「ねえ、りっちゃん。ここ、すごく楽しい!いろんな物が格安で売ってる!」
「そうか、そりゃよかったな、ムギ。」
「どこから回っていいか迷っちゃう~。」
とある日曜日、律とムギは地元商店街のフリーマーケット会場に足を運んでいた。総勢50軒程度が所狭しと商品を広げている。
「ムギはお金持ちなんだから、別に古いものを安く買わなくてもいいじゃないか。」
「いいのよ、こういうほうが楽しいから。ほら、りっちゃん。あっちのお店に行きましょう。」
ムギに手を引っ張られ、律もついていく。服、靴、カバン、雑貨など、あらゆる物の売り買いの声が飛び交っている。
「(ムギもこういう所が子どもっぽいな。)」
駄菓子屋やゲームセンターで楽しそうにするムギを知っているので、なおさらその思いを強めるような本人のはしゃぎぶりだった。
「見て見て~。こんなにいっぱい買っちゃった~。」
「むしろ買いすぎだ。どんだけ大荷物になってんだよ。」
フリーマーケット会場を出て近くの公園のベンチでジュースを飲みながらくつろぐ二人。その脇には大量の買い物袋の山。
「服とかカバンとかいっぱい買ってるけど、こんなに使うのか?っていうか、ガラクタもいっぱいあるし。」
「ガラクタ?どれのことかな?」
「ほら、これとか。」
律はムギの買い物袋からカエルの人形を取り出した。
「お前は唯か。」
「む~。この猫の置物は可愛いわよ。」
「ただの古びた招き猫じゃないか。梓でも拝んでたほうがよっぽど可愛いぞ。」
「なら、この魔女っ子のバッグは?」
「昔の漫画の応募者全員プレゼントで大量に出回ったやつだ。別に珍しくもなんともない。」
「りっちゃんって結構現実的ね。お金の管理に厳しい。部費も全然使わないし。」
「一般庶民はドケチなものなんですのよ。ムギには分からんだろうがな。」
律はそう言って溜息をついた。お金を湯水のように使えるお嬢様には理解出来ない世界だ、というあきらめだった。
「あっ、そうだ、りっちゃん。今日付き合ってくれたお礼しなくちゃ。」
「別にいいよ。あたしも暇だっただけだし。」
「ううん。今日楽しかったのはりっちゃんのおかげ。だから、これをあげる。ちょっと待ってね。」
ムギは買い物袋の中から小さい箱を取り出した。
「なんだ、これは?」
「古道具を売ってるお店で見つけた安物のブレスレットよ。ほら、二つあるでしょ?これをね、好きな人同士でつけると、一生幸せになれるんですって。片方あげるわ。」
「一生幸せって、それカップルとか夫婦でつけるものだろ?女同士でつけても意味ないって。」
「そんなことないわ。同性同士でも効果があるって書いてあるわ。友情の証よ。」
ムギは説明書を律に示しながら言った。
「それとも、りっちゃんは私のこと嫌い?」
「分かった分かった。ありがたく頂戴します。」
律はブレスレットを押し頂くようにしてポケットにしまった。
「ごめんなさい。この後予定があるから行かなくちゃ。じゃ、また明日学校で。」
「ああ、気をつけてな。」
ムギは買い物袋を持って駆けていった。沢山あるにも関わらず平気な顔をして持っていることに、律は今更ながらに苦笑した。
「(このブレスレット、どうしよう。)」
律はポケットのしまったばかりのブレスレットを取り出して、しげしげと眺めてみる。シンプルな銀色ではあるが、洗練された美しさがある。
「(明日つけていこうか。服装云々はこれくらいなら関係ないだろ。綺麗だし、気に入った。)」
律は今度は大事にポーチの中にしまい、家族が待つ自宅へと歩き出した。
翌朝・・・・
「「(なんだろう、この感覚。胸が熱い・・・!!)」」
昨日のブレスレットを手首に巻き、制服に着替え登校する律とムギが同時に感じた感覚。本日の騒動の芽は着実に育っていた。
続く