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[22145] 東方流浪記
Name: 滝◆d3ddae10 ID:292920fb
Date: 2010/09/25 00:21
初めまして、滝といいます。
上海アリス幻樂団の同人ゲーム、東方Projecの二次小説『東方流浪記』を書いていきたいと思っています。
ジャンルはいわゆる幻想入りです。
この作品はとある招待制のSNS(mixiを含みます)で仲間内に公開した後、反響を踏まえ、推敲した上でここで紹介していくことにしています。
SNSで投稿した後は、他のSNS、ブログ、pixiv、SS投稿掲示板に順次載せていきます。
複数のサイトに投稿するのは、より多くの方のご意見、ご感想を聞いていきたいからです。
稚拙な文章ですが、お付き合いいただければ幸いです。



[22145] 第1話
Name: 滝◆d3ddae10 ID:292920fb
Date: 2010/09/25 08:40
 桜が散り去り若葉になっても、博麗神社での花見は続いていた。
しかし、永遠に続くかと思われるほど毎夜行われていた花見も、木々が青々と生い茂るようになると終わりを告げた。
 そんな中、博麗神社の巫女、博麗霊夢は花見の後かたづけをのんびりとしていた。
あまりにものんびりと後かたづけをしていたため、賽銭箱の中の桜の花びらを掃除する頃には、気の早い蝉が鳴き出していた。

「なあ、霊夢、賽銭箱って花びらを入れるものだっけか?」

「何を言っているの? 魔理沙。お賽銭を入れるところに決まっているじゃない。最近の暑さで頭でもやられたの?」

 霊夢はその手を休めることなく、掃除を続けながら答えた。

「だが、どう見てもその賽銭箱には花びらしか入っていないぞ。いや、それはもう花びらといえるものじゃないがな」

「五月蠅いわね。大体、あなた達いつも宴会に来ておいて一度でも後かたづけした?

毎年、毎年、参加する人が増えて、散らかる一方なんだから。あれを掃除する身にもなってよね。

そもそも魔理沙、あなたいつもやってきて見ているだけだけじゃない。
たまには手伝ってくれても罰は当たらないわよ」

「はは、でも、普段霊夢はいつも暇にしているじゃないか。これくらい掃除するがちょうどいいぜ」

 からからに乾いた花びらをしゃがんで掃除する霊夢の傍らで魔理沙はのんびりと空を眺めていた。



 ぼんやりと空を見ていた魔理沙は、視界の下から何か動くものが上がってくるのに気づいた。

「おい、霊夢。お客さんのようだぞ。珍しいな」

「はぁ?」

 つい、こないだまで(といっても既に一月以上はたっているが)宴会ずくめで来訪者が絶えなかった博麗神社である。
来訪者なんてそれほど珍しくもないと思いながら霊夢は首を空に向けた。

「違う、空からじゃない。階段から人間のお客さんだ」

 魔理沙の言葉に驚きと戸惑いを感じながら、霊夢は階段の方に目をやる。
 本来、妖怪が近寄れないはずの博麗神社だが、霊夢の人徳?のおかげか、里では妖怪神社とまで呼ばれており、人間の参拝者はほとんどやってこない。
そのため、もっぱら神社にやってくるのは妖怪や魔理沙のように空を飛んでこられる者たちだ。
人間が、しかも徒歩でやってくるなんて今の博麗神社にとって、極めて珍しいことである。
 見ると、ちょうど男性が階段を登り終え、辺りを見回しているところだった。
朝日の下、やや逆光にはなっているが、たしかに人間のように見える。
 一瞬、霖之助かと思ったが違った。
たしかに、髪型や色は似ているが、メガネはかけておらず、また霖之助のように細身ではなく、洋服に身を包み寝袋を肩から背負っていた。
年は20代後半といったところか。
 男は周囲を軽く見回すとゆっくりと社殿の方へ近寄ってきて、賽銭箱の横に座る巫女装束姿の少女に話しかけた。

「君はこの神社の巫女さんかい?」

「え、ええ、そうですが…あなたは?里では見かけたことなけど……」

 幻想郷の人間の里はお世辞にも外の世界と比べると大きいとはいえない。
普段あまり里に行くことのない霊夢でも大体の顔は見知っている人達ばかりだったが、彼を見かけた記憶はなかった。
思い当たる節がない来訪者の質問に対し霊夢は質問で応えた。

「ああ、私は旅のものです。まあ、これといって特に目的があるわけではなく、自由気ままに、その日の気分で行くところを決めて歩いて旅をしているんです」

「ああ、風の吹くまま気の向くままっていう旅ね。
いいわね。しかし、歩いてここまで来たの?この辺の道は獣道で、妖怪に合う危険も高いのに…」

「まあ、下手な道よりはここの方が妖怪に合いそうだけどな」

「五月蠅いわね」

「妖怪? そんなものがこの辺では出るのかい?」

「え!?」「え!?」

 幻想郷では妖怪は珍しいものではない。
昨今では人間の里でも妖怪を相手にした店ができているくらいだ。
ましてや巷で妖怪神社と呼ばれているところだ。
その神社にやってくる人間から妖怪が出るのかい?などという言葉を聞くとは2人とも微塵にも思っていなかった。

「…里では結構有名だぜ、ここの妖怪神社の話は。それに、この辺はもう幻想郷の外れの方だからな」

「へぇ、ここは幻想郷というところなんだ。
なんだかとっても幸せそうな名前だね。桃源郷と音が似ているからかな?」

「!?」「!?」

 2人が驚いているのをよそに、旅人はゆっくりと辺りを見回す。

「も、もしかして、外の人!?」

「あんた運がいいな! 妖怪に出くわす前にここに来るなんて。
下手したら今頃は妖怪の腹ん中だぜ」

「魔理沙、そんなこというと変に怖がらせちゃうでしょ。せっかく無事にここまで来られたんだから。
あ、心配しないで。いきなり人を食べる妖怪なんてほとんどいないし、このまま鳥居をくぐって帰れば会うこともないから。安心して」

「ん? どうしてこのまま帰れば妖怪に会わないんだい?この辺には妖怪がいるんだろ?」

「それはね、ちょうどここ、博麗神社が幻想郷の結界の境なの。
だから、妖怪がでるのもここまで。
鳥居より先からは外の世界、つまりあなた方が普段過ごしていた世界なの。
そこでは妖怪はでないと思うわ。たぶん。行くことができないから確かなことはいえないけど……」

「結界? 幻想郷というのは何か特別なところなのかい?」

「え、あーはい、簡単に言えば幻想郷は妖怪と人間が住む世界ね。
もともと妖怪が多く住む地域だったらしいけど、人間が増えてきたので妖怪が結界を貼って外の世界と行き来ができないようにしたらしいわ、大昔に。
今ではあなたのようにたまたま事故でこっちの世界に入り込んでしまうこと以外は幻想郷の中に入ることも出ることもできなわ」

「うーん、それって、入ることも出ることもできないなら、偶然入ってしまった私のような人間はもとの世界に戻れないんじゃないの?」

「いや、完全に行き来ができないわけではなくって・・・えーと、そちらの世界で勢力が弱まった妖怪や忘れ去られたものはこっちに流れ着くことができるの。
だから逆に言えば、あー、何て行ったらいいの魔理沙?」

「知るかよ、そんなこと。結界を管理しているのは霊夢だろ」

「私だって詳しくは知らないわよ。
私が管理しているのは博麗大結界の方で、この問題は紫が管理している方の結界なんだから」

「じゃ、本人に聞いてみな。いつ来るか分からないがな」

「あー使えないわね、つまりね……」

 今までもたまに幻想郷に紛れ込む人間はいたが、ここまで結界について深く聞いてくる者はいなかった。
たいていの人間は一通り説明を受けるとそのまま鳥居をくぐって帰っていったし、
ごく希にそのまま幻想郷にとどまる者もいたが、彼らもここまで結界について言及してくることはなかったのである。
そのため、今まで当たり前のように思っていた結界について、改めて矛盾点を指摘されて、霊夢は困惑していた。

「要するに、偶然幻想郷にやってきてしまった人間は、本来幻想郷にいる存在ではない異質なものだから、結界の外に出られると言うことなのかな?」

「たぶんそんな感じだったかな」

 詳しいことが分からず答えに窮していた霊夢は相手が考えた説を適当に肯定することで答えをはぐらかした。

「ふむ、なるほどね。そう考えると私がこの世界に入り込んだのは当然のことかもしれないな」

「ん? それはどういうことだい?まさか、向こうの世界の知人が皆死んでしまって知っている人がいないとか?」

「あれ? どうして分かったんだい?
そうだよ。たぶんもう誰も私を知っている人間なんて生きてはいないだろうな」

「おいおい、マジかよ。冗談のつもりだったのに」

 縁起でもない冗談が当たってしまったにもかかわらず、とくに悪びれる様子もなく魔理沙は返した。

「あ、そんなに気にする必要はないよ。旅に出たのがだいぶ昔だからね。もうみんな天寿を全うしているはずだよ」

「は?旅人さん、あなたいったいいくつなの?
見たところ私たちより上みたいだけど、そんなんな知人が全員死んでいるような年には見えないわよ」

 霊夢は目を細めながら旅人に対して疑念のまなざしを向けた。

「いくつだったかな? 旅をするようになってから年なんて数えていなかったからな。
でも少なくとも100年はたっていると思うよ。旅に出たのが30手前だったから……」

「はぁ!? 100歳以上だって!?
おい、霊夢、外の人間ってこんなに若く見えて100年以上生きるもんなのか?」

「知らないわよ。私外の世界なんていったこと無いんだから。
紫にでも聞きなさいよ」

「あ、いや、でも考えてみればかなり長生きしているな。
年の衰えも感じないし。なんでだろうね。ははは」

 驚いている2人をよそに旅人は軽快に笑い飛ばしていた。

「あんた、天人か仙人なんじゃないのか?でなければ、獣人と魔法使いとか」

「そうね。ねえ、旅人さん今までにあなたに会いに死神がやってきたことあります?」

「死神?あの大きな鎌を持った奴?いいや、ないね。
小食だけど天人とか仙人とかでもないし、魔法とかそういった特別な力なんて使えないよ」

「そう、まあ死神が来ていないならまだ寿命があるんでしょ。
気にしてもしょうがないわ。
遠い先祖に妖怪の血が入っているのかもしれないしね」

 霊夢は深く追求するとめんどくさくなりそうだと思い、簡単に切り上げた。
もし仮に、何か問題があれば四季映姫がやってくるだろうとも考えていた。

「あー、ところで、ここの神社、博麗神社だっけ?なんの神様を祀っているんだい?聞いたことない名前だけど」

「え、え、祀っている神様!? えーと……」

「魅魔様じゃないのか?」

「あんな悪霊、間違っても私の神社の神様じゃないわ!」

「はは、その魅魔っていうのはよく分からないけど、悪霊だって祀られれば神様になるんだぞ」

「いいえ! だから私は祀っていないってば!そんなことより旅人さん、あなたこれからどうするの?
外の世界に帰るの? それとも幻想郷に留まる?」

 魅魔とは、かつてこの神社に取り憑き、霊夢をさんざんからかった悪霊である。
魔理沙だけでなく見知らぬ旅人にまでからかわれるのはたまったものじゃない上に、
質問の答えもまた満足に答えられそうにない霊夢は旅人の今後の身体について話題を出すことで話をそらすことにした。

「そうだな。今までいろんなところを旅してきたけど、この幻想郷というところはまたひと味違っていて面白そうだね。
普段は入れないところのようだし、しばらく留まっていくことにするよ」

「言っておくけど、後からでようと思ってもでられないかもしれないわよ。それでもいいの?」

「それならそれでいいさ。そうなったらそうなったらで一興だよ」

「そう、じゃ里に連れて行くわね。魔理沙は…」

「いや、いいよ。そんなことは」

 魔理沙はどうする?と霊夢がいおうとしたところを旅人はさえぎった。
出かける仕度をしようとしていた霊夢は驚きと呆れた気持ちになった。

「あのね、さっきも言ったけど、この辺は獣道で見通しも悪いし、妖怪もでるのよ。
あなた、里に着く前に食べられるわよ。それに、里に着いてからどうするのよ?
住む場所のあてとかないでしょ? 1人でいってどうするのよ?」

「妖怪に出くわしたらその時はどうにかするさ。
住む場所にしたってしばらくはその辺で野宿すればいいしね」

「野宿って…、食事はどうするの?まだ木々には何も実っていないわよ」

「森に来れば一年中キノコは食べられるけどな」

 妖怪でさえ敬遠する森に、しかも食べたらどうなるか分からないキノコを勧める魔理沙である。

「別に食べなくてもいいよ。今までも毎日食事していたわけじゃないからね。霞でも食べて過ごすよ」

「本当に仙人なんじゃないのか?」
 旅人の冗談に対し魔理沙が冗談で返す。

「ああ、そう。そこまでいうなら止めないわ。あ、ちょっと待ってて」
 霊夢はそういうと社殿の中に入り、1枚の紙を持って出てきた。

「はい、これ。幻想郷の地図よ。たまにいるあなたのように留まりたいって人に渡しているの。
本当は危険なところに近寄らないように渡しているんだけど、野宿するならなおさら必要でしょ」

「ありがとう。これは助かるよ」

 地図を受け取ると旅人はそれを見ながら今の位置を確認した。

「たしか階段から下りると外に出てしまうんだよね? ここは幻想郷の東端か。
それならそこの林から降りていっていいかい?」

 旅人は左手の方、つまり神社の南側の雑木林を見ながらいった。

「ええ、いいわよ。でもそんなところから下りていくの?」

「ああ、幻想郷からでたくないからね。じゃ世話になったね」

 お礼を言うと旅人は地図を寝袋の中に入れ、雑木林の中に入っていった。



 旅人を見送った霊夢は再び賽銭箱の掃除をしていた。

「はぁ、また変なのがやってきたわね。
しかし、最近外からやってくる人が多いわね。
いったい何を考えているのかしら紫は」

「でも、今回の奴はなんか面白そうじゃないか。いっていることが本当なら」

「あんなの嘘に決まっているでしょ。
仙人でもないのに100年以上生きてあの若さは保てないわ。
もしそんなことができるなら縛り上げてでもその秘訣を聞き出すわ」

 少々物騒なことをいっているが、目は本気である。

「しかし、本当に良かったのか?好きに行かせて。
今頃ルーミア辺りにでも食われているかもしれないぜ」

「なら、あなたが後ろからついていって見守っていればいいでしょ。面白うそうだと思うんなら」

「私はそんなに暇人じゃないぞ」

 ぼんやり空を眺めている人がいっても全く説得力がない台詞だ。

「それに、そろそろお茶の時間だしな」

「もう、毎日のようにただで飲食していって。お金取るわよ!」
 そういいながら賽銭箱の掃除を終えた霊夢は後かたづけをはじめた。

「さ、お茶を入れるから座敷にいってて」

「お、そうこなくっちゃ」
 話を終えた2人少女は仲良く一緒に社殿の奥の居住区に入っていった。

 初夏。梅雨前の過ごしやすい空気が幻想郷を包み込んでいた。





                              第2話へ続く



[22145] 第2話
Name: 滝◆d3ddae10 ID:292920fb
Date: 2010/09/25 08:50
 天狗や河童がすんでいる妖怪の山とは反対側の幻想郷の奥地に太陽の畑がある。
若干南向きのすり鉢状になっている草原のため、遠くからは見えにくいが、夏になると大量の向日葵によって目が眩むほど黄色い。
夏の昼間は妖精達が日向ぼっこをし、夜には陽気な妖怪達のコンサート会場と化す。
 初夏のこの時期、普通なら向日葵はまだ芽吹いてさほどたっていない程度なのだが、
ここ太陽の丘の向日葵は既に人の大人の胸元辺りにまで生長していて、辺り一面緑色となっていた。



 博麗神社を後にした旅人は真っ直ぐ南に進み、この太陽の畑にやってきていた。
人里から遠く離れた土地を歩いてきたわけだが、幸運にも妖怪達には会うことなくたどり着いた。

「これは…、向日葵?」

 この季節にしては異常に生長している向日葵たちを前にして、旅人は自信なさげに独り言を呟いた。

「しかし、まだ初夏だというのにこれほどまでに生長するものだろうか…」

 眼下に広がるある種異常ともいえる向日葵畑の光景を前にしながらも、その正誤を確かめるべく畑へと下りていった。
 畑へと下りてみると、確かにそれらは向日葵であった。
しかし、花が咲く頃には2mにも達する向日葵であるが、その時期にはまだ2ヶ月もある。
外の世界ではまだ芽が出たばかりの畑もあるだろう。ここまで早く成長するのは幻想郷だからなのだろうか?
それとも、ただ単に自分が知らないこういう品種なのだろうか?
 そんなことを考えながら、1つ1つの向日葵を慎重にじっくりと観察しながら畑の奥へと旅人は進んでいった。

「あら、珍しいわね。こんな時期にお客さんなんて」

 向日葵に集中していた旅人に対して、いきなり後ろから女性の声がかけられた。

「この子達が咲けば見に来る者もいるんだけど…、あら? しかも、もしかしてあなた人間?
ますます珍しいわ。里からも離れているし妖精や妖怪に怖がって遠巻きに見るだけで、なかなかここまで下りてくる人間は少ないのに」

 声をかけてきた女性は両手で日傘を持ったまま、言葉とは裏腹に笑顔のまま話しかけてきた。

「ああ、そうなんですか。私はあてもなく旅をしている者で…、ここ幻想郷には今朝やってきたばかりで、まだよく分かっていないんですよ」

 突然のことで、しかもそれなりに妖しげな女性を前にしても、旅人はなんでもないかのように平然としていた。

「あら、これはますます驚いたわ。まさか外来人だったなんて」

 さすがの彼女もこのことには驚いたのか、思わず傘を持っていた片方の手を離し、口元を隠しつつ驚きの表情をしている。

「でも、ここを幻想郷だと理解しているということは、もう既にここに来るまでに誰かと会ってきたということね」

「ええ、そうです。最初にたどり着いたのが博麗神社というところで、そこの巫女さんと…魔法使いのような格好をした少女にここのことを教えてもらったんです」

「ああ、そう。博麗神社で。なら、あの2人ね。あ、申し遅れましたわ。私の名前は風見幽香。宜しく」

 再び笑顔に戻り、両手で日傘を持った幽香は続けて次のようにいった。

「でも、あそこならすぐに外の世界に戻れたでしょうに。何故わざわざこんなところに? 外の世界には戻る気はないの?」

「ええ、先ほどもいったとおり、私はあてもない旅をしているだけでしてね、どこかに行きたいとかそういったのはないんですよ。
そこで、せっかく迷い込んだこの世界を見て回ろうかと。
出られなくなったらなったで、その時考えればいいやという感じで」

「まあ、あてもない旅を。ということはここへ来たのも偶然ということね。
でも、なんでわざわざしたまで下りてきたのかしら? 妖精達にも悪戯されているというのに」

 幽香にいわれて旅人は初めて自分が妖精達に悪戯されていたことに気づく。
向日葵に注目するあまり周囲のことには全く気にもとめていなかったのだ。
もっとも、悪戯といっても所詮は妖精のすること、たわいないものばかりで被害といえそうなものはなかった。
 旅人は蠅を追い払うかのごとく妖精を蹴散らすと、幽香の質問に答えた。

「いや、上から見て、これは向日葵畑じゃないかと思ったんですが、それにしてはこの時期にこの背丈というのは成長が早すぎるように感じたんですよ。だから、本当に向日葵なのか?
向日葵ならどうしてこんなに生長しているのか疑問に思ってね。ちょっと調べてみようかと。そしたらあなたが話しかけてきたという具合です。
あーそういえば、さっきのがこの辺の妖精なんですね。幻想郷に来て初めて見ましたよ。熱中するとあんまり周りを気にしなくなるのでね」

 見方によっては欠点ともいえる性格だが、本人は全く気にせずにいるようだ。

「ああ、ここの向日葵ね。ここは太陽の畑といわれていて、その名の通り夏になるとこの向日葵が一面に咲き乱れて黄色くなるの。
それを目当てに妖怪や妖精達もやってくるのよ」

「太陽の畑…、あ、ここか、なるほどね」

 旅人は霊夢から渡された地図を見ていた。幽香がその地図を見せてもらう。

「ああ、巫女が外来人に対して渡している地図ね。でも、ここの注意書きに書いているとおり、ここは危険な場所なのよ。
さっきも言ったけど、夏になるととても素敵なところだけど、反面今以上に妖怪や妖精も多くなるの。
だから里の人達も来たとしても遠巻きに見ていくだけ。滅多なことがない限り下まで下りてくることはないわ」

「へー、そんなに危険なところなんですか」

 幽香の話の内容とは裏腹に、何とも緊張感のない感想である。

「ええ、そうよ。特に、ここには花を操る能力を持った妖怪がいるの。
ここにある向日葵はおそらくあなたが外で見かけていた向日葵と同じものよ。
また、幻想郷だからといって向日葵が特別早く成長するわけでもないわ。
ここの向日葵の成長が早いのは全てその妖怪のせいなの」

「花を操る妖怪なんてロマンチックな妖怪もいるもんですね」

「いえ、花を操るのはその妖怪のおまけの能力みたいなものよ。
ここ幻想郷に古くからすんでいて、実力もかなりのものよ。
まあ、その分普通の人間には興味ないみたいね。
それなりの実力を持った妖怪か特殊な能力を持った人間しか相手にしないわ」

「なら、私はもしその妖怪と会ったとしても安全ですね」

「ええ、あなたがただの人間ならね」

「それだとまるで私が変わった人間のように聞こえますよ」

 お互い満面の笑みを浮かべて話をしていた。
端から見たらとても仲良くしているように見えただろう。
しかし、それはごく表面上のものであった。

「おや、あれはなんでしょう?」

 旅人が幽香と話をしながら周囲を見回していたら、畑の中でなにやら異質なものを見つけたのだ。幽香は旅人が指さした方向を見る。
 そこには黒い球体の塊がゆったりと風邪に揺られながら畑の上を泳いでいた。
 幽香はそれが何か分かったのが瞬間的に険しい表情をしたが、
おそらく凡人には単に光の具合で見間違えたと感じるか、そもそも気づかないくらいだろう。
それだけ一瞬だった。

「なんでしょうね、あれは? よく分からないわ。試しに何かぶつけてみたらどう?」

 幽香は先ほどと全く変わらない微笑みで旅人に提案した。
旅人は幽香に対して疑いをかけるように目を細めて見つめたが、それも刹那の間だった。

「そうですね。では、石でも投げてみましょうか」

 こちらもまた今までと同じ笑顔で返すと、足下にあった石をいくつか拾いその黒い塊に向かって1つずつ投げつけてみた。
 一投目と二投目は何にもぶつかることなく黒い塊の中を素通りし、旅人は三投目を投げた。
すると、今度は中で何かにぶつかったらしく、投げ入れた軌道からはずれたところから石が飛び出てきた。
もう一度同じところへ石を投げ入れると、今度は「痛!」と言う声と共に、先ほどと同じように軌道を変えて石が飛び出してきた。
 黒い塊はまるで何かを探すかのように周囲を回り始めた。そこへ五投目の石が投げ込まれる。
今度もまた叫び声がすると共に石が違った方向へ飛び出てきた。
黒い塊は動き回るのを止め、何かを考えているかのように見えた。
さらに旅人は石を投げつける。
今回は叫び声はなかったが、石は変わらず別のところから出てくる。
 次の石が黒い塊の中に入ろうとしたその瞬間、黒い塊は姿を消し、その中心から少女が現れた。

「痛いな! 誰よ! さっきからものを投げ込んでくるのは!」

「あれは…、妖怪?」

「そうね、闇を操る程度といったところかしら」

「ほほう、あれが幻想郷にいる妖怪ですか。可愛らしいですね」

「でも、ああ見えて人食なのよ。大丈夫かしら?」

「まあ、何とかなるでしょう」

「あんた達か! さっきから私にものを投げつけていたのは!」

 ものを投げつけられて頭にきている妖怪少女をよそに、2人はのんきな会話をしていた。
そんな太平楽を並べられたら黙っていない被害者はいないだろう。

「いや、君に投げていたわけじゃない。黒い塊に対して投げていたんだ」

「あの闇は私が作っていたんだ! 闇に投げるということは、私に対して投げていると同じことだ!」

「そーなのかー」

「おい! それは私の台詞だ! 取るんじゃない!
それに、阿求の本にだって闇の中に私がいることは書いているじゃないか! 知らないとはいわせないよ!」

「阿求?」

「里に住んでいる稗田家の当主、稗田阿求のことよ。
幻想郷縁起という本を編纂していて、その中に妖怪のことも書かれているわ。
今度里に行ったら見せてもらえばいいわ」

「ふむ、里には急いでいこうとは思っていなかったけど、それは興味が引かれるな。
次はとりあえず里に行ってみようかな」

「里に行かずにどこで…」

「コラー! 私の邪魔をしておいて、無視するんじゃない!」

 幽香が「どこで寝るつもりでいたの?」と聞こうとしていたのを、妖怪少女は遮って怒鳴りつけた。
彼女の心境はもっともなことだが、幽香は言葉を遮られたことを気に障ったのか、彼女の方を睨みつけた。
 睨みつけられた妖怪少女は、その時初めて人間の側に幽香がいることに気づいた。
そして、改めて自分の状況を判断するために辺りを見回し、自分が太陽の畑の中に迷い込んでいることを知る。
 自分の置かれている立場を理解した妖怪少女は、

「おい! そこの人間! さっきから投げつけてきたのはおまえでいいんだよな!」

「ああ、そうだけど?」

「分かった、今度会ったときは覚えていろよ!」

と、捨てゼリフを吐いて畑から去っていった。



「幽香さん、あの妖怪の名前は何ていうんですか? ご存じですよね?」

 旅人は笑顔で尋ねる。

「彼女はルーミアよ。あの様に闇を操ってふわふわ浮かんでいるだけの存在よ」

 知らないふりをした先ほどとは変わって、今度はきちんと答えた。

「ところで、さっきルーミアに向かって石を投げていたけど、弾幕やスペルカードルールについて巫女から聞いてないの?」

「弾幕? スペルカードルール? いや、聞いてないな」

「ふう、あの巫女にも困ったものね。……弾幕やスペルカードルールというのは一種の決闘方法よ。
強い妖怪に対して、人間でも勝てるように考案されたものなの。里に行くならそこで聞いてみればいいわ。
寺子屋の主人なら使えたはずだから」

「そうですか、そういうものがあったんですか。教えていただきありがとうございます」

 旅人は軽く会釈をすると、そのまま、

「では里へ行くとなるとそろそろ行かないと。お世話になりました。また、今度」

といって、その場を後にしようとした。

「ええ、また今度。その時は是非スペルカードをもっていらっしゃってね」

 幽香もまた軽く微笑んで見送った。



 太陽の畑を後にした旅人は里があると思われる方向へ足を進めていた。
窪地になっている太陽の畑は既にもう直接見ることはできない距離までやってきていた。
 旅人は少々考え事をして歩いていたが、そこに後ろから声がした。

「おまえは食べてもいい人間? いい人間だよね」

 その声が終わるか終わらないかの間に、旅人は闇に包まれてしまった。



 幽香は畑の様子を見て回っていた。

「全く、ルーミアったら勝手に私の畑に入ってきて…、この子達に十分日が当たらなかったらどうしてくれるのかしら」

 そう、先ほど幽香が旅人に対して語っていたこの畑で花を操っていたのは風見幽香本人である。

「でも、誰彼構わず虐めるなというのは本当ね。
もし、最初彼を襲っていたらどうなっていたことやら……。
まあ、負けることはないでしょうけど…」

 幽香は一度ゆっくりと畑を見回して、

「ここの畑は壊滅的だったでしょうね」

と、満面の笑みを浮かべながら、旅人がスペルカードを持つ日を楽しみにしていた。



 ルーミアは闇を操ることができるが、闇の中で見えているわけではない。
そのため、旅人を闇で覆い隠すと同時にルーミア自身も旅人がどこにいるのか見ることはできなくなっていた。
 それでも、ルーミアは旅人がどこにいたかきちんと覚えた上で闇を覆っていた。
普通の人間は闇で覆い隠されると身動きができず、その場で固まってしまうことを知っているのだ。
ルーミアは旅人が闇の中に入ると同時に噛みついた。
 しかし、ルーミアの歯は空を切ったままで、旅人に噛みつくことはできなかった。
手探りで周囲を探すものも、それらしきものには当たらない。
 原因は分からないが少なくとも目標を見失ったのは確実だと悟ったルーミアは、再び旅人を捜し出すために闇を薄くしたときだった。

「やれやれ、闇を操るくせに相手の姿も見ることができないのか。せめて動くものを気配で探れないかね」

と、呆れた声がルーミアの耳に聞こえてきた。同時に彼女は首筋に激しい痛みを覚え、そのまま気を失ってしまった。

「まあ、君みたいなのが、幽香さんと同じくらい強い妖怪だったら、それはそれで骨が折れるけどな」

 旅人が発した言葉は、気を失っている彼女には聞こえていなかった。



 ルーミアが気を失うと共に周囲の闇は消えてしまい、旅人は気を失った彼女を抱きかかえ、木の陰に連れて行き寝かせていた。
 その光景を一部始終空から眺めている者がいた。

「あれが泥棒(魔理沙)がいっていた外の人ですね。ここに留まろうとした理由などを聞いてみたいと思っていましたが…、まさか手刀一発でルーミアを倒すとは。
ルーミアは妖怪の中で弱い部類で威厳もないですが、仮にも妖怪、普通の人間が太刀打ちできるような相手ではないですからね。
これは、思わぬスクープになるかもしれませんよ!」





第3話へ続く



[22145] 第3話
Name: 滝◆d3ddae10 ID:292920fb
Date: 2010/10/11 12:07
 空高く、太陽を背にして、地上を見下ろしているものがいた。
 地上からは太陽がまぶしく、彼女を見ることは出来ないが、逆に彼女からは地上を含め、辺り一面を一望できていた。
旅人は少し傾き始めた太陽の日に当たらないよう、気絶しているルーミアを近くの木陰に寝かせていた。
 魔理沙から旅人の話を聞き、いいネタになりそうだと思い、妖怪に食べられてしまう前に取材しておこうと急いで探していた彼女だったが、
ルーミアを一撃で撃沈させたのを見て、ただの人間ではないと感じ取っていた。
太陽の畑にほど近いこの地は、人気も少ないため人を襲う妖怪もまた少ない。
しかし、これはすぐに取材をするよりも、このまましばらくの間観察を続けた方が、もっと大きなネタになるかもしれないと考え始めていた彼女だった。
 そんなことを思案していた彼女に、

「そんな所にいないで下に降りてきたらどうだい?」

と、木陰から出てきた旅人は空に向かって声をかけてきた。
 しかし最初、彼女は旅人が自分に向かって話しかけてきたとは思わず、近くに誰かいるのかと周囲をキョロキョロと見回していた。

「そっちじゃないよ、下だよ下!さっきから見ていただろ?」

そういわれて初めて先ほどの声の主が旅人だと彼女は気づいた。
 だが、それは彼女にとってにわかには信じられない話であった。
なぜなら彼女は今遙か空高く、地上の人の目からは点ほどにしか見えない位置にいるのだ。
しかも、太陽を背にし、地上からは逆行になって、その僅かな点さえも見えるはずがないのだ。
 さらに、彼女を困惑させていたのが、その声そのものである。
 万が一、地上から自分の姿が見えたとしても、普通に声が届くはずがない。
彼女は今、地上から数百mもの上空にいるのだ。
しかも、穏やかな天気とはいえ気流の流れによる風もあり、そうそうはっきりと声を聞き取れる環境ではないのだ。
それが、地上で、ほんの5m先にいる人間に声をかけたがごとくしっかりと聞き取れたのだ。
 彼女は今一度、旅人以外が声をかけてきた可能性を洗い出そうとしていた。
 しかし、その行為を嘲笑うかのように、旅人はこちらを向きながら手招きをしている。
もはや、先ほどの声は旅人が彼女のことを呼んだものに間違いないようだ。
 彼女は動揺を押させつつ、ゆっくりと地上へと降りていった。



 旅人はルーミアを寝かせた木の傍らに立ち、自分を見張る上空のの観察者が降りてくるのを見つめていた。

「盗み見するとは失礼な妖怪もいるんだな、ここには。ん!?盗み見だけでなく隠し撮りもするつもりだったのか」

 旅人は笑みを浮かべながらも、彼女が肩から提げていたカメラを見つめながらしゃべりかけてきた。

「ええ、取材中ですので。あ、申し遅れました。私は烏天狗で文々。
新聞を発行している射命丸文といいます。
仰るとおり、取材のため盗み見はしていましたが真実を伝えるためです、致し方ありません。
でも、何でまだ写真を撮っていないって分かったんですか?」

「そのレンズではあの高さからから私を撮っても、あまり大きく写らないだろ?
個人で楽しむならまだしも、新聞にするならなおさら撮影は無理だよ。
それよりも、ここの記者は盗み見するのが当たり前なのかな?」

「はい、それが真実を伝えるためであるならば、私は盗み撮りだろうが何だろうが何でもやりますよ」

 何とも呆れた話である。
普通ならばこのような人権無視などともとれることを言われた日には、外の世界の住人ならば怒りを通り越して呆れてしまう者もいるだろう。
だが、旅人はそんなことなど気にした風でもなく、

「やれやれ、ここの天狗もあいかわらず狡猾そうだな」

などと普通に会話を続けた。

「ん?それはどういう意味ですか?」

「いや、以前にあった天狗もそうだったからね」

「え!?もうすでに私以外に天狗にで会っていたんですか?」

 幻想郷最速を自負する文は、旅人にで会った天狗は自分が最初だと思っていた。
元々の速さに加え、最初に遭遇した者からの情報を比較的早い段階で得たのだ。
おまけに、閉鎖的な天狗社会の中で魔理沙が顔を知っている天狗も少ない。
つまり、彼女以外の天狗が旅人を取材にくること自体可能性が極めて低いのである。
 旅人に最初に接触したかどうか心配するのには訳がある。
他の天狗と違い正確な記事を心がけている文だが、一方で他の天狗たちとも部数争いをしている。
普段平凡な幻想郷において、こんな面白そうなネタを先に取られてしまったら、彼女にとって一大事である。

「う~ん、幻想郷で見かけた天狗は君が初めてかな?」

「幻想郷では? ということは前にあったというのは外の世界の天狗なんですか?」

「ん?ああ、だいぶ前にね」

「本当ですか!? いつ、どこの天狗にあったんですか?」

 最初、大事なネタを先超されたのでは?と心の中で冷や汗をかいていていた文だが、思ってもいなかった外の天狗の話を聞き、驚きと懐かしさを感じていた。
しかし、同時に外の天狗との交流が断たれた今、その外の天狗情報は、天狗仲間にかなりの需要がある。
それを記事に出来たならば、文々。新聞が今年の新聞大会で勝つことも可能になると、ほくそ笑んでいた。
だが、

「そんなことよりも、私が君の視線に気づいたのは、ルーミアに襲われる少し前からだけど、なぜ、私のことを取材しようと思ったんだい? 
ルーミアを倒した後ならともかく、その前は単に人間が歩いているだけだろ?
人気がなく妖怪にもで会うかどうか分からないのに取材する価値があるとは思えないんだけど……」

 旅人は文の質問には答えずに、逆に質問で返してきた。
いろんな面で楽しみにしていた返答が、予想に反して自分に対する質問だったので、文はその反応に一瞬遅れた。

「え!?あ、はい。泥棒……って言っても分かりませんよね、来たばっかりでは。
あなたが神社でお会いした魔理沙に聞いたんですよ。
外の世界からやってきて、わざわざここに留まったと聞いたので、その理由などをお聞きしようかと思ったんです。
なにやら面白い話も聞けるんじゃないかと言ってましたし」

「魔理沙? 神社であったというと……、たしかあの魔法使いの姿をした子がそんな名前で呼ばれていたかな?」

 旅人は神社であった2人からきちんと自己紹介されていなかったことに今頃気がついた。
もっとも、旅人本人は幻想郷に入ってからまだ誰にも自分の名前すらいっていないのだが。

「あれ? 名前聞いていなかったんですか?
白黒の縁起でもない格好をしているのが魔法の森に住む人間の魔法使い、霧雨魔理沙。
紅白のめでたい格好をしていたのが博麗神社の巫女、博麗霊夢。
幻想郷の中ではそれぞれ泥棒と巫女でたいてい通じますよ。
しかし、何となく聞いていただけでよく魔理沙の方だと分かりましたね」

「まあ、あの2人の中で泥棒という言葉が似合いそうなのは魔理沙さんの方だからね」

 魔理沙「さん」と丁寧な表現でいっているが、その内容は当事者にとって非常に失礼な内容である。
実態はその通りなので仕方がないが。

「でも、泥棒と呼ばれるほど名前が周囲に浸透しているのに、何で捕まらずに平然と暮らしているんだい?」

「本人曰く盗んでいるのではなく、死ぬまで借りているだけだと稚拙ないいわけをしています。
実際、彼女は人間なので我々妖怪や魔法使いと比べれば短命なので、少し待てば物は戻ってくるでしょうが……。
あの泥棒はおそらく長生きしますね、そんな性格しています。
それに、盗まれた側もそれほど深刻に思っておらず、普段もお互い話をしていることもあり、いわゆる被害届みたいのが無いんですよ。
彼女の手癖が悪いことは幻想郷内では有名ですし、事実上、彼女の盗みは黙認状態ですね」

 文はやや呆れた感じに盗賊魔理沙について簡単に説明した。

「なるほどね。妖怪に比べて人間はすぐ死ぬから、盗られてもそれほど深刻に思わないだろうね。
彼女が人間のままで、魔法使いにならなければだけど」

「確かにあの泥棒は人間にしてはかなり魔法が使えますね。
あれ?でも魔法使っている所なんてどこで見たんですか?」

「見れば分かるじゃない。並の魔力じゃないよ。人間の魔力にしては」

 普通の人間ならば、見ただけではそうそう魔力は分からないものだが、それを至極当然にできるものかのように、さらっと言ってしまった旅人である。

「ところで、神社でもらった地図によれば、里はこっちの方角だけど、あっているかい?」

「里ですか? はい、そっちの方であっていますが……、里に行くんですか?
泥棒から聞いた話だと、里にはよらずにしばらく野宿すると聞いていましたが?
だからこんな南の方にいるんじゃないですか?」

「さっき幽香さんに出会ってね。
稗田阿求の幻想郷縁起のことを聞いたんで、ちょっと見せてもらおうかなと思って。
ああ、そういえば、寺子屋の主人にスペルカードを教えてもらってきてとも言われていたな」

「幽香さんにも会っていたんですか?
でも、何でスペルカードを教えてもらえと言われたんですかね?」

「決闘したいんじゃないの?あの雰囲気だと。ここの決闘方法なんだろ?」

「あの幽香さんがあなたに決闘を!? それはな……」

 最初、幽香が人間の旅人と決闘したがるとは思えなかった文だが、
この旅人のことを考えてみると、あの幽香が興味を持っても不思議では無いかもしれないと思い、
否定しようとしていた言葉は途中で途切れてしまった。

「では、私はこの辺で」

「え!?どこに行くんですか?」

 幽香のことについて頭をとられていたため、突然、旅人が去っていくのを聞き、文は慌てた。

「どこにって、里だよ?
そろそろ日も落ちてきたところだし、どうせ里に行くなら野宿しない方がいいからね。
それには日が暮れる前に行かないと」

 太陽の畑を出たときには、まだ見上げるほどであった日差しだが、今では目線のやや上の所まで傾いてきていた。

「ちょっと待ってくださいよ! まだ何も取材していないじゃないですか」

 最初は、単に幻想郷に留まった理由などを聞くつもりだった。
しかし、蓋を開けてみると、ルーミアを一撃で倒し、常人には到底見つけることのできない自分の姿が見え、
かつ普通に聞こえるように話しかけ、外の世界で天狗にもで会っており、魔理沙の魔力をごく普通と言わんばかりに見抜いた上に、
あの幽香に一目置かれている存在であった。
これだけでも大ニュースなのだが、どれも表層だけのネタでまとまりもなく、記事にするにはもっと掘り下げておかなければならない。
いや、この旅人のことだ。他にももっと大きなネタがあるかもしれない。
それをみすみす逃がしてなどいられようか?
文としてはたとえどんなに時間がかかろうとも、旅人から話を聞き出したいと考えていた。
 だが、そんな彼女の気持ちとは裏腹に、

「もう、だいぶ話したし、十分記事にできるだろ? また聞きたいことがあったら、そのときおいで」

と、素っ気ない返事が返ってきた。

「いやいや、まだお聞きしたいことはたくさんありますよ! 里なんてすぐそこですよ。まだ時間はあります」

「高速飛行する烏天狗のすぐは、ただの人間にとって当てにならないよ。
地図を見るからに、ここから里に行くにはそれなりに時間がかかりそうだし。大体、あと何を聞きたいんだい?」

「たくさんありますよ! 里へは私が連れて行きますからもう少し取材させてください」

「君は旅というものが分かっていないね。
旅は単に目的地にたどり着けばいいというものじゃない。
目的地にたどり着く過程も旅の一部なんだよ。
たとえ、それが時間がかかったとしても、省いてはいけないものなんだよ」

 マイペースに話す旅人に対して、文は是が非でも取材を続けたいと食い下がっていた。
現に旅人の交渉の間も、その手に持つペンは取材用の手帳の中を走っていた。

「分かりました。なら、私も同行しますので歩きながら取材させてください」

「悪いけど、そこまで協力する義理はないよ。
大体、君と話していたんじゃ旅の風情を十分に楽しむことができないよ」

「う~ん、なら先ほどあとで聞きに来てもいいと仰っていましたよね?
後日、里で取材させてくれると約束してくれますか?」

 旅人はまだ穏やかな口調で話をしていたが、少しずつ語尾に力が入ってきていた。
一歩も引き下がる気がなかった文だが、これ以上旅人との仲を悪化させるのは得策ではないと感じ、譲歩することにしたのだ。

「まあ、いいよ。そのとき里にいたらね」

「里に留まるんじゃないんですか!?」

「さっき言ったとおり、幻想郷縁起を見せて貰うために行くのだからね、用が済んだ後のことはその時になって考えるよ。
里に残るかどうかはその時次第だね」

「そんな。それじゃどこにいるのか分からないのに、どうやって後で取材させてくれるんですか!」

「君らの仲間にも千里眼の持ち主とかいるだろ? 見つけるのは簡単じゃないか」

「……どうして仲間に千里眼をもった天狗がいるって分かったんですか?」

「どうしてって、警備が主な任務の白狼天狗ならもっていてもおかしくないだろ?」

 文は完全に手札を失ってしまった。ここまで言われたのでは、ここは一旦引くしかないだろう。

「分かりました! 非常に不本意ですが仕方ありません。
でも、後で必ず『私に』取材させてくださいね。
他の天狗の取材は受けないでくださいよ! これだけは約束してください」

 旅人の了解を得た文は、初夏の爽やかな空の中へ飛び去っていった。



「う~ん、日暮れまでに里に行けるかな」

 やかましい烏天狗を見送った旅人は少しも焦る様子でもなく、里の方角へと足を進めた。





第4話へ続く



[22145] 第4話
Name: 滝◆d3ddae10 ID:292920fb
Date: 2010/10/13 19:37
 梅雨前の初夏の季節は1年でも比較的日が長い時期である。
 太陽の畑から里まではそこそこ距離があったものの、100年以上旅で旅慣れている旅人にとって、日が暮れる前に里に辿り着くのは難しいことではなかった。
 途中で見つけた南から北の方へ延びる獣道を見つけ、辿っていくと、里に近づくにつれ次第にはっきりとした道となり、里の近くまで通っていた。
しばらく歩いて行くと、道の両脇に田畑が目立ち始め、人が住んでいる場所に近づいていることが実感できる。
やがて見えてきた里は周囲を林に囲まれており、うっかりしていると見落としそうな感じだ。
 旅人が通ってきた道は直接里には通じておらず、里の手前で緩い弧を描いて曲がっている。
その道の傍らに道祖神が一対、里の側に並んで祀ってあった。
その間から細い道が林の方へひっそりと延びており、道祖神が里に通じていることをつげている。
 小道は林の中へと入っていったが、旅人が小道の上に立っても、里ははっきりとは見えなかった。
どうやら小道は林の中で大きく曲がっているらしい。
旅人はそのまま足を進め、林の方に向かっていった。
林のまでの間には両側とも相変わらず田畑が広がっている。
 途中、小道を横切るように川が流れていた。
川といっても大人であれば跳び越えることが出来る程度の川幅だが、こぢんまりとした擬宝珠勾欄附きの橋が架かっていた。
 林の木々はほとんどが広葉樹で、クリやドングリを始めとしていくつもの種類が植えられており、秋になると様々な果実が実ることであろう。
林の中は小綺麗に整っていて、植えられている木々の数を考えると、自然林ではなく人工林であることがわかる。
 林の中をしばらく歩いてて行くと、小道は大きく鋭角に曲がっていた。
その角を曲がっても、里は見えず、道の先で曲がっているようだ。
次の角は緩やかな鈍角の曲がり角。
それでも、まだ里は見えない。
里の門と思われる二本の柱が姿を現したのは、その道の先端に立ったときだった。
道の終わりで直角に曲がると、二本の柱と、その奥にはいくつもの家々が群がっていた。
 夕暮れ時ということもあって、家々からは美味しそうな匂いであふれていた。
里の人々も足早に家に帰るものが多かったが、中には飲みに行こうとするものも見受けられた。
 旅人は里の中に入ると手近にいた里人に稗田の家を訪ねた。

「ああ、稗田のお屋敷ね。それなら……」

 里人が簡単に阿求の家を教えると、

「あんた、もしかして外の世界から来たのかい?」

「ああ、そうだが……、分かるんですか?」

「そりゃ、幻想郷の人間なら稗田のお屋敷を知らない者はまずいないからな。
そういうことを聞くって事は外の世界から迷い込んできた人でまず間違いない」

 なるほど、と旅人は思った。
考えてみれば、このようにさほど広くない結界内、しかも里が1つとなれば有名な所は大概のものなら知っているものだ。
そこをわざわざ聞くような者は外の世界からやってきた人間であることの証左である。

「ところで、『外の世界』といって通じるところや、稗田のお屋敷を探しているあたり、あんたこの村に来たのは偶然じゃないね。誰から聞いてきたんだい?」

「この里のことは神社の巫女さんに聞きました。幻想郷縁起のことを知り、読みたくなってここまで来たんですよ」

「そうかい。ま、外の世界に比べれば何も無いところだろうが、ゆっくりしていきな」

 旅人は里人に礼を言うと稗田家に向かって歩き出した。
 稗田家に旅人が着いたときには既に日が暮れていた。
当然、屋敷の門も閉じている。旅人がダメ元で門を叩いてみると、しばらくして除戸が開き、奉公人とおぼしき人物が自分の様子をうかがっている。

「夜分遅くにすみません。
私は今朝方、外の世界から、えーと、幻想郷?にやってきたものです。当主の稗田阿求様はいらっしゃいますか?
幻想郷縁起という書物を拝見させていただきたくやってきたのですが」

 奉公人は怪しい人物を見るかのように(実際に怪しい人物なのだが)旅人がどんな人物か見極めようとしていた。

「……主に相談してくる。しばし待たれよ」

 奉公人が警戒心のある声でそういうと、屋敷の奥へ戻っていった。やがて、奉公人は戻ってくると、旅人に質問してきた。

「1つ確認しておきたいことがある。あなたは今朝、幻想郷にやってきたといったが、それは神社からやってきて、巫女から地図を受け取った者に相違ないか?」

「ああ、それはおそらく私ですね。でも、何でご存じなんですか?」

「……主が会っても良いと言っておられる。入られよ」

 旅人の疑問には答えずに、奉公人は無愛想な態度のまま扉を開けた。
 奉公人は旅人を先導して歩いていたが、旅人が世間話を振っても、必要最小限の注意ごとしか言ってこないので、すぐに旅人も黙ってしまった。
 奉公人が突然ある部屋の前で立ち止まった。
あまりに急に泊まったものだから、旅人は思わずぶつかりそうになった。

「……ここが我が主、稗田阿求様のお部屋だ。粗相の無いようにな」

 奉公人は振り向いてそういうと、もはやそこに旅人がいないかのように、旅人を無視し、その傍らを歩いて去っていった。
屋敷内に通されたものの、奉公人の態度からして少なくとも彼からは歓迎されていないのがよく分かる。
十中八九、阿求が会いたいと言わなければ、追い返されていたことだろう。
 重苦しい空気から解放された旅人は、一呼吸すると、部屋の中に向けて声をかけた。

「お待ちしておりました。どうぞお入りになって下さい」

 可愛らしい、少女の声が帰ってきた。
 旅人は丁寧に襖を開けて中に入ると、そこにはまだ十歳になるかどうかの少女が座っていた。
旅人はその少女の前に座ると、

「あなたが幻想郷縁起を編纂した稗田阿求さんですか?」

「そうですよ、旅人さん。……でも、驚かないんですね。外の世界から来た方はたいてい私の姿を見ると驚かれるのに」

「ん?なぜ驚かないといけないんですか?」

「だって、幻想郷縁起を編纂して、このような屋敷に住んでいる当主が、こんな小娘だなんて普通は驚くでしょう?」

 旅人は言われてみて、「ああ、なるほどな」と思った。しかし、人であれ、妖怪であれ、見た目と中身は全く異なるのが当たり前である。
旅慣れている旅人にとって、見た目で判断するという習慣消え去っていった。

「ああ、それよりも夜も遅くなってしまいますし、拝見させて貰ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ、お持ちになって下さい」

 そういって阿求は傍らにあった1冊の書物を旅人の前に差し出す。

「……これ、いただいてもよろしいのでしょうか」

「ええ、昔と違って今は河童の印刷機もあるので、皆さんに差し上げているんですよ」

「へえ、河童の印刷機ねえ」

 そういいながら旅人は本を受け取ると、パラパラと読み流した。

「ここも、普通驚く所なんですけどね」

 阿求は少し驚きつつも、にこやかな笑顔で呟いた。
だが、何かの記事に興味を持ったのか、縁起を読みふけっている旅人の耳には聞こえていなかった。

「旅人さん。熱中しているところ申し訳ないんですが、これを」

 そういいながら差し出されたのは巾着であった。

「なんですか?これは。巾着のようですが、中身は?」

「見た目通りただの巾着です。中身は今、幻想郷で使われているお金です。
外の世界からやってきた人で留まる方には渡してるんです。元手が無くては生活するのも、商いをするのも無理ですから」

 旅人が巾着を手に取り、中身を確認してみる。そこには昔使われていた貨幣に加え、見たことのない貨幣が混ざっていた。

「うーん、いまいち価値が分からないんですが……」

「さすがにそこには戸惑うんですね」

 今まで全く驚かなかった旅人が戸惑う姿を見るのは、どことなく嬉しい気持ちがする阿求であった。

「それはだいたいこの里で、大人一人が2~3ヶ月過ごせるお金です」

 そういうと、阿求は1つ1つ指さしてその価値を旅人に教える。

「なるほど、だいたい分かった。しかし、これだけの大金をそんなに簡単に渡してもいいんですか?
それにこの貨幣はどこで造られているんですか? 外のものでは無いですよね?」

「それらの質問にはまず作られている方から答えましょう。これらのお金は昔のものを除いて山で作られています。
かつては下里からお金が回ってきていたんですが、結界ができてからはそれが途絶えてしまいました。
最初の頃は手持ちのお金や、幻想入りするお金で間に合っていたんですが、長く使っていると痛んでくるものも当然あり、足りなくなってきました。
丁度、それに呼応するかのように、山の妖怪との交流が進んでいきました。その過程の中で、妖怪のお金が里でも使われるようになったのが、こちらの外には無いお金です」

 阿求は巾着の中から1つの硬貨をを取り出して説明した。

「妖怪達のお金って里では作っていないんですか?」

「この幻想郷で鉱物資源は山を除いてほとんど無いのです。紙幣でしたら私たちでも作れますが、貨幣は無理ですね」

 そういわれた旅人は地図に山には人は入れないという注意書きがあったのを思いだした。

「なるほど。でも、それなら尚のこと里では貴重なのでは? こんなにいいんですか?」

「ええ、今説明しました通り、今では里と妖怪とで経済を共有しています。妖怪達にとっても里の人口が増え、お金が回るようになるのは利があるんですよ。
だから、本当は巫女が渡せば良かったんですけど……。霊夢ったら野宿する人間にはお金はいらないだろうからといって、渡さなかったもんですから」

「ん?巫女がやってきたんですか?」

「ええ、人間の人口の管理は里でもやっているので、それを報告しにやってきたんです。
その時にお金を渡していないというのも聞いて、もし来たときのために用意させておいたんです。でも、今日来るとは思いませんでしたわ」

 愚痴を言いながらも、最後にはクスッと笑顔を浮かべる阿求。

「しかし、作っているのが妖怪だと、お金の管理に関しても妖怪の方に主導権があるんでしょう?
いくら流通が増えると言っても、妖怪達はこんな大金、納得するんですか?」

「それには問題ありません。かつて妖怪内だけで使っていた時代は、河童と、妖怪の賢者が貨幣を造るのに必要な金型をそれぞれ片方を持ち合っていたそうです。
しかし、今では妖怪の賢者の金型は巫女が持っています。年に一度、巫女が河童の所に行き、毎年決められた量を造っているんです。
だから人間側にも一定の発言力があるんですよ」

「へえ、あの巫女さんがね。人は見かけによらないもんですね」

「まあ、あの巫女は賽銭には五月蠅いですが、お金には困っていませんからね」

「確かに、あの様子からするとお金はあまり使わない生活だろうね。そういう人間が主導権を持っているのはいいのかもしれませんね」

 旅人がなるほどと感心していると、阿求は思い出したかのように訪ねてきた。

「ところで、今晩泊まるところはお決まりですか? ここには宿のようなものはありませんが……」

「ん?ああ、こう閉鎖的な空間だと宿はないか……。なに、どこかの家の軒先でも借りますよ」

 軒先といえど雨風をしのげるだけ野宿よりマシというものだ。もっとも、野宿になれた旅人には大差ないものではあったが。

「よろしければ泊まっていきませんか? 遠慮は要りませんよ。元々外からここに住み着くには時間がかかるもの。
この家にはそういった方々をその間泊める部屋もございます。今晩だけでも泊まっていってください」

「そういうことでしたらご厚意に甘えさせて貰いましょうか」

 旅人は阿求の提案を受け入れ、その日は稗田家に一泊することにした。翌日、旅人は朝食もそこそこに旅支度をしていた。

「もう旅立たれるんですか? もっとゆっくりしていってもよろしいのに……」

「じっとしていても仕方ないので」

「これからどうなさるんですか?」

「そうですねえ……」

 昨夜、幻想郷縁起をだいたい読み終えた旅人は今後どうしようか考えていた。
最初は寺子屋でスペルカードルールを覚えていこうと思っていたが、あいにくただの人間には弾幕にするものがない。
それに、決闘方とはいえ主に少女達が使うものとあっては習得する気も失せる。
ここは適当にぶらついて何かよい案がないか探してみるのもいいだろう。
いっそのこと、幽香との約束を忘れてしまうという手もある。

「特にあてはないので、風の吹くまま気の吹くまま、旅を続けますよ」

「そうですか、お気をつけて」

 そういって稗田家から旅立った旅人はまたぶらりぶらりと旅に出た。



 数日が過ぎ、文々。新聞に旅人の紹介記事が載った頃、稗田家にめでたい姿の少女が飛び降りてきた。

「あの旅人やってきたんだって?」

「ええ、あなたがやってきた日の夜にやってきたわ」

「で?どんな感じだった? なんか変わった感じした?」

「いえ、私は特に……。一晩泊めさせて様子を見ましたが、何もありませんでしたよ。気のせいじゃないですか?」

「うーん。あいつがやってきた日からどうも違和感があるのよね。私の勘だとあいつだと思うんだけど……」

「勘に頼ってばかりではなく、たまには論理的に動いたらどうです?」

「巫女は探偵じゃないのよ。あーあ、何か目に見えて異変が起きていれば退治しに行くんだけど……、何も無いのに襲うとまたあいつが五月蠅いし……」

「あいつとは映姫様の事ですか?」

「そうよ」

「映姫様の忠告は聴いておいて損にはなりませんよ。というより聴いておかないと後々大変なことになりますからね」

「はいはい、そうするわ。……しかし、あいつじゃないとしたら一体何なのかしら?」

「気にしすぎなんじゃないですか? ストレスとかたまっていません?」

 そういって二人は会話を交わした後、めでたい姿の少女は買い物があるからと言って飛び去っていった。それを見送ったもう一人の少女は、ぽつりと呟いた。

「また改訂版造らなきゃダメかしら……」



 それは桜の季節が過ぎ去った初夏の季節の出来事であった。





                       第1章第4話 完
                         第2章に続く


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