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[22577] 【習作】ヴァルキュリアなオリ主【VP×ネギま!】
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 18:00
この作品は一作目、つまり処女作で、駄文です
もちろんSS投稿が初めての素人で
そして憑依物です

【注意!】
これはVP、いわゆるヴァルキリープロファイル(以下VP)のオリ主とネギまのクロスSSです。
といってもVP編はAエンディングのラストあたりから始まりますのでプロローグ的な話になります。VP未プレイの方にはネタバレ、そして話の流れでわかりにくい所が多々あります。原作沿い、つまりレナス達の仲間でーとかにはなりません。設定借りの方が正しいでしょう

以下の点に注意

・ オリ主憑依物
・ ご都合主義
・ 厨二病
・ 原作知識
・ 独自解釈、独自設定
・TS要素が含まれます
Etc…
と色々ございます。これらの内容が含まれますので不機嫌になる方もおられると思います
それらの方々には先に謝ります。本当に申し訳ありません

最後となりましたが感想などいただけるとありがたいです。
ではでは



プロローグ№1

「はあはぁ」

もう無理じゃ~戦いは始まったばかりじゃが、こんな装備でどうしろというのじゃ
リセリアが新しく仲間になってからという物
わらわに対する態度が豹変しすぎじゃ、武具、防具、アクセサリに至るまで全てリセリアに譲渡するし
その上神界転送じゃと?わらわに残ったのは今までに鍛え上げた魔術くらいで
今や前衛もはぐれておらぬ、そんな壁のいない魔法使いなど殺してくれと言うてるようなものじゃ

諦めたくないが、残っているものなど嫌がらせのような消費アイテムと
神界転送した時の餞別だと渡してくれたエーテルセプターとフェアリィリングにプロテクトチャームのみ……

なにが「運が良ければ生き残れるわ」じゃ!あのクソ女神!
せめて防具ぐらい用意せんか!
こんな壊れ物ばかりで戦闘など自殺行為に等しいではないか!
今まで一緒に戦った仲間に余りに酷い仕打ち!万死に値するぞ!

うぅ自身の境遇に泣けてきよるわ

はぁ、四の五の言うてはおれん、まずは味方を探す、話はそれからじゃ

おぉ噂をすれば、あの背中は味方の神族ではないか!た、助かった

そうとなれば善は急げ、走るのじゃ

なんとかなったかの、後は敵の魔法使いを締め上げて、防具根こそぎ奪ってくれようぞ!
ふははははははははh

うん?なんじゃ奥の方から何やら話し声が……んん?これは羽?

「汝、その諷意なる封印の中で安息を得るだろう。
 永遠に儚く。 」

へっ?  

――セレスティアルスター

















――今北産業

トラックに
轢かれて
魂昇天

あぁ死んだなと思ったら、何ここ?リアルに天国ですか?

こんなに綺麗で空気の澄んだ場所、見た事も聞いた事もないな
ずっと日本に住んでいた俺には知らない景色だ
それにさっきまでいた街中じゃないよね

これってアレですか所謂、転生ですかコレ

二次小説だけかと思ったが、じゃあマジでここ天国だな、うん

だって綺麗過ぎるだろ此処、ずぅっっっと平原だし

だいたい視線が低くて向こうまで良く見えません……って

ハッ!?

なにこの視線、俺の体小さっ!

なんか杖持ってますけど服装からして女の子だよ、細いし小さいしこの体orz

転生じゃなくて憑依か~しかもTSって

誰に?

ってわかるわけねえよ、鏡くれ鏡

「ねえ、あなた大丈夫?」

あん?

「倒れていたから、治療したのだけれど…」

「倒れていた?俺が?」

「まあ、俺だなんて、ずいぶん男勝りなお姫様ね」

しまっ

「しかも魂がとても不安定……あなた女性よね?」

「ア、アタリマエジャナイデスカ」

「…ふーん、まぁいいわ、間違えて男を治療するなんて死んでも御免だからね」

「男…ですか?」

「そう!私女性しか治療したくないの!本当はオーディン様に皆分け隔てなくと言われているけど男の治療なんて虫唾が走るわ!」

「オーディン様?」

「あっ、今の内緒ね」

ニッコリ笑うこの人は綺麗だが、

ビクッッ「はい!」

なんだ今の寒気は

「話がそれたわね、体の方は平気?」

「ぇえ、大丈夫だと思います」

「思います?」

…どうする、この人はおそらく味方
自分が何者かは分からないが何の疑いもなく治療したって事は
良くて味方、最低でも中立は保てる立ち位置にいる存在
赤十字みたいな?

…ここは一つ情報収集と行きますか

「いえ、やはり少し体調が悪いみたいです、」

「やっぱりね、そんな不安定な心身で戦うものじゃないわ、無理は良くないわよ?」

「そう、ですね」

「じゃ戻りましょう」

「ちょ、ちょっと戻るって一体どこに?」

「うーんそうね、此処から一番近いのはヴァルハラね」

「ヴァルハラ…」

「そこで治療して、また隊を編成してからラグナロクに参戦すればいいわ」

ラグナロク…

「さっ行きましょう、エインフェリアさん」

「我らが主神、オーディン様も近くにいらっしゃるわ」

オーディン…エインフェリア…

まさかな…

「失礼ですが、あなたのお名前は?」

「あらあらそんなに硬くならないで、私の名はアース神族の、最良の医師と呼ばれる女神」

「エイルよ」










あとがき


エイルはちょびっとだけVPに登場するキャラなので、性格弄くり倒しました。
申し訳ない
なにせ情報が少なく、場面的に神様の中で医師といえば彼女しかいなかったのです。
こんなんイメージとちゃうわゴラァという方、本当に申し訳ありません
性格はそのまま、北欧神話の逸話などを題材にしていますので、興味があれば調べてみて下さい。しかし彼女は女神が列挙される中でも3番目に名前を挙げられほどの良神だったんですね

えぇ~この様にこの先もこういった独自解釈、設定や改変は出てきます、なるべく世界観を壊さないよう、あまり明かされなかったキャラクターやモノを題材にしたり、ネタは北欧神話原典から引用させていただいたりします。VP自体の物語には、そんなにカラミはないです、そのため、VP小説とは言い難い為、それらを嫌う方には先にここで注意書きとさしていただきます





[22577] プロローグ№2
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/17 20:36
プロローグ№2

「エイル…」

誰それ、オーディンはわかる、北欧神話で有名な神様、というより最高神だ
この人も自称女神?だし偉い立場にいる神様なのはわかるが俺もそこまで詳しくないぞ
北欧神話は。

「ねえ?あなた」

「はい?」

「あなたの事はなんてお呼びしたらいいの?」

…まずい、今この体の正式名称なんて予想もつかない、この体の分かっている事など
一、女性である 二、エインフェリアである? 三、杖を所持しているので恐らく魔法使い的な職業(不確定)ぐらいだからな
仕方ない嘘つくしかないな、神様だから心を読めるとか言うなよ

「あの私…」

「あっやっぱりいいわ」

「へ?」

「だっていちいちエインフェリアの名前なんて覚えていられないわ、少し魂が変わっていたから気になっただけ」

「そ、そうですか」

助かった、のか?しかしさすが神様、神ゆえの傲慢さだな
今も戦闘中じゃなければ見捨てていたんじゃないのか?

「さあ、行きましょう」

「わかりました」












「少しそこで待っていてね」

「はい」

さて、救護所らしき所に着いたがここでゆっくり今後の進路でも思案するとしよう

「あぁ、そういえば」

ん、なんだ

「何かあるのですか?」

「いえね、ラグナロクが始まる前の戦闘で怪我をしたエインフェリアさんがここにいるのよ、よかったら相手でもしてあげて」

「そういうことなら、大丈夫です」

むしろ好都合、この人に聞けないこともいくらか聞きやすいだろう  ニヤリ

「じゃお願いね」

さて、邪魔者も居なくなったし、早速聞き込み開始と致しますか

あのカーテンの向こうか

「あのー」

「なんだ、俺は怪我してんだ戦えねぇぞ」

「いえいえ、ちょっとお話を聞きたいと思いまして」

「お話だぁ?」

カーテンから手が出て、鬱陶しそうに布を捲る

「俺に話聞きてぇなんて馬鹿はどこのどいつ…」

「?」

なんだこの人、俺の顔見て固まってるぞ、

!!まさかこの体の知り合いか?口調が違いすぎたのか?クソッ不審に思われたな
しかし今さら変えられない

「嬢ちゃん…」

どうする、別人を偽るか?記憶喪失?どちらもあながち間違いじゃないがどこかでボロがでる
うーん八方塞がりか

「あの、「すまなかった!!」えぇ?」

な、なんだいきなり

「あんたが話を聞きたいってのも頷ける、あんたは俺の事恨んでたんだろ?」

「あぁ確かに俺には話す義務がある、特に被害を受けたあんたなら尚更だ」

…いきなり何言ってんだコイツ、状況が掴めん

「あ、あの「言いたいこともわかる、今はもう恨んでねえって言いてぇんだろ?」…」

…もういいや勝手に喋らしておこう

「だが少しは恨んだりしたはずだ、今はどうあれ、あんな事仕出かしたんだ」

「……」

「…まさか積荷が嬢ちゃんだとは知らなかった、いやその前に積荷の確認ぐらいするべきだった」

「いや嬢ちゃんからしたらどちらも同じ事か、今さらだよな」

「だがあの時、嬢ちゃんはグールパウダーなんか飲まされて苦しんだはずだ」

「あまつさえその時逃げ出した俺を恨んでねえって言えるだけでも嬢ちゃんは強えよ」

いや一言も言ってないし

「しかも、そんな俺なんかが嬢ちゃんと同じエインフェリアになってやがる」

「誘拐して、あんな目に合わせて、逃げ出して、今同じ所にいる」

「こんな俺が、だぜ?今ここにいること自体嬢ちゃんには可笑しいだろうよ」

「…だが、だがな?こうして此処にいるからこそ、あんたに心から謝ることができる」

「早々にコッチにきて結局言えずじまいだった」

そういうとおっさんが立ち上がる、体が痛むのだろうノロノロとした動きで頭をさげる

「本当にすまなかった、アルトリア国、ジェラード王女」

じぇらーど?ジェラード…

その時頭を雷が貫いたような衝撃、いや大げさだが全てが繋がった

なるほど、そういうことか

「ありがとう、バドラック」

そうここは…

ヴァルキリープロファイルの世界だ

なるほど、ただの天国かと思ったら本当に二次小説みたいな話になったな
思えばこの服装にも見覚えがある、レナスが最初に選定した魔法使いにして最初のエインフェリア
そしてジェラードがそうなる原因となった一因の男、バドラック

俺がプレイしてたときはジェラードは最後までメインキャラだったからな
良く覚えているよ

ジェラードに憑依、しかもTS…

うん、ならやることは決まった
…大体難関は3つくらいか、これを越えなければ最悪消滅コースまっしぐらだ
まずは当初の目的通り情報収集と行きますか

「ねぇバドラッ…」

「うぅぅ…」

うわぁ大の大人が膝ついてグスグス泣いてやがる
どこから見ても典型的な小悪党が泣き崩れる姿は見るに耐えんな
てか体大丈夫なのか?さっきまでのあれは演技だったのか?

「こ、こんな、お、俺に、あ、あ、あありがとうぅってぇぇ」

「ありがとう」は情報についてだったのだが、まあいいや
にしても感無量って感じだな、胸の閊えが取れたのか?
しかし見れば見るほどキモイな

…だがそうも言っていられない、時間が迫っている

「バドラック」

できるだけやさしく話しかける、

これだけはまじめに答えてもらう必要があるから

「オーディン様が今どこにいるか教えて」













あとがき


バドラックの口調や性格が違うと思われた方、このバドラックさんは勇者適正値が上がっている影響で性格改変しているという事にしておいてください

バドラック脳内ではお話→OHANASIになっています。
自分に非があると自覚がある彼は謝るしかないわけですね、少し言い訳くさいですが

ちなみにエイルは優秀な神です、バドラックの怪我が本物かそうでないかなど
一目瞭然ですが、バドラックは彼女の典型的な嫌いな男そのものなので自分はノータッチで、さりげなくジェラードを向かわせたのも、バドラックと同じエインフェリアを探していて、そいつにこの男の世話をさせようと画策していたからです。  

「ふふ、計画通り★」ニコッ

!?



[22577] プロローグ№3
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 18:03
プロローグ№3

「ひっぐ、オーディンだぁ?」

いい加減泣き止めよ、おっさん

「そう、先にこっちに来たあなたならわかるんじゃないかと思ってね」

「…結構前の話になるし、オーディンがどこにいるかはわかんねえが
金髪のねーちゃんがあの館で歩いてたのは見たぜ」

そういって窓から見える館を指差す、
なるほど確かにここらで見える館で一番大きいが…確証がないな
そしてもう一つの方は…

「金髪の女性?」

「あぁ、めちゃくちゃ綺麗な女だったな、あれは間違いなく女神だぜ」

それだけでわかれば苦労しないが、…もしかして

「もしかして…全身緑色っぽい服を着ていなかった?」

「おぉ!確かそうだったな」

間違いないフレイだ、そしてフレイが自分の足で出向く理由があるとすれば、主神への謁見か……
ふむ、あそこにオーディンがいる可能性は高いな

「ありがとう、でもなんでそんなに詳しくわかるの?」

「うぐっ」 

…おいおい顔に出すぎだろう、汗ダラダラ出てるぞ、本当に腕利きの盗賊だったのか?この男
しかもこいつ何してたんだ?下手したら消されていたんじゃないのか?

「ああ、いいのよ、あんまり興味ないし」

「……」

ダンマリね、まぁいっか触らぬ神に祟りなし
実際に神の存在しているこの世界では読んで字にごとく
祟りがおきてしまう

「それじゃ私は行くわ、いろいろありがと」

「…待ちな」

「…何かしら?」

何だ?口封じか?後ろめたい事をしていなければ声をかけないだろう

「大丈夫、あなたから聞いたなんて誰にも言わないわ」

「違ぇつーの!ほらよ、もって行きな」

「?何かしらこれ」

手渡された袋には羽とか砂時計とか鏡とか、あとランタン?の中には火が燈っている
他にも色々と入っているようだ、コレらはもしかして…

「宝物庫からかっぱらって来た」

「宝物庫って……これ全部アーティファクトじゃないか!」

!!やべ、地が出た

「??…俺がそのねーちゃん見かけたんのはそん時よ、まったくヒヤヒヤもんだったぜ」

いい仕事したぜ!的な眩しい笑顔はやめてください果てしなく間違っています

「でもどうしてこれを私に?」

「やるよ」

「え?」

「俺にはこれがどう役に立つかはわかったモンじゃねぇが
きっとアンタの役にたつんじゃねぇか?詫びってわけじゃあねぇんだが」

ポリポリと頭を掻くおっさん、…これは嬉しい誤算だな、正直ありがたい

「おいおい勘違いすんな?全部じゃあ「ありがとう!バドラック!」……」

今の俺は満面の笑みだろう、それは妖艶な笑みでなく子供らしい輝くような笑み…

を意識する

「おう。」 

素っ気無く返事を返し、顔を背けるが唇の端は吊り上っている、まったく、素直じゃないな

「ホントにありがとう、それじゃあね」

「ああ」

さて、これでオーディンが襲撃されなければ波風たたずに済むのだが、
しかし急がなければ取り返しのつかない事になる可能性もあるし、勿論危険性も上がる。
とりあえずさっき貰ったアイテムは装備しておこう



振り向きもせず走り去り、部屋をさっさと出て行くジェラード
嵐のように過ぎ去った一連の強奪事件の当事者は思わず一言、口から零れだした

「…なんか性格変わったか?あの嬢ちゃん」

その被害者の呟きは、走り去るかつての被害者には最早、聞こえはしない
















「はっ、はっ」

「ふう、急ぎつつ、慎重に」

そうここからはミスは許されない

俺が生き残る為にやるべきこと、第一に“確認”

まずは、ジェラードが元々所持していたアイテムと装備

あ、因みにアイテムなどの名前は頭の中に浮かぶし、ジェラードの知識の中に見覚えの在る物は使い方も覚えている、
それにこっちの言葉なんて俺の知らない言語だ、さっきも普通に話せていた
ジェラードに憑依したから元々の記憶などはないと考えていたが
ジェラードの記憶のうち覚えていないのは、ジェラード自身の過去
つまり思い出だ、これはおそらく俺の記憶を上書きしたのか
…それかジェラードが戦死した時に自分の思い出は持って逝ったのか


…そんなことより、コレだ、

正直、コレは使いたくないが、“第一の難関”はBエンディングとAエンディングどちらに進行しているのかを確認すること
Bエンディングならコレは使う必要がない、だがAエンディングならリスクはBの倍プッシュ以上
しかし俺の考えている作戦が成功すれば後々の難関に生きてくる多大なメリットがある、ゆえにコレは必須事項

そして今の所重要な情報は

エイルから聞いたラグナロクの開始はまず確定
俺がジェラードに憑依したのも確定
魔法はおそらく使用可能、アイテムの使い方も覚えているし、問題ないだろう
ここらが廃墟になっていないからオーディンとロキが“まだ”戦闘してないorロキの謀反は起きない

どちらかは不明

Bならいい、ヴァルハラに居れば死ぬようなことはないだろう

だがAなら、かなり危険だし、俺の作戦がうまく行くかわからん、でもアレは今後必要になるだろう

はあぁぁぁ先行き不安だな、こりゃ

しかもコレ一個しかないし、リハなしのぶっつけ本番か…

頼むぞ、ルシッドポーション   

……というかアイテム系全部一個ずつとか虐めですか?嫌われているのですか?ジェラード姫






あとがき

おっさんは宝物庫に入ったのは良いものの、武具や防具のアーティファクトは装備した場合
味方の神々に盗んだのが即バレ、即SA☆TU☆GA☆Iされると考え
使い方もわからない小物系アーティファクトを盗んでいきましたとさ



[22577] プロローグ№4
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/18 18:40
プロローグ№4

さて、とオーディン邸(仮)に着いたはいいが、わざわざ中に侵入するなんて愚を犯す必要もない。
それに、できるなら目立つ行動はしたくない

今から起こる事を確認するだけなら外で十分

こっちの準備は万端、後は待つだけ


……
………
……


来ないか

という事はBエンディング確定か?

それとも此処はオーディン邸じゃなかった?出た後だったとか?

ダメだ、どれもまだ確定じゃない、不確定要素が多すぎる

せめてオーディンの生存を確認しな…?

なんだ?魔力の高まり、胎動を感じる…

館の裏あたりから?

!!あの赤い龍は間違いないロキの…って

地割れがここまで!?岩とか家屋の破片等が吹き飛ばされてって…こっち来んなぁぁぁぁぁぁ

あ、マジムリ、こんなにいっぱい避けきれない









ガツッ







あーまた死んだよ俺、っていうかもっと離れてればよかった
まさか館の裏口?で戦闘していたとは、わかんねえよコンチクショウ

…変だな、全然普通だ、っていうかさっきまでと変わりない

手も動く、足も動く

パッと目を開けて素早く立ち上がり辺りを見渡す、うん廃墟だね、

でも自分自身なんともない、

…まさか

バッと先ほどバドラックから渡されたアイテムを確認する

…在り得ない、まさか一発で壊れるなんて、

「嘘だろぉ…」

思わず口から出てしまうほど、それぐらい俺の運に絶望してしまう
しかしこれはないだろう、いやマジで

「羽が…」

袋から取り出し装備した宝具、一見ただの羽に見えたあれはアーティファクト不死鳥の羽
確か行動不能になったら自動復活で、破壊確率10%とアーティファクトでも珍しい壊れる可能性のある宝具だ
それ故に貴重で大事な物だ、いや、“だった”

それが壊れている、10パーなのに、粉々に

俺の保険が一瞬でパーですか



……


…うぅぅ、ロキ許さんぞ!(泣

で、でもこれでAエンディングが確定したもの、悔しくなんてないんだからね! ツーン

…はぁ惨めになるだけだ、止め止め

しかしこうなってしまっては尚更、成功させなければ割りに合わない

散って逝った不死鳥の羽の為にもな!

…そろそろロキ達が会話している頃かな

ならばさっそく覚悟決めるとしますか

アレを……グングニルを頂戴に参る!

そして俺はルシッドポーションを飲み干す

グイっとな

よし、これで今俺の姿はほとんど見えてないはず

いざ行かん!待ってろよグングニル!








近くにいたお蔭か、少々走るだけで現場に到着した

そして今オーディンが目の前で倒れている

ロキはもう何処にもいない

でもエーンエーンとかグスグスとか変な擬音が聴こえてきそうなこの緑女神

どうしようか

この人いやこの女神様、確か2番目に偉いんだよね?この世界だと

槍なんて眼中にないですか、そうですか、え?この神様の背中がそう語っているのだよ


さっ、早くしないとこの最高神様ラブの金髪ねーちゃんが立ち直るしレナス達も動き出す
なにより薬が何時切れるか不安でヤバイ。

そういう事だから貰ってくよこの槍、羽の代わりだ、アンタ達にゃ悪いがな

そんじゃあな、あばよ!














ふ、ふははははは!!

……案外簡単にいったな(現在逃走中)
まあこんなこと起きるなんて予測がつく奴なんていないだろう

未来でも知らなければ

このメリットは今の所俺だけのもの、

そして新たに手に入れたメリット、それがグングニルだ

この世界のバランスさえ左右する、四つの秘宝の内一つ

天界の最高神が所有する、この世界最高級の宝具

これさえあれば大抵の事はなんとかなる

ジェラードは魔法使いだが、このグングニルはスルトの剣みたいな物だ

槍だが魔法媒体としても機能している

よく考えればわかる筈だ

オーディンは、戦士として一級品の力量を持ち、戦士としてかなり優れているのは確か
そして彼は魔法の分野でも超が付くほど優秀だ、その最たるものが



失伝魔法



「ロストミスティック」とも言われる、非常に高度な魔法で、複雑な儀式と膨大な魔力が必要なため
使える者は神々ですらオーディンのみとされているが…

人間でもレザードが使えるから、知識とかあれば誰でも使えるのだろうか?

例えば俺とか

強大な魔力はグングニルで代用、知識はレザード辺りに教えてもらうとか

……今考える内容の話じゃないな

取り合えず、第一の難関は予想外の出費はあったものの、滞りなく終了

そろそろルシッドポーションの効果が切れるはず、できるだけ離れよう


















あとがき

今回の出費

不死鳥の羽
ルシッドポーション

入手アイテム

四宝の槍グングニル

~補足説明~
この小説では1ターン1分とします
この場合ルシッドポーションは5ターン持ちますので5分ですね

そして不死鳥の羽ですが、本来、効果を発揮するのは戦闘のみで
VPでこのような記述はありませんし、死を免れるアーティファクトならオーディンが装備してんだろ
とか批判があると思います、「物語」としての話なのでこのような効果として使わしてもらいました


話は変わりますが漫画版読んでグングニル見たのですが

あれどう見ても槍じゃねえだろ

まあ作者的にイメージぴったりなのは「ファイナルチェリオ」の槍なので人の事言えませんが





[22577] プロローグ№5
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/19 19:40
プロローグ№5

第一の難関は予想外の事態は起きたもの成功し、四宝の槍グングニルを手に入れた

しかし良い状況とは言い辛いし、安心はできない

この体は仮初めの物、今は幸運にも体が維持されているが

ジェラードの魂が土台になっている事に間違いはない

おそらくジェラードは戦死したのだろう、その時、魂が離散し消滅する寸前

俺が憑依したと考えれば…

ジェラードが保持していた魂。ヴァルキリーが実体化した体。に俺が憑依し俺自身の人格を形成できているのは

俺の魂が繋ぎになっているに過ぎないのだろう

実に不安定、これは気持ちのいいモンじゃない

この奇跡がいつ途切れるかわかったものではないからな

急がないと…しかも懸念事項はそれだけでなく

Aエンディングルートが確定してしまった

反旗を翻したロキ、そしてオーディンはロキに殺害された
これからレナスが紆余曲折あってロキと対決する予定だが

対峙し、戦闘開始、その時

ロキのドラゴンオーブは発動し、神界も人間界も全て巻き込む災厄ラグナロクが起きる

これは間違いなく巻き込まれる、今のままなら生き残る可能性は低い
その為に現状手に入れられる最高戦力、グングニルを入手した

そう、ラグナロクを回避するのが“第二の難関”

そして、今何しているかといえば俺の戦力確認

今の俺が憑依した状態でも魔法は使えるか、試しに使ってみたのだ、

ちなみに使用した魔法は『ガードレインフォース』

防御力上昇効果のある魔法だ

結果から言うと、成功した。魔法の知識は覚えていたから確認作業のような物だ


だからこれからは原作を知っていても知りえない内容の話

グングニルの『特性』を知らなければならない

ロキは世界を滅ぼす程の力、レナスは世界を復元する程の力

そのどちらも一神様が持つ力にしては大きすぎる
どちらも自身の能力あっての力だが、両方共四宝が鍵になっているのは間違いない

ならば、グングニルにも負けず劣らず、同じようにできることがあるはずだ

それを知らなければならない、単純に強力な装備品としてではなく

この世界に影響を齎す四つだけの神器として

最低でもロキの世界崩壊を防ぎ、レナスに世界を復元してもらうまで余裕で生き残るくらいの力は欲しいかな

後はできるだけ生存者に見つからないこと、敵味方問わず、

先のロキによる攻撃によってアスガルドの大部分が破壊されてしまったので、生存者がいるのかまず怪しい所だ

しかし味方まで巻き込むとは、ロキはアース神族とヴァン神族との間に生まれた下級神?だっけ?
その生まれのためにどちらの神族からも蔑まれてきたから、その恨みが爆発したってわけね

うん、言っちゃ悪いが好都合、これで俺が目撃される確立がグンと減った

できるだけロキやその配下の龍や狼、金髪ねーちゃんなど面倒な神様達とは遭いたくない

その為今現在は森の中に身を潜めている

今のアスガルドに安全な場所など在るはずもなく、できるだけ発見され難い場所を考慮した結果、此処に到るまでに成った

現状確認はこれぐらいでいいだろう、ただ今は戦力確認の続きだ

グングニルは有名な武器だ、俺も色々なゲームでその高名は伺っている

そう、何かしら北欧神話をモチーフにしたゲームや本などに触れた事がある者は
かなりの確立で『必中の槍』などのイメージが沸く

その中でも、投擲槍として投げたりしているのが印象的だ

恐らく実際の北欧神話からの抜粋で、そのような記述があるのだろう

ならば試してみるしかあるまい

俺は大体10メートルくらい先の木に狙いを定め

全く力を入れず、それこそほいっとゴミ箱に捨てるくらいの気持ちで投げた

だが、どう見ても物理法則を無視してるだろ、と突っ込みたくなるような軌道で

真っ直ぐ木に突き刺さった

そして槍が的に当たった後、何時の間にか手元に戻っている

まるで槍自身が的中したという事を理解し「俺の仕事は終わった」と認識しているようだ

…どこのスナイパーだよ、俺の後ろに立つなってか?

だがこの程度で終わって貰っては困る、

この世界は確かに北欧神話に類似している、というかモチーフ、オマージュした世界だ、でも

ここはヴァルキリープロファイルの世界

オーディンを殺したのはフェンリルじゃなくてロキだし

ドラゴンオーブなんて物が存在し、レヴァンテインはヴァルキリーの装備品になるはずだ

そして戦乙女が創造神になる

こんな精々『必中』程度の力じゃお話にもならない

何かないのか…

槍を調べてもなぁ、取り扱い説明とか書いてねぇかな?

槍の持ち手部分に何かないかと思っても

わかったのは物凄く硬いなぐらいだ

穂先にも何かないかな?

…何か文字が書いてある、縦の長い線と斜めの短い線とを組み合わせた字形になっていて
シンプルな文字だが、“俺”には読めない

だがジェラードの知識の中にはこの文字が何なのか、答えが出ている

ルーン文字、らしい

なるほど、これが先ほどの物理法則無視のタネか?

穂先に魔術的な処理をし、必中と回帰の効果を付属した、

現時点で解るのはこれくらいか

だが引っ掛かる、大事な物を見落とした、そんな感覚

…どこだ、何を見落としている?

う~む…









物思いに耽って漸く答えがでた

それは

なぜルーン文字だと断言できなかったのか、である

魔術的要素を槍に付属させるなら、現存している魔法でどうにかできそうな気がする

わざわざルーン文字という魔法使いでも難解な言語を使う必要はないのだ

そこで思い出して欲しい、コレの元々の所有者を

最高神オーディン様である

そのオーディンが所持していた槍

一応、第一線級の魔法使いであるジェラードでさえ、らしいという曖昧な答えしかでないルーン文字

その誰にも解読できず失われたに等しい言語を使用した魔術的要素の付加

なにか思いつかないだろうか?

…失伝魔法

このルーン文字はオーディンが刻んだものではないのか?

つまりこの槍には失伝魔法が付加されているという事だ

失伝魔法=ルーン文字と決め付ける訳ではないが深い関りがあるのは事実

そして、この槍にはそのヒントが詰まっている

短い時間だが、なんとかモノにできるかもしれない

もう答えは書いてあるのだ、あとは組み合わせ

回帰、いや“転送”を使えるように

ふふ、魔力も知識もグングニル任せになりそうだな

しかしこれで第二の難関もスキップして、第三に移行できそうだ








…そう考えていた時期が俺にもありました

なんかさ後方から音がするのですよ

擬音つけるなら『ドドドドド』的な?

ははは、ヴァルキリー早すぎ、もっと時間かけろ馬鹿

うん、来てるね、かなり来てる

終焉が目の前だ

……なんとかなんねぇのか?グングニル

……



だめか…











―キィン








そうして槍は嘶いた















「…知らない天井だ」

まさかこのテンプレを口にする日が来るとは

天井を眺めている俺、背面の硬い床の感触が生きている証明をしてくれる

「生きてる?」

今回は流石に諦めた、打つ手なしだった、柄にもなく物に頼るなんて行為までした

「…グングニルの力なのか?」

槍は何も返答しない、ただズッシリと自身の重みを訴えるだけだ

真相はわからないまま、けど

「助かったよ」

こいつの可能性に賭ける以外助かる見込みはなかった

なら、こいつのお陰なのだろう

「それにしても、ここは一体?」

「ここは存在次元の歪みですよ」

!? 魔力反応!

「それより私は今とても忙しい」

魔力反応は、下!?

「どうやって此処まで来たか、手短に答えていただけますか?」

床に耀く魔方陣、見る間に完成されていく五芒星の陣から

俺の“最後の難関”であり最終目的である男、レザード・ヴァレスは姿を現した









あとがき



グングニルの「穂先にルーン文字が刻まれている」は
『エッダ 古代北欧歌謡集』145頁。(『シグルドリーヴァの歌』)よりそのような記述がありましたので、引用させて頂きました。(ウィキ調べ)
「必中、回帰の魔術的要素等」はそこから判断し、独自に発展させたもので、これらは実際のVPの公式設定ではありません、ご了承ください

「ルーン文字」の件も又、失伝魔法と係わりがあるように書いていますが
公式設定ではないはずです。すいません。

今回の話本当は二つにわけていたのですが上記の説明を一緒にする為、長くなってしまいました。



そして間一髪、窮地を脱したジェラード君ですが

ご都合主義の結果…

という事ではありません

一応助かったなりの理由はあります

プロローグ内で語られますので、少々お待ちを

そして追加

温州みかん様にコメント頂きましたが

魂に魂が憑依し

実体化している方に変化はない

これについて補足しますと

まず、エインフェリア…

英霊とはその力を天使たるヴァルキュリアに認められた者達です

普通の一般人が憑依した所で体を乗っ取られる事などまずありえないでしょう

意識がないような事態にならない限り

そして第二にあまりに弱すぎる魂なので、変化を与えるほどではなかったという事

作者がどこか憑依を融合と同一視していた所等多々ありますが

これは後々出てくるネタなので余りしゃべりたくないのですが

SSのテンプレの憑依だけでなく、この世界にも…と言った所で今日はお開き

ではでは~






[22577] プロローグ№6
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 18:09
プロローグ№6

「貴女がどうやって此処に辿り着いたか気にはなりますが」

「私も忙しいのです。用がないなら消えてください。」

いきなりだな…でもまあ手間が省けたし、『忙しい』その一言で現状を把握できた。

「それは自分がヴァルキリーにとって無二の存在になったからかしら?」

「…何を知っている」

クク、喰いついた

「何でも」

「…やれやれ、どうやらラグナロクを回避したくらいで自分が全治全能の神にでもなったつもりの様ですね」

「おや?それは自分の事を言っているの?」

「…ふう、」

眼鏡をクイっと上げ溜息を吐き、杖を構えるへんた…レザード、少々売り言葉に買い言葉だったな喧嘩をしに来たんじゃあない

「ま、挨拶はこれぐらいにして、何でもってのは確かに比喩だけど、貴方が欲しい情報はあるはずよ?」

「必要ありません。」

およ、気を悪くしたかな?

「私の精神を貴女如きに理解できるとは思えませんので。」

「それは失礼しました、優秀である貴方の頭脳をお借りしたかったんですけど
 情報はそのお礼…もちろんそれ以外にも貴方に役立つ物をオマケでね。」

「それこそ必要ありません。」

ありゃ?頑固だね

「私に必要な物を貴女如きに用意できるとも思えませんので。」

「ほう、例えばどんな?」

「だから貴女に―「これなんて必要なんじゃないの?」―!!」

これから思い通りに行くのかと思うと、笑いを堪え切れないかも知れん。

…よく見えるように差し出す、

グングニルを

「四宝の一つ、グングニル…コレさえあれば更なる高み、ヴァルキリーに近づけますよ?

…ヴァルキリーはこの世界の創造神となってしまった。

貴方は確かにこの世界で最も賢い魔術師でしょう

それでも創造神、ヴァルキリーには届かない

これ…ヴァルキリーやロキが高みに至る切欠になった物、四宝

これさえあれば、届くかもしれませんよ?

彼女に…レナスに。」

「……」

考え中…って顔だな、そんなに眉間に皺よせてさ、考えるまでもないだろうに、

「何が…」

うん?

「何が望みなのです?」

考えても答えなんて出ないよな、いきなりやって来て自身の一番欲しいモノを持ってきたのだから

かなり怪しいだろうな俺、しかも事情を知っているような雰囲気だ

警戒してこちらの情報をだそうとするのも頷ける。

「こちらの望み?」

だから色々無理難題でも言って、本当に欲しいモノは後にしようか

後々の計画にはレナスからのDMEの供給のままでは色々とまずいことになる、その為にもまずは“俺”の体が必要だ。

「まず、肉体ね、貴方いっぱいレナス似のホムンクルス造っていたでしょ?あれでいいよ。」

ピクッと瞼が反応した、意外と顔に出やすいんだな。

「次に知識、もちろん失伝魔法…ロストミスティックを少々、」

目を見開いて、何でそんなことまで知っている!?って顔だな、言っただろ“何でも”ってな。

「賢者の石を要求しないんだから、マシでしょ?」

…絶句してる、まだ俺のターンは終わらない!

「あと装備とかアーティファクト、後ね前衛がいないの、だからドラゴン(トゥース)ウォーリアでいいよね?」

俯いている…少し言い過ぎたかな?これらは前菜であったり、主菜までの繋ぎとかなのだけど

「ちょっと待ってください、幾らなんでもそんなに叶えられません。」

まあそうだわな、でも言うだけタダだし

「時間や内容の問題じゃないでしょう?」

「これ全てとは言わないわ、コッチでも妥協はする、どこまでできるか簡潔に述べて。」

「……」

レザード再び考え中…

「装備や前衛は問題ありません、私にとって今や必要なくなるでしょうから」

そういって一瞬、グングニルに視線が向く、クククご執心だな

「しかし肉体や魔法は、問題があります」

「続けて?」

「失伝魔法は神せっ……!!……魔法の方は私でも取得に長い年月をかけました、すぐに扱えるものではありません。」

「肉体の方は?」

「それは、私の力が足りるかわからないのです。」

「どういうこと?」

「英霊と化した貴方の魂は強過ぎる、魂の結晶化が私一人では成り立たない。」

「そう…でも」

それぐらい出来なければ、神に挑むなど不可能

「でも、それぐらいの小事、グングニルがあればできる…違う?」

「……」

逃がしはしない、ここが正念場だからな



「…矛盾していませんか?」

「何が?」

「貴女はグングニルがあれば可能だと仰った、」

「そうね」

「ならば貴女に術式を施す時、私の手元にグングニルが存在している、という事に他ならない。」

「グングニルが手中にあれば律儀に契約を執行する必要はない。と言う意味?」

「そうなりますね。」

この野郎、よくもまあズケズケと、

「結晶化してしまえば手も足も出せませんから」

「……」

折込済みだよ、レザード。良い様にレールの上を歩いてくれる

「私は言ったはずよ」

これに食いついて来なければまた別の手を考える必要があるが、こっちの可能性はかなり高いと踏んでいる
ここまで帰らずに話を聞いていたのだからほぼ間違いない。

「これはオマケだと…私にとってあなたに対する本来の報酬は情報、コレではないわよね?
それにね?これは元々、貴方に贈る予定の物だったの」

「…どう言う事です?」

「それも情報よ、続きは…解りますね?」

「続きは術を施してから…ですか」

「ええ、それまでコレ、お貸ししますよ」

「…少しコレを使いこなす時間を下さい、いきなり本番では貴女も不安でしょう?」

その間に解析するって寸法ね、抜け目ないお人だ…

「いいですよ、一時間でいいですね?」

「…っちょっと待って下さい、幾らなんでも短すぎる」

「そんな事はないですよ、今必要なのは魂の結晶化術式のみ、それを貴方一人で可能か試すだけなのですから
失伝魔法は私が肉体を得てからでも問題ないですよね?」

いや、どちらかと言うとそちらの方が俺にとっては都合がいい、成功すれば神の肉体、しかも“特別性”のだからな

「それに、貴方なら一度試せばグングニルを十分に使いこなすと信じていますよ」

「それも又、貴女の情報ですか」

「ええ、質疑応答は終わってからにしましょう」

「仕方ありませんね、私にはメリットしかないようですから」

「交渉成立ね」













とまあ、何とかなったワケだ

「知らない天井だ」

今度こそはシチュ通り、ベッド上で天井を見上げている

やっぱりテンプレは大事だな

目覚めた時すでに自身の体にはシーツを纏っており、今は部屋の備え付けの姿鏡で自分の体を確認する所だ、
見た目が化け物のようになっていてはレザードを脅迫してでもやり直しを要求しなくては…

と思っていたが、

そんな事は杞憂に終わった。

そこにいる、鏡に映る少女は輝く銀の髪にあどけない顔をしていても
しっかりとした意志を感じさせる透き通るような瞳。
背丈はジェラードと違いはないのか?目線にはほとんど変化がない
レナスをそのまま小さくした、ロr…ちびレナスがそこにいた。

確認は済んだ、今の所、体が痛むなどの不具合は生じていない。

「さて、さっそくレザードに会いに行きますか。」

「その必要はないですよ」

「あれ?いたの?」

「当たり前です、そんな事より私は忙しいと言ったはずですが?手短に情報を、」

「あーはいはい、仕事増やしてすいませんね、それ…少しくらいは解析したんでしょ?」

レザードの手には既にグングニルが握られている。
この人がこんな研究し甲斐がありそうな物を放って置くなんてできないだろう、
今も研究したくて心中でそわそわしているのではないだろうか、表にはまったく出さないが…

「ええ、貴女がルーン文字を知っているとは思いませんでした」

「失礼な奴」

実際俺は知らなかったのだが、失伝魔法を使う者として最高級品のブツな事は間違いないのだろう、
故にこの世界で今、最も所持するに適した存在はレザードをおいて他にはいない。

まあ元々の持ち主も生き返っているが

一度死んでレナスに生き返らしてもらった者とそうでない者、選ぶなら後者だ。

「ククク、よく言われます。」

なんか楽しそうだな、まあ求めるモノに近づけて嬉しいのだろう。それとも昔の級友に同じような事でも言われたのを思い出したか?

「ルーンを知っているとはいえ失伝魔法は習得にかなりの月日が必要です、どうなさる御積りですか?」

「気にしないで、しばらく滞在するわ。」

「…はぁ?何度も貴女の相手をしている暇はありませんよ?」

「それは通らないわ、貴方はまだ仕事を終えていない、一つもね。」

「……話が噛み合いませんね、それでは質問の答えになっていませんよ?」

「でも、この体が完璧だって事は貴方でもわからないじゃない?
 何か問題があって一々体を治しに此処に来られても困るでしょう?
 だから、この体に確り馴染んだのか、何も欠点がないのか、暫らく様子を見る必要があるわ、
 術後経過ってやつよ、その間にめぼしい失伝魔法を教えてもらう、ほら何も問題ない。」

「ク、クハハ!貴女がそれを言いますか!?この短時間で成功したのは私だったからですよ?」

「そうね、でも契約内容に添って、合意の上それは履行された、ならば最後まで責任を持つべきじゃないかしら。」

「……つまり失伝魔法を教えつつ、体に不具合がないとわかれば貴女は情報をこちら側に渡す」

「そう、そしてその間の代価としてグングニルをこちらは貸し与えた」

「ふう、それで何の失伝魔法をお教えすればいいのですか?」

理解が早くて助かるよ

「別にたいした事ではないの、貴方が良く使う移送方陣がまず一つ
それと原子変換配列の方法やそれに関する宝珠、上級配列変換の宝珠もね」

「それくらいでいいのですか?」

「ええ、他は役に立つか調べてから教えてもらうわ。」

それくらい扱いのレベルか…

少々無理を言ったつもりだったがこの程度造作もない、か…ならば

「…後、賢者の石に複製の魔術とかないの?それさえあれば賢者の石を複製してレプリカを私が貰えば大幅に時間を減らせるわ」

「…そうですね、流石に私も賢者の石全てを網羅しているとは言えませんから、そんな魔法があるかもしれません。」

「調べなかったの?」

「一つあれば十分なものを二つ造りはしないでしょう?」

「なるほどね、」

…意外だスペアとかの考えはないのかこの男、複製については当てはありそうだな、

「それで、今までの話で結局、私の滞在許可は頂けた事になるのかしら?」

「ええ、構いません私も新しいモルモッ…実験だ…協力者が増えて頼もしいですよ」

コイツ絶対わざとだな……口に出す分タチは悪いが俺も人の事は言えない。

「それならさっさと始めましょう」

「その前に、服でも着て下さい、その姿でうろつかれては困ります。」

「あら、用意してくれていたの?感謝するわ。」

「まったく、貴女には驚かされました。今まで謀っていたのですか?」

「さあ?どうかしら」

なんとか目処は立ったが、まだまだ疑り深いこの男の事だ、安心はできないな。














あとがき

今回の獲得チート
失伝魔法の師匠?
ハーフエルフの体

これが今作品においておそらく一番のご都合主義です

レザードはホムンクルスの研究を行っていましたが、化け物みたいな男がしゃべっている
所しか覚えていません、そのため、レナス用に作られた体に他の魂が合致するものなのか
そこに悩みました

しかし、俺ことオリ主が憑依して魂が少し変質したこと

レザードがグングニルを活用するに足る力を保持し、その力を少しでも発揮したこと

そして、レザードのロリに対する執念が…うわなにをするやめろやめt






[22577] プロローグ№7
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/21 18:41
プロローグ№7


あれから色々あった、

まず始めたのがルーン文字の完全習得、始めた頃はコレが一番厄介なのでは?
と馬鹿な考えをした事もあったが、思い返せばこれが一番楽な作業だった。

次に複製魔術の模索、結果から語ると賢者の石の膨大な知識の中にそれはあった。

流石、レザードをもってして“百億ページある辞書”と言わしめるだけはある、

事実、検索だけで半年以上を費やし、そこから習得開始と挫折を味わいやる気をなくす。

更に習得から賢者の石の複製を開始、ここからが地獄だった、

なにせ自称百億ページだ、複製にかかる時間も計り知れない。

故に、複製の内容を百万分の一の、一万ページに減少し、レプリカの名に恥じない性能となった、
これらの作業はレザードに手伝ってもらった…もらったのだが、
この辞書を一から完成までもっていったレザードはまさしく天才なのだろう、
その証拠に、レザードより長く複製魔術に携わっていたはずの自分より作業ペースが速いのは屈辱的だった。

この天才の働きも有り、時間も大幅に短縮できた、それでも全工程終えるまで約三年ほどの月日が経ったが、

しかしこれでも早い方だ、何せとあるアーティファクトを使って、これだけの年月が掛かっている。

本来なら四年半掛かる計算だからな。

一万ページの内容は、初歩失伝魔法に少しの高難度の失伝魔法だ、

そこには魂の結晶化やホムンクルスの製造法や修復法も書かれている。

万が一に損傷があった時の保険であり、神の器…エルフの代替になる物も書き記されている。


その三年の間に少しずつ小出しに、粗方の情報はレザードに教えた、原作知識の殆どと、中には続編のシルメリアの情報も…
しかしセラフィックゲートの存在は教えていない、存在するかわからないし、なんかカオスになりそうだし。

そしてその月日の間に体の方にも変化が現れた。

悪い意味でなく、不具合があったとかではない、この期間、ただ闇雲に賢者の石の複製をしていただけではなく、
他の失伝魔法の習得やレザード子飼いの不死者どもと模擬戦?と言う名の修行をしていたのだ。

魔法は勿論の事、折角ハーフエルフの体になったので近接戦闘も訓練した。

最初レザードに「魔法使いが近接戦闘とか自殺行為乙」といった感じで冷たい目をされたが、
めげずにがんばって何とかレナスモドキのような剣は振れるようになった。

話がそれたが、概ね支障がない程度には戦力を保持し、自衛や殲滅などは問題ないぐらいだ。

これから前衛として働いてもらうドラゴンウォーリアには負けないのは当たり前で、
例え困難な状況だとしても緊急回避等はできるようになったし、保険もある。

死ぬような目にあう事はもうないだろう。

複製を得てからは話は早い、まずレザードの塔にある武器、防具、アイテムなどを複製する。
それを原子変換配列で変化させ必要な物を用意していく、
複製には魔力と複雑な術式と対価を使用するが、手元に原物がなければ複製はできないので無限の剣○!とかはできない。

するつもりもないし、

そんな暇があれば大呪文でも唱えた方が早い。

あとバレないように完璧に隠蔽の失伝魔法を覚えてからカミール村にも寄ったし、

ブラムス城にも見学に行った、敵に遭遇するのは面倒なので、

ちょうど良くレザード塔にタイマーリングがあり、借りてった。

ブラムス本人に会うつもりなど更々ない、宝だけ奪ってきてやった。


これにて全ての準備は整い、

今はレザードの部屋に向かっている。

本当の目的を叶える為に…

ま、そんな硬くなる必要はなくケジメみたいなもんだ。

「…此処まで、長かったな」

もう精神も俺ではなく私になってきている、

女性の体で三年以上も生活すれば慣れが生じるからな、

女性というより女の子だが、

元男の俺としては目指す所はカッコイイ女性ってか?

…まずは背丈がいるか。

あれこれ考え事している内に部屋の前に着いた、

すうー…はぁ。

「緊張か、久しぶりだな。」

…さて行くとしましょうか、躊躇しても始まらないのでさっさとノックする。










「何か御用ですか?」

「ええ、そろそろ出て行こうかと思ってね。」

「ふむ、急ですが確かに貴女に教える物はもうないでしょう。」

「そうね、貴方には世話になったわ。」

「まったくです、何回殺してやろうかと考えたか。」

「あはは、ご愁傷様。」

「笑い事ではありませんよ。」

「まあいいじゃない、貴方は高みに手が届く所まで来ている。」

「確かに貴女の情報と四宝の賜物なのは認めますが私の計画には大幅に遅れが出ています。」

「でも成功率は格段に上がった、そうでしょう?」

「……」

「そういうことよ、遅れに関しては諦めなさい。」

「まったく貴女には良いように使われました。」

「…満更じゃないくせに、」ボソ

「何か言いましたか?」

「いえ?お気になさらず、」

「それでこれからは何処に行こうというのです?」

「少なくとも此処じゃないどこか。」

「そんな事百も承知ですが、貴女のその言い回しだと何か意味があるのでしょう?」

「流石、わかっていらっしゃる。」

「同じ轍は踏まないものでして。」

「…そう、この世界じゃない違う世界に行こうと思うの!」

「そうですか。」

「あれ?驚かないの?」

「貴女が異界について調べていたのを知っていましたから、予想はついていました。」

「そ、そうなんだ、最後に驚かそうと思っていたのだけれど。」

レナスに首っ丈だからこの世界から出る事など考えた事もないと思っていたし、
異界について興味なんてないと高を括っていたからな、気づいていたとは逆にこっちが驚かされた。

「何度も貴女の思い通りにはさせませんよ。」

「じゃあ最後にいい情報教えてあげる、」

やられっぱなしは性に合わないのでね、少し揶揄するとしよう。

「…聞きましょう。」

「グングニルに付加された魔術的要素、」

「必中と“転送”ですか?」

「違うわ、必中と“回帰”よ」

「回帰?」

「そう、必ず主人の手に帰ってくる、ね。」

「…詳しくお願いします」

「簡単に言うと貴方のそれはまだ完璧に貴方の物じゃないということ、」

「……」

「論より証拠、試しにどこでもいいから投げてみて。」

無言のままあさっての方向に投げる、レザードの部屋の壁にビィィーンと音をたてて突き刺さるグングニル

程なくするとそれは“私”の手に戻り、私にとっては予想通りの結果が部屋を沈黙で満たす。






「…騙していたのですか?」






底冷えするような声でこちらに話かけるレザード、そんなに予想外だったのか?

「違うわ、これは最後の契約。」

「契約にそんな内容はなかった覚えがありますが?」

「そうね、でも私はコレを“貸す”といったはずよ?」

「貸していたものを返せとでも?」

まだイライラしてるな、モチツケ。

「だ、か、ら、今この瞬間をもって正しく貴方に譲渡するの、でもちょっと条件がある。」

「…それが、」

「そう私を異界に飛ばすのを手伝う事、これを手にしたとき、持ち主であるオーディンは死んでいた、
だから次のグングニルの主、新たにこれを手に入れた私が、今のグングニルの主として回帰の“仮”登録先となった。
それを変える為の条件を私は知らない、だから私がこの世界からいなくなれば、」

「また主の失った四宝、グングニルは真に私の物となる、ですか、」

本来の主と成り得る資格を持っていたのは…

恐らく、失伝魔法を会得しており、ラグナロクを回避する可能性のあった人物

レザードヴァレスだけだったのだろう

あの時、ロキによるラグナロクが起きた瞬間、

この槍は俺の魔力を代用して資格ある者の下に転移したのだ

それが俺が助かった理由であり、九死に一生を得た真相だと思われる

槍が消滅を回避する為に周囲の環境を利用する…

槍自身の意思があるような気がしてならない、そうなると最早呪いの類だが




「……それが、それが終われば」

「ええ」






「「本当に欲しいモノに手が届く」」






貴方はレナス

貴女は新天地

契約の名の下に強請した、共生という間柄では綺麗過ぎる関係。

…互いに腹の探り合い、決して相手に隙を見せぬように生き、次第に棲み分けに丁度いい距離感を覚え、

その果てに表面上は落ち着いた雌雄のケモノ。

水面下では各々の欲望の為に動く雌雄のケダモノ。



――ついに、

――やっと、


この異質な同居生活に、終止符が打たれる。











あとがき

レザードがグングニル投げたら世界を超えて戻ってくるんじゃね?

とか

なんでだよ!もっていけよ!

とか考えたあなた!

作者はそれはできないと思います

四宝とはそれぞれがVP世界のバランスを保っています

その中の一つがVP世界からなくなるような事がないというのが理由です

世界に縛られているというイメージですかね、

ええ独自設定です、ホントにすいません。

またまた漫画版の話ですが

上記の理由を考えていた作者は

ロキによってグングニルが叩き折られる描写には、

作者が間違っているのか?と悩んだものです。



[22577] プロローグラスト
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/22 17:36
プロローグラスト

「助かるわ。」

今、眼前には漆黒の空間、ワームホールが形成され、それを維持する為の結界術式が到る所に張り巡らされており、

そしてその維持する為の魔力放出をレザードが行い、その手にはグングニルが握られている。

「早々に立ち去ってください、別れ話に華を咲かしていては私の方が先に今生の別れになりそうですから。」

「あらあら、つれないのね、少しくらいお話してもいいじゃない。」ニヤニヤ

「貴女という人は…今に始まった事ではありませんがヴァルキュリアと同じ顔でなければ縊り殺していたでしょうね。」

「あらやさしいのね、全く赤の他人だと一番知っているのは貴方でしょうに。」

「それでも、ですよ。」

「ふふ、成就するといいわね、ここまでして駄目でした。じゃあ格好がつかないわ。」

「大きなお世話です。」

「素直じゃないんだから。」

レザードをからかうのも最後だと思うと少々物思いに耽ってしまいそうだ。 ニヤリ

それでは少し、少しだけ可愛そうなのでさっさと消えてあげよう、

それじゃあね、レザード。

「ありがとう。」

一応、気に食わない奴だったがお礼は大事だし、言わないとこちらが気持ち悪いので、

皮肉をこめて、惚れ惚れするような満面の笑みで笑って、行った。

迷いなく一歩。漆黒に身を投じ、この世界から旅立った。

ふふ、レザードの最後の顔、死ぬつもりは一切ないが、走馬灯で再び鮮明に思い出した際にはそのまま笑い死にしそうだよ。







――世界を超える







複雑怪奇な術式を幾重にも張り、多大な魔力を一秒毎に減らすにも関らず。

終わるのは一瞬だ、

映画やテレビの映像がパッと変わる、それぐらいの感覚。

瞬きすればそこは別世界。

陰鬱な空気の、どんよりした重苦しい空間だったレザードの居住区ではなく、

清々しいまでの蒼き森、流石にアスガルド程ではないが生命力に満ち溢れている。

成功か…魔力探知にも、慣れ親しんだあの変態の禍々しい魔力は感じない。

慣れた自分に悪寒が走るな…。

それにしても、

その他の魔力をそこ彼処から感じるのは、何か因縁めいた物でもあるのか?

無視してもいいが、魔力反応があるなら先ほどの異界転送も感づかれた可能性が高いな…

やれやれ、いきなり骨が折れそうだ。

まずは翻訳魔法を自身に掛ける、これでどんな言葉でも通じるはず。

次に、介入するなり行動に移す前に、まず装備に変化はないかを確認。

腰に挿した剣や杖は問題ない、私の武器は前世界では反則の二刀流だ

防具にはミスリルプレート、賢者の石にミスリルの生成法が書かれていたので作るのには困らなかった。

本物と同じ性能かは最早確かめる術はない。

装飾品は今は二つだが、後でこの世界で付けれる限度数を調べれなければな、これは試せばわかる事だ。

そしていきなり知らない世界で不特定多数に顔を覚えられると後々困るだろう、

ただでさえ目立つ銀髪や、端整な顔立ちなのだ、隠しておいて損はないだろう。

という理由で、ドラグーンフェイス装着! 

これはバドラックから頂戴した宝具の中、唯一の防具だ、
大方、他の装飾品と紛れたか、間違えたのだろう。

んで自分の顔がちゃんと隠れているか、確認は必要だよな…、

鏡といえば…さっきバドラックからもらった袋の中で見たような…、

先ほど開けた袋をもう一度開ける、中に確か……あった。

顔は……おでこから鼻まで隠れるマスク型なので普通に誰かなんて判断できない、

少しこれ自体の魔力が強すぎるかな?

ま、失伝魔法で隠蔽すればいい事だしこのままでも―「闇の吹雪!」パシーン

 !! 危ないな!一体誰だ!

無防備の所に魔法?なんて、昂魔の鏡じゃなかったら痛い目にあう所だったじゃないか!

“昂魔の鏡”は確率50%で敵の魔法を跳ね返す、大魔法は不可、の宝具なので、
聞いたことない呪文だが先ほどの術は魔法で間違いないらしい、

今回は少し運がよかったようだ。

でだ、

此方に魔法を放ったお馬鹿さんは何処のどいつだ?

振り返るとそこには、

見目麗しい金髪の美女、黒のドレスを着飾り、陶磁器のように白く細く出るとこでてる美しい身体
その姿は美の化身に相応しく、その手には自身の身の丈以上のナイフを持った人形が糸に吊るされている。
何かに心底驚いているのか?硬直している、なぜそんなに驚いているのかは謎だが。


…しかしなあ


金髪は嫌いじゃないが、良い事があった試しがないな。

そしてこの魔力反応…コイツ、不死者であり、しかもかなり高位の存在だろう。

いきなり厄介ごとか、はあ着いて早々ツイてないな。

他の魔力反応はどんどん遠ざかるし、私だけ逃げ遅れたんだね、わかります。

…勘弁してくれ。








あとがき

ええと、やっとネギま!にいけましたね、長かったですがこれからも皆さんを飽きさせない様がんばりますので
応援等よろしくお願いします




[22577] №1「不死者の女王」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 17:58
№1「不死者の女王」

「何者だ貴様!何をしに私の前に来た!」

捲くし立てる美女、殺気を滾らせ、こちらを敵視している。

「いきなり警告もなしに攻撃してきたのはそちらでしょう、それなのに貴女の質問に答えるとでも?」

不死者の気配は嫌いだ、空気が悪くなる、

そうそうに立ち去るか、消えて頂こう。

「御託はいいの、選べ、不死者よ、

このまま此処から消えるか、それとも消されるか」

好きな方を選ばせてあげる。」

さあ、どう出る?

「クッ…ククク」

?? 俯いてプルプル震えているぞ、大丈夫か?

「アッーハハハハハハハハ!!」

「この私を知らんのか!?「闇の福音」、「人形使い」、「不死の魔法使い」、「悪しき音信」、「禍音の使徒」
様々な異名を持ち恐れられている、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの名を!」

「エヴァンジェリン…」

…知ってる、知っていますとも!
生前読んでいた週刊誌に連載していて「魔法先生ネギま!」に出てくる齢10才にして真祖の吸血鬼され
原作開始時には約600歳のロリババア。

やべ、また変な世界に来ちまったよ…

しかも来て早々原作キャラに喧嘩売るってどうなの、

最悪顔を見られていないから何とかなるかも…なってくださいお願いします。

「どうした?私の名を聞いて今更恐れをなしたか?」

「……」

「もう遅いわ!愚か者め!この私に啖呵を切った事、後悔するがいい!」

「…ええ非常に後悔しているわ、現在進行形でね」

……まあちょっとだけ相手して、そのうち有耶無耶にして逃げよう!
少しの魔法程度では死にはしないだろう、不老不死だし。

「出なさい、」

左手持ちの杖、ユニコーンの角より錬成し高位の魔力を有する杖、“聖杖ユニコーンズ・ホーン”

何時の間にとか、どこで手に入れたと聞かれたら、ブラムス城で、としか言えないが、

杖を翳すと、私の足元から魔方陣が放射状に広がる、大呪文ほどの規模ではないが、かなりの大きさの召喚魔方陣を発動、

その中から、瘴気を纏とう一体の不死者を召喚する。

「ドラゴンウォーリア。」

「グルル…グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」

絶え間ない咆哮は相手を威圧する為のものか、戦いに参列することの、抑えきれない高揚感を表現しているのか、正直どうでもいい。

「任せたわ。」

前衛として要求しておいてなんだが、共闘は無理だ、臭いがキツイ。

もう本当に、生理的に、無理。

なので戦闘はコイツ一体に任せる事にした。

所謂消耗品、限界まで使ったあとでキレイに浄化してやるよ、憑依でもされると私が嫌だからな。

「なっ!?ドラゴンの戦士だと?なんだそれは!」

「答えないと言ったはずよね?」

「…ならば、その口、引き裂いてでも吐いてもらう!」

「それってしゃべれるの?」

「…行くぞ、チャチャゼロ!」

「オウヨ、ヒサビサニ キリゴタエノアルテキダナ。」

…スルーしやがった。

「行って。」

「グウォオオオオオオオオオ!」

チャチャゼロとドラゴンウォーリアが切り結ぶ、
力ではドラゴンウォーリアが押しているが、
空を舞い、力任せの剣戟を巧みに受け流す技術は長い年月の上に培われた匠の技巧か…
まともに当たる気がしないな。



これは互角なのか?それじゃあ私が動かないといけないな…



「余所見とは随分余裕じゃないか!」

「むっ、」

「魔法の射手、氷の999矢!!」

「ほいっとな、」

空を飛び、矢をかわそうとするが、縦横無尽に次から次へと殺到して来てきりがない。

「…バーンストーム。」

暫く避け続け、隙を見て大きく後退、迫り来る氷の矢を火で打ち消す、但し単なる火というレベルの火力ではないが、

この魔法は火を収縮させ一気に爆発させる。

言うが易いが極限まで凝縮された炎は周囲の酸素を貪り喰い、辺り一帯を火の海に変えるほどの威力だ。

「まだやるのかしら?」

「……中々やるじゃないか、無詠唱でこの威力…恐れ入ったよ。」

「そうかしら。」

比較対象があの天才だけだったので、事ある毎に罵られた物だ、
やれ術の構成が甘いだの、魔力が多すぎるだの、貴女は無駄ばかりですねフッとか鼻で笑われたり!

ここぞとばかりに攻め立てて、仕舞いにはよくがんばりましたねとか褒めながら、
カスが凡人レベルにはなりましたよ。とか、

古人は褒めて、二度殺すってやつを自分自身が味わうとは思わなかったよ…

まあそんな事はどうでもいい。今は、

「それで、まだやる?」

「当たり前だ、ここまで虚仮にされて引き下がると思うなよ?」

「そう、」

チラッと従者同士の対決を把握する

互いに致命傷は避けているようだが耐久力が違う、少しずつチャチャゼロが押されている。
…押されているのだが、すんごい楽しそうだ、笑いながら刃を振るう人形はホラーを越えてシュールだな、
なんかコッチも貰い笑いしてしまう。

エヴァも気になるのだろう、様子を伺っている。

この世界が何時如何なる時かはわからんが、
幻術を使って大人に化けているのだから、ナギには会っているかもしれないが、学園結界にはまだ囚われていないようだ

そうなればチャチャゼロは唯一の家族だ、壊れたら直せると言っても傷つくのは見たくないはず、身内に甘いエヴァなら尚更か、

って魔力反の―

「氷爆!!」

「おお?」

咄嗟に回避するも氷の礫が頬を掠る、
エヴァはそのまま氷の粉塵の中から、相転移魔力剣“断罪の剣”を展開し高速でこちらに接敵、
私の眼前にまで迫るがこのエヴァの魔力反応は極めて希薄、という事は幻術か…本物は…

「後ろ」

「!?…フッ!」

ガキィンと右手に持つ“魔剣グラム”と断罪の剣が接触、剣同士が激しく振動するが、そこまで。剣が壊れるなどの変化はない。

「馬鹿な!受け止めただと!?」

「……」

そりゃ天下のオリハルコン製魔剣ですからね、刃こぼれもせんよ。

これを作るのにどれだけのアイテム達がMP変換の犠牲になったか、…殆ど折れた槍だが、

たとえ何でもかんでも切り裂く相転移剣でも、耐え切るさ。

「ちいっ」

「…」

後退し警戒しているのか、ジリジリと間合いを計りながら俺の周囲を旋回する。

「来ないの?来ないならもう―」

一周ほど回り終わった後、私の発言に被せるよう、

「チャチャゼロ!戻って来い!」

「イマイイトコナンダヨ、ジャマスンナゴシュジン」

「いいから来い!」

従者を呼び戻した、仕切りなおしをする心算か?そのままドラゴンウォーリアを突っ込ませてもいいけど…

「…戻りなさい。」

「グルゥゥ」

「「……」」

さて最初と同じ配置だが、状況はこちらが有利かね、

主同士の戦いは五分、両者消耗はなし。

問題は従者達か、比べるまでもなく、ダメージはあちらの方が甚大だ、
吹き飛ばされた所為か、服はボロボロ、四肢には無残にも切り傷があちこちに附随している。

こちらの従者“も”…

「キュアプラムス」

淡い金色の燐光が我が従者を包む、使い捨てのつもりだが、同時に粗末にするつもりもない。

そして全ての傷を癒す優しい光は収束し、完治したドラゴンウォーリアが姿を現す。

「グゥオオオオオオオオオオオ!!!」

「ジョウダンダロ?」

「まさか…完全治癒魔法だと!?」

「さてと、仏の顔も三度まで…もう一度聞くわね?」

「まだやる?」

こちらは余裕だ、と言う意味も込めて笑顔を作る。

失礼、こちら“は”消耗無しだ。





あとがき


折れた槍複製×17!

上級配列変換!折れた槍は閃槍クリムゾン・エッジに!!

閃槍クリムゾン・エッジのMP変換は6050!

6050×17=102850!!

MP100000使ってオリハルコンを生成

さらに上級配列変換!!魔剣グラム完成!!



そしてエヴァですが約100年前にも来日し、体術を修得したとの本人談あり。

とありますので、エヴァは度々、旅をしていた。と判断しての遭遇ですが、

これもオリジナル設定です。










[22577] №2「広範囲凍結殲滅呪文」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 19:33
№2「広範囲凍結殲滅呪文」

「私も鬼じゃないのよ?

幸い此方に被害がでた訳じゃないから、

貴女の数々の無礼も許してあげる、だからもう終わりにしましょうって話。」ニコ

喧嘩買っておいて言う台詞じゃないが、これ以上はお互い“本気”になってしまう。

「ね?」

顔を隠している為効果は半減以下だが、敵意のない笑顔を向ける。

「……」

…なんで黙るんだよ!即決だろ普通!見逃してやるって言ってるのに、プライドか?
真祖の吸血鬼たるプライドが二の足を踏ませているのか?

「…何度も言わすなよ?小娘が、

悪の魔法使いとして頂点に君臨してきた私に、舐めた口聞きおって…

このままただで帰れると思うな!!」

黒目と白目が反転している、どうやら本気にさせてしまったらしい。

なぜだ

「…それに言っただろう?後悔させてやるとな!」

そう言って素早く両手を振り上げ、有らん限りの力で引っ張る、何を引っ張っているって?
…この目で見るまで忘れていたが、エヴァの保有技能の一つ、人形使いのスキルとして対人戦闘に使えるまで昇華した業、…糸だ

周囲に張り巡らされた糸が私とドラゴンウォーリアの体の自由を奪っている。
どういう原理かは知らないが、私やあのドラゴンウォーリアが身動きできなくなるほどのスキル、

伊達に何百歳も生きてない、か。

「リク・ラク ラ・ラック ライラック!
 契約に従い我に従え 氷の女王! 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!

ククククッ、私を消すだと?よくほざいたものだな小娘…ほぼ絶対零度、広範囲完全凍結殲滅呪文だ。」

空に浮かぶエヴァ、呪文を詠唱する毎に周囲の気温が急激に低下し、一気に氷点下を下回り、一瞬にして辺りが凍り付く。
広大な範囲が氷で埋め尽くされ、見える範囲内は全て白氷の地獄、宛ら北極の世界にでも足を踏み入れたみたいだ。

「もう逃げられんぞ?

全ての命ある者に等しき死を 其は安らき也!

 『おわるせかい』!!」

詠唱が完成すると、魔法でできた全ての氷は砕け散る。
氷粒が光を反射する。乱反射された光はさらに氷に反射され、光の幻想的な空間を作る。
ああこんな光景見たことない。超綺麗ですエヴァさん。

「…は?」

空から降り、こちらの様子を確認しに来たエヴァ達が空から降りてくる。

「すごい綺麗だったわ、いいモノ見させてもらったわね。」

「な、なんで無事なんだ!あれを食らってその程度なはずがあるか!」

「そう言われましても…」

実際、ダメージは入っているし、ドラゴンウォーリアの方は瀕死の重体、
プラス凍結のままというオマケ付きだ。

寧ろ痛いってレベルじゃない損害を叩き出した。

代わりに拘束していた糸も凍り、砕け、動けるようになったが…

さてエヴァも気になっているが、どうして氷付けにならないで済んだかと言うと、

これ“久遠の灯火”のおかげである、これは特殊なアーティファクトで、所持しているだけで凍結を防ぐ優れもの。
そして凍結さえしなければ“えいえんのひょうが”で凍りもしないし“おわるせかい”で粉砕されてもいないので魔法効果は期待できない。

これのお蔭でエヴァの魔法は本来の威力を発揮されなかったという事だ。

でも本当にバドラックのおっさんから感謝という名の強奪をしたアーティファクト達には大層世話になってる。
本当に感謝。私は無駄に傷つかないで済んだ。



…でもな、



「あのね、私も…被害がでて黙っていられる程、優しくないのよ?

だからね?対価は支払ってもらうわ…」

無論、

「貴女の身をもってね。」

自分で言っておいてなんだが、対価と言うのなら同じモノをプレゼントしようじゃないか。

死ぬなよ?

大魔方陣を展開、立ち昇る魔力流、濃密な魔力が場を満たす。先ほどの召喚魔方陣とは比較にならない魔力と規模、


「いくよ?  

汝、美の祝福賜らば、

「!!くっ止めさせろチャチャゼロ!」

我、その至宝、紫苑の鎖に繋ぎ止めん

「ナッ、カタマッテウゴケネエ!」

「!!発動している!?詠唱途中では…!?ちいっ転移を!」

アブソリュート…ゼロ。」

エヴァと同じく広範囲凍結殲滅呪文、アブソリュートゼロを発動、
エヴァの魔法と違う所は、氷の群を上空に停滞、そこから巨大な雹が対象を襲う、人など一粒でも当たれば一溜まりもない。
さらに地面から徐々に雹を積立て、次第に氷の塔を建築する雹は全ての敵を包み込み、最後に魔力粉砕するという流れだ。

回避は不可能だろう、誰も雨を避けきれないのと同義だ。

と思ったのだけれど、

転移魔法…お家に逃げ帰ったか…

「ヤリ逃げとは頂けないわ。」

この対価いつか払ってもらうよ?

真祖の吸血鬼さん?

貴女との付き合い、この先長いようだしね。











あとがき

今回普通に大魔法が発動していますが、本来ゲームでは味方全体で共有されている緑色のゲージ、(タクティカルアーツ・エナジー)
をコンボで100にまで貯めない限り、大魔法は使えません。

ですので、イメージとしては敵魔法使いを思いだして頂けるとわかりやすいでしょうか。

そしてエヴァは女子供を殺さないと言いますし、実際にそうなのでしょうが
今回はちょっと事情が違います、初手攻撃の意味含め、この話は次の番外編にて!











[22577] 番外 エヴァ
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/25 19:35
番外 エヴァ

それは度重なる襲撃に嫌気がさし、そろそろ本格的に追い払おうかと考えていた時だった。

強大な魔力反応、次元さえ歪むのではと錯覚させる程の膨大な魔力、

それが私のすぐ近くから発せられ、私の周囲の監視についていた魔法使いどもは我先に逃げ出した。

大方、私が広域殲滅魔法でも発動させたと勘違いしたのだろう、後方の様子を見ながら後退していく。

命が惜しいならば正義感で私を狙うなど、しなければ良い物を…、

つくづく愚か者の集まりだな、正義の魔法使いという者達は。

ん?あそこに一人とり残された小娘がいる、

逃げ遅れたのか、まあいい、ちょっと脅かして見せしめとしようか。

少し撫でてやれば恐れ戦き、逃げた先の部隊で私の恐ろしさを十二分に吹聴してくれるだろう。

「闇の吹雪!」

極力死なない程度の魔力、不意打ちならこれで十分、

だが訪れた結果は、予想外の更に斜め上を行くものだった。

突如、光の膜が小娘の周囲を包んだかと思えば、私の放った魔法が弾かれ、こちらに跳ね返ってくるではないか!

魔法反射!?こんな魔法障壁も張っていない小娘が?

古今東西、数多の魔法を習得し、新たな魔法技法を編み出した私でさえ成し得なかった“反射”

それをこんなに簡単に、しかもこんな小娘が? …自分でも知らずと手に力が入る。

その銀髪の小娘が振り向く、その姿に又、驚かされる。

顔には龍を模した仮面で素顔を隠し、しかもただ隠す為だけのものでなく、かなりの魔力を感じる。

そして、右と左の両腰に差す剣と杖、

他の魔法使い共とは比べ物にならない、神々しいまでの魔力の奔流は正しく神が持つに相応しい武具といって過言はない。

防具も又、輝く銀の髪と同じ銀色のプレートメイルに身を包んでいる。

そこにいる存在はまさしく……

認めたくない、認めたら現実の物となりそうで、願わくば目の前の存在が夢であれば、と。

…ついに私の所に来たのか?長きに渡る偽りの生に、終わりを齎す者が。

「何者だ貴様!何をしに私の前に来た!」

気がついたら叫んでいた、自身の身勝手さも忘れ、ただ否定して欲しくて、

「いきなり警告もなしに攻撃してきたのはそちらでしょう、それなのに貴女の質問に答えるとでも?」

凛とした声、圧倒的存在感、僅かに漏れる澄みきった魔力と気

「御託はいいの、選べ、不死者よ

 このまま此処から消えるか、それとも消されるか。

 好きな方を選ばせてあげる。」

こいつが一体何者なのか?そんな事はわからない、わかりたくもない。




だがこいつは私の、私達の敵だ!




「クッ…ククク」

「アッーハハハハハハハハ!!」

「この私を知らんのか!?「闇の福音」、「人形使い」、「不死の魔法使い」、「悪しき音信」、「禍音の使徒」
様々な異名を持ち恐れられている、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの名を!」

ならば此処で退くわけにはいかない、私は誇り高い悪の魔法使いなのだから

弱みは見せない、相手が誰であろうと、誇りある悪が早々に背を向けるなど在ってはならん!

「エヴァンジェリン…」

私の名前に聞き覚えでもあるのだろう、困惑しているのか?仮面の所為で表情が読めんな。

「どうした?私の名を聞いて今更恐れをなしたか?」

「……」

「もう遅いわ!愚か者め、この私に啖呵を切った事、後悔するがいい!」

「…ええ……いるわ、…進行形でね」

戦闘体勢に入った私は小娘の小さく呟いた声をしっかり聞き取る事はしなかった。

そして今にも戦闘が始まろうとしていた時、

「出なさい、ドラゴンウォーリア。」

「グルル…グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「任せたわ。」

「なっ!?ドラゴンの戦士だと?なんだそれは!」

こんな存在、魔法世界でも聞いた事もないぞ!しかも任せるだと?小娘が…

「答えないと言ったはずよね?」

「…ならば、その口、引き裂いてでも吐いてもらうぞ!」

「それってしゃべれるの?」

…くぅぅ、人の揚げ足を取りおってぇ。益々気に入らん!

「…行くぞ、チャチャゼロ!」

「オウヨ、ヒサビサニ キリゴタエノアルテキダナ」

「…行って。」

「グウォオオオオオオオオオ!」

…そこからは到底、戦いと呼べる代物ではなかった。

従者同士の戦いではチャチャゼロは防ぐので手一杯で、一撃でもまともにくらえば、大破は免れないだろう、

無詠唱魔法の打ち合いも、互いに同じ無詠唱のはずが、簡単に打ち消され、圧倒的な力の差を見せ付けられた、

隙をついての魔法も当然のように避けられる、粉塵と幻術を利用した奇襲も回避され、断罪の剣も受け止められた。

仕舞いには龍の戦士の傷を完全に治癒してもみせた。

…悉く私の手札は潰されて行き、少しずつ心が不安に締め付けられる。

敵わない、まさかここで終わり?嫌な思いが頭を過ぎる、

しかしそれと相反するように、もういいと、これ以上生きて何になると、心が囁く。
確かに、今まではどこか心の片隅に思っていた、諦めていた、

でも、

いやだ、コイツにだけは負けたくない。

…ああそうだ、私はコイツにだけは負けたくないんだ!

(チャチャゼロ)

(ナンダゴシュジン?)

(広範囲殲滅魔法を仕掛ける。)

(…マジカヨ アイテハ、ムスメッコヒトリダゼ?)

(あいつは私達より格上だ。)

(!メズラシイジャネエカ、テキヲ ミトメルナンテヨ)

(ああ、だから本気で行く!)

下準備はできている、あいつの周りを旋回した時、糸の配置は終わっている

後は

「だからもう終わりにしましょうって話、ね?」

後は、私の事を舐めきっているこいつに

「…何度も言わすなよ?小娘が、

悪の魔法使いとして頂点に君臨してきた私に、舐めた口聞きおって…、

このままただで帰れると思うな!!」


「…それに言っただろう?後悔させてやるとな!」

地獄を見せてやるだけだ!!










「…やったか?」

無我夢中で糸で縛りつけ、広範囲完全凍結殲滅魔法を放つ、

今までこの魔法に耐え切った者は居らず、私の魔法の中でも最高位レベルの術だ

これで倒したはず…

「綺麗…」

!!な、なんで

「な、なんで無事なんだ!あれを食らってその程度なはずがあるか!」

「そう言われましても…」

ふざけるな!あの魔法を受けてこの程度だと?冗談が過ぎるぞ!!
この魔法で倒せないなら、私にはもう―

「あのね、私も…被害がでて黙っていられる程、優しくないのよ?

だからね?対価は支払ってもらうわ。

…貴女の身をもってね。」

!!なんだ、この魔力!?今までとは桁が違う!

「いくよ? 

汝、美の祝福賜らば、

「!!くっ止めさせろチャチャゼロ!」

我、その至宝、紫苑の鎖に繋ぎ止めん

「ナッ、カタマッテウゴケネエ!」

「!!発動している!?詠唱途中では…!?ちいっ転移を!」

アブソリュート…

転移!!

影を媒体とした転移、チャチャゼロを連れ転移先も決めず影に入り込み、
出てきた場所は先ほどの戦闘域から離れた、
私達の住処の一つだ。

「無事か?チャチャゼロ?」

「アア、ナントカナ」

そうは言うものの、チャチャゼロはボロボロだ、

龍の戦士との戦闘に、最後の広範囲殲滅魔法が掠ったようだ、掠っただけで右半身は氷付け…

「…ナアゴシュジン?」

「なんだ、駄人形?」

「アイツハ、イッタイナンダ?」

「…さあな」






口にしたら本当になりそうで、その一言が出てこない

認めて堪るものか“天使”の存在など。









あとがき

というわけで、初っ端からバレテーラなオリ主さん
まあ闇に生きる者達からしたら天敵ですよね?
オリ主も不死者の事は嫌いです
お互いに嫌いなので、いつかエヴァさんと判り合う日はくるのでしょうか?
作者はエヴァさん好きですよ?ホントダヨ?

ついでに()←この括弧でましたよね?

これは念話での会話内容ですので。あしからず



[22577] №3「憑依」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/30 20:38
№3「憑依」

「…コレどうしよう?」

そこには、氷付けのまま固まったドラゴンウォーリアがポツンと突っ立っていた。

ピクリとも動かない、見事な氷の彫像と化している。

「凍結を治して、又回復か」

面倒なモノ残してくれたよ、吸血鬼の姫様は、コレを治すのを私に擦り付けて行きやがった。

はあ、まったく、飛んで早々散々な目に合った。

コイツを治す前に、こんな面倒事はもうたくさん、なので、

隠蔽の失伝魔法発動!これで自分の力は勿論、武器や防具も普通の一般人レベルまでの力しか感じられないはずだ。

VPで言う所の村や町に入る為に人間に変身したレナスと同じ効果かな、

だがこのままの服装では目立ってしまう、ローブでも羽織るか。

「さて治すか「来たれ雷精風の精!!雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!!雷の暴風!!!」
な?」

その時、森より急に現れた男によって、雷は煌き、氷は砕けた、それはもう立派で綺麗な最後だった。



グッバイ、ドラゴンウォーリア…、無茶しやがって…。



じゃねえよ!!!これじゃ無駄死にじゃないか!!

何してくれてんじゃこのボケ!お前が来たら蘇生もできないじゃないか!

蘇生できる事は秘中の秘、知れ渡れば私は世界中から狙われる。

「大丈夫かい!?君??」

何だコイツさっきまでの戦闘見てないのか?ガンガン魔法使っていただろう。

「ええ、まあ。」

当たり障りのない返事をし、相手の出方を見る。
無駄に口を開けばどこから矛盾が生じるかわかったものじゃない。

「よかった、まさかこんな所に女の子が迷い込んでいたなんて、気づかなくてゴメンね?」

「いえ、何もなかったようですから。」

この感じ、わかっていない…のか?

「そう?それで君に聞きたい事があるんだ。」

「なんですか、その聞きたい事って?」

「ここに居たら見ていたと思うんだけど、…金髪の女性がどこに行ったかわかるかい?」

「金髪の女性ですか?うーん……」

…なるほどな、コイツさっきまでいた魔力反応の内の一人だ。
だとすると全容はこうだ、コイツ等は真祖の吸血鬼たるエヴァを追っていた所、
エヴァが急に戦闘開始、慌てて逃げて距離を取り、戦闘が終了するまで様子見し、
ほとぼりが冷めたから戻ってきた。ついでにエヴァが先ほどまで戦闘していた、
と勘違いしたドラゴンウォーリアにトドメを刺した。

こんな感じかな?かなり穴が開いているようだが大まかな概要はこの通りだ

しかし、泣きっ面に蜂とはこの事か…

いきなりの前衛消失、こんな事ならエヴァ相手に使うんじゃなかった…

くよくよしても仕方がない。私が前衛など必要ないほどの戦力を有している事は判明したのだ。

切り替える、しかないのか。はあ…憂鬱だ。





この人との話の続きだが、ならばエヴァの事は

「気づいたら此処にいて…今、旅をしている途中の身ですから此処がどこかもよくわからないんです」

黙っておく、この世界で魔法は秘匿され、最悪記憶を消される可能性がある。

しかも、『可愛そうに怖かっただろう』とか言いながら“善意”で消しそうだ。

今この世界での私の立ち位置は普通の一般人、もしくは杖や剣に気づく者がいれば魔法関係者かな?と疑問に思う程度だろう

わざわざ隠蔽の魔術を施したのだ、厄介ごとは避けるに限る。

「だから、ここで何かあったのかも、わかりません。」

「…そうかい、失礼もう少し聞いてもいいかい?」

「はい。」

「君は魔法使いなの?」

「…はいそうです、そういう貴方も、ですか?」

っていうか確認する前に“雷の暴風”撃ってたじゃん!遅いっつうの、

ここで違うとか言っても、結局秘匿の為記憶を消されそうになるだろう、

逃げるか?それとも…

いや、もうこの姿は多数の人に見られていると考えた方がいい、賞金首にでもなったら取り返しがつかなくなる。

このまま穏便に話が進みそうなのだ、悔しいが認めるしかない。

「ああ僕もね、…でもかなり大きい戦闘があったんだけど?気づかなかった?」

まあこんな説明じゃ探りを入れに来るよな。しかしこのパターンは読めている。

「私、今さっき転移魔法符で跳んで来たばかりで、その戦闘についてもわからないです。」

「転移魔法符か、あんな高価な物を…。そうだよね確かに普通の女の子で、先の戦闘に巻き込まれたら一たまりもない。」

「でも普通じゃなければ問題ないでしょう?」

「…違いない。いやぁゴメンね、時間取らせて。でも良かったよ怪我がなくてさ。」

「えっ?心配してくれたのですか?」

「そりゃそうさ、こんな所に一人っきりの娘さん、心配するなって方が無理だね。」

「あら、お上手なのですね。」

「いやいや、本当さ。」

「…では、私はこれで、今日中に宿に泊まりたいので、」

「ええ、それでは、では、さ、さようやら?あ、あれ?ぐ、ぐぅぅ。」

何だ?壊れかけのラジオみたいな声だして、呂律が回ってないぞ?

はて?……何か嫌な予感が?



「ぐ、グォォォオオオオオオオオ!!!」



なっ!この声、もしかして“憑依”か!?

忘れてた…っていやいや!ちょっと待て!なぜそうなる!

“憑依”は単純に言えば、自分が死ぬと味方に憑依し、味方が強くなる特殊効果だったはず、

敵に憑依?……いやそもそもなんで私に憑依しない?

確かにこの人は敵じゃないが……ん?敵ではない?

もし、もし敵ではないと認識されたとしたら?

味方だと認識した…しかし憑依による暴走なんて聞いた事もない…いや

……確かネギま!には“魔力の暴走”といった類の物があったような…







はぁ…そういうカラクリね、納得はできないが…まったく、余計な手出しするからだよ?自業自得って奴さ。

…わかってるよ、それは言い換えると私にも言える事だ。

調子に乗ってしまった私にも責はある。勿論助けます。えぇ今すぐ助けますとも。

「ウォオォォォォォオォォォ!!!」

脳のリミッターでも外れたのか、こちらにものすごい速さで吶喊してきた、
本能のまま素手で襲い掛かる魔法使い、頭が上手く働いていないのか興奮状態による破壊衝動のまま
暴力を振るう、そこに先ほどまでの紳士の面影はなく、ただ欲望に身を任すのみとなった男。

速い、確かに速いが避けるのは無理じゃない。とは言え、このままじゃ持たない。

勿論相手が。

体を酷使し過ぎで、力をコントロールできず、岩や木に思いっきりぶつかっている、

これ以上は不味い、暴走による自滅など、

状況のわからない他者から見れば嬲り殺しされた死体のように見えてしまう。早めに勝負をつけよう。

呪いの類だからな、コレでいけるはず。

「オーディナリィシェイプ」

状態異常を回復させる魔法、“オーディナリィシェイプ”片手間でも足るほどの魔法だ、

「う、うぐぅぅ」

呻き声をあげ、倒れる男、うまくいったようだ、

しかし、

「すぐには目覚めないよな…」

無理に起こすのもまずいだろう、魔力の暴走による副作用などがあるかも知れない、自然に目覚めるのを待つとしますか、

しかし傷ついたままで、起きた時に不審に思われては適わない。待ってる間に治癒でも掛けてやるか、

この人が暴走の事を覚えているかも知れないが、この人は私とドラゴンウォーリアとの関連性はないと思っている。

まあ完璧に安心できる展開は、記憶がない事。それを祈るのみか。








「あ、あれ?一体何が?」

あれから一、二時間ほどして、男は目覚めた。

状況を把握していない様子、これは覚えていないかな?

「大丈夫ですか?急に倒れるなんて、」

「え?君は先ほどの方…ですよね?急に倒れるなんて…仕事のし過ぎかな?
それに、わざわざ待っていて下さったのですか?」

「はい。」

「それにこんな時間まで…すいません、君の旅の邪魔をしてしまった。」

「気になさらないで下さい、困った時はお互い様ですよ?」

「そうですか…」

そういって考え込む、何かあるのだろうか?

「ご迷惑かけましたし、良ければ僕の住んでいる所までご招待しますよ?」

……正義の魔法使いの里か、…うーんしかしなぁ…

……。

迷っていても始まらないか、欲しい情報は確かにそこにある。

「本当ですか。ありがとうございます。」

「ええ、実はその国に僕の仲間達が待機していまして。」

「そうなんですか~、実は私も今から宿に泊まれるか不安でして…」

「それはちょうどいい、ぜひご一緒しましょう!」

「はい。」

どうやらこの魔法使いの信用も得たようだな。

これで魔法使いの人里まで迷わず一直線、その国の案内人もついでにゲット、

そこから情報でもなんでも集めるとしよう、

国に行くまでの間でも話は聞ける。

少々危険だし、私の事を怪しまれるかもしれないが、転んだままで帰れるものか、…損失は回収しなければ。



あとがき

次でオリ主の名前が判明します。

村人Aもです。


そして憑依ですが、

VP世界では、味方に憑依してパワーアップするという、
どしてそうなったかわからない効果になっています。

まあジェラードに一般人が憑依したとして、
どうかなるのか?といった所ですかね。

10/30本文に少し追記と編集



[22577] №4「親馬鹿」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/10/30 20:41

№4「親馬鹿」

「本当にゴメンね?」

「いいんです、お蔭で今日の宿と道中のナイト様役までかってでて頂いたのですから。」

良くはない、良くはないが諦めも肝心。不遜な態度は出さない。失った物はもう取り戻せない。

損失は他の物で補う事しかできはしないのだから。

「そう言って貰えると有難い。」

この男の仲間がいるという国まで、杖の後ろに乗せてもらい、空を飛んで進む。

本当なら、更に強力な隠蔽を施し、自分で空を飛んで行くのだが、まあ仕方ない、まずは少しでも情報収集と参りますか。

「国の名は何と言うのですか?」

「ん?これから行く所かい?ウェールズという田舎の国で、魔法学校もある所でね、結構魔法関係者には有名だよ。」

「…そうですか、楽しみです。」

これは、まだツイてる…のか?此処に着けば時間軸など一瞬で把握できてしまう。

そう、ここから始まる、天性の才を持った魔法使いの親子が魔法を覚え、育った地、

全ての始まりの地。

イギリス、ウェールズ。

…しかし都合が良すぎる、これは因果律の力なんかじゃない、
それそのものを無視しているような…まるでこう在る事が当たり前のようだ。

…運で片付くような、そんなものではない。

はあ、面倒事は嫌いだ、やっと危険から回避されたというのに、

…考えるにはまだ早いか、無駄な先入観は己を殺す、

情報を吟味し、そこから判断する、基本だな。

…いやこれもまた凝り固まった先入観か、自重しよう。

「どうかしたの?」

「いえ、日が落ちるまでには着けるのかと思いまして。」

「ははは、大丈夫だよ、もうすぐ明かりが見えてくる」

考え事に没頭していたからか、私の様子がおかしかったようで、男が心配してきた。

「…今更なんだけど、」

「はい、なんでしょう?」

「君の名前を聞いてなかったと思ってね、良かったら教えてくれないか?」

そういえば、自己紹介は初めてだな、この体になってから、

レザードは専ら、私の事をジェラードだと思い込んでいたし、その名前で呼ばれる事など終ぞなかった。

それにしても名前か、私はもうジェラードではない、そのまま彼女の名を使うのは気がひける。

ジェラード、ジェラー、ジェラジェラ…!!いい名前を思い出した。

「アンジェラ…アンジェラ・アルトリアです。」

「アンジェラか、いい名前だね。」

アンジェラという名は、ジェラードの父をアリューゼが侮辱した事に起因する。
大衆の面前で王である父を馬鹿にした無礼者、アリューゼの事が許せず、
何とか一泡吹かそうと自ら仕事の依頼をアリューゼに頼みに来た時、
ジェラードが咄嗟に名乗った偽名だ。もちろんその後すぐにバレた訳だが。

アルトリアはジェラード王女の住んでいた国の名前、彼女に因んだ良い名だと思う。

…図らずとも、天使の名も冠しているが。

「それで、私のナイト様はなんという名前なのですか?」

「…護衛に付く騎士の名を知らないのも、おかしな話だね」

少々芝居がかった身振り手振りで自己紹介する騎士、でなく魔法使い。狭い杖の上でそんなに動くな、落ちるだろ。

「ロギ・スプリングフィールド、貴女の騎士の名です、お姫様」

「…スプリングフィールドさん?」

「ロギでいいよ」

……。

違う!そういう意味じゃない、貴方のスプリングフィールドの性に意味があるんだよ!

なんだこれ、何かのシナリオの上を歩んでいるとしか思えない……。

「…それでは、ロギさん、後少しの旅となりましたがよろしくお願いしますね。」

「御心のままに、姫様。」

もういいってそれは。







そこから姫と騎士ごっこは続き、ほどなくして明かりも見え、後少しでウェールズに着く、

この人、ロギも見た目いい年なのだから子供の一人くらい、いてもいい筈だ。

それとなく聞くか、この質問で判明する情報は多いはず。

「ロギさんはご結婚されているのですよね?」

「なんで決め付けてるのさ!…まあ結婚してるけど。」

やっと口調が戻ったな、やれやれ、この時代の男は皆、騎士に憧れるのだろうか?

そんな事より、次だ。

「息子さんか娘さんは?」

「息子が一人ね、やんちゃな子でさ、

今、魔法学校に通っているんだけど、悪戯ばかりしていつも先生に怒られていてね。

その度に魔法学校を飛び出しているよ。」

「元気なお子さんなのですね。」

「元気すぎてね、本当に困った息子さ。」

そんな言い方しても、息子の話をしている時の顔はニコニコしている。

親馬鹿、ここに極まりってね。

「息子さんのお名前、伺っても?」

「いいけどちょっと待って、もうすぐ村に着くから、後であの子を紹介するよ。」

「そうですか、わかりました。」

ここまでくれば、もう特定できたようなモンだが、顔合わせと行こうか、

なあ?“千の呪文の男”よ。






「ここが我が家です!…といっても借家なんだけどね。」

案内してもらうと約束した宿は、ロギ家。いやスプリングフィールド家。

そうだね、あの子を紹介するって言っていたよね。

お礼ができて、息子の紹介もできる。しかも私はお金が掛からない、いい宿だ。

…これからどうなることやら、神のみぞ知るってか…“ユーミルの首”練成できないかな…。

「狭い家ですがどうぞ?」

「…お邪魔しまーす。」  「おいっ!」

扉を開けようとすると、後ろから声が掛かる。

こんな時間にも外出していたようだ、

何をしていたか不明だが、悪戯だけではこうは成らない。ボロボロの状態になった赤毛の少年がそこに居た。

「親父!誰だぁソイツ、変な仮面で顔隠しやがってよ。」

「こら失礼だろ!この人はお客さんだ、旅の方でお世話になったからな、
 そのお礼に今日一泊して行くんだよ。」

「ふーんあっそ、俺はな、ナギ・スプリングフィールドってんだ、
そのうち世界最強の魔法使いになる予定だ!よろしくな!」

「…よろしくね私の名前はアンジェラ・アルトリア、よろしくね?ナギ君。」

「ナギ君、だなんて止してくれ、ナギでいいよ。」

「そう、ならナギ、よろしくね。」

「おう!よろしくなアン。」

「…アン?」

「アンジェラじゃ呼びにくいだろ、だからアンで決定だ!」

こいつ、この誰にでもすぐに打ち解ける、誰にでも心を開くこの性格が、
これから多くの仲間を作っていくのか、なるほどな、まんま主人公だよお前さん。

「なあ、アンは魔法使いなのか?」

「ええ、…!!…そうよ」

考え事している時に話かけてくるから、普通に答えてしまった…。

非常に不味い…。

これじゃあ、魔法教えてくれ!とか、

どんな魔法使えるんだ!とか、

本当に魔法使いなのか、試しに俺と戦え!とか、

流石に最後の“戦え”ってのはないか。

「…なあ、アンは旅してんだよな?
 
 これからどこに向かうんだ?」

「??…魔法世界の方に行く予定ね。」

「マジか!?ゲートを通ってか!?」

「え、ええ」

嫌な予感がビンビンします
まだこの子と戦ったほうがマシ…。そんな…ザワ…ザワ…とした悪寒。

「親父!アンの奴弱そうだし俺が守ってやるよ、

だからアンについて行くぜ!」




うん?何言ってんのこの子?私の旅について行く??

………はあぁ!?

こいつ!!私をダシに使いやがった!!





これなら一時だけでもコイツの師匠でも友達でもライバルでもした方がマシだ!

このパターン、間違いなくこれから巻き込まれる!?

……クソッ!

まさか、ここで隠蔽魔術が仇となるとは

まさか、ここまであっさりと未来が変わるとは

まさか、ここでも

「いえそんな悪い「あぁ!今度はお前がこの子の騎士になれ!」で、す。」

親馬鹿が炸裂するとはぁ!!

「騎士?なんだかワケわかんねーがわかったぜ親父!」

ぐぬぬ、わかってない…、全然わかってないぃ。

はあぁぁ……。

しかしどうやってこの状況を打破するか…。








あとがき

一言いいかな?

ロギってだれやねん

おう、作者もそう思っているよでもさ

――名前わからないんです

ナギのお父さん、ネギのお爺ちゃん、メルディアナ魔法学校長やスタンじいちゃんじゃないらしいので

暫定!命名!ロギスプリングフィールド

因みにロキとはかんけーありません名前を借りたくらいです

というわけで詳しくわかり次第、名前、性格等含めまして編集します。

そして死去している場合は、村人Aかスタンじいちゃんあたりになります。

ご了承くださ…この作者は謝ってばかりですね…

本気で本当にすいません、こんな作者ですがこれからも暖かい目で見てやってください



そして!!!

やっと名前でてきましたこの作品のオリ主ことアンジェラさん、

この作品を書く切欠となった名前です。



10/30編集



[22577] №5「昨日の終わりは何時なのか」 編集再投稿
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/01 00:32
№5「昨日の終わりは何時なのか」

『お礼に』と泊まった宿、もとい家。

助けた男…ロギスプリングフィールドの家に、
ご招待に預かり、楽しげな夕食となった。

夕食の話題はこれからの事。

ナギはこれからの旅に期待を膨らませ

ロギはそれを煽るかのように、自身の魔法世界での体験談を語る。

もうナギが私の旅について行くのは決定事項なのね、

違う、私がナギの旅について行くが正しい。

聞けば彼はもうすぐ十歳になるらしい、

ならばこれから日本に行き、まほら武道大会に出場するのだろう。

この事は決定事項。なら時間軸に支障はないはずだ、恐らく、私が来なくても彼は自分からこの国を飛び出していた。

本来そこに私が入る余地などなかったのだ、本当の事を言えば、私の事など放って出て行くのが普通。

旅の邪魔になりそうな、ひ弱な女魔法使いなど彼の旅に必要なのか?

まあ、実際は隠れ裏ボスが付いていくみたいなもんだが…。

極論で言えば、必要などない。彼は目の前に在った物を条件反射で喰いついたに過ぎない。

これが国を出る為だけのダシに使われただけなら、国を出た時点か、ゲートを潜った時点で見捨てられるはずか?

いや、これは正直試すにはお勧めしない、彼の事だ仲間意識が沸くかも知れん。

こうなると私を守ってやる発言も考えなければならない。彼は本当に私を守る心算なのか?

別に守って欲しい訳ではなく、私の立ち位置を明確にしなければ、彼のハチャメチャな行動にまったく予想が立てられない。

彼の行動原理がわからなければ、こちらも行動しにくい。彼のお姫様役なのか、古参の紅き翼のメンバーなのか。

これから彼を襲う危険が、原作通りなのかも私には判断する術はなく、故に、彼と一緒にこのまま旅をするにあたり、

ある程度成長するまで、私は彼の行動を抑制する訳にはいかない。

原作通りに進ませるならば、極力、彼の戦いに手を出さず、見守るスタンスが望ましい。

なぜなら、彼の戦闘に私が助太刀する事は、彼を弱くする事に繋がる。迫り来る敵を排除しようにもそれが彼の成長に必要なのかも知れない。

これから起こる大戦に、私の過保護により本来の実力に足らず死なせるなど、在ってはならない。

私は瀕死の重傷程度なら生き返らせる事ができても、ドラゴンウォーリアの時のように、

周囲に人が集まって来ては、それを発動するタイミングは難しい物となる。



守るが、手を出すのは最低限。邪魔はできない。私自身の限定される行動、魔法。

このまま彼の旅に同行するという事は、私の自由意思はなくなるに等しい。



…なんなんだこれは?

既に状況は手詰まりに近い、まだ駒も定石通りにしか動かしていないのにも関らずだ。

誰かが意図してこうなった?…ハハハ、さっきからなんだ?そんな与太話。

うまく行かなくて、歯痒い思いをしているから拗ねているのか?


…御笑い種だ。


…このままで終わらせてはならない、ナギが同行する事に確かな意義のある物に変えなくてはならない。

まずはデメリットは先程の上げた事と同じだ、戦争や面倒な事には巻き込まれるが

この世界の魔法の師匠はゼクトから得られるだろう、

今現在の私の力はエヴァと比肩するほどだ、それ程の力を有していても、やはりこの世界の魔法は魅力的であり

この世界の魔法は凡庸性が高い。習っておいて損はないはず、

そしてこれから起こる戦争でのバグキャラの集まり、その中で私を倒せる可能性のある人物

…“造物主”だ。

ナギは最終的に造物主に勝つが、“仲間”には手を出さないだろうし、ここで彼を殺してしまっては私では造物主を倒せないかも知れない。

彼に同行し、造物主の生死を確認すれば、私に対する生死の関る危険は無に等しくなる。ついでに造物主の掟を複製する事に成功すれば…


くくく悪い事ばかりではないか、できれば此処で貰っておこう、魔法世界での反則級のアーティファクトを。










次の日

朝早く、というよりも夜に含まれる時間帯から、出立の準備をする。

そういう訳で日の出の前から起きて、少々物音をたてて準備しているが、

昨日あれだけドンチャン騒ぎを起こしていたのだ、一寸やそっとじゃ起きないだろう。

この客室とは言い難い、質素に整頓された部屋、既に誰かが使っていた形跡はない、

立つ鳥後を濁さず。掃除を済ます、しかも私の形跡を残さぬよう隅々まで念入りに。

時間を掛けていては、いくら深く寝入ってるといってもこの間に誰か起きてこないか?と不安だったが、物音はしない。

まだ眠っているようだ、これでいい、誰かに見られるのを恐れてのこの早起きだ。

それに最後の詰が甘くては意味はない、ゆっくりと足音立てずに彼の部屋まで移動しようとするが、すると昨日騒いだリビングが目に入る。

不意に思い出される昨日の映像。


此処までの事は降って沸いた幸運なのか、それとも破滅への足音なのか、それはわからないが


この世界に来たばかりでやる事など決まっていないのだ、

ならばこれからの私の行動も渡りに船だったに過ぎない。とでも思っておくかね。


「ナギ起きてる?」


ロギを起こさぬ用小声で話しかけるが、彼は予想を裏切る事が好きなようだ。



「遅えぞ!アン!」





…そこには如何にも準備万端と言いそうな、

如何にも、昨日の勢いのままの雰囲気で、

直にでも飛び出しそうな気配を携えた、

ナギ・スプリングフィールドがそこにいた。


「なんで起きてるのよ?」


「うん?昨日あんな話聞かされたら寝てられっかよ!

それに朝何時に起きるか聞いてなかったからな!

このまま寝なくていいんじゃね?と思ってずっと起きてて準備してたってワケだ。」



……。





ふふ、あははは!。あーなんか色々考えていたのがアホらしくなった、本物の馬鹿だなコイツは。

面白いじゃないか、精々私のために頑張ってくれよ?世界最強の魔法使いさん。



「まったく、貴方は馬鹿ね、旅をするのに眠りもしないなんて。」

「なっ!誰が馬鹿だと!」

「だから貴方の事よ、聞こえなかったの?大方、私に置いて行かれるとでも思ったんじゃないの?」

「ぐっ!いい度胸じゃねえか!弱っちいくせして!

 俺は世界最強の魔法使いだぜ!!大体一人でも行くつもりだったんだよ!」

「ふーんそう。それと世界最強の件は昨日聞いたわ、しかもまだなる予定でしょ?」

「…へ?」

「ん?どうしたの?」

「…いや今までこう言ったら他の奴らは皆、俺の事を笑ったり、馬鹿にしやがる
 『できない』だの『無理』だの…仕舞いにゃ教師まで『馬鹿だ』とか
 アンは…アンは笑わないのか?」

「大丈夫、貴方なら成れるわ。」

「はあ?なんだそれ根拠ねーじゃん」

「根拠ね…

 それは貴方が世界で一番……馬鹿だからよ。」

「はあ!?やっぱり馬鹿にしてんじゃねぇか!」

「さあ?でも誰にどう言われても貴方はそれに突き進む、進み続ける、そうでしょう?」

「…ああ。」

「それは貴方の強さよ、神様はね、強い者の味方なのよ。」

「なんだそれ、初めて聞いたぜそんな言葉、
 普通は弱い者の味方だろ?それこそ根拠ねー。」

「そうね、これに根拠なんてないわ。」

でも神が惹かれるのは、強い魂を持つ者。

人の悲しみや怒り、そして願い。

魂の波紋が大きいほど、光輝くほど、律動するほど。

その魂は…勇者に相応しい。

これからの私の行動を、君は理解できないだろうな、

だがな、

お前のこれからの未来は、考えても答えの出る物じゃない。

ならばお前は根拠に頼るな、世界を救いたいのなら全ては自らの心の赴く儘にだ。ナギ。








あとがき

すいません、まずは謝らせていただきます。

本当に申し訳ありませんでした

こうして直ぐに書き直しできたのもキース様のコメントを参考にさせていただいたお蔭です

作者自身がアンジェラの性格を間違えるというあってはならない事ですが

この度編集再投稿となりました。

こんなミスをするような作者ですが、めげずに頑張りますので

これからもよろしくお願いします。

つきましては、書置きの方にも編集が必要な為更新ペースは少し落ちます。

しっかり練り直して、見てくれる方々が楽しめるよう頑張ります。







[22577] №6「邂逅」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/03 12:48
№6「邂逅」

「これからどこに行くの?ナギ」

「どこって早速魔法世界に…」

「いいのよ私の事は気にしないで、貴方が行きたい所はないの?」

「え、いいのかよ!実はさ、外国にも興味あってよ!…」

おそらく、この年まで旅をした経験がないのだろう、故に外の世界に興味は絶えないはず、

それに外国といえば、原作では日本にも寄っていた、麻帆良学園では武道大会に参加し、

優勝を掻っ攫って行ったはず、しかも10歳という若さで。

そういえば、ナギはもうすぐ10歳だって言ってたからな、

そうなるといきなり日本か…。まあ悪くはない

私も一度日本には帰りたかった。これを逃せば今度は何年後に帰れるかわからん。

決まりだな。まずは日本旅行に里帰りと洒落込みますかね。

…ところで麻帆良学園ってどこにあるんだ?

まあいいか。

「ねえ、ナギ?外国に興味があるの?」

「なんだよ、どこ行くかまだ決まってねえぞ?」

「丁度いい所があるんだけど……、日本に興味ある?」








「へえーここが日本か。」

「…日本だけど。」

やはり原作の20数年前なら、1970年後半~1980年代になり、日本の高度経済成長期は終焉を迎え、

これから低成長期時代へとシフトする時期か。

まあ、まだまだ活気に溢れているし、オイルショック等はあるが

豊かに生活している人達がほとんどで、この国で旅をすることに何の支障もない。

だが、まだまだ外人が珍しいのだろう、私達、穴が開くほど見られてます。

衆人の注目を一身、いや二身に集め、街を練り歩く。

日本に来た時から、不審に思われる物、見つかれば不味い物は外している。

まず、仮面だが、今は外している。この世界の事はある程度理解できたし、

今の日本で仮面を着けていたら逆に怪しまれる。状況に応じて再び着けるか考えよう。

戦闘中は着けた方が良いのかも知れないな、極力、敵には顔を見られたくない。

仮面を外す事に決心したはいいが、後は外す瞬間を計るのみ。

その事で思案していた時、丁度良いタイミングでナギが仮面について質問して来た。

此れ幸いと、素顔をナギに晒した時にはナギはポカーンと口を開けていた。所謂アホ面である。

何でも、すごい不細工を想像していたらしい、人には見せられない程と思っていたとか、

その為『何で顔隠してたんだよ!』って日本に行くまで質問攻めだったが、面倒だったので一人で旅をする時の風習だと言っておいた。

次に殺傷武器である剣は外している。これに説明の必要はないだろう、銃等法違反で捕まるハーフエルフなどアホ過ぎる。

そのために身につけている物は、剣と仮面以外の装備だが、これでも過剰戦力。

例えるならば、この街くらいなら、灰にでも塵にでも変えれるくらいの戦力だ。

最も思いがけない抵抗があれば、少々時間が掛かるかも知れないが、

これぐらいはできて当然、でなければ今までの努力や、わざわざ高威力の武具を創った意味がない。

……勿論行動に移そうとは思わない。できるんじゃない?といった程度の自軍戦力の査定だ。

杖が必要な理由はナギに対する支援や緊急時の対処、要は保険だ。

何せこれから戦いに行くのだ、主にナギが。

実力については何も不安要素はない、ナギの強さは日本に着くまでの間に垣間見た。

10歳にしてこの強さなら、流石と言わざるを得ない。公式バグキャラはまさしく化物、比類なき強さだ。

だが、この日本に危険などある筈がない。とは言い切れない為、こうして保険を掛けて装備を充実したまでの話。

それに戦闘をすれば、ナギは十中八九、ほぼ間違いなく大なり小なり怪我をして戻ってくる。

それならばいつでも杖は在るに越した事はない。治癒のできない状況など作るわけには行かないからな。

私がいる限り、怪我など詰まらない理由でナギの歩みを止めさせはしない。

千の呪文の男と呼ばれるにはまだまだ程遠いのだから。










当てもなく旅をしている様にナギに思わせ、その実、旅の舵は私が取っている。

そして……ようやく見つけた、あれが麻帆良学園か。まずはお目当てのものは見つかった、後は、

「ナギ、近くに学園都市があるわよ。」

「うえぇ、学園都市だぁ?俺パスな」

出た、ナギの学校嫌い、流石、勉強嫌いな魔法学校中退の劣等生だけな事はあるな。

「でも今の時期に何かお祭りをやっているそうよ?チラシに書いてあるわ」

「どーせ大したもんねーって、」

「ふむふむ、…まほら武道大会。」

「うん?」

「なになに?誰でも参加おーけー、裏の世界の者達が集う伝統的大会。奮ってご参加を」

「…だってさ、どうする?ナギ……ナギ?」

「……おもしれえ、此処から始まるぜ!俺の世界征服の道が!!」

いや征服って貴方、

「何時からナギは世界最強の魔法使いから悪の秘密結社に鞍替えしたの?」

「どーでもいいだろ!それより早く行こうぜ!」

「はいはい。」









「じゃあ、ナギは武道大会、私はここら辺を見て回るわ。」

武道大会の魔力反応を調べてみたが、

大して強い奴はいないようだ、ちらほらと強い反応はあるが、少なくとも、ナギ以上の魔力を持つ者はいない。

これは確定かな、さっさと行って優勝してこい。…私は、学園内でも散策しよう。

「えーなんでだよ、アンも出ようぜ?」

「私は後衛の魔法使いなのよ、それに殴り合いは趣味じゃないわ。」

「へーへー、そうですか、優勝しても賞金で奢ってやんねーからな!」

「はいはい、いらないわよ。」

「へっ、いっちょ魔法世界に行く前に弾みをつけてやらぁ!」

「いってらっしゃい。」

キラキラした笑顔で受付しに行くナギ、あー眩しい。

そんなに戦うのが好きか、これほど生命力に溢れたナギも、

人の運命からは逃れられない、か。

「……、さて、私は。」

先ほどの魔力反応で感じてはいたが、

ここら一帯に無益な祝福を垂れ流している大樹。

世界樹の木でも見てくるか。





















世界樹は仄かに発光する。

年に一度、麻帆良学園の学園祭の時期にある魔力発光現象?だったか

それを直に見る為だ、所謂、暇つぶしである。

案内など必要ない、あれだけ巨大で、強大な魔力を発していては、迷う方が難しい。

「此処か、」

人混みを掻き分け、進行方向は一本に的を絞り、ひたすら大樹を目指し

その先の、広大な広場に出る。

「…でか」

こんなにでかい木はアスガルドにもなかったような?

いや、あの世界にも世界樹“ユグドラシル”があるはず、私が見ていないだけか、

しかし、神代の、神話時代の世界樹ともほとんど遜色ない…のか?
なるほど世界樹と呼ばれるだけはある。これは本物かな…?

木の近くに寄る、…??

ほうっと少しだけ光が反応したような?

更に近づき、幹に手で触れ…ようとした時、突然世界樹は光を増し、輝きだした。

なんで?何もしてないんですけど…

考えられるのは……拒絶、怯え、歓迎、歓喜、共鳴、後は意地?

ほら、案外負けず嫌いな奴で…ないな。

しかしどう言うわけか反応があり、変化があったのは事実。

一体何なんだ。

意を決して触れる、優しく、魔力を抑え、心で、私に害はない、あなたに害は与えないと訴える。

すると、光は一瞬、瞬いた後、光は収まり…

代わりに一本の棒がどこからともなく現れる。

見た目は何も変哲のない棒だが、

「これは、世界樹の…棒?柄?」

何か特殊な効果があるのか!?と期待したが…

期待したが、説明も何もない。これではただのモップの柄だ、

世界樹の魔力が施されているが、学園祭の時期だからだろう、発光現象が終われば又、普通の棒に逆戻り。

……。

これはどうみてもスカ。

ただの棒切れだ。

一体何なんだよ、さっきからこれしか言ってないよ?

「はあ、理解不能だ。戻ろう。」

背を向けるが、世界樹は先ほどの様に反応する事はない。

まだ武道大会が終わるには早いので、学園祭でも回る事にしよう。

あっ、大会開催場所ってどこだっけ?まあ、いいか。まだまだ時間はある。



――あれだけの反応をしたにも関らず、私が去り行く時は世界樹はさわさわと風に棚引くだけだった。


















目に付く学園祭の出し物を堪能する。

学園全体の規模で行われる祭りだ、中には興味深い物も数多くあり

ついつい寄り道をしてしまう。…こんな事しているから迷うのだが。

迷ったなら、人に道を聞けばいいじゃないか。とか言うなよ?道を聞こうとすれば、皆逃げて行くのだから。

そんなに外国人が怖いのか?まあ大方、話掛けられても対応できないから、そそくさと逃げるのだろう。

話さえ聞いてくれれば、流暢な日本語で話すというのに…。

今、魔力反応で一番強い者に向かって歩いているが、これがナギだと言う確信はない。

ナギの平常時と、他人の魔力開放時では、判断が難しくなる。

その為魔力反応だけに頼らず、記憶を遡り、人混みの中を逆行する。

…なんでこんなに人が多いんだ。…もう空飛んでもいいよね?

と馬鹿な考えをしていたその時、右前方より歓声が沸いた。

「優勝!!……若干10……ギ…フィールド…」

あらら、もう終わったか、断片的に聞こえてくる音声からは、

ナギの優勝の事でもを言っているのだろう、ギャラリーの歓声でよく聞こえないが、

少ししか聞こえない内容でも私が知っている歴史、自身の知識と照らし合わせれば、自ずと答えは出てくる。

どうやら原作通り優勝してきたようだ。

ならば、祝辞でもかねて怪我でもしてないか見に行くか…









「ナギ?調子はどう?」

選手控え室に入り、中の様子を確認する

ここには、「選手関係者です。」と言ったら通して貰えた。チェックが簡単すぎる…大丈夫なのか?

控え室の中にはまだまだ人は残っているようだ、少し魔力反応がある。

大会の選手か、または私と同じ関係者か。

「アン!どうだ!見事宣言通り、優勝してやったぜ!」

こんなに元気なのか、治癒の心配など、いらぬ世話だったかな?

「おーすごいすごい。おめでとうナギ。」

「…全っ然心が篭ってねぇー!!」

「…ふっ」

そのナギの隣でニヒルに笑う、痩せ眼鏡神鳴流剣士。

近衛、今は青山詠春か?…今、会った事のない私には知りえない情報。

ならば、知っているような素振りは見せれない。

「ナギ、この方は?」

「あん?ああ詠春って言ってな、えーっと、しんめー流?っていう剣の達人だ。」

「神鳴流だ。…青山詠春と申します、貴女がナギの連れですか。」

流石生真面目剣士、紳士的だ。残念な事にお色気には弱いが…。

「ええ、アンジェラ・アルトリアです。以後お見知りおきを詠春さん。

ナギとは武道大会で知り合いになったのですか?」

「ええ、中々いい試合でした。」

「詠春もまあまあだったが、俺には届かなかったな!」

「ふん、今回は調子が悪かっただけだ。」

「…仲がよろしいのですね。やはり男同士、拳で殴り合った後は、友情でも生まれる物なのでしょうか?」

「いやいや、詠春は剣士って言っただろ?アン。」

「そういう意味じゃないわ、馬鹿ナギ。」

「だれが馬鹿だと!!」

「はあ…だから馬鹿って言われるのよ、少しは勉強しなさい。」

「うっせ、お前は俺のかーちゃんかっての!」

「ま、まあまあ、お二人さん、此処で騒がないで外に行こう。な、外に。」

この頃からもう詠春はこのポジションか…お前は私達の父さんかっての。








「…その年で旅か。」

外に出て、これも何かの縁、一緒に食事でもどうか?と誘われ、

その前にと、ナギと詠春の体を治癒し、三人で寿司屋に入る。

詠春は治癒に普通に驚いていたし、ナギは自分の事の様に誇らしげだ。何?魔法使いの面目が保たれたですって?

まったく、今の貴方は治癒を使えないでしょう?

寿司屋ではナギが醤油に感動しつつも、食事は進み、自然と会話は皆の身の上話で話は弾んだ。

私の話は少々誤魔化した、誤魔化しはしたが嘘は言ってないよ?

旅をしていると言った事を前提に話せば、深くは聞いてこないし

当てもない旅だとも言っておいた。

「それで、君達はこれから何処に?」

「これから色々世界を回って、その内に魔法世界に行きたいと思います。」

「魔法世界、か。」

「はい、…詠春さんはこれから何処か行く当てでもあるのですか?」

「いや、ないな、俺も修行の旅だ。君達と同じように、世界中を旅してみようかと思っている。」

「では、ご迷惑でなければ、これから一緒にまわりませんか?世界を。」

正直、貴方がいれば助かります。

「いいのか?」

「ええ、ね、ナギ?」

「ムシャムシャ…うん?おう、旅は多い方がいいし、詠春がいれば楽しくなりそうだぜ。」

「ナギ、食べながら話をしないで。」

「だああぁぁ!うっせぇ!いいだろ別に!」

「はあ…ナギもこう言ってますし、どうですか?」

「…わかった。子供二人ではこの先困る事もあるだろう、よろしく頼む。」

「はい、こちらこそ。心配して頂き、ありがとうございます。」

「よろしくなー詠春。モグモグ」

また食べながら話して、行儀悪いったらありゃしない。

「…ぜひ、このナギを再教育してやってください。」

「…善処するよ。」

原作通りの道連れ、まずは一人ゲット。

本当にお願いしますね。詠春さん。

紅き翼面々の突っ込みを。




あとがき



えいしゅん達の仲間になったタイミングがわからない…

という事で、そこを詳しく語られていないので、飛ばしたり、オリジナルに。

原作で語られそうな気がするので、





[22577] №7「参戦」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/06 18:07
№7「参戦」


…戦が始まったのは、旅の進路を魔法世界に移し、旅を始めて三年目を向かえた時。

それはナギが13歳の頃、

その戦争は、小さな辺境の国のいざこざから、やがて確固たる意思を持ち、帝国の侵攻は開始された。



アルギューレ・シチルス亜大陸全土を手中に収めるかに思われた侵攻は、

急遽、古き民の文明発祥の地、王都オスティアに進路を変更した。

彼らの真の目的は王都の奪還。

圧倒的軍事力を保持する帝国は、ついにオスティア攻略戦に乗り出した。






「このままじゃ間に合わないですね。」

「転移するわ、皆近くに集まって。」

「アンは転移まで使えるのかよ…。」

「もう何ができても驚かんぞ…。俺は。」

「他にも何かできるのですか?非常に気になりますね…。それ、何を媒介にしているのですか?」

「秘密よ。無駄口はそこまでにして。」




よし成功、オスティアの街中だ、その証拠に敵の戦艦や鬼神兵共がウジャウジャいる、

敵戦艦は精霊砲を撃つも、魔力の無効化により弾かれている。

あの塔が防いでいるようだ、…そこにいるのね、黄昏の姫御子。



「黄昏の姫御子……、何だってそんなモンを!?」

「歴史と伝統だけが売りの小国に、他に手はないでしょう。」

「だが王族だろ!?まだ小さな女の子だって話も聞くぜ!?」

「ナギ、静かにして。」

「そうだぞ、冷静になれ、あと喧しい。」

「俺は常に冷静だっつーの!」

「戦争ですからね、向こうの真の目的もおそらく…

それに少女の年齢も私のように見た目通りとは…。」

アスナの年齢。

原作でもまだ明かされてはいなかった、その実年齢は謎のままだが、

私の覚えている原作知識では、アリカとアスナが姉妹のような扱いだった。

馬鹿な…そんなわけないだろう。アリカの性格を鑑みれば、今のこんな扱いを受けている妹を見捨てるものか?

スラムの人間の為に、我が身を削るような真似をする女だ。

普通アスナを助けようと動くだろう、たとえどんな手を使ってでも。それが身内なら尚更。

…色々と根が深そうだな、ふふふ。面白そう。

…ところで、アルはどこまで知っているのかしら?








「…ふう、なんとか、間に合ったようね。」

「そんなガキまでかつぎ出すこたねぇ。あとは俺たちがやる。」

「お、お前は…『紅き翼』…『千の呪文の』…」

「そう! ナギ・スプリングフィールド! またの名をサウザンド・マスター!!」

「自分で言ってるよ、コイツ。」

「好きね、その口上。貴方らしくてお似合いよ。」

「バカにしてんだろ?そうだろ?正直にいいやがれ。」

「折角褒めてあげてるのに、本当の馬鹿なの?貴方。」

「やっぱりそうじゃねえか!!てめえは今シメル。」

「はいはい、敵を退けてからになさい。」

「ちっ、言われなくても!」

「いつも通りに、ね、『マイトレインフォース!』」


今は黄昏の姫御子、そして未来の神楽坂明日菜との出会い。


「こんにちは、お姫様。私はアンジェラ、アンジェラ・アルトリア……貴女のお名前は?」

「…ナ、マエ…?」



「アスナ……アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。」

「そう、素敵な名前ね、アスナ。」


この子が…、魔力消失現象の寄り代や、20年後フェイト達が所持している“造物主の掟”に関する“何か”に利用される。

そういえばヘルマンにも放出系魔法の無力化に利用されていたな。まあその時は首飾りを着けられていたが。



今現在、彼女しか確認されていないその力。



完全魔法無効化能力。



その特異な力によって、今もこうして首都防衛の兵器として使われている。

造物主の末裔という話だが、造物主はその力を持っているのだろうか。

その力の祖が造物主なのか、それとも遺伝子の突然変異なのかはわからないが、

ここでこの子を……。いや

詮無いことか、根本の解決にはならない。

それにこの子がこの世界で重要なキーという事は確か…。

あぁ…考えれば考える程、面白い存在よね、貴女。








欲しくなるじゃないか。










我々“紅き翼”はオスティアの防衛線に参戦したりと、着々と戦争の芽を潰していった。

戦をするに連れて、ナギは次々に仲間を連れてきた。

私が少し目を離した隙や、後衛援護魔法使いなので、前線には必要なかった時などが主だ。

その殆どが『話をしていたら仲良くなったから。』らしい

この後も、ナギは私がいない時を見計らったように仲間を連れてきた。















そうして、紅き翼の名が広まり、ヘラス帝国からの刺客が送り込まれる様になり、

それらを返り討ちにしてしばらく――





ヘラス帝国辺境の地にて、一つの依頼がなされていた。





「…対象は、この三人の男と一人の仮面の女、それに、」

依頼者は計五枚の写真を胸ポケットから出し、向かいの男に見せるよう四枚、テーブルの上に写真を置く。

「この少年だ。」

最後の一枚を見せたとき、男は依頼者を見て、鼻で笑う。

「フン、なんだガキじゃねぇか」

「子供と思って油断していると痛い目みるぞ、
オスティア回復作戦の失敗の主因はこいつらだ、
すでに精鋭で組織された討伐対も送ったが、悉く返り討ちだよ。

君が望むなら部下もつけよう、正規兵ではなく、傭兵・賞金稼ぎになってしまうが―」

「いらねーよ、一人で充分だぜ、任せときな。」





後のナギの好敵手の一人である、最強の剣闘士が動き出す。





「んっふっふ~~こいつは旧世界は、日本の鍋料理って奴か、

じゃ早速、肉を~」

「あっ!ナギ、おまっ、何肉を先に入れてるんだよ!」

「トカゲ肉でも旨いのかのう?」

「いいじゃねえか、うまいモンから先でよホラホラ。」

「バ、バカ、火の通る時間差というものがあってだな、」

「あーうっせ、うっせーぞ、えーしゅん!」

「……フフ、詠春知っていますよ。日本では貴方のような者を…

『鍋将軍』と呼び習わすそうですね。」

「ナベ・ショーグン!?」

「つ…強そうじゃな」

「…わかったよ、詠春、俺の負けだ、今日からお前が鍋将軍だ。」

「全て任す、好きにするが良い。」

「んー、嬉しくないなー。」

「何馬鹿な事言ってるの、貴方達、ほらお肉の追加。」

「おーさんきゅ。アン。」

「アンは食べないのですか?」

「…私はいいわ、食欲がなくてね。」

トカゲ肉って、ドラゴンじゃあな、食えたものではない。

しかしこの鍋イベント。

ここまで来るのに…案外早かったな。この三年の間にやるべき事は思い付く限りやった。

まず記憶にあるネギま情報を必死に思い出し、思い出される全てを書き記した、

これが解読される事は未来永劫在り得ないだろう。

理由は全ての文章をルーン文字で書いており、わざわざ賢者の石の数ページを削除して書いたからな。

大体これを見るという事は、これを死守している私に勝てと言っている様な物だ、それは不可能に近い。

そしてこの世界の魔法も学んだ、必要ないように思われるが、

魔法の射手、武装解除、魔法障壁等、後、瞬動術等、これらの気の運用や魔法は便利だし、手加減にも丁度いい。

それ以外の攻撃魔法はハッキリ言えば習っただけだ、VP世界の魔法はこの世界の無詠唱魔法に近い為、

主に使うのはVP世界の魔法だ。比べれば、ダントツで此方の方が優秀だと分かったからな。

その為習得は、それ以外の魔法、特に補助系の魔法に重点を置いた。

そして習得といえばレザードの失伝魔法習得にも必須アイテムだったコレ、

“幸せのコイン”。 取得経験値が60%増加のアーティファクトだ。

これの能力で、人より数段早く習得するできるようになった。その時のゼクト達、頭脳労働担当組は呆れ顔で私を見ていた。

悲しいかな、私も馬鹿共と同じ、バグキャラ扱いだ 。

本当は違うのだが…ま、バグくらいで済めばいいさ。

そして、すっかり忘れていた装飾品の限度数だが、エヴァとの戦いを思い出す。

あの時、既に二つの装飾品を装備していたにも関らず、昂魔の鏡は効果を発動した。

その事を念頭に試した結果、装飾品の限度数は、ないと思われる。

…その他、戦闘に関しては、私の担当は回復に強化といったところの後方支援型に収まった。、

前線に出ずとも、このバグ共にレインフォース系統をかけてやるだけで、敵は粉微塵だ。

これは別に手を抜いているのではない、彼らの魔法や力が10分近く1.5倍だぞ?

これで分かったと思うが、これ以上の魔法行使はオーバーキルでしかない、

そうなると私は手持無沙汰になるが、その間に皆はドンドン前進して行く為、その後ろを守るのが自然と私の仕事と成る。

私は所謂、拠点の最終防衛ラインいう物だ、

傷ついた者の治癒や、戦闘不能になった味方に拠点まで後退の援護や殿も勤める。

故に後ろに敵を通した事はない。そして私の元まで辿り着いた敵もボロボロになっている者が大多数な為、比較的に楽に撃退できる。

こう話すと年中戦ばかりしているようだが、そうではない。戦がない時など、暇ができた際には休むし、

時間が余った時などは、この世界での北欧神話を調べた。

ヴァルキリーが創造神になっておらず、安心したのは記憶に新しい。

普通の北欧神話、私の生前のものとなんら変化はない…はずだ。

そういえば、私が北欧神話で調べていたら、それを見かけたアルがおもしろい事を言っていたな

アルの専門的な知識の中、北欧神話で一つ、興味深い物を聞いた。

なんでも――ドガッ!!――急遽、高速で飛んできた剣がナギ達の居る所に突き刺さる。

あいつ等の囲んでいた鍋に剣が飛んできたが、

その衝撃で鍋から放り出された肉だけナギ、アル、ゼクトの三人は華麗に空中で掴み取っている。

ホント能力の無駄使いだな、能力の質が高いのが更に悔やまれる。


「食事中失礼~~!!」


それよりも、来たか…ふう。


「俺は放浪の傭兵剣士、ジャック・ラカン!!」


「いっちょやろうぜッ!」


これからまた一人、うるさいのが増えるな。







あとがき

いろいろと詰め込み回

このように、魔法世界大戦では飛ばし気味になりますし

原作沿いになるので、余り見ていて面白くないですかね?でも大事ですので。



[22577] №8「将軍」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/08 23:27
№8「将軍」


「何じゃ?あのバカは。」

「帝国のって訳じゃなさそーだな。」

「えいしゅ…むぉ!?」

「フ…フフフフ…」

「あらら、ご愁傷様、詠春。治癒かけましょうか?」

「フ…」

鍋の食材や熱湯諸共、頭から被る詠春、それはまさに兜のようで、ふふふ、鍋将軍の名は名実共に貴方の物よ。

「食べ物を粗末にする者は…」

「どーしたー来ねーのかぁー!!来ねーならこっちからいっ――」

「斬る!」


素早い踏み込み、魔力と気の反発を利用した瞬動で一気に間合いを詰める、

キィンと小気味いい音を立て、ラカンの剣が真っ二つに切れる。




「お?詠春の攻撃、凌いでるぜ?」

「あの大男、やりますよ、見たことがあります
ちょっと前に南で話題になった剣闘士ですよ。」

「剣闘士ね。」

気だけでよくもまあ、あそこまで己を高めたものだ、

アリューゼと気が合いそうだな。出会えれば、の話だが。


「ちょ、タンマタンマ、あんたマジでつえぇな!ちょい待たね?」

「ふざけるな!やるなら本気をだせ、貴様!」

「へっそーすか、けど5対1だし、本気を出す訳にはいかんのよね。

あんた達の情報はリサーチ済みだぜっ!?」

後退しながら、4つのカプセル型魔法具を取り出すラカン。

あれは確か―

ポポンッ

軽い音をたてて、半人半霊の、全裸の女達が詠春に纏わり付く。

「ブッ!」

「情報その一、生真面目剣士はお色気に弱い。」

「くっ…卑劣な、いや何のこれしき、心頭滅却すれば、火もまた―」

馬鹿野郎!戦いの最中に目を瞑る奴がいるか。


ゴン!


詠春の後ろから、『保険』のタグが付いた、水精霊の女の子が、

自分の体より大きい狸の置物で詠春の脳天をカチ割りに行く。

頭割れなくてよかったな、知り合いのスプラッタなど見たくもない。

「ホイ、一丁あがり」

詠春、ダメダメね。





――ゴガァ!! 

詠春が倒れたと同時にラカンに雷が降り注ぐ。

「ぬんっ!!」

ラカンが後方伸身何回転宙返り何回捻りで着地、
ダイナミックな動きで、というより無駄の多い動きで魔法の雷を避ける。



次は…ナギか。



「おう、出たな情報その5、赤毛の魔法使いは弱点なし。特徴 無敵。」

「てめぇら、手ェ出すなよ。」

ニコニコして、そんなに強そうな奴と戦うのが好きか、このバトルジャンキーめ。

「言われずとも。」

「バカの相手は、バカにさせるのが一番じゃ。」

「馬鹿ばっかりね。せめて制限時間はつけるべきだわ。」

「そうじゃな、三時間と言ったところじゃろ。」

「ええ、そうね。ナギ!三時間でケリをつけなさい!」

「知るか!それに、そんなにかからねえよ!」

「奇遇だな、小僧、俺もそんなにかからないと踏んでいた、

それに俺も南じゃ無敵と、滅法噂の男だ。」

「へっ、おっさん、いいのかよ剣なしで。」

「心配すんな、俺は素手のが強えぇ。」

互いに魔力と気を張り巡らせ、緊迫した空気が生まれるが、

当事者の二人は実に楽しそうだ。似た者同士ってワケ、これは三時間で終わらすつもりはないわね。

「はっ、」

「フン、」


ゴシャッ!!


一手目は互いに右ストレート、相打ちとなったが、馬力が違う、

ナギの方が吹っ飛ばされる。が、

すぐさま、多重分身を展開させ反撃の様子、…必勝パターンね、

「うおっ!たくさん!?うーんと、

めんどくせ!!」

ラカンは気の衝撃波で本体毎吹き飛ばそうとするが、分身は囮、本命は…

「百重千重と重なりて走れよ稲妻――」

「大呪文かッ、気合防御!」

「千の雷!!」





その後も辺りを焦土と化しつつ戦いは続いたが――

「タイムリミット。三時間よ」

「しかしナギ達はやめるつもりはないようですよ?」

「アル、貴方は…止めないでしょうね。」

「止める?一体何の話です?」

「はあ…ゼクト、詠春、手伝って頂戴。」

「わしはかまわんが、詠春は…」

「治癒かけてあげたんだし、先ほどの名誉挽回、汚名返上、したいわよね?」

「…是非させて頂きます。」

「うん、決定。それじゃ、行きましょう。」

 

………。



(((紅き翼のリーダーって実質こいつじゃね?)))



紅き翼のナギとアンジェラを除く面々はその時に限って、心を一つにしたという。





「フハハ!面白いじゃねえか!小僧!」

「へっ!すぐに笑えなくしてやるよ!」

互いにインファイトのまま、一歩も退かずに殴りあう馬鹿二人。

何処の格闘漫画だよ…まったく理解できないな。

体格差を無視したその戦いはウェイトの不利など物ともせず、互角の勝負を繰り広げている。

…一向に終わりが見えない。

しかし、このままでは周囲の環境に迷惑だ、それに早く帰りたい。

こいつ等を放っておくと朝まで戦ってそうだ。

「ラカンだっけ?そいつだけ狙うのは無理なの?」

知っているがここでもボロは出さない。知らないフリをするのも結構疲れるな。

「わしの魔法でも巻き込むじゃろうな。」

「右に同じく。」

「右に同じく…じゃないでしょ?詠春は近接戦闘の達人なんだから、

此処でこそ真価を発揮するんじゃないの?」

「しかしなぁ、ナギの事だ、此処で俺が参戦しよう物なら間違いなく三つ巴の戦いになるぞ?」

「つまり、被害が拡大する可能性が高いのね。

…誰が何をしようが、同じ事なの?」

「うーむ、そうじゃな。あそこまで二人が近すぎじゃと、

ちと困難じゃな。威力を弱めては防がれるじゃろうし。」

「俺もある程度近づかないとな、距離が遠すぎるし、近づいたら気づかれる。」

「…わかったわ。」

「何か良い案でも思い浮かんだかのう?」

「…結局、二人共巻き込むしかないのよ。バーンストーム。」

「「あっ。」」

「「ぐはあ!」」

「今よ!詠春!ゼクト!」

「「……。」」

(恐ろしい…。これではまるで…)

ふと、将軍という単語が頭をよぎる詠春であった。



「フフ、やるじゃねえか、手前ら。」

「あんたこそな。」

「いや、5対1で挑んでおいてこの様じゃ…俺の完敗か。」

「俺は、俺に並ぶ人間がいたってだけで満足だぜ。」

「もういいでしょ、さっさと帰るわよ、ナギ。」

「コラ、てめえ、ナギ・スプリングフィールド!リベンジすんぞ、必ず決着…つけて、やる…ぜ!」

「おぉーーいつでも…こいやぁ筋肉ダルマぁ!戦争やってるより気が晴れらぁな!!」

互いに足がプルプルしている、そこまでして意地を張るか、この馬鹿共め。

「…トドメを刺せばよいのじゃ。」

「気に入ったんだろ。」

「って、ちょっと待てや!!アン!俺を巻き込む事なかっただろうが!!」

「違うわ、ナギが無闇やたらに動くから、かち合っただけよ。」

「ふ、ふ、ふざけんなああああああ!!!あんときは一歩も動いてねえぇよ!!」

「……ふふふ、面白いですね。」

「アル、クスクス笑ってないで、ナギの怪我は貴方が癒しなさい。
食うか寝るしかしてないんだから。」

「!! くう、ねる、ですか。何かビビビっと来ましたよ、アン。」

はいはい。

と、まあその後も事あるごとに喧嘩を吹っかけてきたラカンは、

いつかの喧嘩の後、紅き翼の飲み会に参加し意気投合。ナギとラカンは互いの事を褒め称え合い、

何か知らない内に仲間になっていた。









あとがき




まさかのラカンでもう一話、短いですな。すいません。








[22577] №9「日頃、感じる事」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/11 18:22


№9「日頃、感じる事」


「アンは弱いんだよな?」

「何よいきなり。大体ね、私は一度たりとも自分を弱いと卑下した事はないわ。」

「なーんでぇ嬢ちゃん弱えのか。俺が鍛えてやろうか?今なら仲間価格で八百万でいいぜ。」

「馬鹿2は黙ってて。」

「馬鹿2…。」

「という訳で!いつもアンにいじら…ゴホッ!お世話になっているので、俺が稽古つけてやるぜ!」

人の話を聞いていないのか、この馬鹿1は。

「何が稽古じゃ、お主が稽古を付けて貰う側じゃろ。」

「確かにそうですね、ナギは未だに六個しか魔法知りませんから。

しかしアンの魔法は私達でも聞いた事のない不思議な物ですし、

我々が教えてあげた魔法はしっかり覚えていても、彼女が使う場面は少ないですからね、

アンは滅多に戦闘は行わないのですから、じっくり観察できる今回のこれは、見物かも知れませんよ?ゼクト。」

「む?うむ、確かにあの魔法には興味はあるのう。」

「やめといた方がいいと思うぞ…ナギ。」

「??詠春はなにかご存知なのですか?」

「ああ一度だけ見てな…。」

はあぁと深い溜息を吐く詠春。まったく失礼な奴ね。






「で、本当にやるのね…」

今、装備は全て着けている。と言うより仮面等、装備は魔法世界に来たときにまた着け直した。

この世界なら顔を隠しても、別段文句は言われないからな。カゲタロウという前例、いや後例がある。

文句を言うのはナギくらいな物だ。

「あたぼうよ!日頃のうら…日頃のお礼をキッチリ晴らしてやるぜ!」

「言葉は変わっても意味は変わっていない…流石馬鹿のなせる業ですね。」

「審判。笑うなら詠春にでも代わりなさい。」

「うおっし!燃えてきたぁ!」

「暑苦しいわナギ、もう少し抑えてくれる?」

「うっせ!行くぜ!」

そう言って、開始の合図もまたず多重分身を嗾ける。

「早い男は嫌われるわよ…。アデアット。」

このお礼参りを承諾したのも、この仮契約カードで戦闘に慣れていたかった為。

勿論仮契約は皆と同じ方法よ?アルやラカンはまるで中学生の妬みのように煽っていたが、誰がキスなどするものか。

そしてこのアーティファクト「八百万の練鉄鋼」

能力は至って簡単、思い描いた、自由自在な形に変化する魔法金属だ。

自由自在に変化する。便利なように聞こえるがこれは魔法による代替品が存在する。

例えば有名な物は影の魔法で、このアーティファクトの攻撃法はまんまそれである。

そして弱点は切り離しはできない事、全て繋がっているため、雷系等の魔法には相性が頗る悪い。

手持ちの武器、盾や剣にする事は、止めておいたほうが良さそうだ。

その他の能力に、練鉄鋼以外の無機物を取り込み質量を増大していくが、

ある程度取り込むと吸収スピードが遅くなるので、吸収限界があるのだろう。

無機物の吸収は必要のある時などそう多くない、戦闘用とは思えない機能だ。

戦闘で使うには、吸収のタイムラグと重量の関係で、吸収能力では高速戦闘ができなくなる。

空中に浮かす事は可能だが、ある程度の重量を超えると沈んでいく。

その為、もっぱら攻撃用でなく捕縛用や、防御用の形ある魔法障壁といったところに収まった。

前面に押し出すと、目視による判断が困難だが、私は魔力感知ができるので、見えなくても関係ないといえばそれまでだが

今は左肩辺りにフヨフヨと浮いている。まるでレナスのヴァルキリーメイルのように、勿論盾の形にしているが片方しかない。

という訳で今回の実験では攻撃は抑えて、防御に専念する。


「おらおら、防いでばかりじゃ勝負になんねーぞ!」

「いつから勝負に発展したのよ。」

回避し続けると、膨大な魔力反応、勿論人からすれば、という注釈が付くが。

来る、これで試すか。

「いくぜー、千の雷!!」

「ふっ!!」

盾を前面に押し出し、其処に自分の魔法障壁をプラス。さらにミスリルプレートの魔法防御力で…。

おおぅ?めちゃ硬いなこの、え~複合魔法障壁とでも名づけるかな。全く壊れる気がしない。

「へへっ、どうだ溜めに溜めた日頃の恨みの威力は!!」

「獲物を仕留めたかも確認せずに高笑い…三流の仕事よ、ナギ。」

「なぁ!何時の間に後ろに!!」

「私が転移できることも忘れてしまったの?あぁ嘆かわしい。」

「くっ、一度距離をとっ…なんだこりゃあ!!足に鉄がくっついて、ってしかも地面に繋がって固定されてるし!!」

「逃がさないわ。」

「ちょ、ちょっと待て話合おう、話せばわかる。」

「あら珍しい。貴方が命乞いとはね。」

「そ、そう、もう終わりだ!稽古終了!」

「そうね、でも私攻撃してないし、稽古なら一回は必要よね。」

「へ?」

「しっかりレジストしなさいよ?」

「ちょ、おま、まって、」

「ストーントウチ。」

「ぐはっ!!
……はあ、はあ、さっき獲物をどうとか言ってた癖に、嬲り殺しか……
っておいぃぃ!!体が固まって、石ぃぃぃ!!石化してるからぁ!いやマジでぇ!」

「ふふふ。」

「ちょ、アンさん?マジゴメン、ゴメンなさい、助け…」

数秒経たず物言わぬ石の彫刻が一つ、出来上がり。流石に落下で粉々は不味いので、落ちないように錬鉄鋼で支える。

ふふ、逆さにはなったが、この絶望に浸った顔…。
日頃の勝気なナギとは違う、いつもと真逆の顔は、中々見てて飽きないわね。

「ちょ!ナギィ!!ア、アン!?治してくれますよね?」

「もうちょっとしたらね~。」

「あ、あはは、そうですか…。」

偶にはいいわよね、こういうのも。



……。



(((アンは怒らせないでおこう。)))



またしても、ナギとアンを除いたあの時の面々は心を一つにした。






だが、この場には。






「おぉ~嬢ちゃん、強えじゃねえか。」

「何か用?伝説の傭兵さん?」


あの時の遣り取りをしていない馬鹿がもう一人いる。



「なぁーに、ちょっとアンタの顔を拝みたくなってね、俺まだ嬢ちゃんの素顔、見てねえんだわ。

…それに、

あれじゃ全然ヤリ足りねえだろ?いっちょ第二ラウンドと行こうぜ!」


そう言って行き成り一気呵成に攻めてくるラカン、ご丁寧に瞬動まで使って距離を縮め、インファイトに持込む。

こいつ、魔法を使わせない算段か。

…小癪な。剣を抜いてもいいが…。どうしようか。


「ちょ!ラカン!まずはナギを治さないと!!」

「そんなモンほっとけ!後で治してもらえば問題ねーって!」

「そんなモン扱いとは、ナギも不憫じゃな。」

「だからやめとけって言ったんだ…。」


それぞれ好き放題言ってくれるじゃない。今はコイツを止める事が先決でしょう。

大体コイツの拳圧オカシイだろ。

拳圧で体が揺らぐではないか…。このままでは事故って拳が当たるかも知れないな。





…決めた。





「アデプト・イリュージョン。」

VP世界特有のスキル、アデプト・イリュージョン。

簡単に言えば、自らの幻影を作り出し、敵の攻撃を空振りさせるもの。

実際に攻撃を避けきれている今、保険程度の能力だが、充分有効のようだ。



「おお?幻術か?うーんと、これか?」

「外れ。次はこれよ、レヴェリー。」


同じくVP世界のスキル、レヴェリー。

これも又、自分の分身を作り出し、追加攻撃できるスキル。

…流石に気づくかしら?


「うーん。中々に巧妙じゃねえか、やるねぇ嬢ちゃん。」

「そんなに余裕でいいのかしら?この状況、覚えがあるんじゃない?」

「何の事だ?」

「…単純馬鹿、行くわよ。」

そう言い残し、私のレヴェリーが姿を消す。

「なっ!これも幻術かよ!」

スキル幻影達はネギま世界の魔法でよりリアル感を強化している、本家本元のスキルや魔法よりも実体に近づいた物が出来上がっただろう。

思いもよらず実験成功だ、試す心算はなかったが。

ラカンが幻影に気を取られている間、

移送方陣による転移で空中に移動している本体は既に呪文を唱えている。



「ライトニング・ボルト」



この呪文は本物の雷と見紛う速度だ、本来、知覚できないんだが…

「むお!早ッ!気合防御!

……、なるほど、ナギのヤローと初めて戦った時と同じ戦法ってわけか。」

「普通、雷は反応できるスピードじゃないのだけれど?貴方の反射神経どうなってるのよ。」

「そこはあれだ、まあ古強者の俺様ならではの戦闘経験の差だな。」

「厭きれて物も言えないわね、流石バグキャラ。」

「ワハハハ!嬢ちゃんも中々だぜ!いつか本気で戦いたいモンだ!」

「…冗談言わないで、これで精一杯よ。」

本気ではない事に気づいているのか?これは失敗だな。

つい調子に乗ってしまった反省しなければ。

しかし、この紅き翼の面々はクセが強すぎる。油断も隙もありゃしない。

無駄に隙を見せるのは避けた方が良いが、余り追求されたくないのは皆同じか。

アル、ゼクト、ラカンは自分の過去を遠ざけているみたいだしな。







「「「……。」」」



(((やっぱりアンは怒らせないでおこう)))




馬鹿二人と本人を除く紅き翼の三人は今、完全に心を一つにした。





あとがき

えーわかっているとは思いますが仮契約アーティファクトはオリジナルです。

そして、掲示板でもちょろっと書いた考察の件ですが、

今週のネギま!にてもう一つの謎にも目処が立ちましたので、

考察で一話書き上げたいと思います。

勿論、話の流れを変えるものではなく補足説明程度の予定です。

ネタバレ?いえいえ、まあ作者の戯言だと思って見てください。

考察に関しては次回予告をしますので、見たくない人は見ないで下さい。

大体三話後くらいです。




[22577] №10「姫」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/14 18:03




№10「姫」


ラカンが紅き翼に参戦し、しばらく戦争の戦火が広がった頃。

帝国の大規模転移魔法の実践投入による、大規模物量奇襲作戦によって

連合の喉元、全長三百キロに亘って屹立する、巨大要塞“グレードブリッジ”をついに陥落させられる。

既にシルチス亜大陸を占領されかけていたオスティアは、これで挟み撃ちの形となった。

まさに詰みに近い一手を打たれ、成す術なしのこの状況で、

私達に白羽の矢が立った。

一時は辺境の国、アルギュレーに左遷されていた我々ではあったが、

前線に復帰するなり、八面六臂の大活躍。

その中でも最大の激戦となった、

「グレードブリッジ奪還作戦」での私達の活躍は、周囲の人間が青ざめる程だったと言っておこう。

なにせバグキャラの集まりに、いつも通りではあるが、レインフォース系統を掛け続けてやったのだ、

活躍するに決まっている。

更にラカンに“ガードレインフォース”と“マイトレインフォース”を重ね掛けした時はそれは酷いモノだった。

『剣が刺さんねーんだけどマジで』程度で済めば良かったな、只真っ直ぐ瞬動しただけでそこに道が出来ていた。

何所のモーゼだよ。割ったのは海水ではなく、敵軍だが。

この一戦で戦況は大逆転、連合は勇躍、帝国へと攻め戻す。

ナギは敵兵に、「連合の赤毛の悪魔」と呼ばれ、

味方には「千の呪文の男」と讃えられた。

私にも身元不詳などの理由もあり、見た目だけの「龍の姫」や、

戦争被害者の治療活動で「癒しの童子」など恥ずかしい二つ名まで拝命した。



その間にも暇ができれば、やれる事はやった、

できるだけ、戦場の武器や防具を回収、それらを対価に折れた槍を複製し、

閃槍クリムゾン・エッジにするもオリハルコンや魔剣グラムまでの配列変化はしない、

グラムは「持つ者は残らず闇に堕ちる」と言われている魔剣だ。

私ほどの力の持ち主で、なんとか扱えるが、普通の人間達には毒でしかない

その為、大量生産は自重した。最もラカン辺りなら気合でなんとかするかもしれないが、

確信を持てない事にぶっつけ本番で試すワケにはいかない。


その他にも変化があったといえば、ガトウやタカミチ、新たな仲間との出会い。


ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ

元敏腕捜査官のヘビースモーカー。その情報収集能力は、この世界の秘密に迫り、

完全なる世界の調査には、その手腕を遺憾無く発揮する。

そして、アスナをタカミチに託し、この世を去る。


タカミチこと、タカミチ・T・高畑

戦災孤児だった彼はガトウに拾われ、現在ガトウの弟子として研鑽に励む。

将来には、ポケットを刀の鞘の代わりにして『拳圧』を打ち出す『居合い拳(無音拳)』の使い手になり、

気と魔力を融合させる究極技法の『咸卦法』を使いこなす。

そのどちらも、師匠のガトウの得意技能だったのだろう。

習得にはかなりの時間が掛かったようだが。







馬鹿騒ぎや、戦争などで忙しい毎日。

騒ぐ方は楽しいだろうが、戒める方は大変だ。

ゼクトがこいつ等に嫌気が差して、紅き翼を裏切ったと言っても私は納得してしまうかも知れない。

騒がしい奴等は居るものの、魔法世界での生活に慣れた私だが、

変化のない戦争や、何時までたっても話が進まない事から

このまま原作とは違い、戦争が終結するのでは?と若干心配した。


…だが、それも見覚えのある会話が成された事で杞憂に終わる事となる。









「俺の故郷がある旧世界じゃ、超強力な科学爆弾が発明されてて、こんな大戦はもう起こらねぇそうだ。
だが、こっちの、この戦はいつ終わる?帝都ヘラスまで攻め滅ぼすってか?」

「やる気になりゃこの世界にだって旧世界の科学爆弾以上の大魔法はある。
こんなこと続けて意味ねぇぜ!!まるで……。」

「――まるで誰かがこの世界を滅ばそうとしているかのようだ。
ですか?」

「ある意味その通りかも知れないぞ。」

「ガトウ…」

「俺とタカミチ少年探偵団の成果が出たぜ、

…やはり奴らは帝国、連合双方の中枢にまで入り込んでいる。

秘密結社『完全なる世界』だ。」







明確な敵の存在。








「何だよガトウわざわざ本国首都まで呼び出してさ。」

「あってほしい人がいる、協力者だ。」

「協力者?」

「…そうだ。」

「マクギル元老院議員!!」

「いや、わしちゃう。」

紛らわしいな、おっさん。

「主賓はあちらのお方だ、」

階段の方から靴の音がする、誰か昇ってきたようだ。

「ウェスペルタティア王国……アリカ王女。」

「……。」





紅き翼の協力者。




ナギの奴…口を半開きにして、みっともない。

ラカンも気づいたな、あれが一目惚れか…。

これでいい、やっと話が進む。







「ワハハハ、上手いことやりやがってこんガキャ!」

「あぁ!?何の話だ!?」

「とぼけんじゃねーよ、お姫様とイチャイチャ、キャイキャイおしゃべりしてただろーが!」

「してねっつーの、何がイチャイチャだバカ!」

「なーに言ってんだよ俺なんか…

『気安く話しかけるな下衆が』

だぜ~~~?…いやありゃイイ女だぜ、一本芯の通ったな。」

「頭大丈夫かジャック?マゾかアンタ?俺ぁあんなおっかねえ女見たこと…あるが、無理だな。」

あら、誰の事言っているのかしら?

「グハハハハ、そーゆートコはまだまだカワイイガキなんだよなてめーはよ。」

「んっだ、そりゃ、意味わかんねぇ、触んなっつーの勝負すっか、てめ!」

ギャイギャイ五月蝿いな馬鹿共、ま、これがこいつらの良い所なんだろう。

矯正はもう諦めた。すまない、まだ見ぬネギ君、貴方のお父さんはアホのままだ。

「仲いーな。」

「馬鹿と下衆って、気が合うのね。」

「しかしよウェスペルタティア王女ってことはアレか?
例の姫子ちゃんの姉君ってことかよ?」

「いや、姫子ちゃんのことは…なんか話にくいみたいだった。」

「へぇ…?」

「アリカ姫…か。」

「……。」


アスナとアリカが姉妹。出たわねこの話。

アリカだけ王女として生き、アスナは黄昏の姫御子としてなお、あの扱い。

王家の子供にもしばしば…そう少数しか生じない「完全魔法無効化能力」を持つ特別な子供「黄昏の姫御子」。

まさしく王家の正統後継者、そんな特殊能力を持った子供を無碍に扱うだろうか?

…いや“少数”で“子供”だからこそ?








あとがき


アスナのことはネギま!でもまだまだ秘密が隠されていそうですね



[22577] №11「孤児、意地、師事、誇示」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/16 18:03

№11「孤児、意地、師事、誇示」



各々の思いが交錯する中でも、非情にも戦争は続く。

私の役割は後方支援なので、戦闘に参加しない日もしばしばある。

小さな小競り合いなど、この戦争では日常茶飯事だ。中には味方同士の意見の食い違いから端を発したいざこざにも、

私達が借り出された事例がある。そんな犬も食わない喧嘩に、私は必要ない。

精々、紅き翼のメンバーの力仕事担当が二、三人出張すれば事は収まる。

ご想像の通り、その大抵が力業による解決だが。

さてこれで暇になる。と思う事なかれ、こういう時も待機組には仕事があるのだ。

それがこの戦争の最たる被害者、戦争孤児の世話である。

私達、紅き翼は戦争に赴くとき、戦地の生存者の捜索や保護も視野に入れ、味方拠点を確保している。

味方が手の施し様もなくなる程の戦火が拡大した戦争区域に行くまで、いや呼ばれるまで、私達はその拠点に滞在する事も少なくない。

味方の拠点に滞在している間の活動は、保護した戦争孤児達に重点を置く事になる、

衣食住の確保、安全を出来る限り保障し、これからの進路についての相談、そして、亡き家族の弔いなどが殆どである。

何処に行っても、どれだけこの子達を癒しても、私達が離れ、またもその地が戦火に包まれた際には、その度に顔に覚えのない子が増え、

やっと笑顔を取り戻した子供達が、物言わぬ肉塊になっている事もざらにある。

堂々巡り、終わらない負の連鎖。いくら花を植えても、人はまた吹き飛ばすとは誰の言だったか、

もう忘れてしまったが、大方、人気の出ない主人公で、何時の間にか第一期の主人公に主役を奪われ、

最後には敵役として無残に散って行く、そんな人物だった気がする。

はて誰だったか?思い出せない。

まあ気にする程でもないのだろう、忘れるくらいだからな。

私の話が反れるのは最早当たり前の事象のようになっているが、今回の争点はいつもの堂々巡りとは一味違う。

タカミチとクルトという少年達の事だ。

この二人は紅き翼の身内という事で話が決まっており、これからの旅にも着いて来る。

タカミチはガトウに師匠になってもらい、クルトは詠春の神鳴流に興味を持ち、師事を願うはずだ。

今現在もその一環として、ガトウや詠春に引っ付いている、詠春は嫌がっているが。

そのはずなのだが、

「「アンジェラさん魔法教えて下さい!!」」

何故こうなった?

「どうして?貴方達はそれぞれ師事をする人間がいるはずよね?

タカミチはガトウの無音拳、クルトは詠春の神鳴流、それぞれを片手間にして、更に私に師事を仰ごうというの?」

「片手間じゃありません!師匠は今仕事に出ていて、僕一人じゃ修行ができないんです。」

「詠春さんにはまだ正式に弟子にしてもらっていません。

それに戦場に出ていて、技を盗めません。それで今この場所で暇そうなアンジェラさんに魔法教えてもらおうかと。」

二人同時に話すな、私は複数思考などできないぞ。大体それを片手間と言うのだ。

「タカミチは自主練、クルトはイメージトレーニング。以上。」

「「えぇ~~~~。」」

「私に師事しても私の魔法は貴方達には使えないわ、諦めなさい。」

「やってみなければわかりません!」

「わかるのよ、駄々を捏ねないでクルト。

それにタカミチは魔法を使えないでしょう?」

「…アルビレオさんが言っていました。

アンジェラさんの魔法は私達の物とは系等が違うって、だから―」

「だから、それなら僕でも使えるんじゃないかって?

…片腹痛いわね、アル達が使えない物を貴方が習得しようと言うの?」

「……それでも、僕なら使えるかも知れません。」

頑固かこいつは…なら一度見せて差し上げようかね。

「なら見ておきなさい。貴方達では到底辿り着けない境地を。」

(アン、仕事です。)

「「??」」

「――ちょうどいいわ、着いて来なさい。」

今、丁度いい所に念話で連絡が来た、アルからの応援要請だ。

此処に少年二人を置いて行けないから断ろうかと思ったが、連れて行けば問題ない。

「見せてあげる、貴方達がどれだけ幸運で、貴方達がどんな人達を師事しているのか。」










「す、すごい……。」

「あ、あれが本気の詠春さんの剣……」

彼らの師匠の本気は修行の身である弟子達には見る機会が殆どない。

これで、他の物の手を出す前に、まずは彼らに追いつく事に重きを置き、修行に全力を注ぐだろう。

そして今、ガトウ達を含めた紅き翼全員で戦いに出て全力を注いでいる。

今回の相手は少々骨が折れるようだ、数が多いのか質が良いのかそこまでは此処では判断し難いが。

私達は今、遠見の魔法球で、戦場の様相を見学している。

今回の戦争は拠点から離れており、こちら側から敵地に侵攻するものなので私は前線には出ていない。

私に与えられた役割、基仕事とは、敵の奇襲に備えて拠点に戦力を残しておく、という単純な物だった。

今現在に関しては魔力反応に引っ掛かる人や生物はいない様なので奇襲の線は薄いが、万全を期しての判断だ。

…と思っていたら、誰か抜けて来た!

…この反応は味方じゃないな、安全地帯である此処まで来るのに、この速度で移動する理由が味方にはない。

誰か怪我をしていてその人を抱えているにしても、速過ぎる、これでは怪我人が死人に早代わりだ。

伝令にしても念話がある、自ら足を運んでまで伝えるよりそちらの方が早い。

故に戦場判断としては、敵、しかもあの包囲網を潜り抜けて来た敵で、警戒が必要な程の兵…。

これは久々に気を引き締めなければならないようだ。

「貴方達、見学はそこまで、これから此処は戦場になるわ。」

「ッ!!どう言う事ですか!?」

「簡単よ、お客さんが来たのよ。」

「敵ですか!?」

「そうよ、貴方達は此処にいる人達と一緒に後退、私は殿に出るわ。」

「無茶です!一人で殿だなんて!」

「私を治癒しかできない女とでも?これでも貴方達の偉大な師匠と同じ、紅き翼の一員なのよ?」

「アンジェラさん…。」

「簡潔に述べると、邪魔になるの。

貴方達はまだ少ししか力を持っていない、微力は強大な力の前では無力と同じだという事を理解しなさい。」

「でも!」

「クルト、もういいだろ、これ以上は取り返しの付かない事になる。」

「そうね、いい子だから先に帰っていなさい。」

「…くそッ!」

「すいません、お願いします。アンジェラさん。」

そう言い残し、去って行く二人の少年。

一人は自身の無力さに悪態を吐いて、

一人は仲間に全てを任せ頭を下げる。

「ええ、お行きなさい。」

さて、敵は一人か、複数か、歓迎しようじゃないか。

だが此処から先は、一歩も通さないよ。







……皆居なくなったわね、此処にはもう私しか残っていない。

肝心のお客さんは…、

かなりの速さだが、捕らえ切れない程ではない、ならば久しぶりの広域殲滅と参りますか。

その前に、一応戦の礼儀を守ってやろう。

「そこにいる者達!此処から先に一歩でも歩を進めた場合、それ相応の報いを受ける事となる!

直ちに引き返しなさい!!」

一時、襲撃者達は硬直したが、その停止も又一時のモノだった、その為警告を無視したものと判断。

「知らないわよ。人の親切を無視するなんて。」

なら、逃がさず、殺さず…いや、こちらが勝つと思うなど傲慢だ、死ぬ気の一撃は時に、素人が達人にも一太刀浴びせる事がある。

油断は捨てろ、慢心するな、集中しろ、本気ではないが手を抜くなど以ての外。

捕縛と攻撃の複数攻撃、ならばこれ一択に限る。

膨大な魔力反応が私の元から発せられ、襲撃者達が瞬時に判断、蜘蛛の子を散らすように逃げるが、遅い。






「我焦がれ、誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは、炎帝の抱擁!!……イフリートキャレス!!」






襲撃者達を円を描き、囲うように展開される炎の壁、

その炎の壁は灼熱の熱風と、立ち塞がる炎を以て、襲撃者達を襲う。

誰もがその惨劇を見た瞬間に、死を連想するほどの光景だが、

彼らも歴戦の勇士、すぐさま魔法障壁を全力展開し、この炎を飛び超え回避しようとするが、

甘い。

更に炎が四方から立ち上り、円の中心に向かってアーチを架ける。

一番被害の少ない、円の中心に集まっていた者、炎を飛び越えようとした者、

全てを巻き込んで―大爆発。

熱風が此処まで届くほどの熱量、

辺り一帯の酸素は枯渇し、数分程して空気が吸い込まれていく。

まず間違いなく人が生きてはいられない惨状。


魔力反応もない。大丈夫か…!?

まだある!!

消えた魔力反応が再び感じられる、しかも……これは不死者の気配?

馬鹿な!死んだ肉体を使っての召喚か!?帝国が死霊術を使うなど聞いていない!

完全なる世界に悪魔はいた筈だが、死霊術を使う術者が居たなんて…

という事は元から生贄の予定だったのか?死ぬ事も計算に入れての特攻…。

いや、そんな事今は重要ではない。この反応は余り強くはないが…、

確かめなければ、何を召喚したのかを。












焼け野原に変わった戦場に赴くと、

そこには複数の、翼と角が生えた異形の怪物、体の色は濃い茶色のような色をしている。

何も知識のない者がみれば、これを悪魔と呼ぶだろう。

だが、これは…。

おそらく、“グール”だ。

ジェラードに使われたあの薬。グールパウダーは服用した者を異形の化け物に変貌させる魔の薬。

死の間際に呑んだのか…?

何としても生き延びたかったのか、それとも何も知らされずに、死を回避できる秘薬として渡されていたのか。

この世界に同じ物があったとしても不思議ではないが、此処まで似る物だろうか?

気になるが、この人達からもう話は聞けない、

こうなっては最早、人の言葉など理解の範囲外にある。





……こうなる切欠を作ったのは私だが、

彼らはあの包囲網を潜り抜けて来る程の強き兵だ、

彼らのあの迅速な行動も、彼らの今までの道程を際立たせる。

その歴戦の兵に敬意を表して、今直ぐ浄化してあげよう。




「霊柩無き者はただ滅するのみ、か。」





終焉しか齎さない私は、確かに死神だ。

強き者達の魂を導けない事が、道を作ってやれない事が、唯一の後悔だよ。

良い駒は替えが利かないからな。




あとがき

最近モチベーションが上がらないですが
なんとか、完結まで頑張ります。
…プロット見たらまだまだですね、ははは。





[22577] №12「疑惑」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/19 22:01



№12「疑惑」


アリカ姫、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下。

彼女は自ら戦争の調停役になろうとしていたが、力及ばず、私達に助力を求めてきた。

それもそうだ、連合と帝国、この世界の二大勢力に挟まれたウェスペルタティア王国の発言力は低いだろう。


「要するに戦争やりたいやつらがいるんだろ、まーた『あいつら』か!?」

「“完全なる世界”…帝国、連合だけでなく、歴史と伝統のオスティア内部までシンパがいるようだ。」

「世界全てが彼らに操られているようです…やはりこれは思った以上に根が深い。」

「そうね、でも見て見ぬふりはできない。」


完全なる世界…この集団を私は知っていた。

しかし、言えない。それに原作を知っているといえど、

まだまだ私の中で全ての謎がまだ判明した訳ではなく、原作との乖離点があるかも知れない。

答え合わせに、慎重に慎重を重ねなければならなかった。

そこで私達紅き翼は、完全なる世界について独自の内偵を開始した、といっても

ナギとラカンには戦力外通告を出した。偵察や調査は彼らの担当ではない。

ナギやラカンはその間に休暇、各々楽しい休日だったと聞いている。




そして、そんな彼らの休日の一日。



「まさか、こんな」

「……。」

この時点で気づいたのかしら?ガトウはこの世界の真実に。

これを知られたから、原作では殺されたのか?……彼の情報収集能力は役に立つが…。

さて、どちらがいいかな?

「よお、ガトウどうしたい、深刻な顔してよ。」

「ああ、ラカン、いや遂に奴らの真相に迫るファイルを手に入れたんだが…、

これがどうにも信じがたい内容でな、いや情報ソースは確かなんだが…うーむ、

信じていいんだか、悪いんだか……しかしこれが確かなら奴らの行動も…」

「んだ?ガトウ、ハッキリしねぇな、もっと分かり易く言えや。」

「いや、言ってもあんたにゃ興味ない話だよ多分、

…それよりこっちの方が深刻だ、この男にも『完全なる世界』との関連の疑いが出てきた…大物だよ。」

「こいつは……今の執政官じゃねーか!!

このメガロメセンブリアのナンバー2までがやつらの手先なのか!?」

「確証はない、外で喋るなよ?」





―ズズン 「!?」

爆発音と共に対岸の、遠方に見える街より火の手が上がる。



「「何だ!?」」


奴ら、原作通りやらかしたわね。

それならば、ナギは姫様と一緒に刺客を追うのだろう。

さあ、貴方の出番よ、詠春。




「――で

お前は一昼夜、アリカ王女殿下を連れ回した挙げ句、その敵本拠地とやらを壊滅させてきたのか!!」

「まあ、後は警察に任せたけど。」

「敵の下部組織を壊滅させても意味はない!何の為に秘密裏に調査していると…

大体、万が一王女殿下にお怪我でもあったらどうする気だ!!」

「姫さんノリノリだったぜー?楽しかったーとかって。」

「嘘つけ!!どうせ貴様が――「詠春さーん!」??」

「あのコワイ冷血お姫様が今、廊下で僕に向かってニッコリ笑って……、

僕ビックリしちゃって、あ、なんかナギさんにお礼伝えてだそうです。

確かに笑いましたよねっ!」

タカミチ結構言うわね。貴方このまま育ったら毒舌キャラにでもなっていたのかしら。

「うむ、驚いたのじゃ。」

「な?それに、ちゃんと証拠も見つけてきたぜ。」

ナギの証拠という巻物からは先ほど、ガトウが調べ疑いが浮上した執政官の顔が浮かび上がる共に、

怪しい内容の会話が聞こえてくる、これが魔法世界にて流通している手紙なのだろう、魔法のホログラムと言った所か

これが奴らのアジトから出てきたという事は間違いなく、紛れもない証拠。

「な、それは…。」







「あの証拠があれば終わらせられるのじゃな?」

アリカ姫は協力者と成りうる、帝国の第三皇女との接触に行く。

「ま、多分な。」

私達は執行官の弾劾手続きの為、マクギル元老院議員に執行官のテロの関与を告げた、

それは直に確認の必要がある為、証拠の品とナギを連れ、直接会いに行く。




そこに奴が現れる。だが、わかっている罠に嵌るほど此方も馬鹿ではない。




「マクギル元老議員。」

「ご苦労、証拠品はオリジナルだろうね?」

「は、法務官はまだいらっしゃいませんか。」

「法務官は……こられぬ事となった。」

「は…?」

「あれから少し考えたのだがね…

せっかくの勝ち戦だ、ここにきて…慌てて水を差すのも、やはりどうかと思ってね。」

「はあ。」

「いや、その――」

「もう結構よ、その無駄な問答はやめましょう。

貴方は物真似の練習が必要ね。」

「アンジェラ?」

「あぁ、あんたマクギル議員じゃねえな、何モンだ?」


「ぶっ!」


ナギが有無を言わさず、議員の頭を燃やす。

口よりも先に手が出る速さは、世界トップクラスよ、ナギ。

「な…。」

「ちょーーーっ!?ナギ、おまっ、何やってんだよ!

元老院議員の頭いきなり燃やすっておまっ!」

「落ち着きなさい、ガトウ。良く見て。」

「何っ…。」

「よくわかったね、千の呪文の男、龍の姫。

こんな簡単に見破られるとはもう少し研究が必要なようだ。」

「本物のマクギル「マクギル元老院議員は海の底…かしら?」…なぜ知っているのかな?」

「簡単よ、あれは単なる囮、騙されたのは貴方達という事。本物は貴方達に襲われる前にバカンスに行ってもらったわ。」

「…なぜ襲撃が予測できたかは知らないが、表舞台に立てなくなったのは同じ事。大差ないさ。」

「それでも、一つの命よ。」

実際にはどうでもいいのだが、何時か何処かで役に立つかもしれない。

まあ本当はこいつ等の思い通りに事が進むのが気に食わないだけだったりする。

「理解に苦しむよ、無駄な行為だ。」

「てめえ!!」

「通しませんよ。」

「くらえ。」

ナギがフェイト?いやまだフェイトではないのか?

えーっと、一番目に向かって吶喊するも、転移してきた敵に不意打ちを食らう。

炎と水の相乗攻撃…いや、これは…互いの魔法を打ち消しあっている?

どういう事だ?あのタイミングなら、直撃は免れないはず…。


「強ぇえぞやつら!」


現にナギに目立つ怪我がない。ナギ自身の馬鹿魔力のお陰なのか?

本当にそれだけ?

……。


「ハッハだが生身の敵だ、政治家何だとガチ勝負できない敵に比べりゃ…

万倍!!戦いやすいぜッ!!」

この後の通信は止める…予定だったが。

しかし…重大な疑問が浮かんだ。

これは無視できない。

時間が欲しいな…もし時間が与えられるならば…。

うーむ、こうする筈ではなかったが、止む終えまい。

「わ、わしだ!マクギル議員だ…うむ、反逆者だッ!ああ、うむ確かだ―」

「逃げるわよ、皆。」

「げ。」

「やられたな。」

ナギとラカンが通信を阻止しようと動くが、

「「おおおお!!」」

もう遅い。既に通信は終了している。

「君達は少しやりすぎたよ、悪いが退場してもらおう。」

ゴォ!という音と共に先程までいた元老議員のオフィス?はフェイト一番目の魔法で吹き飛んだ。

「危ないわね。転移が間に合って良かったわ。」

「助かったぜ、嬢ちゃん。いやー昨日まで英雄呼ばわりが、一転、反逆者か

ヌッフフいいねえ人生は波乱万丈でなくちゃな。」

「タカミチ君達は脱出できたかな?」

「……姫さんがやべぇな。」

他人の心配が出来る内は、まだまだ余裕があるわね。

それにしても…

この世界の秘密を知り、近い将来口封じ?の為に殺されるガトウ。

完全なる世界から狙われるも、行方不明という曖昧な立場に陥るナギ。

この違いは一体……。







あとがき

ちょっと感想掲示板でも予告?のあった、考察について一話使おうかと思います。

次の話は、作者である天子の戯言、もしくは独自設定だと思って、暖かい目で見てやってください。

できるだけ、信憑性のでるお話には仕上げたいとおもいます。




[22577] №13「考察」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/23 12:12

№13「考察」

帝国、連合からも追われる私達は各地を転々としながらも、

アリカ王女の幽閉されている『夜の迷宮』へと救出に向かう。

その間も各地での戦火には首を突っ込むのだが、救出に向かう事を優先する為、最大戦力で一瞬で片付けていく。

こりゃ戦死者続出では?まあ向かってくるのが悪いのか?

戦争だからな…其処に議論を挟んでは堂々巡りになるし、収集がつかない。

ここまで、ハイペースで進行しているが、

休憩なし!では彼らが持たない。勿論強行軍に変わりないが、彼らの体力も無限ではない。

私は後衛の為、こうして夜の見回りや見張り番をしているが。

私は寝なくても問題ないため、こうやって考え事するには夜の見張りの時間が丁度良い。


では…疑問に思った事、何故そう思ったか…だが

まず私の旅の目的について整理しようか。

簡単に言うと、全ては造物主に帰する。

造物主の力が原作通りならば、この世界は奴によって創られた。

そして、この世界を襲う危機、それをいち早く察知した奴は、この世界の崩壊が免れない事を悟り、魔法世界に終止符を打つ決心をし、

その成就の為、行動に移す。まず完全なる世界を結成する、又は既に結成されていた戦力、信者を、

各連合、帝国、メガロの中枢部まで浸透させるのだが…。

いや、この世界が完成した時から、元々からそうだったのかも知れないな。

まあ、下準備が済んだ所に、戦争を開始、出来るだけ戦争を継続させ互いを消耗、

さらに憎しみの連鎖によって互いを憎しみ合わせ、戦争を泥沼化させ魔法世界を滅亡に導く。

これがこの戦争の概要。

この戦争は紅き翼の活躍も有り終結。その後、事なきを得たように見えるがその実、問題は遣り残したままだ。

原作の知識が確かなら、この世界の魔力が枯渇するのも時間の問題、現実世界の環境汚染のような物だとフェイトは言っていたはず。

フェイト達が語るに、彼らは20年後もその問題の為に行動を起こすも、

完全なる世界の規模は、再三のタカミチ達による襲撃によって縮小の一途を辿ったらしい。

それでも、造物主の道理を信じ、その為に行動に起こしていた彼らのその忠誠心には驚嘆に値する。流石は人形、人形師には逆らえないか。


さて、大まかな整理はできた、まずは造物主についてだが、

仮想世界でも“世界を創れる力”を私は一人だけ心当たりがある。

そうレナス、レナス・ヴァルキュリアその人…神である。

その神でない事は確認済みだ、北欧神話を調べて安心した理由はそこにある。

勿論、私でも勝てないだろう、彼女だけなら話は別かも知れないが、神々や英霊達を相手に生き残れる戦力は生憎持ち合わせていない。

そしてその力と同じ、という訳ではないだろうが、似たような力を使う造物主を警戒するに越した事はない。

本物でないからと言って、本物を創らなかっただけ、という可能性も捨て難いからな。

できる。という事実が其処にある限り、これが限界と思うのは悪手だ、それは単なる思い込みでしかない。


そしてその力を手に入れるチャンスがあるという事。

『造物主の掟』グレートグランドマスターキーと呼ばれるそれはこの世界の創造主と同じ力を持てるらしい。

この世界の創造主、それが造物主とイコールで結ばれるか不明だが、ほぼ間違いないだろう。

この戦争で疑問に思った事の前に、

その力は、いったいどういう物か?其処に論点を置こうか。

この世界の鍵と言う迄の力を持ったそれは、

只の劣化品のマスターキーでさえ、魔法世界人では手も足もでない力で、何でもかんでもリライトされ、

皆、完全なる世界に移り住んでしまうらしい。

そこから戻るのは極めて困難、『こうあったら良い未来、最善の未来』を見せ、甘い夢の中を生きる事となる。

そして何故か、現実世界の人間であるネギの生徒がその魔法受けても無傷という結果に終わる。

故に、

造物主の掟は極めて限定された場所での、最有力のアーティファクトだと思っていた…。

が、

果して魔法世界限定なのだろうか、という疑問を持った。

私も始めは、魔法世界で圧倒的優位に立つ為等、その力が欲しいと思ったが、

考えれば、オカシイ所に行き着く。

まずは、何故魔法世界限定なのだろうか?

その宝具が劣化品だから?現実世界の人間が特別な力を持っているから?

違う、そうじゃない。

あのアーティファクトは原作でネギ達が魔法世界に旅をしていた時に登場し、猛威を振るったが、

その力は、誰に当たっても効力を発揮しただろうか?誰の攻撃も防ぎきったか?

――ビーと呼ばれていた少女がいた。

ベアトリクス・モンロー?だったか?うろ覚えだから名前に自信はないが、彼女の事で考察してみよう。

彼女は魔法学術都市アリアドネーのクラス委員長に付きっ切りだった少女。

彼女は脇役と言っても過言ではないキャラクターだったが、魔法世界の戦闘に巻き込まれる内に、おかしな現象が起きた。

彼女とユエの魔法は、敵の使い魔のような存在を相手に一騎当千の働きをしたのだ。魔法世界人の魔法が効かない中でだ。

――宮崎のどかという少女がいた。

魔法世界で冒険者として成長し、デュナミスという敵に、圧倒的上位者に対して賞賛に値する働きを見せた。

その時に使ったのだ、造物主の掟を。その場から仲間である朝倉をその力で助け、仲間の元に情報を届けるまで到る。

心を読むという読心術士の彼女だからできた所業だが、これでまた謎が一つ解けた。

現実世界の人間でも、造物主の掟を使えるという事実。

あれは、造物主の掟は、本当に魔法世界人だけに対して効果があるのか?


次に―

思い出せ、リライトの効果を。

一、魔法世界人はリライトをレジストできない。

二、現実世界人には効果を示さない。

三、原子分解魔法のような効力。

四、現実世界人の体を貫通し、服を破り効果を発揮した。


…服を破る。これだ。

この効果を、私は知っている。

漫画の中での話だが。

そう、神楽坂明日菜の能力だ。

彼女は魔法をレジストできても、その効果は服にまで到らず、半裸になる格好が目立つキャラと成り果てた。

リライトは、それに似ている。

――こうは考えられないだろうか?

あの魔法、リライトは魔法無効化能力を砲弾に変えたものに近く、

もしくはそれを扱う事のできる魔法だと。

そうすればマスターキーを大量に生産できる事にも納得できる。

無効化能力を鍵に移し変えただけなのだから。

そうすれば魔法世界人には、所謂魔法生命体である人々には致死性の高い弾丸になり、

現実世界の人間には何の効果も発揮しない事にも納得できる。

被害は服を破るに過ぎず、大した被害ではない。

故に原子分解魔法は勘違い、ミスリードとも取れるが無理も無い。

何せ、自分達が幻想だとは知らないのだから。

無効化した魔法世界人がどのように“完全なる世界”に移り住むのかは謎ではあるが。

それも含めてのリライトという魔法なのか?

まずは“疑問1”ここで保留。





次に、この戦争で疑問に思った事である。




気づいたのは、あの時、ナギが不意打ちを食らった時だ。

あれは敵の力量からしてあの程度のダメージで済む物じゃない、ナギが分身を使った?…いや、あの時のナギは本物だった。

現にあの現場から無傷に近い体で生還したのだから。

そこでまたまた思い出す。再三、敵である完全なる世界が原作でも言っていた言葉だ。

『人間は殺さない。』

特に現実世界の人間であれば、それは顕著だ、たとえ、敵であろうとも。

“それがたとえナギ・スプリングフィールドであろうとも”だ。

そこから考えられる、最高と最悪がある。

最高は、ナギの生存は確定したと言う事、死んだ訳ではなく。

いや、この場合、行方不明にされたと言ったほうが正しいか?その方法はいくらでもある。

唐突にネギの話になるが、無力化する為に、フェイトはわざわざ最高級アーティファクトを用いて邪魔をさせないようにした。

それは結局は失敗に終わるが、その後、ネギとデュナミスの戦いで、デュナミスは「目的は達成された」という内容を言っていた気がする。

そう、ネギの無力化に成功した。という事だ殺すのではなく。

彼らは『人間を殺す』といった事を絶対の不問律、破ってはいけないルールに置いている。


次に最悪だが…。

今までの考察でわかるが、彼らは現実の人間に対して“手加減”している。

それに気づかせてくれたのが、敵なのだからやるせない。

そう手加減だ、何を手加減していると言えば、最後の戦い、アルが絶対に勝てないと言わしめる相手に何故ナギが勝てたのか?

考えるまでもない、造物主の手加減あればこそだ。

これが最悪だと言わず何だと言うのだ…。ナギは造物主に勝ちを譲ってもらったに過ぎない。

勿論、造物主に迫る力が有ったからこその勝利だが、あれが造物主の全力ではないのだろう。

人間に対し手加減している。これが“疑問2”。


この疑問1と疑問2を組み合わせよう…組み合わせるまでも無いか?

造物主の掟の劣化品達や完全なる世界の面々は“現実世界の人間”に対してその威力や力を抑えている可能性があり、

造物主の掟は現実世界の人間や物にも効果がある可能性が浮上する。

…これは不味い、はっきり言ってこの考察が確かなら、グレートグランドマスターキーはありえないアーティファクトだ。

VP世界の四宝レベルに匹敵するかも知れない。

…どうする?手に入れたメリットは計り知れないが、デメリットも比例して跳ね上がった。






一筋縄ではいかないか…ふふふ、面白い。

レナスに勝てる見込みはないが、造物主に対しては幾許かの可能性がある。

目の前に可能性があるなら、見過ごす訳には行かない。

…方針に変更はナシだ、頂こうじゃないか、グレートグランドマスターキー。

今現在は存在しなくとも、将来、その存在は明らかになるはず。



ふふふ、楽しくなってきた。



そういえば、グールの存在は…グールパウダーの物なのか?

確認が必要だな。











――夜の迷宮。

そこで今頃、アリカ姫を助ける為にナギ達は奔走している所だろう、

私はそれに着いて行かない。ナギ達には不寝の番で疲れたと言って休ませて貰った。

無論、休むつもりなど更々ない。私は私で確かめなければならない事がある。

グールの存在だ。

この世界のグールは誰かの肉体を寄り代に自然発生的にグールが発生するものなのか、

この世界の死霊術士による物なのか、

私がこの世界に来た事で、どこかに次元の穴が開いているのか、

それとも――


考えられるパターンはいくらでも存在するし、確証はない。

今わかっている事はグールが存在し、それが敵国で使われている可能性があるという事実のみ。


調べなくてはならないが、あれはたとえガトウでさえ只の悪魔として処理するだろう。

協力を仰ごうにしても、あの存在について詳しく説明などして、ガトウに怪しまれるなど言語道断だ。

彼に怪しまれ、私の出自について調べられたくない。



故に、これは私一人で調査し、私一人でケリをつける。

無視しても構わないのだが、調査するくらいなら問題ないだろう。


帝国について詳しい人物は今の所、あのじゃじゃ馬第三皇女ぐらいだ、しかも

彼女は死霊術という魔法使いでも禁忌に近い術を、帝国が行うなど信じないだろうし。

情報としては可能性は薄いし何より紅き翼と立場が近すぎる。

そこから漏洩する事も無いわけではない。


帝国からの情報は手に入れ難いか。




ならば元締めから、締め上げれば良い。

完全なる世界の下っ端から当たれば良い。










それから完全なる世界の組織を何軒か回り、ついでに組織を潰しながら、終に―



「な、なんだ貴様は!」

「私の事など、どうでもいいでしょう?貴方自身の心配でもしたらどう?」

「!! ヒイッ、い、命だけは…。」

「無様ね、まあいいわ。命乞いするのならば、聞きたい事があるの。」

「な、何かな?金か?そ、それとも奴隷か?なんでも聞いてくれ。」

屑が…、まあ細かい事は気にしないでおこう。今は。

「貴方はグールパウダーという物をご存知かしら?」

「!!」

「知っているのね、ああ喋らないでいいわ、

これ以上貴方の汚い口から、この空間を汚す言葉を吐いて欲しくないの。」

「な、なんの。」

「ちょっと強制的に記憶を見るだけよ、痛いけど我慢してね?」

「やめろ!やめてくれ!」

「黙って。記憶探査。」

杖をこの男の額にあて、記憶探査の魔法を使う。

夢見の魔法などと違うのは、強制的に他人の記憶を除くという禁術指定の魔法だ。

拷問の部類に含まれるこれは、使用者された者に激痛を伴うもので、この世界の補助系の古代語魔法に含まれる。

倫理的観念から、全世界で使用を禁止されているが、そんなものを守っている国など有るものか。

これほど簡単に記憶を見れる魔法が廃れていくわけなど無く、現に執務官や元老議員ならばこの魔法を知らぬ者などいないだろう。




まあ、お優しい正義の魔法使い様は、こんな横暴許さないのだろうが、上層部は普通に使うだろうな。

そんな事より、見えてきた、






「…この薬は何なのですかな?」

「実験を行ったときの副産物として生み出された薬ですよ、

その効力は凄まじく、人を不死の化け物に変貌させます。

その名をグールパウダー、変貌した化け物をグールと呼んでいます。」

…この男がこの薬を、グールパウダーを作った男か。

「すばらしい!これさえあれば戦争をどちらの勝利で終わらすかも可能と言う事ですな!」

「ええ、是非、軍部での使用を推進して頂きたい。」

「ふふふ、わかりました、すぐに実戦配備しましょう。」

「お願いしますよ。」





男の特徴はローブを目深に被り、顔を出していない。

声も魔法によって変えているのか、違和感が付き纏う。

しかしこれで少しは情報を手に入れられた、名前の一致、作り出された物、そして作る者が居るという事。

この世界の死霊術士か、もしくは…、

あの世界の人間なのか…。


今はわからない、だがこの世界で猛威を奮うことは確実なようだ、

グールパウダーか、厄介な。

できるだけ早くあの男を捕まえなければならない。

その前に、

「ありがとう有意義な情報だったわ。って聞いてないか。」

「あががが…。」

痛みで自我を失ったか?まあ念には念を。

「ストーントウチ。」

ふむ、確かに石化って便利だな、フェイトが多用するのも納得だ。

永遠に石化しているならば、それは殺さずに口封じ出来ている。

死ではないが、死に等しい。

言葉遊びのようだが、死と言うものを禁忌として扱っている完全なる世界には、丁度良い魔法なのだろう。

フェイトが良く働く訳だ。案外苦労人なのか?

…そんな事人形には関係ないか。

さて、引き続き調査は続けるが、これ以上の情報は手に入れられないだろうな、

完全なる世界の幹部の記憶でも見なければ。

今はまだ、そこまで動けない。

せめてこの戦争が終わるまで。


一旦保留か…何、もうすぐ終わるさこの戦争も。

帰るとしますか、掘っ立て小屋に。







あとがき


作者の戯言お楽しみいただけたでしょうか?

考察はまだあるのですが、それらは漠然と考えている物も有る為、ネタ帳に封印されています。

そんなわけねーだろと言う方々、赤松先生の話を聞いたわけではないので、これ等は独自設定の域をでません。

こいつ馬鹿じゃねーの程度に思って置いてください。お目汚しすいませんでした。



PS記憶探査の魔法はオリジナルです。これくらい有るんじゃない?と思い作りました。

えぇ、おっさんとおでこをくっ付けて記憶見るなんて絵柄は見たくないからです。









[22577] №14「準備」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/25 19:25
№14「準備」


隠れ家に帰るも、既に原作の見せ場は終了していたようだ、

見なくてもわかるから、あのシーンは無視した訳だが…。アリカ姫の印象は悪い、最悪と言ってもいい。

口には出さないが、こちらの挙動を伺っている素振りだ。

帝国の、いや完全なる世界のスパイとでも思っているのか?…丁度良い、意図せず物事が良い方向に傾いた。



これから最後の戦いに向けて、完全なる世界の戦力を削ぎ落とす訳だが、

その前に下準備は必要。あの戦いに行く前に万全を期すのは当然で、用意しなくてはならない物もある。


まずは―


「アル、貴方に一つ尋ねたい事があるのだけど…」

「私に、ですか?アンが私に質問なんて珍しいですね。

! ついに私の用意したネコミミスクール水着に興味が…」

「そんな物、貴方と一緒に滅してあげるわ。」

「…ハハハ、いえいえ何でもありません。

コホンッ!話を戻しましょう。何か問題でもありましたか?」

…まあいいか些細な事だ。

「聞きたい事は一つよ、転移魔法符の類似品として、追跡の魔法符とか無いの?」

「有りますよ?只の転移魔法符よりも高値ですが。」

普通に有るのね。好都合だが…。

「それに対抗呪紋処理を行なった物を数枚用意して貰える?」

「対抗呪紋処理ですか、更に高くなりますが…でもどうしてそんな物を?」

「必要だからよ、何か文句でもあるの?」

「……いえ、何も。」

「そう、お願いね?アル。」

アルの訝しげな視線を我が身に受けるが、

この先、私達は袂を別つ。私の一方的な物ではあるが、この馴れ合いも、もうお仕舞い。

アル達から何を思われようと、最早私には関係の無い話だ。






紅き翼や。

偽りの世界など。







次に―

「じゃじゃ馬姫。じゃなかった、テオドラ第三皇女殿下。」

「誰がじゃじゃ馬姫じゃ!」

これで頭脳労働担当のだから可笑しな世の中だな。こんな性格と態度で交渉や調査に臨むと言うのだから。

そこまで帝国第三皇女の王位継承権は高いのか?周りの人間が媚び諂う程の階級だと言う事は理解したが。




そしてその隣には―



「妾に挨拶は無いのか?アンジェラ殿。」

「これはこれは、申し訳ありません。アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下。」

「良い、だがお主、妾に何か申す事が有るのでは無いか?」

「申す事?…すいません。何も。」

「何も、じゃと?」

「ええ、それに貴女の会話には主語も無ければ話の流れも無い。

大体、抽象的すぎるでしょう?もっと具体的に聞いたらどうなのですか?

例えば…。

私を放って何処に行っていたのか?…違いますね。何故、私の事を助けに来なかったか。ですか?

他には…あぁ!すいません失念していました。殿下の御前、失礼は承知ですがこの仮面は外せませんよ?幾ら殿下の命令でも。」

「お主…何が言いたい。」

この程度で怒るのか?この程度の皮肉は血生臭い王宮では日常茶飯事だったはず、

だからそんな笑いもしない鉄面皮になった。

「違うのですか?貴女の心を代弁したつもりだったのですが…。」

「ッッ!!」


パンッ!


アリカ姫が私の頬に平手打ちを打ち込む。そこに躊躇や戸惑いと言った類の物は無い。


…ふむ。本気だと思って間違い無いな。


魔力無効化能力の確認終了。完全ではないが只の平手打ちで此処までの威力か、

想定すると無効化能力による攻撃はかなり厄介だな、障壁さえ無視するのだから。

それはこの世界で、防御を無効化されるに等しい。

できるだけ本気で打ち込んで欲しかったから、まだまだ蔑む材料は用意していたが…。

ここまで簡単に激怒してくれるとは思わなかった、助かったよ。アリカ姫。

「貴様!その無礼な発言、恥を知れ!」

「なるほど図星でしたか、それは申し訳ありません。」

「お主!まだ言うか!」

「ちょ、待て、待つのじゃアリカ!」

テオドラがあたふたしてる。しかも涙目になって。

いきなりの険悪な雰囲気にも健気に耐えていたが、アリカが手を出した事で耐え切れ無くなったな。

「も、もう良いじゃろアリカ。アンジェラ、お主は下がっておれ!」

「わかりました、テオドラ殿下。」

…そして貴女は高い確率でこの喧嘩を止めに入るでしょう。御免なさいね?貴女の事利用させてもらったわ。

まあ私から始めた事で貴女を巻き込んだのだけど、不幸な事故だったと思って諦めて。

それじゃあねテオドラ殿下、アリカ殿下。








さて、次は…ガトウに忠告でもしようかと思ったが…。

どうしようか?あれは彼の弱みであり、私に対する利点でも有る。

あれを利用すれば、私は彼に対して絶対のアドバンテージを得る。

それに付け込んで契約でも交せば、ガトウは私の為に働いてくれるだろうか?


……舌噛んで死にそうだな。却下。


うーん、まだまだ考える時間はあるか。保留で。




これで大体の下準備は完了かな?

まだ何か忘れている気がするが、ここから映画三部作程の戦い続きらしいし、

その内に死霊術氏や完全なる世界についての情報も集まるだろう。


…そう思っていたのが間違いだったと、後で気づかされたのだが。














原作同様、反撃開始!と行きたい所だが、私は頭脳担当に分類される為、

肉体労働中心の奴らには付いて行けない。

…お陰で今まで、死霊術士に対面する事も、そいつの情報もうまく得られなかった。

私しか知らないグールの存在と謎の男。その情報は集めようとしなければ勝手に集まる物ではない。

そもそも敵の殆どは戦で儲けを狙った武装マフィアに武器商人や私腹を肥やした役人共だ。

完全なる世界での下っ端の構成員共では、生憎、あれ以上の有益な情報を持ち合わせていなかった。

やはり根幹に迫るには、奴らの幹部に会う必要がある。

最後の戦いであの男が出てくるかわからないが…、

まあ大丈夫か。

問題ない、デュナミス以外は全て紅き翼が倒すのだから。

その後ろについて行けば良いし。誰か一人捕まえて、死ぬ前にあの男の情報も吐いてもらう。

アルも一人で戦うから、そこに助太刀して、デュナミスを倒すのも悪くは無い。








全ては目の前の「墓守り人の宮殿」に行けばわかる事だ。














「不気味なくらい静かだな、奴ら。」

「なめてんだろ、悪の組織なんてそんなもんだ。」

「ナギ殿!帝国・連合アリアドネー連合部隊、準備完了しました。」

「おう、あんたらが外の自動人形や召喚魔を抑えてくれりゃ俺達が本丸に突入できる。頼んだぜ。」

「ハッ!それであの…ナギ殿。」

「ん?」

「ササ、サインをお願いできないでしょうか。」

「おあ?ああいいぜそれくらい。」

まったく死ぬかもしれないというのに、暢気な物ね。

…この先に造物主がいる。

まずは造物主だ、この際、死霊術士の男は放っておいて構わない。

本当は生きていてほしい所だが、この戦争でもう死んでいるかも知れない。

あまり他の事に気にかけていれば、今度は私が戦場の屍に仲間入りだ、最優先にすべきはやはり造物主。

ここで失敗しては、こいつ等に付き合っていた意味がない。










…もう能書きはいいだろう。此処まで来たらやるだけだ。














――さあ始めようじゃないか。


「よぉし野郎共、」


「行くぜっ!!」



――偽りの戦争に終止符を。





あとがき

難産でした。所々意味不明な所があるかも知れません。

ちょっと更新ペースが落ちてますが頑張っていますので

これからもよろしくお願いします。




[22577] №15「召喚魔」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/11/28 18:00


№15「召喚魔」



外にいる敵戦力を無視。目標に向かって一転突破。

我々紅き翼を支援する形で、連合艦隊が道を開けてくれた。



「やあ、「千の呪文の男」また会ったね。これで何度目だい?

僕達もこの半年で―」


こいつの話など興味がない。

此処に着いてまずやるべき事は魔力探知。

…目の前の敵5つ、奥に2つ、その他は私達のみか…。

奥は黄昏の姫御子と造物主が有力、という事は…あの男はこの戦闘に参加していない?

ここまであの男はまるで尻尾を見せなかった。では完全なる世界の幹部でもなく只の構成員だった?

……私のように後方支援か、この戦いの前に死んだか、警戒して出てこないか、はたまた…。

私としては三番目が一番ありがたいのだが…

グールもあれから戦場で中々見かけない。あれは一体、何の為のグールパウダーだったんだ?




…今、考えても仕方ない、居ないのであればプラン変更。

デュナミスは将来的にも邪魔な存在だ。今此処で潰す。




では、早速―




(アル、貴方の所に助太刀するわ。)

(アン?私ではなくナギの増援に…)

(ナギは大丈夫でしょう、それより回復役の私達がやられる方が問題よ。

二人の内一人が生き残れば、最悪全滅は免れる。)

(なるほど、互いにやられないようにカバーし合う訳ですね。わかりました。)


「相談は済んだか?」


私達の目の前には、腕を組み、極端に肌の露出が無い服装の色黒イケメン人形、デュミナスが語りかけてきた。

「えぇ、わざわざ待ってくれてありがとう。」

「よい、…アンジェラと言ったな?貴様に聞きたい事がある。」

「私に?何か用かしら。」

「貴様が力を隠している、ある情報でそう聞いた。」

「…誰から、いえ。聞いても答えないわね。」

(アン?どういう事です?)

「別に声に出して構わないわアル。…ふふ、知られていたのなら、私も隠す必要が無くなった。」

「アン?」

「…本当に情報通りなのか?」

「どこまで聞いたか知らないけど…そんなに見たいなら見せてあげる。」


私に対して、もう二度と戦うとか、勝負するなんて考えが起こらないように。


「アン!どういう事ですか!?先程から話が見えません!」

「あら、貴方が焦るなんて…珍しいわね。」

「話を逸らさないで…なんですかこれは?」

アルの足元には移送方陣の魔方陣。勿論私の展開した物だ。

「先程のプランは変更よ、貴方はナギの元に行って。」

「アン!話は―」

転移完了、また後でね、アル。





「良いのか?私は二人でも構わんが。」

「貴方一人で私の相手が務まるとでも?」

「…よかろう、曲り形にも紅き翼のメンバー、相手をしよう。」

「そう。でも私を侮らない方が身の為よ?」








…ここからは只の、

只の虐殺だ。

でも、それじゃあ面白くない。






「貴方に最初で最後のチャンスをあげましょう。」

「? チャンスだと。」

「一手目は譲ってあげる。お好きにしなさいな。」

私は構えを解き、警戒もせずデュナミスを見据える。

「正気か?死ぬやも知れんのだぞ?」

「ハンデよ。」

「侮るなよ小娘…。」

デュナミスの足元から広がる影から、巨大な召喚魔の姿が這い出でる。

宛ら、黒き沼より湧き出た怪物か?その腕は4つ、その背後に控える触手は数え切れない。

その化物が巨大な腕を振り被り、此方に拳を放つが、速度はお世辞にも早いとは言えない。

此方が避けるとでも思っているのだろうか。

でもまあ一応、受け止める素振りでも見せておこうか。






「ふっ。」

「なっ!?」





驚愕するのも無理は無い、私は魔力も気も展開せず、

私に向かって来る矮小な物を抑えるように、只、片手で受け止めたのだから。

だが、

私が身に着けていた、プロテクト・チャームは粉々に砕け散った。

ははは…、25%でもダメか。破壊条件の有るアーティファクトは全て壊れる呪いでも私に掛かっているのだろうか?

まあいいか、この程度、いくらでも“複成”できる。

現に装備している数は5。そう、複数装備できる利点を活用した結果、私に純粋物理攻撃は最早通用しない。

勿論全て破壊されればそれまでだが、まだまだストックは在るし、これは大量に用意してある。

…この事がバレても一大事だ、考えてみれば解るが、ラカンの全力パンチやガトウの豪殺居合い拳を最低一度でも無効化する。

それもたった一つのアーティファクトで、しかも大量に生産できる消耗品。

それが知れ渡れば、私は全世界の魔法関係者からの羨望や慈悲を求められ、欲望にその身を任せる者達も出てくる。その結果、追われる、狙われる。

安全は金で買える物ではないからな。上層部の人間程それは如実に現れる。

これまでの戦いでどれまでが使っても良いボーダーラインか、計るのも随分ストレスが溜まったよ。




でももうその事で悩む必要もない。此処で私の目的は達成される。




「……受け止めた、だと?」

「はい残念。宣言通り譲ったわよ、先手。」

私は今までの鬱憤を晴らすかのように全身に魔力を込める。

「!! この魔力!貴様、本当に…」

「避けたほうがいいわよ?」

「むッ!」

ほう、此方の突きに反応したか。この剣、グラムも久しぶりに解禁だ。

「貴様その剣は……なんだ?」

「この剣?この剣はね、貴方のような人達には天敵のような物、よッ!」

私の剣を避け続けるデュナミス。当たれば不味いと理解しているのか?

グラムはその威力に隠れているが、ある特殊能力が一つ備わっている。

それが、闇属性の即死だ。

その所為あってか…。

「召喚は無駄、と気づいてくれたかしら?」

「一撃…か。」

デュナミスは私の攻撃に飽きたのか、先程召喚した巨大な召喚魔での戦闘に切り替え、それは再度私に襲い掛かる、

だが、


召喚魔はたったの一振り、私の剣で滅せられた。


神楽坂もハマノツルギで鬼達に無双した時、同じような気持ちだったのだろうか。

自分の手に負えないと思っていた化物をたったの一撃で送還する、滅する。確かに爽快だ。

更に術者の唖然とした態度や落胆ぶりを見るのは中々楽しく、

もっと出してくれても構わないが、そんな事をいつまでやっていれば時間が無くなる。

前座に時間を掛けていては成すべき事もまま成らない。


まあ最後に、ここで人形風情に本当の召喚魔とはどういう物か教えてやるのも一興か。



「そろそろ終わらせるわよ?最後に私の力の片鱗を魅せてあげる。」

「……来るか。」

「バーン・ストーム!」

「ぐッ……無詠唱で任意の空間爆破だと?只の無詠唱魔法とは違う…。」

魔法の爆発により上空に打ち上げられるデュナミス、しかし大量に展開された障壁で受けた為かダメージは無いようだ、

だがな、愚策だよそれは。

「バーン・ストーム、バーン・ストーム、ついでにバーン・ストーム。」

「!! 障壁が―」

上空にて次々と起こる爆発に防御で精一杯のようで、その為か体の制御が疎かになっている。

正面、背部、右脚、予想の付かない箇所の爆風に、文字通りその身を踊らせる。

二度、三度、それは回数を増しても一向に終わりを見せず、花火は打ち上げを続ける。

息もつかせぬ怒涛の攻撃により次第に障壁は剥がれていき、数えるのも面倒な程有った障壁はその数を減らしていく。

大体これぐらいで良いか。

「イグニート・ジャベリン」

デュナミスの華麗なる舞の終極は、五本の魔槍による高高度から地面への磔で幕を閉じた。

翡翠輝石のような輝きを持つその槍は、正確にデュナミスの四肢と胴体に突き刺さっている。

ふふ、身動き取れないでしょ?少なくとも私が呪文の詠唱を完成させる分には。

さて本当のフィナーレと行こうか?冥土の土産だ、しかとその目に焼きつけるが良い。





「我は命ず、汝、悠久の時、




呪文が完成するよりも前に、その怪物は当たり前のように其処にいた。

一言で言えば骸骨。ただ、その大きさは骨の自重で潰れるはずの巨大さだ。

その骨でできたその体は所々が赤く染まり、錆びが生じているようにも見えるが戦場を生きる者ならそれが…

それが長年に渡って染み付いた血だと気づくだろう。

何時の間にか床には夥しい量の沼が広がっており、そこで佇む存在は正しく悪魔か。

その未だ動く気配のない怪物に、




妖教の賛歌を混濁たる瞳で見続けよ。」




呪文は続く、次の節に入った時だろうか、その虚ろな眼に光が灯る。

首を上に廻し、まるで天を仰ぎ見るかのように、自身の体の調子を確認している。

準備は整ったと言わんばかりに、その体の背中、脊椎や背骨、肩甲骨の部分にて蒸気が噴出する。

蒸気…いやそんな生易しい物ではない、少しでもそれを吸えば、忽ち死に到る毒が全身を廻るだろう。





「ペドロディスラプション!!」





悪魔が口を開ける、その冥府への誘いは先の背中から噴出した量の比ではない。




デュナミスが辛うじて壁として召喚魔を呼び出すが、無駄だ。

放射線状にいたデュナミスと召喚魔全てを巻き込み、

その空間は灰色の毒霧に包まれた。








あとがき


でました大呪文ペドロディスラプション、

その姿を表現した“その体に染み付いた血~”とか全て想像です。

というか公式設定でもわからんのです。

ですので捏造しました。これ等の情報を知っている人はご一報下さい。






後最近、pvを始めて見ました。いつの間にか8万超えててビックリです。

たくさんの方が見ていてくれているようですね。感謝です。



[22577] №16「手加減」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/02 19:27

№16「手加減」





大魔法。

その威力は他の追随を許さず、魔法使い最高峰の業であり、

その高みに到達していない者達にとって、憧れと言っても過言ではない物。


それは世界を変えても同じ事で、魔法使いの一つの到達点であり、終着点である事に変化は無い。

さっきからグダグダと何が言いたいのかと言えば只一言、やり過ぎた。










ペドロディスラプションの毒霧で覆った空間が今まさに晴れるが、

そこに存在する全てのモノは、その形を維持する為に構成されるモノが圧倒的に足りていない。

召喚魔やデュナミスの体は所々が焼け爛れ、異臭が辺りに経ち込める。

これがやりすぎでないと言うのなら、この惨状を何と言えばいい。

そしてこれで死んでいない筈が無い。

記憶を見る予定だったのだが、これでは期待した結果は得られない。

そうなれば尚の事、他の奴らから記憶を見なければ…。

――魔力探知!

どこだ…どこかに生きている敵はいないのか?

まさか……全滅?

いやまだある!

これはナギとアル二人の魔力と一番目の物か?しかし不味いな…これはもう終わる。



とりあえずデュナミスは倒す事に成功した、これ以上欲張る必要は無いのか?

むう…、ここは造物主に集中した方が良さそうだ。

しかし…失敗したわ。こんな事なら手加減しておけば良かった。







「見事…理不尽なまでの強さだ…。」

「黄昏の姫御子はどこだ?消える前に吐け」

「フ…フフフ、君はいまだに僕がすべての黒幕だと思っているのかい?」

「なん…だと…?」



「これで終わりか。…ここまで長かったな。」

「おう中々楽しめたが、もう仕舞いにしようや戦争なんてモンはよ。」

「ふむ、そうじゃの。」

「…アン、聞かせて頂きますよ、先程の件について。」

こいつら、もう気が抜けている…これで勝ったつもりか?

しかしゼクト、貴方も抜かり無いわね、全く怪我を負っていないじゃない。

ラカン達でさえ怪我や服がボロボロなのに、私達だけよ?無傷なの。

「何を言っているの貴方達?まだこれからよ。」

「アン?一体何を―」

ここからが本番、そうでしょ?ゼクト。

彼の方を向くと自然に私と彼の眼が合った、その眼は何の感慨も持たぬような空ろな瞳で、

それは人形のような眼差しに見えた。















―バスッ。






突如響いたその音は、気の抜けた彼らの意識を再び活性化させるには充分な音量であり、

目の前で倒れ行くナギの姿は彼らの警鐘を鳴らすにも充分だったようだ。

ナギと一番目は漆黒の魔法によって敵味方共々貫かれる。


…来た。





始まる、私にとって本当の戦争が。






「ナギィッ!!」






突然の奇襲に崩れ行くナギと一番目。一番目は腹を貫かれる重傷…本当に使い捨て扱いね。

詠春は真っ先にナギの元へ駆けつけるが、他の紅き翼のメンバー達は魔法の発生源に視線を向け、

遥か先、遠方の影に気がつく。

「誰だ!?」

「いかん!! 最強防護!!」

誰よりも先に、ゼクトが多重障壁を展開。

反射的にラカンも自らの気を高め、己が両手で全力の防御を行なうが…、


儚くもその防壁は軽々と破かれた。


やはり、これは…勝てない。

幾ら皆が傷ついていなくとも、例え全員で全力の紅き翼でも、戦力差は歴然。

一撃でコレなのだから。

私の眼前は死屍累々。天下の紅き翼がこのザマだ。

私は転移して避けた。来るのがわかっている攻撃など、回避するに越した事は無い。


「ぐっ、バカな…。」

ラカンが信じられないのも無理は無い。アレはバグキャラ所の騒ぎではない。

勝てない。と今この瞬間思っているのかしら。

「まさか…アレは…。」

アル、貴方はどこまで知っているの?私はイノチノシヘンで貴方の過去を見てみたいわ。


さあ、物語も終盤と言った所か?

だが私はこれからが本番だ。


ラスボスはさっさと倒して、次に行くとしよう。


それぞれの思いを胸に秘めたるその間に、影は消える。…追撃も無し。舐めているのか?

「待てコラ!てめえ!」

「任せな、ジャック。」

俺がやる。と立ち上がるナギだが…右肩付近を貫かれて血で真っ赤だ。

…利き腕、出血多量、致命傷では無い、だが戦闘には支障がでる。

見事な手加減だな…奇襲したのだから一思いに心臓を貫く事もできたはず。

造物主ほどの魔法使いが狙いを外すとも思えない。

「い、いけませんナギ!その身体では…。」

「そうよ。ナギ、貴方フラフラじゃない。」

私の口から思ってもない事がスラスラと出る。

まあ悪いようにはしない、貴方は最高の状態で戦いに臨めば良い。

「だからまずは治癒してからよ。キュア・プラムス。」

「おおサンキュ!アン。助かるぜ。」

「私達の傷まで癒してくれたのですか?…そんなことに魔力を使うよりもナギの傷を完治させて―」

「別に構わないわ、微々たる物だし。」

「アン、貴女は一体…。」

「……ワシも行くぞ、ナギ。」

貴方だけ傷が浅くなくてごめんなさいね。悪い事したわ。

わざわざそ頑張って仕上げたのにね。本当、無駄な努力ご苦労様。

「私も行くわ。」

「無茶です!それにたった三人では無理です!」

「ここで奴を止めなければ世界が滅びる。なら行くしか無いでしょう?」

「ナギ待て!奴はマズイ!奴は別物だ!

死ぬぞ!!ここは体制を立て直してだな…。」

「バーカ、んなコトしてたら間にあわねぇよ。

らしくねえなジャック。」


「俺は無敵の千の呪文の男だぜ?俺は勝つ!!任せとけ!!」


「貴方達は詠春の方をお願い、アル貴方が癒しておいて。」

わざと全員癒さず、数人残す。これでアル達に此処に残ってもらう理由ができた。



さあ、行こうか。




あとがき

リアルに忙しい。12月入ってもっと急がし忙しい。

更新はちゃんとやるように努力します。

正月は休みがあるのでその時にでもストックを増やすとします。



[22577] №17「離別」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/05 19:34
№17「離別」





塔の中に入ると、造物主は待ち兼ねたように語りかけてきた。

「…見事だ人間、その短き人の生で良くぞここまで辿り着いた。

その技、その力、その意志、その全てが常人とは掛け離れている。」

「ハッ!当たり前だ!俺は最強無敵の魔法使い、

“千の呪文の男”だからな!その他大勢と比べてんじゃねーぞ!」

「最強か…それは上々、素晴らしい。…どうだ?

貴様等、私と一緒に来ぬか?」

「なッ!」

ほほう、なるほどそう来たか…解り易いテンプレだな。

世界の半分でもくれるのかしら?

「この世界はもう滅ぶ、限界だ。これは変えられぬ運命であり、

この世界に残された道は消滅のみ。

私は最後を綺麗に終わらせたいだけなのだよ。この世界を終わらせ、新たな世界を創る。

今までの不完全な醜い世界ではなく、完全な美しい世界。

私の思い描く永遠に、貴様等を招待しようではないか。

ククク、悪い話では在るまい?

完全なる世界の原初なる人間!それが貴様等だ!」


…完全なる世界、“完全”か。

私の知る、完全と呼ばれる者達、即ち神々は、絶えず戦争を繰り返し、

仕舞いには自分達が蔑む対象であった人間達の世界にまで手を伸ばし、その世界を崩し、英雄を自分達の戦争の駒に変えた。

そんな世界に一度でも身を預けた私の意見としては、確かにその世界は美しく、そして欺瞞に満ちた世界だった。

同族では無いからと、他者を打ちのめし、



ある者は、無用な混乱を人間界に招き、レナスが死者の魂を集めやすくする為と、

自分が力を得る為に、人間界に安定をもたらす四宝を持ち去り、それが元で己が足を掬われる。



ある者は主神には絶対の忠誠を誓うが、神ゆえの傲慢さで人間達には全くの無慈悲、見向きもしない。

その主神が殺されれば、その場を離れずただ泣き崩れるだけ。


ある者は味方と敵対する神族との間に生まれ、それを理由にどちらの神族からも蔑まれ、

自らに根付いた怨念を日に日に募らせた。



そんな者達が完全?

…笑わせる。こんなモノが完全であるものか。



そして貴方の語る完全も同じニオイがする。

まるで他者の事を考えず、自らの都合の元に行動する。

それではまるで、何一つ変わらない。

完璧なまでに人のままだ。

完全を創ろうとする貴方が、そんな事では完全には程遠い。



…私も人の事など言えた物ではないが、私もその辺、まだ人間だという証明なのだろう。



「…俺は、俺はさ、難しい事はわかんねー。」

「ナギ?」

造物主の元に歩を進めるナギ、…やがて造物主の一歩前で歩みを止める。

「だがな、一つだけ聞かせろ。」

「…構わぬ。話せ。」

「お前はすげぇ魔法使いなんだろ?なのに、何でもう既に諦めてんだ?」

「諦めてなどいない。これが考え抜いた結論であり、変えられぬ運命、十全たる事実だ。」

「…そうかよ。」


造物主の話を聞いている間、私は彼の背中しか見えず、表情が読み取れない。

そのナギが、搾り出すように声を出す。

その声は震えており、いつものナギとは思えない、小さな声だ。


「さあ、決めたか?己が運命を。」

「あぁ、たった今決めた。」



…だが、蓋を開けてみれば、先程の弱弱しい声とは裏腹に、その声は揺るがぬ決意を秘めており、

此方から表情は伺えないが、きっとナギの目は燦爛と、ギラギラと輝いている事だろう。



ナギはナギなりに考えた、これが本当に正しいのか。

無い知恵振り絞って、絞り出して、一生懸命、考えたのだろう。

だけど貴方が、頭で考えて理解できる事なんて、驚く程少ないわ。

だから―



「それは―」






だからそれ以上、造物主の話は続かない。






「あああっ!!!!!」





ナギは自身の雄叫びと共に、造物主に綺麗な右アッパーカットをぶちかました。


そう、貴方は頭で考えるよりも先に、手が出る方が圧倒的に早い人だもの。




「ククッ、フフ、フフはは。

ははははははははははは!!!!!!

私を倒すか人間!それもよかろうッ!

私を倒し、英雄となれ!羊達の慰めともなろう!」

造物主は複数の、いや複数と言える数ではない。

その数は膨大であり、また巨大な魔方陣が奴の背後にそびえる。

…果てが見えないな。

「チッ、しぶてぇ奴だぜ。」

かなりの魔力を込めた奇襲で、近距離からの物理攻撃、障壁の防御にも限界がある。

それでも悪態を吐くのは大方、かなりの手応えでもあったのだろう。

それでも生きている造物主も化物か。奇襲でラスボスを倒そうなんて…。

汚い?せこい?…ふふふ、戦争に汚いもクソもないでしょう?

それに奇襲は造物主が先手で行なった。一回は一回だ。

「だがゆめ忘れるな

全てを満たす解はない

いずれ彼等にも絶望の帳が降りる。

貴様も、例外ではない!!」

その魔方陣から黒の閃光が瞬くが、ナギは自身の障壁で防ぎ、造物主に接近戦を仕掛ける。


私達の補助が、無いにも関らず。


…別に好きにすれば良い、私が存在する限り、貴方に負けは無いのだから。




「ケッ!

…グダ、グダ!うぅるせぇぇぇえッ!!

たとえ!明日が滅ぶと知ろうとも!」

そして終に、造物主の元まで辿り着いた。

拳にはナギの得意属性、雷の魔法が発生しているが、そんな魔法…使っていたか?

まあいいか、お蔭で私が手を出さずとも良いのなら、今後が楽に進められる。

私は絶えずゼクトを注視していれば良い。

「あきらめねぇのが人間ってモンだろうが!」

ナギの意識に共鳴するかの如く、ナギの愛用の杖がその形を変貌させて行く。

それはナギの雷を纏い、更に魔力が練られて尚、止まる事を知らず無尽蔵に増え続ける。

流石公式チート。まさか最終決戦でパワーアップとは、ふふ。

本当に見てて飽きない、面白い人ね、貴方は。

「くっくく、貴様もいずれ私の語る永遠こそが、全ての魂を救いえる唯一の次善解と知るだろう。」

「人、間、を!」

「なめんじゃねえええええええええ!!」

ナギの叫びと共に、杖は造物主を貫き、消滅した。









「終わったの、か?…ハハハ、終わった、終わったぜ!なぁアン!お師匠!」

「何言ってるの?まだ黄昏の姫御子を助けていないでしょう?

儀式を完全に停止する。話はそれからよ。」









「その必要は無い。」

魔力反応!!――近距離後方!

咄嗟にナギを抱えてその場を離れると、そこは爆発に包まれた。

この魔法を放てる人物は、私とナギを除いて一人しか居らず、間違いなくさっきまで私の近くにいた少年風の男。


フィリウス・ゼクトその人しかいない。















「お師匠?」

「ククク…クハハハハハ!!!!」

ゼクトの高笑いと共にこの辺りに光と魔法力場が発生する。…これが始まりと終わりの魔法。

「もう遅い。世界を無に帰す儀式はたった今完成した。」

「お師匠、な、何言ってんだ?」

「ゼクト、貴方…。」

「武の英雄に未来を造ることはできぬ。貴様等には結局、何も変えられまいよ。

だが果して…自らに問うがよい。ヒトとは身を捨ててまで救うに足るものなのか?」




「人間は度し難い。英雄達よ、貴様等も我が2600年の絶望を知れ。……さらばだ。」



ゼクトの体がさらさらと風に消える。

「お師匠?……師匠……師匠ォおおおおお!!!」

ここまで、予想通り。さあこの旅もフィナーレだ。

「ナギ、貴方ならできる。」

「アン?」

「貴方は今までたくさんの人の運命を変えてきた。

そうして助けたヒトや倒したヒトが今の貴方の一因となっている。

そして貴方は曲り形にも世界を変えた、救った。

…ならば貴方の思う通りに動けばいい。きっとその先に希望がある。」

柄にも無いな…まあいいか。

まあ面白いモノを見せてくれたお礼だ。

今までの分も込めて、中々楽しかった。楽しませてもらった。

「…アンまで一体何言ってんだよ!!」

「私の言ったように、貴方は“世界最強の魔法使い”に成れた。

その強さを、貴方の強さを、それさえ忘れなければいい。神様はね、強い者の味方なのよ。」

ウェスティーゲム、追跡魔法符発動。

「それじゃあね。ナギ。」

そしてナギの何か焦ったような表情は、普段とは違う顔は、いつかのあの日を思い出させた。

それは私を笑わせるには充分なモノで、思わず、満面の笑みで笑って、行った。
















「ほう?誰かと思えば…良いのか?」

「何の事かしら?」

ここは…そう遠く無いのか?近くに墓守り人の宮殿が見える。







「奴等と別れは済ましたのかと聞いている。」

立ち上る魔力流。今までのゼクトは全力では無いと思っていたが、中々じゃないか。

「私も皆と別れを済まして来た訳じゃないけれど。別に構わないわ。」

だが、本気でないのは私も同じ。

本当に久しぶりだ。ここまで緊張し、空気の張り詰めた戦闘も。

「どうせまた会えるし。」

私からも魔力流が立ち上る、その魔力は今までの比ではない。

互いの猛然たる魔力の胎動が、周囲に魔力の渦を形成し、天然の牢獄と化した。

先程までの風景は一変し、まさに今、この戦いに相応しい舞台と相成った。



今、此処で全てが終わり、始まる。


あとがき

ナギの見せ場で、オリ主、まさかの見学というテンプレ回。

このあとが大事なので、戦力温存。という事にしておいてください。






[22577] №18「高慢な神、優しい人」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/18 18:47
№18「高慢な神、優しい人」


魔力が緩やかな減少傾向にある魔法世界。

その世界で一人の創造主は苦悩す。

行く星霜、思慮を深めるも、失われる魔力を止める術はなく。

只、一人苦悩す。

傍に頼れる者も居らず。

かつての仲間も一人も居らず。

只、一人苦悩す。

失われる世界で、一人苦悩す。


「この世界はあなたと同じね。」

「……。」

「あなたは失う事しかできない寂しい人。この世界もあなたらしくてお似合いだわ。」

「何が言いたい。」

「あなたは諦めた、この世界の存続を、未来を。

その力、諦めた者が持つには相応しくないと思わない?」

「従え、とでも言うのか?」

「いいえ、あなたは持っているはずよ、この世界の鍵を。」

「…断る。」

「ふふ、ありがとう、充分だわ。あなたが持っているという事の確信が持てた。後は――」

「クク、クハハ!!この世界の利権を、鍵を賭けて、戦うか?」

「それも良いわね。勿論拒否権はないわよ?…後、あなたに聞きたい事があるの。」

「…手短に話せ。」

「話とは先程の事よ。あなたは反魔法力場が発生した時に魔法を使用した。」

「それがどうした。」

「自分で言っていてわからないの?私達は魔法無効化能力でも持っていなければ魔法を発動できない所にいた。

それでも魔法を発動できたという事は、あなたは無効化能力を持っているという証明に他ならない。」

「……少し考えればわかる。貴様はどうやって来た?答えはそれと同じだ。」

「転移魔法符を使ったようには見えなかったわね。しかも対抗呪文術式を施した、特注品。」

「……方法など幾らでもある。それにそんな話、今は関係なかろう。」

…まあ他にも、聞きたい事はたくさんあるが。後にするとしよう。

「……まあ良い、私も貴様に聞きたい事が在る。」

「何かしら?」

「貴様も理解していたのであろう?この世界の崩壊を。…ならば何故、今までその力を隠していた?

その力や魔法具…その神に相応しい力を持ってして、何故我々に敵対した?何故協力しない?」

「ふむ…。一つ、私は神ではない、二つ、この世界は造物主達が創りし物、彼等が責任を持つべき、そして三つ…。」



「私の知った事ではないわ。」



「…そうか、こちらも充分だ、納得した。」

「納得?」

「貴様が…貴様こそが!我が絶望を身を持って知るべき存在なのだ!

私の2600年の苦しみ、この苦悩を救済すべき存在が、己が人生を呪わざる得なかった運命が!


――貴様だ!」




「私が何度、神を呪ったと思っている!!」




「だから、私は神では無いと言っているでしょう?」

「同じ事、救える物を救わぬのだからな。」

「救えるとも言っていない。

…でもあなたって優しいのね。」

「…なんだと?」

「私があなたの立場だったら、多分、見捨てていたわ。

こんな面倒なマネしないで、私の手を離れた時点でね。」

それにあなた、やはりナギとの戦闘でも手加減していたわね?

ラカンとゼクトの防御を軽々と超えて来るのに、ナギの障壁を破けないのは在り得ないでしょ?

それはラカン達を幻影と認識している為。そしてナギと詠春に対して殺す事は躊躇った。

だからあの時、ゼクトは真っ先に最大防御した。現実世界の“人間”を殺さない為の盾となって。

「その高慢な考え方が“神”だと言うのだ!」

「はいはい、…だから責任感のある優しい“人”なのよ。最後まで見捨てられない。」


「もうよい、行くぞ。」

「いつでも。」


まぁもう勝負は付いているのだがな。

此処まで直隠しにしていた魔法、

ある意味これも、魔法使い殺しとして命名してもいいだろう。





「プリベント・ソーサリー」




「?? 何をした…なっ!?」

「盛り上がってた所、申し訳ないのだけれど…あなたの負けよ。」

障壁さえ展開できないか。流石は敵の魔法を封じる力を持つ魔法なだけはある。

ゼクトが無効化能力を有している可能性も視野に入れていたが、問題無い。

魔法無効化能力は魔法使いの天敵、絶対不利と思っている魔法使いが多いようだが、

あれは“自身を対象とした、害意ある魔法を無効化する能力”だ。

プリベントソーサリーは敵全体に作用する。つまり空間自体に作用する、空間系魔法。

ゆえに敵が一人であろうと関係は無く、無効化はできない……みたいだな。

理論では証明したが、所詮、机上の空論。

これが成功しなければ私の負け。これまでの旅は儚い泡と化す…が、無事成功したようだ。


「…貴様ッ!これの何処が勝負だ!!何処まで私を虚仮にすれば気が済むッ!!」

「だから御門違いよ、あなたはあなたの無力を呪うべきだわ。」

「!! おのれぇぇ!」

「ふふ、準備は良いかしら?

バーン・ストーム!」

「グッ、まだだ、私は…。」

「魔法障壁が無いくらいで此処まで弱まるとは…、あなたの絶望とはその程度なの?」

「黙れ…黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!」

「そうやって何時までも世界を呪っていなさい。ポイズン・ブロウ。」

「ぐああ!!」

「さて…次は何が良いかしら?」

「…ク、ククク、容赦ないな、この体は貴様の師ではなかったのか?」

「それはそれ。これはこれ。あなたはゼクトであり、赤の他人でもある。ならば容赦など不要でしょ?」

「……殺せ。」

「殺す?なぜ?あなたはまだ賞品を差し出していないわよ?

渡してもらうわ。あなたの持つこの世界の鍵を。」

「…アレを?フ、フハハハハ!!」

「…何が可笑しい。」

「無駄だ、渡しもしなければ、あれの使い方など誰が教えるものか。」

「そう、なら、自ら渡したくなるようにしてあげる。」

「……。」

「強制的に記憶を見てもいいのだけれど、先程の続き、もう少しお話をしましょうか。」

「……さっさとしろ。」

「造物主率いる、完全なる世界は完全魔法無効化能力を保持していない。

それでも世界を無に帰す儀式に黄昏の姫御子の力を利用した。

造物主という大層な肩書きを持ってしてもそれは必要であり、無くてはならないモノ。

これがどういう事か、解るかしら?」



それでも造物主はアスナの事を末裔と呼んだ、これは私が自ら聞いた訳ではなく原作知識だが。



「何が言いたい…。」



「簡単な話よ、殆どの生命が後世に命を繋ぐには、繁殖するには……雌雄の番いが必要。

造物主がその力を持っていなくとも、造物主の番いとなる方はどうだったのかしら?

…確かあの広大な墓は初代女王のアマテルの物、その女性は創造神の娘として奉られているのよね?

そしてアスナとアリカも程度は違えど、魔法無効化能力を持つ女の子。

初代“女王”も勿論女性よね?

私の知る限り、女性しか魔法無効化能力を発現していない、ならば…。

その大元となる女性が造物主の番いだったのではないの?

始まり……造物主と、終わり……完全魔法無効化能力者。世界の始まりと終わりの魔法。

中々よく出来てるわ。宛ら造物主の相方は“終わりの魔法使い”って所かしらね?」


そうでなければ、ネギにも王家の魔力として、無効化能力は発現している筈。親子揃って公式チートなのだからそれはありえる話だ。

…そしてその希少な能力の為にアスナは生き永らえた。精神を崩壊しかねない程の仕打ちと、悠久の時間というオマケ付きで。




「ククッ、悲しいかな、矛盾しているぞ?貴様はこの体、ゼクトを魔法無効化能力者と疑っていたではないか。」

「…では、単刀直入に聞くわ。ゼクト、あなたは“女”なの?」

「……ふっ、この体が見えんのか?何を馬鹿な事を…何を根拠に―」

「まず、見た目は魔法でどうにでもなる。高度な年齢詐称の魔法も、とある吸血鬼が確立していたわ。

そしてゼクトの今までの話し方。

ゼクトはテオドラ皇女やアリカ姫と同じ、まるで王族のような話し方だった。

一人称は変えていたようだけど、そこまでは変えられなかったようね。」

「……。この体、ゼクトと言ったか?見た目にはわからぬがこれはかなりの高齢だ、自然とそうなったに過ぎない。」

「…それもそうね。これも今は関係の無い話……後でじっくり調べさせてもらうわ。

そして何故、アジトである墓守り人の宮殿で世界を終わらせる魔法を使おうと決意したの?

そこしか場所が無かったから?元々墓守という役職についていたから?

アジトがたまたまそこで、都合が良かった?

違うでしょ…あなたはそこにある物を秘匿したかった。それも自分の目の届く範囲で。例えば―」

「例えそうだとしても、私にはもう関係の無い話だ。

…最早私に言葉は届かん。さっさとしろ。」

「あなたが死んだ後、秘密を探る為にアジトを、墓を暴く。それでも?」

「……私の意志に変わりは無い。それにアレが無ければこの世界を救う事は不可能だ。」

「そう…でも案外誰かがあっさり救うかも知れないわよ?」

「戯言を…。今度は貴様が知ればいい、私の絶望を。」

「……絶望ね、まあいいわ。」

マズイな…これで心は折れると思っていたが…。

とりあえずこいつは戦闘不能にしておいて、改めて記憶を見るなり、

こいつの目の前で墓を暴くなりして揺さぶるとしよう。



「バーン・ストーム」


































――??

発動、しない?

…まさか!!此処まで魔力消失現象が及んでいるとでも!?





「クククク…。」

「……。」

不味い…。

「ハハハハハハ!!!形勢は互角、否、逆転だな。あの魔法も永続的に働く訳では在るまい。」

「今、剣で止めをさせばいい。」

「それも又不可能。」

「何を―!!」

彼のその手に光が集まり、私が夢にまで欲した、この世界の鍵が顕現する。

「“造物主の掟”。さっきの魔法は魔法を封じる物のようだな。」

「……。」

「アーティファクトの能力までは封じ得ない。」

ご明察、伊達に二千年以上も生きていないか。







「ククク、フハハハハハハハハハ!!!!」


「クック。さらばだ、高慢なる神よ。」










…諦めるな。まだ手はある。

「魔力よ!!」

閃槍クリムゾン・エッジを取り出し魔力変換に当てる、この魔力消失現象で唯一の魔法行使の方法は、

自ら魔力を作り出すしかない!

時間がない、こうしている間にも魔力は消え続けている。


「ほう…その力。それがあれば確かに、この世界を救うなどと豪語できるな。」

「失う事しかできないあなたには到底辿り着けない境地ね。」

「ほざけ、貴様のその力、対価が無ければ発動できまい?ククク、何時まで持つかな?」

「……。」

チッ!気づかれている。今の閃槍クリムゾン・エッジのストックは10数本程。

約オリハルコン1個分だ…。

「バーン・ストーム!」

この魔力が何時まで続くかわからない…。

保険は用意しているが…ここで使う訳にはいかない。

それに、この程度で諦めるには早い。

「…素晴らしい力だ、素晴らしいが、貴様は存在してはならない。」

「あなたも同じよ。人には人の生命の期限がある。」

「ならばこの世界もその期限に来ているという事に過ぎぬ。

…戯れもこれまで。今度は此方の番だぞ?神よ。」

「…ゼクト、あなたは最初からそうだったの?」

「その通り。ゼクトなどという人間は元よりおらぬ。」

「そう…これで本気で、心おきなく戦えるわ。」

「…手加減していたとでも?」

まだ手はあるのさ、此方にも。

「アデアット。」

「……。」

「八百万の錬鉄鋼。」

魔力を節約するには、近接攻撃が望ましい。使える物は藁でも使う。

此処まで来て諦めて堪るものか。

「それが貴様の切り札か?クハハハハ!!

今この時に、そんな不毛な物を出してくるとはな!!」

「失礼ね、無いよりはマシでしょ。」

「今にわかる、この状況でそれが如何に無力か。」



















「はあ、はあ。」

「無駄だ、この状況で私を倒す事は不可能だ。

光栄に思え。貴様の欲したこの力で消滅させてやる。」

「……。」

魔力は消失し、魔法も満足に使えない制限された空間。

それはこの場で、私のみに作用する。

今、戦況は完全に逆転した。

「分かったか?貴様に勝ち目がない事が。」

「まだよ…。魔力よ!」

これで何本目だ?もうかなりの時間が経っている。

後少ないはずだ。…それより、いつになったら反転術式は発動する!?

原作ではその描写は端折っていたから、正確な時間などわからない。これは早めに勝負をつけないと…負ける。

「…粘る。魔力消失現象でここまで戦えるとは…賞賛に値するな。」

「なら、諦めてくれない?」

「それはできぬ。」

「あっそ。」

…こいつ、明らかに時間稼ぎしている。

それもそうだ、あいつは此方が力尽きるのを待てばいいのだからな。

長引けば不利なのは百も承知。

「今度は避けきれぬぞ?」

「!!」

この攻撃は!フェイトがラカンに向けて撃った杭か!?

しかも私を囲うように配置されている…全方位攻撃。

「錬鉄鋼!防御――」

「無駄だ。」

その言葉通り、杭はあっさりと錬鉄鋼の障壁を打ち破る。

こいつ、私には手加減無しか。転移で避けるも、転移は膨大な魔力を喰う。

攻撃にも防御にも魔法を使うしかない。

本当に無駄じゃないか…、このアーティファクト。

「分かったか?私は貴様に慈悲など与えぬぞ?」

「……。」

なんとか打開策を…



!?



もうこれで最後!?

「どうした?魔力でも切れたか?」

「まだよ!!」

時間が無い、これで決める!

グラムで攻勢に出る、片手で扱う分、手数不足の攻撃だが、グラムから発せられる魔力は尋常ではない。

こいつがこの現象の発生する前に言っていた“魔法具”とはグラムの事だろう。

こいつがこの剣に何かある…と必要以上に警戒してくれれば……

回避できるにも関らず、自ずと………造物主の掟で受けとめる!!

ッッここ!

狙うは鍵の突端、くの字になっている先端部分に標準を合わせ、思いっきり弾く!

私の技量だけでは、力が及ばないかも知れない、ゆえに最善を尽くす!

スキル、チャージ!!少しの体力を消費して通常攻撃力が膨れ上がるスキルだ。

弱点はこれを使った後、連撃は出来ないという点のみ。手数よりもその場の瞬発力を重視したスキルだ。

原作では使えないスキルだったが、こんな形でお世話になるとは。まあそのお陰で…。


ガキッ!と鈍い音をたてて造物主の掟はあらぬ方向に飛んでいく。


こうしてチャンスに巡り会えたのだから、文句など無い。




「汝、その諷意なる封印の中で安息を得るだろう。
   
永遠に儚く。 

セレスティアルスター!!」






最強大魔法セレスティアルスター。

突如、無数に光り輝く天使の羽が辺りを舞う。

空に浮かぶ羽は空中を舞った後、上空に複数の円を描く。

それは下から見上げると天使の輪を彷彿とさせ、次第に魔力を高めるそれから、

極大の光の砲撃を何発も打ち込んでいく。

これで倒れてくれよ…。

























「無駄だ。」



「…無駄ですって?これでも本気の一撃なのだけど?」

「気づいていないのか?貴様の魔法は威力が減退している事に。

この空間でこれだけの威力を放つ魔法を発動できる事に驚嘆こそするが、それまでだ。

私の元に到達する時点で本来の威力は失われている。」


「……。」


気をつけていれば、こんな初歩的なミスしなかった…。

結局、目の前の物に執着し過ぎたって事?


「もうよかろう。」




「分かったか?勝ち目がない事が。」




















あとがき


という訳でEXラウンド。




この戦いには独自設定が含まれますのでご容赦を。



補足的な何か。

アマテルについては議論が交わされているようですが、わかっている事は


オスティアの初代女王。
創造神の娘という逸話。
墓守り人の宮殿は初代女王のお墓。

という三点のみ、なのでほぼ独自設定です。


造物主は完全無効化能力を所持していない事は確実でしょう。でなければ

手下の人形であるフェイト達にも少なからずその恩恵を与えるはず。

世界を無に帰す儀式を黄昏の姫御子の力を必要とせず、自身の力で発動できる。

ナギの魔法を弾かない。これは演技の可能性とかは無いでしょう。悪意ある魔法は自動無効化する物ですから。

その他考えられる物はあるでしょうが、一応以上の理由です。

そうなると謎なのが無効化能力。

そこで考えられるのが、“女性”という事。アリカ、アスナ、アマテルは女性ですので、そのような独自設定です。

アマテルに関しては創造神の娘=創造主の力=造物主の掟と同じ?といった推測です。

造物主の掟。これは“創造主”の力を使える。

この作中での考察にあったように、無効化能力を使った物だと考えられます。






そして、アリカの魔法無効化能力所持?という点については

消失現象の中でも「自分の魔法なら問題ない」と言う発現。

ここで考えられるのは、

対抗呪文仕様の飛行船が飛べるように、無効化能力がそのような働きをしている。

もしくは、

アリカ自身が魔力を発生しているという可能性ですが、

まず、クーデターがあった時を思い出すと、

「私の魔法は役に立つぞ?」というアリカの発言です。

これは自身が魔力を発生しているというよりも、魔法を弾くと考えたほうが適切かと思います。



ナギをボッコボコにしてやんよっ!て感じで平手でぶっ飛ばしていますから、少なからず障壁を無効化しているのでしょう。

ナギはそれを「王家の魔力」と呼んでいましたから、アリカ特有のものだと判断できます。




これらは全て、推測です。明らかになっていない所も踏み込んで話を作っていますので

作者自身、矛盾している所を見逃しているかも知れません。それは違うと言う方はすいませんがご一報下さい。

これらは話がわかりしだい改訂したいと思います。

わからない所に踏み込むのは本意ではないのですが、こればかりは仕方ありません。






[22577] №19「不完全なる世界」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/11 14:12

№19「不完全なる世界」



避ける、避ける。

漆黒の魔法の杭。それは無限の弾丸となって放たれ、空気を切り裂く音と共に、私の元へと殺到する。

迫り来る漆黒の群れに抗う手段を、私は持ち合わせていなかった。

剣で弾くも限界がある。初めから無理のある需要と供給に、綻びが生じるのに然程時間は掛からなかった。

熟練者による巧みな追い込みに、成す術もなく、

私の身体に杭が貫いていくのを、ただ私は傍観していた。








そして私の幻影は消失した。








「ククク、何時まで逃げるつもりだ?」

「…さあ?事態が好転するまでじゃない?」

スキルによる幻影も、回数を重ねれば徐徐に見破られ、一目で看破されるのも時間の問題だろう。

時間を稼げば、反転封印術式を展開してくれるはず…。

早くしてくれ、アリカ姫。

「無駄だ、幾らこの魔法を止めようとも、失われた魔力までは復元されない。

魔力を生み出す事が出来なくなった貴様に最早勝機は無い。諦めろ。」

「……」

こんな所で終わり?

生き延びるだけなら、保険はある。だがしかし

此処で使って良い物じゃない。

それに諦める?こいつみたいにか?

頑張ったけど、自分で自分を見限って、勝手に諦めて、

いつか諦めるのが普通になって、

そこにある、身近な奇跡に見向きもしなくなるのか?





これまで

正しい生き方をしていたとは胸を張って言えない。







でもな、

訳のわからない状況から、少ない手札使って、脳味噌捻って、神など頼らず、自らの手で此処まで来た。







だから、


だからまだ何かあるはずだ、簡単に諦めていいモノじゃない。





それに、

帰る場所も捨てた。仲間も捨てた。英雄なんて立場など、最初から望んでいない。

私に必要な物は眼前の鍵のみ。

これがあれば、私は類稀な力を得る。

あの美しい女神のような、世界を創る力を。






…力が、圧倒的な力が、欲しい。

神でさえ凌駕する力が。









―ほうっ。







なんだ?これは世界樹の木?

そういえばこんな物あったな、あの時無駄だと思ったけど、何故か捨てられなかった、この棒。

世界樹の柄、か。世界樹…そういえばアルが何か言っていた――









――北欧神話を調べているのですか?

――ふむふむ、オーディンですか、彼に興味あるのですか、

アンはオジサン趣味なので…いえなんでもありません。

――何か面白い話?そうですね~、ある事はあるのですが、一つお願いが…いえなんでもありません。


――コホンッ!…では、お話しましょう。


――グングニルは何で出来ているか知っていますか?

――イーヴァルディの息子達が練成し、創られた三つの神器の内、その中の一つがグングニルです。

その材料となった物、それが、




























―トネリコ、つまり世界樹だそうですよ。

















!!!!!!



できる!この状況を打破する事が、今の私には、まだやれる事がある!!

ありがとうアル、貴方のお陰で何とかなりそう。




「終わりだ、目障りな神よ。」

「終わり?違うわ、今から始まるのよ、」

「何の事だ?何を言っている。」

「この世界が、よ。」

「気でも違えたか…。」




「八百万の錬鉄鋼!!」




――結局、創られているのは柄の部分までなのですが、穂先は分からずじまい、語られる事はありませんでした。




穂先の金属は分からない。でも私には充分。








世界樹の柄。

八百万の錬鉄鋼。


これ等を組み合わせればできるはず。






私は知っている、

グングニルの形を、重さを、長さを、全てを。

その造型を、後は、思い出すだけだ。あの形を、








VP世界のグングニルを。











錬鉄鋼が変化する。

まるでそう在るべきだったかのように。

今まで思い浮かべた、全ての存在より

早く、正確に、確実に。



―カチリ。



自身の手中で、何かが噛合う音が響いた。

それが何の音か、私にはわからないが、

これが手元にある事。そして、これだけは納得できた。




これは紛れもなく、記憶にある、それそのものだと。









「何だ…これは……。」

「この力……。」

私は何もしていない。

だが、この立ち上る魔力流は何だ?

常時、大魔法を展開しているような、膨大な魔力を垂れ流している…。

出力が違いすぎる!VP世界ではこんな事は無かった。

こんな事では直ぐに枯渇して…

いや、この槍から感じられる魔力は、

私でも底が知れない、深淵そのもの…

しかしこれなら、この魔力消失現象の中でも…



勝てる!!




「…まさか、消失現象を上回る魔力放出だと?」

「貴方の負けよ。」

「…認めろというのか!こんな馬鹿げた話を!私の2600年を、こんな簡単に覆させて堪るものか!!」

「…2600年、確かに途方も無い時間だけれど、その中であなたは変われたの?成長できたの?

あなたは一人だった。隣に誰がいようとも、心は常に一人だったんじゃないの?

あなたは一人だった。独りに慣れてしまった、そこにあと一人でも、自分とは違う、同じような誰かがいれば、

世界はいつでも、それこそ簡単に答えを返してくれたはずよ?」




「…ふざけるなああああああああああ!!!」




全力の砲撃、あの時、紅き翼を壊滅まで追い込んだ砲撃だ、勿論手加減などないだろう。


「…可哀相な人。」





だが、今この場で、

いや、この世界の人間で

私に勝つ事は不可能だ。






「―――は、は、はははははは!!

消え去ったか!忌々しい神よ!!

至極、当然だ!私は!始まりの魔法使い、造物主なのだからな!」








「無駄よ、今の私には全てに勝る力がある。」







「な、なぜ。」

「何故、無傷か?…それが私とあなたの力の差よ。」








「……ふ、ふははは。


何故だッ!!


この世界の人間など幻に過ぎぬ!私の生み出した、一瞬の幻影に過ぎぬ!

世界を手に入れてどうする!幻影でさえ人間は度し難い、愚かで醜い存在だ!

私が管理しなければ、結局はまた世界の破滅を齎すだけだ!!何故それがわからん!!」




「違うわ…とでも言って欲しいの?」

「…なんだと?」

「確かに人間は愚かで醜くて、自分の為に動く事しか考えない者達で溢れている。

“それが”人間よ、あなたは大前提で間違えている。人が善人ばかりなのであれば、世界はもっと美しいわ。」

「……そんな、馬鹿な。」

「いつも通り、世界は残酷で、誰も助けに来ないけれど、

偶に美しいから、それが際立つだけ。あなたは綺麗であろうとし過ぎたの。」


「……。」


「…それでも、そんな人達でも、人は変われる、成長できる。

それは生まれながらに完璧な、神には無い力よ。

神のように完全ではなく、人のように不完全でも成長できる世界を、あなたは創れるのでは?」

「…今さら、信じろと、改めろというのか!神である貴様に諭されて!人の力など結局は無力だと、

貴様の力でたった今、証明されただけではないか!!」



聞く耳持たず…か。



「…あなたは本当に可哀相な人ね、誰にも頼れず、誰かに救いを求める訳にもいかず、

その魂を磨り減らして行った。その魂、もう既に限界を超えているわ。」



グングニルに光が灯る。青白い魔力光は私の背中に一対の翼を形成し、空へと体を浮かす。

両翼から溢れる出る魔力は、グングニルに纏わり、その形を変貌させる。

槍は魔力により、その形状に沿ってはいるが、より長く、より巨大に姿を変え、

身の丈以上となったその槍は、更に青白い魔力光を穂先より発し、鳥のような形を象る。

その魔力量は、周辺の魔力消失を完全無視、それどころか、失われた魔力を補完するには充分すぎる魔力。


「私にはこうする事しかできないけれど、この世に留まり続けて、苦しみ続けるのはもうやめにしたら?」

「……」

じゃあね、ゼクト。






「ニーベルン・ヴァレスティ」







光を放つグングニルに、辺りは眩い光に包まれる。

それは魂さえも浄化させ、霊柩無き者をただ滅する、神々しい光。

…魂か。

視界を白く染めるこの魔力光が、もしも魂の色ならば、

私には似ても似つかない物だと、ふと思わせた。
















あとがき


勝った!完!!

てなりそうな終わり方ですが、これで終わりではありません。あしからず。

戦争編は一段落です。これからは戦争編エピローグと空白期ですが、外伝が増えるかもです。



[22577] №20「終わり、始まり。」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/15 17:55







№20「終わり、始まり。」




槍が私の手に戻ってくる。魔力は垂れ流したまま、翼も展開したままだ。

この姿を見た者は皆、口を揃えて言うだろう。

―天使だと。

これでは弁解のしようがない。私が信仰の対象になるなど、冗談ではない。

…それよりも―

辺りに霧散していた魔力光、白い光が晴れると、そこには何も存在していない。

おかしい…

デュナミスの件でやりすぎには充分注意して、死体が残る程度には加減したのに…

死体になれば、人間だろうと人形だろうと、私の魔法かユニオンプラムで生き返らせれる。

魂が無くなろうと、肉体に宿った記憶は消えない。ジェラードと私の、この身で、魂で、証明した事だ。

脳という記憶媒体があれば、鍵の使い方も十分、理解できるはず。

それゆえのニーベルン・ヴァレスティだったのだが…

これは、逃げられた?憤怒と言っても過言ではない態度を示していたにも拘らずか?

死んだのか…逃げたのか。どちらも腑に落ちない。









―恐ろしい力だな。

念話、この声は……数秒前の疑問は簡単に払拭されたわね。

「あれだけ大口を叩いておいて、逃げるとはね、思いもよらなかったわ。」

魔力探査……無理か、範囲外に逃げられた。

―貴様の力、その魔力があれば、この世界の消滅も防げるはずだ。

…考え直せ、貴様が力を貸せば、全てが丸く収まる。

「しかし、私とこれは使い潰される。」

―貴様だけの犠牲で救えるのならば僥倖。それが最善ではないか。

「あなた達には、ね。犠牲になる者がいる限り、最善など語るべきではないわ。」

―考えを改めるつもりは無いのか?

「くどいわね…あなた達の為にこの世界に永久に囚われ、

この世界の民によって無尽蔵に使われ、失われる魔力を、永遠に供給しろと?」

―それが、貴様等の仕事だろう?神ならば迷える子羊を救うのが使命ではないか。

「仕事…使命、ね。……ふ、ふふ、あははははは!!」

―何がおかしい?

「ふふ…何が、ですって?おかしいわよ、その考え方がね。

神が人間に、そんな感情を持ち合わせているとでも?

神は人に対して、残酷なまでに無慈悲よ。高慢、あなたも先程言っていた、それそのもの。」

―……貴様の意志は与した。

だが、私の次善策よりもより良い最善策が現れたのだ。私は貴様を、貴様の力を必ず手にしてみせる。

「そう…あなたも、何かを求めるならば、それ相応の対価を用意する事ね。」

―肝に銘じておこう。



気配が…消えた。



…互いに究極とも言える魔法具を賭け、相対する。

実力差はあるが、私もこのグングニルも完璧に制御できているとは言い難い。

絡め手で来られたら、足を掬われる可能性は大。彼等も最早、形振り構っていられないだろう。

彼等の力は底が知れない。強力なアーティファクトをどれだけ所持しているのかも不明、

そして組織という物は総じて厄介な物だ。

何より多対一は分が悪い。単体、複数ならまだ良いが、軍は難しいだろう。

軍による攻撃に一人で応戦するなど、馬鹿のする事だ。三十六計逃げるに如かず。

完全なる世界が私に全戦力投入など、考えたくも無い。

私は奴等を相手にせず、頑張ってタカミチやクルトに数を減らしてもらおう。

とりあえず、神を凌駕する力は手に入れた。無理に鍵を手に入れる必要は無い…か?

…保留だな。焦る必要は無い。今は情勢を把握するのが第一。

後、残った懸念事項は……グールパウダーか。


そして…


「漸く反転術式が起動した…もしかして、私達の戦闘が収まるのを待っていた?」

ありえる…ここまで魔力消失現象が到達していたから、可能性は高い。

私達の戦闘が遅延させる原因だったとは…自業自得だな。

「ま、結果的にオスティアは落ちないわ。これでお相子よ?アリカ姫。」

失われた魔力は私が補完したから…オスティアは落ちないでしょう。多分。

オスティアが落ちなければ、アリカは投獄されないのだろうか?

一応自国民を危険に晒したのだから、投獄されるのも当然と言えば当然。

その他にも国際的な奴隷公認法など通したから…

…殆ど変わらないか、事件が未遂となり難民は出なかった。

しかし、救われた者達は自らの身に起きた奇跡に、感謝もしない。

本当は死ぬ運命だったはずの、3%の救われた民は、国が落ちた未来など知らぬまま、

戦争の指導者を罰するだけだ。

父王を殺し、死の首輪法を通し、既に多くの非難を受けていた、王と言う名の生贄を。

更に敵の本拠地を自分の国に抱え込んでいた。……元より、アリカの死刑は免れない運命か。

皮肉な物ね。王が助けた民達が、その王の首を刎ねる。


まぁこれもあくまで推測。これからどうなるか、私にだって先は読めない。

これからを考えるのもいいが、

反転術式の遅延原因となった場所に、これ以上留まるのはマズイかな…転移するか。

移送方陣展開、場所は…とりあえず人目の付かない所…あの掘っ立て小屋でいいか。

「アンジェラ!――」

誰かに、声を掛けられた。私の名を呼ぶその声は耳に覚えが有る。

世界を救う為に自らの国を滅ぼした、災厄の魔女。

ナギの妻、ネギの母となる人物。

振り向けば、アリカ姫がいた。

此処に居てもいいの?総司令でしょ?貴女。

「待て!お主は――」


何か言いたい事でもあるのか、わざわざ御身で私を止めようと駆けつけた。

しかし展開した移送方陣は止まらない、止めない。

私は貴女に話す事など何も無い。

貴女に感謝される為にやった訳ではない。失われる命を、国を、救うつもりなどさらさら無かった。

貴女に罵倒される趣味も無い。色々黙っていた事に腹を立てているのか?いつかの平手打ちはもうゴメンだ。

だから、さようなら、災厄の魔女。

貴女がそう呼ばれるか、これからの貴女次第だけれど。












「誰か…居るはずないわよね。」

タルシス大陸極西部オリンポス山、紅き翼隠れ家。

アリカとナギが騎士の契約を交した、名シーンのあった隠れ家だ。

数ある秘密基地の中で、ここを選んだ理由は特に無い。

ただ単にオスティアから離れているからだ。

これからの方向性を考える為に、静かな場所と時間が欲しかった。

紅き翼のメンバーはオスティアでの停戦記念の式典に出席しているはず。

ここを知っている誰かが来るような事はないだろう。


「いえ、お邪魔していますよ?」

「!!」

しかし、私達の…いや、紅き翼の隠れ家には既に、招かれざる客が鎮座していた。

「勝手に家に上がるのは聊か失礼かと思いましたが、宿主が居ませんでしたから。」

その男はフードを目深に被った、顔の見えない不気味な男。

あのグールパウダーを生成していた男だ。

「……何か用?一戦やりに来たのなら、後日、日を改めてくれるかしら?」

「そんなに無碍に扱わないで下さいよ、つれないですね。私と貴女の仲でしょう?」

私と貴女の仲、仲…?

………ま、さか。

「お久しぶりです。」

男がフードを捲る。そこには、

私の失伝魔法の師匠であり、この身体の製作者であり、

稀代の錬金術士と死霊術士でもある。

レザード・ヴァレスがそこにいた。













あとがき




短い…申し訳ないです。殺人的なかそk…忙しさで。

という訳で、死霊術士はレザードさんです。

世界を超える力を持っているのは、彼くらいなのでわかる人にはわかったかも知れませんね。

とりあえず何故敵側にいたのか、何故グールパウダーを使ったなど、疑問は次回!



[22577] №21「長居」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/19 22:24





№21「長居」





馬鹿な…レザードがこの場にいるはず無い!

レナスを死ぬ程愛しているこの男が、レナスのいない世界に来る理由など、何一つ無い。

何故此処に?いや…この世界に?


考えられるのは…これか?


「彼女に振られたから、この世界に来たの?傷心旅行にしては随分遠出したのね。」

「…違います。久しぶりに会ったと思えば…いきなりですね。相変わらずのようで安心しました。」

「安心?何の事よ。」

「いえ、ククク、貴女が、“癒しの童子”などと呼ばれていたので、頭でも打ったのかと心配しまして。」

「…貴方も相変わらずね。大体私だと知っていたのなら、連絡でもしなさいよ。」

「それは不可能でしょう?私は貴女達の敵、しかも怨敵なのですから。」

敵ね…その割には前線に出てこないし、戦争中に誰かが私と同じ魔法を使ったという報告は入っていない。

レザードが戦闘に参加していたなら、この戦争はもっと苦戦していた。

こいつ自ら動いたのはグールパウダーの配布くらい?

この男は積極的に完全なる世界の活動に加担していた訳ではなく、

完全なる世界では力を隠していた…と考えるのが妥当。

ならばあのグールパウダーは…

「貴方…もしかして。」

「はい、それで此方側に私がいることを知らせる為、グールパウダーを使用したのです。

グールパウダーが使われている事を知れば、貴女は間違いなく私の事を調べ、そしてその大元を探すでしょう?その為の物です。

勿論、完全なる世界に少しだけ、私の力を誇示する必要があったのも事実ですが。」

「…なるほどね、あの後貴方が姿を現さない訳だ。

私に会う為に、誰も居ない時を狙っていたが、

この時までお互いのタイミングが合わなかった。

…いや違うわね。この戦争が収まるのを待っていた、と考える方が正しいのかしら?

でも、それは私が貴方を探している事が前提よね?

でなければいきなり現れて、有無を言わさず戦闘。となっても不思議では無い。

どうやって私が貴方を探している事を知ったの?」

「あの石化された者ですよ。私がグールパウダーを渡した者は全て記憶していました。

そこで、彼の石化を解除して話を聞き出したのです。

あぁ…安心して下さい、彼は私の研究の材料に成り変りました。

どうです?私達に共通した事柄で、いい手段だったでしょう?」

どこがだ…こいつには使い魔がいる。伝言を伝えるだけならばそれで済む。

「どこがよ…こんな面倒な方法…嫌がらせにしか思えない。貴方は私の古傷を抉るのが好きなようね。」

…私はこいつに話したか?グールパウダーで怪物と化したジェラードの事を…

何故知っているのかは不明だが、話を合わせなければ不審がられる。

「クハ、クハハハ!フフフ、何の事でしょう?」

「そんなに笑っておいて、よくそんな言葉を吐けるわね。」

「フフ、私も鬱屈とした空気の中で、少々ストレスが溜まっていまして。話の合う方がいて助かります。」

「確かに負け戦は空気が悪いわね。

でも貴方、負け戦はお好きでしょう?」

「ご冗談を、しかもまだ負けていません。」

「本当に諦めの悪い男。しつこい男は嫌われるらしいわよ?」

レナスも散々ね。こんな変態、さっさと浄化すればいいのに。

「ククク、やはり貴女は面白い。ここまで話が合うのは貴女くらいですよ。」

「私は全く面白く無いのだけれど?

まぁいいわ…まず貴方の事情を聞きましょう。」

「…えぇ、貴女にも確認しておきたい事があります。お話しましょう。」

そう言って、彼は語り始めた。

私を送った後、着々と準備を進め、大体一ヶ月程で準備を済ませ、アスガルドに攻め行ったらしい。

そこで繰り広げられた激戦。

レザードは不死者の軍勢を率いて、神々に挑戦し、ついに愛しのレナスの元まで辿り着くも、

結果は惨敗。レザードがグングニルを過大評価していたのか、レナスの神剣が他の追随を許さないのか。

それは対峙していない私にはわからないが、あの最強仕様のレザードでさえ、惨敗と言う程だ。想像も付かない力だろう。

そして不死者の軍勢も、英霊や神達に悉く潰され、最早退路も断たれ万事休すのレザード。

そこで……グングニルが暴走したらしい。

暴走と言っていい物なのか、レザードでもわからないそうだ。

レザードが転移で逃げようとした時、私を送った時と同様の黒い穴が出現し、

それに巻き込まれ、気がついた時にはこの世界で意識を失っていたそうだ。

そこで完全なる世界の者に拾われ、今に至る、か。



「そして拾った者が…」

「デュナミスという完全なる世界の幹部。

彼は私を救う為に治療を施し、意識の無い私は彼に保護されました。

私の意識が回復し、私自身の魔法で怪我を完治させた時には、大層驚いていましたよ。」

「そう、私の情報を渡したのは…貴方ね。」

「全てではありませんが、つい口が滑りました。申し訳ありません。」

こいつ…心にも無い、解り易い嘘を。

「…まぁいいわ、別に彼を殺しても問題無いのでしょう?」

「構いませんが…無駄ですよ?彼等は不死と同義ですから。」

「どういう事?」

「彼等は人形。人形師によって、その身体を生成できます。

彼等の生命はまさに不死同様。人形師が居る限り、肉体に意味は無いのです。」

「なるほどね、この戦争自体、完全なる世界の幹部連中、全員殺さなければ、私達は真の意味で勝てなかったのね。」

「その通りです。彼等は時間さえあれば何時でも復活できる。貴女達は勝ちを譲ってもらったに過ぎません。

長い目で未来を見据えれば、真の勝利者は完全なる世界…のはずでした。」

「はず?」

「貴女の存在ですよ。」

「……。」

「貴女が彼等とは違う、この世界を救う答えを出してしまった。そのグングニルもどきを用いてね。」

「もどき?」

「元所有者の私から言わせれば、それは劣化品と言わざるを得ません。」

「…ちょっと待って、その口振りなら最後のあの戦いを全て見ていたのでしょうけど、

あんな力、向こうの世界では発していなかったはずよ。」

「それについては憶測ですが考えがあります。それでも構いませんか?」

「ええ、これについては私も聞きたい事がある。あれはグングニルの特有の物ではないの?」

「それは違うと、私は思います。あれはグングニルというより、四宝の性質でしょう。」

「四宝の、性質?」

「四宝とは、世界の安定を齎す物。こう言えばわかりますか?」

「……、つまりあの魔力が消失する現象を、世界の崩壊を、四宝モドキであるこのグングニルが、

その現象を異常として認識し、この世界の安定の為にその力を発揮した?」

「そう考えるのが、適切かと。」

「確かに…そちらの方が納得できるわ。」

失われた魔力を補完するだけの為に、術者の力量を超える力を発揮した。

…どうも私はこの槍に振り回される傾向にあるようだ。

あの力はいつでも発現できる物では無く、偶々、状況に応じてその真価を発揮したに過ぎない。

…糠喜びもいい所だ、あの力がいつでも発揮できないのなら、レナスなど程遠い。

「それで、先程言っていた確認したい事って何よ?」

「いえ、もう完結しました。」

「まさかの自己完結?話を振っておいてそれは無いんじゃない?」

「…いいでしょう。話は単純です。あの暴走は貴女が仕組んだ物かと疑ったのです。

しかし、貴女はグングニルについて余りに無知。それ故、あれは只の暴走だと、たった今理解しました。」

「…酷い人ね、二重の意味で貶されるとは思わなかったわ、聞いて損した気分よ。」

そんなに捻くれているから、レナスに見向きもされないのよ。

「貴女が聞きたいと駄々をこねるからです。自業自得ですよ。」

「そうね、もうその話はお仕舞い。他に聞きたい事があるわ。

…何故私に会いに来たの?雑談する為にグールパウダーを使うとはどうしても思えない。」

「……。」

「此処まで来て話せない。じゃ済まないでしょ?早く話なさい。」

「ふぅ…いいでしょう。これは貴女の協力が必要になるのですが、聞いて貰えますか?」

「聞くだけならね。」

「…では、私が貴女に会いに来た理由ですが…

貴女に協力して欲しいのです。私がもう一度あの世界に帰れるように。」

「……次元転移、一応あの術に関してそう定義しましょうか。

おさらいすると、次元転移する為には複雑な術式や膨大な魔力が必要だったわね。

術式は貴方が知っているモノとして、膨大な魔力は劣化グングニルである程度賄える。

こう言えば簡単に聞こえるけど、その程度の考え、貴方も簡単に思い付くはず…何か問題があるのね?」

「相変わらず、話が早くて助かります。貴女の考え通りです。しかし問題は更にその先にあります。」

「何かしら?」

「これは実践しなければわからない事なので、何とも言い難いのですが…。

あちらの世界とこの世界が繋がっている可能性とそうでない可能性、繋がっていても帰れない可能性。三つの可能性があります。

まず、あちらの世界からこの世界に私達二人が同じ世界に来た事は事実ですから、二つの世界が繋がっている可能性はかなり高いでしょう。

ですが、それが相互通行しているか、それは未確認です。

もしかしたら一方通行かも知れません。仮に次元転移の術式を発動できたとしても、あの世界に帰れるかどうかは、賭けになってしまう。」

「……うん、大体理解したわ。この世界に来る事はできても、戻る事はできないかもしれない。

それどころか、もう一度転移して違う世界に移動してしまっては、更にレナスが遠のく。であってる?」

「ええ、それで構いません。」

「で?協力と言うのだから、解決策は立案してあるのでしょう?」

「勿論です。……これは運の要素も含まれるのですが…。」

「焦らさないで、早くして。」

「…あの世界からの刺客を待ちます。」

「……は?」

「私達は大罪人です。それを神々が放って置くとは到底思えません。

多分…いえ必ず、追っ手がこの世界に来るでしょう。その追っ手を倒し、帰る方法を聞きだす。そしてその方法で私達は帰るのです。

神々ならば、帰る方法も用意しているでしょう。そうすれば私は晴れて帰郷できます。」

…私“達”って勝手に私を含めないでよ…。大体、問題点が多すぎるでしょう?

「貴女と私、どちらかの前に姿を現すはず。だから貴女に神を倒す手伝いを…聞いていますか?」

「はぁ…聞いているわよ。…それしか方法は無いわけ?随分他人任せになったのね、貴方。」

「無論、問題は山積みですよ?それが理解できない程、私は愚かではありません。

しかし現状では、これが唯一の方法です。」

「…試しに次元転移を展開して、貴方が穴に入って直ぐ帰ってくる。貴方が帰ってくるまで、ずーっと展開しておいてあげるから。

世界が違えば、戻ってくればいいじゃない?ね?そうしましょう。」

「私が穴に入った瞬間、有無を言わさず塞ぐでしょうね。貴女なら。」

チッ、ばれたか。

「そんな事より、勝算はあるの?追っ手の神に。

次元を超えてやってくる力を持つなら、かなり神格の高い神が来るはずよ。それも貴方を確実に殺し、魂を消滅させる程の。」

「否定しないのですか…まあいいでしょう。

勝算はありませんが、準備はできます。

神が来るには時間が掛かるはずです。充分すぎる程の時間がね。」

「時間…ね、どれくらい?」

「先程お話しましたが、私は“一ヶ月程”後で戦いを挑み、その戦闘の終結間近、次元転移でこの世界に来ました。

…時間軸が大幅にずれているのです。此方の世界はあちらの世界と比べて時間の流れがかなり早い。

私がこの世界に来た時には、既に貴女の写真は完全なる世界に出回っていましたから。」

つまり、VP世界での一ヶ月がネギま世界で三年近くになるというのか?

「それは…時間は有り余っているわね。それで貴方の予想で、向こうの世界の何ヶ月程で、此方の世界に刺客が来ると見てるの?」

「神々があの現象を理解し、術式を完成させるのに、大体、三ヶ月から半年以上ですかね。」

「それじゃあ…貴方が死んでいる可能性の方が高くない?いつまでも来る当ての無い刺客を待つと言うの?」

「勿論、それ以外の方法も探します。あくまで主案はこの方向で動き、違う最善策を模索する形になります。」

「私にメリットは?」

「無残に一人で殺されるより、私と二人で戦った方が身の為ですよ?

それに私の所属はまだ完全なる世界のままです。逐一情報を譲る事をお約束します。」

「それだけ?確かに神の追っ手は恐ろしいけれど、私は異世界を転々とすれば良い。逃げ道がある。」

「しかし、何処までも追って来たら?その可能性も無いとは言い切れないでしょう?

それに貴女はあの鍵のような物を欲していましたね?私がそれを手に入れる事をお約束しましょう。」

「論外。まだ手に入れていないのなら皮算用よ、無駄…。」

いや…待てよ…完全なる世界の所属か、この男が…

「貴方、幹部になれそう?」

「完全なる世界のですか?幹部程度なら、この戦争で多大な痛手を受けましたから、頭角を現せば直ぐにでも。」

「なら同時に人形師の術を習得して来て。天才の貴方ならできるはずよね?」

「…何か考えがあるのですね?」

「ええ、貴方があの組織を乗っ取っるの。」

「乗っ取り…ですか?組織に興味はないのですが…。」

「私も組織の雑魚には興味は無い。でもあの人形共の力は無視できないでしょ?

エインフェリアくらいの力は絶対あるわ。もしかしたら下級神くらいなら相手にできるかもしれない。」

「なるほど、戦力として、ですか。その為にも…」

「そう私の倒したデュナミス、紅き翼の面々が倒したアーウェルンクスシリーズ。

それらを貴方の駒にすれば、突然来る神の急襲にも捨て駒と使えばある程度対応できるし、

あれを貴方の制御下におけば、あの組織の中心戦力は実質貴方の思い通り。」

「神を倒すには、戦力の増強は免れない。…面白い。組織を使い潰し、神を打倒する為に道化を演じろと言うのですね?この私に。」

「そうなるわね、人形は人形師には逆らえない。そこを逆手に取りましょう。

しばらくは趣味の悪い人形遊びに精を出して貰うわ。

…あぁごめんなさい、貴方のホムンクルスは最高の物よ、自信も持っていい。あれをあんな人形と同一に考えていないわ、本当よ?

それに貴方はあの鍵を手に入れて、しかもあの目障りな老人も消してくれるのでしょう?」

「白々しい…褒めても無駄ですよ。後、さり気無く注文を増やさないで下さい。油断も隙も無い…。」

「あら?同じ事よ?あの鍵は肌身離さずあの者が持っているでしょうから。手に入れるなら殺して奪うしかない。

あ、後使い方も聞き出してね?」

「…貴女には遠慮という思考が欠落している。」

「そんなの、今更でしょ?何言ってるの?」

「…だから貴女に協力を仰ぐのを躊躇したのです。」

「あはは、ご愁傷様。」

「その言葉を、再び貴女の口から聞く事になるとはね…。」

レザードは落胆しているが、

これでいい…

私に対する完全なる世界の追っ手は無くなり、

私は鍵を労せず手に入れられる。

それに

神の追っ手など、私には関係がない。

確かにグングニルを渡したのは私だが、それをどう扱うなどレザード自身が決めた事だ。

神々に戦争を仕掛けたのも又、レザードなのだから、

その責任を私に取れと言われても困る。

まぁいざとなれば世界を超えて逃げれば良い。

勿論、レザードを囮にして。

故に、現時点でやるべき事は…次元転移の術式を完全に記憶する事、

そして劣化といえど、あれだけの力を発揮した槍を完璧に扱えるようになる事。

総じて言えば、私自身が成長する事。それが想定される全ての状況において、優先される必要事項だ。

強くなる。単純ゆえに、難しいな。

とりあえず強くなる為に、簡単に思い付くのは…




強くなりたいならば、強い者と戦う。

経験値は強い者の方が多いと、相場は決まっている。












あとがき




ながい…前話の短さは何だったのでしょうか…

レザードとの会話が弾む弾む。

正直今回はプロットがあるとは言え、書きやすかったですね。

さてこれからの方針は決まりましたが、どれほど強くなれるか、強くなろうと思っているのか、

アンジェラはこれからどんな生き方をするのでしょうか?

次回は番外を挟みます。



[22577] 番外 アリカ
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/22 21:11




番外 アリカ






―戦死者多数。

こんな一言では、簡単に言い現せないほどの人間が一括りにされており、

そんな多数の中に、埋もれてしまった一人の英雄。

だがあの時、妾は――


―23時間前


「全艦隊、光球を取り囲み押さえ込め!魔導兵団、大規模反転封印術式展開!

全魔法世界の興廃この一戦にあり!!各員全力を尽くせ、後はないぞ!」


世界を無に帰す儀式…。

発動しおったか…できればこれは使いたくなかったのじゃが。

この術式を成功させれば、この世界は救われる。だが妾の国は滅ぶ。

誰に言われずとも、百も承知。

考えに、考え抜いた。

だがこの策しかこの世界を救う術は無い。

…この事を知っている者は、腹心の部下数名だけ。それにはガトウやクルトは含まれるが、

他の紅き翼の面々はこの事を知らぬ。

ナギやラカン…いやあやつらがどれだけ最強を誇ろうとも、知った所で誰にもこれは防げぬ。

致し方無い事じゃ。これしか方法がないのであれば、誰の所為でもなく、

ただ運が悪かったとしか言えん。

だが、救える命は全て救わなくてはならない。

捨ててもよい命など、一つも無い。

「よろしいのですね…?女王陛下」

ガトウが妾に話かけるが、その顔色は優れない。

妾の決断がどういう意味を持つか知る者故に、

これからの未来を容易に想像できるのじゃろう。

じゃが…。

「よろしいハズが…ないッ!!」

最善策はこの魔法が発動した時点で塵と消えた。

ならばこの策でしか、世界は救えん。

これが次善策じゃとわかっておっても、使わぬ訳には行かぬ。


しかし、そんな覚悟を嘲笑うかのように、一つの問題が生じた。


「きょ、強力な魔法力場と言える、魔法による磁場が発生…しました。」

青ざめた顔で、震える声を必死に抑える、艦艇の魔法観測官の進言により、

事態は混乱を極めた。


あの光球を、黄昏の姫御子ごと封印してしまう大規模反転封印術式。

その魔法の発動を遅延させる原因となっておる強力な魔法磁場。

それは魔導兵団による術式展開を困難にさせ、現場に支障を来した。

この現象について様々な憶測が飛び交うも、どれも確証を得ず、

想定の範囲外であったこの現象を収める具体的な方法は提示されぬまま、

我々は、この現象が収まるのを天に祈るしかなく

黙って見守る他なかった。

そう我々はただ黙って見守るだけ…

そう、たったそれだけで事態は思わぬ方向に進んでいく。




「これは磁場が消…滅?」

「いや、新たな熱源を感知!」

「馬鹿な…なんだこれは!」




慌ただしくなる観測班、今この場に状況を正しく判断できる者は皆無なのじゃろう。

ならばここは妾が判断するしかあるまい。

「何がどうなっておる!観測班!状況を説明せよ!」

「そ、それが……磁場は消滅したのですが…。」

「なんじゃ?続きがあるなら申してみよ。」

「…広域魔力減衰現象を上回る魔力放出を観測しました。」

「なッ!!それは磁場の発生した地点で間違いないのじゃな!?」

「…はい、間違いないでしょう。しかしこんな魔力反応…今まで見たことがありません。」

なんじゃ…何が起きておるッ!!

いまいち的を得ん報告では、何が起きているか判断できん!

じゃが…この時、妾は一つだけこの状況を見極める方法を知っておった。

この魔力減衰現象では、普通の魔法使いでは満足に空も飛べんが…

妾の魔法なら可能じゃ、

妾の、この王家の魔力なら…現場に向かい、この現象を確かめる事ができる。

じゃがそれは…この場を開けるという事になる。

司令官である妾がこの場を離れれば、後々メガロメセンブリアの、元老院での審議は免れぬ。

じゃがここで動けるのは妾のみならば…行くしかあるまい。

「ガトウ、この現象が収まり次第、反転術式を展開せよ、よいな?」

「!! いけませんよ女王陛下、この場を離れては…」

「わかっておる、じゃがここで手を拱いていても、状況は改善されぬ。

ならば行って確かめる他、術はない。じゃがここで動けるのは妾のみ。」

わかってくれ、ガトウ…視線で下がるように諭すも、こちらを見つめたまま頑として動こうとしない。

「皆が命懸けで戦う中、妾だけが安穏とした場所で支持を出す…そんな物もう御免じゃよ。

頼む、行かしてくれ…ガトウ。」

妾の嘆願に、ガトウはグッと目を瞑り、眉間に皺を寄せる。苦労を掛けるの…すまぬ。

その脇を通り過ぎ、艦艇の甲板に躍り出る。

何が起きているのか…この目で確かめるだけじゃ。

妾の持ち帰る情報こそが何よりも優先される…故に、死ぬ事は許されぬ。

……ッ。

紅き翼の者達はいつもこんな緊張感と共に戦場に出ておったのか…。

体が震える…じゃが妾にもこの世界の為に何かできる事があるのならば…。

恐怖に震えてる場合ではないじゃろう!アリカ・アナルキア・エンテオフュシア!!

行くぞ!!










――この後、妾が天使に出会うと誰が予想できたか…。

もし予想できた者がいたら教えて欲しい。

今後の世界の運命と我が国の命運を。








「ここにいたか。」

「よぉ姫さん、終わったな…全部。」

終わったか…私はこれで世界を救えたのか?

無意味な戦争を終わらせ、黒幕である完全なる世界も彼等紅き翼が葬り、

魔法世界を無に帰すと言われておった、世界の始まりと終わりの魔法も防ぐ事ができた。

そう我々が救った…救ったはずじゃ。

「どうしたよ?世界は平和になったてのに何かあったか?

いつもの仏頂面が余計ヒドイ事になってんぞ、能面王女。」

「いや…」

「…んだよ調子狂うな。

ま、何だ、アンタの騎士役はこれで終わりだな、

あんたに預けた俺の杖と翼、そろそろ返してもらうか。

堅苦しいのは苦手でね。」

「ナギ」

「ん?」

意を決して…という訳ではない、

自らの意思とは関係なく、体が勝手に動いた、ただそれだけじゃ。

……いや、見苦しい言い訳じゃな。妾は…妾は…不安なのじゃろう。

心で幾ら申し立てしようとも、体は正直じゃ…


気がつけば、妾はナギの背中に抱きついておる。


これが何よりの証拠じゃ…

妾は、不安なのじゃ。

この世界を救う為に、自らの国を滅ぼす。

それがどんな事態を招こうと、覚悟しておった。

何せ、それしか方法はなかったからの。

犠牲など覚悟の上、当然それには我が身も含まれておる。

だが、それは救われた…国も、民も、妾も、全てあの天使によって。

それが今でも信じられんのじゃ、あの光景は全て嘘で、今にもこの国が落ちるのではないかと。


「お、おい姫さん、何だよ?」

「…もう少しだけ、もう少しだけ私の傍にいてはくれぬか?」

「へ?

……あーなんだ、もう少しギュッと抱きしめてくれるか?

胸のカタチがわかる。」

「!」

こやつ…少しは空気が読めんのか、この愚か者!

このやり取りも自然と体が覚え、条件反射の如く、王家の魔力を込めて平手打ちを放つ、

じゃが、慣れたのはこの男も同じじゃな、

すぐさま体勢を立て直し、しかと着地を成功させ、

こちらに決めポーズを見せる余裕も持っておる。

さすが、悪の総大将を倒すだけはあるのう、そうでなければ話にもならんが。

「な…なんでもない、忘れるがよい。」

「オイオイ姫さん、なんでもないってこたねえだろ?

何だよ「もう少しだけ傍に」て?んーあれ?

まさか、アンタ俺にホレちまったとかー!?いやそりゃ嬉しいけど色々不味くね?ほらアンタ王族だし…」

ほほう、こやつ生粋の愚か者じゃな。

まだ仕置きが足りておらんようじゃ。

下から突き上げるように左の平手を繰り出す。じゃが、

…何やらまだ減らず口を叩いておるようじゃの、

ついでとばかりに打ち下ろしの右をお見舞いしておく。

「いてーーー!マジいてぇ、王家の魔力込めんなよ…

さすがの俺でも死んじまうぜ。」

その後もブツブツとラスボスがどうのこうのと、…強く叩きすぎたか?

でも、まあ

「ふん、自業自得じゃ。

…今のはなしじゃ、聞かなかったことにせよ。

杖と翼じゃったか?あんな物…今すぐにでも返してやる。」

「あぁ?言ってる事無茶苦茶だぜ?姫さん。

さっきまで「もう姫ではない。」?」

「言わなかったか?妾は今やこの国の女王となった。

二度と姫と呼ぶことは許さぬ。

杖と翼を返す…即ち我が騎士ではなくなった貴様に、

気安く話掛けられる相手ではないのじゃ。」

「オ、オイッ姫さん、それどういう事だよ!」

「話掛けるな下郎!」

「待てって!」

こやつの耳は死んでおるのか?

妾は王じゃと言っておるじゃろう、

それを無視し、あまつさえ腕を掴むとは…。

周囲に人の目がないから良い物を…公の場ならば、その罪は免れぬぞ?

「触れるな、不埒物!」

「聞けって姫さん!」

「だから姫ではないと言うて…」

「あっ」

こやつの余りの剣幕に、此方の体勢が崩れる。

不意に発した声と、成す術なく地面に吸い込まれる体。

未だ腕を掴まれている為に、満足に受身も取れん。

このままでは……落ちる。



だが、



覚悟していた未来は訪れず、その変わりにふっと体が浮く。

そして、いつの間にか腰に回されているナギの手で、妾の体は支えられていた。

そうなれば、自然とお互いの体が近づくのは自明の理で…。

「どうしたんだよ姫さん、何があった?

ちゃんと話せよ、俺の翼はまだあんたのモンだぜ?

あんたが望むなら、どこへだって連れてってやる。

…世界の果てまでだってな。」

そうか…世界の果てまで…

そうできれば、どれだけ幸せだろうか。

妾が民を守る王ではなく、

私が自由な一人の女ならば、

全てを捨ててこやつに付き添い、

その杖と翼で、

どこまでも青く広がる空を飛んで行くのだろうか…












だが、妾は王で在り続けなければならぬ。

この戦争に幕を下ろしたが、まだ問題を全て解決してはおらん。

紛争地域の憎悪は根強く、又戦争被害のあった国々には復興の支援が必要じゃ。

我が国だけ良ければいい。

そんな考えでは、戦争は再び始まってしまう。

憎しみの連鎖を、今此処で断たねばならん。

妾はあの者に、その為の時間を貰ったのじゃろう。

…真偽は定かではない。妾の思い込みと言ってしまえばそれまでじゃ。

事の真相を確かめようとあの者に声を掛けたが、

何も言わず無言で消え去り、終ぞ答えが返ってくる事は無かった。

…それもそうじゃ、こんな無様な王に語る言葉などないのじゃろう。

世界を救う為に、自らの国を滅ぼすしか術のない愚かな王である妾では、

純白の翼を生やしたあの者に、見向きもされないのは当たり前じゃ。

ならば、妾はお主と語らうに相応しい王となろう。

妾はこれを糧にさらに成長し、今度こそあの者を振り向かせてみせる。

いつか必ず、話を聞かせてもらうぞ?アンジェラよ。



…ところで何時までこの体勢なのじゃ

さっさと…放さんか!


「もぎゃんっ!!」















――後に、アリカ女王は二ヶ月の懸命な救助活動により、自国他国関係なく、広く救助活動を支援する機関を設立。

個人や法人から多くの協力者を募り、特に治療系の魔法を得意とする者を集めた。

その活動は各国から高い評価を受けるが、戦争から約二ヶ月後の元老院議事堂にて、

父王殺し、及び完全なる世界の関与の疑い、そして戦時中の職務放棄、独断行動が問題視され、アリカ女王は逮捕される。

しかしその機関の運営だけはガトウ並びにクルトに任せ、秘かに機関相続を計る。

そしてこれから20年、機関はその活動を存続する事となる。

その機関は後に広域魔法援助活動機関から白天使機関と名を変え、

通称、ヴァルキュリア機関と呼ばれる。

その創始者の名は未だ伏せられたままだが、その二つ名だけが人伝に語り継がれた。

人はその名を――







「救国の女王」と呼ぶ。

























あとがき

すいません更新が遅れました。

アリカは世間一般では災厄の魔女とも呼ばれていますが、影では救国の女王と呼ばれる…

そんな感じになりました。

世界を救った事実は伏せられたままですが、知っている人は知っていると言った所ですね。












[22577] №22「凶兆」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2010/12/28 21:03
№22「凶兆」








長い戦争を終え、久しぶりの勉学に気力を振り絞る毎日、少なくとも今日もそうなるはずだった。

だが招かれざる訪問者…レザードは憎たらしい笑みをその顔に貼り付け、自身の変態気質に拍車を掛けている。

この男がこんな顔をして私の元を訪ねて来る…それは私にとって凶兆であり、

私自身の記憶と照らし合わせても、まともな事などあった試しが無い、そして―

「貴女も隅に置けませんね…ククク。」

いきなりこんな気持ち悪い発言を聞かされて連想する情事など、勿論私の記憶に存在しない。








神が来る――


来たるその日までに私は世界を超える失伝魔法を習得しなければならない。

まず最初に成すべき事として失伝魔法の習得を優先したものの、それを成す為には誰にも邪魔されない、静かに習得できる住居の確保が必要。

しかもそれは神にさえ見つける事の無い、完璧な隠蔽を施した物となる。

だがそれはもう済んだ話であり、無論抜かりは無い。

そういった技術に関しては最早何でもアリのレザード・ヴァレスが私の手札に存在するのだから。

現にこの家の随所に刻まれたルーン文字の魔力により、現存世界とは存在次元がずれている。その為、この家は他者には認識できていない。

この世界に、単独でこの家を補足できる存在は今の所いないだろう。



そんな誰も訪ねて来ない静かな家。その家主となった私にとって、この男だけがたった一人の客であり、

同時に私にとって、招かれざる客でもある。


…こいつは私の不幸を糧に生きている。


そう思わずにはいられない程、サドで天才な変態魔法使い様は私が苦しむ様子を見て、

自身のストレスに溜飲を落とすのだ。

その証拠に、

その時だけはこんな気持ちの悪い笑顔で、毎回私の前に現れる。






(治療魔法使い達による国の垣根を超えた援助機関…白天使機関、通称ヴァルキュリア機関…ね。

…創始者の名は伏せられ、現代表はガトウ?)





そしてこの件について私が知ったのは今日の朝に遡り、レザードが持ってきた情報による物だ。

今まで家造りや魔法の習得と、やる事が多かったゆえ、私は現の世事に疎くなっていた。








そんな事より…


何の嫌がらせだ?これは。

これでは完全なる世界のあの人にとって、

私がこの機関を創始者に発足してくれと頼んだようにも思える。

しかも私の暗躍を示唆するような物がふんだんに盛り込まれて…

ご丁寧に創始者の名も伏せられており…事情を知る者なら深読みする事間違いないだろう。

実際私はまったく関っていないのだが…。


些細な問題と一笑に付す事ではない。

問題は私の本性を知っている完全なる世界だ、彼はこの機関をどう思うだろうか?

戦争の被害者を癒し、戦死者を弔う…戦後復興には必要で素晴らしい活動だ、それが幻影でなければ。

彼はこう思うのではないか?

何故そんな無意味な事をする、何故私の誘いを断り、こんな無駄な活動をする?

何故何故何故…不効率極まる…あの時の言葉は嘘だったのか?

お前は真の救いとは何かと知っている…ならば一時の癒しなど、何の意味を持つのだ?と。

癒し…。

戦争中は力を隠す為に前線には出なかった、その為“癒しの童子”など

欲しくもない二つ名を頂戴したが、ここで足を引っ張るとは夢にも思わなかった。

確かにこれは英雄に相応しい行動だろう、英雄というものにはピッタリの仕事だ。

だが私は違う、そんな事をしている暇は無い。

現にこんな機関、設立自体考えもしなかった。

まあ今更此処で言い訳をしても仕方無いか…。

謂れの無いことで恨まれても面倒だな

これは早急に誤解を解いてもらう必要がある。

…完全なる世界との繋がりはあの変態しかパイプが存在しない。

協力体制であるとは言え、又あいつの顔が笑顔に歪むのを見るハメになるとは…

あいつの笑顔には、本当に碌な事が無い。






「…貴女は私の言葉を真に受けたのですか?」

「貴方の言葉?朝の事なら真っ先に記憶から抹消したわ。」

「…まったく、貴女なら気づくでしょう、と思ったのですが。」

「何よ皮肉なら間に合ってるわ。私も暇ではないの、ささっと弁解して来てよ。」

「私が知っているのなら、勿論彼も知っています。大体考えればわかる事でしょう?

アリカ女王を逮捕したのも、完全なる世界の息が掛かった者達…安心して下さい事実は全て把握していますよ。」

「ん?というと朝の発言は…」

「貴女が動かないのでおかしいと思ったのです。貴女なら知っていて無視をするのではなく、

何かしら行動に移し、自身が有利になるように動くはず…

ならば貴女はこの事を知らない。そう結論付けて貴女に会いに来て、その情報を渡した…という事です。」

「つまる所?」

「貴女の慌てふためく姿が見れて、私は満足です。」

「……最低。いえごめんなさい、貴方のその性格を褒めているのよ?」

「流石に無理があるでしょう…そう言っておけばどうとでもなると思っていませんか?貴女。」

「え?違うの?…まあいいか、杞憂は砂塵に帰した。貴方の方はどうなの?」

「私ですか?あんな質の悪い人形に時間を掛けるわけがないでしょう?

もう既に彼等のボディは完成しています。ですが…」

「体に問題無ければ…後は魂の方?」

「そうですね、まぁ後は待つだけです…要となる彼がまだ動けませんから。」

「そう、彼の調子は?」

「貴女の槍で貫かれた頃に比べて、比較的良好ですよ。」

「悪い事したわ…謝っておいてくれる?」

「貴女が直接謝りに行ったらどうですか?ご案内しますよ。」

「冗談…」

ゼクト…いや彼は既に造物主に成り代わったのか?

どちらでも構わないが、何と呼べばいいのか。

まあ造物主でいいか。

彼はあの時、最後のニーベルンヴァレスティを避けきれず重傷を負い、今も起き上がれない状態らしい。

お陰で完全なる世界は半ば壊滅状態、建て直しに動こうにも、指示を出すはずの全ての幹部が戦争で行動不能。

そんな壊滅間近の組織であった完全なる世界。その窮地を救ったのがこの男、レザード。

ボスである造物主が重傷を負った今、動けるメンバーで建て直しを計るしかない。その中枢として動いたのがレザードだ。

時間は掛かった物の、レザードは完全なる世界を運営可能まで建て直し、同時に信用も得た。

そして今、幹部である人形達の体の生成も行なえる立場となり、人形がその心身を再生するのも時間の問題。

これで手駒が増える…造物主と戦い、重傷を負わせたのは無駄では無かったという事だ。

「人形も総勢六体用意しました。一番目はナギ・スプリングフィールドにやられましたから。二番目からですね。」

「ふーん、二番目が地のアーウェルンクスでしょ?後はどうなっているの?」

「正確にはリーダー格の地のアーウェルンクスにスペアがもう一つ、これが三番目、

その他にクゥァルトゥム、火の四番目とクゥィントゥム、風の五番目とセクストゥム、水の六番目ですね。

デュナミスに変わりありません。

そうそう、人形の役割は既に決まっています。地のアーウェルンクスはナギ・スプリングフィールドを追い、その他は貴女に充てるそうです。」

「は?その他って、火、風、水?と後はデュナミス?これ全部?」

「そうですね。主に貴女の捜索と交戦くらいでしょうか?」

…何だそれは!

それこそ冗談ではない!!何であんな面倒な奴等が私の元に集うのよ!ナギの方にもっと回しなさいよ!

大体何の為にレザードを幹部に仕立て上げたと思っている!こういう事に陥らない為じゃないの!?

「な、何故?私達は完全なる世界に構っている暇はない筈よ?貴方は止めなかったの?」

「止めるも何も…貴女には強くなって貰わなければなりません。何の為の成長する体なのです?

敵は此方で用意しますよ。私の為に、存分に戦い、そして強くなって下さい。ククク…私からのささやかなプレゼントですよ。」








ニタニタと擬音が付きそうな顔で笑顔を振りまく変態魔法使い。

こいつ、私が聞くまでこの事を黙っているつもりだったな?

そして準備が整い次第私に伝え、私の慌てる姿を堪能する予定だった…

はあ…朝に続き、又もその顔を拝む事となろうとは…

厄日だよ本当、今からでも契約破棄したい…。







あとがき


なんという駄文…

次回からは戦闘や番外が増えるかも?まあまだ未定です。

すいません…年末は大忙しですね。

忙しいのが終われば、又更新スピードも上がると思います。どうかご容赦を。







[22577] №23「問題」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/01/05 20:44
№23「問題」





“此度の戦争の重戦争犯罪者と見られるアリカ女王の死刑は二年後、と判決が下り―”





私が大通りを歩いていると、何処からともなく聞こえる声。

今や魔法世界はこの情報で持ち切りで、この話しか聞こえてこない。

聞き飽きた情報ではあるが、何か進展があったのかと思うと極自然に耳を傾ける。

アリカ女王…いや最早女王ではなく、今や戦争犯罪人。か


「災厄の女王」「災厄の魔女」


本来は称えられ、歴史に名を残す英雄となっているはずの彼女は正当な評価を受けられず、

メガロメセンブリア元老院に情報操作された、偽りの肩書きをその肩に背負っている。

それがこの世界では“正しい”のだから皮肉なものね。

メガロの陰謀により、彼女は囚われたと同時にその罪状を突きつけられた。

曰く、完全なる世界の黒幕だと。

曰く、賢王と呼ばれた父王を惨殺し、クーデターを企て、そして実行。

自らの父である王を殺し、国を混乱に陥れた。

曰く、戦時中に職務を放棄したのも、自らが率いる完全なる世界の消滅を防ぐ為。

それが彼女を黒幕と決定付ける何よりの証拠だと。


ふふ、何これ…とんだ言掛かりね。どこの喜劇作家が構成した猿芝居なのか個人的に興味がある。

確かに当て事も無い言掛りだが、アリカがこの茶番劇を否定できない状況にあったのも事実なのだろう。

元老院議事堂…あの場にアリカの味方は殆どおらず、言わば敵地のど真ん中。

その状況ではアリカの言論その物を封殺され、反論の余地も無かったはず。

結局アリカは何の対策も取らず、もしくは取れず、加速する時代の流れに巻き込まれ、己を激流に晒した。



私はアリカが何を考え、何を思い、この二ヶ月行動していたのか知る由もない

ならばこれがアリカの望んだ未来なのだろう。

アリカ自ら積極的に動いて、その手で掴んだ物があんな慈善事業とは思いもよらなかったが。

まあどうせ二年後の死刑も紅き翼の…その中の極一部が血眼になって助けに来るから

アリカはもう一度囚われのお姫様を経験すれば事は済む。二年間という長期のお勤めになるけどね。

色々と曖昧な変化はあったものの、戦後は私の予想通り…いや史実通りと成った。

運命とはそれだけ保守的なのだろう。

ちょっとやそっとじゃ、その形を失わない。

これは私を安心させる。今まで無駄に気を揉んでいたがその必要はないらしい。

…うんもういいでしょう。これで彼女達に対する情報収集は終了。

これからは彼と彼女の問題だ。私の出る幕ではない。









そんな事よりも此処最近、私を悩ましている問題がある。



「ねえ君!迷子かい?だったらぼ、僕が道案内してあげようか?」

「いいえ結構です……移送方陣。」

「って、え?あれ?」

(はぁ、これ以上変態はいらないわよ…。)

そう年上の少女趣味共に声を掛けられる事が多々あるのだ。

それは前まで偶にだったのが数日で多々に昇格している事から、その変化が如実に現れているのが伺えるだろうか。

その原因があの仮面を撤廃した事による物だ。

そう私は今、素顔で街を練り歩いている。麻帆良学園以来まともに外していなかったあれである。

私のあの仮面の姿は多くの者に知られているが、意外と素顔は知られていない。

初めは皆私の素顔が気にはなるものの、その内見るのを諦めるのが通例だった。

それでも素顔を見ようとするファンクラブの人間やパパラッチが執念深かったが、一人、また一人と少しずつ脱落し最後には皆諦めた。

…ああ忘れていた。一人の筋骨隆々の馬鹿を除いて

尤も、彼は私と戦う為の口実にしていただけのようだけど。

まあその他例外を除いて、概ね世間一般にはあれが私の顔だと認知されていた。


だから、外す羽目になってしまった。


私としては自分の顔を晒すのは勘弁してほしいのだが、

これからの魔法世界では、あの仮面は目立ちすぎる。

うーん…代わりが必要なのかしら?でも…

素顔を知られているのは詠春とナギくらいだし、

ナギはそのうち行方不明、詠春は二年後に京都に帰還してそのまま引き篭もり、偶々しか外に出ない。

魔法世界など以ての外、良くて関東に出張するくらいか?

ならば別に…いや待て、奴を忘れている。変態の中の変態と定評のあるレザード・ヴァレス、あいつだ…。

私が又違う仮面を着けようと素顔のままで生きようと、あいつなら勝手に私の情報をリークするに違いない。

その情報の中に、他者を認識するのに最も重要な“顔”という情報が含まれない筈がない。

いや…もう既にあちら側に知られていると思っておいた方がいいだろう。

でなければ人形に捜索を命じる訳が無い。人形達のマスターとして最低限の情報を与えるのは至極当然の事だ。

つまり…

仮面は…その意味を成さない。

素顔に関しては…親しかった者達、紅き翼のメンバーに会わなければ問題ないわね。

という事は…変態共に対して根本的解決は先送り、我慢するしかないのか…。

はあぁ…最近ついてないな、私…。




ふう…気をとり直して。

後は槍の扱いに慣れるのと消費した閃槍クリムゾン・エッジの複製か。

複製には材料が必要だから材料を探しに行かないと…

材料探しに複製と忙しいわね…

複製はこうなった原因のレザードに任せよう。折れた槍なんて何の役にも立たないアイテム、大量にあっても誰も怪しまないだろうし

じゃあ材料は…とりあえず龍樹の角とかどうだろう?

……戦ったら絶対目立つわよね。























あとがき



お待たせしました。

相変わらず短いですね、申し訳ありません。

次回は番外かも知れません。

まだ未定なので、あしからず。




[22577] 番外 ナギ
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/01/12 02:29


番外 ナギ




「なんだよまだ食べなかったのかい?女王様?…ったく死なれると困るんだがなー。

庶民のお味はお口に合わねえってか?へ…しかし今のあんたにゃお似合いだな

なんせあんたはあの戦争を引き起こした張本人だろ?あんたに味方する人間なんてこの世にゃいねぇ。

全く…いい気味だよ。」


「……。」

「あっこれは議員こんな辺境にわざわざ…。」

「うむ、ご苦労だね下がりなさい。」

「し、しかし!」

「大丈夫だ話は通してある。ここはもういい、後で連絡する。

………。

やれやれ、優秀すぎる兵士というのも考え物ですな。

貴女もそうは思いませんか?…おや?これはこれは…見るに耐えないみずぼらしい姿ですね。

最古の王家の末裔にこのような仕打ち、真に心が痛みます。」

「心にも無い事を…。」

「フフ、刑の執行は十日後と決まりました。

その前に今一度お尋ねしましょう。

貴女が戦争終結最後の日に目撃したあの者…アンジェラ・アルトリアの行方。

それを貴女は知っているはずだ。」

「……。」

「言うのです!!

これは世界を滅びから救う為でもあり、貴女の最愛の国をお救いする為でもあるのですぞ!?」

「……。」

「フン、使えぬ女だ…。

いや失礼これは言い過ぎました。

貴女は十日後の死によって充分に世の中に役立つことになるのでしたな

そう――世界平和の礎として。」









シルチス亜大陸 紛争地域




「う……。」

「もう大丈夫だ、すぐに治療してやる。」

「アリガトウ、立派な魔法使い…ナギ…。」

「おう、もう大丈夫だぜ。よっしゃアン治療頼む…って、やべぇまた癖で…。」

「…ナギ、アンが居なくなってもう二年だぞ?それにアンはもう…。」

「生きてるさ…簡単に死ぬようなタマじゃねえよ、あいつは。」

「ナギ…。」

「ナギ!詠春さん!」

「どうした?タカミチくん。」

「クルトから連絡が!アリカ様の事です!」









「アリカ様の処刑が十日後に行なわれる!?それは本当かクルト君!」

「は、はい。アリカ様は今でも“私はこの世界を平和にすると”

濡れ衣を着せられた今も、この思いに嘘はないはずです。

本当は女王として紛争を食い止めたいと考えていたのでしょう…。

しかし、それは叶いませんでした。

それでも我が身を犠牲にして、戦争の被害に合った者達の心を救済するなら…

それしか方法がないのなら、已むを得まいと。」

「アリカ様…。」

「なるほど、あの馬鹿姫らしい台詞だな。」

「なるほどって!救出に行かないつもりですか!ナギ!!」

「クルト!そんなこと―」

「俺は今まで多くの人間の運命を変えてきた。

そうして助けたヒトや倒したヒトが今の俺の一因になってやがる。その意志に関係なくな。

そして俺は曲り形にも世界を変えた、救ったんだ。

…だったら俺は俺の思う通りに動く。きっとその先に…。」

「本当にその先に希望があるのですか!?アリカ様は今、希望を見失いかけているのですよ?

元老院の老害共の不正を明かす訳でもなく、裏切られた国で真実を訴える事もせず、

只、謂れなき罪を一身に背負い、この世界の安定の為に生贄になろうとしているのですよ!?

貴方が行かなければ誰が彼女の名誉を守るのです!!

好きな女一人も救えず!何が英雄ですか!!

今こそ彼女を救い、ヤツラを告発し、真実を白日の元に…

ナギッ!!聞いているのですか!!」

「……。」

「くッ見損ないましたよ、ナギ…。

貴方のその力と名声があればもっと大きく世界に関れるはずです!

それを何故こんな地味な活動に憂き身を窶すのです!!それで世界を変えられるというのですか!!」

「だけどクルト…今日も又一人の命を救えたよ。」



本当にクルトはアリカの事となると目の色変えやがる…人の事はいえねぇがあいつのどこが好きなんだ?

…でもよ、クルトの言う通りなんだろうな。

誰もがクルトの言っている事が正論だとわかるし、選挙でも多数決でもすりゃ皆クルトに従うだろう。

でも俺は…


“ナギ、貴方ならできる。

私の言ったように貴方は“世界最強の魔法使い”に成れた。

その強さを、貴方の強さを、それさえ忘れなければいい。神様はね、強い者の味方なのよ。”




アン、俺は本当に強いのか?強くなったのか?

もし神ってモンが強い奴の味方だってんなら、

俺が弱いから、神様は俺達に味方してくれねぇのかよ?

…らしくねぇ、ウジウジ悩むなんてほんと俺らしくねぇ。

なぁアン、アンなら今の俺を見てなんて言うんだ?

大方、馬鹿とか弱くなったとかか?まあいいさ、この際なんでも言ってくれ。

だからよ、

いい加減顔見せやがれ、もうあっちこっち探すのも飽きたぜ。

















十日後―


















「魔獣蠢くケルベラス渓谷。

魔法を一切使えぬその谷底は魔法使いにとってまさに“死の谷”

古き残虐な処刑法ですが…この残虐さをもってようやく、

魔法世界全土の民も溜飲を下げることとなりましょう。」

「歩け!」

「…触れるな下郎、言われずとも歩く。」



(アリカ様!…くッ、ナギ達は本当にアリカ様を見捨てるのか!?

こうなったら僕だけでも…。)






(バーカ、お子様がいきがってんじゃねーぞクルト。俺達に任せな。)

(え?この声は…ラカンさん?って!そんな事よりアリカ様が!

え?あれ?…いない?

まさか…もう……落ち…た?)





「クックッ…王家の血肉はさぞや美味でしょうな。

この処刑方法の長所は復活がほぼ不可能な点です。

魔法の使えぬ谷底で幾百の肉片となって魔獣の腹に収まってしまえば…

たとえ吸血鬼の真祖といえど復活は困難でしょう。」


「ア、アリカ様ッ…。」

「よろし…「よおぉーし!こんなもんだろ!」…い?」

「録れたか?ちゃーんと録れたか?よおーしご苦労ッ!!

お~いおっさん、これ生中継とかじゃねえよな?さすがに生だとマズイんだけどよ。」

「無礼者!何者だ貴様!名を――」

「おい、おっさん…

録画はここで終わりだ、で今からここで起きた事は“なかった”事になる

…わかるな?」

「きっ、貴様は!」

「ぬん!」

「せ、千の刃の…ジャ…ジャックラカンーーーーッ!?」

「俺だけじゃないぜ?自分の周りをよく見てみな、おっさん。」

「なッ!あれは…青山…詠春ッ!

それにアルビレオ・イマ!ガトウまで!

紅き翼が…馬鹿なっ!では谷底の女王は!」

「あの馬鹿が此処にいねぇんだ、見当ぐらい付いてんだろ?

今頃二人でイチャイチャしてんじゃねぇか?」

「バカな!いかな千の呪文の男とはいえあの谷底から生きては…!」

「それはどうかな?魔力も気も使えねぇくらいで奴が死ぬかよ。」

「ぐ…捕らえよ反逆者だ!!谷底の二人も逃がすな!!」

「おおっとやるのか?いいのかよ“その程度の戦力で”。」

「フフ…その程度の戦力だと?愚か者が…このイベントの警備はここに見えるだけではない。

周囲数十キロ二個艦隊と三千名の精鋭部隊が包囲している。いくら貴様等でもこれを…」

「だから、“その程度の戦力で”いいのかって聞いてんだよ。」

「な、何!?」


















「え?ナギ?何故主が天国に?アレ?」

「バーカ、アンタを助けに来たんだよ。」

「え?何故じゃ?な、何故主がここにおる?」

(何故ってわかってねぇのかよ…この馬鹿姫は

…おっ始まったか…しっかし派手にやりやがって。)

後方で爆発音と共に兵士の悲鳴が聞こえてくる。

このイベントの為にメガロのお偉方は精鋭を集めに集めたらしいが、今のあいつ等に敵うはずがねえ。

アリカを逮捕した事や証拠のでっち上げ、それについての虚偽や不正、

更に今までやってきた裏でのあくどい悪事、全部まとめて返してやる!ってすげぇ意気込みだったからな。

あの詠春まで乗り気だったんだぜ、それはもうあいつ等を止めるストッパーがいねえってことだろ?

それなら、たかが二個艦隊と三千の兵士ぐらいで暴れ続けるあいつ等が止まるかよ。

…ちぇ、鬱憤が溜まっているのはお前等だけじゃねぇってのによ。

「答えよ!何故じゃ!いくら主でも自殺行為じゃ!魔法の使えぬこの場では主も普通人じゃろ!!

こやつ等の攻撃を一撃でもかすれば即死は免れぬ!!無謀にも程がある!何を考えてるトリ頭!!」

「へっ。」

(変わらねぇな、二年も無罪の罪で監獄の中に入っていたってのに、本当に変わらねぇ。)

「確かにな、これまでで一番やべえ状況かも、だッ。こんなやべぇのは石化されかけた時くらいだぜ。

けどクリアの景品がアンタだってんなら、このスリルも悪かねぇぜ!」

「な、何を言うておる!妾は何故かと聞いておるのじゃ!

何故ここまでの危険を冒して妾を助ける!?無意味な行為じゃ!」

「ハッ!忘れたのかよ!言っただろ!?…どこへだって連れてってやるってな!!」

「り、理由になっておらぬ!妾は最早そなたの主君であるどころか王族でもない!!

かの戦争を引き起こした大罪人“災厄の女王”じゃ!!妾の救出に意味はない!」

あれ~?今のはバシッ!と決まったと思ったんだけど?あれか?

…まさか気づいてないのか?俺的にはプロポーズ的な意味だったんだけど?

…じゃあ二年前に言ったのも、もしかして姫さん気づいてない?

まじかよ…なんか俺馬鹿みてぇじゃねぇか!まさか善意で助けに来たとでも思ってんのかよ!!

いや百パー善意なんだけどよ?

こう、なんていうか、ほらあれだ、俺はアリカを好きな訳で、アリカも多分俺の事好きで、

でも正面きって言うのはなんか恥ずい訳で……。

遠まわしに言った心算だったんだが…伝わってないのかよ!どうするどうするどう…

あぁぁぁぁ面倒くせぇえ!!!

「妾の価値は―」

まだ何か言いやがるか!この馬鹿姫は!

「まっ!」

…“まっ”ってなんだよ、まあ話してる最中、急に頭突きすれば変な声もでらぁ。

しかしこの姫は…なんで頭突きされた?って顔してんじゃねぇか。

価値がないだと?この姫さんは俺がアンタの女王としての価値に目が眩んで救いに来たと思ってやがる。

そんなもんで命掛ける馬鹿がいるかよ!

「相変わらずゴチャゴチャうっせえ~。」

これは重傷だぜ…本当に言わなきゃわかんねぇようだな。

…ちっ!一度っ切りだ!一度しか言わねえから今度はしっかり、その耳かっぽじってよく聞けよ!!

「あーもー言わなきゃわかんねぇかな!この姫さんは!理由だぁ!?

そんなもん

俺が!

アンタを!

好きだからに決まってんだろぉぉが!!」







「は?」






―杖よ!





「っておいおい、まさか本当に気づいてなかったのかよ。

その顔、予想もしてなかったって顔だな?

…傷つくぜぇ、ったく何が世界を救えだ、何が紛争地域を救えだ、何が“救国の女王”だってんだよ。」


妾の代わりに世界を救ってくれだと?その為の道は示しただと?

そんなもんがアンタの最後の言葉でいいのかよ?

ふざけんじゃねぇ。


「好きな女一人も救えねぇ男に、世界とか救える訳ねぇだろ。」

目ぇ完全に見開いてやがる、そんなに驚く事か?

今度こそ理解してくれたんだよな?

…俺だって恥ずかったんだ、聞かせてもらうぜ?

「で?アンタはどうだ?」

「な、何がじゃ!」

「アンタは俺の事どう思ってんだ?」

「なっなぜ妾が言わねばならぬ!?」

「俺が言ったんだからフツー言うだろ」

「そ…そうなのか?」

「あぁそれが礼儀だ、一般常識だぜ?」

「そ、そうかしかし妾は…王族であるが故、元々妾に私心は許されぬ。

それどころか今の妾は大罪人“災厄の魔女”

戦争によって苦界に落ちた民達、ひいてはこの世界に住む全ての―

はっ、きゅ!」

ま~た変な方向に話が進みそうだったからな、頭突きで止めといたぜ、ナイス俺!

…まったく、俺が聞きたいのはそんな事じゃねぇんだよ!

「何をするのじゃ!」

「アンタもう王族じゃねぇってさっき自分で言ったばっかだろ?

それに災厄の女王も今さっき死んだ、アンタは自由だもうアンタを縛るものは何一つ無い。

今のアンタは他の何者でもないただのアリカ、ただの一人の人間だ。」

「一人の、人間。」

「そ、そーゆー“アリカさん”としてはどう思ってるんだって聞いてんだ。」

「な…う…。

そういう意味でなら、き、……きらいと言う……わけでは、ない。」

ボソボソ言ってちゃ何話してるかわからねぇよ、まぁホントは聞こえてるけど。

でも俺はあんだけ大声で叫んだのに、それはねぇだろ?アリカさん?

「あーー?何スカ?聞こえねぇっす。」

「…嫌いではない。」

「んぁん?声小さいス。」

あれ?アリカの顔がどんどん険しくなって行く…やべっ言い過ぎたか?

うおッ!眉間に皺とこめかみに血管が浮かび上がるのコンボは平手打ちが来る前兆!マズイッ!!

…ってあれ?

「あぁそうじゃ!

この二年間一日たりとも主の事を考えぬ日はなかったわ!!

それがどうした!悪いか!?」

なんだ、やっと素直になったのか…ったく頑固すぎんだろ。

でもまぁ…

「いや、悪かねぇ。」





そう言って俺はアリカを強引に抱き寄せ、キスをした。





ああ悪かねぇ、これが二年間の成果だってんなら、悪いはずがねぇ。

だが最善でもねぇ…本当はオスティアで…アリカの国でアリカのやりたい事をやらしてやりたかった。

それはもう無理だ…それでも

「うっ…ふっ…」

「アリカ?」

誰にも聞かれないように、それこそ俺にも聞かれないように声を潜めた、小さな嗚咽が聞こえる。

目を開けてみると、今まで見たことのないアリカがそこにいた。






―紅き翼は暇なのか?ならば買い物がしたいのじゃ、お主付き合え―


最初は、いや最初から何考えてんのか、全然わかんねぇ奴だった。


―なんじゃ?心配しておるのか?―


鉄面皮がそのまま歩いてるみたく、まったく感情を表に出さなくて、


―ならば我等が世界を救おう、我が騎士ナギよ我が盾となり剣となれ―


いつも無表情で、尊大な態度を崩さなかったアリカが、

…こんなにも、か弱くなっちまうんだからよ。







目を瞑り、誰にも聞かれないように、小さく静かに泣くアリカに、

俺は声を掛けて、

ギュっと抱きしめて、ナデナデして、

調子に乗って平手打ち、いやグーでアッパーされるしか他に、アリカを慰めてやる方法が思い浮かばなかった。















「なぁ…アリカ。」

「うむ?」

あーっさっきの勢いに任せた告白と違って、今度はマジだからな…

正直、今言うのも早ぇと思う、はっきり言って勇み足も甚だしい。

でも、

決めたんだ、だから俺は、俺の思うように動く。

…それでいいんだよな?アン。





「結婚すっか。」





「…アンタのやりたいこと、

まだ残る世界の平和ってやつも全部一緒に成し遂げてやるよ。

なっ!」

「……はいっ」

へっ、さっきの涙はどこへやら、もう笑ってやがる。

そういえば、アリカのこんな笑顔を見たのも初めてかもしんねぇな。

本当、今日はアリカの色々な表情七変化を楽しめたぜ。

まっ!これからも、色んな表情を見させてもらう予定だがな!

失った二年間はもう戻らねぇが、今から作る時間は、失った時間を懐かしむ余裕なんて感じさせねぇ!

それぐらい濃縮した時間を過ごすって事だ!



「さ、帰ろうぜアリカ。」

「ふ、あの掘っ立て小屋か?」

「違ぇよ、とりあえず今から旧世界の詠春家にだな…」
































「残念ながら…それはできないよ千の呪文の男。」






























「え?ナギ…?」









俺の腹から生えてる石の塊、おまけに、強力な魔力が付加されていやがる。

ぐっ!まずった…。この石槍は、まさか…


「久しぶりだね。千の呪文の男。

本当はアリカ女王の事なんて興味なかったんだけど、

ちょうどいい所に君が来たから、挨拶しようと思ってね。

…でも少し見ない内に弱くなったんじゃないか?

まぁ些細な事か、それより…

君と一緒に連れて行かれて子供でもできると困るんだよ。

“災厄の女王”の子供なんてね。」


「かはっ…アーウェルンクス…か。」


「もう遅いよ、その石化はレジストできないだろう?油断したね。千の呪文の男。」






…弱くなったか、ちっ最後の最後で…

くそっ!視界が狭まってきやがった!

せめてアリカだけでも…

「心配しなくていいよ、時期が来れば君の石化も解いてあげるさ。

寂しいだろうからアリカ女王も石化してあげる…

と言いたい所だけど、そうは行かないんだ、すまないね。」

ちくしょう…なんだってこれからって所でこんな…。


それもこれも全部、俺が弱い所為なのかよ!


何が神だ!何が強い者の味方だ!





くそっ…。















幻覚か…























一目会いたいと思ってた奴がお出迎えかよ…。









アン、お前やっぱり死んだのか?




天使の羽なんて、お前にゃ似合わねぇよ。






























あとがき





なげぇ、寝ぬい



その為誤字脱字あるかも知れません、

見つけた方はすいませんがご報告ください。



[22577] №24「イト」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/01/19 20:21
№24「イト」










「ナギ!しっかりせい!ナギ…ナギッ!これから、これからではないか…こんな結末…私は認めんぞ!」


石化したナギを壊れ物を扱うようにゆっくりと地面へ降ろすアリカ。それは普段の彼の扱いとは天と地の差がある。

この反応を見れば明々白々。この二人は原作同様うまく行ったのだろう。

二年という歳月を悩み尽した二人だ。ハッピーエンドで終わった…と思わせてのこの仕打ちは流石に堪えたようね。

お陰で、愛しの姫様の顔が涙でクシャクシャになってるわよ?

それにしても……随分感情豊かになったのね。アリカ。

「今日は懐かしい顔によく会う日だね、まさか本当に君に会えるとは思わなかったよ。“龍の姫”

…いや象徴である仮面は外した、と報告は受けていたから…この二つ名は当て嵌まらないかな?あれ好きだったのに勿体無い。」

「まさか…地のアーウェルンクス?あの時死んだはずでは…」

「そのまさか、だよ。こうして生きている事が何よりも証拠さ。

尤も、君は人形である僕達が生きているとは思わないかも知れないけどね。

…なんだったら詳しく説明してあげようか?君に会いたがっている人もいてね。

是非僕達のアジトに招待したいんだけど?」

「現に目の前にいるのだから一々経緯を説明する必要はないわ。それに私には知る必要が無いもの。」

だって貴方達の体を直した人形師と私は旧知の仲で、貴方達を利用しようと決めたのも私達。

私は貴方を復活させた人形師ではないけれど、貴方達がどういう構造をしていて、どこが弱点なのかさえ把握している。

というか、その人形師から私の体と貴方達の体の造りの違いについてご高説承っていたのよ?聞き飽きる程ね。

それ故、貴方達については既に知り尽している。貴方の口からわざわざ経緯を語る必要など最初から無い。


貴方達は愛しい操り人形。人形は人形らしく、人の意図で喜劇を舞うのがお似合いよ。


勿論全てを理解したと言える程ではないけれど、それでも私は一々驚いた演技を見せなくてはならない。

…面倒ね。まぁ最初だけだから、我慢するとしましょう。

「本当に興味が無いんだね。まずはその考え方を改めさせる方が先決かな?」

「できもしない事を前提に話を進めるのは、貴方達の専売特許なのかしら?あの戦争で何も学ばないのね。」

「僕には学ぶとか、成長とか、所謂向上の努力なんて必要ないからね。ただ主の意向に従うだけだよ。」

「いい訳ね。まるで自分で考える事を拒否しているかのよう…薄々気づいているんじゃないの?自らの存在の曖昧さに。」

「何を訳のわからない事を…主の為に働くのが僕の役目だよ。君に何を言われようとそれは変わらない。」

うん?反応が薄い……そうか、こいつにはまだ心の琴線に触れるような出来事は起きていない。

ネギに出会ってフェイトは変わり始めるから、まだまだ先の話…。

「そうね、それもそうよね。色々と言ったけど好きにすればいい。ご存知の通り、興味ないわ。」

「君はまるで僕達の目的がくだらない事のように話すね。

でも…その興味の無い君が何故この場にいるのかな?

興味が無いのならこの処刑も見て見ぬ振りをして、放って置けばいいじゃないか。」

「何故ってそれは――」














――それはアリカ処刑の前日。

私は処刑について何の心配もせず、全ては紅き翼が解決し、ただ原作通りの道筋を進むであろうと高を括っていた。

その為、

何の気兼ねも無く、我が家で寛いでいたのだ。それこそ休息の二文字を体で表現するほど、私はだらけていた。

そう何の問題も無かったはずだ。少なくとも一匹の不幸を告げる黒猫が現れるまでは。


「行かないのですか?処刑見物に。」


黒猫がその外見に似つかわしくない声を発声する。これが生来の声でない事は最早説明不要だろう。

これはレザードの使い魔…これで猫らしくニャーとでも鳴いてくれれば、まだ可愛らしいのだが…。

「そうね、魔獣蠢く谷底へと落ちる麗しき女王を肴に…何をすると言うのよ。この変態。」

それにしても…緊急でも無い癖にわざわざ転移させて送り届けるなんて。

話相手が居なくて暇なのかしら?私も暇をしていたから話相手くらいにはなるけど…

まぁ彼は元来、交流と言う物が苦手なのだろう。それに完全なる世界の中に彼と話が合う者がいるとも思えない。

何故そう断言できるかと言えば、私は彼の人間性を知っているからだ。

私が知る、レザードという人間は…

自らの狂気故に偏執的、何より禁断を好み、根っからの極悪人。あと生粋の変態。

それこそ、己の欲望の為に級友や恩師でさえ策を用いて殺すような男だ。

尤も、師については疎ましく思っていたらしいから…恩師などとは欠片も思っていないのかもしれないが。

そう、総じて彼は残虐なエゴイストと言える…それが彼の一面であり、本性と言い換えてもいい。

そもそも彼は誰かや何かに対して“悪い”と本心で思う事は無い。

“悪”という意味は理解していても、いや充分に理解しているからこそ、それを無下にする…そんな感じだろう。

無下にした他人の親切を、更に地に叩き落とし踏みつけて、それを見て嘲笑うのがレザードだ。

よくよく考えると、こんな人間と付き合いがある方がどうかしている。

そうだ…彼も私の事をとやかく言えないのではないだろうか?何が“遠慮という思考が欠落している”よ。人の事を言える立場なの?

それこそ貴方は罪悪感という感情が欠けている。

「褒めても何も出ませんよ…と言いたい所ですが。本当に?」

「しつこいわね。大体私が行く必要があるの?」

彼等に任せていれば、私は邪魔なだけだと思うけど。

「大有りですよ。折角貴女と私の為に用意した初舞台なのですから。」

「何それ?私と貴方の為?」

「そうです。これは私達の為に用意した喜劇の、第一幕ですよ。」

…第一幕ね。まだ他にもあるの?とか色々な疑問はとりあえず置いといて…。

「聞かせてもらうわ。」















「――それは、私にも動くに足る、それ相応の理由があるから。その為に此処に来たのよ。」

「それは是非聞かせて頂きたいね。君に興味を抱かせる物に僕は興味がある。」

「大した事じゃないわ。本当に…くだらない事よ。」

「なるほど、そのくだらない事以上に僕達の目的はくだらないと…そういう意味かな?」

「あら、自覚してるんじゃない。お人形さん。」

「……ここで君の挑発を買って、戦闘を始めても良いんだけど…僕の役目は終わったからね。

獲物は取らないでおこう。」

「獲物?それは…一体何の事?」

「それは秘密にしておくよ。それに今日は挨拶だけのつもりだったんだ。

君が此処に来るという情報をとあるルートから入手してね。」

「…嘘でしょ?どこから私の情報を…?」

「フ、ハハハハハハハ!いつまでも逃げ隠れていられると思わない事だね。龍の姫。」


じゃあね。と最後に不吉な予言を残し、水の転移魔法で消えてしまった地のアーウェルンクス。

これで意趣返しができた――とでも思っているんでしょう。

此方が事情を知っているとは露知らず。勝ち誇った顔をして主の下へと帰還した。

…彼は結局、演技の研究はしなかったようね。

こんな猿芝居を見抜けないなんて……成長しないって言うのも考え物か。





さてさて、それでは…私は私の役目を終えるとしよう。

















「…私が直接出向く訳には行かないとはいえ、

遠見の水晶で見ているだけはツマラナイですね。

少々盛り上がりに欠けるようですが…まあ及第点ですか。良しとしましょう。

喜劇の舞台は幕を開けました。複雑に絡み合う運命の糸という名の喜劇をその手中に収めるのは私達か、それとも…。

貴女には期待していますよ?ジェラード王女殿下。いや此処ではアンジェラ・アルトリアでしたか。」









「ククク…暫しの夢に訪れる泡沫夢幻の世。それを裏から動かすというのも面白い。」



























あとがき




おうぅ…orz

遅い、短い、で定評のある?作者ですが

少しでも面白くしようと努力しておりますので、

こんな作者ですが生暖かい視線で見守ってやって下さい。



[22577] №25「白駒過隙」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/01/28 00:29
№25「白駒過隙」









私がアリカ達の方へ歩いて行くと、未だアリカはナギに縋りついたまま、ナギの名前を連呼している。

「アリカ。」

私が彼女の名前を呼ぶと、彼女はビクリと体を震わせ恐る恐る此方を振り向いた。

その瞳に映る感情の色は…諦め。

自らの力の及ばぬ…正に自分では何一つ成す術の無い状況において、

意地悪くも足掻こうとするが、決して認めたくない真実を叩きつけられた。そんな目をしている。

だが…

この時に限って、その瞳に仄かな明かりが灯った事に彼女は自分でも気づいていないだろう。

諦めから一転、降って湧いた淡い期待。それは彼女の目の前にいるたった一人の人物――

つまり私に注がれていた。

「アン、頼む!こやつを救ってやってはくれまいか!?

こやつは、ナギは!私の為にいや、私の所為でこうなってしまったのじゃ、

ナギがこんな目にあう謂れなど何処にも無い!無理な願いだとは重々承知しておる、

だがッ!これしか方法が無いのじゃ、頼む、後生じゃから助けてくれ!!」

私の同情心に訴えかけ、一途にナギの助命を懇願する元女王。

彼女がもし日本の作法を知っていれば、何の迷いも無く膝を折り、額を地面に擦り付けている所だろう。

今彼女は頭を下げるだけに留まっているが、この人が誰かに頭を下げる姿など見た事が無い。

尤も女王では無くなったから、下げる頭も軽くなったとも考えれるけど。

「顔を上げて、アリカ。」

できるだけ優しく話しかけるよう努めたが、彼女が私の言葉をどのように捉えたか、私には想像できそうにない。

ただその顔には自身の失敗に気づいたような、子供のよくやる低俗な悪戯が親にバレたような、

有り体に言えば“しまった”。その文字が顔の至る所に書かれていた。

…解り易い表情どうもありがとう。

大方、感情に任せ勢いで捲し立ててしまったが、私の反感を買って石化を治してもらえず、

ナギがこのまま石化された状態で時が過ぎてしまったら…という考えが頭を過ったのだろう。

確かに、もう女王でも王族でもない彼女の頼みを聞く者など極僅かで、

それこそ過去に親しい付き合いのある紅き翼の面々や彼女の真実を知る者達に限られる。

しかし、同じ紅き翼のメンバーであった私と彼女は仲睦まじい訳ではなく、喧嘩を売り買いした因縁もある。

私が情に絆されて、因縁の相手である彼女の頼みを聞くという行動に移す可能性は低く、

知り合いだからといって、強力な石化を解呪するのに無償で魔法を行使する…

という訳に行かない事を瞬時に理解したって所かしら。

もしくは、何かそれ以外の理由があるからか。

真相は定かでは無いが…彼女からは今も尚、後悔の念が伺える。

だが、彼女は何の間違いも犯してはいない。

愛する者を失いかけている今、

それを救えるモノが何であれ、藁にも縋る思いでその何かに懇願するのは必然。

因縁の相手であろうと、居もしない神であろうと、救えるなら何にでも救いを求める。

そうでしょう?アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。


「助けてあげる。」


でも私は貴女に何かを求める事などしない。

ただ私が貴女達の味方だと、そういう漠然とした認識でいい。


…それに貴女には元気な男の子を産んでもらわなくては困るからね。















「もう大丈夫。暫く安静にしていてれば、直に目を覚ますわ。」

ナギにオーディナリィ・シェイプとキュア・プラムスの重ね掛け。

それだけで胸が焼け付くような苦悩を一瞬で解決してしまったのだから、

アリカ本人からしてみれば信じられない程呆気なかったに違い無い。

しかし未だナギは気を失っている、このまま守る者がいない状態では非常に不味い。

それなら、

「助けを呼べば身の安全も確保できるでしょう。アルにでも連絡しておきなさい。」

近場で暴れていた彼等に任せて、私は此処を去るとしましょう。

まだ紅き翼の面々には会いたくない。

時期尚早、物事には順序がある。まだ彼等と会うタイミングではない。

「それじゃあね、アリカ。お幸せに「待て!アンジェラ!」ね?」

はいなんでしょう?お礼なんて必要ないけど…。

「妾は……私は、お主と語らうに相応しい者に成り得たのか?」

…は?何それ?

意味がわからない……要領を得ない。

「何の事かしら?」

「…そうか、まだ認めてはもらえぬか。」

そう言って勝手に納得する元女王様。

まったく…自己完結しないでよ。

「…貴女が私と語らうに相応しいかどうかなんて知らないけど、

それを決めるのは私ではなく、貴女の心次第なんじゃないの?」

「え?」

「私がどう思っていようと、貴女が自分に満足しなければ意味の無い事でしょ?

相応しい者に“成る”なんて、それこそ自分が変わるしか無いのだから其処に私は関係ない。

貴女が相応しいと思えるようになった時、自分で自分を認めたその時が、相応しい者に成り得た瞬間なんじゃない?」

「…それは難しいの、まるで終わりの見えない道じゃ。」

「貴女がそう思うなら、そうなのでしょうね。

でも終わりの見えている道なんて、何の楽しみも無いと思わない?」

「……フッ、そうじゃな。それもそうじゃ。思い返せば今までの道程もそうじゃった。

人生は朝露の如し。人生は短いからの、ならばこれからは楽しみを持ちつつ、生きるとしよう。」

話している内に幾分か顔色も良くなったわね。色々あって混乱していたのも、随分落ち着きを取り戻してきた。

これ以上この場に留まると冷静になったアリカから質問攻めに合いそう…。

長居は無用。さ、帰ろう。

「…もう待てないわ、じゃあね。」

「また……会えるのか?」

「さぁ?どうかしら。

余り私を当てにしないで欲しいわね。…二度目は無いと思いなさい。」

「ああ、助かった。感謝するアンジェラ。」

「どういたしまして。」

さて早く帰ろう、心休まる我が家へ。



















「で、何故貴方が此処にいるの?」

若干イラつきながらも我が憩いの家に不法侵入している変態に事情聴取を行う。

他人の家なのに我が家のように寛いでいるこいつに無性に腹が立つ。

まるでこうするのが当たり前のように椅子に凭れ掛りながら、魔導書を読んでいる。

「別にいいでしょう?家を荒らした訳では無いのですから。

それに貴女だって、最初は私の塔に断りも無くやって来た覚えがありますが?」

「そうだったわね。これからは此方の断りも無しに無断で家に侵入するのは止めてもらえる?」

「前向きに検討しますよ。」

こいつ、絶ッ対に守るつもりが無い。それどころか嬉々として破るに決まっている。

しまった、失言だった…。

「はぁ、もういいわ。それより貴方の方はうまく行ったの?」

「まだまだですね。彼等は随分と貴女にご執心のようです。

どうです?嬉しいでしょう?」

「人形に好かれてもね…。それに、あそこにまともな人間なんていないじゃない。」

「貴女もまともでは無いでしょう?まったく…自分の事を棚に上げて、人の事を言うのはどうかと思いますよ?」

「ッ!…貴方だけには言われたくない。そっくりそのままお返しするわ。」

「ククク…ハハハハハ!!

あぁ癒されますねぇ。」

……。

うぁぁぁぁ!!!ゾクッって来たぁぁぁぁ!!!!!

誰かこの変態浄化してくれ!今すぐにぃ!!


「まあ冗談はさて置き、これで盤上には駒が出揃いましたね。」

「余り勝手な行動はさせないでもらえる?いい迷惑なのよ。」

「良いではないですか。貴女も自軍の駒の信頼も得たようですし。」

「駒、信頼、ね。差詰め私が白で、貴方が黒?」

「そうでしょうか?私が悪で、貴女が善ですか?」

「どちらもほぼ同じ条件ならば、それはただの色の違いでしかないわ。」

「ククク、ただの色の違いですか。案外それが真理なのかも知れませんね。」

「さあ?どうかしら。思いつき、何の確信も無い戯言…。」

でも、

それが的を射ている時も、あるのかも知れない。

そういえば…。

「人生は朝露の如し、ねぇ。光陰矢の如しという奴ね…。」

光はそのまま日の意味、

しかし陰は影ではなく月の意味、

どちらも違う意味であるはずなのに、その本質はどこか似ている。

「……ややこしい。」

もっと単純な世の中ならいいのに。









[22577] №26「馬鹿な選択」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/02/05 02:16



№26「馬鹿な選択」




“さてこれからの話に入りましょう。貴女には是非来て頂きたい所があるのです。場所は…”



あの日…アリカ処刑の当日。

レザードが語る“喜劇の幕開け”は盛り上がりに欠けたが、概ね及第点との事らしい。

貴女のこれからに期待しますよ…と、好き勝手言い残し移送方陣で帰っていった。

…散々嫌味を言われ、言い返そうにも反撃に転じる機会を与えられず、その糸口さえ掴めない。

結局されるがままの状況を打破する事は最後まで叶わず、終始言いたい放題の奴に、私は完膚無きまで叩きのめされた。

その上…奴は外見上頼んでいる様に見せ掛けて、面倒事を押し付けてくる非常に厄介な人間だ。

「来て頂きたい」と口では発しているが、本心は又、別にあるに違いない。

じゃあ断ればいいのでは?と思われるが……とんでもない。

断ったら断ったで、あの変態は何を仕出かすか分かった物ではない。それこそ、あの手この手で嫌がらせをするに違いない。

嫌がらせで済めばまだ良い方だ。レザードの人間性は重々承知している。

残虐性と偏った魔術知識。それを遺憾無く発揮する為、特化したと言っても過言ではない天才的な頭脳。

現状、私が敵対して欲しくない勢力第一位はレザード・ヴァレスただ一人。レザードこそ、私を殺し得る危険性を持ちえた生粋の狂人。

味方にすればこの上なく頼もしい、しかし一度敵に廻れば、心休まる時など与えられない。

いや…味方だからと言っても心休まる訳ではない。

味方だから安心できる、味方だから背中を任せられる…という思慮は彼にとって慢心に他ならない。

裏切り。

という事態も常に考慮しなければ、何時の間にか窮地に立たされていたのは自分…なんて事に成りかねない。

――故に油断ならない。

味方だからと言って安心するなど、私には到底できそうにない。

……必然、私の内にストレスが溜まり続けるのも、無理ないだろう。

はぁ…無理は良くない。どこかで発散しよう。




「其処のお嬢さん。少々お時間頂いても宜しいですか?」

突如、背後から声を掛けられる。こんな所にデートのお誘いに来る人間など居るはずが無い。

何せ此処は、街から遠く離れた一望千里の広野。

こんな所に呼び出したレザードを今から殴りに行こうかと考えていた矢先、声を掛けられた。



…それにしても、近づいてくる魔力反応なんて無かった…もしかして、わざわざ転移してきた?

つまり、これがレザードの言っていた用事?

一応―恐らく間違いないだろうけど―確認の為に振り返る。

…あぁやっぱり。最近見かけた顔。

「すいません、どなたか存じ上げませんが…人違いではないでしょうか?」

「いえ、間違えていませんよ。貴女には是が非でも時間を用意してもらいたい。そう、無理矢理にでもね。」

「…ですよね。」

ほらね、奴は面倒事しか持ってこない。

「お名前を伺っても?小さな遊び人さん。」

私の前に現れたのは原作で言う所のフェイト・アーウェルンクス、その彼の髪型を変えただけの人物…

レザードが手掛けた人形の一つ、アーウェルンクスシリーズの一人。

「クゥィントゥム、風のアーウェルンクス。以後お見知りおきを。」

…ご丁寧にどうも、わざわざ自分の属性を教えるのは自信の表れ?なのかしら。

「5番目さん。…変な名前ね、名付けた親の顔が見てみたいわ。」

「僕達の名前に深い意味なんて無いさ。ただの順番に意味なんて無いだろう?」

「……そうね、はぁ…期待した私が馬鹿だった。

申し訳ないけど、私はお人形の相手をするほど、幼くも無ければ暇も無いのよ。

帰って貴方の主に、そう伝えてもらえる?」

「無駄だよ。君が何を言っても、僕は君を連れて行く。

主の命に従い、君をアジトまで連れて行くのが僕に与えられた使命。

使命に邪魔な存在や障害、そして君の意志でさえも、使命を阻もうとする物なら実力で排除させてもらう。

その為に莫大な魔力と戦闘力を僕達は与えられているからね。」

「……“その為の力”ね。ふふふ。」

「何が可笑しい?」

「いえ、良く分かっているな、と思ってね。」

「? 何を意味の分からない事を…」

「何でも無いの、気にしないで。」

「……御託はもうたくさんだ。

言っておくけど、逃がすつもりはないから。

君は僕から逃げる事も、触れる事も叶わず地に這い蹲る。」

「地に這い蹲る?貴方達の親玉でさえ私に敵わなかったのに、貴方に可能なのかしら?」

「すぐに分かるさ。」

その言葉を期に、諸手に魔力流を出現させる5番目。

自身の身体には雷を纏い、体勢は整ったと言わんばかりの風体。

流石、風の名を冠するだけはある。雷の上位精霊…それ以上の威圧感を持って私と対峙する。

「行くよ。」

他愛の無い短い宣戦布告と共に、5番目の姿が消えた。

魔力反応は…後ろ、至近距離!


パキィィーン!


甲高い音を響かせ、私の障壁が砕かれた…。

背後には拳を振り抜いた形のまま硬直している5番目。

「防いだ…流石だね。」

別に意識して防いだ訳ではないが、常時展開している魔法障壁がいとも簡単に砕かれた。

砕かれた障壁に関してはどうでもいい、問題はあのスピードだ。

これは…原作で言う所の、ネギが使用した雷天大壮と同じような効果…。

圧倒的スピードで反撃の隙を与えず、常に自分の攻撃だけを当て続ける。

それだけでも充分強い魔法だが、

さらに遅延魔法を用いた千の雷を、双腕掌握による二重装填した上で、

自らの体内に取り込み霊体と融合させる。

それによってさらなる能力向上を計り、そしてその狙いは功を奏す。

ネギの狙い通り、術はもう一段階向上した。

向上した能力、雷天双壮では雷天大壮で得られなかった常時雷化という絶対的アドバンテージを受ける事になり、

その恩恵は計り知れない。

雷天大壮で得られた特殊効果はそのままに、雷化の最中は思考加速、身体機動加速のオマケ付き。

速さという点では比類なき強さを発揮する。雷系魔法の一つの到達点とも言える複雑怪奇な闇の魔法。

どうやら、雷になるだけではこうも簡単に移動はできないらしいが…

雷になる…この点だけでも踏まえていれば――

「考え事をするほど余裕があるのかい?」

猛攻――

ラッシュとも言い換えられる怒涛の攻撃に、移動も魔法も唱えている暇が無い。

しかも張っても張っても矢継ぎ早に障壁が砕かれるッ!

……此処は一先ず、時間が欲しい。

「八百万の練鉄鋼!」

魔法金属である八百万の練鉄鋼で私の周囲を球体状に取り囲んだ。

これで時間は稼げるが…。



「…アーティファクトで身の回りを囲ったか、馬鹿な選択をしたね。」










…攻撃は続いているようだ、外から衝撃が伝わってくる。

流石に魔法金属による物理障壁と魔法による複合障壁は簡単には破れないようだ。

まあ防いだは良いが、このままでは千日手、互いに八方塞になってしまう。

…しまうのだが、

奴がそんな行動を続ける訳が無い。

今も続けている一手には、何か意図が有っての事に違いない。

そう考えられる理由は只一つ。

人間らしい感情を持たない、合理的考え方をする奴が、

無駄な攻撃を延々と行い続けるとは到底思えないし、有り得ない。

無意味。

現状は、その言葉にピッタリ当てはまる。

おそらく、

この攻撃は、5番目が常に攻撃し続けているという、意識誘導に準じる物のはず。

閉鎖された空間にいる私に、心理的重圧と真意を悟られないようにする為と考えられる。

その考えの下、導き出される答え…5番目の真の狙いは――

この障壁を突破する威力を持つ攻撃の充填、そしてそのタイミングを計らせない為の布石。

必殺の右を打ち込む為の左。

今もまだ続く攻撃は、軽いジャブのような物だと推測できる。

ある程度間違いはあるだろうが、5番目が相手を弄ぶような…この状況を楽しむような性格の持ち主で無い事は確か。

いずれにしろ…。


「馬鹿な選択をしたわね、有無を言わさず最大火力で沈めれば良かったのに。」













「…出てこない、か。

やれやれ…可能ならば、生きたまま連れて来いとの命令だったけど、

魂さえ無事なら構わないかな?肉体は諦めて貰うとしよう。」


5番目の周囲に濃縮した魔力が現れ、

徐々に魔力反応が高まるのを感じる…そろそろ来るみたいね。


「轟き渡る雷の神槍(グングナール)…これは君の話を聞いて開発した魔装兵具でね?

君の神槍と比べ、僕の槍の方が上回っている事を証明したかったけど…。こればかりは仕方無い。」


バイバイ、と先程までの自身の言葉とは裏腹に、執着など感じさせない様子で大規模魔法を呆気なく解き放った。


その名の通り、一帯に轟く雷鳴は、正しく神槍と呼べる威力かも知れない。

少なくとも、高位の魔法使いによる千の雷では比べ物にはならず、明らかにそれを超える出力は持っている。

それをこの世に顕現するには、高位の魔法使い程度の力量では足りず、

そしてこの人形は、その力量に達している。

オカシイ。

この魔力反応は最終決戦のナギと同等くらい、

つまり、

これは、ナギの千の雷と同じかそれ以上?…まさかね。


……。


今は戦闘中ゆえ、答えを先送りにするけど…余り深く考えたくない。











さて、暢気に戦況確認している私はというと、

こうして転移した上空で、いつも通り敵の手の届かない超遠距離から魔法を唱えるという常套手段に打って出たわけだ。

しかしまあ…

幾らアーティファクトが其処にあるからと言って、こうも簡単に騙されるとは…。

転移している可能性くらい考えなさいよ。お馬鹿さん。

まあいい。折角の強者との戦闘。この状況を無駄にはしない。

それに、

「私なりに考えた雷天大壮、雷速瞬動に対する対抗策。良い機会だから試させてもらいましょう。」














「貫いた…当たり前か、突破力に特化した魔装兵具である“轟き渡る雷の神槍”を防げる訳が…」

「去れ(アベアット)。」

「!? アーティファクトが消えた?という事は…まだ生きている?

ならば一体どこに…空か!」


貴方達の使う雷化の魔法は周囲の電位差を操る事で、自分の落ちる所を決めている…はず。

ならばその魔法の弱点。

それは、同様に荷電粒子を操るのではなく、

遥か上空の、雷雲が有る位置まで退避すればいい。


雷雲とはそもそも、

地表で大気が暖められることなどにより発生した上昇気流によって、

湿度が高いほど低層から飽和水蒸気量を超えて水滴が発生して雲となり、

気流の規模が大きいほど高空にかけて発達する。

この水滴は高空にいくほど低温のため、

氷の粒子である氷晶になる。

氷晶はさらに霰となり上昇気流にあおられながら互いに激しくぶつかり合って摩擦されたり砕けたりすることで

静電気が蓄積される。

重い霰は下に、軽い氷晶は上に行くことによって雲の上層には正の電荷が蓄積され、

下層には負の電荷が蓄積される。

つまり、

電位差を操作する雷化の魔法は、生憎その雲の中では、自分の電位差を操作できず、

ただ電位差の流れるままにその身体の自由を失う羽目になる。

雷雲の中で、その魔法を扱うには非常に困難。電位差を操作するだけでどれだけの労力を伴うものか…想像もつかない。


これがその魔法の弱点その一。そして―





「闇の深淵にて、重苦にもがき蠢く雷よ、」



私が発声するよりも前に、あたり全体の雲を引き裂いてその黒球は現れた。

これが私の考えた最も簡単な解決策。それは――

空間を捻じ曲げ、時空さえ歪め、光を以てしても逃げる事叶わない

三次元的な成り立ちで言う“穴”に引きずり込む。

所謂、ブラックホールの生成だ。

あまりに強力な重力は、電位差など関係なくあらゆる事象全てを捻じ曲げ、光の進むコースでさえ曲げられる。

そんな強力な穴に、質量を電子に変換した…雷化した者の末路を想像するのは難しく無いだろう。



「!? バカな!吸い込まれる?」


ほらほら、早く解かなきゃ…死ぬわよ?


「彼の者に、驟雨の如く撃ち付けよ!」


…もう遅いけどね。

上空には死への誘い。成す術なく、黒い死神が雷を飲み込んだ。

雷を飲み込み、帯電する漆黒の球体。

時空を歪めた重力場は、雷を咀嚼し、その異物を吐き出す時を今か今かと待ち侘びている。

時間にしてほんの一瞬。

その時は、瞬きする間に訪れ、焦らされる事なくぶちまけられた。




「グラビティブレス!!」




三回。


雷鳴が三度鳴り響き、歪められた雷は辺りに散らばった。

同様に散らばった腕や脚が見えるけど、気のせいよね。ふふ。










「ばか、なっ!一撃、で!」

「まだ喋れるなんて…何者よ貴方。」

「がぁ…。こんな事があって…堪るかッ!くッ、そッ。この屈辱、必ず、晴らすっ!」

転移した…一瞬だから何を媒体にしたかわからないが、風か、まさか雷で転移した?



まあ、色々あったけど…辺りの地形は変わったけれど、

やっと静かになった。


この戦闘は前から言っていたレザードの“私を強くする計画”の一端なのだろう。

しかしそれだけで済む話ではない。明らかに強化されている人形については説明を受けていない。

…まあそんなに慌てふためくような事ではなく、実はそれについては見当はついている。

今回の戦闘は……レザードの悪い癖が出たのかも知れない。

あの変態は出来の悪い人形を、そのままにしておけなかったのでしょう。

暇だから。とか如何でも良い理由で勝手に手を加えて、より高出力の物に変えたとしか考えられない。

勿論暇だからと言って出力向上するような性格ではない。レザードの行動には必ず意味があり裏がある。

表向きの理由は来るべき戦いの為の戦力強化。

しかし裏では…誇示したかった訳だ、レザードは。私は貴様等のその屑のような人形よりも、優れた人形を創れると。

言葉には表さないけれど、結果である人形の性能の向上が全てを物語っている。

…改造するのは勝手だけど、戦力に隔たりが出ないようにしようと言ったのは何処のどいつよ。

全く…レザードの性格は、仕方無いと諦めたほうが懸命なのかしら?

しかし諦めたら、あいつを野放しする事に繋がり、益々増長させる事に成りかねない。

むぅ……。

自重しろ、レザード・ヴァレス。




















あとがき


轟き渡る雷の神槍(グングナール)…

まさかの名前被りかと…びびった(汗



[22577] 番外 エヴァ2
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/02/17 01:24




番外 エヴァ2




「危なかったなー、アン…じゃねえ。」

「…………。」

私を――この私が誰かと知って助けたのか?この男は。

……知ってか知らずか、まあどちらにしろ、救いようの無い大馬鹿者だな。こいつは。



「お前は誰だ?何故私を助けた?」



此処がどこかもわからぬ森の中で、枯れ木を集め火を焚く。それを名も知らぬ男と囲う。

最近は茶々ゼロとしか話をしてなかった私には、久しぶりの人との温もりで……

!?

違う!違う!温もりだと?様々な異名を持ち恐れられているこの私が、

こんな何処の馬の骨だか知れない奴に温もりなど感じる筈が無い!


「さあな、まぁ食えよ、うまいぜ?」


そう言ってこの男はいい按配に焼けた魚を私に差し出す。

私の質問に答えない事は気に食わないが、

この男が私を向ける視線は時折、懐かしいモノを思い出すかのように見据えている。

その瞳には落胆の色も伺える事から、失った愛しい者を思い出しているのだと、私は600年にも及ぶ過去の事例から類推した。

そしてその件に関して、根掘り葉掘り尋ねる事を、

何処の馬の骨とも知れない他人の事情に、そこまで深く踏み込む事を良しとはせず、

ただ黙って久しぶりの暖かい食事を噛み砕いた。


「しっかし、なんであんなトコから落ちたんだ?」


この男は、私の質問に答えない癖に、私の非については問いただす。


「新呪文の研究開発に着手していてな。三日三晩寝ずに開発に取り組んでいたらあのザマだ。」

「へえ~呪文の開発ね。俺には珍紛漢紛だぜ。まったくもって理解できねぇ。」

男はやれやれと言った感じで、溜息を吐いた。

……此方は質問に答えた。今度こそ答えてもらうぞ?

「で?貴様は何者なんだ?」

「……結構しつこいのな、お嬢ちゃん。俺が何モンかだって?そうだな……俺は――」


「千の呪文の男。そう呼ばれている。」


……不十分。

何の説明にもなっていない自己紹介。

しかも千の呪文を操るだと?何処を如何見ても、この男がそんな大魔法使いには見えない。

……真偽はともかく、そんな得体の知れない男の言葉を信じられる訳も無く、

そしてそういう奴等の殆どが、口だけで実力が伴わない。こいつもその一端なのだろう。

私はそれに呆れるばかりで、やはりこいつはただの身の程を知らぬ馬鹿で、

取るに足らない存在だと結論づけた。







「で、この後はどうすんだ?」

「は?」

この後?何を言っている。

この後もこれからも無いだろう。

ただ飯を馳走になっただけの一期一会の交差。もう二度と会う事もあるまい。

それとも、これから夜を共にしようという誘いか?

もし仮にそうだとしたら、氷の彫像にしてやるだけだが。

「だから、こんな所にガキ一人ほっといて帰れるかって言ってんだ。何の予定も無いならどっかの街まで送ってやるよ。」

「なんだ、心配しているのか?この私を?……クハッ!アハハハハ!!」

「な、なんだよ急に笑い出して――ハッ!まさか…そこらへんに生えてる毒キノコでも食ったのか?」

不味いだろ……キノコってのはプロでも見分けがつかねぇって詠春が言ってたぜ?と、宣う自称千の呪文の男。

どこのどいつだ!その詠春と言う奴は!大体、キノコなど食っとらん!

「違うわ!このど阿呆!貴様ァどうやったらそんな答えに辿り着くというのだ!!」

「あれ?違うのか?」

「違う!!」

はあ、疲れる。

やはり、この男が千もの呪文を操るとは考え難い。

こんな馬鹿が、千の魔法を極める程の頭脳や力を持ち得るとはどうしても思えん。

疑惑は確信へと変わりつつあるが、わざわざ確認するような事でもあるまい。

それに、私はこんな馬鹿の相手をしている暇など無い。私には成すべき事が在る。

「お、おいどこ行くんだ?」

私が立ち上がると、私の雰囲気を感じ取ったのか声を掛け、引き止める男。

……何故其処まで私の事を気に掛ける?

見ず知らずの、貴様の言う所のガキ一人など見捨てればよかろう?

「馬鹿の相手など此方から断らせてもらう。貴様もあるべき場所に帰るといい。」

それが貴様にとって最も優れた判断だよ。私に付き合っても良い事など一つも無いぞ?損をするばかりだ。

「おいおい、何だそりゃ。こんな夜中から移動しなくても、日が昇ってからでもいいだろ?」

「一々五月蝿い男だ。いいからさっさと消えろ、私は忙しいんだ。」

踵を返す私に、男はもう何も言ってこないようだ。

……私の跡をついて来ない。まぁ所詮はその程度だと言う事か。

皆、口では何とでも言える。そしてこういう己の表面を優しい言葉で見繕う奴に限って、

私の正体を知れば恐れ戦き、仕舞いにはその杖の切っ先を私に向けるだろう。

それも又、私の長年に亘る経験則で類推できる。



だが――



「…飯は、旨かったな。」

今度会う事でもあれば……いや、止そう。もしかしたらの可能性に期待しても、裏切られるのがオチだ。

決めたではないか。私は――。




「来たれ雷精風の精!!雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!!雷の暴風!!!」




!?

奇襲ッ!!

敵の襲来、まさかさっきの男?避けれない。

様々な憶測が脳裏を過るが、どれにも答えを出すには時間が足りない。

気がついた時には何もかもが既に遅い。荒れ狂う雷の極光は私の元に辿りついて―。

地に到達した魔法が、辺りを蹂躙し、薙ぎ払い、爆音が鳴り響いた。




ほら見ろ。碌な事が無い。




…しかし、吹き飛ばされた条件が良かったのか、私の身体はなにやら暖かい物に包まれて、ゆっくりと飛ばされる。

こんな風に吹き飛ばされる事など、初めてだ。

まるで誰かに抱き抱えられているような、そんな感触と夢のような感覚。

思わず人恋しさがこみ上げて来て、腕を回してキュっと抱きしめてみる。

やっぱり、暖かい。









「だから、一人で出歩くなって言ったんだ。」

「ふえっ!?」

ハッと目を開けてみれば、そこには確かに、

先程の自称千の呪文の男が、闇夜の月に照らされていた。


「よっこいせ、っと。……怪我はしてねぇよな?大丈夫か?」

私をゆっくりと降ろすと共に心配して此方の様子を伺う男。

貴様、こ、この私を……いやさっきの感触は……まさか、私は!こんな男に!?

「お、おい!!今のはちがッ!「ちょっと黙ってろ。」ぶべっ!」

弁解を図ろうと口を開いた途端、男は杖を持った手とは逆の手で私の口を塞いだ。

そして先程魔法を放たれた方向を見つめ、静かに呟いた。

「すまねぇな。あれは多分、俺の客だ。」

は?何の事だ?

「ぷはっ!俺の客だと?何を言っている。あれは私への刺客だろ?」

「? 何処の世界に、ガキに刺客を放つ奴がいるんだよ。」

「ガキではない!私にはちゃんとエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという名があるわ!

貴様でも聞いた事があるだろう!闇の福音の名ぐらい!」

「はぁ?何言ってんだ?状況がまったくわからん。

……だがな、エヴァンジェリン。お前が誰であろうと、ガキって事にゃ変わりはねえ。そうだろ?」

「なッ!」

「ガキのお守りは大人に任せときな。じゃあちょっくら片付けてくるから、そこで大人しく待ってろよ?」

さっきから何なんだこいつは!ガキ、ガキと私に向かってッ!

この私を、吸血鬼の真祖の、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを此処まで虚仮にするなど!

……そうか、わざとだな?

わざと気づかないフリをして、影で私の事を馬鹿にしているんだな?


クク、そうかそうか。クハハハハハハ!!!


いい度胸をしているじゃないかぁ!!この若造が!!








「さてと、どうすっかな。めんどくせーが仕方ねえ……ん?なんだ?」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。

来たれ氷精、闇の精!!

闇を従え、吹雪け、常夜の氷雪!くらえ……

闇の吹雪!!」

「おわ!危ねえ!!っておま、何やってんだエヴァンジェリン!!」

「ちっ、外したか。」

「外したか……じゃねぇ!!俺を殺す気か!」

「黙れ!黙って私に殺されろ!!」

「はあ?顔真っ赤にして何言ってんだお前?」

「ッッ!!死ね!!死んで忘れろ!!」

「アホか!!死ねって言われて死ぬ奴がいるかっつーの!このボケガキ!!」

「ボケだのアホだの、貴様にだけは言われたくないわぁー!!」

やはり、馬鹿にしてたんだろう!貴様ぁぁああああ!!

「死ね!!来たれ氷精闇の精!!闇を従え、吹雪け、常夜の氷雪!!闇の吹雪!!」

「ちょ!それは不味いって!来たれ雷精風の精!!雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!!雷の暴風!!」

互いに同種の魔法を打ち合うが……相殺された!?

「マジかよ、何モンだ?エヴァンジェリン。」

「やるじゃないか!!千の呪文の男!!」

ハハ!面白い!必死に足掻くか、千の呪文の男。

ほら、もっと足掻いて見せろ!!

「来たれ氷精大気に満ちよ、白夜の国の凍土と氷河を!こおる大地!!」

「だから、それは不味いって!!」

「ハハハ!逃すと思っているのか!?」

この後も、私の魔力が尽きるまで、千の呪文の男を追い回した。

辺りは無法地帯と化した訳だが、誰か人が来るような場所ではなかったし、

この異常事態を見れば、たとえドラゴンであろうとも踵を返すだろう。

ん?あいつを追い詰めるのが楽しくて、何か忘れている気がするが、

まあいいか。忘れるくらいなら大した事では無いのだろう。

「あー死ぬかと思った。」

「中々やるじゃないか、千の呪文の男。久々に楽しめたよ。」

「そりゃどうも。……なぁ、一つ聞いてもいいか?」

「ん?何だ?今の私は機嫌が良い。少しくらいなら答えてやろう。」

「うーん、まぁ気になった程度だからいいよ。」

「…私が答えてやると言っているのだ。こんな機会は滅多に無いぞ?いいのか?本当にいいのか?」

「ああ、やっぱりいいや。」

「貴様!!私が答えてやると言っているのだ!さっさと話さんか!!」

「さっきから何なんだお前は……たくっ、えーっと、あれだエヴァンジェリンは新呪文の開発とかやってたんだろ?」

「それがどうかしたのか?残念だが、研究内容は教えられんぞ?」

「いや、お前は強いし、頭いいのは充分解ったんだが、

そんな強いお前が、なんでまだ力を求めるような事をする?

もう充分だろ?そんだけ強けりゃ。」

「なんだ、その事か。……ふむ、簡単に言うとだな。」

過去の事を振り返って思い起こすのは――あの時。不覚を取った時の映像。

あの後から、私は昔断念した術式を掘り起こしまで力を求め、完成にまでこぎ付けようとしている。

費用対効果や、技術的障害の多さなど無視してまでだ。

そこまでして、そこまでしてでも、

「負けられない相手がいるのさ、そいつに勝つ為に私は立ち止まってはいられない。それだけだ。」

「負けられない相手か。そうか、勝てるといいな。」

「ああ、その為にも――」

「ん?何だ?」

「フフ。ガキ一人、放って置けないんだろ?千の呪文の魔法使いよ。

ちょうどこれからの段階で、新呪文の実験台が欲しかった所だったんだ。うむ、実に丁度良い。」

「ははは、大丈夫。エヴァンジェリン。お前は立派な大人だ。じゃ!そういう事で!」

「逃がすか!」








――あいつが、あの忌々しい女が、反射を物にしているのならば、

私はその上を行くだけの話だ。

「マギア・エレベアの真髄……目に物見せてくれる。」




[22577] №27「アナタの青写真」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/02/27 02:04
№27「アナタの青写真」




我が家に帰ると、そこには行儀良く座っている一匹の黒猫。

準備が良いのね。予めこうなる事は想定していたという訳か。

「貴方の言った事、私達の成すべき事、忘れていないわよね?」

「勿論です。貴女の怒りもご尤もですが、一先ず私の話を聞いてからでも遅くないと思いますが?」

「言ってみなさい。」

貴方の答えによっては、私も考えを改めなければならない……。

そんな雰囲気を醸し出し、ジッと黒猫を見つめる。

「まず、彼等に関しては仕方の無い事だったのです。

彼等幹部のコアや身体の損傷はそれは酷い物で、中には全損している物も在りました。

貴方達による過剰殺傷のお陰で、修復する為の諸々の材料が短期間では揃わなかったのです。

修復するにも圧倒的に人手が足りていないですからね。状況は八方塞がり、成す術がありませんでした。

――そこで私が手を貸したのです。

貸したと言っても、数多の制約や幾つかの条件を満たしてもらう必要がありましたが、

それも概ね問題無く、私の手で完璧な人形を作成する事が可能となった。

コレに関しては喜ぶべき状況でしょう?思いがけない好運を得ることで、労せず思い通りに事が運んだのですから。

そして名目上、破棄した身体と同じ体格では問題があります。表向きの理由は材料が足りない、という事になっていますからね。

怪しまれないように前期の身体よりも小型化、さらには性能の向上、それらの成果として完全なる世界での幹部の位置までも手に入れた。

全てを成し遂げましたよ?貴女のご注文通りに。……何か質問はありますか?」


……話が進んだ?ハハッ、まさか。貴方がそういう方向に扇動したのでしょう?

まぁ推測で物を語るのは良くないけどね。まずは当り障りのない質問でもしましょうか。


「材料は何を……って聞く必要は無いわね。きっと貴方の事だから、そこらの行方不明の落し物を使ったって事?」

「落し物……ふむ、落し物ですか、中々良い表現です。

彼等の使う材料は希少価値が高く、中々集まりませんので。

その分、私の場合はタダで材料が揃いましたよ。やはり戦争は良い、新鮮な落し物が手に入る。」

「やっぱりね……それで?命令には完璧に従がうようにできてるの?」

「えぇ、彼等が人形である限り、まず逆らえないでしょう。」

「そう、ならもう一つ。」

「どうぞ、何なりと。」

「……貴方は言った、“戦力の偏りは出ぬように”と。これについてはどう説明するつもり?」

「あぁ、その事ですか。

良いではないですか、そちらの陣営には貴女という女王がいる。最強の駒である女王が王を担う。

貴女という反則がそちらにいるのですから、多めに見て頂きたいですね。私は影ゆえ、劇の舞台には上がらないのですから。」

「王を担う女王ね、一人二役では駒が足りなくなるわ。」

「駒が足りないなら募ればいいのです。女王として。

そうですね、いっその事、何処かに国でも建立してみては?

貴女には正統な資格があるはずです。そうですよね?王女殿下?」

レザードは何がそんなに可笑しいのか、クック、と笑いを堪えられず、黒猫はニヤリと笑う。

「遠い祖国を思い、感傷にひたり、望郷を願い、それが叶えられぬならと、自ら故郷を造る。

それを成す富も力も充分過ぎる程で、持て余していると言っても過言ではない。

……いいですね。実にいい。死者が生き返り、願いを叶える。クク、まるで神の御業のようです。」


―――ッ!こいつ!

いや、わかるはずがない、現にその目は私に向いておらず、何処か遠い目をしている。

彼の言う神とは恐らくレナスの事。今は、彼女との思い出に浸っているのだと思う。

……私の秘密を知られれば、こいつは何と言うのだろう。

まず良い事は何一つ無い。それは確かね。


「はいはい。貴方の身勝手な青写真に付き合う気は無いわ。

それで、ちょっと話が変わるのだけれど、」

「おや、お気に召しませんでしたか。残念です。」

「それはもういいから、私が聞きたいのはコレの事よ。」

私が取り出した、見た目は何の変哲も無い物に、黒猫の目がスッと細まる。

――何だ?

「賢者の石がどうかしたのですか?」

「あのね?私のこれも複製による物。完全ではないでしょう?今の内に完璧な物にしておきたくてね。

悪いんだけど、頼めるかしら?ダイオラマ魔法球があれば時間は取らないでしょう?」

この作業の大変さは身をもって知っている。幾分気が引けるが、これは今回の件に対する慰謝料みたいな物だ。

完全版の賢者の石を要求して、今回の件を水に流す。有り体に言ってしまえば黙っていた事に対する落とし前。

今回の件はいつもの笑って済ませる冗談とは訳が違う、流石に一線を越えている。

完全なる世界の情報の提供――生死に関る事や、秘密にされていては困る事は随時報告する契約のはずだ。

普段なら通らない要求。だが今このタイミングで切り出したなら、勘の鋭いレザードは理解するはず。

勝算のあるお願い。

暫く考えを巡らしたであろう彼の答えに、私は久々の勝利を確信した。


「お断りします。」


――確信していた。が……どうやら、そう思っていたのは私だけらしい。

「何故?意味が解らない訳ではないでしょう?」

「わかっています。今回の件は借りにしておいて下さい。」

「私は何故とも聞いている。それでは説明の半分も満たしていないわ。」

「……貴女も良く物を考えて発言して下さい。」

「何ですって?」

「……いいですか?ダイオラマ魔法球とは一見便利な物のように見えますが、あれには外に対する警戒が皆無です。

我々のような腹に何かを抱えた者にとっては、無防備程怖い物は無いでしょう?

そうですね、例えば……私が中で作業している途中、魔法球ごと何処かに運ばれたら?私が不在の間に誰かが魔法球その物や、その中の情報を盗み出したら?

魔法球の中は時間の流れを変えられます。たとえ短い時間でも、不在にする訳にはいかない。そんな爆弾を抱えて過ごせと言うのですか?」

「それは……。」

「私達はこの計画を成功しなければならない。その為に不安材料は排除します。」

「自分の事を棚に上げて、よく言う……。それは遠まわしに賢者の石を使うな、いえ、知られるなと言っているの?」

「そうです。できれば絶対に。

私と貴女が同じ物を持っていれば、勘繰る者も出て来るでしょう。たとえ見た目が只の石だとしてもです。

それは私達にとって不利益でしかない。私達に繋がる情報は全て極秘扱いと考えて下さい。外部には絶対に漏らしてはならない。」

「……そうね。」

何だ、この違和感……。

少し、警戒し過ぎではないか?

「貴女が望む物は私が用意します。どうかそれで納得してください。」

「……今後は契約を遵守する事、それで納得してあげる。後、貸し一つも忘れない事ね。」

「感謝します。」

……やはり、変だ。

こいつが、人に感謝を述べるなんて。









「……何事もなかったように帰ったわね。」

説明を済ませたらすぐに帰宅の途についた黒猫使い魔。

それにしても、今回の一件は何時ものレザードの愉快犯的犯行とは少し違うようだ。

ハッキリ言えば意外だった。

我が家に帰ってきたら彼が居て、私の事を嘲笑う準備に明け暮れていると思った。

どうやら、そうではなかったようだ。

あいつは話相手――という名の生贄を欲していた、それこそ、私が何かミスを……ミスでなくとも何か切り口があれば、

そこに塩を塗るように執拗に責め立てる。

それを好んで行なっている変態だし、レナスの居ないこの世界では数少ない生き甲斐の一つだったはずだ。

それをを疎かにするほど、何かに打ち込んでいた?

考えられるのは……

“他の”神に対抗する策でも思いついたのか、

それとも、あの世界に帰る手段が見つかったのか。

他のといえば、あいつは喜劇と表現していたが、それも随分無茶な話だと思う。

あの世界に帰る手段よりも先に、神を倒す方法を模索し、それを実行に移す為、

この世界を巻き込もうとしているのだから。




















あとがき



短えぇぇぇ!!

こんな小説に期待している方がいるか解りませんが、

作者の生産力はゴミ屑です。

現にこの小説の全てのKB数は此処のとある人気長文小説の二話分くらいです。

本当申し訳ない。

謝りついでに言うとエヴァ番外と順序が変わってしまいました。

年表順に行けばコレを先に乗せるべきでした。

重ねて謝ります。申し訳ありませんでした。

番外はその人物の起きた原作との乖離点、と考えていただければいけるかも?

今後は年表を見合わせ、重ねるようにもっと努力します。



[22577] №28「こたえて」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/03/14 00:28










№28「こたえて」





「最近ね?探していたの。

私から逃げるでもなく、それどころか立ち向かい、

己が目的を達成しようとする気骨のある生き物を。」

倒れている人形を足蹴にし、抵抗できぬようその細い喉を踏みつける。

人形は「ぐっ」と短い呻き声を上げる。

……壊しても構わないけれど、こいつに聞きたい事もある。

冷静な話し合いをする為に、少しだけ身体に付けてあげた切り傷――裂傷が見え隠れする四肢に、一瞥をくれる。

……まだまだ、か。

私も最近思う物があり、手加減など微塵も考えず全力で戦った。しかしその攻撃のどれもが急所や人体にとって重要な血管等を外されている。

まったく……もういい加減、槍の扱いにも慣れただろうと思っていたんだけど。ほんと、まだまだ。精進が足りていない。

「……。」

「命令を忠実に守る、いえ守らざるを得ない貴女は、格好の的とも言えるわね。……ねえ?聞いてる?」

「不可解……貴様、何故私の魔法が通用しない?何故私がこうも簡単に屈服されなければならない。」

わけがわからないといった顔で、人形は仰向けの状態から怨嗟の声を上げる。

その両手は私の足に添えられており、自身の喉に掛かる圧力を押しのけようと腕に力を込めている。

健気な物だ。

そんな人形が、話易いように少しだけ喉の圧力を緩めてあげた。

ほんの少し力を込めて踏み込めば、容易く折れてしまいそうなその首に、まだ線は刻まれていない。

「何故私の、何故私が、ねぇ。話してもいいけど、私も貴女に聞きたい事があるのよ。

いい機会だし、まずはお互い自己紹介からはじめましょうか。」











私が、私を尾行する存在に気づいたのは、まったくの偶然だったと言っても過言ではない。

それは完全に気配を断ち、決して自身の存在を悟られぬよう、細心の注意を払って行動していたのだろう。

今思えば、その事に注視して周囲を観察してみれば、幾つかの違和感を感知できたのかも知れないが、

今更何を言っても後の祭りで、敗者の言い訳に過ぎない。

勿論、何かしらの敵対行動に移せば、私も感知していたであろう。

しかし、逐一尾行し、監視する事がこの監視哨の役目であるならば、この状況下において、私の負けである事に変わりは無い。

さて、そんな私が手にした少しばかりの幸運は、それは本当に小さい物で、正しく路傍の石の如く、

それに意識を向けなければ、日常の雑多の中に埋もれていて、思考の片隅にすら引っ掛かる事はなかった筈だ。

それでもやはり、思い返せば偶然の産物でしかない。




「――お嬢ちゃん、そんなにじぃーっと見つめても、値段は下がったりしないぜ?」

店主が話しかけてくる。それに関しては何の問題もないが、

私がそのアーティファクトが欲しいから、見つめていたなどと思われるのは少々心外だった。

「これね、これが本当に正規の値段なの?」

「なんでぇ……値下げ交渉ならママを呼んできな。お嬢ちゃんの母親なら、さぞ美人だろうよ。」

普通ならばおくびにも出さないような事を、平気で口にするこの店主の口振りが、魔法世界でのジョークなのか、

見た目が子供の私に対して、商品にいちゃもんを付けるくせに、どうせ買う金もないのだろう?という只の嫌味なのか、わからない。

後者だとしたら、さぞ捻くれた性格の持ち主だと断言できるのだが、それを検証するほどの時間も無く、暇でもない。

私は探している。この世界でもおそらくあるであろう、ネギま原作では語られていない、あのアーティファクト。

正確には有ってもおかしくない。という曖昧な物だが、探さずにはいられない。

それに、それだけに留まるのではなく、この世界のアーティファクトは実に種類が多く、有用性の高い物も多く揃えている。

収集家の心意気など毛ほども持ち合わせていないが、どうも目移りしてしまう。

アーティファクトに何度も助けられている身としては、蔑ろにはできない。

「私が言うの事に納得できないでしょうが、これね、ガラクタじゃない?」

「ははっ!何を言い出すかと思えば、これは正しく神器に勝るとも劣らない名剣だぜ?お嬢ちゃんには、一生縁のない代物だ。」

それは小さな私が、この剣を持ち戦う事など一生無いという意味か、それとも金銭的にも買えるはずが無いという意味か。

どちらにしろ、これでハッキリしたのは、この店主の意地が悪いという無駄な情報だけだ。

「そう。確かに、こんなものには縁が無いほうが無難ね。」

私の呟きに、ピクっと店主の眉が動いた。

そしてこちらの皮肉には素直に反応する頭を兼ね備えているという、どこぞの誰かの劣化版のような人間だ。

「……へっ、これはな?名のあるハンターや、高尚な魔法使いの従者が、涙を呑んで買うのを諦める程のシロモンだ。

お前みたいなガキんちょに価値を判断されるのは、可哀相ってもんだ。」

ここで言い返しても、もはや水掛け論だ。互いの事情を知らず、ましてや店主はこの程度が最高だと思っている。

そんな容量の狭い脳味噌に、あれやこれやと詰め込むのも可哀相だ。自分自身で、これが限界だと思い込んで悦に浸ればいい。

「……そうね。私には価値の無い代物だわ。邪魔したわね。」

帰ろうとした私に、舌打ちの返事が帰ってきた。……今思えば、日本は本当に良く教育されていたな、と過去である未来に思いを馳せる。

「あんな店主でもちゃんと店が回るのだから、商売するのも悪くはないのかしら。」

――在り得ないわね。

そんな心算などまったくないのに、ありもしない未来を夢想する。

何気ない思いつきに苦笑しながらも、今一度振り返る。

一際賑わうあの店に、目立つように入り口中央に飾られ、大通りに見えやすいように工夫された客寄せパンダのガラクタ――

――そこには一人の客が、注意深くそのガラクタを観察していた。

そう、私にとっては見慣れた顔の、招かれざる客が。



その後、人気の無い場所まで移動し、刺客が出てくるように促す。

促すといっても、いつもの皮肉を込めた挑発で、フェイトなんかだと出てこない可能性もあったが、

素直に姿を現した物だから、逆にすんなりと行き過ぎて、罠の可能性や誘い込まれた可能性等々、色々と深読みしてしまった。

結局何かあるでもなく、そこから戦闘に発展していく訳だが……、

正直、私とこいつの相性は抜群だ。勿論私にとって最高で、相手にとっては最悪という意味で。

まぁ様々な条件が重なり、何の因果か今の状況が出来上がった。











「私の名前は嫌と言うほど聞かされているだろうし、今更な気もするけど、改めて、

アンジェラ・アルトリアよ、そんな私を尾行していた貴女は、一体何番目なのかしら?」

「……セクストゥム、知っての通り、水のアーウェルンクスです。化物。」

「……化物って、私は只の人間よ?」

「それこそ今更でしょう?元紅き翼のメンバーであり、私達を単独で撃破する者が只者であるはずがない。

……それよりも、さっさと私の質問に答えろ。」

……何か高圧的よね?この子。自分の立場がわかっているのかしら?

少しだけ、足に体重を掛けてみる。

「うっ!カハッ。」

美少女が苦悶に歪む表情を見ると、何かに目覚め……ない、心まであの変態に毒されている訳ではない……筈だ。

それにしてもこの子、人形にしては――

「貴女は随分と感情豊かなのね?他の人形は、“表情”に出すなんてしなかったと思うのだけど?」

「……知りませんね。少なくとも、貴女には関係の無い事です。」

ここであれこれ追随して質問すると、疑問に思われるかもしれない。

どうでもいい事を質問して意識を散らすとしよう。

「まぁいいわ。貴女は私を捕らえようとしていたみたいだけど、うまく行かなかった。それについて不可解だと。ふむふむ。」

「そうだ、何故……貴様は凍らない?術は完璧に行使していたし、防がれた気配も無かった!なのに、何故!」

「そんなもの、誰が教えるものか!……って言ってみただけだから。そんな顔しないでよ。」

みるみる内に泣きそうになる六番。あれ?やっぱり……感情の発露が他の型式とまるで違う。

……。

……レザァァァドォォ!!何貴方本気だしてるの!?こいつだけ手の込みようが違いすぎるんだけど!!



「どうかしましたか?」

「え?……あぁ、あれはアーティファクトの効力よ……。」

って、何を素直にしゃべっている!嘘でも付いて誤魔化せば良かったのに!

しまった、つい口から滑り出た……。

「アーティファクト?馬鹿な、そんな物の発動など感知しなかった。」

「……さぁ?信じるか信じないか、それは貴女次第よ。」

危ない危ない。真実は、真実をより嘘っぽく見せ掛けて話したほうが、バレにくいと聞いた事がある。

結果オーライ。終わりよければ全て良し。これで真実は暈す事ができた。

「……。」

現にこちらを探るように観察している。まだ確信には至っていないと見た。

「報告では物理攻撃は無効化されたと聞いている。では私は……。」

「成す術なし。チェックメイト。いやこの場合はステイルメイトかしら?

でも、現実には引き分けは在り得えないから、やっぱり貴女の負けよね。」

「まさか、初めから……私には成す術なかった?……では戦う前から、負けて……?」

「実際にはそうよね。弄ばれて、生殺与奪の権利さえも私に握られている貴女には、敗者の名が相応しい。」

「……。」

「まぁどうでもいいんだけど。次の質問はそう、確か五番目、風のアーウェルンクスの事ね。あれが殺す勢いで――」

私に攻撃を仕掛けてきた、と言葉を次に繋げることはできなかった。

先程の戦いで繰り広げられた水が、まるで生き物のように私に襲い掛かって来たからだ。

それこそ、これが先の疑問の答えであると言わんかのように、

「まだだ!まだ、負けてなどいない!」

殺意を持って、これが解だと、叫んでいた。








「冗談ではない。」

本当、冗談では済まされない。

何を思ったのか、辺り構わず、氷を造っては投擲してくる。それは、子供が駄々を捏ねて手あたり次第に物を投げる様子にも見えたが、例えと現実の規模が違いすぎる。

何も考えていないのか、魔力を惜しみなく使っては投擲し、避けた私の後方には氷の山が積み上げられていたり、

超高速で打ち出された氷は、その速度を持って地面にクレーターを作るほどだ。

「何ムキになっているのよ……。」

それこそ、氷がダメなら水で攻勢に出ればいい。水の、と自身の属性に冠する名前なのだから、何も氷だけに拘る必要はなかったはずだ。

「子供…。」

ピッタリな気がする。それこそ、“前の”身体とは勝手が違うだろうし、

もしあの変態が心技体の内、技と力の他に、それから更に手を加えるのだとしたら、後に残る物は――

「終わりだ!」

考え事をしている間に、相手の魔法の準備が出来たらしい。

視線を隈無く蔽うかのような氷の群れは、たとえ空でさえ逃げ場はないと語るように、周囲を包囲していた。

「死ね!!」

これは本気ね……。

私を捕らえるのが貴女の課せられた使命ではなかったのか。

他にも聞きたい事があったのにとか、本題はまだ聞けていないとか、

頭に思い浮かべていた質問のストックは、後々にまわされる事となった。

氷が殺到する。その直径は人が二人から三人はすっぽり丸々収まってしまいそうな巨氷だ。

それが群れをなして襲い掛かってくる、明確な殺意を持って。

……間に合うか?

「間に合いそうにないわね。」


――なら、諦める?


……いやいや、簡単に諦めたりしないわ。それに。

間に合いそうに無いなら……。

「作るまでよ、間に合うように。」

その為には――


「リフレクト・ソーサリー」


――これには、この魔法には賭けの部位が存在する。大魔法は防げないという点だ。

そしてそれを判断する材料は――どこまでが大魔法で、どこまでが通常の魔法に分類されるのか――曖昧なのだこの世界は。

しかし一つの、VPとネギま!で一つの共通点がある。

詠唱と、無詠唱。

その違いは誰の目にも明らかで、目安としては充分だった。

詠唱魔法は防げず、無詠唱ならば防ぐ。

術者の実力や、練り上げられた魔力量などに差異はあれど、上級者との戦いではこれほどわかりやすい違いはない。

ならばこれも、この放たれた魔法も又、無詠唱。

弾くはずだ、この世界でも。

他にも八百万の錬鉄鋼で防ぐという手もあった。転移で逃げるという手もあった。

しかし錬鉄鋼ではダメだ。あれでは私を凍らせなくとも、周囲とアーティファクト、中に居る私ごと一緒に凍らせて、身動きとれず強制転移。という流れになりかねない。

転移では確実に逃げきれるだろう。しかしそれでは圧倒的優位の立場から逃げ出した事になる。

今までは敵魔法範囲外まで逃げてそこから遠距離殲滅魔法という私のセオリーで勝利してきた。

確かに、それは私のセオリーで、そして必勝の形。その形態をとればまず負ける事はなく、今までもそうしてきた。

しかし、しかしだ。

それでは、そんな勝ち方では、磨かれない。

私の技能が、経験が、咄嗟の判断力が、魂が。

成長しない。このままでは。

幾ら必勝法に慣れようとも、癖になろうとも、

成長しない。何時までも。

だから、変わらなくてはならない……私も。

その為には、少々痛い目を見たとしても、経験を積むべきなのだ。酸いも甘いも。そのどれも、それ以外も。

だから、まずは、

「同じ土俵で、正面から、叩き潰す!」

何時か逃げられなくなるその時に苦労するのではなく、今、知っておこうではないか。

己の力だけで劣勢を跳ね返す、自身の底力という物を。






「相殺?いやこれは……。」

その為に少し手の内を明かす事となろうとも、構いやしない。

私が、更に成長すればいいだけの話なのだから。

「跳ね返しているのか!?私の魔法を!!」

「ご名答……。」

「どこまでふざけた存在なのだ、貴様ぁぁぁ!!」

更に質と量を増やした魔法の氷は、殺せ、殺せ!と耳元で囁くように、跳ね返り相殺し、砕けては消えていく。

残念ながら、今日はその要望には応えてあげられそうに無い。




「其は汝が為の道標なり。我は昇華をもって汝を饗宴の贄と捧げよう!」




私の背後に積まれた氷壁が、突如音を立てて崩れ落ちる。

それもただ崩れ落ちるだけではなく、凄まじい水蒸気を上げ、急速に融けている。

崩れた氷の山は、今も尚、何かの進行を阻み、蒸気をもうもうと上げている。

どれほどの時間だったのか、数秒か、それとも数分か、数時間か。

六番目にとっては一瞬で、私にとっては少し長く感じた時間の相対性は、私達が互いに違う時を刻む生き物である事を自覚させた。



「カルネージアンセム!!」



その詠唱と共に、完全に氷は溶融し、彼女に襲い掛かる煮え滾るマグマは、瞬きを行なう時間さえ与えなかった。






























あとがき


こんな、暢気に小説書いている自分に激しく自己嫌悪しながらも、

東北の方面皆様が、ご無事であるように祈る事しかできません。

そして、少々内容を変更させていただきました。

本当は金曜日にあげる予定だったのですが、今回の戦闘……

水の名が冠するよう、圧倒的水量でのほにゃららが攻撃方法でした。

そして対するオリ主のアンジェラはカルネージのほにゃら攻撃……というように全体的に今回の被災をイメージさせる内容でした。

これは不味い。とこんな結果に。本当に色々と、申し訳ない。






[22577] №29「色々」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/03/26 21:05
№29「色々」







繁盛している街を歩いていると、あの戦争の日々も随分過去の事と感じられるようになり、時間が着実に経過しているのだと、見せ付けられている気分になる。

この街は、戦争被害が一等大きかった街だ。それが今では、戦争の痕を感じさせない程活気に満ち溢れ、道行く人々は皆、互いに競う合うかのように働いている。

こんな街並みを見ているといつも思う。

私がこんな命を狙われる立場でなければ、原作では語られなかった魔法世界を堪能する為に、旅行何ぞにでも繰り出していて、

もしそれが叶わぬならば、次善案として、地球の歴史的場面に立ち会うという事も又一興と考えていただろう。

たとえ私の知る世界の歴史とは違うとしても。

――トン。

歩きながら考え事をしていたからか、前方からの柔らかい衝撃によって、初めて私が通行人とぶつかったという事実に気がついた。

これだけの通行人がいるのだから、こうやってぶつかる事など日常茶飯事だろうが、それに関しては何も問題は無い。

問題があるとすればそれは、その衝撃が私の頭よりも低い所から来たからだ。

その証拠に、私の目の前には通路に仰向けの状態で倒れ、空を見上げる少女の姿がある。

そしてそれを踏まないように気をつけて歩く通行人達には、怪訝な表情で見守られている。

「大丈夫?」

声を掛けながら少女の顔を覗きこむ。そうすると、太陽に照らされていた少女の顔に、私の影が重なった。

魔法障壁を常時発動している私にとっては、衝撃など殆ど感じられなかったが、ぶつかった少女はそうではなかったようだ。

よく前も見ずに走っていた所為か、自分の走る勢いがそのまま跳ね返ってきた少女は、その結果を認識できずに戸惑っているように見えた。

――そして、私に視線を向けた時だった。

その反応は顕著で、すぐさま地面から跳ね起き、私との距離をとる。

離れた場所で私の顔を凝視した後――まるで居もしない者が、在る筈の無い物がそこにある事に、目を見開き驚愕を現にし、次第に恐怖が身体を支配していく。

カタカタと身体は震えて、唇も共振するかのように震え出す。歯は身体の震えに共鳴するかのように、カチカチと音を立てている。

少女は左目を手で押さえ、残った右目は私を捉えて離さない。左目が見えない分、右目には多分な感情が渦を巻いて混ざり合っているようだ。

困惑、敵意、渇望、恐怖、そして……憎悪と歓喜?

激情の坩堝を必死に隠そうとする少女と私には面識など全く無く、それ故にこんな怯えられるようなマネをした記憶は存在しない。

テオドラ達のような帝国の亜人に良く見られる黒い肌に黒く真っ直ぐな髪。顔は端整に整えられ、つり上がった鋭い目付きは、幼いながらも他を威圧する気配を感じさせる。

このまま育てば、将来はさぞ見目麗しい美人になるだろうな、という場違いな妄想の裏で、いつまでも成長しない私の身体を見て、

少なくない嫉妬の炎を感じつつ、未だ離れて動かない少女に声を掛ける。

「怪我は、無さそうね?」

「……。」

一言も発さない少女は、左手で左目を押さえ、右手を懐に入れたまま、こちらを睨んでいる。

……まさかこの子、こんな街中でドンパチするつもりなのかしら?

このご時勢で此処は魔法世界だ、子供と言えど、懐には何か武器になる物が入っていると考えて間違い無い。

隙あらばいつでも此方に弓を引く事だろう。

正直、それは勘弁して欲しい。あまり騒ぎを起こしたくない。

私が何の用事も無く、こんな辺鄙な街まで訪れると思ったら大間違いだ。私にも予定があり、これから其処に向かうついでに、この街に立ち寄ったまでだ。

騒ぎを大きくして、警備の者に事情聴取や何やらに時間を取られる訳にはいかない。待ち合わせに遅れるのは別にどうでもいいが、

それだけ厄介事の終わる時間が遅くなる。さっさと終わらせて、早く帰りたい。



「お~い、どこに行ったんだ~?」



互いに固まる事数分。いつまでこんな事を続けるのか、流石に飽きてきたな、と思い始めたそんな頃、

この場の雰囲気にそぐわない、ほのぼのとした声が聞こえてきた。

声の内容からして、誰か人を探しているのだろう。只今絶賛取り込み中の私は、助けになってやれそうにも無い。

――だが、

少女がこの声を聞いた瞬間、今まで張り詰めていた空気が跡形も無く消えた。

そして少女は前後左右に、ついでに上に目を走らすと、人混みに紛れそのまま消え去ってしまった。












「何だったのかしら?あの子。」

変な少女との奇妙な出会いを果たした後、私は喫茶店で寛ぎ、休息を楽しんでいた。

この喫茶店を選んだ理由は特に無い。しかし、あえて理由を挙げるとしたら……。

カウンター席は満席で、いつまでも席が空く気配は無く、客はマスターとの会話に花を咲かせている。

団体席では店員がオーダーを聞いて回り、あちこちから声を掛けられ、引く手数多の店員は忙しそうに店内を駆け回っている。

……理由を上げるとしたら、そうね、普通だと感じたから。私にとって。

この風景は、何か私を懐かしい気分にさせてくれた……だからかもしれない、この店に入ったのは。

――いや、嘘だ、実はそんな雰囲気なだけだ。実際の店内は色取り取りの髪の色で溢れ、中には角の生えた亜人や、どこからどう見ても骨だけの魔族もいるし、

ローブを被った怪しい集団がたむろしている席まである。

こんな風景が懐かしいと感じるならば、私は過去の記憶を遠いどこかに置いてきた事になる。

……でもまぁ私も、毛色の事で、他人をとやかく言える立場ではない。

私の銀髪も、その色々の中の一つを担っており、華やかさに弾みをつけているのだから。

これでは此処は、あの子供先生のクラスのような色合いだ。若干黒が足りていないが、国際色溢れているのは変わらない。

銀髪なんていたかどうか忘れてしまったが、白っぽい色なら思いだせる……。

彼女は長年そこに住んで、学校周辺しか移動できない可哀相な子。

そんな身体になってまでこの世に囚われ続けるのは何かと不便だろうし、浄化してあげるのがせめてもの手向けだが、

マホラに行く予定はない。行く必要が現状では全く無いのだ。逆に行けば面倒に巻き込まれる事間違いない。

……しかし、彼女は昔からあの色だったのだろうか?

多分、純日本人だろう、あの子は。詳しい設定など知らないし、覚えていない。

尤も、個人個人の個性を出す為に、黒髪にすると色々と被るから、色を変えたと言われても驚きはしないが、

それでは何故あんな色を選択したのか?とも思うし、セーラー服とでは違和感がありすぎる。


――そう、まるで色が、


「相席しても構わないか?」

思考に結論が出そうな所で、声を掛けられた。

私が答えを返す前に席に着くそれは、包み隠さず敵意を撒き散らしている。

「……ええ、でも、直ぐに此処を出た方が、迷惑は掛からないと思うわ。」

先程から此方に視線を向けていたから、いつ話しかけるのか待っていた。

さっきの少女とは比べ物にならない、圧倒的で、純粋な殺意。

視線で背中に穴でも開けられそうだったから、早く来いと思っていた程だ。

「関係ないだろう?どうせ消え行く、哀れな子羊がどうなろうと。」

「何それ、もしかして人質のつもり?」

「さぁな。世界を見捨てるお前に、どんなモノが人質になるのか聞いてみたい物だな。

だが、店を変えるというのなら、いい場所がある。」

「へぇ、何処かしら?豪華なお墓にでも招待してくれるの?」

「フッ、招待する前にその唇、焼き付けておいてやろうか?」

瞳の奥に炎が灯り、敵意が一段と増した。

……やり過ぎたかも知れない。火に油を注いだ感じ?

「まぁいいじゃない。場所を変える事には賛成なんでしょう?」

「別に?此方としては、ここで始めても構わないが?」

貴方はそうだとしても、私と、貴方を造った人物は確実に困る。

だって死んだ事になっているもの。貴方達。

彼はそれを、クルト達のような敵対勢力には知られたくないでしょう。

知られてしまったら、主力だった紅き翼も黙っていないはずだから。

紅き翼が再集結するとか、どんな悪夢だそれは……計画丸つぶれもいい所ね。

完全なる世界の残党狩りなどでも言える事だが、

魔法世界に戦力が増え過ぎると、再び戦争が起きてしまうかも知れない。

――それは困る。

だからレザードも、人気のない場所を指定するのだろうし、アーウェルンクス達も、下手に魔法世界に干渉していない。

今やっと魔法世界は穏やかな世界を形成し始めたのだ、これからはその束の間の平穏を味わい、噛み締める為だけの時間。

世間には“平和”という皮を被っていてもらわないと。

「ククッやっとだ、やっと貴様と戦える。我が主の悲願を成就する瞬間が、漸く訪れる。」

「……もう勝った気でいるのね。四番目さん?もしくは七番目さんかしら?」

勿論こいつが四番目だとは知っている。五番と六番が来たからな。

だが、私は知りえないのだ、そんな情報。内通者でも居ない限り。

「そうか、自己紹介が遅れたな。火のアーウェルンクス、クゥァルトゥム……四番目だ。」

「四番目ね。全く、一体全体何体いるの?貴方達?」

「答える必要は無い。行くぞ。」

手早く自分の分を払うついでに、私の分の会計も済ましてくれたが、

会計を済ます時、店員に『釣りはいらない』と言い、ツカツカと足早に出口に向かう辺り、

親切ではなく待ち切れないといった感じだ。そんなに待ち望んでいるとは思わなかった。

「せっかちね。人形の癖に。」

店を後にし、表に出る。お茶を奢ってくれた変わりに、一緒に転移させてあげようか?と四番目に提案しようとしたが、

お互い何も言わずに、同じ方向に向かって黙って歩き出す。それは、指定された場所とは正反対の方向。

何故私達がこんな行動に移すのか。理由は簡単。

視線を感じるからだ。遠く離れているが、確実に此方を見ている。

……まぁ予想は付いているのよね。この視線の主は多分、あの時ぶつかった子供。

距離は大分離れているが、まず間違い無いだろう。

「知り合いか?」

知り合いか?そう聞かれても返答に悩む。確かに、あの子の顔や特徴は知っている。

けれど私は彼女の名前さえ知らない。そうなるとやっぱり、知り合いと呼べる段階では無いように思える。

「いえ、知り合いでは無いわね。」

「そうか、それは良かったな。」

「? それって、どういう――」

私が四番目に、その言葉の意味を確認するよりも前に、後方から爆発音が鳴り響き、次いで空気が震えた。

周囲の音が止まり、道行く人々の時が止まる。だがそれは皆が現実を認識するまでの僅かな時間。

誰が示し合わせたのか、突如聞こえてくる悲鳴の歌に、私が唖然としていると、

――これから、と四番目は演説で雄弁に語りだす政治家のように、こう言った。


「他人に水を注されては、興醒めだろう?」























あとがき

まず、

>テオドラ達のような帝国の亜人に良く見られる黒い肌

は嘘です。妄想です。原作にはそんな表記はどこにも無いはずです。








えーそして、突然ですがアンケートちっくな物を一つ開催します。

それは……

“これ以上ネギまの原作に対して独自解釈?原作予想?をこのSSに反映してもいいモノか?”

という「ちょっとこの作者何言ってるのか解らない」アンケートです。

説明すると、今までこの「ヴァルキュリアなオリ主」では過去二回程、上記のような事がございました。

一回目は「考察」にて。造物主の掟に関して。

二回目は「高慢な神、優しい人」でゼクトや魔法無効化能力について。

えぇ、感の良い方なら気づいたでしょう。今回もまたやる、かも。

しかし、最近ネギま見て思うのです。

……あれ?もしかして?と。

正直、考察に関しては語る気は無かったけれど、原作でも餌がちらほらと撒かれていたから大丈夫だろう。

ゼクトに関しては、当たってる訳ないし大丈夫だよな~あはははは。……え、まさか、

といった感じです。正直ゼクトに関しては、アンジェラ使用のアーティファクト並の確率だと思っていました。

そこで、アンケートです。

簡単に言うと、

1、これ以上はやりすぎ、隠すなり伏字するなりして。

2、別に?伏字しなくてもいいんじゃない。お好きなように。

の二つです。感想に書き込んでもらうとありがたいです。

やらないという類の物は無しで。もうベクトルは変えられない。

ちなみに、解りにくいかもしれませんが伏線張ってます。





[22577] №30「勘違い」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/04/10 18:53
№30「勘違い」











「どうした、早く行くぞ」


 至極当然。


 この惨事を生み出した張本人は、自ら仕出かした凶行に罪の意識を持つどころか、これが必然の結果だとでも言いたそうな物言いで私に問いかけてくる。

 ……馬鹿な……お前達は、

 人を、殺さないのではなかったのか?

 私の仮説は、あの戦争で実証されたと思っていた。

 戦時中ではナギ達、紅き翼には誰一人死者は出なかった。最後の決戦も、ナギは格上の相手に手加減をしてもらい、辛くも勝利を収めたはずだ。

 造物主自身の体が消滅しようとも、頑なに行なわれた手加減。勿論、彼等も馬鹿ではない。用意周到に準備された保険が在ったこその余裕。

 事実、造物主はゼクトの体を乗っ取り、魔力消失現象の中、私達の前から消え失せた。

――不殺。たとえそれが、敵であろうとも。たとえそれが、自らに多大な不利益を齎すと理解していても。
 
 彼等、完全なる世界はそこまでして、自ら定めたルールを遵守し、胸に刻み、最後の最後までその掟に背く事なく、敗北した。

 戦争の勝敗や総大将の肉体でさえ、躊躇せず投打って守ろうとした鉄の掟。

 

 それをこいつは容易く破ってみせた。



 何故、何故だ? レザードが何か手を加えたのか? それとも、主が負けた事によって、もう後が無くなったと躍起になっているのか?

 そんなに急く必要が、原作に無かったイレギュラーが発生したのか? そもそもあの子は死んだのか?

 思考が脳を圧迫する。ぐるぐると廻る頭が正解を求めても、私が心から納得する物は一つも得られなかった。 

 ……いや、こう考えれば全て説明が付く。

――私がそう、思い込んでいただけではないのか? 自分勝手な理屈を並べて、本質を見極めたつもりになって、浮かれていただけでは?
 
 事実、この仮説では説明しきれていない部分が多数存在する。ガトウの死や、ナギの行方不明。戦争で死んだ人間はそれこそ数え切れない。

 子供先生のクラスにも、魔法世界で知人や家族を失った者は皆無ではない。
 
 生と死。矛盾した深奥の哲理は、難問となって私に襲い掛かる。

 相反する二つを結びつける物が、手の届きそうの所まで来ているのに……解らない。

 後一つ、何か手掛かりがあれば……。

「神とは存在自体が完全体であり、それ故に完璧な存在である。そう聞いていたのだが存外、悩む事もあるのだな」 

「……そんなに不思議かしら? 私の悩む姿が」

「そうだな。何を悩む必要があるのか、理解に苦しんでいる最中でな」

「……貴方が何処からそんな情報を仕入れたのか、私には皆目見当がつかないけれど、

 神の見解はだいたいそれで間違いないわ。貴方が勘違いしているのは一つだけ。私は、神じゃない。」

「ハハッ! 語るに落ちるとはこの事を言うのだな。その神の詳細を知る貴様は、一体何だと言うのだ?」

「何とでもお好きなように。貴方がどう思っても、真実は一ミリも変わらないわ」

「……まぁいい。それで? もう此処で始めても構わないのか?」

 こいつに事情を聞きだそうにも……無駄でしょうね。思考が戦いに執着している。
 
 ……もう溜息しか出てこないわ。どうして私の周りには、物事に執着する者ばかり集まるのだろう。

「はぁ……そこまで言うなら相応しい場所まで送ってあげる。周りを気にしない方が戦いに集中できるし、私は借りを返せるわ」 

「借り、だと? 何かを貸した覚えは無いが?」   

「お茶を奢ってくれたお礼よ」

 本当はこれ以上此処にいてもらいたく無いから。と口には出さないが、本音は心の赴くまま、彼を転移させた。








「さて、どうしましょうか」

 ……とりあえず、落ち着いて考える時間は無い。

 選択肢もそう多くない。一先ずあれこれ考えていた物は置いといて、目の前に集中するとしよう。

 今、提示された重要な選択肢は二つ。
 
「あの子を様子を見に行く。これがまず一つ」

 あの子の様態を見に行かなければ、私は後悔する羽目になる。

 死に掛けている彼女を見捨てるなんて、私にはできない。折角の手掛かり候補を、見過ごすのは実に惜しい。

 完全なる世界が殺そうとした人間。それだけで充分価値がある。死んでいるかもしれないがそんな物、二の次だ。

「それと、あのせっかちさんのお相手。」 

 とりあえず転移させたが、長くは持たないだろう。
 
 それどころか、今すぐにでもあちらに向かわなければ、広域殲滅呪文でこの街ごと吹っ飛ばすかもしれない。

 一触即発の爆弾が均衡を破るのも、時間の問題のはず。

「……どちらも一刻を争う」

 私が抱える問題は、息吐く暇も与えてくれないようだ。  

「そして、選択は限られる。」

 どちらの選択肢も、大なり小なり見捨てる事になる。

 小さな女の子か、この街の人間全てか。

 普通の人は、躊躇してしまう。簡単には選べない。そして、突き付けられた二択以外に、何か良い方法は無い物かと、最善の未来を思案する。それが人間の本来の有り様だから。

 だが程なくして皆、現実を知る。最善など何処にも存在しない、幻想なのだと。

 最善を絶望する者達。其処から辿る道は、皆一様に似通っている。

 大抵の者は最善を諦め、次善策という名の犠牲者を捻出する。だが結局は、選んだ未来にしこりが残る。

 一を切り捨て九を助ける。聞こえの良い犠牲の正当化。そうして心の均等を保たなければ、人は自分の選択に責任を持てない。
 
 自分の所為ではない。仕方無いからと、諦める。

 




――言い訳? まさか、これは“普通”の人の話よ。  





  









「遅かったな、待ち草臥れたぞ? 一体何をしていた?」

 遅い? あれから一分も経っていないけど。

「あら、主賓が少し遅れて来たくらいで嫌味? 貴方は我慢という物を知らないの?」

「貴様は何時もそうやって話を煙に巻くようだな。いい加減、本心で物事を語ったらどうだ」

 本心ですって? 操り人形が良くもまあそんな妄言を口に出来るものだ。

「あはっ、何それ。貴方、知ったか振りなんて随分人間臭い真似ができるのね。人形の癖に」

「……一々癪に障る。今からその生意気な口を、恐怖で歪めてやろう」

「へぇ、楽しみ。願わくば、歪めるのが恐怖ではなく、嘲笑である事を祈るわ」

 手と手を組み合わせ、遠く離れた、高慢な神々に祈りを捧げる。

 そんな私の態度が気に入らないのか、ビキッと音を立て、四番目の額に青筋が浮かぶ。あら、予期していたけれど、そんな新鮮な反応されるとは思わなかった。

「……そうか、そんなに天が恋しいか。ならば、帰天の手伝いぐらいはしてやる」

 皮肉の応酬の中、搾り出された声と四番目の視線。それは野獣の牙のような荒々しくも無骨な鋭さを持って、私の喉元を食い千切るタイミングを計っていた。

 見た目は冷静であるかのように振舞っているが、その心中に住む獣は、檻から放たれるのを今か今かと待っているのだろう。

 ……あぁ、なるほど。そういうことね。

「何がおかしい?」

 自分でも気づかない内に、口の端が弧を描いていたようだ。先程指摘されたし、折角だから本心でお答えするとしよう。

「前言撤回するわ。貴方は我慢を知らないんじゃなくて」  


――我慢できないのよね? せっかちさん。


 私が言葉を言い終えた頃には、彼の張りぼての檻は意味を成さなかった。

 私は剣と杖を携え、獰猛な獣を躾ける調教師の役を買って出た。







 ◆










「さてと、こっちはどうなっているのかしら?」

 事件現場に到着した。あの目つきの鋭い黒い子が、此処にいるはずだ。
 
 爆破が起きたのは建物の屋上。余り背の高い物件ではないが、一本道となっている街道を見渡すには充分な大きさ。

 屋上から、爆発の衝撃で瓦礫や破片が飛び散ったのだろう。街道にはその証拠と思しき物が散在していた。

 今その街道は、巻き添えを食らった通行人達と、突然の爆発に逃げ惑う人々で溢れていた。

 ……しかし、屋上か。

 喫茶店に入った所を見られた? それでも、この距離では望遠鏡でも無ければ肉眼で視認するのは難しい。

 ……あんな子供が、望遠鏡に準ずる物を持っているはずが無い。なんて断言できないのは、此処が魔法世界たる所以だろう。
 
――望遠鏡と黒い少女。ふと、この組み合わせで、ある一つの可能性が頭を過るが……馬鹿な。これだけでは、彼女だと断定できない。できないが、ゼロではない。

 
 ……まさかね。でもまぁ、それならそれで、一向に構わない。  


 目前になって新たに追加された期待感は、追い風となって私の足を進ませる。

 手に携える神器からは、陽炎のような微弱な魔力が、放出されていた。














 あとがき


 とりあえず、テンプレの、

 短い&遅くなりました。申し訳ございません。

 本当にもう、もうね、プラダを着た悪魔。

 あんな綺麗な表現を見に付けたい物です。はぁ。

 

 そして、アンケートにご協力頂いた皆様、ありがとうございました。それと、只今をもって、アンケートを締め切らせて頂きます。

 満場一致で2って、気にしていた作者が馬鹿みたいですね。まぁ気にし過ぎなのだと解りました。

 という訳で、次回くらいには解説みたいな物をします。説明文ぽくなるかも知れれませんが……気をつけます。




[22577] №31「魂」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/04/27 03:25










№31「魂」






 爆発のあった中心地。そこでは多くの人が手当てを受け、血濡れの包帯や布巾が其処らに転がり、赤い斑点が地面に列を成している。反響する人々の叫びを聞届ければ、現状は自ずと理解できた。

 逃げ惑う人間は恐怖に震え悲鳴を上げ、救助に励む人間は救援を呼ぶ。

 そして――痛い、手が、足が、助けてくれ――地面に横たわる者達が呪詛を唱える。人々の叫びが、生への渇望となって木霊していた。

 成程確かに、これは惨事だ。阿鼻叫喚の巷とはこういう物を言い、直視するのも辛い現実と言える。

――だがそのどれもが、死んでいない。

 此処には、蜘蛛の子を散らすように逃げる人達もいれば、こうして救助に乗り出す人間もいる。
 
 四番目がこうなると計算して行なったとは到底思えない。だが、その無責任を慈悲の心を持つ者達が救っている。

 ……無駄足か。結局彼は死ななかった訳だ、誰一人として。

 結論付けるにはまだ早い気もするが、多分この中で一番死にそうな目にあっているであろう、あの子が無事なら問題ない。

 方針が決まれば実行あるのみ。手早く彼女を探し出し、さっさと生死確認を終わらせて、本体の援護に向かうとしよう。

 
  

 ◆


 鬱蒼と生い茂る林の中、とある一角で木々が燃え、切り裂かれる。私達の周りには、自然と戦いの場が形勢されつつあった。

「どうした! 散々嗾けておいてその程度なのか!? 我が主を倒した力を見せてみろ!」

「そんなにムキにならなくても、見せてあげるわよ。そのうちにね」

 まぁ、頭に血が上った状態の貴方ではその価値はなさそうね。彼――火のアーウェルンクスは先程から近接戦闘を繰り返し仕掛け、戦闘開始からどちらも魔法を詠唱しないという、魔法使いらしくない戦いを続けている。

――近接戦闘。ラカンやナギ、詠瞬が得意とした戦闘の要。四番目は両拳に炎を纏い、私は諸手で剣を握る。杖は腰に収められ、出番を待っている。

 彼は再三私に迫り来るがそのどれもが決定打には至らない。それもそうだろう。彼は電光石火のスピードがあるでもなく、圧倒的数量で追い詰める訳でもない。今までの同型の襲撃者に比べれば、実に単調と言わざるを得ない。

 怒りで我を忘れ、何の捻りもなく力押しで物事を進められるほど、事は簡単に進まない。有り余る憤怒を糧に戦いに興じていては、見える物も見えず、勝てる物も勝てない。

 何が何でも勝とうとする姿勢は評価できるが、魔法使いのあるべき姿を忘れていては、戦うに値しない。

 魔法使いの戦い方……高火力の砲台としての後方支援が私達魔法使いの真骨頂。魔法使いの例に漏れず、私も後方からの魔法の打ち合いの方が得意だ。

 だが常に最適の状態を保てるほど戦いは甘くない。だから、我々は有利な戦況を整える為だけに隙を探り、場合によってはそれを作り出す事に精魂を傾ける。強者ほど隙は少なく微細になり、得られる時間も極僅か。実に労力に見合わない作業となる。それは大海の一滴にも似た一刻。その時を最も適した呪文の詠唱に割き、如何に火力の高い魔法を相手に叩き込むかに我々は心血を注ぎ込む。それが魔法使いらしさ。 
 
 だがそれは、従者のいる事が前提であり、前衛という壁の居ない魔法使いは、近接戦闘の前にただ蹂躙されるだけの存在となってしまう。

 そうさせない為、この世界の魔法使い達は従者のいない単一固体でも対抗できる存在、俗に言う魔法戦士というジャンルを確立した。

 魔法を使う前衛。そんな存在が台頭しているこの世界では、接近戦の重要性を不可避の物とさせた。魔法使いの中にも重視している者も多く、私も少々嗜んでいる程、影響力は高い。

「攻撃を凌ぐだけでは勝てんぞ? 逃げてばかりではその剣を錆び付かせるだけだ」

 剣の腹で攻撃を弾き、後退する。二人同時に行なわれた酷似した動作は、私の想定した間を大きく上回った。

 瞬く間に私と彼の隙間には魔力が充満し、主人の意思とは無関係に舞台を形成し鬩ぎ合っている。

 戦域に突如訪れる緊迫の間と叱責の小休止。これから又距離を詰めるのは骨が折れる事だろう。少しは骨休みが欲しい所よね。心中お察しするわ。

 人形に休みが必要かどうかなんて知らないが、攻め倦ねているのは事実だ。このままでは埒が明かないと機を窺っているのも、彼の発言から見て取れる。

 ……彼の誘いに乗るのも一考だろうか? 私が今必要としているのは、ラカンやナギとの模擬戦ではなく、互いの吐息を感じる程の距離――零距離での殺し合い。

 相も変わらず後方からの大魔法か、手を伸ばせば届く距離の近接戦闘か。

――それとも

「そうね、錆び付かないように研いでおく必要はあるわね」

 


 ◆




 意気揚々に探す必要など無かった。

「誰か! 誰か手を貸してくれ!」

 そこには、地に膝を付き、少女を抱きかかえる男性。少女の体は布に包まれており、頭だけが布からはみ出している。腰まであった黒髪は半ばから焼き切られた為か、不揃いになっている。少女は火傷による大怪我の所為でピクリとも動かない。

 それだけ。それだけの情報でその少女が何者かという識別は私にとって充分だった。

「どうかしましたか?」  

 笑みを浮べそうになる所をグッと我慢し、心配そうな体を繕い、見えない仮面を被る。 

「子供? ……いや、今は誰でもいいから手を借りたい。お嬢さん、すまないが誰か治療を行なえる者を呼んできてくれないか?」 

 子供ね……まぁ見た目は確かにそうよね。

「その必要はありませんよ。私、こう見えても治療術士なんです」 

 まぁこう言っても、見た目で判断している貴方では、私の言う事を信じてくれないでしょう。

「君が? ……今はそんな冗談を聞いている暇は、」 

「――えぇ確かに、信じていただけ無いでしょう。ですから、こうしませんか? 私が此処でその子を見ています。その間に私が応急処置を施し、貴方が人を呼んで来る。それで如何です?」 

「君は、見習いか何かなのか?」

「そうですね、そう思って頂いて構いませんよ」

 少し考えればわかるでしょ? 守られるはずの立場である子供が逃げずに救助に助力する。それ即ち、今この場に必要な……治療に心得のある者だと。

「……背に腹は変えられない。ゴメンね! 少しの間その子を頼むよ!」
 
 逡巡、少し考えてから人混みの中に消える名も知らぬ男性。どうぞごゆっくり。

 さて――  

「気分はどう?」

 少女に声を掛けてみるが……反応無し。でも、生きている。

 胸は上下を繰り返し、体からは多量の発汗が見られる。これは生命活動が停止していない証拠。

 あぁ、確かにこの子は生きている。でもそれだけ。発見が遅れたり、当たり所や運が悪ければ死んでいたかも知れない。

――それだけなのよ。こうなってしまっては手加減をされたのかもわからない。そう、偶然か故意かの判定が、結局わからない。

 生きているという結果を、好きなように解釈するのは人の自由。でも、真相を究明する機会は失われる。

 ダメか……わかっていたとはいえ、無駄足は解消されずに終わった。  
 
 此処にもう用は無い。約束の治療を施し、帰るとしよう。

 少しおまけしてあげる。まぁおまけと言うよりも迷惑料の方が正しいのかしら?
 
「キュア・プラムス」  
 
 唱えた魔法は与えられた役割を果たそうと完治を促す。魔力の燐光に包まれた少女は金色の円環によって死を拒絶した。
  
 これで問題ない。この子の意識が戻る前に、帰ろうとした――その時だ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、こいつも、こいつも見てやってくれないか!?」   
  
 一人の見知らぬ、顔に覚えも無い亜人が私に話掛けてきた。……恐らくこの人は私の魔法を見ていたのだろう。
  
 見た目は何かしらの動物の耳を付けた、大柄ではあるが可愛らしい女性。十代か二十代と見受けるが細かい所までわからない。

 此方の視線に合わせる為に膝立つも、結局は見上げる姿勢になってしまうのだけれど。そして確りと私の腕を掴み逃がすつもりは無いと確かな意思表示を表した。

 背後には一人の少年が倒れている。怪我の程度は知れないが、どうやら巻き添えを食ったようだ。

「……無理よ」  

 魔法を行使するのは簡単だ。本心はこれ以上人を集めたく無いというどうでも良い理由だが、どうか此処は理由を聞かずに――  

「無理は承知だ。だがそこを何とか曲げてくれ! 何か欲しい物があるなら用意する! 金が必要なら、私が借金をしてでも払う!」

 立ち去らしてはくれないわよね。    

「金、ね。」

 頭を下げ、頑として動こうとしない女性。何としてでも、少年を救って欲しいのだろう。

 金銭など……今更そんな物必要無い。そして、私が真に欲する物をこの人が用意できるとも思えない。 
 
 ……グダグダと説得するとか、無理難題をふっかるだとか、生憎そんな暇は無い。正直これ以上長引かせる方が面倒だ。さっさと本体と合流したい。

「はぁ……どいて」

「やってくれるのか!?」

 パッと頭を上げ、笑みを浮べる。さっきまでの悲壮感は元より存在しないかのような歓喜の表情を見せた。 

「貴女は……まぁいいわ」

 何か文句の一つでもを言ってやろうかと思ったが、それこそ無駄に終わる気がした。

「キュア……?」 

 黒髪の少女とまったく同じ呪文。死を遠ざける治癒の魔法。

 私は目に見えぬ奇跡を顕現させようとした。

 だが

「どうした?」 

――おかしい。私は何の問題も無いが、私の手元に存在する神器、グングニルに異変を感じた。

 さっき……あの黒髪の少女を助けた時には、見られなかった変化。チョロチョロと水が漏れる蛇口のように、神器から魔力が放出されている。 

 ……私はこれを見たことがある。大幅に規模の違う相似した事例だが。 
 
 ――造物主と戦い、神器を復元したあの時――神器が初めて魔力を代替した瞬間。レザードが言うには神器の性質。

 喪失した魔力を、世界を安定に促す為にそれを補完する。

 世界の安定が神器本来の機能。その他幾多の能力はオマケに過ぎない。

 本来の機能――それが今、発動している。

 おかしい。これは正しく異変だ。

 あの時は大規模魔力消失現象の時。

 今はこんな少年を助ける為に。

 似ても似つかない二つの条件は、在り得ない類似性を見せた。

「何が、起きている?」

 
 

 ◆




「……何それ」

 分身からの念話による報告を聞いて、私は頭を抱えそうになる気持ちを胸中に秘める。

 神器が魔力生成を発動? あれだけ念じてもうんともすんとも反応しなかったあれが、何故今このタイミングで?

 まさか――暴走? いやそれこそ在り得ない。安定に寄与する神器が勝手に暴走するなど笑い話にもならない。

 頭では別の事を考えながらも、眼前の敵を迎撃する為に体は動く。

「もう千日手は飽きた」

 相変わらず、四番目は詠唱をしない。

「……そろそろ終わりにしよう」  

 四番目の発言を聞き届けた私は傾いていた思考を彼方へ追いやり、双眸を敵へと定める。 
 
 目の前の敵を考慮していない訳ではない。無いのだが、如何せん考える時間が欲しい。 

 だから

 終わりにしようという提案はありがたい。

 私も飽きてきた所だったから。

「そうね、それ賛成」

 杖を取り出し、後方へ短距離転移を繰り返す。ある程度距離を稼いだら、長距離転移を開始する。だが私は一筋縄では行かないであろうと思っていた。

 私に魔法を唱える時間を与える――それは必死の手。

 魔法が完成した暁には、凄絶な脅威がその身に降りかかる。だから、出先を潰すのが一番の対抗策であると考え、そして、敵は必ずそれを実行すると身構えていた。

 馬鹿の一つ覚えのよう近接戦を繰り返していたのも、そこが関係しているかも知れない。

 つまり、詠唱をさせる暇を与えない為。 
 
 怒りに身を任せた攻撃も、そういった意図を持っていたと考えれば説明が付いた。

 
 だが、あっけなく成功した魔法は、私を遠方へと運ぶ。


「……考えても仕方が無い」 
  
 今は頭を回転させるよりも、この瞬間を生かす為に行動に移すべきだ。

 折角与えられたチャンスなのだから。

「奉霊の時来たりて此へ集う。朕の眷属、幾千が放つ漆黒の炎!」

 先走る炎は呪文の詠唱の完了を待たず、目標に向かって殺到した。

 頭上に顕現した炎の巨塊。小さな爆発を繰り返し自らの形を保とうとするそれは余りにも巨大で、太陽が落ちてきたと錯覚するほどの炎塊。

 そこから、数多の炎が分岐する。

 それでも一向に衰えの見えない火勢は焔となりて天上より降り注ぎ、万物を焦せ燃やせと押し寄せる。

 至大の弾幕。正にその単語に相応しいそれは、次々に地表に着弾し、当たった箇所は爆発を起こし火柱を上げる。


「カラミティブラスト!!」 


 最後の一つが大爆発を起こした頃――私が詠唱を完了させた頃には、地面は穴だらけ。元々の形を思い出すのが困難になるほどの変化だった。

「流石に、この絨毯爆撃からは逃れられない――」

 と思っていたのだが……こいつ等、しぶとい。

 大魔法の焼け野原から少し離れた所に、猛火を引き連れた魔人が瞬時に姿を現した。

 その前に小さな人影が一つ。……上位精霊? を使役するとは。召喚でも一流と言う事ね。

「やっと魔法を使ったわね。やれやれ、今まで使わなかったのは一体何の意味があったのかしら?」

「それは貴様の気を引く為、そして――」

 !? 何故気づかな―― 

「もう一つは貴様を殺す為だ」

 私の疑問は発声を待たずして阻止された。

 四番目は背後から私の両手首を掴み、私の鬼札である杖と剣を抑制すると共に、計四つの腕を天へと突き上げた。

 ギリギリと万力に締められたかのような、自身の用いる最大限の握力を以ってして私の行動を封じる。
 
 こいつは、造物主の悲願とやらの為に並々ならぬ決意を抱えていた。ならば死んでもこの手は離さないだろう。  

 ふわりと浮かび、私は、私達は少しづつ上空へと押し上げられる。

 今現状に色々あって、聞きたい事は山ほどある。だが、一言苦言を呈するならば一言だけ解せない内容の発言があった。

「私って一体どれだけ憎まれているのかしら? 大体、私を殺したらこの世界は救えないわよ? それは貴方達の目的とは違うんじゃないの?」  

「クク、そうだな。確かに貴様に消えてもらうのは困る。故に、魂が燃え尽きない程度に炙ってやろう」 

 ? 質問の答えになっていな――

 いや、待てよ……その言い方だと、転換――言い換えれば――

 魂さえ残っていれば、死なない? 違う、これでは語弊がある、何と言えば良い? 生きているのに、存在しているのに、意識はあるのに、魂は残存しているのに、

 死んでいる。そう肉体だけは。

 それではまるで、魂とは彼等にとって守るべき最後の境界線であると、暗に言っているようにも聞こえる。

 私達は肉体の損失を忌避するが、こいつ等は話が違う。魂さえ健在ならば、他を蔑ろにしようと気にも止めない。私達とは、死の定義が違う。  





 死の定義の違い。



 

 それは私を塞き止めていた矛盾を解き崩すに値する。

 私の行方を遮る懊悩、生と死の命題に、少しの亀裂が入る。 

 何故、原作では魔法世界人“だけ”にリライトを行い、隔離するのか、

 何故、ガトウは手加減されず殺されたのか、

 何故、ナギは行方不明と言う曖昧な扱いなのか、

 何故、造物主はゼクトに憑依したのか、

 私に残された、心中に蟠る僅かな疑問。

 誰にも相談できず、問題の解法は自力で発見しなければならない。其処には喩え世界最高峰の頭脳を持つ変態だろうと頼ることは適わない。

 その答えが、矛盾の隙間から垣間見えた。 

 ……それどころか、おまけに色々と付いてきた。

「クク、ハ、ハハ、アハハハハハハ!! そう言う事ね!」

 今までの停滞が嘘のように、私の頭はグルグル廻る。矛盾という堰はその役目を終え、溢れ出た思考の濁流に呑まれる。 

 自身が捕縛されている状況でさえ忘れ、私は没頭する。

 アルの事、相坂さよの事、気と魔力の事、魔法生命体の事。 

 そして人と魂の繋がり。

 深く深く潜考し、いつまでもこの思惟の海に浸っていたい。広大な海に着の身着のまま流され、波に揺られ自重を浮力に任せるも、次第に沈む身体にさえ気を配らない。

 そんな気分で、そうして私は意識を変革させる。変わる、変われる。それが私が人間である事の証明。

 そしてこれが、私なりの成長なのかもしれない。

「何が――」

 近くからさざめきが聞こえる。雑音と呼べる耳障りなノイズに、少しでも意識が向けられそうになる。

 邪魔だ。鬱陶しい。

 ボソボソと頭の中で、分身体に念話を送る。

 今の状況を端的に述べ、速やかに除去を望むと。

 さぁこれで充分だ。私は、今一度浸るとしよう。思考の海原へ 




 ◆




「……上役はいつも無茶を仰る」

 本体に何が在ったのか、知らされていないし、知る由も無い。

 だが、ボソボソと喋っている割に、本体からの念話には所々に嬉々とした心の機微を感じられた。 

 同じ自分だからこそ、断言して言える。

 本体に何があったか、解らないし、解る訳も無い。

 だが、それはきっと、此処最近いいこと無しであった私に齎された唐突の幸福。 

 邪魔する者は、排除するまで。こう考えるのは至極当然だと思うわよ? だって私がそこまで言うのだから。

「何かあったのか?」

 まだ少年の治癒を終えていない。獣人の女が語りかけてきた。

 今直ぐに魔法を施してやりたいが、その手間や暇でさえ、私には残されていない。  

 だから、すまないとは思うがこれで我慢してもらう。

「? 何だ、これ?」

「申し訳ないのだけれど、それで我慢して頂戴。何、ただの傷薬よ。」

 やる事ができて、時間が無くなったのよ。本当にね。

 何せ上役は早急に、と念を押してきたから、致し方無い。

「今すぐに退治してあげる。貴女を煩わせる者を」

 私の有りっ丈の魔力を、槍に注ぎ込み、 

「天より穿つ」

 対象の顔を思い浮かべ、私は槍を放り投げた。

 槍は物理法則の拘束を歯牙にも掛けず、天へと向かう。

 私の体の魔力も捧げた。槍の行方を見届けられないのは心残りだが、本体もあれを送り届ければ、後は自分で何とかするだろう。

――さて私も、何が起きたのかこれから知る事になる。ふふ、楽しみだ。




「いってー、いきなり視界真っ赤かだ。一体何があったんだ?」

「嘘……でしょ? 何だこの薬……普通じゃない。なぁアンタ、これどこで手に入れ――た。って、いない?」




 ◆




「貴様の為に魔力を温存し、我が体内で擬似的暴走を起こす。それを暴発させれば、ここら一帯は灰塵と化す」
 
 耳元で囁かれるが、今は恋しい人の愛の囁きでさえ鬱陶しい。例え話。

「貴様には墓標さえ残さん。が、哀れな使いのせめてもの手向けに、祈ってやろう。土は土に、灰は灰に、塵は塵に。クク、貴様に最も相応しい。そうだろう?」

 至近で魔力の増大。

「もう誰にもどうする事もできない、勿論貴様でも、な」

 さらに膨れる。初めから限界など設定されていないのか、それとも、わざわざ私の為の捨て身の作戦に切り替えたのか。

 尚も四番目の体も紅く色付く。それは融解を示唆し、臨界点の突破を危惧させる。







「さぁ、消え失せろ!」














あとがき



もう何も言えない。土下座級すいませんでした。

今回と言っていたのに次回に伸びました。本当に申し訳ないです。

でもまぁ直ぐにネタバラシよりも、読者の皆様に考えてもらいましょう。無理か。すみませんいいわけです。

眠いよ、じんたん、あの花マジいいアニメ。ねるぽ。推敲はして無いのです。明日?今日します。






[22577] №32「蛇足」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/05/08 02:53
№32「蛇足」








 この世界の気とは何か。まずは其処から考えよう。

 実は私はこの世界に来て“気”というモノについてを考えた事も無かった。

 私の前世で言う所の気とは、人や動物や植物の持つ生命の力。体から溢れているとされる、不可視で思想上の概念。

 武術や医療の点で気の概念は度々槍玉に挙げられるが、そのどれもが科学的な証明には至っておらず、又、気が解析されたという論文も発表されていない。

 前世ではその存在が眉唾物として扱われるが、別の角度から見れば、度々サブカルチャーに登場する空想上の不可思議の一部を担い、もはやその土台を崩される事は無いと言える程、衆目に晒された。

 これが前世での気の認識。大まかな主観は入っているが、概ね間違い無いだろう。
 
 ではこの世界での気とは?  

 私が前提として前世の認識を例に出したのは、この世界との違いを明らかにする為だ。

 第一に、この世界では実際にその存在を確信できる。
 
 凝固された気の圧縮はその目に映り、感じられる圧迫感と理不尽な出力は一般人にもその影を悟らせる。

 次、これが大事なのだが、気が何で構成されているか? 私が気掛かりなのはこれだ。

 前世の提言を借りるならば、このネギま世界でも、生命力の内の一つに分類されるのだろう。

 体から溢れ出るこの力を作為的に使い、昇華させてきた者達もいれば、無意識に使う者もいる。どちらも武術に精通している者に発現すると言う類似点が実在するが、今は関係の無い話なので割愛しよう。

 更に深く掘り下げようか。では、生命力とは? 

 原作では体力と表現されていた為、正しく生命の力。自分の体力を削減して高出力を得て、戦いに臨む。聞けば自殺行為のように思えるが、作中の気の使い手共は、バンバン気を使い、あの英雄の一人に数えられる馬鹿二号は気が擦り切れるまで戦いに興じるバトルジャンキーだ。

 彼等は疑問に思わないだろうか?

 私から見て彼等の戦う様は、自分の体力を削り、振り絞りながら死に向かって歩いているように見える。死中に活。聞こえは良いが私には到底真似できないし、正しく馬鹿の所業だ。

 だが現実は違う。気の使い過ぎで死んだ、という話を私は知らないし聞いた事も無い。気の使い手が原作で最も磨耗した姿を現したのはネギとラカンの試合だろうか。

 両者の死闘と呼べる戦い。それでも、ラカンは死に瀕する程の重傷を受けても、次に会うときには――包帯を巻いていたが――死を連想させる程の悲愴な面持ちなど感じさせなかった。  

 チート。その一言で済ませれるラカンが――何故あれほどのチートなのか私の預かり知らぬ所だが――あれ程の戦いを繰り広げても、気の使い過ぎで死ぬと言う事は無い。

 例に挙げたラカンが間違っているかも知れないが、私は彼以上の気の使い手を知らないし、彼以外の者があれ程の大出力の気を発揮する場面を私は覚えていない。

 ともあれ気の使い過ぎで死ぬ事は無い。ではそれは何故か。

 前までの私の思考ならば、此処で躓いていただろう。これ以上前に進めず、立ち往生していたに違いない。

 だが今回、私の手には杭が握られている。魔法世界と現実世界を含めた、世界の心臓に付き立てる杭だ。

 気の不思議ではまだ謎の部分は残っている。

 それも、ネギ対ラカン戦で浮上した、見落としていた不可思議だ。

 ラカンの気とネギの魔力の応酬。その中でネギが打倒ラカンの切り札の一つに数えた、一手の妙手。

 “気弾の無効化”

 ネギのアーティファクト“千の絆”形状は小さな革のパスケースのようなもので、端的に能力を説明すると、自らの従者のアーティファクトを自分で使うことができるという物だが、

 その中での神楽坂明日菜のハマノツルギによる魔法無効化など、アーティファクトの特性も完全に再現し、ラカンの気弾を無効化、それ所か“千の顔を持つ英雄”までも無力化することに成功した。

 そう“気弾を魔法無効化能力で打ち消した”長々と気について考察したが私の言いたい事はこれに尽きる。 

 魔法無効化能力が気を無効化するのは、これが初めてでは無い。ヘルマン襲来の時も、これと同様の事態が起きた。

 その時のヘルマンは神楽坂明日菜の能力をペンダントに移し、放出系の能力を無効化して見せた。

 ヘルマンの話も例に出したが、今はとりあえず“気を魔法無効化能力で無効化できる”それと“気の使い過ぎで死ぬ事は無い”これを覚えておけばいい。

 続いて、この魔法世界で生活を続けている魔法生命体。所謂“幻想”達の事だ。

 近い将来、フェイト達によるリライトで完全なる世界に生活圏を移す事になる彼等だが、これの答えが、先程分身での報告で活路が見出せた。

 黒髪の少女には神器は反応せず、恐らく幻想の男子には神器は反応をして見せた。

 これの解、少女には器が存在し、男子には器が存在しない、男の子は詰る所の幻想だろうと推測できる。

 魔力が生成されたのがその証拠だ。

 この世界の幻想、魔法生命体は、その構成が恐らく魔力で出来ている。そうでなければ、神器は消失した魔力に反応しない。

 つまり神器は彼等の事を、拡大解釈として“只の魔力”と肯定したのだ。其処に意志があるかなどは全く関係無く。

 その為、失われた魔力と同等の魔力を、少量ではあるが我々の目の前で生成して見せた、これが解。

 だがこれも仮定の解に過ぎない。それでも、こう考えれば後々の事には筋が通る。

 私が前から考えていた“魔法生命体”の定義を更に象る事となる仮定だが、これだけでは“リライトによる隔離”には届かない。

 今までの仮定では真偽を量る天秤は安定せず、疑問に矛盾を生んだ。だがその均衡を破る言葉が“魂”だ。

 魔法生命体。意志ある魔力は“人の魂”が具現化した姿とも言えなく無いだろうか。

 そう考えれば前述の“気が魔法無効化能力で打ち消せる”にも光明が見えてくる。
   
 前世での既存の気の概念では魔力とは分別が付けられ、互いに別物だとも思われている節もある。

 だが、この世界は違う。

 気と魔力は相反する物ではなく、逆に私は、気と魔力の本質は同義と考える。もし互いに違う部分があるとすればそれは“只の色違い”程度の違いしかないのではないか?

 魔力は、世界に溢れる“気”と言えるし、気はその個別の存在、魂から溢れ出る“魔力”とも言える。

 根本では両者は実に似通った概念であり力。互いに相反する力だけならば咸卦法と言うあのふざけた技法は確立し得ない。 

 その証左が“相坂さよとアルビレオ・イマ”だ。

 気と魔力が類似した物だと考えられる最大の要因が、気弱な幽霊と意地悪な英雄なのだから私がその類似性に気づけないのも無理は無い。

 まずは相坂さよ。

 彼女は実に六十年もの間、幽霊としてその存在を図らずも秘匿し、又、一部の者以外には認識されずに生活していた。

 一人では教室から一定の位置にまでにしか移動できず、何かに憑依しなければ自身が物に触れる事も叶わない。

 そんな彼女とアルの一体何処が似ているのか。

 ではアルについて語ろうか。

 完全なる世界との戦いで名を馳せ、英雄の一人として数えられ、これから麻帆良にて司書に身を窶す彼だが、その武力は英雄の名に相応しい。

 彼の個人技法とも呼べる重力魔法。それだけではなく、治療魔法まで習得している。更には頭脳明晰と来て、オールマイティに活躍する彼は、紅き翼を影で支える主柱の一本。確かに味方であれば――鬱陶しいが――頼りに成る奴だ。

 そんな彼の長所や短所とも言える要素を述べればキリが無いが、一つだけ。

 “彼は分身を使えない”いや……使わないと言ったほうが正しいのか。

 これは私が実際に彼と一緒に戦い、それに従事していたから判明した事実だが、彼が戦時中に分身を使った形跡やそれ等を私は見たことが無い。

 では何故私が彼が分身を使えると思い込んでいたのか、それは原作知識の弊害と呼べる物の所為だ。

 彼が分身を使ったとされる麻帆良学園祭による武道大会、其処である“間違った知識”を覚えていた所以だろう。

 間違い――ミスリード。原子分解魔法と同じく、本戦で優勝した彼が分身であると、一体誰が証明したのか。

 彼に対する打撃攻撃がすり抜けたから? 馬鹿な。そんな分身“聞いた事も無い”

 彼程の巧者ならば分身に実体と同じくらいの質量を混ぜる事も可能だろう。分身を覚えたての若い初級魔法使いや気の使い手ならともかく、英雄の名に連ねる彼が、吹けば消えるような分身を造るだろうか。

 否、断じて否。それが逆に、武道大会での彼が分身でない事を示唆していると言っても良い。

 ではあれは何だ? ネギや明日菜、エヴァ、その他の原作面々と対面した彼は偽者なのだろうか?

 ――違う。私はあれが“実体”だと確信している。 
   
 その答えが、相坂さよだ。

 一定の場所から離れられず“幽霊のように”物がすり抜け、そして――髪の色が薄くなるのも、相坂さよと同じ。

 相坂さよが元からあの髪色ならば判断は困難を極めるが、実は黒色やその他の色の付いた髪色だったのではないか?

 十年、二十年、……計六十年も経って次第に髪が薄くなり、あの病的な髪色に変貌したのではないか? だから――麻帆良学園の理事長も、その存在に気づかない。“気づけない”

 昔とは姿が変わり、記憶も薄れ、印象がガラリと変わってしまった彼女を、同姓同名だと気づいたとしても、同じ者だとはどうしても思えなかったのではないか?

 ……妖怪麻帆良学園理事長の色恋沙汰など興味は無いし、所詮仮定の話だが。

 髪の薄くなる理由にも注釈をつけようか。あれは現実世界と魔法世界の“魔力量の違い”だと類推する。

 そもそも麻帆良などの聖域と呼べる場所でも、全体の魔力量は魔法世界とは桁が違う。例えるならば、平地と高山が近いだろうか。魔力と空気が同様の物と考えれば、こんな空気の濃い魔法世界から薄い現実世界に飛ばされ、身体に支障を来すのも無理はない。例えそれが英雄だろうとも。

 いや英雄だからこそ、魔力の薄い世界ではその内包……いや、外延する魂の劣化が激しいのかも知れない。魂だけの存在と言う物に私も一時的に同じ状態になったが、気持ちの良い物ではない。レナスが異変を感じ、私の供給をカットしていたらと考えるとゾッとする。

 そして気の使い過ぎで死なない理由にも、魂だけの存在である彼等が答えを示してくれる。

 もしアルの魂が有限の物で、魔法を使う事に制限が設けられているのならば、魔法の使い過ぎで消滅までは行かなくても、何らかの不具合が生じる可能性は充分にある。

 だが、アルは現実世界でも魔法を使う。限られた空間と極僅かな時期が重なった時だけだが、周囲の魔力が充満する学園祭の時期だけ、その本来の姿を見せる。
 
 現実世界では制限されているが、魔法世界はその限りでは無い。高濃度の魔力下では魂の存在は気や魔力の恩恵を享受している。

 高濃度の魔力では気や魔力の使用の軽減や回復、他の何らかの恩恵を受ける。そう仮定すれば、気の使い手であり幻想でもあるラカンもその恩恵を受け、息をするように、魔力を周囲から取り込む魔法使いのように、辺りの生命エネルギーを取り込んでいるのかもしれない。

 それにラカンは魔法が使えないという訳でも無いし。まぁ何が言いたいかと言われれば、気の使い手も周囲の魔力を取り込んでいるかも知れないと言う可能性の話をしている。

 相坂さよが魔法世界で随分活動的に見えたのも、それが関係しているのかも知れないが、そこまではわからない。

 まぁ色々と妄想したが、此処で大事なのは、魔法世界と現実世界に、類似点ができた所だ。

 つまり、幽霊と幻想はイコールで結ばれ、どちらも“魂の塊”と呼べる存在だと、考えられる。

 気と魔力、幽霊と幻想、魔法世界と現実世界。そして魂。

 これが“世界を殺す杭”だ。きっとこれが、火星と地球の泥沼の戦争へと発展して行く。

 が、これも今は関係無い。それに未来の話は不確定要素が多すぎる。そもそも原作時間軸では戦争は起き無さそうだし。

 では話を戻そう。というよりも、これからが本題なんだが……語る必要は無さそうね、答えはもう見えているもの。

 まず、幻想と人間、これの違いは――器を持つかどうか。

 魔法世界人でもクルトの語る六千七百万の“人間”これ等は除外だ。彼等は“器持ち”

 だが器を持つ故に、クルトは彼等を助けなければならない。崩壊した火星では彼等は生きられず、“魂だけが平等に完全なる世界に移行される”から。

 肉体を持つ者、魂だけの者、皆を平等に完全なる世界に隔離する。その為にゲートを潰し、逃げ場を無くした。幻想はリライトにより消え去り、肉体を持つ者は宇宙空間に投げ出され、窒息死の後、魂は完全なる世界へ。まぁ肉体を持つ者は自然死の後回しにされたと考えるのが妥当だろう。 

 クルトは何処かでその事実を知り、それを嫌った結果が器持ちの者だけの救済。私はクルトの案に賛成だけど、ネギ君は反対なのだから仕方無い。

 こうしてネギは知ってか知らずか、火星世界全員の救済に動く事となる。皆を“平等”に救う為に。 
 
 フェイトの語る“平等”がどちらを意味するのか解りきっているし、私がクルトの意見に賛成するようにフェイトの意見にも賛成だ。ネギ達の考える最善策の平等とは根本から違うが、フェイト達の方が幾分か現実味を帯びている。

 さて、ここまで語れば後の事は誰にも解るだろう。

 ナギは二番目と相打ち、死肉は誰かが持ち去り、魂だけが現実世界に残った。これが死んでいるのに生きているの理由。何処に居るのかなんて知らん。だが案外、誰かに憑依しているのではないか?  

 ガトウの肉体は死滅しているが、フェイト達の人は殺さない発言が確かなら恐らく、ガトウの魂は完全なる世界に存在するのだろう。ネギまらしいというか、神様らしい世界だとつくづく思う。結局誰も死んでいないのだから。

 では最後に、何故造物主がゼクトに憑依したか。これは予測していた、彼等なりの保険なのだろう。

 強制的に他者の器に入り込む事で、つまり憑依する事で広域魔力消失現象での消滅を免れた。それを可能にしたのがゼクトと言う名の素体だった。

 今更中身が誰かなど気にしていないが、造物主が生きている事は最早確定した未来だ。

 私に御執心の彼が、蛇のように虎視眈々と牙を付き立てる為に準備を進めていると考えるだけでも嫌気が差す。これだけの数の魂を管理し、今まで高濃度の魔力を維持してきただけでも素晴らしい。あの高慢な神達も見習って欲しいものだ。これほどの力を持つ彼の絶望とは何か興味が湧いて来たが、計画には関係の無い話だ。 

 まぁ嫌な事ばかりではない。今日この時に真実に近づけた事がどれほどの意味を持つのか、ククッ……これからを考えるだけでも胸が躍る。 

 本当、今日のお陰で色々と知る事ができた。私の思い込みを木っ端微塵に壊してくれた彼には感謝してもしたり無い。

 私の眼前には地面に突き立てられた槍が一つ。完全な蛇足となったが、彼の最後を少しだけ語ろうか。  


 ◆


 タイミングは本当にシビアで、暢気に考え事なんてして保険を一つ使い潰す所だった。

「消え去れ!」

 彼の声と槍が届くのは同時だったと思う。槍は私を吊り上げている忌まわしい両手の内、天から降り注ぐ雷鳴の如く、彼の右手を刈り取って行った。

「!!」 

 声にもならぬ声を上げ、五番目は咄嗟に――防御反応をしてしまった。これは本当に癖のような物で、彼の弛まぬ訓練の賜物が結果として悪い方向に傾いてしまった。としか言えない。

 私から自分で距離を作ってしまい、再び距離を詰めようとするが、時既に遅かった。彼が再び私の手を掴む前に、下から突き上げられた神速の槍によって、彼の身体は瞬く間に上空に置き去りにされた。

 後は言わずもがな。綺麗な花火と成り、悲願の成就を告げるはずの狼煙は空振りに終わった。

 ……でも今回、思い知らされた。やはり、少なくとも詠唱する為の、時間稼ぎの壁は必要だと思うのよ、私。

 レザードはもう優秀な前衛をもっていないだろうし、頂戴? と言っても「はいどうぞ」とくれたりはしないだろう。 

 つまり自力で探し出す……しか無いのか。

 とりあえず第一候補は京都かな。

 あ、大事な事を忘れていた。レザードに何時ガトウを殺しに行くのか聞いて置かなければ。





 








 あとがき

 さあ、どこからでも掛かって来い!

 嘘です調子乗りましたすいません勘弁してください。

 え~それではこんな作者の解りにくい二次小説を読んでくれた其処のアナタの為に補足的な何か。

 “気と魔力”

 気は体力、魔力は精神力。原作での認識は大まかこんな物です。

 気は考察しましたのでこの際省きますが、では魔力とは何なのでしょう。

 魔力とはで大気に満ちる自然エネルギーを精神の力と術で“従がえた物”

 気が自らの魂でのモノならば、大気に満ちているのは他人の魂の成れの果てなのか、それとも他の上位の……とまぁ妄想です。

 まぁ原作でも“どちらも森羅万象、万物に宿るエネルギー”と言う解説があるから、態々大仰に説明する事も無かったですかね。

 続きましてー“幻想”ですか、

 あれはこの小説の「考察」の部分と対して違う事は書いていません。

 魔法生命体が幻想から魂と言い方が変わっただけですね。

 今回、人間の事を“器持ち”と表現しましたが原作ではそんな表記一切ありません。多分。

 えーっとそしてアルとさよちゃんですね。

 アルは間違いなく幻想でしょう。十八巻では図書館島最奥でのエヴァとのやり取りで突っ込みが身体を通り抜けています。  

 そしてそんな自分の体の事を知らないはずが無い。そう考えると、ネギ達を魔法世界に行くように進めたのも彼ですし、きっと彼は全て知っているのでしょう。そしてそんな彼を雇う学園長も、もしかして……?

 さよちゃんの昔話なんて聞きたいなーとか思いつつ、設 定 捏 造。正直すいませんでした。記憶喪失みたいなもんだから仕方無いか。

 それにさよちゃんが黒髪だったらまんま木乃……ゲフンゲフン。

 彼女の存在を魂と断定するのは「さよちゃんは幽霊ーつまり“魂の塊”みたいなもんなんだからー」という発言。二十八巻パルとのやりとりにてです。

 ミスリードの可能性は捨て切れませんが、赤松先生(神様)はこういう小さいフラグを立てるし好きみたいだから困る(笑) 

 ここで作者が何を言いたいかと言うと、現実世界の魂と呼べる存在、幽霊のさよちゃんと、魔法世界の英雄、アルビレオとは存在の線上では似通っていると言う事です。

 つまり、さよちゃんが寄代に身体を入れられる事実を加味すれば――

 まぁ後は作中通りですか。ナギの身体の行方、ガトウの死、造物主の生存に理由付け。

 学園祭にもちょっと触れましたが、まぁ保留という事で。何故超が強制認識魔法という形で過去を変えようとしたのか、何故火星の人々が地球と戦争しなければならないのか。

 アルとさよちゃんを見れば、少しは納得できませんか? 無理とか穴とか矛盾があったらゴメンなさいです。

 まぁこれは証拠がたりませんし、強制認識魔法が失敗しても目的は達成されたと言葉にしていますから、関係ないのかもしれません。特定の誰かに会いに来たとも考えられますから

 では最後に。コミックス派の方は読まないほうがいいかも。

 







  




















 今度発売の最新刊では恐らく(話数の関係で入っているとは思うのですが)色々あってネギ君が心象世界に飛びます。

 そこで出てくる“探していた父親”と“モブキャラとも言える拳闘士”“完全なる世界に飛ばされたはずの馬鹿二号”“本物ではない人造霊の師匠”

 何故? と思った方も多いでしょうが、三十二巻で、闇の魔法でネギが魔物に成りかけ、変貌した姿を見た教え子達の対応に、“手で触れると進行が収まった”という描写がありましたね。

 魂から侵食される闇の魔法をただの中学生が食い止めるとかご都合主義wと笑われるかもしれませんが、これがちょっと関係しているように思えます。

 ナギは限られた時間の中で息子と相対し、モブキャラは自分の思いの丈を全てネギにぶつけます。筋肉馬鹿はネギとの戦いを楽しみ、自ら進んで闇に向かう者に人造霊は問い掛ける。

 そのどれもが魂の存在で、思いを拳に込めて主人公と殴りあいます。あとは順番を考察すれば、自ずと答えは見えてくる。はず。いや無理があるかも知れない。

 器に包まれた少女達であれだけの効果を発揮するのですから、剥き出しの魂が想いを込めた拳で殴り合えば……なんて考えるのは無理があるでしょうか。

 そしてこれは、敵にも言える事です。

 まぁ何が言いたいかと言うと、ネギま面白いよ?



[22577] №33「可知」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/09/21 21:57

№33「可知」


 わが家の応接間、と言ってもただのリビングだが、此処に今、一人の客人を迎えている。

 私が家に招待する人間などたった一人しかいない。だが、今回はいつものような不法進入を許すのではなく、彼を呼び付け、一人だけの主賓を持成す為に、供応の限りを尽くした。 

 「どうぞ、粗茶ですが」 

 「……お茶? これがですか?」

 レザードの視線は私の出した湯呑みの中に注がれている、陽炎のような湯気を立てている、濃い緑色の液体を確認すると、短くそう告げた。

 「どこからどう見ても、お茶以外の何物でもないでしょう?」 

 「……なるほど、話があるからと呼ばれ来てみれば、私を亡き者にしようと裏で画策していた――そういう事ですか」

 「全然っ違う。私が東方の古都に出向いた時に、お土産で買ってきた物よ。それ以外に他意はないわ」

 「そうなのですか? 私には毒々しい薬か、効き目のありそうな毒にしか見えませんが……」

 そう言ってレザードは湯呑みを逆さに返す。法則に従って線となるはずの液体は、その理に反し、重力から開放され円となる。そんな緑茶を玩具のように弄ぶ、レザードの姿は堂に入ったものに見えた。
 
 「口を開けば文句ばかり……嫌なら他のにしますけど? 珈琲? 紅茶? 貴方はどちらが良いの?」

 ふっと、指揮者はタクトを振る。自然と湯呑みの中に戻る緑茶は、自らの居場所を記憶していたかのようだ。
 
 それと平行して、私の提示した二者選一にレザードは即答した。

 「いえ、結構です。こんな手の込んだ物を用意する、貴女のお心遣いには感服いたしました。私は、その感性を服するといたしましょう」 

 ……もう呆れもしない。こんな時、彼の言葉には百聞の価値も無い。素直に礼を述べるわけでもなく、ましてや謙っているわけでもない。
 
 「いい加減、毒から離れてくれない?」

 憎たらしい皮肉を吐き出すだけだからだ。こんな男にあれやこれやと用意しようと思った一時間前の私を叱責したい。  

 こいつが食べるかどうか怪しいが、茶を出すならば、茶請けも必要だろうと準備しておいたが、この男は事もあろうに、大前提である茶を拒否した。

 この時点で、蟻の心臓かくやと思われた私の幾許かの歓迎心は、塵と化し消滅した。呼んでおいて何だが、用件を済ました後は早々にご退場願いたい。

 「……クク」

 くすくすと、これ見よがしに笑う彼を見て、機嫌は良いようだと態度で見てとれる。客を不快にさせないという主旨から見れば、私の歓迎も無駄ではなかったという事だ。非常に不本意ではあるが。

 さて、彼の機嫌も良くなり、私の機嫌が悪くなった時こそ、私達の本番だ。
 
 早々に話を終わらせたい私、そんな私の真逆の心理を突くこの男。舌戦は幕を開けるだろう。
 
 注意事項は、互いに不利益の出ない関係の維持。それがレザードとの関係性を繋ぐ、コツのような物だ。

 相手の最も必要とする事象の芯を察し、そして自らの根底に蔓延る欲という泥を掬われないように、核心に杭を打ち付け合う。擽るわけだ、懐にある魂を。 

 境界線や、天秤といった物に例えられるだろうか。私達の応酬も、傍から見ればまるで言葉遊びのように映るだろう。だが、一度線を踏み越えれば、生命を掛けた一幕に早変わりだ。

 レザードにとって、命は尊重されるものではない。渇きを覚えた欲望を満たすためには、命の価値は羽よりも軽くなる。

 そう、求めるべきは価値だ。それはレザードだけではなく、誰にでも当てはまる当たり前の生存本能。

 生きとし生けるもの全てが持つ欲望は、死活的で、至要でもあり、偶像に描く垂涎の品をその手に掴み、手に入れる事を理想とする。欲深い人という生物ならば、それは顕著だろう。

 そこには善人も悪人も無い。ただレザードは、ほんの少し本能に忠実で、計算高く、且つ全くの容赦が無いだけだ。そこにさえ注意しておけば、レザード・ヴァレスはそこらの人と変わりはしない。 





 「それで? 今日はどういった了見で私を呼び出したのですか? まさか郷土色溢れる土産を披露するために、茶会を開いたわけでもないでしょう?」

 一通りの会話を済ませた後、急かすように私の言葉を催促するレザード。彼の脳裏にはあらゆる状況が想定されているはずだが、これから語る目分量の未来は、彼の思惑を超えるだろう。

 「その前に、一つ質問」  

 「何でしょうか?」

 まるで感情の篭っていない、軽やかな口調とは裏腹に、目に掛るくらいの前髪から覗く目つきの悪い三白眼は、睨むように私を射抜く。

 その瞳に羨望の念は無く、邪欲による純粋な光が広がり、誰にも理解されない、欲望の上澄みが燦然と輝いている。 

 そこには、先程までいた辛辣な皮肉屋は霞に消え、英知を極め、それを欲望の為だけに費やす、一匹のヒトがいた。

 私はその事について何か思ったりはしない。これがこの男だと、初対面からの第一印象を再認識するだけでしかない。 

 それで良い。其れであればこそ、無意味ではない価値がある。

 私は意を決した。凍りつき、静けさを保った家屋に、招かれざる感興の熱を灯す。


 「魂とは何かについて、ご教授願おうかと思って」

 
 私の言葉を聞いた、レザードの眉が密やかに動く。 

 もしかしたら、今、彼の心に殺意が芽生えたかも知れない。

 この質問が彼の狂心に響いていなければ、舌戦は早々に終止符が打たれ、死闘の筆が表紙を綴る。

 彼の眉間に皺が寄る理由にも察しがついている。この男は、無駄や、二度手間という愚行を美徳とはしない。

 だから怒りに身を焦がす。何せ私がこの質問を問いかけるのは、二度目なのだから。


 
 




 「魂とは、神聖であり普遍、自らに定められし輪廻の環、与えられた奇跡にして軌跡、唯一無二にして不滅……あの世界で、貴方はそう言っていたわね」
 
 「……」
 
 ダンマリですか。まぁいいけど。

 「それは確かに間違いじゃあない。でもね、ここにはレナスやオーディンとは違う創造神がいて、違う魂の在り方がある。“この世界”の魂は似て非なるものなのよ」

 あちらの世界、ヴァルキリーがいた世界では彼の真理は不変の事実に相違ない。だが、問題はこの世界での魂の扱いだ。

 魂が単体で行動し、自我を持つ。

 魂のみで行動する存在は確かにあの世界でも多数存在していた。だがそれは、正統なる器を持たない邪悪なる存在――不死者と呼ばれる存在だ。

 例外は、運命の三女神の従者と術の行使に失敗した哀れな戦士くらいなものか。ヴァルキリーはエインフェリアにその身に宿る力を与え、嘗ての冒険者は、自らの魂が拡散する前に鎧に宿った。

 「魂が安寧の時を忘れ、輪廻の環に入らず、何不自由なく生活し、それでいて……不死者とは違う。

 こんな馬鹿げた話が、この世界には蔓延っている」

 その他にも、特筆すべき代償も必要なく、寄り代に寄生できたりとか。これは私が知りえない情報だから、レザードに話すべきではないが。  

 「私が知ったのは最近になってから。貴方が知るか否かを、私には知る術が無いけどね」

 レザードは身動ぎもせず、否定も肯定もしない。それは私に続きを話せ、と促しているようにも取れるし、ただ聞き流して別の事を考えているようにも見える。

 沈黙は肯定の意を示していると比喩される事があるが、それは余りにも分かりやすい道標で、まるで用意周到に準備されていた物のようにも思える。

 ならば逆だろうか、いやそれでも――と、示された分岐の先は見えない。疑惑で育んだ心は、コインの裏表のように全く別の顔を曝け出す。

 そっと様子を窺っても、石像のように態度を変化させないレザードでは、情報は得られそうに無い。

 先程から寸分違わず発する静かな威圧は、空気を弛緩させる暇を与えない。張り詰めた緊張の糸は、私の心と身体を緊縛し自由を奪う、蜘蛛の糸ようだ。  

 ふむ、憶測で物事を語り、相手の反応を見て話の道筋を組み立てる――そんな愚かで、浅はかな考えであると、誤解されては困るな。 

 ……用は試しているのだ。レザードも、そして私も。 

 私は今、知る術は無いと断言したがそれは誤りだ。
 
 レザードは人形達の製作に関っている。これは言い逃れできない事実。

 ならば、人形に使用されている核――擬似的な魂に興味を惹かれるのは、極自然といえるだろう。 

 失伝魔法とは異なった、異界の魔法による魂の生成。神にのみ許された、生命の創造。

 そんなご馳走を前にして、我慢などという言葉は彼の辞書には存在しない。必ず隅々まで調べ尽くす。 

 そして遠からず、魔法世界の真理に辿り着くだろう。独学で研究し、誰かを頼りにはせず、また、誰にも公言しない。 

 口にして良い建前と、胸の奥に閉まっておくべき本音。この判断の優劣に関して言えば、レザードの実力は折り紙つきだ。  

 自身の逸脱した性癖を、隠すには苦労しただろうからな。

 「私は多くの類似点と僅かな相違点を知った」

 故に限りなく真意に近い解答、是を前提に話を続け―― 

 「それが私達にとって、価値ある発見だったとしたら……どうする?」  

 ――話の本題へと誘う一節を口にする。レザードが私の言葉を耳で反芻し、意味する所を理解した時、二人だけの隔離された世界は、劇的な変異を生み出した。 

 「私“達”の価値? それは我々にとっての利益、つまり――神の抗拒に連なる発見なのですか?」   

 凍える氷河期を忘れ、隔世の時代を迎えた動物達のように、先程までの緊張感は霧散し、朗らかな風が世界を包み込む。

 硬く閉ざされた天の岩戸は、甘い音色に誘われてその存在意義を失った。 

 開かれた胸の内は、唐突に訪れた好奇心に躍動する。

 彼の喜色を前面に押し出した表情に、私は感情を押し殺す。 
 
 「そのとおり。そして、私達の未来を磐石にする物でもあるわ」
   
 にこりと笑顔。意識された口角は、声に成らずとも嘘を吐く。

 私の発想、それは不可知の領域に踏み込む、神への冒涜だった。





 あとがき

 ……お待たせしました。

 なんとか代替案も出たので、今日をもって復帰します。
 
 忘れられてる気もするし、見限られた気もするけど、チラ裏でボチボチやっていこうと思います。

 文章あいかわらず短いですが、まぁ勘弁してください。チラ裏くおりてぃということでひとつ。

 






[22577] 番外 タカミチ
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/10/24 03:26



番外 タカミチ


 



 僕は魔法が使えない。正確に言えば、生まれつき呪文の詠唱ができない、特異体質だ。

 特異体質――この先天性の運命のおかげで、僕はどれだけの功績を挙げようとも、どんな危険な仕事に従事しても――魔法が使えない限り、マギステル・マギの資格が与えらないだろうという事を、師匠から聞いた。

 物心ついたら戦災孤児で、其の癖、憧れていた未来も始まる前から頓挫していた。当時の僕は、どちらも飲み込むには苦労した。

 戦災孤児は、身近な存在が僕の周りにはたくさん居た。だからと言っては何だけど、ある程度、許容はできた。“世界は元々こういう物なのだ”と僕達の境遇が僕だけの物ではない事に安心したからだ。

 だけど――僕は僕だけの境遇に納得ができない日々が続いた。
 
 理解していない訳では無かったんだ。僕は、恐らくそうであろうという師匠の仮定と、それの証明をもってして僕の未来が閉ざされる音を聞いた。

 師匠から借りたおもちゃのような杖を、何回も何回も振り回し、それと同じ回数の呪文を唱えていたのを鮮明に覚えている。何度も何時間も何日も、だ。師匠は僕が諦めるまで、何も言っては来なかった。

 魔法世界に生きる身において、魔法が使えないという事は不幸であり異端だ。他人がそれを知れば“不幸な人生”という同情と共に、魔法が使えない“正義の魔法使い”の存在を彼等は許さない。僕は、不許の烙印と一緒に生きていかなければならない。

 ――頭では理解していたと思う。けれど心が、受け入れてくれなかった。

 そんな僕の思いなど無関係に、戦争は被害を広げ、止まる事を知らず激化した。師匠におんぶに抱っこだった僕は、特に大きな怪我を負う様な目には合わなかったけれど、何度も背筋が濡れる感覚を味わった。その感覚は、驚くほど冷たい指が、背筋を優しく撫でるような気持ちの悪さで、僕の危機感を煽った。

 まるで死神がへばり付いているような……そんな不安に駆られていた。

 常々、戦争の爪跡は、僕に魔法を碌に扱えない者の末路を語ってくれていたからだ。当然、まともな思考ができる人なら、死人が苦しみや恨みを言葉として訴える事は無いと主張すると思う。でも、炭化して焦げ臭い匂いを発する人の形をした何かや、弄ぶ為だけの玩具のように、綺麗に四肢と頭を分断され、傍目には紅白の布の塊にしか見えない者。僕と同じくらいの年齢の子供を庇うようにして丸まった女性が、石の槍に貫かれている姿を見た時には、
 
 他人だった筈のこの人達が、まるで知り合いの人のように思えてきて“お前もいつかこうなる”と知人の声を借りて僕に囁いているように感じた。

 嫌な感覚に襲われ、夢にまでその光景や声、更には匂いまでが質感を持って現れるようになると、僕は師匠の修行に熱心になった。師匠の目が届かない時には、隠れて行う魔法の勉強を怠らなかった。

 見苦しく夢に足掻く訳ではなく、いつの間にか不思議な事に、僕は僕の身に降りかかる火の粉を振り払う為だけに力を求めていた。知らず知らずの内に、僕の夢は現実に負けた。

 
 僕は戦争をしに行く訳じゃないんだ。それに、僕は師匠に守られている。うん、大丈夫、大丈夫だ――と思う心とは裏腹に、漠然とした恐怖は、僕の背中から離れてくれなかった。


 














 弱く、決して届かないものに憧れ、恐怖を払拭する為に強さを求めていた。 

 紅き翼の皆さんと会うよりも前の、僕。

 魔法に怯えていた頃の僕はもう居ない。あるのは、戦争を経験して乗り越えて、少しばかり強くなったと思って、自惚れていた僕だ。

 僕の背中を守って、恐怖を請け負ってくれた人がいて、その人にいつも守られている事に、慣れてしまっていた。

 僕はただ、守られている事に慣れていただけで、僕自身が強くなったと勘違いしていた。

 「よぉ、タカミチ……火ぃくれねぇか。最後の一服……って奴だぜ」

 僕は言われるがままに、師匠の口元にある煙草に火をつけた。師匠はそれを吸い込むと、静かに煙を吐いた。妙齢の為せる、大人の貫禄を感じさせていたその仕草が、今は見る影も無い。

 腰を下ろし、背後の岩に弱弱しく凭れ掛かった姿は、元捜査官としての昔も、英雄として名を馳せた今でも、見た事の無い姿だった。
 
 「あーーうめぇ……さぁ行けや。ここは俺が何とかしとく」

 軽く咳き込むだけで口端からは血が溢れ出し、全身が痺れたかのように痙攣する身体で、追跡者を引き受けると、師匠はそう言った。

 師匠のお気に入りのスーツは腹部からの怪我を隠す事なく、赤く染まっている。こんな状態では、息をするのも辛く、声を出すたび苦しいだろう。

 とてもではないが、まともに戦えるとは思えない。それほどにまで疲弊しきっている師匠を此処で見捨てれば、容易に命が絶えるのは分かっていた。  

 あっさりと、簡単に、容易く死ぬ。こんな何処とも知れない森の中で、凭れ掛った岩を墓標に、呆気なく死んでしまう。

 勿論、ただ黙って、指を銜えて見ているだけでは無く、何か、救える方法は無いのかと周囲を詮索した。しかし、幻の霊薬がそこらに転がっている訳でも無く、都合良く転移魔法符が落ちている訳でも無い。 

 幾ら打開の策を探ろうと、結局は何もできる事は無いと教えられるだけだった。成す術無く、死が流れ落ちるのを待つだけ。 

 昨日まで無限に広がるように思えた可能性の道筋は、急速に数を減少させた。僕の目に映るのは、道連れの全滅か、殿の切捨てしか残されていない。

 ――どちらにしろ、師匠が死ぬ未来しか残されていない。

 僕は今まで、師匠が死ぬなんて考えた事もなかった。だって師匠は強い人だったから。あの日の、師匠の姿を見て僕は救われた。この人について行けば、僕は僕でいられる。そう思って、心の底から安心したのに。

 受け入れられない現実が、ぐるぐると頭を巡り、死について脳が圧迫される。その頃には、もう手遅れだった。こういうのは、意識した時にはもう遅いものなのだと知った。

 守護者の盾が崩壊した今、僕の夢が――久しく感じていなかったあの頃の感覚が、蘇る。焦げ臭い匂いに、赤く染まった白布、紅に滲む槍、知人の呪詛。そして、気持ち悪い背中。

 ぞくりと、撫でられた背中から逆流し、腹の底から駆け上がってくる熱い感触。 

 唐突に吐き気を感じるも、無理やりに抑える。抑える事などせずに、僕の穢れた内面を吐き出せば、少しは楽になっただろうけど、それを我慢できるくらいには僕も成長していたようだ。

 「……何だよ嬢ちゃん。泣いてんのかい? 涙を見せるのは……初めてだな」 

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、師匠はニッと口角を吊り上げ、心強い笑顔を見せた。ただ、その笑顔は僕には向いていない。

 一息咳き込むと、師匠の笑みが深まった。その眼差しには、我が子を愛おしく思う父親のような、慈愛の色が含まれている。

 「へへ……嬉しいねえ」

 その一言にどれだけの思いが込められているのか、僕にはわからない。だけど師匠は、確かに“嬉しい”と口にした。

 「師匠……」

 師匠が囮役を引き受ける最大の要因。嬢ちゃんと呼ばれた、お姫様。

 アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア。

 黄昏の姫御子とよばれ、完全魔法無効化能力を持つ少女。

 彼女も又、彼女だけの特異体質を持つ、可哀相な少女だ。

 「タカミチ、記憶のコトだけどよ。俺のトコだけ念入りに消し……といてくれねぇか」 

 師匠の咳き込む回数が増える。一回、二回と、咳き込む頻度が増すにつれて、顔色が悪くなる。
 
 其処までして僕に頼む、記憶のコトとは、勿論僕の忌まわしい記憶の事ではない。

 完全魔法無効化能力を戦争の道具として利用され、幼い頃から無理矢理に加担させられていた記憶。

 戦争の重要人物として生きていた古国のお姫様が、人並みの幸せを得るために必要な処置。それが記憶の消去だった。

 「な……何言ってるんですか、師匠!」

 魔法の存在を知る者達には、魔法の存在を知らない者達に、魔法の隠匿の義務が生じる。その規則を破った者は、厳重に処罰される。だが、絶対にばれない方法というものは存在せず、運悪く遭遇してしまった場合、口封じの為に殺すわけにも行かない。

 困った魔法使い達が悩み抜いて生み出した苦肉の策。その対処法が記憶の消去であり、その記憶の消去に置いて、偶にではあるが、ふとした拍子に思い出す事がある。

 それは同じような体験をした時の既視感のようなものであったり、脳に強い衝撃を受けた時などがそれにあたる。噂であったり、確認された前例など、報告は様々だ。

 其の中でも、念入りに消すという事は、記憶の完全な消去を意味していた。つまり、最初から最後まで、その人の関る出来事や思い出を忘れ、もう二度と、その人物に対して、記憶の糸を辿る事はなくなる。

 師匠の言葉には、そんな言外の意味が含まれていて、一瞬、その含意が読み取れなかった。 
 
 「これからの嬢ちゃんには必要の無いモンだ」

 追撃の口火を切ろうとした僕に、有無を言わさず、ばっさりとした口調で師匠は抗議の意を断ち切った。

 僕は次に続く言葉が出なかった。もしかしたら、と思い当る節が僕にもあるからだ。そして、僕自身の立場になって考えれば、自ずと抗議の声を失った。

 幼い頃の異常体験……精神に受けた傷は、後々の生活にまで暗い影を落とす。それは人に取り憑き、執拗にへばり付いて離れない。克服したように思えても、ふとした切っ掛けで全てを思い出す。

 僕は、その事を身を持って知っていた。師匠もそれを知っているからこそ、不要だと判断したんだろう。 

 親しい人の、不幸な死を看取る記憶など無くても良い。

 師匠はそう言った。

 彼女のこれからが明るい未来だと信じて、命を掛けて守った自分の事など忘れろ、と。

 師匠は、そう言った。

 「やだ……ナギもいなくなって……おじさんまで……」

 「やだ」と俯き、小さく消え入るような声で、アスナちゃんは自身の願いを訴えると、煙草を指で挟む師匠の腕に、そっと自分の両手を重ねた。

 煙草の匂いが嫌いな彼女は、常に師匠とは一定の距離を置いていた。師匠は重度の愛煙家だったから、着用している服にも匂いが付着していた。その所為か、煙草を吸っていない時でもその傍に近づく事が無かった。

 今まで伝えられなかった思いが、師匠にも彼女にも、あったんだと思う。

 互いに相手の事を思って、強引に距離を詰めるような真似はしなかったけれど、我儘を言わないアスナちゃんの事を師匠は気に留めていたし、アスナちゃんは僕達の修行をいつも横目に眺めていた。

 そんな二人の距離が、今までに無いくらいに縮まったと言うのに、無常にも、時間はいつもと変わらずに時を刻み続ける。

 「幸せになりな、嬢ちゃん。あんたにはその権利がある」

 師匠の遺言とも取れる発言に、アスナちゃんは顔を跳ね上げた。その言葉の意味を、正しく汲み取ったのだろう。

 「ダメ! ガトーさん。いなくなっちゃ、やだ……!」 

 涙を隠す事なく、声を震わせ、アスナちゃんは一生懸命に懇願した。普段、感情を露にしない彼女なりの必死の願いだった。 

 けれどその願いも、記憶でさえも、彼女には存続を許されない。彼女の幸せを願う人々が居る限り、彼女も又、彼女の知らない内に、不許の烙印と共に生きて行かなければならない。

 それが彼女にとっての幸せなのかどうか、僕にはわからない。ただ僕は、記憶を失う事が不幸だとは思えなかった。





 

 静寂が森を包む。

 アスナちゃんの慟哭は僕達の心には響いた。しかし、深く広大な森に庶幾は和らぎ、世界に響かない。

 世界の法則を塗り替える、魔法。魔法を使えない僕達が、世界の変化を訴えても叶わないのは当然だった。

 それでも――叶わないと知りつつも――縋りつくように泣き、握りしめた手を離そうとしないアスナちゃん。ここにいると、自らの主張を体現するかのように動こうとしない。

 やだ、やだ。と駄々を捏ねる彼女の姿は、過去の僕に似ていた。諦められず、何度も願いを唱える子供。世界の理不尽に納得できなかった昔の僕のように、彼女も又、諦めきれていない。 

 「アスナちゃん」

 「……」

 ぎゅっと、握り締めた服に皺がよる。無言の抵抗は、明確な意志を示していた。

 「……」

 無理矢理にでも連れて行くべきだと、僕の理性が囁く。

 師匠の意志を尊重し、彼女の幸せを叶えるべきだと。

 「行こう。ここは危険なんだ。安全な場所に戻ろう」
 
 「いや」
 
 考えたら梃子でも動かず、一歩も譲らない頑固な態度。その姿勢は、どこかあの救国の王女を彷彿とさせた。

 「タカミチ」

 硬く閉ざされた城門の如く、びくともしない少女を前に、一体どうしようかと悩んでいると、師匠の声が森に溶け込んだ。 

 「客が来た」 

 そして、端的に一言そう述べた。

 一般人には伝わらないであろうその意味を、僕は良く知っている。この状況でこのワード、つまり客とは、敵の襲来を意味していた。

 繋がれた手を優しく引き剥がし、煙草を口元へと運ぶ。師匠は徐に立ち上がり、僕達を押し退ける様に前に出ると、ポケットに手を突っ込んだ。

 無音拳独自の構えを取り、戦闘態勢に移ると、じっと、視線の先を森に固定したまま、構えを崩そうとはしない。

 視線の先には、森が広がるだけだ。傍からみれば其処には木々以外には何も無い。

 それでも、師匠の感覚は危機を告げている。

 残り少ない僅かな体力で、無理をする必要などないはずだ。それでも今この瞬間は、その無理をしてでも動く時機なんだと理解した。

 「出てきな、かくれんぼって歳でもねぇだろ?」

 かさりと、小枝が揺れ、

 「何それ。久しぶりの戦友に、酷いことを言うのね?」

 静寂は破られた。
 

 





 









 ドッと、疲れが滲み出た。

 肩も膝も投げ出して、今すぐ寝転んで横になりたい。

 安心から湧いて出た身体の弛緩。僕を支えていた柱が、ぐにゃりと力を失う。

 安堵に心が緩み、不意に目頭が熱くなる。

 僕の心を専有するありえない偶然。思いもよらない奇跡に、心の底から感謝していた。

 「助かった……」

 声に出すつもりは無かったのに、無意識に心情を吐露していた。

 解れた肺から、ついでとばかりに吐き出された音は、森に響いた。

 僕は、誰もがそう思っていると信じていて、それが世界の常識であると疑わなかった。  

 ――しかし、賛同の声は上がらず、師匠は構えは崩さない。数年振りの再会にしては雰囲気は険しく、戦争を潜り抜けた旧知の英雄同士が見せた邂逅とは思えない。

 「子供の泣き喚く声を聞こえたから、何事かと思い来てみれば……お呼びじゃないのなら、帰りましょうか?」

 仮面で覆い隠した素顔も、幼い外見からは想像できない高圧的な態度も、左右の腰に差した剣と杖も、あの頃のアンジェラさんと何一つ変わらない。失踪したとされる最後の決戦からそのままの出で立ちで、再び僕達の前に現れた。 

 「……師匠?」

 何も言わない師匠が不思議で、何を戸惑っているのか理解できない。

 此処にいるアンジェラさんは、間違い無くあの人で、殺しても死ぬような奴ではないと言われていた、紅き翼の縁の下の力持ちに間違いないはずなのに。

 「早く、傷の手当をしてもらいましょう。それと、もっと安全な場所まで転移も――」

 「タイミング良すぎんだろ。そうは思わねぇか? タカミチ」 

 え? 

 「陰に隠れて、俺が死に掛けるのを今か今かと待っていた。そんなタイミングだって言ってんだよ」

 ぺっと煙草を吐き捨て、小さな種火を靴で揉み消した。グシグシと靴で煙草を捻る音が消えた時、森に静けさが戻った。歓喜の空気は師匠の一言で台無しになってしまった。こんな事で、激怒するような人では無いと思うけれど……変わりに僕が謝ったほうがいいのだろうか。 

 「あはっ。ガトウも面白い事いうのね。冗談なんて言わない、堅物だと思っていたわ」 
 
 そんな静寂を無視するかのように、明るく振舞うアンジェラさんに、本当に申し訳なく思った。

 軽々しく命を見捨てるような人ではないけれど、折角の善意に対して、気分を害してしまっては彼女のご厚意に申し訳がない。

 「そうですよ。師匠、何を言ってるんですか? この人は身分なんて関係無く、傷ついた人なら、誰とも言わず分け隔てなく救っていた英雄なんですよ?

 そんな訳あるはずがないでしょう?」

 「……タカミチ、現実を見ろ。俺が傷を受けてから、時間が経ち過ぎてんだよ。戦闘になった森が未だに静かなのも、その証拠だろうが。獲物が傷ついているのに、手加減する獣なんていやしねぇ。

 それは所謂、この状況を作り出した奴がいるって事だ。俺よりも同等かそれ以上の力を持った奴が、何らかの意志を持って、この状況までもって行きたかったからこそに違いないんだよ」

 師匠の口述に、如実に反応を示す人がいた。両膝をついた体勢で、顔を向けた少女。涙に濡れていたアスナちゃんの瞳は、しっかりとアンジェラさんを捉えていた。
 
 「幾らなんでも酷過ぎですよ、師匠。だって僕達を襲ってきたのは、完全なる世界の残党でしょう? それなら、アンジェラさんが彼等を指揮している事になります。そんな事あるわけないですよ」

 「そうだな。例えば、手下でも送り込んだとかか? それとも――お前さんが黒幕なんじゃねえのか?」

 気丈に振舞って見せても、師匠の傷は直らない。無駄な行為に決まっているのに、決して己の主張を譲ろうとはしない。

 「随分と、自信過剰なのね。そこまでして言い切る自信がどこにあるの? 是非とも私に教えて欲しいものね」

 「それは、ゴホッ、……調べたからだ。お前さんの出自をな。結果から言えば、どこにも居なかったよ。アンジェラ・アルトリアなんて人物はな。一番の古い記録が、ナギの曖昧な記憶だってんだから、不思議には思っていた」
 
 「私の住んでいた所はいざこざで消えたわ。私は、逃げるようにあちらの世界に行き、そこでナギと出会った。過去の記録も、戦争で紛失したと考えられないかしら?」

 「そうかもな。だが、用意された答えに興味はねぇし、議論を、するつもりなんて毛頭ねぇんだよ」

 ぐっと屈むような姿勢。身体を少しだけ前屈した姿勢は、瞬動を発動させる“入り”の直前の動作だ。と言う事は、師匠は本気で戦うつもりだ。 

 何としてでも、止めなくてはならない。アンジェラさんと、師匠が戦うなんて、そんな不毛な争いを黙認するわけには行かない。 

 僕が、師匠を止めようとした時だった。 

 「どっちでもいい」

 小さく、囁くような声だ。これだけ静かでなければ、届かなかった少女の声。

 「貴女が敵でも、味方でも、どっちでも良いよ。ガトーさんを助けてくれるなら、私は何だってする」
 
 彼女の投じた爆弾は、確かに師匠の矛を鈍らせた。それは師匠の意志によるの物ではなく、有無を言わさず治癒の光が周囲を包み込んだからだ。

 「良い子ね。貴女の願い、叶えましょう」

 彼女の言葉は現実の物となった。師匠はお腹の傷に手探りで触れると、治癒を確信したようだった。師匠の顔は前と変わらず、青ざめたままだったが。

 「待て! こんな物が、認めらるはず無いだろうが! 俺の意志を無視して、嬢ちゃんの意志を尊重するってのか、お前は!

 いや…………元々、これが、狙いだったのか? 俺の命じゃなく、元から嬢ちゃんに狙いを定めていたってのか?」

 「さっきから何を馬鹿なことを。私は、彼女の清らかで美しい心の琴線に触れて、何としてもその願いを叶えたかっただけよ?」 

 「お前はっ!」

 鞘から伝家の宝刀が抜き放たれ、取り返しの付かないことが起きると思った。

 だけど、僕の予想した未来は外れ、師匠の矛は収められた。アスナちゃんの小さな手によって。

 「いいの。私はもう充分幸せだから。そんなことより、ガトーさんがいてくれるほうが……嬉しい」
 
 スーツの袖を摘まれ、優しく諭された英雄は、拳を収めた。

 「嬢ちゃん……」 

 師匠は、ポケットから手を抜き、袖にあった手を握りしめる。その姿は、親子のそれと何の遜色も無かった。

 「それよりも、早く移動したほうがいいんじゃないの? 何故か、ガトウは狙われているらしいし」
 
 そんな二人に、早急な撤退の要求をしたアンジェラさんは、自身の思いを言い終わる前に、五芒星を象った転移魔方陣の展開を完了させていたみたいだ。

 陣の中心に位置付けたアンジェラさんに会釈して、まず僕が陣の中に入り、その後をアスナちゃんが続く。

 けれど師匠は、アスナちゃんと繋いだ手をそのままに、円の中まで後一歩の所で足を止めていた。アスナちゃんと師匠を隔てる境界線は、淡い発光で術式の発動を催促している。

 「師匠?」

 「……これから、何処に行くんだ?」

 僕の声には反応せず、師匠は陣の中心に話しかけた。

 「適当な近場の街。何だったら、目的地を言ってくれれば送るわよ?」

 「そうか、なら麻帆良まで頼む」

 麻帆良!? 僕達の最終目的地である日本の関東魔法協会の麻帆良ですか?! それは余りにも無理があるでしょう、師匠! 大体、ゲートを介さずに此方と現実世界を行き来できるはずがない。

 「ふふ、面白い人ね。まぁいいわ」

 アンジェラさんもまともに受け止めず、師匠の冗談をさらりと受け流した。
 
 師匠がこんな事を言うなんて……死の恐怖から解放されて、気が緩んだのだろうか。

 「何者も、運命に逆らうことなどできはしない……なんてね」
 
 なんだろう? アンジェラさんが最後に何か囁いたような気がしたが、魔方陣が発光を強めると、その声は尻窄みになり、次第に遠のいていった。







 




 僕の眼前には広大な都市の街並みが広がっていた。

 其の中でも目を惹いたものは、都市を包むように成長した巨木の存在だ。

 これだけ大きな巨木は見た事が無い。こんな巨木が存在しているぐらいなのだから、恐らく此処は規模の大きい街なのだろう。

 「良かったです。一時はどうなるかと思いましたけど、こうやって皆無事に助かる事ができました」

 ね、師匠? と後ろを振り向いたときには、いるはずの人物が二人消失していた。

 たった一人其処に居たのは、呆然とした表情をした師匠只一人だった。

 幼く小さな手を握りしめ、繋いだ手を離さないように、大切に、大事にしていたはずのあの子はいない。

 名残を残した師匠の空の掌が、力なく上向いていた。



 


















あとがき



ぐは。難産でした。サブタイトルをつけるとしたら、「戦友」ですかね。

少ししか推敲していないのでどこか変な部分あるかもです。

あれば報告お願いします。 






[22577] №34「幻日」 序奏
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2011/11/30 22:25
 









№34「幻日」 序奏



 




 過去にも似たような感覚を経験をした事がある。

 それに最も近い感覚が、俗に言う“ひらめき”といった脳の電気信号だ。

 奇抜な発想を思い至った発起人や、神の啓示を受けたとしか思えない直感、神来。

 全てのピースが出揃い、後は当て嵌めるだけのパズル。難問を解く道筋は確立され、脳からの衝動は奴隷のように身体を突き動かす。

 脳内物質は動悸を早め、熱の篭った血液は発汗を促す。確固たる信念は、後退や停滞の意志など元より存在しないかのように、前へ前へと歩を進める。

 絶対に成功するという自信。未来を予感しただけで、胸の鼓動は収拾が付かなくなる。

 口元の綻びを抑えろとは無理な話だ。これから起こる喜劇の出来は、私が一番理解している。

 「さぁ、着いたわ」 
  
 魔法陣が送り出した場所は、薄暗い部屋だった。

 長く広い木の机に、乱雑に積み上げられた本の数々と、綺麗に配列された本棚。 

 部屋の隅には、一つのランプが備え付けられ明りを灯している。しかし、それだけが唯一の光源で、辺りは薄暗い。

 そんな薄闇の中でも一際目を引くのは、室内の最奥に設置された透明で大きな円筒だ。円筒に内蔵された液体が、僅かな光を得て反射している。これの中身が液体のみであれば、少しは部屋の雰囲気も和らいだだろうが、内蔵された物体は液体だけに留まらない。

 液体と共に見えたのは、ほっそりとした白い幹のような物。貧相な根元は、自重を支えられるのか不安になる程の細さで、幹の中腹には節を思わせる一つの膨らみがある。そこから空に向かって成長した茎は、徐々に太く育ち、柔らかな線を描いていた。

 一目見れば、それが何なのか理解した。その幹は美しく鈍ましい工芸品だ。見る者の血の気が失せる、狂気の傑作。

 その幹から伸びる全体像は想像に難しくない。あれの正体に少しでも心当たりがあれば、直ぐに思い当る代物なのは間違いない。

 しかし裏を返せば、その知識が無い者は気にも止めないという事だ。  

 その証拠に、アスナはあれを視界に収めているはずなのに何の感情も抱いていない様子だった。終始落ち着き無く、そわそわとはしているが、可愛げの無さに変わりない。 

 透明な円筒の中身に興味も無く、その正体に微塵も気が付いていないと言う事は、彼女の態度を見れば一目瞭然だ。

 まぁそれもそうか。あれが一体何なのかなど、彼女の心にはそんな些事が入り込む隙間は用意されていないだろう。 

 ならば、この薄気味悪い部屋に更なる明りを灯すのは少し待ったほうが良い。

 今すぐに――と焦らずとも、否が応にも注視せざるを得ない未来に、あと少しで到達するのだから。

 ……しかし、こんな気味悪い人形を背後に、自身の研究と妄想に駆られていたのかと思うと、もはや称賛に値する。   

 決して住み心地の良い住居とは思えないが、蓼食う虫も好き好きとはこの事だ。“こんな”でも、好む生物は万物の霊長たる人類にも一人はいたようだ。

 噂をすればなんとやら。薄闇を照らす魔方陣の輝きが、地面に描かれていく。

 「ようこそ。お待ちしておりました。オスティアの姫御子」 

 反響する、歓迎の含みを持った声。この声の発生源こそ、部屋の意匠を仄暗い狂気に染め上げた張本人にして、この部屋の主人。

 黒衣の外套を羽織る人影。部屋に同化した黒塗りの外見は、露出した白面を引き立たせる。浮かび上がる得意顔は男のそれだ。尤も、こんな場所でなければ、注目を集める事も無いだろう。道端ですれ違おうとも、目で追いかけるような容姿ではない。それどころか、目つきの悪い三白眼は、忌避される部類の物かと思われる。

 しかし幸運な事に、愛用の縁の丸い眼鏡によって険しさは少しだけ軽減されていた。その為、幾分か賢い印象を“初対面”の人間に与える。

 だが、それは偽装に他ならない。彼の妄執に少しでも触れてしまえば、その印象は嫌悪の型を取る。そして、彼の具備した賢さが、黒い欲望に裏付けされた毒と知るだろう。

 彼こそ、稀代の錬金術師にして、不死者をも操る死霊術士であり、欲しい物の為ならばそれが何であろうと躊躇はせず、その過程で行われる自らの暴挙にも、罪悪感を感じることは無い冷徹な偏執狂。

 己の欲望の、忠実な僕。

 「我が名はレザード・ヴァレス。刹那の出会いに歓迎はいたしますが、覚えて頂く必要はありませんよ」
 
 レザード・ヴァレス、その人だ。

 








 「誰?」 

 アスナの至極真っ当な疑問だ。端的に述べた疑問は、眼前の彼にではなく、私に対しての質問だった。 

 「彼は……そうね、正直な人」

 噴出しそうになる私の心を、寸前で我慢する。折角、格好をつけて現れたロマンチストの台詞は、アスナには理解されなかったようだ。

 ここで私が笑い出してしまえば、色々と台無しだ。彼も機嫌を損ねるだろうし、此処は我慢だ。 

 「……答えになってない」

 納得行かないと首を傾げた少女に、私は優しく諭した。 

 「いえ、これでいいのよ。これでね」

 益々訳が分からないと言った体のアスナに、私は彼女の手を取り、後を付いてくるように促した。

 「さぁ行きましょう。私達の幸せの為に」 
 

 
 








 壁に等間隔に設置された蝋燭を頼りに、通路を進む。固く握り締められた互いの手を、私もアスナも離そうとはしない。

 ――繋がれた絆は、決して断ち切れない。 

 何故か。簡単な話だ。彼女は生まれてから今まで、己の宿した力に振り回されて生きて来た。そして、その環境から逃げ出せない人生を歩んでいた。

 物心付く幼少の頃から、普通とは言えない生活を過ごしてきた。

 盾として利用され、道具として心を殺され、人に非ず故、蔑まされ生きていた。そのお陰で、彼女には主体性や、人として備わっているはずの心の機微が欠けている。

 その為、いつも誰かに言われた事を――他者から命令された事しか、行動に移せなかった。

 誰かの言いなりになる事に、反感の意志を抱かない。人としての尊厳を奪われた、彼女の深なる部分には根が蔓延っている。彼女の根底に根付く理念。それは、諦観だ。

 希望の光が届かない、暗く冷たい井戸の底。力も知識も無い幼い子供に、反り立つ壁は高すぎる。更に、希少価値という束縛の錘が、彼女には絡み付いていた。

 辛くはないだろう。彼女は、枕元で聞かされる夢物語や御伽噺の類さえも知り得なかった。  

 彼女は知らない。力の使い方も、知識の有用性も、戦争の成り立ちも、夢も、希望も。 

 希望を知らぬ者は、期待を胸に抱かない。それが彼女の諦観の正体だった。

 ――届かないはずの光。だが、その井戸の底を掬う存在が現れた。

 掬う所ではなく、全てをぶち撒け壊すだけで、一向に悪びれず、傍若無人な振舞いを行う乱暴者達だったが、確かにアスナは救われた。 

 さて彼女は――必然的に――晴れて自由の身に至るわけだが、絶望の淵から一転、自由と希望を手に入れた人間が、再び自ら井戸の底に戻ろうと思うだろうか。

 井の中の蛙は大海に躍り出た。ならば、もう戻ってくる事は無い。籠に守られていた事など終ぞ知らず、鳥や蛇の餌食となって消え行く運命だ。

 そして彼女は覚悟を決めて、我が身を餌にした選択を行った……正確にはそうなる様に私が押し付けた訳だが、それは彼女にとっても本意ではない。

 願わくば広い海の中、伸び伸びと泳ぎたいだろう。狭い世界に押し込まれ、加護と言う名の虐待を受けていた彼女にとっては、尚更だ。

 其処に、隙がある。大海を経験した彼女に湧いた、ホンの小さな隙間。そこをちょっとつつけば、砂上の楼閣は支えを失う。

 ――眩しい光は、中毒を齎す。一度の経験は、彼女を一生苦しめる。

 覚えてしまった希望の味を、イキモノは忘れない。

 ――仄暗い闇は、恐怖を促す。過去の経験は、彼女を不安に貶める。

 今までの食事が毒だと知った時、イキモノは、それを二度と口にしないだろう。

 彼女が知ってしまった、些細な欲望。それを刺激してあげれば、ほら、簡単に掌で踊る。
 
 ――繋がれた絆は、決して断ち切れない。 
 
 アスナにとっては不安の、私にとっては期待の、私達の思惑が詰まった諸手は、奇妙な相互関係を生み、強固な鎖と化した。

 「ここは何処なの?」

 そんな不安に塗れた彼女の心境は、手に取るようにわかる。

 こんな摩訶不思議な環境に突如連れて来られた、不思議の国の王女様は、もう一度――いや何度でも奇跡を願うだろう。

 そんな彼女の心境を無視して、行動に移しても一切構わない。のだが、今日は実に機嫌が良い。

 冥土の土産に教えて進ぜよう。

 「此処はレザードの館。彼の研究や実験を遂行するために独自に作り出した、境界の狭間よ」

 「境界の狭間?」

 「そう、誰にも知られない――秘密の空間」

 境界? 秘密? とアスナは呟いたが、それっきり彼女は口を閉ざしてしまった。どうやら彼女なりに言葉の意味を吟味しているようだ。

 そんな彼女の涙ぐましい姿勢も、隠さずに言えば全くの無意味。大体、こんな事を聞いても何の意味も無いし、助けを期待しても無駄だ。彼の築いた空中楼閣は蜃気楼の如く、招かれざる者の侵入を阻む。

 彼女はその事を理解できない。そして私が失伝魔法の理を詳しく説明する心算も無い。そんな彼女には、私の説明など異国の言語と同等に聞こえるだろう。

 理解し合えない者達の雑談。そんな彼女の為に、空気を振動させる労力を惜しまないのは、偏に私の自己満足でしかない。
 
 自身の成果を誰かに認めてもらいたい。それが話の伝わらない蛮族であろうとも、滑らかになる口を止める理由にはならない。

 今の私は、案山子にも自慢げに話す事だろう。

 「さぁ、着きました」
   
 そうこうしている内に、目的の場所に辿り着いた。

 私達の会話に横槍を入れなかったレザードは、ここぞとばかりに口を開いた。

 「御覧なさい。王女よ、此処が貴女の墓場となる」



 





 「え?」

 彼女の声は、あからさまな空虚を伴い、真実を受け入れられずにいた。

 それは彼女が、現状に追い付いていない事を如実に現している。

 レザードから告げられた宣告も、確かに一因ではあるだろうが、変化に疎い彼女の人生に、現状が性急すぎるのも又事実だ。

 「むー! むー!」

 「……」 

 其処は、黄土色の実験室。簡易的に造られたその部屋には、猿轡を嵌められ、身体の自由を奪われた本国の高官と、生気を失ったように目の焦点の合っていない、薄汚れた一人の少女が居た。

 高官は敷居の高そうな服に身を包み、肥えた身体を右に左に動かし暴れる。身体中ぐるぐる巻きにされた縄を断ち切ろうと努力するが、労力は泡と消えた。

 その高官と反比例するかのように、薄汚れた少女の着る服は、布着れ一枚と奴隷の証たる首輪のみ。細々とした四肢は、まず第一に栄養が足りていない。彼女は縄に繋がれていないが、立ち上がるのも辛いのか、地面に腰を下ろし、足を抱え震えていた。
  
 その光景を目の当たりにしたアスナの身体は硬直した。これを見て、これから起こる未来を彼女なりに思案したはずだ。

 ――確実に、良い方向には向かわないと想像できるこの状況で――いつかアスナは暗い経験に囚われる。

 その時に垣間見える彼女の選択。選ぶのは光か、闇か。どちらに転ぶのかを思い浮かべ、傍から見定めるのも悪い気はしない。

 我が身に降りかからない災厄の粉、傍観せし劇場。椅子があれば文句は無い。

  


 


 交わるはずの無い運命の交差。

 本来、関わるはずの無い五人の運命は接触し、錯綜した。

 戸惑い、困惑する彼等はどのような未来を私に見せてくれるのか。

 私達の思惑通りに事が進むのか。それとも、予期せぬ出来事が私達の前に立ちはだかるのか。

 前奏の指揮杖を持つレザードと、私の視線が重なる。始まりの合図は、無言で遂げられた。

 「人が死に、魂となって彷徨うのであれば、その魂と生きる神とは一体何なのか。私は考えていました」

 説明も何も無く、幕開けは唐突に訪れた。呆気に取られる少女達を置き去りに、レザードは誰に語るでも無く、等しく平等に聞こえるよう、高らかに演説するかのように声を張り上げた。
 
 「私は私なりの考えに至り、私の心のままに行動してきたのです」

 其の声は天に向かって語り掛けられた。まるで其処に誰かが存在しているかのように。

 「しかし、人や魂のように、真実もまた生きている。それは移り行く今を反映し、世界の変移を意味している」
 
 不意にレザードは杖を振った。誰も予期していなかった彼の行動は、私達の視界を青と赤に染め上げる。

 「クールダンセル」

 三柱の氷の精霊は、順を追い踊るように刃を突き立てた。 

 
 





 衝撃は、役者達に襲い掛かる。

 一人は恐怖に慄き、頭を抱える少女。災厄が頭上を通り過ぎ、降りかかる不幸に怯える矮小な存在。

 一人は硬直を解き、口を塞いだ王女。鮮血が舞う不測の事態に、現実を直視仕切れない寸劇の主役。

 一人は驚愕に震え、目を見開いた男。突き立てられた三つの剣に、崩れる体を支えきれない道化役。

 「いや、いやあぁぁぁぁっぁ」 

 擦れた声で、小さな悲鳴を上げる奴隷の少女。次第にそれは嗚咽に変わるが、それが悲哀だけでなく、歓喜の感情が含まれている事を私は知っている。これこそが彼女の望みで、唯一の幸せ。

 「何を嘆き悲しむと言うのです。これは、貴女の望んだ未来ではないのですか?」

 両手を広げ、外套を靡かせる死霊術士は、三白眼を見下ろし、黒い弦月を形成した。 

 「なんで……」

 誰に聞いたわけでもない、もう一人の少女の呟き。

 目紛るしく変わる世界に、未だ思考が追い付いていないと思われる。それも仕方無い事だろう。馴染まない環境に四苦八苦するのは、誰でもあり得る事だ。

 そんな悪夢と言っても過言ではないこの状況で、アスナが地に足をつけ大地に降り立って入られるのも、過去の体験が有るからに過ぎない。繋いだ手を、有らん限りの力で握り締めるアスナの小気味いい握力は、確かな変化を私に伝えていた。

 「簡単な話よ? あの男はそこにいる少女の村を襲ったの。戦後の紛争と混乱に乗じてね。そのお陰で、少女は家を失い、親を殺され、姉は弄ばれた。そして自分は奴隷として、憎き男の世話をさせられる。

 そんな少女の心に宿る物が何かなんて、考えるのが億劫になるくらい簡単な物じゃない? 私達は、彼女の願いを叶えてあげたのよ。復讐と言う名の、願いをね」

 アスナは私を見上げた。彼女より頭二つ分ほど高い私の背丈だが、そこには歴然の差がある。

 「それを、本当にあの子が望んだの? 無理矢理従わせることだって、できる」

 ふむ、経験者は語るか。でも貴女のように、全ての人に白馬の王子様が現れるわけじゃない。

 「そうよ? このままでは、彼女の未来には暗雲しか立ち込めていないもの。嬲られ、犯され、飽きられる。其処には、救いなんて無いわ」

 貴女とは違う、もう一つの真実。少女の家族は既に送られた。それは森羅万象に遍く不変の死ではなく、彼等にとっては、魂の消滅に違いない。

 「……そうかも知れない。でも貴女達なら、きっともっと違う方法で救える!」

 何を馬鹿なことを……私達は全知全能の神ではない。土台、できたとしても――

 「はは、そんな事に何の利益があると言うの?」
 
 ――有象無象の一つに、そこまでの価値など無い。

 「……見ていなさい。これはまだ始まりに過ぎないのだから」 









 「プリズミック・ミサイル、シャドウ・サーバント…………バーン・ストーム」
 
 次々と放たれる死の化身。それは、既に息をしていない、肥えた死体に向かって繰り出されていた。

 破裂し、磨り潰され、焼却される肉体。過剰な攻撃は、一片の肉片さえ残さず命を塵に変えた。

 充満する焦げた匂いと舞い散った血痕。それだけが、つい先程まで生存していた一人の男の存在を証明していた。

 「行きますよ」

 間髪入れず、呪文の詠唱を開始するレザード。その呪文は先程までの無詠唱魔法とは趣の違う、冷厳なる物だ。 

 「大気と冷気の精霊よ! 我、橋渡しとなり願うは婚礼の儀式。汝ら互いに結びつき、其の四方五千において凝固せよ!」 

 魔力流が立ち昇る。その呪文の詠唱は願いだった。様々な意味を内包している願いだ。神の冒涜と命の傀儡。そして、魂の具現でもある。誰もが願う、霊柩への抗拒とも言える。

 呪文は止まらない。誰も阻止しない。――僅かな懸念は消えた。少女達はただ眺め、終わりが近づくのを待つだけだ。

 呪文の進行と共に、微細の粒子がレザードの翳す手の先に集まる。それは結晶となり、次第に大きくなって行く。

 やがて、研ぎ澄まされた剣と剣が重なり合うような、澄んだ音が響いた。そんな錯覚を起こしてしまいそうな、綺麗な音。 

 それと同じくして、悲しみも、喜びも、怒りも、全てを払拭する白光が周囲を照らした。それは、うつつとまやかしが交差し乖離する一瞬。

 「……眩しい」 

 アスナの率直な感想は現状を確と現していた。瞳を焼くかと思われた圧倒的な光は、暫くの間、私達の色を奪った。

 「さぁ、目を見開きなさい。素晴らしき日を、祝福しなくてはなりません」

 一拍置いて聞こえてきた声。それは至近距離で光を浴びた、一番の被害者であるはずの術者の声。だが、届いた声は光に堪える事も無く飄々としていた。

 色を取り戻した世界。私の瞳に映るのは、レザードに掌握された魂の結晶だ。鮮やかな光を放つその結晶は、レザードの手に“二つ”握られていた。  

 「ほらね、私の言ったとおりでしょう?」 

 余分に増えている結晶は、代替の品をもって変換されていた。

 代償の少女の姿は無く、彼女の痕跡は幻に消えた。そんな少女は最初から居なかったと、記憶からも消し去るような綺麗な消失だった。

 「ええ、正しく。これで、私達の勝利は磐石の物となりました」

 序曲の演奏は盛り上がりを見せ、暫く暗幕に伏せられる。次曲の期待を胸に幕開けを待つ観客は、束の間の現実を味わった。

 
 







 










 あとがきぃ


 遅くなりました。今回のこれは前編です。

 次回の後編にて、過去編は終了し、次々回より原作時間へと進みます。
 




[22577] №35「現実」 奏功
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2012/02/04 16:09

 


 滅多にお目に掛かる機会のない、魂の光。その輝きは、醜い性癖と復讐の炎を微塵も思わせない、美しい宝石の煌きに似ていた。

 石は砕かれ、研磨された。器に付着した邪魔な礫を取り除き、無二の魂は、生前の歪な形を物ともせず、宝石とも呼べる輝きを取り戻した。

 宝石が見せる光は、人の持ち得る悪意など、簡単に飲み干してしまいそうな無垢な純白だった。

 心に巣食う悪心など露とも感じさせないその輝きは、魂が何と純粋で、汚し難い物かと思い知らされる。

 それと同時に、人の持つ悪意や欲望が、どれだけ矮小な物かと見せ付けられた気にもなる。

 再度、魂を観察する。

 憎しみの炎に己の身を焦した少女と、醜い欲望に心酔し、権力を振り翳した男。その二つの魂。 

 どちらも違う人生を送ってきた。片や貧乏で、片や裕福である。一方は加害者であり、一方は被害者だ。

 蛋白質と幻想の器に包まれ、その輝きを披露する機会を失っていた魂は、今この瞬間、大翼を得た。今日まで黒い欲望に抑圧されていた魂は、その怨念から解放される。

 もう一度、注視する。

 どちらの罪が重いか? など論議にも値しないが、二つの魂は、殆ど同色の輝きを纏っている。 

 これが何を意味するのか――この純白の啓示は、私に語りかけてくる。 

 善人も悪人も、同様の魂を与えられ、この世に生まれ出でる。
 
 無論、誰もが個性を持って生まれて来た。親の遺伝や成長過程、好き嫌いなどの嗜好もあるだろう。 

 しかし真意では、本質は個性など含んでいない。恐らく、生物である限り全てが純白であり、全てが輝ける魂だ。
 
 それは、善人や悪人などのレッテル、罪と徳、天国と地獄。人々が考え出した、人を二分化する言語の数々が、須く無意味だと言う事を物語っている。
 
 理性の副産物――死の恐怖への回避、民衆の扇動、他者を見下すことによる優越感。これらは知者に利用され、今日の人類の繁栄を確立した。 

 それらが如何に確約なき妄想だったのか。天国を信じて、人生を棒に振った人々が哀れでならない。

 尤も、この世界にも実際に天国があるのかも知れないが。












 №35「現実」 奏功









 


 魂の結晶化。それは、この世界には無い、神々の世界の魔術。

 結界で空間を凍結し、鏤められた魂を凝固、結晶化させる魔術。

 今し方、レザードが詠唱した呪文は、その魔術の足懸かりだ。

 実はこれは失伝魔法や、特殊な魔術という訳でもない。その分野に精通している者なら、誰にでも使える魔術だ。 

 しかし、誰にでも使えるからと言っても、このままでは意味が無い。あちらの世界の法則では、時間経過と共に消滅するという“いらないオマケ”が付属されていた。

 言わば、この魔術はただの時間稼ぎだった。魂を結晶化させた状態のままでは、これは綺麗な宝石のままで、真価を発揮しない。

 故に、この魔術の真骨頂は先にある。

 この結晶化した魂を元々の魂の器とは違う、別に用意した器に鞍替えする。これこそが、魔導の真髄や本筋から外れた行いこそが、この魔術の本来の用途だ。

 魂を結晶化させ、輸魂の儀によって、精神を肉体に定着させる。

 これがレザードの考え出した、神ならざる身で神とは違った方法で人や神を造り出す方法だった。

 其の為に、レザードは器を設える必要があった。最高神であるオーディンにも引けを取らない、神の名に相応しい至高の器を。

 その器の原点こそ、現世に残された神の器、エルフだ。レナスの為にだけに危険を侵してまで攫い、ユグドラシルの管理者たるエルフを好き勝手に造り替えた。

 罪深き妄想の成れの果て。それは、外見までレナスそっくりに造られた。

 そして、その“余り”を譲り受けた私も自然とレナスの面影を残している。 

 光に波打つ青みを帯びた銀髪、絹の持つ柔らかな質感と陶器の乳白色を兼ね揃えた玉肌、何処までも深く、吸い込まれそうになる蒼穹の瞳。
 
 真澄鏡に反映される私達の現し身は、人の心を浸蝕するには充分すぎるほどの美しさを放ち、惑わせる。

 とはいえ、何時の世にも例外はいる。そんな美しさは飾りだと言わんばかりに、彼はレナスの内面に惚れたと仰る。私はそれを嘘だと信じて疑わなかったが、それは正しく彼の本心だった。

 等しく同等の仮面を持つ私に、彼は欲情のよの字も表に現さなかった。 

 他人の皮を被ろうとも、結局は私は私なのだと言外に伝えられた。彼の良き商売相手にはなれても、色恋の対象にはならない。

 他の所ではいい加減で、大雑把な彼が、レナスの事だけは真剣なのだと思い知った。

 その事実に心底、安心したのは言うまでもない。




 つまり、今の結晶化させた魂だけでは意味がない。

 “魂には肉体を、器を用意してあげなければならない”。

 剥き身の魂に安らぎの肉体を拵えて、自らの望む“個”を生み出す。
 
 子を産めない彼には、ピッタリの方法だった訳だ。
 
 「いやなにおい………血のにおい」

 静けさを取り戻した質素な部屋には、肉の焼け焦げた匂いが充満し、黄色土の壁にぶちまけた赤い血潮が室内を二色に彩った。

 魔法の爆発による熱風が原因だろうか。レザードは火照った顔を隠そうともしない。魔法障壁によって程良く軽減された暖かい風が、彼の情欲を煽り立てた。

 彼は、コツコツと硬質な音を経て、私達との距離を縮める。その音が近づくに連れて、彼女の血の気の引いた表情は強張り、小さな囁きも、回数を増やしてゆく。

 「こないで」  

 二本の足が震える。生まれたての小鹿の覚束無い足を真似たのかと思う程の震えが、彼女を縛る。

 恐怖が全身に包み、脳の命令を跳ね除ける。過不足無く働いていた手足は自由を失い、誰に操られているでもないのに、圧力から逃れるため、彼女は地面にへたり込む。  

 すーっと、彼女の熱が失われる。今彼女が目撃した事実、そして、“彼女の経験した地獄の中で、絶対に感じなかった感覚が”彼女から熱を逃がす。

 少女にも満たない可愛らしく柔らかい手は、凍えた。人の体温とは、恐怖で此処まで急激に冷えるものなのか。

 「怖がることなんて何もないわ。アスナ」

 この子の恐怖を少しでも緩和させようと、私は精一杯の笑顔を振りまく。

 見上げた彼女の瞳に、欠片の希望が戻る。今にも泣きだしてしまいそうな彼女の顔に、ぎこちない無表情が蘇った。

 私は、一本の柄を取り出すと、漂わせた銀色の魔法金属を変形させ、素早く柄に纏わせた。

 あっと言う間に、私のもう片方の手には、両刃を拵えられた神器が姿を現す。

 銀の意匠に精密な技巧は、記憶の中のそれと遜色無い。私のイメージ通りの形を成した銀の槍は、溢れ出る魔力が凍えきった雰囲気を溶かし、空間に余裕を持たせた。

 対立の構図が出来上がった。彼女のひたむきに握る絆が、尚一層強まったのを感じた。

 私は彼女の瞳を見詰め、もう一度、笑顔で言った。

 「少し、チクッとするだけだから」
 
 







 「いや!」

 いやだいやだと、彼女は腕を引っ張る。

 そして、そんな子供の駄々を捏ねる様子を微笑ましく見守る私達。

 注射を怖がる子供の気持ち。私も幼い頃には、突き刺される恐怖を痛い程経験したものだ。

 私のもう片方の手には、両刃の注射器が添えらている。少しばかり大きいが、きっとあの頃の小さな注射器よりも痛みを感じることはないはずだ。 

 私達の顔は、あの日の医師達に限りなく近く、そして彼女にはこの上なく邪悪な笑みに見えることだろう。 

 「はっなしてっ!」

 彼女は瞳に涙を浮かべ、空いた手で私の束縛を解こうと躍起になっている。

 私の指の一つ一つを剥がそうと、小さな手に満願の思いを込めるが、頑丈な鎖はびくともしない。
 
 そんな恐怖に歪む顔は、近年稀に見る必死の形相だ。

 こんな顔は原作でもお目に掛った事がない。これは非常にレアな場面かも知れない。

 「嫌がることないじゃない。貴女が安心するだろうと思って、親切で貸してあげているのに」

 無愛想よりはよっぽど愛嬌のある顔に、ついつい悪戯心の虫が騒ぐ。だが、私一人だけ愉悦を得るのを“非常に”不愉快に思う奴がこの場にはいるわけで。

 「ククッ。拷問具をあくまで親切と言い切るとは、中々どうして。貴女を鉄にしたつもりはなかったのですが、どこかで入れ替えたのですか?」

 ほらきた。

 「貴方は黙っていて。それに、身も心も鉄の処女なんかにしていませんので」 

 「おや、つれないですね」

 レザードとのくだらない冗談に付き合っていると、彼女の手から徐々に力が抜けていくのを感じた。走り続けたメロスが息切れし、疲れてへたり込むというより、「観念した」という言葉の似合う、力の抜き方だった。 

 「それでこそ、黄昏の姫御子。諦めるのが早い。いえ、高を括ると言ったほうがいいのかしら?」

 「どういう意味?」

 脊髄反射で切り返した彼女の疑問。頭の中で咀嚼することもなく吐き出された疑問は、実に味気ないものだ。

 「言葉通りの意味よ。貴女はいつも諦める。それも簡単に。それを何故かと考えたことはあるかしら?

 ごめんなさい、愚問だったわ。でも貴女はいつも嘘を吐いている。貴女は貴女自身でも知らない部分で、貴女の人間性を偽っているの」

 それがどれだけの事か。環境ゆえに、誰からも指摘されず、師事する人物もおらず、模倣し敬意を示す人物もいなかった、彼女の孤独の結果。

 「嘘なんて、言ってない」

 語尾に、今まで言った事もないと帯が付きそうな言い方で彼女は断言したが、それこそが、嘘だ。

 彼女は断言した。だからこそ、自覚していない。  

 「本当にそうかしら?」 

 そんな彼女を見下ろし、私は言葉を続ける。
 
 「今日まで幾星霜の月日が流れたのか、それは貴女しか知らないでしょうけれど、そこがまず可笑しい。

 どれだけの時間を牢獄に費やしたの? どれだけの時間を殺して、貴女は生き永らえたの? そう、貴女が生きているという事に、貴女は何故、疑問を持たないの?

 蔑みにあったのでしょう? 拷問にあったのでしょう? 心を壊されたのでしょう? だから、記憶を消すのでしょう?

 ――何故生きる必要が? 何故そこから逃げ出すのに最も簡単な方法、死を選ばない?」

 私が彼女に浴びせかけるそれは、言葉ではなく、叱責でもない。

 「諦める。口にすれば、傷つき、病んだ状態の貴女を現すのにぴったりの表現ね。座右の銘にでもすればいい。

 だけど、貴女は一つだけ、その奥に隠している」

 それこそが彼女を全否定する、彼女の吐いた嘘。

 「貴女の諦観の下地、諦めのさらに奥にあるもの。それは“自分が殺されることがないと、高を括っていることよ”」

 「そんなことない! 私はずっと閉じ込められて――」

 「気の遠くなるほどの長い期間、閉じ込められていても、虐待を受けても、人として扱われなくても、非道な行いをその身に受け入れても、反発しても、諦めても、何をしても、それでも――死なない」

 それが意味する所。それは――

 「貴女は貴女の価値を知らなかった。でも、一つだけ経験則でわかったことがある。それは、このままでいれば“安全だと”いうことよ」 

 言い換えれば、生活できると言ってもいい。そこが如何に生き辛い地獄であれ、彼女には其処で生きるしかなかった。

 そういう意味で言えば、彼女の選択は正当だ。地獄で生きるには、希望持たざる生き方は正解であり、何も感じず、時間が過ぎることだけを考えることのほうが、幾分か幸せだった。

 そのほうが、早く慣れる。住めば都とは良く言ったものだが、その生活に慣れる時間は人それぞれ、人間模様は様々だ。

 環境に適応する術を、人は生まれながらに持っている。それを最大限に発揮するためにも、それを阻害するものは早々に摘み取る。慣れるとはそういうことだ。

 そして、早々とは行かなかっただろうが、彼女はそれを見事に達成した。

 彼女は長い年月を掛けて、やっと適応したのだ。地獄に。

 そしてそれを呆気なく捨てたのもまた彼女だった。

 過去の経験や記憶を全て投げ打って、自分が元々いなかったかのように違う人物として開かれた未来を生きる。

 嫌な過去から逃げる。消去する。その方法があれば、誰でも飛びつきそうな、机上の空論“だった”。

 この世界にもそれがある。

 それを本気で渇望する者達。それらの核心にあるものは何だ? 

 “決まっている”

 そんなものは、疚しさだ。自分の過去に後ろめたい事実が隠されているからに他ならない。

 俺だった私だからこそ、言い切れる。

 「ずっと閉じ込められていた。造物主に魔法の生贄にされそうになった。でもだからこそ、悟った。不遇の運命を歩もうと、どんなに辛い目に会おうとも、死ぬことは無い、と」

 完全魔法無効化能力、王家の魔力。唯一無二の力、希少価値こそが彼女の命懸けの綱渡りを成立させるものだった。

 それこそが、死の恐怖を柔らげ、己の身体を差し出すという暴挙にも耐えうる、揺るぎようのない自信に繋がっていた。

 波立たない海の凪ぎに似て、心穏やかに、諦められた。

 「それだけが貴女の骨だった。皮も肉も血でさえも抜き取られた貴女に、最後に残された骨子。

 歩く死者に理性は働かず、自らを理解できていないにも関らず、本能は知覚していたのよ。生命の安全をね」

 「そんなことない、そんなこと、ない」

 「今まで簡単に死んでいった人々を前にして、貴女は何をしたの? 

 彼等の為に涙を流した? 墓前に手を合わせ死を尊んだ? 見て見ぬ振りをし続けたのかしら?

 ――違う。自分と彼等とは違うと区別し、他人の死を認識して貴女は“安心していた”」

 「もうやめて!」 
 
 彼女の瞳の端に、涙が溜まる。心の器に並々と注がれた感情が、溢れ出てきたように。

 「そして貴女は今、初めて感じた。だから暴れて必死になった。

 ……可能性を感じたんじゃないの? “もしかしたら死ぬかもしれないという”失命の可能性を」

 「嘘、違う、やめて、私はそんなこと、ない!!」 

 彼女は泣き叫んだ。心の底から。

 ガトウの死を前にして、命の理不尽に悲鳴を上げたように。
 
 ……地獄に留まっていれば良かったのに。そうすれば、こんな悲しみに浸ることも無かった。

 心を殺し、何を見ても理解できないまま、興味すら湧かないお人形の人生のほうが、貴女にとって幸せだっただろう。

 それでも、無理矢理に引き摺りだしたのは英雄だ、私達だ。戦争の道具としての生き方しか知らない彼女を憐れみ、救出した。

 それが救いなのかどうか、彼等はまだ知らなかったのだ。彼女の置かれた状況が、どのような立ち位置で成り立っているのか。

 囚われのお姫様を救う。物語の王道にして善行の象徴は、確かに正義の魔法使い達にとって何の疑いも無い純粋な善意だったのだろうが、私に去来した思いは、そんな物ではなかった。

 これが、真の意味で彼女を救う事にはならないと知っていたのだから。

 故に、私は彼女を利用することしか考えていなかった。彼女の記憶が消えること、彼女がガトウを好いていること、記憶を消した後、神楽坂明日菜が選ぶ未来も含めて。  
 
 だから、ガトウに忠告することもあえてしなかった。彼女の初めての激情を利用し、冷静な判断をさせる暇も与えず、選択の天秤を大きく傾けさせる為に。

 ……無駄な努力だったけど。彼女は迷う事なく私の提案を呑んだ。騙すような真似をしたが、それは必要だったからだ。 

 英雄達では根本の解決にはならず、完全なる世界は彼女を犠牲にしかしない。

 誰もアスナを救えない。その証拠が、記憶を消すという何の解決にもならない下策であり、安全な場所で身分を隠し、他人として生きるという苦肉の策だった。

 私は多くの事を知っている。そして、私ならば、彼女の呪われた運命から解放することができる。

 いや、それだけではない。誰もが幸せになれる、正しく魔法のような解決策。

 英雄達も、完全なる世界も、レザードも、そして、私が幸福を得る方法。 
  
 アスナだけは、絶対に幸せなるとは言えない。だが、神楽坂明日菜はまず間違い無く幸せになれる方法。
 
 全てのピースが出揃い、後は当て嵌めるだけのパズル。難問を解く道筋は確立され、脳からの衝動は奴隷のように身体を突き動かす。

 脳内物質は動悸を早め、熱の篭った血液は発汗を促す。確固たる信念は、後退や停滞の意志など元より存在しないかのように、前へ前へと歩を進める。
 
 口元の綻びを抑えろとは、無理な話だ。
 











 私は彼女を離した。少しの間、温もりを共有していた、血の詰まった皮製の手錠は外され、私達の繋がりは絶たれた。

 束の間の呪縛から解放され、彼女は手を摩る。痕が残る程強く握ったわけではないが、彼女からして見れば、大嫌いな手枷に繋がれた気分だったかも知れない。

 「どう?」

 少女は頬を紅潮させ、乱れた息を整え、立ち上がった。そこには、無愛想で可愛げのない少女はいない。

 「……何が」

 ぶっきらぼうな物言いは、無感情だった数分前とは明らかに違う。明確な拒否感を持って、短く私に伝えられた。 

 そんな彼女の嫌悪感に、私は心を込めて返答する。


 「笑えるでしょう?」


 彼女は息を呑んだ。それと同時に、彼女を包む恐怖は影を潜めた。それは、霧散する氷霧と同じく、完全に消え去ったわけではない。

 いつかまた、氷点下の夜に凍える風が世界を包めば、明け方の細氷と同じくして現れる、自然の摂理。

 隠し切れない動揺が彼女を通して浮かび上がる。涙に腫らした頬や瞼は赤く色付き、恐怖に怯えた身体は人肌の温かさを忘れる。肺は今にも呼吸を止めそうだ

 けれど、今この時だけは、夜明けの太陽が氷霧を払った。

 それを証明するかのように、数瞬の思索の後、彼女は口を開いた。 

 「わたしは長い間、みんなと違うと思っていた」

 彼女の言葉は続く。

 「わたしだけが、道具だって言われて、化物って言われて。そのうち、思うようになった。道具だから化物だから、苦しいんだって。それで、ずっとじっとしていた。鎖が重くて、動くのも辛かった。
 
 じっとしているとね? わたしがわたしじゃなくなるの。痛さとか辛さとかから、わたしは切り離されて、わたしのわたしだった物が、一つずつ無くなっていくのを感じた。
 
 じっとしている事が辛くなくなったころ、ナギ達に出会った。それから、急に変わった。モノの扱いじゃなくて、化物と呼ばなくなって。……それがよくわからなかった。わたしは道具で化物なのに、なんでって」

 一斉に喋り続け、ふぅ。と一呼吸置いた。それと同じ量の空気を吸い込むと、彼女はまた話し始めた。   

 「ナギに聞いたら、そんなことねーよって笑ってた。アルは聞き取れないほど話が長くて、ゼクトは何か悩んでた。
 
 えーしゅんは辛そうにしていたし、ガトーさんは頭を撫でてくれた。そういえば、アンには聞いてなかった」
 
 その時に聞けば、貴女の人生は変わっていたかも知れない。ほいほいと私の後を付いて来ることもなく、少しは、警戒したのかも。

 「結局、誰に聞いても、よくわからなかった。わたしは道具で化物だとずっと言い続けた人達と、
 
 少しの間しか会ってない強くて優しいあの人達は、それは違うと言う。もう、よくわからなかった……わたしが何なのか。でも、今日、少しだけわかったことがある」

 すぅーっと、深呼吸。肺に空気を溜めに溜め、覚悟を決めて、彼女は自分の内なる思いを吐き出した。


 「わたしは、あなたの言うこと“は”認めたくない。違うって、言いたい」    


 「私の言う事が違うとでも?」

 アスナはコクリと頷いた。今までの小さな動作ではなく、大きく力強い動きで、意志を現した。

 随分正直に物を言うようになったと思う。彼女は、ナギとは違った意味で、私に心を開いてくれたようだ。

 「……違う、ね。真っ向から否定できる存在ができて、そんなに嬉しいの? 此処にいる彼なんて、否定という言葉が形を成したような生き物よ?」

 「これは手厳しい。ですが、その否定の存在から生まれ出た貴女も、否定の申し子だと言う事です」

 「なら、これは必然ね。私達は元より、誰かに肯定される為に生きている訳じゃないもの」

 「待って下さい。私と貴女を一緒にされては困ります。私は、私を肯定するであろう愛しき者を手中に収めるべく、生きているのですから」

 「あぁ、そうだったっけ。じゃあその愛しき者とやらに、嫌われないように努力することね」

 「言われるまでもありません」  

 少し俯き、眼鏡の位置を修正する変態。垂れ下がった前髪が、彼の表情を覆い隠した。

 どこか満足げな彼と私の他愛の無い話。暫くの間これがなくなると思えば、私の心は晴れやかだ。

 「何の、話をしているの」

 会話の矛先を真後ろに変更され、アスナは困惑気味だ。決め台詞が滑った時の感覚に近い物がある。

 「何って、ねぇ?」

 「単刀直入に申しますと、貴女を試していたのです。オスティアの姫御子」

 「ためす?」

 「追い詰められた時、貴女がどういう行動をとるのか。最後の最後に、折れるのか、耐えるのかを、それを判断したかったのです」

 「じゃあ」

 「ええ、酷いことをしたわね。謝るわ。でも、今しかできないことだから」

 私はアスナに語りかけたが、アスナは私に無言を返し、私との会話を拒否した。構築された敵意は、そう簡単には崩れないらしい。 

 「それもこれでおしまい。さぁガトウの元に帰りましょう」 

 しかし、その言葉にだけは律儀に反応した。

 「本当に?」

 アスナの疑いの声には当然だ。私の言葉は何の説得力を持っていない。一度騙されている彼女では、警戒を解かない。 

 私は腕を振り上げ、武器を放り投げる。重厚な槍の風を切る音が静かに響いた。軸を持たない、二枚羽の風車が廻る。

 くるくると回転しながら、放物線を描きながら後方に飛んでいく針。

 恐怖の対象であった武器を手放すした事で、アスナは、ほっと肩の力を抜いた。 

 「本当よ」
 
 頂点に達した物体は落下を開始する。喜劇の幕を降ろすかのようにゆっくりと羽は舞い降りる。

 この羽が舞い降りる時、この喜劇は終幕を迎える。

 演者達は終幕を目で追い、観客の万雷の拍手で送られ、満面の笑みで舞台を後にするのだろう。

 その姿は誰もが幸せで、不幸を思う者は誰もいない。 

 そうして、幕は落ちる。彼女の胸に。

  














 アスナの身体が小さく揺れた。波紋が流れるように、胸を中心とした震源から衝撃は広がった。
 
 胸に抱くのは、恐怖の代名詞か、軽やかな風車の羽か、はたまた、終了を告げる幕か。何れも、同じことだが。

 神器を模った槍は揺らめく魔力を放出しつつ、アスナの胸から生えていた。

 見るからに即死で、助かる見込みも無い。だが、神器は血を撒き散らすような穢れた方法ではアスナの息の根を止めなかった。

 切っ先は確かに心臓に届いているはずだ。けれど、薄い胸を貫いてもいない。    

 傷口からは、重力に引かれて、地上に流れ落ちる紅血の変わりに、蛍火の揺らめきを持った魂が天上へと駆け上る。

 「レザード」
 
 「わかっています」

 彼は先程と同じ呪文を唱えた。奴隷の少女と醜い男の魂を凝固させた、あの呪文を。

 「とりあえず、一段落ね」 

 「えぇ。ですが、よかったのですか?」

 少女と、男と、アスナの、都合三つの魂を抱え、レザードは私に疑問を投げかけた。 

 「勿論。彼女は鍵なのよ? 一応、英雄の私が、盗み出してそのままという訳にも行かないでしょう?」

 「鍵ですか。だから、一つは返すと?」

 「そっちの方が、疑われないでしょう。それに彼等は、記憶を消すとも言っていたわね。

 それもこちらで済ましましょう。迷惑かけた、オマケでね」 

 「良くそんな事が言えますね。自分に都合が良いからでしょう?」 

 「そうとも、言うわね」

 槍は私の元に戻ってきた。横たわるアスナの胸には、縦に広がる裂傷などは無い。

 見た目には無傷で、今にも起き上がりそうな、綺麗な身体のままだった。 

 しかし、その中は空っぽだ。何も入っていない。

 彼女だったものを片手で抱きかかえ、彼に手渡した。レザードは慣れた手つきで、亡骸を宙に浮かす。

 あの時の緑茶のように、乱雑に扱うことは無かったが、それでも、彼の中での価値は、あれと然程変わりないのだろう。

 「では、手筈通りに参りましょう」

 「ええ」

 変わりに私は、一つの結晶をレザードから受け取った。渡される時「どちらにしますか?」などと彼は聞いてきたが、彼なりの皮肉は相変わらず、聞く価値が無い。
 
 無造作に奪い取った一つを持って、再び彼女の元に戻る。

 「やりかたは、復習しましたね?」

 「えぇ、先生。練習するのに苦労しましたけど、何とか物にしました」

 「よろしい。それでは、換魂の法を始めましょう」


 換魂の法。

 魂の結晶化と同じく、誰にでも扱える魔法でありながら、結晶化よりも広く伝播した、等価交換の魔術。

 効果は読んで字の如く、魂を変換するもの。ただし、生きている者の魂を入れ替えるという意味ではない。

 これは、死者に対して行なわれる魔術であり、生者が命を投げ打って、死者を復活させるという魔術だ。

 人が生まれながらに所有している平等の価値を持つ魂。それを犠牲にすることで、他者を一度だけ生き返らせる。

 人に一度だけ許された奇跡の魔術。それが、換魂の法。


 「彼女も幸せね。奴隷からお姫様になれるなんて。普通に生きていたら、在り得ない幸福だわ」

 「しかし、何も覚えていないのですよ? 差し詰めそれは、生まれ変わりと言ってもいい。ならば、来世に生まれ出れば良いだけです」
 
 「でも幸福が確定している。何の確約も無い来世に身を委ねるほうが、酷よ」

 「そういう物ですかね?」

 「そういう物よ。それとも、前世が不幸だったから、来世は幸福になれるとでも?」

 「彼女ならば、そうするでしょう」

 「きっと偏見よ、それ」


 神槍を右手に備えて、水平に構える。

 結晶は左手に備えて、アスナの身体に押し当てるように。 

 瞳を閉じて、魔力を集中させる。魂の結晶をアスナの身体に合わせるように変換し、魂の認識を改めさせる。
 
 奴隷の少女から、黄昏の姫御子へ。虚を現に。

 青白い魔力光は私の背中に一対の翼を形成し、空へと体を浮かす。

 それが成功の合図だった。彼女の空っぽだった期間は半刻にも満たずに終わり、アスナは黄泉の国より舞い戻った。 

 














 「記憶と、それを送り届けること。あと、この魂に見合った身体を私に渡す。何か質門は?」 

 アスナの魂は、他の二つと遜色なく輝き、その輝きは、まるで麗らかな春が大地に陽光を与え、在りもしないはずの花の香りが、風に薫るようにも感じられた。

 この世界には存在するはずの無い魂の結晶。遥か彼方の異世界の術を用いた、神代の異物。

 これからの私達を左右する未来への布石。世界に影響を及ぼす、不可欠の鍵。

 「いえ、ありません。しいて言えば……」

 「何よ?」

 「その手は何ですか?」

 私は彼に向かって片腕を突き出していた。掌を上に向けて、くいくいっと指を曲げ、何かを渡すアピールも忘れずに行う。

 「私は約束を守ったわ。今度は、貴方が約束を守る番でしょう?」 
 
 「約束ですか? 一体何の約束でしょうか」

 「決まっている。私は私なりに、強くなった。これでもまだ、満足できないの?」 

 顔では、笑顔でにこやかに、彼に詰め寄る。 

 「あの造物主の掟の中には、有限ではあるけれど、それでも大量の魂を保管してある。

 その数は今も尚、増えているわ。何時までも誰かの手にあるより、私達の手で有効に活用すべきじゃないかしら」  

 「あぁ。そういえば、大昔にそんな話をした覚えがあります」

 「まさか、忘れていたの?」

 もしレザードが、この話を忘れていましたで済ます心算なら、此方にも考えがある。

 目的の物が手に入らない悲しみに暮れた、骨折り損の空虚の掌には、別の物が握られることになるだろう。   

 「いえ、渡すのを、忘れていました」

 「はぁ?」

 彼は虚空に向かって手を伸ばす。その掌に光の粒が集まり、やがて中心には煌めく閃光が出来上がる。

 それは一瞬の出来事だった。私が疑問の声を上げる間に、彼の手中には、黒光りする一本の鍵が握られていた。

 「創造主と同等の力を秘めた、この世界の最後の鍵。これが、貴女の望む物でしたね」

 「そうね。でも、今はそんな事よりも、――何で、今になってこれを出したの?」
 
 これは、重大な違反だ。私と彼の、契約違反。

 私達は互いを信用していない。これは私だけでなく、彼も同様に推察しているであろう事実だ。

 だからこそ、私達は最初に出会ったあの時から、ルールを示し、それを遵守することで、建前の平和を守ってきた。

 互いに利益を齎す関係、それが私達の距離だったはず。私も彼に不利益を齎す疑惑を抱えているが、彼もそれは折り込み済みの契約だった。

 そうだと思っていた。

 それを今、隠蔽するのではなく、私の眼前に曝け出した。

 何故態々、私達の関係に罅が入ることを、今からというこの時期に、暴露したのか。 

 「何、簡単な話ですよ。これを今貴女に渡しても、無意味だと思ったからです」

 彼は本心から嬉しい時、こんな顔で、こんな回りくどい話をする。

 意地の悪い顔をしている。そんな彼の顔を見るのを飽きるくらいには、彼との付き合いも短いとは言えない期間にまで達している。

 彼がこの顔をする時は、彼の中で全ての話の道筋が出来上がり、後は淡々と話を詰めるだけの時に良く見られる、自信に満ちた顔だ。 

 彼は笑う。私が手にしても無意味だと。私の心中にある思いも全て理解して、無意味だと言う。 

 「無意味ね。考えられる事としては、それは造物主から奪い取ったものではなく、一時的に貴方に預けられた物であり、それは何時か返却しなければならない。

 つまり、今私に渡しても、直ぐに返すから、無意味だと?」

 「そうとも言いますが、違いますね」

 鍵を空中に浮かせ、腕を組み、私の上から物を言う。

 私の建前とは違う、嘘偽り無く本当の意味で無意味だと言っている。

 そして尚且つ、彼は簡単な話だと言った。本当の意味で、簡単な話なのだと。 

 「――簡単な話ね。私にそれは扱えないって事?」

 「その通りです。これは造物主、そして王族のみに扱う事を許された魔法具。おいそれと誰にでも扱えれば、私などに預けないでしょう?」

 確かに、その通りだ。完全なる世界の中で、この魔法具を使えない人材は彼に限られる。

 何時かの未来のレプリカならいざ知らず、根源であるこの魔法具では恐らく、何かしらの使用許可が必要であると考えられる。

 故に、レザードは扱い方も熟知していないだろう。何せ使えないのだから。私だけでなく、彼もまた、手に入れても無意味だった代物なのだろう。

 それでも、造物主は彼の偽りの忠義に報いる為に、この鍵を預けた。

 私が、これを手に入れることを願ったから。

 彼もまた、これに興味を持ったのだろう。

 そして造物主にとっても、都合の良い褒美だった。

 レザードに鍵は扱えない。そんな彼に鍵を預ければ、彼だけを特別視していると思わせることも可能だ。そして、他の人形達にも彼が重要な人物だと思わせる。

 そんな思惑があったのかも知れない。これは只の空論だが、そんな何かの理由があって、彼の手中に鍵はあるのだろう。

 「王家の魔力。これは誰にでも与えられるものではありません。そこにある魂以外は、の話ですが」

 「成程、鍵と鍵が合わさって、初めて世界が意のままに操れる。二重に鍵を掛けるなんて、何とも厳重なことね」

 「それだけで良い、と考えるべきではありませんか? 現に私達は二つ共、我が物とする事ができたのですから」

 私は、燦然と輝く魂の結晶を手に取る。仄かに暖かい結晶は、心臓のように鼓動する事は無いが、それでもこれは、生きているのだと実感させる。

 「じゃあ何の問題も無いわ。恙無く、私達の計画は進んでいる」  

 「よろしいのですか? これを獲得する事だけに、心血を注いでいたのでしょう?」

 「いいのよ。この子が扱えると解っているだけでも、マシだと思わないと」

 「ふむ、そういう物ですかね?」

 「そういう物よ」

 彼はそれだけを告げると、足早に部屋を後にした。あの部屋で見た白く細いホムンクルスを実験台に、魂の輸魂を試すのだろう。

 その為には、早く面倒事を解消したいはずだ。即日中にアスナは、いや神楽坂明日菜は、麻帆良学園に転送されるだろう。

 「無意味、か」

 私の今までの行動全てを、彼は否定した。

 戦争も救済も略奪も、全てが無意味だったと、彼は言外に言っていた。

 ふふ、ふふふ。あはっ、あはははははははははは!!!!

 「くふっ、くふふふ。何処が無意味なものか。此処にあるじゃあないか」

 そうだ、王家の魔力は此処にある。そして、その魔力を私が手に入れる事は、とても簡単だ。

 「そうよね、我が主。早く、貴女の顔を拝んでみたいわ」

























 あとがき



 お待たせしました。って忘れられとるなこれは。

 エタったのではなく、完全に実力不足です。それを証明するのが、この前後編の長さの違いです。

 後編長くなりすぎて、ちょっと遅くなりました。でも、これでアンジェラが何をしたかったのか、ちょっとは解ったのではないでしょうか。 

 さて、次回より原作開始です。手早くエヴァ編、京都編、学園祭と繋げればいいなーと思っていたりして。



[22577] №36「訪れ」
Name: 天子◆8cbc9fac ID:ddb9d17b
Date: 2012/06/16 02:20











「昔、アリとキリギリスのお話をしたの、覚えている?」

 斜めに傾いた優しい陽光が、キッチンの小窓から私を照らす。
 ケトルに火をかけ、お湯を沸かす。彼女の好きな緑茶と、私の好きなの紅茶。それらを用意する為だ。
 そんな、水を煮沸するまでの僅かな間に、キッチンに居座る彼女はそう問いかけた。
 彼女は何の脈絡もなく、思い出したように私に声を掛ける。
 
 「……いいえ、覚えていません」

 彼女が私の世話をする時に、多くの昔話や童話を話してくれた。
 数え切れないほどの御伽噺は、きっと世界中から集められたのだろう。それは、私に集積されていった。
 その中の一つだったはずだ。少なくとも、それぐらいの認識しか、その単語からは読み取れなかった。

 「構わないわ、何度でも話してあげる……毎日、せっせと働くアリ達がいたの。春も夏も秋も、ずうっと働き、家に食料を運ぶその姿は、一生懸命で、そして代わり映えのしないものだった。
 そんなアリ達の姿を、一匹のキリギリスは嘲笑するの。そんなに必死に働いて何になるのかと、こんなにも朗らかな季候で歌を歌わず、生を謳歌しないのは損だと、キリギリスは言った」

 彼女の話す二つの事柄は、あるものを例えていると感じられた。それは労働の必要性であり、自由の素晴らしさだ。
 私には、労働と自由の両方を、賛美しているように聞こえた。

 「そんなキリギリスに、一匹のアリは忠告するの『今はそれでもいいかも知れない。でも冬が来れば、食べる物がなくなってしまう。君だって、例外ではないよ』
 キリギリスはそのアリの忠告を聞き入れなかった。これだけの豊穣の実りと、暖かな太陽が失われる事が、キリギリスには信じられなかった」 

 「そうして、せっせと働くアリたちを尻目に、キリギリスは自由を謳歌した。僅かな季節の変化を見逃して」

 あぁ、ここまで話してくれれば、私にも結末は見えてくる。
 童話には、こういった戒めのような内容の物が含めれている事は、珍しくない。
 御伽噺とは、読み聞かせる子供達に教訓として、解りやすい形に留まっているに過ぎないのだろう。

 「そろそろ冬が来る。冷たい北風が吹くと、アリ達は冬の気配を感じた。働くのは、雪が降るまでだ。雪が降れば、彼等は外には出れない。
 家に篭り、春が訪れるまで、ゆっくりと身体を安め、来年の為の英気を養う。アリたちがそう思っていると、空から雪が降ってきた。
 本格的な冬の到来を目の当たりにし、アリ達は家に篭り、蓄えた食糧で寒い冬を乗り切ろうとしていた。雪が降り積もり暫くすると、寒さと飢えに震えるキリギリスがアリ達の家を訪ねてきた」

 ケトルから、ぐつぐつという音と共に湯気が立ち上るのを肌で感じた。きっと、水が沸騰したのだ。私は作業の続きをしようとするが、何かが私を阻む。
 彼女がこんな長い話をする時には、いつもその裏に隠された意味がある。それを聞き逃して失敗してしまう、という事は、御伽噺の数ほどではないが、良くある事だった。
 この話を無視してはならない。それはお茶汲みなんかよりも重要であり、且つ、彼女が何を言いたいのか、真意を読み取る為に頭を働かせなければならない。
 私の中に蓄積された経験が、警告を発していた。

 「『食料を分けてくれ』そう言うキリギリスに、アリ達は目もくれない。朽ち果てる運命にあるキリギリスを横目に、嘲笑う者もいた。嘗ての自由の代償は、こうしてキリギリスの身に降りかかった」 

 言い終わると、彼女は手元の書物に目を移した。分厚い辞書のような本だ。タイトルは「帝国移民計画案と実験体考察」。
 その重厚な紙の束は、彼女の小さな手に余るように見えた。
  
 「それで、おしまい?」

 「えぇ、これで終わりね」

 彼女は、本を読みながら返事を返した。もう、語り部は興味を失ったようだ。
 私はメイドのするようなお茶汲みの作業に戻り、彼女の前に目的の物を差し出した。
 緑色で、新緑の森の香りがするような、東洋のお茶。
 私にはどうにも口に合わないが、彼女はこれを好んで飲む。

 「キリギリスは死んでしまったの?」
 
 私は、直接疑問をぶつけてみることにした。彼女の真意が、未だ見えてこないからだ。

 「さぁ、どうなったのかしら?」

 のらりくらりと、はぐらかす。知っているのに、教えてくれない。
 
 「キリギリスにならない為に、アリのように働けって言うの? 女王蟻の為に働く、兵隊蟻のように」

 だから一つの仮定を示す事にした。女王蟻である貴女の為に、毎日世話をする兵隊蟻の私。
 自由を謳歌する事のできない、雁字搦めの私が込めた、少しの皮肉。 
 そんな皮肉が通じたのか、彼女はくすりと笑うと、綺麗な青い瞳を私に向けた。

 「世間的には、貴女が女王で私は兵隊なのだけど……まぁ、蟻には違いないわ。私も、貴女もね」

 彼女はそう言うと陶器製のコップを掴む。私のマグカップには取っ手があるが、彼女それには取っ手が無い。
 彼女は側面を掴み、底に掌を当てて啜るようにお茶を飲む。これがその国のマナーらしい。
 啜るのは行儀が悪いと思うが、彼女は頑として譲らない。

 「貴女はどう思ったの? 蟻と自称する貴女から見て、キリギリスはどのように映った?」

 「私は……」

 彼女の意趣返しの質問に、返答に困ってしまう。
 多くの人は、自業自得と言うのではないだろうか。アリとキリギリスに与えられた時間は聞く限りでは平等だった。
 それをどのように扱うのか。先に自由を謳歌して、後に後悔するのか。先に苦労をして、後に蓄えた財産を活用し生きるのか。
 決めるのは、自分だ。そしてその責任は全て、自分に跳ね返ってくる。
 自由に生きたキリギリスを、話の中のアリ達のように、愚か者と笑う人もいるだろう。
 しかし……それでも、できることなら、助けたい。手を差し伸べて、救ってあげたい。
 
 「愚者は際限がない。一度助けたとしても、三日もすれば忘れる。果してそれで、救ったと言えるのかしら?」
 
 それは、私には肯定できない。それを認めてしまえば、私は彼等の事を忘れてしまったと言っているようなものだ。
 彼等の恩を私だけは忘れてはいけない。そう、私だけは。あの子は忘れてしまった。その記憶はもう二度と戻らないだろう。
 だからこそ、彼女の代わりに、私だけは覚えていなければならない。そして、思い出させるような事も又、あってはならない。
 
 「私は……」

 言葉の続きを言い澱んでしまうと、会話が途切れてしまった。彼女は、私の気持ちを知ってか知らずか、再び本に視線を戻した。
 ずずずと、お茶を啜る音だけが、部屋に木霊した。  

 「忠告したアリがいたでしょう?」

 ぱらりとぱらりと、一ページ、二ページ。何枚の紙を捲っただろうか。暫くして、彼女は一言発した。
 私は、彼女の続きを黙って聞くことにした。

 「アリは何故キリギリスに忠告したのかしら? キリギリスの為に、大事な仕事の手を止めてまで。
 これは私なりの解釈だけど、忠告したアリとキリギリス、彼等は友人だったのよ。
 アリはキリギリスの自由な在り方に憧れていて、キリギリスはアリの真面目に働く姿に、自らに無い考えを持つ彼等に興味を持った。
 二匹は互いに正反対だったからこそ、その存在を意識せざるにはいられなかった。
 ……互いの間柄の仮定は、知り合いでも友人でも親戚でも家族でも何でもいいけれど、さて、そう考えると、少し話が変わってくると思わない?」

 私には、彼女の真意は分からない。しかし、私の心臓は今も尚、激しく鼓動している。
 さながら、心臓が耳の隣まで移動してきたかと思うほど五月蝿く、嫌な胸騒ぎは、収まる気配を見せない。
  
 「赤の他人ならば、見捨てる事もあるでしょう。しかし、それが自分に所縁のある者の場合なら話は違う。
 普通なら、それを助けようと必死になるはず。知り合いのキリギリスを助けたいと、多くの人は思うんじゃない?
 それは赤の他人と認識しているよりも、深く、強く、願うはずよ。私が言いたいのは、そういう事」

 彼女の湯呑みは、既に空っぽになっていた。行儀の悪い不愉快な音はいつの間にか、風が窓を叩きつける音へと変わっている。
 さっきまでの麗かな青天は、分厚い雲に覆われて、暖色だった窓は、暗く冷たい色に変貌していた。
 彼女――私の従者を気取っている、大戦の英雄アンジェラ・アルトリアは――窓に視線を向けた。
 
 「もうすぐ、冬が来るわ」









 №36「訪れ」









 午前三時。この時間から私の一日が始まる。
 静かにベッドから降り、着替えを済ませる。上段、下段と二つに分かれる二段ベットの真下には、私の同居人である近衛このかがいる。
 このかを夢から覚まさない為にも、息を潜め、ベットの梯子が軋む音にまで気を使う。
 彼女を怒らせると怖いからとか、私達の仲が悪いからという理由ではない。どちらかと言えば、その逆だ。

 学園長の孫娘であるこのかは、私のクラスメイトであり友人でもある。
 きっと親友と言い換えても、このかは否定したりしない。はにかんだ柔らかい笑顔で「もう~てれるやんか~」と訛りの効いた故郷の方言を聞かせてくれると、私は信じている。
 そんな彼女に、私は頭が上がらない。朝早くから起きて新聞配達のバイトに向かう私を、このかは嫌な顔一つもせず、寝る前には「いってらっしゃい」と言ってくれる。
 最近は私よりも早く起きていて、直接その言葉を言われる日もある。そこまでしなくても良いと言う私に「私が勝手にやっとることやから」とこのかは譲らない。
 帰ってくればご飯だって作ってくれるし、勉強で追いつけない所も、解りやすく教えてくれる。お偉いさんの孫だからって高慢な態度を見せたこともない。
 いつも笑顔で送り出してくれる、かけがえのない友人に出会えた事で、私は一生の運を使い果たしたのではないかと考えてしまう。そんなことはないんだろうけど、そう思ってしまうほど、このかは、優しい少女だった。
 



 毎朝新聞、東麻帆良店。優しい夫婦が経営する毎朝新聞社の支店こそが、私のバイト先だ。
 朝日が昇る前には到着し、雀が目を覚ます頃には配達に向かう。斜め掛けにしたバックに詰めた新聞は、ずっしりと重い。
 これを、走って配達するのが、私の主な仕事だ。
 束ねた紙がこんなに重くなるなんて、このバイトを始める前には思いもしなかった。悪戦苦闘しながら、地図を片手に配達をしていた時期が懐かしい。
 ずうっと続けているから、もう辛くない。……そんな事を言ったら嘘になる。毎朝早く起きるのは、勉強にも影響が出る。睡眠不足は勉強の天敵だ。どうしても、興味の湧かない授業というものはある。
 そんな時は、やっぱり睡魔に負けてしまう。無理を言ってバイトをさせてもらっている身なので、バイトと勉強は両立しなければならないと思ってはいるが、どうにも上手くいかない。
 この鞄にしてもそうだ。いつもおっちゃん達に、中学生の女の子がそんなに無理するなと言われ、気を使われる。
 おっちゃん達の不安は、私の不安と同じものではなく、不思議と私は、体力だけは人並み以上には備わっているようで、この鞄一つくらいの新聞を配るのは苦にはならない。苦にはならないけど、疲れは溜まる。
 やっぱり、その疲れが授業の時に思い出したように発揮されるのが、悩みではある。 
 そう考えると、私って何もかも上手く行っていない。私が今、普通に生活できているのは、多くの人の優しさに甘えているからだと思う。
 このかであったり、学園長であったり、高畑先生であったり、ガトウさんであったり、バイト先の皆だってそうだ。 
 みんなの優しさが私を支えてくれている。いくら馬鹿だ馬鹿だと言われる私だって、わかっている。甘えているだけじゃ、ダメだってことぐらい。
 だから、私は私のできる最大限で、それを返すつもり。

 「行ってきまーす!」 
 
 「いってらっしゃい! アスナちゃん!」
 
 奥さんの元気な声が、私の全身に漲る。
 私の行ってきますの声に、ここでも、返事を返してくれる人がいる。
 いってらっしゃいと言って、私の背中を押してくれる人達がいる。
 朝早く起きるのは辛いけど、少し勉強についていけないけど、生まれてから今まで親と呼べるような人がいないけど、そんなものが吹き飛んでしまうような、満足感。
 この「いってらっしゃい」で、私は救われた気になってしまう。そんなことだから、みんなに単純だと馬鹿にされるのかもしれないけど、それでも、私は今、幸せだ。
 







 「学園生徒のみなさん。こちらは生活指導委員会です。今週は遅刻者ゼロ週間です。
 始業ベルまで十分を切りました。急ぎましょう――」

 麻帆良学園中央駅を出て、すぐに聞こえてきたアナウンス。しかし、悠長に耳を貸す人間はこの場には一人もいない。
 大音量で流されているアナウンスが、聞き取れなくなるほど、駅周辺の事情は混沌と化していた。
 駅の改札が、競馬のスターティングゲートのように一斉に開かれる。遅刻ー遅刻ーと嘆きながらも全力で今を駆け抜ける生徒達。
 あっという間に、数え切れないほどの人数になった。整備された道路を踏み締める怒涛の音が、アナウンスを掻き消す。
 それは、海だった。人の波がつくる、うねり。一つ一つの流れが行き着く先は違うはずなのに、まるで共通の意志を持っているかのような動きで進む。
 そこにルールや規則なんて大げさな決まりは存在しない。あるのは、遅刻すればペナルティが与えられる。ただそれだけ。
 
 その結果が、これだ。
 
 路面電車に乗り遅れないよう、駆け込み乗車する者。その路面電車の手摺りに手を掛け、スケートボードで追走する者。 
 移動購買部の幟旗を持って、アメリカンバイクでタンデム。お客さんらしき学生は「おばちゃん焼きそばパン」の注文と共に小銭を投げつけた。
 疾走するバイクの上で、空中で舞い踊る代金を受け取り「あいよ」の掛け声でラップに包まれた商品を後方に放り投げる。 
 そんな風景が、麻帆良の普通だ。斯く言う私もその普通の中で生きていて、他人から見れば、少し異様に写るであろうことは、間違いなかった。 

 「アスナは、ほんま足速いよなー。私はこれやのに」

 このかが自分の足元に視線を向ける。その視線の先にある物が、このかの問いを代弁していた。
 二つと二つの車輪が、軽快な摩擦音を上げて私に問いかける。よく追いつけるな、と。 

 「悪かったわね。体力馬鹿で」

 このかのローラースケートは、かなりの速度が出ていた。
 それこそ、遅刻を免れようと本気で走る生徒達を、ごぼう抜きにできるほどに。
 その速度が私には苦にならない。このかが関心を抱くほど、私の足は速くできていた。
 それは毎朝、新聞配達に精を出している成果で、結果だと思う。それを知っているこのかの問いかけは「また速くなったんちゃう?」という意味のもので、決して嫌味とかそんなものではない。
 その証拠に、このかは毎日のようにこの話を振ってくるし、その時は常に笑顔だ。それに、美空と一緒になって、私に良く陸上部に入らないのかと勧誘してくる。
 美空はまだわかる。けれど、このかが何故そんなに拘るのか、疑問に思った事がある。それとなく聞いてみた時に、このかは確かにこう言った。
 「アスナは走っているときな、めちゃくちゃ幸せそうやねん」
 自覚なんて、勿論ない。詳しく聞けば、体育祭で美空と最後まで競り合っていたときに、そう見えたのだと言う。
 応援席からトラックまで、結構離れていると思うけど……。
 ま、このかがそこまで言うのなら、疑う余地なんてないけどね。
 
 このかとの会話に気を取られていると、ふわりと風を感じた。それなりの速度で疾走しているのだから、当たり前なんだけど、なんといえば良いのか。違和感があった。 
 例えて言えば、行く手を阻む向かい風が全部なくなって、後方からの追い風だけが、私の背中を押してくれるような感覚。あったらいいなと誰もが思う、そんな都合の良い風。  

 地面を踏み締める音じゃない、軽やかで、跳ねるような靴の音が、このかとの会話に勤しんでいた私の、意識の外から聞こえた。
 反射的に、私も、このかも、その音の正体を見た。そして、言葉を失った。
 普通ではない異様が其処にはあった。
 単純明快で単刀直入に説明するなら、それは外国人の少年だ。
 襟足を結んだ赤い髪と小さな丸眼鏡。大きな瞳をキラキラと輝かせて、笑顔で走っている。 
 その出で立ちはアンバランスだった。軽快に躍動する姿は、決して無理をしているようには見えない。
 でも、その背中に抱える荷物は、悲鳴を上げている。金物なのか、壊れ物なのか。金属なのか、ガラス製品なのか。
 がちゃりがちゃりと、荷物の中身が擦れあい、背負った鞄は上下に暴れている。まず間違いなく、この荷物を紐解いたとき、彼の笑顔は曇る事になるだろう。
 その他にも、布に包まれた杖? 水筒に、壺らしき物を備えた少年。外見だけを盗み見ても、その小さな背中に背負った荷物の重さが、軽いものではないことが窺える。
 そんな不思議な格好の子供と、ちらっと視線が重なった。少年は、私達以上の速度で生徒をごぼう抜きにして、私達の隣まで並ぶと、あっという間に追い抜いてゆく。
 一瞬のおかしな出来事。ちらりと言い切るまでの間には、少年は前だけを見て、私は、その背中を目で追っていた。
 少年の背中が遠のくと、向かい風が戻ってきた。さっきまで私を支えてくれた追い風はどこにもいなくなり、その行方は通学風景に溶け込んでしまった。










 「ほな、うちお爺ちゃんに呼ばれとるから、また後でな、アスナ」

 「うん。またね、このか」
  
 今日、このかは学園長に呼ばれているのだとか。  
 なんでも、新任教師のお出迎えを頼まれているらしい。そしてその新人教師とは、学園長の知り合いでもあるらしい。
 大方、今度のこのかのお見合い相手なのだろう。もしかして期待の新人とかかな? あの学園長がこのかを指名するあたり、優秀な教師なのかも。
 まぁ、優秀だろうとそうでなかろうと、無駄に終わるだろうけど。準備に掛けるお金やら、相手の面子やら考えれば、無駄なんだからもう諦めれば? と言いたくもなる。
 これは憶測だから実際には違うのかもしれないけど、内容はそんなに変わらない、クダラナイ物なのだろうと思う。
 私は、走り去るこのかの背中を見送った。このかの目的地は、何故か女子校エリアに設置された学園長室。
 
 「さてと」  
  
 このかは、学園長の趣味である“孫のお見合い”に辟易してる。
 学園長は、年端も行かない孫娘に、何歳も離れた大人を紹介するのが趣味らしい。
 それも一度ではなく、暇さえあれば、その都度セッティングしていると言う。
 
 このかの人生はこのかの物だ。
 お見合いをするのかしないのか、それを決めるのもこのかだ。
 ただ、押し付けるように未来を決め付けるのは、冗談でもやめてほしい。
 いい加減、きつく、きつーく言い聞かせないといけないかも知れない。
 
 このかを守る騎士ように学園長の前に立ち塞がり、学園長に敵対する自分の姿を妄想する。
 簡単にだが思い浮かべて見れば、結構在り得そうなシチュエーションだ。
 想像ではなく、実際にそうなるかもしれない未来図に、自然と掴んだ手に力が入る。
 
 「おはよー!」

 勢い良く、教室の引き戸を開ける。
 気合いを入れすぎて、レールに乗った扉が壁にぶち当たり、陸上のスターターピストルにも負けない大音響を響かせた。
 朝礼間際に教室に着いた為か、殆どの生徒が登校している。そんなクラスの皆の視線が一時、私に集まり、一瞬だけクラスが静寂に包まれる。
 それぞれ、呆気に取られる顔、笑いを我慢できないといった含みのある顔、『またか』と言った呆れ顔など様々な反応だ。
 
 し、しまったー!?  
  
 「アスナさん。あなたは何度この教室の敷居を跨いでいるのですか? そんな力を込めなくても、扉は開きますわよ?」

 黒板に書かれていた白線を消しながら、いの一番に突っ掛かってきたクラスメイト。
 長い金髪を惜し気もなく靡かせ、凛とした立ち振る舞いを見せる凡そ中学生には見えない同級生。
 背景に薔薇でも咲かせそうなこの女は、事実、雪広財閥当主の次女で正真正銘のお嬢様。
 このクラスの委員長で、初等部の頃からの腐れ縁。
 
 「まぁ、あなたのド低脳のお味噌なら、そんな事も覚えられないのでしょうけど」
 
 雪広あやかと書いて、犬猿の仲とも読む。

 「な、なんですってぇええ!?」

 半ば、条件反射のように身体が反応した。
 背後でこそこそと動いている美空から強引に黒板消しを奪い、金髪バカに投げつける。
 無駄に優雅で、余裕をもって黒板の字を消している所為か、今日の反撃は綺麗に決まった。
 黒板に向き合っている、彼女の横顔に。  
 白い粉が教壇を包んだ。委員長は手で顔の辺りの粉を振り払い、咽かえる。
 暫くパタパタと手を団扇代わりに風を起こし、新鮮な空気を求めていた。 
 その姿を見て、溜飲が下がった。さて、自分の席に戻ろうかと思い、脚を運んだところで、

 「このっ、暴力女!!」

 委員長と取っ組み合いになった。

 「何よ! 綺麗に化粧できたでしょうが!」
 
 ぎゃーぎゃー騒ぎながら、あっちこっちを引っ張り合い。
 回りの人や机を巻き込んで、大暴れ。
 クラスメイトは私達の半径三メートルを維持して、さりげなく、机や椅子を引っ込める。
 そんな私達の、毎日の、おかしな喧嘩で、これが日常。顔を合わせばこうなってしまう間柄。
 
 「このショタコン!」「このオジコン!」

 「「んなっ!?」」

 それはそう、正しく、犬猿の仲と呼ぶに相応しい。








[22577] №37「理想鏡」 
Name: 天子◆8cbc9fac ID:1293929f
Date: 2012/11/24 01:50
移動という手段を講じる自体、私には新鮮な経験だ。憧れ、とまでも行かないが、当ても無く旅に出たいという考えを抱いた日もあった。
 “旅”というたった二音の響きが、どうしようもなく自由を感じさせた。
 
 「こちらの景色はいかがですか? アスナ王女」

 冬の乾燥した空気に朝日が差し込む。黒塗りの高級車から見る、空の群青に灰白の雲。広がる木々の緑に同じ制服を着飾った学生達が音も無く流れて行く。
 澄み渡る世界の光景に――不幸の兆候は感じられない。隅々まで行き渡る弛緩した空気は、平和の二文字そのものだ。
 
 「とても穏やかで優しい気持ちになる、素晴らしい景色です。あちらにも負けず劣らず……いえ比べること事態が痴がましい、長所を持つ世界だと思います」

 自然と口にするくらい軽々しくも簡単に、嘘を吐いた。確かに、何も心に抱えていなければ偽らざる本心としてそうやって言えたのだろう。しかし私の悩みの種を忘れさせるほどの効力は無かった。 
 易々と吐いてしまった嘘。これから私は、いくつの嘘をつくことになるのだろう。一体、何人もの人を騙し生きていくのだろうか。

 「ふふ、良かった。気に入らないと言われても、こればかりは私共でも変えられませんから」

 さっそく捻れた。それは印象であったり、私とこの人、ドネット・マクギネスとの関係性だと、悪魔が耳元で囁く。
 坂を転がり落ちる石を止める手立てを私は持ち合わせていない。一度吐いた嘘が蝶の羽ばたきの如く飛び立ち、二度と手中に収まらないように、どれだけ手を伸ばしても取り返しが付かない。
 私は嘘がどんなものなのかを知っている。それでも、私は私の為に成すべき志がある。ここからはもう戻れない。決心はもう付けた。あとは、演じるだけ。たとえ蝶の羽ばたきがどこかで嵐を巻き起こすとしても、止められない。
 
 「そんな無理は言いません。あくまで私は、ただの留学生ですから」

 「そうでした。では、これからは呼び方にも気を付けなければならないようですね。うっかり人前でアスナ王女なんてお呼びしてしまった日には、その日の内にオコジョ妖精にされてしまいます」
 
 魔法世界からの案内役として派遣された英国出身の魔法使い、ドネットさんは時にユーモアを交えて私に語りかけてくる。
 稀に苦笑が含まれるのは、この仕事に対して何か思う所があるからだろう。そう思いたい。
 初対面の堅苦しい言い回しから、ようやく余裕が出来てきた。慎重に手探りで会話する姿に、私の抱いた感想は地雷原を無理やり歩かされた兵士そのものだった。
 会話を重ねるにつれて、“彼女は”徐々に心を開いていった。彼女と私の共通項でありながらも、ただ少しだけ心の持ち様が違うだけの、些細な違いでしかない筈なのに、結果はこうも違うものか。
 険の取れた今の彼女こそ、本来のドネット・マクギネスなのだろう。では私は? 私はちゃんと、笑えているだろうか。
 
 「では“アスナ”と呼び捨てにして頂いて構いませんよ?」

 こんなに鏡が欲しいと思う日が来ようとは、夢にも思わなかった。透けた窓ガラスを凝視していても、鏡の役割を果たさない。
 うっすらと私の影が映るだけで、そこには何も写しはしない。遠く向こうにある外界の景色だけが色鮮やかに、私を磨耗させた。
 手を伸ばせば届きそうな距離であるのにも関わらず、いつもいつも、何故こんなにもどうしても遠く、そして流れ行くのか。役に立たない鏡を下げ透明の壁を排すと、学生達の笑い声が風に乗って聞こえてきた。
 今までを不自由無く生き、笑顔で語らい、これからを夢見て自由を謳歌するキリギリス。彼らのように、私はうまく笑えているだろうか。不自然ではない、偽りの笑顔を浮かべられているだろうか。

 「またまた、ご冗談を」

 午前八時ぴったりに車は目的地に到着した。麻帆良学園都市、最奥に位置する学び舎に。








 №37「理想鏡」 







 「まったく」

 やっとの事で自分の席に着いた。
 朝の早くから委員長が絡んで来なければ、こんなに疲れる事も無かった。
 ただでさえ、朝刊を配り終えた後で更に学校まで全力疾走した疲労が堪っていると言うのに、無駄な体力を使わせるじゃないわよ。ったく。
 椅子を引き、席に座ると、私の髪を束ねていた赤の飾り紐から澄んだ鈴の音が鳴り、教室の喧騒の中、私だけに聞こえた。 
 
 ――オジコン。さっきの言葉が、極細の針となって私の胸に優しく刺さる。胸を中心に――じわりと時間を掛けて――痛みが広がる。
 オジコン。おじさんコンプレックス。普通とは掛け離れた年上の男性を好きになる、特殊な性癖。
 委員長はただ純粋に私を罵る為だけにその言葉を選択し、そして声に出して発した。お相子だから、其処に変な因縁を吹っかける心算はないけど、彼女は少し勘違いをしている。
 あの時、委員長の思考には高畑先生の虚像が浮かび上がった事だろう。それなら、オジコンは正しくない。それはブラコンっぽい物で、もしガトウさんを脳裏に浮べたのだとしたら、それはファザコンに似た何かだ。
 
 「おはよー」

 教室には、二人掛けの机が三列、均等に並んでいる。その中心の列、後ろから二番目が、私とこのかの席だ。  
 今、私の隣にこのかはいない。学園長の呼び出しが長引いているのだろう。
 二人分の長さを持つ机に、鞄を置いた。この繋がった机は、何気にこのかとの意思疎通が必要な代物だったりする。
 私が何かの拍子に机を揺らせばその分、筆記をしてるこのかの字が歪んだり、机の中に教科書を置きっ放しで帰ったりすると、自然と隣のスペースまで圧迫する。
 色々と面倒な制約がある机だ。『他の人の迷惑になる行為はやめましょう』このかと、そんな約束を取り付けたわけではないけど、それは暗黙の了解というもので、事実このかは私に迷惑になるような行動は起こした事が無い。
 細かい所まで、気を配れる優しい友達。近衛 木乃香。私は、彼女に何をして上げられるのだろうか。
 
 「よっ」

 そして、対岸の隣。このかとは真逆にいるこのクラスメイトも、私の友達。
 このかとは又違う、気心の知れた仲だ。

 「貸したCDどうだった?」

 出席番号七番。柿崎 美砂。出席番号が私の一つ前の彼女は、中学生らしい青春を送っている。
 チアリーダーとして部活に励みながらも、クラス内で判明している唯一の彼氏持ちでもある。
 青春謳歌。いつも釘宮や桜子と一緒に遊んだりしているのに、一体何時、彼女が彼氏なんてものをつくったのか、少しだけ、ほんの少しだけ、興味がある。

 「あー、まだ聞いてないや。あれ、すぐに返したほうが良かった?」

 そんな彼女とも友好な関係を持てたのは、神楽坂と言うこの苗字のお陰だったりする。
 中学一年の頃だ。その頃、最近までは小学生だった私達は、与えられた新品の制服に袖を通し、周囲を窺っていた。
 小学校とは違う雰囲気に、期待と不安を同様に抱えていたあの頃。顔見知りの友人以外に声を掛けるのは、少々勇気がいる行為だった。
 先生の指示に従い、出席番号順に席に着く。先生は、教科書を取りに職員室に戻ると言い、それに付き従うように、委員長が手伝いの名乗りを上げた。
 教室から去る委員長を見て、期待と不安のバランスが崩れた。
 しょっちゅう喧嘩していただけの、たった一人の知り合いが、暫くの間席を離れるだけで、こんなにも不安に思うとは。当時の私は相当のバカに違いない。
 それでも、当時の私はそれが一大事だった。不安に傾いた私の心は、少しずつ期待を侵食していく。
 待っていれば、自然に解消される心配事なのに……私は世界で置いてけぼりにされたように感じた。

 『ね、名前なんて言うの』 

 そんな時に、私の心を知ってか知らずか、話かけてくれたのは彼女だ。一つ前の席から半身になった身体で、私の席に肘を着く少女。その姿に、不安は見られなかった。
 返答に困った私を無視して、ぺらぺらと自己紹介を始め、質問攻めをする少女。私も彼女の勢いにつられて、気がついたら会話を交わしていた。それは先生が帰ってくるまで続いて、入学早々、二人して怒られた。
 先生には悪いが、怒られて反省する気持ちも、委員長がいなくなって感じた不安も、あの日眠る頃にはどこかに飛んでいった。あるのは、これからの期待感だけ。それが、胸を一杯にしてくれた。
 あの日の、うつむいていた心を救ってくれた、何気無い一言。彼女は、覚えているのだろうか。

 「ん? いんやー、全然」

 「ちょ、柿崎。じゃなんでそんな事聞くわけ?」 

 私は、彼女を美砂とは呼ばない。呼ぶときは、柿崎で定着している。
 あの日からずっとこの呼び方で、そしてこれからも変えるつもりは無い。
 
 「ふーん。じゃあ土曜日に街に行った?」

 「は? 行ってないけど?」

 急に話の道筋が変化した。どうして、貸りたCDと土曜日に街に行く事が繋がるの?
 そして、その言葉を聞いてどうして目を見開くのか……わからない。
 
 「……間違いない」   

 むむ、と唸って読んでいた雑誌を食い入るように見つめる柿崎。
 偶に私の顔を凝視すると、また雑誌を見る。少しの間、それを繰り返していた。

 「何よ、人の顔を見て眉間に皺寄せるなんて、変な物でも付いてる?」
 
 柿崎は、はぁと溜息をつくと、洗いざらい話してくれた。  
 まず、手に持つ薄い雑誌の「マホラスクープ!!」を見せてくれた。
 びっくりマークが二つも付いた、熱の入れよう。
 麻帆良大学から発行されている雑誌で、胡散臭そうな麻帆良の噂を集め、記事にしたものらしい。
 柿崎はこういった怪談や噂話が好きで、得意だ。
 あんたも本当にゴシップ好きね。と呆れ顔で言葉を浴びせ掛けるが、
 そんな事はどうでもいいのよ、と彼女はたくさんの付箋の貼られたページから一つを選び、私に見せる。
 その記事とは「怪異・ドッペルゲンガー!!」と題された物で、細かい文字の羅列が読む気力を奪う、活字による精神兵器だ。

 「ドッペルゲンガーよ!」
 
 表題を熱く語ってくれた柿崎が言うには、今週土曜日に、仲良し三人組で街まで繰り出すと、私に良く似た人物を見かけたらしい。
 良く似たと結論付いたのはついさっきの事で、柿崎は貸したCDを気に入ったと思い込んでいたらしい。それで態々自分用のCDを買いに来たのだと。
 勿論、私は土曜日に街には行ってないので、それは誤解だ。CDもまだ未聴で、タイトルも正確に覚えていない。
 話は続く。柿崎は、親切にもお店まで案内しようと声を掛けてくれたそうだけど、そのそっくりさんは、無視して先へと向かい、人込みに紛れてしまった。
 釘宮や桜子も見ていたから間違いないと熱弁する柿崎を見て、毎日顔を合わす友人の柿崎でさえ間違えてしまうほど似ている、と言う事は理解できた。
 けど、 

 「ドッペルゲンガーねぇ。まあいいけど、私が無視したとか思わなかったの?」

 そう、私が三人を無視して撒いた可能性だってある。

 「アスナが私を無視? うーんそうね、そんな事したら後でシメれば良いだけだし」

 けらけらと笑う柿崎を見て、ふっと肩の荷が降りた気持ちになる。
 これは、信じてくれていると思ってもいいんだよね?

 「じゃあ何で溜息なんて吐いてたのよ?」

 「決まってるでしょ、捕まえれば一躍時の人だったんだから。あの時、無理してでも後を追えば良かったー」

 もう一度、盛大な溜息を吐くと、彼女はもう一度雑誌に視線を落とした。
 ドッペルゲンガーの特徴を脳内に刻み込む作業をしているようだ。私は、邪魔しては悪いと思い、静かにこのかの帰りを待った。

 




 











 「んふふ~」

 私の予想に反して、帰って来たこのかはご機嫌だった。いつもニコニコが平常運転のこのかが、更にご機嫌だ。

 「どうしたの、そんな弱みを握ったときの朝倉みたいな笑い方」 

 「うん~? ふふー教えたってもええんやけどな、もうちょい待っとったらわかるから、お楽しみや」

 お手、おかわり、待て! このかの命令どおりに右手と左手を交互に出し、最後に待ての合図で固まってしまう私。
 最後まで律儀に付き合ったが、このかはそれ以上何も言ってこない。お楽しみを教えてくれるのかと思ったが、違うらしい。 
 
 「なにこれ」

 「ふふ、アスナはうちのご飯にメロメロやからな。勝手に他の家に行ったらあかんえ?」
 
 このかがこてんと首を曲げると、黒髪がさらりと流れた。白い肌とのコントラストが妙に合っていて、映える。
 綺麗に細工された工芸品にも見劣りしない、生きた芸術。これで器量も良いとなれば、そりゃ世の男性はほっとかないだろうな。
 
 「なによそれ、私飼われてたの?」
  
 今、勝手に他の家に行く可能性が最も高いのは、あんたじゃない。
 とは口が裂けても言わないが、そんな心配とは裏腹に、このかの笑顔が伝染する。
 このかの楽しそうな気配が、優しく繋がれた両手から伝わって来たからだ。

 「そやな、うちが毎日世話しとるわけやし。ここは飼い主様の為に一肌脱いで、首輪にリードを括りつけて、朝とか引っ張ってもらうとか、どやろか?」

 大型犬みたいに、四つん這いになって通学路を疾走する私。その手綱を握り締め、ローラースケートで滑走するこのか。
 想像してみるだけで、エクソシストが必要な事案だと理解できた。そんな鬼畜な行いをこんな可憐な少女が実行するとなると、
 一躍麻帆良怪奇現象のトップに躍り出るスクープになるわね。題名は『犬として育てられた少女・ASUNA』……柿崎や朝倉が泣いて喜ぶに違いない。

 「――っ、今すぐ朝食吐いてくる」

 悔しいが、そんな恥辱を受けるわけにはいかない。今正に、消化が終りかけているであろう胃の内容物をトイレでぶちまける為に、席を立った。
 けど、このかが本気で止めにかかったので、まだまだ暫くは、美味しいご飯を堪能できるらしい。
 このかのご飯に胃袋をがっちりと掴まれている私には、耐え難い選択だったけど、何とか現状維持のままで生活ができるようだ。 

 そんな他愛の無い話をこのかと繰り広げていると、微妙に隙間の開いた教室の扉が、均等な間隔で二回叩かれた。
 隙間が開いているのは、私の馬鹿力の所為で扉が歪んだ……わけではなく、その原因は少し視線を上に向ければ、簡単に見つかった。
 扉の頂点に仕掛けられた黒板消し。先程美空から奪い取ったあれだ。それが僅かな隙間を作り、奇妙な違和感を生んでいる。
 新任教師の歓迎にと、軽い冗談のつもりでトラップを仕掛けたのだろうけど、此処日本において、あんなあからさまに開けられた扉を不審に思わない大人などいない。
 せっせと楽しそうに何かしていると思えば、こんな悪戯だったとは。視野の狭い子供――例えば双子ちゃん達のような背丈の人なら兎も角、普通引っかかるとは思えない。
 ――この時は、確かにそう思っていた。しかし、その考えは間違えていて、でも少しだけ、正しかった。
  
 
 












 「失礼しま……す?」
 
 どこか気弱そうな声に、クラスの皆が注目する。
 それは、カゲロウの声よりも乏しく、毎朝聞く大人の余裕を感じさせる低い響きじゃない。 
 いつもの優しい笑顔はそこには無く、居たのは、緊張で顔を歪ませた先程の少年だった。
 
 ――様々な疑問が浮かぶ。けど一瞬では、到底思考が追いつかない。
 何故、何で、如何して。そればかりが、私の狭い脳を占める。それにより、更に容量の足りなくなる悪循環。
 私の脳味噌はもうポンコツ寸前で、幾ら考えようとも、明確な回答は見出せなった。
 そんな私の憂いを他所に、黒板消しは少年の頭上を目指し、落下を始め――
 
「あ」

 皆の思いを代弁してくれた、このかの呟きは泡と消えた。
 妙にスローに見える黒板消しは、ゆっくりと少年に襲い掛かる。数分前まで委員長が丹念に白粉を纏わせて、私が少しだけ散らしたあの黒板消しが。
 誰もがその光景を見守る他、成す術がなかった。幾ら私の足が速くても、あれには追いつけない。つまり、万事休す。
 美空達の悪戯は、ある意味クラス全員の虚を突き、意外性に満ちた結果をもたらした。それは一人の何も知らない少年を犠牲にしての結果だ。 

 そう、こんな事にならないと大見得切って、この有様だ。
 ああはならない。こうなるはず。いつも自分の都合の良いように片付けるから、何時まで経っても馬鹿なんだよね。私は。
 あの時、美空に注意の一つでもしておけば、こんなことにはならなかった。
 単に子供が、トラップの餌食になるだけ。それはそうかも知れないけど、そうじゃなくて、私は小さな事にも、気を配れるようになりたい。
 
 このかのように優しく、委員長のように賢く、柿崎のように気さくになりたい。
 
 そうなる為には、馬鹿な私は彼女達よりも、気を使わなければならない。いつかそれが当たり前になるほどに習慣付け無ければ、私の理想には到底追いつけない。
 人よりも劣っているからこそ、人よりも頑張る。……たったそれだけの事が、できない。
 
 瞬きするほどの時間も与えず、物事は進んでいった。少年は盛大に粉を吸い込み、咽ながらも笑顔でゴニョゴニョ呟いている。
 咳と声が入り混じり何を言っているのかわからないが、その後もまた悲惨なものだった。
 連鎖するかのようにトラップに引っ掛かる少年。ロープに足を取られ転げ周り、タライの代わりに仕掛けられたバケツを頭から被り、おもちゃの矢を数本射られる。 

 「あらあら」

 付き添いに来たのだろう。しずな先生は苦笑し、クラスのみんなは大笑いしているけど、彼は泣いてしまわないだろうか。心配になるほどの酷い有様だった。
 一通り笑いが収まると、被害を受けたのが少年である事に気が付いたみたいだ。心配そうに駆け寄る数人の中に、私も混じった。 
 
 「えー子供!?」

 わっとクラスがざわめき出す。少年を中心に半円を描くように周りを取り囲む姿は、私と委員長が喧嘩するときの定位置に似てなくもないけど、比べるまでもなくその距離は近い。
 
 「ごめん、てっきり新任の先生かと思って」

 皆が騒いでいる中、真っ先に委員長が少年に向けて謝罪を述べた。何故だか、その姿にちくりと胸の辺りが痛む。
 そして、委員長の言葉に反応を示す人物がいた。

 「いいえ、その子があなた達の新しい先生よ。さあ、自己紹介してもらおうかしら」

 そんな皆のてんやわんやしている姿が面白いのか、しずね先生はくすりと微笑んだ後、衝撃の事実を告げた。










 「ええと、あの、今日からこの学校で英語を教えることになりました。ネギ・スプリングフィールドです。三学期の間だけですけどよろしくお願いします」

 一瞬の静寂の後、教室は崩壊した。

 「キャーーーー!!」
 「か、かわいいーーーーー!!」
 「何歳なの!?」
 「どっから来たの? 何人!?」
 「今どこに住んでいるの!?」 
 
 怒涛の勢いでネギ先生の周囲を取り囲み、包囲網を形成すると――飛ぶわ飛ぶわ、質問の嵐が。女子校特有の黄色い声に矢継ぎ早に繰り出される質問の数々にネギ先生はたじたじだ。 
 
 「ホントにこの子が今日から担任なんですかーー!?」
 「こんなかわいい子もらっちゃっていいのーー!?」

 もみくちゃにされるネギ先生の勢いそのままに、その余波はしずね先生にも飛び火した。

 「コラコラ、あげたんじゃないのよ。食べちゃダメ」

 流石にしずね先生がもみくちゃにされることは無かったけど、皆の速射砲的質問にも、一人ずつ丁寧に受け答えしている。
 遠巻きにネギ先生を眺めていたしずね先生は、生徒に色々と問題のありそうな発言をしつつも、時折、ちらちらと教室の外を――つまり廊下のほうを伺っている。
 何かあるのだろうか、と視線を追ってみても、そこには扉しかなく、その視線の意味は窺い知れなかった。私は再び先生の方を見た。
 自然と、しずね先生と目があった。ある意味あたりまえ。何故なら先生もこちらを見ていたのだから。私が先生を見れば、自ずと視線はかち合う。
 視線が合い、時間が重なる。ただ無意識にこちらを眺めているだけでは、こういう目はしないのではないか。何かの意思疎通を図るようでありながら、哀れみを浮かべる藍色の瞳。それが、私を見ていた。
 一秒にも満たない静かな時間だった。しずね先生は哀愁をあっけなく捨てて、またも優しく微笑むと口を開いた。

 「はい、みんな席に着いて! まだ紹介していない人がいるのよ!」

 何度もその言葉を連呼し、教室に浸透させるしずね先生。
 騒ぎが収束するまでに暫く時間が掛かったものの、その言葉の意味を理解した私達は更なる期待に胸を膨らませ、しずね先生のお小言を貰いながらも席に着くのだった。
 









 教壇ではネギ先生が緊張した面持ちで周囲を監視し、教室の外へはしずね先生が向かった。
 ざわつく教室は一応の沈黙を得た。一応っていうのはつまり、外面上は、という事だ。
 右と左と後ろを向けば、皆一様に目が輝いている。それって要は、思う所はみんな一緒だってことでしょ。
 前の席にいるクラスメイトまでは窺い知れないけど、結局は、此処にいる殆どの人間が、期待に胸を膨らましているんだと思う。 
 新しい担任がウチのクラスに来たってだけでも(しかも子供)一大事なのに、更に転校生が来るかもしれないっていうこの状況。
 毎度お騒がせなこのクラスに、燃料をこれでもかって投下するようなもんで、今は燻ってはいるけどいつ爆発するかわからない……って感じかな。
 
 そういえば……このかのお楽しみってこの事だったんじゃ?
 
 自我の流れに誘われ、私は隣の友人を覗き見た。 
 ありえない話ではなかった。つい先ほど学園長に会いに行ったこのかなら、ネギ先生の事や件の転校生の姿を一足早く知り得たのではないか。
 あの孫大好きのおじいちゃんならば、得意げになって孫に在る事無い事ぺらぺら喋っていてもおかしくはないし、なにより新任教師の紹介とはこの子供先生の事で間違いないのでは。
 
 じーっとこのかを見つめると、視線の圧力に気が付いたのか、このかは薄く笑い、掌を差し出した。
 これはなんだろう。と、頭にハテナを浮かべている私に、このかは私の右手を掴むと、その手を自らの掌に乗せ優しく包むと、そのまま上下にゆっくりと動かした。
 あ、なるほど。お手か。
 つい先ほどの犬の真似を思い出す。そういえば会話中のおふざけでこんなことをやっていた。
 その時の会話とはモロに“お楽しみ”の事。つまり、私の疑問は正しかったわけだ。このかの言いたい事が解り視線を返すと、このかはうんうん頷いていた。
 それにしても、私は馬鹿か。表面上は静かなこの教室で、私達だけ公然と会話に勤しむなど出来るわけが無い。
 それを上手く伝えてくれたこのかに、頭が上がらない。
 
 「う゛ー」

 それが恥ずかしくて、小さく呻いた。それがちょっとだけ犬の鳴き声に聞こえたと、後でこのかが笑いながら話してくれた。
 



 「さあ入って」
 
 そんな他愛の無く音の無い会話に勤しんでいる時に、しずね先生の声が響いた。
 声を張っているわけでは無かったけれど、その声は酷く澄んでいて、高音は静かにも良く響いた。  
 からからとレールの音がする。扉を運ぶ銀の桟はこう扱うのだと見習うべきなのだろう。顔が暑い。
 ぱたぱたと手を仰ぎ風を産む。その風は私の火照った顔を癒してくれたが、その手は凍りついた。
 
 それだけではない。火照った顔は一瞬で血の気が引いた。私は今日、血の気が引く音という物を初めて聞いた。
 上げて落とすという落差が、それをより一層知覚させたんだと思う。けど、そんな些細な事は後回しでいい。
 
 黒のローファー赤いチェックのスカートに臙脂色のブレザー。麻帆良学園女子中等部の制服に身を包み、腰まである橙の長い髪を一本の三つ編みに纏めている。
 すらっと伸びたシルエットは細く長く、瞳は青く切れ長で表情は硬い。そのどれもが知性を感じさせる出で立ちで、ただ突っ立て居るだけのはずなのに、それは立つとは言い難く、言葉に当て嵌めればそれは君臨しているというのがお似合いの姿。

 そこに居たのは、私だ――いや違う。私が理想としている、夢の中の私が、私の前に現れた。






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