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[21960] (習作)輪廻の果てに(仮)オリジナル転生物
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/19 09:35
初めまして
理想郷を知り早半年。ついに我慢出来ずに投稿してしまいました。
まともに物を書いた事がないので至らない点等が多々見られると思います。
更に携帯のためPCで閲覧される際に非常に見づらい可能性がございます。
ご指摘、ご感想等頂けましたら嬉しいです。

週に2~3回くらいは投稿したい……



[21960] 1
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/18 07:52
 自身を偽って生きていたと、最後になり悟る。
 己を捨て我欲を捨てて、御国のために体を張れる男だと。
 それが務め。男児たる矜持だと。

 御国のため、天皇のため。
 それすら体の良い言い訳であった。

 分かって見れば、否分かってはいたのだ。
 単純なこと。ただ愛する者が、守るべき者がいた。ただそれだけ。

 待つ意味も無い、待つ意味“が”無い。何故ならこの任務に帰り道など無いのだから。
 言い聞かせても只ひたすらに待っていますと言い張る人に、お幸せにと一言残して背を向けた。

 己を律して、誇り高く死んでいけると思っていた。
 恥じることなく、思い残すことなく逝けると思っていた。

 ……死にたくないと、貴女の側にいたいと最後の最期で思ってしまった。
 只々自分が情けなかった。

 ……その日一つの若い命が空に散った。



――2010年、日本。

 とある街中を一人の青年が歩いていた。

 彼が明確な意識を持ったのはいつの頃だったか。
 一つか二つ、まだろくに言葉も喋れない歳である。既にその時、彼には明確な意思と幼児にしては膨大な──膨大過ぎる記憶があった。

 記憶を保ったままの転生。
 事態を理解したのは少し後。初めは困惑し焦躁し恐怖した。
 それもやがて消え、最後に苛立ちだけが残った。仏を罵り神を呪い絶望した。

 戦争に負け、神は人になり、国は発展した。
 時代が変われば人も変わる。今の世の気風が嫌いな訳ではない。正直苦言を提したいこともあったが我慢出来なくはない。

 英霊になりたかった訳ではないし、輪廻が嫌だった訳でもない。

 だが何故、何故記憶を残したのか!

 彼の人の笑顔を思い出す……
 待っていますと言う言葉も五十年が過ぎれば時効であろうと。分かってはいる、分かってはいるのに。

 幸せになっていて欲しい。その気持ちに偽りはない。
 だがあの笑顔が他の人に向けられている姿を見て、自分は果たしてそれでも祝福出来るだろうか。
 疑問に思う時点でそれは嘘偽りなのではないのか。
 彼女の幸せより自分を待っていて欲しい、そう思っているのではないのか。

 そもそも行方が知れるとも限らない。
 そして行方が知れないかもと思いホッとした自分がいるのを知り、また自己嫌悪する。

 醜い記憶を持ったまま醜い男そのままで転生してきた。
 運命を呪い、己を呪った。

 難しい顔で悩み続ける彼の幼児期は幸福なものでは無く、周りからも特異な子だと心配された。
 だがそんな彼も小学生にもなると、それなりに忙しくなる。

 何より同年である少年少女達は危なっかしくて、とても黙って見てはいられないかった。
 その頃には妹と弟も出来て、自然面倒を見るはめになる彼は、やがてそれに忙殺される。
 幸い人の世話をしている間は悩むこともなく、段々と本来の性格を取り戻していった。

 中学に上がり第二次成長を迎えると、自分にもまだ精神的に成長する余地があるのだろうかと思い一人苦笑した。

 そして高校を出て過去の自分より年上になった時、漸く彼は迷いを捨てた。
 嘆くのを止め、過去を忘れ、新しい人生を歩いて行こうと一人決心した。
 今度こそは今生こそは誇り高く、恥じることなく生き抜いてみせると。

 そんな折、一人の少女に告白をされた。
 幼な友達ではあったが妹の様にも、娘の様にも思っていた少女であった。
 いや既に彼女は少女と呼ぶのは失礼な年齢であるが。

 今までだって女性を避けて来た訳ではない。
 真面目で泰然とし面倒見も良い、さらに際だって大人びていた(当然である)彼は、嫌う輩もいたがそれ以上にモテた。
 当然何度も告白されたが、彼は誰とも付き合うことはなかった。
 それは彼女らの精神が幼く見えたのもあろうが、何より真剣だとは到底思えなかったからだ。
 女性に対して興味も性欲も人並みにあったが己を律して生きる彼が、己を恥じて生きる彼がそれを表に出すことはなかった。

 よく言えば古風、悪く言えば堅い男であった彼は、未だ誰とも男女の関係を持っていなかったのである。

 幼い頃から隣にいた少女は当然そんなことは承知しているはずだ。
 だからこそ本気であると思った。
 伊達や酔狂でこんなことを言い出す性格でないのは自分がよく知っている。
 真剣に考え、受け止めなければならない。
 そして真剣に考えれば思い出すのは当然……

 彼の人の笑顔……
 待っていますと泣いてた顔……
 今でもそれは脳裏に焼き付いている。

 そして彼は今、過去に決別し現代(いま)を生きるためこの街に来ていた。
 彼女の消息を探る。それがどんな結末があろうとも受け止めて見せる。
 そして、そしたら、あの少女に返事をしようと。



0818
見やすくしてみる



[21960] 2
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/18 07:55
 そこにかつての町並みを見出だすのは難しかった。発展した都市は山を削り森を削り、田畑までもがその姿を消していた。

(まぁ仕方ないだろうな。あれから既に六十年以上経っている)

 過ぎ去った月日を想い少し胸が痛む。しかし、このまま呆けていても仕方がないと彼は役所へと歩み出した。

 その道すがら唐突な悲鳴。しかも一人や二人ではない。
(何だ? 何事だ?)
 自然と足は声がした方へと駆け出していた。見馴れぬ商店街の通りを抜け、角を曲がり見えた光景ははたして。

 腹を押さえ倒れ込む女性と、錯乱する人々だった。

(血が!)

 女性がうずくまる地面は赤々とした血が広がって、今も出血が続いているのが分かる。

 過去に空襲で見た血まみれの人々と光景が重なり、瞬時に危険信号が点った。事態を把握するより先に女性へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!」

 応急処置の類なら一通り心得ている、が出血が酷い。傷口はかなり深い様だ。

「くそ! 早く! 誰か救急車を!」

 声を張り上げ周りを見渡すと、距離を取って恐る恐るこちらを見遣る者、とそして背を向け駆け出している人々。

 ハッと気付いたのもつかの間。

「うぁあおおおお!」

 奇声を発した男の声が背にかかると同時に激痛が走る。
(熱い!)感じた瞬間、振り返りざまに足をおもいっきり回転させる。

 情けなくもしくじったという思いに駆られる。怪我をした人がいるなら、それには原因があるのが道理。血を見て動転していたらしい。

(武器は!?)

 足をかけ、倒した男の手に凶器は無い。

(何故だ!? こいつは何で攻撃してきた?)

 考えながらも男の顔面を思いきり蹴飛ばす。とにかくこいつを拘束するのが優先だ。
 一瞬見えた顔、そこにある血走った目は到底正気ではない。

「早く! 誰か!」

 それでは伝わらない。具体的な指示でないと混乱した人には行動を促せない。

(自分が混乱してどうする! 落ち着け!)

 必死に自分を叱咤し、怯んだ男の手を掴み、後ろから体重をかけ押さえ込む。

 「そこの人救急車を! あなたは女性を診て! 後あなた! 紐か何か持って来て下さい!」

 一人一人に声をかけ指示を出す。不特定では駄目だ。こんな時は無理矢理でも、お前がこうしろと言わないと動かない、動けない。
(熱い、痛い)男が暴れる。もっとしっかり抑えねばいけない。

(早く誰かこいつを。力が入らない。腕が痺れるんだ)

 自分の背中を流れ、尻にまで垂れる血が気持ち悪い。

(ああ、凶器は背中に刺さったままなのか……)周りの人の目、そして背中の違和感でそれと気付く。

(仕方ない、今はどうしようもない。それより誰かこの男を抑えてくれ)

 目が霞み、意識が途切れ様としているのが分かる。

(まずい、畜生め。何でこんなことに……くそ……)

 何故か彼の人の笑顔が浮かぶ。それはやがて泣き顔になり少女の顔に重なっていく。

(けじめを付けるんだ……そして返事を、返事をしないと……貴女の側にいたいと……伝え…………)

 半ば朦朧とした意識の中で呟やきながら、彼は暗闇に落ちていった。



0818
見やすくしてみた



[21960] 3
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/18 07:46
 それは酷く朧げな感覚だった。あやふやで曖昧な……夢より危うく儚い感覚。
 抽象画の如く意味不明だが、時にハッキリとした線を描く。明るくもあれば暗くもある。有象無象が浮いては消える。どこか
 海の満ち引きにも似たそれは……

(自分はこれを知っている。これはあの時と同じだ)

 あの時というのは……

 それに思い至った瞬間、急激に視界が開けた。

 薄暗い部屋の中覚醒した彼は、まず最初に自分の身体を意識した。

(重い!)

 自由にならない手を必死に動かし確認する。
 何とか目の前に差し出したその手は紅葉の様に赤い。そして非常に小さな、紛う事なき赤子の手であった。

(やはり、くそ……くそ! 畜生が! ふざけるな!)
 溢れ出た感情は怒りか悲しみか。
(また、またなのか! また俺は何も出来ずに死んだのか!)

 泣きたい。叫びたい。喚き散らし、何もかもを壊してしまいたい。
 激しい感情に振り回される彼だったが、その激情を赤子の身で表現する術はただひとつ。

「ぉぎゃぁぁあああ! んぎゃぁああ!」

 只赤子としてそのままに、泣き叫ぶ以外になかったのだった。



 時は流れ、彼が三度目の生を受けてから十回目の秋が訪れようとしていた。

 三度目ともなれば慣れたもの、さぞやチートめいた幼少期を過ごしているだろう。という訳にはいかなかった。

 なぜならば彼が此度の誕生を果たした地は日本ではなかった。どころか地球ですらなかったからだ。

 前世(二回目の生)では同じ国だったお陰で言葉も文化もそこまで変わらず、違いもすぐに適応出来る範囲であった。
 だがここでは何もかもが一からやり直しと言ってもいい。

 普通はそれが当たり前であるはずの言葉に文字、常識や生活習慣を全て最初から学び直すのは大変であった。

 前世でも体験した今省みれば恥ずかしい、散々泣き喚いて運命を嘆いていた時期もあった。
 だが今回の彼は赤ん坊の内にでそれを乗り越えたため周囲に情けない姿をを見せずにすんだ。
 ただ母親だけは泣いては寝てを繰り返す子供に、過剰に不安を抱き随分心配させてしまったが。(今でも過保護なのはこのせいかも知れない)

 文化の違いについては幸とも不幸とも言えるが、昔を思い出させるきっかけが少ないのは彼にとっては良かったのかも知れない。

 しかしこの世界では言葉や文化の違いなんて些細なものだと言える程、元の世界とは大きく異なる点があった。

 ひとつは人類以外の知的生物が存在すること。

 巨大な魚に揺り篭を覗き込まれた時彼は思わず絶句した。
 立っていたならば腰を抜かしていただろうから、成長する前に遭遇出来たのは幸いである。

 そしてもう一つが魔法と呼ばれるものだ。

 魚人を見た時から薄々は察していた彼だったが、やはり何もない所から水やら火やらが出て来るのは絶句するしかなかった。

 つまるところファンタジーな異世界である。

 冗談にも程がある、がそもそも転生自体が冗談の様なもの。慎んで受け入れざるをえない。

 またここでは貧富の差が非常に激しいらしいが、彼の家はどうやらこの近辺でも裕福なようで飢えることもなかった。

 一部の人からすれば夢の如く恵まれた環境かも知れない。 しかし彼には自分が幸運だと思うことは到底出来なかった。

 何故自分が、何故あのタイミングで……

 理不尽な運命に惑わされ、四十年にも満たない生涯で二度の死を経験した彼は、しかしそれでも諦めることを良しとせず抗い立ち向かうことを決意する。

 誇り高く、何ものにも屈することなく生き抜いてみせると。

 結果として彼は自分の無力を嘆き、だがそれを克服しようと知識と力をひたすらに求めることなる。

 そして今も師に教えを乞いに向かう、その道中に彼はいた。



 サクサクと落ち葉を踏み締める音が木々の間に静かに響く。
 ここケントウッドは大陸の北に位置している。夏が終われば秋から冬へ一足飛びだ。
 冬になればこの森も雪に閉ざされ、おいそれと近付けなくなる。

 だがそれでも彼はここに通わなくてはならない。
 人付合いの悪い偏屈な老人、彼の師匠たる人物がこの奥に居を構えているからだ。
 雪をかき分け奥山へ入り進む苦労を思うと今から気が滅入る。

 そんなことを考えながら鬱々と歩いているとやがて、ひっそりと隠れる様に佇むあばら家が見えてきた。

(まるで隠れ家か何か……いや事実その通りなのか)

 彼の師は明らかに人目を避け、何かから逃げ隠れる様に潜みこの森から出てこない。
 理由は彼も知らないが、無理に詮索する必要もない。

 誰にでも人に言えないことはあるものだ。
 そう、自分もまたそうである様に。

「師匠! 私です!」

 戸を叩き来訪を告げる。日は既に天高く、流石にもう起きているはずだ。
 一般人であるならば、だが。

 「師匠起きて下さい! もうすぐ昼ですよ!」

 返事はない。まさか出掛けているのか。
 いや今日の来訪は知っているはずだ。変人だが約束を違える人ではない。
 と思うや否や背に気配を感じ、振り向き様に裏拳を叩き込む。
 が、空振り……いない!
 
 ハッとして横に飛びすさろうとするも遅い。
 目に星が飛び散ると同時、頭に鈍痛が走る。

「痛っ!」

 足元を見やると投げ付けられたであろう木の杖。
 そして頭を押さえ視線を上げるとそこには、いた。

「甘いわぼけぇ! あほぉぼけぇ……」

 天狗。そうとしか言いようのない姿形をした老人。
 射抜く様な目付きに赤い顔、そして高い鷲鼻。袴の様な衣を着てその背からは真っ黒な翼が出ている。
 彼の師匠、ヤンデルフィン· アババッチー·ヨシチネその人であった。
 本名かどうかは分からない。
 様々な違いに慣れてきた彼だがここの人々のネーミングセンスだけは理解し難い。
 それとも発音が似ているだけましと思うべきか。

「奇襲を受けてからの反応が鈍いわニブチンめ! このにぶちんちん! あほぉぼけぇ……」

「すいません。ですが……」

「まぁいいわ。ほれ行くぞ!」

「はい! は、いやどこへ? 今日は座学の予定では……」

「池じゃ池! イケイケじゃあほっほーい!」

 一声挙げると返事も待たず、バッサバッサと奥にある池の方へと飛んで行ってしまう。

 何故こんな森に潜んでいるのかは知らないが、この性格と珍妙な口調が原因の一つであるのは間違いないと彼はまた一人確信した。

「ほーいさっさと来んかーい! イケイケじゃー! イケイケじゃー!」

「師匠お待ち下さい! 杖! 杖を忘れてますよ!」

 慌てて叫ぶも師は既に遥か彼方。
 彼はハァと嘆息を一つ、杖を拾いあげると後を追うのだった。



一気にフランクな感じになってしまった。今後も文体がぶれたりすると思われます。にしても未だ主人公の名前すら出ないのは如何なるものか。今後も行き当たりばったりで進みますがどうぞよろしく。



[21960] 4
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/19 09:23
 師の元へ通うようになって六年、転生から早くも十四回目の春が訪れようとしていた。


 雪を溶かす暖かな日が室内を照らし出す。

「ねぇユウ。ここ分かんないだけど」

「ん、どこ? 見せて」

 部屋では金髪の少女と黒髪の少年が並んで机に向かっていた。

 少年の名はユウコリン·サノバビッチェ·サムズアップ(自分の名前·祖父の名前·家名である)

「ほら、ここはこうするんだ」

 さらさらと少女の手元に筆を走らせる。
 その様子を見て少女がハァとため息をつく。

「サラ、人に教えて貰っておいてその態度はないだろう」

「ハァ……ため息もつきたくなるわよ……全く私が一日何時間勉強してると思ってるのよ」

 彼としては苦笑いで返すしかない。

 前世ではトップクラスの進学校を卒業し、旧帝大にも合格していたのだ。
 更にこちらに来てからは未知の知識を求め、より一層勉学に励んだ。今更この程度の問題考えるまでもない。

 彼はある程度自由に動けるようになったらまず本を求めた。
 地球に無い知識に溢れるこの世界ならば、自分の身に降り懸かった現象の原因が分かるかも知れないと思ったからだ。
 もちろんこの世界の文化や常識を知るためでもあったが。

 幸い実家は裕福だったためある程度高価な書物でも読む機会を得ることが出来た。
 また珍しい書物や知識を探している最中に師匠と呼べる人物に巡り会い、師事することも出来た。

 だが転生して十四年、未だ彼は手掛かりすら見付けられずにいる。

 難しい顔をして考え込んでしまったユウに少女が視線を向ける。

「悪かったわよ。ユウコリン先生教えて下すってどうも有難う御座いました。はい、これでいい?」

「ああいやそうじゃない。ちょっと考え事。それとその名前で呼ぶな」


「別に私がユウをどう呼ぼうと勝手でしょ! ユウだって私のこと名前で呼んでくれないくせに……」

 彼女のフルネームはボブ·サンデーモニン·サンライズである。
 ユウが彼女を名前で呼ばない理由は推して計るべし。

「まあそれはともかくとして。ほら、手が止まってるぞ」


「分かってるわよ、自分はそんなもの読んでるくせに」

 フンッと鼻息荒く自分の手元に集中しだす。

 この年頃の子は扱いづらいとユウは静かに苦笑する。

 ボブいやサラがそんなものと言ったのは所謂小説のようなものだ。
 自分が必死に勉強をしてる横でお話なんぞを読まれていたらいい気はしないだろう。

 ユウは自分の境遇の手掛かりを求めたが、そもそも輪廻転生や生まれ変わりといった宗教的概念が存在するのか? 人に聞いて大丈夫なのか? それすらも分からない。

 例えば自分の子供がいきなり生まれ変わり云々と言い出したら……不気味に思われて下手をすれば捨てられ、迫害されるなんて事も有り得るだろう。
 よってまずは童話に昔話、果ては伝記や手記の類にまで手を出しそういった概念が一般的であるかを調べた。

 しかし結果は芳しくなかった。
 神託やお告げ等の例は数あれど、誰かの生まれ変わりなんていう話はまず無かった。
 せいぜいが大昔の英雄が乗り移ったとか、自分は神であるなんて事を宣った男の話があったくらいだ。
 しかもその話では神を騙った男は処刑されている。

 この世界では余り気軽には人に聞くことの出来ない類の話なのだ、転生というのは。

 例外と言えば師ぐらいだが……あの人はそもそも存在自体が例外の様なものだ。
 第一に話をしても聞いてくれないだろう。例え聞いてくれても答えてくれるとは限らない。

 つまり彼に相談するという行為自体無駄ということだ。

 (あの人に悩みを相談するようになったらおしまいだ……はぁ……彼の存在自体無駄と言うか、いやいや師匠に求めているのはまた別の事だ。)


 とにかく正直限界を感じていたが、今の自分ではここに手掛かりを求めるしか手が無い。
 そうしてサラの勉強を手伝う傍ら、今もこうして小説を読んでいる訳だ。

 最もユウが自室で読書していたら、勝手にサラが教えて貰いにやって来たというのが正しい状況だが。

 しかし燻っているのも冬が明けるまで。春になれば成人の儀がある。

 ここヤーウェイ大陸では一般的に十四歳で成人と認められる。
 種族によって多少成長に差はあるものの成人の儀というのは便宜上の手続きみたいなもので、十四回目の春で漏れなく皆成人だ。

 なので成人しても人間族の男性であるユウの外見は、未だ少年と言う外ない。

「そういやサラは成人したらどうするんだ?」

 ふと思い付いた様にユウが顔を挙げサラに聞く。

「別に何も変わりはしないわよ。まだまだ子供だって分かってるし。覚えなきゃいけない事も多いから勉強漬けの日々かしらね。まぁ社交の場に出る機会が増えるぐらいはあるかも知れないけどね……」

「領主の娘ってのも大変だな」

 サラはここケントウッド地方一帯を納める領主の娘である。
 元々家同士で付き合いがあったため、その子供である自分達も気安い仲という訳だ。

「まっ仕方ないわ。それよりユウはどうするのよ。いつまでも変人のとこに通って道楽してる訳にもいかないでしょ?」

「あれ、聞いてないか? 俺は都に、ネッチラリズムに行く予定だけど」

「えっ!? 聞いてないわよ! いつ! ていうか何で!?」

「成人の儀が終わったらだ。いつまでも父上を一人にさせておけないしな。母さんと一緒にあっちに引っ越すんだ」

「ちょっちょちょまっ! どういうことよ!?」

「いや言葉通りの意味だけど」

「元々こっちにいたのだって里帰りした時に母さんが妊娠してるのが分かったから、そのままこっちで子育てしていただけだしな」

「随分長くなったけど単身赴任みたいなままじゃ父上も可哀相だろ。だから……」

「タンシンフニン? いや、いいわそれより何で! 納得いかないわ!」

「納得いかないって言われても……一年中あっちにいる訳じゃないし、今までだって都に行くことはあっただろ? それが今度は逆になるだけだで……」

「逆になるって……年に一回か二回しか帰って来ないってことじゃない!? いいわ! ユウのお母様に聞いて来る!」

「え、ちょっと、おい!」

(はぁ……やはりあの年頃の娘は扱いが難しい……)

 別れを惜しまれるとは思っていたが、ああも激しい反応が返って来るとは想定外だった。

 元々はユウがケントウッドでの情報収集に限界を感じて、足掛かりを求め父親の働く首都ネッチラリズムに一人で行くはずだった。
 しかし母親にその旨を伝えると「じゃあ引っ越しの準備しなきゃいけないわね!」と一緒に付いていくのが当然とばかりに返されてしまった。

 それはまだ予想通りだからいいとしても、今の剣幕を見るに下手をしたらサラまで付いていくと言い兼ねない。

 否、まず間違い無く来ると言い張るだろう。
 昔から人並み外れた行動力と決断力を持っていサラだ。

 そしてそれは主にユウの後ろを付いていくことに全力で発揮されていたのだ。大低の場合ユウの母親も同様ではあったが……

 (俺が師匠に師事するって言った時も二人して大変だっからな……領地を離れることはないだろうと思っていたんだが……見通しが甘かったかもしれん……)

 別に付いて来るだけなら良いのだ。生活の場がこちらからあちらに移るだけ。それならば問題は何も無い。

 が、まず間違いなく世話をするのは自分なのだ。
 何か面倒事に巻き込まれ、いや何も巻き込まれずともサラ自らが問題を起こし、その世話と後始末をするのは自分なのだ。
 まして新天地。地元の様に助けてくれる人の良い者ばかりとは限らない。

 遊びに行く訳ではないし調べたい事も多い。当然身軽である方が好ましい。

(悩んでいてもしょうがない、取りあえず師匠にも話を付けてくるか)

 サラに聞いていないと言われて気付いたが、そういえば師にも別れを告げていなかった。

 というのも「お前に教える事なんぞもうないわ! ぼけぇあほぅ……ふーんふーんだ! 破門お前破門な!」バッサバッサ。

 と都合七回目の破門を言い渡されていたからだ。
 それから会っていないがそろそろ忘れている頃だろう。流石に何も言わずに去る訳にもいくまい。

 漸く自由に行動出来ると思っていたのに何故か先を思うと気が重くなる。
 肩を落として部屋を出ていく彼の背はとても十四歳の少年には見えなかった……




展開がおせぇ!って人はすいません。
全くもってその通りでございます。
無駄なこと書きすぎなのかなぁ……
次回辺りからようやく話が動き出すかも?



[21960] 5
Name: 華汁リバース◆5c83efdb ID:32b07b0b
Date: 2010/09/20 09:41
 ポンデロン街道。大陸を縦に裂く様に走る主要道の一つだ。
 ケントウッドから南へこの街道を下ればネッチラリズムまではほぼ一直線。
 いくつかの町や村を宿場としつつ大体十日程の旅路である。

 今、そこの道中に三台の馬車の姿があった。

 前を行く一台にはユウとサムズアップ家の家財道具が。
 その後ろには彼の母親であるユウナレスク·エンリケ·サムズアップとボブ、いやサラ。そして旅に必要な荷物一式が乗っている。
 最後尾の一台に積まれているのはサンライズ家、というかサラの私物と使用人という形である。

 何だかんだ揉めたが結局サラは領地を離れ、サムズアップ家と共に遠く首都ネッチラリズムへと行くことになったようである。

 首都に行けば人も多い、ケントウッドにはない知識も数多く得ることが出来るだろう。

 サラについては少し予定外ではあったが、漸くユウは一歩前に踏み出したのだ。
 だが新天地へ赴く彼の顔には陰りが見える。

「ねぇサラちゃん、ユウコちゃん一体どうしたのかしら?」

「いえ、私にも何も……」

「ヤンデルフィンさんの所に行った後から何だか塞ぎ込んでるのよね~」

「やっぱりあんな変な人でも別れは辛かったんでしょうか?」

「ん~ユウコちゃんが悲しいと私も悲しくなっちゃう」

「えぇ……そうですね」

「やっぱり一緒に乗ってあげた方が良かったかしら……何とか元気ずけてあげたいわぁ……」

「もうユウったら気を使って一人にさせてあげたのに、全くいつまで落ち込んでるのよ!」

 気を使いと言っているが、単にどちらがユウと一緒に乗るか揉めている間に、ユウが一人でさっさと乗り込んで出発してしまったのが真相である。

「はぁ……」

 件のユウはと言えばため息を一つ、確かにその顔にはいつもの精彩は無い。

 確かにユウは師との会話を思い出していた。
 が、彼が沈んでいるのは二人の思っている様なことが理由ではなかった。



「そうか……行くのか……」

「師匠……長い間お世話になりました」

 師と弟子、二人の間には別れを惜しむどこか静謐な時が流れている。

「ほうか……行くのんか……」

 いつになくしんみりとした空気に思わずユウの目頭が熱くなる。

「はい……長きにわたるご指導……誠に、誠に有難う御座いました!」

 例えどの様な師弟でもやはり六年という歳月は長い。
 自然、別れは辛いものになる。

「行くぅのんかぁ……イクイクゥ……うへへ……」

「…………」

 そんなことはなかった。

「そうさな、まぁお前なら外に行っても大低のことは何とかなるじゃろ」

「はっお蔭さまで。己が身に掛かる火の粉ぐらいならば払えましょう」

 チェンジオブペース。この師に付いていくには自分のテンポを崩してはならない。

「そうさな……上手くいけば四年……五年くらいは生きていられよう」

「はっ、なっ! それはどういう!?」

 だが無理だった。師の放った言葉によりユウは激しい動揺に見舞われた。

「キャナコという男に会え。変わり者じゃがお前の役には立つじゃろう」

「キャナコ……男……変わり者!?」

 続く言葉はユウに更なる衝撃を与えた。
 この人に変わり者と言われる人物は果たして大丈夫なのだろうか! 色々と!

「それじゃ達者でな」
 バッサバッサ。

「ハッ! ちょっ!? お待ち下さい! 四年というのは一体!? 師匠!」

 だが良くもわるくも人の都合に斟酌する師ではない。

 というか人の話なんぞ聞かない。

「イクイクゥ! イグイグゥ! ええのんかええのんかぁ……ウヒー!」

 奇っ怪な言葉を残し、バッサバッサと何処へともなく飛び去って行ってしまう。

「師匠! ししょおおぉぉぉ!」

 日が沈み行く山間には、師を呼ぶユウの悲痛な叫びだけがいつまでもこだましていた。



(師匠は四年か五年は生きられるだろうと言っていた。つまりそれ以上は……?)

 ユウは今年で十四歳になる。
 四年か五年後と言えば十八歳位。それはつまり過去に二度命を失った年齢と重なる。

 転生の事は未だ誰にも、もちろん師にも話してはいない。 今現在ユウの身体は健康そのもので、数年後の死を予想すること等誰にも出来はしないだろう。

(だが師匠は具体的な年数を提示した……何故?)

(キャナコという人物も気になる……あの人の言うことをまともに信じるのは難しいが……何にしろあちらに着いてからか)

 一人自分の世界に没頭していると突然馬車に衝撃が走った。
 床から身を投げ出されそうになるが、とっさに体勢を立て直す。

(何だ!? 急停止!?)

「ぼ、坊ちゃん! あれを、あれは何でしょう!」

 馬車を仕切る布をめくり、焦った様に御者がユウに声をかける。

「どうした何があった!」

 盗賊でも襲撃して来たのだろうかと思い、ユウは慌てて幌を飛び出し御者に問い掛ける。

 主要街道といっても町から離れる程に危険度は自然と上がる。
 そしてここは前も後ろも町までは距離がある街道のど真ん中。

 警戒を怠った自分に恥を覚える。

「あ、あれを、あれをご覧下さい!」

 慌てふためく御者の指差す先は街道の遥か上空。

(何だあれは……雲?)

 そこには青空とそして太陽の光を遮る真っ黒な、何か影の集合体の様なものがうごめいていた。

 後ろの馬車も上空の様子に気が付いたのか、慌てて停車するのが分かった。

 ユウは影の正体を見極めんとその黒い瞳を凝らす。

(雲じゃない。鳥か? にしては大きいが……くそっここからじゃ遠過ぎる)

「少し待ってくれ」

 御者に一声置くとユウは両手を前方に突き出し、力を込めて集中しだした。
 意識が研ぎ澄まされ、それと共に周囲の大気がざわつきだす。

「坊ちゃん、何を?」

 御者の声を無視してユウは集中を続ける。そして……

「はぁ!」

 ユウが一際気合いを込めた!
 すると前方に直径一メートル程の薄い水の膜が出現したではないか。

 魔法。これが地球にはないこの世界独自の技だ。
 そして空の影を大きく拡大したそこに映し出されたのは……

「……竜だ」

 唖然。

 水のスクリーンには幾百幾千からなる巨大な竜の群れが、その圧倒的な体躯で悠然と羽ばたく様子が映し出されている。

「坊ちゃんこれは……」

「あ、ああ……」

「普通に望遠鏡を使えば良かったのでは?」

「…………」

「あれはオベント山脈の竜か?」

 オベント山脈とはケントウッドの地を八の字の形で、取り囲む様に連なる大山脈である。
 東オベント山脈と西オベント山脈から成り、ヤーウェイの屋根とも呼ばれている。

「ええ、おそらく大移動の時期なんでしょうが。こんな数は……」

 竜の大移動。
それは山に住む竜達が生態系を壊さぬよう、ある程度の期間を置いて山から山へ群れごと渡る現象である。
 通常竜の群れは雄が一体に対して複数の雌から成り、いくつかの群れの移動時期が重なると大移動となるのだ。

「ユウ! ねえちょっと、あれ!」

 後ろの馬車から降りたサラが興奮した様子で駆けてくる。

「あぁサラ、これ見てみろ」

 拡大された竜を映している魔法の水鏡を見せてやる。

「ええ、望遠鏡で確認したわ!」

「…………」

「これって竜の大移動でしょ?」

「ああ、多分……」

「どうしたの暗いじゃない!」

「え、いやそんなことないさ。うん、全然?」

「ホントに? 前から見てみたいって言ってたでしょ! 凄い数よね!」

「ああ、本当に凄い数だな」

(確かに多い、多過ぎる位だ……これじゃまるで東オベント山脈の竜が全部西に移動してるみたいだ)

 竜は縄張り意識が強いと書物にはあった。
 だから同調して移動するということは無く、大移動は偶然群れの移動が重なって起こるのだと。

(でもこれだけ大量の群れの移動時期が偶然重なるとは思えない……)

「ねえ、いつまで止まってるのよ。珍しいもの見れたのは分かるけど、今日中に町まで着かなきゃなんでしょ! 野宿は嫌よ私」

 いつまでも呆けているユウに見兼ねてサラが声をかける。

「ああ、そうだな。出してくれ」

 サラの言う通りだ。ここで考えていても仕方がないと御者をを促す。

「あ、それと私こっちに乗っていくね」

「ん? ああ、別にいいけど、そしたら母さんが一人に」

「あら、私もユウコちゃんと一緒にこっちで行くわよ」

「え、母さん!?」

 突然後ろから聞こえる声に驚き仕切りをめくってみれば、幌の中にはユウナレスクがちゃっかり居座っている。
 いつの間に……と呆然とするも彼女は平然とし気にもしていない。

「それじゃ御者さん出して下さいな」

「ほらほら早く出して! 日が暮れちゃうわよ!」

 驚くユウを置き去りに、二人が矢継ぎ早に繰り出す。

 「え、いやちょっと」

 「ユウもっと奥詰めなさいよ!」

 「ユウちゃんお母さんの膝に座る?」

 流れに付いていけずユウは慌てるが、サラはどんどんユウを押しやり馬車の中に詰め込んでいく。

「おい、荷物もあるんだから三人は狭いって!」

 「何よ、私が一緒じゃ嫌なの!」

「ええっ!? そうなのユウちゃん! お母さん悲しい!」

「いやだから、そうじゃなくて狭い……」

「あの~坊ちゃん」

「今度は何だ!?」

「いや、あのこれはどうすれば……」

 御者の目の前には未だ竜を映したまま浮かぶ水鏡。
 ユウは無言のまま指を弾いて水の膜を掻き消したのだった。




迷走中……
初めてなので勘弁してやって下さい。色々と。

会話の合間にある地の文とかストーリー進んでないとか……
うーん。どうしたものか。


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