<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22384] [ひぐらしのなく頃に]ひぐらしのなく頃に 惨 -魂狂い編-[創作]
Name: T-T◆62f6b930 ID:81960e6d
Date: 2010/11/15 00:32
どうも、初めて投稿します。
ひぐらしが大好きで、昔は創作をよくしていたものだったのですが、データが飛びまして……。

以前書いてた話を基に、新しく書き換えたものです。
よかったら読んでやってください。

完結するかどうかは作者の気分次第ですが……。

ひぐらしのなく頃に 惨(さん) -魂狂(たまくる)い編-

お楽しみください。

*本文中に残酷な描写があります。
*この作品に謎は含まれておりません。
*原作のイメージを著しく崩壊させる可能性があります。

雑記(10/11/15)
部活が忙しく、投稿が停滞いたします。申し訳ございません

更新履歴

10/10/06 第一の惨劇-ヒトクラヒ-<上>
10/10/07 第一の惨劇-ヒトクラヒ-<下>
10/11/11 第二の惨劇-フタメケシ-<上>
10/11/15 第二の惨劇-フタメケシ-<下>



[22384] 第一の惨劇-ヒトクラヒ-<上>
Name: T-T◆62f6b930 ID:81960e6d
Date: 2010/10/06 22:14
綿流し祭。
予想外に大盛況なお祭りだった。
田舎のお祭りといえば、人がチラホラいるだけで、特に盛り上がることのないお祭りだと思ってたのだが……。

「圭一さん? ぼさーっとしていますと、そのたこ焼き、頂いちゃいますわよ?」
「はっ?! だ、だめだだめだ! これは俺のもんだー!」
そう叫び、俺の手を見ると、既にたこ焼きが無くなっていた。
「沙都子ぉぉおぉおっ!!」
「な、何なんですのー! 私は何もしていませんですわよ!」
「いやー、圭ちゃん、美味しく頂きましたよっと♪」
魅音の口がもごもごと動いている。み、魅音……俺のたこ焼き……うぅ。
「みー♪ 圭一、かぁいそかぁいそなのです」
そういって梨花ちゃんが俺の頭をなでなでしてくれた。
くぅ、梨花ちゃん……かぁいすぎるよなぁ! お持ち帰りしたいぜ!
「はぅ~~!! 圭一くんの頭をなでる梨花ちゃん、かぁいいよぉ☆ お持ち帰りぃぃいぃい!!」
「だ、だめだレナ! それはれっきとした犯罪だぞ?! お前、捕まるぞー?!」
逃げ惑う梨花ちゃん。追いかけるレナ。そのレナを止めようと後ろを追いかける俺。
それを見て笑う魅音と沙都子。
思い出すだけで楽しい綿流し祭だった。

こんな都会っこの俺を受け容れてくれたこの村が、俺は大好きだ。
そう思っていた。思っていたかった――。

「ひぐらしのなく頃に 魂狂い編
 -第一の惨劇- ヒトクラヒ」

――綿流し祭から二日が経った。
その日もうだるような暑さで、俺達は授業にも集中できなかった。
授業が体育で、自由時間であれば、水鉄砲対決なんか出来れば上出来だったんだが……都合よくそうはいかない。
俺とレナ、魅音の三人は机に向って必死に暑さに耐えていた。
その時、ふいに俺は呟いてしまった。
「……梨花ちゃんと沙都子、どうしたんだろうな」
その言葉を聞いて、二人の手が止まる。
しかしレナは何事もなかったかのように再び手を動かし始める。
魅音は顔を上げ、俺に呟いた。
「……二人揃って休んでるし……多分夏バテじゃない?」
「でもさ、梨花ちゃん達が学校に連絡してこないって、おかしくねえか?
 しかも、二日目だろ?」
俺の言葉を聞いて、魅音が頷く素振りを見せた。
「……だね。レナ、あんた何か」
「知らない」
即答だった。
普段は温厚で少し変なところのあるレナの豹変ぶりに、少しばかり驚きを隠せない俺と魅音。
暑さに相まって、いたたまれない空気が流れ始めた頃、レナがふいに顔を上げ、笑顔で答える。
「暑すぎて多分倒れてる……かな、かな?」
にぱ、と冗談混じりの笑顔で返してくるレナ。
その笑顔につられて、俺と魅音も笑い始める。
「今日、学校終わったら行ってみようか」
魅音が二人の家にお見舞いに行こうと提案をした。
「……あ、ごめん、魅ぃちゃん。私、用事あるから行けない」
「へっ? そーなんだ……じゃあデートだねー、圭ちゃん?」
「で、でで、でーとっ?! ば、馬鹿いうなよ魅音。ただのお見舞いだろ?」
「はぅ~☆ 圭一くんとデートなんて、羨ましいなぁ~」
「あ、改めて言われると恥ずかしいな、こりゃ……」
魅音と俺は顔を真っ赤にして机に突っ伏し、それを見て笑っていたレナ。
そこで授業終了のチャイムが鳴った。
昼休み。いつもより二人少ない昼飯の時間で、少しばかりの寂しさを抱えていた。
机を向かい合わせて弁当を開く。
「ねえねえ、二人とも」
レナが喜々とした声で俺と魅音に話しかけてくる。
「ん、どした?」「何かうれしいことでもあったの?」
「うん、あったんだよー☆ じゃーん!」
そういって見せてくれたレナの弁当は、とても鮮やかで食欲をそそる内容だった。
しかし、いつもとさほど変わりの無い内容に俺はつい、
「いつもと同じじゃねぇか?」
そう言ってしまった。するとレナは「何も分かってない!」と俺を叱りつけ、今日のメインメニューの説明をしてくれた。
「実は、今日のハンバーグが美味しいんだよ、だよ☆ お父さんが知り合いから頂いてきた美味しいお肉を使ってみたの。
 みんなの口に合うか分からないけど、頑張って作った力作だから、食べてみてほしいな、ほしいな!」
はぅ、はぅ、と上機嫌で説明を終えたレナは、俺達がそのハンバーグを食べるのをじっと待っていた。
「なんだ? これ、人肉とかじゃねぇよなぁ?」
「じ、人肉ッ?!」
ちょっとした冗談のつもりだったが、魅音が過剰に反応し、食べるのを拒否し始めた。
「冗談だって、こんな美味しそうなの食べれないなんて、残念だな、魅音」
「く、くぅ! 圭ちゃんのせいなんだからね! あ、あたしだって怖くないんだからねー!!」
魅音の必死さは華麗に受け流し、ハンバーグにかじりついてみる。
その味は、
「……レナ」
「はぅ、何かな、かな?」
「うまい、うますぎるぞ」
超絶にうまかった。お袋もこんな料理を毎日作ってくれたらなぁ……なんてな。
俺の言葉に安心したのか、魅音も続いてパクリ。
「本当だ、レナ、ソースの腕あげたね? これじゃあ弁当料理は勝てないなぁ~!」
そういって魅音もレナのハンバーグを絶賛する。
「でもレナ、今日のソース、なんだか味濃いね?」
「うん、今日のお肉はね、普通のソースだと、少しクセがあって食べにくいかな、と思ったから、ソースを濃いめにしてみたの!
 辛かったかな……かな?」
「そんなことないよ、十分、いや、十二分にうまかったからな」
そんな他愛もない話に花を咲かせて、昼休みは終わっていった。

午後の授業は、先生に急な出張が入ったため、中止で帰宅することになった。
「よーし、それじゃあ沙都子と梨花ちゃんの…………あーーーーーー!!」
急に魅音が叫び始めた。何事だ、一体?
「どうしたんだよ、魅音。まさかお前まで行けないってこと、無いよなあ?」
「……うー、行けない……。今日、叔父さんの店でバイトするの忘れちゃってたよ……」
「まじかよ……、俺も、二人の家に一人ではいけないから、……んー、またの機会にするか……」
肩を落とした俺と魅音を見て、レナが一つの提案をする。
「なんだ、みんな行けないんだったら、一緒に帰ろうよ」
「そう、だな。一緒に帰るとするか」
「あー、せっかくモチベーションあがってたのになぁ……おじさんの腕の見せ所だったのに……」
「どういうことだ?」
魅音の目が少しばかり嫌な目つきになっていたことに気付いた。
こいつ、まさか病人の前で罰ゲーム!とか言うつもりだったのか……?
「病人は、寝間着のことも大事だからね、安っぽいパジャマなんかじゃなくて、フリフリつきのメイド服とネコみ」
「はぅ~! 魅ぃちゃんが壊れちゃったよう~~☆」
冗談に聞こえないことをペラペラ喋る魅音の顔面に、目にも留まらぬ速さでれなぱんが繰り出される。
魅音とレナの背後に、「10HIT」「30HIT」という文字が表示されていそうな轟音が鳴り響く中、遂に魅音が床に伏した。
「あ、あたしもう帰れないぃ……ガクッ」
「は、はぅっ! ごめん、魅ぃちゃん、つい☆」
てへっ☆という感じで自分の頭にゲンコツをのせるレナ。
「つい☆ なんていう感じじゃないだろ、この暴力……」
「レナ、魅ぃちゃんをバイト先まで連れて行くから、圭一くんは先に帰っていていいよ、ごめんね」
そう提案するレナ。でも俺は家に帰っても何もすることが無いので、首を振った。
「いいよ、俺も魅音の回復待ってるよ」
「だ~め。女の子同士じゃなきゃできないこともあるんだからね?」
めっ、と人差し指で俺のでこを小突くレナ。ちょっとばかり萌えポイント。
はう、お持ちかえ――――
「はいはい、出て行って~、ばいばいー」
妄想を開始した俺の背中を押して、レナが冷たく廊下へ押し出してくる。
俺だけ除け者かよー!畜生!!
「な、なんだよレナ! 女同士じゃなきゃだめなことってなんだよ~! うぉぉ、俺も覗きたいぜ~~!!」
「ばいば~い☆ また明日ね、圭一くん!」
「うぅ……とほほだぜ~……」
がっくり肩を落として帰ろうとする俺。
しかしここで俺の固有結界が発動した!
俺はまだまだ、ここで終わるわけには行かないんだ!

魅音を介抱するレナ。
グッと急接近する二人の距離に、魅音は困惑気味にぽつりと呟く。
「レナ、実は前からあんたのこと……」
「だめ、それ以上言わないで魅ぃちゃん。レナ、そんなこと聞いちゃったら、もう……。
 もう、魅ぃちゃんへの気持ち、抑えられなくなっちゃうよ!」
「レナ、あんた……私も、同じ気持ちだよ……」
「魅ぃちゃん……」
「レナ!」「魅ぃちゃん!」
そのまま二人は保健室のベッドで

そこで先ほどからグサリと冷たい視線が刺さっているのに気がついた。
「前原さんって、ロリコンの次は百合に走っちゃったんだ……」
「気持ち悪ーい」「もう近寄っちゃだめだねー」
「えっ、あ、こ、これは、これは違うんだ、違うんだー!!」
その叫びは廊下に空しく響くだけで、周りのクラスメイトは聞く耳すら持ってくれない。
冷たい視線を浴びせながら次々と下校するクラスメイトたち。
「うぅ……終わった、もう、俺の人生終わった……うぅ……」
とぼとぼと足を校門へと向け、家に帰ることにした。
明日から俺、村中に変態って呼ばれるだろうな……。

<●> <●>

蒸し暑い帰り道を歩き、クーラーの効いている快適な家に帰ってきた。
やることもなかったので、ゴロゴロと漫画を読み、夕飯を食べ終え、部屋で再びゴロゴロしていた俺。
「んぁ~……眠い。そろそろ寝ようかな……」
時計を見ると、既に10時を回った頃で、明日の部活に備え寝ようかと考えていた頃だった。
その時、下の階から母さんの声が聞こえてきた。
「圭一、電話よー! 園崎さんから~!」
「え、魅音? なんなんだ、こんな時間から」
そう思いながら、下の階に降りて母さんから受話器を受け取る。
「もしもし、圭一です」
【あ、圭ちゃん? こんな時間にごめんね】
「魅音か、どうしたんだよ?」
【あの、……さ。非常に申し上げにくいんだけど……レナから、電話きた?】
「レナから?」
魅音、今度は一体何を企んでるんだろうか。
「来てないよ、どうしたんだ?」
【多分、レナが圭ちゃんにどこどこに来てほしいっていう電話が来るはずなんだよ。
 その場所は、興宮分校の体育倉庫】
「何言ってんだ? こんな時間にまで部活をやるつもりか?
 全くお前らは、どれだけタフなんだよ」
遊ぶことに命をかけてそうなこいつらを見てると、いつでも安心する。
自然と笑みがこぼれた。
しかし、その後の魅音の声は、遊びでも何でもない、真剣な声だった。
【圭ちゃん】
「なんだよ?」
【私は、警告してるんだよ。レナがおかしくなっちゃって……怖くなって今日急いで逃げたの。
 だからバイトにも行けてない】
「どういうことだ?」
【レナが、物凄いことをしようとしてる。多分、圭ちゃん殺されちゃう】
「はぁ?!」
俺が殺されるという物騒な話に、驚嘆の声をあげずにはいられなかった。
俺が、殺される? そんなバカな話あるか。
しかも、相手はレナだぞ? あのほわほわしてるレナだぞ?
【と、とりあえず! レナから誘いの電話があっても、絶対行っちゃダメだよ?!】
「え、あ、ど、どういうこ――――」
ツー、ツー、という音が受話器から聞こえてくる。
……何の冗談だ、魅音?
唖然としながらも受話器を置く。さっきから胸の警鐘がうるさく響く。
ドクン、ドクン……
《魅音を、信じるべきだ》
ドクン、ドクン……
《殺される、殺される》
胸の鼓動が急激に早まったその時、再び受話器が震えだした。
プルルル、プルルル、プルルル、プルルル……
「ッ?!」
思わず俺は、その音に敏感に反応して、立ち竦んでしまう。
魅音のいうことが本当なら、相手はレナで、俺は体育倉庫に誘われる……?
恐る恐る、受話器に手を伸ばす。
ガチャ。
「も、もしもし」
【あ、竜宮ですけど、前原圭一君はいらっしゃいますか?】
心臓が、ドクンと大きく一跳ねした。
――来た、レナからの電話だ……。
嫌な汗が顔から垂れてきて、床へと滴り落ちる。
【もしもし?】
「あ、え、ああ! 俺だよ、圭一だよ」
【なんだ、圭一くんだったんだ。はぅ~いたずらかな、かな?】
「いや、そんなわけじゃ……」
【冗談だよ、えへへ☆ あ、そうだ圭一君。
 今、時間大丈夫かな?】
「時間? あぁ、うん」
レナの声からは殺気や怒気は込められていない。
やはり、魅音の勘違いなのだろうか?
でも魅音のあんな真剣な声は、冗談に使うような声じゃない。
……一体、なんなんだ。
【今から、体育倉庫に来てほしいの】
「えッ……!?」
魅音の声が俺の脳内で再生される。
《多分、レナが圭ちゃんにどこどこに来てほしいっていう電話が来るはずなんだよ。
 その場所は、興宮分校の体育倉庫》
《レナが、物凄いことをしようとしてる。多分、圭ちゃん殺されちゃう》
その突然の言葉に、動揺を隠せない俺。
足がガクガクと震えて止まらない。
「え、あ、その……」
【圭一くん、そんなに怯えてどうしちゃったのかな、かな?】
……怯えて、って、何で分かる?
……俺が見えてるのか?
突然襲い掛かってきた恐怖に駆られ、後ろを振り向く。
「あぁあぁああっ!」
後ろには、母さんがいた。
「な、何なの圭一」
「え、あ、何も無い、ごめん」
その時俺は、冷静になっていた。
――よく考えてみると、魅音の冗談はいつも笑えないことばかりだ。
レナがそんなことするはずない、するはずない。
【どうしたの、圭一くん?
 あ、でね! 今日ゴミ山ですっごいかぁいいもの見つけたんだよ!
 でも誰にも見られたくないから体育倉庫に隠しちゃって……圭一くんになら見せてもいいかな、って思ったんだよ】
「あ、あぁ! そうだよな、そうだよな!」
【あれ、圭一くん知ってるの?】
「いや、何も知らない」
【じゃあ、今から体育倉庫で待ってるよ! はぅ☆】
レナが上機嫌で電話を切る。
――今思えば当たり前だ。
レナは確かにつかめないところもあるが、そんな物騒なことをする奴じゃない。
魅音の方が、笑えない冗談を言ってきそうな感じだ。
もしや魅音、俺にこの誘いを断らせて、レナがかぁいいというものを一人占めしようとしてたな?
くそ、やられたぜ! ということは、魅音もそっちに居るのか……。
部活時間外でメンバーと会うと思うと、何故だか胸がワクワクする。
この胸の高鳴りは、先ほどの不健康なものじゃなくて、興奮から出る高鳴りなんだ!
「ゴメン母さん、ちょっと出かけてくる!」
「え、ちょっと圭一! すぐ帰ってきなさいよー!」
「はーい!」
急いで外へ飛び出し、自転車を漕いで体育倉庫へと向かう。
向かう、向かう。
破滅の目的地へと――――。



[22384] 第一の惨劇-ヒトクラヒ-<下>
Name: T-T◆62f6b930 ID:81960e6d
Date: 2010/10/07 07:32

体育倉庫へと到着した。しかし、ガレージは閉まったままで、静まりかえっている。
「何だ、まだ誰も来てないのか?」
そう思いシャッターへと手をかける。すると、
ガラガラガラ。
という音が静かな雛見沢村に響き渡り、ガレージが開いた。
「おっ、開くじゃねぇか……ってことは、何かトラップがありそうだな……。
 トラップ? 沙都子も来てるのか? 体調は大丈夫なのかな」
そう呟き、体育倉庫へと踏み込んだその時。
ガラガラガラガラガラ!!
乱暴な音が鳴り響き、辺りは真っ暗になった。
「うわっ! 何だ、誰だ!!」
パチッ、と音がして、懐中電灯の灯りでレナの顔が照らされる。
「待ってたよ、圭一くん」
にこっと笑いながらこちらへと歩み寄ってくるレナ。
「なんだ、レナ一人なのか? ほかのみんなはどうしたんだよ?」
「みんな? みんないるよ☆ みんなみんな、かぁいいかぁいいよぅ☆」
レナの言っていることがいまいち理解できない。
確かにこの空間には、レナと俺しか「息をする人間」は存在しなかった。
他の気配なんて、全然感じなかった。しかしレナは居る、と言い張るのだ。
「みんなと逢いたい? 逢いたいかなぁ?」
レナは笑顔で俺に訊ねてくる。
「あぁ、いっぱいの方が楽しいじゃねぇか!」
「んー、でも圭一くん、怖がらないかなぁ?」
「何言ってるんだよ? 部活メンバーが怖いわけねぇよ」
「じゃあ、かぁいくなった皆に、会わせてあげるね☆
 魅ぃちゃーん、沙都子ちゃーん、梨花ちゃーん」
他の部活メンバーの名前を呼ぶレナ。
一瞬。レナの目が鋭く光った気がした。
そして、パチリと電気をつける音がし、室内はさらに明るく照らし出された。
――惨劇の室内が。
「―――――――――――ッッ!!??」
言葉にならなかった。
というより、どう反応すればいいのか分からなかった。
思考回路が停止する。思考回路が停止する。
「あっははははははははは!! かぁいいでしょ? かぁいいよね☆ はぅー、みんなお持ち帰りだよぉおおぉぉぉお!!」
半狂乱にレナが狂いだす。笑う、嗤う、笑う。
そんなレナの左手には、緑髪のポニーテールがつかまれており、そのポニーテールの先端には、頭部がくっついていた。
首。生首。魅音。魅音。魅音。
血。首から垂れる血。血。血。
「うっ、うぁ、あああぁああぁぁああぁあぁあああ!!」
混乱が続く俺は、その光景を目の当たりにして、叫んでいた。
何が何だか分からず、後ずさった。
「ひっ?!」
何かに足をとられ、ずっこけてしまった。
そして手をついた場所に何らかの液体がこぼれていたのか、ズルっとバランスを崩す。
「うわぁっ!」
素っ頓狂な声をあげ、転げる。そして、そのつまづいたものを見てみると。
「あああぁあぁああぁあぁぁぁああぁぁあぁあああぁあ!!!!」
魅音。魅音。魅音。体。魅音。体。
首が無い、首が無い、首が無い魅音。
手についた血。血。魅音の血。首から溢れた、魅音の血。
「あっはははは!!」
魅音のポニーテールを左手に持って近付いてくるレナ。
「魅ぃちゃんは本当はね、こんなことになる予定じゃなかったんだよ?
 でも、でもね」
「く、来るな!!」
呟きながら近付いてくるレナから、必死に逃げ惑う。
「うるさいから、殺しちゃった」
「ひイイッ!!」
左手に掴んだ魅音の生首を、体育倉庫の端へと放り投げる。
ゴヅッ、という鈍い音が響き渡り、壁から跳ね返ってきた魅音の生首が、俺の目の前に転げ落ち、その魅音と目が合った。
……イッタデショウ、ケイチャン。キチャ、イケナイヨッテ……
「ふあ、あぁ、ああああぁあぁぁああぁぁああぁあぁあ!!」
「かぁいいでしょ?みんな、レナのコレクションなんだよ、だよ☆
 一人集めると二人欲しくなった。二人集めるとみんな欲しくなった。
 だから、圭一君も、ね?」
「く、来るな来るな来るなあああぁああぁあぁぁぁあああ!!」
冷静な俺が居た。……あの電話は、誰からのものだ?
レナが俺に対する挑発を? いやでも、あの声はレナではなく、魅音のものだったぞ?
じゃあ誰から? 死者が、俺に警告を……?!
だめだ、考えるな、クールになれ前原圭一。
クールにならなきゃ、逃げ切れないぞ。レナを見ろ。隙を見つけろ。
そうして再びレナを見ると、どこから出してきたのか、生首を持っていた左手に、銀色に光る鋭い鉈を構えており、右手に持ったハンバーグを頬張っている。
「んふふ、おいし♪ 圭一君も、食べる?
 あ、でも今日の昼も食べたよね、美味しかったよね、沙都子ちゃんと梨花ちゃん」
「ヘッ……?!?!?!?!?!」
その言葉に耳を疑った。
《美味しかったよね、沙都子ちゃんと梨花ちゃん》
沙都子……梨花、ちゃん?
ということは、俺が食ったあのハンバーグの肉は、
あ、肉、は、あ、ぁぁ、あぁああ、ぁあああああぁぁあああぁぁ!!!!!!!
「おぶぼぇえぐぇ!! ゲボ、ゲボゲボ!!
 ぐぇ……はっ、がはっ……あ、がぁ……!!」
嘔吐、嘔吐。肉。沙都子。梨花ちゃん。肉。肉。肉。
「レナ、お前、ゲボッ、どうし、ゲヘッ、たんだよ……!!」
「みんなかぁいいから、食べたくなっちゃったの☆
 だからね、これから魅ぃちゃんを料理するんだよ、だよ☆
 その前に、圭一くんに逃げられたら全部終わっちゃうからね。
 圭一くんを」
「殺ス」
「ア、 あがああぁあああふあああああぁぁぁああぁああ!!!!」
半狂乱になって逃げ惑う俺。そんな俺を、ひたひたと追いかけてくるレナ。
「ねぇ、逃げないで? すぐ終わるよ、痛くないよ、怖くないよ……?
 あは、はははっはははは、ははははははははははは!!!!」
「来るなぁあああぁああぁぁぁああぁぁ!!!!」
笑顔なレナが追ってくる。
目が笑ってないレナが追ってくる。
レナ、レナ、レナ……!!
来るな、寄るな、来るな来るなぁああぁあああ!!
「ひどいよ、圭一くん。レナのこと、そんなばい菌みたいに扱うなんて……
 女の子だよ、だよ?」
「ひ、人殺しが言えるかよッ!! 来るなよ!!」
その時だった。
ガラガラガラガラ!!
「……ふぅ、お姉って、よっぽど信用無いんですね」
「ッ!! 魅、音……?」
「残念、私、詩音です☆ 魅音の双子の妹の詩音です。
 圭ちゃんとはお初ですよね、よろしくお願いします」
「……は?」
「……詩ぃちゃん……」
レナが恨めしそうな目で詩音と名乗った女の子を睨み、鉈を構えて詩音に突進する。
「うっわ、超ヤバ?」
紙一重でレナの攻撃を交わす詩音。
「あぁ、あぁあぁ!! 詩ぃちゃんのおかげで圭一くんを殺せないよ! あぁどうしようかな、どうしようかなァ?!」
そう怒鳴りながら再び乱暴にシャッターを閉める。
「しまった……! 圭ちゃんだけでも逃がすべきだった」
「どういう意味だよ、え、えぇと、詩音!」
「逃走経路を封鎖されました。レナさんを殺すか、私達が殺されるか、っていうことですよ」
「なっ……ど、どっちも嫌だ!」
「じゃあ死んでください」
「詩音!」
突然現れた詩音に動揺を隠せない俺。
そして恐怖と焦燥に駆られた俺は、詩音に八つ当たりするが、そんな俺の行動を詩音は軽くあしらう。
「先ほどの電話は私です。お姉の情報を耳にして、このままじゃ危ない、と警告したつもりだったのですが……、やっぱ来ちゃいましたか。
 元々ダメもとだったんでどっちにしろここに来るつもりだったんですけどね。
とにかく今は目の前の敵を沈黙させるのが得策だと思います。が、圭ちゃんはそんな状況じゃ戦えませんよね……。
 隠れていてください。私がケリつけます」
「詩音ッ?!」
再び孤独に襲われた俺は、跳び箱の裏で身を縮こまらせるしか無かった。
跳び箱の向こうでは、詩音とレナが対峙する光景が窺えた。
「詩ぃちゃん、邪魔するの? 詩ぃちゃんもレナのかぁいいコレクションにしちゃうよ? いいの?」
「ご心配なく☆ 私はお姉みたいに鈍感じゃないので、レナさんに殺されることはありませんので☆」
「……調子に乗るな小娘。お前は私のコレクションにされるんだよおおぉおおぉぉぉおおぉお!!!!」
バギリ、という鈍い音が聞こえ、そこからはレナの猛攻が始まった。
「お前が! こなかったら! 今ごろ! 圭一くんは! レナの!
 コレクションだった! のにぃ!!」
「ほらほら遅いですよ? えいっ」
バヂヂヂ! という電撃音が走り、その後にレナの悲鳴が木霊する。
「きゃああぁああぁあぁああぁあ!!」
その様子を窺うと、詩音がレナにスタンガンをあてがっていた。
「すいません、改造モノですから、手加減なんかできなくって☆」
「殺す」
詩音の言葉に間髪入れず、レナの声が聞こえてくる。
「殺すコロスコロス殺す殺す殺す殺す!!」
ブンブンと鉈を振る音。スタンガンの電撃音。
その二つの音が俺の聴覚を支配していた。
が。
「きゃっ! やばっ」
詩音が、床にあった何かに躓いてバランスを崩してしまったようだ。
詩音のその声が聞こえたときにはもう遅かった。
「詩音!」
「ははは、あはははははは!! コレクション、コレクション~♪」
グヂョリという音が響き、詩音の頭蓋骨がレナの鉈で割られてしまう。
「ギャ、ガ、ァアア!!」
声にならない叫びを上げる詩音。
そしてレナは、その詩音の頭蓋骨に、何度も、何度も鉈を振り下ろす。
グヂョリ、グヂャリ、グヂ……
「あはは、あはははははは!! 次は圭一くんだね、だね☆」
「ヒッ……来るな、来るな来るな来るなぁああぁああ!!」
気がつくと、俺は走っていた。レナに向って走っていた。
俺の右手には、体育倉庫に転がってあったバットが握られていた。
そして、
フォン――
――――グシャ。
「ウギェ!!」
レナの異様な声が体育倉庫に響く。
そして床にうずくまるレナ。
「グウウゥ……!! よくも、よくもレナを……!!」
殺意を込めた眼光を俺に向けるレナ。
その眼光に竦んでしまった俺。その竦みが、命取りだった。
「許さない、許さないよ許さないよ許サナイヨォォオオォォオ!!」
最後はレナと思えない声を吐き出しながら、目の前の”ソレ”は俺に刃を振りかざしてきて……

そこで俺の意識は途切れた。

<●> <●>

気がつくと私は、地面にへたり込んで、涙を流していた。
周りを見渡すと、みんなの無惨な姿を確認し、嘔吐した。
圭一くんが、腹部から腸を引きずり出されている。
魅ぃちゃんが、首を切断されて、その首と身体は床に転がっていた。
詩ぃちゃんが、頭蓋骨を割られて、脳味噌があふれ出していた。
沙都子ちゃんと梨花ちゃんの姿は見えなかったけど、私は二人を食べた記憶が微かにある。
食べた? ……私が、二人を食べた?
手を見ると、ハンバーグを握っており、その肉は二人のものだと、直感的に理解できた。
「う、うぇえ、げえぇええ!!」
吐いた。気持ち悪さと、自分の罪の重さに、吐いた。
そうだ、みんな、みんなみんな私がやったんだ……私が、”殺”ったんだ。
「なんで、なんでこんなことしてるんだろ……私、どうしちゃったんだろう?」
本当に、意味が分からなかった。
ある日、お父さんが豹変して、家を飛び出したきり、帰ってこなかった。
珍しく帰ってくる日があると、決まってリナさんという女を連れ込んでいた。
二人が夜中に一緒の布団で寝てるのを見たことがある。
二人が夜中に一緒の布団でじゃれてたのも見たことがある。
私がおかしくなったのはそこからだった。
お父さんはもう私を必要としてくれない。リナさんと共に、どこかに行ってしまいそうな気がした。
リナさんとお父さんはいつも仲良しで、寝る時もご飯の時も一緒で、リナさんが帰ると、後を追うようにお父さんも居なくなった。
そんな日が、ずっとずっと続いた。私はもう耐えられなかった。
そこから記憶は無い。
気がつくと、こんなことになっていた。
私の勝手な感情で、みんなを殺しちゃった。
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
「私、次、みんなと会えるときはもう、間違えないから……。
 ごめん、ごめんね、みんな」
そして、私は手に持った鉈を自分の首にあてがい――――
思いっきり引き抜いた。
「グ、ギギィ、ガアアアァアアァアア!!!!」
声にならない叫びをあげる私。痛かった。とてつもなく痛かった。
意識が飛びそうになるのを、必死に我慢して、痛みを必死に耐えた。
こんなもんじゃない、みんなの痛みはこんなもんじゃない。
腕に鉈をあてがい、思い切り引き抜いた。
「グギイィイイイ!!」
足に鉈をあてがい、思い切り引き抜いた。
「ハァ、ハ、ギャ、ァアアァアアア!!!!」
そして再び、首にあてがい、引き抜いた。
「―――――――――――ッッ!!」
これを何度も繰り返して、ついに両足がちぎれた。
片腕がちぎれた。
もう私は意識を保てなかった。でも、みんなの痛みは……
首に鉈をあてがい――――――
「ギイイィイイィイィッッッ!!」
首が、ちぎれた気がした。

<●> <●>

昭和58年6月23日
22時27分頃、雛見沢村・興宮分校 体育倉庫にて惨殺事件発生。
容疑者は「竜宮 礼奈」。
被害者は五名。
「前原 圭一」「園崎 魅音」「園崎 詩音」「北条 沙都子」「古手 梨花」。
6月24日、04時24分頃、被害者「前原 圭一」の両親より警察に「息子が帰ってこない」との報告を受け、捜査を開始する。
「前原 圭一」と「竜宮 礼奈」の電話の内容を供述してもらった末、場所を特定し、事件発覚に至る。
三名の遺体は無惨にも最悪な形で発見された。
しかしその内二名の死体の行方は分からないままだった。
その後の懸命な捜査により、容疑者「竜宮 礼奈」の手に残るハンバーグの肉が、二人の肉と判別できた。
容疑者について興宮分校教諭は、
「竜宮さんはとても優しくて礼儀正しい女の子でした。こんなことをするような子だと思いませんでした」
と供述している。
この事件は残虐かつ非道極まりない事件で、容疑者は即死刑を言い渡されていた。
しかしその容疑者も五名を惨殺した後、自らの片腕、両足、首を切断し、自殺を図ったとされている。
興宮総合病院心療内科専門医師は、
「今までに前例のない自殺の仕方。容疑者は精神状態に重度の異常が見られ、友人らを殺害したことすら認知していたかは不明。
 遺書の内容によると、友人らを殺害後、罪の意識に苛まれた挙句、この自殺方法を思い立ち、実行した模様。
 ご冥福をお祈りいたします」
と供述している。

事件現場からは、容疑者が書いたとされる遺書が二枚見つかった。
しかし重度の精神異常を起こしていた為、書かれてあることの真偽はまだ確認されていない。
更に、遺書としては滅茶苦茶な文章であり、遺書として証拠を提出できるか検討中である。

遺書の内容は以下。
一枚目
「私が何故、彼らを殺したのか、今の私には理解できません。
 非常に申し訳なく思っており、私が生きる価値が無いことも重々承知しております。
 私は犯罪者です。なので私は自分の手により、自分の罪を贖罪しようと思いました。
 きっとこれは、オヤシロさまの祟りであると、私は信じています。
 オヤシロさまは、います。
この村を守っていくこととは別に、普段の素行を監視しており、我々の罪を数えています。
 その罪の数が限度に達した場合、我々はオヤシロさまの手によって罰を受けなければなりません。
 今回の事件は、オヤシロさまのお怒りに触れた私が起こしてしまった罰なのです。
 そして罪は償わなければなりません。
私はその罪を、自らの死により償う所存であります。
 しかし、オヤシロさまだけでは起こせない残虐な事件であると私は推測し、きっと何らかの方法で私は操作されていたんだと思いました。
 我々を操作しているのは、自我では無く、寄生虫と言う説を聞いたことがあります。
 きっとその寄生虫を撲滅しない限り、この事件を機に、連続惨殺事件が再び起こるでしょう。
 これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。
寄生虫の存在を解き明かしてください。
 そして再び、こんな凄惨な事件が起きないよう、寄生虫を消滅させる方法を考察してください。
 それだけが私の望みです。

                           竜宮 レナ」

二枚目
「みんな、ごめん、ごめんね
 レナ、つぎみんなとであえるなら、もうまちがわないよ
 みんなといっしょにあそんだりたべたりしたいな
 オヤシロさまもいっしょに レナたちを あそびたいな
 ごめんね、ごめんなさい みんなすきでした
 こんどは いっしょにあそびにいこうね
 けいいちくんや、みいちゃんがすきでした
 さとこちゃんやりかちゃんおいしかったです
 ありがとうございました
 しおんちゃんごめんね またこんどたべます
 いっしょにたべましょう
 みんな うまかった すき おいしかった
 ごめんなさい しね ごめん うまれてきてごめんなさい
 さようなら さようなら さようなら さようなら」
(以下、文章は「さようなら」で埋め尽くされている)

平成18年7月18日。
容疑者「竜宮 礼奈」の供述にあった寄生虫の存在は確認されておらず、精神異常の彼女の妄言であるという結論で、
この事件は解決とし、完全凍結された。



「ひぐらしのなく頃に 魂狂い編
-第一の惨劇- ヒトクラヒ」








[22384] 第二の惨劇-フタメケシ- <上>
Name: T-T◆62f6b930 ID:81960e6d
Date: 2010/11/11 22:16
綿流し祭から一週間。
その日数は同時に、魅音の不登校の日数となっていた。
「どうしちまったんだろうな、魅音……」
「家に行っても、会ってくれないんだよ、魅ぃちゃん」
「あの魅音さんに限って、学校を休むなんてこと、あるとは思いませんでしたわ。
 しかも、一週間という長い間……」
「心配なのです、みぃ」
口々に魅音の安否を心配する部活メンバー。
しかしその心配は部活メンバーには留まらず、クラスメイトの皆が同じ気持ちだった。
そうこうする内に、始業のチャイムが鳴り響き、皆が各々の席に着いた。
知恵先生が教室に入ってくる。
「今日も委員長が不在なので、前原くん、号令お願いします」
「はい。起立、礼、着席」
一時間目の授業が始まった。その時。
ガラガラガラ……と教室の前のドアが開かれ、緑髪の女の子が入ってきた。
「遅れて申し訳ありません、園崎です」
「あっ……!」「魅ぃちゃん!」「魅音さん!」「魅ぃ……!」
「あ、……違うんです、えと、私は、その……双子の妹の、詩音です」
教室中が、喜び、直後に困惑した時間だった。

「ひぐらしのなく頃に 魂狂い編
 -第二の惨劇- フタメケシ」

「驚かせてごめんなさい、双子の妹の、詩音です」
誰もが魅音の冗談だと考え、不穏な空気を笑い飛ばそうとした瞬間。
「今日は、興宮分校教諭の「知恵留美子」先生に用事がありまして、来訪させて頂きました。
 ……先生、お時間よろしいですか?」
「えっ? ……はい」
知恵先生は困惑を隠せないまま、魅音と瓜二つの女の子「詩音」を連れ、職員室へと向った。
閉まったドアを見つめ、ポツリと呟く。
「なぁ……本当だと、思うか?」「……思わない」
「双子なんて、聞いたことがございませんでしてよ?」「魅ぃと詩ぃなのです、にぱー☆」
いつでも能天気な梨花ちゃんの言葉に、場の空気が和み、一気に談笑モードへと突入した。
「だよな……そうだよな! 多分知恵先生は騙されてるんだよ!
 多分こっぴどく魅音を怒った後、何事もなく授業に戻ってくるぜ!」
あんなくだらない冗談に騙されるとは、俺も情けない……だから部活で負けが多いんだろうか。
隣でレナの素振りが聞こえてくる。……れなぱんのウォーミングアップか? ……魅音、残念。
「はぅ……魅ぃちゃん、ずっと休んでたと思ったら、こんなこと考えてたんだね?」
沙都子は顎に手を置き、「んー」と考えるポーズをとっていた。
「ということですと、ズル休み……でしたの?」
そして、指をパチン!と鳴らし、
「まぁ! なんたる体たらく!
 これは北条沙都子様のトラップによる懲罰が必要ですわねぇ?!」
と大声で宣戦布告を述べた。その隣で梨花ちゃんはニコニコしている。
「ふぁいと、おー☆ なのです。魅ぃはかぁいそ、かぁいそなのですよ」
「おし、俺も手伝うぜ沙都子! 俺達を困惑させた以上に驚くようなすっげぇトラップを作ろうぜ!!」
よし、なんか燃えてきたぜぇぇええぇ!! 俺達に散々心配をかけた挙句、くだらない冗談を土産に帰ってくるなんて……。
バチ当たりにも程があるぜ、魅音! 見てろよ、お前がした罪の重さを、思い知らせてやるぜえぇえぇぇっ!!
授業中というのに、俺と沙都子は廊下に繰り出し、バケツだの雑巾だのを教室へと運び始めた。

トラップの設置が終わった後、にやにやしながら魅音と知恵先生の帰りを待っていた。
ガラリ、と扉が開き……開き? あの扉には画鋲が設置されているはず……発動しなかったのか?
しかし扉を開けると上から水たっぷりのバケツが降りかかってくるはずなのに、落ちる音がいつまで経っても聞こえない。
更に更に、一歩踏み入れると縄跳びに足が引っ掛かり、ずっこけた頭の落下地点に硯を置いていたはず……!
何故だ、何故何も発動しない?!
俺と沙都子は顔を見合わせ、互いに「どういうことだよ!」「どういうことですのー!」と囁いた。
その時。
ガツン、ガツン! と鈍い音がして、次の瞬間には俺と沙都子は床の上で仰向けに倒れていた。
「痛、つつつつ……」「痛いですわ……」と顔を上げた時には、衝撃の光景が眼前に広がっていた。
左手にバケツを抱え、右手にはチョーク。
画鋲びっしりのセロテープは模様とでもいうかのようにスカートに張り付いており、入り口の縄跳びは切断されていた。
「す、げえ……」「知恵先生、スゴイ……」「完敗、ですわ……」「みぃ☆」と部活メンバーが呟いた直後、知恵先生の冷たい声が教室内に響き渡った。
「前原くん、北条さん? ……懺悔は、済みましたか?」
ガガガガガガガガッッッッ!!
体と数ミリしか間の無い隙間にチョークが刺さり、俺達のシルエットを囲んだ。
「す、すみません……」

午後の授業は先生の説教で全て終わり、今は下校時間。
魅音という部長が不在のため、部活は休みだった。
帰り道は、いつもの部活メンバーが帰路を共にすることになった。
「とほほ……、悪ノリなんかするんじゃなかったぜ……沙都子のせいだ」
そう呟き、肩を落としたところ、沙都子が横から怒鳴ってくる。
「なんですのー?! 圭一さんがノってくるからいけないんではないですの?」
「そうだよ、圭一くんは上級生さんなんだから、沙都子ちゃんを止めなきゃダメだよ」
「みぃ☆」
梨花ちゃんはいつでも「みぃ☆」と言って場を和ませる。
もうレナと沙都子の説教さえ忘れちまった、てへ☆
「そういや、詩音っていう子はどこに行ったんだろう?」
純粋な疑問を部活メンバーにぶつける。その疑問は、他の三人も抱えていた疑問だったらしく、
「レナもどこ行ったんだろう? って思ってた」「そうですわね、先生とお話した後、どこに行ったんでございましょう?」
「みぃ」また、梨花ちゃんが鳴いた。
あの詩音と名乗った女の子は、果たして本当に詩音という存在なのだろうか……?

家に帰り、二階の部屋でゴロゴロしていると、家の電話が鳴った。
生憎俺以外の家族は外出しており、俺が電話に出るしかなかったので、下の階に降りて、受話器をとった。
「もしもし、前原です」
【あ、圭ちゃん? はろ~、魅音だよ】
「え、魅音か?! お前、どうしたんだよ一体!」
【あはは、体調不良が長引いちゃってね……ごめん】
「いや……無事なら俺はなんでもいいんだがな……
 で、何の用だ?」
元気そうな魅音の声に安心しながらも、魅音の用件を聞くことにした。
【今、暇? っていうか、今から遊べるかな? って思ってさ~】
「お、何だ何だ、部活の誘いか? 全然いいぜ! どこに行けばいいんだよ?」
久々の部活だと思うと、ワクワクが止まらなくなった。
今回はどんな勝負をするんだろう! ……いやそれよりも、どんな罰ゲームか? っていうのが先かな?
まぁ何でもいいや、とりあえず部活が楽しみだ!
【まぁ、部活って訳じゃないんだけどね、他の三人も一応誘った。
 まだ体調不良は完治してないから、場所は私の家でいい? 分からなかったらレナと一緒に来るといいよ】
「なんだ、まだ治ってないのに大丈夫なのか? ……まぁ、とりあえずお見舞いがてら行くとするよ。じゃあな」
【うん、じゃあね、待ってるよ】
カチャ、と受話器を置いた。
よし、久しぶりの部活にテンションが上がってきたぜ……!! 今日こそ魅音やレナにスク水を着させて「ご主人様~」って言わせてやる!!
そんな妄想を膨らませ、レナに「一緒に行こう」という誘いの電話を掛け、家に「遊びに行って来ます」という書き置きを残し家を出た。
ワクワクが止まらなくて、自転車で疾走した。

疾走が、失踪に変わるとは知る由も無いままに――――。

<◎> <◎>

噂には聞いていたが、やはり「園崎本家」は馬鹿でかい屋敷だった。
その門の前には沙都子も梨花ちゃんも待っていた。
「……でっけぇなぁ……」「流石ですわねぇ……」
沙都子と二人で唖然としていたが、その時門が開いた。
「ようこそいらっしゃいました、皆様」
そこには、白装束を身に纏った魅音の姿があった。
「魅ぃちゃん、大丈夫なの? 体調」「心配でしたのです」
「うん、もうすっかり元気、……かな? ちょっとしんどいけどね~、たはは……」
苦笑気味に手を顔の前でヒラヒラさせながら、いつもどおりの口調で会話を始める。
五分ほど談笑した直後、魅音は急に表情を固め、
「それでは、皆様を本邸客間にご案内致しますので、ついてきてください」
と言って歩いていく。
その光景が、なんだかおかしくて、なんだかこわくてレナに耳打ちした。
「……なぁ、いつもの魅音と違くねぇか?」
「魅ぃちゃん、家の中では園崎家次期頭首としての立ち振る舞いをしなきゃダメなんだよ」
「ふーん……、大変なんだなぁ」
堂々とした歩き方をする魅音の背中を、じっと見つめていた。
その視線に気付いたのか、魅音がこちらを振り向き、「あ、あんま凝視しないでよ」と小声で呟いた。
そんな魅音が、いつもの魅音と変わらない感じを醸し出していて、なんだか落ち着いた。
そして客室へと招かれた俺達。
魅音は俺達に一礼をした後、どこかへと行ってしまった。
「しかし、……圧巻な光景だなぁ」
「何だかいつもの魅音さんらしくなくて、息が詰まりましたわ」
そういって沙都子は舌をベーっと出す。沙都子も俺と同じだったんだな、と苦笑する。
「魅ぃはえらい子なのですよ、みぃ☆」「私には真似はできないな~、かわいいのにかっこいい魅ぃちゃん♪」
思い思いの考えを口にしてくつろいでいた頃、魅音が再び戻ってきた。
「粗茶でございます。おはぎは、私の手で一つ一つ、真心を込めて作りました。
 どうぞご賞味下さい。」
そういって、お茶とおはぎを一つずつ皆の前に置いていく魅音。
何故かとても食欲をそそられ、俺達は一口おはぎにかじりつく。
「んぉ、うめぇ! すげぇうめぇよ! 魅音やっぱ料理うめぇなぁ!!」
「今まで食べたことの無い味……なんだろう、すごく美味しい!」
「流石魅音さんですわね、美味でしてよ!」「みぃ☆」
皆が一口おはぎを齧り、賞賛した後、目の前が霞み始めた。
「ん……なんか、眠……」「はぅ……zzz……」
「眠気が急に襲ってきまし……てよ……」「みぃ」
そのまま俺達は床に伏し、深い、不快眠りへと落ちた。

「……ん、……ふぁ……」
目を覚ますと、薄暗い部屋の中に居た。
「ん、みんなは……? おい、レナ、沙都子、梨花ちゃん!」
呼びかけても返答が無い。そして意識がはっきりとしだした俺は、その光景に絶句した。
「――――ッ?! ど、どこだよここ!!」
「圭一、さん?」「圭一くん、どうしたのかな、かな?」
「ふぁ……おはようございますなのですよ」
「みんな!」
みんなも、意識がぼんやりしている内はのんきなことを口走っていたが、現状を認識すると、驚愕の声をあげる。
「ど、どこですの? ここ」「…………」
「な、何で閉じ込められてるの?!」
次々とみんなの声が響き始める。
気付くと俺は、――俺達は、牢屋の中に閉じ込められていた。
カツカツ……、という足音が響き渡り、俺達の前に、人影が姿を現した。
「みなさん、お目覚めですか。
 ここは、園崎家の地下祭具殿でございます」
「魅音! これ、どういうことだよッッ!!」
憤怒の感情を抑えきれず、つい魅音を怒鳴り散らしてしまう。
しかし魅音は、ビクともせず、淡々と、ただ、淡々と説明を始める。
「皆さんには、一人ずつ、私の妹の苦しみを味わっていただきます。
 ではまず、北条さん、出てきてください」
意味の分からないことを呟きながら、魅音は沙都子の牢屋の鍵を開け、沙都子を部屋の真ん中へと連れて来る。
「な、何をしたいんですの、魅音さん……」
怯えた表情を隠せずにいる沙都子を誘導した魅音は、部屋の隅へと移動し、何かを持ってきた。
「これをつけてください」
そうして差し出してきたのは、アイマスクだった。
「アイ、マスク……だよね」レナがぽつりと呟く。
「魅ぃちゃん、何をしようとしているのか分からないけれど」
「私の妹は」レナの声を遮るように魅音が口を開く。
「私の妹は、交通事故により失明いたしました。
 それからというもの、ノイローゼが続き、重度の鬱が進行しております。
 その、失明の苦しさを味わっていただきます」
説明を終えると、魅音は壁側に寄りかかり、壁をさすった。
「圭一くん、逃げなきゃ危ないよ……」小声でレナが話しかけてくる。
「でも、でもどうやって逃げればいいんだよ……!」
「沙都子ちゃんなら、沙都子ちゃんならこんな鍵、開錠できるかも知れないのに……」
そんなやりとりの後、再び魅音に目を向けると、さすっていた壁から、スイッチのようなものが現れた。
「な、何をしようとしてるんでございますの? 何も見えませんわよ……」
沙都子は怯えきってその場から動こうとしなかった。
視界が真っ暗なこともあり、下手に動くのはマズいだろうと思ったんだろうか。
しかし、沙都子がポケットから何かを取り出し、アイマスクに当てた。
「あっ! ……カッターだ」レナが呟く。
良く見ると確かにそれはカッターで、自分につけられたアイマスクを切っているようだった。
プツン……、とアイマスクが切れ、沙都子の足元にアイマスクが落ちた。
「では、いきますよ」魅音がスイッチを押す。
シ……ン。
何も起きない。
「な、何だよ魅音、何かの冗談だったのか? ……へへ、笑えねぇな……」
そう言った瞬間だった。
銀色に光る何かが眼前を通りすぎる。
そこからはスローモーションだった。
釘のようなものが俺達の目の前を横切り、沙都子の方へ飛んでいく。
「さ、沙都子――――ッ!!」
「沙都子ちゃんッ――!」
「沙都子!!」
叫ぶが、その声は遅すぎた。
銀色の釘は、沙都子の目に向って飛んで行き、――――グサリと、沙都子の目を潰した。
「ギィイイヤァアアァアアッッッッ!!!!」沙都子が痛みに悶え叫ぶ声が響き渡る。
俺は、その悲惨な光景から目を離すことが出来なかった。
みんなの表情は見えないけど、目を瞑り、この光景を直視していない気がした。
「ひ、ひぁあああ、痛い、痛い、痛い、痛いッッッッ!!」そのままフラフラと痛みに苦しみながら歩き回る沙都子。
「――――ッ!! 沙都子、止まれ!!!!」すかさず俺は叫んだ。
沙都子が真っ直ぐ突き進んでる道の先には、――崖があった。
落ちてしまったらひとたまりもないという雰囲気が漂っていて、初めての俺でも危機感がわかった。
「ギイイァアアアア!!」しかし沙都子にはその声は届いておらず、進んでいく。
「――――――――ッッ!!」俺はもう、目を瞑るしか無かった。
物体が落ちる音と、肉が破裂する音の二つが同時に聞こえた。
「キャアアアァアアアァァッ!!」レナが絶叫する。
梨花ちゃんはどうしているのか分からないが、声が聞こえないということは、絶句している姿が思い浮かんだ。
そして、沙都子が死んだことに対して、冷静な思考を張り巡らせていることに、腹が立った。
「ねぇ! 魅ぃちゃん!! どうしてこんなことするの?! 沙都子ちゃんは何も悪くっ……うぁあああぁあぁあ!!」
レナが憤怒の声で魅音に反抗するが、苦しさや悲しみに押しつぶされ、声をあげて泣きはじめた。
そこで、何故かとてつもなく冷静な俺が、魅音に質問する。
「確かに、お前の妹は辛いだろうよ。でも、何で俺達まで巻き込むんだ?
 何で、俺達がこうならなきゃいけないんだ?」
魅音は、淡々とつむぎだす。
「私は、痛みを分かち合いたいのです。皆で、分かち合いましょう。
 文句があるなら、私を直接殴ってくださってもいいですよ」
そういって、レナの牢屋に近付いていく魅音。
そんな魅音に「ヒッ!」と怯えた声をあげるレナ。
レナの牢屋の鍵が開けられる。そして、俺の牢屋の前に来て、俺の牢屋も開錠したあと、梨花ちゃんの牢屋も開錠する魅音。
レナは、迷いもせず牢屋から出て、魅音の方へと走り出す。が。
――――ビィイィンッッ!
「きゃぁっ!」レナが逆さ吊りにされる。
魅音の付近にトラップが仕掛けられていたようで、レナはそのロープに絡め取られてしまった。
「レナさんが、次のターゲットですか。いいでしょう」
そう言い残し、部屋の隅から、トゲの生えた板を出してくる。
そして、それをレナから少し離れた所に設置した後、レナが吊られているロープを前後に揺らし始めた。
「ね、ねぇ、魅ぃちゃん、もうやめよう? 詩ぃちゃんは、そんなこと、望んでないハズだよ……」
「それは聞いてみないと分かりませんから、皆さんがお帰りになった後、確認に参ります」
揺れる、揺れる。前後に激しく、揺れる。
「魅ぃちゃん、もう、やめてっ……」レナが悲痛な泣き声をあげはじめる。
「地獄で謝っておいで。じゃあね……さよう――――ならァアアッッ!!」
一際大きくレナを振り上げ、吊られたレナの身体は、トゲに向って全速力。
グチョリ! と大きな音がして、レナの体をトゲが貫通する。
そんなレナを魅音は板から引き剥がす。無残なレナが目の前に転がり落ちてくる。
「レナっ……?!」猛烈な吐き気が襲ってきて、その場に嘔吐した。
見事なまでに眼球は潰れていた。「あぁあ……」魅音が残念そうな声で呟く。
「梨花ちゃん、居なくなっちゃった」見ると、梨花ちゃんの牢屋は空で、周りを見渡しても梨花ちゃんは居なかった。
「じゃあ最後は、圭ちゃんだね」死んだ目の魅音が、こちらに歩み寄ってくる。
笑顔で歩み寄って来る。涙を流しながら、歩み寄ってくる。
「み、魅音……」「ごめんね、圭ちゃん。次は一緒に、遊ぼうね」
激痛と共に、目の前が暗くなった。
「ウガアアアァアアァアアアッッ!!!!」
激痛、悶絶、暗転、動揺。俺はどうしていいかわからず、沙都子と同じように周りを彷徨い歩いた。
動きたかったわけじゃない。ただ、動いているしか無かった、という感じだった。
「圭ちゃん、そっちには沙都子が居るよ」
ポツリと呟いた魅音の呟きにも気付かず、俺はずっと真っ直ぐ歩き始めた。
そしてそのまま俺は、――――沙都子の元へと旅立った。

「はぁ……、はぁ……!」
古手梨花は、走っていた。魔の手から、逃げのびる為。
そして、ポケットに入っていた紙とペンで、文字を書きなぐっていた。
「……ふぅ、はぁっ……!」
書きなぐる動作と、走る動作を続ける梨花。しかし、身体はそう長く走ることはできなかった。
走るのを止め、到着を待つ。
予想通り、背後から魅音が現れた。
「お疲れさま、梨花ちゃん。もう、逃げられないよ」
魅音は口元を歪な形にして、ニタリと笑う。
「いいのよ、もう…………ふふ、残念ね。まさか、こんなくだらないことで殺されるなんて……」
「本当、残念だね。もっと面白い殺し方したかったのにな」
そう言って、祭具殿の隅に置いてあった金属バットを持ち出してくる魅音。
魅音はその金属バットに舌を這わして、恍惚な表情を浮かべていた。
「うっふふ……これで最後、これで終わるんだね、詩音……」
虚ろな瞳で金属バットを見つめる魅音を横目に、梨花ちゃんは至って冷静で、殺されることを覚悟しているようだった。
「皆と、仲良くしてね。梨花ちゃん」
そう言って、バットを振り上げる魅音。
「さようなら、『詩音』。
 次の世界では、仲良くしてね?」

ガヂュリ!!
古手梨花は、金属バットで眼球ごと、脳味噌を殴り潰された。
何度も、何度も殴り続けられ、もう、誰か分からないほどに、顔面を潰された。



[22384] 第二の惨劇-フタメケシ-<下>
Name: T-T◆62f6b930 ID:81960e6d
Date: 2010/11/15 00:31
「……ふぅ、……はぁ」
魅音は、疲れ果てた顔で、ある場所を目指す。
――――妹の「詩音」の居場所へと。

車椅子に乗り、目のあたりにグルグルと包帯を巻いた緑髪の女の子が居た。
「……終わったよ、全部」
「そう、ありがとう」
「……でも、どうして、こんなことをしたかったの……?
 『お姉』」
「――――憎いんだもん、目が見える皆が。
 悲しいんだもん……、皆と遊べないことが」
そういって、お姉と呼ばれた車椅子の女の子は、目の前の緑髪の女の子の頬をなでる。
「でも、……こんなひどいお願い聞いてくれてありがとう。
 『詩音』。詩音にしか、頼めないことだったから……」
「ううん、いいの、お姉の……頼みだったから。
 それに……死にたく、ないもん。
 私がこうすれば、助けてくれる、って、言ったよね、お姉?」
「助けないよ? あんたも目が見えてるんだから」
「……え?」
詩音は、その言葉を聞いて、驚愕した。
――私のお願いを聞いてくれるなら、詩音の命だけは、助けてあげてもいいよ――
そう言ったハズなのに、魅音はそう言ってくれたから、頑張って犯罪を犯したのに……。
そんな動揺する詩音に、魅音はポツリと呟いた。
「死なせはしないよ、そんな楽なこと、させないからね」
頬をなで続ける、魅音。そんな魅音の動作に、少なからず寒気を感じる詩音。
そして、「死の恐怖」と対面して、涙が溢れ出してきた。
「……お姉……! ……助けて、くれるって……ぅう……!
 言ったじゃない……!!」
そんな詩音の声を聞いて、魅音は口元を歪め、呟いた。
「うん、分かってるよ。詩音だけは助けてあげる」
「お姉……!」
詩音の頬をなでていた手を、だんだん上へともって行き、
ブチョリ。
鈍い音と共に詩音は、――――光を失った。
「ギィアアアアアァアァアァァァアア!!!!」
「あっははははは!!これで、これであたしと同じだよ、あは、ハハハハハ!!」

叫び声と、笑い声の交錯する地下祭具殿。
「痛い、痛い痛いお姉痛い痛いぃぃいいぃい!!」
「あっはははは!!滑稽だねぇ、実に笑えるよ!
 私達、来世もまた双子がいいねぇ、ははははは!!
 自分の手を汚さずに済むんだからねぇ!!」
「お姉、お姉、お姉ぇええぇええ!!」
詩音はそのまま周りをドタバタと走り回り続けた。
魅音は、そんな詩音の姿を想像しながら、腹を抱え笑っていた。
ガラガラガラガラッ!!
轟音が響き渡り、ドタバタと走り回る音が止んだ。
「詩音? ……どうしたの、詩音」
拷問具に手が絡まり、チェーンによって繋がれていた刃物が、詩音の首と胴体を真っ二つに割り切ってしまった。
「詩音、詩音? ……黙らないでよ、詩音。詩音、詩音ンンンンン!!」
恐怖と焦燥に駆られた魅音の叫び声が、地下祭具殿に響き渡る。
「ウワアアァアアアァアアァアアアッッッッ!!!!
 詩音詩音詩音ンンンンンン!!!!」
しかしそれは虚しい響きであり、魅音以外の人間は、誰も生存者は居なかった。

そして、生臭い血の匂いは、いつまでも祭具殿内部に彷徨っていた。

<◎> <◎>

昭和58年6月26日
20時42頃、雛見沢村・園崎家 地下祭具殿にて殺傷事件が発生。
容疑者は「園崎 詩音」。
被害者は五名。
「前原 圭一」「竜宮 礼奈」「園崎 詩音」「北条 沙都子」「古手 梨花」。
6月26日、23時21分頃、被害者「園崎 魅音」の両親より警察に「うちの娘がひどいことをしてしまった」との通報を受け、事件発覚。
被害者「前原 圭一」の両親より「園崎」宅へ「息子が行っていませんか?」と連絡を受け、園崎家内部を捜索。
地下祭具殿にて、被害者五名の遺体を発見、警察へ通報に至る。
事件現場に「園崎 魅音」が放心状態で居るのを発見する。容疑者は「園崎 魅音」と報告された。
しかしその後「園崎 魅音」は失明をしており、犯行を起こすことが不可能だと判断した警察は、調べ尽くした結果、「園崎 詩音」による犯行であることが判明した。
容疑者「園崎 詩音」は、四人を自宅へ招待。睡眠薬を含んだおはぎを食べさせ、眠らせた後、地下祭具殿へと移動させる。
その後、一人ずつ無残な方法で失明させ、殺害するに至ったと推測される。
「園崎 魅音」の供述より、
「詩音はそんなにひどい子じゃ無かったはず、どうしてこういうことをしてしまったのか一切不明。
 でも、私が失明した時、詩音はずっと付き添ってくれて、私のことを自分のことのように悲しみ、同じくらいに憎しみを感じていたことは知っている。
 私のためであれ、友人や妹を失って、とてつもなく虚しい気分です。
 こんなことなら、私も一緒に連れて行ってほしかった」
とのこと。
その供述により、事件は解決へと導かれることとなった。
そして被害者の一人、「古手 梨花」のスカートのポケットから、メモを発見した。
そのメモに書かれていた内容を読み、警察は更に混乱することとなり、捜査は再開され、今も事件解決には至っていない。
そのメモの内容は以下の通りである。
「これは、オヤシロさまの祟りなんかじゃない。そして、犯人は詩音じゃない。
 詩音は被害者。犯人は園崎魅音。目が見えないことを良い事に、全ての罪を詩音に浴びせようとしている。
 このメモは、極限状態に追い込まれた被害者の単なる妄言として処理をされてしまうかもしれないが、これは伝えておかなければいけない。
 私達は、「園崎 魅音」の命令を受けた「園崎 詩音」によって殺された、ということである。
 信じるは信じないかは貴方次第。しかし、この事件をそんなに安直に考えないでほしい。
 もっと考え抜いて、本当の犯人を、本当の犯行理由を、本当の事件を暴いてください。
 これだけが私の望みです。どうか、お願いします。
 あなたがた警察であれば、この事件を隈なく捜査し、本当の目的をあぶりだせるはずだから……。

                                古手 梨花」

このメモの供述より、「園崎 魅音」に取り調べを行うが、やはり失明して、周りの見えない人には犯行は不可能と判断された。

昭和58年7月10日。
この事件は、容疑者「園崎 詩音」による犯行として、捜査は終了、事件は永久凍結された。
被害者「古手 梨花」による遺書に関しては、「園崎 魅音」の精神状態も錯乱しており、真実か分からないとのこと。
捜査を錯乱するあってはならない文書として、抹消された。

<◎> <◎>

私は、もがいていた。私だけ生き残ったことに関して、苦しんでいた。
初めは、それで良かったのに。でも、皆が許してくれない。
「お姉、ひどいよ、お姉ぇえええ……!!」
「うるさいうるさい! 私だって目が見えないハンデを抱えて生きているんだ!!」
「私達、死ンジャッタンダヨ……? 魅ィチャン……」
「分かってるよ、じゃああたしも死ねばいいっての?! そんなのゴメンだね!!」
「自分勝手スギマスワヨ、魅音サン……最低デスワネ」
「魅音……来イヨ、俺達ハ、ズット待ッテルンダゼ……?」
「あぁ、あああぁあああ、もうやめてよ、皆、分かった、悪かった、ごめんなさい!」
「許サナイ……魅音……!!」
「ヒッ……!!」
私の見えない目に向って、二本の腕が伸びてきたような気がした。
そして、私の時間は凍る。

――――背後に、何か居る。
オヤシロさまやそんな類ではなく、「誰か」が居る気がした。
いつの間に、私の背後にピッタリとくっついて、息をしていたんだろう。
……もしかすると、私を迎えに来た、オヤシロさまなのかも知れない。
でも、私は悪いことは、間違ったことはしていないはず……!!

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
謝る。何度も謝る。私は「死の恐怖」と対面し、死ぬのが怖くなった。
皆も、こんな気持ちだったんだろうな、……と冷静に考える自分が居た。

「アアアアァアアアァアアァアアア」

そこからのことは、覚えていない。
しかし、私は目が見えないにも関わらず、自分で自らベッドを降り、窓を開け、そこから身を乗り出した。
そして――飛び降りたことは、覚えている。

頭に、鈍痛が響いた。
「グウゥッ……!!」
とてつもなく痛かった。耐え難い痛みだった。
それでも皆は許してくれない。
あぁ、分かったよ……皆のところに行く……。
待っててね、みんな……。

<◎> <◎>

昭和58年7月12日。
興宮総合病院・精神病棟内にて、投身自殺が発生。
亡くなったのは「園崎 魅音」。
投身自殺の数分前に、ナースコールにて、
「私の後ろに、何か居る。助けて、怖い、怖い、ごめんなさいごめんなさい」
と呟き、そのまま応答しなくなった。
不安に思った看護師が病室を訪ねたころには、病室の窓は開いており、自殺した後だったという。
「園崎 魅音」の病室より、遺書と見られる一枚の紙を見つけた。
この遺書の内容より、凍結された事件が再び動き出す……。
遺書の内容は、以下の通りである。
「わたしは、みんなのことをうらぎってしまった。
 とても、つみぶかいにんげんであるとおもいます。
 めがみえないことにいらつき、みんなにもあじわってほしかった。
 しおんごめんね、こんなことさせて。
 みんな、ごめんね。いたかったよね。わたし、こうかいしました。
 いままでのことが、すべてゆめだったらいいのにな、ってなんどもおもった。
 だから、かいてみた。ゆめになるとしんじて。
 わたしはみんなとなかよくしたかっただけだった。
 でも、もうそれもゆるされないことがわかって、くやしかった、くるしかった。
 みんなのこと、すきでした。ずっとずっとすきです。
 でももうみんなこないで、こわいこわいこわいこわい。
 なんでわたしばっかりせめるの? こわいこわいこわいこわい。
 たすけてもうやだだれかかわってほしい。みんなをころしちゃったごめんなさいごめんなさい。
 とてつもないくるしみがおそってきます。くるしいですこわいです。
 みんなこわい。だれかたすけて。うしろにいるのはだれなんですか?
 おしえてくださいおしえてください。
 みんな、ありがとうごめんねこわいですさようなら。
 またあえたら、こんどはなかよくしようね。
 なってないよね、ごめんなさい。しんで、つみをつぐないます。
 さようなら。わたしもいまからみんなとおなじところにいくからね。
 みんなでぶかつやってまっててね。すきでした。
                              
 め、つぶれた」

この遺書について、議論が発生。
「目が見えない「園崎 魅音」がどうしてこの文を綴ったのか分からない」という意見が多発し、筆跡鑑定を依頼。
しかし「確かに「園崎 魅音」自身が書いたものである」という鑑定結果が出てきて、更に議論は勢いを増すこととなる。
検死の際にも、「本当に目が見えていなかったのか」という謎が浮上してきたため、検査した。
が、「「園崎 魅音」は確かに失明しており、犯行、及び文字の読み書きは不可能である」との鑑定結果となった。
この事件に関しては未だに解決法が見つからず、今でも熱い議論が交わされているのであった……。



「ひぐらしのなく頃に 魂狂い編
-第二の惨劇- フタメケシ」






感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.047799825668335