった。」

 封鎖された部屋にポツンとジェネレータ。まるで修行場だ。
 群がってくるランスグイルたちを蹴散らしながら、俺は「修行場」を目指す。リリムにもトドメを刺させたいが、邪霊には魔法が効きにくい。その上非常に燃費が悪く、泉が無いと直ぐに魔法力が切れてしまう。迂闊に撃てない。かといって物理攻撃はさっぱりであり、折角引き継いだ特技が持ち腐れ状態だ。どうしたものかと悩んでいると、アイツが突然話しかけてきた。なんでも俺の強さがようやく目標に届いたらしい。

『どうやら間に合ったよ。イバラギドウジとノッカーを合体させよう。』
「種族的にはブラウニーとモムノフの上位配合になるのか。」

・ノッカー×イバラギドウジ→天使アークエンジェル(らいでん)

『これが勝利の鍵だ!』
「強化エンジェルだな。この状況ではマジ助かる。」
『ちょっとキミの成長を読み誤ってしんどかったが、何とか救世主誕生ってところかな。』
「む、不甲斐なくてスマンな。」
『ああ、違うよ。実際キミの成長速度は間違いなく人類最強クラスさ。』

 生まれたてのアークエンジェルが、リリムの苦戦していた邪霊どもを蹴散らしていく。彼の持つ魔法「ハンマ」は、邪霊を一発で成仏させるすさまじいものだ。さすが大天使様。確かにさっきの駅で合体が間に合っていれば、ここはもっとスムーズに進めていただろう。リリムも重圧から開放されて喜んでいるようだ。こちらにやって来て俺の修行を応援し始めた。

『アークエンジェル、マジ大天使。』
「前にも聞いたなそれ。」

 一方その頃、アヤは邪霊に対して壁越しにノリノリで銃弾を打ち込んでいた。「要は気合だよ」らしい。

『解せぬ……。』
「今さらだな。」

 俺は修行場で、湧いてくる「外道ブラックウーズ」を片っ端から切り伏せる。所詮外道なので邪霊のような鬱陶しさは無いが、攻撃も防御もそこそこ強く、良い鍛錬になった。
 ジェネレータが打ち止めになったので、俺とリリムは本隊に合流。部屋に落ちていたアイテムはどうせアヤが拾うだろう。最早鬱陶しいだけの外道や邪霊を轢殺し、階段にたどり着いた。 


「何だここは……?!」
『誰かが言っていただろう。異世界とのクロスポイントさ。』

 壁一面に、気持ちの悪い肉塊がびっちり張り付いている。いや、これは壁自体が肉なのか?
 浅草で【見た】亜空間に対するものと似たような嫌悪感を覚える。


「カオル? カオルじゃないか!」

 捜し求めていた仲間の一人、カオルの姿がそこにあった。何故こんな所にとか、そもそも何でこの時代になど、疑問は尽きない。だがそれらが気にならないほど、胸に熱い気持ちが込み上げてくる。カオルに「見違えたな」と褒められた。漸く借りを返すことができそうだ。
 そう思っていたのだが。

 何やらカオルが一人で不幸を背負い込んだような顔をしている。唐突に「俺はもう、お前と共に戦う資格を持たない」とか言い出した。そのまま駅から外に出ていってしまう。カオルに一体何があったって言うんだ。



intermission

 カオルを追いかけた俺達は、品川でトモハルと再会した。どうやら悪魔に操られているらしく、妹のアヤですら会話が通じない。事情を知っているらしいカオルが、覚悟を決めてトモハルと闘おうとした、その瞬間。
 黙って俯いていたアヤが、「皆ワガママばっかり言うな!」とブチ切れて謎の光を発し、辺り一面を薙ぎ払った。光が消えると、トモハルは正気に戻っており、何故か周囲の悪魔たちも消滅していた。最終的には全員集合したし、めでたしめでたし、という事で良いのだろう。

 正直アヤのおかげで助かったけど、「お前が言うな」と思ってしまった俺を、誰も責める事はできないはずだ。


「しかしアヤが使った不思議な力には驚いたな。アレって結局何なんだ?」
『呼ばれ方は色々あるけど、基本的には人間誰しもが潜在的にもっているとされる能力さ。』
「って事は俺にも使えるのか?」
『理論上はね。ただ、あれほど強く発現する例は稀だよ。』

 要するに俺には使えないってことか?

『……一応、古式ゆかしき発動祈願ワードがあるよ。やってみる?』
「おう。」
『じゃあ僕に続いて言ってみて。』

 ちょっとワクワクする。


『メラサム!』
「メラサム!」
『我、使命を受けし者なり。』
「わ、我、指名を受けし者なり?」
『契約のもと ナオキが命じる。』
「えっと、契約の木之本 ナオキが命じる。」
『リリカル トカレフ キルゼムオール。』
「リリカル トカレフ?! キルゼムオール!」

 ……何も起きない。

「何も起きないな。」
『当然だよね。』
「何かハズイな。」
『9割方冗談だからね。』
「オイ。」


 まあいいさ。確かにあの力は便利そうだけど、俺には鍛え上げた筋力がある。

「カオルの『魔法』も同じものなのか?」
『違うものだよ。カオルのそれは自身が望み、異界の魔王から与えられた力だ。もっとも根っこの部分は同じなのかもしれないけどね。』

 わかったような、わからないような。ただ、それがどういうものであるにせよ、俺のやることは最初から決まっている。


『カオルの事情、気にならないのかい?』
「何があったとは聞かないさ。誰だって何かしらあるだろう。だが、何があろうと俺はカオルの力になる。」

『……キミが恋愛コメディの主人公なら間違いなくハーレムが出来るね。』
「馬鹿馬鹿しい。戦いの最中に現を抜かすようじゃ、それこそコメディでもない限り、文字通りのデッドエンドだな。」




chapter 16 SHINJUKU     ~ SLUM-TOKYO ~


 トモハルも何故かDIOを持っていた。悪魔使いになったそうだ。どこで拾ったのか、後楽園で見た悪魔の統率者はトモハルだったのかなど、気になることは多い。だが、やはり俺はトモハルのことも信じる。

『ピクシー・ユニコーン・ゴズキはトモハルのファイルに移動させておいて。』
「何か違いがあるのか?」
『まず大きいのは容量制限回避だね。メインファイルが15体の仲魔で埋まると、それ以上勧誘できなくなるんだ。』

 コイツがこういう言い方をするってことは、次が本題か?

『そして何より重要なのが、同一の悪魔を複数仲魔にできるようになるということだ。』
「やっぱりな。」
『?』

 今までは俺のファイルに、例えばピクシーは一体しか入れられなかった。しかしトモハルのファイルに移すことで、もう一体勧誘できるようになるということだろう。

『ステージ中のニュートラル悪魔は全員勧誘するようにね。』
「了解だ。」

 壊れた都庁ビルが見えてきた。
 アイツが言うには、俺達が1995年に帰る手段とは関係無いが、ここ新宿で何かがあるらしい。廃ビル群を遠く眺めながら物思いに耽っていると、アイツが突然喋りだした。


『聞こえる聞こえる愛に悩む人々の叫びが、悪に苦しむ人々の嘆きが、だって兎の耳は長いんだもん。』
「オマエ、ぶっこおすぞ!」

 「ウサギの耳」とか俺の前で口にする奴は、前歯全部折ってやる!


『ああ、ゴメン。別にキミの事を言ったわけではないんだ。』

 本当か? 本当にそうなのか?


『助けを必要としている人がここにいるのは本当さ。』

 「は」っつったな? 今、「は」って言ったよな?



『ああもう、ホント、ゴメンってば。』






「……んで、今回何か気をつけることはあるか?」
『第一の脅威は、一番奥にいる「龍王ユルング」だね。こちらの間合いの外から正確に、地面が抉れ爆散するほどの攻撃を打ち込んでくる。良く狙撃に喩えられることが多いけど、実際には砲撃と言った方が正しい気もするね。』
「確か超射程の対地特化攻撃だったか。」
『その通り。相手の射程には常に注意すること。地上戦力で下手に近寄ると一撃で殺されるよ。』

 さすが龍族は伊達じゃないな。

『ただし、図体がデカクて小回りが利かない。懐にさえ入ってしまえば単なるサンドバッグだ。特に鳥などが相手だと一方的に啄ばまれてしまうね。』

 哀れ龍王。

『地形の問題もあって、今回奴に近寄ることができるのは飛行タイプだけ。基本的には相手にせずに、相手射程内にある宝箱を回収したら即敵拠点制圧。一目散に撤退すれば十分だ。ああ、別に倒してしまっても構わんのだよ?』
「実際アークエンジェルに妖刀ニヒルあたり持たせて強襲すれば倒せるんじゃないか。」
『おや、どういう風の吹き回し? あんなにニヒル手放したがらなかったのに。』

 あれは何というか、魅入られていたと言うか、呪われていたとしか……。

「しかし獣もそうだけど、ビル越しでも超射程攻撃を打ち込んでくるんだよな。どうやってんだ?」
『……それは多分あれだよ。何か「波」的なものが出ているんだよ。』

 ニヒルの件を上手く誤魔化せたのは良いが、妙に歯切れが悪い。『は』って何だよ。

『気にしたら負けだ。相手の射程に入りさえしなければ問題ない。』
「まあそうなんだけどな。」

 俺もまた誤魔化されたことを自覚しつつ、話を進める。


「『第一の』ってことは第二、第三があるんだよな。」
『お察しの通り。第二は夜魔リリムと、都庁跡でふんぞり返ってる魔獣ネコマタだね。』

 リリム。味方にいるから良くわかる。魔法は強力だが、数は撃てない。
 ただ、その一発ずつが非常に大きいのが俺達にとっては厄介だ。

「敵のリリムには当然気をつけるとして、ネコマタは何故?」
『講義にもあったと思うけど、悪魔の中には長い時を経て、信じられない強さを持つに至ったものが存在する。』
「それがそのネコマタだってのか。」
『そうだ。迂闊に仕掛けると高い物理防御に阻まれて碌にダメージを与えることができず、逆に反撃で落とされかねない。』

 そんなことまで分かるのか。【千里眼】恐るべし。

『ただ、ネコマタに関しては強者の余裕か、移動して来ないので幾分対処がしやすい。』

 ネコマタが強者ってのも、違和感あるな。とは言え油断は禁物だ。


『第三には飛来する堕天使の存在だ。』
「ちょっと前に闘ったアンドラスみたいな連中か。」
『まさにアンドラスだね。彼らの機動力は馬鹿にはできない。しっかり迎撃陣形を組まないと、簡単に迂回されて本拠地を落とされるよ。』
「逆に言えば機動力だけだろ。俺一人本拠地にいれば済む話な気もするがな。」
『いや、積極的に前に出て迎撃しなければならない理由があるんだ。』

 理由?

『最後の注意点として、自衛隊の撤退支援がある。』
「とっくに壊滅しているのかと思った。」
『こんなに荒廃しているのを見れば無理も無いが、彼らの東京を守ろうとする思いは本物さ。』

 確かに助けるに越したことは無いだろうが。

「人助けに反対するわけじゃないが、俺達だってそう余裕があるわけでも無いんだぞ。」
『まあそう言わずに。情けは人の為ならずって言うしね。』
「ん? 俺達に何かメリットがあるのか。」
『巡り巡って、そのうちにね。』

 妙にはっきりしない。いわゆる趣味や浪漫関係か。


『と言うわけで、そうゆっくりしている訳にもいかないんだが、まあ慌てる必要は無いよ。まずはきっちりと対空迎撃陣形を組んで、堕天使を防ぐことだ。』
「防衛線抜けられて拠点を落とされたら堪らないもんな。」
『その通り。遊撃役にして対空迎撃の切り札たる鳥獣が居れば楽なんだけど、残念ながら今回は不在。しかも突撃してくる敵リリムを防ぎながらだから、そこそこ難易度高いよ?』

 確かにタイミングはシビアそうだ。

「リリムに関しては、アークエンジェルを中心に急襲して、魔法を使わせずに勝負を決めるのはどうだ?」
『良い手だね。地形・前衛などに阻まれて、倒しきれそうに無い場合は?』
「そうなると俺が餌になってリリムをつり出すのが無難か。高耐久の育った地霊あたりが居てくれれば楽だったんだけどな。」

 地霊の魔法防御は高くないが、魔法一発くらいなら耐えられるはずだ。


『まあ、地霊の魔法防御が低いのは承知の上だろうし問題ないか。ただ、リリムが所持する爆発魔法の「マハギーガ」が地霊の弱点であることは理解してる?』



 体中から一気に血が引いていくような感覚。
 迂闊だった。場合によっては仲魔を失うところだったのか。

「……いや、考えていなかったな。」
『言うだけ無駄かもしれないけど、気にする必要は無いよ。仮定の話だったわけだしね。そもそもこのへんの魔法に対する種族特性は盲点になり易い。キミの戦闘経験を考えれば十分及第点だ。実際僕も良く忘れるしね。』

 そうは言っても、実際の戦闘でやらかしたら仲魔を失う可能性があったわけで。指揮官として致命的なミスを犯すところだったのだ。気にしないでいられるわけが無い。ああ、だから『言うだけ無駄』ってことか。

『ちなみにギガ系はリリムの弱点でもある。先手を取れるようならこちらから叩き込むといい。』
「わかった。頭に入れておく。」
『で、その後は?』


 気持ちを落ち着かせて、続ける。

「手前に見えてる妖獣どもを片付けた後、部隊を二つに分けようと思う。」
『どのように?』
「左に転進する俺中心の対ネコマタ部隊と、そのまま直進するトモハル中心の本拠地強襲部隊。」
『運用は?』
「本拠地強襲の方は、特に問題ないだろ。奥に見えてる『聖獣ゲンブ』を勧誘するくらいか。対ネコマタは反撃を受けないように、アヤ・カオルの魔法攻撃で削り、俺がトドメを刺す形でいけるか。」
『パーフェクトだ。』

 良かった。これで外したら暫く立ち直れなかった気がする。その辺コイツはきちんと考えているのだろうか。もしくは必ず正解すると思われていたのか。
 既に気持ちが上向いている。相も変らぬ自分の現金さに苦笑しつつ、しかし少し誇らしい気持ちで戦場に向かった。



 戦闘開始。仲魔を召喚し、敵リリムたちの居る右手に寄せる。俺は左手に見えている雑魚をベレッタ片手に勧誘。ユニコーンを首尾よく仲魔にして都庁を見遣ると、正面奥に例のネコマタが見える。確かに何か雰囲気出ているような、そうでもないような。

「今仲魔にネコマタ居ないし、このまま勧誘しに行くのもありか?」
『まあ悪くは無いけど、折角の強敵だからね。予定通りで良い思うよ。後で弱い方を勧誘するべきだ。それよりこのままアークエンジェルと一緒に、左方面に展開した方が良さそうかな。その後はネコマタの射程に注意して、アークエンジェル単騎で龍王削りに行かせたいね。』
「うーん、それだと右翼が薄くなりすぎないか?」
『その懸念はもっともだけど、成長しているのはキミだけじゃないよ。』

 ひとまず進言に従って、アークエンジェルを俺に追随させる。


 敵も動き出したようだ。
 よく観察すると、堕天使達の移動力は鳥族ほどではないらしい。俺はそのまま左翼に展開してゴズキを勧誘。次いでドリアードがピクシーの勧誘に成功。アークエンジェルも左奥の邪霊をハンマで成仏させていた。なんと言う無駄のない動き。幸先が良い。

 どうやらカオル率いる本隊は、先に敵のリリム・ブラウニー組を片付けることにするようだ。
 ゴブリンの火炎魔法で地霊を削り、トモハルが勧誘。ちなみに最初はカオルに使ってもらおうと考えていたのだが、アイツに『強すぎるから』と却下された。敵リリムのほうも、カオルが削って、こちらのリリムがトドメを刺したらしい。

 確かに右翼に俺は必要なさそうだ。次は中央に進出して、本拠地を狙っているっぽい邪霊を屠るべきか。
 アークエンジェルはそのまま龍王に向かえば良いし、俺は最後にネコマタを挟撃するような形になれば良いだろう……




『ねんがんのメタルTバックをてにいれたぞ!』

 どこかで聞いたような台詞と、飛びっきりの嫌な予感。いや、確信。
 即座に全力で逃げ出そうとするが、足が動かない。
 そして遠く右翼の敵が落としたであろう、不思議な光沢を持つTバックが、何故か俺の手に握られていた。


「もういやだ! 沢山だ!」
『そう言わずに。ほら、これすっごい性能良いんだって。』

 胡散臭いセールスそのまんまの台詞。俺は気力を振り絞ってヤツの支配に抵抗する。


「ダメだ! 前回はサービス精神で身に着けたが、今回こそは男気的に断固NOだ!」
『でもほらこれ、ついさっきまであの色っぽいリリムさんが直に身に着けて居た品物ですよ?』

 ぐ、あ、何という悪魔の囁き。
 いつも俺に尽くしてくれる(性的な意味ではない)、あの悩ましい肢体が脳裏をよぎる。
 違う! アレは人ではない!

『エロいのは男の罪、それを許さないのは女の罪。その一瞬の心の隙間を突いて、ドーーーーーーーーン。』
「やめろ、やめてくれ! 死にたくないー!」


 願い、虚しく。
 俺はウサ耳カチューシャに加えて、メタリックな光沢を放つTバックを装備することになった。
 誰も居ないことだけが救いか。そう考えて自分で自分を慰めていたのだが……。

 間の悪いことに、アイテムの匂いを嗅ぎつけて来たらしいアヤと鉢合わせ。
 前回こちらを指差して笑い転げていたアヤが、今回は目を合わせてくれない。しにたい。しにたい。


 あ、ちょっと暖かい。





[22653] A.D.2024 SLUM-TOKYO     ~ Forward to the past ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/09 20:48
 あの後、Tバックを穿いたことによるダメージは甚大だったが、何とか戦闘を続行した。
 本隊の指揮をカオルに任せていたのが不幸中の幸いだったか。

 もうヤケクソになった俺は、妖刀ニヒルを引っさげて、手近なものを斬りまくった。Tバックで。
 例の強いネコマタもクリティカルで一刀両断。右翼の妖獣ドドンゴーも寄って行って斬り殺した。Tバックで。
 今の俺なら神様だって斬り捨ててみせる。ってか神様出て来い! やろうぶっ殺してやる! 下半身Tバック&直足袋のみで。


 ちなみに飛来した堕天使は、カオルが指揮を執って上手いこと削り、二匹ともリリムで止めを刺したらしい。
 カオルが「ちえ」増強の魔法「マカカジャ」をリリムに使ったのが決め手になったそうだ。
 魔法相性も良くないのに、さすがカオルだ。リリムはこれで特技を習得。

 アークエンジェルは結局そのまま龍王狩りへ。本拠地近くを守っていた堕天使二匹もまとめて撃破し、こちらもめでたく特技習得。
 トモハルは戦場を走り回って、悪魔を片っ端から勧誘して回ったそうな。苦労をかけた。
 ちなみにアヤがマシンガンを拾ったらしい。自衛隊が撤退中に落としたのだろうか。駐屯地ではベレッタしか拾えなかったのに釈然としない。

 そして俺が気付いたときには戦闘が終わっていて、妖刀ニヒルは血塗れだった。最近このパターン多いな。


『昔から言うじゃないか。男なら……紳士服。』
「絶対に許さない。絶対にだ。」
『明けない夜は無いのだから。』

 コノウラミハラサデオクベキカ

『……あ、あー、そうだ、その、アレだ。復讐なんて何も産まない空しいものだよ?』
「復讐する奴らの気持ちが良くわかった。連中は何かを得たいなんて全く思わないんだ。ただ、ただ、相手をトコトン酷い目に遭わせて、自分がいい気持ちになりたいんだよな。」
『うぐぅ。ボク、わるい妖精じゃないよ。』
「だから気持ち悪いことを言うな。」



chapter 17 MEGURO     ~ What's power ? ~


 あの後、撤退支援の礼を述べに来た自衛隊員と互いの健闘を祈りあい、俺達は新宿を後にした。そして辿り着いた、「リミックスステーション」なる場所で、イカした仮想人格ナビゲータ「FRI-DAY」に出会う。専ら remix を行う場所らしい。未来ではそんなにメジャーなのか。

『いや、1995年の東京にも存在するよ。』
「何で悪魔出現前の東京に、悪魔合体用の設備が存在するんだよ。」
『追々わかるさ。』

 気を取り直してここで出来る事を調べる。

『いつも野外でやってた合体が「2remix」、ここでしかできないプレイが「3remix」だよ。』
「……違いは何なんだ?」
『例外もあるけど、まだ考えるだけ無駄かな。』

・アークエンジェル×リリム→妖鳥ケライノー(どくひっかき・ねっぷう)

『有名なハーピー三姉妹の末っ子だね。不世出の、空の大エースだ。杖を手に入れれば更に大化けするよ。頑張って育てて、次代のエースにつなげよう。』
「ノッカーの上は『地霊コボルト』だっけか?」
『そこはスキップするよ。目指すはその上、「地霊ドワーフ」さ。』

 何故だ?

「コボルトって弱いのか?」
『うーん、理由はいくつかあるね。一つはノッカー達に比べて特技が地味なんだ。』
「確か『らいでん』だったよな。強いじゃないか。」
『良く覚えているね。その通り。だけどもうアークエンジェルが覚えているしね。』

 エースに引き継ぐって観点からすれば確かに無駄か。

「二つ目は?」
『妖鳥ケライノーの機動力を失いたくない。』
「それは確かにあるな。」

 飛行タイプによる足止めのおかげで、これまでどれ程楽ができていたことか。

『三つ目は個体としての格の問題さ。ケライノーでコボルトを作ると寧ろ弱くなる。』
「そうなのか。」
『そして、最後にして最大の理由だけど、コボルトは地霊の癖に可愛くない。』
「……はあ?」
『可愛くないんだ。だって馬鹿でかい犬みたいな獣人が、ベロと涎たらしながら棍棒振り回すんだよ?』
「……。」
『そんなの可愛くないじゃないか。』

 


 散々都内を歩き回った挙句、俺達は目黒にやってきていた。アイツが言うには、『目黒技研に時間移動の手段がある』とのこと。新宿に行く前に言えよと思わないでもないが、まあ何か理由があったのだろう。
 ケライノー以外のダブってない仲魔を全てトモハルのファイルに移し、目黒に向かう。道中は何も問題なく。しかし半ば予想通りに、目黒技研付近で悪魔の集団にぶつかった。

 いつもの如く戦場全体を俯瞰する。本当に反則気味な能力だ。頼りきりにならないよう、注意しなくてはいけないだろう。

「獣や鳥が殆どいないな。」
『新エース・ケライノーの独壇場だね。今回は縦横無尽に飛び回って、サポートに徹するのが良いと思うよ。』
「特技はまだいいのか。」
『ケライノーを合体に使うのは大分先だ。それよりもまた暫くキミの成長を最優先するよ。』

 方針が決まったので、目の前の高架に向かう。ノッカーがノコノコ近寄ってきたので、すかさず勧誘。ヨロヨロと突っ込んで来たスパルトイを、反撃で一蹴。高架上を順調に進んで行き、ケライノーに遊ばれていたドリアードをトモハルがナンパ。なんでアレが18歳に見えるのだろうか。

 目黒技研が見えてきた。手前に川があり、橋が架かっている。周囲は荒れ果てているが、30年前にも見た光景。ここから全てが始まったとでも言えば良いのか、何か妙な感慨がある。
 勇んで高架から降りたところに「邪霊ファントム」が居たので斬り捨てる。先行していたカオルと小競り合いを演じていた最中だったらしい。初顔合わせだったが、何の印象にも残らなかった。
 
『本来格上の相手なんだけどねぇ。』
「そうなのか?」

 だが所詮邪霊だ。

「お、何か落としたな。『バーコードヘルム』? とても防具には見えないが。」
『所謂、カトチャンのヅラだね。頭頂部への物理・魔法攻撃を全て受け流すと言う、意味のわからない超高性能だ。』

 何だそれ、すげえ。
 ウサ耳カチューシャと、バーコード禿のカツラ。

「まだ、まだこっちの方が……。」
『回避大幅増強は凄いけど、キミの場合はやっぱり運優先だね。』

 嫌がらせか。嫌がらせなのか。

 近くに居たリリムはケライノーが金縛り。正直魔法を一発喰らうことは覚悟していた。金縛りなどの足止め系特技と鳥族との組み合わせは、本当に反則だ。
 それを見てアイツが、『Tバックもう一枚欲しい』とほざきよった。俺はこの悲しみを誰かと分かち合うため、心を鬼にして、動けない敵リリムからTバックを剥ぎ取った。
 寄って来た邪鬼達は、俺やケライノーでは明らかに役不足なのでアヤ達に任せる。俺も随分調子に乗るようになったもんだ。ジェネレータから湧き出すファントムを屠りながら、今後の予定を考える。

 ラボ前には堕天使アンドラスが二匹並んでいる。迂闊に近づくと、魔法攻撃を集中して喰らうことになるだろう。漆黒装備に身を固めたケライノーで一匹だけ釣り上げてみる。
 大正解。近づいてきたアンドラスを二度目の金縛り。何故満月で使用特技が回復するのか聞いたら、「1700万ゼノ」がどうたらこうたら。良くわからない。更に時間差でもう一匹釣れたので子守唄。まさにエース様々である。動けなくなった堕天使を、カオルとトモハルで適当に削る。俺はジェネレータ対応の合間にトドメを刺しに行けばよい。

 余裕をかましていたらケライノーが、視界の外から突っ込んできた「聖獣ハクタク」に捕まった。我ながらまるで成長していない……。幸い能力差が大きすぎて全く脅威にならなかった。ゲンブと同じく大陸系の聖獣だが、弱い。とりあえずトモハルで勧誘しておいた。トモハルは雄型悪魔相手だと何かやる気無い感じだ。
 その後、地面に落ちてた斧「バトルハンマー」を回収。アイツが言うには『命中が上がる珍しい斧』だそうだ。取り回しが利く形で、重宝しそうな予感。更に奥にいた厄介な敵リリムも、ケライノーの「魅惑噛み付き」で足止め。もとはリリムの技だが、何という皮肉か。
 最後の敵は「堕天使オセ」。アンドラス同様ソロモン王72柱の1柱であり、確かに強いが、動かないなら置物も同然。一方的に縛って削って、俺がトドメ。目黒技研にはいつものごとく、アヤがタッチダウンした。

「しかし、72柱か。ソロモン王頑張りすぎだろ。」
『ファイル管理の手間とか嫌になりそうだよね。』

 俺とトモハルじゃ精々30体だからな。
 てか、ソロモン王も案外タイムマシンで過去に流されたDIO使いだったりして。

『でもいずれキミが従える事になる仲魔の戦力は、彼を大きく上回るものになるよ。』
「ちょっと信じられないよな。」
『もっと信じられないのは、その魔神軍団の中にあっても君が対人最高戦力である事なんだけどね。』

 ハクタクとノッカーをトモハルのファイルに移し、突入する準備も万全。大丈夫、きっと元の時代に戻れるはずだ。


chapter 18 LAVORATORY 1F     ~ Timeless point ~

 内部は荒れているが、間取りは何も変わっていない。壁が崩れて新たな道が出来ているくらいか。

「獣が多い。」
『気にする必要は無いよ。』
「見たことの無い悪魔がいるな。アレは『妖魔エンプーサ』か?」
『ご名答。』
「他には脅威になりうるのはリリムか。もっとも、そう恐れる相手でもないな。」
『手前の二匹はそうかも知れないけど、最奥の一匹は侮ると死ねるよ?』
「長い時を経て、ってやつか?」
『いや、彼女の装備している杖「エデンビューグル」が問題なんだ。』

 またか。左手にいるドリアードも小太刀を構えているっぽいし、面倒なことだ。速攻でケリをつけよう。

『入手できないだけに、尚更忌々しい。なんて時代だ!』
「いや、時代は関係……あるのか?」

 そういや、上野のピクシーも武器装備していたな。1996年には無かった現象だ。

 不安はあるがケライノーを召喚。まずは左翼の雑魚を蹴散らしにいく。トモハルが敵先頭のノッカーを勧誘。ついでにダイヤモンドを貰うもダメージを受けたのでアヤに回復させる。
 俺はトモハルを追い抜き、更に奥にいるドリアードを銃撃。大した経験にはならないだろうが、まあないよりましだろう。アイツ的には「フェイクバニー」をもう一つ入手したかったらしいが、MPを温存したそうだ。嫌な予感がする。

 獣どもを警戒して、ひとまずケライノーは安全圏で待機。一応リリムを釣るような配置ではある。相手の獣が全員俺にちょっかいかけてきたおかげで、妖獣全てを労せずして反撃で葬り去る。寄って来たリリムの魔法も、漆黒武具とハゲヅラ装備したケライノーが華麗に回避。最早負けはありえない。
 
 ケライノーはそのままリリムを、俺は剣に持ち替えて残っていたノッカー達を撃退。アヤはアイテムの匂いを嗅ぎつけたらしく、単独で奥の扉に向かっていた。危険だ。案の定、妖魔エンプーサがアヤに接近してくる。邪霊同様、俺達にとっては鬱陶しいだけだが、アヤには荷が勝った相手だ。あまり旨味はないが、進軍ついでにケライノーと俺で割り込み、屠る。何か落とした。これはハイヒールか?
 

『ねんがんのスタンピンヒールをてにいれたぞ!』

 すごい。なんて派手なハイヒールだ。
 最早諦念と共に従容として受け入れるのみ。周りの視線が妙に優しげだ。いきる、俺は美しい。

「ふ、ふははは……。」
『ど、どうした? 大丈夫?』

 笑ってくれよ、エブリバディ。だって笑うしかない。
 ウサ耳に、Tバックに、ピンヒール。何というセクシーバニースタイル。俺が男でなければだが。
 
「ハーッハッハッハッ!」
『何か吹っ切れた? いきいきしてるわぁー。』
「そうか?! 自分じゃよくわからねぇよ、畜生!」
 

 激情に身を任せ進軍を続ける。杖装備リリム? 一撃で屠ってやんよ!
 宝を守っているものだと思い込んでいたゲンブの片割れが、不用意に扉を開けたアヤに突進。慌ててトモハルが勧誘する。奥にいるもう一匹は、トモハルとケライノーに任せることに。クロスボウ&はばたきで、万に一つの間違いも無く勝てるだろう。

 俺とカオルは二人で奥に進む。後ろからアヤがこっそりついてきているのがわかる。恐らく階段を確保した瞬間に、一番乗りを果たそうという魂胆だろう。どうでもいい。
 カオルが最後の扉を開けた瞬間に、俺が部屋に突入し、件の杖装備リリムを鎧袖一触に屠る。如何に魔法攻撃が強力でも、撃たせなければどうということは無い。案の定アヤがタッチダウン。毎回の事だが、得意満面の笑みが可愛くもあり、ウザくもあり。

『わかっちゃいたけど、やっぱり無理だったか。』
「何かしくじったのか?」
『いや、もともと不可能な事がわかりきってたプランを、実際不可能だったと改めて確認したというか。』

 何やらいきなり愚痴りだしたが、どうやら俺に話すような内容ではないらしい。
 俺は俺の仕事をこなすとするか。
  

chapter 19  LAVORATORY 2F     ~ Back again ~

 二階にやってきて探索を始めたはいいが、以前とは大分感じが変わってしまっている。順路に沿って歩いたつもりが、行き止まり。おまけに後方を悪魔にふさがれてしまった。迂闊だった。偶然だとは思うが腹立たしい。
 ひとまずケライノーとドリアードを召喚。来た道を引き返すことにする。
 
『「霊鳥ホウオウ」が三匹居るね。現時点では鳥族の頂点だ。もっともケライノーであれば、防具フル装備で問題ないけどね。』
「鳳凰っつったら、もっと強そうなイメージあるけどな。」
『伝説と言っても所詮は鳥ポケモンだからね。電撃の餌食さ。』

 要するに無視していいってことか。
 階段近くの「闘鬼メズキ」をケライノーで釣ろうとしたが、どうやら奴は通路を死守するつもりらしく動かなかった。ホウオウどもは例によって、もの凄い勢いで突っ込んでくる。ひとまず主力組で斜めに防衛線を展開。アヤとドリアードを守る。ケライノーがホウオウ3匹の集中攻撃を受けていたが、全く問題なかった。
 俺は進軍がてらメズキを勧誘。

「ゴズキと組ませて、地獄の獄卒コンビ復活とか、オマエ的には浪漫なんじゃないか?」
『キミも大分風流を解するようになってきたね。』

 嫌味を言ったつもりが褒められた。いや、馬鹿にされているのか。
 ケライノーを囲むホウオウの内の一匹をトモハルが傷薬で勧誘し、残った二匹をケライノーがらいでんで一掃。何という楽勝ムード。特に敵戦力からのちょっかいも無いので、トモハルがメズキを召喚して、ドリアードと合体させる。

・ドリアード×メズキ→魔獣オルトロス(体当たり・麻痺引っかき)

 ピクシーといい、ドリアードといい、可憐な妖精は何故ゴツイ半裸の闘鬼に喰われてしまうのか。世界は、そういうふうにできているとでも言うのか。
 
『呼んだ?』
「黙ってろ。」
『NTRの気配がしたと思ったのに。』

 奥にいたメズキもトモハルが勧誘。ロシアンルーレットに勝って、「ムーンハイド」なるものを巻き上げたらしい。

「これって何なんだ? まったく用途がわからないんだが。」
『悪魔の大好物……らしいよ?』

 食い物? これが?

「これを好んで食べる奴なんて居ないと思うんだが。」
『ふむ。ポリシーには反するけど、大勢に影響が無い範囲で使ってみようか。』

 暫く進むと厳重に封鎖された扉の前に、見たことの無い地霊が居た。恐らく「地霊コボルト」だろう。確かにこれは可愛くない。というか、仲魔にしたくない。ちなみに30年前には、こんな所に扉は無かったはずだ。やはりここには何かある。
 ひとまずケライノーとオルトロスを先行させて、コボルトと遊ばせておく。本当に簡単に敵を無力化できてしまう。コカクチョウがノッカーになった時もそうだったが、ケライノーが地霊になった時にしんどそうだ。

 机が邪魔で本体の進軍に少し時間がかかったが、これと言って事件もなく。念のためコボルトもトモハルに勧誘させる。コボルトが言うには、トモハルは悪魔達の間でも有名な「究極過激野郎」らしい。恐らく操られていた頃の話だと思うのだが、どんな変態行為を働いたんだトモハルは。
 アイツ曰く『奥のエンプーサは稼ぎどころ』。例によって高機動の二匹を先行させ遊ばせておく。勿論トドメは俺が頂く予定だ。俺が現場に到着するタイミングでアイツが喋りだす。

『ちょっとさっきのムーンハイド使ってみよう。』
「アレをか。」
「うん。暇になったケライノーに頼んで、死にかけのウストックにでも与えてみて。」

 言われて与えると、ウストックが喜色満面?といった感じで抱きついてきた。ウストックの剥き出しの肋骨が、肉越しに俺の肋骨に当たって痛い。ってかキモイ。慌ててCOMPに押し込む。

「効果覿面だな。まさかダーク悪魔まで仲魔になるとは。」
『貴重品だからそう簡単には手に入らないし、色々あってあんまり使いたくないんだけどね。』
「まあ、たしかにこの匂いとか見た目のグロさは遠慮したいところではあるな。」

 ちなみにアイツが言ったとおり、エンプーサは妙に強かったが、それだけだ。何かピンヒールを落としたが、【ハヤトロギア】は展開してないらしい。『何でこんなにアッサリ……』とか言って嘆いていた。喜べばいいのにわからん奴だ。宝を守っているランスグイルは仲間に任せて、俺は最奥に進んで行く。




 そこにいたのは、30年前この場所で俺にDIOを渡した女だった。
 確か名前はカレンだったか。姿も30年前のままだ。
 何やら唐突に「待っていた」とか、「あなた達を元の時代に戻してあげる」とか言い出した。

 怪しい。何もかもが怪しい。
 美人が何の脈絡も無く自分に親切にしだしたら、何か裏があるに決まっていると以前トモハルが言っていた。
 とは言え、DIOのおかげでここまで生きてこられたのは事実であり、簡単に疑いたくはない。
 ひとまず話を聞くことにする。


 カレンは「TWO」、時間転移の乱用を監視・防止する組織の一員なんだそうだ。
 彼女は「時間の輪」から外れた者、”2052年”から時間跳躍したオギワラを取り締まる為に1996年に来ていた。
 そこで、あるべき歴史の流れを守るため、俺にDIOを渡したということらしい。

 少なくとも彼女から悪意は感じられないが、どうも行動に整合性がない。
 歴史を大きくゆがめるオギワラを潰すため、小さなゆがみを容認したと取れなくも無いが、どこかで信用しきれない。



 そんな俺の内心が表情に出ていたのか、カレンがもう一枚のカードを切ってきた。
 ここに屯していた悪魔達は、オギワラが狙っていた「あるもの」を守るため、カレンが使役していたのだそうだ。

 その「あるもの」とは、オヤジ達だった。
 正確にはオヤジ達が開発したDIOシステム。
 もとは「FASS」、すなわち例のタイムマシンを研究していたが、その途中偶然「DIO」を開発してしまった。
 軍事利用を政府から強要されそうになった親父たちは、未完成のFASSを使って未来へ逃亡したらしい。

 俺に何の連絡もよこさず、死亡を装って未来へ逃亡したことは正直腹に据えかねる。
 多少邪険にしてしまったことも仕方の無いことだろう。
 だがそれ以上に、オギワラとは関係なく未来に逃亡したはずのオヤジ達と、カレンがコンタクトを取っていることに疑念を抱いた。


 そんなカレンが言うには、オギワラは逃亡前のオヤジ達を抹殺するため、再度1995年に赴いたらしい。
 そしてそれを俺達に止めて欲しいということだ。
 疑念は尽きないとは言え過去に戻るため、そして何よりオヤジ達を守るため、彼女の話に乗ることにした。

 オヤジ達と別れの挨拶を済ます。
 ずっと気遣わしげにしていた俺のオフクロが、意を決したように尋ねてきた。



 俺の服装について。


 仲間全員が一瞬固まり、目を伏せる。
 わかっている。わかっていた。こういう展開になることは。
 だから俺は威風堂々と言ってやる。


「この格好に何か問題でも?」

 両親が固まる。

「男がウサ耳つけて、往来をTバックで走っちゃいけない法律でもあるんですか!」

 両親が怯む。


「これは、俺の、趣味なんだああああああああああああ!」



[22653] A.D.1995 TOKYO     ~ Wheel of fortune ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/09 21:13
 2024年の目黒技研から、カレンの助力で遂に元の時代に戻ってきた。
 もっとも、厳密には元の時代に戻ったわけではなく、爆発事故が起こる直前だが。
 これで俺達も完全に「時間の輪」から外れた存在になったわけだ。


「ぼーくらは みんなー いーきているー いきーているから つらいんだー  」
『いや、ホラ。元気だそうよ。最後には御両親もキミの趣味を認めてくれたじゃないか。』
「だから余計に辛いんだよ。」

 しかも今からもう一度、過去のオヤジ達に会わなければいけない訳だ。憂鬱すぎる。
 せめて「オヤジ達に会う時だけでも装備を換えたい」といったら、『常在戦場』がどうとかで却下された。呪ってやる。

『「頭の中に居る妖精さんに無理やり……」ってバラしても良かったのに。』
「わざとだよな? オマエそれ絶対わかって言ってるんだよな?」


 ラボの入り口で親父たちに面会を求め、暫し待たされる。むしろこの身なりで通報されない事が奇跡だ。
 人の居るところに来るのは何だか久しぶりだが、絡み付く視線が鬱陶しい。気を取り直してアイツに問いかける。

「結局俺達は何で2024年に跳ばされたんだろうな。イマイチ理由がわからない。」
『キミとアヤについては大体推測できるよ。敵本営のFASSがそう設定されていたからじゃないかな。』
「誰が設定したんだよ。」
『可能性の一つとして考えられるのはオギワラだ。彼が1996年から唐突に姿を消したのは、恐らく2024年に跳んだからだろう。』
「で、そのまま放置してあったFASSを俺達も使ったと。間抜けな話だな。」

 何にせよ、確証があるわけではないらしい。

「じゃあカオルとトモハルはどうなんだ。」
『こっちは正直良くわからないな。憶測で良ければ聞くかい?』
「ああ。」

 少し考え込んでいるような気配。

『まずはオギワラの部下についてだ。キミは新宿で彼に捕まったのに、DIOを持たされたまま池袋まで逃がされた。』
「そうだな。未だにアレは意味がわからない。」
『オギワラの目的がDIOの抹消なら、キミを生かしておくことで生じるメリットは一つも無い。つまりあのグラサンは、オギワラと完全に利害が一致しているわけでは無いと言うことだ。』

 一応筋は通っているか。

『ここからは憶測になるが、グラサンはオギワラとキミ達を利用して何かをしようとしているのだろう。それで奴が同じく確保していたトモハルとカオルを、キミを助けるために同じ時代に送り込んだのではないかな。』
「何のために。」
『確証が無い。』
「未来が見えるんだろ?」
『僕に見えるのはキミが体験する可能性のある未来だけだ。他人が何を考えているかまでは把握できないよ。』

 グラサンが何をやるかは分かっているが、そこに至る動機がわからない。
 もしくはわかっているが、今俺達に告げるのはプラスにならないと言ったところだろうか。

 オヤジ達がやってきた。
 二人ともこちらを見て目を丸くしている。
 憂鬱ではあるが、俺の仕事をこなすとしよう。


stage 3 A.D.1995 TOKYO



chapter 20 MEGURO     ~ 守るべきもの ~

 遂に悪魔がここ目黒技研を襲撃してきた。研究所は当然パニックに陥っている。
 所員があらかた避難するのを見届けてから、オルトロス・ネコマタを召喚。オヤジ達にラボから動かないように伝え、トモハルとオルトロスを入り口に配置する。悪魔を従えている俺を見ても騒いだりせず、意外にも随分アッサリ俺の言い分を信じた。

『子の真剣な訴えを信じない親など、そうは居ないよ。』
「どうだかな。」

 気になるのは鳥が多いことだろう。敵ケライノーも数匹存在しており、今回はエースケライノーをサブファイルに。
 次に召喚予定のゴズキがメインファイルに残っているのを確認。ダブってない他の悪魔を、サブファイルに移す。これでトモハルの持つサブファイルが満杯に。俺のメインファイルも半分埋まっている。こんなに使わない仲魔を集めてどうするのか。

『当然合体に使うのさ。後々いくらあっても足りなくなるからね。』
「今の合体ペースからは、とても考えにくいな。」


 目の前まで迫った「魔獣ストーンカ」を勧誘。曰く、『物理攻撃・物理耐久以外はネコマタに劣るガッカリ魔獣』。飛来したホウオウの攻撃は、篭手しか装備できないオルトロスだとそこそこ喰らう。オルトロスの反撃を耐えきったホウオウをトモハルでそのまま勧誘。凶鳥フーシーは、オルトロスの遠距離クリティカルで撃墜。後には妖鳥コカクチョウ、そして「霊鳥ジャターユ」が控えているが、上手く勧誘しつつ捌いてくれるだろう。

 俺達は陸路を進軍する。「妖鬼プルシキ」「邪鬼カワンチャ」、闘鬼メズキの小隊に遭遇。

『鬼族のトリコロールやー。』
「注意点はあるか。」
『キミが気をつけるところは特にないね。ネパールの病魔であるカワンチャさんがダイヤモンドを落とすことくらいかな。』

 ひとまず邪鬼カワンチャを銃撃で吹き飛ばす。ダイヤモンドは落とさなかった。象っぽい見た目の妖鬼プルシキの攻撃を無防備に受けることになるが、勧誘するため仕方が無い。何だか痛みを甘受する事に対して、少し慣れてきた気がする。いかんなぁ、こんな……いかん、いかん。
 進軍速度が犠牲になったものの、プルシキ・メズキを無事勧誘。もっとも、『ここは急いでもあんまり意味が無い』そうだ。
 ラボの方も万事問題なく勧誘が進んだらしい。さすがトモハルだ。現在はオルトロスが邪鬼カワンチャからラボを防衛中。俺にとっては素手でも一撃の相手だが、オルトロスはそれなりに楽しみながら闘っているらしい。
 ひとまずプルシキを勧誘したことを連絡し、安全になったら向こうで召喚してもらう。『合体の準備は整った』そうなので、後は俺の成長待ちだ。
 
 遂に二基のジェネレータが稼動。出てきたのは凶鳥フーシー。今の俺達にとっては単なる雑魚でしかない。ただ、どうもラボではなく、手近な目標に殺到する習性らしい。二匹とも無謀にも俺の仕掛けてきたので、反撃できっちり落としておく。ついでに敵本拠のケライノーを勧誘。防衛組の敵ドドンゴーも反撃で撃ち殺した。武器の持ちかえがスムーズに嵌る。

 空になった敵拠点を、勝手に制圧しないように良く言い含めたアヤに任せ、俺はジェネレータに向かう。アイツの言によれば、高経験値がもうすぐ湧き出すとのこと。まだ俺の強さが目標に達していないそうなので、もうひと踏ん張りだ。
 最後に出てきたのは「凶鳥フリアイ」二匹。何でもケライノーとは異なり、地獄に住んでいるハーピーだそうだ。確かに何か禍々しい感じのする鳥だ。
 ネコマタなどの弱い仲魔に攻撃が届かないように防衛線を構築する。どうやら俺は敵にとってそこそこ優先順位の高いターゲットらしく、二匹とも俺によってきた。好都合だ。さすがに空に浮かれていると一撃で落とすことは出来ないが、やはり俺の敵ではない。一匹ずつ丁寧に屠って、ついでに目標の強さに届いたらしい。

 敵を全滅させたので、トモハルにプルシキを召喚させ、ネコマタ・ゴズキと合流させる。メインファイルが満杯になっていたので、正直助かった。

・ネコマタ×プルシキ→凶鳥フリアイ 
・フリアイ×ゴズキ→妖獣マンティコア

「妖獣か。初めて仲魔にするけど、どういう扱いなんだ?」
『魔獣ほど速くないけど、それ以外は基本一緒だね。水上移動できると言う一発芸があるよ。マンティコアについては、特技は絶対必要だけど削りだけでいいから。』
「タンキと同じで成長が早いって事か?」
『それもあるけど、あの頃とは微妙に状況が違う。かなり長く使っても大丈夫ということさ。』

 何にせよ、アイツ的評価は高いようだ。
 恒例のファイル管理。サブファイルは既に満杯、メインファイルも三つしか空きが無い。しかもケライノーをもう一匹勧誘したため、エースのケライノーをメインファイルに戻せない。どうするんだこれ。

『とりあえずトモハルの方をメインファイルに設定して、主力と要らん子を入れ替えればいいでしょ。』
「なるほど。」
『いや、少しは頭使おうよ。』

 コイツはいつも一言余計だ。   




 ラボに戻り、カレンの手を借りてオヤジ達を2024年に送る準備をしながら考える。

「しかし、タイムマシンかぁ。」
『正確には時間ではなく、時空間座標制御だろう。正式名称は「FASS - free area shifter system - 」らしいよ。しかしまた、何でこうも都合よく地球の慣性系で、馬鹿みたいに精度良く座標設定できるのかな。この手の空間転移って、実行が1クロックずれでもしたら「いしのなかにいる!」とかなってもおかしくないのに。』
「……オマエ恐ろしいことを言うなよ。二度とFASS使えなくなるだろうが。もう一度オヤジ達を迎えに行かなきゃ行けないのに。」
『大丈夫、大丈夫。二度上手くいったんだし。キミにはきっと機械仕掛けの神様がついてるしね。』


 しかし、随分ややこしい事態になったもんだ。
 もう一度状況を整理して、今度はオギワラの行動について考えてみるか。

「カレンの話じゃ、最初に俺達の時代に転移してきた理由はわからないらしいな。」
『彼女はそう言ってたね。ただ恐らくは、DIOの存在を政府内部から完全に抹消するためではないかな。』
「政府? 何でここで政府が出て来るんだ。」
『追々わかるよ。』

 まあ、確かに今は関係ないのか。

『もっともキミの両親はそうとは知らず、既に政府から逃れるためにFASSを使って2024年に跳んでいた。』
「で、1996年に政府内部の調査を続けていたオギワラは、DIO開発者である親父たちが実は未来で生きていることを知った。」
『2024年、政府が独自に研究を続けていたDIOの制御ミスで、東京に悪魔が溢れる事件が起きたんだ。その収拾の為に、武内博士名義でDIOがばら撒かれたのさ。』

 何やってんだよ、オヤジ。

「オギワラがその事件を知らなかったってのも妙な話だな。」
『未来に残る情報では、2024年の事件に武内博士の名前は記されてないからさ。当たり前だよね。「30年前に死亡した人間がばら撒きました」などと報告しようものなら普通は首が飛ぶ。』

 2024年当時はFASSもまだ完成していなかったらしいし、時間転移の可能性を考慮していなかったんだろう。そもそも公式に死亡記録が残っている人間の関与を疑い出したらキリが無い。
 しかし、だったら何でオギワラはそれを知ったのか。しかも1995年において。

『恐らくグラサンに唆されたのだと思う。君達の成長を待って、オギワラとぶつけるために。』
「だけど今更時間を遡って親父たちを抹殺するのであれば、2024年に跳ぶ意味が無くないか?。」
『オギワラも事の重大さを理解したであろう武内博士とであれば、まだ話し合いで解決可能だと思っていたのかもしれないね。』
「筋は通るか。しかし、オマエは妙にグラサンにこだわるな。」
『少なくとも、カオルとトモハルを2024年に送り込んだ張本人であることは間違いない。』

 根拠はわからんが、それが正しかったとして、今度は別の疑問が浮かぶ。
 だったら何故オギワラは1995年に戻ったんだろうか。

『単純に考えれば、2024年で武内博士とコンタクトが取れなかったからだろう。事情を明かせば積極的に協力し合っていてもおかしくはないが、カレンが情報を遮断したのではないかな。』

 こいつはどうもカレンに対して思うところがあるようだ。
 だが、カレンの目的が「あるべき歴史の流れを維持」することなら、その可能性もあるのか。

「グラサンがよく許したな。」
『キミ達が未来にやってきたのを察したグラサンが、衝突を避けるために戻した可能性もあるよ。』

 何のために? いや、確証が無いと言っていたな。

『そもそも二人の利害が一致しているわけではないと言ったろう。建前上、グラサンはオギワラの部下のようだし。オギワラもグラサンの思惑通りに全て動くわけじゃない。或いはカレン存在に気付いて介入を嫌ったのかもしれないけど。』
「そしてオマエは妙にオギワラを評価しているよな。」
『彼の行動は、君にとっては愉快なものではないだろうけど、僕の知る限り彼は間違いなく英雄の器だよ。』

 確かに面白くない。

「結局真相は闇の中か。」
『世の中、わかることの方が少ないさ。』
「茶化すなよ。」


 考えるだけ無駄な事ってのは確かにあるが、それでも状況整理は必要だ。
 何も考えずに闇雲に行動したのでは、気付いたときにどうしようもない状況が出来上がっている恐れがある。

「話を戻すぞ。2024年でオギワラはオヤジ達を発見することは出来なかった。」
『そうだね。目黒技研をきちんと調べなかったのは彼らしくも無い手落ちというか、それだけカレンの隠し方が巧妙だったと褒めるべきか。』
「んで、オヤジ達の抹殺を企図したオギワラが、爆発事故の前に戻ってきた。そしてそれを阻止するために俺達が戻ってきたわけだろ。これ、イタチごっこじゃないか?」
『成程 nemesis に端を発する、絡み合う時の螺旋 -spiral nemesis- とはよく言ったものだね。』

 何か良くわからんが一人で納得していやがる。
 ややこしい。タイムパラドックスとやらは発生しないのか。

『ただ、オギワラが敵の本営から動く気配が無いのは妙だ。ひょっとしたら彼も何かしら思うところがあるのではないかな。そもそも抹殺云々自体、あの時をかけるおbsn……もといカレンの憶測だしね。本当に武内夫妻を抹殺することが目的なら、戦力を小出しにする意味も、それ以前に軍勢を率いる意味も無いよ。もしかしたら君達と決着をつけるつもりなのかもしれないけれど。』

 確かにここ目黒技研に押し寄せた悪魔の軍勢は、総攻撃と言うには程遠い小規模なものだった。そもそもオギワラも姿を現していない。

「決着、か。」


chapter 21 SHINJUKU     ~ 新宿突破作戦 ~

 目黒を出る際に、爆発事故を偽装。ついでに「現在の俺」にメッセージを送る。
 申し訳ないが「俺」には暫く走り回ってもらおう。

「『必要なこと』……。」

 これが最善かどうかはわからないが、こうする以外には思いつかなかった。アイツが永田町でFASSのことを黙っていた時も、こんな言いようの無い気持ちだったのだろうか。
 もはや考える意味は薄いかもしれないが、今度はカレンの行動について考えてみる。

「カレンは『あるべき歴史の流れを維持』するために行動してるんだっけ?」
『聞こえの良い言い方をすれば、そうだね。』

 相変わらず物言いに毒がある。

「どういうことだ?」
『身も蓋もない言い方をすれば、保身さ。タイムマシンで勝手に過去を変えられると自分達の存在が消えてしまう。結局「あるべき歴史の流れを維持」するとは、「誰かが過去を変えたせいで自分達が消えるの嫌だ」と言うだけの事さ。』

 随分穿った見方だな。

「それが悪いことだとは思わないけどな。」
『そうだね。人間としては当たり前の行動さ。それ自体は何も問題ないと思うよ。ただ、言葉を飾り、しかしその建前すら守らず、そしてその事自体に気付かない振りをする人間が嫌いってだけさ。』
「お前がカレンを嫌っているのはそれが理由か。」
『……別に嫌ってはいないよ。彼女が正義感溢れる善良な人間であることは疑って無い。』

 微妙な口調だ。

「カレンがオヤジ達を守ったのも保身のためか。」
『TWOという組織の成り立ち自体、DIOやFASSの存在が前提になっている。オギワラがDIOの抹消を考えているのであれば、手段を選ばずに邪魔しに行くだろう。武内博士とオギワラが協力し合ってDIOを葬る、というのが彼らにとって最悪のケースだ。だから「オギワラが武内夫妻の抹殺を企んでいる」という状況は、逆説的ではあるけど彼らにとって非常に都合がいい。』

 名分を得やすいと言う事か。

「まあ、オマエの言うことは確かに正しいと思うけど、それだけって訳じゃないと思うぞ。」
『それは勿論そうだろうね。未来では必要な組織だろうし、カレンをはじめ結構な人が正義と信じて働いているはずだ。何より僕は自分の考えが唯一絶対と思えるほど、完璧でも愚かでもないよ。』
「わかっちゃいるけど好きになれないという奴か。」
『そういうことになるのかな。』

 前から思っていたが、随分と人間くさい奴だ。

「でもコレでタイムパラドックスって奴が起こったわけだよな?」
『何故だい?』
「オヤジ達は自分で爆発事故を偽装して未来に逃げ出したはずだろ。でも今回はそうならなかった。」
『別に矛盾は生じていないさ。原因が変わったので結果も変わるというだけだ。そもそも君の考えている事が、かつて実際に起こったとも限らないわけだし。』

 引っかかる物言い。何か『憶測』がありそうだ。

『あくまで可能性の話だが、キミの両親が「自分の意思で未来へ逃げた」と嘘をついたのかも。』
「何のためにだよ。」
『言い訳したくないからだろう。キミに言われたからではなく、あくまで自分の意思で逃げ出したのだと。』


 俺に言われた?

「……だとすると俺は、『俺を信じて何も聞かずに避難したオヤジ達』を、『俺に何の連絡も無く逃げた』と非難したわけか。」
『そうなるかもしれないね。事情をカレンから聞いたキミの両親が、キミの苦労を察して口を噤んだ可能性は大いにある。FASS開発途上で偶発的に出来たDIOを巡ってゴタゴタしている最中に、FASSが正常に動作するとは思えないし。』
「とんだ道化だな、俺は。」
『何れにせよ、全てが片付いたらしっかり話し合うことをお勧めするよ。』

 頭の中がゴチャゴチャしている。
 落ち着いたら、もう少しきちんと考えてみよう。



 カオルの調べによると、「2回目のオギワラ」は品川に布陣しているらしい。
 目と鼻の先だ。以前は永田町だった。歴史が既に変わっているのかとアイツに聞いたら、『わからない』と答えが。

『「2回目のオギワラ」がここに居るのも、「2回目の君達」がここに居るのも、「1回目の出来事」が原因だ。』
「まあ、そうなるよな。」

 既にややこしい。

『にもかかわらず、「1回目のオギワラ」が無かったことになるなら、ここに居る君達は何だろうね。』
「なるほど。」
『とは言え「1回目の我々」は、「2回目のオギワラ」を認識してなかったわけだ。彼がその気になれば、我々を見つけ出して抹殺するのは然程難しいことではなかったにも関らず。』

 東京中から一人の人間を探し出すってそんなに簡単なことだろうか。いやでも俺達、一年後には結構派手に悪魔相手に立ち回っていた気はするな。でも「2回目の俺達」が東京から悪魔を駆逐するなら「1回目の状況」は成り立たないわけで。あれ、ってことはこのまま戦えば、俺達負け決定?
 混乱してきた。とりあえず話を聞こう。


「じゃあ何か。『2回目のオギワラ』は、既に俺達の抹殺を考えていないということか?」
『僕はそう考えている。』
「だけどおかしいだろう。『1回目のオギワラ』はこの状況をどう思っているんだ?」
『ひょっとしたら、まだこの時代に来ていないのかもしれない。』

 だめだ、全くわからん。

『言ったろう、憶測だと。大体世の中の事全てが、懇切丁寧に自分に説明されると思えるのは子供の特権さ。考えるのも人生の楽しみの一つ。それにわからなくても前に進むことは出来るよ。』

 それはわかるが、気になるものは気になるのだからしょうがない。1995年に巻き起こった悪魔による混乱自体が、もともと「2回目のオギワラ」の仕業ってことなのか?
 いい加減頭が沸騰してきたので、とりあえず先手必勝とばかりに品川へ突っ込もうと考えたが、アイツが異議を唱えた。

『根拠の無い「先手必勝」は唯の拙速、思考放棄だよ。』
「けど、孫子とかも言ってるだろ。『兵は拙速を尊ぶ』って。」
『孫子先生はそんなこと言ってないよ。後世の偉い人が誤読でもしたんだろう。一分の理も無いとは言わないけどね。』

 相変わらず回りくどいな。

『相手は、不意を衝いたとは言え一国の首都を陥落させる程の軍勢だ。』
「そりゃあそうだが。」
『品川への道を固めているであろう敵主力とまともにぶつかれば、こちらもただでは済まない。』
「じゃあどうするんだよ。」
『以前と同じだよ。小兵の戦いはゲリラ戦、弱者の戦略「各個撃破」さ。』

 奇しくもカオルから全く同じ提案が。
 俺達は目黒を捨てて大きく迂回し、分散している敵戦力を各個撃破しながら品川を目指すことになった。





 目黒から山手線沿いに北上。遠く左手線路の向こうに、無傷の都庁が見えてくる。漸く現代に戻ってきた実感が湧く。

『都庁か……、何もかも皆、懐かしい。』
「ああ、本当にな。」

 こいつもそんな風に考えたりするのか。意外に思いながら遠くを眺めていたら、【千里眼】を通じて自衛隊の後方基地らしき場所に向かっている悪魔の軍団が見えた。

「結構大規模な悪魔の集団だ。」
『目標はJRの総合病院かな。自衛隊の急造策源地としてでも使われているのだろう。防衛線が構築されないのを見ると、作戦で戦力が出払っている所を狙われたのか。こんな後方にこれ程の敵戦力が浸透しているのは意外だけど、どの道あそこまで攻め入られては陥落はほぼ確実だね。』

 冷静な口調でアイツが言う。暗に「見捨てろ」と主張しているのだろうか。
 2024年の荒れ果てた新宿で、それでも東京を守るために闘っていた自衛隊員の姿を思い出す。

「敵悪魔の集団は俺たちに気付いていないんだよな。横撃かければ行けるんじゃないか。」
『まあこちらの動きに対応するには多少時間が掛かるだろうね。彼らを助ければ我々も補給を受けられそうではあるか?』
「オマエも言ってただろ。『情けは人の為ならず』ってな。俺達にだって成長するという得はある。」
『違いない。でもタフな闘いになるよ。気を引き締めて。』


 ケライノー・オルトロス・マンティコア・ゲンブ・ドリアードを展開。

『なるべく早く合体させてファイルに空きを作れば、ここでも沢山勧誘できるよ。』
「まだやるのかよ。それで?」
『欲しいのは奥にいる龍王ユルングと、「聖獣パピルザク」、ついでに「妖精ルサールカ」が超美人なのでこれで三匹。』
「また外見か。」
『そう言わないでよ。別にそれだけってわけじゃないんだから。』

 そうならそうと、最初に言えばいいのに。

『あとは必須でないけど、ゲンブで勧誘予定のハクタクかな。出来れば合体に使った後、オルトロスも再勧誘したいけど、難しいだろうね。』
「どう考えても定員オーバーだぞ。」
『合体で席が空く事前提で、ユルングは最後に勧誘する。』
「自転車操業だな。」
『無借金経営の企業はむしろ規模の拡大が遅いんだよ。良いか悪いかは別にしてね。』


 いつもの軽口。
 これまでに無い規模の悪魔の集団を前にして強張っていた体が、ほんの少し解れる。

「育成方針に変更は無しか?」
『ケライノーとオルトロスは通常通り。そして今回勧誘予定の聖獣パピルザクを促成栽培だね。』
「植物か。」
『あとはゲンブとハクタクを削りオンリーで。必須ではないけどね。』

 聖獣ゲンブの特技「らいでん」はアークエンジェルで覚えたはずだが。まあ『必須ではない』らしいので深く考えなくてもいいか。

 ケライノーを線路の向こうに単騎先行させて、病院の守護にあてる。行きがけの駄賃で、正面にいる別働隊らしきメズキを轢殺。相手に獣、特に強力なオルトロスが多く心配なのだが、『奴らは待ちガイルだから』と良くわからん理由で押し切られた。【未来視】は信用に足るが、もう少しまじめに説明して欲しいもんだ。
 俺達本隊はエースを信じて、敵本隊に側面攻撃をかけるべく回りこむ。ついでにメズキ小隊を壊滅させておいた。狭い道で進軍が難しく、渋滞が起きて手持ち無沙汰だったトモハルが道に落ちてたアイテムを取得。何やらアヤと揉めていた。バーゲンがどうとか。
 
 どうも病院襲撃までは間がありそうなので、ケライノーで落ちていた斧「トマホーク」を回収。俺たちはアルタ前で陣形を整え、ふらふらやってきた妖精ルサ‐ルカをナンパ。魔法攻撃が凄まじく強力だったが、所詮妖精。前衛が居ない状態で対峙したのが運の尽き。抵抗する妖精を無理やり勧誘して、遅れてきたもう一匹は獣どもの餌食になってもらった。性的な意味ではない。
 そのまま駅向こうにいる、地霊・魔獣混合軍に攻撃を仕掛ける。向こうはこちらに気付くのが遅く、先手を取ってある程度蹂躙できた。

 だが堅い。おまけに厚い。
 地霊・魔獣という組み合わせも厄介だ。対地・対空両方備えている。奇襲がある程度成果を挙げたからいいものの、まともに戦っていたらと思うとぞっとしない。後方ですらこれだ。各個撃破は正しい策だったということか。
 
 さらにジェネレータも起動した。出てきたのは外道。どうでも良い。
 ついでに釣られてやってきたパピルザクの勧誘をゲンブに任せ、俺は敵集団に切り込み防衛線に穴を開けることに成功。残っていたパピルザクからは、杖「サソリムチ」を手に入れた。杖なのか?
 
『超優秀な武器だよ。待望の杖でもある。妖鳥が一気に高火力になるね。』
「そいつはありがたい話だな。」

 続けてオルトロスから「ジェットサンダル」入手。凄い名前だが、速さと回避力が増強されるサンダル。これまた中々のものらしく、『人数分欲しいくらい』と褒めていた。
 こちらの獣達はウロチョロしながら適当に敵を削り、泉にいるアヤが魔法で回復。新宿西口の掃討は時間の問題になった。足の速い奴はアイツの指示で龍王方面に先行させる。病院の方も上手くやっているようだ。

 どうやら俺の強さが一定の水準に達したらしい。アイツが『このまま一途に「つよさ」をあげるべきか、他に浮気するべきか、それが問題だ』とか呟いていた。生憎仲魔が特技を習得していないので、合体は暫くお預け。はやく地霊に会いたいものだ。
 俺はひとり駅前の敵を一掃しながら、俺以外の仲間全員を龍王周辺に先行させる。


『龍王叩き祭り、はっじまっるよ~!』
「え、何?」
『とりあえず弱い仲間全員で龍王囲んで、死なない程度にポコポコ叩くのさ。』
「それで?」
『龍王サマは拠点で回復し続けるけど反撃できないので、まだ自立できない雛鳥たちにとってはカッコウの餌食なのさ。』
「ああ、なるほど。」

 つまりそこでゲンブやら、ハクタクやら、パピルザクやらも特技覚えてしまえと。理には適っているな。

『そして最後に、散々餌を貰った親鳥ならぬ龍王を勧誘して終了だ。』
「何という外道。」

 というわけで、龍王祭開催。コツは『相手の防御をギリギリ上回る攻撃力で少しずつ削ること』だそうだ。確かに武器選択肢は沢山あった方が良いと、今さらながら深く納得。
 オルトロスや合流したケライノーから、果ては不急のマンティコアまで。次々仲間が成長して行くその最中。


『龍王相手に二回攻撃できないとか、ハクタク・パピルザクはどんだけ遅いん。』
「確かにこれは酷いな。」

 どうも聖獣の立ち遅れ感が酷い。パピルザクに、残しておいた護衛オルトロス軍団二匹のトドメを刺させたのが不幸中の幸いか。あんまり時間をかけたくは無いので、必須ではないハクタク・ゲンブ組の特技習得は諦める。パピルザクが特技「つくもばり」を習得したので合体開始。

・オルトロス×パピルザク→邪鬼カワンチャ
・ケライノー×カワンチャ→地霊ドワーフ

『全てを受け継いだ最強の地霊、ドワーフの誕生だ。』
「石化噛み付きは?」
『いいの、それは。』
「ていうか、地霊ってもっと上にも居なかったか?」

 講義では、あと4匹くらい居た気がする。

『あんなゴツイ奴ら地霊じゃない。』
「さいですか。」

 最後に残っていたプルシキと、お世話になったユルングを丁重に迎える。結局仲魔が30体、容量一杯になってしまった。

 新宿を出たところで、ピクシーの先輩だという「ティローッタマーさん」と出会った。舌を噛みそうな名前だ。何やら池袋に変わったものがあると教えてくれた。親切な先輩だ。アイツが『蝶グッジョブ!』と訳のわからないテンションでピクシーを褒めていた。ピクシーもなんか照れている。「お役に立てて嬉しいです」とか、超健気な発言してる。アイツ、意外と悪魔にモテるのか?


『これで次抜けたら、ピクシーは合体かな。』
「おま……。オマエ絶対に妖精じゃないだろ。」
『よくぞ見破った。私は外道アカホリ。コンゴトモヨロシク。』

 俺は考えるのをやめた。


chapter 22 KORAKUEN     ~PREHISTORY~

 新宿のショップで買い物をした後、俺達は東に抜けて、中央線沿いに後楽園まで来ていた。今回も例の『妖精さん買い』をしたのだが、何と金がかなり余った。アイツの得意気な調子が微妙に癇に障る。

「池袋に行かなくて良かったのか?」
『今すぐ行ってもいいんだけど、ファイルの空き容量が無いし、もうすぐ戦力が整うからね。』
「にしたって、随分遠回りだな。」
『まあ我慢してよ。』

 確かにしんどい闘いが続いてるし、仕方ないのか。

『いつぞやと違って、今相手にしているのはオギワラ麾下の最精鋭だ。万全を期さないと危険だろう。』

 恐らく『いつぞや』ってのは1996年の永田町だろう。
 確かに当時の俺達では、こいつ等相手に勝ちようが無かった。

『けど、ここを抜ければ大分楽になるよ?』
「何でそうなるんだよ。敵本部に近づくにつれて、敵が強くなっていくのは常識だろ。」
『長いこと温めていた構想が、ここを抜ければ遂に現実のものとなるのさ。』


 右手に東京ドームが見えてきた。
 邪霊と大量の獣・妖精に、龍王が二匹。鳥が居ないのは楽でいいが、正直面倒な手合いだ。

『あんまりわがまま言わないの。』
「けどさぁ、さっきドワーフ作らなきゃ、正面のユルング金縛って超楽勝だったろ。」
『ファイル容量足りないんだからしょうがないでしょ。』
「それはわかってんだけどさぁ。」

 相手のメンバー見るだけで、気分は全編消化試合。イマイチ燃えるものが無い。

『大分テングになってきたね。』
「テング? そういやそんな妖鬼の名前を聞いたことがあるような気がするな。」
『処置無し。』


 とりあえず、ユルングとドワーフを召喚。
 サポートとしてマンティコアを召喚。
 オマケでゲンブとハクタクも召喚。
 最後に回復役としてルサ-ルカ・ドリアードと、アイテム回収役としてホウオウを召喚した。

『増長してるかと思いきや、存外に堅実な布陣だね。』
「まあ、マグネタイトも余ってるしな。」

 まずは最前線に配置したルサ-ルカが龍王に隣接し、魔法「シバブー」でバインドする。次いで駅に配置していたドワーフを前進させ、お調子ボムで最寄のゾンビを撃破。線路前に布陣させたマンティコアと二匹のオマケ聖獣でドーム周辺の邪霊をチマチマ削る。ホウオウに悠々アイテムを回収させて、仲魔ユルングはゾンビにトドメ。
 一瞬で目の前がクリアになった。

『実際問題、随分手際良くなったね。』
「貶したり褒めたり忙しい奴だな。」

 悪い気はしない。
 俺は邪霊ファントム二匹を屠りに、線路を突っ切るべく直進。地下鉄のはずなのに上空を通る線路。下をくぐるたびに不思議に思う。残りの3人には、丸の内線の駅経由でドームを目指してもらうことにした。
 無駄にシバブーを重ねがけつつ、ルサ-ルカを泉に移す。講義でもやったが、魔法「シバブー」は中々のものだ。成功率は金縛りに比べてしまうと残念な感じらしいが、何回も使えるのは大きい。敵ユルングは放置しても良いが、最早体力が残ってない。聖獣などでもう一削りして、こちらの龍王でトドメを刺す。ドワーフは単騎先行して、橋を守っているオルトロスたちを倒して回る。順調だ。
 そうこうしているうちに、ジェネレータから邪鬼スパルトイが現れた。今さら感が酷い。ユルングの餌にしておく。とりあえずドワーフの育成優先か。俺はといえば、ホウオウや獣を使って敵の進路を塞ぎつつ、ファントム二匹を仕留めていた。もはや動く敵が一匹も居ない。遮るもののない敵拠点へと続く道の上で、ジェネレータ狩りを楽しみながら進む。
 そんな弛緩した雰囲気の中、それは起こるべくして起こったのだろう。



 これまでの戦闘で、「龍王ユルングは動かない」という経験則が俺の中で出来上がっていた。
 だがこれは、何の根拠も無い思い込みだったのだ。何度繰り返しても学ばない。


「カオルッ!」

 無警戒だったカオルに、近寄ってきた龍王の砲撃が直撃する。
 地面が抉れ、爆散するほどの運動エネルギーを、全てその身に受け止める。
 吹き飛ばされたカオルは腕がひしゃげ、体中から血を流し、ピクリとも動かなくなっていた。

 万全の状態だったカオルが、一撃だけで死の寸前まで追い込まれた。
 いつものんびりしているアヤが、血相変えて射程外まで引きずり出し、必死で回復魔法をかけ続けたほどだ。
 

 油断。慢心。
 決して消し去ることの出来ない、人が人であるが故の弱点。自分には縁が無いなどと言う、馬鹿げた考えを持ったことは一度も無い。今回だって軽口こそ叩いたものの、臆病といっていいほど慎重に作戦を立てていたはずだ。

 それでも。
 眼前の敵をほぼ駆逐しきったその後でも。一瞬の気の緩みが即、仲間の死につながるのだ。幸いカオルはアヤの必死の介抱の甲斐あって、死の淵から脱して何とか戦線に復帰した。だが、俺の体の震えは戦闘が終わってからも止まることはなかった。



『終わったね。』
「ああ。」
『大分良い顔になったよ。』
「皮肉か?」

 頭痛に吐き気。自己嫌悪。
 鏡を見なくてもわかる。今の俺は酷い顔をしているはずだ。

『僕が皮肉を言ったことがあったかな?』
「ウェンディゴ勧誘しなかったときは、結構グチグチ言われた気がするがな。」

 俺ばかり皮肉な調子になる。くそ、他人に当たってどうするってんだ。

『それはそれ。今回龍王の脅威を身を以って知った。キミはまた一つ指揮官としての成長を遂げたのさ。』
「だが、仲間を失うところだった!」
『だが、失わなかった。』

 結果論だ。

『以前にも言ったか、キミのそういう性質は非常に好ましい。だが、そうして後悔を続けて、君の仲間を安全に出来る? そもそも、キミがそうして全責任を背負い込むことを仲間が望んでいると思う?』

 わかる。
 俺を前向きにさせようとしている事も、それだけでは無くコイツが本気でそう思っている事も。そしてそれがきっと正しい事だと言う事も。
 それでも、俺は。


「先に進むぞ。」
『そうだね、やらねばならない事は山積みだ。』

 例え気持ちの整理がつかなくても、前に進まなければならない。
 危機が今回限りとは思わない。似たような事はこの先何度もあるだろう。
 俺は上手く現実と折り合いをつけながら、皆を守っていくことが出来るのだろうか。
 幸い考える時間だけはたっぷりとあった。




[22653] intermission ?
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/10 21:15
*注意事項*

この話は本編とはあんまり関係ありません。
飛ばしても本編読み進める上で殆ど支障が無いので、
下ネタ等に嫌悪感を覚える私のような潔癖な読者の方は、
右上の「次を表示する」をクリックして本編を読み進めてください。

漸く女神様が降臨されたことで、作者のテンションがちょっとマハラギオンしています。
柄ではないのは理解していますが、冷静になっても修正する予定はありません。
あと、ナオキ君も変な電波を受信しています。


*免責事項*

この話を読んだ後にグーグル画像検索(例:"魔王マーラ")などを実行し、
折悪しく彼女・お母さんまたはそれに類する第三者に現場を押さえられた場合、
別れ話・家族会議他そこから発生する全ての事態に対して、当方はいかなる責任も負わないことを予めご了承ください。








 後楽園を抜け、俺達はリミックスステーションにやって来ていた。
 アイツが長いこと温めていた構想を一部実現するときが来たらしい。

「長かったな。仲魔強化を始めようか。」

 だが、アイツは俺の言葉を全く聞いていない様子。


『ついに、ついにこの時が来た。部隊の偉大なるエースにして、トドメ役から壁役・削り役、万一のときの回復サポート、単騎で突出して釣り、アイテム回収まで何でもこなす、偉大なる女神様が降臨する時が!』
「(長ェ……)無駄にテンション高いな。」
『高まらいでか! 鳴り響け!! 僕のメロス!!』
「俺の気分はむしろ、延々待たされてるセリヌンティウスだな。」

 理解できない。全くもって、今の俺には理解できない。



「埒があかん。アメノウズメだな。ポチポチッとな。」

 端末を操作し設定を整える。

・ホウオウ×(ピクシー×ゴズキ)


「はしょれメロス、なんつって。」
『バカかキミは、バッカじゃないのか! またはアホか! 軽い気持ちでやったら死ぬぞ!』
「何だよ、仲魔だぞ? それとも何か、見ただけで死ぬってのかよ。」
『キミはホントに極稀に鋭いな!? 確かにそうだ。油断してると見ただけで死ぬぞ! 社会的に!』


 意味不明なテンションの高さ。口調すら変わってる。あと社会的にってどういう意味だよ。

「まあいいや、3remix スタート。」
『ちょ、まーてーよ!』

 ウィィィィィン。シュゥゥゥゥ。

「私は、女神アメノウズメ。今後ともよろしく。」

 そこに現れた新しい仲魔は










 全裸だった。









いやまて落ち着けこれは罠だだってほら紐のような布のようなひらひらしたものがあなたに女の子の一番大切なものを隠しているわけででもそれがどういうわけかかえって見えそうで見えない絶妙のチラリズムを醸し出して誰でも一度だけひと夏の経験してみたい誘惑の甘い罠に結局何が言いたいかというと俺のドリルが天元突


『戻って来い! そのまま逝くと死ぬぞ! 社会的に!』

 あ、あぶねぇ。
 妖精さんが引き止めてくれなければ、マグネタイトをしこたま射出して死ぬところだった。社会的に。
 クール!クール!クゥゥゥゥゥゥル!
 武内ナオキはクールになるぜ。
 さあ、今は亡きウェンディゴ先生の筋肉とトモハルの笑顔を思い出せ。


 ……ふう。


『どうやら落ち着いたようだね。』
「あ、ああ。あと礼を言うよ。オマエのお陰で命拾いした。社会的に。」
『何、気にする事は無い。キミに死なれると僕も困るんだ。社会的に。』

『ただね、もう一つ告げなければならない重要なことがあるんだ。』


『女神族の移動タイプは「飛行」なんだよ。』



 何……だと……。



タイプがひこうで雷が弱点でそらをとぶということは前からではどれだけ探し求めても決して見つからない男達の桃源郷がその気は無くとも下から見上げれば須らく全て遠きエターナルアルカディアであるべきでさえぎるものの無いあなた自身へ続く道の中で今愛欲を束ねて結局何が言いたいかといえば俺の魔王マーラがあばれま


『逝くな!』
「うおっ!」

 物理的衝撃すら伴っていたような気がしないでもない妖精さんの大喝のおかげで、俺は再び此岸に戻ってくることができた。

『まさに人外の魅力だからね。何と言っても原初の芸能アイドルだ。実際、本作では存在しないはずのチャームでも常時振り撒いているのかも知れん。恐ろしい。』

 なるほど、さっきまでの制御不能で意味不明な思考の混濁は、俺の煩悩によるものではなく魅了によるものだったのか。恐ろしい、実に恐ろしい。

「とりあえず、COMPに入って待っていてもらえるか。」
「かしこまりました、ご主人様。」


 女神は俺に向かって優雅にそして無防備に一礼して、COMPの中に入っていった。
 俺は死んだ。スイーツ。




[22653] A.D.1995 TOKYO     ~ Venus & Braves ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/10 21:32
 後楽園を抜け、俺達はリミックスステーションにやって来ていた。
 アイツが長いこと温めていた構想を一部実現するときが来たらしい。

「長かったな。仲魔強化を始めようか。」
『ん、そうだね。』

 コイツにしては妙に冷静だな。
 というか、この展開いつかどこかで……。


「なあ、前にもこんなこと無かったか? デジャヴュと言うか、何と言うか。」
『二巡目の世界乙。』

 どうやら真面目に答える気はなさそうだ。

『キミが悪魔の力を持ってしまう前に、とっとと悪魔合体を始めよう。』
 

intermission

・ホウオウ×(ピクシー×モムノフ)     →女神アメノウズメ
・ユニコーン×ピクシー          →女魔デュラハーン
・ドリアード×(コカクチョウ×ユニコーン)  →天神ツクヨミ
*ケライノー×(ホウオウ×ウストック)    →神獣ナンディ
*ジャターユ×ストーンカ         →幻魔フーリー


『うわあ なんだか凄いことになっちゃったぞ 』
「オマエがやったんだろ。」
『いやまあ、そうなんだけどね。お約束というか。』
 
 だが、実際凄いことになっている。一騎一騎が万夫不当のツワモノらしい。
 今まで苦労して遣り繰りしていたのが馬鹿らしくなるほどの豪華さだ。


『ところでこの女神様を見てくれ。どう思う?』
「つよそうだなー、とかか。」
『なっ、あなたが神か?!』

 コイツは何を言っているんだ。

『何と言う最終解脱者。自分で選んだ可能性の世界とは言え、何か釈然としない……。』

 ぶつぶつ呟いている。


「それはいいから、新しい仲魔について教えてくれよ。まだ知らない奴もいるみたいだし。」

『あ、ああ。そうだね。』

 頭を切り替える。
 覚えることは非常に多く、そのどれもが俺たちの生死に繋がるものだ。

『まずは女神だ。今後地霊に代わって、部隊のエースを務める偉大なる系譜さ。トドメ役から壁役・削り役、万一のときの回復サポート、単騎で突出して釣り、アイテム回収まで何でもこなす万能選手だ。しかも代を重ねるごとに飛躍的に強くなっていくよ。』
「すげえ。」
『そしてアメノウズメの覚える特技「マインドキャッチ」は正直別格だね。キミより弱い悪魔を洗脳して問答無用で仲魔にする。』

 別格と言うほど凄い特技か?

「別にDIO持ちのトモハルで十分だと思うがな。」
『そうでもないさ。何故ならこれまでは会話が成立しなかった、妖獣・邪鬼といった悪魔たちまで仲魔にできるんだ。』
「特技版ムーンハイドか。て事は何か、拠点防衛しているダーク悪魔まで引き抜けるってことか?」
『そうだね。拠点のみならず戦場で急所になる悪魔を引き抜けるのも大きいね。女神の機動力で成功率100%の勧誘だ。実際コレ一発で窮状を脱する事だって、全くもって不可能じゃない。勿論キミが相手より強いことが前提になるけどね。』

 そう言われると確かにすごいな。

『強いて難をあげるなら、覚えるのが遅いと言うことかな。』
「じゃあ他の悪魔で覚えればいいんじゃないのか。」
『確かにもっと強力な仲魔を使えば、殆ど労無くして覚えることはできるけど、今女神様を使わない手はないよ。』

 一応筋は通ってるっぽいか。

「でもそれだけじゃないんだろ?」
『……まあ、趣味入ってることは否定しない。』

 やはりか。

『あと、アメノウズメにはキミと同じ運強化防具で闘ってもらう。彼女には積極的にトドメを刺して回ってもらうことになるからね。』

 そうか、彼女も犠牲になるのか。
 アレ、でもむしろ露出が少なくなってないか?
 Tバック穿いて露出が減るって、一体どういうことなんだ?
 いやそもそも、「ろしゅつ」ってなんだろう。
 ろしゅつってそんなにいけない事なのだろうか……。


『次は女魔デュラハーンについてだ。』
「……おう。」
『彼女は超強力な対空攻撃力を持っている。しかも平均を上回る対地攻撃力も有しているんだ。オマケにそこそこ硬い。』
「はあ? 何ソレ、ずるくないか?」
『ズルイ。いるだけで負けがなくなる戦略級決戦存在。まさにカオスの権化だよ。これがユニコーンとピクシーの組合せで出来ちゃうんだから、世の中ってのは不思議だよね。』
「こいつも育成対象か?」
『いや、特技引継ぎ的には不要だ。前線で壁・削り役に徹して、トドメは他に譲るのがいいだろう。今後ずっと血筋を残して、お世話になり続ける種族だよ。大事にしよう。』

 やばいな。ワクワクしてきた。


『お次は天神ツクヨミ。所謂天津神って奴だ。目立った特長はないけど強い種族だよ。バランスがいい感じだね。扱いもほぼ女魔同様でかまわない。ただこちらは趣味で作ったため、一代限りの可能性もあるけどね。』

 むう、扱いが女魔と随分違うな。ツクヨミとかカッコいい名前なのに。


『そして最強の獣。神獣ナンディだ。』
「最強の獣。いい響きだな。」
『実際神獣はその名に恥じない性能さ。獣のくせに、斧に加えて長剣&全防具装備可能という意味のわからない仕様だ。』
「すげえな。獣の弱点完全に克服してんじゃん。」
『故に神の獣だよ。特に破壊神シヴァの騎獣であるナンディはめちゃくちゃ成長するしね。限界まで育てて、シヴァ神をお迎えするのが妖精さんのたしなみだよ。』
「じゃあトドメ刺させるか?」
『いや、今回は特技的には必要ないんだ。作ったのは浪漫だね。』
「『今回は』、ねぇ。」

 それはさて置き、悪くない。悪くないぞ。


『最後が幻魔フーリーだ。』
「幻魔も講義では聴いた事が無い種族だな。」
『非常に珍しい種族でね。キミと敵として出会うことはまず有り得ないと思っていいよ。』
「へぇ。」
『フーリーはちょっとアレだけど、高位の者は所謂ダーナ神族ゆかりの者になるのかな。一言で表せば、魔法槍士だ。』

 カッコイイ。カッコイイ奴等ばっかりだ。

『多少足が遅いのと、低位の者は防御が脆いのが弱点だ。迂闊には前に出せないが、貴重な魔法攻撃持ちでもあり、オールラウンドに活躍できる。』
「確かバーニングリングを覚えるのは幻魔フーリーだったよな。」
『驚いた。良く覚えていたね。その通り。無理のない範囲でトドメを狙っていくよ。』

 ふぅ。
 超エキサイティングなひとときだった。そりゃあコイツもテンション上がるわ。
 だが、語り終えてひとつ、気になったことがある。



「なあ。『幻魔フーリー』じゃなくて、『幻魔プーカ』が居るんだが。」
『へ?』

 実際に目の前に居るのは「幻魔プーカ」。


『えええええ?! 何で?!』
「いや、何でいわれてもな。」
『ジャターユ(26)とストーンカ(17)で平均レベルが21.5。プーカのレベルが21な訳で、いやいやいやこの結果は有り得ないでしょ絶対おかしいでしょ。レベル切り上げ処理の前に、小数点以下切捨て処理がある? まさかの仕様勘違い? うはー、これぞただしく机上の空論、この先正に砂上の楼閣……。』

 あー、自分の世界に入っちまった。口調すら変わっている。
 これは相当テンパッてるな。コイツ意外と想定外の事態に弱いと見た。

 あ、プーカが困った顔してる。

『……よし、もう一度【ハヤトロギア】使うよ。』
「もう一度? いや、それよりもどうする気だ?」
『後楽園突破直後に戻って善後策を講じる。ケライノー×プルシキとかにして、ナンディをジャターユで……』
「プーカこんなに可愛いのに、要らない子扱いか。」
『ぐぁ。』

 お。

「ほら、プーカがすごく申し訳なさそうな顔してるぞ。」
『うぼぁー。』

 やばい。何かこれ、ちょっと楽しい。
 けどまあ、悪ノリしすぎてもアレか。

『ぐぬぬ……。ノームを作ろうにも、無駄が多すぎるし。』
「まあいいや。ホレ、さっさとやってくれ。」

 無駄に時間を潰すこともないだろう。


『……ん、わかった。すまないね。』



intermission     ~ take5 ~

・ホウオウ×(ピクシー×モムノフ)    →女神アメノウズメ
・ユニコーン×ピクシー          →女魔デュラハーン
・ドリアード×(コカクチョウ×ユニコーン) →天神ツクヨミ
・ジャターユ×(ホウオウ×ウストック)   →神獣ナンディ
・ケライノー×プルシキ          →幻魔フーリー


『それじゃあ進もうか。』
「もう?」

 合体終了後、簡単な説明をしただけ。意外とアッサリしている。
 長いこと温めていた構想の実現ではなかったのか。

「何かあったのか? いつものオマエなら、妙な事を少なくとも3回は口走って、ハシャギまくりそうなもんだが。」
『多分、僕は3人目だから。』

 いや、これはこれでテンション高いっぽい。



chapter 23 IKEBUKURO     ~ 池袋市外遭遇戦 ~

 ティローッタマさんの情報を元に、俺達は池袋にやってきていた。アイツが直ぐに俺達を向かわせなかったのは、リミックスステーションがあったからだろう。他にも、新宿・後楽園と敵拠点を征圧したことで、ここ池袋の敵部隊を完全に孤立させる事となった。
 向こうは当分こちらに気付くことはないが、こちらは【千里眼】がある。十分に時間を使って対策を立てることが可能だ。つくづく反則気味な能力である。

「まずは二手に分かれた方がよさそうだな。」
『どんな風に?』
「山手線の外側は対鬼族の地霊ドワーフ、内側は対地霊の女神中心で部隊を編成する。」
『完璧だね。』


 そして奥にいる龍王。
 その姿を【千里眼】で見るだけでも、体が微かに震えだす。
 苦手意識ではないと思いたいが。

『丁度いいくらいだよ。』

 見透かすようなことを言う。だが、確かにその通りだ。龍王に関してはきっと警戒し過ぎるくらいが丁度良い。

 考える。
 これだけ能力の高い仲魔がいるんだ。だったら、こいつらの力を最大限発揮する術をまず考えるべきだ。

「正攻法だ。龍王の射程に注意して動き、防御を固めた強力な仲魔たちで一気に接近する。」

 最強のエースドワーフなら、龍王の砲撃にも耐えきるはず。そして接近さえしてしまえば、どうとでもなる。
 左翼山手線外側に俺・カオル・ドワーフ・フーリーが展開。右翼には菊池兄妹・アメノウズメ・ハクタク・ゲンブ・ツクヨミ・デュラハーン・ナンディ。どう考えても戦力過剰である。

 漸く相手がこちらに気付いたようだ。笑えるほどにうろたえている。陣形も何もあったもんじゃない。もしかしたら後方を一掃されたことに気付いていなかったのかもしれない。相手にとっては遭遇戦かもしれないが、当方に襲撃の用意あり、だ。先手を取って存分に蹂躙してやる。
 右翼。敵リリムは神族の弱点である氷属性「ブフ」系統を持っている。持っているが、女神の魔法防御の高さに殆どダメージが入らない。対空火力を持たない地霊はそもそも問題にすらならない。女神様が好き放題に戦場を飛び回り、まさに無双状態だ。何かもう簡易龍王祭を自主開催する運びっぽい。
 一方左翼はドワーフとフーリーが大暴れ。開幕、最前線に配置したフーリーのアギでカワンチャを削る。当然寄ってきたカワンチャを、フーリーが鮮やかに捌いて反撃で撃破。魔法槍士の本領発揮といったところか。その後もマハラギで邪鬼を蹴散らす。邪霊はそもそも問題外だ。アイツのアドバイスで、特に意識してフーリーにトドメを刺させるようにする。圧倒的だ。圧倒的な強さだ。
 
 やばい、俺全く働いてない。


「このジェネレータどうする。俺が張り付いていようか。」
『いや、無視して進もう。キミには龍王の排除という立派な仕事がある。』

 道に屯している雑魚たちは仲魔にまかせて、俺はひたすら奥へ。池袋の駅が見えてきた。そういや初めて【千里眼】に助けられたのはここら辺だったな。あの頃はしんどかった。もう随分昔の事のような気もするが、時間軸上ではまだ先の話な訳で。どうにも妙な気分だ。一撃喰らうのも覚悟の上で、龍王の射程ギリギリ外に張り付いたが、どうやら奴は移動しないらしい。一気に間合いを潰して撲殺した。


『素手で龍王を一撃だもんねぇ。』
「鍛えているからな。」
『いや、やりすぎた感というか。』

 何でも『龍王祭に参加できないのが不味い』らしい。確かに全員参加で盛り上がっている祭りを、俺は外から一人眺めていた。あれ、俺皆に敬遠されてる?
 右翼は敵集団を一掃後、杖「エデンビューグル」入手。いつだったか敵が装備していて、アイツが悔しがってたものだ。普通に道に落ちていたらしい。武器威力はアタックナイフと大差ないが、知恵を大幅に増強するそうだ。アイツが『フラグ立った』とか言ってた。意味はわからない。

「知恵って言ったら、魔法に対する抵抗力だっけ?」
『概ねその認識で間違いないよ。この杖には魔法威力の強化及び攻性魔法の命中補正他、色々規格外の特典もあるけどね。』


 知恵。俺とは無縁な能力だから、イマイチ有用性が分からない。
 ……自認脳筋とか、言ってて悲しくなってきた。俺、大学院生だよな?

『「ちえ」6UPは破格中の破格。魔法防御の強い仲魔に持たせれば、超強力な魔法防壁の出来上がりさ。』

 6UP? 妙に具体的な数字が出てきたが、それはさておき今ひとつピンと来ない。

「それってそんなに凄いことなのか? 一人だけ魔法防御強くても、他の奴狙われるなり物理攻撃されるなりで幾らでも対処されそうだが。」
『まあね。でも結局は使いようさ。』
「相手を釣る時とかか。」
『そうだね。他にも例えば、相手の魔法効果範囲に配置する事で、拠点を守っている魔法の得意な魔王様が反撃しかできない置物と化すくらいにね。』

 やたら具体的な例だな。【未来視】か。

『更に言えば、武器攻撃力の選択肢が増えるのは、それだけで望ましい事だよ。』
「効率的な削りのためか?」
『その通り。クリティカル補正の異常な高さとあいまって、龍王祭が超エキサイティィィングになるよ。』


 そのまま右翼で開催された龍王祭によって、地味にゲンブがらいでん、ハクタクがアイスストームを覚えた。『これでフーリーがバーニング覚えれば3色パンチ(赤緑仕様)がそろうね』と悦に入るアイツ。3色はわかるが何故にパンチか。魔法攻撃力依存なのに。
 俺達は中央に向かい、マンティコアの群れを一掃。奥にいたはずの厄介なリリム二匹は、既に女神様が片付けてくれていた。エデンビューグル装備の女神様、マジ偉大。ティローッタマさんの情報については正直半信半疑だったが、エデンビューグルは本当に良い拾い物だった。

 残る敵は敵拠点の堕天使のみとなった所で、そいつらは現れた。
 各地に散らばる3基のジェネレータから同時発生した、「邪霊サルゲッソー」。見るものを深淵に引きずり込みそうな、不吉な姿。見ているだけで気力を削がれる。アイツが言うには、『海難事故で死亡した人が邪霊になって、他人を仄暗い水の底に引きずり込もうとしている』らしい。怨念にあてられたとでも言うのか。

 アイツは『レベルアップおいしーです』とか『人は殺さない、その怨念をぶち壊す』とかほざいて上機嫌だが、どうにもキツイ。アイツの指示で俺が中央・後方の2基分まとめて仕留め続けた。戦闘自体は銃撃による一方的なものだが、精神的な疲労度が今までの敵の比ではなかった。


『でも良い経験になったでしょ。』

 だが、これまでにないほど疲れた。右翼の1基を処理してくれた女神様も若干疲れた顔をしている。その女神様から、何やらトゲトゲした兜を手渡された。

『「バイキングヘルム」だ。サルゲッソーらしいレアドロップだね。さすが女神様。』
「強いのか?」
『イマイチだ。』

 疲れた。
 
 
chapter 24 GINZA     ~ 銀座攻略戦 ~

 目黒を出発してから、山手線沿いに北上して、中央線の向こう側を回りこみ、遂に銀座に到達した。
 
「正面の方から、威圧感というか、何か妙な気配がするな。」
『大正解。どういう経緯か知らないが、有史以来生きてそうな三界最強の夜魔リリムが鎮座してるよ。』
「マハギーガなんて喰らおうものなら」
『間違いなく即死だね。』

 後手必敗。ならば先手を取るしかないか。

「更に正面奥右手にも二匹龍王がいるな。」
『どうする?』


 体が震える。
 龍王への恐怖と、それを上回る程の憎悪は、多分俺の一番深いところにまで根ざしてしまっている。きっと簡単には克服できないだろう。気持ちを落ち着かせ、注意深く戦場を見る。

「リリムを削ろうとすると、奥の龍王の射程に踏み込むことになるから、そこにも注意だ。」
『そうだね。』

 同じ轍はふまない。
 弱い獣を突っ込ませて殺してしまう様な愚は犯さない。

「俺が決死隊として突っ込むか。」
『まあ魔法打たせる前に倒す、という発想は正しいけどね。アイツも「強者の余裕」を持っているよ。』
「いつかのネコマタ同様、移動しないということか。」
『というかね、何もしないのさ。何か悟っちゃったのかもね。男の汚さとか。』

 なんだそりゃ。
 だったら幾らでもやりようがある。

「じゃあむしろ削れば、弱い連中は良い稼ぎになるんじゃないか?」
『弱い連中だけじゃなく、強い連中だって稼ぎになるさ。可能ならね。』
「なら特技覚えたい連中を置いて先に進むか。」
『いや、残念ながらアレが完全に進路を塞いでいるんだ。お局様って奴かな。ジェネレータもあることだし、適度に叩いたら引導を渡してやった方がいい。』

 まあ正面はそんな感じで良いか。
 次は敵航空部隊だ。

「鳥と堕天使が多いな。こちらの拠点を強襲してきそうだ。ナンディをおいておくか?」
『半分くらいは当たりだね。鳥は実はジェネレータの守護者だ。拠点に向かってくるのは堕天使だけだよ。』
「そうなのか。堕天使相手だったら女神をおいておくか。オマエの言う『経験値』も無駄にならないし。」
『ソレについては保留かな。』

 そして右手、ビル向こうの龍王の存在だ。

「女神で屠りに行きたいが、奥の獣が殺到しそうだな。迂闊に動けない。」
『良い読みだ。だけど上手いことポジショニングすれば、龍王だけを相手に一方的に弓で射ることができるよ。』

 ……なるほど! 恐らく高層ビルの屋上、あの一点だ。

「なら堕天使を駆逐したあと、派遣するか。」
『セオリーどおりの良い戦術だね。だがこの場合ベストではない。』
「どうするんだ?」
『最初から龍王の所に派遣するのさ。』

 本拠地は他に任せて、龍王の排除を優先する方針か?

「確かに上手くポジショニングすれば問題なさそうだが。」
『それもアリだけど、実は女神ならマンティコア程度問題にしない。ある程度までなら対空護衛部隊を無視して空爆を決められるんだ。むしろ獣がちょっかいかけやすい位置におくくらいで丁度良いかもしれないよ。』

 それは酷いな。やりたい放題じゃないか。

「じゃあこれで右手ビル向こうの龍王については解決だな。」
『そうでもない。泉で回復する龍王を相手取るのに、彼女だけでは火力が足りない。』
「だったら派遣するだけ無駄ってことか?」
『そういう考え方もあるけど、少なくとも経験値は大量に入るね。』

 ううむ。

「だったらやっぱり堕天使の相手をさせるのが良いか。」
『それについてはフーリーを中心に、トモハルをつけて本拠地防衛しよう。』
「イマイチ意図するところがわからないな。女神で倒せば良いんじゃないか?」

 これは偽らざる本音。どう考えてもセオリーから逸脱している。 


『まずこれは、人間さんには認識できないことだから、仕方の無いことだと思って欲しい。実は女神にとってはアンドラス程度を屠るより、ユルングと遊んでいた方が経験になるんだ。』
「なるほどな。」
『同様に、主力メンバーも明らかに役不足だ。』
「だったら控えに任せるのがいいんじゃないか。」

 フーリーで倒したところで、大した経験にはならないだろう。

『それも一つの手だけど、フーリーを進軍に伴ってもあんまり役に立ってくれないんだ。』
「鳥がジェネレータ守るんだよな。雷系魔法『マハジオ』は大活躍じゃないか?」
『逆に言えば、「マハジオ」二発で役立たずだ。それにあの辺は道が狭く渋滞し易い。柔らかい幻魔が龍王の砲撃を気にしながら、狭い通路で闘うのは存外に骨が折れるよ。しかも今回トドメをドワーフで刺すので、削りは他で十分だ。結果フーリーは本拠地で堕天使を迎撃した方が稼ぎが増えることになる。』
「フーリーの足の遅さを考えれば、前線復帰は絶望的になるぞ。」
『そのためのトモハルさ。堕天使を駆逐し終わったら、彼のCOMPに戻せば良い。』

 ……!

「そして最前線の俺が再召喚か!」
『理解が速いね。』
「DIOにそんな使い方があったとはな。」
『もともとは時空間を越えるための研究だったからね。』

 それが何故悪魔との契約プログラムになっているのか。

「念のためにデュラハーンを護衛に残しておいた方が良いんじゃないか?」
『一人で十分さ。それにデュラハーン対空迎撃にあてると、全員素手で撃墜しちゃうからね。』


 まずは主力を全員展開。
 鈍足のツクヨミ・デュラハーン・ドワーフはこの順に最前線に並べる。
 どうせ渋滞するので、ナンディ・マンティコアは拠点防衛の保険。
 アメノウズメは龍王の近くに配置した。
 
 進軍を開始。
 念のためフル装備の天神ツクヨミで、右手奥の龍王釣りを試みる。
 どうやら攻撃可能範囲に敵がいても移動しない、固定砲台のようだ。

 リリムを攻撃可能な舗装された道は、近距離・遠距離そのどちらもが龍王の射程内。であるならば、普通のビルに隠れて攻撃するのがまず一つ。ドワーフで強行するのがもう一つ。両方採用するか。
 そんな風に作戦を練っていると、アイツが声をかけてきた。何故か興奮状態のアイツに促され、【千里眼】で女神を見る。敢えてポイントを外してアイテムを拾うアメノウズメに、ケダモノが群がってくるところだった。

 危ない、と思ったのは恐らく俺だけ。マンティコアの攻撃を華麗に回避して、あまつさえ獣相手に二回攻撃クリティカル。ちょっかいかけてくる獣相手に無双の強さを発揮している。これは確かに惚れてしまう。その後、女神様は龍王叩きより、獣を追い払うことを優先した様子。さすがに一撃喰らうと、それなりのダメージがあるからだろう。敢えてトドメを刺さないようにしているのは、特技習得が近いからか。
 
 こちらも負けてはいられない。リリムを削って強化しなければならない弱い仲魔もいないことだし、速攻で片をつける。まずはバイキングヘルムに長剣を装備したドワーフのお調子ボムと、デュラハーンの攻撃で半分。龍王の一撃を織り込んで、久しぶりにTバックを脱いで防御を固めた俺の一撃でトドメ。
 なんだろう、下半身が落ち着かない。

 予定通り龍王の一撃を喰らうわけだが、備えていても痛すぎる。体力の大部分を持って行かれたかのような感覚だ。隣でドワーフも喰らっていたが、案外平気そうな顔をしている。こんなに可愛い外見なのに、何と言うタフガイ。男として羨ましい。

 体勢を立て直していると、ジェネレータから湧いてきた邪霊が道をふさいだので安全地帯のビルに逃げ込みつつ射撃。アヤに回復してもらって事無きを得た。デュラハーンが、続けて凶鳥フリアイに攻撃。良い感じに削ったところをカオルの魔法で追い討ちを掛け、ドワーフの「たいあたり」で葬った。
 一方本拠地では、堕天使アンドラスが襲来するも幻魔フーリーが余裕を持って迎撃。相手からはノーダメージ。むしろ反撃でクリティカルが発生すれば返り討ちという。もはやサポートなど必要ない感じだ。こちらでもフリアイがデュラハーンにちょっかいかけて逆に瀕死。女神様方面では、瀕死になった獣達が泉に逃げていく。


 三つの戦局、全ては俺の手の中だ。

『思ったよりも早く女神様が獣を追い払ったね。』
「そうだな。合流するか?」
『いや、彼女には単騎で、泉を確保していない龍王を狩ってもらおう。』

 その手があったか。
 護衛の対空部隊を問題にしない女神なら、泉上でさえなければ単独行で狩れる。回復魔法を所持している上に、あのとんでもない機動力だ。これが本来アイツが考えていた龍王対策なのかもしれない。女神の能力説明にヒントはあった。当たり前だが、まだまだ工夫が足りないな。
 女神様は今まで遊んでいた相手を捨てて、正面奥にいる方の龍王に対して高層ビルの上から射撃開始。クリティカルを交えて一息で半分以上削った。これはもう俺達が射程に入る前に倒してしまうかもわからんね。

 こちらも眼前の状況を打開する。
 まずは無傷のフリアイをカオルが削り、次にジェネレータ上の邪霊を、デュラハーンとアヤで薙ぎ払う。開いたスペースにドワーフが飛び込んで「らいでん」。フリアイ二匹を一瞬で葬り、残った一匹を俺が銃で撃墜した。本来はドワーフに妖刀ニヒルを装備させて魔力を増幅し、ジェネレータを囲む三匹を一掃する予定だった。ただアイツが『オーバーキルだ』と主張するので、予定を変更。行動原理が良くわからんが、恐らく『にんげんさんには認識できない』領域の事なのだろう。
 
『フリアイをドワーフに譲ったのは少し勿体無かったかな。』
「そうなのか? 一瞬で鮮やかに倒しきった満足が俺は大きいけどな。」
『戦闘指揮狂の萌芽がここに……ッ!』

 本拠地の方はもうフーリーに任せっきりでいいだろう。
 事態を悪化させる要素が何一つ見当たらない。

 死に損ないの獣達は、泉に逃げたはいいものの、龍王が邪魔で回復できていない。なので正直軽視していたが、奴らの捨て鉢な集中攻撃を受けて、女神様が若干ピンチ。それでも必死に弓で反撃して、結局獣を殲滅。何か凄い沢山宝石を拾っている。

 ジェネレータを特技習得間近らしいドワーフに任せ、俺は単騎で泉の龍王に突撃することを決意。目的は女神様の援護だ。勿論間合いはきちんと計って、無駄な攻撃は喰らわないようにする。別に俺一人で颯爽と駆けつけて格好のいいところを見せようとか、そういう事ではない。
 泉に居座る龍王に接近して駆け上がり、頭頂部を踵で思い切り踏みつける。頭蓋骨が陥没した感触。そのまま踏み躙ってどけておく。
 女神様には回復魔法を使いつつ、空いた泉に降り立ってもらう。何かすげえ絵になる感じだ。案の定、奥に控えていた無傷の無粋な獣ども二匹がちょっかいかけてくるが、今の女神様に死角はなかった。十分な余裕を持って獣に反撃する。
 【千里眼】を通して本拠地を確認すると、丁度最後の堕天使を墜とすところだった。

「あ、フーリーの無双稲妻突きで、堕天使が爆散した。」
『ヘッ、汚ねえ花火だ。』


 トモハルから連絡が入り、フーリーはこちらでの再召喚待ちとのこと。「バーニングリング」を覚えて、合体まであと一息だ。ジェネレータに残してきたドワーフも無事特技「エクスプロード」を覚え、ひとまずは御役御免。
 俺は女神様の隣に並んで、龍王の胴体にベレッタで風穴を開ける。女神はすっと俺から離れて、高層ビルに囲まれた龍王達を仕留めに行く。別に寂しくなんか無い。
 本来、互いの死角を補い合っている配置の龍王4体。だが連中の対地砲火網は、空を行く女神様にとってはそよ風同然。ムチ片手に攻撃開始した途端、特技「マインドキャッチ」を習得した。

『池袋でサルゲッソーに手を出させなければ良かったかな。』
「まあ実質龍王祭だけで特技習得できてたっぽいもんな。女神すげぇ。」
『ふっ、ここに女神信者がまた一人。』

 実際そう言われる事にあんまり抵抗ないから困る。女神様に置いていかれたマンティコア共は仕方なく俺に攻撃するが、当然の返り討ち。クリアになった進路を往き、龍王達の死角になる角ビルに体を滑り込ませ、フーリーを召喚。

 相手の射程を完全に見切ったが故の凪のような状態。一方的に俺だけ行動を続け、最初に女神様が遊んでいた龍王に肉薄する。全ての敵を一撃で倒せる俺にとっては、泉の上に居ようが居まいが関係ない。アタックナイフで尻尾を切り落とし、逆側の拳で龍王を肉塊に変えながら、この後のプランを考える。


 もう後は怖いところは無い。龍王の射程に気を配るだけで、ほぼ勝てる。
 考えられるルートは二つ。このまま目の前の無人の道路を走っていく安全策が一つ。多少時間はかかるが、全ての敵を仕留めつつ、ビル街を進んでいくのがもう一つ。

『約束どおり町のビル群で、殲滅しようよ~。』
「約束した覚えはまったくないが、絶対言うと思ったよ。」

 ご希望通りに殲滅ルートを行くことに。
 女神が龍王の注意をひきつけている間に、ビル街の入り口に居るカワンチャをフーリーの火炎で葬る。今頃稼動しだしたジェネレータは正直処置に困るが、ひとまずフーリーを下がらせて稼がせるか。頃合を見て再度最前線に召喚しよう。


 手袋を篭手に、ウサ耳をハゲヅラに、ハイヒールをじかたびに替え、Tバックを締めなおす。準備は全て整った。決して退かぬ覚悟を決めてビル街に突入する。


 殲滅を為すためには、一つの死線をくぐらねばならない。
 今までは女神に龍王の注意が向いていたとは言え、恐らく俺が踏み込めば砲撃は俺に集中する。


 一撃だけなら耐えられる。
 だがこの瞬間だけは、どうしても二匹の龍王の射程が重なるのだ。
 だからこそ防御を捨てて、回避の確率を最大限まで高めた。
 運を天に任せるわけではない。

「信じてるぞ相棒。」
『任されたよ相棒。』

 遠く間合いの外から、二本の殺気が俺の上で交差するのを感じる。
 間違いなく龍王達は標的をこちらに改めた。


 初撃。
 近づいてくる、目に映りにくい、得体の知れないナニか。
 着弾の直前に気配を察知し、前方に身を投げ出して避けようとするも、間に合わない。
 体力の大部分を持っていかれた。

 二撃目。
 着弾位置のおおよその見当をつけた俺は、反対方向に向かって必死で駆け出す。
 恐らく俺が吹き飛ばされて、照準が狂ったのだろう。初撃に比べてかなり狙いが甘い。
 体中の筋肉が、関節が、度を越した使役に抗議してストライキを始めようとする。
 冗談じゃない。俺が生き延びたら後でたっぷり休みをやるから今だけは働いてくれ!


 背後に着弾。爆風に背を押されるも、ダメージは無い。回避成功。
 そのまま龍王の死角、懐に滑り込む。


 …… 生 き 延 び た !


『すっごいオリジナルな笑顔してるよ?』
「しっかり礼をしなきゃな……。踏み躙って、風穴開けて、切り落として、木っ端微塵に打ち砕いて肉骨粉にしてやるぞ!」
『聞いてないし。』


 銃を装備し、アイテム「魔石」で体力を回復。
 対空護衛部隊の獣どもが、押取り刀で俺に駆け寄ってくる。
 お前達に一体何ができると言うのか。笑いがこみ上げてくる。
 反撃で全ての獣を撃ち殺した後、赤熱した銃を投げ捨て、両腕を軽く広げながらゆっくりと龍王に歩み寄っていく。

 二匹の龍王が見せる怯えの気配。
 おいおい、お前達は万物の霊長である龍、その龍族の王なんだろう?
 気付けば俺の笑みは高笑いになっていた。


『怖えー。グラップラー怖えー。私はとんでもないものを育て上げました。あなたを魔王です。』

 アイツが何か言っているようだが、良く聞こえない。
 かつてニヒルに支配された時と似た様な感じで、頭の中に真っ赤な霞がかかっている。
 痺れるような興奮に身を浸して、俺は目の前のトカゲ共をどう蹂躙するかを考え始めていた。





[22653] A.D.1995 TOKYO     ~ Over troubled waters ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/10 22:02
「やってしまった……。」
『まさに「orz」。』

 恐怖と痛みと、何より憎悪。それらがない交ぜになって、完全に我を失っていた。にもかかわらず、ニヒルの時と違って記憶は鮮明に残っている。自分の言動全てにドン引きだ。ああいう凶暴性が自分の中にあったなんて、知りたくなかった。

『ホントならフーリーも銀座で特技習得して、ここで進化するはずだったんだけどね。』
「重ね重ね面目無い。」

 そうなのだ。あの時点で俺がユルングを倒しても、殆ど鍛錬にはならなかった。
 なので俺が龍王の懐に飛び込んでから安全圏でフーリーを再召喚し、特技を覚えるはずだったのだが。

 あの後、俺はビル街にいたの悪魔の群れを惨殺し、そのまま敵拠点へ直行。拠点防衛者もそのまま切り捨て、拠点を制圧することなく、ただ破壊し続けた。
 仲魔たちは、大分遅れて起動する空気を読まないジェネレータに対応。嵐が過ぎ去るのを待っていたらしい。何その腫れ物に触るような扱い。

『まあ、人間誰だってあのくらいの凶暴性は持ってるんじゃないかな。命のやり取りであれば尚更ね。』
「オマエにもあるのか?」
『どうなんだろうね。何にせよ、激情を制御する術を身に付けなくては。』

 確かに以前アヤにも諭されたことがある。ニヒルの影響を受け続けていた時期もあるし、意識して理性を保たねば。



『許さんぞ 虫けらども じわじわとなぶり殺しにしてくれるわ 』
「ぅ。」
『おまえらの はらわたを くらいつくしてくれるわっ 』
「うぁぁぁぁぁ。」
『あははははは。』


 うぁぁぁぁぁ。



chapter 25 HARUMI     ~ DECOY DUCK ~


『気を取り直して、ここで重要なお知らせです。』
「ぅぁ?」
『キミの筋力が範馬勇次郎を超えて、三界最強の水準に達しました。』

 いやそんなこと言われても。ていうか、半魔なんて種族あるのか。

『これ以上は伸ばすことはできません。対重量比的な意味で。』
「そうなのか。まあ素手で龍王一撃なあたり、自分でも十分な気がするが。」
『いやー、調子に乗りすぎた。香購入する前につよさカンストとか。』

 何か嬉しそうに嘆いている。気がする。

「あとは何が足りないんだ?」
『キミに足りないもの、それは体力魔力に知恵と運、そして何よりも速さが足りないね。と言う訳で、次は無駄にはやさに振ってみようか。一撃でもオーバーキルなのに二回攻撃とか。浪漫すぎる。トランクス涙目。』

 そこら辺俺達の生き死にに関ることなので、もう少しまじめに考えろと思わないでもない。思わないでもないが、コイツがこう言うからには恐らく致命的な問題ではないのだろう。


 そんなこんなで、恒例のリミックスステーション。
 毎回こんなに遠回りしてて、オギワラが待ちくたびれないのだろうか。

・ユルング×(マンティコア×ハクタク[素])→龍王ラドン(ファイヤーブレス)

「これはグロイ。」
『万一の近接用に、石化噛み付きを組み込んでみました。』
「そんなの使う状況になったら大抵負けだけどな。」
『ご尤も。』

・ドワーフ×ノッカー →精霊シルフ
・シルフ×ブラウニー →闘鬼ゴズキ
・ゴズキ×メズキ   →精霊サラマンダー
・アメノウズメ×サラマンダー →女神コノハナサクヤ(ワンスモア・アイスストーム)

「随分回りくどいな。」
『うぐ、ちょっと予定外の事が起きてね。』
「何か前にもこんなことがあったような。」
『ぐはぁ。いや、地霊とサラマンダーが遠くてさ。まあ統合を一段階遅らせれば良いだけなんだけど。』
「でも、特技の統合を優先したと。」
『その通り。というか、こんな精霊の使い方は、長い妖精さん人生で初めてだよ。』

 妖精なのか人なのか。それ以外にも突っ込みたい所は山ほどあるが。
 気持ちは良くわかる。そしてその価値はきっとある。


「ついに戻ってきたな。ケライノー以来のスーパー撹乱ユニットが。」
『火力もすごいよ。対空砲火をものともせず、好き勝手飛び回ってらいでんで空爆。まさに最終兵器彼女だね。』
「そうだな、もう一生楽をさせてもらえそうだ。」

 言ってから、まるでヒモだなと気付く。
 ああっ女神さまっ、罰当たりなことを言ってしまい申し訳ありません。

 初めて女神達を作ったときも、その強さにクラクラした。それが、今回驚異的なパワーアップを遂げたわけで。必死に冷静ぶってはいるが、俺のテンションの上昇もとどまる所を知らないわけで。ああ、アイツが『合体計画』とか言ってウキウキする気持ちがわかってしまったわけで。


『あーサクヤ姫いいな。和服美女。特技がアレじゃなかたっら白山姫にもおいで願うんだけどなぁ。』
「オマエ女神絡むと本当にダメだよな。」

 何か心外そうな雰囲気が伝わってくるが無視する。
 言葉に出さない辺り、案外自分でもそう思っているのかもしれない。

「女魔・天神・神獣のサポートメンバーは残留か。」
『と言うか、女魔以外の二匹は今のところ進化させる予定は無いよ。』

 そうなのか。何か残念だ。

「結構仲魔が少なくなったな。」
『随分合体に使ったからね。』

 現在の主力以外は
  ①素ゴズキ&メズキ(ラドン用サラマンダー作成予定)
  ②素ハクタク&ストーンカ (サクヤさん 3remix 用)
  ③特技持ちゲンブ&ハクタク(フーリー 3remix 用) 
  ④素ノッカー&コボルト  (後の 3remix 用?)
  ⑤素ゴブリン&ルサルカ  (同上)

『とは言え、マインドキャッチも得たし、これからまた増やせばいいさ。』
「そうだな。後楽園通過後はダーク悪魔ばっかりだったし。これからまたガンガン勧誘するか。」
『その意気だ。キミも大分、合体道に染まってきたね。』



 晴海埠頭に到着した。
 これまでは大きく迂回して品川を目指し、銀座までを攻略することができた。しかしオギワラも俺達の動きに気付き、新橋・芝といった陸の幹線道路を完全封鎖。更に迂回して、唯一手薄な海路を行くより他に方法がなくなった。
 文字通りの背水の陣。相手からしてみれば俺達を包囲し易い場所だ。勿論オギワラがあっさり俺たちを通すわけも無いだろう。しかし他に抜けられる道が無いのもまた事実。罠の可能性が高いことは百も承知。そこをオギワラの想定以上の速度で駆け抜けるしかない。

 まずは俺達が東京港トンネルを通ると、偽情報を流して撹乱する。オギワラが引っかかるとも思えないが、やらないよりはマシだろう。
 その後俺達は晴海に部隊を展開。沿岸部を一気に進んで品川まで南下する。
 と見せかけて、俺達本隊は陽動であり、別働隊のトモハルたちがレインボーブリッジを確保。一気に芝を抜き去る計画だ。

 成功の鍵は俺達本隊が、どれだけ派手に敵を誘引するかにかかっている。
 そのはずなのだが。


『めんどくさい。最初っからレインボーブリッジ強行突破すればいいのに。』

 こういうことを言うやつがいる。

「いや、オマエだって強攻策は無理だって言ってたろ。相手は一国の首都を落とした軍勢だぞ。」
『でもこっちにはHiMEいるよ?』

 ……い、いや待て。意味もわからないのに危うく納得するところだった。

「とは言えカオルが立てた作戦だ。俺もこれで行けると思っている。」
『慎重すぎるきらいがあるけど、堅実な作戦ではあるね。』
「じゃあコレでいいんだな。」
『うん。陽動と言わず、晴海の敵部隊全滅させよう。』

 ダメだこれは。


「気になるのは鳥と対岸のジェネレータか。」
『匙は投げられた。』
「わかってんなら、まともに取り合えよ。」
『だって、トモハル単騎で突破できると思う?』

 む、それは確かに厳しいと思うが。

『結局本隊で全部蹴散らしながら、レインボーブリッジも進むことになると思うよ。』
「じゃあ、トモハルはどうするんだよ。」
『大丈夫さ。逃げ回りゃ、死にはしない。』
「オマエなぁ。いや、それだとそもそも作戦成立しないだろう。」

 ダメだ。前提が違うせいで堂々巡りだ。

「話を戻すぞ。拠点の対岸にあるジェネレータから飛行タイプが湧き出すのが最悪のケースだ。」
『大当たり。放って置くと一瞬で陥れられるよ。湧き出すのが堕天使ってところが不幸中の幸いかな。』
「鳥でも居ればよかったんだが生憎だな。」
『サクヤ姫でいいと思うよ。プチプチ虫けら潰すだけでも、足しにはなる。』
「回復サポートをさせようと思っていたんだが。」
『じゃあ緊急時の代打要員として、上がり間近のフーリーを拠点近くに置けばいいよ。』
「なるほどな。」


 次に目に付くのは大量の鬼族に、妖精・妖魔か。

「見慣れない妖鬼と闘鬼がいるな。」
『閻魔の眷属「妖鬼トゥルダク」と、日本でもお馴染み「闘鬼ナタク」だね。トゥルダクのほうは育てれば使える珍しい鬼だけど、やっぱり君の刀の錆になるのが主な仕事かな。一応一匹ずつ勧誘しておいてね。』
「随分な言い草だな。」

 今は刀の手入れだってばっちりだ。簡単に錆びさせたりしない。

『今のキミにとっては、大抵の鬼など腹の足しにもならないよ。』

 『大抵の』か。


「あそこに見えるのは『妖精エルフ』か?」
『正解。可愛らしい外見とは裏腹に、結構強烈な魔法を使ってくるよ。回復手段の確保は必須だね。間合いを慎重に計って、常に先手を取れるようにしたいな。』

 まあ今回の配置を見る限り、難しそうか。

『あとは「妖魔アルラウネ」をマインドキャッチしよう。』
「何かいい特技覚えるのか?」
『いや、特技自体は必要ないけど、色々使いでがあるんだ。何かエロイし。』

 ウェンディゴ先生的な意味でか。
 そういえば先生は今も姫の中で生き続けているのだろうか。何かやだなソレ。

「んで、後回しにしていたけど、何か明らかに鳥じゃないゴツイの一匹混じってるよな。」
『アレは「邪龍バジリスク」。人類種の天敵さ。』
「あれが……。」


 講義では『絶対に真正面からやりあうな』と教えられた種族。

『コカトリスなんかと同一視される事もあったり、見られただけで死ぬとか言う伝承もあるね。あくまで伝承だけど。』
「とんでもないな。マインドキャッチは可能か?」
『可能は可能だけどお勧めしないな。「爆撃機」の異名通り、人間にとっては確かに天敵だ。だけど、それ以外の種族にとってはあんまり脅威でもないんだよ。』
「そうなのか?」
『そ。防御は脆いし、雷氷に弱いしで、同じ飛行タイプの鳥族には一方的に啄ばまれるだけ。』
「どっかで聞いたような話だな。」
『龍族(笑)は皆そんな感じだよ。唯一龍王がそのバカみたいな射程と対地攻撃力で闘えるってくらいさ。』

 何かあんまり怖くなくなってきたな。

『とは言え、「人類種の天敵」の二つ名は伊達ではないよ。今回奴は専守防衛行動なので、現地で改めてレクチャーしよう。』
「了解だ。」


 本拠地周辺にはサクヤ姫・フーリーに、一応の削り役としてナンディ。
 デュラハーンは召喚せず。トモハルには念のため護衛としてツクヨミをつけた。

『別にいらないのに。』
「保険だ、保険。」

 全ての敵が俺達に誘引されている。作戦の第一段階は成功だ。
 ただ、正直トモハルで邪龍が倒せるとは思えない。
 作戦ではこの後、トモハルがレインボーブリッジを確保するまでここで粘ることになっている。

『もっと、粘るとかじゃなくってさ。』
「わかった、わかった。可能ならそうするさ。」


 ひとまず俺は前に出て、龍王ラドンを召喚。動いてきそうな鬼どもを迎撃する準備を整える。エルフの始末はラドンに請け負ってもらう。
 かっ飛んできた獣を反撃であっさり屠る。対岸の妖精たちは、こちらに引き寄せられるように移動。好都合だ。
 俺は単騎突っ込んで、海沿いに居るエルフを銃撃。もう一匹の方も龍王で撃破した。勧誘できなかったが仕方ない。次の機会を待とう。

 エルフは『ミサンガ』をドロップ。
 レアアイテムではあるらしいが、何故かあまり嬉しそうではない。
 性能がイマイチだと喜びもイマイチらしい。
 
 ジェネレータから堕天使が湧き出し、霊長ジャターユが俺達の拠点に向かって飛んで行く。ジャターユは一匹だけ勧誘。堕天使は湧いたばかりではあるが、女神様のらいでんであっさり撃墜。


『ペットの餌になるしか存在意義の無い駄天使どもが……。』
「オマエ妙に堕天使に厳しいよな。」

 出てくるたびに口調すら変えて罵っている気がする。

『ノリでやってるのが殆どだけど、昔期待を裏切られたことがあってね。』

 昔?

『駄天使は、極一部の例外中の例外を除いて本当に使えない。マインドキャッチとか覚えちゃうと、名前の響きに釣られてホイホイ仲魔にしたくなるよね。けど実際仲魔にすると対空攻撃力が低くて、あまりの使い所のなさに物凄いがっかり感が得られるよ?』
「それを言うなら天使も同じなんじゃないか?」
『あちらは作り易いので裏切られた感が少ないかな。昔はむしろお世話になったしね。』

 確かにエンジェルやアークエンジェルにはお世話になったな。

「オマエひょっとして、女神様とか比較対象にしてないか?」
『当然。』
「いや、さすがに堕天使に女神様と同等の輝きを要求するのは無理があるだろ。」
『かつて輝く星が言っていた。「やってやれない事はない! やらずに出来たら超ラッキー! 」とね。』
「微妙に碌でもないな。」


 ジャターユの勧誘の為に突出しすぎたか、アルラウネのコンビから集中攻撃を受ける。ハエを追い払う要領で反撃してたら、何か袖あたりから小指までしか覆わないない、毒々しいピンク色した装飾品を落とした。

『ねんがんのピンキーカフスをてにいれたぞ!』

 もはや懐かしさすら感じるこのセリフ。粛々と上着を脱いで、装着する。
 頭はウサ耳。下半身はTバック。足元はハイヒール。上半身は袖のみ。
 完璧だ。これでもう俺が女であったとしても完璧な変態だ。

『何という袖巫女。』

 最後の砦を失っても、カオル達は変わらず接してくれる。こんなに嬉しい事はない。あれ、俺泣いてるのか……?

『……よ、よし。これで伝説の武具コンプリートだ!』

 今の俺は周りの雑音など全く気にならない。『運が12もアップだ』とか俺には関係ない。なんという穏やかな気持ちなんだ。


 その穏やかな心のまま闘鬼・妖鬼を一掃する。
 相手が埠頭の建造物に足を取られているので、出口で待ち構えて一匹ずつ潰す。

「鬼に逢うては鬼を斬り 仏に逢うては仏を斬る 」
『うわぁ……。』
「諸行無常 色即是空 」
『いや、それは空即是色とセット運用しないと。どんだけ空しいのさ。』
「我はメシア 全てを粛清する 」
『これが無我の境地の奥にある扉……ッ!』

 ラドンは微速前進を続け、宝を守っていると思しきマンティコアを撃破。強い。
 トモハルは無人の野を往き、順調にアイテム回収を終えたらしい。何かもう敵部隊一掃できそうだし合流するか。


 本拠地ではフーリーがバーニングリングでジャターユを一匹倒し、特技習得。女神様は堕天使の相手を一時放り出して、残ったジャターユにトドメ。どうにもマインドキャッチする暇が見つからない。わざとアルラウネを一匹通過させてみるか。
 俺の方はしっかり闘鬼・妖鬼を勧誘した後、反撃で全てを駆逐した。それなりに手傷を負っていたので、アヤと合流して回復。普段フラフラ遊んでいるように見えて、こういう時にはちゃんと傍に居てくれる。
 うっかり堕天使の間合いに入ってしまったカオルが、攻撃を受け結構な被害を。お前ら本拠地狙いちゃうんか、この猪武者共め。龍王のマスタードブレスで援護。マヒで相手の機動力を奪う。意外と効果的だ。

『龍王のブレスは地味だけど意外と効果的なんだよ。龍王が持ってるとありがたみがわかりにくいけどね。』
「通常攻撃と射程変わらんもんな。」


 フーリーに本拠を任せ、慌てて女神も救援に。アルラウネの本拠地到達にはまだあと一刻余裕がある。何か面白くないが、アイツの予言どおりの展開になってきたな。フラフラしていたトモハルも敵拠点に到達。護衛のパピルザクを相手に戦闘を開始する。相手の遅さもあって、圧倒できているようだ。聖獣弱ぇ。必死の思いで漸くこちらの拠点に到達したアルラウネを、待ってましたとマインドキャッチ。堕天使も湧き出さなくなったし、これで本拠地防衛組は御役御免。一応女神様にはこちらに来てもらおう。

 トモハルは護衛部隊の一角をあっさり屠り、動けない邪龍に対して祭の開催を宣言。護衛のツクヨミも加わって楽しげに遊んでいる。カオル・アヤ・俺ももうすぐ到着だ。移動の最中にタイミング良く特技が回復。邪龍を勧誘したいという衝動をグッと堪える。


 しかしツクヨミが強い。
 これ実は本隊の到着待たなくても、邪龍倒せるんじゃないかってほど強い。
 ちょっと攻撃を自重させた。

 本隊合流とほぼ同時に、女神様も邪龍に到達。対岸からラドンも参加。ちと火力が高すぎるのでやはり自重気味に。俺は祭に参加できないので、残っていた護衛のパピルザク二匹を順に掃討。皆は楽しそうに動かない邪龍をチクチクやっている。アイツが言うには隣接して殴り合っている女神様の成長速度がすばらしいそうだ。

『そろそろ切り上げよう。』
「女神様まだ全然特技覚えてないぞ?」
『祭は別にここだけではないよ。幻魔も参加してないしね。祭のためだけに時間を取るのは、妖精さん的にはむしろ害悪さ。』
「そういうものか。」

 納得した俺は邪龍にトドメを刺すべく、ベレッタを構える。


『いや、最後のトドメはキミに直接攻撃で刺してもらう。』
「はあ?! 何でだよ、わざわざ危険を冒せってのか!」

 冗談じゃない。邪龍の一撃を喰らえば即死もありうるっつったのはコイツだ。

『今回は奴が拠点から動かないから、ゆっくり体勢を整えることができる。だが常にそうとは限らない。経験を積んでほしいんだ。』


 仕方が無い。コイツが俺の不利になる嘘を言うわけがない。
 武器を銃からナイフに換装し、こちらを睥睨する邪龍に正面から向かい合う。
【ハヤトロギア】があるとは言え、恐怖が消えるわけではない。死なない程度の怪我ならスルーされる。

『大丈夫だ。スペック的には一撃入れば問題なく倒せる。精神を研ぎ澄ませ。』
「クソ、わかってるよ。」

 わかっているのと、実際にやるのとでは大違いだ。
 さっきまでは可愛い鳥だと思っていたが、いざ相手の間合いに踏み込もうとするとわかる。曰く『人類種の天敵』。曰く『真正面からやりあうな』。

 途方も無い威圧感が体に絡みつく。全身の細胞が、逃げろ逃げろとフルボリュームで警告してくる。明確な死の気配に固まりそうになる体を必死で叱咤し、じりじりと間合いを詰めていく。これが必要な「経験」というやつか。

「目標を正面に捉えて一撃……、目標を正面に捉えて一撃……。」

 一意専心。以前教わった精神集中の方法だ。
 一撃。ただ一撃さえ当たればそれで終わる。その一撃を繰り出すことが、これ程難しい事だとは。


 銃を捨てた俺を見て、カオル達は怪訝そうにしていたが、気を取り直して攻撃を再開していた。俺もいつまでも呆けているわけにも行かないだろう。トモハルの牽制で体勢を崩したところを狙いすまして、全力の一撃を加えることができた。

『何とかなったようだね。』
「ああ。もっとも、皆の攻撃に乗じてだけどな。」
『十分だよ。それにこういう言い方は何だけど、君一人で出来ることなど多寡が知れている。』

 全くその通りだ。仲間の援護があってはじめて俺は闘える。
 トモハルとハイタッチを決めて、リミックスステーションへ向かうことにした。



chapter 26 SHIBAURA     ~レインボーブリッジ攻防戦~

 思うが、何故この隙にオギワラは拠点を奪回しないのか。
 律儀すぎる。それとも俺達が犯行現場に戻ることはないとでも思っているのか。
 そういうことを口にしたら、『無粋』と窘められた。
 俺か。俺が悪いのか。

『さて、フーリーをしんかさせるよ!』
「特技習得済みの補欠聖獣コンビをここで使うんだっけか。」
『三色パンチだ!』
「バーニング・アイス・らいでんの魔法依存特技三属性だな。」
『三色フーディンだ!』
「落ち着け。確かに幻魔は魔力あるし、ぴったりな特技だとは思うが。」

 オーディンの親戚か何かだろうか。意味のわからん単語も混じるが、コイツが強力な仲魔だってことはわかる。本来この聖獣コンビは特技習得の必要がなかった。しかし『龍王祭で覚えられるなら誰の経験値も奪わず、誰も不幸にならない』のが良かったらしい。さらに戦闘が楽になることだろう。

『ああ、トップブリーダーが推奨する、ポケモンマスターに、なってやるーッ。』

 しかし、いつもの事ながらコイツのテンションの高さが煩わしい。
 気持ちを少しは理解できたつもりだったが、ノリ損ねるとダメだな。



 ポチッとな。

『な、何をするだぁー!』

 イチイチ付き合うのは時間の無駄だろう
 どこかで見たような流れだと思いつつ、とっとと合体を進める。

『悪魔を作る時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで…… 』
「なにをわけのわからないことを言ってるんだ。少なくともオマエ静かじゃなかったし、一人でもないだろう。」

・フーリー×(ゲンブ×ハクタク)→幻魔マッハ(しっぷう)

 凄い速そうな名前だ。

『……グレていいっすか?』
「グレるとどうなるんだ?」
『ゴミの分別をしません。』

 妖精界にもゴミ問題が存在していたとは驚きだ。


 レインボーブリッジに取って返し、アイツの指示に従って、主力3体以外をサブファイルに移す。そして何故かルサ-ルカ・コボルト・ジャターユ・ストーンカをメインファイルに移動。

『DIO内がまだ寂しいからね。勧誘要員だ。』
「なるほどな。」

 【未来視】を持つこいつだからこそ採れる策か。

 陽動が奏功したか、レインボーブリッジに布陣している敵部隊は少なめだ。だが、モタモタしていると芝を封鎖している部隊が戻ってくる展開もあるだろう。とっとと橋を渡って芝浦に出なければ。


『海、最っ高。ビッグ、ワイルド、ソルティー。陸駄目。妖精さんとしてはナンセンス。OK?』
「いや、妖精は明らかに陸の生き物だろ。」

 敵が予想以上に少ない。オギワラが俺たちの動きに対応しきれていないのか?

『レインボーブリッジ、封鎖できてません!』
「まあ、その為の陽動だったわけだがな。あとちょっと黙れ。」

 ひとまず海上からの鳥の襲撃を警戒してストーンカとラドンを本拠地に残すか。鳥相手に龍王は致命的ではあるが、橋があるため今回は獣と龍王の出番はないだろう。コノハナサクヤとマッハを先行させ、彼らの哨戒に頼りながら最高速度で進軍する。トモハルを本拠地に残しておけば、万一鳥達が本拠地に肉薄しても、サクヤ姫を再召喚できる。仲間の犠牲によって抜いたはずの強敵が、目的地に先回りしていたと知ったら、あの鳥達は絶望するのだろうか。
 そんな構想を伝えたら、アイツから意外な答えが返ってきた。


『それでも良さそうだけど、僕としてはマッハを本拠地に置きたいな。』
「別にそれでもいいけど何でだ?」
『経験値的な意味でっていうのが理由の一つ。例によって幻魔は鈍足だからね。トモハルには別にやってもらう仕事があるというのがもう一つ。』
「トモハルじゃなきゃダメなのか?」
『いや、代替手段はいくらでもあるんだけどね。この方が簡単なんだ。』


 コイツの意見を容れて、龍王とマッハを本拠地に配置。
 ストーンカ・ルサ-ルカ・コボルトは、ひとまずDIO待機。
 先行するのはサクヤ姫とジャターユ。

 敵の鳥達はやはり本拠地強襲を狙っているようだ。まるでショットガンの弾のように散開して向かってきており、水際で防ぐのは不可能に近い。更に対岸のジェネレータから妖獣マンティコアが湧き出す。狙いは海を越えて俺達の退路を塞ぐことだろう。だがいかに海が得意な妖獣とはいえ、海上ではどうしても機動力が落ちる。そこを片端からラドンで狙えば、鴨撃ち状態だ。

「この程度なのか?」
『疑問に思うことは大事だ。そのまま警戒を続けよう。』


 圧倒的な能力差で女神様が鳥を駆逐。エクスプロードで普通に屠れるとか強すぎる。アイツは『性能の違いが戦力の決定的な差なのだよ』と高笑い。残ったホウオウはジャターユで追跡し、後で勧誘。さすがに敵鳥の真っ只中に素のジャターユで飛び込むのは無謀。二匹抜けていくことになったが、まあ問題ないだろう。むしろ倒しすぎたか。
 橋によじ登ったトモハルがコボルトを召喚。橋の上のドワーフは動く気配が無いので、問題が起きなければそのまま勧誘させる。同時に妖鳥ケライノーを海の上でマインドキャッチ。特技は1回しか使えないので勿体無い気がしたが、『どうせ満月で特技は回復するし』とのこと。特に問題はないだろう。

 油断をするつもりはないが、正直拍子抜けではある。
 そう思っていたが、先頭のトモハルがあと少しで橋を渡り終えそうなタイミングで、何とジェネレータから邪龍が湧いて来た。


 これがオギワラの策か!
 橋の上で邪龍の襲撃を受ける。俺達にとっては最悪の展開だ。特に橋から降りようとしているこの瞬間は、完全に俺達の足が止まっている。幸い敵本拠地付近の龍王は移動しないタイプのようだが、危機的状況には変わりない。
 トモハル達を先に行かせ、俺はレインボーブリッジ上で邪龍を待つ。そこら辺の鳥などとは比べ物にならない程の存在感を撒き散らしながら、邪龍が接近してくる。前回は相手が拠点から動かなかったため、こちらのタイミングで仕掛けることができた。今回はこちらが橋の上。全く逆の立場だ。

 女神を橋上に配置。
 相手を誘引し、位置取りをこちらの望むように制御する。

 ヤツの恐ろしさは良く知っている。
 だからこそ微かに震える体を押さえ込み、努めて思考を冷静に保つ。
 握るは愛剣、「妖刀ニヒル」。手に馴染んだ握りの感触が、俺に落ち着きをもたらした。
 なるほど、前回銃を使って一方的に遠距離から倒していたら、こうは行かなかったかもしれない。


 俺には何より速さが足りない。
 更に言えば戦闘を継続するような技術もスタミナも無い。
 だから狙うは最高のタイミングでの、後先を考えない全力の一撃。 
 半身になって剣を高く掲げ、精神を研ぎ澄まし時を待つ。
 以前アイツが言っていたのは『左手は添えるだけ』だったか。

 イメージするのは必殺の初太刀。
 邪龍が間合いに侵入し、こちらへ最後の加速をしようと翼を撓めたその瞬間。


「アアアアッ!」

 全速で踏み込み、引き絞っていた矢を放つように、袈裟懸けに剣を振り下ろす。
 最高のタイミング・最高の重さ。刃を返すことなど微塵も考えない、今の俺の最高の一撃。
 確かな手応えと共に前を見やると、翼ごと胴を両断されて息絶えている邪龍がそこにいた。


「冷や汗かいたが、何とかなったな。」
『よくもまぁ、ここまで。大した奴だ……。』

 本当に驚いているようだ。はて。

「何でそんなに驚いてるんだ? 確かに外したら相手の一撃必殺喰らうわけで、多少は緊張したけど。スペック的には当然の結果なんだろ。」
『ああ、まあ確かに斬撃自体も大したものだったよ。ただノーヒントでその型に行き着いたことに、どうでも良い運命を感じているというか、掛け声だけが残念だったというか。これで刀さえ使えたらなぁ……。』

 ぐ、確かに少し恥ずかしい掛け声だったとは思うが、自然に出てしまったんだ。 

 橋から降りたトモハルは、マンティコアの間合いに入らない様に注意しながらユルングに肉薄。ついでにルサ-ルカを召喚する。なるほど、アイツが言ってた『トモハルの仕事』ってのはこういう事か。
 水際で鉄壁の防御を誇っていたラドン&マッハのコンビに、どうやらマンティコアは本拠地襲撃を断念。自分達の拠点防衛を優先したらしく、トモハル達に向かっていく。やばい、トドメ役がいない。ついでにもう一匹邪龍が湧き出した。
 一拍遅れて到着したアヤとカオルも加勢して、トモハル達は4人がかりでマンティコアを倒しきったらしい。この後トモハルはユルングを、ルサ-ルカは相手本拠地を守るエルフを勧誘予定。拠点をN悪魔に守らせるとか、無防備すぎる。満月じゃなくなったら直ぐにでも実行しよう。


 俺は急ぎ橋から降りて、ついでにストーンカを召喚。
 サクヤ姫を先行させて邪龍に金縛りをかける。うーん、ありがたい。
 当然護衛のオルトロスから反撃を受けるが、全く意に介さない。うーん、強い。
 女神様はホントエライな。

 もはや消化試合。俺は動けない邪龍に斬りつける。
 空中で金縛りとは器用なことをする。空力を必死で学んだ身としては憤りを感じるな。ストーンカはオルトロスを勧誘。奥に見える凶鳥フリアイは、復活したマインドキャッチで洗脳。


 ただ肝心の敵拠点制圧組が火力不足気味。軽視していたマンティコアが結構嫌らしい働きをする。奥の龍王をトモハルが勧誘し、手前の龍王はルサ-ルカがシバブー。バインド失敗したらトモハルが少し危険だったが、結果オーライだろう。対地砲火を無力化した上で、カオルとアヤが魔法でマンティコアを削りながら敵拠点を目指す。
 その後俺は二太刀目で邪龍を葬り、満月ではなくなったのでルサ-ルカも敵拠点のエルフを勧誘。ルサ-ルカの方がお姉さんだったとは知らなかった。妖精の年齢はよくわからない。残存勢力を無視して敵拠点を制圧することも可能だが、折角なので龍王を倒す。マンティコアが一匹残ったが、主力がいるわけでなし。まあいいだろう。


 レインボーブリッジを抜け、あとはオギワラの待つ品川敵本営のみ。トモハルとカオルが相当猛っている。無理も無い。あいつらはオギワラに大きな借りがある。その気持ちは俺だって同じだ。

 だが。

『またアヤちゃんに諭されたね。』
「そうだな。」

 人の想いは大切なものだ。だがそれでも、激情に流されず制御する。
 憎悪だけで闘っていたらきっと取り返しのつかないことになる。
 身を以って学んだはずなのに。

「ままならねえなぁ。」
『そのために仲間が居るんだろう。丁度今みたいにね。』

 俺達はアヤにほんのちょっとだけ感謝しつつ、先に進むことにした。
  

chapter 27 SHINAGAWA     ~ TURNING POINT ~

「しっかし、俺の筋力は地上で最強なわけだよな。」
『なんだい、藪から棒に。』
「いや、どうして俺は打たれ弱いのかと思ってさ。」

 俺はトドメを刺す時に飛び出すのみで、最前線で壁になるようなことは殆ど無い。むしろ豆腐だ、紙装甲だとコイツに揶揄されるくらいだ。適材適所と言うのは分かるが、肉体的には最強のはずではないのか。

『そりゃあ、単純な話「たいりょく」が無いからだよ。』
「そうは言うけどな。」
『ある牧師の説教によれば、「ボディビルダーはその美しい躰を作り上げる為に、体脂肪を3%以下まで削る。脂肪の少ない躰は、スタミナを維持する事が出来ない。言うなればマッチョは常に、息切れを起こしているのである。マッチョがぺろぺろっ!」だそうだ。』

 もういいや。脳が理解することを拒否している。
 ファイル整理を始めよう。


『空き容量が4体分。またまた悩ましい状況だね。』
「もうそんなに増えたのか。」
『とは言え、ひとたび合体の季節が巡ってくれば、あっというまに居なくなる訳で。』

 ふむ。

『品川で絶対逃せないのは、まず「妖鳥ネヴァン」かな。ケルトの女神にして、ダーナの王「アガートラム」のお妃様さ。幻魔マッハのお姉ちゃんでもあるよ。姉妹パワー補正とかつかないけど。』
「ケライノーで勧誘するか。」
『それもいいんだけど、そうすると敵のケライノーを勧誘できなくなるんだよねぇ。』

 ふーむ。

「他にはどんなやつが居るんだ?」
『闘鬼ナタクは絶対。その他は居れば嬉しいレベルかな。』
「よし、じゃあ適当にやるか。」
『まあそうなんだけど。AIBOは言葉を飾らなすぎ。もっと「臨機応変」とするとかさぁ。』


 オギワラの本拠地が見えてきた。
 さすがに厄介な敵の布陣。

「鳥が鬱陶しいな。」
『女神で迎撃だね。さすがにケライノーで飛び込んだりは不可能だろう。』

 ケライノーはサブファイルに移動済みだ。
 右翼に闘鬼メズキとゴズキを配置。

「闘鬼を置くのは勧誘用としてわかるが、何で二匹?」
『まあ小細工さ。直ぐにわかるよ。』 

 左翼に主力6体を展開。負ける気がしない。


 まずは右翼メズキで闘鬼ナタクを勧誘。同時に左翼トゥルダクをナンディで削り、ラドンで砲撃。トゥルダクは脅威のスピードを持つが、それを全く活かさせずに勝てばよい。一瞬で両翼がクリアになった。
 正面の駅に陣取るユルングは、俺が倒しても仕方ない。カオル達で削り、一匹はトモハルで勧誘。俺は空いた駅に陣取り、更に奥にいるカワンチャを銃撃。もう一匹は駅を通過したマッハで背後からトドメ。女神様も駅を通過してカワンチャを仕留める。何とダイヤモンドが二つも手に入った。何に役立つのかはわからないが嬉しい。ツクヨミとデュラハーンは暇しているようで、俺にぴったりついてきている。
 
『酷い言い草だな。銃装備して近接格闘に対応できないキミを鳥から守るためなのに。』
「そうだったのか。悪いことを言ったな。」


 予想に違わず鳥達が殺到してくる。勧誘予定のネヴァンだが、俺と同等の強さを持つ悪魔は貴重だ。戦いたい。

『いや、わかるけどね。経験値欲しいけどね。ここは我慢して勧誘だよ。』

 トモハルが線路上のネヴァンを勧誘。敵ケライノーが余計なことをしないよう、女神が子守唄で足止め。俺は女神のいた空間に滑り込み、もう一匹のネヴァンを命中の高いナイフで撃墜。ラドンは適当に鬼族を砲撃。

「ナタクの勧誘終わったんだから、ゴズキ・メズキ引っ込めようぜ。」
『いや、まだだ。もう一匹の敵ナタクと付かず離れずの間合いを維持しておいて。』


 サクヤ姫が敵ラドンの射程に入ったため砲撃を受ける。どうということはない。ここで手の空いたトモハルが勧誘した闘鬼ナタクを召喚。ゴズキが合体してサラマンダーを作る。

『さあもう一匹ナタクを勧誘だ。』
「なるほど、確かに小細工だな。」

 何も無駄にすることなく、一度に実質二匹闘鬼を仲魔にすることができた。ここでサラマンダーを消化できたら更にもう一体手に入るのだが、そう上手くは行かないものだ。
 線路の間に鬼族が吹き溜まって渋滞が起きる。いい加減鬱陶しくなってきたので、女神の開けた穴にマッハを飛び込ませ、バーニングリングで一掃する。アホ程宝石が手に入った。邪龍が動く様子は無く、特に敵から目立った反撃も無いので普通に前進。意味ありげなジェネレーターには、アイツのアドバイスでカオルとアヤを残す。トモハルが眠っていたケライノーを勧誘して、あとは対空護衛部隊の「聖獣キマイラ」を残すのみ。


『雰囲気ヌエに似てるけど強さは段違いだから注意して。結構経験値もあるから、キミが全て掃討しよう。』
「じゃあその間、簡易邪龍・龍王合同祭か。」

 何かやたら移動力のあるサラマンダーや、獣なのに線路越えられるナンディなどをアイテム回収に。

『サラマンダーって、はやーい!』
「永田町の時と言い、オマエってサラマンダー好きだよな。」
『愛憎相半ばというのが正しいかな。いや、サラマンダーは好きなんだけどね。』

 正直暇だ。俺のやることが無さ過ぎる。

『当分ジェネレータ稼動しないからねぇ。』
「無視して進んじゃ不味いのか?」
『まあ、育ってない皆にとっては美味しい相手だから。』

 てことは。

「言動から察するに、湧いてくるのは十中八九ユルングだろ。いらないよ。」
『ほう。キミがそう判断したならそれがいいだろう。実際僕も異論は無い。』

 驚いたような、感心したような。そんな雰囲気が伝わってくる。

「ひとまずは龍合同祭の進行状況次第か。」
『そうだね。』


 敵ラドンは単騎先行した女神で金縛って無力化。毎度の事だが、本当に女神様はエライよ。さっさと間合いを詰めてキマイラを一掃。幻魔と女神はしばらく邪龍をポコポコ叩き、他の連中がアイテムの回収を完了。その瞬間、ジェネレータからユルングが湧き出した。

「わかっちゃ居たけど、場違い感がひどいな。」
『仕事終わって急いで駆けつけたら、もう二次会すら終わってた的な。』

 折角なので、同時多発龍王祭を開催。

『女神とマッハの成長が龍王のストレスでマッハ。』
「くだらねー。ていうか、無駄な引き伸ばしはむしろ害悪じゃなかったのか?」

 聞く所によると、女神はともかく、鈍足の幻魔は自力だとトドメを刺す機会がそうそう無い。ここでなるべく育てておきたいのが本音らしい。

『もう一つはね、そろそろサクヤ姫のもつ「ワンスモア」が覚えられるからなんだよ。』
「どんな特技なんだ?」
『対象固有の時間を制御する特技さ。主にキミの加速が目的だけどね。』
「凄いのか?」
『わかりやすく言うと、一瞬だけ二倍の速度で動くことができる。しかも背負うペナルティは一切なしだ。』

 凄い、のか?

『いずれわかる。』


 結構時間がかかったが、ついにサクヤ姫が「ワンスモア」を覚えた。邪龍はとっくに俺がトドメを刺して、ラドンも既に虫の息。彼らの献身に感謝しつつ、最後はやはり俺が吹き飛ばし、近くまで来ていたカオルが敵本営に侵入。いよいよオギワラとの決戦だ。


intermission

 侵入してすぐのこと。
 意外なことに、オギワラから会談を持ちかけられた。
 いや、実は意外とは言えないかもしれない。
 少なくともアイツは、『オギワラが単純にこちらの抹殺を狙っているわけではない』と主張していた。

 ひとまず会談を受諾し、どのような態度で臨むべきか考える。


「どうする?」
『どう、とは?』

 いつに無く短い答え。
 だんだん分かってきた。こういう時、コイツは多分何か迷っているんだと思う。

「何となくなんだけど、このオギワラとの会談がオマエの言っていた『大きな流れ』を決めるんじゃないかと思ってな。」
『やはりキミは鋭いな。』

 否定は無い。だが答えを返すわけでもない。

「オマエは以前から、オギワラを擁護するような発言が多かったよな。」
『擁護していたつもりはないけど、そうだね。彼には彼の事情があるだろうとは言っていた。』
「会談の目的は何だろうな。」

 短期的には衝突の回避。
 だが、カレンの言う「DIOの抹消」が最終目的なら、和解というのも考えにくい。


『キミの思うように振舞えばいい。』
「オマエはそれでいいのかよ。」
『それがキミの選んだ道ならば、僕は共に往くだけさ。』
「そうか。」

 会談の末、俺達はオギワラと手を結ぶことにした。
 オギワラの言い分は、要約すると「未来を救うために、防衛網を抜けてきた君達の力を貸して欲しい」と言うことになる。
 何を勝手な事をと思うが、一方でやはりこの男は私欲で動いていたわけではないのだと納得もした。

 「君たちの力を利用させてもらう」等と、わざわざこちらを挑発するようなことを言う。
 条件次第では構わない。俺達が知りたいのは、何にどう利用するかと言うことだ。そう伝えると意外そうな顔をした。ここで俺がブチ切れて交渉が決裂すると予想していたのかもしれない。生憎、回りくどい物言いには耐性があるんだ。


『良く堪えたね。てっきり途中でブチ切れると思ったのに。』
「オマエもかよ。幸いああいった物言いには、誰かさんのおかげで慣れているからな。」
『なるほどねぇ。』

 苦笑交じりの、だけど満更でもなさそうな雰囲気。


「しかし、残っているのはオギワラの統制を離れた雑魚ばかりとは言え、このまま悪魔を放置して未来へ跳ぶのは抵抗があるな。」
『けど綺麗に駆逐したところで、どうせこの後「1回目のオギワラ」が来るわけだし。』
「そうは言うけどな。」
『大丈夫だよ。後はこの時代の「君達」が何とかしてくれるさ。』

 だがもしこの時代の「俺達」が失敗したら、今居る俺達はどうなるんだろうか。
 もし「俺達」の成功が定められた運命なら、必死に何かを成そうとする事に意味はあるんだろうか。
 【ハヤトロギア】を扱うコイツなら、その答えを知っているのだろうか。


 ……愚にもつかない考えだ。
 そんなことは全てが終わってから、それこそ死ぬ間際にでも考えればいい。

 俺は、俺にできる事を全力で。
 いつだってそうやって来たし、これからだってそれはきっと変わらない。
 オギワラの居た未来を救うため、全ての禍根を断つために俺達は跳ぶ。



[22653] A.D.2052 MEGALOPOLIS     ~ Rebellion ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/19 18:29
 会談の後、オギワラに「あの時何故わざわざ挑発するようなことを言ったのか」と聞いたら、「一言では表せんよ」と返された。
 こんな時はコイツに聞くに限る。

『前にも言ったけど、他人の心中なんて憶測することしかできないよ?』
「それでもいいや。」
『多分決裂して殺されても良いと思っていたんじゃないのかな。』

 ……は?

『あの時既に君達の力が、彼のそれを凌駕していたのは紛れも無い事実だろう。単なる戦力と言う意味でも、それ以上の意味でもね。だから君達に未来を託そうとした。』
「だからって死ぬ必要は無いだろう。」
『そうだね、だから彼は今ここにいる。ただ、彼なりのケジメというか、贖罪もあったのかな。己の命を賭して、君達の資質を確かめようとしたのかもしれないね。』
「極端な話だな。それに無責任だ。」
『かもね。けど、これこそ根拠の無い、無責任な話だよ。』

 ただ、歴史にifは無いとは良く言われるが、コイツは『可能性』の未来を見ることができると言っていた。

「もしかしたら、俺があそこでブチ切れて交渉決裂する『可能性』もあったんじゃないか?」
『……それを聞いてどうするんだい?』
「単なる興味本位だ。」

 これは本音。俺は自分の選択を後悔してないし、きっとこれからも後悔しない。

『まあ、色々さ。カオルが魔王を色仕掛けでたらし込んだり、ロクでもない七人の熾天使が仲魔になったり。』
「何その未来。超見てみてぇ。」

 後悔なんか、しない。


stage 4 A.D.2052 MEGALOPOLIS



chapter 28 SIDEPOLIS-15      ~ 現実と未来と ~

 ― HELIOS ―
 軍部が誇る戦略兵器。
 2052年では「メガロポリス」と呼ばれている東京の、上空約60000メートルにある太陽光線照射衛星だ。
 一度それに火が入れば、東京は一瞬で生命の存在しない荒野へと成り果てる。

 かつて、強力な権力を与えられて発足した「評議会」が、荒廃した東京を復興。その後、評議会の強権を嫌忌していた制服組「統合作戦本部」が、戦略兵器「HELIOS」の開発を国防省の中で引き継いだ。慌てた評議会は、軍部の更なる勢力拡大を恐れて圧力をかけ始める。そこまではよくある話。活動としては褒められたものではないが、それほど正当性を欠くものではない。
 問題は、「圧力」として評議会が採用したのが、2024年の事故以来凍結していた「DIO」の再開発だった事だ。その情報を未然に入手した軍部がクーデターを引き起こす。先手を取った軍部の完全勝利に終わるかと思われたクーデター。しかし何故か評議会は「DIO」の開発に成功。結果クーデター自体は成功を収めるものの、東京の街に悪魔が溢れ出した。
 2052年現在、政府中枢はその殆どを悪魔によって支配されている。東京は混乱の一途を辿り、回復の見込みは無い。その全ての元凶がDIOにあると考えたオギワラは、単身俺たちの時代に跳ぶ。そして政府内に存在するDIOの情報を完全に消し去ろうとしたらしいのだが。


『皮肉なものだね。DIOの完成を阻止するためにDIOの力を用いる。これがいつかキミの気にしていた、タイムパラドックスの典型例さ。』
「一体どんな結果になるか、想像もつかないな。オギワラはその矛盾に気付いていなかったのか?」
『さあね。彼が気付いていなかったわけは無いと思うけど。それでもたった一人で全てを敵に回して闘うには、DIOの力が必要だったんだろう。いつか彼自身に、想う所を直接聞いてみるのが良いかも知れない。』

 直接ねぇ。








『……そもそもDIOが存在しなければ、オギワラ自身が産まれることも無かったわけだしね。』







 アイツが何か呟いたようだが、小さすぎて聞き取ることはできなかった。








 ファイル整理をしながら辺りを見渡すと、驚くほどに発展した東京の姿がある。多分目黒のはずなんだが、正直とても信じられない。聞くところによると、政府の中枢機能は、東京湾を埋め立ててできた新都心「コアポリス」と呼ばれる場所にあるらしい。ちなみに現在俺達がいる目黒をはじめ、内陸部の街は「旧市街」と呼ばれているそうだ。だが俺達からすれば旧市街ですら十分に大都会だ。

 オギワラがDIO使いだったので、30体で限度一杯だった容量が45体まで保存可能に。ちなみにオギワラがかつて率いていた軍勢は、直属の6体を各方面の軍団長に任命して統率させていたものらしい。オギワラのDIOは、やはり例のグラサン「ベイツ」から渡されたものだそうだ。

『なにその魔軍司令。悪の秘密結社みたいでカッコイイ。』
「おいおい、俺達が同じことをやるわけにもいかないだろ。」

 俺も「ソロモン王みたいでカッコイイ」と思ったのは秘密だ。
 主力悪魔及びネヴァン・メズキをオギワラのファイルに移し、メインファイルに設定する。

「しかしこれが、あの荒れ果てた東京の未来の姿とは信じられないな。」
『オギワラが言ってたでしょ。絶大な権力を持つ評議会が、強力に復興を推し進めたと。』
「だけど、悪魔につけ入られた。」
『権力は腐敗すると言うけれど、誰もが予想外の展開だっただろうね。』


 悪魔の集団と接触。俺達が突如現れた事に驚いているようだ。何故か一人離れたところに転移したオギワラには、無防備な敵の物資集積場を目指しつつデュラハーンを召喚してもらう。ラドンは動かず対岸の敵を削る。ネヴァンは今回お休み。急いで拠点に戻ろうとする敵を足止めするため、俺は橋を封鎖するべく進撃開始。拠点に戻ろうとする鳥にも何とか追いすがり、射程内に捉えることができた。凶鳥フリアイをマインドキャッチし、マッハでジャターユを一掃しようとしたのだが。

『ここは見逃してオギワラを働かせよう。』
「働かせるってオマエ。確かにオギワラは強いけど、あんまりオッサンに無理させるもんじゃないだろ。」
『何を勘違いしているか大体予想つくけど、一応オギワラはキミと同年代だよ。』




「……うぇああああ!?」

 渋くて燻し銀で冷静沈着で、悔しいけど将来俺もあんなナイスミドルになれたらなーとか秘かに考えていたくらい、渋くて燻し銀でダンディーなオギワラが俺と同年代?!

「シンジラレナイ。」
『いやまあ、時間移動繰り返してるみたいだし、肉体年齢的には怪しいもんだけど。一介の秘書官があれほど強くなって、たった一人であれだけの軍勢を集める。それまでにいったいどれだけの苦労を重ねたのか。サーガが1篇編めそうだよね。』

 秘書官? いや、重要なのはそこではない。

「だよな、だよな! 俺と同年代であんなダンディズム醸し出せるわけ無いよな!」
『気持ちはわかるよ。僕も自分が9歳の時のことを思い出すと、魔法少女達の放つ男気に比べて、その9分の1も持ち合わせて無いことに絶望するし。』

 意味わかんないが、その絶望だけは伝わってくる。
 気を取り直して戦闘再開。と言っても俺以外は皆きちんと動いていたし、俺も体に染み付いた戦闘行動が勝手に発現していた。ひとまず俺は「魔獣ラクチャランゴ」を橋の手前から銃撃。何とか封鎖が間に合った。例によってレアアイテム「ラリーシューズ」を入手。そのまま俺は橋に立ちふさがり、敵の進撃を封殺した気になっていた。
 しかし「妖獣タマモノマエ」が海を越えてこちら側にやってきて、無防備だった後衛を狙い撃ちされる。妖獣が『水上移動という一発芸』を持っていることは知っていたのに。

『それはそうと、水に濡れたタマモノマエって色っぽいよね。』
「いや、どう見てもただの狐だろう。」
『僕クラスの妖精さんになると、獣の放つ色香とかもわかるようになる。』
「『僕クラス』って何だよ。」
『僕の「妖精さん力(ちから)」は53万まであるよ。』

 ひとまず無視して眼前の敵に集中する。
 「夜魔バフォメット」の魔法攻撃は強力だが、基本的には雑魚ばかりで数が多いだけだ。魔法に注意して普通に闘えば負けは無いだろう。取って返してタマモノマエを銃撃。9本くらいあるっぽい、狐の尻尾を全て吹き飛ばす。

『ああっ、乱射魔~。』
「どっちの味方だ。」

 もう一匹をどうしようか悩んでいたら、サクヤ姫が「ワンスモア」を俺に使用した。途端に周囲の動きが水中であるかのように遅くなる。これがアイツの言っていた『タイムアクセラレイト』か。驚いている周囲を置き去りにして、俺は一瞬で換装し、もう一匹のタマモを斬り捨てる。水上を越えてきた妖獣を一瞬で葬り去ることに成功した。

「ワンスモア凄いな。」
『真価はまだまだこんなもんじゃないよ。』
「そうなのか。楽しみだ。」

 俺があけた穴にはトモハルが滑り込み、橋の上にいたラクチャランゴを勧誘。マッハが更に追い越して、ナンディが削っておいた敵のルサ-ルカを沈める。バフォメットは俺のためにとって置いてくれたらしい。敵拠点にはタッチの差で敵のジャターユが間に合った。デュラハーンは勝手にアイテム回収に行ったらしく、結局オギワラが単独でジャターユ二匹を相手取っている。まあこの間まで敵対していた人間の指示に従えってのも難しいのか。罰としてしばらく出撃禁止にするか、何かしないと。ちなみにオギワラがジャターユを勧誘しようとしたら、誕生日を聞かれてダイヤモンドをもらったらしい。何だそれ。橋向こうに残った敵からの攻撃を凌いで、バフォメットを撃破。「フェイクバニー」をドロップ。アイツは何もしていないそうだ。

『こんなときばっかりあっさりと……。』
「素直に喜べよ。」
『いやちょっと、この先どうなるか。』

 何を心配しているのか良くわからん。
 ドワーフの始末はマッハに任せる。遠距離から特技「ヘルファイヤー」で一掃しようと思ったのだが。

「ヘルファイヤー弱いな。バーニングリングと大違いだ。」
『まあ物理攻撃依存のうえ、下駄が無いから。幻魔だとどうしてもね。』

 とりあえず地霊のもうひとつの弱点である爆発魔法「マハギーガ」に切り替えて撃破。命中は低いが何とかなったらしい。あと『ウサ耳無駄にならなかった』だそうだ。結果は変わらないけど、特技を使ってみたかった。対岸に残してきたラドンの援護を受け、そのまま順調に眼前の敵を減らして行く。
 ちなみにコノハナのサクヤ姫はぴったり俺に付き従っている。敵の体力を削り、危ないときは壁になりつつ回復をしてくれて、ここぞと言うときにワンスモアをかけてくれる。ありがたい。
 
『サクヤ姫をまるでメイドのように侍らせるとは。姫も犬みたいに懐いているし。ん? いぬみみ和服姫メイド・サクヤさん……許せる!!』

 もうホント女神が絡んだときのコイツ嫌だ。俺は確かに女神教信者だが、コイツはさながら女神狂信者だ。自分で言ってて寒くなってきた。全部コイツのせいだ。
 アヤの魔法で回復した俺は、マッハと入れ替わりで再び前線に戻り、バフォメットを倒す。ここはもう俺と姫と対岸のラドンだけで平気そうだ。カオル・ナンディ・マッハ・ツクヨミにはオギワラの援護に向かってもらうことにする。女神様は一番奥にいる堕天使オセをらいでんで撃墜。
 そのまま橋で敵の進軍を防いでいた俺だが、予想以上の猛攻に晒されることになった。寄って来る外道ブラックウーズたちを反撃で撃退してしまったため、次々と攻撃を喰らう。中でも敵ルサ-ルカの魔法がかなり効いた。オセが生きていたら危なかっただろう。これが良くアイツの口にする『FE伝統のやっつけ負け』ってやつなのか。以前聞いたときは全く意味がわからなかったが、今回凄く身に染みた。
 サクヤ姫の遠距離回復魔法に感嘆しつつ、俺はもう一匹のバフォメットにトドメを刺す。開幕でラドンが死亡寸前まで削ったせいか、ずっと大人しい。ルサ-ルカもいつのまにか対岸のラドンが仕留めていた。俺は女神様のサポートを受けながら、群がってくるドワーフを反撃で倒す。さすがに地霊は強かったが、どうとでもなるレベル。
 オギワラの方はひたすらダイヤモンドを貰い続けていたらしい。アイツが『超頑張った』そうだ。ダイヤモンドも『いい具合に溜まった』らしい。マッハがトドメを刺し、トモハルがもう一匹を勧誘して敵拠点を占領。

「もう一度ワンスモアを体験してみたかったんだがな。」
『残念ながら満月前に終わっちゃったね。』
「正直病み付きになりそうだ。」


 いざ目黒を離れようという時に、「鬼神ゾウチョウテン」が現れた。
 何でも東京を守護するため共に戦おうということらしい。


「すげー強そうだな。」
『ぶっちゃけ神様だしね。筋力以外はキミより上だ。』
「じゃあ仲魔にするってことでOKだな?」
『だが断る。』
「ええ?! 何でだよ。」

 どれだけ考えても断る理由が見つからない。


『この妖精さんが最も好きな事のひとつは、自分で強いと思って増長しているやつに「NO」と断ってやる事だ。』

 あ、これコイツの本音だ。

『まあ実際のところ、彼のような神様は合体ができないと言う制限があってね。強いは強いんだけど、構想に組み込みにくいと言うか。キミが彼らを使役するのにふさわしい強さになる頃には、同じくらい役に立つ仲魔がいるはずだし。更に言えば、その後確実に彼らより強い悪魔が合体でできるわけで、何より無駄にCOMPのスペース使ってもね。』

 どう考えても言い訳だな。妙に長広舌を揮いよる。

「けどさぁ、オマエいつも言ってるじゃないか。『選択肢が多いのはそれだけで望ましいことだ』って。何か上手くいかなくなった時投入すれば、事態を打開できるかもしれないだろ。」
『ぐあ、何という筋の通った話。まさかキミに論破される日が来ようとは。』

 おお、あっさり自説を曲げた。コイツ自身の発言を持ち出したのが奏功したか。
 これは少し気分が良いな。

『あぁ、真の意味でのフラグブレイカーに僕もなれると思ったのになぁ……。』

 珍しく真剣に落ち込んでいる。
 あれ、何かちょっと悪いことした気がしてきた?


chapter 29 SIDEPOLIS-11     ~ Martial Law ~

 東京に悪魔が溢れている。
 今起きている混乱は、やはり「本来あるべき歴史の流れ」には存在しないものらしい。
 そもそも HELIOS が撃たれるようなことがあれば、TWO も消滅するだろうとのことだ。


 「本来あるべき歴史の流れ」では存在しないはずの事態。
 2052年の混乱を解決するため、DIOを抹消しようとオギワラが1996年に跳ぶ。
 そんなオギワラを阻止せんとして TWO がオヤジ達を予め2024年に跳ばす。
 オヤジ達を失った政府が独自にDIOの研究を続け、2024年で事故を起こす。
 その事故のあと凍結されていた「DIO-プロジェクト」を評議会が中途半端に再開し、混乱を引き起こす。

「以前オマエ言ってたよな。『nemesis と絡み合う時の螺旋』とか何とか。こういう事だったのか?」
『どうやら螺旋ではなく、メビウスの輪とか、ウロボロス等と表現した方が正しそうだけどね。』

 コイツが言うには、「あるべき歴史の流れ」ではオヤジ達がDIOを完成。
 そして政府がそれなりに適切に管理していくことになっていたらしい。
 その結果 TWO という組織が出来上がる。

 何処が発端か、最早わからなくなっている。
 仮に2024年の事件が発端であるならば、それを為した「外的要因」こそが TWO ということになるのか? ただそれだってオギワラの行動がなければ起きなかったわけで。大体俺達が介入しなければ、カレンがオヤジ達を未来に飛ばすことも無かったかもしれない。何にせよ、コイツが TWO を嫌っている理由はここらへんにあるのだろうか。


 俺達は軍部について調べ、可能であれば接触する為、軍部の支配下にある旧・新宿に来ていた。旧市街「 SIDEPOLIS 」の中でも最大規模を誇るだけあって、ここの威容はまた別格だ。だが、戒厳令が敷かれているにもかかわらず、街には悪魔が溢れていた。
 俺はHELIOSの発動を止めるため、政府中枢から悪魔を一掃することを条件に、軍と共闘できないかと考えていた。だが、オギワラの「軍部も強力な悪魔をバックにつけている可能性が高い」と言う推測が当たってしまったようだ。犠牲が大きすぎるため、そう簡単に「HELIOS」は撃てない。だが、軍のバックに悪魔がいる場合は話が別だ。異世界勢力を政府中枢から完全に排除するため、これからは軍とも戦うことになる。
 かつての自衛隊の流れを汲むはずの組織だ。共に東京を守れないのは残念だが、ここの悪魔を一掃して、一刻も早く新都心を目指すべきだろう。


 両翼に4匹ずつ存在する邪鬼カワンチャを睨んで、左翼最前線にマッハ、ついでラドンを配置。女神様は基本俺の付き添い。ネヴァンはアイテム回収が主な仕事で、決してトドメは刺さない。メズキは例によって闘鬼をナンパ→即合体の重要な仕事だ。

『ナンパ即合体って凄い表現だよね。』
「うるせえよ。ネヴァンは特技習得しなくても良いのか。」
『この子がダメでも代わりはいるもの。』
「最近ツクヨミとデュラハーン全く活躍してないよな。」
『まあ強すぎる上に鈍足だからねぇ。でもどちらも最終的には使うことになるよ。』

 開幕、邪鬼カワンチャをラドンが砲撃。開いた穴にマッハが飛び込み、バーニングリングで一掃する。一瞬でほぼクリアになった左翼にカオル・トモハルが進出。森を抜けたトモハルがナンディを召喚した。右翼は俺がメイン。森を抜けるのに手間取りそうなので、女神様でカワンチャをひきつけておき、オギワラたちは森の中を移動。続けてトモハルはアイテムを回収。左翼はマッハ・ラドンの芝浦鉄壁コンビが、特に問題なく残ったカワンチャを始末したらしい。左翼後方から「妖鬼テング」二匹が、俺達の拠点目指して移動しているのが気がかりではある。
 こちらは俺がカワンチャ一匹を始末。女神様に森の入り口をふさいでもらい、俺に残り3匹の攻撃が集中するように仕向ける。少しタフになったとは言え、何発も喰らったらおしまいなので、回避重視に換装。一匹は俺の横を素通りし、二匹の攻撃を受ける。結果は両方の攻撃を回避し、逆に二匹とも反撃で撃破という出来過ぎたものだった。

「何かしたか?」
『僕は今回何もしてないよ。必要以上に力を貸す気はないって言ってるでしょ。まあ出来過ぎだとは思うけどね。』

 残ったカワンチャを女神様に任せて、そのまま進軍を続けた。アヤの回復を受けて、右翼後方で動かないテングを釣るように俺の体を晒す。ちなみに女神様が気まぐれに選んだ「エクスプロード」は、カワンチャを一瞬で骨粉にしていた。名前の割に火炎属性ではないので、弱点を衝いた訳ではない筈だがこの威力。
 
『何と言う無駄な特技使用。勝負の後は骨も残さないってやつだね。』
「敵に回ったら俺とか一瞬で殺されるよな。」
『縁起でもない事を言わないように。』

 左翼はトモハルがテングを勧誘し、ラドンをCOMPに。もう一匹もマッハが屠ったそうだ。心配するだけ無駄だったか。俺はといえば、案の定釣られて仕掛けてきたテングの攻撃を華麗に回避し、反撃で仕留める。そのまま近くのテングも銃撃。「しっぷうせきと」をドロップした。

『かの有名な赤兎馬の名前を冠した足防具だ。』
「嬉しそうだな。性能良いのか。」
『良いなんてもんじゃない。ジェットサンダルの完全上位互換だよ。誇張じゃなしに全員分欲しいくらいさ。』

 戻ってきた女神様のワンスモアを受けて、更に左翼奥からこちらを目指していたテングを屠りにいく。こちらに向かってきている左翼奥の邪霊を俺が仕留める事も視野に入れながら、先のことを考える。流れるような一連の行動に、ちょっと調子に乗りかけている自分がいることを意識する。
 交差点でマッハとすれ違う。マッハは右翼奥にいるテングを目指す。邪霊のトドメを俺に譲る為だ。一瞬笑みを交わした俺達は、それぞれの戦場に向かう。
 どうも邪霊の侵攻速度が思ったほどではなく、一方こちらは『順調すぎる』らしい。他のメンバーを邪霊の足止めに回し、俺はマッハが仕留めそこなったテングのトドメを刺す。疾風赤兎二つ目ゲット。『超頑張った』らしい。邪霊はこちらの防衛線に捕らわれて何もできず。反撃でマッハが特技「しっぷう」を習得。俺は悠々引き返してサルゲッソーを斬り捨てる。相変わらずの見た目ではあるが、前回ほどは精神力を削られなかった。耐性がついたのか。女神様は何故かスライムをマインドキャッチ。
 
「今更スライム? 一体何の役に立つんだ?」
『何かの役に立つかもしれないじゃないか。』

 ノープランらしい。まあ「要は使いよう」というのがコイツの口癖だからな。
 残ったもう一匹のサルゲッソーから上手いこと攻撃を受ける。こちらの本拠地と相手との直線上に身を置いたのが正解だったのだろうか。そこそこ喰らったが、反撃で倒して完全に苦手意識を克服した。

『あー、合体したいなぁー。』
「一定の水準に届いた、って奴か。」
『うん。まあ実際にはもうちょい欲しいんだけど。どの道リミックスステーション遠いし、気にしないでいいよ。』

 ジェネレータから遙々やって来た闘鬼ナタクをオギワラが勧誘。トモハルが即召喚してメズキと合体させサラマンダーに。俺も交差点を駆け抜けながらスライムを銃撃する。暫く敵がいない状態で進軍を続ける。
 元都庁と思しき場所にある、巨大ビル群が見えてきた。ひとまずど真ん中にいるラドンを釣り出して見ようと、女神をギリギリ射程外に配置。どうも動く様子がないので、全員をラドンの射程ギリギリに貼り付ける。ついでにこちらのラドンも召喚。次の満月で女神の特技も回復するし、一斉に仕掛けるつもりだ。

「祭は開かなくていいのか?」
『まあ開いてもいいけど、あんまり旨味は無いね。』
「主力的にはそうだろうけどなぁ。」

 そして満月。
 まずは寄ってきた「地霊ブッカブー」をオギワラで勧誘しようとするも、満月で会話できず。イギリスの海の妖精らしいが、確かにあんまり可愛らしくはない。

『ドンマイ。』
「穴があったら入りたいな。」

 仕方が無いので皆で囲んで瀕死にして、暇そうにしていたネヴァンに喰わせる。俺はラドンの護衛をしている二匹のキマイラのうち、一匹を銃撃。俺の開けた穴からカオルが飛び込み、敵ラドンの体力を削る。最後はこちらのラドンでトドメを刺した。
 更に女神の「ワンスモア」の加護を受け、ラドンの居た交差点を占拠した俺が、二匹目のキマイラを斬り捨てる。これで後ろから押し寄せている闘鬼ナタクたちも受け持てるだろう。満月でクリティカルが発生し易い。やっつけ負けにだけ注意だ。ふとナンディがいないと思っら、アイテム回収を頼んでおいたのをすっかり忘れていた。慌てて戻るように指示を出す。すまん、ナンディ。
 闘鬼ナタクを反撃で斬り捨てたあと、続けて邪霊サルゲッソーが寄ってきて、石化魔法「ぺトラム」を撃ってきた。俺は魔法を回避し、そのまま交差点でサルゲッソーを迎撃。一匹は仕留めたが、直ぐ後ろにもう一匹いる。ワンスモアが恋しい。
 サクヤ姫は仕事がなくなったので、奥の敵拠点に単騎先行。本当に自重しない強さ。そこはかとなくエロいやらしい「妖魔ラミア」をマインドキャッチし、そのまま拠点を守っている「邪龍ニーズホッグ」を空爆予定。本来不要な特技まで覚えてしまう勢いだそうだ。

『ニーズホッグ。北欧神話の有名な蛇だけど、ホント飛んでる相手には残念な感じだよね。』
「女神様相手なら大抵のやつは分が悪いだろ。」

 ブッカブーの勧誘をオギワラが失敗。意外な一面が見られて驚きだった。まさか本当に同い年……なのか……? 仕方が無いので、ブッカブーはネヴァンで仕留めて次の機会を狙う。他の仲間は拠点の周りに屯しているスライムを仕留めようとしていたのだが。
 硬い。何だこのスライム、異様に硬い。しかも硬いだけ。鬱陶しい。邪霊以上の鬱陶しさ。仕方ないから適度に削ってもらって俺がトドメを刺す事に。皆は祭で頑張ってもらおう。
 ラドンが残っていた妖魔ラミアを仕留めて祭に参加。火力過剰が心配だが、もう少しで特技を覚えるらしい。仲魔になったばかりのラミアも召喚して加わらせる。意外と力強くてビックリ。何とか稼いで欲しいところ。女神様もいずれ特技を覚えるらしいので、主力は皆御役御免に。あれ、てことは次の戦闘全部俺一人でやるのか?

『厳しいよねぇ、少数精鋭。キミは良く頑張ったが、リミックスステーションに行けないのだよ。』
「そこは測っておけよ。」
『と言いつつ、キミはまた成長したようだ。ラドンが特技を覚えたら、サラマンダー合体させて進化させるよ。』

 邪龍は鳥の餌と言う。祭に参加しているネヴァンがどう見てもバランスブレイカー。一番稼がなければいけない奴だけど、『焦る必要はない』らしいので自重させる。ジェネレータから湧き出す地霊を駆逐させたところ、逆に良い経験になったらしく「マヒかみつき」を習得した。女神様とラドンも無事特技を覚えた。


・ラドン×サラマンダー→龍王ナーガ(フォッグブレス)

 トモハルとオギワラも予定通りナタク・ブッカブーを勧誘。
 まだジェネレータは稼動しているものの、邪龍を倒して敵拠点を制圧した。

『まだ5匹以上出てくるんだけどねぇ。』
「ナタクとかしか来ないなら、今延々待ってるより、もっと後に祭開催した方が得だろ。」
『違いない。さながら貨幣価値ならぬ時間効用と言った所かな。』


 新宿での闘いを終えた俺達は、悪魔を駆逐しながら、新都心への唯一の入り口「ノース・ジャンクション」を目指すことに。新宿を離れようとしたら「鬼神コウモクテン」が仲魔にしてくれと頼んできた。考えて見れば俺達は、4つの時代に跨って東京から悪魔を追い出して回っていることになる。東京の守護神を名乗る資格は十分と言うことなのだろうか。

『調子に乗らない。』
「だよなぁ。」




[22653] A.D.2052 MEGALOPOLIS     ~ Guardian hearts ~
Name: 774◆db48d012 ID:73a4f91d
Date: 2011/04/19 18:47
 ショップで恒例のお買い物。
 武器を二つまで買うのは許そう。もう諦めた。
 小太刀をやたら買い込んだのも許そう。使うから。

「けど、防具一式6個ずつは有り得ないだろ。」
『えー、でも「ティーゲルヘルム」は一個しか買ってないよ。それにほら、お金足りたよ? 』

 そうなのだ。何だかんだで金がかなり余っているのだ。
 理屈ではわかっている。コイツの「結果論」は普通の結果論では無い。必然だと。
 だけどこのブルジョワ気取りの振る舞いが気に入らん。

『それはそうと、店主の容姿が50年前から全く変わらない件について。』
「悪魔なんだろ。オマエと喋れるし。」
『わーお、投げ遣り。』

 と言われても、代替わりした様子も無し。他に理由が考え付かん。


chapter 30 SIDEPOLS-05     ~ 復興のかげり ~

 戦闘前のルーチンをこなす。旧新宿で勧誘した仲魔はラミア以外全てサブファイルに。もはやサブファイルは29体埋まってしまっている。次でリミックスステーションらしいが、上手くできているものだ。そういえば講義に出てきた「召喚マップ」なるものにも、浅草に一度行っただけ。しかも何もせずにすぐ引き返した。ひょっとして俺に気を使っているのだろうか。

「なあ鬼神を二人ともサブファイルに移したわけだけど、使っちゃダメなのか?」
『ダメ。サブファイルで塩漬け。』
「なんでだよ。もったいないだろ。マグネタイト気にしているのか?」
『確かに消費マグネタイトは大きいけど、それはどうでも良いんだ。どうせ溢れるし。理由は二つ。キミの力に全く見合ってないことと、将来性が無いことだ。FEでいうところのジェイガンポジションさ。』

 出た、FE。どんだけ好きなんだよ。
 『聖戦を15度追体験して戦術を身に付けた』とか『虎七』がどうとか言っていたな。良くわからんが、教本か歴史書か何かなのだろうか。

「別にいいじゃないか。壁役とかしてもらえば。」
『彼らが一度戦場に出れば、文字通り鬼神の働きをするよ。手加減なんかできないので片っ端から屠ってしまって、しかも彼らは全く成長しないんだよ。ピクシーやタンキを率いてウストックと闘うときに、今の君が壁役をやったらどうなると思う。』
「そこまで差があるってのか。」
『わかり易いように極端な例を出したけど、本質は同じさ。精々渋滞の原因にしかならないよ。正直僕も彼らを尊敬しているけれど、今回はベンチを温めていてもらう。』

 酷い言われようだ。しかしこういう理由があったから断ろうとしたのか。言い訳と切り捨てず、まじめに聞いておいても良かったかもしれない。

 
 旧・銀座に到着した。相変わらず広い上に、悪魔が多い。こいつらもクーデター軍所属の悪魔だ。やはり評議会の勢力は殆ど残っていないらしい。
 まず目に付くのは、向かって左手の高速道路にぶら下がっている、地獄の番犬「魔獣ケルベロス」。そして川を挟んで右手に布陣しているブッカブーの集団。

『ブッカブー倒しても仕方ないからね。キミは単騎でケルベロス狩りだ。』
「だろうな。」

 右翼はラミアとナーガに任せておこう。

「他にも色々いるようだな。要勧誘はいるか?」
『全部。』
「は?」
『全部。ああ、邪龍はいらないかな。』

 あー、全部。久しぶりに聞いたな。全部。

「昔と違ってそれなりに種類ある上に、ダーク悪魔混じってんぞ。」
『右翼にいる「夜魔インキュバス」を速攻キャッチ。「邪鬼ヨモツシコメ」と当たる頃には特技回復してるよ。』

 確かにそうなりそうではある。
 ちなみにインキュバスは男の淫魔で、俺には全く関係ない。
 黄泉醜女は冥界でイザナギを追い回した鬼女だそうだ。何か怖いな。

『まあ、ここ抜ければ3remix解禁ってのが大きいけどね。』
「なるほどな。材料確保か。」

 右翼ブッカブー二匹と接触。一匹はラミアで仕留め、もう一匹はオギワラが前に出ることで勧誘した。当然インキュバスからの魔法攻撃を受けるが、オギワラはさすがのタフガイ。そのままラミアは二匹目のブッカブーを屠り、ナーガはインキュバスを撃破。ちょっともったいないけど、インキュバスをマインドキャッチしに女神を戻す。ネヴァンは戦闘開始からずっと、泉の上で孤立しているブッカブーと戯れている。
 俺の方は、必死に高速へよじ登ったばかり。とは言えここからは早いだろう。ケルベロスを蹴散らしながら高速道路を疾走する。やはり強い悪魔だけあって、手応えが段違いだ。全員一撃だけど。
 右翼方面でブッカブーとインキュバスの始末をつけ、早くもラミアが特技習得。結構使いやすかった。漸く落ち着いたと思ったら、左翼ジェネレータから堕天使オセが湧き出す。もはや何の足しにもならないが、気分転換にネヴァンに喰わせることに。
 俺は川を渡りきったので、高速から降りて銃を剣に持ち替えた。ちょうど満月の直前なので、女神様のワンスモアを受けてケルベロスを屠る。右翼の方もナーガが全ての敵を駆逐しつつあり順調らしい。オギワラは離れたところに見えている宝を回収に。ついでにケルベロスを勧誘するらしい。
 退屈な戦いである。地下鉄新橋駅での戦いと同じくらい何も考えていない。
 
 満月。
 仕掛けるには絶好のタイミングだが、勧誘できないのがどうにも。回復したワンスモアのサポートを受けて、取り回しの利く銃「M249ミニミ」を乱射。「闘鬼ヤクシニー」二匹を一瞬で屠った。残り一匹の攻撃は甘んじて受け、しかる後に勧誘する。ヤクシニーが「デモンズシールド」を続けざまに2つドロップ。名前もカッコイイし、何か禍々しい雰囲気が出ている。魔力増強の体防具は貴重だし、回避性能はピカイチなので結構使えるらしい。ちなみに一個目出たときは超喜んでいたのに、二個目出たら『また要らんところで奇跡が……』とへこんでいた。相変わらず忙しい奴だ。
 鬼たちの集中攻撃は効いたが、問題なくヤクシニーを勧誘。女神様もヨモツシコメをキャッチしていた。オギワラも、もうすぐケルベロスを勧誘できそうだ。
 問題は、つい先ほど稼動した右翼ジェネレータからでてくる「堕天使レオナルド」にどう対処するかだ。基本的にはナーガが全部喰えばいいんだろうが、ちともったいない気もする。

『ナーガの合体は相当先だしね。ここはオギワラが捕まえる予定のケルベロスを使っても良いかも。』
「ナーガの上っつうと「龍王ペンドラゴン」だったか。これなら俺も聞いたことがあるな。」
『いや、残念ながらと言うか、幸いなことにと言うか。ペンドラゴンはスルーだ。』
「そうなのか。」

 ちなみに堕天使オセが湧いていたもう一方のジェネレータはどうやら打ち止めらしい。ネヴァンの処遇をどうしたものか。レオナルドに向かうのが一番だが、敵拠点の邪龍を啄ばみに行きたい気もする。悩ましい。
 
『ネヴァンは慌てる必要ないってば。こっちのサポートに回そう。』
「まあそうなんだが。」

 敵拠点に屯する5匹の邪龍。相手の動向を見るため、まずは一匹バジリスクを釣り上げられないか、間合いに入ってみる。予想通り、一匹だけ猛然とこちらに突進して来た。
 まるで翡翠が水中に深く潜って狩りをする時のように、高高度から高速で降下してくる。だが、こちらも恐れるばかりではない。例え相手が人類種の天敵・邪龍であっても、今の俺なら致命的な隙を晒さない限り、一撃で殺されることは無い。紙一重で回避して、上昇に転じる一瞬の隙を狙って反撃してやる。
 しかしどうやら俺の狙いは読まれていたらしく、バジリスクは上昇に転じることなく地面に激突。地面が抉れて、土くれがかなりの勢いで四方に飛び散った。バジリスクの直撃は回避したものの、驚きで硬直していた俺は、飛礫をまともに受けて体力を半分以上削られた。
 全くなっていない。少し想定外の事が起きるとすぐこれだ。幸い痛みには、既にある程度耐性ができている。体勢を崩されつつも、ふらついているバジリスクめがけて、下段から胴を狙って切り上げる。速さも、鋭さも、重さも足りない一撃。必死で身を引くバジリスクの胴体をかすめ、片翼を切り裂くに留まった。 
 これは倒せないか、という思いが一瞬脳裏を過ぎる。だが。


 気付けば俺は刃を返し、更に踏み込んでバジリスクの首を落としていた。


『「秘剣燕返し」完成だね。』
「驚いたな。相手の動きに、体が反応してた。」
『これまでの戦闘経験、特にワンスモア体験が効いたのかも知れないね。筋力の成長が打ち止めになってからは、無駄の無い動きを意識して、速さを鍛え上げたのも大きいかな。』

 トモハル的に言えば、「速さがあれば二回攻撃できる」ってやつか。これほど絶大なものだとは思わなかった。
 とは言え一撃喰らうだけで、体力を半分以上削られることもまた事実。相変わらずスタミナが無いので、戦闘が一瞬しか持続しない。これがマッチョの宿痾か。ドワーフさんの逞しい肉体が、酷く懐かしく感じられる。
 残り3匹の護衛バジリスクのうち、まず一匹をネヴァンの「マヒ噛み付き」で足止め。試しに銃に持ち替えてもう一匹を攻撃したところ、相手が動く前に二斉射叩き込み瞬殺。銃弾の再装填が自分でも驚くほどスムーズになっている。これもワンスモア効果か。女神様ありがとう。

「『クイックドロー完成』ってやつか?」
『いやそれ、一発目をどんだけ早く撃てるかってやつだから。連射とか全く関係ないから。』

 相変わらず空気を読まない奴だ。俺の空けた穴に女神様が飛び込み、もう一匹のバジリスクを金縛り。これでもう怖いところは無くなった。
 魔法力の切れた女神様を泉に行かせる。女神様は凄く心配そうな顔だ。「俺の体力を回復するためだから」という説得をうけて、何度も俺の方を振り返りながら泉の方へ飛んでいく。母性溢れすぎだろう。暇ができた俺は闘鬼ヤクシニーと邪鬼ヨモツシコメを召喚。あとは周囲のバジリスクを一匹ずつ銃撃でいいだろう。女神様にはそこら辺に浮いていてもらおうか。何か凄く応援してくれている様子が目に浮かぶ。

『ヤクシニーにはニーズホッグで稼いでもらおう。』
「ネヴァンとヨモツシコメはいいのか。」
『そっちは一応あてがある。一番まずいのがヤクシニーなんだ。慌てる必要は無いんだけどね。』

 とは言え何もしない手は無いだろう。トドメはヤクシニーに任せるとして、二匹の鬼に弓・槍を持たせてニーズホッグをチクチク開始。さすがに高レベルの鬼は攻撃力が高い。俺は邪魔にならないようにバジリスクを屠って行く。

『あ、ダメだ。マヒが解ける。』
「げ、マジか。」

 護衛部隊最後の一匹が、もう直ぐマヒから復活するらしい。俺は回復してないし、このままでは確実に殺される。暇してるネヴァンに魔石でも使わせるかな、と思っていたら。
 女神様がもの凄い勢いで飛んできて、新たに麻痺を上書きしてくれた。何か結局心配で泉には行けず、直ぐに戻れるようにその辺でウロウロしてたらしい。立場上褒めるわけには行かないが、心の中で感謝しておく。
 しかし、鬼共は攻撃力は高いが、命中が低すぎる。ニーズホッグよりは速いようで二回攻撃しているが、大体3回に1回以上は外す感じか。【ハヤトロギア】は、右翼でナーガの攻撃をレオナルドに直撃させるので手一杯だという。まあ確かに龍王の砲撃も堕天使相手だと命中精度が高いとはいえないからな。ていうか、ナーガにトドメを刺させる気はなかったのに。うっかりトドメ役派遣し忘れてた。
 ジェネレータから湧き出すレオナルドも尽きたらしい。最後に残ったニーズホッグをネヴァンで削ってヤクシニーでトドメ。ヤクシニーが一発目外したときはどうしてくれようと思ったが、二発目で無事仕留めることができた。鬼族使えねぇ。
 空になった敵拠点を俺が占領。いつもは俺が最後のトドメで他の誰かが占領するので、何か新鮮な感じだ。


 予想通り鬼神がやって来た。「鬼神ジコクテン」だ。

「真っ赤で凄い派手な鬼神だな。」
『これで速さ3倍じゃないんだから詐欺だよね。』
「本当に3倍速で動いてたら、どう考えても色々おかしいだろ。」
『そのうちキミも3倍速で動く事になるよ。パワーインフレって奴だね。』

 これで四天王のうち3体が揃ったことになる。あとは恐らく多聞天か?
 どれだけ強いのか楽しみだ。


chapter 31 SIDEPOLIS-09     ~ MEGALOPOLIS ~

『やってきました、リミックスステーション!』
「もう仲魔が43体だからな。主力も働けないし限界間近だったろ。」
『けどこれで一気に空きが増えるよ!』

 それもどうかとは思うがな。

『ちなみに前回で所有特技目当ての勧誘は全て終了したんだ。』
「もう全部特技揃ったのか?」
『いや、簡易レベルアップ予定の、上位の悪魔で覚える特技が残っている。』
「結構遠そうだな。」
『そうだね。果てしなく遠いよ。ただ、今後は特技目当てではなく、体だけが目当ての勧誘になるから楽かな。勿論合体したい的な意味で。』
「だんだん分かってきた。やっぱりオマエわざと言ってるんだよな?」

・コノハナサクヤ×(ゴブリン×ノッカー)→女神サラスヴァディ(祝福の歌)

『ヒンドゥーにおける芸術の神様だったかな。日本では弁財天として親しまれているよ。』
「ああ、七福神か。楽器持ってるし、何か見たことあると思った。そういや、多分次仲魔になる鬼神・多聞天も七福神だよな。」
『勘が良いね。ちなみに毘沙門天なんだけど、彼は仏教の神様さ。直接の関係は無いと思うよ。もっとも二つの宗教は元々同源っぽいので、僕のような門外妖精には違いが良くわからないけどね。』
「異なる宗教の神様をごっちゃにして崇めているのか?」
『良いじゃない日本らしくて。寛容の精神は美徳だと思うよ。そこを見透かして踏み込んでくる図々しい相手がいる場合は話が別だけどね。』

 まあ細かい教義の違いを巡って、戦争やらかすよりはマシか。

「にしてもオマエ結構日本好きだよな。」
『妖精さん界に伝わる有名な言葉があるんだ。「世界的に有名なメガロポリスの中心に神聖不可侵の巨大な森がある。その森にはその国の最高司祭が住んでいて、国民の安寧と安らぎを祈願している。司祭は同時に世界最古の王家の末裔であり、伝説の3つの宝物は『神器』と呼ばれ、それぞれが霊的な古い聖所で固く守られ表にでることはない。司祭の住む巨大都市そのものもその成立時において、何重にも念入りにある呪術者が守りを固めた人工魔法防御都市である。 - Empire of the Rising Sun -」。』

 ……間違ってはいない。間違ってはいないが。

『基本妖精さんは皆日本贔屓だ。緑茶with砂糖ミルクをこよなく愛する熟女妖精だって居るくらいだよ。』
「典型的な、そしてどうしようもなく間違ってる外人の認識だな。」

 気を取り直して、新しい仲魔についての説明を受ける。

『サラスバディは超高速育成対象。』
「そんなに特技が良いのか。」
『いや、激レアではあるけど性能は微妙かな。高速育成する理由は主に二つ。まず一つは運が異常に高いこと。例の運強化シリーズを着せてやると、三界に彼女の運を凌駕するものはいなくなる。もう一つは、次の進化が割とすぐにやってくるんだ。』

 ほお。レアアイテム入手も楽になると言うことか。

『そして!』

・トゥルダク×(ジャターユ×ルサ-ルカ)→女神コノハナサクヤ

「マジか!」
『マジです。ガンガンワンスモアを量産していくよ。目指せ女神様ハーレム!』
「だったらアメノウズメから仲魔にした方がよくないか。」
『ハッ、これだからブルジョワは。』

 うぜぇ。女神絡んだときのコイツマジうぜぇ。
 しかも『量産』とか敬意が足りねぇ。
 あとブルジョワとかお前が言うな。

『アメノウズメからスタートすると、サラマンダーが大量に必要になるんだよ。』
「なるほどな。」

 召喚マップとやらに行けばその問題も解決するんだろうが、あそこはどうも生理的に受け付けない。とは言えアメノウズメにはもう一度会いたい。どうにかできないものか。

『さらに!』

・マッハ×(ストーンカ×ゲンブ)→幻魔ディルムッド(あばれ回り・ホーリースパーク)

「何か強そうだな。」
『強いよー。戦闘が楽になるよー。』
「育成するのか?」
『いや、特技自体は必要ないんだ。純粋なサポート要員だね。残念だけど幻魔の宿命として、出番自体は少ないよ。』
「残念だな。」
『残念だよ。ランサー・ディルムッドは大好きだからね。聖戦デルムッドのカリスマ(笑)も捨てがたいけど。』
「またFEか。」

・デュラハーン×(ホウオウ×ケライノー)→女魔ハリティー

『広い意味では鬼神族なんだけど、ハリティーは「鬼女」と言った方が正しい気がする。』
「デュラハーン強かったけど、結局あんまり使わなかったな。何かもう拗ねてるぞ。」
『不貞腐れてやがる……強すぎたんだ。もっともハリティーも扱い変わんないけど。』

 ひでぇ。

『以上を実行したら、ひとまずはここで終了かな。』
「思ったより仲魔減らなかったな。8体か。」
『ここからはキミが強くなるのにあわせて少しずつ使っていくからね。油断してるとあっという間に余裕が消えるよ。』
「了解だ。」


 リミックスステーションを出て、いざ新都心!
 と勇んでいた俺を、アイツが急に引き止めた。

『基本的に鬼神は、東京旧市街を守っているんだ。』
「まあ新都心は最近できたばっかりだって言うしな。」
『もし四天王の最後の一人、毘沙門天を仲魔にしたいのなら上野に行くと良いよ。』
「どういう風の吹き回しだ? 合体できないから鬼神は仲魔にしたくないんだと思っていたんだがな。」
『僕は合体マニアであると同時に、蒐集家でもあるのさ。』

 よくわからん理屈だが、ひとまず上野に向かうことにする。ここにきての寄り道。HELIOSを撃たれないか冷や汗ものだ。仲間には「鬼神最後の一体が上野にいると、ギャンブルに勝って機嫌よさ気なオッサンから聞いた」と適当に説明。皆あっさり俺を信じた。ありがたいことだが、それで良いのか。
 暫く歩いて俺達は上野に到着。現在の都心からは大分離れているのに、ここの復興具合も驚くほどだ。

「まさにメガロポリスだな。」
『僕も昔メガロポリスを作ろうとしたけど、ここまで上手くやることは出来なかったよ。人口50万人が精々だったな。』

 この似非妖精は一体何者、いや何物なんだ。
 そんなことを考えながら、布陣している悪魔を眺める。

「対空要素が全く無いな。楽勝じゃないか。」
『その認識は正しいが、地形が厄介だね。ビルと高架で人間の足を止められる。』
「それが問題になるって事は、敵拠点の制圧に時間制限があるって事か?」
『そうだ。鬼神・毘沙門天がたった一人で上野を守護するべく奮闘しているよ。』
「いつかの自衛隊員を思い出すな。」
『彼らが死して尚東京を守ろうと、己の魂を鬼神に捧げた結果が、今ここにいるわけだ。』

 ……!

「じゃあ、2024年で戦っていたあの人も?」
「全てにケリがついたら、鬼神ゾウチョウテンと語り合うことをお勧めするよ。」

 太古の昔から存在し、今確かにここにあり、そしてきっと未来永劫消えることの無い、人の意志。自分の住む場所を、そこに住む人たちを守りたいという想い。軍部は暴走してしまっているが、それでも彼らの志は消えなかった。それは確かに消え失せずに、ずっと変わらずここにあったのだ。
 やるべき事が変わるわけではないが、より一層力が漲ってくる。女神二柱とネヴァン・ナーガ・ヤクシニー・ケルベロスをメインファイルに残し、後は全てサブファイルへ。

『随分思い切ったね。』
「この位なんとかするさ。」
『3基のジェネレータから結構湧いてくるよ。』
「織り込み済みさ。」
『気合入ってるなぁ。』

 これで入らなかったら男じゃない。

「マインドキャッチは二発撃てるよな。地形的に龍王ラドンと堕天使オセを洗脳しようと思うんだがどうだ。」
『悪くないんじゃないかな。堕天使は合体材料としてはかなり使えるからね。』
「直ぐ横に見える邪龍は、適当に縛って二代目サクヤ姫でつつく。念のため本拠地にはケルベロスを置いて、ネヴァンはそのサポート。」
『保留。』
「俺達人間はサラスバディを伴って最速で前進。ジェネレータは出てくる相手に合わせて適当に処理。」
『臨機応変ってやつだね。対応間違えると行き当たりばったりと言われるけど、今の君達なら問題ないだろう。』

 コイツならジェネレータから湧き出す悪魔の種類も読みきるのだろう。
 だが、これが今の俺に出来る精一杯だ。

「対案はあるか。」
『本拠地にケルベロスを残すのは異存なし。ネヴァンをサポートにつけるのもだ。まずワンスモアのサポートで、キミが左翼の邪龍二匹を瞬殺し、高架に隣接。サルゲッソーは反撃期待だけど、まあ「ぺトラム」だろうね。』

 確かに。実は二匹の邪龍を姫だけで相手するのは辛いと思っていた。足止めの手も足りてない。だが、二匹とも倒してしまっていいものか。進軍もかなり遅くなってしまう。

『高架を越えたトモハルが、向こう岸で鬼コンビ&ナーガを召喚。サラスの援護を受けながら、ジェネレータから出てくる敵に対処。何ならヤクシニーで倒してしまってもかまわない。女神達は積極的に堕天使・邪霊を落としつつ本拠地防衛。少し遅れたキミが湧き出すジェネレータをフォローしながら前進。最後に敵本拠地を固める邪龍をつついて特技を習得。』
「なるほど、どうせ高架を越えた所で渋滞するってことか。ただ、堕天使達をサクヤ姫にやらせるのは良いのか?」
『程度問題ではあるけど、今後の展開を考えれば然程損ではないかな。サラスが倒しても大して糧にならないし。』

 敵拠点の動けない邪龍の方がつつき易いと言うのは真理だな。未来情報はやはり大きい。トータルで仲魔が得る経験は減りそうが、こちらを採用するか。

『あとサポートメンバーはメインファイルに戻しておくべきではないかな。今慌ててファイルを満杯にする必要は無いよ。』
「確かにそうかもしれないな。妙な気負いがあったみたいだ。」

 心は熱く、頭は冷静に、激情を制御すること。そう上手くはいかないようだ。
 ナンディ・ディルムッド・ヨモツシコメをメインファイルに戻す。
 ハリティーは対空火力が強すぎるから入れにくい。すまん。

『さあ、戦闘開始だ。』
「ああ。」


 トモハルは既に高架に上がっている。相変わらずの素早さだ。慌てて仲魔ほぼ全員を召喚。後で回収することが前提である。なんとも贅沢なことだ。左手のニーズホッグ二匹を鬼族やナンディで適当に削り、加速した俺が切り捨てる。加速が終わったのはサルゲッソーの目の前だ。上手く俺に攻撃してくれればいいが。
 しかしサルゲッソーの選択は当然の石化魔法「ぺトラム」。石にされた時は全く生きた心地がしなかったが、『そのうち慣れる』らしい。仕方ないので手透きのネヴァンに回復してもらう。やはり鳥の機動力は偉大だ。俺は高架をよじ登りつつゲッソーを銃撃。他の連中も飛来したオセ二匹を適当に処理。

「ワンスモアとマインドキャッチは毎回必ず真っ先に使うよな。」
『だから言ったでしょ、破格の特技だって。』

 どのみち渋滞は目に見えているので、オギワラを高架に乗せるのを一拍遅らせる。その隙に役目を終えた仲魔たちを、高架越えの前に一度オギワラのCOMPに戻そうとしたのだが。

「神獣早ぇ。もう高架越えてやがる。」
『故に神の獣。』
「軽車両は高速に乗れないんじゃなかったのか?」
『あれは神様の乗り物なので治外法権です。』

 ジェネレータが吐き出したのは『鬼族のトリコロール』。内一匹の妖鬼テングは、早くも高架から降りたトモハルによって既に勧誘済み。奥にいる堕天使レオナルドもどうやら動く気配が無い。このまま油断無く進めば勝てるだろう。サクヤとサラスに残りの邪霊を任せ、高速を駆け抜けながらそんなことを考えいた。
 そんな折にジェネレータから更に湧き出す悪魔。今度は「鳥族のトリコロール」。しかしこんなこともあろうかと、地獄の番犬ケルベロスを本拠地に残しているのである。迂闊に突っ込めば地獄を見るぜ、と一人ほくそ笑む。

『キモイよ?』
「うるせえよ、いいだろ別に。」

 自分の戦術が嵌った時の快感に抗えなくなってきている。何だか人としてまずい方向に行っている気がしてきた。
 一人先行していたトモハルが、地霊ブッカブーから攻撃を受け、蓄積したダメージが危険水域に。それでも果敢にブッカブーを勧誘する。俺達はまだ高速を降りようとしているところで、歯痒くはあるが救援にいけない。湧いてきた鳥の行動を読みきれないのが怖くはあるが、女神とネヴァンを先行させる。トモハルを囲むようにして守りつつ、近くまで来ていた闘鬼ヤクシニーをサラスで撃破。ネヴァンが念のため傷薬を使っておいた。ホント飛行系はズルイ位に役に立つ。

『今回はヤクシニーの育成をやめて、サブファイルに移しておけばよかったかもね。』
「ああ、確かに闘鬼勧誘したかったな。」

 湧き出した鳥達は、予想通り猪突タイプ。こちらの拠点よりも、最寄の敵性存在に突っ込むことを優先する様子。ついでに堕天使レオナルドも飛んできて、サラスバディの周りに魔物だかりが出来上がった。
 計画通り。集まった敵レオナルド、ネヴァン、ついでにヨモツシコメを「らいでん」で一掃。宝石を一気に2つゲットした。超気持ち良い。
 だ、駄目だ。笑うな、こらえるんだ……しかし……。

『やっぱりキモイよ?』
「うるっせえな。仕方ないだろ。」
『気持ちはわかるよ。』

 残った「凶鳥ズー」はこの辺では珍しい程強い悪魔。是非俺が倒したいので、ネヴァンの「マヒかみつき」でキープしておいて貰う。本拠地に抜けていった霊鳥フェニックスは、見た目がカッコイイので、もたついていたオギワラで勧誘。これはもうケルベロスを前線に送ってもいいかもしれない。
 暇をしたサクヤさんは、ビルの中に引きこもっているラドンをビューグル持参で虐めに。アイツ曰く『習得の予感』。ちょっと気が早すぎやしないか。サラスのマインドキャッチが当分回復しないので、何なら倒させてしまっても良いのかもしれないが。
 次に湧いてきたのは、ラミア・インキュバス・エルフの三匹。一瞬「色気のトリコロール」とか思ったが、エルフは若干子供っぽいし、インキュバスはそもそも男だった。

『ショタと男の娘は内容次第でギリギリ行ける気がしないでもない今日この頃。』
「男の子? 二つはどう違うんだ?」

 あ、ヤバイ。つい聞き返してしまった。

『妖精さん界でいうと、ノイヴァンシュタイン桜子とか、ホーエンツォレルン楓とか? ああ、和音ミクにコミック版の白姫かなたんも捨てがたいな。』
「妖精界の人物については何一つわからん。だが、たった一つシンプルにわかった事がある。ギリギリ行けるとかじゃなくて、どう考えてもガチだろオマエ。」

 戦闘中はコイツの意味不明な戯言に付き合うつもりはなかったのに。普段もなるべくなら付き合いたくないが。
 予定通り俺はズーを屠る。陸を行く連中だけなら、大した脅威ではない。エルフはトモハルで勧誘させるとして、考えなきゃいけないのはサラスの効率的な運用だろう。

『そう神経質にならなくてもいいよ。時間的余裕は随分ある。』
「そうなのか、その情報はありがたい。」

 いつ時間切れになるかわからないってのは意外とキツイ。サラスはゆっくりレオナルドにでも向かわせるか。そして今まさに最後のトリコロールを始末しようとしていたとき。再び「鬼族のトリコロール」が湧いてきた。

「ひょっとしてコレ、エンドレスか?」
『いや、限りはあるよ。でも全部付き合ってたら完全にアウトだね。』

 ならばボチボチ進むか。中央のラドンはどうやら移動しないようなので、俺とサラスで砲撃の死角に潜り込む。満月になったので、マインドキャッチは復活したが、姫の成長を優先だ。アイツの言が正しければ、次は鳥が湧いてくるわけで油断は出来ない。ひとまずオギワラを本拠地に置きつつ、ケルベロスを前線に召喚した。
 今はまだ暇なサラスバディは、ブッカブーをエクスプロードで倒しつつ、アイテムを回収。杖「ベルオブリバイブ」入手。体力を大幅に増強するそうだ。 あと、アイツが『無駄フラグ立った』と言って若干ションボリしてた。相変わらず意味はわからない。
 体力は物理的な耐久力を司る。俺に最も欠けている物だ。この杖がどれだけ優れモノか俺にもよくわかる。残念ながら俺は装備できないが。

「エデンビューグルと同じくらい価値がありそうだな。」
『確かに良い杖だけど、そこまでの価値は無いよ。』
「えっ?」

 意外だ。

「体力大幅UPなんだろ?」
『確かにそれは凄いんだけど、「杖」ってのが問題なんだ。』
「俺には装備できないところとかか?」
『自意識過剰と言いたい所だけど、半分くらい正解。体力を必要とする最前線組に装備できる者が少ないのはマイナスポイントだ。』
「残り半分は?」
『火力不足さ。純粋に武器攻撃力が低い。魔法系にはあまり関係の無い話だが、物理系の装備としてはどうもね。』

 予想通りに鳥が三匹出現。まずはナンディとケルベロスでラドンの死角にもぐりこみつつ、フェニックスを撃墜。さすがは高位霊鳥。まともに戦うと強い。
 ほぼ同時に俺はラドンの死角を渡り歩きつつ、ネヴァンを撃退。唯一残っていた鬼、ヨモツシコメはネヴァンで足止め。人間の遠距離攻撃で削る。中央の龍王はサラスバディで金縛って安全確保。近くにいるズーもそのままサラスバディに任せよう。あれ、死角にもぐりこむとかいらなかったな。

「サラスにもラドン叩かせないのか?」
『格の差がありすぎて何の鍛錬にもならないよ。やるならせめてニーズホッグだね。』
「そういえば最初の予定ではニーズホッグを苛めるはずだったのに、すっかり忘れてた。」
『龍王が中央で頑張ってるからね。まあ状況が変われば戦術も変わるさ。』
「そりゃそうだが、オマエは最初から見通していたんだろう?」
『全てを見通せるわけではないよ。あくまで僕の能力の源泉は【ハヤトロギア】。【千里眼】を除けば、全ての能力はその射影に過ぎないからね。』

 いかんいかん。コイツは万能ではないし、頼り切るつもりも無いはずなのに。いつの間にか過信して、気付かずあてにするところだった。
 気を取り直して敵拠点に肉薄。防衛組の4匹を順に倒して拠点を占領すれば、ギリギリ制限時間に間に合うそうだ。そうなるようにアイツが誘導したんじゃないのかとも思うが、まあそれは良いだろう。
 一方居残り組は、ケルベロス・ネヴァンを除く全員でズーを削る。その後、サラスバディが麻痺して移動できないヨモツシコメに隣接しながら「お調子ボム」でズーを撃墜。ヨモツシコメが仕掛けてこなかったので、残念ながら敵悪魔を一掃できず。ちなみにケルベロスは次のフェニックス出現に備えて待機。ネヴァンは姫と一緒にラドンを啄ばんでいる。 
 色気トリコロールが再度出現。インキュバスの美味しそうな匂いに釣られてついつい攻撃。いかん、間に合わなくなる。

『全く何やってるんだか。』
「すまん。」
『まあ気持ちはわかるけどね。念のため占領用にトモハルを派遣しよう。』

 出現したラミアは、移動中のトモハルとケルベロスで削ってネヴァンがトドメ。ネヴァンにはもう一つのアイテムも回収に行かせる。その後は何事も無く、予定の時刻に。

『あれ。』
「どうした。」
『いや時間一杯なんだけど、鳥が出てこなかった。最後のズーをキャッチするか倒すかで悩んでたのに。』
「そういやそうだな。結構規則的に湧き出していたと思ったが。」
『まあ何かで時間遅れが生じたのかもね。』
「そんじゃとりあえず制圧するか。」

 中央のラドンはサラスでトドメ。ネヴァン・サクヤは次で良いそうだ。トモハルが敵拠点を制圧すると、「鬼神ビシャモンテン」が現れた。これで四天王勢ぞろいだ。

「2024年からずっと東京を守り続けているのか。気が遠くなるな。まさに守護神だ。」
『厳密には2024年の事件から結構間は空いているはずだけどね。とはいえ幸若舞にもあるでしょ、「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」って。彼ら下天の守護者にしてみれば、人界での30年なんてまさに一瞬の事なんじゃないかな。』

 そうは言っても、やはり頭が下がる。
 俺もいずれは彼らの列に加わるのだろうか。

「しかし、制限時間ありってのは神経使うな。」
『まあね。でも慣れておかないと。』
「こういう戦いが今後もあるのか?」
『そういうこと。』
 
 ちょっとそれは勘弁して欲しいなと思いつつ、今度こそ新都心への入り口「ノースジャンクション」へ向かう。




[22653] A.D.2052 MEGALOPOLIS     ~ Breach ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/11 20:58
 毎度お馴染みリミックスステーションにて。

・ラミア×(ブッカブー×ドワーフ)→妖魔バンシー(デスタッチ)

「ブッカブー? 同じ地霊ならコボルトがいるだろ。何でコボルト使わないんだ?」
『低レベルには低レベルの使い方があるのさ。第一、ブッカブーは既に三匹ファイルに存在しているし、残しておく意味も無い。』
「敢えて低レベルの悪魔を残す理由か。ひょっとしてサクヤ姫か?」
『ご明察。本当に鋭くなってきたね。』

 「ワンスモア」という特殊技能を得るために、姫より弱い連中が必要と言うことか。

『今後も、微妙に弱い奴らを積極的に勧誘して行くよ。簡易レベルアップにもつかえるしね。』
「了解した。」


chapter32 NORTH JUNCTION      ~ Junction ~

 遂にやって来た新都心の入り口。二本のデカイ橋で繋がっているわけだが、当然海上で狙い撃たれる形。敵の数もかなり多い。軍部が俺達の動きを認識したのだろうか。HELIOSを撃たれる前に統合作戦本部を制圧しなくては。

『ここから評議会ビル到達までの間に、君達には世界の理を覆す力を得てもらうよ。』
「何だよ藪から棒に。人間がそんな簡単にいきなり強くなるわけないだろ。ギャグマンガじゃあるまいし。」

 コイツの言う事はいつも唐突だ。

「とりあえず右手浮島にいる龍王がすげえ嫌らしいな。橋を渡りにくいことこの上ない。」
『まさに砲台だね。さっさとどうにかすることをお勧めするよ。』
「護衛はタマモとケルベロスか。」
『タマモノマエ勧誘しない?』
「色っぽいからか。」
『それもあるよ。けどまあ、女神様の良い糧になるか。』

 海上で戦うことになる今回、確かにいたほうが良いだろう。ただ、切り札であるマインドキャッチをここで使ってしまっていいものか。とは言え勧誘できそうな奴が多いので、今回は特技習得の必要が無い奴は全て控えに。サブファイルが30体一杯になったにもかかわらず、メインファイルの空きは6体。カツカツだ。
 まずは妖獣タマモノマエを強襲するため、サラスバディを向かって右手最前線に配置。同様に右手海上の邪龍ニーズホッグ対策として、サクヤ姫とネヴァンを右翼二列目に。本拠地防衛にケルベロスと、回収要員としてオギワラ。ナーガを高速の上に召喚して、残りの連中3匹+1はDIO待機とした。

『ちょっと少数過ぎないかい。』
「まあな。だけど特に無理があるとも思わないぞ。」
『確かに、相手も数が多いだけか。ただ失敗するとフォローが利かない形だね。』

 それはその通りだ。うっかり致命的なダメージを受けても、回復の手段がかなり限られる。気を引き締めていかないと。

 初手。サラスバディで海上のタマモを強襲。「エクスプロード」であっさり葬る。この位置ならばナーガが邪魔をして、ケルベロスからの対空砲火は届かないはず。
 二手目。右翼に見える邪龍をネヴァンでマヒさせ、動きを縛る。続けてベルオブリバイブ装備のサクヤ姫で削る。ビューグルに比べてクリティカル率がバカみたいに低いらしく本意ではない。姫が龍王の射程に入ってしまったのが原因だが、ケルベロスとの二択だったので迷わずこちらを選んだ。

『海上は良い感じで事が進んでいるね。』
「そうだな。まあ女神様が二柱いるわけだから当然ともいえるが。」

 海上の奇襲はまずまずの成果を収めた。次は地上部隊だ。トモハルの正面に妖鬼テングが見える。勧誘してもいいのだが、無理に突っ込むと後ろのゴツイ地霊にやられそうだ。
 ひとまず中央のトモハルを二歩程退かせてテングの様子を見ることにする。アヤ・ナーガも様子見で、カオルは近くのアイテムを回収。オギワラは、正面奥に見える凶鳥ズーを警戒。ケルベロスと共に本拠地を守る。俺はといえば、左翼高架に足をかけて闘鬼ヤクシニーを銃撃。これにて俺達のファーストアクションは終了。相手の出方を注視する。

 海上に関してはこちらの予想は大外れ。敵は全てを諦めたのか、攻撃できるはずの相手に一切攻撃してこない。なんとも拍子抜けだ。サラスバディは手に入れたばかりの突剣「グラディウス」を装備し、はばたきでケルベロスを屠る。サクヤ姫はナーガの死角に移動しながら邪龍を削る。ネヴァンは暇になったので、島にいるナーガを啄ばませておく。無駄の無い動きだ。
 一方地上は完全にこちらの予想が的中した。対岸遠くに見えていたズーが、一足飛びでこちらの拠点の直ぐ前まで肉薄。カオルの電撃魔法「ジオ」とケルベロスの遠距離攻撃で削り、高架上からナーガがトドメ。俺は高速から降りてきた邪鬼の攻撃を喰らう。そこそこ痛い。剣に持ち替えて攻撃。一方的に屠るも前に進めず。ちょっと考えなしに高架に乗ってしまった感がある。やはりサクヤをこちらにつけるべきだったか。
 トモハルの正面に見えていたテングは、都合のいいことに猪突型。おびき寄せての勧誘があっさり成功した。

『上手く間合いを計ったね。』
「『大事なのは間合い、そして退かぬ心』だったか。」
『そうだね。ただキミのダメージの蓄積が心配だな。』
「まあ確かに女神様に回復に来てもらうわけにも行かないしな。」

 しかし、それを察したオギワラがケルベロスを回収しつつ、俺の回復にドリンクを使う。何と言うタイミングの良さ。オギワラにドリンク飲ませてもらうとかどんなプレイだと一瞬思ったが、それくらいで俺の鉄の羞恥心は揺るがない。これで俺は進撃に専念できる。既に高架から降りているシコメを切り捨てつつ、次で高速道路に乗れる場所に漕ぎつけた。トモハルは高速上を前進。正面の「地霊フィルヴォルグ」の間合いの外に張り付き、大仕掛けを狙う。

『ディフェンスに定評のあるフィルヴォルグ。ダーナ神族の宿敵さ。実際は被害者らしいけどね。』
「良い筋肉してるな。」
『そうだね……だけど、日本じゃ2番目だ。』

 凄く強そうなので、本来女神様で倒したいところだったが、今回は我慢。仕掛けに備えてサラスバディは、島のナーガを金縛りしておく。
 万全の体勢を築いたと思った、その瞬間こそが最大の隙。高架上に乗った俺が、左翼泉の上にいるナーガの砲撃を喰らうことは織り込み済み。ある程度は仕方ないので、オギワラによる回復をあてにしてこのまま駆け抜けるつもりだった。だが。

「トモハルッ!」

 海上のニーズホッグのマヒが解け、橋の上でフィルヴォルグとの間合いを計っているトモハルに突進する。トモハルの耐久は俺よりも低い。一撃喰らえば間違いなく即死だ。海を挟んで向こう側の橋上での出来事が、まるで目の前でスロー再生されているかのように感じる。頼む、かわしてくれ!



 いつも俺の願いを却下し続けていた神様。
 だが今回ばかりは聞き届けてくれたらしい。
 トモハルは危なげなくニーズホッグの攻撃を華麗に回避。
 そのあまりに軽やかな動きは、危機感足りてないんじゃないかコイツ、と思わせるほど。「あんまオレを甘く見るんじゃねーぞ!」とヘッドセット越しに悪態をつかれた。それでこそトモハルだ。

『今のは、危なかった……。』
「オマエでも予想外だったのか。」
『ああ。正直肝を冷やしたよ。トモハルの素早さに感謝かな。』
「そうだな。」

 トモハルはその性質上、単騎先行することが多い。
 にもかかわらず、その耐久力は俺以上に豆腐と評されるほどだ。
 万が一に備えて、回避確率を最大限にするような装備をしている。
 それでも、こんな場面には二度と出くわしたくない。

「これで二度目だ。状態異常で相手を縛ったあと、効果が切れる事を全く考慮していないな。」
『無理も無いよ。これまでの足止めは精々一瞬。キミが近づいて屠るまでのものだったからね。』
「これからは戦場も敵の戦力も拡大していくんだ。このままじゃ駄目だよな。」

 右翼トモハル達は準備していた仕掛けを優先。件のニーズホッグは、ナーガのフォッグブレスでマヒさせた。もう同じミスは繰り返さない。正面のフィルヴォルグをアヤの火炎で削り、トモハルが傷薬で勧誘。準備が整った。
 女神サラスバディが、フィルヴォルグの抜けた穴に飛び込み「らいでん」。ビューグルとデモンズシールドとで強化された魔法威力。たとえ弱点属性でなくとも、3匹の鬼を一瞬で撃破するには十分だった。ついでにアイテム3つゲット。三界一の運の良さは伊達じゃない。

『トマホークとか、今さら感が酷いけどね。』
「でもデモンズシールド手に入れたぜ。これ結構役に立ってるじゃないか。」
『まあそうだけどさ。』

 一方の俺は、左翼泉に陣取るナーガの砲撃を、橋の上という狭い場所にもかかわらずトモハルに劣らない華麗さで回避する。

『自分で華麗とか。』
「うっせ。」

 あとはもう龍王の懐に一直線。回復役のオギワラは高架下に置いていってもかまわないだろう。奥でずっと動かなかった堕天使レオナルドが遂に出陣。トモハルに向かって強力な魔法「ギガオン」を撃ってきた。龍族と違って命中率は高い。体力の大部分を削られてしまったようだ。そろそろ島ナーガのバインドも切れる頃。対策を立てねばならないだろう。

「つっても、島ナーガをサラスで縛りに行くしかないんだよな。」
『そうだね。エルフをトモハルで勧誘するなら、それは動かせない条件だ。』
「サラスの援護を受けて一気に泉ナーガの周りを掃除してやろうと思ったのに。」
『まあ、一瞬お預けって事で。とりあえず鬼族が苦手にしている火炎持ちのインキュバスを仕留めておいたら?』
「そうだな。ラミアの『ぺトラム』も正直怖いがやっておくか。」

 アドバイスに従ってインキュバスを銃撃。石化を喰らえば足止めはされるがそれだけだ。一方海チームは、ネヴァンとサクヤ姫でレオナルドを撃墜。『良い感じに育ってきている』らしい。言い方がいちいち卑猥だ。島ナーガはサラスが予定通り、子守唄で寝かしつける。最後にアヤが火炎魔法「マハラギ」で削ったエルフをトモハルが勧誘して終了。何とか凌ぎきったか。
 案の定俺はラミアに石化魔法「ぺトラム」を撃たれるが回避。そうそうあたるものではない、と言ってみる。そしてそろそろニーズホッグの麻痺が解ける頃だろう。

『ナーガの「石化噛み付き」が遂に日の目を見ることに。』
「正直龍王がこんなの使うようじゃ負けだと思ってたが。何が役に立つかはわからないな。」

 俺はラミアを片付け、サラスバディのワンスモアを受けて、召喚を始める。ヤクシニー・ヨモツシコメ・ケルベロス・バンシー。この泉ナーガでケルベロス以外は特技を習得するだろうとのこと。何なら姫とネヴァンを呼んでも良いかもしれない。

『問題はキミがこの後どうするかなんだよね。』
「敵本拠地は遠いよな。」

 この後敵拠点を目指すには、橋から降りてもう一度橋を越えなくてはならない。まだ満月にも至ってはいないが、ちょっと腰が引ける遠さだ。とは言え、実質アヤ・トモハル兄妹だけで立ち往生するのは目に見えている。

『上野よりは余程ペース速いんだよね。』
「そうなのか。言われてみても実感湧かないな。まあ、いっちょやってみっか。」

 ネヴァンとサクヤ姫は島ナーガ叩きで直ぐに特技を習得。待望のワンスモア二つ目。

『これで固有時制御3倍速行けるね。燃える。』
「やばいな。ワクワクが止まらねぇ。」

 サラスバディは島ナーガにトドメを刺す。

「ありがとう、島ナーガ。君の献身は忘れない。」
『キミも大分板についてきたね。それはそうと、トモハルにサラマンダーを召喚させといて。』
「サラスバディの習得が近いのか。」
『その通り。後はキミが強くなるだけだ。』
「む、俺待ちか。」
『慌てなくていいよ。人間いきなり「ドンッ」とか言って強くはならないからね。』
「……? まあ大事なのは積み重ねだよな。」

 一念発起して正解だったようだ。
 
「泉ナーガが既に死にそうなんだが。」
『一応こちらも高ランク悪魔揃ってるからね。気をつけて大事に削ろう。』
「何か間違っている気がするな。」

 サラスバディがラミアをマインドキャッチ。何とか満月前に主要特技を使いきった。認識がズレ出している気がする。
 一方覚えたてのサクヤ姫。本当は俺にしてほしかったのだが、残念ながら届かない。満月の回復を逃すのももったいないので、サラスバディに「ワンスモア」。サラスバディは隣にいたテングに「らいでん」をぶつけて特技習得。ナーガのほうもいつの間にか特技を覚えていた。完全に俺がボトルネックだ。
 漸く石化の解けたニーズホッグが橋を逆戻りしてトモハル達を狙いにくる。間合いはきちんと外してあるので、むしろ好都合だ。俺は邪龍を迎撃すべく、早速二柱の女神から「ワンスモア」の重ねがけを受けて一気に高架を駆け上がる。

 
 三倍速の世界。
 水の中どころではない。世界が明らかに「遅い」。
 空気の粘性が感じられる。少しだけ息苦しい。
 行動を制限するほどではないが、素早く動くとまるでゼリーのように空気が纏わり付いてくる。
 これまで俺が住んでいたものとは、全く異なる世界がそこにはあった。


 まるでこちらに反応できていないニーズホッグに、ありったけの銃弾を叩き込む。さすがに銃弾の軌跡を目で追うことはできなかった。だが、このまま重ねがけを続ければ、音速程度で飛来する銃弾なら視認できるようになるのではないか。夢が膨らむ。
 ワンスモアの効果が切れ、ニーズホッグの胴体が吹き飛ばされたと言う結果だけが現れる。皆の驚く顔が気持ち良い。俺は悪戯小僧か。
 手に凄まじい熱を感じて、慌てて銃から手を離す。俺の銃撃は、銃からすれば極小時間内の連射である。放熱が間に合わず、銃身が赤熱しているのだ。

『熱膨張って知ってるかい?』
「いや、何も関係ないだろ。どっちかって言うと熱伝導の問題だろ。」

 珍しく役回りが逆だ。

『どうだった、三倍速の世界は。』
「やばいな。言葉では表現し尽くせない。」
『羨ましい限りだよ。』
「オマエは体験したこと無いのか?」
『そんな「皆体験するんじゃないの?」的な調子で言われてもね。普通は無いでしょ。』

 コイツの『普通』は良くわからないからな。余計に自慢だ。

『あと一息で最凶の女神が降臨するんだ。さっさと次行こう。』
「ハイハイ。」

 御役御免のサクヤ姫は泉ナーガの所へ。「アイスストーム」を覚えさせる。二つ目の橋を降りてインキュバスを撃破した所で、俺は漸く「一定の水準」に達したらしい。後は拠点に固まっている3匹と泉ナーガしか残っていないので、一息つくことにする。

・サラスバディ×サラマンダー→女神イシュタル(ねんどうは・リバイバル)

「最強の女神って言ってたけど、まだまだ上に女神居たよな。神話の問題か?」
『多分「最凶」のニュアンスが伝わってないだけだと思うよ。彼女は太古の女神なんだけど、正直あの辺ゴチャゴチャしてて、何の神様か良くわからない。古代の英雄ギルガメッシュが命を落とす原因にもなっているのが有名なエピソードかな。 そこら辺の事情から、「生粋のトラブルメーカー」「さげまん」なんて言われる事もあるらしい。あと後世の連中に魔王扱いされることすらある。』

 それは何というか、酷く気の毒な話だな。

「それが『最凶』の理由なのか?」
『いや、理由はあくまで彼女が覚える特技にあるのさ。』

 「ねんどうは」はデュラハンも覚えるから、問題は「リバイバル」か。まだ聞いた事のない特技だな。

「感じからして死者復活か?」
『あー、確かに冥界の門番脅して殴りこみかけた彼女なら可能かもしれないけど。さすがにそんな反則級な特技は存在しないよ。あってほしくはあるけどね。「リバイバル」はパワーボールを生み出して、はじけさせて酸素と混ぜる事で、人工的に満月を生み出す能力さ。しかも戦闘力が低下しないと言う優れモノだ。』
「なんの役に立つんだよ、それ。」
『使用済みの特技を、満月を待たずに回復させる特技なんだ。』
「マジか。じゃあワンスモアが二回使えるって事か?」
『違う。』

 違うのか? もしそうだったら凄い楽になったのに。

『一番重要な点は、「リバイバル」の使用によって、「リバイバル」も回復することさ。』
「……つまり、どういうことだってんだ?」

 相変わらず回りくどい。

『「ワンスモア」使用後に「リバイバル」を使うことで、「ワンスモア」が回復する。同時に、今使用したばかりの「リバイバル」も回復することになる。』
「……オイオイ、それって何回でも「ワンスモア」使えるって事じゃないか。」
『その通り。故に最凶さ。編成次第で冗談抜きにこの世のバランスを崩しかねない存在になる。』
「つーか、それおかしいだろ。いや、超助かるけどさ。」

 合体によって復活したワンスモアを受けて護衛の「聖獣キリン」を掃討する。


「最強の聖獣……コレが?」
『だからキミもいつも言うでしょ。「聖獣弱ぇ」って。』
「にしたって、コレはなぁ。」
『ある意味キミとは対極の存在だよ。全ての能力が平均して高い。全く使わない能力までね。』

 俺が魔力を高めるために瞑想に専念するようなものだろうか。哀れ聖獣。もう使うことも無いだろう。最後に「妖鬼シュテンドウジ」を一蹴。以前一蹴したイバラギドウジの仲間だが、やはり弱い。童子切とか全く必要ないな。泉組のヨモツシコメ・サクヤ姫の特技習得を待って拠点を占領する。
 ヤクシニーでトドメを刺したが、特技習得には至らなかった。後、バンシーはともかくケルベロスの習得が果てしなく遠いそうだ。アイツが『方針転換するべきか……』と、珍しく真剣に悩んでいた。

『うあー。』
「どした?」
『キミの強さが、あとちょっとだけ足りなかった。泉ナーガを喰ってればなぁ。だけどまあ、一長一短か。』
「支障が出るのか?」
『んー、女魔の進化だからないっちゃない。』
「脅かすなよ。」
『でも次に来る女魔は、僕のリスト最上位クラスにランクインしているんだよね。』
「何のリストだよ。美人度か。」
『美人はただの前提さ。』

 何だろう。殴りてえ。


chapter 33 COREPOLIS-CAD     ~ GREAT CORE ~

 ノースジャンクションを出た直後、「ギャンブルで大勝ちしたオッサン」に「上野」の情報を教えてもらった。

「予知能力開眼?」
『んなこたぁ無い、と思うけど。』

 いつも通り、リミックスステーションに引き返す。
 姫二号を弁財天に昇格させるためだ。現在仲魔は42体。十分だ。

・コノハナサクヤ×(エルフ×エルフ)→女神サラスバディ

『この子は覚える必要ないよ。』
「そして3人目か。」

・ブッカブー×(オセ×オルトロス)→女神コノハナサクヤV3

「カオスだな。」
『まさしく。』
「しかしどんどん低レベルの仲魔が減って、サクヤ姫作りにくくなっていくな。」
『その為の外道スライムだよ。』
「そうだったのか。」
『今気付いた。』

・ナタク×ナタク→精霊サラマンダー

『無駄になることは絶対に無いし、闘鬼をこれ以外に使うことも無いからね。』
「空きもあと6体しかないことだしな。」


 新都心に行く前に、悪魔の店「ラグズショップ」に行くことに。宝石と引き換えに色々な貴重品を売っている店だそうだ。だが、アイツが『邪道だ』とか言うのでこれまで一度も行くことはなかった。

『ちょっと買いたいものがあるんだよ。』
「宝石でアイテム買うのは邪道なんじゃなかったのか?」
『他で手に入らないものは、その限りではないよ。』

 初めて入ったわけだが、やはり独特の雰囲気がある。猥雑と言うか何と言うか。入ってすぐ、「あんたダイヤモンドをたくさん持っているな」と店主が声をかけてきた。何故わかる。
 ダイヤモンド15個と引き換えに、伝説の大悪魔「夜魔メフィスト」を貰い受けた。ダイヤ15個とは随分値が張るものだ。しかしその体から放たれる雰囲気は、俺よりも遙か格上のそれである。気圧されそうになりつつ、「よろしくな」と挨拶をした。だが。


『なーにが、「汝が力量は我を使役するに能わず」だよ。超生意気だよね。』
「いやでも、気持ちはわかると言うか。あの鬼神たちが例外中の例外なんだろ。」

 そう、メフィストは俺に従うことを拒否したのだ。
 要するに「自分を使いたいなら相応の器量を見せろ」と言うことだろう。尤もだ。

『小悪魔に契約で縛られ、宝石で売り買いされる身で偉そうに。』
「オマエ、メフィスト嫌いなのか?」


 そんなこんなで、遂にやってきました新都心 - Center Administer Division - 。
 評議会ビルにはかなり迂回しないと辿り着けないように作られている。侵入者対策にわざとメンドクサイ造りにしてあるのだろうか。中央に陣取る龍王たちの砲撃に注意しながら、外周を制圧前進するしかないだろう。ちょっと神経使いそうな地形である。 

『当然ながらイシュタルは最優先育成対象だね。キミと二人で全部トドメを刺すくらいの気概で。』
「ヤクシニーとかバンシーとかは?」
『ジェネレータを一つずつ任せれば十分だよ。サクヤV3はビル向こうの龍王でも叩いていようか。』
「だがビル向こうには凶鳥ズーが二匹もいるぞ。姫一人ではきついんじゃないか。」
『そうだね。』
「まずは目の前の鬼二匹。そして多分突っ込んでくる、奥の獣二匹を瞬殺。そのあとズーが寄って来るようなら仕留めて考えるくらいだろう。」
『パーフェクトだ。』

 まずは三女神とケルベロスを召喚。ちなみにメフィストは当然の出撃拒否。

「何か勧誘できそうなのが沢山いるな。」
『残念ながら空きは7体しかないけどね。メフィスト後回しにするべきだったか。』

 イシュタルの「ワンスモア」を受けて、正面のヤクシニー二匹を一蹴。最初のヤクシニーが居た森の上、ビル向こうにもう一匹いる龍王ナーガの射程外に張り付く。そのまま銃を持って、奥のケルベロスたちを睨む。オギワラ以外の皆は、ビル向こうのラドンと正面ケルベロス両方の死角へ。オギワラは敢えて一人残り、ビル向こうの凶鳥ズーを誘う餌になってもらう。勿論ラドンの射程内側ギリギリの死角に潜り込んで、だ。
 敵ケルベロス達は俺に仕掛けるより他になく、反撃だけであっさり殲滅できた。ズーもこちらの思惑通りに上手く釣られてくれた。中央にいる龍王ナーガだけはこちらの予想外。積極的に移動して俺を狙ってきた。森にいたから回避できたものの、もし当たっていたらと思うと、背筋が冷たくなる。奴らが移動するとなれば、より一層面倒な戦いになりそうだ。

「ヤクシニーにケルベロスか。こいつらも勧誘したかったな。」
『育成対象がいるからね。以前と同じく、こんなことならサブファイルに移すべきだったかな。』

 ケルベロスを殲滅した俺はすぐさま取って返し、サラスバディのワンスモアを受けてズーを撃墜。本来一撃で倒せる相手ではなく、速さも俺より上ではある。だが、今回はオギワラの反撃と、イシュタルの「アイスストーム」で二匹とも予め削っておいたのだ。良い調子である。当然サクヤ姫はビル向こうのラドンを単騎でツツキに。残りの皆は万が一を考えて、道路の更に外側に出ておいて貰う。

『サクヤ姫、特技習得の予感!』
「いつもそれ言ってるよな。」

 正面からは地霊ブッカブーと妖精エルフが二匹、こちらを目指して進軍してくる。どちらも今さら感のある悪魔だ。ひとまず先行しているトモハルで森の中にいるブッカブーを勧誘。何度目だろうか、このシチュエーションは。エルフの動向を見ながら外周を進んでいく。奥の妖鬼3種も気になるところ。妖鬼プルシキとか、是非勧誘したい。
 エルフをこちらの望み通りに誘導して、一匹はトモハルが勧誘。もう一匹は俺が撃破。先行していたケルベロスと追いついたイシュタルを餌に、妖鬼を一匹釣り出せないか試みる。

「怖いくらい戦闘がスムーズだな。」
『まあ一旦外周に出てしまえば、中央の龍王からは攻撃を受けないからね。』

 残念ながら、妖鬼は間合いの内側にぶら下げられた餌にピクリとも反応せず。それならばと大胆に彼我の距離を詰めていく。
 まず妖鬼テングをイシュタルの「はばたき」で仕留める。勧誘しても良かったが、実は既に仲魔に3体いて定員オーバーなのだ。残り2体にはオギワラとトモハルを接近させて、そのまま勧誘してもらおう。
 次なる問題は右手奥に控えている、夜魔インキュバスの小隊。迂闊に近づけば魔法攻撃の洗礼を受けることになるが、どっこいこちらには女神様の加護がある。回避重視装備に身を固めたサラスバディで無造作に踏み込んでおいた。だが、インキュバスたちは全く反応しない。

「ここの悪魔達やる気無いな。」
『そういう問題だろうか。』

 ところが、残っていた妖鬼二匹は普通に動いてきた。専守防衛行動は、俺たちに最も近い位置にいたテングだけだったようだ。無造作に近づきすぎたオギワラが、そこそこのダメージを受けた。

「上手く嵌められたな。」
『キミが勝手に嵌っただけっていう。』

 確かに。スリーマンセルの小隊が、全員同じ行動規範に則ると勝手に思い込んでいただけだ。

「それはそれとして、インキュバスどうする? ボチボチ満月なのでキャッチしてもいいかと思うんだが。」
『いや、キャッチはもう直ぐジェネレータから湧いて来る悪魔に使おう。』
「特技目当ての勧誘が無いのに、優先順位が付くってことは、出てくる悪魔が極端に強いか弱いかか。でも今強い相手は極力倒したいから、ジェネレータから湧いて来るのは弱い悪魔ってことになるな。」
『どうしちゃったの、キミ。』

 あたったっぽい。
 中央からの龍王の砲撃を受け止めながら、目の前のインキュバスたちをどう料理しようか考える。そんな時、カオルに向かって急に突っ込んできたインキュバスが、氷結魔法「マハーブフ」を放ってきた。

「うおい! さっきまで専守防衛だったじゃないか!」
『全ての事象に経験則が当てはまるとは限らないよ。理論に矛盾する実験事実はむしろ歓迎すべきことさ。パラダイムシフトって奴だね。キミはまた一段上の魂のステージに上がったんだ。』
「なんだその如何にもインチキ霊感商法くさいフレーズは。」

 かなりのダメージを喰らってしまい、慌ててインキュバス達を切り捨てる。本来は俺が二匹・イシュタル一匹の予定だったのだが、ついついイシュタルの特技に頼って一掃してしまった。湧いてきた邪霊ランスグイルは完全放置状態だ。しかし、これまでの分類が当てはまらないとなると、俺の戦術論は一から考え直さなきゃならなくなるな。

『実は「猪突」「剛胆」「冷静」「慎重」と言う、キミの悪魔分類はそれほど間違っちゃいない。ただ「冷静」タイプが、間合いに入った相手に必ず仕掛けに行くわけではないと言うことさ。』
「けどその行動を左右する条件がわからなければ役に立たないだろ。」
『考えるんだ。何故今回に限って、間合いの内側に入った僕達に仕掛けてこなかったのか。何故カオルには仕掛けてきたのか。』

 さっきは間合いに一人だけサラスバディが入っていた。
 今回はカオルとサラスバディが間合いに入っていた。
 さっきは撃たなかったが、今回はカオルがダメージを受け、サラスバディはノーダメージ。

 ……ノーダメージ?

『サラスに魔法撃っても無駄だとわかっていたから行動しなかったって事か?』
「かも知れない。ただ、外道モウリョウがブラウニーに突っ込んでNODAMAGEという例もある。或いは自分の間合いとは異なる範囲を防衛しているのかもしれない。しっかり可能性を考えて、その場その場で蓋然性の高いものを選ぶしかないだろうね。」

 こんがらがって来た。
 モウリョウの例は恐らく市ヶ谷でベレッタを拾ったときの事だろう。地霊の強さを印象付ける出来事だった。けど今にして思えば、あれは多分「猪突」タイプだ。そこら辺のことも考慮するべきなのか。

『難しく考えすぎないことだよ。「こういう事もありうる」程度で十分さ。』
「起こり得る全状況に対応可能な柔軟さを持たせるってことか。」
『まさに強者の戦略だね。』

 イシュタルのマインドキャッチはギリギリ満月に間に合った。ボコボコ砲撃に晒されながらも、何とかバックストレートを抜けて第二コーナーに辿り着く。
 
「見たことの無い鬼がいるな。」
『あれは「闘鬼ヤクシャ」。日本ではもう色々入り混じりすぎて、よくわからない事になってる鬼神さ。一応「夜叉」って呼び名がポピュラーなのかな。』
「闘鬼か。勧誘しとくか?」
『いや、倒そう。今はなるべく強い悪魔と闘って、出来るだけ強くなっておきたい。』

 コイツにしては珍しく、口調に何か焦りのようなものが見える。俺が今まで見てなかっただけかもしれないが。残念ながら先制は出来そうにないので、ケルベロスを盾にしながら接近する。何たる外道。ついでにバンシーとヤクシニー、サポートにナンディを召喚。ちょっと行き過ぎてしまったが、ジェネレータ対応を任せることにする。
 そして満月。サラスバディは順調にアイテム回収。イシュタルは、回復したマインドキャッチで、湧き出したばかりの邪霊ファントムを洗脳。今回のジェネレータは邪霊シリーズか。
 結局動かなかったヤクシャは、俺が一刀のもとに斬り捨てる。アイツが言うには『筋力はとうに神様を凌駕している』とのことだ。確かに相手が地を這う生き物なら、例え神様だろうと斬り捨てる自信がある。
 ヤクシャが「ルナブレイド」をドロップ。刀身が薄く輝く、美しい剣だ。

「これもレアアイテムか?」
『いや、これは後にショップで買えるようになる武器だ。』
「じゃあ拾ったのは偶々か。」
『いいや、そこそこ【ハヤトロギア】つかったよ。』

 何故だ。後で買えばいいじゃないか。

『単純に強力なのさ。強い剣が一本でもあると、かなり違うことはもうわかるだろう?』
「確かにな。」

 危険なバックストレートを抜け、第二コーナーを回った俺たちは一気に直線を駆け抜ける。行く手に「妖獣ランダ」が見えるが、適当に返り討ちにする予定だ。最近は壁役がいなくても最前線に立てるようになってきた。嬉しい限りだ。

「ランダって面白い顔してるな。」
『獣要素皆無なはずなんだけどね。』

 イシュタルはちょっと暇になったので、いい加減鬱陶しい中央の龍王どもを空爆しに行く。対空火力を捨てた砲兵が、航空戦力に勝てると思うなよ!
 ランダを反撃で打ち倒したのはいいが、二匹の霊鳥フェニックスまで寄ってきて鬱陶しい。俺が倒してしまっても良かったんだが、折角なので一匹はケルベロスに餌として与える。もう一匹はトモハルが傷薬で勧誘。
 後方のジェネレータから恐らく最後の邪霊が湧き出した。「邪霊サンニ・ヤカー」。スリランカの病魔だそうだ。カワンチャさんのお友達か。サルゲッソーとは比べ物にならないほど強いらしい。けど所詮は邪霊。単体相手にダメージを食らうことは皆無だそうだ。あっさりバンシーの餌になっていた。哀れな。

 イシュタルはナーガ二匹をあっさり片付けた後、評議会ビルの頂上に陣取っていた。今はビルの入り口を守る「堕天使フラウロス」とガチンコの削り合いを演じている。周りのケルベロスは何故か全く動かない。堕天使が嫌われているのか。それとも置物か?
 二つ目のジェネレータには女神以外の仲魔を配置。ケルベロスに稼がせるか、イシュタルを戻すかは悩みどころ。とりあえず俺はひとり、評議会ビルの入り口に拳銃を持って突進する。何と言うか、俺たちの時代でやったら即逮捕間違い無しの所業だ。
 ヤクシャを粉砕すると、杖「カドウケス」をドロップ。知恵をそこそこ強化して、攻撃力もそこそこある。ただ、アイツ曰く『劣化ビューグル』。アイツはバランス型より一点特化型をこよなく愛する妖精のようだ。まあ、適材適所の「状況を作り出す」腕があるならその方が良いのだろう。

 ……ってことは何か。俺はアイツ好みのタイプに『育成』されたってことなのか。
 頭を振って不吉すぎる妄想を払い、更にビルに迫ろうとしていたところ。
 
『ストップだ。』
「オマエ、そのフレーズも好きだよな。一定の水準に達したって奴か、それともジェネレータか?」
『どちらでもないよ。生憎目標としていた強さには届きそうも無い。』
「だったら何で止めるんだ?」
『キミだけ強くなっても仕方ないと言うことさ。サポートに回りすぎて、イシュタルが特技を習得していない。』

 なるほど。それは確かに問題だ。

「じゃあ残りはイシュタルに回すのか。」
『その通り。まあ時給も悪いしボチボチ切り上げるけどね。』
「でもそれで習得できるのか?」
『微妙だね。でも次こそお楽しみさ。次は間違いなく、キミの生涯を通じて最も激しい闘いになるよ。』
「ぞっとしないな。」

 だったら尚更今ここでリバイバル覚えておきたい。

「そういや姫どうなってんだ。戦闘開始からずっとビルの奥に引きこもってラドンと遊んでいるけど。」
『あー、もうちょいで「ワンスモア」覚えそうかな。』
「凄いじゃないか。」
『うーん、じゃあ覚えるまで待つ?』
「じゃあ次の満月で。」
『また絶妙な加減だねぇ。』

 姫は好きに引きこもらせておいて、イシュタルにジェネレータ由来の悪魔を全部狩らせる。俺はひたすら暇をしている。それが続いて、二度目の満月。

『リバイバル覚えたよ。』
「何と言うドンピシャ。」
『サクヤ姫のほうも、復活したワンスモアでサポートすれば、ラドンにトドメ刺して覚えるね。』
「こうなってしまうと、『一定の水準』に達しなかった事が悔やまれるな。」
『言っても詮無いことさ。代替案が浮かんだから良しとするよ。』

 『代替案』か。コイツがわざわざ口にするのだから、きっとワクワクすることなんじゃないだろうか。
 我ながら勝手かつ無茶なフリだな。

『それじゃあ評議会ビルへの突破口も確保したことだし、リミックスステーションに向かうとしよう。』
「無粋とわかっていて言うけど、呑気だよなぁ。」




[22653] A.D.2052 MEGALOPOLIS     ~ Beyond the bounds ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/11 20:56
 今回の合体は相当派手になるそうだ。
 期待に胸膨らませつつも、「そうしなくてはならない」理由が思い当たるため、無邪気には喜べない。

「驚いた。いつの間にか45体全部埋まっていたんだな。」
『一応計算してたんだけどね。そんなもんでしょ。』

・ユルング×(コボルト×ケライノー)→魔神フレイ(ヘルスプラッシュ3)

「魔神か。初めて聞く種族だな。」
『強いよ。最強の種族と言っても良い。欠点があるとすれば「飛べないこと」くらいさ。ちなみにフレイは北欧神話に謳われる、モノホンの神様だよ。』
「そいつは凄いな。けど、『ヘルスプラッシュ』って確か『女神アナーヒーター』で覚えるんじゃ。」
『まあね。今回彼女はスキップすることにした。』

 微妙に苦い口調。

*ナンディ×(フリアイ×ジャターユ)→神獣グリンブルスティ(たいあたり)
 
『となると、このグリンブルスティもうれしい。』
「ああ、フレイの騎獣か何かか。」
『そのとおり。合体技とか隣接ボーナスとか欲しいよね。』
「けど、ナンディは成長性を買って仲魔にしたんじゃなかったのか。」
『半ば予想通りではあるんだけど、全く経験値回せてないからね。』
「なるほどな。いいんじゃないか?」
『ちなみに技を習得する必要は無いよ。純粋に趣味で作ってるからね。別にしてもいいけど。』

 それはいい、それはいいが。
 俺はいつの間にか、合体実行前にコンソールの予想結果をしっかり確認する癖をつけていた。
 理由は良くわからないが、そうしなきゃいけないと思ったからだ。

「おい、合体結果が妖鬼テングになってるぞ。」
『ええ?! あ、本当だ。もうホント何でだよ。remix ホントわけわからん……』
「いいから進めようぜ。確かナンディより弱い仲魔を使うんだよな。控えに幾らでもいるじゃないか。」
『そう単純なものではないんだよ。「神獣」という種族は確かに強い。だけどナンディの個体としての格は、ラクチャランゴにも劣るんだ。なんとも不思議な話だけどね。』

 人間には認識できない話か。
 そこまで悩むと言うことは、絶望的って事か?

『まあ、レベルアップに拘る必要は無いのか。』
「一から作るって事か。神獣二枚ってのも悪くないんじゃないか?」
『ありがと。神獣二枚にはしないが、一から作るよ。』

 べ、別にフォローしたわけでは無いんだが。

・インキュバス×ブッカブー→神獣グリンブルスティ
・ネヴァン×(ナンディ×ラクチャランゴ)→妖鳥オキュペテー(アイスブレス・れっぷう)

「ここでナンディか。」
『引っ掻きを覚えてたからね。主力の鳥に引き継げば効用倍増さ。』
「確かにな。」
『ちなみにオキュペテーはハーピー三姉妹の次女、ケライノーのお姉さんだ。覚える特技「アイスブレス」は対龍王最強兵装。重宝するよ。』
「良い響きだ。」

・ハリティー×(テング×テング)→女魔ブリュンヒルド

「これがオマエの謎リスト最上位クラスの仲魔か。確かに良さ気だな。」
『でしょ。これで光り輝く青い剣とか持ってたら完璧だったな。』
「しかし、ハリティーは結局一度も出撃しないまま合体か……。」
『はりてぃー かわいそうです(´;ω;`)』
「悪意すら感じるな。」

 しかし3remix ってのは、やはり仲魔がごっそり減ってしまう。
 パッと見れば7体しか減っていないが、合体に「使える」仲魔が消えていくのが痛い。

「グリンブルスティのように、2remixで行ける所は2remixで行くべきじゃないか?」
『一理も二理もあるんだけどね。このやり方だと考えるのが楽なのさ。』
「ヲイ。」

 とは言え、妖精任せにしている俺が言えた事ではないか。
 いつかアイツが言っていたことではあるが、これで文句言えるほど俺は立派でもないし、我が身を省みられないほど愚かでもない。


chapter 34 SUPREME COUNCIL     ~ 突破口 ~

 合体の後ショップに行き、回復アイテムを馬鹿みたいに買い込んだ。絶対に必要になるらしい。魔力回復アイテムである「まほうびん」を山程。体力回復アイテム「魔石」を少々。信じてないわけではないが、数ダース単位で買い込んで、金が消えていくのを見るのは精神衛生上よろしくない。

『でもまだ4万以上残っているよ?』
「わかってるよ。」

 さらにラグズショップにも寄り道して、「たいりょくのこう」を一つだけ購入した。意味が良くわからんが、『保険』だそうだ。
 いよいよ評議会ビルに突入する。アイツは、『生涯を通じて最も激しい闘いになる』と言っていた。 一体何が待ち受けているのか。


『この風、この肌触りこそ戦場よ。』
「確かに空間全体に妙な緊張感が漂っているな。」

 一番奥の高いところにある場所から、見たことの無い悪魔がこちらを挑発している。
 「魔王バエル」――噂に聞く魔王族、その姿を見るのは初めてだ。
 ここに至るまで、結局人間の姿は見えなかった。まさか奴が統合作戦本部を支配しているのだろうか。

『肩に乗ってる猫と蛙が良い感じだよね。』
「猫と蛙……なのか……?」
『吉田戦車社の嫌なヴァンツァーを思い出すよ。』
「なんだそのふざけた社名。それにヴァンツァー?」
『猫と蛙を左右の拳に貼り付けて相手を殴る、最凶の機動兵器さ。』

 一瞬想像してしまった。確かに嫌だ。そもそも戦車が「殴る」とか。
 だが、一見して小物。魔王だから勿論能力は高いのだろうが、「生涯最高の激闘」になる予感は全くしない。
 この妙に張り詰めた雰囲気はアイツからではなく、むしろ手前の空間から漂ってくるものだ。

『よく気付いたね。今回は「邪龍ワイアーム」がおかしなことになっているよ。』
「おかしなこと?」
『それはもうおかしなことだよ。』

 今回出てくるワイアームは『最強の個体』らしく、絶対に正面からやりあうなとの事。いつもと大差ない気がするが。

『「邪鬼ベイコク」も、ワイアームほどではないけど、注意が必要だ。』

 要するにいつぞやの「お局様」のような存在なのか。だとしたら確かに厄介だ。
 戦場全体を【千里眼】で見渡す。あれが件の邪鬼ベイコクか。確かに強そうな気配はある。
 邪龍ワイアームもいるが、こちらはそんなに雰囲気あるようには見えない。と言うかこれ、寝てないか?


 戦闘準備。
 三柱の女神と、生まれたばかりの北欧神話主従及び戦乙女においでいただく。更に特技未修得のバンシー・ヤクシー・オキュペテー・ケロちゃんを召喚。そして満を持して、ランサー・ディルムッドを初召喚。かつて無いほど豪華な初期布陣。メインファイルの空き容量が3体しかない。
 壮観だ。アイツのテンション上がり具合も尋常じゃない。

「そういや敵倒してもマグネタイトが増えなくなってたんだが。」
『カンストだね。人間ひとりが抱えられる生体エネルギーには限りがあるって事さ。』

 そんな中、メフィストが「私も出よう」とか言い出した。と言って協力する気はなさそうだ。裏切るつもりも無いようだが、一体何がしたいのか。

『キミが戦死したらそのまま退散するつもりなんじゃないの?』
「縁起でもないことを。」

 まずは前進。散らばっている敵の行動を観察。念のため体力の香は使用しておく。そこらに転がっている地霊フィルヴォルグは、どうやら防衛タイプのようだ。一斉に動き出したときは面倒だと思ったが、特定地点に固執する性質らしい。そうとわかれば話は簡単。四倍速でフィルヴォルグを屠りながら、部隊を左翼へ寄せていく。反撃まで含めてだが、最初の接触で5体のフィルヴォルグを俺一人で瞬殺できたのは、出来過ぎだろう。
 トモハルは転進して別行動。そのまま奥の龍王の部屋を目指してもらう。懐にもぐりこんで、バンシーたちを再召喚の予定だ。
 俺たち本隊の第一目標は、アイツが言っていた左翼のスリーマンセルだ。アイツの助言に従って防御力重視の装備に換え、いつも通りに間合いを計って、派手な見た目の骸骨「邪鬼ベイコク」に先制攻撃を仕掛ける。

 硬い。アイツから教わった、俺の最高の技『流し切り』が完全に入ったのに、相手を倒しきることが出来ない。想定外だ。万全の状態で繰り出した会心の一撃でも倒せない敵など、いつ以来だろうか。当然反撃を喰らうのも久しぶりだが、そのたった一撃で俺は戦闘不能寸前まで追い込まれてしまった。『保険』の香を使わなかったら、死んでいたかもしれない。慌てた仲魔たちのフォローが入り、一息つけると思ったのも束の間。妙に甲高く裏返った声での警告が飛んできた。

『上から来るぞ! 気をつけろ!』

 異常に強い邪鬼の相手だけで手一杯だってのに。そう思っていたのだが。




 体が固まる。
 邪鬼相手に致命的な隙をさらしているとわかっていて、それでもなお身動きが取れなくなる。
 頭上にやってきた、ナニカ。視線を向けることすら出来ない。

『退くんだ!!』

 アイツの一喝に硬直を解かれ、俺は背中を見せて一目散に逃げ出す。全身が苦痛の訴えで大合唱しているが、その全てに耳を塞いでただ逃げる。情けない。狭い通路を壁にぶつかりながら無様に駆け抜け、遠く戦場から離れて眺めたソレは、やはり圧倒的だった。人類種の天敵・邪龍ワイアーム。その中でも最強の個体とアイツが評したその暴威。


 幾千年もの時を経たであろう体躯。
 色を為して目に映ると錯覚するほどの凶暴さ、その奥深くに秘められた狡知。
 他者を圧迫、威圧する存在感。そしてそれらを接近するまで隠し通した技巧。

 アレはダメだ。
 俺の最高の一撃でも沈められず、翼の一打ちで確実に俺は殺される。
 勝ちを拾うイメージは全く浮かばず、潰れた肉塊になっている自分の姿ばかりが頭の中を塗りつぶす。
 
 痛みと恐怖で頭の中がグチャグチャになる。指揮どころではない。奴の視線に、逃れることのできない死の予感に、指の先まで絡め取られてしまう。
 他の人間も例外なく動けないでいる。


 全滅、そんな単語が俺の脳裏をかすめる。そんな中、ジリジリと後退しながらも、女神が決死の足止めで邪龍に金縛りをかけることに成功。
 間髪入れずに、女魔がもの凄い勢いで邪龍を削りだす。どちらも邪鬼の斬撃を背中に受けるが、お構い無しだ。
 驚いたことに、どうやらアイツが直接指揮を執っているらしい。確かに悪魔はアイツと意思疎通できるが、こんなことは初めてだ。


 己の不甲斐なさを糧に、心を奮い立たせる。
 「痛みに対する耐性」など、死なないとわかりきった生温い状況だからこそ言えた事。
 筋力が神を凌駕した、少し賢くなった、と褒められて俺はまた調子に乗っていたようだ。
 同じ過ちを繰り返す、己の成長の無さに反吐が出る。

 俺は弱い。俺は臆病だ。
 まずはそれを認めよう。
 だけどそれを言い訳に投げ出すことだけは、絶対にしない。


『待ってたよ。』

 その声に込められているのは信頼。

「すまない。」

 身を挺して俺達を守ってくれた女神と女魔。
 そしてかけがえの無い相棒に感謝しつつ、震えるこの手に剣を取る。


 そんな俺の姿を見たメフィストが、アルカイックスマイルを浮かべながら魔法を放った。
 放たれた衝撃は狙い過たず翼を撃ち、あの邪知暴虐の象徴のようなワイアームが明らかに怯む。

 行ける。
 仲間の力を借りれば、例え有史以来生き続ける古龍が相手でも勝つことができる。
 最後のトドメを刺すべく、俺はワイアームに突進して行った。







『お疲れ。』
「比喩じゃなく死ぬかと思った。」

 俺の一撃で胴を両断されたワイアームは、それでも聞く者の心胆を寒からしめるような断末魔の咆哮をあげた。間近で受けた俺にとっては、まさに魂を砕かれかねないような衝撃だった。『龍の咆哮は人間の精神に干渉するから無理も無い』とのことだが、できればそう言う事は早く言ってくれ。
 メフィストの放った魔法「マハザンマ」に巻き込まれて大ダメージを負っていたベイコクは、女神が子守唄で足止め。回復しながら一匹ずつ順に片付けて事無きを得た。今だからこそ言えるが、冷静に闘っていればここまで崩されることはなかったはずだ。パニックの恐ろしさを改めて実感した。
 次同じ連中とやったらもっと上手く闘えるだろうが、正直二度とやりあいたくない手合いだ。

『そんなキミに残念なお知らせ。』

 ああ、あれか。さっきのアレが悪いのか。
 コイツ風に言えば『フラグ立てちゃった』ってやつか。

『あのワイアーム、まだ二匹居るよ。まだちょっとだけ続くのじゃ。』
「オマエ、アイツが『最強の個体だ』っつってたろうが!」
『最強、すなわち強さを限界まで極め尽くした邪龍の事さ。そういうのが複数居るって話。お気の毒だけどね。』

 幸い使用した特技「金縛り」はすぐに回復するだろう。更に「リバイバル」を習得済みだ。勝ち目は十分にある。だが、もう一押し。勝ちを確実なものにする、決定的な何かがあれば……。


『何かメフィストが「汝の資質は見極めた、力を貸そう」とか言ってるよ? 激しく今さらだし、生意気だよね。何あのアルカイックどや顔。ホント腹立たしい。』
「オイィィィィ! 何言っちゃってんのキミ! 大歓迎ですよ?!」

 メフィストの力を借りられるなら大分状況が変わってくる。
 衝撃系魔法「マハザンマ」も勿論だが、本当に大きいのは状態異常魔法「シバブー」だ。
 ベイコクの攻撃に耐えつつ、これをワイアームに撃てる仲魔が増えるだけで戦術の幅は恐ろしく広がる。

『別にいいじゃん。いらないよ。何か僕とキャラかぶるし。』

 いや、キャラかぶってないし。
 メフィストは気取った振る舞いが様になる。
 だがオマエは気取った振る舞いをしても、所々で地が出ているだろう。
 言ったら怒りそうだから言わないが。
 

 何はともあれ、右翼のワイアーム二匹に向けて進軍を開始。もう要領はわかったでしょとばかりに、例の露出衣装に着替えさせられる。それにしても「リバイバル」は本当に反則だ。「金縛り」「ワンスモア」などの準反則級の特技を、移動中にパッと回復してしまう。それが今後ドンドン増えるのだ。戦乙女を多数従えると言うオーディンもこんな気分なんだろうか。
 トモハル達は奥に引きこもっている龍王の部屋で祭の真っ最中。何やら「妖獣ランダ」が部屋の入り口でウロチョロしてたので、俺が右翼へ行くついでに葬っておく。 既にバンシーが特技を覚えていた。バンシーの特技「セクシーダンス」は超強力特技。龍王の鼻先を通るときに、二匹いっぺんにバインドしてもらう。

 満月で特技が回復する頃には、右翼のワイアーム二匹も倒し終えていた。もはや欲張りさえしなければ安全に勝てる相手だ。目一杯欲張ったが。【ハヤトロギア】の使いすぎで、アイツはもうヘロヘロだそうだ。

『何と言う無駄な頑張りだ。』
「何なら後は任せとけ。」

 ちなみに二匹のワイアームが、それぞれレアアイテム「バチョウのにしき」と「きよまさえぼし」をドロップ。まさかの三国志に、加藤清正の兜か何かか。全く脈絡の無い落し物だ。
 二度の死線を踏み越えて、ようやく辿り着いた魔王の足元。ワイアームに比べれば、全く脅威を感じない相手だ。いかん、いかん。油断して良い相手ではない。

『ここに魔王祭の開催を宣言します。』
「またか。」

 どう考えても油断満載の口調でアイツが言う。
 仲魔達に一斉攻撃を仕掛けさせるものの、魔王の防御を決定的に崩すようなことはしない。フレイが、オキュペテーが、メフィストが。魔王を倒してしまわぬよう、手加減をしながら間断なく攻撃を加える。反撃で傷ついたらすかさず女神の回復が入る。
 暇だ暇すぎる。オーバーキル確定の俺は参加を禁止され、指をくわえて眺めるのみ。アイツがいつか言っていた。『浪漫の代償』だっけか。使うのを忘れていた香の類を、チマチマ消費してみる。
 暫く攻防が続き、こちらのダメージが魔力回復アイテムの消費と言う形で蓄積してきた。魔王が嘲るような、余裕の笑みを浮かべている。

「何か勘違いしてやがるな。」
『僕達のバトルフェイズはまだ開始してもいないのに。』

 腕を振り回し、魔法を放ち、高笑い。まさに得意の絶頂と言ったところだ。俺達を嬲り殺しにしようとでも考えているのかもしれない。
 メフィスト・オキュペテー・フレイが順に特技を覚えた。龍王組もケルベロス以外全員特技を習得したそうだ。特技を覚えた仲魔は順番にCOMPに戻しており、残っているのは俺と女神達のみ。魔王が勝ち誇るようにして、こちらを睥睨する。


『獲物を前に舌なめずり。三流のすることだな。』
「人間をなめるなよ、化け物め。」


 今宵は満月。
 アイツ曰く『世界の境界が揺らぐ時』。
 頃合と見た俺は、ベレッタを構え集中する。
 俺の上腕二等筋が光を纏い、ただのベレッタが光を放ち、その青い光が徐々に銃口に凝集する様を幻視した。
 
『その輝きは豪華絢爛。』
「これで、終わりだ!」

 俺の意に従い銃口から放たれた光は、気付けば既に魔王の体を貫通して、人ひとりが通れるほどの大穴を空けていた。

 クリティカル。
 体に染み付いた行動で、既に二撃目の為の再装填を始めようとしていた俺は、余りの光景と呆気なさにしばし固まる。ボロボロと崩れ去っていく魔王の体を見て、三姉妹も心なしかポカンとしているように思えた。 

『人類の叡智の勝利だね。』
「いやでも、モノはベレッタのはずなんだがなぁ。」
『極限まで鍛え上げられた意志と筋力は、宇宙の法則さえも捻じ曲げる。』
「さすがに鉄板くらいしか捻じ曲げられないぞ。」 


chapter 35 CENTRAL PASSAGE     ~ True to life ~

・コノハナサクヤ×サラマンダー→女神シラヤマヒメ
・エルフ×(プルシキ×ファントム)→女神コノハナサクヤ

「なあ、やっぱりアメノウズメ作らないか? サラマンダー使わなくていいから。」
『さては姫の龍王叩きで味をしめたね。僕もそうしたいところだけど、特技覚えたら絶っ対進化させたくなるよ。』
「いいや、限界だ。やるぞッ。」

・ブッカブー×(トゥルダク×スライム)→女神アメノウズメ

『貴重なワンスモアの材料が……。』
「前から思っていたけど、お前結構不敬だよな。」
『敬意は払っているよ。ただ使いどころを間違えない様にしているだけさ。』
「それって敬意なのか。」

・ナーガ×(フェニックス×フェニックス)→龍王イツァム・ナー(ポイズンブレス)
・ディルムッド×(フリアイ×フリアイ)→幻魔ディアドラ(イービルアイズ)


「しかし何だな。主力は豪華になっていくが、合体につかえる仲魔がすっからかんだな。」
『仕方のないことさ。合体道を往くものなら誰もが直面する困難だ。今後は未成熟な体を狙ってのナンパ&合体が、より一層重要な意味を持つよ。』
「そういや魔王バエルが、『この世界が自分達だけのものだなどと思い上がるな』と言っていたよな。『もうすぐパラノイアとアクシズの統合がかなう』とか。」
『……すぐにわかるさ。』

 コイツの口癖である『追々』ではなく、『すぐに』か。
 評議会ビルに突入。オギワラの推測どおり、統合作戦本部長官は既にここには居ないようだ。僅かでも手がかりを探すため、「国家機密情報管理室」を目指す。通路に居並ぶガードマシン達。近接・物理には強いようだが、それだけだ。一気に蹴散らして、データ管理室に辿り着いた。

「プロテクトを外してっと。」
『いや、おかしいでしょ。ありえないでしょ。国家機密のプロテクトで、50年後のシステムだよ?』
「ほら、俺科学者の息子だし。それに大学院生だから。」
『いやいや、ツールも無しにどんだけスーパークラッカーなのさ。』

 アイツが何かわめいているようだが、俺は気にせず情報を検索する。


**** 

<nemesis>:
超時間転移装置・FASSの通称。
旧防衛庁科学技術研究局で国家プロジェクトとして、1978年よりスタート。

コードネーム:
SPIRAL-NEMESIS
八神博士、武内博士をプロジェクトリーダーとして研究は進められたが、2020年の大暴動により中止される。
2026年の最高評議会の設置にともない、評議会の指揮下において、再研究が始まる。2043年に完成。

****


 これがアイツの言っていた『SPIRAL-NEMESIS』か。あの八神博士も関っていたとは。
 とは言え、殆どが既知の情報だ。何かもっと他に手がかりになるものはないか。


****

軍事機密:<DIO>
<nemesis>開発段階において、1995年に武内博士によって発見されるが、同年中に博士は事故死。
メインプログラムは事故により消失。やむを得ず<DIO>の研究は打ち切られる。

2022年、首都治安維持軍によって、再開発始まる。2024年に完成。
治安維持を名目に、実験段階の試作品を使用。制御ミスによりアクマが街中にあふれる。
1民間人の手により、奇跡的に事態は収められる。のち、研究は封印。

<nemesis>の完成にともない、2022年当時の資料が入手可能になったため、最高評議会サイドでの開発が再開される。
パラノイア側の代表者たるベルゼブブとのコンタクトに、ベイツの協力を得て成功し、以後政治的密約が結ばれる。

****


 ……これだ。
 「DIO」、「パラノイア」、そして「ベイツ」。
 おぼろげながら、今回の事態の輪郭が見えてきた。
 <nemesis>に端を発する運命の螺旋が。

「この『パラノイア』ってのは、多分悪魔の世界を指しているんだよな。」
『そう。そしてさっきバエルが言っていた「アクシズ」とは人間界のことだよ。ついでに言えば、天界である「アムネジア」とあわせて「トライアド」と呼ぶこともある。』

 コイツが以前から『三界』と言っていたのは、仏教のそれではなく、文字通りの意味だったと言うわけか。
 俄かには信じがたいが、色々と筋が通る。

「ベイツが何か目的を持って色々引っ掻き回したことが今回の混乱の原因か。」
『違う。ベイツの行動は、2024年の事件が遠因だ。』
「とてもそうとは思えないが。俺たちとオギワラをぶつけ合ったり、最高評議会を煽ったり。アクシズの混乱を加速させることしかしてないじゃないか。」
『その認識は正しい。そこら辺の事情は本人に直接問いただすと良いよ。』

 その言葉に疑問を抱くのとほぼ同時。俺は、後方に気配を感じて振り向く。
 
 ベイツだ。
 新宿で追いかけてきた時と変わらぬ姿のままの。
 トモハルはどうもベイツに操られていたらしい。殺気立つトモハルをおさえて、奴の狙いを直接問いただすことにする。

 評議会にDIOを渡して、メガロポリスの混乱を加速。
 混乱を収拾しようと動き出したオギワラにDIOを供与。
 オギワラに付き従ってきた新宿で、DIOを持っていた俺を捕縛するも無傷で池袋まで逃す。
 オギワラを2024年に連れて行き、未熟な俺たちとの対決を回避させる。

 そして今。
 驚いたことにベイツは、アムネジアの住人「熾天使カマエル」だというのだ。
 カマエルの話を聞いた、俺達の意見は一つだった。


「うさんくせえ。」

 DIOを過度に使用したことが原因で三界のバランスが崩れつつあるらしい。その事態を解決するため、俺達を異世界へいざなうと言うのだ。
 だが、カマエルのやったことはバランスの崩壊を更に進めることでしかない。しかも、カマエルはアムネジアの住人らしいが、評議会の前に現れた時はパラノイアの代表としてだった。言葉と行動とが何一つかみ合っていない上、結局何がやりたいのか分からない。

『とは言え、まるっきり嘘を言っているわけでもないのさ。アムネジアの住人であると同時に、パラノイアのためにも働いている。』
「最終的な目的は、『パラノイアとアクシズの統合』ってやつなんだろ。」
『それは一方では正しい。』

 回りくどい。だが少しずつ核心に近づいているはずだ。
 
「つまりもう一方があるわけだな。」
『恐らくベルゼブブの狙いは、バランスの崩壊を進めてアクシズを直接支配すること。だとすると、カマエルを遣わして不確定要素である君達を、わざわざ己のもとに招待する理由はないはずだ。』 

 確かに。

「二重スパイ?」
『その可能性はあるだろうね。アムネジアとパラノイア、更にはそこを支配している4人の「代行者」と呼ばれる存在ですら、一枚岩であるとは限らない。』
「だが、そうすると俺達をアムネジアに送る理由は何だ? 事態の解決だけならベルゼブブを他の代行者とやらが袋叩きにすればいいだけだろ。」
『審判。』
「何だって?」
『予定の日、怒りの日、ハルマゲドン。呼ばれ方や解釈は色々あるけれど、キリスト教をはじめ多くの宗教で語られる、世界の終わり。恐らく君達を見て、この世界の行く末を決めるつもりなのではないかな。』
「……冗談じゃない。そんなわけのわからない奴らに、俺たちの未来を決められてたまるか。人間は連中の奴隷じゃない。自分で自分の生き様を決めることくらい出来る。」
『その思いの丈を代行者連中にぶつけてやると良い。或いはカマエルの願いもそれだったのかも知れないよ。』


 長い時間をかけて俺たちの成長を促し、今まさに俺たちを代行者のもとへ導かんとするカマエル。奴の思惑通りに動くのは業腹だが、事態の全貌を知ってしまった今、後戻りは出来ない。オギワラがたった一人で戦う決意をしたときも、こんな気持ちだったのだろうか。

 時間移動に始まり、まさか世界間移動まで経験する事になるとは。
 思えば遠くに来たものだ。




[22653] AMNESIA      ~ The unsung war ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/19 18:31
 熾天使カマエルの導きによって、アムネジアに到着した。
 と言っても、直ぐに代行者に会える訳ではない。何やら「アムネジアの事を良く知るため」代行者に直接会わせず、彼方此方をウロウロさせると言う事らしい。

『ちなみに、カマエルが熾天使かどうかは微妙だよ。』
「アムネジアの住人じゃないのか?」
『ベルゼブブの手先として働いていたわけだし、そもそも堕天使とする解釈もある。』

 何でも『CHAOS-DARK』が、どうとかこうとか。
 アイツの薀蓄は置いておいて、周囲を見渡す。まっさらな白い平原に、所々ポツポツと妙なオブジェが置いてあるだけ。


「何か寒々しい世界だな。」
『ここの住人達は「精神的に成熟している」らしいからね。飾り気とか必要としないんだろうさ。』

 微かな嘲りが混じった物言い。何か思うところでもあるのだろうか。

「注意すべきところはあるか?」
『一つあげるなら、ただ突破するのではなく、思いっきり力を見せ付けて突破するということかな。』
「どういうことだ?」
『ここの連中は基本やる気がない。』

 そうなのか?

『で、そんな連中に力を見せ付けてやれば、何か勝手に貢物を持ってくるという寸法さ。』
「何その超ひも理論。」

 多分面倒になったんだろう。途中の説明を全部端折った感じがする。
 説明好きのコイツが説明を投げ出すとは。それ程ここの住人を嫌っているのか。
 全く好き嫌いの激しい奴だ。


stage 5 AMNESIA



chapter 36 SABAHS     ~ White field ~

「しかしFASSの開発が1978年から始まっていたとはな。道理でオヤジ達が全く家に寄り付かないわけだ。」
『鍵っ子か。』

 何だろう。ニュアンスが致命的に違っている気がする。

「以前言ってた、『1995年にリミックスステーションがある理由』ってのもこれか。」
『恐らく。時空間に穴を開ける研究だから、過程で異世界の発見があっても不思議じゃない。実際神話の原型も、異界から迷い込んだ存在だと考えると説明がつくしね。DIOが出来たのは確かに偶然なんだろうが、悪魔の存在はきっと以前から想定していたのだろう。実際に発見されたか、理論の上で存在を確信していたかは知らないが。』

 実際に発見されたから利用法を考えたんじゃないのか?

『科学者ってのは、割かし思考実験が好きなんだよ。行き詰ったときの気分転換にもなるしね。理屈さえ合えば実世界と一致してなくとも、その論理体系を発展させたくなるものさ。』
「一体何の役に立つんだよ。」
『役に立つか、立たないかじゃない。役に立てるも立てないも自分次第さ。得てしてそういうものこそが、実は世界の本質に迫っていると後でわかったりもするんだ。電子計算機ができる前から計算機械用のプログラムが存在していたことは、キミもPC扱う人間なら知っているだろう。』
「俺は実践偏重なの。ひょっとして論理演算の事か? 微妙に違う気もするが、それならわかるけど。」

 いつにも増して饒舌だ。何かあるのだろうか。
 とりあえずここから離れようとすると、天使の群れに囲まれた。随分と好戦的な様子の天使である。何か統率者らしい天使が「よくきたな、我がアムネジアへ」とか言って挑発してきた。自分たちの親玉である代行者に会う資格があるかどうか、確かめようと言うことらしい。何とも意味の無い戦闘だ。多少ゲンナリしながら戦闘準備を整える。一方アイツはかなり気合が入ってる様子だ。

「さっきから妙に気合入ってるな。何かあるのか。」
『アムネジアとパラノイアは、妖精さん達が存分に腕を揮える闘いの場所なんだ。』

 なんだろう。人間界では力が五分の一に制限されるとかの、ありきたりな設定があるのだろうか。コイツが説明しないと言うことは、深く考えるだけ馬鹿を見る内容である可能性が高い。というか、『聞いてくれ』オーラをそこはかとなく感じるが、敢えて無視する。

 弱い天使が一杯いる。一匹キャッチして、同族会話で勧誘するのがベストだろう。アイツが言うには『ライト悪魔だから人間じゃ会話できない』らしいが、正直納得できない。女神ーズとケルベロスを残して、他をサブファイルへ移動。ブリュンヒルドは例によって対空火力が強すぎるので自重。最前線にイシュタル、両翼に姫とケロちゃん、後方に残りを召喚。
 まずは目の前で勝手に立ち往生しているキリン二匹を掃除する。それぞれ俺とサクヤ姫V4でトドメ。陣形を整えて、天使たちの襲撃に備えようとしていると声がかかった。


『キミは更に一人先行して、奥にいる二匹の龍王を片付けよう。』
「随分気が早いな。ってか新米女神二人に叩かせたかったんだが。」
『気持ちはわかるけどね。あいつら積極的に動いてこっちを狙ってくるんだ。』

 確かにこの足場の悪い戦場では、相当面倒くさいことになりそうだ。
 アイツの言葉に従って、回避特化型装備に身を固め、ワンスモアによる加速を受けつつ龍王を屠る。その後、霊鳥と天使混成軍団がこちらに向けて突っ込んでくるのは予想通りだったのだが。

「こ、これはキツイな。」
『頑張って回避だ。』

 右手奥から飛来する「天使パワー」の、強力な雷撃魔法「ジオンガ」による集中攻撃を受ける。相手の指先からほとばしる雷撃を必死の思いでかわそうとするも、失敗。一応二発までは耐えられたが、最後「天使プリンシパリティ」の爆発魔法「ギガオン」が当たっていたら危なかった。何はともあれ、位置取りに注意して左翼の天使集団の間合いに入らないようにしていたのが勝因か。さらに奥にいる二匹の龍王まで動いていたら、確実に俺は死んでいただろう。


「最後の『ギガオン』、明らかに【ハヤトロギア】使ったろ。我ながら人間の動きじゃなかった。」
『よくわかったね。確かにちょっと無茶だったか。』
「もうちょいゆっくり進軍すれば、こんな無茶する必要なかったんじゃないか。」
『それは全く正論なんだけどね。ここは時間制限があるんだ。』
「さっき言ってた『力を見せつけて勝つ』ってやつか。」
『その通り。多少無茶でも早く到達すれば、その分大きな見返りもあるよ。』

 ならば楽しみにしておくか。
 相手天使の攻撃を捌ききり、俺を囲んでいる天使を数えると、強弱織り交ぜ何と12匹。広いはずの平原が天使で埋め尽くされて、文字通り抜ける隙間も無い。

「何か萎えるな。」
『言ってる場合じゃないと思うけどね。』

 天使パワーをマインドキャッチ。オギワラが即召喚。俺は単独で、ケルベロスはサポートを受けながらクリティカルで、それぞれパワーを一匹ずつ片付ける。本当はサクヤ姫でも倒したかったが、火力不足で一匹撃ち漏らした。やっぱりヒルド入れておくべきだったか。仕方が無いので駄目もとで試みたウズメの「シバブー」が成功。運よくバインドすることが出来た。ウズメグッジョブ。


『ヴぁー。疲れた。』
「ああ、やっぱまたやってたのか。」
『うーん、ちょっと欲張りすぎたと言うか、望んだ結果に繋がってないと言うか。有り体に言うと、天使たちのドロップ狙うはずが、全く関係のない所でMP使い果たすハメに。』
「まあ、何だ。無理はするなよ。」

 天使の処理にまごついている間に、前方から霊鳥フェニックスが4匹突っ込んできた。しんどい。天使が逆に壁になっているから助かっているものの、女神達がむき出しになった瞬間やられかねない。
 仲魔の天使パワーはエンジェルを勧誘。次はプリンシパリティを勧誘させる予定。片付けられるフェニックスを、なるたけ片付ける。敵パワーはバインドが解ける直前に倒せば良いだろう。 
 プリンシパリティとエンジェルを合体させてノームをつくり、更にパワーがプリンを再勧誘。いつものパターンだ。高レベルの鳥・天使の処理にも目途が付いたので、俺は一人奥へ進み、ナーガを勧誘。リバイバルで復活した、イシュタルのワンスモアを受けて、敵拠点に迫る。

「時間制限あるって言ってたけど、今どのくらい?」
『約半分だね。かなり頑張った。』

 意外と制限時間が短いな。認識を改めなくてはいけないかもしれない。
 護衛らしき妖獣ランダが二匹いる。俺は銃撃、イシュタルはキャッチ。張り合いが無い。
 

『そんなキミに朗報です。』
「ん?」
『今までキミはその有り余る筋力で祭に参加できませんでした。でも今回の敵「熾天使ラグエル」は、飛行タイプ。キミのビンタを二発受けてもギリギリ沈まない、超強力な悪魔です。』
「ってことは、俺も祭りに参加できるのか?!」
『その通り。もっとも他の連中は参加できないから、一人でお祭り状態になるけどね。』
「オマエ、実は俺の事嫌いだろ。」

 熾天使ラグエルを殺さぬように、適当に休ませながらビンタを加えているうちに、訪れる満月。


『そろそろ頃合だ。ケリをつけよう。』
「了解。」

 復活したワンスモアを背景に、適当に行動。「私を乗り越えていくがいい」とか捨て台詞を残してラグエルは消え去った。後に残っていたのは、杖「しでんのムチ」。毎回思うけど、これ杖か?

『ビューグル持ってるんだけどなぁ。』
「それがどうしたんだよ。」
『状況によっては、あの碌でなしの杖マニアが、ビューグルに釣られて仲魔になったりする。』
「ああ、前に言ってた if の話か。」


 サバスの熾天使を突破して、ここから移動しようとしていたら、アムネジアの住人がやってきた。「キミ達にはこれを使う資格がある」とか言って、斧「ムフウエセ」を押し付けられる。獣特効と言う効果もさることながら、バトルハンマー同様命中が上がる事こそがこの斧の真の価値らしい。

『基本他人任せで、強いものには媚びへつらう。』
「そう言うなよ。俺たちにとっては有り難い話じゃないか。」

 彼の話によると、やはり4人の代行者は対立しているようだ。
 カマエルが俺たちを呼んだのも、代行者の内の誰かの意思らしい。
 言いたいことを言い終えたのか、こちらの話には全く耳を貸さずに立ち去る。
 なるほど。


chapter 37 SVEHAKIM     ~ Origin ~

 アムネジアのアイテムショップ。
 店員さんは金髪ロングに白いワンピースの、如何にも天使といった風情だ。
 さすがに例のオヤジも世界の壁を越えてくることは出来なかったらしい。
 ちょっと期待していたのだが。

『とりあえず全部5つずつ。』
「ちょっと待て。」
『どしたの。全部買っちゃおうよ。』
「うちの家計はとっくに燃え尽きてんだよ。」

 どれもこれも妙に単価が高い。いつもの如く「上から全部持ってきて」的な買い方をしたとしよう。途中で金が尽きること請け合いだ。
 それはそうと。

「妙にテンション低いな。ほら、店員さんパッと見美人だぞ。『神の子らよ、何が望みですか?』とか言っちゃってるぞ。いつもみたいに『しゃぶれよ』とか、『マジ天使ちゃん』とか口走らないのか。」
『キミは僕を一体なんだと思っているのか。』

 このスケベ妖精が美人を見てテンション上げないなど異常事態だろう。
 可愛い系が趣味のコイツにとっては、ちょっとガタイが良すぎるのかも知れないが。


『まあいいや。じゃあ槍は二つで、残りの武器はトータル所持数が三つずつになるように。新しい防具は全部一個ずつ買って、残った金は「パンツァーグラブ」に。』
「わかった。」

 一文無しにはなるが、人生妥協も大事だ。指示された武具を購入して行く。








 ……コイツのテンションが上がらない理由がわかった。
 このパッと見美人、中身は例のオッサンだ。

 こっちが金を払う段になると、途端に目がぎらついて地が出てくる。
 「何を買う?」とか「これでいいのか?」とか、非常に低いイイ声で聞いてくる。
 最後店を出るとき、「お気をつけて」とか取り繕うように言っていたが、俺はもう騙されない。


 到着したるはシェハキムなる土地。やはりここにも熾天使がいるそうだ。まずは【千里眼】で戦場を観察。4つのエリアに分かれて、それぞれの間を細い一本の道が繋いでいる。最初のエリアには邪龍が山ほど屯している。次のエリアは妖獣が、そして魔法系、最後は鬼族と続く。

「何と言うか……面倒くさい戦闘になりそうだな。」
『まあね。要所要所で道が細く、邪龍もアホ程いるからね。』

 まともに闘えば恐れる相手でもないが、注意が欠けると即死亡だ。他にも勧誘してみたい奴らが結構いる。特に闘鬼ヤクシャ。こっちもヤクシニーを出して例の小細工をするか。見たことのない魔物も沢山いるが、どれもかなり強そうだ。倒すべきか、勧誘すべきか、それが悩ましい。


『今回闘うのは「熾天使ウリエル」。神の炎とも呼ばれる強力な天使だ。世が世なら心強い味方になってくれるんだけどね。もっともウチには炎を苦手とする子はいないから、ラグエルよりは余程闘いやすい相手だよ。キミにとっては誤差と言うか、あまり関係しない話だけど。』
「ふーん。」

 いつもの面子に保険として今回はブリュンヒルドも加える。

「龍王イツァム・ナーはまだ使わないのか?」
『ちょっと格が高すぎるんだよね。きちんと活躍の場は考えてあるから大丈夫だよ。今回はウリエル直前で召喚して、祭に軽く参加するくらいで十分さ。』
「だったら何でサバスで参加しなかったんだよ。」
『理由は色々つけられるけど、端的に言えば忘れてた。』


 例によって今回も時間制限&熾天使のレアドロップがあるらしい。
 適当に合体材料を集めながら進軍するとしよう。

「鬼のトリコロールは一匹ずつ勧誘か。」
『そうだね。まあヤクシニーをメインファイルに入れてる辺り、小細工する気満々ぽいけど。』

 見破られていたか。別にかまわないが。

「邪龍はどうする? 例の『最強』ではないんだよな。」
『普通に戦えば勝てる邪龍だよ。勧誘しても良いよレベルかな。ワイアームとか無駄に数多いし、キャッチを即死技として使っても良いかもね。』
「あとは妖獣と夜魔か。」
『欲しいところだけど、今回はどちらもキミの糧にするよ。』
「成長優先ってことは、俺の力量が足りていないと言うことか。」
『それもないとは言わないけれど、主にメインファイルの空き容量の問題さ。既に予定されている勧誘に地霊と霊鳥付け加えると、ファイルが満杯になるからね。』


 方針は定まった。突撃開始だ。
 まずはオギワラで、隘路をふさいでいる地霊フィルヴォルグを勧誘。それを追い越して俺が前に出る。更にイシュタルのワンスモアで加速して、ポツンと一匹いた霊鳥フェニックスを勧誘。最前線に配置していた女神3体で俺を囲んで、邪龍の攻撃からガードする。
 案の定、邪龍の一撃を喰らって瀕死になる俺。武器を予め外しておいたおかげで、やっつけ負けは避けられた。体に染み付いた動きで、流れるように反撃してしまう自分が怖い。

「道が狭いし、今回侵攻するのは俺とオギワラだけでいいよな。」
『そうだね。カオル達にはゆっくりアイテム回収でも頼むといいよ。もっとも、女神様が片手間でこなす姿しか思い浮かばないけど。』

 ワイアームは特に問題ないのだが、折角なのでマインドキャッチ。ケルベロスでもう一匹屠り、残りは三匹は 俺 feat.ワンスモア で進軍しながら撃墜。邪龍のひしめいていた広間が、一瞬クリアになった。むしろワンスモア feat. 俺か。恐るべし。
 既にこのエリアには動く相手もいないので、一息ついて考える。イシュタル以外の女神はワンスモア使ってしまったため、次のエリアの妖獣相手だとあんまりすることが無い。暇していた女神達がうっかりアイテム回収して、カオル達の仕事が消えてしまった。
 俺は隘路を塞いでいるフィルヴォルグを銃撃して道をこじ開ける。イシュタルは例の如くリバイバルで特技を回復。


「強い妖獣の群れ相手だと不安だし、どうせ次は満月だし。イシュタルは一回お休みか。」
『手透きなど生まれてこの方経験したことがなかったからね。休みの使い方がわからず、何かやりたそうにうずうずしてるよ。』

 まるでワーカホリックのお父さんだ。育て方を間違ってしまったか。
 そのまま俺は、妖獣が屯する広間に銃を構えて単騎で飛び込む。間髪いれずに殺到してくる妖獣ランダと冥界の番犬「妖獣ガルム」を何とか捌く。パッと見、黒猫みたいなのに結構強い。走って、転んで、既に満身創痍だ。反撃で妖獣を一層し終えたタイミングで、アメノウズメが飛んできて癒してくれた。前衛冥利に尽きるって奴なのか。
 やはり一瞬でクリアになった第二の広間をテクテク進む。暇をもてあました女神達が遊ぶように俺の周りを飛び回る。そして、やはり暇をもてあましていたらしいイシュタルが無駄ワンスモア。一気に奥に到達し、やはり第三の広間への道を塞いでいたヴォルグを一瞬で屠る。オギワラやヒルドが全くついてきていない。


「第三の部屋は魔法ゾーンか。」
『妖精王ティターニアに、淫魔サキュバス。どっちも美人だけどサキュバスの方は、今回は泣く泣く糧にするよ。』

 私情入りまくり。大体正確には「妖精ティターニア」に「夜魔サキュバス」のはずだ。
 フィルヴォルグを屠った直後の隙に、ティターニアの魔法攻撃を喰らう。さすがの威力だ。 例の如く女神に回復してもらい、一匹をイシュタルでマインドキャッチ。本来オギワラの仕事なのだが、一人で先行しすぎたツケが回ってきたか。もう一匹の妖精は俺が仕留めた。サクヤ姫に回したかったが、ちょっと火力不足。早くワンスモア覚えないかな。
 その後もこれと言った事件はなく。ファイルが一杯になりそうだったので、宝を守るバンシーをスルーしたことと、小細工成功したくらいか。妖鬼シュテンドウジも空き容量が足りなくて、結局勧誘を諦めた。ヒルドはやはり必要なかったか。そんな感じで、ウリエルの眼前まで順調に歩みを進めた。



『しかしウリエルさんが弱い。』
「拠点の上で補給しながら戦ってるはずなのにな。こちらから回復魔法掛けてあげたくなるくらい弱い。」

 しかも直ぐに魔力切れを起こして、隣接している俺に無謀にも格闘戦を挑んでくる。反撃で殺してしまわぬように、俺は行ったり来たりを繰り返す必要があり、無駄に忙しい。ちなみにケルベロスがバンシーを倒して、ついに特技を習得したそうだ。目出度い。
 姫とウズメとイツァムが加わった祭を、アイツの指示で渋々切り上げる。初めて俺が皆と一緒に参加した祭らしい祭。とっても楽しかった……。


 ちなみにボコったウリエルは「もうどっか行ってくれ」と投げやりな感じ。短剣「ドライクロイツ」をくれた。アイツに言わせるとあんまり使いどころが無いらしい。更には例によって、アムネジアの住人から貢ぎ物ゲット。アスラ神の幻力を宿した対鬼族特効の短剣「アスランマーヤー」。ドライクロイツと大差ないらしい。

『急かしておいてあれだけど、基本的にアムネジアの貢物はしょぼいのばっかりさ。』
「なんだよ。やる気を削ぐような事言うなよ。」
『例外は命中の上がる斧・ムフウエセと、次に手に入る「てんてい」防具シリーズかな。』

 てんてい。どんな意味なのだろうか。

『正しくは「天帝」。簡単に言えば神様みたいなものだね。妖精さん界で現在「天帝」と言えるのは、「蒼き天帝」くらいかな。』
「凄いカッコイイ名前だな。」
『でしょ。一部信奉者からは、愛と親しみを込めて「うめてんてー」と呼ばれているよ。』
「うめてんてー?」

 随分かわいらしい呼び方だ。

「楽しみだな。どんな性能なんだ?」
『一式揃えると、装備者の筋力をあり得ないほど強化する。』

 何、筋力とな?


『テンション上がりかけてるところ悪いけど、キミの筋力は既に神を含めて全ての生物の限界に達している。てんてーの力をもってしても、その壁を越えることは不可能だよ。』
「うわぁ、ここ最近で一番の肩透かしだ。」
『そうは言っても、キミ以外にとっては破格の防具さ。しかも、各部位小分けに装備しても効果は得られるため、削りのための火力調整が凄く楽になるんだ。』

 それは確かに凄いな。祭がより一層楽しくなることだろう。俺以外。


chapter 38 MAHONG     ~ Illusion night ~

 俺たちはシェハキムを抜けて、リミックスステーションに来ていた。

『随分考え込んでいるようだね。さっきのオギワラとのやりとりかい?』
「まあな。」

 俺たちの世界から異世界勢力を排除するため、この地の住人を巻き込んで戦う。これでは俺たちは、俺たちが排除しようとしている「異世界勢力」そのものではないか。そんな事をオギワラと話した。

『オギワラが言うように、そして僕も以前言ったことだが、ある程度の割り切りは必要だよ。理想を掲げるのは尊いことだが、理想を掲げる自分に満足して何もしないのは唾棄すべき輩だ。』

 確かにオギワラの言った事は説得力があった。大人の意見という奴だろう。
 ただ、そういうことじゃないんだ。まるで子供だとは思うが、自分の望む答えが見つからない。
 かと言って投げだして良いわけでもない。やりきれない思いを抱えながら進んでいく。
 オギワラもこんな気持ちでいるのだろうか。


・フレイ×(フィルヴォルグ×フィルヴォルグ)→魔神トール(ヘルライトニング)

『北欧神話最強の雷神がついに。』
「フィルヴォルグ使いすぎたんじゃねぇの。どうみてもハンマー持ってるフィルヴォルグだぞ。」
『相変わらず無粋だね。ちなみに足があんまり速いほうではなく、複数攻撃も持ってない。結構成長しにくいので、効率よくトドメを刺させて促成栽培しよう。』
「何か女神に比べるとパッとしないな。」
『なんて罰当たりな。』


・ディアドラ×ノーム(セクシー持ち)→幻魔クーフーリン

 ディアドラと、セクシーダンスを引き継いだノームを合体。「クーフーリン」。俺でも名前を知っているくらいの、伝説の大英雄だ。

「強そうだな。」
『強いよ。フーリー以来幻魔の技と魂を受け継いできた最終進化形だ。』
「あれ、高位にもう一体いたような。」
『そこはお察しください。』

 何かに触れるらしい。

『幻魔の宿命として活躍させにくいけど、彼とは相当長い付き合いになるからね。慌てずじっくり育てていくことにしよう。』

 嬉しい限りだ。
 今後の事を考えながら、「マホン」と呼ばれる土地に到着。「ラキア」という土地への道も拓けていたが、件の天帝装備を得るためにこちらを優先したらしい。


『ここは中位天使がわらわら出てくるよ。』
「中位天使?」
『セラフやケルプの下位、エンジェルやアークエンジェルの上位に当たる天使たち。キリスト教で言うところの、「父と子と精霊と」の「子」に当たる連中さ。今COMPにいる天使パワーもそこに該当する。もっとも後世の学者による勝手なカテゴライズだけどね。』
「強いのか。」
『そこそこね。逆に言えば良いカモだ。』

 むしろ低位の天使をしっかり勧誘することを考えた方がいいかもしれない。


「やっぱり熾天使もいるんだよな。」
『「熾天使サリエル」。即死魔法を使ってくる嫌らしい相手だ。命中率は低いが、一発でも当たったらおしまいだからね。』
「なるほどな。確かに不吉な格好してるよな。天使というより死神だ。」
『色々解釈はあるみたいだけど、死を司る天使ってのは伊達じゃなさそうだね。』
「まあどうせ動かないんだから、効果範囲に入らなければいいだけの話だ。まさかって時には頼りにしてるぞ、相棒。」
『そんな事態がこないことを祈るよ、相棒。』


 正面近いところにアークエンジェル4匹。
 正面奥左手にプリンシパリティ4匹 with ジェネレータ。
 正面奥右手にパワー4匹 with ジェネレータ。
 左右にティターニア4匹ずつ。
 右手最奥に熾天使と護衛の「天使ヴァーチャー」4匹。

 何かきれいに揃ってる。「4」って天界でも特別な数字なのだろうか。ひとまず雑魚は本隊に任せてしまおう。あとは『臨機応変』に。
 女神ファイブを召喚。ヴリュンヒルドはまだ自重。クーフー・イツァム・トールは熾天使近くで召喚予定。

『ここは全員勧誘するよ。むしろ小細工でノーム一体作っちゃおう。』
「メインファイルの空き6体しかないけど、平気なのか?」
『イケる、イケる。』

 まずは手近な天使アークエンジェルをイシュタルがキャッチ。
 即召喚し、次の接敵ではアークも勧誘を仕掛けられるようにしておく。

「まるでねずみ講だな。」
『参加可能人数が5体だから一瞬で破綻するけどね。』
「まあ破綻というか、全員勧誘が目的だから問題はないが。」

 相手の攻勢を適当にいなして、進撃再開。俺はアークエンジェルを銃撃しつつ右奥へ進み、イシュタル・サラス・白山姫のワンスモアで加速。きっちりティターニア3匹を巻き込みながら、一瞬でサリエルの直前まで到達した。
 一方置き去りにしたアークエンジェル2匹は、結局ウズメとサクヤ姫が片付けたらしい。無駄にしたとは思わないが、トール辺りに回すべきだったかと言う思いが過ぎる。
 敵陣真っ只中に単身斬り込んで、足が止まった俺だったが、誰にも相手にされなかった。護衛のヴァーチャーズに集られることを覚悟していたのだが拍子抜けだ。時間制限の3分の1にも達していないらしいが、できることが多すぎて迷う。
 とりあえずアイツの助言に従って、回避重視装備に身を固める。サリエルに隣接しながら、護衛のヴァーチャーズにアタックナイフで攻撃。サリエルからの攻撃がきついのではないかと心配だが、『むしろそれが狙い』らしい。左手から寄ってきているティターニアと、右手から飛んでくるパワーを危なげなく勧誘。寄ってきているもう一匹のティターニアを姫で屠る。
 もとからいる連中は、大体がこちらの拠点を目指す「剛胆」タイプ。ジェネレータ由来の連中は、予想通りとにかく手近な相手に突っかける「猪突」タイプ。大体相手の傾向がつかめてきた。本隊もジェネレータ目指して前進するようにしよう。

 取り立てて事件もなく。俺はサリエルを倒してしまわないように、ちょいちょい休憩を入れながら削っていた。クーフーリンはともかく、トールにイツァム・ナーまで参加するとなると、結構無理があったっぽい。トールをCOMPに戻し、本隊にトドメ役として派遣。なんとも段取りの悪いことだ。休憩がてら、勧誘した天使達が次々相手天使を引き込む様子を【千里眼】で観戦。


『ゾンビが際限なく増えてく、出来の悪いホラーみたいだね。』
「俺は吸血鬼を想像した。だがそうだな、際限が無いとするとオチが人類滅亡しかなさそうだ。」

 妖精ってのは皆人間の物語を好きなものなのだろうか。
 
・プリン×パワー→精霊ノーム

 更に2匹の天使を再勧誘。メインファイルが丁度一杯になった。単調な作業が続く。大事なこととはわかっているのだが、飽きる。そうこうしているうちに、待望のワンスモア4人目。俺も『目標としていた水準』に達したらしい。
 
『クーフーも少し成長したし、ちょうど満月になった。切り上げるよ。』
「おう。」


 サリエルから杖「クイーンビュート」を巻き上げる。あの曰くありげな大鎌をもらえるかと思って期待していたのにがっかりだ。ついでにアムネジアの民から対神族の剣「デスブリンガー」を徴収。更に件の防具、「天帝」シリーズを頂いた。大いに活用するとしよう。
 しかし、今回の祭は単調で苦痛だった。結局俺があんまり参加できなかったのも原因か。あんなに焦がれていた祭に参加できているというのに、人の欲深さというのは果てが無い。自分の事だけど。


 戦闘終了してちょっと経った頃。何かトモハルが、オギワラに悩みを相談して、やたら元気になっていた。結構わだかまりがあるんじゃないかと思っていたが、意外だ。そしてやはりオギワラは凄いな。あんなに渋い奴が同年代のはずが無い。



[22653] AMNESIA      ~ Stand alone complex ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/12 19:57
 まずは道が繋がったラグズショップに行き、魔力増強装備である「ダーク」防具シリーズを1つずつ購入。かなり高価で、該当の宝石が殆ど消えてしまった。サラマンダー以外の精霊は買うことのできない状態だ。

『別にいいじゃない。僕らが大量に使うのはサラマンダーだけなんだし。』
「まあな。」

 続いてリミックスステーションに戻って合体開始。仲魔が43体もいる。

・ヴリュンヒルド×(プリンシパリティ×パワー)→女魔モーリガン
・モーリガン×(ティターニア×ティターニア)→女魔ドゥルガー

「何かすげぇ強そうな雰囲気出てるぞ。」
『そうだね。かの有名なドルアーガの塔に巣食う悪魔だ。』
「何だ、妙に疲れてるな。想定外の事でも起きたか。」
『良い勘してるね。案外、戻した時の記憶も薄っすら保持しているのかな。』

・プリンシパリティ×パワー→精霊ノーム

「こんなにノームばっかり集めてどうするんだ。もう3体目だぞ。」
『そのうち使うのさ。』


chapter 39 RAKIA     ~ DAY-DREAM ~

 俺達は今、「ラキア」と呼ばれる地に来ている。
 実質寄り道らしいのだが、『強力な杖っぽいサムシングが眠っている』というので探しに来た。戦場全体を見ると、戦闘自体は片手間であしらえそうだが、例によって時間制限が厳しそうだ。

「適当に低レベルを勧誘するか。」
『基本はそれでいいけど、1個枠は空けといて。最後に出てくる奴を勧誘したい。』
「とびぬけて弱いのか?」
『今回は逆方向さ。高レベル悪魔の合体に使うんだ。』

 ノームのせいで、メインファイルの空きが5個しかない状況。勧誘相手を厳選するか、主力をサブファイルに移すかしかないが。
 正面で道が左右に分かれる、巨大なT字路のような戦場だ。向かって右手奥にいる、敵の統率者「熾天使ラファエル」は随分血気盛んな様子。下位・中位の天使を侍らせ、後ろに龍王ペンドラゴンを控えさせて強気なのかもしれない。羽を毟って苛めてやる。
 向かって左手奥のジェネレータは本隊に任せるべきか。初めて見る「霊鳥ヤタガラス」が唯一脅威になりうる存在だろう。日本の神話にも謳われる格の高い霊鳥だ。とは言え、しっかり女魔と魔神で壁を作れば問題ないはず。

 ひとまず左に女魔と魔神を、右にクーフーリンを先行させる。トールには反撃で可能な限り雑魚を片付けてもらおう。クーフーリンはイシュタルで加速して、飛び込みざまに電撃魔法「マハジオンガ」か?
 殆ど思惑通りに進む。ヤタガラスを反撃で撃墜したドゥルガーが、「コウチュウのゆみ」を持ってきた。何故日本の神話に謳われる霊鳥が、そんなものを持っているのか。
 俺もサクヤ姫から加速を受けて、クーフーリンと二人でラファエルの懐にもぐりこんだ。後方でトモハルがイツァム・ナーを召喚。左翼の方もトールがあらかた片付けて、ドゥルガーと二人でジェネレータ前待機。アメノウズメとサクヤ姫がペンドラゴンのところに到着すれば、あとは各自適当にやるだけだ。

「何か最近あっさり過ぎないか。」
『まあそうなるように色々予定を組んできたからね。』

 「合体計画」とか「武内ナオキ育成計画」とかその辺の事だろうか。
 そんなこんなで、実戦という名の鍛錬をしていると。

『出てきたよ。支配の象徴「天使ドミニオン」だ。』

 ジェネレータから二匹、かなり雰囲気のある天使が出てきた。
 一匹は予定通り勧誘し、二匹目はトールの雷撃であっさり撃墜。

「何というか、自分の『強そう』とか言う感覚が全く信じられなくなってきたな。」
『実際ドミニオンは強いよ。でもこっちの仲魔も神話に謳われる真正の神々だからね。そんな連中が待ち構えているところに不用意にポッと出てきたら、それは一瞬で撃ち落されるさ。』

 つまり準備が大事ということか。
 龍王叩きでウズメと姫も特技覚えたし、限度一杯まで勧誘もした。結局空き5枠は、ドミニオン・プリン・パワー・ヴァーチャーの天使軍団とキリンで埋めた。何とも投げやりなチョイスではある。さっさとラファエルを毟るとしよう。


 戦闘を終えて確認した今回の収穫は、かなりのものになった。
 まずは杖「サイズオブデス」。評判どおり強大な攻撃性能だ。ただ、これって杖か。って言うかむしろ、サリエルが持ってた鎌じゃないのか?

『場合によっちゃ、これを持ってると、サリエルが親近感覚えてくれて仲魔になる。』
「確かに碌でもない奴らばかりだな。」

 次にラファエルから巻き上げた「オオバカリのけん」。速度は上がるが命中が下がるので結局使いにくいらしい。
 最後に神槍「ロンギヌス」。ゴルゴダの丘でキリストを貫いたとか貫かないとか。飛天族特効らしい。さもありなん。
 更に仲魔の成長。ウズメと姫の特技習得。クーフーリンはそのうち稼ぎどころがあるらしい。これで喫緊の課題は、魔神トールの特技習得と俺の成長ということになる。頑張らなくては。


chapter 40 AHLABOT     ~ Mystique zone ~

 現在仲魔43体。しかし合体は出来ず。どう考えてもやりすぎだと思う。
 とりあえずもう1つの寄り道スポット「アラボト」に行くことにした。

『評議会ビルの戦いは、キミにとって生涯で最も「激しい闘い」だった。』
「唐突になんだよ。嫌な予感しかしないぞ。」
『次の場所での戦いは、キミにとって生涯で最も「苦しい戦い」になるよ。』


 妙な気配を感じて、戦場に辿り着く前に主要な仲魔を展開。発言の意味を問いただそうとした瞬間、周囲の景色が歪みだした。
 いつぞやの亜空間のような光景。酷い乗り物酔いのような気分になりながらも、必死で頭を持ち上げて周囲を見る。気付けば俺達5人は「完全に」分断されていた。

「そういうことか。」
『ここでは各人の強さが試される。』
「アヤなんて、殆ど成長してないぞ。」
『信じるしかないね。彼らとて、キミにおんぶに抱っこで生き残ってきたわけじゃない。』
「なるほど、最も苦しい戦いか。それぞれでベストを尽くすしかないな。」

 まずは俺の島。
 目の前には北欧の海の怪物「妖獣クラーケン」に、ティターニアの旦那さんである妖精王「オベロン」。どちらも初顔合わせだが、受身に回れば即殺されそうな雰囲気がある。更に奥には天使ヴァーチャーと龍王ペンドラゴン。一気に懐にもぐりこめなければ、かなりのダメージを受けることになるだろう。
 そして最後に「熾天使レミエル」。これまでの小物っぽい熾天使とは一線を画す落ち着いた雰囲気。

『神のメッセンジャーとも、魂を管理するものとも言われているよ。』
「何か『いい面構えをしている』とか褒められたぞ。」
『期待されているね。』

 悪くない気分だ。
 俺はホント、期待とかに弱いな。

『ちなみに僕が一番好きな使徒でもある。なんちゃって陽電子砲でようやく倒せるくらいの強さを誇るよ。』
「まあ神様の使徒ってのは間違ってないか。てかオマエ地上で陽電子砲とか使ったのか。アホじゃないのか。」

 ガンマ線の放射とか酷そうだし、そもそもまっすぐ飛ぶわけが無い。いや、反物質ビームとかちょっとロマンを感じるが。……そうか、このえもいわれぬ感情の高まりがアイツの言う浪漫なのか。
 幸い俺にはサクヤ・シラヤマのW姫様に、弁財天がついていた。一気に蹴散らして、レミエルに肉薄することは容易だろう。 

 次にオギワラのいる島。
 龍王ペンドラゴンが一匹と、それを守るように妖鬼シュテンドウジが二匹。一方オギワラの介添えは、イツァム・ナーとアメノウズメ。壮絶な砲撃戦になりそうだ。

『いや、悠長にもしていられないんだ。』
「どういうことだ。オギワラならペンドラゴンの砲撃にも耐えるだろ。」
『あのペンドラ、隣島にも砲撃できるんだよ。下手するとアヤ辺りが一撃で殺されかねない。』

 盲点だった。

『とりあえず、てんてー装備に身を固めたアメノウズメで爆撃して、イツァム・ナーで速殺しよう。』
「さすがに弓装備でシュテンドウジに突っ込ませるのはまずくないか?」
『確かに格の違いは大きいが、ウズメは浮いてるし、何より女神様だ。信じよう。』 

 そしてカオルの島。
 ここの敵は完全に魔法系。夜魔四種がそろい踏みだ。護衛はクーフーリンとイシュタル。

「上手いこと適材適所だな。」
『そうだね。インキュバス&サキュバスの性的コンビを勧誘して、残り二匹はクー君で仕留めよう。』
「そうだな。カオルならきっと上手くやってくれるはずだ。」


 更にトモハルの島。
 「妖魔スキュラ」と妖精ティターニアが二匹ずつ。

「何かグロイな。」
『ギリシャ神話に登場する女怪。元は絶世の美人だったらしいけどね。ゲルマニアの魔女キュルケの嫉妬で怪物に変えられたのさ。』
「何でギリシャ神話にゲルマニアとか。それは良いとして、強いのか?」
『然程強くはないけどね。バランスが良い編成だよ。でも女魔ドゥルガーがついているので一安心だ。グリンブルスティに乗って上手いこと逃げ回ってくれるだろう。』


 そして最後に問題のアヤ。
 敵は中位・低位の天使4種。こちらも対抗したのか、ヴァーチャーとパワー。ついでに魔神トール。純粋な戦力としてはこちらが圧倒的に上なのだが。

「アヤが敵の攻撃一発で死にかねない。」
『どうする?』
「とりあえずベルオブリバイブとかで体力増強するか。」
『魔法喰らって死んじゃわない?』
「む、だが。」
『アヤには隅っこに引きこもっていてもらうしかないと思うよ。』
「そして天使2体で脇を固めるのか。」
『あとはビューグル装備とかで魔法防御を高めて頑張る。』

 確かにそれなら相手の攻撃を魔法一択に絞れる。
 集中攻撃を喰らわないように、上手く立ち回れるかが焦点か。


「こうしてみると、レミエルは相手を選んでいる感じがするな。」
『純粋に君達を試したいのだろう。恐らくさっきの転送も、仲魔の召喚を待ったのではないかな。』
「何か、正しく『熾天使』って感じがするな。」
『語り手によっては、乱交パーティー開催を宣言した堕天使とする向きもあるらしいよ。』

 あんな紳士的な熾天使がそんな事をするはずが無い。

『さあ、戦いを始めよう。』


 俺は三女神のサポートを受けて、クラーケン・オベロン・ヴァーチャー・ペンドラゴンと連破。まだレミエルに到達こそしないが、最早遮る敵はいない。
 アヤも指示通り隅っこに引きこもって、ヴァーチャーとドミニオンが上手くガード。トールが確実に敵を潰して回っている。
 トモハルも状況はそう変わらない。ドゥルガーが妖精たちを一匹ずつ潰して回る。こちらは天使ほどの機動力がないので逃げ回るのは楽なようだ。
 カオルの島ではクーフーリンがバフォメットをあっさり屠り、イシュタルがインキュバスを勧誘。続けてリリムを屠り、リバイバル後サキュバスも勧誘した。
 中央のオギワラは、そもそも隠れる必要すらなかった。天帝装備に身を固めたアメノウズメが、黄忠の弓でペンドラゴンを爆撃。怯んだところにイツァムが砲撃を叩き込み仕留める。龍王を護衛する雑魚の攻撃は懸念したほどの痛手にはならず、あとは消化試合だ。

 結局全ての島が、ほぼ一瞬でクリアになった。

『何か、あんまり苦しくなかったね。』
「そうだな。」

 俺達が成長していたということにしておこう。そうしないと、ここでの闘い自体が無意味になってしまいそうだ。最後は時間一杯まで、レミエルとタイマンを張り続ける。雰囲気はあったが、やはり基本性能は他の熾天使とそうは変わらなかった。何か残念だ。


『筋力に続いて、速度も三界の頂点に達したようだね。君と一対一の殴り合いで勝てる相手は殆ど存在しないだろう。』
「別に殴り合いだけで勝敗が決まるわけじゃない。」
『大丈夫、大丈夫。質量を持った残像とか出しちゃえば、魔法なんて当たらないよ。』
「どうやったらそんなもの出るんだよ。」
『ボロボロ皮膚を剥離させながら闘うとか?』
「俺いやだぞ、そんなの。」

 レミエルは黙って俺達に「ランスオブカース」を託した。はたして俺達は彼の眼鏡に適ったのだろうか。
 アムネジアの住民からは退魔剣「アークセイバー」を貢がれた。魔族とかナチュラルに物理防御弱いので、あんまり嬉しくはないか。

 トールの特技習得が遠いらしい。


chapter 41 SHAMIM     ~ Surrender ~

『うっかりしてたけど、ウンディーネ1体作っとこう。』

・キリン×キリン→精霊ウンディーネ

『もいっこ。』

*サキュバス×(インキュバス×フェニックス)→鬼神コンゴウヤシャ

「鬼神を自分で作れるのか。」
『うん。目的は金剛夜叉ではなく、その上の「鬼神グンダリ」なんだけどね。』
「でもな、表示結果は『外道スライム』だぞ?」





『またか……。』
「『また』? 今までにこんな事なかったろ。いや、あったっけか?」
『もうね、自分の至らなさに……。駄目だ言葉が出てきやしない。』
「重症だな。」

 『実験だ』と言って、いくつか組合せを試してみるものの、表示結果は全て「外道スライム」。

『……わかった。』
「何がわかったんだ?」
『少なくともこの場では解決できないことがわかった。』
「合体できないって事か?」
『そういうことだね。』

 どうするのか。

『ひとまず善後策を講じよう。今後「凶鳥グルル」と「邪霊リッチ」を見たら最優先で捕獲ね。いや、リッチの捕獲まで待つと、合体タイミングが……』

 一瞬で旅立っていった。

『……すまない。次の戦闘でグルルと邪霊サンニ・ヤカーが出てくるので勧誘しよう。』
「【未来視】か。それはいいんだが、空きが1つしかないな。どうする?」
『ふうむ。酷く泥縄でスマートさに欠けるけど、こうしよう。』


*ナーガ×アルラウネ→凶鳥ズー

「今さらズーか?」
『枠を二つ空けるためさ。アルラウネとか多分もう使わないし。ついでにグルルも勧誘できるよ。』

 まあ確かにアルラウネは、姫にするには半端に強い印象はあるな。別に解雇すればいい話だと思うが、それは何故か気が引けるらしい。基準がわからん。
 けど、いくつか気になることがある。


「なあ、本来リッチを勧誘すべきところを、サンニヤカーで代替するんだよな。」
『そうだよ。それがどうかしたのかい。』
「多分だけど、戦闘終了後サンニヤカーを精霊合体でリッチに進化させるんだよな。」
『よくわかったね。他にも手が無いではないけど、それが無難だろう。』
「じゃあさ、そのための『精霊シルフ』今作っちゃえば良いんじゃねえの? それなら枠空くし、仲魔無駄にもならないだろう。」


 微妙な沈黙が流れる。……き、気まずい。
 考えてみりゃ、コイツの合体計画に真っ向から反対するのって初めてだ。


「ま、まあズーでグルル勧誘ってのも捨てがたいな。それにシルフは買えるし、そこまで節約が必要な状況でもないと思うし。」
『……驚いたな。合体に関しては僕の仕事だと思って、それ程熱心に講義しなかったのに。確かにそちらの方がスマートだね。キミの案を採用しよう。』

 何かフォローをスルーされた上に偉く感心された。
 ていうか、コイツに明確にスルーされたのも初めてかもしれない。ちとショック。


・ベイコク×ヨモツシコメ(にらみつけ持ち)→精霊シルフ

『次で鬼神を作ったら本当に最終盤といったところかな。女神・龍王・幻魔に女魔。これまで各系統を完全に縦割りで育ててきたけど、漸くゴールが見えてきた感じだね。彼らを統合するとなると寂しさも一入か。』
「統合前提の運用だったらしいが、個別でも十分役に立ってきたからな。」


 既にアムネジアをかなり歩き回っている。恐らくここが最後であろう、シャマイムと呼ばれる場所にやって来た。
 敵本拠地に「熾天使ガブリエル」が見える。杖ではなく、花を持っているのは何故だろう。もっとも、レミエル同様それっぽい雰囲気がある。ここにきて漸く本気を出してきたか。

『強いよ。能力的には、熾天使の中でもピカイチだね。』
「女性型の熾天使は多分初めてだよな。」
『美人だよね。しかも花とか持っちゃってかわいいよね。強くて美人でかわいくて、しかも癒し手。最高だよね。でも何故かそういう人って、地味ポジションが多いよね。シャマル先生とかエルルゥとか地味だよね。きっと攻撃魔法の方が派手だからだよね。だけど、そんなものは正に華拳繍腿だよね。回復魔法こそ王者の技だよね。ちなみに別の宗教や、特殊なプレイを愛好する一部の紳士達からはジブリールと呼ばれることもあるね。』
 
 聞かない。俺は聞かないぞ。辺りを見回して戦場を把握。
 まず目に付くのは右翼。オブジェ群の只中にいる「邪龍アペプ」。エジプト神話の悪の化身だそうだ。最近神話の高位存在ばかり相手にしている。更にはサキュバス2体にスキュラ。俺にとってはカモだが、釣られてノコノコ出て行けば。邪龍に殺されるという仕掛けだろう。
 左翼もほぼ同様の夜魔&妖魔の構成。しかしこちらは後方に霊鳥ヤタガラスが控えている。やはり注意が必要だ。
 正面対岸にはガブリエルを護衛する部隊と、龍王イツァム・ナー。女神でも進入できない謎空間が広がっており、かなり好き放題に暴れられそうだ。

「射程に注意するか、こちらもイツァム・ナーをぶつけるかするしかないな。」
『前者で。あれはトールに喰わせたい。』
「何ともしんどい話だな。そして下の方が無人の野な訳だが……ありゃ何だ。」

 見るからに怪しい、4つのジェネレータ。

『大体想像つくでしょ。』
「今までの話を総合すると、あそこからグルルとサンニ・ヤカーが湧いて来る感じか。上方向に戦力を集中させたら、沸いてきたグルルが一気に拠点を落とす構えだな。」
『そ。相手も大分嫌らしい釣りをするようになって来たよね。』

 とはいえ、予めわかっているなら脅威にはならない。

「上方向は力押しだ。左翼はトールがゆっくり制圧前進。中央は泉があるので、イツァム・ナーを配置して、相手拠点に砲撃。右翼は一旦引いてサキュバスを誘い込み、女神で魔法を受ける。上手く釣れたら、加速した俺が側面から突っ込んで一気に殲滅する。」
『何という釣り野伏せ。ただまあ引く必要はないんじゃないかな。サラスとシラヤマヒメ辺りで最前線押し上げて壁作るだけでいいと思うよ。』

 確かにこの二人なら、龍族と魔法は相手にしないか。

「下方向はアメノウズメを中心に、獣をつけてアイテム回収。グルルは一匹勧誘したら、ドゥルガーで全員叩き落す。」
『グルルが拠点を目指す「剛胆」タイプだったら?』
「拠点には念のためクーフーリンをおいておく。ドゥルガーが戻るまで十分守りきってくれるだろう。」


 特に異論もないようなので、戦闘を開始。
 何かそこに居合わせたアムネジアの住人が、「もう戻ってこられない」とか言い出した。後にしてくれ。ちなみに、アイツ曰く『ステーションもラグも使えるので何も問題はない』。
 トールがイシュタルの支援を受けて、左翼サキュバス2匹を瞬殺。そのまま突っ込んできたスキュラを反撃で倒し、ヤタガラス2匹を相手取る。
 右翼はアイツのアドバイス通り、サラスとシラヤマヒメでサキュバスの道を塞ぐ。アイツ的には評価の低いらしいシラヤマヒメだが、魔法防御が非常に高く十分戦力になっている。
 中央泉には到達できなかったが、こちらのイツァム・ナーは対岸のガブリエルをひたすら狙撃。残った戦力は下方向へ。人間4人は今回お留守番。 

 右翼邪龍はどうやら「剛胆」タイプだったらしく、女神には目もくれずこちらの本拠地へ。釣り野伏せ失敗だ。仕方ないのでクーフーリンとドゥルガーで迎撃。「チョウウンのこて」をドロップした。赤兎を関羽の物と考えれば、まさかの五虎将軍か。ってことは、最後は張飛の矛になるのかね。
 俺は予定通り、女神2柱のワンスモアを受けながら魔族を一掃。龍王の射程に注意しながら、順調に進軍している。

 情報どおり、下方のジェネレータからグルルが湧き出した。一度に2匹なのが救いだろうか。ドゥルガーとアメノウズメで駆除に向かう。グリンブルスティとクーフーリンはその後ろで、いつでも拠点に戻れるように。オブジェを一気に踏破してアイテム回収を終わらせたケルベロスも帰還させよう。上手くガルムを引き連れて戻ってくれれば言うことなしだ。

 そんな事を考えていたが。
 アイテム回収中のケルベロスが、うっかりグルルの間合いに入っていた様子。ガルムに加えて、グルル2匹までひきつけてしまった。まあ、問題ないか。ガルムを置き去りにしてしまうが、拠点まで一気に引き戻して、本隊のフォローに回っていたサラスによる回復を受ける。サラスならグルルの攻撃にも耐えるだろう。
 一方俺もトールもガブリエルの下に到着。完全な挟撃形だ。ちなみに「邪鬼ラクシャーサ」が、長剣「えんげつとう」をドロップ。

「パッと見、日本で良くイメージされる所謂『青龍刀』といった感じだな。」
『そうだね。まあ、青龍刀ってのは日本独自の呼び名らしいけど。』
「そうなのか。しかし、何故に槍の名前をつけたんだろうな。青龍偃月刀関係か。」
『さあね。ちなみに演義に出てくる武器は、大概が執筆当時の武器で、後世の創作という話も聞くね。』

 その可能性はあるだろうな。神話の時代に長剣があったかどうかなんて、誰にもわからない。史書としてならともかく、物語としての価値が落ちるわけでもないだろう。
 トールは妖精たちをひとまず無視して、敵のイツァム・ナーを屠殺。ルナブレイドと対を為しそうな「ソルブレイド」を入手していた。レアアイテムでは無いそうだが、そこそこ強力。もっとも、狙ったものではないらしい。このまま護衛の雑魚はトールに任せて、俺はガブリエルを適度に銃撃するとしよう。
 一方下方のグルルは猪突。経験的に、ジェネレータ由来の悪魔は例外無く猪突タイプな気がする。生まれたてだからか。ドゥルガーを置いておけば、勝手に引っかかってくれる。余った一匹をドゥルガーでキャッチ。無駄が無い。少しずつ前進して、最後のサンニ・ヤカーも美味しく頂き、もう一匹はウズメがキャッチ。
 闘い終えて、ガブリエルが「くさなぎのつるぎ」をくれた。

「てっきりヤマタノオロチとかが落とすかと思っていたんだがな。」
『落とすよ。』
「え?」
『落とすよ、ヤマタノオロチ。』
「何か、急に希少価値がなくなったような。」
『僕としては彼女が手にしていた、意味ありげな花の方が欲しかったな。』
「確かにあの花は凄く気になった。」
『何でも聖母マリアの純潔を象徴するとか。』
「おまっ。」

 ついでに住人からいつもの貢物「アンスウェラー」。
 受け取る際に聞いた言葉が印象的だった。


「『キミたちのとってきた行動のおかげでアムネジアの住民が滅びるとしてもそれは、我々のさだめだ。私たちは、キミたちをうらんだりはしない』、か。」

 アイツはかつて、俺の『意志を貫き通す様を見たい』と言っていた。
 何となくアイツがここの住人を嫌っている理由がわかった気がする。 


『これでアムネジア中をくまなく歩き回った事になるね。そろそろ代行者の誰かからお呼びがかかる頃じゃないかな。』
「そうだな。さっきガブリエルも『代行者に会いに行きなさい』って言っていた。」
『ウリエル・ラファエル・ガブリエルと来た時点で、お察しくださいってなものだけど。』


 周囲の景色が歪みだした。
 FASSによる転送の前触れに似ている。
 目の前を白い光が覆い尽くして、俺達は代行者のもとへと誘われる。



[22653] AMNESIA      ~ Traitor ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/16 21:16
 辿り着いたそこは、確かにアムネジアだった。
 しかしこれまで通過してきた場所とは一切つながりの無い、完全に孤立した世界。誰かが言っていた、「後戻りできない」とはこの事だったのだろう。
 ひとまず周囲を見渡すと、すぐ近くにラグズショップとステーションが。親切と言うか、不可思議と言うか。ラグズショップでサラマンダーを1体購入し、合体を開始する。

・サンニヤカー×シルフ→邪霊リッチ


「何か強そうだな。」
『敵として出てくると壮絶に嫌らしいけど、味方としては役立たずかな。』
「そういうの多いよな。」
『世界は、そういうふうにできているんだよ。』

・ドミニオン×(リッチ×グルル)→鬼神コンゴウヤシャ

「ホントに自分で作れるんだな。やっぱ鬼神は強そうだ。」
『しかもカッコイイしね。でも残念ながら使う予定は無いよ。』
「何とももったいない話だ。」

・イシュタル×(ワイアーム×ナーガ)→女神パールバディ(アフナ・ワルヤ)

「確かシヴァ神の嫁さんだったか。」
『妖精さん界ではやはり愛と親しみを込めて色々な呼ばれ方をしているよ。「妖怪食っちゃ寝」とか「早過ぎたロリババァ」とか。』
「敬意が足りてなくね?」
『何はともあれ、永きに亘る女神不在もこれでお終いだ。』
「不在ってわけでもないけどな。」
『まあね。ついでにサブ女神達も強化しよう。』


・エルフ×アルラウネ→龍王ラドン
・シラヤマヒメ×(ユルング×ラドン)→女神イシュタル
・コノハナサクヤ×サラマンダー(素)→女神シラヤマヒメ
・フェニックス×(アークエンジェル×ランスグイル)→女神コノハナサクヤ

「在庫が大分寂しくなったな。空きは10体しかないが、強化に使えないやつばかりと言うか。」
『それは仕方ないよ。それでも最凶の女神イシュタル様が2体目。戦力増強の勢いが自分達の事なのに恐ろしい。圧倒的じゃないか、我が軍は。』

 随分楽しそうだ。

「アークエンジェルやランスグイルは予想通りとして、ラドンの辺りは妙に遠回りだな。」
『色々入り組んでいてね。無計画に低レベル悪魔を消費しすぎたのが悪かったのかも。と言うか、この女神増強計画自体、ここまでやるとは自分でも思っていなかったし。』

 今余っているように見える低レベル悪魔は、使用予定が組んであると言うことか?

「にしても凄い順送り人事だな。上が詰まりすぎている。」
『だねぇ。こんなことなら変な意地張らずに、アナーヒーター使えばよかったかも。』

 しかもこれで低レベル悪魔がほぼ尽きて、女神7体目とか無理じゃないか。


「なあ、無理に女神のままレベルアップさせる必要ないんじゃないか? そうすりゃサラマンダーだって、レベル制限だって少しは楽になるだろ。」
『キミはホントに最近良い所を突くね。確かにその通りなんだけど。止まらない未来を目指してと言うか、ゆずれない願いを抱きしめてと言うか。』
「浪漫ってやつか。」
『うん。』

 まあいいか。苦しんでるのはコイツだけっぽいし。


chapter 42 ZEBR     ~ Find yourself ~

「で、今回の熾天使は何を落とすんだ?」
『随分コレクターぶりが板に付いてきたね。でも残念。今回の相手「熾天使ミカエル」は何もくれないよ。』
「ふーん。」
『更に言えば今回は時間制限も無い。』
「まじか。だったら幾らでもミカエル祭できるな。」
『ところがどっこい、ミカ様はプライドが高いので、拠点にこもって回復なんていう邪道なことはしないんだよ。』

 誰も得をしないなそれ。

「ってことは今回は貢物なしか。」
『そうだね。建前上、代行者の住まう地には認められたものしか入れないから。その割には妙に俗物っぽい住人がいたりするんだけど。』
「俺達だって十分俗物だろ。」


 ひとまず敵の戦力分析。

『大天使ミカエル。神の右座とも呼ばれる最高位の天使だよ。』
「大天使か。アークエンジェルとは違うのか。」
『あー、その辺良くわからないね。多分坊主の後付けで色々ごっちゃになってるんだと思うよ。後世の人間が自分の都合に合わせて事実を捻じ曲げるのはよくあることさ。聖アジョラの物語とかもそうだった。』

 聖アジョラとやらは聞いた事ないが、確かによくある話なんだろう。

『まず持ってる魔法が超強力だね。こちらの女神様でも相当に削られる。』
「それはすごいな。ひょっとして魔法系の頂点じゃないか。」
『うん、最強の一角だね。更にキミと真っ向から殴りあって勝つ可能性のある、数少ない悪魔の一人でもある。』

 反則だ。

「さすが人間界でも知名度最高クラスなだけのことはあるな。」
『妖精さん界にも、「ミカエル・クエスト」なんていう物語があるくらいさ。ダンスの得意なミカエルが、色んな世界で大暴れ。最後はロボになってお姫様を蹴っ飛ばすんだ。』
「作った奴は頭おかしいだろ。」
『いい意味でね。』

 全員で袋叩きにするほかないだろう。一気呵成に攻めかかれば、相手にイニシアチブを渡さずに攻めきれるはずだ。
 ミカエルの周囲を固めているドミニオン・アペプも単なるカモ。対応さえ誤らなければ、仲魔の良い糧になってくれるだろう。ポツンと一匹だけいる敵のイツァム・ナーには、こちらのイツァム・ナーをぶつけよう。

 次に目に付くのは、曲がりくねった細い道。近くにあるように見えて、決して渡れない謎空間が回りを囲んでいる。不思議な感覚だ。

「意味わかんないよなあの空間。女神でも渡れないなんて。落ちたらどうなるんだ?」
『虚数空間なんて面白解釈もあるよね。』
「なんでマクロ世界に量子力学がしゃしゃるんだよ。」
『さあ。もっとも振動の位相項をただ畳み込むにしちゃ物騒な解釈だし。何にせよ専門外だ。』

 そして不思議空間を挟んでもう一本の道が存在し、その奥に妖獣ガルム。更に3匹の龍王ペンドラゴンに、宝を守っている風の夜魔サキュバス。ガルム自体は脅威ではないのだが。

「うぜぇ……。どんだけ番犬飼ってるんだよ。下手すりゃ20匹くらいいそうな感じだぞ。」
『そしてその殆どが用を成さないと知ったときの、ミカ様の悲しみたるやいかばかりか。』
「そんなことより、あの道二回も通るのがうんざりだ。」


 いつもの如く女神シックスを召喚。最前線にトールとイツァムを配置。クーフーリンとドゥルガーは温存。アイツの指示に従って、ウンディーネをメインファイルに移しておいた。『保険』らしい。

『ペンドラゴンをイシュタルに食わせてリバイバルを覚えさせよう。』
「3重龍王祭だな。やりがいがありそうだ。」
『ガルムはなるべくキミで。』
「トールとイツァムはいいのか?」
『いや、実際みんな成長して欲しいのが悩ましいね。』

 忙しいことだ。

「後は雑魚か。ジェネレータは臨機応変だな。」
『そうだね。適宜口を挟むことにするよ。』


 戦闘開始。
 ロンギヌスを持ち、天帝装備に身を固めたトールと、パールバディのサポートを受けた俺が通路に突入。何でも『RANK2のトールならこれでギリギリ行ける』とか何とか。他の女神は様子見だ。
 オギワラにも念のため進軍してもらうが、今回も恐らく人間組の出番はないだろう。わざとやったわけではあるが、随分戦力を偏らせてしまった。
 
 アイツの予言どおり、10匹ほどのガルムが通路に列を成した。そのままガルムたちと、ちょっかいをかけあいながら通路を進む。キツイ。いろは坂も真っ青な感じ。オマケに一歩間違えば謎空間へ真っ逆さま。戦闘こそワンスモアを受けた俺がフル稼動したせいで、結局通路を生きて抜けることのできたガルムは一匹もいなかったが、正直気疲れの方が大きかった。

『段々タフガイにもなってきてるし、もうホント破壊神だよね。どこのダークシュナイダーさ。』
「女神のワンスモアあっての話だけどな。」

 通路の先の小部屋に入った瞬間、ジェネレータが起動。邪霊サルゲッソーが湧き出した。すかさずウズメがキャッチする。

『キミが潰してもいいけどね。』
「結構な数が湧き出すって事か?」
『微妙な線だね。むしろ比較的直ぐ終わる。後続が着いたら任せちゃっていいよ。』

 とりあえず落ちてた「とつかのつるぎ」を拾いながら、イツァム・ナーを再召喚。相手のイツァム・ナーとにらみ合わせる。満月でもなければ先手必敗の形だが、どうせ相手からしかけてくるだろう。

「とつかのつるぎって名前だけは聞いた事あるな。」
『草薙の剣あたりと同一視される事もあるけどね。これは単純に握りこぶし10個分の長さを持つ剣だよ。使う事もないだろう。』
「がっかりだな。」

 女神達が追いついてきたので、サルゲッソーを銃撃しながら更に奥、ミカエルのいる部屋に進む。泉を占拠し、護衛代わりにドゥルガー・クーフーリンを召喚。同時に 遅れ気味だったトールを再召喚。さらにその周りを女神達で固める。
 邪龍アペプが4匹全部釣れた。全て女神の壁に弾かれる。護衛のドミニオンは動かない様子。好都合だ。クーフーリンをサポートに付けたトールを先行させて、ミカエルの周囲を固める天使ドミニオンを堕とさせる。パールバディはそれら一切を無視して、ミカエルと削り合いを開始。アメノウズメはその回復サポート。
 同時にドゥルガーを、あのうんざりするような通路の奥に派遣。ガルムの巣に送り込んで残存戦力の殲滅を狙う。俺は奥のジェネレータ目指して、のんびり進む。

「何か気が抜けてしまうな。」
『そうだね。ミカエルが動いてきていたらこんなゆっくりは出来なかっただろうけど。いやでも金縛り最強か。』

 そしてやはりミカエルの魔法は強かった。
 ダーク装備に身を固めたパールバディが体力を3分の2ほど持っていかれたらしい。彼女以外の仲魔なら下手をすれば即死だった。ただ、このままウズメで回復し続ければ、二発で魔力切れを起こすそうだ。
 そしてクーフーリンが早い。ミカエルに突っかけて薄っすら削っていくのだが、何と二回攻撃できている。

『さすが最速の英霊だね。』
「この速さは驚きだな。」
『もっとも君の速さは槍の英霊をも数段上回るけどね。』

 俺の能力はいびつだからな。単純比較は意味が無いだろう。
 奥のジェネレータからも悪魔が湧き出した。サルゲッソーを適当に屠り、更に湧いてきた闘鬼ヤクシャと凶鳥グルルを仲魔にする。順調そのものだ。
 一方ドゥルガーはお目当ての部屋へ到着するのに大分かかりそうだ。とは言えジェネレータ狩りやら何やらで丁度良い塩梅になるだろう。
 トールとイツァム・ナーが、やっとこさ特技習得。その場で精霊合体。

・トール×ウンディーネ→魔神ウルスラグナ(サードアイ)

『強い魔神だよ。格が低い割に能力が高いので、良く成長するしね。あと全裸的格好のショタとか狙いすぎだよね。許せる。これで魔神はひとまず終了だ。』
「最強の種族の名に相応しい働きだったな。名残惜しい。」
『だねぇ。』

 祭を眺めながらぼんやり考える。

『しかしアレだね。ミカエルの魔法力尽きたから、姫とイシュタルもついでに祭に参加させたけど。』
「そうだな。龍王に行く必要ないかもしれないな。」

 とは言え、ペンドラゴンの撃破経験はやはり大きいらしい。もの凄く皮算用だが、ドゥルガーが犬共を片付けたら派遣しよう。
 そしてドゥルガーが漸くガルムの巣窟に辿り着いたのだが。

「普通に動いてきたな。」
『まあ、動くよね。』

 三匹の龍王が積極的に間合いを詰めて、ドゥルガーに集中砲火を浴びせる。一応想定はしていたので問題はないが、面倒な話だ。
 二箇所で祭の体勢を整え、ジェネレータからの湧き出しも枯れて、俺は本格的にすることが無い。ミカエルも魔力が切れて、回復しないのも仇になり、座して死を待つ達磨になっている。このまま無傷で倒すことも出来そうだが、やはり最後は直接向き合うべきだろう。


『まさか魔王祭より長くなるとは思わなかった。』
「そうなのか。」

 ここの住民が言っていた「サキュバスの守る宝」とやらも入手した。
 名を「エグゾセMM40」。何でも『使いどころの全く無い駄銃』だそうだ。



 ここで覚えられる特技はほぼ覚えたらしい。
 あいつからゴーサインが出たので、気を引き締めなおしてミカエルのもとへ向かう。

「いよいよだな。」
『そうだね。』

 代行者の一人と対峙する。
 アムネジアの支配者にして、アクシズにもその名を轟かす最高位の天使、ミカエル。
 彼の望みは一体何なのか。
 
 傷だらけのミカエルではあったが、その輝きはいささかも衰えていない。
 ミカエルが俺達に「破壊を求めるのか、維持を求めるのか」と問いかけてきた。
 望みは三界のバランスの維持なのだろうか。しかし、現状の維持ではまた同じような混乱がおきかねない。
 殊更に「破壊」を望むわけではないが、ミカエルは倒さなければならない相手なのだろう。
 気分はまるで悪役だが、ここで引くわけにも行かない。


「決められた未来も、代行者の管理も必要ない。俺達人間は誰かに頼らずとも、俺達自身の手で未来を作ってみせる!」

 そして俺の斬撃が、ミカエルの体を切り裂いた。
 これまでの熾天使たちと違い、体が薄く透き通っていく。
 消え去る間際のミカエルは、不思議と満足げな様子に見えた。



「どうにも釈然としないな。俺達のした事は本当に正しかったのか?」
『ミカエルに邪心がなかったのは確かだろう。彼なりに真剣に人間の事を案じていたのだと思うよ。』
「そうだよな。」
『胸を張るんだ。何者にも頼らず、人間自身が切り拓く未来を選んだのだから。』

 ミカエルに宣言したことを、嘘にだけはしたくないが。
 いつも通り矛盾を抱えながら俺は往く。


chapter 43 CIOULE     ~ On my mind ~

 ミカエルとの戦いの後、やはりFASSに似た転送によって、俺達は「シオウル」という土地に来ていた。アムネジアとは正反対の、毒々しい沼地が広がっている。
 そんなことにはお構いなく、ラグズショップでサラマンダーを2体購入。

「宝石使いすぎじゃね?」
『サラマンダー需要は、まだまだこんなもんじゃないよ。』
「いいのかねぇ。」
『いいのさ。昔から言うでしょ、「愛はジュエルより全てを輝かす」ってさ。』
「愛がどうとかはさて置いて、言わんとすることはわからんでもないな。」

 よく言ってる「取って置いても腐るだけ」ってやつだろう。

・イツァム・ナー×サラマンダー(ディパニッシュ持ち)→龍王キングー(ペトラブレス)

『何というグロさ。』
「あれ、龍王は残り全部 3remix で済ませるんじゃなかったか。」
『いや、サラマンダー購入解禁したからね。こっちの方が楽だし。』
「適当だなぁ。あとで泣きを見ても知らないぞ。」
『ちなみに「ペトラブレス」は、ブレス系ではダントツの性能だよ。』

・コンゴウヤシャ×ノーム→鬼神グンダリ(アブソルートゼロ)

「雰囲気あるな。」
『強いけど、その強さが存分に発揮されることはないかもしれない。』

 ハリティー的なポジションか?
 グンダリの特技は必要といっていた気もするが。


「でも結局サクヤ姫作れなくなったな。無理もないけど。」
『うーむ。ならば裏技を使ってしまおう。』

・ノーム×ノーム→外道スライム


「……オイ。さすがにこれは無くないか?」
『まあねぇ。自分でも驚きだよ。こんなプレイがありうるとは。』
「計画外って事か。」
『一応フォローは可能だよ。ラグズショップと合体でノームギリギリ2体確保できるし。』
「裏目に出なきゃいいけどな。」

・イシュタル×サラマンダー→女神アナーヒーター
・ジャターユ×グリンブルスティ→外道ブラックウーズ

「神獣が外道になるとか、切ないにもほどがあるな。」
『これでも姫以下の格にするために、相当工夫したんだから。合体事故悪魔の存在まで利用して工程組むなんて初めてだよ。』

 相当頭を使ったらしい。

「でもジャターユはそのまま使ったほうがいいんじゃないのか? サクヤ姫の材料として使える可能性もあるだろ。」
『もうね、組み合わせ爆発が起きて、頭がパーンなの。見えた道に安易に飛びついてるの。』

・シラヤマヒメ×(ブラックウーズ×サルゲッソー)→女神イシュタル

「ここは 3remix なんだな。」
『ここを精霊にすると、サラマンダーが余計に必要になって単なる無駄だからね。そういう事態を防止するための、あのキングー作成法でもある。と言いつつ、正直僕にとっても未知の領域だ。これが最善である自信は無いよ。』

・コノハナサクヤ×サラマンダー→女神シラヤマヒメ
・グルル×(プリンシパリティ×スライム)→女神コノハナサクヤ


『まずは1体補充だね。』 

・ヴァーチャー×ヴァーチャー→精霊ノーム

 そのままラグズショップに行き、サラマンダー3体とノーム1体を追加購入。いいのかこれで。

『しかしメインファイルに空きが無いねぇ。』
「確かにな。」

 女神7体に、魔神・鬼神・龍王・女魔と、溢れたサラマンダー。
 

「女神減らすしかないんじゃね?」
『嫌です。』

 言うと思った。
 ゴールまでの必要材料はほぼ確保してあるらしい。
 あとは簡易レベルアップ用の悪魔を勧誘するだけで良いんだそうだ。


 こちらの準備が整ったと見たのか、再度俺達は転送される。
 代行者が待ち受けているであろう、戦場に到着。3方向に分断されてしまった。

『ここも基本、運強化装備で行くよ。』
「おいおい、ルシファー相手にこんな装備で大丈夫か。」
『大丈夫だ、問題ない。』

 不安だ。適宜自分の判断で換装するとしよう。


 目の前に悪魔の大集団。
 一気に突破しようとしても、手数が足りずに手痛い反撃を喰らいそうだ。

「妙に種類がいるな。空きは三体しかないけど、格の低い悪魔もいない。どうする?」
『狙いは「妖鳥アエロー」、邪鬼ラクシャーサ、邪霊リッチってところかな。』
「高位悪魔合成用ってことか?」
『いや、正直計画ではどれも必要ない悪魔だし、実は勧誘もどれでもいいんだけど、保険だよ。』
「倒した方が良くないか?」
『一理も二理もあるけれど、僕はもう自分の計画を一切信用しないことに決めたんだ。』
「確かに保険は掛けるに越したことは無いが、それもまたどうなんだろうな。」

 何でも、この終盤における計算違いは、取り返しのつかないことになる恐れがあるらしい。やはり今は終盤なのか、と少しズレた感想を持った。

 トモハルとオギワラには、それぞれ前衛としてウルスラとグンダリを召喚してもらう。ついでにサポートとしてドゥルガーとキングーも召喚。俺はいつもどおり、女神様達を従える。サラマンダーは後方からゆっくり付いてくる。

『いつかも言ったと思うが、敵として出てくる邪霊リッチは危険だ。』
「危険な邪霊とか、邪霊の存在意義を揺るがすな。」

 リッチは二匹いるので、速攻で撃破・勧誘するのが良いだろう。

「とは言え、敵集団の壁に阻まれて先制は出来ないし。一旦待って、ある程度敵をつりだしてからか。」
『ぶっちゃけ邪霊は、パールバディの特技「アフナ・ワルヤ」で一発なんだけど。まあ経験値無駄になるし、勧誘もしたいし、それもいいかな。』


 ひとまず三箇所で俺・ウルスラ・グンダリが先頭に立ち敵をひきつける。
 敵はこちらの思惑通り、三方向に分散して間延びした陣形になっている。

『クーフーリンのチャクラムとか使いたくなるね。』
「直線上の敵を一掃する超射程の技だっけ。確かにな。」

 アフナ・ワルヤは邪霊以外には効き目が薄いらしい。ひとまず俺は目の前の敵を、加速を受けて殲滅。防具を強力なものにかえて、危険を顧みずそのまま奥のリッチ達に突貫した。開いた穴に飛び込んでアメノウズメが、もう一匹のリッチを勧誘。


『いやさすがに足止まるよね。危ないよ。』
「まあな、けど最近の俺なら耐えられるはずだ。」
『邪鬼のクリティカルとか考えてないよね。』
「一応、経験的に知ってるクリティカル発生率と、こっちの回避率考えた上でやってるんだけどな。」
『……ならいいよ。もうすぐ君も伝説級指揮官の仲間入りかな。』

 トモハル・オギワラ方面も順調らしい。
 無事妖鳥アエローを勧誘し、眼前の敵を上手く防ぎながら闘っている。
 ちなみに俺が倒したアエローから「じゃぼう」を入手した。

『古の武神「涼宮張飛」が使っていたとされる矛だ。』
「いや、違うよな。さすがに張益德は俺でも知ってるぞ。」
『ちなみに性能はイマイチ。』
「後世の創作だからか?」
『創作である事は確かだけど、性能の低さは別にそのせいではないと思うよ。』

 相手の反撃を上手くいなし、そのまま眼前の敵をほぼ駆逐。
 ついでに近くにいた妖魔スキュラもパールバディで勧誘しておいた。

『キミの強さが目標に達したよ。魔王祭に間に合ったね。』
「おう、そうなのか。」

 召喚してあったサラマンダーと、パールバディを合体させる。

・パールバディ×サラマンダー→女神フレイヤ(ダブルゲット)

『豊穣の女神フレイヤ。いいよね。豊穣。』
「相変わらずだな。」
『実際ここにフレイが居ないのが悔やまれるよ。禁断のプレイとか繰り広げられたかもしれないのに。』

 コイツが一番碌でもないよな。

『あ、しまったな。』
「どうした。まさかフレイ作るとか言い出すんじゃないだろうな。」
『確かにそれも捨てがたいけど。キミの成長にうれしくなって、つい女神を合体させちゃったけど、実は急ぐ意味が全く無いんだよね。このステージ中でなら、メフィストの進化を優先させるべきだったかな。』

 計画か。
 何でも、『フレイヤの成長は全く、これっぽっちも急がない』らしい。

「なら【ハヤトロギア】使ってやり直せばいいじゃないか。」
『うーん。そうなんだけど、メンドイと言うか。』

 駄目だこりゃ。相当緩んでやがる。
 代行者の部屋に屯する、護衛になってない護衛部隊を掃除。ついでに「地霊アトラス」を勧誘しておいた。まともに闘うとさすがに強いが、誰にもまともに闘って貰えず真っ先に落ちる鈍足悪魔だ。
 前座を片付け、いよいよ代行者のもとへ踏み込む。

『「魔王ルシファー」。明けの明星などとも称される、天使の筆頭だった存在さ。』
「アクシズの神話では、ミカエルの双子の兄とかだったような。」
『そういう説もあるね。』

 神話に謳われる、神に反乱を起こした傲慢な熾天使。
 だが目の前にいるのは、その目に知性を湛える穏やかな天使そのものだ。

「とても神話に謳われる魔王とは思えないな。」
『後世の人間に伝説を歪められたのか、長い年月を経て本人が変質したのかはわからないけどね。僕の知る妖精王の親友も、永い眠りから目覚めたらいつの間にか世界を滅ぼす魔王様にされていたし。』

 神様とかって、基本気の毒な身の上話が多いな。

「実力はどうなんだ。」
『ミカエルよりも更に魔法に長けた最強の悪魔だよ。物理面も申し分ない。』
「動いてこないなら同じことだけどな。」

 慎重に間合いを計り、魔法防御を高めたフレイヤを鼻先にぶら下げる。
 やはり痛い。下位の女神なら確実に一発で落とされる威力だ。
 サクヤ姫の参加は、ルシファーの魔法力が枯渇してからにしよう。
 フレイヤとアナーヒーターはイシュタルの特技習得を全力でサポート。
 程なくドゥルガーが特技習得。

『ああ、しくじったな。更にノームを入れておくべきだったか。』
「急ぐのか?」
『メフィストとのセットでだけど、それなりに。ここに来てミスが続くなぁ。』

 ルシファーの魔法力が切れ、サクヤ姫が弓でチクチク開始。
 イシュタルは隣接してガチンコの殴り合い。
 はやさを大幅増強する「ロータスワンド」のおかげで成長がアホみたいに早いらしい。
 最初の満月で回復したばかりの、サブ女神達のワンスモアを一身に受けて、魔王をボコボコ殴りつける。
 反撃はかなり回避しているが、それでも回復が追いつかないほどだ。


「魔神と鬼神は、もはや素手でも攻撃力が高すぎて、祭に参加させるのをためらってしまうな。」
『ようやく時代がキミに追いついてきたね。グンダリは多少急ぐ必要があるので、少しだけ手を出させよう。』

 グンダリに結局6発もちょっかい出させつつ、イシュタルが早くもリバイバルを習得。この世の理ブレイカーも、はや3体目だ。
 サクヤ姫に一気にワンスモア&リバイバルを集中させる。本当ならロータスワンドを装備させてガチで殴り合いをさせたいらしいが、能力不足だそうだ。どのみち8体目は暫く作れないらしいが、こんなに美味しい状況を逃す手は無いとの事。ルシファーが瀕死になって、ワンスモア習得6体目とはいかなかったが、かなり成長したはずだ。



 この状態で出るのは少し気が引けるが、俺はルシファーと向き合うべく歩を進める。
 ルシファーが俺に穏やかな声で「我が理想を叶えるのか、妨げにきたのか」と問いかける。
 彼の理想とは一体何なのか。

『定かではないけれど、他の代行者が『共存の道』と評しているのを聞いたことがある。』
「可能性の未来ってやつか。」
『そうだ。それが本当かどうかはわからないけど。』

 共存。耳に心地よい言葉だ。

『DIOを介しているとは言え、君達が既に体現していると僕は思うんだけどね。』
「だが、これは特殊なケースだろう。」


 圧倒的に能力が隔たっている二つの種族。
 片方は相手を殺そうと思えばいつでも簡単に実行できる。
 もう片方は極一部の例外を除いて、されるがままだ。
 そんな二つの種族が隣人として暮らして行くことなどできるのだろうか。

 俺はルシファーにそう答えた。
 ルシファーは暫し目を閉じたあと、「決着をつけよう」と正面から俺に戦いを挑んできた。
 俺は心のどこかに躊躇いを残しつつも、構えていた草薙の剣でルシファーの両の翼を深く斬り裂いた。





 敗れたルシファーは、俺達に語った。
 彼がかつて夢見たものの具現。
 2024年にアクシズで起きた危機を救った、人間の男とルシファーの娘の物語。

 二人は深く愛し合い、共にあろうとした。
 その結果生まれてきたオギワラと言う存在。
 そのオギワラがアクシズとパラノイアの繋がりを、今まさに絶とうとしている。
 何という皮肉か。




 しかし、今にも消え去ろうかと言うその間際。
 ルシファーはふと、優しげな笑みを浮かべてオギワラに言った。
 「行け、行っておのれの信念をつらぬけ」と。
 まるで子か孫を励ます肉親であるかのように。






「……これで、これで本当に正しかったのか?」
『代行者達もそれがわからなかったからこそ、君達を招いたんだろう。明確な「正解」が存在する問いなんて、世の中を見渡せばそれ程多く無い。それでも、いやだからこそ、自分が正しいと信じられる道を、胸を張って往くべきなのだと僕は思う。』
「オマエはいつも現実的だな。だけど、俺はそう簡単に割り切れそうも無い。」
『それでもいいと思うよ。迷いながらでも、立ち止まりさえしなければ。』

 これもまた「正解」が無いということなのか。


 周囲の光景が歪みだす。
 次の場所に到達するまでの短い間、俺は目を閉じてルシファーの理想に思いを馳せる事にした。



[22653] PARANOIA     ~ Missgestalt ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/16 21:17
 久しぶりにリミックスステーションが無い環境にいるわけだが、何か落ち着かない。

『禁断症状にして、合体道の末期症状だね。ようこそ、こちら側の世界へ。』
「自覚があるのが更に腹立たしい。」

 プラン通りに、ノーム・サラマンダー・メフィストをメインファイルに移す。
 すぐに精霊2体を消費するとは言え、メインファイルの空きが1体しかない。

「合体に使える仲魔は殆どいないってのにな。」
『ままならない事ばかりだよ。』

stage 6 PARANOIA



chapter 44 ELLETH     ~ Another world ~

 エレス。
 荒涼とした大地に険しい山々が広がっており、非常に進軍しづらそうだ。オマケにここから時間制限が復活する。その厳しさも、得られる貢物の質もアムネジアの比ではないらしい。

『アムネジアの連中は、技術を磨くとかそういう事一切考えないから。』
「確かにここなら、常に厳しい生存競争に晒されそうではあるな。」

 アクシズとはまた異なる違和感だらけの世界。毒々しく、醜悪で、生物に対する敵意で満ち溢れているかのような世界だ。
 パラノイア住民らしき男がこちらに近寄ってくる。頭に何かの管を通し、口と一体化しているマスクが印象的だ。ここまでしないと生き残れない世界と言うことか。その住人が何やら「パラノイアの占領を狙うならば我らは戦うのみ」とか言い出した。それに対してカオルがマジ切れ。怒りっぽいのは実は素だったのか。
 

「むしろ異物は俺達のほうか。」
『立場の違いさ。』

 どうやら悪魔の集団を統率しているのは、奥にいる堕天使らしい。
 細く長く、そして険しい道。要所要所に壁役となる地霊と、後方から魔法を撃ってくる妖精・邪霊。さらには龍王・邪龍も多く配置されている。

「嫌らしい配置だな。」
『的確に人間を潰しに来ているね。』

 ただ、対空要素も少ないし、普通に順路を辿れば負けることは無いだろう。いかに俺が素早く進軍するかにかかっている。
 いつもの女神達と精霊二種に、ドゥルガー・メフィストを召喚。メフィストに「汝の力量は既に我のそれを大きく上回る」と褒められた。照れる。


 戦闘開始。すかさず精霊合体を開始する。

・ドゥルガー×ノーム→女魔カーリー
・メフィスト×サラマンダー→夜魔ヘカーテ(メルトダウン)

『俺のへかてー!』

 久しぶりのテンションの高さだ。ってか何故に『俺』?

「まあ確かに美人だけど、ぶっちゃけヴリュンヒルドの色違いじゃないか。」
『無粋。極めて無粋。無粋の極み。』

 もの凄い勢いで非難された。何でも『ブリュンヒルドの方は凛々しさの中にも柔らかさがあって、ヘカーテの方はキツめの角度を持っている』だそうだ。意味がわからない。兜の形の事を言ってるのか?

『メルトダウン習得がなかなかにキツイね。祭はこの子を最優先だ。』
「結局メフィスト一回しか出陣しなかったな。」
『別に私情を挟んだわけじゃないよ?』

 ひとまず信じておく。

『夜魔は荒地が非常に得意だ。ヘカーテと一緒に進軍すると良い。』
「わかった。」

 私情を挟んではいないんだよな?


 リバイバル持ち女神のワンスモアを受けて、4倍速で移動する。邪龍の間合いで足が止まってしまったため、リバイバルを持たない低位の女神で壁を作る。

『女神使いが荒くなってきたね。』
「そう言うなよ。」


 女神達に地霊が突っかけてきた。どうやら見えてる妖精と邪龍は、道を塞ぐことに固執する「慎重」タイプのようだ。そうとわかればやりたい放題。今度はリバイバルを持たない女神二体の加護を受け、地霊アトラス2匹を一気に屠る。注意して動いたので、奥にいる邪霊の間合いには入っていない。残った1体の地霊を反撃で仕留めて一息つく。
 当然相手に動く様子は無く、リバイバルで回復した3体のワンスモアで、道を塞ぐ邪龍たちを一気に突破。ティターニアはアイツの要望で勧誘しておいた。順調そのものだ。唯一誤算があるとすれば、ヘカーテが全く進軍についてきてないことだろう。


『意外と森とかで足を取られるね。失敗だったかなぁ。』
「まあ、引っ込めればいいだけじゃね?」

 コイツが読み違えるとは珍しいこともあるものだ。それだけパラノイアの地形は複雑だと言うことなのか。
 暫く進んでいると、妖鳥アエローがかなり奥の方から飛んでくる。さすがの機動力だ。燕返しで簡単に落とすも、今度は更に奥から邪龍が。

『油断したね。』
「かも知れないな。」

 一応想定の範囲内だが、無造作に進軍しすぎていたことは確かだ。ダメージをアメノウズメに癒してもらいつつ反省。そのまま邪龍が塞いでいた通路を突破。色々考えた末、ここで龍王キングーを召喚する。

『素晴らしいアイデアだね。』
「相手はもう鈍足ばかりだからな。足が止まるこの地形なら、龍王が一方的に狙撃できる。」
『何がいいって、キングーと敵がほぼ同格のところが素晴らしい。』
「まあ仲魔になった時期とか考えて、感覚的にこんなもんかとな。」


 満月で回復したワンスモアを受けて、キングーが6倍速で身動きの取れない敵を屠りまくる。八面六臂とか言うレベルじゃない凄まじさだ。砲撃の運動エネルギーが36倍で更に6つ分。元々荒れた土地ではあったが、完全に月面クレーター状態だ。

「でも不思議と攻撃威力は上がらないんだよな。」
『まあ物理エネルギーではない、不思議エナジーっぽいからね。』
「実は龍王の体から離れた途端に加速の恩寵が途切れるとか?」
『初速が保存されないわけだし、どちらにせよ僕たちの物理じゃ量れない現象だろうね。』

 結局、堕天使のいる島への橋を守っていた悪魔の集団を一方的に粉砕。
 夜魔ヴァンパイアだけは一匹を念のためキャッチ。
 
『合体に使うことが無いことを祈るよ。』
「保険ってのは本来そういうものだろ。」

 橋を渡る際に気になるのは、堕天使の前にいる龍王。かなり足場が悪いため、さっきの戦法を今度はこちらがそのまま受けることになる。それだけなら問題ないのだが、更に邪霊が張っているため一層近づきにくい。

『まあ時間制限の半分しか経過してないからね。まずはしっかり力を溜めたらどうだろう。』
「そうするか。」

 一旦進軍ペースを落として泉を占拠。雑魚散らしに魔神ウルスラグナを召喚。同時に引っ込めていた龍王キングーを再召喚。余っていたワンスモアを召喚したばかりのキングーに使用し、目障りなリッチを殲滅する。

「ちとマグネタイト浪費しすぎか?」
『いや、DIOの使い方の神髄といえると思うよ。』

 何かやけに褒めちぎるな。
 龍王キングーは堕天使の傍にいる厄介な妖獣を砲撃。ワンスモアのサポートを得て撃破。対空砲火が消えてなくなった敵陣を、女神達が飛び回り龍王イツァムナーを翻弄する。

「勝ったな。」
『そうだね。』

 窘める言葉が飛んでくるかと思いきや、意外な同意の言葉。次の合体計画でも練っているのだろうか。堕天使の周囲を掃除し終えて、俺はグンダリとヘカーテを召喚。さすがにカーリーは火力過剰だろうと思い自重した。

『メインはグンダリ。次がキングーかな。本当はカーリー最優先したいんだけどね。』

 敵は「堕天使ベルフェゴール」。飛ばない堕天使なんか唯の豚同然だが、こいつはちょっと良い電撃魔法を持っているらしい。女神は弓を使わないほうが良いだろうとの事だ。
 頃合になったので、ベルフェゴールをあっさり沈める。アムネジアの熾天使たちは、こちらを試そうとする姿勢が見え、殺し合いにはならなかった。残念ながらパラノイアの堕天使たちはこちらを殺す気満々。自然手加減は出来ない。炎の剣「レーヴァテイン」をドロップした。

『これが音に聞く「レバ剣拾った!」ってやつだね。僕は経験ないけれど。』
「確かにテンション上がるが、世の中に一本だけだろ、これ。」
『と言っても、解釈によっては炎の邪神スルトの剣だったり、魔神フレイの剣だったり。妖精さん界四大奇書では、爆乳のミカエル様も持ってたりするんだよね。』
「なんて罰当たりな。」
『そんなことないさ。キミだって三国志演技を読んで歴史に興味を持ったりしただろう?』

 ちなみに性能はガッカリだった。
 更に降伏の証なのか、パラノイア住人が山ほどの貢物を持ってきた。
 「ななつさやのたち」「びぜんおさふね」「楠公」防具シリーズ。
 折角の武具だ。一つ一つ検分していく。

「何か凄い形しているけど、これ武器として使えるのか?」
『ああ、「七支刀」か。これは直接叩く武器ではないよ。持ち主の力を高める祭器であり、オーラブレードとして扱うのが良いだろうね。どこぞの地獄の君主が持ったときはビームとか出していたっけ。』

 それは最早刀ではないのではないか。

「備前長船は俺も聞いた事あるな。有名な刀匠の作品だろ。」
『そうだね。高命中・高威力・高クリティカル補正。オマケに魔法防御があがる優れものだ。人によっては、これが最高の武器になるのかな。』

 一応まだ強い刀はあるらしいが、実質最高効用ということらしい。

「最後に『楠公防具シリーズ』か。これって多分、楠正成だよな。」
『そうだね。誉れも高い正一位、大楠公の防具一式さ。その頑強さもさることながら、何と言っても一式装備すれば信じられないほどに魔法防御が向上するんだ。対代行者戦における、最高の防具だね。』
「知恵者で知られる楠正成らしいな。備前長船とセット運用で一層効果を発揮しそうだな。」


 どれもこれまでの武具とは段違いの性能だ。身に着けるだけで力が溢れてくるような感覚。アイツの言葉を疑っていたわけではないが、これほどとは思わなかった。

『だから言ったでしょ。』
「ああ、これは素直に驚いたな。凄まじい性能だ。」

 ちょっとワクワクしてきた。
 本来の目的を忘れないようにしなくては。


chapter 45 NESDIA     ~ Dead line ~

 恒例のショッピング。
 店主は異様に怪しいフードの男。フードを目深にかぶっているため顔は見えない。だが目が光ってるし、手とかも緑色だし、どう考えても人間じゃない。
 幸いマッカは通用するようで、すんなり買い物できた。売買拒否も覚悟していたのだが。
 とは言え、買うべきものはそう多くない。初めて見る武具を一通りと、エストックを3つ。金が6万も余ってしまった。

『取って置いてもしかたないよ。』
「そうなのか?」

 根っからの貧乏性なのか、金を使い切ることに抵抗がある。
 ひとまず消費アイテムを大量購入。防具も相当数追加購入した。何でもオギワラ達4人の恒久装備にするらしい。
 ちなみに女神達はパンツァー装備をベースに、換装したりしなかったり。メイン仲魔は基本状態が裸である。


 そのまま次の土地、「ネスディア」へ。
 正面にいる鳥が気がかりではあるが、それだけだ。

「さっさと鳥を消して制空権を取ってしまうか。」
『そうだね。まあ、魔神・夜魔・女魔でゴリ押す手もあるけれど。』
「じゃあ併用だな。」

 未来情報によると、正面の鳥4体は、「猪突」と「剛胆」が混じっているらしい。主力で迂闊に突貫するのは自殺行為だそうだ。ついワンスモア×6でゴリ押したくなるが、程ほどに進軍することにする。

『龍王強化用にグルルを一匹キャッチしておこう。』
「あのジャターユっぽい鳥はいいのか?」
『「霊鳥ガルーダ」だね。親子なので似てるのも当然だろう。』

 にしても似すぎだろう。  

『正味な話、強すぎるんだよね。まあキャッチしてもいいけど、ここは女魔の餌にしたいかな。』
「なるほどなー。」
『砂漠に夜魔達を放り出した後は、極力荒地や森を進軍するよ。』
「砂漠よりマシって事か。」
『適材適所さ。』

 右手に「邪龍レヴィアサン」と妖精オベロンに邪霊リッチ。距離があるので相手の出方を窺ってからでいいだろう。
 正面に統率者と思しき「堕天使サマエル」と、護衛の「魔王アスモデウス」。さらには龍王イツァム・ナー。砂漠に足を取られているところを砲撃される画が浮かぶが、所詮は雑魚。砂漠を得意とする仲魔に露払いをしてもらおう。
 正面奥には泉の回りに、邪鬼だの夜魔だの有象無象。蹴散らされるためだけにいるのだろうか。
 右翼分断されたオギワラたちの正面に、地霊アトラスと意味ありげなジェネレータ。護衛を1体回せば十分だろう。


 戦闘開始。
 「剛胆」対策にグンダリを拠点に残す。果たしてグルルが生き残る事はできるのだろうか。
 オギワラのほうにはウルスラグナとアメノウズメを配置。アメノウズメは、あわよくばグルルをキャッチ。ウルスラにはそのまま辺境を一掃してもらう予定だ。
 俺は砂漠の淵を掠めつつ突出して、カーリーとヘカーテを召喚。リバイバルを利用すれば、ヘカーテで鳥4匹を一掃できるが、自重。カーリーにリバイバル持ち女神のワンスモア×3をかけて、一気にガルーダ二匹を葬った。

「グルルが完全にフリーだな。」
『大したことは出来ないよ。』

 事実、低位の女神がそれなりに手傷を負ったが、一匹は剛胆タイプだったらしく、鬼神に突っかけて返り討ち。森に潜んでいた二匹のヴァンパイアによる魔法攻撃も、それ程の痛手にはならない。

『鬼神のクリティカル率は半端無いよね。』 
「備前長船によって、更に凶悪になったな。」

 残った一匹のグルルはカーリーがキャッチ。俺は森に突入し、ヴァンパイアを撃破。
 正直吸血鬼なんて、吹けば飛ぶ虚弱種という印象しかない。所詮は蚊の親戚か。

『まあ、比較的新しい悪魔だからね。』

 そんなものか。
 もう一匹のヴァンパイアも、魔力を高めたヘカーテが破邪の基本魔法「ハンマ」であっさり撃破。戦域全体を速やかに制圧するため、戦力を分散させることにする。


『まさに強者の戦略だ。変われば変わるものだね。』
「この戦力差なら各個撃破されようが無いだろ。」

 妙な感慨に耽っているアイツはさて置いて。
 敵はまだ各地に散らばってはいるが、厄介なのは即死魔法を持つリッチに、邪龍・龍王だけだろう。フレイヤで足止めしてもいいし、正面から押し切るのでも良いかもしれない。

 方針決定。
 まずカーリーはそのまま右翼に派遣。実は猪突だったっぽい邪霊リッチを踏み潰し、道を塞ぐ龍王を始末。そのまま右翼最奥へ駆け抜け、邪龍を片付けて俺の露払いをする予定だった。実際には俺の後追いが早すぎて、邪龍の攻撃を受ける事になってしまったが。
 ちなみにカーリーが邪龍レヴィアサンから「ドジャーシューズ」を強奪。疾風赤兎の上位互換になる優れものだが、当のレヴィアサンは靴を履くようなシルエットではなかったはずだ。
 ヘカーテは一旦戻って、右手奥から突っ込んできた妖精オベロンを迎撃。暇女神達がアイテム回収するのを見届けて、その後は自身も暇していた。ちなみに拾ったアイテムは、備前長船に大きく劣る刀と、「オオバカリのけん」。何と言うガッカリ感。
 グンダリはオギワラに再召喚されて、ウルスラが遠征に出た後のジェネレータ対応をしていたそうだ。サポートのウズメが堕天使フラウロスも一匹キャッチしておいたらしい。

 森を抜けた俺は、邪龍の襲撃に肝を潰しつつも、加速を受けて砂漠を一気に駆け抜けた。道中魔王を見かけたが、肩が当たったら吹っ飛んでいった。

「じゃあ、ヘカーテとグンダリ再召喚するか。」
『あー、どうなのかな。』

 今グンダリ呼び戻してジェネレータ放置すれば、荻原たちが死ぬ事になるか。

「じゃあグンダリが呼び寄せるのはやめとくか?」
『いや、ジェネレータプチプチしても、彼大して成長しないんだよね。』
「フレイヤを派遣するのはどうだ? 火力は足りなくても多芸だから足止めにはもってこいだろ。」
『……そうだね。良いアイデアだと思う。その隙にカーリーを派遣しよう。』

 ちなみに相変わらずカーリーは祭に参加できない。アイツの焦る理由が少しわかった。
 祭を始めたは良いものの、地形が悪く上手く攻撃ができない。制限時間はまだ三分の一しか過ぎていないらしいので慌てる事はないのだろうが、歯がゆい。いったんヘカーテを迂回させるか。

『まさか偃月刀が役に立つ時が来ようとは。』
「何事も使いようってな。」

 堕天使サマエルの意外な速さにグンダリは攻めあぐねていた。だが試しにパンツァー装備・天付き前立て、そして偃月刀と素早さ増強装備に身を固めてみたところ、見事連続攻撃に成功。むしろ削りすぎて困ったほどだ。
 ウルスラグナの方も、満月を待たずに遠征を終えたそうだ。女神達に加速され、一気に最奥の泉を制圧。ヴァンパイアを倒して、薄く輝く足防具「ルナアンクレット」を入手したらしい。

「ちょっかい出したのか?」
『いいや、僕は何もしていない偶々だよ。』
「レアアイテムじゃないのか?」
『店で買えないという意味でならそうだけど、どうせ後で道端に落ちているからね。これをレアアイテムと思う人は居ないでしょ。性能もしょんぼりだし。宝石の方が役に立つ。』
「そんなにか? 履き心地はそう悪くないぞ。」
『赤兎の方がずっと役立つさ。まあ、ドジャーシューズや大楠公の具足がなければ、それなりにありがたがったかもね。』
「確かに疾風赤兎は高性能すぎたな。」

 それなりに時間をかけて、念入りに祭を実行。グンダリよりもヘカーテの成長優先なんだそうだ。

「私情入ってんじゃねぇの?」
『心外だな。鬼神を統合するのは最後の最後だからだよ。』


 時間が来てしまったので、いつもの如く俺が祭に終止符を打つ。
 堕天使サマエルは間近で見ると何とも不思議な形をしていた。ちょっとカッコイイ。
 やはり消え去る直前に「ほうてんがげき」をドロップ。

「かの有名な呂奉先の愛用していた戟、ってとこか。」
『そうだね。そして蛇矛と同じくガッカリする一品さ。』
「堕天使のドロップだもんな。やっぱり後世の創作なのか?」
『どうなんだろうね。少なくとも史書には載ってなかったという話だよ。』

 更にアムネジアの住人から「ミョルニル」「スキールニル」「グングニル」「グレイプニル」「ドラウプニル」を入手。
 どれもこれも反則級の性能を誇っている。

「なんか全部『ニル』ついてるんだけど。」
『北欧神話に出てくる道具や人名だね。正しい謂れとか、もう誰にもわからないと思うよ。多分だけど、英語で言うところの「one」に相当するとかじゃない?』
「なるほど。けどこんだけ多いとゲシュタルト崩壊しそうだ。」
『鵜呑みにしないでよ。根拠の無い憶測なんだから。』


 強力な武器や防具が沢山手に入っていく。エレスに続いて顔のニヤケが止まらない。こんな浮ついた気持ちで戦っていてはいけないと思うんだがなぁ。


chapter 46 TWIA     ~ Kaleidoscope ~

 金があっても腐るので、ショップに戻って防具と消費アイテムを追加購入。
 待ち望んだリミックスステーションの解禁ではあるが、特技習得済みの仲魔が少なく寂しい感じ。

・キングー×(グルル×オキュペテー)→龍王ファフニール

『有名な悪竜ファフニールだ。』
「またニルだな。」
『もうすぐ実質最強の剣「グラム」が手に入るので、機嫌が悪くならないか心配だよ。』
「英雄ジークフリードが持つ、竜殺しの剣だったか。」

 あの巨体で暴れだされたら、押さえ込むのが大変だ。
 何が大変って、手足を握りつぶさないようにするのが大変だ。


 俺達は拓けた道を通って「ツィア」と呼ばれる場所にやって来た。
 毎回思うがこのネーミングに何か意味はあるのだろうか。

『アムネジアは7つの天の宮、パラノイアは7つの地の宮だね。天界と冥界のモデルの一つだ。「アルクァ」の中にあるゲヘナを7つに分割する解釈もあるみたいだけどね。正直良くわからないや。多分「無間地獄」とか「阿鼻叫喚地獄」とかに近いんじゃないの。根拠無いけど。』

 ほー。

「聞いておいてなんだけど、オマエ良くそういうの知ってるよな。」
『伊達に物語を読んでいるわけではないよ。地獄の話だって、桃太郎の伝説を読んで興味を持ったから調べた事さ。』
 
 桃太郎の昔話に地獄なんて出てきたか?
 それとも妖精界に伝わる桃太郎は全く違う話なのか。


 悪魔の気配が近づいてきた。
 戦場に立ち、辺りを見回す。相変わらずの険しい山々と閉ざされた空だ。そして俺は大変な事に気付いた。

「おい、何かアンドラスとかいるぞ!」
『その通り。堕天使最下位は絶対捕獲だよ。』

 垂涎の下位悪魔。
 メインファイルの空きは相変わらず3体しかないが、最早こいつらで決まりだろう。

「くそ、キリンに闘鬼までいやがる。ここは天国か?!」
『落ち着いて。何かいつもと役回りが逆になってるよ。』

 こんな時、俺はどうすればいいんだ。わからない。

『深呼吸すればいいと思うよ。それはそうと、残念なお知らせ。ここでは貢物を貰うために30体敵を倒さなきゃならない。』
「それがどうしたってんだ。」
『良く見てきちんとカウントすると、最悪な事に敵悪魔は全部で32体しかいないんだ。』

 つまり、2体しかキャッチできないということか。
 これでキャッチをできないなんて……残酷すぎる。
 コイツの口調も今までに無いほど苦々しいものだった。


「じゃあ堕天使アンドラスとオセか?」
『それが妥当といいたいところだけど、僕はキリンを推すよ。在庫のランダと組み合わせてイシュタルを強化するんだ。』

 ピッタリだな。
 確かにシラヤマヒメを強化できないのは痛い。
 だが、そもそもイシュタルが強化できなければ、シラヤマヒメの強化も出来ない。


『それにね、最強の聖獣キリンを強化する事で、一周してユニコーンになるんだよ。』
「なん……だと……?!」

 つまり在庫次第ではいくらでも最弱の仲間が生産可能ってことじゃないか!

「何故今まで黙っていたんだ!」
『今思いついたんだよ。』

 俺に攻める資格なんてありはしないだろうに。

『これは暫くお休みしていた宝石集めを再開するしかないかな。』
「是非頼む。」

 闘鬼ヤクシャ辺りを強化すれば、ウェンディゴ先生の再臨だって可能なわけだ。

 浮き立っていた心を落ち着け、改めて戦場を見渡す。
 また転送分断されて、しかも最初っから包囲されている。ただ、包囲している各所がびっくりするほど薄いのが特徴だ。食い破り放題。駄目な包囲戦術の見本か。
 リッチが4体が鬱陶しいが、まあどうとでもなる。いつのまにか「危険な邪霊」から「鬱陶しい邪霊」に戻ってしまった。対空要素が殆ど無いのが特徴か。最早勝った気分だ。

 まずは左翼、菊池兄妹。ひとまず女魔カーリーを、左翼最奥から突っ込んできそうな鳥の迎撃にあてる。道すがら左翼正面にいる妖鬼と魔王を始末して、左翼奥にいる堕天使も墜とせば、きっと特技を習得するだろう。
 後方。生まれたての龍王ファフニールで一掃する。ワンスモアを最優先か。
 右翼。グンダリにヘカーテをつけて縦横無尽に暴れまわってもらう。さすがに特技習得は無理だろうが。
 中央。俺とオギワラは様子見。一応俺は敵拠点に向けてまっすぐ進んでいくが、正直展開が読みきれない。ウルスラグナは保険としてCOMP待機。あとは臨機応変。いい言葉だ。


『堅実だね。』
「お褒めに預かり光栄だ。」

 準備は万端。満を持して戦端を開く。
 後方のリッチを右翼ヘカーテのハンマと、中央ファフニルからの砲撃で瞬殺。地霊アトラスが2匹残ったので、ワンスモア×2でファフニールを加速。砲撃単独では倒しきれないようなので、予めリバ無し女神とカオルでそれぞれ削っておいた。
 中央の俺はひとり進軍。リッチの間合いに入らないよう注意しながら、無人の野を行く。何だか『格が最終目標に達して』からは、結構放置されている気がする。成長が仲魔優先になって、俺がトドメを刺す機会は激減した。いつも俺が独占していたラストのトドメも、仲魔に譲るように言われたし。まるで敵拠点を占領する機械だ。別に寂しいとかではないが。
 同じく中央のオギワラは拠点に残り、店売り装備に身を固めてスタンバイ。龍王の一撃なら十分耐えられる。そしてそれ以上の攻撃を受ける可能性は皆無。
 右翼暇しているグンダリは砂漠に突っ込んで、闘鬼ヤクシャの攻撃を誘い受ける。左翼カーリーも同様にシュテンドウジたちの攻撃を誘う。アヤはきちんと鳥の間合いの外に逃げたようだ。最後方に控えている龍王も、程なくヘカーテで蹂躙しに行く予定。 順調すぎてフレイヤのワンスモアが余ってしまった。


『慌てる必要は無いよ。どのみち満月で回復するまでに、1回は無駄にする事になるんだから。』

 何でも偶奇がどうの時間経過がどうのと。
 良くわからんが、そういうことなら遊ばせておこう。

『むしろいきなりキリンを勧誘するとかでもいいくらいだよ。』
「沼地に派遣するのは気が引けるが、そうだな。」

 相手の攻勢は殆どがこちらの予想通り。
 魔王が突っかけてきたが、カーリーにノーダメージで返り討ちにされたのにはさすがに笑った。ただ、俺はまたしてもうっかり堕天使の間合いに入り込んでしまったようだ。アンドラスとフルーレティが凄い勢いで飛んできた。
 折角なので俺はフルーレティを銃撃し、ウズメでアンドラスをキャッチ。右翼で動かなかった魔王アスモデウスはグンダリで潰し、グンダリはそのまま敵拠点へ進軍。後方の龍王2体もヘカーテで予定通り排除。アイテム回収は後回しだ。
 左翼カーリーを、一般女神達のワンスモアでフル加速。意外と釣られなかった妖鬼と鳥を一掃する。

 これで自陣は完全にクリアになった。一刻も早くヘカーテやファフニールをオギワラに回収させて、一気に防衛ラインを押し上げなければ。

「張り合いが無いな。」
『とは言え油断は禁物だよ。』

 言った傍から敵リッチの即死魔法「ムド」を、キャッチしたばかりのウズメが受けてしまう。成功率は極低確率らしいが、大いに肝を冷やした一瞬だった。

『まあ、この位なら僕が何とかするけど、あんまり甘えて欲しくはないな。』
「……肝に銘じておく。」


 俺は一歩戻ってリッチとフラウロスを撃破。使用タイミングがズレたおかげで、ワンスモアが途切れない。思わぬ効用。怪我の功名といったところか。
 次の問題は、敵の統率者「堕天使アザゼル」の周囲を固めている邪龍と龍王たちだ。周囲が砂漠と言う事もあり、俺が先陣切って突っ込んだら潰される可能性が高い。現に一発長距離砲を喰らっている。

「ウルスラグナ出すか?」
『それもいいけど、フレイヤあたりを餌に邪龍を一匹ずつ釣りだすのが良いと思うよ。もうすぐファフニルたちも再召喚できるしね。』 

 なるほど確かに。
 フレイヤを手前にいる邪龍の間合いギリギリ内側に配置してリバイバル。カーリーでワンスモアを受けて、奥にいるリッチを排除。

「あとはサクヤ姫が暇しているので、泉において固定回復砲台にするといいよ。」
『妙な言い回しだな。』
「けど、威力は絶大さ。世界が変わるよ?」

 アドバイス通りに配置完了。
 ひとまずこれで目に見える脅威は無くなった。

「固定回復砲台、凄いな。サクヤ姫がいればもう負ける気がしない。何で今までこの戦法を採らなかったんだ?」
『まあ、今まではワンスモア覚えるためにフル稼働していたからね。今は上が閊えて下もいない。暇してるからこそできる荒業だよ。』

 残念ながら、アザゼル前の邪龍は釣られなかったが、それ以外はほぼ予定通りの進軍が続く。さらに奥に居るもう一匹の邪龍に対しても釣りを試みつつ、ヘカーテとファフニルを再召喚する。ちなみにグンダリは右翼の砂漠につかまって、もう駄目な感じだ。

『何と言う言い草。むしろ僕らに問題があったと思うよ。』
「言ってみただけだ。」

 結局護衛の邪龍は不動の構え。龍王さえ排除してしまえば、俺の進行を妨げるものは無さそうだ。暇していた一般女神で、一気に敵拠点の龍王を空爆開始。
 まるで悪夢を見ているかのような凄まじさ。制空権を奪われた拠点の防御など、大抵は悲惨なものだ。
 トドメは再召喚済みのファフニルとヘカーテ。どちらも砂漠を苦にせず、ヘカーテが「マハジオンガ×2」で邪龍もついでに始末していた。
 邪龍レヴィアサンが、斧「くびかりスプーン」をドロップ。一匹がレアアイテム二つ持っているのはワイアーム以来か。そういえばどちらも邪龍だ。……嫌な事まで思い出してしまった。あれ以来、いやもっと前からかもしれないが、龍族相手だと妙に意識してしまう事がある。大事な教訓ではあるが、そうそう思い出したいものでもない。
 
「しかしユニークと言うか、悪趣味なネーミングだな。」
『確かに独特のネーミングセンスだね。ちなみに使うことはまず無いよ。』

 わかってはいたがやはりそうか。

「獣族が居ない今、好んで斧を使う理由も無いからな。」
『しかも性能自体、もの凄く低レベルだからね。』
「まあ、『使える斧』リストに入ってなかったし予想通りだな。」 

 そんなやりとりをしながら、「邪鬼ギリメカラ」に近寄って銃撃。
 「くりからのけん」を入手した。

『使う事はまず無いよ。』
「パート2かよ。」
『強いて言うなら特効の無い、攻撃力の劣化したアークセイバー。』
「マジでいいとこ無しだな。」
 
 ちょっとびっくりした。そんなものでも集めてしまうのがコレクターの業か。
 ついでに遅れてやってきたレオナルドからガーネットを入手。

「早速やったのか。」
『偶々だよ。というか実はキミって異様にドロップしにくいんだねぇ。仲魔で倒すとあっさりドロップするのに。』
「運が低いからか?」
『いや、運を最高強化したキミは、そこらの仲魔より断然幸運になっているはずなんだけど。何か幸運を打ち消す主人公補正でも働いているのかもしれないね。あくまで僕の感覚的なものなんだけどさ。』

 ちなみに「もう駄目だ」と評した右翼のグンダリは、祭が始まって暇そうにしていたフレイヤ達の応援を受けて一気に砂漠を駆け抜けたらしい。「魔王バラム」を一蹴して「らくてんきゅう」をゲット。「天を落とす弓」などという大層な名前の割に、性能はガッカリもの。さっき道端で拾った弓「ヒコホホデ」に比べると悲しさがいや増す。

「最近フレイヤは、ワンスモア・キャッチ・リバイバルの3種以外して無いよな。」
『まあ、永久機関できちゃったからねぇ。』

 これでいいのだろうか。
 祭を開始してから暫くして満月がやって来た。
 女神達のワンスモアが一斉に回復するも、最早使い道無し。

「もういいから進まねぇ?」
『気持ちはわかるんだけどねぇ。』

 さっきから妙に歯切れが悪い。
 ひょっとして、こいつも飽きているんだろうか。

「何かヘカーテが信じられないくらいクリティカル出してんだが、アレはオマエの仕業か。」
『うん。しんどい。』

 ヘカーテの習得がボトルネックになると言うのは前々から言っていた事ではある。前々から言っていた事ではあるが、コイツがやるとどうも私情塗れに見えるから困る。

『ここまでやっても習得しないって、もうね。時間が来たので切り上げよう。トドメは不本意ながらグンダリで。』
「ヘカーテじゃないのか。」
『彼がこれで習得だからね。そうなるように調整していたのもある。何れにせよ、このタイミングを逃す手は無いよ。』

 少し寂しいが、トドメをグンダリに譲る。

『あの世で仲間が呼んでますよアザゼルさん。』
「ここが既に地獄なんじゃないのか。」

 何か消える間際、「パラノイアの未来が……」とか言ってた。

「こいつらの夢見た未来ってのは、『パラノイアがアクシズを統合する未来』なのか?」
『大体そう考えて良いと思うよ。一応ルシファーもパラノイアの支配者ではあるけどね。あの堕天使連中がそんな殊勝な事考えるはず無いだろうし。或いは君達に支配される事を憂いているのかもね。』

 また勝手な事を。
 ルシファーとの戦いは色々考えさせられたが、悪意を持つ敵が相手なら存分に戦える。何とも気が楽だ。
 ちなみに堕天使アザゼルは「クラウ・ソナス」をドロップ。

「クラウ・ソラス?」
『いいえ違います。クラウ・ソナスです。クラウ・ソラスを扱えるのは妖精さん界広しと言えども、京四郎君ただひとりだよ。』
「オマエの大好きなダーナ神族の宝が、何で日本人所有なんだよ。いや、待てそもそも人なのか?」
『冗談はさて置き、多分「la」をどう発音するかってだけの違いでしょ。実際には仰るとおりのダーナの至宝、アガートラームの光の剣だね。』
「さすがに性能良さそうだな。」
『悪くはないといったところかな。魔力増強の長剣さ。ただ、完全上位互換のスキールニルが既にあるため、使いどころが無いのが玉に瑕かな。』
「瑕ってレベルじゃないだろう。」


 続いて恒例の貢物。
 これまでは降伏の証だったが、今回は何かを期待されているようだった。「とんでもないことをやらかしそうだ」とか何とか。一体ここの住人の目に俺達はどう映っているのか。

『キミがパラノイアと、そこに住む人々を見て最初に思った事じゃない?』

 耳の痛いことを言う。
 あの連中からすれば俺達こそが異物、俺達の姿こそが異形ということか。

『気にしてもあんまり良いこと無いよ。前にも言ったでしょ、立場が違うだけだって。』
「それはそうなんだろうけどな。」

 共存の道、か。
 気を取り直して貢物の検分を始める。

『「マーべリック」は強力な銃だね。ハープーンあるからいらないけど。』
「身も蓋も無いな。」
『コイツのせいで僕はエライ苦労をしたからね。ホント腹立たしい。』

 たしかに現状ハープーンで倒せない敵は極僅かだ。
 そして恐らくマーベリックに換装しても、大差ない結果にしかならないとは思うが。しかしどこか怨念すら感じさせる物言いだ。俺の気付かないところで何かあったのだろうか。

『一方「あめのむらくも」はその名に恥じぬ高性能。草薙の剣となぜこんなに差がついているのか不思議ですらある。武器威力は竜殺しの剣「グラム」に僅差で劣るけど、体力をかなり増強するのが嬉しいね。』
「おお、テンション上がるな。」
『キミの主兵装の一つになるよ。』

 しっかり手に馴染む。良い付き合いが出来そうだ。

「お、サブファイルに入れといたクーフーリンが勝手に外に出てるぞ。何か持ってきたな。」
『最強の槍ゲイボルグだね。魔法防御が向上するよ。影の国にでも遊びに行ってたんだろう。』
「実戦では魔力増強のグングニルの方が重宝しそうだな。にしても強そうな槍だ。」
『これにてくーふー君は御役御免だから、お父ちゃんの太陽神イルダーナフに昇格させてもいいんだけどねぇ。』
「何か問題があるのか?」
『父ちゃん専用武器が悉く弱い。ブリューナク然り、フラガラッハ(アンスウェラー)然り。後者なんてホントは短剣のはずなのに。』
「別に良いじゃねえか、そのくらい。」

 色々あるらしい。主にロマン絡みっぽいが。
 何にせよ、パラノイアで手に入る武具は悉く俺を魅了するから困る。
 まるでいけない魔法でもかかっているかのようだ。

 愚にもつかない事を考えながら、意気揚々とリミックスステーションに向かう。



[22653] PARANOIA     ~ Overdosing heavenly bliss ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/19 18:35
「漸くグンダリが特技を覚えたな。」
『いやはや長かった。でもここからもうひと踏ん張り必要だよ。』

・グンダリ×ノーム→鬼神フドウミョウオウ


「炎とか纏っていて超カッコイイ。」
『言うなれば魔装鬼神。強さ的にはグンダリとそう変わらないんだけど、見た目が違う。』
「オマエは本当に一言多いよな。」

 それでも毘沙門天より能力が上らしい。
 他にも合体事故がどうとか、それでもヘカーテが好きだとか呟いていた。末期だ。

・イシュタル×(ランダ×キリン)→女神パールバディ
・サラスバディ×サラマンダー→女神イシュタル

「購入したサラマンダー、使い切っちまったな。」
『大丈夫。次抜ければラグズショップさ。』
「また宝石成金生活か。ちょっと楽しみだな。」
『外道スライムがいないなら、外道スライムになれば良い!ってね。まさにロックだ。』

 俺はあんまり音楽とか聴かないが、これが世の摂理に反した所業だということはわかる。
 そうか、このワクワクと背徳感がロックなのか。


chapter 47 ADHAMA     ~ Round around ~


『ああ、また来てしまった……。』

 俺達は「アダマ」と呼ばれる土地に来ていた。
 しかし、『また』とはどういうことだ? 前にも来た事があるのだろうか。

「何か妙に疲れ切ってないか。しかも急に。」
『ああ、良くわかったね。こう、激しくも無意味な戦いを既に繰り広げてしまったと言うかね。』

 浪漫関連か。しかし戦闘前から【ハヤトロギア】を展開するのは珍しい。下手すりゃ初めてじゃないか?
 まあ、俺達だって伊達や酔狂で闘い抜いてきたわけではない。

「今回は俺達に任せて休んでるか?」
『いや、ちょっとやって貰いたい事があるから、もう暫く頑張る。とりあえず見えてる範囲の7体を片付けて、敵が動き出す前に煙幕弾で撤退しよう。』

 撤退?
 何のために。

「そういや、浅草以外で撤退するのは初めてだな。」
『ぬふぅ。』

 何でコイツがダメージを受けているのか。
 気を取り直して戦場全体を俯瞰する。 そもそも通常の視界に7匹もいないって言う。

「見た感じ7匹瞬殺は無理そうだが。」
『左手にある細道の奥のほうに邪鬼が固まっているから、女神のワンスモアで屠っていこう。煙幕弾での撤退が前提だから、多少無茶な突っ込み方をしても大丈夫。何なら少し時間がかかってもいいし、5体でも全然構わないよ。』

 なら問題ないか。一応7体瞬殺は狙ってみるか。アイツのお勧めでウルスラグナを軸に布陣を決める。
 まず正面に天の叢雲を装備したカーリーを突出させる。これで敵航空戦力のうち、少なくとも三匹はこちらに向かってくるはずだ。
 ウルスラグナは左に見える細い道に突入。女神のワンスモアを受けて、先頭のギリメカラをグングニルで撃破。他の女神は一斉にウルスラグナを追いかける。


「凄い光景だな。」
『空を舞う7人の女神様に追いかけられるウルスラグナ君。』
「何というラブコメディ。」
『でも普段のキミもあんなんだよ?』

 俺達は今回煙幕弾を使うだけ。なんとも気楽なものだ。
 ウルスラグナは予定通りの道程。屯していたギリメカラが入れ食い状態。ウルスラに仕掛けては勝手に沈んでいく。猪突の邪龍レヴィアサンが向かってきたが、クリティカルを交えた二回攻撃で問題なく屠殺。槍で燕返しとは、やるな。
 そのまま細道を駆け抜け、奥にある小部屋に突入して大暴れ。追いつけなくなった女神達が、なんとワンスモアを他の女神にかけ出したらしい。


『ウルスラ君を求めて共同戦線を張り出したようだね。何というハーレム。』
「オマエって結構脳に幸せなバイアスかかってるよな。」

 わざとやってる気はしないでもないが、実は素なんじゃないかとも疑ってしまう。
 ちなみにカーリーが正面奥から来る邪龍・凶鳥三匹を撃墜して特技習得したらしい。なんでも『有り得ないほどの火力を発揮した』そうだ。鳥類イーター・邪龍スレイヤーの二つ名は伊達ではないな。
 ホクホクしながら煙幕弾で撤退。カーリーをサブファイルに移して、戦場に舞い戻る。





「……オイ、何かさっき倒した敵復活してるぞ。」
『だねぇ。僕もすっかり忘れていた。』

 意味わからん。召喚士もいないのに。

「でもアレだな。こんな事なら、撤退を繰り返して特技習得すると凄く楽になるんじゃないか?」
『それも一つの戦略ではあるけど、そんな妖精さん道に反する行いはしたくないよ。』
「浪漫か。」
『うん。すまないね、無駄なことをさせて。』

 今日は妙にしおらしい。

「構わないさ。前にも言ったろ? 可能な範囲でならオマエの道楽に付き合うって。」
『……大物だなぁ。』



 改めて戦場全体を観察。
 正面の航空戦力は健在。「邪龍アジ・ダハーカ」一匹と「凶鳥フレスベルグ」二匹。ちょっと左に外れて邪龍レヴィアサンが一匹。今回カーリーがサブファイル待機なので、鬼神フドウミョウオウで航空戦力を受け止める事にした。左手に見える細い道は、前回同様ウルスラグナを先頭に立てて突き進む。

『ちなみにさっき11匹も葬ったから、結構キャッチする余裕があるよ。』
「へえ。じゃあ邪鬼最高位のギリメカラでも勧誘するか。」

 アジ・ダハーカとフレスベルグが不動明王に殺到する。
 さすがにダメージは大きいが、問題なく捌いているようだ。

「フレスベルグって確か最高位の凶鳥だよな。こいつも一周回って勧誘したいな。」
『悩ましいところだね。』

 俺はウルスラグナの後を追走。こちらは前回と全く同じ展開。襲い来るギリメカラとレヴィアサンを、ウルスラが全て返り討ち。ヘカーテは今回の魔王祭で特技習得予定。現在はCOMP待機だ。

『敵の「魔王アスタロト」は地上戦力だからね。対地特化の龍王が祭に参加できない。魔王が弱いせいで、今回邪鬼のトドメは龍王最優先だ。まったく、魔王はまったく。』
「毎回思うが罰当たるぞ。」

 コイツは本当に魔王を軽視している。

『敢えて言うけど、半分以上はカスである。』
「堕天使並に酷い扱いだな。」

 不動明王が、覚えたばかりの特技「アブソルートゼロ」で群がる敵をなぎ払う。

『炎の鬼神が絶対零度の技を使う。面白いよね。』
「分子運動を制御するという意味では同じ……なのか?」
『技術の繊細さでは別次元だけどね。』

 生き残ったフレスベルグをサブ女神達が弓で追い込み、ファフニールがトドメ。
 二匹目は結局ウズメでキャッチした。

「ラグズショップが楽しみだな。」
『宝石が間に合えばね。現状、ノームとウンディーネに必要なルビーが多少あるくらいさ。同じくノームとウンディーネに必要なパールは二つしかない。何よりオパール(シルフ・ウンディーネ)が一個もないのが致命的だ。』

 結局買えるのはサラマンダーに、ノーム2体がマックスってことか。ウンディーネが無いと「凶鳥・妖精」の進化ができない。シルフがいないと「堕天使・聖獣・邪霊・妖鬼に闘鬼」の進化もできない。
 妖鳥・霊鳥・邪鬼(サラマンダー)と、地霊・魔獣(ノーム)に勧誘の狙いを絞るべきか。ああ、頭がこんがらがってきた。


「俺が言うのもなんだが計画性が無いよな。ダーク装備とかいらなかったんじゃねぇの?」
『いや、アレは必要。ロマン的にもそうだし、性能的にもあると助かる。そもそもアメジスト以外の宝石が不足するなんて想定していなかったんだよ。』

 まあ、基本サラマンダーしか使わないもんな。

『一応トークで巻き上げる事は可能なんだけどね。しんどいのさ。』
「そこは頑張れよ。」
『ですよねぇ。』

 だが、こいつが事後でもないのに弱音を吐くのは珍しい。
 これは相当しんどいということなのか。


「まあいいや。ひとまずノームで強化できる地霊最高位を勧誘するか。」
『反時計回りルートに立ちふさがっている、「地霊アガートラム」だね。』

 コイツの大好きなダーナ神族の王。何でフィルヴォルグと同じ地霊になっているのかは良くわからない。強さ的には『所詮地霊』だそうだ。昔は大エースだったのに。これも時代か。


『仕方の無いことだけど、可愛くないよね。剣の聖女バージョンがあったら、一も二もなく使うんだけどなぁ。』
「爆乳ミカエルと言い、可愛い銀の腕と言い、妖精界の伝説を記した連中はみんな頭が湧いてるのか。」
『失敬な。むしろ筋肉モリモリ、マッチョマンの変態である貂蝉だって存在するよ。』
「オマエはその言葉で何を否定したつもりなんだ。」

 駄目だこいつ。もうどうにもできない。
 ウルスラが例の小部屋で特技習得しそうなので、俺はウルスラに追いつくべく加速。不動明王は反時計回りルートを、オギワラ・トモハルを連れて侵攻。暇な女神達は制空権を完全に奪った中央の山に陣取り、戦場全域に睨みを利かせる。あれが敵だったらと思うと、背筋に冷たいものが走る。ちなみに龍王は、結局フレスベルグを一匹落としただけだった。一応オギワラに回収されてはいるが、特技習得は間に合いそうにないか。
 不動明王は泉で道を塞ぐアガートラム達と接触。取り巻きのヴァンパイアを一掃して、トモハル達がトークを仕掛けるチャンスを作る。俺の方はと言えば、特技を習得したウルスラを回収しつつ、魔王アスタロトの居る平原に一気に突入。龍王ファフニールを召喚し、居並ぶ雑魚を一掃させる。

「しかしアスタロト、卑猥な格好だな。蛇に全裸で跨るとかどんな変態だ。」
『知らないよ、そんな事言って。女神イシュタルと同一の存在とする解釈もあるくらいなのに。』
「はいはい。」

 俺のイシュタルがあんなに卑猥なわけがない。
 続いてヘカーテを召喚。魔王祭を始めさせる。魔王直下のアガートラムは慎重タイプ。放置。ファフニールは、敵の龍王キングーを「ペトラブレス」で固めた後、その辺をお散歩。

「しかし龍王のブレスはどれも使い勝手がいいな。」
『だよね。効果も射程も、何より命中率100%ってのがいいよね。龍王の弱点である命中率の低さを上手い事補ってくれている。』
「かなり多彩になってきたしな。」

 足が遅いので、ブレス使えるだけ使っても弾切れの心配が無い。それはそれで悲しいところだが。
 新米イシュタルは平原の龍王をタコ殴り。フレイヤはギリメカラをキャッチ。人間一同はそろって龍王の懐にもぐりこむ。あっという間に祭の体制が整った。
 ちなみにトモハル達はアガートラムに話しかけたものの、ついに望みの宝石を得る事は出来なかったそうだ。

「【ハヤトロギア】でもだめだったのか。」
『前にも言ったでしょ。万能じゃないって。生起確率ゼロの壁は越えられないのさ。一応龍王キングーにも試しては見るけど、期待薄だよ。』


 ワンスモアの補助を受けたイシュタルによる超高速龍王祭と、ヘカーテによるひとり魔王祭。それらをボーっと眺めながら物思いに耽る。俺はまた祭に参加する権利を失ってしまった。

『どうにも気が抜けているね。折角ヘカーテが特技覚えたというのに。』
「おお、そいつは良い報せだな。」

 魔王祭をファフニールに引き継ぎたいところだが、さすがに自重。明王に託して、ファフニールはじっとジェネレータの稼動を待つ。ちなみにイシュタルはジェネレータ稼動前に龍王祭を切り上げ、魔王をつつきに出るようだ。
 時間ギリギリになって、ジェネレータからフルーレティとフレスベルグが出てくる。既に撃破数は足りているらしいので、フルーレティを勧誘。フレスベルグとアスタロトは、加速したファフニールがまとめて撃墜した。
 魔王アスタロトは魔槍「ブリューナク」をドロップ。ファフニールは尋常じゃないくらい運が悪いらしいが、無事確保できたそうだ。

『ダーナの至宝その2・ブリューナク。クーフーリンの父ちゃんである、太陽神ルーの槍だね。やっぱり幻魔イルダーナフを召喚して装備させるのが浪漫かなぁ。』
「性能はやっぱりがっかりなのか?」
『所詮堕天使のドロップだからね。貢物ほどの性能は無いよ。本来必中の槍で、投げたら手元に戻ってくる優れもののはずなんだけど。残念ながらこの槍は命中が低いのが致命的で使いどころが無いね。納得いかないなぁ。』

 予防線を張っておいて正解だった。
 そしてお待ちかねの貢物だ。

『まずは竜殺しの剣、「グラム」。高火力・高命中率・そして最高のクリティカル補正を誇る長剣だ。さらに重要なのは、装備する事で速さがかなり強化される点さ。実質的な世界最強の剣と言ってもいいね。』

 うひょーーー。すげーーー。
 でもそんなの俺関係ねぇーーー。

『まあ、気持ちはわかるけど素直に喜ぼうよ。速さが限界に達しているキミにとっては文字通り無用の長物でも、仲魔にとっては有用なんだ。』
「この『バルバロッサ』って銘の入ってるナイフはどうなんだ?」
『バルバロッサは正しく最強の短剣だよ。知恵を相当増強してくれるけど、まあ所詮短剣と言ったところかな。女神が装備できる事が最大のメリットだね。』

 ふむ。

『ドイツ語で「王」を意味する「ケーニッヒ」シリーズは楠正成公シリーズとほぼ同格。大楠公の防具が一点特化の知恵強化であるのに対して、ケーニッヒの方は各部位がそれぞれ異なる増強効果を有しているよ。統一するより、用途に合わせて部分的に装備するのが正しい使い方だろうね。』


 そんな大盛り上がりの俺達に、空気を読まずに魔王アスタロトが話しかけてきた。

「まだ消えてなかったんだな。」
『きちんと聞くべきだと思うよ。』

 曰く「アクシズにおける3度に渡るDIOの暴走が、パラノイアのエネルギーをアクシズに向けて流出させた」。
 曰く「失われたエネルギーを求めてパラノイアの悪魔がアクシズに雪崩れ込んだ」。
 曰く「そのせいでトライアドのバランスが崩れてしまった」。

「発端が人間の側にあったのは確かだが、これは単なる責任転嫁だろう。」
『まだ続きがあるよ。』

 既に三界のバランスはどうしようもなく崩れてしまっていたらしい。
 このまま座して待てば、滅びの運命を避けられない。
 そこで4人の代行者がそれぞれ解決法を独自に模索し始めた。

 ミカエルは、自身が介入する事で、三界が交わる事のない従来通りのバランスを維持することを。
 ルシファーは、三界の垣根を取り払い、人と悪魔とが共存することを。
 ベルゼブブは、アクシズとパラノイアを統合し、悪魔が全てを支配することを。 
 そして代行者達は、己の理想を託す事のできる人間を求めて戦っているのだと。


 まだ見ぬもう一人の代行者が何を考えているかはわからない。
 だが、俺達は何者にも頼らず、人間自身の手で未来を拓く道を選んだのだ。
 今さらその決意が揺らぐ事はない。


chapter 48 TEBEL     ~ Back vision ~

 不動明王とファフニールは予想通り特技習得せず。
 しかし、ヘカーテ・カーリー・ウルスラグナが習得済み。

『いよいよ個別の11系統の統合を開始するよ。』
「いや、育ててきた仲魔11系統もいないだろ。」
『特技目当てで勧誘した独立系とかも含めるとそれぐらいになるよ。』

 『それぐらい』って。適当か。


*ヘカーテ(70)×ケルベロス(41)→女魔ドゥルガー(62)
・カーリー×ドゥルガー→精霊サラマンダー
・フレイヤ×サラマンダー→女神イシス

「これまでお世話になってきた女魔の系譜も遂に統合か。感慨深いな。」
『何とも贅沢なサラマンダーだよね。しかもこの並びは某巨大宇宙船を思い出す。ああ……へかてー。』

 こいつホントにヘカーテ好きだよな。


『このまま女神順送り人事と行きたい所なんだけどねぇ。』
「この人事での肝は新イシュタル。シラヤマヒメの強化が問題か。」
『うん。彼女より格の低い同大種族悪魔がいないんだよね。』

 コイツに任せっきりではなく、たまには俺も考えてみる。

「フルーレティは確か堕天使最高位だよな。」
『そう考えて問題ないね。』
「コイツを一周させてアンドラス作ればいけるんじゃないか?」

 既にアンドラスは一匹いるわけで、シラヤマヒメを強化するならこれでいけるはず。

『二点問題があってね。もとからいるアンドラスは他で使いたいのが一つ。』
「確かにかなり格が低いからな。サクヤ姫の材料にしたいところだけど。」
『もう一点は材料が足りない事なんだよ。ただ、これは次の戦いである程度解決できるんだけどね。』
「堕天使を強化するのは、シルフ。つまりオパール不足か。」

 これだと闘鬼も回せない。

『それもあるし、そもそもイシュタルを3remixする必要があるからね。』
「どうにも行き詰った感じだな。」
『本筋の合体が良い感じで煮詰まってきているだけに、残念だよ。これで実質達成は不可能かな。』
「何がだ?」
『僕の隠れた野望さ。』
「どうせ女神10体全種出撃!とかだろ。」
『良くわかったね。』

 してみると、いつかコイツが言っていたとおりか。
 1995年辺りで低レベル悪魔を無造作に消費しすぎたのがまずかったな。
 もっと大事に保存しておくべきだった。
 ファイルの中は最高位の悪魔で溢れているってのに、何ともままならない話だ。


「それはそうと、ヘカーテの合体結果の表示が『女魔モーリガン』になってるぞ。」
『……ああ、そうか。またうっかりしていたな。』
「いいのか?」
『大丈夫。サラマンダーを作るうえでは全く問題ないよ。それよりこの調子で何か致命的な見落としをしている気がしてならないんだよね。』
「アレだろ。いつもオマエの言う、『気にするだけ無駄』って奴だろ。」
『……そうだね。きっとそうだ。』



 そうして俺達は「テベル」と呼ばれる場所にやって来た。

『今回は久しぶりにキミが大活躍だよ?』
「そうなのか。なら張り切っちゃうか。」
『いつもは比較的ゆっくり出来ていたけど、今回は時間制限が最初の半月までだ。』
「厳しすぎるだろそれ。」

 祭も何もあったもんじゃない。

『一応制限時間を無視してじっくりやる戦法も無いではないよ。』
「もらえなくなる貢物は何だ?」
『最強の長剣「イルダーヴォーグ」。知恵を相当増強するよ。天叢雲と並んで、キミにとってはグラムより価値の高い剣だ。もっとも、スルーして得られるメリットもかなり大きいけど。』
「大・却・下だ。速攻突破を目指すぞ。」
『そういうと思ったよ。制限時間オーバーは妖精さん道にも反するしね。ちなみに例によって例の如く、結構な戦力に分断包囲されてしまう。』
「アヤたちがまずそうだな。」
『と言うわけで、キミは単独で可及的速やかに敵拠点に向かいつつ、本隊は自拠点に残って迎撃だ。』
「女神のサポートも受けられないってことか。」
『いや、そこは適宜。』


 転送がはじまる。
 その事自体にはもう慣れたが、それとは別種の驚きが俺達を待ち受けていた。

「何だこれは。街……なのか?」
『そうだよ。パラノイアには文明が無いとでも思ったかい?』

 どう考えても人が集まって住むために作られた建物たち。
 アイツの言うとおり、パラノイアは 不毛の地だと思い込んでいた俺には衝撃だった。オギワラ達も皆一様に驚いているようだ。

『悪魔だって町を作るさ。それに、パラノイアはアクシズほど人間には優しくないけど、それでもやっぱり人は住んでいるんだ。そもそもアクシズの人間だって、いくらかパラノイアの血が入っていてもおかしくないだろう。』
「……オギワラのようにか。」
『彼は例外中の例外だよ。ただ、神話の時代に神と人とが交わっていたように、悪魔と人とが交わっていてもおかしくないよね。』

 DIOを解さずに悪魔と意思疎通などできるのか。
 そういえば以前『カオルが魔王を色仕掛け』とか言っていたな。

「……だからといってやる事自体は変わらない。一気に駆け抜けるぞ。」
『その意気だ。』


 いつものように女神7体と、鬼神・龍王を召喚。ちょっと手が足りない気がするが仕方ない。
 不動明王はワンスモア×3を受けて、左翼悪魔を一掃。安全地帯を作る。オギワラ達にはここを利用して、上手い事逃げ回ってもらうしかない。更にワンスモア×2を受けて、駅に陣取るアガートラム二匹を殲滅。俺の露払いを完遂した。
 ファフニールもアイスブレスなどを用いて右翼直近の邪龍を始末。天帝装備に身を固めたアメノウズメが上手い事削ってくれたらしい。作ったときには最下位の女神なので正直大して期待していなかったが、正直相当働いている。
 それらを見届けた俺は敵拠点を目指してスタートを切る。ワンスモアを受けて、右翼奥にいるクラーケンの進路を遮るように駅前に到着。自拠点は一旦空にして、周囲の地霊が群がってきたら、龍王を加速して一掃する予定だ。


『さながら空城の計だね。』
「他に手が無いだけだけどな。」
『けど違いは、「陥落即ち敗北」と言うところだ。相手の戦力を見誤らないようにね。』

 意味ありげな言葉。確かに女神全員がワンスモアを使ってしまったのはやり過ぎかもしれん。
 程なくして始まった相手の反撃は熾烈の一言に尽きた。周囲に展開していた地霊が、妖精が、堕天使が、一斉にこちらの拠点を目指して進軍してくる。しかもジェネレータも初っ端からフル稼働だ。正直龍王の狙撃でどうこうできる数ではない。

 女神アメノウズメをひとまず拠点に戻して時間を稼ぐ。楠公の防具一式にバルバロッサで魔法防御を高めておいた。たとえ最高位の地霊3匹が相手でも、彼女ならきっと何とかしてくれる。

「ジェネレータから堕天使アンドラスか。これがさっき言ってたやつだな。」
『そうだね。絶対一匹確保。しかも出てくるのはコイツだけじゃないよ。』

 ひとまず俺と明王は、駅の近くまでやって来た二匹の「魔王バールベリト」を撃破。「獅子の陣羽織」二つ入手。初顔合わせの魔王でも一瞬で屠れてしまうあたり、何か人間離れしてきたな。

『運がよかったね。晩年の豊臣秀吉公も愛したとされるド派手な羽織さ。最高の回避率を誇る体防具だよ。速さも上がる超優れものだ。』
「謂れが激しく不安を掻き立るんだが。頑丈さはイマイチだけど、状況によっては使いでがありそうだな。」

 女神イシスはアンドラスを速攻キャッチ。残り3人のメイン女神ーズは必死にリバイバル。サブ女神は削りだったり、回復だったり。龍王は柔らかい妖精オベロンに狙いを変更。何とか拠点は維持できそうだ。
 次に湧き出してきたのは堕天使オセ。下から二番目の堕天使だ。当然勧誘するべきだろう。復活したワンスモアを受けて、不動明王が敵拠点前のジェネレータに到達。湧いたばかりのオセを撃墜。この世に生を受けて即死亡とは、無常というか無情というか。
 俺もワンスモアを受けて、ほぼ同時に敵拠点に到達。すかさず「堕天使アリオク」を銃撃する。さすがに宙に浮いてる高位堕天使。沼地から不十分な体勢で撃った弾丸は、致命傷を与えるまでには至らなかった。

『何か卑猥だよね、アリオク。ジェネレータから湧いて来るマーラ様とセットで言い逃れできない感じ。合わせ技一本。』
「意味がわからないな。」

 とは言え、後はアリオクを片付けて、拠点を占拠するだけだ。更に奥にいる二匹の敵ファフニールは、飛行系でもない限り時間制限に間に合わないだろう。
 一方自拠点のほうは激しい戦いになっている。これは明王を再召喚することも視野に入れるべきか。イシスと入れ替わりにオセを勧誘しに行きたいウズメだったが、敵に四方を囲まれて身動きとれず。仕方無しに隣接しているフルーレティを勧誘して、そこにイシスを迎え入れる。イシスは当然リバイバル。サブ女神は指を咥えて見ているしかない。

『来るよ。心構えは十分かい?』
「ああ。」

 いつかの如く、二匹の敵ファフニールからの十字砲火。予め回避重視装備に身を固めていたのが幸いしたのか、何とか二発とも回避。更にジェネレータからは堕天使レオナルドが湧いてきた。コイツも欲しい。
 相手の攻勢をしのぎ切り、満を持しての反撃開始。湧いてきたレオナルドを即撃墜して、不動明王が待望の特技習得。速やかにファフニールも特技習得したいところ。
 続いて俺が前進し、堕天使アリオクを草薙の剣で斬り捨てる。短剣「インヴィンシブル」をドロップした。今回ばかりは回避重視装備に身を固めていたためか、ドロップするまでにアイツの精神力が相当削られたらしい。検分はさすがに後回し。サクヤ姫のディカームを受けつつ、何とか間に合ったなと一息ついた。
 一方、俺達の行動を見届けたメイン女神達は、リバイバルを使用しつつ本拠地の救援。アメノウズメは自拠点を脱出し、アイテムを拾いつつ体力を回復。代わってシラヤマヒメが拠点の防御を固める。
 ジェネレータからやって来たオセ二匹は、片方をイシスで勧誘し、もう片方をファフニールで撃墜。オギワラも妖精オベロンを勧誘。勧誘自体は失敗したが何とオパールを貰った。

「ツイてたな。」
『実際信じられない幸運だね。正直「上手くいかなくても良い」とか思っていた僕としては望外の展開だよ。ただ、厳しいのはここからだ。』

 【ハヤトロギア】的にも有り得ない展開だったらしい。
 確かにアリオクのレアドロップで疲れ果てている印象があった。

 沼地で消耗した体力をディカームで回復。その後、二度目の十字砲火。回避能力を最高に上げた状態で、龍王の砲撃を二発続けて食らう事はほぼありえない。そうとわかっていても緊張はするものだ。

『僕も相当緊張したよ。』
「【ハヤトロギア】あるのにか?」
『何度も言ってるでしょ。万能じゃないって。』

 たしか、『ある時刻を基点に』と言っていた。
 これまでの言動から察するに、攻防が一段落ついたところでしか出来ないのだろう。
 何故そんな制約がついているのかは見当もつかないが。
 ともあれ、十字砲火さえしのぎきれば怖いところは無い。

『さあ反撃開始だ。』
「何か気合入ってるな。」
『オベロンからオパールもう一個巻き上げるよ!』
「なるほど、基点が取れたのか。」

 アイツの息を呑むような気配。


『……何だって?』
「以前言ってただろ。【ハヤトロギア】はある時刻を基点に、試行を繰り返す能力だって。これまでのオマエの言動から、攻防が一段落したタイミングでしか『基点』が取れないんだろうと推測しただけだよ。」

 微妙な沈黙。

『何と言ったらいいかわからないな。凄まじい洞察力だね。』
「正解か。ちなみにわざとその辺ぼかしてたよな。敢えて聞かなかったけど。何でだ?」
『まあ、キミが甘えた考えを持たないようにという事なんだけど。正直感服したよ。異世界に存在する法則を看破する人間がいようとはね。』
「少しは『期待』ってやつに応えられたか?」
『十分過ぎるくらいだ。』

 案外コイツら『妖精さん』ってのは、誰かの幸せを真剣に願う、物語好きな別世界の人間だったりするのかもしれないな。


 大分物思いに耽ってしまったが、あと俺がやることといったら、空っぽの拠点を占拠するだけ。暫く前から任意で使えるようになっていた【千里眼】を通して戦場全体を俯瞰する。 
 オギワラが真っ先にオベロンからオパールを巻き上げる。続いてトモハルが、パールを巻き上げながらオベロンを仲魔に引き込んだ。これは相当ロギアったな。

「無茶しすぎだろ。」
『いやー、何かキミのアレでテンションがアレな感じになってきた!』

 わけがわからん。
 サクヤ姫はアイテム回収。駅のこちら側にあるものは、どれも消費アイテム系で余りありがたみは無かった。イシスはリバイバル後、ワンスモアを受けてレオナルドを勧誘。堕天使下位三種は何とかコンプリートした。

「じゃあ恒例の貢物検分行って見よう。」
『ノリノリだね。まずはインヴィンシブルか。「頑健」の名を持つ短剣だね。装備者の体力を強化する優れた武器だ。叢雲ほどではないけどね。』

 要するに俺が使う事はないって事か。

『次はさっきもちょっと触れた長剣イルダーヴォーグ。武器威力はバリバリ最強ナンバー1。知恵を強化する優れものだ。』
「へえ、グラムよりは使いでがありそうだな。」
『根に持ってるね。そう言えるのは世界広しと言えどキミだけだよ。普通はグラムの方が役に立つ。もっともキミの場合は叢雲一択だけどね。』

 そもそも魔法を喰らうような立ち回りはしないからな。
 魔法系は発見即デストロイだ。

「防具は随分バラバラだよな。今までは『楠公』とか『ケーニヒ』とかあったのに。」
『まずは「無双赤備え」。甲斐武田の飯富虎昌を源流とする最強騎馬隊の代名詞だね。井伊・真田なども有名だよ。』
「聞き覚えはあるな。」
『次に「日根野頭形兜」。戦国以降流行った兜で真田信繁も愛用していたとされるね。』
「ってことは『紅六文』は真田の六文銭か。」

 なるほど、真田幸村シリーズって感じなのか。

『肝心の性能は、文句なしの世界最強防具。しかも体力大幅増強のオマケつき。防具自身の頑強さとは別次元で、対物理防御壁を展開するよ。』
「何かすげぇな。」
『これからはこれがキミの主戦防具だ。』



 ……え?



「普段これを着るのか?」
『そうだよ。』
「もうTバックとか穿き続けなくて良いのか?」
『そうだよ?』


 あれほど呪っていた己の運命。
 運強化の名の下に蹂躙し続けられた俺の羞恥心。
 その地獄のような日々から解放されたはずなのに。
 悦びが湧き上がってきてしかるべきなのに……

『これで邪龍複数を相手取って防戦一方!とかできるよ。』
「嫌だよそんなの。」


chapter 49 GEE     ~ DEAD OR ALIVE ~

 これでショップでの買い物は最後になるらしい。

『魔貨なんてもう使う事は無いと思うよ。』
「そういうものか。」

 金が溢れんばかりに溜まっている。とは言え買いたいものなど何も無い。

『じゃあ「シュツルム」シリーズ10個ずつ追加で。』
「わかった。」
『……おおぅ。』

 普通に買えてしまった事にこそびっくりだな。
 

「今回メインの合体は無しか。」
『そうだね。ファフニールが予想以上につっかえてる。』
「まあそれでも女神強化できるからテンション上がってるけどな。」

 メインディッシュは当然レオナルドだ。こいつと、在庫に残っていた天使パワーでイシュタルを強化する。ちょっとだけ希望が湧いてきた。

『随分乗り気だね。』
「ここまで来たらやっぱ10体揃えたいだろう。」
『そう言って貰えると僕も頑張りがいがあるよ。』

 まずはラグズショップで、サラマンダーを2体購入。

「サラマンダーの代金も、もうあんまり余裕が無いな。」
『参ったね、どうも。オパール・アメジスト以外が被っているシルフが買いづらくなったよ。』
「使うならノーム・ウンディーネ方面。しかも後3体サクヤ姫を作る前提か。厳しいな。」
『まあね。とは言え目先の合体最優先だ。』
「それで失敗したんだろうに。しかし仕方が無いのか。」


・パールバディ×サラマンダー→女神フレイヤ
・イシュタル×(パワー×レオナルド)→女神パールバディ
・コノハナサクヤ×(オセ×アンドラス)→女神サラスバディ
・サラスバディ×サラマンダー→女神イシュタル

・フルーレティ×(スキュラ×アトラス)→外道スライム
・フレスベルグ×(アンドラス×スライム)→女神コノハナサクヤ

「高位の悪魔をふんだんに使ってスライムを作る。」
『最高の贅沢であり、暴挙でもあり。』
「何か色々蓄えていたものが一気に消えたな。」
『仕方ないよ。良い女は金がかかるモノだって、ばっちゃが言ってた。』

 これでようやく8体目。男子の本懐まで、後2体。次の戦闘の準備として、特技を覚えた明王をサブファイルに移す。また、クーフーリン・ウルスラグナの習得組をメインファイルに呼び戻す。

『いよいよだね。』
「らしいな。」

 ここが終われば最高位の女神様が降臨するらしい。俺にそれ程拘りはないので、アイツのワクワクソワソワ感が若干ウザイ。口に出すほど子供ではないが。

「とりあえず俺達が最優先でやる事はスライム候補の確保か。」
『それもどうかと思うけどね。ひとまずはファフニールの特技習得だよ。』
「了解だ。」


 気の早い会話を繰り広げながら、「ゲー」と呼ばれる土地に到着。
 馬鹿みたいに険しい山岳地帯だ。エレスが可愛く見えるほどに。

「なんだよここ。最悪じゃないか。」
『そりゃあね。進めば進むほど道は険しくなる。以前キミが口にした事だ。』
「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。」

 昔はオギワラの本拠に近づくから守りが堅くなるという意味であって。
 いや、案外地の宮とやらもそういう構造になっているのか?
 ひとまず戦場の分析を開始する。

 正面に泉。
 そしてその奥に広がる山山山。平らなところが欠片もない。
 そしてその山に悠然と佇む邪龍アジ・ダハーカ3体。
 そのすぐ後ろ、隘路に堕天使フルーレティ2体と妖精オベロン2体。
 更にそのすぐ後ろ、泉を根拠に無限に魔法撃ってきそうな夜魔サキュバス2体。
 更にその周りを固める地霊アガートラム6体。
 そして後ろに控える更に厄介そうな軍勢と3基のジェネレータ。

「うわぁ……これ全部俺一人で相手にするのか? 勘弁して欲しいな。」
『別に特技習得済の仲魔呼んでもいいんだけどね。』

 暗に俺一人で倒せと言っているようだ。
 以前「トドメがさせなくて寂しい・暇だ」とか思った罰が当たったのだろうか。
 
『まずは山中にある泉の確保だね。手前の邪龍・堕天使片付けて、龍王呼べば楽になるよ。』
「そう願うよ。更に奥にいる軍団は泉確保してから考えるか。」

 次に両翼。
 左翼に妙に細い道があり、その奥で龍王ファフニールと妖獣クラーケンが宝を守っている。ちと戦力ダウンになるが、イシスを派遣するのが効率のいい攻め方だろう。右翼にも同様の細道があるが、入り口は遥か遠く山脈を越えたところにある。


「そんじゃまあ、イッチョ気合入れて行きますか!」
『がんばれー。』

 女神8体を召喚。
 横一線に並んだ様は、まるでどこぞの名画のように神々しさを湛えたものだった。
 更にファフニール・ウルスラ・クーフーリンを召喚し、作戦開始。
 メイン女神4体のワンスモアを受けて、一気に手前の泉まで到達。ほんの少しの距離なのに馬鹿みたいに足をとられる。イシスにはそのまま宝の回収に行ってもらう事にした。
 不思議な事だが、俺は【千里眼】を通じて、ある程度定量的に彼我の戦力を量れるようになっていた。これまでの戦闘経験が何かに昇華したのか。「定量的」というのも所詮そう感じるだけで、単なる妄想かもしれないが。
 3匹の邪龍アジ・ダハーカ。凄まじく強力な人類種の天敵。だが今の俺なら、赤備えと天の叢雲に身を固めれば、奴の攻撃に3発までなら耐えられる。命中が低いため、3発連続で直撃し、更にクリティカルが出る確率は極めて低いがゼロではない。
 俺は向かって左側の泉に陣取り、邪龍2体を釣りだすのがいいだろう。右隣の泉には新米イシュタルを配置して俺を守る感じでいけるか。更に女神を壁にしてもいいのだが、俺の身を晒した方が効率よく進めるだろう。そんなことを考えていたのだが。

『ちなみにあいつら三匹猪突だよ。』
「早く言えよ。」

 とは言え作戦に変化なし。そういう状況にも対応するように組んである。だからこそ、あいつも未来情報を与えたのかもしれない。
 強者の戦略。全ての状況に対応できるように作戦を立てる。以前の一点突破主義とはエライ違いだ。

「山が苦手な龍王メインは無理だろ。これはジェネレータ手前の泉まで俺が最速で駆け抜けて、現地で再召喚しかないんじゃないか?」
『それがベストだろうね。少数精鋭(笑)の悪夢再びってところかな。』


 手筈どおりに泉に陣取り、敵の襲来を待つ。十分な迎撃準備が整っている事を知ってか知らずか、暢気に3匹が飛んできた。俺に仕掛けてきた2匹はあっという間に瀕死。イシュタルに仕掛けた一匹も、天帝&バルバロッサの女神最高火力の前に体力半減。笑いが漏れる。
 相手の攻勢が途切れたところで、瀕死の邪龍をファフニルで狙撃。空に居る分効果は低いが、そもそも基本になる威力が高い。問題なく屠れたようだ。

『サブ女神のワンスモアで加速して、もう一匹も屠らせよう。』
「勿体無くないか?」
『すぐにわかるよ。』

 コイツがそこまで言うなら、俺も従う事に異存は無い。シラヤマヒメのワンスモアでファフニルを加速する。もう一匹撃墜して、特技「テール」を取得。そのまま合体の運びとなった。

・ウルスラグナ×ファフニル→天使トロネ
・トロネ×クーフーリン→龍神アナンタ(まきつき)


「『龍神』は初めて見る種族だな。講義でもあんまり聞いてないし。」
『まあね。人間に敵対する事がまず無いからってのが一点だ。』
「さながら人間の守護者か。えらい強そうだが今まで講義に出てこなかったってことは。」
『その通り。ガッカリ種族だよ。今回は特技の為仕方なく、だね。』

 強そうな雰囲気は出ているが、確かに感じるものは邪龍と同じ方向性だ。
 人間相手には強いが、鳥や獣相手では餌になるしかないんだろう。

「しかし、そんな種族を今ここで出しても平気なのか?」
『特技は豊富でも魔力がお寒い限りだからねぇ。平気である事を祈るよ。』

 全然平気でない事を言う。冗談めかした雰囲気があり、本心ではないのだろうが不安だ。ちと過保護に扱うことにしよう。
 残った一匹をサクヤとイシュタルの新人女神コンビで削り、結局俺がトドメを刺す。いつもの卑猥装備だ。赤備えは単身クラーケンに挑む事になったイシスに既に渡してある。女神と装備の交換とか。ちょっと危険な感じ。


 さて次は、と山の中腹を見上げれば、泉を囲む魔物の群れ。

「……何かさっきより増えてないか。」
『更に後方にいた邪龍と堕天使都合八匹も合流したみたいだね。ほらほら、大量の経験値。アナンタさんがすっごく育つよ!』

 軽く流してメイン女神にリバイバルを使わせ、次の攻勢の準備を整える。奴らが泉に固執するなら、こちらは遠距離から削ればよし。奴らが突出してくるなら、各個撃破すればよし。何れにせよこちらの優位は動かない。
 どうやら奴らの前衛は泉に固執する慎重タイプのようだ。左翼のクラーケンはどの道動けなかったので、軽くキャッチ。赤備え必要なかった。俺はアナンタを伴って進軍。復活したメイン組のワンスモアを受けて順調そのもの。次辺りアナンタで仕掛けてみるか。 
 
 そう思っていたら、後方から合流していた邪龍・堕天使の一部がこちらに仕掛けてきた。予想とは違う展開だが、想定の範囲内ではある。何も問題はない。さあ、数多の特技を受け継いだ龍族の神・アナンタの初陣だ!


case1:超強力特技「サードアイ」
    ウルスラグナから受け継いだ特技。直線上に存在する敵を全てなぎ払う。
    どんな敵にも効果的。魔法攻撃力依存。アナンタだと弱い。
 
case2:超強力特技「チャクラム」
    クーフーリンから受け継いだ特技。直線上に存在する敵を全てなぎ払う。
    獣以外の敵に効果的。魔法攻撃力依存。アナンタだと弱い。


「どうしようもねえ。」
『だから言ったでしょ。』
「いや、まだだ。物理面でなら。」

case3:通常物理攻撃「対地空爆」
    地上の敵に対して抜群の強さを誇る。
    ただし武器の装備が出来ないため、堕天使・邪龍相手には決定打足りえない。

case_ex:物理防御「やわらかヘリ」
     防具が装備できず、鳥の餌。


「……。」
『だから言ったでしょ。』
「どうしろってんだ。」
『必死で周りが給餌するか、アガートラムをプチプチ潰すかだね。それとて武器が無いのであんまりだけど。』

 酷だ。酷過ぎる。
 ひとまず俺達で削るだけ削り、ライトニング or らいでんで一網打尽を狙う。どうやらイシスのほうも宝の回収が間近。回収次第「リターン」するのことだ。問題は俺に再召喚する暇があるかという事だが。ちなみにファフニルを「ダブルゲット」で倒して、イシスが特技即習得。もっと早くフレイヤと出会えていたら。
 アナンタは仕方ないので持ってる強力特技を連発。泉付近の敵も大分数を減らしてきた。

「さすがに弾切れか。」
『と言うほどでもないけれど、残った魔法系を一掃するような広範囲特技は無いね。』
「特技習得は近いのか?」
『ああ、殆ど間近だ。後は右翼の細道で十分に習得可能だよ。』

 ならばもう無茶はせず、確実に潰していこう。
 気になるのは敵拠点近くに居る凶鳥二匹だ。あの配置で慎重と言う事はないだろう。こちらの飛行タイプが領域を侵せば、確実に撃墜に来るはずだ。
 などと考えていたら、あっという間に飛んできた。味方が邪魔して此方に寄って来られないが、放置していてはまずいだろう。一旦アナンタを下げつつ、俺が交代で前に出て相手の防衛線に穴をあける。突破力だけなら全存在で第一位だ。
 前に出た俺は、魔法系を優先して屠る。赤備えに身を固めた俺は、最早地霊最高位と言えど傷をつけられない程度には硬い。よってくるアガートラムを掃討し、満月前には山岳地帯をほぼ完全に制圧することとなった。


『もっとも魔法防御は紙だよね。魔法防御11って。魔法威力3って。』
「オマエが伸ばさなくて良いっつったんだろうが。」

 アイツの口からポンポン具体的な数値が出てくる理由が少しわかった気がする。恐らく俺が経験を積んで持つに至った量的感覚が、更に進んだ形で(ひょっとしら具体的なデータとして)見えているのだろう。
 皆が順調に敵を駆逐して行く中、俺はアガートラムに傷薬を与えて勧誘。続いて勧誘には失敗したものの、オベロンからは例によって宝石オパールを巻き上げだ。

「ロギアったよな。」
『まあね。他に確率低いところも無かったし。』
「パールはいらないのか?」
『……やるか。問題は進軍タイミングだ。占領役がキミしかいない現状で、拘りすぎれば貢物を逃す事になるよ。』
「責任重大だな。」
『そう気負わなくても良いよ。当面の目標はオパール・パールの所持数ともにルビーに並ぶ5個にする事。』
「楽勝だな。」
『頑張るのは僕なんだけどね。』


 予想通りに満月のタイミングでジェネレータが起動した。面子はアガートラム×3と若干予想外。こんなところで地霊3体出しても空爆の餌食だろうに。微妙に扱いに困るが、イシス辺りの餌食にでもしておくか。まずは一匹「はばたき」で屠り、ワンスモアで加速しようとしたところ。


『ストップだ。メイン組のワンスモア使い切ろうとしてない?』
「ってことは、即フレスベルグ×3あたりが湧き出してくるってことか。」
『ご名答。ホンットウに鋭くなったね。』

 一応自分達が危機に陥り得る可能性は、常に想定するようにしている。
 現状メイン女神のワンスモア使い切って窮地に陥るとしたら、鳥が大量に飛来する状況しかない。しかもワンスモアは一拍置けばリバイバルで回復可能だ。すなわちこれしかないだろう。フレスベルグはただの勘だが。
 もっとも、これはあくまで【未来視】の存在が前提の思考。『伝説級』と呼ばれる連中とは大きな差があるだろう。

『そうでもないよ。その手の連中は大なり小なり、妖精さん達の介入を受けるか加護を得るかしているものさ。本因坊秀作とかね。』

 イシスの加速は諦め、残り2体の地霊はサクヤとイシュタルで分け合う事にする。ワンスモアも温存し、万全の迎撃体勢だ。


「あと湧いて来るのは、アジ・ダハーカ、オベロン、フルーレティあたりか?」
『なるほどそういう読み方か。ほぼ当たりだよ。』
「なら駆逐してから移動でもよさそうか。」

 初期配置からジェネレータの排出悪魔を予想しただけだが、そう外れてもいなかったらしい。次の鳥さえ落としてしまえばあとは消化試合だろう。特技習得目前のアナンタを右奥の細道に先行させる。
 予想通りに出てきたフレスベルグを、イシスが真っ先に「らいでん」で落とす。続いてメイン女神達が標準搭載の「ねんどうは」で削り、サクヤとイシュタルでトドメ。まじ美味しい。


「イシュタルから引き継いだ『念動波』って結構使えるな。」
『こちらとしては、使えないと思っていた君にこそビックリだよ。むしろガッカリだよ。』
「いやさ、基本リバイバルとワンスモアしかしなくなるだろ。むしろこうして攻撃に参加する事自体が初めてじゃないか?」

 我ながら言い訳がましいが、それは紛れも無い本心だ。念動波を使う機会など今までありはしなかった。
 次に出てきたのは邪龍レヴィアサン。アジ・ダハーカより低位の邪龍だ。なるほどここが外れていたのか。大した糧になりそうも無いので、メイン組のワンスモアを1つイシュタルにかけてやる。その後は適当に回しながら、フルーレティを勧誘。ジェネレータが枯れるタイミングで宝石目標も達成したのでオベロンもついでに勧誘。制限時間に対してかなりの余裕を持って進軍する。
 イシュタルは既にリバイバル習得済み。イシスもダブルゲットなどで特技習得目前。最早堕天使毟りも必要ないだろう。次のリミックスステーションで、合体道を究めることになるのか。
 ちなみに右奥の細道に先行させていたアナンタも特技習得。落ちてた宝は「クラウ・ソナス」。なるほど、幾ら強くてもこれは確かにガッカリだ。

 無駄にワンスモアを受けながら相手拠点に到達。妙に強いガルムを倒して、サクヤ姫がチクチク開始。ワンスモアのサポートを受ければ、程なくワンスモアを覚えるだろう。なんだこの重複感。実際7体目と重複しまくりだが。
 特に思うところもなく、「堕天使ベリアル」の翼を草薙の剣で切り落とす。負け惜しみを言うでもなく、消え去った。

「妙に潔いな。」
『サタンの右腕と謳われる事もある、最高位の悪魔だからね。それなりの矜持があるんだろう。』
「残ってた弓『エクセルテグ』はどうなんだ。やっぱりガッカリ性能なのか?」
『いや、堕天使ドロップにあるまじき性能だよ。正しく最強の弓だね。威力・命中ともに最高で、クリティカル補正もついて、そして何よりも速さが増強される。』
「全ての弓の完全上位互換か。ちょっと俺も使ってみたいな。」
『ちょ、まてまて。弦切れる。』
「わかってるよ。冗談だ。」
『まったく。ロンダルキアで戦ったときは散々梃子摺ったけど、これで漸く溜飲を下げられるよ。』

 何か因縁があったらしい。

 更に「フォトンランチャ」「ようとうムラマサ」「アンクスタッフ」を収賄。
 次はどうやら代行者に招かれるらしいので、これが最後の貢物となる。

「どれも期待してしまうな。」
『存分に期待に応えてくれるはずだよ。』

 いつもの事ながらワクワクする。
 久しく忘れていた、男の子魂的な何かが呼び覚まされる感じだ。
 早速武具の検分を始める。


『まずはフォトンランチャ。最早別次元の銃と言って良いね。運が大幅に強化される。勿論武器性能は紛れも無く、遍く銃の完全上位互換。叢雲と双璧を為すキミの最強兵装だよ。』
「テンション上がってきた。」
『次に妖刀ムラマサ。こちらも最強の刀で、魔力を増強する。ただし刀使いに魔法使いがいないのと、そもそも刀使いが少ないので、実は備前長船とトントンかな。』
「たしかに女魔がいなくなっちまったしな。だけどテンション上がってきた。」
『最後にアンクスタッフ。女神イシス愛用の杖さ。装備者の魔力を有り得ないほど増強するよ。武器威力は高くないけど、魔法系の装備としては関係ないしね。実質杖の最高峰さ。』
「テンション上がってきた!」
『どんだけ上げてるのさ。』

 解説を真だとするならば、俺達はこれで世界最高の武器を全て手中に収めた事になる。テンション上がらないわけないだろう。





 ゲーを抜けた後、予想通りの転送でパラノイアの孤島に到着。次は恐らく代行者との戦いになるはずだ。
 ちょっとテンション上げすぎて疲れ気味だが、早速リミックスステーションへ。

・ミョウオウ×ツクヨミ→龍神コワトリクエ
・アナンタ×コワトリクエ→精霊サラマンダー

 何とも贅沢なサラマンダーの作り方だ。
 あとはイシスに統合すれば最終形態の女神ラクシュミが降臨する。




『どんなに冷たい氷でも、燃える心には勝てはせぬ。嵐にも消えぬ火……人それを『情熱』という!』
「飛ばしてんなぁ。」

 無理も無いか。出会った時からずっとここを目指していたのだから。
 だがこちらとしては、若干疲れていることもあって、正直付き合いきれん。

『待ちに待った時が来た。
 多くの仲魔が無駄死にで無かったことの証の為に。
 最強の仲魔を掲げる為に! 全特技習得悪魔成就のために! ラクシュ 』

「はいはい」

 ポチッ。シュゥゥゥゥゥ。

・サラマンダー×イシス→女神ラクシュミ



『……』

 コイツは普段は冷静だが、結構な頻度でワケの分からないテンションになる。
 実はこっちが素だったりするのだろうか。



『……』

 何だかいつもよりダンマリが長い。まさか機嫌を損ねたか?


「ああ、もう悪かったよ。機嫌直してくれ。」
『……足りない。』
「は?」
『1枚足りなぁぁぁぁい!!』

 テンション上がりすぎて、ついに頭がどうにかなったのか。
 まるでイケナイお薬をキめてしまったような雰囲気だ。
 何故かキーボードをバンバン叩いている外人少年の姿を幻視した。なんぞこれ。
 どうしたものかと頭を捻っていると、どうやら落ち着いたらしいアイツが話しかけてきた。

『……今まで僕は、全特技習得悪魔を作るために色々計画してきたわけだよ。』
「ああ。」
『そしてこの最高位の女神ラクシュミしゃまでそれが成就するはずだったんだよ。』
「(『しゃま』?)らしいな。」
『だけど足りない。TOKUGIひとつ足りNeeeeee!』


 再発した。

『いやまておちつけれいせいになれ。まだあわてるようなstageじゃない。
 足りないのは

  ”れっぷう (オキュペテー)”

 理解不能。一匹たりとも戦死させていないのに何処に消えたというのか。
 ランク上げきらない内にうっかり3remixに使った系か。
 ルートパラノイアに戻ってナンパ? 無理だ。
 ここまで守ってきた貞操をこんなことで無駄に捨てるわけには行かない。
 何なら次でガルーダ捕まえても、いやそれでは習得が間に合わない……』

 恒例の呟きスタート。今回はどのくらい長くなるのか、うんざりだ。

『いやしかし、このまま行ってしまうのが一番楽か。別に厳密な縛りプレイと言うわけでなし。ああ、ダメだダメだ。僕の心理的外堀が、僕自身の手によってどんどん夏の陣状態になりつつある。ここが阻止限界点だ。考えろ、考えるんだマクガイバー……』


 呟きの無限ループ。もう放って置くしかない。
 折角出てきてくれた最高位の女神様放置して、全くコイツは全く。

 ああっ女神さまっ。あなたが悪いんじゃありませんよ。全部このVAKAが悪いんですよ。
 だからそんな申し訳なさそうな顔をなさらないでください。
 ラクシュミ様は俺達皆に望まれて生まれてきたんですよ。


『……しかし、女神様を犠牲にする以外にこの難局を乗り越える手段がないのも確かだ。目標達成のため僕はあえて、あえて社会道徳をかなぐり捨てて、見て見ぬふりをしなければ。そうなのだ、これは「超・法規的・措置」! 僕は全特技習得悪魔作成のため、一柱の不幸な女神の神生をあえてあえて見て見ぬふりをするのだ。あーっ! 最低だ最低だ。僕はなんと最低な妖精さんだ。故郷の両親よ、別れた二次元嫁(性別不問)よ、バイト先の教え子達よ……。この妖精さんの魂の選択を、笑わば笑え!』


 最早泣き出しそうな様子の女神様を見るに見かねて、遂に口を出してしまった。

「おい! いい加減に戻って来いよ。女神様困ってんだろ。」
『おっとすまない、取り乱した。何より女神様にこんな悲しげな顔をさせてしまうとは一生の不覚。ラクシュミ様どうかお許しを。』

 うわ、女神様めっちゃ笑顔。
 慈愛にあふれるというより、何か褒められて喜んでる女の子みたいなかわいらしさ。これは気を抜くと惚れてしまう。
 とりあえずCOMPに戻ってもらうことにした。



「んで、結局最終形はラクシュミ様で良いんだよな。」
『……』

 しかしダンマリ。

「おい、オマエまさか」
『……彼女を使って魔神を作る。』
「それでいいのかよ。あんなに女神様女神様言ってたのに。」
『勿論忸怩たる思いはあるけれど、これは僕にとって大事なことなんだ。』
「けど実際問題、オキュペテー?をどうするんだ。仲魔に居ないし、もう ROOT-PARANOIA とやらには戻れないぞ。」
『今から考える。』

 納得はいかない。納得はいかないが、コイツの目的はできる範囲で叶えてやりたい。
 ラクシュミ様の笑顔には申し訳ないけど、俺もそこまでこだわる理由はない。まあ仕方の無いことなのか。
 ただ、これまでずっと一緒に居て、考え方も一緒だと、これからもずっと一緒だと。
 そんな根拠の無い幻想を持つようになっていたのかも知れない。


 自分の想像に身震いする。コイツと道を分かつことが、近い将来あるかもしれないという想像に。



[22653] PARANOIA     ~ 太陽は昇る ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/11/16 22:59
『まずはノームを1体買いにいこう。』
「『れっぷう』どうするか、方針が決まったのか?」
『うん。』

・フルーレティ×ノーム→妖鳥オキュペテー(れっぷう)

『最近精霊の役割が専らレベル下げだよね。不健全にも程がある。』
「なるほどな。だけどこの後どうするんだ? 統合する方が余程難しいぞ。」
『一応予定だけ示しておこう。まあ、また予想外の事が起きるかもしれないけどね。……ふ、ふふ。』

 これは相当キてるな。
 もう少し優しくしてやるべきか。


****

・オキュペテー×リッチー→駄天使フルーレティ
・ラクシュミ×アエロー→龍神アナンタ
・アナンタ×(フルーレティ×ヴァンパイア)→魔神ペルーン

****


『オキュペテーが烈風を覚えたら、次のステーションで在庫のリッチと掛け合わせるよ。』
「そんで3remixで魔神か。すげえじゃん。保険大活躍だな。」
『「保険なんて働かないのが一番」らしいけどね。……は、はは。』

 うぜぇ。い、いやイカンイカン。

「じゃあこれでいくんだな?」
『……。』

 どうやらまだ何か考えるところがあるらしい。

『ヴァンパイアをサキュバスに代えて、オーディンを目指そう。』
「オーディン? あの北欧神話の主神か。」

 所謂キリスト教系列の代行者に対して、ほぼ同位置にいるであろう北欧神話の最高神。


「魔神ペルーンじゃ駄目な理由でもあるのか?」
『ビジュアル。』
「……ああ。あれか、可愛くないのか。」
『いや、オーディンだって可愛くないよ。ただ、ペルーンはかっこ良くもないんだ。』

 深いため息。これは仕方ないだろう。


「しかし今までの仲魔も大概だが、改めてオーディンを越えるとなると、何かとんでもないな。」
『大丈夫さ。キミの「筋力×スピード=破壊力!!!!!!!!」は神々をとうに超えているのだから。』

 まあ、コイツの言う事を信じて進むだけだ。

『となると、スレイプニルも嬉しい。』
「また神獣か。」


chapter 50 AHRQA     ~ Never again ~

 サラマンダー2体、ノーム2体、ウンディーネ2体を更に購入。ついに宝石が軒並み尽きた。


・フレイヤ×サラマンダー→女神イシス
・パールバディ×サラマンダー→女神フレイヤ

・ヤクシャ×ヤクシャ→精霊サラマンダー
・アガートラム×ノーム→地霊ブラウニー
・アガートラム×ノーム→地霊ブラウニー
・オベロン×ウンディーネ→妖精ピクシー
・オベロン×ウンディーネ→妖精ピクシー

・イシュタル×(ピクシー×ピクシー)→女神パールバディ
・コノハナサクヤ×(ブラウニー×ブラウニー)→女神サラスバディ
・サラスバディ×サラマンダー→女神イシュタル

・フラロウス×フルーレティ→精霊ウンディーネ
・ヴァンパイア×ウンディーネ→外道スライム
・ティターニア×(テング×スライム)→女神コノハナサクヤ


「無茶苦茶したな。特にブラウニー・ピクシーあたり。だが遂に女神9体目か。野球できるな。」
『宝石他に使い道もないしね。しかし命運尽きたかな。最後の一体が遠すぎる。』
「何だかんだで諦めてないんじゃないのか。」
『どうかな。結局スライム待ちだしね。サラマンダーと宝石と時間と、何より低位女神強化用の材料が足りないよ。』

 なるほど。無理してイシュタルを強化しても、下から上がってこないのか。

『迂闊だった。ゲーで邪龍勧誘しておけば多少強引にでもいけたのに。』
「宝石たんねえなぁ。」
『全く。金剛夜叉ならぬ金色夜叉になってしまいそうだ。』

 んー。

「ふと思ったんだが、サクヤ姫スタートにしなきゃ楽なんじゃないのか?」
『それじゃあ意味が無いよ。その場をやり過ごすために原則を曲げるのは嫌いなんだ。』
「そんな大層な話かよ。頑固なことだな。」
『自覚はあるよ。それが良いことだとも思わない。』

 これは筋金入りだ。
 正直その拘りは矛盾だらけに見えるが、俺が賢しらに口を出すべき事でもないだろう。


『何にせよ、タイムリミットだ。ラクシュミ様を合体に使う以上諦めるしかないだろうね。』

 あっさりしているように見えるが、これは相当へこんでいるな。
 何とかしてやりたいところではあるが。



 代行者の居城と思われる場所にやって来た。
 ミカエルとルシファーは屋外で暮らしているようだったが、ここは立派な宮殿だ。
 中に入ると、やたら色っぽい女の魔王が挑発してきた。

『「おいで」だって。これはもう、むしゃぶりつくしかないよね。』
「黙ってろ。」

 切り替えが早いのか何なのか。勝手に【千里眼】を発動。周囲の地形を把握する。正面に2ルート。どちらにも手厚く悪魔が布陣しているが、最早俺たちの敵ではない。左右のトレジャー回収に時間がかかりそうではあるが、正直危険なところはないだろう。慎重に前進制圧で事足りる。
 女神9体とオキュペテーを召喚。

『このナインでプレイするのもこれで最後か。』
「今回が初めてだけどな。オキュペテーいるけどな。」
『とりあえず方針について確認しておこう。』
「まずは魔神強化用に同大種族2体を確保だったな。」
『そうだね。手持ちに一匹クラーケンいるから、妖獣キャッチが簡単かな。』
「余剰在庫3体しかないもんな。祭の後の寂しさみたいな感じがある。」

 合体予定のない仲魔はギリメカラ・クラーケン・インキュバス。
 一時期は何に使うのかと言うぐらいに溢れていたものだが。
 栄枯衰勢とはまた違うが、世の無常を感じてみたりした。


『「蠅の王ベルゼブブ」。ミカエル・ルシファーを凌ぐ最大最強の魔法使いさ。』
「それがどうした、ってところだな。勝つのは俺達だ。」

 実際これは驕りでもなんでもなく、幾ら魔法が強くても、ただそれだけなら確実に勝ちきる自信がある。

『あとは基本的には雑魚ばかりだね。初見の相手は「邪龍ヴリトラ」「妖獣フェンリル」「夜魔リリス」。あとはジェネレータから湧いて来る「妖魔メデューサ」くらいだね。どれも最高位悪魔だけど、数が多いだけで取り立てて覚えておくべきことは無いよ。』

 いままでの延長で良いと言うことだろう。

「それはそうと、何かヘカーテいるな。」
『……そりゃあいるさ。』
「いいならいいんだけどな。」

 ネックになるのはオキュぺテーの成長か。
 最悪ベルゼブブを啄ばむ形で進めるしかないだろう。


「なあ。」
『なんだい?』
「相手にガルーダいるよな。」
『いるね。』
「ガルーダってジャターユの父ちゃんなんだよな?」
『そうなるね。』
「じゃあさ、オギワラで話しかけたら、好きな宝石貰えんじゃねえの?」


 凍りつく空気。

『ちょっとまってちょっとまってちょっとまって。』
「おう、待つぞ。」
『と言う事は何か。時間をかければ精霊買い放題とか。』
「そうなるな。ここはこれまでと違って時間制限ないんだろ?」
『と言う事はあれか。次オーディンが降りてくるまでの束の間、女神10体をまがりなりにもそろえたりしちゃったりなんかしちゃったりして。』
「落ち着け。」

 ほんと落ち着け。

『そうだよ良く考えれば、オベロンでもいけるんじゃないか? うわーうわーうわー。超テンション上がってきたよ?! よし、よしよし。オギワラ働かせよう。超走らせよう。』
「仕方ないな。」

 まあこれで貰えなかった時の反動が酷そうだが。

『スライム確保完了。いやそれどころかremixし放題じゃないか。うはー夢が広がりんぐ。YATTA YATTA 僕の昂りが非想非非想天になったーーーーーー!』

 元気になったようで何よりだ。
 ここはひとつ、見えた希望を現実にしてやらないとな。


『よし、落ち着いた。落ち着いた落ち着いた。よし落ち着いた。』
「だから落ち着け。いい加減鬱陶しい。」
『最後のサクヤ用に、ベースとして妖精オベロンを確保しよう。ギリメカラの周回用にサラマンダー1体分宝石も確保。あとはスライム作成用に、インキュバスにつけるサラマンダー以外の精霊一体分かな。』

 おや。

「肝心の女神強化分は良いのか?」
『もうさ、アレだよね。最後はサラマンダー2体買っちゃおう。やばいこれもう絶対負ける気がしない。』
「オマエは何と戦っているんだ。」

 というか、あとそんなもんで済むのか。
 確かに現在空位がサラスバディだけだから、シラヤマ・サクヤのダブル姫おくりが必要。あれ、案外いけそうか?

『しかしアレだね。最後は勧誘と宝石で調整したとは言え、将棋で言うところのぴったり詰みだ。色々苦労したけど、終わりよければって奴かな。』
「確かに、これまでに勧誘した仲魔全てが集約されるってのはロマンを感じるな。」
『オッカムの剃刀じゃないけれど、無駄のないものこそ美しいってね。』


 テンション上がりすぎているアイツを宥めながら進軍開始。今回は念のため、オギワラとトモハルも追走させる。二人の事を考えて、経験値は勿体無いが、ジェネレータを封印する事も視野に入れる。初っ端ワンスモアを使わない進軍はいつ以来だろうか。

『多分リバイバル覚える前が最後だったろうね。』
「だろうな。ちなみにジェネレータ封印の件だが。」
『反対はしないよ。』
「意外だな。」
『ゴールが計算できてるからね。』


 どうやら敵は邪龍・堕天使・霊鳥の空戦ユニットが猪突タイプ。
 初期位置に差があるため、迎撃は容易だ。

「ガルーダにはオギワラあてるか?」
『悩ましいね。火力移動力の関係でオベロンにしておきたいのだけど。』

 確かに放置していると女神を喰われかねない。
 初っ端から正面のジェネレータが稼動し、妖魔メデューサが湧いてきた。航空戦力は何とかオキュペテーに食わせるとして、コイツはラクシュミか。でもダブルゲットは邪龍にこそ使いたいわけで、悩ましい。

 ひとまず俺は右翼猪突の邪龍ヴリトラを削る。さすがに邪龍最高位。強くてデカくて硬い。サクヤ・イシュタルでそれぞれ両翼のヴリトラを削りつつ、最後のトドメをどうするかで悩む。ちなみにイシュタルは左翼のヴリトラを削りに行く際、シラヤマヒメのワンスモアを受けている。あの二人仲良かったっけ?


『ああ、僕の指示。』
「マジか。珍しいな。」
『うん、ちょっと出しゃばり過ぎたかな。』
「気にするな。理由があるんだろ。」
『左翼のヴリトラにダブルゲットさせたいんだが、ラクシュミではギリギリ二撃でも倒しきれないんだ。』

 確かに女神は火力よりはバランス型だからな。正直全貌は見えてこないが、この類のコイツの言動は信頼できる。
 左翼の攻略はひとまず任せて、【千里眼】で見物に回る。筋力を強化したラクシュミの「ヘルライトニング」で、一番奥にいた厄介なガルーダを処理。加速を受けて本隊へ戻りながら、ついでにヘカーテ二匹も「テール」で一掃。尻尾なんてあるようには見えなかったが。

『今度見せてもらおうよ。』
「絶対に来ると思ったよ。」

 運よくヘカーテからパールを貰った。ラッキー。ちなみに弓「ディアナクロス」も貰ったが激しく今更な性能である。残った連中は対空火力を持たない地を這う虫ばかりだ。更に左翼ヴリトラを魔力強化したアイスストームで削り、筋力強化したダブルゲットでトドメ。なるほど確かにギリギリっぽい感じだ。ちなみにヴリトラが短剣「めいどのみやげ」をドロップ。意味がわからない。
 ついでとばかりにラクシュミが、右翼のヴリトラに対して遠距離ブレスでトドメを刺す。代わりといっては何だが、メデューサはオキュペテーに譲る事にしたらしい。


「半端ねえな。」
『堅牢・超火力・超射程・超効果範囲・超高機動空中砲台だよ。しかもリバイバル持ちで弾切れ無し。』

 眩しい眩しい。不完全とは言え、これがコイツの目指していたものか。
 オギワラとトモハルは右翼のオベロン目指して俺の後から付いてくる。
 分断されていても、対岸からブレスの援護があるので安心感がこれまでの比ではない。

『とは言え、ラクシュミの大暴れもここまでかな。』
「もっと見ていたかったんだが。」
『いや、もうすぐ特技覚えちゃうのさ。ここからはサポート役だね。』


 相手からの反撃も殆どなく、体勢を整えた俺たちは再度の攻勢に出る。懸念していたオキュペテーの火力は何の問題も無く、メデューサを屠る。斧「グラマラスアクス」をドロップ。使えない。更にラクシュミによる加速を受けて、地上を這い回る地霊を空爆に。ある程度削ってあったので、何の問題もなく倒すことが出来た。
 右翼は、猪突のフルーレティを俺が慎重に削り、サクヤ姫が美味しく頂く。目指すオベロンは間合いに入っても動かない慎重タイプのようなので、オギワラとトモハルの二人に任せて大丈夫だろう。


『ところがコイツは慎重じゃないようだよ。』
「そうなのか?」
『「自分の間合い」ではなく「特定範囲」に侵入されることが行動のトリガになってるんじゃないかな。』


 パラダイムシフトのチャンスとは言え、あまりゆっくり考えている余裕はない。
 ラクシュミを此方に呼ぶか、ウズメで縛るかするのが手っ取り早いが。ひとまずペトラブレスで固めておくか。対岸から固められる遠距離ブレスは本当に役立つ。ちょくちょくフォローさせる事にしよう。
 アメノウズメは特にやる事が無いので、右手手前の宝を単独で回収。聖剣「エクスカリバー」を手に入れた。左翼のアイテムは「めいとうマサムネ」。どちらも名だたる武器だ。


『エクスかリバーは残念ながら劣化七支刀だよ。どうせなら聖賢のほうが良かったな。』
「早いよ。少しはワクワクさせろよ。」
『僕の悪戯心がワクワクしてしまってね。』

 
 左翼は奥に見ている妖獣フェンリルが気になる。赤備えとベルオブリバイブで、体力を極限まで高めたラクシュミ様が誘い受け。狙いは見事に当たり、ノーダメージでこちらのフィールドに引きずり込んだ。あとは好きに料理するだけだ。最強の対空要素を、ものともしない女神様。素敵過ぎる。
 ジェネレータから湧き出し続けるメデューサも、オキュペテーの良い餌でしかない。早晩特技を習得するだろう。

 一方右翼。
 俺はそのまま奥にあるジェネレータを目指す。奥まった位置にある、起動も遅いジェネレータ。これまでの経験に照らし合わせて、どうにも嫌な予感がする。
 後方ではオギワラが所望の宝石を巻き上げ続けている。アメノウズメが無事に右翼最奥のクラーケンもキャッチし、順調そのもの。オベロンを囲んでの宝石ゲット作戦も順調。他を慎重にやっている分、宝石のたまりも良いらしい。トモハルの割り当て(パール・オパール)はすぐに終了。あとはサラマンダー3体分のアメジスト・サファイアだけ。それももう半ばまで終わっている。


「予想外のペースだな。」
『そう? 僕の疲労は甚大だけど、ペース自体はこんなものでしょ。大事なのは任意の種類の宝石が任意の数だけ手に入る事だよ。いやあ、話し合いって本当に良いものですね。』
「オマエのは単なる詐術だろう。」
『何を隠そう、僕の二つ名は不敗の詐術師と言うんだよ。記録上もloseゼロだしね。』
「はいはい。」

 ベルゼブブを守っている魔王3匹は、サクヤとイシュタルの餌にする。
 最強の弓・エクセルテグは実に素晴らしい武器だ。

「俺も弓使ってみたいな。」
『ちょ、弦切れる。』
「冗談だよ。」


 結局二つ目のジェネレータ稼動前に残るは魔王2匹のみとなった。経験上、次の満月あたりで起動するのだろう。とっとと魔王バラムを排除して、稼動前ジェネレータの周囲に女神を集める。俺はもうオーディンの強さを超えているらしいので、魔王ベルゼブブを見据えてじっと時を待つ。

『あ、ベルゼブブ様がこっちにウィンクしたよ。あれ、多分僕に向けてやったんだよね。』
「オマエはアイドルグループの追っかけか。」

 そうこうしているうちに、オキュペテーが特技「アイスブレス」を習得。

『これさえ、これさえ悪さをしなければ……ッ!』
「聞いたところ自業自得だよな。」

 何でも同シチュエーションの評議会ビルでは、勘違いしてここで引っ込めてしまったらしい。実際には特技「れっぷう」の習得が残っているのに。
 予想通り、奥のほうのジェネレータが稼動し、龍王ファフニールが出現。 間合いを詰められなかったら最悪の状況だっただろう。だが既にジェネレータの周囲を幾柱もの女神が好き勝手に飛び回っている。


『相手からすれば、さながら創世記戦争か、エヴァシリーズの悪夢のような光景だろうね。』
「後者は知らんが、悪夢ってのには同意だな。どう考えても勝ち目はない。」

 生まれ出でた場所が、既に己の屠殺場。ドナドナってレベルじゃない。
 オギワラの方は宝石徴収のノルマに達したらしい。カツアゲのノルマとか、本当にケチな犯罪組織みたいだ。トモハルが傷薬を与えて勧誘。みたいじゃなくて、ヤクザそのものか。


 ラクシュミ様が特技「だいちのうた」を覚えられました。

「何この特技。凄すぎるんですけど。」
『超射程の遠距離回復。しかも範囲内にいる味方全員。リバイバルと組み合わせる事で正しくバランスブレイカー。』
「女神様の特技はそんなんばっかりですね。」
『何その微妙な敬語。まあ敬意というのは自然に湧いてくるものだよね。』
 
 程なくして準備が整う。
 必要な宝石は全て手に入れ、必要な特技も全て習得した。
 今回は無傷のベルゼブブが相手だが、俺は怯むことなく彼女のもとへ向かう。


 ずっと観察して思ったことは、「ベルゼブブは人間を憎んでいない」ということだ。むしろその視線には、ある種の慈しみすら感じた。

『彼女は彼女なりに人間を愛していたのだと思うよ。彼女の庇護のもと生きていくというのも、或いは有り得た選択肢だ。』
「そうかもしれない。だが、奴はあまりに多くのものを奪いすぎた。」
 
 1995年の東京に引き起こした騒乱。
 2052年におけるメガロポリスの危機。

 どちらも多くの人の命を奪った事件だ。
 そして何よりも。

「そして何よりも、仲間たちの運命を狂わせかけた。」
『見知らぬ多くの人よりも、仲間の運命か。立派だと思うよ。』

 皮肉を言っているわけではないらしい。
 

 ベルゼブブ。
 評議会を支配し、オギワラに魔軍を与え、アクシズの混乱を加速した存在。
 カマエルを通じてトモハルを操っていた黒幕でもある。
 そしてカオルが以前語った、カオルに魔の力を与えた張本人。
 たとえその発端がカオルの望みにあったとしても、俺は奴を許せそうにない。


 ついにベルゼブブと対峙する。
 こちらを見る目には、悦びとも哀れみともつかない光が湛えられている。
 そのまま皆自分の手の中で幸せに暮らしていればよかったのにと、そんな事を呟く。
 確かにそれも『有り得た選択肢』なんだろう。
 だが、それはきっとカオルの魔法同様、人間の望みからは程遠い姿になるはずだ。


 だから俺は剣を振り下ろす。

「あの世で俺達にわび続けろ! ベルゼブブ!」


 ベルゼブブは少し寂しげに笑った後、カオルと視線を絡ませ合いながら消えていった。


chapter 51 EDEN     ~ True blue ~

 驚いた事に、俺たちは再びアムネジアへと転送された。
 まるで楽園かと見紛う様な美しい庭園が眼前に広がっている。

 それはそれとして、ラグズショップでサラマンダー3体、ウンディーネ1体を購入。これで最後かと思うと感慨深い。

・シラヤマヒメ×サラマンダー→女神サラスバディ
・コノハナサクヤ×サラマンダー→女神シラヤマヒメ

・インキュバス×ウンディーネ→外道ブラックウーズ
・ギリメカラ×サラマンダー→邪鬼ウストック
・オベロン×(ウストック×ブラックウーズ)→女神コノハナサクヤ

 凄まじくピーキーな組合せだ。
 特に意味は無いけれど、勧誘したクラーケンなどをサブファイルに追いやる。
 高位の者から順に並べ直して、メインファイルに残った女神10体を奇妙な満足感と共に眺める。


第一位:ラクシュミ
 美と豊穣の女神。第三位フレイヤが北欧神話における豊穣の女神であるのに対して、こちらはヒンドゥーの女神様。
 全ての仲魔の業と魂を受け継いだ至高の女神。自身の特技「大地の歌」も反則級の性能。
 ベルゼブブの宮殿で見せた、全てのものに恵みを与える太陽の如き輝きは、きっと一生忘れない。


第二位:イシス
 エジプト神話の女神。聖母マリアの原型とする説もあるらしい。
 アイツは『オシリス神の妹にして妻。妹にして妻。』と妙にプッシュしていた。
 ラクシュミよりも魔法に長け、遠距離回復「サマディカーム」は重宝する。
 魔法系最強装備「アンクスタッフ」は、本来この女神様の持ち物らしい。


第三位:フレイヤ
 北欧神話における豊穣の女神。
 ラクシュミが身持ち堅いのに対して、こちらは奔放な性を謳歌する女神だったらしい。
 パッと見こっちの方が露出少なくて清楚に見えるんだけどなぁ。女はわからん。
 複数回復のスペシャリスト。戦いながら「フレイヤ待ち」の形を上手く作れると楽になる。
 彼女の特技「ダブルゲット」はもっと早くに欲しかった。


第四位:パールバディ
 ラクシュミと同じくヒンドゥーの女神。
 あちらは最高神ヴィシュヌの奥さんで、こちらは破壊神シヴァの奥さん。妖精界ではまた別の側面があるらしい。
 破壊神シヴァといっても決して悪神ではなく、役割として破壊を司る神である。
 とは言え、最初の奥さんを亡くした時は荒れ狂って街を無差別に破壊して回ったそうな。
 亡くなった奥さんの魂が転生してパールヴァディになって、ようやくシヴァ神が落ち着いた事を考えると、世界にとって救いの女神だったのかも知れない。


第五位:アナーヒーター
 ゾロアスターにおける水の女神。
 途中危うくスキップされそうになった、不遇の女神でもある。
 インドの流れを汲む日本にとっては、敵対していた宗教として中々馴染みが無いらしい。
 だが、第七位のサラスバディと同起源とする解釈もあるそうだ。
 ワンスモアを安定して供給してくれる縁の下の力持ち。


第六位:イシュタル
 最凶の女神。特技的な意味で。戦闘ユニットとしても地味に優秀。
 もとは古代メソポタミアの豊穣の神。身持ち的にはフレイヤ寄り。
 いつかも聞いたように「さげまん」の異名を持つそうだが、少なくとも俺は彼女に大いに助けられた。性的な意味ではない。
 多分ギルガメッシュとやらが死んだのは、油断でもしていたからだろう。


第七位:サラスバディ
 インド神話における水の女神。
 もっとも日本では弁財天、芸術・学問の神としての方が有名。
 ゾロアスターとは互いに他を悪と定義しているが、近親憎悪という奴だったのかもしれない。
 非常に幸運な女神で、アイツ的にはレアアイテム回収で非常に助けられたそうだ。


第八位:シラヤマヒメ
 日本神話に僅かに名が見られる「菊理媛神」その人。
 イザナミ・イザナギの仲を「くくった」ことから一緒に祭られているとする解釈もあるそうだ。
 珍しく体力回復魔法を持っていない。その代わりなのか何なのか、状態異常回復のスペシャリスト。
 非常に知略に長け、魔法防御が高い。対魔法の防壁として大変重宝した。
 アイツ曰く『一番計算を狂わしてくれた女神様』。自業自得だっての。


第九位:コノハナサクヤ
 アイツが愛してやまない、通称『姫』。
 シラヤマヒメだって姫だろうに、何だこの差別っぷりは。
 特長は何といっても「ワンスモア」である。
 しかも遠距離回復「ディカーム」を所持しているなど、本当に凄い仲魔だった。
 馬鹿魔力の持ち主でもあり、アイスストームを覚えてしまうと途端に超強力爆撃機と化す。
 最初の頃は助けられっぱなしだったが、最後のほうは愛憎半ばか。
 まあ、全部自業自得なんだが。


第十位:天のウズメ
 記紀に謳われる原初の芸能アイドル。
 初めて女神様が降臨したときはあらゆる意味で衝撃だった。
 あれ? 何か記憶が曖昧というか混濁しているというか……。
 序盤は勿論大活躍。終盤も長く活躍してくれて、個体としてはMVPクラスか。
 最下位という序列ではあるが、対空ユニット以外なら相当高位の悪魔とも渡り合ってくれた。
 「シバブー」と回復もあわせて、実質は番外位として扱うべきかも知れない。
 メガロポリスから長きにわたって本当によく部隊を支え続けてくれた。
 『ある意味一番育っている』らしい。性的な意味ではなく。




『夢に想い描いていた形とは違うけど、遂に女神10体勢ぞろいだね。まるで太陽が地に降りて来たかのような、どこか暖かい眩さだよ。』
「そうだな。これは俺も胸に来るものがある。」
『名残惜しいけど先へ進もう。』
「切り替え早いな、おい。」


・オキュペテー×リッチー→堕天使フルーレティ
・ラクシュミ×アエロー→龍神アナンタ
・アナンタ×(フルーレティ×サキュバス)→魔神マルドゥーク

「そういや、何でヴァンパイア差し替えたんだ?」
『ウンディーネ使うより、余ってる雑魚悪魔消費する3remixの方が経済的でしょ。』
「雑魚と言っても各系統の相当高位なんだけどな。」

・マルドゥーク×(クラーケン×クラーケン)→魔神オーディン


 ファイルに残ったのは主神オーディンと、その戦乙女たる9人の女神のみ。
 と思っていたら、サブファイルに鬼神四天王が残ってた。
 こうなってみると、アイツが断ろうとした気持ちがほんの少しだけわかる。
 ほんの少しだけだが。


 再度庭園にやってくる。
 ここは「エデン」。まさに楽園と呼ぶに相応しい美しさだ。
 三つの島を橋で繋いだ構造になっている。

 目の前には高位悪魔たち。
 初めて見るのは、まず「天使ケルプ」。
 熾天使と並び称されることすらある、最高位の天使「智天使」だ。
 弱いらしい。

 次に合体で一瞬通ったこともある「天使トロネ」。
 いわゆるセラフ・ケルプと同じく上位に位置する天使だ。
 弱いらしい。

 邪龍第二位「ヨルムンガンド」。
 北欧神話に謳われる、世界を取り巻けるほどの巨大な蛇らしいが、所詮第二位。
 アイツが変な笑い方をしながら『名前負けにも程があるね』と嘲っていた。

 龍王「ヤマタノオロチ」。解説不要なほどに有名な存在。
 龍王第二位のファフニールが全く比較にならないほどの強さらしい。
 今回はもうまともに相手をする理由もないので無視するのが賢明か。

 夜魔最高位「リリス」。
 アイツ曰く『あんなの夜魔じゃない あんなのリリスじゃない』。
 まあ確かに見た目キモイ。



 そして最後に魔王マーラ。
 代行者など極一部の特殊な悪魔を例外とすれば、最高の悪魔らしいのだが。

「何だよあの形。ふざけているのか。」
『ナニを司っているのかわかりやすくていいじゃない。何ともご立派だよね。あんなのを使い魔……もとい仲魔にできたら素晴らしいだろうな。』

 嫌だ。絶対に嫌だ。
 もしあんなのと契約する羽目になった奴がいるなら心底同情する。
 そして俺でなくて良かったと心底安堵する。

『実は一時期、ラクシュミ様じゃなくてマーラ様を目指していたこともあったんだけどね。』
「テメエ、最後の最後で一番碌でもないことカミングアウトしやがったな!!」

 長いこと無条件にコイツを信頼していたが、こんな罠があったとは。
 こんな感じで戦場把握をしながら緊張感のない漫才をしていたら、痺れを切らしたのかオーディン様が出発。女神様たちもすかさず追走する。
 

 オーディンが女神様達の「ワンスモア」サポートを受けながら超強力特技を連発。
 固有時制御、三倍速、四倍速、五倍速……。
 何だか女神様達を取られた気分だが、その力強さと戦乙女達の美しさをもっと見ていたい気もする。

『急にNTRの気配がしたので。』
「だから黙ってろ。」


 それにしても凄まじい。
 アブソルートゼロ・ホーリースパーク・メルトダウン・ひっかき・アフナワルヤ・チャクラム・サードアイ。
 間合いに入った全ての敵を、一人でかつ一方的に殲滅している。圧倒的な火力だ。
 しかもオーディン自身が「リバイバル」持ち。弾切れの心配が全く無い。

『たった一人の軍勢。まさにワンマンアーミーだね。』
「戦術とか無意味だよな。もう俺達出番無いんじゃないか。」

 半ば呆気にとられつつ言う。
 以前コイツが魔神を評して『飛行でないのが唯一の弱点』と言っていた。
 まさにその通り、八面六臂の活躍だ。
 しかもワンスモアとこれらの特技があれば、移動力など殆ど弱点たり得ない。

『女神ラクシュミは犠牲になったけど、こうしてその魂は技と共に受け継がれていくんだ。』
「どの口がとも思うが、俺も同じ思いだよ。」


 一度は失われたかに思われた輝きだが、再び現れたそれは全てを焼き尽くす苛烈な太陽のようだった。
 気付けば目の前の島にひしめいていた最高位の悪魔達が跡形もなく蒸発。のみならず半径1kmほどが、草も生えない無人の荒野になっていた。

『折角の庭園が無ー残無残。まさにひとりラグナロク。』
「何か『メルトダウン』とか使ったら俺達も危なくないか?」
『大丈夫。フレンドリーファイア対策もばっちりさ。』

 何がどうばっちりなんだよ。


 オーディンは9柱の女神を引き連れてそのまま前進。
 呆気に取られていた俺達も慌てて行動開始。オーディンたちの後を追う。
 一応隅っこのほうにオベロンが逃れていたようなので、オギワラとウズメに宝の回収を頼む。

 ちなみにここにいた代行者は「魔王サタン」。
 何故天界に魔王がいるのかは良くわからない。
 「神に反抗するもの」のはずだが、千里眼で観察していた俺に語りかけるその口ぶりは、まるで神の代行者であるかのようだった。
 アクシズを HELIOS で粛清するとか言っていたので、軍部のバックにいたのは間違いなくこいつだろう。
 明らかに危険人物(人物?)。オーディンがそのまま「はばたき」であっさり蹴散らしてしまった。


 あれ、俺の出番は?


chapter 52 CT-ROOM     ~ AXIS ~

「結局サタンは何を考えていたのか聞きそびれちまったな。」
『キミの考え通りで概ね間違いないけどね。』

 アクシズの粛清は、メガロポリス再生の為の近道。サタンはそう信じていたらしい。
 気持ちはわからないでもないが、そこに住んでいる人間からすればたまったものではない。

『ある意味彼が一番神様の御心に近かったのかもしれないね。』
「神に反抗するものがか?」
『さてね。真相は闇の中さ。』

 サタンが口にした「おろかものどもの暴発を止めるものは、もういない」という言葉。

『額面どおりに受け止めるなら、統合作戦本部による HELIOS の暴発だろう。』
「サタンを排除したんだから撃つ理由はないと思うが。」
『もともと彼らからサタンにコンタクトを取ったんだよ。ベルゼブブに対抗して自分達が覇権を握るために。』
「だったら尚更、 HELIOS を撃つ理由はないだろう。」
『理に反して起こるのが「暴発」だ。』

 コイツがここまで言うからには何かある。
 嫌な予感がしてきた俺は、急ぎメガロポリスに戻るべく……。


「……なあ、俺たちどうやってアクシズに戻るんだ?」
『……やっぱり考えてなかったんだ。』

 オイオイオイオイ。
 もしかして戻れないってのか?

「カマエルいないの?」
『見当たらないね。』
「 FASS もないよな。」
『当然ないね。』

 詰んだ。
 カオルが「まるで特攻隊だな」と、さばさばした表情で言っている。大物だ。
 オギワラはどうやら責任を感じているようだ。
 
『大丈夫。帰れるよ。』
「やけに自信ありげだな。【未来視】か。」
『ああ。君達のやってきたことは、立場を超えて色々な人の心を動かしたのさ。』

 唐突に周囲に溢れる光。FASSによる転送の前触れだ。
 一体誰が?と疑問を覚える一方、アクシズに帰れるという確信もあった。






 辿り着いた場所は最高評議会ビルの HELIOS コントロールルーム前。
 姿を消していた統合作戦本部の幕僚達が集まっている。
 サタンの後ろ盾を失った長官は精神に異常をきたし、いつ HELIOS のスイッチを押すかわからない状態だそうだ。
 オギワラが言うには聡明な人物だったらしいが、これも力に運命を狂わされたという事なのか。


『これが最後の戦いだ。』
「まさかもう一度、人間界で闘うことになるとは思わなかったがな。」

 ふと、ルシファーが言っていた事が気になった。

「もしこのまま俺達が、アクシズとパラノイアの繋がりを断ち切ってDIOを抹消したら、オギワラはどうなるんだ?」
『一応時間軸上では2052年時点のことだから、存在そのものが消えることは無いと思うけど。正直なところ、全く見当がつかない。』
「オギワラもルシファーとの戦い以来、ずっと何か考え込んでいるな。」

 2024年にオヤジが関った事件。アクシズの危機。
 それを解決した人間の男と、ルシファーの娘。
 その二人の血を引くオギワラ。

『心中察するに余りあるよ。DIOを全ての元凶と思い定めて、DIOの力を利用してまでそれを消し去ろうと奔走していた自分。その自分が生まれたことすら、武内博士がばら撒いたDIOの結んだ縁によるものだったのだから。』
「愛憎なんて言葉じゃ括りきれないんだろうな。」
『 nemesis と自身とが複雑に絡みあって、思考の渦から抜け出せないで居るのだろう。最早簡単には割り切れないほど、彼は nemesis と深く関りすぎたんだ。』

 以前からコイツが口にしていた『 spiral nemesis 』。
 もしかしたらオギワラのことを指したものだったのかもしれない。




 【千里眼】で戦場の把握。これを使うのも最後になるのか。
 恐らくサタンの代わりとして長官が召喚したのであろう、「邪神アーリマン」がそこにいた。
 「この世全ての悪」などと称される事もある、古代ペルシャ・ゾロアスターにおける最高神。【千里眼】を通して見ているだけで気が狂いそうになる。以前サルゲッソーを見たときと似ているが、発している瘴気は段違いだ。
 長官が正気を失っているのは、何もサタンを失ったからと言うだけでは無いのだろう。この場に漂う狂気と悪意は、明らかにアイツが撒き散らしているものだ。


『三つの世界に跨って、時を越えて絡み合う恩讐。その始まりの場所にして終着さ。もっともそれを引き起こした元凶は既に亡く、残ったものは悪意と狂った力だけ。』
「いいさ、ここがすべての始まりだと言うなら丁度いい。俺達が今ここで全てを終わらせてやる。」
『無理はするな。狂っているとは言え、人間同士の殺し合いだ。何ならオーディン達だけでも十分だろう。』


 確かにこれまでは軍が相手といっても、結局敵は悪魔ばかりだった。
 だがそれでいいはずが無い。汚いことは仲魔任せにして、自分達の未来が拓けるわけが無い。
 震える体を押さえ込む。最後の最後まで臆病なところは直らなかった。


「ミカエル相手にあれだけ大見得切っといて、最後は仲魔で代理戦争ってわけにもいかないだろう。」

 それでも決然と。弱い心が揺るがぬように。


『……勇敢だね。キミは本当に立派になった。僕の期待を超えて。眩しいくらいに。』






 まずは厄介な通路のヤマタノオロチ二匹を、オーディンのチャクラムで仕留める。俺はそれを追い抜いて、三匹目を銃撃。ガードマシンは放置しているが、通路はクリアになった。アイツの言う通り、オーディン一人に任せたほうが早いのだろうが、どうしてもその気になれない。最後はきちんと人間の手で決着をつけなくては。
 直進の通路を抜けて、侵攻ルートが左右に分かれる場所に出た。どちらも全く同じ。一瞬たりとも迷わず右へ。壁の向こうに潜む龍王ヤマタノオロチが、砲撃を仕掛けてくるはずだ。ヤマタノオロチが移動してこないのは、既に女神の釣りで確認済み。仮に動いてきても対応する事はできるはず。念のためこちらもオーディンの遠距離ブレスで、俺を射程に捉えている龍王を石化。万全だ。


 遂に統合作戦本部の隊員と刃を交える事になった。
 正気を失っているとは言え、前線で悪魔と戦い続けてきたであろう精鋭だ。強い。
 数の不利と場所の制約さえなければ、悪魔の軍勢に負ける事もなかっただろうにと思わせる強さだ。

 相手の隙に体が反応し、斬撃を叩き込む。肉と骨を一度に断つ感触。
 悪魔相手には慣れたものだったが、人間相手となるとやはりキツイ。
 相手がこちらを殺しにかかってきている分、理性の面では言い訳が立つ。
 だが吐き気を催すような嫌悪感だけはどうしようもない。


「一体何に対する嫌悪なんだかな……。」

 自嘲するのは後回しだ。
 戦わずに解決できるならそれがベストだが、戦わないことで何も解決しないならそれは下の下。
 どれだけしんどくても、決して歩みを止めないように。
 
 グルグル思考をめぐらせている間に、オーディンが俺を追い抜いていた。
 龍王の射程に注意しながら、負けじと進軍速度をあわせる。
 気遣うようなオーディンたちの視線に気付いたものの、何となく照れくさいので前を向く。
 そうか。こいつらともこれが最後なのか。


 龍王・邪龍・魔王と連破し、管制室に踏み込んだ。
 雰囲気でわかる。長官の強さは邪神にも匹敵すると。
 さすがオギワラが高く評価した人間だけの事はある。

 だが、俺の目的は長官を倒す事ではない。
 居並ぶ人間達を無視し、ただ一点、今尚瘴気を撒き散らしている邪神アーリマンへの突破口を開く。
 女神達による更なる加速を受け、俺の銃から放たれた光が、異形の神を貫いた。


 隊員たちは正気に戻る事こそなかったが、糸が切れたようにして床に倒れこむ。
 やはりアーリマンの影響下にあったようだ。
 俺達は HELIOS の起動シークエンスを中断し、ようやく長い後始末を終えた。







 戦いが終わり、10体の仲魔+四天王に別れを告げる。

 オーディンは「アインヘルヤルになって欲しくないものだ」と。
 戦士の魂を集めて尖兵にしていた彼としては、最上の親愛表現なのかもしれない。

 イシスはオギワラのほうを見て、「恩返しが出来た」と。
 「俺たちに」というよりは、「人に」というニュアンスが強かった。

 フレイヤは唐突にコイバナを始めた。
 ああ、たしかに奔放な女性ではあった。

 アナーヒーターは「よかったですね」と。
 控えめな彼女らしい別れの言葉だ。

 パールバディは「折角お近付きになれたのに」と別れを残念がっていた。
 俺たちも同じ気持ちだ。

 イシュタルもオギワラのほうを見て、「願いは必ずかなう事を憶えていて」と。
 彼女も何か叶えた願いがあったのだろうか。

 サラスバディには「その目のままで居て欲しい」と言われた。
 彼女達への感謝は生涯消える事はないだろう。

 シラヤマヒメは「あなた達が無事でよかった」と。
 彼女達が居たからこそ、一人も欠けずにここまで来る事ができたのだ。

 サクヤ姫は「人の命は儚いからこそ尊い」と言っていた。
 彼女達に人の尊さを思い起こさせたのが俺たちの生き様というのなら、これほど誇らしいことはない。
 
 アメノウズメは「最後にサービスよ」と言ってゴニョゴニョ。
 全くあの女神には敵わない。



 続いて東京を守護してきた鬼神達。

 コウモクテンが「我が使命は果たした」と宣言。
 「また会おう」と言われ、俺はいつか固めた決意を新たにする。

 ジコクテンは「この東京を守って行け」と。言われるまでもない。
 戦いだけが全てではないはずだ。俺は俺の考えられるやり方全てで東京を守って行く。

 ビシャモンテンは「戦とは、むなしきものよな」と。
 戦神には似つかわしくない台詞かもしれないが、今の俺なら共感できる。



 そして、鬼神ゾウチョウテン。
 2024年の東京で共に戦った自衛隊員。

「君達は似ている……かつての戦友に」

 それは自分達だと叫んで、引き止めたいという衝動に駆られる。
 だが、ここからは人間が自ら拓く道。
 親愛の情と感謝の念を胸に、全ての仲魔たちの見送りを終え、DIO のシステムを完全に停止させた。
 




 最後に、秘かに尊敬していたオギワラに別れを告げて、FASSを起動。俺達は元の時代に戻ってきた。

「ようやく、終わったな。」

 筆舌に尽くしがたい、胸中に渦巻く様々な想い。しかしこれは紛れもない本心でもある。「ようやく終わった」きっと皆もそう思っているだろう。


『……君達に関してはね。』

 珍しく戦闘開始からずっと黙っていたコイツが口を開く。
 その口調は重く、隠し切れない苦々しさが滲んでいた。


「どういうことだ? まだ何かあるのか?」

 最後の闘い。未来を見通すコイツが明言したことだ。
 返ってきたのは、何か決意のようなものを含んだ硬い声だった。

『そうだね、或いは彼の意思に反することかもしれないけど、キミにだけは知っておいて欲しい。』








『……これが最後の【千里眼】だ。』







[22653] epilogue     ~ It's my only Fairy's tale ~
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/11/06 01:46
 戦いが終わり、平和が訪れた。
 暫くのんびり日々を過ごしていたが、「その時」が来る前にどうしてもアイツに聞いておきたいことがあった。


「……なあ、オマエはオギワラが『ああする事』を知っていたのか?」
『知っていた。』

 いつもとは違う、いっそ突き放すかの様な簡潔すぎる答え。

「オマエはあれで良かったと思っているのか。」
『僕も納得はしていないけど、彼らしいけじめのつけ方だったとは思う。』


 いつだったかコイツが語った、オギワラについての憶測が脳裏をよぎる。
 違う。そういうことを聞いているんじゃない。

「何とかしようとは思わなかったのかよ。」
『僕にもできないことは多いからね。ただ、仮に結末を変えることが可能だったとしても、自分がそうしたかはわからないな。』





「……何でだ?」
『彼の行動は、彼の信念が形を成したものだ。それを捻じ曲げることが正しい事なのか。僕にはわからない。』

 ルシファーのオギワラに向けた、最後の言葉を思い出す。
 言ってる事はわかるが、どうにも気持ちの整理が追いつかない。苛立ちが募り、自然と皮肉な口調になる。

「オマエにもわからない事があったんだな。」
『そりゃあね。僕にわかることは、僕にわかることだけだ。』

 何の意味もない言葉遊び。実際コイツも俺同様、気持ちの整理がついていないのだろう。

「これがオマエの言うハッピーエンドだったのか。」
『……わからない。』

 沈黙が訪れる。根拠は無いが、アイツが泣いている様に思えた。







「もう、行くのか。」
『そうだね。そのようだ。』
「オマエの言う『物語』の終わりってやつか。」
『うん。或いはまたキミの物語を観ることもあるのかも知れないけど、今はここでお別れだね。』
「……元気でな、『妖精さん』。」
『……ああ、「ナオキ」の先行きにも幸多からん事を。』



Fin.     














後書き




 ……あの戦いから十年。
 私は今、幸福な人生を送っている。
 妻と子と穏やかな生活と。
 願ったことはほぼ叶い、夢見たものも全て得た。
 物語であれば、完全無欠のハッピーエンドと言えるだろう。



 しかし、私は思うのだ。
 あの風変わりな妖精さんが、ひょっこり私の幸せな生き様を覗きに来る事は無いものかと。
 勿論私が物語を綴るのは、私の御伽噺を楽しみにしている子供達のためである。
 それでも、願わずには居られない。
 彼女がこの物語を目にして、再び私の前に現れることを。



~ It's only the fairy tale ~


著 武内ナオキ





[22653] 元ネタ一覧
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2010/12/16 19:18
まさに蛇足。
表題の通り元ネタ一覧です。各話サブタイだけですが。
このSSにおいて羞恥心は投げ捨てるものなので、意を決して投稿。
これで私も今日からセクシーコマンドーの使い手です。

以下執筆順に並べます。完成させた順ではなく、大筋を決めた順です。
何だか書いてるうちに執筆当時を思い出して懐かしくなり、気付けばメイキングみたいな内容になってしまいました。



*まずはプロットという名の攻略メモ(プレイ記録)作成。
 他ルートもざっくりプレイしてストーリー確認。


①プロローグ 「 It's only the fairy tale 」 *アニメ「舞-HiME」のキャラソンより
 意味的には「二人だけの御伽噺」と「妖精さんのお話」の駄洒落。
 この時点で書き上げたのは最初の数行、"Opening"の前まで。
 ここで口調を含めてナオキ君を微妙にメタ位置に配して、本作最大の仕掛けを作る事に。

 妖精さんとの出会いまではプロローグということで、基本過去時制で記述。
 「攻略」要素に拘りすぎて、プロローグなのに不必要に長くしてしまった感。


②エピローグ 「 It's my only Fairy's tale 」 *元ネタ無し
 プロローグに引っ掛けてこのタイトル。
 「私にとってかけがえの無い『妖精さん』のお話」。

 「妖精さんにもう一度会いたい」という、ナオキ君の願いを叶えるため、プロローグとあわせて仕掛けを作る。
 望んだ「彼女」に届いたかはわからないけれど、SSを読んでいた人皆も名無しの「妖精さん」的存在だったという。
 やはりメタで、且つかなり変則的な形ではあるが、これにて本当に無欠のハッピーエンド、みたいな。

 また、ここで妖精さんのキャラ設定を大まかに。
 最後の仕掛けに気付くと、ナオキ君が妖精さんともう一度会うために綴ったラブレターに見えるように、
 妖精さんを男性口調(ただしボクッ娘の線は死守)に設定してミスリード。


③最終話 「 太陽は昇る 」 *ゲーム「大神」から、ラスボスBGM
 私の知るゲーム音楽の中で、最高のものの一つ。
 最初は最終ステージだけ分けて、人間の悪意をテーマに「LIVE A LIVE」or「MEGALOMANIA」で書いていたが、途中で方針変更。
 対人戦の後味の悪さを延々引っ張るよりは、あっさり終わらせて余韻を残しつつ時間経過させることに。
 単純に力が足りず、収拾つかなくなっただけとも言う。

 エピローグは決めたものの、オギワラどうにかできないかと最後まで悩み続けた話でもある。
 増長天の設定を固めたのもここ。


④第15話 「 Traitor 」 *ゲーム「デュエルセイバー」から、神に叛逆する剣「召喚器トレイター」
 タイトル先行で中身が決まらず、結局アップ直前まで改訂を繰り返す。今でもルシファーたちはアレでよかったのかどうか。
 単語としても「叛逆」より「裏切り」のイメージの方が強いので、そういう意味でも最後まで悩んだ。
 正直トレイターの生い立ち?は男前過ぎると思う。


⑤第17話 「 Overdosing heavenly bliss 」 *ゲーム「空の軌跡3rd」から、フィリップ戦他BGM
 直訳すると「お薬(サラマンダー)キメ過ぎて、頭がパーン(一枚足りなぁぁい!)」
 プレイ当時の心理状態を表すタイトルです。嘘です。

 ボスもナオキにかかると一撃なのが悩みの種。バトルが全く膨らまない。
 ここでナオキ君にメタ世界をおぼろげながらも認識させることで、「後書き」への最後の伏線とする。


⑥第6話 「 Wheel of fortune 」 *大アルカナより「運命の輪」、ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」
 大アルカナで際限のないイタチゴッコ。スパイラルネメシス状態!!
 そして妖精さんが最優先する「幸運」「お宝」という車輪(ゲームシステム)に轢かれ続けるナオキ君。
 ストーリーの根幹を成す、時間移動関連の設定を捏造開始。


⑦第5話 「 Forward to the past 」 *映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のパロディ
 直訳するなら過去に転送、意訳するなら前向きな時間逆行という駄洒落。
 第6話に繋がる部分を執筆。


⑧第9話 「 Rebellion 」 *映画「リベリオン」から
 拳銃を手にたった一人で叛逆を始めた政府秘書官オギワラ。
 当初は「 Rebirth the edge 」の予定だったけど、ちょっと意味が通らないので変更。
 トレイターと駄々カブリだが気にしない。
 6話を基にして、オギワラサイドとメガロポリスの設定を捏造。


⑨第12話 「 Beyond the bounds 」 *ゲーム「アヌビス」から
 最高評議会ビル。カマエル関連の設定を決める。
 当初は11話と纏める予定だったけど、長すぎたので後に分割。
 世界の壁を越えて移動するナオキ達。
 実はアヌビスも大神同様プレイ途中。
 他にも実家に帰るたびに買うだけ買ってクリアしてないゲームが結構。


⑩第13話 「 The unsung war 」 *ゲーム「エースコンバット」から
 誰の目にも触れることの無い、異界での戦い。
 12話からの流れで、設定関連をほぼ固め終わる。

 恥ずかしながらアクション系は苦手で、エスコンはⅤしかクリアできてない。
 しかも弟のアドバイスに頼りきりだったという体たらく。


*書きたい事と、書くべき事をを固め終わったので、本編執筆&投稿開始。
 チェックポイントからズレて行かないようにするためにも、ダメもとで一日一話執筆の縛りを決める。


⑪第1話 「 Mr.? Fairy 」 *良くある形。強いて言うなら「Mr.ビーン」
 「妖精」ではなく『妖精さん』という胡散臭さ。
 同時に性別・年齢不詳(男かボクッ娘か)的な意味で。

 『僕が観るのはキミの綴る物語』の言葉が、ナオキ君にこの「ラブレター」を書かせる直接の要因。
 未来知識が無いと絶対に気付かない、二周目専用のキーワードその2。


⑫第2話 「 Commando 」 *映画「コマンドー」から
 ゲリラ戦をイメージして。
 極小戦力で敵拠点を次々陥れていく感じとか、重火器を確保して単身乗り込もうとする流れとか。
 次話以降「筋肉モリモリ、マッチョマンの変態」へと変貌していくナオキ君を暗示してたりしてなかったり。
 何が始まるんです? 大惨事異世界大戦だ。


⑬第3話 「 The valiant 」 *ゲーム「ファイナルファンタジータクティクス」から第三章サブタイ
 ウサ耳カチューシャを装着する勇者に向けられた言葉だったり、妖精さん的には「偽らざる者」だったり。

 アグ姐さんの名台詞が飛び出すのはチャプター2。
 ラムザに感情移入してプレイしてると、アグ姐さんに惚れすぎてしまって困る。


⑭第4話 「 Reunion 」 *ゲーム「ファイナルファンタジーⅦ」から
 再結集。捻りが無い。


⑮第7話 「 Venus & Braves 」 *ゲーム「 VENUS & BRAVES 」から
 仲魔の技と魂を受け継ぎながら、女神と共に永い戦いに挑む。
 あれも良いゲームだった。


⑯第8話 「 Over troubled waters 」 *「Bridge over Troubled Water」、邦題「明日に架ける橋」から
 原題的には、オギワラとの間にあった遺恨を流して協力し合う。
 邦題的には、未来への道を拓く。


⑰第10話 「 Guardian hearts 」 *アニメ「がぁーでぃあんHearts」より
 何かで目にしたけど、一話Aパート持たずにギブアップした、多分ハーレムアニメ。
 にもかかわらず何故か電波を受信。

 ちなみにサブタイは東京を守護せんとする人々の尊い志を指しています。
 合体目当てのナンパ? 女神様ハーレム? 何のことです?


⑱第11話 「 BREACH 」 *漫画「BLEACH」より
 第12話からの分割の煽りを受けて、急遽タイトル変更。ちょっと無理やりだけど、最高評議会ビルに向けての「突破口」。

 女神の秘められた力が覚醒しました的な意味で、「テニプリ」と双璧を為すジャンプ漫画「ブリーチ」をチョイス。
 「実は藍染さんが黒幕だったんだよ!」あたりからネタとしてしか見られなくなった。良い意味で。


⑲第14話 「 Stand alone complex 」 *「攻殻機動隊」より
 これまでスタンドアローンで活躍してきた連中を統合する的な意味で。
 あとアラボトが、完全分断マップ的な意味で。

 タチコマな日々でご飯三杯はいける。
 タチコマかわいいよタチコマ。


⑳第16話 「 Missgestalt 」 *ゲーム「サガフロンティアⅡ」よりエッグ戦BGM エスツェット出ない
 浜渦最高。
 パラノイアでナオキ達が目にした異形と、パラノイアにとっての異形であるナオキ達。
 沢山の「ニール」が出てきてゲシュタルト崩壊みたいな駄洒落。

 サガフロⅡも良いゲームだった。
 ジョジョ第一部の「受け継がれていく意志」こそが「ファントムブラッド」だったのに対して、
 サガフロⅡは「確かな血のつながり」によりそって「受け継がれていく意志」みたいな。




本文中のネタについては最早キリが無いので挫折。とりあえず今はここまで。
何か琴線に触れるやり取りが本文中にあれば、それは元ネタが存在するものだと思っておけば多分間違いないです。



[22653] intermission
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/20 20:01
 私の名は武内ナオキ。
 童話作家などをやっている。


 長きに亘る悪魔達との戦いの後、力をひとまず必要としなくなったこの世界で、自分に何が出来るのかと考えた。
 腕っぷしの強さ以外に何の取り柄も無い。人と異なるものがあるとすれば、それは異界における戦いの経験だけ。

 行き着いた先は毘沙門天が別れ際に言ったような、戦いの大切さとむなしさを、自分の経験を元に形を変えて次世代に伝えていくという事。
 物語を書き始めたときは全く勝手がわからず困惑し通しだったが、最近では「童話らしくない童話」として妙な好評を博し、そこそこ稼ぎも増えてきた。執筆に熱が入ると、ついキーボードを指で押し潰してしまうのが悩みの種だ。




 仲間たちも皆元気でやっているらしい。

 カオルは生き別れの母親を探しながら、何と花屋を営んでいる。
 あの不器用な男が花屋とは、と思わないでもない。
 何度か花を買いに行っているが、こぢんまりとした雰囲気の良い店だった。少ないながら、固定客も付いているそうだ。
 妻が言うには「寡黙でどこか影のある美丈夫が一人で切り盛りする花屋として、一部婦女子の間で熱い」らしい。
 そんな客は見当たらなかったが、「遠巻きに見守って愛でるのが淑女のたしなみ」だそうだ。頭が痛い。
 本人に嫁をとる気が全くないのも一因とのこと。
 カオルが、自分が幸せになることを許せるようになるのは一体いつのことなのだろうか。

 トモハルは信じられない事に、気鋭の若手政治家として政党を立ち上げた。シンジラレナイ。
 HELIOSによってアクシズが蹂躙されると言う、嫌にリアルな夢を見たのだと言う。
 決して学があるわけではないが、国を守ると言う確固たる信念と卓越した行動力が評価されている。
 更には天性の人たらしとでも言うのか、周囲にも魅力的な人間が集まっているようだ。
 彼も私と同じく、自分に考えられるやり方でこの世界を守っていこうとしているのだろう。

 アヤは相変わらず行方不明だ。どうやら放浪癖は筋金入りのものだったらしい。
 トモハルに言わせれば「いつもの事」だが、多少心配ではある。
 まあ、何処にいようと誰とでも上手くやっていけるだろう。
 ひょっとしたら、さすらいのデーモンスイーパーとか言って人助けでもしているのかもしれない。


 ちなみに私の両親は健在だ。
 トモハルの協力を得てDIOとFASSの封印を終え、今は悠々自適の生活を送っている。
 先ごろ構えた私の新居にも、二人揃って頻繁に遊びに来る。





 新しい家族。


 愛する妻は某華撃団の元スター。
 トラックに轢かれそうになっていたところを、腕の力だけでトラックを巴投げして助けたのが知り合ったきっかけ。
 勿論トラックも一回転してきちんと着地するように気を使って放り投げたので、重傷者は出なかった。
 その場は何とか誤魔化したのだが、その後妙に付きまとわれるようになった。何でも人類社会にとけ込んだ、物の怪の類かと思われたらしい。運悪く野良悪魔退治の現場を見られたこともあった。

 ちなみに、かつては「男装の麗人」を地で行く感じで、ここだけの話プロポーズされるまで女性だと気付かなかった。今でも同性のファンから手紙が届くらしい。
 更なる紆余曲折の末に付き合うことにはなったが、付き合い始めの頃は心無いファン達に「このヒモ野郎!」と一斉に生卵を投げつけられたりしたものだ。
 全弾回避し続けていたら、いつの間にかファン全員に認められていたらしいが。

 妻は全てにおいて素晴らしい女性だが、隙を見ては私にウサ耳をつけさせようとするのが唯一の欠点だ。
 きっかけは昔使っていた武具を見られて、うっかり処分し損ねていたフェイクバニーを手にしたその瞬間。
 「ナオキに身に着けさせろと囁いたんだよ、僕のゴーストが」だそうだ。何それ怖い。

 「ナオキがウサ耳をつけていると、僕の中の熱い何かに火が灯るんだ」と言うのも彼女の言。
 私もオギワラほどではないが、もう結構なダンディーのはずなのに。強く求められると拒めない自分の弱さが憎い。




 娘もいる。
 妻に似て、将来は凛々しい美人になること請け合いだ。幼稚園でも既に二人の男子に求婚されているらしい。
 妻が「二人と結婚できるように世界を革命すればいい」とか物騒な事を吹き込んでいた。頭が痛い。

 暫く前に娘が野生の獣を手なづけてきた時は本当に驚いた。
 異世界勢力が一掃されたアクシズではあるが、未だこの類の存在は駆逐されていない。この世界に根付いた悪魔も相当数いるようだ。
 最近また悪魔がらみの事件が増えているとも言う。トモハルあたりと相談して、一度本格的な調査に旅立つ事も考えなければならないか。
 このオルトロスの子供みたいなのについては正直悩んだが、邪気も感じないので妻との相談の結果、猫という事にして飼うと決めた。

 よくせがまれて絵本を読み聞かせてやる。娘のお気に入りは「妖精さん」のお話。
 将来の夢は「パパみたいな素敵な絵本作家さんになる事」だそうだ。
 でも最近は「カオルおじちゃんと一緒にお花屋さん」とか言う事もあるので油断は出来ない。
 妻も本当は娘を女優にしたいそうだが、「美丈夫と美幼女の組み合わせも捨てがたい」と独特の感性を披露していた。頭が痛い。

 この間、娘が「ボク実は、ゲレゲレと一緒に妖精さんの国に行ってきたんだよ」と私だけに秘密を教えてくれた。
 「ゲレゲレ」というのは、件の猫の名前だ。名付け親は私の妻である。独特の感性である。
 娘の話は要領を得ないところもあったが、妖精の国に春を取り戻すための戦いのくだりは、実に手に汗握るものだった。
 この子はきっと凄い童話作家になるだろう。

 ちなみに娘の言う「妖精さん」達は、私の話して聞かせた「彼女」とは別の存在とのこと。
 実は一時期この辺にちょくちょく遊びに来ていたが、大人には見えない存在だったらしい。
 5歳でここまで矛盾の無い設定を考えられるなんて、この子はひょっとしたら天才じゃなかろうか。





 ふと、何かの気配を感じた気がして周囲を見回す。

 残念ながら私の目に映るのは、窓から差し込む穏やかな光の中で楽しそうに笑う娘と、幸せそうにそれを見守る妻の姿のみ。
 以前書いた「彼女」に再び逢うためのラブレターは、果たして届いたのだろうか。
 そんなことを考えていたら、妻に睨まれた。


 仕方が無い。妻のご機嫌をとるために、今夜はウサ耳をつけるとしよう。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 幸せな後日談を書き始めたはずなのに、ナオキ君に事件調査中の死亡フラグが立ったような気がする。
 子世代にスキル引き継いで、かつ魔獣使いの物語とかぬわーーっっ。

4/19 改題



[22653] prologue A
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/20 20:50


 少し暑くて、寝苦しい夜。
 ボクはふと目を覚ましてあたりを見回す。すると、椅子が倒れて窓がひび割れ、部屋の中が滅茶苦茶になっているのが見えた。

「誰? 誰か居るの?」


 泥棒かなと思って怖かったけど、勇気を振り絞って叫ぶ。きっとパパ達が駆けつけてくれるはずだ。
 それに対して誰かがビクッとしたような気配は、何故かベッドの下から。恐る恐るベッドの縁から顔を出して下を覗き込むと、不思議な色をした大きな毛玉が床に転がっていた。危険はなさそうだけど、やっぱりちょっと怖いので、近くにあったリコーダーでつついて見る。
 ピクピク反応するので多分生きてると思うんだけど、何だろうこれ。ちょっと楽しくなってきて、しつこくつついていると、何か変な音がして空気が漏れた。

 大きな毛玉だと思ってたものが、よたよたしながらこっちに向き直る。それは何だかとっても可愛らしい、モコモコした動物だった。
 ちょっと怯えたような、思い悩んでいるような目でこっちを見てくる。ツンツンし過ぎてしまったかなと、かなり反省。できれば仲良くなりたいなぁと思って話しかける。


「ごめんね。大丈夫、怖くないよ。おいで。」


 まだ警戒している様子だったけど、少しずつこちらに近づいてきた。
 少し見つめあった後、驚いた事に今度はあちらから話しかけてきた。

「あの……部屋を滅茶苦茶にしてゴメンね。」
「あ、喋れるんだ。そしてコレやっぱりキミがやったんだ。どうして?」
「……ここに来たときに、わざとじゃないんだけど。でも、責任持ってしっかり直すから。」
「うん。わかった。」


 会話が途切れる。
 どうやって直すんだろう。ボクも頑張ってお手伝いしよう。そんな事を考えていると。

「えっと……。一応聞くけど、君は『テリー』じゃないよね?」
「ボクの名前は瑠華。みんなは『リュカ』って呼ぶよ。」
「リュカ……?」
「うん。本当はママが『リュカ』ってつけようとしたらしいんだけど、パパが泣いて止めたんだって。何でだろうね。」
「そ、そうなんだ。」

 何だかこの子は困っているみたいだ。そのテリー君って子を探していたのかな。
 できる事なら力になってあげたい。だから。


「ねえ、キミの名前を聞かせて?」
「あ、ゴメン。そうだよね。僕は……わたぼう。タイジュの国の精霊さ。」
「妖精さん?!」

 いけない、いけない。わたぼうがびっくりしている。
 ついに憧れの妖精さんに会えたのかと思って興奮しちゃった。少し落ち着かないと。でも、もしこの子が妖精さんなら、ボクも一緒に冒険したいなあ。


「うーん。僕も良くわからないけど、妖精なのかもしれないね。」
「そうなんだ! あのね、あのね、わたぼうはどうしてうちに来たの?」
「えーっと、さっきも言った『テリー君』に頼みたい事があってここに来たんだけど……」
「でもこの辺の学校に、テリー君って子はいないよ?」
「だよねぇ。そこはかとなくそんな予感はしてたんだよ。」

 なんだか「フンフン」いいながら、よたよた頭を振って何か考え事しているわたぼう。悩んでいるところ悪いけど、とっても可愛らしい。しばらく考え込んだ後、意を決するようにしてこちらを向いた。


「……あのね、君にお願いがあるんだけど。」
「いいよ。」
「はやッ!」


 もう決めてたんだ。
 この子はきっと悪い子じゃない。ボクにできることだったら力になってあげたいって。パパだって「困っている人がいたら、自分に出来る範囲で助けてあげなさい」って、いつも言ってるもの。


「僕まだ何も説明して無いよ? ひょっとしたら君を騙そうとしている悪い奴かもよ?」
「わたぼうは悪い子じゃないよ。それにボク、何となく動物の気持ちとかわかるんだ。今とっても悩んでたでしょ。」


 ママは、「良いか娘よ。本当に悪い奴は、自分の事を悪い奴かもなんて言わない。だからママも悪い奴じゃないんだ」って言ってた。
 だからやっぱりこの子は悪い子じゃないんだ。
 わたぼうはまだ何か考えている。何だかボクの事を心配しているような感じが伝わってきた。


「……ひょっとしたら危ない目に遭うかもしれない。」
「うん。」
「だけど僕には君の助けが必要なんだ。」
「うん、うん!」
「だから……僕と契約して、モンスターマスターになってよ!」
「わかった、キミの力になるよ!」

 そう言うと、わたぼうは満面の笑みを浮かべてボクに抱きついてきた。そのままボクに擦りついてくる。こんなちっちゃい体で、違う世界に一人ぼっち。やっぱり今まで不安だったのかもしれない。
 わたぼうが落ち着くまで抱きしめてあげながら、これからの事を聞く。どうやら隣の衣装部屋にあるタンスから、わたぼうの国にいけるらしい。
 ひとまずわたぼうを降ろして部屋の片付けをお願いする。ボクもお手伝いをするために大急ぎで着替えた。
 ちょうどボクが着替え終わったところで、わたぼうが衣装部屋に入ってくる。もしかしたらボクが着替え終わるまで待っていたのかもしれない。可愛いのにとっても紳士的だ。
 隣の部屋をチラッとのぞくと、もう綺麗になっていた。40秒も経たずに支度したのに、ちょっとびっくりだ。わたぼうと一緒にお片づけしようと思ってたのに少し残念。

 そのままわたぼうを抱いてタンスに入る。
 わたぼうは、ボクが落ち着いているのが不思議みたいだ。実は不思議な世界に行くのはコレが初めてじゃない。もっとも、パパに話しても信じてくれていないっぽいけど。
 そんな事を考えているうちに、眩しい光があたり一面に溢れ出す。


 こうしてボク達の「タイジュの国」での大冒険が始まった。



[22653] prologue B
Name: 774◆db48d012 ID:8769dd15
Date: 2011/04/20 20:55


 食パン咥えて朝のバスに駆け込もうとしていた、極々普通の婦女子であるところの私。将来の夢は「素敵な男子コンテスト」(略し……はしないが)を主催する事、という位に普通である。
 そんな普通の私だが、確かエジプトあたりからの留学生とかだった気がする影の薄いムトゥー君?のとばっちりで、闇のゲームとやらに巻き込まれてしまった。

 いらない。そういうのいらない。
 私の期待していたのはそんなんじゃなくて、もっとこう、短パン生足の小さな男の子とのアバンチュールだと言うのに。
 何だかんだあったあと、結局私一人でアバンギャルドな闇の255人衆を全員倒し、闇のゲームマスター天沼との最終決戦に臨むことになった。
 本当は12回勝たなきゃいけない、ザ・フジミ設定だったらしいが、会うなり「実は別の奴に既に5,6回負けてるので、あと1回勝てばお前の勝ちだー」と意味不明な事を言い出した。そのまま「勝負」のために、天沼のスタンド能力によって私はゲームの世界に放り込まれてしまう。
 ぐるぐる回る視界に酔いながら、オマエ実は待ちくたびれて12回も戦うのが面倒になっただけちゃうんかー、と小一時間。
 気付けばどこかのゲームの世界で、大きな樹の精霊として生を受けていた。


 私の本体マジでかい。
 この樹が何の樹かは気になるが、とにかく一言で言うとマジでかい。何か枝の上に町があったり牧場があったり。私ってば小林幸子なんて目じゃないでかさ。気分はまさにGP-03。しかも水溜りに映った分霊の容姿は、信じられないくらいの超絶美女。映画女優で言うとイザベル・アッジャ~ニ。生前の20割増し。むしろ小林幸子の400%を超えています!
 更にはいくつかの精霊魔法っぽいものも使える様子。まさに勝ち組である。これが最近巷で流行のチート異世界転生トリップという奴か。

 荒ぶるテンションをひとまず収めて、辺りを見回す。私の降誕に際して、何故か目の前にいたおじいさんも、驚きのあまり腰を抜かしている。「星降りの夜はまだ来ていないのに……」とか何とか呟いている。私の美貌にやられてしまったのか。罪な女よ。
 全裸のままでは都合が悪かろうという爺さんの忠告に従う。羽衣をイメージしたらそれっぽい紐が出てきた。桃伝に出てくるナルシーライクな、未だ全裸的格好ではあるけれど、昨今の少年誌的には特にトラブる事も無く余裕で出演できるレベルのはず。しかしあれかな。これが噂に聞く「美人だったら恥ずかしくないもん」ってやつか。

 そのまま王様の前に引っ立てられて、前かがみになった王様を逆に踏みながら尋問したところ、どうやらここは「タイジュの国」。してみると天沼が選んだゲームは「ドラクエモンスターズ」なのだろう。ポケモンとメガテンの良い所取りした、GBソフトの最高峰。しかも基本的には誰かが死ぬ事もない平和な世界。ハッピーエンドは確定している。
 これは楽しまなければ損だろう。今まではムトゥー君がヘタレオーラ全開でお願いしてきたから、ついつい流されて勝ち続けてきたけど。正直勝っても私にいいこと一つもないし、負けても特にペナルティは無いと思われ。

 最終決戦の割には随分温い。
 おっと、危ないコイツは死亡フラグになりかねないぜ。
 ヘヘッ、やっぱ私ってフラグを叩き折……


 しかしこの王様、顔を赤らめながらモジモジ答えよる。キモイ。声に出して言うがキモイ。それが許されるのは、可愛い子供と、メガネが似合う美人のおねいさんと、イケメンだけどいぢめてオーラを出すヘタレと、ダンディなおじ様と、素敵な年の重ね方をしたおばあちゃんと……。
 しまった、つい熱く語りすぎてしまった。王様を除いて周り全員がヒイている。別にいいや。
 私が落ち着いたところを見計らって、王様が大樹の精霊である私に「星降りの夜に出るためのマスター候補を迎えにいってほしい」と、あつかましくも足の下から頼んできた。それはわたぼうの仕事だろうとも思うが、美幼女×美少年の寝顔を合法的に生で拝める機会を逃すのも馬鹿らしい。私は美少年は大好物だが、美幼女だってかまわず観賞しちまう婦女子なんだぜ。
 あ、でもミレーユは下手すりゃワルぼうに連れて行かれるのか。私のミレーユに何てことしてくれるんだ。ワルぼう許すまじ。マルタの(ような)ワル棒に泣かされるミレーユとテリー。卑猥だ。
 更にこっちでわたぼうがいない事を考えると、最悪天沼がワルぼうの代替ポジションでテリーまで連れて行く可能性もあったりするのだろうか。
 でも天沼は私と同じゲーム好き臭がしたので、そんな非紳士的行為はしないだろう。私は淑女なので、ミレーユを愛でるためには非紳士的行為だろうと何だろうとやるけど。


 散々恩着せがましくして王様に貸しを作った後、ウキウキしながら夜這い、もといお宅訪問。残念ながらと言うか案の定と言うか、幼女ミレーユはいなかった。原作だと確か二人部屋だったはずなのに、なんでかここは一人部屋だ。しかも日本語のカレンダーが掛かっている。不審に思いながらも部屋を見回すと、肝心のテリー少年らしき人物がタオルケットを被って、まだ残っていた。


 うん、これこれ。こういうのでいいんだよ。
 ドキドキしながらタオルケットをめくる。





 ……誰?


 何と言うことでしょう。めくったそこには、想定していたテリー少年とは明らかにタイプの違う美少年が。
 糸のように細くサラサラで、肩まで届きそうなちょっと長めの、艶やかに黒く輝くキューティクルな髪。まつげ長ッ! 肌プルプルッ! くぁー、やっぱ若いと違うねぇ。暑く寝苦しい夜だからなのか、半ズボンタイプの寝巻き。そこからスラッと出ている、子供特有のモチモチした愛らしい肌のおみ足。

 そんな少年の生足を、心のお宝画像コレクチオンフォルダに右クリックで保存、右クリックで保存、右クリックで保存。何かのバニシングポイントが見えてきた頃合で、どこかから懐かしい音楽が聞こえてきた。




チャララチャララ チャララチャラララン ♪
こんな子と良いな~ デキたら良いな~ ♪
あんな妄想 こんな妄想 一杯ある~けど~ 

……


 そんなBGMに脳を浸して、妄想(あしきゆめ)に耽って心のお宝動画を捏造編集していると。
 やおら「スポポポーン!」と音がして、背中のチャックから中身が飛び出した。
 え、何。精霊って背中にチャックとかついてたの?

 混乱した私(中身)は、部屋の中で一人熱血大運動会。やたら弾む。かつて255人衆の一人に対して容赦なく使用した、冷峰学園の飛び膝蹴り位に弾む。
 壁にぶつかっても反発係数が妙に高くて容易に止まらない。漸く落ち着いてから、部屋のひび割れた鏡を見て一言。



「あ、自分『わたぼう』か?」


 微妙にデスピサロ第二形態に似ているキモ可愛さが、どうしようもなく哀愁を誘う。折角勝ち組美人になったと思ったのに。これが最近流行のTS(トランススピーシーズ)ってやつなのか。憎悪すら抱く。
 浮つきまくってた己のテンションが、一気にストップ安になるのを感じた。

 さすがに騒ぎすぎたらしく、寝ていた少年がもぞもぞ動き出した。テンション下げつつも軽くパニックに陥っていた私は、ベッドの下で丸まって気持ちを落ち着ける。


「誰? 誰か居るの?」


 どうやら気付かれたらしい。
 当たり前か。こんな部屋の有様見たら誰だって不審に思う。
 ややあって、バールのようなもので背中をツンツンされる。暫く息を殺して耐えていたが、「モルスァ」みたいな音とともに、ついに息が漏れてしまった。これはもう誤魔化せないと悟って、背を向けていた少年に向き直る。

 ああ、やっぱりつくづく美少年だなぁ。その輝きはまさに銀河級。
 さっきまでは閉じられていてわからなかったけれど、黒目がちの綺羅星の如き綺麗な瞳に今にも吸い込まれそうだ。若干酸欠気味で半ば混濁した意識のまま見とれていると。



「ごめんね。大丈夫、怖くないよ。おいで。」


 どうやら今すぐに騒いだり暴れたりと言う事はなさそうだ。
 これ以上の警戒心を抱かせないように慎重に距離を詰め、不審に思われないように細心の注意を払って言葉を搾り出す。


「あの……部屋を滅茶苦茶にしてゴメンね。」
「あ、喋れるんだ。そしてコレやっぱりキミがやったんだ。どうして?」

 これは下手に誤魔化さない方がいいかなぁ。
 けどまさか「君の生足魅惑のトルネードが眩しくて、中身が出すとこ飛び出ました」とは言えないし。
 ここはセオリーどおりに、真実の一部を話すとしよう。うーん、私ってば敏腕営業マスコット。


「ここに来たときに、わざとじゃないんだけど。でも、責任持ってしっかり直すから。」
「うん。わかった。」

 およ、あっさり通ってしまった。
 しかしどうしたものか。仮にこのまま目的を果たさずに帰ったとしても、誰に文句を言われる筋合いも無いが。


「えっと……。一応聞くけど、君は『テリー』じゃないよね?」
「ボクの名前は瑠華。みんなは『リュカ』って呼ぶよ。」
「リュカ……?」
「うん。本当はママが『リュカ』ってつけようとしたらしいんだけど、パパが泣いて止めたんだって。何でだろうね。」
「そ、そうなんだ。」



 ルカにしたって随分なDQNネームである。
 徳冨蘆花に並ぶDQNネームと言っても過言ではない。親がキリスト教徒かなんかなのか。
 いや待てプレイしてないけど、確かDQM2の主人公とかそんな感じだったような……


「ねえ、キミの名前を聞かせて?」
「あ、ゴメン。そうだよね。僕は……」

 答えようとして言葉に詰まる。
 多分わたぼうであるとは思うんだけど、ぶっちゃけ確信は無い。
 一瞬「わ、わたぼうだじょー」とかボケに逃避しそうになったが辛うじて自重。無難に受け答えする事にした。


「わたぼう。タイジュの国の精霊さ。」
「妖精さん?!」


 え? い、いや。どっちかと言えば精霊なんだけど……。
 なんだろうこの子の食いつき。まあ精霊と妖精の違いなんてよくわかんないしどっちでもいいや。


「うーん。僕も良くわからないけど、妖精なのかもしれないね。」
「そうなんだ! あのね、あのね、わたぼうはどうしてうちに来たの?」
「えーっと、さっきも言った『テリー君』に頼みたい事があってここに来たんだけど……」
「でもこの辺の学校に、テリー君って子はいないよ?」
「だよねぇ。そこはかとなくそんな予感はしてたんだよ。」


 部屋の造りからして既に原作と違うもんなぁ。しかも明らかに現代日本。あー、どうしたもんか。この子がテリーの代わりをしてくれるのが一番手っ取り早くて楽なんだけど。
 というか、今さらだけど完全に拉致 or 誘拐だよね。タイジュの国での時間経過は、こちらの世界ではゼロ時間扱いらしいのが唯一の救いか。
 くだらない事をつらつら考えたが正直面倒になったので、多少の心苦しさを覚えつつも、もうどうにでもなーれとばかりに切り出す。




「……あのね、君にお願いがあるんだけど。」
「いいよ。」
「はやッ!」


 いかん。あまりの即答ップリに、敏腕営業キャラが一瞬崩れてしまった。


「僕まだ何も説明して無いよ? ひょっとしたら君を騙そうとしている悪い奴かもよ?」
「わたぼうは悪い子じゃないよ。それにボク、何となく動物の気持ちとかわかるんだ。今とっても悩んでたでしょ。」


 動物って……。私一応人間なんだけどなー? 友人には「腐ったナマモノ」とか言われてても、それでも一応人間なんだけどナー。
 気を取り直して契約内容の確認をする。未来の旦那様候補生に怪我をさせる気は更々ないが、それでも確認は必要だ。




「……ひょっとしたら危ない目に遭うかもしれない。」
「うん。」
「だけど僕には君の助けが必要なんだ。」
「うん、うん!」
「だから……僕と契約して、モンスターマスターになってよ!」
「わかった、キミの力になるよ!」


 もうね、もうね、健気! KE・NA・GE!
 純粋な君の瞳に完敗。そしてよごれっちまった私の悲しみに乾杯。
 あまりの健気さに辛抱たまらなくなったので、むしゃぶりつく。ここぞとばかりに必死に愛らしいマスコットキャラを装ってスキンシップを図る。ノータッチ? そんなものは非紳士的存在たる私には関係ない。
 しかし私が言うのもなんだけど、このちょろいお子さんの将来がちょっと心配になってしまう。もしこれで私が悪いマスコットだったら大変な事ですよ。いや、現在進行形でヨコシマな行いオンステージな訳だが。

 十分にリュカの瑞々しい肢体を堪能した後、部屋を片付けてタイジュの国に向かう事になった。リュカは着替えが終わったら片づけを手伝うと言っていたが、そんなわけには行かない。
 ひとまずリュカを衣装部屋へ送り出し、まずは脱ぎ捨てた皮を回収。果たしてもう一度蒸着する事はできるのだろうか。使い捨てにするには惜しい出来だ。
 次に所有していた精霊魔法、アンリミテッド小人ワークスを展開。マッハで部屋の修繕を終えて隣の部屋に駆け込むも、タッチの差で着替えは終了していた。
 口惜しい。やるせない。悔やんでも悔やみきれない失態である。身支度が異様に早い。しかしこういうの好きだなシンプルで。男の子だな。





 ……落胆のあまり若干取り乱してしまった。
 気を取り直して、そのままタンスの中にお持ちかえ、もとい招待する。リュカが異世界に行くというのに妙に落ち着いていると思ったら、実はこういうの初めてじゃないとのこと。え、何なの。根っからのコナン君体質なの。リュカの腕に抱かれて至福の心地になりつつも、リュカの将来を危惧してしまう。



 それはそれとして、情報を整理する事で新たに生じた一抹の不安。
 仮に自分がわたぼうだとして、どうなったらこの闇のゲームは終了するのか。
 基本的に「敗北」というものはないし、通常クリアでさえ明確な「勝利」というわけでもない。
 もし、考えたくない事ではあるが、万が一、「図鑑完成」が終了条件だとしたら……。

 通常クリア後、デスタムーア最終形態との子作り。まさに見えてる死亡フラグ。待ち受けるのは尊厳の死。あと多分物理的に入んない。
 私は生き残る事ができるか。



 ことここに至って漸く、私は闇のゲームの真の恐ろしさを理解したのだった。



[22653] 第一話 B ~ 破壊神を破壊した男 ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/10 12:45
 星降りのほこらでリュカと別れた後、回収した皮を手にふざけて「蒸着!」と叫んでみたら、一瞬で擬態状態に戻ることが出来た。この間わずか0.05秒。
 精霊魔法マジ魔法。以後擬態中は無闇にテンションを上げ過ぎないよう注意しなければ。

 そのままメダル王の所の裏口から城にこっそり侵入すると、リュカが丁度謁見の間にやってきたところだった。
 ちなみに隠し通路から出てきた私を見て、居並ぶ道化共がぎょっとした顔をする。私は気にせず「最初からいましたが何か?」的な顔をして前方を見る。
 物音も立てずに後ろから入ってきたのに、何でこいつら一斉に振り向いたんだ。実は忍者か、ヒソカか何かなのか。


 リュカと王様の謁見が始まった。

「よくぞ参った、新しきモンスターマスターよ。そなたの名は何と申す?」
「リュカです! はじめまして、王様!」
「なるほど。ではリュカよ。早速だが、わしの頼みを聞いてくれんか。」
「はい、頑張ります!」
「うむ、良い返事じゃ。」


 物怖じすることなく、はきはき受けこたえしてるリュカ。かわいいなぁ。膝の裏舐めたい。
 ていうか、いきなり受けて当然という態度で頼みごととか。頭涌いてんのか、あの王様。

「実はの、星降りの夜の大会に出場して、優勝してほしいのじゃ。」
「星降りの大会?」
「なんじゃ、何も聞いておらんのか。あの女も存外に役に立たぬのう。まったくこの国の守護精霊としての自覚は無いのか。」

「何がクニだよォォォ! オラァァァ!」
「ありがとうございます!」

 いかん、ついつい我慢できずに介入してしまった。
 王様に向かって精霊魔法「アンリミテッド・ファイアワークス」を発動。無数のロケット花火が背後から殺到する。
 本来人に向けて撃ったら怒られてしまう大禁呪だが、王様喜んでるみたいだしまあ良いか。

 王様を程よくローストした後、辺りを見回すと、リュカが目を丸くしてこちらを見ていた。めっさ見てる。私の美貌のせいでフラグがたったと言う奴ですね。ここは一気に畳み掛けるしかあるまい。
 精霊体(擬態)のまま宙に浮き、ふよふよ漂いながら近づいていく。暫く呆けていたようだが、はっと我に返ったリュカ少年。私の美姿を、目をキラッキラさせながら見つめている。これは私の輝く貌にベタ惚れているな? 少年。
 あれ? でも擬態で惚れさせると、若干残念な「もとのひと」が微妙な立場に……


「あの、あの、女神さまですか!」
「そうです。私が女神さまです。」

 急に質問が来たので、息を吐くように嘘をついてしまった。別にネズミの穴に騙して閉じ込めるわけじゃないからいいよね。
 まるで初対面であるかのようなリュカの態度に道化共が疑問符を浮かべたが、とりあえずガンを飛ばして黙らせておく。将来を考えて「女神=わたぼう」というたったひとつの真実は何となく隠し通す事にした。秘密を持つ女は美しくなるってばっちゃが言ってた。


「やっぱり女神さまも一緒に冒険してくれるの?」
「え? あー、どうなんでしょう。その辺どうなの?」

 いつのまにやら復活していた王様に話を振る。
 
「ふむ。言い伝えでは星降りの夜にて力を蓄えた精霊は、優勝したマスターと共に冒険に出たと聞くが。実際のところはわからぬな。」
「役に立たないわね。」
「申し訳ありません!」


 マスターを迎えに行くような短時間の奴は例外として、星降りの夜までは大樹を長く離れられない設定なのだろうか。
 え、すると何。私ノーマルクリアまですることなくね?

「残念だけど無理みたいね。私に出来るのは君に冒険のアドバイスをあげる事くらいかな。」
「そっかぁ。残念だけど仕方ないね。これからよろしくお願いします!」

 ああもう、何て礼儀正しい子。膝の裏を百烈舐めしたくなるのは仕方の無いことだろう、情熱的に考えて。


「ではまず上の階に行って、牧場から魔物をもらってくるがよい。」
「わかりました、行ってきます!」

 いかにもワクワクがとまらねぇ!って感じで牧場に向かうリュカきゅん。でもなぁ、多分ドジっ子プリオのせいでめんどくさい事になるんだろうなぁ。
 案の定、戻ってきたリュカが連れていたモンスターは、年寄りの「スラぼう」一匹。プリオが牧場の魔物にあらかた逃げられてしまったことが発覚し、瞬く間に謁見の間に引っ立てられてきた。
 

「王様。どうかおゆるしくだせぇ。」

 平伏しているプリオは、少年ではあるけど私の心のマーラ様がピクリともしないもっさり系牧童。まったくやる気が上がってこない。
 まあ良いんだけどね、私にはリュカいるし。とりあえず目の前の茶番を静観する。

「プリオよ、まさか私の大事にしていた『ホイミン』も逃したのではなかろうな?」
「おゆるし、お許しくだせぇ!」
「ええい、許さぬ。誰かこやつを牢獄に放り込め!」
「待って!」

 リュカが凛々しい顔して一歩進み出る。これは濡らさざるを得ない。
 王様は驚き、怒鳴るのを止めてリュカを凝視した。

「なんじゃリュカよ。何か申したいことがあるのか?」
「そのホイミンって魔物をボクが連れてくるから、どうかプリオの事は許してもらえませんか?」
「なるほど、そなたが捕まえてくるというのだな。」
「いいえ、連れてくるだけです。」
「どういうことじゃ?」

 王様が怪訝な顔をして尋ねる。私も同じ気分だ。


「ホイミンが逃げ出したのに何か理由があったら、無理やり捕まえるのはよくないと思うんです。だから王様、ボクがホイミンを連れてきたら、二人できちんと話し合ってくれませんか?」


 ああもう、なにこの男前ショタっ子は。抱かれたい。ASAP抱かれたい。
 なんかもうプリオですら「抱いて!」って感じになってる。やらせはせんよ。 

「ふうむ、面白い。やってみるがよい。」


 言って王様は鷹揚に頷き、いそいそと退出。
 私の未来の旦那様が快く願い事を聞いてやったのに、王様のあの態度は何だろうか。周りの道化共はリュカの健気さに涙するほどだと言うのに。
 その後大臣から簡単なレクチャーを受けたリュカが、私にも旅立ちの挨拶をとこちらにやってきた。


「じゃあ女神さま、行ってきます!」
「リュカ、気をつけるのですよ。」
「ハイ!」
「あとドラキーは必ず仲間にするのですよ。」
「ハイ!」
「あと、薬草はケチらず早め早めに使うようにしなさいね。」
「ハイ!」

 何か冒険に関するアドバイスを求められ、テンション上がってついつい構いすぎてしまった。まるで口うるさいオカンだ。うざがられていないだろうか。それはそれとして、「求められ」ってそこはかとなく卑猥。モエス テラモエス 君が好きだと叫びたい。いかん、中身が飛び出る。



 リュカが出て行ってすぐ、試しに「私も冒険に行こうっかな~」と意識してみたところ、

「精霊力(ちから)の残量が足りません」

 と謎の脳内アナウンスが。
 
 だが私は諦めない。その制約を克服して、必ず少年の性徴記録を脳内フォルダにやきつけてコレクチオンできると信じているから。
 大樹の呪縛を振り切るため、物は試しと某フェレット司書長に倣い、アグレッシブビーストモードに変化。『力が足りないなら、MAGの消費を抑えればいいじゃない』的な適当理屈だったのだが、アッサリ外出が可能になった。いいのかコレで。既に皮は着脱可能だとわかっているので、今後は積極的にキャストオフして行くことにしよう。


 さあ、夢と希望に塗れた、爛れた淫獣生活のはじまりだ!
 





①旅立ちの扉

 旅の扉前にてリュカと合流。

「あ、わたぼう。今までどこに行ってたの?」
「ちょっとね。精霊には色々付き合いがあるのさ。」

 さりげなく新婚夫婦っぽい会話にすりかえて、気分を出してみる。
 全く答えになって無いけど、このちょろい子ならコレでも大丈夫だろう。


「これから行くのは、旅の扉で繋がっている、タイジュの国とはまた異なる世界さ。」
「『旅の扉』?」
「そ。異世界への入り口。何故あるのか、いつからあるのかは誰も知らないけどね。」
「すごいなぁ、ワクワクしてきた。」

 
 旅立ちの扉を守っている衛兵さんをスルーして進もうとすると。

「リュカどの、頼みましたぞ!」
「ハイ、頑張ります!」

 王様と違って腰が低い。っていうか、こんな小さな子にもきちんと敬意を払っている。人間ができておるのぅ。

 ふしぎな色合いの泉が見えてきた。「旅立ちの扉」だ。
 さすがのリュカも緊張している様子。レア顔モエス。手をしっかりつないで、一緒に一歩踏み込む。周囲の景色が歪んでいって、ついには視界がホワイトアウト。眩しくてつい瞑ってしまった目をあけると、そこには果てしなく広い草原があった。やはりバトランドのド田舎あたりのイメージなのだろうか。少し寂しい雰囲気でもある。


「ふえー、広いねーわたぼう。」
「うん、そうだね。ひとまずは満遍なく探索しつつ、落とし穴を探そうか。」
「落とし穴?」

 まあ確かに意味不明か。

「扉の先の異世界は階層構造になっていて、各階層をつなぐ次元連結システムのちょっとした応用みたいなサムシングが、落とし穴としてフロアのどこかに存在しているんだよ。」
「か、かい……?」

 いかん、私も知らずテンションが上がっていたらしい。リュカに対する配慮を欠くとは。このわたぼう一生の不覚。

「ま、要するに先に進むための階段みたいなものさ。」
「そうなんだ。」
 

 そのまま老スライムを連れて歩き回る。MAG消費を抑えているためか、私はどうやら戦闘に参加する事はできないっぽい。しばらく歩いていると、本当に薬草が落ちていた。

「不思議だね。」
「不思議だねぇ。」

 この子の順応力はホントにパナイの。
 薬草を拾いつつウロウロ歩いていたら、向こうからドラキーが一匹ふよふよ漂ってきた。飛んで火にいる鳥の肉とは正にこの事。ふへへ、オマエも仲間にしてやろうか!


「何か飛んできたね。」
「あれは『ドラキー』、鳥系の魔物だよ。」
「鳥系? そういえば女神さまが『ドラキーを必ず仲間にしなさい』って言ってたよ。どうすればいいのかな。」
「基本的にはバトルして勝つ事かな。他にも色々要素はあるんだけど、今はそれだけ覚えておいてよ。」
「そっかぁ。パパに聞いたのとおんなじだ。」



 ん?
 何か良くわからない事を言っている。ちょっと震えてるのかな?

「大丈夫だよ、安心して。リュカの事は僕が必ず守るから。」
「ダメだよ、わたぼうはこんなにちっちゃくて可愛いんだから。絶対に無理しちゃだめだからね!」
「え、あ。うん。」

 逆に「メッ」と説教されてしまった。
 男子に「かわいい」なんて言われて心配されたの、生まれて初めてだ。これはまたフラグを建ててしまったのか。
 そりゃまあ、今はこんなちんまいナリだけど、私の本体は超弩級少女だって相手にならないくらいでかいのに。

 それはさておき、リュカの戦闘初体験。ビデオカメラが無いのが悔やまれる。
 ドラキーもこちらに気付いたらしく、お互い一足飛びに相手の間合いに入れる距離まで近づいた。


「さあリュカ、戦闘開始だ!」
「わかった!」



 ボッコーーーーーーン!!



「う、うぇぇぇぇ!?」
「あ、飛んでっちゃった。」

 残像を引くかと思うほどの速さで飛び出したリュカが、ドラキーに思いっきりスピードと体重の乗った右ストレート。
 ちょっと引くくらいの衝突音と共に、哀れドラキーは10メートルほど吹っ飛んで「前が見えねぇ」状態。
  

「ちょっ、ちょっとまって! 何してんのキミィ!?」
「え? 何って、戦闘?」
「いやいやいやいや! 危ないでしょ!」


 もうね、私必死。
 何この子。超アグレッシブ。
 もっと線の細い耽美系男子だと思ってたのに、いきなりモンスターぶっ飛ばすとか。

「でもボク学年で一番運動得意だよ? 幼馴染のビアンコ君とフローラル君にも一度も負けた事無いよ?」
「そ、そうなんだ……?」

 そいつらも大概なDQNネームだな。この子のご近所じゃ流行っているのか?
 いや、そこは問題ではない。


「というか、何のためにスラぼう連れてると思ってたのさ……。」
「仲魔でしょ? 『悪魔を仲魔にするときは、まず自分の力を見せて相手に認めてもらうんだよ』ってパパが言ってた。」
「いやいや、パパさん何者?!」
「童話作家。」

 ちょ、パパりん。アンタがテキトーぶっこいた法螺話のせいで、息子さんが危険で危ないデシよ?!


「君が強いのは何となくわかったけど、マスターの役目は直接戦う事ではないんだ。」
「だって、みんなに戦わせるばっかりだと、何か悪いよ。パパも『結局一番強いのは人間なんだ』って言ってたし。」
「お願いだから、その旦那の話から離れてプリーズ!? いいかい、その皆が安心して戦うためにこそ、マスターが必要になるんだよ。」
「そっかあ。『前線で戦士が実力を発揮するためには、優れた指揮官が必要』ってやつだね。」
「え? あ、うん。」

 何だか的を射てはいるけれど、子供らしからぬ穏やかでない言葉が飛び出した。
 これもアレか。パパうえの与太話からの引用か。



「でも指揮官って、何をすればいいのかな。」
「最初は簡単な指示だけでいいよ。『ガンガンいこうぜ』とか『いのちだいじに』とか。むしろ細かく指示を出しすぎると、モンスターがやる気を無くしてしまうからね。仲間を信頼する事で絆が深まり、本来の実力以上のものを発揮することすらあるんだ。ドラキーなんかは、役目を考えると普段は『いろいろやろうぜ』の指示を出し続けると良いんじゃないかな。」

「む、むむむ……。」


 どうやらリュカは肉体派らしい。その後、かなりの時間をかけてお互いの認識の溝を埋めたが、やたら疲れた……。この子、恐ろしいまでのツッコミ待ち体質だわ。
 ちなみに、リュカに派手にぶっ飛ばされたドラキーはどうやら真性ドMだった。空気と頃合を読んでこちらに戻ってきたのみならず、リュカに擦り寄るようにして懐いている。
 あれか、「軽く撫でてやっただけだぜ」って奴か。酷いナデポを見た。恐るべきはリュカのモンスターテイミングスキル。これは将来私と結婚したときにDV夫になぞならないように、今から矯正せねばなるまい。
 そんな決意を固めていると、ちょっと潤んだ目をしたリュカが私の毛をちょいちょい引っ張ってきた。


「ねえ、わたぼう。この子連れて行っても良いでしょ?」
「ん、♂か。まあこの段階では性別は関係ないし良いんじゃないかな。名前とか決めてる?」
「『ぴーすけ』!」

 え……。ちょっとリュカ、そのネーミングセンスどうなの。素で『ゲレゲレってカッコイイ!』とか言い出しそうで怖いわ。
 もっとこう『漆黒の堕天使†レイヴン』とか、かっこいいの幾らでもあるだろうに。まあ、言っても詮無いことか。



「しかしいきなり鳥系の登竜門、ドラキーが仲間になるなんてツイてるね。」
「そういえば、『鳥系』って何のこと?」
「ああ、そうか。そうだね、歩きながら説明しよう。」

 歩きながらといいつつ、私はリュカの腕に抱かれているわけだが。

「魔物は大別すると、10系統あるんだ。この辺で良くみるのは、スライム系・鳥系・虫系・植物系・獣系あたりかな。」
「わたぼうもどこかの系統なの? やっぱり獣さん?」
「いいや、僕はタイジュの精霊だからね。植物系さ。まあ確かに、かつて宿命のライバルである地獄王鬼帝(ヘルオウキティ)と獣王の座を争ったこともあるほどの肉食系だからね。ライオンさん的な風格は消せないから誤解するのもしょうがないかな。かぶり物的な意味で。」

 どうもリュカは良くわからなかったらしく、小首をかしげている。言った私も良くわからないので当然か。ああもう、カワイイな、ちくしょう。膝の裏の匂い嗅ぎたい。


「中でも鳥系は、実力が高く成長も早い万能選手さ。きっとリュカの力になってくれるよ。」
「そうなんだ。これからよろしくね。」

 満面の笑みでドラキーに語りかけるリュカ。その笑顔は私だけに向けていてほしいというのは我侭だろうか。ドラキーが嬉しそうに頬ずりしてる。くそう、調子にのるなよ、鳥ッコロ。
 その後暫く歩き回り、薬草拾ったり、野生のスライムなどとポケモンバトルしてリュカのマスター力を鍛えていると。

「あれ、なんだろう。」

 旅の扉と形状が似ている、どす黒く地面で渦巻いているナニカが見えてきた。
 まさかあれが落とし穴か。入りたくねぇー。

「違う階層へ行くための穴だね。害は無いはずだから普通に入ろう。」
「う、うーん……。わたぼうがそう言うなら。」

 足を踏み入れると、ずぶずぶ沈み込んで行き、視界が真っ黒に塗りつぶされた後、気がついたら新しい階層にいた。まったく理屈がわからんぬ。

 それ以後も全く問題なく冒険を進める。アントベア♂を仲間にしてホイミン戦の準備は万全。アントベアの名前は「すけまさ」だそうだ。まさかのしりとりなのだろうか。いや、言うまい。
 ちなみに、レベルが上がったかどうかを見た目から判断する事は出来ない。脳内メッセージがあったから期待していたのに、システム関連の諸々は基本認識できないようだ。ちと面倒である。そうこうしているうちに、ついに最終階層まで辿り着いた。
 

「湖?」
「そそ、地底湖って奴だね。この奥にホイミンがいるよ。気をつけて。」

 特に「こっちにおいでよ」などと言う怪しげな呼び声が聞こえる事もなく。それ以前に一本道だったが。ついにホイミンとご対面だ。
 とりあえず見た感じ、うじゅるうじゅるしてる。


「はじめまして、ぼくホイミン。」
「はじめまして、ボクはリュカだよ。」
「ぼくをつかまえにきたんだろ? でも戻らないよ。牧場はつまらないから。」
「ううん、違うよ。無理やり連れ戻しに来たんじゃない。でもプリオが困ってるから、一回きちんと王様と話し合ってくれないかな?」

 その提案に、ホイミンは少し考え込んでいるようす。
 ややあって、答えを返してきた。 


「やだよ。そんなの王様がまた無理やり閉じ込めるに決まってる。」

 さすが、賢さの初期値が高い。ホイミンの懸念は尤もだ。
 ある意味当然の答えに、リュカはどうするのか。
 すると、真摯なまなざしでまっすぐホイミンを見つめるリュカ。凛々すぃ。


「大丈夫、そのときはボクが絶対に守るから。」


 スイーツ。私は死んだ。ホイミンもあっさり陥落して戻る事を了承した。おい、デュエルしろよ。
 その後、擦りむいていたリュカの膝こぞうを見たホイミンが「治してあげるよ」とか申し出た。

「あはは、くすぐったいよ。」
「我慢してよ、今大事なトコロなんだ。」


 リュカの膝に出来た傷を、触手で撫でさすっている。痛くないのかと思いきや、何か液的なものがヌルヌル分泌されていて、そこはかとなくアガペー&エロース。
 畜生、あの触手スライム。あれがホイミだとでも言うつもりか。なんて羨ま……。いや、うらやま……。ええい、何てうらやまけしからん事をしているんだ。ああもう、はやくにんげんになりたーい。だが、触手に絡まれるリュカか……。仕方ない。しばし生かして置いてやろう。


 目的を達成したので城に帰還。私はリュカに別れを告げて、裏口から謁見の間に。
 程なくリュカがやってきて、謁見が始まった。王様がリュカの膝小僧の怪我に気付いたようだ。何で治ってないんだあの触手め。

「なあに、気にする事は無い。かえって免疫力がつくだろう。」
「自分のために尽力した相手に向かって、言いたい事はそれだけか? ぶち殺すぞ、ヒューマン。」
「ありがとうございます!」

 私のリュカに向かって何たる言いぐさ。王様のデュアルコアを破壊せんばかりの勢いで踏みにじってやった。世継ぎの問題とか知った事ではない。
 散々脅しつけてやったせいか、ホイミンが「リュカと一緒に居たい」と告げると、王様は大してごねる事もなく承諾。
 以上を持って、リュカの初冒険は大成功のうちに終わりを迎えることとなった。



*カテゴリG

 王様に言われて格闘場のGクラスに出場する事に。
 国際大会であるところの星降りの夜の大会に出場するためには、国内大会を勝ち抜かなければならない。本来最高位のSクラスだけ勝ち抜けばいいはずなのだが、まあお約束というか何と言うか。面倒ではあるが仕方ないだろう。
 ウォータースライダーならぬウッドスライダーで滑り落ち、格闘場へ到着。まっすぐ出場登録を済ませる。登録メンバーはスラぼう・ぴーすけ・ホイミンだ。


「ちょっとワクワクするけど、仲魔の戦いを見世物にするのは嫌だなぁ。ボクも出られないの?」
「そう言わないでよ、リュカ。ほら、ぴーすけ達だってめっちゃ乗り気だよ?」
「うーん。」

 この子は本当に典型的な主人公タイプみたいだ。とは言えルールはルール。諦めてもらうしかないだろう。
 しかし挑戦者だけ3連戦とか。勝たせる気あるのか、この格闘場。

 第一試合の相手は、ドラキー・アントベア・ドラキー。こっちのぴーすけが良く育っているようで、相手の攻撃をものともせずにあっさり蹴散らしてしまった。これレベル6くらい行ってそうだな。
 第二試合の相手は、スライム・きりかぶおばけ・スライム。やはりぴーすけを中心にひたすら物理でガンガン殴るのみ。ホイミも今のところ全く必要性を感じない。

 最終試合の相手は、マスター養成塾の塾長だ。
 連れている魔物はゴースト・腐った死体・ゴーストと趣味を疑うラインナップ。コレに教わっている塾生達が哀れに思える。

「私こそがマスター養成塾の塾長であーる。」
「リュカです。よろしくお願いします!」
「うむ、礼儀正しい子供であーる。とは言え手加減はしないのであーる。」
「勿論! こっちも全力でいきます!」

 うぜえ、何だあの塾長。江田島気取りか。
 そしてリュカ。最初は気乗りしないみたいな事言ってたのに、今はもうノリノリである。熱血・魂系主人公だから仕方ないね。 
 大層な御託を並べた割に、終わってみればリュカの完封勝利。結局三試合通じて、ただの一度もホイミを使わず。圧倒的じゃないか、ぴーすけは。もうあいつ一匹でいいんじゃないかな。


 その後王様に呼ばれて再登城。私はまたしても裏口から入場。いい加減ダルイ。
 謁見の間には、なにやら他国の王様がきていた。そういやマルタの王様が来るんだっけ。すでにこちらの王様は、1時間空焚きした鍋の如くカンカンだ。リュカに嫌な思いさえさせなければいいよ。と思って無関心決め込んでいたら、何故かこちらにも矛先が向いた。


「ほう、それが今代のタイジュの精霊か。」

 向けられるネットリとした視線にゾクゾク?
 今まで私を見る目といえば、とても残念そうなものばかりだったと言うのに。あんな劣情たっぷりの目で見られたこと無かった。新鮮!

「しかし痴女とはな。我がマルタに舞い降りた奥ゆかしい美神とは比べるべくも無い。」

 闇のゲームマスター・天沼も美精霊(擬態)に生れ落ちたのだろうか。そしてやっぱりこの手の視線を大量に浴びてたりするのだろうか。アイツBL属性とかなさそうだし、大変だな。ショタ好きと幼女好きで、正直アイツとは馬が合いそうだったんだけど。
 リュカも会話内容を殆どわかっていないようだし、ぶっちゃけ実は私も興味ない。他所事考えている間に、二人の王のやり取りは互いの自慢合戦に移ったようだ。仲いいなぁ、コイツら。


「リュカは、リュカは……良い子なんじゃ!」
「ハッ、良い子というだけで大会に勝てるなら誰も苦労はせんわ。」

 いや、ご尤も。でももしリュカを馬鹿にしたら、切り落として、ねじり切って、すり潰すよ?

「その点、うちのは凄いぞ。一見すると穏やかな中年紳士だが、ひとたび戦闘になればその力岩をも砕き、幾人もの分身を出して敵を撹乱するワンマンアーミー。未来を見通す魔眼の王。数多の神々を従え、最強最古の邪神すら一撃で屠ったと噂される、通称『ニンジャスレイヤー』……」

ハイハイ、デマ情報デマ情報。
そういや正史でも、ミレーユのような美幼女が「毛むくじゃら。目が3つある。倒した敵を食べる…。」とか、とんでもない表現されてたっけ。
と言うか、そんな人類いねーよ。どこの範馬勇次郎だよ。こんなあからさまなデマ情報を一体誰が信じると言うのか。





「あ、それきっとパパだ。」
「!?」







[22653] 第二話 B ~ それは まぎれもなく ヤツさ ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/10 21:33
「その点、うちのは凄いぞ。一見すると穏やかな中年紳士だが、ひとたび戦闘になればその力岩をも砕き、幾人もの分身を出して敵を撹乱するワンマンアーミー。未来を見通す魔眼の王。数多の神々を従え、最強最古の邪神すら一撃で屠ったと噂される、通称『ニンジャスレイヤー』……」

「あ、それきっとパパだ。」
「!?」


 私の極上女神スマイルが思わずどっかのヤンキーみたいに引き攣ってしまった。何その聖闘士☆おとうさん。

「い、いや。リュカのパパさんって人間ですよね?」
「そだよー。」
「一体何がどうなったらそんな奇天烈な事になるんでしょうか。」
「うーん、『毎朝コーンフレークを山盛り2杯食べさせてるおかげさ』ってママが言ってた。」

 何だそれ。何だ、それ。
 常識的に考えれば、パパママの作り話を真に受けている子供という事になるのだろうけど。

「いや、それでも普通の人は分身したりしませんよ?」
「うん。ご近所でも残像を出せるのは、うちのパパだけなんだ。学校の運動会でも、みんな『さすがはリュカちゃんのパパさん』とか『あの人の旦那さんなら仕方ないな』って褒めてたもん。」

 非常に嬉しそうに、そしてこの子にしては珍しく、自慢げに話すリュカ。内容が内容でなかったら微笑ましいなと思いつつ、心のシャッターを切りまくっていたものを。
 なんだその、システム(物理法則)無視して二回攻撃してきそうなバグパパは。万が一本当だったとしたら、正直息子を人質に取るくらいしか勝ち目がなさそうだ。しかしそうすると当然リュカにも勝ち目がなくなるわけで。うーむ。




②守りの扉

 マルタの王様が帰った後、良くわからない理屈で「待ち人の扉」と「守りの扉」が開放された。正直どちらから行っても問題ない。ボスの強い「待ち人の扉」か、雑魚の強い「守りの扉」か。ここはオーソドックスにラリホーで嵌め殺せるゴーレムを先に倒す事にしよう。


 と言うわけで、守りの扉前でリュカと合流。

「ごめんね、待った?」
「ううん、今来たとこ。」


 これがやりたいがために、待ち合わせ時刻の一時間前から張り込んでおいたのさ!
 そして現在時刻は待ち合わせ時間の5分前。リュカ、できた子!
 ちなみにリュカは女神さまのアドバイス通り、タイジュの国で挨拶回りをしていたらしい。本当に出来た子!
 
「みんな優しくて良い人だったよ。期待に応えなくっちゃね。」
「でもリュカ、無理はしないでよ? こないだみたいに怪我しちゃったらダメだからね?」
「うん、心配かけちゃってごめんね。」

 私がここぞとばかりに説教するも、軽く受け流してニコッとこちらに笑いかける。そんな顔で誤魔化されっ……クマー。
 ちょっとこの子の対獣魅了スキル、何とかしないと体がもたないかも。
 ちなみに挨拶回りの最中に、タイジュの住民から応援として色んなものを貰ったらしい。具体的には小さなメダル3枚と、スカイドラゴンの卵。本当に期待をされているようだ。


 二回目ともなると慣れたもので、衛兵に挨拶しながらあっさり扉を通過。守りの扉の世界に降り立った。

「リュカはこの世界についてどのくらいの事を知ってる?」
「えとね、格闘場のお兄さんたちに聞いたんだけど、『出てくる魔物は、ゴースト・軍隊アリ・アントベア・マドハンドで、ボスはゴーレム』なんだって。軍隊アリの眠り攻撃に気をつけることと、ゴーレムは眠り攻撃に弱いことを覚えておくようにって。」
「なんと言うか、それもう答えだよね……。」
「?」

 きちんと情報収集すると、意外とそのまんまのヒントが落ちてるんだなぁ。私が小学生くらいの頃は、どんなゲームでもとにかく突入してから、結局何も考えない系だったよ。とは言え私の構想からすると、アリは使わないんだよなぁ。


「まず重要なのは鳥系モンスター『ピッキー』を仲間にする事かな。」
「ぴっきー?」
「そ。」
「どんな鳥なんだろう。楽しみだなぁ。」

 期待に胸膨らませるリュカ。よきかな、よきかな。

「あとはあんまり重要じゃないけど、ドラゴン系モンスター『コドラ』もいるから気をつけようね。」
「ドラゴン! カッコイイよね、ドラゴン。仲魔にしたいなぁ。」
「残念だけど仲間にはしないよ。確かに現時点ではそこそこ強いけど、この先全然成長しないし。」
「えー……。」

 頬を膨らませ、いかにも不満ですっといった表情のリュカ。カワユス。頬をぷにっとつつきたい。
 これは乙女ゲー的には、段々私に心を開いてきたってことでいいんだよね? わかってる。私は美少年ソムリエ(主に二次元だが)。並み居る鈍感主人公や節穴サンとは一線を画する存在なのだ。



 前回と同じ様な、だだっ広い草原を抜けて穴に落ちると、二階層目では険しい山がちな地形に出た。

「何だかちょっとこの前と違うね。」
「この辺はメルキド地方のイメージなのかな。」
「めるきど?」

 さすがにそこまでは聞いてないか。これは尊敬を集めるチャンスかも知れぬ。ここぞとばかりに賢しげな事を言おう。

「かつて魔王の侵略に頑強に抗ったとされる、人間の作り上げた戦闘城塞さ。そこには錬金術の粋を集めて建造された益荒男『ゴーレム』がいたと聞くね。今回の扉の主は、おそらくそのゴーレムなのではないかな。」
「……ふーん。」

 あ、この顔は何もわかってない顔だ。
 この子、やっぱり地味に脳筋なんじゃないの。

「ねえ、リュカ。ひょっとして」
「あ、アリさんだー! 仲魔にしなくっちゃ。」

 どことなく棒読みな台詞とともに、突如現れたアリに向かって、私を置き去りにして突進するリュカ。

「ああ、もう。だからマスターは後方から指示を出すんだってば!」
「わかってるー!」

 リュカよ、「アリさんだー!」は微妙に死亡フラグっぽいぞ。
 現状群れて出てこられると相当手強い相手だけど、幸い今回は一匹のみ。スラぼうが眠り攻撃で行動不能に追い込まれたが、残り二匹の集中攻撃で難なく撃破。またゴリ押しか。
 昆虫と意志を通じ合わせることが可能とは思えないが、首尾よく軍隊アリ「ぺたぺた(♂)」が仲間になった。


「じゃあスラぼうには、入れ替わりで牧場に戻ってもらうとしよう。」
「そっかぁ。スラぼう、今までありがとう! とっても助かったよ。」
「なに、かまわんよ。後を継ぐ者が現れたのなら、老兵は死なず、ただ去るのみじゃ。」

 何か生意気な事を言ってスライムが去っていった。


「ひとまず、ぺたぺたは最後列に配置だね。パーティーに馴染むまでは様子を見よう。」
「りょーかーい。」

 虫系の成長率は中々のもので、すぐに使い物になるようになるはずだが、仲間になった瞬間のパラメーターは不自然に低かったはず。うろ覚えではあるが、用心にこした事は無いだろう。
 そんな感じでアリに経験積ませながらあちこちうろついていると、色んなものを拾うことになった。まずはお金である。
 
「交番に届けないといけないね。」
「いや、こんなところにお金落とす人居ないから。」
「えー、でも拾ったものは届けなくっちゃいけないんだよ。」
「それはリュカの世界のルールでしょ。異世界では、拾ったものは自分のものになるんだよ。リュカだって、拾った薬草使ってたじゃない。」
「うーん、……そうかも。」

 ちょろい。


「じゃあこの綺麗なものはなに?」
「それはキメラの翼だね。」
「キメラ?」

 そういやキメラって、ナニとナニの合成獣なんだろう。まあ、あんまり生々しい話をしてもアレか。

「キメラっていうのは、モンスター界の偉大なる指導者にして、100戦100勝鋼鉄の霊鳥。専門家も驚くほどの食通で、わがタイジュの守護神さ。」
「う、うーん?」
 
 悪ノリが過ぎたか。

「つまり、とにかく凄い鳥ってことさ。」
「でも、翼を取ったりしたら痛くて死んじゃうよ? そういうの良くないよ。」
「大丈夫。キメラの翼は毎年秋になると新しく生え変わるんだ。」
「え、そうなの! すごい!」

 ちょろすぐる。


「それじゃあこの落ちてたお肉は、何のお肉なの?」
「え……っと、それはほら、アレだよ。」
「ん?」

 知らんがな。やっぱり魔物の食べる肉っつったらアレなのだろうか。あまりに予想外の質問に、昔のトラウマががが。
 いかん。何か凄い信頼感と共に、キラキラした視線を向けられている。何か説得力のあるデマカセを言わねば。

「……おいしい肉だよ。」
「おいしいの?!」
「それはもう、天上(ソラリス)の甘露の如き、まろやかなお肉さ。」

 我ながら酷い回答だ。
 というか、意外と食い意地はってるな、この子。

「ボクも食べられる?」
「いや、これ基本人間の食べるものじゃないからね? 骨付き肉とか確かにおいしそうだけど、あくまで魔物のエサだからね?」
「ぶーーー。」

 頬を膨らませ、とっても不満ですっといった表情のリュカ。デラカワユス。むしろそのほっぺたをかぷっと噛んでみたい。アマガミたい。

「でも、そういえば全然お腹すかないや。ずっと何も食べてないのに。」
「何でも、この世界でのリュカの時間は止まってる扱いらしいよ。時を凍らせる秘法を王様が使ったとか使わないとか。何で時が止まってるのに動けるのかとか、ダメージあるのかとかは全くわからないけれど。食事も睡眠も入浴もいらないってさ。」
「ふーん。お風呂入らなくていいのは楽だけど、ご飯食べられないのは寂しいなぁ。」

 ワイルド。ワイルド系だ。やっぱり男の子ってお風呂とか面倒なのかな。これは一緒に入浴するには一計を案じなければならないようだ。
 その後、私に手ずから肉を食べさせようとするリュカの攻勢を勇躍振り切って必死に凌ぎつつ、ゴースト・コドラ・マドハンドなどを蹴散らしながら第三階層を練り歩いていると。 


「なんかすっごい綺麗な鳥がいるよ。孔雀みたいでかわいいなぁ。あの鳥がそうなの?」
「その通り。『ピッキー』だね。高い単体攻撃力を誇り、尚且つ相手の防御力を下げる魔法『ルカニ』も使えるジャイアントキラーさ。ただし防御がこの上なく脆いので、ラリホーなどの補助が無いと厳しいね。」

 リュカは既に孔雀に心を奪われ、臨戦態勢。全くこちらの話を聞いてない様子。

「ぴーすけ、『いろいろ』!」
「キキー!」

 ついさっき覚えたばかりのラリホーが炸裂。これで戦闘はほぼ終了。あとは三匹がかりでピッキーの羽を毟る作業に。蟻に噛まれるのって、地味に痛いんだよなぁ。
 それにしても堂に入った指揮っぷりである。私が同じくらいの頃は、こんな補助系魔法使いこなしてなかったぞ。ちょっと時代が下った初代ポケモンでさえ、スターミーのみならずメンバー全員フルアタにしてたのは苦い思い出。


「パパがね、『戦いの趨勢を決めるのは火力のみにあらず』ってよく言ってたんだ。」
「だから、何なのそのパパン。」

 でっち上げの法螺話のくせに、やたらと実戦にマッチしているのは何なのか。プロ童話作家の持つリアルリアリティとやらか。

「ママも『補助魔法こそ王者の技よ』って言ってたよ?」
「更におかしいよ、そのママン。」
「ママは『スタァ』なんだって。」
「いやもう、意味わからないうえに何の説明にもなって無いよね?」

 もう、この子の家族については考えるのをやめよう。どうせ一生かかわりを持たないんだ。
 いや違う、結婚したら嫁姑だ。ちくせう、ハードル高いなぁ。


 羽を毟られつつも暫く抵抗していたピッキー(♂)だが、ようやく恭順の意を示してきた。 

「一応聞くけど、名前どうする?」
「『とんぬら』。」
「ああ……そう……。」

 どこかで聞いたような名前だけど、もう気にするまい。

「それじゃあ、ぺたぺたと交代かな。」
「え、もう交代? 主のゴーレムには、ぺたぺたの『眠り攻撃』を使うんじゃないの?」
「まあ、ぴーすけのラリホーあるしねぇ。ピッキーはまだ暫くだけど、使う予定があるから。」
「うーん、そうなのかぁ。ぺたぺた、お疲れ様。牧場でゆっくり休んでね。」

 言われたぺたぺた(♂)は、リュカのおみあしに頭をぐりぐりと押し付けた後、こちらを一睨みして「キシャーッ」と威嚇。そのまま牧場へと帰っていった。
 え、何。私が悪いの?


 その後、例によってピッキーの慣らし運転をしつつ最終階層に辿り着いた。ホイミンがスカラ、ピッキーがルカニを習得しており、万全の体勢だ。
 それほどかかることなく、前方に高い城壁で囲まれた町が見えてくる。


「ちょっと待って欲しいんだな。ここは通って欲しくないんだな。」
「まあそうなるよねぇ。」
「どうして通ってはいけないの?」

 入り口を塞いでいた巨大な石人形がこちらに話しかけてきた。リュカは目をクリクリさせながら、物怖じすることなく質問してる。この子本当に肝が太いな。ていうか、やっぱり私の薀蓄は聞き流してた系?

「何故って、僕はゴーレムで、この町の用心棒なんだな。」
「つまり勝負ってことだね!」



 ……あー、私の耽美系美少年が。リュカがどんどんバトルマニアになって行く。
 なし崩し的に戦闘開始。ハキハキした声でリュカが指示を飛ばす。あー、凛々しいなぁ。

「ぴーすけ、とんぬらは『いろいろ』。ホイミンは『いのちだいじに』!」
「クケェェェッ!」

 新参のピッキーがやたら張り切っている。良い所見せて、何とか寵を得ようと言う所か。
 ゴーレムがその鈍重な動きで腕を振り上げようとしたその瞬間、紫色の霧がゴーレムの頭部を覆う。ぴーすけのラリホーが鮮やかに決まった。
 さらに追い討ちを掛けるように、ゴーレムの全身を青い光がつつむ。ルカニの魔法でゴーレムの装甲がボロボロ崩れ落ちていった。
 何かもう一気に勝敗が決まった感。


「全員『ガンガン』いっちゃって!」
「ピギィィィィ!」

 間髪いれずに、流れるように作戦を切り替えるリュカ。何だあの敏腕指揮官。
 そしてピッキーの気合の入り方が尋常じゃない。何だあれ、必死すぎ。その内御役御免になる雰囲気を察しているとでも言うのか。ひぎぃ。
 
 ゴーレムが目を覚ますたびに、ぴーすけにラリホーをかけなおさせ、まさに磐石。判断が早いうえに全く迷いが無い。
 ピッキーもうまいことゴーレムの巨体をかいくぐり、効果的なダメージを足に与えている。
 程なくして、一方的すぎる戦闘が終わった。そしてまたしてもゴーレム♂に懐かれたようだ。滅びた町の幻を守り続けてる設定どこいった。


 足をやられて自立歩行できなくなったゴーレムをリュカが支えているように見えたのは単なる錯覚だろう。




[22653] 第三話 B ~ あなたと合体したい ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/10 21:44
 ゴレムスを仲間にしたものの、現パーティーに入る隙はなく、牧場直送。
 目標所持金に達しそうなので、ひとまずリュカと一緒にバザーに行く事になった。記念すべき初買い物デートだ。数々の夏祭りを荒らしまわり景品を蒐集しまくった挙句「夜店の王」と呼ばれたこの私の、総合SSランク遊び人たるこの私の買い物テクを魅せプレイするぜ。
 
「おじさん、こんにちは。」
「おお、リュカちゃんじゃないか。いらっしゃい。こないだあげたメダルは役に立ったかい?」
「うん! あのメダルを集めてるおじさんがいて、沢山持ってきたら強い魔物を紹介してくれるんだって!」
「そうかい、そいつぁ何よりだ。今度は何か買っていっておくれよ! そういや、そちらはひょっとして今代の精霊様かい?」
「そだよー。ほら、わたぼう。ご挨拶。」
「え、うん。えっと、ボクがタイジュの精霊、わたぼうさ。」

 いきなり話を振られると弱い。なんともインパクトのない初対面になってしまった。
 気を取り直して商売の話をする。


「とりあえず『薬草10個』と『キメラの翼2個』と、あと『骨付き肉』を買い取ってくれない?」
「勿論でさぁ。『薬草10個』で60G、『キメラの翼2個』で150G、『骨付き肉』で225G。しめて435Gになりますね。しかしいいんですかい? 骨付き肉といやぁ、マスターにとっては相当値打ちがあるモンでしょう?」
「そうだよー。お肉売るのはやめようよー。」

 リュカが私の腕をぐいぐい引っ張ってくる。未だに私に肉を食わせるのを諦めていないらしい。
 リュカのほうを極力見ないようにして、断固売却するべく話を進める。

「いいの。これで所持金が400G越えるからね。今は骨付き肉一個より、手に入りにくいお金の方が相対的に効用が高いのさ。」
「うーーー。」
「大丈夫だよ。もっとリュカがマスターとして成長すれば、もっと凄いお肉だってたくさん手に入るんだから。」
「え、本当?!」

 いや、だから何でキミが。

「まあ精霊様がそうおっしゃるのでしたら、あっしも否やはないんですがね。」
「じゃあそのお金とこの手持ちのを合わせて、『ももんじゃのしっぽ』を一つと『燻製肉』を購入するよ。」
「わかりやした。どうか今後ともご贔屓に!」

 
 『ももんじゃのしっぽ』は持ってるだけで落とし穴の位置を指し示してくれる、大枚はたく価値のある重要アイテム。さらに戦闘中使用すると、敵モンスターを捕獲した事があるかどうか教えてくれると言う謎。当然原理は全くわからない。万一仕様が違ったら泣けるなぁ。リュカには「キメラの翼同様、年に一回抜け落ちる」とか「運がよくなるおしゃれアイテム」とか、適当な説明をしておいた。


 予定の買い物をこなし、バザー会場をぶらぶらデート。案の定、木の上でバーベキューやろうとしてる愚か者どもを発見した。私の発展途上であるダイナマイトバディ(本体)に染みとか出来そうで腹立たしいのだが、こんなロクデナシ共ともリュカは仲良くなっちゃってるらしい。

「おう、リュカちゃん。頼んでおいた魔物は見つかったかい?」
「ごめんね、まだなんだ。」
「そっかー、でもなるべく早くしてくれよ? 俺たち本当に困ってるんだ。」
「うん。火を使える魔物を見つけたら、おじさん達の手伝いをしてもらえないか、忘れずに頼んでみるよ。」

 何か良いように使われてるなー。こんな連中に引き渡したら、その魔物絶対ろくな扱いされそうにないし。
 とは言え、わざわざ真実を告げてリュカの心を煩わせるべきではないだろう。用が済んだら裏から手を回して回収するとしようか。


 バザー会場を出て、大樹の国を練り歩く。
 ついでに星降りの祠への階段を確認すると、予想に違わずツインテールロリが道を塞いでいた。

「あ、サンチ。」
「何だ、リュカか。」

 このロリ名前とかあったんだ。すっかり忘却の彼方だよ。

「相変わらずヨワソーなヤツだな。もっと強くなるまでここは通してやらないぞ。」
「うん。早くサンチに認めてもらえるように頑張るね!」
「お、おう。」
 
 ちょっと、なんなのこの子。ツンデレ? ひょっとしてツンデレ気取りなの?
 きょうび女のツンデレなんてお呼びじゃないのよ。どうしてもツンデレ気取りたいならロイさん位のイイオトコになってから出直してきなさいよ! プリオはまだ安心できるけど、このロリはちょっと油断できないな。
 全く、私の旦那様と来たら。ニコポナデポはモンスター限定にして欲しいものである。



③待ち人の扉

「よし、それじゃあこれから行く世界についての確認をしよう。リュカ、格闘場で聞いた話きちんと覚えてる?」
「えーっと、『きりかぶおばけ・キリキリバッタ・アントベア・グレムリンがいたよ』って言ってたね。でも『きりかぶおばけ』ってこないだ試合で戦ったけど、全然強くなかったよ。あとは、『キリキリバッタ』は力を溜めてる間に倒さなきゃいけないんだよね。扉のぬしは『ドラゴン』で……強烈な火の息を吐いてくるから注意が必要!」

「うん、偉いね。良くできました。」
「えへへー。」

 うお、やばい。これはやばい。あまりの可愛さに、私のこの手が露骨に光る! リュカを触れと卑猥に叫ぶ!
 ひとまず頬ずり程度で我慢しておいた。ああ、もうこの思い出があるだけでデスタムーアとの子作りにも耐えられそうな気がしてきた。いや、むしろ我が指戯にて奥歯ガタガタ言わせてくれるわっ!

「でもね、実は一番気をつけなきゃいけないのが、他の国のマスターにあったら話しかけたりせずにすぐに逃げる事なんだ。」
「タイジュの国以外にもマスターがいるの??」

 目をクリクリさせながら聞いてくる。この子は……、星降りの夜の大会の趣旨を全く理解していないようだ。

「そうだよ。大会では彼らと覇を競い合うのさ。」
「ふーん。だったらきちんと挨拶しておかないと。」
「いや、ライバルだからね? 連中問答無用でリュカを潰しに来るよ? 今戦っても絶対勝てないし、失うものも大きいからね。」
「むー。」

 納得いってないようだけど、コレばっかりは仕方が無い。むしろ予想以上にアッサリ引き下がった方だろう。自分が駆け出しである事を正しく理解していたりするんだろうか。
 
「あとは出てくるのは『ファーラット』だね。モコモコしたネズミの一種だよ。」
「へえー。わたぼうの良いお友達になりそうだなぁ。」

 あれ、ひょっとして私リュカにペット扱いされてないか?
 ……悪くないな。


「最後に、『グレムリン』。閃熱系魔法『ギラ』を放ってくる魔物だよ。」
「ぎら?」
「そ。強力な熱線で、まともに食らうと大きなダメージになるから注意が必要だね。」
「それって『火を使える』ことになるのかな。とりあえず見かけたらおじさん達の手伝いをしてもらえないか頼んでみようっと。」

 まあ思うところはあるにしろ、水を差す必要はないだろう。王様あたりを使って後で回収すれば全て丸く収まるし。権力は使うものだ。


 三度目ともなると慣れたもので、替え歌なぞうたいながら扉を通り抜ける。

「その性技~ 受け止めろ~ 命をか~けて~」

 リュカも気に入ったらしく、嬉しそうに私のまねをしている。ふへへ。
 周囲の景色は守りの扉と大差ない感じ。そもそもメルキド地方も、マイラ地方も、大して違いがわかるあれでもない。毒の沼地が無いだけましだろう。ホントあれしんどかったもんなぁ。主に心理的な意味で。

 道中取り立てて事件もなく。一応ももんじゃのしっぽを活用して無駄なく全探索を繰り返し、あっという間に最下層に到着した。途中ファーラットを仲間にしたいとダダをこねるリュカに「捨ててきなさい」と心を鬼にして言えた事に関して、自分を褒めてあげたい。
 MP回復もかねてぬしの部屋を前にしてウロウロしてたら、お目当てのグレムリンに遭遇。とりあえずフルボッコにしたうえで、リュカによるおはなし(と言うか誘惑と言うか)がはじまった。

「お名前は?」
「る、るくいえっす。性別はオスでまだ250歳のほんのこどもっす。許してつかぁーさい!」
「あ、うん。もう戦うつもりはないんだけど、ひとつお願いしたい事があって。」
「な、なんすか?! 魂をよこせとか、ソレ系っすか?!」
「あはは、そんなんじゃないよ。キミの魔法の力を借りたいって言う人たちが居て、ちょっとお手伝いをお願いしたいんだ。」
「……それぐらいならお安い御用っす。」

 鞭と飴か。鞭と飴なのか。織田信長が小牧山城に本拠を移した逸話の如き手腕である。
 バザーへ向かうグレムリン(♂)を見送った後、少し歩き回ってMP回復。万全とはいえないまでもある程度体勢を整えて、いよいよぬしの部屋へ。
 そこは予想通りの海底洞窟。まずこちらに気づいたのがローラ姫らしき人物。その背後では、やたらでかい真性のドラゴンが眠っていた。無用心だな。


「ハッ、王子様! 私を助けに来てくれたのですね?」

 待てそこのビッチ。リュカは私だけの王子様だ。
 リュカが「いいえ」って言って無限ループしないかな、と無駄な期待をしてみるが、当然の如くそれは実らず。

「助けが必要なの? だったらボクに任せて!」
「まっ、うれしい! ……ぽっ。どうぞ私を抱き上げて、お城へ連れて行ってください!」


 ビィィィィッチ! 
 落ち着け、こいつは来た人間誰しもにこういう事を言う悪女なんだ。
 対ドラキーの時見られたように、リュカの腕力は正直子供離れしている。しかし、ここで見ているのは全て幻。まかり間違ってもリュカがお持ち帰りできるはずが無い。落ち着け、ゆっくりと深呼吸をするんだ。淑女はうろたえないッ。

 案の定リュカがどんなに頑張っても、重たい王女は持ち上げられず。ざまぁ。

「……いいのです。あなたはまだお小さいのですもの。だから持ち上げられないのです。」
「ごめんなさい。でも必ず助けを呼んでくるから!」

 ちがうよ、リュカは悪くないのよ。現実を直視できない、重たい王女様が悪いのよ。


「大丈夫、私にはわかるのです。やがてあなたではない一人の若者が、私を助けに来てくれるということが。」
「でも!」
「大丈夫。あなたのお気持ちはとても嬉しかったです。ありがとうございました。」

 何だ、王女っぽい振る舞いも出来るじゃない。そろそろ助け舟を出すとしよう。


「王女様の言う事は本当だよ。もうすぐ勇者ロトの末裔が助けに来てくれるんだ。」
「……本当に?」
「ああ、本当さ。そうして王女様は助けてくれた若者と結婚して、末永く幸せに暮らすんだ。今ここでリュカが助けちゃったら未来が変わって大変なことになるよ。」
「……わかった。『未来は簡単に変えちゃいけない』ってパパも言ってたし。」

 突っ込まない。断じて突っ込まないぞ。
 未だ納得は行っていないようだが、それなりに私は信頼されているのだろう。渋々ながらも従ってくれた。
 そしてお約束通りに、眠っていた番人・ドラゴンが目を覚ます。


「久 し ぶ り だ な 、 客 人 は ! !」
「リュカ、ドラゴンはゴーレムに比べてラリホーの利きが悪い! あんまりこだわっちゃダメだよ!」
「わかった! ぴーすけ、とんぬらは『いろいろ』、ホイミンは『いのちだいじに』!」

 ホントにわかってるのかなぁ。確かに初手としてはありだと思うけど。
 ドラゴンの特技「火の息」はこの時期としては破格の威力。2ターン連続でやられると戦線が崩壊しかねない、ちょい運ゲ。
 そういった意味では、確率半々のラリホーを連打するのは決して悪い選択ではないかもだけど。

「やたっ、成功!」
「幸先がいいね。」

 眠って起きてまた眠る。仰々しく目覚めた割に、あっさり眠らされて何かワロス。忙しいと言うか、だらしないと言うか。
 ラリホーは1ターンで目が覚めてしまったものの、ルカニも効いて悪くない進行。次はどうするのか。

「もう一回同じので行こう!」
「クルックー!」

 何と2連続でどちらも成功。これはアレか、コナン君補正か。そんな事を思いながらボーっと見ている私。案外ラリホーって打率高いのか。
 続いて流れるように『ガンガン』に作戦を切り替え一気に畳み掛けるリュカ。何とホイミンがやる気満々の攻撃で、かなりの打撃を与えた様子。ドラゴンは目を覚ましたけど、これはこのまま押し切れそうだ。しかしリュカの選択は再度ラリホー。何と3連続成功をおさめ、結果的にノーダメージで対ドラゴン戦を終えた。
 ……この慎重さがリュカのアキレス腱にならなければ良いけど。


 戦闘終了後はお約束のナデポタイム。もうだらしなく腹を見せて、完全に服従している。こうしてドラン♂が仲間になった。
 何かリュカの力になりたいみたいな事を言っている。ところがどっこい牧場送りです。


*Fランク

「よし、じゃあこのまま勢いに乗って、Fクラスに挑戦しよう!」
「おー。」

 余勢を駆ってFランに挑戦。イマイチリュカは気乗りしない様子。どうせ始まったらすぐに夢中になるだろう。

「連れてく仲魔はこのままでいいの?」
「いや、一旦牧場に行ってピッキーとゴレムスを入れ替えよう。」

 現状、対単体最高火力のピッキーだが、装甲が紙過ぎるので格闘場には向かない。
 ここはワンポイントで最強の壁、ゴレムス♂を投入する。

「クケェーーーーーッ!」
「大丈夫、ちょっとだけだから! ゴレムス使うのはここだけだから! 格闘場終わったらすぐ外すから!」

 何やら外されたくないとばかりに騒ぐピッキーを宥めすかして牧場に押し込む。
 実際ゴレムスはFラン抜けたらほぼ御役御免だ。もっともレベル10が近いであろうピッキーが、スタメン復帰する事も無いけれど。


 第一試合は、ぶちスライム×3。しょうもない相手だ。一応初顔合わせではあるが、リュカも相手を見てラリホーするまでも無いと思ったのか開幕オール『ガンガン』。殆ど何もさせずにあっさり勝利を収めてしまった。

 第二試合は、泥人形二匹とアルミラージ。泥人形の持つ「身かわし脚」「ふしぎな踊り」に、アルミラージの「ラリホー」が嫌らしい。まあ「不思議な踊り」は泥人形Aしか使ってこないし、「身かわし脚」も泥人形Bしか使わない格闘場特殊仕様なので、実際にはそこまで苦戦する事も無いだろう。
 どうするかと眺めていたら、何と続けての力押し。ゴレムスが相手の攻撃を殆ど封殺しているから、それでもいいっちゃいいのかも知れんけど、何だかなぁ。


 最終試合は、井戸の底に住んでる怪しい神官。どうみてもハーゴンです。本当に、本当にありがとうございました。

「私は超一流のモンスターマスターなのだ。」
「凄い、強そうな魔物ばっかりだ!」
「ふむ、君は中々わかっている子供のようだね。いいだろう、かかってきなさい。」
「行きます!」


 相手の構成は、アニマルゾンビ・デスフラッター・スカルガルー。
 第二試合でそこそこMP削られているが、さすがのリュカも今回は慎重にスタートを切る様子。

「ホイミン・ぴーすけは『色々』! ゴレムスはそのまま『ガンガン』いっちゃって!」

 恐らくリュカの思惑通りにスカラがホイミンにかかったものの、ラリホー不発。リュカにとっては初めての失敗だ。精神的に崩れなければいいけど。
 アニマルゾンビ、デスフラッターの反撃がぴーすけに集中する。超一流を自称するのも伊達ばかりではないといったところか。
 しかし実は相手の攻撃力自体は大したことが無い。ゴレムスほどではないが、ぴーすけも相当に硬くこの程度の敵の攻撃ならある程度集中しても問題ない。一番の脅威はスカルガルーの放つ「メダパニダンス」だ。当然ハーゴン様から指示が飛ぶ。

「ガルーよ、メダパニダンスだ!」
「てけり、り。」

 名状しがたい動きに魅せられ、ゴレムス・ぴーすけが正気を失う。しまいには同士討ちを始めて、ぴーすけがそう軽くなさそうなダメージを受けた。私の危惧していた最悪の展開だ。慌ててリュカはホイミンに「いのちだいじに」の指示を飛ばす。

 しかし危ないのはそこまで。こちらのパーティーはこの時点で考えられる最精鋭であり、地力が違いすぎた。ホイミンを一人ディフェンシブにして、結局はゴリ押し。ダメージを受けても大崩れすることなく、回復を持たない相手を一匹ずつ屠っていき終局。戦線が崩壊しかけた今回の戦いは、きっとリュカにとっても良い経験になっただろう。


 これでようやく星降りの祠が解禁。
 あー、合体したいわー。誰と誰がとは言わないけれど、合体したいわー。
 



[22653] 第四話 B ~ 聖鳥の系譜 ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/10 22:01
 開通した星降りの祠に行こうとして気がついた。

「このパーティー、♂しかいねぇ。」
「?」

 性別固定のボスは仕方ないにしろ、ドラキー・アントベア・軍隊アリ・ピッキー・グレムリン。これまで仲間になったやつ全員♂だ。あれか。リュカの魅了スキルは♂にも作用してしまうのか。
 確かに女装させたら超絶似合いそうではある。そういえば私が目覚めたきっかけであるジェイデッカーのボスも、女装が可愛かった。思えばあれが男の娘のはしりだったのかもしれん。
 意識が逸れた。ひとまず顔を合わせるのは♀キャラを捕獲してからで良いだろう。そもそも全員レベル足りてないし。スカイドラゴン孵化しても、今は特にメリットもない。
 牧場に戻るとピッキーに絡まれそうなので、バザーで買い物したらそのまま扉に行くとしよう。


④思い出の扉

「やってきました、思い出の扉!」
「おーー。」

 リュカがパチパチ拍手してくれている。ありがとう。

「ハイ、リュカ君。この世界の特徴は?」
「『マドハンド・ファーラット・ドラゴンキッズ・キャタピラー・ピッキー・フェアリーラット・ぶちスライムが住んでいて、ぬしはキラーパンサー』です、先生!」
「エクセレンッ!」

 いつになく私のテンションが高いのには勿論理由がある。
 
「今回の最優先任務は『ドラゴンキッズ♀』の捕獲である!」
「ドラゴン!」

 この子ほんとにドラゴン好きだなー。男の子はやっぱそういうの好きなのか。
 件のキッズは、ドラゴン系なのに成長が早い、龍族の天才児。待ち人の扉で仲間になるドラゴンは、成長が極端に遅く実は罠である。ゲームにおいては、ドラキーと性別の異なる奴を仲間にしたら撤退してセーブしても構わないくらい重要。即レギュラーに。
 偉大なるドラキーと彼女を祖とするエースの系譜に、これから永らくお世話になる事になる。


「あとは余裕があれば『ぶちスライム』も仲間にしたいな。」
「了解しました、たいちょー。」

 キングスライムを作る明日のために、小さなことからコツコツと。前回の扉で手に入れた骨付き肉がひとつあるし、諸々売り払った金で購入した燻製肉もたっぷりある。準備は万端だ。
 意気揚々と扉に踏み込むと、あたりは鬱蒼とした森林地帯。あれ、カボチ村って不毛な砂漠だったイメージあるけど、どうだったかな。暫く歩いていると、ドラゴンキッズとファーラットが連れ立ってこちらに向かってきた。ここからが運の試されるときだ。

「リュカ、ドラゴンキッズはひとまず僕に任せて。そのかわりファーラットをお願い。」
「わかった。みんな、ファーラットを集中攻撃だ!」


 今回初めて「めいれいさせろ」を使うリュカ。こうして大人になっていくのね。
 私もうかうかしてられないので、キッズが♀であることを祈りながら、大きく振りかぶって骨付き肉を投擲する。

「ふんもっふ!」
「グギャァ!」

 めっちゃ直撃したせいで少し睨まれたけど、すぐに夢中になって貪りはじめよった。
 一個か!? 一個で足りるよな? いやしんぼめッ。

「こっちは終わったよー。」
「ん、お疲れ様。じゃあリュカ、あの子を捕まえて、ナデナデシテー。」
「わかった!」

 ファーラットの方に目を向けると、仰向けになって目を回している。なんとも手際のいいことだ。意識を戻すと、疾風のごとき勢いで飛び出したリュカが見えた。いやだからモンスターバトルしようよ。
 竜の子をガッシと捕まえ、ものすごい勢いで喉の辺りをわしゃわしゃしだした。犬猫か。程なくしてドラゴンキッズは、だらしなく腹部を晒して、陶然とリュカにじゃれ付くようになった。どうやら♀だったらしく一安心だ。ビッチめ。
 「るーるー」と名づけてゴレムスと交代。これでピッキーへの義理は果たした。今頃怒ってるかもしれないが。
 しかし大した♀誑しである。やはり将来はしっかり手綱を握らねば。


 さすがにパーティー全体の防御力が下がったため少しは苦戦する事になったが、るーるーを鍛えたり他国の女戦士にしつこくストーキングされたりしつつも、スルッと最下層まで到達。多分この辺、DQVのフィールド音楽が流れてんだろうなぁ。
 いつもの如く、ぬしの部屋の前でウロウロしてぶちスライムとエンカウント。燻製肉をくれてやり、あっさり仲間にして牧場送りに。


「るーるー、凄いねぇ!」
「ゴロゴロ……。」
「……ッ。」

 リュカがるーるーを抱き上げて、喉の下をくすぐってやってる。
 実際「火の息」を覚えたるーるーの活躍は賞賛に値するだろう。燃費が高いから配分に気をつける必要があるが、対複数の切り札としてばっちりだ。あの♀トカゲがこちらを優越感たっぷりの目で見ているように感じている私の感情は、きっと精神疾患の一種だろう。別にその程度で私は嫉妬したりはしない。淑女たるもの常に優雅たれ。どこかで奥歯が砕けたような気がしたが、そんなことはなかったぜ。
 ぴーすけのマホトラなどで体勢を整え、いざぬしの部屋へ。ホイミンもスクルト使えるし、どうやっても負けようが無い。


「ガルルルル……、フーッ、フーッ!」

 うわ、むっちゃ興奮しとる。
 洞穴っぽいところで孤独に暮らすキラーパンサー。パパスの剣らしきものは見当たらない。「思い出の扉」らしく「ビアンカのリボン」でもあれば良かったんだろうが、残念ながらバトッて倒すしかないだろう。
 そんな私の思惑を一切無視して、リュカがフレンドリーに話しかけた。いや、危ないってば。

「こんにちは、ボクの名前はリュカだよ。キミのお名前を教えてほしいな。」
「ゲラゲラ……? ゲルゲル……?」

 会話が通じとる。しかしどう見ても野生化しております。
 ゲルゲルて。『イ』の段を飛ばしたのはスタッフのせめてもの良心か。


「頑張れ! もうちょっとで思い出せるよ!」
「…………ゲレゲレ!」

 自分の名前を思い出したためか、何かめっちゃスッキリした顔してる。そのままリュカと抱き合って喜んでる。
 だからデュエルしろよ。

「キミの名前もゲレゲレって言うんだ。ボクのおうちで飼ってる猫もゲレゲレっていうんだよ。」
「ゲレゲレ! ゲレゲレ!」

 ん? いや、ん??

「あー、リュカ。参考までに聞きたいんだけど、そのゲレゲレってどんな猫?」
「えとね、ボクが拾ってママが名前をつけたんだよ。黒っぽいふさふさの大きな体で、背中にのっかって撫でるととっても気持ち良いの。」

 めっちゃ目尻を下げて嬉しそうに話すリュカ。うん、でもそれ多分猫じゃないよね。
 例のママンが名付け親らしいが、アレか。私と同じく自重しないゲーヲタの類か。しばらく「うちの猫」自慢が続いて、こちらのゲレゲレは少し面白くなさそう。


「……そんでね、なんと頭が二つもあって、たてがみとしっぽが蛇なんだよ。凄いでしょ!」
「まって! それは絶対に猫ではないどころか、別の何処かから来た闇(ナニか)だよ?!」

 やっぱり絶対おかしいよ! 少なくともまともな現代日本ではありえないよ?!


intermission

「配合を制するものは、大会を制す!」
「配合をせいするものは、大会をせいす!」

 王様が珍しく良い事を言ったので、連呼しながら星降りの祠に向かう。リュカも楽しそうに真似をしてくるが、きちんとわかっているかは微妙な線だ。
 途中なれなれしく話しかけてきたツンデレを軽くあしらって祠へ直行。しかしツンデレは二次元に限るね。実際絡まれると鬱陶しいことこの上ない。リュカも甘い顔しすぎである。別に私情とかではなく。
 怪しげな地下への階段を進むと、色んな人が無意味にたむろしている部屋へ到着。そういやこの爺さんとはこちらに来たときに二言、三言喋ったくらいだったな。


「おお、久しぶりじゃのう。覚えておるか? わしの事。おぬしがタイジュの国に来たとき、城に連れて行った爺じゃ。」
「勿論! あの時はありがとうございました。」
「よいよい。おぬしの活躍、聞いておるぞ。わしの事は『モンスターじいさん』とでも呼んでくれんか。」
「モンスターじいさん?」
「うむ。ここは星降りの祠、配合と孵化の場所。配合は魔物と魔物を結婚させる事なんじゃ。」
「え、そうなの?!」

 ああ、やっぱりわかってなかった。

「ふふふ、結婚させるとタマゴが生まれてくるぞい。孵化というのは、そのタマゴを魔物に孵すことじゃな。」
「へえー、赤ちゃんが産まれるんだね!」

 意外と可愛いもの好きっぽいリュカの目尻が下がる。まあ、多分子犬とか想像してるんだろうなぁ。でも出てくるのはバリイドドッグ(しばたあみ)とかなんだぜ。


「あとは趣味ではじめた占いじゃな。」
「占い?」

 ん? そんなもんあったか?
 あ、ほんとだ。何か部屋の隅に「占いはじめました」の看板が。メニューは「しょうはい」と「こいのゆくえ」。何その新商売。

「じゃあ、『こいのゆくえ』お願いします!」
「うむ。……ぴーすけはるーるーを愛してしまったようじゃ。」
「え、ちょ?!」

 勘弁してくださいよ。まさかの強制カップリングですか? 隣接とか考える系システムですか?!
 とりあえずこの組み合わせは幸いにして予定通り。さっさか進めるに限るだろう。リュカを押しのけて前に出る。

「じゃあドラキーを血統に配合しよう。」
「一応注意点として、10歳になるまで子作りは許さんぞい。」
「長ッ!」
「今ドラキーは12歳で13歳になるには54の経験が必要じゃ。」
「早ッ、そしてレベルの事かよ! ってか、ネクスト経験値ここでわかるの?!」


 疲れた。このジジイ初対面からは想像つかない程にはっちゃけてやがる。

「という事らしいけど、リュカ。良いかな?」
「え? あ、うん! いいよ!」

 あ、リュカがめっちゃニコニコしてる。コレ多分なんにもわかってない顔だな。
 他の節穴共は騙せても、美少年鑑定士たる私の目は誤魔化せないぜ。


intermission2

 産まれたのは狙い通り「キメラ+1」のタマゴ。偉大なるドラキーの血を継ぐ、華麗なる我がパーティー中興の祖だ。

「この子って、あの『キメラの翼』のキメラなの?」
「うん、その通り。タイジュを守護する、聖なる鳥の系譜に連なる魔物さ。」

 実際この組合せでできるキメラ様の性能は別格の一言。
 もともとドラキーのパラメタが意外に高い事もあるが、高々経験値100ちょっとで、部隊中最高火力・全体攻撃・回復魔法・ラリホーと考えられない無双っぷりを発揮してくれるはず。テンションアガット。ここでピッキーを使ってドラキーを温存するルートも一応あるけど、キアリーその他で安定感が違う。
 ぴーすけとるーるーが新婚旅行に行くと聞いてリュカが少しグズったが、「二人の幸せを祈って、ゆっくり休ませてあげよう」とかそれっぽい事を言ったら、しぶしぶ納得してくれた。


「ひとまずタマゴ鑑定士のところに挨拶に行かなきゃね。」
「タマゴ鑑定士さん?」
「そうだよ。まあ税金みたいなもんかな。」

 割と初心者には軽視されがちであるが、これは結構重要なファクターである。うっかりすると、肝心な所で百合やら、やおいやらの非生産的カップリング(文字通りの意味で)が出来上がってしまう。趣味ならそれでもいいのだろうが、国家戦略的にはかなり困ってしまうのだ。


「こんにちはー。タマゴ鑑定士さん、いらっしゃいますかー?」
「あ~ら、ま~! なんてかわいいマスターちゃんだこと。お名前なんていうの?」
「リュカです!」
「リュカ……、リュカちゃまね! 私はタマゴ鑑定士のタマミよ。どうぞよ・ろ・し・く!」

 テンションたっけぇ。まさか常時コレか。
 漫画版では真性ショタコンのド変態だったが、ここではどうなんだろうか。


「私のうちでは、あなたのタマゴを『鑑定』して、どんな子供が生まれそうかを生まれる前に教えちゃうの!」
「ほぇ~、すごいなぁ。」
「ふふふ、それだけじゃないのよ? もう一つの私の仕事は『祝福』よ。」
「しゅくふく?」
「祝福は……魔物の性別を変えちゃうことなの!」
「えーーー?!」

 リアクション良いなぁ。タマミさん絶好調だよ。
 でも案外普通の進行だ。もっと「美少年!」とかって、よだれたらして食いつくかと思って警戒してたんだけど。
 口調もどこか小森のおばちゃま風だし、まあ杞憂だったのかな。ぼちぼち口を挟むか。


「じゃあ、とりあえず鑑定をお願い。キメラとついでにスカイドラゴンも。」
「了解じゃあまずはキメラからね。」

 40ゴールドを払い、少し下がる。

「んん~! かわいらしいタマゴちゃん! おねえさんとちょっとお話しましょうね!」
「おねえさん(笑)」
「シッ、邪魔しちゃダメだよ、わたぼう。」

 おおう、怒られた。……うん、イイ。


「アラ! 元気に育ってるみたいね。期待してねって言ってるわ。」
「ほぇー、タマゴとお話できるんだ。」
「いや、どうなのかな。」

 小声でリュカがびっくりしてる。
 タマゴって喋るのか?

「うっふ~ん……。男の子ね。きっと。」
「『うっふ~ん』て。意味わからんw」
「もう! ダメだったらわたぼう!」

 別に怒られるのが癖になったとか、そういうわけではなく。



intermission 3

 最後にサンチの家にも挨拶回り。別にいらないのにリュカは律儀だなぁ。
 とりあえず勇者よろしくタンスを漁ろうとしたら、

「コラッ、わたぼうダメでしょ。勝手に人の家の棚を漁るなんて。」

 と、案の定怒られた。ああもう、若干の背徳感と、それに伴う快感とで、新しい何かに目覚めてしまいそうなことは否定できない。
 そんなやり取りを見ていたサンチから、小さなメダルを貰うリュカ。もので釣ろうだなんて、案外出来るロリなのか。


 その後キメラ♂(リュカ命名「とりさん」)を孵化して牧場に戻り、戸惑いの扉への潜入メンバーを編成。キメラ様・ホイミンに加えてゴレムスの再登板。
 本来であればゲレゲレもしくはピッキーあたりをアタッカーとして据えるのだが、キメラ様が成長なさるまでの壁としての意味合いが一つ。もう一つは最終階層に出てくるであろうシンボルエンカンウト「切り株おばけ」の高経験値狙いである。これで成長の遅いゴレムスも配合可能レベルに達するはずだ。なんかピッキーは拗ねてた。

 さあ、次はいよいよ華麗なるキメラ様のデビュー戦だ。


⑤戸惑いの扉

「ママー、ママー」
「はいはい、ここにいるよー。」

 キメラ様(とりさん♂:生後ゼロヶ月)が、まるで母親を求めるヒヨコのように、リュカのあとをちょこちょこついていく。さながらカルガモの親子。なんとも微笑ましい光景だ。考えてみりゃ、実の両親はものっそい育児放棄だよな。
 それはそれとして、恒例の戦略確認会議である。


「ではリュカ二等兵、今回の扉の特徴を述べよ。」
「ハイ! 『コドラ・大鶏・ドラゴンキッズ・エビルシード・ベビーサタン・ぶちスライム・腐った死体が住んでいて、エビルシードのマヒ攻撃に注意。ぬしの人面樹は呪いをかけてくる強敵』です!」
「パーフェクツッ!」

 何かこの子、だんだん賢くなってる気がするんだけど。ボクは一分一秒、そしてこの瞬間にも成長している!とか言い出したらどうしよう。

「今回の優先捕獲対象はベビーサタンである。」
「かわいい?」

 またか。

「見ようによっては可愛いといえなくもない気がしないでもない!」
「う、うん?」
「そして出来れば大鶏も捕獲するように。オールミーツフリー!」
「らじゃー!」

 よしよし。
 だんだんノリも良くなってきた。これなら私の理想の相方になる日も近いな。

「最後にぬしの人面樹。確かに呪いも恐ろしいが、本当に恐ろしいのはマホトーンである!」
「まほとーん?」
「肯定だ。こちらの魔法を封じる魔法だ。万が一キメラ様に刺さるようだと全滅の危険すらある恐ろしい特技である。」
「どうすればいいの?」
「あえて言おう、回復手段を疎かにするマスターはカスである! Fクラスで井戸魔人は敗北した。何故だ?」
「回復手段を持ってなかったから?」
「その通りだ! 今回に限り、最近は売り払うか捨てるかしていた薬草をあらかじめ持ち込み、人面樹と戦うまで温存しておく事!」
「らじゃーー!」

 いわゆるDQVの迷いの森を模した世界なのだろうか。でも最下層BGMはDQⅣだった気がしないでもない。
 行けども行けども木しか見えてこない。ちと気味悪いなぁ、などと思いつつ徘徊してたらぶちスライムと大鶏のコンビがやってきた。

「リュカ、とりさんをしっかり守る戦い方をするんだよ!」
「大丈夫! ゴレムスは『ガンガン』、ホイミン『いろいろ』、とりさんは『いのちだいじに』!」

 結構な安全策である。ホイミンのスクルト2回で相手からの有効打はほとんどなくなった。当然『ガンガン』に切り替える。
 ぶちスライムの「仲間呼び」が唯一の不安要素だったが、ゴレムスが早々にスライムを気絶させて戦闘終了。大鶏は仲間になってくれなかったが、これで人心地つけるだろう。そう思ってキメラ様を見やると。



「ふおおおおお?!」
「うわー。とりさん、すっごく大きくなったねぇー。」

 さっきまではヒヨコと見紛うような小鳥さんだったのに、ちょっと目を放したすきに筋骨隆々・毛ふさふさの怪鳥さんにクラスチェンジなさっていた。予想はしていたけど、実際にこの目で見ると余りのありえなさに腰を抜かすところだった。まったく、ゴンさんってレベルじゃねーぞ!

「とりあえず特技を確認しようか。」
「えとね、『ホイミ・火の息・冷たい息・ラリホー・キアリー』を覚えたって。」


 たった一回の戦闘でご覧の有様だよ!
 既に実戦レベルどころか、腕力はゴーレムを超えてるっぽいし、ホント半端ねぇ。
 しかも巨体ゆえか、気軽にリュカにのしかからなくなっている。なにこの気遣いの出来る生後ゼロ日。
 今後も順調に成長するわけだし、いやはや顔がニヤケてしまう。



「やりたい子と~ やったもん勝ち~ 青春なら~」

 リュカと一緒に替え歌を口ずさみながら順調に冒険を進める。大鶏は上層でしか出ないらしく仲間に出来なかったが、ベビーサタンは燻製肉で首尾よくゲット。キメラ様も健やかに成長された。全員が毒におかされて下手をすれば全滅するような場面もあったが、キメラ様のキアリーのおかげで余裕の対応。ぶっちゃけ鳥系にとっては初期値とか誤差なんだけどね。
 暫く歩いていると、なんと杖が落ちていた! ワクワクしながら近寄ってみる。もしこれが高ランクの杖であれば、運次第ではあるが序盤の金欠から一気に解放される事になる。


「なんだ……まふうじの杖か。」
「どしたの、わたぼう。その棒はなあに?」

 相変わらずの好奇心の塊である。安い杖拾って落胆著しい私は、いつになく投げ遣りな対応をしてしまった。後にその事を悔やみ続けるとも知らずに。


「え、あーこれね。コレは『ホンミョン棒』。魔法のステッキさ。」
「魔法のステッキ?! すごいなぁー。」

 相変わらずリアクションいいね、この子。
 どうせ使う予定もないし、おもちゃとしてくれてしまうか。

「じゃ、良かったらリュカにあげるよ。」
「ホント? 大切な宝物にするね。へへー、わたぼうからプレゼント貰っちゃった!」
「そ、そんなおおげさな。別にこれから同じの幾らでも拾えるよ。」

 あまりのリュカの喜びように、何だか妙な照れを覚えて、つい邪険な物言いをしてしまう。
 リュカは、そんな私の目をじっと見つめてきた。
 やばい、何かいやな予感がする。


「ちがうよ。全然ちがう。だって、はじめてわたぼうから貰ったプレゼントなんだよ?」
「う、あ。」

 大事そうに杖を抱えるリュカ。
 ダメだ。この子と見つあうと素直におしゃべりできない。何だコレ、まさか本当に恋をしてしまったとでも言うのか。いやいやいや。
 まふうじの杖改め、ホンミョン棒を元気良く振り回して行進するリュカ。うあぁ、アレずっと宝物にされちゃうの? 結婚後、あの増田センスをことある毎に持ち出さて辱められたりしたら私はもう……まあ、それも良いか。
 最下層にて他国マスター「魔法ジジイ」のストーキングにあう。還暦過ぎても童貞の分際でナマイキな。倒しても何の得もないのでガン無視である。


「おばけは伐採だー!」
「だー!」

 辿り着いたぬしの部屋で、やたら目立つエリート切り株おばけ達を大量伐採。自然破壊上等。首尾よくキメラ様が『氷の息』と『火炎の息』を覚えた。MP収奪呪文だった『マホトラ』が、どM御用達魔法『マホキテ』になってしまったのは痛いが、これで格闘場Eクラスは消化試合だ。甘い息とラリホーが被るとか些細なことよ。このぶんならゴレムスもレベル10超えているだろう。


 人面樹? スクルト連発でノーダメージでした。



[22653] 第五話 B ~ キメラ様の氷の息…キメラ様の氷の息 キメラ様の氷の息…キメラ様の氷の息…キメラ様の氷の息…キメラ様の氷の息が! そして…このキメラ様の氷の息がッ! てめぇらをブッつぶす!! ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/10 22:20
*レベルE

 やってきました格闘場Eクラス。
 キメラ様のおかげで己のテンションが有頂天でとどまる所を知らない。
 ひとまず登録前に最終試合の相手であるキングオブへたれ、(自称)マスター・テトに挨拶に行く。

「こんにちは、テトさん。」
「フッフッフ……。Eクラスですよ。Eクラスを勝ち抜きました!!」
「そうなんだー。おめでとう!」
「あれ? あなたはまだFクラスですか? ならばこれからは私の事をマスターテトと呼んで欲しい!」


 うぜぇ。何だコイツ調子乗りすぎだろ。思わず精霊魔法を発動しそうになるが、辛うじて堪える。
 まだだ……、まだコイツには生かしておく価値がある。テトと共に舞台に向かうリュカを見送り、鬱憤を溜め込んでカリカリしていた私。そんな私に背後から深みのある声が聞こえてきた。


「なんじゃ、物騒な空気を出しおって。リュカちゃんの応援には行かんで良いのかえ?」
「むう、ばっちゃか。変な所見られちゃったな。」

 タイジュに住んでいて知らないヤツはモグリだとまで言われる、格闘場の名物女「ババーガール」その人であった。
 還暦過ぎた老婆なのだが、なんの衒いもなくバニースーツを着こなす姿は、知識としては知っていたものの実際に目にすると衝撃もひとしお。以前興味本位で見物に来た私は、その威風堂々たる立ち居振る舞いにすっかり心を奪われてしまったのだ。
 何かリュカもウサ耳が気に入ったらしく、やたら懐いてた。案外スケベの素質があるのか?


「ふふ、小僧の増長など可愛いものじゃ。それにアレはアレで見所もあるんじゃぞ?」
「ばっちゃはそう言うけどさー、やっぱりあれは腹が立つよ。」
「己に信ずるものがあれば、周囲の人間がいかに騒ごうとそれらは全て些細なこと。泰然自若・明鏡止水たれ、じゃよ。おぬしにも必ず出来るはずじゃ。それが善であれ、独善であれ、の。」


 カッコいい……。一片の淀みも無く己が道を貫く人間というのは、どうしてこうも格好良いのか。「女の子はエレガントに」の金言をまさに体現している存在といえるだろう。
 今はまだ無理だけど、私がおばさんになってもあの羽衣を纏い続け、心無い人から「いつまでその格好でいるの?」とか問われたとき。

「無論、死ぬまで。」

 とナチュラルに返せるような器の大きい人間になるため、この人を目指して精進して行こうと思う。
 ばっちゃに別れを告げてアリーナ席に入ると、既に第一試合の両チームは入場済みだった。
 こちらの部隊編成は、当然トップストライカーにキメラ様。的としてゲレゲレ、的兼スクルト係としてホイミンを配置。
 下手をすればホイミンが沈みそうだが、その蓋然性はそれ程高くないし、万が一があったとしても再挑戦すればいいだけだ。

 第一試合の相手は「ポイズンリザード」「スライムツリー」「とさかへび」。キメラ様が相手でさえなければそこそこ良い戦いが見られただろう。
 先手はホイミンのスクルト。これで相手の物理攻撃はまず通らなくなった。その上でキメラ様の氷の息が炸裂。相手全員を一発で瀕死に追い込み、ゲレゲレの一撃でとさかへびをアッサリ仕留める。
 相手からの反撃は微々たる物。ツリーの甘い息でゲレゲレが眠り、リザードの追撃で毒状態になったが、所詮かすり傷。ゲーム的には「1のダメージ」と言ったところだろう。ゲレゲレの目も覚めて逆に都合が良いくらいだ。キメラ様のキアリーで毒を回復し、ホイミンとゲレゲレの攻撃でジエンド。まさに完封である。
 
 第二試合の相手は「ドラゴスライム」「ドラゴン」「フェアリードラゴン」と、モブの癖に妙なこだわりを感じるラインナップ。
 ドラゴスライムに「火の息」で先制を取られるも、今となっては単なる温い風。スクルト&氷の息で、いきなりファリードラゴンが即退場。憐れな。ゲレゲレの追撃でドラゴスライムもアッサリ倒して、残るはドラゴン一匹。必死の形相で火の息を吐き出してきたけど、所詮旧時代の遺物。成長の遅い種は淘汰される運命にあるのだよ!
 念のためホイミンに回復指示したようだが、リュカは心配のしすぎだろう。


 最終試合はいよいよあのヘタレが相手だ。フルボッコにされてしまえ。
 パーティー構成は「鎧ムカデ」と「スライムつむり」2匹。ちょっとバランスは悪いが、鎧ムカデは特技「バイキルト」を持つ良モンスター。このヘタレには勿体無いくらいだ。

「どうもリュカくん。よくここまで来れましたね。私はマスターテト! 君に私が倒せるかな? はっはっはっは! 負けても気にしちゃいけないよ!」

 UZEEE! 全く会話する気ないよ、アイツ。自分に酔いまくってるよ。
 ばっちゃ、明鏡止水は私にゃまだまだ遠い境地みたいだ。


 戦闘開始。開幕まさかの先手を取られる。
 最速はスライムつむりの氷結系呪文「ヒャド」。やはりスライム系、素早い。こちらの全員が結構良いダメージを貰ったように見える。続いてスライムつむりの「仲間呼び」。ゲレゲレとキメラ様に結構なダメージが入った。ホイミンに刺さらなかったのは不幸中の幸いか。
 こちらの反撃はスクルト・火炎の息・真空切りの三連打。とりあえずスライムつむりを一匹仕留めて一安心か。鎧ムカデの捨て身の攻撃がホイミンに入ったときはヒヤッとしたが、スクルトの効果で首の皮一枚繋がったようだ。
 仕切りなおした次の攻防も、やはりスライムつむりに先手を取られてヒャドを撃たれた。なすすべなくホイミンが沈む。くそう、通算戦闘不能回数ゼロ回狙ってたのに。予定通り、回復役の強化を急ぐとしよう。
 キメラ様の氷の息でもう一匹のつむりを屠り、ゲレゲレの真空切りでとどめ。と思ったら、何と鎧ムカデが耐え抜きおった。恐るべき耐久力である。しかし反撃に捨て身の攻撃を仕掛けたところ、反動で自爆という情けない幕切れ。
 観客席から観ているだけだと、何かもどかしいというか、やきもき感が。とは言え、マスター(笑)テトの情けない顔を見てポップコーンがうまい。



intermission


 お見合いである。待ちに待ったお見合いである。キメラ様の美技に酔いすぎて、うっかりDクラスに連続昇級して、貴重な出会いの機会を潰してしまったのは苦い思い出。ここで中盤パーティーの骨格が出来上がるため、慎重に段取りを進めていく。まずはあのヘタレの所だ。

「やあ、マスター(笑)。ご機嫌いかがかな?」
「あ、わたぼうさん。す、すいません!! 偉そうな事言って!」
「お、自分がどれだけ恥ずかしい人だったか理解したんだね。」
「はい、これからは心を入れ替えていちからやり直します!」

 うーむ、素直と言うか何と言うか。


「……ところでリュカ君、魔物とお見合いをしませんか? 氷河魔人なんですが、お見合いしましょうよ!」
「はい! ぜひお願いします、テトさん!」
「無理とは思いますが、溶岩魔人となら最高なんです!」
「ごめんなさい……溶岩魔人はいないんです。」
 
 これである。何でこんな三流マスターが氷河魔人なんて言う素晴らしいモンスターをお見合いに出せるのか。まあ、精々利用させてもらおう。
 こちらから出す魔物として一見望ましいのは、テト自身も言及している「溶岩魔人」。氷河魔人と溶岩魔人の特殊配合で、メドローアならぬ「ゴールデンゴーレム」が出来上がる、素晴らしい配合だ。
 しかしこの配合はあくまで「氷河魔人が血統になった場合」である。「溶岩魔人が血統」になるこの場合、ワクワクしながらタマゴ鑑定士のところに行くと、なんと「溶岩魔人」が生まれているのだ。配合前に結果が見えないお見合いの仕様が悲劇の一助にもなっている。地獄に堕ちろ、マスター!!
 ファッキンテトに騙されて、溶岩魔人が仲間に居れば迷うことなく差し出す人が多そうだが、幸いな事に現時点での入手は非現実的。ここでのテトの発言は後々のためのヒントの意味合いが強いのだろう。

 そもそも何でテトは溶岩魔人を要求してきたのだろうか。ミッキーがリザードマンの相手にシルバーデビルを要求したり、マチコがライバーンの相手に鳥系を要求してくる事を考えれば、通常の通信によるお見合いとは全く異なる仕様であることは明らかだ。プレイヤー間の通信では、お互い自分のモンスターが血統になってタマゴが生みわけられるという大人の都合が炸裂するわけだが、そんなことになったらミッキー・マチコは大損である。仮に知識が無かったとしても、何らかの手がかりを持って臨んでいるであろう彼ら腕利きが、態々名指ししてまでそんな要求をする理由は見当たらない。であるならば当然、生まれてくるタマゴは両方「血統はこちら側で、サブは向こう側」でしか有り得ない。
 ……まあ、マスター(笑)のことだ。多分ありがちな勘違いをしたんだろう。ここで溶岩魔人を差し出していれば、お互いに立ち直れないほど深刻なダメージを受けるところだった。むしろ最初から溶岩魔人だったこちらよりも、氷河魔人を失う方がダメージはでかいだろう。あるいは彼もまた、スタッフの設定ミスによる犠牲者なのかもしれない……。

 と言うわけで、最善の選択肢は鳥系を差し出して「ホークブリザード」か、獣系を差し出して「グリズリー」の二択。
 ホークブリザードは、鳥系で成長が早くステータスも優秀。何よりビジュアルが超カッコいい。ゲーム的には「ザラキ」を覚えるのが非常に大きいのだが、セーブ&ロードが利かないこの世界ではザラキゲーをやるつもりは全くない。一方「グリズリー」はずんぐりむっくりの熊さんで、アホみたいに伸びる攻撃力が魅力的。正直甲乙つけがたいのだが。


「そうですか……。まあ、この際贅沢は言いません。何でも結構ですよ。」
「じゃあ、ゲレゲレとお見合いでお願いします。」

 リュカが事前の打ち合わせどおりにゲレゲレを指名。甲乙つけがたいのだが、今後の私の構想においてはゲレゲレの一手である。
 三つの特技のうち「疾風突き」「足払い」の二つが被ると言う非効率っぷりだが、この辺の習得特技は実は割とどうでも良い。

「生まれたタマゴは牧場に送っておきますね!」
「わかりました。ゲレゲレ、ゆっくり楽しんできてね!」
「ゲレ!」

 リュカよ、その「楽しんで」はドラクエシリーズ的には……いや、言うまい。
 それはそうと、割とノリノリでお見合いに向かうゲレゲレ。この世界では結婚した魔物は消えるわけではなく、牧場で楽隠居する漫画版設定らしい。いつでもリュカにはあえるわけだし、戦闘で役に立つ事こそできなくなるが「お見合いでよりチームに貢献できるなら」と独身魔物たちは割とお見合いに前向きである。いい奴らだ。
 丁度いいので冒険は少しお休み。王様謹製の凍れる時の秘法でリュカは睡眠も休息も必要としてないが、付き合う魔物のほうが軒並みスタミナ切れを起こしている。そんなこんなで一晩が過ぎ、星降りの祠に行くと早くも子供が出来ちゃってるよ、オイ。わかっちゃいたけど、行きずりの相手も良いところだろ。


 ひとまずはタマゴ鑑定士のところに税金を払いに行く。

「あ~ら、リュカちゃま! い・らっ・しゃい!」
「こんにちは、タマミさん。鑑定をお願いします。」
「グリズリーね。元気に育ってるみたいよ。期待してねって言ってるわ。敵の呪文や特技に少し強くなったみたいね!」
「そっかー、楽しみだなぁ。」
「どうやら男の子のようね。祝福もしていくかしら?」
「お願いします!」

 150ゴールドを払い、祝福を頼む。序盤にコレくらうと結構痛いんだよなぁ。

「くぁw背drftgyふじこlp;@~~!!」

 全く解読できない唄?を熱唱している。リュカドン引き。私もドン引き。これでタマゴの性別変わるってんだから、全く理解が出来ない。
 無事グリズリーのTSを終えた私たちは早速孵化させて連れまわす事に。リュカが抱き上げて頬ずりしてる。むう。
 今はまだ可愛らしい小熊♀(リュカ命名「モコモコ」)だけど、この子もレベルが1上がるごとに有り得ない上腕二頭筋の盛り上がり方とかしていくんだろうなぁ。

 残るお見合い相手は二人。まず一人は酒場の酔っ払い「キャットフライ」である。テリワンは何周もしているわけだが、コイツの活用法だけは未だによくわからん。オーソドックスに虫をかけても「せみモグラ」、鳥をかけても「暴れ牛鳥」と微妙な線。「暴れ牛鳥」をかけると特殊配合で、そこそこ合成で使えてステータスも優秀な鳥「モーザ」が出来上がる。これが恐らく本命だと思うけど、あとはもう正直良くわからん。今回はまたそれらとは別の使い道を決めてはいるが、まあこういった試行錯誤は楽しいものである。
 もう一人は王妃様と自身を配合しようと企んでる間男ミッキー。彼の出してくる「リザードマン」は育てるのに手間が掛かるドラゴン系というだけでも価値があるのに、その上個体としても超優秀。正直何をどうつけてもOKとすら言える。相手のご要望通りに「シルバーデビル」をつけるのが王道だが、一応既に腹案はあるので暫し放置を決め込むことに。
 

⑥バザーの扉

「次は『安らぎの扉』と『勇気の扉』だっけ。どっちの扉を選ぶの、わたぼう。」
「ここは『安らぎ』と言いたいところだけど、その前にバザーに行こうよ。」
「バザー? お肉はもうたっぷりあるよ。」
「いいから、いいから。」

 いわゆる一つの番外編『バザーの扉』である。酷い名前だ。別にストーリー的にはやんなくても良いのだが、せっかくだから私はこの第三の扉を選ぶぜ。
 まあ実際のところ、順番はどっちでも良かったりする。なんせこの辺はキメラ様一人いればどうとでもなる序盤のラスト。配合にイマイチレベルが足りてないやつらを連れまわす余裕すらある。何をどの順で作ろうが、中盤開始時には誤差になっている。ちなみに現在配合が最も遠いのは、成長の遅いドラン♂と、地味に同じくらい成長が遅いスラぼうである。初心者の時分はこの2匹とゴレムスを常時連れまわしていたせいでえらい苦労したものだ。
 と言うわけでまずは牧場に寄り道。ホイミンを下げ、とりさん・モコモコに加えてまさかのスラぼう再登板。


「まさか今一度この老体に働ける時がこようとはの。」
「ごめんね、折角休んでいたのに。」
「なに、気にする事はない。マスターのために力を揮えるなら、わしにとってこんなに嬉しい事はないさ。」
「ありがとう、スラぼう!」

 言えない。この後子作りさせるために人生経験積ませようとしてるだけだなんて、この老スライムにはとても言えない。
 その後、バザーでBBQやってた連中のもとへ向かう私たち。グレムリンを派遣してから丸一日経ってるのに、何故か連中まだあそこに残ってた。随分長いバーベキューだな、おい。何か背中が煤けているように見えるのは気のせいか。

「やあ、リュカちゃん。」
「こんにちは、おじさん。昨日「るくいえ君」って子にお手伝いお願いしておいたんだけど、どうなった?」
「ああ、あのグレムリンの子ね。きちんと火の魔法で手伝って貰えたよ。」
「そっかぁ、良かったー。」
「ハハ、ハ……。」


 ああ、なるほど。何か滅茶苦茶になってるBBQ器具は、熱線であるギラで切断破壊大爆発してしまったってとこか。
 
「それで、そのグレムリンはどうしたのかな?」
「ああ、精霊様。いや、王様に連れられて元の世界に戻ると言ってました。」

 ふむ、大体こっちの考えたとおりに進んだか。残骸の近くにはキラキラした泉のようなものが見えている。あれが通称「バザーの扉」だろう。何でこんなん出てきたんだろうか。

「リュカちゃん、お礼と言ってはなんだけど、新しい旅の扉を見つけたから是非使ってくれないかな?」
「え、本当? ありがとう、おじさん!」


 ここの世界のモチーフはDQ1のドムドーラ。ある程度レベルが上がって橋を越え、調子に乗ってアチコチ探索の手を広げている勇者達を絶望のどん底に叩き込んでくれる恐ろしい街である。しかしそれでもめげずに突貫する勇者が後を断たないのだが、それはまた別の話か。
 とは言えこのDQMではそこまで敵も強くない。むしろキメラ様に敵などいない。いつもなら格闘場で得られる事前情報が無いのはアレだが、ゲーム的には調子に乗ってAボタン連打とかしなければ余裕を持って突破できる扉である。回復はキメラ様のみだが、すぐにモコモコが主攻の役目を果たしてくれるようになるだろう。と言うかそれ以前に、ほぼ全ての戦闘が開幕氷の息で終了するわけで。強いて言うなら毒の沼フィールドが鬱陶しいくらいである。
 しかし世の中とは無常なものである。つい先ほどまで可愛らしいヒメグマだったあの子が、人生経験によって見違えるようなメスゴリラに。群がってくる「とさかへび」「ビーンファイター」「一つ目ピエロ」などを豪腕の一撃で悉く屠っていく。ああ、無情。
 前回仲間にし損ねた大鶏♀をはじめ、余裕を持って配合要員を適当に確保。うーん、キメラ様華麗すぐる。


 そして見つけたビキニアーマーの他国マスター。

「あ、他の国のマスターの人だ。急いで逃げなきゃ。」
「待って、リュカ。」
「?」

 これまでコソコソ逃げ隠れしてきたが、それも今日までだ。今日これからは、私たちが狩る側になるのさ!

「と言うわけで、リュカ。ゴー!」
「どういうわけで?」

 首を傾げつつも、女戦士に話しかけるリュカ。

「こんにちは、ボクはタイジュの国から来たリュカです。」
「あらま、かわいいマスターさんね。私はマルタの国のマスターよ。ちょっと付き合ってくれる?」
「もちろん!」
 
 いや、『付き合ってくれる』でバトルに普通はならないと思うよ。相手の構成は「シャドー」「こはくそう」「オーク」のバランスパーティー。勝った。
 特に奪いたい魔物もいなければ、霜降り肉があるわけでもないのでさっさと倒してしまうのが吉だろう。……しかし良く考えてみると、他国マスターからモンスターを強奪する所業に、リュカが賛成してくれるとはとても思えないな。しかも今回は旅のしおりテクが事実上使用不可なので、更にハードルがあがってるし。しゃーない、たまには全部自力で配合する縛りプレイでもやってみるか。

 他所事考えているうちに、あっさり戦闘が終了していた。うわ、ちょっとショック。女戦士からはポケモンバトルの賞金として、「キメラの翼」と「やさしくなれる本」を貰ったらしい。レアだ。
 結構ガッツリ戦ってきたので、恐らくスライムも熊もレベル10は超えているはずだろう。そのままゆきのふの店に向かう。ロトの鎧落ちてないかなあ。

 チラチラ見えてるこの扉の主「悪魔の騎士」をガン無視して、その辺のお店(廃墟)をうろつくと、

「いらっ……しゃい……。」
「また……きて…くれよ……。」

 などと、姿無き声が。うひい。
 お、リュカがプルプル震えてる。やばい、涙目モエス。

「わ、わたぼう。早くいこう?」
「心霊現象とか苦手なの? ゴーストとか平気でぶっ飛ばしてたのに。」
「だ、だってあれはゴーストだから怖くないもん。」

 いや、その理屈はおかしい。
 もうちょっと見ていたい気もするけど、私は苛めるよりも苛められたいマジでな人なので、リュカに手を貸して足早にぬしのもとに向かう事にした。
 すると会話も何もなく、悪魔の騎士はいきなりこちらに襲い掛かってきた。怖ぇよ。


「モコモコ強いねぇ。」
「うん、大体とりさんの二倍くらいかな。」

 余裕のリュカさん。戦況を見つめてはいるが、全く指示を出していない。
 まあ、キメラ様が唯一神である事には変わりないが、対単体火力としては最早グリズリーがぶっちぎりだろう。おぼろげな記憶でも火力にして約二倍の差があったはずだ。モコモコの一撃ごとに鎧がひしゃげて、ほとんど何もさせることなく勝利を収めた。

「……パシバル。」

 これひょっとして自己紹介か? 以降一言も言葉を発することなくついてくる。こちらとしても望むところではあるので、とりあえずスラぼうを牧場に戻して仲間に加えることにした。
 

intermission


 かの有名なアーサー王伝説において、聖杯探索の任を成し遂げたサー・パーシヴァル。でも私が想起するのは、もっぱら400Y飛ばす女の子の方である。あのゴツイ鎧の中からかわいい女の子とか、素敵やん? ファリエルはファルゼンだからファリエルなんであって、ファルゼンのないファリエルは最早ファリエルじゃないと私は思う。
 王妃様の部屋へと隠し通路を開くため、マドハンドとじゃんけんゲームをやるわけだが、なんとリュカがリアルラックで5連勝。本来酒場の酔っ払いから情報貰って勝つはずなのに、どういうことなの。
 ひとまず棚上げして王妃の寝室にもぐりこむ。予想通りチャラ男が王妃とちんちんかもかもしていた。 


「たのもー。」
「ん? なんだいキミは。ああ、今代の精霊様だっけか。僕に何か用ですか?」
「お兄さんがリザードマンのお見合い相手をお探しと聞いてね。」
「なるほど、ちなみにリザードマンが求めているのは『シルバーデビル』なんですが。」
「いや、残念ながらそいつはいないんだ。代わりに『悪魔の騎士』でどうだい?」
「……む。」

 チャラ男の反応はイマイチ芳しくない。それも当然か。

「……精霊様直々の頼みとあっては断るわけにもいかないが、あまりセンスの良い選択ではないね。」
「聞こえてるよ。キミの懸念は特技に関することかな?」
「そうですよ。悪魔の騎士は確かに強力な魔物ではあるが、リザードマンと悪魔の騎士では『けものぎり』『ギガスラッシュ』の二つも重複してしまいます。そちらとしても、ギガスラッシュを使える魔物が二体いた方が良いのでは?」

 まさかこんな反論が飛んでくるとは思わなかった。
 慇懃ながらもなーんか、こっちを軽く見てるっぽいよね。メンドイけどきちんと説明するか。


「まずはご心配ありがとうと言っておくよ。けどね、ギガスラッシュを二系統で保持し続けるなんて、コストパフォーマンスが悪すぎるんだよ。将来的にはさておき、二人もギガスラッシュの使い手必要ないしね。」
「一理ありますね。しかし特技が無駄になることも確かだ。」
「じゃあ一つ良い事を教えてあげる。この組合せで出来上がるのは悪魔系モンスター『ライオネック』さ。」
「!!」

 やっぱコイツラお見合いで何が出来るか、ある程度掴んではいても確信はしてないんかね。とりあえずハッタリが利いたようで何よりだ。
 一応特技を重視するならベビーサタンを出して冷たい息を習得するのも有力なんだけど、運用予定の都合上初期値がちょっぴり意味を持つので却下。まあぶっちゃけ誤差ではあるが。

「ライオネックの主な役割は、ボス戦における『ベホマラー』と『バギクロス』による雑魚掃討。これに必殺のギガスラッシュが加われば、それ以外の補助仕事は他の魔物の役割になるでしょ。」
「……わかりました。この組合せでいくとしましょう。」

 まあ、答え知ってるイカサマ勝負だからなぁ。無駄に疲れるだけだった。こういう真面目なの、キャラじゃないってのに。
 鑑定の結果、ライオネックは♀。この子はキメラ様引退後から終盤までパーティーを引率してくれる、貴重な魔物である。孵化・デビューはまだ少し先だが楽しみだ。



 あ、リュカがなんか拗ねてる。拗ねてるリュカもかわいいなぁ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
11/05
感想にてヨルさんの指摘を受け、テトとのお見合い部分を改訂



[22653] 第六話 B ~ オレはようやく 登りはじめたばかりだからな  このはてしなく遠い子作り坂をよ ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/25 22:37
 Eクラスクリア後のボトルネックであるミッキーとのお見合いを終え、ようやく一息つけた。ライオネックさんには、今しばらくの間スカイドラゴンさんと一緒に、タマゴのままでいてもらう。
 これで安らぎ・勇気の扉を突破しようが、Dランクに昇格しようが思いのままだ。だが、本流の配合を一気呵成に進める前に念のため、煩わしい細々とした雑事をまとめて片付けておく。これまでの道中で目に付いた魔物に適当に肉を投げつつ、擦り寄ってきた魔物を全て牧場直送していたため、バザーの扉冒険中に牧場が一杯になってしまったのだ。ここらで一度冬眠も視野に入れて在庫確認を行うべきだろう。


「問題解決の早道は、正しい現状把握と、結論からの逆算。というわけで、そろそろ牧場の状況を確認しに行こう。」
「? はーい。みんな元気にしてるかなぁ。」


 到着して、プリオに軽く挨拶。開放された牧舎を含め、まずはぐるっと牧場を見て回ることにした。

「こんにちは、スラお君。」
「やあ、リュカ。順調に仲間を増やしているみたいだね。」
「うん!」

 というか、増やしすぎたから戻ってきたんですよ。

「牧場には魔物とタマゴを19匹までしか預けられないよ。注意してね。」
「へぇー、そうなんだぁ。」
「魔物が一杯になったら冬眠させるといいよ。また新しく19匹まで預けられるようになるからね。」
「うん、わかった。教えてくれてありがとう!」

 感謝しているところ悪いが、このスラおの説明はあまり親切ではない。精確には「手持ちと合わせて最大20匹まで」である。手持ちに3匹いるときは17匹で満杯となってしまうのだ。丁度今のように。どうでも良い事だけど。
 プリオたちを通り過ぎてまっすぐ行くと、ビックアイ二匹がたむろしているところに出る。最近までずっと「ビッグアイ」だと思っていたのは誰にもいえない私の秘密だ。
 タイジュのてっぺんから下の方を見渡せる展望台があり、そこからの眺めはまさに価万両と言ったところ。柵のないところからリュカが身を乗り出そうとする。ちょっと、危ないってば!

「勇気があれば越えられる崖もあるけど、勇気があっても越えられないものもあるのですよ!」
「あ、ハイ。ごめんなさい……。」

 親切なビックアイがいち早く諌めてくれた。リュカは怒られてションボリしとる。うん。
 ……それはそうと、このセリフはもしかしなくても「勇気の扉」のヒントになってるのか。イチイチ芸の細かいゲームだ。
 最後は空に向かって釣り糸たれてる不思議おじさんを横目に、新たに解放されたモンスター牧舎に向かう。いつも思うけど、ここの魔物を仲間に出来れば楽なんだけどなぁ。


「はじめましてキノコさん。」
「あらあら、君が新しくやってきたマスターね。私はマタンゴよ、よろしく。」
「ボクの名前はリュカです。よろしくね。」
「私の甘い息は強烈よ。特にドラゴン系や獣系なんかの単純そうな魔物なら、面白いように決まっちゃうの。」
「へー、すごいなー!」

 さりげなく耐性情報ですか、そうですか。

「ふふ、君は良いマスターになりそうね。お近づきの印にコレをあげましょう。」
「わぁ! ありがとう!」

 差し出されたのは小さなメダル。くそぅ、私にタンスを漁らせないつもりか。その後も「アントベアがメタル斬りを覚える」だとか「ビックアイはヒャドが得意」だとかのお得情報を集めて、最後にプリオのところに戻ってきた。とりあえず、現在のモンスターリストを見せてもらう。


 まず第一に、配合強化も含めて、今後の柱として連れまわすメンバー。とりさん・モコモコ・ゴレムスの三匹。
 第二に、決めていた使い道のために狙って集めたメンバーとして、スライム・アントベア・軍隊アリ・ピッキー・ドラゴン・ベビーサタン・大鶏・ぶちスライム。
 第三に、何となく仲間になってたメンバーとして、人面樹・フェアリーラット・エビルシード・腐った死体・マドハンド・ベビーサタン(二匹目!)。

 ちなみにホイミンは、万が一ベホマラーを引き継ぎ落とした時の保険として、配合計画には含めないでおく。タマゴまで含めて総勢20匹。通常プレイに比べれば、かなり遅い集まり方だ。仕方ないか。


「でも気付かないうちに、案外あつまってたね。」
「そだねー。賑やかでみんな楽しそう。」

 なるほど。何か隠居したぴーすけやるーるーが新参どもを鍛えているようにも見える。もしやこれがオコボレ経験値の正体か。なわけないか。
 キメラ様が引っ張りだこなせいで、親子水入らずの時間を作ってやれないのが心苦しいが、もう少しの辛抱だから堪忍しておくれ。

「これからどうするの?」
「んー、まあある程度こちらでカップリングを指示して、♂♀親密になって貰わないといけないな。」
「お見合い?」
「そ。全部自牧場内だけどね。」

 メインで連れまわしてた連中には口をすっぱくしてカップリングの重要さを説いているので、コンセンサスは得られてると思う。ただ、完全に放置していたピッキーとかの野生度が酷い事になってそうだ。そこはリュカ様の対獣魅了スキルにおすがりするか。
 とりあえず第二グループまでの計画お見合いと、それ以外のグループを異性から隔離しておくようリュカとプリオに指示を与えた。


 その間に今後の一般勧誘対象を決めておく。さすがに適当に集めてただけあって、まだ何もかもが足りていない。
 今いる第三グループを適当に処理したとして、溶岩&氷河にむけて必要なのは「ドラゴン系」「物質系」「悪魔系」を数体とメダル王関連か。こんなことなら意地張らずにコドラを捕まえて、牧場で塩漬けにしておけば良かったな。小さなメダルも13枚集められるかはわからないので、サンダーバードの代替手段も、これとは別に考えておいた方が良いかも。
 更に考えてみれば、一番の鬼門は図書館の扉か。S&Lも何もなしで、100種も集まる気がしない。地味に性別も厳選している。一度突破した扉にまた潜るのも気が進まないし、なかったものとして諦めるしかないのだろうか。

 とは言え、そろそろ野生の魔物も大体レベル10近くからスタートになってるし、勧誘即配合戦力として使えるようになる頃だ。お目当てのものを阻害する特殊配合に引っかからないことと、性別に注意すれば殆ど達成間近か。
 しかし、溶岩魔人と氷河魔人引き抜きありの従来ルートなら、そもそもこんな苦労はいらないんだよなぁ。予定より一枠多く使うので、ライオネックさんの立場が微妙なことになりそう。リュカに嫌われないためとは言え、難儀な道を選んだものだ。



 ひとまず中盤ラストまでの道が決まったので、まずは今できる配合から済ませて、牧場に空きをつくる事にする。
 我等が愛娘、モコモコがついにお嫁に行くときが来た。早いもので、あの子が生まれてからまだ一日もたってない。
 モコモコはリュカの役に立てるからと喜んでいるようだけど……倫理的に大丈夫なのだろうか。

「それでは、お嫁に行ってきます。今までありがとうございました。」
「うん、これからも幸せに暮らすんだよ。」
「大丈夫なんだな。万が一喧嘩したって、どう考えても僕が負けるんだな。」

・ゴレムス×モコモコ⇒キラーマシン


 DQⅡの時代から、走攻守三拍子揃った恐怖のアタッカーの名を欲しいままにしているモンスター。モンスター?
 タマゴから生まれたのも衝撃だが、やっぱり生まれたてはサイズが小さく、手足も短くて見るからに耐久力に乏しい感じ。なんか丸っこいボールがチョコチョコ動いているみたいで愛嬌がある。しかしこやつもニョキニョキ手足が伸びていくのだろうか。世界は驚きに満ちている。
 リュカに抱き上げられて、ちょっと慌てているキラーマシン。なんだかイメージが違ってかわいらしい。親の前ではこんなものか。

「アイセンサー の 正常動作 を カクニン。アナタ が ワタシ の マスター デスネ?」
「そうだよ、これからよろしくね!」
「はい マスター。ハヤクお役に立てるよう頑張ります。」
「よし、じゃあ何かカワイイ名前を考えてあげなきゃね。何がいいかな、わたぼう。」
「えっ、僕に振るの?」

 今まで全部自分で考えてきたのに。
 いいのかい、私は4文字制限とか構わずに名づけちまうんだぜ。


「やっぱり『T260G』とか、『R66-Y』とか、イカスよね。」
「……わたぼう、それ全然カワイくないよ。」

 なにおう。有史以来、最もカッコカワイイロボの中の二柱だと言うのに。この辺のセンスが合わないのは将来的に不安が残る。結局リュカによって「ロボ」と名づけられたこの子。狼王か。
 将来的には攻撃系スキルが充実するので、母譲りの怪力が花開けば非常に頼もしい存在になるはず。なかなかHPが上がらず、大防御の維持が困難だが、そんなものは後からどうとでもなる。本来なら期待に胸膨らむところなんだが、最短だと次の安らぎの扉終わったら引退なんだよなぁ。この子らの成長・引退サイクルの速さ、俺屍ってレベルじゃねーぞ!


 更に、牧場放置の連中も順調に10歳を越えてきているので、随分前から温めてきた構想を走りださせる。

・大鶏×軍隊アリ⇒ダックカイト♀(+1)

 ダックカイトである必要は全くないのだが、千里の道も一歩からというヤツである。
 さすがにこいつは、おこぼれ経験値だけでレベル10まではいかないよなぁ。


 そして農場経営にも手を出さざるを得ない。

・人面樹   ×ベビーサタン⇒ガップリン
*エビルシード×ベビーサタン⇒ガップリン   (ベビーサタン二匹目はまだ配合可能レベルに達していないので、到達次第配合)

 中盤の農林資産はこのようにかせぐのだ、なんつって。
 無意味に死亡フラグを立てたが、コレまでに幾度となく繰り返してきたりんごの大量生産&大量消費なので、まず事故ることはないだろう。後に開放される扉でもぎ放題になるとは言え、今やれる分はやっておく。

 と言うわけで。

「おリンリンらんど、はっじまっるよ~!」
「おーー!」
「ノン! 『おー』じゃなくて、『わぁい!』でしょ!」
「……わーい?」

 うむ。そのうち絶対にリュカを女装させてみよう。いかん、スカート握ってモジモジ恥じらうリュカの姿とか、想像するだけでハートフルボッキすぐる。
 ちなみにこのリンゴたちは、見た目は非常に凶悪だがリュカに良くなついていて、ごくごく大人しい植物系男子。北野誠一郎伝説か。
 テキトーな肉食系ドラゴン女子に食わせることによって、垂涎の「アンドレアル」にジョグレス進化できる禁断の知恵の実でもある。成長は早いので基本は牧場放置でいいだろう。
 ひとまずレベル10に達して経験値の必要ない連中を、タマゴと共に冬眠に回す。次はタイジュの挨拶めぐりだ。

 
「こんにちはー。」
「おお、君か。いや、Eクラスでは見事にやられてしまったな。」
「おじさんもとっても強くて、いい戦いだったよ!」

 井戸の底の魔人を訪ねる。やっぱりどう見てもハーゴン様です。

「君を優秀なマスター見込んで、頼みたいことがある!」
「ボクにできることだったら、何でもお手伝いするよ。」
「実は今、魔物をよみがえらせる研究をしているのだ。」
「ええ?! そんなことできるの?!」
「うむ。しかしそれには雷の特技を持つ魔物が必要になったのだよ。」

 どこのフランケンシュタインだよ。1.21ジゴワットで過去へ未来へ飛ぶのかよ。戸田奈津子ェ……。

「どうだろう、雷の特技を持つ魔物を探してきてはくれんか?」
「うん。それじゃ見かけたら手伝ってもらえないか、頼んでみるね。」
「そうかそうか。うまくいったら、そこの婆さんをあげるとしよう。」

 いらねぇ。死ぬほどIRANEEE。


「駄目だよ! 冗談でもそんなこと言っちゃ。おばあさんが悲しむよ。」
「う、うむ。そうだな。確かに冗談でも良くないな。ならばお礼については別のものを考えておこう。」

 本気で怒ってるリュカ、はじめて見たかもしれない。私も何かビクッてなった。後ろ暗いことがありまくるからか。
 その後はメダル王にブツを渡し、いつものように格闘場めぐり。酒場の前で鞘当て繰り返しているライバルどもに絡まれてしまった。

「あいつは雷の特技を持つ魔物を持ってやがる!」
「俺のボーンプリズナーが居る限り、奴には負けん!!」

 解答乙。
 しかしなぁ。どうしようもないとは言え、ボーンプリズナー勿体無い。ここでこいつをドナドナする事で要らん苦労を背負い込む事になるのが何ともやりきれない。
 戦士のお兄さん達から安らぎと勇気の扉の情報を仕入れ、なんだかひさしぶりな気がする次の扉に向かう事に。


⑦安らぎの扉

 ぬしの部屋がカジノになってる世界だ。欲望の扉ではないのか。なんで安らぎなのか。理由が良くわからない世界。悔しいッ。でもボスのスライムファングからしてモンスターズオリジナルだし、特に元ネタ無いってのが実際のところだろうか。強いよね、ファング。


 と言うわけで恒例の戦略確認である。

「『大鶏・ぶちスライム・ねじまき鳥・ドラゴンキッズ・とさかへび・ボーンプリズナー・アルミラージ・腐った死体・暴れ牛鳥』!」
「うん、良くできました。えらいね、リュカ。」

 もう淀みなくスラスラ出てくるようになってる。

「今回の捕獲対象は、ねじまき鳥・暴れ牛鳥かな。あとボーンプリズナーにONEGAIするのを忘れないようにね。」
「りょーかい!」

 できれば「とさかへび」「ドラゴンキッズ(二匹目)」あたりも捕まえておきたいところ。しかしまあ、さすがに欲張りすぎだろうか。性別厳選することまで考え、杖・本としっぽ以外の全財産を金に換えて、肉類にオールイン。骨付き肉もそこそこあるし、何とか頑張りたいところである。

 ちなみに連れて行くのは当然のとりさんと、生まれたてのロボに、諸般の事情によりダックカイトだ。
 赤ん坊同然の2匹をいきなり同時に連れて行くのは本来ならば自殺行為だが、キラーマシンは既にある程度初期値はあるわけだし、二人ともあっという間に良く伸びるはず。何よりキメラ様が居るから大丈夫だろう。


「こ、これは……。」
「そのお肉がどうかしたの、わたぼう。」

 うっすらピンクに色味がかった肉。そこに幾多も走る脂肪の筋。そう、これはまさしく。

「霜降り肉だよ! 霜降り肉! 最高級のお肉ですよ?!」
「えー、脂身ばっかりであんまりおいしそうじゃないなぁ。」

 ちょ、この子相当な貧乏舌。まあ、自分で食べてみたいとか言い出さないだけマシか。
 そのまま探索を続けて、このパーティーで初めてのエンカウント。ここが今回の最大の山場である。





 キメラ様の開幕火炎の息で相手は半壊し、生まれたてのロボが一匹にトドメを刺して、後は消化試合でした。

「あっけねー……。」
「やっぱりとりさんは強いね!」

 リュカに撫でられて、嬉しそうにすりついているキメラ様。あんたもう相当なベテランでしょうに。
 例によって、ロボがAIBOサイズから一気に産業機械クラスのスケールに。解せぬ。ちなみにダックッカイトは遊んでた。 

 倒したねじまき鳥♀が起き上がりこちらを見ている。思い切って骨付き投げてよかった。とりあえず牧場に行ってもらう。ここから戻る頃には恐らくレベル10を越えていることだろう。
 その後も骨付き肉と燻製肉を使い分け、とさかへび・プリズナーを軽くゲット。さすがに何度やっても、ドラゴンキッズの二匹目を燻製肉でゲットすることは出来なかった。
 そして中層でアルミラージにエンカウントして燻製肉を投げてサクッと倒したのだけれど。


「逃げ足はやっ。」
「あっと言う間にいなくなっちゃったね。」

 まさかの逃亡。なんだあいつら、シルバーニアンファミリーとかか。再度投げたら問題なく仲間になったので、単に運が悪かっただけだろう。
 そして地下六層にて、ついに念願の機会が訪れた。


「あれ? なんだろうここ。」
「ここは道具屋だね。旅の扉の中で運が良いと出会うこともある幻の存在さ。泥棒しようとすると店主が最強の敵になるから気をつけるんだよ。」
「泥棒なんてしないよ。そんなこと言っちゃ、メッ!」

 オウフ。
 いや、今は道具屋だ。アホ程溜まってる天罰の杖シリーズと、運よく手に入れた本を原価で売りさばくとしよう。


「ここは道具屋です。どんな御用ですか?」
「買取をお願いするよ。天罰の杖四つに、やさしくなれる本一つ。」
「随分珍しい品ですね。全部で11000ゴールドになります。」

 イヤッッッッホォォォォウ! これでインベントリを圧迫する重量とも金欠ともオサラバだ!
 ついでに拾った薬草などの不要物を売り払い、ブルジョワ気取りで世界樹の葉を一枚購入。ふへへへへ、笑いがとまらない。
 道具屋を抜けるとそこは最下層だった。首尾よく暴れ牛鳥も仲間にして、道具袋を埋め尽くしていた燻製肉も最早すっからかん。いやー、充実した冒険でしたね。



「なんだろうここ。ゲームセンターってやつなのかな?」
「いや、ここは『カジノ』って言って、ギャンブルをするところだよ。」

 実際ここのどこに安らぎファクターがあるというのか。バニーのおねいさんだというならアリだな。

「ねえわたぼう、これってどうやるの?」
「ああ、それか。それはこの三つのボタンを押すと、この回ってる奴が止まるんだ。それで全部「7」の絵を揃えるといいよ。」
「わかった!」

 通貨は『魔物ゴールド』らしいが、スロットのプレイは何故か無料。どういうことなの。
 何の気なしに店内を散策して戻ってきたら黒山の人だかりが出来ている。どういうことなの。

「あ、わたぼう。おかえりー。」
「どういうことなの。」

 リュカの足元には魔物ゴールドのじゅうたんが出来上がっている。
 うわ、スリーセブン出したよこの子。
 え、もう一回スリーセブン?
 ……何回連続でジャックポットするのよ。

 類稀なる動体視力か、はたまたリアルラックのなせる技か。
 そんなリュカの元に怖い黒服のお兄さんたちがやってきた。

「お客様、更にスリリングなゲームがございますので、是非こちらに。」
「んー、でもコレあんまり楽しくないし、別にいいや。」
「そ、そうおっしゃらずに。是非お願いします。」
「じゃあちょっとだけだよ。」

 普通に考えれば身包み剥がされるフラグだよね。それでもリュカなら……リュカならきっと何とかしてくれる。
 連れていかれた部屋ではスライムらしきものが腕組み?をして碇ゲンドウごっこをしていた。

「良く来たな。さあ勝負を始めるぞ。」
「どういうこと?」
「早く座れ、座らないなら帰れ!」

 言葉のドッジボールすぐる。とりあえず釈然としない顔をしながらも座るリュカ。ちょっと君、私が言うのもなんだけど人に流されすぎじゃないかな?
 ラシャが敷いてあるテーブルに差し向かいで座る二人。傍らには新品のカードらしきもの。サシのカード勝負になるのだろうか。これ絶対向こうディーラー抱き込んでるよね。


「勝負はポーカーだ。ルールはわかってるな?」
「うん、ポーカーならわかるよ。」
「カードを切るのも配るのも、全てお前がやっていいぞ。」
「えー、そういうのはかわりばんこにするもんでしょー。」

 いやいや、リュカさん? これは我々にとっては望外のルールなんですよ?
 と言うか、リュカの返事に慌てているあちらさん。そりゃ想定外だろう。しかしこれってどういうことだろうか。事前に仕込めるとしたら、カードに向こうだけわかる印がつけてあるくらいしか考えられないけど。まさかガチの勝負を挑んでいるのか?

「ここでの決まり事は一つだけ。『必ず所持金を全額賭けて勝負する事』だ。」
「うん、わかったよ!」

 ちょ。

「よい返事だ。では始めるか。」
「ホイ、ホイ、ホイ、ホイっと。」

 口を挟むまもなくゲームが始まる。
 リュカの手札は最初からストレートフラッシュ。どういうことなの。

「では勝負だ。フフ……ストレートだ。」
「惜しかったね。ストレートフラッシュだよ。」


 あ、スライム固まった。
 なんだろコレ。本当にガチ勝負だったのかな。

「よ、よかろう。これが賞金だ。」
「うん、ありがとう。」

 マジで所持金倍になった。何だコレ。


「では次の勝負だな。」
「わかった!」


 ……ああ、そういうことか。
 ギャンブルにおける唯一つの必勝法は、「勝つまでやり続ける」こと。
 そして倍額倍額で勝負を繰り返していけば、何度負け続けても一度の勝利で全てがひっくり返る。彼我の資金差が圧倒的な場合に良く使われる強者の戦略だ。フォールドが意味を持たない平場ポーカーはまさにうってつけの勝負だろう。カモを引き込む巧い仕掛けである。いや、別にこっち負けても損とかないけどね。
 だが果たしてそう思惑通りにいくかな……。





 30分後。
 既に勝負は第12回戦に入っている。
 黒服全員涙目。スライムは変な汗かいている。

「……ツーペアだ。」
「フルハウス、ボクの勝ちだね!」

 ズダンと大きな音をたてて、テーブルに突っ伏す?スライム。


「今日はもう仕舞いだ。もうこちらには賭ける金が無い。」

 いやそうだろうよ。むしろ良くここまで頑張ったよ。見ているこっちがいたたまれなくなる位だったもの。
 雀聖と呼ばれた男ですらなし得なかった快挙に、スライムも完全に心を折られた様子だった
 しかしリュカ様は何やら考えているご様子。


「ん~と、確かこういう時は……。」
「どしたの? リュカ。」
「ママがね、『ぎゃんぶるに勝ったら必ず言わなきゃいけない事があるんだ』って言ってたの。」
「ふうん。」

 良いお手前でしたー、とかそんな感じかね。
 何の気無しに眺めていると、リュカはおもむろに相手に向き直り、満面の笑顔で。

「倍プッシュだ!」


 えー。何それ、『銭が無いならカジノの権利を賭けたらいいじゃない』的なあれですか?
 もうやめて! カジノのコインはゼロよ!

 あ、スライム泣いちゃった。あ、リュカめっちゃ慌ててる。どうやらコレにて勝負は終了のようだ。
 

「とっても楽しかったよ。またやろうね。」

 と追い討ちをかけるリュカ。そして笑顔であっさりチップを全額返却。何と言う豪気なオノコよ。
 そんなリュカに、黒服は全員五体投地して礼拝し、ファングちゃんマジで恋する5秒前。私だってもうアレですよ。びちょびちょですよ。主に感涙で。今すぐ高らかにスタンディングマスター……じゃなかった、スタンディングオベーションですよ。


 ちなみに何故全額返却したのか後で問うたところ。

「だって、あのコインはカジノのものでしょ?」

 ギャンブルが何なのか根本的にわかってなかったらしい。リュカの将来が不安だ。


intermission

 当然のようについて来たスライムファングを即配合。

・フェアリーラット×スライムファング⇒ユニコーン

 謳って走れる癒し系牝馬、ユニちゃん(♀)のお出ましだ。
 これから名前をつけるのだが、どうやらリュカは再度私にチャンスをくれるらしい。


「じゃあ『ティティ』はどう?」

 本当は「ティーティ」にしたかったんだがしょうがない。


「う~ん、もうちょっとカワイイ方がいいなぁ。」

 ちょ、SSH馬鹿にすんな?! いくらリュカでも許さんよ?!
 盗んだホースで走り出すよ?! わたしのアイバーマシンは凶暴ですよ?!

 かつてラボのサーバ管理の引継ぎ作業のときに「SSHって言ったらシナリオスーパーホースだよね」っていったら、後輩野郎どもに満場一致で「いや、埼玉最終兵器でしょ、女子高w」「本当に先輩は残念な人っすねw」とか言われたのと同じくらい悔しい。
 私が若干落ち込んだのを察したのか、結局名前は「ティティ」で決定する事に。当の牝馬はどこか不満そうにしているように見えるのは私の被害妄想だろうか。


「こんな何処の馬の骨とも知れない輩より、マスターに名付けて頂きたかったです。」
「ちょ、リアルポニーがそれを言う?!」

 私は精霊様なのに。タイジュで一番女神様なのに。



⑧勇気の扉

 牝馬な小生意気をリュカが宥めて一段落。
 しかしユニコーンか。伝承では処女が大好きという根っからのエロ種族だが、♀だとすると……。これは警戒せざるを得まい。
 リュカはまだエロイ事とか興味なさそうだが、私なんかあの年頃には既にエロ本ソムリエとしてご近所に名を馳せていたからな。


 気を取り直してサブ系統の配合を進める。

・腐った死体×暴れ牛鳥⇒ヤタガラス

 ヤタガラス!!
 何で私の大好きな、日本神話の霊鳥ヤタガラスがゾンビ系なのか。遺憾の意を表明せざるを得ない。
 

・ダックカイト×アントベア⇒暴れ牛鳥♀(+2)

 何とも芸のない配合だが、色々あるのさ。


・ピッキー×ねじまき鳥⇒ヘルコンドル

 なんでこんな優れた鳥(物質系だけど)があんなところに落ちているのか。乱獲されて絶滅していないのが不思議である。




 ちなみに勇気の扉の出現モンスターは、ベビーサタン・ビーンファイター・一つ目ピエロ・花魔道・人喰いサーベル・大ミミズ・暴れ牛鳥。ぬしのビックアイは仲間にならないという誰得仕様。ぶっちゃけ通常プレイでは行く意味が薄いが、折角だから私は以下略。
 物質系「人喰いサーベル」と悪魔系「一つ目ピエロ」が狙い目。配合には使わないけど「花魔道」も好きなので、燻製肉くらいだったらあげてもいいかもしれない。
 部隊構成はやはり頼れるベテラン部隊長キメラ様に、生まれたてのユニコーンと、同じく生まれたてのヤタガラス。いつもの如く引率のキメラ様は、そろそろ伸びしろが厳しくなってきた頃か。ライオネックへの交代時期が近い感はあるが、まだまだ第一線で戦う実力は十分。

 今回重要なのは、お留守番中の「暴れ牛鳥.Lv1」をおこぼれ経験値でLv10まで成長させるという、無意味に難易度が高いミッション。いや、もう一回入りなおしてレベル上げすれば良いのはわかってるんだけどね。「またここでデートなんだ?」とかリュカに愛想尽かされたらトラウマになってしまう。
 ゲーム的には必要経験値は330。仕様がそのままであれば大体6分の1くらいが入るはずなので、経験値2000程度を稼ぐ必要が出てくる。モンジイに聞いた安らぎの扉前後での経験値の溜まり具合を考えれば、多少ウロチョロしてガッツリ戦えば問題ないはずだ。不安があるとすれば、冒険中は経験値が明示的でないことくらいか。

 この扉では花魔道の放つベギラマにさえ注意しておけば、そうそう事件が起こることはない。いつもどおりキメラ様による蹂躙がなされるだけである。一つ目ピエロと人喰いサーベルを無事確保。さらにビーンファイターまで何故か勝手についてきたが、花魔道は残念ながら燻製肉を投げても仲間にならなかった。
 最下層のぬしの部屋へ。DQVのラーの鏡がある塔を思わせるスカイウォーク。なぜぬしがビックアイなのかは誰にもわからない。大人テリーがやってきて無駄足踏むような気がしていたが、別にそんなことはなかったぜ。


「勇気があれば越えられる崖だってあるんだよね!」
「あれ? キミ、タイジュの牧場に居た子だよね?」

 衝撃の新事実発覚。確かに偶然の一致にしてはできすぎている。
 なにやら気まずい沈黙が落ちた。


「……君に勇気があるか試してあげるよ!」
「え、えー?!」

 酷くやけっぱちな感じで戦闘開始。
 いきなりビックアイの中級氷結呪文「ヒャダルコ」がこちらを襲った。ヤタガラスがカチンコチンになり、ちょっと危険な雰囲気だ。

「ッ! みんな『いのちだいじに』!」

 リュカにも或いは油断があったのだろうか。慌てて回復の指示を飛ばすも、とりさんのベホマとティティのべホイミだけではジリ貧になる可能性がある。完全に戦闘の主導権を持っていかれた。ちとパーティー編成を配合・育成に偏らせすぎたか。ヤタガラスが完全な穴になっている。
 私の後悔を他所に、リュカはディフェンスに徹しながらも、少しずつ相手にダメージを蓄積。相手も回復としてホイミを使うようだが、こちらにとってはむしろありがたい話である。しばらくは我慢比べか。
 数度の攻防の後、ヤタガラスの「なめまわし」が徐々に決まり始め、こちらに形勢が傾いてきた。リュカが一気に勝負を決めるべく指示を飛ばす。

「とりさん・ティティは一斉攻撃! やたはそのまま頑張って!」
「イエス、マスター!」

 まったくと言って良いほど「めいれいさせろ」を使わないリュカ。その信頼に応えるべく、気合の入った攻撃が集中する。と言うか、リュカって一度も戦闘から逃走して無いんだよね。ブレイブブレイドが欲しくなる。
 えらいタフで史上最長の厳しい戦闘となったが、ビックアイが目を回して無事勝利。いつぞや危惧した必要以上の慎重さは鳴りを潜め、しっかり機に乗じてくれた。立派に成長したなぁ。
 しかし当然ビックアイは仲間にならず、ニコニコ笑ってこちらを見送る体勢だ。若干の徒労感と共に帰国。今はただ泥のように眠るとしよう。
 



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
11/10 以下の配合を第七話冒頭に移動

・とさかへび×ガップリン⇒アンドレアル
・スラぼう×暴れ牛鳥(+2)⇒はねスライム(+3)
・ヤタガラス×一つ目ピエロ⇒死霊の騎士
・キラーマシン×ユニコーン⇒キングレオ♀



[22653] 第七話 B ~ クラスなんて飾りです お子様にはそれがわからんとです ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/11 15:28
「またせたね、スラぼう。今日はこの雌鶏ちゃんと子作りしてもらうよ。」
「おお、お待ちしていましたぞ精霊様。そうですか、これが最後のご奉公ですな。しかし、すけまさの娘ですか。奴と共に駆け抜けた日々を思うと血が滾ってくるようじゃわい。強い子が生まれるように精一杯頑張るとしますよ。」

 おじいちゃん、無理しないで! 「精、一杯」とか見栄張らないで!
 若い子とできるからって滾る気持ちは死ぬほどわかるけど、ハッスルし過ぎてぎっくり腰になったりしたら目もあてらないよ! 腰ないけど。
 いいよなぁ、昔の子達は。きちんと精霊様に敬意を払っているもの。第三世代くらいからの最近の若いもんは、リュカにばっかりアホみたいに懐いて、私に対する敬意とか好意とかその他諸々が全く足りてない。


・スラぼう×暴れ牛鳥(+2)⇒はねスライム(+3)
・ヤタガラス×一つ目ピエロ⇒死霊の騎士

 スラぼう、すけまさ、ぺたぺた。この冒険の最初期を支えた男達。彼らの血がひとつに合わさってこの羽スライムが生まれた。まだ折り返し地点にも来ていないこの系譜だが、ちょっと感慨深いものがある。
 最近ずっと2枠占有し続け、慌しく配合を重ねてきたこれら二つのサブ系譜。次の扉でしっかりレベル10にできれば、ひとまずはお休みである。若干綱渡りな中盤の配合スケジュールだったが、タイムリミットに何とかギリギリ間に合ったようだ。


・とさかへび×ガップリン⇒アンドレアル

 忠臣のイメージが強いアンドレアル。DQ4においてはそのセリフで他の四天王との格の違いを感じさせつつも、戦闘に入ると何故か三体出てくるとか、更に仲間を呼んで増えつづけるとか、ボスなのにクリフトのザラキがものっそい輝くとか、大層ネタ性の強いモンスターだった。
 テリワンにおいては非常に作りやすい&特殊配合が超優秀と言う事で、グレイトドラゴンを完全に喰ってしまう竜族の稼ぎ頭だ。これで早くも一匹目。着実に理想に近づいている。まあさすがにアンドレアルはそう簡単に配合できないだろうけど。

「早くリュカ様のお役にたてるよう、精進いたします。」
「ありがとう。でも無理せずに、ゆっくり成長していってね!」



⑨井戸の扉

・キラーマシーン×ユニコーン⇒キングレオ♀

 レオ様誕生! レオ様誕生! レオ様誕生!
 ついにDQMのエースオブエース、レオ様が華々しくそのデビューを飾る時が来……てねぇ。
 もうしばらくはライオネック先生ともども、タマゴのままでいていただく。

 あー、テンション下がりまくりング。諸般の事情でこんな間抜けなことになるとは。あーあ、レオ様でメタスラ狩りをしたかったなぁ。
 戦力的な意味で若干初戦に不安が残る今回の部隊構成は、いつもの如く引率キメラ様に、お供は生まれたての死霊の騎士とはねスライム。この二匹と各種縛りの絡み合いとでレオ様が割を喰うことに。それにしても、タマゴから生まれたとき既に死霊ってどういうことなの……。


 配合を終え、星降りの祠を出ると。

「おい、リュカ!」
「あ、サンチ。どしたの?」

 なにやらロリはお怒りの様子。

「お前はいつまでたっても弱いなぁ。いつまでEクラスでウロウロしてんだよ。早くDクラスくらい突破しろよ!」
「うーん。でも冒険は楽しいよ?」

 ツンデレすなぁ。私の認めたリュカが、こんなに弱いはずはないってね。かわいいものだ。
 レオ様が生まれて心に余裕がある私は、ロリの戯言を華麗にスルー。ついでに王妃様の部屋を冷やかして羽スライムを見せてやり、霜降り肉を手に入れた。これで二つ目だ。井戸の底のギガンテスは比較的簡単に作れるので無理をして仲間にする必要はないが、キングスライム間の転換にも使えるし、回りまわって小さなメダルの保険としても働くので、ここは肉を与えてやることにする。コレでほぼ確実に捕獲できるだろう。


「こんにちはー。実験どうなりましたか?」
「お、おおリュカ君。」

 何やら慌しいと言うか、部屋?が異様に汚いと言うか。

「実験はご覧の通り失敗だよ! 大釜が木っ端微塵になくなってしまった。」
「ええー?!」

 逆襲のババア、やっぱり発生したのだろうか。イベントフラグをリュカがへし折ったんじゃないかって、ちょっと心配だったから一安心。

「折角骨を折ってくれたのにすまんなぁ。かわりと言ってはなんだが、新しい旅の扉を見つけたので好きに使ってくれて構わんよ。」
「本当? どうもありがとう!」



 今回新しく出現する魔物は、大ナメクジ・スライムツリー・泥人形、そしてメタルスライムである。さすがに仲間にならないだろうけど、原作よりもはるかに逃げにくくなってる気がするし、ぜひとも一匹は狩りたいものだ。浪漫的な意味で。
 優先捕獲対象は泥人形のみ。物質系は結構貴重。勇気の扉で捕まえ損ねた大ミミズも出てくるので、鎧ムカデを作るならここのコンビが役に立つ。今回は余裕が無いのでパスするが。スライムツリーとかも、凄く可愛くて大好きなんだけどなぁ。貧乏が憎い。

 初戦、花魔道とボーンプリズナーのコンビを氷の息2発で危なげなく突破。新米二人も防御していればベギラマくらいは大した脅威にならない。ニューエイジ代表の二匹も順調に成長を遂げ、幸先のよいスタートを切れた。その後もスライムツリーが何故か仲間になったり、メタルスライムに逃げられたり、他国の神官をフルボッコしたり、メタルスライムに逃げられたり、泥人形を仲間にしたりしながら、割とあっさり最下層に辿り着いた。
 さすがにレベル10は軽く越えているだろうが、全探索が面倒で途中かなり手抜きをしてしまったのは秘密だ。



「あ、いたよ! あれがぬしのギガンテスじゃないかな?」
「待って、リュカ。まだ迂闊に動かないで!」


 本来はこのタイミングでワルぼうがやってくるはずなんだけど。そういや守りの扉のときも来なかった気がする。
 ここのぬしの部屋は、そこかしこに落とし穴があいていて、ワルぼうの動きをヒントに正解の道を探すというミニゲーム仕様になっている。謎だ。
 ゲームじゃ落とし穴に落ちてもこの部屋に戻ってきていたけど、不思議現象がゲーム仕様どおりに起こる保証はない。気を張って暫くワルぼうの訪れを待っていたけど、どうも来る事はないようだ。
 ふむ、ならばリュカに今一度、タイジュの精霊の偉大さを思い出してもらおう。


「精霊魔法発動! 『月の導き(シャイニングロード)』!」

 井戸の扉・最終層のトラップ地帯においてのみ効果発動!
 こいつは歩むべき道がぼんやり光って見える気がすると言う非常にニッチな魔法だ。

「あ、なんか床がぼんやり光ってる……ような……?」
「よし、リュカ。この導きにそって歩いていこう。」


 正直このミニゲームの意味もよくわからん。最初はあの忌まわしいロンダルキアの洞窟を模した世界かと思っていたが、ギガンテス自体は洞窟を抜けて雪原からの出現だったはずだし、そもそもBGMも雪原関係なかった気がするし。でもあれめっちゃ良い曲だった。
 しかし懐かしいな。もう20年近く前になるのか。小学生の頃、親父のMacにDQ・FFのピアノソロ曲、全曲打ち込んで悦に入っていたのは良い思い出。ああ、ロンダルキアの洞窟の事を思い出したら胸が苦しくなってきた。あんなに必死で手書きマップ作ったのは、あれが最初で最後だったよ。しかも越えたと思って超喜んでたら、出会いがしらに即殺されて。相手はギガンテスじゃなかったかもだが、思い出したら本当に腹たってきた。
 この昂ぶりをギガンテスにぶつけてやろうと思い、奴の目の前に立ったのだが。


「うほっ! うまそうな にくがいる!」

 アッー!?
 まずい、こいつ最凶にして最悪の敵、変態だー!?

 思わずムンクの叫びのように、口を菱形っぽくして取り乱してしまったが、万が一の場合には何を犠牲にしてでもリュカの純潔を守らねば。
 リュカも何かを感じるところがあったのか、早々に警戒体制に入る。ならば私も動き出すとしよう。


「右手から霜降り肉、左手から霜降り肉。精霊魔法! バイ降り肉!!」

 効果:二つの霜降り肉と引き換えに、仲間になりにくいぬしを仲間にできることが結構ある。

 いやでも、非生産的なガチホモどもは滅殺したほうが70億の人類社会のためになるよな。悩ましい。あ、ちなみに耽美系BLとかわいいおにゃのこ同士の百合百合は文化なので別です。
 ……二つ同時に投げても駄目な気がするので、ひとまず肉を頭の後ろに両手で持ち、どちらの手から投げるか分からなくさせる。昔ドッジボールの必殺技として、何十回と練習した動きだ。外すわけがない。


 そんなふうにアーティスティックに肉を投擲している私と、まずは様子見とばかりに特に指示を出さずに注意深く戦況を見守るリュカ。ごん太い棒を振り上げるギガンテスの動きは酷く緩慢で、とりさんたち三匹の攻撃が次々に決まる。しかし全く怯んだ様子が無い。スーパーアーマーか。
 しかしどうせ反撃にしたって、所詮単体攻撃しか持たない脳筋。キメラ様のベホマで無力化できると私は気楽に考えていたのだが。


「ギョーーーーッィ!!」
「とりさんッ!」
「……ゑ?」

 ギガンテス♂のぶっとい棍棒が恐ろしい速度でとりさん♂の引き締まった肉体に突き刺さり、セルジュニアのような悲鳴が上がる。
 信じられないほどの勢いで、優に10メートル以上吹き飛ばされたキメラ様。そのまま横たわって、ピクピクと細かく痙攣していた。

 え、だって……え?
 ギガンテスの攻撃は単体攻撃で、キメラ様はいつでもべホマ使えて……え?

 私の頭の中は真っ白に。リュカが必死に立て直そうとしているのが見えるけど、ただ単に見えているだけで、意味のある情報として脳が処理をしてくれない。そのままはねスライム・死霊の騎士と順に屠られて、初めての全滅を喫することになった。
 悠然と去っていくギガンテスの背を見送り、必死に魔物たちの手当てをしているリュカを見て、ようやく体が動くようになる。イレギュラーに弱い自分がこんなに嫌になったのは久しぶりだ。
 応急処置を終えたらしいリュカに声をかけて、ひとまず王宮に戻ることにする。本格的な治療を行うならそこがいいだろう。魔物たちはある程度回復して動き回れるようになっているので心配はなさそうだが、リュカに変なトラウマが残らないか心配だ。



*電車でD

 まさかの全滅で手持ち一万ゴールドの半分を失い、ももんじゃのしっぽ以外の消費アイテムを全て失った。いや「まさかの」などと甘い事を言うのはやめよう。完全に私の考えが甘かったのだ。
 ひとまずギガンテスの事はあとで考える。あるいはあの扉は永久封印と言うのもありだろう。何か腹立たしいし、もう会いたくないし。リハビリ代わりに格闘場Dクラスに参加し、気分を変えたいところ。
 リュカも全滅直後はショックを受けていたが、とりさんやはねスライムが必死に甘えたおかげで、保護者としての自覚が呼び覚まされたらしい。死霊の騎士はそんな彼らの傍らに控えて周囲を警戒してた。
 本来全部私がやる仕事だったんだろうけど。ていうかリュカの好感度上げ損なってしまったな。
 

 第一試合は「ミノーン」「花カワセミ」「マッドプラント」の植物系パーティー。いずれも良いモンスターだが、やはりこの中では花カワセミが別格か。とは言え最早我々とは地力が違いすぎる。こちらのキメラ様によるベホマ・死霊の騎士によるべホイミを突破できる火力が相手に無い以上、こちらの負けは万に一つも有り得ない。MPも充実してきているし、三戦程度で枯渇する事もまた有り得ないだろう。
 先制はとられたものの被害はほとんどゼロ。反撃の氷の息・ベギラマ・ヒャドの三連打で瞬殺した。

 第二試合は「キラースコップ」と「メドーサボール」二匹。メドーサボール欲しいなぁ。
 キラースコップは漫画版ではやたら男前に描かれていたが、やはりこの戦いでは何も出来ず。「多少」攻撃力が高いくらいでは、やはりこちらの防御を突破する事はできなかった。


 最終試合の相手は、タイジュ有数のマスターであるミッキー。わざわざアナウンスで「にんきもの」とか言ってるあたり、まさかあの某ネズミーマウシーをリスペクトしてたりするんだろうか。そういやお見合い後に「ハハッ」とか言ってた気もする。

「やあ、誰かと思えば君なのか。」
「こんにちは、今日はよろしくお願いします!」
「うんうん、君は素直でよい子だね。」

 そうでしょう、そうでしょう。私の自慢の旦那様よ。もっと…、もっと誉めてちょうだい(フルフル
 ……ん? 君「は」?

「僕とのお見合いが役に立ったみたいだね。」
「ハイ! とっても!」
「それじゃあ、君がどれくらい強いのか教えてもらおうか!」

 ミッキーのパーティー構成は「キラーパンサー」二匹と「さまようよろい」と言う攻撃的パーティー。どれも単体で見れば良いモンスターだけど、回復を疎かにするやつは三流だとあれほど。てかお見合いで得たモンスターはどうしているのか。タマゴのまま放置している私が言うことでもないが。
 キラーパンサーの疾風突きが連続で炸裂するけど、正直かすり傷程度。その後ベギラマといなずまで相手を削り、とりさんの通常攻撃で一匹キラーパンサーを沈める事に成功。


 なんとぉーっ?!
 さまよう鎧の痛恨の一撃がとりさんに直撃。結構な体力を持っていかれたように見える。あれは恐らく魔人斬りか。なんだかハードラックとダンスッちまってるここ最近。屋上の牧場に行って、お払いとかしてもらうべきなのか。
 しかし即死さえしなければ、単発攻撃に対しては実質不死身のベホマ持ち。リュカも二発目を警戒して常に体力を回復しながら戦う作戦に切り替えたようだ。うむうむ。
 一瞬肝を潰されたが、あとは予定通りの消化試合。さくっと次に進むとしよう。
 

intermission

 Dクラス勝ち抜き後、リュカが大臣に連行され謁見の間に。
 話はわかってるけど、一応私も裏口からこっそり覗いておくことにする。

「おお、リュカよ。よくぞDクラスを勝ち抜いた! 今後はCクラス以上を受ける事を許そう。」
「ありがとうございます、王様。」
「……と言いたい所なのだが、実はリュカよ。」
「?」
「力と怒りの部屋の、旅の扉の様子がおかしいのだ。恐ろしい数の魔物が出現しておるらしい!!」

 中盤での強制イベント、怒りの扉の暴走だ。クリアするまでは格闘場挑戦も止められてしまう。
 恐らくDQ6のアークボルト通行止めを模したのだろう。あいつら強かったよなぁ。

「これは主催国として見過ごせぬ問題だ。直ちに力と怒りの部屋に赴いてくれぬか?」
「ハイ、わかりました!」
「うむ。わしは忙しいのでこれで失礼するが、この異変の原因をどうか突き止めて欲しい!」
「頑張ります!」

 なんだかなぁ。もうちょっとこう、あれがないかなぁ。


 それはさておき、ここで正義感に溢れる世のテリー君たちは、タイジュの国を救うため颯爽と怒りの扉に向かうのだろう。
 しかしそんなものは一切放置して、まずは酒場の酔いどれとのお見合。怒りの扉クリアで消滅するのでこのタイミングが最後のチャンスだ。


・はねすら+3×キャットフライ⇒ぶちスライム♀(+4)

 普段は暴れ牛鳥をつけて、ステータスの優秀なモーザを作ることが多いけど、今回は血の浪漫と各種縛りを追及してこの形に。はねスライムの王道を強く後押しする力になって貰う。いや、ほんとぎりぎりだった。
 このあとは急ぐ必要が無いので基本牧場放置だが、酔いどれさんのキャットフライは良い特技を持っているので、引き継ぐためにもどこかで一度連れまわす必要がある。枠がたりねぇ。


 続いて再びミッキーをたずねる。
 Dクラス突破後にも発生する新たなお見合い。しかし、こいつは本当に良い加減にしてほしい。優秀な魔物を提供してくれるのはいいけど、移り気ってレベルじゃない。
 リザードマンも「Eクラスクリア~Dクラスクリア」と他の二人に比べて不自然に短い期間だった。しかし今回の死霊の騎士に至っては「Dクラスクリア~怒りの扉クリア」とかドンだけ一瞬だよ! かつてDクラスクリア後、「怒りの扉から魔物大量発生? じゃあ片しにいくか」と自然に進み、お見合いに気付かなかったのは幾周ほどか。そりゃ普通に進んで気付かないわ!


「これはこれは、精霊様。相変わらずお耳が早いようで。」
「そういう君も相変わらず頭の回転が速いよね。」

 どうやらこちらの用件は知られている様子。手っ取り早いので都合がよい。軽くヨイショしつつ、面倒でたまらない交渉に入る。

「こちらは『死霊の騎士』を用意してきたよ。どうかな?」
「わかりました。早速配合いたしましょう。」
「あれ? 意外とあっさり決めたね。」
「私の頭の回転が速いとおっしゃったのは精霊様でしょうに。」

 そりゃそうなんだけど。ミッキーの死霊の騎士には他にも色々と有意義な配合あるし、今回のコレは完全に私の都合で、しかも特技なんか3つ全部被っているのである。まあ、多少は信用されていると言う事かな。

・死霊の騎士×死霊の騎士⇒死神貴族♀ 

 何はともあれ、コイツのおかげで氷河魔人が見えてきたのは確かだ。


 肉を買い込んだら、次は中盤のクライマックス「怒りの扉」。この扉を境にタイジュの国の様相が一変する。
 そしていよいよおあずけされてたレオ様のデビュー戦である!




[22653] 第八話 B ~ お見合いで松たか子と結婚できるなら、私だって喜んでお見合いするよ ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/25 21:22
「我、誕生!」

 レオ様孵化ッ! レオ様孵化ッ! レオ様孵化ッ!
 圧倒的レオ様孵化ッ!


「わたぼう、なんだか凄く嬉しそうだねぇ。」
「あー、やっぱりわかる? わかっちゃう?」

 いやー、嬉しいねぇ。私テリワンの中で、レオ様が一番好きなのよ。勿論性能がよい、特技が強烈というのも、確かにレオ様の大きな美点である。しかし私がレオ様をこよなく愛している理由はそれだけではない。
 何と成長が普早(!)なので、その気になれば好みの特技を詰め込んだ獣を重ねがけする事によって、好きな特技をいくらでも一本釣りしながら超速で再強化サイクルをまわす事ができる点である。これはロック鳥についても全く同じことが言える。この特質のおかげで、特技引継ぎに比較的労力を割かざるを得ない晩成タイプに比べて、面倒な下準備が必要なく、あっという間にとりあえずの最終形態(ver1)を作り上げることが出来るのだ。あとライオンさんだし。
 いやー、私キモイ。よく言われるけど私キモイ。私の顔はきっと気持ち悪いくらいニヤけている事だろう。


「うーん、名前はどうしようか。」
「『レオさま』! 断然『レオさま』!」

 ほとばしる熱いパトスのままにリュカに主張する。

「ふむ。塵芥にしては気の利いた名付けよ。」
「うーーーーん。でも『にゃん子』の方がかわいくない?」
「い、いや主よ。我は精霊の名付けも気が利いていて良いと思うぞ?」


⑨怒りの扉

 我様キャラのレオ様♀にひき続いて、ライネ(ライオネック♀)の孵化も実行した。

「マスター、そしてキメラ先生。これからご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。」
「うむ。ライネには私が引退した後の部隊指揮を執ってもらわなくてはならないからな。期待しているぞ。」
「一緒に頑張ろうね!」

 いやー。色々あったけど、中盤の骨格がようやく形になって来たね。
 相変わらず顔はにやけていると思われる。


「わたぼう、しっかり気を引き締めなきゃだめだよ。タイジュの国がピンチなんだから。」
「はーい。」

 この子、私の事良く見てる。私、見られてる。
 続けてリュカが戦略確認会議を開催。新しい子供達にいいところを見せようと頑張っているのか。愛い奴め。


「お兄さんの話では『おおみみず・ポイズンリザード・おおなめくじ。・キャットフライ・メーダ・アニマルゾンビ・ドラゴスライム』が出てくるんだって。『毒消し必須、ドラゴスライムの火炎の息に注意』なのと『ぬしのバトルレックスが使う魔人斬りは恐ろしい特技』らしいよ。わたぼうからは何かある?」
「うん。ドラゴスライムは必ず仲間にしたいな。できればポイズンリザードも。」
「危険だから?」
「いや、単純に僕の都合だよ。」

 メーダは別にいいかな。ドロルとか作っても扱いに困る。キラーグースは既にあてがあるし。
 アニマルゾンビはいても困らないくらいか。何故バリイドドッグではないのかと小一時間。

 そして毎回思うが、あの格闘場の面々はいつ扉に潜って、しかもボスにまで対面してきているのだろうか。
 実際にプレイをしてみるとすぐわかるはずだけど、ドランゴは実は魔人斬りを習得していない。当然戦闘でも使ってこない。つまりこの格闘場のお兄さんは実際に戦ってもいないのに知ったかぶりで指南をしてくれる非常に恥ずかしい人なのだ。まあ私だってネットの知識とかで知ったかぶりをすることもあるので、あんまり言えないけど。

 ちなみに今回のパーティー構成。まず退役間近で数々の伝説を打ち立ててきたベテラン・キメラ軍曹。これまで数々の新兵を引き連れて戦場に赴き、その全てを立派な兵にして連れて帰ってきた。
 そんな軍曹の最後の弟子は、満を持してこの世に生まれ出でた助教ライオネック。ここのぬしのバトルレックスは火炎の息が強烈。そのためにここにライオネック様を持ってきたと言う側面もある。ただ、ゲームにおける本来のチャートならもっと早くから戦線に加わって、引率役としてそろそろ完成間近のはずなんだけど、その辺の遅れがどう響くか。
 そして我等が未来のエースストライカー、キングレオ様。第四世代なので例によって初期値も高いし、更にレオ様は成長も早い。ドランゴは強敵だけどきっと何とかしてくれるだろう。
 
 絶対勧誘対象はさっきも述べた「ドラゴスライム」。普通はひくいどりにするのだけれど、今回は小さなメダルが集まるかわからないので、サンダーバードを手軽に作るための保険として確保しておく。
 あとは以前捕まえ損ねたドラゴン系のかわりとして「ポイズンリザード」あたりか。最終階層で出てくるエリートドラゴンキッズが仲間になるなら嬉しいが、シンボルエンカウントだし二匹目だし、多分無理だろう。



「ここは通しません!」
「さあ、貴様らも我が糧となれ!!」

 初戦はポイズンリザード二匹。さすがにキメラ様の氷の息だけでは瞬殺とはいかなかった。しかし生まれたてのレオ様がめっちゃトドメさしてる。ライネはさすがに第二世代なので、そこまで初期値は高くないが、それでも普通に戦えている。ふうむ。
 その後恒例の成長タイム。二人ともよく伸びているが、特にレオ様に関して言えばあっという間にキメラ様を追い越しそうな勢いだ。


「ライネ。君はただ攻撃すればよいと言うわけではない。戦況全体を見渡し、味方が危険な状態に陥らないか常に気を配る必要がある。」
「わかりました、先生。精一杯努めます。」
「レオ。君の火力は大したものだ。しかしいずれは相手の力量を見抜いた上で、必要な攻撃を選択できる知者になって欲しい。取るに足らない相手に全力など、王者としての華麗さに欠けるとは思わないか?」
「ふむ、先生の言うことにも一理あるな。」


 普段は背中で語る寡黙な男のキメラ様であるが、今回最後の仕事だと薄々わかっているからか、受けた毒を癒してやりながら弟子二人を盛んに薫陶している。リュカを母親と勘違いして「ママー」とか後をついて行っていた頃が何とも懐かしい。そのことをネタにすると本気で怒るから、脳内で再生してニヤニヤするに留めているけど。
 弟子二人も生真面目さんだ。ライネは健気にもキメラ様の役割を受け継ぐべく、必死に学ぼうとしている。レオさまも口では偉ぶりながらも、きちんとキメラ様を敬っているようだ。素直か。
 その後も子供達のため、地道に戦闘をこなして行く。二階層目にしてレオ様がレベル10に達したらしく、べホイミを覚えなさった。レオ様はやすぐる。そして今後恒例となる技忘れタイム。


「べホイミ・ベギラマ・ボミオス・氷の息・ヒャド・キアリー・身代わり・足払い・マヌーサ。レオさま、沢山覚えたねぇ。」
「フフ。主よ、もっと褒め称えても良いのだぞ?」

 これだけ多芸なら、手持ち無沙汰になったときにも一人あや取りで楽しくフィーバーできる事だろう。

「とりあえず今後もザオラルとか覚えるけど、基本的には攻撃系かな。」
「でもわたぼう、ヒャドと氷の息を両方残すのは無駄じゃないの?」
「うーん、一概にはそうとも言えないんだけど。」

 例えば今連れてるライネは「メラ・ギラ完全無効」だけど、「炎の息」は強耐性。とは言えドランゴ戦ではそれで十分なんだけど。
 まあ、そこまで気にする話でもないか。


「じゃあ氷の息を残そうか。あとはべホイミくらいかな。マヌーサ・ボミオスあたりは使わないだろうけど、ルカナンが入ると面白いからね。無駄にとっておくとしよう。」
「ぬ、我はベギラマを取っておきたいぞ。氷と炎の二重属性など、カッコいいではないか。」
「うん? うーん。ベギラマは君が本来覚える特技だし、ここで残しておいてもあんまりメリットないというか。ここのぬしは炎耐性強いし。」
「ぐぬぬ……。」

 まあ大した選択でもないし、尊重するか。

「じゃあ今回はベギラマ残す感じで行こうか。でもこの先もっと良い特技覚えるからね。そのときには忘れてもらうよ?」
「ふむ、よかろう。」

 しかしレオ様万能すぐる。次の扉あたりで凍える吹雪にクラスチェンジしそうだし、そうなれば懐具合次第ではあるが、雑魚戦に限っていえば暫くは無双状態だ。
 ついに吹雪か。第二世代のキメラ様では、レベルが足りても最大MPの壁に阻まれて到達できなかった憧れである。世代を重ねる事によって、ようやく辿り着ける。そうなると既に空気となりつつあるライネちゃんが若干いらない子と化してしまうな。
 そんな風に要らない事を考えながら。ずんずん下に降りていく。キメラ様の火炎の息とレオ様の氷の息で、大抵の敵は何も出来ずに沈んでしまう。息だけに頼った戦いは燃費が高くて危険だけど、この二匹のMP量ならばそこそこ保つうえ、通常攻撃も馬鹿強いためにこの戦略も無理なく成立するのだ。
 おおなめくじの「受け流し」に肝を冷やしたり、ザオラルのかわりにベギラマを捨てさせたりしつつ、順調に六階層目に到達。そしてそこに待っていたのは。


「迷いの森キチャッタコレ。」
「迷いの森?」

 恐らくはDQVの迷いの森を模したであろう特殊フロア。正解の道を選び続けないと、事ある毎にスタート地点に戻される悪夢の迷路だ。何が悪夢ってアイテムとか一切落ちていないんだもの。一切の得が無い、純粋なマイナスステージである。うへえ。

「なんだか迷路みたいでワクワクするね。」
「うん。『みたい』じゃなくて、『そのもの』なんだけどね?」
「主よ、早く行こう。」

 子供は物事を楽しむ天才だな。心なしかレオ様もワクワクしているように見える。子供か。
 世の小学生どもを絶望に叩き落しただろうと勝手に思っている迷いの森。正直マッピングなしで進めるものかと思っていたのだけれど。


「あれ? もうゴールだ。」
「何だ、つまらぬのう。」

 いや、なんでさ。何で一度も迷わずにゴールに着いたりするのさ。

 
「何というか、リュカってよく『運良いよね』って言われない?」
「えー、どうなんだろう。あ、ひょっとしてパパから貰った幸運のお守りのおかげかな?」
「お守り?」
「うん! パパが『私にはもう必要のないものだ』って、ボクにくれたんだ。」

 なんでも、「兎の耳・金属っぽい布・靴のかかと・小さなボタン」の欠片が入っているらしい。何そのカオス。
 その後あっという間に下層を抜ける。途中他国の神官狩りをしたとき、溶岩魔人3匹連れてるとか冗談みたいな編成に遭ったのはぐぬぬ。拾っていた霜降りを私がどれだけ投げたかったか。
 ポイズンリザードとドラゴスライムは無事捕獲して、肉も与えてないのにキャットフライまでついて来た。最終メンバー降臨の準備は着々と進む。あとは時間との戦いだ。あー、牧場に帰ってアンドレアルのレベル10越えてたら嬉しいんだけど。


 最終階層にて。居並ぶドラゴンのタマゴ達。これが怒りの扉暴走の原因である。イケメンのテリーさんがやってこないかと一応待ってはみたんだけど、案の定やってこず。どうしたものかと思案しているうちに、タマゴが一斉に孵りだした。中から出てきたドラゴンキッズ(高経験値)がこちらに殺到してくる。
 いやぁ、何かバイオベース思い出して背筋がブルッと来たわ。

「わわ、すごい勢いで押し寄せてくるよ!」
「リュカ、ドラゴンキッズの受け流しには注意してね!」
「わかった!」

 とは言え、リュカは相変わらず命令をしない。だからそれじゃ危ないんだってば。
 すでに全ての面においてキメラ様を凌駕しているレオ様が先頭に立ち、圧倒的な膂力で竜の子らをなぎ払っていく。こわすぐる。しかし受け流しによる被害はいくらか出たものの、キメラ様とレオ様のベホマ・ライネのべホイミのおかげで、レオ様が戦闘不能になるという最悪の事態にはならなかった。
 結局ドラゴンキッズすべてを気絶させた後、こっそりぬしのほうを窺えば当然の如くお怒りである。


「この世で我が種族が最も繁栄する事……。それが我が望み。貴様、私のタマゴを……。」
「えっと……ごめんなさい。でも子供達は目を回してるだけだよ?」
「いいや。その行い、断じて許さぬ!」

 繁栄云々は断たれてないんだけどなぁ。まあ子供いじめられたと思っているのなら当然の反応か。
 
「リュカ、バトルレックスは炎熱系に強い耐性、氷雪系にも弱耐性があるよ! ブレス攻撃は賢くないからね!」
「わかったー!」

 まずは開幕ガンガン。ドランゴもそこそこ素早いはずだが、キメラ様とレオ様の物理攻撃が突き刺さる。結構タフな相手だったはずだが、明らかに効いている。ドランゴが反撃に火炎の息を撃ってくるも。


「効かぬ!」
「効きません!」

 ところがどっこい、こちらは三匹全員火炎耐性持ち。特にライネは強耐性である。既にちょっぴりオーバーキルの予感。大人気なくドランゴに照準合わせすぎたか。続いて放たれたライネの真空斬りは、ドランゴの堅い防御に阻まれて有効打にはなっていない様子。火力担当じゃないし、仕方ないね。デビューが予定通りだったらベホマラーで万全だったのに。
 そうは言っても、勝ちは戦いが始まる前から決まっているようなもの。魔人斬りを覚えていないドランゴ。メタル系が一人も居ないこちらの編成。あとは耐性によって対策済みである火炎の息を連打するしかないと言う寸法だ。何と言う嵌め技。彼を知り己を知れば百戦して殆うからず、ってね。
 ライネはディフェンシブにして、ツートップの殴りでゴリ押し。レオ様の気合溜め攻撃とか、見てるだけで痛すぎる。乱数に全く左右されない戦略なので、当然事件など起きようはずもなく、あっさり勝負がついてしまった。


 リュカは相変わらずの手並みでドランゴを骨抜きに。まさにドラゴンクエスト状態!



intermission

 しかしあれだな。ゲームやってる最中はこの辺で「タイジュに来てからもう何日かたってるけど、親御さんたちは心配でないのかな」とか要らん心配をしたものだ。ここでは時間の流れ方がそもそも違うと言う話だったか。なんでも異世界と扉を繋ぐ時は、過去も未来も好きに時代を選べるらしい。因果律とかどうなるんだろう。個人的には夏への扉が好きなので、パラレルワールドとか安易な感じがしてあんまり好きじゃない。


 王様からテキトーな労いの言葉を賜っているリュカ。
 そんななか、カレキ王襲来。なんか曖昧な感じの足取りで、大丈夫か?

「おぉ……この国は精気に満ちておる喃。」

 とりあえず仲良しオッサンズの会話を聞き流しながら待っていると、急に体がモゾモゾしだした。やだ、何この感覚。体の表面を虫が這いずり回るような感じで……いやいやいや。
 言うまでもなくこれは怒りの扉クリア特典、タイジュの成長によるバザーの追加である。ゲーム的には旅のしおりが出てくるのが一番でかいのだが、この世界では一体どういう扱いになるのやら。ひとまず牧場にもどって、最早恒例となった感すらある挨拶回り開始である。

「あ! 象さん!」
「象さん好きなの? キリンさんより?」
「え?! キリンさんも好きだけど……。」

 いかん困らせてしまった。好きな子を困らせて悦ぶとか、私は小学生男子か。……メンタリティ的には大差ない気がしないでもない。
 ちなみにこの象さんは仲間の成長限界を教えてくれる。レオ様は貫禄の76。某へルマンの王子様並である。一方ライネととりさんは驚いた事にどちらもレベル47が限界だそうだ。ライネが低いと見るべきか、とりさんが高いと見るべきか。
 続いて順路に沿って歩いていくと、牧場右奥にある断崖がタイジュの成長によって繋がり、織姫彦星状態だった悪魔の騎士とリップスがチュパチュパしてた。おいスタッフ、もうちょっと対象年齢考えて擬音使ってください。

「おお、見てください! 崖がつながりました! タイジュの精霊よ、感謝します!」
「そうねー(棒)」

 必死にリップスから焦点を外す。俗に言う遠山の目付けである。何かセルフモザイクかけたみたいになって余計卑猥になった。


「あの子たち、やっと一緒に慣れたんだ。良かったね。」
「そうだねー(棒)」

 私ちょっと前までケモナー気取ってたけど。異種姦バッチコイクリムゾンとか言ってたけど。
 駄目だわ。リアル駄目だわ。ファンタジー限定だわ。ふわふわもふもふの可愛い獣っこまでだわ。リップスとかないわ。
 ……そんなことより重要なのは、新しい旅の扉が使えるようになったことである。

「この扉に入るの?」
「うんにゃ。まあ入ってもいいんだけど、まずはきちんと挨拶回りしよう?」
「うん、挨拶は大事だよね!」


 おじさんが釣り上げたらしい小さなメダルを譲ってもらい、メダルおじさんのところに寄る。扉の向こうで拾ったものと合わせて現在8枚。うん、微妙。13枚集まるのを待ってたら手遅れになりそうだ。プランBだな。とか言ってみるテスト。
 続いて格闘場。Cクラス挑戦が可能になったのは良いのだけれど、最終戦は何故かテト君。君いつの間に勝ち抜いてたの?
 とりあえず挨拶にいくと、なんとそこには綺麗なテトが。


「こんにちは、テトさん。Cクラス勝ち抜いたんだってね! おめでとう!」
「ありがとうございます、リュカさん。Cクラスの最終戦ではよろしくお願いしますね。」
「ハイ!」

 まあ素直と言うか謙虚と言うか。実際この短期間でGクラス~Cクラスまで駆け上がったわけで。ゲーム中で出世したマスターは、主人公を除けばテトのみ。ばっちゃが見込んだとおり、才能はあったのだろう。当然リュカとは比べるべくもないけど。
 しかし今回は登録せずにパーフェクトスルー。そのまま奥へと向かう。


「あいつは雷の特技を持つ魔物を持ってやがる!」
「俺のボーンプリズナーが居る限り、奴には負けん!!」

 いつまでボーンプリズナーが主力なんだよ。いや、それ以前に何と言うか……。もうあれだ、お前ら結婚しちゃえよ。
 ライバル達をもスルーして酒場に入ると、そこには魅力的なおねいさんが。


「はじめまして、私はマチコよ。」
「はじめまして、ボクはリュカです。」
「ふふっ、元気の良い子ね。お近づきのしるしに私のライバーンとお見合いしない?」
「えっと……。」

 リュカが困ったような顔でこちらを見る。おっと、別にマチコさんの大胸筋に見とれていたわけではないですじょ?

「折角なんだけど、もうちょっと準備する時間が欲しいかな。」
「あら、こちらも可愛い子ね。リュカちゃんのモンスターかな?」
「あー、何かそれでもいいかなと最近思ってたりするんだけど、違うよ。この国の守護精霊、わたぼうさ。」
「あらあら、まあまあ。こんなに可愛い子が精霊様なのね。」

 なにこの癒し系おねいさん。ライバーンとかどうでもいいんで、私のところに嫁に来てくれませんか?
 無意識のうちにふらふら引き寄せられ、気付いたら抱き上げられていた。ぬう、中々の脅威である。彼我の戦力差は絶大だ。柔らかい。いい匂い。女の子の胸には夢が一杯詰まっているので、何が言いたいかというと顔をうずめられるおっぱいは正義。大小貴賎なしとは言うけれど、やっぱりおっぱいは正義である。


「もう、わたぼうったら。迷惑かけちゃ駄目だよ!」
「ををう?」
「きゃっ。」

 ベリっと音を立てるようにして、おっぱいから引き剥がされた。折角夢見心地だったのに。これはあれだな。私とマチコさんの余りの親密さに嫉妬したとかそんな感じだな。間違いない。

「で、どう? お見合い。私のライバーンは鳥系が好みよ。」
「うん。暫く待ってもらえれば、あなたを満足させる最高の鳥を用意するよ。」
「ふふ、可愛らしいのにとってもお上手ね。それじゃあ楽しみに待ってるわ。」

 どうも軽くかわされてしまった。あたりまえか。
 ゲーム的にはここから第二次お見合いブームが到来。テリワンではお見合いセッティングが楽しくてたまらない。私はやたらとお見合いをすすめて来る、親戚のお節介なおばちゃんか。やばい数年たたずに嵌りそうで嫌だ。あー、どこかに私の食事の面倒見てくれて、優しく膝枕して励ましてくれる松たか子とかいないかなぁ。

 その後酒場の主人から「マルタの恐ろしいマスター」の噂を聞いたり、ももんじゃの尻尾について戦闘中にも効果のある事を教えてもらったり、マドハンドの兄弟がいる事を聞いたり。そのまま王妃様の部屋に遊びにいくと、ミッキーに袖にされて火照る体を持て余した王妃様が、新たな間男「メダルおじさん」を引き込んでいた。なんでも王様と良く似ているから招き入れたのだとか。のろけか。
 若干白けながらメダルおじさんに話しかけると、彼はある事実の口止めのためお見合いを申し込んできた。

「スライムファングなんじゃが、どうじゃろう。」
「まあ獣系が無難だよね。アルミラージとかどう?」
「ふむ。確かに無難じゃな。それでは耳寄りな情報をひとつやろう。井戸の底の旅の扉をずっと下に行くとメタルスライムに会えるそい。」

 遅いよ。もう会ったよ。
 多少ゲンナリしつつも、今度はマスター養成塾に。
 ちなみにできるのは当然ユニコーン。使い道は色々あるが、ここはかつて捕まえ損ねたギガンテスのかわりに、ぶちキング⇔キングの転換に役立ってもらおう。ホイミ・ザオラル駄々被りだけど、ぶっちゃけ些細な話である。



「キアリードラキー キアリクつむり キアラルねじまき シャナク死霊の トラマナ浮遊樹 レミラーマはメーダ……。」

 養成塾の門前で、番頭さんが周期表の語呂合わせみたいな呪文を呟いている。語呂合わせなんかする位だったら、「世界で一番美しい元素図鑑」の一冊でも買った方がずっと建設的なのに。しかしここで貰える「光の波動」のヒントは、気付きにくいけど地味に重要である事も確かだ。
 サンチがリュカの試合を欠かさずに見に来ているリアルツンデレだと言うどうでも良い事実が判明。全く気にすることなくバザーへ行く。


「あ、新しいお店があるよ!」
「うん、ちょっと冷やかしてみようか。」
「やたっ!」

 案外この子、ショッピング好きなのよね。そして「冷やかし」の言葉は聞こえていただろうに、ニッコニコの笑顔で店主が声をかけてきた。

「いらっしゃい。何か見ていかれますか?」
「あの、あの。この綺麗な石はなんですか?」
「おお、お目が高い。これは世にも有名な『賢者の石』ですよ!」

 そんなもんがごろごろ店先に並んでいてたまるか。と言いたいところだけど、効果はマジモノなんだよねぇ。壊れやすいところは鋼のよろしく劣化コピーなのかもしれないけど。
 他にも今後の冒険で必須となるであろう、MP回復アイテム「魔法の聖水」。一個あると安心度が違う「世界樹の雫」「世界樹の葉」。そして嬉しい骨付き肉。最後に、ゲームだったら急所となるであろう、このアイテム。

「店主、この『旅のしおり』とやらはどう言った品なんだい?」
「おお、さすが精霊様。それに目をつけられるとは。ご慧眼恐れ入ります。」
「いやいいから。どう言った品なのさ。」

 なーんか、いやな予感がするねぇ。

「なんと、そのしおり。冒険中にいつでも読書を中断できると言う優れものなんです!」
「そんなバカな。」

 『読書』を何かの暗喩ととらえるべきか。しかし「リセット」のやり方も分からない現状、あてにしない方が良いだろう。今までどおりだ。
 とりあえず、骨付き肉3個と、魔法の聖水1個を購入。全滅のせいでそれほど金銭に余裕があるわけではない。必要になったら買い足していく事にしよう。
 そしてタイジュの最下層に赴き、マドハンドとのジャンケン対決を制する。ここは確かノーヒントだったと思うけど、リュカのリアルラックの前には何の意味もなかった。これで格闘場の扉も開いた。


 挨拶回りの締めとして、星降りの祠に赴く。幸いにして、アンドレアルのみならず死神貴族までレベル10を超えていた。予想外の出来事にほくほくしつつ、予定の配合を着々と進めていく。


・マドハンド×ドラゴスライム⇒ギズモ
・泥人形×アンドレアル⇒メタルドラゴン
・ポイズンリザード×ガップリン⇒アンドレアル
・ドラン×死神貴族⇒スカルゴン
・ぶちスライム(+4)×ぶちスライム⇒ぶちキング

 お見合いキャットフライからのバイキルトとスクルトを消滅させるのは惜しいが、速度を優先する事に。でも舐め回しはぐぬぬ。
 死神貴族のベホマラーは別にどうでもいい。というか、無理に保持しようとすると死が見える。
 次の扉での目標は、最後の律速条件となっているアンドレアルを、おこぼれ経験値でレベル10にすること。うん、それ無理。



 そして、いよいよ最大の功労者引退のときである。


「マスター。今までありがとうございました。あなたと共に駆けた日々は、私にとって何よりの誇りです。」
「とりさんこそ、ありがとうね。」
「あなたは私にとって、父であり、母であり、最高のマスターでした。願わくば私の子にとってもそうならんことを。」
「うん! 約束するよ。ボク、精一杯居頑張るから!」


 リュカめっちゃ泣きそう。でも必死に泣くまいと我慢している。正直そそる。



・キメラ様×ドランゴ⇒グーちん(キラーグース♂)

 ちなみに今回は完全に照準合わせて準備していったから楽勝だったが、基本的にはドランゴは強いボス。そしてどこかのドラゴン(笑)とは違って、仲間になっても非常に強い。ボスが急激に強くなるこの辺り、恐らく製作側としては初心者への救済措置として配置したのだろう。
 勿論普通に強いので、慣れた人でもそのまま使う事は多い。だがしかしレベル20のドラゴン系では、例によってこのあとの成長が遅いのも確か。特にこだわりが無いなら、計画的に配合を重ねて戦力に余裕のあるパーティーの場合、即配合に使うのがセオリーだろう。アタッカーとしてはほぼ上位互換であるレオ様がもういるし。
 と言うわけで、本プレイでは頭打ちになりつつあるキメラ様の糧になってもらう。合計レベル40越えで余計にボーナスもつく。

 そもそもキメラ様が生まれたとき、態々鑑定してまで性別♂と確定させたのは、要するにこのためである。普通キメラからキラーグースを作るならドラゴン系orゾンビ系でさえあればOK(マチコさんとのお見合いにキメラ様を差し出して涙を呑んだのは良い思い出)。さらにバトルレックスは本来特殊配合素材として重宝する。
 だがここは引退するキメラ様の血を次代に継ぐべく、ドランゴさんには聖鳥の系譜に嫁入りしてもらう。浪漫。キメラ先生の最後の弟子であるライネさんとレオ様が、彼の子供を鍛える浪漫。と言うか、ドランゴならその高いステータスによって、キメラ様のお相手として申し分ない。かなり初期値の高いキラーグースになる。
 良いキラーグースを作るなら、養成塾の秘伝を取り込んで、死霊の騎士が持つ「キアラル・シャナク」を活かし、お見合いで「光の波動」を持つ個体を狙うのも相当な通ではある。ドラキー×ねじまき鳥等を経由して親鳥を作っておくと、ベホマラーに光の波動持ちと強力なキラーグースができあがるが、そうでないならただの資源の無駄遣いになる。今回は氷河魔人も自前で作らなきゃならないし。


 生まれてきたグーちんに、姉二人が声を掛けている。

「キメラ先生は偉大な方でした。我々が分担している事を全て一人でこなし、ずっとこの部隊を支えてきたのですから。あの方の名前を汚さぬように精進するのですよ。」
「ヒャッハー、両手に花だー! これハーレムじゃね? ハーレムじゃね?! 俺、絶頂!! なんつって、なんつってー!」 
「このうつけが……。」


 キメラ様の血を継ぐ英国紳士が生まれるかと期待していたら、出てきたのはイタリア紳士(笑)だったでござる、みたいな。




[22653] 第九話 B ~ 利用する者 される者 ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/25 22:02
 ライネのMPが思うように伸びず、ベホマラー習得が遠いのが気がかりではあるけど、次の扉は育成の都合上ライネさんを外してアンドレアルIN。
 ギズモは多分おこぼれ経験値だけでもいけるだろう。

「レオ、あの愚弟のことをお願いしますね。」
「フム。安心して我に任せるがいい、と言いたいところではあるがな。」

 二匹が目を向けると、そこには。

「レェェェッツ、パーリぃぃぃぃ!」
「ぱーりー!」

 狂ったように踊っているグーちんと、それに釣られるようにして楽しげに踊っているリュカ。
 いやまだ誘う踊り覚えてないよね?


「……お願いしますね。本当に。」
「……努力はする。」


⑩力の扉

 色々いける扉が増えているが、順番は正直誤差でしかない。
 ここのぬしはバラモス城でお馴染み「うごくせきぞう」。銭湯とかで見かけそうな、ゴッツイ半裸のローマ人である。
 有名なセリフ「みーたーなー」はサマンオサの印象が強いが、最下層のBGMはDQVだった気がするので、実際にはレヌール城にて聞ける方なのだろう。しかしDQVでのモンスターデザインは何故か他のシリーズ作品とは異なり、ぶっちゃけ土偶戦士。なんかもう、色々間違ってる。

「今回の扉で新しく出てくるのは、『スカルライダー』『ふゆうじゅ』『フェアリードラゴン』だね。どれも仲間にしておいて損はないけど、特に『ふゆうじゅ』がお勧めかな。便利な呪文『トラマナ』を覚えるし、『呪いのランプ』を作るなら必須の魔物だしね。」

 ここで捕まえられる浮遊樹は、地味に優れた魔物である。トラマナは後半のバリア地帯においては、かなりありがたい特技。更に呪いのランプにすると、王妃様のミッションクリアも勿論だが、トラマナに加えてスクルト・バイキルト・メガザルも覚えてくれる。もう使ってしまったが、泥人形が相手だとハッスルダンスまで覚えるので、余裕があれば中盤の補助役に是が非でも組み込みたいところ。余裕ないけど。

「えっと、注意するのは『スライムツリーは麻痺攻撃が危険。ぬしは動く石像で、物質系はヒャドや吹雪に強い』だったよね。」
「そうだね。まあ、ぬしとの戦いではブレスなんか使わないから、全く問題ないんだけど。」


 初戦、さすがにレオ様一人では瞬殺とはいかない。アンドレアルは防御体勢。グーちんは何か離れたところをふらふらしてる。
 追撃で危なげなく勝ちはしたものの、レオ様はいたくおかんむりだ。

「おい、愚弟! 貴様なんだ先の戦闘は!」
「ヒャハハー、怒っちゃやーよー。」

 姉の小言を無視して、逃げるようにパーティーを離れるキラーグース。
 とりあえず休憩と言う事にしたが、やはり落ち着きなくあちこちうろつき、レオ様は既に処置無しと諦め顔。リュカはちょっと心配そうだ。
 仕方ない。面倒だけどここは私が一肌脱ぐか。よたよた後を追いかけていって、背後から声をかける。

「しかしあれだね。君は珍しくリュカに懐かない子だね。親と一緒にいるのが恥ずかしいのかい?」
「……。」

 注視していなければ気付かないほどの僅かな硬直の後、元の態度に戻ってふらふらしながら更に離れようとする。
 黙って暫くついて行くと、リュカたちに声が聞こえないであろう場所まで来た時、背を向けたまま答えを返してきた。



「……そんなことはねぇよ。マスターの事は尊敬してるし、一緒にいると心があったかくなる。オヤジが偉大な奴だったってのも何となく知ってる。魂に刻まれた記憶とか、そんな感じで。だけど俺はオヤジじゃないし、オヤジの代わりだなんて真っ平ゴメンだ。」

 あー、なるほど。確かに姉二匹は口を開けば「キメラ先生」「キメラ先生」だったな。やけに饒舌な所を見るに、結構溜め込むタイプだろうか。
 でもこのまま腐らせてても多分いい事ないし、この手の子供は反骨心煽った方がまだ結果が出やすいだろう。実際ポテンシャル高いし。万が一潰れちゃったら、まあ、そのときはそのときだ。

「なるほど、偉大な親への劣等感か。よくあるチープな悩みだね。」
「アンタに一体何がわかるってんだ!!」
「わかるさ。僕は精霊様だからね。だったら、父親を越えてやれば良いだけさ。」
「……マスターにはもうライネさんやレオ姐がいるのに、俺みたいなのが今さら一体なんの役に立つってんだよ。」

 いい感じに乗ってきた。

「……いや、そうか。アンタだったらそれがわかるんだよな?」
「頭の回転は速いようだね。いい事だ。勿論役目ならあるよ。」

 そのために君を生み出したのだから。


「……頼む、聞かせてくれ。」
「君の成長速度は姉二人の比ではないし、そもそも戦闘だけが魔物の役目と思ってるなら、それは大きなミステイクさ。」
「本当なのか? こんな俺でもマスターの役に立てるのか?」
「立てるとも。他の二人にはない役目、それは聖鳥の血を次代に継ぐことさ。君が死に物狂いで強さの限界を究めれば究めるほど、君の血を継いだ子供がリュカ達を助けてくれる。」

 あっさり乗ってくるかと思いきや、何か苦しげな表情をして考え込んでいる。

「……俺の子供に同じ思いをさせようってのか。」
「成程、引っかかったのはそこか。まあ、それはその子の選択と心の持ちよう次第だよ。もう君には選択肢をあげた。あとは君がどう生きるかだね。」

 さすがに扉ひとつでレベル30まではいかないだろうけど、やる気と初期値は高いにこした事はない。
 しかしあれだな。まるで悟ったような事を言う自分に内心で苦笑する。そこはかとなく敏腕営業マスコット染みてきたか。


「クソッタレ。お前のその、俺達を道具としか見ていないような態度は心底気に入らないが、マスター達のためだ。口車に乗せられてやるよ。」
「ッ!」

 そう言って去っていくグーちんの背中を見送りながら思う。
 そんなつもりは、なかった。ゲームの世界に入り込んだのは確かだけれど、そこで生活を営む連中までがフィクションでないことは知っているはずだった。少なくとも「私はそう思っている」と思っていた。だが改めて明確に指摘されてみれば、魔物の扱いについては全く反論できない事に気付いてしまった。
 そして、見透かされていた。なるほど自分を騙せても、自分では隠しているつもりでも、世代を重ねて成長してきた子供達にはずっと見抜かれていたと言うことか。存外にショックを受けている自分が、何だか可笑しかった。



「……難儀なことだね。今さら宗旨替えをするわけにもいかないし。」
「大丈夫? わたぼう。」

 いつの間にかこちらに来ていたリュカが、心配そうに聞いてくる。
 私と違って、純粋に相手の為に真剣になれる、心根の優しい子。

「ああ、大丈夫、大丈夫。いや、適材適所って大事だよねって話。」
「??」

 だからこの子はモンスターに好かれる。それは恐らく、モンスターを手駒として見てしまう私ではどうにもならない事。
 だとすれば、このまま行くのがいいだろう。私は憎まれ役でも構わない。それがこの子の為になるなら、きっと。



 私がカッコイイ決意をしてる間にも冒険は滞りなく進む。そこから先のグーちんの成長ぶりは圧巻の一言に尽きる。
 レオ様の氷の息に合わせて自分もブレスを吐き、敵パーティーをあっという間に殲滅。さらにはレオ様を追い越して凍える吹雪を習得し、一人で戦闘を終わらせる鬼神の如き働き。レオ様も吹雪を覚えた後は、巧く交代で使う事で実効燃費を抑えるという知恵者ぶり。キメラ様譲りの回復もこなして、通常攻撃もレオ様に迫る勢い。美しい魔闘家の多芸振りに、戸愚呂のパワーまで備わっちゃったレベルでやばい。既に父親越えしてるでしょコレ。っていうか誘う踊り一回も使ってねぇ。
 そのあまりと言えばあまりの変わりように、レオ様は満足しつつもどこか困惑している。チラチラ物問いたげな視線を私とグーちんに投げてくるが、私もグーちんも一切スルーである。

「グーちん、すごいねぇ!」
「ありがとう、マスター。でも、まだだ。もっと俺は強くなる。」
「うん、でも絶対無理をしちゃ駄目だからね?」
「……わかった。」

 その後、なんと道中で小さなメダルを二枚も拾った。これで通算10枚。驚きだ。その後、特に使う予定があるわけではないけど、しっかり浮遊樹・スカルライダー・フェアリードラゴンを肉で釣って、最終階層到達。そこにはいかにも怪しい石像が鎮座していた。
 見てる。ものっそい、リュカ様が見てる。あ、グーちんが嘴でガンガンつつき始めた。


「……みぃ たぁ なぁ。」
「……憐れな。」

 若干泣きそうな感じで、うごくせきぞうが動き出した。戦う前から割とボロボロだ。戦闘開始後はこれと言って見所もなく。まともな特技を持たない石像相手に、ガップリン伝来の眠り攻撃で完封。まさにやりたい放題だった。


intermission

 牧場に戻り、ライネとご対面。成長したグーちんを見て酷く驚いている様子。

「グーちん、見違えましたよ。立派になりましたね。姉はとても嬉しいです。」
「ありがとう、ライネさん。」

 言葉少なに、真剣な表情のままリュカについていくグーちん。煽っといてなんだけど、ちょっと思いつめすぎじゃね?
 後に残った二匹が小声でガールズトークを始める。私も混ぜて混ぜてー。 

「……ちょっとレオ、あなた一体どんな魔法を使ったんですか? 何であの愚弟があんなに格好良くなっているんですか。」
「いや、我ではなくアヤツがな……。」

 言って私に困惑気味の視線を向けるレオ様。
 釣られて胡乱なものでも見るかのごとき視線をこちらに投げるライネちゃん。うっわーお、この子もか。気付いてしまうと若干へこむ。


・メタルドラゴン×スカルゴン⇒氷河魔人
・人喰いサーベル×アンドレアル⇒メタルドラゴン
・ヘルコンドル×ギズモ⇒サンダーバード
・ぶちキング×ユニコーン⇒キングスライム

 祠で予定の配合を消化する。あと扉二枚で一段落だ。
 ちなみに現在グーちんは20代。相手のライバーンが三十路なので、本当ならこちらも三十路を目指したいところだったが、さすがにそれは無理がある。と言うわけで、いよいよ酒場に行ってお見合いだ。

「あら精霊さん、随分はやかったのね。」
「一刻も早くあなたを悦ばせたくってね。さあ、僕のグーちんを見てよ。こいつをどう思う?」
「すごく……大きいわね……。とっても逞しくて素敵よ。早速はじめましょう!」

 妙にイケメンになったグーちん。パラメタ的にも何処に出しても恥ずかしくない鳥である。ぶっちゃけこのまま終盤まで使い続ける事すら可能だろう。マチコさんにもいたく気に入られたようだ。



「マスター。俺はオヤジのように、マスターの役に立てただろうか?」
「うん! グーちんと一緒に冒険できて楽しかったよ。また一緒にダンスしようね!」
「フッ、そうだな。牧場でのんびり待ってるよ。」

 そしてグーちんは何か言いたげにこちらに一瞥をくれた後、結局そのままライバーンと連れ立って星降りの祠へ向かっていった。





・キラーグース×ライバーン⇒ロック鳥

 これにて終盤パーティーの補助要員、ロック鳥(ver.1)が出来上がった。
 さっそく祠で孵化させる。

「おじいちゃんとパパに負けないくらい頑張ります。よろしくねっ!」
「うん、よろしく!」

 元気一杯の女の子。どことなくジニー・ナイツを髣髴とさせる。リュカとは良いコンビになりそうだ。暫く二人で盛り上がっていたが、どうやらこちらの存在にも気付いた様子。

「むむ、あなたが精霊さんですね!」
「……ああ、そうだよ。」

 そういえば親の能力だけでなく、うっすら記憶的なものも引き継いでいるんだっけか。何やら睨みつけられているのも、まあ因果応報と言ったところなのだろう。

「じゃあ、あなたが私に名前をつけてください!」
「……どういうつもりだい? 君は僕に対してあまり良い感情を持っていないように見えるけど。」
「わかりません! わからないから、あなたに名前をつけてもらいます!」

 わけがわからない。だが乞われたからには真面目に応えるとしよう。



「……想いと魂をつなぐ者。『ルフ』なんてのはどうかな?」

 なんぞ死者の宮殿にでも出てきそうな名前だけど、まあその辺は気にするまい。

「ルフ……。綺麗な名前ですね! うん、やっぱりあなたは悪い魔物じゃないようです!」
「なんでそうなるのさ。」
「パパは感謝してました。すごく憎たらしいけれど、自分に生きる道を示してくれた魔物だって。」
「……そうかい。」

 
⑪牧場の扉

 ここのぬしはマネマネ。最終階層は何故かタイジュの国の民家につながっており、そこで女に化けて男に貢がせている。何ともうらやましい話だ。モシャスは使いようによっては反則級の特技だが、普通にプレイする分には全く必要のないモンスターである。鳥系にかけてひくいどりの材料にでもするのがセオリーか。
 新規モンスターは、じんめんちょう・スカルガルー・マッドロン・ミミック・デスフラッター・トーテムキラー。井戸の底のハーゴン様はここでモンスターを調達していたのかもしれない。

 今回捕獲するのは、まず「デスフラッター」。牧場で余っているビーンファイターとかけあわせると、王妃様が要求してくる花カワセミに。次に「トーテムキラー」。牧場にいる浮遊樹と掛け合わせると、王妃様が要求してくる呪いのランプに。ぶっちゃけいらないっちゃいらないが、どうせついでである。
 他にはミミックなども、ザラキゲーやるつもりなら有効だけど、リセットの利かない本プレイでは無理に捕獲する必要もないだろう。むしろミミックは敵として出現したら最速で潰すべき恐ろしい相手だ。
 今回のメンバーはレオ様・ライネのコンビに、新米ディガーのルフ。育成を考えていないフルメンバーは何かひさしぶりな気がする。

「ライネねえさま、これはなあに?」
「これは『ももんじゃのしっぽ』。落とし穴の位置を教えてくれるほか、仲間にしたことのないモンスターも教えてくれる優れものです。」
「あ、レオちゃん見て見て! おいしそうな鳥肉が飛んでくるよ!」
「いや待て。なぜライネが『ねえさま』で、我が『ちゃん』づけなのか。」

 歳の離れた従妹の世話を焼くおねえちゃんといった風情の二匹。若い女の子達がきゃいきゃいやってるのは見てるだけでも潤される。きっと何か放射してるよね。幸せで中毒性のある何か。ただしカワイイ娘に限る。
 初戦は何だかんだ過保護なレオ様が凍える吹雪で一掃。ルフがマッチョになってしまわないか不安だったが、どうも魅力と愛がアップする方向性らしい。良かった。ちなみにルフの成長タイプは残念ながら普早だけど、虹孔雀に比べたら20倍マシである。比喩ではなく。二回目の戦闘で習得特技があっさり8つを超えてしまった。ライネのベホマラーは未だ兆しすらないが、これでしばらくは安泰だろう。


「むむー、何を残すべきかー。」
「べきかー。」
「……べきかー?」
「ベキカ、ベキカー!」

 リュカは背伸びして考えてる振り。そしてそれを嬉しそうに真似するルフ。
 更に真似されて嬉しくなったのか、神速で考える事を放棄した様子のリュカ。既に二人の間で何か違う遊びが始まっているようだ。 

「それでどうするのだ、精霊よ。我はやっぱりガンガンいける技構成がいいと思うぞ。」
「ルフには補助の役割があっていそうな気がします。『メラ・ギラ・イオ』などの攻撃呪文は軒並み不要ではないでしょうか。」
「レオ様却下。ライネの意見は一理も二理もあるね。」

 ライネが挙げた三つの特技は、本来この組合せでは発生し得ないもの。マチコさんのライバーン固有の特技である。攻撃手段としては、精々ブレスが二種もあれば十分なので、ライネの提案は実に理にかなっている。だが。

「……マダンテ欲しいんだよねぇ。」
「マダンテ、ですか?」

 声に出てしまったか。正直必須と言うわけでも何でもないんだけど、ここまで綺麗に特技が揃うとつい欲が出る。暴れ牛鳥とももんじゃあたりでモーゼを作れば、ルフⅡで五種呪文が簡単に揃ってしまう。いや、やらないけどね。

「ゴメン、なんでもないよ。ライネの言うとおり、攻撃手段を中心に削っていこう。残すのは精々ブレス二種くらいかな。」
「わかりました。そのようにしましょう。」
「ぬう、何故皆ライネばかり。我だって……我だって……。」

 へそを曲げかけたレオ様をライネがうまくあやしつつ先に進む。道中吹雪の高燃費のせいでMP切れを起こしつつも他国神父のおかげで助かったり、ミミックに初遭遇して冷や冷やしながら瞬殺したり、無事フラッターとトーテムを捕獲して、ついでにスカルガルーまで勝手についてきたり。
 最終階層と言うか、タイジュの民家に到達する頃には、ルフは非常にキュートなタフガールに成長していた。メダルも一枚拾って言う事なしだ。


「出て行け! おいらのベティは誰にも渡さないぞ! ああ、おいらのベティ!」
「ズバリ言うけど。君、この女と別れたほうがいいよ。そうじゃないと、絶対に地獄に落ちるよ。」
「何をおかしなこと言ってるんだ! お前、カルトの教祖か何かだな!」

 説得失敗。仕方ないね。
 向こうを見れば、リュカとベティ(擬態)が仲良くおしゃべりしている。

「あなたはどなた? ここにどうやって入ったの?」
「ボクはリュカです。牧場の扉に入って冒険してたら、何故かここに出てきちゃったんだ。」
「そう、つまり私の美貌に目が眩んでここまでやってきてしまったのね。」
「??」

 お前は何を言っているんだ。

「それじゃあ泥棒をしにここに忍び込んだのかしら?」
「ちがうよー。泥棒は悪い事だからしちゃいけないんだよ。」
「じゃあやはり私の美貌に目が眩んで忍び込んだのね?」

 なにこの無限ループ。借り物の美貌で調子に乗るとか、愚かにも程がある。
 見ていて無性にイラッ☆と来た私は、精霊魔法をこっそり使用して宝貝「ゲイ・薔薇」を投影。背後から忍び寄り、思いっきり千年殺ししてやった。

「術なんぞ使ってんじゃねぇぇい!」
「アッーーー!」
「えーーッ!?」

 男らしい杖ヴォイスとともに、ゲイ・薔薇に後ろを掘られたベティ(擬態)は、あまりの衝撃にモシャスを解除。
 哀れミツグ君は現実(人魂)に直面し、その後どうなるかまでは知らぬ。

「あなた女性に対する態度がなってないわね! こらしめてあげる!」
「ちょっと、わたぼう。今のはわたぼうが悪いよ。」

 開始早々、相手はモシャスでルフに擬態。強い魔物ではあるけど、単独でこちら三体を相手にするのは自殺行為でしかない。何故かマホトラ踊りを連打してきたけど、集中砲火であっという間にのしてしまった。
 これでマネマネはここには居られなくなったので、恐らく盛んに媚びてくるだろう。だけど正直いらないよね。

「あなたっていい人みたい。好きよ。」
「え、僕の方なの?!」

 ちょ、私Sじゃないんですけど。最近ではどちらかと言えばM寄りの存在なんですけど。
 
 
intermission

 図書館で図鑑を確認。仲間にした魔物は67種類とのこと。普通のマスター認定された。ぐぬぬ。
 しかし100種かぁ。すでに何匹かはうっかり牧場満杯になってたせいで泣く泣くお別れしてるけど、これからは使わないモンスターも積極的に勧誘・解雇していくべきかね。
 その後、例の民家を極力視界に入れないようにして、星降りの祠へと急ぐ。まさか私がNTRする側になるとは。途中サンチが「いつまでDクラスにいるんだよ」的な事をいってきたが、適当にあしらった。


「だいぶ捗っておるようじゃの。」
「まあね。マスターの腕がいいからかな。」
「ふむ。何よりじゃな。」

 配合について爺さんと雑談。まずはついでの王妃様ミッション関連から。二匹とも、ただ使い捨てにするには惜しい良モンスター。キングスライムの敷居が高いせいで気付きにくいけど、王妃様ミッションも実は良くできたヒントになってるんだよね。序盤だけなら。
 この後の使い道も何か考えてみようかな。マネマネとかけてひくいどりとか。

・デスフラッター×ビーンファイター⇒花カワセミ
・トーテムキラー×浮遊樹⇒呪いのランプ

 続いて本来の予定を進行。あと一息だ。

・メタルドラゴン×サンダーバード⇒溶岩魔人

 そろそろレオ様が第一次伸び悩み期を迎える頃だが、レオ様ツヴァイを作るタイミングも難しい。ルカ二を持った強い獣かぁ。幸い性別異なってるし、図鑑増やす意味も込めて、余ってるキャットフライにスライムツリーあたりつけて一回連れまわせばOKかね。スカルガルーでも良かったが、残念なことにスライムツリーとでは百合になってしまう。

・キャットフライ×スライムツリー⇒ベロゴン

 一段落したので、ひとまずキングスライム・花カワセミ・呪いのランプを連れて王妃様のところへ。ドーピングコンソメ三種をいただく。
 その後、レオ様・ルフ・ベロゴンでパーティー編成。本当は溶岩魔人を連れて行くことも考えたけど、ジゴスパーク引継ぎは常識的に考えて無理だろうと断念。


 次の扉と格闘場をぬければいよいよ終盤。クリア前の大詰めを迎える事になる。ちゃんと間に合うかなぁ。





[22653] 第十話 B ~ 「超スピード」は断じてチャチなもんじゃ無い ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/08 20:33
 何か最近、自分のキャラに似合わぬシリアスな雰囲気をまとっている気がする。私もそろそろ少女迷路を卒業して、大人の女への第一歩を踏み出すときが来ているのか。そういや某空挺のエースオブエースも「残念ながら、少女っていうのは期間限定で、歳をとると名乗るのが難しくなるんだ」って言ってた気がする。
 いや本当は私も、もっとすりすりとかぺろぺろとかしていたいのですけどね。


⑫格闘場左の扉

「テトさんがまたしょんぼりしてたね。」
「仕方ないね。」

 Cクラスで待ってますからね、と必死で声をかけてきたテト君を再度スルーしてやってきたのは格闘場左の扉。
 最下層は確かDQⅢの音楽だったので、恐らくSFC版の精霊の泉イベントを模した扉だと思うけど、ぬしは何故かテリワンオリジナルの「ダンジョンえび」。解せぬ。
 ちなみにダンジョンえびは仲間になると超高レベルの激レアモンスターだが、クリア後のデンタザウルス作成に使うのが殆どか。アンドレアルに余裕があればメタルドラゴンの高性能個体を狙いたいところだけど。ベロゴンがあまり伸びないようなら番わせてストロングアニマルなんてのも面白いかもしれない。夢が広がりんぐ。

 新規出現モンスターは、キラースコップ・お化けキャンドル・羽スライム・メドーサボール・スラッピー・かまいたち・フーセンドラゴン。
 優先捕獲対象はメドーサボール。やまたのおろちを作るのに欠かせないモンスター。フーセンドラゴンは特殊配合を豊富に持つけど、どれも中途半端で逆に配合事故をおこしやすい印象がある。
 残りの連中も図鑑埋めの為に全員骨付き投げて仲間にして、適当に配合するくらいか。何と言うブルジョワプレイ。札束に火をともすような背徳感。こんなんだからカルマが高まってしまうのだろうな。


「あ、かわいいモグラさん見っけ!」
「見っけ!」

 リュカ&ルフの索敵能力が驚きの高さ。そういや一度も奇襲とかされてない気がする。システム的にありえないんだっけか?
 敵はキラースコップ一匹。攻撃力が伸びる良アタッカーだが、ぶっちゃけ使う事はないだろう。一応肉を投げつけた後、ルフがからかう様に頭上を飛び回り、あっさりレオ様が気絶させる。
 目を覚ましたモグラ君は、予想通りにリュカについてくることに。


「わたぼうは何かつけたい名前ある?」
「精霊さんの付ける名前は素敵だから、私も大好きです!」
「ふむ、確かに汝の名付けだけは認めてやっても良いな。」

 えらく名付けだけを評価されている気がする。確かに君ら二人の名付け親は私ではあるけど、別にそういうの得意なわけじゃないんだよね。


「うーん、ちょっと思いつかないなぁ。『窟子仙』とかはどう?」
「くっしせん?」

 小首を傾げる一人と一羽と、おまけの一頭。かわゆい。
 もうここ最近ずっと心のシャッターをきりっ放しである。
 近いうちにスピードグラファーとして目覚めてしまうかもしれない。


「うん。電気を出さない方の黄色いネズミさ。昔こことは違う世界でちょっとね。」
「その子もやっぱり可愛いの?」
「『も』? うーん、どうだろう。見た目に愛嬌はあったかな。中身はただの小姑だったけど。」
「そっかぁ。」

 懐かしい名前を思い出した。え、何でリュカは微笑ましいものを見るような目でこちらを見ているのん。
 とは言えやはり見えない力が働いたのか、四文字制限の壁は越えられず。リュカによる命名「もぐたん」で決定した。
 その後も順調に探索を進め、第二階層に到着。


「うげ。ダメージ床、来ちゃったか。」
「なんかこれ、ピリピリするねー。」
「ちょ、リュカ! 迂闊に歩かないで?!」

 何かもう、早速バリア領域に飛び込んで遊んでいるリュカ。HPとか大丈夫なのキミ?!
 宙に浮いてるはずのルフも結構ダメージを受けている様子。不思議システムだ。


「リュカちゃん、リュカちゃん。もう行こう? 私、ここやだよー。」
「そっか、ごめんね。もう入らないようにするよ。」


 極力ダメージ床を避けて歩くことに。呪いのランプ連れまわして浮遊樹からのトラマナ引き継いで、さらに鳥と配合して連れまわしてトラマナ保持して、最後にルフに合流すれば問題ないけど……、正直超絶めんどくさい。こまめなベホマで乗り切るか。
 初見の魔物には肉を投げて勧誘しつつ、順調に戦闘を重ねていく。やっぱりベロゴン、あんまり伸びてるように見えないな。特技はけっこうな勢いで習得してるのでレベルは順調に上がってるんだろうけど、懸念したとおりレオ様の初期値底上げに貢献するほどではなさそう。これはもう「+」数上げとルカナン調達のためと割り切るべきか。いや、そもそもそんなにルカナン欲しいわけでもなかったんだけど。
 その後、六階層で運よく道具屋に遭遇。保存していた吹雪・雷の杖などを売って再度財政が潤った。これで格闘場代にかなりの余裕が。ふむ。

 そして九階層。


「うわー。なんだろうこれ。」
「なんだろうー。」

 滑る床のフロアに遭遇。DQシリーズの色んなところに存在するけど、私の印象に残っているのはパデキアの洞窟か。
 アリーナがどこの馬の骨とも知れない屈強な男達とパーティー組んでるのを見て、何故だかショックを受けたのを覚えている。
 何故だ。まだ純粋だったあの頃は、NTRなんて影すら見えていなかったはずなのに。


「滑る床のフロアだね。ここも迷いの森同様アイテムが何も落ちてないフロアだよ。」
「滑る床?!」
「遊園地にあるジェットコースターみたいなものかな。」

 嬉しそうにこちらを振り返るリュカとルフ。心なしかレオ様もピクッと反応したように見える。
 当然の如く走り出し、あっという間に足を踏み入れるお子様二人。最早注意するだけ無駄だと悟った。


「レオ様も行ってきていいよ。」
「な、何をいきなり。」
「いや、お子様二人だけだと心配だから、お姉ちゃんがついていてくれると安心できるなと思って。」
「ふ、ふむ。別に我も乗ってみたいとか思ってるわけではないが、まあ汝がそこまで言うなら仕方ないな。」

 イソイソイソと滑る床に向かうレオ様。私とベロゴンはお留守番だ。この子も妙に愛嬌のある顔をしているが、イマイチ何考えているかわからない。ゴロゴロ転がりだしたベロゴンを適当に撫でたりしつつ、目一杯遊んでいる三姉弟を眺めてまったりする。
 子供の勢いに振り回されて真っ先にガス欠すると予想していたレオ様だが、案に相違して子供二人を振り回して一番楽しんでいる様子だ。めっちゃ高笑いしながらジェットコースターしてみたり、もの凄い勢いでエスカレーターを逆走したりしている。タフガール。年少組が疲弊して戻ってきた後も、暫く一人で遊んでいた。



「おかえり、レオ様。存分に楽しんできたみたいだね。」
「な、何を言う。我はルフたちの面倒を見ていただけだぞ。」
「うっそだー。レオちゃんが一番はしゃいでいたくせにー。ほんとにレオちゃんは子供だな~。」
「ぐぬぬ……。」


 あとは取り立ててイベントもなく。強いて言うならメダル一枚拾ったくらいか。最近良くあたって、いつのまにやら後一枚だ。サンダーバード入手こそ間に合わなかったけど、どうやら扉は開きそう。この調子で魔物100種も間に合えばいいんだけど。



 
「ほえー、なんだか綺麗なところに出たねー。」
「リュカちゃん。ピクニックしよう、ピクニック!」

 ぬしの部屋というか、精霊の泉っぽいところに出てきた。
 お気楽二人組は放置しておいて考えていると、レオ様が話しかけてきた。

「それでどうするのだ、精霊よ。」
「うーん、少し様子を見ることにしよう。」

 なんだろう、年長者っぽく威厳を挽回しようとしたのだろうか。
 それはそれとして、確かゲームではワルぼうが先頭の仲間を泉に向かってクレーンゲームするはず。しかし半ば予想通りに、待てど暮らせどワルぼう来たらず。これでバトルレックスさんとか居れば、斧投げ込んではやぶさ破壊の斧とか貰えたのかもしれないのに。


 えー、何これ。ひょっとして私自ら飛び込まなきゃいけない流れ?



「……南無三!!」
「わたぼう?!」

 覚悟を決めて、泉に向かって勢い良く鋭角に飛び込む私はさながら人間砲弾。
 そうすると泉の中で、何故かタイジュの国に投げ捨ててきた擬態が時空を越えて私の体に蒸着した。この間やはり0.05秒。
 そのまま自然と浮上して行き、女神スタイルで再登場。リュカが慌てて服を脱ごうとしている所に出くわした。
 リュカが目を真ん丸くして、こちらを見つめたまま固まっている。チィ、上がって来るのが早すぎたか。
 

「……もしもし、そこの旅のお方。私はこの泉に住む精霊です。」
「え、あれ? 女神様?! どうしてここに?」
「あなたのお仲間が泉に落ちましたね。助けてきて差し上げましょうか?」
「え、あ、ちょっと待って!」
「それでは少しお待ちになってください。」

 リュカよ。混乱しているのはわかるが、実は私も混乱している。ペアルックだ。
 どうしたものかと考えながら一旦泉に引っ込むと、何故かそこには肉が用意されていた。
 傍らには「ボケろ」と謎のカンペが。どうしろと。


「泉に落ちたのはこのお肉ですか?」
「ちがうよ! わたぼうだよ!」
「そうですか。では少し待っていてください。」


 ああ、私の為にリュカが涙目で取り乱しているのを見て、なんだかゾクゾク嬉しくなってきた。我ながら悪趣味なことだ。
 そんな事を思いながら再度泉に引っ込むと、そこにはおじさんが用意されていた。
 傍らにはやはり「今度こそボケろ!」のカンペが。これ書いた奴、頭おかしいんじゃないの。
 もう深く考えずに、書いてある事を機械的に読むことにした。

「では泉に落ちた魔物は、このおじさんですか?」
「ちがうってば!」
「正直に言ってくれたご褒美に……ダンジョンえびを差し上げましょう!」
「もう! いくら女神様でも怒るよ!」
「ただし、ダンジョンえびに勝てたらですわ!」

 なにこのカンペ。アグレッシブ展開すぐる。ついつい読んじゃったよ。
 ちなみにぬしのダンジョンえびは典型的な壁キャラで、ベロゴンの百烈舐めのE☆JI☆KI。
 いつもどおり、一方的にフルボッコで仲間になった。道中新規モンスターを全種捕獲していたためか、うっかり牧場が満杯になってしまっていたらしく、最後にダンジョンえびと入れ替わりでフェアリードラゴンとお別れする羽目に。ぐぬぬ。

 ちなみに私は戦闘中にこっそり後ろから回り込んでいました。


「いやー、酷い目に遭ったよ。」
「わたぼう! 無事だったんだね!」
「うん。心配かけてごめんね。」

 涙目で抱きついてきたリュカを慰める。
 酷い自作自演もあったものである。



*Aを狙え

 案の定仲間になったダンジョンえびは超高レベル。成長が見込めないのでひとまず冬眠させ、手持ちのベロゴンとライネを入れ替えてから、ルフ・レオ様・ライネのパーティーで格闘場に登録に向かう。すると受付にてテト君がまた話しかけてきた。

「リュカさん、今までどこに行ってたんですか? ずっと待っていたんですよ。Cクラス最終戦、今度こそよろしくお願いしますね!」
「うん! また後でね。」

 テトとの挨拶を交わし、去って行く背を見送る。
 気を取り直して登録だ。



「と言うわけで、ばっちゃ。Aクラスに挑戦するよ!」
「あれ? Cクラスはどうするの?」
 
 ところがどっこいCクラスはおろかBクラスまですっ飛ばし、今回登録するのはAクラス。5,000G高いな。
 実のところ、今さらB・Cと段階的にクラスを上げる必要は全くない。デメリットと言えばテトとのお見合いが一個消滅することと、挨拶回りによる情報が聞けなくなることくらいか。どうせ後者はすべて頭の中に入っているし、前者もまあ必要ないだろう。
 

 一回戦は、かりゅうそう・へルビースト・キメラ
 開幕レオ様とルフの吹雪で、かりゅうそうとキメラを瞬殺。へルビーストのベギラマは最早温風。
 レオ様が疾風のセカンドブリットであっさり勝ちを決めた。

 二回戦は、グリズリー二匹にライオネック。
 まず敵グリズリーの火力が滅茶苦茶高く、疾風突き×2の存在がかなり危険。基本はディフェンシブな戦いとなるが、相手も相当タフな上に、高耐性持ちのライオネックまでいる。これまでの敵とは段違いの強さを誇るパーティーだ。

「ゆけっ、グリズリーよ!」

 開幕当然のようにグリズリーの疾風突き×2が先頭のルフに突き刺さる。まるで魔王殿のミノタウロス×2によるダブルインパクト張りのコンビネーション攻撃。遠目にもわかるほどにルフが大きく仰け反った。うひぃ。
 踏みとどまったルフちゃんは、激しい炎で必死の反撃。しかし獣二匹は小揺るぎもせず、ライオネックに関しては言わずもがな。これまでの戦闘から自分のブレスに相当な自信があったらしいルフが愕然としている。


「どうして効かないのっ?!」
「大丈夫、落ち着いてルフちゃん! レオさま、おねがい!」
「全く、手間をかけさせおって。」

 そしてレオ様がまさかのマヌーサ。どうやら敵全員が術中に落ちたらしく、グリズリーが取り乱している。リュカすげえ。ライネによる獣斬りの追撃と、敵ライオネックによるバギクロスはいずれも決め手にはならず。
 その状態で再度放たれたグリズリー二匹の疾風突きのうち、一発がマヌーサを貫通してルフに再度突き刺さる。しかしルフちゃんは地味に体力お化け。何とか凌いで、再度の吹雪と獣斬りで危険なグリズリー達を一掃。ライオネックは耐性が高いのであまり効いてない様だが、むしろ回復のために生きていてくれた方が好都合だ。
 正直相当危なかったが、しっかり回復して勝ちを収める事が出来た。



 
 最終戦は酒場の女マスター、マチコの登場。
 
「ようこそ、Aクラスへ。あなたが来るのを待っていたわ!」
「うん、ボクも楽しみにしてたよ!」
「さあ、リュカちゃん。お手並み拝見よ!!」

 構成はマタンゴ二匹にリップス。本来こちらの行動を封じてくるのが鬱陶しいだけのモンスターなのだが、マスターの腕がいいからなのか、眠り攻撃の成功率が尋常ではない。何か変な補正入ってるんじゃないのと毎回思うのは私だけだろうか。
 とは言え火力自体は大したことはないので、数ターン眠りっぱなしのゴーレム状態にされない限りは勝ちを拾うことができるだろう。

「ルフちゃんは吹雪で、レオさまはマヌーサお願い!」
「りょーかい!」
「心得たぞ。」

 最早開幕お馴染みの必勝パターン。三匹ともあっさり茶色の霧に包まれた。え、まさかリュカさん、相手の耐性とか見えちゃうグラムサイト持ってるとか?
 相手の反撃は眠り攻撃&甘い息。マヌーサのおかげもあって、幸い行動不能に追い込まれたのはルフのみ。なんとも幸せそうに眠っている。
 そのまま今度はレオ様が再度吹雪を起こす。しかし敵は誰も沈まず。さすがにタフだね。もっとも相手の抵抗はここまで。目を覚ましたルフが吹雪三発目を撃ったところでマタンゴ二匹が潰れ、そのまま試合終了である。 


「ようやった、Aクラス勝ち抜きじゃぞ!」
「ありがとう、おばあちゃん!」
「それにしても、まさかふたつもクラスを飛び越えるとはのう……。」

 でも実際Aクラスに挑むには些か準備不足だったと言わざるを得ない。特に2回戦は運悪くレオ様に疾風突きが集中して、更にマヌーサ貫通とかされていれば負けていたし、三回戦も相手の眠り攻撃がうまい具合に散らばって5ターン連続眠りっぱなしとかなっていたら勝敗は怪しかった。反省。調子に乗っちゃ駄目。わたぼう、覚えた。
 ひとまず恨めしげにこちらを見ているテト君をスルーして、酒場のマチコさんを冷やかしに行く。


「……負けたわ。完敗よ! あなたの強さは本物だわ!」
「ありがとう! マチコさんもとっても強かったよ!」
「あらあら、優しいのね。そうだわ、あなたに私の魔物をあげる。『動く石像』というのだけど、受け取ってくれるわね?」
「え、でもいいの?」
「いいのよ。恥ずかしい話なんだけど、その子はより強いマスターであるあなたに一目ぼれしてしまったらしくてね。」

 というわけで、超高性能動く石像であるピート君(♂)をゲットした。レベル40とかすごすぐる。
 しかも本来持ち得ないはずのベホマラーまで。うーん、ホクホク。

「私の動く石像は『ぱふぱふ』が使えるのよ!」
「ぱふぱふ?」
「そう、男の子なのに使えるの。ちょっと変よね。」
「やめて!」

 うちのリュカに変な事吹き込まないで! 私の楽しみを奪うつもり?!
 と言うか、変なのはそこじゃないよね。男でもぱふぱふできる人はいると思うけど、このピート君は大胸筋カッチカチやぞ。比喩ではなく。
 
「Sクラスはつわもの揃い。頑張ってね、リュカちゃん!」
「うん!」




*ハイウェイS

「と言うわけで、ばっちゃ。Sクラスに挑戦するよ!」
「え、もう?!」


 反省と言った舌の根も乾かぬうちから天丼ネタ。今回登録するのは王様が出てくるSクラス。我ながら、高速道路の星もびっくりの超スピードである。それにしても登録料10,000Gって高すぎるだろ。肉買う金もなくなってしまった。既にたくさん骨付き持ってるからいいけど。
 実際のところAクラスも段階踏む必要は全くないのだが、Aクラスをすっ飛ばしてマチコさんとの戦いを回避すると石像が貰えないという大きな罠が。ゲームに慣れてきて調子に乗った頃合でやらかしたのは苦い思い出。もっとも、5,000ゴールドと引き換えにする価値を見出すかどうかは人によるだろう。
 ライネのMPが伸びずに結局ベホマラーを覚えられなかったのが不安だが、勝機は十分。万一ハードラックとダンスっちまって高速抜けられなかったとしても、それはそれで。


 一回戦は、ダンスキャロット二匹にミステリードール一匹。
 所詮は道化と貯金箱。開幕ルフの激しい炎とレオ様の五月雨斬りで圧倒。さすがに敵もタフになってきており、一匹も落とせなかったが、相手からの反撃は最早かすり傷にしかならず。そのまま美味しくいただきました。経験値も金もないけれど。

 二回戦は、スライム・ドラキー・軍隊アリ。舐めてかかると痛い目を見る超絶玄人パーティー。モブの癖に生意気な。
 素早さの高いスライム系は、格闘場ではいつも厄介な敵である。開幕は予想通り、敵スライムによるベギラゴン。巨大な竜を模した熱線?を撃たれて、弱耐性持ちのルフとレオ様がそこそこの打撃を受けた。まったく敵ながら敬服する。良くもここまでスライムを育てられたものだ。ちなみにライネは完全耐性によりノーダメージ。
 お返しとばかりにルフが気合の入った凍える吹雪。レオ様も普通に吹雪で続き、運よくドラキーと軍隊アリを仕留める事が出来た。これは滅茶苦茶大きい。
 仕切りなおして再びベギラゴンを受けるも、ルフとレオ様がベホマで自身を回復。なるほど、ベギラゴン二発分のダメージを蓄積したまま三回戦に向かわないようにという配慮か。リュカったら立派になっちゃって。
 三度目の正直とばかりに今度はルフが先制の吹雪。なんと完全回復状態で二回戦を突破することが出来た。いや、こんなところでリアルラック使いたくなかったんだけどなぁ。迷信だとは思いつつも、嘆かざるを得ない。

 

 最終戦はメダル大好きマスター、メダルおじさんの登場。
 
「勝負は運ではないぞ。実力だけが絶対じゃ!」
「うーん、そうかなぁ? 『運以外のあらゆることを塗り潰すのは、ギャンブルの定石だ』ってママが言ってたよ。」

 ママさん、生き様がROCKすぐる。と言うか何の話をしているんだ。

「たとえそなたがメタルスライムに良く会う人だったとしても、ここでは関係ないことじゃ。」
「……そういえば、井戸の底の扉では良く会っていたかも?」
「……ちょっと羨ましいがの!」


 王様の構成は、はぐれメタル・キラーマシン・メタルドラゴンのメタリックパーティー。なんだ、メダルにかけているつもりなのかそれ。
 メタルドラゴンの「みなごろし」がレオ様に刺さったりして落ちると負け確定。だがそれ以外の展開では基本的にこちらの優勢は動かないはずだ。


「くらえぃ! 我が究極奥義!」

 開幕は当然のはぐれメタル。最強の爆発呪文「イオナズン」がこちらを襲う。どこの虚無だって位の強力な閃光が格闘場を満たすも、みんなしっかり耐え抜いた。続いてキラーマシンの五月雨斬りが追撃で入るが、そちらは大した火力でなし。


「よし、反撃だよ! ルフちゃんお願い!」
「お任せあれ! ついに封印していた私の真の力を解放するときが来ました!」

 こちらの反撃。満を持して解き放たれる禁断の奥義。「暗黒盆踊り」の異名を持つ最強の鳥武技「誘う踊り」である。歌って踊れるプリンセス様・ルフのラブリーな動きに眩惑され、一斉にヲタ芸を始めるメタラー三匹とそのマスター。効果覿面である。その隙にレオ様とライネの姉二人が傷を癒して体勢を立て直す。
 あとは必要に応じてライネが回復しつつ、ルフが戦場を支配し、レオ様が蹂躙する理想形。いやー、戦略とバランスって大事よね。最早負けるとしたら、無耐性のメタルドラゴンに先制取られるか踊り外すとかミラクルしたうえで、運悪く撃たれた皆殺しがピンポイントでレオ様に刺さって、更に一撃死とかした場合くらいか。
 ……あれ、私ひょっとして今フラグ建てた?


 などということは決してなく。相手が堅くて少し長引きはしたものの、しっかり踊り無双させて頂きました。ライネちゃんによる母譲りの必中魔人斬り、おいしーです。最後にしっかり大仕事を決めてくれたライネに感謝。


「ようやった、Sクラス勝ち抜きじゃ!」
「ありがとう、おばあちゃん!」
「これでリュカちゃんもタイジュ代表マスターじゃの。」

 実際、Sクラスは踊り無双ができる温クラスということで有名である。第二戦のドラキーが耐性持ちなので、踊りに頼りきりでは運ゲになるが、それ以外は開幕を耐え切れば割とどうとでもなる相手。一番の障害は登録料であるというのは笑えないジョークである。むしろAクラス二回戦に出てくるグリズリー二匹の方が余程突破しにくかったりする罠。


「おお、リュカ殿! ついに代表になられたか!」
「ハイ! 頑張りました!」
「王様がお呼びですぞ。ついて来てくだされ!」
「わかりました。じゃあわたぼう、ちょっと行ってくるね。」
「うん、行ってらっしゃい。」


 マルタ王あたりがまた来そうだが、わざわざ見に行く必要もないか。
 程なく体がムズムズして来た。残っていたすべての道具屋が開放されたのだろう。


 何はともあれ、これでようやく終盤に突入である。





[22653] 第十一話 B ~ こうなったら年表か ~
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/12/07 23:42
「一度も仲間にしておらぬ魔物が生まれそうじゃぞ!」
「やった……やっと、辿り着いた。」

・氷河魔人×溶岩魔人⇒エメラダ(ゴールデンゴーレム♀)

 普段はBクラス突破したあたりで、ちゃっちゃと他国の神官から寄付してもらっていたのに。自分で作るとなるとエライしんどい道のりだった。しかしここからが本当の勝負でもある。
 そして入れ替わりにライネ引退。

「マスター、今まで本当にありがとうございました。」
「ううん、お礼を言うのはボクの方だよ。ゆっくり体を休めてね。」
「ルフ。あまり我侭を言って、マスターに迷惑をかけてはいけませんよ?」
「もう、ねえさまは心配しすぎ!」

 何となく遠巻きに眺めている私。
 ライネは最後にレオ様と話をしている。レオ様めっちゃ涙目。

「レオ……。あなたとは生まれたときからずっと一緒だったのに、なんだか不思議な気分ですね。」
「…………。」
「マスターやルフのこと、頼みましたよ。」
「……任せておけ。我の全てを賭して守りきって見せようぞ。」


 レオ様をあやしおえたライネが、明るい表情でこちらに話かけてきた。

「精霊様。私は配合に参加させてはもらえないのでしょうか。」
「いいや、そんなことはないよ。君の挺身は間違いなく、将来リュカを大きく助ける事になる。」

・フーセンドラゴン×ライオネック⇒アンドレアル

 予定通りフーセンドラゴンと配合してアンドレアルを。その後はやまたのおろちなどを経て、クリア後の所謂魔王系第一号だ。結局ギガスラッシュは覚えなかったが、これまで十分に働いてくれた。ちなみに骨付き肉を与えてナンパしたフーセンドラゴン一匹目は♀だったのだが、涙を呑んでお断りした。キャッキャウフフな百合百合は大好物だけど、汁の飛び散るレズレズは駄目でござる。そこは譲れないし、譲らせない。
 続いてサブ系統の配合を回す。

・呪いのランプ×スカルライダー⇒キラーマシン

 人気者のダンジョンえびは、贅沢にベロゴン♂の強化に回したかったけど、残念ながら仲間になったのは♂のえび。あそこは確か性別可変ボスだったと思うから、純粋に運が悪かった。さすがに某長門ちゃんのように男同士で子供が出来るとか残念な夢想はしない。クリア後のデンタザウルス強化が面倒でなくて良いと前向きに考える事にしよう。
 最後に格闘場に向かい、テトとのお見合に臨む。

「私のイエティとお見合いしませんか?」
「ハイ、是非お願いします!」
「イエティとどの魔物をお見合いさせますか?」
「えっと、花カワセミでいい?」

 事前の打ち合わせどおりにリュカが縁談を進める。

「強い魔物が生まれるといいですね!」
「うん!」


・花カワセミ×イエティ⇒ホークブリザード

 これに限らずホークブリザードを作る機会は結構あるんだけど、個人的にはこのタイミングが一番よさげ。両親共に良く育っており、初期値的には結構強い鳥になる。早めに虹孔雀を作るなら結構馬鹿にならない要素。とは言え今さら戦闘には使えないのが残念ではあるか。純粋なクリア後の配合要員だ。カッコいいんだけどなぁ。
 お見合いが終わった後も、二人は和気藹々と会話を続けている。いつの間にか仲良くなっていたのか。


「星降りの大会……。何とも良い響きですねぇ!」
「そだねー。ワクワクするけど、ちょっとドキドキもするかなぁ。」
「大丈夫ですよ。リュカさんが優勝できる事を心から祈ってます!」
「ありがと、テトさん!」

 何と言う好青年。
 今となってはどうでも良い事ではあるけど、実はCクラスクリア後にもテトの持つ「メーダ」とのお見合いが発生する。このメーダはエクストラスキルとして「身かわし脚」を持っているのが特長だ。事後のセリフから察するに、メーダ同士をかけて「ドロル」が正解なのだろう。その後ホイミ持ちのキメラ様あたりにつけると、トラマナ・ハッスルダンス持ちで非常に使い勝手のいいキラーグースになる。ただ今回は時期が悪すぎた。ドロル連れまわすとか、時間も手間もかかりすぎる。
 テト君、誤解されやすいけど意外と役に立つ子なのよね。ちなみにCクラスをスルーしたことについては、最早何も言われなかった。
 しかし、やたら牧場に獣系が余っている。今さらだけどレベルが低いからとフェアリードラゴンを解雇したのは考えなしだったな。
 さすがに鏡の扉直行には無理があるので、レベルあげも兼ねてひとつひとつ扉をクリアしていく事に。ジャンプ好きな女子としては、インフレ起こすような修行パートってあんまり好きじゃないけど仕方ないね。


⑬喜びの扉

 ここの扉の新規出現モンスターは、スライムつむり・ミノーン・ガップリン・デッドペッカー・大目玉・バブルスライム・マミー。
 ミノーンが獣系ってどういうことなの。

「ねえ、わたぼう。かわいい子いる?」

 この女たらしが……抱いて!

「うーん、スライムつむりはかわいいよね。うん、スライムはかわいい。」
「スライムつむりって、テトさんちのとっても素早い子だよね。ヒャド使ってきたときはびっくりしたなぁ。」
「そうだね。」

 何を捕まえるかの確認作業。とは言え図鑑100種も近いので、基本的には全捕獲&適宜リリースだ。
 あとはやはりデッドペッカーが欲しい。余りまくっている獣系と配合すると、王妃様ミッションのキラーエイプになる。ただ今回は色々な見込みもあって、あえてマネマネ師匠の夫として迎え入れる事に。ガップリンも欲しいけど、配合で生み出した魔物も捕獲済フラグ建つんだっけか。あとは悪魔・ゾンビが比較的不足しているくらい。
 道中特に事件もなく、和気藹々としながら冒険は続く。もうみんな慣れたもので、自然と役割分担が決まってきた。レオ様がエメラダの教育を担当し、ルフとリュカは索敵という名の遊び。私は精霊特性「ものひろい」を活かしたアイテム収集である。



「わたぼうはとっても物知りだよね。」
「どうしたのさ、藪から棒に。」

 世界樹の葉を乱獲していると、急にリュカが話しかけてきた。悪い気はしない。

「ママもとっても物知りなんだ。神話とか御伽噺とか、パパも知らないようなものを話してくれるの。ちょっとわたぼうと似てるかな。」
「ふーん。」

 例のママうえか。
 確か拾ってきた猫(ではないナニカ)に、「ゲレゲレ」とか名付けた自重しないゲーヲタの類だっけ。

「まあ、僕ほど日本のポップカルチャーに精通している精霊はいないと思うよ。リュカはゲームとかあんまりやらないの?」
「ゲーム? うん。外で遊ぶのが一番楽しいよ。」

 そういやゲーセンとかも入ったことない、みたいな事を言っていたような。

「でもさ、あんまり空き地とかないでしょ?」
「えとね、うちの近くに大きなクレーターがあってね。良くわからないけど、何かの記念に残しているんだって。」
「なん……だと……。」

 それは一体どこのド田舎なのか。
 リュカママねぇ。多分このゲームのラスボスは、噂(スーパー眉唾物)を聞く限りはリュカのパパうえなのだろう。けど、私にはある種の予感がある。その女とは近いうちに矛を交える事になるだろうという予感が。現実に帰還してからリュカと健全なお付き合いをするための最大の障害は、恐らくそいつだろうし。
 何か自分で「健全」とか口に出すとかなりアレだな。態々「健全」と銘打つ事によって、余計に淫らな感じになってしまったロボット漫画並みのハイセンスさがある。
 途中で世界樹の葉とか雫とかエルフの飲み薬とか、高額回復アイテムを拾いまくった。いやあ、道具袋の中身が豪華になり過ぎて大変だ。三の倍数階で出現した道具屋で、保存していた杖類と回復アイテムを適度に売却。

「なんだか、またお金が貯まってきたね。」
「そうだね。リュカのサバイバルスキルも随分板についてきたし。」
「ルフのてーさつもお役に立ってますよ!」

 落ちてるものを拾って転売。それでひと財産築けるのだから、マスターというのは気楽な稼業である。

「でもこんなに何に使えばいいのかな?」
「うーん、もう霜降り肉購入くらいしかお金の使い道が無いけど。なんにせよ懐が暖かいと言うのは実に気持ちの良いものだね。」
「お肉! ルフも霜降り肉食べてみたいなぁ。きっと夢のようなお味がするんだよ。」

 うっとりした表情で、ルフがクルクル踊りながら言う。
 リュカはちょっと思案した後、こちらに向き直った。あ、久しぶりにヤバイ気がする。

「ねぇ、わたぼう……ダメ?」
「ぐ、ぎぎ……。」

 いくら何でも野生度-255くらい行ってそうなルフに霜降り肉とか。
 そうそういつも絆されるような都合のいい女になるつもりはないのだよ!とばかりに必死の抵抗を試みる。
 あ、ちょ、なんで抱き上げるの!? 「ぎゅっ」てしないで!





「……次に霜降り肉拾った時捨てる物がなかったら、だからね。」
「ありがとう、わたぼう!」
「精霊さん、大好きです!」

 駄目だ私。わかっちゃいたけど、本番とか実物とかに弱い。あれだ、口では威勢の良い事を言ってるけど、いざ据え膳前にすると固まってしまう頭でっかちチェリーガールだ。ガールて。
 ちょっと、この子。ひょっとして私のことチョロイ女だぜとか思ってるんじゃないの。ビクンビクン。あー、頬ずりしてくるルフもかわええなぁ。もう百合ハーレムとかも悪くないのかもしれんとか一瞬よぎってしまうくらいにかぁいい。そしてレオ様がどこか呆れたような表情でこちらを見ている。レオ様のくせに生意気だ。
 大丈夫。私ってば昔「私って美形駄目男に簡単に引っかかりそうだよね~」とか調子に乗った事言ってみたら、即座に「大丈夫、あんたより残念な人間とか存在し得ないから」と全方位からのお墨付き貰ったほどの女だから。くそう。
 その後、新規モンスターを全員勧誘していたら、あっというまに牧場が満杯に。余っている獣系を泣く泣く解雇。正直もうちょっと枠あってもいいよね。ガップリンは何匹かに燻製肉投げたけど、結局一匹も仲間にならず。懸念どおり、配合で作成しても捕獲済フラグがたつようだ。何か損した気分。

 辿り着いたぬしの部屋はモンバーバラあたりの劇場か。ボスはテリワンオリジナルの「ファンキーバード」なので、案外どこでもないのかもしれない。
 ファンキーバード自体の火力は、こちらに毛ほども傷をつけられない程度のものだけど、強いて言うならメダパニダンスが鬱陶しい。ただ、いつぞやの格闘場ほどの脅威はなく、万に一つも負けの目はないだろう。ここも確か性別可変ボスなので、扱いが難しい。♂だといろいろ助かるけど、♀だと残念な事になる。

「HEY! お嬢ちゃんたち。どうだい、俺の華麗なあしさばき?」
「うわぁ。パパの若い頃みたいで、とってもカッコいいです!」
「そだねー、グーちんも踊りがとっても上手だったね。」

 グーちんがここに居たらどんな顔をするのだろうか。

「どうだい、俺と一緒に踊らないか?」
「むむ、踊りなら負けませんよ。リュカちゃんも一緒に踊ろう?」
「ぱーりー!」

 なんだろう。えっらいデジャビュである。
 ダンスコンテストが唐突に始まり、二羽と一人とおまけの一頭が踊り始めた。暗黒盆踊りを持つルフが本命かと思われたが、ダークホースであるリュカがスタイリッシュな盆踊りでまさかの優勝。彼らの間ではコモンセンスが存在しているようだが、傍から見ていて何を持って優劣を決めたのか全くわからん。魔力10とかか。
 激しい戦いの後、ファンキーな鳥とルフが妙に意気投合。ファンキ♂がついてくることになった。


intermission

「おじいちゃん!! あ~ん、会いたかったよ~。」
「おお、ルフ。お帰り。マスターもお元気そうでなによりです。」
「うん。ただいま、とりさん。今回も楽しい冒険だったよ。」

 牧場に帰るなりキメラ様に飛びつく三十路も近いベテランディガーのルフちゃん。三十路近いのにファザコンかつジジコンとはやりおる。
 抱きつかれたキメラ様も嬉しそうに相好崩しちゃってまあ。
 どうやらルフちゃんは牧場のアイドルらしく、魔物が皆してわらわら寄り集まってきた。

「あ、パパ! ただいま!」
「あ、ああ。お帰り。」

 キラッキラの笑顔をグーちんに向けるルフちゃん。グーちんの笑顔は何か硬い感じ。本人にこっそり聞いた話では、娘のことは大好きなんだけどイマイチどう接したらいいかわからないらしい。不器用なことだ。
 ライネやレオ様もまじえてひとしきり騒ぐと、唐突にルフが切り出した。

「あ、そうそう。おじいちゃん、パパ。このひとが私の旦那様になるひとだよ。」
「!?」
「!?」

 !?


「YEAH! ダディ? COOL, COOL, CoooooooL!!」
「ね。昔のパパに似て、とっても素敵でしょ?」

 ラジカセ片手に破天荒な挨拶を繰り出すファンキ君(30)。
 あ、キメラ様硬直してる。パパはすんごく嫌そうな顔。わかる。自分の黒歴史見せられるようで、いたたまれないのよね。「え~、私ってそんなにレイノルズ数大きく見えますかぁ。失礼しちゃうなぁ、ぷんぷくり~ん≧≦」とかやってる理系女子を見ると私もうごごごご。
 完全に固まっている牧場の空気を蹴飛ばして、二羽は楽しそうに星降りの祠へと連れ立っていった。
 仕方ないので硬直が解けた私達も後を追う。まあ、最初からその配合にするつもりだったけどさぁ。


「ルフよ、考え直せ。汝にはまだ早いぞ!」
「また、そんなこと言って。レオちゃんも早く良いひとみつけないと、お嫁にいけなくなっちゃうよ?」
「う……。我だって、我だって次の扉から帰って来たら結婚するのだ……多分。」

 妹分に先を越されたレオ様が焦ったのか、ルフを諌めようとするも逆に撃沈。ついでに死亡フラグを立てている。
 なにがしたいの。


「リュカちゃん、精霊さん。子供の名前、すてきなの考えてくださいね!」
「おっけー! わたぼうは何かある?」
「うーん。『ルフジュニア』とか。」
「ダメです!」
「ダメだよ、かわいくないもん。」

 まあ私もそう思うけど。

「えー。じゃあ、『ルフ=ツヴァイ』とかは?」
「うーん。カッコいいけど……。」
「私は良い名前だと思います! リュカちゃん、これじゃダメ?」
「むー……、わかった。」


・ルフ×ファンキ⇒ルフ(ツヴァイ)

 四文字制限があるのであれだが、大バッハ・小バッハ的に呼び方で区別すればよろしかろ。
 しかしチャンスがあればマジックバリア的なモノも入れたいところだったのになあ。ファンキーさん特技は良いけど、いまいちステ高くなかった気がするのも。せめてルフが三十路に入ってればボーナスが多めに付くものを。いや、いかんいかん。

「……よろしく、マスター。」
「うん、これからよろしくね!」

 生まれた小鳥は両親に似ず、若干ダウナー系美少女?
 でもリュカにかいぐりかいぐりされてちょっと嬉しそう。
 レオ様もなにか参加したいっぽい様子を見せているけど、エメラダに止められている。どうみても小鳥を狙う肉食獣です。

・アンドレアル×メドーサボール⇒やまたのおろち
・デッドペッカー×マネマネ⇒ひくいどり

 やまたのおろちの性別が確定したので、初期から塩漬けにしているスカイドラゴンさんの卵をついでに孵化。とは言え、この子を無強化のまま配合に使うのは何か気が進まない。クリア後にむけて少し考えるべきだろうか。


⑭知恵の扉

 新規出現はベロゴン・花カワセミ・プテラノドン・鎧ムカデと少なめ。しかも半数が配合済みと旨みが少ないのが何とも。
 当然プテラノドンと鎧ムカデは骨付き肉で確保。ベロゴン・花カワセミは配合済みなので無理はしない。燻製肉が余ってたら投げる程度。間違いなく無理だろうけど。
 道中小さなメダル13枚目を入手。貰えるサンダーバードに関しては今さら感はあるが、まあ将来の溶岩魔人候補か。何はともあれ、無事扉が増えて嬉しい。


 ぬしの部屋はタイトロープなあみだくじ。
 「知恵の扉」なんてネーミングとぬしのスカイドラゴンから、賢者へ転職するためのアイテム「悟りの書」が手に入る塔かと思いきや、実はDQⅢでも屈指の影の薄さを誇る「アープの塔」だったりする。と言うか塔の名前自体、クリアして数年後に攻略本読んではじめて知ったぞ。
 山彦の笛を入手するためには、塔の屋上に渡されているロープからわざと落ちる必要があったけど、今回は落ちるだけ無駄。しかもまっすぐ行ってぶっ飛ばそうとすると、際限なくぬしに逃げられる厄介な部屋。しかし実はあみだの各ポイントとぬしの移動後のポイントが一対一対応している。更にスカイドラゴンが全く反応しない縦糸が一本だけ存在するので、軽くマッピングすれば一瞬で解ける問題だったりする。
 するのだが。


「キィキィ。ずっこいぞー!」

 イメージに全く合わないセリフを吐くスカイドラゴン。気が抜けるよね、これ。
 何がずるいのかと言うと、いつの間にか巨大になってたツヴァイがロープを無視して全員を対岸まで空輸。あっという間にスカイドラゴンを塔の端っこに追い込んだことだろう。レオ様は高いところが苦手なのか、若干涙目で黙りこんでいる。

「……ここは『知恵の扉』。頭を使っただけ……。」
「頭脳プレーだね!」

 うん、それ多分違うよね。
 なし崩しに戦闘開始。普通にプレイしていると、スカイドラゴンの吐く激しい炎が強力で苦しい戦いを強いられるこの扉。
 しかし現パーティーは炎に若干の耐性があるため、それ程の被害にはならず。リュカは慎重を期してこまめに作戦を変更し、ツヴァイにハッスルダンスを使わせている模様。やはり山も谷もなく、スカイドラゴンを圧倒した。この子が仲間になってくれれば、神竜作成も楽なのだけど。

「おんやまぁ、あんた強いねぇ!」
「ありがと!」
「……ぶい。」

 スカイドラゴンは気の抜ける賛辞を残して、天高く舞い上がっていった。
 イメージ違いすぎるだろ、女子高。


intermission

 エメラダが20歳を越えたため、高性能石像であるピート君と配合を始める。ゴールデンゴーレムに動く石像を配合するとか一見無駄に思えるかもしれないけど、態々必要のないAクラスに挑戦したのも全てはこのためである。
 おマチさんから貰えるピート君は特殊技能ベホマラー持ちの超高レベル石像。他国マスターから引き抜いた両親のせいで初期値が貧弱なゴールデンゴーレムを超強化するのに欠かせない魔物である。
 でも今回、縛りのせいでダブル魔人そこまで弱くなかったんだよなぁと今さら思った。私ってばうっかりさん。てへり。
 ……何で私はこんなにも自分を傷つける様なまねをしたんだろうか。


・エメラダ×ピート⇒サフィー♂

「さあ、上げてこうか! 共に青春を謳歌しようぜ!」
「いえーー!!」
「……いぇー。」

 やけに美少年でハイテンションなゴールデンゴーレムが出てきた。もう名前は「天野河・R・ダテ」とかでいいよ。
 どうでもいいけど「ゴール・D・ロジャー」の「・D・」とか、「・R・」とか、「・F・」とかって顔文字みたいだよね。
 気付けばなんか三人揃ってすごく「カッコいいポーズ」をとっている。あれ、ツヴァイってば意外とノリノリ?


 更に大層迷ったけれど、これまで良く働いてくれたレオ様にひとまずお休みいただく事に。
 初期値に難がある感は拭えない配合だけど仕方ない。

「主、主ぃ……。」
「もー、レオさま泣いちゃ駄目だようー。」
「……レオおば様は泣き虫。」
「う、うるさい。」

 生まれたてのハイテンション美少年は、空気読んだのかベロゴンと遊んでる。気配りも出来るイケメン……だと……?!


「……ツヴァイや、主と我の子を頼むぞ。」
「……任せる。今度は私が守る番。……おば様がそうしてくれたように。」

 ツヴァイちゃん男前過ぎワロタ。
 やめてよね。あの子が本気出したら、私なんて簡単に冥府魔道に堕ちてしまいそうだ。


・レオさま×ベロゴン⇒レオ(ツヴァイ)

「はじめまして、マスター。」
「はじめまして。よろしくね!」
「母上が色々とご迷惑をおかけしました。」
「え? そんなことないよー。」

 生まれてきたレオちゃん♀は母様とは異なるいいんちょ系女子だろうか。

「あなたがルフさんですね。母上の記憶にありました。」
「……うん。おば様は最初ちょっと怖く見えたけど、本当は色々な所が抜けてて子供っぽい、親しみやすいひとだった。」
「あ、あー。はい。本当にすみませんでした。」

 レオⅡの笑顔が引き攣る。

「……だから、あなたは私にとっても大事な子。きっと私が守るから。」
「……はい。これからよろしくお願いします。」

 さっそくルフちゃんが口説きにかかってますよー。しかしクリア後の配合を見越してのこととは言え、最近パーティーがやたら百合百合しくて、そのなんだ、困る。適度な百合なら大好物なんだけどなぁ。このままいいんちょも毒牙に掛かってしまうのか。

「……うん。あと、私のことは『ねえさま』と呼んでもいい。」
「それは遠慮しておきます。」
「……そう、残念。」


・鎧ムカデ×大目玉⇒ホーンビートル
・キラーマシン×プテラノドン⇒メタルドラゴン


 続いてメダル王の部屋に行く。

「おじさーん、メダル持ってきたよー。」
「ふむ、これでリュカが持ってきたメダルは全部で13枚じゃな。13枚をこえたのでご褒美を上げよう!」
「ありがとう!」
「サンダーバードのタマゴじゃ! 牧場に送っておくぞ!」

 まあ、今さらだけどね。用途は溶岩魔人かグレイトドラゴンか。
 それより重要なのはこっちの方よ。


「リュカちゃん、ありがとう! メダル沢山持ってきてくれたね!」
「えへへ、どういたしまして。」

 私が謁見の間に行くのにいつも使ってる裏口。そこを塞いでるメタスラっぽい何かがリュカに話しかけてきた。

「お礼に旅の扉を開いてあげるよ!」
「本当?! ありがとう!」
「えーっと、おじさんが隠したんだけど、どこだっけ??」

 おいおい。

「見つかったら用意しておくから、まったきってねー!」
「うん! 楽しみにしてるねー。」

 リュカと一緒に部屋から出る。と見せかけて、間髪いれずに戻ってくる。

「見つかったよ!」
「え、もう?!」

 リュカが目をまん丸くして驚いている。実際一秒掛かってないとか、どれだけ早業なのよ。


⑮メダル王の扉

 新規出現モンスターは、オーク・ギズモ・さまよう鎧・しにがみ・ナイトウィスプ・ボックススライム。

「やっぱりボックススライムを捕まえるの?」
「うーん、そうしたいのはやまやまなんだけど。」

 リュカってば、私の好みをしっかり覚えていたなんて……。
 それはさておき、この辺から配合に有用かつユニークな特技を持つ魔物が多くなってくる。とは言え今回単独で配合に貢献するような魔物はひくいどりの元になるギズモくらいか。じっくり時間をかけられるなら、かたっぱしから取り込んでいくものを。

「残念ながらボックススライムを捕まえている余裕はないだろうね。」
「そっかあ。スライム系は皆かわいいから残念だなぁ。」
「とりあえず可能ならギズモ。あと『しにがみ』は捕獲必須だね。」
「しにがみ?」

 王妃様ミッション最後の難関「しにがみ」。なまじ序盤で手軽に作れるエース級なだけに、知らなければさっさと配合につかってしまうため、地味に達成が面倒な魔物だ。万が一を考えてここまで捕獲済みフラグをたてなかった私の先見の瞳に乾杯。
 ちょっと渋るリュカを説き伏せて無事しにがみを捕獲。怖い系はあんまり好きじゃないらしかったが、仲間にした後は普通に仲良くなってた。ちなみにギズモはやはり仲間にならないっぽい。そろそろ霜降り肉を大量消費する覚悟を決めるべきか。
 そうこうしているうちに、レオⅡがレア特技「やみのはどう」をついに習得。正直使えない特技なんだけど、何故入れたかといえば、それはカッコいいからだ。サフィーも「ひかりのはどう」を覚えてご満悦度二倍。これで私も光と闇を統べる王だ。果てしなくくだらない自己満足だけど、何度でも言おう。カッコいいからだ。
 ここのぬしはリップス・キングスライム・マタンゴの三択。ぬし部屋で三つの扉が選べる構造になっている。DQ6の兵士採用試験を模したものだろう。

「ハーイー! うちはもう、チュパチュパですよ!」
「社長! プリンプリンで王様気分ですよ!」
「甘~い香りで、ゆっくりお寛ぎください。」
「??」

 にしては入り口三択のヒント口上が、完全に風俗の客引きなんですが。おいスタッフ、もうちょっと対象年齢考えてテキスト打ってください。
 私の選択はほぼ必然のキングスライム。「仲間にならなかったら残念」程度ではあるが、念のため霜降り肉を二,三個投げておくことにしよう。ルフⅡの踊りで嵌め殺しても良いのだけれど、メンドクサイので全員ガンガンでもいいかな。いずれにせよ負けは有り得ない。
 そんなことを考えていたら。

「さあ、私の胸でゆっくりお休み……!」

 リュカもルフⅡもレオⅡも。ついでに問答無用で私まで、その暖かなやさしさに包まれる。なんて包容力、抱いて!
 こんなママさんがいるスナックなら行ってもいいかもしれない。前に後輩どもに連れて行かれたキャバクラは最悪だった。何であの娘たちあんなに頭悪いの。いや風俗なんて、精々キャバクラ1回とオカマバー5回くらいしか行ったことないから本当はあんまり知らないけどさ。
 幸せな気持ちのまま、何故か高レベルモンスター「キングス♀(38)」が仲間に。


intermission

「おお、リュカよ! 新たな魔物を倒したか! ふふ、どうじゃった?? お気に入りの子に会えたかな?」
「?? キングスさんなら仲間になりました。」

 所変わって謁見の間。最近スルーしてたけど、今回は思うところあって女神スタイルで参加。

「いや、いや。なんでもない。じゃがそなたも好き者よのう!」
「さすがにやりすぎだろ!」
「ああ! 久しぶりのこの感触!!」

 予想通り、リュカ相手にテンションも高らかに風俗トークを繰り広げようとする王様。
 慌ててグリンガムの鞭を飛ばしたのだが、何故かリュカの目の前でプレイを実演してる感じに。なるほど、これが孔明の罠か。



 気を取り直して星降りの祠へ。

「Get Ride! やっちゃるぜ!」
「やっちゃるぜー!」
「……ぜー。」

 ノリノリで祠の奥に進むサフィー。そしてノリノリで見送るリュカとルフⅡ。ルフⅡと同じ事がしたいけど、羞恥心が邪魔をして素直になれない様子のレオⅡ。なんぞこれ。
 それにしてもサフィー。まさに一瞬、だけど流星のように駆け抜けたな。もう20代半ばだけど立派に美少年を務めているのはさすがと言ったところか。
 モンスター爺さんはどこか嬉しそうにしている。リュカがついに自分のいる高みにまで駆け上がってきた事に喜んでいるのだろうか。

「一度も仲間にしておらぬ魔物が生まれそうじゃぞ!」
「いや、爺さん。あんたの手持ちでしょうよ。」
「なんじゃ、知っておったのか。」

・キングス×サフィー⇒ゴメちん(ゴールデンスライム♀)

「……ピィ?」
「え、お願い? うーん、それじゃあボクの友達になってよ。」
「ピィ!」

 ちっちゃくてキラキラしたスライムが出てきた。そして無口系とかそういうの以前に、何故意志の疎通が出来ているっぽいのか。
 ちなみにゴールデンゴーレムとキングスライムを掛け合わせると、高HP・低防御力の『ゴールデンスライム(偽)』ができる。
 単体能力としてはゴールデンゴーレムの方が色々と優れているのだけれど、スライムが好きだからしょうがない。メタルキング×2による正規ルートに比べて耐性が怪しくなりそうだけど、システム的には問題ないはずので、まあ気にしない。防御力もここから良く伸びるはず。
 豊富な耐性を存分に活かした彼女の仁王立ちは戦局を一変させる切り札。モンジイ戦における「しんりゅう」の「精神統一→ジゴスパーク×2」のコンボをシャットアウトできるのが一例。これできっちりゴメちんがベホマズンまで覚えてくれれば、超耐性の壁役・豊富すぎるMPを持つ超速の回復役を一人で十二分にこなせることになる。ルフⅡのベホマ・誘う踊りと合わせて、クリア前なら正に鉄壁。だけど物理攻撃までシャットアウトできるわけではないので、本来ならツヴァイズあたりにスクルト系入れとく予定だったんだよなぁ。どうしようか。
 これまで預かり所に保管していたドーピングアイテムのうち、命の木の実と守りの種をすべてゴメちんに注ぎ込む。あとはゴメちんが予定通りに成長しきるかどうか、まさに時間との戦いである。


・バブルスライム×メタルドラゴン⇒メタルスライム

 サブの配合も終え、満を持して図書館に図鑑を確認しに行く。
 別に今である必要は全くないんだけど、目標達成できるているかどうか。緊張の一瞬である。

「あなたは魔物をどのくらい仲間に出来たのかしら?」
「えーっと……。やった! 101種類だ!」
「凄いわ! 100種類をこえてるなんて!! もう誰もあなたの事を馬鹿にしたり出来ないはずよ。」

 かつて「普通のマスター」認定してくれやがりましたお姉さんを見返す。と言うか、なんでいきなり馬鹿にしたりとか言う話が出てくるのさ。
 いや、相変わらずサンチからは「夢見る居眠りマスター」とか罵倒されているんですけどね。あのツンレベルは尋常じゃないですよ。
 とは言え、無事図鑑百種も達成できた。諸々杞憂に終わったようでなによりである。カウンターを塞いでいる別のお姉さんに話しかけ、ベルベットルームへと案内してもらう。よし、美人だ。


「魔物を100種類以上仲間に出来たのね!」
「ハイ!」
「あなた頑張りやさんね。ここを通してあげるわ。」
「ありがとう、お姉さん。」

 私の記憶が確かならば、ここで断じて肯んじかねる悲劇が起きるはずである。
 果たして私の予想通りに、美人のおねいさんが不審な動きを見せた。

「やらせはせん!」
「チュッ……あらあら。」

 リュカの唇を奪おうとするおねいさんを、体を張ってインターセプト。かくしてリュカの貞操は守られ、私は美人おねいさんの唇&笑顔と言う名の役得を得た。これ地味に私の原作知識が最も活きた瞬間じゃなかろうか。
 通された奥の部屋は、所謂禁書が納められた区域。有用な特殊配合が数多く記されており、普通のマスターにとっては垂涎の情報だろう。でも攻略本を擦り切れるほどに読み込んだこの身にとっては今更不要なものである。部屋の片隅には旅の扉。ますます持って不思議だ。


 これから踏み込む「図書館の扉」は、通常クリア前に行けるものとしては最高クラスの旅の扉。鏡の扉に行く前の試金石だ。今の戦力で通用するか少し不安はあるが、リュカならきっと軽やかに切り抜けてくれるだろう。




[22653] 攻略メモ 序盤
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/26 11:28
GB最高傑作の一つであるDQMを今さら布教する意味は無いと思うけど、例によってプレイ日記風攻略メモ。
ちなみに私は、性格・耐性などの隠し要素(パラメタ)については雰囲気知ってる程度の中級者なので、メモの内容もそれ相応。


目的

 このメモでは、ノーマルクリアまでストレス無くゲームを進めることを第一の目的にしている。
 例えば、②守りの扉で捕獲できるモンスターについて、純粋にモンスター単体の能力を見れば軍隊アリも中々のものだが、
 後の展開等を考えて、防御は脆いがピッキーを確保推奨としている。
 また前回と違って、無茶でなければ適度に戻ってレベル上げもする。

 以下性別表示に関して、明記してあるものには3種類ある。
 (ⅰ)ボスが仲間になる際、性別固定のもの(ドランゴ・マネマネ以外は全部♂)
 (ⅱ)そのボスと番わせるため、性別が自ずと制限される場合
 (ⅲ)どっちでも良いが、後に起こりかねない悲劇(801 or 百合展開)を防ぐため
    血統予定のが♂・相手が♀と便宜上の表記。カッコつき。場合によっては例外ありの適当さ。

 明記してないものは、割とどうでも良いモンスター。



序論
 クリア前とクリア後でプレイスタイルを大きく変えるのが吉。
 最初から全要素虱潰しにしようとすると、作業が容易に発散して心が折れる(体験談)。

 序盤で最重要なのは成長速度。
 進行具合にもよるが、クリア前はパラメタ高くて成長の遅いやつより、パラメタが多少低くても成長の早いやつを使うほうが望ましい。
 イメージ的には前者がexpで、後者がlogな感じ。
 経験値あたりの能力アップ幅を考えると、クリア前の乏しい経験値では断然後者のほうが強くなる。

 更に配合によってモンスターは飛躍的に強くなるので、とっととレベル10になれるモンスターのほうが優れる。
 虫ポケモンの成長が早いのは世間の常識だが、テリーのワンダーランドでは鳥も成長が早い。
 鳥系は序盤から終盤まで大活躍するチームのエース。
 使用モンスター・配合に悩むことがあれば、序盤は鳥を血統に使っとけばまず間違いない。

 経験的に、モンスターは成長速度で4グループに分けることができる。
 早熟な鳥・虫系。朝日杯3歳ステークスは独壇場。必要経験値は、2/7/15/30/50/90/140/215/330
 普早のスライム・草・獣・物質・ゾンビ系。4歳クラシックが主戦場。5/15/30/?/?/180/280/430/660
 普遅のドラゴン・悪魔系。菊・有馬orマイルCS・スプリンターズSあたりが目標。10/30/60/120/220/360/560/860/1320
 晩成のボス系(????系+α)。春天以降活躍。要するにクリア後専用。大体普遅タイプの10倍くらいだった気がする。

 喩えが古いのは、ウィポ2とマキバオーが好きだから。
 このカテゴライズをベースに、個体ごとに若干の変動がある。
 (弱いベビーサタンやドラゴンキッズは成長が早く、強い虹孔雀などは遅い)


 したがって最初から最強系とかボス系目指すと要らん苦労をすることになる(体験談)。虹孔雀とか、なまじ作り易いだけに尚更。
 そういうのは、はぐメタ狩りができるようになってから。
 あと地味だけど図鑑は重要。格闘場で各扉のモンスター教えてくれる人も重要。ももんじゃのしっぽ超重要。


細則
 主に縛りについて
 ①ゲーム再開以外のリロード不可
  本プレイの特徴づけとして、旅のしおりの無意味化を試みる。詩人ドーピングも実質禁止。
  全滅しても軽いデスペナで続行するので詰む危険がない。配合でもどうせ自動セーブだし。
 ②他国マスターからの引き抜き禁止
  SSの内容的にこれはできない。リロード不可縛りもあるし丁度良い。
  ただ、溶岩魔人・氷河魔人生産が地獄の苦しみに。
 ③キメラの翼使用禁止
  特に意味はないが、キメラ様へのリスペクトとして。絶賛迷走中。
 ⑤一度入った扉への再進入不可
  こっそり制約にランクアップ。意図は言わずもがな。
  ②がなければ問題なくいけるかなーとか思っていたが、
  このままでも普通にいけそうな気がしてきた。

 以下は没制約
 ④隣接ターンによって強制カップリング
  ①②だけだと緩いかなと思って深く考えずに仮導入。
  すいません。無理ッした。お見合いでも有名無実化されるし、牧場の扱いも微妙。そもそもプレイが破綻する。




序盤

 圧倒的に鳥優位。ドラクエでは雷も苦にしない。何気にドラゴンとか手に入るけど、十年早い。
 でも大体の人が勇んで作る虹孔雀とかも、全くもって役に立たない。必死に連れまわして、やたら苦労したのは良い思い出。

①旅立ちの扉
 初期スライム一匹でどうとでもなる
 基本はフロア全探索。拾った薬草で回復しながらレベルを上げる。
 全部歩いたら普通に降りるので十分。

 次ステージ以降の為にも、「ドラキー(♂)」は確実に仲間にしておく。
 彼の子から始まる系譜は序中盤のエースユニット、そして終盤のサポート要員としてチームに多大な貢献をしてくれる。

 アントベアはどうでもいいが、いるとホイミン戦が楽になる。図鑑埋めのため仲間にするといいだろう。使い勝手は良いが、スラぼうよりも優先するかは趣味の問題。

 ボスのホイミン♂は嬉しい回復要員だが特に長く使う必要はない。
 次の格闘場のことを考えても、スライムのレベルは4もあれば勝てるし、
 ゆったり全探索してれいば、実際そのくらいにはなる。


intermission
 まずはスカイドラゴンさんの卵と、小さなメダル(牧場・格闘場)回収。
 格闘場Gクラスはドラキー・ホイミン入れておくのが無難。
 変にレベル上げするまでも無く勝てる。無料だし、死んでも特にペナルティはない。

 クリア後バザー解禁。だからといってどうということもない。薬草売って肉買うくらいか。道具屋のつぼから小さなメダル回収。
 Fクラスはさすがに無理。お金もないし。更に無理やり勝っても今はまだメリットもない。
 おとなしく新しい扉を攻略していくべし。


②守りの扉
 部隊構成は、前衛スラぼう、遊撃ドラキー、衛生兵ホイミンの鉄板トリオ。
 雑魚が結構強い。ホイミンは比較的MP消費が激しいので、拾った薬草を上手く使わないと厳しい。

 最初からいるスライムはパラメタは高いものの、
 単騎運用前提の経験値3倍仕様なのか、成長が普遅で既に限界が来ている。
 交代要員としてピッキー(♂)を仲間にしておく。スラぼうはこれにて御役御免。
 鳥で成長が早く、かつ高火力の優秀なユニット。ルカニも使えるジャイアントキラー。ただし防御が紙なのが大きな瑕。ラリホーの存在が前提条件。

 他に出会ったのはゴースト・軍隊アリ・マドハンド・コドラ。
 詩人の情報には無いが、コドラも出るので拘る人は忘れずに。
 ゴーストの舐め回しは良い特技だが、基本軍隊アリ以外はどれも使うに値しないうえ、配合に使おうにもレベル不足。
 成長の遅いコドラを育てる気にもならない。

 ボスは街を「守って」いるゴーレム♂。
 原作補正かラリホーが異様に通りやすく、眠らせて楽勝。

 仲間としてはHPの高い貴重な壁役になり得るが、他のパラメータは割と普通な上、
 例によって成長が遅い。使うとしたら次の格闘場要員くらい。
 むしろ配合で役に立ってもらうことになる。


intermisson
 本プレイでは縛っているので使わないが、キメラの翼があれば非常用に一個残して、不要物を売り払う。
 現地調達可能なので薬草もそんなに沢山はいらない。得た金で念のため肉をいくつか購入。
 苦労したくないのなら肉を惜しまないこと。


③待ち人の扉
 勇者を「待って」いるローラ姫の扉。
 ボス・ドラゴンの火力の関係でこっちを後に。
 ラリホーが若干効きにくく(体感)、火の息も強烈。
 最短プレイだと圧殺される危険もある。ピッキーに不安があるならゴーレムを連れて行くのも可。後々の事を考えるとお勧めはしないが。

 他国マスターはまだ見かけてもスルー推奨。圧倒的に戦力不足。

 優先捕獲対象はグレムリン。
 お見合いを見据えてドラゴン系と配合すればシルバーデビルだが、まだこのタイミングでは色々大変。更に残念ながら相手のドラゴン系に関しては既に先約がある。
 成長が早く特技のバランスも良いので戦闘で使い続けるのもありだが、配合ルート・タイミングなども勘案すると、本プレイではスタメンを別に採ることになる。
 彼は「ギラ」を持っているので、バザーでBBQしようとしている連中に悪魔を魂ごと売り渡そう。

 新規出現モンスターは、切り株おばけ・バッタ・ファーラット。
 例によってファーラットは戦士の情報から漏れていて、例の如く図鑑埋め。

 ボスのドラゴンは苦労する割に、成長速度が遅いため正直使えないべジータ様。配合しようにも異様に時間が掛かる。
 3周目くらいでコイツは罠だと気付いた。
 ゴ-レムと同じく使うとしたら次の格闘場くらいだが、ぶっちゃけ現時点でさえ育ったドラキーの方が安定する。
 

intermission

 グレムリンをドナドナした後は、格闘場でFクラスに挑戦。
 ピッキーの攻撃・ドラキーのラリホー・ホイミンの回復でギリギリ勝てなくも無いが、
 レベルがそこそこ無いと、ドラキーのMP切れから貧弱な防御を崩される。

 万全を期すならピッキーの代わりにワンポイントでゴーレムを。彼が輝く最初で最後の舞台。
 ドラゴンの火の息は強烈だが、前述の通り育っていればドラキーの方が安定する。

 ちなみにEクラスを勝ち抜いて得られるメリットは非常に大きいが
 現時点ではほとんど意味を持たないし、そもそもそのまま直行するのはさすがに無謀といわざるを得ない。

 いよいよ配合が解禁。心躍る瞬間ではあるが、この時点では全員レベル不足のためしばらくお預け。
 まずはスカイドラゴン(♂?)の卵を孵化する人が多いだろう。
 ただ将来の事を考えると、まだ暫くは卵のままでいてもらう方が良いか。
 おこぼれ経験値期待して孵化させても別に問題ないが、クリア後連れ歩けば一瞬で消し飛ぶ程度のアドバンテージ。
 性別確定させないメリットの方が大きいだろう(お金的にも、うっかり防止のためにも)。

 ついでに最下層の民家の箪笥から小さなメダル回収。
 毎回思うけど、民家を勝手に漁る勇者の人って……。


 次の扉の選択肢は3つ。
 ④思い出と⑤戸惑いは正直どちらが先でも良い。バザーの扉は後回し推奨。
 ボスの悪魔の騎士は「ギガスラッシュ」を覚えるのだが、
 レベル的に若干無理があり、またそれほど加入を急ぐメリットも無い(後述)。
 

④思い出の扉
 最優先捕獲対象はドラゴンキッズ(♀)。成長が早い。ドラゴン系なのに。
 ドラキーと性別の異なる奴を仲間にしたらピッキーと入れ替えてレギュラーに。
 レベル10を目指し、到達し次第ドラキーと合体。
 偉大なるドラキーと彼女を祖とする系譜にこれから永らくお世話になる事になる。

 余裕があればぶちスライムも。
 彼(or スラぼう)の「+数」を上げることになる。
 キングスライム系は色んな意味で非常に使い勝手の良いモンスター。

 他に出会ったのは、キャタピラー・フェアリーラット。


*本プレイではやらないし、この時点では"全く"お勧めしないが、
 骨付き肉が2,3個手に入ったのなら、他国マスターにちょっかいを出す事も理論上可能。戦力的にはキツイ。
 しおりは必須なのだが、手に入れる手段がまだ無いので結局無理筋。怒りの扉クリアまで待つのが常道。かなりの確率で肉を無駄にすることになる。
 引き抜いたモンスターは大抵弱い。成長率とか無視してパラメタが決められている感じ。
 実際自力で(お見合いor配合で)作ったほうが余程強いので、現時点で引き抜きに固執する必要は全くない。
 むしろ主力に据えるつもりなら引き抜きはあまり当てにしないほうがいい。
 あくまで配合用のレアモンスター調達と割り切ること。



 「思い出」のリボンで仲間になるボスのゲレゲレ♂は、思い入れがあるけどそれだけ。
 現時点では結構強いアタッカーだが、使い続けても特に愛に応えてくれるということはない。
 それこそ愛だと言うなら止めはしない。


intermission
 間髪入れずに次の扉に進んでも良いが、ここらで一息。
 早ければもうぼちぼち牧場の枠が埋まる頃なので、要らないやつらを冬眠。

 そしてドラキー×ドラゴンキッズの初配合で、序盤の大エースにして偉大なる系譜の祖・キメラ様♂をお迎えする。
 本プレイ記を参考にするのなら、性別はしっかり♂にしておく。鑑定祝福代は税金と思ってきっちり払う。

*次点としてホイミン×ドラキーで羽スライムもありか。
 回復・補助に安定し、霜降り入手も早くなる。
 だが殲滅力の勝るキメラ様の方が「楽をする」意味では優れる。

 合体がまだできないなら、ここで一度以前の扉に戻ってレベル上げしたほうが、却って効率がよくなる。
 キッズはそこそこ高レベルスタートの上、成長が異様に早いのですぐに目的は達成できる。ドランは彼女を見習うべき。

 格闘場Eクラスはキメラ様さえ育てばきっと何とかしてくれるので、とりあえず次の扉へ。
 パーティー編成は、前衛ゲレゲレorピッキー、回復ホイミン、キメラ様がオーソドックス。
 本プレイではゴレムスを配合可能レベルにするため、前衛に入れる。
 ボスに着くころにはキメラ様が国士無双になってるはず。


⑤戸惑いの扉
 キメラ様デビュー戦。
 皆が皆「キメラ様マジパネェ」と感涙に咽ぶこと請け合い。
 1フロアも降りないうちに部隊中最高火力・全体攻撃・回復魔法・ラリホーと考えられない無双っぷり。
 高々100ちょいの経験値で、経験値2000の他国出身グリズリーを軽く凌駕。熊涙目。
 目標は氷の息習得まで。すんなり行き過ぎると届かないかも。

 捕獲対象はベビーサタン(♀)。
 使い道は後述する悪魔の騎士のスペアもしくは死霊の騎士の材料。
 お見合いにおいて性別は些細な問題らしい。マジか。
 適当に肉など投げ与えるとストレスがなくて良い。
 
 他は大鶏・エビルシード・腐った死体。
 どれもそれなりに使い道はある。特に鳥系は色々役に立つので最悪でもレベル10にしてから冬眠保管推奨。大鶏♀は後で羽スライム他の材料になる。
 死体はゾンビ系特殊配合「死神」に引っかかるため死霊の騎士の材料にできない事に注意。ゴーストともども足を引っ張ってくれる。
 とは言え、「死神」自体は配合が後に繋がらないものの、馬鹿みたいに強いので、ちょっと変わったプレイをしたいなら作ってみるのも一興か。
 エビルシードも鳥系に掛けてやれば、強力で可愛い花カワセミに。なんなら大鶏と番わせるのもいいかもしれない。
 ただ戦力としてみると、どれも当然キメラ様の前では霞む。

 最終階層のシンボルエンカウント、きりかぶおばけは仲間にならないっぽい?
 経験値が高いので、余裕があれば伐採推奨。

 ボスの人面樹は呪いよりむしろマホトーンが厄介。
 回復魔法を過信して薬草レスの状態で突っ込むと皆殺しにされる危険が。
 乱数を味方につけようとか思わないこと。薬草必携。
 攻撃力もそこそこ、呪いも嫌らしくはあるが、回復手段さえ確保すればキメラ様の敵ではない。

 余談だが、落ちてる杖は大事に保存。
 3の倍数階で稀に出てくる道具屋において、バザーの10倍価格で買い取ってもらえる。
 良い杖拾えば、運次第ではあるが一気に財政が潤うことになる。


intermission
 格闘場Eクラスは最早消化試合。
 キメラ様の氷の息が火を噴くぜ。(パラドキシカル)
 敵も然るもの甘い息・火の息など随所に鬱陶しい攻撃が光るが、キメラ様にお願いしてべホイミを使っていただけば何の問題も無い。

 ただ、本編ではマスター(笑)とか書いたが、最終戦の相手であるテトは実はそれほど弱い相手じゃない。
 まずスライムつむり二匹。スライム系は素早さが高いので、この時点ではキメラ様などでもほぼ確実に先手を取られることになる。
 間違っても先制氷の息から追撃で完封とか甘い事を考えないように。乱数吟味するTASさんとかならその限りじゃないのかもしれないけど。
 そしてスライムつむりの使う、全体攻撃魔法のヒャドと「仲間呼び」が強烈。下手をすればパーティー半壊もありえる。
 とは言え結局はキメラ様がいるので、他が的になって倒れてもほぼ確実に勝ちはするが、実は結構な火力を持つパーティー。
 言動で侮ると、その実力を見誤る事になる。


 ここから待ちに待ったお見合いタイム解禁。
 キメラ様の美技に酔いすぎて、うっかりDクラスに連続昇級して、貴重な出会いの機会を潰さないように。
 何の卵が生まれるかセーブ前に分からないのが痛すぎるが、それを補って余りある魅力。お見合いは計画的に。


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主に合体考察
準備が整い次第、順次実行していくことになる


 ・酒場にいる酔いどれ(キャットフライ)
  適当な鳥をあてがうと「暴れ牛鳥」に。
  暴れ牛鳥をあてがうと「モーザ」に。これ以上は記憶に残って無い。
  今回のプレイではまた別の使い方をする予定。

 ・マスター(笑)テト
  見合いの相手は垂涎の氷河魔人。マスター侮りがたし。
  ここはゲレゲレ♂を差し出しグリズリーに。
  低レベル帯においては、レベルが上がるたびに攻撃力が2ケタ上がり、相当高火力な熊さんができる。
  他国マスターから奪ったグリズリーは何であんなに弱いのか。

  次点は鳥系を掛けてホークブリザード。
  かなり強いし、レア度も高いし、何より格好良いのだが、今この瞬間の利用価値はグリズリーに劣る。
  壁役として氷河魔人の硬さも活かせないし、なにより耐性がそう重要じゃないこの辺で使えるのが氷の息だけでは、完全にキメラ様の後塵を拝することになる。
 (勇気の扉のビックアイくらいだが、耐性無いキメラ様でもどうとでもなるし、ぶっちゃけスルー可能。)
  グリズリーはボスキラーとしての価値は勿論、実はこの後の合体材料としての用途こそが非常に重要。
  

 ・ミッキー(リザードマン) 
  王妃と自らを配合しようと企む間男。しかし見合いの相手はホンモノ。
  優秀なステータスと優秀な特技。特にギガスラッシュ。

  前述の悪魔の騎士を急ぐ必要が無いと言った理由の一つ。
  代替わりの度にレベルを30以上あげてギガスラッシュを保存するのはしんどいので
  末永く使える成長限界が高い、強力な魔物を作るのがベター。
  該当するのはドラゴン・悪魔・????系だが、
  ドラゴン掛けるのは馬鹿馬鹿しいし、????は無理な上ほぼ無意味。
  悪魔系との特殊配合ライオネック(ベホマラー持ち)が一番良さ気。
  成長が遅いのが瑕だが、攻撃に回復に防御に、万能の働き。
  中盤の頼れる引率役になってくれる。

  ご要望どおりのシルバーデビルを提供すれば強い子の出来上がりなんだろうが、
  この時期に成長したシルバーデビルとかむりぽ。
  以前捕まえたベビーサタンでも十分いけたが、悪魔の騎士推奨。
  ちともったいない気もするが、ギガスラッシュを潜在的に二人持たせても、この時点ではあまり良いことない。
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  以下色々選択肢はあるが、進行の一例を。


⑥バザーの扉
 いわゆる一つの番外編。別にやんなくても良いがトライ推奨。
 インターミッションで、ゲレゲレ×氷河魔人のお見合いからグリズリー♀を作成。祝福代は税金。
 キメラ様・グリズリー♀のパーティーで突入。あと一匹は配合に使いたいけどレベル10が遠いヤツを連れて行くと良い。

 敵などいない。
 ボスの悪魔の騎士戦前に、グリズリーをレベル10まで上げておく。というか、普通に探索してれば上がってる。
 もうちょっと頑張ると対人戦の切り札、氷河魔人伝来の「大防御」も入るが、この時点では引き継ぐ必要は無い。
 ミレーユの開幕マダンテ対策にも有用だが、そもそも今回の戦略構想的には、なくても多分なんとかなったりする。

 一般捕獲対象は、とさかへび・ビーンファイター・一つ目ピエロ。
 ベビーサタンを仲間にしていないなら、死霊の騎士材料としてピエロを確保。というか、どちらも確保。ピエロ・グレムリン・ベビーサタンは、悪魔系における成長株。
 他は図鑑埋めのために適当に捕獲。



[22653] 攻略メモ 中盤
Name: 774◆db48d012 ID:f581fedb
Date: 2011/11/29 13:17
中盤

 多少は獲得経験値が増えてくるが、あいかわらずボス級は使えない。普遅タイプも配合を重ねるのは骨。
 主力は普早・早熟を中心に、使いながら配合を重ねて強化していく。

intermission
・悪魔の騎士×リザードマン(お見合い)⇒ライオネック(♀)
・ゴレムス×グリズリー⇒キラーマシン(♂)

****

 SS本編の進行。
 縛りのせいで若干非効率的なことをやっている。
 とくにお見合いのキャットフライは単なる苦肉の策。普通はモーザを作る方が良い。


 スラぼう×鳥で羽スライム。
 王妃様から霜降りゲット。権力には媚びへつらう、これ常識。
 あらかじめ鳥系でコツコツとプラス数を上げておくとよい。

 プラス数を上げるときの注意点は、「均等に上げない」こと。
 両親のプラス数で高いほうがベースになって、
 レベル合計(10&10, 20&20, 30&30, 40&40, 50&50 ?)でボーナスがつくので、
 「+2&+2」を作るより、「+4&+0」を生むほうが無駄が無い。
 わかりやすく言えば暗黒武術会のトーナメント表みたいに組み合わせるのがベスト。

 鳥系を血統に余ってる相手をつけて強化サイクルを回し「+2」まで上げる。鑑定・祝福代はケチらないこと。
 スラぼうに吸収させて「はねスライム+3」になったら、お見合いのキャットフライで「ぶちスライム+4」を作る。
 このキャットフライは「バイキルト」などの特技を余計に覚えているので引き継いでいきたい。
 あとは元からいたぶちスライムで最後の仕上げ。
 順番を逆にしていきなりキングスライムを作ってもいいが、「スライム」は配合で作り出せないので、再捕獲に向かえない本編では事実上不可能。
 どのみちぶちキング⇔キングの転換が容易であるのがありがたい。
 ぶちスライムの持つ優良技能「ひゃくれつなめ」ともども、しっかりレベル上げして引き継ぐ。

 しばらく牧場放置してぶちスライムのレベルが上がる(「+」上昇が2以上になる)のを期待する手も有る様に見えるが、
 配合の合計レベルを40以上にするのが必要で結局無理筋。

*****


 次ステージのパーティーはキメラ・キラーマシン・ライオネック。
 レベル1の仲間二人を連れて行くのは抵抗があるかもしれないが、
 すぐに戦力になるし、キメラ様が引率なので何の心配も無い。

*SS本編では「扉一枚・侵入一回」と「引き抜き禁止」の方針のため、
 育成枠が必要になり、ライオネック様が割を喰うことになっている。
 変な縛りをつけないなら、キメラ様の後継者としてすぐに育て始めるのが良いかも。


 このタイミングでは無理かもしれないが、材料が配合可能レベルに達し次第、死霊の騎士作成。
 ゾンビ系×悪魔系:ただし前述の通り、序盤に仲間になるゾンビ系「腐った死体」「ゴースト」はどちらも特殊配合に引っかかる。
 本編のように一手間かけるのが面倒なら、さっさとDクラスも突破して「怒りの扉」に行き、アニマルゾンビを捕獲してキメラの翼で帰ればよい。
 各種見合い期限が怒りの扉クリアまでなので、うっかりそのままクリアしないよう注意。


⑦安らぎの扉
 スライムファング♂が仲間になる。それに尽きる。
 戦闘はキメラ様で回復するのを忘れなければA連打でも勝つ。
 重要なのは相方になる獣系の♀を確保しておくこと。
 既に居るのならいいが、そうでないのなら最優先捕獲対象にアルミラージ♀が追加される。

 最優先捕獲対象はまず一匹目ボーンプリズナー。雷の特技が使えるので、井戸の魔人にドナドナされる運命。
 ちなみに二匹揃えれば骸骨戦士になる。クリア後の話になるが。

 二匹目はねじまき鳥(♀)(物質系)。鳥の血統(ピッキーなど)に肌馬(肌鳥?)として合わせると、
 不思議なことにヘルコンドル(ベホマラー持ち)が生まれる。色々使いでがある。 

 
intermission
 井戸の底にボーンプリズナーを護送。
 見合いはまだ残ってるが、昇級で消える見合いはリザードマンだけなので、Dクラスを一蹴してもよい。
 死霊の騎士の準備だけは忘れない事。

・獣系♀×スライムファング♂でユニコーン(♀)を作成。
 回復役としてはあまり良い親ではない気もするが、本質的にはエースを顕現させるための犠牲。
 そのエースは後に幾らでも強化が利くので、手っ取り早く作れるこのルートが優れる。
 普通に使うのであれば、もうチョイ別の組み合わせがいいと思われる。

・鳥系×ねじまき鳥⇒ヘルコンドル
 ついでにピッキーとかでヘルコンドルを作っとくと便利。前線には出さず、基本は配合要員。
 ベホマラーを引き継ぎつつ、特殊配合材料として使える優れもの。

・暴れうしどり×キャットフライ(お見合い)⇒モーザ
 この子も割と優れた鳥。能力的にも配合的にも。
 今回は諸々の縛りのためにぶちスライムの材料にしたが、余裕があればこの配合でじっくり育てたい。
 

 そこそこ育ってるはずのキラーマシンと生まれたてのユニコーンでスタメン入れ替え。
 キメラ様がもう大して伸びず(最低でも20レベル越え)、ライオネックが変わりを十分に果たせると判断するならキメラ様と入れ替えてもよい。
 個人的にはまだ先の方がいいかも。


⑧ 勇気の扉
 いらないっちゃいらない。ボスも仲間になるで無し。
 けど一応入る。クリアは不要。

 見えない床。DQ5の神の塔。
 捕獲対象は大ミミズ(♂)と人食いサーベル(♀)。鎧ムカデの材料になる。
 鎧ムカデは強い。バイキルトもそうだけど、普通に強い。
*SS本編では縛りのせいで物質系が余計に必要なため、割を喰った。

 花魔道は何か地味に強いので注意。油断してA連打してるとベギラマから畳み掛けられて全滅の恐れも。
 仲間になっても強いので、見た目が気に入ったなら使っても良いかも。
 育ったら鳥系にかけて花カワセミにすると王妃様ミッションも対応できる。しかも強い。
 
 ボスのビックアイは恐らく初めての強敵らしい強敵。
 ヒャダルコや氷の息が強烈なうえ、HPが高く厳しい長期戦必至。
 防御・回復を疎かにしているパーティーはなす術なく敗れる事になる。
 ホークブリザードあたりを連れて行くと若干楽になる気がしないでもないが、
 ぶっちゃけキメラの翼で引き返して、ボス自体スルーで何も問題ない。どうせ仲間になってくれないし。


intermission
・キラーマシン×ユニコーンで最終パーティーのエースアタッカー・キングレオ♀。
 強い上に成長速度が普早と一般の獣並み。使わない手は無い。一体どうなってるんだ。

・ミミズ×サーベルで鎧ムカデ。成長速度・ステータスともに良いが、終盤のスタメンに割って入るほどではない。
 スクルト・バイキルトは魅力的なので、最終形を見越して補助役にどこかで組み込みたいところ。
 クリア後の配合要員として冬眠させても良い。

・死霊の騎士でミッキーとお見合い。これで憂いなく怒りの扉に向かえる。
 地味ではあるが「ゾンビ系」としての配合で「メドーサボール」の高性能個体を狙ってもよい。SS本編では使わないが、この時点でも比較的簡単に作れる「やまたのおろち」は、性能的にも配合的にも非常に優秀な魔物。
 あとはドラキー×ねじまき鳥でヘルコンドルを作っておくと、キラーグースの良個体が得られる。個人的には、後述するメーダ経由と二大巨頭を張る配合コース。


⑧井戸の底
 いわゆる一つの以下略。
 ここの特徴は何と言ってもメタスラ。
 現時点では倒しにくいが、原作シリーズより遥かに逃げなくなっている。気がする。
 クリア前の稼ぎどころではあるが、正直何度ももぐる必要はない。
 クリア後のはぐメタ狩りに比べればゴミみたいなものだし。

 捕獲対象は大ナメクジ・スライムツリー・泥人形・メタルスライム。
 他国マスターの魔法使いが出やすい地形だが、スライムツリーとか中層にしかいないっぽいので注意。

 メタスラはめったに捕まらない(骨付きでもダメっぽい)。霜降り余らせるまでは手を出さないほうが無難。というか、普通は配合で作る。
 泥人形は捕まえた方が良い。物質系は結構貴重なうえ、特技も素晴らしい。
 勇気の扉に引き続いて大ミミズも出てくるので、鎧ムカデを作るならここのコンビも役に立つ。

 ボスのギガンテスは強い。強いがそれだけ。敵ではない。本編で全滅しておいて言うのもなんだが。
 高級肉を与えれば仲間になる。非常になりにくいが。
 配合には役に立つが、仲間にならなくてもやり直すほどのものではない。それ程作りにくいわけでも無し。
 どうしても欲しいなら一旦引き返して、しおり入手まで挑まないのも一つの手。

 ラストフロアの落とし穴がだるい。
 最初に一瞬だけでるワルぼうの動きを見逃さないように。


⑨怒りの扉
 中盤のクライマックス。この辺から一気にボスが強くなる気がする。

 パーティーは、ベテランキメラ部隊長、助教ライオネック、未来のストライカーレオ様。
 臨機応変に配合レベルが遠い普遅の魔物とかと入れ替えてもよいが、一応ここのボス戦に照準合わせているのが本チャートの特徴のひとつなので、できればそのままで。

 捕獲対象は、キャットフライ・ポイズンリザード・アニマルゾンビ・メーダ・ドラゴスライム。
 どれも初期レベルが高いため捕まえて損はない。適当にお見合い・配合で使う。

 優先捕獲対象はドラゴスライム。
 普通はひくいどりにするのがメインだろうが、SS本編では縛りのせいでギズモを作る材料に。不憫。
 メーダはお見合いでの使用がメイン。テトのメーダ(みかわしきゃく持ち)とお見合いさせて、ドロル。ドロルとキメラ様を配合して、ハッスルダンス・トラマナ持ちのキラーグースが一例か。個人的にはこれがベストのキラーグース(後にロック鳥)かと思うが、今回の構想では時期的なものもあって却下。
 アニマルゾンビは比較的レアなゾンビ系なので利用価値がある。なぜバリイドドッグではないのかと小一時間。
 ポイズンリザードはこの前捕まえ損ねたドラゴンキッズ二匹目の代わり。アンドレアル作成に使う。

 最終階層の卵は何故か高経験値。シンボルエンカウントおいしーです。
 ボスのドランゴ♀は強い。強いが以下略。
 魔人斬り未修得のドランゴは、メタル系皆無・炎耐性で固めたこのパーティーに対して、ひたすら火炎の息を連打するしかない不憫な状況。
 敵を知り己を知らば百戦危うからず。戦いとは始まる前から勝敗が決まっているものだ。

 仲間になっても非常に強い。
 ボスが急激に強くなるこの辺り、恐らく製作側としては初心者への救済措置として配置したと思われる。
 勿論普通に強いので、慣れた人でもそのまま使う事は多いだろう。
 しかし本プレイではキメラ様の糧になってもらう。


⑩力の扉
 色々いける扉が増えているが、順番は正直誤差でしかない。
 新しく出てくるのは、スカルライダー・ふゆうじゅ・フェアリードラゴン。

 優先捕獲対象は浮遊樹。トラマナを覚える優れもので、呪いのランプ作成に欠かせない魔物。
 泥人形と組み合わせると、優秀な補助特技を備えた呪いのランプになる。

 スカルライダーは高位特殊配合を内包、特にキラーマシンを簡単に作れるのが大きい。
 フェアリードラゴンも捕まえて損はない魔物。

 ここのぬしはバラモス城でお馴染み「うごくせきぞう」。
 ヒャドや吹雪に強いと態々アドバイスが貰えるが、単体のぬし相手にブレスを吐くようでは、そもそもの戦略がまずい。
 普通に殴って余裕で勝てる相手。仲間になるわけでもないので、テンションの上がらない扉である。


⑪牧場の扉
 ぬしはマネマネ。モシャスは使いようによっては反則級の特技だが、普通にプレイする分には全く必要のないモンスター。鳥系にかけてひくいどりの材料にでもするのがセオリーか。
 バグ技で際限なく仲間に出来るらしいが、それほどの価値は無いと思われ。

 新規モンスターは、じんめんちょう・スカルガルー・マッドロン・ミミック・デスフラッター・トーテムキラー。
 ミミックなんかは捕獲するのに精神的な疲労感が大きい。特に良い配合があるわけでもないので、スルー推奨。
 他は可もなく不可もなく。マッドロンの特技・配合(スーパーテンツク)とデスフラッターの配合(がいこつ剣士)が少し秀でている感じか。


⑫格闘場左の扉
 ぬしはテリワンオリジナルの「ダンジョンえび」。
 仲間になると超高レベルの激レアモンスター。デンタザウルス作成に使うのがセオリー。

 新規出現モンスターは、キラースコップ・お化けキャンドル・羽スライム・メドーサボール・スラッピー・かまいたち・フーセンドラゴン。
 優先捕獲対象はメドーサボール。やまたのおろちを作るのに欠かせないモンスター。フーセンドラゴンは特殊配合を豊富に持つけど、どれも中途半端で逆に配合事故をおこしやすい印象がある。ライオネックなどと配合して、アンドレアルにしておくと無駄が無くて良い感じ。
 あとはお化けキャンドルの配合(ギズモ)くらいか。


inter mission
 いよいよ中盤終了。
 まずはCクラスを一蹴。マスター(笑)。
 メーダとのお見合いを終えたらBクラスも抜いておこう。


 恒例の出会い系

 ・マスター(笑)テト:メーダ
  エクストラスキルに身かわし脚を持っている。
  事後の台詞から察するに、同じ魔物(メーダ)で見合いするのが正解か?
  既に述べたが、できたドロルにキメラ様をつけると、
  ハッスルダンス・トラマナ持ちの優良キラーグースが出来上がる。

 ・酒場のおマチさん:ライバーン
  おマチさんの注文どおり、鳥系を差し出すのがベスト。ロック鳥という高性能な鳥になる。
  なるのだが、キメラを差し出すと特殊配合に引っかかるのか、数段落ちるキラーグースに。
  いや、キラーグース悪くないのだけれども。

  したがって本プレイでは、縛り及び育成枠の事なども考えて
  ・キメラ♂×ドランゴ♀⇒キラーグースを挟んで、キラーグースが良く育ったら(成長は例によって早い)
  ・キラーグース×ライバーン⇒ロック鳥 とする。
  これで最終パーティーの補助要員、超高性能なロック鳥が手に入る。
  キラーグースを挟むことで、Sクラス他で非常に重要になる技能「誘う踊り」もゲット。
  勿論他の事情とかキメラ様の親次第で、ミッキーの死霊の騎士や、テトのメーダ経由も優れた配合になる。

 ・メダルおじさん:スライムファング
  王妃様の間男その2。
  獣系かけてユニコーンしか思いつかない。むしろ他に何かあるのか。
  クリア後に配合要員として必要になるかもなので、適当に育ったら冬眠推奨。
 
 とりあえず闘技場関連はこのくらい。
 SS本編では調子に乗ってSクラス挑戦とかしたが、
 現時点ではAクラス突破でさえ相手の高火力、睡眠尽くしに押されて若干運が絡む。リセット前提にしないなら後回しがよさげ。


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