人を羨む行為はあまり誉められる事ではないのだがより良い物を創造するには大事な感情である。
俺たちが大金持ちの桐生先輩を羨むのと同じく桐生先輩も学校行事以外の日曜を自由に使える俺たちが羨ましいらしい。
季節も夏に差し掛かる頃、偶然にも登校時刻が一緒になった我ら娯楽研究部の6人とララは衣替えの季節だとかもうすぐ体育祭だななどという他愛のない話をしていた。というかこの学校、体育祭が終わればプール開きと共に林間学校があるという。一体どうなってやがる?
「ところで皆は体育祭は何の競技に出るんだ?」
桐生先輩は残念ながら生徒会として主催側及び裏方に回るので競技には参加できないらしい。
来年からこのような不公平な制度は変えたいと意気込んでいたがアンタ来年も生徒会に居座る気ですか。
「僕は障害物競走に出るよ」
「俺は100m走」
当然の事だが競技は学年ごとにやる為、1年と2年が同じ競技で競う事は100m走以外ない。
したがって100m走はリレー以外で最も盛り上がる競技である。
「100m走と男子ミニ駅伝出ます」
敦の出る駅伝とは四人一組でやる計12kmの駅伝競走である。
大体陸上部やサッカー部、野球部あたりが張り切る競技である。
だが偏りを失くす為に競技に制限がかかり、運動部はチームに二人だけという文化部及び帰宅部には鬼畜過ぎるルールがある。
まあ駅伝中にも普通に競技は続くので気付いたら終わっている事もあるのだが・・・。
「俺も障害物競走っすよ」
「ほう。では梨斗とララちゃんは何に出るんだ?」
「はーい、100m走と二人三脚でーす」
ちなみに二人三脚のララの相棒は何故か満場一致で俺となってしまった。
そんな訳で俺はララと二人三脚に出るのだが・・・。
「借り物競走と二人三脚出ます」
借り物競走とか地味すぎだろと思っていたが担任の骨川先生の話によると去年の体育祭はこの競技に一番時間を割いてしまったらしい。
・・・このメンバーで個人種目で目立てる可能性があるのは敦とララの二人である。
まあ別に俺たち文化部だし体育会系のイベントが主戦場じゃないし目立たなくても別に良いんだけどね。
なお個人種目のほかに玉が水風船の女子の集団競技『水玉入れ』、男子騎馬戦、綱引き、大玉転がし、リレー競技などがある。
・・・水玉入れは完全に誰かの趣味で入れたに違いない。あと騎馬戦は毎年怪我人が出る勢いだが止めるつもりはないらしい。
ララはリレー辺りに出れば良かったんだが転校してきたタイミングが悪かったんだよな・・・。
「そうかそうか。なら俺は校長らと一緒にお前たちの勇姿を見守っているから頑張ってくれ」
応援をする気は一切ないと宣言してるこのリーダーは体育祭で実況を務めるらしい。
・・・っていうか解説校長かよ・・・。変な進行にならなきゃいいけど・・・。
まあ体育祭は適当に頑張ると決意をして、校門に差し掛かったその時、校門前に一台の黒塗りのリムジンが停車した。
・・・そういえばこの学校には桐生先輩の他にもう一人金持ちな人がいるらしいな。・・・まあ銀河の王の娘のララも金持ちって言えばそうだろうがここじゃあくまで一般人(?)扱いである。リムジンから運転手が降りてきて、後部座席を開くと車の中から明らかに巻き髪のお嬢様という感じの女性が出てきた。
リムジンの前には取り巻きだろうか?ポニーテールの凛々しい女子と眼鏡でストレートロングな女性が立っていた。
「おはよう、凛、綾」
「お早う御座います沙姫様」
「カバンをお持ちします」
「ありがとう」
いやもうなんだろう、アレが金持ちの坊ちゃんら令嬢の正しい姿なんだろうか?
桐生先輩といいララといいそれっぽくない人々を知っている俺としては目の前で起きている光景が別世界のように思えた。
この登校風景は一年の俺たちには今だ慣れないものなれど二年の先輩達から見ればただの日常そのものであるらしい。
桐生先輩は校門前に止まっているリムジンを指差して言った。
「アレは登校する生徒の邪魔になるから出来るだけしないようにな」
「いや、この学校でリムジン所持してるの彼女と君のトコだけだと思うよ・・・」
なお、この学校において桐生先輩はリムジンではなくヘリで登校したことがあるらしい。
今の生徒会長に思いっきり怒られた為もうしないらしいが。
というか高校生なんだから登校は徒歩か自転車だろうにヘリはねえよ。
まあ現在彩南高校で車通学してるのはあの先輩だけのようだ。
清水先輩と神谷先輩はウンザリしたような様子であの先輩達を見ている。何かと有名な人なのだろうか?
有名人かぁ・・・高校の有名人って言うと野球部のエースとか学園のマドンナとかアイドルとか思い浮かべるけどこの学校については特にこの一人が有名っていないよな。
まあ一年で知名度があるのはララになってしまうだろうが。・・・おいおい大いに目立ってるがな。
「・・・にしても学校で鞄をお持ちしますとか俺三次元で初めて見たな」
敦が呆れたように言う。
その意見に対して反応したのが桐生先輩であった。
「隆弘、俺の鞄を持てィ!」
「自分で持てよ阿呆」
極めて当然の意見を言われてしまった。
「おかしくね?一応俺は御曹司だよ?家に戻ったら執事やらメイドがそれこそ百人以上いたりする家から何故か車じゃなくて徒歩で通学してるけど御曹司なんですよ?」
「同じ学び舎の生徒の鞄を何故持たねばならんのだ?世界的な大金持ちの御曹司の中には高所からダイブしたりガラスぶち破ったりビール噴きながらぶっ飛ばされたりするワイルドすぎる御曹司だっているのにその甘えは一体なんだ貴様ッ!」
「その御曹司は特殊な訓練を受けすぎの人じゃん」
「光太郎。僕達は君の友人さ。考えてみてほしい、自分は別に何処も身体は悪くないのにたかが鞄を友人に持たせるのがいい関係と言えるのか?」
「その通り、俺たちはお前の友人ではあるがお前の家来ではない。したがって鞄を持つ事はない」
「そして俺たちは単なる部活の後輩なので先輩の鞄を無理やり持たされるようなことがあればそこでパワハラが成立します」
敦が何故か予防線を張ったので、桐生先輩は何故か俺を見る。
なお、ララは先ほどから同級生やら男子生徒やらに挨拶されていた。大人気だな。
桐生先輩はあまりにも綺麗な瞳で俺を見つめてくる。
俺はそれを見てフッと微笑んで言った。
「先輩、俺は貴方を尊敬する事もありますがそれとこれとは話が別です」
「あ、俺も持ちませんよ?」
部員全員に鞄を持つことを拒否されて鞄を持ってオロオロする我らがリーダー。
というか持ちます言ったら持たせる気だったのかこの人。
「厳しく育成されるよりも誉めて伸びたいとたまに思いたい」
「ハハハ、戯言を」
「とりあえず好き放題はさせているじゃないかぁ~?」
「先輩といると退屈しませんよ。べ、別に楽しい訳じゃないんだからね!」
「男のツンデレ発言はキモいだけだぜ敦」
「黙れ猿。ヤンデレよりは遥かに被害はなく、クーデレよりは遥かに需要はある筈だ」
「何の需要があるというんだ!?」
俺の幼馴染は一体何処に向かおうとしているのだろうか?
いつの間にか俺たちの周りにはララを見ようとする男子達でいっぱいだった。
或いは桐生先輩の珍行動を期待している輩もいるんだろうな。
野郎率が多い集団を見て先輩はいきなりこのような事を言いはじめた。
「親愛なる彩南高校生徒の諸君!間もなく始まる体育祭、戦々恐々としているだろうが皆にここで一つ伝えておく事がある!今年の体育祭の女子水玉入れの水玉の数は1,5倍であるのと玉の強度が0.5倍という事だ!つまり大量に溜めた分、爆発しやすいという事だな男子諸君!我慢するのも問題だという事だ!それでは体育祭を楽しみにしながら授業に励んでくれ、御機嫌よう!」
この発表に騒然となる生徒達。
明らかに主催者側がある事を狙っているぞこれ。
女子は体操服の着替えを用意する事がほぼ決定かよ!
何で高校の体育祭においてそういう狙ったエロを演出しようとしてるんだ体育祭実行委員会は!?
「何かたのしそーだね、リト!」
ララが桐生先輩の話を聞いてもなお、ワクワクしたような顔である。
「嫌な予感しかしない」
俺は来る体育祭に向けて不安が増大するのだった。
娯楽研究部を中心とした人だかりを見ているのは天条院沙姫である。
天条院グループの令嬢である彼女は常に人々の注目を集めたいという野心を持って昨年、彩南高校に親しい友人の九条凛と藤崎綾と共にやって来た。
だが、あろうことかその高校に同時期に入学したのが現生徒会副会長の桐生財閥の御曹司だった。
彼はこの高校で正式な手続きをした上で自分の部活を作り、生徒会にいきなり入り、学校に対して惜しみない支援を素早く行なう行動派であった。
調子に乗って『俺を生徒会長にしろ!』と言って望んだ昨年の選挙では現会長に負けたが。
天条院と対を成す桐生の御曹司がどれ程の物か観察はしていたが、明らかに普段は学生としての生活しかしてなかった。
彼の友人の清水大介の境遇は自分の友人である凛と似通ってはいたが、彼の対応は凛のそれとは全く違う。
もう一人の友人の神谷隆弘は中学時代は野球やってたくらいしか分からない。
・・・一応綾にも調査を頼んだのだが、何故か彼に気付かれた挙句『来なくて構わんからお前、娯楽研究部員な』と言われたらしい。
その後時は過ぎて三人の新入部員を迎えたらしいと綾が聞いたらしい。
一人は根暗そうな眼鏡男、もう一人は猿の様な男、最後に目付きが悪い男とはあれか・・・。
「・・・?あの髪の長い娘は?綾」
「はい、最近下級生の間で話題の生徒で御座います。なにやら外国からの転入生らしく」
「へえ・・・中々の人気じゃない」
ララとすれ違い、その後姿を見送る沙姫の目は細められる。
・・・ん?何故光太郎たちはここにいるのだ?
「全体止まれ!大介と隆弘は既に知ってるので今更だろうが、後輩の諸君、この眼鏡の先輩が我が部の幽霊部員の藤崎綾嬢である!ご挨拶しなさい」
「どーも」
そもそも三次元に興味がない敦は目を見てない。
「猿山っす」
見た目地味な彼女に対して興味を抱けないのか猿山も適当な挨拶である。
これは不味い。いくら幽霊部員の方と言っても先輩は先輩である。明らかに桐生先輩よりこの人はまともそうだ。
まともな人にはまともな挨拶をするべきだろう。
「結城です。桐生先輩がお世話になっています」
「はっはっは!お世話になってたんだな、俺!」
「そこは否定しろよお前」
「藤崎はこっちの古典的お嬢様の付き人という名の友人をやってるから部活には来れないが、とりあえず部員だ」
「誰が古典的ですか!?」
「お前学校にリムジンで来るとか古典的の何者でもないだろう。大体さっきはララちゃんを見ながらどーせ碌でもないことを考えてたのだろう!注目を受けるのは常に自分じゃないといけないと思うなら登場の仕方を捻れ!」
「何を言うの!あまりに捻った結果、貴方は色物になったのでしょう!」
「フハハハハハ!ブァカめ!色物も続ければ尊敬を勝ち得るのだ!」
とりあえず慕われてはいるが尊敬はされてないよね貴方。
「一応紹介しておこう。この古典的お嬢様は天条院沙姫だな。見ての通り大金持ちの娘さんだな。で、こっちのコワ~い顔してるお姉ちゃんが九条凛さんだな。アレだ、この人はお嬢様のSPという名の友人だな。大介は彼女を見習うべきと思わんか?」
「全然思わないから。何で父さんが君のお父さんのSPだからって僕が君を守る必要性があるのさ」
「そこは親の縁もあるから義理立てするところじゃない?」
「大体僕らと彼女らじゃまず条件が違うだろう?九条さんのところは代々天条院さんの護衛してる家系で僕のところは父さんが偶々スカウトされただけの浅い縁じゃん」
「浅い縁とかいったよ、一応長い縁なのに!?」
「お前ら二人ともこの三人の結束力を見習えよ」
神谷先輩はそう言いながら一人歩いていく。付き合いきれんといった態度が気に障ったのか何故か肩を組み二人三脚の要領で走りよる桐生・清水コンビは後ろから神谷先輩にドロップキックを放ち逃走した。
「てめえら、合体攻撃持ってたのかよ!?待ちやがれ!!」
神谷先輩は鬼の形相で二人を追っていく。
それを見て猿山と敦が歩き去る。とりあえず挨拶終わったしな。
「そ、それじゃあお騒がせしました。体育祭も近いですしお互いに怪我のない様に過ごしましょう!」
俺はそう言って一礼し、皆の後を追った。
残された三人は唖然としていたが、校舎の時計の指す時刻を見て慌てて校舎内に入っていくのだった。
※【桐生先輩のクラスメイトと知り合った】
※【体育祭準備週の為、運動の上昇度が上がった!】
※【勉学値2上昇!運動が5上がった!容姿が1上がった!根性が2上がった!心労が10上がった!】
そんな訳で体育祭である。
何だか色々はしょった気がしないでもないのだが文化部である俺たちが体育祭を盛り上げる訳もないのだが日本人は基本的に祭りが好きなのでそこそこの盛り上がりがあった。それでは高校での始めての体育祭をダイジェスト風にどうぞ。
【開会のあいさつ】
ラジオ体操とかそれの前にこういう規模の学校行事では校長の話というのは付き物である。
当然彩南高校でもそれは例外ではなく、朝礼台に立つのは我らが校長である。
「諸君が万が一怪我をした場合、女子は私が治療するッ!!男子は従来どおり御門先生な」
絶叫と歓声が場を支配する。
女子はこの時絶対に怪我をしないと誓い、男子は怪我上等という空気になってしまった。
・・・お前ら女子は兎も角、男子は治療されるだけだぞ?そんな展開はないから!
『続いて生徒会長から開会宣言です』
「これより彩南高等学校『体育祭』を開始します。女子の皆さん、無傷で真剣に競技に取り組んでください。男子の諸君、わざと怪我したとみなされた奴は御門先生ではなくウチの副会長が適切な治療みたいなものを行ないますので真剣にやれよ貴様ら」
・・・治療みたいなものって何だ!?
「それでは赤組も白組も互いに頑張ってくれ!以上で開会宣言とする!」
生徒会やらこの体育祭の裏方に回り、競技に参加しない人員は桃色の鉢巻をしている。
俺たち1-Aは白組になっている。知っている人で同じグループは・・・最近知り合った天条院先輩のクラスか。
神谷先輩も清水先輩も赤組で敵である。
・・・遠くからでも分かる。あの先輩達は此方を肉食獣の如く狙っている・・・ッ!!
【二人三脚】
目前で100m走の最後の組が走り終えた。
神谷先輩も敦もそれぞれの組で上位に入る健闘を見せていた。
・・・ララはぶっちぎりで1位だった・・・。
・・・しかし男子3年の組にゴールテープをテープを持った人ごとぶっ飛ばすぐらい速い方がいたんですが?
解説の校長が『あれぞ神の領域というものですな』とか言ってたけどマジかよ。
「それでは次の競技は二人三脚でーす」
「頑張ろうねっ、リト!」
女子100m走から戻ったララが俺に笑顔でそう言う。
・・・やるからには1位を取りたいものだ。
ララとの息があうのかどうか全く分からんが頑張ろうではないか。
西連寺春菜は次の二人三脚に梨斗が出るというのは勿論分かりきっていたことなので、彼女は彼の活躍を見守らんと固唾を呑んで梨斗とララを見ていた。
中学の頃のリレーを思い出せば、彼の運動能力が高いという事が分かる。
春菜は女子達のララを応援する声に混じってこっそり梨斗を応援した。
「結城くん、頑張ってー」
無論、その声はララへの応援の声に掻き消されていた。
100m走の活躍もあり彼女に対する応援は非常に多かった。
早くも注目の的になってしまったララに対して面白くがないのが沙姫である。
彼女も一応100m走に参加し、よい成績を残したのだがそれだけでは注目はされなかった。
「注目の熱冷めやらぬうちに次の種目に出るとはやってくれますわね・・・」
なお、彼女の友人の凛と綾は二人三脚の選手の為、彼女の側にいない。
「凛、綾!こうなれば貴女達二人の絆をララに見せ付けてやるのです!」
・・・などと天条院先輩が叫んでいるのですが、先輩、俺たちは同じ白組です。
「お任せ下さい、沙姫様!」
「頑張ります、沙姫様!」
「負けないよー!」
いや、この人たち味方だろ。
ララがやる気を増大させているのだが、何で同じ白組同士で争う必要が?
スターターがピストルを掲げ、引き金をひく。
大きな音と共に俺たちはゴールに向かって息を合わせて走る。
「行くわよ、綾!」
「ええ!せーの・・・」
このように息を合わせて進まんとする先輩方の方法が二人三脚に望む姿勢としては正しい。
独りよがりでは決して勝てない種目なんだ!協調性を確かめる種目なんだ!
「ゴフっ!?へぶしっ!?ひでぶっ!?ぎゃん!?うわらば!?」
『おおっと!?これは1-Aのララ&結城ペア!ララ選手が結城選手を引きずって走っているー!!』
『誰かー担架持ってこーい』
このように急発進によって転んだ相方の俺を引きずってまでゴールするような種目ではないのだ。
「やったー!1位だよリトー♪」
「お前とは二度と・・・この種目には・・・で・・ない・・・」
こうして俺は今大会初の負傷者として保健室に運ばれたのである。
【障害物競走】
猿山と大介は最初からおかしいと思っていた。
麻袋を履いたまま平均台を進めという場所があるのだが、女子の場合平均台の下は泥水が用意されていた。
それだけならまだいいのだ。校長が女子高生を泥だらけにしたいという歪んだ欲望を持っているのは予想の範疇にある。
「・・・先輩」
「なんだい?」
「女子にはエロスを求めてるのに、男子にはこれですか?」
「去年はパンにハバネロ摺りこませていた陰湿さに比べれば今年は分かりやすいよ猿山君」
大介は猿山の肩を叩き、微笑んで言った。
校長及び体育祭の実行委員達は先ほどまで泥が撒いてあった場所に別のものを撒いていた。
「落ちるなら背中から落ちろ。絶対だよ?」
「絶対落ちたくないッすよ!?何で女子の時は泥だったのに男子になったら平均台の下に画鋲が撒かれるんですか!?」
その猿山の疑問に答えるように光太郎の解説が入る。
「男子の泥まみれより血まみれの方が絵になると思った」
「「「「「ふざけるなーーーー!!???」」」」」
「安心したまえ!万が一がないように男子はゴーグルとファールカップを用意している!」
「衆人環視の中ファールカップを装着しろと言うのか!?」
万が一その支給品が小さかったら大きい奴はどうしろと言うのか。
「さあ、女子のエロスゲームから男子の血肉沸き踊る、正にデスゲームが始まるザマスよ!」
「嫌でガンス!!?」
猛烈な反論を無視して男子障害物競走は始まった。
平均台については皆、慎重になったのでここでの怪我人はゼロだった。
だがハバネロ塗りこんだパンはあったのでその辺りでリタイアが続出していた。
猿山はそのパンにやられたが、大介はクリアし数少ない生存者となった。
・・・障害物競走で数少ない生存者って可笑しくない?
【借り物競走】
負傷の治療を終え復帰した俺は借り物競走に望まんとしていた。
前回の反省を踏まえた上で、借り物を持っている人は拒否は厳禁というルールが出来たというのだが・・・どういう意味だ?
俺は恐る恐る自分が借りるべき物が書いてある紙を取り見てみた。
『ポニーテールの日本女性』
・・・・・・どうしろと?
仕方ない、会場の中から探そうか・・・。
他の選手も紙に書かれた内容を見て固まっている。
そのうちに俺は動くべきだな。
そういえばこの競技、天条院先輩も参加しているようだ。彼女も紙を見て固まっているが何が書いてあるんだ?
天条院の娘として何事にも優雅に頂点を目指すのは当然の事である。
この借り物競走においても同様なのだが・・・。
『脱ぎたてのパンティー(♀専用)』
校長ォォォォォォォォ!!!
下着自体は自分も持っている!だが借り物競走のルールはその品物を手にして見せなければいけないのだ。
沙姫は睨むように実況席にいる校長を見た。校長は上気した顔でワクワクした様子だ、ふざけるな!?
だ、だが棄権するのは自分の流儀に反する!ど、どうすれば・・・!
凛か綾に頼むか?いや・・・綾に頼めば気弱な彼女だ、心的外傷が凄い事になるかも・・・!
だからと言って凛も戸惑うだろうが・・・ここで自分の下着を脱ぐ訳には・・・やはり凛に何処からか調達してもらうか・・・
彼女は本当に頼れる友人だから・・・と沙姫が思って凛がいる方を見たその時。
「すいません九条先輩。ポニーテールの日本女性という事で申し訳ないですがご足労願います」
「・・・去年から思っていたんだがどんな借り物競走だ」
「ってちょっとー!?」
まさかの凛自体が借り物の対象として連れて行かれた。
見ると光太郎がこちらを見て不敵に笑っていた。
そして彼はマイクを取ってこう言った。
『借り物は自分で探さないと失格でーす』
おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!?
こうなる事を予想してやがったなあの商売敵の息子!!
面白い!こうなったら体裁など構ってられるか!沙姫は探すふりをしてトイレに入った。
そしてすぐに出てきた彼女の手に握り締められていたのは黒い下着だった。
「天条院家に敗北はありませんわっ!」
『はい、1-A結城選手、借り物【ポニーテールの日本女性】を届けて1位でーす』
非情の宣告が彼女の耳に届いた。
彼女の視線の先には凛に対してお礼を言いながら頭を下げる梨斗と自分を探してるような様子の凛と綾、ワクワクした様子の校長とこちらを見て若干引いている光太郎の姿であった。
「おのれこの屈辱・・・三倍にして返しますわ!桐生光太郎・・・!!」
止めといた方がいいと思います。
【水玉入れ】
「野郎ども・・・残念だがこの競技においてカメラによる撮影は禁止だ!!」
会長の注意にブーイングが巻き起こる。
会長は彼らを制するような動作をした後言った。
「阿呆が!青春は一瞬しかないようにこの一瞬を永遠と残そうなぞ愚の骨頂!貴様ら目に焼き付けろ!!」
ブーイングが一斉に歓声に替わる。
ああそうだとも、盛り上がったのはこの時だけさ。
女子は何故か水玉を籠の中ではなく俺たちに向かって投げてきたさ。
そういうゲームじゃないからこれ!
「こんな狙いすぎの競技まともにやるわけないじゃないのよ!!」
「あんた等がびしょ濡れになっちゃいなさいよ!!」
「ふざけんなこの野郎!ちゃんと競技をしやがれぇ!!」
しかし投げ返す男子も続出し、いつの間にか男子対女子の醜い争いになっていた。
というか選手対観客じゃんこれ。
ゆっくり観戦しようとした俺まで巻き込まれかねないので安全な場所を探さなきゃ・・・
なお敦とか神谷先輩は怒りの形相で水玉を女子にぶつけている。
「大体水玉が割れなきゃいいだけじゃねえか!!」
「観客に当たるな、風情も分からぬ女ども!!」
・・・・・・人間欲望に素直だとここまで醜くなるのであろうか?
俺がそんな事を思いながら人類に絶望しかけたその時、白組の籠の下で一生懸命玉を籠に入れようとする西連寺がいるのを見て感動したことは言うまでもない。
そのお陰あってか水玉入れは白組が勝った。
【騎馬戦】
女子がスケスケを期待されるならば男子は初めから上半身裸である。
男達の意地と意地のぶつかり合い・・・女性諸君はときめきを覚えるのかカメラ持参の奴もいる。
これは男女平等に反していると思う。
紅白対抗騎馬戦第一組に俺たちは出場していた。
騎馬が崩れたら負けという単純明快なルールはリレーと同じく体育祭の華である。
己の力を誇示する為の戦い・・・。
古来より雌はよリ強い雄に惹かれるという。
それは生存本能において最も利にかなった考えであり、正に弱肉強食を現すものといえよう。
いくら否定しようが自然は弱肉強食を是とするのだ。
そう!この騎馬戦は男子にとって英雄になる絶好の機会!
だから体育会系の脳筋どもはぎらついた瞳でいれるのだ。
多くのか弱い文化系草食男子を屠らんとするその瞳が俺は気に入らない。
「文化系クラブの威信をかけるべきだ!いこう3人とも!」
「おうっ!」
「ああ」
「やってやるよ!」
俺、敦、猿山が騎馬を組みその上に我らがクラス委員、的目あげるが指示を出す。
その姿は文化部の弱者たちには神々しく見えたであろう。
俺たちの表情は自信に満ち溢れ負けを微塵にも感じさせない様子に見えるはずだ。
朝礼台には校長と会長、そして桐生先輩が立っていた。
「彩南高校男子生徒諸君!日本男児の逞しさと強さを見せてちょーだい!」
「それでは準備はいいな!騎馬戦をこれより開始する!彩南ファイトォォッ!!」
「レディィィィィィィーーー!!」
「「「「「「「ゴォーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」
なお、この掛け声は1995年からだそうです。伝統になっちゃったのこれ!?
「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」
俺たちは絶叫しながら正面の相手に突撃した。
まあ、気合も自信も十分だった俺たちの唯一の誤算は、相手がラグビー部だったという事だけだった。
「「「「うぎゃアアアあああああああああ!!!」」」」
結果、そのラグビー部の奴らが固まった騎馬に俺たちは粉微塵に吹き飛ばされた。
「リ、リトーーーーーー!??」
「結城君ーー!?」
気持ちのよいほど吹き飛ばされた俺たちはその後負傷者として保健室に運ばれてしまった。
・・・ほ、他にも綱引きでララが引っ張ったら相手チームが空を舞ったとか、大玉転がしの玉の中にも水が仕込んであったとか、リレーが凄く盛り上がったとかあったらしいが騎馬戦の怪我で俺はもう限界でしたので、体育祭後のフォークダンスは当然参加出来なかった。そのため猿山は男泣きしていた。合掌。
※【体調が50下がった!文系が1上がった!理系が1上がった!芸術が2上がった!運動が8上がった!容姿が1上がった!根性が10上がった!心労が20上がった!?】
『ユウキ リトさんのステータス』
『体調』:042(50↓) 『文系』:064(3↑) 『理系』:068(3↑)
『芸術』:035(4↑) 『運動』:116(13↑) 『雑学』:088(±0)
『容姿』:055(2↑) 『根性』:082(12↑) 『心労』:040(30↑)
【一言:脳筋への道もいいが体調管理も忘れずに】
(続く)