哲平主催パーティーの進捗状況は自分で言うのもなんだが、良い手際だったので滞り無いと言えた。ただ根津との漫才はやむを得ない事情のために中止せざるを得ないことが、少々残念だった。というのも互いがほとんどボケの特性を兼ね揃えた人間だ。ダブルボケで「ワニを買いたい」や「俺、社交部止めて山賊になる!」など複数ネタ合わせをした。しかしどうにも鋭いボケに緩い突っ込みのため、締りが悪いのである。テンポもなかなか良かったと自負しているが、どうも突っ込みとなると噛んでしまったりするのだ。人気コンビ「笑いご飯」のようには到底なれない俺達だった。
そして根津も俺に真っ向から突っ込みを入れるのが厳しいとの事で、自然俺が突っ込み役に回っていた。しかしいかんせんネタの完成度や俺の突っ込みの火力が弱火なため、無念のリタイアとなってしまったのである。漫才らしく似合わない関西弁でのネタ作りがこの悲劇を生んだのかも知れない、などと後に振り返りながら俺はそう声を漏らしたそうな。
しかしその他の準備に関しては大方仕上がっている。最後までやるかどうしようか悩んでいた「聖華先生のマナー教室」だったが、何やら本人に話した所やる気マンマンになられたので、30分程度に伸ばして行うことになりそうだった。聖華のあの様子を見ていると1~2時間でも問題が無さそうだが、実に白けたムードになりそうなので分の悪い賭けに出る訳にいかない。
今回の一件に関しては爺さんに感謝せねばなるまい。というよりあのお方が居たからこそ、俺如き凡夫でもパーティーなどという高貴な催しを開催出来るのである。その節はどうも~と子会社の社長みたいな挨拶をすると「気持ち悪いから止めろ」とバッサリだったので、今は普段通り接している。だって、ねぇ?こんだけしてもらって「おら、爺さん意味も無く電話してきてんじゃねぇ~よ、ああん?」とか言ってたらどんだけやりたい放題なんだって。俺は若さ控えめ、暴投少なめに最近自分をセーブするようにもなっていた。
明日がパーティーの日だ。場所、内容、そして気持ちは万全に整っている。俺はこれがどのような結果に終ろうとも、潔く聖華の方針に従うと決めていた。これだけやって駄目なら、今後も同じような事になると俺は思うからだ。それならば一層の事、今回死ぬ気でやって上手く行けば自分への自信というのも付くじゃないか。「俺はやれば出来る子」何ていうのは出来ない、やらない、やる気無い発言だと思っている。やれるかどうかというのも一つの才能なんだ。「じゃあやれよ。」という発言に尻込みしてしまうようでは今後やる可能性は無いと言ってあながち間違いはないだろう。
実際俺はシルヴィにもう惚れているのかも知れなかった。あの気丈な生き方を強く憧れるようになっているのだから。でも好きになるのなんて初心者な俺は、自分の気持ちを憧憬の気持ちとして捉えるように心掛けた。というより好いた惚れたと認識すると途端に「シルヴィに好かれたいから」とシルヴィ的には軟弱な発想になってやしないかと不安になるからだ。だからこそ人生の師としてシルヴィに師事を乞う事にしたのである。今までの無礼がある手前、本人には言わず隠れながらそう思っているに留まってるが。
・・・いかんいかん、明日が決戦の日だと言うのに何シルヴィへの熱い気持ちを独白しているんだ。今はそれよりも体を休め己の体を万全にし、体調を整える方が先決じゃないか。俺は別に惚れてる訳じゃないんだ、ただ強く尊敬できる生き方を見て俺もああなりたいだけなんだ。自分で何故言い訳を言う必要があるのかと不思議に思いながら一時の休息を取るのだった。
・・・
明朝、ガバリと俺は跳ねるように飛び起きた。やばい、俺寝過したんじゃね?大丈夫なの、時間は、時計はどこ、ああ何も分からない!ここは一体誰なんだああああ!錯乱しながら縦横無尽に右往左往する俺。この場面だけ見ると本当に異端児にも程がある。
ガンッ!←テーブルの角にヒザを思いっきりぶつける音
「~~~!!!」
痛みに堪えることに必死で声すら出せず俺は激痛に身を委ねた。おかげで目やら気分も治まって来た。時刻は4時半、新聞配達員にでもなれそうな時間帯だった。最近寝る時間が余りに短時間過ぎたため体の方が順応してしまっているようだ。結局2時間しか寝て無いのにやけにスッキリしている。俺は早速タキシードに着替え鏡の前で身繕いを行った。
タキシード姿で机に座すのもおかしな風景だが、俺にとっては別段恥ずべきことでもない。それより何より今回のパーティーをベストにするためにももう一度今日の流れを頭に叩き込む必要があるのだ。俺は普段タキシードなどという紳士服に身を包む事が無いので、今日は一日中着ていようと思っていた。今振り返ればいつも以上に緊張感のある食事だった。こぼしたらえらいこっちゃ!という気持ちで食すのでカトラリーをつまむように持ち終始一貫プルプル震えていた。後ろでシェフも違う意味で震えていたが気にしない。そして更に違う意味を持ってお目付け役に叱られたりもした。す、すいません、へ、へへ、慣れないもんで。
俺は午前中は部屋をパーティー会場と見立てて一連の流れを声に出しながら部屋の内部をグルグル周っていた。そしてこれではまだ足りぬと昼食後すぐに会場に真っ先に到着し誰も居ない広大な場所で、一人同じようにイメージトレーニング兼練習試合をしていた。
午後4時全ての準備を終えた俺は会場の石段に腰を下ろし空を眺めていた。不思議な物だ。勉学に関して俺はハッキリ言ってここまで本気で取り組んだ事が無い。いつもテストの日になって初めて教科書を広げ声を大にして音読ばかりしていた。結果最初だけ強く印象に残っておりどうにか20点付近の点をものにしていたのである。こんな俺がここまで頑張る日が来るなんてな・・・。フッと俺は自嘲に近い笑みを浮かべた。これは相当シルヴィにお熱なのかもな、何て考えがよぎったのだ。気付けばシルヴィの事を引きあいに出している時点で手遅れな俺だった。
「いよっしゃー!一丁やったろうじゃないか!」
俺は天を突くように声を張り上げ、選手控え室と化した会場で息を整えるのだった。絶対に勝鬨の声を上げてやる・・・。
・・・
時間通り集まった面々を迎えたのは哲平の、殴り書いたような下手くそな字が刻まれた立て札だった。
「声が掛かるまで開けないで下さい。哲平」
「何これ?」
当然の疑問を最初に発したのはやはり社交部代表だった。シルヴィは大まかに話の流れを哲平と作り上げたので一人笑いを押し殺していたが。一同が会場のドアの前で待たされまだかまだかと思い始めていた頃、パーティー開始となる哲平の声が内部から聞こえて来た。
「社交部の方々の、ご入場~!」
その言葉にドアが勢いよく開き、進路方向にバララララと赤い絨毯がひかれていった。そして電気の付いていない会場の一部が明るくなり盛大なファンファーレと共にオーケストラが社交部一同を迎えた。彼らにとって予想外過ぎる入場シーンだったようで、皆顔を見合わせながら恐る恐る内部に入って来たその瞬間
パチパチパチパチパチパチパチパチ
誰も居ない(オーケストラ部隊は演奏中)のに大量の拍手が降ってくるものだから動きも止まろうものだ。その気持ち汲み取ったと思われる手を叩く仕草をした等身大マネキンが数個ほど左右に居たが、あまり効果は無かった。しかし怒涛の拍手の割に余りに数が足りて無いマネキン達はシュールな笑いを醸し出していた。ご丁寧に一人一人おでこに名前が書いてあり、入口付近で佇んでいるマネキンはピエールらしかった。
予期せぬ出迎えに社交部御一行は例外無く驚いていたが、シャルや根津の笑い声をきっかけに皆笑いながら中へと入って行った。掴みはバッチリのようで何よりだ。これ以上の歓迎の仕方を俺は思いつかなかったのだ。その後オーケストラ部隊は一礼して場内を後にした。
しかし先の声を発した本パーティーの主催者の姿が見当たらず、皆きょろきょろと辺りを見まわしていた。というのも歩いていく方向と自分たちの立ち位置のみにライトが照らされ周りがよく見えないのだ。その時パッとライトアップされ哲平の姿が前方に晒されていた。タキシード姿の彼の威風は堂々たるもので凄くこの場を楽しんでいる様子にも見えた。恭しく右手を腹部にて折り曲げ頭を下げる哲平
「ようこそお越し下さいました。本日はこの有馬哲平のために割いて頂いたお時間。誠心誠意、粉骨砕身の気持ちでお返ししようと心を据える次第です。さぁさ、そのような場所に立たれずともどうぞ各自席にお付き下さい!」
俺はここで一つハプニング的な意味を込め、根津に頼みを聞いて貰っていた。本当俺の頼みを嫌な顔一つせず聞いてくれる彼に心から感謝の意を唱えたいと思う。皆が座り根津も見計らって仕掛け椅子に座らんとしていた。座ったその時
バキィ!!
激しい音と共に根津の椅子の足全てが綺麗に外向けに折れ、そのまま下に落ちた。丁度後ろに体重の掛かった体育座りのような態勢に根津はなっていた。何事かと思い一様に根津の方を見ると根津は何やら体育座りになっているので、聖華部隊すら吹き出していた。その後笑い声をBGMに形だけの謝罪と共に俺は根津に新しい椅子を用意した。その時感謝の言葉を言いながら。お前が居なければ成り立たなかった笑いだ、誇っていいよ。その後全ての照明に明かりが灯された。
根津の援護も有り完全に緊張感が無くなり、一転して和やかな談笑が始まった。俺はそれを見計らって次のシナリオを進めることにした。
「皆さま、私の不手際によって少々お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。謝罪の意を込め最上のおもてなしをさせて頂きましょう。」
俺がパチンと指を鳴らす仕草(鳴らせない)でもって料理の合図をした。ガラガラと台車と共にありとあらゆる料理に皆目を爛々と輝かせていた。なんせ料理もお出しするのでぜひ空腹になってご参加下さいと言っていたのだ。しかしその台車達は一同に匂いを振りまくだけ振りまいて出て行った。皆物欲しそうな顔でこちらを見て来るので
「皆さん私の言った『空腹』の状態のようで、私感謝感激する次第です。食事の時間にしても良いんですが、ただ食べるのも面白くない。ここは一つゲームをしませんか?」
俺はしませんか?などと言いながら断定的な気持ちで発言していた。反論の声があったとしても完全に聞き流して先に進む次第である。俺の言葉と同時に今度はディッシュカバーによって料理が隠された台車が運ばれて来た。皆興味深そうに見ている。
「さて皆さん、空腹はより食事を美味しくするものです。ぜひゲームに勝ち先陣を切って楽しく料理をしていただきたいものですね。」
俺はにこやかに話しかけながら話を進めた。
「こちらには皆さんと言えどそうそう食べた事も無い食材を用いて絶品の料理が入っております。そして皆さんにその名前を当てて頂いた方のみ差し上げるという形のゲームですね。残念な事に当てることの叶わなかった方には残念賞ノドアメをお配り致しますので、どうぞ指を加えながら悔しがって下さい。」
突然のゲーム展開に軽く付いて行けてない人も居たが概ね理解して、やる気にみなぎらせていた。そこまで食べた事の無い奇跡的な食材は爺さんにも手が余るようで、実際にはそこまで難しくない。ただ名前が珍しかったり食べた事がある程度にしか分からないはずだ。俺は一人一人にホワイトボードとマジックを配り一皿ずつ回答して貰うようにした。そして正解者にはディッシュカバーを取りその食材を堪能して貰おうという訳だ。食い意地の張った奴はいないと思ったが、念のため力士3人分食う量くらいは一応ストックとして用意させてある。
最初は分かりやすいフカヒレだったので皆仲良く食べていた。ここも重要な所で最初から飛ばし過ぎると楽しめない人がどうしても続出してしまう。だからある程度お腹に納めて貰う意味でも簡単で尚且つ高級な食材を出す事にしていた。計10品の珍味にして高級な食材を厳選して出していた。大体3品目くらいまでは一般人でも答えられそうな食材にし、4~7品目で超高級、8~10品目に関しては普段なじみのない食材を使った料理を題材にしていた。8~10品に関しては材料を調達する事から厄介でしかも目玉が飛び出るほど高い。あまりの希少価値故に。そのため流石に爺さんの手を持った俺でも2人分の量が手一杯だった。恐らくその金で俺が買えると思ったほどだ、人身売買やら臓器を売る意味で。
しかしは流石は社交部員の方々と言うか、ほとんどの人が4~5問程度正解していたので最後は完全に娯楽ゲームと相なっていた。元々が知的好奇心の高い彼らなので、興味深そうに食材を目にする姿は司会の俺としても気分がいいものだった。俺は満足げにお腹を膨らませた彼らを横目に次のシナリオに進めんとしていた。
「いやはや、流石は社交部の方々と言いましょうか。私にはどうにか1,2問正解が限度という所なので感服いたしました。そんな私に今日は聖華先生が時間を割いてマナーをご鞭撻していただけるそうです。皆さんもよろしければご一緒にどうですか?自らのマナーが本当に正しいかどうか、照らし合わせる良いきっかけにもなるかと。それでは先生本日はお忙しい中ありがとうございます。それではよろしくお願い致します。」
「はい、よろしくお願いします。それではまず始めに・・・」
教師役として聖華の気分も上々だった。上手く自分を下げながら周りを持ち上げ俺は聖華のマナーをしっかり聞き、駄目生徒の役を演じた。聖華に度々注意を受けるたびに皆は頷いたり、メモを取っているようだった。聖華部隊も両手を組み凛々しい聖華の姿に、改めて尊敬と感動の気持ちで一杯のようだった。俺はどうにかここまで成功に進んでいると、内心で安堵のため息を付いた。
その後も俺は思考を凝らした策をシナリオ通り淡々とこなしていった。元々準備だけは嫌というほどやって来た俺だ。流れに乗れば後はやる事をやればよいだけなのである意味楽だった。一つの皿だけ突然火を噴いたり、ダーツ罰ゲームの旅をやったり、様々なゲームやらイベントをこさえて終始皆の感情の発露は豊作だった。聖華もこのような場で無粋な事は言わず純粋に楽しんでくれたのも感謝だ。マナー教室で俺に対する評価も変わったのかもしれないが。あいつがバツゲーム、「イエス様ダンス」(イエス様YES!と叫び連呼しながら、コサックダンスを30秒する)をしてくれた時は俺も笑った。まさか本当にやってくれるとは思わなかった、しかも真っ赤な顔してたし。シルヴィにパイ投げをかましたり、散々自分も笑っていたのもあるだろうが。ほとんど出て無いシャルロットはどうしたって?ご心配無く今手を叩き、大口を開けてコサックしている聖華に指を指して笑っているのがその姫様だよ。
最後は上品もへったくれもないシャンパン砲を各自ぶっ放しての終了となった。俺達はシャンパンの匂いに酔いどれながらも肩を叩きあってひたすら笑い合うのだった。俺が正式に社交部に入部出来たのはよもや確認するまでもないだろう?
―続く―
はい、どうも皆さんこんにちは、自堕落トップファイブです!いや~自分で書いておきながら笑ってしまいました。流石は哲平というか、やる時はちゃんとやってくれんだよ!って気分に少々誇らしくなったり。まぁ一応一段落付いたって所ですか。まだオリジナルの方はパーティーすら始まっていない状態で、こんな所まで書いてしまったのです。また色々問題があれば変える方向ですが、今の所この内容に僕は満足ですかね。それでは皆さんまたお会いしましょう!
本日もこのような駄文をここまで目を通して頂いて誠にありがとうございました!(謝)