久しぶりにリミックスステーションが無い環境にいるわけだが、何か落ち着かない。
『禁断症状にして、合体道の末期症状だね。ようこそ、こちら側の世界へ。』
「自覚があるのが更に腹立たしい。」
プラン通りに、ノーム・サラマンダー・メフィストをメインファイルに移す。
すぐに精霊2体を消費するとは言え、メインファイルの空きが1体しかない。
「合体に使える仲魔は殆どいないってのにな。」
『ままならない事ばかりだよ。』
stage 6 PARANOIA
chapter 44 ELLETH ~ Another world ~
エレス。
荒涼とした大地に険しい山々が広がっており、非常に進軍しづらそうだ。オマケにここから時間制限が復活する。その厳しさも、得られる貢物の質もアムネジアの比ではないらしい。
『アムネジアの連中は、技術を磨くとかそういう事一切考えないから。』
「確かにここなら、常に厳しい生存競争に晒されそうではあるな。」
アクシズとはまた異なる違和感だらけの世界。毒々しく、醜悪で、生物に対する敵意で満ち溢れているかのような世界だ。
パラノイア住民らしき男がこちらに近寄ってくる。頭に何かの管を通し、口と一体化しているマスクが印象的だ。ここまでしないと生き残れない世界と言うことか。その住人が何やら「パラノイアの占領を狙うならば我らは戦うのみ」とか言い出した。それに対してカオルがマジ切れ。怒りっぽいのは実は素だったのか。
「むしろ異物は俺達のほうか。」
『立場の違いさ。』
どうやら悪魔の集団を統率しているのは、奥にいる堕天使らしい。
細く長く、そして険しい道。要所要所に壁役となる地霊と、後方から魔法を撃ってくる妖精・邪霊。さらには龍王・邪龍も多く配置されている。
「嫌らしい配置だな。」
『的確に人間を潰しに来ているね。』
ただ、対空要素も少ないし、普通に順路を辿れば負けることは無いだろう。いかに俺が素早く進軍するかにかかっている。
いつもの女神達と精霊二種に、ドゥルガー・メフィストを召喚。メフィストに「汝の力量は既に我のそれを大きく上回る」と褒められた。照れる。
戦闘開始。すかさず精霊合体を開始する。
・ドゥルガー×ノーム→女魔カーリー
・メフィスト×サラマンダー→夜魔ヘカーテ(メルトダウン)
『俺のへかてー!』
久しぶりのテンションの高さだ。ってか何故に『俺』?
「まあ確かに美人だけど、ぶっちゃけヴリュンヒルドの色違いじゃないか。」
『無粋。極めて無粋。無粋の極み。』
もの凄い勢いで非難された。何でも『ブリュンヒルドの方は凛々しさの中にも柔らかさがあって、ヘカーテの方はキツめの角度を持っている』だそうだ。意味がわからない。兜の形の事を言ってるのか?
『メルトダウン習得がなかなかにキツイね。祭はこの子を最優先だ。』
「結局メフィスト一回しか出陣しなかったな。」
『別に私情を挟んだわけじゃないよ?』
ひとまず信じておく。
『夜魔は荒地が非常に得意だ。ヘカーテと一緒に進軍すると良い。』
「わかった。」
私情を挟んではいないんだよな?
リバイバル持ち女神のワンスモアを受けて、4倍速で移動する。邪龍の間合いで足が止まってしまったため、リバイバルを持たない低位の女神で壁を作る。
『女神使いが荒くなってきたね。』
「そう言うなよ。」
女神達に地霊が突っかけてきた。どうやら見えてる妖精と邪龍は、道を塞ぐことに固執する「慎重」タイプのようだ。そうとわかればやりたい放題。今度はリバイバルを持たない女神二体の加護を受け、地霊アトラス2匹を一気に屠る。注意して動いたので、奥にいる邪霊の間合いには入っていない。残った1体の地霊を反撃で仕留めて一息つく。
当然相手に動く様子は無く、リバイバルで回復した3体のワンスモアで、道を塞ぐ邪龍たちを一気に突破。ティターニアはアイツの要望で勧誘しておいた。順調そのものだ。唯一誤算があるとすれば、ヘカーテが全く進軍についてきてないことだろう。
『意外と森とかで足を取られるね。失敗だったかなぁ。』
「まあ、引っ込めればいいだけじゃね?」
コイツが読み違えるとは珍しいこともあるものだ。それだけパラノイアの地形は複雑だと言うことなのか。
暫く進んでいると、妖鳥アエローがかなり奥の方から飛んでくる。さすがの機動力だ。燕返しで簡単に落とすも、今度は更に奥から邪龍が。
『油断したね。』
「かも知れないな。」
一応想定の範囲内だが、無造作に進軍しすぎていたことは確かだ。ダメージをアメノウズメに癒してもらいつつ反省。そのまま邪龍が塞いでいた通路を突破。色々考えた末、ここで龍王キングーを召喚する。
『素晴らしいアイデアだね。』
「相手はもう鈍足ばかりだからな。足が止まるこの地形なら、龍王が一方的に狙撃できる。」
『何がいいって、キングーと敵がほぼ同格のところが素晴らしい。』
「まあ仲魔になった時期とか考えて、感覚的にこんなもんかとな。」
満月で回復したワンスモアを受けて、キングーが6倍速で身動きの取れない敵を屠りまくる。八面六臂とか言うレベルじゃない凄まじさだ。砲撃の運動エネルギーが36倍で更に6つ分。元々荒れた土地ではあったが、完全に月面クレーター状態だ。
「でも不思議と攻撃威力は上がらないんだよな。」
『まあ物理エネルギーではない、不思議エナジーっぽいからね。』
「実は龍王の体から離れた途端に加速の恩寵が途切れるとか?」
『初速が保存されないわけだし、どちらにせよ僕たちの物理じゃ量れない現象だろうね。』
結局、堕天使のいる島への橋を守っていた悪魔の集団を一方的に粉砕。
夜魔ヴァンパイアだけは一匹を念のためキャッチ。
『合体に使うことが無いことを祈るよ。』
「保険ってのは本来そういうものだろ。」
橋を渡る際に気になるのは、堕天使の前にいる龍王。かなり足場が悪いため、さっきの戦法を今度はこちらがそのまま受けることになる。それだけなら問題ないのだが、更に邪霊が張っているため一層近づきにくい。
『まあ時間制限の半分しか経過してないからね。まずはしっかり力を溜めたらどうだろう。』
「そうするか。」
一旦進軍ペースを落として泉を占拠。雑魚散らしに魔神ウルスラグナを召喚。同時に引っ込めていた龍王キングーを再召喚。余っていたワンスモアを召喚したばかりのキングーに使用し、目障りなリッチを殲滅する。
「ちとマグネタイト浪費しすぎか?」
『いや、DIOの使い方の神髄といえると思うよ。』
何かやけに褒めちぎるな。
龍王キングーは堕天使の傍にいる厄介な妖獣を砲撃。ワンスモアのサポートを得て撃破。対空砲火が消えてなくなった敵陣を、女神達が飛び回り龍王イツァムナーを翻弄する。
「勝ったな。」
『そうだね。』
窘める言葉が飛んでくるかと思いきや、意外な同意の言葉。次の合体計画でも練っているのだろうか。堕天使の周囲を掃除し終えて、俺はグンダリとヘカーテを召喚。さすがにカーリーは火力過剰だろうと思い自重した。
『メインはグンダリ。次がキングーかな。本当はカーリー最優先したいんだけどね。』
敵は「堕天使ベルフェゴール」。飛ばない堕天使なんか唯の豚同然だが、こいつはちょっと良い電撃魔法を持っているらしい。女神は弓を使わないほうが良いだろうとの事だ。
頃合になったので、ベルフェゴールをあっさり沈める。アムネジアの熾天使たちは、こちらを試そうとする姿勢が見え、殺し合いにはならなかった。残念ながらパラノイアの堕天使たちはこちらを殺す気満々。自然手加減は出来ない。炎の剣「レーヴァテイン」をドロップした。
『これが音に聞く「レバ剣拾った!」ってやつだね。僕は経験ないけれど。』
「確かにテンション上がるが、世の中に一本だけだろ、これ。」
『と言っても、解釈によっては炎の邪神スルトの剣だったり、魔神フレイの剣だったり。妖精さん界四大奇書では、爆乳のミカエル様も持ってたりするんだよね。』
「なんて罰当たりな。」
『そんなことないさ。キミだって三国志演技を読んで歴史に興味を持ったりしただろう?』
ちなみに性能はガッカリだった。
更に降伏の証なのか、パラノイア住人が山ほどの貢物を持ってきた。
「ななつさやのたち」「びぜんおさふね」「楠公」防具シリーズ。
折角の武具だ。一つ一つ検分していく。
「何か凄い形しているけど、これ武器として使えるのか?」
『ああ、「七支刀」か。これは直接叩く武器ではないよ。持ち主の力を高める祭器であり、オーラブレードとして扱うのが良いだろうね。どこぞの地獄の君主が持ったときはビームとか出していたっけ。』
それは最早刀ではないのではないか。
「備前長船は俺も聞いた事あるな。有名な刀匠の作品だろ。」
『そうだね。高命中・高威力・高クリティカル補正。オマケに魔法防御があがる優れものだ。人によっては、これが最高の武器になるのかな。』
一応まだ強い刀はあるらしいが、実質最高効用ということらしい。
「最後に『楠公防具シリーズ』か。これって多分、楠正成だよな。」
『そうだね。誉れも高い正一位、大楠公の防具一式さ。その頑強さもさることながら、何と言っても一式装備すれば信じられないほどに魔法防御が向上するんだ。対代行者戦における、最高の防具だね。』
「知恵者で知られる楠正成らしいな。備前長船とセット運用で一層効果を発揮しそうだな。」
どれもこれまでの武具とは段違いの性能だ。身に着けるだけで力が溢れてくるような感覚。アイツの言葉を疑っていたわけではないが、これほどとは思わなかった。
『だから言ったでしょ。』
「ああ、これは素直に驚いたな。凄まじい性能だ。」
ちょっとワクワクしてきた。
本来の目的を忘れないようにしなくては。
chapter 45 NESDIA ~ Dead line ~
恒例のショッピング。
店主は異様に怪しいフードの男。フードを目深にかぶっているため顔は見えない。だが目が光ってるし、手とかも緑色だし、どう考えても人間じゃない。
幸いマッカは通用するようで、すんなり買い物できた。売買拒否も覚悟していたのだが。
とは言え、買うべきものはそう多くない。初めて見る武具を一通りと、エストックを3つ。金が6万も余ってしまった。
『取って置いてもしかたないよ。』
「そうなのか?」
根っからの貧乏性なのか、金を使い切ることに抵抗がある。
ひとまず消費アイテムを大量購入。防具も相当数追加購入した。何でもオギワラ達4人の恒久装備にするらしい。
ちなみに女神達はパンツァー装備をベースに、換装したりしなかったり。メイン仲魔は基本状態が裸である。
そのまま次の土地、「ネスディア」へ。
正面にいる鳥が気がかりではあるが、それだけだ。
「さっさと鳥を消して制空権を取ってしまうか。」
『そうだね。まあ、魔神・夜魔・女魔でゴリ押す手もあるけれど。』
「じゃあ併用だな。」
未来情報によると、正面の鳥4体は、「猪突」と「剛胆」が混じっているらしい。主力で迂闊に突貫するのは自殺行為だそうだ。ついワンスモア×6でゴリ押したくなるが、程ほどに進軍することにする。
『龍王強化用にグルルを一匹キャッチしておこう。』
「あのジャターユっぽい鳥はいいのか?」
『「霊鳥ガルーダ」だね。親子なので似てるのも当然だろう。』
にしても似すぎだろう。
『正味な話、強すぎるんだよね。まあキャッチしてもいいけど、ここは女魔の餌にしたいかな。』
「なるほどなー。」
『砂漠に夜魔達を放り出した後は、極力荒地や森を進軍するよ。』
「砂漠よりマシって事か。」
『適材適所さ。』
右手に「邪龍レヴィアサン」と妖精オベロンに邪霊リッチ。距離があるので相手の出方を窺ってからでいいだろう。
正面に統率者と思しき「堕天使サマエル」と、護衛の「魔王アスモデウス」。さらには龍王イツァム・ナー。砂漠に足を取られているところを砲撃される画が浮かぶが、所詮は雑魚。砂漠を得意とする仲魔に露払いをしてもらおう。
正面奥には泉の回りに、邪鬼だの夜魔だの有象無象。蹴散らされるためだけにいるのだろうか。
右翼分断されたオギワラたちの正面に、地霊アトラスと意味ありげなジェネレータ。護衛を1体回せば十分だろう。
戦闘開始。
「剛胆」対策にグンダリを拠点に残す。果たしてグルルが生き残る事はできるのだろうか。
オギワラのほうにはウルスラグナとアメノウズメを配置。アメノウズメは、あわよくばグルルをキャッチ。ウルスラにはそのまま辺境を一掃してもらう予定だ。
俺は砂漠の淵を掠めつつ突出して、カーリーとヘカーテを召喚。リバイバルを利用すれば、ヘカーテで鳥4匹を一掃できるが、自重。カーリーにリバイバル持ち女神のワンスモア×3をかけて、一気にガルーダ二匹を葬った。
「グルルが完全にフリーだな。」
『大したことは出来ないよ。』
事実、低位の女神がそれなりに手傷を負ったが、一匹は剛胆タイプだったらしく、鬼神に突っかけて返り討ち。森に潜んでいた二匹のヴァンパイアによる魔法攻撃も、それ程の痛手にはならない。
『鬼神のクリティカル率は半端無いよね。』
「備前長船によって、更に凶悪になったな。」
残った一匹のグルルはカーリーがキャッチ。俺は森に突入し、ヴァンパイアを撃破。
正直吸血鬼なんて、吹けば飛ぶ虚弱種という印象しかない。所詮は蚊の親戚か。
『まあ、比較的新しい悪魔だからね。』
そんなものか。
もう一匹のヴァンパイアも、魔力を高めたヘカーテが破邪の基本魔法「ハンマ」であっさり撃破。戦域全体を速やかに制圧するため、戦力を分散させることにする。
『まさに強者の戦略だ。変われば変わるものだね。』
「この戦力差なら各個撃破されようが無いだろ。」
妙な感慨に耽っているアイツはさて置いて。
敵はまだ各地に散らばってはいるが、厄介なのは即死魔法を持つリッチに、邪龍・龍王だけだろう。フレイヤで足止めしてもいいし、正面から押し切るのでも良いかもしれない。
方針決定。
まずカーリーはそのまま右翼に派遣。実は猪突だったっぽい邪霊リッチを踏み潰し、道を塞ぐ龍王を始末。そのまま右翼最奥へ駆け抜け、邪龍を片付けて俺の露払いをする予定だった。実際には俺の後追いが早すぎて、邪龍の攻撃を受ける事になってしまったが。
ちなみにカーリーが邪龍レヴィアサンから「ドジャーシューズ」を強奪。疾風赤兎の上位互換になる優れものだが、当のレヴィアサンは靴を履くようなシルエットではなかったはずだ。
ヘカーテは一旦戻って、右手奥から突っ込んできた妖精オベロンを迎撃。暇女神達がアイテム回収するのを見届けて、その後は自身も暇していた。ちなみに拾ったアイテムは、備前長船に大きく劣る刀と、「オオバカリのけん」。何と言うガッカリ感。
グンダリはオギワラに再召喚されて、ウルスラが遠征に出た後のジェネレータ対応をしていたそうだ。サポートのウズメが堕天使フラウロスも一匹キャッチしておいたらしい。
森を抜けた俺は、邪龍の襲撃に肝を潰しつつも、加速を受けて砂漠を一気に駆け抜けた。道中魔王を見かけたが、肩が当たったら吹っ飛んでいった。
「じゃあ、ヘカーテとグンダリ再召喚するか。」
『あー、どうなのかな。』
今グンダリ呼び戻してジェネレータ放置すれば、荻原たちが死ぬ事になるか。
「じゃあグンダリが呼び寄せるのはやめとくか?」
『いや、ジェネレータプチプチしても、彼大して成長しないんだよね。』
「フレイヤを派遣するのはどうだ? 火力は足りなくても多芸だから足止めにはもってこいだろ。」
『……そうだね。良いアイデアだと思う。その隙にカーリーを派遣しよう。』
ちなみに相変わらずカーリーは祭に参加できない。アイツの焦る理由が少しわかった。
祭を始めたは良いものの、地形が悪く上手く攻撃ができない。制限時間はまだ三分の一しか過ぎていないらしいので慌てる事はないのだろうが、歯がゆい。いったんヘカーテを迂回させるか。
『まさか偃月刀が役に立つ時が来ようとは。』
「何事も使いようってな。」
堕天使サマエルの意外な速さにグンダリは攻めあぐねていた。だが試しにパンツァー装備・天付き前立て、そして偃月刀と素早さ増強装備に身を固めてみたところ、見事連続攻撃に成功。むしろ削りすぎて困ったほどだ。
ウルスラグナの方も、満月を待たずに遠征を終えたそうだ。女神達に加速され、一気に最奥の泉を制圧。ヴァンパイアを倒して、薄く輝く足防具「ルナアンクレット」を入手したらしい。
「ちょっかい出したのか?」
『いいや、僕は何もしていない偶々だよ。』
「レアアイテムじゃないのか?」
『店で買えないという意味でならそうだけど、どうせ後で道端に落ちているからね。これをレアアイテムと思う人は居ないでしょ。性能もしょんぼりだし。宝石の方が役に立つ。』
「そんなにか? 履き心地はそう悪くないぞ。」
『赤兎の方がずっと役立つさ。まあ、ドジャーシューズや大楠公の具足がなければ、それなりにありがたがったかもね。』
「確かに疾風赤兎は高性能すぎたな。」
それなりに時間をかけて、念入りに祭を実行。グンダリよりもヘカーテの成長優先なんだそうだ。
「私情入ってんじゃねぇの?」
『心外だな。鬼神を統合するのは最後の最後だからだよ。』
時間が来てしまったので、いつもの如く俺が祭に終止符を打つ。
堕天使サマエルは間近で見ると何とも不思議な形をしていた。ちょっとカッコイイ。
やはり消え去る直前に「ほうてんがげき」をドロップ。
「かの有名な呂奉先の愛用していた戟、ってとこか。」
『そうだね。そして蛇矛と同じくガッカリする一品さ。』
「堕天使のドロップだもんな。やっぱり後世の創作なのか?」
『どうなんだろうね。少なくとも史書には載ってなかったという話だよ。』
更にアムネジアの住人から「ミョルニル」「スキールニル」「グングニル」「グレイプニル」「ドラウプニル」を入手。
どれもこれも反則級の性能を誇っている。
「なんか全部『ニル』ついてるんだけど。」
『北欧神話に出てくる道具や人名だね。正しい謂れとか、もう誰にもわからないと思うよ。多分だけど、英語で言うところの「one」に相当するとかじゃない?』
「なるほど。けどこんだけ多いとゲシュタルト崩壊しそうだ。」
『鵜呑みにしないでよ。根拠の無い憶測なんだから。』
強力な武器や防具が沢山手に入っていく。エレスに続いて顔のニヤケが止まらない。こんな浮ついた気持ちで戦っていてはいけないと思うんだがなぁ。
chapter 46 TWIA ~ Kaleidoscope ~
金があっても腐るので、ショップに戻って防具と消費アイテムを追加購入。
待ち望んだリミックスステーションの解禁ではあるが、特技習得済みの仲魔が少なく寂しい感じ。
・キングー×(グルル×オキュペテー)→龍王ファフニール
『有名な悪竜ファフニールだ。』
「またニルだな。」
『もうすぐ実質最強の剣「グラム」が手に入るので、機嫌が悪くならないか心配だよ。』
「英雄ジークフリードが持つ、竜殺しの剣だったか。」
あの巨体で暴れだされたら、押さえ込むのが大変だ。
何が大変って、手足を握りつぶさないようにするのが大変だ。
俺達は拓けた道を通って「ツィア」と呼ばれる場所にやって来た。
毎回思うがこのネーミングに何か意味はあるのだろうか。
『アムネジアは7つの天の宮、パラノイアは7つの地の宮だね。天界と冥界のモデルの一つだ。「アルクァ」の中にあるゲヘナを7つに分割する解釈もあるみたいだけどね。正直良くわからないや。多分「無間地獄」とか「阿鼻叫喚地獄」とかに近いんじゃないの。根拠無いけど。』
ほー。
「聞いておいてなんだけど、オマエ良くそういうの知ってるよな。」
『伊達に物語を読んでいるわけではないよ。地獄の話だって、桃太郎の伝説を読んで興味を持ったから調べた事さ。』
桃太郎の昔話に地獄なんて出てきたか?
それとも妖精界に伝わる桃太郎は全く違う話なのか。
悪魔の気配が近づいてきた。
戦場に立ち、辺りを見回す。相変わらずの険しい山々と閉ざされた空だ。そして俺は大変な事に気付いた。
「おい、何かアンドラスとかいるぞ!」
『その通り。堕天使最下位は絶対捕獲だよ。』
垂涎の下位悪魔。
メインファイルの空きは相変わらず3体しかないが、最早こいつらで決まりだろう。
「くそ、キリンに闘鬼までいやがる。ここは天国か?!」
『落ち着いて。何かいつもと役回りが逆になってるよ。』
こんな時、俺はどうすればいいんだ。わからない。
『深呼吸すればいいと思うよ。それはそうと、残念なお知らせ。ここでは貢物を貰うために30体敵を倒さなきゃならない。』
「それがどうしたってんだ。」
『良く見てきちんとカウントすると、最悪な事に敵悪魔は全部で32体しかいないんだ。』
つまり、2体しかキャッチできないということか。
これでキャッチをできないなんて……残酷すぎる。
コイツの口調も今までに無いほど苦々しいものだった。
「じゃあ堕天使アンドラスとオセか?」
『それが妥当といいたいところだけど、僕はキリンを推すよ。在庫のランダと組み合わせてイシュタルを強化するんだ。』
ピッタリだな。
確かにシラヤマヒメを強化できないのは痛い。
だが、そもそもイシュタルが強化できなければ、シラヤマヒメの強化も出来ない。
『それにね、最強の聖獣キリンを強化する事で、一周してユニコーンになるんだよ。』
「なん……だと……?!」
つまり在庫次第ではいくらでも最弱の仲間が生産可能ってことじゃないか!
「何故今まで黙っていたんだ!」
『今思いついたんだよ。』
俺に攻める資格なんてありはしないだろうに。
『これは暫くお休みしていた宝石集めを再開するしかないかな。』
「是非頼む。」
闘鬼ヤクシャ辺りを強化すれば、ウェンディゴ先生の再臨だって可能なわけだ。
浮き立っていた心を落ち着け、改めて戦場を見渡す。
また転送分断されて、しかも最初っから包囲されている。ただ、包囲している各所がびっくりするほど薄いのが特徴だ。食い破り放題。駄目な包囲戦術の見本か。
リッチが4体が鬱陶しいが、まあどうとでもなる。いつのまにか「危険な邪霊」から「鬱陶しい邪霊」に戻ってしまった。対空要素が殆ど無いのが特徴か。最早勝った気分だ。
まずは左翼、菊池兄妹。ひとまず女魔カーリーを、左翼最奥から突っ込んできそうな鳥の迎撃にあてる。道すがら左翼正面にいる妖鬼と魔王を始末して、左翼奥にいる堕天使も墜とせば、きっと特技を習得するだろう。
後方。生まれたての龍王ファフニールで一掃する。ワンスモアを最優先か。
右翼。グンダリにヘカーテをつけて縦横無尽に暴れまわってもらう。さすがに特技習得は無理だろうが。
中央。俺とオギワラは様子見。一応俺は敵拠点に向けてまっすぐ進んでいくが、正直展開が読みきれない。ウルスラグナは保険としてCOMP待機。あとは臨機応変。いい言葉だ。
『堅実だね。』
「お褒めに預かり光栄だ。」
準備は万端。満を持して戦端を開く。
後方のリッチを右翼ヘカーテのハンマと、中央ファフニルからの砲撃で瞬殺。地霊アトラスが2匹残ったので、ワンスモア×2でファフニールを加速。砲撃単独では倒しきれないようなので、予めリバ無し女神とカオルでそれぞれ削っておいた。
中央の俺はひとり進軍。リッチの間合いに入らないよう注意しながら、無人の野を行く。何だか『格が最終目標に達して』からは、結構放置されている気がする。成長が仲魔優先になって、俺がトドメを刺す機会は激減した。いつも俺が独占していたラストのトドメも、仲魔に譲るように言われたし。まるで敵拠点を占領する機械だ。別に寂しいとかではないが。
同じく中央のオギワラは拠点に残り、店売り装備に身を固めてスタンバイ。龍王の一撃なら十分耐えられる。そしてそれ以上の攻撃を受ける可能性は皆無。
右翼暇しているグンダリは砂漠に突っ込んで、闘鬼ヤクシャの攻撃を誘い受ける。左翼カーリーも同様にシュテンドウジたちの攻撃を誘う。アヤはきちんと鳥の間合いの外に逃げたようだ。最後方に控えている龍王も、程なくヘカーテで蹂躙しに行く予定。 順調すぎてフレイヤのワンスモアが余ってしまった。
『慌てる必要は無いよ。どのみち満月で回復するまでに、1回は無駄にする事になるんだから。』
何でも偶奇がどうの時間経過がどうのと。
良くわからんが、そういうことなら遊ばせておこう。
『むしろいきなりキリンを勧誘するとかでもいいくらいだよ。』
「沼地に派遣するのは気が引けるが、そうだな。」
相手の攻勢は殆どがこちらの予想通り。
魔王が突っかけてきたが、カーリーにノーダメージで返り討ちにされたのにはさすがに笑った。ただ、俺はまたしてもうっかり堕天使の間合いに入り込んでしまったようだ。アンドラスとフルーレティが凄い勢いで飛んできた。
折角なので俺はフルーレティを銃撃し、ウズメでアンドラスをキャッチ。右翼で動かなかった魔王アスモデウスはグンダリで潰し、グンダリはそのまま敵拠点へ進軍。後方の龍王2体もヘカーテで予定通り排除。アイテム回収は後回しだ。
左翼カーリーを、一般女神達のワンスモアでフル加速。意外と釣られなかった妖鬼と鳥を一掃する。
これで自陣は完全にクリアになった。一刻も早くヘカーテやファフニールをオギワラに回収させて、一気に防衛ラインを押し上げなければ。
「張り合いが無いな。」
『とは言え油断は禁物だよ。』
言った傍から敵リッチの即死魔法「ムド」を、キャッチしたばかりのウズメが受けてしまう。成功率は極低確率らしいが、大いに肝を冷やした一瞬だった。
『まあ、この位なら僕が何とかするけど、あんまり甘えて欲しくはないな。』
「……肝に銘じておく。」
俺は一歩戻ってリッチとフラウロスを撃破。使用タイミングがズレたおかげで、ワンスモアが途切れない。思わぬ効用。怪我の功名といったところか。
次の問題は、敵の統率者「堕天使アザゼル」の周囲を固めている邪龍と龍王たちだ。周囲が砂漠と言う事もあり、俺が先陣切って突っ込んだら潰される可能性が高い。現に一発長距離砲を喰らっている。
「ウルスラグナ出すか?」
『それもいいけど、フレイヤあたりを餌に邪龍を一匹ずつ釣りだすのが良いと思うよ。もうすぐファフニルたちも再召喚できるしね。』
なるほど確かに。
フレイヤを手前にいる邪龍の間合いギリギリ内側に配置してリバイバル。カーリーでワンスモアを受けて、奥にいるリッチを排除。
「あとはサクヤ姫が暇しているので、泉において固定回復砲台にするといいよ。」
『妙な言い回しだな。』
「けど、威力は絶大さ。世界が変わるよ?」
アドバイス通りに配置完了。
ひとまずこれで目に見える脅威は無くなった。
「固定回復砲台、凄いな。サクヤ姫がいればもう負ける気がしない。何で今までこの戦法を採らなかったんだ?」
『まあ、今まではワンスモア覚えるためにフル稼働していたからね。今は上が閊えて下もいない。暇してるからこそできる荒業だよ。』
残念ながら、アザゼル前の邪龍は釣られなかったが、それ以外はほぼ予定通りの進軍が続く。さらに奥に居るもう一匹の邪龍に対しても釣りを試みつつ、ヘカーテとファフニルを再召喚する。ちなみにグンダリは右翼の砂漠につかまって、もう駄目な感じだ。
『何と言う言い草。むしろ僕らに問題があったと思うよ。』
「言ってみただけだ。」
結局護衛の邪龍は不動の構え。龍王さえ排除してしまえば、俺の進行を妨げるものは無さそうだ。暇していた一般女神で、一気に敵拠点の龍王を空爆開始。
まるで悪夢を見ているかのような凄まじさ。制空権を奪われた拠点の防御など、大抵は悲惨なものだ。
トドメは再召喚済みのファフニルとヘカーテ。どちらも砂漠を苦にせず、ヘカーテが「マハジオンガ×2」で邪龍もついでに始末していた。
邪龍レヴィアサンが、斧「くびかりスプーン」をドロップ。一匹がレアアイテム二つ持っているのはワイアーム以来か。そういえばどちらも邪龍だ。……嫌な事まで思い出してしまった。あれ以来、いやもっと前からかもしれないが、龍族相手だと妙に意識してしまう事がある。大事な教訓ではあるが、そうそう思い出したいものでもない。
「しかしユニークと言うか、悪趣味なネーミングだな。」
『確かに独特のネーミングセンスだね。ちなみに使うことはまず無いよ。』
わかってはいたがやはりそうか。
「獣族が居ない今、好んで斧を使う理由も無いからな。」
『しかも性能自体、もの凄く低レベルだからね。』
「まあ、『使える斧』リストに入ってなかったし予想通りだな。」
そんなやりとりをしながら、「邪鬼ギリメカラ」に近寄って銃撃。
「くりからのけん」を入手した。
『使う事はまず無いよ。』
「パート2かよ。」
『強いて言うなら特効の無い、攻撃力の劣化したアークセイバー。』
「マジでいいとこ無しだな。」
ちょっとびっくりした。そんなものでも集めてしまうのがコレクターの業か。
ついでに遅れてやってきたレオナルドからガーネットを入手。
「早速やったのか。」
『偶々だよ。というか実はキミって異様にドロップしにくいんだねぇ。仲魔で倒すとあっさりドロップするのに。』
「運が低いからか?」
『いや、運を最高強化したキミは、そこらの仲魔より断然幸運になっているはずなんだけど。何か幸運を打ち消す主人公補正でも働いているのかもしれないね。あくまで僕の感覚的なものなんだけどさ。』
ちなみに「もう駄目だ」と評した右翼のグンダリは、祭が始まって暇そうにしていたフレイヤ達の応援を受けて一気に砂漠を駆け抜けたらしい。「魔王バラム」を一蹴して「らくてんきゅう」をゲット。「天を落とす弓」などという大層な名前の割に、性能はガッカリもの。さっき道端で拾った弓「ヒコホホデ」に比べると悲しさがいや増す。
「最近フレイヤは、ワンスモア・キャッチ・リバイバルの3種以外して無いよな。」
『まあ、永久機関できちゃったからねぇ。』
これでいいのだろうか。
祭を開始してから暫くして満月がやって来た。
女神達のワンスモアが一斉に回復するも、最早使い道無し。
「もういいから進まねぇ?」
『気持ちはわかるんだけどねぇ。』
さっきから妙に歯切れが悪い。
ひょっとして、こいつも飽きているんだろうか。
「何かヘカーテが信じられないくらいクリティカル出してんだが、アレはオマエの仕業か。」
『うん。しんどい。』
ヘカーテの習得がボトルネックになると言うのは前々から言っていた事ではある。前々から言っていた事ではあるが、コイツがやるとどうも私情塗れに見えるから困る。
『ここまでやっても習得しないって、もうね。時間が来たので切り上げよう。トドメは不本意ながらグンダリで。』
「ヘカーテじゃないのか。」
『彼がこれで習得だからね。そうなるように調整していたのもある。何れにせよ、このタイミングを逃す手は無いよ。』
少し寂しいが、トドメをグンダリに譲る。
『あの世で仲間が呼んでますよアザゼルさん。』
「ここが既に地獄なんじゃないのか。」
何か消える間際、「パラノイアの未来が……」とか言ってた。
「こいつらの夢見た未来ってのは、『パラノイアがアクシズを統合する未来』なのか?」
『大体そう考えて良いと思うよ。一応ルシファーもパラノイアの支配者ではあるけどね。あの堕天使連中がそんな殊勝な事考えるはず無いだろうし。或いは君達に支配される事を憂いているのかもね。』
また勝手な事を。
ルシファーとの戦いは色々考えさせられたが、悪意を持つ敵が相手なら存分に戦える。何とも気が楽だ。
ちなみに堕天使アザゼルは「クラウ・ソナス」をドロップ。
「クラウ・ソラス?」
『いいえ違います。クラウ・ソナスです。クラウ・ソラスを扱えるのは妖精さん界広しと言えども、京四郎君ただひとりだよ。』
「オマエの大好きなダーナ神族の宝が、何で日本人所有なんだよ。いや、待てそもそも人なのか?」
『冗談はさて置き、多分「la」をどう発音するかってだけの違いでしょ。実際には仰るとおりのダーナの至宝、アガートラームの光の剣だね。』
「さすがに性能良さそうだな。」
『悪くはないといったところかな。魔力増強の長剣さ。ただ、完全上位互換のスキールニルが既にあるため、使いどころが無いのが玉に瑕かな。』
「瑕ってレベルじゃないだろう。」
続いて恒例の貢物。
これまでは降伏の証だったが、今回は何かを期待されているようだった。「とんでもないことをやらかしそうだ」とか何とか。一体ここの住人の目に俺達はどう映っているのか。
『キミがパラノイアと、そこに住む人々を見て最初に思った事じゃない?』
耳の痛いことを言う。
あの連中からすれば俺達こそが異物、俺達の姿こそが異形ということか。
『気にしてもあんまり良いこと無いよ。前にも言ったでしょ、立場が違うだけだって。』
「それはそうなんだろうけどな。」
共存の道、か。
気を取り直して貢物の検分を始める。
『「マーべリック」は強力な銃だね。ハープーンあるからいらないけど。』
「身も蓋も無いな。」
『コイツのせいで僕はエライ苦労をしたからね。ホント腹立たしい。』
たしかに現状ハープーンで倒せない敵は極僅かだ。
そして恐らくマーベリックに換装しても、大差ない結果にしかならないとは思うが。しかしどこか怨念すら感じさせる物言いだ。俺の気付かないところで何かあったのだろうか。
『一方「あめのむらくも」はその名に恥じぬ高性能。草薙の剣となぜこんなに差がついているのか不思議ですらある。武器威力は竜殺しの剣「グラム」に僅差で劣るけど、体力をかなり増強するのが嬉しいね。』
「おお、テンション上がるな。」
『キミの主兵装の一つになるよ。』
しっかり手に馴染む。良い付き合いが出来そうだ。
「お、サブファイルに入れといたクーフーリンが勝手に外に出てるぞ。何か持ってきたな。」
『最強の槍ゲイボルグだね。魔法防御が向上するよ。影の国にでも遊びに行ってたんだろう。』
「実戦では魔力増強のグングニルの方が重宝しそうだな。にしても強そうな槍だ。」
『これにてくーふー君は御役御免だから、お父ちゃんの太陽神イルダーナフに昇格させてもいいんだけどねぇ。』
「何か問題があるのか?」
『父ちゃん専用武器が悉く弱い。ブリューナク然り、フラガラッハ(アンスウェラー)然り。後者なんてホントは短剣のはずなのに。』
「別に良いじゃねえか、そのくらい。」
色々あるらしい。主にロマン絡みっぽいが。
何にせよ、パラノイアで手に入る武具は悉く俺を魅了するから困る。
まるでいけない魔法でもかかっているかのようだ。
愚にもつかない事を考えながら、意気揚々とリミックスステーションに向かう。