<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22408] 【ネタ】漫画家の息子の芸術性は025でした。【ToLOVEる二次創作】
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/08 16:01
どうも、しゃきです。
この作品はToLOVEるの二次創作作品となっています。


【要注意要素】

・オリジナルキャラ登場。しかも全員男。
 
そのせいで女性分が少ない第一話。


・こんなの●●じゃねえ!?

この物語はフィクションです。実際の人物、団体、事件などにはおそらく全く関係ありません。


・リト君の容姿と性格が妙だ。

黒いですがスレ的な意味ではなく髪の色的に黒くなってます。でも主人公。


・原作再構成

といっても大した物ではないと思います。


・決して全年齢推奨作品ではない。

原作が原作ですのでお察し下さい。かといってR-18作品でもありません。



この度は【漫画家の息子の芸術性は025でした。】に目を通して頂き誠に有難う御座います。



[22408] 1話目 かがくの ちからって すげー!
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/20 15:07
幼馴染の彼女という存在は漫画やらアニメやらゲームやらで一種の属性として古来より親しまれている。
だが所詮そんなのが一般的なのは所詮仮想空間のみの話であって、現実はそれほどお目にかかれない。
よしんば幼馴染の女の子がいたとしても何か知らない男に捕まって変わって行くのを黙って見ているだけとの嘆きを最近インターネットなどで見た。
結局我々凡人は普通に生きるうえでほぼ行き当たりばったりで綿密な計画も立てる暇もなく生きていくのが性分なのである。
明確な未来など誰がわかろうか。1999年には何も起こらなかったし、世界経済は相変わらず不安定だし、未来の先行きは不安である。

話が少々横道に逸れた。幼馴染の彼女の件についてもう少し語ろう。
といっても俺には妹はいてもそのような存在はいない。
幼馴染はいることはいるのだが不幸にも同性である。
正直腐れ縁になるならば美少女の方が良かったのだが現実は非情なのである。
生まれて15年。その間ずっと俺たちは家族ぐるみの付き合いがあった。
特にべったりという訳でもなく、中学の部活は違ったし、違うクラスになることもあった。
ずっと同じクラスという確率などそんなに無いのである。だが毎日のように顔を突き合わせていればそんな事は些細な事である。
・・・俺は何故野郎の幼馴染の事でこれ程語っているのだろうか?気持ちが悪い事このうえがない。

「15年間お前の幼馴染をやってきて改めて言いたい事があるのだよ、梨斗」

15年も俺の幼馴染をしているぱっと見フツメン雀斑眼鏡野郎の小金丸敦(こがねまる・あつし)である。
父は売れっ子作家で母親は声優らしい。どんな縁だよ。
まあ、俺も親父は漫画家、母は世界を飛び回るファッションデザイナーなので人の事は言えない。
だがどうやら俺のほうは芸術的才能は妹が受け継いだみたいで美術とかの成績は昔から思わしくなかった。
敦も勉強も運動も出来てテストなどでは首席が定位置のような奴なのだが歌唱力は壊滅的な奴である。
そのせいで俺はともかく敦は通知表で全教科オール5など貰った試しがない。五教科はあるのだが。
そんな欠点をもつ幼馴染が神妙な表情で俺に尋ねてきた。

「その髪・・・寝癖にしか見えないぞ」

「どうセットしてもこうなるんだよ。親父の髪を色もクセも受け継いだ結果だよ!」

俺の黒いツンツン髪は親父譲りだ。妹はサラサラヘアーなんだがな・・・。

「嫌なら坊主にしろよ」

「それをネタにして爆笑するよなお前」

「いや、気を利かせて皆には『失恋したんだ・・・そっとしてやれ』と言う」

「髪を切ったら失恋って昭和かよ!?しかも妙な同情を俺に向けさせて何が狙いなんだ!」

「ククク・・・これは作戦さ梨斗。貴様が失恋した事を知り動揺する素振りを見せる者・・・即ち貴様に好意を抱いている者がいるという事だ!いなけりゃお前は潜在的ぼっちだ」

「幼馴染を実験台に使わないでくれますか?」

潜在的ぼっちって何やねん。

「安心したまえ梨斗。よしんばお前に好意を抱いている者がいないとしても、お前には俺や猿のような心友と内縁の妻の美柑ちゃんや部活の先輩方がいるではないか!およそ7人くらいのコミュニティだがないよりマシと思え」

「何故上から目線でモノを言うのさお前」

「生まれた日や成績、その他諸々の能力値を考えるとお前と俺ではコイ●ングLv14とLv15程の差がある」

「体当たりが無くとも悪あがきはあるわ!舐めんな!?」

この男は歌以外では本当に頼りになる男なのだが、この性格のせいで女が近寄らない。
更に言えば敦は『二次元女性は至高。それを否定する三次元女の意見は嫉妬にしか聞こえん』などとのたまい『付き合うなら二次元に理解のある三次元女性、即ち2.5次元の女がいいな!』と中学時代ほざいていた。

「よお!お二人さんお早う!」

無駄に明るい声で俺たちに挨拶してきた猿のような顔の男は猿山ケンイチ。
歳相応にスケベで行動力もあるのだが全くモテない。
いや、友人は多いのだが何せ彼女はいない。

「おはよー」

「今日もテンションが高いな、猿。お早う」

「ったくよ、新たな出会いを求めて彩南高に来たのに未だに俺たちには女の影すらねえ!そうは思わないかリト、アツシ!」

「落ち着け猿。スタートダッシュに失敗したと考えるにはまだ早い。某恋愛ゲームの大作も始まって一ヶ月は新しい出会いなどなかっただろう。今は自己を磨き出会いに備える時期なのだ。そのように焦るからお前は女に引かれるのだ。滾る情熱を見せすぎなのだよお前は」

遠回しに敦は猿山に対する女子の評価が底値を割りそうだという事が言いたいのだが、猿山はこの発言で妙な希望を持ってしまったようだ。

「そ、そうだよな!俺にだってチャンスはある筈だよな!」

「・・・そうだな」

「なんだその間」

世の中には絶望的な状況でも決起せねばならないことがある。
我が友の健闘を祈るのもこれで何度目であろうか。
女友達は俺たちの中で一番多いのに恋人がいない猿山という男は『彼女』を熱望している。
そのあまりの貪欲さに敦は何か思うことがあったのか、彼のために自腹でラブ●ラスを購入し、プレゼントまでしたことがある。
しかしながら一週目はまさかの恋人無しENDに全俺が泣いたのは記憶に新しかった。
仮想現実でさえこの有様で現実で恋人が出来るのであろうか?

「だけどよー・・・彼女が欲しいっていっても此処に来る出会いがないのは問題だぜ」

猿山は自分の胸に手を当てて言った。
恋人ねぇ・・・ちらほら誰が誰と付き合い始めたなんてことは聞くけど、自分自身がその当事者になる想像がつかない。
遊びや部活に夢中で恋愛沙汰に疎い学生生活を送ったのが不味かったのであろうか?
気付けばほぼ完全に女子から敬遠されてそうな側に立っているような気がする。
・・・交友関係を間違ってしまったのだろうか?

「恋人がいない身分でお前は相手を選ぶ権利があると思うのか」

「あれ?何で俺が怒られてんの?」

友人二人の不毛な会話はいつもの事である。
結城梨斗はウンザリした表情で友人に寝癖と称された黒髪を掻くのであった。
このくらいの年齢になると平凡が一番いいのではないかと思う事が多々ある。
刺激が欲しいと言うのが俺ぐらいの歳の人間が願うものだが、こいつらや部活の面々を見ると平穏に憧れる気分にもなる。

そう、結城梨斗は部活に入っている。
本来ならば妹である結城美柑を一人にしない為に高校に入ったら帰宅部で通そうと思っていたのだが現実は大層非情であった。
彩南高校のみならず他の高校でも4月5月に普通に行なわれる部活の勧誘の波に彼らは飲み込まれてしまった。
とはいうものの、梨斗、猿山、敦が所属するのは運動系の部活ではない。名目上は文化系の部活である。
その名も『娯楽研究部』。名目上は娯楽文化の歴史及び経済との関連性及び子どもの発達における娯楽の役割など、響きだけは案外まともかもしれない部活だった。だが、それはあくまで名目上に過ぎなかった。

「そういやリーダーは今日の活動は何って言ってたっけ?」

「近所のゲーセンで格闘ゲームの今後について実地学習だな」

「格ゲーかよ・・・」

「ちなみに判断材料は北●の拳だ。俺はアル●ナがいいなと言ったが聞いてもらえなかった」

・・・要するに今回の部活は皆でゲーセンに行って格ゲーで遊ぼうというものだ。
恐らく顧問も付いて来るのだろうがあの人はいつも脱衣麻雀のゲームばっかりやってるからな・・・。
・・・高校に入って一ヶ月過ぎた。胡散臭いが部活にも入った。だが、漠然と思う。
このままで良いのであろうか?ただ漠然とした不安だけはあるのだ。
この高校生活を通じて自分が成長するのは勿論、人脈を拡げるという事も大事だ。
この友人らと部の先輩のアドレスくらいしかないのだからな。しかも野郎限定である。
我が部活には一応女子部員がいるらしいのだが、幽霊部員状態である。
何か大切な用事があるとかで俺たちはその人の顔も知らない。

「ああ、そりゃ駄目だぜ敦。リーダー言ってたもん。全員男とか全員女の格ゲーなど許さんってさ。アルカ●は全員女じゃん」

「どんな拘りなんだそれは」

親父の職業や敦の趣味及び彼の母親の職業、更に言えば我が部のリーダーのせいで勉学とはまるで無関係な知識ばっかり増えている気がする。
少し前の話になるが原作が敦の親父で漫画が俺の親父で連載を持った事がある。で、御陰様でそこそこ人気が出てアニメ化した時、そのアニメのヒロインの声が敦の母という事もあったな。リーダーはそのアニメのヒロインの声優、つまり敦の母親のファンだったらしい。
なお、敦は母親がそのヒロインのコスプレをしている姿をDVDで見て引き篭もりかけた。気持ちは分からんでもない。
友人の黒歴史を回想しながら校門をくぐると彩南高校生徒会の面々が登校する俺たちに朝の挨拶をする。
何か知らんが今週は朝の挨拶週間という訳の分からんイベントである。挨拶は社会に出ても基本なので生徒の模範となる生徒会が朝の挨拶を校門でやるらしいのだ。その生徒会の面々の中に我が『娯楽研究部』部長、通称リーダーにして現生徒会副会長、ついでに桐生財閥とかいう凄まじい大金持ちの一族でもある男、桐生光太郎(きりゅう・こうたろう)はいた。

「この挨拶運動のせいで普段より一時間も早く起きなければならない!誰だこんな運動を推進したのは!お早う、我が部の後輩諸君!今日は生憎の曇り空だが心はいつでも晴天を保たねばいけんぞ!はーっはっはっは!」

・・・何が愉快なのかは知らんが、この一年先輩の彼はいつもこのような調子である。
大金持ちの家の出身なのにうま●棒と梅干とモヤシ炒めをこよなく愛する男である。
だが何か金持ちらしく許婚や財閥の後継の話はあるらしい。
自分の娯楽の為には出費を惜しまない人物であり、娯楽研究部の活動費は彼がほぼ全部出している。これが格差社会というものだろうか?
だが、色々肩書きが凄いこの男が生徒会副会長である。当然その上にいる生徒会会長がいるわけである。
我が高校の生徒会会長は財閥の子とか漫画家作家の子とかいう環境にいない至って普通のサラリーマンの子らしい。
成績も中の上程度で特に凄い優等生というわけでもない。名前も鈴木五郎と平凡である。

「ほう?いつも晴天を保つときたか。羨ましいなぁ?生徒会の仕事サボって部活動に勤しんでいる光太郎君はストレスとは無縁の生活を送っているんだなぁ?」

「会長。俺は生徒会副会長であると同時に部の部長でもあるのです。可愛い後輩たちが俺の登場を待っているのです!」

いえ、待ってはいないんですけどね?
いつもこのテンションだから鬱陶しいし。

「気持ちの悪い部活なんですね」

「居心地は最高ですよ、ハッハッハッハ」

「そうかそれはよい事だな。ハッハッハッハ」

「ハハハハハ・・・」

「ハハハハ・・・」

「「ハーッハッハッハッハッハッハ!!!」」

「何が可笑しい!!?」

いきなり切れだす会長。
周りの生徒会役員はまた始まったという視線で二人を見る。
どうでもいいけどこれと似たような展開何かの漫画で見たな。

「梨斗、猿。漫才が始まったようだから俺たちはとっとと教室に行くぞ。最後までみてたら遅刻だからな」

「そうだなー」

いつもどおりの騒がしい日常。別に悪くは無いがもう少し何か刺激が欲しい。
自分から動いてもいいのだが何をすれば良いのか分からない。
恋愛?スポーツ?勉強?いや、勉強はそこそこしてるが。
スポーツ?サッカー以外によく知らないからな俺は。
恋愛に至っては若葉マーク以前の問題である。
己の身の程も分かっていないのだ。どう動くかなど手探りでやるしかない。バイトしたいなー・・・。

だが迷える俺に救いの手を差し伸べてくれたのは事もあろうに我が部のリーダーであった。
俺たちの部の活動の拠点は視聴覚室である。
偶々文化系の部活に取られていなかったのでリーダーが校長に頼み込み視聴覚室を部室として使わせてもらうことになった。
テレビとスクリーンが使えるから此処に決めた事は明白だ。あんまり使いはしないが。
娯楽研究部の部員は掛け持ち及び幽霊部員含めて8人いる。そのうち7人は野郎であり、たった一人の女子部員は幽霊部員である。
2年生の部員が5人登録されている。1年が俺たち3人で2人は掛けもちやら幽霊やらで居ない為この場には俺、敦、猿山、桐生先輩の他に二人居ることになる。

「やあ、三人とも。今日は当初の予定が変更されそうだよ」

俺たちを微笑みで迎えてくれた好青年は清水大介先輩である。
所謂この部の副部長でもある彼はリーダーが居ない時の部の統括を任されている。
桐生先輩のお目付け役を自称している彼の父は、桐生先輩の親父さんのSPらしい。
だが、清水先輩が桐生先輩のSPっぽいことをした事など俺は一度も見たことは無い。むしろこのお方が桐生先輩を盾にすることが多い。

「昨日やっと俺の6匹目のコイ●キングがじたばたを覚えた」

「先輩、暇なんですね」

この携帯ゲームをしている筋肉質な兄ちゃんは神谷隆弘先輩である。
ツンツン頭にバンダナを巻いている褐色肌の彼は恐ろしい事に両刀使いである。
何?両刀使いって何?将来分かるよ。
近い将来に『コイツが俺の運命の相手だ』と言って男を紹介されたらどうしよう?祝福するべきなのか?

「揃ったようだな。では娯楽研究部の活動を始めよう」

そう言って桐生先輩はノートPCと何か凄い量の配線と繋がっているヘルメットを取り出した。
嫌な予感しかしないが、敦が手をあげて先輩に質問した。

「リーダー。その工事現場のヘルメットを残念カスタマイズしたようなモノは何ですか?」

「うむ。これは見た目は工事現場のヘルメットのようだが、その実は脳波を測定できるモノだ。俺の所で開発が進んでいるものでな」

「脳波を測定?医療機関では普通にあるアレか?」

「先輩、医療器具を此処に持ってきちゃ不味いっすよ」

「早とちりは行かんぞ猿。確かにこれは脳波を測定できるものだが、別に脳波の乱れなどを測定するのを主にしたものではない!」

「・・・意味が分からないんですが?」

「あまり専門的な説明をしてもお前らはわからんだろう。だが娯楽研究部的に言えば簡単だ。この装置は自分のステータスを確認することができる!そう!RPGなどで普通に使われているアレだ!だが現代日本で攻撃力などや防御力など調べても意味がない!そこで俺はこのステータスのプログラムを少し弄って俺たちに分かりやすい能力値に変換した」

「技術の無駄遣いじゃない?」

「そうでもない。最近は自己分析も出来ぬ者が増えていると聞く。自分が何者であるか、自分は何が得意で何が苦手なのか・・・就職等では大事な事なんだぞ?」

「お前はほとんど将来が約束されてるじゃねえか御曹司」

神谷先輩の突っ込みにこりゃ参ったという風に肩を竦める桐生先輩。
まあ、実際この人は将来約束されたような方だしな。

「就職に困ったら雇っても良いぞ、隆弘。わっはっはっは!さて、冗談はここまでにしてだ。これは心理テストなどで行なわれる自己分析とは違い、ありのままの自分を数値化するものだ。だから残酷な面もあるだろう、しかし!人間は努力すれば伸びる!俺は人間の可能性を信じている。この装置は人に絶望させるものではなく人の成長のための努力を促す装置なのだ!」

「・・・成る程、分からん」

俺も猿山と同意見である。要はどういうことなのだろう?

「まあ、ゴチャゴチャ話すより実践あるのみだ。梨斗、すまないがこれを被れ」

「ええ!?危険じゃないんですか!?」

「馬鹿をいえ。脳波及び電気信号を読み取るだけなのに危険もクソもあるか。少しひんやりするかもしれんし、少々頭が窮屈になるかも知れないが身体上の危険はないと断言してやろう」

桐生先輩はそう言って俺にコードがたくさんついているヘルメットを渡した。
俺は恐る恐るそれを被ってみた。
・・・成る程、頭が少々ひんやりするし少し窮屈だがそれ以外は問題は無い。

「それでは皆はPC画面に注目してくれ。被験者の名前は梨斗で入力している」

PCの画面には被験者である俺の名前の下に開始という項目があった。
先輩はほとんど迷うことなくその項目をクリックした。
クリック後、読み込み中と書かれた画面になった。

「現在梨斗のステータスを読み込んでいる。4分ほど待て」

「俺4分もこのままなんですか?」

「モン●ンのメディアインストールより遥かに短い!何だったら俺と大介で例のア●ルーダンスをしてやろうか?」

「不気味です、止めてください」

「ちゃっかり僕も巻き込むなよ」

そんな無駄話をしているうちに読み込みが終わった事をPCが知らせてくる。
桐生先輩が画面をクリックすると、画面が切り替わり幾つかの項目の横に数字が書かれている画面が映し出された。

「見ろ、梨斗。これが今のお前の能力を数値化したものだ!」

桐生先輩は胸を張って自慢げに言う。
確かにPCの画面には『ユウキ リトさんのステータス』と書いてある。
問題はその下であった。


『体調』:130 『文系』:055 『理系』:060

『芸術』:025 『運動』:084 『雑学』:080

『容姿』:050 『根性』:050 『心労』:060


『一言:そこそこ遊んで心労が重なっては意味がありません』

・・・・・・・・・。
こ、これは・・・!?

「心労が溜まっているようだな。明日は休みをやるからゆっくりするといい」

「ちょっと待って下さい!?このステータスはどう考えてもアレですよね!?」

「アレではない。少々アレっぽいだけだ!」

「落ち着け梨斗!お前の言うアレのステータスの右下はストレスだがリーダーのこれは『心労』だ!」

「そういう問題じゃないだろ!?何、人のステータスを某恋愛ゲームの大作風にしてるの!?」

「リト君は芸術がすこぶる低いねぇ」

「芸術性を磨いた方がいいな明らかに」

先輩方が俺の能力値を見て好き勝手に批評なさっている。
・・・た、確かに芸術25というのはもしかしなくてもかなりヤバイのかもしれない・・・。
そしてやっぱり雑学は高いんだね・・・。無駄知識ばかり覚えるのね・・・。

「悲観する事は無いぞ梨斗。自分の今の力量が分かった以上これからの課題は見えたはず。まずお前は美的能力を磨け。親の仕事の手伝いでもすればいいだろう!後はとりあえず美術館とかに篭れ。そして勉学は怠らない事だな。身だしなみにも一応気をつけろ。後は夜更かしせずに休め。そうすれば健康的に成長できるんじゃないか?完全超人になれといっている訳じゃない。この能力値を指針としてお前がどうなりたいかだからな。だが芸術25は低いな」

「梨斗は昔から独創的な芸術家と呼ばれていたしな」

全然フォローになっていません敦君。

「リト!元気出せよ!例え今は芸術25でも真剣に打ち込めば人並みに絵も描けるようになってもっと上手くなれば芸術家の女の子とお近づきになれるかもだぜ!」

「猿、何を勘違いしている?これはあくまで個人のステータスを見てその個人の目標を立てるためのものであって、例えこの数値が上がっても異性とお近づきになれるかどうかは運だぞ?現実は恋愛ゲームのように上手くはいかんのだからな」

「何ですと!?では例え俺が文系値を上げたとしてもモンゴメリな女の子とは・・・!?」

「お近づきに慣れるかは運だな」

「何そのクソゲー!?」

「猿、よく言うじゃないか。人生ほどクソゲーはないとな」

「その通りだ。大体能力値で彼女が出来るどうたらならば・・・敦、今度はお前だ」

「ん?」

桐生先輩に言われて敦は俺が被っていたヘルメットを被った。
俺のときと同じ手続きで敦の能力が数値化される。

『コガネマル アツシさんのステータス』


『体調』:090 『文系』:180 『理系』:167

『芸術』:060 『運動』:104 『雑学』:573

『容姿』:075 『根性』:055 『心労』:000


『一言:心労の無い生活は結構ですが、犠牲になっている人が居るかもしれません』

ちょっと待て特に一番右!?何でコイツは心労ゼロの生活を送っているんだよ!?
俺がコイツに勝ってるの体調しかないんですけど!?

「このように全体的に能力値が高い敦に三次元の彼女がいてもいいはずだ」

「俺を分かってくれるのは次元が違う女性だけです」

「対三次元女性×でも持ってるのかなぁ、敦君」

「パワ●ロの特殊能力のように言うなよ・・・」

清水先輩の暢気な感想に神谷先輩が突っ込みを入れている。
それはいつもの光景だが俺は正直此処まで幼馴染と差があるとは思いませんでした・・・。
それこそコ●キングLv14とLv15どころの差ではない。

「敦、梨斗にあまり苦労をかけるなよ?」

「はぁ。善処はしますよ」

断言しよう。俺の心労は今後も増える。
桐生先輩は俺たちを見回し例のヘルメットを掲げながら口を開いた。

「あくまでこれは試作品だからな。これから製品化に向けて徐々に発展させるつもりだ。いずれは誰もが自己分析がし易くなるツールとして市場に出す予定だ」

「質問いいか?」

「何だ隆弘?」

「それさ、能力が向上したかどうか確認したい時いちいちそのヘルメット装着するわけ?」

「いや、このヘルメットを装着するのは最初の一回だけだ。個人データの保存の為に一回データを採取した後、我が社のデータベースに登録。その後は専用のアプリを携帯にダウンロードしてもらえば携帯電話でも確認可能だ。無論確認の為に専用のツール・・・とりあえず今はイヤホン型にしているがこのイヤホンを通して能力の確認が出来るようにしている。上昇しても下降しても知らせる事が可能だ。無論アプリのダウンロードにおける通信料は無料だ」

・・・この流れは俺たちのそのアプリをダウンロードしろと言うのか?
結論から言えばその通りであり、半ば強制的に能力確認アプリなるものをダウンロードさせられイヤホンまで渡された。
早速確認の為に使ったら心労が2ぐらい上がっていた。・・・・・・。
・・・普通にスルーしていたが、人の能力を明確に数値化するのは人権団体とかの反対がないのだろうか?

「ふん、反対するならするがいい。差別を助長するとか言う者もいるだろう。だがな梨斗、世の中は不平等なものだ。それを認めずに人類皆平等を盲目的に信じるものに俺は吐き気を覚えるのさ。数値など指針に過ぎん。逆に明確化されることで自己目標が立て易くなるかもしれん。努力を怠れば能力は下がる努力を重ねればそれなりに成長もする。無論才能云々はあるだろうが何もしないよりはマシだろう。努力をしない成功者は一時の栄光しかつかめんが努力した成功者は永遠の栄光を掴める。俺はそう考えているのさ。その意図も汲み取れずただ数値化したらそれで子どものやる気が無くなるとか言う奴は大した努力も反逆もした事がないのさ。そもそもそう言う奴向けには作っていないしな」

要は人を羨む暇があれば自分の力で今やれること、出来なければ出来るようになるまで頑張れというのがリーダーの持論である。
などと言いつつ今の部活は大いに遊びまくっているのだが?
・・・考えてみれば人の能力を完全数値化するのはとんでもないことなのだがその辺の事をリーダーに聞くと、

「まあ何だ。所謂『かがくの ちからって すげー!』という事だ」

などと返されてしまった。科学の力が凄いなら仕方ないな。
まあ、退屈しのぎにはなるだろう。現実はギャルゲーのようにはならんが自分が対象の育成ゲームと考えよう。
俺は桐生先輩に強制的に渡された特撮ヒーローものの塗り絵を鞄に入れて深く溜息をつくのであった。

※【結城梨斗の芸術が1上がった!体調が1下がった!】


その日の夜。
自宅で俺は先輩に渡された塗り絵の作業を続けていた。
クレパスなんて何年ぶりに使用するのだろうか?地味な作業が延々と続くような気がする。
塗り絵といっても奥が深い。色合いを考えなければならないし陰影の事も考えなければ・・・。
・・・何で俺はこの歳にもなって塗り絵に没頭してるんだ?芸術が25だからか?この作業でちゃんと芸術あがんの?
いかんいかん。この塗り絵を上手くやることで父さんの仕事のベタ塗りの手伝いが出来るレベルに持っていかないと俺はずっとコーヒーを注ぐ仕事しかしないことになる。ただでさえ人手が足りないらしいから俺が頑張らないとな。

「・・・いつの間にかこんな時間かぁ・・・」

時計の針は既に日付が変わろうとしている。
そういえば風呂に入ってない。身だしなみに気をつけろって言われたよな確か・・・。
折角美柑が風呂を準備してくれたんだ。入らないと不味いよな。

そんな訳で俺は少し温くなった風呂に浸かっている。
風呂は命の洗濯とは誰が言ったものであろうか?温めのお湯に浸かるのも何だか心が落ち着いていく気がして悪くは無い。

「自己目標か・・・俺はどうなりたいんだろうな・・・」

将来の明確なビジョンがあるわけではない。
小さな頃は漠然とサッカー選手になりたいと願っていたが、世の中には自分よりサッカーが上手い奴がごまんと居る事を知った。
これからも趣味程度でサッカーはするものの、それを職業とする事は叶わないだろう。
就職戦線も不況の煽りからか並大抵の能力じゃ書類選考で落とされる。
そもそも公務員の人気が凄まじい時代なのだ。民間企業の競争率はすごい事になっているだろう。
何処まで本気なのかは分からないが桐生先輩が『就活に疲れたら俺に連絡しろ』とか言っているが・・・。
・・・先輩の所で世話になったとしても今のままじゃ迷惑になるだけだ。
やはりあのステータスをこの3年で可能な限り向上させるしかないのか?・・・あの装置は胡散臭いが、何もやらないよりやったほうがマシだろう。
・・・と、とりあえず折角風呂に入ってるんだし、まずは身だしなみを・・・。
と、浴槽から出ようとしたその時、適温である筈の風呂の湯から気泡が出てきた。俺は断じて放屁はしていない!
誰に弁明するまでも無く異変が起きる浴槽から少し離れて様子を見ようとしたら・・・いきなり風呂が爆発した。
湯が大量に俺にかかる・・・っておいおい!?浴槽は壊れてねえだろうな!?父さんいない間に壊れたとか言ったらぶん殴られるぞ俺!?
・・・どうやらヒビも入っておらず浴槽は無事のようだ。良かった良かった。
浴槽の無事を確認した俺は視線をふと上に向けた。

「んーっ!脱出成功!」

あ、ありのまま起こったことを話すぜ!
身だしなみを整えようとしたら風呂が爆発して裸の女が現れた!
裸といっても半裸とかチャチなものじゃない、全裸だ!昨今の女性の羞恥心は一体何処に行ってしまったというのか。
日本男児として悲しい限りであるが・・・え?何?見たんだから報告しろ?ピンクだ。桃色のファンタジーだ。何がピンクとか分かってるクセに~。

「ん?」

突如現れた女は俺に気付いたのか此方を見た。
・・・のぼせているせいなのかそれとも羞恥心からなのか自分の顔は赤くなっているのが分かる。
どえらい美少女が全裸で俺を見ているわけなのだが、これは何のプレイでしょうか?
落ち着け結城梨斗!思春期の俺には鼻血モノだが此処は冷静に状況を判断すべきだ。
この女は何者だ?まずわかるのは外見は素晴らしい美少女であり尚且つ髪の色が桃色だという事だ。ついでに他の部分も桃色だが此処ではあえて気にすまい。
桃色の髪の色の女は淫乱という都市伝説を信用する訳ではないが、他人の家の風呂に全裸で現れる女が清楚なわけがない!
つまり目の前の女は男に裸を見られることに慣れているドがつくほどのスケベな女という可能性が高い!
そんな女が何故俺の家の風呂に現れた?俺はこんな女は知らん。美柑の友人という線も薄い。
・・・だとすればまさか・・・・・・!!
母さんがあまり家にいないから欲求不満な父さんが深夜こっそりヘルスのお方を呼んでいたのかーーー!!??
あのクソ親父!漫画に賭ける情熱を何処で発散してるのかと思えば風俗だと!?しかもこんな上玉だと!?
畜生!これが金を持っている男と持ってない男の差か!
・・・親父の闇を垣間見た気がして意気消沈した俺は肩を落として風呂を出た。

風呂を出て居間の様子をこっそり見たが親父はいない。
玄関を確認して見ると、親父はまだ帰ってきていないようだ。
・・・あれ?親父帰ってないのにヘルスの人だけ先に来た訳?
・・・ま、まさか!?ヘルスどころか2号さんなのか!?家の鍵を渡すほどの相手なのか!?
まさかの結城家一家離散フラグを認知してしまい俺は身体が震える。
しかし残念だったなクソ親父!アンタの浮気の証拠は俺が目撃したんだぜ!
まだ小学生の美柑に悲しい思いをさせないために長男である俺がしっかりせねば!
だがとりあえず明日も学校なのでさっさと寝るかね。親父については後日考えよう。
今日一日で凄い心労が溜まった気がする・・・明日は部活は来なくていいらしいしさっさと寝よう・・・。
俺はそう思いながら二階の自分の部屋のドアノブに手をかけ、ドアを開けた。

「ふーっ・・・あ!タオル借りてるよー」

何故か親父の2号さん(仮)が俺の部屋のベッドを占拠していた。
その姿はバスタオルを身体に巻きつけているだけの状態だった。

「・・・仮にも思春期男子の部屋に官能的な姿で無断侵入するとは・・・何だお前は!?」

「私?私はララ。デビルーク星から来たんだ」

・・・この近くにそんな名前の風俗店とかあったっけ?

「地球から見たら私は宇宙人ってことになるのかな?」

「宇宙人?」

おいおい、店の外にまでそんな設定を持ち込まれても困るって。

「あれ?信じられない?じゃあホラ、これ見てよ」

そう言うとララという女は少しバスタオルをたくし上げて俺に生尻を見せた。
臀部付近には少なくとも俺には無いものが生えていた。

「ね?地球人には無いでしょ?尻尾」

・・・未知との遭遇に私は開いた口が塞がりません。
昨今の宇宙人は臀部を向けるのに対し抵抗は無いのだろうか。
というか風俗嬢とかじゃないのこの人?ッて言うか宇宙人ってマジでいたんだね。
・・・いやいやいかん。どうして信じる!?冷静に考えろこいつが宇宙人と言うのならば何故日本語を喋っているんだ!?
というかなんでこの方は風呂から現れたんだよ。

「・・・風呂でいきなり現れたアレは一体何なのさ」

「アレ?ああ、それはね、これを使ったの!ジャジャーン!私が作った「ぴょんぴょんワープくん」!行き先指定はまだ無理なんだけど生体単位での短距離ワープが可能なの!」

何か兎のような形の腕輪を見せられた所で困るんですが。

「宇宙船のバスルームでこれを使ったら偶々此処のお風呂にワープしちゃったんだ!」

「親父の愛人じゃなかったのか・・・」

「え?何?」

「此方の話です」

とりあえず結城家離散の危機は去った・・・ハッ!?

①自分の家に裸の女
      ↓
②美柑や父に見られる
      ↓
③美柑「リトの不潔!!」
      ↓
④親父「リト・・・男なら責任を取れよ?」
      ↓
⑤妹との間に決定的な亀裂が出来るはず。
      ↓
⑥結城家崩壊の危機。

うおああああああ!?違うんだあーー!?この女は知らない人なんだー!?
・・・あれ?それだと知らない女を連れ込んだ鬼畜外道な男に思われない?
何なの今日は!?自分の能力を見て成長しようと意気込んだらいきなり宇宙人来訪だぁ!?
地球は今、危ないんですとでも言いたいのか畜生!主人公的能力を御所望なら他を当たりやがれ!

「御免ね何か。私、今追われているんだ・・・。地球まで来れば安全だと思ったんだけど追っ手が来ちゃってね・・・奴らの船に乗せられてもう少しで連れ攫われる寸前だったの。このリングを使わなければ今頃・・・」

・・・なんだか面倒なイベントの真っ最中らしい。
何この子、悪の組織や人身売買か何かから逃げてきた訳?
いくら日常に刺激が欲しいと願ってはいたが極端すぎるぞこれ!
とにかくこの女は危険な臭いがプンプンするので早急に出て行ってもらいたい。
あ、裸のままじゃないよ?ちゃんと服ぐらいは提供するよ。返しに来なくていいから。
その旨を伝えようとしたら、何故か開いていた窓から形容しがたい物体が飛び込んできた。

『ララ様ー!ご無事でしたかーっ!』

「ペケ!良かったあなたも無事に脱出できたのね!」

『はい!船が地球の大気圏を出ていなかったのが幸運でした!』

どうやら明らかに声が電子音っぽい物体はララの追っ手ではないようだ。
ペケとか言われた物体は俺のほうを指差しララに尋ねた。

『ララ様、あの目つきの悪い顔の地球人は?』

「この家の住人だよ」

目つき悪いって・・・会ったばかりの相手に言ってくれるじゃねえか。
そうだよ!自分でも分かるぐらい俺は親父とそっくりだよ!髪も顔も容姿は親父をそのまま小さくしたみたいと親戚にも言われたよ!
敦や猿山は付き合い長いから言われないが未だに神谷先輩辺りからは『何か気に入らない事でもあるのか』と心配されるよ!
別に怒ってるわけじゃねぇの!元々こういう顔なの!少なくとも目辺りは母親に似れば優男風になったのにな・・・。
まあ、こう言う顔に生まれたんだから仕方ない。無愛想といわれないだけマシだな、うん。

「そういえばまだ名前を聞いていないね」

「梨斗。結城梨斗」

「ふーん。この子はペケ!私が造った万能コスチュームロボットなの」

なんとこの物体はロボットであった。
コスチュームロボというのが気になるが見る限りこのロボは高度な学習性AIでも搭載されてんじゃないかというぐらい感情表現が出来ている。
・・・なお、桐生先輩も一種の目標として夜のご相手も出来る高性能メイドロボを造る為に努力しているらしい。完成した暁には強制的に押し付ける気満々らしいので猿山と敦辺りは喜んでいた。俺はね・・・妹の目もあるしね・・・。泣く泣く辞退したのである。なお、彼の最終的な目標はファ●ネル搭載ガンタ●クを製造する事らしい。人類の可能性に希望を見出しすぎだろアンタ!?

と、俺が考え込んでいたらララはいきなりタオルを取り生まれたままの姿になる。
全く宇宙人のTPOは一体どうなってやがるんだ!?

「じゃ、ペケよろしくねー」

『了解!チェンジ!ドレスフォーム!』

思わずスイッチオン!と合いの手を入れたくなったのだがそのノリもララの身体のラインが分かりすぎる恥ずかしいドレスを見て止めた。

「助かったよペケが早く来てくれて!ペケいないと私は着る服無いからね!どう?素敵でしょうリト」

地球人の俺に宇宙のセンスは分かりません。

『ララ様、これから如何なさるので?』

「それなんだけど、私に考えがあるんだ!」

その時、開けっ放しの窓から黒服の男が二人飛び込んできた。
おいおい一体なんだよ。見ればそいつらにも尻尾が見える。

「・・・全く困ったお方だ。地球を出るまでは手足を縛ってでもあなたの自由を封じておくべきでした」

OK、状況を把握しよう。
ララのこの男達に対する反応は明らかに歓迎ムードではない。
推測するにこいつ等はララを追う刺客とやらだろう。緊張感はララには全く無いが此処で彼女が暴れれば最悪殺害も可能性としてあるかも。
そうなると偶然居合わせた俺も・・・待て待て!ただの誘拐犯という線も・・・駄目だ!?その場合も口封じとかでやられる!?
つまり何故か偶然巻き込まれた俺の身も危ないということである。
・・・・・・ふざけんなー!?一日の終わりに人生も終わりたくねえよ!?

「ちょっとペケ!何まんまと尾行されてるのよ!?」

『・・・面目ありません』

「もう!こんな事ならペケにサーチ機能をつけるべきだったわ!」

『そうですララ様!もう一度リングを使っては?』

「あのリングは一日一回が限度なのよ。エネルギーを大量に消費するから。まあ、ペケの電力を使うなら話は別なんだけど」

『打つ手無しという訳ですね!なんて事でしょう!?』

「いや、ペケの電力を使えば」

『もう終わりなんですね!?』

コイツは自分の身の安全と創造主の安全どちらが大切なのだろうか。ロボットの風上にも置けんと思うのだがその辺はどうなのだろうか。
そんなことを思っていたら黒服の男はララの腕を取った。

「さあ、行きましょう!」

「や・・・はなして!嫌だ、はなしてよ!」

・・・不味い、不味いぞこれは。
時間帯が時間帯なのだ。こんな時に騒がしくしていたら寝ているはずの美柑やご近所の皆様に多大なご迷惑をかける事になる。
親が遅くまで家にいない俺の家にとって、近所づきあいというのは意外に重要なのだ。
実際助けられている事も多々ある。美柑が寝込んだ時とかアドバイス貰ったり病院に連れて行ってもらったりしたしな。
そんな常日頃お世話になっている人々に迷惑をかけたくは無い。従って此処でドタバタやっているのは非常によろしくない。

「取り込み中のところ悪いんですが」

「なんだ地球人、邪魔立てする気か!」

「靴を脱いでください」

「は?」

「アンタらが立っているのは俺の部屋のカーペットだ。土足でカーペットに立つという事は掃除が大変なんだ。そこのフローリングを見ろよ!あんた等の足跡がそこらに残されてる!勢い良く窓から入って来たせいで傷も付いている!誰が掃除するんでしょうか?」

「すぐに出て行くから問題あるまい!」

「その子抵抗してもがいているのにこれ以上汚さないという事が約束できるのか?できないよな?この国では家に入る時は履物を脱ぐんだ。わかったらとっとと脱げ」

正直ビビりながらも精一杯虚勢を張って発言しています、結城梨斗です。

「む、むう・・・」

黒服の男達は困惑している。
男達の注意が俺に向いた隙を狙ったのか、ララが男の腕に噛み付いた。

「うごっ!?」

ララを押さえつける腕が緩み、ララは即座に腕を振り解くが、もう一人の男の腕が彼女に伸びる。
俺はその男の腕目掛けてサッカーボールを蹴った。・・・顔面に命中しました。シュート精度ねぇな。
男がよろめいたその隙に俺はララの手を取って、窓から外に出て屋根伝いに逃亡を開始した。
あ、やべえ!素足じゃねえか今の俺!?

「リト!?」

「全くなんつう一日だよ畜生!」

「ま、待て!」

勢いで出たのは良いが屋根伝いに逃げるにも限界はある。
まずは下に降りなきゃ・・・。

「リト、どうして?」

「目の前の誘拐現場を見過ごす程、根性は腐ってないんでな」

ハイ、強がりです。すみません。
俺は屋根伝いに頼れる幼馴染の居る家に向かった。
よかった、電気はついている・・・というかまだ起きてるの敦。
どうせラブ●ラスかアマ●ミかそれ以外のゲームやってんだろ。
二次元彼女と乳繰り合っている所悪いがサンダルでいいから貸してもらおう!
俺は友人の部屋の窓を叩くと、その友人はすぐにカーテンを開き、俺の顔を確認するとすぐに窓を開いた。

「・・・俺はお前を男の部屋に夜這いをするような奴に育てた覚えはないんだがな」

「朗報だぜ敦。俺はお前に育てられた事実はない」

「ふむ、それは残念だ。ところでお前の横に女の幻が見えるのだが?」

「誠に残念ながら幻じゃないんだなこれが。夢だとは思いたいんだけどね・・・それよりサンダル貸してくれ」

「下に沢山あるから持っていきな。なんだかよく分からんが出会いは大切にしろよ裏切り者」

「誤解だ!?俺はまだ裏切れてない!」

この間、実に20秒である。
敦に紹介する必要はないと判断した俺は敦の家の玄関からビーチサンダルを拝借してララを連れて、近所迷惑になりそうもない場所を探した。
しかし、追っ手の足は速く、公園の近くを通りかかった所で目の前に大型トラックが降って来た。・・・ええーー!?
すぐに後ろを見ると二人の黒服の男が迫ってきていた。

「邪魔をするな、地球人!」

もしかしてこのトラックをこんな酷い目にあわせたのこいつら?
げげっ!?なんつう相手に追われてるんだこいつは!?
俺が恐怖に失禁しかけたその時、黒服の男は口を開いた。

「ララ様・・・いい加減におやめ下さい!家出など!」

「嫌よ!私もうコリゴリなのよ!後継者かどうか分からないけど毎日毎日お見合いばかり!」

「しかしララ様!これはお父上の意志なのです!」

「パパなんて関係ないもん!」

・・・・・・あるェー?何だかシリアス気取ってたの俺だけ?
実際のこの宇宙人は家出娘でこの黒服は連れ戻しに来ただけ・・・?
そんでこの家出娘を連れて逃げた俺は見ようによっちゃ家出娘を連れまわした悪い男なわけで・・・
うおああああああ!?何が目の前の誘拐事件を放っておくほど根性腐ってないだ!?恥ずかしすぎる!?
死ね数分前の俺!もしくはさっきの発言はなかったことにしてくれ!!殺さば殺せエー!?
俺が地面を転げまわって悶えている最中にも事態は進行中である。

「電送!ごーごーバキュームくん!」

ララの声の直後、メカメカしい巨大なタコが突如出現した。
黒服の男達は冷や汗をかいて後ずさりしている。

「いかん!ララ様の発明品だ!」

身近な発明者に碌な人が居ない俺にとっては嫌な予感しかしません。

「それ!吸い込んじゃって!」

巨大タコの口(?)が開き、強力なバキュームの如くの吸引力で男達の周囲のモノを吸い込んでいく。
その吸引力に男達もやがて屈さんとしていた。
悲鳴をあげながら巨大メカダコに吸い込まれていく男達。・・・何この光景?
だがこのタコ、男達を吸い込んだにも拘らず吸引をやめようとしない。
公園のベンチが、ゴミ箱が、木々が、近くに捨ててあったゴミ袋が、通りかかった野良犬が次々と吸い込まれていく。

「・・・あれ?どうやって止めるんだっけ?」

その言葉が聞こえた直後、今度は俺もタコに吸引されんとしていた。
待て待て単純に考えてあのタコの内部は相当やばい事になってるんじゃないだろうか?
そんな俺の危惧も空しくついに俺の足は母なる大地から離れる。
ああ、今は家ですやすや寝ているであろう美柑よ、兄ちゃんは今、飛んでいる。そして今まさにこの世にサヨナラしかねない!
俺はせめてもの抵抗に履いていたサンダルをタコに向かって飛ばす。
しかしこれも些細な抵抗だ。サンダルはあっけなくタコに吸い込まれてしまう。
万事休すかと思われた次の瞬間、タコがいきなりスパークし始め、挙句の果てには小爆発を各部から起こし・・・。
深夜の公園に爆発音が鳴り響いた。




翌日。
今日は珍しく敦は梨斗の家に彼を迎えに来た。
勿論昨日の三次元女性とのその後を聞き出す為である。
正直平静を装っているが幼馴染が自分より先に童貞を捨ててたら寝込む自信がある。
逆にアレで振られていたら焼肉をおごってやろうと考え、敦は結城家のチャイムを鳴らした。

「ういーす」

玄関から出てきた幼馴染は頭に包帯を巻き、所々絆創膏を貼っていた。
だが身体の機能に支障は無いが如く動きは軽快である。

「昨夜はお楽しみだったか?」

「人生最悪の時間だったよ」

梨斗がそう言うと、敦はニヤリと笑って言った。

「お帰り梨斗!二次元の世界へ!」

「お帰りじゃねぇ!?俺はまだ次元を渡る域にはいないはずだ!?」

「いいんだいいんだ。三次元の女など大多数が関わると碌な目に合わん!それが分かっただけでも収穫じゃないか!」

「何で嬉しそうなんだよお前・・・」

梨斗は頭を押さえて項垂れている。

「悲観する事は無いぞ。例え彼女が居なくても、お前には美柑ちゃんという優秀な妹さんがいる。彼女はお前を見捨てんと俺は見ている」

「妹に養われる人生は嫌だー!?」

敦とすれば梨斗が変な女に捕まらないでよかったと喜ぶのと、先を越されなかったのを知り喜ぶという二重の喜びですこぶる機嫌が良かった。
しかし完全に二次元にのめり込んでいる自分と違い、この幼馴染に誰かいい人はいないかねぇとふと思うこともある。
親父さんに似たせいで怖いとか言われたりしているらしいが、実際は中学時代毎日花壇に水やっていた野郎である。
問題なのはそれを人に見えないところでやっていたので・・・しかも一回心無い者から花壇の花を切られた時、何故か真っ先に疑われたらしいし・・・。
無論彼を擁護する者も居たのだが、梨斗には真っ先に疑われた事が一番のショックだったらしいと猿山から聞いた。
それでもその後の体育祭のリレーではクラスの優勝に貢献したり、花壇の水やりを続けたり・・・。
当時同じクラスではなかったのが敦は悔やんでも悔やみきれない。だからと言って心労が溜まるほど悔やみはしないが。
敦が柄にも無く幼馴染の立ち直りように目を細めていると、突然第三者の声がした。

「へー、リトって今一人なんだね。丁度良かった!」

「は?」

「お?」

梨斗と敦が声のほうを見ると、恥ずかしい衣装に身を包んだ美少女が笑顔で立っていた。

「それじゃあ私と結婚しよう、リト!」

「・・・どういう事だ梨斗・・・?」

敦が幼馴染の方を見ると、その幼馴染は顔を真っ青にしていた。

「嫌やー!俺はこの歳で法律違反したことによる世間からの白い目を受けたくは無いんや~!!?」

そう言いながら突然走り始めた。
流石にいきなり結婚しようは幼馴染の理解の範疇を超えていたようである。
恋愛童貞なんだぞあの男!女の裸は嗜んではいるがリアル恋愛となると若葉ちゃんなんだぞ!?
エロ本見たときの気まずさとは別なんだぞ!?そこはまずお友達からだろ!何いきなりエンディングに近い告白してんの!?

「ん~?何か間違ったかな~?」

「段階すっ飛ばしたことではないかな」

恥ずかしい格好の女に敦はそうアドバイスをして幼馴染の後を追った。
とりあえず面白い事になりそうなのでリーダーには報告しておこうなどと思いながら。


※【宇宙人(!?)の美少女、ララと知り合いました】
※【体調が10下がった。運動が2上がった。根性が3上がった。芸術が2上がった。心労が3下がって5上がった】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:119(11↓) 『文系』:055(±0) 『理系』:060(±0)

『芸術』:028(3↑)  『運動』:086(2↑) 『雑学』:080(±0)

『容姿』:050(±0)  『根性』:053(3↑) 『心労』:064(4↑)


【一言:もっと頑張れと言いたいですが頑張るとノイローゼになりかねないジレンマ】





(続くのだろうか)



[22408] 2話目 べんきょう が すすまない
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/10 14:43
梨斗達の教室。
いつも通り騒がしい教室であるがその騒がしい教室においてただ一人やたら沈む男がいた。
言うまでも無く本日突如求婚された結城梨斗その人である。
求婚、しかも美少女に、結婚しようと言われたのにこの男何を落ち込んでいるのだろうか?
事情を知っているどころか目撃した敦、その敦から話を聞いた猿山は沈む友人に困り顔だった。

「なあ、リト~?何で沈んでんのか俺にはさっぱりわからねえんだけど元気出せよ」

「猿山・・・会って24時間も経っていない相手に求婚されるってこれは壷売りにロックオンされたんだよな、俺?」

「でも敦の話じゃすげえ可愛い子だったらしいじゃねえか。俺だったら騙されてもいいから即OKだぜ」

「猿、俺が見る限り相手の女は相当な電波か天然だ。それでもいいのか?」

「・・・か、可愛いは正義だろ」

「恋人ならそれで良いかもしれんが、結婚だぞお前。ずっと一緒に共同生活するんだぞ?考えるだろそれ。特にお前はちゃらんぽらんだからしっかり者の嫁さんじゃないとやって行けんぞ」

「仮にも友人に対してそこまで言うか」

「阿呆、友人だからこそ此処まで言えるんだろう?俺はお前が友人として心配なんだ」

「あ、敦・・・」

「猿、気色悪いからうっとりした目で俺を見るな」

「持ち上げて落とすな!?」

「まあ、俺たち一人一人の恋愛観は違う。お前のように突然求婚されてOKする者、俺のように鼻で笑う嫌な奴、梨斗のようにオーバーロードする者・・・まあ、はっきり嫌だといったのは評価してやろう」

そうだ、そうなんだ。
逃げながらだが俺はちゃんと求婚に対してNoを突きつけたのだ。
なにを悩む必要がある、何を苦しむ必要があるのだ?
俺は詐欺の魔の手から抜け出したに違いない!そう、俺は勝利者なのだ!

「敦、猿山。俺はしっかりした女の子と付き合いたいと思うよ」

「そうだ梨斗。個人的には二次元世界に帰還して欲しいのだがお前も経験を通じて成長したな」

「お前の口から明確に女の子と付き合いたいという意思を聞けただけで俺たちは感動だよ!」

・・・ホモ疑惑でも立っていたのだろうか俺は?
しかしまあ、付き合いたいとかなにやら言ってもこればかりは縁だ。
高校生活でそのような相手に出会うなど俺には分からない。
もしかしたら一生出会えないかもしれない。20歳なんだから彼女の一人ぐらいいるとか都市伝説だろう今は。


出来るかどうか分からない結婚相手の話という不毛な会話であるが、その馬鹿な会話をしているのが想い人ならば話は別である。
その想い人の進路をわざわざ調べて偶然を装い同じ高校に入学し、幸運にも同じクラスになった事に感激したのが先月の話である。
しかし、何故か自分と同じく何故かこの高校に来ていた彼の幼馴染の小金丸敦や彼の友人の猿山ケンイチの存在で彼女の計画は出鼻を挫かれた。
いや、本当は同じ中学という事を話題にして彼とお話しようという魂胆だったが世の中はうまくいかないものである。
彼女―――西連寺春菜は結城梨斗の事が好きである。
本当は中学一年の頃から同じクラスだったのだが、意識し始めるようになったのは中二の体育祭の時からである。
それから彼の事を観察していると彼の人柄が分かり、いつの間にか好きになっていた。
だが、恋愛に関してはヘタレの為か、バレンタイン等で自分は彼にチョコを渡す事は出来なかった。
彼女は普段はいざという時に頼れる芯のしっかりした少女で、成績も優秀、高校でもクラス委員を務めるほど人望厚い少女なのだが、恋愛になると途端に弱くなる。
梨斗が恋愛童貞なら彼女は恋愛処女である。素晴らしい。
響きは無限の可能性があるのだが恋愛免許取得中の彼女にとって大きな壁は梨斗と話すことである。
中学時代でのチャンスを悉く潰してきた彼女は高校時代こそきちんと想い人と話そうと決心していた。
そのために姉のマンションにお世話になってまで彩南にいるのだ。

話を聞く限り彼はいきなり求婚されるという衝撃的体験をしたみたいだが、どうやら断ったらしい。
更に言えば彼は現在彼女などはおらず、女の子と付き合いたい願望はあるらしい。
それならばと手をあげて立候補したいものだが、恋愛未経験の彼女はどうやって梨斗と話そうか分からない。
中学時代よりクラス委員をしてきた彼女が一生徒でしかない梨斗と話せないとはどういうことだろうか。
一言で表せば『間が悪い』のが原因で今まで話すことが出来なかった。
梨斗と会話した回数で言えば0回の彼女より現男子クラス委員の的目あげるの方が圧倒的に多い。
まあ、中学時代の花壇の花がズタズタにされた事件で彼女は梨斗を擁護していた一人なのだが、その時の梨斗は情緒不安定でした。

『敦、猿山。俺はしっかりした女の子と付き合いたいと思うよ』

しっかりした女の子・・・?
春菜は梨斗の発言から彼の理想のタイプを推測した。
彼女にとってしっかりした女性は姉のように自立した女性である。
・・・うーん、私は果たしてしっかりしているのであろうか?案外怖がりだしな私・・・。
何かきっかけが必要だと思う。それを考えてもう数年。彼女は日々悶々とするのである。


密かに梨斗を想う者がいることなど露知らず、梨斗の通う彩南高校に近づく影があった。

「あ、見つけた!あれがリトが行ってる学校って場所ね!」

あの・・・この少女空飛んでますよ?それも恥ずかしいドレスで。

『ララ様ぁ・・・』

「何かなペケ?」

『本気であの目つきの悪い地球人と結婚なさるおつもりなので?』

「そーだよ?」

『断られましたよね?』

「言い方が悪かったんだよ!」

『(ポジティブだなぁ・・・)ララ様は銀河を束ねるデビルーク星の第一王女ですよ?そのララ様と結婚するという事はあのリトという地球人は即ち・・・』

「いいのいいの!まあ私の好きにやらせてよ」

そう言ってララは手に持っている包みを見る。
この包みこそ、自分の目的の成功の鍵になるのだ。



その日の昼休み。
梨斗は鞄に入っているはずの弁当を探していた。

「・・・?弁当がない」

「あん?どうしたんだリト?」

様子のおかしい友人に猿山は何をしているのか尋ねた。

「入れたはずの弁当がないんだよ」

「・・・・・・ああ、お前の弁当か」

敦がなにやら知っているような素振りで口を開いた。

「お前、あの女から逃げた時落としてたぞ」

「・・・・・・落としてたってお前、拾ったり知らせたりしてくれなかったの?」

「いや、あの女をキープする為の姑息な真似と判断したんだがな、ギャルゲー的に考えて」

「そんな訳あるか!?自分の空腹を生贄に召喚できるかどうか分からん存在を待つか!?」

「俺もお前にそれほどまでの考えがあるとか過大評価しすぎてしまった、すまない」

何で最終的に俺が馬鹿にされる展開になってるのか?
しかし弁当が無いとなると今日の昼飯はそれ以外の方法で摂取することになる。

「仕方ないな・・・学食行こうぜ」

「そうだな」

弁当が無くとも高校には学食があるのだ。
弁当を作る暇の無い家庭に考慮したこの施設には感謝の念を抱かざるを得ない。
彩南高校には食堂が2ヶ所ある。一つは最近改築してお洒落なカフェテリア風になった場所で人気がある食堂である。
もう一つは大衆食堂のような場所である。此処は学食利用者が多過ぎという苦情が何故か生徒会目安箱に投函されたのがきっかけで桐生先輩が会長と校長の承認を得て実家の力で作った食堂である。なお、第一食堂と第二食堂のメニューは違います。女子には第一食堂が人気である。男子は割と融通がきく第二食堂の利用者が多い。なお、娯楽研究部の臨時部室でもある。先輩曰く今年の合宿(!?)はここで行なうらしい。まさかの食堂ジャックである。
勿論俺たちが向かうのは第二食堂のほうである。

「おばちゃーん、チキン南蛮丼一つ!」

「天ぷらうどんね」

「鯖味噌定食な」

上から猿山、敦、俺の注文である。
注文して五分以内に料理が完成するのが評判である。
なお、ご飯は御代わり3杯まで、水は自由である。
麺類の場合替え玉は100円である。・・・何その制度?スマイルは0円である。
第二食堂のメニューは桐生先輩のじーさんが会長さんやってる会社の本社食堂と同じメニューらしいです。
この高校には先輩と同じくとんでもない金持ちがよりにもよって先輩と同学年にいるらしいが奇妙な事にならない事を祈ろう。
昼飯の為の出費は悲しいが、これも己の不注意が招いたことだ、授業料と思おう。
まあ・・・弁当に鯖味噌なんて入れれねぇしな。美柑には悪いがこれも良かったということで。
頼んだ料理も来て食事をしていると、なにやら食堂の外が騒がしい。

「何だろうな?」

猿山が興味深そうに窓から外を覗きこむ。
第二食堂の外には何も変わったことは無いのだが、時折男子生徒が何処かへ走っていく所は見えた。

「女子の反応が薄い所を見ると、我々男子にとって有意義なモノがあるようだな」

「大変興味深いが俺たちは今何してる?」

「メシ食ってる」

「そうだな猿山。まず食欲を優先しよう」

俺がそう言って猿山に言い聞かせたその時、食堂に神谷先輩が現れた。
先輩は俺たちを見ると、おお、といって近づいてきた。
そのついでに食堂のおばちゃんに『エビチリ定食』を頼んでいた。

「よう、後輩ども。元気かよ?」

元気とはいえません。心労が上昇している気がします。
神谷先輩は俺のほうを見てニヤリと嫌な笑顔を浮かべて俺の胸を小突いた。

「おいおいどういう事だよリトよ~?」

何がでしょう?

「すげえ別嬪さんがお前を探してるぞ?格好はアレだが」

「は?」

「格好がアレの別嬪さん?」

心当たりはあるのだが今すぐ記憶から抹消したい存在ではなかろうな?
俺は敦を見るが、彼は黙々と天ぷらうどんを・・・っておい!ちゃっかり俺の鯖味噌に箸を伸ばすな!お行儀が悪いでしょ!
俺が敦の箸を阻止していると、外からこんな声が聞こえた。

『リトー?どこー?おーい、出て来てよー』

俺たちに沈黙が下りた。
あの声は紛れも無く自称宇宙人にしてトンでも発明家少女、ララの声である。
ついに学校にまで壷を売りつけに来たと言うのか!?やめてつかあさい!わしにはそんな大金はないんじゃ!?
ララの通る所男子たちが立ち止まり見惚れているようである。猿山も窓から身を乗り出してララの姿を見ている。

「・・・おいおいおいおい!?滅茶苦茶可愛いじゃねえかよ!?あの子がお前らが言ってた子かよ!?」

「格好は明らかにアレだろう?」

「可愛いは正義だ敦!」

「別嬪さんはお前をお探しだがこんな所でメシ食ってて良いのか?」

「アレは壷売りです」

「は?」

「壷売りだとしても迷惑とかをきちんと伝えた方がいいだろう?それにしても鯖味噌はガチだな」

いつの間にか俺の鯖味噌を食べていた敦がそんなことを言う。
テメエ!俺の340円をつまみ食いするんじゃねぇ!?・・・なんだこの40円は?

「つまみ食い代」

サムズアップして俺に40円を渡す律儀な男である。
しかしその40円分で俺の鯖味噌は味噌しかない状態である。
世の中は弱肉強食という者もいるがコイツの場合は隙あらば奪えである。
鯖味噌も食われてしまったことだ、壷を買わされないように追い払うべきか?
俺はそう思い、席を立つ。面白そうと思ったのか敦と猿山もついて来た。先輩はエビチリ食うので食堂に残った。


彩南高校内を歩き回るララに見惚れる男子生徒達を見て彼女のコスチュームロボのペケは誇らしげに思う。

『(ふむふむ・・・地球人たちはララ様の美しさにあてられているようですね。まあ、無理もない。ララ様は宇宙一の美しさと称えられるデビルーク王妃の血を継ぐお方なのですから・・・)』

何事にも例外というものはあるが一般的な地球人はララの美少女ぶりに足を止め見惚れている。
そのあまりの美少女ぶりに何とかお近づきになりたいと思い声をかける男達がいるのも無理は無い。

「キミかわいいね~?演劇部?」

「オ、俺等がそのリトっての探すの手伝ってやるよ」

言うまでも無いがこの男達が梨斗を知っている可能性は低すぎる。
校内での人探しの基本は職員室及び事務室で所在の確認をすることである。
生徒のみで一生徒を探すというのはかなり非効率的なのだ。
要はこの男達はララとお近づきになりたい一心で声を掛けたに過ぎない。
まあ、一般的な男性がララに惹かれることは仕方の無い事らしいので彼らの行為を咎められる者が何処に居ようか。
しかしながら物事には例外があり、彼女が美少女と知ってもなお、壷売りとか格好がアレとか言う男や食事を優先させる男もこの高校にはいるのだ。
例え宇宙一の美しさを持つ美女の娘とはいえ興味は無い男も確かにいる。
何が言いたいかと言うと例え彼女に興味がない人物でも彼女に近づく事があるということだ。
そもそもこんな騒ぎになって教師及び生徒会が動かぬわけがない。

「これは一体何の騒ぎだ?」

彩南高校生徒会副会長である桐生光太郎は第二食堂に向かう途中だった。今日は焼き魚定食でも食べようかなと鼻歌歌いながら歩いていると男子のむさ苦しい集団が集まっているではないか。当然何事かと思うのが生徒会の副会長の性である。遠目で見てみるとそこには素っ頓狂な格好をした美少女が歩いていた。
しかも何やら『リトー、リトー』とか言いながら。
この高校でリトなどという名前の奴は我が部活の後輩しかいない。この学校では意外にレアな名前なのである。

「ほう・・・梨斗にあのような女性の知り合いがいたとはな。これは緊急招集の必要があるか?いや、しかし今日は休みをあげていたしな・・・」

光太郎は意外に後輩思いの男だった。
だがその光太郎の視線には美少女に駆け寄る三つの影が見えた。
その三つの影は彼もよく知るものだった。

「これは面白くなってきたな」

「おーい、光太郎ー。ジュース買ってきたよ」

同じ部活仲間の清水大介がジュースを二つ持って光太郎のもとに来た。
毎日昼にじゃんけんをして負けたほうがジュースを買ってくるのだが、種類は買ってくるほうが決めるという事をしている。
大介は自分用のコーラを左手にもっていた。そして彼は光太郎におしるこの缶を渡した。
光太郎はしばらく無言でおしるこ缶を見つめ、一気飲みした。

「甘い!コーラを寄越せ大介!」

「水で十分だろう?さっさと食堂行こうよ」

「ぐぬぬ・・・面白いものが見れそうなのに・・・」

だがそんなことより口の中の甘ったるさをどうにかしたい。
光太郎は渋々腹ごしらえに行くのであった。
一方、ララの下には彼女の探し人がようやく姿を現した。

「よく俺がこの学校にいるってわかったな?」

「あ、リト見っけ!えへへー♪随分探したんだよ?」

とりあえず俺の疑問には全く答えていないわけなのだが、ララは俺の目の前に落としたはずの弁当箱を持ってきた。

「はい、これ!持ってきてあげたよー」

さて皆に問おう。
俺の目の前には俺の弁当箱を持った美少女。受けとるは俺。これを普通の多感な男性諸君はどう見るだろうか。
事情を知っている友人二人はこの際除く。しかし猿山は事情を知っているはずなのに悲しそうな声で言った。

「まるで愛妻弁当をあげる光景に見える・・・畜生め!!」

「落ち着け猿。梨斗の愛妻弁当を一番美味く作れるのは美柑ちゃんしかいない」

どんなフォローだ。まあ、中身は美柑が作ったんだけどな。
俺は素直に弁当を受け取るのだが・・不味い・・・もう鯖味噌食っちまった・・・。
・・・・・・しかし食わなかったり捨てたりする事は論外である。
そんな事をすれば兄と妹の間に埋まることの無き溝が出来て色々あって結城家崩壊という事態になる。

「おいお前!その娘とどんな関係なんだよ!」

何も知らぬ一般男子の一人が怨念めいた声で俺に問いかける。
・・・どんな関係?安心しろキャッキャウフフな関係では断じてない。
むしろどちらかと言えばこのようなことを聞いても全く問題ない関係である。

「ララ」

「何?」

「俺はお前のことをよく知らない。それは此処にいる皆も同じだ。よって俺は質問するよ。『キミは一体何者だ?』」

「ほえ?私?私はリトのお嫁さんでーす!」

「「「「「「「「な、なんだってー!!???」」」」」」」」

勝手に旦那認定されている訳なのだが、残念だったなそれは結婚詐欺だとわかっているんだよ!
・・・という事情が一般男子の皆さんは知る由もなく、何故か俺ににじり寄ろうとしていた。
おい!俺には何も非はねえだろ!何で親の仇を見るような目で迫ってくるんだ!

「おい、リトとやら・・・」

何でしょう名も知らぬ先輩。

「俺たちがお前の幸せを盛大に祝ってやるよ」

手を鳴らしながら言っても説得力はないよね。

「そう、盛大になぁ!!やっちまえええええ!!!」

「「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」

一斉に俺に襲い掛かる野郎ども。っておい!何で敦や猿山まで混じってんだ!?
ニヤニヤしながら走ってんじゃねぇ敦この糞野郎!?
俺は裏切った友人に内心憤りを覚えながら逃走を始めるのだった。
勿論俺のこの状況を作ったララは置いていった。当たり前だろ!?
・・・と思ったらニコニコして俺の横を走っていた。・・・・・・足の速さには自信があったんですよ僕・・・僕・・・。
ショックに泣きそうになっている場合ではない。このままでは盛大に祝いという名のフルボッコが始まる。
おーい!職員!此処にいじめの現場がありますよー!!?

「大多数の野郎どもが一組の男女を追いかける。これは正に虐めだな」

その時、騒がしい筈の現場に聞いたことある声が響いた。
俺たちはその声に反応して声のしたほうを向いた。
その影は第二食堂の建物の上に立っていた。
太陽による逆光で姿がよく見えない!が、この場の若干3名はこの声に覚えがあった。
・・・・・・何やってんすか桐生先輩?
だが正体はバレバレなのに彩南高校の生徒達は実にノリがよい。

「虐めじゃない!これは可愛がりだ!ええい!逆光で姿を隠すとは臆病者め!誰だお前らは!」

「誰だと?貴様ら、俺の声を忘れたか!」

「ああ!?この自意識過剰気味だが寂びしんぼう的な台詞を恥ずかしげもなく言うあのお人は~!?」

この声は明らかに清水先輩である。何してんのあの人?って言うかなんでマイク持ってんの?
男子生徒達の集団が見守る中、その影は高笑いをあげている。

「最近のマイブームは海老の皮むきで集中力を高めることだ。それでは聞いてくれ、桐生光太郎名曲カバーシリーズ『さそり●の女』!」

自分で昭和歌謡界の歌手の紹介みたいな自己紹介をしている我らがリーダーである。あと選曲がおかしい。
彼が大騒ぎの現場に来ているという事は彼の上司もこの場を嗅ぎつけている訳で。

「歌わせねぇよ馬鹿御曹司!!」

我らが生徒会会長が桐生先輩のマイクを取り上げゲリラライブを阻止してしまった。
何故あんた等はブーイングしてるんですか?というか桐生先輩はマイクを持っていなくても熱唱中だったので会長は口を塞いだ。

「・・・何をするんだ会長!俺は今回、いじめの現場を俺の歌によって救おうとしていたんだぞ!その歌を阻止するなど・・・アンタは虐めを推奨するのか!」

「するか!?俺が言いたいのは選曲が可笑しい事と、お前と同じくいじめ現場に遭遇し、この滾る正義感を抑えられなかったのよ!」

「会長、我慢は良くないと思います。膀胱炎になるからな」

「俺の正義感は尿と一緒に放出されると言うのか貴様!?」

「つまり貴方が正義感を放出する時貴方は同時に猥褻物陳列罪に問われます」

「何処の変態ヒーローだ俺は!?」

「素晴らしい事ではないですか。我が校の生徒会長は正義感と一緒にナニも出す正義の生徒会長!」

「ナニはださねえよ!?明らかに公序良俗に反してるよそのヒーロー!?」

おもむろに会長の股間を見詰める桐生先輩。
その視線に気付いた会長は無言で桐生先輩の脳天にチョップを炸裂させた。
・・・何このいつもどおりの漫才。・・・この隙に逃げろってことか?
俺は背後で起こる漫才を背に、その場から離れた。

「あ、待ってよー、リトー」

あ、コイツの対処忘れてた。
彼女の対処を忘れた結果、『結婚相手なんだから一緒に住むのは当然』とかいう双方の意思の確認が出来てないララの結論から半ば無理やりこの女は家までついて来るつもりだった。どう考えても展開は速すぎる。いっぺんちゃんと話をすべきだと思った俺はとりあえず下校時に近くの川辺で彼女と話すことを決意した次第である。

その頃教室では、いつも弁当の梨斗と今日こそ一緒にお弁当を食べるという緊急任務を果たさんとしていた西連寺春菜はその目論見が木っ端微塵になってしまった為、真っ白に燃え尽きていた。頑張れ春菜、今日は間が悪かったんだ!いつもの事だけどな!
しかし友人に誘われて昼食を食べに第一食堂に向かっていたその時、彼女は聞いてしまった。

『私はリトのお嫁さんでーす!』

その時、春菜の脳内には火●スのテーマが流れていた事は言うまでもない。


※【体調が3下がった。運動が2上がった。根性が1上がった。心労が3上がった】
※【西連寺春菜の傷心度がちょっぴり上がった】



『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:116(3↓) 『文系』:055(±0) 『理系』:060(±0)

『芸術』:028(±0) 『運動』:088(2↑) 『雑学』:080(±0)

『容姿』:050(±0) 『根性』:054(1↑) 『心労』:067(3↑)


【一言:ノイローゼへの道も一歩から】


(続くのかわからない)



[22408] 3話目 しゅごが たりないと こうなる
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/20 15:07
何故か既にララの中では彼女が俺の家に住む事は決定事項のようだがそもそも認めた覚えはない。
そもそも結婚とか一目惚れでも躊躇するがな。それと家出少女を匿うだけでもリスクは大きいんですよお嬢さん。
そこら辺を話し合うために近所の川原に来た訳である。嫌さね?一日二日、長くて一週間の滞在とかなら良いんだよ。
此方も親父や母さんのお陰で経済的には困ってはいないし使っていない部屋もある。
だがこいつの言うようにずっと住むとなれば話は別だろうよ。

「お前が何を思って俺と結婚とか言うのか知らないけどさぁ、そもそも会ったばかりの俺たちに会いも糞もないだろ?勢いだけの結婚なんぞ駄目だってよく言うだろ」

「リトは私のことを好きじゃないの?」

「好きも嫌いという感情以前の問題だろうよ」

「私はいいよ、別にそれでも!」

「待て待て待て!?お前の結婚観がどんなものか分からないがそんな決め方でお前本当にそれでいいのか!?」

結婚ぐらい最初は互いに愛あるものでありたいんや!
・・・まあそんなこといっても婆ちゃん爺ちゃん世代はお見合い結婚とかが普通だったらしいからな。
親の決めた相手と結婚して仲睦まじく暮らす夫婦も多い。そういうタイプは結婚してから愛を育むものなのだ。
そういうケースもあるよね。でも俺は愛ある結婚が良いな。
・・・だが俺はそんな希望を持ちつつも結婚はできねえだろう法律的に考えて。

『ララ様ぁ・・・』

「なぁに?ペケ?」

『私にはだんだんララ様の狙いが読めてきたのですが・・・?』

「ちょっと!?変な事を言わないでよペケ!」

「狙い?やはり結婚詐欺か!?」

「そんな事は全くないから仲良くしようよ♪ね?」

「不穏すぎるわ!?」

狙いという事は俺はこの女の計画のダシにされていることは最早確定的じゃねえか!
この女は家出しているって話だよな?だとすれば狂言で俺を好きとかいってれば帰んなくて済むとか思ってんじゃねえか?
アホか!親御さんの事を考えろよ!?ああやって追っ手を差し向けてるってことは高い確率でお前を心配してるんだろうが!
そんな俺の想いが何処かに通じたのか、ララを呼ぶ声が川原に響いた。

「ララ様!ようやく見つけましたよ!」

その声に反応して俺たちは川原の上を見ると、そこにはララとは別の意味で恥ずかしい格好をした美青年が何故か犬に足を噛まれたまま荒い息をついて立っていた。・・・ララといいそんな格好で歩き回るな!?

「ザ、ザスティン!?」

「フフ・・・全く苦労しましたよ・・・警官に捕まるわ犬に追いかけられるわ道に迷うわ・・・」

どうやら犬からは逃げられなかったようである。
というかそんな格好してれば職務質問されるに決まってる。向こうも治安維持という仕事だからな、仕方ない。

「というか警官に捕まった時道を聞かなかったんですか?」

「・・・・・・・・・・とにかく!此処まで来るのに過酷な道を辿った私ですが!」

聞かなかったんだな。

「それも此処までです!さあ、私とともにデビルーク星へ帰りましょう、ララ様!」

さて・・・このまま様子を見ていたらララの奴がややこしい事態にしてくれそうなので、此処は一つ一時彼女の身柄を預かっていた身として保護者に謝罪と挨拶を詩とかなければならない。黒服の人たちには悪い事をしてしまったからな。

「あ、いいですか?」

「なんだ地球人?よもや邪魔立てする気か」

「いえ、一時的とはいえ大事なお嬢さんの身柄を保護していた身としては保護者の方々に大変なご迷惑とご心配をかけましたことを此処にお詫びをしたいと思いまして。お嬢さんはこの通りすこぶる健康にして一切の怪我もありません。どうぞ家出の件は彼女も考える事が沢山あっての事だったと思いますので、その件に関しましてはご家族の方々で是非よくお話し合い下さい」

実際本来は彼女の家出はあの黒服の人たちが来た時点で終わった筈なのに俺が介入したせいで、この人が迎えに来る羽目になったと思うと誠に申し訳ないのだ。

「・・・あ、ああ。これはどうもご丁寧に。此方こそララ様の御身がご無事で何よりでした。こちらの方こそ家出騒動に巻き込む形となったようで誠に申し訳ない」

意外にも向こうの礼儀も良かった。
恥ずかしいのは格好だけのようでこの人はどうやらララの保護者的存在で間違いないようだ!
おお、ならば問題なくララを連れて行ってくれるな。
いや、ちゃんと家出の事はじっくり話し合うべきだぞ?子供の不満を全部飲み込むのはいけないらしいが受け止めなきゃ。・・・って親父の描いた漫画の台詞にあった。又聞きですすみません。
だが穏やかに家出騒動収束の流れだったのに、それを良しとしない者が一人いた。

「ふーんだ!わたし帰らないもん!」

「ララ様!?何故ですか!」

「親御さんが心配してるだろうに・・・この期に及んで何があるんだよ」

「だって帰れない理由があるんだから」

「「帰れない理由?」」

何故か俺とザスティンの声が重なってしまう。
ララは俺を指差しながら言った。

「私、ここにいるリトの事、好きになったの!だからリトと結婚して地球で暮らすの!」

ザスティンは俺のほうを向き、ララと交互に見比べるようにしていた。
というかララさんや、そんなバレバレの嘘すぐばれるって。

「一つ聞きたい、リトとやら。部下からの報告ではララ様を助けようとした地球人がいると私は聞いた。それに対して心当たりはないか?」

「あるにはありますが最終的に俺も多分その部下の人も被害者側に回る凄惨な事件に発展しました」

「成る程・・・あるのか・・・」

考え込むザスティン。
いや本当に貴方の部下の人には悪い事をしたよ。
果物の詰め合わせでいいなら送らせてくれ!

「わかったら帰ってパパに伝えて!私はもう帰らないしお見合いする気もないって!」

「・・・いえ、そうはいきませんよララ様。私はデビルーク王の御命令によりララ様を連れ戻しに来た身。家出先の得体の知れない地球人との結婚をはいそうですかと認めるわけにもいきません」

「じゃあ、どうすればいいのよ?」

いや、普通にこのザスティンって人を介してその親父さんとお見合いは嫌とかそういう事を話せって!?
いきなり帰らないとかそういう事をしたら後々後悔するらしいんだぞ?
・・・ん?そう言えば王?宇宙人とかデビルークとかよくわからん単語が出ていたが、こんな冷静な大人が大真面目に俺を地球人とか言ってることからこいつら宇宙人?・・・いや飛躍しすぎか?考えてみろ何で日本名の地球という名が銀河系に伝わってんだ?・・・まあ俺にとってはこいつらを同じ地球人と認めたくない気分もあるのだが。

「ララ様にふさわしき者は相応の実力がないといけません。何せ貴女と結婚するという事はデビルーク王家の後継者としてデビルーク王が治める数多の星達の頂点に立つことです。軟弱な者に務まるものではありません!」

何か初耳なんですが、ララって何か凄い規模の宇宙の姫らしいぜ。
宇宙人がいないとは言わんが此処まで見事に人間で見事に日本語喋ってるとか銀河の公用語は日本語かよ!?
よもや知らないだけで宇宙人は何故か日本に異常に多いんじゃないか?
おい、密入国レベルの話じゃねえぞ日本政府!そんなんだからスパイ天国とか言われてるんだろうが!
日本の外交においての不安はこの際置いておいて、ララの旦那になる者は軟弱な者では無理らしいという事が分かった。
成る程、確かにこの娘の旦那は菩薩のような寛大な心じゃないとやっていけないだろう。俺ならノイローゼになりそうだけどな。

「そんなこと言ってどうするつもりなのよ?」

「簡単なのは実戦において実力を見る事ですね」

「デビルーク最強の貴方にリトが勝てるわけないでしょ!」

「何も私に勝てとまでは言いませんよ。ただ実力が見たいだけですから」

・・・気のせいだろうか?嫌な予感がしてたまらないんですが。
その予感は当たっていたようでザスティンはいきなり何かを俺に向けて叩きつけた。
彼の手に握られていたのはぼんやりと光る刀身が印象的な剣だった・・・って待てやおい。
剣が叩きつけられた地面は深く裂けていた。お前そういう刃物は人に向けんな。

「では、いざ勝負!」

「此方の意志も考えろよ!?」

俺は身の危険を感じてその場から逃げ出した。



本日の部活は今後のゲーセンの方向性についてだった。
当然それは建前で現実はただゲーセンで遊んでいただけである。
光太郎、隆弘、大介、敦、猿山の五人は部活終わりに光太郎の奢りでファーストフード店に立ち寄る予定だった。

「うむ・・・梨斗も誘いたかったな今日は」

「休みをやったのは君だろう、光太郎?」

「ああ、確かにそうだが心労を回復する為に休みをあげたのに奴は別の厄介事を抱え込んでいたではないか。これでは休みを下手にあげるよりこうして部活で精神のリフレッシュをした方が良かったのではないのか・・・?俺は判断ミスをしてしまったのかもな」

「・・・リーダー。梨斗はそこまでガキじゃないですよ。たまにクールぶったり痛いところもありますが、自分のストレスぐらい自分で解消できますよ、今のアイツは」

「幼馴染のお前が言うのだからそうなんだろうな・・・ん?」

噂をすれば影というが、光太郎たちの前から走ってくる梨斗の影があった。
それだけなら何で走っているんだと思うのだが、彼の後方を見て一同は緊急事態を察した。
梨斗の後ろを走る不審人物が剣のようなものを振り回すたび、色んなものが斬れていた。
それは電信柱、自動販売機、バス停に親父の背広にカツラなどである。

「ちょ、ちょっと!?リトの奴一体何がどうなってんだ!?」

猿山が驚愕の表情で迫る脅威を評した。
この場は不審人物のせいで阿鼻叫喚になりつつある。猿山だってすぐさま逃げたかった。
しかし、彼の目の前に立つ四人は誰一人逃げようとしなかったのが彼の逃走を止めた。

「案外元気に走り回っているな」

「そうだねぇ」

「やれやれ・・・おい!梨斗!休めと言ったろう!何を遊びまわっているんだ!」

先輩方はいつも通りのテンションで休みのはずの梨斗を咎めていた。
その声に梨斗は気づいたのか、此方を見て言った。

「皆!この人正直ヤバイから逃げてくれ!」

「梨斗、正直言え。お前の心労とその男、どちらがヤバイ?」

敦が走る体勢を作りながら迫り来る幼馴染に言った。
それを見て猿山も逃げる準備を始める。先輩方も同様だった。
梨斗は走りながら喚いた。

「両方だ!」

「だそうですよ、リーダー」

「よし梨斗!お前は明日も部活は休みだ!というか明日は皆でカラオケ行くからな!いいな?そんなわけで皆の衆解散だ!」

「よっしゃあ!今日もお疲れー!」

そう言って隆弘が路地裏に消えていく。

「お先に失礼します!」

続いて猿山が近くの本屋に入っていく。

「それじゃあ、また明日」

更に大介がゲーセンに戻っていく。
確認するが、今この場はザスティンのせいで大パニックである。
残るは我らがリーダーと我が幼馴染である。
二人は俺に手招きすると、入り組んだ路地に入って行った。
俺も二人の後を付いて行くようにその路地に入っていった。
此処は部活初日に校区内の散歩と称した食べ歩きの際に紹介された迷路のような路地である。
街中にあって迷うほどに入り組んだ道は正に迷宮道路といって差し支えないものである。
リーダーも高校一年の時に神谷先輩と現会長が案内してくれたと語っていた。

「向こうが武器を持っているのに此方が丸腰なのは考え物だな」

そう言って先輩は燃えないゴミが集められている場所に向かい、そこからパイプ椅子と不法投棄の疑いがある消火器をセレクトして持ってきた。
ゴミあさりする大富豪の御曹司とか多分この人ぐらいだろう。

「敦、お前は消火器を持て。使い方は分かるか?」

「まあ、防災の授業で教えられましたし、やれますよ」

「梨斗、何があってお前が妙なものを振り回すイケメンに追われてるかは知らん。だが安心しろ」

桐生先輩は大胆不敵に言う。

「この俺が娯楽研究部リーダーである限り、今日のことは全て遊びで終わる」


ザスティンは道に迷わないように冷静にララが好きだと言うリトの評価をしようとしていた。
逃げるばかりではあるがこちらの攻撃を悉く回避している。
加減はしているとはいえこれはもしかすると見込みはあるのではないかと思う。
圧倒的な力の差はザスティンも了解している。それを見越したうえでリトは自分の剣を避けながらついに彼の仲間と思われる者と合流に成功した。

「成る程、仲間と結託して地の利を活かした戦法をとるのか。だが撹乱だけでは納得はしないぞ!」

気配を頼りに迷路のような道を進む。
幾度も袋小路に突き当たり、幾度も道を引き返し、次こそはと思って曲がり角を曲がったその時彼の視界は白く染まった。

「何だ!?」

視界を遮られるザスティン。
深い霧と見間違えるような白い景色に一瞬戸惑う。
と、その時だった。何か物体が此方に飛んでくるのが見えた。

「ぬおっ!?」

思わず剣を振ったザスティンだが、彼が両断したのは赤い筒状のモノ、地球では消火器と呼ばれるモノだった。
まさかこの視界の不良に乗じて攻撃する気かと体勢を立て直す間もなく今度はパイプ椅子が飛んできた。
ザスティンは剣では間に合わないと思い、思わず空いていた手でパイプ椅子を自らの顔の前で掴んだ。
が、その直後であった。突如白い景色の中から足が伸びてきたと認識したと同時にザスティンはパイプ椅子ごしに顔に衝撃を受けた。
突然の事で回避するすべなくそのまま椅子とともに地に倒れるザスティン。
鼻を押さえる彼が見たのは転がるように着地する梨斗と、何かを投げたような姿の眼鏡の少年と、四つんばいになって此方を見て不敵に笑う少年の三人だった。
そしてすぐさま四つんばいになっていた少年が立ち上がり、鞄から何か取り出した。
なにやら色とりどりの小さい玉のようなものだが・・・?
少年がそれを地面に転がすと、小さい玉から物凄い量の煙が出てきた。しまった、煙玉か小癪な!?
ザスティンはそれでも梨斗を見逃すまいと目を凝らす。

「遊びで済むのは此処までだぜ、ザスティンさんよ」

そう言い残し、梨斗は煙の中に消えた。
ザスティンは愕然とした。何という事だ!?実力を測るつもりが遊ばれていたのか私は!?
先程の梨斗の言葉からすればこれから先は命の保障はないという事である。
つまりあのリトとかいう男はそれほどまでの実力を持つ者だと推測できる。
こんな辺境の星にそこまでの実力者がいたなんて聞いていないぞ!?
そんな男に保護されるなどララ様は運が良いのか悪いのか。

うん、とりあえずザスティン君、確実なのはお前は頭が悪い。

一介の地球人である結城梨斗が強大なデビルーク騎士を圧倒するほどの力などある訳がない。
視界が悪いのは光太郎が護身用に持っていた煙玉と敦が放った消火器の粉のせいだし、空になった消火器をザスティンに向けて放った敦のあとに光太郎がパイプ椅子を投げて四つんばいになり、その背中を踏み台にして飛んだ梨斗がザスティンに向かって飛び蹴りしたまでだ。
此処で誤算だったのが、ザスティンはパイプ椅子も斬ると此方は思っていた。
消火器を斬ってその後振り下ろしでパイプ椅子を斬った隙に飛び蹴りのはずだったが、ザスティンは全力で消火器を振り下ろしで斬った為、パイプ椅子の時点で剣が使えない状態になったので彼は仕方なく素手で防いだのだが、そこに梨斗の蹴りが襲い掛かった。
ただのライダーキックが椅子越しライダーキックになったとさ。これはひどい。
予想外の出来事に焦った梨斗たちだったが、逃げるのを優先するため余っていた煙玉を使ってさっさと逃げる事にした。
しかもご丁寧にこれ以上続けたら殺されかねない梨斗はザスティンに向かって、

「遊びで済むのは此処までだぜ」

と捨て台詞を残して逃げた。
つまり梨斗からすればこれ以上やったらマジで俺死ぬからもう止めろというメッセージだったのだ。
今の作戦も窮鼠猫を噛むような微妙な作戦だったのだ。
とりあえず光太郎は『一発あてたら勝ち』とか勘違いしてたので。
・・・その結果、何故か梨斗は知略に長けた恐ろしい何かとザスティンに勘違いされてしまうのだが、当の梨斗はどんな手を使ってでも逃げているだけである。

とりあえずザスティンは撒いたようなので、俺は桐生先輩と敦という野郎三人でバーガーショップに来た。
俺は美柑の料理があるのでバーガーは食べないが水分は欲しかったのでコーラを啜っていた。
先輩はフィッシュバーガー、敦は照り焼きバーガー食べてる。DSするなら手は拭けよな敦。

「しかし妙な女に絡まれたと思えば今度は変態イケメンに襲われるとか面白いプライベートライフだな」

「変わるか敦?」

「ははは、嫌だね。何で二次元を裏切ってまで三次元逃走中生活を送らんといかんのだ」

本当はさっさと帰って二次元世界へダイブしたいだろうに口とは裏腹に付き合いの良い幼馴染である。
昔からこういうところがあるから俺はコイツを見限らないんだろうな。一定の距離は置きたいが。
だが今日はマジで疲れた・・・明日日直で少し早いんだけど起きれるかなぁ・・・。
俺がグロッキー状態でコーラを飲んでいるとフィッシュバーガーを食べ終わった桐生先輩が口を開いた。

「ところで梨斗。お前の隣に座るお嬢さんの紹介を俺たちにしてくれ」

「は?」

何を言っているんだこの人はと思って俺は視線を隣に向けた。
至極ご満悦の表情で卵バーガーを食べているのは誰でもないララであった。
・・・・・・・・・あれれ~?おかしいぞ~?なしてこげなところにアンタはおるとか?
疲れすぎて九州男児になりかける勢いなほど驚いたが、大騒ぎする気力はすでにない。
だがララいる所にこの男はやって来た。

「や、やっと見つけたぞ・・・」

ザスティンが汗だくでバーガーショップの俺たちが座る席の前に立っていた。
何で騒ぎの中心のララが余裕で卵バーガー食ってて俺とザスティンが疲労困憊してんだよ。

「すいませーん、コーラもう一つくださーい」

何か妙な空気を呼んだように桐生先輩が注文する。
すぐにコーラが来るのがこの店のいい所である。ザスティンはコーラを飲んで一息ついた。
そして彼は真剣な表情でララを見た。

「ララ様、彼の実力についてはこの私が王に報告いたします。ですがそれとこれとは話が違う。王も御考えがあって銀河中から有氏を募ってララ様とのお見合いを計画しているのですよ?」

「パパは私より後継者の方が大事なんだよ。早く遊びたいだけなんでしょ?」

「そんな事はありません!第一・・・」

「お前らのお家事情なんて俺にはどうでもいいんだよ・・・」

コーラを飲み干し少し生き返った俺は隣でお家の騒動について争う二人に確認をするため口を開いた。
それに対して桐生先輩は見守る姿勢で、敦はDSやってた。二次元にのめり込んでる・・・って言うかそれ明らかにネネさんの声だよなそれ?イヤホンしろよ!?

「デビルーク星の後継者とかさ、お見合いとか正直どうでもいい事だし関係ないだろうよ」

とにかく疲れた。早く帰ってメシくって寝たい。
風呂入って寝たい。早くこの問題をどうにかしたい。

「関係ないんだからさ・・・もう普通の生活させろよな。これ以上何の感情も抱いてない奴と結婚がどうだとか迷惑だよ・・・」

「・・・・・・」

「迷惑だって事が分かってくれるなら帰ってくれよな・・・いい加減自由にしてくれてもいいじゃん・・・」

世の中にははっきり言っておく事も大切である。
例えこの時俺が悪者になろうとも、無理して倒れたら元も子もない。
あれ?桐生先輩?横を見ろ?何が?

「リト・・・」

俺が横を見るとそこには感極まったような面持ちの少女の姿が!
・・・もしかしてきつく言い過ぎたせいで泣くと言うのか?

「うれしい・・・」

「は?」

「私の事をそこまで理解してくれたんだ・・・貴方の言うとおり私は自分の好きなように自由に生きたい。まだまだやりたい事は沢山あるし・・・結婚相手だって自分で決めたいと思ってる」

あ、アレ?何だか雲行きが可笑しくないですか?

「私ね、本当はリトと結婚するっていうのは連れ戻されない為の口実のつもりだったのよ」

『(やっぱり・・・)』

やっぱり結婚詐欺を目論んでいやがったこの女!?

「でもやっと分かったわ」

何が分かったと言うのか?そんな若い歳で何もかも分かったような感じになるのは危険です!

「私・・・リトとなら本当に結婚してもいいと思う・・・ううん、結婚したい!」

「断る!」

「ううん!結婚したいの!」

「拒否を聞かなかったことにしやがったよこいつ!?」

お前の意思は尊重されるべきだが俺の意思も尊重されるべきではないでしょうか?
ところが反対するかと思われたザスティンが急に俺に対して頭を下げて懇願した。

「地球人・・・いやリト!君は他の婚約者候補と違い誠にララ様のお心を汲み取る能力に長けているようだ。私は今までララ様のお気持ちに気付きながら使命のために考えないようにしてきた。だが、それを指摘されては勝ち目は私にはない。宇宙に数多いるララ様の婚約者候補が納得するかは分からない。だが私は自信を持って王に報告が出来そうだ。お前にならばララ様は任せられると!」

「勘違いじゃねえのそれ!?」

「自信を持ちたまえ。お前にはララ様のお心を理解できる才能があるのだ!」

「そりゃ気のせいだ!?ちょっと先輩たちからも何か言ってやってくださいよ!」

桐生先輩は飲んでいたアイスコーヒーを置いて咳払いをして言った。

「梨斗」

「は、はい?」

「お前はもう少し文系の勉強をしろ、な?」

その瞬間、俺は自分のミスを悟ってしまった事は言うまでもない。
俺は泣きそうになりながらも一応敦にも意見を求めた。

「少しリクエストがあるんだが・・・」

敦はララを指差して言った。

「なに?」

「こうして両手あげて『るー★』って言ってみてくれ」

お前は何をリクエストしてるんだ。きれいなそらさんは関係ないだろうが!?

「いいよ?るー☆」

「ありがとう。だがやはり何か違うな・・・やはり次元の差か」

次元以前に別人やがな。あとララ、コイツのリクエストにいちいち答えなくていいから。
・・・ひとまず文の構成的ミスによりララは俺の部屋に居候する事になった。
ララについては敦と桐生先輩に隠しても意味ないので宇宙の姫と言ったら『地球の女に飽きたのか』とか言われた。濡れ衣である。
・・・美柑になんて説明しよう・・・・・・。


梨斗が今後の生活に不安を抱く一方、恐ろしく沈んだ気分でベッドに寝転んでいるのは西連寺春菜である。
あの謎の少女と梨斗はどのような関係なのか分からない分不安は増大するばかり。
まあ・・・実際は少女の方が最近一方的にハートMAX状態なのに男の方は0も同然という状態なのだが春菜がその朗報を知るはずもない。
知らぬが故に胸はかき乱される。知らぬが故に明日が怖い。
何故なら明日は日直の日。あの発言がなければ楽しみで仕方なかった日。

明日の日直は結城梨斗と一緒なのだ。


※【異星のお姫様、ララが結城家居候にランクアップしました】
※【体調が15下がった。文系が1上がった。運動が5上がった!根性が3上がった。心労が6上がった・・・】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:101(15↓) 『文系』:056(1↑) 『理系』:060(±0)

『芸術』:028(±0)  『運動』:093(5↑) 『雑学』:080(±0)

『容姿』:050(±0)  『根性』:057(3↑) 『心労』:073(6↑)


【一言:スポーツマンに必須な向上心が明らかに欠けています】


(続いてしまうのか)



[22408] 4話目 しんじる やつが じゃすてぃす
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/14 17:55
面倒な事に日直というものは他生徒より少しばかり登校が早く、そして下校が遅い役職である。
そんな難儀な役職なため日替わりという措置を取って平等にそのような仕事をさせるのだ。
だが考えてもらいたい。この制度は就業時間外に仕事をする事を奨励する悪しき習慣ではないのか。
社会にでれば残業などが当たり前にあると聞く。何故かそれが当たり前になっているのも日直という居残りで仕事をすることによって学生時代からじわじわと感覚を麻痺させているに違いない。残業すればいいものが作れると思ったら大間違いだろうと親父の尊敬する30年連載続けてる漫画家の方も言ってた。
・・・まあそもそも漫画家という職業に定時とかあるのごく稀だし。
結局何が言いたいかと言うと俺はもっと睡眠を所望していたという事だろう。
しかし日直の仕事をしないともう一人の日直に迷惑がかかるわけだ。これも姑息な手だとは思わんか?日直を二人にすることでサボった人間の罪悪感を増大させるとかは理解できるのだが例え風邪とかで休んでも翌日のもう一人の日直及びクラスの目が微妙なのだ。可笑しくないですか?
世の中には理不尽な事がいっぱいだがそれでも朝はやってくる。
見慣れた天井、見慣れたベッド。昨日の事もあり筋肉痛気味だが、外は清々しい青空である。
カーテンを開けて光合成を少しすると何かストレスとか身体に良いらしいのでいつも実践している俺は最早日課と課したことをやる為起き上がろうとした。

と、その時右手になにやらムニュッとした感触がした。
このベッドに入って寝ること数年、このような感触は体験した事はない。
何だよと思って俺はちらりと右を見た。

「・・・・・・昨日の記憶は何処も抜け落ちてはないよな?そうだよな俺」

大体酒など昨日は飲んではいないし記憶が抜け落ちる事もした覚えはない。
美柑にララを紹介したらあっさり同居をOKするという美柑の寛容ぶりに感動したり絶望したりはしたが過ちは犯していないし思春期の少年にしては誉められるべきのTPOを発揮しララに個室を提供したり手続きは完璧だったはずなのだ。
だが現実は朝になったら何故かこの女が全裸で隣に寝ている。これは世にも●妙な物語で取り上げる事例ではないのか。
というかさっきの感触は・・・なんだコスチュームロボか。
・・・うむ、コイツがいないとララは服は着れないとか言ってた記憶はあるな。
ロボというぐらいだから動力は電気かなんかで動いているのであろうか?どちらにせよこのロボだけに衣食住の『衣』を任せていたら後々面倒な事になりそうだ。
この辺りは美柑に任せるとして、次は裸以前の問題だ。

「んー・・・ふぁぁぁ・・・」

俺がカーテンを開けると同時にララが目を覚ましたようだ。
・・・ゴメン、一瞬この女の全裸見ちゃった。だって隠す気が全くないじゃんコイツ。
ララを直視するのはやめて俺はコスチュームロボ、ペケに話しかけた。

「色々言いたい事は沢山あるんだけど、まず何でララは裸なんだ?癖か?」

『貴方が言わんとしたい事は分かりますが、私もいつもララ様のコスチュームでいるのは大変なのです。節約する所はしないとなりません。充電もしなければなりませんからね』

「不便だなぁ。街中でお前のエネルギー切れたらどうすんの」

『今まで王宮暮らしでしたから別に私のエネルギーが切れても問題はあまりなかったのですが・・・』

「今は問題ありだな。さっさとコイツの服を調達しないといけないってことか」

『そうしてくれると此方も助かります』

「・・・遺憾ながら同居を許したんだ、そのくらいはしてやるよ。で、だ。お早うお姫さん」

「おはよ、リト!」

実に無邪気に挨拶をする女であるが、裸である以前に一つ聞きたい。

「お前にはちゃんとした個室を用意したのに何で朝になったら俺のベッドで寝てんの?」

「えー?だってリトと一緒に寝たかったんだもん」

実にシンプルな理由であるのだが待ってもらいたい。
寝るという行為は身を無防備にすることである。
その為には自身の安全を確保するスペースが必要なのだ。この場合俺のベッドの上が俺のスペースであってそこにララの介入があってはならないはずなのだ。
確かに小さな子供とかは親と一緒に寝たりするのだが成長するに連れて子供は自分の空間を形成する事が出来る。
その空間でこそ人は安心して眠る事が出来るのだ。
ホラ、よく言うだろ?枕が替わると眠れんとかいう奴。あれは枕もその人のスペースを作り上げる為に必要なアイテムなんだよ。
あれがないから眠れない、即ちスペースを作る余地がないから眠れないのである。
結局何が言いたいのかと言うと、ララはそんなに無防備でいいのかということである。

「おはよー、リト。早く起きないと遅刻するよ・・・」

疑問を一つ一つ解決している最中、ノックもせずに入ってきたのは俺の妹の美柑である。
この妹は実に良く出来た娘であり、大声で世界に自慢できる妹である。
シスコン?馬鹿を言ってはいけない。少々生意気なのが困りものだがこの娘の料理スキルはホンマプロやで!
コイツは言わないが、クラスの男子にも次々告白されているらしい。・・・中には将来有望そうなイケメンもいたと現場を見た敦からも聞いたのだが・・・小学生の分際で恋だのどうだの進んでるなオイ。しかし何故か悉く美柑は男の子を振っているようである。・・・うーむ、同年代は好みではないのであろうか?
まあ未だ小学生なんだ恋だのどうとかよくわからんのではないかな。でも初体験が小学生とか言ってる奴もたまにいるし・・・うーん・・・万が一小学生や中学生の時期にそのような事になったら俺は多分烈火のごとく怒ると・・・思うな、うん。男の方は間違いなく殴るなぁ。美柑の方は場合によってだ。
・・・妹の恋愛事情を考えるぐらい今の俺は現実から逃亡中である。何故か?考えてみろ一つの部屋に男と女、しかも女は裸である。

「・・・・・・・・・」

沈黙が非常に痛い。
ノックぐらいしろよなとも言いたいがそれを此処で言ったら更に誤解が深まりそうだ。

「お邪魔しました・・・」

実にリアルな反応である。
顔を赤らめどもりながら大声で失礼しましたなどと言う妹は此処にはいない。
いるのは一瞬兄をゴミのようなモノを見る目で見た良く出来た妹だけである。
美柑め、何を勘違いしてるんだ?女性は男性より色んな成長が早いと言うがまさか性知識まで既にそれなりに持っていたとは兄として実に悲しい真実と言わざるを得ない。
・・・も、もしや同年代の異性とお付き合いしないのは経験豊富な年上が好みだからだとか?
うぎゃー!?俺の妹がロリコン親父に汚されてしまうのかー!?・・・まあそんなことになったら家族会議ですが。
全く朝っぱらから阿呆な想像をしてしまった。とにかく顔洗ってメシだメシ。

「そうだ!今日は出かけなきゃいけなかった!ペケ!」

『ハイ。ではドレスフォーム!』

何か今日やることでもあるのか、ララはまたあの恥ずかしいドレス姿になった。

「ん?朝飯食わないのか?」

「うん、ちょっと行かなきゃ行けないところがあるんだ。それじゃあね~」

そう言ってララは窓から飛んでいってしまった。
正直そのまま帰って欲しいのだが彼女は此処に済む気満々である。
あっと、いけないいけない。俺もさっさと学校行かなきゃな。


日直といってもやることはただの雑用である。
授業の後の黒板を消したり移動教室の際に鍵を取りに行ったり花瓶の水を変えたり学級日誌に今日の出来事を書いたり・・・。
俺は思うのだが黒板は教師が消せよ。書いたのアンタじゃん。
というか花瓶の水替えは高校入ってしばらくは誰もやってねぇじゃねえか。敦と猿山がやったくらいで後は俺がほとんどこっそりやってるじゃねえか。決まった仕事ぐらいしろよ。フォローしてる俺も俺だが、俺に甘えないでくださいな。別に恩は売ってない。こまめに変えないと水が臭くなるしな。衛生環境を整えるのも日直の仕事らしい。・・・クラス委員がやれやそういうのは。
まあしかし、今回はクラス委員レベルの仕事もやんなきゃならないのかね?
何せ今日のもう一人の日直が我がクラスの委員長、西連寺春菜嬢であるからだ。
俺の記憶が確かならばこの娘は中学校の時からクラス委員をやっている何というか人の世話が好きですと態度で示している女の子である。
中一の時から同じクラスに所属しているのだが話したことはほとんどない。何か問題でもあると言うのか?
まあ、まさか高校まで同じになるとは思わなかったのだが、それでもまあ、話すことは何もなかったな。
悪い噂は全く聞かないし、猿山に後で聞いた話では花壇の花が何者かに切られた時に俺を擁護した側にもいたらしいので普通に良い人なのだろう。
・・・単にクラス委員としてクラスメイトを疑う事をしなかっただけかもしれないが。

「・・・茶色チョークの存在意義って何なんだろうな」

敦が黒板消しをしている俺に対して疑問を投げかけてきた。

「遣えば使ったで見にくい消し難い・・・。本当に茶色チョークの存在意義って何だろう?」

「違うな敦。茶もそうだが緑も意味不明だ。黒板は緑なのに緑を被せるとか意味が分からん」

「白と黄色と赤と青のみでよかったのに何ゆえ茶色と緑も入れたんだろうな」

授業間の休みに俺らは何を下らん話をしているのだろうか。
確かに雑談は気は紛れるのだが、次は移動教室じゃなかったか?
さっき西連寺が音楽室の鍵を取りに行ったばかりじゃないか。

「歌が壊滅状態の俺が好き好んで真っ先に音楽室に行くわけないじゃないか」

「だからと言って何で俺の黒板消しを見守っているんだ。手伝えよ」

「お前の仕事を奪う訳には行かない。更に音楽の授業を休む為、日直のお前に伝言を頼みたいのだ」

「そういうのは日直ではなくクラス委員の的目に言え。あと休むな諦めろ」

「しどい!幼馴染を庇うという行動を取らないなんてそれでも貴方人間!?」

「残念ながら本日の庇うコマンドは終了しました」

「だからと言って機械化しないでくれ、梨斗」

最近お前らと付き合う時は心を鬼にするより心を機械にしたほうが余計な心労を溜めないような気がした。


一方、もう一人の日直西連寺春菜は折角の梨斗との日直なのに全く話が出来ない事に焦っていた。
しかも話したいなと思ってもいつの間にか身体は鍵を取りに行ってたり・・・。

「(何をやっているのよ私は――!?)」

千載一遇のチャンスとなりうる口実を自ら無碍にしてどうするというのだ。
友好的な態度を見せなければ自分はもしかしたら冷たい女やら思われてしまうかもしれない。
仕事しか脳がないプライベートはつまらん女と見られるかもしれない。
それだけは、妙なイメージの先行だけは避けたい!
ただでさえ今の梨斗には婚約者がいる疑惑があるのである。そういう素振りは一切無いのだが非常に気になる。

「あ、これ日誌な。記入頼むよ」

「う、うん」

こうした事務的な会話しか出来ない自分が悲しい。しかも何か噛んでるし!
何か話題を何か話題を何か・・・

「梨斗ーメシ食いに行こうぜー」

「おー」

話題を見つける前に昼ごはんに行っちゃったよあの人!?
ああああ!?そうだ話題を見つけるのに気を集中していたせいで気付かなかった!
ここは昼からの日直の動きについてとか適当な事を言って昼食に誘うべきではなかったのか!?
いかん、凄まじく動揺してしまっている。動揺しすぎて心の声まで噛みそうだ。
仕方ない話題を思いつくまで此方も腹ごしらえをしなきゃ・・・


・・・って考えてたらもう放課後じゃないの!?何してるのよ私は本当に!?
ああっ!?早く何か話をしないと今日が終わっちゃう!?
梨斗は花瓶の水を交換してもう帰りそうな勢いである。そうだろう、学級日誌の記入はもう彼はやっている。
折角の好機を私は無駄にしてしまうの?どうするの私!?でも話題が・・・

もし、恋愛の神様というのが存在して偶々その神様が春菜の様子を見ていたらしょうがないなと思うのであろうか。
いや、これからの事は決して神様なんかの悪戯なんかじゃない。
ただ、彼女はあの時梨斗を護った方にいたから起きたことなのだ。

「あ、ちょっといいかな?」

「え?」

何か見落としていた事でもあったのだろうか?
突然梨斗は春菜に声を掛けてきた。
ちょっと息を呑んでしまったがばれていないだろうか・・・?

「今更だけどありがとう」

いきなりお礼を言われてしまった。

「あ、ごめん。いきなりだったよな。俺が西連寺にお礼をいいたいのはさ、中学の時花壇の件で俺を庇ってくれた事だよ。猿山から聞いたんだけどな?ずっと礼は言いたかったんだけど機会がなかなか無くてさ。丁度今がいい機会だったんでこんな遅いお礼になったけどな、あはは・・・皆の前じゃ言いにくくてさ」

「え、い、いいよお礼なんて・・・私、結城君があんな事する人じゃないって信じてたから・・・」

あの時はクラスメイトの半数以上が梨斗を疑っていた。
だが同様の事件が他校で起きた時に犯人が捕まり此方の学校の花壇も荒らしたという情報があった為、花壇荒し事件は梨斗は無罪と確定した。
誰も彼に謝らず彼はあらぬ疑いで無駄に傷つき・・・。
未だ友人といえる猿山や幼馴染の敦以外は心を許していないと思い込んでいたため春菜にとってこの梨斗の発言は驚くべきものだった。

「あんな事をする人か・・・クラスの半数以上はそう思ってたのに何でまた俺なんか信じようと思ったんだよ?」

春菜は窓の外を見ながら言った。
彼の顔は恥ずかしくて直視できないからだ。

「結城君ってさ・・・中学の頃もよく教室のお花の手入れしてたよね」

「え、ああ、まあね」

「結構忘れることが多いのに、結城君はいつもこまめに手入れしていた・・・」

「いや、別に・・・植物の世話を家でやってるとさ・・・いつの間にか習慣になってしまって・・・。それにいつまでも水がそのままとか衛生的にも」

「・・・そういう心配りができる優しい人が・・・あんな事するはずないと思ったから・・・私はあの時結城君を信じたの」

紛れも無い彼女の本心。
日頃において彼を見ていないと言えない言葉。
彼は自分が目つきが悪いとか悲観するけど、私は彼が優しいという事は分かっているつもりだ。

「・・・そうか。信じてくれてアリガトな」

そう言って微笑む彼。
会話が成立したのみならず笑顔も見せてくれたとか彼女にとっては嬉しい限りである。
そこで更に突っ込めないのが恋愛処女の真骨頂であるのが悲しすぎる。
だが今の彼女の頭上にはキューピッドがラッパ吹いて飛びまわってる気分だった。
至福の時を味わう春菜を他所に、梨斗はゴミ捨てに行っていた。
当然春菜が気づいた時には梨斗の姿はなかったのだがそんなことも気にならず今日、彼女はスキップしたい気分で帰り、不気味なほどに良い機嫌を持って、姉に気持ち悪がられる夜を過ごしたのである。

なお、梨斗はその後カラオケに仲間たちと向かい、何故か全ての選曲が『シリーズ物』のカラオケで盛り上がっていた。
※大人の事情によりカラオケ内での話をフルでお送りできないのが誠に残念です。

言うまでも無く俺たちの中で一番音痴なのは敦である。
しかしながら歌自体は嫌いではない彼は自分でも歌えるはずの曲を探していた。

「それでは皆、俺の魂を見てくれ!小金丸敦が歌うは仮面●イダーBL●CK!」

この選曲で盛り上がるのだからこの部活メンバー達はどうかしている。
だが敦、貴様がその歌を選択した理由は元々歌っている人が下手だからか?
愚か者!あの人は上手い下手とかそういう次元に立ってる人じゃねえんだよ!
あの人の歌唱力は「上手い」「下手」じゃなくて「て●を」なんだよ!下手じゃねえんだよ!
なお、今回のシリーズ物の定義は5作品以上シリーズがあるアニメ・特撮作品の歌を歌いまくるというものである。
・・・そんなの限られてくるじゃねえか!?・・・マジン●ーシリーズは5作以上あるよな?
敦の放つ超音波に頭を痛めながら梨斗は選曲をするのであった。

※【体調が2上がった。全ての勉学能力が1上がった。運動が1下がった。雑学が2上がった。根性が1下がった。心労が5下がった!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:103(2↑) 『文系』:057(1↑) 『理系』:061(1↑)

『芸術』:029(1↑)  『運動』:092(1↓) 『雑学』:082(2↑)

『容姿』:050(±0)  『根性』:056(1↓) 『心労』:068(5↓)


【一言:容姿に未だ変動無し。】





翌日。
いつもどおりの梨斗と昨日の事もあり上機嫌な春菜。
そしていつもどおり騒がしいクラスの担任である老教師、骨川先生が突如このようなことを言い出した。

「えー・・・突然ですが、転校生を紹介します。入りなさい」

「ハーイ!」

その声を聞いたとき梨斗の顔は引き攣り、敦の眉は動く。
そしてその姿を現したとき男子達のざわめきが大きくなる。

「やっほーっ!リトー!私も学校来ちゃった♪」

Vサインを出しながら笑顔のララを見て、春菜は一気に奈落の谷に落ちていく感覚を覚えた。
一方の梨斗は頭を押さえて言った。

「先生!胃が痛いので早退します!」

「保健室に行けよ先に」

「胃痛なのに頭抑えてどうすんのリト」

当然早退は認めてもらえませんでした。


※【心労が8上がった!】



『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:103(±0)  『文系』:057(±0) 『理系』:061(±0)

『芸術』:029(±0)  『運動』:092(±0) 『雑学』:082(±0)

『容姿』:050(±0)  『根性』:056(±0) 『心労』:076(8↑)


【一言:昨日のストレス解消は何だったんだ】





(続く)



[22408] 5話目 もうやめて! とっくにかれのライフは ゼロよ!
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/15 15:12
地球の大気圏外に待機しているデビルークの宇宙船内。
ララの安全のためにせめて此処で待機をしているザスティンたちは宇宙船のレーダーに識別不明の宇宙船が感知された事を知った。

「間もなく地球の大気圏に突入いたしますが・・・」

「早くも現れたか・・・ララ様は兎も角、リトには試練かな?私は急いでララ様のもとに向かう。お前たちは監視を続けろ」

「御意」

青く美しい星、地球。
異星人は現地人に知られる事なく侵入してくるのである。


転入生というものは嫌でも注目を集めるものであるがそれが美男美女なら尚更である。
その人を知らない凡民からすればまずお近づきになりたいと考える。
なぜならば容姿だけでは性格は分からんからだ。
ララは見た感じ天真爛漫なので男子達の心をしっかりキャッチしている。
女子からも好印象を持たれている様だ。全体的にお調子者が多いこの高校では彼女のような性格は受け入れやすいのだろう。
中には写メとか撮ってるヤツも見られた。オカズですねわかります。
さて、ララと俺の関係を聞かれるのだが俺はこのように答えている。

「母の親友の娘さん。定住できない生活が続いたから母が気を遣って家で学生生活を送らせる事にしたようだ。俺とも面識は結構ある」

元々俺の親父と母さんの名前はこの高校でも有名である。
家がそこそこ裕福だと人一人住まわせるぐらいならどうってことはないのだ。
事情を知っている敦は含み笑いを浮かべて俺の説明を「それなんてエロゲ?」と言った。
一緒に住んでる云々は他に行くところ無いしということで説明した。
全くなんで俺がこいつの事で此処までフォローしないといかんのだ。
というかよく転校が許可されたなこいつ。まあその辺も含めて昼飯の時説明してもらうか。

本日は屋上にて昼食をとる事にした。
此処なら人通りも少ない。お洒落なカフェが出来たせいでかつてはにぎわったこの場所も今や人はいない場所である。
たまに応援団が声出しに使うぐらいになってしまった場所で、俺はララに質問をする事にした。

「いきなり転校してくるなんて何のつもりだよララ。前の事もあって妙にお前との関係を聞いてくる奴らの対応にはおわれるわお前は一緒に住んでることも言っちゃうしさ・・・」

お陰で下ネタ的質問をして来る馬鹿もいたのだ。
残念だがそんなギャルゲ的展開は無いから。俺にだって相手を選ぶ権利はあるから!
ララの婚約者候補に聞かれたら怒られそうだが考えてみろ。こいつ来て俺の心労は4割増なんだぞ?
残念だが可愛けりゃ何でもいいわけじゃねえんだよ!可愛いは確かに正義ではあるが。正に矛盾。

「だって・・・ずっとリトの側にいたかったんだもん」

なんともストレートすぎる理由だがそういう事はちゃんと言ってくれなきゃ臓器に悪すぎる。
この歳で胃薬を服用とか笑い話にもならん。ストレスで人は死ぬんやで?

「まあ・・・この星の常識を知るために学校に通うってのもアリなのかもしれないけど、よくもまあ転入手続き取れたな」

宇宙人ですとか素性怪しすぎのこの女をこの学校へ入れたのは誰だ!

「簡単だったよ!この学校のコーチョーって人にお願いしたらね・・・」

『可愛いので全然OK!』

「だって!」

そんなノリで転入手続きを済ませるな娯楽研究部顧問!?
俺たちの部活の顧問はこの彩南高校の校長である。
メタボな体型にグラサン、サリーパパのような髪型のロリコンの変態である。
ロリコンとはいえ美女全般が好きなようで彼の性教育講座のビデオ授業は多種多様のジャンルに溢れています。
というかそのためだけに俺たちの部活の部室が視聴覚室なのである。
というかこの事を生徒会長が知らない筈はないのだが、

『校長をガス抜きさせないとマジで犯罪行為に走りそうだからな』

と言う理由で黙認していると桐生先輩から聞いた。
風紀委員会が聞けば卒倒しそうだがビデオ鑑賞も立派な娯楽なので部活の目的は達している。
実戦はしたこと無いのに女性の喘ぎ声は聞きなれたとかどんだけー。
なおこの時俺たちは大体スマ●ラかゴール●ンアイかボンバー●ンやっている。
傍目から見れば凄まじくシュールな光景だろう。
スクリーンで性教育映像見てる校長及びゲーム待ちの部員。
そして傍らでは備え付けのテレビでゴールデン●イやってる部員達。なんだこれ?
なお、視聴覚室は他の生徒も使うため、自家発電は禁止である。当たり前だろう。
ゲームやってる後ろであの女性のあのシーンの尻が良かったとか言ってんじゃねえよ。
なお、こういう日の時は視聴覚室には南京錠付けます。男だらけだから出来ることだと思う。正直校長、家でやれ。

「でも心配しないで!宇宙人と言うのは内緒にしてるから!」

そもそもコイツが宇宙人と言うのを知っているのは俺と桐生先輩と敦と美柑ぐらいだろう。

『当たり前です!ララ様はデビルーク星のプリンセス!それが公になればララ様にどのような危険が降りかかるか分かりません!』

「いくらなんでもそんなこと言ったら軽率ってレベルを振り切るだろうよ。ところでララの制服はお前の力かロボ」

「そうだよ!ペケが制服にチェンジしてるの♪」

それって今まさに危険が目の前じゃねえか。授業中にエネルギー切れとかやめろよ?

『リト殿が頼れるかどうかまだ判断に困りますからね。頼みますよホント』

その前に制服を貰ってから転校して来いよお前。

「大丈夫だよペケ!リトはいざって時に頼りになるんだから!」

そのいざっていう時が頻繁にこられても俺が困る訳なのだが。
まあ学校に来てしまったんだ、これだけは言っておこう。

「早く友達作れよー?学校は人脈を作る能力を養う所でもあるんだしな」

俺も部活に入らなければ敦と猿山その他少しぐらいしか人脈なかっただろう。
人脈を作るには部活なり生徒会なり何かしら参加した方が絶対にいい。
ララは今、転入生と言う肩書きがあるから人が集まっているが美人など三日で飽きるという格言があるとおり彼女も何か行動しないと飽きられるのも早いと思う。
まあ友人をララが作ることで俺の負担も減れば万々歳なんですけどね。

「うん!たくさんお友達をつくるよ!」

ララは笑顔でそう言うが本当に大丈夫なのだろうか?


放課後、骨川先生の指示で西連寺がララに学校の部活の案内をするようで今まさに案内中なのだろう。
俺はララを西連寺に任せて部室に来ていた。

「今日は何するんだ?光太郎」

「うむ、その前に聞いてくれ。今日の昼の生徒会の集まりで風紀委員会の方から陳情があってな?ピアスをしている生徒が増えているので生徒会及び教員から注意を喚起してほしいとのことだ。この高校はある程度髪型は自由だがあくまで学生らしい格好をしろと校則にも明記されている。校長にも確認済だよ?あの変態親父は『此処はあくまで学校であってお洒落は最低限しか認めない。学生らしい姿がまたそそるんじゃないか』とか言ってた。つまりピアスは校則で認められていない。何故かリーゼントとかは認められているが長さ指定あるしな」

「普通にしてる分には全く緩い校則だよなそれ」

「そうだ隆弘。この高校の校則は緩めだ。だがあくまで緩めなだけでありなんでもありという訳じゃないからな。違反している奴にはちゃんと勧告してやらないといけない」

そもそも完全に緩いなら風紀委員会など機能していない。
この高校の風紀委員会は生徒会の指導の下、きちんと活動しているのだ。
彼らの報告の結果、生徒会から声明を出していたりしている。
まあ、その当の生徒会の副会長が風紀委員会に目をつけられたりしているのだが。
だが信じられないことにこの部活の面々は一応常識は弁えている為、外見で注意されたことは一度も無い。
神谷先輩の額に撒いているバンダナは校則違反ではないので注意されない。というか彼のバンダナはハンカチ扱いである。

「そういう訳で皆、悪いが今日は俺の点数稼ぎに付き合ってくれ」

この人にご飯を奢って貰いまくっている俺たちにこのお願いを断る道などある筈もない。
この前のファーストフード店の御代も全て先輩持ちであるのだ。しかもこの人、ララとザスティンの分まで払ったのだ。
彼曰く『金持ちが金を使わなければ国は潤わんだろう』だそうだ。敦がなら高級料亭行こうぜと言ったら先輩達が3年になったら連れて行ってやるとか言ってた。
神谷先輩が言うには一年の頃には今の生徒会会長と掛け持ち部員含め五人で回らない寿司の店でたらふく食べたのにその代金を現金で普通に払った高校生なんて初めて見たらしい。なおその代金を見た現会長は卒倒しかけたらしい。
・・・この人どんだけ金持ってるのと俺たちは清水先輩に聞いた事があるが、彼の答えはこうだった。

『東京とか書いてるけど千葉にある某有名遊園地を全部買い取っても平気なレベル』

明らかにこの学校にいる事が不思議すぎるレベルだった。桐生財閥パネエ!
だが娯楽を愛する桐生先輩にその真偽を尋ねた時、

『夢は金では買えないしな』

どうやら桐生財閥は俺たちから夢を奪うつもりは微塵もないらしい。
というか先輩は夢の国よりハウ●テンボスの方が好きらしい。じゃあ経済支援してやれよ!?
更に言えば桃●郎ランドが本当にあったら買ってるとか言ってたこともある。
そこまで来ると桐生財閥が何処までのレベルの金持ちかなど俺たち凡民には分かりようもない。
なお、余談になるが俺や敦が被験体となった人のステータスがわかる機械をあの先輩が使った際、こうなった。


『キリュウ コウタロウさんのステータス】


『体調』:315 『文系』:801 『理系』:765

『芸術』:826 『運動』:753 『雑学』:961

『容姿』:193 『根性』:881 『心労』:050


『一言:コ●ミコマンド乙・・・ってえ?これ天然?チートwwwww』


人類が不平等である事を再認識したし、人間頭良すぎると馬鹿も普通に出来るという事をここで確信した。
というかPCがチート扱いする人間ってアンタは本当に人間か!?
あと桐生先輩が仮面●イダーイクサを何となく好きな理由が何となくわかった。
・・・とすればこのお方を押さえつける事が出来てる現会長って何者だよオイ。
先輩方に憧憬の念を抱くのはこの辺にして今日はピアスをしている校則違反者に警告するだけらしい。
罰則を与えるのは風紀委員やら教員の仕事だモンな。
その人物は野球部にいるらしく、俺たちは野球部のグラウンドに向かった。


一方その頃、ララは春菜に各部活を案内されている途中であった。
梨斗に懐いているといった表現が似合うこのララという少女が春菜は物凄く気になる。
あの尻尾は一体なんだ?外国で流行っているアクセサリーか?

「此処が科学部よ」

「へえー」

しかしクラス委員として部活の案内はちゃんとやらなきゃいけない。
それに上手く行けば部活動中の梨斗に会えるかも知れない。
春菜はテニス部である為、部活動中の梨斗は知らないのだ。
中学時代の梨斗はサッカー部なので見守る事も出来たのだが・・・やはりあの事件以降団体競技を信じられなくなったのだろうか(違います)?

「ねえ、春菜!」

「は、はいっ?」

思わず声が裏返ってしまった。
ララはもう自分を下の名前で呼び捨てしているが、まあ外国では普通なのだろう。

「学校って楽しいね~。同じ場所に皆で集まってワイワイ騒いで!やっぱり来てよかった!」

いかにも今まで学校に行ってはないような発言だが無理もない。
彼女はデビルークの王女。学校など行かずとも教育係がいるのである。
まあそんなことなど春菜は知る由はないのだが。
次は運動部を紹介する為に二人は渡り廊下を歩く。
その時唐突にララが春菜に尋ねた。

「ねぇ、春菜は好きな人って・・・いる?」

「ふへっ!?な、何いきなり!?」

「あはは、私ね、最近生まれて初めて好きな人が出来たの。好きな人ができるととっても不思議な気分になるんだね・・・胸がドキドキしてるんだ」

恐らくその好きな人と言うのは梨斗のことだろうと春菜は思うのだが、当の梨斗はララとは「そういう関係じゃない」と断言している。
女性の自分から見ても魅力的なララに対してそれはないと言いたいのだが梨斗の気持ちは彼しか分からない。
こんな美人の娘でも片思いなのかと思うと世の中は上手くは行かないんだなと思う。いや、行ってもらったら自分は失恋決定なのだが。
渡り廊下からはグラウンドで部活をしている生徒達が見える。
ララは興味深げにそれを眺めていた。
その中でも特に目立っていた野球部にララは注目した。
尚、サッカー部は本日は別の場所で練習、ラグビー部も同様である。陸上部も同様である。
今日は野球部がグラウンドを使える日なのが彼らの幸運であったのだ。

「春菜!アレは何をやっているの?」

「あれは野球部ね」

「へ~・・・ねーねー!私にもやらせてよー!」

「ってちょっとララさん!?ルールわかってるの!?」

野球部が練習するグラウンドに乱入するララ。
突然の美少女の登場にざわめく野球部。

「おい見ろよあのコ!」

「噂の美少女転校生じゃないか!野球やりたいのか?ソフトじゃなくて?」

当然練習の手が止まるのが大半だがその隙を狙って影で貪欲に素振りをする生真面目な一年部員も無論いる。
だが今の野球部レギュラーには残念ながらそういったハングリー精神を持った者はごく僅かしかいなかった。

「ほう・・・おもしれーじゃねえか」

髪を染めピアスもしているこの男。
こんな身なりではあるが実力はある野球部ピッチャーの弄光泰三である。

「折角野球に興味を持ったんだ。ここは野球部エースの俺が相手をしてやるぜ」

野球部エースはあくまで彼の自称である。
お調子者の彼に呆れながらも周りは手加減してやれよーと野次を飛ばしている。
一方のララは捕手から簡単な説明を受けている。

「これであの球をはね返せば勝ちなのね?よーし!」

「ほほっ!コイツは上玉だな。怪我しないようにしないとな。それっ」

弄光はまずは軽く投げた。とはいっても球速は100近いのだが。

「ほっ」

しかしララはその球を軽くはね返した。
球はぐんぐん伸びていき・・・そして星になった。

「やったー!勝った勝ったー!」

唖然となる野球部と春菜。
弄光は動揺を隠すように帽子を被りなおしていた。

「や、やるじゃねえか・・・なかなかのモンだなお前!気にいったぜ。お前、俺の彼女にしてやる」

物凄い上からの口説きぶりだが正直勝負に負けてそれはないだろう。

「え?やだ」

「あー!?やっぱり振られたー!!」

「いや・・・あんな口説き方は幾らなんでもねーよ」

弄光の女房役の捕手は呆れたように言う。
弄光は焦ったように大声で言った。

「な、なら俺と勝負しろ!一球勝負で俺の本気球を打てなければ彼女になってもらう!」

「流石弄光先輩!一方的すぎな上に自分の土俵で勝負という姑息な手段に出たー!」

「投手に有利すぎだろうそれ」

「勝負?もう一回やるの?いいよ、負けないし」

「受けんのかよ!?」

捕手はララにも呆れたように首を振った。
どうやら野球部は彼で持っているようである。

『ララ様!これ以上目立つのは駄目です!』

「あ、そうだね。でもそれだと逃げるようで嫌だなぁ」

妙な所で負けず嫌いな少女である。
その時だった。いきなり高笑いがグラウンドに響いた。

「フフフフ・・・そのような手段で彼女を得ようなどとは・・・笑止なり、弄光!」

「何だと!?誰だ!」

「誰だだと?弄光!俺の声を忘れたか!!」

「ああ!?フェンスに上ったはいいけど立ち上がるのは危険すぎるからそのままバル●グのように金網にしがみ付いているあのお方はー!!」

朝礼台に立ってマイクを持っているのは隆弘である。
すぐ側には猿山と大介がいた。
フェンスをガシャガシャいわせながらそのまま降りてくる男は生徒会副会長、桐生光太郎である。うん、非常に格好悪い。

「何のようだお前!俺はこれから人生の転換期を迎えようとしているんだぞ!」

「ぬぁにが人生の転換期だナンパの反面教師め。弄光。仮にも女性相手に一球勝負とか男として恥ずかしいと思わんのか?いや恥ずかしいね!そんな恥ずかしい貴様が色気づいてピアスをした所で近づいてくるのは女ではなく校則違反を取り締まる側の俺だったという訳だ。色気づく暇があったら野球に邁進して甲子園に行けば?まかり間違ってモテるかもなぁ?」

「バ、馬鹿にしやがって!将来プロ確実の俺に舐めた口を!」

「お笑い野球のプロは確実であろうなあ?プロ野球を舐めてんじゃねえぞ弄光。未来に夢を与える職業に貴様のような欲望丸出しの人間が大成するほどプロは甘くはない」

「おのれ光太郎!ならば俺の本気球を受けて見やがれ!打席に立てや!!」

「よかろう!ちょっとすまないが誰かバットを貸してくれ。あ、有難う」

光太郎はバットを貸した一年に礼を言い、打席に立った。
その際、捕手である生徒は光太郎に囁いた。

「どういうつもりだよ副会長。アイツにプロのスカウトが会いにきたのは本当なんだぜ?」

「ああ、知ってるさ。俺も弄光が真摯に部活に取り組んでいればこの一球勝負勝てるかは分からんよ」

「・・・・・・」

「だがスカウトが尋ねてきたぐらいで向上心を失いナンパに夢中な野球部員なら話は別だ。尚且つ奴はウチと掛け持ちしている身。部長として喝も入れに来た」

「何をゴチャゴチャ言ってやがる!いくぞ!」

「来い!」

「喰らえ、弄光ボール!!」

高校生にしては結構な速球が弄光から投げられた。
このボールの存在が彼をスカウトの目に止まらせたものなのだ。
ぐんぐんと伸びるボールの速さを見極め、光太郎はプッシュバントした。

「何ィ!?バントだと!?」

ボールは結構な速さで三塁線を転がっていく。無駄に絶妙であった。
弄光はその時気付いた。皆見学ムードで守備が機能していない!!
その時既に光太郎は二塁を蹴っていた。

「おい!早くボールを戻せ!」

弄光は外野にいる後輩にボールを取る様に指示した。
すぐさま返球が来るがとき既に遅し。

「ホームインだ」

記録はバントでホームランである。
弄光はマウンドに膝をつき拳を叩きつけた。
だが一人にホームランを打たれたぐらいがなんだと言うのか?

『二番バッター、清水君』

マイクを変わった猿山がアナウンスする。
打席にはすでに笑顔の大介が予告ホームランの体勢に入っていた。
弄光はだからこいつ等は嫌いだと思いながら投げたが大介はまさかのフォアボールを選ぶ。

『三番バッター、結城君』

同じく猿山のアナウンス。
此処で噂の美少女、ララと一緒に住んでいるという少年が登場した。

「・・・やたら目つきが悪いな」

「先輩!コイツっすよ!あのコと一緒に住んでる噂の!」

「何!それは許せんな!」

まずはビビらせてみるか・・・
弄光はまず内角高めを狙い投げた。

「おおっと!?」

梨斗は自分の顔の近くに来たボールを慌てて回避した。
・・・っていうか町内野球しかしたこと無い相手に初球それかよ。
情けなく尻餅をついた俺は立ち上がり、早く終わらせたいと思いながらバットを構えた。
弄光がボールを投げる。タイミングが分からんがとりあえず適当に俺は振ってみた。
ガキッ!という鈍い音がした。どうやらバットには当たったようだ。
一塁に向かって走っても中々ボールが来ない。二塁行けるの?そう思って俺はマウンドの方をみたら、マウンド上の弄光は股間を押さえて倒れていた。

後に全てを見ていた人の話を聞くと、俺の打球はマウンド手前でバウンドして上手い具合にな弄光の股間のエースにホームランしたそうだ。
たまにプロ野球でもそういうハプニングがあるので仕方ないね。
なお、倒れている弄光は時折痙攣はしていたが命に別状は御座いませんでした。

「やはりファールカップはスポーツ選手には必要だな」

「そういう感想でいいのか副会長」

『四番バッター、神谷君』

「「「「まだやるのかよ!?」」」」

無慈悲な宣告に野球部はこの日、戦慄するのであった。

「うわ~!リト凄かったなー!あの人倒しちゃった!」

「い・・・痛そう・・・」

無邪気に喜ぶララと冷や汗を流す春菜。
その目の前で隆弘がグロッキー状態の弄光から本塁打を打っていた。まさに鬼である。
この出来事以降野球部は、割と真面目に練習をするようになった事は言うまでもない。

この冗談のような光景を冷たい目で見つめる者がいた。
テニス部顧問の佐清ははしゃいでいるララを視界におさめ、軽く舌なめずりをした。

「佐清先生ー!素振りみてくださーい!」

女子生徒に呼ばれた佐清は微笑を浮かべて女子生徒のほうに歩いていく。
だが、その目にはいつまでもララが映っているのであった。


※【運動が2上がった。心労が6上がって4下がった!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:103(±0)  『文系』:057(±0) 『理系』:061(±0)

『芸術』:029(±0)  『運動』:094(2↑) 『雑学』:082(±0)

『容姿』:050(±0)  『根性』:056(±0) 『心労』:078(2↑)


【一言:だから運動もいいけど勉強もしろって】


(此処まできたら続く)



[22408] 6話目 しごとどうぐ は ぶきとして つかわない つかえない
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/18 01:24
面倒な事は重なるモンだとよくいうものである。
宇宙人のララも絶賛の美柑のシジミ汁を飲みながら改めて今日の夕方ザスティンに呼ばれた事を思い出す。
自宅から少し離れた雑木林に来た俺だったが、そこで起こった話である。

「学校でのララ様はどうだ、リト」

「んあ?急に転入してきたから今は注目の的だよ。御陰様でしわ寄せは俺に来てるけどな」

「なるほど・・・あまり注目されるのも好ましくはないんだがな」

「すぐに沈静化すると思うよ、こういうのは」

美人は三日で見飽きると言うしララが今のように過度に注目されるのは程なくして治まるだろう。
ララの家臣のような存在のザスティンとしては未知の土地で姫がどう過ごしているのか心配で仕方ないのだろう。

「それだけで呼んだのか?」

「それもあるがね。本題は違う。リト、君の事をデビルーク王に話したら本人直々のメッセージを受け取った」

「・・・何か銀河統一した凄い人ってらしいけど一体何を話したんだよ」

「・・・んー・・・まあネガティブな事は伝えていないつもりだ。それではこのクリスタルにメッセージを保存してあるから心して聞いてくれ」

ザスティンが俺のことをどう伝えたのかは知らないが出来るだけ悪い印象は抱かれていなかったらいいな。
いやね、別にララと結婚とかの話は別としてさ、親としては見知らぬ男に娘を預けるとか不安だろう。
今からでもいいからさ、考え直して家族会議とかするなりしろよ。
ザスティンが所持していた菱形のクリスタルが光り出し、そこから音声が流れ出した。

『・・・よォ、結城梨斗。お前のことはザスティンから聞いているぜ。ララが世話になっているようだな?』

声だけならば威厳たっぷりだがいささかフランクのような気がする。

『いや、最初話を聞いた時は地球人は貧弱らしいが大丈夫なんか?と思ったが何かララがお前を気にいったようだな。やるじゃねえか』

アレは俺の国語力が足りない為の所謂誤解だ。

『ララが気に入った男だ。まあ一応お前もララのフィアンセとして認めておく。その辺は理解しておけ』

婚約者だからと言って絶対結婚しないといけないという事はない訳でと考えても良いんだな!?

『まあ近いうちに直接会う事もあるだろうが、今の俺は忙しい身でなぁ。結婚云々の話はそれが全て終わってからにしようぜ。だが!お前の存在は既に銀河全体に知れ渡ってしまっている。ったく何処から漏れたんだよって感じだが仕方ねぇ。他の婚約者候補はララに一番近しいお前のもとに必ず現れる。お前からララを奪い取る為にな・・・!ララがお前を気に入っている以上お前はそいつらからララを守れ。俺が地球に来た時にララが奪われていなかったら、お前は俺の期待に答えたと見なしてやるよ。だがもしララを奪われた場合はお前の命は地球ごとぶっ潰す・・・!!まあ、脅しすぎかも知れねえが心配すんな。ララの婚約者は必ずしも戦闘に長けた奴らばかりじゃねえからな。というかララを奪いにわざわざ地球にやってくる奴なんざよほどの純情野郎か姑息な三下野郎だろうからな。全くよ、全銀河を統括する王が此処まで忙しいとは思わなかったぜ・・・。賢い奴なら有力候補が現れた時点でさっさと別の嫁とか見つけてるからな。何か凄く強そうな奴に限って王座に興味ないとか言いだすし!畜生ー!これは嫌がらせか!』

いや、俺だって王様なんて重大すぎる責任が伴いそうな役職に就くとか精神的に無理。
つーかそんな純情野郎はともかく三下野郎まで娘の婚約者候補にするなよ!?見境なさすぎじゃねえか!?
あと一度に喋る台詞が長いです王様。

「今の地球破壊のくだりは本当だリト。かつて王の前で無礼な態度をとった者がいたんだが、その者は母星ごと破壊された」

「つまりララが他の結婚相手に奪われたら・・・?」

「地球は消滅するな。美しい星なので勿体無いが」

「消滅するじゃねぇ!?」

「安心しろ。ララ様の御身は私たちも注意を払っておく。王もお前がララ様の家出に巻き込まれただけという事は私から聞いているから、ララ様を守りきっても即結婚させるとは言っていなかったろう?王は未だ地球人には銀河の統治を任せられんとお思いなのかもな」

「そもそも統治したくはないんだが」

「まあ、そうなるとララ様はどうなるって話になるからややこしいのだがな・・・。まあいい。とにかくララ様の事は君に頼む形となる。いいな」

「いいなって・・・選択肢はないじゃねえかよ!?」

そんな訳で一介の高校生である俺は地球の運命を背負う事になる。
おかしいよね?おかしいと思わない?絶対おかしいでしょう?
いやね、親としての王様の気持ちは分からないでもないんよ?娘の安否と幸せは大事だもんな!
だからといって俺に全地球の生命を背負わせるとかふざけてるの?

「・・・うう・・・」

俺なんかに地球の運命を背負わせるなんて本当にどうかしている。
俺は特撮とかアニメに出てくるヒーローなんかじゃない。
地球を背負えるほど心は広くない。
・・・あー、くそ・・・。あまりの事の重大さに頭が追いつかん!
俺は食事の手を止めて立ち上がった。美柑には悪いが今日は食欲がない。

「ごちそーさん・・・」

シジミ汁を飲み干したあと、俺はトンカツの載った皿にサランラップをかけて冷蔵庫に入れた。

「リト?どうしたの?」

「残しちゃうの?美味しいのに・・・」

「ゴメン、ちょいと今日は間食しててな!」

作り笑いを浮かべて俺は二人を心配させまいとする。
だがララは兎も角、美柑は鋭いからな。

「美柑、良かったらララと風呂入ったらどうだ?今後の親交のためにさ。ララもいいよな?」

「うん!」

「・・・リト、本当に大丈夫?何かまた思いつめてない?」

「・・・まさか。それじゃごちそうさん」

梨斗はそう言って、居間を出て行った。
美柑とララはそんな梨斗の様子を見て顔を見合わせるのだった。


カチ・・・カチ・・・という音のみが部屋に響く。
PCの画面にはアニメ絵の女の子が映っている。
そのPCの前ではヘッドホンをつけた敦が無言でマウスを押していた。
二次元の女性たちと過ごすこの時間が、彼にとっては至福の時間の一つであった。
出来る事ならば自分も次元を越え彼女達の居る世界に行きたい気分だがその方法が何時まで経っても解明されない。

「リーダーも次元の壁ぐらい人間の英知を持ってすればどうにかする事が出来るとか言っていたが・・・作る気なのか?」

とは言ってもあの人ならば二次元などではなく四次元に向かいそうなので自分の期待に応えそうにないが。
敦はその時、自分の携帯電話が震えていることに気付いた。
携帯の画面には何故か梨斗ではなく、彼の家から連絡があると表示されていた。

「・・・もしもし?」

『あ、もしもし。敦くん?』

「・・・お?その声は美柑ちゃんじゃん。どうした?」

梨斗の幼馴染という事は当然彼の妹の美柑とも当然交流はある。
美柑はしっかりしているが兄が大好きなので時々学校での兄の様子をこうして敦に聞いたりするのである。
本人に聞ければ一番いいのだが、何分客観的に見た兄の様子も彼女は知っておきたいらしいのである。
このことから敦が美柑を『梨斗の内縁の妻』と認定するのは自然な事であった。
・・・というか一歩間違ったらヤンデレじゃね?まあすごいいい子なのでなっても空鍋程度だろう。

『あの・・・今日リトどうかしたの?何だか元気がなさそうなんだけど・・・夜ご飯も全部食べなかったし・・・』

「ん~?慣れない求婚にびっくりしてるだけじゃないか?リトもガキじゃないんだし慣れたらストレスも適度に発散するさ。明後日は学校休みだろ?一緒に出かけてみたらどうだ?アイツゲーセン放り込んだら勝手にストレス解消してくるぜ?」

『・・・うん、分かったわ。そうしてみる』

「ほいほい。んじゃお兄さんは次元を越える旅に行ってきます」

『・・・程々にしておきなさいよ・・・じゃ』

この程度の連絡などいつもの事なのでもう慣れている。
本当に兄の事になると必死だなあのハイスペック妹。
梨斗の奴がマジで妬ましいんだが。
・・・まあいいや。梨斗も美柑ちゃんも幼馴染だ。
俺は二次元に恋人を求めているが三次元の仲間も大切にしなきゃな。
明日梨斗を誘ってゲーセンかバッティングセンター辺りに行くか・・・。
敦はそう思いながら携帯を机に置いて、再び二次元の恋人と向き合うのであった。
小金丸敦。彼は二次元の愛情と三次元の友情を優先する男である。・・・三次元の愛情は?

※【全ての勉学値が1ずつ上昇した。根性が2上がった。心労が15上がった・・・】
※【梨斗の食欲が減退!『精神性胃痛』に罹ってしまった。心労を減らせば治ります】
※【病気によって体調が10減少!】

『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:093(10↓)  『文系』:058(1↑)  『理系』:062(1↑)

『芸術』:030(1↑)   『運動』:094(±0)  『雑学』:082(±0)

『容姿』:050(±0)   『根性』:058(2↑)  『心労』:093(15↑)


【一言:休め。以上】



翌日。
体育の時間では男子はサッカー、女子は短距離走を行なっていた。
今はララの100mのタイムを計る所である。
タイム計測係の女子が準備を終えてゴール地点で手を上げる。

「それじゃよーい・・・」

号砲を上げる女子が耳を塞いだ直後、号砲が鳴る。

「ほっ!!」

などと言いながら凄まじい速さで走るララはあっという間に100mを走りきる。
唖然としながら計測係の女子はララのタイムを言う。

「ひゃ・・・100m・・・10秒9・・・」

陸上をやっている者ならばご存知であろうが、100m競走女子の世界記録は10秒49である。
更に言えばジュニアの世界記録は10秒88である。アジア記録は10秒79だ。
今、日本の高校でそれに肉薄するタイムが出たわけなのですがどうなんでしょう?
なんだ、地球人の方が速いじゃんと思ってはいけない。
何故ならこれで彼女は力を抑えて走ってるのだ。
女子達は計り間違えたんだと無理やり納得していた。

『ララ様・・・もう少し力を抑えた方が良いようですね』

「う~ん・・・手を抜くって難しいんだねぇ・・・」

困った表情のララを見ながらクラスメイトの籾岡と沢田は冷や汗を垂らしていた。
彼女達は春菜の親友であり、いつも一緒に居る女子である。
当然春菜も一緒にいるのだが・・・。

「あの娘、半端なく凄いと思わない?ねー春菜」

籾岡は春菜に同意を求めるが、返事がない。
どうやら彼女は別の方を見ているようだ。
春菜の視線の先には男子がサッカーをしている所だった。
勿論彼女のお目当ての人物はそこにいた。


結城梨斗は中学までサッカーをしていた。
サッカーは今でも好きである。つまり今回の授業は彼にとって願ってもないストレス発散の場なのだ。
今はA組とC組が試合中である。
ボールがC組のゴール近くで高く上がっている。
そこに走ってくるのは梨斗と猿山である。

「いくぞ!猿山!」

「オウ!」

猿山はそう言うと仰向けに地面をスライディングし始めた。
C組のキーパーにしてサッカー部でもある橘順平は猿山のその行為に首を傾げた。
だが、A組のキーパーの敦は二人が何を狙っているのかが分かったようで呆れたような目である。
梨斗はおもむろにジャンプしてなんと猿山の靴の上に着地し、更にジャンプをした!

「おおっ!?想像以上に足にキタ!?」

足を攣ったのか猿山は足を持って苦しむ。
だがそれを尻目に普通にジャンプするより高く飛翔した梨斗はボールをヘディングした。
順平はそのあまりの一連の行動に見惚れてしまった。
そりゃそうだろう。こんなの普通出来ない。
だがこの技はある世代のサッカー少年がほとんど真似したものなのだ。

「う、美しい・・・はっ!?」

順平が見惚れていた瞬間、ボールはゴールに突き刺さっていた。
ホイッスルの音が響く。

「いよっしゃあああ・・・・・ばわっ!?」

だが、夢の技を成功させた梨斗は着地の事を考えていなかった。
梨斗はそのまま猿山の上に墜落してしまった。

「うわらばっ!?」

倒れていた所に追撃を受け、変な悲鳴をあげる猿山。
二人はそのまま両陣営から盛大な拍手を貰いながら負傷退場してしまう事になった。
・・・これが後に語り草になる『リアル・スカイ●ブハリケーンの奇跡』である。
なお、この後試合はヒールリフトやらごういんなドリブルやら顔面ブロックやら雪崩攻撃やら三角飛びやら明らかに狙いすぎの試合になり何故か没収試合になってしまった。何故だ!?怪我人が続出したからか!?皆すげぇ楽しそうじゃないか!?

※【運動が3上がった。容姿が1上がった。根性が2上がった。心労がなんと12下がった!】
※【胃痛が治まった!】
※【スカイ●ブハリケーンと三角飛びは真似すると危険ですのでよいこのみんなはまねしないでね!】

・・・春菜はサッカーには詳しくはないのだが、梨斗を見守っていたら何だか凄いものを見れた気がする。
なお女子でこの試合を見れたのは春菜と彼女の視線を追っていた春菜の友人二人だけだったのがあまりに勿体無かった。
(念のため言っておくが彩南高校のサッカー部はそんなに強くない。何故だ!?)
春菜は生き生きとサッカーをしている梨斗を見て、自分も元気になっていく気分がした。
そんな彼女に対して籾岡は彼女の小ぶりな胸を後ろから鷲掴みにしながら抱きついた。

「わわっ!?な、何するの里紗!?」

「うふふ~♪相変わらず可愛いオムネねぇ~?最近ボーっとしてるから実に掴みやすいわよ!」

「さては恋煩いか?」

「相手は誰?佐清先生?イケメンだもんね~」

「ち、ちがうよ~・・・」

春菜たちがそんな会話をしている間、男子はとっくに負傷者続出のお笑いサッカーの授業を終えて、多数が保健室に向かっていた。
やがて女子のほうも全ての生徒の短距離走が終わる。
この後は昼休みとのこともあり、イケメンである佐清を昼食に誘う女子もいたのだが、佐清はすまなそうに言った。

「悪いね。今日は大事な用事があるんだ」

そう言った佐清の視線の先には友人達に弄られる春菜の姿があった。
その時ララはいなくなった梨斗を探していた。

「あれ?リトは何処行ったのかな~?」

『先程飛んでましたよ・・・』

ララは試合を見てはいなかったがペケはばっちり見ていた。
というか何故女子達はすぐそこで男子がトンでもサッカーしてるのに気付いてないのか。
佐清がイケメンだからか!?イケメンにしか目がいってないのか!?
・・・まあララがトンでもない記録を叩き出しまくったせいもあるのだが。
ララはあれから11秒フラットくらいのタイムばっかり出していた。
彼女がその日から陸上部からの勧誘を受けたのは言うまでもない。


時間は少々過ぎて彩南高校第二食堂。
頭に包帯を巻いた梨斗と足に湿布貼った猿山と無傷の敦はここで食事をしていた。
彼らと同席するのは娯楽研究部の先輩三人である。
今日のサッカーの話を聞いて、特に光太郎は心底参加したがっていた。

「ええい!何で二年男子はこの時期は長距離走なんだ!」

「夏になったらラグビーだってよ。サッカーは冬って噂だぜ」

「二年の水泳は女子だけってズルイよねぇ・・・」

先輩方も体育における男子の扱いに若干の不満があるようである。
というか長距離走は普通秋から冬にかけてやるもんじゃないのか?
先輩方に聞いたら秋は器械体操のシーズンらしい。よく分からんシーズンを設けている高校だなおい。
なおその時の二年女子はバレーしてるらしい。

「ところで梨斗」

「どした?」

敦がししゃもを食べながら俺に話しかけてきた。

「今日ゲーセン行こうぜ」

「え?」

突然の提案に俺は美柑特製の弁当を喉に詰まらせそうになる。
先輩方は突然の敦の発言を興味深げに聞くようだ。

「なんだよ急に?今日何かあるのか?」

「よくぞ聞いてくれた。今日こそ貴様の操る●ャギを屠るのだ。俺のレ●がな!」

「・・・負け越しは認めんという事だな。いいぜ敦。放課後お前に生き地獄を見せてやる」

「・・・ふむ、どうやら今日の部活の活動場所は決まったな」

桐生先輩は目を光らせて俺たちに言う。

「北●の拳はこの前やったけど・・・まあ梨斗君いなかったしね。入部歓迎会の屈辱、晴らさせてもらうよ。僕の●ダがね」

「何で●キで負けたんだろうな、俺・・・でも今度こそ!」

「前回の出来事は偶然に過ぎん事をこの俺のサ●ザーで証明してくれるわ、フハハハハ!!」

「覚悟しろよ汚物使い!俺の●オウが現実を教えてやんよ!兄より優れた弟など存在しねえ!」

敦が、清水先輩が、猿山が、桐生先輩が、そして神谷先輩が次々と俺に宣戦布告してくる。
・・・騒がしい人たちだが俺には分かる。
気を遣ってくれてるんだろうな、多分。・・・しっかりしないとな、俺も。
外に分かるぐらい俺は参ってるように見えてしまってたのか。駄目だなおい。
部活仲間たちの気遣いにしんみりしそうになったその時、俺の携帯が鳴った。
俺は先輩達に断りを入れてから電話に出た。
番号は・・・未登録の奴から?誰だ?

「もしもし・・・?」

『・・・やあ、結城リト君』

この声には聞き覚えがある。女子に人気の若きテニス部顧問の佐清だ。
何で俺の番号を・・・?いやその前にララが何かやったんですか?

『デビルーク星の姫君の事で話がある・・・今すぐ会えるかな?』

・・・ちょっと待て。
どうしてコイツがララの素性を知っているんだ。

『断るなら・・・同じクラスの女が一人・・・大変な事になるかもなぁ?』

「クラスメイトだと?」

俺の様子に桐生先輩と敦と猿山が反応したように見えた。

『そう・・・西連寺春菜・・・君とララのクラスメイトだ。君が此方の要求に応じなければ彼女は酷い目に遭う事になる・・・場所はテニス部部室だ。いいな?待っているよ結城リト・・・』

携帯の画面には何かによって縛られている様子の春菜の姿が映る。
梨斗は静かに携帯を閉じて、深く、深く息を吐いた。
自分の手が震えているのが分かる。心臓の鼓動が聞こえる。

※【心労が4上がった】

「どうした梨斗」

桐生先輩が真剣とも穏やかともとれる表情で俺に聞く。
清水先輩も神谷先輩も食事の手を止めて俺を見ている。
猿山も心配しているような表情で俺を見ている。でもメシの手は止めてないのがムカつく。
敦に至っては普通にプリンを食べていた。
妙にピリピリした空気の中、何とも暢気で明るい声が聞こえた。

「あ、リトみーっけ!」

ニコニコしながら俺に手を振るララ。
・・・待てよ結城梨斗。此処でララを怒鳴りつけるのは絶対間違っている。
確かに彼女と出会わなければこのような思いはしなくて良かったのかもしれない。
だが、この事で彼女にキレるのは間違ってると思う。
俺は苛立ちを抑えながら近づいてきたララの肩を持って言った。

「ララ」

「・・・?なに?」

「お前は此処の皆とお喋りしててくれ。いいね」

「・・・え?何で?」

「ちょっと俺、今からトイレ行くんだ!相手なら終わったあとするからさ!」

「おい食事中に汚いだろ!?」

神谷先輩が呆れたように言う。
俺の視線は桐生先輩に向く。

「・・・ま、踏ん張り過ぎないようにな。切れると悲惨だ」

「お前も汚いんだよ!?」

「・・・はい。じゃ、いってきまーす」

こうして俺は走ってテニス部の部室に向かった。
唇を噛み締めたせいだろうか?えらく口の中は鉄の味がする。

※【心労が4上がった】

テニス部の部室では天井から生えた謎のワームの触手(?)によって身体を拘束されて気絶している春菜を見ながら佐清は舌なめずりをしていた。

「それにしてもララに劣らずこの娘も中々なものだな・・・」

佐清が手にしていたスイッチを押すと、ワームの拘束がきつくなる。
それによって春菜の身体をワームが更に這い回る事になり彼女の体操服の隙間から触手が入り込んだり、股間に食いこんだり非常に不味い事になっている。
佐清はそれを見て下衆な笑いを浮かべる。

「キヒヒ・・・」

おおよそ教師とは思えぬ性犯罪ぶりである。
そして更に触手が春菜の体操服の下から侵入しようとしたその時だった。
部室のドアが静かに開かれた。
佐清が振り向くと、そこには呼び出した男が立っていた。

「中々早かったな、結城リト。もう少し遅ければ更に楽しい事になっていたのにな?」

「佐清・・・随分堂々と教師にあるまじき行為をしてるな」

「ククク・・・」

「何がおかしいんだよ」

「俺はそんなチンケな地球人の名前じゃねえ!はぁぁぁぁ!!」

「は!?」

梨斗は突如気合を入れた佐清の姿が変わっていくのを見て思わず進めようとした足を止めた。
そりゃぁ人間の姿がいきなり変わり始めたら動揺はする。
姿を変えた佐清の姿は明らかに人間ではなくどちらかと言えば爬虫類の顔みたいだった。
っていうか舌長い!耳でかい!早い話がキモい!!

「迂闊に近づくなよ?この女を無傷で解放したいならなぁ・・・地球人は同族を大事にするんだろう?キヒヒヒヒ・・・」

「・・・何の冗談だよ・・・」

※【心労が5上がった】

「所謂擬態って奴さ。俺は佐清の姿を借りていただけだ・・・全くヒト型に化けるのは疲れるぜ・・・俺の名はギ・ブリー。単刀直入に言うぜ結城リト。ララから手を引け」

そりゃあ手を引けるモンなら引くとも。
おお引いてやるともさ。だが現実引いたら地球は終わりである。

「ララと結婚しデビルーク王の後継者となるのはこの俺だ。お前なんかじゃねぇ・・・。応じなきゃこの女は無事じゃすまねぇぜ?まあ・・・それもアリかもなぁ・・・」

ギ・ブリーと名乗る宇宙人はそう言って手に持ったスイッチのようなものを押す。
その瞬間春菜を拘束していた触手が、彼女の体操着を破き、春菜の白い肌が露になってしまった。
・・・っておいおいおい!?何気にブラジャーも外れそうじゃねえか!?

「お次はもっと大変な事になるぜ?さぁ言いやがれ!ララから手を引くと!」

「お前にとってララは何だよ?」

「あ?」

「あ?じゃないよ。お前にとってララは何だって言っている」

まだ出会ってそんなに時は経ってはいないがララは悪い奴ではないことくらいは俺は分かる。
その彼女がクラスメイトをこのような状態にされて黙っているとは思えない。
更に言えばその加害者と結婚したいなんて思うわけがない。

『ララを奪いにわざわざ地球にやってくる奴なんざよほどの純情野郎か姑息な三下野郎だろうからな』

成る程ね。これがララの婚約者候補ってヤツか。
王様よ、いくらなんでもアンタ娘の婚約者候補はちゃんと吟味すべきだぜ。

「あーん?何言ってやがるお前?ララは俺と結婚する女だ。ヤツは性格はガキだが容姿は俺好み!更に結婚すればデビルークの王座と支配している銀河は俺のものだ。こんなチャンス誰が見逃すってンだ?性格だって教育して俺好みにすりゃあいいしなァ!!」

「・・・つまりララはお前にとって立身出世の道具のような存在か」

「ハッハッハ!そんな言い方されたら俺がまるで悪人のようじゃねえか!さァ分かったなら言えよ!ララから手を引くってな!俺は気が長くないんだぜ?」

ギ・ブリーから決断を迫られる梨斗は気を失っている春菜をちらりと見た。
先日、彼女が何故自分を擁護する側についた理由を聞けた。
信じている・・・だってさ。全然話したことないのに行動を見て判断したんだぜこの娘。
慕われる筈だよホント。悪い噂聞かないもんこの娘。俺やら敦は沢山あるけど。
そんな模範生徒の彼女がこのような目に遭うのは俺のせいだみたいな目で見やがってこのキモ宇宙人。
ララから手を引けば地球は終わる。手を引かなければ無関係の生徒が汚されると。ある意味人生終わるのか?
色んな運命が俺の選択にかかってるとでも言いたいのかよ・・・ふざけんな・・・。

※【心労が10上がった】

――――プッツリ・・・。
何かが切れ始める音が聞こえた気がした。


一方、その頃の第二食堂ではララが先程まで梨斗が座っていたところに座って昼食を摂っていた。

「リト、遅いな~・・・」

他の面々と違いこの娯楽研究部でララの美貌に当てられてるのは猿山のみである。
他はいつも通りの状態でララに部での梨斗の事を話していた。

「しかしララちゃんはえらく梨斗に懐いてるんだなァ」

「うん、好きだもん。頼れるし優しいし!」

「どストレートに好きと言ったなァ、おい」

「リトは幸せ者という自覚が欲しいですね!」

猿山が若干怒ったように言う。
彼も分かっているのだ。別に梨斗は不幸ぶってなんかいない。
振り回されて、遊んで、馬鹿やって、振り回されて・・・落ち込んでは立ち直っての繰り返しである。
だがここ最近は彼の周りの環境が変わりすぎた。
ララという美少女に求婚されているのは羨ましくて仕方ないが・・・。

「・・・ま、あまり梨斗には押しが強すぎても引かれるかもな」

敦は今まで心労を溜める人生は送っていない。
何故なら二次元ですぐに発散するからだ。
両親もいるし別に不自由もしていない。
だが梨斗の両親は家にいつもいるわけではない。
美柑が寂しがらないように梨斗は小さな頃から人のことを考える生活をしてきたのだ。
・・・まあその結果その妹が内縁の妻状態になったのは計算外だが。

「・・・優しい・・か」

美柑が生まれてから殴り合いの喧嘩はした事はない。
口喧嘩なら数え切れないほどあるのだが。
サッカーと出会い、梨斗はストレスを発散できる術を見つけていた。
今日の梨斗はサッカーを大いに楽しんでいたじゃないか。
辞めてもしばらくは不満を言いながらも上手くやれていたじゃないか。
ララとも多分上手くやっていくはずだろうとは思う。
・・・だけど、だけどだ。たまには本気で怒ってもいいだろうと思うんだがなァ・・・。

と、梨斗の心労の要因総合一位の男は思うのであった。


恐らく時間は全く経ってはないと思うが、俺にとってはえらく時間が流れた気がした。
決断を迫られた俺は妙にクリアになった気分だった。

「おい、さっさと言えよ!」

「分かったよ・・・」

目の前のキモエイリアンは勝ち誇ったように哂う。
その哂いも更にキモい。嗚呼・・・キモい気持ち悪い。
何でこんな決断をしなきゃいけないんだよ。地球の運命とか握りたくねぇよ。

「さあ!言え!!」

「断る」

「・・・は?今、何て言った?」

「断るって言ったんだよ」

「は、はァ!?テメエ立場分かってンのか!?お前が断ればこの女は・・・」

「知らん」

「・・・へ!?」

「人質の価値は交渉において有利になる為に取るものだ。だけどな・・・それはその人質を助けるという前提の下での話さ・・・つまり・・・助けるつもりが全くなければ人質を貴様が取ろうが俺には全く関係ないよなァ・・・」

俺は部室内にあったテニスラケットを拾い、ゆっくりとギ・ブリーに近づく。
ギ・ブリーは焦ったように俺に言う。

「ち、地球人は同族を大事にするんじゃねえのかよ!?」

「時と場合によるよね」

「く・・・どうしてもやる気か!ならば!!」

ギ・ブリーは突然またもや気合を入れ始めた。
するとその身体が膨れ上がり、筋骨隆々の身体になった。
身体の大きさも2倍ぐらいになっている。

「どうだ・・・!この姿を見てもまだ断ると言うか?」

だが梨斗は歩みを止めない。

「と、止まれ!止まらんとこの女は・・・」

ギ・ブリーは春菜の身体を掴むが梨斗の歩みは止まらない。
それどころかラケットを握る手に力を込める。

「や、やめておけ!今の俺は地球人の100倍のパワーがあるんだぜ・・・!?」

しかしそれでも梨斗の歩みは止まらない。
ゆっくりとゆ~っくりと梨斗はラケットの素振りをしている。

「まだ分からないか・・・!ならばこれでどうだ!!ぬうううん!!」

ギ・ブリーの身体が更に膨れ上がった。
その外見はまさに筋肉達磨である。

「うはははーーー!!どうだギ・ブリー様の超本気モード!これなら怖くて手も足も・・・」

その時、梨斗は既にラケットを構え、今にも振りかざしそうであった。

「え!?ちょっと、マジかお前!??」

「マジだよ?」

梨斗はラケットを振り上げた。
ギ・ブリーはそれを見て思わず叫んでしまった。

「ひい!?ゴ、ゴメンなさーーーい!!」

その瞬間、梨斗の動きが止まった。
ギ・ブリーは我に返り、今の自分の発言を思い返した。

「・・・今、何て言った?」

「え・・・え!?」

ギ・ブリーは誤魔化すように仁王立ちして言った。

「ゴ、ゴメンなさいと言っても、もう許してやらんぞ!と言ったのだ!」

誤魔化せたか?とギ・ブリーは梨斗を見れば彼は満面の笑みを浮かべていた。

「そうか、そりゃ怖いな!」

そしてギ・ブリーの腹部に容赦なく蹴りを叩き込んだ。

「ぼふぁっ!!??」

筋肉によって止められるかと思ったがギ・ブリーは呆気なく俺の蹴りによって虫がつぶれたような悲鳴をあげて吹っ飛び、ロッカーに身体を打ちつけた後、ロッカーの上に乗せてあったボールやラケットなどの下敷きになってしまった。
その瓦礫(?)の中からギ・ブリーの手が見えていたが徐々に萎んでいき、ついにはひ弱で小柄な姿の宇宙人が虫の息で倒れているのが確認された。
・・・・・・擬態とか言ってたからあの筋肉増強もそうかなとは思っていた。第一パワーアップして怖がらせるなら何かを壊さないと。コイツ何も壊してないしな。・・・ここまで弱すぎとは思わなかったが。まあ人質取る時点でそんなに腕力ないとは思ったが。
俺は携帯電話を取り出し、桐生先輩に電話した。

『もしもし?』

「あ、リーダーですか?ララそこに居ます?」

『いるぞ』

「じゃあ、替わってくれませんか?」

『いいぞ。それよりだ梨斗』

「はい?」

『スッキリしたか?』

「はい、快便でしたよ」

『そうか。便秘は治ったようだな。じゃ、ララちゃんに替わるぞ』

「はい」

『もしもし~?リトなの?何処に居るの?』

「はいはい、今から場所言うから来いよ」

俺はララにテニス部の部室前で待ってると伝え、ララはすぐに行くと言って無邪気に喜んでいた。
それから分かった事はこの弱そうな宇宙人はバルケ星人という種族でやはりララの婚約者候補だった事、ララはやっぱりコイツが嫌いだった事・・・。
まあララのじゃーじゃーワープ君などという洋式便所のようなメカでギ・ブリーが地球外追放になったことは喜ばしいことだ。
・・・拘束されている西連寺の触手を外す為に身体を支えると知らされた時は流石に少し抵抗したが何時までもこのような格好じゃどうだしな。
それからペケが西連寺の服を修理した後、ララと一緒に西連寺を連れて行き、ララを彼女に付き添わせ俺は授業に向かいましたとさ。
・・・最近運動ばっかり伸びている気がするから勉強しなきゃ・・・。
俺はスッキリとした気分で授業に向かうのであった。


初めは悪夢を見ていた気がするのだが最後は凄くいい夢になった気分に襲われながら西連寺春菜は目覚めた。

「あ、目が覚めた?春菜」

「え?ラ、ララさん?ここは・・・保健室?どうして・・・?」

外はもう夕方になっていた。
時計は既に5時を過ぎている。・・・何?一体どうして自分はここにいるんだ?

「春菜、テニス部の部室の近くで倒れてたんだよ。貧血ってヤツだって!」

「貧血・・・?」

生まれてこの方貧血になるような生活はしていないつもりだが現にこうして保健室にいるという事は自分は本当に意識を失っていたのか。

「それにしても良かったー・・・春菜が無事で・・・」

「ララさんが私を見つけてくれたの?」

「ううん、私はただの付き添いだよ!春菜を助けてここまで運んだのはリトだよ」

「・・・え・・・・・・?」

春菜は自分の心臓の鼓動が跳ね上がった気がした。


一方その頃、梨斗はといえば部活動の真っ最中であった。
ゲームセンターに設置してある対戦台では現在梨斗と光太郎が対戦中であった。
だが、その戦いは今まさに聖帝がガソリンの炎に焼き尽くされる光景と共に終わりを迎えていた。

「げ・・・解せん・・・」

などと言いながら光太郎は連コインをしようとするがその手を隆弘が止める。

「次は俺の番だ!梨斗、聖帝の次は覇王だ!」

だがその一分後、隆弘愛用の覇王はガソリンの炎に包まれた。
そんな悪魔が微笑むゲーセンで梨斗は今日もストレスを発散していくのである。


その頃、ザスティンたちがいる宇宙船ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
現場である大浴場にきたザスティンは浴場の光景を見て眉を顰めた。

「・・・いつから浴場は触手蠢く魔境になったのだ?」

大浴場はララの発明品で送られてきた触手で埋め尽くされ、その中に気絶したギ・ブリーが振り回されていた。

「・・・これでは風呂に入れん・・・」

「ザスティン様!朗報です!地球には共同浴場が存在します!」

「何!でかした!では早速地球に私は下りる!」

「はっ!」

だが勢い勇んで行ったはいいがザスティンはその共同浴場の場所を聞くのを忘れていた。
その結果彼は地球に降りてずっと世話になっている交番にまたもお世話になった。
更に念願かなって『銭湯』に着いた彼だが、到着時間が遅すぎて銭湯は何処も閉まっていた。
こうして彼は本日、風呂に入ることなく過ごしたのである。
一日ぐらい入らなくてもいいじゃん。


※【体調が6下がった。文系が2上がった。理系が3上がった!芸術が1上がった!運動が4上がった!雑学が2上がった!容姿が1上がった!根性が6上がった!心労が一気に100下がった!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:087(6↓)  『文系』:060(2↑)  『理系』:065(3↑)

『芸術』:031(1↑)   『運動』:101(7↑)  『雑学』:084(2↑)

『容姿』:052(2↑)   『根性』:066(8↑)  『心労』:004(89↓)


【一言:貴様に足りぬのは全体的に美しさ】


(続く)




[22408] 7話目 そのご ペンギンは すたっふが おいしく(自主規制
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/20 19:37
日曜日である。
なんだか人生の中でも特に濃い一週間だったのでここらで一日ずっと休みたい気分だったのだが、ララの服を買うのと地球見学に同行することになった。
・・・ええ、ララの今着てる服はあの恥ずかしいドレスですよ?

「やっぱり目立つなその格好」

「え~・・・この格好が一番しっくり来るんだけど・・・」

「ララさんが何事もなく地球見物したいなら、その格好はちょっと人の注目を集めすぎるね」

まあそれじゃあ困るから今日は街に出てきたのだが・・・。
というかおいコスチュームロボ!ララが目立たないようにお前も考慮しとけよ・・・・・・。

『今までララ様の美しさに見惚れているものと思い全く考慮していませんでした』

「あのな・・・こんな格好で街を闊歩しているヤツはそうはいないんだよ」

デビルーク星というかララ達からすればこれが正装なのだろうがここ日本では他国の民族衣装どころか何らかのコスプレして歩いてるようにしか見えない。
というか視界に入る警察官の方が職務質問しようかどうか悩んでいるようなのですが?いやいや格好は確かに怪しいが職務質問されても学生ですとしか言えませんぜダンナ。

「とりあえずその辺り歩いている人から選んでお前が変身してやればいいだろロボ」

『簡単に言いますが私も地球にきたばかりでどの服装がこの星の普通なのかわかりませんよ?それにコスチュームチェンジも意外にエネルギーを消費するんです』

「普通ね・・・とりあえず同年代の女が着ているので、ララがいいなァ~と思うのにすればいいじゃん」

それこそ好きに任せていたらスーツとかそういうのになりそうだしな。
ここは条件を限定してやろう。違和感なく買い物がしたいならそれは必要だ。

「美柑、悪いけどララが選んだ服装がおかしくないか見繕ってやってくれ」

「いいよ」

ララは路地裏から道を歩く同世代の女性を観察している。
・・・まあ、彼女が御気に召す服装を決めるまで暇であるのは仕方ない。
美柑はララの横であの女性の服なんかどう?みたいな素振りをしている。
・・・まあ美柑に任せておけば問題ないだろうな。
どうでもいいが何かを創造することの才能は俺の妹は別次元の所にいる。
ファッションセンスは母譲りで、絵も料理もそれ以外の家事全般も上手いとかどんなトンでも小学生やねん。
ちっちゃなころはお兄ちゃんお兄ちゃん言ってて凄まじく可愛かったんだがな。いや、今も可愛いが兄を呼び捨てにするのはマイナスである。
美柑の見立てでララはようやく服を決めたようだ。成る程、これならば普通に街中を歩いていてもおかしくはないな。
今まで見た姿が裸と恥ずかしいドレスと制服だったのでこういう普通の女子が着る様な服着たら普通に美少女だな。

「どう?リト?私の見立ては」

「いいんじゃないかな?何処もおかしくはないように見えるよ」

まあ日本において桃色ブロンド髪は大変珍しいのでまだ注目はされそうだが・・・まあその辺は仕方がないだろう。

「よーし♪」

・・・ん?何故腕を組むんだ?

「じゃ、出発ー!」

そう言うとララは俺を引っ張るように歩き始める。待て待て!?引っ張りすぎだ!
うう・・・何気に誰かと腕を組むという行為自体が慣れていないから実に歩き辛い。

「フッフッフ・・・ラブラブだねぇ、リト。もしかして私お邪魔なんじゃないのー?」

嗚呼!我が妹よ!そんな微妙な気をまわさないで良いんだ!
そもそも今日はお前の服も買うんだぞ?
・・・普通に俺は荷物持ちですね分かります。

ララは地球の様々な文化に触れて楽しそうだ。
俺たちからすればなんとも思わないものにまで興味を示し笑い、感動している。
俺たちからすれば食べ慣れた食べ物に対して目を輝かせ、美味しそうに食べている。
地球の文化及び食を堪能している銀河のお姫様はゲーセンに置いてあるUFOキャッチャーの中にある兎のぬいぐるみをもの欲しそうに眺めていた。

「うわー・・・あれかわいいなー・・・」

あのウサギの造形何となく何処かのヤンデレヒロインのス●ンドに若干似てるような気がするんだが・・・?
いけないんだ~とかセニョールとか言わないよなアレ?
まあそんなアホな心配は兎も角、ララよ。何で俺を縋るような視線で見ている?

「・・・欲しいのかよ?」

「うん」

「取れなくても恨むなよ」

俺はUFOキャッチャーに100円を入れてララが見ていたウサギのぬいぐるみを取ってあげる事にした。
こういうのにはコツがあるんだよな。アームの強度も考慮しなきゃいけないしな・・・はい取ったよ。
目当てのウサギはあっという間に取り出し口に運ばれていき、そして落ちていった。

「おー!リトすごーい!」

「UFOキャッチャーなんて久々だったけど案外何とかなったな」

俺は取り出し口からウサギの縫いぐるみを取り出しララに渡した。

「昔からこういうのは得意だよね・・・」

「ありがとうリト!これ私の宝物にするね♪」

芸は身を助けるとは言うが俺の特技など何処で真価を発揮するのだと思っていたがこうして礼を言われるのは悪くは無い。
・・・今日はララたちがいるからゲーセンで本腰入れて遊ぶ訳には行かないな・・・仕方ない。
一通り買い物を済ませた俺たちはワイルド通りという商店街を歩いていた。
最近この辺りに水族館がオープンしたらしいのだが客足に不安を覚えたのか商店街をあげてこの水族館の宣伝をやっている。
美柑やララの服を買った際、水族館の割引券を貰ったのがその宣伝の一環のようだ。
小さな頃から思っていたのだが水族館に何でマグロとかいないんでしょうね?

「ララさん後で行って見る?」

「そうだね、楽しそうだもんね」

何か普通に水族館に行く流れになっている。
まあ今日一日暇だし付き合ってやるか・・・ってん?ララさん?スカートが破けてません?

「っておいおい!お前服が穴だらけになってるぞ!?どういう事だロボ!」

「え?何々どういうこと?」

『す、すみません・・・ララ様の服装の見立ての際、結構フォームチェンジをしてしまったので・・・』

「つまり?」

『エネルギー切れです・・・』

「エネルギーが切れるとどうなるの?」

『ララ様の現在の衣服は私が変化したものなので・・・恐らく後3分ほどでララ様は・・・』

「全裸かよ!」

買った服をここで着せるのもいいと考えたが衆人環視の中着替えさせたら警察行きである。
考えてるうちにもララの衣服は崩壊の危機である。
あ、パンツ落ちた・・・。俺と美柑は顔を見合わせた。

「あはは、困ったねー♪」

「笑ってる場合か!?」

さっきの服屋に戻るか?馬鹿言え!戻る前にララは裸の可能性が高い!
路地裏も誰が来るか分からないから却下!駅も遠いから却下!
何処か身を隠せる場所は・・・・・・あ。

「リト!あそこ!」

美柑が指差した先には確かに身を隠せる場所があった。
普段なら入らない場所・・・ランジェリーショップが近くにあるのが見えた。
早く入らないと周りの視線が痛い!オイ誰だ前かがみになって路地裏行ってるアホは!?
そんなこんなしているうちにララの服の肩紐が切れた。胸が片方丸出しになりそうでならない!セーフ・・・いや格好は確実にアウトだが。
既に臍とかは丸出しだしね。都合よく見せたらアウトな場所は辛うじて守られているが時間の問題だ。

「ええい!ままよ!」

男子がランジェリーショップに入ってはいけない法律などない!
俺たち三人は勢いよく女性下着専門店に御入店した。
正直この流れでご来店1万人目とかだったらアウト過ぎだがそんなシステムはこの店にはなく、ララは無事に美柑が適当に選んだ下着を持たされ試着室に押し込まれた。最悪の事態を回避した俺たち兄妹はハイタッチでお互いの労をねぎらった。
さあ、ララの服は買ってるし、後は美柑に任せて俺は外で待ってよう!
俺はそう思って出入り口のほうを向いた。

「・・・・・・・・ゆ・・・・・・結城・・・君?」

そこにはパンティ持ったまま固まっているクラスメイト、西連寺春菜さんがいました。
あえて言おう。俺は彼女が何でここにいるんだなんて事は言わん。
むしろ女子がここにいるのは普通であり、むしろ俺がいるのが不自然なのだ。
それに何時までもこの娘に下着持たせたままにしておくのも可哀想だ。俺のような男に下着の嗜好を知られたくはないだろう。
安心してくれ西連寺。水玉の可愛らしいパンティなど俺は見てない。見えっこないです。

「・・・すまん」

俺は咳払いをした後、まず何故か西連寺に謝った。
そして足に力を入れて・・・・・・

「ごゆっくりィ~!!」

などと言い、両手で顔を押さえながら店を出た。
いやまあ美柑もいるしララの事は大丈夫だろう。俺は外で待っているよ・・・。
だがその外にも知り合いがいた。

「おや?どうして梨斗君が婦女子の下着専門店から出てくるんだい?」

「いや~最近の女性のマネキンは体つきがいやらしいからな。思春期真っ盛りの男子にはたまらんかったのだろうが場所は選べよ」

何で居るんですか清水先輩、神谷先輩!?
というか俺は別にマネキンに劣情は抱いていない!?

「俺たちは今から水族館に行くんだよ」

「男二人でですか?」

「悪かったな彼女居なくて!?」

「水族館内のレストランに海鮮カレーっていうのがあるって聞いてね。カレー好きの僕としては暇が出来たら行こうと思ってたんだ。隆弘は本屋で見かけたから誘った」

「なあ大介ぇ・・・その海鮮カレーってシーフードカレーと何が違うんだよ」

「新鮮なんだよ多分」

「嫌な予感しかしねぇ・・・で、梨斗よ、お前はこんな所で何してたんだよ?」

「・・・妹と同居人の服と下着を買いに来たんですよ」

「同居人・・・ララちゃんの事だね。仲良くやってるようじゃないか」

・・・蔑ろにしたら地球滅ぶしな。
同居するんだからあまりギスギスするのもおかしい話だろう。
・・・というかいつの間にかウチの部活ではララはちゃん付けがデフォのようである。


突然現れて突然去った梨斗を春菜はただ見送るしか出来なかった。
いや、いきなり現れたら固まるでしょそりゃあ!?
こんなランジェリーショップで彼と出会うなんて運命かと乙女チックなことも考えたが、話せなければ意味がない。

「美柑ー、リトは?」

「外だよ。あ、ララさん似合ってるよ」

「そう?あれ?春菜だ!おーい!」

「ラ、ララさん!?」

「・・・?ララさん知り合い?」

「うん!同じクラスの春菜だよ!」

「・・・という事はリトとも同じクラスなのか・・・ご愁傷様リト・・・」

この言っては悪いがパイナップルのような髪形の可愛い子は一体誰なのだろうか?

「春菜!この子はリトの妹の美柑だよ~」

し、しまった!?彼の妹とは思わずつい失礼な事を思ってしまった!?
イ、イメージは良くしておかないといけないのかな・・・?

「は、初めまして美柑ちゃん。西連寺春菜でしゅ・・・!?」

「(噛んだ・・・)えーと、春菜さんって呼んでいいですか?」

「あ、う、うん、よろしくね美柑ちゃん」

「ねーねー春菜!これから一緒に水族館に行かない?」

「え?水族館・・・?」

水族館か・・・行こう行こうと思って行ってないんだよね・・・。
一人で行くにはなんだしここはお言葉に甘えようか?暇だし。
そ、それに彼女達が行くという事は彼も同行するはずだ。
先日助けられたお礼を言わなきゃいけない。そしてお話を沢山してその他大勢のクラスメイトのイメージから脱却するために動かなきゃ!

「ええ、いいわよ」

「ホント!?やったァ!」

大喜びするララを笑顔で見守る春菜を美柑が観察していたことに春菜は気付いていなかった。


「リト!お待たせ~!聞いて聞いて!水族館春菜も来るって!」

下着店から出てきたララは開口一番そんなことを言った。
ララの隣で春菜が美柑と話しているのが見えた。

「そうか。此方も同行者が二人追加のようだ」

俺はサイダー飲んでる先輩二人を指差し言った。
まあこの二人は初めから水族館に行くつもりなので誘わんでも来るのだが。

「先輩・・・彼女は俺とララのクラスメイトの西連寺です。で、こっちが妹の美柑です」

「おお!噂のハイスペック妹ちゃんか!敦の言う通り似とらんなァ!」

「隆弘、失礼千万だよ・・・。始めまして。僕は清水大介。2年で梨斗君の部活の先輩だ」

「神谷隆弘だ。同じく梨斗の部活の先輩だ。ララちゃんはもう知ってるよな?」

「うん!」

「よ、よろしくお願いします・・・」

「どうも」

怯えたような西連寺に対し、そっけない態度の美柑。
いや、警戒するのはごもっともだが慣れてください。少なくとも俺はもう慣れた。
というかこの二人で疲れていたらリーダーと遭ったら死ねるぞ?あの人日曜は忙しいからいないけど。
まあ、そんな訳で男3人女3人で水族館に向かったのだが、正直ここを思いっきり楽しんでいる奴など一人しかいない。

「わぁー・・・きれーい!色んなお魚がいるねー」

「まあ、日頃見れない魚を見物するのが目的の施設だからな」

「ねーねー?あの平べったくて尻尾が長いお魚は?」

「エイだな」

「ところで大介知っているか?昔の漁師の間ではエイはダッチな目的に利用していたという伝承があるんだぞ」

「誰得な情報だよそれ」

「先輩方、一応小学生もいるんで下ネタは自重してくれませんかねぇ」

ララだけではなくこの方々の暴走も阻止しなければならないことに俺は諦めに似た気分を覚えた。
全く子どものように水族館内を走り回るララを見失わないようにするのにも一苦労なのに先輩方のあの魚はこう調理したら美味しいなど夢の欠片もない会話にも気をつけなければいけない。というかその話に美柑が耳を傾けているわけなのですが。
そんな中一人手持ち無沙汰にしている西連寺に俺は声を掛けた。

「悪いな。無理やり連れてくるようなことになってさ」

「あ、ううん・・・私のほうこそ・・・もしかして結城くんたちのジャマしたんじゃないかと思って・・・」

「何言ってんだよ。こちらとしては助かっているから逆にお礼言いたいぐらいさ」

少なくとも彼女がララの相手をしてくれるので俺の負担が若干減少している。
ホンマ委員長はいい人やでぇ!
・・・そういえば俺はこの人のあられもない姿を見てしまったんだよな・・・そのことについて結構罪悪感は感じてるんだけど・・・。

「よかった・・・私、いていいんだね・・・」

「むしろこの場合いてくれないと困るよ」

春菜と梨斗の会話を遠巻きに見ていた美柑は春菜の様子を怪しげに思った。

「これはもしかして・・・」

美柑と同じく大介と隆弘もこの様子を見ていた。

「端から見てると梨斗が彼女を口説いてるようにしか見えません大介さん」

「彼女も満更でもない様子だよ隆弘さん。でも梨斗君の事だから厄介事を肩代わりしてくれる存在を手放したくないだけなんじゃないかな?」

「言葉って恐ろしいな、大介さん!」

「そうだね、隆弘君!」

明らかにこの二人は現状を楽しんでいた。
まだまだ梨斗に三次元の彼女が出来るのは先だとこの時彼らは確信したのだ。
やはり三次元は二次元のように上手くは行かない。何せ次元が違うんだからな、HAHAHAHA!
もどかしい雰囲気の二人のもとに一通り回ってきたララが戻ってきた。

「リト大変!この水族館しじみがいないよ!」

「水族館における貝類の扱いは不遇すぎるからしじみはいないぞ」

「そうなの?じゃあアジとかサンマとかブリとかは?」

「刺身を主に出す店の生簀で元気に泳いでるぞ」

「むー・・・ん?ねえリト。ペンギンって何?」

「主に寒い所に住む飛べない鳥さ。飛べない代わりに泳ぐのが上手いんだ」

「へー!面白そー!」

そう言ってララは走っていってしまった。
追いかけようとする梨斗を美柑が制止した。

「ララさんは私がついて行くよ。リト達はゆっくりと他の所見ていて。ね?」

そう言うと美柑は走ってララを追いかけていった。
・・・・・・他の所といってもどうすれば・・・・・・。
俺が先輩の方を見たら、先輩達は・・・

「そういえばこの水族館クリオネがいるらしいね」

「クリオネの食事はグロ注意と注意を喚起すべきだな」

あの方々はマイペースすぎる。
しかし気付けばララと美柑のお子さんコンビ、先輩方のマイペースコンビと来たら必然的に俺たちが余るわけで・・・。
大して話したことのない異性と何を話せと言うのか?
まあせっかく水族館に来たんだしゆっくりと魚でも見ようかな。あ、マンボウだ。

「へぇ・・・この水族館マンボウ飼育してんだ・・・」

「マンボウが水族館にいるのって珍しい事なの?」

「うん。マンボウは泳ぐのが下手だから水槽の壁にぶつかる事が多いんだ。それによって弱ってしまうし・・・寄生虫も多いしな。あと皮膚が弱すぎる。そんなマンボウを飼育してるってことは結構しっかりしてるよここの水族館。貝の冷遇ぶりは酷いけど」

「へぇ・・・」

会話、終了。
水族館でする会話としては全く間違ってはいないだろうが、男女の会話としては間違っている気がする。
しかしマンボウがいるから悪い。見た目は愛嬌あるが実は虚弱体質というこの魚に俺は不思議なときめきを覚えるのだ。
なんだろう、この駄目な子ぶりが素晴らしくいいと思えるのである。

「あの・・・結城くん・・・」

「何?」

「あの・・・私、どうしても結城くんに言いたいことがあって・・・」

言いたいこと?
・・・っておい。そこの先輩二人。何でこんな時にはこっち向いて聞いてるんだ。

「あの・・・ララさんに聞いたんだけど、私が貧血で倒れた時、結城くんが私を見つけて保健室まで運んでくれたんでしょう?」

ああ、あのギ・ブリーとかいうヤツと対峙した時の事か・・・。
正直あの時は若干切れててなるようになれという状況だったんだが・・・。
ララはそんな風に西連寺に説明してたのか・・・。

「ずっとお礼を言おうと思ってたんだけど・・・切欠がなくて・・・だから・・・ありがとう・・・結城くん」

「あ、ああ。どういたしまして」

男は女を助けるのが当然というレディファーストを勘違いした厄介な女性が増えていると聞く現代において礼も求められてないのに礼を言うこの娘はまさしく良い人である。いやなんかあの時点で貴女がどうなろうがギ・ブリーをぶん殴ることに集中していた自分が恥ずかしくなるほどの善人ぶりが俺には眩しすぎる!?
嗚呼、誰かこんな他人の安否も気遣えない俺を一発殴ってくれ!反撃はするが。
と、思ったその時、俺の側面から何かが突進して来たような衝撃が襲った。
思わずそのぶつかった何かを掴むと・・・それは大いに暴れていた。

「クエー!クワァァァァァ!!!」

俺にぶつかってきたのはなんとペンギンであった。
ペンギンは酷く興奮した様子で俺を威嚇している。
・・・飛べない豚がただの豚ならば飛べない鳥はただの餌だ。
俺は暴れるペンギンを睨んで言った。

「食われたいか愛玩生物」

「ク、クエーーーー!??」

「ゆ、結城くん・・・ペンギンが空を飛んでる・・・」

本来の鳥の本能が奇跡を起こしたのだろうか、成る程水族館内では興奮したペンギンが館内を飛び回るという信じがたい光景があった。
・・・正直いい物見せてもらってる気がしないこともないが、恐らくこの原因は・・・

「リトー!どう?すごいでしょー?」

やはりお前か!!

「お前、水族館のアイドルに一体何をした!?」

「あのコたち動きが鈍いから、これをあげたの!一粒で元気1000倍!デビルーク戦士の秘薬『バーサーカーDX』!お陰で皆飛びまわれるほどの元気ぶり!」

「最早個体の限界を超えた元気ぶりだろこれ!?あとララ、水族館の生物には餌は勝手にやっちゃいけないんだぞ」

「ええー!?そうなのー?」

というか美柑はどうした。あいつは一緒じゃないのか?
極めて珍しい事になるが帰ったら説教だな。
ララを任せてと言ったのアイツだし。


しかし元気1000倍といってもやはり無理がありすぎたらしくペンギン達はすぐに真っ白になり水族館のスタッフに捕獲されていた。
俺はララと美柑をまあ一応叱った後、ペンギンを密かに捕獲し持って帰ろうとしていた先輩方を捕まえペンギンを解放した。
・・・何で水族館でこんなに疲れなきゃならないんだ?
とりあえず腹も減ったので現在俺たちは水族館内のレストランで食事を取ることにした。
・・・何故男子と女子のテーブルが別れているんでしょうか清水先輩?

「女子は女子の会話があると思うからね。それより海鮮カレーだよ!」

「新鮮な魚介類にカレーをぶちまけてたら俺は泣くぞ、大介」

なお俺は普通にエビフライ定食を頼んだので海鮮カレーは食べない。

「おまたせいたしました。海鮮カレー2つです」

運ばれてきた料理は炒飯風ドライカレーの上に新鮮な魚介類の刺身がたんまりと載っている代物だった。
・・・・・・・・・・こ、これは・・・!?海鮮丼のご飯の部分を炒飯風ドライカレーにしただけ!?
いや、臭いはドライカレーそのものなんだが・・・味はどうなの?

「・・・予想していたものより随分とまともっぽいぞ?」

「食べてみないと分からないよ?何事も」

清水先輩は刺身の部分に醤油を垂らし、一口食べた。
その瞬間、先輩の目がカッと見開かれる。
そして震え始め搾り出すような声で言った。

「美味しい」

「マ、マジかよ・・・」

神谷先輩はおそるおそる海鮮カレーを口にした。

「おお・・・一見外れっぽいのに・・・苦労したんだろうな・・・普通に美味いぞこれ」

いや、白米の部分を炒飯にしただけだしねそれ。
よくよくメニューを見れば創作料理のようなメニューがこの店にはちょこちょこある。
店は結構人が多いので評判はいいのだろう。
やがて俺のエビフライ定食も運ばれてきたその時、店員に清水先輩が声を掛けた。

「この海鮮カレーを考案したシェフはどなたです?」

「ああ、これですね?料理長です。まだ若いのにすごい人なんですよ」

「若い?」

「ええ、何せ未だ22歳ですから」

「若っ!?」

大学生くらいの年齢でもう店持ってるとかどんなヤツだよ!?

「宜しければカレー好きとしてお話を窺いたいのですが?」

「ええ、今は休憩中だと思いますし。ちょっと呼んできますね?」

店員が厨房へと消える。
休憩中に悪いが清水先輩はこうなると止まらないからな・・・。
桐生先輩の話だと美味いご飯を作れる人に対して敬意を払いすぎる癖があるからな。
やがて厨房からコック帽を被った長身の若者が現れた。

「どうも、私が料理長の夕崎桃馬です。本日は海鮮カレーを評価して頂き有難う御座います」

「本当にお若いんですねぇ。それにこの海鮮カレーの味付けは絶妙でした」

「そうだな。美味しかったよ。今度は他の友人も連れて来たいもんだ」

「そうしてくれれば嬉しいですね。お待ちしております」

と、若き料理長はエビフライ定食を食べる俺を見た。
俺はエビフライを食べてから料理長に言った。

「何やってんですかアンタ、こんな所で」

夕崎桃馬は俺の母方の姉の息子であった。
つまりは親戚であるので無論知り合いである。
結構前に家を出てると聞いているのだが・・・。

「いやお前こそ野郎三人で何してんの。俺は見ての通りコックだが?」

「実家には連絡してるんですか?」

「生存報告を手紙でしかしてない」

「・・・携帯は?」

「HAHAHAHA!親と妹のメアドも携帯番号も知らんぜ!」

俺は先輩方にこの人が俺の親戚である事を伝えた。
先輩方は世間って狭いななどと言いながら桃馬の料理を絶賛していた。
この男、家族にも言わずに既に結婚までして子どももいるらしい。
更にいえばもう少しでマイホームを購入する資金も貯まるらしい。

「家買ってからサプライズ的に親に孫見せようと思ってたんだが・・・」

「間違いなくキレると思いますよ?特に妹」

そういえば妹の方にも随分会っていない。
名前が俺と似ているが性格は若干弱気だったあの女は元気だろうか?
最近正月は帰省とかしないからなァ・・・。

「あと俺たち三人で来たわけじゃないですよ。ちゃんと女の子もいます」

俺はララ達が喋っているテーブルを指差した。

「・・・どんな関係だ?あの子達は」

「えーと、同居人とクラスメイトとほら、あの子は美柑ですよ」

「お?アレがあのちみッ子の美柑か?おいおい大きくなったなぁ・・・で、同居人ってどういうことだ?同棲じゃねえのか」

「あくまで同居人ですって。で、その横のあの子は同居人の友達ですね」

「・・・何だよお前、恋人があの中にいると思ったらいねえのかよ!」

呆れたように桃馬は言う。

「まあお前の勝手かもしれないがよ、いい人は早めに見つけといたほうがいいぜ?お前さんたちもだぜ?男の友情も大切だが女との交流も大事だぞ?と家を出て食材と女の料理をしてきたお兄さんが言ってみる」

「やっぱり女体盛とかやったことあるんですか?」

「食材が勿体無さ過ぎるわ!?あとあれ結構女はストレス溜まりまくるんだってよ!」

「・・・女はって男は?」

俺がそう聞くとこの馬鹿料理長はサムズアップして言った。

「むしろご褒美だった」

「やったのかよアンタ!?」

実に最低な事実に虫を見る目でこの人を見ざるを得ない。


そんな表情の梨斗を見つめる視線が合った。
その視線は梨斗の頭上の蝿のようなメカから送られていた。
メカから送られるモニターの前で謎の男がワインを片手にその様子を見ていた。

『ククク・・・隙だらけだな結城リト・・・。ララの婚約者というからどれほどのものかと思えば口ほどにもなさそうだ・・・見ておれ・・・すぐに貴様を地獄に送り、ララを奪って見せよう!この俺、プリューマがな!』

静かに梨斗を監視する蝿のロボ。
だが考えてもらいたい。ここは一応レストラン。
蝿やゴキブリの存在は店の信用に関わる。
そしてこの蝿は今まさに梨斗の頭上で飛んでいる。
・・・それを料理長のこの男が見逃す筈がなかった。

「ふんっ!!」

梨斗の頭上でいきなり桃馬が両手を叩いた。
それからティッシュを取り出し何かを包んで、それをゴミ箱に捨てた。

「どうしたんですか?」

「いや、蝿が居たからな。悪いが殺した」

当然のように言う桃馬。だがゴミ箱には無残な姿になった蝿ロボと再起不能になった極小宇宙人プリューマが更にゴミ箱に投棄されたゴミに埋もれていったのだった。
このようにして梨斗も知らないうちにララを狙う刺客が二体撃破されてしまったのだった。

・・・こうして梨斗の日曜は過ぎ去っていくのである。


※【体調が5上がった、文系が1上がった、運動が2上がった、雑学が4上がった、容姿が1上がった、根性が4上がった。疲労が6上がった】
※【水族館に行った!】
※【婚約者候補を二体撃破した!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:092(5↑)  『文系』:061(1↑)  『理系』:065(±0)

『芸術』:031(±0)   『運動』:103(2↑)  『雑学』:088(4↑)

『容姿』:053(1↑)   『根性』:070(4↑)  『心労』:010(6↑)


【一言:美しさを磨くのが優先だね・・・】


※【何だか新たな出会いの予感がする・・・】




(続く)



[22408] 8話目 むだな せいしんろん は やめとけ
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/24 18:45
人を羨む行為はあまり誉められる事ではないのだがより良い物を創造するには大事な感情である。
俺たちが大金持ちの桐生先輩を羨むのと同じく桐生先輩も学校行事以外の日曜を自由に使える俺たちが羨ましいらしい。
季節も夏に差し掛かる頃、偶然にも登校時刻が一緒になった我ら娯楽研究部の6人とララは衣替えの季節だとかもうすぐ体育祭だななどという他愛のない話をしていた。というかこの学校、体育祭が終わればプール開きと共に林間学校があるという。一体どうなってやがる?

「ところで皆は体育祭は何の競技に出るんだ?」

桐生先輩は残念ながら生徒会として主催側及び裏方に回るので競技には参加できないらしい。
来年からこのような不公平な制度は変えたいと意気込んでいたがアンタ来年も生徒会に居座る気ですか。

「僕は障害物競走に出るよ」

「俺は100m走」

当然の事だが競技は学年ごとにやる為、1年と2年が同じ競技で競う事は100m走以外ない。
したがって100m走はリレー以外で最も盛り上がる競技である。

「100m走と男子ミニ駅伝出ます」

敦の出る駅伝とは四人一組でやる計12kmの駅伝競走である。
大体陸上部やサッカー部、野球部あたりが張り切る競技である。
だが偏りを失くす為に競技に制限がかかり、運動部はチームに二人だけという文化部及び帰宅部には鬼畜過ぎるルールがある。
まあ駅伝中にも普通に競技は続くので気付いたら終わっている事もあるのだが・・・。

「俺も障害物競走っすよ」

「ほう。では梨斗とララちゃんは何に出るんだ?」

「はーい、100m走と二人三脚でーす」

ちなみに二人三脚のララの相棒は何故か満場一致で俺となってしまった。
そんな訳で俺はララと二人三脚に出るのだが・・・。

「借り物競走と二人三脚出ます」

借り物競走とか地味すぎだろと思っていたが担任の骨川先生の話によると去年の体育祭はこの競技に一番時間を割いてしまったらしい。
・・・このメンバーで個人種目で目立てる可能性があるのは敦とララの二人である。
まあ別に俺たち文化部だし体育会系のイベントが主戦場じゃないし目立たなくても別に良いんだけどね。
なお個人種目のほかに玉が水風船の女子の集団競技『水玉入れ』、男子騎馬戦、綱引き、大玉転がし、リレー競技などがある。
・・・水玉入れは完全に誰かの趣味で入れたに違いない。あと騎馬戦は毎年怪我人が出る勢いだが止めるつもりはないらしい。
ララはリレー辺りに出れば良かったんだが転校してきたタイミングが悪かったんだよな・・・。

「そうかそうか。なら俺は校長らと一緒にお前たちの勇姿を見守っているから頑張ってくれ」

応援をする気は一切ないと宣言してるこのリーダーは体育祭で実況を務めるらしい。
・・・っていうか解説校長かよ・・・。変な進行にならなきゃいいけど・・・。
まあ体育祭は適当に頑張ると決意をして、校門に差し掛かったその時、校門前に一台の黒塗りのリムジンが停車した。
・・・そういえばこの学校には桐生先輩の他にもう一人金持ちな人がいるらしいな。・・・まあ銀河の王の娘のララも金持ちって言えばそうだろうがここじゃあくまで一般人(?)扱いである。リムジンから運転手が降りてきて、後部座席を開くと車の中から明らかに巻き髪のお嬢様という感じの女性が出てきた。
リムジンの前には取り巻きだろうか?ポニーテールの凛々しい女子と眼鏡でストレートロングな女性が立っていた。

「おはよう、凛、綾」

「お早う御座います沙姫様」

「カバンをお持ちします」

「ありがとう」

いやもうなんだろう、アレが金持ちの坊ちゃんら令嬢の正しい姿なんだろうか?
桐生先輩といいララといいそれっぽくない人々を知っている俺としては目の前で起きている光景が別世界のように思えた。
この登校風景は一年の俺たちには今だ慣れないものなれど二年の先輩達から見ればただの日常そのものであるらしい。
桐生先輩は校門前に止まっているリムジンを指差して言った。

「アレは登校する生徒の邪魔になるから出来るだけしないようにな」

「いや、この学校でリムジン所持してるの彼女と君のトコだけだと思うよ・・・」

なお、この学校において桐生先輩はリムジンではなくヘリで登校したことがあるらしい。
今の生徒会長に思いっきり怒られた為もうしないらしいが。
というか高校生なんだから登校は徒歩か自転車だろうにヘリはねえよ。
まあ現在彩南高校で車通学してるのはあの先輩だけのようだ。
清水先輩と神谷先輩はウンザリしたような様子であの先輩達を見ている。何かと有名な人なのだろうか?
有名人かぁ・・・高校の有名人って言うと野球部のエースとか学園のマドンナとかアイドルとか思い浮かべるけどこの学校については特にこの一人が有名っていないよな。
まあ一年で知名度があるのはララになってしまうだろうが。・・・おいおい大いに目立ってるがな。

「・・・にしても学校で鞄をお持ちしますとか俺三次元で初めて見たな」

敦が呆れたように言う。
その意見に対して反応したのが桐生先輩であった。

「隆弘、俺の鞄を持てィ!」

「自分で持てよ阿呆」

極めて当然の意見を言われてしまった。

「おかしくね?一応俺は御曹司だよ?家に戻ったら執事やらメイドがそれこそ百人以上いたりする家から何故か車じゃなくて徒歩で通学してるけど御曹司なんですよ?」

「同じ学び舎の生徒の鞄を何故持たねばならんのだ?世界的な大金持ちの御曹司の中には高所からダイブしたりガラスぶち破ったりビール噴きながらぶっ飛ばされたりするワイルドすぎる御曹司だっているのにその甘えは一体なんだ貴様ッ!」

「その御曹司は特殊な訓練を受けすぎの人じゃん」

「光太郎。僕達は君の友人さ。考えてみてほしい、自分は別に何処も身体は悪くないのにたかが鞄を友人に持たせるのがいい関係と言えるのか?」

「その通り、俺たちはお前の友人ではあるがお前の家来ではない。したがって鞄を持つ事はない」

「そして俺たちは単なる部活の後輩なので先輩の鞄を無理やり持たされるようなことがあればそこでパワハラが成立します」

敦が何故か予防線を張ったので、桐生先輩は何故か俺を見る。
なお、ララは先ほどから同級生やら男子生徒やらに挨拶されていた。大人気だな。
桐生先輩はあまりにも綺麗な瞳で俺を見つめてくる。
俺はそれを見てフッと微笑んで言った。

「先輩、俺は貴方を尊敬する事もありますがそれとこれとは話が別です」

「あ、俺も持ちませんよ?」

部員全員に鞄を持つことを拒否されて鞄を持ってオロオロする我らがリーダー。
というか持ちます言ったら持たせる気だったのかこの人。

「厳しく育成されるよりも誉めて伸びたいとたまに思いたい」

「ハハハ、戯言を」

「とりあえず好き放題はさせているじゃないかぁ~?」

「先輩といると退屈しませんよ。べ、別に楽しい訳じゃないんだからね!」

「男のツンデレ発言はキモいだけだぜ敦」

「黙れ猿。ヤンデレよりは遥かに被害はなく、クーデレよりは遥かに需要はある筈だ」

「何の需要があるというんだ!?」

俺の幼馴染は一体何処に向かおうとしているのだろうか?
いつの間にか俺たちの周りにはララを見ようとする男子達でいっぱいだった。
或いは桐生先輩の珍行動を期待している輩もいるんだろうな。
野郎率が多い集団を見て先輩はいきなりこのような事を言いはじめた。

「親愛なる彩南高校生徒の諸君!間もなく始まる体育祭、戦々恐々としているだろうが皆にここで一つ伝えておく事がある!今年の体育祭の女子水玉入れの水玉の数は1,5倍であるのと玉の強度が0.5倍という事だ!つまり大量に溜めた分、爆発しやすいという事だな男子諸君!我慢するのも問題だという事だ!それでは体育祭を楽しみにしながら授業に励んでくれ、御機嫌よう!」

この発表に騒然となる生徒達。
明らかに主催者側がある事を狙っているぞこれ。
女子は体操服の着替えを用意する事がほぼ決定かよ!
何で高校の体育祭においてそういう狙ったエロを演出しようとしてるんだ体育祭実行委員会は!?

「何かたのしそーだね、リト!」

ララが桐生先輩の話を聞いてもなお、ワクワクしたような顔である。

「嫌な予感しかしない」

俺は来る体育祭に向けて不安が増大するのだった。


娯楽研究部を中心とした人だかりを見ているのは天条院沙姫である。
天条院グループの令嬢である彼女は常に人々の注目を集めたいという野心を持って昨年、彩南高校に親しい友人の九条凛と藤崎綾と共にやって来た。
だが、あろうことかその高校に同時期に入学したのが現生徒会副会長の桐生財閥の御曹司だった。
彼はこの高校で正式な手続きをした上で自分の部活を作り、生徒会にいきなり入り、学校に対して惜しみない支援を素早く行なう行動派であった。
調子に乗って『俺を生徒会長にしろ!』と言って望んだ昨年の選挙では現会長に負けたが。
天条院と対を成す桐生の御曹司がどれ程の物か観察はしていたが、明らかに普段は学生としての生活しかしてなかった。
彼の友人の清水大介の境遇は自分の友人である凛と似通ってはいたが、彼の対応は凛のそれとは全く違う。
もう一人の友人の神谷隆弘は中学時代は野球やってたくらいしか分からない。
・・・一応綾にも調査を頼んだのだが、何故か彼に気付かれた挙句『来なくて構わんからお前、娯楽研究部員な』と言われたらしい。
その後時は過ぎて三人の新入部員を迎えたらしいと綾が聞いたらしい。
一人は根暗そうな眼鏡男、もう一人は猿の様な男、最後に目付きが悪い男とはあれか・・・。

「・・・?あの髪の長い娘は?綾」

「はい、最近下級生の間で話題の生徒で御座います。なにやら外国からの転入生らしく」

「へえ・・・中々の人気じゃない」

ララとすれ違い、その後姿を見送る沙姫の目は細められる。
・・・ん?何故光太郎たちはここにいるのだ?

「全体止まれ!大介と隆弘は既に知ってるので今更だろうが、後輩の諸君、この眼鏡の先輩が我が部の幽霊部員の藤崎綾嬢である!ご挨拶しなさい」

「どーも」

そもそも三次元に興味がない敦は目を見てない。

「猿山っす」

見た目地味な彼女に対して興味を抱けないのか猿山も適当な挨拶である。
これは不味い。いくら幽霊部員の方と言っても先輩は先輩である。明らかに桐生先輩よりこの人はまともそうだ。
まともな人にはまともな挨拶をするべきだろう。

「結城です。桐生先輩がお世話になっています」

「はっはっは!お世話になってたんだな、俺!」

「そこは否定しろよお前」

「藤崎はこっちの古典的お嬢様の付き人という名の友人をやってるから部活には来れないが、とりあえず部員だ」

「誰が古典的ですか!?」

「お前学校にリムジンで来るとか古典的の何者でもないだろう。大体さっきはララちゃんを見ながらどーせ碌でもないことを考えてたのだろう!注目を受けるのは常に自分じゃないといけないと思うなら登場の仕方を捻れ!」

「何を言うの!あまりに捻った結果、貴方は色物になったのでしょう!」

「フハハハハハ!ブァカめ!色物も続ければ尊敬を勝ち得るのだ!」

とりあえず慕われてはいるが尊敬はされてないよね貴方。

「一応紹介しておこう。この古典的お嬢様は天条院沙姫だな。見ての通り大金持ちの娘さんだな。で、こっちのコワ~い顔してるお姉ちゃんが九条凛さんだな。アレだ、この人はお嬢様のSPという名の友人だな。大介は彼女を見習うべきと思わんか?」

「全然思わないから。何で父さんが君のお父さんのSPだからって僕が君を守る必要性があるのさ」

「そこは親の縁もあるから義理立てするところじゃない?」

「大体僕らと彼女らじゃまず条件が違うだろう?九条さんのところは代々天条院さんの護衛してる家系で僕のところは父さんが偶々スカウトされただけの浅い縁じゃん」

「浅い縁とかいったよ、一応長い縁なのに!?」

「お前ら二人ともこの三人の結束力を見習えよ」

神谷先輩はそう言いながら一人歩いていく。付き合いきれんといった態度が気に障ったのか何故か肩を組み二人三脚の要領で走りよる桐生・清水コンビは後ろから神谷先輩にドロップキックを放ち逃走した。

「てめえら、合体攻撃持ってたのかよ!?待ちやがれ!!」

神谷先輩は鬼の形相で二人を追っていく。
それを見て猿山と敦が歩き去る。とりあえず挨拶終わったしな。

「そ、それじゃあお騒がせしました。体育祭も近いですしお互いに怪我のない様に過ごしましょう!」

俺はそう言って一礼し、皆の後を追った。
残された三人は唖然としていたが、校舎の時計の指す時刻を見て慌てて校舎内に入っていくのだった。

※【桐生先輩のクラスメイトと知り合った】

※【体育祭準備週の為、運動の上昇度が上がった!】

※【勉学値2上昇!運動が5上がった!容姿が1上がった!根性が2上がった!心労が10上がった!】


そんな訳で体育祭である。
何だか色々はしょった気がしないでもないのだが文化部である俺たちが体育祭を盛り上げる訳もないのだが日本人は基本的に祭りが好きなのでそこそこの盛り上がりがあった。それでは高校での始めての体育祭をダイジェスト風にどうぞ。

【開会のあいさつ】

ラジオ体操とかそれの前にこういう規模の学校行事では校長の話というのは付き物である。
当然彩南高校でもそれは例外ではなく、朝礼台に立つのは我らが校長である。

「諸君が万が一怪我をした場合、女子は私が治療するッ!!男子は従来どおり御門先生な」

絶叫と歓声が場を支配する。
女子はこの時絶対に怪我をしないと誓い、男子は怪我上等という空気になってしまった。
・・・お前ら女子は兎も角、男子は治療されるだけだぞ?そんな展開はないから!

『続いて生徒会長から開会宣言です』

「これより彩南高等学校『体育祭』を開始します。女子の皆さん、無傷で真剣に競技に取り組んでください。男子の諸君、わざと怪我したとみなされた奴は御門先生ではなくウチの副会長が適切な治療みたいなものを行ないますので真剣にやれよ貴様ら」

・・・治療みたいなものって何だ!?

「それでは赤組も白組も互いに頑張ってくれ!以上で開会宣言とする!」

生徒会やらこの体育祭の裏方に回り、競技に参加しない人員は桃色の鉢巻をしている。
俺たち1-Aは白組になっている。知っている人で同じグループは・・・最近知り合った天条院先輩のクラスか。
神谷先輩も清水先輩も赤組で敵である。
・・・遠くからでも分かる。あの先輩達は此方を肉食獣の如く狙っている・・・ッ!!

【二人三脚】

目前で100m走の最後の組が走り終えた。
神谷先輩も敦もそれぞれの組で上位に入る健闘を見せていた。
・・・ララはぶっちぎりで1位だった・・・。
・・・しかし男子3年の組にゴールテープをテープを持った人ごとぶっ飛ばすぐらい速い方がいたんですが?
解説の校長が『あれぞ神の領域というものですな』とか言ってたけどマジかよ。

「それでは次の競技は二人三脚でーす」

「頑張ろうねっ、リト!」

女子100m走から戻ったララが俺に笑顔でそう言う。
・・・やるからには1位を取りたいものだ。
ララとの息があうのかどうか全く分からんが頑張ろうではないか。

西連寺春菜は次の二人三脚に梨斗が出るというのは勿論分かりきっていたことなので、彼女は彼の活躍を見守らんと固唾を呑んで梨斗とララを見ていた。
中学の頃のリレーを思い出せば、彼の運動能力が高いという事が分かる。
春菜は女子達のララを応援する声に混じってこっそり梨斗を応援した。

「結城くん、頑張ってー」

無論、その声はララへの応援の声に掻き消されていた。
100m走の活躍もあり彼女に対する応援は非常に多かった。
早くも注目の的になってしまったララに対して面白くがないのが沙姫である。
彼女も一応100m走に参加し、よい成績を残したのだがそれだけでは注目はされなかった。

「注目の熱冷めやらぬうちに次の種目に出るとはやってくれますわね・・・」

なお、彼女の友人の凛と綾は二人三脚の選手の為、彼女の側にいない。

「凛、綾!こうなれば貴女達二人の絆をララに見せ付けてやるのです!」

・・・などと天条院先輩が叫んでいるのですが、先輩、俺たちは同じ白組です。

「お任せ下さい、沙姫様!」

「頑張ります、沙姫様!」

「負けないよー!」

いや、この人たち味方だろ。
ララがやる気を増大させているのだが、何で同じ白組同士で争う必要が?
スターターがピストルを掲げ、引き金をひく。
大きな音と共に俺たちはゴールに向かって息を合わせて走る。

「行くわよ、綾!」

「ええ!せーの・・・」

このように息を合わせて進まんとする先輩方の方法が二人三脚に望む姿勢としては正しい。
独りよがりでは決して勝てない種目なんだ!協調性を確かめる種目なんだ!

「ゴフっ!?へぶしっ!?ひでぶっ!?ぎゃん!?うわらば!?」

『おおっと!?これは1-Aのララ&結城ペア!ララ選手が結城選手を引きずって走っているー!!』

『誰かー担架持ってこーい』

このように急発進によって転んだ相方の俺を引きずってまでゴールするような種目ではないのだ。

「やったー!1位だよリトー♪」

「お前とは二度と・・・この種目には・・・で・・ない・・・」

こうして俺は今大会初の負傷者として保健室に運ばれたのである。


【障害物競走】

猿山と大介は最初からおかしいと思っていた。
麻袋を履いたまま平均台を進めという場所があるのだが、女子の場合平均台の下は泥水が用意されていた。
それだけならまだいいのだ。校長が女子高生を泥だらけにしたいという歪んだ欲望を持っているのは予想の範疇にある。

「・・・先輩」

「なんだい?」

「女子にはエロスを求めてるのに、男子にはこれですか?」

「去年はパンにハバネロ摺りこませていた陰湿さに比べれば今年は分かりやすいよ猿山君」

大介は猿山の肩を叩き、微笑んで言った。
校長及び体育祭の実行委員達は先ほどまで泥が撒いてあった場所に別のものを撒いていた。

「落ちるなら背中から落ちろ。絶対だよ?」

「絶対落ちたくないッすよ!?何で女子の時は泥だったのに男子になったら平均台の下に画鋲が撒かれるんですか!?」

その猿山の疑問に答えるように光太郎の解説が入る。

「男子の泥まみれより血まみれの方が絵になると思った」

「「「「「ふざけるなーーーー!!???」」」」」

「安心したまえ!万が一がないように男子はゴーグルとファールカップを用意している!」

「衆人環視の中ファールカップを装着しろと言うのか!?」

万が一その支給品が小さかったら大きい奴はどうしろと言うのか。

「さあ、女子のエロスゲームから男子の血肉沸き踊る、正にデスゲームが始まるザマスよ!」

「嫌でガンス!!?」

猛烈な反論を無視して男子障害物競走は始まった。
平均台については皆、慎重になったのでここでの怪我人はゼロだった。
だがハバネロ塗りこんだパンはあったのでその辺りでリタイアが続出していた。
猿山はそのパンにやられたが、大介はクリアし数少ない生存者となった。
・・・障害物競走で数少ない生存者って可笑しくない?


【借り物競走】

負傷の治療を終え復帰した俺は借り物競走に望まんとしていた。
前回の反省を踏まえた上で、借り物を持っている人は拒否は厳禁というルールが出来たというのだが・・・どういう意味だ?
俺は恐る恐る自分が借りるべき物が書いてある紙を取り見てみた。

『ポニーテールの日本女性』

・・・・・・どうしろと?
仕方ない、会場の中から探そうか・・・。
他の選手も紙に書かれた内容を見て固まっている。
そのうちに俺は動くべきだな。
そういえばこの競技、天条院先輩も参加しているようだ。彼女も紙を見て固まっているが何が書いてあるんだ?

天条院の娘として何事にも優雅に頂点を目指すのは当然の事である。
この借り物競走においても同様なのだが・・・。

『脱ぎたてのパンティー(♀専用)』

校長ォォォォォォォォ!!!
下着自体は自分も持っている!だが借り物競走のルールはその品物を手にして見せなければいけないのだ。
沙姫は睨むように実況席にいる校長を見た。校長は上気した顔でワクワクした様子だ、ふざけるな!?
だ、だが棄権するのは自分の流儀に反する!ど、どうすれば・・・!
凛か綾に頼むか?いや・・・綾に頼めば気弱な彼女だ、心的外傷が凄い事になるかも・・・!
だからと言って凛も戸惑うだろうが・・・ここで自分の下着を脱ぐ訳には・・・やはり凛に何処からか調達してもらうか・・・
彼女は本当に頼れる友人だから・・・と沙姫が思って凛がいる方を見たその時。

「すいません九条先輩。ポニーテールの日本女性という事で申し訳ないですがご足労願います」

「・・・去年から思っていたんだがどんな借り物競走だ」

「ってちょっとー!?」

まさかの凛自体が借り物の対象として連れて行かれた。
見ると光太郎がこちらを見て不敵に笑っていた。
そして彼はマイクを取ってこう言った。

『借り物は自分で探さないと失格でーす』

おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!?
こうなる事を予想してやがったなあの商売敵の息子!!
面白い!こうなったら体裁など構ってられるか!沙姫は探すふりをしてトイレに入った。
そしてすぐに出てきた彼女の手に握り締められていたのは黒い下着だった。

「天条院家に敗北はありませんわっ!」

『はい、1-A結城選手、借り物【ポニーテールの日本女性】を届けて1位でーす』

非情の宣告が彼女の耳に届いた。
彼女の視線の先には凛に対してお礼を言いながら頭を下げる梨斗と自分を探してるような様子の凛と綾、ワクワクした様子の校長とこちらを見て若干引いている光太郎の姿であった。

「おのれこの屈辱・・・三倍にして返しますわ!桐生光太郎・・・!!」

止めといた方がいいと思います。


【水玉入れ】

「野郎ども・・・残念だがこの競技においてカメラによる撮影は禁止だ!!」

会長の注意にブーイングが巻き起こる。
会長は彼らを制するような動作をした後言った。

「阿呆が!青春は一瞬しかないようにこの一瞬を永遠と残そうなぞ愚の骨頂!貴様ら目に焼き付けろ!!」

ブーイングが一斉に歓声に替わる。
ああそうだとも、盛り上がったのはこの時だけさ。
女子は何故か水玉を籠の中ではなく俺たちに向かって投げてきたさ。
そういうゲームじゃないからこれ!

「こんな狙いすぎの競技まともにやるわけないじゃないのよ!!」

「あんた等がびしょ濡れになっちゃいなさいよ!!」

「ふざけんなこの野郎!ちゃんと競技をしやがれぇ!!」

しかし投げ返す男子も続出し、いつの間にか男子対女子の醜い争いになっていた。
というか選手対観客じゃんこれ。
ゆっくり観戦しようとした俺まで巻き込まれかねないので安全な場所を探さなきゃ・・・
なお敦とか神谷先輩は怒りの形相で水玉を女子にぶつけている。

「大体水玉が割れなきゃいいだけじゃねえか!!」

「観客に当たるな、風情も分からぬ女ども!!」

・・・・・・人間欲望に素直だとここまで醜くなるのであろうか?
俺がそんな事を思いながら人類に絶望しかけたその時、白組の籠の下で一生懸命玉を籠に入れようとする西連寺がいるのを見て感動したことは言うまでもない。
そのお陰あってか水玉入れは白組が勝った。


【騎馬戦】

女子がスケスケを期待されるならば男子は初めから上半身裸である。
男達の意地と意地のぶつかり合い・・・女性諸君はときめきを覚えるのかカメラ持参の奴もいる。
これは男女平等に反していると思う。
紅白対抗騎馬戦第一組に俺たちは出場していた。
騎馬が崩れたら負けという単純明快なルールはリレーと同じく体育祭の華である。
己の力を誇示する為の戦い・・・。
古来より雌はよリ強い雄に惹かれるという。
それは生存本能において最も利にかなった考えであり、正に弱肉強食を現すものといえよう。
いくら否定しようが自然は弱肉強食を是とするのだ。

そう!この騎馬戦は男子にとって英雄になる絶好の機会!
だから体育会系の脳筋どもはぎらついた瞳でいれるのだ。
多くのか弱い文化系草食男子を屠らんとするその瞳が俺は気に入らない。

「文化系クラブの威信をかけるべきだ!いこう3人とも!」

「おうっ!」

「ああ」

「やってやるよ!」

俺、敦、猿山が騎馬を組みその上に我らがクラス委員、的目あげるが指示を出す。
その姿は文化部の弱者たちには神々しく見えたであろう。
俺たちの表情は自信に満ち溢れ負けを微塵にも感じさせない様子に見えるはずだ。
朝礼台には校長と会長、そして桐生先輩が立っていた。

「彩南高校男子生徒諸君!日本男児の逞しさと強さを見せてちょーだい!」

「それでは準備はいいな!騎馬戦をこれより開始する!彩南ファイトォォッ!!」

「レディィィィィィィーーー!!」

「「「「「「「ゴォーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」

なお、この掛け声は1995年からだそうです。伝統になっちゃったのこれ!?

「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」

俺たちは絶叫しながら正面の相手に突撃した。
まあ、気合も自信も十分だった俺たちの唯一の誤算は、相手がラグビー部だったという事だけだった。

「「「「うぎゃアアアあああああああああ!!!」」」」

結果、そのラグビー部の奴らが固まった騎馬に俺たちは粉微塵に吹き飛ばされた。

「リ、リトーーーーーー!??」

「結城君ーー!?」

気持ちのよいほど吹き飛ばされた俺たちはその後負傷者として保健室に運ばれてしまった。

・・・ほ、他にも綱引きでララが引っ張ったら相手チームが空を舞ったとか、大玉転がしの玉の中にも水が仕込んであったとか、リレーが凄く盛り上がったとかあったらしいが騎馬戦の怪我で俺はもう限界でしたので、体育祭後のフォークダンスは当然参加出来なかった。そのため猿山は男泣きしていた。合掌。


※【体調が50下がった!文系が1上がった!理系が1上がった!芸術が2上がった!運動が8上がった!容姿が1上がった!根性が10上がった!心労が20上がった!?】



『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:042(50↓)  『文系』:064(3↑)  『理系』:068(3↑)

『芸術』:035(4↑)   『運動』:116(13↑)  『雑学』:088(±0)

『容姿』:055(2↑)   『根性』:082(12↑)  『心労』:040(30↑)


【一言:脳筋への道もいいが体調管理も忘れずに】


(続く)



[22408] 9話目 水不足解消延長のお知らせ
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/10/26 16:04
体育祭も終わり、四季では夏に入った。
もう15年以上この夏を体験しているのだが今年は例年よりやや気温は低い所謂冷夏らしく、農作物への影響が心配される年である。
だからと言って我々人間にとっては暑いのには変わりない。
本日の部活は視聴覚室で映画鑑賞である。教室に空調機器はないのだがこの視聴覚室には冷暖房が完備されている。
外から聞こえる運動部の皆さんの死にそうな声に同情する訳でもなく、俺たちは優雅に映画鑑賞をしているのだ。
変わったことと言えば野球部のはずの弄光先輩がこの映画鑑賞に参加している事ぐらいか。
・・・まあ、面白そうという理由でララもここにいるしへたな映画は見せれないという事で、俺たちは今【火●るの墓】を見ている。
名作というのは何時見ても心揺さぶられるものであるが、妹がいる俺にとってはかなり堪える映画である。

とりあえず観賞後、涙の跡があったのは校長とララと神谷先輩の三人だった。
・・・この映画も終戦日が近くなるとよく放映されるから見飽きた事もあるのか、敦とかは詰まらなそうである。
大体コイツはララがいるのに『ファイナル●スティ●ーションを見ましょう』などと言ってたし。アレ死亡フラグとはこういうものだ的映画だよね?
確かにお前さんに見せてもらった時は恐怖とかグロとかそれ以前にあまりに華麗なフラグ回収ぶりに感心した作品だろ?
なお今回見た『火●るの墓』は意外なことに校長が薦めた映画である。

『いや・・・私だってまともな作品も持っているよ?』

てっきりまたポルノ映画傑作選を選ぶと思ったと桐生先輩が言ってたが、流石に女子の前では少し自重したらしい。
・・・正直少し見たいと思ってしまったのは永遠の秘密としておこう。
それにしてもララも火●るの墓の泣き所が分かるんだな。この作品は国境どころか星の区別もない作品だと言うのか!?
なお、他の部員が薦めた『ララでも楽しめる筈の』映画は、俺は某嵐を呼ぶ5歳児の劇場版第4作目で、猿山がラ●ュタで清水先輩がおくり●とで神谷先輩がフォレスト・●ンプで桐生先輩がCU●Eで弄光先輩がプロ●ェクトAって・・・ほとんどおふざけなしで選んでるじゃねえか俺たち!?でもララでも分かりそうなのはラ●ュタしかないような気がしてならない。どれも面白いんだけどね。

「そういえばもうすぐ一年は臨海学校だな」

「今回も面白い余興を用意する予定だから楽しみにしてくださいよ~?」

桐生先輩がそう切り出すと校長がニタニタ笑いながらそんな事を言った。
どうせ碌なモンじゃないだろうがララはどうやら臨海学校を楽しみにしているらしい。
俺としては臨海学校は中止になってくれた方がいいんだよな。美柑一人にしたくないし。
でもまぁ、楽しみにしている奴らの事を考えれば俺の考えなど少数意見でしかないだろう。

「・・・あー・・・でも今台風が日本列島に近づいてるって話ですよ」

猿山が携帯を見ながら言う。
そう、夏の風物詩である台風がどうやら臨海学校の日に直撃しそうなのだ。
校長曰くそうなった場合臨海学校は中止だそうだ。

「まあ・・・去年の僕たちのときは泳いでたら遭難した記憶しかないよね」

「島民の人が船で送ってくれなかったら俺たち孤島で暮らしてたよな」

「実際俺たち四人はこの男のせいで臨海学校のほとんどのイベントを逃したんだよ!」

弄光先輩は桐生先輩を指差し力説した。
この四人、他の生徒達が遊んでいる間、島民の人と銛漁したり孤島の歴史を取材したりしていた・・・って学習という点においてこの人たちが一番まともな臨海学校してるやん!?弄光先輩はこの臨海学校で彼女を作ろうと思っていたらしいが桐生先輩の思いつきの遠泳に巻き込まれ計画は瓦解したらしい。

「まあ、もしお前がまともに臨海学校に参加出来ても彼女は出来てなかったろうがな!」

「なんだとコラぁぁぁぁぁ!!」

神谷先輩が素晴らしい笑顔で無情の事実を突きつける。
ララをナンパした際の口説きぶりを後から聞いたが彼の口説きにホイホイ引っかかる女性がいるとは思えません。
というかこの人、校長と同じ臭いがします。

「・・・台風かぁ・・・自然の驚異はどうしようもないよね」

「まあ行きたければ台風が逸れるように祈るしかないな。敦、梨斗、猿山、ララちゃん。お前らは遭難とかするなよ」

「普通しませんよ」

「へーい」

「団体行動万歳!」

「は~い♪」

桐生先輩のありがたい忠告も受けた俺たちは臨海学校を台風の動向を気にしながら望む事になる。
まあ、体調を整えて望むのは当然の事だな。当日風邪とかになったら洒落にならん。
既にもう泊まる旅館の部屋割りまでも決めてしまったんだ、クラスの奴らも行く気満々だからな。

※【体調5回復!文系3上昇!芸術2上昇!雑学3上昇!心労1上昇!】


数日後、明日に控えた臨海学校があるかどうか確認する為、天気予報を俺は美柑と一緒に見ている訳なのだが・・・。

『台風情報です。超大型で非常に強い台風4号は速度を速めつつ北上しており・・・』

「最近関東方面に台風直撃するよな。九州は逸れたりしてんのに」

「いいの?そんな暢気な事を言ってて。臨海学校中止っぽいよ?」

「台風に至ってはどうしようもないしなぁ」

一応準備はするのだが台風の前に人は無力だ。
一つ思うのだが何で台風が通過してるっていうのに畑とか見に行く農家の方がいるんだ?
台風は来るって分かるんだから予め対策しとけと思うのは俺だけか?
地震とかはどうしようもないが台風は天気予報見てたら分かるだろうしなぁ。
・・・農家の方は気象の学問にも精通しとかなきゃいけんのか?
・・・そういえば超大型台風とか久々に来るよなぁ・・・。

俺が部屋に戻るとララが上機嫌な様子で臨海学校の準備をしていた。
コイツの部屋は別に用意しているのに何でここでやってんの?

「よーし!準備OK!」

ララは旅行鞄いっぱいに荷物をしまってそんな事を言う。
俺は無言で段ボール箱を二つ用意した。
そもそも旅行鞄いっぱいに荷物は必要ないし、バスに乗るときにそんな大きな荷物邪魔である。
コスチュームロボも心なしかいいのかよという雰囲気で鞄を見ている。

「OKじゃない。荷物を減らせよ」

持ち物検査とかあってララが変なものを持ってきていた時怒られるのは俺である。
別に旅行じゃないんだから過度なおやつと玩具はいらん!
・・・つーか何でWiiを持っていこうとしてるんだお前は。
女子は少量の化粧用品と生理用品、しおりに水着と着替えと500円以内のおやつだけでいいだろ!?
そもそも携帯ゲームは原則持ってきたら没収だから。トランプとUNOと花札は黙認だってさ。
そんな中Wiiとか明らかに学校側にケンカ売ってるだろ!?

「む~・・・あ、そだ。アレを持っていかないと!」

俺による荷物の仕分けを恨めしそうに見ていたララは何か思い立ったように俺の部屋のクローゼットの方へ歩いていく。

「俺のクローゼットに何の用だよ」

「えへへ。実はこの中を私の部屋にしようと思って改造中なの」

お前一応居候なのに何勝手に人の家を改造してんだよ!?

「お前の部屋は別に用意してるのにそんなことする必要があるのかよ?」

「だって・・・なるべくリトの近くが良いんだもん。完成したら見せてあげるから覗かないでね」

・・・クローゼットにあった俺のものは一体どうなったというのだろうか?
窓の外は既に雲で覆われた空となっている。台風は早ければ深夜に上陸するという。
ララには悪いが今回の臨海学校は中止だろうな。台風来たら学校も臨時休校だしな・・・。
その時俺の携帯に着信があった。敦からだ。

「もしもし?」

『天気予報見たか?』

「ああ。どうやら直撃コースのようだよな。明日は学校も休校じゃないか?」

『まあ最近雨が降らなくてダムの貯水量がヤバイ県もあるって話だし、この台風は歓迎するべきなのかね、日本にとっては』

「断水の不便さからすれば俺たちのほぼ遊びの臨海学校中止なんぞ屁でもねぇな」

今年は国内の降水量が異様に少ない。
洗濯物はよく乾くのだが、そのせいで既に断水が始まっている地域もあるという話だ。
そういう事なので今回の台風は正直歓迎すべき代物なのだが・・・。

『小笠原諸島の一時間の降水量は見たか?』

「見てないけど・・・?」

『150mm超確実だってよ。最早水害だなこりゃ。その分渇水の解消に期待されてるってこったな』

「・・・そんな規模の台風来たら農業アウトじゃん」

『そこだよなぁ。でも水ないと農業も出来る事限られるしな』

「まぁ、上陸したら出来るだけ家から出ないようにしなきゃな。そういう時に外に出るのはまさしく馬鹿だしな」

『まぁ、そうだな。元々二次元と交流する為に外は出ないが気をつけよう』

「ここまでの規模の台風は貴重だからな。家で大人しくその猛威を見てようぜ」

『まぁ・・・古い家の住人とかからすれば笑い事じゃないが、幸運なことに台風には強いしな・・・床上浸水に注意だな』

「あー・・・それがあったな・・・のんびり出来たらいいのに・・・」

『マンション大勝利だな。んじゃ俺はあるかどうかも分からん臨海学校の用意をしてるよ』

「ああ。じゃあな」

『明日会うかどうか知らんが、また明日な』

俺は携帯を切って軽い溜息をついた。
台風における床上床下浸水か・・・。床にモノを置かないようにしないと・・・。

「臨海学校が・・・中止?」

いつの間にかララがクローゼットから出てきて立ち尽くしていた。
俺は肩を竦めてララに言った。

「かもな。台風が来たらそもそも外出自体がNGだし臨海学校なんて論外だろ」

「えー!?そんなのやだよ!せっかく色々準備したのに!」

「俺らが今から準備するのは水害が予想される台風に対してどうするかについてだよ。結構大変な規模のが直撃するみたいだしな」

ララは泣きそうな顔になったがすぐに何かを決心した表情になり言った。

「私が台風ってやつを何とかする!行こうペケ!」

「は?何とかするってお前・・・」

ララは恥ずかしいドレス姿になり、外へ出ようとする。

「・・・?何処行くんだよララ」

「決まってるじゃない、台風のトコだよ!」

「はぁ!?ちょっと待て・・・」

俺がララの腕を取ったその時、ララは浮かび上がり、何処かに向かって飛び始めた。
・・・勿論俺も連れたままである。いやいや危ないって!?
必死に俺はララの腕にしがみつく。でないと落ちるし。
そうしていたらやがて台風の影響で高い波が押し寄せる崖の上に来た。
そこで俺はララの目的を始めて聞いた。

「台風を止める?」

「そうだよ!」

かなり強めの風雨の中このお嬢さんは何を言っているのでしょうか。
というか台風近づいてるのに海に近づくとか自殺志願でもあるまいし。

「要はあの雲を吸い込めばいいんだよね?ならこのバキュームくん2号で台風なんか吸い込んじゃうんだから!」

俺がララを預かる羽目になった時に使ったあのタコのようなメカが再び現れ吸引を始めるわけだが台風の雲は吸い込めばどうにかなる代物ではない。
予想通り周りの空気を吸い込むだけで台風は全く持って勢力を維持したままのようだ。

「・・・あっれぇ・・・?」

「しかし台風には効果がないようだな」

「なら『ぱくぱくイーターくん』!雲を全部・・・ってきゃー!?イーターくんが飛ばされたー!?」

「・・・正直尋常じゃない風だしな」

ララは懲りずに様々な発明品で台風に挑むが全く効果は無く、ついにやや強めの雨が降ってきた。

「そんな・・・私のメカが通用しないなんて・・・」

『ララ様のメカは効果が小規模のものですから台風のような大規模のものに対しては効果が発揮できないのですね・・・今から対台風用のメカを作っては?』

「地球で手に入る材料じゃアレを何とかするなんて無理だよ・・・」

「臨海学校を楽しみにするお前の気持ちも分からない訳じゃないけど、こればっかりは諦めた方がいいんじゃないか?」

「嫌だよ・・・楽しみにしてたんだもん・・・リトや春菜とクラスの皆と一緒にお泊まり・・・」

なら修学旅行まで待ってろと言いたいがよくよく考えればこいつがその時まで学校いるとは限らんしな。
俺は携帯を弄くり、天気予報の画面を見た。お、更新されてる・・・ん?

「もう怒った!」

ララは強風の中空を飛んだ。

『ラ、ララ様!?一体何を・・・!?危険です戻らないと・・・!』

「絶対臨海学校に行くの!こっちへ来ないでよ・・・!!台風の・・・バカァーーーーーーーーッ!!!」

ララの絶叫は衝撃波が出るほどの絶叫であり、その勢いで台風の雲と思われるものは吹き飛び、空は晴れてきた。

「・・・・・・み・・・耳が・・・耳がぁぁぁぁぁ!!!??」

俺は耳を押さえながら崖の上をのた打ち回るのだった。

ずぶぬれになって我が家に帰った際、テレビの天気予報ではちょっとした騒ぎになっていた。

『大変珍しい現象が起きました。台風4号は突如進路を変更し、日本列島から遠ざかりました!』

珍しいよな。気圧関係なく力技で台風の進路が変わったんだから。
だが気象予報士はその後また深刻な表情になり気象予報を読み始める。

『ですが今度は大型で猛烈な台風5号がゆっくりとした速度で近づいています。日本列島への上陸は予報では四日後に九州に上陸する見込みです』

ああ結局台風は来るんだな!しかもさっきより強烈な奴じゃねえか!天災が来るぞおい!

「綺麗に日本列島通るわねぇ・・・」

美柑がアイスを舐めながらそんな感想を漏らす。

「これで列島の水不足も解消だよ、やったねみかんちゃん!」

「何がやったのか分からないけどまあ、断水の心配をしなくていいのは良かったわ」

小学生にして主婦のような感想を言う我が妹である。
風呂場からはララの鼻歌が聞こえてくる。
今回の臨海学校において台風5号は直接関係ないから、明日は普通に臨海学校はあるだろう。
・・・俺はどうやら耳を負傷したせいか頭が痛いが寝れば治る。

「美柑、俺たちがいない間は留守番頼むよ」

「あまり羽目を外しちゃ駄目よ?ララさんもいるんだから」

「お前も俺がいないからって寂しいって泣くなよ?」

「なーにバカな事言ってんの。泣くわけないでしょうが」

「・・・そうか、偉いな。それじゃ明日も早いからお休み美柑」

「お休み、リト」

まあ美柑については既に親父に連絡して早く帰ってくるように言ってるので無問題だな。
仕事については地球に滞在する為の拠点を探すザスティン達に伝ってもらう事になっている。
親父の漫画の進行はこれで問題はないだろう。
こうして俺は臨海学校へと臨むことになる。
願わくば台風5号が速度を速めませんように!

※【体調5回復!文系3上昇!芸術2上昇!雑学3上昇!心労1上昇!】
※【運動が1上がった!根性が2上がった!心労が4上がった!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:047(5↑)  『文系』:067(3↑)  『理系』:068(±0)

『芸術』:037(2↑)   『運動』:117(1↑)  『雑学』:091(3↑)

『容姿』:055(±0)   『根性』:084(2↑)  『心労』:045(5↑)


【一言:なんでせっかく下がった心労が上がってるんだよ!あと耳掃除は毎日しとけ】

※【文系値が65以上になりましたので少しかしこくなりました】


【続く】



[22408] 10話目 怪我をしたら遊びも何もない
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:2642b484
Date: 2010/11/08 08:45
ララの気合で臨海学校は滞りなく行われる事になった。
彼女は本当に楽しみにしていたようで見るからに上機嫌な様子である。
まあそれは大多数の生徒がそうであり、皆浮かれ気分である。
移動のバスの中ではそんな浮かれ気分が有頂天なのかカラオケ大会が始まっていた。
前のほうに座っている女子やお調子者の男子が自慢の歌声を披露しているのだが、一番後ろの席で頭痛に悩まされて寝たい俺にとっては騒音でしかない。
なお、カラオケは親しい仲の奴ら(具体的には俺と猿山)としか行かない敦は酷い音痴の為、居心地悪そうに携帯ゲームをこそこそやっている。
俺の席はバスの一番後ろのど真ん中だが、別に寝ることに支障はない。

「敦、着いたら起こしてくれ・・・」

「行きのバスの時点で体力を温存しようとはお前は本当に高校生か。分かった、善処しよう」

今は一分でも多く休息を図り、体調の回復につとめなければいけない。
窓からの景色を見るには席が離れすぎているので俺は本格的に喧しくなる前に寝ることにした。
その際に歌っていたのは多分ララと西連寺だと思う。
ララの友人関係に対して心配する必要はないようだな。
むしろララの友人作りが物凄く順調すぎて、俺のコミュ力の低さを痛感させられそうな勢いである。
美人はそれだけで才能とはよく言うが本当だなと思います。


寝ている間に顔に悪戯されていないか心配だったがどうやらされていなかったのは良かった。
そんな訳で俺たちはこれから数日間お世話になる旅館に到着した。
何でも校長がここの女将がお気に入りという理由で長年ここの旅館を臨海学校では拠点として使用しているのだ。
旅館の方々も彩南高校はお得意様という感じで此方を歓迎してくれた。
ただ一人、校長は殴られていたが。

「ここに来るたび高美ちゃんの鉄拳を受けるんだがこれは彼女は人前で抱きつかれるのが恥ずかしいからなんだよね?」

「明らかに拒絶の意志を示してるじゃないですか」

「というか会うなり飛び掛るのもどうかしてると思います」

俺と敦は旅館の女将に顔を殴られ鼻血を噴出して泣いている校長の愚痴を軽く聞き流していた。
この人、女子には相手にされないから男子の知り合いの俺たちに助けを求めてくる。
・・・いや、正直俺たちに助けを求めてもどうしようもないんですが。
とりあえず校長の鼻にティッシュを詰めはしたが・・・。
臨海学校の目的は自然と触れ合い、その自然を残すという心を養ったりアナログな遊びを継承したりという目的はあるのだがそれは建前で大体遊びまくる事がメインで進行する。
校長の話も終わり、俺たちは割り振られた部屋に行った。
俺と敦と猿山、そして数合わせのために俺たちと同じ部屋になったクラスメイトの上尾和正(バスケ部)と共にゆりの間と書かれている部屋に来た。

「何だ小金丸。結局DSは持ってきてるのかよ」

「ああ。海水浴はすぐに飽きるしな」

「一階の遊技場に何故か北●の拳があったぞ」

「何で旅館に●斗の拳があるんだよ」

「やりたいけど教師の目もあるしなぁ・・・」

とりあえずこの旅館が核の炎に包まれる事はないだろう。
ひとまずは今夜は肝試し大会なるものが開催されるらしい。
なるほど、自然に囲まれたこの旅館、夜は幽霊やら何かが出てもおかしくない環境とでもいうのだろうか。

「とりあえず旅館に来たんだからまずは風呂に入ろうじゃないか」

「おい猿。肝試しのあとでもいいだろうが風呂は。何ゆえお前は風呂に行きたがる?」

「決まっているじゃないか敦くん。覗きだよ」

「何ィ・・・?」

敦の目が光る。
二次元の裸にしか興味がないと思えばこの男はやはり三次元の男なのか!

「この猿山ケンイチ、抜かりなどありはせん!昨今の温泉施設のように男湯と女湯がそもそも別の場所にあり覗きが困難という訳ではなく!この旅館の温泉は男湯と女湯が隣り合っており、しかも岩を登ればすぐに桃源郷が見える仕組みになっているのだ!」

「・・・何でそんなことを知っているんだよお前は」

「何せ下見をしたからな!!」

この男はたかが覗きに下見までして何を燃やしているのだろうか?
失敗すれば社会的に堕落していくのは確実だというのに・・・。
しかし猿山の提示した希望に敦も上尾も目を輝かせ何故か着ている浴衣を調えていた。
そう、彼らはこれから戦場に行く為の準備をしているのだ。・・・どうせ裸になるのに浴衣を調えてどうする。

「・・・既に女子が入浴を楽しんでいるのは確実。決行は正に今、この時である!」

「俺たちは山や海を見て視力を回復しに来たのではない。女体を見て目を保養をしにに来たのさ!」

欲望丸出しの猿山と上尾だが、それなら普通に海水浴の時に目いっぱい見ろよ。

「女湯はいい・・・何せ海水浴とは違い丸出し率が半端ねぇ!なぁ敦!お前もそう思うから来るんだろう?」

「己の目にモザイク機能はないからな。運が良ければ無修正の裸体を拝む事が出来る。次元が違うのが残念だが男として見ない訳にも行くまい」

目がモザイクとか何処の罰ゲームだ。
猿山達は期待に満ちた目で俺を見つめる。
その真っ直ぐな目を見ていると俺は期待に答えたくなってしまうじゃないか。

「・・・わかった。お前たちのその真っ直ぐな思いに免じて俺も風呂に行こうじゃないか」

気付けば昭和のヒーローのような理由で風呂に行く事を決めていた。
そんな訳で俺たちは大浴場に来たわけだ。
男子風呂は不気味なほど人がいない。そりゃそうだ、あとで肝試しがあるというのに何で今入るというのだ。
反面、隣の女湯からは女子の声が聞こえてくる。

「この岩の向こうに俺たちが望む光景があるんだ」

「湯気で見えないというオチだったら俺はお前を湯船に沈めるぞ、猿」

俺除く3名の目は血走っている様子だ。
他の面子がこういう時に俺が冷静でないといけないな。
そんな決意をしていたら隣から聞き覚えのある声が聞こえた。

「えぇ~!?ララちぃ肝試し知らないの!?海外生まれだから?」

「うん!そのキモダメシって何?」

どうやらララも女湯にいるようだ。声からして沢田と話しているのか?

「おいおいおい!ララちゃんがいるみたいだぞ!」

「落ちつけ上尾。ここで興奮して大声を出しては俺たちの計画に支障が生じる」

猿山は上尾を宥めるように言う。
そもそも計画自体破綻してほしいのだが。

「肝試しってのはね、分かりやすく言えば男女ペアで暗い夜道を歩いて目的地を目指すゲームだよ」

勿論沢田の肝試し観はそれはそれで正しい。だが肝試しにも種類はある。
男女じゃなくても肝試しは出来るし夜道を歩かずとも肝試しはできる。絶叫マシンがその例であろう。

「えー?夜道を歩くなんて簡単じゃない?」

「ところがそうは行かなくてね、夜道の行く手を阻むお化けたちがうらめしや~って此方を驚かせて来るんだよ」

「へー」

岩を少しずつ上りながら思うのだが、高校生にもなって何で肝試しをしなければならないのだろうか?
あれか?生徒同士の親睦を深める為か何かか?

「あとここの肝試しにはジンクスがあってね?この臨海学校の肝試しで最後まで辿り付けた勇気あるペアはね、必ずその後結ばれてカップルになるんだって!」

沢田の情報に耳を傾けていた猿山が俺たちのほうを見て言った。

「聞いたか?」

「猿、何を期待しているかしらんが、所詮それは釣り橋効果の一種で一旦付き合うだけだ。長くは続かん」

「そうだな。一時の関係を望むならそれもありだが、女遊びできる顔じゃないしな」

「・・・何でそこまで言われなきゃならんのだ!?」

「・・・ところで梨斗がいる手前でなんだが俺たちがララちゃんの裸を見てもいいのか?」

「・・・覗き行為自体が本来駄目だろう」

「それを言っちゃ駄目だろリト・・・」

煮えたぎっていた情熱が冷めかけていくような気がした。
考えてみろ、女の裸が何だというのだ。俺らと違って全体的に丸みを帯びて胸が膨らんでて尻がちょいと大きくてあるものがないだけの話ではないか。
そんなものをみる為だけに社会的制裁覚悟で突撃してよいものか。
もう辞めようぜ、と俺が言おうとしたその時だった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!覗きよーーーっ!?」

一瞬にして血の気が引く思いがしたが、敦が小声で俺たちを制する。

「落ち着け皆。俺たちが未だに女湯が見えないというのに何故覗きがばれるというのだ?」

確かにそうである。
俺たちの全身は岩によって遮られ何処からも見えないはずというか、俺たちを見るには女子のほうが男子湯を覗いてないと無理だ。
・・・では何故先ほどの叫びは覗きだと言ったのか?
答えは簡単だ。校長が無謀にも女湯の中の桶が積み重なっている場所に潜伏していたからである。

「違う!私は断じて覗きなどという行為はしていない!」

何故か校長はまるで自分は間違った事はいていないかのごとく言った。

「私は男だが女湯に入浴しに来たのだ!!だから断じて覗きなどではない!私が入っている風呂に諸君が入ってきただけなのだ!」

「そんなの言い訳にならないわよ変態!!」

「このエロ校長!いっそ死ね!!」

「くぎゃあああああああ!!!??」

・・・どうやら女湯では校長の処刑が始まったようだ。

「・・・大人しく入浴しておくか」

猿山が俺たちを見てそう言った。
覗きがばれた者の末路・・・それに対して怖気づいたのだ。

「・・・ふむ、せっかく温泉に入るんだし、他の客もいないんだ。ここでしか出来ない事をやろうじゃないか」

「敦?何をするというんだ?」

「こういう広々とした風呂でやることといえば泳ぐか或いはシンクロだ」

「・・・一人でやってくれないそういう事?」

温泉に来て開放的になっている幼馴染に対し、俺たちは若干引き気味である。
だが敦は一人でも構わんとばかりに湯船に潜る。
そして俺たちが見守る中、敦の片足が水面から出てくる。
・・・隣では校長の悲鳴と女子の怒声と桶の音がするというのに嫌に静かに思えた。
一人シンクロをしている敦は何故かとてつもなく笑顔で、されど黙々と演技を続けていた。
そして数分経った頃、ちゃぷリ・・・というかすかな水音と共にオットセイが顔を出した。
そのオットセイは唖然とする俺たちの前で首をぺちぺちと音をあげつつ振り始めた。
その光景に上尾が噴出し、猿山は後ろを向いて笑いを噛み殺していた。

「・・・何かオットセイがでかくなってるぞオイ」

俺も苦笑しつつ敦の隠し芸を見守っていた。
まあ、隠しといってもある意味隠してない訳なのだが。
そしてオットセイの両側から敦の両足が生えてきた。
その非常にシュールな構図についに猿山は耐え切れずに大笑いしていた。
上尾といえば、その構図を見て、

「●神家のアレとオットセイがコラボしたんだな、小金丸」

などと言っていた。
俺はそれに肯定したようにぺちぺち首を振るオットセイに対して、お湯を掛けてみた。
するとどうだ、オットセイがだんだん大きくなっていくではないか!
オットセイは怒っているのか赤くなって血管まで浮き出ている。
いやこれはもうオットセイなどという生易しいものではなく、そそり立つ塔である。
やがて塔は沈んでいき、ようやく敦が息も絶え絶えの様子で顔を出した。

「こんな事はこういう場でしか出来んな!アッハッハッハ!」

いや、こういう場でもやるなよ。
この男は学業は凄い優秀なのにこういう行動するから奇人扱いされるんだよな・・・。
俺はのぼせかけの幼馴染に水をぶっかけながらそんな事を思い、久々に大笑いした。


西連寺春菜は憂鬱だった。
程なくして行なわれる肝試しのことを考えると溜息が止まらない。
彼女は昔からお化けなどの怖いものが大の苦手である。
それこそ遊園地のお化け屋敷など行こうならば、事前にトイレに行って置かなければ大変な事になるぐらいの苦手ぶりである。
しかし、だからこそ自分のその弱点は誰にも知られないように今まで努力してきたのにここへ来てのコレだ。

「大丈夫だよ・・・脅かす人は人間、脅かす人は人間・・・」

そう自分に小声で言い聞かせ勇気を出そうとするが、もう既に怖い訳で。

「はーい、では今から肝試しのペアをくじ引きで決めまーす!各クラス男女それぞれでクジを引き同じ番号同士がペアでーす!」

この肝試しで目的地に二人でたどり着ければカップルになるという噂がある。
春菜としてはやはり彼・・・結城梨斗とペアになってゴールしたいのだが果たして自分が耐え切れるかが問題だ。
そもそも彼とペアになれる保障はどこにもない訳で・・・。

「春菜、何番?私は8番だけど」

「未央・・・私は5番よ。里紗は?」

「私は18番。最後の方じゃないのよ。あ、ララちぃ~!何番引いた?」

「私、13番!」

さて、友人の番号を確認した所で自分と一緒に行く相手を探さなければ・・・。
果たして自分の相手は梨斗であるのだろうか・・・?
春菜が小さな希望を抱いている同時刻、梨斗と敦と猿山は自分達の番号を見せ合っていた。

「敦が13番で猿山が5番で俺が18番ね・・・俺最後の方かよ。待ち時間気まずいんだけど?」

「安心しろ梨斗。こんなこともあろうかと俺はコレを用意した」

敦がそう言って取り出したのは携帯型音楽プレーヤーである。

「コレに肝試しにピッタリな音楽を入れてある。待ってる間コレを聞いておけ」

俺は敦から携帯型音楽プレーヤーを受けとり、イヤホンをつけて音楽を視聴してみた。
一曲目に流れてきたのは世●も奇妙な●語のテーマソングであった。
なるほど、確かに肝試しのテーマソングにすれば怖さも増すだろう。

「しかしコレを聞いた所で気分は高揚はせずむしろ恐怖に支配されるじゃん」

「予め恐怖に慣れておけば感覚が麻痺して怖くないのではないかというのが俺の考えだ」

「更なる恐怖に精神が蝕まれ狂うかもしれんやん」

「狂った方が楽かもな」

「平然と怖い事を言うな」

やがて一曲目が終わり二曲目に流れてきたのは某世界で二番目に有名なネズミがデビューしたRPGのとある町にある塔の音楽だった。
・・・いや、敦君・・・多分ここのお化けさんたちは『タチサレ・・・タチサレ・・・』とか言わないと思います。

「俺思うんだがライバルの●ッタって・・・」

「きっとパソコンの中で元気にしてるからそういう事は言うな」

「というかさっきから怖さを演出するのしかないじゃん。もっと気分が高揚するのはないのかよ」

猿山の言うとおりただでさえテンションは下がる肝試しに対しては気分の上がる曲を聞きたい。
二曲目が終了し、三曲目に入るといきなりラスボス戦になった。

「肝試しって要は恐怖への挑戦だろ?恐怖に対するは勇者、即ち肝試しは勇者の挑戦だ」

「たかが肝試しが無駄に壮大になってるんだが?」

「安心しろ。この肝試しにゾー●は出ない」

「出てたまるか!?」

俺はイヤホンを外し、携帯型音楽プレーヤーを敦に返した。
それと時を同じくして俺たちのもとにララ達がやってきた。

「おーい、リトー♪リトは何番?私は13番だよー」

「ん?ララは敦と一緒か」

「そのようだな。悪いな梨斗。ララちゃんの身柄は一時預かる」

「頼んだ」

「え~・・・リトと一緒じゃないの~?」

「俺は18番だからな」

俺は自分の番号を見せながら言った。

「じゃあ、私と一緒じゃないの」

俺と同行するのは籾岡だ。
良くも悪くも今時の女って感じだなこの女は。
同級生の胸を揉んでいる場面も見るのだがこの女はつまりアレなのかただのおっぱい星人なのか?
どちらかと言えば苦手な部類だなコイツは。

「そんで俺は5番だが」

「じゃあ・・・私とだね・・・」

「・・・なんだかあからさまに落胆の表情じゃね?」

猿山は西連寺と一緒に行くようだ。
・・・大丈夫か?猿山はお調子者だが若干ビビリな所もあるからな・・・。

「それでは番号順にスタートしてください!では1番から早速スタート!!」

ようやく始まったようだ。
1番目のペアが神社の境内へ続く道へと消えていく。
しばらくして彼らが消えた森の中から悲鳴みたいな声が聞こえてきた。
猿山と西連寺が息を呑んでいる様子だ。大丈夫かこいつら・・・。
敦は音楽聴いてるし、ララはワクワクした表情だ。
・・・大の高校生が悲鳴をあげるほどのレベルなのかね、この肝試しは。

やがて猿山たちの番になり、続いてララと敦の番となり、ようやく俺たちの番が回ってきた。
一時間近く待たされて身体も冷えそうだ。森の中からの悲鳴も大きくなっている。
先ほどスタート前の俺たちの側を先に行ったペアの奴らが通り過ぎて行った。

「主催側も気合入れてるってことなのかね」

「続々と戻ってきてるじゃない。そんなにこの先ってヤバイのかしら?」

俺たち二人は逃げていく生徒達を尻目に一本道を進んでいく。
70mぐらい進んだ時に前方から走ってくる影があった。

「ひえええええ~!!」

「猿山じゃん」

籾岡が気付くが、猿山は此方に目もくれず一心不乱に入り口の方へ走って行った。

「・・・アイツ、ペアの片割れ残して逃げてんのか?」

「あ、そうだ春菜だったわね、猿山と組んでるの」

「西連寺も逃げたのかね?」

「そうじゃないの?猿山がああじゃゴールしても意味ないだろうし」

その時だった。
草むらからホッケーマスクを被り、斧を持った大男が現れた。
男は唸り声をあげ両手をあげて此方を威嚇した。
アレだな、格好からするに13日の●曜日のアイツだろう。

「っっ!?」

籾岡が思わず軽い悲鳴をあげそうになり、若干俺のほうへ近づいてきた。
俺はしばらくジェイ●ンもどきを見つめたあと言った。

「お勤めご苦労様」

するとジェ●ソンはこりゃどうもとばかりに頭を下げた。
しばらくして我に帰ったのかまたこちらを威嚇していたがもう遅い。
何故なら俺たちは既に立ち去ったあとだからな。

「あー・・・ちょっとドキっとしちゃったわ・・・」

「・・・ああ、あのへん辺りから出ると思うよ」

俺は森の中で少し大きな杉の木辺りを指差して言った。
直後、狼男が俺たちの目の前に現れた。更に木の上からは落ち武者の霊が現れた。
木の上からの奇襲に籾岡は目を少し見開き、

「ううっ!?」

などと呻き、俺の背後に隠れるように移動した。
俺は木からぶら下がる落ち武者に尋ねた。

「大変ですね、木の上から。さぞかし給金はお高いのでしょう?」

「安い」

どうやらお化け業界の経済事情も厳しいようである。
宙ぶらりんに吊り下げられた落ち武者に同情しつつ俺たちは先へ向かった。
少し行った先に見慣れた男が一人で立っていた。敦だ。
敦は此方にすぐ気付いて手を軽くあげた。

「よう、お二人さん」

「・・・敦、ララはどうした?」

「リタイア集団の波の中で見失った。戻っていないのか?」

「見てないわよ」

「なら先に行ったのかな?」

「ついでに探しておこうか?」

「助かる。ま、はぐれた時点で俺たちは失格みたいなものだ。だから俺は戻る」

敦はそう言ってイヤホンをつけた。
そしてそのまま鼻歌を歌いながら来た道を戻っていった。

「完全にララちぃを結城に丸投げしたわね、アイツ・・・」

まあ、そう言いながら敦は戻りながらララを探すような奴だ。
俺はこの先でララを探すとしよう。
俺たちが先を行こうとしたその時、やや前方の草むらが不自然に動いていた。
だが、何かが出てくる気配は感じられない。・・・しかし何かはいるようだ。

「な、何?今度は・・・」

「お化けだったらもう出てきてるんじゃないか?」

「じゃあ、ララちぃ?」

「どうかな?」

俺はそう言って音がした草むらを覗いた。
するとそこには顔が涙でぐしゃぐしゃになった西連寺が座り込んでいた。

「・・・西連寺じゃん」

「え?春菜!?」

「猿山の奴・・・マジで置いて行ってたのかよ。オイ大丈夫か?」

「春菜、大丈夫?立てる?」

俺たちが彼女に近づくと、西連寺はその身体を何故か俺に預けてきた。
彼女の身体は震えており、その手は俺の浴衣をしっかり握っていた。

「怖い・・・怖いよ・・・駄目なの本当に駄目なの・・・私オバケは全然ダメ・・・!!」

俺と籾岡は困ったように顔を見合わせる。
どうやら籾岡も彼女のこのような姿を見た事はないようで戸惑っているようだ。
彼女の親友である籾岡がそうなら俺だってそうに決まっている。
どうしよう?本来のペアとはぐれてる時点で彼女は失格扱いのようなものだが・・・この状況で戻らせるのは酷だろう。

「春菜、私達が来たからにはもう大丈夫よ。だから落ち着いて・・・」

「り・・・里紗・・・あ、あれ・・・?」

「正気に戻ったな、良かった」

「ゆ・・・結城く・・・・」

このままの流れなら春菜が俺に抱きついたあたりの事を謝る流れだったのだろうが、そんな空気をオバケの皆さんが読む筈もなく、またもや落ち武者の幽霊が現れた。

「う~ら~め~し~や~」

「イ・・・・いやああああああああああ!!!!!」

甲高い悲鳴と共に西連寺は何処にそんな力があるのか俺をいきなり振り回しオバケに対して攻撃を開始した。
・・・ってちょっと待て!?

「おぶふふぉあ!?」

「ひぎゃん!?」

武器と化した俺はオバケに猛烈な勢いでぶつかる。
それによってオバケの皆さんは吹き飛ばされて草むらの中に消えていった。
いきなりの西連寺の暴走に呆然としていた籾岡が我に返り西連寺に声を掛けた。

「ちょっとちょっと春菜!?落ち着いてー!?」

「きゃー!きゃー!」

なおも振り回される俺だが、いい加減気持ち悪くなってきた。
正気に戻ってくれるかどうかは知らんが、此方からも声を掛けなければ俺は死んでしまう!

「春菜!」

「正気に戻れ西連寺!!?ダメならせめて手を離せ!?」

それから数分後やっと西連寺は正気に戻った。
彼女の暴走を考えればもうゴールまで少しの所で引き返すよりもこのままゴールしようとの結論に至った。

「それにしても凄かったわね春菜~」

「私・・・怖くなるとわけわかんなくなっちゃって・・・ごめんね結城くん・・・」

しゅんとした様子で謝る西連寺。

「まあ・・・悪いのは置いて逃げた猿山だからな」

「でも・・・ありがとう二人とも・・・。二人が来てくれて心強いよ・・・」

「いいのよ。そういえば春菜、ララちぃ見なかった?」

「え・・・?ララさんがどうかしたの?」

「さっき敦に会ったんだけど、どうやらはぐれたようなんだよ。見てない?」

春菜は申し訳なさそうに首を横に振った。
うーむ、一体ララは何処に行ったんだ?
オバケの皆さんがいるから大幅なコースアウトはありえないのだが・・・。
そう思った矢先、西連寺と籾岡の方から軽い悲鳴が聞こえた。

「どうした・・・?」

「あ・・・あれって・・・・」

籾岡が指差す方向には此方に向かって走って来るお化けの格好をした皆さんがいた。
いかんな~、お化けと言うのは走っちゃったらギャグにしかならないんだよ。
ゆっくり迫るという恐怖という基本をわかっていないだろう。
いつの間にか追いつかれていたり待ち伏せされたりするのがいいのに・・・。
幽霊などに扮した皆さんは俺たちを通り過ぎて走り去ってしまう。
・・・あれ?此方を驚かすつもりはないのか?

「あれ~?リトたちだ~!」

前方から聞いたことのある声がした。
そこには何故か幽霊の姿に扮したララと・・・青白く光る如何にもな方々がいるんですが・・・。
おいおい・・・西連寺とかの顔も青白くなってるぞ!?

「里紗も春菜もいっしょなの?・・・あれ?猿山は?」

「・・・いや、ララよ、お前さんの後ろに漂ってる皆さんは?」

「あ、これ?このでるでるビジョン君による立体映像でオバケをだしたんだ。この前テレビでオバケのアニメがあったから」

・・・成る程ゲゲゲの再放送だな。
ぬ~●~じゃなくて良かった・・・。
からかさとかがしゃどくろとか一つ目入道とかがララの後ろで蠢いている訳だが・・・。
立体映像ならば問題ないな。な~んだからくりがわかればどうって事ないではないか!
籾岡は・・・あ、立ったまま気絶してるよコイツ。意外と怖がりなのか?
で・・・問題の西連寺だが・・・
俺が彼女の方を向こうとしたその時、俺はいきなり襟首を捕まれ、そのまま放り投げられてしまった。・・・ってちょっと待てぇ!!
からかさ目掛けて投げられたのは良いが立体映像のオバケに命中する訳もなくそのまま通り抜けてしまった。
そしてその際、立体映像を作り出しているララの発明品に命中してしまったわけだが・・・。

「いてて・・・」

「あー!!でるでるビジョン君が!?」

ララの悲鳴に気付いて見たら、ララの発明品のでるでる何とかから火花が出ていた。
おい、壊れたら爆発するようなモン持ち出してくんな!?
西連寺は声にならない叫びと共にそのまま気絶、籾岡も気絶中!ララはオロオロしてる!
このまま爆発でも起きれば俺たちは臨海学校から病院に護送される!
いや、その前に臨海学校中止、その後学校を停学、退学になるかも・・・!!

「クソッ!!」

俺は即座に立ち上がり火花と黒煙を上げ始めた厄介な危険物をなるべく遠くに蹴り飛ばした。
発明品は高く舞い上がり林の木々の頂点付近で爆発した。
その爆風で細い枝や石などが此方に飛んできた。
気絶している二人はそれに対して無防備に等しい。

「・・・しゃーねーな!!」

「リト!?」

俺は気絶した二人とララを庇うようにして立った。
枝や小石などが俺の身に襲い掛かる。顔を最低限ガードしているのだがそれ以外は無防備。
浴衣がが小枝で切れる。顔が砂埃で汚れる。石が身体に当たる。
・・・一つ股間に命中した。凄い泣きたい。
少々内股気味になりつつもようやく爆風は治まり、俺は後ろの三人の安全を確認する。
・・・良かった、ララも気絶している二人を庇うような体勢に入っていた為二人に傷とかはないようだ。
勿論ララも少し砂で汚れていたが無傷に等しい格好だ。
・・・全くなんで恐怖の肝試しのオチが爆破なんだよ!どこぞのお笑いウルトラクイズじゃないんだぞこれは!
俺は口に砂が入った為砂を吐き出した。

「リト・・・大丈夫?」

ララが珍しく心配そうに俺に尋ねる。
・・・この口調からすると何か悪いとでも思ったのだろうか?
俺は自分の状態を確認した。浴衣はところどころ破れて汚れまくり。身体も切り傷やアザも見られる。
まあ顔を庇ったとはいえ頬やら額も切れてるようだ。
・・・ま、こんなもん中学のサッカー部の時ならいくらでも負ってたしな。平気さね。

「あのな・・・こういう場所にあんな危険物を持ち出すなよ・・・」

「え~私は肝試しを盛り上げたかったのに~」

「盛り上げて怪我したらどうすんだよ・・・」

イベント事を盛り上げたいというララの気持ちは誉めたいのだが物事には限度というものがある。
物事は全て万が一の事を考えて行なわなければならない。
今日の肝試しも恐らく旅館の人々が様々なことを考慮して準備したんだろう。
客商売なのだからこういう催し物で怪我でもされたら旅館の信用問題にもなるからな。

「次は危険のない様に盛り上げてくれよ、ララ」

大怪我したら楽しい遊びも一瞬で冷めちまうからな。
コイツの物事を盛り上げようという姿勢はいいんだよ。
ただ、宇宙人基準だから地球人には危険なだけでコイツには悪気は全くないのは知ってる。
だからこそ言っておかなければならない。

「リト・・・」

「何だよ」

「よく爆発するってわかったね!カッコよかったよ♪」

「俺が痛い思いしてる間に何暢気にそのような事に感心してんだ!?」

目を回している二人に肩を貸し、俺とララはゴールに向かった。
校長たちの祝福に迎えられたのは程なくしてだった。

※【ゲーム終了:今年の肝試し大会達成者4名】

※【体調が2下がった!文系3上昇!理系1上昇!芸術1上昇!運動3上昇!雑学1上昇!容姿3上昇!根性4上昇!心労4上昇!】


『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:045(2↓)  『文系』:067(±0)  『理系』:069(1↑)

『芸術』:038(1↑)   『運動』:120(3↑)  『雑学』:092(1↑)

『容姿』:058(3↑)   『根性』:088(4↑)  『心労』:049(4↑)

※【運動が120に達しました】

【一言:根性が上がっても体調の悪さは隠せないから】



【続く】



[22408] 11話目 敦は1,000円使いました。
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:3c45cbd5
Date: 2011/04/10 14:49
臨海学校はれっきとした学校行事である。
それについては議論などあるはずもない。きちんと行事予定表にも記載済である。
本来ならば自然の中で何かを学ばねば成らぬはずだが誰もそんな目的などどこ吹く風かのように海で大いに遊んでいた。
猿山なんかは開放的になった女子を叩くなどと言って先ほど出撃したばかりだし、ララも西連寺たちと共に遊んでいる事だろう。
天気は雲一つなき文句なしの晴天、まさに海水浴日和なのだ。
眼下に広がる海も美しく、泳がねば損だろうと言わんばかりに生徒たちは海を満喫していた。

「臨海学校は遊んでばかりだな、梨斗。俺はてっきり海岸の清掃などと言う面倒な事をするんじゃないかと思っていたが杞憂だったようだな」

「そーだな。海岸も海も綺麗だしな」

「しかし、お前と話すのも随分久しぶりの様な気がするのは気のせいだろうか?」

「何言ってんだ?さっきから喋ってんだろ」

「それもそうだが5ケ月ぐらいお前と会話してない気がしてな」

「敦、俺はお前の体内時計が物凄く羨ましい」

たった数分が5ケ月ほど長く感じられるとはどんな精神と時の体内時計なのか?
年を経るごとに時間が短く感じていく気がする凡民の俺にとっては非常に羨ましい事である。

「見てみろ梨斗、太陽の光に晒されて海が輝いて見える。正に絶景だ」

「・・・自然豊かな場所だからな」

「・・・お前の言いたいことは分からんでもない」

敦は珍しくすまなそうに頭を垂れながら言う。
俺たちの視界に広がるは雄大な自然の光景である。
問題なのは今俺たちは海水浴をしているのではなく旅館の露天風呂に入浴している点である。

「しかしだな、梨斗。ここの旅館の露天風呂は天然温泉としてそこそこ有名であり、その効能には痔にも効果があると来ている。これは是が非でも入浴せねばなるまいて」

「なるまいてじゃなくてさ、お前痔だったのかよ」

「しかもイボ切れ痔だ、参ったか」

「そこに降参したところで俺に何の損があるというんだよ」

「親友が痔だ、助けてくれ」

「強気ながらも切羽詰ってる!?成程、確かにそれ程酷い痔ならば海水はえらく沁みるだろうけど何で俺まで連れてきたんだ?」

「だってー、一人だとー不安だしー寂しいしー」

「寂しさを胸に抱え怯えたまま湯治をしてれば良かったんだお前なんか!」

「湯治かァ、いいなそれ。夏休みは温泉巡りでもしたいなァ」

「発想が高校生じゃないよお前。大体インドア派のお前に温泉地巡りとか出来んのかよ」

「甘いな、世界はインドア派の俺にも各地の温泉の湯が体験できるように入浴剤というものを開発しているのだ!」

「自宅で温泉巡りか、不健康じゃね?」

「無数の嫁を置いて一人数多の敵蔓延る外の温泉地に出ていくなど出来ぬ!」

「二次元嫁は携帯ゲームの中にもいるから問題ないだろ」

「据え置き嫁を見捨てろというのか貴様!」

「二次元嫁は画面から出てこないんだよ!いくら世の中3Dテレビが蔓延ろうと、彼女たちは画面の向こうから俺たちに微笑む事しか出来ないんだよ!此方に伸びてるように見えるその手は目の錯覚或いは画面効果でしかないんだよ!」

「梨斗、確かに彼女たちは画面から出てこない。その現実に対して俺達は未だ無力に等しい。精々できることと言えば彼女たちとの幸せな日々を妄想し自分を慰めまた一日乗り切ることを考える事だけだ」

「出来ることが下品すぎやしねえか」

「下品だがこれが現実なのではないかな?」

というかなぜ俺たちは大海原を眺めながら男二人阿呆な話をせねばならんのだ?
露天風呂からは同級生たちが海岸でビーチバレーに興じてたり泳いでたり何処から調達したのか不明なスイカでスイカ割りしてたり、イルカと遊んで・・・いるのはララしかいない。まあ、とりあえず俺たち以外が楽しんでいるのが見えるのだ。

「嗚呼・・・楽しそうだなァ梨斗」

「そりゃこっちはただ風呂入ってるだけだからな」

「・・・お湯の掛け合いでもするか?」

「やめんか気持ちの悪い。風呂はゆっくり浸かるものだろうがよ」

「・・・梨斗」

「なんだよ」

「正直海水浴しなくてラッキーとか思ってんじゃないのか?」

「・・・・・・」

結城梨斗。サッカーが得意な高校一年生。
サッカーだけではなくその他スポーツもそこそこ出来る自負はある。
しかし彼は水泳に関しては犬掻きしかできない。その犬掻きは傍目からすれば溺れているようにしか見えない。
つまり彼は完全なカナヅチではないが泳げないのだ!
水泳の時間は彼にとっては憂鬱な時間でありどうにかしてサボる口実を作る為に作戦を練る期間でもあった。
ある日は自転車事故にあったと虚言を吐き、ある時は部活で負った傷が化膿したという噂を流し、またある時はプール内の塩素が蕁麻疹を起こすと医師の診断書まで偽造したり、更にある時は痔が悪化したと言ったり・・・女子ならば生理期間中と言えばいいだけの話だが男子が水泳授業を休む際には時に完全に身体を張らなければならない。
現に結城梨斗は中学時代、プールの期間中、部活の試合に出たことは一切ないのだから。
そこまで水泳が嫌いな彼にとって敦の誘いは拒否する理由のないモノだった。
ララが臨海学校に行くために台風を吹き飛ばしたことには正直焦りもあったのだが、そもそも海水浴の時間などというものは臨海学校中には存在しないのだから海に近づかなけば泳がなくていいのだ!

「俺は痔、お前は準カナヅチ。共に海水浴が出来ない身体である以上、せめて液体に身体を浸す行為だけはやっておきたいではないか。ここならば波もないからホラ、足をすくわれ溺れることなど微塵もない」

「俺達は協調性が微塵もないけどな」

別に海水浴しなくても砂浜で遊べばいいのだが何か馬鹿馬鹿しく思えて俺はコイツの湯治に付きあう俺も相当だ。
こうやって俺たち二人の臨海学校は風呂中心に過ぎていきついに最終日前夜になったのだ。
え?ララの水着とかどうした?いや、海行ってないから見てないし。
何か女子の水着の盗難騒ぎがあったらしいけど俺達には全く関係ないし。
ただ猿山らはナンパに大失敗したようで、この世の終わりかの如き表情をして現在、俺たちの目の前に座っているわけで。

「今回の臨海学校は辛い思い出しかなかった・・・」

「ホントだよ・・・」

「風呂やら北斗で過ごした俺達に死角はなかった」

敦が布団を敷きながら言った。
俺と敦は風呂の後旅館の遊戯場でひたすら●斗の拳をやっていた。
そのおかげで●ウザーが少し使えるようになったのは収穫である。
まあそんな事はどうでもいいのだが、猿山と上尾は納得できないように続けた。

「このまま苦い思い出を抱き臨海学校を終了していいのか?断じて否だろ常識的に考えてよ!」

「その通りだ猿山!俺たちは楽しい思い出を抱き帰宅をするべきだ」

「じゃあこのまま寝て楽しい夢を見れるように祈っとけ」

「阿呆か梨斗!?夢は所詮夢!現実には勝てん!」

「では猿。お前は一体残り少ない時間で何をしようというのだ?」

「決まっているだろうよ。女子の部屋に遊びに行くのだ!」

「遊びに行くのは大変結構だが目星はあんのかよ」

俺が聞くと猿山は自信を持って答えた。

「ララちゃんの部屋に行くのだ」

「撃沈確定の女の部屋に興味を持つな。だから猿は猿なんだ」

「やかましい!おい梨斗!ララちゃんの部屋に入るための勝利の鍵はお前だからお前もついてきてくれ!」

「断る!考えてもみろ!男子が女子の部屋に行くのはリスクが高い!教師たちだって問題は起こしたくないから巡回を強化してるんだぞ?見つかったら停学もしくは退学だ」

「校長が率先して行いそうな事を俺たちが行って何故悪い!」

「悪い大人を見本にしてどうする!?」

「別に夜這い目的じゃないのだからそこまで過敏にならなくても良い気がするがな」

携帯ゲームをしながら敦は言う。
だがもうすぐ消灯時間。うろついていたら教師に注意される時間帯であるのに女子がいる部屋に来てたら警戒どころではない。
教師である立場の者達は問題を未然に防ぐためこの時間帯は巡回を強化している。
決して嫌がらせ云々でやっているわけではない。恋愛するにしても節度と責任を持てと我々に言わんとしているのだ。

「ま、俺はパス。お前らでミッションを開始してろ」

この男、一人だけ安全圏へ逃げ込もうとしてやがる。

「よっしゃ!じゃあ行くぜ!ララちゃんが待つ楽園へ!」

猿山たちは鼻息荒いが俺は乗り気ではないためテンションは正直低い。
梨斗のテンションが低めになっていく同じ頃、当のララ達はというと?

「それにしてもこの部屋暑くない?エアコン効いてるのかな?」

未央が手で自らを仰ぎながら言った。
正直冷房は入っている筈なのだがどれだけ弱冷房なのか、涼しさより蒸し暑さの方が勝っていた。
これから寝ようというのにこの暑さは堪える。

「ロビーに自販機あったよね?ジュースでも買おうか」

「あ、私も私もー!」

里紗の提案にララもついていくとせがむ。
ララはザスティンから地球のお金の小遣いを貰っている。
結城家に居候はしているものの、文無しだと可哀想だという梨斗の妹の発言により、ララは週一で小遣いを貰っているのだ。

「じゃあ、私は留守番してるね」

春菜は今は特に喉は乾いておらず留守番を買って出た。
早めに戻ることを約束してララ達が退室する。それを微笑みながら見送る春菜は少し胸が痛んでいた。
梨斗への好意を隠そうとしないララには致命的な欠点もなく、むしろ純粋で優しく美しい、春菜にとっても憧れる女性像に見えた。
果たしてそんな女性相手に自分が対抗できるのであろうか?
窓の外の満月を見ながら春菜はそう思った。
この臨海学校で自分の思い人は結局海に現れることはなかった。
噂では旅館の温泉にいたやら、遊技場で遊んでたとか、近くの山に天然温泉探してたとか目撃情報があったらしい。

「やっぱり海には来たくなかったのかな・・・結城君」

中学時代、水泳の授業の時には必ずと言っていいほど見学側に回っていた梨斗。
春菜は何となく梨斗が泳げないのかという事を確信していた。
水泳の授業を見学しすぎるのは不味いと体育教師からグラウンド四十周を命じられていたのも懐かしい。
折角この日の為に水着を新調してきたのに、彼の嗜好を忘れていた自分の迂闊さだった。
更にはあの肝試しから自分は梨斗と一回も会話をしていないのだ。
学級委員長という地位を利用しない手はないのであるが、梨斗に伝える話題は男子の学級委員の的目が伝えてしまってるので自分が特別伝えることなど皆無に等しい。
こういう開放的な気分になれる場所で何とか仲良くなるべきだったのに・・・。

「ダメだなァ・・・私」

だんだん落ち込んでいく春菜。
ダメじゃないよ御嬢さん!たとえメインヒロインなのにパーフェクトブックの表紙に居なかったからと言っても貴女はダメじゃないよ!

「ララさんみたいな積極性があれば私は・・・」

春菜は目を閉じ、積極的な自分の姿を思い浮かべた。
梨斗と腕を組んで笑いあいながら自分は歩いてる。
そしていつも言っているように彼に愛の・・・愛の言葉を・・・。
つつーっと、その時純情な乙女の鼻から真紅の液体が流れ落ちる。

「は、はわわ!?いけないいけない、興奮しちゃった・・・」

顔を真っ赤にして俯く春菜。正に悶々としている状態である。

そんな彼女もいる『さくらの間』に接近するのは馬鹿三人。
ララ達は退出中だとも知らずに気分は潜入工作員である。

「さて諸君、教師どもの視界を掻い潜りついにターゲット達がいる部屋が目視可能な場所まで接近することが出来た」

「こ、この先に楽園が・・・」

「いや、楽園なのかな?」

俺が避難轟々のオチのような気がするが。
第一、ララがいる部屋って委員長の西連寺がいるじゃん。
西連寺に見つかったら一発説教部屋行きじゃん。こいつ等其処のところ分かってるのだろうか?

「よし前方に教師の気配はなし!行くぞ・・・」

猿山がそう言って忍び足で『さくらの間』に歩を進めたその時だった。
さくらの間の二つ前の『すみれの間』の襖が開いたのだ!
そこから現れたのはうちのクラスの女子ではなかった。
これはいかん!まだうちのクラスなら猿山の馬鹿生態に理解があるが、違うクラスなら大騒ぎに・・・!
だが猿山はどこ吹く風でさくらの間に歩を進める。ん?生徒同士の交流を生徒が阻まないとでも判断してんのか?
しかしその考えは間違っていたようだ。

「ちょっと、あなた!もうすぐ消灯時間なのにこんな所で何をしてるのよ!」

「へ?女子の部屋に遊びに・・・」

「こんな時間に何を考えてるの破廉恥な!さっさと帰らないと先生呼ぶわよ!」

「いいっ!?」

物陰から猿山が怒鳴られてる様子を見ていた俺と上尾は猿山の迂闊さに合掌した。
それにしてもあの女子は誰だ?見たことないんだが。

「猿山も災難だなあ。B組の古手川に見つかるなんて」

「古手川?誰だよ」

「B組の学級委員と風紀委員を兼務してる女子だよ。とにかくルールに厳しいってB組の奴が言ってたな。惜しいなァ、美人なのに」

上尾曰く、柔軟性のないお堅い女子らしい。
まあ怒られてる猿山も不純異性交遊が何とか言われてうんざり気味そうだ。
・・・やれやれ、このままだと教師たちも集まりそうだな。
俺は猿山に助け舟を出すために飛び出した。

「何やってんだよ猿山」

「り、梨斗・・・」

若干嬉しそうな声で猿山は俺の方を見た。
しかし古手川とか言う女子は俺を見るなり眉を顰めた。
俺とこの女は初対面のはずだが?まあお堅い性格って上尾が言ってたし、皆が海に言ってる間温泉三昧だった俺達をよく思ってない輩なんだろう。何かルールとか大切にする奴って協調性のない行動をする奴を激しく嫌うって聞いたことあるからな。

「女子と遊びたいというお前の思考は分かる。だが今日は諦めろ」

「しかし!」

「猿山!臨海学校がなんだ!俺たちにはまだ修学旅行があるじゃないか!」

「一年以上チャンスを待てというのか!?」

「彼女が出来る確率を上げるのに一年ぽっちで良いと思いやがれ!」

「くっ・・・口惜しいがここは撤退するしかないのか!?」

「良かったな猿山、一応女子と喋ることはできたぞ!一方的な罵られようだったがな。修学旅行はさらに上を目指そう!」

「う、上とは何だ梨斗!?」

「お前そりゃ勿論、先生が来たぞ⇒一緒のベッドに入るの定番コンボだろ」

「成程!その定番コンボ目指して今は信頼度と愛情度を稼げと言うんだな!だが一体誰の?」

「それは自分で考えろ」

「鬼かお前」

「はっはっは!そういうわけだから今日は諦めて売店で菓子買って食って寝よう!」

「ちょっと!そんなの不衛生だわ!」

古手川は堅い性格だ。
別に禁止されてる行動でもないことに苦言を呈してくる。
きっと家ではきちんとした躾をされているんだろうが、この辺の嗜好までに口は挟むべきではないだろ。

「売店に売ってるってことは宿もそれを推奨してるって事だ。推奨されている事はやってやるさ」

「では梨斗、俺の今の行動も男と女が一つ屋根の下にある宿では推奨された行為では?」

「高校生としては推奨されんだろ」

「ですよねー」

「そんなわけで隣のクラスの委員長、こいつは俺たちが連れてくからさ。今日の出来事は未遂ってことで水に流してくれよ!じゃ!」

「あ、ちょっと!」

そう言って俺は猿山を半ば無理矢理連れて行き、廊下の角を曲がり、男子トイレに入った。
作戦失敗のショックで涙目になった猿山と諦めの表情の上尾が俺の前にいるが、こいつらは一回の失敗でへこたれるのか?

「上尾、猿山」

二人が俺を見る。
此方の制止も聞かずにここまで来た結果がこの様であるが故、二人の目は済まなそうな光を宿していた。

「ミッション2だ」

その言葉を聞いた瞬間、二人の表情が希望に満ちた明るさを取り戻す。
さくらの間までたどり着けずにおめおめと帰るのも何とも情けない。
俺がサムズアップすると二人も返した。
後は言葉はいらない。大いなる目標に向かって走り行くのみ!
そう思って俺たちはトイレを出て、さくらの間へ続く曲がり角を曲がろうとした。
よし!古手川はいないぞ!俺達は勝利を確信してすみれの間を通り過ぎる。
――勝った!そう言おうとしたその時だった。廊下の奥に生活指導の鳴岩が現れたのだ!

「む・・・?!コラ!!貴様等!女子の部屋の前で何をやっとるかァ!!」

その声に弾かれたように急停止する俺たち。
丁度さくらの間の真ん前だというのに!
ここは撤退するしかないのかッ!?
・・・まあ教師に見つかっちゃな。諦めるしかないよな。
俺達は顔を見合わせ逃げる算段を一瞬で終わらせて、踵を返した。
だがその時、俺は足を捻り、バランスを崩した。
そこに猿山の肘が辺り、俺はさくらの間の襖方面によろめく様に近づき・・・。
このままでは襖を突き破ってしまうと思ったその時、騒がしいと思ったのかさくらの間の襖がいきなり開いた。
襖の奥から現れたのは我がクラスの委員長、西連寺春菜嬢であった。

「ゆ、結城君?」

終わった・・・。

「待たんかコラァ!!」

前門の虎、後門の狼とはまさにこの事。
逃げていく友人たちの後ろ姿を見ながら俺は目の前が真っ白に・・・
と、その時、俺にとどめを刺すはずの西連寺が言った。

「早く入って!見つかっちゃうわ!」

「何!?」

戸惑っている間にも鳴岩の足音は近づいてくる。ええい!ままよ!
俺がさくらの間に飛び込むと西連寺は急いで襖を閉めた。
た、助かってんの?俺?


一方その頃、部屋に残った敦は部屋に備え付けられたテレビで有料チャンネルを見ていた。

「・・・冗談でやってみたのに番組ロックしてないのかよこの旅館」

テレビから小音で聞こえる女性と男性の性的戦闘の様子を敦は悠然と眺めているのであった。




※【根性が5上がった!体調は30回復!運動が2上がった!理系が1上がった!雑学が3上がった!】
※【小金丸敦の弾道が1上がった】



『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:075(30↑)  『文系』:067(±0)  『理系』:070(1↑)

『芸術』:038(±0)   『運動』:122(2↑)  『雑学』:095(3↑)

『容姿』:058(±0)   『根性』:093(5↑)  『心労』:049(±0)


【一言:弾道は隠しパラメーターです】



(続く)




[22408] 12話目 そんな肩書は彼はまだいらないそうな
Name: しゃき◆d1ebbc20 ID:3c45cbd5
Date: 2011/04/30 23:57
女子の部屋、もといララの部屋に遊びに行く計画は発案人不在という状況で行われている。
問題は大有りである。そもそもどういうわけかララは留守であるし、同室の女子も姿が見えない。
唯一部屋にいたのは俺をこの部屋に招き入れた学級委員長、西連寺春菜が俺の向かい側に座っている。
何で一番乗り気ではなかった俺が潜入成功してるんだろうか?ひょっとして猿山達は俺を罠に嵌めてるのでは?
しかしまあ西連寺の様な一見普通の女子と二人っきりというのはどうも居心地が悪いな。

「それにしても西連寺一人か?他の女子はどうしたんだ?」

「うん、皆はジュースを買いに行って・・・」

「消灯時間前にか」

どうやらこの部屋の女子は遅くまで起きてる気なのだろう。
何を話すかなんて俺には興味の欠片もない事だが夜更かしは肌の敵じゃないのか?
そんな事を今は海外を飛び回ってる母さんが言っていた気がする。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

うーむ、深刻な事態だ。話題が全く見つからん。
猿山は女子の部屋に行く事を非常に楽しみにしていたが、奴にはこの女子の部屋で会話を続かせることのできる力があるのだろうか?
女子が食いつきそうな話題なんぞ俺が知るわけないだろーよ。
・・・一応部屋の前でうろついてたことの弁明はすべきなのだろうか?
部屋の外から聞こえる猿山達の悲鳴が徐々に小さくなっていく。そろそろ退散すべきなのだろうか?

「・・・誤解・・・されるかな・・・?」

「は?何が?」

「私たち二人でいたらさ・・・だって結城君はララさんに逢いに来たんでしょ?」

「別にララ一人に会いに来たわけじゃないけどな」

最初の目的はララのいる部屋の女子の部屋に遊びに行く事だったはずだ。
猿山とかはララ目当てなんだろうが。
・・・猿山達がいない以上、俺がここにとどまる理由もない。早く脱出せねば。


さて、勢いで想い人を部屋に避難させたはいいがこれからどうするかを実行するほど春菜は作戦を練っていなかった。
何をしようか、何を話そうかを考えているうちに時間はどんどん過ぎていく。
目前の想い人、結城梨斗も居心地が悪そうな様子である。
いけない。これはいけない。つまらない女と思われてはいけない。
何かの雑誌で「つまらない異性」と思われたら恋の成就が難しいのは当たり前などという内容を目にしたことがある。
とはいうものの、男子が食いつきそうな話題、殊更結城梨斗が興味を示しそうな話題など自分が持っているのであろうか?
こういう時自分と同室の籾岡や沢田やララならば会話が弾むんだろうと思うが、自分は彼女達みたいに社交性が物凄く高いというわけでもない。
どうしようかと考えていた自分を見かねたのか、梨斗が口を開いた。

「それにしても西連寺一人か?他の女子はどうしたんだ?」

おいおいおいおいおい!他の女子の話題ですか結城君!?
不味い不味い!話題も提供できない自分といるのが辛いと遠回しに言われてる!?
彼も他の女子と喋る方が楽しいのだろうか・・・?

「う、うん、皆はジュースを買いに行って・・・」

「ふぅん、消灯時間前にかァ」

先程自らが見回りに追われていたからか、他の女子の行為を命知らずとでも言わんばかりの様子である。
直後に訪れる沈黙の時間が非常に長く感じられる。
嗚呼、私は今幸せだけど非常にいたたまれない時間を過ごしてますお姉ちゃん!
この様なチャンス、もう無いかもしれない。色恋沙汰に耐性はない自分だが、それでもこの想いは大事にしたい。
春菜は僅かな勇気を振り絞って梨斗に探りを入れた。

「で、でも・・・誤解・・・されちゃうかな」

「何が?」

「わ、私達二人で・・・いたらさ・・・結城君はララさんに逢いに・・・来たんでしょう?」

これで肯定されたら自分は身を引こう。
このとき春菜は悲壮いえる決心をしていた。

「別にララ一人に会うという目的で来たんじゃないんだけどな」

「!!」

おおっと!?半ば諦めかけてたのに何だか希望の言葉が!?
何?ララだけに会いに来たわけじゃない?それってどういう意味なのだろうか?
まさか自分に会いに来てくれたとでも言ってくれるのだろうか?
ちらりと梨斗の様子を伺う春菜であったが彼の表情からは何もわからない。
だ、だがもし自分にも会いに来てくれたのだとしたら、もしかして自分は彼を退屈させてしまってるのではないか?
先ほども思ったがつまらない女と思われたらアウトだ。何か、何か話さなくては・・・!


・・・不味い。西連寺の表情が微妙に怖くなってきてやがる。
やはり今の発言は下心丸出しの助平野郎的発言だったのかもしれん。
敦が聞いていたら『ギャルゲーの修業が足りん』などと言われそうな失態を犯してしまったのか?
2次元の理屈が3次元でも通用するとは思えないが応用は出来る、というのがあの友人の主張だが奴ならこの状況を切り抜けれるとでもいうのか?
・・・だが今は敦はいないのだ。苦しいがここは冷静になり、どうにかして軽妙なトークも織り交ぜながら乗り切るしかない。
だがあまり話したことのない女子と軽妙なトーク?ノリが良さそうな籾岡や沢田、人懐っこいララならともかく西連寺だぞ?
しかもあの表情を見てごらんなさい!眉間に皺を寄せて睨んでんじゃん。
このままでは空気がマッハで悪くなるばかりだ。何か話のタネは・・・。
おっ、そうだ。あの肝試しの時の話はどうだろうか?
例えば『肝試しの時の西連寺は凄かった』という切り口で会話を初めてみれば・・・ダメか。あの時の彼女は我を忘れていたからな。
我を忘れていた自分の話など恥ずかしくて聞きたくはないだろう。
親父曰く、酔った自分の様子を素面で聞くと凄い微妙な気分になるらしいからな。
そうなると肝試しの話は西連寺の機嫌を損ねる可能性があるから一応保留か。
そうして俺が次の会話候補を模索しようとしたその時であった。

《ポポポポ~ン♪》

お、携帯が鳴ってる。
明らかにこの着信音は俺の携帯である。西連寺を見ると彼女は強張った表情で言った。

「結城君、いいよ。遠慮しないで出て」

そのような表情で言われても。
しかしこの携帯電話の受信で空気が変われば万々歳である。
さ~て、電話の主はなんじゃろな?

《小金丸 敦》

まさかの親友からであった。

「じゃあ、失礼して」

俺は西連寺に断って電話に出た。

「もしもし」

『梨斗か。今しがた猿たちの悲鳴が聞こえたが、潜入任務は失敗したのか?お前は今どこにいる?』

からかう気満々の口調がムカつくが、今の緊迫した状況でコイツの声はまさに冷静になるための神の助けである。
ここはコイツを使って何時ものノリを思い出し、そのままの勢いでこの場を乗り切るべきだ!

「猿山達の犠牲は残念だったが無駄ではなかったぞ」

『何・・・?おい梨斗。まさかお前は』

「潜入には成功したぞブラザー。協力者のお蔭でな」

『協力者だと?』

「ああ」

『それは一体誰なのか分かるか梨斗?』

「勿論だブラザー、マリオだな!」

『何ィ!?伝説の配管工がそこにいるのか!?誰もが知ってる存在が協力したと?』

「そんな本来なら高嶺の花と会話することが出来るとは俺は良い時代に生まれたものだな!」

『梨斗、奇跡的な機会だ。存分に彼の会話を楽しむがいい!』

「了解だブラザー!会話を続行する!」

『ところで冗談抜きで今お前の前にいるのは一体』

俺はそれ以上の追及を逃れるために通話を強制中断した。
直後、西連寺の方を見ると何か顔を真っ赤にして怒っているようだった。
・・・ノリでどうにかできる問題じゃないなこれ。どうしようか?
と、その時、部屋の外からこちらに近づいてくる女子らしき声が聞こえてきた。

「ねー、でもさー、夜中に男子がコッソリ部屋に来たらどうする?」

「来る人によるよね~?」

「リトだったら遊びにきてもいいよね~」

「言うと思ったよ」

「ララちぃ、ホント結城を信頼してるねェ」

すいませんララさん、遊びに来てますが部屋の空気は最悪です。
いやいやそうではなくてやばい!ララ達が戻ってきた!
だが危機が迫った時にこそ冷静にならなければ。部屋から出ればララ達に鉢合わせるからダメだな。布団に隠れるのは論外だ。
残るはこの部屋に敷かれた布団が入っていた押入れ唯一つ!だがそこからどうやって脱出するのかは不明だ!
俺は立ち上がり、部屋の押し入れの様子を伺った。
押し入れ内には敷かれていない余りの布団がいくつか置かれていた。・・・よし!

「結城君?」

「ごめん西連寺。寝静まったら帰るから、その時までここに隠れてる!」

「え、ええ!?ああ、うん!」

何だか慌てていたが、どうやら了解してもらったようなので俺はすぐさま押し入れに侵入し、中の布団を被り身を顰めることにした。
とりあえず携帯はマナーモードにして・・・と。このまま寝ない様に気を張っていよう。
俺は押入れの隙間からわずかに見えるさくらの間の様子を注意深く見つめることで眠気を感じない様に工夫することにした。

「春菜、ただいま~♪」

「あ、ああ、お帰りみんな。もうすぐ消灯時間だよ」

西連寺としてはさっさと俺を退室させたい魂胆らしく、すでに寝に入ろうとしているようだ。
だが他の三人はその気はさらさらないようである。

「も~、馬鹿ねェ!夜はこれからじゃないの春菜~♪」

「ひゃっ!?ちょっとどこに手を入れてるのよ里紗!」

一体どこに手を入れてるのかなど布団を被っているうえに僅かな隙間でしか外の様子を見れない俺には確認は出来ない。
携帯電話で時刻を確認。22:30と表示されている。当に消灯時間だがこいつらは眠らない。
せめてお前ら部屋の電気を消して話せよ!怒られるぞ!
一通り彼女たちの雑談を聞いていると、俺の携帯がメールの着信を知らせてきた。敦か。

【今、猿たちが戻った。お前はまだ女子の部屋にいるのか?】

消灯時間はすでに過ぎ、猿山達も居室に戻ったようだ。
だが俺がいないので猿山達は焦っているようだ。
俺は敦に【まだいる。隙を見て逃げたいが室内の女子は寝そうにない】と返した。
するとすぐに返信が来た。

【了解した。とりあえず救出の方法を考えるからそのまま待機せよ】

・・・一応助ける意思はあるようだ。それならば信頼して待つことにしよう。
しかしこの状況でどうやって助けるというのか?

「ところでさ、春菜」

「ん?」

「春菜って好きな人いるわけ?」

この声は沢田か。こういう泊りの夜の話は男子も女子も変わらんのか。
夜の定番らしい好きな人カミングアウトだが、俺はそういう事に遭遇した記憶はない。
大体昼に遊びまくって疲れて寝てるか、怪談話してるかのどちらかだったからな。
そういう事なので女子とはいえこういう場面に遭遇したのは実に興味深い。いや、あんまり見えないんだけどね。
それにしても我らが西連寺春菜委員長の想い人ねえ。きっと魅力あふれる快男児に違いないな。

「正直に言いなさいよ~?」

「さもないと揉むよ~」

いや、どこをだ?

「え・・・私・・・は・・・」

うーん、奴らはこの部屋には女子しかいないと思ってるから追及してるんだろうが、このさくらの間にはこの俺、リトえもんが存在するから答えにくいんだろうなァ。

「おおっ?答えるのに躊躇してる?ってことは気になる異性はいるのかな?」

沢田が突っ込んだ質問を続ける。いるという疑惑が生まれた以上、続いては相手を探ることである。
俺からは西連寺の表情は見えないので彼女の表情の変化など分からないから誰が好きなんか予測もつかない。
まあ高校生なんて多感も多感、普通は好きな異性ぐらいはいるだろうな。
そう、普通はいる筈なんだよな。嗚呼、妹よ、兄はどうやら普通じゃない人生を送ってるようだ。

「ほらほら、言ってごらん~」

籾岡の怪しげな声が西連寺を急かしている。秘めておきたい恋心もあろうに無粋ではなかろうか?

「あ、まさかとは思うけど、ララちぃみたいに結城の事が好きとか言わないわよね?」

「な、何言ってんのよ未央!?」

「え?そーなの春菜?」

「アハハハ!冗談だよララちぃ!どう考えたって結城は真面目な春菜のタイプじゃないから」

沢田が何気に無礼千万な事を言ってるが、俺もそう思うから怒るに怒れん。

「というかララちぃは結城の何処がお気に召したワケ?言っちゃ悪いけどララちぃならもっと上の男を目指せると思うんだけど?」

この世に無数といる俺よりイケメンな方々、誰か穏便にララを引き取ってはくれまいか。

「そんな事はないよ!リトはね、宇宙で一番頼りになる人なんだよ。私はそう信じてる」

・・・いやララさん。俺なんかより頼りになる奴はごまんといるってば。
俺なんざ妹にさえ頼りにされてるのか分かんねえのに宇宙規模の頼れる男認定とか荷が重すぎだろう。

「私にはリト以上の人なんて・・・考えられないから」

俺は押し入れ内の布団に包まった状態でこのララの言葉を聞いていた。
過剰な期待を抱くのは勝手だが抱かれる身にもなってほしい。
俺はそこまで想われるような事はララにした覚えは・・・ないんだが。

「おお!ララちぃカッコいい!!宇宙一だって!」

「ねえちょっと春菜もララちぃ見習って好きな男の一人でも作ったら?」

「え、でも私・・・」

西連寺が何かしら反論しようとしたその時、旅館内に非常ベルの音が鳴り響いた。
それと同時に俺の携帯にメールが着信した。

【この混乱の隙に逃げろ】

「何々!?火事!?」

「非常ベル!?」

籾岡達が外に出ていくのが分かった瞬間、俺は押入れから出た。
押入れから出た瞬間、西連寺と目があったので一応挨拶だけしようと思った。

「結城君!非常ベルが・・・」

「・・・大丈夫だよ。多分誰かの悪戯だろうから」

「え・・・?」

「じゃ、悪かったな。俺は部屋に戻るよ」

「あ」

俺は挨拶を終えた後、非常ベルの混乱に乗じ逃げようとさくらの間を出た。
だが間の悪い事は起こるものだ。
さくらの間の二つ隣のすみれの間からあのB組のお堅い女子が現れたのだ。

「貴方は!何でこんな所に!?」

「逃げ回っている」

「嘘おっしゃい!帰ったと思ったらまだこの辺りをウロウロしていたのね!」

「嘘は言ってないとも!俺は今現在進行形で逃げてるよ。隣のクラスの委員長からのお説教からな」

そう吐き捨てながら脇目も振らず俺は全速力で逃げた。

「ちょ、待ちなさい!!」

非常ベルが鳴ってるのに待つわけないだろう?お前も逃げろよB組の委員長。
俺は避難する輩を尻目に自分の部屋に戻った。
部屋に戻る途中、骨川先生が非常ベルの前で慌てていたが何だったのだろうか?という事を敦に言ったところ、

「ああ、俺がこの旅館は最近バリアフリー化を進めてるからエレベーターがありそうですねと言った」

・・・それで非常ベルのボタンを骨川先生に押させたのかコイツ・・・。
俺は罪を担任になすりつける友人に若干引きつつ布団に入った。
こうして骨川先生は周囲から認知症の症状が更に悪くなったと思われてしまうのだがそれは俺には全く関係のない話である。
それにしても宇宙一頼りになる・・・か。過剰評価っぷりに気持ちが沈むね。
多大な期待に気持ち沈みつつ、俺は臨海学校最後の夜を寝て過ごすのだった。


※【体調が10上がった、心労が20増えた】

『ユウキ リトさんのステータス』


『体調』:085(10↑)  『文系』:067(±0)  『理系』:070(±0)

『芸術』:038(±0)   『運動』:122(±0)  『雑学』:095(±0)

『容姿』:058(±0)   『根性』:093(±0)  『心労』:069(20↑)


【一言:何で高評価を受けて心労が溜まってるんだ君は】



(続く)


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.08773398399353