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[21751] 提督が往く!(R-TYPE TACTICSⅡ二次)【完結・外伝投稿】
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2011/07/19 00:18
チラ裏からお引越ししてきました。
アルカディアで初めて小説書かせていただきますヒナヒナと申します。

R-TYPEの小説が読みたい、でも少ない。
ならば、自分で書けばいいじゃない。
という思考のもと、本作を連載せていただきました。

チラシの裏で前編を連載していたのですが、
長くなりそうなので後編からはこちらにお引越しさせていただきました。



・前編 :グリトニル攻略戦まで。ギャグ主体、登場人物はかなり壊れています。
連載初期の為、文章が安定していません。作風に迷いが見られます。
・後編 :琥珀色の風まで。前半はギャグ色が多少、後半はシリアス重視です。
・番外編:挿話をオムニバスとして読んでください。連載中。時系列が不安定です。


下記の事項にご注意ください


・R機が活躍しないR-TYPE二次小説 提得小説です。

・作者にはメカ、戦術、軍事に関する知識が不足しています。
・作者はR-TYPE tacticsⅡしかプレイしていません。
 初代R-TYPEとR-TYPE⊿をPSPで試しましたがあえなく途中で撃沈しました。
・基本はSLGのR-TYPE tacticsⅡに準拠しますが、設定などがSTGのR-TYPEシリーズ等と混ざっています。
・故意に似せることはありませんが、他作品から影響を受けている可能性があります。
・キャラが壊れている恐れがあります。(特に前半)
・ネタバレがあります。
・作者の妄想成分が含まれます。(特に番外編)
・前編と番外編はもはや別物です。



暖かく見守っていただけると幸いです。



※2011.5に本編完結しました。不定期で外伝を上げる予定となっています。




ひっそりとドロップアウト作品『プロジェクトR!』をチラ裏に投稿しました。
超不定期更新です。



[21751] 1 プロローグという名の世界観説明
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2010/11/05 01:24
遠い未来の話…

異相次元探査艇フォアランナにより銀河系ペルセウス腕の中央付近で超束積高エネルギー生命体‘バイドの切れ端’を採取。出港から20年をかけて帰還する。
同時期に地球からフォアランナ探索地点で未知の生命体が観測された。
この生命体群は膨張と増殖を繰り返していた。
そして指向性が見出されるに至り、この生命体への人々の関心は強まった。
探査艇フォアランナの持ち帰った‘バイドの切れ端’を調査すると、
非常に強い排他的攻撃性をもつ生命体であることが判明した。
バイドの群れは脅威的なスピードで増殖移動を繰り返し、太陽系があるオリオン腕に進入した。
人々は戦慄した。
広大な宇宙で無限に進路のとりようがあるにもかかわらず、
太陽系を横切るような進路をとっていたのである。
未知の生命体への強い関心は、この時バイドという名の恐怖に変わった。


バイドの侵攻を食い止めるべく統一政府地球連合は対バイド兵器の開発を急いだ。
Team R-TYPEと呼ばれる開発組織によって開発された次元戦闘機Rは、
その機動性と戦艦の主砲並みの「波動砲」、
そして、バイドを利用した兵器「フォース」によって、
バイドとの戦いでめざましい戦果をあげた。
しかし、局地的な戦闘の積み重ねでは、
大挙するバイドの攻勢を退けることはできず、
大局的には人類は追い詰められていった。

人類はバイドを討つため、
最後の希望と、残された僅かな兵力を若き司令官に託し、
バイド星域の奥深くへ送り込んだ。
それから数ヶ月、数年が経つうちに、太陽系に現れるバイドの数は減っていった。
人類はようやく訪れた安らぎの日々に歓喜した。


…しかし、それは長くは続かなかった。


バイドを人類の兵器として利用する、“フォースシステム”。
バイドとの戦いが少なくなってからも、
地球連合軍はこの強大な兵器を手放すことができなかった。

バイド兵器を巡って世論は二つに割れた。
未知なる敵からの侵略に備え、
積極的にバイド兵器を保持・開発し続けようとする地球連合軍と、
バイド兵器を破棄すべきだと主張するグランゼーラ革命軍とに。
お互いの主張は噛み合うことなく、対立は深まっていった。

そして皮肉なことに、人類同士の戦争が始まった。

二つに分かれた人類は、新たな兵器を開発し続け、命を奪い合った。
戦いは泥沼化し、戦火は太陽系全域に広がっていった。




________________________
はい、TACⅠ,ⅡのOPですね。
R-TYPEシリーズはその難易度と、
どうあがいても絶望な世界観が売りなので、
めちゃくちゃ重いプロローグになってしまいましたが、
本編ではもっと軽くなるのでご安心を



[21751] 2 隊長と演習
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2010/09/13 00:17
・隊長と演習


私は地球連合軍で特別連隊隊長を務めている。
地球圏の平和のためにグランゼーラ革命軍の連中と戦うのが、仕事のはずなのだが…
私と私の連隊は現在、演習に参加せよとの命令を受けて地球上空に向かっている。
そこで詳しい連絡を受けて地球極東地区の海上で演習をするとのことだ。
連隊といっても、ヨルムンガンド級輸送艦が1隻のみの寂しいものなのだが。
ちなみに地球連合軍では艦が複数あれば、その指揮官を提督と呼んでも差し支えないらしい。
輸送艦隊を指揮する提督ってなんかやだなぁ。


「隊長、作戦空域に到着しました!」
副官のジェラルド・マッケラン中尉が必要以上の大声で報告する。
今まで副官をしていたホセ中尉が負傷で艦を降りたため、
この暑苦しい新副官を使わざるを得ないのだ。
しかも、初の副官業務ということで、気負っているのか、
ただでさえ大きい声が、さらに大きくなっている。
…そういえば昔の拷問で大きい音を聞かせ続けるというのがあったな。
私は、今部下から拷問を受けてるのだろうか?

「よし、本部に連絡。演習とはいえ作戦だ、各員漏れの無いようにチェックをしておくように」

私は澄ました顔して命令を出した。
ちっ、マッケランの声が大きすぎるから私まで大声になってきたじゃないか。
だいたい、大規模任務で神経をすり減らしたと思ったら、いきなり演習とか、あり得ない。
こうなったらこの苛立ちをすべて、演習相手にぶつけてストレス解消だ。

早く攻撃をぶっ放したいぜ。
…ヨルムンガンド級は輸送艦だし牽制用の機関砲しか付いていないから、
実際にぶっ放すのは艦載機のR戦闘機だけどな。

「提督、今回の演習相手の極東防衛分隊から通信が入っています。」
「わかった。正面スクリーンに回せ。」
正面スクリーンがまたたく。
「今回はお手柔らかに頼むよ。我が分隊は見ての通り艦も旧式だし、R機も廃棄処理寸前なんだ。」
気のいいおじいちゃんといった風体の相手間の指揮官からあいさつがある。
極東はサタニックラプソディーで壊滅的被害を受けたからな。
大方、人員が足りなくて退役した軍人と、よそで廃棄寸前になった機体を防衛につけたのだろう。
「演習とはいえ任務ですから、手抜きというわけには行きませんよ。ではよろしくお願いします。」
ハハハ。と爽やかに見えるように笑いながら無難に応えて通信を終えた。

演習相手はR機も引退寸前…
ある考えが浮かぶ

マジでやっちゃっていいよね?

そもそも、本部からの命令は『実戦形式でやれ』だし、相手R機は引退寸前。
それならせめて演習用ペイントではなく波動砲で最後の華を咲かせてやるのが人情ってものじゃないか?
波動砲だけ出力を絞っておけば完璧だな。もちろんコックピットに当てるのは禁止だが。
私のストレス解消のため…ではなく、部隊練度の上昇と士気上昇のため命令を下した。

「各員に命令を伝える。今回の演習についてだ。現在地球圏は危機に瀕しており、遊ばせておく戦力は無い。また、本部からの命令は実戦形式でとのお達しである。そこで、演習モードではなく実戦と同様の訓練を行う。実弾を装備し機体設定を切り替えよ。」

艦橋にいるスタッフが一瞬ぽかんとした表情をしたが、すぐに復唱して作業に取り掛かる。
普段から表情を出さずに真面目顔しているお陰で、
誰も私の暴走している事に気が付かないぜ。
実際に仕事は真面目にこなしているしね。

私の横では熱い(むしろ暑い)男マッケランが、なにやら感動していた。
「そこまでお考えとは…自分は感動しました!」
…いや、副官は止めなきゃダメだろ。
私の心の冷静な部分が突っ込みを入れたが、
ここで止められても興ざめなので口には出さない。

演習前の最終打合せで相手のおじいちゃん指令に、
実弾でやりますよー。と一応了承をとるためににこやかに言っておいた。
おじいちゃん指令が笑いながら、何か言っていたが
マッケラン中尉の報告に遮られて何も聞こえなかった。
マッケラン…通信を遮るなよ。おじいちゃん何言ってるか分からなかっただろ。
しかし面倒なのでそのまま、適当に流して通信を終了した。
さて、演習の始まりだ。


___________________________


「! 実弾!?うわー」とか
「反乱か?応答せよ。」とか
「機体がっ…脱出する。」とか


通信機からもれて来たが、実戦で敵通信は感知できないから、
無視して作戦遂行しなきゃねー。
しかし迫真の演技だな。こんなに上手なら演劇の道に進めばいいのに。

怒号や悲鳴が聞こえる中
マッケラン中尉は張り切って戦果を報告しているが、
通信士などは引きつった顔をしていた。



さて、残った敵輸送機のデコイも破壊したし、
輸送艦に射程外からチャージ済みR機で脅して、終了だな。

「おのれ、貴様ら革命軍の内通者だったか。しかし極東は渡さん、こうなれば道連れに…」

おじいちゃん指令が物騒なことを言いながら輸送艦で迫ってくる。
…あれ、マジで?おじいちゃん、実弾演習てさっき言ったじゃん。
混乱している私を余所に、おじいちゃん指令の命令で輸送艦はR機にタックルをかます。
さすがにR機は横に逃げるが、その挙動にビビったのか、
1/2出力の波動砲を発射してしまう。
そして輸送艦船腹のぺラペラの装甲を波動砲が貫通するのが見えた。


「あ」
やべ、殺っちゃった?
そして、ゆっくりと極東の海に落ちて行く輸送艦…


相手の輸送艦に搭載されていたR機はすでに無く輸送艦内はからであったので、
死者は出さずに済んだ。
なんか人が海に大量にぷかぷか浮いてて非常に怖い光景だったが、私達は彼らを救助し、
戦闘反応に驚いて急行してきた、民間の警備組織に、
おじいちゃん指令達を押しつけて、その場をあとにした。


______________________________



演習報告
特別連隊隊長発 統合司令本部宛

本部命令どおり実戦形式での演習を完了。
仮想敵戦力の輸送艦、R機は旧式であり、
また、仮想敵との事前打合せにより
廃棄が前提とのことであったので、
連合軍資材の有効な活用を行うため、
実弾での演習を行った。
この演習により、両部隊とも練度の上昇と、
後方部隊特有の油断を払拭できた事を確認。
仮想敵部隊は対反乱訓練を行った模様で、
司令官以下迫真の演技で、両部隊の
士気を高めた事を評価したい。
今回消費した資材は…


______________________________



私は、報告書を本部に送りつけ海洋上を逃走した。
部下の前では当然だといった顔をしていたが、
内心すごく焦っていた。
この前、デモ隊への攻撃を拒否した大佐は処刑扱いだったし、
さて、軍事法廷への召喚をどうやって避けよう。

しかし、二時間後に本部から命令が届き、お咎めが無いばかりか、
そのまま、次の命令に従えと書いてあった。
あんれー。何も無いの?軍事法廷は?
反乱認定されたら革命軍に逃げ込もうと逃走経路まで考えていたのに。


そんなことより、逃走のため演習場所を離れたので、
補充予定であった副官を乗せ損なってしまった…







__________________________________
ビタチョコの演習ってどうみても撃墜してますよね。
映像処理でディスプレイ上はそう見えるって設定だと思うけど。
本来この段階での副官の呼びかけは「艦長」なのですが「隊長」にしてあります。
だって、ゲーム画面をみると輸送艦には別の艦長が乗ってますし。
作者の中でⅡ提督は真面目ぶっているけれどクレイジーというイメージです。
ひとえにゲーム中の選択肢がおかし過ぎるせいですね。

そして、クレイジーな提督はteam R-TYPEの目に止ってしまいましたとさ。



[21751] 3 提督と副官(前篇)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:4de07f09
Date: 2010/09/13 00:17
・提督と副官(前編)


極東での演習のことで少し反省した私は、
その後粛々と任務をこなし、地球上のA級バイドを撃破したり、
月面での演習でのキチンと行ったり、真面目そうな仕事が評価されたのか月面演習後に、
統合作戦本部から私は将官への昇格が内定したことを通達された。。
それとともに私の「艦隊」へ火星方面の防衛の任が下った。
まだ、輸送艦一隻なのに、本部に「お前ら今日から艦隊だから」と
無茶振りされたせいで、ついに私も隊長から提督になった。
身の丈に合った呼び名って重要だと思う。
本部め…いつか見ていろよ。


あと、艦艇が増やせないかわりに、新型機を導入してみた。
今回私の艦隊に配備されたのは、長射程の波動砲を持つRwf-9D “シューティングスター”と、今まで我が隊の主力だったRwf-9A‘アローヘッド’の上位機種Rwf-9A2“デルタ”だ。


先日、やっと副官が補充された。
そう、極東演習でおいてけぼりを食らった副官で、
ヒロコ・F・ガザロフ中尉という女性士官だ。
早速暑苦しいマッケラン中尉の変わりに副官に抜擢した。
やはり、副官は女性だな。


しかし、連合軍の女性士官服は色気がある。
白を基調として、胸を強調するジャケットに、タイトスカート、ブラウンのストッキングは指定、靴はパンプスだ。
男物は、初めて着た時白の詰襟とかどこの訓練兵だよと思ったが、
あれだな、デザイナーは女性士官服に全力を傾けて、
男性用はやっつけで作ったに違いない。
デザイナーとしてはダメダメだが、男としては褒めてやりたい。


かわいい子は得だ。
遅刻常習犯だとか、ミサイル発注書の取りまとめを頼んだら何故か大量のペイント弾頭が届いたりとか、演習日程を間違えて演習宙域まで第一戦速で向かうはめになったりとか、命令の入ったデータディスク割ったとか、こけて紅茶をぶっ掛けられたとか全然気にならないし。
頬のスレイスレモンを引っぺがし、茶色く染まった提督服をクリーニングボックスに放り投げながら思った。
…そう、ガザロフ中尉は天然だった。
士官学校の主席がこんな小さい部隊の副官とか、他所でなんかやらかしたのだろうか?


______________________________


ガザロフ中尉を副官にして数日、
私は精神的には癒されたが、書類などの実務は増えていた。
マッケラン中尉は暑苦しくて横にはおいておきたくないが、
書類仕事などはなかなか優秀だった。
でもガザロフ中尉に「提督、ありがとうございます」とか言われると、
すべてを許してしまう私がいる。
本当にかわいい子は得だな。


そんなことを、真顔で書類を読みながら考えていると、ガザロフ中尉が
「提督、指令が届きました。どうぞ。」
といって指令文章の入ったデータファイルを指令席の端末送ってきた。
「基地建設システム“シヴァ”か」
私は周囲に聞こえないようにこっそり呟いた。


_________________________________



「さて、今回の任務は基地建設システム“シヴァ”の運用実験の護衛だ。
ちなみに“シヴァ”は最高軍事機密であるので、外には漏らさないように。
“シヴァ”はコアと呼ばれる施設を元に簡易軍事拠点を短時間で建設できる。
もちろん簡易システムなので、永続的には使用できないが、
一回の戦闘の間くらいは十分に耐える強度をもっている。
問題は“シヴァ”の運用には工作機が必要なことと、
資材として高密度のソルモナジウム結晶が大量に執拗なことだ。
コアについては運用試験の結果次第で、要所に配備されるのだろう。」


ここまで言って紅茶で喉を湿らす。
私は今、会議室で副官達や艦長に今回の作戦の概要を説明をしていた。
普通、こういう説明は副官や技術関係の士官がするんだけど、
今回の件は機密もあるし仕方ない。
「“シヴァ”運用中に敵襲があると考えてもよろしいのでしょうか!?」
とマッケラン中尉。
機密なんだから、せめて普通の声の大きさで話せよ。
普通の人が話しても声はもれないけど、お前はダメだ。
防音壁?そんなもの輸送艦にはありません。
輸送艦とは、いかに効率良く荷物を運べるかに特化した船体なんだから。


「あれだけの規模だ。“シヴァ”の情報がグランゼーラ側に漏れている恐れがある。万が一、敵襲を受けた場合は、そのまま実証試験に切り替わることも視野に入れておこう。」
“シヴァ”は撒き餌で私たちはモルモットなんじゃないのか。
そう思ったが、もちろん口には出さない。
いかんな、最近二重人格化が進行している。
「では敵襲に備えての配備はどうしましょう?」
「輸送艦は第一コアの側でR機とともに待機。工作機にはRfw-9Aあたりを直衛に回す。あとはコアの中にも何機か入れておこう。これで、敵襲があっても戦闘可能だ。」
ガザロフ中尉の疑問に私が答えた。
その後も、いくつか質問があり作戦をつめていった。


ちなみに、ガザロフ中尉がこの会議に焼いてきてくれたスコーンはなぜか、変な味がした。
紅茶の助けで、何とか飲み込めたが、しょっぱいしなんか臭いし…


会議後に聞いてみると、元気良く応えてくれた。
「あ、分かりました?おばあちゃんから貰ったミソペーストを隠し味に練りこんでみました。どうでしたか?」
「…もちろん、美味しかったよ。」
「本当ですか。次回はもっといっぱい作ってきますね。」
私は、いつもの表情偽装スキル使用しながら、心で涙を流した。
君とは隠し味の定義から話すべきだな。









================================
前回はマッケランだったので、今回はガザロフ中尉です。

はい、前書きで基本一話完結と書いたのに、3話目にして破りました。
スミマセン。

個人的には地球連合よりグランゼーラの制服の方が好きなのですが、地球連合のあのデザインはあれで好きです。
よくスペースオペラもので女性士官がヒールを履いていますが、あれで戦闘したら足を捻ると思うんです。いくら無重力でも踏ん張れません。その点、ちゃんと地球連合はヒール無しのパンプスだし、スカートもスリットでなく、マチ(っていうのかな)が付いているもので、動きやすく見えないようになってます。機能美ですね。



[21751] 4 提督と副官(後篇)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:37288319
Date: 2010/12/16 21:52
・提督と副官(後編)

私は“シヴァ”が建築されていく様を輸送艦の指令席から眺めていた。
デルタ小隊を護衛につけた工作機が忙しそうに飛んでいる。
そろそろ実験開始時刻だ。
これからユニットと呼ばれるレーザー、ミサイル、レーダー、ドックなどの
付属設備を建造し、それが有効かを試すらしい。



暇だ。
私はあのソルモナジウム鉱石をどうやって瞬間的にあんな形にするのか。とか
ドックとか中で誰が整備すんだよ。とか
レーザーは要らない子。とか
艦内で色々考えていた。


正直、問題も起き無いうちは仕事が無いのだ。
もちろん、周囲の警戒は続けているが、これだけの宙域を私たちのみで警戒するのは無理があるのだが…
しかし、デブリ帯とはいえ、これだけの大きなものを作っているからには、
いつグランゼーラが嗅ぎ付けてもおかしくない。
早期警戒機R-E1‘ミッドナイトアイ’で周辺を偵察させているが、
現在のところ、何も捕らえていない。
もちろん部隊の目をつぶされてはたまらないので、遠くには行かせられない。
あんな紙装甲では出会いがしらの一発で、全滅しかねないからな。


しばらく、順調に基地が増産されるのを見ていた。
その時、偵察していたミッドナイトアイから緊急連絡があった。
私は、うむ、とうなずいた後、何があったのかガザロフ中尉に尋ねた。
「提督!敵襲です。敵はグランゼーラの艦艇。」
ガザロフ中尉がてきぱきと報告する。
「索敵外のため、戦力は不明ですが、艦隊規模かもしれません。」


敵戦力が発見された方角を見て顔をしかめる。
あちらには、“シヴァ”の別のコアがある。
こちらの兵器を奪われて、やられたら目も当てられない。
ここは多少の被害を承知でR機で即効勝負を決めるべきか?
いや、敵戦力が分からないから、機密とはいえ“シヴァ”を利用するべきか…?
私がとりあえず戦闘準備をさせながらそんなことを考えていると。
「提督、敵はおそらく小型艇で構成された艦隊です。R機だけでは被害が出ます。“シヴァ”を使用し、敵戦力を殲滅することを提案します。」


緊張しているようだがはっきりした声で、ガザロフ中尉が発言した。
「ふむ、ガザロフ中尉。小型艇というのはどこから推定したのかな?」
「はい、この宙域はデブリ帯に囲まれており大型艦の運用は困難です。この宙域に来るまでに基地の側を通らなければなりませんがこれも大型艦には無理です。画像では戦闘機のような影もかなりの数映っており、とても小型の艦艇一隻には搭載できる量ではありません。このことから小型の艦隊ではないかと推測しました。」
「わかった。君の案を採用しよう。」


私はマイクを握ると艦内に放送した。
「諸君、現在グランゼーラの艦隊が護衛対象である基地システム“シヴァ”を奪取せんと仕掛けてきた。グランゼーラ軍は“シヴァ”システムの一部をすでに乗っ取っていることが予想される。よって我々も“シヴァ”を使用し迎撃・敵戦力の殲滅を行う。R機は当方工作機の護衛と、敵工作機の破壊を行う。“シヴァ”の相手は“シヴァ”にさせる。総員健闘を祈る。」
なるべく自信満々に聞こえるように作戦を伝える。
しかし、天然のガザロフ中尉がこんなにしっかりしているとは意外だった。彼女は実戦型の人間だったようだ。




私はデルタ隊を主力とした本隊と、基地に伏せておいたシューティングスター隊で、散発的に仕掛けてくるグランゼーラの戦闘機を排除しながら基地の建設を急いだ。


グランゼーラ戦闘機の主力は、可変戦闘機TXw-T‘エクリプス試作機’と爆撃機R-9B1‘ストライダー’だ。
エクリプス試作機はようは加速機構が付いたアローヘッドで、
波動砲を装備しているのだが、奴らは味方の被害をものともしないでぶっ放してくる。
別にエクリプスに限ったことではないのだが、クレイジーな奴らだ。
実はグランゼーラのパイロットは頭をTeam R-TYPEに弄られた戦闘狂で、
Team R-TYPEに復讐を誓ってグランゼーラに参加したのだ。というジョークを聞いたことがある。
Team R-TYPEという言葉が入るだけで、どんな与太話もあり得そうな気がするな。
さすがは変態科学者集団。


ストライダーは長射程・高威力の核弾頭ミサイル、バルムンク試作型を装備しており、うっかり敵の索敵に引っかかると、もれなく核弾頭が飛んでくる。
バリア弾も驚異だ。波動砲などは防げないが、並のミサイル、レーザーなどはそのエネルギー障壁によって阻まれる。
もともとバリアの構想はTeam R-TYPEでもあったらしい。
なんでもバリア波動砲なるものを作ろうとしていたとか、結局、技術的問題だかで使い物にならなかったそうだ。
そしてグランゼーラに転向した科学者がバリアをいう構想のみ受け継いでバリア弾を作ったというわけだ。


バルムンク型ミサイルはその大きさから一発しか搭載されていないのだが、ヒット&アウェイでバルムンクを連発してくる。POWアーマーに搭載できる量ではないし、輸送艦を潰しても沸いてくる。
やはり“シヴァ”のコアを乗っ取り、補給基地として利用しているのだろう。



「提督、敵機地ユニット群を発見しました。」
基地ユニットが敵陣に向かって伸び、相手の基地ユニット群とぶつかる。
基地システムは互角、戦闘機戦力もなんとか互角に持ち込んだ。
互いに一進一退して譲らない。打開策が必要だ。
我々地球連合軍の長所はフォースがあること、波動砲が標準装備であることだ。
瞬間的な突破力には非常に優れている。
しかし、波動砲はチャージ時間がかかるし、フォースも遠距離への攻撃には向かない。
ピンポイントで弱点を攻撃しないとならない。


「R機で基地ユニットを破壊せよ。攻撃をコア近くの連結部に集中せよ。当方基地ユニットはR機を援護せよ。」
基地ユニットからミサイルやレーザーが飛び交っている。
私が指揮している輸送艦からもデルタとシューティグスターが続々と補給を終えて飛び立つ。
敵の猛攻をかいくぐったシューティングスター部隊が遠距離から目標連結部を撃つ。
…さすがに腐っても基地。波動砲の一撃にも耐えた。
2隊ほど、迎撃されて被害を出しているが、
その間から、デルタが肉薄し、波動砲を撃った。
連結部が吹っ飛び、そこから伸びていた基地ユニットが崩壊する。
ミサイルやレーザーが止み、空白が生まれた。


「コアユニットの奪還が最優先だ。全機工作機を援護せよ!」
コアユニットさえ取り返せば、あとはR機で殲滅できる。
残ったR機が波動砲で牽制をしてエクリプス試作機を近づけさせない。
高速で飛び回るエクリプス試験機にはなかなか当たらないが、
敵も回避に必死でコアに近づけないようだ。
「提督!コアユニット制圧しました。我々の勝利です。」
「いや、まだだ。“シヴァ”は最高機密だ、情報を持ち帰らせるわけにはいかない。残存勢力を殲滅せよ!」
そう、私のクビが掛かっている。
ちなみに場合によってはクビではなく、「首」が掛かる。
また、軍法会議召喚の危機か…
しかし、エクリプス試験機は作戦失敗と見るや、踵を返して逃げた。
波動砲はチャージが間に合わず、デルタやシューティングスターで回りこめない。
「ミサイル斉射だ。逃がすな!」
R機のミサイルの雨がエクリプスに降り注ぐ。


次の瞬間、もはやエクリプス試作機の面影はなかった。
そこにあったのはピンク色に染まった、なんともファンシーな戦闘機だった。
「は?」
艦橋から疑問符が溢れかえる。
「ペイント弾!?どういうことだ?」
みな呆けてしまった。その隙にエクリプスはブースターを再点火し、
私達の攻撃範囲外に逃げていった。


「…どういうことだ?」
今度は微妙に声が震えていたと思う。
私の声に応えるように、艦橋中の視線がガザロフ中尉に集まる。
「あの…、もしかしたら、先日私が誤発注してしまったペイント弾頭が装備されてしまったのかと…ごめんなさい!」
「そんなこともあったな。送り返したのではないのか?」
「整備班長に相談したら、あとで盛大に部隊内演習でも開くから良いと言われまして。」
「…」


頭を下げ続けるガザロフ中尉をよそに、
私は遠い目をしていた。
最高機密ばれたわけだしな…軍法会議かな。
本当にグランゼーラに転向するか?
ダメだよなぁ、たった今グランゼーラの艦隊を撃破したばかりだからな。


ばれた時怖いので、偽装するわけにも行かず、
私は報告書と、戦闘データを統合指令本部に提出した。
今回はR機にかなりの被害が出ているので、
基地内で修理が終わるまで、この場を離れるわけにもいかない。


とりあえず先任副官として、マッケラン中尉にガザロフ中尉の事務処理教育を任せて、
私は事後処理を行いながら沙汰を待っていた。



本部からの通信で、次の指令が来た。
火星に向かえとの命令だが、
“シヴァ”についてなんにも触れてこないのが逆に怖い。
そればかりか、補充人員まで付いていた。
本部は何をしたいんだ?




==============================
そういえば、R-TYPEと冠しているのに2話目とかR-9もアローヘッドという名前すら出てこなかったんですね。反省しました。
2話目でR機とあるのはRwf-9A“アローヘッド”のことです。
STGのR-TYPEではたしかアローヘッドの型番はR-9でしたが、
TACTICSではRwf-9Aに変更されています。wは波動砲(wave cannon)を、fはフォース(force)をそれぞれ装備しているという意味みたいですね。



[21751] 5 提督と休暇(訂正版)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:80eae712
Date: 2010/09/21 22:33
・提督と休暇


先日の“シヴァ”襲撃事件の後、新しい艦長が補充された。これで艦隊が組める。
地球連合の艦長は、パイロットなどと同じく技能職だ。
緊急時ではない限り、一般士官が艦長に付くことはない。
ちなみに艦は付いてこなかったので、自前でやりくりしろと言うことらしかった。
今のところの予算の範囲内で、私は駆逐艦UFDD-02 ‘ニーズヘッグ’を導入した。
この艦はR機の積載能力は無いが「亜空間バスター」と呼ばれる特殊兵装を装備している。
その名の通り、亜空間にいる敵に対して絶大な効果がある。
グランゼーラでは亜空間機の開発が遅れており、今のところ脅威ではないが、
バイドの中には亜空間から襲ってくるものが確認されている。
対策を行って置くのも、良いだろう。
やっと輸送艦暮らしが終わる。


…と思っていたのもつかの間、
戦闘艦の中では一番小型の駆逐艦といえど、優に輸送艦の倍はある。
火星に向かうに当たっては、デブリ宙域などがある場所を通る必要がある。
万が一グランゼ-ラに待ち伏せされた時、
駆逐艦では動き回るのは骨だし、R機を搭載出来ないので逆に戦力に不安が出る。
駆逐艦で戦闘指揮をとるのは危険すぎる。
という内容を航海担当士官に提言された。
私は泣く泣く指揮を輸送艦でとることとなった。
いましばらく輸送艦暮らしは続きそうだ。

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船乗りという職業は休日というものが無い。
一度航海に出るとぶっ続けで働き続け、港に帰ると長期の休暇を満喫するのだ。
一応航海中にも非番の日というのはあるのだが、
何処にいけるでもなく、ただ仕事が無くなる日を指す。
もちろん時代が変わり宇宙航行艦と呼ばれる乗り物になっても同じだ。


私は久々の非番を取り、提督業務を艦長に一時譲渡してきた。
そういえば、何故か私の艦隊には参謀がいない。
艦長らと副官たちが一応参謀扱いになるのだが、私が戦死したらどうするんだ?


本を読むのもいいが、せっかくの非番だ、普段行かないところでも見て回るか。
新しい人員も増えたことだし、探索してみるのも悪くない。
私はいつもの将官服と提督帽ではなく、作業用ジャケットを羽織って部屋を出た。


さて、普段行かないところといえば、格納庫だな。良し行ってみよう。
私は居室から船体後部にある格納庫に向かう。
しかし、誰も私が提督だと気が付かないな。
いつも提督帽を目深に被っているからか?
普通の格好しているはずなのに、変装しているみたいな気になってくる。


格納庫はR機が待機しているハッチと、後方の整備ドック、弾薬庫からなり、それらに付属するパイロットのブリーフィング室、シミュレーター室などがある。
この輸送艦はそもそも輸送任務なんてほとんど行わないので、ほぼR機専用になっている。
ちなみにフォースは隔離区画にコントロールロッドを天井に向けて固定されている。
フォースが禍々しいという人もいるけど、私にとってバイドに対する希望の象徴だし、純粋に美しいと感じる。


ブリーフィングルームではガザロフ中尉とマッケラン中尉が事務処理練習をしていた。
なぜか発声から練習をしており、副官の心構えと書かれたホワイトボードがあった。

「常に胸を張って、姿勢正しく!」  
「報告は発声を正しく、良く聞こえるように!」
「服装はいつ何時呼び出されてもいい様に!しっかりと!」 

もっともだがそこじゃないぞ、マッケラン。
なぜ、形から入るんだ。
私がガザロフ中尉に教えて欲しいのは、
事務処理の優先順位とか、書類の通し方とか、チェックの仕方とか、そういうこまごまとしたコツだ。
…心の中で突っ込んだものの、異様な空気だったので、つい無視してしまった。
すまない、ガザロフ中尉。


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しばらく歩いていくと弾薬庫の前に、巨大なコンテナの山があった。
「ペイント弾頭。第二次ペイント弾祭り資材のため使用禁止! 整備班長」
アレか。ペイント弾祭りってなんだ。しかも第二回って…
もしかして“シヴァ”襲撃事件のが第一回にカウントされているのか?
第二回は模擬戦の類と思うが、ペイントを落とすのは整備斑なのでは?
自分で自分の仕事を増やしてどうする。何を考えているのか。


POWアーマーだった。なぜか磨き上げられてピカピカだ。
補給機POWアーマーは第一次バイドミッションから現在まで現役のもっとも歴史ある機体のひとつだった。
ぼんやり見上げていると、後ろから声をかけられた。
「若いのにPOWに興味があるとは感心だ。」


振り向くと、油だらけの作業着に、白の入り始めた髪を短く刈った、妙に存在感のある中年男性だった。
「見慣れないが、補充された技術士官かなにかか?」
「補充された訳ではないのですが、私は…」
「名前なんていらんいらん。どうせ士官の名前なんて覚えてられん。オレはここで整備班長をやっている。おやっさんと呼ばれているな。おやっさんていうのは伝統的に整備班長のことを指す敬称だ。こう呼ばれて初めて整備員をまとめられるんだ。」
聞いていないのに一気にしゃべられた。
しかし、補充士官って…、ああ士官服のズボンに作業ジャケットだからか。
ちなみに私は部屋着以外の私服はこの艦に持ち込んでいない。
私服なんて着る機会がまったく無いからな。


「そうですか…。気になったのですがなぜPOWアーマーだけピカピカなのですか?」
非番かつ相手が明らかに年上なので敬語を使っておく。
「機体はPOWに始まってPOWに終わる。POWほど美しい機体はない!」
渋いミドルからいきなり電波を受信したようなテンションになった、おやっさん。
はぁ、と間の抜けた相槌しか打てなかった。
「そういえば、POWアーマーの上位互換機種が開発されているらしいですね。」
とりあえず、食いつきそうな話題を振ってみる。
POWの互換機種として開発中のサイバーノヴァだ。機動力の高いR機に合わせて、機動性を高くした機体だ。命綱のデコイはそのままだが、意外と空間を取る情報網介入システム…いわゆる占領機能はオミットされるということ。実戦投入はまだだがすでにテスト機が実働しているらしい。
「ほお、若いの、良く知っているな。」
「立場上知らないといけないので。」
苦笑しながら言う。おやっさんの中で私は新米技術士官と決定したらしい。
まぁ、面白そうな人だからそのままでいいか。
いつの間にか私とおやっさんは工具箱に座ってPOWについて語っていた。
おやっさん仕事はどうした。


「まだ若いな!POWの魅力はあの潔さだ、補給機能にデコイ徹底して戦いを避けつつ最前線へ進むあの姿…それがPOWだ!」
おやっさんがつばを飛ばしながら語る。
おやっさんと私はかれこれ2時間ほどPOWアーマー談義を行っている。
いつのまにか整備員のギャラリーが集まり、なぜかコーヒーや茶菓子まで用意されている。
「しかし、おやっさん。サイバーノヴァの利点である機動性も捨て難いぞ。補給機が動ければ、その分R機は前線との往復距離が減り、時間当たりの戦力が増強されるだろ。」
もはや、敬語でなくなっている私。
なんか地が出ている気がするが、どうせ非番だからいいさ。
しかし誰も自分達の提督の顔を知らないらしい。
まぁ、誰も整備ドックの片隅で作業服着た提督がいるとは思わないか。
「POWの造形美を見ろ。あのセンサー、つぶらなキャノピー、無駄を廃した優雅な曲線を!」
おお。という感嘆の声が聞こえる。
もはや、会話でなく演説に近くなっている。むしろ新興宗教のたぐいか。
整備員という人種はかくも変態でなくてはなれないのか。


「班長~。酒保の使用許可くださ~い。」
若い整備員がボード式データ端末を持ってやってきた。
「ちょっといい?」
整備斑が盛り上がっていて気づいていないので、ちょっと見てみる。
どうやら職場の長に酒保の時間外利用許可を取りに来たらしい。宴会か何かだな。
これから、会計担当と酒保担当に交渉しに行くのだろう。
会計は強敵だ。私にだって食らい付いてくる。若い兵には厳しい戦いだ。


私は、端末のカードリーダーにIDカードを通して、引き上げ処理をしてから端末を返した。
整備員はちょっと驚いた顔してから、ありがとうございますといって走っていった。
一次許可者が提督なんだから、会計・酒保担当もすんなり通るはず。
この前補給したばかりで余裕もあるからな、これくらい良いだろう。



私は、何か熱血している整備員たちに声をかけてその場を辞した。
中堅の整備員が「おう、兄ちゃんまた来いよ。」といっていた。
もはや何も言うまい。
この雰囲気は嫌いじゃない。また来てみるか。


___________________________________


翌日
「提督!おはようございます!指示をどうぞ!」
ガザロフ中尉が恥ずかしそうに大声、かつ熱血気味に副官業務していた。
後ろでマッケラン中尉がうんうん頷いていた。
私は穏やかに笑って、二人におやっさんのところで一日働くように命令しておいた。
おやっさん、人が足りないとぼやいていたからな。

さぁ、次は火星だ。





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あーあーあー、やらかしたので修正しました。

修正前は駆逐艦には積載機能がないと自分で書いておいて、
この話の舞台を駆逐艦内に設定していました。
積載機能が無いのに、整備がいたり、POWがいるとは是いかに?

ご指摘ありがとうございました。
きっと作者はバイドから精神汚染を受けていたんだネ。
新たな矛盾が発生していないかビクビクしている作者からのお詫びと言い訳でした。


そういえば副官のアッテルベリさんを登場させ忘れていました。
影薄いからしょうがないよね…



[21751] 6 提督と火星基地
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 21:54
・提督と火星基地


輸送艦の船外カメラの映像に火星が映る。
火星は革命軍が発足した火星都市グラン・ゼーラを擁する惑星だ。
「火星に特別感じるところはないな」と呟いたら
副官のアッテルベリ中尉に小官もですと呟き返された。ちょっとびびった。


このアッテルベリ中尉は格納庫に一日修行に出ているガザロフ中尉とマッケラン中尉の代わりを務めている。
ともかく影が薄い男だ。何でもそつなくこなすし問題があるわけでもないのだが…


そもそも月面演習後に配属される予定だったのだが、
彼の乗る輸送艦が予定時間に遅れたことと、人事担当すら彼が来ることを忘れていたため、配属しそこなったとのことだ。
私も月面演習後、副官が補充されるとは聞いていたのだが、同じく前々回の演習で置いてけぼりを食ったガザロフ中尉が配属されたため、もう一人副官が補充されることに気が付かなかったのだ。


その後、私の艦隊を追って、補給艦に乗って追いかけてきて
つい先日の補給の際に私の艦隊に副官として着任した。
…しかし、この艦隊に副官3人とか必要あるのか?
まともに戦艦を運用するような艦隊なら分かるのだが…
まったく本部の考えることは分からない。


ちなみに、アッテルベリ中尉が乗ってきた輸送艦から、シューティングスターの後継機である中距離支援機Rwf-9DH ‘グレースノート’を5機まわしてもらった。

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さて今回は火星基地チューリンの攻略戦だ。
目標チューリン基地火星地下にある軍事基地で、地上構造物もあるが、
機能の大半が地下にある広大な洞窟にある。
地球連合の基地だったが今はグランゼーラの手に落ち、敵勢力圏となっている。


私達は注意深くチューリンに進入した。
今回の相手は亜空間機をもたないグランゼーラ軍であることと、
狭矮な回廊が続く地形ということで、やっぱり輸送艦での作戦行動となった。
今回の指令では敵戦力ヴァナルガンド級の巡航艦を撃退せよとの命令を受けている。


「提督…作戦地点に到着しました。ご命令をどうぞ。」
「今回の目的はチューリン基地の奪還だ、前衛をデルタ隊、援護をシューティングスター隊・グレースノート隊、後衛を旗艦ヨルムンガント級輸送艦として当てる。」

通路にはバリケードが築かれており、敵本隊がいると予想される地点には迂回しないといけない。アッテルベリ中尉から情報が入る。
「あのバリケードは波動砲ならば破壊可能であるようです」
「あの独特の発射音は良く響くから敵に気付かれる可能性がある。こちらの意図を読まれて、無チャージ状態の機体を待ち伏せされたら無駄な犠牲が増える。今回は迂回路を取る。」


私の艦隊は隊列を組み、チューリン基地の内部に潜っていく、
そうしてチューリン基地の底に到達する。直前にレーダー反応を感知。
アッテルベリ中尉が淡々と報告を続ける。

「敵機を発見しました。POWアーマー1、デコイ判定不明」
「デコイの恐れがある。接触せずに撃破せよ。」
敵POWアーマーはフォースに接触しても攻撃をせず、ただ浮いている。
おそらくデコイだろう、そこまでの脅威はないが、自爆されるとやっかいなので、ミサイルなど遠距離から攻撃させた。前衛組のミサイルが直撃し、POWを破壊する。
「敵POWアーマー撃墜、後方に人型兵器アキレウス、POWアーマー発見。」
「この先には基地司令部がある。敵を撃破し、補給基地として占領する。」
POWアーマー破壊のため接近し過ぎていたデルタ各機は、近接戦闘専用機体であるアキレウスの姿を認めると、散会して後退していた。
しかし、地下通路が狭いため後退速度が鈍っていた。爆発が2つディスプレイに写り込む。期を逃さずとアキレウスが一気に詰めよりデルタを撃墜したようだ。
2機を犠牲にデルタは後退し、輸送艦に着艦した。
「デルタ補給に入ります。シューティングスター隊が前進、波動砲発射しました。」
「POWを出せ、基地指令部を解放せよ。」
「基地の開放に成功しました。提督、指令部に立てこもっていた連合兵がいたようです。グレースノートで参戦する許可を要求しています。」
「許可する。前面の人型兵器を撃破せよ。その後各機に基地、輸送艦で一時補給を行わせよ。」


アッテルベリ中尉は表情が無い顔で、淡々と報告するし、私も基本的に感情を表さないタイプだ。もちろん司令官なので多少士気高揚のために演技はするが、基本表情は固定だ。
音量を絞った外部マイクからは、ひっきりなしに爆音や波動砲の音が聞こえるが、私とアッテルベリ中尉はひたすら淡々と指揮を続ける。
空気というのは伝染するもので、初めは叫ぶように報告していた、通信係りや、艦長達も怒鳴るのをやめて淡々とし始めた。
戦闘中の指揮所とは思えない落ち着きすぎた空気。
シュールな空間だ。


「提督、目標捕捉しました。ヴァナルガンド級です。」
「うむ、あの位置は不味いな。デコイでつり出せ」
最奥に待機していたヴァナルガンド級を発見、輸送艦のデコイを使っておびき出し、クロスファイア地点に誘導する。グレースノート隊が敵の索敵外からの波動砲で艦首砲を黙らせる。そしてデルタ隊、シュティングスター隊なども波動砲をぶつける。、
ヴァナルガンド級は黒煙を吐きつつチューリンの底に墜ちた。
R機の通信からヒャッハ-とかヒーハーとかネジが飛んでそうなセリフが聞こえたが、それに便乗するには指令室の空気は冷え切っていた。


_________________________________


敵巡航艦ヴァナルガント級の武装解除を行っていた。ヴァナルガンド級は撃墜された時、低空にあったので、乗組員は比較的無事で捕虜として捕まえた。正直捕虜は扱いが難しいし、面倒なので取りたくないのだが、逃がすわけにもいかないし殺すわけにもいかないので、私の隊で預かる形となった。
ヴァナルガント級は多少修理すればまだまだ使えそうなので、修理させている。


しかし、どうにかこの副官の無表情を変える事が出来ないだろうか?
能面のような顔という比喩があるが、
アッテルベリ中尉の場合は適切ではないだろう。
能面は笑っていたり、憤怒であったりといった感情を表しているものが多いように思う。
彼の場合は何を考えているのか、これっぽっちも分からない。


チューリン基地の回復作業中に、無表情副官のアッテルベリ中尉が呼びに来た。
なんでも、私に捕虜の対応を決めてほしいとのことだった。
捕虜の中で最高位の比較的若い少佐(敵方の提督・艦長らは戦闘中に死亡したらしい)が型通りに「自分が責任をとるから部下の処遇は…」みたいなことを言っていた。
まぁ、普通に監視をつけて後方基地に輸送するのがいいだろう…と思ったが、
その前に、ここはひとつブラックジョークを…


「拷問だ ともかく拷問せよ。」
ぼそっと隣に立つ副官のみに聞こえるように呟いてみた。
これなら嫌悪なり、驚きなり表すだろう。横に立つ副官の顔をちらりと見る。
「了解しました。では自白剤と鞭と蝋燭の用意を…」


待て!何を了解してる!?
というより鞭って何だ?
いつの時代だよ?
そもそも、艦内にそんなものないだろ!
あれ?…もしかして私物?私物なのか!?
誰かの部屋の前を通ったら、音とか聞こえてきたらどうしよう?
よし、アッテルベリ中尉の部屋は、他の士官とは隔離だ!
蝋燭は他の用途があるけど、
そもそも、一部区画を除いて宇宙航行艦は裸火禁止だから!
スプリンクラー回るし!
はっ、まさかその行為は、格納庫とかで行われているのか?
そんな!開放空間でなんて怖すぎるぞ。
うっかり見てしまったらトラウマ間違いなしだ。
自白剤だって普通艦隊には無いだろ!
そんなのを使うのは、諜報部隊か、Team R-TYPEくらいだろ!
ま、まさかアッテルベリ中尉はあの狂科学者達の仲間なのか!?


一瞬の内にそんな考えが浮かび、混乱と妄想で真っ青になる私。
それを見てアッテルベリ中尉が、例の感情のない顔で聞いてくる。
「提督、お疲れなら小官のほうで処理しておきますので、お休みになられた方が…」
「い、いや!冗談に決まってるだろ。アッテルベリ中尉。彼らには条約に基づいた処遇を!」
処理って何だ。そんな考えを振り払い、
早クチで改めて命令する。
うっかりするとこの副官は実行してしまいそうだ。


それから、私は怒涛のごとく基地機能の回復や、捕虜の輸送、艦艇・R機の修理について命令を出した。
とくに、捕虜の処遇には気をつけて丁寧に扱い、早急に後方基地に送った。
落ち着くと、余計なことを考えてしまいそうだった。


基地機能の回復と艦隊の整備に数日間チューリンに留まったのだが、
私は寝不足と、過労で寝込んだ。


_____________________________________________


私が目を覚ますと、金縛りのように体が動かない。声もなぜか出ない。
首だけ巡らして周囲を見ると、そこは私の居室ではなくどこかの基地の一室みたいだった。
金縛りと思ったのは、手術台みたいなものに四肢と首を固定されているせいだった。
どうにかならないかと拘束をはずそうとしたり、助けを呼ぼうとしたが無駄なようだ。
頭がクラクラする。体が火照って熱っぽい。
どうして、こんな場所にいる。
私は疲れが溜まっていたので居室で早々に休んだはずだ。
それからの、記憶が無い?
グランゼーラの残党に拉致されたのだろうか?
いくら疲れて寝てても、拉致されて起きないほど私は鈍感ではないぞ。どうなっている?
遠くから規則正しい足音が近づいてくる。
救援か?マッケラン中尉かガザロフ中尉が気づいてくれたか。
それは扉の前で止った。
扉が開き現れたのは助けでなく、何故か士官服の上に白衣を着たアッテルベリ中尉だった。
出ない声にイライラしながら、アッテルベリ中尉を見やる。
アッテルベリ中尉が無表情のまま、声だけ楽しそうに語りかけてきた。


「おはようございます提督。気分はどうですか?自白剤を使ったので記憶に混乱があるかもしれませんが、じきに薬が抜けますからご心配はいりません。しかし提督、様子がおかしいと思ったら小官がTeam R-TYPE所属だなんて、良く気付きましたね。その推理力は大変すばらしいと思います。しかし、残念ながら我々の研究の障害になるものは取り除かなければなりません。安心してください、艦隊の皆さんには栄転で、本部の所属に変わったと伝えますから。もちろん提督の献身も無駄にはしません、ちゃんと小官が新型試験機のインターフェイス実験に貢献させてあげます。 さぁ、実験開始です。」


私の上にあるライトが一段と明るくなる。
アッテルベリ中尉が私の顔を覗き込むように迫ってきた。
逆光で表情は分からない。
そして、いつの間にか持っていたメスを私の眉間に…


























_______________________________________________


…そんな夢を見た。


起床時間よりだいぶ早い。
ものすごい汗をかいて、気持ちが悪い。口の中がからからで喉が張り付くみたいだ。
しばらくしても体の火照りと眩暈が取れないので、医務室に行ったら、
軍医から過労から来た風邪だから寝ておけば直ると言われて、解熱剤を貰った。
現在、担当の副官はまだアッテルベリ中尉だが、彼に連絡するのは、非常に躊躇われたので、
先任副官ということでマッケラン中尉にメールを送り、ダウンしたことを伝えた。


私はしばらくアッテルベリ中尉を避けつつ提督業務を行っていた。
例の品々を秘密グッズとして、購買の下士官が売っているのを知り、アッテルベリ中尉への疑惑が晴れたのは1週間後のことだった。
しかし、自白剤だけは売ってないみたいなので、恐る恐るアッテルベリ中尉に聞いてみたら、チューリン基地の規模なら、尋問室か医務室に置いてあるとの事だった。
…なぜそんなことを知っていたのか。
また疑問が増えてしまった。





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前回出し忘れに気付いたアッテルベリ中尉の回です。

はい、反省しています。
プロットでは、こんな話ではなかったはずなのですが…
アッテルベリ中尉は空気だったはずなのに、なんか濃ゆくなっちゃった

このまま、
提督失踪→ワイズマン配備→「この機体って、パイロット見ないよね」
っていう流れでも良いような気になったのは秘密です。
ある意味、その方がR-TYPE的には正しいのかもしれないですけど。
結局、話が明後日の方向へ飛んでってしまったので、最終兵器「夢オチ」を使いました。

…ところで、正直この小説って戦闘描写必要ですか?



[21751] 7 提督とグルメさん
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:52
・提督とグルメさん


火星基地チューリンでの奪還任務を終えた我々への次の任務は、
要塞ゲイルロズの奪還だ。
この任務に私は腑に落ちないものを感じた。
何故なら、我々がチューリンを確保している間に、
政治犯収容施設を含む火星都市‘グラン・ゼーラ’が、グランゼーラ軍に奪われたからだ。
惑星の反対側のこととはいえ、火星方面防衛艦隊である我々が、向かうのが普通だと思うのだが、
本部は火星方面防衛の任を解き、わざわざ、木星―土星間にある要塞ゲイルロズの奪還に向かえと言っている。
グランゼーラは外惑星に多くの拠点を持ち、土星圏はすでにグランゼーラの勢力圏内だ。


なぜ、あの時期に演習を立て続けに行ったのか。戦争中にも関わらずだ。
なぜ、元々R機連隊であった我々に不相応な任が当てられるのか。
なぜ、その他の艦隊を差し置いて、最新機が優先的に配備されるのか。
なぜ、極東演習の件や‘シヴァ’襲撃事件での失態が見逃されているのか。
なぜ、小規模艦隊である我々の元に、将来有望な副官が次々に送り込まれるのか。
なぜ、私が准将なのか。いくら戦死者が多いといってもこの若さで将官は異常だ。


これではまるで、英雄ジェイド・ロスの辿った道のようではないか。
本部は、士気高揚のため英雄でも作ろうとしていのだろうか。
そのわりに宣伝工作は行われていないようだし。
一艦隊でちまちま攻撃するより、艦隊を派遣して一気に片をつけた方が盛り上がる。
しかし、各艦隊は地球周辺の防衛任務に就き、守りを固めている。


本部は何を考えているのか?
我々に何をさせたいのだろうか?


_________________________________________________________


そんなことを考えながら、ガザロフ中尉の淹れてくれた紅茶を飲みながら居室で資料をまとめていた。
…スコーンの山は後で、整備斑にでも差し入れよう。
ここは火星で手に入れたヴァナルガンド級の居室だ。
ヴァナルガンド級は艦首砲のヴァーン砲や各種武装を装備した巡航艦で
ちゃんとR機の積載機能がある。


私の艦隊はそろそろ木星圏に突入しようとしている。
ここに来るまでにアステロイドベルト帯とイオで2戦あった他は今のところ静かなものだ。
要塞ゲイルロズは今まで何回か他の艦隊が攻撃を仕掛けたが奪還できなかった。
要塞の名前は伊達じゃないらしい。激戦が予想される。
そのため、弾薬を節約するために木製の雲の下を通り、グランゼーラ軍から隠れて進軍する。


火星のチューリン基地を出る前にだいぶ戦力強化を行った。
木星衛星イオの地熱発電施設でも、人員と戦力の補充を受けた。
新たな副官と艦長とパイロットチームだ。
新しい副官はディアナ・ベラーノ中尉という大人の魅力を振り撒くお姉さんだった。
彼女は着任そうそうに値踏みするような眼で私の事を眺めていたが、
にっこり笑って声を掛けてくれた事を考えると、彼女のお眼鏡にはかなったようだ。


このヴァナルガンド級を鹵獲したのをはじめとして、
単機での亜空間突入が可能である強化戦闘機Rwf-9Ac ‘ウォーヘッド’を回してもらったし、
木星衛星イオでは対バイド戦において高い攻撃力を誇る火炎武装機Rsf-9Sk1 ‘プリンシパリティーズ’、同型機がバイドミッションへの参加経験をもつ武装試験機RXwf-10‘アルバトロス’を受領した
弾薬も大量に補給した。


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さて、艦隊は木星大気に突入した。この辺はまだグランゼーラの艦艇はいないみたいだ
このまま木星の雲に隠れて行ければいいのだが。…そうも行かないみたいだ。
「提督、バイド反応を確認しました。大赤斑にバイド集団がいる模様です。」
ベラーノ中尉が報告する。落ち着いている。


私は戦闘準備を始めさせる。グランゼーラかと思ったがバイドがいるとは…
第一~三次バイドミッションに参加したようなベテランは人数が圧倒的に少ない。
大概は戦死しているからだ。それだけ以前はバイドの攻勢が激しかった。
我々の艦隊もバイドとの戦闘経験は少ない。私自身もバイド戦の経験はそんなに多くない。


そもそも、バイドとは太陽系外からきた敵性生命体だ。いや生命体なのかも怪しい。そして、生命や人類に対し異様なほどの敵意をもっている。
粒子と波動両方の性質を持ちあらゆるものを取り込み、変質させる。
バイドに取り込まれることをバイド化と呼んでいる。
バイドのもっとも恐ろしいのはバイド化だ。
機械や無機物をはじめ、生物をも取り込みあの生理的嫌悪を催す姿に変えてしまう。
汚染体がひとつ、人類の生存圏に存在することさえ、人類の生存を脅かす。


まずいな、バイドを見て浮き足立っているようだ。
横目でベラーノ中尉を見るとにっこり笑って爆弾を投下した。


「これだけバイドがいると、ちょっと美味しそうに見えてきますよね。」


はい?なんと言いましたか?
緊張を和らげるために言ったのでしょうが、逆にスタッフが凍っている。私も表情を保つのに苦労した。
「あら、冗談ですよ。提督。」
ベラーノ中尉がみんなに聞こえるように言うと、みなホッとしたように動き出した。
うまいな。と感心し、ベラーノ中尉に小声でささやく。
「私の役目を代理してくれて、ありがとう…しかしショッキングすぎないか?」
「こういうものは衝撃が大きいほど効果があるんですよ。」
上目遣いで笑うベラーノ中尉。反則だ。


ショックから立ち直った指令室スタッフが、私の命令に従ってR機に指示を出してゆく。
ベラーノ中尉もその後は普通に報告を行い。補佐してくれた。
ジョークセンスが微妙なだけで、まともな副官だ。
木製の強風に流されないようにしながら、大赤斑に到達する。
さぁ、行こうか。


襲い来るバイドの群れを、波動砲でなぎ払いながらじりじり前進する。艦隊。
再生機構を有するバイドはミサイルやレーザーでは決定打にならず、
直進する通常の波動砲では、すぐに別のバイドが埋めてしまいなかなか、前へ進めない。
その中でプリンシパリティーズは目覚しい戦果を挙げていた。
スクリーンでは豆粒にしか見えないR機が、火炎波動砲を撃つたびに、膨大な熱が生まれ火炎に呑まれたバイドはほとんど形もなく消え去っていく。


じきに、他のR機がミサイルでバイドの動きをけん制し、
プリンしパリティーズが焼き払うというパターンを作り掃討した。
バイドは基本的に戦術を弄することはない。
待ち伏せのようなことはするのだが、こちらの意図を読んで作戦を変えることは無い。
物量や恐ろしさは圧倒的だが、作戦という意味ではやりやすいのが救いだ。
そんなことを考えているうちにプリンシパリティーズがバイドの輸送艦ノーザリーに肉薄している。おそらく、あれがバイドの旗艦だろう。
バイドの例にもれず嫌悪感をもたらす造形だ。
プリンシパリティーズがノーザリーに火炎の洗礼を降らすと、
その外側の装甲が剥離したノーザリーが燃えていく様子が見て取れた。


「焼きノーザリーて、バーベキューのウインナーみたいですよね。」
「ベラーノ中尉、やっぱり…」


普通の副官が欲しい。


_________________________________________________________


ちなみにその夜の夢には、

ファストフード風のカウンターから
「はい、バイドバーガーセットですね。セットメニューはノーザリー串で、お飲み物は地球の水でよろしいでしょうか!」
と、ベラーノ中尉の声でしゃべる、ユニフォームを着たドプケラドプスが出てきた。
とりあえず暫くハンバーガーは食べたくない。




================================
ギャグ路線で書くと、登場人物がことごとく色物になりますね。
ベラーノ中尉もご愁傷様でした。
しかし、基本的にこの小説は提督の妄想日記なので、
実は変人は提督だけで後は普通なのかもしれません。

ちなみに最後のは、某動画をインスパイヤしました。ファストフード店ではないのですが



[21751] 8 提督と第二次基地戦争
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:54
・提督と第二次基地戦争


現在、木星-土星間にある要塞ゲイルロズはグランゼーラ軍に占拠されている。
攻略にあたり木星方面の艦隊との共同作戦に参加するようにと本部から指令が入った。
また、火星基地チューリンの時のように、1艦隊だけで特攻させられるのかと思ったが、
そこまで本部も鬼畜ではなかったようだ。
その作戦の一環として、我々の艦隊は土星宙域に確認された“シヴァ”に似た敵方基地建設システムを破壊する。後方かく乱を行い、ゲイルロズ攻略戦で万全を期すためだ。


土星に向かおうとしていたとき、事故が起きた。
保安のハヤシダ隊員が貯水槽を誤って破壊してしまったのだ。
どうやったら巡航艦の貯水槽を空に出来るのか。…外壁を爆破でもしたのか。
水の補給のために、木星衛星エウロパに寄るはめになったのだが、
水の補給中にグランゼーラ軍と鉢合わせになってしまい。小規模の戦闘が起きた。
戦闘終了後、水上攻撃艦エーギルの設計許可書が送られてきたが、なぜ今更。
本部の考えることは本当に分からない。


戦闘も無事に終わった後に、ハヤシダ隊員に対する処罰を命じた。
宇宙航行中に水槽を破壊とか、テロに匹敵する行為なのだが…
「宇宙空間で水を失うということは部隊全員の命に関わる重大な失態だ。しかし、故意ではなく今までの勤務態度も良いと聞いている。ハヤシダ隊員、反省文の提出を持って処罰とする。詳細は追って通達する。」
ハヤシダ隊員は明らかにホッとした顔になり、それからまた顔を引き締めていた。
あまりに、厳罰を下すと隊員達の心が離れるからな。反省文あたりが落としどころだろう。
…後で、反省文について、期限3日、400字詰め100枚分と通達しておいた。
100枚の反省文とか、どんな作文が上がってくるか楽し…きちんと確かめなくては。


土星宙域に我が艦隊は進軍した。
しかしここまで“シヴァ”と同じものを作るとは…あのファンシー戦闘機のせいか。
あいつのせいで、私のクビが飛びかかったのだ。
この基地建設システムは何があっても破壊する。そう心に誓った。
ちなみに今回の副官は前回“シヴァ”襲撃事件でやらかしたガザロフ中尉だ。
汚名を‘挽回’すると言っていたが本当に大丈夫だろうか。


2度目の基地戦は基地対基地の戦闘になった。
初めこそ、R機が何機か出てきていたが、それらも今はいない。
両軍とも大規模な戦闘を前に、R機や艦艇の消耗を嫌ったからだ。
そういえば、嫌な思い出のあるエクリプス試作機が居たので破壊してやろうとしたのだが…
どこにいったのだろう?





ひたすらに成長した基地が2つ。
敵は前回の教訓から、基地の連結部がネックと判断したのか、複数の連結を持つ一塊のずんぐりむっくり型の基地群を形成した。おそらくあのユニットの塊のどこかにコアが隠されているのだろう。
一方、我々はにょろにょろと3本の枝を伸ばした形になった。この枝を敵コアユニットの側まで伸ばし、その先に陽電子砲ユニットを作成し、敵コアユニットをぶっ飛ばせれば作戦成功だ。


うむ、千日手になった。
我々の基地ユニットの枝はコアユニットにたどり着く前に、敵ミサイルユニットに剪定され、
敵の基地ユニットの塊は射程が足りないため、我々の基地ユニットの基部を断ち切るには至らない。末端のユニットを潰すので精いっぱいだ。
お互いに基地を作っては潰され、潰されは作ってと、暫く続いた。


「何か、打開策がないと…ガザロフ中尉、君の考えはあるか?」
「私の作戦…ですか?」
丸投げではない。私もちゃんと考えた。
ハヤシダ隊員を含む保安隊に白兵武装させて、敵基地に突っ込ませるとか。
突入してすぐに、保安隊のいる基地ユニットを解体・爆破されるし、
他の隊員が可哀想だから、この作戦は私の心の中だけに留めておくことにする。
「提督。基地の連結ユニットの内部をRユニットで進軍、敵コアユニット近くまで一気につめ寄り波動砲でコアを破壊するのはどうでしょう?基地内部は幅ギリギリですがR機が飛べないことはありません。」
「ふむ、このまま敵勢力圏内に長く留まるのは良くないな。やってみよう。」


「全艦隊へ作戦の変更を伝える。R機で基地ユニット内部を通って、敵に肉薄し、波動砲でコアを破壊する。現在、我々の基地ユニットは敵機地コアユニットに向かって、3本の枝の様に伸びている。敵コアユニットがあると予想される座標は3つ、見方基地ユニットの内部をつたって、それぞれコアユニット想定座標付近まで進軍し、波動砲でコアを破壊する。」

私は言葉をいったん切る。指令室内では不安そうな顔がちらほら見える。
しかし幸いにも、パイロットらからダメ出しは来なかったようだ。

「この作戦で使用する基地ユニットの通路について、目標コアの近い順に第一、第二、第三トンネルと呼称する。一番近い第一トンネルはウォーヘッド隊、敵の壁が厚い二番トンネルはグレースノート隊、もっとも遠い第三トンネルは足の速いプリンシパリティーズ隊に任せる。自信の無いパイロットは今すぐ申し出ること………いないな? では、波動砲チャージが済み次第、各自基地ユニットの通路を通って敵コアユニット予測座標に向かえ。」

パイロット達から気合の入った声が聞こえた。
彼らの負けん気に火がついたようだ。
全機、波動砲をチャージし終えてトンネル潜りに向かった。


「第一トンネル、ウォーヘッド隊目標座標を射程に収めました。」
「波動砲斉射!」
第一トンネルの近距離かつ足の早いウォーヘッド隊が目標一番乗りだった。
コアユニット予測座標に波動砲をたたき込むのが見える。
拡散波動砲が目標を包み込むように破壊する。
「波動砲範囲外のユニットは健在。敵コアユニットは他の地点です。」
「次!」

次点は第三トンネル、足の速いプリンシパリティーズ隊が到着した。火炎波動砲は機械にはそこまで効果が高くないが今回は問題ないだろう。
「第三トンネル、プリンシパリティーズ隊目標地点に到着しました。」
「波動砲!」
「基地群健在…こちらも違うようです。」
「第二はどうなった。」
「あと10秒で目標地点に到着します。……グレースノート隊到着を確認。」
「よし、これで最後だ。波動砲斉射!」


グレースノートの長距離射程の波動砲が、基地ユニットの壁の奥にあるコアユニット予想座標を打ち抜く。
一拍置いて、基地群のそこかしこで爆炎が起こり崩壊してゆく。艦橋スタッフも沸き立った。
その光景をみて私は、作るのも壊すのも一瞬のこの基地システムは、破壊と再生の神“シヴァ”の名に相応しい。しかし、このネーミングをした奴はかなりの皮肉屋に違いない。そう思った。


そういえば、あのエクリプス試験機は結局最後まで出てこなかったが、
基地ユニット群の崩壊に巻き込まれたのだろうか?
もし、生き残っていたら、今度こそミサイルでぼこぼこにしてやるのだが…
私は飛び跳ねて喜んでいるガザロフ中尉を横目に考えていた。
ガザロフ中尉。なんでもいいから、早く被害報告あげてくれ。


ガザロフ中尉が戦勝祝いにクッキーを焼いてくれた(いつ焼いたのか?)。
身の危険を感じたので、今日の一番の功労者であるパイロット達にあげても良いかと聞いたら、
快く了承して格納庫に持ってってくれた。危ないところだった。


私は事後処理をして、ゲイルロズに進路をとってから居室に戻り、航海日誌をまとめた。
今日はぐっすり眠れそうだ。



==============================
TACⅡ原作での話しですが、基地ユニットのあるHEXを通過するときは、
デブリがあろうと地形効果無視になりますよね。
あれって、基地内の通路を戦闘速度でぶっ飛ばしていると思っていました。その妄想から出来た話です。
あとは映画大脱走とかエスコンの名物、トンネルくぐりも脳裏に…
ちなみに実際に移動デモを見ると基地通過時もちゃんと外を飛んでいます。



[21751] 9 提督と幽霊
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 21:55
・提督と幽霊


来るべきゲイルロズ攻略戦に備えるため、今日くらい早めにベットに入って寝よう。
艦隊自体は急がせるが巡航速度なら私が指揮所にいる必要はない。
久々の8時間睡だ…まどろんだ所で携帯用端末から呼び出しが掛かる。緊急用の呼び出し音だ。すぐに覚醒する。端末からのマッケランの声が耳に突き刺さる。
「提督、非常事態です!すぐに司令室に上がってください!」
ハンガーに掛けてある将官服に、提督帽を身につけ司令室に急ぐ。
40秒は切っている。非常召集要員もびっくりの速さだ。非常召集要員は当番制なのに提督は毎回だからな。


「何があった。」
もしかして、ハヤシダ隊員が反乱でも起こしたのか。
それとも、パイロットが全員クッキーに当たったか。
そんな、アホな妄想をしながら、勤めて冷静に振舞う。
指揮官が慌てると伝染するからな。
「提督!ゲイルロズ攻略のために集結していた我が軍の主力艦隊と、グランゼーラのゲイルロズ駐留艦隊が戦闘に入った模様です!」
「主力艦隊が先に戦闘に入っている?我々の到着を待たずにか!?不測の事態か…グランゼーラの駐留艦隊は精鋭と聞く、主力艦隊とて荷が重い。全艦第一戦速。進路、軍事要塞ゲイルロズ!」


要塞ゲイルロズは木星―土星間に浮かぶ巨大な建設物だ。
バイドミッション中には防衛の要として最前線となった要塞である。
大きさこそ冥王星基地グリトニルに譲るが、グリトニルは外宇宙ワープ施設を兼ねているのに対し、軍事基地としてゲイルロズは破格の大きさだ。
我が艦隊がゲイルロズの後方である土星をかく乱し、味方主力艦隊と合流後、
一気にゲイルロズの司令室を奪い返し、開放するという作戦だったはずだ。


私の目の前には味方の艦艇、R機などの残骸が散らばっている。
この残骸は私達が合流するはずだった主力艦隊のようだ。まだ戦闘があって間もない。
敵部隊も被害を出しただろう事が残骸から分かる。
敵の体制を整えない内に突入した方が良いのは分かっていたが、
救難信号が発信されているのに無視は出来ない。
私は各艦に救助を行うように命令した。


敵を警戒しながらの救助は思うようにはかどらない。
旗艦ヴァナルガンドでも生き残りの収容ををしていたところ、レーダー手が報告をした。
「熱源反応多数!」
索敵は出来ない距離だが、グランぜーラの艦艇が見える。
「収容作業は一時中止せよ。戦闘配備!」
ここは士気を上げていかないと持たないな。
熱いのは得意でないけど、ビシッと決めないと。
久しぶりに演説モードに入ろう。そう思ってマイクをもって全艦につなげる。


「ゲイルロズからの攻撃が始まろうとしている。
だが現在、我々に残された力は少なく、ゲイルロズ駐留艦隊の力は強大だ。
それでも我々は戦わねばならない。
なぜなら、我が艦隊は敵に後ろを見せないからだ!
残された戦力を結集して、ゲイルロズに最後の攻撃をかける 。
総員、戦闘開始せよ!」

E・U・F! E・U・F!!


どこかで聞いた演説をもじってみたのだが、意外とみんなノリが良い。
突っ込みどころ満載なはずなのだが、そういう野暮な人間はいない様だ。
主力艦隊が打ち減らしてくれたお陰で、だいぶ敵戦力も減っている。
後は戦意が下がらない内に、突入するだけだ。
「全艦、突入!味方艦隊の犠牲を無駄にするな。」
冷静に、でも士気を下げないように命令を下す。


旗艦ヴァナルガント級で敵やデブリを蹴散らしながらゲイルロズのドックを目指す。
いまさらなのだが、このデブリって味方艦隊の残骸だよな。
進軍の邪魔なので躊躇なく破壊しているのだが、生存者とかいない…と信じたい。
ゲイルロズは3段ドックの先に輸送艦がぎりぎり波入れる位の通路があり、そのさきのメインシャフトを抜けると司令室がある。巡航艦ヴァナルガンドは通路を抜けられないため、ドックまでしか入れない。


よし、ここから煽…指揮をするか。
艦隊司令官のなかにはわざわざ輸送艦を旗艦にして、最前線で指揮を取るものもいるそうだが、わざわざ正面に行くなんて理解できない。
R機も何機か直衛に回さなければならないし、輸送艦なんて波動砲でほぼ一撃だし、戦死したら士気に関わるし、壊走しかねないだろう。逆に邪魔だと思うのだが…。


突入前に煽ったお陰で、R機パイロットたちはいい感じにキマってる。
脳内麻薬とかドバドバ出ているのだろうか、トリガーハッピー風なやつが多いな。
ああはなりたく無いが、はっちゃけられない私としては少しうらやましい。


途中から現場指揮に任せたため、正直余りやることが無くなった。
私の出した命令は単純「1機に、2機以上でかかれ」だ。
戦争は物量が物をいう。不利な攻撃側で、主力艦隊を欠く我々は戦力が小さい。
どうするか、局所的に戦力を集中して、そこだけ物量で勝ればいい。
昔から言われてきたことだが、いまだに有効な手段だ。
フォースやデコイで釣って、出てきたところを波動砲やミサイルでぼこぼこにする。
コツは戦場を限定して余計な敵を呼込まないこと。


突入から3時間に及ぶ激戦の後、司令室を占拠したと連絡があった。
グランゼーラの士気が下がり、一部の敵は脱出を始めたようだ。
我々の戦力では追撃までは手が回らない。


ゲイルロズ奪還後、我々は生存者の救助に向かった。
救難信号がかなり減っている。エアーが持たなかった者や、戦闘に巻き込まれた者…
ゲイルロズの入り口付近で、しばらく、救助を行ったが救助できたのは、
主力艦隊の規模に比べると、生き残りはほんの一握りだった。


その夜、戦勝で沸いた艦内だが、一部では「もうしわけありません」とつぶやくような声を聞いたという者が多数現れた。無念のうちに死んだ主力艦隊の隊員の幽霊だ。などという噂が、広まった。人の出払った居住室のあたりや、その奥の医務室あたりで聞いたという。いつの間にかゲイルロズの幽霊などという名前まで付いていた。なんでもゲイルロズで救助するも死んでしまった主力艦隊の隊員が、自分のミスで死んでいった仲間に「もうしわけありません」と謝り続けていて、自分が死んだこの艦にくっついてきてしまったらしい。
良く考えるものだ。


私も常ならば一笑に付していたのだろうが、実は私も聞いていた。ぶつぶつと呟くような声だ。大勝利に艦内の乗組員のほとんどが酒保や食堂などで盛り上がる中、人気の無い居住区の通路で聞いた。その時は気にも留めなかったのだが、後でゲイルロズの幽霊の話を聞いて、あれがそうかと思った程度だった。


「もうしわけありませんでした…」
「提督、このたびは部下の不始末でご迷惑をおかけし申し訳ありません。」

任務中に貯水槽を破壊したハヤシダ隊員だった。そういえば反省文の提出期限か。
死んだ魚のような目をしたハヤシダ隊員と彼の上官が反省文を提出に来た。
ハヤシダ隊員がやばい感じだったのでとりあえず下がらせた。
反省文100枚分はやりすぎたか。と引きつつメモリーを受け取った。


紅茶を飲みながら、ボード型端末で反省文を読む。
活字中毒というほどではなくても、活字を読むことは楽しい。
さて、どんな反省文になったのやら。
必死に尺を稼ごうとしたのか、事故に至るまでの理由や要因、行動についての考察や、分析が書いてある。刺激の足りない艦内では面白い読み物だと思う。
謝罪文が20枚分くらい続いた後、突然

もうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありません…

ホラー小説か。
たまに誤字がみられるので、コピー&ペーストではなく真面目に打ち込んだのだろう。
400字詰めで80枚分…10文字なので、3200回も書いたのか。
端末に、もうしわけありません。と延々と打ち続けるハヤシダ隊員…
怖すぎる。


後でマッケラン中尉にハヤシダ隊員の部屋を調べさせたら、
ゲイルロズの幽霊出現スポットの真ん中だった。


ゆうれいの しょうたいみたり かれおばな



===============================
ゲイルロズ攻略という重い話に耐え切れず、
つい出来心で、地球防衛軍3ラストの演説パロりました。
しかしおかしい、序盤の難関ゲイルロズが空気だ。

本日の睡眠時間は30分だったので、
8時間睡眠の提督いいなと思って書いてました。眠い

今更に、提督とか司令官が戦闘指揮する場所は艦橋ではなく指令室ではないかと、
思い立った。修正してきます。



[21751] 10 提督と思い出話
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/27 23:39
・提督と思い出話


要塞ゲイルロズを奪還したのもつかの間、報告書を上げるとすぐに次の指令が届いた。
土星内部でバイド反応が確認されたので、その確認と、バイドが確認された場合は撃破せよ。というのが内容だ。
まぁ、バイドをほうっておく訳にもいかないし、土星に一番近い舞台は私達だから仕方が無い。
グランゼーラ軍の中核であったゲイルロズも奪還したし、あと一押しで休戦に持ち込めるだろう。
いっそ、戦争が終わったら退役するか。


ところで、地球連合軍には提督は退役できない。という恐ろしいジンクスがある。
連合軍では40歳過ぎのベテラン将兵は貴重な存在だ。
これは、かつてバイドの攻勢の激しかった頃、多くの艦隊が壊滅し、
現場の将兵のほとんどが戦死したためだ。


当時の艦隊司令官らは、自分達の命を含む全ての戦力の投じて地球を守りきったが、
その代償としてバイド反攻作戦であるバイドミッション発動までに、
地球連合艦隊はその戦力の7割を喪失した。
軍は数度に及ぶバイドミッションを発動。バイド中枢へ攻撃を行った。
損害は大きかったが一時的に地球圏へのバイドの圧力を減じることに成功。
その機を逃さず地球連合軍は軍の再編成を行った。


防衛線の内側である木星以内では工廠などの設備被害が軽微であったため、艦艇やR機は比較的早くに補充できた。
またこのとき、主力戦艦ヘイムダル級を基に改良したテュール級、新たに設計したヨトゥンヘイム級などの戦艦を開発している。
このとき艦隊の無人化などの案も出たそうだが、バイドの無機物、特に機械類への侵食の早さはすでに知られていたため、却下された。
無人艦隊がそのまま敵に回ることを危惧したためだ。
当時すでに、人間やその他の高等生物は比較的バイドの侵食に抵抗性があり、低濃度であればバイド汚染下での一定時間の暴露に耐えるという結果が、Team R-TYPEからもたらされている。これは人間が運用する機械類にもなぜか適用されるらしい。
…どうやってそれを調べたんだ?想像できるけどしたくない。


しかし、艦艇を運用するには経験が物をいう。
艦艇は揃ってもそれを運用する将兵が圧倒的に足りなかった。
実戦経験のある将官はほとんど戦死し、残っているのは新兵、事務要員、予備役ばかりといった有様だった。
このため、軍は指揮官養成プログラムを作成し、指揮官の急造を図った。
新兵の中で適性があるものに、このプログラムを受けさせ、小規模部隊で経験を積ませて急造の指揮官としたのだ。
‘若き英雄’ジェイド・ロスもこのプログラムで指揮官教育を受けた提督だ。

現在、艦隊司令艦は現場各地を渡り歩いたベテランではなく、技能職となっている。
私の頃には士官学校に入ると適正を判断し、入隊と同時にプログラムを受けるようになってた。


私ももちろんこのプログラムを受けて指揮官になったわけだが、英雄ジェイド・ロスにあこがれていたので、自分に指揮官適正があることが分かったとき本当にうれしかった。
その時から私の「クールでカッコいい指揮官になろうぜ」作戦が始まったのだ。
…決して無個性すぎると教官に言われたから、人格改造に走ったわけではない。


まず、第一条件であるちょっとやそっとでは動じない度胸を身につけようと、私が思い立ったのはバンジージャンプだった。その発想はどうかと自分でも思うが、当時はいい考えだと思っていた。私は休日ごとに各地にジャンプしに行き、ついには表情を変えずナチュラルにジャンプできるようになっていた。
同期達に「クレイジージャンパー」だのと恐れられたが、
クールな指揮官はそんなことを気にしてはいけないのだ。

またあるときは発声練習を行っていた。
指揮官に必要な技能として、部下を命令する技術が必要と考えたのだ。
このときマッケランの様に大声ではなく、威厳があって、安心する声であることが重要だ。早口でも聞取りやすく記憶に残るように話さなければならない。怒鳴るなど論外だ。
この時期は隣室の同期達に避けられていた。
クールな指揮官はそんなことを…

またあるときは演説を聞きまくっていた。
指揮官は隊の士気を高めるために、部下を鼓舞することも重要だからだ。
伝記物を読み漁り、演説シーンのある映画やマンガを見て勉強した。果ては街頭演説を聞いたりしていた。反政府派の演説を聞いていたことがばれたときは、さすがに教官に怒られた。
しかし理由を説明したら、すごく微妙な顔をして納得された。「ミスターマイウェイだからなぁ」
クールな指揮官は…

またあるときは、整備科の授業に紛れ込んだ。
艦隊指揮官は各種兵装の運用に詳しい必要があると思ったからだ。
運用に整備の授業はあまり必要ないと思うが、当時の私はそうは考えなかったようだ。
実技前の教官の手本や説明を聞いていたが、一度こっそり実技も参加してみた。
そのときは整備実習で、皆でPOWアーマーを一度バラして、組みなおすというものだった。
不慣れでチームにかなり迷惑をかけたが、終わる頃には何故か仲良くなっていた。
整備科の連中曰く、「機械を愛する熱い心を持っていれば通じ合える」とか言っていた。
POWアーマーに愛着が沸いたり、ドックの機械油の匂いが好きになったりした。
ちなみに私は普通にしていると存在感が無いため、最後まで他兵科の訓練兵であると気付かれなかった。
クールな…


座学やシミュレーションなどの実技も妥協せず、同期では一二を争っていた。
その代わり射撃や、白兵といった科目は常に赤点だった。体力は人並みには鍛えているし、鈍くさいわけではないので、適性とやる気が無かったせいだろう。
ついでに、一人称は「俺」から「私」に改めた。今では私生活でも「私」だ。


ちなみにその後、輸送艦部隊の副官として配属された。
危険の小さい後方部隊で、経験を積ませるためだ。
書類事務は出来る方だったので問題なくすごせたが、現実を知りへこみ、
着任して1年で、はじめの理想もどこへやら、思いっきり腐っていたわけだ。
後方部隊のせいか規律も緩いし、おまけにその頃はバイドの襲撃自体が減っていた。


指揮官候補は、左官までは階級が上がるのが異様に早い。
転任を何回か経験して、階級も上がり、部隊をまとめる立場になった。
相変わらず、やる気の無さを引きずっていたわけだが、
士官学校で身に付けたスキルで、表向きはクールな指揮官だった…はず。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


柄にもなく昔の事を思い出していたのだが、
現在、私の艦隊は廃棄された土星基地、グリーズに来ている。
内部からA級バイドの反応が検知されたのだ。
今日の副官アッテルベリ中尉に命じて、考えられるA級バイドを検索させたのだが。
検索結果で一番確立が高いのは…

生ける悪夢“ドプケラドプス”

もはや、バイドの代名詞として伝説的とさえ言える存在だ。
私は‘若き英雄’にあこがれて軍人になったが、今までその夢を諦めていた。
決してバイドの来訪を望んでいたわけではないが、
人間とではなく、バイドと戦えるならば軍人冥利に尽きる。
もしも、相手が生ける悪夢であるならなおさらだ。
そう、つまり今まで人間相手だったり、理想と違ったりで欲求不満だったが、
やっとクールでかっこいい提督になれる時が来たのだ。

「さぁ、行こうか。」

部下達にというより自分自身にそう言って、私は悪魔の巣穴に艦隊を進めた。





==============================
あれ?また分割だ。もはや短編連作とか嘘ですね。
次回はみんな大好きドプケラさんですが、
提督がギャグ要員を離脱してしまいそうな流れなので、
オチを模索中です。また、マッド・アッテルベリか?
全然R機の出てこないR-TYPE二次とか、本当に誰得小説ですね。



[21751] 11 提督と土星の悪夢
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 21:59
・提督と土星の悪夢
 ※今回ギャグ分が足りていません。


「さあ、行こうか」


その言葉を合図に、土星の放棄基地グリーズへほぼ全艦を突入させた。
輸送艦1隻と数機のR機は入り口に残した。退路を経たれない為だ。
この基地の最奥「大広間」からバイド反応があるのだが、そこをA級バイドに塞がれている場合に袋小路になってしまう。


今までのデータによると、A級バイドは大型化しているものがほとんどだ。
大型化に伴い、攻撃の威力や射程距離、耐久力が大きいことが予想される。
一撃必殺の波動砲をもってしても、数回の斉射が必要になるだろう。
そんなことを考えながら地獄の門をくぐった。


________________________________


基地グリーズの内部は廃棄基地とは思えないくらいにきれいだった。
きれい過ぎる。廃棄された基地ならもっとガラクタなり何なりがあるはずだ。
索敵には掛からないが、バイド反応から見るに小型のバイドもかなりいるようだ。
基地と同時に廃棄された兵器類はバイドに侵食、取り込まれたのだろう。


「提督、全艦突入完了を確認。戦闘はいつでも可能です。」
「R機部隊を出せ。ミッドナイトアイは先行して索敵。ウォーヘッドはチャージ後亜空間潜航し、強行偵察を行う。他のR機はチャージして待機。」
索敵を行わないことには動けないので、慎重に索敵を行うように指示。
この奥にはA級バイドがいる。ここは拙速よりも巧遅で動くべきだろう。
ちなみに、今回の副官はアッテルベリ中尉。私はベラーノ中尉にしようと思ったのだが、基地グリーズの攻略とA級バイドのことを耳にしたアッテルベリ中尉が志願してきた。普段は目立つことをしない男なのだが、珍しいことだ。


「提督、小型バイドを発見しました。リボーとピスタフともに多数です。」
「索敵は続行。小型バイドには先行のR機とフォースで当たらせよ。」
波動砲はまだ温存しておくべきだ。
もともと、戦闘能力の乏しい小型バイド達はフォースに次々と飲み込まれていく。
とくにRXwf-12‘クロス・ザ・ルビコン’のテンクタルフォースの威力はすばらしい。
触手型のコントロールロッドという異様なフォースだが、小型バイドと誤認しかねないほどバイド係数を高めてあり、攻撃的だ。
またしてもTeam R-TYPEから送られてきた機体とフォースだ。
ちなみに、あまりにR機ばかり送られてくるので、「ハンガー無いから戦艦くれ」と連絡したら今度型落ち戦艦のへイムダル級を回してくれる。とのこと、なんで研究機関が戦艦を所持しているのか…
R機でもルビコンでなくアウルライトをくれ。偵察機は消耗率が高いんだ。
しかしまぁ、せっかく貰ったことだし使えるものは全て使うこととしよう。
…しかし、不穏な名称だ。Team R-TYPEの悪趣味は今に始まったことではないが、彼らはルビコン川の彼岸に何を求めているのか?


小型バイドをあらかた片付け、前進する。
「ウォーヘッド各機、チャージ完了しました。亜空間に潜航します。」
「ウォーヘッド各機は敵機との接触に注意して先行偵察。全艦微速前進。索敵範囲から飛び出さないようにしろ。」


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「この辺には基地の防衛システムがあったはずだが…」
内部に進入する外敵を殲滅させる軌道砲台があったと資料にはある。
「提督、A級ではありませんが大型バイドがいます。名称ゴンドラン、弱点は青く発光するコアです。」
アッテルベリ中尉が検索もかけずに報告する。バイドマニアなの?
画像には通路の内壁を回る蛇のような砲台ユニットが見えた。
コアの後ろに数珠繋ぎに砲台ユニットが連なっている。
「あの砲台群の内側は集中砲火を浴びます。無視しての通過は難しいと思います。」
「コアさえ破壊すればいいか。こんなところで油を売るわけにもいかない、チャージの済んだ機体で一気に破壊だ。」
グレースノートで外側から一斉射を浴びせるとコアが砕けて、後に続く砲台群も爆散した。
早期警戒機を先行させ、雑魚を掃討しながら慎重に進軍した。


__________________________________


タブロック、ゲインズを片付け、大広間の前まで来た。
この通路をくぐれば、A級バイドの反応のある広間だ。
「R機で突出すると総攻撃に合う。ウォーヘッド亜空間索敵。大広間のA級バイドについて偵察を行え。」
「艦隊は大広間入り口まで前進、索敵を待つ。…一応デコイ艦を先行させろ。」
輸送艦のデコイを前面に出し、陣形を組んで前進した。


「提督、デコイ輸送艦消滅。何らかの攻撃を受けた模様です。」
「この距離から?デコイを一撃だと!?全艦停止。」
旗艦のヴァナルガンド級が大広間への通路に差し掛かったときだった。
先行させているデコイ艦が大広間の入り口付近を底面に沿って通行中に一瞬で破壊された。
ギリギリまで進軍するつもりだったが、思ったより近くにバイドがいたか。
そう思ったときには次の報告が来ていた。
「ウォーヘッドより通信、巨大バイドを感知。広間最奥の壁一面にいる模様。バイド照合結果でます……! 提督、“ドプケラドプス”です。」
「ドプケラドプス…」
さしものアッテルベル中尉も一瞬声を詰まらせる。
もしやと思っていたが、本当に生ける悪夢とは…。


「映像来ます。」
亜空間偵察特有の揺らぎと色調の画像には、大広間に悠然と君臨する生ける悪魔が写っていた。
長い2本の尾をくねらせている。どうやら底面沿いに移動していたデコイ輸送艦はこの尾に破壊されたらしい。過去の戦闘データでは頭のように見える器官と胸部の器官は砲台となっていて、コアではないはず。コアは…

「提督、過去の戦闘データから、ドプケラドプスのコアは腹部にある可能性が高いです。」
「尾や、頭部の砲撃を避けながら、腹部に攻撃か…難題だな。」
アッテルベリ中尉、またも検索もしないで弱点を即答とは、本当に博識だ。
「アッテルベリ中尉、過去のデータと索敵結果、あとデコイ艦の攻撃された状況から、ヤツの攻撃範囲を割り出せ。」
「了解しました。メインディスプレイに反映します。」
「っ!広いな。コアに攻撃するには懐に飛び込まなくてはならないが…」
頭部、胸部の砲台の射程範囲は思いのほか広く、並みの機体では近づく前に攻撃される。
一斉射では斃しきれないだろう。つまり、懐に飛び込めば頭部・胸部砲台、コアからの攻撃にさらされることとなる。
A級バイドの攻撃力は大きい。全滅はしなくとも、何機かは帰還できなくなるだろう。
「アッテルベリ中尉、君はバイドについての情報に強いようだ。正直私より詳しいだろう。ヤツの攻撃を掻い潜りつつ、波動砲を打ち込む方法はあるか?」
「小官のですか?」


考えだす副官を見やりながら、他の副官達の反応を想像してしまった。
マッケランは前のめりに突貫を進言するな。無謀ってわけではないんだが正面にこだわる。
ガザロフ中尉は少し考えた後、いいアイディアを出し、それを上回るポカをする。
ベラーノ中尉は…美味しそうって言うのかなぁ、正直今は聞きたくない。
私は…デコイで少しでも砲台の注意をそらして、腹部に強行するくらいか。情報が足りないな。しかも確実にパイロットの何名かは死ぬだろう。死ぬのが前提の策はもはや特攻だ、作戦とは呼べない。


「提督、ディスプレイを。」
「先ほどの射程範囲図だな、」
ものの数十秒だったが、アッテルベリ中尉が考えをまとめたらしい。
促されて、私はサブディスプレイを見る。どうやらこの少しの間に、データを打ち込んでいたようだ。
「はい、ドプケラドプスは上方の頭部砲台、中層は胸部砲台の射程範囲が広がり、迂闊には近づけません。コアも広範囲を巻き込むドプルゲンMax-Oと呼ばれる兵器を所持しています。よって、残る下方から進撃し、コアに攻撃を与えます。」
「しかし、アッテルベリ中尉。床近くは尾に攻撃される。デコイとはいえ輸送機を一撃で粉砕する威力だぞ、R機ではひとたまりもない。」
「いえ、あれは厳密には攻撃ではありません。多少複雑ですが規則的な機動を描いています。頭部や胸部と違い能動的には動きません。」
「尾の機動を読んで、避けながら進軍し腹部コアに波動砲を撃つという意見か。」
「ええ、尾の軌道データを入力しました。これをR機に転送すれば、少し先の予測位置を表示できます。また、コアの広域兵器の方もチャージ時間がかかりますし、射線は固定されているようですのでデコイでの空撃ちか、範囲外からの攻撃でチャージキャンセルさせれば良いと思います。」
「ふむ、君のお陰で部下に死ねと命令しなくて済みそうだ。全R機に軌道予測データを送信してくれ。」
「はっ。」


指令席のマイクを握る。実はピンマイクもあるのだが、私は全軍に命令を伝えるときには手持ちのマイク(有線で無駄に丈夫に作られている)を使用することにしている。昔の記録映画でみたシーンがなんとなくカッコよくて、真似しているうちに癖になってしまった。


「全軍、現状を維持したまま聞いて欲しい。作戦を伝える。分かっていると思うが今回の敵は生ける悪夢“ドプケラドプス”だ。このバイドは、頭部・胸部より砲撃を、腹部コアより広域兵器を発射する。尾も当たれば艦艇さえ破壊する威力がある。」

指令室のスタッフから呻き声が聞こえる。みなドプケラドプスの名前にのまれているのだろう。

「弱点であるコアは腹部にある。ここを波動砲の斉射で破れば斃せる。しかし、上方と中層は砲撃の射程内で進入できない。よって下方から攻撃をしかける。 下方にあるドプケラドプスの尾は当たりさえしなければ害はない。先ほど全機に尾の軌道データを送った。チャージ済みのR機編隊で下方より接近。腹部のコアに波動砲を撃ち撤退、これを繰り返し斃す。作戦名は…」
チラリと横にいるアッテルベリ中尉を見やる。
「作戦名はOp.Mad Docだ。さぁ、生ける悪夢をたたき起せ。」


攻めあぐねていたR機は、明確な方針を得て動き出した。
まず下部に突入したのはプリンシパリティーズとデルタだった。
生体バイドの弱点である火炎を武器にするプリンシパリティーズは、その波動砲の熱を放熱するために極限まで装甲を削っている。そのため脆いが、意外と俊敏な機体だ。
デルタ隊とプリンシパリティーズ隊は2本の尾を掻い潜りコア直前にまで迫る。
デルタ隊が広域兵器ドプルゲンMAX-Oの射線外からミサイルを撃ち込むと、コアは紫の粒子を拡散させた。

「提督、コアエネルギー密度低下。広域兵器のチャージキャンセルを確認しました。」
「広域兵器で一網打尽にされる恐れはなくなったな。波動砲は?」
「プリンシパリティーズ隊、火炎波動砲発射します。」

高熱を伴った波動砲がコアのある腹部を焼く。
閃光のあとには、外部の生体装甲が焼けただれ、コアのむき出しになったドプケラドプスがいた。
ドプケラドプスにも痛覚のようなものがあるのか、尾の軌道に乱れが生じる。
後続のシューティングスター、グレースノート両隊が尾の軌道変化についていけず、コアへの進入経路を外れて退避する。その際に、何機かが上方に飛び出し、頭部・胸部砲台の餌食となる。先行したデルタは帰還出来たが、プリンシパリティーズ隊からは被害が出たようだ。


「アッテルベリ中尉!」
「了解しました。尾の軌道データ修正。R機各機に再送信します。」
「R機は攻撃後の尾の軌道変化に注意せよ!」
指令室スタッフを追い出して、オペレータ席に陣取ったアッテルベリ中尉が淡々と業務をこなす。
隊形の乱れた2隊に代わり、ルビコン隊が突入。
デルタ、プリンシパリティーズと入れ違いに2本の尾の隙間からむき出しのコアへと向かう。未だ煙を上げるコアを直線に捉えた。
クロス・ザ・ルビコンの前方の空間が紫に発光し始める。
ルビコン隊が圧縮炸裂波動砲を撃つ。紫の光弾がコアに着弾する前にルビコン各機は反転、退避を始めた。
炸裂音・閃光とともに尾が暴れだす。尾を避けるために床と接触、中破した機体はあったが今回は何とか全機帰還した。


「奴は…生きている、まさに悪夢だな。」
「ドプルゲンMAX-Oチャージ開始しました。チャージ完了まで後15秒。」
「!?まだ、撃てるのか。」

私は、急いで周囲に波動砲チャージ済みの機体を探す。
…が、ドプケラドプスの周りには発射済みか、機体を損傷しチャージ出来なくなった機体しか見えなかった。ミサイルを撃つにも遠すぎる。

「誰でもいい、波動砲が撃てる機体はいないか!」
「提督、亜空間反応あり。ウォーヘッド通常航行に復帰します。」
「!亜空間機がいたか。コアを破壊せよ。」
「ドプルゲン発射まで8、7、6…」
ウォーヘッドが通常空間に転移し、チャージ済みの波動砲が収束する。
「5、4、3…」
波動砲がコアを包み込むと同時に閃光で目が眩む。


「コアエネルギー急速に拡散。」
ディスプレイの光量には限界があるとはいえ、まだ目の前がチカチカする。
メインディスプレイには腹部に穴のあいたドプケラドプスが崩れて行く様子が映し出された。


指令室内も、外部通信もしばらく無音だった。
「ドプケラドプス撃破を確認しました。作戦は成功です。」
アッテルベリ中尉の声に、指令室内の空気が一気に緩む。
歓声と安堵、放心して座り込むものもいる。みな緊張の糸が切れたようだ。
「本時刻を持ってOp.Mad Docを終了とする。みんなよくやってくれた。」
私が隊員たちを労うと、どこからともかく‘ドプケラバスター’と囃す声が聞こえた。


‘ドプケラバスター’


生ける悪夢ドプケラドプスを撃破した者に与えられる称号だ。
別に誰かから授与されるわけでなく、なんとなくそう呼ばれるという、
エースパイロットなどにつけられる二つ名のようなものだ。


気づけば私もかなり緊張していたらしい、だいぶ汗をかいていた。
「提督、お疲れ様でした。」
「ああ…ありがとう。」
そう言ってハンカチを差し出す。アッテルベリ中尉。
あまりに普段の彼らしくない意外な行動だったので面喰ってしまった。
しかし、今回の作戦は、彼のバイドの知識があってこその勝利であると思ったので、
「アッテルベリ中尉、部下を特攻させなくてすんだよ。君のお陰だよ、博士。」
そう言って彼の肩をたたいた。
私も大概いつのも私じゃないな。ネジが緩んで地が見え始めている。


ただ、肩をたたいた時にアッテルベリ中尉がビクリとしていたのは何故だろう。




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今回はギャグが難しそうだったので、
いっそのことと、熱さと戦闘シーンの練習を兼ねました。結果は…

拙作では活躍してる風のルビコンですが、正直使えないっス。また本部の罠か。
みんな大好きドプケラさんも登場ですが、
作者は、面倒くさくなったのでR機を使い捨てにしながら波動砲でやりました。
指揮官失格? 作者は指揮指向が果敢MAX、利己的MAXでしたから。

副官は登場頻度が偏るので、当番制ってことにしてみました。
また、アッテルベリ中尉が明後日の方向に暴走しています。
おかしいな、火星基地から変な設定がくっついてきてる。
夢落ちにしたはずなのになぁ。



[21751] 12 提督と掘削機
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:80eae712
Date: 2010/12/16 22:02
・提督と削掘機
―今週のびっくりどっきりメカ☆―


土星基地グリーズでドプケラドプスを倒し、本部に報告したら、
本部からもドプケラバスターと呼ばれるようになっていた。
ついでに、Team R-TYPEから戦艦ヘイムダルと駆逐艦フレースヴェルグを送ったと言う連絡を受けた。


ホントにくれるの?
ハンガー足りないって文句言ったからか?
やっぱり戦艦と駆逐艦をくれてやってでも、実地試験をやらせるってことなのか?
最新鋭機ばかりというわけでもないから、単純に試験部隊という分けではないと思うのだが、
他の艦隊の人たちに聞いても、Team R-TYPEから直接機体を受領することは異例らしい。
Team R-TYPEに目をつけられる覚えはないのだが…。
私は今この歳で少将になった。異例の出世ではあるが、
この出世ラッシュが始まる前から微妙に優遇されていた。それが原因ではあるまい。
むしろ、何らかの理由で優遇されたから、艦隊を任されて出世したという方がしっくりくる。
本部はともかく、Team R-TYPEは良い噂を聞かない。
単に試作機の試験を任されているとは思わず、アンテナを張ったほうがいいだろう。


で、結局は元グリーズ基地で戦艦ヘイムダルと駆逐艦フレースヴェルグの受領をした。
ついでに、技術整備班も配属された。私は基本新しい艦や大きい艦が好きなので、もちろん戦艦へイムダルを旗艦にした。
さぁ、引越し引越し。

戦艦ヘイムダル級。
第一次バイドミッションから活躍していた戦艦で、地球連合軍といえばこの艦を思い浮かべるものも多い。現在は改良型のテュール級や、新造のムスペルヘイム級などが主流になっている。更なる新造戦艦を開発しているという話も聞くが、まぁ私が受領することは無いだろう。
駆逐艦フレースベルグ級。
ニーズヘッグ級の改良版で、さらに出来るようになった亜空間バスターⅡと艦載機能が特徴だ。ちなみに交換でニーズヘッグ級は持ってかれた。改装してフレースヴェルグ級にするらしい。
技術整備班。これが曲者だ。
ようはTeam R-TYPEの技術者と試作機などの整備を担当する人間だ。フォースの管理を一括して任せられるので、R機整備班の負担は減るんだけどなぁ。秘密主義過ぎて困る。


新たな指令も持ってきた。
ゲイルロズに帰還せずに、グリーズに留まるように言われたあたりで分かってたさ。
今度の任務は天王星衛星オベロンの反乱の平定。
オベロンは鉱物資源に恵まれており、星全体が採掘場のようなものだ。
そこで、地球連合政府に反対する勢力が採掘をストップ。ストに入ったとの事だ。
採掘用機器を乗っ取っているという情報もあるので、我々が派遣される。
ぶっちゃけ、スト起こしている労働者(思想犯)を武力で脅して、働かせるという事だ。
なんという強制労働。なんか鞭で奴隷を打っている想像が…これ以上はトラウマだ。
また、長期休暇が遠退いたな。

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オベロンに行くまでに、グランゼーラの奇襲を受けたので、サボっていたレーダー係をしばいた。
反省文は前回やり過ぎたと思ったので、マッケランの特別講習を受けさせた。
やっぱり声が大きくなって帰ってきた。やめとけばよかったか。


五月蝿いレーダー係がオベロンで防衛システムが稼動していることを報告してくる。
「提督!目標は攻撃態勢を取っているようです。ご命令を!」
「総員、第一種戦闘配備。内部構造から進入する。第一目標はコントロール施設の占拠。続いて敵戦力の殲滅だ。居住区は間違っても攻撃するな。ヘイムダル級は外部で待機。一時的に旗艦をフレースヴェルグに移す。」


関係者の処分は任せるといわれているが、私は軍人として法規に則って処分するつもりだ。
しかし、だ。
誤射ハシカタナイデスヨネ。
私の長期休暇を奪いやがって…本当に一発くらい至近弾を食らわせるか。


今回の副官はマッケラン中尉だ。熱血筋に…人一倍正義感の強い彼は今回の反乱には思うところがあるのだろう。いつもより2割り増しの声で報告してくる。


「提督!内部構造よりバイド反応を検出。防衛システム・掘削機器が侵食を受けているようです。」
「目標変更。第一目標は敵バイド体の殲滅。第二目標は生存者の救出だ。」
ひどい様だが、バイドは広がるので最優先で叩かなければならないのだ。
シェルターには対バイド侵食外壁があるので、1週間くらいは立てこもれる。
これだけの規模の汚染では、シェルター外は考えるだけ無駄と言うものだ。
別に長期休暇の恨みと言うわけではないが。


「提督!救難信号です。地表面シェルターから救助依頼が届きました。オベロンの労働者達のようです!」
「バイド侵食は?」
「外壁侵食率…76%。このままでは後1日程度で影響が出ます!」
「1日あれば十分だ。作戦変更は無し。先に大本を叩く。」
別に長期休暇の恨みではない…


ヘイムダルが外に待機させてあるけど、
緊急に援護をお願いしなければならないかもしれないし。
そのときに、内憂を抱えていたくない。数の暴力は怖いからだ。
戦闘中では洗浄措置もちゃんと取れないだろうし、
下手に接触させてバイド素子を持ち込まれたらたまらない。
…ヘイムダルとか戦艦がバイド化するとどうなるんだろう?
まぁ今はそんなこと関係ない。


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目標の坑道は縦深くに伸び、地下部で他の坑道とつながっている。
上部は広く、下に潜るほど狭くなる構造だ。ちょうど中間にバイド反応が見られる。
地上部の入り口から戦艦へイムダルで突入しようとも考えたのだが、
対空砲火が激しいく、とても近づけないため、我々は側道から進軍した。
対空砲火というか、資源運搬用の大型レールカノン20門とか無理すぎる。
もちろん防衛システムはバイド化している。
もうこのパターンにも慣れてきたな。
いっそ、バイド化した次点で自爆する機構を付けてはどうだろう。


「提督!作戦地点に到着しました!ご命令をどうぞ。」
「今回の目標はバイド化した採掘機器と防衛システムを殲滅すること。生存者の確保、暴動をおこした労働者の拘束だ。生存者確保には時間的余裕があるため、バイドの殲滅を最優先目標とする。坑道内を掃討しながら上昇していくが、中間地点に比較的大きいバイド反応が感知されている、留意すること。では作戦を開始せよ。」


「ミッドナイトアイを先行、索敵させよ。」
「了解ミッドナイトアイ前進しま…提督!ミッドナイトアイ撃破されました!」
「なんだと!?どういうことだ。」

早期警戒機を先行させたら、一瞬で防衛システムにやられた。なんぞこれ。
この狭い空間でレーザー砲台4門とミサイル砲台2門のクロスファイアとか尋常じゃないぞ。
どうやら、オベロンの労働者たちが反乱を起こすための下準備として、
防衛システムを強化、坑道を要塞化しようとしていたらしい。
ちっ、この思想家崩れのブルーカラーどもめ。後で覚えていろよ。


「亜空間索敵に切り替えだ。砲門に接触しないように壁面から索敵させよ。」
「索敵結果。壁面一定間隔で砲台があります!メインディスプレイに投影します。」
「上方の砲台はミサイルで、水平方向の砲台は波動砲で潰せ。急がなくていい確実に行え。」
シェルターの労働者? 間に合うさ、たぶん。
別に長期休暇の恨みでは…


遠距離からミサイルや波動砲でチマチマと砲台を潰しつつ、
上昇してゆく。たまに採掘機を取り込んだバイドが現れるが、
地味に地味に撃破してゆく。
集中砲火が怖いし、同じミスをするのはさすがに嫌過ぎる。
それでも、R機の消耗が酷く、駆逐艦フレースヴェルグと輸送艦のハンガーとドッグは修理に追われているようだ。
先ほど機体は大事に扱えと整備班長のおやっさんに怒られた。
さすが、おやっさん…提督にも関係なく怒鳴るんだな。
というより何故、司令室へ直通通信を入れられる?


順調に敵の砲台を潰し進軍し、目的地まで半分くらいのところで、
コントロール施設を見つけた。バイドには侵食されていないが、
反政府主義のブルーカラーどもに制御を奪われているようだ。


…ちょっと脅すか。


「マッケラン中尉。コントロール施設の周囲の武装を破壊させろ。」
「はっ!分かりました!」


…マッケランお前はもうちょっと、上官の判断に疑問を覚えるべきだ。
もっともらしい理由をつけて、ここの労働者を始末するといったら、普通に従いそうで怖い。
当たっても全然痛くない対人機関砲にむけて、
対バイド・対R機用のバルカンを打ち込ませる。
ちなみにバルカンとは通称で、実際は連射の利くレールガンだ。
コントロール施設の周囲の壁に穴が開いていく。

―地球連合軍に逆らうからだ!―

一度言ってみたいセリフを心の中で呟いてみた。もちろん顔は真面目モードのままだ。
今日ばかりはそういう気分だったのだ。私の長期休暇…
そろそろ、占領しようと指示しようとしたとき。
ボスンという鈍い音とともにコントロール施設の一部から煙が上がる。
周囲を撃てといったのに施設に当てたな。エアは漏れていないようだが…

『システムダウン、システムダウン。外部レールカノン1から20まで電力供給を停止します。』

「なにが起こった?報告せよ。」
「提督、コントロール施設内の変電設備にあたった模様です!」
「作戦に影響は?」
「これは!?地表の運搬用レールカノンが停止しました!」

よし、レールカノンが無くなればヘイムダルを呼び寄せて、上空から挟み撃ちに出来る。
これぞ棚ぼた。問題は今から呼んで間に合うかだ。

「ヘイムダルへ連絡。バイド反応のあるポイントの上方に移動させよ。間に合わなくてもかまわん。」

そんなことをやっている間に、POWアーマーがコントロール設備を開放する。
中にいたのは、コントロール設備の一室に閉じ込められていた連合軍のパイロットや、反乱に反対した人たちだった。
コントロール室からの通信で確認を行った。下手人たちはとっとと逃げたらしい。
そうだね、普通こんなバイドだらけのところには残らないよな。
パイロットたちの顔は引きつり、女性の非戦闘員などちょっと涙目になっている。
そんなに、酷い扱いを受けたのかと思っていたら、バルカンの至近弾の音が怖かったらしい。

………まぁ怪我が無くて何よりだ。
しかし、バイドだらけの坑道に人を監禁して、あまつさえ女性を泣かすとは、思想犯どもめ、許すまじ。
私は反乱を起こした労働者に対する怒りを感じた。


「マッケラン、捕虜の解放はPOWにまかせる。我々は上方に向かう。」
「了解です。」


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最終通路が見えた。あそこに身を隠せばレーザー砲台をしのげるだろう。
この坑道の目的地であるバイド反応のある広い空間に向かう細い通路が見えた。
先ほどから撃ち漏らしたレーザーがチクチク痛かったのだが、通路に入れば直進しかできないレーザーをかわせるだろう。
しかし、かなりゆっくり進撃したので、タイムリミットが近い。
「各機、レーザー砲台は無視してよい。ミサイル砲台だけ破壊して最終通路まで一気に突破せよ。しかし通路を決して出るな。」
ドプケラの悪夢が頭をよぎった。また、頭を出した瞬間破壊されたら困る。
時間もないし、誘導性のあるミサイルだけ潰しておけば、最終通路は安全なはずだ。
最終通路で体勢を整え、索敵してから大型バイドに攻撃を仕掛ける。
とりあえず、始めに撃墜された偵察機の代わりにデコイPOWで様子見といこう。


デコイPOWが通路をでて、坑道名内部の巨大空間にむかった…一気に視界が白くなる。
巨大空間全体が発光たかと思ったら、POWは跡形もなかった。
…光の残滓の向こうに、巨大な機体と、その周囲に浮かぶ浮遊砲台が見えた。
資料では、ここオベロンで運用されている掘削機ミヒャエルのようだ。
ミヒャエルの屈折式掘削レーザーがデコイを消し飛ばしたらしい。


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「お前の様な掘削機がいるかっ!」
ついつい地が出てしまった。
冷静になればR機だってもとは作業用機体だし、波動砲は掘削用のアステロイドバスターだ。
しかし、アレはやりすぎ。
兵器として改良されたR機の波動砲より強い掘削レーザーってどういうことだ?
というよりあのほぼすべての空間を埋めつくすレーザーの量は何なんだ?
技師たち、R機を軍用に取られたからって、魔改造しすぎ。
いっそ軍が彼らを雇うべきだ。


「ウォーヘッド、補給でき次第亜空間索敵だ。」
「前方よりミサイル来ます。ウォーヘッド2番、3番機損傷しました。すぐには修復できません。」
こちらの攻撃の届かない位置から誘導ミサイルが狙っていた。通路の向こう側にも配置されているとは。死角に設置されたミサイル砲台を潰すには、ミヒャエルの射程に身をさらさねばならない。
ウォーヘッドに限らず亜空間に突入する際は、前方に亜空間への入り口を発生させ、飛び込む。この亜空間の入り口は不安定なため少しの衝撃でも閉じてしまう。そして、亜空間突入の前は回避行動が取れず、また機動も読みやすいため敵の格好の餌食となる。
だから、敵機にちょっと弾幕を張られるだけで、亜空間への突入が阻まれてしまう。


「ミサイル砲台を破壊せよ。」
「死角になって波動砲とどきません。こちらのミサイルも射程外です。」
下がってもレーザー砲台があるため、後ろに下がっても亜空間潜行できない。
どうするか…?


「その役目は我々が引き受けよう。」
「誰だ。」
サブディスプレイに現れたのは、連合のパイロットスーツを着用した人物だった。
聞いた事のない声だ。こんな隊員いたか?
「所属マーカー…オベロン駐留部隊です!機体はワイズマン5機!」
「オベロン駐留R機部隊ワイズマン隊だ。助けてもらった礼はしないとな。…ワイズマン隊出撃する。」

コントロール設備に監禁されていたパイロットだった。
どうやら、労働者たちでは扱いきれず、機体もここの放置されていたらしい。

「よろしい。ワイズマン隊、最終通路の奥の外壁にあるミサイル砲台を破壊してくれ。我々のR機では障害物があって届かない。」
「了解だ。」


Rwf-9w要撃機‘ワイズマン’
賢者という名前は誘導式波動砲という特殊な波動砲から来ている。
パイロットの思考制御によって波動砲の進路を変えられる非常に使い勝手の良い武装だ。
しかし、この機体は悪名高い試験管型コックピットを採用している。
波動砲の制御その他に多大な精神力を使用するため、
パイロットが疲労でコックピットを自力で降りられなかった。その対応策としてTeam R-TYPEはパイロットが降りなくてもいいようにコックピットごと新しいパイロットに換えるという荒業を編み出した。ラウンド型コックピットから、換装が簡単な試験管型になったのだ。
負荷を減らす方向に思考が向かわないのが、非常にTeam R-TYPEらしい。


ワイズマンの誘導式波動砲ならば、死角の敵に届く。
ワイズマンがミヒャエルの射程ギリギリまで近づく。
「チャージ完了、波動砲発射するぞ。」
奇妙な軌跡を描き波動砲が壁の向こう側へ飛び込む。


「ミサイル砲台、破壊確認しました!」
「よし、ウォーヘッド隊亜空間潜行、ミヒャエルの懐までもぐりこんで攻撃、チャージキャンセルをおこなえ。他のR機はチャージして、待機。チャージキャンセルしたら突撃する。目標、中央のミヒャエル本体だ。」


ウォーヘッドが亜空間から脇目をふらずに、突入。
ミヒャエルの目の前で通常空間に復帰。ミサイルを撃ち込む。
「ミヒャエル、屈折式掘削レーザーチャージキャンセルを確認!次のチャージ完了まで15秒です。」
「全機、ミヒャエルに攻撃チャージ時間を与えるな。」

細い通路から、デルタ隊と、プリンシパリティーズ隊が飛び出してくる。
じきに波動砲の射程に捕らえ…ると思ったところで背後の壁面からレーザーの乱射を受けた。
波動砲は発射したが、体勢を崩したためミヒャエルの砲塔ユニットには当たらなかった。
壁面の死角にはミサイル砲台だけでなくレーザー砲台もあったらしい。
早期警戒機を破壊された弊害がこんなところで!
しかし今更、砲台を破壊している余裕はない。


「敵チャージあと10秒です!」
「次のR機!」


鈍足のクロス・ザ・ルビコンとグレースノートで間に合うか?
ワイズマンも危なっかしくふらふらとミヒャエルに向かっているが、間に合わない。
その時レーダーに味方を示す光点があらわれる。
あれは…?間に合ったのか、あの射程ならいける。


「通信手。上方のヘイムダルに通信。」
「ヘイムダル!全砲門開け。目標ミヒャエル。急げ!」


まったく存在を忘れていたヘイムダルがここまで進軍してきていた。
ヘイムダルの艦長は即座に了承。すでにミヒャエルを狙っていたらしい。反応が早い。
ヘイムダル級戦艦の艦首砲‘ブルドガング’を放つと、巨大な白い光がミヒャエルを飲み込む。
ついでとばかりに、12連装誘導ミサイル‘ギャラルホルン’も発射している。
やっと追いついたルビコン隊とグレースノート隊も、ダメ押しで波動砲を打ち込む。


メインディスプレイが巨大な光量に負けて暫くマヒする。
もちろん私は前回の失敗を踏まえて、閃光防御のためのサングラスをサッとかける。
エネルギーの乱流に翻弄されて、ミヒャエルの近くにいたR機が激しくシェイクされる。
ディスプレイが回復した後にミヒャエルの姿はなかった。


「目標を撃破!!作戦成功です!!!」


マッケランがオープンチャンネルで味方に報告する。
耳痛い…横で聞いていて耳がキンキンする。今のスピーカーがハウってたぞ。
いつもの3倍くらいの声だ。次回はサングラスだけでなく耳栓も必要か…。
そういえばエネルギーの乱流に巻き込まれたR機はいないか?

「各機、被害報告を。」

R機隊の隊長らが点呼を取り無事を報告してくる。

「ウォーヘッド隊、2,3番機小破、全機います。」
「プリンシパリティーズ隊、レーザーで2機撃墜、しかし脱出を確認しました。」
「デルタ隊、同じくレーザーで4機中破、全機揃っています。」
「クロス・ザ・ルビコン隊、オールOKです。」
「グレースノート隊、全機無事を確認。」
「…」

「ワイズマン隊…?応答してください。ワイズマン隊。」

オペレーターの呼びかけに反応しないワイズマン隊隊長機に、強制通信を開く。
ディスプレイには頭を垂れ微動だにしないパイロットが映し出された。
ワイズマンのパイロットの中には、精神衰弱で死亡したものもいたはず。
長時間の監禁の後、いきなり戦闘して誘導式波動砲を撃ったりすれば…


「工作機!ワイズマン各機をヘイムダルに収容せよ。」



________________________________________________________________________



私は反乱を起こした労働者の拘束と、敵残存戦力の無力化を指示した後。
司令室スタッフと副官のマッケランを連れて旗艦ヘイムダルに戻った。
ヘイムダルに移るとすぐに医務室に連絡を入れ、あのワイズマンパイロット達の容態を聞いた。医者の回答は過度の過労と神経衰弱ということで、点滴をして寝かせていると連絡を受けた。
とりあえず、一安心した私は残務処理をし、辺境警備隊に労働者たちを引き渡した。処分はあちらで、決定するとのことだ。
人的・物的に被害が広がっており、厳正な処分を望む。と言い添えておいた。
私の長期休暇の恨み…


私は今回の作戦の簡単な報告をして、居室で詳細な報告書を作っていた。そのとき医務室からワイズマン隊のパイロット達が起きたとの連絡があったので、私は医務室に向かった。
マッケランは医務室でも大声を出しそうなので置いてきた。
私が医務室に入ると軍医と病人用の緩い服を着た男が話していた。
男がこちらを見てすぐに敬礼し名乗ったので、私も答礼してあいさつをし、楽にするように言った。さすがに病人を立たせて話すわけにもいかない。
「さて、バイド素子が一掃されるまで、オベロンの守備は他の艦隊が預かることとなった。それに伴い、現在のオベロン駐留部隊は解体、君たちは私の艦隊に異動になった。」
「はっ。ワイズマン隊以下5名、着任します。」
事務連絡を済ませると、気になっていたことを聞いてみる。

「そういえば、試験管型戦闘機とはそんなに消耗するものなのか?あまり酷いなら予備パイロットを用意する必要があるのだが。」
「いえ、我々が搭乗しているのは、後期型のワイズマンです。インターフェイスも普通の神経接続式のものですし、負荷自体も初期型に比べ格段に軽減されていますので、普段の戦闘で倒れることはありません。ただ、今回は長時間閉じ込められていた際の疲労があったため、誘導式波動砲の発射で意識が飛びかけまして…」
「飛びかけた。と言うことは直接原因が別にあるわけだな。」
「…その、神経接続式のインターフェイスは情報が直接感覚神経に伝わるのですが…」
「それで?」
「いえ…あの、戦勝報告をしたあの大きな声が直接頭に響いて…それからの記憶がありません。」


マ ッ ケ ラ ン お 前 か 。


とうとう直接被害を出すとは…恐ろしい男だ。
私はパイロット達を労い、休息をとるように命令すると、
司令室に戻りマッケランを呼びだした。


「マッケラン中尉、命令を伝える。本日本時刻よりジェラルド・マッケラン中尉をR機パイロット候補として、新設偵察機部隊アウルライト隊に一時的に配属する。これは部隊を新設するにあたって士官を配属し部隊の規律を正しく保つためだ。君が将来部隊を率いる際にこの経験がプラスになると思う。」
「提督…!はっ!ジェラルド・マッケラン中尉。アウルライト隊パイロット候補として着任します!」

だからマッケラン、上官の言葉を少しは疑え。
深呼吸をして、良く考えるんだ。
偵察機隊とか一番死亡率高い部隊だから。
理由ももっともらしく言ってるけど、意味不明だから。
これが懲罰人事だって気付けよ。
…そこまで張り切られると私が負けた気分になる。


翌日からマッケランの無駄に大きい声がハンガーに響き渡った。





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みんなのトラウマ、ミヒャエルさんの回でした。
ミヒャエルさんはとってもシャイなので、
射程に入った瞬間に顔も見せずに消し飛ばしてくれます。

ゲームだと今回のような設定の敵(迂回して4HEX以上の距離で、横方向、障害物有りの場合)には、ワイズマン先生の波動砲は届かないんですよね。壁にくっついたら撃てないし。ちなみに中の人は五体満足の普通の人ですよ。
しかし、ワイズマン隊め、モブのくせして生意気だ。
今、作者がエスコンをプレイしているせいで、パイロットが優遇されているんだと思います。

にしても着実に1話1話が長くなっている…。



[21751] 13 提督と光学兵器
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:06
・提督と光学兵器
―それってソーラ・○イじゃ…―


我々はオベロンでの反乱平定後バイド反応を追っかけて天王星のバイドを駆逐した。
調子こいたせいだろうか。
本部から言い渡された指令は、長期休暇ではなく、冥王星基地グリトニルの攻略だった。
グリトニル…本部はここで勝負に出るらしい。
グランゼーラ革命軍の本拠地となっている基地だ。
そこを我々だけで落せとは…本部め。


最短距離で直線的に冥王星へ向かう事を選択した私は、今氷だらけのカイパーベルト帯にいる。
進んでも進んでも氷の風景にうんざりしてきた頃、窓から対バイドの切り札‘ウートガルザ・ロキ’が見えた。
切り札なんていう割に実際に使用したのは1回のみだ。
まぁ、そうそうバイドの大攻勢があってはたまらないからな。
‘ウートガルザ・ロキ’は集光式のソーラー兵器だ。
地球周辺から得た太陽エネルギーを、中継地点を経由しながら、集光ミラーに集め、さらにウードガルザ・ロキへと注ぎこみ、その円筒形の砲身で指向性を持たせて兵器としたものだ。
フルチャージすれば太陽系の端まで届く射程を誇る。


…またレーダー係が騒いでいるな。なにやら窓の外を指さしながら興奮している。
ちょっと、普通では無かったので聞いてみると、集光ミラーが輝いているという。
騒ぎを聞きつけた別のスタッフが、本体も照度が上がっており、チャージ準備が始まっているという。
本来外宇宙を睨んでいるべき砲身は、現在我々…地球方面に向けられている。
とりあえず、緊急連絡だ!


「緊急事態。総員、第一種戦闘配備に移行。総員、第一種戦闘配備に移行。」
「提督から総員へ、‘ウートガルザ・ロキ’が発射準備に入っている。地球方面に射線が向けられており、人間が住むエリアに照射される恐れがある。よって‘ウートガルザ・ロキ’の無力化作戦を行う。なお、グランゼーラの攻撃が予想されている。総員戦闘準備に移れ。」


艦内が一気に慌ただしくなる。
「ガザロフ中尉、ウートガルザ・ロキの発射までのカウントを頼む。」
「はい提督。チャージ完了まで7分強と予想されます。」
「R機の出撃準備が済むまで、へイムダルで近づけるところまで近づく。」
「レーダー係、グランゼーラの敵影がないか注意せよ。」
「防衛部隊がいるはずだ。早期警戒機に索敵をさせろ。進路上だけでよい。」
「索敵範囲クリア。」
「艦隊前進を止めるな。」


「提督、あと7分で発射です。」
早期警戒機が氷塊に隠れながら、艦隊の進路を確保する。
時間短縮と囮として目立つため、氷塊のない直線進路を取っている。
ウートガルザ・ロキの射線上だ。
低出力で試射を行ったらしく、射線上は氷塊が無くなっている。
ロキが発射されれば、艦隊が消し飛ぶ危険があるが、背に腹は変えられない。
万が一でも太陽系内の居住区域に被害が及ぶことが考えられる以上、発射は絶対に避けなければならないからだ。


R機を先行させるべきだな。出撃させ氷塊の中を進軍させた。
「ヘイムダルは囮として、中央を進み、R機は奇襲働隊として、氷塊に隠れてロキまで向かわせる。」
ロキを沈めるには波動砲の斉射が必要だが、あまり戦力は割けないので、ロキの射線外から、とモーニングスター隊を1隊進軍させる。

ちなみにモーニングスターは技術整備班がシューティングスターを勝手に改造していた。まったく許可取ってからやって欲しい。

ともかく最悪、ロキ本体にある集光機構を破壊すれば、集めたエネルギーが拡散しチャージをキャンセルできるはずだ。
これには本体最奥にある部分を狙撃する必要があるので、長射程を誇るR機を送った。
囮が少なくなればそれだけ敵が警戒する。だから奇襲働隊は1隊、敵にばれればすぐにでも落とされる程度の戦力だ。
いかに敵の目をこちらの囮本体に引き付けるかに掛かっている。
R機を出撃させ手隙になった輸送艦の整備班やドックの担当に、ミサイルの配置などについて少し連絡をいれておく。ちょっとした事だが何もしないよりマシだ。


「あと6分です。」
時報、もといガザロフ中尉が告げる。
まだ敵機は現れない。
私が焦ったところで、どうなるわけではないので、
ポーカーフェイスを守っているが、内心焦っている。
ヘイムダル遅い。索敵能力は非常に優れているが本当に遅い。
ロキが発射フェイズに入ってしまえば、射線から外れることは不可能だろう。
とりあえず、囮として目立つようにデコイで頭数を増やし、近場の氷塊を破壊しながら進軍する。
氷割りちょっと楽しい。最近ストレスが溜まることばかりだからな。


「あと5分で…」
「索敵に反応、グランゼーラ軍早期警戒機です。」
時報女ガザロフ中尉を遮って、レーダー係が報告。
やっと来たか。
こちらの作戦を看破されて、奇襲機側に戦力を向けられたらどうしようと思っていたところだ。
ちなみに奇襲部隊はすでに本隊の索敵外にでており、通信不能だ。
「よし、敵の目をこちらに引き付ける。ヘイムダル主砲、敵早期警戒機に発射せよ。間違っても全機撃墜するな。」
早期警戒機を残して、こちらに増援を呼んでもらわなくてはならない。
早期警戒機を狙い打つと、やはり周囲からグランゼーラ軍がワラワラと沸いてくる。
「囮本隊全機、進軍速度は落とすな。敵の守備部隊を引きずり出す。砲撃開始。」


「あとよんっふ、ンきゃっ!」
時報中にガザロフ中尉が舌を噛んだらしい。涙目になっている。
激しい振動のためだ。すでに囮本隊は乱戦に突入していた。
波動砲、艦首砲のチャージは出会い頭のミサイルプレゼントでお互いにキャンセルされた。
接近戦は今のところフォースのあるこちらが有利だ。
ともかく、押して敵を圧倒する。
装着状態のフォースを次々にシュート。敵戦力を削る。
フォースは破壊されてもパイロット居ないから、思う存分に突っ込ませられる。
…そろそろ奇襲部隊が所定の位置にたどり着く頃だが。


「あと3分です。」
ちらりと、ウーロガルザ・ロキを見やると、明らかに照度が増している。
砲身がこちらに向いているため、眩しい。私は眩しいのは嫌いだ。
「ウートガルザ・ロキの照射を回避するには、あと30秒以内に行動を開始しなければなりません。提督、命令を!」
ガザロフ中尉がそう宣言し、司令部スタッフが息をのむ。Point of no retuneというわけだ。
しかし、ここで逃げるわけにはいかない。なぜなら…
「その進言は却下する。今退けば囮であることを勘付かれる恐れがある。さらには、我々が回避すれば、本来のターゲット…軍事基地か連合派の都市に狙いを合わせる恐れがある。」
もしグランゼーラが居住地域を狙っていれば億単位の人間に被害が出ることになる。

「照射回避不能域に入りました!…提督命令をどうぞ。」
ガザロフ中尉は腹を決めたらしい。スタッフの動揺も収まってくる。
…数名、目が据わっている者もいるが仕方ない。パニックになられるよりは良い。
今のところ、奇襲部隊が撃墜された報告は無い。
奇襲部隊は索敵外だが、さすがに一部隊5機が撃墜されれば、爆発が観測できる。
ロキの照射を回避する選択肢がない以上は、奇襲部隊を援護するしかないな。
「ガザロフ中尉、第一輸送艦に総員退避を勧告せよ。」
「しかし提督、すでに照射範囲外に回避できません。今輸送艦から出ても同じです。」
「今から爆破する艦には人を置いておけない。」
「爆破?デコイではなく輸送艦の方をですか?」
「ああ、やっておきたいことがあってね。」
「了解しました。」


「提督!1分切りました。」
「レーダー係、奇襲部隊は?」
「まだ…いえ、ウォーヘッドの索敵に反応、モーニングスター隊を確認しました。敵はまだ気づいていないようですが、じきに氷塊宙域を抜けます。これ以上は目視されます。」
「第一輸送艦を外部コントロールでロキの砲身前に出せ。」
「自爆ですか?ロキに隣接する前に破壊されると思いますけど。」
「自爆ではない目くらましだ。」
やっとアレが役に立つ時が来たのだ。
前衛に出しておいた第一輸送艦をさらに無理やり前進させる。

「第一輸送艦、集中砲火を浴びています。撃沈され…何ですか、あれ?」
輸送艦がロキの前面、敵部隊の密集地帯で敵防衛隊のミサイル攻撃を浴びて誘爆すると、ピンク色の靄があたり一面に拡散する。
「説明は後だ。レーダー係は現状報告を。」
「モーニングスター隊所定の位置に付きます。」
「提督後30秒です!」
「モーニングスター、波動砲発射した模様。」
煙幕でこちらからも様子が伺えないため、みな固唾を飲んでレーダー係の報告を待つ。
「ウートガルザ・ロキ、エネルギー収束率75%で停滞、…エネルギー拡散を確認。成こ…」
「提督!作戦成功です。」
今回、時報しかできなかったガザロフ中尉がレーダー係の報告の上にかぶせてくる。
言わせてやれよ大人げない。


「提督、グランゼーラ軍残存兵力が投降を申し出ています。」
「もうこの場で戦う意味もないだろう、武装解除を条件に受諾せよ。」
「…グランゼーラ軍、武装解除の開始を確認しました。」


「それより、提督。あの輸送艦の爆発はいったいなんでしょうか?」
「輸送艦整備班に用意させていた演習用ペイントミサイルを利用した煙幕爆弾だ。」
「ペイント弾って、まさか…」
もちろん‘シヴァ’襲撃事件のときの余り分だ。前に第一輸送艦にいた整備班長…おやっさん(今はへイムダルにいる)がどうせだからと積みっぱなしにしていた奴を、第一輸送艦の整備員に命令して、誘爆で飛び散るようにしてもらった。前に聞いた話では、演習の時にでもデコイに積んで、花火にしようと企んでいたらしい。そのままの形で、輸送艦で使わせてもらった。ちょっと輸送艦がもったいないような気もするけど、さすがにデコイに移す時間は無いし、輸送艦を一隻犠牲にして、本隊とターゲットとなったかもしれない都市が1つ救われるのなら、問題ないだろう。
替わりに今回拿捕したグランゼーラの輸送艦を使わせてもらおう。基本構造は同じなのでカラーリングを変更すれば特に問題は無いはずだ。


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グランゼーラ軍の全武装を解除して、直近の基地方面に送り出した後、我々はグリトニル攻略戦に向けて準備を始めた。
部隊の損傷、特に囮本隊にいたR機の損傷がひどかったため、技術整備班に現在できるR機の改修と改造を指示した。
指示しなくてもやる気がしたが、手綱を握るという意味で、設計書をまず提示させた。
こいつらTeam R-TYPEの技術者は放っておくと何をするか分かったもんじゃないからな。


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「提督、お疲れ様です。紅茶をどうぞ。疲れを取るには糖分摂取が一番ですのでロシアンティーにしてみました。」
「ありがとう、いただくよ。」

口に入れた瞬間に異様な味が広がり、ゲホゲホとむせかえった。

「大丈夫ですか?提督。」
「ガザロフ中尉…これはロシアンティーなのか?」

絶対に違う。学生時代に飲んだロシアンティーはこんな邪悪な味じゃなかった。

「ええ、レシピ通りに紅茶にジャムをいれました。」
「…」
「あ、これですか。母方のおばあちゃんが作ってくれた梅干しジャムなんです。酸味が効いて、おいしいんですよ。」
「…」


突っ込むのにも疲れた。
私は紅茶もまともに飲めないのか?




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名前倒れのウートガルザ・ロキさんでした。
チャージ7ターンって…
せめて、どこぞのイデ○ンガンみたいに、攻撃範囲がマップの2/3とかだったら、もっと緊張感あったのに。

突っ込みどころ満載の回でした。
ミサイルの組み込み・総員退避はきっとジョバンニが1分で…

あ、ちなみに設定はtactics準拠なので、フォースは破壊可能です。ゲーム中に具体的に描写されていないので、破壊すると、バイドの種子に戻るということにでも…

ロシアンティって紅茶にジャムを入れるんじゃなくて、
本当はジャムを舐めながら紅茶を飲むって聞いたけど、どうなんだろう。まぁいいや。

次回は全国のR-TYPERに地獄を見せてくれたグリトニルです。



[21751] 14 提督と副官ズ(グリトニル突入編)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:12
・提督と副官ズ
―外伝小説?そんなものは知りません―


・sideガザロフ中尉

私は今、冥王星基地グリトニルへと向かう旗艦ヘイムダルの通路を、作戦会議室に向かって走っています。
…実はうっかり遅刻をしてしまって提督や他の副官の皆さんを待たせてしまっているかもしれません。大事な作戦前の会議なのに。
そうこう考えている内に、作戦会議室前までたどり着き、息を整え、入室します。


「ヒロコ・ガザロフ中尉です。」
扉がスライドし、作戦会議室に入る。やはり私以外の出席者は揃っているようでした。
「ガザロフ中尉、作戦会議に遅刻は困るわ。」
「すみませんでした…」
「まぁ、揃ったことだし作戦会議を始めよう。」
提督の一声で会議が始まります。

ちなみにまだ、グリトニルまでは距離があるので、紅茶を飲みながらの作戦会議です。
事前に私が用意しておいたおやつ、スコーン、クッキーと、補給の嗜好品セットに入っている御菓子類が机に並んでいます。
だれもおやつには手をつけません。緊張しているのでしょうか、さすがにグランゼーラ革命軍との決戦ですので私も緊張しているのですが、普段あまり感情表現の激しくない提督や常に仏頂面のアッテルベリ中尉まで…ここは一度関係ない話を振って緊張を和らげてもらうのがいいでしょうか?

「あ、みなさん、今日もお菓子を焼いたので食べてくださいね。提督、スコーンは…」
「いや!実は昼食が遅かったため余りお腹がすいていないんだ。…でもせっかくだから甘くないものを頂こう。」
提督が嗜好品セットのお菓子に手を出す。だいぶ汗をかいていて、本当に緊張しているようです。逆に気を使わせてしまったかしら?
「みなさんもスコーンいかがですか?クッキーも人気だったんですよ。」
「糖分は女性の敵だから、紅茶だけ頂くわ。」
「い、いえ。自分は…そう、早期警戒機に乗ることになるかもしれないので、腹8分目でやめておかなければならないのです!」
「小官も結構です。」

ベラーノ中尉、マッケラン中尉、アッテルベリ中尉が断る。
そうですよね。提督が食べていないのに副官だけ食べるわけにも行かないですよね。
私も気の遣いかたを覚えなくちゃ。

「ガザロフ中尉?その…人気だったというのは?」
「以前、ゲイルロズの作戦前に提督に食べてもらおうとしたクッキーなんですけれど、パイロットの皆さんには人気で。」
「ありえない、何かの間違いではないのか?」
「いえ、パイロットの皆さん、みんな涙を流しながら美味しいって褒めてくれましたよ。」
「…」
みんな遠い目をしていましたが、どうしたんでしょう?

再開した会議ですが、難航しました。
一個艦隊(といっても戦艦、巡航艦、駆逐艦が一隻ずつと輸送機が複数。)では単純な正面突破は無謀だし。迂回路を行くのも暗礁領域が邪魔をします。

グリトニルは難攻不落です。ここを攻略したのはバイドと英雄ジェイド・ロス提督、グランゼーラ革命軍だけ。
意外と多いようですが、バイドはその異常な物量で、グランゼーラは内部からの離反があったため、グリトニルを墜せたと言われています。
正面から破ったのは英雄ジェイド・ロス提督の率いるバイド討伐艦隊のみなんです。
かの英雄は私達に負けず劣らずの寡兵で打ち破ったとの話なので、
この作戦が成功すれば、私達の提督も英雄と呼ばれる人の仲間入りです。


「提督…私に案が。」



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「配置はどうしますか。」
「ヘイムダルは足が遅い。あまり機動力の高い機体を配置しても意味が無いだろう。」
「Rwf-9Wワイズマン、Rwf-9D2モーニングスター、Rwf-9DH2ホット・コンダクター、RXwf-12クロス・ザ・ルビコン隊の配属を進言します。」
アッテルベリ中尉が提案します。この人はあまりよく分かりません。でも話してみるとバイド、R機、各種技術などのことを教えてくれます。技術マニアでしょうか。
「では、他の艦隊は残った、レディラブA、B、ドミニオンズ、サンデー・ストライク隊、あとは早期警戒機アウルライトですね。」
ベラーノ中尉は頼りになるお姉さんです。
周囲を良く見ていて、失敗したときなどフォローを入れてくれます。
この後、作戦の細部を詰めて行きます。


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「提督、作戦名を決めましょう。」
提督が周囲を見渡して、あるもので目を止める。
「苦いチョコレート作戦はどうだろう?」
私が復唱する。
「Op.Bitter Chocolate!」

こうして、グリトニル攻略作戦 オペレーション・ビターチョコレート が始まりました。




・sideマッケラン中尉

自分は今いる4人の副官の中では一番早くから提督付きとなった。
この艦隊の前身である特別連隊であったとき、負傷で退役したホセ中尉から、後任の副官へ推薦されて以来、主席副官だ。
ホセ中尉は士官養成プログラムを受けて副官になった自分達と違い、今は珍しいたたき上げの40代の副官だった。
提督はあの部隊で始めて指揮官になったから、お目付け役だったのかもしれない。
そんなことを考えていると、格納庫についてしまった。

オベロンでの戦闘後に早期警戒機部隊のパイロットを経験して来いと言われて、ここに来た。
研修ということで出向していたのだが、オベロンで早期警戒機隊のベテラン達が粗方死傷しており、自分が階級的に一番上ということであったので暫定的にアウルライト隊の隊長機に乗ることとなってしまった。
正直小型機などスポーツ用のスペースプレインしか乗ったことがない。
そう正直に隊員達に告白すると。
複雑な操作は全部機械と自分達がやるから、
基本的に隊長がやることは索敵ルートを決めるくらいとのことだった。
そんな簡単では無いと思うが、おそらくルーキーの隊長を怖がらせまいと言っているのだろう。良い人たちだ!
パイロットスーツに身を包み、搭乗、早期警戒機はおそらく一番最初に戦場に出ることになるのだろう。部隊内通信を開き号令をかけると、隊員たちが応える…しかし、物足りない。

「もっと大きな声で。我々の目的は?」
『全機そろっての帰艦です。』
「もっと大きな声で!」
『全機帰艦します!』
「もっと大きな声!!」
『全機帰艦します!!』
「もっとだ!!!」
『我々は全機帰艦します!!!』
「よろしい!」


自分が学生時代の部活で学んだことは
‘声の小さいヤツには誰も付いていかない’
だった。


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今回の作戦では旗艦ヘイムダルを含む部隊が上方ルート、その他の艦艇が下方ルートを通りグリトニルを挟撃する。グリトニル周辺は峡狭な宙域であるため、大規模部隊を展開できない。なので、敵の防衛艦隊の主力は空間的余裕のある上下ルートの合流地点にいると予想される。こちらの艦隊を迎撃しようと部隊を分けてくれれば良し、分けなくても挟撃を行える。作戦前にそう、ガザロフ中尉は提案していた。


自分はこの作戦を聞いて、耳を疑った。
ただでさえ戦力の少ないのに、さらに部隊を分割することは不可能だと思ったが、
提督はいくつか確認をして少し考えてから、それでいこう。と言った。
ショックを受けた。作戦内容ではなく、作戦を一から提案するということにだ。
提督の仕事をやりやすくするのが副官の仕事と思い補佐に徹していたが、
立案も重要であると考えさせられた。
副官は指揮官の卵として、指揮官の下に配属される。いつまで経っても立案や意見を出さない自分を見かねて、提督は自分を指令室から出し、リーダーが不在の早期警戒機隊に配属したのだろうか…
いや、そうに違いない。
であれば、自分に求められる事は指令に従うことだけでなく、それ以上を考えて実行することだ。


早期警戒機は1部隊のみ、上下の両ルートの索敵は出来ない。上方ルートのヘイムダルは索敵能力に優れているので、下方ルートの別働艦隊の索敵に回るのが、求められていることだ
それ以上の結果を出すには…


「アウルライト1より隊全機に通達。我が隊は中央ルートを選択。カロンの内部から索敵を行う。」
「下方ルートではないのですか?」
すかさずアウルライト2、副隊長機から通信が入る。
「下方ルートはサンデーストライクの亜空間索敵で出来る。中央のカロン内部は隠れる場所が無く亜空間索敵は難しい!もっとも怖いのは背後からの奇襲だ。だから、まわりこまれる恐れのあるカロンの内部を索敵、その後合流地点の敵艦隊の索敵に移る!なお敵機に捕捉された際は足の速さを活かして振り切る。交戦しようとするな。」
「アウルライト2了解。あまりに無謀なことを命令するようなら止めようと思っていたのですが、その必要もなさそうですな。」
副隊長が認めると、他の隊員からも声が了解の声があがる。
「では、アウルライト隊全機発進準備!!」
『了解』

作戦開始まで後少し。



・sideベラーノ中尉


「提督、全艦作戦配置につきました。」
「作戦開始時刻まで待機する。」
「みな緊張しているようですね。」
「そうだな、我が艦隊発足以来の大規模作戦だからな。」
「ええ、ここは私が緊張を和らげて…」
「ベラーノ中尉…。その、助かっているのだが、女性があのような冗談はどうかと思うのだが…」


提督も雰囲気を和らげようと、作戦前にジョークを言うようだけれど、
普段真面目顔でいることが多いため、気付かれずに無視をされています。
良く観察していると、無視されたあと憮然としているのが可愛いです。
そういう時は、私がフォローを入れて場の雰囲気を和らげるようにしています。
ただ、緊張はとれるのですが、私のことを微妙な顔でみてくるんです
ジョークなので、本当にそう思っている訳ではないのだけれど…
食べ物系ジョークは控えようかしら?


「提督、作戦開始時刻です。」
「ああ、Op.Bitter Chocolate開始!」


私達の乗る旗艦ヘイムダルは上方ルートに向かいます。
下方ルートからはその他の艦艇が進攻しているはずです。
ちなみにヒロコちゃん…ガザロフ中尉は、作戦発案者として、下方ルートの巡航艦ヴァナルガンド級に乗っています。上方ルートは提督が指揮を取り、下方ルートはガザロフ中尉が指揮の補助に付く。という形になっています。
「あら?提督、アウルライト隊が中央ルートに向かっています。」
「マッケラン中尉が?…かまわん続けさせろ、下方ルート部隊には亜空間機サンデーストライクがいる。障害物の多い空間なら亜空間索敵の方が役立つ。それにカロン内部を早期警戒機が行くならこちらの索敵範囲と合わせて、かなりの広域をカバーできる。」


障害物をミサイルとレーザーで排除しながら進みます。
障害物のせいでいつもの索敵能力が発揮できませんが、
それでもヘイムダルの索敵能力なら先制攻撃を貰うことは無いでしょう。
ひたすらひたすら障害物を砕く単調な作業ですが、提督はなんだか楽しそうです。
良く提督が何を考えているのか分からないと、隊員が言っているのを聞きますが、
そんなことはありません。表情は変わりませんが、行動に少し現れます。
指揮杖(提督はポインタに改造しています)を弄りだしたら機嫌の良い証拠です。


「提督敵機を発見しました。エクリプスです。まだこちらには気付いていないようです。」
「エクリプスか。障害物の陰に他の部隊がいる可能性が高いな。」
「つり出しますか。」
「いや、ここで敵部隊をたたけばどの道、ヘイムダルの進軍ルートを推定される。それなら敵本体から観測されても艦首砲で一気に敵機をけずろう。」
「あら、提督、意外と大胆ですね。」
「…艦首砲発射用意。」
大胆を下品にならない程度に強調して言ってみたら、おもいっきり視線を外されてしまいました。顔はそのままですが照れているようです。ちなみに恥ずかしがっている時の癖は提督帽を取って髪をかき上げる仕草です。
弄ると楽しいですね。


「ブルドガング砲発射!」
「エクリプス他、数部隊が消滅した模様です。新たにステイヤー、パトロクロスを発見。こちらに向かっています。」
「R機発進。ヘイムダルはミサイルで牽制せよ。」
「レディラブ、ルビコン、モーニングスター、ホットコンダクター各隊発進しました。」
「ここで手間取ると本体から援軍が来るぞ。一気に畳み掛けろ。」

艦首砲の先制で、敵部隊がだいぶ減っていたこともあって。すぐに撃破出来ました。
しかし、レーダー手が報告を上げます。
「アウルライト隊、敵着奇襲部隊と接触した模様です。」
「やっぱり奇襲部隊を用意していたのね…。提督、援軍を送りますか?」
「いや、ここでさらに部隊を戦力を割るわけには行かない。…あえて中央ルートを選んだんだマッケラン中尉も理解しているだろう。上手くこちらか、下方ルートに敵を引っ張ってこれれば援護できるのだが…ヘイムダル攻撃範囲に入ったら援護せよ。」
提督は意外とあっさりと決断しました。心配していると思いきや意外と普通です。
主席副官のマッケラン中尉は前回の作戦のあと早期警戒機部隊に一時出向になりました。
彼は何をしたのかしら?


「提督、敵防衛艦隊の本体を捉えました。」
「敵の索敵範囲は?」
「えーと…」
「敵艦隊の索敵外です。」
影が薄いアッテルベリ中尉が助け舟を出してくれます。

「全艦停止。下方部隊が来るまで一時待機。」
「全機停止を確認。下方部隊は無事でしょうか。」
「無事と思うしかないな。もし全滅しているようなら撤退するしかない。ヘイムダルだけではグリトニル攻略は不可能だ。」




・sideアッテルベリ中尉


以前の一件以来サブオペレーター席が私の居場所となりました。
「提督、下方ルートよりヨルムンガント級、視認しました。」
指令室スタッフが報告する。ディスプレイに拡大し過ぎて乱れた拡大画像が移ります。
かろうじてヨルムンガント級とわかる画質ですが、機体色からして当方のものに間違いが無いようですが、敵艦隊より攻撃をうけ、回避のためか緊急回頭しようとしています。あれは…

「ヨルムンガント級、敵防衛艦隊の砲撃を受けています!」
「提督、こちらも援護を!」
ベラーノ中尉が味方の援護を進言します。

「いえ、提督あれはデコイです。」
私が席から告げます。提督がこちらを見ます。
「データリンクが切れて区別が付かないが、なぜそう言い切れる。」
「デコイ艦は側面スラスターの一部について形はありますが、実際には装備されていません。本物ならば、あのような緊急機動をとる場合は、側面スラスターも使うはずです。しかしあれは側面スラスターが動いていません。」
「確実か?」
「十中八九は。」
「よし、ヘイムダル、前方ヨルムンガント級デコイが破壊された直後に、艦首砲発射。その後R機による攻撃を加える。なお、下方艦隊からの砲撃・進撃も予想される。味方誤射に気をつけろ。」
今までの所属では、私が進言すると煙たがられる事が多かったのですが、この提督は真摯に受け止めてくれます。ことバイドと機体のことに関しては。
…信頼されているのでしょうか。余り、そういう感覚とは縁遠い生活をしていたので分かりません。


敵防衛艦隊が目の前のヨルムンガント級を落すと、ヨルムンガント小規模な爆発につつまれ消えます。デコイなので破片も残りません。
艦首砲ブルドガングが敵艦隊を貫きます。ほぼ同時に下方ルート側からも幾条もの光が伸びます。
「中尉の言った通りだったな。」
挟撃が上手くいったお陰で、敵艦隊はすでにぼろぼろです。
敵艦隊の最後の一隻を落すと、グリトニルが視界に入ります。
敵艦隊を破りはしゃぐ指令室スタッフですが、こんな簡単に…おかしい。
「提督、接敵した敵兵力が少なすぎます。グリトニル周辺に伏せられていると予想されます。おそらく特機に分類される兵器でしょう。」
「たしかに、手ごたえが薄いが…特機、射撃偏重型のヒュロスか、あるい…」
「パイルバンカーシリーズがいるかもしれません。」


_________________________________


「グリトニルにケンロクエンが多数配置されています。」

Gw-PB3ケンロクエン。
決戦兵器として名高いパイルバンカーシリーズの最新作です。
R機の数倍はある巨体の内部にしまわれているパイルバンカーは、直撃時の破壊力は艦首砲並みであると言われています。
動きは鈍重で、当たらなければどうということは無いのですが、乱戦時に大型艦艇に近づかれると非常に厄介です。
戦闘機にパイルバンカーを取り付けるという発想は、今は無きアジアの一角の治安維持部隊の技術者の発案であったと言われています。


POWアーマーでグリトニル入り口を制圧したいのですが、接近すればパイルバンカーの餌食になってしまう。R機の多くはヒュロスにやられ修理中です。
へイムダルのミサイルでチャージキャンセルを行っていますが、手数が足りません。
「提督、亜空間機で引き付けましょう。」
「何、接近すればパイルバンカ-に貫かれるぞ。亜空間機といえど敵機に隣接すれば、通常空間に戻ってしまう。」
「正面から攻撃するように接近しパイルバンカーを誘い、亜空間潜行します。パイルバンカーの使用準備に入るとケンロクエンはその他の攻撃手段をとれません。また、敵機に接近され過ぎる前に、亜空間機は撤退させます。機体に接触すれば亜空間から引きずり出されますが、パイルバンカーの射程の半分はエネルギーをぶつける非物理的攻撃です。杭自体にさえ当たらなければ、回避は可能です。」

…久しぶりにこんなに長く話した気がします。
この作戦実は、パイルバンカ-発射ぎりぎりまで粘り、亜空間へパイルバンカーから逃れるという、チキンレースです。
どうしたのでしょう。普段の私ならこんな確率的要素の強い策はすぐに棄却していたのですが…

「よろしい、サンデーストライク隊に配置に付かせろ。POWも準備を」
「サンデーストライク前面に展開。」
「発進!」
サンデーストライクが一直線にグリトニル上のケンロクエンに向かいます。
ケンロクエンも赤い巨体をこちらに向けて、パイルバンカー使用形態になります。
「相対距離接近、3…2…1…!」
サンデーストライクの機影がかすみ、パイルバンカ-のが光とともに撃ちだされます。
どちらが早かったのか、私の目では見えませんでした。
しかし、そんなことより残りの機体・艦艇でケンロクエンに接近してミサイルやレーザーで一気に攻撃能力を奪います。

「!提督、一機パイルバンカー撃っていません。こちらへ向かっています。」
「緊急回避を!」
急制動に指令室も揺さぶられます。しかし、ケンロクエンは振り切れません。
パイルバンカーに光が集まり…

次の瞬間、閃光がケンロクエンを貫きました。
亜空間潜行したサンデーストライクがUターンして戻ってきたようです。
皆の口から安堵のため息が漏れます。
なんにせよグリトニル周囲には敵がいなくなり、POWアーマーが占領工作を行います。
POWの作業率が100%になると、艦内や、無線から歓声が上がりました。


グリトニルの入り口付近を制圧し、小官らはようやっとグリトニルの内部に踏み入る権利がもらえました。
未だ歓声は上がり続け、指令室スタッフ、パイロットも作戦自体が成功したかの様な様子です。
まだ、作戦の半分なのですが…しかし、私がそれを言うことはありません。
わざわざ士気を下げる必要もありませんし。
提督も少し笑っていますが、周りには流されていませんし問題ないでしょう。
むしろ、何か考え込むような仕草をしています。すでにグリトニル内部での決戦について、考えているのでしょうか。


隊員の体力に限界が来ていたので、このまま少しの休息をとり、機体の応急修理を行った後に、グリトニルに突入することになりました。



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難産なグリトニル突入篇でした。
外伝小説?そんなものは知りません。
提督主観で進めると自分の中で決めていたのですが、また破りました。自分に甘い作者です。

副官主観ということで実験作的な意味合いの強い話となりましたね。
ひとりベラーノ中尉が空気です。
主人公スゲー的な勘違い物は大好きですが、ちょっと食傷気味なので、そのような描写は抑え気味にしています。(マッケランは除く)


・予告編
防衛艦隊を蹴散らして、ついにグリトニルに突入した提督たち
基地を埋め尽くす敵機
吹き上がるブースター
待ち構える親衛隊
そして、爆炎をあげるグリトニル
オペレーション・ビターチョコレートの結末は? 
次回、最終話「Op.Bitter Chocolate」
提督の魂の叫び、その想いは届くのか?


…ごめんなさい、嘘です。



[21751] 15 Op.Bitter Chocolate
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:15
・Op.ビターチョコレート


刻々と開始が迫っているグリトニル攻略戦最終局面
―Op.Bitter Chocolate―
略して、ビタチョコ作戦
威厳が半減した。略さなければ良かった。
まぁ、私の食べかけのチョコが元ネタだから、威厳なんてもともとないのだけれど。


私は司令席に座り、外部を眺める。
今いるのはヘイムダル級戦艦の指令室だ。
思ったよりも艦艇・R機の損傷がひどかったため、グリトニル突入前に応急整備をしている。
包囲された敵は籠城の構えで、R機一機も出てこない。
本来なら、勢いがついたところで一気に攻め入りたいところだが、
難攻不落のグリトニルに満身創痍で突入などごめんこうむりたい。


グリトニル
グリトニルとは北欧神話で神々の法廷として用いられた神殿の名前らしい。
アッテルベリ中尉が作戦前に教えてくれた。
法廷に攻め入るとはクーデターでもない限りなかなかあるまい。
もっとも、元々グリトニルは地球連合政府の基地であったものを、
革命軍の手から取り戻すのだからクーデターではなく、正当な武力の行使なのだが。


そんなことより


現在、私の副官を勤めているのはディアナ・ベラーノ中尉。
悪魔料理人…もとい、おっちょこちょいでかわいい系のガザロフ中尉と違って、
大人の魅力があるお姉さんだ。危ない発言は置いておこう。
実のところ私は、ベラーノ中尉に恋をしている。
ベラーノ中尉はどう思っているのだろう?
大人の女性だし、告白しても、軽くあしらわれてしまいそうだ。

「この作戦が終わったら大切な話がある」
「花束も買ってあるんだ」

なんてフラグは立てたくない。それは危険な兆候だ。
実際にこの作戦は、私の艦隊が行うのは荷が重い。
弱気なのではなく基地攻略戦に一個艦隊のみ
(しかも戦艦と巡航艦、輸送艦数隻しかない)
で攻略させるとは本部もそうとうご乱心だ。また、本部の罠か。
しかし、私も軍人なので命令を違えることはしない。
…曲解したり、文句は言うが。


それだけ期待をされているのだろうか?
私の艦隊がTeam R-typeのお気に入りなんて、恐ろしい噂もある。
その噂をはやし立てていた者の話では、最新鋭機が続々と配属されるのが証拠だそうだ。
私もそう思うので、非常に怖い毎日を過ごしている。


本部の考えはともかく、
今回限りは生きては帰れないかもしれない任務だ。
グリトニルは不落とまではいかなが、攻めるのが非常に難しい軍事要塞だ。
バイドの様な物量や、内部からの呼応が無ければ落すのは難しい。
しかも敵はグリトニルを失えば太陽系内に拠点がなくなる。
窮鼠猫を咬むという言葉もある。
鼠というには立てこもっているグランゼーラ軍は巨大過ぎる。
実際、この作戦でかなりの数の戦死者が出るだろう。
私だって他人事ではない。


この機会を逃がしてはならない。
私の知識を総動員してベラーノ中尉への告白法を考えていた。





よし、この手だ。
ベラーノ中尉が返事を保留できず、
かといって、私の本気を疑われないようにする。

大規模な作戦の前には、指揮官による訓示があるのが通例だ。
その最後に艦隊通信でベラーノ中尉に全力で告白しよう。
公私混同と怒られそうだが、
私には真面目人間補正がかかっているから大丈夫だ。きっと。
ビタチョコ作戦に成功すれば大目に見てくれるだろうし。

問題は、普段真面目人間の皮をかぶっている私が、
はっちゃけられるかどうかだ。
艦隊戦では大胆だが冷静沈着と評される私だが、
人間関係ではあまり内面を出せないチキンである。
表情偽装スキルなんて微妙な技能を覚えるほどだ。
その私が全艦通信でそんなことを言えるのだろうか…
緊張しすぎて変なことを口走ってしまいそうだ。


でも、最後かもしれないのだから、告白しよう!
決めた。もう変更なし!
よし、そろそろ、作戦開始時刻だな。


「みんな聞いてくれ。我々はついに革命軍を最後の砦グリトニルまで追い詰めた。
ひとえに諸君らの尽力があってのことだ。このグリトニル攻略作戦Op.Bitter Chocolateの成功は諸君らの双肩にかかっている。私も全力で、我々の勝利と地球圏の平和のため、そして諸君らが家族のもとに帰れるように勤めると約束しよう。…さて最後に言っておきたい事がある。」

訓示なんてどうでもよいとばかりに、
頭の中では二人の私がケンカしている。
―さぁ、今だ。告白だ!
―いやいや、これは公私混同だぞ。
―愛してる。ベラーノ中尉! そう叫ぶんだ。
―無理だから、全体通信で愛してるとか恥ずかしすぎる。
―言いにくいけど、ガンバレ私! さぁ!
―ムリムリムリムリッ!告白とか無理!
逃げに走るべきか、公開告白するべきか。
そして、私は胸いっぱいに息を吸い込み叫んだ。



「愛してるぜ、べ、ベイビーッ!」


艦内で大爆笑が起きた。
やっちまった…最後の最後で逃げに走ってしまうとは…
何だよベイビーって。
しかも、全力で…
今時、誰も言わないだろ…
ベラーノって言えないからって、ベイビーって………
テンションがドリルのように地下に潜っていく中、
今まで培った顔スキルで、私は自信満々の顔を維持して、
それっぽいことをしゃべっている私。

こうなればヤケだ…最後にもう一度。


「愛してるぜぇ、ベイビィィィー!」


_______________________________________


ついに始まったビタチョコ作戦でやりきれない思いをすべて敵にぶつけた。
作戦前の醜態を忘れようと、ともかく熱く熱く指揮しまくった。
指令室のスタッフが意外な顔してみている。というより引いているのか。
もうヤケだ。恥ずかしいと思ったら負けなんだ!


「サンデーストライクはチャージ後に亜空間よりグリトニル上部に侵入!司令室周囲の敵機を蹴散らせっ!離脱タイミングは各機に任せる。」
内部空間への侵入は亜空間機の真骨頂だ。
チャージをさせたウォーヘッド隊を司令室近くの壁にめり込ませる。
最重要区画は亜空間移動を阻害する装置が付いており、亜空間機で直接コントロール室には乗りこめない。
司令室周囲の敵を背後から襲わせ、少しでも敵の密度を減らすことにした。


「ヘイムダルと直衛は港湾設備上部、その他部隊は下部より突入!艦首砲、波動砲で港湾防御壁ごと撃ち抜き進入口を確保せよ!」
グリトニルの正面玄関といえる大型港湾施設は、大型の空母でさえ発着可能な規模を誇る。
R機も比較的自由に運用できる広さだが、艦艇をおいて待ち構えるにはうってつけだ。
おそらく、キウイベリィなどを移動砲台としてこちらを牽制し、R機編隊などで待ち構えているのだろう。
「全艦てぇぇっ!」
私の号令に合わせて、艦艇が艦首砲、R機が波動砲を発射する。
ちなみにいつもはこんなに叫ばない。
波動砲の一斉射撃で開閉ゲートが吹き飛ばされるが、有り余るエネルギーがゲートを貫通すると、その後ろで爆発が起きる。
ゲート付近にいたR機が破壊されたのだろう。爆煙が晴れると、やはりというか、斉射を逃れた敵機―キウイベリィとヒュロスがいた。
こんな所で足止めを食らうわけにはいかない。
まず、移動砲台キウィベリーを始末する。遠距離砲撃に優れる機体なので、フォースで潰す。
大型人型兵器ヒュロスは白兵装備とミサイルの遠距離攻撃手段を持つ、迎撃に特化した機体だ。
遠距離からヘイムダルのミサイル‘ギャラルホルン’やレーザーで打ち減らし、R機を突撃させ中距離からのミサイルで殲滅する。



グリトニルの入港口は2つ、奥で合流して1本になり、中央縦断通路に続く。
下方通路を通ってきた部隊と合流するが、R機編隊の一部で機体が欠けている。
敵ヴァナルガント級からの攻撃が激しく数機落とされたとの報告があった。
「ダメージを受けたR機隊は各艦に戻り、無事な隊は中央縦断通路への橋頭堡を作れ。」
一旦、隊形を整える。
次は中央縦断通路だ。ここは基地内の全てに通じるメインストリートで、
港湾施設、長距離ワープ施設、そのメンテナンス用の施設、そして指令室に通じる通路などに通じている。
通じる設備が多いということは敵が潜む場所も多いということだ。
通路自体にも敵が配備されているだろうが、横からの攻撃にも耐えなければならない。
隊形を整えてから進軍するべきだ。
「輸送艦ヨルムンガント改、POWが数索敵敵範囲にはいりました。デコイ識別不能です。」
「すべて潰んだ!デコイでもこの狭い空間では危険だ。」
へイムダルの主砲、レーザーや、R機のミサイルで敵の装甲を削り、フォースアタックで止めを刺す。


「提督、応急修理、補給完了しました。」
「よし、R機で先行し、中央通路に入る。索敵は怠るな。」
機体の欠けた部隊に予備パイロットと機体を隊に組み込むのも慣れたもんだ。
たび重なるバイドミッションで再編成に次ぐ再編成でやってきた連合軍では、
新しいパイロット・機体が配属されても特に問題なく集団戦ができる。
というより、そのように訓練している。
バイドミッションのころは、撃ち減らされたR機隊が着艦するたびに補充人員が増えて、作戦が終わるころには、パイロットがそっくり入れ替わっているとかもざらだったらしい。


「提督、中央通路に布陣しました。」
「早期警戒機を先行させる。慎重に行け、不要な敵機をひきつけるな。」
早期警戒機アウルライト隊が通路中央を進む。ちなみにマッケラン中尉は別動のヨルムンガント級に参謀として乗っている。さすがに副官を他に出している余裕はなくなったし、別の艦に居るならうるさくない。
「提督!敵機を発見しました。ヘラクレスです。アウルライト隊敵射程内に入っています。」
「回避させろ!間に合うか!?」
もちろん、そんな命令を聞く前からアウルライト隊は回避に移っている。
ヘラクレスの波動砲ユニットからライトニング波動砲が発射される。3機がかりだ。
一機目の波動砲は上方に回避できたが、続く2波で回避の遅れた1機が消し飛ぶ。
3波でさらに3機が藻屑となる。
残ったのは脇目を振らずに上方に逃げ切った一機のみだった。
「R機各!ヘラクレスを撃破せよ、波動砲のチャージが…「提督!」…こんどは何だ!」
ベラーノ中尉の声に、思わず声が荒くなる。
「エネルギー反応急速増加!ワープ施設からです!」
「ワープ反応か!」
中央通路を埋め尽くすエネルギーの奔流にアウルライトの最後の一機が飲みこまれる。

「アウルライト隊全滅しました。ワープ反応はありません。跳躍ブースタの噴射のようです。」
「っ。隔壁をわざと閉めずに罠として使ったか。」
ワープ時には閉じられているワープ施設後部の隔壁が開いており、跳躍ブースタの噴射が中央通路にまで届くようになっていた。異相次元に突入できるほどのエネルギーを作り出す推進装置だ。R機などひとたまりもない。へイムダルとて危ないだろう。

「噴射間隔が狭く、へイムダルでは通過前に巻き込まれます。」
「まずは目の前のヘラクレスだ。波動砲のチャージが終わらないうちに撃ち落とせ。」

偵察機隊は全滅。…何度目の全滅だったか。
任務上未帰還率が高くなるのは仕方ないが、いい加減予備パイロットがいなくなる。
ヘイムダルの索敵機能は偵察機を上回るが、足が遅い。
しかも、この先の指令室へと通じる通路は狭く戦艦は入れない。
突入隊の索敵はどうするか。
…ヘラクレスが黙ったな。


「ヘイムダルを跳躍ブースタの射程ギリギリに付けろ、ギャラルホルン砲で管制部を狙い打て、一時的にブースタへの制御も緩くなるはずだ。残弾と、噴射を妨害できる時間を試算せよ。」
「ギャラホルン砲算弾は3斉射分、噴射妨害継続時間は…3分強です。」
「3分…R機、輸送艦を通す事を考えると、ヘイムダルが通れるか微妙だな。」
「一応、ヘイムダルの装甲ならば一撃で撃沈されることは無いと思いますが。」
「無理やり通っても、あのエネルギーに晒されれば兵装がほとんど使い物にならなくなるし、索敵能力も落ちる。良いマトだ。」
「提督、R機隊、輸送機、突破準備整いました。」
「よろしい。ギャラルホルン砲斉射用意。目標アングルボダ級ブースタ制御部だ。良く狙え。」
「1-6番システムクリア。発射可能です。」
「てぇぇー!」


ギャラルホルン砲ミサイルユニットから大型ミサイルが飛び出す。
途中アングルボダ級の妨害電波にあって、明後日の方向に向かうミサイルもあるが、
数基が制御部までたどり着く。
「ミサイル3基命中。跳躍ブースタ、エネルギー低下しました。」
「先行部隊突破。」



前衛のレディラブ隊、ルビコン隊、ドミニオンズ隊がブースタ噴射エリアの向こう側にたどり着く。
続いて、モーニングスター隊、グレースノート隊、ワイズマン隊などが噴射エリアに入る。


「提督、跳躍ブースター再チャージを開始しました。」
「ギャラルホルン砲発射準備。味方機に射線に入らないように警告せよ。ベラーノ中尉、発射のカウントを。」
「了解、…5,4,3,2,1…」
「てぇぇぇ!」


「第二陣通過しました。」
「後は、輸送艦とPOW、ヘイムダルか。」
私がヘイムダル通過までの算段を立てたところでレーダー係から報告があがった。
「! 上方、敵機発見。爆撃機タイプを含む多数です。先行部隊と戦闘に入りました。」
「R機隊、通過を急がせよ。敵に当たらなくてもいい。見方に当てないように弾幕を張れ。」
不味いな。こちらは戦力が分断されている上に、早期警戒機がいない。
一方的に核ミサイルで攻撃されかねない。
バルカンでは届かない(一応付いているが、バルカンは戦艦において武装としてカウントされない)ので、主砲レーザーで弾幕という豪華さだ。
対費用効果なんて言っていられない。ともかく味方機が撃墜されないようにしなければ。
この先は通路も狭く、補給・修理も受けづらい。ここで戦力を減らされるのは痛い。


「ドミニオンズ隊2機、モーニングスター隊1機撃墜されました。」
「ヘイムダルはいい。輸送艦とPOWを先に通せ。」
「ブースタ再チャージ開始しました!」
「弾幕を緩めるな。ギャラルホルン砲用意!」
3回目の一斉射が終わる。輸送艦は向こう側にたどり着けたらしい。
ヘイムダルは入り口側に残った。
ここで後ろを守りながら固定砲台だな。


「通信手、艦隊全機に通信を開け。」
「了解しました。全機に発信します。」
「さて。艦隊隊員諸君。旗艦ヘイムダルはこの場に留まることとなる。第一輸送艦ヨルムンガント級で進軍し、亜空間機部隊と合流後、指令室を奪還せよ。グリトニル解放の最後の一手はパイロット諸君に譲ろう。R機各機、POWアーマーのエスコートを頼んだ。ここでグランゼーラとの決着を付けるぞ!各員健闘を祈る!」

私はこんな燃えキャラだったか。
なんか、もうキャラが違うとか気にしない事にした。
作戦前にもやらかしたし。


縦断通路の先にあるのが、指令室への通路だ。ちなみにここから先は防衛上、通路が狭く戦艦などの大型艦艇が入れない。また曲がりくねっているため、波動砲などの武装も使用を制限される。我々地球連合軍の最大の武器の一つである波動砲が使えないのは痛い。ここからはもう一つの武器フォースで押すこととなるだろう。
通路の最奥、R機隊がギリギリ通れる広さの最終通路の先に指令室がある。


基地の占領の方はR機とPOWに任せるしかないな。
前後から挟撃にあえば、すぐに押しつぶされるだろう。
だから、私の仕事は旗艦ヘイムダルで、彼らの後ろを守る事だ。


ワープ施設用の整備ドックからトロピカルエンジェルの編隊が続々と襲ってくる。
R-11S超高機動機トロピカルエンジェルは、通常のR機では考えられない機動力を武器に一撃離脱を加える機体だ。波動砲・フォースは装備されていないが、その攻撃回避能力は凄まじく、戦艦で対抗するには相性が悪い。あの機動力で先行のR機隊を追撃されたらすぐに追いつかれる。ここで食い止めなければ。
「ヘイムダルは中央通路で待機。砲台として敵の追撃を食い止めるぞ!」


__________________________________


「第一輸送艦およびR機部隊、指令室への側通路に侵攻を確認。」
「提督、敵トロピカルエンジェル部隊来ます。」
「無理に狙うな。火器管制、近接機をバルカンで牽制させよ。」
「この距離では当たらないと思いますが。」
「敵の攻撃が鈍ればいい。敵機はあのスピードで突っ込んでくるんだ。バルカンの弾といえど当たれば痛いはず。ばら撒け。」
「了解しました。」
副官や、レーダー係が怒涛のように戦況を報告してくる。
とりあえず火器管制に指示を出すが、打開策を練らないとな。
ひたすら耐えて待つだけって辛い。


__________________________________


「提督っ!艦首砲冷却装置破損。ブルドガング砲使用不可能です。」
「レーザー、ビームで攻撃。ミサイル補充まだか!?」
「第一輸送艦から通信。《我、亜空間機部隊と合流せり。R機、機体損失軽微。》とのことです。」
「よし、みな聞いたな。我々も踏みとどまるぞ!」
リアルタイムでの通信は不可能だが、外宇宙航行を想定されている戦艦へイムダルは、強力な通信能力を備えている。
それなりの通信機器を装備している輸送艦からの通信ならば、一方通行ながら、なんとか受信できる。そのため不定期ながら戦果報告を受け、状況を確認している。

「提督、トロピカルエンジェル隊が再出撃してきました。」
ベラーノ中尉が報告してきた。面倒なのが来たな。全滅させきれなかった部隊が補給を終え出てきたか…
別働隊からの通信で一時的に士気が上がったが、このままではジリ貧だな。
「火器管制、敵機各隊を全滅させずに数だけ減らせ。」
「提督、それではまた補給して再出撃してきます。火線を集中して各個撃破すべきです。」
「だからだ。ベラーノ中尉。」


__________________________________


「敵機、後退するようです。おそらく補給のためと思われます。」
「火線強化!敵機の帰還を妨害せよ!」
「了解しました。」

「整備通路から敵駆逐艦進出してきました。敵トロピカルエンジェル隊の母艦のようです。」
「よし、引きずりだせたな。敵駆逐艦を狙え!母艦がなくなれば敵機は燃料切れか、ドックまで後退せざるを得ない。」
「了解、敵フレースベルグ級に追尾ビーム、主砲レーザー発射。」


_________________________________________________________________


「敵駆逐艦撃破。トロピカルエンジェル多数発艦してきました。」
「提督、ヘイムダル残弾が10%を切りました。」
「使える武装はなんでも使え。通信手、攻撃隊から連絡は!」
「先ほど、亜空間機隊と合流したとの報が最後です…。いえ、第一輸送艦から受信。《レイディラブ隊、グレースノート隊、指令室前にて敵親衛隊と交戦中。ルビコン隊、ドミニオンズ隊全滅、ワイズマン隊離脱。》との報です。」
R機隊の全滅を聞いたスタッフが呻き声を洩らす。反応するのはそこじゃないだろう。
士気を上げないと。マイクを片手に
「現在、R機部隊がグリトニル指令室まで進撃した。後は指令室のコントロールを奪還するだけだ。…総員!ここが踏ん張り時だ。生きて帰還するぞ!」
司令部スタッフ達がはっと顔を上げ、気合いを入れなおしている。
本当にあと少しだ。
そのとき、レーダー係が悲鳴に近い声をあげる。

「提督!通路下方より新たな敵部隊が出現しました!」
サブディスプレイに新たなフレースベルグ級駆逐艦とR機の姿が映る。
もう、新たな部隊を相手にするほど、エネルギーも弾薬も残ってない。
ここまで来て…!
そのとき、強制通信が入る。


『こちら、地球連合軍、グランゼーラ討伐艦隊所属、第7R戦闘機隊。グリトニル司令室および、全システムを奪還した。グランゼーラ革命軍に投降を提示する。』


基地指令室からの全周波数帯への通信だった。
目前まで迫っていたグランゼーラの艦艇は戸惑ったように動きを止め、
少しの間を置いて、投降の意思を伝えてきた。
追って基地司令室からヘイムダルへ作戦成功の報告が入りグリトニルの奪還を確認した。
基地システムを奪い返し、隔壁や、防衛システムなどの障害を取り除くと、
未だ抗戦の意思を示していたグランゼーラの残党はほとんど降伏した。
彼らもこの人類同士の戦いに厭いていたのかもしれない。


グランゼーラの艦隊の武装解除を行い、陸戦部隊を基地内の残党処理にあたらせていたが、急に爆音が連続して轟く。
…どうやら基地の崩壊が近いらしい。基地そのものが爆発する事は無いが、
いくつかの区画は吹き飛んでもおかしくなさそうだ。こうなれば敵も味方もない。
私は基地内通信を使用し地球連合軍、グランゼーラ革命軍双方に退避命令をだす。
両軍の機体が出口に向かうのを確認して、私も脱出の準備にかかった。


敵味方ともに動ける機体はみな退避している。
基地内・基地外ともに両軍の艦隊・機体の残骸であふれかえっていた。
今回の作戦だけで何人が戦死したのか…。
へイムダルに戻り基地の外に退避する。
そこにはそこかしこから爆炎をあげるグリトニルの姿があった。



爆発を続ける基地にはワープ設備に立てこもるアングルボダ級の空母が残っていた。
拿捕しようと外部からR機や艦艇が近づくと、システムダウンしていると思っていたワープ設備が突然稼動し始める。
どうやらワープ設備だけシステムを切り離しておいたらしい。
ガイドビーコンが伸び、アングルボダ級にも再び火が入る。長距離ワープの余剰エネルギーから設備を守るための補助隔壁が閉まり、円筒形の空母を陽炎のような揺らぎが包み込む。さらにエネルギーが高まりアングルボダ級が光に包まれ見えなくなり…
一瞬のうちに光の固まりが宇宙空間に飛び立った。
続けて数条の光が飛び立つ。


やられた、グランゼーラの残党に外宇宙に逃げられたらしい。
…しかし、外宇宙には人類の拠点は無いはずだが、彼らは何処へ行くのだろう?


ヘイムダルからそれを見ていた私は、すでに当初の熱が冷めていた。
無謀な指揮をしたつもりはなかったが、少し強引だったと反省した。
しかし、戦死者は予想より少なかった。
どうやらパイロット連中は私のおかしなハイテンションに引きずられて、戦意が高く予想外の戦果だったらしい。


その後、私は部下達からからかわれた。
今までド真面目な提督だと思われていたので、一歩引いていたというのだ。
実は熱血でノリの良い提督だったと、笑われた。
おやっさんや、整備員の面々からアンタ提督だったのかと驚かれたが、
おまえら本当に気づいていなかったのか。
しかし、おやっさんがいつも通りに接しているのを見て、そのままド突いてきた。
後で覚えていろ。考査表に書くぞ。


基地の崩壊がひと段落した後、
私は地球連合軍の艦隊司令官としてグランゼーラ革命軍と停戦同意の手続きを行った。
そして、基地内の生存者の救出と、戦死した部下達の簡易葬儀を執り行った。
ここにグリトニル基地を奪回し、私はOp.Bitter Chocolateの終了を宣言した。


__________________________________________________________


革命軍にはすでに主要な拠点をすべて失い戦争の継続は不可能だろう。
唯一、キースン大将率いる太陽系開放同盟―グリトニルから外宇宙へ跳躍した集団―と名乗る革命軍の一派だけは逃がしてしまったが。
ともかく人類同士の戦争はこれで終結するだろう。

ベラーノ中尉のことは…
あとで改めて告白しよう…
はぁ、戦争より告白の方が度胸が必要だなんて、聞いていなかった。
…待てよ!?次の機会ってあるのか…?


_________________________________


私と私の艦隊はその後地球に戻った。
この後、地球連合政府とグランゼーラ革命政府の間で休戦協定を結ぶ運びだ。
やっと、人類同士の戦争が終わる。また人類が一丸となって人類の敵バイドに備えられる。
もっとも、若き英雄ジェイド・ロスの艦隊のお陰で、外宇宙から侵攻してくるバイドは激減している。
後は太陽系内のバイドを駆逐すれば、人類は本当の平和を手に入れる事ができるだろう。
これで彼の英雄と彼の率いる艦隊が帰還しても、胸を張って迎えられるな。


ちなみに私にはこの功績を鑑みて新しい艦隊が与えられることになるらしい。
栄転かもしれないが、私は少し残念だ。
この艦隊から離れるということは、ここの部下達とも離れるという事だ。
やっと、本音を語り合える部下達が出来たと思ったのだが。




戦争の終結は少しだけ苦かった。




=============================
コンテニュー地獄もとい、前篇最終ステージ、グリトニル攻略戦でした。
ここでセーブリセットをしまくったプレイヤーも多いはず。
またギャグ成分が足りていませんね。

しばらく行方不明になっていたのはエースコンバットX2にはまっていたからです。すみませんでした。

さて、このあと、ゲームではデモが流れて前編が終了するのですが、
デモ挿入歌の「Cosmos」がいいですよね。原曲の「手のひら」も一緒にしてCD出してくれないかなー。聴いたことのない人はぜひ一度聞いてみてください。

さて、誰が読んでいるかも分からない本当に誰得な小説ですが、一応前編を終わらせるという目標を達成しました。あとはオマケを1本書いて取り合えず完結です。
後編はどうしようか、思案中です。
明らかにギャグが許容されない話が増えてきますしねぇ。
書くなら、シリアス化してチラ裏からお引越ししようかと考えています。



[21751] 【誰得?】ネタばれオマケ座談会【提得!】
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/11/01 01:00
・【誰得?】ネタばれオマケ座談会【提得!】


※作者の自己満からなる、本編とは独立したストーリーです。
※基本会話のみで成り立っています。メタ会話がダメな人はご遠慮ください。
※この座談会は激しいネタバレを含みます。むしろネタバレがメインです。
※キャラ崩壊(バイド化)が激しいので注意してください。
※発言者は書いていないので、どのコメントが誰だか想像しながら読んでください。














「では、第一回座談会を開催します。司会は小官フリードリヒ・アッテルベリが勤めさせていただきます。まずはあいさつを提督から…」
「今回は古き善きライトノベルあとがき風の座談会だ。」
「ようはメタな話題で盛り上がりながら、作者の言いたいことを登場人物に言わせる企画ですね。」
「まぁ、わりとノリだけで進んでいくから進行役なんて必要ないと思うぞ。というか座談会まで一人称が小官とか、空気読め。もっとフレンドリーに。」
「あ、アッテルベリ中尉いたんですね。普段は影が薄いから忘れてました。」
「…」
「ヒロコちゃん、けっこう酷いわね。」
「アッテルベリ中尉は一番設定がぶっ飛んだキャラだな。超無個性副官で通そうとしたんだけど、暴走キャラに変貌していた。土星基地グリーズ攻略戦では、完璧に私を食っているしな。」
「14歳でアカデミー卒業の天才というフレーズと、参入が模擬戦後というだけで、良くあそこまで膨らんだものね。」
「始めは提督の妄想設定だったTeam R-TYPE疑惑に、作者が流されたのですね!」
「小官の何が悪かったのでしょう?」
「空気具合。あまりの空気っぷりに作者がプレイ中に全く使わなかったから、キャラ形成が暴走したのだろう。」
「…」


「次はガザロフ中尉だな。一番外部情報の多い副官だな。公式のおまけ小説もあるし。」
「本来、ステージ2で参入するはずなのに、なぜ遅れたのでしょう?お陰で自分は出番が増えましたが!」
「作者が忘れていたから。」
「ひどいです提督。それに、なぜ私はあんな扱いなんですか?」
「それはね、ヒロコちゃん。とりあえずかわいい系の女の子キャラの宿命、料理音痴を再現したかったからよ。」
「その設定が、あまりパッとしなかったのは、不味い料理を食べて失神とかいうラノベにありがちなシチュエーションが、作者が苦手であったからと、小官は聞き及んでいます。」
「ひどいって…私に言われてもな。一応、公式小説からの設定を引き継いで、作戦立案は出来る子になっているな。」


「マッケランお前はダメだ。」
「提督、何をいきなり!」
「脳筋副官で全ての説明が付きますよね。」
「ガザロフ中尉も何を…!」
「マッケラン中尉は『!』で声の大きさを表していますが、それがウザいそうです。」
「アッテルベリ中尉!」
「真面目で正義感が強いという設定が、提督の事なら何でも信じる頭悪い子になってたわね。」
「ベラーノ中尉まで…!」
「あれだ、腹筋シャワーイラストを見たときにすべてのイメージが固まってしまったんだ。」


「ベラーノ中尉は、ゲテモノ好き設定でしょうか?」
「才女のイメージを損なわない特徴をつけたらしいです。ただし、ただの優等生だと他の副官と差別化できないから、アクセントをつけたと作者が言っていましたよ。アッテルベリ中尉。」
「あとは、執筆中のBGMが『コンビニ』だったせいですね!某動画の影響です!」
「マッケランもう復活したか…。私としてはもっと絡んで欲しかったのだが、いかんせん、参入が遅いからな。まともに扱っている話が2話しかない。ちなみにベラーノ中尉はアニメ画推奨だ。」


「最後は私か…」
「提督、最後まで名前がありませんでしたが?」
「アッテルベリ中尉、提督は提督よ。」
「原作のイメージを大切にしようと思って、私の名前は出さないと決めていた。そのせい表現が微妙なことになった箇所がいくつも…」
「本当は私生活もまったく出さないようにしようと思っていたのですが、休日篇とドプケラ前編で投げたそうです。」
「表面上は真面目っていう設定も初期のイカレ気味な性格も、途中から空気になっていますね。」
「…」


______________________________________________


「ホントに今さらだけど、プロットの段階ではⅠ提督でシリアスの予定だったり、スパ○ボ×R-TYPE TAC Ⅰ+FINALだったりしたんだ。」
「もはや、R-TYPE以外に共通項がありませんね。」
「なぜギャグ路線になってしまったのですか!提督。」
「うむ。初投稿でシリアス長編とか絶対完結しないと作者が気が付いたからだな。あとロス提督はギャグタッチにするには、真面目過ぎる。」
「クロスの方は、長編になるのはもちろんの事、キャラは多いわ、Rはバランスブレイカーだわ、いつの間にか地球連合が敵になっているわで、収集が付かないのが目に見えていたからだそうです。ちなみにラスボスはコンバイラで黒幕はTeam R-TYPEです。」
「スパ○ボクロスは地獄の門を開くようなものですから。数多のss作家の屍が見えるようだわ。」
「Ⅱなら副官という名前持ちキャラもいるし、選択肢がアレだから落ちも付けやすいからな。性格設定もしやすいし、名言も多いし。」
「メイゲン違いでは?そういえば提督は果敢MAX、利己的MAXな性格でしたね。」
「ガザロフ中尉、それは私ではない。作者のプレイスタイルだ。」


_____________________________________________


「…ところで、ヒロコちゃん。次の目的地は水が豊富な惑星だそうよ。ついさっき偵察隊から先行連絡があったわ」
「わぁ、ほんとですか。水浴びなんて久しぶりですっ!こういう時でないとアレを持ってきた意味が無いですものね。」
「そうね。では、私とヒロコちゃんはアレの準備がありますので席を外しますね。」


「…マッケラン、我々も準備だ。」
「何の準備です提督?」
「何の…?水中偵察の出来る機体を用意するに決まっているだろう!」
「提督、自重してください。提督が言うと不純な動機に聞こえます。」
「止めるなアッテルベリ。目の前にパラダイスがあれば進み、拒むものがあれば斃すだけだ!往くぞ!」























水棲惑星の偵察に出ていた偵察隊が戻ってきた。
旗艦に詳しい探査結果を伝達しようとしていたのだが…


―…あのコンバイラは、ナぜひトリで盛り上ガってイるのダロう?―


アンフィビアン達は、奇妙な振るまいをする旗艦を眺めて、
しばしたたずんでいた。






==============================
はい、コメント発言者当てクイズ。
答えは『全部コンバイラ』でしたー!
皆さンは正解でキましタかー?

番外編の副官ズはステータスで階級が不明になっているわりに
セリフのタブは階級がそのまま付いているんですよね。
会話は提督主観だから階級付きで、ステータス画面はプレイヤー(第三者)視点だから、
階級不明なのかと妄想してました。それともただの仕様なのか。

妄想だけでストーリー関係無くブッ込んだネタ話です。
後編はともかく、番外編は書く予定が無いので、これがオチってことにしてください。
ちなみに、ベラーノ、ガザロフ元中尉っぽい何かが用意しようとしていたのはガスダーネッドで、提督が用意しようとしていたのはバタリアンです。


さて、とりあえずこれで拙作は完結です。
処女作であり読みづらい部分も多々あったと思いますが、
なんとか、前篇終了まで持ちこめて安心しています。
ご声援ありがとうございました。
それでは、機会(とやる気)があれば、後編でお会いしましょう。



[21751] 【後編開始】なかがき
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/11/02 01:57
こんにちは作者のヒナヒナです。

前編からの変更点としまして以下の点に注意してください。


・番外編は未定
・前編最終話で提督がはっちゃけたので、後編は性格が変わってくると思います。
・副官が倍に増えるので、各人の持ち話が少なくなります。
・たぶん、ギャグ混じりのシリアスになると思います。
・ギャグ色を薄くするので、キャラが多少普通の人に戻ります。
・艦艇には名前を付けていなかったのですが、逆に面倒なことになっていたので後編から名前をつけます。


ふつつか者ですがよろしくお願いします。



[21751] 1 提督と新艦隊
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:18
・提督と新艦隊


“貴官を大将に任命する。
また、この辞令を以て特別遠征艦隊の司令官に任命する”


嫌がらせか、これは。
南半球第1宇宙基地の統合作戦本部のとある一室で、
私は辞令書を睨んでから、なぜこうなったのか思い返す。


____________________________________


太陽系解放同盟
グリトニルから長距離ワープで離脱したアングルボダ級があったのだが、
そこにはグランゼーラ軍のトップ、キースン大将が乗っており、彼らは太陽系解放同盟を名乗った。
彼らは何故か両軍の兵器情報を手に入れた事を、両政府に言いふらしていた。
噂とは怖いもので、解放同盟がより強力な兵器開発に着手しているという噂が民間で流れるまで時間はかからなかった。
両軍から恨まれるようなことをして何がしたいのか。
さすがに謀将として大将まで上り詰めた人間が政治音痴ではなかろうが。


解放同盟を討伐したいが、休戦中とはいえ自軍の戦力を減らしたくない。
地球連合、グランゼーラのお偉方たちは、そんなことをグダグダと一カ月近く協議していた。
そして妥協の結果、両陣営の混成艦隊が創設されることになった。
そんなかわいそうな艦隊の初代司令官は…

_____________________________________


私は辞令書をきれいに畳んで戻し、見なかった事にしてみた。
もともと、一個艦隊というには戦力の少なかった私の艦隊に、
革命軍を加え。大艦隊として生まれ変わった特別遠征艦隊!
うん、そうだな。規模は大きいけど、どうみても寄せ集め部隊だな。
特別ってところに、お前ら軍の主流じゃないんだよ。っていうメッセージを感じるんだけど。
終戦の英雄の名前でまとめろって、私は革命軍側からしたら宿敵じゃないか。
…また、本部の罠か


無理やりにでもポジティブに考えてみよう。私の精神衛生のために。
まず、元の部下達とまた戦えるというのは素晴らしいことだ。
たぶん良く話せば、グランゼーラの兵士たちもそんなに悪いやつらじゃない。
人間、共通の敵がいれば手を取り合えるさ。
やっと本部が新しい戦艦くれるって言うし、
Team R-TYPEもまた実験機を…いや、これは聞かなかった事にしよう。
なにはともあれ、新しい艦隊、新しい部下達が私の指示を待っている。


私は終戦の英雄として祭り上げられ、大将という破格の地位を貰ったけど、
まぁ、どうせ艦隊では提督としか呼ばれないし、階級で特に変わることもないな。
艦隊の編成作業か。書類事務が大量に…
そういえば、副官のマッケラン中尉を早期警戒機に乗せてみたことについて、人事部よりお叱りを貰った。
指揮士官の育成にどのくらいの時間と金が掛かるのか分かっているのかとネチネチ言われた。
これだから地上勤務は嫌いなんだ。

 
__________________________________


さて、討伐艦隊の指令官を押し付けられた私は部隊編成のため、
あれから一か月くらい統合作戦本部に詰めている。
今度は受領することになっている戦艦を見に行かなくては。工廠は遠いな。
そんなことを考えながら基地内の廊下を歩いていると、整備班長のおやっさんが現れた。
この人も新艦隊の隊員へと私が指名した。

「なんだ、若いのか。暇なのか。」
「いや、暇なわけではないのですが。新艦隊の旗艦を受領しに行くところです。」
「じゃあ、工廠に行くのか。若いの良いものを見せてやるから付いて来い。」
「まぁ、方向は同じですから一緒に行きましょうか。」


この人もすごい人だな。統合作戦本部のある基地内で将官相手にタメ口とか、不敬罪を問われてもおかしくはないぞ。
私は艦隊の編成作業とかあるから決して暇ではないのだが、少し付き合うくらいの時間はある。
おやっさんは部品や機体受領のために来たのだろうか?
話しながら工廠まで行ったのだが、すれ違う人が怪訝な顔をしている。
そうだよな、将官服の若造と、油だらけの作業服を着た壮年の下士官の組み合わせはミスマッチだ。


工廠についたのだが、通常通路ではなく作業通路に進んでゆく、見張りがいるがおやっさんが声を掛けると、笑い返してすんなり通してくれた。
一応低レベルながらも機密があるのでは?セキュリティはどうした。
一般工廠を横切り、奥の機密区画に私達は到着した。将官だって許可が必要な区画だ。
おやっさんがそこから出てきた技術士官を捕まえて、何事か話している。
暫くすると技術士官が折れて、中に案内してくれた。それでいいのか?
区画に入って見上げると、そこには巨大な戦艦が建造中だった。
塗装もまだしていないが、現主力戦艦ムスペルヘイム級に見られる槍状構造を持っている。
艦首砲ユニットもまだ組み込まれていないが、かなりの大型だ。


「閣下、これが我が軍の最新兵器。戦艦ニブルヘイムです。」
「これが…噂は聞いていたが、大きいな。」
「ええ、地球防衛の要となるべく設計・建設されました。地球防衛艦隊から順次配備されていく予定です。」
ということは、私の艦隊に回ってくるのはだいぶ先だな。
今回私が受領するのはヘイムダルを改装した、テュール級戦艦だ。
ムスペルヘイム級などの主力艦は最精鋭である地球防衛艦隊に優先的に配備されていくから、こちらには回ってこない。最新艦など絶対にもらえない。
邪推だが、私の艦隊にはグランゼーラ出身の隊員が多数いるから、
本部としては余り最新兵器を回したくないのではないだろうか。


「ん?あちらは何だ?」
「あ、閣下。あっちはダメです。Team R-TYPEの研究開発区画です。」
「Team R-TYPE…だからあんなに警備が厳重なのか。」
「ええ、彼らは研究者と独自の技術者、整備員を持っていて、我々本部の技術士官は入れないんです。共同で開発すべきと思うのですが。」
「やつらの秘密主義は今に始まったことではない。」
技術士官は残念そうな顔で、おやっさんはムスっとしてコメントした。
なんかあったのか。周りの反応を見るにおやっさんは昔ここに居たようだが。


「彼らは実験機を次々に戦場に送り出してデータを収集しています。戦力として開発するのではなく、データを収集すること自体が目的かの様です。」
そうだね。私の艦隊も付きあわされたね。
しかし、軍開発部とTeam R-TYPEは独立して研究開発をしているのか。
だから、あんな変な配備だったんだな。可笑しいと思っていたんだ。
Team R-TYPEのお気に入りと呼ばれて、最新機が続々と送られてくると思いきや、
本部の管轄である、艦艇や主力機は配備が遅れる。
…今まで私の艦隊がどう扱われていたが、よく分かる。
本部は捨て駒か時間稼ぎ要員、Team R-TYPEは良い実証部隊として見ていたのだな。


「…オフレコですが、彼らが実験機を次々に送り出しているのは、ある機体を作るための技術実証であると、噂されています。」
「ある機体…?」
「それ以上の噂は伝わってきません…」


R機の開発運用はバイド殲滅の手段であるはずなのに、Team R-TYPEでは違うらしい。
戦争が手段に、R機の開発が目的になっている。
戦争を望んでまで兵器を開発する…その歪んだ思想の先に何をみているのか。
人類は何処へ向かっているのだろう…


__________________________________


艦隊の編成を済ませて、いよいよ太陽系開放同盟の討伐に向かうことになった。
私は修繕された冥王星基地グリトニルで、遠征前の最終準備を行っている。
キースン率いる太陽系開放同盟は外宇宙へのワープ空間に留まっていることが観測されている。
我々も敵を追ってワープ空間に乗り込むことになる。
長距離ワープは初めてだ。


そこにグランゼーラの小豆色の士官服を着た男女が4名やってきた。
私を見つけると。一列に並んで敬礼する。

「エマ・クロフォード中尉です。」
切れ長の瞳と怜悧な顔が相まって、冷たい感じのする女性だ。
仕事は出来そうだが、ジョークとかで笑ってくれるだろうか。
エマ中尉は前に見たことがある。地球連合政府とグランゼーラ革命政府の休戦協定を結ぶとき、グランゼーラ側の士官として場に居たと思う。


「リョータ・ワイアット少尉です。提督、お願いします。」
こちらは若い男性士官だ。大きい青い瞳と色素の薄い金髪を持つ青年…というよりは少年といった感じだ。童顔もあって士官学校を卒業したてと言った印象を受ける。お姉さんらから好かれそうだな。


「アイリ・ヒューゲル少尉です。これからよろしくお願いしますっ!」
元気の良い感じでよろしい。長い金髪をツインテールにしていて、こちらも女性士官というよりは少女といった感じだ。笑顔が良く似合う。
ところで、ヒューゲルとはバイドミッション時に作戦参謀として活躍した名将ヒューゲル中将と何か関係あるのだろうか?


「クロード・ラウ中尉です。お見知りおきを。」
こちらは、前の2人と違って落ち着いた感じの男性だ。グランゼーラの士官服を見事に着こなしていて伊達男といった様子だ。余裕のある態度を崩さず軍人としての自負が見て取れる。
しきりに眼鏡を触るのはクセか。



「以上4名、ただ今をもって副官として着任いたします。」
「了解した。我々特別遠征艦隊は、君たちを歓迎しよう。ようこそ、特別遠征艦隊へ。」


____________________________________


さて、新戦艦と補充されたR機、人員も大幅に増員されたところで、出発しよう。
その前に私は遠征前に総員の前で演説を行う。


「かつて、地球人類は滅亡の縁に立たされていた。多くの都市が壊滅し、勇気ある軍人たちが戦死した。人類はバイドの恐怖におびえていた。この危機を救ったのはR機と若き英雄ジェイド・ロス提督だった。彼の英雄は一個艦隊でバイド中枢に進軍して、地球圏に平和をもたらした。彼らは人類の生存、平和という崇高な使命のために命を賭して、外宇宙へと旅立っていったのだ。
さて、この艦隊には地球連合とグランゼーラ双方の隊員が乗っている。ついこの前まで戦争を行っていた地球連合、グランゼーラ両軍だ。しかし我々は和解し手を取り合った。もちろんまだまだ問題はある。しかし、人類の平和のために一丸となって任務に当たることが出来ると私は信じている。そして、人類の和を乱す太陽系開放同盟とその指令官キースン大将を打ち取ったそのときこそ、真に地球人類が一つにまとまるときだ。我々の目的は太陽系開放同盟の討伐、そして人類が再び一つになったことを示すことだ。いつの日か帰ってくる英雄たちを、人類全体で迎えようではないか。」


私は目の前に整列する隊員や艦隊内中継しているカメラを一度見渡す。みな真剣な表情だ。
私は自信に満ちた顔を意識して、彼らに語りかける。




「さあ、行こうか。」




==================================
見切り発車の後編1話目です。
作者の場合、とりあえず思いついたときに出さないと、永久に書かないので。

後編に突入するに当たってチラシの裏から引っ越してきました。
後編…副官が8人に増えて、キャラ付けが大変だ。
副官って将官に2人くらい付けばいいような気がするのですが…。


以下、後編開始時の艦隊編成

○艦隊編成
旗艦 テュール級戦艦  ‘エンクエントロス’
ガルム級巡航艦     ‘ブスカンド’
フレースベルグ級駆逐艦 ‘レーニョベルデ’
アングルボダ級宇宙空母 ‘エストレジータ’
ヨルムンガント級第一輸送艦 ‘リャキルナ’
ヨルムンガント級第二輸送艦 ‘ルミルナ’


○R機編成

・レディラブ隊A (発展途上の中間機、ピンクのキャノピーが可愛い、通称へきる号)
・レディラブ隊B  
・ウォーヘッド隊 (R-TYPEⅡの自機、亜空間機。いないと難易度がすごいことに…)
・サンデーストライク隊(Super R-TYPEの自機(?)、亜空間機だが今一ぱっとしない。)
・ワイズマン隊(皆大好き試験管機。誘導波動砲のお陰で大活躍。射程が5あれば…)
・モーニングスター隊(開発打ち切りの砲台、索敵外から敵を消し飛ばすのが楽しい)
・ホットコンダクター隊(砲台その2。なんで指揮者がコンマスより下なの?)
・ドミニオンズ隊(使い勝手の良い灼熱波動砲のお陰で、バイド戦でなくとも使えます。)
・クロス・ザ・ルビコン隊(残念機。タクティクスでは渡河に失敗した模様です。)
・アウルライト隊(紙装甲早期警戒機、ゲーム後編では戦艦や、亜空間索敵のお陰で影が薄い。)
・ステイヤー隊(バルムンクの砲台。意外にバリア弾が優秀で生き残る。)
・アサノガワ隊(浪漫機体。石川県警所属の我らがパイルバンカー。)
・ラグナロック隊(R-TYPEⅢの自機。拙作では幼体固定されてません。)
・エクリプス(強化仕様)隊(可変戦闘機、試作機からパワーUPしてきたが微妙)
・ピースメイカー隊(その移動力で敵陣に突っ込みZOCにつかまるのはお約束。)
・ナルキッソス隊(人型。武装が中二病であることにさえ目を瞑れば優秀な機体。)
・パワードサイレンス隊(ジャミング無双機。これがないと一気に難易度が上がる。)
・工作機(採掘専用機。鈍足で良く置いてかれる。アームがぴくぴく動いてキモい。)
・POWアーマー(我らがマスコット。1機はバルムンク専用機になるのが常。)



[21751] 2 提督と異相次元考
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/11/03 17:47
・提督と異相次元考
※今回の話は途中ものすごく理屈っぽくなっています。読まなくてもたぶん問題はないと思われるので、嫌な人はパパッと読み飛ばしてください。


『跳躍施設稼動中』
『ワープ施設内総員退避』
『補助加速器エネルギー充填完了』
『跳躍システムオールグリーン』
『後方補助隔壁閉鎖、』
『ガイドビーコン点燈、前方隔壁開放します。』
『最終確認終了』
『グリトニル基地からワープ艦艇へ、ブースタへの点火準備をしてください。』
『旅の無事をお祈りします。』



『3.2.1.Let ‘ s go!!』



___________________________________


私は今、旗艦のテュール級戦艦‘エンクエントロス’の司令席にいる。
たぶん真っ青な顔をしているだろう。
別になにか悪いものを食べたとか、熱があるとかではない。
敵に不意打ちされたとかでもないし、今のところ艦隊内で事件も起きていていない。
なぜこうなったかというと…


____________________________________


ワープ空間というのは特殊な空間だ。
我々人類が普段知覚出来ない異相次元のうち一つで
通常空間を繋ぐバイパスとして機能するものをそう呼んでいる。
理論上では異相次元は、異なる次元同士や、時間の壁をも破って繋げられるらしい。


ウォーヘッドなど亜空間機が入り込む亜空間もこの異相次元の一種だ。
この亜空間は異相次元よりさらに不安定で、存在するだけでエネルギーを使う。
亜空間機は完全に異相次元に入るのではなく、
通常空間の一枚裏側というのだろうか、
ともかく通常空間と異相次元の隙間に無理やり入り込んでいるのだ。
そのため通常空間を観測しながらも、通常空間の大体の物体を透過できる。


透過出来ないものとは亜空間防御された施設とかバイド体や戦闘機、特機などの高エネルギー体だ。
これらは、そのエネルギーの高さゆえに存在が亜空間まで干渉していることがあり、
そこに触れると、不安定な亜空間から、安定した通常空間に引き戻される。


通常空間を地球の表面、亜空間を地球重力圏、異相次元を宇宙空間と例えると分かりやすい。
地球の表面は安定している。地面の張力と重力が釣りあい立っていられるからだ。
宇宙空間も安定している。無重力だからだ。加速度を加えなければ状態は変化しない。
ただし、宇宙空間と違って異相次元は無数にある。
地球の重力圏(非地表)は不安定だ。地球重力圏に留まるには、第二宇宙速度を超えない程度に、なおかつ墜落しない程度に出力を調整する必要がある。
高エネルギー体は険しい山だ。高度8000mを維持していようが、エベレストの山肌に接触してしまえば、そこは地球の表面だ。もちろん途中で燃料が尽きれば墜落する。ちなみにこの例えでは衛星軌道を周回して高度を維持することは考えない。ラグランジュポイントもだ。
例えは例えなので違う部分は多々あるが、理解の助けとして考え出されたものだ。
そのくらい目くじらを立てるものではないだろう。


ただし、特殊なことに空間(…というより世界というべきか?)は矛盾を嫌う。
亜空間機の引き戻される座標に別の強固な物体(大気や水、微小な物体は無視される)が存在すると、通常空間に復帰できず亜空間に留まるになる。すでにその座標が占有されているから、戻れないのだ。つまり亜空間から引き戻されないためには、機体が建造物や大小の天体にめり込んでいればいいわけだ。


話を戻そう。
不安定な亜空間に対して、異相次元はそれなりに安定しており、次元を超えるとき、
つまりワープインするときと、ワープアウトするときのみエネルギーが必要になる。各種法則が強固な通常空間を割って異相次元に行くのにはエネルギーが多量に必要だが、法則が軟弱な異相次元から通常空間に移行するのは、そこまでエネルギーを必要としない。長距離ワープする艦艇は帰りのワープイン・アウト分のエネルギーブースタを持って行くこととなる。高出力な戦艦などでは主機をフルドライブすれば、ワープアウトに足るエネルギーを得ることが出来ることもあるが、空母や輸送艦など出力の小さい艦艇ではワープアウトにもブースタが必要だ。

なお、異相次元航行能力を持たない物体は異相次元に存在できない。
何かの拍子に入ってもすぐに時空の歪みに飲み込まれるのだ。
ちなみに異相次元戦闘機であるR機や、現在就航している宇宙航行艦は異相次元航行能力を備えている。


この空間では物理法則の一部が乱れているように観測されるらしい。
艦艇の姿勢制御も非常に難しく、艦隊の隊列も乱れっぱなしだ。
人間の方も、おかしな感覚に晒される。
四方八方から引っ張られたり押されたりするように感じるのだ。
そんなに強いものではないが、まともな三半規管をもっている者はまず間違いなく酔う。
…パイロット達は普段から酔止め措置をうけているから大丈夫…らしい、のだが…私は…


…………


えずいていたら、今回の副官ワイアット少尉が背中をさすってくれた。
つまり、私は見事にワープ酔いになったわけだ。
出航前の手続きに追われて酔い止めを飲まなかったのがよくなかった。
さっき飲んだのでもうすぐ効くと思うのだが…。
うっ…


__________________________________


何とか、ワープ酔いから持ち直せた。
「助かったよ、ワイアット少尉。少尉はワープ酔いしていないようだが?」
「はっ、僕…小官は酔わない性質なんですよ。実家が月面都市セレーネにあるのですが、月面車で都市外を走るのが両親の趣味だったので、揺れとかには慣れてしまいまして。」
「僕でいいさ。うらやましい、この不快感が後何日も続くと思うと………う。」
「提督?大丈夫ですか、また顔色が…」


いかん、余計なことを考えたら、不快感がぶり返してきた。


「! 警報!?」
「状況を知らせ。」
「ワープ空間内に敵影発見。接触まで15分です。」
「第一種戦闘配備!演習通りにやれば問題ない。」
「敵、太陽系開放同盟小規模部隊と思われます。」

新規の混成艦隊ということで、我々は演習を重ねていた。
スタッフたちは新しい艦になれるのに必死だし、パイロット達も設計思想の違う機体と連携を取ろうと訓練を重ねてきた。成果を確認する時だな。


_________________________________


私は酔っていない。私は酔っていない。私は酔っていない。
よし、たぶん大丈夫だ。
さっき、失った信用を取り戻すぞ。

「船体制御の難しい大型艦は後方で待機。フレースベルグ級駆逐艦‘レーニョベルデ’、第一、第二輸送艦‘リャキルナ’‘ルミルナ’で当たれ。」
「了解しました。」

比較的小さい駆逐艦や輸送艦、R機はワープ空間の歪みに捕らわれにくい。

「前哨戦だ。一気に片付けるぞ。」
「了解しました。」


____________________________________


戦闘は意外と苦戦した。開放同盟は先にワープ空間入りして、この空間になれている。
対して私の艦隊は基本的に跳躍空間は初めてで、隊員らが機体制御に戸惑っていたからだ。
しかし、10分くらいすると次第にこちらのパイロットも慣れはじめた様だ。
ミサイルを明後日の方向に飛ばしていたのが次第に相手を捕らえ始めたし、
フォースシュートも着実に相手の機体を削り取っている。
それを見た私は横に立つ副官に小声で話す。


「ワイアット少尉。」
「はい、なんでしょう提督。」
「君はやはり、フォースが人類相手に使われているのは、不快か。」
「残念なこととは思いますが、僕はフォースにそこまで強い忌避感はないのです。」
「君はグランゼーラに参加していたのでは?」
「僕は元々は連合の士官でしたが、グランゼーラに亡命したんです。グランゼーラ革命政府に賛同した人全てが、フォースを嫌っているわけではないんです。…こんな事言うのは失礼かもしれませんが、グランゼーラにいた人たちは、地球連合政府のやり方に不満を持っていたのだと思います。」
「なるほど、地球連合を嫌っていた人々は、地球連合に明確に反対姿勢を示していたグランゼーラ革命政府に参加したのか、反フォースはその分かりやすい旗印だったわけだ。」
「僕の個人的な考えに過ぎませんが。」
「みなが皆、フォース使用に反対でないと知って安心した。艦体内で離反者は出したくないからな。」


私達は旗艦エンクエントロスの指令室で、輸送艦リャキルナのカメラが捉えた映像を見ている。
損傷したR機が一機戻ってきて、強行着艦し、船外カメラの目の前で辛くも停止する。
ディスプレイに大写しにされたフォースからもたらされる光が、
戦闘照明で薄暗くなった指令室をオレンジ色に染める。
バイド種子から作られたフォースの光を見て
私はまるで夕日のようだ。と場違いなことを考えていた。


_____________________________________


そんなことをやっているうちに、波動砲が敵旗艦を打ち抜き爆発させる。
…外に投げ出された人は、歪みに捕らわれて消えて行く、どこに行くのだろうか。
敵反応がなくなったことを確認してから、救助に向かわせる。
ワープ空間内で、はたして救助可能な人がいるだろうか。
私はパイロット達や戦闘に出ていた駆逐艦、輸送艦の乗員を労って、いくつか指示を出した。
そして事後処理をワイアット少尉に任せて、自室に戻った。


別に、今更、倫理的な悩みを抱えたわけではない。
地球は少し前まで、バイドと生きるか死ぬのかの生存競争を繰り広げてきたのだ。
人間対人間用に培われてきた、旧来の倫理感ではやっていけない。
そんなもの、軍人ならみんな分かっている。
私が気にしているのは…


そう…また、ワープ酔いがぶり返してきたのだ。
キモチワルい。
これはワープ酔いだけではないな。
絶対、このところの艦隊編成や遠征準備で…
追われていたのがっ…、一気に、きた…んだな。


…………


緊急連絡以外繋ぐなと言っておいた。



=================================================

シリアスで行くといったのにもうこれですよ。
作者はテレビで緊迫したシーンが続くと、
耐えられなくなってチャンネルを換えるタイプです。

調子に乗って書いている内に、半分は異相次元考察になっていますね。
たぶん提督酔ってるから、現実逃避しているんです。
そういうことにして置いてください。

艦の名前は覚えなくてもいいように書くつもりです。
ただ文章上あった方が自然な事が多かったので、付けてみただけです。
隊の名前も普通に機体名です。
アンタレス隊とか、グリフィス隊とか付けようかとも思ったのですが、
どうみても、エスコンです。ありがとうございました。



[21751] 3 提督と巨大戦艦
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:21
・提督と巨大戦艦




緊急連絡以外で呼ぶなといったら、本当に緊急連絡で呼び出された。




敵襲とのことだが、ともかく指令室に行かなくては。
連絡してきた副官はワイアット少尉ではなく、ヒューゲル少尉だった。
勤務交代するほど、私は寝ていたのだろうか。
時計を見ると6時間ほど経過している。
ベッドに倒れるこむ前に飲んだ酔止め薬のお陰で、今のところワープ酔いは気にならない。
よし、大丈夫だ。
30秒で着替えて指令室に向かう。寝癖は提督帽でカバーだ。


指令室のディスプレイは緑だった。
緑色の巨大な船体、駆逐艦ならすっぽり入ってしまいそうなバーニア。巨体の表面を覆うがごとく取り付けられている砲門。一番近い言葉を当てるなら戦艦だ。


「これは先行偵察に出ていた早期警戒機からの映像です。早期警戒機はこのあと、随伴しているバイドの攻撃にあって、離脱しました。この巨大戦艦からはバイド係数が観測されています。」
「バイドか。接敵時間は?」
「試算では10分後です。」


ヒューゲル少尉が顔に似合わずきびきび応える。
ただのお嬢様と言うわけではないようだ。
しかし、こんなバイドがいたのか…


「グリーンインフェルノ。」


アッテルベリ中尉の声だ。あの戦艦の名だろうか。
アイコンタクトで続きを促す。


「あれはグリーンインフェルノと呼ばれている巨大戦艦です。かつて、長距離ワープを頻繁に行っていた頃に、跳躍空間に出現する巨大戦艦があるという噂が立ちました。《出会ったが最期》などと言われていたようです。ワープ中に緑の地獄にあったら生きては帰れないと。軍が根も葉もない噂としたので、都市伝説の類とされていますが、実際には軍の偵察機なども数度接触しています。我々とは別の高度な文明がつくった戦艦であるというのが非公式な見解です。」


「対処法は?」
「偵察機は逃げたようですが…。ここでは迂回路もありません。」
「我々はこの先に進み開放同盟を討伐しなくてはならない…。総員、第一種戦闘配備につけ!目標、巨大戦艦グリーンインフェルノ。なお、小型バイドとの戦闘も予想される。R機隊出撃準備を。」


口々に了解という声を上げる指令室スタッフ。
あいかわらず、妙な知識が豊富だなアッテルベリ中尉。
そういえば、何でいるの。今回のシフトに入ってたっけ?
聞いてみると、何故かヒューゲル少尉が答える。


「実は、私、この艦隊への着任が遅れたせいで、引継ぎが終わっていないんです。副官みんなでミーティングして、それじゃあ、今まで提督についていた副官と新しく来た私達グランゼーラの副官と2名で補佐につこうという話になりましたっ。」
「昨日、定例会議を開いたのですが、提督は体調不良と…」
「提督はワープ酔いでダウンしているってリョータ君が言っていたので、暫定的に副官のみで決定しました。」


良くしゃべる子だ。しかし、余計なことは言わなくてもよろしい。
あとアッテルベリ中尉、上位者なんだからセリフを奪われたら怒ってもいいんだぞ。


「提督、布陣はどうしましょう。」
「アッテルベリ中尉、敵の弱点は?」
「データにありません。今までの記録では逃げるか殲滅されるかです。」
「提督、敵は戦艦です。遠距離からではどのような兵器で攻撃されるか分かりません。R機を使って接近戦を仕掛けましょう。大きなものほど近寄って攻撃せよ。っておじい様もいっていました。」

おじい様?やっぱりあれか。3世か。
まだ時間はあるし、ここらで副官の性格はつかんで置きたいな。試してみようか。

「ヒューゲル少尉、もう少し詳しい説明を。」
「はいっ、索敵の結果、目標の近距離砲はそこまで強力では無いようです。小型バイドにさえ注意すれば撃破可能です。船体のどこかに主機かそれに通じる通路があるはずです。そこをR機で撃破します。」
「あの巨体では、接触するだけでR機など潰されかねん。ワープ空間の壁と船体に挟まれれるおそれがあるが?」
「下方バーニアの噴射から未来位置を予測可能であると思います。また、凹凸のある形状をしていますので、予測さえできれば敵船体の影に隠れられます。」


結局それしかないだろうな。
どのみちあの巨大戦艦の装甲にこちらの武装が通じるとは思えない。
であるなら、敵武装を潰しながらR機で弱点探しか。
また私は、旗艦で指示するだけだな。


「ヒューゲル少尉、作戦投入部隊の選定を。アッテルベリ中尉は敵行動予測データの作成を急げ。」
「了解っ!」
「了解しました。」


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旗艦エンクエントロスは、グリーンインフェルノの索敵範囲外に残り、輸送艦リャキルナ、ルミルナで目標グリーンインフェルノの下方を進軍する事となった。
レディラブ隊、ラグナロック隊、サンデーストライク隊はフォースを装着して先鋒となる。
爆撃機ステイヤー隊、POWアーマー、ナルキッソス隊、ワイズマン隊などが続く。
ドミニオンズは生物系バイドがたぶんいないのでお休み。


ヒューゲル少尉の発案は、
まず、突破力のあるフォース装備機体で目標下部に侵入。邪魔なバイド機を破壊し橋頭堡を作る。
次に、補給の要となるヨルムンガント級輸送艦2隻を護衛する形で、ステイヤー、ナルキッソスを突入させる。ステイヤーは戦術核ミサイルバルムンクで敵機を破壊しつつ、バリア弾で輸送艦を護衛する。POWはバルムンク補充係だ。
これを繰り返してグリーンインフェルノの弱点を探しながら艦首に回り込み、弱点を破壊する。
というものだ。
私はいくつかの事項を付け足して、採用した。


今のところ問題なく進んでいる。
懸念された、グリーンインフェルノの体当たりだが、こちらが接近しても、ただワープ空間を上下に浮動しているだけだった。これならばパターンを計算して注意するだけだ。
砲台も3部隊が同時に進行しているので、一隊だけが集中砲火を浴びるということもなく進んでいる。
ただし相応のダメージは受けており、フォースを盾に進んでいるが、特に先方3隊の機体蓄積ダメージはかなりのものになっている。そろそろ安全地帯を確保し、修理をしなければならないだろう。


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「提督、そろそろ、グリーンインフェルノ艦首部にたどり着きます。輸送艦に着艦させ補給修理を受けさせた方が良いと思います。」
ヒューゲル少尉がそつなく補給の進言をしてくる。
意外ときっちりとした副官だ。
「そうだな、しかしその前にやっておくことがある。」
「何ですか提督?」
顎に手を当てながら小首をかしげる様子が可愛い。
「デコイ索敵だ。」


閉所から広所に出る箇所は誰しもホッとして気が緩む。
今までの経験から、そういうところには罠が張ってあることが多い。
罠でなくても、気が緩んだ隙に撃墜ということも有り得る。要注意だ。
私も何機の早期警戒機を、デコイを破壊されたか分からない。
ドプケラとか、ミヒャエルとか、グリトニルとか…


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「提督、デコイが破壊されました。ゲインズです。」


ほらね。
ゲインズはバイドの砲手ともいえる機体だ。
ラグナロックと同じくらいのチャージ時間で、R機隊を消し飛ばすくらいの砲撃を撃ってくる。
しかし、索敵さえ出来れば恐るるに足らず。
射線の外からミサイルで攻撃され、フォースシュートを食らい、
バルムンクミサイルで攻撃され、最後に波動砲で消し飛ばされるゲインズの姿が映った。
補給前だからってやりすぎ。


砲台を落として安全空域となった艦首部で、R機を一度輸送艦に入れて、補給修理を行う。
各機とも作戦行動には問題がないようだ。


旗艦エンクエントロスの指令室も一息つく。
「しかし提督。弱点は何処でしょう。」
「なぜ私に聞くのか。ヒューゲル少尉。」
「だって、提督はあの終戦の英雄でしょ。どう考えているのか気になるわ。」


グランゼーラの士官たちに早く打ち解けてもらうために、
作戦前にヒューゲル少尉達に、そこまで硬くならなくて良いといったら、
ヒューゲル少尉は本当に態度を崩してきた。
一時休息とはいえ、さすがにそれはどうかと思うが。


「終戦の英雄ね…。余り大きな声では言えないが、上層部は私の艦隊がここまでするとは思わずに、指令を出していたと思うんだ。しかし、大方の予想に外れて勝ってしまったからな…」
「…これだけ多くの人が死んだんだもの。せめて最後に勝った人を英雄に祭り上げないと世論が許さないってわけね。」
「妙に真に迫っているね。少尉。」
「おじい様もいっていたわ。自分よりもっと頭の良い奴や、もっと勇敢な奴がいたって。でも皆死んでしまって、最後に生き残った自分だけが英雄だのと持ち上げられている。って。」
「第一次バイドミッションの英雄。名将ヒューゲル参謀長か。」


ヒューゲル少尉の話は独白のようだった。
つかの間の休息時間なのに重い、重すぎる。この空気のまま戦闘突入は嫌だ。
助けを求めてアイコンタクトをする私。
(アッテルベリ中尉、なんか言え。この空気を振り払うんだ。)


「小官は、上部にあると思います。」
「?」
「グリーンインフェルノの弱点です。」


さすがだ、アッテルベリ中尉。
これまでの話をまったく無かった事にするとは、予想の斜め上を行く返答だ。
しかし、この男のことだ、この発言にも理由があってのことだろうな。


「理由を聞こうか?」
「はっ…現在、目標は待機していますが、過去の報告ではかなりの船速を出せるようです。主機の出力もかなり大きいでしょう。そうなれば放熱の必要があります。主機に続く開口部か、比較的脆弱なラジエータが存在するはずです。船底部にはそれに類するものはありませんでした。ならば船体上部にあるはずです。主機を破壊するか、オーバーヒートさせれば良いと思います。」


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「通信手。輸送艦リャキルナに回線を開け。」
「はっ」
「補給中失礼するよ。補給終了後の作戦を伝える。司令部では船体上部に敵艦の主機かその冷却装置があるとの結論に達した。しかし、船尾側からは入れない。艦首側から回って目標の破壊を命じる。」
「了解しました。」


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改めてR機たちが輸送艦を飛び立つ。
輸送艦はその場で待機だ。
敵機の攻撃が激しい。
しかし、補給したてのR機がミサイルの雨で黙らせる。
複雑な構造物のせいで波動砲は使えない。
ワイズマン隊だけは障害物の間を縫う様に誘導波動砲を発射しているが、
何しろ敵は巨大だ。なかなか砲台は減らない。


ラグナロックが急降下爆撃機よろしく、一気に砲台につめ寄り爆雷を投下して離脱する。
ラグナロックの爆雷は誘導性の無いミサイルなので、敵にかなり近づかなくてはならないが、補って余りある破壊力を持つ。
ただ戦闘する空間が非常に狭いため、苦慮しているようだ。


Rwf-9Øラグナロック 
過去のバイドミッションにおいて、バイド中枢に突入したワンオフ機体がベースとなっている。人工フォースであるシャドウフォースを装備する。
オリジナル機はTeam R-TYPEが開発したため、例によって仕様がおかしい。
オリジナル機にはハイパードライブシステムが搭載されており、
凄まじいまでの連射機能があったが、オーバーヒートなどの問題が多く、
また、コストを度外視していたため、量産されることは無かった。
しかし、グランゼーラ革命軍はバイドに依存しない機体という観点から、
いくつかの機能をオミットして量産機として再生産した。
このため、ハイパー波動砲は連射ではなく、チャージ時間を短縮したものと変更されている。


人型接近戦機ナルキッソスは近接戦闘の専用機だ。デコイ機能を持ち、攻撃・迎撃性能に優れる為、援護に近接攻撃にと大忙しだ。用途の広いビームラッシュと呼ばれる武装を持っている。BR神聖制裁(攻撃パターンに名前つけた技術者出てこい!)で一つ一つ砲台を潰しながら前進している。


そして、グリーンインフェルノの中枢と思しきものが見えてくる。


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「あれ…だよなぁ。」
「確かに砲台には守られているけれど…。」
「空冷?にしたって、もう少しやりようがあるのでは。」
「分かり安すぎて躊躇われますね。」
「なぜ、主機が攻撃してくるのか。」


ディスプレイを見た司令部スタッフのボヤキが聞こえる。
そこにはR機の機載カメラや、輸送艦の船外カメラの映像が映っている。
今、映っているのはグリーンインフェルノの主機のようだ。
そしてヒューゲル少尉がみなを代表して言う。

「なんで主機が丸出しなの!?おかしいでしょ!」

そんなヒューゲル少尉の叫びも空しく、バルムンクミサイルが主機と思しき物体に命中する。
船体のほぼ中央で爆発が起り、船体が二つに割れる。
やはり主機だったらしい。
地球とは別の高レベルな文明が作り上げた艦艇だというが、彼らが何を考えて主機まるだしの設計にしたかは永久に分からないだろう。


「提督、なんか納得いきません。」
「…納得のいく戦争なんてものはないだろう。ヒューゲル少尉。」


そんななか、アッテルベリ中尉は黙々とグリーンインフェルノのデータを編集していた。




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グリーンインフェルノ…ひたすらめんどくさかった覚えが。
BGMは大好きなんですけどね。初代3面のアレンジ。
後編では逆流空間の曲とかも好きです。

旗艦が蚊帳の外に置かれているせいで戦闘描写しにくい。
なんかグランゼーラの副官と友好を暖める話になってる。
いっそのことゲームと同じくヨルムンを旗艦にした方が書きやすいのだが。

それにしてもR機の活躍しないR-TYPE小説ですね…
いっそR-TYPE小説とか言わずに、提得小説とか名乗りましょうか。


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編成がいまいち分かりにくいみたいでしたので、後編開始時の編成を乗っけます。艦長そんなにいないだろっていうのは、ゲームみたいにちょくちょく艦長達が乗り換えるわけにもいかんので許して下さい…。テュール級も原作ではまだ開発出来ないですが、提督が本部からかっぱらってきました。戦闘機については改造したり、受領したりで、たまにバージョンアップします。

○艦隊編成(でもゲーム中はぶっちゃけ戦艦と輸送艦だけで十分だったり)
旗艦 テュール級戦艦  ‘エンクエントロス’
ガルム級巡航艦     ‘ブスカンド’
フレースベルグ級駆逐艦 ‘レーニョベルデ’
アングルボダ級宇宙空母 ‘エストレジータ’
ヨルムンガント級第一輸送艦 ‘リャキルナ’
ヨルムンガント級第二輸送艦 ‘ルミルナ’


○R機編成(隊名は煩雑になるだけだと思うので、無しで)
・レディラブ隊A
・レディラブ隊B
・ウォーヘッド隊
・サンデーストライク隊
・ワイズマン隊
・モーニングスター隊
・ホットコンダクター隊
・ドミニオンズ隊
・クロス・ザ・ルビコン隊
・アウルライト隊
・ステイヤー隊
・アサノガワ隊
・ラグナロック隊
・エクリプス(強化仕様)隊
・ピースメイカー隊
・ナルキッソス隊
・パワードサイレンス隊
・工作機
・POWアーマー




[21751] 4 提督とBBS
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:23
・提督とバイドバインドシステム


バイドとは…
バイド素子で汚染された物質、またはバイド素子そのものを指す。
数ある天体のなかから、太陽系をめがけて進路変更してきた点や、
拙いながらも戦術のようなものを行使することから、思考という概念はあるようだ。


バイドはその驚異的は侵食性をもって、全ての物質を自らの体、バイド体とせんとして襲ってくる。
バイドに汚染された、物体は無機物であろうと、有機物…生物であろうと変質してあの生理的嫌悪を催すバイド体と成り果てる。そして、汚染されたモノはバイドとして他の物体・生命を襲う。
極めて強い排他的攻撃衝動持ち、文明や生命に対し悪意を持っているのではないかと言われるほど苛烈に侵略…いや侵食する。


バイド素子は波動と粒子両方の性質をもつ。
波動の性質を持つがために、物理攻撃が非常に効きにくい。
まったく効かないわけではないのだが、汚染物質を完全に破壊しなければならない。
また、素子自体も耐久性があるので、一定期間は素子のままでも生存できる。
バイド素子は汚染物体を‘乗り物’として、次々に他の‘乗り物’を増やしてゆく。
また、初期研究から二重螺旋構造をもつことが解明されている。


「対バイド戦における最も有効な攻撃、それはバイドをもってバイドを制することである。」
Team R-TYPE所属、バイド研究所所長の有名な言葉である。
地球連合軍の対バイド戦略はこの考えが根底にある。


バイド種子を純粋培養し、バイドの性質を攻撃・防御に利用するフォースシステム。
バイド素子そのものに攻撃を加えることの出来る波動砲。
そして、その2つの兵器を運搬・運用するR型異相次元戦闘機、通称R機。


この3つが、地球連合軍の対バイド戦略の基本構想だ。
戦略構想に必要不可欠な研究をするのがTeam R-TYPEである。
地球連合政府直下の組織として、当然、権力なども集中する。
軍でも、兵器開発で密接に関わっており、その影響力は計り知れない。


疑問が浮かぶ。
なぜ二重螺旋構造なのか。安定性は劣るがRNAのように一重でも良いはず。またはまったく別の構造も取り得るはずだ。
なぜ太陽系に固執するのか。わざわざ外宇宙から進路を変えてまで地球を侵略する意義は。


Team R-TYPEの研究者達はでこれらの答えを知っているのではないか。
そんな考えが頭をよぎった。


バイドとは何なのだろう…


バイドとは…

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「……とく。提督。」
「ん?どうした、クロフォード中尉。」
「あまり司令席でぼんやりされるのは、いかがなものかと思います。」
「…ごもっとも。」


グリーンインフェルノとの戦闘から4日たった。
1日目こそ、戦闘後の処理で慌しかったのだが、3日目で書類もなくなったので休みを貰った。
巡航中では実機訓練もできないし、太陽系開放同盟の本隊はまだ数日掛かる距離にある。
事務はすでに終わらせてしまったし、やること無いからって、司令官が何日も連続で休むわけにも行かないだろう。
そう思って、私は指令席でワープ空間を眺めながら、バイドについて考えていたのだが、
クロフォード中尉に注意されてしまった。


エマ・クロフォード中尉。
情報ではグランゼーラ革命軍の名将故ハルバー提督の副官であったらしい。
フォース事故で両親を失っており自ら進んでグランゼーラ革命軍に参加したとのこと。
フォースシステムに反対なのだろうな。
クロフォード中尉の笑った顔とか見たことが無いのだが、
仕事中は笑わない人なのだろうか。


「提督、もしお時間あるなら。シミュレータ模擬戦の評価をお願いしたいのですが。」
「かまわないが、誰のだ?」
「私とエマ中尉のです。」


クロフォード中尉の後ろから来た、ガザロフ中尉が発案してきた。
聞いてみると、ガザロフ中尉とクロフォード中尉がシミュレータで艦隊戦を行ったので、評価を貰いたいとのことだった。
うん、勉強熱心だな。副官は指揮士官だから将来は艦隊指令官かもしれないしな。
私は了承すると、会議室へ場所を移し、ログを端末に呼び出し双方からレポートを貰った。


彼女達が行ったシミュレーションは小規模艦隊による遭遇戦で、R機の運用と索敵が鍵にとなる設定だ。
結果的にはガザロフ中尉とクロフォード中尉は2勝1敗でガザロフ中尉の辛勝だった。
ガザロフ中尉はひらめき型で、戦闘中でも思いついた戦法があると、すぐさま実行する。
クロフォード中尉は基礎に重きを置くタイプで、地味ながら堅実な戦法を好む。


「ではシミュレーションの評価を行う。」
「はい。」
「お願いします。」


「まずは、ガザロフ中尉。」
「はいっ。」
「今回2勝1敗での勝利ということだが、少し冒険的要素が多いな。模擬戦であっても実行する前に良く検証すること。艦隊指令官の命令一つ一つに隊員の命が掛かっているのを忘れないように。しかし、大胆な発想を考え付くこと自体は良いことだ。」
「はいっ、ありがとうございます。」


ガザロフ中尉は作戦後にポカミスをしなければ、優秀な副官だ。
しかし、隊員の命が掛かってるって、要は少数を犠牲にしても最終的に損害が少ない方を取れってことなんだけど、分かってるかな。


「次にクロフォード中尉。」
「はい。」
「非常に堅実な戦法だな。応用が利いて相手のとれる手段も限られる優秀な作戦だ。ただし基礎に忠実な分、相手に予想されやすい。相手の行動にいつでも対応できる様にしておく事。」
「はい。」

クロフォード中尉が眉一つ動かさずに言う。
クロフォード中尉の1回戦目でガザロフ中尉の奇策にはめられ1敗している。
もう1敗は3回戦、R機に波動砲を撃たれて戦線に穴が開き、崩れたのが原因だ。


「では、講評は以上だ。」


ガザロフ中尉が部屋を出てったあとクロフォード中尉を呼び止める。


「クロフォード中尉、この3回戦目の中盤だが、R機同士の戦闘の際にR機を狙わずにフォースを落としているのは何故だ?R機を狙っていれば波動砲をキャンセルできたタイミングだ。」
「…特に意味は有りません。ご教授ありがとうございました。」


一礼して部屋を出て行くクロフォード中尉。
やはり、中尉はフォースが嫌い…いや憎んでいるらしい。
その感情が、フォースを運用する地球連合への反意へと繋がらなければいいが。


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「提督。敵影を発見しました。太陽系開放同盟と思われます。」
「規模と、接敵時間は?」
「巡航艦クラスと攻撃部隊と思われます。10分程度で接敵です。」
「R機出撃準備。早期警戒機アウルライトを先行出撃。危なくなったらすぐに戻らせるんだ。」
「了解しました。」


クロフォード中尉とガザロフ中尉に指示を飛ばす。


「襲われているのでしょうか?」
「これは…」


早期警戒機アウルライトからもたらされた映像不可解なものだった。
光学式の望遠映像なので見づらいが、ワープ空間の真ん中に機影が見える。
太陽系開放同盟のものと見られる巡航艦と機体、その横に並んでいるのは
…バイドだった。
バイドに襲われているようには見えない。
バイドは目の前に敵が無防備でいるのに、ただ待っているなんて有り得ないことだ。
機体の方もバイド化しているようには見えない。
なんだこの状況は。


「! 敵に気付かれました。早期警戒機撤退します。」
「戦艦は無理だな。ガルム級駆逐艦ブスカンドを先頭にR機隊を編成せよ。」


「提督、索敵範囲に入ります。」
「バイドがR機と隊列を組んでいるようです。」
「それとバイドから生えているのは…」


コントロールロッドだった。
コントロールロッドはフォースについている生体部品だ。
一見機械製の器具に見えるが、生体部品が組み込まれており、
それが、バイド体であるフォースの破壊衝動を抑制し、
R機からの命令に従ってフォースを誘導する。フォースシステムの要だ。


そのコントロールロッドと思しき物体がバイドに何本も突き刺さっている。
幾本ものコントロールロッドに貫かれたようなバイドは、
粛々とR機とともに進軍してくる。


「まさか、キースン…!」
「クロフォード中尉?」


ぎりっ、と歯軋りが聞こえた。
クロフォード中尉がディスプレイを睨みつけている。
キースンとは太陽系開放同盟の指令官キースン大将のことだろうか?
クロフォード中尉はこのバイドのことを知っているのだろうか。


「クロフォード中尉。落ち着きなさい。」
「…失礼しました。提督。」
「あれを知っているならば、教えてもらいたいのだが?」
「あれは、バイドは人類の敵です。それだけです。」


ずいぶん興奮している。今たずねてもまともな答えは帰ってこないな。後で聞くか。


「ガザロフ中尉、R機隊に発進準備をさせてくれ。」
「はい。」
「総員、今回の目的は開放同盟軍機とバイド体の殲滅だ。」
「提督、R機を一機鹵獲しましょう。あの棒だらけのバイドの情報を聞けるはずです。」
「…いや、危険だ。バイドとともに行動しているあの機体は内部まで汚染されているかもしれない。そんな機体を鹵獲するわけには行かない。」
「そうですか、分かりました。」


___________________________________


戦闘自体は短時間で片がついた。
解放同盟機がバイド汚染されている事も考慮して、すべて殲滅した。
今回の戦闘中、バイドは解放同盟機を襲わず、解放同盟機も隣に並んでいるバイドに目もくれずに我々を襲ってきた。
解放同盟がバイドと手を組んだとでもいうのか。
ありえない。
艦隊のみなも、不気味に感じているようだ。
この件について知っている人間に聞くしかないな。


ガザロフ中尉に戦闘データを解析に持っていくよう頼み、見送った後、
クロフォード中尉に後で私の居室に来るように命じた。


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私が今回の戦闘の記録を端末で確認していると、インターホンが聞こえた。
「提督。エマ・クロフォード中尉です。」
「ああ、入ってくれ。」
「失礼します。エマ・クロフォード中尉出頭しました。」
「他人の目もないし、格式ばらなくても良いよ。どこかその辺に掛けてくれ。」


私はベッドに座り、クロフォード中尉に椅子を勧め、紅茶を入れる。
少し逡巡したあと、立ったままだと私を見下ろす格好になるのにきづいたのか、椅子に浅く腰掛けた。


「おそらく予想していただろうが、あのコントロールロッドの刺さったバイドの件だ。君はアレを知っているな。」
「はい。」
「アレは何だ。」
「バイドバインドシステムと呼ばれるものではないかと思います。」
「バイドバインドシステム?」
「BBSと呼ばれていました。バイド体そのものにコントロールドロッドを挿入し、操る技術です。」
「BBSか…。君が知っているということは、グランゼーラ革命軍で研究していたのか。」
「違いますっ!あれはキースンが勝手に…」
「中尉。」
「失礼しました。BBSはキースン大将と、その下にいる技術者が研究していました。フォース制御技術を使ってバイドを自らの戦力にしようとしたのです。」
「しかし、いくらなんでもグランゼーラはバイド技術を嫌い、フォースに反対する人が集まったのだろう。バイドを自軍戦力にするなど本末転倒ではないか。」
「当初グランゼーラ革命政府は穏健的にフォースを手放そうとする人々、ハルバー提督などを中心とする集団でした。しかし、弾圧が始まり連合との戦争が始まったあたりから徐々にグランゼーラは変質していきました。フォースではなく、地球連合に反対した者、追われた者が多くなってきました。気づくとグランゼーラの敵は地球連合になっていました。」


お茶で口を湿らせてクロフォード中尉が続ける。


「そして、キースンが現れました。当初大佐であった彼は地球連合軍の内部抗争で軍を追われてグランゼーラ軍に加入しました。軍才はあったのでしょう。順調に快勝を続けました。彼は徐々に自分のシンパを広げてグランゼーラ軍を内部から乗っ取ろうとしたのです。そのために邪魔なハルバー提督を陥れて、連合軍の捕虜としてグランゼーラ軍から遠ざけたのです。」


「同じく連合から追われた技術者たちを囲って、あの研究を始めたのです。」
「それがBBSか。」
「はい、ハルバー提督が捕虜となった後、私もグランゼーラ革命軍の中央から左遷されたので、詳しい事は分かりません。しかし、キースンがBBSの実験を繰り返している事は聞こえてきました。」


私はクロフォード中尉にこの件について口止めすると、太陽系解放同盟がバイドを戦力として使用しているとみられる事を指令室スタッフと艦長ら、R機隊隊長達に伝えた。


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連合軍でフォースに使用するバイド種子は突き詰めると一つの大本に行き当たる。
異相次元探査艇フォアランナが採取した‘バイドの切れ端’だ。
すべての始まりとなったこの物体は少々特殊だった。
おかしな表現だが、他のバイドより大人しいのだ。
バイドは常に進化しており、採取した状況、場所によって少しずつ違いがある。
ほとんどは分からないくらいの差だが。
‘バイドの切れ端’から培養した種子は、他のバイド体から
培養した種子にくらべて、比較的言うことを聞きやすい。
計測するとバイド係数は同じなのに、コントロールロッドの効きが格段に良いのだ。
なので、基本的にフォースを作るときはこのバイドを基にする。
‘バイドの切れ端’のオリジナルは木星で事故を起こした後、ギャルプⅡにあったというが、
ギャルプⅡが閉鎖された今どこにあるのだろうか。


___________________________________


しかしバイドバインドシステムか…
バイド体はフォースよりバイド係数が高く、凶暴なため非常に操作が難しいだろう。
正直フォースより、ずっと危険であるように思うのだが。


しかし、バイドを完全に戦力として加えたとするならば、
太陽系解放同盟はグランゼーラ革命軍、地球連動軍、そしてバイドの3勢力の戦力を備えている事になる。
一軍人を頭に据えた不安定な武力組織に、この力は強大すぎる。危険だ。
太陽系解放同盟は何があろうとここで潰さなければならないな。
決戦が近い。


=================================
ガザロフ中尉空気。
ゴメンネ。でも前編でいっぱい出たからしょうがないよね。


ワープ空間戦闘が単調すぎる。
なんか、エマさんがえらく感情的になっちゃった。
もっと感情を出さない人だと思うのだけど。



[21751] 5 決戦!太陽系開放同盟
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:25
・決戦!太陽系開放同盟


おかしな事となった。
戦いの後、太陽系開放同盟の連絡艇とその護衛機が来た。
通信すると、壮年の男性がディスプレイに映った。
男は太陽系開放同盟次席参謀のカトー大佐と名乗り、会談を求めた。
私は連絡艇が非武装であるのを確認して、着艦を許可した。


旗艦テュール級戦艦エンクエントロスの会議室に通し、私も副官らを連れて行った。
互いに名乗りあった後にカトー大佐が切り出した。
「我々は地球連合軍に降伏し、救援を求めます。」
「降伏?救援?カトー大佐、あなたが我々に投降するという意味ですか?」
「違います。私個人ではなく太陽系開放同盟自体が降伏するという意味です。」
「本隊が姿を見せ武装解除していない以上、この場での降伏は承諾しかねます。」
「ええ、そのことなのですが、エネルギー切れで本隊が移動・ワープアウトできないのです。」
「ブースタパックを往復分もっていか無かったのですか。」
「…すでに見られたと思いますが、我々はワープ空間でバイドバインドシステムの研究をしていました。」

カトー大佐はチラリとグランゼーラ軍出身の副官達を見遣る。
副官達には、感情的にならないように事前に言い含めて置いたので、無反応だ。

「あのシステムの研究には莫大なエネルギーが必要でして、BBSは完成したのですが、我々にはワープ空間を脱出するだけのエネルギーが無いのです。」
「…だから、我々に降伏して救助を請うというわけですか。」
「はい、そうです。」
「カトー大佐。腑に落ちない点があります。我々はグリトニルで見たアングルボダ級には、大型ブースタ…行き帰り分を負担できる大きさの追加装備がなされていました。ブースタにまで手を出したわけではないでしょうに、どうして、ワープ空間を脱出できないのですか。」
「…事故です。キースン大将が乗るアングルボダ級空母‘ジャコギート’のBBS研究区画で爆発事故があり、空母ジャコギートは完全に破壊されました。もしものときは、総員このブースタ付きのアングルボダ級に乗り込み地球圏に帰還することになっていましたが、開放同盟の要である空母ジャコギートを失い、その他の艦艇もエネルギーが尽きつつあります。」
「キースン大将は?」
「空母ジャコギートと運命をともにしました。我々は指導者を失い、生き残った参謀部での協議の結果、降伏を選択しました。」


「開放同盟にバイドが混じっているのであれば、我々としても慎重を期さねばなりません。BBSの詳細もお聞きしたい。」
「ええ、分かりました。私が知る限りのことをお話します。」


その後聞いたBBSの話はクロフォード中尉の話したことと大体同じであった。
太陽系開放同盟軍との待ち合わせ場所を打ち合わせ、カトー大佐には念のために残ってもらった。護衛機はその場で帰した。


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「提督、カトー大佐をゲストルームに案内しました。」
「よし。…強襲部隊を選定する。ガルム級巡航艦‘ブスカンド’と、ヨルムンガンド級輸送艦‘リャキルナ’‘ルミルナ’を先回りして伏せて置く。」
「提督?降伏の話し合いなのではないのですか?」

恐る恐る口に出したのはワイアット少尉だ。

見渡すと、ラウ中尉と、ベラーノ中尉は当然といった風。
ヒューゲル少尉と、ガザロフ中尉は仕方が無いといった感じか。
ワイアット少尉と、マッケラン中尉はすこし不満げ。
アッテルベリ中尉とクロフォード中尉はいつのも無表情だ。


「太陽系開放同盟はバイドにまで手を出した。危険すぎる。保険をかける意味で別働隊を伏せておく。我々は休戦協定を結びに行くのではなく、降伏を承諾しに行くのだ。誠意を見せなければならないのはむしろ開放同盟側だ。」
「もし、降伏が擬態だった場合は、どのような処遇にしますか」
「別働隊と本隊とで徹底的に潰す。」


そう、降伏に擬態するということは、降伏する権利を失うということだ。
そうでなくともバイドバインドシステムは危険すぎる。
テロ組織まがいの集団が持っているとすればなおさらだ。
殲滅できるならば、すべきであると思う。


「提督、別働隊は巡航艦に輸送艦2隻とのことですが、戦力を削ると気付かれる恐れがあるのでは。」
「輸送艦2隻分のデコイを事前に本隊に混ぜておく。本隊から消えるのがガルム級一隻ならばそれほど、怪しまれないだろう。」
「R機はジャミング機パワードサイレンスを中心に組みましょう。別働隊が発見されても、気付かれません。」


ラウ中尉はすでにやる気だ。
こうして、我々は着々と戦闘準備を始めた。


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「提督、いました!太陽系開放同盟の艦隊です。」
「別働隊をうごかしますか。」


今回の副官は熱血系のマッケラン中尉とインテリ肌のラウ中尉。
マッケランは別働隊のほうに行ってもらっているので、ディスプレイ越しに話している。
しかし、なんてうっとおしい。なぜ男2人で組ませた。


私はいつも通り旗艦エンクエントロスの司令席にいる。
開放同盟の降伏を許諾しなければならない。
グリトニルで降伏してくれていれば、我々も艦隊を編成してまで追わなくて済んだものを。


太陽系開放同盟の艦隊が見える。
艦が少ない。我々が撃ち減らしたにしても少ない。
…当たりか?


「ラウ中尉は開放同盟の武装解除準備を。」
「マッケラン中尉は別働隊の確認を。」
『了解しました。』


___________________________________


「提督っ!こちら別働隊。敵に発見されました!亜空間機に接触した模様です!」
「亜空間機を伏せていたということは、やはり擬態か。全艦、戦闘隊形を取れ!」
「別働隊は大きく迂回しているめ、戦闘に間に合うか微妙ですね。…提督、太陽系開放同盟とバイドの大艦隊のようです。」


ワープ空間に浮かぶ残骸の後ろにラウ中尉の言うように大艦隊が構えていた。
コントロールロッドが打ち込まれた大小バイド生命体が確認できる。
その時、敵艦隊のバイド生命体の動きが活発になった。バイド以外の艦船の様子がおかしい。
にわかに敵艦隊が蠢き始め、我々に襲い掛かってきた。


「何が起こっている?」
「太陽系開放同盟の機体よりバイド係数を感知しました。侵食されたもようです。」
「太陽系開放同盟に通信は?」
「まったく取れません。」
「そうか、しかし我々がやることは変わらん。ラウ中尉全艦通信を。」
「全艦通信開きます。」
「司令部から全軍へ、敵艦隊はバイドに侵食されたものと認定する。すでにあれらは人類の敵である。全軍、敵を殲滅せよ。これで決着をつけるぞ!」


熱気が指令室を包む。
人によっては人間相手に殲滅戦をかけるのを嫌う者もいるからな。
相手がバイドであれば問題ない。皆逆に奮起するだろう。


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ワープ空間にひしめき合うR機、艦艇、そしてバイド。
別働隊が早めに発見されたために、前後からの挟撃はできなかった。
別働隊の行った迂回路には亜空間機部隊が潜んでいたらしい。
戦力的に不足は無いが、亜空間機の殲滅には時間が掛かる。決戦には間に合わないだろう。


「全艦。まずは小型バイド、R機をつり出すぞ。誘い出して、波動砲で削る。」
「エクリプス隊、ピースメーカー隊、ステイヤー隊、一撃離脱して敵機を誘い出してください。」
ラウ中尉が、攻撃隊を選定してR機に伝える。マッケラン中尉は別働隊との繋ぎだ。


Rw-11B 高機動機ピースメーカー
もとは民間警察用として開発された機体。別名‘パトロールスピナー’
バイド来襲当初、都市部でバイドが発生した際に、民間人の被害を恐れて高火力のR機の運用が出来ず、結局バイドが増殖して都市ごと「消毒」することとなり、前世紀繁栄した都市は次々に地球上から姿を消していった。
こうした事態に対応するために開発されたのが、高機動機ピースメーカーだった。高層ビル群が乱立する立地で運用するため、装甲を犠牲に機動力を高め、誤射や周囲の被害を減らすために捕獲弾を装備している。都市を防衛するという特性上、民間警察に多く配備され都市部でのバイド駆除に多大な貢献をした。民間警察の功績をたたえて軍用機であっても‘POLICE’のマーキングをするのが整備員の間でのお約束となっている。


ピースメーカー隊はその飛びぬけた機動力を武器に敵陣に切り込む。
ザイオング慣性制御システムの恩恵を最大限に発揮し、敵弾幕を直角に避ける。旧世紀の戦闘機でこんな機動をすれば(できないが)、中のパイロットが見るに絶えない状態になり、機体も負荷に耐え切れず分解するだろう。もし機体が負荷に耐えても揚力を失って失速する。
直線と角で描かれた軌跡を残して、ピースメーカーが一気に敵機に詰め寄る。この機動になれたグランゼーラ軍のパイロットは、一見むちゃくちゃな機動をしながら、隊列を崩さずに接近する。
捕獲弾を放ち着弾を待たずに反転、敵機射程外に一気に逃げる。敵爆撃機スレイプニルはバリア弾を放つが幾つかが着弾、スレイプニルを打ち落とす。


エクリプスは発艦した後一度加速をやめて、高機動体形へと変形する。ザイオング慣性制御ユニットが再びうなりを挙げて、連動するように機体後部のスラスターが青く光り、爆音とともに一気に加速する。そのままスピードを緩めることなく、ミサイルを発射する。エクリプス自身の速度を上乗せしたミサイルは、自身の推進剤を用いて、さらに弾頭に加速度を加える。通常の速度を遥かに超えたミサイルが一気に敵前衛に降り注ぐ。スピードを重視したため狙いは甘かったが敵機に命中したミサイルはその質量自体も武器として敵機を破壊する。同形機のエクリプス実戦配備型を潰す。残りも奥に控える艦艇にあたったようだ。


ピースメーカー、エクリプスの後を追うように現れたステイヤー隊は、大出力であるが大型の機体であるため、敵弾に当たりやすい。なので、前の2隊の攻撃で空いた弾幕の穴に飛び込みバイド機クロークローに攻撃を仕掛ける。通常ミサイルだ。虎の子の核ミサイル、バルムンクはまだ使用しない。敵の殲滅ではなく敵を誘い出すのが目的だからだ。


「敵前衛、3部隊撃破、その他小被害を与えた模様です。」
「敵前衛部隊こちらに向かっています。迎撃させますが、よろしいですしょうか。」
「迎撃準備!波動砲を食らわせてやれ。布陣は任せる。ラウ中尉。」
「了解しました。レディラブ隊A、B、ルビコン隊、ウォーヘッド隊フォースを装着して、所定の位置へ。」


ラウ中尉はフォースにあまりこだわりを持っていない様だ。
現実主義なのかもしれない。
各隊は艦隊本隊の前面にすこし軸をずらして展開させる。
R機を狙った流れ弾が本隊に来るのを防ぐためだ。


バイド機、開放同盟機がレーザー、ミサイルを放ちながら接近してくる。
迎撃隊はレーザーを、フォースを盾にして防ぎ、ミサイルを弾幕で打ち落としたり、回避する。射程外からのミサイルは狙いも甘く速度も落ちるために、そこまでの脅威ではない。レーザーもワープ空間に漂う物質に当たって減衰しているので、フォースで簡単に防げる。


敵機が射程内に侵入する。
こちらの機体はまだ、波動砲のチャージが終わっていない。
敵の足を止めるために各隊はレーザーを放つ。
フォースを通すことで、威力が増幅されたエネルギーに指向性が与えられレーザーが発射される。
対空用レーザー(発射の際に赤色の可視光をまとう事が多いために赤レーザーなどと呼称される。)が敵機に突き刺さる。
しかし、それでもなお敵は足を止めずに突進してくる。恐怖というものが無いのだろう。
バイド機だけでなく、開放同盟機もだ。
やはり彼らは…


「迎撃隊。波動砲てぇぇー!」


号令とともに、パイロット達はトリガーを引く。
機首部にあった白い光は指向性を与えられ空間に開放される。
波動砲はそのまま白い光の筋となって敵機に迫る。
敵機は波動砲の発射を予期していたのか、筋と筋の隙間に回避しようとする。
しかし、その時を見計らったかのように光の筋が解けて、進行方向に広がる。
面での制圧に敵機は回避するすべも無く、光に飲まれる。
波動砲の燐光のような余波が収まったとき、そこに残っているのは数機しかなかった。


「圧縮波動砲に拡散波動砲か、射程はないが面制圧などでは意外と使えるな。」
「ええ、地球連合の機体には波動砲のバリエーションが多いですからね。一度使ってみたかったのです。」


波動砲マニアか…。
まぁ。地球連合に偏見を持っていなければいいさ。
どうあれ、開放同盟バイド混成軍の前衛部隊を崩した。


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敵の動きが無くなった。
敵艦隊はまだ健在なのに、小型機が動かない。
バイドは怖気づくということを知らない。何をしている?
早期警戒機で探るか。デコイで誘うか。


「ラウ中尉、早期警戒機を回してくれ。」
「了解しました。アウルライト、艦隊前面に移動させます。」


さて、どうくるのか。
アウルライトの一機が大きめのデブリの側でいきなり動きを止める。なんだ。
少し間があった後、耳障りな音が響く。亜空間ソナーを使ったらしい。
そして、データリンクで繋がった索敵レーダーに膨大な敵マーカーが出現する。
亜空間潜行…こんなに。


「提督!」
「旗艦エンクエントロス後退!フレースベルグ級駆逐艦を前に出せ。輸送艦デコイは旗艦前に。」
「駆逐艦‘レーニョベルデ’は最後尾です。前に出る前に敵亜空間機に追いつかれます。」
「味方を範囲に巻き込んでもかまわん。敵が寄ってきたら亜空間バスターを起動させろ。」
「了解です。」


フレースベルグ級の持つ特殊武装、亜空間バスターⅡ。
亜空間の敵に対して衝撃波を与えて破壊する兵器だ。亜空間機には絶大な破壊力を誇る。
ただし、亜空間でのみ効果があり、通常空間やワープ空間にいる者にとっては、
ただの爆音を撒き散らすだけの存在だ。
味方の亜空間機は別働隊にいる。問題なく撃てるな。


R機の中で、索敵という任務上最前線に送られることが多いアウルライトが、その場で停止する。アウルライト隊の行く手を塞ぐ様に、左右に緑色の砲身のついた発光体―小型のフォースのようにも見える―を従えた機体が現れる。亜空間に潜み獲物を狙っていたのだろう。左右の発光物体から光が播かれる。至近距離からの攻撃にアウルライトは回避できず、3機が大破爆散する。残った2機がバラバラに逃げようとするが、今度は発光物体が別々に動いて攻撃してきて結局は全滅する。


「亜空間機の攻撃によりアウルライト隊壊滅。…ガルーダです。」
「グランゼーラの機体か。」
「はい、亜空間航行能力とポット武装を持っています。」


OF-3軌道戦闘機ガルーダ
グランゼーラ革命軍で開発された機体で、地球連合軍の亜空間機ウォーヘッドに対抗するために開発された軌道戦闘機の一機。ポッドと呼ばれる半独立制御兵器を装備しており、ポッドは砲台として機能している。また、ガルーダからの制御によってポッドシュートを呼ばれる掃討攻撃を可能としている。


「提督、敵亜空間機の接触予想まで、あと1分30秒。」
「駆逐艦レーニョベルデはまだ前に出切れていないか。仕方ない牽制に亜空間バスターを使用せよ。」
「了解しました。」


耳障りな音と、激しい爆音が響く。旗艦エンクエントロスも亜空間バスターの効果範囲に入っている。そのため、亜空間攻撃の余波として発生している音が響き渡り、船内でも凄まじい音量が響いた。
耳を押さえて防御していたものもいるが、あまり効果は無かったようだ。
耳がキンキンする。


「敵亜空間機、消耗率30%と予測!後方は範囲外です!」
「亜空間バスター、第2射準備!急がせよ!」
「了解!」


みんな耳が遠くなっているので、怒鳴りあうように命令を出す。
亜空間機撃墜の戦果報告は衝撃波の揺らぎを見ての目測だ。これが意外と正確なのだ。
ところでラウ中尉、マイクに怒鳴るな、ハウリングするだろう…。
軍開発部にはぜひ亜空間耳栓を開発してもらいたい。


「第二射準備は?」
「可能です。」
「よし、亜空間機部隊の真ん中を狙うんだ。」


アウルライトが落とされて亜空間ソナーが使えないので、敵の現在位置を予測して攻撃する。
今度は旗艦が範囲外なのであの爆音に晒されることは無いだろう。
発射時に司令室スタッフ達が反射的に耳を押さえる。
さっきより幾らか小さい爆発音がする。
ラウ中尉の報告より早く、衝撃波に耐えかねた敵機が次々に姿を現す。
隊の形を保っているものは無く、ガルーダもキャノピーにひびが入っていたり、ポッドを失っているものが多い。
バイド機もいたか…マッドフォレストと呼ばれる小型バイドだ。
植物を模したような異様な外見だが、蔓状の組織が所々もげている。


「敵亜空間機、残存部隊が通常空間にシフトしました。」
「R機で追撃。逃がすな。」


旗艦と一緒に下がっていたR機各隊が一気に敵残存部隊を殲滅する。
あとは、大型艦船か。
そのとき、一条の光が貫く。


「提督、レディラブ隊B全滅です。駆逐艦レーニョベルデ被弾中破。バイド艦ボルドの艦首砲です。」


亜空間攻撃を行っていたため突出していた駆逐艦フレースベルグ級のレーニョベルデとたまたま近くにいたレディラブがやられた。
レーニョベルデは撃沈ではないが、戦闘は不可能だろう。


「レーニョベルデ後退。いや、あれに搭載されている機体はたしか…」
「提督?」
「命令変更。レーニョベルデ前進!ボルドに接近せよ。ステイヤー隊を援護につけるんだ。」
「前進!?ここは後退させるべきでは?」
「いや、ステイヤー隊を援護に付けて、レーニョベルデ前進させる。ラウ中尉、復唱。」
「…ステイヤー隊を援護に付けて、レーニョベルデ前進させます。」


すごい、不服そうな顔だ。
私が中破した駆逐艦をすてて、敵に吶喊させるとか考えているのだろう。
そんなことを考えてる内に駆逐艦はバイド艦に最接近する。


「レーニョベルデから、アサノガワを発進させよ。レーニョベルデは反転後退。パイルバンカーを機関部に叩き込め!」
「アサノガワが…提督、正面からは機関部にパイルバンカーが届きません。」
「レーニョベルデから発艦したアサノガワは、その速度を利用できる。ボルドの上部に回りこめるはずだ。」


そうこうしている内に、アサノガワがパイルバンカー発射体勢に入る。
よし、後はパイロット次第だ。
アサノガワがボルドの上部をすべるように、進む。
機関部が見える直前に、アサノガワはスラスターで制御して一気に機体をボルドに垂直に立てる。
そして、パイルバンカーに溜めたエネルギーを杭の形に乗せて、打ち込む。


戦艦でも一撃で落とせるほどの威力を持った攻撃を受けて、ボルドは真ん中から折れ曲がる。機関部周辺はもっとも装甲が厚いのだが、あっけないほど簡単に貫通し、内部にエネルギーを叩き込む。
機関部だけでなく構造自体に致命的なダメージを与えたらしい。
少し遅れて、ボルドの前部と後部が爆発する。


「敵ボルド級撃破しました。」
「残りは…」


そのときボルドの撒き散らした爆炎の中からガルム級が現れる。
近い!吶喊する気か!?


「開放同盟ガルム級接近!艦首砲、発射体勢に入っています。」
「エンクエントロス回頭、敵ガルム級に艦首を向け、グレイプニル砲発射準備。レーダー係何をしていた!」
「爆炎でレーダーが…」
「回頭完了!グレイプニル砲発射まであと5秒です。」


敵ガルム級の砲身が輝く。敵のほうが早い?


「総員、対衝撃体勢を!」
ガルム級からの艦首砲の衝撃で揺れる。
船体前部から力を加えられ、船内のすべての物体が前に飛び出ようとする。
どうやら慣性制御システムの手に余る威力だったらしい。
私も司令席のシートベルトに一瞬押さえつけられる。
不味い、グレイプニル砲が暴発しなければ良いが。ディスプレイは真っ白だ。装甲板は持つだろうか。
突然、射線がずれて、視界が通る。
ガルム級は艦首砲を撃った状態のまま、やや下方を向いている。側にはステイヤー隊がいた。どうやら、彼らがバルムンクでガルム級の艦首の方向をずらしてくれたらしい。


「今だ!グレイプニル砲発射!」


私はお返しとばかりにグレイプニル砲を発射する。どうやら艦首砲ユニットは無事だったらしいな。
戦艦と巡航艦では、運用できるエネルギーが違う。先の攻撃より一回り大きい光の筋が敵ガルム級を飲み込む。
艦首砲ユニットが爆発して、爆炎を上げる。続いて各部から爆発が起きる。エネルギーの奔流で見えないが、艦橋も消し飛んでいるはずだ。
グレイプニル砲のエネルギーが全て放射される頃に、機関部からひときわ大きな爆発が起きる。艦首砲の発射中、主機をフルドライブさせているときに、ダメージを受けた機関部は周囲を巻き込み、そしてすべてを消し飛ばした。


「提督…敵ガルム級撃沈しました。」
「ああ、この艦の被害と、敵残存戦力は?」
「当艦の被害は正面装甲板が第3装甲までダメージをうけ、艦首砲ユニットも修理が必要でしょう。敵残存兵力は1割程度です。」


「提督!ご無事ですか!」
「マッケラン中尉か。とりあえず私は問題ない。別働隊は?」
「はっ!亜空間機部隊を殲滅。これよりこの宙域の掃討に移るところです!」


マッケラン中尉がいきなりディスプレイに出て驚いたが、
別働隊がすぐそこまで来ていたようだ。


「まかせた。ラウ中尉こちらも掃討を開始する。」
「了解しました。」


_____________________________________


戦闘は終了した。敵は降伏、投降の意思を示すものも無く全機殲滅された。
やはりバイド化していた様だ。
戦闘後、ゲストルームにいた(戦闘中は閉じ込めて置いた)カトー大佐を尋問させた。
太陽系開放同盟がバイド化し、全滅したと伝えると、観念したように話し出した。


カトー大佐が言うには、今回の件は彼の策であったらしい。
キースン大将の乗るアングルボダ級は実験中に爆発したのではなく、
実験中の事故で暴走、制御を受け付けなくなり、アングルボダ級はワープ空間の歪みに飲み込まれてしまったらしい。


開放同盟は焦った。総大将を失い、通常空間に戻るすべがなくなったのだ。
残された参謀部のカトー大佐は一つの案を思いついた。
エネルギーが無いなら、奪えば良い。幸いエネルギーをたっぷり持った艦隊がもうじきやってくる。
我々が、降伏承諾を行っている最中に艦艇を奪うつもりであったらしい。
正直歩の良い賭けではなかったが、降伏は出来なかった。
なぜならバイドバインドシステムを知られているからだ。
バイドそのものを操る技術。人類そのものを敵に回しかねない行為だ。
地球連合、グランゼーラ両政府にも絶縁状をたたきつけているので、擁護は期待できない。
技術を奪われて、処刑されるのがオチである。との結論に達したとのことだ。


_____________________________________


カトー大佐は開放同盟艦隊の最後の生き残りとなった。
彼らの思考はいささか被害妄想じみていて、短絡的であったが、
総大将が突如消えうせ、帰還も絶望的になったとしたら、人間はそうなってしまうのかもしれない。
話し終えた彼は涙こそ流さなかったが、悄然としていた。
私はカトー大佐に自殺防止の見張りをつけて、独房に入れた。
彼には事の顛末を証言してもらわなければならない。




太陽系開放同盟の旗艦アングルボダ級宇宙空母‘ジャコギート’は空間の歪みに消えたらしい。
状況からは、キースン大将は死亡したようであるが…
ともかく、太陽系開放同盟軍の討伐は完了した。
地球に戻ろう。


私は、艦の応急修理を済ませると、地球に向けて連絡艇を一足先に向かわせた。









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久々にR機を活躍させてみようと思った結果がこれですよ。
文章量が増える増える。Wordで15ページ分です。
あ、そうそう。
拙作のR機の説明には妄想が含まれているので注意してくださいね。

キースンは何処へ行ったのか。
太陽系開放同盟とは、何から太陽系を開放しようというのか。
このゲームって、情報が提督の航海日記と戦闘マップだけだから、
あやふやな部分や、まったく語られていない部分が多いです。
妄想の余地が有って楽しいという事でもあるんですけどね。

しかし、妄想という名のネタ帳だけ増えて、執筆速度が…
年内に後編を完結させたいですね。



[21751] 6 提督とラブストーリーは突然に
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:26
6 提督とラブストーリーは突然に
※前回硬すぎて疲れたので今回は戦闘なしのギャグで構成されています。


アウルライトに先導されながら、地球からの連絡艇が来た。
連絡艇から新たな命令書を貰った。連絡艇のパイロットらが異様に焦っているようなので、急いで目を通すと、そこには。


・私の階級を元帥とし、部隊の自由編成権を認める。
・地球圏に膨大な量のバイドが攻めてきた。
・我々の艦隊に転進を命じる。地球圏の防衛に付け。
・地球圏に戻る帰路で、バイドを発見した場合は可能な限りこれを殲滅せよ。
・その際、原隊を失った、合流が不可能になった戦力があれば、部隊への編入を許可するまた、やむを得ぬ場合は現地戦力の接収を許可する。とのこと。


その様な内容が書かれていた。
要は戦力になるものは部隊に入れていいからすぐ戻って来い。もしバイドがいたら殲滅しておけ。
そう書いてある。文面からは本部の必死さが伝わってくる。
今まで、あれだけ冷遇してきたのに。という感情も無くはないが、
バイドから人々を守るのは軍人の本分だ。感情論という無駄な理由は置いておこう。


早速、権限を行使して連絡艇の先導をしていた、アウルライトを奪…編入した。
決して、先の戦闘でまた早期警戒機部隊が全滅していたからちょうど良かった、なんて理由ではない。
連絡艇もアングルボダ級空母‘エストレジータ’に積み込んだ。さすがに連絡艇だけでは帰せない。
連絡艇と早期警戒機だけで、ここまで来るとは…バイドに遭遇しなかったのか?


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その後でドックに行ってみると、新アウルライト隊の面々を前にして、他の部隊のパイロット達が気の毒そうな顔して見て口々にコメントした。


「折角ここまで敵に会わずに来れたのにな…。」
「これでアウルライト何機目だ?」
「もういっそ無人機にした方がいいんじゃないのか。」
「ミッドナイトアイよりは生存率上がったよな、…たぶん数%は。」
「よかったな。予備パーツだけは大量にあるぞ。」
「修行と思えばいいさ。3戦も生き残ればエースパイロットだ。」
「偵察機隊か、なんてマゾい部隊だ。」
「知ってるか?この艦隊で、早期警戒機隊はパイロットの墓場って言うんだ。」


おいお前ら…偵察機部隊はもともと損傷率が高いんだ。うちだけじゃないぞ。
アウルライト隊のパイロット達が青くなってるし、なんてところに来たんだ、とか言うなよ。
バイドが押し寄せいてくるなか、早期警戒機と連絡艇だけで帰るよりましだろう。
私が本部に出した連絡艇にはちゃんと護衛をつけたぞ、型落ちのアローヘッドだけど。
ん?、整備のおやっさんが来た。


「パイロットは飛ぶことだけ考えりゃいいんだ。俺たち整備班がいるんだ、整備不良‘で’落としたりはせん。」


トドメをさしたか。
私は何も聞かなかったことにして、そっとその場を離れた。


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若き英雄ジェイド・ロスが艦隊を率いて出征して以来無かったバイドの大攻勢。
人間同士の戦争が終わったと思ったら、バイドが再び迫ってきた。
しかし、何故今更バイドが…
ロス提督はバイド中枢の破壊に失敗したのだろうか…?
取りとめもないことを考えながら私は、全艦に地球に向けて転進するよう命じた。


私はバイドが地球圏に迫りつつあることを艦隊の全員に知らせて、バイドを討つ為に地球圏に戻ることを告げた。
隊員たちは地球連合、グランゼーラ関係なく単純に地球圏に戻れることを喜んでいる。
両軍の軍人たちが手を取り合えるようになったのは単純にうれしいし、
私も帰れるのはうれしいが、地球にバイドが迫っている。そう思うと複雑だ。


__________________________________


今、私は事務処理のために司令官デスクにいる。
人事考査を付けていたところだ。
あとはこれを主席副官のマッケラン中尉に渡して、各部署に配らせて終わりだ。

こめかみを揉みながら、窓の外で繰り返される単調な光景を見ていた。
思えば、もうワープ酔いもしなくなったな。
初めのころは本当に酷くて、こんな派遣命令を下した本部を恨んだものだが。

ふと、ベラーノ中尉のことを考える。
以前ビターチョコレート作戦前に告白しようと思ったのだが、ミスをしている。
正直、思い返したくない。
部下にこんな感情を持ってはならないのだが…どうすればいいのか。


その時だった。
ドアをノックする音と共にベラーノ中尉とマッケラン中尉が入ってきた。
聞くと、部屋の前で一緒になったのだという。


私は考査書類をマッケラン中尉に渡し、
ベラーノ中尉の書類にサインをしていた。
私は平静を装って処理しながら、今後どのように思いを告げようかと考えていた。
最後の一枚を処理し終わり、書類を渡すために立ち上がると、ちょうど中尉と目があった。
目と目があったこの瞬間の間に・・・大きな衝撃が艦内を走った!


艦が被弾したのか、艦が大きく揺れた。

バランスを崩した私を支えようと中尉は私を抱きかかえるような態勢になった。

最後に一際大きな振動が起き、額に衝撃と、唇に柔らかい感触があった。

震動が収まると私は抱き合ったまま見つめ合っていた。









マッケラン中尉と。


______________________________________


私は慌てて身を話してなぜかベラーノ中尉に弁明していた。
マッケラン、提督意外と着やせするんですね。とかいうな。寒気が…
今私はパニック状態だ。
戦闘中でもここまで狼狽することは無いのに…


ベラーノ中尉は、若いですね。みたいな顔をしてた。
違う!
誤解を解きたいが、戦闘指揮をとらなくては。
私は泣く泣く司令室へと戻った。


正直、どう指揮したのか分からない。
とりあえず、ピンクとブルーの花みたいなキューブみたいなバイドを倒した。
気付いたら、戦闘が終わっていたのだ。


___________________________________


戦闘後、デスクにベラーノ中尉が戦闘の被害報告を上げに来た。

「提督、私偏見は無い方です。もしお手伝いできることがあったら言ってくださいね。もしプライベートな相談であれば、ちゃんと一人のお友達として相談にのりますから。」

ベラーノ中尉が何か言っているが、まったく耳に入らなかった。

とりあえず

6つに割れた腹筋の感触なんて、一生知りたくなかった…






===================================
前編最終話で、オチをつけるためだけに、提督とベラーノ中尉のフラグを立ててたので、へし折ってみました。
恋愛フラグは折るものです。

すみません、シリアス書いてたら、ギャグ書きたい病がでました。
戦闘は飛ばすつもりだったので、ギャグとして消費しました。



[21751] 7 提督と悪夢再び
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:32
・提督と悪夢再び


我々はワープ空間を地球にむけて戻っている。
もうじき、ワープ空間の出口だ。そこを抜ければ冥王星周辺空域に抜けられる。
ワープ空間での連戦で、かなり艦艇やにガタが来ているし、将兵のストレスも溜まっている。予備機も心もとない。
冥王星基地グリトニルで補給・修理をしなくては。大型ドックもあるし。
グリトニルは重要な基地だ。復旧も進んでいるだろう。
ドック入りしたら2日くらいかかるだろうから、半舷休暇にしよう。


携帯端末から警告音が鳴り響く。
緊急連絡!?
通話ボタンをタッチすると、副官のベラーノ中尉の声が聞こえてくる。


「提督、バイド反応を観測しました。司令室にお戻りください。」
「分かった。すぐ向かう。」


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私は、司令室につくとすぐにベラーノ中尉に現状を尋ねる。

「ワープ空間出口付近にバイド反応です。バイド係数からしてA級バイドかと思われます。」
「索敵は?」
「はい、すでに早期警戒機を先行させています。…映像写します。」

小型バイドの群れがいくつも点在している。
途中、亜空間の干渉空間があり、奥は見通せないが…大型バイドがいるのだろう。
私はマイクを取る。


「総員、ワープ空間出口に大型バイド反応を確認した。バイドは強大だが、これを倒せば地球圏だ。みんな生きて地球圏に戻るぞ!」


発破をかけて、戦闘準備をさせる。
本日の副官はベラーノ中尉とヒューゲル少尉だ。
安心できるな。私の精神衛生的に。


「提督、A級バイドであれば、決定力が必要となります。戦艦をメインで組むべきと考えます。旗艦エンクエントロスを中央にすえて進軍しましょう。」
「旗艦エンクエントロスは艦首砲の調子が悪い。太陽系開放同盟との決戦で無理をさせたせいだな。応急処置をしたとはいえ船体にダメージの蓄積もあるからあまり前には出したくないし、いざというときに艦首砲が不調になったら笑い話にもならない。同じく駆逐艦レーニョベルデも前には出せない。」


ヒューゲル少尉が進言し。私が拒否する。
旗艦のテュール級戦艦エンクエントロスとフレースベルグ級駆逐艦レーニョベルデはともに、開放同盟との決戦でダメージを受けている。応急処置はしたのだが、ドックにいれて、修理しないと本来の性能を発揮できない。特にレーニョベルデのように中破したり、エンクエントロスのように、大きな負荷がかかる艦首砲ユニットに不備がでるとなると、応急修理では無理が出る。
R機であれば、基本的にパーツ交換で済むし、被害が大きければパーツ取り用にまわして、予備機をもってくることになるから、不調のまま出撃ということはそう起こらない。しかし、艦艇では小型の予備パーツはあるが、基本的には切ったり張ったりの修理だ。砲やレーザーも修理はできるが、失われればドックでユニット交換しかない。しかも曳航できないほど大きい艦は、調子が悪かろうと自力航行しなければならない。


「提督、アングルボダ級エストレジータを使うのはどうでしょう?」
「空母で接近する…?ジャミング発生装置があるからある程度安全かも知れないが、あれを使うと移動が困難になるし、肝心の敵の懐に飛び込めないのではないか?」
「いえ、A級バイドに接近するまでエストレジータのジャミングは使用しません。空母の役割はチャージ済みの機体を安全に運ぶことです。小型バイドはR機で排除し、A級バイドまで空母で近づきます。A級バイドの索敵圏内に入る前に空母をジャミングで隠匿。さらに温存しておいたパワードサイレンスでさらにR機を隠匿しながら近づき、至近距離から波動砲を重ね撃ちます。」
「こちらの存在を悟られないようにか。そうだな相手はA級バイドだ。慎重を期して悪いことは何も無い。その案で行こう。」


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アングルボダ級空母エストレジータの中には配備されたのは、ジャミング機パワードサイレンスをはじめ、爆撃機ステイヤー、火炎武装機ドミニオンズ、中距離支援機のホットコンダクター、要撃機ワイズマンと、補給機POWアーマー。これらがA級バイド用に温存。その他亜空間索敵用として、強化戦闘機ウォーヘッド、サンデーストライク。レディラブ隊、可変戦闘機エクリプス隊が遊撃につく。
空母エストレジータの直衛として、ラグナロック隊と、ピースメ-カー隊がつく。
先行偵察から帰還した新生アウルライト隊は、その電子戦能力で通信中継基地として進軍する空母エストレジータと後方の旗艦エンクエントロスの通信を取り持つこととなっている。

いくつかベラーノ中尉とトラブルシューティングを行った後、彼女はアングルボダ級空母エストレジータに移った。


「それでは提督行ってきます。」
「任せた。ベラーノ中尉。」


ベラーノ中尉は周囲の空気を和ませるように、
散歩にでも出かけるかの用に言うものだから、私も苦笑して、送り出した。


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打合せ通りに直衛機を空母の前面に出しながら前進する。
索敵はサンデーストライクとウォーヘッドで先行し亜空間索敵を行う。途中に中州のような干渉空間があり二股に分かれており、また合流している。亜空間機はその中州の中に隠れて、敵機と接触しないようにして、上部進路の索敵を行っている。


「レーダーに感あり。亜空間索敵に敵機引っかかったようです。」
アウルライトを電話線代わりに通信とデータリンクを繋いでいるため、空母エストレジータの状況を後方の旗艦エンクエントロスでも同時に観測できる。


「小型バイドの小隊か。斥候といったところだな。特に指示することもないか。」
「提督、今回のA級バイドとはなんでしょう?」
「分からないな、我々がワープインしたときは近くに大型のバイド反応は無かった。通常空間より構成材料に乏しいワープ空間で、ここまで短期間にA級に成長するとは考えにくい。どこかから移動してきたと思うのだが…よりによってワープ出口とは。」
「まるで、待ち伏せしているみたいですね。」


ヒューゲル少尉の言葉に、なるほど、ここは狩場なのかと納得してしまう。
バイドに罠を張るとは余り考えたくないが、ありえない話ではない。


ディスプレイ上では小型バイドと、R機の戦闘が始まっていた。
直衛のラグナロック隊が相手の索敵範囲外からハイパー波動砲を打ち込む。
チャージ時間を短縮した代わりに威力が小さいため、取り逃がした敵機もいるが、
索敵外からの攻撃に反撃も出来ずに右往左往している。
今の一撃でこちらの位置はばれただろう。奇襲はもう効かない。
ここからは一気にこのバイドの小隊を殲滅する場面だ。


敵の射線に入らない様にピースメーカー隊が捕獲弾を発射する。

「ぐえっ。あれって、痛そうですよね。」

‘ぐえっ’て女の子なんだから。
この捕獲弾は、名前と違って敵機を抉り取るように「捕獲」するので、かなりの攻撃力がある。
生物系のバイドが食らっているのを見ると、ヒューゲル少尉の言うとおり痛そうだ。


遊撃隊として控えていた部隊も出てきて、ミサイルを撃ち込む。
ミサイルは射程距離が短いので敵の索敵に入ってしまうが、
数機まで減っている小型バイドでは反撃もままならない。
第一陣は危なげなく乗り切り、遊撃隊は空母に戻る。


そのまま前進すると、干渉空間の中洲が切れて、比較的広い空間に出る。
亜空間索敵の安全地帯であった中州がなくなり、亜空間機の挙動が慎重になる。
それにより、索敵範囲が自然狭くなっている。
私は一応注意を促そうと、エストレジータに通信を開き、
亜空間索敵の範囲が小さくなっているため、慎重に行くように伝える。


その時、いきなり敵機が索敵範囲深くに飛び込んでくる。
不味いな。敵に見つかったか。
バイドも何らかの方法で近隣の固体とデータを共有しているらしく、
一機に発見されると周りのバイドも集まってくる。


「げっ、見つかった。」


ヒューゲル少尉。女の子なんだから‘げ’はやめなさい。
幸いA級バイド反応とは少し距離が離れている。情報がリンクしていないことを祈ろう。
と、思っていたら、ミサイルが飛んできて空母エストレジータに突き刺さる。
バイドの長距離支援ユニット、タブロックだろう。
なぜか、人を模したような造詣をしている機械系のバイドだ。


「提督、エストレジータ、ジャミング装置を起動した模様です。」
「うん、その方がいいな。」
「しかし、すでに場所は知られてしまったのではないのですか?」
「長距離誘導ミサイルは索敵されていないと、相当に命中率が下がるからな。それに敵機はすでに索敵されているR機を狙うだろう。」
「あ、そうか。そこにいるかいないか分からない方より、見えているほうを狙うんだ。」
「それに、A級バイドに空母の場所を知られたくない。…しかし、ジャミング装置を起動されてしまうと、通信できないな。」 
「そうですね。あとはアウルライト隊のカメラですね。画質悪いですね。」
「4機のアウルライトを経由しているからな。…旗艦エンクエントロス、駆逐艦レーニュベルデは、いつでも動ける状態で待機だ。巡航艦ブスカンドには定期的に連絡。レーダーには気を配れ。」


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私はアウルライトから送られてくる映像を見ている。
旗艦エンクエントロスと駆逐艦レーニョベルデのお留守番組は、下方通路から小型バイドが来ることを警戒して、中洲の手前側で待機している。
攻撃隊であるアングルボダ級空母エストレジータの部隊は、A級バイドへ使用する戦力を温存しつつ、タブロックを攻撃する。
正直、直衛と遊撃戦力だけでは苦戦しているようだ。


「なんか、ハラハラしますね。提督」
「指示できず見ているだけというのは、堪えるな。しかし、挟撃の危険があるからここから動くわけにもいかない。」
「あ、提督見てください。タブロックを落としましたよ。」
「しかし、A級バイドの周囲は多量の小型バイドがいる可能性が高い。これだけではないはず。」
「亜空間索敵じれったいですね。3歩進んで2歩下がるみたいな。」
「敵に突っ込んで、通常空間に戻された上に敵陣で孤立するよりマシだろう。…レーダー係、索敵は?」
「本艦の周囲にバイドは感知されません。」


ヒューゲル少尉との問答の合間に、レーダー係に尋ねる。
このレーダー係は、かなりポカミスをするからな。こちらからも確認しないと。


「あ、バイド輸送艦ノーザリーです。何時も思うのですけれど、あの形最低ですよね。」
「…バイドは生理的嫌悪を催す形状が多いからな。」

焦点をずらして答えてみる。年頃の娘がなんてことを言うんだ。
バイド輸送艦ノーザリーはそれ自体に余り攻撃力は無いが、小型バイドを内部に収納でき、修理できるようなのだ。輸送艦といわれる由来だ。肉塊の様な壁の周囲を金属で出来たらしい装甲板が覆っている。形状は…端的に言えば、…ソーセージだ。
ヒューゲル少尉の質問は私への嫌がらせか?逆セクハラなのか?
やぶ蛇になるから聞かないで置こう。スルーが一番だ。


「ノーザリー2隻に、タブロックが2機、あとは…あ、ストロバルトボマーが来た。」
「戦艦があれば艦首砲でまとめて消し飛ばすのだが。空母には艦首砲は付いてないからな。」
「戦艦の艦首砲なら大抵のバイドは一撃なんですけどね。」
「無いものねだりしてもしょうがないな。ヒューゲル少尉。君ならばどうする。」


顎に手を添えて、小首を傾げてる。


「ワープ空間の最奥にA級バイドがいるとすると、空間的にはそれほど小型バイドがいるとは考えにくいです。これで打ち止めでしょう。空間にみっちりバイドが詰まっていたらもっとバイド係数が観測されるでしょうし。」

「それでは、君の読みどおりこれで小型バイドは出てこないとしよう。」

「これからA級バイドと戦闘することを考えると、どうにか小型バイドの群れを無傷で突破したいですね。これには大火力の攻撃でまきこんで一気にかたを付けるが適切ですが、今回戦艦・巡航艦がいないため艦首砲はつかえません。のこるはR機の波動砲ですが、現在使えるのは、直営のピースメーカー、ラグナロック、遊撃のレディラブ、エクリプスです。のこりは対A級バイド用の戦力です。正直火力不足かしら。」

「ならば、その火力不足を何で補う?」

「ドミニオンズがればいいけどA級バイド用に運用したいから使えないわ。後は亜空間索敵機をどちらか戻して、戦力とするとか…でもだいぶ先行しているから今さら戻すのも…。アウルライトは戦力にはならないし…」

「それはやめてくれ、ヒューゲル少尉。ただでさえうちの艦隊の早期警戒機は未還率が高いのだから、アウルライトをこれ以上潰されたくない。」

「っていうより提督、この辺ベラーノ中尉と話し合っていませんでしたっけ。」

「そうだ。そろそろ始まる。」


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前面に展開していたR機が後退する。遊撃のレディラブ、エクリプスがまず下がり、空母エストレジータの中に消えていく。
データリンクが無い状態でみると、ジャミングの光学的処理のため、本当に機体が消えていくようで怖い。
続いて直衛のラグナロック、ピースメーカーも下がる。
私の隣にいるヒューゲル少尉の頭の上に疑問符が見える。


「提督?さすがに全機格納したら、バイドも機体が消えた位置に集まるのでは?」
「そこがミソだ。」


全てのR機が消えて一瞬戸惑うように動きを止め、そして、いっせいに後方を見る。
正確には後方(我々から見ると前方)に突如現れた機体を睨んでいる。
亜空間索敵をしていたサンデーストライクが通常空間に戻ってきていた。

バイド達は新たな敵の出現を認識して、破壊せんと一機のR機に殺到する。
引き付けながら後退し、亜空間に潜行。
そうすると今度はウォーヘッドが通常空間戻り、バイドを牽引する。
亜空間機2機は何回かこれを繰り返し、小型バイドを空母周辺から引き剥がした。
しかし、タブロックのミサイルで亜空間機に被害がでている。
2機の亜空間索敵機は最終的に次元の壁にめり込んで、通常空間に戻されないようにする。


アングルボダ級ではジャミングは同時に光化学的ステルスを展開するため、カメラにも移らないが、現在小型バイド帯を抜けて進軍しているはずだ。途中まで抜けたらジャミングを解除して一気に通り抜ける。そして今度はジャミング機パワードサイレンスを中心に隊列を組みA級バイドに接近する。索敵はデコイPOWだ。


「バイドって単純なんですね。」
「…バイドの恐ろしさは物量と侵蝕能力だ。このワープ空間は基本的に通常空間より物質が希薄だから、バイド体の基となる物質が少ない。そして今回はワープ出口…袋小路にいたからもとの物量もそこまで多くない。」
「提督、ワープ空間でのバイド戦の教材になるかもしれませんよ。」
「条件が特殊すぎる。この作戦は敵戦力が限定できて、地形的にも条件がある。挟撃されたらおしまいだから、早期警戒機も重要になる。…それにまだ、A級バイドがいる。」


そう言って、ディスプレイに視線を戻す。
パワードサイレンスの周囲にR機が集合しているのが見える。このジャミング機は光学ステルス能力が余り良くないため、なんとかカメラ越しに確認できる。
本来R機の高速戦闘では視認による攻撃などほぼ無理だし。レーダーに掛からなければロックオンもできないため、光学ステルスは重要視されていないのだ。さすがに空母ほどの大きさになると、遠目でも視認攻撃されるため、光学ステルスも高度なものとなっている。


陣営は要のパワードサイレンスを中心に、ステイヤー、ドミニオンズ、ホットコンダクター、ワイズマン、POWアーマーだ。
パワードサイレンスを護衛するような形でA級バイド反応に接近していく。
途中でPOWアーマーのデコイを射出して索敵させる。
おそらくA級バイド相手では一撃で消し飛ばされるが、巨大なものが多いA級バイドは基本的に動かないため、位置情報さえつかんでくれれば役に立つ。使い捨て索敵機だ。


奥に突撃するPOWデコイ、そろそろあちらでは索敵できたかなと、考えたその時
前触れ無くデコイが消し飛ぶ。
あの紫色の粒子砲は見たことがある。あれは…

その時データリンクが回復する。エストレジータがジャミングを解いたらしい。一足先に得た情報で、敵射程の外にあることを確認したのだろう。
データリンクが確保されたといっても距離があるため通信状態は悪い。
しかし、エストレジータとのデータリンクから得た映像に息を呑む。


「あれはドプケラドプス…?でも…」


以前土星基地で倒した‘生ける悪夢’ 一気に緊張感に包まれる司令室。


ヒューゲル少尉が口ごもるのも無理はない。
それは出来の悪いB級ホラーの様だった。
長く後方に伸びている頭部器官、胸部には砲台、人間で言うところの四肢に当たる器官は無く、尾状器官が長くくねっている。まさしくドプケラドプスだ。
しかし所々、骨格構造が見えており、胸部はミイラのように、帯状の物体で包まれている。尾は骨が連なっているように見える。…そう、ゾンビかミイラの様だった。
ただし、頭部器官や、胸部器官は無事なようなので、こちらの姿をみとめれば、攻撃を加えてくるだろう。コアもある。
ワープ空間の出口に鎮座するのは、まるでドプケラドプスの屍のようだった。


「ドプルゲンMaxも健在なようだ。」
「提督暢気なことを言っている場合じゃないですっ。」
「エストレジータへ通信。問題ない。そのまま作戦を遂行せよ。落ち着けば出来る。と」

先ほどから通信状態がわるい。音声だとノイズで聞き取れない恐れがあるので、電文で送った。

「エストレジータより入電。『これよりミイラを火葬する』とのことです。」


下手なジョークでも言えるならば大丈夫だろう。
ジャミングした一団はゆっくりとドプケラドプスのコアに近づいていく。
非常に心臓に悪い映像だ。
ジャミングが効いている証拠に射程内にはいっても、砲撃が飛んでこない。
きっとパイロット達はもっと心臓に悪いのだろう。
ドプケラドプスのコアは腹部だ。彼らはまさに懐まで侵入しなければならない。
いつ気付かれて撃墜されるか分からない極限状態。
目の前に鎮座するのは‘生ける悪夢’ドプケラドプス。
恐怖から、いっそ飛び出して突撃したくなる者がいても可笑しくない。
彼らは今回の作戦でただの一基のミサイルも発射していないが、きっと誰より消耗しているだろう。


「ホットコンダクターの波動砲、コアが射程にはいりました。」


まだだな。全機がスタンバイ状態で無いと。ここで堪えられるか?


「ステイヤーのバルムンク型ミサイル射程内です。」


あと、すこし。視界の下でうねる尾に触れてしまいそうに見える。


「ドミニオンズ火炎波動砲射程に入りました。」


きっとパイロットはドプケラの頭部に見下ろされている気になるだろう。


「ワイズマン誘導波動砲射程はいりました!」


…攻撃開始!


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まず、先陣を切ったのはステイヤーだ。
機首を上げて一気に上昇してドプルゲンMax-Rの射程外から、戦術核ミサイル‘バルムンク試作型’を叩き込み反転して、そのまま離脱。
バルムンクはその大きさゆえに1基しか搭載できない。小型バイドには一撃必殺の威力を持つ。
爆炎。
紫の粒子がほとばしる。チャージがキャンセルできたようだ。
肋骨のような構造が何本か、内部からの圧力に負けて吹き飛ぶ
怒ったようにドプケラの屍が身を捩ると、コア周囲の包帯の様な物体が解けコアが見える。


次峰が続く、集団の後方からホットコンダクター隊の波動砲の一閃がコアを狙撃する。
威力よりも、照射時間や射程を重視した圧縮波動砲を装備している。
むき出しになったコアに波動砲を照射し続ける。


ホッとコンダクターの波動砲が続いている内にワイズマン隊が、コアの少し上方を陣取る。
この位置ではコアは胸郭で遮られている。
しかし、ワイズマン隊は見えないコアに向けて波動砲を放つ。
パイロットの思考をダイレクトに波動砲に伝えることにより、エネルギーの塊が障害物を迂回する。
ステイヤーのバルムンクミサイルがへし折った肋骨の隙間から腹腔に進入し、コアに罅を入れる。


ホットコンダクターの波動砲放射が終わる頃に、ドミニオンズがドプケラドプスを正面に見据える。
波動砲の残滓を反射して、金色の機体がきらめく。
各所に設置された放熱板が装飾の様で、名前通り、まさにバイドを誅する天使だ。
ドミニオンズは機首に蓄積した波動エネルギーを一部熱エネルギーに変換し、一気に開放する。
至近距離で放たれた火炎波動砲は罅の入ったコアを粉砕した。
しかし、その勢い留まらず。度重なる攻撃で脆くなった腹腔や胸郭を破壊、頭部も火炎が嘗め尽くす。

ドプケラドプスの屍はもはや、黒焦げの頭部と尾にそのなごりをとどめるだけになった。
躯さえ忌まわしいとばかりに、R機各隊がミサイルや爆雷を放つ。
コアを破壊され形だけとなっていたソレは衝撃で崩れ落ちる。


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「やったーっ。」
いの一番にヒューゲル少尉が歓声を上げて飛び上がる。
いや、君は何もしてないじゃないか。ってでもやはり生ける悪夢を倒せたのはうれしいのか。
続いてスタッフからも歓声があがる。ドプケラドプスを倒せた喜びと、ワープ空間を抜けられることへの安堵の表情が見られる。


「ヒューゲル少尉、今日から君もドプケラバスターズだな。ようこそ。」


「ありがとうございます。提督。でも提督、二回もドプケラドプスに当たるなんて呪われてますね。」
「まさに悪夢だな。ポジティブに考えるべきだ、厄払いできたと思おう。」
「二度あることは三度あるといいますよ。」
「…」


だから、一言多い!








そろそろ、ワープアウトの準備だ。



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設定だけして読み返したらまるっきり無視されてたアングルボダ級を書いてみた。
結局、R機の発着基地になっちゃうんだよね。アングルボダ。
弾幕はパワーだぜっ!てプレイスタイルだからヘイムダル系列しか使わなかったしなぁ。

ヒューゲル少尉が提督と師弟っぽくなっているけど、このコンビは会話が気楽でお気に入りです。
にしても、A級バイドが敵って言っているのに、この提督は弟子としゃべくって余裕です。まぁ、通信通じないから開き直っているのですけれど。

副官が分艦隊長みたいになって微妙ですが、いっそ、艦長らも登場させればよかったのか。
でも、名前は増やせない。作者の記憶力的に。

追伸:誕生日に一人でケーキ食べながら書いてうpしてます。
♪ハッピバースデートゥーミー、ハッピバースデートゥーミー
…心が折れる。



[21751] 8 提督とグリトニル防衛戦
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:34
・提督とグリトニル防衛戦


「ワープアウト最終チェックを開始します。」
「出口はグリトニル周辺宙域、第二ポイントを選定。」
「エネルギー充填率80%。問題なし。」
「テュール級戦艦エンクエントロスより、ガルム級巡航艦ブスカンド、フレースベルグ級駆逐艦レーニョベルデに、エネルギーリンクを確認。」
「アングルボダ級空母エストレジータにヨルムンガント級輸送艦リャキルナ、ルミルナを係留。ジョイント確認。」
「空母エストレジータ、ブースタ確認終了。問題なし。」
「各艦、異相次元航行プログラムから通常空間航行プログラムへの移行をスタンバイしてください。」


航行担当のスタッフが忙しそうにしている。
もうすぐこのワープ空間ともお別れとなると、少し感慨深いものがある。
ワープアウトは土星基地グリトニルから少しばかり離れた宙域だ。
おそらく、グリトニル周辺はデブリや作業艦で混雑しているだろうからな。
これで、やっと少しでも休暇が取れると思うと気が緩む。
不味いな、本部で報告するまでが遠征だ。もう少し気を引き締めよう。
そこで航行担当責任者から声が掛かる。


「ワープアウト最終チェック完了」
「各艦、エネルギー充填率100%、ワープアウト可能です。」


「よろしい、さあ、地球圏へ凱旋しよう。各艦ワープアウト!」


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冥王星基地グリトニル
実に3回の争奪戦が起きた重要拠点である。
外宇宙へのワープ施設があり、外宇宙に出るには基本的にはここを経由することとなる。
以前、グランゼーラ革命軍(その一派である太陽系開放同盟であったことが確認されている。)から、奪還したのが遠い昔のようだ。
あの時の修理はまだ続いているらしい。まぁ基地内で派手にミサイルや波動砲を撃ったからな。
本部に戻った後、グリトニルの被害状況についてネチネチと文句を付けられたのも良い思い出だ。


我々の艦隊はワープアウトが完了して各艦の確認を行っていた。
久々の通常空間だ。宇宙の黒さが懐かしい。ワープ空間になれたせいでみんな動きがぎこちない。
各種チェックが終わりグリトニルに向かう途中でグリトニル基地から通信が入った。
通信手が慌てている。

「どうした。グリトニルからの通信か?」
「グリトニルからの救援要請です。全周波数で呼びかけています。」

『こちらグリトニル司令室、当基地に向けてバイドの大群が進行中。現在、駐留艦隊がカロン防衛線でバイドと交戦している。至急救援を請う。繰り返す…』

「通信手、グリトニルに返信を。みんな休む前ににもうひと働きするぞ。総員戦闘準備。」
「提督、グリトニル司令部から入電。バイドは大群です。衛星カロンを防衛線としていたグリトニル駐留艦隊は半壊滅状態です。この位置からだと一度グリトニル前を通過するのが最短経路です。」
「これは艦の不調とか言っていられないな、防衛戦に参加しよう。」


「さあ、バイドを地球圏からたたき出すぞ。」


グリトニルが落とされれば背中に不安を覚えながら地球に進軍することとなる。
ここでバイドを殲滅しておくべきだ。


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戦場が見えてきた。すでに駐留艦隊は艦隊の体をなしていないが、それでも撤退していない。
グリトニルのカロン防衛線が崩れれば基地内にバイド流れ込むことになるので艦隊も退けないからだ。
人間同士ならともかく、一度バイドが入り込めば、基地そのものを侵蝕される。
基地内に入られた時点で終わり。だから、対バイド戦ではあそこが最終防衛ラインだ。
基地に急行中、音声通信が混線し始めた。


『グリトニル基地司令より駐留艦隊へ、撤退は認められない。カロン防衛線を死守せよ。』
『こちら駐留艦隊、防衛戦力が不足している。R機の支援を要請する!』
『グリトニル基地司令より駐留艦隊へ、グリトニル基地内に余剰戦力は存在しない。現戦力で遂行せよ。』
『何を言っている!実験施設の機体が有るだろう!?基地ごと侵蝕されたいのか!』
『グリトニル基地司令より駐留艦隊へ、ラボの機体は実験機であり実践には出せない。』
『このまま我々が全滅すれば、グリトニルも陥落するぞ!』
『現在、この宙域に援軍が向かっている。合流まで防衛線を維持せよ。』
『援軍を待つ!?我々が全滅した後にかっ!』



かなり不味い状況らしい。
基地司令と、駐留艦隊の司令官が言い争っている。
通信手か誰かが、間違えてオープン回線に繋いでるな。
気持ちも分かるが、士気にも関わるからオープン回線でケンカするんじゃない。
無理やり収めるか。


「通信手、オープン回線で駐留艦隊に通信を開け。」
「オープンで?了解しました。オープン回線で繋ぎます。」


「こちら地球連合=グランゼーラ特別遠征艦隊司令。駐留艦隊司令官は?」
『こちら、地球連合軍グリトニル駐留艦隊、3番艦巡航艦チャクワコス艦長代理のトバス中佐だ。艦隊司令部は全滅したため、私が指揮を執っている!援軍か!』
「そうだ。R機部隊を先行させてバイドを抑える。艦隊が到着するまで防衛線の維持を頼みたい。グリトニル司令部、それで良いな。」
『…こちらグリトニル基地司令。了解しました。援護を感謝します。』
「カロンに着きしだい、防衛線に展開する。援護を送るので駐留艦隊はその間に撤退せよ。」
『了解しました。』


場を収めるために、できるだけ高圧的に言う。
基地司令は通常大将が着任するし、駐留艦隊司令官もそんなに階級が高くないようだ。
私は元帥で、しかも地球連合=グランゼーラ特別遠征艦隊司令という性質上、両軍の指揮権をもっている。
そういえば、この前の指令で人事権その他も拡大したしな。
今回は思いっきり階級をかさに着る。これで混乱が収まるなら問題ない。


トバス中佐はグランゼーラの軍服を着た50代の男性だった。
彼の乗る巡航艦チャクワコスも被弾したのか、トバス中佐の軍服に血の染みがあった。
すでに抜き差しなら無い状態のようだ。
艦長代理ということは艦長も死傷して指揮がとれないのだろう。
あの艦自体かなりダメージを受けているな。
あの中佐は叩き上げのベテランのようだ。撤退指揮は問題ないだろう。
…実際指揮が必要な程、艦艇が残っていないが。


対する基地司令は30歳中ごろの地球連合軍大将だ。
私は基本的に遠征ばかりしているので、将官の顔を良く知らない。
我々がグリトニルを出発したときは、まだ司令が不在であったので、
新しく本部から派遣された司令官だろう。
基地司令が地球連合で、駐留艦隊がグランゼーラ…どういう体制になったのか。
今考えても仕方が無いな。今やることは…


「ステイヤー隊とピースメーカー隊、エクリプス隊を先行させる。駐留艦隊を援護せよ。」


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まず到着したピースメーカーも押し寄せてくる小型バイドを捕獲弾で討ち取る。
ステイヤーはバリア弾で敵の砲撃を受け止めて、駐留艦隊の撤退を援護する。
エクリプスもミサイルでバイドを近づけないようにしている。
その間にじりじりと駐留艦隊の3番艦以外の艦が下がる。


「先行したR機が戦闘を開始したもようです。本艦も直に戦闘宙域に入ります。」

影の薄い副官のアッテルベリ中尉が言った。

「ああ、駐留艦隊は全部で巡航艦1隻に、駆逐艦1隻、あとは輸送機だな。」
「すでに駆逐艦・輸送艦は撤退を開始しています。あとはあの3番艦チャクワコスのみです。」
「最大戦速で防衛線へ。…アッテルベリ中尉、コンバイラタイプは確認できるか。」
「いえ、前線に出ているのは小型バイドばかりです。」


グリトニル司令室からの情報では基地の周辺宙域がバイドの大群に占拠されている。という事の他に、バイド戦艦の巨大生命要塞‘コンバイラ’がいるとのこと。まったくグリトニル基地には何か憑いているのではないだろうか。
バイドの攻勢は激しいが、攻め込んできているのは小型バイドだ。
幸い大型はまだ、来ていない。


「提督、防衛ラインにつきました。」
「通信を。今度はオープンにするなよ。…トバス中佐、殿ご苦労様でした。ここは我々が受け持ちますのでグリトニルに退避してください。」
『ん?…そうか、助かった。では我々も後退するとしよう。』


私の態度の違いに驚いたのか一瞬眉間にしわを寄せた後、トバス中佐の顔が緩んだ。
三番艦チャクワコスはそこここから火花を吐きながらゆっくりと回頭してグリトニルに退避した。

「空母エストレジータは巡航艦ブスカンドと衛星カロンの下側から進軍してくる小型をたたくぞ。旗艦エンクエントロスと輸送艦リャキルナ、ルミルナはカロンの上方からのバイドだ。駆逐艦レーニョベルデはカロン手前で待機亜空間機に備えよ。」


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バイドの小型機一団をかたづけると、敵の侵攻がひと段落した。
私は大型バイドの来襲に備えて、一度艦隊を衛星カロン防衛線に呼び戻した。
グリトニル駐留艦隊の被害は甚大なようだ。
物量が武器のバイドに一歩も引かずに、打ち合っていたのだから当然でもある。
大型艦艇はあの3番艦以外落とされたようだ。その3番艦も中破していたし、ほぼ全滅といっていい被害だ。
R機も第一波でほとんどが落とされたらしい。駐留艦隊がグランゼーラ軍であったことも被害が拡大した一因だ。
グランゼーラの機体は対R機戦に特化しているものが多く、
バイドに対するメイン武装のひとつであるフォースを装備できる機体が非常に少ないのだ。


「提督、グリトニルラボから直接通信です。」
「ラボ、嫌な予感しかしないな…アッテルベリ中尉つなげてくれ。」


『こんにちは、特別遠征艦隊の皆さん。私はTeam R-TYPEグリトニルラボ開発課所属の主任の…』
「私は基地防衛で忙しいのですが、何か緊急の要件が?」

通信にでた男に苛立ちを感じたので、つい言葉を被せてしまった。
そう、ニコニコ笑っているのだ。自分のいる場所が今にもバイドに侵蝕されそうなのに。

『おや、終戦の英雄殿は意外せっかちなのですね。今回はいい話ですよ。戦力を提供しようというのです。もちろん、パイロットもお付けしますよ。』
「戦力…、基地指令は余剰戦力は無いといっていたが?」
『‘余剰’戦力はありませんよ。この機体は防衛線ですり潰すべき機体ではありませんから。』
「試作機の実験か。もちろん、ちゃんと五体満足なんでしょうな?そのパイロットは。」
『その技術課題はクリアしましたので。』

「…見返りは、今までの戦闘データというわけか。」
『さすがは、‘終戦の英雄’ですな。話が早くて助かります。それではラボより出撃させます。詳細はデータで送信します。あ、もちろん戦闘後も使ってもらってかまいませんよ。それでは良い戦果を。』
「…」


金食い虫のTeam R-TYPEが変な実験開発をしなければ、もっと艦艇が建造できると思うのは私だけではないはずだ。
研究開発の予算を削るようになると組織としてはかなり末期に近いとは思うが、
予算計画と成果についてくらい、監査をしてもらいたいものだ。


しかし、やはりTeam R-TYPEは危険だな。
前を見たまま小さい声でアッテルベリ中尉にささやく。
「中尉、戦闘後にバイドバインドシステムに関する詳細データをプロテクトかけて隔離しておくように。あと、提出用のダミーデータの作成を頼む。」
「…了解しました。」


あとでグランゼーラ出身の副官達にもBBSについて口止めしておかないと。
あ、カトー大佐もか。忘れてた。


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OF-1軌道戦闘機 ダイダロス
グランゼーラ側で開発されたものをTeam R-TYPEで解析、再度組み立てたもの。
機体性能はグランゼーラのものに準じる。
軌道戦闘機の初期型機。ポッドと呼ばれる半独立制御兵器を装備しており、ポッドは砲台として機能している。また、ガルーダからの制御によってポッドシュートを呼ばれる掃討攻撃を可能としている。また、亜空間潜行が可能。

R-WLeo 特殊武装機Leo
サイビットとよばれる半独立制御兵器を装備した機体。サイビットはダイダロスシリーズが持つポッドを同じような用途であるが、ポッドが砲塔を独立・強化したものであるのに対して、サイビットは人工フォースを小型化したものであり、開発思想が異なる。フォースの攻守双方に優れる機能を持たせたため、非常に強力な機体となった。基本的にR機は直撃を受ければ破壊されるが、Leoはサイビットの半自律防御によってある程度のダメージを許容できる。またサイビットを用いたサイビットサイファによって、攻撃面でも1機でR機1個小隊に迫るものがある。しかし、その攻撃力と半自律防御システムが災いして僚機を撃墜しかねないため、小隊運用が出来ない機体となった。また非常に高価である。


私は頭の中で注釈を加えながら、Team R-TYPEから送ってきた資料を斜め読みする。
この組み合わせ…半独立制御兵器のコンペティションってことなのか。
実験台は気に入らないが贅沢は言っていられない。
Leoは…小隊組めないってある意味欠陥兵器だな。サイビットの使用にも特殊技能が必要って、まともに運用できないじゃないか。
ダイダロスはグランゼーラで同じ機体を使用していたが、何故ここで持ってくる。
パイロット早期育成計画?これが本命か。長い…後で読もう。
パイロットはまともなんだろうな?


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さて、そろそろ大型バイドも攻めてくる頃だ。
防衛線維持のため、大型艦艇はカロン周辺から動かせない。
旗艦エンクエントロス、空母エストレジータ、巡航艦ブスカンド、駆逐艦レーニョベルデはカロン防衛線の維持だ。
輸送艦とR機部隊で行くことになるな。ダイダロス隊とLeoも向かわせよう。


「アッテルベリ中尉、バイドの反応は?編成作業は可能か?」
「索敵範囲内にバイドは確認できません。防衛線の内側で攻撃隊の編成を行えばよろしいかと。」
「そうか、大型バイドが来ないうちに進めよう。各艦に通信を。」


「グリトニルの防衛戦に際して、第二派が来る前に防衛線の構築、攻撃隊編成を行う。まず大型艦艇で防衛線を構築する。配置についてはデータを参照して欲しい。攻撃隊は輸送艦をとともにR機隊で構成する。衛星カロンを挟んで上部回廊と下部回廊に分けて進軍、殲滅する。なお、グリトニル基地からダイダロス隊、Leoが我々の艦隊に編入される。各艦指示に従って編成を改めるように。」


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カロン上方からはヨルムンガント級輸送艦リャキルナ、下方かた輸送艦ルミルナを進軍させている。まっすぐカロンに飛び込んできた馬鹿はカロンのガスに捕まっている間に、防衛線の艦艇からの砲撃でしとめる。そして今回も亜空間索敵プラス通信連絡係りのアウルライトだ。Leoは上方、ダイダロス隊は下方に割り振った。


「現在、上方、下方ともに問題なく進軍しています。カロン外縁部に達しました。」
「そろそろ通信が悪くなる。アッテルベリ中尉、アウルライト隊を展開、通信の確保を行え。」
「了解しました。」


「提督、索敵範囲外からの砲撃で、モーニングスター隊、ルビコン隊の反応が消失。その他、亜空間機が数機巻き込まれました。」
「索敵外から?敵を解析!」
「提督、砲撃してきたのは大型バイドのボルドガングとコンバイラのようです。」
「来たか…!R機で近づくことは可能か。」
「砲門が多いので、無傷では難しいでしょう。デコイに紛れても被弾は必至です。」
「亜空間機も数が揃わないか。」
「提督、Leoとダイダロスはどうでしょう。Leoなら多少の攻撃は耐えられますし、広域掃討用のサイビットサイファが使えます。ダイダロス隊の亜空間シフトからのポッド攻撃です。威力はサイビットサイファに劣りますが、2基×5機分で10基のポッドで攻撃できます。」
「サイビットサイファとポッドシュートはそこまで強力な武装なのか。」
「サイビットもポッドも判自律武装ですので弱点を的確に狙えます。」
「手をこまねいているわけにも行かないな。輸送艦リャキルナとルミルナに連絡を。」


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補給のために一度輸送艦に入っていたR機がルミルナから姿を現す。
ダイダロス隊だった。演習でもするようにきれいに等間隔で発艦する。
そして、ポッドを従えて静かに亜空間に滑り込む。
ついでに、3機残っているサンデーストライクも亜空間潜行する。
ダイダロスのポッドは通常より、さらに強い赤色に発光し内在するエネルギーの多さを伝えている。
通常空間を透かして見ながらボルドガングの近くにまで移動する。
後は敵が接近して時が来るのを待つだけ。


ボルドガングの突き出た構造の先が亜空間にいるダイダロスに接触。
チャージされたポッドごと一気にダイダロスが通常空間に引き戻される。
ボルドガングは亜空間からのR機の出現に反応して停止してしまう。
その間に、サンデーストライクも通常空間に戻る。
ダイダロスのポッドがエネルギーを解放。ポッドが砲を乱射し目標に突っ込み、バイドをゴミの塊に戻してゆく。
サンデーストライクもミサイルを一気に発射し撃ち漏らした破片を塵に戻す。
ポッドが落ち着いてダイダロスに戻ってきたときには、
バイドの暴走巡航艦はいなくなっていた。



ダイダロスの攻撃とほぼ同時に輸送艦リャキルナからはLeoが発進した。
単機で出たLeoは、パワードサイレンスの後ろについて進軍する。
ワープアウト前の戦闘…ドプケラドプス戦で、最後の至近距離から波動砲連射の余波を受けて、2機が接触、ジャミングユニットを損傷したため、今回パワードサイレンス隊は3機しおらず、作戦からはずされていた。しかし、Leo一機を隠す分のジャミングならば十分可能であるため、引っ張り出された。
静かに静かににじり寄る。コンバイラの赤い装甲が迫ってくる。
そっとパワードサイレンスがLeoの後ろに回り逃走の準備をする。
サイビットサイファに巻き込まれればひとたまりもない。


Leoはエネルギーの溜まったサイビットを解放すると同時に、
パワードサイレンスが弾かれるように退避する。
サイビットは自律的に軌道を選択しながら、パイロットから直接指定された目標に向かう。
コンバイラの胴体間接部継ぎ目に何度もアタックを掛ける。
接触のたびに装甲をはぎ取り、そして見えたのはコア。
チャージされたエネルギーが使いつくされてサイビットがLeoの両翼に戻ってくる。
そして、Leoからのエネルギーリンクを介してサイビットが再び輝き、
レーザーがコアを焼く…がコアを破壊しきる前に出力が落ちる。
ひびが入ったコアを抱えたコンバイラは砲門を開きLeoに向かって発射準備に入る。

そのとき側方から飛び込んできたパワードサイレンスがコアに向かってバルカンを撃ちつける。
本来、戦闘を想定されていないR機だが、砲門も回避しようとせずに撃ち続ける。
そして、ヒビが一気に亀裂となりコアが砕け散る…



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私は、デスクの端末で報告書を書いていた。
先ほどまで救助活動であるとか、グリトニル周囲の警戒であるとか、
艦隊被害とかグリトニルの入港であるとか、簡易葬儀であるとか、
艦隊の修理の件でグリトニルと協議したりとか…
ともかく非常に忙しかった。
最後に今回の戦闘の報告書を、グリトニル経由で本部に提出して終わり。


やっと、一息つける。


眉間を揉みながら考える。
バイドがこの基地を攻めた理由は何だろうか。

1.たまたまバイドの進軍進路と合った。
否。
現在の冥王星は公転しているし、現在の位置は前回襲撃の地点とは違う。
恣意的な何かがあるはず。

2.ワープ空間などの異相次元の壁が薄い特異地点である。
是。
実際、冥王星宙域グリトニル周辺は歪みが多くワープ負担が少ない地点の一つだ。
しかし、そのような地点は太陽系外延部には比較的多くある。これだけが原因ではないだろう。

3.バイドにとってグリトニルには何らかの価値がある。
否。
バイド体の原料としてはありえるが、別にグリトニルである必要は無いな。
バイドルゲンに多少の誘引作用があることは確認されているが…
グリトニルにはほとんど保管されていないはず。

4.戦略拠点として
否。
人類としては外宇宙への出入り口を押さえることは戦略的意義がある。
しかし、バイドは外宇宙から来るし、ワープ設備も使用しない。
進行ルートをわざわざ外れてまで取りに来る基地ではないのではないか。



…何しにグリトニルに来たのか。
バイドとは…彼らは何なのか。
疲れているのかそんな埒の明かないことを考えていた。


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デスクから出ると、みな戦勝ムードで騒いでる。前回のグリトニル戦役のときより激しい。
とりあえず艦内でもドックや食堂などで酒盛りしているらしいが、今日くらい目をつぶろう。
シフトに当たっているの隊員はちゃんと仕事しているみたいだし。


地球圏に帰った開放感、久しぶりに誰かを守れたという充足感、加えて翌日の半舷休暇で浮き上がるとこうなる。
明日は部屋から出れないものが多かろう。
シフトの結果副官達は、エマ・クロフォード中尉、マッケラン中尉は居残り、アッテルベリ中尉は興味ないといって残っている。
私も提督帽を置いて、作業ジャケットを着込んで出てきてみた。雰囲気を壊さないのは大事なことだ。


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旗艦エンクエントロスのデッキではダイダロス隊とLeoのパイロット達のあいさつが行われていた。
でも、半数くらいすでに出来上がっているぞ。
パイロット達は皆来ているらしい。スクランブル要員くらい残してあるんだろうな?


ダイダロス隊のパイロットは若い…
というかなんと言うか実戦経験者のスレた感じがしない。
あの早期育成計画とやらで、育てた新兵を実験で送り出したのか?
話を聞いてみると、やっぱり実戦は初めてだという。

「シミュレータ戦闘は繰り返していましたので。新型のプログラムで異様にリアルなんですよ。」
「そういえば、いっしょに訓練していた1番と2番、それと4番機が訓練途中からいなくなってたんだけど、どうしたんだろう。」
「地獄の補修で撃墜されまくりましたから。恐怖心とかもう無いですね。」

ダイダロス隊が皆遠い目をしてる。大丈夫か?
というか、落とされ慣れるって、実はトラウマ製造機なんじゃないのか。


あちらではLeoのパイロットがトドメをジャミング機に奪われたことを嘆いている。
パワードサイレンスのパイロット達はかつて無い大戦果に涙を流しながら、盛り上がっていたりした。
故障で留守番してたパワードサイレンス隊のメンバーはLeoのパイロットを慰めていた。
まぁ、ある意味平和だ。


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私は居室に帰ってから、Team R-TYPEから送られた資料の詳細に目を通す。



Project ‘Image Fights’ パイロット早期育成計画群
イメージファイト計画。脳に直接電極を刺して、電気刺激でイメージを誘発させる。高性能機器と連動させることにより、精度の高い幻覚を作り出すことが可能。
被験者は電気刺激と自らの脳が作り出す幻影の中で、戦闘を行い続ける。
教習ステージ、補修ステージを反復することにより短期間で技能を身につけさせることが可能。
ベテランパイロットが極端に足りない現状を打破するため、また、実機の消耗を最小限に留め促成パイロットを育てることを目的とする。最終的には実戦投入して調整を見る必要がある。また、極度の精神衰弱を起こす被験者が確認されている。実戦投入レベルまでの成功率は32%。脱落者の処分は…


「機密」の赤いスタンプの押された書類を閉じる。
やはりTeam R-TYPEは信用ならん。






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ここからバイドのターン。
このコンバイラは違いますよ。ただのコンバイラです。

自衛戦力とか無いのかよ。とプレイ中に突っ込んだ覚えがあるので、駐留艦隊出してみた。
突発的に出てきたトバス中佐に死んでもらうかどうか悩んだのですが、
何とか生き残りました。

後半はいつの間にかレオとイメージファイトネタに飲まれていましたね。
もとのシリーズでは自機の2機ですが、tacticsシリーズでは残念性能です。
あと、ボスのHPが一桁残って、バルカンで倒したりとかtacticsでは良く有ることです。



[21751] 9 提督とロキと…
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:36
・提督とロキと…


待ちに待った半舷休暇だった。
艦から降りて休める日のことだ
面倒な案件さえなければ…


私は結局、書類事務につかまり全く休めなかった。
そうだよな、そりゃ長期遠征に行っていたら事務処理溜まるよな。
「私も手伝いますから。」と、にっこり言ったベラーノ中尉の顔が鬼に見えた。
基地内とはいえキチンと上陸して休みたかった…。


試作機を使った手前一応Team R-TYPEのラボに顔を出しておいたのだが、
どこから嗅ぎつけたのかバイドバインドシステム(BBS)の事を知っており、情報を求めてきた。
どの道、拒否しても本部を通して強権を発動されるだけなので、データを渡した。
アッテルベリ中尉に作らせたダミーデータの方を。
ダミーの内容は詳細を省いて戦闘映像より分かる事だけを並べたレポートを提出した。
最悪本部には話すことになるかもしれないが、出来るだけ伏せておきたい。
あと、どうせ戦力の出し惜しみをするなら、試験でも我々で使った方が有用だと考えて、
トロピカルエンジェルを分捕ってきた。
そのかわりに、ピースメーカーをグリトニルに置いていくこととした。
…あまり最前線から戦力引き抜きまくっていると、恨まれるからな。


超高機動機 R-11Sトロピカルエンジェル
R-11Bピースメーカーなど高機動機の後続機として開発されていた機体。
機首に補助ブースターを装備しており、高い加速性能と旋回能力を得ている。ロックオンレーザーと呼ばれる命中精度の高い武装を持っており非常に使い勝手が良い。ただし耐G機構が不十分であるので、パイロットの消耗が早く、長時間の運用は出来ない。


補給・修理は基地司令が最優先で受けさせてくれた。
お陰で、3日で出港できた。…もう一日あれば私も休暇が取れたのだが、
さすがにそんなことで出港を遅らせる訳にはいかない。


グリトニルでの滞在中に、地球本部からの連絡艇が一便来たのだが、
バイドの大群はかなり地球に近付いているらしい。
すでに、地球圏の各艦隊がバイドの斥候と戦闘を行っており、
現在は土星-木星間にある要塞ゲイルロズに防衛線を張っているとのこと。
しかし、かなりバイドの攻勢が激しくなってきており、
場合によっては木星圏を放棄し、火星まで防衛線を下げることも検討しているらしい。
グリトニルも基地司令の話では基地の放棄・撤退も考えているそうだ。
ここにきて、地球圏に潜伏していた太陽系解放同盟の残党の動きが活発化しているので注意せよとのこと。
私はこの報を聞いて、地球に直行するべきか迷ったが、
補給が確保できないこともあり、各惑星・基地などを経由する進路を選択した。
防衛線外に取り残された場所でも、グリトニル基地のように駐留部隊が戦闘を継続していることがある。
その戦力を吸収しながら地球へ戻ることとなった。


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現在、私の艦隊は冥王星・海王星間のカイパーベルト帯にまで来ている。
今のところ順調で、問題なく進軍している。これを抜けて目指すは海王星だ。
海王星には小規模ながら基地があり、バイド汚染されていなければ補給が可能な事。
また、駐留部隊の残存戦力がまだいるかもしれないため、天王星を中継することとなった。
今後の航路の詳細について航行責任者と話していると、先行している偵察機から緊急連絡が入った。
対バイド用巨大ソーラー兵器、‘ウートガルザ・ロキ’が、また占拠されているとのこと。
太陽系解放同盟とみられるが、バイド機は確認できていない。
地球圏に残った解放同盟はBBSを使用していないのだろうか?
一応、カトー大佐の話では、ワープ空間に入ってから完成した技術であるとのことだったが、用心するに越したことは無いだろう。


しかし、バイドの襲来に合わせて乗っ取るとか、何を考えているのか。
とても好意的に考えればバイドを討つためとも考えられるが、今までの行動からそれは無いと、否定。
いいとこ、地球連合やグランゼーラの戦力ごと、バイドを消し飛ばすというのが、あり得そうなシチュエーションだ。
さらに報告が入る。
‘ウートガルザ・ロキ’は改造され、 光線の照射効率が向上しているとのこと。
…こうなったらまたロキごと破壊だな。
私は戦闘準備を命令した。


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偵察機の報告では、駆逐艦と空母が確認できたとのことであったが、
宙域着くと意外なほど静まり返っていた。
空母があるので大部隊を展開して待ち構えていると思っていたのだが、
少なくとも索敵範囲には機影は無い。
…こんなところで無駄に時間を掛ける事もない。


「中央突破だ。一気にロキをたたくぞ。」
「提督、罠かもしれませんよ。」
「たとえ、罠だとしてもロキを発射させる訳にもいかない。それに兵を伏せているとすれば周囲の氷塊群の中だろう。空母、巡航艦が出てこない内に一気に突き抜ける。」

慎重派だなワイアット少尉。今回の副官一人だけどそんなに、自信なさげにしなくても。

「戦艦や他の艦艇の索敵能力は強力だ。旗艦エンクエントロスで索敵を行い、艦隊を組んで進む。足の速いR機で先行、ロキのチャージを解除してもらう。」
「では、氷塊帯の索敵はよろしいのですか?」
「とりあえずはいい。第一目標は‘ウートガルザ・ロキ’のソーラービームの発射解除および集光ミラーの破壊。第二目標がロキ本体の破壊。第三目標が敵艦艇の破壊。小型機は無視してもよい。どの道艦艇がなくなれば何もできなくなる。」

私は先行部隊の出撃を命令した。


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先行隊はトロピカルエンジェル隊、エクリプス隊、サンデーストライク隊、ダイダロス隊、Leoを出撃させた。亜空間潜行能力のあるS・ストライクとダイダロスで索敵を行い、足の速いT・エンジェル、エクリプスで攻撃を行い、ソーラービームのチャージをキャンセル、Leoはサイビットでロキの集光ミラーを破壊し再チャージを不可能にする。
そのあとを追いかけるのが私の乗る戦艦エンクエントロスで、主に索敵、艦隊でロキ本体の破壊を担当する。また、敵が部隊を展開してきた際には、戦艦内に待機しているR機隊が迎撃を行うことになっている。


「先行隊より連絡がありました。“行程の50%地点に機影発見、ナルキッソスと思われる部隊が複数。第一目標を優先するため交戦回避する。”とのことです。」
「了解だ。…こちらの索敵でも感知したな。あそこに居座られては戦艦が進めない。各機殲滅せよ。敵は鈍足だが攻撃力が高い、撃墜されるな。時間も十分ある。」
「提督、ここからならばエンクエントロスの主砲レーザーも届きます。援護を行ってはいかがでしょう。」
「そうだな、レーザー砲門開け、射程外から敵戦力を削るんだ。ただし艦首のグレイプニル砲と、ギャラルホルン砲はロキ本体用に温存せよ。」

主砲が宇宙空間に白い線を描いていく。遠距離からの砲撃だったが、
相手の索敵外ということもあり数機が破壊されて、デブリをまき散らす。
戦艦のメリットは長距離の索敵と射程で、一気に殲滅する事だ。
数さえ初撃で減らしてしまえば、後はR機で畳みかけるだけだ。
たかだか3~4隊程度ならエンクエントロスがたどり着く前に殲滅できるだろう。

「あれ?」
「どうした、レーダー係。」
「あ、いえ。一瞬レーダーに大量の敵反応が映ったのですが、肉眼で確認しましたし問題ありません。…レーダーが不調のようです。」
「修理時に不都合でもあったかな。原因究明はロキを破壊してからだ。」


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「提督、先行隊が亜空間機と戦闘に入りました。」
「敵がいないと思ったらそういうことか。敵機は軌道戦闘機か?」
「軌道戦闘機ガルーダが複数隊です。現在S・ストライク隊とダイダロス隊が抑えにかかっていますが、少し苦戦しているようです。T・エンジェルはすでに突破してロキに向かっています。Leoも後を追っています。」

旗艦エンクエントロスのディスプレイに光学望遠の荒い画像が映る。

T・エンジェルはいきなりのガルーダの出現に急停止するも、
次の瞬間には高機動を生かして、ガルーダの半自律武装ポッドの砲撃を掻い潜り、
ガルーダとポッドの隙間を縫うように潜りぬけると、ロキの砲身の前に躍り出る。
ガルーダも回頭して後を追おうとするが、追従するダイダロスのポッド攻撃とS・ストライクの爆雷が牽制する。
混戦に入ってしまえば亜空間機であることのメリットは殆どなくなる。
さらに、ガルーダの隙をついてLeoも突破しようとするが、いかんせん敵機の方が多いためブロックされる。

「こちらの射程に入り次第援護を。発射残り時間は?」
「後2分、このままいけば問題ありません。」
「提督、敵空母と巡航艦をレーダーに捕らえました。氷塊の中に隠れていたようです。」
「R機隊を向かわせろ。氷塊が邪魔だな…本艦はR機の援護に付く。その他艦艇はロキ本体の破壊位置に付けさせよ。」

T・エンジェルがロックオンレーザーを撃とうとしていた。
旗艦エンクエントロスでも、固唾をのんで見守る。
T・エンジェルが中折れレーザーを放つとロキの砲身の奥、集光機構に着弾。
ロキが小爆発を起こし、砲身の光が拡散する。

「今回はあっさり破壊できたな。」
「今回?ああ、グリトニル戦役前ですね。」
「ああ」
「あ、提督、艦隊本体攻撃位置に付きました。R機隊も空母への攻撃を開始しています。」
「全艦、砲撃。目標‘ウートガルザ・ロキ’。」


復唱より早くレーダー係りの息を飲む音と、悲鳴に近い報告が響いた。

「提督!敵です。氷塊が敵機に変わっていきます!数は20…30隊以上です!」

今まで氷塊だったものが、つぎつぎに白い機体に入れ替わる。
レーダーを見ると敵を示す赤い光点で埋め尽くされていた。
多い!

「擬態です!ナルキッソスが氷塊に擬態していたみたいです。」

ワイアット少尉、今更原因を知ったって現状は変わらないぞ。
先のレーダー係りの言っていたのは、レーダーの不調ではなく、これか。
未だにこんな戦力を保持していたとは。
この挟撃状態で、この量に挑むのは無謀だな。

「提督、命令を!」
「…無視する。ともかくロキの破壊、艦艇の破壊が最優先だ。」
「提督!それではナルキッソスに囲まれます。」
「艦隊は、ともかくロキを破壊せよ。R機隊は空母を。デコイ持ちはデコイを前線に押し出せ。旗艦エンクエントロスは巡航艦を落すぞ。艦首砲照準!」
「提督!」
「ワイアット少尉、これだけの物量をこの場で仕留めるのは無理だ。ロキを修理不可能に破壊して、敵艦艇を破壊できれば、後は放っておいても勝手に燃料切れをおこして無力化出来る。」


そう、この障害物の多い宙域を抜けるには多量の燃料を必要とする。
近辺の基地は天王星、冥王星、そしてグリトニルが最も近いが、
戦闘機ならともかく、ナルキッソスは巡航に向かない人型機だ。
行き着く前に燃料切れになるだろう。
これだけの物量だ。おそらく余剰戦力は無いだろう。


ナルキッソスの主機に火が入り、こちらに動き出した。
準備の出来ていた艦隊は艦首砲、ミサイルなどで一気に仕留めにかかる。
すでに光を失っていた‘ウートガルザ・ロキ’から爆炎が上がり、
砲塔が崩壊したのを確認し、R機の撤退援護にかかる。


ナルキッソスが集まってくる。
すでにレーダーは真っ赤だ。
R機もステイヤーがバルムンクを、ラグナロック、ワイズマン、ウォーヘッドが波動砲を構える。
敵空母アングルボダ級から艦載機が艦外退避する寸前に、バルムンクを艦橋に打ち込む。
他のR機も波動砲を機関部に波動砲を撃ちこむ。
空母がゆっくりと噴煙を上げ、円筒状の構造の途中から折れ曲がる。
やがて、燃料か弾薬に引火したのか、激しい爆発が起こり内側からいくつもに分断される。
空母としての機能は失われただろう。
R機はナルキッソスの圧力に押されるように、援護に回っていた艦艇に帰艦する。


宇宙が狭い。
そう息苦しくなるほど、大量のナルキッソスが面前に迫ってきていた。
私の横でワイアット少尉が青くなっている。
トリになってしまったが、私が乗る旗艦エンクエントロスが巡航艦を仕留めれば終わりだ。

「グレイプニル砲はまだか!?…全砲門敵機を牽制せよ。」
「あと5秒………チャージ完了しました。」
「グレイプニル砲発射!」
「艦首砲発射…敵巡航艦破壊確認しま…」
「各艦、全速転進!一気にこの宙域を離れるぞ!」


戦果報告もそこそこに、撤退命令をだす。
最前列のナルキッソスはすでに、艦に取りつきそうだ。
旗艦が回頭する間、艦隊の弾幕で援護してもらい、海王星に向かう航路に向くと一気に加速する。
小さいデブリは戦艦の火力を活かして破壊しながら進む。かなり荒っぽい操艦だ。


____________________________________


疲れた。
グリトニルを出てすぐこれか。
後方の確認をしたあと、私は事務処理を行い海王星まで少しでも休もうと居室に戻る。
そう言えば半舷休暇も取れなかったしな。




バイドに合わせて火事場泥棒を働くなんて、
いっそそのまま氷漬けになってしまえ。


==================================
せっかくだから、俺はこの海王星ルートを選ぶぜ!

ってなわけで、次は海王星ルートです。ネタが古くてすみません。
描写だけでXXX行きな感じがするバラカス様を出したいとかではなくて、
TacticsⅡでは貴重な水中面なんです。
変態潜水艦グランビアFとか、一回使い捨てな水上艦ラーン級を出してみるとかできるんです。
海底大戦争やったことないし、水上艦使った事ないけど、
以前エーギル級登場しないのか聞かれたので、上位機のラーン級出してみる。



[21751] 10 提督と海底大戦争
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:37
・提督と海底大戦争


海王星までは追撃もなく、私達は海王星を目指した。
しかし、肝心の海王星基地からは応答が無いし、すでに放棄されているらしい。
行っても無駄か。
海王星の衛星トリトンからA級バイドの反応があった。
ここは木星の衛星エウロパ同様に地下に液体の海があるが、
水質の関係からエウロパのように水資源の補給基地としては開発されていない。
そのかわりに、かつてグリトニルを建設した時に物資を保管しておくために建設された基地がある。
トリトン海洋基地には微弱ながら熱源反応があったので、こちらに降下することとした。


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空母は一度降下すると再上昇が大変なため軌道上に置き、巡航艦をその護衛に残して降下し、
私は今トリトンの海洋基地にいる。

バイドはトリトンの地下水域にいるものと思われる。
トリトン海洋基地で聞いた情報だ。
基地の残存兵たちから話しを聞くと、
バイドは水棲型で通常のR機では攻撃が難しい。彼らの保有する水中戦力ならば、水棲バイドに対応できる。
とのこと。
基地の最上位者は哨戒でいないため、
潜水艦隊のタカハラという隊長と話をしていた。


「しかし、戦力が足りているなら、なぜ突入しなかったのか。」
「…飛べないんです。」
「は?」
「飛べる機体が無いんです。今ある戦力は潜水艦と水上攻撃艦のような水中稼働型ばかりで。」
「しかし、君たちの話では、バイドはトリトンの地下水域にいるのだろう。問題ないじゃないか。」
「そう問題なかったのですが…。しかし我々が基地周辺のバイドの掃討を行っている間に、奴らは海を凍結させました。体内でドライアイスを生成するバイドが居たんです。そのバイド…ガスダーネッドというのですが、基地の周囲の海に凍結を引き起こしたせいで、基地周辺の内湾の海面が下がり、基地側から攻めるルートが干上がりました。海面が下がったせいでそこここに滝ができて水上攻撃艦もまともに動けない状態です。」
「つまり、海面が下がったので身動きが取れなくなったんだな。」
「そうです。」

トリトン基地では基地周辺に多量にいたガスダーネッドを処理したのだが、
それらを倒したころには、身動きできない状態になってしまい、
さらに、動けないうちに地下水域に居るバイドがA級に成長してしまったらしい。
私も上空から降下するときにトリトン海洋基地を見たのだが、
基地のある湾が氷で閉鎖されて、基地の周囲は潮が引いた後のタイドプールようになっており、わずかに残る航路跡も凍り付いていた。


「我々の基地にも航空戦力や巡航艦があったのですが、上空での攻防戦で壊滅しました。」
「では戦力は?」
「水上攻撃艦ラーン級1隻と、潜水艦グランビア・Fが3隊です。」
「ラーン級は現在哨戒中と聞いたが。」
「正確には砕氷中です。基地の周りだけでも砕いておかないと、本当に基地が凍ります。」
「…」


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旗艦エンクエントロスに乗ってA級バイドのいる地下水路への侵入口に向かっている。
そして、下にはラーン級水上攻撃艦が係留されて空中遊泳している。
非常にシュールな光景だ。
今回の攻撃のための母艦として運んでいるのだが、旗艦で運んでいるのは、
一番余剰推力があるのが、戦艦であるこの艦だったからだ。
ちなみにグランビアFはラーン級にいれると重いので、別途駆逐艦で運搬している。


UFWS-005 水上攻撃艦ラーン級
水上艦に分類される艦は、旧暦以来地球上の至る所で使用されていたが、
バイドによってコロニーが落着したさいの津波でほぼ壊滅した。
それら旧水上艦に変わって、制海権維持のために開発されたのがエーギル級を始めとする水上攻撃艦だった。
重力下にあっては宇宙航行艦より燃費がよいため地球の防衛用として、
後続のラーン級が開発されたが、バイドとの戦闘が激化し、戦闘の舞台の大部分が宇宙空間に移ると、
水上艦という極所戦力は必要とされなくなり、ラーン級以降は開発が凍結されている。


Sm-Gr-F 潜水攻撃艦グランビア・F
宇宙戦闘機をフレームに使用した攻撃潜水艦で高い機密性と防御力を誇る。
超音波魚雷や弾道弾迎撃ミサイルといった非常に強力な武装を持つ。
超音波魚雷は発射した魚雷から超音波を発生させ、推進軸を中心に渦状の水流と衝撃波を発生させ、
付近の敵を巻き込んでダメージを与える兵器で、
魚雷自体の炸薬でダメージを与えるのではなく、周囲を巻き込む超音波で破壊する。
ただし、魚雷の推力を発生させるのに艦自体のエネルギーをチャージする必要があるため、発射には時間が掛かる。
もちろん、潜水艦であるため水中でしか運用できない。


今回の作戦は、水棲バイドが相手ということで。攻撃はラーン級とグランビアFを中心に行うこととなった。
R機隊からは、早期警戒機アウルライトと、亜空間機サンデーストライク、ワイズマン、POWアーマーの各隊を選抜した。
おもにR機用の補給母艦として、ヨルミンガント級輸送艦のリャキルナも付けた。


我々は氷で覆われた洞穴の前にいる。
洞穴にはかなりの勢いで海水が流れ込んでいる。
アウルライトからの索敵の結果、この地下河川を下った先にA級バイドのいる空間、おそらく地底湖がある。
問題はこの川下りだが、川幅があり天井が高いので輸送艦・R機での進入にも問題が無い。
我々はラーン級を切り離し、グランビアFを水中に投入して、輸送艦、R機とともに見送った。


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水路の所々に設置された。情報アンカーを経由して、映像が届く。地底湖にたどり着いたことが知らされた。
映像では、天井付近の亀裂から降り注ぐ滝や、巨大な岩石でできた堰がみられた。
バイドがいなければ、さぞ素敵な場所だったのだろう。

いまは、見る影も無い。
天井や水底は胞子嚢のように見える得体のしれない物体で覆われており、
水面には氷塊ばかりかドライアイスが浮いていて生物が住める環境ではない事を示している。
さながら、バイドを育む甘い水と言ったところか。


『こちら、トリトン基地所属ラーン級、戦闘準備完了。』
『特別遠征艦隊所属ヨルムンガント級1番艦‘リャキルナ’部隊展開完了です。』

「戦闘に関しては各自の判断に任せる。では幸運を祈る。」

私はディスプレイを見る、撤退指示や増援派遣などの他は、基本的に私がすることは無い。
一応、外部からバイドが流れ込まないように見張るのが役割だが、外部には全くバイド反応が無い。
なので、本日の副官ガザロフ中尉と外部から戦闘状況を眺めることになりそうだ。


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水中にはかなりの数の小型バイドがいた。
これを一機一機潰すのは手間だろう。
私は増援が必要かどうか、通信でタカハラ隊長に尋ねると、ニヤリと笑って必要ないといった。


『水の上の敵はR機に任せます。ラーン級は魚雷発射までグランビア隊を援護してほしい。』
『こちら、ラーン級了解。』


暫く、地底湖の水上にいるバイドをR機が潰していると再び通信が入る。

「超音波魚雷発射用意、各機危険水域から退避せよ。…発射。」

グランビアFから魚雷が発射されると、
周囲にらせん状の水流が生まれて、周囲の物体を吸い込んでゆくのが気泡の動きで分かる。
水という非常に抵抗の強い物体の中で、これだけの現象が起こるのだから、あの超音波魚雷は相当なエネルギーを持つだろう。
実際、魚雷に直接当たっていないバイドが水流に飲み込まれて、細切れに引きちぎられる艦載カメラの映像が映っていた。
超音波帯は通信ではカットされるため、普通の音声しか聞き取れないが、大量の水が動く轟音が聞こえる。

グランビアFの3隊が超音波魚雷を発射した後、その水域には動くものは何も残らなかった。


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水上では超音波魚雷の作り出す気泡を見やりながら、ラーン級が動き出す。
弾道弾迎撃ミサイルが飛び立つと、地底湖の空中に待機していたバイドを破壊する。
宇宙航行艦のスケールでは比較的小型に類する艦艇だが、水上での攻撃力は強力だ。
水面に浮いている目標も魚雷で破壊する。
目の前に敵が見えなくなり、進軍しようとしたときに気が付いた。

『こちらラーン級、問題が発生した。』
「問題とはなんだ。」
『地底湖内に堰が出来ていてこれ以上奥に進めません』
「…輸送艦の推力じゃ水上艦は運べない。ラーン級は待機。グランビアとR機、輸送艦で向かえ。」
『了解しました待機します。』


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R機と輸送艦が空中から堰の向こうを見ると、そこには次々にドライアイスを生み出す大型バイドがいた。
私はガザロフ中尉とディスプレイを眺めて

「あれがドライアイスを作っていたバイドか、トリトン基地の周囲を氷で囲むとは、どれほど居たのやら。」
「排熱はどこへ行くのでしょう?」
「分からん。しかし大型だな。コアは水上にあるようだが。」


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ディスプレイでは、潜水艦からの弾道弾迎撃ミサイルで撃ちすえられ、
R機からミサイルで打たれるガスダーネッドが映る。
しかし、大型バイドだけあり簡単には沈まない。
ドライアイスを生成して打ち出す。
R機や潜水艦に直撃することは無いが、天井から氷柱が垂れ下がり、水面は氷塊で覆われてゆく。
ダメージこそないが、次第に回避に追われて、攻撃に移れない。
そして、だんだんに回避スペースも奪われてゆく。


そこに低い弾道でミサイルが飛んできてガスダーネッドに命中する。
ラーン級が発射した艦対空ミサイルだった。
障害物の向こうから、打ち出したらしい。
一度着弾すると、続けざまに2基、3基と飛んできて命中する。
ガスダーネッドが爆発して塵になると、ラーン級から歓声があがる。
役立たず扱いがしんどかったのだろうか。


R機、グランビアのパイロットらは、ラーン級に感謝の意を伝えると、
A級バイドの居る大広間へ突入した。


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ブッ。
私は思わず紅茶を噴出してむせ返った。
となりで、キャッと顔を真っ赤にするガザロフ中尉がいる。
…バイドとの戦闘もかなりこなしたし、精神攻撃に値するようなグロテスクな外見にも慣れた。
しかし、このインパクトはどうだ。正直ノーザリーがただのソーセージに思えるくらいだ。

なんというか…立派だ。非常にご立派だ。
左右にある浮き袋もその存在感を主張している。
バイド体から、コアとそれを支持する柱上の構造体が、上方に伸び、
左右にはおそらく、浮力を得るためであろう構造がある。
水面下にはワシワシと動く脚が何対も付いている。


ひとことで言い表わすなら、‘男性の象徴’だ。


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「て、テイt…提督。その、データ参照結果でました。A級バイド、バラカスです。」
ガザロフ中尉の顔はこれ以上無いくらい真っ赤で、動揺している。
スルーだ。危ない話は全部全力でスルーするんだ。

「そうか。」
私もすましてそう応えるのが精一杯だ。
すまんが、フォローは無理だ。何言ってもセクハラになる気がする。

「弱点は…、その、コアへの攻撃ですが、コアに攻撃を受けるとあれは…なんていうんでしょう…。そう、上下に回避するようです。」
「通信手、情報を突入部隊へ流してくれ。」


これ以上は、見ててかわいそうなので、攻撃対への連絡は通信手に任せる。
たしかに攻撃されるとち…コア構造体が根元を支点に上下に移動する。
どうやら、あれで攻撃を避けているらしい。
でも私を含めてみな考えていることは同じだろう。
どうみても…

ガザロフ中尉は、すでに彼女の髪の色に負けないくらいの顔色だ。
任務中でなければ、すでに逃げ出しているんだろうな。
ガザロフ中尉は副官として戦闘を見ていなければならない立場と、
バラカスを目に入れたくない気持ちで揺れ動いているのか、視点が定まらず、挙動不審だ。

ガザロフ中尉、真っ赤な顔してチラチラ見ていると逆効果だ。
司令部の男性スタッフは、むしろ君の所為で赤くなっている気がするぞ。


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水中からグランビアの魚雷をあてられては、コア構造体が上方へ聳え立ち。
空中からR機が爆雷を落とせば、また、下方に垂れる。

弾道弾迎撃ミサイルで、
レーザーで、
また魚雷で、
ダメージを受けるたびに、コア構造体が何度も上に下に逃げる。

司令部スタッフの間でも、段々と気恥ずかしさが消えて、
その代わりに、怒りにも似た感情がわきあがってきた頃、
とうとうR機パイロットがキレた。
S・ストライクの機首に光が集まる。波動砲を使う気だ。


波動砲の白い光がコアを突き抜けた後、コア構造体があった場所がえぐれていた。
そして一気に爆発する。
うわ…、痛そうだ。
想像してしまったのだろう。司令部スタッフのなかには前かがみになるものがいる。
女性スタッフから白い目で見られているぞ。


「あの…提督、地底湖から振動発生。どうやら、先ほどの波動砲で地底湖の支えが損傷したようです。」
「つまり?」
「あそこは潰れます。」
「通信!各艦各機、離脱を図れ!」


『こちら、ラーン級、地上から流れ込む水の量が増している!これでは地上まで遡上できない。』
『グランビアでもこの流れでは難しい。』
「司令より各員へ、ラーン級は破棄。乗員は輸送艦に移れ。リャキルナ、グランビアは積み込めるか?」
『こちら輸送艦リャキルナ。水流の落ち着いたところなら可能ですが、この激流では…ラーン級の乗組員で精一杯です。』
「ならばそれで良い。R機、グランビアの操縦士と無理やり二人乗りだ。ともかく人間優先で乗り移らせて撤退せよ。」


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激流にまかれて身動きが取れなくなっているラーン級に輸送艦を近づけて、乗員達を輸送艦に詰め込む。ラーン級のレーダーサイトが接触して折れるとか気にしない。
グランビアFの乗組員達も、横付けしたR機のキャノピーに乗り込むと無理やり計器の隙間に居場所を見つけて収まる。
輸送艦は、R機と、なんとか激流のトンネルの上部空間を通って出てきた。
リャキルナの艦長からは二度と渓流下りはしたくないといわれた。


途中、艦と命をともにする。などとわめいているラーン級の艦長を、副長が殴って無理やり避難させたり、
最終的にR機のコックピットに、5名を詰め込んだりなど多少の混乱はあったが、
突入した人員は欠けることなく戻ってきた。


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「我等が戦友の最期に敬礼!」
タカハラ隊長やラーン級の乗組員たちは、旗艦エンクエントロスのハッチで敬礼をしながら地底湖の消滅と、自機の最期を見送ってた。

久しぶりに誰も死ななかったんだから、お前ら泣くなよ。







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海底大戦争のプレイ動画みてきたんだけど、ドットの描き込みマジパネェっす。
でも。ラーン級もグランビアも、もう搭乗させるステージが無いので、水葬です。
でも、ガスダーネッドよりも扱い良いから許されるはず。


最後の文、この作品ではあまり記述されて無いですけど、行間で人が大量に死んでます。



[21751] 11 提督と要塞奪還戦
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/11/28 23:47
・提督と要塞奪還戦



土星付近を航行中、要塞ゲイルロズが太陽系解放同盟に占拠されたとの報告があった。
解放同盟は地球連合に投降するフリをしてゲイルロズに潜入しつつ艦隊で攻め寄せ、
内部と外部とで呼応して占拠に成功したという。
ワープ空間での事といい、開放同盟の基本戦略は投降偽装なのか?
しかし、一つ間違えば我々の艦隊もあのようになっていたわけだ。
開放同盟のなりふり構わない手法に薄ら寒いものを感じる。


地球連合の主力艦隊はゲイルロズに対バイドの防衛線を張っていた。
それを内側から食い破られたのだ、防衛線は引き下げざるを得なかった。
そもそも木星―土星間にある要塞ゲイルロズが防衛線になったのは、
このすぐ内側には木星衛星都市などの半恒常居住都市があるためだ。
ここを攻撃されれば、民間人に甚大な被害が出てしまう。
ここゲイルロズを失えば防衛線は一気に火星付近にまで下がる。
今は最悪の事態にそなえて、各艦隊が民間人を乗せた輸送艦の護衛をしながら後退している最中だ。


そして、主力艦隊が民間人の避難に手一杯なので、
我々、特別遠征艦隊にゲイルロズ奪還のお鉢が回ってきたらしい。


私は以前ゲイルロズを攻略したことがある。
防御の固い要塞だが、不落という訳でも無い。なにより放置するわけにはいかない。
私はゲイルロズの再攻略のため、要塞ゲイルロズに進路を取るように命令した。


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「提督、ゲイルロズ勢力圏に入ります。」
「周囲の味方戦力は?」
「地球連合軍第9宇宙艦隊が、突入時に援護をしてくれるとのことです。ただし、ギャルプⅡの奪還の任にあたるため、一撃だけとなるそうです。」
「行きがけの駄賃に一撃くれるというわけか。せっかくだ、貰っておこう。」


今回の副官はラウ中尉だ。
彼は木星衛星都市の出身だ。開放同盟の身勝手で木星が危険に晒されるのが許せないのだろう。


「どうしましょう。援護攻撃に乗って正面から攻めますか。」
「要塞グリトニルに正面から当たりたくは無いが…そういえばカトー大佐は恭順しているのか。」
「ええ、こちらの素直に質問には答えています。…彼を使うのは危険では?」
「別にこれくらいで本当に投降してくるとは思わないさ。動揺してくれれば良い。
キースンが死亡したことを伝えられればゲイルロズ中で意見が割れるかもしれない。
これで、カトー大佐が我々を策にはめる様な行動を取れば本部に引き渡せばいい、
彼がこちらに協力的であれば、軍事法廷時に私が証言しても良いさ。」


我々はワープ空間での太陽系解放同盟との決戦時に捕虜としたカトー大佐に投降を呼びかけさせることとした。
正面でカトー大佐からゲイルロズに投降を呼びかけさせ、投降しないようなら攻撃する。
攻撃隊としてアングルボダ級エストレジータを裏手に潜ませ、第9艦隊の援護の一撃とともに攻撃を仕掛ける。
そのような作戦となった。


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私の乗る旗艦エンクエントロスは、またも囮だ。
艦隊の旗艦が正面ゲート前にいれば、敵は戦力を張り付かせざるを得ない。
その分裏手の守備は薄くなるだろう。

本来は軍使として送るのだが、カトー大佐が本心から恭順しているか不明であるし、
そもそも、開放同盟が本気で投降するとは思えないので、
こちらの艦から、オープン回線で投降を呼びかけさせ、開放同盟本隊が壊滅したことを伝えさせる。
相手の動揺を誘えれば上々だ。
もちろん有らぬことを口走る可能性を考慮して、呼びかけ映像は録画で流す。
呼びかけを録画して、それを3秒程度のラグを持ってゲイルロズにオープン回線で送こととした。
不味い事を口走ったら3秒以内に録画映像を切れば問題ない。


「ガルム級ブスカンドに通信を開け。」
「はい。」


通信用の窓が旗艦エンクエントロスのディスプレイに開く。
ガルム級巡航艦ブスカンドにワープ空間で捕虜とした、太陽系開放同盟の次席参謀カトー大佐を拘束している。
今は通信のため、独房から出ている。
カトー大佐は多少やつれているが、健康に問題があるわけではないようだ。
私は、カトー大佐に一応扱いに不備が無いか聞いた後、切り出す。

「カトー大佐、聞いていると思うが、太陽系開放同盟の一隊がゲイルロズに立て篭もっている。
しかし、現在地球圏はバイドの大攻勢を受けており、互いに争っている時ではない。
バイドの恐ろしさは、開放同盟本隊唯一の生き残りである貴官が最も知っているはずだ。
人間同士で争っている場合ではない。この場を無血で収めるために彼らに事実を知らせて、投降を呼びかけてもらえないだろうか。」

「投降を呼びかけることは構いません。彼らが投降しない場合は?」
「背後を気にして、バイドの大攻勢を乗り切ることはできません。残念ながら実力をもってゲイルロズを明け渡してもらいます。彼らが戦闘後に捕虜となっても、法規通りの処遇を約束します。ただし、この場で降伏した場合にくらべて、軍法会議での処分は厳しいものとなるでしょう。」

「私に裏切り者になれと。」
「そのように言う者もいるでしょうが、貴官は貴官の正義に乗っ取って行動したといえば良いでしょう。」
「…すでにキースン大将は亡くなりました。もう義理立てする必要は無いでしょう。」
「では?」
「分かりました。投降を呼びかけます。」


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「ラウ中尉、準備の進捗は?」
「ガルム級、録画準備完了。敵射程のギリギリに前進させます。」
「攻撃隊は?」
「問題ありません。アングルボダ級エストレジータは裏手岩礁帯にジャミングを張って潜ませました。第9艦隊との連携は確認済みです。」


「これで、戦闘が起きなければ良いのですが。」


ラウ中尉が呟く。
たしかにこれで敵が投降すれば、ゲイルロズは被害も少なく我々の手に戻る。
防衛線をまたここに張ることができるかもしれない。
木星圏出身のラウ中尉にとっては、防衛線の破棄は懸案事項であろう。


しかし、カトー大佐が真面目に説得しても、恐らく説得は失敗するだろう。
このバイドの攻勢時に、降伏に擬態して要塞を乗っ取ったのだ。
かなりの処分が下ることは想像に難くない。
それならと、要塞に立て篭もることを選ぶだろう。


「さあ、始めよう。第9艦隊に連絡しておくように。」


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『太陽系開放同盟同士諸君に告げる。私はキースン艦隊次席参謀のカトー大佐だ。
…私はキースン艦隊で唯一生き残りとして、今同士諸君らの前に立っている。
私は現在虜囚の身ではあるが、諸君の名誉を守るために…降伏を勧めにきた。
敗残兵の戯言に聞こえるかもしれないが、開放同盟の未来を左右する話だ。
最期まで私の話を聞いて欲しい。』


つかみはOKだ。
誠実そうな顔であるし、一般兵ならばフラッと本気で聞いてしまいそうだ。


『我々は横暴に振舞う地球連合軍と、
フォース廃絶に拘る余りに地球連合の横暴を許す弱いグランゼーラを正すために同盟を立ち上げた。
そしてこの理念を我々に示したキースン大将を指導者に頂き、理想に向かって行動を起こしてきた。』


うん、開放同盟にしてみれば自分らを肯定してもらっているし気分がいいだろうな。
逆に艦隊隊員は少しムっとした顔をしている。
そこで、第9艦隊からいつでも撃てるとの報が届いた。まだ待ってもらうように連絡。


『我々は新しい政府を作るための、力としてバイドを使用しようとした。
バイドの力をもって、地球連合、グランゼーラを従えて新たな世界を樹立しようとした。
我々キースン艦隊はこの技術の確立のためにワープ空間で実験を重ねた。
しかし、その考えは甘かった。我々の実験は失敗し、艦隊はバイドに取り込まれた。
軍使として、艦隊を離れている内にキースン艦隊は永遠に失われた。』


新たな世界ってバイドの世界か?
そう嫌味を言いたくなったのは私だけではないはずだ。
でも、BBSが成功しかけていたことは伏せたらしい。


『私は艦隊、最期の生き残りとなってからずっと考えていた。
私達の理想の世界とはなんだったのか、と。今もその答えは出ない。』


…さあ、どう出る。カトー大佐。
恭順か、反発か。


『少なくともこれだけは言える。私が考えていた世界では無い。
私達が目指したのは、太陽系開放同盟による人類の統一だった。
争いを続ける地球連合とグランゼーラという組織からの開放だ。
そのために両軍の技術を手に入れ。強大な力をもつバイドを取り込んで抑止力にしようとした。
…断じて、人類を滅ぼすために行ったのではない。』


強大な力をもつ軍事政府による統治って、それは恐怖政治の始まりではないのか。
基本理念が、根本から捻じ曲がっている気がする。
ある意味、グランゼーラが出てくる直前の地球連合政府も、
軍閥政府化しかけてて近いものがあったが…

その時、ゲイルロズからカトー大佐を載せているガルム級にむけて砲撃が走る。
射程外にいるので、威力の減衰したレーザー当たっても精々表面装甲に傷が残る程度だ。
衝撃も殆どないくらいの攻撃だが、カトー大佐は顔を顰める。
その攻撃の意味することはだれの目にも明らかだった。

― 裏 切 り 者 ―


「よし、ラウ中尉。支援砲撃依頼を第9艦隊に連絡してくれ。」
「了解しました。空母エストレジータの突入ポイントに、ですね。」


_____________________________________


さあ、我々も作戦開始だ。
カトー大佐の乗るガルム級を後退させると、入れ違いに旗艦エンクエントロスをゲイルロズの正面に進める。
解放同盟も砲撃を加えた1番ドックの巡航艦に続き、2番ドックからも巡航艦が出てくる。

「我々は囮を勤める。ドックより敵艦を引き釣り出せ。」
「提督1,2番ドックよりマーナガルム級が1隻ずつ出撃してきました。」
「艦載機も残らず引き釣り出せ。」
「提督、支援砲撃が来ました。」


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支援砲撃が届く。第9艦隊からの支援だ。
大体の方角をそろえて長距離ミサイル攻撃を仕掛ける方法で、
狙いは余り当てにならないが、面制圧には使える。
比較的速度の遅いミサイル群はいくつか迎撃されながらも、半数は目的地に達して、
要塞ゲイルロズの下部ドック入り口付近の敵を焼き払う。
超高機動機ノーチェイサー数隊と駆逐艦フレースベルグ級が爆発に飲みこまれた。


「第9艦隊からの支援攻撃着弾確認。侵入口付近の敵機はノーチェイサーが2隊です。」
「よし、空母エストレジータ突入せよ。POWアーマーでゲイルロズの司令室解放を目指せ。」
「提督、第9艦隊司令官デューク提督より、貴艦隊の幸運を祈る。とメッセージが届いています。」
「私の名で第9艦隊に返信。貴艦隊の助力に感謝する。と」


ジャミングを掛けて伏せておいたアングルボダ級が、欺瞞を解いて姿を現す。
そして、決して小さくない船体をゲイルロズ下部の侵入口にねじ込む。
R機が次々とゲイルロズ内部に流れ込む。外にもR機が数隊展開し、空母の防衛に付く。
グリトニルのTeam R-TYPEから奪ってきた、トロピカルエンジェルだが、
上位機種のノーチェイサー相手では、さすがに分が悪いようだ。
その回避能力はTエンジェルのロックオンレーザーでも外してくるほどだ。
ただし、幸いなことに波動砲を装備していない。
2部隊を張り付けて1機づつ落としていく戦略だ。


___________________________________


旗艦エンクエントロスは苦戦中だ。
マーナガルム級を2隻も相手にしていることに加え、
敵マーナガルム級はゲイルロズのドックから完全には出てこない。
こちらが艦主砲を撃とうとすると要塞内に逃げ込むのだ。
ゲイルロズの外壁は陽電子砲の直撃をものともしない。
それはつまり戦艦最大の武器である艦首砲が封じられている状態だ。


また、2隻の砲撃に晒されながらも後退は出来ない。
囮である我々が下がれば、この巡航艦は突入隊のほうに回るだろう。
それでは、本末転倒だ。


「提督、また陽電子砲射程外に逃げられました。」
「チャージをキャンセル、R機隊で誘い出せ」
「…了解です。」


ラウ中尉も焦っているな。
故郷が危険に晒されていることと、思うように進撃できないこと、
あとは…艦首砲・波動砲が撃てない所為?
波動砲とか好きだからな。

しかし、戦闘が長引くと少しつらい。R機も空母のほうに多く回したからな。
巡航艦のどちらか1隻でも撃沈できれば、楽になるのだが、
どちらかに攻撃を集中すると、もう片方が艦首砲を撃ってくるだろう。
牽制しながらでは難しい。早く突入隊がやってくれることを祈ろう。
私は突入隊空母エストレジータから送られてくる画像をチラリと見やる。


___________________________________


アングルボダ級はゲイルロズの下部ハッチを塞ぐように、乗りつけいている。
空母の出番はこれまで、ここからは小型機での司令室の占領だ。
増援が来る前に一気に制圧したい。
タイムリミットは正面第3ドックにいる、ヤールンサクサ級空母の艦載されている部隊が来るまで。
ついさっき、ドミニオンズが火炎波動砲で、ドック後部都路の隔壁を無理やり溶接した。外壁は波動砲に耐えられても、内部隔壁は多少熱に弱かったみたいだ。
波動砲で吹っ飛ばされるような障害物だが、
ゲイルロズのドック後部通路は狭いうえに各ドックからの通路が一か所であるため、合流地点は渋滞の名所だ。
ここの隔壁を閉鎖して、ついでに自爆機能のあるデコイを一機置いてきた。
これだけでも多少時間が稼げるだろう。


機動力のあるR機で撹乱して、攻撃力の高い機体で司令室を占領する。
撹乱するのは、Tエンジェル、エクリプス、サンデーストライク、ドミニオンズなどで、
占領はPOWアーマー、ナルキッソス、アサノガワ、ワイズマンが行う。


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「提督、内部で戦闘が始まりました。」
「内部情勢は?」
「予想より敵機が多いため、R機で足止めし、司令室へ強襲を掛ける事になるかと。」
「…そうだな、一気に司令室を目指すのが一番だな。我々も敵艦をここに縫いつけるぞ。」


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サブディスプレイが白い。
あのカイパーベルト帯を思い出す。
漆黒の宇宙に白いシミが大量にある様子は非常に奇妙だった。

あのときも凄かったが、今回もひどい
狭い司令室エリア内に白い人型機20機がひしめき合っている。怖いぞ。


ディスプレイで見たラウ中尉が一言。


「波動砲で撃ち抜けば気持ちいいのでしょうね。フフフ」
「やめてくれ。うっかり最奥の制御装置まで撃ち抜いたら目も当てられない。」
「しかし、この量のナルキッソスをどうするのです?一機一機相手には出来ないでしょう。」
「そのためのワイズマンとアサノガワだろう。」
「なるほど、逆に逃げ場が無いということですか。」


現在、敵巡航艦がドックへ引っ込んでおり、頭を出すのを待っている状態だ。
戦力の多くを突入隊に回したため、追撃が出来ない。


サブディスプレイに突入隊の画像が移される。ワイズマンとアサノガワがチャージを始めた。
パイルバンカーに放電がまとわり付き、キャノピーが下がり突撃準備が完了した。
こちらの所属のナルキッソス隊とPOWアーマーも後ろに控えている。
ワイズマンも後方にフォースをつけて、前方機首の先には白い光が集まっている。
エリア外のナルキッソスを他のR機が落としたら突入だ。
奪還が遅れれば、周囲の敵が押し寄せてくる。


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Sストライクの爆雷がエリア外のナルキッソスを撃ち落す。
開始の合図。

アサノガワの後部ノズルに火が入る。一気に加速して司令室エリアに突入する態勢だ。
敵ナルキッソスは相手がアサノガワであることを確認すると、ビーム鞭の先から光弾を放つ。
一撃必殺であるパイルバンカーの破壊力に耐えられる機体はまず無い。
敵もそれが分かっているので、先制攻撃をしかけて、やられる前にやろうとする。
敵がアサノガワを落とすのが先か、アサノガワが敵を貫くのが先か。

アサノガワは光弾に向かって行く、光弾がパイルバンカーに触れる寸前に、パイルバンカーを開放する。
パイルバンカーを伝うエネルギーが一気に膨れ上がり、擬似的にパイルバンカーが伸びたように見える。
そして光弾を掻き消すと、そのままナルキッソス隊に突っ込む。
そこでアサノガワの機載カメラが砂嵐になり、エリア外の別機からの映像になる。
司令室エリアから光と爆音、金属がひしゃげる音がする。

敵ナルキッソスは一隊が全滅、一隊が半壊していた。
アサノガワ動いてはいるが、かなりダメージを受けている。
凄まじい硬度を誇るパイルバンカーこそ無事だが、
機体表面を覆う装甲は半ば剥がれて、機関部が露出して放電しているのが見える。
キャノピーにはヒビが入っているし、バルカンも半ばから折れている。

どうやら、光弾の所為でパイルバンカーのエネルギーを開放するタイミングが早まり、
奥まで押し込まない内に勢いが殺がれてしまったらしい。
突進が終わった後に倒しきれなかったナルキッソスからビーム鞭を貰ったようだ。

そして、残りのナルキッソス隊がアサノガワにトドメを刺そうと接近してくるが、
それよりも早く、次が続く。


時機を伺っていた試験管機ワイズマン隊が突入する。すでに波動砲はいつでも撃てる状態だ。
司令室エリアに侵入したワイズマン各機が誘導波動砲を放ち、外壁を舐めるようにナルキッソスを破壊していく。
波動砲発射から着弾まで時間にしては1秒に満たない時間だが、脳内で引き延ばされた時間で波動砲を誘導、
パイロットは選択的に施設と味方機を避けながら敵機を撃破する。
複雑な地形での誘導。おそらくパイロットの脳には高負荷が掛かっているだろう。


最終突入は味方のナルキッソス隊とPOWアーマーだ。
敵味方のナルキッソスがビーム鞭で打ち合う。
その脇をすり抜けてPOWアーマーが司令室外部に取りつき、ケーブルを介してシステムに侵入してゆく。
バイドミッション時POWはR機に補給を行うのだけの無人機であったが、
対人類戦用への改良として占領機能などが付け足されてから、複雑な判断が必要になり有人化した。
さらに有人化に伴い、パイロットの生存率を上げる為にデコイ機能も搭載された。


システム侵食率、30%…40%…50%…


敵ナルキッソスからのビーム鞭が迫ってきて、POWアーマーが一旦回避に移る。
POWが飛びのいた次の瞬間、ナルキッソスにフォースがめり込む。
ワイズマンが後部に付けていたフォースをシュートしたらしい。
よくみると、突入したワイズマンも2,3機居なくなっており、アサノガワもすでに行動不能になったらしい。
これ以上の戦闘の長期化は無理と見たのか、POWアーマーパイロットが無理やり再び司令室に着地する。
再度ケーブルを繋げてシステムを掌握しにかかる。

システム侵食率60%…70%…

背後に司令室エリア外から飛び込んできたノーチェイサー見えた。

80%…

ワイズマンも味方ナルキッソスも突然の事に反応できない。わき目も振らずにPOWアーマーに迫る。

90%…

ロックオン警報が鳴り響く。

100…


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「提督、わが軍の勝利です!要塞ゲイルロズの司令室を奪還しました。」


ラウ中尉が報告する。するとすぐにドックの外部隔壁が降りて、敵艦がドックに閉じ込められる。
囮を張っていた旗艦エンクエントロスはすでに残弾が尽きかけていた。
このまま続いていたら不味かったな。


「ラウ中尉、解放同盟残存部隊に、降伏か全滅か選べと伝達せよ。」
「了解…降伏をするとの通信が来ていますが…どうしますか?」
「武装解除の上、艦艇、R機から全員降ろしてからだ。各機監視を続行せよ。ラウ中尉、こちらの被害状況は?」


「旗艦エンクエントロス、空母エストレジータともに小破。アサノガワ大破、POWアーマーが撃墜されました。その他、各R機隊にも被害が出ています。」


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すでに艦隊の穴から、バイドが防衛線内に進入していたため、
防衛線はゲイルロズに戻されることなく火星圏内になるとのことだ。
この報を聞いたラウ中尉が遣る瀬無さ気な顔をしていた。
ラウ中尉の出身地である木星衛星都市ゼ・ウースルは強力な民警組織のお陰で、バイドの進入を免れたらしい。
しかし、残念なことに木星衛星都市のうち幾つかはバイドの侵入を許し、壊滅的被害を被った。
つまり、新たなバイド発生源となる前に破壊措置が取られたのだ。
被害が軽微でもバイド粒子の混入の危険があるため、放棄された都市もある。


我々はゲイルロズの戦力で使える分を徴発して、地球へ戻ることとなった。
ゲイルロズの工廠で確保したのは、ムスペルヘイム級、R機や、POWアーマー改などを艦隊に接収した。
私はテュール級戦艦‘エンクエントロス’を降り、ムスペルヘイム級戦艦‘フィンデルムンド’に乗り換えた。
これを持って特別遠征艦隊の旗艦は戦艦フィンデルムンドに変更された。
一艦隊に戦艦が2隻とは多いが、これがあれば戦術の幅が広がる。

輸送艦も何隻かあったので、私は開放同盟の敗残兵を乗せて、戻ってきた第9艦隊に任せた。
デューク提督には申し訳ないが、彼らは火星都市グラン・ゼーラを経由して地球に戻る事になっているらしい。
グランゼーラ革命軍の結成の地であるので、厳戒令が出ている上に政治犯収容所が設置されている。
そこに敗残兵たちを置いていって貰う。一応、防衛線内だし。


ゲイルロズで補給・修理した後、我々、特別遠征艦隊はゲイルロズを後にした。





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ムスペルヘイム級出しちゃった。
本当なら、後編クリアまで手に入らない戦艦だけど、そうすると小説中に出せないし、
これ以降、話の流れ的に乗り換えが厳しくなるため、無理やり出しました。
ヨトゥンヘイム級はテュール級とほとんど性能変わらないので、パスです。

この時、バイド勢力圏に置き去りになってる人、多そうですよね。
ついでに、この都市はバイド侵食やばかったら、都市(住民)ごと爆破みたいな。

今回のゲスト、攻略本の小説で出てくる第9艦隊とデューク提督の件、
どうみても、某紅茶提督の第一三艦隊がモデルな気がしてならない。



[21751] 12 提督と溶鉱炉
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:40
・提督と溶鉱炉


我々はアステロイドベルトを航行して地球に向かっている。


私は新たな旗艦のフィンデルムンドの司令席にいる。真紅の外部塗装が非常に目立つ。
ここに来るまでに、旗艦上では新たな艦での習熟訓練が行われていた。
普通、任務中にやることではないけれど、時間が余っているわけでないので仕方が無い。
ちなみに人員はエンクエントロスから司令部スタッフ、その他をつれてきたのと、ゲイルロズで補充した地球連合兵士だ。
兵の補充が出来たのはうれしい。機体はパーツを交換したりできるが、兵はだけは限界がくるからな。


地球連合軍の戦艦は型ごとに基本塗装色が決まっていて、色で大体わかるようになっている。
戦艦は艦隊の顔であり、威容を見せ付けるものであるので、目立つ色であることが多いのだ。
バイドは色を認識する能力が無いという研究結果もあるらしいので、対バイド戦では問題にならない。

…またTeam R-TYPEが変な研究をしているな。
バイドの視力検査でもしたのか?

まあいい、意味があるのは対人類戦闘だ。存在を誇示するのにカモフラージュは必要ない。
地球連合軍の艦にジャミング機能が搭載されていないのは、こういった意味もある。


ヘイムダル級は濃灰、テュール級は濃灰に赤い艦首、ヨトゥンヘイム級は青、ムスペルヘイム級は真紅だ。
…新型のニブルヘイム級の基本色は何になるのだろう。
隣にいる副官のワイアット少尉に、次に戦艦が開発されたら何色だろうか。と聞いたら。
「赤もあることですし、次はやっぱり金でしょうか?」
などと言っていた。
何が‘やっぱり’なのか全く分からない。
そんなことを考えていたら、斥候部隊から緊急連絡が来た。


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小惑星に建てられた重工業基地からバイド反応を検知した。という報告だった。
ワイアット少尉に調べさせたところ、反応があった施設は兵器自動製造施設で、
バイドの侵食によって施設が暴走している可能性がある。
…だから、侵蝕されて敵に回らないように、兵器に自爆機能を付けろと、あれほど意見書を提出したのに。


私は艦隊の進路を報告のあった地点に変更した。到着までに準備を整えておかなくては。
時間経過とともに新しい情報が入って来る。
目標のバイド反応は、A級バイドに匹敵する大きさであるが、詳細は不明。


また戦闘だな。
これまでもこの仕事の大変さは分かっているつもりだったが、
改めて自分が危険な任務についていることを認識する。
ふと、私は言い様の無い寂しさを覚えた。
長期遠征でセンチメンタルになっているのだろうか。


長期遠征では何年も戻れないこともザラだ。
太陽系外に探査に向かった最初の異相次元探査艇‘フォアランナ’は、
実に20年以上の長期航行を果たし、多くのものを人類にもたらした。
今や多くのフォースの元となっている‘バイドのかけら’もそのひとつだ。


バイド討伐に向かった若き英雄ジェイド・ロス提督率いる艦隊も、約10年に及ぶ遠征から未だ戻らない。



彼は寂しくないのだろうか。
むなしくならないだろうか。
彼は…地球に帰りたくはならないのだろうか。

ワープ空間への遠征に出た私が、こんな感覚に陥るくらいだ。
ロス提督の地球への想いは、私には想像も出来ないくらい大きいものだろう。


「提督、そろそろ敵勢力圏に入ります。」
「…分かった。R機の発進準備を。」


こんなことを考えるのも私の感傷だろうか?


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そこは溶鉱炉だった。
向こう側では大型プレス機が稼動しており、兵器のフレームを作っているようだった。
こういった施設はバイドの絶好の巣になるようだ。
バイドミッション時にもいくつかのファクトリーで戦闘を行ったという記録がある。
この施設もバイドに侵蝕されてしまったようだ。


制御システムもバイドに汚染されているらしく、
普段はコンピュータ制御されている炉からは、液体化した熱硬化性素材が流れ落ちてくる。
あれに晒されれば戦艦とて無事ではすまない。
外部装甲は耐えられても、外部機構が壊れる。スラスターが動かなくなったらその場で蒸し焼きだ。


「提督、どうしますか。」
「ファクトリーは足場で区切られているが、基本構造は素直な一直線だな。まっすぐ進軍するしかあるまい。敵情報は?」
「敵はA級相当のバイドということですが、詳細は不明です。最奥の空間にいるようです。」
「大型バイドまではR機で各個撃破、大型に会敵する前に一度体勢を整えて突入だ。空母、戦艦は身動きが取れなくなる恐れがあるので待機。巡航艦、駆逐艦で行く。」


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「そして、また外から指揮か。」
「提督、それは仕方が無いです。旗艦で単騎突っ込まれると困ります。」
「そんな馬鹿な真似はしないが、せっかくの新戦艦だ。使ってみたいと思うのは間違っていないだろう。」
「そうでしょうか。」


ワイアット少尉が微妙な顔をする。
遠征艦隊を指揮する前は、自ら前線にでようとはしなかった気がするが…
ん? 最近、私は好戦的になってきているのだろうか?
…いや、違う。敵の排除は地球圏の防衛、人類の生存に必要なことだ。


「さあ、バイドを殲滅するぞ!」


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突入隊はR機を前面に出して、進軍している。
その後ろにガルム級巡航艦ブスカンドと、フレースベルグ級巡航艦レーニョベルデが続く。
今回の作戦は早期警戒機と亜空間機を前面に出し、索敵しながら進軍するオーソドックスなものだ。


…おかしい。
なぜ、敵にまったく接触しないのか。
施設の奥行きの半分まで進軍したが、未だバイドの姿は見えない。
しかし、この兵器製造工場から検出されるバイド係数が、大規模なバイドの存在を教えてくれる。
私は、司令部スタッフの顔を見るが、皆不安そうだ。
敵と戦うことより、敵に会えないことを不安に思うとは皮肉だな。


「ワイアット少尉、バイド反応はどこからでているか特定できるか。」
「特定は難しいです。施設が暴走しているのでシステムを取られていることは確実なのですが、奥の方から大きいバイド係数が感知されていますが。」
「大型バイドならば、取り巻きがいないのはおかしい。小型バイドは何処にいる?」


ふいに亜空間機ウォーヘッドが通常空間に戻ってくるのが映った。
しかし一機ではなく、お客を連れているようだった。
お客はアイビーフォースを装着したマッドフォレスト2だ。
ウォーヘッドは先手を取られて数機が撃墜されるが、
マッドフォレスト2はすぐさま周囲のR機に打ち落とされる。


マッドフォレスト2は蔦を寄せ集めたものの後部にスラスターが生えている様な外見をしており、禍々しい中にも原生林のような力強さを感じる。アイビーフォースを装備しており、波動砲も蔦を模したようなエネルギー形態を取る。そして、マッドフォレストと呼ばれるカテゴリに分類される小型バイドは亜空間に潜行する能力を持っている。


「亜空間機!?…まずい、亜空間ソナーで探査させろ。」
「アウルライト亜空間ソナーを射出。」
「これは…囲まれている?」


レーダーには突入艦隊の周囲に30を超える亜空間機の機影が映っている。
この量のバイドが一気に取り囲まれると非常に危険だ。
「レーニョベルデへ通達、亜空間バスター準備!」
「提督、突入艦隊、包囲されています。」
「亜空間バスターで包囲に穴を開け、一気に突破させよ。」
「レーニョベルデ、亜空間バスター発射…弾着。」


旗艦フィンデルムンドからでも、小さくあの特徴的な爆音が確認できた。
瞬間的に通信が乱れるが、すぐに雑音が収まりレーダーと画像が戻る。
どうやら、突入艦隊は正面突破を選んだようだ。
あの通路で回頭は難しいし、メインスラスターが後部についている以上、後退は加速が遅い。
どの道囲まれているなら正面突破が正しいだろう。
亜空間バスターを受けて生き残ったマッドフォレスト2が満身創痍で通常空間に現れるが、
ラグナロック、ステイヤーがミサイルを蔦の固まりに撃ち込むと、前方に道が開ける。


アウルライトが先行して進軍し、再び亜空間ソナーを射出する。
やはり、すでに囲まれていた。
亜空間航行は燃料を食うが、通常空間より早く行動することが出来るため、
マッドフォレスト2に亜空間から回り込まれたようだ。
こうなったら突破しか無いだろう。命令せずともすでに亜空間バスターの発射する気のようだ。
本日2回目の爆音が響く。


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本当は居残り組を投入して追撃したいのだが、相手が亜空間機となると手に負えない。
亜空間バスターは特殊兵装であるため、フレースベルグ級および、ニーズヘッグ級駆逐艦にしか搭載されていないのだ。
私の艦隊では、突入隊にいるレーニョベルデしか装備されていない。
艦艇や戦闘機を亜空間潜行中のバイドに無理やり接触させて、通常空間に戻す手はあるが、
相手が波動砲をチャージした状態で通常空間に戻ってこられると非常に不味い。


「艦隊本体はファクトリー出口面に平行に展開せよ。」
「提督、R機はどうしましょう。」
「R機も出撃、出口を塞ぐように配置。全艦、全機、ファクトリーに機首を向け攻撃できるようにスタンバイしておけ。」


私は旗艦を含む艦隊の居残り組にファクトリー出口壁面を塞ぐように展開させた。
亜空間機で最も怖いのは、先ほど突入隊が陥ったように、知らない間に包囲される事だ。
幸運なことに、亜空間から直接通常空間を攻撃する手立ては無い。
そして、通常空間にある大規模エネルギー体に亜空間機が触れると、通常空間に戻ってしまう。
これを逆手にとって、艦やR機で壁を作るのだ。そうすれば、少なくとも後ろに回られる事は無い。
あとは、突入隊が中枢を破壊するのを応援するばかりだ。


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ファクトリー内部の突入隊は、3発の亜空間バスターを使用して、最奥まで突破したらしい。
高バイド係数の発生源近くまで来ている。
彼らはPOW改デコイを先行させる。
これは私が徹底させている事だ。これをすることで飛躍的にR機―特に早期警戒機―の生存率が格段に上がるのだ。


POWアーマー改の姿をしたデコイは、空間入るとまず上下に3ずつつく砲台をカメラに捉えた。
すぐさま砲撃が始まるが、POWアーマーより多少機動性のある改型は、被弾しながらもファクトリーの最奥を映し出す。
そして、次の瞬間上方の砲台からの攻撃で反応が消えた。
本来制御装置が置かれているはずの空間に壁が出来ていた。バイドだ。
おそらく、あの奥にあるはずの制御装置がバイドに侵蝕されたのだろう。


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「提督、あの砲台群は非常に強力なようです。普通に接近するのは危険すぎます。亜空間機でも使用しますか?」
「大型バイドはあの横穴の奥にある制御システムに侵蝕・同化している。しかも、壁のような構造で己を守っているようだ。亜空間機は一度通常空間に戻ると、暫く亜空間潜行が出来なくなる。壁を壊している内に撃墜される。」
「では遠距離から波動砲で潰すのはどうでしょう。」
「いや、角度的に壁が邪魔して難しい。ジャミングで行くしかないな。全滅と隣り合わせだから、あまりやりたくないのだが。」
「了解しました。突入隊に連絡します。」


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ジャミング機パワードサイレンスの周囲に、R機部隊が身を寄せている。
レディラブ、ウォーヘッド、POWアーマー改、そしてラグナロックだ。
R機部隊はゆっくりと上下に林立する砲台の間をくぐりぬける。
空間的に余裕があるので、特には問題が無い。
制御装置への通路があるべき場所に、バイド体で壁が作られている。
バイド係数が高くなっている。この奥に大型バイド本体があるのは間違いないようだ。


「こちら、ラグナロック隊隊長機。これよりハイパー波動砲を発射する。ジャミング機は援護用意を頼む。」
「こちらパワードサイレンス、了解した。R機各隊は波動砲発射後に、ただちにジャミング圏内に戻れ。」
「レディラブ隊、了解。」
「ウォーヘッド隊、了解。」


パイロット達の通信が聞こえてくる。
戦闘機より高性能な通信装置を備えた艦艇が側にいるので、味方機のものならジャミング圏内でも通信が拾える。
さすがに、3機で波動砲を撃てば敵大型バイドを殲滅出来るだろう。


ラグナロックが、ジャミング圏から飛び出し、大型バイドのいる通路に射線を合わせると、
機首前方に留めていた光が弾けて、普通の波動砲より幾分小さい光の塊が降り注がれた。
バイド体で出来ている防御壁は少しは耐えたものの爆散する。
しかし、奥にもう半ば傷ついた同様の隔壁、さらに奥にもう一枚の隔壁が見える。
通路に隔壁を張り巡らせたらしい、しかし通路の長さからして3枚で打ち止めだろう。


ラグナロックがジャミング機の恩恵の元に戻るのと同時に、ウォーヘッドが射撃定位置に付く。
拡散波動砲を間髪いれずに放つ。甲高い音を立てながらバイド体の隔壁が破壊される。


奥に見えるのは、制御装置だったもの。
本来通路の奥にあるのはこのファクトリーの一切を仕切る大型のコンピュータであるはずだ。
今も大型コンピュータはある。しかしその中心に青く光る球状の物体、大型バイド等に見られるコアだった。
これを破壊すればこのファクトリーのバイドも動きが鈍り殲滅もすぐだろう。
最期の一手はレディラブ。


レディラブがウォーヘッドと入れ替わり、射撃位置に付く。
すでに丸裸になったコアに機首を向けて、射撃体勢に入る。
エネルギーの収束。


そのとき、レディラブの前面に揺らぎが映る。

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「!?…マッドフォレスト!」
「何、亜空間機に接触された?不味い、一気に決めないと…」
勝利を確信した後だっただけに、司令部にも衝撃が走った。
大型バイドは強力な兵器を持っていることが多い。反撃の隙を与えてはいけないのだ。
「提督、コアのエネルギーが高まっています。」


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レディラブはマッドフォレスト2に接触された状態で、なおも波動砲を発射する。
0距離で波動砲を受けたマッドフォレスト2は消し飛ぶが、接触で射線がずれたせいで、波動砲は通路の壁に当たり霧散し、コアには当たらない。
コアが不気味な輝きを放ち、一気にコアから検出されるエネルギーが高まる。
レーザーが通路を埋め尽くし、さらにはその先の空間にまでエネルギーの奔流が押し寄せた。


レディラブ隊は波動砲を発射していたため回避が遅れ、隊の半分を持って行かれる。
パワードサイレンスに身を寄せていた、ラグナロック、ウォーヘッドとPOW改も上方に逃れるが、
林立する砲台に接触してジャミングが解かれてしまう。


コアからのレーザーが止むと、次は上下にある砲台からのレーザーが待っていた。
コアのレーザーのように凶悪なほどのエネルギー量は無いが、確実に狙いをつけてくる上に、数が多い。
隊長機を落されて統率を欠いたレディラブ隊は、格好の餌食だった。
4方から同時にレーザーを狙い撃たれ、残機も爆散する。
その他のR機もレーザーを避けるのに手いっぱいで、ジャミングを張る時間を稼げない。


ラグナロック、ウォーヘッドのR機隊もレーザーを避けているが何時までも続かないだろう。
普通、波動砲の再チャージには時間が掛かる。少なくともこのレーザーの嵐のなかで、耐えるのは難しい。


「提督!このままではR機隊が全滅してしまいます。」
「そうなる前に波動砲で決めるんだ。」
「しかしR機隊はどの機も波動砲を発射したばかりです。」
「ワイアット少尉、何のためのハイパー波動砲だ。」
「あっ!」


ラグナロックのパイロット達はこちらが言うまでもなく波動砲の発射準備にはいっている。
すぐ再チャージに排熱機構が唸りを上げるが、ラグナロックは一気にエネルギーを波動砲ユニットに集める。
再び光が弾ける。
波動砲の光がコアに降り注いだ。


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「…大型バイド沈黙を確認。周囲の砲台も沈黙しました。」
うわっと、司令部スタッフから拍手と歓声が上がる。
これは、R機パイロット達のために時間外の酒保でも開けてやるかな。
でも、まずは敵の確認。艦隊に帰るまでが任務だ。


「R機隊を艦に戻して索敵しながら帰還するように伝えろ。あと、作戦達成、御苦労さまと。」
「あれ?提督…制御装置も壊れてしまったようです。施設がこちらからの制御を受け付けません。」
「何か問題が?ワイアット少尉。」
「特には無いはず…うわっ、大変です。提督!」
「何だそんなに…」


私はディスプレイの映像を見て絶句する。
制御装置ごと打ち抜き、完全に制御を失った所為か、
液体化した熱硬化性素材が奥にある炉から溢れて迫ってくる。


「緊急離脱だ!一気に駆け抜けろ。」
「巡航艦ブスカンド、駆逐艦レーニョベルデ後退。提督、空間が狭すぎて回頭できません。」
「…そのまま後退させろ。出来るはずだ。」
加速が心もとないが、普段はブレーキ用に使われる前方スラスターなどをフルに使って、
高熱に追われながらブスカンドと、レーニョベルデが来た道を逆走してくる。


10分後、なんとか合流を果たした2艦の艦長達はげっそりして言った。
全速後退で細い通路を戻るのは地獄だったと。
今日は提督命令で酒保を開けてやるから元気だせ。


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こうして、アステロイドベルトにある兵器製造施設に侵食したバイドを撃破した。
他にバイドが居ないのを確認し、休憩に入ろうとした時、統合作戦本部から緊急通信が入った。
えらい剣幕の本部幕僚が言うには、地球上空にバイドが集結しつつあるという。


我々の特別遠征艦隊を含め、現存する各艦隊が太陽系内のバイドの討伐にあたっていたが、防衛線をかいくぐったいくつかのバイドの群れが、地球に降下しようとしているらしい。
要塞ゲイルロズのごたごたで防衛線が一時機能しなくなっていた所為で、かなりのバイドに侵入されたのだろう。
地球上空の何か所かにバイドが終結しており、それぞれの艦隊で叩いて撃破せよとのことだ。


我々はバイドの地球降下を阻止するため、共同作戦に参加する。
…だから、酒保はお預けだ。



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R-TYPEⅢのトラウマ面ファイアキャスクファクトリーです。
でもtacticsⅡ本編ではプレス機が襲ってきたりしません。逆走しません。マップも回りません。
あ、そうそう、名前入れられなかったのですが、Ⅲの4面中ボスのリグジオネータさんでした。

そろそろ、シリアスな後半戦へ向けてシフトチェンジしていかないといけませんね。
そう言いつつも、重い空気に耐え切れずに空気の読めないギャグを入れそうな自分が怖い。
実は各話だいたい4~5箇所は、ギャグに走りすぎてリテイク掛かってます。

普通にプレイしていると、後編はジャミング無双になっていると思うのだけれど、
そんな引きこもり小説書いても詰まらないだろうし、どうしましょう。
ちなみにtacticsⅡはジャミングを封印すると、とたんに難易度BYDOになります。



[21751] 13 提督と地球降下阻止作戦
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:47
・提督と地球降下阻止作戦


我々に下った緊急指令は、地球上空で集結しつつあるバイドの降下阻止、殲滅だ。
統合作戦本部の分析では、バイドは地球上空の数箇所に集結し、
群れが大きくなったところで降下を開始するものと見られている。
第一宇宙艦隊 ―慣例的に地球防衛の任につく― は地球連合軍の最精鋭であるが、
さすがに地球全周に展開は出来ない。
全兵力をもって防衛に当たれ。とは地球上空にまで防衛線が引き下げられたことを意味する。
人類はそこまで追い詰められたということだ。


我々が指示されたのは、2番目に大きいバイドの終結ポイントだった。
我々は指定されたポイントに急行すると、遠方からでも膨大なバイド反応を検知できた。


_____________________________________


「提督、作戦ポイントに到着しました。」
「総員、戦闘準備。」


作戦ポイントの下は地球だ。
太陽は地球を挟んで向こう側にあり、我々からは地球の夜側が見えている。
幾つか見える大都市が煌々と輝き、宇宙空間にまで人間の存在を示している。
この星にだけはバイドを降ろしてはならない。
そう決意を新たにする。


バイドの大群が終結しているのはデブリ帯だ。
しかし、デブリなど見えなかった。見えるのはバイドの大群だ。
すでにこの宙域を埋め尽くすほどに、バイドが集結していた。
この量のバイドが地球に降下すれば、本当に地球そのものを侵蝕されるかもしれない。
そんな、考えがよぎった。


「敵旗艦は分かるか。ガザロフ中尉。」
「バイドの動きからすると、敵旗艦は奥にいるボルドタイプの大型生命要塞ではないでしょうか。」
「あれか。混戦になってしまうと、索敵できなそうだな。」
「提督、艦隊布陣はどうしますか。」
「ガザロフ中尉、正面展開して当たる他ないだろう。総力戦だ。」


テュール級戦艦エンクエントロスを先頭に、両翼に駆逐艦レーニョベルデと巡航艦ブスカンド。輸送艦も一隻ずつ配備した。旗艦ムスペルヘイム級戦艦フィンデルムンドとアングルボダ級空母エストレジータを布陣した。


私はふと戦闘指揮所内を見回す。
スタッフ達の顔には、不安と、恐怖が渦巻いている。
ここにいるスタッフだけでは無いだろう。
皆、バイドの暴力的なまでの物量に飲まれている。


「ガザロフ中尉、全艦通信を開いてくれ。」
「了解しました。提督。」


「提督から総員へ。すでに見聞きしていると思うが、今回の敵は未だかつて無いバイドの大群だ。
そして我々の後ろには人類の最期の砦、地球がある。退くわけには行かない。
…さて、皆緊張してるな?」

皆、黙って聞いている。

「我々は地球連合とグランゼーラの混成部隊だ。
互いに自軍の戦力を削りたくないという、両陣営の妥協の産物だった。
両軍が手を取り合うなど、不可能だと言われていたし、
正直、余り期待されていなかったと思っている。
しかし、隊内において多少の衝突や誤解はあったが、
我々は周囲の思惑に反して、手を取り合うことが出来た。
我々の艦隊は同じ人類として一つになった。」

隣り合った隊員同士が目を合わせている。
そこには地球連合軍もグランゼーラ革命軍もなかった。

「我々は不可能を可能にした。
手を取り合って全力で戦えば、どんな不可能に見えても可能性を見出せるはずだ。
さあ、肩の力を抜いて、いつも通り戦おう!」


艦隊通信でそう号令すると、横にいたガザロフ中尉が少し笑顔を見せた。
他の隊員達も大丈夫そうだ。


「総員!目標はバイドの旗艦の撃破および、地球上空のバイドの殲滅だ!」


そして艦隊は、ゆっくりと動き始めた。


_______________________________________


我々は進軍して、戦場の中央付近にある大きめのデブリを盾に陣を構えた。
ここらへんで敵前衛部隊とぶつかるはずだ。
できれば、一気に敵の前衛を叩いてしまいたい。


「各艦に索敵を密にするように伝えよ。亜空間索敵も忘れるな。」
「了解しました。索敵レベルを上げます。アウルライト隊、サンデーストライク隊、ダイダロス隊に伝達します。」


S・ストライクが亜空間に潜り込み、通常空間の索敵を行い、
アウルライトの亜空間ソナーで、亜空間の敵機を見付ける。
索敵で先に相手を見つけた方が圧倒的優位に立てる。
これだけ規模の大きい戦場となると、相手の偵察機を見つけて先に叩くのが一番だ。


先の命令からしばらくは、策敵を広げてはレーダーを確認する作業が続いた。
そして、2回亜空間ソナーを補充した後、報告があった。


「提督、亜空間より敵の接近を確認しました。」
「位置は?」
「12時の方向、亜空間ソナーの範囲ギリギリです。」
「ということは、それだけではないな。その後ろに未だいる恐れがあるな。」
「索敵続けますか。」
「亜空間機は下がらせ、亜空間ソナーを継続。レーニョベルデは亜空間バスターをいつでも発射できるようにしておけ。」


亜空間に潜む敵には、通常兵器は効果が無いので、特殊兵装亜空間バスターで応戦する。
亜空間バスターを装備しているフレースベルグ級駆逐艦レーニョベルデを前に出しつつ、
巻き添えを食いかねない自軍の亜空間機を下げさせる。
前回のマッドフォレスト2のことといい、亜空間機はおそらく集団で襲ってくるのだろうから、
亜空間ソナーで敵位置を把握しつつ、バスターで迎撃するのが最良だろう。


バイドの群は無音で近づいてくる。
亜空間ソナーの発射音とともに、亜空間ソナーで探知される機影が増え、レーダー係が読み上げていく。
機影が増えるに従って報告するレーダー係の声が徐々に上ずってくる。
周りを見回すと、その他のスタッフの顔も強張っている。


「亜空間機影5体確認しました。」
「後続がいる。待機だ。」

「亜空間機影、正面方向に17体に増えました。」
「まだ、引き付けろ。」

「亜空間機影26体…!提督、これ以上は接触されます!」
「レーニョベルデに命令。亜空間バスター発射!」


敵機がぎりぎりまで迫っていたため、我々の艦艇も亜空間バスターの独特な爆音にさらされる。
戦艦エンクエントロスは完全に、私のいる旗艦フィンデルムンドも余波を受ける。
耳を塞いでも直接体に響くので、かなり堪える。


亜空間バスターを耐えたバイドが姿を現す。
蔦の塊のようなマッドフォレスト系列のバイド体ではなく、
アンフィビアン系列の2型、アンフィビアン2だった。


アンフィビアン2
臓器を思わせる桃色をした、ぬらりとした深海魚を思わせる体躯を持つ生体系バイドで、
小型のバイドの中でも特に嫌悪感を誘う外見をしている。
時折、痙攣するように、パーツが微動している。
amphibianとは両生類を意味する言葉だが、このバイドは下あごの無い魚類のようだ。
ただし、両生類とも深海魚とも異なって、水中での機動性は制限される。
そして、マッドフォレストと同様に、アンフィビアン系列も亜空間航行能力を持っている。


亜空間バスターで撃ち減らされたアンフィビアン2は、
たまらずに通常空間に逃げてきたが、満身創痍、無事なものはない。
亜空間で慢心したものの末路だ。
深海魚に似たバイドが宇宙空間にバタつく様子は、夢でも見ているような現実感の無さだ。


レーダー係は今までの極度の緊張状態が解けたのか、
無意識に止めていた息を、ゆっくりと吐いた。
他の司令部スタッフも似たようなものだ。
しかし、安心をしてはいられない。
接敵する前に亜空間機を留めるために、亜空間バスターを使ったが、
バイドの亜空間機がアレだけとは限らない。むしろもっと多いかもしれない。
そして、敵は亜空間機だけではないのだ。


「今回は大漁だったが、第二陣が来るぞ。気を抜くな。」
「了解です。亜空間索敵を続行します。」
「R機部隊は、通常空間に戻ったアンフィビアンを掃討せよ。
レーダー手、亜空間機が一時的に一掃された。
第二陣が来る前に、通常空間の索敵も行うんだ。」
「了解しました、提督。アウルライト隊にソナー弾補給後、再出撃させます。」
「輸送艦のデコイも配置して置くんだ。」
「了解です。輸送艦リャキルナ、ルミルナに通達します。」


テュール級、ムスペルヘイム級などの戦艦は索敵能力が非常に高く、
迎撃体勢では基本的に早期警戒機を必要としない。
しかし、亜空間ソナーを装備していない戦艦では亜空間索敵は出来ないし、
今回の戦場のようにデブリ帯では、索敵範囲が狭まる。
だから、移動できる目である偵察機が必要となるのだ。
また、今回は戦線が広い。端まではカバーしきれない恐れがあるため、
輸送艦にデコイを前面に配置させた。


アンフィビアン2の第一陣の片が付くと、どこか焦りと安堵が混ざったような雰囲気になった。
いつ来るか分からない敵と、敵の第一陣が去った安心が混ざった不安定な空気だ。
実際には、各機への補給状態と、被害状況、索敵情報などが飛び交っているのだが、
不安を押し殺すために、目の前の仕事に飛びついているように見える。


早期警戒機アウルライトが飛び立ち、輸送艦が増殖する様にデコイを作り出す。
亜空間機Sストライクや軌道戦闘機ダイダロスも、通常空間に索敵に導入する。
各種報告を聞きながら、第二陣を待つ。


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「提督、来ました。第二陣の先頭集団を捉えました。」
「観測を続させよ。ガザロフ中尉、敵を引き付けるぞ。各艦、各機に亜空間バスターの使用に備えるように通達。」
「了解しました。」


バイドの亜空間機がまた、ソナーにひっかかる。
恐らくは、またアンフィビアン2だろう。
亜空間機の処理法は変わらないので、別にマッドフォレストでもかまわないが。
レーダー係が時とともに増えていく機影を数え上げる。
やはり20機を越える大群のようだが、先ほどの経験から落ち着いて報告を上げている。


「提督、索敵範囲内のバイド亜空間機33機。これ以上は接敵されます。」
第一陣の群より大きいようだ。
すでに亜空間機は下げてある。亜空間バスターのスタンバイもできた。

「よろしい、亜空間バスター発射。」
「レーニョベルデ、亜空間バスター発射を確認……弾着。」

爆音。先ほどより近い。
皆耳が一時的に難聴気味になっているので、大声で報告が来る。
耳がバカになりそうだが、私も大声でかえす。


「6機通常空間に移行しました!」
「R機で掃討。打ち漏らしがあるかもしれない、索敵を!」
「了解しました!」


きっと爆心地近くのエンクエントロスの艦橋も、こんな感じになっているだろう。
ここ最近、亜空間バスターを発射することの多いレーニョベルデの艦橋では、
使用直後は、最低限指示はハンドサインで行う方法に変えたとの事だ。
やっと耳が通ってきたな。


「レーダーに反応。提督、通常空間の敵機を発見しました。」
「ガザロフ中尉、タイプを判定してくれ。」
「解析中…でましたゲインズ系統です。」
「ゲインズ。こんな所で…!不味いR機にアンフィビアンの掃討を急がせろ。」


バイド体は基本的に自群の被害に頓着しない。
射線上に他のバイド体がいようとも、攻撃の手を止めることは無い。
戦線が膠着しているときなど、他のバイドごと打ち抜いてくる。
人類には取れない戦法だ。
我々もデコイで索敵して、デコイごと波動砲で一網打尽にすることはあるが、
自軍の兵ごと打ちぬくことはまず無い。
倫理的にも取るべきではないが、
パイロットという有限の人的資源を活用しなければならない以上、
そんなことをすれば人類の戦力が枯渇する。
ある意味、量が強みであるバイドにとっては、非常に有効な戦法なのだろう。


しかし、この状況は不味い。
敵と交戦中であるというのは、敵から見て、我々は索敵されている状態だ。
バイドは味方ごと打ち抜いてくる。
こちらの索敵圏外から一方的に波動砲を打ち込まれるのだ。
混戦でやられれば、被害は甚大。苦境に立たされるだろう。


「提督、敵亜空間機が中央を避けて両翼へ進軍していきます。」

次から次へと!
両翼は輸送艦だな。
あちらはあちらに任せよう。

「レーニョベルデに亜空間バスターの使用準備をさせよ。目標は正面より接近する亜空間機、両翼のは無視して良い。」
「提督、両翼先端は輸送機です。それでは、支えきれません。」
「中尉、デコイを予測進路にぶつけるんだ。
よくすればデコイを攻撃しようと通常空間に現れてくれるし、
こちらからぶつかれば、敵は亜空間から通常空間に引き戻される。
どちらにしても、自爆させれば敵を減らせる。後はR機が1~2隊あればいい。」
「了解しました。リャキルナ、ルミルナに通達します。」


三度目の爆音。レーニョベルデが亜空間機を撃った音だ。
一気にR機で畳か掛ける。ここで取りこぼすと大変なことになる。
途中で両翼に戦力を振り分ける。
デコイ作戦が上手くいくといいが、もしうまくいかなければR機をさらに割り振らなければならない。


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両翼の輸送艦デコイが自爆、敵亜空間機を駆除し、
正面もアンフィビアン2の群を駆除した。
亜空間機を狩っていたSストライクや、Leo。
亜空間ソナーを発射するために戦場に留まっていたアウルライト隊から被害が出た。
戦場にはぽっかり穴が開いた。
緩衝地帯を挟んで、互いに出方を伺うような感じだ。


「提督、作戦終了予定時間が迫っています。これ以上はバイドが地球降下を始めます。」
「…時間はバイドの味方だな。危険だがこちらから打って出るしかない。」
「ゲインズに加えて、タブロックタイプの狙撃型バイドが確認されていますが。」
「ガザロフ中尉、現在動かせるR機隊はどのくらいある?」
「本隊から出撃可能なのは8隊、うち即応可能な部隊はホットコンダクター、ドミニオンズ、ラグナロック、エクリプスの4隊です。他は補給、簡易修理が終わっていません。」
「ではその4隊で、狙撃隊のゲインズを打ち破るぞ。強行突破だ。
各艦艇も砲を撃てるようにしておくように。
前列のゲインズを破壊し次第、全軍攻勢に移る。」

「提督、索敵はどうしますか?」
「下手に偵察機を出してこちらの情報を与えたくないが、亜空間機は補給中だし…
デコイも、すぐに使用できる機体は無いか。」
「提督、トロピカルエンジェルはどうでしょう。
現在輸送艦の援護に付いていますが、Tエンジェルの機動性ならすぐに合流できます。
あの加速性能なら、多少無理をすれば敵陣に飛び込んで、攻撃を受けない内に戻ってくることが出来ます。」
「Tエンジェル…現行ザイオング慣性制御の限界を超えた機体か。
パイロットの無理を前提にするのは下策だが、手段を選んでいられないな。
ガザロフ中尉、Tエンジェル隊に通達を頼む。」


Tエンジェルの加速性能、機動性は殺人的と言われていて、リミッターまで付けられる始末だ。
ザイオング慣性制御装置の性能が機体に追いついていない所為で、全力機動は短時間しかできない。
すでに、ザイオングシステムを改良した改良型が出来ているという話だが、私の艦隊には配備されていない。
安全の確認されていない機体を送り出すあたり、実にTeam R-TYPEらしい。


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Tエンジェルが右翼から戻ってきて、索敵を開始する。
安全が確認された宙域に切り込んで、索敵をした後、すぐにこちらに戻る。
これを繰り返して漸進してゆく。
非常に地味だが危険な索敵方法で、Tエンジェルが早期警戒機で無い以上、足で索敵能力を補うしかない。
Tエンジェルが2機、3機の特別編成で交互に飛立つ。
計5回目の索敵で、ゲインズの集団を捉えた。
回数は多いが、時間としては索敵開始からほとんど経っていない。
さすがは、超高機動機と呼ばれるだけはある。
敵のゲインズの居場所を捉えた時点で、彼らの任務は達成され、戦艦エンクエントロスのドックに戻る。
戦闘機動、特に高機動機のそれは、非常に燃料を食う、
それ以上に、その機動性能がパイロットの体力を奪うので、全力機動後はすぐに動けなくなる。


デブリの影でホットコンダクター、ラグナロック、ドミニオンズの各隊が、すでにスタンバイしている。
数的にはこの3隊でどうにかなるが、もっとも機動性の高いエクリプスが予備として待機。
彼らの任務は、もっとも危険な小型バイド、ゲインズタイプの無力化だ。
ゲインズの波動砲は高威力、長射程、連射性の良さを備えていて、脅威であるのだ。
ただし、機動性・索敵能力に劣るので、一度索敵してしまえば射程外から狙い打つことが出来る。
怖いのは索敵能力に優れる機体と居たり、斥候部隊に接触されているとこちらの見えないところから、一気に撃たれる。
Tエンジェルの索敵から、周囲に索敵能力に優れるバイドの姿は確認できなかった。
敵陣のかなり奥に、巨大なバイド戦艦の姿が確認できたが、索敵されるほどではないようだ。


一気に切り込む。
まずは長射程を誇るホットコンダクターが、最も手前から波動砲を打ち込む。
この波動砲は威力が小さいが、照射時間が長い。
これを利用して、機首方向を調整しながら横なぎにする。
少なく無い数のゲインズが小破する。消滅した機体は少ないが、戦果は上々だ。
ゲインズを破壊する必要は無い。こちらの攻撃を当てて波動砲を封じればいいのだ。


こちらを索敵は出来ないが、ゲインズ達は攻撃が来た方向に向き直る。
Hコンダクターの波動砲とほとんど間を置かずに着たのは、ラグナロック、ドミニオンズ両隊だ。
ラグナロックはすでに波動砲のチャージの終え、機首部に白い光塊を携えている。
Hコンダクターが撃ったのとは違う群に向けて狙いを付けると、
一気に波動砲を開放する。ハイパー波動砲の特徴である、放射が輝いた後、幾筋もの波動砲が打ち込まれる。


ドミニオンズも赤く見える波動砲の光を敵前面に持ち込み、開放する。
炎のように見えるそれは、周囲のデブリを回りこみ、障害物の裏側にいるバイドにも攻撃を与える。
ドミニオンズは機体の各所に取り付けられた、放熱板から熱を逃がすと、煙を放つ。
放熱板に付着していた塵が蒸発して、またすぐに凝固しているのだ。


少し残っていたゲインズの取りこぼしはエクリプスが打ち払おうと接近すると、
報告が来た、ゲインズと思われていたバイドが溶けて、白い戦闘機のような物体になったというのだ。
ゲインズと思っていたのはメルトクラフトと呼ばれる擬態能力を持った小型バイドだろう。
ともかく報告されていたゲインズは、無力化した。


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「提督、ゲインズタイプと思われたのはメルトクラフトの擬態であったようです。」
「まんまと騙されたか。しかしこちらに特に被害は被っていない。」
「恐らく、タブロックもメルトクラフトでしょう。」
「だとしてもやることは変わらない。全艦前進。タブロックを艦砲でなぎ払うぞ。敵旗艦の前だけには出るな。」


長射程には長射程を、射程で艦砲に適う兵器は無い。
戦艦エンクエントロスと、旗艦フィンデルムンドが並走して、艦砲を振り回す。
中型バイドのタブロックといえど、大型ミサイルの直撃には耐えられまい。
多少の被弾はあるだろうが戦艦の装甲は硬い。生半可な攻撃は通らないのだ。


「提督、フィンデルムンド、エンクエントロスともにバイドを射程に収めました。」
「よし、各砲門発射許可。敵小型~中型バイドを殲滅するぞ。」


大型ミサイルや主砲レーザーを打ち込むと、タブロックは溶けて白い戦闘機になる。
やはりメルトクラフトか。
これなら一撃で倒せなくとも反撃を貰うことは無いな。


タブロックを順調に溶かして進軍していたその時、
隣にいた戦艦エンクエントロスがぶれる。遅れて爆煙を上げる。
後部スラスターと機関部を繋ぐラインが破壊されている。
あふれたエネルギーが小爆発を起こす。


「なにが起きた!」
「バイド反応あり、アンフィビアン2が亜空間に潜んでいたようです。」
「戦艦エンクエントロス、敵波動砲が推進部に被弾した模様。出力が低下しているようです。その他R機隊にも被害が出ています。」
「全艦停止。早期警戒機は亜空間ソナーを急がせよ。」
「提督、アウルライト隊は先ほどの戦闘で2機撃墜。1機中破です。2機しか動けません。」
「でれるR機は出撃させよ。戦艦では狙い撃ちにされる。レーニョベルデはどうした。」
「先ほどのタブロックのミサイルで亜空間バスター射出口が破壊されました。」
「亜空間バスターは無理か。…全方位警戒。亜空間機が現れたらすぐさま応戦できるようにせよ。」
「提督!敵旗艦が来ます。」
「艦首砲用意!射程に入り次第ムスペル砲を発射せよ。こちらの射程の方が長いはずだ。」


2機になったアウルライトは亜空間ソナーを打ち出す。
反応は微弱だが、戦艦の優秀なレーダーは機影を拾う。
被弾したエンクエントロスは、ダメージコントロールを行い、二次被害を抑えるので手一杯だ。
最悪の事態に備えてR機も次々に飛び出して艦外退避している。
程なくして、バイドの亜空間機アンフィビアン2が通常空間に戻ってきた。
燃料がなくなったのだろうか。ここぞとばかりにR機で殲滅する。


デブリを弾きながらボルドタイプのバイドが迫ってくる。
大きい。
しかし機械屑を取り込んだような大型ボルドは、
艦首砲を抱き込むような歪は構造になっている。
これなら見た目より射程が短いはずだ。
私は大型ボルドの前にフィンデルムンドを進める。

「ムスペル砲発射用意。目標、大型ボルドのコア。」
「ムスペル砲エネルギー充填完了。発射準備完了しました。」
「てえええぇ!」


_______________________________________


「最期の不意打ちの被害が大きいな。」
「エンクエントロスは現在応急修理中です。後30分ほどで動けます。レーニョベルデの被害はすでに復旧しています。R機は数隊が全滅、かなりの被害が出ています。」
「ふう、一応エンクエントロスのR機を空母エストレジータに移して置こう。」


私は被害報告を見やって、言った。
ディスプレイには波動砲が直撃した戦艦エンクエントロスが応急修理している様子が映っている。
さすがにテュール級戦艦の装甲は厚く、船体を貫通はしなかったが、
艦の後部スラスター付近から内部の機関部近くまで、被害が及んでいる。
内部爆発で、少し捲れあがっていた装甲板は、
現在、塗装されていない装甲板で接いであり目立つ。
ダメージコントロールが上手くいったので、被弾直後の小規模爆発を除けば、二次被害はほとんどなかった。
人的被害もあり、船速にも影響が出るかなりの被害だ。
しかしバイドから地球を守った代償であるなら、
戦死した彼らも許してくれると思おう。


「提督。これでバイドの侵略を防げましたね!」
「ワープ空間から、とんぼ返りして地球まで戦闘しながら戻ってくることになるとは。」
「でも…これで、この遠征艦隊の任務も終わりですね。」
「湿っぽくするのはまだ早い。…降下したバイドがいたかもしれない。
応急修理が済み次第、我々も降下して、地球の様子を確認しながら本部に戻ろう。」


______________________________________


これより大気圏に入り、打ちもらしたバイドがいないか捜索することとした。
我々は高度を下げ、上空から地球の様子を見た。
…バイド反応は検地されない。
地球は無事だった。


艦隊は北半球にある山岳地帯の上空を通り、
徐々に高度を下げながら地方の都市の上を通りぬける。
この高度では人は見えないが、建物に特に被害は見られない。
朝日に照らされる山岳地帯の山並みの美しさが我々の働きを讃えてくれているように思えて感慨深かった。
この自然や人々の営みを見たくて、私は戦ってきたのだと思えた。


さらに高度を下げ、街から離れた山あいにある戦没者墓地の上空を通った。
小さな墓標が規則正しく並んでいる。
墓地の一角に、喪服を着た母娘がいるのが小さく見えた。
娘は我々の艦隊に向けて小さな手を振っている。母親はじっとこちらを見上げている。
彼女達には我々がどう見えているのだろう。


私には母親がどんな表情なのか想像できなかった。
想像の中の親子は顔の部分がポッカリ空いていて、表情が分からなかったのだ。
私はドキリとする。自分が何か大切なものを失っているような気がしたのだ。

私は戦闘のことしか考えられなくなってきているのだろうか…?

私はバカバカしい考えを、頭を振って意識の外に追い出した。
今はそんなことより、地球の防衛のことを考えるべきだ。


「提督!緊急連絡です!」
その時、ガザロフ中尉から報告が入った。
第一宇宙艦隊が撃破され、バイドの降下を許してしまったとの事だ。
降下したバイドは再び集結し、統合作戦本部のある基地に向かっているらしい。


統合作戦本部と、本部のある南半球第1宇宙基地が壊滅することは、最重要防衛拠点を失うということだ。
すでに防衛線が下がる場所は無い。まさに最終防衛線だ。
私は戦力を増強するため、強化された権限を使って他の艦隊の残存勢力を集結させ、我々の艦隊に組み入れた。
バイドに撃破された艦隊やはぐれたなどで、原隊復帰ができない部隊を取り込んだのだ。


「目的地、南半球第一宇宙基地。大気圏内第一戦速で進め。」


大気圏内では最大戦速を出せないのがまどろっこしい。
私は地球の大気圏内で出せる最大限のスピードを指示した。









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作者は戦艦…というか艦隊戦が好きなんですけど、
メカとか戦艦の構造とか戦術とか全く分からないので、
被害程度とかどれくらいにしようかと、いつも悩みます。そして適当に書きます。
内容もオリジナリティのないプレイ日記になってきた気がしますが、自重しません。
書きたいものを書く所存です。
…でもおかしい所見つけたら言ってください。こっそり修正します。

さて、次回は念願の「沈む夕日」です。
実は半分以上これを書きたいがために、後編を書いてきたわけですが、
「夏の夕暮れ」と双璧をなす人気イベントなので、
上手く書かなければならないプレッシャーが…。

夏の夕暮れ、沈む夕日、驚愕する、暗黒の森の番犬…
「R-TYPEの神展開=超鬱」な気がしてならない。
さすがはirem。



[21751] 14 沈む夕日 Side:A (前編)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:48
・沈む夕日 Side:A (前編)


南半球側を防衛していた第一艦隊が撃破され、バイドの大群が本部に向かってきている。
そう、緊急連絡をうけて、我々は地球上で出せる最大速度で基地に向かっている。


詳細な報告が来るにつれ分かったが、第一艦隊は単純に敗れた訳ではないようだ。
第一艦隊が当たったのは、小型バイドを中心とした大規模な群であったが、
大規模なバイドの群は途中で2つに分かれて、別々の場所から地球に降下しようとしたらしい。
慌てた第一艦隊は、戦力を二分して何とかこれらを撃破した。
しかし、その隙を突いて大型バイドを含む群が襲ってきて、各個撃破されたらしい。
この報告が本当なら、そのバイドの群は戦術を用いたということになる。
しかも、艦艇の推進装置などを優先的に破壊することで、短い交戦時間で第一艦隊の足を潰し、
追撃不可能になったところで、第一艦隊を無視して地球に降下したらしい。
第一艦隊が壊滅した訳ではないが、突破されたということだった。


_______________________________________


なんとか、バイドの大群より先に地球連合軍の本部である南半球第一宇宙基地にたどり着いた。
地球上空で推進部近くに被弾した戦艦エンクエントロスは、航行速度が低下していたので、置いてきた。
他の艦隊の残存兵力を取り込みながら、遅れて到着することになっている。


本部からの情報では、本来基地防衛に付くはずの第一艦隊が地球上空でバイドに抜かれたため、
急遽、工廠にあった兵器や手持ちの兵力を無理やり動員してなんとか、引き分けたらしい。
基地を挟んで我々が展開している防衛線の逆側ではビル群が黒煙を上げている。
斥候といってもコンバイラタイプもいる大型の群れであり、かなりの大きさであったとのことだ。
向こう側に戦艦の残骸が見える。墜落したのだろうか。
あの槍状構造には見覚えがある。
以前ここの工廠にで見たのと同じ型…最新艦のニブルヘイム級戦艦だろうか。
白亜の巨体は現在、艦首を割かれ基本構造もねじ曲がった状態で地に伏せていた。
工廠から持ち出されたのなら、戦力として運用できただけでも奇跡だろう。


「提督、緊急連絡…Team R-TYPE本部からです。」
「Team R-TYPE?こんなときに。こちらに回してくれ。」


『こんにちは、私はTeam R-TYPE開発部長のサヤ・S・バイレシートです。終戦の英雄にお会いでき光栄です。』
「バイレシート部長、急いでいるので、用件を。」

部長と名乗ったのは、落ち着いたスーツを着た40代の女性だった。
長々あいさつしてきたので、先を促す。

『用件は一つ。今回の防衛線で、我々の新兵器をお貸しします。』
「新兵器?戦艦は今から箱だけ貰っても運用でませんが。」
『戦艦…ああ外のニブルヘイム級を見たのですね。
違います、R機ですわ。我々の目標であり、終着点。R機の中のR機。』
「それで、それは何です。」
『究極互換機Rwf-99ラスト・ダンサーです。』
「究極互換機?」
『全てのフォースを装備でき、全ての波動砲を発射できる。
ありとあらゆる状況に対応できるR機の最終形態です。
もちろん機体性能も既存のR機とは比べ物になりませんわ。』
「では、そのラストダンサーでバイドの斥候部隊を破ったのですか。」
「いいえ、違います。碌に訓練もされていない艦や兵に、我々のラストダンサーは任せられませんわ。」
「余剰戦力がありながら、今まで出さなかったのか!」


つい、声を荒げる。
基地の外に残骸となっていたニブルヘイム級。
あれだって、相当数の人員が乗っていたはずだ。
工廠の中にあったものを無理やり運用したのだから、
正規乗組員でないもの達も手伝って運用したのだろう。
人類の危機に立ち向かうために、決死の覚悟で。
そして、その多くが英霊になった。

それを訓練不足の一言で、戦力を出さずに
今になって最新兵器を出してくる。
それほどまでに新兵器とやらが大事なのだろうか。



おかしい。
いつもなら適当に感情を抑える事ができるのに、
ここのところ、感情が上手くコントロールできない。
…気のせいでは無い。
やはり、私は感情的、好戦的になってきている。


しかし、今はいがみ合う場では無い。
感情をニュートラルに戻すんだ。
勤めてビジネスライクに。


『バイドに取り込まれては困ります。全てを犠牲にしてでも守るべきは、
反撃の手段、有効な兵器です。守るだけではいつか倒れるだけですから。』
「わかりましたバイレシート部長。それで、貸与とは?」
『その言葉の通り、あのラストダンサーはバイドに対抗する貴重な戦力であり試験機です。
統合作戦司令本部より、この基地の防衛につけるよう命令が来ていますが、今手放す訳にはいきません。
よって、この基地の防衛の間、ラストダンサー隊の指揮権をあなたに委譲します。』
「…協力に感謝する。」
『いえ、ギブアンドテイクです。』
「どういう意味です?」
『我々は我々なりにバイドに対抗するための戦略を持っているのですわ。では御武運を。』


通信が切れた。
通信が切れる際、バイレシート部長言っていた言葉。
私の皮肉に対する反応ではなさそうだ。
彼女は…Team R-TYPEは何を考えている。


究極互換機…ラストダンサーも謎だ。
今までの実験機やテスト、データ収集はすべて、
あれを作るためのブレイクスルーを求めていたのだろう。
名前通り‘究極’のR機を作ることがTeam R-TYPEの目的?


違う。R機を作ること自体が目的ではない。
そもそも軍という集団で運用するんならば互換機である必要は無い。
互換機のメリットとは、単機での突入戦などだろう。
援護を受けられない状況下で、もっとも有効な攻撃が選択出来る機能。


あれは何らかの手段だ。
あのR機を使って何をしたい。
バイドの殲滅?それとも…?
何がTeam R-TYPEの目的なんだ?


「提督、ラストダンサー隊が着艦許可を求めています。」
「!…許可する。」


ベラーノ中尉の声が聞こえ、思考の海から一気に引き上げられる。
今はそんなことを考えているときじゃない。
最近、思考が良く跳ぶな。
頭を振る。


そろそろ、敵が攻めてくる時間だ。


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海面に映るのは暮れかけた夏の太陽。
空は見事な黄金色。
街では街灯が燈りだす。
ビル群からも煌々と蛍光灯の光が漏れる。


遠目で見れば、まだまだ活動を続ける都市の夕方。
しかし、そこに住民の姿は無い。
すでに民間人の避難は終了したとのことだ。
しかし、恐らく残っている人もいるのだろうな。


ここは軍事都市だ。
ここが墜ちれば地球が終わることくらい、みんな分かっている。
だから今まで住んだ町を離れたくないのだ。
または、最期のときになるかもしれない今日を、
暗いシェルターで過したくないのかもしれない。
たしかに、この空は見る価値がある。


「提督、来ました。バイドです。」


黄金の空を降りてくるのはバイド。
その中に一際大きい朱い装甲のバイドがいる。
敵の旗艦、コンバイラタイプだ。
倒すべき敵。
そのコンバイラを見た瞬間、頭の中に砂嵐が走る。


― サ…、い……カ ―


バイドの精神攻撃?
奇妙な感覚を振り払うために、頭を被り振る。
そんなことより、今は前を見なくては。


「ここが正真正銘の最終防衛線だ。みんな、守りきるぞ!」


「さあ、行こうか。」


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戦艦エンクエントロスは間に合わなかったが、他の兵力をつぎ込んだ。
ここに来るまでに、多少他の艦隊の残存勢力を吸収している。
消耗したR機も、定数とは行かないが、埋められた。
我々は地球第一宇宙基地の上空に陣を張った。
この基地には第一宇宙艦隊の他に、陸軍、海軍を小規模ながら保有していたのだが、
そのどちらも今回は出撃していない。


陸軍は、先のバイド斥候部隊来襲の際に基地に、キウイベリィ大隊を率いて、
基地にあったR機やニブルヘイム級とともに戦い。相打ちに持ち込んだ。
ただし、陸軍のキウイ大隊も壊滅的被害を受け、対バイド戦力を失った。
現在、残された歩兵戦力がこの都市の民間人の避難誘導に当たっている。


海軍は地球の海を守護する連合軍地球第一水上艦隊、第二水上艦隊がいるが、
北半球に民間人や研究者、技術者を輸送するのに追われている。


つまり、今ここにいる戦力は我々だけということだ。
我々は今、海洋上に集まったバイドとビル群を挟んで対峙している。


私はゆっくりと艦隊を進める。


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突然、砲声が轟く。
まだ、バイドは射程内に入っていない。


「誰が撃っているんだ?」
「今この戦場にいるのは我々だけのはずですが。」


応えるベラーノ中尉も訝しげだ。
音の発生源を特定して、望遠していくと、海上に艦影が見えた。
水上艦3隻 ―エーギル級2隻、ラーン級1隻― が水際に並んでいた。
連合海軍はすべて、民間人らの護送任務についているはずでは?
そのまえに、バイドの大群の前にあの戦力では…!


「提督、あの艦隊から通信です。」
「繋いでくれ。」


ディスプレイに映ったのは白髪の老齢の海軍将官で、
地球連合海軍、第一水上艦隊司令ポール・ガーファンクル少将を名乗った。

『我々第一水上艦隊は基地防衛のため、バイドに対し攻勢を仕掛ける。援護は不要だ。』
「しかし、ガーファンクル提督…」

バイドが上陸する前に、水際で砲撃を加えて戦力を出来るだけ削ると言うのだ。
正直言って、あの戦力ではバイドに蹂躙されるだろう。
バイドのすぐ下とも言える距離に居る彼らに、それがわからないはずが無い。
この距離では、今からR機を発進させても間に合わない。
しかし、ガーファンクル提督も、その後ろに映る他の参謀達も、一切迷いの無い目をしている。
彼らは自分達が死地に赴いていることを分かっていて、なお人類のためにと残った軍人なのだと理解した。

『我々には海軍としての誇りがある。新参者の宇宙艦隊だけに、地球防衛は任せておけん。』

ガーファンクル提督は言った。
謝礼、同情は受け取らない。という意思。
そして迷っている私への無骨な気遣いだろう。

「貴艦隊の御武運をお祈りします。」

私が敬礼をすると、戦闘指揮所にいるスタッフ達も続く。
ガーファンクル提督がディスプレイの向こう側で敬礼を返した。
ディスプレイが閉じる。
指揮所内に沈黙が続く。痛いくらいだ。


「提督。我々のできることをしましょう。」
「ベラーノ中尉…そうだな、艦隊前進。早期警戒機、亜空間機は出撃、その他R機は出撃に備えよ!」


ディスプレイに表示された望遠映像では、
水上艦からの弾道弾迎撃ミサイルによる艦隊射撃が行われている。
ミサイルの数が多い。
どうやら水上艦だけでなく攻撃潜水艦グランビア・Fも残ってくれたようだ。
撃ちつくす勢いでミサイルを撃ち、対空機関砲で弾幕を張る。
上空のバイドはそのままこちらに来ているが、低空を進むバイドは第一水上艦隊に誘引されている。
望遠画像なので詳細は分からないが、レーダーリンクで繋がったレーダー網からは、
小型バイドやバイド輸送艦ノーザリーが消えてゆく。


しかし、バイドもやられてばかりではない。
バイドに攻撃されたのかエーギル級の艦橋が吹き飛ぶ。
司令官を失った水上艦は動きを止めた。
そして、ミサイル、機関砲がバラバラに、しかし苛烈に砲撃が再開された。
司令官が死亡した事を悟った現場の人間が、各自反撃し続けているのだろう。
2発、3発とバイドのミサイルが着弾し、甲板の傾斜が次第に厳しくなる。
そして船体構造が耐えきれなくなり、海中へと沈む中でもまだ、攻撃しようとしているように見えた。


他の2艦も同様に砲撃を続けていたが、
第一水上艦隊の旗艦ラーン級は突然、見えない何かに押しつぶされるように船体が変形する。
2撃、3撃。
船体に遠目でも致命的と分かる亀裂が入り、一気に沈没した。
最後に残ったエーギル級に小型のバイドが殺到するのが見える…。侵食する気だろうか。
内部から爆発が起きる。
おそらく、自分達の末路を悟った艦内の人間が機関を爆破したのだろう。
そして先ほどのラーン級と同じようにエーギル級が潰れ、それを最期に海中に消えた。


私達には見ていることしかできなかった。
「提督、あのエーギル級より電文とデータが届きました。」
「データ?」
「ええ、敵バイドの交戦データです。」
「最後に敵の情報を残してくれたのか。有効に活用しなくてはならないな。」
「提督。あと…幸運を祈る。と」
「…」


私は黙って、つい先ほどまで第一水上艦隊が居た場所に向けて敬礼をした。


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我々はビル群の手前まで進軍している。
先ほど水上艦隊が送ってくれた情報の分析はバイドの情報に詳しい、アッテルベリ中尉に任せた。

「提督。水上艦隊から送られてきた情報の分析が終了しました。」
「分かった。報告を。」
「了解しました。端末をご覧ください。」


イヤホンを片耳に挿し、提督席にある手元の端末を見る。
まず、映ったのは水上艦隊の艦載カメラの映像で、イヤホンに流れてきたのは艦橋の音声だった。


エーギル級の艦長らしき人物が、士気を鼓舞し、ミサイル発射を叫んでいた。
画質の悪い映像からは、空いっぱいに広がるバイドと、
白線を引いて飛んでいく弾道弾迎撃ミサイル。曳光弾が交ったの対空機関砲の射線が見えた。
画面端には第一水上艦隊旗艦のラーン級の船体が映っている。
バイドの攻撃は苛烈を極め、艦橋でも飛び込んだ破片で死傷者が出ているらしい。

そのとき、突然奇妙な音とともに、隣にあるラーン級の構造物がひしゃげる。
3度目の音とともにラーン級は海に飲まれた。
エーギル級の艦橋で、上だ。という声が挙がる。
上空には奇妙な大型なバイドが見えた。大きな肉塊がうごめいているのだ。
射線がその大型バイドに集中する。すると、肉塊がぼろぼろと剥がれ始める。
そのまま落ちると見えた肉塊は、重力に逆らって進路を変える。
カメラの…エーギル級の方に向かってきたのだ。
小さく見えた肉塊は小型バイドほどもあった。
迎撃が行われるが、数で押され、ついにはエーギル級の船体取り付いて衝撃をもたらす。
音声からは、うめき声が聞こえ、無事を確認する声が聞こえる。そして悲鳴。

カメラで見えた肉塊のは5体まで。次々に肉塊が降り注き、その重さで艦が沈み込む。
バイドの侵蝕を確認。という悲鳴が上がり、機関を爆破しろとの答え。
そして、爆音。肉塊が爆ぜ、画質は最悪だが視界が戻る。
上空にいたのは大きな肉塊ではなく、ウニか栗のように棘を生やしたバイドだった。
そして、大型バイドの中央のコアが光った。


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…そこで、映像は終わっていた。

「…。あれはなんだ?」
「ベルメイトです。正確には生命要塞であるベルメイト本体とベルメイト肉塊です。バイドミッション時に確認され、複数のバイドを表面に吸着させて輸送することが、知られています。」
「…あの攻撃の分析はできたか。」
「おそらくなんらかの方法で衝撃波を作り出しています。ただ指向性が非常に強いようなので、ベルメイトの反応速度を上回る機動を行えば回避できるかもしれません。あとは、肉塊を使用して敵を押しつぶし、侵蝕を行おうとしています。肉塊には近づかない方が良いでしょう。映像から分かったのはこれくらいです。」
「他に分かった事は。」
「画像を解析して、ベルメイトの他にバイドシステム系列の小型、ボルド等が確認されました。あと…。」
「あと?」
「ラーン級、エーギル級ともに沈没する最後の瞬間まで抵抗をつづけたようです。」
「そうか…」


多少でもバイドの構成、敵の攻撃手段が分かったのは幸いだ。
第一水上艦隊には感謝しきれないな。


「ベラーノ中尉、民間人の避難は完了しているな。」
「はい、都市部から脱出したか、地下シェルターに避難したと、陸軍から報告がありました。」
「分かった。これで高層ビルを守る必要が無くなったな。」


ここは軍事都市であり、攻撃が予想される基地周辺の建築物には、強化建材が使われている。
ビルに入っているのが、ほとんど軍事関係の組織、企業であり、
周囲の住民もほとんど、軍人かその関係者だからだ。
しかし、さすがに波動砲級の攻撃には耐えられない。
波動砲級でなくともミサイルが当たれば、倒壊はせずとも中は悲惨なことになるだろう。
そもそも、バイドは味方の被害さえ無頓着だ。そんな奴らが障害物を破壊しないなんて言えない。
バイドの攻撃から建築物まで守ることは出来ない。
電気がついているビルが多いが…
人の有無を確認している時間は無い。消す暇がなかったと考えよう。


「まずは、ビルを盾に敵小型バイドを迎撃する。」


戦闘開始だ。





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沈む夕日 side:提督の前編でした。
だいたい、1話あたりword15枚以内に収まるように書いているのですが、
執筆途中で、20ページを超えるのがわかったので分割です。

ちなみに、どうしても出したかったので、ラストダンサーのゲスト出演フラグ立てました。

水上艦隊はtacticsⅠの沈む夕日にいるヤツが元です。
水上艦1隻だけで先頭にいるとか、どう考えてもカミカゼにしか思えないです。
しかも書いてみたら意外にでしゃばりでした。



[21751] 15 沈む夕日 Side:A (後編)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/16 22:52
・沈む夕日 Side:A (後編)


さあ、戦闘開始だ。


敵の第一波は唐突だった。
先頭に配備していたアウルライト隊とダイダロス隊の一部が、いきなり撃墜された。
索敵は密に行っていたし、レーダーにも機影は無かったはず。
しかし、何も無いはずの空域から、突然、波動エネルギーを持った霧状の攻撃が起こり、
霧に包まれたR機は装甲か溶け落ちるよう剥がれて、爆散した。
後に残ったのは、何もなかった座標に唐突に現れた、霧を纏ったような小型バイドだった。

「…波動砲?ベラーノ中尉。R機を全機ビルの陰に下げさせよ。」
「了解しました。亜空間機をビル内に残して、R機部隊に通達します。」
「ミスティレディの亜種か?…アッテルベリ中尉。」
「はい、外見、能力からミスティレディの発展型と思われます。便宜的にミスティレディ2としましょう。ミスティレディの波動砲は直進ぜず、重力方向に牽引されていましたが、ミスティレディ2の波動砲は、一度下方に下った後、上方に湾曲するようです。波動砲以外の攻撃は重力方向に牽引されるようです。」
「厄介な。ビルの陰も安全ではないな。…ベラーノ中尉。」
「はい、R機隊に情報を伝えます。」

「唐突に現れたのは、亜空間潜行だろうか。ミスティレディはそんな能力を持っていなかったと思ったが。」
「レーダーの反応の仕方から、亜空間潜行ではなくジャミングと思われます。小官の考えでは、ミスティレディ2ではなく、あの霧を展開しているフォースにジャミング能力があるのではないかと思います。波動砲を撃ったときミスティレディ2はフォースを装備していませんでした。しかし、レーダーに反応が無かったにも関わらず、あのミスティレディ2はいつの間にかフォースを装備しています。おそらくジャミング状態で追従して来たフォースを装備したのでしょう。」
「ジャミング能力を持つフォースか、邪魔だな。」
「どうされますか、提督。」

アッテルベリ中尉の説明を受けて、ベラーノ中尉が対応を聞いてくる。
我々に退くという選択肢はありえない。最早下る場所など無いのだから。
ならば私の取るべき選択は。

「Leoを前面に展開。サイビットサイファで付近を一掃する。」
「了解しました。」

ビルの陰からLeoが間隔を十分に置いて展開する。
壊滅した実験部隊から提督権限を持って編入させたため、Leoは3機あるのだ。
カウントを取って同時に飛び出した3機のLeoは、何も無く思える夕焼け空に向かって、
サイビットを射出する。


パイロットの意思を反映して、サイビット、エネルギーを纏って広範囲を駆け巡る。
このサイビットはザイオング慣性制御システムの恩恵を受けていないため、
R機のような慣性を無視した動きは出来ず、Leoを焦点に楕円軌道を幾重にも描く。
このときサイビットは後方、側方にも回り込むため、Leoは編隊を組めない。
便利さゆえの弊害だ。
しかし、その攻撃範囲の広さには目を見張るものがある。


3機のLeoによるサイビットサイファで、14機のミスティレディ2を落とし、霧を発するフォースもいくつも破壊した。
フォースを破壊すると、周囲のミスティレディ2がレーダーに映ることと言い、
アッテルベリ中尉の予想通り、あのフォースがジャミングを行っていたらしい。
しかし、喜んでばかりもいられない。
フォースが消えると、そこにはミスティレディ2の大群が現れた。


フォースの加護を失って姿を現したミスティレディ2が一気に襲い来る。
一番前に出ていたLeoがミスティレディ2の集団に囲まれて、
打ち下ろしのレーザーを受ける。Leoは回避機動で逃れようとするが、
雨のように降り注ぐレーザーを数機から撃たれて、逃げ場を無くす。
たった今、サイビットサイファを繰り出したLeoは、サイビットのチャージが足りず、有効な攻撃が出来ない。
エネルギーの雨に打たれてLeoが1機落とされた。


勢いに乗ったミスティレディ2は一気にビル上空に押し寄せた。
ビルの陰に隠れていた部隊が、上方からの打ちおろし攻撃に被害を受ける。
ビル街では上下方向に有効な遮蔽物はない。
ビルの陰に展開していたR機各隊は、頭を敵に抑えられ、
水平移動はビルのせいで、ままならない。
回避を取れないままに、一方的に蹂躙されていく。


「提督、このままではR機隊が持ちませんっ!」
「分かっている。トロピカルエンジェルならばビル街でも抜けられるはず。
Tエンジェルで敵の攻撃に穴を開けるんだ。そこからビル上空にR機を移動させ反撃を行う。」


命令を受けた超高機動機はその鋭角的な機動でビルの合間を移動して攻撃を避ける。
群れているミスティレディの切れ目を見つけて一気に上昇し、敵群の上方に躍り出る。
Tエンジェルの上方からの攻撃にミスティレディ2は、反撃が出来ない。


Tエンジェル隊が一隊で倒せる量はたかだか一個小隊程度だが、それでも攻撃の空白地帯が出来る。
空白を目指して上昇してきたのは、私の艦隊に吸収したR機ケルベロスだ。


重武装戦闘機Rwf-13Aケルベロス
機動力は決して高くないが、高い攻撃力を持つ黒色のR機。
ライトニング波動砲は、波動エネルギーを電撃に変換して打ち出すもので、敵に向けて拡散、追尾する性質がある。
また、フォースも変わっており、アンカーフォースという特殊フォースを装備する。
バイド係数を高め、より攻撃的にしたコントロールロッドに付随した鉤爪で敵に食いつき破壊する。
非常に便利だが、その高いバイド係数が問題となって、制御のために有線でR機と繋げなければならない。
ケルベロスという名前だが、フォースを光学チェーンで繋いで、シュートする様子はむしろ番犬ではなく飼い主の様だ。
バイドミッションの中に開発された当時最先端機だったが、試作機が一度作戦に参加した後、何故か今まで使用を凍結されていた。


ケルベロスはビル上からミスティレディ2見渡す。
周囲の敵機をミサイルでなぎ払い、波動砲のチャージを再開する。
黒いR機の先端にエネルギーが集まりはじめ、あふれ出たエネルギーが紫電となって周囲の空間にほとばしる。
ミスティレディ2に向かって、発射。
解放されたライトニング波動砲は獲物を求めて、貪欲に敵機に襲いかかる。
逃げ遅れたミスティレディ2がライトニング波動砲に食いつかれる。
バイド体を覆っていた霧が散じて、電撃が中身をが焦がす。
数箇所でケルベロスのライトニング波動砲の紫電が見られ、
霧が晴れて、空は再び黄金色に戻った。


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「ベラーノ中尉、被害程度報告を。」
「R機隊損傷率24%。艦艇に被害はありません。被害の酷い隊から着艦修理を行いましょう。」
「いや、余りに酷い損傷を負った隊は後ろに下らせろ。復帰が早い隊から修理を行え。」
「了解しました。提督。」
「後ろには下れない。戦線を上げるぞ。索敵は亜空間索敵をメインに行え。
アッテルベリ中尉。水上艦隊からのデータをR機隊に流して、注意を促せ。」
「了解しました。提督、敵小型機の主力と思われるのはバイドシステム系統です。
障害物の多い場所での戦闘を得意としていますので、ビル街での戦闘は避けるべきと思われます。」
「上空に上がるべきか…。R機隊はビル街上空に上がるように通達せよ。」


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「レーダーに感あり、小型バイドです。」
「小型バイドを確認。提督、小型バイドのバイドシステムλです。」

R機が配置を変更中に、小型バイドが襲ってくる。
早い。


バイドシステムλ
小型バイド体でバイドシステム系統の3型。
生体系の素材からなり、内臓や筋組織を想像させるパーツが出鱈目についている。
醜悪な外見をしており、生命そのものを冒涜するようにさえ感じられる。
バイドシステム系統は小型機としては標準的な機能を持った小型機群だが、
しいて言うなら、特殊な形態の波動砲を発射する。
機体後方からバイド体の周囲を回り込むように発射されるため、
障害物を避けて波動砲が飛んでくる。


「増援が早い。戦力を立て直す隙を与えない気か。」
「しかし、提督。バイドは高等思考を行わないのではないでしょうか。」
「地球上空では、第一宇宙艦隊相手に陽動を仕掛けてきたし、今回も上空からミスティレディで抑えた事、増援も的確だ。彼は明らかに戦略・戦術を使用している。」
「………彼?」
「うん?何か言ったかベラーノ中尉?」
「…いえ、何でもありません。」
「会敵前にR機は上空に上がらせろ。すでに配置に付いたものは援護を。」
「了解しました。」


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バイドシステムλは嫌なタイミングで襲ってきた。
まだ、先ほどダメージを受けた機体の修理は終わっていない。
開けた空で、数が圧倒的に多い敵とぶつかることは明らかに不利だ。
地の利を活かそうとビル街にもぐりこめば、敵の変則的な軌道の波動砲に襲われる。


彼はやはり相当優秀な指揮官の様だ。
しかし、私の双肩には地球人類の生存がかかっている。
相手が誰であろうと負けるわけには行かない。
私は命令をだす。

「ラストダンサー隊を投入せよ。」

私の命令とともにラストダンサーが夕焼け空に踊り出る。


究極互換機 Rwf-99ラストダンサー 
全ての波動砲を選択でき、すべてのフォースを装着できる。究極の全局面対応機である。
極力無駄を廃した外見をしており、より複雑に進化していったRの系譜から見ると、
原点のRwf-9Aアローヘッドに立ち返ったかのようだ。
Team R-TYPEが作成した全てのR機は、本機を開発するためにあったという。
極秘計画によって作成された真の対バイド兵器だが、その本当の目的は不明である。


ラストダンサーは動きを確認するように一度空中で止ると、波動砲をチャージし始める。
その間も、ミサイルを放ちBシステムλを打ち落とす。
高機動機までではないが、他のR機より機敏なその機動性にBシステムλは付いて行けない。
ラストダンサーは高出力を生かした機動でBシステムλを掠めるように接近し…


そして、バイドのフォースを奪った。


私は目を見張った。起こりえないことだ。
人類が使用するフォースはバイドの切れ端から培養した純粋なエネルギーなのに対し、
バイドが使用するフォースは、フォースと言う名が付いているが、
エネルギー状態を取っている小型バイドに他ならない。
それを奪い使用する。


-これではまるで‘バイドバインドシステム’ではないか?-


いや、むしろコントロールロッドを使用しないあたり、
太陽系開放同盟の開発したBBSより進化している。
Team R-TYPEはBBSを技術を持っている?
開放同盟本隊の生き残りのカトー大佐は、このごたごたでまだ身柄を引き渡していない。
彼から技術がもれるはずは無い。
それなのに、開放同盟より洗練されたシステム…


太陽系開放同盟にBBSの技術を流したのはTeam R-TYPEなのか!?
彼らなら、現地実証のために敵に技術を渡しかねない。
ワープ空間という隔離された空間で未完成な技術の検証をしたのか?
今思えば、この艦隊にもR機の改修のためにTeam R-TYPEの技術屋が参加している。
彼らなら、R機から映像データや交戦データくらい抽出できるはずだ。
ワープ空間での交戦データを他のデータに紛れ込ませ、連絡艇で本部に送るのは可能だろう。
何を考えているTeam R-TYPE?


私の疑惑を余所に、ラストダンサーは波動砲に、ミサイル、フォースシュートなど、
夕日を背にダンスを踊っていた。


R機隊はBシステムがラストダンサーに気を取られているうちに、体勢を立て直す。
ドミニオンズ、ナルキッソス、サンデーストライクが上ってきたのが見える。
ラストダンサーは最期にオマケとばかりにバイドフォースをシュート。
自らの半身に抉られたBシステムは、迫り来る雷を避けられない。
ライトニング波動砲がバイドシステムλとバイドフォースを消し飛ばした。


生体バイドへの切り札。ドミニオンズの火炎波動砲が火を噴き、その生体組織を焼いていく。
ナルキッソスが余ったフォースを切り刻む。
第二波も何とか乗り切れたようだ。


_____________________________________


「索敵、亜空間ソナーに感なし。提督、敵機は発見されません。」
「あの肉塊は、いないようだな。」
「よろしい。ビル群の切れ目まで前進する。亜空間機でビル内部より向こう側を索敵させよ。」
「R機はビル群上空で待機、索敵が完了ししだい前進する。」
「Sストライク、ダイダロス各機亜空間潜行を確認しました。」


激戦ですでに両隊ともに定数を欠いているが、それでも亜空間索敵は重要な情報元なので、
利用しないわけには行かない。
このビルの向こうは海だ。第一水上艦隊が布陣していた場所。
おそらくベルメイトとあの肉塊が居る。慎重を期したいところだ。あの衝撃波は危険すぎる。
ビルの壁の中からの索敵ならば、通常空間には引き戻されずに索敵できる。
ベルメイトの位置だけでも確認したい。


「Sストライクより連絡、肉塊を発見。索敵を続行するとのことです。ダイダロスより連絡、ベルメイト2隻を確認。」
「亜空間機を戻し…何だ!」

爆音。

「レーダーからSストライクとダイダロスの反応が消失しました!」
「提督、亜空間バスターが2発使用された模様です。」
「亜空間バスター?レーニョベルデの暴発か!?」
「提督、レーニョベルデは後方にいます。バイドから…おそらくベルメイトからの攻撃でしょう。」
「くっ…亜空間索敵は断念するしかないか、デコイを上空から出してみよう。」


POWアーマー改のデコイが、ビル上空から向こう側を覗く…
しかし、ビルの陰から出たとたんに、衝撃波に襲われて破壊される。
射程、命中率ともに脅威的だ。
R機といえどビルの陰から出れば狙い打たれるだろう。
数で押しても、敵にはあの肉塊がいる。
あれで足止めされているうちに本体に狙われる。
八方塞だ。


「提督、命令をっ!」
「…」


そんなこと、私が聞きたいくらいだ。
でも司令官がそんな弱気なことを言うわけにはいかない。
命令を出せない司令官なんて意味が無い。考えるんだ。
ベストでなくともベターな選択を。


・ワイズマンの誘導波動砲でビルのこちら側から回りこんで攻撃。
  -却下。誘導波動砲はビルの向こう側にまわりこめるほど射程が長くない。


・R機で物量に任せて強襲
  -却下。ビルの隙間から顔を出した瞬間に衝撃波の餌食だし。乗り越えても肉塊が待っている。


・回り込んで背後から奇襲。
  -却下。正面戦力を減らせば、一気に基地に流れ込まれる。
 

・戦艦で強襲。
  -却下。戦艦はビルの合間を通れない。上空から攻めればベルメイト到達前に衝撃波で落とされる恐れがある。衝撃波の射程が分からない以上はできない。



ビルのこちらから攻撃できれば…。
………!


ひとつだけある。安全圏から攻撃出来る方法が。
これしか無いか、でも…。


「ベラーノ中尉。市民の避難は完了しているな?」
「はい、連合陸軍より連絡を受けています。」
「アッテルベリ中尉、ベルメイトの現在の位置を割り出せ。」
「了解しました。POW改の画像データから予測します。」
「ベラーノ中尉。各R機に波動砲をチャージさせよ。」
「了解しました…。提督なにを?」
「高層ビルごとベルメイトを打ち抜く。」
「提督!それは…」
「幸い避難は済んでいる。強化建材でできたビルだが、波動砲なら貫通させられる。」
「…よろしいのですか?」
「これが一番確実で、犠牲が少ない方法だ。」


そう、ベストではないがベターな方法だ。
ここで負けるわけにはいかない。
たとえそれが、守るべき文明の象徴であったとしても、
今、戦力として運用できる兵器・軍人と、誰も居ない建築物ならば、私は前者を取る。
戦後、誰かが責任取らねばならないなら、私が降格でもされればいいさ。


最良の方法は残念ながら私には見つけられなかった。
若き英雄ジェイド・ロスならば見つけられたのだろうか…。
でも、今、怖気づいて全てを失う訳にはいかないんだ。


「全軍に通信を開け。」
「了解しました。」


この命令ばかりは、私が直接しなければならない。


「こちら艦隊司令だ。これより、生命要塞ベルメイトの攻略を行う。
通常の攻撃手段では、攻撃が不可能であるが、一つだけあのバイドを打ち破る方法がある…
艦隊司令からR機各機へ命令する。波動砲でビルごとベルメイトを打ち抜け。
すでに住民の避難は完了しているため、人的被害は考慮する必要はない。
また、この作戦における全責任は私が取る。
…全機、配置に付け。」


私は通信を切り、準備完了の報告を待つ。
苛立ちを隠すんだ。司令官は自信を持って命令しなければ誰も付いてこない。
展開し始めるR機をじっと見る。


「提督…」
「問題ない。住民の避難は終わっているし、上手くいくさ。」


私は強張りそう顔に、笑みを貼り付けて、ベラーノ中尉に答える。
さっきから、ベラーノ中尉は私を心配そうに見てくる。
自信の無さが、顔に出ているのだろうか。


「提督、R機隊配置に付きました。すでに波動砲のチャージ完了しています。」
「よろしい、全軍に繋げ。…艦隊司令よりR機各機に命じる。
目標、生命要塞ベルメイト。波動砲準備……撃てえええぇぇ!」


まばゆい光が幾筋もビルに突き刺さり、向こう側に抜ける。
強化建材で出来たビルは、波動砲で構造を破壊され、地響きとともに上部が崩れ落ちる。
林立していたビル街は今や廃墟と化した。
残ったビルが黒い影を長く伸ばしている。まるで墓標の様だった。


____________________________________


「提督、ベルメイト反応消失しました。肉塊が数体残っています。」
「R機部隊に追撃、深入りしすぎないように。」


アッテルベリ中尉の感情の含まない声が、今はありがたい。
戦闘指揮所の空気が重い。
街を守ることが難しいことは分かっていたし、一応あそこには誰もいないはずのビルだ。
今まで守ろうとしてきたものを自分たちの手で壊すという行為が、今更すごく重く感じた。
バイドが破壊したなら、怒りを感じても、罪悪感を感じる事は無かったはず。


「索敵は?」
「レーダーに敵影はありません。偵察機が足りないため、索敵範囲が狭まっています。」
「旗艦フィンデルムンドを前に出そう。戦艦の索敵能力の方が優秀だ。
…レーダーを阻害する構造物もなくなったしな。」
「…旗艦を前にですか。」
「ああ、戦艦エンクエントロスはまだ合流できていないし、他の艦艇では索敵能力に劣る。」
「敵にはまだコンバイラタイプがいます。危険では?」
「あの大きさなら、索敵にかかる前に光学で捉えられる。」
「分かりました。」


_______________________________________


ビル群を超えて、港湾施設の上空に居る。
目視する限り敵はあのコンバイラタイプのみだ。


「提督、敵旗艦コンバイラベーラが索敵範囲に入ります。」
「コンバイラベーラ?」
「先ほどTeam R-TYPE本部より通信がありました。コンバイラの進化系で主砲が強力に
なっていると思われるが形状から射程は延びていないと考えられる、気をつけるようにと。」
「Team R-TYPEにしては常識的な意見だな。ベラーノ中尉、他に何か言っていたか?」
「今までのバイドに比べて変わったところはあるか。と聞かれたので、各個体は変わらないが、今までより強力になっているようだ、と答えました。」
「…まあいい。で、そのコンバイラベーラの様子は。」
「こちらを認識したようです。あちらの索敵能力も戦艦クラスです。内部より小型バイドが発進してきます。」


途中、ボルドが海面ぎりぎりに張っており、少なくない数のR機が艦首砲にさらされ、
また、残っていたベルメイトの肉塊が爆ぜ、機体にダメージを与えた。
撃墜された機体さえないが、波動砲にチャージしていたエネルギーが拡散してしまった。
R機の損傷率も50%を超えている。人類同士の戦闘であれば、壊滅といえるレベルだ。
波動砲を撃てる状態の機体は少ない。
しかし、敵はすぐそこにいる。部隊を引いて立て直すことはできない。


「フィンデルムンド、艦首砲を撃てるようにしておけ。あと、今運用できるR機は?」
「了解しました。今、部隊として動かせるのはラグナロック、ステイヤー、ラストダンサー隊です。」
「火力不足だな。アッテルベリ中尉、これらの戦力で敵コアは潰せると思うか。」
「難しいでしょう。他の砲台から狙い撃たれます。」
「だろうな、R機体には小型バイドと艦首砲を潰させろ。R機なら主砲範囲外からまわりこめる。」
「はい、では本艦はコンバイラベーラのコアを破壊するのですね。」
「ああ、さあ決着をつけるぞ。」


_______________________________________


コンバイラベーラに格納されていた小型バイドはそれほど数が多くなかったが、
こちらの迎撃戦力が非常に減少していたため、苦戦している。
コンバイラベーラの艦首砲にまでは手が回らないようだ。艦首砲を無視するわけにもいかない。先にムスペル砲でこちらで潰すしかあるまい。


「目標変更、敵艦首砲!敵艦首砲が射程に入り次第ムスペル砲を発射する。発射遅れるな。」
「ムスペル砲いつでも撃てます。」
「目標ムスペル砲射程へ侵入まで、あと10秒。」
「敵の艦首砲もエネルギーを収束を確認。敵艦首砲、ムスペル砲に向いています。発射タイミングは…ほぼ同時です。」
「発射カウント5、4、3…」


次々に情報が入ってくる。
だが、彼がこちらの艦首砲を狙ってくるなら負けない。
波動砲の性能であれば、人類に軍配が上がる。
こちらの艦首砲は、大口径ならば波動砲より強力な陽電子砲。
撃ち負けるはずが無い。


「撃てえぇぇぇ!」


旗艦ムスペルヘイムとコンバイラベーラは同時にそれぞれの最大火力を撃ちこんだ。
そして、私は敵艦首砲から出たエネルギーが、二股に分かれるのを見た。
その瞬間、ベルトに体が押し付けられる感覚と、頭に痛みを覚えた。
一瞬消えた照明や、ディスプレイが元に戻る。
私は痛む頭に手を添えつつ、問いかける。


「痛…何があった!」
「敵の艦首砲被弾しました。損傷個所は前方装甲、第3装甲まで破壊されました!」
「コンバイラベーラ艦首砲は沈黙しました。」
「提督、同じ個所にダメージを貰えば貫通しかねません!」


怪我人。
怒涛の報告。
戦闘指揮所内は修羅場になった。
どうやら、敵の艦首砲は直進せず、上下2方向に分かれて進むタイプであったらしい。
上に分かれた方は当たらなかったが、下に分かれた方が艦の前方に被弾したらしい。


「艦首砲チャージ再開。」
「敵ミサイル発射、来ます。被弾部狙われています。」
「迎撃!」
「主砲レーザー使用不能、ミサイルで迎撃します。」


敵ミサイルは迎撃兼用ミサイルのビフレスト砲でなんとか、途中で撃墜できる。
しかし、レーザーが使えないとなると手数が足りない。
艦首砲はエネルギーがたまるまでは使用できず、ミサイルも迎撃でいっぱいいっぱいだ。


敵が迫ってきている。こちらも後退するが、今まで前進していたので急には後退出来ない。
もうすぐ敵レーザーの射程に入る。
レーザーはさすがに迎撃出来ない。今被弾した部分にもう一度攻撃を加えられれば装甲を貫通しかねない。
外部装甲は非常に堅牢だが、内部壁はそんなに防御力は無い。
貫通されれば内部はズタズタになるだろう。正面から破られればここや、機関部もやられる。


「ムスペル砲チャージ完了まであと1分。」
「R機は!」
「R機上空で戦闘中です。」
「提督!敵レーザー砲塔の射程に入ります。」


私は回避を命令しようとすると、ディスプレイに光の柱が映る。
コンバイラベーラの斜め後方から来たそれは、コンバイラのレーザー砲台を破壊する。
砲撃が来た方向をディスプレイで拡大すると、テュール級戦艦の艦影が見える。


「提督!2番艦エンクエントロスです。」
「よし、これで時間が稼げた。ムスペル砲発射準備。」
「ムスペル砲発射まであと30秒。」
「その他、海上に降下してくる艦影を確認しました。ニブルヘイム級が複数です。」


遠方の海上に戦艦が降下してくるのが見える。
ニブルヘイム級をそう幾つも保持しているのは地球連合の最精鋭、第一宇宙艦隊くらいだろう。
みんな地球を防衛に集まってきたのだろう。心強い。


「みんな援軍が来たぞ!だがしかし、撃ちとるのは我々だ!目標、コンバイラベーラ!」
「発射可能まで10秒…5、4、3…」
「撃てえぇぇぇ!」


ムスペル砲が光を放つ。
光の束がコンバイラベーラを飲みこむ。
コンバイラベーラは衝撃で海中へと墜ちる。


_____________________________________


「コンバイラベーラ海中へ落下、反応ありません。」
「上空小型バイドとの戦闘も終了しました。」


彼の動きが無くなったのを確認するが、みな動かない。
頭がついてきていない様子だ。
私は全艦通信を開く。


「…みんな、良くやってくれた。これで人類は危機を乗り越えた。我々は地球人類の命を救ったんだ。さあ、胸を張って凱旋しよう。」


みなボヤっとした顔でをしていたが、一瞬間が開いて戦闘指揮所内から歓声が上がる。
みんな抱き合ったり、ヘッドホンを投げたり、様々な方法で喜びを表している。
そんな彼らを今度は私がボヤっと見ていたが、肩を叩かれる。
ベラーノ中尉とアッテルベリ中尉がおり、敬礼してきた。


「提督、お疲れ様でした。これで…終わったのですね。」
「提督、作戦終了です。」
「君らこそ、苦労をかけたね。これでやっとひと段落つけるな。」


ベラーノ中尉はしみじみと、アッテルベリ中尉も言い方こそそっけなかったが少し笑っているようだ。
私も敬礼を返そうとしたが、今更他人行儀だと思い直して握手をしようと手を伸ばす。
が、自分の掌をみてぎょっとする。手袋が赤く染まっていたのだ。
それに気付いた副官らも驚いている。
どうやら、敵の艦首砲が命中した衝撃で何かにぶつけたとき、頭部が少し切れたらしい。
今まで気がつかないとは、私も相当アドレナリンにやられていたんだな。
さすがに血がついた手で握手されるのは気持ち悪いだろうと思い、反対の手で握手する。


そしてふと、ディスプレイを見る。
素晴らしい光景がそこにはあった。
いよいよ茜色に染まる空。
空の色を余すことなく映した海。
そして、沈む夕日。
この光景こそ一番の報酬だ。
この光景を守れただけで、今までの苦労が報われた気がする。
私はこの光景を瞳に焼き付けた。



===================================
沈む夕日 Side:Aでした。

ビル群には結構人が残っていると思う。
結局互換機って、ラストダンサーだけ持っている特殊兵装とかないから、ものすごく戦闘シーンが書きにくかったです。
あと旗艦以外の艦艇はずっと基地防衛していました。…存在を忘れていたわけではないですヨ。

さて、たぶんRタイパー諸兄なら、すでに想像がついているとおもいますが、
Side:Bは‘彼’の話です。



[21751] 16 沈む夕日 Side:B
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/04 21:01
・沈む夕日 Side:B


とうとう、戻ってきた…
ワタシが待ち望んだ地球
帰るべき故郷
 

地球は以前と変わらない人懐っこさでワタシを迎えてくれる
地上に届く陽の光は適度にやさしい
波音も気持ちを落ち着けさせてくれる
だけど…
ここに居るのはワタシを歓迎してくれる者たちだけではないようだ


______________________________________


ここに来るまでの道中は大変だった
同胞であるはずの地球の軍勢
それが何故かワタシの邪魔をしてきたのだ


銃口を向けるのであれば
それは敵である
敵は殲滅しなければならない
ワタシの行く先々に敵は現れた
まるでワタシの帰還を拒むように
ワタシはそのすべてを撃破し戻ってきた


久しぶりの地球は全てが黄昏色に染まっている
もう少し
あそこにはワタシの望んだ光景が待っている


ビルに燈る文明の光
ワタシが旅立った基地
ワタシがそこに凱旋しようとしたそのとき
また邪魔をするものが現れた
しかもワタシが帰るべき居場所に陣取っている


敵だ
ワタシは一際大きい赤い戦艦を睨んだ
敵を倒してワタシは帰るのだ


ワタシはジェイド・ロス
地球からバイド帝星に遠征し
任務を果たして故郷たる地球に帰還する
誰にも邪魔はさせない


さあ、いこうか…


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ワタシは赤い戦艦から故郷を取り戻そうと進んでいた
足元が騒がしい
よく見ると水上艦が少し集まっている
こちらに向かって砲撃を打ってくる
銃口を向けるならそれは敵だ


小型機で十分と思ったが
うっとおしくも粘る
ワタシは艦艇を動員して衝撃波で押しつぶす
1隻
2隻
3隻…
敵はすべて消えた
これでよし


ワタシは水上に留まり小型機部隊を進める
敵は卑劣にもワタシの帰る場所を盾にしているようだ
ジャミング機能を持ったフォースを先頭に立て
ゆっくりと戦闘機をすすめる
立て篭もるなら炙り出せばいい…


あの機体は下方への攻撃に特化している
ジャミングで隠蔽しつつ展開すれば
隠れ潜む敵軍を一方的に攻撃できるだろう


小型機が発見された
少し早い
部隊の展開が終わっていない
ワタシはエネルギーの雨を降らせた
戦闘は優位に進んでいるようだ


______________________________________


ジャミング部隊に状況報告を要求
…連絡不能
ジャミング部隊が討たれたらしい
先ほど過剰とも思えるような攻撃が
広域に展開された


敵に対する評価を改める
彼らは闘争本能にかられた強大な敵だ
我が故郷地球のために殲滅しなくては


ワタシは即座に艦艇から新たに艦載機を送り出す
フォースを装備した主力機だ
敵が混乱しているうちに
ここで一気に押しつぶす


_______________________________________



ワタシは違和感を感じた
喪失感と言うのだろうか
よく見るとワタシの知らないR機がいる
そのR機はワタシの艦隊の小型機からフォースを奪っていた
しかしそのR機の装備したフォースは
いつの間にかグロテスクな肉片の付いたフォースに変わっていた
どういうことだろうか?
ともかくワタシはそのR機から非常に強い敵意を感じた


そのR機は我が隊の小型機を次々に落としてゆく
敵本隊も動き出した
どうやら敵が勢いに乗ってしまったようだ
ここまで来たのに…
しかし負けては意味が無い
一旦小型機を引いて様子を見るべきだ


____________________________________


私は巡航艦をビル街のこちら側に伏せた
ビル街は進行の邪魔であるが
我々の帰るべき場所を破壊するわけにはいかない
ビルのこちら側から攻撃を行う


敵の攻撃が落ち着いた
我が隊の小型機は全滅したようだ
敵はこちらに出てくるだろう
ビルを超えたときが勝負だ


_______________________________________


敵はビル街に引きこもって出てこない
邪魔な亜空間機を亜空間バスターで始末したせいで
警戒されているようだ


その後一機だけデコイが顔を出したが
それっきり動きが無い
小型機などの修復を進められるので
悪いことばかりではないが…


!!!


光の束が艦艇に突き刺さり爆発
伏せておいた艦艇が2隻とも沈んだ
何があった


ビルが
ワタシの街が崩れていくのが見える
その向こうから現れたのは敵のR機だった
彼らが撃ったのか!?

ワタシは混乱する
ここは彼らの街ではないのか
なぜ自分達の街を壊すのか


彼らにとってここは守るべき場所ではないということか
街をまもることよりワタシを攻撃することを優先するのか
ワタシは怒りを感じた


巡航艦に攻撃をさせた
あの敵を殲滅するのだ


______________________________________


敵は巡航艦も突破してきた
しかし敵R機はもはやほとんど機能しないようだ
ワタシは敵を睨む


ワタシの前には敵の旗艦
あの赤い戦艦だ
とうとう前に出てきた
ワタシと一騎打ちということだろうか
しかし指揮官が一騎打ちを望むわけにはいかない
艦載機の小型機を先行させる


敵もR機を出してきて上空で戦闘を開始した
図らずも一騎打ちになってしまったようだが
敵はワタシの艦首砲を狙っているようだ
戦艦の艦首砲でワタシの艦首砲を打ち抜くつもりだろう
戦艦の脅威は艦首砲だが…
敵艦が旗艦であるなら戦闘指揮所を狙うのもいい
指揮所は艦内部にあり装甲に守られている


しかし
もっとも堅牢な最外壁を艦首砲で破壊できれば
あとは通常攻撃手段で破壊可能だ
目標は敵艦戦闘指揮所
艦首砲はすでにいつでも発射できる
もう少し近づいて
もう少し…


発射


ワタシも敵艦も同時に艦首砲を発射した
敵の艦首砲はまっすぐに
ワタシの艦首砲へと伸びる


ワタシの発射した艦主砲
フラガラッハ砲は射程半ばで二股割れて
上下2本のエネルギー柱に変化する
片方は艦前面に向かう


衝撃


私はかなりの衝撃に揺さぶられた
ようやく敵艦首砲の余波が収まり見てみると
フラガラッハ砲が半ばから消えていた
もはや修復しなければ使い物にはならないだろう


敵は前面装甲が半ばまで破壊されていた
あとはあの箇所をミサイル。レーザーで穿つだけ
戦闘指揮所さえ落とせば指揮系統は混乱するだろう


接近し敵をミサイルの射程に捉える
発射
さすがに初撃はすべて迎撃される
しかしワタシはこの間も前進している
敵がレーザーの射程に入った
これで終わりだ


!!!


何が起こった
後ろから衝撃を受けた後ろに神経を向けると
衝撃の原因は濃灰色の戦艦テュール級が放った艦首砲だった
かつてはワタシの乗艦であったテュール級だが
この戦艦は目の前の赤い戦艦の仲間らしい


挟まれたか
ならば進むべき道はひとつ
我が故郷へ向けて進路をとる


しかし敵に時間を与えすぎたらしい
すでに赤い戦艦の艦首に光が…


ワタシが見たのは白い光の束


____________________________________


どれくらい経ったのか
1時間か
1分か
1秒か


情報が流れ込んできて意識を戻すと
ワタシは半ば海に浸かっていた
ワタシはあの赤い戦艦に撃たれ
海に落とされたらしい


水面を覗くとそこには噴煙を上げる赤いバイドの姿
緩慢な動作で周囲を確認するも
周囲にはワタシの艦隊とあの敵の艦隊だけ


…!


―ワタシは理解した

何故、ワタシは地球に帰りたかったのか
何故、同胞達は銃を向けるのか
何故、地球はワタシを拒絶するのか


―私は理解した

私が何であるか
私の艦隊の姿を
私が倒してきた敵の正体を


私の艦隊の生き残りを見る
そこに居たのは共に戦ってきたR機や僚艦ではなかった
バイドだった


私は地球連合軍の提督として任務を果たし
そしてバイドとして地球に帰ってきたのだ
今なら分かる
私が敵として殲滅してきたのは
命を賭して人類を守ろうとした仲間たちだった


私はそっと水面に触れる
波紋が広がり、ワタシの姿をにじませる


思い出した
最期の決戦のあと何があったのか
漆黒の瞳に吸い込まれる船体
バイドに取り込まれていくR機
しだいに変質していく部下達


そして全てを染め上げる琥珀色
バイドに侵蝕される感覚
それはまどろみにも似たとても気持ちの良いものだった


______________________________________


海に浸していたカラダを引き上げた
海水がしたたり落ちてゆく
私は海上で佇んだ


磯の香り
海鳥の声
沈む夕日…


私は故郷の思い出を胸にしまいこむ
地球は人間の星だ
ここに私の居場所はない


しかし、ここまで来たことが無駄とは思わない
私が守りたかった人間の営みを確認できた
それだけで十分ではないか
宇宙は広い
どこか人間のいないワタシ達の居場所を見つければいい


なんとなくわかる
私の意識も
直にバイドの破壊衝動に飲まれて消えるのだろう
ならば私の想いはここに置いていこう
私を止めてくれたあの艦隊
きっと彼らが私の意志を引き継いでくれるだろう


私はワタシとして生きて行こう


私はジェイド・ロス
人類の希望として出征し
バイドに魅入られたモノ…



さあ、行こうか
エーテルの波を越えて
どこまでも




====================================
予定調和の沈む夕日 Side:BYDOでした。

tacticsⅡも沈む夕日が最終面だったら、いっそ爽やかなんですけどね。
ここで終わらせないのがiremクオリティ。(ほめ言葉です)




[21751] 17 提督と新戦力
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/17 01:14
・提督と新戦力


艦内が勝利に沸きあがっているなか、レーダー係がいち早くその異変に気が付いた。


「あれ、故障?…! 提督!コンバイラベーラが再び動き出しています。」
「何だって!?総員配置に戻れっ。」


仕留め切れていなかったのか。
海から半身を出して沈黙していた‘彼’は、再び海上に浮上し、静かに佇んでいた。
浮かれあがって持ち場を離れていた乗組員が多く、すぐに戦闘機動に入れない。
R機も一旦ハッチに戻っており、即応できない。


出力が安定しないのか、よろよろと夕闇迫った空へと昇っていく赤い装甲。
バイドが逃げる?ありえない。
やはり、あのバイドは通常のバイドではない。


私が本部に緊急連絡を入れると、第一艦隊の指揮も執って仕留めろと命令された。
とにもかくにも、私は艦を動く状態にし、第一艦隊の残存兵力と合流する。
そして、高高度にまで達していた‘彼’に狙いを付ける。
すでに空は紫がかった夕闇が押し寄せていた。


______________________________________


夕闇に朱が一つと、
それを追いかける紅と白が無数。
宇宙への階段を駆け上っていく。


「データリンク順調です。」
「第一艦隊より発射準備完了。とのことです。」
「ムスペル砲チャージは、後どのくらいだ。」
「後10秒です。」
「全艦隊に通達。目標、コンバイラベーラ。艦首砲の一斉発射用意…」
「撃てぇぇぇぇ!」


白い光の筋が、宵の帳を切り裂く。
そのほとんどは、目的を果たせず大気で減衰して消えていく。
ギリギリ索敵外なので目測による発射しかない。
しかも大気圏内は宇宙空間と違って様々な影響を受ける。
有効射程距離を越えた陽電子砲は、それでも1発が的中した。
しかし、本来の破壊力は見込めず、撃墜には至らない。


私は第2、第3斉射を命じ、数発命中させた。
しかし、コンバイラベーラは陽電子砲の至近弾に翻弄されながらも、宇宙へと逃げ出した。


「提督、コンバイラベーラ完全に索敵外です。」
「逃がしたか。…仕方ない本部に連絡を。」


そして私は目の前に広がる空間を見つめる。
コンバイラベーラが漆黒の宇宙へと吸い込まれていく。
なぜかその後ろ姿に深い悲哀を感じた。
理由は分からないが、私は‘彼’に共感している…。


_______________________________________


私は統合作戦本部からの通信で正式にバイド討伐艦隊の司令官に任命され、
逃げたバイドの追跡と殲滅を命じられた。
実のところ、今回の襲撃で宇宙艦隊はボロボロ。
まともに動ける艦隊は、我々だけだったというのが実情だ。
まともに見えた第一艦隊も戦艦の足回りが駄目になっていて、
増援に駆けつけたニブルヘイム級も地球降下はできるが、地球の脱出は無理だったのだ。


討伐艦隊司令を拝命したとはいえ、R機の損失が酷すぎた。
隊ごと消滅した隊も多い。
私は動くに動けない第一艦隊から、パイロットごとR機隊を引き抜き、戦力の補充を行った。
さすがは精鋭第一艦隊、最新型戦艦ニブルヘイム級だけならず、最新鋭機が多かった。
しかし、ラストダンサーだけは、Team R-TYPEからストップが掛かったため編入できなかった。
地球防衛用であるので、持ち出されては困るとのことだった。


ガルム級駆逐艦ブスカンドは中にいたカトー大佐ごと本部に留めた。
その代わりに第一艦隊からマーナガルム級駆逐艦’モンテプンク’を引っ張ってきた。


______________________________________


現在、我々は地球上空で彼を追跡している。
しかし、レーザー衛星網が展開していたため、進めなくなってしまった。


レーザー衛星システム
地球防衛用に配置された小型のレーザー出力装置が連なったもので、
各出力装置は緩やかに連結しており、それぞれの間はレーザーで遮断されている。
幅の広い網目状に見えるこれらは、衛星軌道上をリング状にとりかこんでおり、
敵の接近を感知して稼動、地球自転軸を軸として回転し、敵来週予測地点に展開する。
穴を開けるには装置を破壊すればいい。


逃げるコンバイラに反応して展開し、今まで彼を足止めしていたのだろう。
問題はその後だ。
バイドに侵蝕されて、我々をも阻んでいる。


「提督、どうしましょう。」
「もちろん、破壊する。」
「え、でも…」
「破壊する。」
「地球連合の防衛兵器を破壊するのは、不味いのではないでしょうか?」
「先ほどビルも倒したし、今更だな。」
「…。」


我々はすぐに追撃に駆り出された。戦艦を係留する暇さえなかった。
特に私はその場での臨時編成とかで本当に忙しかった。
戦闘報告も副官のベラーノ中尉とアッテルベリ中尉に投げたくらいだ。
頭部の怪我も医務室に行く暇がなくてそのままだ。
…血は止ったし、問題ないだろう。
しかも、ここのところ移動中に1時間程度の仮眠しかとっていないので、眠い。
こんな状態なので、ワイアット少尉への返答がそっけなくてもしょうがない。


もともといたR機隊はパイロットが極度の疲労状態で使い物にならない。
新しく第一宇宙艦隊から編入したR機部隊を使うしか無いだろう。
編入させたR機の様子も見ておかないといけないし。
レーザー衛星に穴を開けるまでここに留まることになるな。


「ワイアット少尉。艦艇はこのまま待機。新規R機部隊を発進。レーザー衛星を破壊させよ。」
「了解しました。」
「空母エストレジータを前に出して補給基地代わりとする。護衛に巡航艦モンテプンクをつけろ。
旗艦フィンデルムンド、戦艦エンクエントロスはこの合間も修理を進めよ。」
「はい、各艦に通達します。」


______________________________________


攻撃が始まった。
といっても、レーザー衛星に仕掛けているので、何のレスポンスも無い。
私は新規に加わったR機部隊の働きを見ながら、資料と見比べる。


戦闘機Rwf-9A4 ウェーブマスター
Rwf-9Aアローヘッドの直系ともいえるR機で。純粋に波動砲の威力向上を目指したため、
‘波動を極めた者’と言う意味で、ウェーブマスターと名づけられた。
機体性能は安定しており、改良型のスタンダード波動砲は非常に高い威力となっている。
特殊化が進んだ後期型R機の中においては、目立つ機能は無いが、
アローヘッドから続く信頼のおける技術が使用されており、パイロットからの評価は高い。


中距離支援機Rwf-9DH3 コンサートマスター
シューティングスターから始まった。中長距離狙撃用機体の最終版。
Rwf-9Dシリーズの長距離射撃型波動砲を更に発展させた系列。
チャージ時間をそのままに波動砲の有効射程距離、連続照射時間を延長させることが試みられており、
いずれの機体上部にも大型長砲身のキャノン型波動砲ユニットを搭載している。
R機の中では比較的初期からある系列であるので、
Team R-TYPEにしては、比較的まともな設計思想とネーミングセンスとなっている。


強化戦闘機Rwf-9Asストライクボマー
ウォーヘッド系列の強化型機体。亜空間航行機能を持つ機体。
ウォーヘッドは非常に完成度の高い機体であり、以前から量産機が望まれており、
低コスト量産機であるサンデーストライクを経て、量産機であるストライクボマーが生産された。
波動砲も拡散圧縮波動砲の代わりに、メガ波動砲が装備された。
しかし、配備先である太陽系外周において、ストライクボマー大隊が全滅したため、
機体の見直し、マイナーチェンジが加えられ、正式配備型が完成した。


超高機動機R-11S2ノーチェイサー
トロピカルエンジェルの耐G性能を改良した機体。
耐G機構の改良によって、機体本来の加速度、機動を行えるようになり最高の機動力をもったR機。
市街地で追いつける機体は存在しない。という意味でNo Chaserと名付けられた。
武装面でも変更があり鹵獲弾を装備しており、敵機を鹵獲して自軍の戦力として取り込める。


爆撃機R-9B3 スレイプニル
巡航性能を活かして敵陣深くに進入し、要塞攻撃を行う爆撃機の最新鋭機。
ミサイル武装が充実しているが、波動砲やバルカンは装備しておらず、接近戦には弱い。
戦術核ミサイル バルムンクの正式型を装備している。
R-9Bシリーズの特徴であるバリア弾もより強固になっている。


早期警戒機RE-3 スイートルナ
R-9E系列の早期警戒機の完成版。円盤型のレドームを機体内部装備しているが、
これはこの系列の機体は各種センサー類を詰め込んだため、非常に外部衝撃に弱く、
特にミッドナイトアイの様にレドームを上部に背負う形状であると、
最悪デブリとの軽接触だけで支柱部が破壊されかねないため、機体に埋め込める形を取った。
また、対亜空間機索敵機能として、亜空間ソナーを搭載している。


早期警戒機REAW-2 アンチェインドサイレンス
パラードサイレンスの強化型。
さらに強力なジャミング機能をもった球形レドームを搭載している。
レドームから放たれる欺瞞電波、物質により、敵索敵圏内においてもレーダーに映らない。
まとめて数部隊を隠蔽できるだけのジャミング能力を持つが、
スラスターからの噴射がジャミング機能への障害になるため、加速を最低限にする必要があり、
ジャミング中に機動力が低下する弱点は改良されていない。


どれも強力な後期型R機だ。
しかし、第一艦隊からR機の補充が出来てよかった。
このままでは、格納庫に眠っているアローヘッドを持ち出さなくてはならなかったかもしれない。
とくに索敵機がきてくれたのがうれしい。我が隊でもっとも損害率の高い部隊だ。


________________________________________


戦闘を見ながら、新規R戦闘機の評価をつけていた。
非常に単調な作業だったので、正直指揮する必要が無かったのだ。
バイドに奪われたとはいえ、レーザー網は基本的に進路妨害しかできない。
少なくとも、レーザー衛星システムを突破するまでは出来ることは無い。
だが網の外側にはバイド反応がある。
それに備えて調整しなくては。それまではひたすら…


レーザー衛星に向かって、

ミサイル撃っては壊し。

網の隙間にはまっていたバイドシステムλを潰して。

レーザー撃っては壊し。

隙間にいるセクシーダイナマイト2を潰して。

波動砲を撃っては壊し。

あれ、小型バイドも巻き込んだ。

バルカン撃っては壊し。

あ、またセクシーダイナマイト2だ。




_______________________________________


レーザー衛星を戦艦が通れる大きさまで広げるのは大変だった。
あと、数基レーザー衛星を破壊すれば、向こう側に到達するところまで来た。


「提督、あと衛星を3基破壊すれば、本体が通れる大きさの穴が出来ます。」
「レーザー網の向こう側にバイドが待ち伏せていることが予想される。
全艦攻撃態勢をとるように、最期のレーザー衛星が同時に破壊するぞ。」


‘彼’は非常に戦術・戦略を考えるのが上手い。
とてもバイドとは思えないほどだ。
だからこそ、ここで仕掛けてくるはずだ。
彼ほどの戦上手なら絶対に。
今はレーザー衛星に阻まれて索敵も出来ないが、向こう側に待ち伏せているはず。
我々はこれから衛星の穴という狭路を通過する。
そして、相手は広所に展開している。
相手を撃破するには最高の地形だ。


実際、レーザー衛星網とはトラップだ。
破壊されることが前提なのだ。
レーザー網を全て破壊する事はできないため、侵入者は一部を破壊し通過する。
レーザー衛星システムからの情報で、防衛側は敵が何処から出てくるか分かるため、
防衛側は反対側で待ち伏せできるのだ。


敵の侵攻の遅延と、防御地形の展開。
これがレーザー衛星システムの主な使用方法だ。
これだけで敵を受け止めることは出来ないが、それでも有用だ。
ただ、先のバイド侵攻の際は、
複数個所でバイドが終結していたため、システムで対応できない箇所ができ、
いくつかのポイントではバイドを素通りさせてしまった。
それがあの大侵攻に繋がっている。


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ケルベロスのライトニング波動砲で、衛星を複数まとめて叩き壊す。
紫電が拡散した先を索敵すると、やはりいたのはコンバイラベーラ。
ボルドガングとバイドシステムλをつれており、すでに各々艦首砲や波動砲のチャージが終わっている。
索敵を終えたスイートルナがすぐに後方へ下る。


バイドシステムλの波動砲の射程距離はそこまで怖くはない、
波動砲の変則軌道についても混戦でなければ問題ないだろう。
問題はコンバイラベーラとボルドガングの艦首砲だ。
ともに射程が長く、威力もR機部隊程度なら難なく消し飛ばされるだろう。
デコイで同士討ちを誘うかと思ったが、彼が嵌ってくれるとは思えない。
今回はベルメイトは居ないらしい。亜空間機でまずは敵波動砲のチャージを解除しよう。


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ストライクボマーが亜空間に身を潜めて、進攻する。
他の機体は切れぎれになったレーザー網の陰に潜んでいる。
Sボマーの狙いはコンバイラベーラだ。亜空間から慎重に近づいていく。


ふと私の頭に疑問が浮かぶ。
何故、コンバイラベーラはこちらが突破する前に艦首砲を撃たなかったのか。
あんなに近くで待ち構えていたのに。
レーザー衛星を侵蝕していたら察知できたのではないか。
それに、コンバイラベーラの前面に小型機がいないのが気になる。
これでは丸裸ではないか。本部防衛戦ではこんな無謀な指揮はしなかったはず。


‘彼’とは別のバイドなのか?
…いや、あれは確かに‘彼’だ。
何かが変わったのだろうか。


そこまで考えて、変な考えを振り払うように頭を振る。
…どうやら、私は疲れているらしい。
敵が弱くなるのは歓迎すべきことだ。
戦闘中に何を考えている。目の前のことを処理しよう。


「Sボマー配置に付きました。」
「では始めよう。波動砲で一気にけりをつけるぞ。」


前回の戦闘から、コンバイラベーラの艦首砲のデータはとれている。
コンバイラベーラの艦首砲は一定距離で二股に割れる。
その隙間にさえ入れれば、敵艦首砲の射程内でも回避可能だろう。
ただし、これには一瞬の判断力が問われる。
相手との距離と相手がどこを狙うかを、正確に予測して避けなければならない。
もちろん発射してからでは遅いので、砲塔の向きなどから予測する。


「Sボマー通常空間に戻ります。」
「コンバイラベーラ艦首砲、発射体勢に入ります。」
「Sボマー、波動砲発射。」


圧縮された光の束はコンバイラベーラのコアに突き進む。
コンバイラベーラの艦首砲も、一拍送れて火を噴き、R機を排除しようとする。
爆煙。


そこにあったのは、起動を停止させたコンバイラベーラと無傷のSボマーであった。


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おかしい、こんなにあっさりと。
私は何か見落としていないか。


「提督、コンバイラベーラが再起動します。」
「何、近場のR機を!」
「コンバイラベーラ離脱。追いつけません。」
「擬態して、我々を撒いたというのか。」


コンバイラベーラは不気味な光を放つと再起動し、飛び去ってしまった。
仮死を演出して我々を騙し、切り抜けたのだろうか。
追撃しなければならないが、はたして、追いつけるか?




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前回の切り方が微妙だったので、
今回は「沈む夕日」ラスト+次の話という変な構成となりました。

このレーザー衛星はLeoの一面に出てくるやつですね。
Leoを活躍させてあげようかと思ったのですが、新規機体の紹介祭りになりました。
設定はいつものごとく、妄想で出来ています。

ここ数話、真面目な文章を書いていたから、ギャグ成分が切れてきて禁断症状が。



[21751] 18 提督と開放同盟艦隊
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/21 23:18
・提督と開放同盟艦隊


レーザー衛星システムを突破した後、我々は索敵しながら、
あのコンバイラベーラの向った方角へ進路を取っていた。
臨戦態勢は解除し、私は3日ぶりにまとまった睡眠を取った。
というよりも、私の体調を心配したベラーノ中尉らに無理やり寝かされたのだが。
頭の怪我も、3針くらい縫う程度の軽いものだった。


月の軌道に近づいたところで連絡があった。
月面に太陽系開放同盟の残党が集結しているというのだ。


もちろん、他の艦隊に任せて、素通りする選択肢はある。
しかし、バイドと開放同盟に挟撃されるのは不味い。
これ以上邪魔立てをするのなら、ここで叩き潰しておくのも手だ。
近くには月面基地ムーンベースがある。これからに備えて補給を受けよう。
私は月面に進路をとった。


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急行した月面には、基地建設システムがあった。
しかし、今回の作戦は基地システムの破壊ではない。
敵旗艦を撃破すること。
道中の作戦会議でそのような方針を取る事を決めた。


「太陽系解放同盟の残党が月面にいるのですか。」
「そうだ、クロフォード中尉。我々は解放同盟の艦隊を討つ。」
「しかし提督、我々はバイド討伐艦隊となったはずです。追撃任務を優先すべきではないでしょうか。」
「バイド追撃に対して優先度の低い任務ではあるが、ここで放置した場合、バイド追撃中に挟撃にあう恐れがある。」
「先にご退場願う訳ですか。」
「そうだ、ラウ中尉。」
「あの…提督、休戦は出来ないのでしょうか。」
「リョータ君、解放同盟ってもはやテロ組織に近いから無理じゃない?」


やはりというか、グランゼーラ軍所属の副官達は太陽系解放同盟に思うところがあるようだ。
地球連合所属の副官達は、空気を読んで成り行きを見守っている。



「今までの経緯を省みて、すぐさま休戦を提案する訳にもいかない。
相手も地球連合とグランゼーラが、今回のバイドの大規模襲撃で弱っていることが分かっている。
休戦するなら一回叩きのめして首輪をつけてからだ。」


すでに解放同盟は組織として崩壊しつつある。
ワープ空間での事故で総司令官のキースン大将を欠いてから、指導者が居なくなったのだ。
地球圏に潜伏している残党は小艦隊規模でバラバラに抵抗しているが、各個撃破された。
この解放同盟の艦隊も、艦隊司令を頂点に活動しているのだろう。
司令塔であり旗艦を潰せばこの戦いも終わる。
こんなところで無駄な時間はかけられない。


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「さて、これより太陽系開放同盟討伐戦を行う。
我々は特別遠征艦隊からバイト討伐艦隊に名称が変更され、人員の入れ替わりもあったが、
バイドの侵攻中に戦力を拡大しようとする開放同盟を放置しておくことは出来ない。
これより、月面にいる太陽系開放同盟残党を討伐する。」


艦隊の隊員たちも反対意見は無いようだ。
さて、開放同盟の相手は今回で終わりにしたいものだ。


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「提督、布陣が終わりました。」


敵は月面にあるクレーターを加工し、地下部に基地システムを設置したらしい。
非常にめんどうな位置にある。


「さて、まずは早期警戒機を出そう。」


太陽系開放同盟はグランゼーラ革命軍から分かれた分流だ。
母体であるグランゼーラさえも食らうようになってしまったが、
使用している兵器は、基本的にグランゼーラのものだ。
グランゼーラでは戦艦が使用されていない。
これは純粋に戦艦製造に関する技術蓄積がなかったのと、
グランゼーラの英雄、ハルバー提督が得意とした、爆撃機を艦載してに対艦隊攻撃戦術が、
そのままグランゼーラの兵器開発の方針になったからだ。
艦艇に求められるのは艦載機能、索敵機能である。と言うことだ。
その戦略思想の結晶がヤールンサクサ級、アングルボダ級などの宇宙空母だ。


艦隊規模の集団に命令を下すには、それなりの通信能力、情報処理能力が必要だ。
巡航艦、駆逐艦の旗艦が無いわけではないが、通信機能がよろしくない。
つまり、敵旗艦は宇宙空母であると予想される。
ついでに言うと、宇宙空母の巨体がこの距離で見えないのだから、
光学迷彩も持った、アングルボダ級空母だろう。


「基地システムはどうしますか?」
「穴から出てくるまでは、無視してよい。
所詮仮宿だし、恒久的に使える基地ではない。母艦を潰せば、降伏せざるをえないさ。
さあ、ここで立ち止っている暇は無い。速攻で旗艦を叩くぞ。」


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早期警戒機スイートルナが月面すれすれを索敵しながら、
敵基地システムがあるであろう場所へと接近する。しかし、月面の穴には入らない。
今回スイートルナの役割は、敵基地システムを警戒することにあるからだ。
敵旗艦は見つけられたらラッキー程度だ。
陽電子砲だけは怖いので、早急に処理する必要がある。
具体的には陽電子砲ユニットなどが作られているかどうかを確認して、味方に警告すること。
戦闘が起こったらすぐに撤退させる。防御性能が低すぎるからだ。


早期警戒機スイートルナは、初代早期警戒機ミッドナイトアイから数えて、3世代目にあたる。
いわゆる後期型のR機だが、あの紙装甲は引き継いでいる。
これには多くのパイロットが意見書を提出したのだが…

“早期警戒機は精密機器を大量に積んでいるので、装甲を強化する必要性が薄い。
どのみち、衝撃を受ければ精密機器は破壊され、そこに含まれる情報は失われる。”

というのが回答だった。
パイロットの生存率に一切興味が無いあたり、さすがTeam R-TYPEと言わざるを得ない。


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「提督、後続R機隊を発進させますか。」
「ああ、敵機と遭遇したら反撃だ。」
「威力偵察ということですね。」
「そうだ、クロフォード中尉。」


敵旗艦はおそらく、アングルボダ級空母。ジャミング機能を備えており索敵するのは難しい。
策敵が難しいなら、向こうからお出まし願えばいい。
アングルボダ級空母は、自衛武装に乏しく、防衛には艦載機を出さなくてはならない。
R機で接近すれば、あちらも艦載機を出してくるだろう。
つまり敵R機が来た方向に敵旗艦アングルボダ級がいることになる。


「提督、早期警戒機が敵基地システムを発見しました。」


そっちが先か。さて、どの程度基地を構築しているかな。
基地システムは、意外と継続使用時間が短い。
敵を察知してからコアを起動するので、開戦時から基地が‘育っている’ことは少ない。


「基地システムは月面の穴の内部にあります。穴の出口は2箇所。
我々の陣に近い横穴と、上部に空いている縦穴です。
横穴はせまくR機隊が一隊通れるくらい、縦穴は小型艦艇が入れる程度です。」
「ユニットはどの程度か?」
「はい、ミサイルユニットとレーダーユニットが一基ずつ。後は連結ユニットです。」
「輸送艦は動けるな?」
「はい、投入可能です。機知システムのある穴に投入されるのですか?」
「いや、欲しいのは蓋だ。」


クロフォード中尉が少し眉を寄せて、怪訝な顔をする。
アッテルベリ中尉ほどでは無いが、表情が分かりにくい。
さて、輸送艦で近いのは…リャキルナか。


「クロフォード中尉、輸送艦リャキルナを縦穴に接近させよ。ルミルナも後続で続け。」
「了解しました。提督、蓋とは?」
「蓋はもちろん中身がこぼれないようにするものさ。…デコイをこのポイントに出せ。」
「提督、その位置では敵の索敵圏内です。デコイであると察知されてしまいますが。」
「問題ない。敵はデコイと分かっていようと、破壊するしかないのだから。」


私は縦穴の上部に輸送艦をすすめると、デコイを出すように命令する。
ある程度の耐久力を持ったデコイが、縦穴を塞いだ。


「敵の基地システムの自由を奪うためですか。」
「即効で決めるなら、基地システムを相手取る必要は無い。ただ邪魔されなければいい。」
「ルミルナを後ろに配置したのは予備ですか。」
「敵の火力であれば、すぐに破られるからな。輸送艦2機と、POWアーマー改、
後ナルキッソスが破壊されるまでの猶予がある。あとはアングルボダを索敵するだけだ。」


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「提督、R機体が敵機と遭遇しました。ダイダロスタイプの亜空間機です。」
「R機に黙らせろ。あとスイートルナに亜空間ソナーで探らせよ。亜空間機…何処から来た。」
「了解しました。ダイダロスタイプは月面の内部から接触しました。」
「それでは敵旗艦の位置は分からんな。しかし、潰せば次が出てくるはず。」


ディスプレイには戦場の拡大画像が映っている。
軌道戦闘機ダイダロスはレッドポッドと言われる半自律兵器を伴っていたが、
今画面を横切ったのは良く似ているが、緑色に発光するポッドを伴っていた。
さしずめグリーンポッドといったところか。
「あれは…カグヤでしょうか。」

軌道戦闘機OF-5 カグヤ
OF-1系列の機体で、半自律兵器グリーンポッドを装備した軌道戦闘機。
ポッドがバルカン砲の射程が伸び、より柔軟な戦闘が可能になった機体。
ポッドシュートも健在で、長距離の掃討に向く。
カグヤとは東洋の神話から来ているらしいが、なんでもグリーンポッドを竹に見立てたらしい。


さてグリーンポッドの性能が上がっており、少々苦戦しているが、
カグヤは2機しか居ない。亜空間ソナー探査しても近場にはいないようだ。


「提督、輸送艦デコイが破壊されました。ルミルナのデコイを出しますか。」
「そうしてくれ。カグヤとの交戦部隊を残してR機部隊は前進させろ。」
「了解しました。」


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「提督、敵機と遭遇。スレイプニルです。」
「本命か。爆撃機か全機出てくる前にけりを付けたいが。」
「ミサイルを闇雲に撃ってもバリア弾で受け止められるでしょう。
あの数では波動砲でも足りないかもしれません。」
「ケルベロスを前へ。」
「ライトニング波動砲ですか?提督、索敵されていないと誘導性能発揮できません。」
「ライトニング波動砲を誘導装置を切って打たせるんだ。あれには拡散する性質が有るから。当たるはず。」
「しかし、誘導なしで拡散させると、威力が下ります。
スレイプニルを撃破するには至らないと思います。」
「撃破する必要は無い。索敵代わりだ。波動砲が当たれば敵旗艦の位置が分かる。
誘導装置を切るのは、誘導すると波動砲がスレイプニルにすべて向ってしまうからだ。」
「分かりました。」


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黒いR機からエネルギーが放たれる。
いつもより細かい光に分かれたライトニング波動砲は、スレイプニルを小破させつつ進む。
そして、スレイプニルの群の奥に波動砲がたどり着いたときに、空間が歪んで見えた。
突然表れたのは、黒い円筒状の巨体と3つの回るリング。アングルボダ級だ。


「提督、敵空母を発見しました。アングルボダ級です。」
「あれが旗艦だな。R機全機波動砲発射準備、スレイプニルは邪魔なのだけ落とせ。」


敵スレイプニルも黙ってやらせてはくれない、
ライトニング波動砲のお礼とばかりに特大のミサイルをプレゼントしてくれる。
核ミサイル‘バルムンク’だ。今までのより大型化している…あれを貰うのは不味いな。


ノーチェイサーがロックオンレーザーでバルムンクの推進部を狙い撃ち、沈黙させる。
それでも足りないので、POWアーマー改のデコイを爆破して、衝撃で軌道をそらす。
バルムンクも逸れたが、デコイ射出から爆破まで時間がなかったので、POW改も中破している。


他のR機もこの衝撃で射線をずらされ、アングルボダ級への直撃はなかった。
しかし、リング状のR機射出口が2基いかれたらしく、動きを止めている。
巨大な本体にダメージを入れるより、あれを破壊したほうが早いか。


「アングルボダ級のR機射出口を破壊せよ。」


長射程を誇るコンサートマスターが狙いを付ける。
周囲では味方のスレイプニルがバリア弾を張って防御する。
発射。少し着弾がずれているが、その長い照射時間を生かして修正。リングを切り裂く。
中にあったR機が誘爆したのか、リング中から崩壊する。
これでアングルボダは空母としての機能を喪失した。あとは周りのスレイプニルを落とすだけ。


「提督、基地システム、輸送艦デコイ破られました。
ナルキッソスのデコイを当てていますが、直に突破されます。」
「慌てるな。蓋が取れても基地システムが顔を出すまでは暫く掛かる。スレイプニル掃討を。」
「了解しました。」


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全機出撃できなかった敵スレイプニルは、バルムンクこそ脅威だが、
波動砲やフォースの前にはなすすべが無い。
アングルボダ級から補給機のPOWを出し損ねたのもあり、
フォースに食いつかれ、波動砲に撃たれてスレイプニルは一機一機落ちていった。


敵旗艦は丸裸となった。


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敵旗艦のアングルボダ級は反撃のすべを失って、波動砲をチャージしたR機に囲まれている。
さて、基地システムが暴れださない内に降伏通知をだすか。


「クロフォード中尉、降伏を呼び掛ける。敵旗艦に通信を開け。」
「はい。」


ディスプレイに、40代前半の大柄な男が映った。
すでに敵意丸出しの表情だ。
私は誠実そうな顔をして名乗り、降伏を受け入れるかどうかを尋ねた。

『地球連合に降伏?本部までバイドに攻め入られた地球連合が何を言っている。
その無能な地球連合政府に代わって、我々が人類をまとめようというのだ。』

艦首砲撃っても文句言われないだろうコレ。
あと、うちは地球連合艦隊でなくて混成艦隊だ。
この現実目の見えない、アホ司令とは話すだけ無駄だな。
後ろに回した手で‘発射準備’の合図をクロフォード中尉に送る。
あとは、ほんの少し合図を送るだけでミサイル、レーザーがあの空母に突き刺さるだろう。


「我々の任務はバイド追撃だ。貴官の政治論を聞いている暇はない。
何か勘違いしているようだが、降伏するか、しないのか。私が聞いているのはそれだけだ。」

『我々、太陽系解放同盟は地球連合に降伏など…』


パンッ。


彼は最後まで言えなかった。
銃声が彼の声を遮り、彼の巨体はディスプレイの画面外にフェードアウトした。
私は突然の事態に驚くが、いわゆる、弾は前からだけとは限らない。というやつかと思う。
ディスプレイの向こうは騒然としている。
司令官に駆け寄る者、犯人の居るらしき方向に詰め寄る者、とりあえず唖然としている者。


徹底抗戦派の司令官が死亡したなら、降伏が受け入れるかもしれないので、
私はとりあえず通信をつないだまま、気配を消して待っていた。
「少尉、何をしている!」とか、「脈ありません。」とか、色々聞こえてくる。
たぶん通信が繋ぎっぱなしなことに気付いてないな。
しばらくして、事態を収拾した男がディスプレイに映る。


「司令は戦死されました。我々太陽系解放同盟第2艦隊は貴艦隊に降伏を申し入れます。」


_______________________________________


大勢の解放同盟の捕虜をとらえた。やはりここが彼らの最後の砦であったらしい。
私が捕虜の確認をしていると、先ほど降伏を受け入れた士官が発言の許可を求めてきた。


「発言を許していただきたいのですが。」
「許可する。氏名と階級を」
「はい、太陽系解放同盟第2艦隊旗艦キジャコイジュ艦長のディア・ブラーダ大佐です。」
「貴官があのアングルボダ級の艦長か。」
「はい、艦隊司令が戦死したため、小官がこの場での最上位者になります。」
「…戦死ね。で、処分はどうすると?」
「司令官の戦死は、旗艦艦長であった小官に全責任があります。
また、この戦闘での責も最上位者である小官が負うべきと考えます。」


ブラーダ大佐は体格が良く、誠実そうな目と意志の強そうな口元をしている。
私が言った処分とは、司令官を撃った下手人はどうするのか。と言う意味だ。
ちなみに、アホ司令を撃った下手人は分かっている。
近くに、明らかに真っ蒼な顔して震えている若い男がいるからだ。
その男の様子を見るに被害を減らすために、
というよりは自分が死にたくないから、降伏を蹴りそうだった司令官を撃ったのだろう。
褒められる動機ではないが、結果として彼の行動がこちらに都合のよいものとなったから、知らないことにしておいてやろう。


「その件に関しては、地球連合軍司令本部が判断する。」
「我々は…」


彼の発言は、捕虜達を解放してくれるならバイド討伐に協力すると言うものだった。
一応、特別遠征艦隊から各種権限は引き継いでいるので、
私の判断一つでどうにかなるのだけれど、ブラーダ大佐はともかく、他はな…。
まともなのもいるんだろうが、司令官アホだったし、司令部員は自己中だし…
私の疑念を感じたのか。ブラーダ大佐が再び言葉を重ねる。


「艦隊の行動については、私が責任を取ります。」


いや、あんた責任取りきれんだろう。命の大安売りだな。
まあ、悪いことばかりではない。味方が増えればこちらが被るバイドの攻撃も薄くなる。
戦後処理についても、このままではテロ組織として全員処罰されかねないが、
いつバイドが来るか分からないご時勢で、戦闘経験のある人員は貴重だ。
下っ端は上にくっついていっただけだろうし、まとまらなければ害は無いだろう。
私は太陽系解放同盟艦隊のバイド討伐参加を許可した。




=====================================
核ミサイルってたぶん誘爆しないので、月面には不発状態のバルムンクがうようよと…ヒイ

ここは解放同盟と手を組むルートです。
ぶっちゃけ、後編ラスト一話前までは消化試合な気がしなくとも無い…。
面白みの無い戦闘はさくさく飛ばします。

番外編を書こうかと思っているのですが、謎が謎を呼ぶ内容なので、どうしたものか…



[21751] 19 提督と共同戦線
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/24 01:05
・提督と共同戦線


月面基地ムーンベースで補給を受け、戦力をさらに強化した。
GZLS-06 ヒルディスヴィーニ級強襲揚陸艦 ‘プルルナス’を拝領して、
OF-3ガルーダ、Rwf-9WB ハッピーデイズを手に入れた。

太陽系開放同盟は艦の修理や、バルムンクや最低限の物資は補給できたが、
R機の喪失分は無理だった。
私からも、基地司令に口ぞえはしたが、ただでさえ他の艦隊の補給で大変なのに、
太陽系開放同盟にやる物資は無いというのが、本心らしい。
まあ、基地司令の言うことももっともなので、そこらへんは妥協しておいた。
まだ、彼らが完全にこちらについたとは言い切れない。
ただ、けが人に関しては収容するようにお願いした。


______________________________________


「こちら、太陽系開放同盟第二艦隊キジャコイジュ、配置に付きました。」


我々は今、アステロイドベルトに艦隊を布陣している。
ここにAクラスバイドの反応があったからだ。

我々というのは、私のバイド討伐艦隊と、ブラーダ提督の太陽系開放同盟第二艦隊だ。

現在、太陽系開放同盟艦隊はアングルボダ級空母キジャコイジュを旗艦とする艦隊で、
ディア・ブラーダ大佐が艦隊司令兼、旗艦艦長となっている。
ブラーダ提督…本来なら艦隊司令には、最低、少将の位をもって当たる職であるが、
太陽系開放同盟に参加している士官を、勝手に昇進させるわけには行かない。


我々の目の前には、バイドの大型生命要塞が何体も列を作っている。
他のバイドと合流したのか大きく強力な群れになっている。
その中には、目的のコンバイラベーラもいる。


太陽系解放同盟の艦隊はこのバイドを見てもひるむことなく、士気が高いように見える。
しかし、私はそれが虚勢かもしれないと考えている。
捨て駒にされる恐怖、逃亡すれば追っ手が掛かる。
しかも、本来の艦隊司令は自分達で殺した。裁かれるには十分な罪状だ。
後が無い。その考えが、彼らの蛮勇を誘っているのではないか。
…あまり、期待はしないでおこう。


_____________________________________


私はディスプレイのバイドの群を眺めていた。
正確には、あのコンバイラベーラを。


ザザ、という砂嵐がまた頭に響く。


―ひ……をは…………―


また、バイドの精神攻撃か。
前も、あのバイドとあったときに起きたな。何なんだ。
頭を振って、奇妙な感覚を追い払う。


「さあ、我々も出るぞ。目標コンバイラベーラ。下方はブラーダ提督に任せるとしよう。」


敵はあのコンバイラベーラだ。
そもそも、‘彼’の指揮能力がなければ、ここまで押されることもなかった。
‘彼’をくだせば、後は烏合の衆…とはいかなくても、小型バイドならばやりやすい。
ここは速攻で攻めよう。正直、友軍に不安があるから、長期戦はしたくない。
友軍総崩れとかになりかねないし。
どうやら、戦線が長い分、旗艦前に居るバイドの層は薄い。
防御を固められない内に一気に波動砲を打ち込む。


今回の作戦は目標コンバイラベーラを撃破する事を第一として、
第一~第六までの段階に分かれている。

第一段階は、敵の前進を抑え、波動砲を持つR機部隊を展開する。
第二段階は、波動砲を持って敵小型バイドの戦列に穴を穿ち、目標までの‘道’を作る。
第三段階は、道の両サイドから攻めてくるバイドを抑えて、道を拡張・維持する。
第四段階は、決戦戦力を運搬する強襲揚陸艦・巡航艦を目標近くまで進出させる。
第五段階は、決戦戦力による目標の撃破だ。
第六段階は、戦艦の支援による強襲揚陸艦・巡航艦の離脱。乱戦の回避。

すべてが上手くいくとは限らないし、不確定要素の解放同盟艦隊もいる。
大変な戦闘になりそうだ。


________________________________________


アンチェインドサイレンスに寄り添うように、R機部隊が並んで波動砲をチャージしている。
ジャミング圏内で波動砲をチャージしているのだ。
波動砲を装備していないノーチェイサーやナルキッソス、スレイプニルなどは、
小型バイドをの攻勢を受け流している。
戦艦エンクエントロス、旗艦フィンデルムンドも手数を生かして、小型バイドの掃討を行っている。
そろそろだな。


ちらりと横を見ると、友軍のアングルボダ級が見える。
戦列が乱れて、少しバイドが本体近くまで近寄り過ぎている気はするが、
バイドを押し返す事はできているし、問題ないだろう。
むしろ戦線が近いほうが、バルムンクミサイルを輸送するPOWの負担が減って、攻撃効率が上がるかもしれない。
ブラーダ提督もなんとかやっているようだ。
彼らに崩れられると、これから奥に食い込む我々は、敵陣で孤立することになる。
逆もまた正しい、バイドに囲まれている限り、彼らも我々に崩れられるのは困るだろう。
バイドの真っただ中で裏切る事は無いだろうが、潰走することは考えられる。
早めに決着をつけないとならないな。


_______________________________________


「提督、波動砲チャージが終わりました。」
「よし、みんな良く耐えたな。第一段階終了、第二段階にうつる。R機前へ。」

我々は前進を開始する。
後方に位置する、我が艦隊のアングルボダ級空母エストレジータからR機が飛立つ。
アングルボダ級のリングが回転し、R機射出口から次々とR機が出てくる。
まず先陣を切ったのは、ムーンベースで拝領した実験機、ハッピーデイズだ。


要撃機Rwf-9WB ハッピーデイズ
特殊な波動砲の試験機である。Rwf-9Wシリーズの後継機。
次期主力機として挙がっているRwf-9Wワイズマンの誘導波動砲は非常に強力であるが、
インターフェイスを改良してなお、パイロットの精神的負担が大きく、戦闘継続時間が短いため、
次期主力機として反対する意見が大きかった。
それに対して、パイロットにあまり負担の掛からないことと、
バイド掃討に有効な特殊波動砲という2項を盛り込んだR機として、作られた試作機だ。
複数の敵を巻き込む用途で、分裂波動砲を採用している。
Team R-TYPEが試験的に作った機体であるため、データが取りやすい試験管コックピットが採用されている。


ハッピーデイズは敵集団の中に入り込んで分裂波動砲を放つ。
バイドに当たった瞬間にバウンドするように二股に分かれていく。
小型バイドは波動砲が当たれば破壊される。
3~4回バウンドした波動砲は周囲のバイドシステムβ、λを巻き込んで消えた。
機体名と試験管コックピットだったので、偏見があったが意外と使いやすい機体かもしれない。


分裂波動砲は射程の末端では威力が落ちるため、堅牢なバイドフォースは残り、
そのままの速度を維持してこちらに向かってくる。
ハッピーデイズ各機は装備していたスタンダードフォースHをシュートし、バイドフォースにぶつける。
エネルギーが高まった状態で、互いを削り合うフォース。勝ったのはSフォースHだった。
分裂波動砲のダメージが蓄積されていた分が明暗を分けたようだ。


あとから続くドミニオンズ隊に進路を譲るハッピーデイズ。
金色の機体が岩礁の間で光る。ドミニオンズは軽装甲ゆえのスピードでバイドの次戦力に迫る。
小岩石はフレイムフォースで破壊し、単独で漂っているバイドは、レーザーで焼いて進む。
Rsf-9Sk1系列の装備する火炎波動砲は広域をカバーでき、しかも生体系のバイドには非常に有効だ。
ドミニオンズは集まってきたクロークローを焼き払う。
火炎波動砲が回り込むように、岩礁の隙間にいるバイド達を舐める。
赤熱した岩礁の隙間から現れたのはクロークローではなく、メルトクラフト…擬態だ。
何機か出てくる。生体系バイドでないため効果が薄かったらしい。
しかし、正体を現したメルトクラフトは精々突撃してくるしか能が無い、
ドミニオンズの性能ならば回避してからレーザーを叩きこむことなど造作もないことだ。


「提督、第二段階完了しました。第三段階に移行しますか?」
「ああ、機体の選定は?」
「現戦力では、Leo、ガルーダ、ダイダロス、ラグナロック、ウェーヴマスター、ストライクボマー各隊が待機しています。」
「Leo、ガルーダ、ダイダロス、ストライクボマーを当てる。旗艦は待機。第三段階完了と同時にマーナガルム級巡航艦モンテプンクと強襲揚陸艦プルルナスは前進させる。用意を。」
「了解しました。」
「…解放同盟艦隊はどうだ。」
「押され気味です。戦線が不安定になってきていますが、今のところ踏みとどまっています。」
「そうか。」


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Leo、ガルーダ、ダイダロスはハッピーデイズ、ドミニオンズの切り開いた道を広げる。
面的制圧力を生かして、周りから押し寄せてくるバイドを押し返す役だ。
ダイダロス隊、ガルーダ隊はそれぞれチャージ済みポッドをシュートする。
緑色に発光する半自律兵器は、砲弾をばら撒きながら機体を離れバイドを掃討する。
ストライクボマーも爆雷を投下し、圧力をかけてくるバイドを掃討。
Sボマー、ガルーダ、ダイダロスはそのまま残り、亜空間に突入。
これで次の波が来ても少しは抑えられる。


コンサートマスターは周囲から掻い潜ってきた小型バイド、を後方から狙い打つ。
長大な波動砲の射線はクロークローやアーヴァングを巻き込んだ。
あとには、クローフォースやスケイルフォースなどのバイドフォースの残骸が残るが、
フォースは機動力が低いのでとりあえず放置する。


_______________________________________


「提督、目標までの道が開けました。R機消耗率想定内です。」
「よし、第四段階へ。モンテプンク、プルルナス突入せよ。」
「了解。第四段階に移行します。」
「旗艦フィンデルムンド、戦艦エンクエントロスは、微速前進。突入を援護する。」


R機のこじ開けた花道を、決戦戦力を艦載したマーナガルム級巡航艦モンテプンクと、
ヒルディスヴィーニ級強襲揚陸艦プルルナスが進む。
旗艦フィンデレムンド、エンクエントロスも長大な射程を持って弾幕を張って援護する。

巡航艦と強襲揚陸艦は順調に進んでゆく。
不安なのはむしろ友軍だ。先ほどから押されている。大丈夫か?


_______________________________________


「提督、第四段階完了です。コンバイラベーラ射程の外に巡航艦、強襲揚陸艦配置しました。」
「第五段階に移行せよ。目標は動かないままか?」
「はい、一瞬、策敵圏内に入ってしまった際には反応したようですが、それ以後動きません。」


前の作戦でも感じた疑問。
何故‘彼’は積極的に攻撃してこないのか?
彼ならもっとうまい指揮をするはず。
小型バイドの攻撃にしても、地球でみたキレが無い。
ただこちらを確認したら攻撃してきたかのようだ。
彼は何がしたい?
私に何をさせたい?


ザッ……ザー…


―ひ……をは………よ―


またあの砂嵐だ。
彼を意識した所為?
前より言葉が明瞭になってきている…?
精神汚染が進んでいるのだろうか…
この討伐作戦が終わったら一度、軍医に見てもらおう。
しかし、今は目の前の戦闘に集中しなければ。


「今は関係ない…。ここで片をつけよう!
ケンロクエン、ウェーヴマスター、スレイプニル発進させよ。
攻撃タイミングはパイロットに任せる。」


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決戦戦力を展開したときに副官が慌てて報告してきた。
「提督!解放同盟艦隊突破されます!」
「なにっ!通信を繋げ。」


「こちら討伐艦隊司令。ブラーダ提督、現状を!」
『申し訳ありません。R機部隊を突破されました。空母キジャコイジュは後退中。
このままでは防衛戦力が尽きます。撤退を申請します。』
「…貴艦隊は後退して、地球連合の後詰め艦隊を合流せよ。」
『お力になれず申し訳ない。』


通信が切れる。一応友軍は友軍だ。
撤退せずに、死守せよとは言えなし、それが可能な戦力がそもそもない。
解放同盟艦隊が引けば、バイドが攻めてくるだろう。
退路が塞がれれば、我々が包囲されかねない。
ちっ、ここまで解放同盟艦隊が脆いとは…
さすがにこの量のバイドを相手取るのは無理だ。
しかし、敵陣奥深くまで入り込んでいる部隊を引き戻しての退却も難しい。
となれば…


「艦隊司令より総員に連絡。作戦変更を伝える。目標は変わらずコンバイラベーラ。
目標を早急に撃破し、バイドの包囲が緩んだところを、艦隊ごと突破する。各艦前進せよ。」


スレイプニルが疾走する。
白いR機は大型の核ミサイル‘バルムンク’を抱えて進む。コンバイラベーラの艦首砲が狙いだ。
続いて、ウェーヴマスター、ケンロクエン隊も発進している。
多少の損害には眼をつむり、勢いで勝負するしかない。


敵策敵圏に入ると、コンバイラベーラも反応してこちらを向く。
艦首砲発射準備に入るが、遅い。すでにバルムンクは放たれた。
艦首砲のエネルギーが解放される前に核の炎が砲塔を焼く。
それでも艦首砲は機能しているようであったが、発射直前まで溜まっていたエネルギーは霧散していた。


同時に入ってきたのはWマスターとケンロクエン。
Wマスターは肩の砲台を、ケンロクエンはコアを狙う。
これに対して、コンバイラベーラはミサイル、レーザーで迎撃してくる。
コアからの攻撃がケンロクエンに向かうが、
スレイプニルが搭載されているバリア弾で受け止める。
ケンロクエンはパイルバンカーを起動、帯電した杭はスレイプニルのバリアごと敵を打ち抜く。


インパクト!そんな声が通信から聞こえた。


ケンロクエンはコンバイラベーラに突き刺さっている。
どうなった?


「戦況報告!」
「は、はい、おそらく…コンバイラベーラ沈黙した模様です。」
「バイドの包囲網に穴が開いた。全艦隊突破するぞ!」


私は最大戦速で艦隊を進ませる。
すでに解放同盟艦隊が抜けた穴から、後ろにバイドが回りこんでいる。
前しか道は無い。


「これは…提督!また、目標が動き出します。」
「何!またか!」
「あ…コンバイラベーラ反転。に、逃げるようです。小型バイドも追従しています。」


ザ、ザー…ザ…


―ひ……をは…いせよ―


彼の声を振り払う。
周囲のバイドは、私達の艦隊には目もくれずコンバイラベーラに追従する。
半包囲されていた私の艦隊の隙間をバイドがすり抜けていく。
どういうことだ。こちらを包囲できたはずなのに。
それに、またあの声。彼は何を伝えたい。
逃げているのではなく、追ってこいということか。


私は艦隊をまとめ、被害がそこまでひどくならなかったのを確認すると、追撃を命じた。
…追ってこいと言うなら宇宙の果てでも、追いついてみせるさ。



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大型バイドが逃げ込んだ先は奇妙な回廊だった。
艦隊は頑強な金属質の壁が広がる宙域に進入した。
一見人工物のように見えるが、金属化したバイドが集合したものかもしれない。
なぜだかそんな気がする。
宇宙は静寂なものだが、なぜかこの辺りはさらに静かに感じられ、
自分の心の奥が透けて見えるような気さえした。


私はこれまでの旅のことを思い出していた。その記憶に現れるのは我が艦隊の、隊員達の顔。
彼らがいたからここまでこられた。
連合軍と革命軍の混成部隊である我々は、いわば地球人類の縮図だ。
艦内の人間関係が比較的良好なのを見ていると、私は人類の未来に希望が持てる気がした。


私は洞穴内に侵入し、障害となる敵を撃破しつつ、目標のバイドを追撃するよう命じた。




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ゲーム中では役立たずこの上なく、友軍にフレンドリーファイアをかましてくる開放同盟艦隊の回でした。
重金属回廊はスパロボっぽく、所定のマスまで旗艦を運んだら終了っていうステージですが、
これという特徴も思い入れもないのでカットです。


年内に後編完結できるか微妙になってきましたが、
さあ、次は彼との決戦です。



[21751] 20 提督と提督
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/12/25 21:09
・提督と提督


重金属回廊を抜けた先は、不気味な空間だった。
通常空間ではない。ワープ空間でもない。隔離された空間だった。
重い靄のようなものが漂う空間は、それ自体から微弱なバイド反応が検出される。
周囲は物質化したバイドが堆積したものだろうか。大きな広間のようになっている。


中央には‘彼’
コンバイラベーラがいた。
周囲にはかなりの数の小型バイドがいる。
決戦の準備を行っていると、頭に響く声。
軋むような…悲鳴?


戦闘指揮所のスタッフがざわめく。


「提督、コンバイラベーラが!」


コンバイラベーラは朱色の装甲をうごめかせると、
また苦悶の悲鳴を上げた。
そして、その場で身もだえした後、破砕音が聞こえる。
ムスペルヘイム級戦艦より一回り大きい程度だったその躯が、膨張しだしたのだ。
その勢いは凄まじく、近くにいた小型バイドをも巻き込んで巨大化する。
内側から膨らむように膨張し、装甲が砲台がデタラメにせり出してくる。
指揮所のスタッフも呆然としてみている。現れたのはディスプレイの枠からはみ出すほどの巨体。
この不気味な空間いっぱいに球形に変形した。


私は、なんとなく水風船のようだと思った。
内側から無理やり膨らまされ、針でつつかれて破裂するのだ。
しかし、それは私の妄想で、実際のコンバイラベーラだったものは、装甲と砲台の塊だ。
艦首砲規模の砲台がそこここに突き出している。


ザー、ザ……ザザ…


―ひと…をはかい…よ―


しゃべっているのはコンバイラリリル。
私は確信する。やはり‘彼’は私に何かをさせたがっている。
ここに呼び寄せるために地球上空からここまで呼んだのだろう。
彼は誰だ。何をさせたい。もう少しで理解できるのに…


「提督…コンバイラタイプの膨張が終わった模様です…。」


横には副官達が集まっていた。
震える声で言葉を搾り出したのはガザロフ中尉だ。
皆唖然としている。


「呆けるのは後で良い!戦闘を開始するぞ。目標はコンバイラリリル。」
「コンバイラ…リリル?」
「巨大バイドを破壊せよ。艦艇を展開しR機部隊を発進させるんだ。」


明確な指示を出されて、スタッフ達が動きだす。
バイド反応による計測報告では、巨大バイドリリルのほかに、小型バイドが多数居るらしい。


「バイド反応計測データによると、恐らく目標の巨大バイドのコアは、こちらから見て反対側にあるでしょう。」
「コンバイラタイプにある様な艦首砲構造体が各所に見えます。エネルギーが溜まった状態のアレに近づくのは危険だと思われます。」
「提督、艦艇はどの道通り抜けられないでしょう。R機による最短ルートでの進軍を進言します。」
「前面の敵は、ゲインズ3…白兵戦型です。ならば艦艇によるアウトレンジからの攻撃を行うべきです。」


アッテルベリ中尉、ヒューゲル少尉、ラウ中尉、ガザロフ中尉が進言してくる。
他の副官達も情報を集めたり、他部署に確認を行ったりしている。
もう大丈夫そうだ。


「まずは艦隊射撃により、ゲインズ3を撃ち破る。三斉射後にR機隊を突入させる。」


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旗艦フィンデルムンド、戦艦エンクエントロス、巡航艦モンテプンク、駆逐艦レーニョベルデが陣を組む。


「全砲門開け。斉射開始。」


各艦の主砲やミサイルが一気に解放される。
主砲レーザー砲や連装ミサイルが雨あられのように飛び出しゲインズ3に向う。
艦首砲はまだエネルギーを蓄積している最中だ。
ゲインズ3は白兵戦型の武装しか持っていないバイドだ。
近づかれるまでに、打ち破る。
機動力に優れた白兵戦型のゲインズでも、圧倒的な面制圧で逃げ場をなくせば、当たる。


「着弾を確認。ゲインズ3を14体無力化。」
「レーダーに反応、後方にいたゲインズ3前列に出てきます。戦列の穴塞がれました。」
「艦首砲チャージ40%。」
「第二斉射用意。目標ゲインズ3。…リリルの様子は?」
「巨大バイド動く気配はありません。ただし各砲塔はエネルギーチャージを行っています。」
「よろしい、各艦、第二斉射開始!」

充填を終えたミサイルが次々と飛立つ。レーザーも同様だ。
コンバイラリリルに動きは無い。
スラスターらしき構造はあるが、そもそも空間いっぱいまで膨張した巨体は動けるのだろうか。


「着弾を確認。前列のゲインズ3、12体無力化しました。」
「ゲインズ3まだ後ろから出てきます。」
「艦首砲チャージ85%です。」
「第三斉射は艦主砲チャージを待って行う。各砲門用意。」


次々にあふれてくるゲインズ3。
どうやらコンバイラリリルとバイド堆積物の壁との間いっぱいにゲインズ3が詰まっているらしい。
ためらっている暇は無い。正面を突破して壁沿いに進軍するのが最短ルートだ。
しかし、艦艇が入る隙間は無い。R機の突入を全力で支援するしかない。
R機がアングルボダ級空母エストレジータから飛立ち、突入体勢を取る。


「提督、艦主砲エネルギー充填率95%。あと10秒で撃てます。」
「各艦第三斉射用意、R機体は突入準備を。」
「艦主砲撃てます!」
「第三斉射発射!」


各艦から艦首砲の白い光がほとばしる。
その光は空間に漂う靄も消し飛ばして進み、ゲインズ3の一団を飲み込む。
同じ箇所に集中して照射されるエネルギーの奔流は、ゲインズを消し飛ばすだけではなく、
バイド体堆積物で出来た壁も抉り取る。
側にあったリリルの砲塔も何基か巻き込んだようだ。


「R機突入!強襲揚陸艦プルルナスも続け。」


まだ、残光の残る空間にバルカンで弾幕を張りながら突入するR機。


R機は狭い通路を通っている。リリルと壁の隙間の細い通路だ。
所々にリリルの砲台があり、回避する空間も十分にないため、油断していると簡単に討ち取られる。
先陣を切ったR機が進路を確保し、強襲揚陸艦が進む。
強襲揚陸艦で補給をして、また先に進む。
R機隊はゆっくりと漸進している。


________________________________________


「提督、R機部隊突入しました。」
「よし艦隊はここに留まり、突入隊の後ろを守る。小型バイドを近づけるな。」
「了解です。」
「突入隊の情報は、すぐに伝えること。」
「はい。」


私はリリルの表面に並ぶ砲台を破壊し、巨大バイドの側にある大き目の岩礁に布陣した。


「提督、小型バイドの群が艦隊に接近しています。」
「サブディスプレイに回せ。」


画面に映ったのは、グロテスクな花だった。
咲きかけの花の基部に鈍く光るセンサー部。
決して美しさを求める花ではなく、原初の力強さを思わせる野趣ある色合い。
前面には花のような器官のついているフォース。
ジギタリウス3とフラワーフォース…
20や30ではきかない、もっと大量にいる。
悪夢の花畑だ。
バイドはここまで来て物量で攻めてくるらしい。


「ジギタリウス3を突入させるな。ここで討つ。艦主砲チャージ!距離は?」
「敵機先頭イエローゾーンに進入、主砲射程圏内です。」
「敵先頭集団が射程に入った時点で、主砲、ミサイルの一斉発射を行う。」
「…敵先頭、完全に射程内です。」
「撃てぇぇ!」


ミサイル、レーザーが敵に向う。
盛大な爆発が起こり、花びらというには語弊のある物体が舞い散る。
花が散っている様は美しいという言葉を聴いたことがあるが、
この光景を見せてやりたい。
暫く花は要らないと思うだろう。


粗方のR機は突入部隊に振り分けた。
今本隊に残っているR機は最低限、戦艦の射程と手数の多さが頼りだ。
特に近距離武装が少ないので、近づかれると対処できなくなる。
遠距離にいるうちに撃破したい。


「提督10時の方向から、Uロッチが来ます。」
「こんな時に!残っている機体は?」
「今展開している部隊のみです。」
「提督、Uロッチは鹵獲弾を装備しています。R機での接触は危険です。」


鹵獲弾を搭載している機体は脅威敵だ。
単純にバイド化するには侵蝕に時間が掛かるが、
やっかいなことに鹵獲されると制御系統を乗っ取られ、一瞬で敵に引き込まれる。
バイドに引き込まれれば、もちろんそのままバイド化が待っている訳だが。


「…作業用のPOWはあるのか?」
「ありますが…提督何を?」
「ドックの整備班に通信を開け。」


______________________________________


作業用のPOWアーマーが射出される。
もちろん無人であり、簡単なプログラムで制御されている。
無人のPOWアーマーが不気味な空間を泳ぐように進む。
Uロッチの射程圏に入ると、次々に鹵獲弾が発射される。
鹵獲弾は非常に命中精度が悪く、ただ泳いでいるだけのPOWでも外す。
しかし、何十もいるUロッチから放たれた鹵獲弾のいくつかが、POWアーマーを捉える。
POWはUロッチの群の中に引き込まれる。
そして、


爆発。
Uロッチの先頭集団が盛大に爆発する。


「提督、成功です。Uロッチ45%にまで減。」
「ほんとに、やられちゃった。」
「なんでも拾うからこうなるんだ。」


ヒューゲル少尉が呟き、私は少し呆れて応える。
タネは簡単、Uロッチの鹵獲したがる性質を逆手にとって、
POWにバルムンクミサイルを詰めて敵に鹵獲させたのだ。
整備班に無理を言って、整備用のPOWアーマーのパイロット席や、要らない機構を取っ払ってもらい。
中に時限式信管に変えたバルムンクミサイルを詰める。
あとはころあいを見て、バルムンクミサイルが爆発するのを待てば良い。
歴史のあるブービートラップだ。
しかし、人間なら引っかからない時代がかった罠でも、バイドには効果的だ。


「敵はまだ残っている。一機たりとも通すな!」


勢いに乗った艦隊は、攻勢を激しくする。


________________________________________


R機隊はゆっくりと進撃を続けていた。
狭路の途中にジャミング機アンチェインドサイレンスを配置して、攻略起点としたのだ。
このジャミング圏内にはギリギリ強襲揚陸艦が入れる幅があり、
リリルとバイド堆積物の壁の間に、揚陸艦プルルナスをUサイレンスが寄り添うように止っていた。
この狭路ではジャミングを外すとすぐさま複数個所から砲台で狙われる。
散発的に襲ってくるゲインズ3の所為で、中々前進できない。


やっとのことで、ゲインズを処理してリリルのコア側に出る。
そこは砲撃専門の中型バイドタブロック2が山ほど居た。
地獄の狭路をぬけてたどり着いたのは、やはり地獄だった。


_______________________________________


「提督、R機隊狭路を突破しました。」


指揮所内がうわっと沸き立つ。
ずっと先の見えない防衛戦を続けていたからな。
味方の進撃に喜ぶ司令部スタッフ達。


「突入隊が狭路を突破した。今度はこちらが攻める番だ。残りの小型バイドも平らげるぞ!」


威勢のいい返事が返ってくる。
残りの小型バイドは、ジギタリウス3とフラワーフォースが25体程度、Uロッチが20体程度だった。


「砲身冷却終了。艦主砲チャージ開始します。」


撃ち過ぎて、オーバーヒートしていた艦主砲が使えるようになったようだ。
一気に片付けたいものだ。


「各艦へ。主砲、ミサイル2斉射後に、艦主砲を発射する。」


一斉射目
ミサイルとレーザーを周辺部のバイドに打ち込む。
命中したバイドは靄に混じって消えてゆく。
やはり周辺部は機影が薄いから命中が少ない。

二斉射目
やはりミサイルとレーザーを周辺部のバイドに打ち込む。
しかし、今度はこちらが発射準備に入ると射線からの回避行動を見せながら向ってくる。
周辺部が危険なら、安全な中央へ。
バイドの群はしだいに密集してくる。
下準備は済んだ。


「各艦、よく狙え。この一撃でバイドの群を殲滅する。艦主砲発射用意…撃てぇぇぇ!」


ミサイルから逃れようと密集しすぎたバイドが、光に飲み込まれた。
後に残ったのは、より濃くなった重い靄だった。
私は大きすぎて目に入らなくなっていたリリルを見る。


さあ、そろそろ教えてくれ。何をさせたいのか。
その想いに反応するようにあの砂嵐がやってくる。


ザ…ザ……ザ…


―ひとみをはかい…よ―


もう少しで聞き取れるのに!
砂嵐が邪魔をして、気が逸れる。


「提督、突入隊コアにたどり着きました!」


________________________________________


R機隊はタブロックを破壊しつつ、コンバイラリリルのコアまで迫っていた。
強襲揚陸艦プルルナスも特攻するのかと思うほどの勢いで迫っている。
スレイプニル、ノーチェイサー、ナルキッソス各隊はすでにぼろぼろで、
すでに定数を半数以下に割り込み、装甲もはげ落ちている。
波動砲を持たないこれらの機体は、波動砲を装備した機体を無傷でここまで牽引してくる役目だった。
すでに、役目を果たして、満身創痍だ。


追従してきたドミニオンズが火炎波動砲を、
ウェーヴマスターはスタンダード波動砲Ⅲを、
コンサートマスターは持続式圧縮波動砲Ⅲを、
コンバイラリリルのコアに向けて発射する。
暴力的なまでの光が溢れ、余波は周囲のタブロックも蹂躙する。
リリルの巨体が蠢動し、朱色の装甲が軋む。
まるで痛覚があるかのような振る舞いだ。
コアは健在だ。しかし、周囲の構造が破壊されコアがむき出しになる。


第一射に参加したR機が射線から離れ、周囲のタブロックを警戒する位置につく。
強襲揚陸艦から出てくるのはラグナロック、ケルベロス。
すでに機首には波動の光が灯っている。
周囲から撃ちこまれるタブロックのミサイルは周囲を警戒するR機の弾幕に阻まれる。
発射位置に付き、トリガーが引かれる。


ケルベロスからはライトニング波動砲が発射され、紫電はコアに収束する。
紫電に巻き込まれないように下がっていたラグナロックが、前にでる。


そして、ハイパー波動砲がコアに撃ちこまれる―


________________________________________


群れの核を成していたコンバイラリリルは、突然、大きく軋みだした。
膨張しきった体をさらに膨らませる。まるで水風船の様だ。
リリルに付いていた砲台が剥がれ落ち、朱色の装甲が互いにせり出し合い拉げる。
進化と呼ぶには何かが狂っている。
どんどん膨らむリリル。
しかし、いかにバイドといえども限界がくる。
朱色の装甲の隙間から暗い光が見え、そして一瞬収縮した後。


リリルは弾け飛んだ。


_______________________________________


リリルが弾けた衝撃で艦内にも激しい震動が走る。
そして、‘彼’の慟哭が、私の脳裡に直接伝播してきた。



ザー…ザッ…

―ひとみをはかいせよ―

―瞳を破壊せよ―




一際強い声が頭の中で響く。
瞳…?何の?
そして、頭の中で鳴り続けていた砂嵐が止み、あるイメージが浮かぶ。
私の頭の中に、洪水のように映像が溢れてくる。
その激流のような情報量に、私は思わず頭を抱える。



―地球の基地とR機
―成層圏を飛ぶ輸送艦
―火星施設での戦闘
―木星基地の奪還
―ベストラへの突入
―ウートガルザ・ロキの光に消えるバイド
―グリトニルからの跳躍
―ワープ空間での戦い
―緊急連絡のアナウンス
―ヘイムダル級のものらしき戦艦の内部
―私のではない司令室
―誰かの航海日誌
―笑いかけてくる私の知らない隊員達…




グリトニルまでの往路と太陽系同盟の討伐の時…?
いや、私はこんな事していない。
知っているようで知らない記憶。




―ブラックホール宙域
―水の惑星
―灼熱の惑星
―輸送コンテナ
―バイドの巣窟
―腐敗した都市
―バイド帝星
―暗黒の空間
―何かを縫い留めるように突き刺さる艦艇…



なんだこれは。
こんな光景、私は知らない。
これは…‘彼’の記憶?
しかし、これではまるで…
まるで、彼が人間のようではないか。



―そして、
―漆黒の瞳孔



!!!
真っ黒な…瞳。
これが…彼が伝えたかったものか…!



私はウートガルザ・ロキを使い、
ドプケラドプスを倒し、
地球圏のバイドを駆逐し、
バイド帝星まで乗り込んだ英雄を一人しか知らない。



彼が…

‘彼’が英雄ジェイド・ロス



私は何がなんだか分からなくなった。








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作者のトラウマステージ「バイドと同化してゆく宇宙」でした。
いきなりゲインズ3に飲み込まれたとか、リリルと壁に挟まれてジャミング解除とか、
タブロック死ねとか、あんな所のトレジャー取れねーよとか、ターン制限で失敗とか…
二度とプレイしたくないステージです。

さて、次は後編最終ステージ、「琥珀色の風 この美しき宇宙」です。
番外編は妄想100%で書くことにしました。来年には始めたいなー。



[21751] 21 琥珀色の風 この美しき宇宙
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:bb3f0569
Date: 2011/01/04 21:01
・琥珀色の風 この美しき宇宙


「……!……!」


何かが聞こえているのは分かるのだが、それがなんだか分からない。
しかし、耳に届く声は私を急かす。


「…督!提督!」


あと少し寝ていたい。という欲求を抑え込んで、私は瞳を開く。


「提督!」
「…ベラーノ中尉か。」


目の前には心配そうに私を覗き込むベラーノ中尉の顔。
首が痛い。ベルトに体を預けて、司令席で気を失っていたらしい。
周囲にも倒れている者や、それを起こそうとしている者がいる。


「ベラーノ中尉、私はどれくらい寝ていた。」
「私も先ほど起きたばかりなので分かりません。起きたらこのような状態で…」
「そうか…これは!?」」


そこで私はディスプレイに映るものに気がついた。
そこにあったものは、今まで見たことのない宇宙の姿であった。


一面、琥珀色の空間。
煌く琥珀色の靄は、虹色に色を変えながら、あちらこちらに堆積している。


現実なのかどうか疑いたくなる様な風景だ。
ここが通常空間であることを信じるものも居ないだろう。
私は教養の授業で見た大昔のフレスコ画に、似たものがあったような気がした。
天国と天使を想像した絵であった気がしたが、まさか戦艦で天国というわけでもあるまい。


懐かしさすら感じる心地よい空間。すべてを忘れてしまいたくなる。
この優しさの中でただ目を閉じて、体を委ねられたら、と思ってしまう。
…違う。私はバイドを討伐しに来たのだ。
バイドの根源たる瞳を破壊すること。それが彼に託された想いでもあったはずだ。


私はまどろみに堕ちそうになる自分を叱咤するために、
横に居るベラーノ中尉の手をしっかりと握った。
ベラーノ中尉もはっとしてこちらを見るが、静かに頷き、私の手を握り返した。
この非常時に何をしているのかと自問したくなったが、気が遠くなるのを堪えることができた。


皆起き上がりはしたが、ぼうっとしている。
これは不味いと思い、全艦通信を入れる。



「ここまで来て、ためらうことは何もない。」


「ただ、目の前に空間があれば進み、目の前にバイドがいれば破壊するだけだ。」


「バイドを倒して、地球に還ろう。」


「さあ、行こうか。」


______________________________________


私は艦隊の編成を応急的に済ませた後、艦隊に命令を出した。


「総員、目標はバイドの根源‘瞳’だ。これを破壊すればバイドとの戦いも終わる。
人類の悲願だったバイドとの決着だ。」


私は言葉を区切って、周囲を見る。全員こちらを見ている。


「これが最期の戦いだ。命令はただ一つ‘瞳を破壊せよ’。戦闘を開始する!」


____________________________________


「上方通路より戦艦エンクエントロス、巡航艦モンテプンク、輸送艦ルミルナを進撃、
下方通路より旗艦フィンデルムンド、駆逐艦レーニョベルデ、輸送艦リャキルナ進撃。
空母エストレジータは損傷が激しい、R機発進後待機。」
「提督、前方よりバイド反応。クロークローとアーヴァングと見られます。」
「R機隊、蹴散らせ!」



―今思えば色々な事があった。
―初めは、私はただの特別部隊の隊長で、大佐だった。
―戦力ともいえない輸送艦とアローヘッドが数機のみの部隊。
―負傷により退役したホセ中尉と、若手の副官マッケラン中尉。
―大声をうっとおしいと思ったが、今では主席副官として副官達をまとめてくれる。
―なんのかんのでマッケラン中尉が一番長く補佐してくれた副官か。



「クロークロー、アーヴァング掃討完了しました。R機稼働率74%です。」
「提督、R機を戦艦に戻して修理、もしくは予備機を出すことを進言します。」
「そうだな、R機は一時帰艦せよ。損傷を受けた機隊は修理を、無傷の機隊は補給して、再出撃の準備を。」
「合流後、進路が3つに別れています。中央は戦艦が通れますが、上下の通路はR機か輸送艦しか通れません。」
「ならば、上下通路は無視して進軍だ。どのみちバイドも大した戦力は展開できないだろう。中央突破を図る。突破後にR機を展開する。」



―本部の訳のわからない指令で演習を行った事もあった。
―今思えば、あれがきっかけだった気がする。
―あそこから、私と私の艦隊の波乱に満ちた軍歴が始まったのだ。
―ガザロフ中尉もそのころに来てくれたのだったか。
―当時はポカミスだらけで本当に大丈夫かと思ったものだが
―今ではその一風変わった戦略眼は我が艦隊に無くてはならないものだ。



「提督、大型のバイド反応を感知しました。」
「敵種はなんだ。」
「データ検索…ファインモーションです。内部に小型バイドを搭載している可能性があります。」
「弱点は。」
「外壁が非常に堅固で、体当たり攻撃が非常に強力です。弱点はレーザー攻撃・小型バイド放出のために外壁を開いたときにコアが露出します。」
「ふむ、POW改デコイを先行させる。小型バイドを放出してきたときを狙って、
巡航艦モンテプンク、駆逐艦レーニョベルデで砲撃を打ち込む。そのまま押し込むぞ。」



―要塞ゲイルロズ…革命軍の本拠地であった要塞攻略は大変だった。
―旗艦が内部までは入れなかったので、現場部隊に途中から指揮を委譲したが、
―大変だったのはむしろ戦闘前だった気がする。
―予想外の戦闘であったため、戦力配備が間に合わず、
―アッテルベリ中尉を戦闘指令室に呼び出して作業に当たらせた気がする。
―その時に限らず、彼の知識量は頼りになった。



「提督、ファインモーション外壁が閉じていきます!」
「くっ、後一斉射でと落とせるのに…」
「提督、レーニョベルデがファインモーションに突撃します!」
「何をしているっ!停船命令を!」
「命令受け付けません。…レーニョベルデより電文があります。―幸運を―。」
「…」
「レーニョベルデ、ファインモーション外壁の隙間に突入します、
レーニョベルデ、外壁に挟まれ停止。ファインモーションの外壁閉鎖も止まりました。
提督、駆逐艦の装甲では、直に圧に耐え切れずに破壊されます。」
「…旗艦、艦主砲発射はできるか。」
「艦主砲チャージは終わっていますが…提督?」
「目標、ファインモーション・コア。発射準備。」
「今撃てばレーニョベルデが巻き込まれます。」
「知っている。しかし、後悔は全てが終わってからだ!ムスペル砲発射せよ!」



―Op.Bitter Chocolate、グリトニル奪還作戦。
―この作戦は色々な節目だったな。
―地球連合軍とグランゼーラ革命軍との休戦。
―太陽系解放同盟という新たな敵の発覚。
―そして、私自身。
―ベラーノ中尉に対するプロポーズも有耶無耶になってしまったな。



「ファインモーション沈黙。レーニョベルデ反応ありません…」
「まだ終わりじゃない。索敵を続けよ。」
「早期警戒機展開、合流地点です。広い空間があります。」
「広い空間…でも瞳はまだ奥に居るはず…索敵は?」
「小型バイドが数機と…提督!ベルメイト本体が2体ですっ!」
「ベルメイト…基地防衛戦にいたあいつか。面倒なのが来たな。」
「ベルメイトこちらに気が付いた模様です。」
「戦艦の艦首砲はまだチャージが終わっていない。
かといって今からR機を出したのでは各個撃破される…。砲撃戦しかないか。」
「ベルメイト、接近。射程範囲に入ります。」
「各艦多少の損害を覚悟せよ。砲撃開始。」



―新しい艦隊、新しい任務、そして増えた仲間達。
―戦後に私に下された任務は太陽系解放同盟の討伐だった。
―戦争状態にあった両軍の兵を一緒にして大丈夫かと思ったが、
―両軍の副官達が、積極的に取りなしたりしてくれていたらしい。
―ワイアット少尉は気さくな様子で、すぐに連合兵士とも打ち解けた。
―彼にはワープ空間で迷惑を掛けたな…



「主砲、ミサイル第1斉射。発射!」
「ベルメイト衝撃波来ます。」
「つっ…被害状況を知らせ。」
「旗艦フィンデルムンド、戦艦エンクエントロス損害軽微、輸送艦ルミルナ脱落します。当方の攻撃、ミサイル40%命中、敵ダメージ軽微。」
「第2斉射準備。ルミルナの状態は?」
「自走不能。いえ、機関部に被弾、爆発しました。」
「第二斉射発射。…ルミルナから脱出したものは?」
「確認できません。…!提督、遠方に小型バイドを確認。会敵にはまだ時間があります。」
「提督、あの衝撃波は回折しない模様です。戦艦の陰にR機を展開して小型バイドの襲撃に備えましょう。」
「艦首砲発射準備。…提言を採用する。R機を戦艦の陰に展開。」
「艦首砲チャージ完了。2番艦エンクエントロスも発射可能です。」
「艦首砲撃てぇぇ!」



―グリーンインフェルノ…ワープ空間で会敵したときは何かの冗談かと思ったものだ。
―ワープ空間を埋め尽くすほどの巨体。武装の多さ。
―地獄の名に相応しい威容であった。
―そんななかヒューゲル小尉は若いながら良く補佐してくれた。
―伊達に、親の七光りならぬ祖父の七光りで副官を務めているわけではないという訳だ
―そんな彼女もすでに我が艦隊には無くてはならない頭脳の一人だ。



「提督、ベルメイト1基破壊確認、下方のベルメイトは中破。まだ動きます。」
「不味い、戦艦を盾にR機を守れ。衝撃波が来るぞ。」
「了解、っ痛ぅ…旗艦フィンデルムンド被害は…左舷側面スラスターと左舷ミサイル機構が破損しました。スラスターの破損で回頭には時間が掛かります。」
「2番艦エンクエントロスにベルメイトの破壊を命じる。当艦のミサイルは修理可能か?」
「戦闘中では難しいです。」
「それならかまわない。敵小型機は?」
「会敵にはまだ時間があります。」



―バイドバインドシステムも印象的だった。
―あれには手を出すべきではないという考えは今でも変わらない。
―しかし、あれを開発したのは本当にキースン率いる開放同盟だったのか?
―クロフォード中尉も警戒していた。
―そういえば、結局彼女の笑顔と言うものはほとんど見ていない気がする。
―冷たい印象があるが、笑ったら可愛いと思うのだが。



「提督、会敵です。データ検索…ミスティレディー2とセクシーダイナマイト2です。」
「R機隊投入せよ。」
「R機隊二手に分けます。」
「しかし、あのゼリー状の物体はなんだ?」
「提督ゼリー物質から波動砲が!巡航艦モンテプンク巻き込まれました。」
「自爆だと!」



―バイドバインドシステムと、それに乗っ取られた解放同盟艦隊。
―敵軍の最高司令官は行方不明というなんとなく、腑に落ちない決着。
―捉えたカトー大佐からもBBSについての詳細は聞け無かった。
―技術のみに囚われた人間の末路というのであろうか。
―はえぬきのグランゼーラ軍人であるラウ中尉が、同調しないか心配だったが、
―取り越し苦労であったようだ。



「…戦力はどの程度残っている?」
「旗艦フィンデルムンドは小破。2番艦エンクエントロスは艦首砲を損傷、
航行は可能です。巡航艦モンテプンクは大破、途中で取り残されています。
空母エストレジータは突入地点で待機、輸送艦リャキルナはデコイは失いましたが、
問題はありません。R機は稼働機…35%です。」
「R機を失い過ぎたな。温存しなくては…あそこが最奥の空間だな。」
「! 提督、入口付近にバイド反応あり、バイドシステムλです。」



―本部基地での防衛戦。英雄の帰還。
―あの時は皆必死だった。バイドの大群が地球圏に攻め入ってきたのだ。
―しかし、‘彼’の気持ちも分からないではない。
―きっとかの若き英雄も、地球に帰りたいと願っていた筈なのだから。
―ただ、疑惑が一つある。Team R-TYPEから貸与されたR機。
―Rwf-99ラストダンサー。あのバイドをも従える能力、あれは…



「っく、バイドの味方意識の無さを忘れていらたな。味方を巻き込んで、波動砲を撃つとは。」
「R機残存は?」
「25%です。」
「少ないな…しかし、瞳を破壊できればいい。一気に押し込むぞ。怯むな!」



―さきほどから‘私’は攻撃を命令し、艦隊に指令を出し続けている。
―しかし、私はこんなにも心穏やかだ。
―バイドを滅ぼす方法を考え続け、攻撃性を増していく‘私’と
―今、こうやって琥珀色の空間で思考を続ける私。
―どちらが本当のワタシなのか。
―いや、考えるのも不毛なことだ。もうすぐ全てが終わるのだから。
―…瞳が近い。


______________________________________


最期の部屋まで来た。すでに艦隊はその戦力を3分の1以下にまですり減らしている。
しかし、そんなことは問題ではない。私には分かる。
この奥に人類の敵バイド…その根源たる瞳がいるのだ。
ここまで来た。
今重要な事はバイドを倒すことのみ!
他に何が必要だ?
邪魔なものは排除する。そして瞳を倒す!


私は前進を命じた。


「提督、上下から中型バイドが接近。ガウパータイプです。」
「先行している2番艦エンクエントロスに通信、引き付けて艦主砲でなぎ払え。と。」
「了解しました。」
「旗艦フィンデルムンドは2射目を撃つ、エンクエントロスを巻き込まないように航路をずらして進行する。」
「2番艦エンクエントロス艦首砲発射。下方のガウパー殲滅しました。」
「続いて当艦も波動砲を。」
「艦首砲チャージ完了。発射できます。」
「撃てぇぇ!」


白い光の束はガウパーを飲み込む。
この空間に群れていたガウパーは居なくなったはずだ。


先行している2番艦エンクエントロスから通信が入る。
空間の淵に奇妙な突起の様な器官があるとの報告だ。
こちらでも確認したそれは、上下方向に2対、計4基確認された。
瞳ではないが、あれはなんだ?
邪魔ものは破壊するべきだ。
エンクエントロスに破壊するように命令した。


エンクエントロスがミサイル、主砲などで手前側にある器官を攻撃すると、
突然、突起の様な器官が奇妙な光を放つ。
四方から怪光線が戦艦エンクエントロスに突き刺さる。


私はその光景を現実のもののようには捉えられなかった。
記録映像を見ているみたいだ。
私は僚艦が崩れ去るのを、何もできずに見ているだけだった。
前を進む戦艦が居なくなって見えたのは不思議な光景だ。
そこにはまるで惑星の様な物体が見えた。


二つの星
青く激しい風が吹く星
青白い氷の星
環を持った星
縞模様の大きな星
赤い星
青く美しい星
黄橙色の星
小さく灰色がかった星


遠近感の狂った光景。
これはなんなのだろう?
何故だか、とても懐かしいものに見える。
それがなんだったか思い出そうとしていたとき、
それが目に入った。


琥珀色の瞳孔。
殲滅すべき、敵…!
もう、私の眼にはあの瞳しか映らない!


___________________________________


「あれだ…」
「提督?」
「残存戦力、敵が見えた。瞳を…琥珀色の瞳孔を破壊せよ!」


私は旗艦と残存戦力を琥珀の瞳に進める。
邪魔だ。
邪魔をするものには破壊を。
二つの星も、青く激しい風が吹く星も、青白い氷の星も、環を持った星も、縞模様の大きな星も、赤い星も、青く美しい星も、黄橙色の星も、小さく灰色がかった星も…!
私はすべてを破壊して琥珀色の瞳孔に攻め入った。


_______________________________________


琥珀色の瞳孔は開きっぱなしで、此方を眺めていたが、
急に窄まり、焦点を結ぶ。瞳は明らかに此方を見ていた…!
目が合った気がして、私の心臓が高鳴る。今まで猛っていた気分が一気に冷え込んだ。
周囲からも悲鳴の様な声が聞こえる。
瞳の周囲にある器官にエネルギーが収束する。


「回避を!」
「回避間に合いません。」


そして、放たれる。
私は眩い光に目を瞑った。
あの瞳と再び視線が交わるのが怖かったのかもしれない。
直ぐに衝撃はやってきた。
爆音と、振動と、痛み…
目を開けると、指揮所は酷い様だった。
メインディスプレイはすでに死んでいる。
最も重要な送受信機器は、頑丈に作られているため生きているが、
その他の計器類は予備が働いて入ればいい方だった。
戦闘指揮所でこれだけの被害が出たのだから他はどうなっているのか…。


「被害状況を知らせよ!」


しゃべると血の味がする。右目も痛い。目にも血が入ったようだ。
いい加減な自己診断では、肋骨の一本でも折れているのかもしれない。
あの、衝撃でベルトに自重が掛かればそうなるだろう。
加減速の衝撃はほぼ無くしてくれるザイオング慣性制御システムも、
このような予期しない衝撃には、余り効果が無い。


「…被害は…武装使用不可、エンジンは無事ですが、スラスターが破壊されています。R機隊は…全滅?」
「全滅だと?攻撃手段は!?」
「発進できるR機はすべて発進していました。戦艦の武装も無くては…」
「ここまで来てっ!」


サブディスプレイの艦艇のステータスは真っ赤だ。
艦主砲も各種砲台もやられたらしい。ハッチも空きっぱなしだ。
私は通信機を手に取る。


「戦力は!あと一撃できるだけの戦力はないか!
R機は? 半壊していても、予備機でもいい。
ミサイルでも後一撃できればいい。
あと波動砲一撃であの瞳を倒せるんだっ!
攻撃できるものは…誰か居ないのかっ!」


最期のほうは叫び声に近かったと思う。
しかし、体面なんか気にしていられないんだ。


「提督、整備班からです!」


『整備班長だ。ここに最期のR機が一機ある。
…慌てるな。整備班総動員で飛ばせるようにしている。
元は練習機としておいてある機体だが、大破した機体の波動砲ユニットを無理やりつけた。
パイロットもいる。後30秒で出せる。これが正真正銘最期の一機だ。
…若いの、良い面になったじゃないか…それこそ男の顔だ。』

「おやっさん、感謝する。」

おやっさんの右ひじから先が無いのが見えたが、ここまで来て心配するのも失礼だ。
私は敬礼して通信を切った。


「管制、レーダー係、聞いたな。他のことはいい。波動砲を撃てる位置までR機を誘導するんだ。」
「了解しました。」
「R機テイクオフ…あれは!」


琥珀色の空間に踊り出たのは、白い機体に赤と青のマーキング、青いキャノピー。
Rwf-9A アローヘッドだった。
決して機動性が高いわけで無いアローヘッドは、すでに波動砲の白い光を灯していて、
琥珀色の瞳孔を取り巻く器官から、発せられる攻撃を管制に助けられて回避する。
機首の光はその間もさらに大きくなる。
3撃目の攻撃をかわしてみると、そこは琥珀色の瞳孔の目の前だった。


アローヘッドが機首を琥珀色の瞳孔に向ける。
限界までチャージした波動砲ユニットが火花を散らしている。
発射まであと…
3,
2,
1…
発射。



波動砲ユニットの限界を超えてチャージしたエネルギーは、
ファイナル波動砲となって琥珀色の瞳孔に突き刺さる。
琥珀の瞳孔が割れた音を聞いた気がする。
ファイナル波動砲の膨大な量の光が収まるとそこには…
光を失った瞳があった。


___________________________________


誰も声が出ない。
沈黙が続く。
「あはははは…」
誰が笑っているのかと思ったら、私の喉からでた笑い声だった。
おかしいわけでないのだが、なんか気が抜けてしまって、笑ってしまった。
なにか憑きものが落ちた気分だ。
このおかしな感情は、戦闘指揮所のスタッフ達にも感染する。
皆、堪え切れなくなったとばかりに、くすくすと、最期には腹を抱えて笑い出した。
それは異様な光景だったが、
今の私達には、笑い合える仲間がまだいる。それだけでうれしいのだ。


ついにバイドの中枢、あの琥珀色の瞳孔を倒した!
我々はバイドを生み出し続けた元凶を破壊することに成功したのだ。
今度こそやっと故郷に還ることができる。
帰ったら地球でゆっくり休もう。
それくらい要求する権利が、我々にもあるはずだ。
ひとしきり笑ったあと私は切り出す。



「さあ、みんな…地球に還ろう。」














































そう言って、残存戦力をまとめようとしたとき。
…艦が大きく揺れた。
何が起こったのか!?






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⇒驚愕する



[21751] 幕間 手のひら (改訂)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:bb3f0569
Date: 2011/01/04 20:58
・幕間 手のひら


「いったい何が起きたんだ!?」
「分かりません。船体が引き寄せられています。」
「! 瞳が…」


先ほどファイナル波動砲を受けて、ぐずぐずに破壊された瞳が嗤っていた。
口も眉も瞼もないのに、私にはあの琥珀色の瞳孔が嗤っているのが分かった。
そこにあるのは…
純粋な悪意


琥珀色の瞳孔は漂う粒子ごとすべてを吸いこんでいる。
まるで栓の抜けたバスタブのようだ。
見ている前ですべてを平らげて行く瞳。


戦艦の残骸
大破したR機
脱出艇
バイド


「離脱を!」
「やっています。スラスターは反応なし。補助ブースターも推力不足です。」
「脱出艇は?」
「先ほどの攻撃で…」
「くっ、せめて後方の僚艦に退避命令を伝えよ。」
「電波の状態が滅茶苦茶です。通信不可能です。」


瞳が迫ってくる。
否、
我々が瞳に吸い寄せられている。


もう打つ手がない。
ここまでなのか?
バイドに吸いこまれて終わり?


そのとき私の右手に何かが触れる。
横には私の手をしっかりと握って、ベラーノ中尉が微笑んでいた。
周りを見渡すと、スタッフ達も静かに私を見ている。
私は小さな手のひらを握り返す。


大丈夫。
私には頼りになる副官達が、
ここまで私に付いてきてくれた部下達がいるじゃないか。
さっき、彼らに約束したばかりだ。
みんなで還ろうと。


だから、泣き言は後でいい。


「総員、対ショック態勢!みんな、生きて地球に還るぞ!」



そして…



______________________________________



【 !!!! 】


認識:次元振動およびワープ反応を確認。
行動:索敵モードへ移行。


認識:対象を確認。
検索:対象を想定敵αおよび、惑星破壊兵器B1と確認。
認識:該当時間を含む時間移動を確認。〈時間移動能力保有兵器〉と認定。
判定:行動規範〈ケース4〉適合。該当時間への侵略に対して反撃を行うことを認証。
判定:脅威度判定、レベルB。端末による分解処分を行う。
行動:末端活動モードへ移行。〈衛兵〉を活性化。


認識:…時空震を観測。対象をロスト
行動:索敵モードへ移行


認識:想定敵αは時空震により通常空間へ転移したものと認識。
判定:追撃不能。
行動:待機モードへ移行。



________________________________________



そこはなんとも言えない美しい空間だった
琥珀色の空間はどこまでも広がっている



キラキラした光が降り注いできて
我々に降り注いだ
光は私の心を落ち着けてくれる
いよいよ私の心は凪いでいた



今にも眠りに落ちそうなのをこらえて
周りを見る
僚艦
R機
バイド…
様々なものが見える
そのすべてがキラキラと瞬いては琥珀色に溶けていく



ここは何処なのだろう
いやどこでもいい…
今はただこのまどろみに身を任せよう



しかし
ワタシを捕まえていてくれていたはずの
あの小さな手のひらはどこへ行ったのだろう…






______________________________________



【本部基地防衛戦3ヵ月後・南半球第一宇宙基地】


青い空には地球連合政府国旗が掲げられている。
海岸沿いの街で工事が行われているのも見える。
屋根が半壊した工廠の中にはR機が並んでいる。機体のマーキングはRwf-99…


それらを見下ろす位置にある部屋は、紙書類や記録媒体が積まれている。
ディスプレイがいくつも並び、女性の顔を照らしている。
部屋の主はスーツを着た中年女性。
今時珍しい紙書類を見ている。
女性が書類をめくろうとしたとき、控えめなコール音が鳴る。


「もしもし、ええ私です。博物館の建設は来春には終わるのかしら?
ええそうね。機体の搬入準備をしておくわ。
…そうよ、技術なんて使わなければすぐに錆び付いてしまうわ。
我々の研究成果は後の世代に残さないとならないの。…そう、ではまた。」


かちゃりと受話器を置く。
読んでいた書類を机の上で揃えると、椅子を回転させて窓の外を眺める。


「とうとう終戦の英雄も、本当に英雄になってしまったのね…彼には御礼をしなくては。
彼のお陰でOp.Last Danceがつつがなく進んだのだから。」


くすくすと笑いながら、極秘の印が押された書類を金庫にしまう女性。
そこには【Rwf-100 Curtain Call】の文字。




===================================
トレジャー『バイドを討った証』
バイドにトドメを刺した時に手に握りしめていたもの。
ああ…、意識が薄れていく…。

改訂1/4



[21751] 【番外編開始】なかがき2
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:bb3f0569
Date: 2010/12/30 21:48
なかがき2


後編で落としておこうかとも思ったのですが、書いてしまいました。
正直、番外編はストーリーは理解を超えているし、
ストーリーがほぼ妄想という、超実験作になるとおもうのですが、
それでも許容できるRタイパーの皆様は、どうぞ、読んでいただきたいと思います。


前後編は提督の一人称っぽく進めてきたのですが、
番外編は視点を変えて進行してゆきます。
時間軸もかなりバラバラになると思います。
…だって、バイドの一人語りを延々23話書くってどんな拷問ですか。


詳しくは本編でということになりますが、
提督らの時間軸と、その他の時間軸が1話の中で混じることになると思います。
混乱の無いように書き方を工夫していきたいと思いますが、
分かりにくかったら、すみません。


と こ ろ で
R-TYPE tacticsⅢの開発発表はまだですか?



[21751] 1 ほのかな光
Name: キガ◆2a9fd0bf ID:bb3f0569
Date: 2011/01/05 20:20
・ほのかな光、もしくはTeam R-TYPE

・ほのかな光 a

【暗い空間】


この暗い場所は一体どこだ?
暗い、暗い空間
何か喪失感の様なものを感じるが
果たしてそれは何であったか分からない


ワタシの心を占めるこれは…
望郷の念
地球への思慕
そう還ろうと決めたのだ


ワタシはその片隅に
小さな光を見つけた
あれは出口か?
それとも入口だろうか?


どちらにせよワタシにとって
この世界でただひとつの道しるべだ
ワタシは光を目指して進む
あの先に地球があるのだろうか


正体不明の物体が接近してきた
ワタシ達に対して明確な攻撃意思を示している
白いのっぺりとした…戦闘機?
しかし明らかにR機とは違う形状をしている


彼らの意図は分からない。
ただ攻撃してくる以上
ワタシ達にできるのは反撃だけだ


こんな場所でやられる訳にはいかない
ワタシ達には帰る場所が
帰らなければならない場所があるのだ




_______________________________________




・第一次バイドミッションに関する報告書(極秘)
戦役決戦局面においてRwf-9A特務R機部隊、通称R-9大隊を投入。
Rwf-9A特務R機部は、バイド帝星へ侵入してバイドの中枢を破壊する任を負って異相次元に突入。
1機のみ帰還。
ボイスレコーダーなどより、Rwf-9A特務R機部は壊滅(正確には作戦行動中行方不明)したことを確認。
第一次バイドミッションを終了したRwf-9Aは、異相次元を漂流中、巡航艦クロックムッシュにより回収。
Rwf-9Aは地球の衛星軌道にある宇宙要塞アイギスに収容。
パイロットは重度の精神汚染を引き起こしバイド化の危険があったため、Rwf-9Aごと凍結処分とする。
Rwf-9Aはアイギス内の格納庫に厳重隔離後、保管。
※公式発表ではパイロットは死亡として公表した。

一年後の事件についての関連は…


_______________________________________


【地球南半球第1宇宙基地_Team R-TYPE研究棟_ロス艦隊地球圏出発時】


未開封の段ボールが積まれた部屋でデスクに齧りつく女性。
情報端末だけデスクに開けられ、白衣を着た女性が端末を操作している。
端末にはカードリーダーが付属しており、セキュリティーカードを通すことで、
高レベルの機密情報を操作できる仕様だ。
女性が首にかけているカードは高レベルのものだが、真新しかった。
表には‘サヤ・S・バイレシート’と印刷されていた。
カードの記載を信じるなら開発主任の職を持つ。


女性は更にいくつかの機密情報を端末に呼び出し、吟味する。
目線は滑るように文章を追っている。
彼女は呼び出したいくつかの機密情報を見比べた後、
端末にロックをかけると、隣に放置する。


しばし考え、電話で誰かにアポをとっている。
女性は椅子に深く座りなおし、目をつぶって思考に注力する。
部屋の扉をノックする音がする。
部屋の主の許可を待って、50代の男性が入ってきた。


「どうぞ。部長わざわざご足労頂きまして、ありがとうございます。」
「なに、最高機密エリアは君のセキュリティーレベルでは入れないからね。新しい執務室はどうだね?」
「執務室があるというのは確かに有り難いですわね。まだ、部屋になれるといった状態とは程遠いのですが…」
「そのようだね。」


男性が段ボールだらけの部屋を眺めて言う。
段ボールの置かれたソファーを見て軽くため息をつくと、
窓の縁に腰をかける。


「さて、どのような用件かね。」
「バイド化…バイドによる汚染についてです。」
「ふむ、聞きたい。…というよりは確認ということか。」
「はい、ヒラの研究員から主任になって、情報開示された機密を見ていたのですが。」
「それで。」


女性の無言の問いかけ。
この質問を続けていいのかどうか。
に対して、男性が許可を与え、続きを促す。
女性はそれを確認して、言葉を続ける。


「はい、一般研究員の間では、すべての物体を侵食する生命体。バイドに汚染された物体は、すべてを汚染すべくバイドとなる。一言で言うならばこれです。」
「そうだね。」
「主任権限で閲覧できる資料では違う側面が見えます。バイド化した人間は、意識が残っている場合があるのでは無いのですか?」
「この資料を君はその様に解釈したわけだね。」
「バイド化後の行動、反射を見ているとそう考えられる事例があります。
すべて部外秘に設定されていることからも、一般研究員には知らせるべきではない。
という恣意的な情報操作が行われていると考えられます。
この疑問について私はすでに確信を持っています。
問題は何故この情報を隠すのか。です。」


男は窓の縁から立ち上がって、反対を向き窓の縁に手をかけて外を見る。
まだ昼下がりの空、室内より明るく、中庭では軍服の人々が行きかっている。
女性は男性の後ろに立ち返事を待っている。
逆光になった男性を見つめ、挙動を見逃すまいとするようだ。


「まあ、立場のある人間ならば隠す事ではない。徐々に一般研究員にも情報開示をするつもりだ。」
「ならば、なぜ機密指定に?」
「時期の問題だ。一般人は意識や常識の転換に時間がかかる。
残念なことにTeam R-TYPEも一般研究員の間には、研究者としての思考ができない者もいる。
彼らはバイドについての研究に疑問を持っている。‘これは正しいことか’とね。」
「思想は個人の自由ではないのですか?」
「そうだね、でもそれを研究に持ち込んでもらっては困る。
そして我々の研究を一般常識などという、くだらないもので図らないでもらいたいものだ。
それが情報規制をした理由だ。
情報に触れるものは、その情報が重要かどうかを正しく判断できる人間でないとならない。」


その点君は合格だ。と言う男。
次第に、身振り手振りを交えて、会話というよりは語るように言葉を続ける。
観客は部屋の主である女性だけ。


「我々はTeam R-TYPEだ。我々に求められるのはただ一つ。
バイドに対抗する技術の発見、開発だ。正しい正しくないなど問題ではないのだ。」
「私にもその様な思考をしろとの命令でしょうか。」
「いや、君は問題ない。この情報を得て冷静に対応した、私にまず相談したことがその証明だ。
君が私に質問したのも君自身を納得させるためであって、正義とやらのためではないだろう。
それに、バイレシート主任。君は我々側の人間だ。
「私が…ですか。」
「一度必要とさえ認めれば、研究のためには手段を問わない。
君は、‘疑問がある’でななく、‘納得させて欲しい’んだ。君は研究をしたがっている。
だから君を主任に推挙したんだよ。」


男性はもう話す事は無いとばかりに、話を切り上げ、部屋を出る。
その後女性は、一時間ほど端末を睨んだままだった。




________________________________________




・ほのかな光 b

【暗い空間】


ワタシは敵を倒すために
戦闘機バイドシステムαを使った
何機もの戦闘機が落とされたが
なんとか敵の戦闘機部隊を壊滅させる事に成功した


彼らはなんなのか
その疑問は晴れない
その好戦的な態度はなんなのか
ワタシは彼らを戦闘文明と呼称することとした。


さあ明かりが見えた
あそこに行けばこの混沌とした状態について
何か分かるかもしれない
ワタシは光に向って進んだ







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あけましておめでとうございます。
作者です。
番外編を始めるにあたって、作風などについて変更を加えてみたのですが、
もし、読みにくい、分かりにくいといった事があればコメントで教えていただけると、幸いです。



[21751] 2 緋色の宇宙
Name: ツク◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/05 20:44
・緋色の宇宙


【緋色の宇宙 a】


気付くとワタシ達は星空の中にいた。
明かりを目指して艦隊を進めていた気がしたのだが、
知らない間にまどろんでいたのだろうか。


前は舷窓を見ていたら怒られた記憶がある。
あれは誰でいつの事だっただろう。
記憶の彼方を探していると。
もやもやと掴みどころの無いものとなってしまい、
詳細が分からない。


ただワタシを怒った人物だけは思い出した。
ワタシの副官だ。
それを思い出したとき疑問が湧く。
彼らはどこにいるのだろう?


ああ、なんだ。
ワタシは彼らがいつも傍に控えていた事を思い出した
大丈夫
彼らはそこに居る


遠くに赤い星雲が見える
なんという星雲だろうか
ずっと昔に学校の授業で習ったような気がするが思い出せない
幾重にも花びらを広げた様なその星雲は、美しかった。


あの美しい天体が
この宇宙で一時を輝いた星の終焉かもしれないと思うと
不滅なものはない事を実感させられる
ワタシ達の還るべき場所
地球は無事だろうか


ワタシが故郷に不安を感じていると
正体不明の機影が近づいてきた。
副官が警告を発する


『提督、敵襲です。戦闘文明の部隊と思われます。』


以前我々に問答無用で襲い掛かってきた戦闘文明だ。
戦いは避けられないだろう
ワタシは戦闘準備を命じた




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【本部防衛戦3カ月後_統合作戦本部】


地球最大の基地であり統合作戦本部を有するこの基地の広場には、
多くの将兵が礼装で整列しており、
ポールには地球連合国旗が半旗で掲げられている。


集団の前では、大仰な格好をした恰幅のいい老齢の男性が、演説している。
男性の後ろには大きな真新しい石碑。
『慰霊碑 バイド討伐艦隊』
功績を讃える文章と、鎮魂の言葉。
その下には提督以下、隊員の氏名が刻まれていた。


バイドとの戦闘が激化したころからか、
地球連合は戦死者個人の墓を造ることをやめた。
どの道、墓石の下にあるべきモノが無いことが殆どであったし、
一度の作戦で万を数える戦死者がでることさえあったからだ。
しかし、何も無いのでは残された者の感情のやり場に困る。
だから代わりに碑を建てた。
戦闘ごとに、部隊ごとや、乗艦ごとに、
その場で亡くなった構成員の名前と、どこの戦場でどうして亡くなったのかを記したのだ。


今でもその風習は引き継がれている。
大きな戦闘で、部隊が壊滅的被害を被った場合は碑を建てる。
特に大きな功績のあった部隊などの場合は、基地内や広場などに建てられることもあった。
親しむには威圧的過ぎるそれらは、将兵達からは「記念碑」などとあだ名された。


戦死者の家族には「彼は英雄であった」という一種お決まりの文面と、
その名前が記された墓碑のある区画の場所が知らされた。


男性の演説は続く。
季節はすでに秋。昼間とはいえ、じっと立っていると肌寒い。
鎮魂というよりは、その場にいる将兵を奮い立たせるための演説。
軍隊としては正しい姿勢なのだろう。
太陽系内のバイドが急速に減少しているとはいえ、まだ戦闘状態なのだから。


太陽系外縁部で、バイド反応を伴う大きな爆発を観測してから1ヶ月。
今まで太陽系内の天体、施設に根を下して、増殖を続けていたバイドも、なりを潜めた。
太陽系内のバイドが不活発になり、系外からの来襲もほとんど観測されない。


太陽系外縁部での爆発を観測して、すぐに近くを哨戒していた巡航艦が、
その周囲の宙域を探索して、残骸を発見した。
巡航艦は、それらを集めて持ち帰ると、本部に引き渡した。
本部ではそれらを、Team R-TYPEや技術部に解析させた。


バイドだったものの残骸
厳重に封印された箱
動かなくなった試験機を含むR機
そして、‘Fin Del Mundo’とペイントされた。赤い外部装甲の一部。
それら残骸は、艦隊が壊滅したにしては量が少なかったが、
次元の歪みが観測されたため、爆発の衝撃で異相次元に取り込まれたのだろうと、
結論付けられた。
生存者は発見されなかった。


結果、バイド討伐艦隊がバイドの中枢を討ったのだと結論付けた。


そして、彼らは英雄になった。


人々は噂した。
「‘終戦の英雄’が再度、バイドとの戦争にも終りをもたらした。」
「‘若き英雄’が太陽系外のバイドを討ち、‘終戦の英雄’が太陽系内のバイドを殲滅した。」
と。


もう少し慎重な、もしくは少し事情を知る立場にいる者達は、警戒を続けている。
「‘若き英雄’の時も、バイドが居なくなると思ったが、やつらはまた現れたじゃないか。」
「地球連合とグランゼーラの休戦は、太陽系開放同盟やバイドの圧力に対向するためだ。
それらがなくなった今、また人類は内戦状態になるのではないか。」
と。


いつの間にか演説は終わったらしく、演説していた男性は消え、将兵の多くも方々に散った。
しかし、少なく無い人数の将兵が献花をしたり、石碑に敬礼していた。


人々の思惑を飲み込み、秋の空は高く晴れ渡っていた。




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【緋色の宇宙 b】


ワタシは命令を出した。
戦闘文明の小型機を破壊するようにと。


前回の戦闘で分かっているとことして、
彼らの小型機は波動砲の様な兵器を装備しており、
不用意に近づこうものなら消し飛ばされる。
ただし、通常の攻撃は近接しないと使用できないようだ。


対して此方は、戦力が心もとない。
主戦力であるバイドシステムαすら数が揃わない。
フォースがあるだけマシといった体だ。
旗艦も以前の様な戦艦ではなく、輸送艦ノーザリーだ。


ワタシは昔のことを思い出した。
小さな部隊の隊長だった頃。
よく思い出せないが、ただ懐かしかった。


しかし、思い出に浸ってばかりはいられない。
敵は明らかに此方の戦力より強大だ。
地形を駆使して上手く戦わなければ。


ワタシは部隊を岩礁に隠しながら接近させた。
幸い此方のデビルウェーブ砲は障害物に強い。
岩礁の影から狙い打つ。
相手も此方を認識していると思うのだが、
彼らの主砲は直線軌道なので、
障害物に隠れるバイドシステムαに届くことはない。


小規模艦隊には小規模艦隊なりの戦い方がある。
ワタシはデビルウェーブ砲で撃ち減らした戦闘機に向って、
フォースを打ち込ませた。
弱っていた戦闘機には堪えるだろう。


そこで小型艇リボーが艦影を発見した。
戦闘文明の巡航艦のようだ。
曲線を多用した白い船体に、
そこだけ主張するようにアンテナ状の構造が飛び出している。
艦首に大きな筒状の構造が見える。艦首砲も装備されているようだ。
あれが司令塔だろう。
戦闘機を粗方始末したワタシは巡航艦に狙いを定めた。


艦首砲の射線に此方の戦力を晒す何てヘマはしない。
物陰から索敵を続けていたリボーが落とされたが、
戦力的には問題にはならない。
ワタシはノーザリーのデコイを作ると船底方面から近づける。
もしデコイであるとばれても自爆させれば良い。悪くはならない。


敵の巡航艦は艦首砲こそ使わなかったが、他の砲門を開きデコイを攻撃する。
艦首砲は温存したのか。
…しかし、艦首砲なら、射線を避ければなんと言うことはない。
私は大回りさせたバイドシステムαに指令をだす。
フォースシュート!


艦橋と思われる部分にフォースをめり込ませる。
巡航艦はオレンジに発光するフォースに触れた部分から破壊される。
一撃では仕留められず、追撃が入る。
フォースが装甲に空けた穴に、さらにフォースをシュートする。
巡航艦が内側から食い破られていくようで面白い。
念を入れて3回目。
気づくと、巡航艦はすでに反応がなく、巡航艦の動力が爆発した。


『提督、この宙域を制圧しました。わが軍の勝利です。』


副官が告げる。


ワタシは戦闘機と巡航艦を分析した。
残骸はひどく破解され、かつ高度に発達した技術が使われており、詳細はよく分からなかった。
しかし、収穫はあった。
戦闘機の方はコンパートメントを組み立てて製造しているらしい。
その戦闘機は44のコンパートメントからなっているらしく、
戦艦の方は兆に迫る部品から出来ているらしい。
ワタシは便宜的に戦闘機の方を四十四式戦闘機、
巡航艦の方を兆級巡航艦と呼ぶこととした。


それ以上の収穫はなかったが、
我々の部隊を強化する材料に位はなってもらおう。
ワタシは鉄くずとなっている戦闘文明の残骸を回収した。



さて、地球はどこだろう?






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『Billy don’t be a hero』って歌を、英語のリスニングでやらされた覚えがあるのですが、
執筆中に頭の中でずっとサビだけ再生されていました。
戦争で死亡=英雄って表現がなんとも皮肉ですね。

バイド提督は表現に制限が多くて書きにくい…
なので、番外編のメインは、途中に挿入されている閑話です。
なんかTeam R-TYPEが裏主人公になりそうです。




[21751] 3 群青色の宇宙 
Name: トク◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/07 03:01
・群青色の宇宙 


【群青色の宇宙 a】


気付くとワタシ達は別の星空の中にいた。
あの緋色の星雲付近での戦闘の後しばらく彷徨っていたのだが、
いつの間にか、違う星雲の近くに来ていたらしい。


宇宙の漆黒に群青色のベールが掛かっている。
穏やかに発光する青は、ワタシの心を静めてくれる。
しかし、ワタシは知っている。
ワタシの心が真に安らぐのは、
わが故郷、地球へたどり着いたときなのだと。


『提督、敵襲です。』


戦闘か、
前回、回収した資源から作った兵器。
評価もまだしていない。
この戦闘で分かるだろう。


敵はまたあの戦闘文明なのだろうか。
彼らは何がしたいのだろう。
我々の前に立塞がらなければ、攻撃することもないのに。



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【対グランゼーラ戦争中期_統合作戦本部会議室】


ディスプレイや音響機器などの設備はこれでもかと言うほど揃っているが、
装飾の類は少ない。軍事施設らしく機能を追及した会議室だ。
部屋の中央には将官以上の者が数名集まっている。


卓を囲むのは、壮年から老齢の男性ばかり。
すでに会議は煮詰まっているらしく、腕を組んで考え込んでいる者や、
資料を睨んでいるもの。周囲の様子をみてそっとため息をつく者など様々だ。


このままでは埒が明かないと思ったのか一人が切り出す。


「色々あるが問題は、要はこの艦隊を何処から引っ張ってくるかだ。」
「一から艦隊を新設するわけにも行かない。さすがにそんな時間や予算は無い。」
「宇宙艦隊は対バイドに残しておかなければならん。まだ、バイドの恐怖が去ったわけではないのだから。」
「誰だって自分の手駒を持ち出したくは無いでしょうな。なにせ太陽系開放同盟のための供物ですから。」


会議の参加者の間では若めの男が皮肉気に言葉を発すると、皆黙る。
この場で協議していたのは、対グランゼーラ戦において正面に立たせる艦隊の選定だ。


フォースを元に始まったグランゼーラとの戦争だが、現在はその意味合いが変わってきた。
地球連合政府対その統治に反対する革命軍というのが現状だ。
地球連合政府としては、反政府思想を持つ人間を一掃してしまいたいが、
ここまで規模が大きくなっては、参加した人間をすべて監獄に入れることなどできない。
だから、最近グランゼーラで勢力を拡大した、太陽系開放同盟と名乗る派閥に接近した。


太陽系開放同盟は革命軍のキースン大将の派閥であるが、
謀略を以てグランゼーラ本体を飲み込もうとしている。
すでにキースン大将はグランゼーラ内部で実権を握りつつある。


地球連合政府の方針はこうだった。


地球を中心に内惑星や火星などに拠点を持っている地球連合政府に対して、
グランゼーラ革命政府は太陽系外縁部を占領している。
さすがにこのまま全面戦争をして戦力をすり減らすことは出来ないし、
グランゼーラに参加した人全員を、思想犯として収容所送りにするわけにもいかない。


そこで、太陽系開放同盟を使う。
親地球連合として手綱をつけた太陽系開放同盟に実権を握らせて、
グランゼーラの本拠地、要塞ゲイルロズなど内側を治めさせて緩衝地帯とする。
そうすれば、グランゼーラの本流は太陽系外縁部に閉じ込められる。
数は減ったとはいえ、太陽系外から来襲するバイドの圧力は、
グランゼーラ本流を衰退させるに十分だろう。
あとは太陽系開放同盟を10年単位で同化、飲み込んでゆけばいい。


問題が一つ。
太陽系開放同盟が名実ともに権力の座に着くには、グランゼーラを支援する人々からの支持が必要だ。
そうしなければ、人々の心はグランゼーラ本流についていってしまうだろう。
開放同盟が名実ともにグランゼーラを手に入れるには、その力を示さなければならない。
グランゼーラを支援する民間人にも分かるような戦果。
グランゼーラの本隊を破った、または苦戦している敵を、太陽系開放同盟の手で打ち破る。
もちろん、打ち破られるのは地球連合政府から提供される生贄艦隊。
そして、太陽系開放同盟が完全に実権を握った後、休戦を行うのだ。


すでに餌は播いてある。
キースン大将との非公式会談は済んでいるし、
Team R-TYPEも独自に接触して、開放同盟を手名付けるために技術供与しているらしい。
あとは…、供物。
グランゼーラ本隊に勝って、太陽系開放同盟に負ける様に仕組んで、艦隊を派遣する。
そうなるように、舞台を整えなければならない。


今、この会議室ではその供物を選定しているのだ。
それぞれが自分の組織からは出したくない。
強大すぎてもダメ、弱すぎてもダメ。
できるならば、軍内の政治に参加していない者。
そんな、都合の良い部隊は早々転がっていない。
それで男達は悩んでいた。


「私に良い考えがありますわ。」
「君に発言権はない。技術屋として黙っていればいいのだ。」
「いや、Team R-TYPEもかかわりがない訳ではない。バイレシート開発部長、話したまえ。」
「ありがとうございます、閣下。」


会議室の隅に座っていた女性から声が掛かる。
会議室の前に移動して話し始める女性。


「まず、艦隊に拘る必要はありませんわ。艦艇の指揮が出来て、政治的にフリーならばいいのです。」
「グランゼーラ本隊には勝たなければならない。弱小部隊を送るわけにはいかない。」
「弱ければ、育てればいいのです。戦力を持たせればいい。」
「どこにそんな戦力が転がっているのか。」
「待ちたまえ、まずはバイレシート部長の話を最後まで聞こうではないか。」


「まず、独立部隊の中から候補選定を行います。それらを小規模艦隊でのコンペティション、
…演習をさせます。これの結果で、有能な司令官を選定します。
次に、戦力の話ですが、これに関しては我々Team R-TYPEが受け持ちましょう。
試験機を優先的に配属させます。この部隊には試作機の実験部隊を兼ねてもらいます。
艦艇に関してだけは本部に頼ることになりますが…」


それくらい構いませんよね。と微笑む開発部長。



この話はTeam R-TYPEの一人勝ちだ。
Team R-TYPEは専属の実験部隊を手にいれて、実戦で実証試験を勝手にやってもらえる。


他の出席者は面白くないが、それ以上の代案が出せず、
矛先が自分に向くのを恐れて発言できない。
Team R-TYPEにこれ以上大きい顔をされるのは腹立たしいが、
自分達が損をするよりはマシと言う打算もある。


「異議は…ありませんわね?」
「反論が無いなら、この案で行こうと思うが、いいかね。」
「これならば、誰も損をしません。みなが幸せになれますわね。」




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【群青色の宇宙 b】


やはり戦闘文明か。
今回は敵が違う。新たな敵だ。
いや、戦闘文明の戦闘機ではあるのだが、
四十四式戦闘機とは違う。


新しい戦闘機は両翼が前に突き出しており、
安定しなさそうな形状だ。
しかし、意匠はやはり戦闘文明のもらしく、
曲線を多用しており、白い。


どのみち戦うことになるのだろうな。
…やはり仕掛けてきた。
戦闘開始だ。


『提督、命令をお願いします。』


私はバイドシステムαとタブロックをだす。
これでようやっと、遠距離からの攻撃が出来る。


タブロックは新しく開発した人型の遠距離狙撃型のユニットだ。
タブロックの装備するミサイルは、射程が長く、威力も高い。
中型兵器ということで何体も製造できないが、一機でもかなり有効な兵器であり、
戦艦を持たない今は、貴重な遠距離攻撃の要となるだろう。
問題は索敵能力と機動力が低いことだ。索敵用のユニットと組ませて運用する必要がある。


私はデブリを避けてタブロックを置き、
小型機リボーを索敵機として前面に出した。
やはり主力は、バイドシステムαとフォースだ。


敵新型戦闘機は一気に飛び込んできた。
索敵範囲まで一気に詰めてくる。
お互いに主砲のチャージが溜まっていないので、
通常武装での攻撃が始まった。


小型艇リボーは戦力外として陰に隠し、
後ろからバイドシステムがミサイルで迎撃する。
フォースはまだ早い。
敵戦闘機はミサイルの隙間を縫うように進撃してくる。
敵機の群のなかで、何回か爆発が起こる。
敵機は余り減らせなかったようだ。
回避性能の問題と言うよりは、バイドシステムのミサイルは命中率が悪いことが問題で、
戦闘機相手であると中々当たらないのだ。


敵機はまだ攻撃してこない。
四十四型戦闘機の様に近接武装しかもって居ないのだろうか。
であればタブロックの餌食にしてやろう。
ワタシはそう考えて、タブロックの射程に入るように敵機を誘導する。


バイドシステムαは敵を引きずり込み、デブリに隠れる。
敵の主砲を避けるためだ。
バイドシステムαを追ってデブリに回り込もうとする敵機に、
タブロックのミサイルが側方から降り注ぐ。


敵の索敵外から打ち込まれたミサイルは、
比較的硬い戦闘文明の装甲も容易に破壊する。
先頭にいた敵新型戦闘機の破壊に成功した。


後続の敵機はタブロックの射程の手前で動きを止める。
バイドシステムαが死角からデビルウェーブ砲を打ち込む。
紫色のエネルギーが敵の戦闘機に達するその瞬間…
敵の主砲が煌いた。
敵の機首からでた光は二又に分かれてY字を描き、
デブリの影にいるバイドシステムを襲う。


一方的に蹂躙できると踏んでいたバイドシステムαは回避が間に合わず、
光に飲み込まれる。


互いの発射したエネルギーが拡散した後、
そこに残ったのは、バイドシステムがつれてきたフォースと、敵戦闘機が数機だった。


ワタシは味方機に敵戦闘機から距離をとるように指示をした。
デブリから退避するバイドシステム。
敵の主砲の方が高威力らしいので下らせながら、主砲を撃たせる。
どうやら、正面の射程では此方の方が有利なようだ。
デビルウェーブ砲それぞれが撃ちながら、下ると。
敵戦闘機も釣られて前のめりになる。


タブロック!
じわじわ前進を続けていたタブロックと、
釣られて近づいた敵戦闘機。
すでにミサイルの射程内だ。


タブロックのミサイルが再び打ち込まれる。
同時にバイドシステムの残機もフォースシュートする。
砕け散った戦闘機。


そのとき放っておいた小型艇リボーが伝えてくる。
またあの兆級巡航艦がいるらしい。
しかし、今回はタブロックがいる。
遠距離からミサイルを撃ち込む。
当然反撃はあるが、タブロックが潰される前に、
バイドシステムが接近してミサイルを撃ち込む。



これで邪魔者は居なくなった。
ワタシは前回のように敵の戦闘機を調査する。
此方のほうがコンパートメントが多いらしい。
55個なので五十五型戦闘機と呼ぼうか。
しかし、戦闘文明はゾロ目になにかを、感じているのだろうか。


私は兆級巡航艦の残骸を回収したあと。
あてのない帰路へついた。





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本部の罠。
挿話がどんどん黒くなる。

タブロック先生が出張りすぎです。



[21751] 4 バイドの巣窟
Name: ライ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 00:47
・バイドの巣窟



【幻想空間 a】



我々がたどり着いた星は幻想的であった。




地球を探しているうちに、
その惑星を発見し、そこに降下することを決定した。
宇宙空間をあてどなく彷徨うことに開いていた我々は、
その星に地球の面影を探していたのかもしれない。


その星には大気があり、気候変動があまり大きくなく、
生物が生存可能な条件であった。
我々は僅かばかり、期待を抱いて地表を探索してみたが、
そこに人類の痕跡は無かった。


この星は地下洞穴が多くあったので、そこを探査してみる事にした。
苑で見たのが、この光景だ。
洞穴は白灰色の茂みに覆われていた。
それは顕微鏡で見る糸状菌を想像させる。
菌子柄や、菌核を思わせる奇妙な茂み。
ただし、その大きさは、μmではなく、10m単位だ。
小型機ならすっぽりと覆い隠せる。


地表とは違い、人類が生きるには凡そ適さない生態系だった。
しかし、私はその光景に一種の安らぎを覚えた。
何かこの幻想的な空間が、我々を誘っているように思えたのだ。
我々はこの地下空間の探査を開始した。


そして、この空間にいるのは、我々だけでない事が分かった。
この洞穴の主は、この星の原生生物であろうか。あれは…


ミッド?
ジータ?
ムーラ?
ベルメイト…?


私はその生物達をどこかで見た事がある気がする…
はて、どこで見たのだろう?
私はしばし、思考の海に浸っていたのだが、答えは出なかった。
そうこうしているうちに、原生生物達がこちらに向かってきたからだ。


彼らはこの洞穴を縄張りとしているらしく、我々に攻撃の意思を示してきた。
攻撃されるなら、殲滅しなくてはならない。
我々には地球に戻って、戦闘文明などの想定敵の情報を伝えなければならないのだ。
ここで彼らに滅ぼされるわけにはいかない。


私は艦隊に戦闘配置に付くように命令した。







_____________________________________




【本部防衛戦4ヶ月後_要塞ゲイルロズTeam R-TYPE研究区画】



―提督、いよいよですね。

―ああ、ここがバイドの中枢か…

―さすがにバイド帝星だけあって、すごい数のバイドがいますね。

―そうだな、ここを落とさなければ人類に未来は無い。なんとしてもこの戦いに勝たなくてはならない。

―そうですね。そのために人類の全戦力をあずけられたのですものね。

―そろそろだ。艦隊通信の準備を。




―艦隊全将兵へ

―ここまで来て、ためらうことは何もない。

―ただ進むだけだ。

―バイドを倒して、地球に還ろう。

―さあ、行こうか。




―提督、全艦戦闘準備完了です。

―では我々も往くとしよう。みんな、これが最後の戦いだ。準備はいいか!

―はっ、ロス艦隊総員、提督についていきます!ロス提督、命令を!

―決戦だ。敵はバイド中枢、漆黒の瞳孔!



ザー…


カチリ



「回収されたボイスレコーダの音声はこれで終わりです。この先は音声データが破損していて、再生不能です。」



ここは木星―土星間にある要塞ゲイルロズ。
グランゼーラ革命軍、太陽系開放同盟の手を経て、今は地球連合政府が管理している。
宇宙空間に建設された基地としては、破格の規模を持つこの基地は、
内部に食料生産プラントもあり、長期の滞在が出来る、まさに要塞だ。


その要塞ゲイルロズの機密区画の中にTeam R-TYPEの研究施設もある。
本来は近くの宙域にあったバイド研究施設、ギャルプⅡがその役目を負っていたのだが、
ギャルプⅡは放棄されて久しい。
バイドの圧力が減少した今、ギャルプⅡの復興を目指すとする動きもあるが、
まだ、実行に移されていない。
なので、Team R-TYPEは要塞の一角を間借りして、機密区画にしている状態だ。


大型の機器類を前に、二人の白衣を着た盤所が向き合っている。
女性は中年で仕立ての良いスーツの上から白衣を着ている。
男性は30代くらいで、高そうなシャツの上に汚れた白衣を着ている。
ブランド物の靴下と履き潰したサンダルがミスマッチだ。
二人の前にある机にはすでに温くなったコーヒーや、大量の端末、記憶媒体の山。
端末のうちの一つから出力されたデータはスピーカーに流れて、
過去に宇宙の果てで語られた会話を、今に届けていた。
その他の端末では、音声の波形や、その他雑多なデータが大量に表示されている。


「運がいいわね。回収できた残骸なんてそんなに多くないでしょうに。レコーダ類を拾えるなんて。」
「ええ、軍にも部品の型番を確認してもらいました。
このレコーダは正真正銘、バイド帝星に向かったロス艦隊旗艦のものです。」
「それが太陽系外縁部…‘終戦の英雄’率いるバイド討伐艦隊が消滅した場所で発見された。」
「バイド討伐艦隊の者とみられる残骸の中で、これだけ違うのが混じっていました。
まあ、バイド討伐艦隊がワープ空間で拾った可能性もありますが…」
「太陽系解放同盟討伐後、バイド討伐艦隊…当時は混成特別艦隊だったかしら…
まぁ彼の艦隊が、解放同盟討伐後にグリトニルから送った報告書では、その様な報告は無いわ。」
「でしょうね。」
「ふふ、あなたは拾っただけなんて思っていないんでしょう。レホス技術主任。」


レホスと呼ばれた男は、無邪気な笑みを浮かべて話しだす。
それはともかく、と続ける。


「このレコーダは、音声データを聞く限りこれだけのものです。」
「音声データ…ねぇ?あなたがそういう言い方をするということは、これだけじゃないんでしょう?」
「もちろんです。さすがにただのボイスレコーダだったら、部長へメールでデータを送って終わりです。」
「これにしたって、一般研究員や下っ端軍人には聞かせられない代物なんだけどね。」
「バイレシート開発部長をお呼びしたのは、その先があるからです。音声ではなくテキストデータです。」
「ふうん、どこにあったのかしら。一応これを回収した巡航艦の連中や、
軍の技術屋が一通り調べたんでしょう。」
「どこだと思います?部長。」
「レホス技術主任。最近私、お偉いさん方との会議や、
予算審査なん無駄なものにつきあわせられて、イライラしているの。」
「過度のストレスは脳の敵ですよ。」


笑顔を迫力のあるものに変えて、声を低くするバイレシートに対し、
レホス技術主任は気にせず軽口をたたく。
そして、若年の技術主任は笑みを深くして話し出す。
まるで悪戯を企む子供の様な顔だ。


「レコーダ内のノイズです。みんなこれを雑音として処理して消してしまうのですが、
このノイズこそが本当のお宝データです。」
「ふん、つまりノイズデータを分離、処理したら、テキストデータになったと。
で、そんな面倒な事をするおバカさんは誰かしら?」
「またまた、部長分かっているくせにしらばっくれて。
ロス艦隊のレコーダなんだから、ジェイド・ロス提督に決まっているじゃないですか。」
「へえ、レホス主任、あなたの推理を聞かせて欲しいんだけど。」


目の前でへらへら笑う技術主任を試すようにバイレシートが尋ねる。
どちらかというと、こちらも面白がっている雰囲気だ。
レホス技術主任はテキストデータを端末に呼び出して、差し出す。
バイレシートは受け取ると流し読みをする。


「あら、良いデータね。バイド化した人間の思考をここまで明確に記したデータはなかなか無いわよ。」


感心して語りかけるバイレシートに対して、
レホス技術主任は大げさな様子で、がっくりと首を落とす。


「えー…。なかなか無いってことは、すでにあるってことじゃないですか。結構な発見だと思ったのに。」
「甘いわね。でも、これに匹敵するデータは第一次バイドミッションのR-9パイロット一件だけよ。」
「さらに落ち込みますよ。10年どころじゃなく古いデータじゃないですかそれ。」
「まあ、R-9の彼の場合は、重度の精神汚染状態からバイド化までの過程が克明に記録されているから。
これに上回るデータはなかなか無いわ。」


「そんなこと僕に言ってよかったんですか?一応機密でしょう。一部にはダダ漏れですけど。」
「これを自分で気づけたら一人前のTeam R-TYPE研究員ってことよ。ようこそTeam R-TYPEへ。」
「やめて下さいよ。あーあ、やっと自分だけの発見が出来たと思ったら、出来レースだったなんて。」


不貞腐れたふりをする男と、面白そうに微笑む女性。


「あーもう、いっそ精神汚染体作っちゃいましょうよ。そうしたら良いデータとれますから。」
「そんなことをすれば、さすがに軍の上層部もケチをつけてくるわ。
あくまで偶然見つかた検体だから許されているのよ。」
「偶然、事故が起きればいいんですね。」
「あなたの悪いところは、目先の興味につられて目的を見失うところ。ちゃんと、目的を見なさい。
あと事故起こしたら解任するわよ。まずは研究計画を提出する事。いいわね。」


そう言って、女性は扉を出てゆく。
女性が扉を出たのを見送ってから、男も研究室の奥に消える。





端末にはテキストデータが表示されていた。





―見覚えのある場所…見覚えのある仲間達……だけど…なぜ?―





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【幻想空間 b】



私は見知らぬ星の原生生物らしきものを撃退した。
あの洞穴にいた原生生物達は、我々を襲ってきたため殲滅した。
そこでふと思う。
我々がしたことは地球人類を攻撃するバイドと同じでないだろうか?


私はその考えを振り払おうとして、気がつく。
地球人も同じではないかと。


人類の歴史は、戦争の歴史だ。
有史以来…いやもっと昔から人類は同族に対して侵略と戦争を繰り返してきた。
戦争を行うことで、人類は輝きそしてより高度な技術を手に入れてきた。
私は、人類が宇宙開拓をする中で、同じことを繰り返すのではないかと思っている。
未知のものに対する恐怖や探究心は、衝突や侵略を正義にする。
それがもたらす悲劇は二の次になるのだ。


こうも考えられる。
戦闘というのはもしかしたら、宇宙では普遍的なものではないか。
人類もその傾向を示している。
であるとすれば、宇宙でもっとも純粋な存在は、
‘純粋な悪意’であるバイドということになりはしないだろうか。


何を考えているのだろう、私は。


バイドに侵略されている地球人類である私は、バイドを否定すべき立場だ。
バイドの侵略は認められない。バイドが攻撃してくるなら、地球人類はそれを滅ぼすだけだ。
でも、いつか人類はもっと純粋な存在に進化を遂げる事が出来るのだろうか。



そこまで考えていたところ、洞穴の奥から原生生物が湧いてきた。
私はすでにここの生物と戦闘を起こす気にはならなかった。
彼らは彼らの居場所を守っているのだろう。
彼らの仲間を倒した我々が、この星の生物に恨まれていることには違いない。



早急に離脱しよう。





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もういやw
久しぶりに書いてみたら、登場人物がみんな狂ってた。
提督も、開発部長も技術主任も…なんぞこれ。
でも、これがR-TYPE。



[21751] 5 合体戦闘機
Name: ウチ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/13 22:50
・合体戦闘機



【すれ違う宇宙 a】



原生生物達はさすがに宇宙空間までは追いかけては来なかった。
我々は宇宙空間に留まり、原生生物の残骸から新たな兵器を開発した。
中型艦艇ベルメイトと小型機ジギタリウスだ。
さすがに輸送艦ノーザリーだけでは心もとないからな。
現時点での明確な敵である戦闘文明に対するには、戦力が足りない。
なので、これからは、戦力を増強しながら進むことにしよう。


我々は再びあてどない帰路についた。
正直、宇宙空間で迷子になったなど笑い話にもならない。
しかし、止ることは出来ない。
私は約束したのだ。地球に還ると。
どれだけかかろうと必ず地球に還る。
そのために、ともかく地球への手がかりを探す。


そう決意を新たにしていると、
我々は比較的近い宙域に空間の歪みがあるのを感知した。
この宙域に太陽系はなさそうだ。
いっそワープ空間を利用して探索してみようか。
私は空間の歪みに向けて進路を取った。


しかし、我々が進路を決定した瞬間に、敵襲が伝えられた。


『提督、敵襲です。戦闘文明と思われます。ご命令を。』


上手くいかないものだ。




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【異層次元探査艇フォアランナ帰還半年後_月面基地ルナベース】



人類は宇宙に出てから半世紀ほどの期間で驚くべき発展を見せた。
人間という種が存在してより、離れたことの無かった、地球。
その外で生命活動が営まれ始めたのだ。
はじめは牽制しあって、遅々として進まなかった開発だが、
一度、地球外でも暮らせることが分かると、
人類は一気に地球を飛び出した。
地球だけだった生存圏は、一気に宇宙に広がった。


月面基地ルナベースや、月面都市セレーネが開発され、
地球外に半恒常居住都市が出来ると更にそれは加速した。


もっと多く、
もっと広く、
もっと遠くへ。


人類は拡大を続けた。
スペースコロニー群を建設し、他の惑星を改良して生存圏を広めた。
火星のテラホーミングが終了に近づき、火星都市グランゼーラが開発されると、
人類はふと気が付いた。
このままのペースで開発を進めると、じきに開発可能な惑星、衛星がなくなってしまうと。
人類は太陽系の外に眼を向けた。


人々は技術をつぎ込んで異相次元航行システムを開発した。
そして、今までSFの世界の話だったワープ航法が実現したのだ。
人類初の異層次元探査艇を太陽系外に送り出した。帰還予定は20年後だった。
その間も試行錯誤を繰り返し、着実にその生存範囲を広げてゆく。
木星衛星にまで足を踏み出したとき、外宇宙へ飛立った探査艇の帰還が伝えられた。


この年、地球圏は沸き立った。
人類初の太陽系外調査を行っていた異層次元探査艇フォアランナが、
20年にも及ぶ長旅から帰還したのだ。
彼らは新たなフロンティアを開拓した先駆者として人類に迎えられた。


フォアランナは外宇宙の色々な試料を持ち帰った。
エーテリウム鉱石や、外部から見た太陽系の写真、未知の物質…
その中の一つに、オレンジ色に輝くエネルギーの塊があった。


有史以来、地球人類がもっとも活気があり、栄えていた時代だった。


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「遠いところ、ようこそ、おいでくださいました。カミナ・アデランテ博士。私は地球連合政府直下の外宇宙防衛緊急対応室の室長で、トヨス・グラントと申します。」
「あんな行き先も告げずに、引っ張り出してきて、おいでくださいましたも無いものだ。」


簡素な応接室でにこやかにあいさつを交わすグラントと名乗った男と、
憮然としているアデランテ博士と呼ばれた中年の男性。
グラントは目の前の気難しい男にソファを勧めると、
内線でコーヒーを持ってくるように指示している。
グラントが近況などを尋ねて、機嫌の悪いアデランテが一言で返して、
次の話題に移るといった弾まない会話が続く。
暫くすると、女性がコーヒーを出しにきて、一礼して去っていく。
邪魔者が入らなくなったのを見計らって、グラントが切り出す。


「さて、本日ここにお呼びした用件なのですが、R機開発プロジェクトに携わってもらいたいのです。」
「R機…というと、宇宙空間機動計画の汎用作業艇開発プロジェクト…RX計画だったか。
確かフォアランナにも、そのシリーズの機体が工作機として積み込まれていたと思うが。」
「ええ、そのプロジェクトです。ただし汎用機としての機体開発はR-5で終了します。
博士に加わって欲しいのは、次元戦闘機としてのR機の開発です。
…これが仕様書です。」


資料を渡すスーツの男性。
簡素な資料に書かれた内容に、アデランテが目を見張る。


開発期間は今後40年。
単機で別次元に突入できる機体。
武装は最低で、戦艦の艦首砲クラス。
対バイド攻撃武装の所持。
機体はカタパルトから射出できるサイズとすること。
量産を前提とした機体とすること
Ect…


「何だね、このふざけた仕様書は? 40年計画?艦首砲クラスの武装?それよりバイドとは何だ?」
「博士。我々は本気です。これをご覧ください。
フォアランナが持ち帰った‘バイドの切れ端’と、その調査結果です。」


博士はグラントから分厚い資料を奪い取るように受け取ると、
むさぼる様に資料を読み、ブツブツと呟きながら、情報を読み取る作業に没頭する。
紙を捲る音が大きく聞こえる。グラントもアデランテ博士も声を発しない。
暫く、沈黙が場を支配する。
そして、アデランテ博士が顔を上げた。


「これが真実だとすれば、人類は宇宙からの脅威に晒されていることになる。」
「ええ、来年には対バイド計画を発令します。それとともにRX-projectは凍結。
変わりに新計画、Project R-TYPEへ移行します。
この計画にに求められるものは、フォアランナの工作機が採取した生命体バイド、
これへの対抗手段…バイドを殲滅できる兵器の開発。及び、そのためのバイドの研究。
Project R-TYPEの目的はただ一つ、バイドを駆逐し人類の安全を図ること。」


「人類のためといわれて、拒否するわけにはいかんな。」
「それでは、R型戦闘機開発班のリーダーになっていただけるんですね。」
「R型戦闘機開発班?これだから役人は…」


えっと言う顔をするグラント。
ここまで話して協力してくれないのかという表情だ。
博士は首を左右に振ってから、にやりと笑って言う。
ここに来てはじめて見せたアデランテ博士の笑顔だ。


「R型戦闘機開発班なんて野暮ったい名前は好かん。そうだな…Team R-TYPEはどうだね。」
「Team R-TYPE…ですか。」
「スタッフはどうするのだね?」
「一応ここに書いてあるメンバーを考えていますが、アデランテ博士の推薦があれば、その方でもかまいません。」
「遺伝生物学者に、物理学者、宇宙航行技術者、化学に純粋数学…ここに大学でも作る気かね?」
「最高の人材を集めます。これは人類の命運をかけたプロジェクトなのですから。」
「ふん、よろしい、わが人生をかけるのに相応しい研究だ。
宇宙空間用汎用機を作ろうとしたRX-Projectの始祖クライアント博士には悪いがね。」



異相次元探査艇フォアランナ、太陽系外探索より帰還。‘バイドの切れ端’を持ち帰える。
同時期、銀河系ペルセウス腕の中央付近で未知の生命体を観測。
バイドの基礎研究を開始。
地球連合政府は対バイド対策委員会を設置。
汎用作業艇開発計画RX-Projectを凍結し、
対バイド兵器開発計画Project R-TYPEに移行。
それに伴い開発班Team R-TYPEを発足。
翌年、対バイド計画を発表。



そして、40年後
第一次バイドミッション発動。
人類はバイドとの生存競争に突入する。




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【すれ違う宇宙 b】



やっぱり戦闘文明だった。
我々はやはり岩礁に隠れながら進む。
敵の持つあの強力な主砲は脅威だ。
あの戦闘機が出てくるのだろう。


我々は戦列を整える。
索敵は小型艇リボー
遠距離はタブロックと中型艦ベルメイト
中距離はバイドシステムαとジギタリウス
近距離でフォース
POWは待機だ。


これが、我々の戦力だ。
敵の主砲は強力なので、中距離に踏み込まれるまでに、
できるかぎり、数を減らしたい。
ベルメイトとタブロックで出来るだけ減らすしかないだろう。
索敵が重要になるな。


小型艇リボーは非常にもろい。
材料はそれほど必要としないので、
使い潰す勢いで、使っている。
R-9Eでもあれば良いのだが…ん?
R-9Eとは何だったか?


こんなことが最近良くある。
ふとした瞬間に、何か記憶の奥にあるものに触れるのだが、
それが何だか分からない。
記憶を手繰れば手繰るほど、薄らいでゆく。
私は何を忘れているのだろう。


『提督、敵機と接触しました。』


リボーが敵機と接触したらしい。
私は思考を切り上げ、指揮に集中する。


私が見たのは可笑しな光景だ。
四十四型戦闘機と五十五型戦闘機の群。
それだけなら別にただの敵なのだが、何故かその2機は合体していた。
四十四型の機首に五十五型が接続されているのだ。
四十四型の機動に寸分の狂いも無く、一緒に動くので
ただ超接近してアクロバットしているのではなく、
緊密に連結しているのが分かった。


どういうことだろうか。
陣形だとしても、あれでは後ろに居る四十四型の波動砲や、武装が使えないではないか。
五十五型はもしかして航続距離が短いのだろうか。
でも前戦ったときも、燃料を気にしている様子は無かった。
何なんだ?


『提督、戦闘文明の戦闘機が射程内に入りました。』


私は射程に入った戦闘機に向けてベルメイトの衝撃波や、タブロックのミサイルを放った。
敵は索敵外からの不意打ちで、最前列にいた五十五型や四十四型を一気に打ち落とす。
これにより、此方の位置はばれただろうが、気にすることは無い。
敵には遠距離攻撃の手段が無いからだ。


私が再度攻撃を命令すると敵の前衛部隊が崩れた。
しかし、その後ろに居る部隊が、捨て身で突進してきた。
あの位置だと、敵が此方にたどり着く前にもう一射できるのだが…焦ったのか?


敵の加速が及ばずバイドシステムα、ジギタリウスに囲まれかけたとき、
五十五型が一気に加速してきた。
!?
フォースを切り離して攻撃するときのように、
四十四型戦闘機は合体していた五十五型戦闘機を切り離してきた。
五十五型が一気に迫ってくる。戦闘機を飛ばすとはフォースシュートよりたちが悪い。
五十五型は主砲をこちらに向ける…!


衝撃


私はまともに敵の主砲を食らった。
タブロックもミサイルユニットを壊されたようだ。
今回の戦闘ではもう使えまい。


主砲を撃った五十五型は周囲のフォースに食われている。
私は自軍の様子を見る。損傷がひどいが、あと数初は耐えられる。
しかし、後から来た合体戦闘機は、次々に五十五型を切り離す。
その数10機以上。あれの主砲を貰うのは不味い。


私はとっさに輸送艦ノーザリーにデコイを生成するように命じた。
五十五型の進路を塞ぐようにデコイが生成される。
迫ってきた五十五型は、デコイに密着するように主砲を放つ。
空間が光り、デコイノーザリーのシェルエットが逆光に浮かぶ。


デコイは一斉射でぼろぼろに崩れるが、その後ろにいた私は無事だった。
五十五型の主砲はY字の軌道を描くので、正面への射程が長くない。
四十四型の主砲の様に正面に射程が長かったら、デコイ共々貫かれていただろう。


私は五十五型へ攻撃を命じた。
反応したバイドシステムαからミサイルの雨が降り注ぐ。
近距離武装しか持っていない五十五型は何も出来ずに破壊されてゆく。


被害はあったが、五十五型の7割を潰せた。
あとは、四十四型を遠距離砲撃で潰す。
タブロックがいなくなり手数が減ったので、打ち洩らしはあるだろうが、ともかく間引く。
集団にならなければフォースで追い散らせる。


ベルメイトの衝撃波で隊を分断し、バイドシステムαがミサイルや、デビルウェーブ砲で各個撃破する。
それでも取りこぼしたものは、フォースで潰す。
たまに敵の主砲に打ち落とされる者もいるが、全体としては我々が優勢だ。
私は岩礁の隙間に隠れさせていたリボーを、更に敵陣の奥に進める。
この何も無い宙域にこれだけの部隊がいるのだ。艦艇がいることが予想される。


艦艇発見の報告の前にリボーが消し飛ばされた。
これも良くあることだった気がするが、また記憶が失われている。
しかし、今は戦闘中だ。無視する。
リボーの居た座標にバイドシステムを急行させると、
やはりあの白い巡航艦、兆級巡航艦がいた。


しかし、護衛機のいない艦艇など恐るるにたらず。
衝撃波で押しつぶして、バイドシステムにデビルウェーブ砲を撃たせる。
兆級巡航艦は、内部から爆発してバラバラになった。


私は何時もどおり、敵の残骸を回収して、材料に戻す。
私の部隊も艦に戻して、修復している。
我々は空間の歪みに向って進む


さて、このワープ航路は我々を地球へと届けてくれるのだろうか。
私は少しでも地球へ近づくことを祈って、ワープ空間に突入した。


私は独特の空間を超える感覚を味わう。


ワープ酔いしないと良いのだが。





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今回の挿話は、本編の少なくとも50~60年以上前の昔話です。
前回の話は狂気具合が酷かったので、キレイなTeam R-TYPEを書いてみたかったが、
キレイなところを書く前に終わった。

ギャグがなさ過ぎて禁断症状がでてしまい、この話を書いている途中で電波を受信したので、
チラ裏にR-TYPEのネタ短編を投稿してみました。
あっちはFINAL準拠です。
『プロジェクトR!』って題名ですので、お暇な方は、どうぞ。

TACTICSシリーズの年表が欲しい…



[21751] 6 逆巻く空間
Name: ユウ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/17 21:36
・逆巻く空間



【逆流空間 a】




我々が空間の歪みに近付くと、いきなり歪みが大きくなり、艦隊が誘引された。
不味い。空間の狭間に入り込んだら、どうなるか分からない。
私は艦隊に停止命令を出すが、歪みはさらに大きくなり我々の艦隊を飲みこんだ。


一瞬の混乱の後、周囲を見回すと様々な粒子が逆巻く空間であった。
何故、こんな空間に吸いこまれたのだろう?
我々を狙って引きずりこんだようにも思えるが…
前にもこんな事があったが、いつぞやの様な充足感は無い。別ものなのだろう。


周囲を観察して…ほら、瞳はいない。
でも替わりに私の目に入ったのは、
幾何学模様のフレームを幾重にも重ね合わせたようなデジタルウォールと、
半透明のキューブが連なった様な物体が2つ。ピンクとブルーの一対。
デジタル生命体グリッドロック…
彼らが我々をここに呼んだのだろうか。


『提督、前方集団、攻撃態勢に入りました。攻撃してきます。』


思考に沈みかけている私に、副官が警告を発する。
なるほど、こんなところを彷徨っている我々は丁度よい餌なのだろう。
彼らは、自分達とは異質な我々を狩って、自らの血肉とするつもりだろうか。
しかし、如何に彼らが腹をすかせているとしても、
私は私の艦隊を彼らの滋養として譲渡しようとは思わない。
彼らには、誰に手を出したのか分からせてやろう。


敵対してくる彼らに、私は攻撃命令を発した。




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【第一次バイドミッション終結後_軌道上R機開発基地】



「ライトニング波動砲を実装するとなると、波動エネルギーを一度電気パルスに変換する必要があります。
波動砲の制御部が大きくなりすぎるのです。本体に収まりません。」
「小型化に問題でも?」


基礎骨格だけのR機の前で白衣の男性が話し合っていた。
一人は首からかけたカードキーから、Team R-TYPEの関係者であることがわかる。
もう一人は、ゲストというカードキーを下げ、胸にはウォーレリック社のロゴを模したピンをつけていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


第一次バイドミッション当初、Rwf-9Aアローヘッドは30機導入された。
世に言う‘R-9大隊’だ。
最新鋭戦闘機30機の開発と発注を、多くの軍事メーカーは喉から手が出るほど欲しがった。
それで得られる利益も重要だが、なにより、人類の救世主を開発したという実績がつく。しかし、R-9はTeam R-TYPE主導で作られ、外部者は一切関わることができなかった。
多くの軍事メーカーが開発計画に食い込もうと働きかけたが、下請け以上の役割は無かった。


軍事企業各社は第一次バイドミッション中から、次期計画に向けて自社を売り込んだ。
そこには、少しでも権益に食い込もうと、軍事企業だけでなく異業種からの参加もあった。
Team R-TYPEは、次期試作機として3機開発する事になっていたが、
政府から働きかけられ、その内の2機の開発で企業と共同開発することを了承した。
試作機開発をかけて、熾烈なコンペティションを勝ち抜いた2社は、
航空機メーカー・マクガイヤー社と軍事メーカー・ウォーレリック社の2社だった。


純粋Team R-TYPE製のRwf-9A2デルタ。
マクガイヤー社は、RXwf-10アルバトロスを作成。
そして、ウォーレリック社の社運を掛けた試作R機が、Rwf-13Aケルベロスだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「規定の大きさに収まりません。小型化に成功してもかなりの大型になるでしょう。
高バイド係数フォースに対応するために、フォース制御部も大きすぎます。」
「単機突入の際に広域制圧が出来る兵器が求められていますので、ライトニング波動砲は必要ですね。
アンカーフォースも捨て難いですし…」
「しかし、どれかをオミットする必要があります。すべては採用できません。」


ふたりが手にする書類には、「Rwf-13A兵装(案)」とあった。
どうやら機体に乗せる兵装の容量について、検討している。
二人の背後には、関係者以外立ち入り禁止とかかれた区画があり、
覗き窓からは、オレンジ色の光が漏れだしている。対バイド兵器フォースだ。
中央の発光体こそ通常のフォースと同様であったが、明確に違うのはコントロールロッドだ。
まるで近づくもの全てを捉えんとするがごとく、黒い鉤詰めが付いていた。
関節のような機構があり、実際に稼動するようだ。


「どれも落とせないなら、いっそ次元突破用ブースターを取り外しましょう。ついでに、アンカーフォースの制御も有線にしてしまえば、フォースコンダクターは小型化可能です。」
「異相次元突入機能に支障が出ます。それは異相次元戦闘機としては問題があるのでは?」
「異相次元の壁を突破できないだけであって、穴が開いていれば通過できますし、
異相次元内の航行は可能でしょう。それならば問題ありません。」
「しかし、それでは穴が無ければ異相次元への突入と、帰還ができないのではありませんか?」


異相次元戦闘機R-9はもともと、単機での運用を考えられた機体だ。
異相次元への単機突入を考慮して、異相次元突破用のブースターを積んでいるし、
コストを無視して可能な限りの兵装を、職人芸で詰め込んでいる。
そのような機体が集められたR-9大隊の各機も、かなり性能にバラつきがあったらしい。
通常こんな機体は量産できないが、地球連合政府は膨大な資金と権力を持って断行した。
人類が滅亡するかもしれない、という恐怖が後押ししたのだ。


「フォースがあります。あなただって、あの事件のことは聞いているでしょう。
バイド種子の実験中にフォース研究施設の半径30kmを消し飛ばした事件です。
フォース…いえバイドは次元に干渉する能力を持ち、膨大なエネルギーを内包している。
フォースを半暴走させて不安定な空間に叩きつければ、理論上は次元の壁を越えることが可能です。」
「暴走って…自機も巻き込まれるのでは?」
「半暴走です。いや開放といった方がいいかな。適切に制御する技術さえあれば使えるでしょう。」
「…しかし……。」
「ウォーレリック社はR機を開発しに来たのですか?それとも邪魔しに来たのですか?」
「…。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・局地殲滅兵器暴走事故報告書(抜粋)

局地殲滅兵器暴走事故が発生。同時期にRwf-13Aケルベロス試作機が完成。
暴走事故鎮圧のためRwf-9A2 デルタ、RXwf-10 アルバトロスとともにRwf-13Aケルベロスが実践投入される。
ケルベロスは任務中に異相次元に突入、任務達成後未帰還。
同時に異相次元に突入したデルタ、アルバトロスのパイロットの証言から、
ケルベロスは異相次元に突入後、バイド中枢の攻撃に向い、その後消息不明となったとのこと。
同時に突入した2機は脱出直前に、大型バイド反応の消失を確認しており、
また、反応消失後に、デルタのパイロットがケルベロスのマーカーを確認しているため、
ケルベロスはバイド中枢を破壊後に、脱出に失敗して異相次元に取り残されたものと思われる。
バイド中枢の破壊により、該当する異相次元の状態が不安定になっており、
二次被害の可能性を考慮して異相次元内の捜索は断念。
30分後、該当異相次元へのリンクが途絶。
ワープアウト座標がずれた可能性を考慮してデルタ、アルバトロス両機のパイロットが志願し、
周辺宙域の捜索が行われたが発見できず、150時間後にパイロットの生存は絶望的であるとして、
ワープアウト宙域の捜索は打ち切られた。


異相次元からの脱出失敗の原因として、
・被弾による各種機能の喪失
・次元突破装置のオミット
・波動砲の特殊化
・フォースの喪失
などが考えられる。


兵器としての信頼性、安全性に疑問があるため、
軍部の評価機関より、Rwf-13Aケルベロスの量産機開発は一時凍結とされた。




________________________________________




【逆流空間 b】



私はこの空間に浮かぶ正体不明の障壁、デジタルウォールを盾に侵攻する。
なぜならさっきから濃紫のゲインズが陽電子砲を連射してくるからだ。
ゲインズ2の陽電子砲は強力ではあるが直進しかしないため、物陰に隠れる事で、難を逃れている。


こちらからもタブロックを中心に敵を撃ち落としているのだが、
やっと、4隊目を殲滅したところだ。
あと、2隊、10機か。
私があと少しでゲインズ2を平らげられると思った時、
グリッドロックの中から白いゲインズが出てくる。
白兵戦を専門とするゲインズ3だ。
どうやら我々をここから追い出して、砲火の中に叩きだしたいらしい。


私は考える。
こちらにも中距離武装はあるが、高速で動きまわるゲインズ3に当てる事は難しい。
残念ながら今の私の艦隊には有効な接近戦の出来る機体がないのだ。
今まで接近戦はフォースで対応してきたのだが、フォースは機動性が低く、
動き回るゲインズ3には追いつけないだろう。
何か策が必要だ。


ノーザリーデコイの自爆では数が足りない。一隻分の爆発では5機程度しか巻き込めないだろう。
遠距離から狙い撃てば、多少減らせるが、このままでは押し切られて突破される。
バイドシステムのデビルウェーブ砲などは、使い時を誤らなければ使えるだろう。
あとは…ともかくデコイで足を止めてからだな。


私はデコイをデジタルウォールの側に作り、ゲインズ3に対する壁とした。
揺れ動くデジタルウォールに潰されないようにデジタルウォールからは少し放してある。
ゲインズが来る…
迂回するために大回りすれば、必然的に速度が落ちるだろう。そこをフォースで狙う。
すでにフォースはデコイの後ろにスタンバイさせている。


しかし、デジタルウォールとデコイの隙間を何機かのゲインズ3は突破してきた。
1機、2機、3機、4…あ、潰れた。
デジタルウォールとデコイに挟まれて白いゲインズが爆発した。
でも、3機はフォース地帯を無視して本隊に近づいてくる。
不味い。本隊に中近距離兵装持っているのはジギタリウスしかいない。


ジギタリウスでゲインズ3を倒せるかは微妙なところだ。
しかし、私はジギタリウスにゲインズ3の相手を任せて、
私は敵の旗艦らしきグリッドロックに火力を集中させた。
敵旗艦をやれば此方の勝ちだ。
でもこのまま飛び出せば、ゲインズ2の陽電子砲に射抜かれてしまう。


私は旗艦からリボーを出して、未だに陽電子砲で狙ってくるゲインズ2に差し向ける。
綺麗な十字砲火が見えた。
もはや塵一つ残っていないが、十字の交点にリボーが居たのだろう。


問題ない。
資源さえあればまた作り直せるさ。


私はその隙に回りこむようにデジタルウォールの影からでて、照準をあわせる。
衝撃波。
ピンクのグリッドロックの中央にあるプリズムの様な構成物にひびが入る。
しかし、グリッドロックも端にある砲台で攻撃をしてきて、我々の旗艦の装甲を抉る。


『提督、敵艦の攻撃により装甲の30%を喪失しました!』


副官が焦った声で、報告してくるが、私は無視する。
狙うは敵のコア。
私はさらに衝撃波を、グリッドロックに叩きつける。
衝撃波発射も3回目を数えたとき。
キンという否な音が聞こえた気がして、グリッドロックをみると、中央部が完璧に陥没していた。
そして、一気にヒビが全体に回り、一瞬の後砕け散った。


私は勝利を確信し、更にもう一つのグリッドロックに攻撃を仕掛けようとしたとき、
今度は、周囲の風景がたわみ、一気に収束していく。





私が疑問を持って眺めていると、逆巻く空間は凝縮されて消えてしまい。
周囲はただの宇宙空間に戻っていた。
間違いない、あの空間に引きずりこまれる前にいた場所だ。


どうやら追い出されたようだ。
我々が簡単に餌になる存在でないと気が付いたのだろう。
私は気を取り直して、先に進む。


さあ、今度こそワープ空間の入り口だ!


我々は地球を目指して、空間のゆがみに入っていった。 



=================================
なんで挿話がケロちゃんかって?
それは久しぶりに某動画サイトでY-TYPE⊿を見てきたからです。
本当はパイルバンカーシリーズの開発風景で、
狂気に染まってきたTeam R-TYPEを書く予定だったんですけどね。
プロットは無視するものです。

Team R-TYPEってはじめっから狂科学者集団ではなかったと思うんです。
始めは、理想もあっただろうし、健全な組織であったかと(前回の挿話)。
でも、組織が膨らめば考え方の違いも出てくるし、予算と権限が増えれば、中の人で傲慢になる人もいる。
腐れ開発チームの始まりです。



[21751] 7 ワープ空間の戦闘
Name: ニイ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/01/27 21:39
・ワープ空間の戦闘


【跳躍空間 a】



今後こそワープ空間に入れた。
これを抜ければ地球に近づけるかもしれない。
そう思うと、自然と足も軽くなる。
地球から遠ざかっている可能性もあるが、
そうだったなら、もう一度この宇宙を探せば良い。
時間に終りはない。いつかはたどり着けるさ。


今の私は機嫌が良い。


ワープ空間といえば、私が思い出すのは…
そう、あの太陽系開放同盟だ。
彼らの艦隊はワープ空間で壊滅し、
たったひとりを残して、次々に次元の歪みに飲み込まれていったが、
何処へ消えたのだろう。
この広い宇宙のどこかに彼らもいるのだろうか。


私達の艦隊は宇宙を彷徨いながら、地球を探している。
もしかしたら、あの歪みに飲まれた人のうち、
一人くらいはどこかでめぐり合えるのではないか。
彼らは我々と敵対していたが、今なら分かり合える気がする。
そんなことを考えた。


『提督、敵襲です。』


我々が進むワープルートに巨大な兵器が立ち塞がっている。
あれは…また、頭がもやもやする。
ちゃんと思い出せ。


…バイド。


そう、そうだ、あれは人類の敵バイドだ。
我々が滅ぼすべき敵なのだが…
何故今まで忘れていたのだろう?


どうやらあの兵器群はバイドに侵食されているようだ。
我々に向けて、攻撃の意思を示している。
行く手を拒むバイドは排除しなければならない。
それでは戦闘を開始する。


…そういえば今回はワープ酔いにならないな。
私の三半規管も成長したらしい。




_____________________________________




【本部防衛戦1ヵ月後_本部工廠機密区画】



「バイド係数安定、規定レベルまで上昇しました。」
「内部装甲活性化、キャノピー感応膜反応良好。」
「保護溶液排水。」
「機械フレームと生体部品の拒絶反応なし。順調です。」
「被験者、バイタルグリーン。接続問題なし。」
「よし、そのまま出力を戦闘レベルまで上げてね。計器から目を離さないように。」


その場の指揮を取っているのはゲイルロズから移って来たレホス技術主任。
品の良い上質なシャツ、しわの無いスラックスと隙の無い格好の上に、
汚れた白衣を着て、踵の潰れたサンダルを履いてトータルバランスを台無しにしている。


そこにあったのは異様な物体だった。
キャノピーは緑色、機体は紫で、何よりも異様なのは、
その機体の装甲の一部には明らかに機会や金属で無い部分が見られたことだ。
遠目に見れば、R機特有の洗練されたデザインではあるが、
その有毒植物や動物が持つ警戒色の様な、カラーリングがまず目に付く。
接近してみると、キャノピーの外側に‘何か’が張り付いている。
極めて有機的な構造の‘何か’は、半透明で内部は肋骨の浮き出た胸板のようだった。
ゆっくりと伸縮を繰りかえす様子は、生理的嫌悪を感じる。


機体にはマークが付いていた。
一部の研究施設や、フォースロッドなどの器具につけられるマークだ。
…バイド汚染の危険性を示すマーク。


BXwf-T ダンタリオン
フォースのバイド係数上昇が頭打ちになり、波動砲の純粋な威力にも天井が見えたとき、
考えられた構想が、R機自体へのバイド素子の添加だった。
バイドに秘められた攻撃性やエネルギーをフォースだけでなく、機体自体にも応用したのがこの機体だ。
機体自体の攻撃能力に加えて、広域掃討可能な波動砲を備えている。
バイドは精神感応を起こす能力をもち、パイロットの思考をダイレクトに反映できる。
Team R-TYPEは各分野の専門家を招集し総力を結集し、この機体の開発に取組んだ。
ダンタリオンとはソロモンの悪魔の一柱をあらわす名前で、知識をつかさどる悪魔のこと。


「戦闘出力まで上昇しました。」
「被験者、バイタル低下していますが、接続には問題ありません。」
「バイド係数安定。その他ステータス良好です!」
「出力固定して。10分の継続出力テストに移行するから。」


「5分経過しました。出力安定。」
「バイド係数、その他良好。」
「被験者バイタル、イエローゾーンに突入しましたが、問題は起きていません。」
「イエローなら問題ないよ。試験を続行して。」
「あと4分です。」


「時間です。10分経過しました。」
「出力、バイド係数、その他ステータス問題なし。」
「被験者バイタルイエロー。脈拍、血圧が低下していますが、重大な障害はありません。」
「よろしい、出力を待機状態まで落してって。」
「出力低下、…40%……30、……20……10……待機状態です。」
「問題は?どう?」
「ありません。」


「成功だ!」


誰かがそう言うと、周囲からうわっと歓声が上がる。
目の下にクマを作った白衣の研究員たちが、ガッツポーズをしたり、抱き合ったりしていた。
何処から持ってきたのか音だけの無煙クラッカーが鳴らされる。
さすがに実験室内でシャンパンを開ける者はいなかったが、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


その横で防護服を着た数人がコックピットに近づき、コックピットを開放する。
まず、ドロリとしたゲル状の物質があふれ出す。
ゲルの中に沈んでいたのは、体に密着する薄いボディスーツを着た女性だった。
服は裸体を隠すためというよりは、全身に繋がれているケーブルを接続するための器具といったように見える。
まだ歳は若そうだが、頭髪は全て剃り上げられており、瞳も閉じられている。
顔色は半透明のゲルが絡まっていて緑色に見える。


防護服を着た作業員が、慎重に服に付いたプラグを抜いていき、
呼吸補助機と、首筋に繋がった太いケーブルだけ残して脇にあった台の上に横たえる。


「バイタルイエロー!想定の範囲内です!」
「よし、洗浄後、経過観察を続けておいてね。」
「分かりました。」
「貴重な被験体なんだから殺さないように。殺したら君が次の被験者だからね。」
「!は、はい、被験者を第3実験室に搬入します!」


周囲で研究員達が騒いでいるので、レホス技術主任とスタッフは怒鳴りあうように会話する。
コックピットに入っていた女性が搬出されると同時に、白衣を着た男性が入ってくる。


「あ、モリエンド所長。バイド添加試作機の実験成功おめでとうございます。」


研究員らから声を掛けられたのは白髪の老齢の男性。
深いしわの向こうから人懐っこい瞳が覗いており、
聴診器でも持っていれば優しい町医者といった風情だ。
老博士はゆっくり頷いて、研究員達を労っていく。


「君達も良くやってくれたね。今日は追試も無しにして、皆でお祝いをしようかね。」


そういうと、更に盛り上がる白衣の群。



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後片付けをする研究設備を見渡しながら、防護ガラスで守られた壇上に彼女らが居た。
Team R-TYPEの幹部研究員バイレシート開発部長と、この研究施設の所長モリエンドだ。
バイレシートは、スーツで決めた服装の上に白衣を着ており、
白衣が無ければ、やり手の40代キャリアウーマンといったところだ。


「モリエンド所長。実験成功おめでとうございます。」
「ありがとうございます。バイレシート部長。
しかし、この区画が破壊されなかったのは不幸中の幸いですな。
「あら、当然ですわ。そのために工廠の地下にこんな施設を作ったのですから。」


窓からのグロテスクな風景を除けば、一般的といえる応接間の様な部屋で、
Team R-TYPEの上層部に位置する男女が話している。


「しかし、まさか、あのテロリストどもに付いて行った連中が、ここまでの技術を育てたとはな。」
「まったくです、BBSなんて技術を実戦レベルまで引き上げていたとは、私も驚いています。」
「バイドバインドシステムですか、縛るとは言いえて妙ですな。
たしかに、彼らはバイドの表層しか縛っていなかった。破壊本能はほぼそのまま。」
「暴走すれば、まずは一番近いものに襲い掛かるのは必定ですね。安全策を怠るからあんなことになるわ。」
「まったくですな、何万年と人が飼いならしてきた犬だって人に牙をむくことがあるのに。
轡も噛ませないで、紐で結んだだけでバイドを飼いならした気になるとは、なんとも愚かな。」


老博士が大仰な様子で、嘆いてみせると、
中年女性も老博士も、互いにクスクスと笑いあう。
しかし、二人ともその目は笑っていない。


「あの英雄提督さんがBBSのデータ持ってきてくれて良かったですわ。
もっともラストダンサーには間に合わなかったから、アレに積み込んであるのは従来型なのですが。」
「まったく、ダンタリオンの方が先に設計したのにロールアウトがこんなに遅れるとはの。」
「間に合ったから良しとしましょう?」
「そうですな。ダンタリオンとライフフォース。これが出来れば、人類は新たなる地平に立てる。」


好々爺の様であった老博士の瞳に炎が燈る。
メラメラと燃える若い火ではなく、青く静かに…しかし決して消えることの無い火だった。




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【跳躍空間 b】


敵はファインモーション。その周囲には小型バイドが多数群がっている。
ファインモーションはその船体に比べて収容容量が小さい。
バイドの群としては小規模なものだ。
陣形からしてあの艦がバイドの旗艦なのだろう。


私の取るべきは、敵旗艦の破壊だ。
旗艦を破壊すればバイドは補給機能が弱まり掃討が楽になる。
物質の密度の低いこの空間では、いかに強力な自己複製能力を持っていても、
物質に溢れる通常空間より遅くなる。
本来単体で…いや素子だけで増殖可能なバイドが旗艦を欲するのは、これが原因ではなかろうか。


私は、フォースを装備させたバイドシステムα、アンフィビアンに突撃させる。
この前作ったゲインズはまだ温存する。
基本的に陽電子砲がチャージしないと運用に困る機体だからだ。


『提督、敵旗艦後退します。』


ん?
バイドのくせに逃げる?
なぜ?


バイドは破壊衝動をもっている。
敵を認めると、貪欲なまでに襲ってくるはずなのだ。
あれはバイドではない?
バイドの変種?
我々は敵と認識されてない?


疑問が次々に沸くが、無視だ。
やつらの様子が違おうと関係ない。
あれは我々の敵、バイドだ。
敵は滅ぼさねばならならない。


私はなお突撃させようとしたが、すぐに命令を取り消す。
ファインモーションの後ろに、グリッドロックを含むバイドの一団が見えたからだ。
このまま突撃させればバイドの群の中で孤立しかねない。
ここは陣形を整えて周囲の小型バイドから打ち減らしていくべきだ。


私は旗艦であるベルメイトを中心に小型機を展開して、進軍した。
何時もどおり、主砲の打ち合いになるが、
此方には長距離射程のベルメイトとタブロックがいる。
ファインモーションの取り巻きであった小型バイド群は殲滅した。
艦が無ければ、バイドは個に過ぎない。
索敵も困難な状態ではこちらの長距離攻撃を避けるすべは無い。


しかし、そうしている間にファインモーションは完全に射程外に逃げてしまった。
私は亜空間機であるアンフィビアンに後を追わせる。
戦闘ではなく、索敵を続けて敵の状態を明らかにしておくためだ。


グリッドロックと合流する気だろうか、
壊滅こそ無かったがダメージを受けた機体が数機あるので、
一度旗艦に下げて、今度はゲインズを前面に押し出して進軍する。
グリッドロックは手数が多いバイドなので一気に破壊したいのだ。

私は索敵を続けながらグリッドロックに狙いを定める。
グリッドロックはその場に留まっている。
あちらは大型だ。索敵能力に優れているだろう。
先ほどのように一方的に打ち据えるわけには行かない。
初撃のゲインズの陽電子砲で、できるだけ弱らせたいものだ。


もう少しで、ゲインズの射程だ。
効果的に、しかし敵より先に撃たないと。


…今だ!撃て!


グリッドロックの中央のコアに、加速された陽電子の束が数条、叩き込まれる。
コアは破壊こそされなかったが、半壊しており奇妙な音を発している。
しかし、グリッドロックの周囲にある種子は無傷で存在する。
虎の子であるゲインズは、グリッドロックの反撃が怖いので後退させる。
グリッドロックがその種子から攻撃を放ってくる。
周囲の小型バイドも動き出した。


ジギタリウスは種子の攻撃をフォースで受け止めながら接近し、
射程に捉えると、フォースを小型バイドに向けて切り離し、グリッドロックに主砲を放つ。
ジギタリウスの主砲は威力が弱いが、半壊したコアに止めを刺すくらいなら問題ない。
甲高い音をたてて、グリッドロックのコアが崩壊する。
続いて、周囲のブロックが崩れ落ちていった。

ジギタリウスが小型機に投げつけられたフラワーフォースを回収しようと、
小型機群に不用意に近づき、主砲で吹き飛ばされていたが、趨勢に影響は無い。


プチプチと残党を潰して、ファインモーションを追いかける私達。
アンフィビアンに後を追わせているので、見失うことは無いが何処に行こうというのか?


我々の旗艦ベルメイトは余り足が速くない。
ファインモーションとの距離は中々縮まらない。
アンフィビアンを収容してから、敵を見失わないように気をつけながら追撃を続ける。
敵は殲滅だ。


暫くおっかけっこを続けた後、袋小路に追い詰めた。
…どうやら空間が不安定だ。
大きなエネルギーをぶつければ、通常空間への穴をあけられそうだ。
ちょうどいい。


私は此方に反転しかけているファインモーションに向けて、
全射線を集中させる。
その身で受け止めきれないほどのエネルギーを抱いて、
ファインモーションがはじけ飛ぶ。


それと同時に空間も割れる。


『提督、通常空間に復帰しました。現在位置は不明です。』


静かな宇宙。
我々は通常空間に戻ったらしい。
ここは地球の側のなのだろうか?


先ほどのファインモーションの破片が宇宙空間に飛び散って来た。
欠片には恒星のマークの周囲にLiberation Unionと標された歪んだエンブレムが…




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【 !!!! 】


認識:次元振動およびワープ反応を確認。
行動:索敵モードへ移行。


認識:対象を確認。
検索:対象を惑星破壊兵器B1亜種と確認。
認識:同時間内移動を確認。該当次元には接触せず。
判定:他時間からの当時間への侵略は認識できず。通常ワープと判定。
判定:脅威度判定 - 。行動規範に適合せず。
行動:待機モードへ移行。




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原作だと最後までバイドぼけしたままなのですが、提督が徐々に覚醒してきていますね。
更新が開いてしまったのは、ハイパー鬱タイムだった所為です。申し訳ないです。

今回の挿話は、ダンタリオンです。バイドが「純粋な悪意」ならば、
Team R-TYPEはカウンターパート、「人類の狂気」としての役割があるように思います。
Team R-TYPEの狂気というのは、裏を返せば、危機に瀕した人類の狂気であるわけで。
バイドの淡々とした悪意に対して、人類の狂気の結晶R機とフォースで戦う。
救いが無い…

そういえばPSPでEDF2が発売されるようですね。携帯機しか持ってないので、うれしいです。



[21751] 8 残滓
Name: タソ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/01 21:08
・残滓



【穏やかな宇宙 a】




ワープ空間を抜けると通常空間であった。
バイドの気配はない。
静かだ。


いや元々宇宙空間では音は届かない。
静かというのは慣例的に、能動的な活動を示さないものについて用いられる。


私はどちらに行こうかと考える。
周囲の宇宙は静寂に満ちていて
目に付くような天体などは見当たらない。
さて、どうしたものか。


私は思考を続ける。
ここの所、早く地球に帰ろうと、気ばかり早っていた。
少し落ち着いて考えてみよう。


まず…我々の目標は、地球に還ること。
あのとき約束した。みんなで還ると。
そして、戦闘文明やバイドが迫っていることを警告しなければならない。


手段だが…
こればかりは、行き当たりばったりにならざるを得ない。
我々は現在位置を見失っているのだ。
ともかく、巡航しながら手がかりを探すしかないだろう。


現状、迷子。
…そう言うのが一番適切だろう。
いい大人が集団で迷子というのは、いささか切ない響きがあるが、
事実なのでしかたがない。


つまり、我々は宇宙を彷徨うしかない状態。ため息が出そうだ。
しかし、私が諦める訳にはいかない。ポジティブに考えないと。


次に懸案事項。


まずは、当然バイドだ。
今のところ、大集団は見ていないが、散発的に戦闘になっている。
あのグロテスクな生命体は、警戒を要する敵である。


次に戦闘文明。
我々に問答無用で戦闘を仕掛けてくる、攻撃的な異文明だ。
数度戦闘になっているのだが、機体は不思議な形状をしているものが多い。
今のところ、兆級巡航艦、四十四式戦闘機、五十五式戦闘機が確認されている。
フォースこそもたないが、戦闘機同士が合体する。
敵意をむき出しにして攻撃を仕掛けてくる、バイド並みに警戒を要する敵といえるだろう。
彼らは…


『提督、敵襲です。戦闘文明の戦闘部隊と思われます。』


…戦闘文明か。噂をすれば何とやらだ。


あれだけの文明を持ちながら、
分かり合えないのは非常に悲しいことだ。
だが、彼らは攻撃を仕掛けてきている。
我々に敵対するならば、相応の対応をせねばならない。


さあ、戦闘準備だ。




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【本部防衛戦1ヵ月後_本部工廠機密区画】



Team R-TYPEの意義。
結成当初は「次元戦闘機開発班」というだけだったが、
バイドの研究を続けるにしたがって、規模が大きくなるにしたがって、
徐々に目標に修正が加えられた。
細かい事項が付け足されるが、大目標としてのTeam R-TYPEの意義は
『人間がバイドの束縛から逃れて、真の自由を手に入れること。』


第一期評価では、単機で突入機能を持ったR機の完成。
第二次Project RXの達成を持って完了。
これ以降、Team R-TYPEは大規模計画Project R-TYPE直属機関となる。


第二期評価では、波動砲機能の拡張と、フォースの改良。
Project Deltaの達成(一部凍結)をもって完了



現在推進中の第五回評価後の目標は、
全てのバイド・状況に対応できる能力を持った究極互換機の完成。
計画名はOp.Last Dance


究極互換機開発プロジェクトが秘密裏に発令され、周囲が気付かない内に達成された。
Rwf-99 ラストダンサー
それが究極のR機の名前だった。


「ラストダンサーの意義は、全てのバイド・状況に対応できる能力。
あれはあれで完成されたR機だ。無為に手を加えて、あの機体を汚すこともあるまい?」
「Rwf-99に搭載した型は、バイドフォースを一時的に飼いならすためのもの。
でも、ダンタリオンに搭載したのは機体自体をバイド素子に馴らすためのもの。ですか。」


ダンタリオン試作機はすでに実験室に移されていて、
ヒラ研究員達は消え、防護服を着た作業員達が後片付けをしている。
バイレシート開発部長とモリエンド所長はまだ施設にいた。


「…ラストダンサーの次はどんな踊り手なんだい。」
「‘Curtain Call’と‘Grand Finale’という名前にしようかと考えています。」
「カーテンコールとグランドフィナーレか。役割は?」
「カーテンコールというくらいですもの、もちろん顔見せですわ。これまでの我々の技術をすべて注ぎ込み、後世に残すための箱舟です。博物館にでも展示しようかと。」
「いいねえ、私も博物館の館長なんかをして老後を楽しみたいよ。で、グランドフィナーレは?」
「まだ、秘密です。」


静かな時が流れる。
実験室の作業音は防護ガラスに阻まれて二人の元には届かない。


「第六期評価での目標は、バイドのコントロールについてだったか。」
「ええ、人類はBydo Bind Systemではなく、Bydo Control Systemを手に入れました。
今はまだ一部組織を利用するだけですがいずれは…」
「バイレシート部長、私はバイドとともに生きてきた。
バイドという未知のものに興味を抱き、怒り、怯え、逃げ惑い、逃げ場が無いと知って理解しようとした。
でも、ここにきてバイドを人類の支配下に置くことができるかもしれん。」
「ええ、人類はバイドを従える。」




_______________________________________




【穏やかな宇宙 b】



この穏やかな宇宙で思考に沈んでいたいが、
攻撃文明は我々がここに存在することさえ許す気はないらしい。


比較的岩礁の多い地帯で、大型の岩礁が浮かんでいる宙域と、
小型の岩礁…デブリが漂っている宙域とがある。
攻撃文明も我々も大まかな互いの位置は認識している。
ならば、足を取られるデブリ帯より、岩礁地帯に隠れるのがいいだろう。
こちらも見通しは効かない事は変わりないが、
岩礁のなかに亜空間機アンフィビアンを隠しておけるからだ。


今のところ、攻撃文明では亜空間潜行できる機体は確認されていない。
兆級巡航艦を解析したところ亜空間バスターなども装備していなかった。
もしかしたら、彼らには亜空間潜行の概念・技術が無いのかもしれないと、私は考えている。
もしそうならば朗報だ。
地球圏では亜空間バスター、ソナーの登場とともに、戦術としての地位が下ってしまった亜空間戦法だが、
亜空間技術を持っていない文明にはアドバンテージとなるだろう。
何しろ、対処法を持っていなければ、一方的に索敵、包囲だって可能なのだ。


もちろん、接触されれば通常空間に引き戻されてしまうので、
絶対的有利という訳ではないが、このような岩礁地帯での効果は絶大だ。
対攻撃文明への切り札となりえる。


もちろん、我々が知らないだけで亜空間技術を持っている可能性はあるので、運用には慎重を要するが、
今のところ確認されている機体、船舶に亜空間潜行機能がないことだけは事実だ。
今回の敵は比較的小規模のようだ。検証を行ってみよう。


私はアンフィビアンを多く布陣する。
フォースを機首につけて泳ぐアンフィビアンの編隊。
私は岩礁の出入り口となりうる箇所に亜空間機を配置した。
これで、ある程度の質量を持つ機体はあの隙間を抜けられない。
一見何も無いし通常索敵にも反応しないが、亜空間機が塞いでいるのだ。


接触したり、亜空間機の索敵範囲に入ればすぐに感知できる。
亜空間潜行に関する知識があれば、直ぐにその場を離れようとするだろうが、
要所にはゲインズを潜ませておく。
待ちの戦術はあまり性に合わないのだが、損害が少なくなる戦術を取るべきだ。
ここのところ特に攻撃的な指揮が多かった気がするしな。


次々に亜空間に潜行していくアンフィビアンを見て、私は思考の海に浸る。
作戦中に他のことを考えるのが不味いことは分かっているのだが、
遥かな故郷を思い出す行為は、戦闘ばかりしている私を慰めてくれる。


今回思い出したのは、小さい頃に見たテレビジョンの映像だ。
まだ、地球の海が工業汚染に晒されておらず、生命が満ちていた頃の記録映像で、なんと2Dだった。
そのなかにでてきた深海魚が、目の前で虚空に溶けていく亜空間機にそっくりだったのを急に思い出したのだ。
暫くぼうっとアンフィビアンたちを眺めていたが、ふと思う。


亜空間機は…あんな形状だったか?
もっと、機能美と力強さを兼ね備えた…

‘ウォーヘッド’?

不意に浮かんだ名前。
私は何か…とてつもない思い違いをしているのではないか?
旅愁で満ちていた私の心は、急に不安に覆われた。
これ以上はダメだ。戦闘中に司令官が不安げな顔を見せるわけには行かない。
私は記憶の残滓を振り払った。







『提督、亜空間機が敵機と接触しました。』


罠にかかったのは四十四型と五十五型の合体戦闘機だった。
先頭の集団がまず亜空間戦法に引っ掛り、後ろも混雑を起こしている。
私がゲインズに合図を出すと、陽電子砲が白い戦闘機の群に打ち込まれる。
相手も主砲を限界までチャージしていたらしく、盛大に爆発する。


あの戦闘機群は亜空間機に接触して混乱していた。
想定外の出来事だったのだろう。
予想通り、戦闘文明には亜空間潜行の概念が無いのかもしれない。
…ならば、わざわざ教えてやることはない。
教訓を得た機体を返さなければ、ばれる可能性も小さくなるだろう。
私はトドメにフォースを打ち込ませる。彼らを殲滅するためだ。


敵の前衛部隊は亜空間戦法により殲滅できた。
しかし、奇策は2度は使えない。
次の部隊は警戒して岩礁宙域を迂回すると思われる。
恐らく、岩礁を迂回してデブリ帯を通ってくるのだろう。


敵の進路が分かるのはいいのだが、デブリ帯は見通しが利かない。
うっかり敵の主砲の射程に入れば、此方が消し飛ばされる。
ゲインズの装甲はそこまで厚くないので、運用は出来ない。
ここで考えられるのはリボーを使った特攻偵察と、
旗艦の索敵機能をフルに使って察知する方法だ。


リボーがある意味一番安全なのだが、敵機発見に興奮した敵が、
乱射しだすと乱戦に巻き込まれる恐れがある。
旗艦で警戒しながら漸進しよう。
アンフィビアンは…燃料にはまだ余裕があるな。
アンフィビアンは岩礁宙域を進軍させた。敵の様子を知りたかったのだ。
ただ、接触して亜空間戦法のカラクリに気付かれるのもイヤなので、安全第一だ
岩礁から身がはみ出ないように注意して進ませた。


我々が、岩礁宙域とデブリ帯からじわじわと漸進していると、
敵機が索敵に引っ掛った。副官が先ほどと同じ合体戦闘機だと告げる。
敵機は主砲以外は遠距離武装を持っていない。
私の部下達はそっと息を潜めて命令を待つ。先走るものはいない。
彼らは私の自慢の部下だった。


撃て


彼らが射程に納まると私は指令を出す。
ずっと狙いをつけていた敵に向けてトリガーを引くだけ。
敵の半数を初撃で破壊すると、一気に乱戦に持ち込む。
戦闘機動を取る相手に主砲を叩き込むのは至難の業だ。


ターゲットが遠方にあるうちは、ターゲットが加速したり進路を変更しても、
機首をほんの少しずらすだけで対応できる。
しかし、格闘戦をすると互いの相対速度は非常な大きなものとなる。戦闘機は非常に高い加速性能を持つからだ。
戦闘機同士の格闘戦では、レールガンを数撃って敵機に当たることを願うしかないのだ。


目の前を駆け巡る戦闘機。
こうなってしまうと旗艦ベルメイトの衝撃波も当たらない。
敵味方入り乱れてのドッグファイト中にそんなものを打ち込めば、
かなりの確立で同士討ちになることは想像に難くない。


私は無視して進軍する。
先ほど亜空間潜行中のアンフィビアンから、兆級巡航艦を発見したとの報が入ったのだ。


亜空間戦法の情報を持ったこの艦を逃がすわけにはいかない。
私は索敵されないギリギリの位置に旗艦を停止させ、
ゲインズを出す。
後は一気に畳み掛けるだけ。


撃て


ゲインズの陽電子砲が戦闘文明の巡航艦に突き刺さり、白い装甲が爆ぜていく。
私は通常空間にアンフィビアンを戻して更に追い討ちをかける。


オーバーキルと思われるほどの集中砲火が止むとそこにあった船体は、
形をとどめていなかった。
戦闘機隊からも敵を殲滅したと連絡が入る。


再び、穏やかな宇宙が戻ってきた。




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今日の睡眠時間は1時間15分。徹夜明けは筆が進みます。

研究者にとってTeam R-TYPEというのは一種の理想だと思います。
たぶん徴兵は免除(軍属?)。国家の事業で、実験し放題、実証は軍が請け負ってくれます。
知りたい。やってみたい。っていうのは研究者の根本的な欲求ですので、
技術的にできるのに、やっちゃいけないというのは、とても悔しい。
倫理、予算の枷が無ければ…と思う研究者はいると思うんです。

…と、ここまで書いて、「人類のため?なにそれ?研究したいからするだけ。」
ってさらりと答えるのが、真のTeam R-TYPEだと思い直した。



[21751] 9 腐敗都市
Name: レカ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/08 22:28
・腐敗都市


【腐敗都市 a】




あの穏やかな宙域は心地が良かったが、いつまでも留まってはいられない。
資源であるバイドルゲンの塊を回収して先に進むこととした。
資源を使い、私は旗艦を新たにする。
赤い装甲のコンバイラだ。


やはり戦艦はいい。艦隊という感じだ!
提督と呼ばれるからには戦艦に乗りたいものだ。
輸送船や、巡航艦の艦隊ではこの気持ちは味わえない。





久しぶりの戦艦に、はしゃいでいたら副官に叱られた。
動作確認と言ってフラガラッハ砲をチャージしたのが、いけなかったのだろうか。
無性にテンションが上がってしまった言い訳ではないのだが、
このコンバイラになにか私の心に訴えるものがあるのだ。


この感情は…
―懐かしさ
―敵意
―恐れ
―哀憫
―焦燥
―憧憬…?


なんだろう、色々な感情が沸いて来るのだ。





旗艦を新調しようと、迷子に取れる手段というものは限られるもので、
結局、思いつきで進路を決めて、今日も我々は彷徨っている。
遭難したら動かない。という格言もあるが、救援が望めない状況なので動くしかない。


暫く進む内に、私は一つの惑星を見とめた。
上空から探査したところ、どうやら都市があったようだ。
『あった』というのは、知的生命が活動しているにしては反応が小さかったからだ。


我々は見知らぬ星へ降下した。
そこで分かったのだが、この星には地球人類と同じような知的生命体の都市があったと思われる。
残念ながら今は廃墟になっているようで、生命体の気配はない。
腐敗し澱んだガスが底に貯まり、都市そのものが死んでいるかのようだ。


私は久しぶりに見る人の生活の名残を見て、なぜこの街は廃墟になったのだろうと考えた。
施設を見れば地球人類並、もしくはそれ以上の文明を誇ったはずなのだ。
これだけの文明が滅びなければならなかったのか。
外部から侵略を受けたのか?
内戦などで自滅したのか?
ヒントになるようなものは無い。


その時、我々に接近してくる一団の反応があった。
無人の都市と思っていたが、違ったらしい。
この星の本来の住民の後に、都市を支配しているのはバイドのようだ。


私は皆に戦闘準備を命じた。




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【本部防衛戦1年後_バイド研究所ベストラ】


「もし人間がその思考を保ったまま、バイドの能力を手に入れられたとしたら。そう思わないか?」
「いきなり何を言っているのか、理解できない。」


呆れたようなバイレシートの声に、ちょっとした思考実験だ。と男性は答える。
男性の首から提げるカードキーにはTeam R-TYPE技術部長ハチャマルクとあった。


「君もご苦労だね、研究施設を飛び回っているそうじゃないか。」
「ええ、すでに連絡機が専用機になってるわ。あなたはベストラに居つくつもり?」
「ああ、やっとベストラが復旧したんだ。ゲイルロズや本部地下の様に狭いところは嫌いだね。」
「まあ、物理的に独立した大型研究設備はギャルプⅡとベストラくらいですからね。」
「ギャルプⅡは君ら開発部が多くて肩身狭いし、都市の近くであまり大規模実験は出来ないから、
我々、基礎研究を生業とするものはベストラに集うというわけだ。」


ベストラ研究所は天王星衛生軌道上にある独立した研究施設で、バイド研究施設としては最大を誇った施設だ。
かつてフォース実験中に、バイドの制御に失敗、半崩壊したため内部のバイドごと封印されていた。
しかし若き英雄こと、ジェイド・ロスと彼の艦隊はベストラの封印を解き、
内部で増殖していたバイドを激戦の上駆除した。
その後地球連合軍は、太陽系内のバイドを追い出すために、主のいなくなったベストラを滅菌した。
そして、若き英雄の活躍によってバイドの脅威が去ったため、そのまま封印していた。


しかし、グランゼーラ戦争後期から、太陽系内に飛来するバイドの増加が見られた。
地球連合政府は、戦争を継続するために、この事態を隠蔽していたが、
このことを知る立場にあったTeam R-TYPEは、これ幸いとベストラの再建を提唱。
バイドの大規模侵攻には間にあわなかったが、バイドの危機が未だ去っていないことを知り、
政府関係者はこのバイド研究施設の再建を推し進めた。
現在ベストラ研究所は、バイドの基礎研究設備となっている。
フォース開発など応用研究はすでにギャルプⅡに移転していたからだ。


「この前ロスデータについてモリエンド所長と話したのだが、面白いことを思いついたんだ。」


ロスデータとは、太陽系外周で回収された、ロス艦隊のレコーダからもたらされたデータの総称だ。
その中にはレホス主任が引っ張り出したバイド化したロス艦隊のデータも入っている。
ロス艦隊がバイド化していたという事実は隠蔽され、彼等はバイド帝星攻略後未だ行方不明となっている。
極秘資料として、バイド化後の情報を記録した特にテキストデータは厳重に秘匿されている。
データを閲覧できる研究員達からは、皮肉を込めて‘記憶の残滓’などと呼ばれている。


「バイド化後も人間は意識を色濃く残す場合がある。嗜好もある程度残る。
ここで仮定しよう。もし、バイド化しても完全に意識を残す技術があったなら?
バイドの脅威から逃れられ、人類は肉体の脆弱性や寿命から解き放たれるのではないか。」
「さっきの話の続き?戯言かと思っていたわ。
フォースさえ毛嫌いするグランゼーラ主義の奴らが聞いたら、発狂しそうな思考実験ね。
でも前提が破綻していないかしら。バイドは素材を組換えてバイド体とする。
それは人間とは言えない。遺伝子すらバイドに侵食されている。」


「すでに前世期から出生前の遺伝子治療は行われている。理論上は遺伝子改変に問題はない。
それに人間の遺伝子が無くても自己増殖は可能だ。バイドの自己修復機能があれば自己増殖だって可能なはずだ。」
「バイド化は、人類の進化ではないわ。バイド化すればそれは人間ではなくてバイドよ。」
「それは君の考えだね。しかし、我々は研究者だ。我々は常に可能な技術を示して行かなければならない。
私は可能性の一つを追求しているだけ。ついでに言うと、この思考実験は息抜きついでのお遊びだ。」


ため息を吐いてバイレシートは目の前の同僚のことを、マッドサイエンティストだと再確認した。
昔からどうでもいい絵空事を非常に真面目に考察するのだ。妄想にしてもレベルが高いから手に負えない。
自分も結構な実験を行ったりするが、思考はまともなはずだ。とバイレシートは考えていた。
そして、もう一度ため息をつくと話題を切りだす。


「で、BBSはどうするの。」
「バイドバインドシステムだったか。あれは目新しい技術というほどの物ではないよ。
もともとコントロールロッドの性質を、バイド体そのものに拡大したものだ。
知っているかね。旧世紀の21世紀に、マウスの脳に装置を取り付け、操縦するという実験があった。
しかし、マウスの思考を自由にできた訳ではない。感覚を騙し、反射を誘導しただけだ。
それでも、マウスの操縦はできたんだ。バイドをコントロールロッドで操縦するのも同じ、
コントロールロッドで、バイド種子の破壊衝動に指向性を持たせているだけだ、
バイドの性質そのものを変えているわけではない。21世紀のマウスと発想は変わらんね。
技術は進歩したが、発想は変わらないというわけだな。しかしバイドというのは実に…」


「ハチャマルク技術部長。私はあなたの生徒ではないし、あなたの講義を聞きに来たわけではありません。」


研究の話になると止らなくなる同僚のクセを思い出して、バイレシートは無理やり割り込む。


「ふむ、そうだな。君ならこんなことを常識だな。これは失礼したようだ。」
「あなたと話していると疲れるわ。ともかくバイドバインドシステムは実用には耐えないのね。
バイドコントロールシステムの方の経過は?筋道ついた?」
「BCSか。難問だね。」
「一応、何個か案があるんでしょう。」


「BCS第一案は順調…とは言い難いね。
プロトタイプは出来たのだが、強い攻撃性は残るし、外形変化も著しい。
バイドにも別物として認識されるのでもちろん攻撃を受ける。
長時間の起動状態…というより確率で本来のバイド素子が活性化し元の性質に戻る。
パイロットにも高負荷がかかるので、現段階では使い捨て状態だ。
単体で利用するなら、やはりコントロールロッドの様な補助器具で拘束する必要がある。」


「BCSの第一案である、『バイド特性の強制制御』は足踏みね。」
「そうだね。君に第二案の予備実験の成果を見せよう。」
「第二案は…『侵蝕能力の制御が可能な穏健性バイド素子の新レースの開発』だったわね。」


二人は研究区画の最奥の巨大実験エリアに移動する。
その間に3つのセキュリティーチェックを受け、防護服に身を包む。
非常に大きい広間を電気駆動の作業車にのって進む。
奥にあったのは実験槽。そこには5mくらいのバイド体が培養されていた。


「ドプケラドプス。」
「そう、その幼生だ。土星衛星基地のグリーズから回収した欠片を培養したんだ。」


「生命は遺伝子の記述に添って増殖、再生する。
ドプケラドプスになるという情報はないはずなのに、あの欠片はドプケラドプスを再生する。
回収した欠片にある何かに誘導されて再生しているんだ。
まあ、当たり前だな。数あるバイドの形質がすべて遺伝子に書かれているわけない。
誘導に関係しているのは素材…取り込まれたものの思考も関与しているかもしれない。
バイド素子は、バイド体を形成している限り、バイド体を再生し続ける。
バイド体以外にバイド素子が付着し発芽できる状態になると、全能性を取り戻す。
全能性を取り戻すと、バイド素子は周囲のものを侵蝕してバイド化させる…
バイドの最大の脅威は…」


「侵蝕と次元移動能力。」
「そう、でもバイド体を構成している内は侵蝕しない。
素子がバイド体から引き離されると、侵蝕という本来の特性を発揮する。」
「バイド体を構成している間に侵蝕しだしたら、バイド体同士で食い合うことになるわね。」
「そう、そこで第二案の『侵蝕能力の制御が可能なバイド素子の新レースの開発』だ。
なにかバイド体を構成している素子の全能性が発現しないように抑えるスイッチがあるはずだ。
これが入りっぱなしになる変異体を作れば、非常にバイドをコントロールしやすくなる。」
「これは10年計画ね。」
「今は、この培養櫓を使って比較的穏やかな系統を作って、代を重ねてレースを固定している。」
「…長いわね。さすがに10年かけて結果が出るか微妙な研究を待って入られないわ。」


「この研究が成功すれば、対バイド用バイド兵器として人類の有力な戦力になるだろう。」
「我々の目的は『人間がバイドの束縛から逃れて、自由を手に入れること』よ、
バイドをコントロールすることではないわ。Project R-TYPEは絶対に失敗するわけには行かないの。
あなたには残念だけど、プランBを採用させて貰うわ。」
「プランB。短絡的であまりスマートじゃないな。」


チューブだらけになりながら培養液の中で浮かんでいるドプケラドプスを見上げる二人。
その時バイレシートにイヤホン型の通信機から呼び出しが入る。
小さな声で受け答えをしてから、モリエンド技術部長に向き直る。


「呼びだしよ。私を庶務か何かだと思っているのかしら。じゃあいくわね。」
「おつかれ。君と話すのは楽しいから、歓迎するよ。」
「研究以外興味の無いあなたに言われるのは微妙ね。」


バイレシートは実験エリアを出て防護服を脱いだ後、そのまま振り返らずに、
後ろについてきたモリエンドに告げる。


「…そうそう、Team R-TYPEはプランB…Rwf-101が完成ししだい解散する予定だけど、
バイド研究所は軍の研究施設になる予定よ。基礎研究は必要ですからね。」
「軍属は堅くて嫌だなあ。でも私から研究を取ったら何も残らないから仕方ないか。」


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『…確かに、我々人類はバイドに抗うための兵器「フォース」の開発に成功した。
しかし、その反動がこのようなバイドの暴走を引き起こし、多くの人命を奪ったのだ。
いったい何のための兵器か…。
これに懲りて、人類が自分たちの手に余ることに手を出さなくなればいい。
この「ベストラ」と言う名の施設は、そのことを我々、人類が忘れないようにするために残るだろう。
かつての役割を忘れ、ひっそりと…。』

―航海日誌、ロス艦隊ジェイド・ロス提督―


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【腐敗都市 b】


迫ってきたのはボルドタイプが一隻と、小型バイド。
さすがに戦艦コンバイラの索敵機能は格段に良い。
リボーいらないな、解体するか。


ボルドタイプの加速性能、索敵範囲、格納容量はすでに知っている。
私は有り余る索敵能力を持って、敵の索敵範囲ギリギリにつけた。
チャージされた状態で配置したゲインズで、遠距離からボルドに砲撃を加える。


忍び寄って、一気に叩く。
反撃を貰う前に叩き潰す。
メジャーな奇襲のやり方だ。


旗艦コンバイラの主砲であるフラガラッハ砲は、まだチャージが済んでいない。
ミサイル、レーザーをメインに攻め立てる。
接敵から間もないことから、相手のボルドも主砲のチャージが終わっていないだろう。
私は正面からボルドを打ち据える。主砲がこないならわざわざ回り込む必要が無い。


発射


周囲の小型バイドが動き出し射撃を加えだしたが、我々は全兵力、あちらは先遣隊。
戦力差があり、初戦は比較的楽に通れた。


やはり搭乗するなら戦艦がいい。
半分以上は気持ちの問題なのだが、こう戦場を見渡せるというか、優越感がある。
そもそも戦艦とは、敵を威圧することに大きな意味がある。
バイドが威圧されるとは思わないが、味方に与える安心感は戦場に置いて大切なものだ。
司令官としても、硬く大火力を持った戦艦に乗っていることで、指揮に余裕がでる。
敵の主砲1~2発で落ちかねない輸送艦では、前線で思い切った指揮はできないのだ。


小型機の掃討はバイドシステムαやジギタリウスの出番だ。
…正直ここの所、敵の数が多くなり、これらの機体では正面勝負は辛くなって来たのだ。
なので、戦艦の攻撃後の討ち漏らしや、主砲チャージのキャンセルがメインになっている。


奥の方から、バイドが居ると思しき反応がある。
私は陽電子砲のチャージを終えたゲインズを船内に格納して前進する。


都市の内部は底面にガスがたまっており、機動兵器の脚を取られそうだ。
私はできる限り、都市の天井付近を進む。
ガスの中は砲撃やレーザーが減衰するので避けている。
バイドに乗っ取られた砲台が何門かあるようだ。


小型機が飛来する。
長射程を誇るコンバイラで打ち据えると、バイドシステムが食らう。安定してきたな。
ちなみに今回は進軍する必要があったため、足が遅く積載に時間のかかるタブロックはお休みだ。


そうこうしている内に、壁に行き当たった。
この閉じられた都市は壁で外部と遮られている。
出入り口は底面の開口部だけのようだ。
底面には濃い腐敗ガスが貯まっており非常に戦闘がしづらそうだ。
コンバイラは開口部をくぐれないので、小型機で進軍させることになりそうだ。


よく見えないが、出入り口付近には小型バイドの反応がある。
壁の向こうは壁に遮られて索敵にかからない。しかし、大型バイドがいるのはこの向こうだろう。


さて、どうしたものか。
ガスの中にいるうちに頭を押さえられて、一方的に攻撃されるのは避けたい。
ただでさえ、峡路を抜けるので戦列が乱れるのだ。
コンバイラは巨大すぎる船体のため支援は出来ないが、せめて索敵はしたい。
危険だが、亜空間機に壁貫けをさせて、索敵をさせよう。


亜空間にアンフィビアンを溶け込ませ、壁を透過させる。
壁から機首だけ出して案全域を確認してから、ゆっくりと索敵すると、
直にバイドの旗艦を発見する。


『提督、ボルドタイプ敵艦を発見しました。旗艦と思われます。』


副官がアナウンスしてくれる。
亜空間機からの情報ではボルドガングのようだ。
比較的大きな艦だ。普段ならそこまでの敵ではないのだが、
ただ、都市出口のすぐ上にいる。
腐敗ガスに蓋をする感じで待機している。


戦闘機を出しても視認性、機動性がガタ落ちであり、出口で渋滞が起きるだろう。
高威力の主砲では腐敗ガスに引火しかねないため、ガス内で主砲は撃てない。
亜空間機アンフィビアンを迂回させて背後を取ることもできるが、
数が揃わないので、撃沈は出来ないだろう。


………泥臭いが、ひたすらミサイルで攻撃しかないな。
私は戦闘機にガスの海に潜ることを命じた。


バイドシステムαやジギタリウスがフォースをつけて腐臭漂うガスに潜っていく。
ついで、アンフィビアンもボルドガングに触れないように注意して裏手に回りこむ。
相手もさすがに巡航艦クラスだ。艦首砲さえ撃たないが、ミサイルが雨あられとガスの海に降り注ぐ。
ガスで命中率の落ちたミサイルは、それでも運の悪い戦闘機に当たって爆発する。


戦闘機隊はひたすらに耐えてガスの中を進む。
全機がボルドガングを射程捉えると、一気にミサイルを発射する。
同時に、フォースを切り離してボルドガングにぶつける。
裏手に回っていたアンフィビアンも少数ながらガスに引火しないように主砲を発射する。


暫くミサイル合戦が続く。
さすがに戦闘機の群にミサイルを撃たれているだけあって、敵艦の動きが鈍くなる。
その隙を突いて、ジギタリウスが一機ガスの海から駆け上り、近くにあったフォースを回収しながら、
壁と、ボルドガングの隙間に機影を摺りこませる。
そして、フォースシュート。


触手を持ったビーストフォースが敵艦のコアに向って飛び込む。
はげしい音が響きコアが停止すると、ボルドガングは形を失いながら腐敗ガスの中に消えていった。
戦闘機はすでに逃げていたらしく、ゴミの固まりに潰されたものは居なかった。
あのボルドガングもいつしか腐り落ちて、この腐敗した都市の一部となるのだろう。


私は、この都市を包むガスこそが、この星の文明を築いた者達の成れの果てではないかと考えた。


地球は大丈夫だろうか。
宇宙を旅して帰ってきたら、人類は滅びて違う種が栄えていたという古典を思い出した。
彼らは当初、あまりに違う地球を故郷と認識できなかった。


私は…大丈夫だ。
地球の思い出はしっかり、胸に刻んである。


―そびえ立つ摩天楼
―黄昏に染まる海面
―暮れなずむ空
―沈む夕日

―私の還るべき街…


私はあの夕暮れの都市を思い出していた。






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バイド提督の動かしづらいこと…最近は覚醒してきたので以前ほどではないのですが。
それに比べて、腐れ開発チームはきびきび動いてくれて助かります。
今回の挿話は微妙です。学術的な話を分かりやすく書くのは難しいですね。
あ、挿話にでてきたマウス電極実験は、実際にあった実験です。
分かっていたとはいえ番外編は、ほとんどTeam R-TYPE編という、恐ろしいことになりそうです。

あ、そうそう、寝不足で筆が進んだので、チラ裏の「プロジェクトR!」も更新しました。



[21751] 10 燃え上がる連星
Name: ラカ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/14 00:15
・燃え上がる連星


【二つの太陽 a】



今、我々の前には接近した二つの恒星がある。
2つの恒星は互いに影響を及ぼしあい回転し、ダンスを踊っているようだ。
ダンスの激しさを伝える激しい炎柱…プロミネンスが生き物の様に立ち上がっている。
見とれていると思わず吸い込まれそうになる。
この熱量の前には戦艦の装甲など、ものの役に立ちはしないだろう。
天然の核融合炉なかでは、物質など直ぐに蒸発してしまう。


ここに来てみたのはなんとなくだ。
我々は腐敗した都市を辞し、まだ見ぬ宇宙を再び彷徨っていた。
宇宙の大半は静寂が支配しているが、いつまでも続くその静寂は苦痛にも似ていたから、
地球人類には関係が無いと知りつつも、恒星や惑星に立ち寄るのかもしれない。


我々の想いに関係なく、二つの太陽は活発に活動を続けている。
まるでこの場所の時間だけが進んでいるかのように感じた。
二つの太陽を眺めていると敵が現れた。
恒星を挟んで向こう側から戦闘文明の艦隊が現れたのだ。


また戦わなければなるまい。
私は戦闘文明の艦隊へ進路を取る。
相手も此方を認めたようで、進路を変えてきた。
恒星の間で争うことになりそうだ。




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【地球連合軍南半球第一基地】




Team R-TYPE局長が真新しい建物の前の壇上に立ち演説している。


R's MUSEUM…R機を展示する博物館の完成だ。
Rwf-9AアローヘッドからRwf-100カーテンコールまでの各R機と、
POWや工作機などが展示され一般公開される。
もちろん展示品は主機が抜いてあったり、レプリカであったりで動かない。
実機は地下格納庫に保存されている。
地下区画で保守整備はできるが、開発能力はない。
R機の歴史、変遷、多くのR機が散って行ったバイド戦役、グランゼーラ戦争…
それらを人類が忘れないように、博物館を作るのだ。

そしてTeam R-TYPEの解散…。



バイドの圧力が減じ、対人類の戦争も終わったと地球連合政府は結論付けた。
残存艦隊を整理しつつ、軍縮が行われている。
この流れの中でひとつの方針が政府によって示された。


地球連合政府とグランゼーラ革命政府が統一される運びとなったのだ。
地球圏統一政府として発足する新政府は、地球連合派とグランゼーラ派が半数ずつ議席を占める事で双方が合意した。


新政府の方針の一つが、新たなR機開発の凍結だ。
今までの開発成果を博物館に提供、保管し、
研究組織であるTeam R-TYPEもこれを機に解散する運びとなった。
人類はその力を再び、太陽系の発展のために用いることとなった。


…というのが表向きのTeam R-TYPE解体の理由である。


実際にTeam R-TYPEは解散する。
しかし、本当の理由は軍縮や政府の決定ではない。
巨大計画Project R-TYPEが完了するためだ。
計画は数々の修正を加えて一応の終結を迎えることとなった。


最後の作戦プランBが発動されることとなった。
すでにRwf-101グランドフィナーレがロールアウトし、R機の開発については終了し、
グランドフィナーレの最終調整の目処がついた。
あとは実行するだけだ。ここまでくれば研究開発組織としてのTeam R-TYPEは必要ない。



この作戦をもって全対バイドミッションが終了する運びとなっている。



演説は佳境に入ったようだ。
男が何かに掛かった赤い幕の前に移動している。
言葉をとめるとともに、周囲の人間と一緒に幕を下す。



そこにあったのは始まりのR機R-9を模ったモニュメントだった。


―人類のために散ったすべてのR機パイロットをここに讃える―




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【二つの太陽 b】


今日も戦闘文明はあの奇妙な戦闘機、五十五型と四十四型の合体戦闘機で攻めて来た。


…場所が悪い。このままの進軍速度では恒星の隙間で接敵することとなる。
なるべくならば手前で待って、陣を整えて迎え撃ちたいところだが、
敵戦闘機は強力な主砲を装備している。チャージが貯まりきらない内に先頭だけでも叩きたい。
環境は非常に不安定だ。
艦隊を飲み込むほどの大きさのプロミネンスが両方の恒星から吹き上がっており、
そして2つの恒星は互いの重力で引っ張り合い、高速で回転している。
恒星の表面近くでは重力も大きく、かなりの大きさのデブリが落ちてゆく。


恐らく双方の考えは、一致しているだろう。
短期決戦だ。


私は味方戦闘機にフォースを装着させて、突破力を高めると
今回の旗艦であるベルメイトを先頭にして一気に進軍した。


接敵場所はちょうど恒星の隙間、一番狭まったところとなった。
プロミネンスが吹き上がる危険地帯を敵も攻めあぐねている。
私もこの避ける隙間の無い戦場で、彼らを相手に戦いたくない。


こういうときは…
そう…ちょうどいい人材がいたはず…。
副官に任せよう。私は副官にプロミネンスの予測軌道を予測させることとした。


『了解しました。提督』


何時もとは違う抑揚が抑えられた声。


ん…?
「何時もとは違う」?
あれ?副官は副官なはず。何時もとは違うって何だ。
いつも横に居た副官に違いなんてあるのか?


私の副官は…


冷静で、
熱くて、
大胆で、
献身的で、
独創的で、
ニヒルで、
無口で、
饒舌で…


そんな頼りになる副官だった。
うん、そうだ。なにも矛盾はないな。
私は何が気になったんだ?


『提督、予測値が出ました。情報を反映します。』


さすがに仕事が速いな。さすが中尉。
さあ、これで楽をさせてもらえればいいのだが…
私は予測を見ながら、小型機を配置していった。


私は予測情報を元に、プロミネンスにギリギリ巻き込まれない位置に船体や、
小型機を予測された安全圏に滑り込ませる。


敵機はあの合体戦闘機だ。
あの機体はある特徴がある。主砲以外の射程が非常に短いのだ。格闘戦仕様ということだろうか。
合体時のみ短距離ミサイル程度の射程を発揮できるが、その他は軒並みバルカンの射程程度だ。


…まだ、敵主砲が完全にチャージされるには時間がある。
近寄って格闘戦で討ち取ろうとしている戦闘文明機。
ひたすらに回避軌道を描いてただ避け続ける味方機。
そうだ。もっと寄って来い。


太陽の近くで縮こまる味方機と、それに攻撃をくわえようと取り囲む敵機。
そろそろだが…


そのとき太陽から火柱が上がった。
火柱は味方機のすれすれを伸びてループを描いてゆっくり太陽に戻っていく。
戦闘文明機は予期しない闖入者に驚き、回避もまともに取れないままに蒸発していく。
炎が消えると、戦闘文明の機体は半数以上が消滅していた。


もともと、戦闘を予期していなかったのだろう、
今回の戦闘文明の艦隊は規模が小さい。今ので戦闘機の数は激減している。
敵の増援を待ってやる事は無い。
敵戦艦から第二波が来ない内に落としたい。


『提督、バイドシステムαの主砲チャージが完了しました。』


よし、こんなところに長居は無用だ。
とっとと戦艦を叩いてしまおう。
吹きあがり続けるプロミネンスに最新の注意を払いながら、
バイドシステムを誘導する。
敵の戦艦は、炎柱に翻弄されて回避に専念している。
攻撃隊の出撃はまだできないだろう。


こちらの戦闘機部隊はプロミネンスの陰に隠れられるように少数しか出ていない。
戦艦を落とすのには打撃力不足だろう。なので一計を案じることとした。
敵の行動が制限されているのを利用して、敵艦の後方に回り込むと、
敵の推進部に主砲を撃ち込んだ。


2部隊が主砲を撃ち込んだところで、敵艦の推進部から爆炎を確認した。
ここは2つの恒星の支配する戦場だ。
これだけの規模の恒星が迫っていれば当然相応の重力が存在する。
宇宙に進出している文明には出力計算の誤差程度のものだ。
しかし、普段ならば気にもとめない程度のそれは、推進力を失った戦艦に牙をむく。


初めはゆっくりと、徐々に加速して恒星に落ちてゆく戦闘文明の戦艦。
プロミネンスから逃げ延びた敵戦闘機が、母艦の元に駆けつける。
装甲が融解しながら崩壊してゆく戦艦の周囲を、少し離れて旋回する戦闘機。
これだけの攻撃性を持つ文明でも、やはり味方の損害は気になるのだろうか?


…私は勝利の確信と少しの苛立ちを抱えながら、殲滅を命じた。
味方の損害も少なく喜ぶべき勝利のはずなのだが、私は素直に喜ぶ事が出来なかった。




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副官は性別を超越するようです。
提督はバイドボケの症状として、認識が捻じ曲がっていますね。男女の区別もつかないとは。
最近は違和感を感じてきたようですが、超老人性認知症の様なので直らないかもしれません。

さて、この話でTeam R-TYPEについての挿話は一時終了です。
腐れ開発チームは突拍子も無いことを書けるので、書いていて面白かったです。
次話の挿話ではゲーム本編で投げっぱなしにされた、あの人の話に触れようかと。

今日、PSPのR-TYPESをダウンロードしてみたのですが、作者には無理でした。
そもそもが、遥か昔に友達の家でやったツインビーですら投げた作者が手を出していいものではなかった…
反射神経が皆無なので、初代STAGE3までで、すでにパイロットを3ケタ殺した気がします。



[21751] 11 水辺の思い出
Name: エリ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/18 22:45
・水辺の思い出


【氷水を湛える星 a】



所々を海氷に覆われた荒涼とした景色。
光の乏しいこの星では海が黒々と見える。
植生の乏しい岸へと、規則的に引いては寄せる波。
波が抉りとった洞穴。


私はこの星に降り立ってから、ずっと思想の海に浸っている。
海だったか湖だったかはっきりと覚えていないが、
広い水辺に、とても大切にしているものがあったはずなのだ。
しかし、それが何であったかは思い出せない。
どうして大切にしていたのかも覚えていない…。


焦点を結ばない記憶。
それは決して像を結ばないのに、狂おしい程の感情の激流となって私を急き立てる。
私はどうしようもないほどの旅愁に捕らわれて、ここを動けないで居た。


―ビル群
―茜の空
―夕日
―海鳥
―水上艦
―ラストダンサー
―夜の帳
―コンバイラ

―白亜の戦艦
―宇宙へ逃げるバイド


頭の中を流れて行く記憶の断片。
まるで頭の中にもう一人の私がいて、叫んでいるようだ。
思い出す?
私には何を忘れているのか分からない。


この水と氷の星に降下したのは、そんな記憶を少しでも思い出すのではないかと思ったからだ。
正直、思い出の場所とこの星が似ているかどうかも分からない。
しかし、波があと数回打ち寄せたら、何かを思い出すかもしれない…。
そんな不確かなことに期待を寄せてみる。


・・・その時、私の邪魔をするものが現れた。この星に巣くうバイド生命体のようだ。
重要な思考を中断させた闖入者へ、私は直ちに攻撃を命じた。




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【グランゼーラ戦争終結7年後_冥王星基地グリトニル】


「あの戦いは、一体何だったのだろうな。」
「‘開放同盟の乱’ですか?」


太陽系外縁部、冥王星基地グリトニルのカフェテリアで二人の軍人が静かな声で話していた。
太陽系最外部の施設として、バイドやグランゼーラ陣営、そして地球連合軍の攻撃に晒され続けたグリトニルだが、
改修を終え、すでにワープ設備だけでなく、軍港や、福利厚生施設など以前の機能を取り戻している。
二人が身につけているのはグレーの軍服。…統一宇宙軍の制服だ。


地球連合政府とグランゼーラ革命政府の戦争は、
双方の支持層からの市民運動によって比較的穏やかに幕を閉じた。
バイドの襲撃で両軍とも疲弊しており厭戦感が蔓延しており、
これ以上は益が無いということで、バイドの本部基地襲撃を機に手を取るに至った。


政治のごたごたや、一部事件などもあったが、
統一政府として、地球連合派とグランゼーラ派が半数ずつ議席を占める議会を置くことで、
何とか終戦を迎えた。
ただ、グランゼーラ軍は地球連合軍に吸収合併されることを嫌がった。
戦争にはほとんど勝ったと言えるが地球連合政府だが、バイドの地球襲撃で疲弊しいることは否めず、
再び争うことを嫌い、軍の名称を地球圏統一宇宙軍と変えることで、グランゼーラとの融和を図った。


問題であったフォースについては、厳しい検査の行われる施設に保管され、
通常戦闘では持ち出しが厳しく制限された。
フォース廃絶を唱えるグランゼーラ派が、この妥協ともいえる案を呑んだのは、
バイドの地球襲撃の際、フォースが多大なる貢献をしたのを認めざるを得なかったからだ。
また、研究で人工フォースであるシャドウフォースの研究が進められることとなった。
その間にTeam R-TYPEも解散しており、R機の新規開発もストップした。


「カトー中佐。あの時、我々は地球圏の政治改革に酔っていたと思っているよ。」
「大の大人がそろいも揃って馬鹿な夢を見ていたんですね。ブラーダ大佐。」


グレーの制服を着た二人の軍人。
太陽系開放同盟キースン艦隊の次席参謀であったカトー元大佐と、
同じく同盟空母の艦長であったディア・ブラーダ大佐だった。


カトー元大佐は同盟が崩壊した後、戦犯として極刑になってもおかしくは無かったが、
司法取引(Team R-TYPEが関与したと噂されている)によって、降格及びその他の刑を宣告された。
軍からの追放を命じられなかったのは、単純に使えるものは使い倒そうという軍部の考えゆえだ。
度重なるバイドの来襲や、グランゼーラ戦争、7年前のバイドの地球襲撃で、
地球連合、グランゼーラ双方とも、艦隊要員が払底していた。
艦隊を指揮できる人間が少ない、だからもしもの時の予備として軍に留め置かれたのだ。
ただ、やはり艦隊などから遠ざけられて、基地の事務方や、補給などの任に付いていた。
予備役や不名誉除隊にするくらいなら、反乱の危険性の無いところで働かせようというわけだ。


ブラーダ大佐は艦長として艦隊指令の命令に従ったていたことと、
バイド討伐の際に協力したことで減刑された。
戦時措置として一時だけ艦隊司令官を勤めたが、
現在はマーナガルム級巡航艦‘コカイカフェ’の艦長として、
出世とは程遠い太陽系外縁部の哨戒任務などに付いている。
やはり太陽系開放同盟に所属していたという事実が、経歴に影を落としていた。
グリトニルには補給に寄ったところだ。


太陽系開放同盟に参加した将兵はみな冷遇されているが、2人は現状を受け入れているようだ。
カトー中佐は当時、太陽系開放同盟の本隊、キースン艦隊の次席参謀。
ブラーダ大佐は、開放同盟の第二艦隊旗艦の艦長だった。
トップに近く、命令する側でもあったので、反乱について思うところもあるのだろう。


「戦後聞かれました。キースン大将はBBSをどこから手に入れたのかと。」
「そうだな。私は同盟の本隊ではなかったから、聞いたことも無かった。恐らくキースン艦隊のみの極秘研究だったのだろう。」
「ええ、連合を脱した研究員がその技術を持ってきました。妙に目の鋭い男でしたが、
Team R-TYPEの関係者だったのでしょうね。戦後の司法取引でそのことを色々聞かれました。」
「…それで、キースン大将はBBSの研究を始めた。」
「今思うとあれはなんだったのでしょう。地球連合の尋問では研究員の事を聞かれたのに、Team R-TYPEでは聞かれなかった。その後の裁判を考えると利用されたのでしょうか。」
「キースン大将もTeam R-TYPEも互いに利用し合っていたのではないか?」
「グランゼーラの名を捨てて、太陽系解放同盟を名乗ったのはそう意味もあったのかもしれませんね。」


疲れたように言うカトー中佐。
この元参謀は、戦争終了後に白髪が目立つようになった。
戦後には癖の様になった自嘲を続ける。


「私の罪は重い。次席参謀でありながら止めるどころか、おろかな夢に酔っていた。
その結果が艦隊の全滅です。」
「それは言わないことにすべきだ。中佐。」
「そうですね。」


暫く、黙ってコーヒーを飲む。
やがてディア大佐が口を開く。


「カトー中佐は…キースン大将だからついていったのか?それとも太陽系開放同盟に?」
「キースン大将でしょうね。確かに大将は謀将であるとか、俳優であったとか色々言われていますが、
あの人には不思議と人を引き付ける魅力があった。それが危険な博打であることは分かっているのですが、
分かっていてなお、それに乗っていました。そういう人だったのです。」
「キースン大将が、ワープ空間で亡くなったのは良いことだったのかもしれん。
大将は良くも悪くも乱世の人だ。戦を収める能力には欠けていた様に思う。
存命であれば、まだ地球圏は混乱していたかもしれない。」
「…そうですね。」


太陽系解放同盟の中枢であるキースン艦隊にいたカトー中佐は、未だに割り切れないものを抱えていた。
一方、ブラーダ大佐ははっきりと決別を示していた。


「終戦の英雄。」
「?」
「私は提督と一度だけ一緒に戦ったことがあるが、その時思ったのだ。‘この人はキースン大将と逆の人だ’と。」
「分かる気がします。キースン大将は危険な魅力と畏怖で兵を率いたが、あの提督は違ったようです。
なんというか司令官と部下というよりは、仲間といった感じでしたから。」
「…」
「私は討伐艦隊に偽装降伏を仕掛けたとき、あの提督を恨みましたよ。
もっと嫌な奴なら、あんなに罪悪感を感じることなく騙せたのに。と」


結局バレていましたが。と、カトー中佐は自嘲気味に笑う。
独白のようなカトー中佐の言葉に、ブラーダ大佐は黙っていた。
目の前の元艦隊参謀が、かつて終戦の英雄相手に謀略を仕掛けたことを知っていたからだ。
間を開けて、ブラーダ大佐はすでに冷めたコーヒーで喉を湿らせて言う。


「私のあの提督への印象は度量のある人だったな。
バイド襲撃時、強硬に戦争を継続する艦隊指令を、私の部下が殺害した。
あの提督はそれを知りつつ、艦隊指令は戦死として処理して降伏を受け入れてくれた。
降伏後も、バイド討伐任務として我々に汚名返上の機会をくれたし、私は彼に感謝しているよ。」


「死ぬには若すぎますね。」
「…終戦の英雄が亡くなってから、もう7年か。」


そしてどちらとも無く立ち上がり、別れを告げ、それぞれ職場に戻ろうとする。
カトー中佐は基地内の総務部の庶務課に、
ブラーダ大佐はドックに係留してあるマーナガルム級‘コカイカフェ’へ。


去り際にカトー中佐が一言。


「ブラーダ大佐。私はキースン大将や、終戦の英雄が亡くなったとは思えないんです。
二人とも、まだどこかで艦隊の指揮を執っていて、いつかひょっこり帰ってきそうな気がするんです。」
「カトー中佐、それは…。
いや、あの提督ならバイド討伐記念に副官達と星の海でバカンスを決込んでいるかもしれんな。」
「ええ、キースン大将はどこかの星で再起を狙い、終戦の英雄は宇宙で迷子…なんてどうです?」
「ははは、迷子なら帰りが遅くてもしょうがない。そろそろ時間だな
…迷子の英雄を探すために外縁部哨戒に出てくるよ。」
「では、私は彼らが帰ってきてもいいように、少ない予算を遣り繰りして、
ささやかな歓迎会を出来るくらいの隠し予算でも作っておきましょうか。」


背中合わせのままジョークを言い合って、今度こそ本当に別れを告げた。




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【氷水を湛える星 b】


氷の浮かぶ海にバイド達が暮らしているようだ。
氷塊をつぎつぎと生み出しているのは奇妙な形状の中型バイド。
あれはガスダーネッドか。
遠目にもガスダーネッドが氷を精製しているのが良く見える。
周囲にも小型バイドが沸いているようだ。


我艦隊には水中戦に向く機体が無い。
この宇宙において流体の水が存在する環境は極稀だ。
そんな特殊環境のために専用機を製造する余裕はないのだ。
攻勢用の兵器として、特殊化より汎用化が秀でていることは実証されている。
そう究極互換機『       』がいい例だ。


…また欠落か。記憶に穴が開く。
…いや違う。穴が開いていることに気が付き始めたんだ。
私は何を忘れている?


私は苛立ちを隠すように、邪魔な氷塊を割るように指示する。
ゲインズの陽電子砲で破壊されていく氷。
このままガスダーネッドの鎧をはぎ取ってしまおう。
私がさらに氷塊を破壊しようと、前進すると突然前に進めなくなる。


『提督、敵機に接触しました。亜空間機です。』


…何もない空間から出てきたのは蔦だらけのバイド、マッドフォレスト3。
愛らしいアイビーフォースを揺らして、唐突に海中に出現した。
私は舌打ちしたくなった。
ここのところ戦闘文明との戦闘が多かったからか、
バイドが亜空間潜行能力をもっているある事を失念していたのだ。


衝撃。
戦艦で先行していたため、敵の目玉ミサイルをもろにくらってしまった。
出現したマッドフォレスト3の集団の掃討を、戦闘機に命じる。


亜空間機が一機だけという事はあるまい。
あと何体か潜んでいると考えた方が良いだろう。
マッドフォレスト自体の性能やチャージ攻撃に特筆すべき脅威はない。
問題は亜空間潜行だ。
威力の小さい攻撃であろうと、懐に飛び込まれると痛い。
とくに懐でフォースシュートされるのが怖い。
それに一方的に索敵されているかもしれないという、脅威がある。


亜空間戦法…、敵にされると本当に厄介なものだ。
残念ながら今回は、亜空間バスターを装備しているベルメイトを連れてきていない。
私はアンフィビアン2(改造した)を壁の中に飛び込ませ、敵マッドフォレスト3に対する壁とする。
後手なのは否めないが、何もしないよりマシだろう。


ここは…そうだな、頭を先に潰そう。
亜空間機は燃費が悪い。
特ここでは亜空間潜行と水中戦で航続距離・時間が短縮されるだろう。
敵旗艦を潰せば、補給できずに亜空間で潰れるか、戦闘不能状態で漂うだけとなる。


亜空間にアンフィビアン2を潜り込ませた後、
私はバイドシステムやジギタリウスを展開し、
壁際にゲインズを配置する。
敵に索敵されているかもしれない状態では、待ちの戦法は使えない。
こちらから攻める。
此方の索敵の要、旗艦コンバイラも前に出す。


戦場を2分する大きな岩を超えると、コンバイラの索敵能力が敵の全容を捉える。
遠くから見たとおり、ガスダーネッドとマッドフォレスト3あと、Uロッチが構えている。
敵本隊の戦力は小さい。マッドフォレスト3が戻ってこない内に叩こう。
やはり亜空間から索敵されているのだろう、敵も反応してくる。
私はゲインズに前面に居たマッドフォレストとUロッチを焼き払わすと、
一気に流れ込む。


Uロッチは主砲を持たないので、多少の被害を覚悟すれば強行できる。
コンバイラで援護しながら戦闘機を進める。
狙うはガスダーネッドのみだ。


ガスダーネッドはコアが隠れており、上方から狙うのがいいのだが、
その上空は、ガスダーネッドの防空射撃で近づけない。
まずはコアを囲む砲台から狙っていく。


バイドシステムの主砲で砲台をうったあと、フォースを打ち込む。
フォースも迎撃されるが、それにも負けずに砲台をすり潰す。


私はのコンバイラの二又の主砲、フラガラッハ砲の射軸をコアにあわせる。
後方でマッドフォレストが出現したがすでに燃料切れで、即座に行動には移れない。
自軍戦力を退避を勧告した後、フラガラッハ砲で止めを刺す。
コンバイラの砲塔から発射された光は、途中で二又に分かれながら、広範囲を破壊する。
ガスダーネッドごときの装甲は問題にならない。一気に溶かしてコアを砕く。


上半分を失って、崩れながら海中に沈んでいくガスダーネッド。
水中で残りの半身も爆発四散する。
周囲を見てもエネルギー切れで動けなくなったマッドフォレスト3や、
満身創痍の小型バイドがいるだけ。
私は出番の無かった、ジギタリウスに掃討を命じた。


これで、この氷と水の星に巣くうバイドを撃破した。
やっと思索に集中できるだろう。



掃討も終わり、私は再び暗い海の上に佇んでいる。
私は何かを思い出せそうなこの波打ち際で、思考を続ける。


まず考えなければならないこと。今回の戦闘で思ったことだ。
なぜバイドは亜空間航行技術や、次元航行技術をもっているのか?
私はずっと、一定以上の技術をもった文明は次元関係の技術にたどり着くと思っていた。
しかし、戦闘文明は亜空間航行技術を持っていない。
少ない事例なので確信はないが、ワープ空間で会敵したこともないので、
次元航行技術も持っていない、もしくは、未熟なのかもしれない。


あの腐敗都市や、グリーンインフェルノを作った文明はどうなのだろう。
我々や、バイドが特殊なのだろうか?
我々地球人類とバイドを繋ぐ何かがあるのだろうか?
バイドとは…?



やはり答えは出ない。


もう一つの疑問。
私が忘れているらしき記憶についてだ。
いくつかの記憶が欠落している事が分かっている。
あと、断片的な記憶の欠片もちらほらとある。
しかし、多すぎてまとまらない。
まず、私自身の事を確認しよう。


私は『      』だ。
地球連合軍の将官で、このバイド討伐艦隊の提督である。
若き英雄ジェイド・ロス提督にあこがれていて、
始めはグランゼーラや太陽系開放同盟から地球連合市民を守るために、
バイドの脅威から地球人類を守るために戦ってきた。


そして、『      』率いるバイドの大群が地球に押し寄せてきたとき、
各軍と手を取り合って、地球に降下してきたバイドを討伐した。
太陽系外縁部までバイドを追い詰めて、それから…
それから?


私はバイドを殲滅したはずだ。
しかし、どうやったのか、どうなったのかが全くの空白となっている。
何があったのか?
そこに、私の記憶の欠落の真実があるのだろうか?
答えは…出ない。


私は再び海を眺める。
ここに来て強く感じる旅愁の正体を探ろうと思ったのだ。
私が心に焼き付けた、大切なもの。
それを見つければ、全てを思い出せるのではないか。そんな気がしていた。
波が岸に打ち寄せてくる。
しかし、波の音は何も教えてくれなかった。


どれくらい、そうしていただろうか。
すでに周囲は暗くなりつつある。
地球とは組成の違う大気の中に、この星系の恒星が沈もうとしていた。
塵に乱反射して青く輝く夕日に、何故か失望を覚える。


私はしばらくその様子を見つめたあと、この星を発つことを決めた。




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いらない子ガスダーネッド。ぶっちゃけバラカス様の護衛といった印象しかない。

使い捨て気味だったオリキャラ+原作で一瞬名前だけ出てくる参謀を出してみた。
今回の挿話は端役のリサイクル兼、前フリです。

シューティング技能が足り無すぎて、初代R-TYPEが進まない。何でSTAGE3は途中復活無しなんだ。
作者は大量の戦死者を出しながら、途中復活で漸進するダメプレイヤーなので、噂のSTAGE7で詰む予感。



[21751] 12 星に願いを
Name: ミチ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/20 22:55
・星に願いを




【流星群宙域 a】


流れ星。
誰が言い出したのか知れないが、消えるまでに願い事を3回唱えれば、願いがかなうという。


私の目の前では願いごとの大安売りが行われていた。
中規模の流星群の真っ只中を突っ切っているのだ。
そこここに流星が飛び込んでくる。その運動エネルギーは大きく、
流星に当たれば、コンバイラとて簡単に破壊されるだろう。
こんな場所ではおちおち願いも唱えられない。


私はいま、流星群が流れ去るのを待っている。
旗艦コンバイラでは危なくて進めない。
一応、リボーを哨戒に出して警戒しながら待機している。


私は流星群の中心部から離れて待つ間に、一つ願い事を思うことにした。
これだけの流れ星があるのだから、中には願いを叶えてくれる「ホンモノ」もあるかもしれない。
そんな似合わないことを考えながら、私は願う。


―私の故郷、地球が無事でありますように。


これに勝る願いは無い。
色々思うことはあったが、私や私部下達はこのために命をかけてきた。
これさえ確認できれば満足だ。
地球が無事でありさえすれば、私個人がどうであろうと、
地球人類としての義務を果たしたとして胸を張って自慢できる。


‘彼’もきっとそう思ったに違いない。


だから、人々の営みを見て安心して地球を離れたのだろう。
次元の狭間にある2つ目のバイドの中枢へ、我々をいざない、
そして、自らを犠牲にして、次元の狭間への扉を開けた。


私も彼のようにできるだろうか…?


私は意外に真剣に願いを込めている自分に気付き、苦笑する。
私はロマンチストではなかったと思うが。
一人で笑っていると、副官が告げてくる。


『提督、敵襲です。バイドの群のようです。』


おいでなすったようだ。
さあ、この一戦一戦が地球の平和に繋がると信じて、今日もバイドと戦おう。




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【グリトニル戦役後?_不明宙域】




これは、どういうことだ。
俺は、太陽系解放同盟の総旗艦ジャコギートの艦橋で、
所属不明な戦闘機の群を見ながら思った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


俺はかつて地球連合軍の将校で、謀略の影にキースンありなどと言われていた男だ。
別に性格が陰険だとか、謀略を仕掛けることに快感を覚えるとかではない。
たまたま巡り合わせでそういう任につき、そして才能があっただけだ。
俺にとっては、謀略は仕事、任務の一環であった。


ただ、バイドの攻勢が強かった当時、謀略とは味方を混乱させる悪と考えられていた。
しかし、俺は地球を捨てて貴重な装備を持ち出してまで逃避しようとする裏切り者を処断したことが悪とは思わない。
奴らは、地球圏を混乱させる害悪だった。だから、情報を操作して嵌めた。
その手の才能のあった俺は順調に功を挙げ、昇進した。
相変わらず他の部署からは嫌われていたが、同じ任につく部下達には慕われていた。
上からは「役に立つ」という微妙な評価を得た。ダーティな役回りだったためだろう。


バイドの攻勢が落ち着いた後も、‘謀略好き’とされている俺を欲しがる艦隊は無く、
もとの部下達と、独立した特殊部隊として特殊任務についてた。
俺は白い目で見られながらも、連合に必要な役回りとして階級だけは上がって行った。
ある意味、裏方として出世していったわけだ。


そんな俺がグランゼーラに参加したのは、自分の艦隊がほしかったからだ。
人類の希望としてロス艦隊が地球を離れるのを間近で見て、その想いを強くした。
俺とて他の軍人と同じく、華々しい戦果にあこがれていた。
謀略は仕事、手段であって、好き好んでやっているわけではない。
新興の軍事組織であったグランゼーラ軍なら、俺でも主流に食い込めるかもしれないと考えた。
俺は自分の隊を引き連れて、グランゼーラの軍門に下った。


実際、それは上手くいった。
俺の戦術指揮能力は並であったが、謀略については並ぶ者はいない。
対人間との戦闘では謀略は悪ではなく、味方の損害を減らす有効な戦略であると評価された。
言葉の裏を読む癖がついた俺でも悪い気はしなかった。


ただし、グランゼーラの理念だけは、信奉する気にならなかった。フォースだろうと何だろと人類の武器なはずだ。つかえる道具は使うべきだ。
地球連合のかつての味方を罠にはめて戦果を上げた俺は、いつしか一個艦隊の指令になっていた。
俺の望みは叶ったのだ。


しかし、そういつまでも上手くは続かなかった。
グランゼーラの宿将ハルバーが、フォース廃絶を含む有利な条件での講和。なんてものを提唱したのだ。
そんなことをすれば和平を唱える馬鹿があらわれ、グランゼーラ全体の士気が低下する。
しかも、もし和平が成れば軍も縮小され、謀将である俺の立場も危うくなる。
戦争が終われば走狗は煮られるのだ。
そして、真っ先に切られるのは双方の暗部を知る俺だろう。


俺は、裏から主だった主戦派の将兵に接触し、派閥に取り込むとともに、
地球連合の上層部と図り、グランゼーラの原理派勢力を減じる工作を行った。
俺が目指したのは、戦果を交えない穏やかな戦争状態の継続だ。


その過程で、どうしても邪魔だったのがハルバー提督だ。
主戦派としてはこの宿将を排除したい。
しかし彼は鋼の意思を持ち、カリスマ的人気を誇るグランゼーラの英雄だった。
彼を言葉でこちらになびかせることは出来ない。
さりとて、英雄ハルバーという支柱を失えばグランゼーラは瓦解してしまうかもしれない。


俺個人としてはハルバー提督のことは嫌いではない、尊敬さえしている。
しかし、我々の思想が交わることはないし、両雄は並び立たない。
俺は一つの選択をした。
ハルバー提督を失脚させ、俺が英雄ハルバーに成り代わるのだ。


俺は地球連合にハルバー艦隊の情報をリークした。
今まで散々ハルバー提督に煮え湯を飲まされてきた地球連合は、大艦隊を送ってきた。
小さな思想犯収容所を解放していたハルバー艦隊が相手にするには圧倒的すぎる兵力だった。
そしてグランゼーラの英雄は地球連合の捕虜となった。俺が予期した行動だ。
有能で人命を尊ぶ理想の提督であるハルバーなら、完全に勝ち目がなくなれば降伏するだろう。そう考えた。
そしてハルバー提督が生きてさえ居れば、ハルバー派の中枢は脇目を振らず彼の救出に全力を尽くす。
派閥争いは二の次になるはずだ。実際そうなった。


ハルバー提督が捉えられた後、俺は即座に予定していた行動を起こした。
俺の派閥、太陽系開放同盟を正式に起こして、その勢力を背景にグランゼーラのトップになった。
そして、ハルバー派の将校を前線などに飛ばした。
グランゼーラ軍の中枢は実質、太陽系開放同盟のものとなった。


戦果を交えない穏やかな戦争状態の継続。
そのためにさらに工作を続けた。
めざすは地球連合―グランゼーラ―太陽系開放同盟の冷戦だ。


地球連合は戦力が減じ息切れしている。
グランゼーラ原理派は、団結こそ強いが戦力は大きくない。
太陽系開放同盟は反地球連合で成り立っているが、団結は強くない。
ちなみに俺自身には地球連合の政策についてはどうも思っていない。


地球連合が火星より内側を支配し、グランゼーラ原理派は太陽系外縁部を納める。
我々太陽系開放同盟はゲイルロズを中心とする宙域を納める。
地球連合にとって裏で結んだ我々とは戦わなくてすむ良いパートナーだろうし、
グランゼーラ原理派は外宇宙から来るバイドと戦うので手一杯だろう。
主戦派からなる、太陽系開放同盟が調整役というのも可笑しな話であるが、そこは俺の腕の見せ所だ。


地球連合との密約は成功した。
互いに小競り合いで済まそうという内容の秘密協定だ。
地球連合は停戦まで持ち込みたいようだが、俺はそこまで行おうとは思わない。
地球連合は自分達の息の掛かった開放同盟を大きくして、グランゼーラの主流に挿げ替えたいらしい。
そのための生贄歩合まで選定しているとのことだった。
生贄部隊を解放同盟が撃破することで、グランゼーラ内での解放同盟の発言力を高めて、
地球連合―解放同盟間での密約を強固なものにしようというものだろう。
それで戦況が安定する。


ついでにTeam R-TYPEから技術提供を受けた。実質、研究員の亡命という形を取ったが、
より過激な実験をしたいという科学者達を受け入れたのだ。
研究成果についてはつかってもらって構わない、しかしデータは頂くということだった。
実験台ともいえなくは無いが、使えるものは使うべきだ。
R機開発のノウハウも取り込まなくてはならない。


亡命した科学者のリーダーが研究していたのはBBS(バイドバインドシステム)という技術だった。
どうやらTeam R-TYPE内でも孤立していて、まともに研究が出来なかったらしい。
リーダーの男は目つきの鋭い傲慢な性格で、Team R-TYPEを出てきたのは性格の問題だろう。
武力は交渉材料だ、使えるならと思い取っておいた。


俺の計略は順調に思えた。
ゲイルロズは押さえたし、グランゼーラの支持母体も徐々に此方に流れてきた。
あとはグランゼーラの原理派を活かさず殺さずの状態に保つのみだ。


しかし、ここまできて足元をすくわれた。
発端は、ゲイルロズの陥落だった。
俺の艦隊がゲイルロズを離れた隙に、要塞ゲイルロズを墜とされたのだ。
開放同盟の艦隊が守備に入っていたのだが、ここまでもろいとは。
相手はあの生贄部隊だったらしい。波状攻撃とはいえ、輸送艦が主力の艦隊に落とされた。


それでケチがついたのか、その艦隊は一気に戦力を着けて迫ってきた。
グランゼーラ勢力圏で散発的に残っていた地球連合軍の戦力を取り込んだ生贄部隊。
彼らの脅威は徐々に大きくなってきた。対人謀略を仕掛けてきた俺のカンが、奴らは危険であると告げていた。
規模だけなら問題ない程度なのだが、この連戦で人員が育ち、すでにベテランといえる域に達している。
司令官も切れ者らしい。


件の艦隊の勢いは止らず、我々は太陽系外縁部のグリトニル基地にまで追い詰められた。
ここまできたら、グリトニルをもってしてもあの艦隊は止らないだろう。
密約を交わした地球連合も、当てにはできない。
勝ち馬に乗るのがこの世界の常道。
勢いに乗った生贄部隊を英雄に仕立てて、グランゼーラともども我々を打ち破るつもりだろう。


どうしてこうなったのか。
俺は軍人なら誰でも望む晴れの舞台が欲しかっただけだったのに。
地球連合時代からの部下達に、陽の目を見せてやりたかっただけなのだが…


しかし、時間は敵に利する。俺は決断した。
余力があるうちに追手を逃れ、再起に足る戦力を温存すると。
戦力は、軌道に乗ったBBSの成果に頼ることになるだろう。


準備を進めるうちに、一気に生贄部隊がグリトニルに来た。
俺は基地の防衛部隊が引き止めている内に、
俺は精鋭である太陽系開放同盟第一艦隊のみを連れて、間一髪ワープ空間に逃げた。
もちろん、すぐに追手が掛からない様に、ワープ施設は要所を壊れるように仕掛けを用意しておいた。


ゲイルロズを追われ、グリトニルも陥落した今、太陽系開放同盟は追い詰められていた。
俺は自分にカリスマがあるのを利用して艦隊をまとめ、なんとか戦意を維持してきた。
ワープ空間でBBSの仕上げを急がせた。BBS…バイドを意のままに操る技術。
その技術の最終試験の最中にそれは起こった。


艦外で実験中のバイドに反応するように突然、旗艦ジャコギートの中にある研究設備が、暴走を始めたのだ。
一瞬にして艦のシステムを乗っ取られ、コントロールを失い、警報が鳴り出した。
ワープ警報だ。
このアングルボダ級空母の周りの空間が歪んでいた。


突然のことに、俺は周囲の僚艦に退避勧告をすることしか出来なかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


…そして、ここにいる。




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【流星群宙域 b】


今回の旗艦はベルメイト。
コンバイラの巨体ではこの流星群の隙間を縫う事は不可能だ。
破壊力を秘めた流星だが、この干渉の殆どない宙域においては、
自らの持っているベクトルに従って等速直線運動しかしない。
予測は簡単だ。ただ遠くに目を向けておくだけでいい。


敵艦もこの流星群のなかではおいそれと接近できないだろう。
私は亜空間機アンフィビアンを差し向ける。
亜空間では流星も関係ない。
先行部隊を出した後、私もベルメイトで慎重に後に続く。


当たらないとわかっていても、近くを岩の塊が通過していくのは肝が冷える。


『提督、亜空間機が敵機と接触しました。敵も亜空間潜行を行っているようです。』



不味い。
ベルメイトを囲まれてしまえば、身動きが取れなくなる。
流星が来ても避けられなくなるのだ。私は警戒を強くする。


亜空間機対する攻撃手段は亜空間バスターか、通常空間に引き戻してからの通常兵器での攻撃になる。
この開けた宙域で敵機を通常空間に引き戻すのは容易ではないだろう。全方位警戒が必要になる。
ベルメイトが装備している亜空間バスターは3発。それ以上は弾を生成するのに時間が掛かる。
これで迎撃するのが現実的だろう。
問題は亜空間機がどこにいるか分からない事だ。
小型機で探るのも良いが、接触した際に流星が迫っていると、巻き込まれる危険がある。
それに接触してしまうと通常空間に戻ってしまい亜空間バスターで攻撃できなくなるし…


めくら撃ちはあまりスマートではないから嫌なんだが…
私は一定の間隔を開けて、3発の亜空間バスターを撃つこととした。
後は小型機を先行させての強行突入だ。危険だけど仕方が無い流星が流れ去るのを待ってはいられない。


『提督、亜空間バスター発射準備終了しました。』

よし、発射。


『カウント3,2,1…発射。』


亜空間へ衝撃波が伝わり、余波として通常空間にも特徴的な爆音が轟く。
…以前は耳が痛くなった覚えがあるのだが、今回は無いな…慣れてしまったのか?


『撃墜音、15機程度です。』


やはり近くに来ていたか。大体の位置を確認すると、進行方向からの接近が多い。
流星の接近があったためベルメイトの位置をずらすと、一拍の時間をおいて再度発射命令を出す。


『亜空間バスター2射目、カウント3,2,1…発射。』


爆音と撃墜音。
今度も15機ほど、やはり進行方向に居たらしい。
あちらに敵の母艦があるな。
亜空間機は総じて燃費が悪い。だから大量に運用するためには母艦が近くに居る必要がある。
しかも、あれだけの量の艦載量だ。敵の母艦は大型である事が予想されるので、流星群には突入できまい。
敵母艦は亜空間機が来た方角で、おそらく流星群の出口に張り付いているはず。


私は副官に命令して、ゲインズ2を発進準備させ陽電子砲のチャージを開始させる。
3射目と同時に敵母艦に向かって発進させるのだ。
副官がカウントしてバスターをは発射させる。
今度は…10機程度。これ以上は打ち止めだろう。
ゲインズ2に発進を掛ける。バイドシステムは護衛だ。


ベルメイトも策敵の為に、流星に気をつけながら前進させる。
…どうやらタブロックがいるらしい、策敵外から大型のミサイルが飛んできている。
護衛機を付けてよかった。レーザーで減少したミサイルならば、大した被害は出ないだろう。


敵母艦は…ボルドガングか。
主砲の射程も短いアレが旗艦ならば、図体が大きいだけの的だ。
私は射程ギリギリからゲインズ2に陽電子砲を撃たせる。


1射目、敵も主砲カラドボルグ砲を発射するが、ゲインズの手前で減衰する。
こちらの陽電子砲は主砲ユニットを半壊させた。


2射目、敵コアに有効打。タブロックからのミサイルで攻撃隊が一部損害。
私はベルメイトでタブロックを牽制する。


3射目、陽電子砲の光がボルドガングのコアを飲みこみ消滅させると、ボルドガングの巨体はゴミの山となり果て、数瞬後に爆発した。
旗艦さえ排除してしまえば策敵もままならない。
私は周囲のバイドをベルメイトの衝撃波で排除した。



我々がバイドを殲滅するのを待っていたように、流星群がこの宙域を抜けた。
もう少し早ければ、楽に戦えたのに…
私はこの場を駆け抜けていく流星群を見て、ふと、今一度願いを掛けてみる事にした。


―願わくば、再び地球の大地を踏める事を。


私は遠ざかっていく流れ星達に祈る。
…この願いは叶うのだろうか?
いつしか、私の祈りを乗せた流れ星は漆黒の宇宙に消えていた。




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キースンのモノローグなげぇ。前編~後編中盤の総括になってしまった。
ちなみにキースンはほぼ妄想設定です。一人称が俺なのは提督と区別するためです。

原作グランゼーラ編のキースンって、ラスボスチックに名前が出てくるのに、
一戦もしないでワープ空間でフェードアウトとか、ある意味すごいです。

初代R-TYPEは現在STAGE5巣窟です。ベテランTYPERが言う「死んで覚えるSTG」ってこういう…



[21751] 13 物質の牢獄
Name: ヲサ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/02/22 06:18
13 物質の牢獄


【小型ブラックホール宙域 a】


我々の目の前には、ブラックホールがその口を開けていた。
空間や物理法則さえも捻じ曲げてしまう特異天体だ。
この天体の大きさは、光が脱出不可能となる範囲であるシュバルツシルト半径を持って図るが、
このブラックホールは小型に属する。


近寄りすぎなければ害はないが、一度その重力に捕らわれれば脱出に多大なエネルギーを費やすし、
一定半径に引き込まれれば永久に、この重力の牢獄の虜囚となる。
ブラックホールの表面付近は重力が大きすぎて、外からは時の流れが非常に遅く観測される。
ブラックホールに落ちた哀れな被害者はブラックホールの表面に圧縮され、永久にそこに展示されることになる。
もっとも、吸い込まれた方の観測では一瞬なので、恐怖や苦痛が永劫に続くわけではないが。


私はこの天体が、かつては周囲を煌々と照らしていたであろう、恒星の成れの果てだと思うと、
何故か言いようのない侘しさが募った。
こんなところに不吉なところに用はない。さっさと抜けてしまおう。


『提督、敵襲です。戦闘文明の大艦隊です。』


戦闘文明の艦隊が現れた。
彼らは何故これほどまでに、我々に敵意を持つのだろうか。
確かに私はすでに多くの彼らの艦隊を破ってきたが、いつだって仕掛けてきたのは彼らだった。
何か妄執のような物を感じる。
しかし、私も黙ってやられるわけにはいかない。


敵はブラックホールを挟んで向こう側にいる。
出来る限りブラックホールを迂回して進みたいが、
通常なら内側を取った方が攻撃を集中できて戦略的に有利なのは自明だ。
ミサイル、バルカンなどの質量を伴った攻撃は打ち下ろしの方が強いが、
光学兵器や粒子兵器は重力ではほとんど威力が変わらない。


ふむどっちを取るべきか。
副官にも尋ねるか。


『提督!ブラックホールに落ちなければ問題ありません!最短距離を進みましょう!』
『何があるか分からないならば、落着までに余裕のある外部を回るのがよろしいかと思います。』


…ん?二人いる?


暑苦しいのと、何処までも冷静な声。
どっちにしようか迷っているから意見聞いたのに、副官も意見割れてるし。


『えーと、提督?ここは亜空間機で様子を見ながら進軍するのはどうですか…あ、ダメですよね…』
『敵と接触したらオワリじゃない。せっかくフォースあるんだから外側から叩き落したらいいでしょ。』


相変わらず2人だが、さっきとは違う声だ。


気弱な声と、タメ口…。
将官と尉官ではどれほど階級が離れていると思っているんだ。
まあ、うん、でもフォースで追い落とすのは悪くないな。採用だ。
後は進軍ルート。障害物の関係から2ルート考えられる。
ブラックホールを基準としてとって、Z軸マイナス方向とプラス方向だ。
これもどうせだから意見聞いてみるか。


『波動砲…いや艦首砲を活かすなら、Z軸マイナス方向の方がよろしいかと。』
『マイナス方向は進軍に向いていますので敵も主力を差し向けるでしょう。裏をかいてプラス方向からはどうですか?』
『…データからすると、Z軸マイナス方向からの進軍が効率的です。』
『提督…副官一同提督の判断に従いますわ。自信を持って指示なさってください。』


…また増えたし。なんぞ。


我々の目的は敵の無力化だ。マイナスから一気に攻めようか。
私が決めると、私の前に8人の副官達がいるのが視えた。



…そうだった。今思い出した。
私の副官は8人いたっけ。
何故忘れていたのか…
原因は…例の記憶の穴の所為しかないな。


相変わらず名前は出てこないけど、その内思い出すだろう。
一人で指揮するより、みんながいた方が心強い。
これから戦闘文明の大艦隊との戦闘なのだが、負ける気がしなかった。
私は皆に戦闘準備を命じる。


さあ、行こうか!




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【グリトニル戦役後?_不明宙域】


「キースン大将、不明勢力の戦闘機らしき物が向ってきます。数…およそ50!」
「後退、ジャミングは使えるか!?」
「ジャミング機能障害あり。復旧作業中です。使用まではあと約3分かかります。」
「R機を発進させて、時間を稼げ。ともかく撤退する。」


アングルボダ級空母の旗艦ジャコギートだけワープ空間から弾き出されてしまったらしい。ワープ空間を抜けると何の変哲も無い宇宙だった。
そう、何も手がかりのない宇宙だ。星図からして太陽系でないのは分かっている。
そして、そこは未開ではなく先人が居た。白を基調とした戦艦と戦闘機を保持する勢力だ。
始め、彼らは此方を警戒しながら、コンタクトを取ろうとしているようだった。
しかし、この出会いは異文明交流には発展しなかった。


暴走状態のBBS機…いやバイドが異文明機に攻撃を仕掛けたのだ。
当然、彼らは報復に動き、BBS機と一緒に居た我々も敵として認識されてしまった。
幸か不幸か、彼らの主砲はバイドに対して効果的であり、
異文明機はバイドに取り込まれること無く、BBS機は殲滅された。
そして、当然矛先は我々に向く。


我々の戦力は未だ完全復旧がならない空母と、そこに格納されているR機が60機ほど。
そのR機も即時対応できるのは、BBSの暴走に備えていた30機程度だ。
管制システムもワープ時のシステム障害のために、正常に機能していない。


俺は逃走を指示した。
提督としての能力は決して高くない。俺の艦隊運用能力は凡庸な才しかないのだ。
俺に出来るのは華麗に勝つことではなく、明確な判断と、その時とを間違わないこと。
逃げるのは恥ではない。今は撤退して現状を確認するときだ。


戦況は…良くない。
R機は見慣れない異文明の戦闘機を相手に苦戦しているようだ。
アングルボダ級のジャミングがあれば、逃げおおせることも可能だ。
ただし、移動が制限されるため敵機を引き離してからでないと意味が無い。


「キースン大将、ジャミングシステム復旧しました。」
「セラニアス参謀長、戦闘指揮は任せる。戦況は!」
「はっ。R機損傷率14%、敵機と当艦の距離は約600単位です。
距離を稼いでジャミングを展開しての離脱を進言します。」
「よし、実行しろ。」
「はっ。アンチェインドサイレンスを発進、ジャミングの準備をさせろ。本艦と敵戦闘機との距離が1000単位に達したらジャミングを掛けて離脱する。管制、ジャミング機を前線に出しすぎるな。」
「アンチェインドサイレンス発進了解。前線200単位手前に待機させます。」


セラニアス参謀長は旗艦ジャコギートを後退させつつ、R機の撤退準備をさせる。
いくら旗艦がジャミングで見えなくなっても、帰還してくるR機を追跡させれば、ばれてしまうからだ。
ここの距離のとり方や、ジャミング機の展開タイミングが職人芸なのだろう。
俺にはまねが出来ないので、艦隊運用のプロである参謀長に一任してしまう。
余計な口は出さない。


参謀長のセラニアス少将は地球連合時代の部下ではなく、俺がグランゼーラに来てから発掘した人材だ。
艦隊指揮は出来るのに、政治的問題で一向に出世できず万年大尉で燻っていたのを引き抜いたのだ。
軍内政治を理解しようともしない姿勢はどうかと思うが、彼の艦隊指揮能力は本物だ。
クセがあって扱いにくい人物だが、人間というのは自らを評価してくれる人に好意を抱くものだ。
俺に忠誠とでもいうべき感情を抱いており、俺が彼を正当に扱っている内は問題ないだろう。


「敵戦闘機部隊との距離1000に達しました。」
「R機損傷率、40%を超えました!」
「キースン大将。」
「よろしい。」


矢継ぎ早に情報が入る。
参謀長は俺に確認を取った後指示を出す。
本来、参謀には指揮権が無いので、提督の補佐、代理指揮ということになるのだ。
参謀がいきなり指示をだすのは、越権行為に当たる。


「ジャコギート及び、アンチェインドサイレンス機各機はジャミング展開。
攻撃隊はデコイを射出後、ジャミング機とともに所定のルートで帰還すること。これより無線封鎖に入る。」
「総員、撤退せよ。ジャミングを掛けて地の果てまででも逃げるぞ。」


一応、参謀長の指示を邪魔しない程度に、俺も撤退指示を重ねて出しておく。
俺がしなければならないのは、この後の全体方針の決定だ。
この後の身の振り方を提示しなければならない。


ここはどこか。ここは明らかに地球圏でない。
地球に帰ることが出来る位置なのか。そうでないのか?
異文明と講和できる可能性は?
BBS暴走によるバイド汚染の心配もある。
…情報が足りない。


「R機隊収容しました。帰還率65%」
「敵戦闘機部隊、此方をロストした模様。索敵を行っているようです。」
「最寄の敵戦闘機部隊との距離、800です。」


「ジャミング解除できるようになったら教えてくれ。セラニアス参謀長、それまでは艦隊の指揮権を預ける。」
「はっ。了解しました。ジャミング効果内での全力後退を。」
「後方3000単位の位置に、巨大な重力反応を検知しました。」
「ふむ、キースン大将、開けた空間では精密観測されれば重力分析で位置を特定されかねません。
後方の巨大重力天体の側に艦を寄せるべきと愚考します。」
「無駄にへりくだるな。巨大重力天体…恒星ではなさそうだし、白色わい星かなにかか…
そうだな、我々には落ち着く場所が必要だ。そこを目指すぞ。」
「了解しました。」


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俺の艦隊は現在、ブラックホールの側に身を隠している。
巨大重力天体は小型のブラックホールだったのだ。
太陽系の近くにはブラックホールは存在しない。つまりここは太陽系とはかけ離れた場所だ。
艦隊には先の戦闘での損傷の修復と、それ以外の人員には休息を取らせている。


どうにかして現在位置を突き止めようと、星図の観測もしらみつぶしに行ったが、全く不明だった。
このエネルギー残量では、ワープ空間に戻っても、そこから出ることは叶わなくなる。
…このままでは太陽系には戻れないか。
手が無いからといって、もう戻れません。と部下に言うのでは司令官失格だ。
どんなことでも、この先のすべきことを示さなくてはならない。


この艦ジャコギートだけではこの先長くない。
あの異文明に接触しなければならないのは確実だ。
しかし、手持ちの戦力ではあの艦隊を破ることは難しいだろう。
というより、あの艦隊を撃破しても、俺の艦隊のエネルギー問題はなんら好転しないのだ。


一戦した後での講和は難しい。
しかも言語が分からないし、あちらが我々を対等に扱うかが不明だ。最悪サンプル扱いだろう。
俺の手札は…BBSくらいか。
敵をバイド化させてから取り込むのは出来ないだろうか。
最初に接触したとき、バイドには特別な警戒をしていなかった。バイドを知らないのかもしれない。
油断しているなら敵艦隊をバイド化させることは可能だが…。


俺は意見を聞くために、セラニアス参謀長と研究主任を呼んだ。
セラニアス参謀長は異文明との講和案を出し、
BBS研究主任からはBBSを利用した敵艦隊の取り込みを提案してきた。
俺は、講和が出来るか懐疑的であったので、BBS案を採用した。


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俺はアンチェインドサイレンスを含む決死隊に、バイド種子を持たせて敵艦隊に散布した。
我々の発した電波によりブラックホール付近に、おびき寄せられた異文明の艦隊にだ。
作戦の第一段階は成功だ。外周部を固める巡航艦からバイド反応が見られ。
一定値に達すると、一気にバイド化が進む。


敵艦隊は混乱している。
味方が急に変貌し襲ってくるのだ。耐性の無いものには恐ろしい状況だろう。
バイド化が敵艦隊全体に進行してから、行動に移したいのだが。
俺は敵の旗艦らしきものからバイド係数が確認された時点で行動を開始した。


「コントロールロッド射出。BBS制御機関最大出力でまわせ。」
「了解しました。コントロールロッド射出します。」


BBS用に改良されたコントロールロッドを敵艦隊に向けてぶつける。
BBSを使って強制的に此方に取り込むのだ。


「目標A、B、D制御確認。Cは自沈しました。」
「制御を継続させろ。敵旗艦に次コントロールロッドの射出を行う。」
「キースン大将、危険ではありませんか。」
「セラニアス参謀長は反対か?」
「いえ、命令に従います。」


恐らくこの作戦自体に反対なのだろう。この参謀長と研究班の仲が良くないのは周知の事実だ。
ただセラニアス少将はプロ意識の強い軍人なので、研究班からの意見を握りつぶしたりはしない。
ただ、感情的に研究班の連中が嫌いらしいので、不満がたまらないように後でフォローをすべきだろう。


コントロールロッドの射出のためにジャミングを一時切る。
パシュっという気の抜ける音と主に、コントロールロッドが飛んでいく。
そして敵旗艦にコントロールロッドの内数本が突き刺さる。


「シナプスツリー接続信号あり、しかし制御動作確認できず。」
「コントロールロッドが働いていないのか?」
「はい、逆にコントロールロッドが侵蝕されています。」


敵戦艦はバイド化が進む中で、此方に向き直る。
そして、艦首をまっすぐこちらに向け…


「!不味い。緊急回避!キースン大将つかまってください。」
「艦首砲か!」


船尾のブラックホールに向けていたことが災いした。
重力は距離の2乗に比例して強くなる。艦首と船尾に掛かる引力が違う。
地球などの小さな重力ではたいした違いではないが、ブラックホールの表面では大きな力になる。
ザイオング完成制御装置も、これだけの負荷の中運用されることを想定されておらず、その恩恵は限定的だった。
その結果、船尾だけ引力に捕まった状態になった。
ブラックホールの引力に捕らわれ、上手く回避が取れずに、敵の艦首砲に船尾を撃ち抜かれる。
衝撃で固定の緩いものが飛び交い。司令部スタッフは生傷を作る。


「大将!メインスラスターが半分以上もっていかれました。」
「!」
「このままではブラックホールの引力に引かれます。」
「破壊部の燃料供給カット!ザイオング慣性制御装置は!?」
「重力加速度を中和しきれません。現在、ブラックホール深度L2に落下中!」


顔色が青白くなったセラニアス参謀長がオペレータに尋ねる。
しかし、結果は芳しくないようだ。
メインディスプレイで敵旗艦が完全にバイド化したのを見た。
横では参謀長が慌てて、何とか現状を切り抜けようと指示を出している。


それを見ながら俺は比較的平静だった。
どこかで、身の破滅を予測していたのかもしれない。


「ブラックホール深度L3に入ります!ザイオング慣性制御システムこれ以上は持ちません。」
「…キースン大将。R機だけでも脱出させましょう。」
「拒否する。発艦は認めない。」
「何故ですか!この艦がダメでも、足の早いR機ならまだ抜け出せるかもしれんのです!」


セラニアス参謀長が怒鳴る。
周りのスタッフも此方を見る。
俺は、なるべく冷静に聞きやすい声で伝えた。


「どのみち単機では継続飛行距離もたいしたことはない。早晩あの異文明に鹵獲されるだろう。
そして、R機には座標システムや、地球の最新技術が内蔵されている。
自爆できればいいが解析されれば、地球の位置がばれ、技術が敵にわたるかもしれない。
そうすれば、奴らは報復として、嬉々として地球圏に攻撃を仕掛けてくるだろう。」


そう、今なら敵の艦隊が全滅した原因は、すべてバイドの所為にできるかもしれない。


「俺は地球を捨てたが、地球人類がどうなってもいいとは思わない。さあ、覚悟を決めるんだ。」




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【小型ブラックホール宙域 b】


私はZ軸マイナス方向から進軍している。
もちろん旗艦はコンバイラだ。
小型機各機にはフォースを装着させてある。
作戦としてはコンバイラで策敵を行いながら進軍し、
敵機発見後は、長射程を誇るゲインズ2やコンバイラのフラガラッハ砲で戦力を削ぎ、
射線に入らなかった者については小型機各機によるミサイルの撃ち下ろしや、
ブラックホールに近い個体についてはフォースシュートで叩き落とすというものだ。
戦艦、巡航艦については小型機の主砲を当てるか、コンバイラのレーザー、ミサイルで対応する。


私は順調に進軍する…が、今回は少々ウルサイ。


『提督、敵機を発見しました。合体戦闘機の編隊です。』
『ゲインズ隊チャージ完了しています。発射ですね。僕が合図しちゃっていいんですか。はい分かりました。』
『提督、ゲインズ3番隊も撃てます。陽電子砲撃ちますがよろしいですね。』
『敵被害評定、策敵範囲内の40%で有効ダメージ。撃ち漏らしを早急に処理すべきです。』
『はいはーい。提督、コンバイラのミサイルで敵の推力を落としてから、フォースをぶつけるべきです。』
『提督、それ以上はフォース自身が事象の地平に落ちかねません。…私はそれでも構いませんが。』
『提督、小型機隊第一波撃破した模様です。お疲れ様です。どうされますか?進軍ですね。分かりました』
『提督!敵巡航艦を発見しました。…あちらも我が艦に気付いたようです。ご命令を!』
『そうですねフラガラッハ砲をここで使用して、相手の動揺を誘うのはどうでしょう?』
『敵巡航艦、撃破動力部に被弾した模様。爆発します。』
『巡航艦の陰にもう一隻、巡航艦が隠れていました。ええ、兆型です。』
『ゲインズ再チャージ完了しています。はい、交代式で撃ちます。』
『当方被害、30%に達しました。小型機の被害が目立ちます。一度艦内に戻しましょう。』
『兆型巡航艦から一撃もらっちゃいましたが、ゲインズ隊各隊は一応残っています。』
『ゲインズ隊攻撃、コンバイラで引き継ぎます。ミサイル発射します。』
『兆型破壊。残骸はブラックホールに飲まれるコースです。』
『…提督、データ分析結果です。敵艦隊は持てる艦載機をほぼすべて展開しています。
なので、Z軸プラス方面に展開している戦闘機がこちら側に流れ込まない内に旗艦を撃破すべきです。』
『敵、大型戦艦発見。呼称は…京型戦艦ですか。はい京型こちらに回頭しています。』
『フラガラッハ砲はチャージ中、ゲインズも修理中ですが、提督どうしましょう…?』
『提督!コンバイラで接近全速接近すれば敵艦に主砲を撃たれる前にレーザーの射程が届きます!』
『艦首砲で無いのは面白くありませんが…、レーザー、ミサイル発射します。目標敵旗艦、主砲ユニット。』
『提督。敵旗艦、主砲ユニット破壊には至りませんでしたが、チャージエネルギーは拡散した模様ですわ。』
『提督、フラガラッハ砲チャージ完了しました。いかがしましょう。』
『敵戦闘機、Z軸プラス方面より接近しています。迎撃しますか?』
『旗艦を落としましょう提督。艦隊ならば指揮が乱れるはずです。』
『はい、コンバイラ射軸を敵旗艦に合わせました。ゲインズも一隊付けます。よろしいですか。提督命令を。』


発射
コンバイラの放った主砲が敵の旗艦、京型戦艦を飲みこむ。
同時にゲインズも攻撃を放っていた。
艦中央の重要区画をごっそりと持って行かれた敵戦艦は、ゆっくり二つに折れる。
そして、推力を失った船体はブラックホールへと落ちて行った。




もう、何が何だか…
私も受け答えをしているのだが、彼ら彼女らの威勢に比べるとどうも…
今まで忘れていたから、鬱憤がたまっているのか。


ともあれ…
ブラックホール周辺宙域にて、戦闘文明の艦隊を撃退した。 いや、殲滅か。
戦闘文明の艦隊の残骸がブラックホールに吸い込まれていく。
戦闘文明艦隊の残骸はブラックホールを飾るアクセサリーとして、永久に保存されるだろう。


私は、ブラックホールの表面のアクセサリー群を見渡す。
岩石が多かったが、何かの残骸らしきものも多かった。
そのなかの一つに目を止める。


空間がゆがめられて非常に見にくいが、見覚えのある形状だ。
あれはアングルボダ級…?そう、あれはグランゼーラの空母だ。
ということは、ここが地球から来られる距離であることの証明だ。
我々は迷走しているわけでなく、着実に地球に近づきつつあったのだ!
私はこの事実に自らを勇気付けて、先の宙域へと進んだ。



はるか昔に重力の井戸に取り込まれたであろう空母の残骸。
その船腹には‘Llacoguito’とマーキングがしてあった。




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あれ?提督、当初のプロットでは最後までバイドボケしているはずだったのに…。
そしてやっぱりキースンなげぇ。提督には参謀いなかったけど、参謀キャラっていいですね。
ラストのジャコギートの綴りは適当です。色々間違っている気がするが気にしない。
もともと原題がカタカナなのを無理矢理スペイン語っぽくしたらああなった。

初代R-TYPE報告。
同じ場所で死にまくっていると、「見える!見えるぞっ」って状態になるんですね。
まあ、指と頭がついていかないので結果はそんなに違わないのですが。



[21751] 14 合体戦艦
Name: ガシ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/03/01 05:10
・戦闘文明との決戦


【戦闘文明の惑星 a】


結局、副官が8人もいると、さすがに五月蝿いので当番制にした。
今は冷静さで定評のある中尉が横にいる。名前は…そのうち思い出すさ。
ブラックホールであの残骸を見て志願してきたのだ。
まあ、元グランゼーラの士官だから気になるのだろうか。
ここのところ頭クリアになっていくのが実感できる。
私の記憶が完全になれば地球への帰路も見つかるのだろうか?


私が人類の痕跡を必死に探しながら巡航していると、ある惑星が目に入った。
その星には青い海と大陸が見え、地球に似ている気がしたのだ。
私は地球と環境の似ている星なら、地球からの移民が居てもおかしくないと思った。


フォアランナ出発~帰還までの20年の間に、新たな新開拓地に我慢できず、
星の海に飛び出して行った命知らず達がいたことを聞いたことがある。
もっとも、彼らの大多数が遭難か、ワープ空間で消失の憂き目にあったのだろうが。
私はそんな話をチラリと思い出し、未だに地球にたどり着けない自分を勇気付けた。


我々がこの星の地表に降下すると、そこには巨大な都市があった。
都市の中心地を眺めると、地球よりも遥かに高度な文明と思われる都市が広がっていた。
大規模な都市で、ビルが所狭しと立ち並ぶ中心地は、あたかも地面そのものが盛り上がっているようだ。


私は地球の人類の都市を発見したかと思ったが、なぜか忌避感を感じていた。
そびえ立つ高層建築物は地球の都市を彷彿とさせたが、 良く見ると不思議なデザインだ。
…何か違う。そもそも私設移民として旅立ったのは多くても50人程度の規模だ。
短期間で、こんなにも栄えることができるだろうか。


『提督、敵襲です。…戦闘文明艦隊です。』


そこにいたのは戦闘文明の艦隊…違和感の原因はこれだったのだ。
現れたこの都市の防衛艦隊は、あの戦闘文明の艦船だった。
この星は彼らの星だったらしい。
彼らは我々に明確な攻撃意思を示している。
戦いは逃れられそうにない。


『敵は堅牢な防衛陣を敷いている様です。提督、降下前の光学観測から、後方にも都市が確認されています。
その都市が戦力を持っているとすれば、挟み撃ちにされます。』


嫌なことは続く物だ。今はとにかく生き残ることを考えよう。
こんな場所に迷い込んだのはアンラッキーだが、
この一歩が地球への道を進んでいると信じて進むしかない。
…敵陣突破だ。


私は中尉に我々のもてる猶予を聞く。


『他の都市の艦隊が、正面艦隊と同じ位の速さで展開したとすると、30分が安全圏です。』


覚悟を決めよう。
地球に還るには、この都市の防衛艦隊を打ち破るしかない。


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正面突破は戦の華だ。
…決して褒められた指揮ではないが、消耗を気にしている場合ではないので、私は突撃を指示する。
敵の戦闘機編隊―いつもの四十四型戦闘機や五十五型戦闘機だ―が来るが、さすがに斥候部隊ごときにやられはしない。
敵の編隊を一気に溶かすとコンバイラを前進させる。


もちろんまっすぐに突っ込むわけではない。それは自殺志願者や脳筋のすることだ。
第一波を飲み込んだ後、コンバイラを待機させて第二派を待つ。
正面から敵機の編隊を打ち破りながら、攻撃の合間にビルの隙間に身を隠して戦力の回復に努める。
的になりやすいコンバイラは、正面で攻撃を貰い続ければ崩壊しかねないからだ。


私は都市上空を漸進しながら、戦闘機隊の第三派も撃破する。
さすがに敵の一大拠点だ。今までとは物量が違う。
こちらの戦闘機部隊もかなりの被害が出ている。
バイドシステム、ジギタリウス、ゲインズ2、アンフィビアン、Uロッチ…どの隊も数機失われている。
全滅した隊は少ないので回復は可能だが、如何せん消耗が早く格納が間に合わないのだ。
しかし、ここで足踏みをして後方を敵に塞がれたら泣くになけない。
突破するかと、こちらの戦闘機をビルの隙間から戦闘機を先行させて、
私もコンバイラで身を乗り出す…


『提督!高エネルギー反応来ます!』


冷静沈着なクロフォード中尉が叫んだ、と思った瞬間に衝撃波が襲う。
制御仕切れていない途轍もないエネルギーの奔流が、目の前を暴れながら流れていく。
ウートガルザ・ロキの様な戦略級兵器か!?
私は余波で巻き起こる衝撃に耐えながら、これが戦闘文明の切り札かと思った。
激流が弱まり収束すると、私は先ほどの射線に一気に飛び出す。


『提督、敵兵器の射程内に飛び出すのは危険です。』


アレだけの砲撃だ連射は出来まい。チャージ時間を要する。
むしろ今がチャンスだ。広大な射線から敵機が退避している。
ちっ。戦闘機隊は、格納しているゲインズとバイドシステム、Uロッチ…
あと亜空間に入っていたアンフィビアンだけだ。
資材はあるから落ち着けば製造はできるが、今はこの戦力でここを突破しなくてはならない。


私はビルの隙間から出て、砲撃ともいえないエネルギーの流れを作り出した方角を見た。


『提督、敵艦を確認しました。』


クロフォード中尉を視ると、先ほどの驚愕は既に無かったが、少し目を見開いて驚いているようだ。


一瞬、理解できなかった。
いや、見たものを言葉にすることは簡単なのだが、ソレを実行してしまうとは…
艦が2隻合体している。…兆級巡航艦と京級戦艦がくっついている。
そこに至までの思考回路をトレースするとこんな感じだろう。


戦艦の主砲の威力を上げたいが、戦艦に詰める主機では出力不足。

一つでダメなら主機を繋げばいいじゃないか。

決戦艦、兆京級合体戦艦の完成。


コンセプトがイカれているな。
しかし、この発想力は腐れ開発チームに似た物がある気がするのだが…
文明の守り手になるには常人では無理なのだろうか?


イカれた開発班は置いておくとしても、さすがに現場指揮官は冷静だ。
発射前に味方機を退避させ、ビルは避けているようだ。
しかし、その余裕と冷静さが命取りだ。
自分達の都市を守る姿勢は立派だが、そんな事で私を倒せると思っているのか!?
ビルごと打ち抜くくらい出なければ、コンバイラを倒せないのは私が良く知っている。


また敵の戦闘機が出てくる。
合体戦艦の強大すぎる主砲をチャージする時間を稼ぐためだろう。
戦闘機が次々と突撃してきて此方の足を止めようとしてくる。
敵の意図が分かっていても、手数が減っている我々は迎撃で手一杯で前に進めない。
何機叩き落しても、消耗を省みずに押し寄せてくるのだ。
クロフォード中尉が主砲のチャージ具合を警告してくるが、戦闘機の相手で手一杯で、退避できない。
敵の戦闘機だって無限ではないはず、死ぬ物狂いなのがその証拠だ。


『提督、あと1分で敵の主砲がきます。』


…私は戦闘が非情な物だって知っている。
我々、地球人類は倫理や感情を押さえ込んでバイドに対抗してきたのだ。
そう、だから敵を利用することに躊躇いを覚えてはいけない。
躊躇えば討たれるのは此方なのだから。


…Uロッチに命令を送る。敵戦闘機を出来る限り捕獲せよと。
Uロッチは私の命令を忠実にこなし、鹵獲弾で敵の戦闘機を捉える。
本来ならコントロールもすべてうばいとるのだが、今回は捕獲するだけ。
もちろん鹵獲弾でぐるぐる巻きにされているため、身動きが取れない。
そんな状態の戦闘機群を、敵艦の射線上に放置する。
艦首砲の発射を躊躇ってくれれば恩の字だが目的はそれでは無い。


敵はその異様な攻撃で囚われた仲間を見て警戒したのか、戸惑いを見せる。
一瞬だが防空網に穴が開き、私はその隙に一部隊を送り込む。
他の戦闘機ならその防空網を抜けても戦艦の迎撃システムにやられているだろう。
しかし亜空間機であれば視認されない。


私は敵艦の砲撃の前に発射を妨害することとした。
敵艦の艦首に取りつき艦首砲ユニットを破壊するのだ。
すでに時間が無い。敵の発射が早いか、アンフィビアンが取りつくのが早いかの勝負だろう。
私はその間も戦闘機の迎撃を続ける。


『提督、敵合体戦艦艦首に高エネルギー収束を確認。先ほどの砲撃が来ます。』


クロフォード中尉の声と同時に、アンフィビアンが通常空間に戻ってくる。
そしてアンフィビアンは、艦首砲ユニットの目の前からミサイルを撃ち込み半壊させる。


『提督、敵艦…依然としてエネルギーが異常収束していきます。』


!?
艦首砲ユニットが壊れてるということは、エネルギーを外部に出力できないということだ。
普通、艦首砲ユニットにダメージを受けた艦は非常用回路から強制的にエネルギーを拡散させて、その破壊的な熱量を逃がす。
先の砲撃…合体戦艦はお世辞にもエネルギーをすべて制御しているとは言い難かった。
あんな状態の艦首砲ユニットに過大なエネルギーを流せば暴発するぞ?


『敵艦エネルギー収束率、先ほどの150%に達しました。なおも上昇中。暴発すれば我々も巻き込まれます!』


…!
制御を離れている?暴走か!
今から爆発の範囲外に逃れるすべは無い。
私は、総員に対ショック姿勢を指示した。


目の前が光に包まれる―――




______________________________________




【?】


私は考えた。
何があったのか。
とりあえず考えられるというのは、私が在るということだ。
爆発はしのいだようだが…


そっと目を開ける。


私の前にあったのは、理解を超えた光景だった。






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ちょっと間が開いたのでリハビリが必要なようです。そのうちこの話も修正かけるかも。

もともと原作は形だけで、妄想90%な拙作ですが、ちょっと原作と流れをかえてあります。
原作では普通に、戦闘文明の星脱出→宇宙の果て?に行くのですが、
宇宙の果てが通常空間にあってたまるかと思ったので、
爆発→空間が捻じ曲がって飛ばされる→宇宙の果て?にしました。



[21751] 15 宇宙の果て?
Name: ツヅ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/03/08 21:00
・宇宙の果て?



【平常と躊躇の間】


私の前にあったのは理解を超えた景色だった。


見飽きたはずの…しかしどこか違う宇宙。
そして、その広大な空間を完全に遮断するような永遠に続くかのような壁。
漆黒の空間に壁だけが発光しているように見える。
壁の向こう側から漏れてくる光だろうか?


そういえば、私は何故こんなところにいるのだろう。
戦闘文明の合体戦艦の爆発に巻き込まれたはずなのだが…


ここはどこなのか?
宇宙の果て…?
それとも宇宙の中心だろうか?


…ともかく、先に行けば答えが見つかるかもしれない。
最低限の戦闘機の製造も終わった。
私は壁の向こうに何かがあることを期待して、
コンバイラで攻撃準備を始める。




________________________________________________________________________________




【!!!!】


認識:門ユニットNo.23より連絡。要観察体の門ユニットNo.23への接近を確認。
検索:惑星破壊兵器B1亜種と確認。以前接触した個体と同一であると認識。
認識:目標個体が門ユニットNo.23を感知した可能性を提唱。
判定:認識阻害障壁、次元湾曲率ともに平常展開。現時点での目標からの門の観測は不可能。


認識:門ユニットNo.23より連絡。目標の認識阻害障壁への破壊行動を確認。該当空間の門ユニットへ接近。
判定:戦闘ユニットによる排除行動を提唱。
検索:〈行動規定46〉に抵触。〈使者〉護衛以外での通常空間への〈衛兵〉の配備は不可。
判定:蓄積データを元に、戦闘ユニットの作成・配備を推奨。
判定:観察目標の所属文明機の提示による、目標攻撃行動の沈静化を提案。
行動:門ユニットへのデータ送信。戦闘ユニットによる防衛を指示。
検索:転送データの確認。〈次元軸:第3隣接次元〉〈時間軸:-350年〉の…〈地球文明〉




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【慢心と幻想の間】


私のレーザーが壁を抉り、そしてついには叩き割る。
そして私は中に飛び込む。
そして、淡い光に照らされるのは、霞の中の艦艇。


輸送艦や、
駆逐艦や巡航艦の群。
なぜか水上艦までいる。
戦艦の威容もちらほら見える。
全て、恐ろしいまでの大艦艇だ。


目を凝らすと霞のように見えていたのは大量の戦闘機だ。
編隊も組まずにゆったりと漸進している。
地球連合の艦艇やR機達は、我々には目もくれずに、
静かに壁に向っていく。


どこか懐かしい艦艇。
しかし、ずっと私の胸を焦がしていた、あの狂おしい感情は起こらない。
何かが違うのだ。
私にはあれらの艦が空っぽに見えたのだ。


私の中の冷静な部分は格納庫で小型機の編成を進めている。
私は失った部隊の分も機体を創りながら、その静かな行軍を見ていた。
空っぽ。
私は先ほどそう感じたのだが、あの艦の中に地球人類は…いや、生命体はいるのだろうか。
ふと、古典ホラーのマリーセレスト号を思い出した。


ガラスのような不可思議な壁へと進む艦艇と戦闘機。
壁に突き刺さっている艦も見える。
しかし、周囲のガラス状の壁はヒビも入っていなかった。
この空間は物理法則を無視している様に思える。


我々を無視するかのような艦艇のほかに、戦闘準備をして留まっている艦隊もある。
爆撃機、可変戦闘機とジャミング機、そして、巨大な空母。
彼らが我々の待ち人だろうか。


私は砲門を横に向けて、低速で近づく。
攻撃意思が無いことを示すためだ。
ジャミング機の索敵範囲に入った瞬間に、
かの艦隊は明らかな攻撃意思を示してきた。
なぜか、少し悲しくなった。


しかし、黙ってやられるわけには行かない。
私は攻撃命令を出した。


『提督、敵の大型ミサイルは脅威です。爆撃機の破壊を進言しますわ。』


そこに居たのは副官の…そう、ベラーノ中尉だ。
…この名前を呼ぶのは随分と久しい気がする。
そう思って彼女の横顔を見つめていると、ちゃんと指揮をして下さいと窘められた。
私は、内心慌てて指示を飛ばし、戦闘機を展開してじりじりと距離を詰めた。


バルムンクよりコンバイラの方が射程が長い。
だからこちらの射程ギリギリから撃てば、一方的に攻撃が出来る。


『提督、敵機前列、コンバイラ攻撃射程に入りました。』


私はミサイルと、レーザーを撃ち、敵爆撃機を叩く。
バリア弾で攻撃力を削がれてしまうが、かまわない。数を減らせればいいのだ。
バルムンクだけは怖いからな…て、バルムンクって何だっけ?


ここの所、失っていた記憶が戻ってきている。
記憶が帰るたびに、こんなことも忘れていたのかと驚かされる。
全てを思い出したら地球に還れるだろうか。


敵爆撃機がバリア弾でレーザー、ミサイルを耐えている内に、
可変戦闘機がブーストをかけて一気に接近してくる。
私はUロッチに迎撃を命じる。
可変戦闘機の機首にエネルギーが収束し始めていたからだ。
ともかくミサイルを当てて、チャージを拡散させる。


Uロッチは砲身からミサイルを多量に発射する。
可変戦闘機は高速で迫っていたこともあり、数機がミサイルの弾幕に突っ込む。
ギリギリで進路を変更して撃墜を免れた機も、
ミサイルと僚機の爆発の衝撃で安全装置が働いたのか、エネルギーを拡散させている。


可変戦闘機の残存機は回避機動で明後日の方向へ向いていた機体を反転、
さらに攻撃しようと、此方に機体を向けてきた。
しかし、可変戦闘機がこちらに向けて再加速しようとした時、投網状の物体が絡みつく。
ブースターを必死に吹かすが、すでに機体に張り付いている網目状の物体は取れず、
それどころか、徐々に制御系統を侵食している。
完全にコントロール権を失った可変戦闘機は動かなくなった。


投網の正体は鹵獲弾だ。
命中率に難のある鹵獲弾だが、さすがに静止目標についてはだいたい当たる。
いかに慣性を制御しようとも、反転しようとすれば速度が0になる瞬間がある。
その瞬間を狙って、Uロッチが可変戦闘機に向けて鹵獲弾を放ったものだ。


鹵獲結果は…2機か。
Uロッチが機体の制御を完全に奪うと、可変戦闘機は自らコンバイラに格納される。
ふむ、TXw-T03 エクリプス強化仕様型か…複製して有効利用させてもらおう。


…?
爆撃機が居ない。
一瞬、可変戦闘機―エクリプス強化仕様型―に意識を向けている間に消えている。
少し時間をかけて索敵をしても見当たらない…。
私が横にいるベラーノ中尉に聞く。


『爆撃機だけでなく、ジャミング機も消えています。恐らくジャミングで隠れたのかと。…!熱源感知しました。』


大型のミサイルが迫っていた。
…ああ、バルムンクって核ミサイルだったっけ。


私は、鹵獲し複製していたエクリプスのうち一隊をコンバイラの前面に出し盾とする。
それでも、ミサイルの数発は抜けてコンバイラに衝撃を与える。
痛ぅ。
状態は…フラガラッハ砲のエネルギーが拡散したくらいか。
ところどころにダメージはあるが致命的なものはない。
盾部隊があったし、先ほどレーザーで数を減らしたのが功を奏したらしい。


私はすぐさま、ジャミング機のいる辺りに向けて、ゲインズに陽電子砲を打ち込ませる。
全くのめくら撃ちだが、相手は機動力を制限されている関係もあり、先ほど見た2隊を撃墜する。
オマケといっては何だが、その後方で姿を隠していた空母にもマグレ当たりをし、半壊。
敵空母はジャミング機能を失ったようだった。


あとは、殲滅戦だ。
私は自軍に命令を出し、詰みに掛かる。
相手が投了しないなら仕方ない。


最大の攻撃手段を失った爆撃機と、ハッチのいかれた空母であれば問題はない。
見る間に制圧されてゆく敵軍。
さて、戦果は…


『先ほどのエクリプス強化仕様型を1部隊、手に入れました。』


ふむ、この空間にはもうなにも無いようだ。
次の空間に向うとしよう。




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【!!!!】


認識:門ユニットNo.23より連絡。観察目標は第二障認識阻害障壁を攻撃中。
行動:不要な情報を与えないため、観察目標の所属文明機による攻撃を継続。




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【欲望と焦燥の間】


次に見えたのは、黒色の空間。
そして、2隻の巡航艦とフォースを従えた戦闘機群。
戦艦が居なかったのは幸いだ。


巡航艦が二隻居るのは面倒だな。
あの戦闘機は厄介そうだ。出来るだけ遠くから叩いて置きたい。
私は右側の敵をゲインズ隊に任せ、コンバイラで左の敵に向かった。
フラガラッハ砲の威力であれば戦闘機はひとたまりもないだろう。


私はフラガラッハ砲エネルギーを送りながら、戦闘機群を睨む。
敵の戦闘機は、先ほどの戦闘機群と比べるとシンプルな造形ながら、非常に機能的なフォルムだ。
戦闘機の機首には圧縮されたエネルギーが光を発している。
3本足の部品のついたフォースをこちらに向けて、戦闘準備は万全というところだろうか。


こちらに向けて近づいてくる敵機。
あの機体の装備しているスタンダード波動砲は射程に乏しい。
出来れば、相手の射程範囲に入る前にチャージのキャンセルを行いたい。
フラガラッハ砲は巡航艦用に残しておきたいので、レーザー、ミサイルと鹵獲したエクリプスが手数になる。
敵機がフォースを装備しているのが少々厳しいが、早期警戒機さえ落としてしまえば、
フォースを避けて機体を直接狙えるだろう。
フォースは一撃されるくらい見積もった方がいいな。フォースより波動砲が怖い。
私は慎重に接近してゆく。


ところでなんで私は敵の射程なんて知っているのだ?


疑問を胸にしまいこんで、レーザーの一斉射を行う。まずは邪魔な早期警戒機から潰す。
皿のようなレドームを背負った早期警戒機だが、さすがに戦艦の索敵範囲には叶わない。
味方機に警戒くらいはされるかもしれないが、目を潰すのは重要だ。
着弾。全機破壊。
機動性をもたせるために軽量化し、内部装甲を電子部品に置き換えた早期警戒機は脆い。
敵戦闘機が見えない敵を探して警戒しているのが見て取れる。
フォースにレーザーなどが当たって防御されないように、私はコンバイラの位置を調節する。
私は本命のレーザー・ミサイルを発射し、エクリプス隊も投入する。


絶妙な角度から、まずはレーザーが降り注ぎ戦闘機を削っていく。
少し遅れてミサイルが敵機に到着する。さすがにフォースを軸にあわせて防御の体制をとるが、
ミサイルの爆発によって機体が小破する。
繊細なセーフティ機構は、限界まで保持されていたエネルギーを強制的に排出していく。
さらに、回り込んだエクリプスがミサイルを置いていく。


8割がたの機体の波動砲チャージをキャンセルしただろうか。
あとはフォースを処理して、敵が再び波動砲の発射態勢を整える前に殲滅する。
もちろん巡航艦も艦首砲を装備しているので、近づきすぎないようにしないとな。


エクリプス隊にそのまま、掃討に当たらせようと指示をしたところで、
敵機のなかから、波動砲の発射反応を感知した。
まだ、発射態勢にあった機体が撃ったらしい。
エネルギーの収束率が高い、短射程ながら高威力の波動砲がエクリプス隊を貫く。
エクリプス隊が半壊するが、そのまま囮としてその場に残す。
しょせん鹵獲部隊だ。コンバイラ到着まで持てば回収しよう。


『提督、敵機の一群がコンバイラに向けて接近してきます。』


敵機コンバイラに向けて発進してきた。もちろんフォース付きだ。
どうやら、大体の位置を特定して、フォースシュートによる攻撃を仕掛けてくるようだ。
迎撃を指示するが、あの速度で接近されれば一撃は耐えなければならないだろう。
フォースシュートは痛いのだがな…。


接近してきた3隊の内、2隊はフォースごと全滅したが、残る2隊は消耗しながらも、
攻撃を仕掛けてきた。
内包するエネルギーをその周囲に纏わせたフォースが打ち込まれる。
コンバイラのコア近くに3つ、コアを逸れて2つのフォースがミサイルユニットにがめり込む。
装甲が軋み蒸発するがコアには届かない。装甲の耐久力は減少したがまだ耐えられる程度だ。
問題はミサイルユニット。当たり所が悪かったのか暫くミサイルの発射は出来そうにない。
フラガラッハ砲が無事だったから良しとしよう。
著しく勢力の減衰していたフォースは、補欠で留まっていたジギタリウスによって討ちとられる。


あとは、あの赤いマーキングの巡航艦だけだ。
私はフラガラッハ砲の発射準備を進める。
横目でチラリと見ると別働隊の方はすでに巡航艦に攻撃を仕掛けていた。問題はなさそうだ。


『提督、フラガラッハ砲最終調整完了ですわ。発射命令をどうぞ。』


ベラーノ中尉の言葉を受けて、私は発射を指示する。
早期警戒機や戦闘機を打ち落とされ、目を失った巡航艦が戦艦に勝てるはずも無い。
索敵外からきたエネルギーに艦橋を落とされて沈黙する。
エクリプス隊が見えないところから、全滅したのだろう。


私は別働隊が戦闘を終了するのを待って合流した。
また鹵獲したのか、敵の戦闘機が一機混じっていたので、一緒に格納した。
Rwf-9A4ウェーブマスターか。波動を極めし者とは随分吹いているな。
被害はちらほら定員に達していない部隊があるが、全滅したのはリボーだけらしい。
どうやら、リボー隊突っ込まして索敵させたあと、敵戦闘機の射程外からゲインズ2でリボーごと滅多打ちにしたらしい。
それはちょっとひどくないか?


『提督も同じようなことを、やっている気がするのですが…』


いや、上からの命令でなく、いわば同格からもその扱いってどうなんだ。
いじめ、かっこわるい。


…これ以上ふざけるとベラーノ中尉が怖いので、補給の終わった機体を展開して先に進んだ。




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【!!!!】


認識:門ユニットから連絡。目標は認識阻害障壁の半数を破壊。
判定:目標の脅威レベルを引き上げ。観察対象から殲滅対象と認定。
判定:同一の次元内に存在する勢力のデータの使用を許可。
認識:門ユニットから連絡。行動パターンの解析許可を要求。
判定:低密度干渉波の使用規範に合致。許可。
認識:警告。干渉波の過度の使用は対象神経系への特異変化を助長する。




________________________________________________________________________________




【燃焼と洗浄の間】


私は鹵獲したウェーブマスターに波動砲を発射させ、壁に穴を開ける。
壁の向こうは赤熱した空間だった。
侵入口を広げて中に飛び込んでみると、熱量があるわけではないのだが、空間自体が燃え立っているようだ。
そこにいたのは、見知った機体。
バイドだった。


敵の陣営はボルドタイプが一隻と、
バイドシステムλ、クロークロー、ミスティレディ2、とそのフォースだ。
攻守に優れた部隊だ。正面からぶつかるのは辛いな。


クロークローの主砲は攻撃力が大きく、正面からは当たりたくない。
ミスティレディ2の霧状防護膜はレーザーの威力を減衰させ、索敵も難しくする。
バイドシステムλは万能な遊撃手だ。基本性能が高く、そつのない戦闘ができる。


全機とも射程は長くないのでゲインズで焼き払いたいが…
障害となるのはクローフォースだ。
装甲の薄いゲインズタイプではフォースシュートなんて食らえば一撃だ。
かといってコンバイラのフラガラッハ砲を連射するのはさすがに無理。


しかも、嫌なことにバイド達は壁が破壊されたのを見止めると、一気に此方へ突っ込んでくる。
なので、索敵範囲外に布陣して…ということをしている暇はない。
先ほどまでの戦闘機群は索敵範囲に踏み込むまで待機していたのだが…。


私は一度後退し、壁を挟んで小型機を相手にすることにした。
乱戦になって指示が効かなくなるのは怖いからだ。
壁ごと主砲で撃ちぬかれる可能性もあるのだが、敵の小型バイドはおしなべて短射程だ。
壁の穴を広げないように、ゲインズの陽電子砲でチクチクと削ることにした。


壁にあけた穴をから出てきたクロークローを、ゲインズの陽電子砲が吹き飛ばす。
クロークローは攻撃に特化した機体だ。接近されれば怖いがこの距離ならどうということはない。
バイドから爪が生えているというよりは、爪にバイド体がくっ付いている様な攻撃的な形状をしているが、
反面で脆いようで、壁付近にはクロークローの爪を構成していた高硬度物質の破片が漂っている。


反面で厄介であったのは霧状の防護膜を纏ったミスティレディ2だ。
ミスティレディ2は索敵さえ掛かるが、ロックオンがし辛く、気付けば目の前に迫っている。
クロークローが居ないのは幸いだが、接近戦を許してしまった。


私はミスティレディ2を優先的に攻撃するように指示する。
接近戦になってしまえば、細かな指揮なんて無駄なので、目の前の敵の優先度を指定するに留めた。
ミスティレディ2を狙ったのは、広範囲に射程を持つ主砲を持っているからだ。


ここで意外にも活躍したのは、鹵獲したウェーブマスターだった。
特質すべき機能も無く、チャージターンも普通、波動砲も威力こそ高いがスタンダードで、ミサイルも、まあそこそこ。
凡庸を突き詰めたような機体であったが、逆に良かったのかもしれない。
バイド狩りに尖った能力なんて必要ない。全てのことをそつなくこなせる能力こそが必要だ。


時間こそ掛かったが、なんとか小型バイドを狩りつくした。
問題がひとつ。
ボルドガングが壁から出てこなかったのだ。
壁を挟んでは索敵出来ないが、壁をくぐった瞬間に艦首砲で蒸発させられるのはごめん被りたい。
一番いいのは囮を放って向こう側を索敵することだが、リボー隊はすでに全滅している。
どうするか。


『提督、鹵獲したバイドを放ってはどうでしょう。』


鹵獲したバイド…バイドを鹵獲するという考えは思いつかなかったが、
出来るのであればこれほど良い案はない。バイドがつぶしあってくれるのだ。
私は戦場をちょろちょろしている腐れPOWアーマーを捕まえさせた。
正直かまう暇も無かったし、脅威でもなかったので放置していた個体だ。
バイドが鹵獲されるというのは、どうも特異な図だが贅沢も言ってられまい。


私は腐れPOWをそっとリリースして、索敵をリンクさせる。
壁の穴を潜って壁の向こう側が索敵範囲に入ると、私はドキリとした。
ボルドガングは壁に張り付いて機会をうかがっていたのだ。
うっかり近づいていたら、壁ごと吹き飛ばされていたかもしれない。
私は腐れPOWの中からボルドガングを見上げる。POWからみるとこんなにも大きいのか。
突然砲門が此方に向き、光が放たれる。


私は自分が撃たれた気になって身を強張らせた。
しかし実際には索敵リンクが切れ、壁の向こう側で小爆発が起こっただけだった。
小型機や戦闘機のパイロットは死ぬ前にこんな思いをしていたのか。
…これからはリボーを索敵デコイ代わりに突っ込ますのはやめてあげよう。


私は気を取り直して、ゲインズ隊にボルドガングのいる辺りの壁ごと打ちぬかせた。
先ほどの小爆発とは違い、大きな爆発が起こり周囲の壁を吹き飛ばす。
このエリアは我々が制圧した。さあ、次のエリアに行こう。




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【!!!!】


認識:門ユニットから連絡。殲滅目標、最終エリアに侵入を開始。
判定:門ユニットNo.32のレベル3までの機能の開放を宣言。
認識:門ユニットから連絡。自己保全権限により殲滅目標の高密度干渉波による思考スキャンを決行。
判定:追認。認識阻害障壁最大出力起動、門ユニットの擬態を要求。
認識:門ユニットより連絡。擬態はスキャンデータを使用。ユニットの撃破時の対応の協議を要求。
判定:承認。別命あるまで殲滅目標への対応を継続。




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【眩惑と昇華の間】


まず目に入ったのは光。
私はその光に目が眩みしばし、立ち尽くす。
そして、私は意を決して壁の向こう側に抜ける。


更に強い光を浴びて、思わず立ち止りそうになる。
何故かその光の中で、色々な思い出が通り過ぎていく。
走馬灯…とは違うようだ。
思い出すというよりは、記憶がめちゃくちゃな順番で引っ張り出される感じ。


赤い戦艦
暴走掘削機
コンバイラリリル
フォース
輸送艦艦隊
グリーンインフェルノ
ノヴァシステム
冥王星基地グリトニル
太陽系開放同盟
要塞ゲイルロズ
夕暮れの街
ジェイド・ロス
琥珀色の瞳孔
バイドに飲み込まれる戦艦
巨大な…ベツレヘムの星?


一瞬の間に色々なものを見せられてワケが分からない。
私は混乱する記憶に一時蓋をして前を睨む。
我々は前に進まなければ成らない。


光を抜けるとそこに居たのは戦闘文明の戦闘機群だった。
そしてこの先には壁が無い。ただ光に満ちた空間が広がっているだけだ。
ここが最後ということだろうか。
先ほどの記憶…
肝心なところが抜けてしかもバラバラだが、ここには私の記憶をなぞる何かがあるはずだ。
すべては彼らを倒してからだ。


ここまで来たのだ。我々がやられるとは思えない。
壁を破った時点ですでに交戦距離に入っている。
私は普段であれば絶対にしない命令する。
好きに暴れるようにと。


すぐに戦闘機による大規模な乱戦が始まった。
縦横微塵に飛びまわる戦闘機。
私はその光景を見て少し興奮した。
昔見た映画の様だったのだ。


ザイオングの恩恵を受けて機敏な動きを繰り返すバイドシステムに、
強力な加速性能を利用し、大きな弧を描いて追従する四十四型戦闘機。
ゲインズ2の陽電子砲が煌くと、呼応するように敵も主砲を放つ。
あちらではビーストフォースと五十五型機が衝突を繰り返してせめぎ合っている。
最早、編隊など用を成しておらず、正にお祭り騒ぎだった。


私も鹵獲で捉えたウェーブマスターを直衛にして、
レーザーを使用して、迂闊に近づく敵機を迎撃する。
ミサイルも単発ならば発射できるようになった。
ベラーノ中尉は呆れているようだが、ちゃんと的確に敵機の接近などの情報を伝えてくれる。
彼女には悪いが、これに興奮する感覚は男で無いと分からないかもしれない。
いや、男でも分かってくれそうなのはマッケランかワイアット少尉くらいか…


私はこの狂ったこの空間の空気に呑まれているのだろうか。
迎撃の手を緩めないようにしながら、少し頭を冷やしてみる。


まず、この空間について分かることはない。理解不能だ。
次に、各層にいた戦闘機や艦艇。様々な機体が居り統一されていない。
そして、このような周囲に天体の無い宙域にいるのに艦艇の数が不足している。
世界の果てのようなこの宙域に展開しようとすれば、大規模な艦隊を組むだろう。
小型機が別途ついてきた可能性もないわけではないが、好き好んでそんな事はしないだろう。
何者かに操られているのだろうか…そうBBSのように。
そう思えるぐらいには、不自然な状況だ。


もし、何者かが操っているとすれば、なぜ、彼らはこの場に展開しているのだろう。
この特異な空間か?
しかし、この広大な空間を探査したり、防衛するには艦艇が少ない。
何か…いるのか?
この光り輝く空間には彼我の戦闘機しか見えないが、索敵、光学探査を避ける方法などいくらでもある。


私は、段々と減少してきた戦闘機を見ながら、ベラーノ中尉に命じる。
周囲を次元精査するようにと。
次元精査は一般的にはワープ航路の開拓を行うときに用いる手段で、微小な時空の歪みを捉える。
太陽系開放同盟を討伐した際に、ワープ空間に彼らが留まっていることが分かったのも、この技術の応用だ。
戦闘中に行う物ではないので、精度は幾らか落ちるだろうが、‘いる’か‘いないか’だけ分かれば良い。


『提督、いました。前方空間距離1000に小型の艦影あり。』


近いな、戦闘機群のなかに紛れていたのか。
あれが親玉だろうか。
…周囲の戦闘は終わりに近づいている。


私は前方の空間に向けて艦首砲をチャージし始めた。




________________________________________________________________________________




【!!!!】


認識:門ユニットより連絡。認識阻害障壁消失、防衛戦力を喪失。対象の亜空間探査により門ユニットの秘匿は不可能。現在、殲滅対象の思考スキャンデータによって擬態中。
検索:〈ケース21〉の適用を推薦。
認識:〈ケース21〉適用条件は、対象が〈製作者〉にとって一定水準の脅威となりうる場合のみ。
検索:殲滅対象ユニット詳細。出身次元軸〈第3隣接次元〉、時間軸〈-350年〉、〈地球文明〉、〈時間移動能力保有兵器〉、想定敵αから惑星破壊兵器B1亜種へ変化した個体群。
判定:〈ケース21〉発動条件は満たすが、対象との距離から不適と判定。門ユニットによる次元追放を提起。
認識:追放先候補選定…




________________________________________________________________________________




【眩惑と昇華の間】


私は不可視の物体に向けてフラガラッハ砲を放つことにした。
すでに周囲の戦闘は決着がつき、戦闘機も艦載している。


『チャージ完了。提督いつでも打てますわ。』


発射を命令するとエネルギーが一気に収束を始めた。
発射までの一瞬、不可視ベールがいきなり解ける。


船腹に書いてある文字は
‘Llaqui Runa’




え…?

私の艦?




見間違うはずも無かった。
そこにあったのは私が始めて持った自分の艦。
ヨルムンガント級輸送艦の‘リャキルナ’だった。


混乱する私を余所に、発射体勢に入ったフラガラッハ砲はエネルギーを加速させて前面に押し出そうとする。
私は衝動的に、射線をずらすとフラガラッハ砲の発した光は、輸送艦掠めて飛び去った。
罠だったかと思った瞬間、輸送艦にはありえない膨大なエネルギーを感知した。


私は閃光に包まれながら思った。
‘リャキルナ’はあの琥珀色の空間で…?




==================================================================
前回手抜き臭かったので、今回は真面目に書いた。まともな戦闘シーンは久しぶりな気がします。
それにしても延びる。前の話がwordで7ページくらいなのに、20ページ超えてます。
余計なギミックを入れた所為で、話の分割が出来ない…

この面の解釈は非常に悩みました。夢オチ、幻覚、生まれ変わりの比喩、あの世…
最終話だったらどうとでも好き勝手できるのですが、まだ先あるし…
アイレムさん、解釈丸投げマジパネェっす。

!!!!がチラっとネタバレ始めていますね。
あ、最初のページにもかいてあるのですが、TACTICSシリーズで明言されていない事柄については、他作品の設定を混ぜています。いや、むしろ妄想設定が多いです。



[21751] 16 水棲生物の星
Name: ケタ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/03/31 22:20
水棲生物の星



【偏在する宇宙~水の惑星】


光が収まると、そこは何の変哲も無い宇宙だった。
どういうことだ。私はあの輸送艦の形をしたナニカに自爆されたと思ったのだが…
私は周囲を探索するが、本当に普通の宇宙のようだ。
少し遠いが惑星がいくつかある宙域があるくらいだ…
私はその宙域に向って巡航しながら、あの不思議な宙域で起きた事を整理することとした。


まず、壁や輝く空間については全く理解を超えている。予想もつかない何かだ。
しかし、壁を破るごとに敵が配置されていた。しかもあの広大な空間の中で、私の進路のみにだ。
戦力を小出しにすることといい、此方を観察しているようだった。
そして、最後の輝く空間で輸送艦に化けていたやつは…何なのか?


私は、最後の壁を破る際に記憶の混乱を感じた。
あれは自発的に思い出したのではなく、外部からの何らかの影響があったと思っている。
大量の断片的な記憶が引きずり出された感じだ。
思い出した時系列も(たぶん)バラバラで、
それぞれについては分かるのだが、記憶が一本の道として繋がらない。


私は何をしていた?
何故宇宙を彷徨っている?


ずっと問いかけてきた疑問だ。
ここらで整理してみよう。


私は地球連合軍人として、グランゼーラとの戦争に参戦した。
艦隊を率いて、グリトニルを落として休戦を勝ち取った。
地球連合、グランゼーラの混成艦隊を再編成し、
太陽系開放同盟をワープ空間まで追い決着をつけた。
そして、バイドが来襲していることを聞き地球圏に戻り、
地球…私の還るべき都市を防衛。
しかし、大型バイド、コンバイラベーラを後一歩で取り逃がす。
彼を追い詰めた先で彼を…コンバイラリリルを撃破。
同時に彼が英雄ジェイド・ロスであったことを知った。
私達は琥珀色の空間に招かれ、全ての元凶である琥珀色の瞳孔を倒す。
そして…私は琥珀色の瞳孔に吸い込まれて…


それから…
それから?


…なんとか形になった記憶はここまでだ。
やはり穴だらけだが、何とか繋がったな。


ふむ、我々はあの琥珀色の瞳孔に弾き飛ばされたのだろうか。
つい先ほどよく分からない輸送艦もどきに飛ばされたばかりだ。
瞳孔が最後の力で我々を弾き飛ばしたとしても可笑しくはないだろう。
この記憶障害もバイドの精神汚染の影響かもしれない。


自分の名前を思い出せないのは致命的であるが、問題にはなるまい。
どうせ、みんな「提督」と呼ぶしな。


うん、私のすることは変わらない。
艦隊のみんなを連れて地球に帰ること。
そして、攻撃文明などの脅威が迫っていることを伝えること。


方針が明確になってすっきりしたな。
あとは、地球を探すだけだ!


私が一人で満足していると、横合いから声が掛かる。


『提督!未確認惑星を発見しました。命令を!』


主席副官のマッケランだ。
こいつのことは忘れたままでも良かった気がする。


なんにせよ…
調査は必要に成るだろう。
私は降下を命令した。


我々が立ち寄ったこの星は、豊富な水をたたえていたが、随分と気味の悪い場所だった。
階層状になった地形に、濁った生ぬるい水が滝となって流れ落ち、床に浅く貯まっており、
その水は通常より少し粘度があって、微弱なバイド反応が検出される。
しかし、あの奇妙な空間を見た後とあっては、少しは心が休まるような気がした。
…病んでるな。


その時、大きめのバイドの反応があった。どうやら水中にいるようだ。
この星の水が禍々しいのと無関係ではないだろう。
この水の中でバイドは随分活発に増殖しているようだ。
ここで増えたバイドが地球に災いをもたらすかもしれない。
私は、水中に潜むバイドを撃破することに決めた。




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【冥王星基地グリトニル_Team R-TYPE解散1年後】



バイド帝星への討伐艦隊の投入や、地球圏防衛戦でのバイト討伐艦隊の活躍により、
地球圏へ飛来するバイドはほぼ居なくなった。
さらに、正式配備されたRwf-99ラストダンサーによって、
地球圏に残っていたバイドは次々と駆逐され、地球圏でのバイドは減少している。


巷では、対バイド戦争の勝利と、グランゼーラ、太陽系開放同盟との休戦を経て、
気が早い者は、終戦の開放感に酔いしれている。
実際、民間の経済活動も活発になり始めているので、いい事でもある。


商魂たくましい民間企業には、民間による太陽系外へのクルーズを企画していたところもあったくらいだ。
もちろんワープ空間には未だバイドの残存勢力が居り、クルーズなど論外であったため、
政府から警告を受け、軍部から絞られて計画取り消しになった。


太陽系外へのワープ施設を抱える冥王星基地グリトニルでも、民間人の姿が見られ始めていた。
しかし、この一週間はグリトニルの大規模改修とワープ設備調整と題されて、
民間はおろか、軍の艦隊すら追い出されている。
今、グリトニルにいるのは、最低限の基地要員(ほとんどは居室待機となっている)と、
基地の防衛艦隊(これも中規模ドックに押し込められている)、あとは、白衣の一団だった。


彼らは解散したはずのTeam R-TYPEの主要メンバーだった。
表向きは、機密区画に残っていた資材の撤去に召集されたとされていたが、
どうみても逆に機材が持ち込まれている。


そのなかで、最も目を引く機密の封印がされたコンテナに収められていたのはR機だった。


究極互換機ver.3 Rwf-101グランドフィナーレ
次元戦闘機の最終機であり、Team R-TYPEが最後に手がけた機体だ。
R機の特徴であるラウンド型のキャノピーはあるが、ずんぐりむっくりな形状をしている
アンテナ類やウイングは極力排されており、スラスターなどの推進部は強化されている。
また機体下部には格納用スペースの様な構造が見える。


「随分長かった気もするし、一瞬だった気もするわ。」
「人生の殆どをTeam R-TYPEに捧げてきたバイレシート開発部長としては、やっぱり感慨深いわけですかぁ。」
「人生を捧げた?冗談でしょう?」
「あれぇ、違うんですか?」
「私は研究という悪魔に、魂を売ったのよ。レホス主任…課長になったんだったかしら?」
「Team R-TYPEの技術主任から、ウォーレリック社の課長ですからねぇ。事実上の格下げです。」


冥王星基地グリトニルの強化ガラスでできた窓から、ワープ施設を眺める二人。
バイレシート元開発部長とレホス元技術主任だった。
Team R-TYPEが解散した今、研究員達は再就職なり楽隠居なりそれぞれの道についていた。
バイレシートは軍の技術部の顧問として、
レホスは軍事企業マクガイヤー社の課長に納まっている。


「にしても、あなたがそんな格好をするなんてどういう心境の変化?」
「社長命令ですからねぇ。それにしても僕が白衣をクリーニングに出す日がくるなんて…。」
「ああ、研究員とはいえ民間だからね。お客様のいる身でしょう。清潔な格好も仕事の内よ。」
「あれは、僕のポリシーだったんですよぅ。恩師から白衣の汚れは一人前の研究者の証だって。」
「口調も、少しまともになったし…」
「僕を何だと思っているんですぅ?敬語や固い口調が話せないわけじゃないんですよ。部長。」


レホスの格好は淡いブルーのシャツにネクタイ、グレーのスラックス。
そして、磨いてある黒い革靴に、皺の無い白衣を着ていた。
完璧すぎてこれはこれで場違いだった。
顔の造形や体形に目立つところの無い男だが、何故か悪目立ちする。
かつてのTeam R-TYPE関係者がこの最果ての基地に集った理由は、
もちろん同窓会などではなかった。


「ザイオング慣性制御システム異常なし。」
「1番から5番スラスター動作確認完了。」
「次元突破用2段式ブースター装着。」
「波動砲ユニットと、レールガン調整終了です。」
「エネルギー充填100%。」
「エンジェルパック積載完了、20分後にスリープモードから起動。」
「液体酸素充填。」
「フォース及び、ビットの装着完了。」
「推進剤の満載です。」
「〈グングニル〉の積み込みに入ります。」


コンテナから出されたグランドフィナーレは白衣の集団によって、直ぐにチェックされる。
そして、明らかに通常のワープには不要なくらいの装置が設置されている加速装置にセッティングされる。
加速装置は明らかに急に取り付けましたという感じで雑然としていて、
裏では大人の太ももくらいはありそうなコードが床をのたうっている。
戦艦や空母さえワープ空間に打ち出せるだけの出力を持った装置をさらに改造して、R機を飛ばす。
しかも、偽装までしている。


「あれが〈グングニル〉よ。空間消去型弾頭で5基ほど積み込むわ。」
「空間消去型の弾頭ですか。もともとは単機突入機の機密保持用でしょう?」
「そう、軍の方針で非バイド製兵器の開発に力を入れてるの。あの弾頭もその一つよ。」


軍では第一次バイドミッションから、機密保持を徹底していた。
単独突入ミッションに参加したパイロットなどは名も公表されない徹底振りだ。
機体の方も、バイド化されることを恐れて小型の自爆装置を積んでいた。
どうせ、敵地で不時着してもバイド化するだけ。というのが当時の考え方だった。
その対応法がバイドに取り込まれないように周囲の空間ごと消滅させる自爆装置だ。
ただし、かなり敏感な自爆装置で、致命的損傷ではなくとも発動してしまう欠点もあった。
地面との接触や、パーツ破損でも自爆してしまうほどだった。
ちなみに、それなりに高価な装置であったので、敵地への突入任務する機体のみに装備されていた。


「核はグランゼーラにリードされていますし、シャドウフォースもグランゼーラ製、地球連合軍としてはおもしろくないでしょうねぇ。」
「そう、そのうちグランゼーラと軍を統一する案も出ているようだけれど、そのためにもオリジナルの武装を作らなければならなかったのよ。」
「結局、張り合うためですかぁ。アホらしいけど、軍の技術部もたまには良い物を作るんですね。」
「範囲内にある物質を全て消滅させる兵器よ。宇宙空間じゃ効果薄いけど…」
「なるほどなるほどー。‘地球のような’高密度かつ、重力のある環境下で使用すれば、
範囲外も影響を免れなくて、上手く条件が合えば5基で惑星の一つなら壊滅させられる、と。
しかし、ネーミングセンスないですね。」
「グランゼーラのバルムンクに対抗心があるんじゃないかしら。節操無いネーミングはもともとよ。」
「ああ、そーいえば、艦艇とか軍の技術廠がつくったのには神話系多いですものね。」


目の前で慎重に、〈グングニル〉を搬入する技術者をみる。
機体下部へ5つ大型の弾頭を積み込む。
ずんぐりむっくりな形状はこの格納スペースを作るためのようだ。


「理論値では地上構造物の全破壊だけれども、実際には産業レベル、軍事力の低下による長期的外部進出活動の抑制ね。」
「突然、現れて爆弾を落としていく謎の兵器ってことになるわけですね。」


大型弾頭の積み込みが終わったグランドフィナーレは運ばれていき、発射台にセットされる。
そして、二機目が運ばれてくる。


「ちなみに、あれに乗りこむ天使様はどちらから拾ってきたんですかぁ。」
「ベテランパイロットの中から、バイドに強い恨みを持った軍人を選抜したわ。」
「恨みに染まって、敵都市を爆撃するのも厭わないと。」
「皆、接触して真実の一端を教えたら、自ら志願してくれたわ。」
「ベテランならエンジェルパックの噂くらい知ってるでしょうに。」
「復讐できるなら満足ですって。自ら脳髄だけになってくれたわ。」


クスクスと笑う2人。しかし、目が笑っていない。
これが彼らの最後の作戦だからだ。
軍人が出撃の前に、くだらないジョークを交わすのに似ている。


「プランBはこれで完了。BBCの方はベストラで?」
「ええ、ベストラに居着いた班に任せましょう。私もこれで引退ね。」
「顧問職だなんて勿体無い。」
「いいのよ、研究者は若いうちが華よ。若い芽を邪魔しないようにしないとね。」


そうこうしている間に発射準備が整ったようだ。
3機のグランドフィナーレがワープ設備から外を睨んでいる。


「3機ですか?」
「ええ。到達時間軸をずらして30年置きに突入する予定よ。出発はほぼ同時だけどね。」
「26世紀も大変ですねぇ。」
「自業自得ね。」




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【水の惑星~地下】


本当に薄気味悪い場所だ。
地下に行くほど水の粘度と濁りが増して、バイド係数も高くなっている。
この地形の更に下に大型のバイド反応が見られる。
我々は九十九折のようになった滝を下りながら地下へと降りているのだが、
ここにくるまでにも少数の小型バイドを発見している。


ちなみに地下への進軍ということもあって、旗艦コンバイラでは進入できない。
そのため、私はベルメイトに乗りうつって指揮している。
私たちはこの濁った滝を攻略しているのだが、
何故か先ほどから出てくるバイドが、すべてアンフィビアンばかりだ。
両生類だからか?


亜空間ソナーを持ったジータを出す。
1体居たら10体はいると思えが亜空間機を敵に回す際の心構えだ。
亜空間ソナーは3発。換えはない。
対して亜空間バスターは装填数3発に、以前の反省として予備を3発分製造してある。
計六発分あるが、敵の規模が分からないので無駄遣いはできない。


今のところ、この星でアンフィビアンタイプとそのフォース以外のバイドを見ていない。
そして、亜空間を潜れるアンフィビアンは、ほぼ確実に亜空間から接近してくる特徴がある。
そして、亜空間バスター以外での亜空間から通常空間へ、通常空間から亜空間への攻撃は出来ない。
これを逆手に利用して、一方的に攻撃することも可能だ。


私は護衛としてミスティレディとバイドシステムを出撃させたあと、ジータを先行させる。
そして、亜空間ソナーを打ち込む。
甲高い音とともに索敵結果がリンクされる。
ふむ…下の階層に数体と進路前方に数体見える。まだ、バスターを打ち込むには早い。
私は少し待ってバイドが集まってきてから、亜空間バスターを打ち込むことにした。


亜空間機は攻撃準備が万全になってから一気に通常空間に戻ってくる。
相手が亜空間機を警戒していない初回に、奇襲で大きな打撃をあたえるためだ。
バイドも群としての習性なのか、同じことをする傾向があるのだ。


『亜空間バスター起動まであと10秒です…5,4,3,2,1,弾着!』


特徴的な爆音が広がる。
そしてうるさい。バスターだけでなくマッケランもうるさい。
常に音量MAXだと、どれが緊急な報告だか分かりにくいだろ。
…いや、これを言うと通常報告の音量が下るのではなく、
重要な報告の音量が更に大きくなって、逆に聞こえなくなる恐れがあるので心に留めておこう。


『亜空間バスターにより、敵34体を撃破しました!ダメージを受けたバイドが通常空間に復帰します!』


34体…恐らくフォースの撃破も混じっているだろうから、アンフィビアンはその半数の17体くらいか。
初撃にしてはまずまずの戦果だ。
私は深海魚のような造形をしたバイドに、戦闘機を差し向ける。
すでに群の体を成していない個体が多く、残党狩りのようだ。



前進しすぎて、無傷の亜空間アンフィビアンの編隊に突っ込んだミスティレディ部隊がおり、
レーザーの洗礼を受けていたが、霧状の防護膜に助けられて、なんとか踏みとどまったようだ。
普通なら叱責するべきところだが、ある意味重要な情報だ。
敵の前線の位置を特定できたし、相手もあれ以上突っ込むのを控え、戦力を集中するだろう。


私はやらかしたミスティーレディに援軍を送り、仮旗艦ベルメイトをそのすぐ後ろまで進軍させる。
下の階層に降りられるくらいの穴が開いており、濁った水が流れ落ちている。
下に降りる前に亜空間の敵を一掃したいな。


『提督、亜空間ソナーで索敵を行いますか!』


亜空間ソナーは残り2発…まだ残しておきたい。
先ほどの接触でここの亜空間に敵が潜んでいることは分かっているので、
亜空間バスターで撃破し、安全を確認しよう。
私はマッケランにバスターの発射を告げ、迫りくる爆音に気合を入れた。


『はっ、了解しました。発射まで…』


私は覚悟を決めて爆音を耐えた。あとやっぱりマッケランの声がでかい。
マッケランはこんなだけど能力はある。
主席副官として他の副官達をまとめることは出来るし、事務仕事は速やかったし。
一部隊の隊長であった私が大艦隊の提督となってもやってこれたのは、
彼が書類などを過不足なく取り揃えてくれたのも大きいと思う。
有能なんだ。有能なのだが…致命的に指揮官に向かない気がしてならない。
どうして適正試験で指揮官候補になったんだ。


そんなことをぼやいているうちに、さらに1発バスターを打ち込む。
通常空間に戻っていた前方の敵の残党の掃討が終わった。
亜空間バスター3発を使い切ったので、予備弾の3発を腐れPOWアーマーを通して補給しながら、
バイドシステムやジギタリウスに前衛を任せて下の階層におりる。
しかし、先ほどから通常空間のバイドに会わない。アンフィビアン2や3ばかりだ。
たしかに水棲っぽいが…何か理由でもあるのか?
私はふと思いつき、亜空間戦闘機を出して亜空間索敵を仕掛けることにした。
通常空間に戻れない状態であるならば、高いに亜空間で接触しても害はない。
私は亜空間戦闘機アンフィビアンをさらに下の階層に向けて偵察に出した。


ふたたびジータを出して亜空間ソナーを打ち込む…ここも亜空間機ばかりか。
かなりの数の機影がレーダーに投影されるのを見て、バスター準備をマッケランにさせる。
これで打ち止めだといいのだが…


一射目を打ち込んで残党を処理する。
あと2発。無駄遣いは出来ない。ソナーもあと1発なのでこれも無駄遣いは出来ないな。
私は効率的な亜空間攻撃として待機して敵を引き寄せてバスターを発射することとした。


『提督!偵察に出ていたアンフィビアンから報告です!』


私がじれったい思いをしながら敵機を引き寄せていると、
下の階層を亜空間索敵していたアンフィビアンから連絡があった。
どうやら、大型バイドを発見したらしい。
通常空間に引き戻されることを恐れて壁の中から索敵をおこなったので全容は不明だが、
下の階層にある地底湖にそれなりの大きさのバイドが確認されたとのこと。
その他のバイドは見られなかったことを報告してきた。

…それが地上からバイド反応が検出された大型バイドか。
下にある地底湖…これ以上先が無いなら、ここでバスターを使い切っても問題ないな。
私は2射目を撃ってから、思い切って進軍した。


ここは一気に叩き潰してしまうのが良いだろう。
長居して良い場所ではない。
私は多少の損害を覚悟して進軍することとした。


『はっ、亜空間ソナー、バスターともにあと1発ですが発射しますか?』


そうだな、強行突入する前に使い切るか。
私は、ジータを起くりこみソナーを使うと、少数の機影が反応した。
機影が集まるまで待ったりはしない。私はベルメイトで無理やり進軍すると、
亜空間バスターを間髪要れずに叩き込む。


通常空間に戻ってきたバイドにフォースを打ち込まれるが、
ベルメイトの針状構造に刺さって半ばで止り、コアには届かない。
ベルメイトの衝撃波で針ごと吹き飛ばす。かなり痛いが仕方あるまい。


前衛を増やして一気に下の階層への降下口へ進む。
亜空間にいる敵の索敵が出来ないので、戦闘機に前衛を任せて進軍していく。
ここからは慎重になる。
ベルメイトはコンバイラに比べて索敵能力に劣る。敵の方が索敵能力が高い場合だってあるのだ。


『提督!POWアーマーを斥候として立ててはいかがですか?』


ふむ、確かに腐れPOWはデコイ能力があるので突っ込ませることが出来るし、
チャンスがあればデコイ自爆でダメージも与えられる。
私はマッケランの策を取り入れて、腐れPOWとそのデコイを先行させた。




『提督、デコイからのデータはいります!』


腐れPOWデコイからの情報を見る私達、しかし、なにかが水中でうごめいているのは見えるが、
いまいち光学データは精度がよくないため、どうせやられてもデコイだと、水中にまで前進させる。
そこに写ったのは…ムーラ。
体節をもった長いムカデのようなバイドだ。頭部に鋭い顎を持つが、その頭部を破壊すると体節も破壊できる。
逆に体接を破壊してしまうと、残った頭部と、胴体が暴走し思わぬ被害を受けることもある。


『提督、敵大型バイドに接触しました!大型バイド、ムーラです!弱点は頭部でそれ以外は…ああ!』


大きい声で叫ぶマッケラン。
見ると近づきすぎたPOWがムーラの顎に食いつかれ、大きく機体が裂けていた。
ムーラは動きを止めたPOWに満足したのか、ポイと捨ててしまう。
…いやデコイだから問題ないだろうと、マッケランに言うと。


『いえ、今ので自爆装置が起動状態になったもようです!』


爆音が響く地底湖。
濁った水から這い出てきたのは頭部だけになったムーラと、尾。
両方とも荒れ狂ったようにとぐろを巻いたり、高速で飛び交ったりしている。
POWデコイが爆発した衝撃でムーラの体接が千切れたらしい。
頭のついている部分と、尾のついている部分が2つ別々に荒れ狂っている。
頭のある方が此方に迫ってきたので、衝撃波を撃つと更に2つに分裂した。
計3匹になった。
…この始末どうするんだ?


『…戦闘機では体当たりで破壊される恐れがあるので、遠距離攻撃を行える本艦が掃討に当たるべきかと進言します!』


…つまり私にやれと。







結局、ベルメイトの衝撃波で残ったムーラの体接を一つ一つ撃ち落す羽目になった。
疲れた。




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地震の所為で給水車来たよ。作者のアパートは地下水くみ上げだから関係無いけど。

提督の推理が肝心なところで明後日の方角に跳んでいきますね。
提督の勘違いにじれったくなったら、作者の勝ちです。

作者は意味も無く昨日の夜から絶食中なのですが、アンフィビアンの香草焼きとかおいしそうですよね。
2は鍋で、3は蒸してマスタードマヨがいいです。
そんな感じで執筆したこの話の仮タイトルは「お魚天国」でしたが自重しました。

挿話の話。別連載の「プロジェクトR!」でレホス課長が妙にキャラ立ちしてしまったので、
こちらでもTeam R-TYPEの技術主任からウォーレリック社の課長になりました。
でも、変態成分が薄まっています。



[21751] 17 植物の星
Name: アノ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/03/31 22:20
・植物の星


【緑の惑星上空】


あの見ているだけで生臭くなるような気がする惑星を辞したあと、
私達は次の星系に向った。


訳のわからん宙域の次は、水棲バイドの星…
どこかに私の心を癒してくれるような星は無いのだろうか?
地球に帰れれば一番なのだろうが、今は未開の惑星でも安らぎがあるなら可だ。
私は横にいるラウ中尉に尋ねる。


『提督、仕事してください。』


…。
現実逃避であることは知ってるが、そんな言い方は無いだろう。
副官の裏切りにへこんだ私は黙々と仕事をする。
具体的には、戦闘で消耗した戦力の補強だ。
単純な修理や複製であれば現場に任せてしまうが、新しい機体の配備や開発は、
艦隊の編成にも関わるので、提督である私の仕事になっている。


これがまた、頭を使う。
機体の作成と資材の運用について考えなければならない。
機体を修理するのだって資材を喰うのだ。
今のところバイドルゲン鉱石は十分であるが、節約するに越したことはない。
だが、節約しすぎて敵に破れては本末転倒だ。


ゲインズ2は主力なので優先的に資材を割り振る。
有力な戦力であるUロッチや、ミストフォースにも資材を当てる。
あとは…戦闘機だな。
そろそろ新しい機体が欲しいのだが、何にしよう。
まずは、主力機汎用機であるバイドシステム機をαからβに改良して。
亜空間機ももっと欲しいが、数は増やせないのでアンフィビアンを1から2に改良する。
打撃力が欲しいのでクロークローも数隊作りたいが、格納庫が…
私の悩みは尽きない。
暫く悩みながらあーでもないこーでもないと言っていた。


『提督、新たな星系です。惑星の一つからバイド反応が見られます。』


またバイドか。呪われているんじゃないか?
いや、バイドがこの宇宙に偏在するという証だろうか。
私はラウ中尉に惑星の精査を命令をする。


『よかったですね。植物が豊富な惑星のようです。』


嫌味か。
私はラウ中尉を睨んで、緑の惑星に降下を命じた。




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【冥王星基地グリトニル~次元の隙間】


俺はザイオング慣性制御装置の手に余るほどの加速度に耐える。
耐えるといっても、痛覚といった物はすでにないので、
単に脳内に表示される加速度表示が、機体の各ユニットの限界地を越えないように監視するだけだ。
…もっとも、機体の中で一番脆弱な部分はパイロットなんだが。


特設の射出台から加速されて飛び出したところで、
俺は機体についたブースターに火を入れる。時空の壁を突破できるだけの推力を得るためだ。
「俺」への負荷が理論値を1割ほどオーバーしているが、今のところ支障は無い。
そもそも、ここでブレーキを掛けるようなチキン野郎は、このパーティーには招待されていない。


俺は機体のステータスを見る。イエローに入っているのはないな…
A・パックが最高負荷がかかった瞬間イエローに落ち込んだようだが、すでに復帰している。問題ない。
そして、機体が出口に近づく…!


周囲に広がる光景を見て、俺はしばらく呆然とした。
通常宇宙ともワープ空間とも違う世界。
靄がかかり、色々な風景が浮かんでは消える。さらに所々で空間が滲んでいるように見える。
俺は一瞬任務も何も忘れて、ただその空間を眺めた。
初めてR-9で宇宙を飛んだ日のようだ。


『こちらAngel1。Angel2の ‘次元の狭間’突入を確認。 応答を。』


俺がこのワープ空間とも微妙に違う、歪んだ世界に踏み込むと、
先に突入した僚機から通信があった。
今回の作戦のリーダーを務める隊長で、必要なことを完結に述べて後は余計な口を聞かない。
まさしく、軍人といった風な男だ。
俺も人のことは言えないので黙っていたが、心を何処かに置き忘れたようなやつだった。
突入後通信が無いのを心配したのだろう。
俺もすぐに答える。


「こちらAngel2‘時限の狭間’に侵入成功。システムは…オールグリーンだ。」
『Angel1、了解。』


Team R-TYPEの腐れ開発者どもが言うには、ここは‘時空の狭間’。
ワープ空間を世界の隙間にあたる場所で、ここでは時間をも超越できるらしい。
奴らは長々と解説していたが俺は詳しい説明など必要としていなかった。
ただ機会が欲しかったんだ。
そう…くそったれバイドに復讐できる機会だ。


奴らは俺の全てを壊した。
俺の妻子を、友人を、町を、仲間を、基地を全て壊し…!



頭に血が上っていたみたいだな。
このシステムは機体の反応が素晴らしく良いが、作戦遂行に不必要な一切を切り捨てる。
今、俺の感情がリセットされたのも、脳に直接鎮静物質を投与されたんだろう。
クソッ。あいつら人を何だと思ってやがる。


そのとき、機体のAIに促され後方を確認すると、
周囲の風景が歪んで、あまりカッコいいとは言えない機体が現れた。
Rwf-101 グランドフィナーレ。
俺たちがこの任務のために与えられた機体だ。


『こちらAngel3、‘次元の狭間’に侵入成功。待たせた。』
『こちらAngel1、時間通りだ。ミッションを開始する。』
「Angel2、了解。」
『Angel3、了解。』


俺たちは会話しているが、言葉を発しているわけではない。
思考し、連絡事項を選択してリンクを通して相手に送信している。
ただの01からなる信号が、インターフェイスで言語に翻訳され脳内に直接響くのだ。


今回のミッションに選ばれたのは俺たち3人。全いい年の中年だ。
俺たちのようなベテラン…もとい中年パイロットが選ばれた理由は年齢ではなく、
パイロット技能の変化によるものだ。
今回のミッションでは考えないでも無意識に判断を下して操縦できる技能が必須だそうだ。
残念ながら、息をするようにR機を操縦できるベテランとなると、今やほとんど居ない。


軍は、度重なるバイドミッションやバイド帝星への遠征、本部基地防衛戦で消耗していた。
特に本部基地防衛戦では、宇宙艦隊の奴らがバイドの侵入を許した所為で、
教官として地球に残っていたベテラン達が旧式のR機で出撃、本部を防衛することになった。
ベテランとはいえ乗機は旧式、しかも数に劣るため、次々に落とされた。
あの一件でただでさえ少ないベテランパイロットが払底された。


今のケツの青いパイロット達は、脳神経に繋げた補助機器を通して、
機器にインプットされた思考ルーチンを元にR機の操縦を行っている。
クレイジーなことに、機体のクセを体に覚えこませる時間すら与えられないで、実戦に投入される奴も居たらしい。


しかし、俺たちが腐れ科学者どもにやられたような薬物による脳内ブースト処理は、
脳にある種の薬物を投与することで、思考・反射などの反応時間が数十倍になり、
パイロットの主観時間は延長される。
ただし、機器の補助機能はそのままなので、機器に頼るパイロットには恩恵はあまりない。
つまり、補助機器を使用しない、昔ながらの体で覚えたパイロットが必要になるそうだ。
…もっとも、数回の使用で廃人になるような薬物によるブースト処理をするなんて、イカれ野郎だけだ。
ちなみに、この作戦の参加資格は、そのイカれ野郎であることだ。


この作戦に参加するに当たって、俺達はいくつかの処置を受けた。
薬物による脳組織のブースト処理や、あの悪名高いエンジェル・パック処理だ。
エンジェル・パック処理は生身で耐えられない程の負荷のかかる機体を操るために、
あの変態科学者どもが考えた方法で、
脳髄だけを取り出してシリンダーに収めて、パイロット(脳髄)を保護し、
思考をそのままダイレクトに操縦に反映するというものだ。
俺は自分で書類にサインしてこれらの処理を受けた。
ちなみにこの作戦は極秘作戦であり、俺は訓練中に事故死した扱いになるそうだ。
俺の…タルカ・ティンク中尉の脳髄の無い死体は、既に葬儀を済ませて埋葬されているはずだ。
もっとも、葬式に出てくれるような奴は皆先に死んだが。


…薬物で異様に加速された思考だと、余計なことを考えていけない。
まったく、薬中一歩手前だな。
まあ、どの道片道切符だ。ミッション完遂までもてばいい。


『こちらAngel1、予定通り目標地点A到達までは編隊を組んで行動する。
そこからは各自目標地点に向い、突入を開始する。なお、各自の目標へ攻撃を第一とする。』
「Angel2、了解だ。」
『Angel3、了解です。』
『…』


ん、通信が切れないな。


『…私は部下や仲間をすべてあいつらに食われた。
しかし、私の腕は仲間をバイドの猛攻から守れるほどには長くなかった。
私はこれ以上仲間が食われるのは見たくなかった。
だからずっと私はエースパイロットであることを利用して一人で飛んできた。
誰が死んでもそれは同じ戦場にいるだけの兵士に過ぎないと考えるようにして。
グランゼーラ戦争でも、テストパイロットに志願してバイドを潰すのに集中していた。
この任務にもバイドに復讐できると思って志願したのだが…』


この隊のリーダーAngel1とは一度だけ顔を合わせて話したことがあるが、
…それ以後はエンジェル・パック処理を受けて脳髄だけになっているので、‘顔’を合わせていない。
なのでAngel1が急に普通の口調でしゃべったのに戸惑いを覚えた…
が、同時に理解も出来た。


俺達は似た物同士なのだ。
俺たちは自分の未来に執着が無い。
それでも意地汚く生にしがみつくのは、一体でも多くのバイドを地獄に送るためだ。
だから俺たちは互いに妙なシンパシーを感じているのだろう。


『…普通はこういうときに死ぬな。とか言うのだろうが今回は別だ。
皆心残りのないようにやれ。
我々の怒りをすべて叩きつけろ!
我々はこの日を夢見てきたはずだ。
これが最初にして最後の機会だ。
各自任務を…全うせよ!…Good Luck。』


『…こちらAngel3、久々に僚機がいるというのも悪くは無い。』
「こちらAngel2、最後の任務でバイドを作ったイカレ野郎どものケツにミサイルをぶち込むってのも乙な物だ。」


ずいぶんとはっちゃけた感じのする隊長に習って俺も本来の口調で応じる。
Good Luck…幸運を、か。
普通は別れの挨拶ではないのか?
これから編隊を組んで目的地までは一緒に行くと思うのだが…
まあ、この先は何があるか分からない領域だ。
先に別れを告げて悪いことはないだろう。
縁起が悪いことこの上ないが、すでに死亡宣告を受けたに等しい我々にとって問題ではない。


しかし、本当にこの感覚久しぶりだ。
昔みたいにわいわい騒ぎながらバカみたいに進軍するのも良いかもしれない。
そんなことを考えながら、進路の邪魔になるバイドや機械兵器を破壊して飛び続ける。
普通、通信を繋ぎっぱなしでいたら管制から文句がくるのだが、ここには俺達しか居ない。


今だけはあの白衣のマザー○ァッカー達に感謝してもいいと思える。
俺は遊撃担当のAngel3の援護を受けて、Angel1のケツを守りながら、
バイドなんて有害廃棄物をポイ捨てしやがった、クソッタレどものいる未来へ繋がる裂け目を進軍していく。
デザインは最悪だが、なかなか無理の利く機体だ。
これならこのわけの分からない空間を抜けられるような気がする。
Angel1から通信が届く。


『Angel1よりAngel各機。わかっているな。攻撃目標は‘西暦26世紀’の地球だ。』




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【緑の惑星】


花は良い。
万人がこの蔓の先に咲く可憐な青い花を見てそう思うだろう。
…その花が戦闘機ほどの大きさがなければ。


そこにあったのは、巨大な植物がうねるジャングルだった。
巨大な植物が大地を覆い、そこここに青い花が咲いている。
あとは小型バイドが浮遊している。ここから見えるのはジギタリウスタイプだな。
巨大な植物の所為で視界が悪いが、まだまだいるかもしれない。
そして前方奥からは巨大バイド反応。決して心休まる光景ではないな。
バイドを討伐してこの星を離れよう。
早く地球に帰りたい。


私はコンバイラとベルメイトの状態を確認してから部隊を展開する。
この展開にもなれたな。惑星に下りる度に戦闘している気がする。
どこかバカンスできるような星は無いかな。


『提督、戻ってきてください。命令を。』


呆れた顔をしたラウ中尉にたしなめられる。
…たしかに少し緩んでいるかもしれないな。
ここの所バイドと連戦だからな。精神的にくるものがある。
しかし、攻撃してくるならば彼らは敵だ。私は戦闘を開始する。


展開したのはゲインズ2等の主力と、鹵獲班のUロッチ、亜空間偵察用にアンフィビアン、
遊撃としてバイドシステム、打撃力の強化にクロークロー。あとはジータ。
最初に展開するのはこれくらいだ。


今回、ベルメイトを連れてきたのは嫌な予感がしたからだ。
前回水の惑星のバイドは両生類のようなアンフィビアンタイプだらけだった。
今回は植物の豊富な星からバイド反応がある…
絶対、植物的な外見を持ったバイドがいるはずだ。
植物的な外見を持つバイドは2種類。
マッドフォレストタイプとジギタリウスタイプだ。


先ほど確認できたジギタリウスは主力にはならないが、小回りの効く機体だ。
問題はマッドフォレストだ。これは亜空間機なのだ。
亜空間機がいる可能性があるならば、亜空間バスターの準備はしておくべきだ。
むしろ、バイド相手ならば亜空間機がいると睨んだ方が良いかも知れない。
前回活躍したので、亜空間バスターの弾頭や、ソナー弾の予備は製造してある。


私は部隊が配置に着くのを確認して進軍を指示する。
バイドシステムを斥候として、その後ろにジータ。その他の戦闘機が続く。
陣形が延びないように、コンバイラ、ベルメイトも間をつめ、比較的密集して進む。
コンバイラは索敵の要であるので、なるべく前方に持ってきたいし、
敵の亜空間機に陣の中に進入されると面倒なので、固めて運用している。


『! 提督、前衛部隊が攻撃を受けました。』


見るとバイドシステム数機が破壊されている。
まだ敵機に接触していないのだが…超遠距離からの攻撃か?


『提督、敵を発見しました。これは…バイド反応がありますが、この星の原生生物であるようです。』


ラウ中尉が示したのは、この星のそこら中に生えている巨大な青い花だった。
地際から青く美しい花をつけているこの植物が、どうやら加害者であるらしい。
蔓のようなものを驚くべき勢いで伸縮させることが出来るらしい。
恐らく、我々は彼ら(?)のテリトリーを犯したようだ。


私は全軍を停止させ様子を見る。
あの植物はかなりの密度で生えている。迂回は難しいだろう。
撃破、もしくは無力化させる方法を考えなくては。
単純に考えたらあの花がコアであるように思うのだが…


私の指示を受けたゲインズ2が蔦の届く範囲ギリギリで陽電子砲を構える。
何故かラウ中尉が号令を出すと、ゲインズが火線を青い花に向けて発射した。
光が散ると、そこにあるのは蔦…
…。
鉄壁なのもそうだが、あの防御力を誇る蔦に貫かれればひとたまりも無いな。
蔦はまるで守るように花を包み込んでいた。


『…。硬いですね。無視して先に進みますか?』


それもありはありだが、背後を突かれたくは無い。
考えていると敵に動きがあった。蔦が解けるようだ。
私は直ぐに命令して別の隊で2射目を撃つと、
今度は蔦の隙間から花に命中し、花が砕けると周囲の蔦も力を失い地面に落ちる。


…うん、花はもろいらしいな。後はあの蔦をどうするかだ。
私は枯れた花を乗り越えていくとまた、あの巨大花が見える。しかも見えるだけで10はある。


『提督!どうやら制限時間つきのようです。この一帯を覆っている原生植物から胞子らしき物体が放出されています。どうやら我々の艦隊を宿主として寄生しようとしているようです。』


絞め殺し植物ってやつか?
いや、バイド体が発芽するのは不味い。粒子などであれば洗浄できるが、
根を張られるとバイド汚染で乗っ取られかねない。


『どうやら、この胞子はこの星の原生植物の影響を受けているようです。大気中かつ一定温度以上ないと発芽できないようです。リミットは…あと20分程度です。』


つまり20分以上ここにいると、取り込まれるわけか。
戦闘中に宇宙に逃げさせてくれるほど、バイドはやさしくないだろう。
一気に大型バイドを撃つ滅ぼして、この星を抜けるしかあるまい。
私はこの包囲を突破する方法を考える。


敵バイドのジギタリウスの迎撃を命じながら、巨大植物を見てて気がついた。
あの蔦はもしかしたら周囲の状況に関係なく一定間隔で開閉を繰り返しているのかもしれない。
私はラウ中尉にそれを告げ確認させる。


『確かに…、先ほどのデータも見直しましたが、敵が居ようと居るまいとあの巨大花は周期的に蔦を伸縮させているようです。』


パターンさえ分かれば、あの巨大花は、障害物以外の何者でもなくなる。
蔦の伸縮と花からの攻撃に気をつけていれば問題ない。
ただ巨大花もバイドなので、蔦などに索敵されると、データリンクで他のバイドに伝わるらしい。
進路上の巨大花については破壊してしまうのが良いだろう。
私は、戦闘機に花を見つけ次第破壊するように命令する。
あと、15分くらいか?


『提督、亜空間ソナーに感あり。亜空間機です。』


来たか!
恐らくマッドフォレストだろう。
私はベルメイトを前面に出し、亜空間バスターを叩き込む。
特徴的な爆音とともに破壊音を確認する。確実に亜空間機を捕らえたようだ。
さて、何体巻き込めたのか。


『報告します。18機撃墜。残存機通常空間に現れます。…あれはマッドフォレスト系列機ですね。』


蔦が絡まったような造形のバイドが現れる。
何種類かいるようだが、すべてマッドフォレスト系列のバイドであった。
回り込まれるとやっかいなので、できれば突破されたくないのだが、
あいにくとベルメイトは一隻しかないので、全面をカバーすることは不可能だ。


ベルメイトに搭載されている亜空間バスターは、ほぼ打ち出した直後に発動するので、
船体を中心にしか撃てない。信管がデリケートなのだろうか?
そのうち改良をする必要がありそうだ。


さて、ここからは時間との勝負だろう。
安全に行くなら全ての亜空間機を動かずに狩るべきだが、我々には制限時間がある。
多少無茶してでも早期決着を図る必要がある。
…10分くらいか。
すでに行程は半分くらいまで進んでいるが、
敵が大型バイドであることを考えると、あと5分でそこにたどり着きたい。
最短距離で行軍するべきだな。


『提督、各機主砲チャージが完了しました。コンバイラもフラガラッハ砲が発射可能です。
敵陣突破するなら全力を持って行うべきです。』


主砲による突破か。
ラウ中尉の趣味が入っている気がしなくも無いが、確かにもたもたはしていられない。
私は各機に命令を飛ばす。


我々の艦隊は一気に進軍速度を上げた。
先頭はジータとアンフィビアンで、索敵を行いながら全軍を引っ張る。
亜空間機の機影を発見すると、ベルメイトがすぐさま亜空間バスターを放つ。
前方の安全を確保すると一気に主力が詰める。
進路を塞ぐ巨大花についてはクロークローなどの編隊が見つけ次第焼き払う。


艦隊は一塊となって、敵陣を突き進む。
進軍の邪魔になる最低限のバイドのみを狩っているので、
下手に止れば後方のバイドに追いつかれる。
一気に食い破るしかないだろう。


亜空間バスターの使用回数が6回に達したとき、
前方を警戒しているアンフィビアンから警告が届き、
次の瞬間巨大なビームとともに機体のリンクが途絶えた。
どうやら、大型バイドに接触したようだ。


私はベルメイトを後方に回して、主力で敵大型バイドと相対する。
そこに居たのは巨像だった。
まるで、数世紀も前からそこに鎮座しているようにも思える。
確かにあれがこの星の植物の主のようだ。苔むした巨体が周囲には蔦が群がっている。
まるでこの星の守護神とでも言うかのようだ。
しかし、我々はバイドを殲滅することが求められており


先ほどビームを撃ったためか、砲塔の側の蔦と苔が焼け焦げている。
奴の主砲は非常に強力なようだ。
ただ、今撃ったばかりならチャージに時間が掛かるはず。
一気に畳み掛けよう。


『敵大型バイド主砲発射、及び滞在限界時間までおよそ3分です。提督、敵に撃たれたら後がありません。』


敵に主砲を撃たれる=制限時間か。
ゲインズは巨大花を破壊していたため、前線までこられるか微妙だ。
クロークローの波動砲とコンバイラのフラガラッハ砲のどちらかを打ち込む必要がある。
私はラウ中尉に命令して攻撃力に優れる機体を終結させる。


『クロークローは射程が短いため、敵コアを射程に捉えるまで時間が掛かります。
コンバイラのフラガラッハ砲はチャージまであと2分かかります。』


コンバイラで止めを刺すのが最も確実だろう。
私はチャージ完了まで全力でコンバイラを守らせることにした。
攻撃を食らってチャージ中のエネルギーが散逸したら、再びチャージする時間は無い。


自らの主人(?)たる巨像の危機を察したのか、周囲の巨大花が此方に蔦を伸ばしてくる。


『提督!前方の巨大植物群が襲ってきます。後方からはマッドフォレストが接近してきます。』


亜空間バスターから逃れたマッドフォレストも後ろから迫ってきているようだ。
後方は下げたばかりのベルメイトと数隊のゲインズ隊がいるが、なにしろ手数が少ない。
ベルメイトは艦載能力こそあるが、砲門は1つなので、遠距離からの狙撃には向くが、壁としては使い勝手が悪い。
ゲインズも陽電子砲は非常に強力であるが、連射性能はそこまでよくないのでこれも壁としては微妙だ。
こちらも、長くは止められないな。いざという時に逃げるという手段は使えないだろう。


周囲ではクロークローが敵頭部(?)砲台を潰しにかかり、注意を引き付けている。
私は慎重に旗艦コンバイラをこの巨大なバイドのコアの前に進める。
コアは剥きだしになっていて非常に分かりやすい。
後方からは小型機が襲ってきており、前方は巨大バイドの砲門がある。


『フラガラッハ砲発射可能まであと1分です。後方ベルメイトが押されています。』


ベルメイトやはり手数が足りないか。
グリッドロックならば砲台が多いのだが、残念ながら今回は連れてきていない。
最後の手段としてあと1分その船体を壁として、防衛線とすることを命じた。
要は肉の壁というわけだ。戦術として非常に不本意だが背に腹は変えられない。
敵の戦力が減少している今ならギリギリ1分は耐えるはずだが…


『フラガラッハ砲発射まで30秒。ベルメイト損傷率65%を超えました。敵小型バイド一群が突破してきました。提督、危険です。』


私は後方を確認して焦る。
ベルメイトは針状構造が折れて、無残な姿になっていたが、
針状構造が折れて船体に隙間が出来ており、その隙間を通ってマッドホレストが進出してきていた。
この高エネルギーを抱えている状態で攻撃を受ければ、フラガラッハ砲は撃てなくなるだろう。
敵の攻撃が早いか、コンバイラが早いか…賭けになるな。


『発射まで10秒。5,4,3,2,1…』


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宇宙空間に逃げ切った私たちは、眼下の惑星を見つめる。
現在コンバイラは背部の修理を行っている。
敵小型バイドマッドフォレストの主砲を受けたためだ。


結果をいうと、我々は敵の巨大バイドを倒して宇宙に逃げた。
フラガラッハ砲を発射した直後に、背後に迫っていた小型バイドに撃たれたのだ。
タイミングはほとんど同時であったが、私は賭けに勝ったらしい。
とはいえ、ベルメイトを含めて被害は甚大だ。


あの、巨大バイドは何だったのだろう。
おそらく、あの場に元々在った巨像のような兵器にバイドが侵食したようであったが、
何の目的であのような植物だらけの星に、あのような兵器があったのか。
まるで何かから、あの未開の惑星を守っているようにも見えた。


しかし、この星の植物はバイドに侵蝕されていた。
この星の原住民たる植物達に意思があったとしたら彼らは何を思ったのだろう。


考えてみれば、人類は遺伝子組み換え技術を手に入れるはるか前から、
植物を自分達の都合の良いように「改良」してきた。
あるべき姿を故意に歪める行為。
植物からみれば我々人類も立派な侵略者だ。
…我々人類もその本質は侵略者であるのだろうか?


いや、侵略とは非常に主観的な言葉だ。
人類に限らず、この宇宙に在る存在は皆誰かにとっての侵略者なのかもしれない。
侵略し、侵略されそれでも世界は回っている。
この世界は、バイドを含めてこのような摂理の元に成り立っているのだろうか。


…少し感傷的になってしまったな。
私は少し気を引き締めてこの緑の惑星を後にした。




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失踪していてすみません。作者です。
報告書に報告書に報告書に…3月は死ねますね。
おかしいな。この長編は今年度で終わるはずだったのに。

お詫び:申し訳ありません。また粗相です。
やっちまった。前回の話でボスを間違えた。訂正はそのうち…
作者の中で長くてうねうねしているバイド=ムーラという謎式がなりたっていたようです。

次回は多くのTYPERを轢死させた最終鬼畜輸送コンテナですね。
初代は結局Stage6で投げました。コンテナ面いってません。
音楽は大好きなんですが…。



[21751] 18 輸送コンテナ
Name: ユウ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/08 04:01
・輸送コンテナ


【宇宙~謎の輸送システム】


あのバイドに犯された緑の惑星を辞した後、私たちは再び星の海を彷徨っていた。
前回の戦闘で受けた被害は大きく、修理にも時間が掛かった。
今はまた隊の編成について頭を捻っているところだ。
前回の戦いで接近戦に弱いことが分かったので、ゲインズ2を一隊改良して、
ゲインズ3白兵戦型に改造した。
本当は駆逐艦としてファインモーションがあれば、接近戦では強いのだが…。


これじゃ資材がいくら在っても足りないな。
バイドとの戦闘が多かったのでバイドルゲンは十分量あるのだが、ソルモナジウムが不足気味だ。
特にソルモナジウムは太陽系で特異的に見られる鉱石であるので補給が難しい。
どうしたものか…。


『提督、未確認の星系を発見しました。』


私は、進路をその星系にとるように指示し、情報収集を行うように命じた。
今日の副官アッテルベリは中尉だ。相変わらず受け答えが無愛想な感じを受ける。
しかし、彼の機器、バイドに関する的確な助言は戦闘において非常に助かる。
表情は…感情が外に出づらいだけだろう。たぶん。


星系に近づくとさらにアッテルベリ中尉から報告が入った。
何でも、目の前にある星系の惑星軌道上に輸送システムらしき設備が見えるとのことだ。
軌道上の輸送システム…文明があった証拠だ。
地球人類と関係あるとかはともかく、前回の戦闘で消耗した物資を補給できるかもしれない。
私は内部調査を行うことにした。


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人類の痕跡は見られないが、内部には輸送コンテナが浮遊しているようだ。
何者かが作った輸送システムは沈黙している。
私は腐れ工作機を自立制御で送り込んだ。
奥まで侵入させて探査させたが、コンテナや防衛兵器らしい機動砲台が停止状態で眠っているらしい。
簡単な調査では資材の備蓄設備は見つからなかったようなので、詳細調査に入る。
工作機を回収した後、システムがすでに沈黙している事を確認し、艦隊で内部探査に向った。
停止しているとはいえ未知の施設だ。輸送艦単独での行動は危険であると考えたからだ。
ちなみにコンバイラは通路の幅などの関係上入れなかったので、外に待機しており、
ベルメイトを臨時に旗艦として、輸送艦ノーザリー2隻が調査に入った。
さて、コンテナにソルモナジウムなどがあると助かるのだが。


私が奥の探査を指示しようとしたその時、アラームが鳴り響く。
何だ!?施設は停止していたのでは?


『提督、輸送システムと防衛システムが作動したようです。入り口も閉鎖されました。』


閉じ込められたか。
しかし、システムは死んでいたはずではないのか?
戦闘配備を命じてから、アッテルベル中尉に尋ねると、
輸送コンテナなどから微弱ながらバイド反応が見られるとのこと。
先ほどの先行調査では見逃したのか?
バイドがシステムを侵食して無理やり起動させたのだろうか?


私の考えをよそに、周囲にあるコンテナが低い唸りを上げ始めた。




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【次元の狭間_2490年付近】


私はこのミッションを伝えられたとき私は天啓を感じ、参加を即答した。
余りにも直ぐに回答した為、この話を持ってきた担当官が逆にうろたえたほどだ。
その後作戦室で話されたミッションの背景は、驚くべき物だった。


人類の天敵たるバイド。
それは宇宙の彼方から飛来した謎の生命ではなく、
「人類」が作り出した兵器だということだった。
バイドが作られたのは「西暦26世紀」の地球らしい。
私が学校で勉強した、そしてこの世界で生きる誰もが知っている歴史によれば、
地球連合政府が設立された時点で西暦からM.C.に改められている。
…つまり、バイドを作った地球は我々の未来ではなく、違う歴史を歩んだ地球。
俗な言い方をするとすればパラレルワールドであるということだった。


西暦26世紀地球で作られたその兵器は、何らかの理由で地球上で発現し異次元に追放された。
暴走して手におえなくなったその兵器を外の次元に廃棄したというわけだ。
そして、廃棄された兵器はいつしか次元の狭間で、次元の壁を渡る能力を手に入れ、「バイド」へと変質した。
私が居るこの次元の狭間では、条件さえ揃えば、時間さえも超越できるらしい。
そして、バイドはこの狭間を抜け出しその時近にあった次元に現れた。
我々の世界だ。


そして、我々人類とバイドの生存競争が始まった。


…私はこの話を聞いて、まず怒りを覚えた。
つい興奮して怒鳴りつけてしまい、目の前の担当官が青くなっていたのを覚えている。


その場でさらに詳細を聞いて、このミッションが解散したTeam R-TYPEの最終作戦であると知った。
作戦概要にTeam R-TYPEの名前こそ出てこなかったが、こんな作戦を立てるのは彼らくらいだろう。
味方の被害や、倫理といったものを度外視すれば、彼らは驚くほど有効な作戦を立てる。
パイロットからすれば怒りを覚える様な話もあるのだが、
それでも、このミッションさえ成功すれば…


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『Angel1応答しろ!Angel1!』
『Angel2、冷静になれ。コックピットは無事だ。Angel1は生きている。』

寮機のAngel2と3からの通信が入る。
衝撃による一時的な脳震盪で、意識が遠のいていたようだ。
私はダメージを負った機体を何とか安定させ、寮機へ呼び掛ける。
が、どうやら聞こえている風ではない。
通信は聞こえるのでリンクは切れていないはずだが…私の声は届いていないようだ。システム障害か。


『Fu〇k、Angel1やられたのか!?』
『いや…Angel1機の機動を確認。彼は生きている。通信障害かもしれない。』


システムチェック…レッドが3割、イエローが4割か…推進系が壊滅的だな。
眼前を埋め尽くすような小型機の海。ファインモーションの森を抜けて集中力が切れかけた所で、
波状に襲ってきたレーザー砲台の壁に道を切り開こうと無茶をした途端にこれだ。
しかし、あのままであれば最悪全滅も考えられたので、私の判断は間違っていなかっただろう。
私は即座に自分の取りうる対策を考え、ブースト処理で加速された思考が一瞬で答えを弾きだす。


任務続行不可能。


後少しで26世紀だったのだが…しかし、ミッションは26世紀文明の破壊すること。
一機くらいの消耗は織り込み済みだ。
そして、こういう事態に陥った時の解決方法は知っている。
空間消去型弾頭〈グングニル〉の至近爆破による機密保持だ。
26世紀の人類は敵だ。敵に情報を渡すような事があってはならないし、
幸いなことに寮機は2機とも健在だ。彼らがこの任務を全う出来れば良い。


すでに推力が無くなってきている。
先ほどから寮機がこちらに呼びかけながら、つき添うように周囲を警戒し飛んでいるが、
彼らを巻き込むわけにはいかない。


通信の送信機能が死んでいるので、昔ながらの方法で明確な意思で機体を制御している事を伝える。
私は死にかけた機体を一度左右にバンクしてみせ、隊列を離れた。
そして減速。


『Angel1。てめぇ、何のつもりだ…』
『こちらAngel3。Angel1、作戦遂行不可能でM.C.へ戻ることを提案する。』


Angel2、3ともに頭に血が上っているな。
すでに片道切符だというのに…
戦場でともに飛ぶ味方に無慈悲になりきれないのはパイロットの職業病だと思っている。
私は二人の提案を無視して二機から離れ、〈グングニル〉に巻き込まないだけの距離を保持する。


『機密保持ってか!………それしか、ないよな。』


私は頭に叩き込んだコードを打ち込み〈グングニル〉の機爆シークエンスに入る。
起爆時間は…10秒で爆発するようにセットする。
退避時間が足りないことを示す警告が出るが無視。
作戦が成功しようと失敗しようと、最後は自爆すると決まっているのに何故こんな表示がでてくるのか?


『こちらAngel3、エル・スール大尉。あなたと戦えたことは私の誇りです。』
『Angel2だ、エル・スール大尉。あんたの分も敵をブッ潰してきてやる。』


割り振られたTACネームではなく、私の本名を呼ぶ二人。
私は敬礼をしようとして、すでに自分が脳髄だけであることを思い出し、苦笑する。
すでに寮機は見えないが、私は最後にもう一度だけ機体を左右にバンクさせた。


Good Luck.




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【謎の輸送システム】



低い唸りを上げる通路の奥から何かがやってくる。バイドか?


『提督、多少侵食されているようですがあれは、報告にあった輸送コンテナの様です。
あと、周囲の壁面に機動砲台らしきものも確認できました。』


複数ある通路の奥からコンテナらしき物体が接近してくる。
短い筒状の構造を3つ繋げたような形状になっている。
この輸送システムは無駄が嫌いらしい。通路はコンテナの幅ちょうどだ。
押しつぶされない内に破壊しないとならないだろう。
私は無言で迫ってくるコンテナに、長距離からベルメイトの衝撃波を叩きつける。
…!


『提督、輸送コンテナ健在のようです。』


どういうことだ。なんで輸送コンテナがそんなに硬いのか。
そんなことはともかく、通路から押し寄せてくるコンテナを破壊しないと潰される。
私は、なおも迫ってくるコンテナにゲインズ2の陽電子砲を叩きつけた。
陽電子砲はコンテナの中央部を貫くと、コンテナの動きが止り爆発する。
…破壊したか。コンテナがこんなに硬いなんて、どういうことだ?


『提督、どうやらあれは自立制御型のコンテナの用です。
コンテナの制御中枢がバイドに侵食されていると思われます。』


上下通路から迫ってくるコンテナをやり過ごすために、私は艦隊を中央通路に退避させる。
…あ、コンテナのこちらの通路に曲がって来た。背面の赤く発光する部品が目に痛い。
ゲインズ2は、いま陽電子砲を撃ったばかりでチャージが間に合わない。
私はベルメイトと小型機の火力を集中させてコンテナにぶつけると、
意外なほどあっさりと破壊できた。なんぞ。


『提督、背面の赤い発光体があのコンテナの動力部であるようです。
背面から攻撃、または正面から貫通力に優れた兵器での攻撃が有効でしょう。』


私は副官のアッテルベリ中尉に継続して情報を収集するように命じる。
ともかく、後ろは無いから前進して脱出口を探さなくてはならない。
幸い輸送コンテナには武装はないため、轢かれないように気をつければいいのだが、
何しろ数が多い。何個あるのだろうか。
この施設の防衛システムである砲台もバイドに侵食されているらしく襲ってくる。
壁面を移動して、イオン砲を撃ってくるのだ。ともかく破壊して無力化する。


次々に流れてくる輸送コンテナを捌きながら、移動砲台を沈黙させる。
敵は手数が多く、漸進するに留まっている。


『提督、どうやらこの施設の制御は集中制御ではなく、輸送コンテナ、防衛機動機のリンク網によって成り立っている非常にフレキシブルなシステムであるようです。』


何時ものように制御コアを破壊して終りにはできないということか。面倒なシステムだ。
しかし、対バイドという条件では比較的強固なシステムなのではなかろうか。
コンテナ、防衛マシンは暴走しているが、施設自体は侵食を免れているように見える。


『現在バイドによって各個体が暴走していますので、バイドに侵蝕されたコンテナ、
防衛機動機をすべて破壊すれば、施設は正常し、ハッキングなりなんなりで対応できます。』


目標は敵の殲滅か。
面倒ではあるが、目的が明確に決まれば怖くは無い。
ゲインズ2や主砲を持った機体と、小型機を組み合わせて混成部隊を作り、各混成部隊を散会させる。
コンテナが正面から迫ってくればゲインズ2で打ち抜き、後ろを見せれば小型機で破壊、
移動砲台はゲインズ3で接近して倒す。


ベルメイトでは迂闊に動けないので、輸送艦ノーザリー2隻を各方面に充てる。
ともかくベルメイトは艦隊の中心に居座って情報を集める。
3部隊に分かれて進んでいるが、この施設は長方体で奥行きが深い構造をしている。
私は各部隊が離れすぎないように中継となって、移動砲台とコンテナを入り口側から潰していく。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


途中コンテナに挟み撃ちにされ、あやうく轢死しかけたり、
機動砲台にフォースを嗾けて手痛い反撃を食らったりしたが、
比較的順調に進軍している。被害も軽微だ。
これで、最後か?


先ほどから、最後の一機と思ってコンテナを落としては、システムが止らず、取り逃がしを探す。
と言った不毛な作業が続いていたのだ。今、撃ったのは、3機目の最後の一機だ。
コンテナの爆発とともに、ずっと鳴っていた低い唸りが消えた。終わったか?
私は索敵機を飛ばして、施設内を見回らせる。


『提督、システム完全に沈黙しました。』


私は、あとのことを輸送艦に任せて、そとに出る。
やはりベルメイトよりコンバイラのほうが安心できる。
輸送艦が遅れて出てきたが、特に物資を見つけられなかったようだ。


『提督、この輸送システムから吸い上げることができた情報をまとめました。
まず、ソルモナジウムを運び出し、エーテリウムを運び入れる基地になっていたようです。
現在は、すでに停止状態であったためそれらの物資は見られませんでしたが、
どこかの文明が系の内外での物資の輸送に使用していたようです。』


ソルモナジウムは太陽系で特異的に産出される鉱物だ。
外宇宙では産出量が非常に少なく、我々の艦隊でも枯渇気味だ。
物資が鹵獲できなかったことが悔やまれるな。
いや、もしこのシステムで物資を鹵獲したならば、このシステムを構築した文明と邂逅した際に、
我々は侵略者もしくは略奪者として認識されるかもしれない。
それを思えば、自衛行為に留めておく方が好ましいだろう。


しかし、ソルモナジウムの豊富な星系か…


『提督。少し気になった点が…』


私が今回の戦闘の結果を思案していると、アッテルベリ中尉が声を掛けてきた。
顔はいつもの仏頂面だが、この男には珍しく困惑しているようだ。


『あのコンテナや機動砲台は侵食を受けてから、そう時間が経っていないようなのです。』




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初代は地獄だったこの面も、TACTICSⅡでは雑魚面なんですよね。
でも、次の面「外縁部」とその次の面「研究施設」は、みごとに心折設計です。
浮かせて落とすは基本ですね。分かります。

挿話の話。
そもそもF-Cの話は一話だけの予定でしたが、参考動画みたら気分が盛り上がったので4話分に増量しました。次回の挿話でAngel隊の話はラストです。

アイレムの本気を見忘れました。今年こそは生で見ようと思っていたのに…
震災の影響で自粛されたと教えていただきました。
私のできることはそう多くはありませんが、被災地の早期の復興を願っております。



[21751] 19 超攻撃的文明
Name: ヒノ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/11 02:58
・超攻撃的文明


【ある星系の外縁部】


輸送システム自体からは座標データなどの情報は得られなかったが、
設備やコンテナの射出台の方角などから当たりをつけて、
それらを作った文明を探すこととした。
ある程度の範囲を捜索していると、ある星系を発見した。


最外部を岩石帯に包まれたその星系は、中央に比較的温度の低い恒星を持ち、
重力測定によると8つもしくは9つの惑星を保持している。
基礎生命のハビタブルゾーンも存在しており、
おそらくここが、あの輸送システムを作った文明の星系であるのだろう。
そう結論付けて、私はこの星系に足を踏み入れた。


我々がその宙域に侵入すると、正体不明の大艦隊が現れた。
艦艇だけで4~5艦はあり、小型機を大量に従えている。
息苦しい。宇宙が敵で埋め尽くされている。


以前も合体戦闘機を有する戦闘文明と接触したが、彼らとは違うようだ。
私は便宜的に、彼らを「超攻撃的文明」と呼ぶことにした。
以前接触した攻撃文明を凌駕する、攻撃的思想の文明という意味だ。


その艦船や戦闘機は戦うことに対して極めて機能的な姿をしている。
装飾に見える一つ一つのパーツさえ戦闘のためのもののようだ。
何よりも驚嘆するのは、その武装の凄まじさだ。
なぜ、あれほどまでに武器を進化させなければならないのだろうか?


ほぼすべての機体、艦艇に大型の主砲を装備しており、それが標準装備なのかのようだ。
フォースも攻撃的な形状に成型されており、明らかに攻撃を主眼において改造されている。
戦艦もまるで敵を一切よせつけるのを拒むが如く、槍のような構造を船体から生やしている。
私には、彼らがあのような状態になった歴史を想像することができなかった。


彼らは何をそんなに恐れているのだろうか?
かれらはその過剰な武装を持って何と戦っているのだろうか?
沸きあがった疑問を考えていると、頭の中がざらつく…気持ちが悪い。


我々の姿を認めた瞬間に臨戦態勢をとってきた。
彼らは我々を攻撃するつもりのようだ。
ここまでの艦隊を相手にしては逃げることもままならない。
それに、私はここで負けるわけにはいかないのだ。


そう、私は皆を地球に連れて還ると約束したのだから。




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【次元の狭間~西暦2533年】


『おい、Angel3。俺はAngel1の代わりにポイントA、2501年に降下する。お前はそのまま飛んで、ポイントB2531年に降下しろ。』
「ポイントCを選ばない理由は?」


ポイントとは我々が降下する「時代」だ。
我々は時間を超越してこの空間を飛んでいる。
出発は同時であったが、作戦遂行地点はそれぞれ違う。


予定では、
ポイントAはAngel1のエル・スール大尉で、2501年。
ポイントBはAngel2のタルカ・ティンク中尉で、2531年。
そしてポイントCが私、Angel3のチャフ・チャス中尉で、2561年


一応理論的には地球文明を破壊できるほどの威力のある特殊兵装を装備しているが、
保険を掛けて30年おきに3回突入することとなっていた。


『ファッ○ンバイドが生み出されて最初に暴れるのは26世紀地球というだけで、いつかは明確に分からない。
ならば2501年の時点で再び立てないように叩き潰すのが一番だろ。』
「私はあなたのおこぼれか?」
『ふん、取りこぼしがあったなら、早い内に叩くべきだ。じゃあな、俺は行くぞ。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんな事を思い返しながら、私は攻撃目標である西暦2531年の地球に降り立とうとしていた。


「Angel3、目的地に到達。これよりミッションを遂行する。」


つい先ほど、Angel3から作戦限定成功のシグナルを受け取った。
『限定成功。1発不発により取り逃がす。フォローを』
Angel2が最後の〈グングニル〉で自機ごと目標を消し飛ばす際に、
その次元さえも揺るがす余剰エネルギーを用いて、次元の狭間に短いメッセージを送ってきたのだ。

使い捨てブースターを点火し、この次元の狭間から再び次元の壁を裂いて目的地に突入する。
機体が振動する。キャンセルできなかったGの値を睨みながら私は敵地に入る。
歪んだ空間の靄が取れて、通常の宇宙空間が戻ってきた。
木星と土星が見える。遠くに太陽。その他の惑星は小さすぎて確認できない。
見慣れた。しかし未知の太陽系だ。


天測型座標システムを確認する。これは惑星やその他の恒星の位置から大まかな年代を割り出す装置だ。
現在時間は2533年、2年程度は誤差だろう。
私はスラスターペダルを頭の中で踏み込み、一気に加速して「地球」を目指す。
木星を眺めながら木星の衛星群を通り抜け、火星に至る…


その過程で見た景色は妙なものであった。
時間軸で言えば我々の時代よりもっと未来であるはずなのに、
宇宙への進出が活発で無いように見える。
コロニーらしき構造物はみるのだが、テラフォーミングなどは行われていないらしい。
しかし、我々の艦艇よりはるかに大きい非戦闘用艦艇があったりなど、技術レベルがよく分からない。


私は地球のかなり手前から、亜空間に潜行して地球に向う。迎撃されてはかなわない。
燃料が作戦遂行に十分であるのを確認すると、機体全面に亜空間への入り口を展開し、
亜空間に機体を滑り込ませる。敵の機体や防衛兵器に気をつけながら、
デブリの中を突っ切って、攻撃開始ポイント付近に向う。


見えた。目標「西暦26世紀の地球」だ。


脳内の視覚野に取り込まれた映像は異様だった。
大陸の形が全く違う…いや、大陸が円形に抉れているのだ。
アフリカ大陸は形状を保っているが、その他は大きく切り取られている。
隕石によるクレーターではない、Angel3が30年前にやったのだろう。


思わず笑みがこぼれそうになる。
あのクレーターの周囲の土地では、くり貫かれた空間を埋めるように大気が吹き荒れ、
海水が津波のように押し寄せて、周囲の生態系を文明ごと破壊したはずだ。
被害を免れた地域、コロニーなどに情報は残るだろうが、
地球の生産基盤、研究基盤さえ破壊されればいい。
バイドは地球で発現する。地球で開発されているのだろう。
幸いこの世界では、人類文明圏における地球の比重がとても重いようだ。
私が再度地球を破壊できれば、文明、技術は決定的に後退するだろう。


私は地球の大気にダイブする。
一発目の〈グングニル〉を投下する直前までは亜空間に潜行したままだ。
そこからは時間との勝負になる。敵も迎撃兵器を持っているはず。
初撃で混乱している間に、的確に〈グングニル〉を投下しなければならない。


私は高々空から攻撃目標を定める。
無傷のアフリカ大陸、かつてエジプトと呼ばれた場所に初撃を落とす。
大型の弾頭は推進機能を持たず重力に引かれて落下する。
私は高度を保ちながら、効果範囲から退避する。
宇宙空間と違って周囲の大気にまで広範囲に影響が及ぶため、遠くまで逃げる。
衝撃波ごときでグランドフィナーレが破壊されるとは思わないが、
私は推奨されたとおり、第一大気内速度で離脱する。


空間震を感知。初撃は成功だ。
Angel3が先に叩いてくれたお陰もあるだろうが、艦艇どころか戦闘機も見られない。
私は、敵の対応の遅さを心の中で嘲笑しながら次の目標を定める。
次は未だ熱源の大きいアジア地域だ。


M.C.ではすでに失われて久しいアジア地域に向けて私は高々空を飛び続ける。
アジア地区上空で2投目を放つ。空間消去型弾頭が地球に引かれていく。


〈グングニル〉は非常に迎撃が難しい。
推進機構を備えておらず、内部反応も作動直前にしかみられないため、ロックオンが出来ないのだ。
ダメ押しで、レーダー反射を抑える塗料が塗布されている。
ようは5mくらいの鉄柱が高空から降ってくるのを目視だけで迎撃するようなものだ。


空間震を感知。2撃目も成功。
私は気分をよくして次の獲物を探す。
一方的に攻撃できることのなんと気持ちの良いものか。
そして、警告がモニターに現れたのと同時に衝撃を受ける。


何が起こったのかを把握する前に、2撃目が機体を掠める。
攻撃された!?レーザーのようだが、上空か!
機体ステータスはレッドアラートだらけだ。ダメージレポートが流れるように表示される。
スラスター破損、推力減少。亜空間潜行不可。ミサイル格納庫開閉不能…


上空の一角を拡大すると、そこには大型の攻撃衛星らしき物体。
あれが攻撃してきたのか。しかし先ほどまでは見えなかった。ステルス?ジャミング?
どうでもいい。機動が上手くいかない、攻撃回避不可能か。次の攻撃まであと、10秒!?


…このまま撃墜されて機体を調べられ、正体を悟られるわけには行かない。
私は即座にミサイル格納庫に納まったままのグングニルの起爆コードを押す。
グングニルの作動音が聞こえる。
攻撃衛星は…ギリギリ範囲外か。
まあ、あれを消し飛ばすことはできなくても、近くで大気が消滅すれば、
引き寄せられてバランスを崩し地球に落下するだけだろう。



天にまします我が神よ
願わくは悪魔を作り上げたこの星を裁き、
我らが地球を守りたまえ




そして最後に見たのは光。




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【ある星系の外縁部】


双方とも臨戦態勢を保ったままじりじりと近づいている。
私も艦隊を展開し、小型機を臨戦態勢で待機させている。
どこかでこの緊張が破れ一気に戦闘が開始されるだろう。
あとは、その場の流れに乗るしかない。


『提督、敵先頭集団が索敵範囲に入りました。』


ワイアット少尉も気を飲まれているようだ。
私はできるだけ平静を保って、パイロットにまだ堪えるようにと指示をだす。
平静を保つのは、部下へのポーズというより、私自身の意地のようなものだ。
それに、相手はまだ我々を索敵で捉えていないようだ。
私は先制攻撃で敵の出鼻を挫くこととした。
幸いにもゲインズ2の陽電子砲のチャージが直に終わる。


『提督。もうすぐ敵の索敵範囲に入りますっ!』


私は攻撃命令を出す。
一列に並んだゲインズ2が一斉に陽電子砲を放つと、
敵の最前列にいた重戦闘機カロンとアンカーフォース改を吹き飛ばす。
直撃を免れたカロンの数機が、めくら撃ちなのか暴走したのかライトニング波動砲を放ってくる。
しかし、誘導性能はあっても射程自体が余り長くないライトニング波動砲は、
ゲインズ2に届かずに虚空に散ってしまう。
久しぶりに出したタブロックがミサイルを放つと直撃し、デブリの一つとなる。


ゲインズの陽電子砲は連射が効くといっても、暫くは冷却とチャージで時間が掛かる。
他の機体はチャージ時間が長くまだ主砲を撃てないので、
耐久力に秀でたアーヴァングにスケイルフォースを装備させ、最前列の盾とする。
敵は一時的に引いた。恐らく波動砲のチャージを待って一気に攻めてくるつもりだ。


私が次の手を打とうと部隊を動かそうとしたとき、いきなりフォースが飛び込んできた。
主であるカロンを失ったアンカーフォース改だ。
非常にエネルギーが高い状態で制御されておらず、一番前面にあったスケイルフォースに襲い掛かってくる。
その鉤詰め状のコントロールロッドでスケイルフォースを捉えており、まるで捕食しているようだ。
フォースが暴走している?
周囲の機体がレーザーでアンカーフォース改を破壊するが、すでにスケイルフォースが一体喰われていた。


隊列が乱れたところに飛び込んできたのは、2種類のR機。
正面から火炎武装機ドミニオンズ、側面から要撃機ワイズマンだ。
そして、その後ろ索敵範囲ギリギリに爆撃機スレイプニルも見える。
どれも非常に凶悪な機体だ。まずい。
私は攻撃の要であるゲインズ2を下げて、ミストフォースのジャミング圏内に戻し、
アーヴァングはそのまま前線に貼り付けるが、このままでは孤立しかねないので少し戦線を下げる。


どうやら、ワイズマンの誘導波動砲で戦線を分断し、ドミニオンズの火炎波動砲をもって各個撃破するつもりらしい。
私はコンバイラとベルメイトの艦砲、タブロックのミサイルによる長距離射撃で、
ともかくワイズマンとドミニオンズを狙い打つ。
直撃しなくとも損傷を与えれば、セーフティが働いて強制的にエネルギー圧が下げられる。
スレイプニルの戦術核ミサイル〈バルムンク〉も怖いが、まだ後方にいるようだ。
スレイプニルはバリア弾を持っているため、遠距離からの攻撃にはめっぽう強い。
バイドシステムβの主砲で数を減らして、初撃は貰うつもりで、ゲインズ3を切り込ませるしかないな。


手数の限り長距離砲を打ち続けるが、敵は恐ろしいほどの物量で攻めてくる。
潰しても、潰しても後ろから新しい部隊が出てくる。


『提督!ミサイル来ます。』


大型ミサイルによる飽和攻撃が繰り出される。
一部、 前線を抜けたバルムンクがコンバイラ近くに着弾する。
被害は!?


『被害甚大です。前線バイドシステム機は壊滅。ゲインズ2は無事ですが、ミストフォースも2体ほど損傷を受けました。』


バイドシステムでは耐えられなかったか…
被害が深刻な機体から後方に下げ、他の機体を前線に出す。
コンバイラも前に押し出す。ともかく敵の攻勢を止めないと、押し切られる。
私はUロッチを前に出し、敵機の鹵獲により前線の戦力不足を補うこととした。
狙いはスレイプニルの後方にちらりと見えたエクリプスだ。


『提督、配置転換完了です。爆撃機の残存機は補給を受け居ているようです。核ミサイルの二射目が来ると予想されます。』


二射目を貰えば、立て直しが難しくなる。
私は攻撃可能な全機に、スレイプニルを討つように命令する。
ミサイルの類はバリア弾に阻まれるが、小型機の主砲を無理やり通す。
敵も防御だけしているわけではないので、こちらの被害もかさむが、ともかく攻撃の手を緩めない。


『敵爆撃機、残存15%。提督、爆撃機の後方から、小型機と巡航艦、空母が見えます。』


スレイプニル狩りに間に合わなかったUロッチで、エクリプスを鹵獲させて、
巡航艦と空母の処理に当てる事にする。
投網の様な鹵獲弾がR機を捉えると、網に捕まった数機が外部からコントロールを奪われて、我々に従順な手ごまとなる。
もちろん、鹵獲弾を避けたり、喰い破ったりする機体もあるが、その場合はすぐにアンフィビアンで撃墜する。


コントロール権を失ったエクリプスが数隊くるりと、自陣に機首を向け、
そして、自らの母艦にむけて波動エネルギーを解き放つ。
巡航艦と空母に、威力を極限まで高めた衝撃波動砲が至近距離から撃ち込まれる。
巡航艦は弾薬庫に引火でもしたのか、波動砲が船体を貫通した後、爆音とともに大きなと火球となる。
空母は内部で小爆発が起こりその船体の周囲で回るリングが動きを止める。


今まで憑かれたように攻撃を繰り返していた敵に動揺走ったように感じられた。
敵R機のコンサートマスターが機首をエクリプスに向け、逡巡したように固まる。
それでも、私の命令に従ってエクリプスが再度空母に照準を合わせると、
今度は波動砲を過剰ともいえる火力で、エクリプスを撃った。


ここで捕まっても捕虜交換などでパイロットが戻されるのが普通なのだが、
パイロットの命など一切考えていないかの様な行動。
私も兵を預かる身なので、味方の命の線引きをする事はあるが、
あそこまでの行動は理解できない。
先ほどまでの味方に対してこの暴虐、やはりこの敵は危険だ。


ともあれ、絶好の機会だ。
敵の空母は息も絶え絶え、波動砲を装備しているコンサートマスターも今撃ったばかりで、チャージまで今しばらく掛かるだろう。
私はそのままUロッチとアンフィビアンに掃討に当たらせた。
近接の苦手なR機と、動けない空母ではすでに勝負は見えていたので、私はこちらの方の戦線を意識の端に追いやった。


『提督、戦艦です。南天方面戦線に戦艦を確認しました。』


あれが、この大艦隊の旗艦か?
私はミスティレディに当たらせることとした。
戦艦には主砲クラスで当たるのが良策であるが、すでに敵艦は艦首砲のチャージを終えているだろう。
戦艦の正面に立てば、瞬間消し飛ばされる。
なので、変則的な軌道の主砲を持つミスティレディに当たらせる。
ジャミング機能を持ったミストフォースと接続できるのも理由の一つだ。


後方にミストフォースを装備したミスティレディ達が戦艦の上部に接近する。
敵はコンバイラに気を取られていて、各砲門もこちらを睨んでいる。
そして、ミスティレディが全機配置につくと、一気に主砲アッシドスプレーを叩きつける。
敵戦艦は上部にある艦橋から溶かされるように破壊される。
指揮区画に届いた当たりで、大きな爆発が起きた。
最接近していたミスティレディ、ミストフォースも爆発に巻き込まれ、大破する。
あれは…自爆?
いやしかし、艦には何百人もの兵が乗っているはず…退避もさせずに自爆はさせないだろうと思いたい。


すでに危険なR機は殆ど狩っている。
敵戦艦を落とした私は、敵の戦艦のあった場所にコンバイラを移動させる。
危険だが…戦闘が終了したら一応救助をすべきか?


『提督!前方に高エネルギー反応あり、収束してます。危険です!』


急いで策敵リンクを見ると、もう一隻の戦艦が!
こちらが本命か!今から回避は間に合わない。
私はコンバイラの艦首砲フラガラッハ砲の発射を宣言する。
すでにチャージは済んでいる。


『敵、撃ってきます!』


撃てぇ!


我々の旗艦コンバイラと敵の旗艦は互いに艦首砲を叩きこむ。
エネルギーが干渉しあって強烈な光を生み出した後、
衝撃を受ける。


『フラガラッハ砲大破。各部損傷しています。』


そんなことより、敵の状態はどうなんだ。と思い私は前方の戦艦を見る。


敵の戦艦は艦首砲が壊れ、戦闘指揮所のある区画は無事のようだが、
砲門は殆どつぶれていて、戦闘の続行は不可能であることは明らかだ。


しかし、その情報も重要ではなかった。
問題はその形。
槍状構造と翼状の機関…赤い船体。
ムスペルヘイム級?
私の艦隊の旗艦であった戦艦…
どういうことだ?


私は周囲を見回す。
周囲には見覚えのある機体…R機の残骸、残骸、残骸。
私は突如突き付けられた惨状に意識が追いつかなくなる。


……友軍?
なぜ……


いや、最初私は彼らを敵だと判断したはず。
さすがに味方を間違えるはずは無いし、
もし味方であるならば、我々に対していきなり臨戦態勢を取っていた理由が分からない。
私が戦っていたのは超攻撃的文明の艦隊だったはず…
精神汚染に罹り、超攻撃的文明の艦艇が、地球の艦隊に見えているのか?


…そう、彼らは攻撃してきたじゃないか。
彼らは敵だ。
地球の兵器があったのは、地球が教われて地球の技術か兵器を奪われたのかもしれない。


ムスペルヘイム級は戦闘こそ不可能だが、
生命維持には問題ないように見える。
私は何か情報を引き出せないかと思い、
捕虜を取ることとした。


工作機とノーザリーで武装解除に向かうと、
何故か大きな爆発が起きた。
先ほどと同じ爆発。
…自爆?


唖然とする私をあざ笑うかのように赤い戦艦が宇宙のチリに戻って行った。


私は先ほどの疑問に対する答えを失った。
ともかく、先を進もう。
そうしたら、真実が見えてくるはずだ。


私は希望と不安の入り混じった奇妙な気分で艦隊を進める。




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何でも感情を司る脳の部位が損傷すると、
知人や肉親を「知っているけど親しみを覚えない人物」=「偽者」と思い込むそうです。
しかし、こんな話になるはずでは…プロット仕事しろ。

挿話の話
Angel隊の話はこれで終り。次回は26世紀地球Sideです。
こういうタイムパラドクス系はどこかで話上矛盾が発生していそうで怖いです。



[21751] 20 眠らぬ悪夢
Name: マチ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/16 19:18
・眠らぬ悪夢


【宇宙空間に浮かぶ研究施設】


私は不安と疑問の中で艦隊をこの星系の中心に向けて進めていた。
疑問とは超攻撃的文明についてだ。


超攻撃的文明…
この星系の外縁部であった彼らは我々を問答無用で攻撃し、対話すら不可能であった勢力。
そして、彼らは地球製の兵器…R機や艦艇を使用していた。


彼らは我々に対して明確な殺意を持ち、捕虜を取ろうとしたら自爆された。
あれだけの大艦隊にもかかわらず生き残りは、取り逃がした早期警戒機だけだった。
あとは文字通りの全滅。
彼らが何故地球製の兵器を使っていたか不明だ。


私が疑っているのは、地球が侵略されている可能性だ。
我々はこの航海の途中で色々な物を見てきた。


攻撃的文明とその星。
既に腐敗したなぞの文明の手による都市。
未知の植生をもった惑星とそこにある巨大な兵器。
不思議な空間で戦闘を行った謎の勢力。
そして、バイド。


我々地球人は知性をもってこの宇宙に存在するのは、自分達だけと考えていたように思う。
しかし、実際にはこの宇宙は生命で満ちていたし、地球はバイドの侵略を受けていた。
このうちどれか、またはもっと未知のなにかが地球に手を伸ばす可能性が無いなんてだれにも言えない。


それとも、彼らは…?


いや…もしここが太陽系で地球が侵略されているのであれば、
我々は地球を開放しなければならない。


私はそう考え、この星系の中心方面を目指している。
何故か…そこに答えがある気がしたからだ。


海王星と天王星らしき天体を通り過ぎ、一路恒星への進路を取っていた。
そこで、研究施設らしき巨大な宇宙施設を見つけたのだ。
施設の奥に熱源がある。まだ設備は生きているようだ。
問題は、その熱源のある区画で巨大なバイド反応が感知されたことだ。
A級バイドクラスとのことだ。


私はバイドを討伐し、情報を得るためにその研究所に進入した。




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【攻撃衛星〈盤古〉機密区画_西暦2533年】


・想定敵αに関する報告書(抜粋)


西暦2501年
・プリンストン物理学研究所で、重力波を伴う振動と、物理計測計の乱れを計測。
・木星方面探査船が外宇宙方面から地球に飛行する謎の飛行物体を観測。
・北米大陸西部が消失。周辺地域で暴風、津波、地震などの大規模な自然災害が観測。
・アジア東部、地中海周辺地域で同現象を確認。
・月面研究設備アルテミス1で高々空を飛行する物体を観測。後に想定敵αと呼称される。
・オーストラリア東部で謎の物体の落下が観測される。調査に向ったオーストラリア軍が5mほどの工業的に作られた円筒状の物体を発見したと報告、極僅かの報告結果を送信したが、その30分後にオーストラリア東部消滅。


・大陸の消失とそれによる二次災害により地球総人口100億のうち3割強が死亡。その他20億人が難民化し、産業コロニーなどに集団移民を図る。
・国連は本部機能を月面に試作していた循環型生態系モデル施設〈バイオスフィア3〉に移転。機能の拡張と都市化を図る。
・オーストラリアで報告にあった物体は、空間を消去する兵器であると断定。
・国連はアルテミス1で観測された情報を元に、外部からの侵略であるとして非常事態宣言を行う。以後、第四次世界大戦以来縮小を続けていた軍関連予算を拡大。



「…以上が、30年前、2501年に起きた事件〈ニューセンチュリー・ジェノサイド〉の要約です。」
「地球外生命体からの攻撃なんて公式発表でしたから、もっと本部では詳細な情報があると思っていたら、意外と分からないことが多いのですね。」
「…いきなりの攻撃だったからな。当時は情報が錯綜して大規模災害だとか、地球の大変動だとか言っていたくらいだ。」
「このピンボケ写真の奴が犯人だとして、何故地球「外」の侵略者なんですか?」
「はい、実は木星圏探査船で、この機体が外宇宙方面から地球方面に飛び去るのを確認しています。」
「…そろそろ、国連軍からのお客さんが来る頃だが…第二種戦闘配備なんてはじめてだな。」


巨大攻撃衛星〈盤古〉の機密区画で3人の人物が会話をしている。
この〈盤古〉を運営している国連のクルーだ。


「しかし、素晴らしい技術です。この形状を見るに翼が無い。
何らかの技術で揚力を発生させているのか…この技術を調査してみたいものです。」
「このαの技術が優れているのは認めるが、これは敵ですよ。」
「技術に良い悪いはないんです。それに比べて我々の技術と言ったら…。
平和ボケして進歩を怠ってきたのも、あの事件を防げなかった理由の一端ですよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


西暦24世紀初頭に第四次世界大戦が起きた。
地球では養いきれない人口。未だ独立生産圏とはなりえず地球に依存するコロニー群。
民族間の対立が原因であった第三次大戦とは違い、
第四次大戦は過度の人口増加と食糧問題が引き起こしたものであった。
それが人間を間引いているに他ならないことに嫌悪を覚えつつ、
自分が間引かれてはたまらないと、人々は戦争を続けた。


第四次大戦は10年たたずに終結した。
農業地帯を攻撃せず、都市などの人口過密地帯を潰しあうという、奇妙な暗黙の了解があったため、
開戦3年で人口が半減し、結果的に消費が生産を下回ったのだ。
残りの年月は世界規模に広がった戦火の収拾に費やされた。
どの国も戦争をやめたかったのだが、一部の国民感情が許さなかったのだ。
また、消費が大きく生産性に劣っていた居住区コロニーなどはほとんどが破壊され、
宇宙空間は研究施設などを除き、静まり返っていた。


この大戦の影響は大きかった。
第三次大戦に引き続き、この大戦でも存在感を示せなかった国際連合は非難を浴びた。
しかし、この戦争でほとんどの大国が衰退し、国家間の調整役が不可欠となったため、
国家間組織の必要性は依然としてあった。
残った人々は新たな国際連合に変わる組織を作ることとした。
西暦2318年、国家間連携推進機関、通称「国連」が発足した。


当初こそ、戦後問題の解決が主な仕事であった国連だが、もっと大きな問題があった。
いずれ再燃する食料問題の根本解決と、戦争で衰退した産業の再興だ。
国連の打った手は技術の配布・調整と、新規食料生産技術の開発である。


まず、過去に発明された技術や特許の多くを世界に公布し、人類の共有財産としたのだ。
一部文句も上がったが、それを後押しする技術国家や大国の威光はすでになかった。
そして、国連は国際問題の調停役という役割を超えて、
超国家的に技術を管理し、その利益を再配分する機関となり、
その需要とともに権限と規模が拡大し、一つの巨大国家のようになった


国連は食料人口問題の解決作を遺伝工学に求めた。
食糧生産技術に限定してその規制をかなり緩め、低生産コストで量産できる食物の開発を目指した。
そして、動物様タンパク生成植物が開発された。いわゆる代用肉プランツといわれるものだ。
生産コストの高い食肉にかわり、低コストで生産されるタンパク、カロリー源が得られたのだ。
国連は生産コストの高い食物の生産を人類の敵として抑制し、
かわりに代用肉や、高機能野菜への転換を進め、食糧生産量を大幅に上昇させ、
また、徹底した性教育や女性の社会参加を推進することで緩やかな人口の増加抑制を図った。
人類はその後150年に渡って、人口を地球の許容人口内に留め続けた。
その後に人類は遺伝子工学を利用して、新たな食用の動植物を「創造」するまでになっていた。


だが、技術の再配分には問題もあった。
技術進歩の停滞だ。
国連は軍事転用の恐れのある技術を抑制した。
実際、国連の利益配分は巧みで大きな問題や不満も起こらなかったし、
平和教育も相まって、軍事関連技術を開発していると知れた国や企業は干されたのだ。
人類は戦争という単語に過敏になっており、兵器となりえる新たな技術の開発を恐れた。
新たな技術の開発は抑えられ、既存技術の改良が主な物と成った。
平和は西暦26世紀まで続いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ああ、2501年まで国連の調整のもと、地球は第四次世界大戦以来180年に渡って戦争の無い状態だった。
富を分け合うことで比較的平和に暮らせた。生産調整の名の基で技術は平均化され、ほとんど進歩は止っていた。」
「…」
「それに比べてこの30年はどうです。種の危険を察知した瞬間、技術革新は凄まじい勢いで進んだ。」
「必要は発明の母ということですか。」
「それを言うなら軍事化も進んだな。昔であれば軍人は日陰者であったからな。」
「そうだね。このご時勢でなければ、こんな攻撃衛星なんて運用できないよ。」
「この衛星は戦争の引き金になるとして、国連を非難する団体は未だにいますが。」
「どうせ、自分が戦争に巻き込まれるのが怖いだけだ。
大規模移民船も完成したから、平和主義を叫ぶ声も一応静まるだろう。」


3人。軍服と私服とスーツの男達は会話をしながら誰かを待っているようだった。
良く見ると軍服とスーツの男の顔には緊張が滲んでいるし私服衣の男も少し興奮気味のようだ。
3人とも頻繁に時計やドアの方を見ながら会話をしている。
そして、ドアが開いた瞬間に、部屋の空気は緊迫したものに変わる。
歩いてきたのは頭を刈り上げた40代の男で、スーツをきているが似合っていない。


「国家間連携推進機関国連保安部、一等武官のレハニアスだ。時間が無いので話を進めます。」


よろしいですな。と確認した後一気に話し始める。


「国連時間の本日4時32分に、木星―土星圏で不振な重力震が観測された。これと同様のものは2501年…〈ニューセンチュリージェノサイド〉の前に観測されている。前回と同じ敵である場合、地球への攻撃は6時30分前後に始まると推測される。…あと40賓ほどだ。国連保安部では、4時50分、地球防衛計画群の発動を承認、この攻撃衛星〈盤古〉の運用を決定した。作戦に使用する〈盤古〉機能の説明は…技術班の方が詳しいな、時間が無い手短に頼む。」


私服の男が進みでて話し出す。


「では、簡単に〈盤古〉には多くの機能が搭載されていますが、今回関係する物だけを説明します。〈盤古〉にはステルス機能が搭載されています。攻撃時、姿勢制御時とシャトルのドッキング時を除いてほぼレーダーには映りません。現在は戦闘状態を取っておりこちらから攻撃しない限り発見されることは無いでしょう。」


詳しいデータが投影されるが誰も見ていない。


「続いて攻撃手段。想定敵αは30年前の目撃情報から高空を飛行してあの空間消去兵器を使用しました。我々はさらに上空に潜み、αが攻撃範囲に入り次第、収束レーザーで攻撃します。このレーザーは100以上もの衛星を経由して届けられる太陽光をこの〈盤古〉上部に集め、収束させて目標に反射させて敵を撃破します。ステルスこそ解除されますが、内部エネルギーをほとんど用いないため、発射前に気取られる確率は小さいでしょう。」


「もうひとつは、敵本拠地を確認した場合の攻撃です。αの本拠地は惑星かコロニー型の都市を想定していますが、これに惑星破壊型兵器〈B1〉をぶつけます。〈B1〉は遺伝子工学技術で作られた擬似生命体で、現在は素子状態で高硬度カプセルに封入していますが、着弾の衝撃で外部に出て、その場所を宿主として認識し、あらゆる物質を用いて増殖します。〈B1〉は増えるだけですが、その特性から全てを食いつくすまで止りません。食料がなくなると自己死滅するようにプログラムされています。」


長い説明を早口でまくし立てた私服の男が若干息を荒くして言葉を止める。
軍服の男が内容の確認を取る。


「αを発見次第収束レーザーで攻撃し、母星かなにかが見つけられればその〈B1〉を打ち込むわけか。」
「そうだね、本当は次元消去型弾頭を準備していたのだが間に合わなかった。遠距離へ射出する機構が出来上がらなかったんだ。」
「次元消去型弾頭?」
「αが30年前に使用した空間消去型兵器。あれを模造している内にできたもので…、まあ、範囲こそ狭いのですが、この次元から根こそぎ消滅させる兵器と思ってくれれば良いです。」


もとから部屋に居た3人が会話を交わす。
とそのとき、咳払いが聞こえる。レハニアス一等武官だ。


「説明ご苦労だ。これが我々の武器だ。他にも地上戦力として対空砲など稼動させているが、効果は薄いだろう。これ以上の攻撃は地球文明を決定的に衰退させる。国連も30年前から宇宙に機能や技術を移転してはいるが、依然として地球の比重は重い。ここにいる中には武官で無いものも多く戦場にだすのは心苦しいが、地球人類の生存のためによろしく頼む。」


『warning.warning.アフリカ大陸上空で想定敵αを確認。』


部屋の隅に設置された赤いライトが点滅し、その場に居たメンバーの顔に緊張と焦りがよぎる。


「きた…えーと、収束レーザーの発射準備…いや、〈B1〉射出の準備?」
「落ち着け、まずは情報収集からだ。〈盤古〉とαの交差ポイントを割り出せ。レーザーはミラー衛星に信号を送って、撃てるように準備。スレルス強度最大!」
「現在、〈盤古〉の軌道ではアフリカは攻撃範囲外です。機体制御で軌道を変更しますか。」
「機体制御を行えば、ステルス性が解けるだったな?」
「え?あ、はい。正確には噴射によりステルス強度が大幅に下ります。」
「では却下だ。この〈盤古〉は防御力など無いに等しく、我々は〈盤古〉の他にはαを確実に落とせる攻撃方法を持っていない。一撃必殺でなくてはならない。」
「迎え撃つのですね。しかし何処で?」


レハニアス一等武官と周囲の3人が慌てながら、機器を操作して迎撃に備える。
そして、30年前とは全く変わってしまった世界地図を見やる。


『報告、アフリカ北東部消失。報告、アフリカ北東部消失。』


息を呑む音が聞こえる。


「アジアだ。恐らくαは人口集中地域を狙っている。アジアは未だに人口密度が高い。恐らくそこを攻撃するつもりだ。」
「〈盤古〉はこのままの軌道ですと、10分後にアジア地域上空を通過します。」
「賭けだな。もしそこでαを攻撃できなければ、軌道修正をしても強硬攻撃を行う。」
「了解しました。」


緊迫した時間が流れる。
通信からはアフリカ地域の被害報が流れてくる。
非常事態を示す赤いライトに照らされているが、
全員顔色が蒼白であることが、容易に予想できた。


「α移動を確認。…アジア方面です!」
「来たか。タイミングは?」
「このタイミングですと3射が限界です。」
「初撃で決める。レーザー準備を。」


衛星上部の採光システムが起動する。
ここに集められた光が、収束機構を通して、目標に発射される。
すでにいつでも打てる状態になっている。
オペレーターを兼務している私服の男が汗ばんだ手を頻繁に拭っている。


「来ました。αです。発射可能角度まであと、30秒。光学望遠モード…スクリーンに映します。」
「!…なにか投下した。」


地平線近くギリギリに写っているαを見ると、長い棒状のものを落としたのが確認できた。
彼らはそれが、つい先ほどアフリカを消し飛ばしたものであると知っていた。
しかしまだ、発射角度が取れず迎撃は出来ない。


「アジア地区消滅………発射まであと10秒です。5,4,3,2,1…」
「照準をつけろ。」


〈盤古〉宇宙の集光ミラーから受けた光を収束させて、アジア上空から飛び去りかけている敵に集光レーザーを叩きつける。
敵が予想外に早く直撃は無理であったが、足を止めることに成功。
第二射はアジア地域消滅による衝撃波の余波で標準がぶれて失敗した。


「第三射用意!最後だ。外すな!」
「αの動きが止りました!エネルギー増大!自爆するつもりです!」
「落ち着けここまでは届かないはずだ。」
「衝撃波来ます!」


目の前でαが一瞬光り輝き周囲の物質が消える。
自然は真空を嫌う。
真空状態となった爆心地に向って周囲の空気が動き、穴埋めをしようとする。


「〈盤古〉制御利きません。落下します!」




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【宇宙空間に浮かぶ研究施設】


内部は異様な雰囲気だった。人の気配はすでに無いが、施設は稼動している。
既に退避したのだろうか…
調査によりこの施設の際奥に大型のA級バイドが居ることが分かっている。
今回の目的はこのバイドを撃破することだ。


『提督、戦闘準備が整いました。…なんだかお化け屋敷みたいな雰囲気ですね。』


ヒューゲル少尉だ。
別にこの研究施設が暗いとかではないのだが、入り口で溢れていると予想した小型バイドが見えない。
確かに、何が現れるのか非常に不安をかき立てられる。


今回、施設内の戦闘と言うことで、大型艦は入れないため、輸送艦ノーザリーのみの出撃となる。
私は進軍を命令した。


『っ提督!敵機です。超攻撃的文明軍のものと思われます。』


曲がり角の先に居たのはナルキッソス…やはり地球の兵器か。
この施設を警備していると言うことだろうか。
全部で5隊か…デコイもいるだろうから、本当は半数くらいだろうが、
細い通路に居座られると非常に邪魔だ。


いつもなら敵を一掃するのにゲインズを選択するのだが、
バイドシステムβを前に出す。
バイドシステムのデビルウェーブ砲は追尾効果があるので、入り組んだ場所では便利だ。
ナルキッソスの集団に向けてデビルウェーブ砲を放つと、
避け切れなかったナルキッソスがはじけ飛んでいく。
まだ数体のこっているが、後続隊に任せる。
私は防御反応を行わないナルキッソスは捨てておく。デコイだ。
私は、デコイを無視して通路の奥へと艦隊を進ませる。
もちろん、こちらもノーザリーのデコイを作りだし、敵のデコイが来ないように通路を塞いでおく。


『提督、通路奥にバイド反応があります。でも…なんかバイドにしては反応が小さい?』


不安な報告に、私は亜空間機アンフィビアンを投入し、壁面から索敵させる。
アンフィビアンからのリンクで見えたものは、気色の悪い機体であった。
R機のコックピットの周りにゲル状のバイド体が付着している。侵蝕されているのか?


『なにあれ…バイドに取り込まれているの?』


良く見ると胴体部にマーキングが見える。BX-T DANTALION…ダンタリオンか。
コックピットブロック以外を侵蝕されている機体は無い。
先ほどのナルキッソスは普通だった。
じゃあこの機体もこれが常態なのか。


『提督、あのバイドR機が来ます。』


通路の奥からダンタリオンが姿を現す。奇妙なフォースを装着している。
私はバイドシステムβとクロークローを通路の上下から挟み込むように向わせる。
ダンタリオンがキンとする音を発したと思うと、ダンタリオンの前方の広範囲に衝撃が走る。
踏み込みすぎたバイドシステムとクロークローが爆ぜる。



波動砲?効果範囲が大きい。


『後続の機体も撃ってきます。提督、前線を引かせましょう。』


いや、引いたら敵の思う壺だ。
私はゲインズを呼び寄せて射程距離ギリギリから陽電子砲を撃たせる。
貫通力に優れる陽電子砲がダンタリオンを打ち据えていく。
どうやら、耐久力はR機と変わらないらしい。波動砲さえなければ、敵ではない。
私はこの奇妙なR機が非常に不快でならなかった。即座に殲滅を命じる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


赤いナルキッソスⅡ、昔グリトニルでみた奴が壁を作っていたのを撃破して、
巨大な施設にたどり着いた。
ここまでに、ゲインズ3を一隊、クロークローとバイドシステムを失っている。


『提督、この区画の奥から大型バイド反応があります。どうしますか?デコイ索敵します?』


さて、どうするか?
A級バイドは基本的に巨大で動かずにいることが多い。
ただ、索敵能力が非常に強力なので、迂闊に近づくと一瞬で消し飛ばされる。
今までの実績で行くなら、ヒューゲル少尉が言うとおりデコイを突撃させて索敵をかけるというのが一番安全なのだが、
瞬間で消し飛ばされて、索敵も出来ませんでしたでは話にならない。
しかし、戦力を削られたくは無いし…


『提督、ミストフォースがいるならデコイはいらなくないですか?』


ヒューゲル少尉がそう言ったのは、私が腐れPOWデコイとミストフォース、
そしてミスティレディをA級バイドのいる区画内に送り出したからだ。
ヒューゲル少尉の懸念はもっともだが、デコイはデコイ本来の役割をしてもらう。


ミストフォースは燐光を撒き散らしてジャミングを始める。
そのミストフォースを機首につけたミスティレディが慎重に進軍し、
その側を腐れPOWアーマーのデコイが続く。
ジャミングのお陰で見つかりはしないが、小型機の索敵範囲は決して広くないため、
近づかないと敵を発見できない。
私はその様子を注視しながら、ノーザリーを研究所の監視塔の影に隠して、
残りのミストフォースにも待機させる。
その間も偵察部隊は奥に進む。そろそろ区画の中央あたりだ。


『…提督!敵機発見しました。複数です…これはドプケラドプス?それと…?』


画像に写ったのは、異様な物だった。
長い頭部と湾曲した背骨、それに連なる長い尾、張り出した腹部。
それは明らかにドプケラドプスの特徴を備えていた。
しかし、何より異様なのは機械部品のようなもので、この施設と接続されていることだ。
頭部や腹部の各所は金属板で固定されており、まるで拘束具のようだ。
そして半透明の腹部では何かがうごめいているのが見える。


もう一つ異様な物。
ドプケラドプスに群がるようにあるソレは、やはりドプケラドプスのように見えた。
しかし、我々が知っているものよりサイズが小さく、せいぜいタブロック程度の大きさしかない。
ただ、この小さいドプケラドプスは固定されておらず、自由に漂っている。
これは…ドプケラドプスの幼生だろうか。


『提督…あの小さいドプケラドプスが大きな方から出てきます。あれは…赤ちゃん?』


何時もは勝気なヒューゲル少尉だが少し引き気味だ。
ドプケラドプスの幼生が大きなドプケラドプスの腹部から産み落とされていた。
生むというより、母体を食い破るように出てくる。非常におぞましい光景だ。


ドプケラドプスはコアからドプルゲンMAXと呼ばれる広域攻撃を行うことが知られている。
問題はあの幼生もその攻撃を行うのかどうかと言うことだ。
さて、デコイに本来の仕事をしてもらうとしよう。
私はデコイをジャミング範囲から移動させ、敵の索敵範囲に送り出す。
すると…


『小型ドプケラドプスのエネルギー増大!提督広域攻撃が来ます。』


突然現れたデコイに、2体の幼生が同時に攻撃を仕掛ける。
その小さな体からは想像できないようなエネルギーを吐き出す。
デコイを消し飛ばしてなお威力が衰えず、施設の壁面に当たってやっと拡散した。


『デコイを連れてったのはこういう意味だったんですね。しかし、どうしましょう、あれ。』


そう、どうするかが問題だ?
デコイで不意打ちを防げたのはいいが、分かったのは非常識なほどの火力を持っているだけ。
敵に攻撃の隙を与えずに一気に殲滅したいが、難しい。
幼生達は4体、腹の中にいるのを含めればもっとか…
小型機の主砲では火力不足だし、母体のコア前にたむろしているとはいえ、全てを巻き込めない。


『しかし、恐ろしい威力ですね。この壁が無かったら私達巻き込まれて全滅していましたね。』


…ん?
巻き込む?
彼らがバイドであるなら、そういう手段も可能かもしれないな。


私はヒューゲル少尉にお礼を言って、新たな腐れPOWデコイをジャミングで隠したまま向わせる。
ヒューゲル少尉は疑問顔だ。何で礼を言われたのか。何をするのか分からないのだろう。
私がヒューゲル少尉に説明すると、彼女は呆れ顔になって、上手くいきますか?と聞いてきた。
まあ、賭けには違いないがデコイが消し飛ぼうと被害とはいえない。


2機目のミストフォースは先行していた先ほどのミストフォースを通り過ぎ進む。
幼生の上をばれないように低速で通り過ぎて、幼生の群をすぎた辺りで止る。
既に、ドプケラドプスの母体の目前と言っていい距離だ。
そして、私の命令どおりデコイがコアの前に飛び出す。


敵から見れば、またもや突然に現れたデコイ。しかもコアの面前だ。
当然、排除しようとするが、幼生は入り口側…つまりデコイとは逆を向いている。
生まれたてのドプケラドプスの幼生は、尾を動かしてゆっくりと方向転換をしている。
しかし、母体は違う。コアの眼前…ドプルゲンMAXの射程内である上に、
コアに接して自爆準備までしているのだ。
母体はこの危険な邪魔者を消し飛ばそうとドプルゲンMAXを発射する。
デコイごときが耐えられるはずもなく四散する。
…もちろん、コア前にたむろしている幼生を巻き込んで。


『デコイと、敵小型ドプケラドプスの消滅を確認しました。…マジですか?』


バイドは仲間意識が薄い。
というよりは全体で一つの個体というべき基準を持っているのかもしれない。
だから、自らが生き残るためには味方を巻き込むことも問わない。
特にA級バイドは周囲のバイドの中心となる存在であるので、それが顕著だ。
幼生を残して、自らがやられる危険を冒すよりは、
幼生ごと吹き飛ばす方が生存に有利であるという計算だろうか。


ともかく攻撃だ。
あのドプルゲンMAXはチャージに多少の時間が掛かるし、
そして、危険度の高かった幼生も今は全て居ない。
敵は丸裸だ。このチャンスを逃す手は無い。


『チャージ済みのクロークロー、ゲインズ2、ミスティレディを突入させます!コンバイラはどうしますか?』


コンバイラは露払いだ。
敵のドプルゲンが無いとはいえ、頭部砲門と腹部砲門は依然として健在だ。
私はコンバイラで近づいてそれらの砲門を牽制する。


『敵小型ドプケラドプス出てきます!』


かまうな!
クロークローがそのままコアに近づき、主砲を放つ。
爪の形をしたエネルギーがコアに食いつくように猛威を振るう。
しかし、さすがにA級バイドだけあって、まだ健在だ。
後ろからゲインズ2が陽電子砲でコアを狙撃する。
クロークローを掠めるように発射されコアに炸裂すると、腹部が破壊された。
煙が晴れて見えたのは、装甲が剥がれてむき出しになりひび割れたコアと、ドプケラドプスの幼生…!
母体から強制的に追い出されたのを怒ったのか、幼生がドプルゲンを発射して来る。
クロークローとゲインズ2がその禍々しい粒子に飲まれて消し飛ばされる。


『クロークロー、ゲインズ2全滅しました!残りの攻撃隊はミスティレディだけです。』


恐らく後一撃入れればあのコアは破壊できるだろう。
後に引くと言う選択肢はない。
ミスティレディを向わせ、アッシドスプレーをコアに叩きつける。
クロークローとゲインズ2を消し飛ばした幼生もそれを浴び、
甲高い悲鳴のような音を出して、暴れながら溶ける様に消えていく。
その後ろにあったコアも破片を撒き散らしながら崩壊を始める。


半ば拘束された尾や頭部が暴れていたが、澄んだ金属音とともにコアが完全に破壊されると、
拘束具にもたれかかる様に沈黙した。
その様子はバイドながら哀れを誘うものであった。


既にドプケラドプスの周辺の機器以外は壊れており、
生きていた機器もこのA級バイドとの戦闘で破壊されてしまった。
もっと真剣に探せば手がかりは会ったのかもしれないが、
私はこれ以上この施設にいたくなかった。


私はドプケラドプスの屍をコンバイラのフラガラッハ砲で完全に破壊して、
この研究施設を後にした。


あのドプケラドプスは拘束され、子を宿していた。
培養炉として利用されていたのだろうか。
バイドが単純に増殖するならば母体は必要無い。やつらは素子から再生可能だ。
拘束してあったということは、バイド以外の第三者の関与がある。
私は当初、この施設は放置されバイドの巣になったと考えていた。
しかし、内部には汚染されていないR機が居り、R機とバイドの中間のような謎の戦闘機もいた。
あれらは明らかに侵入者である我々を排除し、あのドプケラドプスを守ろうとしていた。


バイドを利用する…
私が想像したのは、以前戦った太陽系開放同盟の研究していたバイドバインドシステム(BBS)だ。
しかし、太陽系開放同盟本隊は全て消滅したし、BBSの詳細は私が握り潰したはずだ。
他の人間からもれた可能性もあるが…


私は思索に沈んでいたのだが、そこにヒューゲル少尉が空気を読まない発言をする。


『しかし、二度あることは三度あるとは言うけれど、三度どころか一気に10体超ですか。
提督…なにか憑いているんじゃないですか?』


五月蝿い!




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実際にはドプケラドプスの培養炉(ドプケラママ)はドプルゲンMAX使いません。
書いた後、気がついたけど放置してみた。だってほら二次作だし…
次は「文明の跡?」です。タクティクス2ではラストダンサー唯一の見せ場ですね。
そろそろゴールが見えてきました。

挿話…終わりませんでした。TYPERなら余裕で後の展開が分かる感じですが、続きます。
にしても、地球人は追い詰められると碌な事をしないですね。

ひっそりチラ裏の「プロジェクトR!」を更新。
違う世界の話だけど、微妙に本作の番外編7話とリンクしています。

ねんがんの ちきゅうぼうえいぐん2をてにいれたぞ!
PSP版買いました。でも友達は別売らしいのでシングルプレイです。



[21751] 21 夕陽の街
Name: ニカ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/04/27 00:02
・夕日の街







見覚えのある場所

見覚えのある仲間達

だけど……なぜ?




















【超攻撃的文明の遺跡群】



海面に映るのは暮れかけた太陽。
空は見事な黄金色。
しかし、そびえ立つ摩天楼は苔むして、風雨に晒された年月を物語っている。
そして、かつて街を照らしたであろう文明の灯はすでに無い。


夕日に照らされるかつての都市。
そこで私達を出迎えたのは、
人々の歓声と祝福ではなく、
臨戦状態の艦隊とR機だった。


私の目にはここが明らかに地球であるように見える。
しかし、ここが地球ならば私の理解を超えている。


なぜ、我々が防衛したはずの本部基地が廃墟になっているのか?
なぜ、ついこの間まで人々が住んでいた街が苔むして遺跡のようになっているのか?
なぜ、仲間達はこちらに銃口を向けてくるのか?


これをバイドに侵蝕されたのかと思っていたが、
目の前にいる彼らからはバイド反応が感知できない。
地球が異文明に占領されているのかとも思ったが、
見たところ占領どころか都市があった痕跡しかない。


これはどういったことなのか?


私の疑問を他所に敵艦隊が布陣を終えて攻めてきた。
考えている暇は無い。
私はこの耐え難い現状を打破しなければならない。


敵艦隊は都市上空に布陣している。
私もコンバイラを旗艦として、攻撃隊を編成する。
とりあえず、生き残らないことには何も得られない。


これはもはや、真実を知るための戦いだ。




_________________________________________________________________




【月面施設バイオスフィア3国連本部_西暦2534年】



月面上の半球に覆われた施設が連なっている。
人類が恒常的循環環境システムの実験として作ったバイオスフィア3と、
それに増設された設備群だ。
地球から退避した国連本部が移転しており、有用技術の保存と技術者の疎開が目的であった。


「事務総長。前年末の事件の被害レポートがまとまりました。」
「想定敵αによる第二次〈ニューセンチュリージェノサイド〉と惑星破壊型兵器暴走事故か。」
「被害はアフリカに続き、アジア東部の消滅。周辺地域で衝撃波による破壊を確認。大陸の喪失による海水の大規模移動に伴う津波被害が沿岸各国に拡散。被害総額は10兆統一ドルを超えるでしょう。」
「被害額なんてどうでもよい。問題は復興が可能かどうかだ。技術…いや文明を一定水準に保つには人口と資源が必要だ。拡張を続けているとはいえ、このバイオスフィア3では収容人数には限りがある。技術の保存は出来ても、シェルター以上の働きは期待できない。」


窓の無い部屋には二人の人物。デスクに座っている人物と、
端末を手に報告を行っている人物。
国連の事務総長と技術管理理事会の技官長だった。

「…2533年におけるαの被害は限定的でした。問題はその後です。」
「〈デモンズドロップ〉か。」
「はい、αは攻撃衛星〈盤古〉による攻撃で中破しましたが、αの空間消去型兵器による自爆とその余波で〈盤古〉は東南アジアに墜落しました。〈盤古〉には惑星破壊型兵器〈B1〉が搭載されていました。もちろん暴発しないように安全装置として外郭で封印され、目標惑星に打ち込まなければ、作動しないはずでした。」
「実際に暴走は起こったのだ。その安全装置はなぜ外れた。」
「〈盤古〉のクルーの一人がαを確認したときにパニックを起こして、〈B1〉のセキュリティキーを打っており、内部安全装置が外れております。武官の制止により外郭安全装置は外れませんでしたが。」
「しかし、それでも外郭はただの自由落下程度では破壊されないのではないのか?」
「ええ、レールガンで打ち出すことを想定していますから。しかし、〈盤古〉の墜落した状況が特異すぎました。αの自爆で周囲の空間が消失、真空状態になりました。〈盤古〉は強い力で吸い寄せられ墜落、その衝撃は外郭を歪ませるに足る衝撃だったのかもしれません。」


被害情報が列記された端末を見て、ため息をつく事務総長。
対する技官長も暗い顔をしている。


「〈盤古〉落下24時間後に極東地域で異変が観測され、〈B1〉が発動していることを確認。
48時間後には東南アジア諸島群を侵蝕。100時間後に地球における残存戦力を投入して〈B1〉の殲滅作戦を開始するも壊滅。120時間後、国連本部で時空消滅型兵器を承認。152時間後、次元消滅型兵器による地球の絨毯爆撃により、〈B1〉消滅を確認。…これが流れです。」
「地球は完全に人間が消滅した…だったな?」
「詳しい調査に入ったわけではないので、分かりませんが恐らくは…」


「自分の兵器で自らの首を絞めるか…人の業だな。」


「その他に保存されていた〈B1〉はどうした?」
「はい、命令通り、外郭ごと次元破壊型兵器による廃棄を行い、この次元から完全に消滅しました。」


「…。事務総長、これを。」
「記録媒体?高セキュリティーのもののようだが。」
「ここに疎開させた物理学者からの提言書です。」


記録媒体を受け取った事務総長はセキュリティーカードを端末に通して、中のデータを受け取る。
最高レベルのセキュリティだ。
技官長は事務総長の許可を取ってから、一人の初老の男性を部屋に入れる。
初老の男性は物理学博士を名乗り、代表で提言を言いに来たと告げた。


「なんだね。この数値は、大気密度?こちらは地球重力の変化?衛星の軌道シミュレーション?磁力測定?」
「事務総長。それらのデータは裏づけに過ぎません。問題は論文の方です。」
「『地球の環境の重大な変化と重力変化による二次的ハビタブルゾーンの消失』…。博士、理解できるように説明を求めても?」
「はい。この度の一連の事件…第一次、第二次〈ニューセンチュリージェノサイド〉と惑星破壊型兵器〈B1〉の暴走事故〈デモンズドロップ〉によって、地球は大きなダメージを受けました。」
「ああ、人間は地球から駆逐され、復興の目処すら立たない。」
「事務総長…。すでに地球は人間が住める環境にはありません。現在の地球の状態は陸地の80%が消失。大気はすでに70%消失。巻き上げられた粉塵により寒冷化が進行。…なによりコアが停止しました。」
「コア?地球の中心のかね?」
「ええ、すでに磁力異常が見られます。20年以内には完全に停止するでしょう。そして、火山活動も不活発になり、地球は急速に冷えてゆくでしょう。人類は住めません。」


博士が呼び出したデータ上で、地球環境のシミュレートが映像化される。
うめき声を上げる事務総長。技官長は沈痛な表情のまま下を向いている。


「対応策は?」
「残念ながら。」
「地球が住めなくなるのなら、全面的に月に移転か。このバイオスフィア3のような恒常的循環環境システムが必要になるな。」
「違うのです。次のモデルを見てください。」


博士は端末を叩き、新たなシミュレートを表示させる。
底に現れたのは地球と月を俯瞰したもの。
すでに地球は陸地がなくなり、濁った青色をしている。
訝しがりながらも映像を見る事務総長。


「見やすくするために、視覚上は距離の縮尺を縮め、その他の視覚パラメータもいじってあります。今後の地球と月の物理シミュレートです。」


博士がシミュレートをスタートさせると、月が地球の周囲を回り始める。
どうと言うことは無い、教育教材でみるような地球を回る月の様子だ。
それでも、月が20周程度したころから異変が現れる。
月の軌道がぶれ始めたのだ。始めはほんの少しの軌道のズレであったが、
周を重ねるごとにその、歪さが増し、不安定になってゆく。
次第に楕円軌道を描き始め、その焦点距離が開いていく様子が流れる。


そして、
地球を彗星のような軌道を描いて廻っていた月が、
ついに地球を離れて独立した。
事務総長は汗をかいて青い顔をしている。
技官も博士も無言だ。
事務総長が震える声でたずねる。


「どういうことだ?説明を。」
「地球と月はもとより際どいバランスの上で成り立っていたのです。しかし、今回の事件で、大量の空間消滅兵器や次元消滅兵器が使用され、地球はその質量の数%を失いました。それは引力で手を結んでいた、地球と月を引き離すには十分な打撃でした。」
「…これが、我々の未来だと?」
「正確には、現在のデータを入力した物理シミュレートの結果の一つです。初期条件の誤差を考え、数値を変えて100回反復しましたが、基本的に大差はありません。月は今後10年以内に80%以上の確率で地球の衛星を外れます。」
「…猶予は?」
「短いモデルで2年、長くても10年です。地球衛星軌道を外れれば、冷え切った外宇宙に放り出されて小惑星帯に飲み込まれるか、太陽に落ちるかです。」
「地球もダメ、月もダメ。最短で2年以内に、他の惑星に移住をしなければならないと?」
「ええ、そうです。幸いにも移民船‘カルナバルグランデ’は残っていますし、種の保存と言う意味では他に手が無いわけではありません。」


すでに疲れきった表情をしていた事務総長は、最後の一言を聞き、顔を上げる


「〈B1〉にも用いた保存用外郭〈ファインモーション〉に人の受精卵と保育器をいれて、移民船とします。受精卵の段階ならばコールドスリープ状態にも耐えられます。もちろん最低限のサバイバルが可能な設備を入れてです。」




________________________________________________________________________________




【超攻撃的文明の遺跡群】


私は展開した部隊を見渡し、簡単に作戦を立てる。
敵はかなり大きな艦隊だ。その遺跡群に遮られ、
索敵できているのは手前の海岸まで。
敵の艦艇は遺跡の陰に隠れており、今は有視界では確認できない。


確認できるのは、港の入り口からこちらを睨んでいる水上艦ラーン級。
水上艦とはいえ艦艇だ。その索敵能力はR機より高い。
ここに居られると敵にこちらの動きが筒抜けになる。
沈めるしか無いだろう。


私は水上艦一隻に対しては過剰とも言える戦力を差し向ける。
ベルメイトとアンフィビアンだ。
ベルメイトは遠距離から艦橋とミサイルを潰そうと、衝撃波を叩きつける。
さすがに上部構造物はひしゃげ、ミサイルサイロを破壊するが、指揮機能は喪失していないようだ。
私はアンフィビアンを向わせ、戦闘指揮所のある場所を打ち抜かせる。
あとは勝手に浸水して沈没するだろう。初戦ごときで手間取っていられない。


アンフィビアンを亜空間に伏せてそのまま遺跡に潜り込ませる。
敵はこの遺跡を要塞として使うつもりのようだ。
壁の中に隠れて敵の様子を見ることとした。


その時アンフィビアンに亜空間で何かがぶつかってくる。
アンフィビアンは大質量物体内に潜伏中であるので、通常空間に引き戻されることは無かったが、
ぶつかってきた方は通常空間に現れた。
その機体を見て私は愕然とする。


極限まで無駄を切り詰めたシンプルなデザイン。
換装可能なフォースコンダクターと波動砲ユニット。
究極互換機Rwf-99 ラストダンサー。
最強のR機が亜空間に潜って迫っていたのだ。


っ!
私はすぐ様、護衛機をつけてベルメイトを前線に出す。
亜空間に潜むラストダンサー。
艦隊の規模から見て恐らく1機や2機ではない。
かなりの数でくるはずだ。


本部防衛戦のとき見たときは、あの‘互換機’という特性に目がいったが、
あとで報告書を見てその機体性能の高さに驚いた。
あれが一気に攻めてくれば、受け止めきれない。
せめて、亜空間にいるうちに半数だけでも戦力を削りたい。


ベルメイトから亜空間バスターの爆音が聞こえる。
取りあえず、索敵代わりに撃った。
反響を利用して周囲の亜空間機の所在も確認できる。
私はリンクを通して示された結果に唖然とする。


亜空間機の所在を示すマークが艦隊の周囲に広がっている。
すでに半包囲されていた。
亜空間バスターの効力内しか表示されないが、恐らくもっといるはずだ。


私は矢継ぎ早に指示を出してゆく。
亜空間ソナーを持った索敵機ジータの出撃。
ベルメイトへの陣形変更命令。
亜空間バスターの補給のために腐れPOWアーマーを貼り付け。
アンフィビアンをベルメイトの亜空間バスターに巻き込まれない位置に配置する。
護衛機も増やす。


亜空間バスターの破裂音が聞こえる。
そのたびに、ラストダンサーが亜空間に消える。
敵軍は亜空間戦法を過信しているようだ。
しかし、付け入る隙は有る。


先ほどから、ラストダンサーは亜空間から攻めてくる。
亜空間戦法は優れた攻撃法である。
「何処にいるのか分からない」ことは大きなアドバンテージだ。
場合によっては「そこに居る」こと自体も悟らせないこともできる。
亜空間戦法はその攻撃を秘匿し、奇襲を加えることだ。
手間は非常にかかるが、大隊規模で敵地の真ん中に乗り込むことだって可能だ。


しかし、この戦法は攻勢に用いてこそ効果のある戦術だ。
基本的に攻撃側が時間や戦場の指定することができるが、
防御側は陣を構えられる代わりに、受身になることが多い。
しかも拠点防衛となれば、だいたいの布陣が特定できてしまう。
奇襲ができないのだ。
それどころか、もし亜空間機の位置を特定されれば、
亜空間バスターで一網打尽にされる恐れもある。


私が亜空間戦法をあまり用いなかったのはこの所為もある。
策がばれた場合のリスクが大きすぎるのだ。
第三次バイドミッション前にストライクボマー大隊が、バイドに破れ全滅したのもこのためだ。
亜空間戦法で一気にバイドの大群の中枢を叩こうとしたが、その規模が祟って攻撃が露見。
亜空間から出てくるところを狙われて、物量で押し込まれて全滅している。


索敵や足止めに使うのがもっともリスクと効果のバランスが良いと私は思っている。
亜空間機の量が揃わないということもあるが。


敵の指揮官は機体の能力を最大限に発揮させようと、亜空間戦法に拘っている。
この場合は悪手だ。
…これを利用しない手は無いな。
私は陣形変更の指示を出す。


亜空間バスターの発射を控えさせ、ベルメイトを上空から少しずつ進軍させる。
通常空間に戻ってきたラストダンサーの圧力は健在であるが、
すでに、亜空間バスターで数が減少している。
護衛機として付けたアーヴァングやクロークローなどの小型機が、
二機一組になって対応する。
ラストダンサーはクロークローの爪から機動を駆使して逃れては、
アーヴァングのフォースを避けてミサイルやレーザーを叩き込んでくる。
2対1でもなお引き分けるだけの力を持っているとは…。



それでも、バスターをくらって数に劣るラストダンサーは次第に押し込まれ、
戦場は海上から遺跡上空に移ってゆく。
ベルメイトが前に出るのに伴い、ノーザリーやコンバイラなどの艦艇を、
海際に林立する摩天楼であったものに張り付かせる。
その他の機体も立ち並ぶ遺跡に張り付くように展開する。


ベルメイトも被弾が激しくなってきた。
…そろそろ頃合か。


ベルメイトが遺跡群のほぼ中ごろまで進軍したところで
ベルメイトに命じる。
亜空間バスターを発射するようにと。


特徴的な音が響きわたる。
同時に亜空間から破砕音だけがこだまする。
確認できただけで、20機は下らない。


ようは追い込み漁だ。
ベルメイトに遺跡上空を進軍させれば、敵はベルメイトの後ろに回ろうとする。
亜空間潜行で遺跡の中を自由に移動できるラストダンサーは、
亜空間に潜り、遺跡の中を透過して、ベルメイトの後ろに出ようと進軍してくる。
しかし、その遺跡周辺を包囲していれば、ラストダンサーは通常空間に戻れない。
遺跡と言う大質量の中にいるため、通常空間への帰還が出来ない。亜空間潜行状態で封じ込めるのだ。
進軍コースが袋小路であることに気付くころには、上空にいるベルメイトのバスターが襲ってくる。
究極のR機で構成された部隊が、最強の部隊とは限らない。


ラストダンサーの大部隊が袋小路を抜け出すまでに、
亜空間バスター3発が発射された。
包囲の穴を見つけて逃げ出した機もあるようだが、
長期の亜空間潜行で恐らく燃料がそこをつきかけているはず。
進軍している我々には追いつけないだろう。


亜空間に潜っていたラストダンサーが全て通常空間に戻るか、空間の狭間に消えた。
ただ、我が艦隊も相応の被害を被っている。
無理やり前進させたベルメイトと、その護衛機だ。
特にベルメイトは巡航艦の砲撃も受けたため、これ以上は被弾させられない。


私はベルメイトを下げ、護衛機を格納して補給を受けさせる。
ベルメイトでこれ以上の戦闘は難しい。
ラストダンサーの群はさすがに罠を警戒したのか追っては来ない。
さすがに輸送機に巡航艦の相手はさせられないので、
コンバイラを中核にして、小型機を引き連れて前に出る。
目の前には減ったとはいえ、まだ10機程度のラストダンサー、
そして、彼らの母艦なのか巡航艦が4隻。
コレだけの戦力を集中させて巡航艦だけということはないだろう。
恐らくあれがいる。


どうやらここに至って、ラストダンサー達が戦法を変えたようだ。
機首にエネルギーを溜めて、波動砲のチャージを行っている。
数こそ少ないが厄介なことにラストダンサーは波動砲をセレクトできる。
発射まで、どのような攻撃が来るのか分からないのだ。


しかたない、このまま艦に戻られて補給を受けたら非常に厄介だ。
私は損害を覚悟でバイドシステムで押し込む。
痺れを切らしたラストダンサーは、バイドシステム機が射程に入るなり、
ライトニング波動砲を放ってきた。その後ろからは圧縮波動砲が飛んでくる。
先頭集団を担っていたバイドシステム機はその過分な威力の波動砲で消し飛んでゆく。


…先ほどから、なんだ。
亜空間戦法に拘ったことといい、今の新兵のような乱射といい、
もしかして、実戦慣れしていないのか?


私は後詰のミスティレディを一気に上方から叩きつける。
バイドシステム相手に波動砲を斉射しているダストダンサーは、
上空からの攻撃には対応できずに居た。
霧状のニトロスプレーを吹き付けて弱ったところに、雨の様なレーザーが降り注ぐ。
一機二機と廃墟に墜落してゆくR機。
後には丸裸になった巡航艦が4隻。


一隻は前に出したコンバイラのフラガラッハ砲でなぎ払い、
もう一隻はスケイルフォースとミストフォースで一気に押し込んで黙らせる。


敵はあと2隻。
すでに直曳機はいない。だがしかし、そろそろ消耗が厳しい。
まともに動かせる戦力はコンバイラとミスティレディ、アーヴァングが数機、
あとはフォースといったところか。
コンバイラはまだチャージ中だし、小型機の主砲は後に控えているであろう敵に備えたい。
私はマーナガルム級の大きなハッチを見て思いつく。


私は腐れPOWアーマー2機にデコイを作らせて、マーナガルム級に向わせる。
巡航艦は突如接近してくる敵の補給機に向って砲を撃つが、
デコイとはいえ、さすがに一撃では落ちない。その内に至近距離まで詰める。
腐れPOWデコイをマーナガルム級のハッチから突入させる。
3,2,1…
爆音。


腐れPOWデコイが突入したハッチから爆炎が上がる。
2隻が牽制に撃っていた弾幕が収まり、沈黙する。
やはり、内部からの衝撃には弱いか。


片方は爆薬に引火したらしく、沈黙の後に瞬時にはじけ、
もう一隻は航行機能を失い、地上に落ちた。


ラストダンサーの歓迎のお陰で随分消耗してしまったが、
まだ、最終戦に望むだけの戦力はギリギリある。
私は摩天楼の林を抜けて、彼らの本陣へと向う。
そこに居たのは、想像通りの物だった。


真っ白な船体色
槍状構造
翼状機関
ムスペルヘイム級より一回り大きな船体
地球連合軍の最強の戦艦ニブルヘイム級だ。
開けた土地にある一際大きな遺跡の上に一隻浮かび、
こちらを睨みつけるかのようだ。


やはりここは…
いや、まだ分からない。
すくなくともこの戦いの前に余計なことを考えている状況には無い。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私と敵のニブルヘイム級は暫しにらみ合っていた。
お互いにこれでここでの戦いが決まると分かっているのだ。
すでに互いの艦首砲はチャージ完了している。
私のコンバイラはフラガラッハ砲。
敵のニブルヘイム級は…ギンヌガガプ砲だったか?
ともかく艦首砲を相手に突きつけつつも、有効射程の少し外側でじりじりと距離をつめる。


小型機もあるが、ニブルヘイム級の対空防御は凄まじく、
嵐のような弾幕を張ってくるので近づけない。
ミストフォースでジャミングして背後を突こうとしても、あの弾幕で打ち抜かれるのがオチだろう。
そして、重要区画付近は槍状構造があり容易には近づけない。


どうするか。
敵の艦首砲は直線軌道を描く単純な物だ。
しかし、その分エネルギーが収束してり、とんでもない威力を誇る。
恐らく一発でコンバイラを大破させられる威力はあるだろう。
誘い撃ちはリスクが高すぎる。


私は注意深く観察した。
すでになんとか隙が出来ないかと、輸送艦のデコイは突入させてみたが、
正面は艦首砲、上方は主砲、下方は対空砲、ミサイルは全方位…
しかもジャミングを警戒してか、定期的に弾幕が張られる。
流石にガードが固く、隙が無い。


完璧な兵器なんて無い。
どこかに弱点があるはず。


私はコンバイラをゆっくりと上下左右に動かしてみたが、
艦主砲の射線軸が完全に追従している。これでは側面に回ることも出来ない。
射程に入った瞬間に消し飛ばされかねんな。
艦首砲は完全にコンバイラへの牽制に使われている。
しかし、正面にデコイを突入させても、艦主砲ではなくミサイルで迎撃されてしまう。
何とかして、艦首砲を無力化できれば…


…いや、むしろ艦首こそ狙うべきか。


私は最後の一体となったミストフォースを中心にミスティレディを編成する。
もちろん敵に気取られないようにコンバイラの後ろでだ。
アーヴァングは攻撃に致命的に向かないので、小型機はミスティレディだけだ。
私は彼らに「正面」を進軍させる。
コンバイラは再び距離をとってにらみ合っている。艦主砲の方向を固定するためだ。


他の兵器の射線に入らないように進軍を続ける。
幸いジャミングを警戒して吐き出される対空砲の弾幕も艦首正面には回らない。
その細い通路をゆっくりと進む攻撃隊。見ていると焦れてくる。
その射程の1/4を踏み越えた辺りで、ミストフォースが止る。
ミスティレディも一時停止し、タイミングを計る。
私もコンバイラが直ぐに前に出られるように準備する。


ミスティレディがミストフォースのジャミング圏内から、
一気にニトロスプレーをニブルヘイム級の艦首砲の内部に向けて叩き込む。
その霧のようにも見えるエネルギーが砲身の内部を溶かし、内部を破壊する。
既にギリギリまでチャージしていたギンヌガカプ砲は、セーフティが作動し、
暴発を防ぐために、自動的にエネルギーを拡散させる。
エネルギーの塊である燐光が砲身のあちらこちらからまき散らされる。
敵が明らかに動揺しているのが分かる。
今がチャンスだ!


コンバイラを一気に前進させる。
役目を終えたミスティレディは、すぐさまミストフォースに寄り添いジャミングの恩恵を受ける。
ミサイルや、レーザーが無効化されるわけではないが、これで照準は無効化でき被弾がかなり減る。
そのまま脇にそれてゆく。フラガラッハ砲の射線を邪魔しないように退避させたのだ。
敵は後退しながら、各武装を繰り出してくる。
正面からの艦隊戦であれば、先に艦首砲を命中させた方の優位は揺るがない。
敵は切り札の艦首砲を失っている。
ミサイルを斉射し、主砲を乱射しながら何とか距離を取ろうとしている。
…無駄なあがきだ。


私は有効射程にその白い戦艦を捉えると、フラガラッハ砲を発射する。
光が溢れる――。


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白亜の戦艦、ニブルヘイム級が沈む。
被弾部から吹き出る黒煙がその船体を舐めて煤で汚す。
予備スラスターで何とか艦を維持しようとしていたが、
一際大きな爆発が船体の真ん中で起こると、
そのままザイオング慣性制御システムの恩恵を失ったのか、
二つに折れるように、重力にしたがって落ちてゆく。
周囲にはニブルヘイム級の槍状構造を突き刺さりっており
嘗ての基地の上に船体が被さり、大きな墓標のようだ。


…勝利の感慨は無かった。
分かってしまったからだ。
ここが紛れも無く私が守るはずであった地球であると。
ここにくるまで、まだ心のどこかでここが地球に良く似た別の惑星であると思っていた。


夕日に照らされる都市と海を振り返った瞬間に分った。
かつての摩天楼は廃墟となり、基地は遺跡であったが、
その他は、あの日見た光景と同じであった。



遠い宇宙から帰ってきたら、人類同士で撃ち合うことになるなんて…


どうしてこうなってしまったのか?


尋ねても返してくれる者はいない。


私は逃げるように夕日の街を後にした。




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なんか、最初の3行でこの21話でやりたいことは、だいたい終わっていた感もある。
R-TYPEの救いの無さを全て詰め込んだ一文ですよね。今更「なぜ」も無いと思いますが。
ちなみに提督が彷徨ったり、ぶっ飛んだりしている間に優に数百年は経っています。
自覚が無いのは意識が途切れ途切れで、ほとんど戦闘時のみに表層に上がってくるからです。

挿話の話
物理科学を学ばれている方には矛盾点がモリモリ見つかりそうですが…
科学考証は無理です。物理は苦手で、理解できる頭はありませんでした。

いま、TACTICSⅡのテーマソング(?)の「手のひら」(OP,ED曲の歌詞ありver.)を、
耳コピしているのですが、伴奏の音が取れない自分の耳の悪さに絶望した。

次は超攻撃文明軍との決戦MAP「雨上がりの山岳地帯」です。
一応、その次の最終話とエピローグは同時アップ予定なので、実質あと2話ですね。



[21751] 22 真実
Name: エル◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/06 02:17
・真実


【地球南半球山岳地帯_早朝】



私はあの夕日の街を逃げるように去ってから、
ずっと考えていた。
我々はどうするべきなのかと。


私は地球軍から追われているようだ。
このまま、ここに留まるのは危険だろう。
原因は分からないが、彼らにとって私は倒すべき敵として捉えられているらしい。
ともかく、この誤解を解かねばならない。


私はどこかに艦隊が降りられ、姿を隠蔽できる良い土地が無いかと探した。
ともかくこの地球で戦いをせずに、休みたかったのだ。
艦隊はすでに以前の勢力を取り戻している。
そこで、私は山岳地帯に目をつけた。


そこには雨上がりの美しい空間があった。
雲の合間から、太陽の光が降り注ぎ、雨に濡れた大地を照らし、煌かせている。
私は着陸することを忘れて、その様子を見詰めていた。


そうしていると、雲間から艦隊が現れた。
どこか神々しささえ感じられるそれらは、R機にフレースベルグ級駆逐艦。
地球の艦隊だ。
しかし、その後ろには要塞級バイドを伴っている。
やはり、BBS(バイドバインドシステム)を完成させたのだろうか。
それともバイドに侵蝕されかかっているのだろうか。


私は彼らに通信を試みる。
オープンで送り全員が受信できるようにする。
我々の所属と現状、そして話合いの場を持ちたいことを伝える。
…反応なし。
繰り返し呼びかける。


目の前の艦隊に動揺のような物が広がる。
最前線に居たエクリプスが有効射程外にいるにも関わらず、波動砲を放ってくる。
明らかな拒絶。
私はどうやら対話すら望まれていないらしい。


仕方ない。
目の前の艦隊に向かい私は不本意ながら部隊を展開する。
敵意をみなぎらせる地球軍に攻撃を仕掛ける。
なるべくなら戦いたくは無いのだが、私も艦隊隊員の命を預かっている。
私はあのバイド要塞を含む地球軍を倒すこととした。
私は部隊を展開するように命令した。




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【月面施設バイオスフィア3国連本部_西暦2539年】


「進捗はどうだね?」
「移民船〈カルナバルグランデ〉は、無事太陽系を脱しました。これより巡航モードに入り、入植可能な星を探すとのことです。」
「そちらは一安心か。播いたタネの方は。」
「はい、箱舟計画は順調です。進捗率は60%。残りのファインモーションは120機ほどです。」
「受精卵の出自と、送り先に偏りは無いな。」
「はい、受精卵は遺伝的に遠縁のもの同士を選んでいますし、送り先も全天で確認されている地球型惑星へ半数送ります。」
「別次元へは?」
「はい、αがこの世界に更なる攻撃を掛けることも考えられるため、
次元湾曲…次元消滅兵器による異次元への裂け目を利用して、他の次元へも送り出します。」
「異次元か…何度きても古い人間である私には未だに理解できんな。」
「問題ありません、人類の英知と資材のほとんどを投入して今まで、研究してきました。
任意に次元の壁に切れ込みを入れることにも成功しましたし、そこで兵器を運用するすべもあります。
ただ、時間軸が非常に不安定らしく、時間の移動もありえます。」
「頭が痛くなるな。」
「別次元に人類の種を残せるということです。リスク分散ですね。」
「しかし、仕方ないとはいえ、人を宇宙船に乗せて当ての無い旅に送り出すとは。」
「事務総長、国連法において、受精卵には人権が発生しておりません。」
「分かっている。だからこのむちゃくちゃな計画にgoサインを出したのだ。」
「不幸中の幸いですが、月はあと5年ほどは地球の衛星であり、エネルギー資源もあと7年は持つでしょう。」
「これで入植地の一つにでもタネが根付けば、人類の絶滅だけは避けられるか…。」


すっかり白髪の増えた事務総長は、報告を聞いて一息つく。
戦時体制が続き、国連のトップである事務総長は年中無休だったのだ。
事務総長は研究主任を呼ぶようにとインターフォンに告げて、米神を揉みながら待つ。
ノックしてから入ってきたのは、以前、この部屋でシミュレーションを披露した物理学者だった。


「研究はどうだね。」
「問題はありません。作成も期限内に終わりそうです。」
「予算も中に納めてもらいたかったがね。」
「ここで、けちをして本番で転んだら元も子もありません。」
「しかし、資材配分するのも大変なのだが。」
「事務総長それくらいに。では博士。地球人類最後のプロジェクトの説明を。」


端末から写真画像をとりだし映像化すると、説明を始める。


「これが、〈Envoy System〉の概要です。これは箱舟計画で播かれた人類の種を防護するためのシステムです。
箱舟計画でばら撒いた外殻〈ファインモーション〉には発信機が取り付けられており、
保育器が作動した、つまり人類の入植が成功したものはこちらに向けて位置情報を発信してきます。
これを頼りに、まず人類のタネが播かれた居場所を特定し、これを防衛します。」
「防衛…というが、具体的には?」
「この〈Envoy System〉はその名の通り〈使者〉を送るシステムです。」
「まて、箱舟をいくつ送ったと思っている。全てを護衛するのか?」
「いえ、一体です。本体は次元の狭間におり、通常空間には存在しません。
これにより、次元の壁を越えて活動できますし、ある程度は時間軸の移動も可能です。」


「時間を移動できるなら、2501年に戻って歴史を変えられるじゃないか!」
「事務総長。それは無理です。過去を変えたところで、新しい未来が派生するだけで、
我々のいる『この西暦2539年』は変わらないのです。」
「どういうことだね?」


怪訝な顔をする事務総長と、学生に授業をするかのように講義を始める研究主任。
初めこそ、事務総長はバカにされているのかと憤慨したが、
そのうち自分の理解を超えると判断し、大人しく説明を聞いている。
もっとも、半分以上理解できず、その概念のみを掬っている状態であったが。


「同一世界内で過去に戻ることはできません。
これは『未来の情報を知っている』というパラドクスに繋がります。
逆に同一世界内でも過去から未来に飛ぶことには問題ありません。
『過去の情報を知っている』ことはパラドクスになりませんから。」
「パラドクス云々が分からないのだが…」


研究主任も慣れたもので、すぐに噛み砕いた例えに切り替える。


「たとえば、Aと言う世界の西暦1000年に私が居たとします。
すると私はそこで西暦1000年のA世界の情報を知ってしまいます。無意識でも。
その後私はA世界の西暦2000年には行くことができますが、
A世界の西暦500年に行くことはできません。
また、2000年に行ってから1000年に帰ってくることも出来ません。
私が未来の情報を知っているという矛盾が起こるからです。
A世界の過去に行こうとすると、Aに似たA’世界に行ってしまいます。
A’世界の西暦500年で何かをしても、A世界とは別物なので、
A世界の西暦1000年は変わりません。」
「過去は変わらないか。」
「はい、残念ながら。」


事務総長は一度抱いた希望をもう手放し、
椅子から乗り出していた身を、もう一度沈める。
視線で、続きを促す。


「…えーと、何の説明でしたっけ……。ああ〈Envoy System〉の話ですね。
そう〈使者〉は次元の狭間に存在させるので、他の複数次元に関与できます。
しかし、先ほどのパラドクスがあるので、一度関与した世界を遡って過去に関与はできません。
だから、関与すべき始点を定めて、それ以降防衛する形になります。
要は、我々の撒いた人のタネを見守る存在になるわけですね。」
「ふむ、我々の移民先を守る。…αからか。」
「正確には、αと〈B1〉です。」


「αは言うに及ばず、〈B1〉も脅威です。緊急的に行ったこととはいえ、
我々は〈B1〉を、異相次元にばら撒いています。
同じく異相次元にばら撒かれた人類のタネが接触しないとは限りません。」
「ふむ、ちなみに具体的にはどう防衛するのかね。」
「はい、〈Envoy System〉は複数ユニットからなっています。
本体である〈使者〉、各次元の監視・指標ユニット〈門〉、次元コントロールユニット〈柱〉、
あと直接外敵に対処する〈衛兵〉です。敵性体にはこの〈衛兵〉によって分解処理を行います。」
「〈B1〉のように暴走したりはせんだろうね?」
「ええ、各ユニットは判断をせず、〈使者〉ユニットのみが厳密なルールに則って、判断を行います。
各ユニットも〈使者〉ユニットしか作成できません。
末端の〈衛兵〉ユニットを〈B1〉の様な独立繁殖させず、分解を行うだけのユニットに留めました。」


「〈使者〉は本体で、各ユニットへの命令及び判断を下します。
〈門〉は各世界を繋ぐ道しるべとしての役割をしています。
〈柱〉そのまま使者に付属する部品で、〈使者〉などの他次元への移動をコントロールします。
〈衛兵〉はαや〈B1〉など〈使者〉が敵と判断した物を分解するユニットです。」


もっとも。と前置きをして研究主任が続ける。


「〈B1〉もしくはαの痕跡を認めた場合は、その脅威度によって排除措置を取ります。
本来の目的を疎かにしては本末転倒ですが、任務に支障をきたさない範囲でこれらを滅ぼすこととなっています。」
「αや〈B1〉を認めた場合は、こちらからの逆侵攻もあり得るということかね。」
「ええ、自律制御ですが、これらに接触した場合、位置を確認し、マークします。
状況が許せば殲滅も想定される対応の一つです。」
「それが未知の世界であった場合はどうするのだね。門が無いといけないのだろう?」
「その場合は、まず〈門〉ユニットを送り込み、入り口を開いてからとなります。
少々手間が掛かりますが、問題はありません。
あと未知の世界に門を開ける場合にはマーカーの代わりとなるものが必要です。
そうですね。最低でも恒星規模の天体です。」
「もし我々が敵ならば、太陽から処理ユニットが襲ってくるようなものか。ぞっとしないね。」
「それは、さしずめ〈太陽の使者〉といったところになるでしょうかね。」




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【地球南半球山岳地帯_午前】



私はエクリプスと交戦しながら考える。
何故、彼らは我々の呼びかけに応えなかったのか。
呼びかけが届いていなかった訳ではない。反応はあった。
ただし、言葉ではなく砲撃によってではあったが。


エクリプスはあらかた落としたが、その後ろから出てきたのはフォースのオレンジの光。
フォースを装備したウェーブマスターが行く手を阻む。
指示を出しつつも私は思考を続ける。
何故、拒絶されたのか。
仮定を設けよう。


仮定その一、地球軍がバイドに取り込まれている場合

そのままだ。我々が地球を離れている間に、地球軍が壊滅し、地球がバイドに侵略されていた場合だ。
根拠は、地球軍に混じるバイド体だ。
バイドに汚染された機体は次第に変容しながら嘗ての味方に襲いかかる。
その様な状態であればバイドに侵食された地球軍が、われわれに襲ってくるかもしれない。
しかし、これは少々穴の多い説だ。
バイド体も混じっているが、R機には変異が認められない。
応答は無くとも呼びかけに反応したのも可笑しいし、
また、地球そのものに侵蝕が見られない点も疑問だ。
この説は可能性としては低いか…。


こちらの小型機数隊を代償にして、ウェーブマスターを殲滅する。
山間の死角からキウイベリィと駆逐艦フレースベルグ級が現れる。
距離を詰めてしまえば楽な相手だ。
私はキウイベリィの大砲の射角を見て、コンバイラをその放物線の進路と被らないように移動させる。
続いてフォース持ちの戦闘機とゲインズ3を向かわせる。
私は思考を続ける。


仮定その二、政権が交代し地球連合軍が敵として見られていた場合

我々の艦隊がバイド討伐に出ている間に、政治改革―それこそ革命に近い類の―が起きた場合だ。
その場合、我々は旧勢力の軍であり、討伐の対象になり得る。
一応、地球連合軍の本部である南半球第一宇宙基地と、その周辺都市が廃墟であった理由も説明できる。
バイド機は…まあBBSの成果ということで納得できなくもない。
疑問としては、問いかけに応えなかった事だ。
通常、敵軍と正面から会敵したら正義と討伐理由を言うものだ。
よほど恨みがあるのならともかく、帰順や投降を促す説得があっても良いはずだ。
自らが正規軍であると主張するなら特に。
ふむ、あり得なくもない。この案は保留だな。


ついに出てきたのはバイド機タブロック3と爆撃機スレイプニルだ。
ミサイルによる遠距離砲撃の得意なタブロックと、
戦術核ミサイル〈バルムンク〉を搭載し、一撃離脱で攻撃してくるスレイプニル。
タブロックはコンバイラの長距離ミサイルと主砲で応戦し、
その間に戦闘機を懐深くに潜り込ませる。
スレイプニルはUロッチで先頭の機体を鹵獲して後続に叩きつける。
たった今まで味方であった機体の〈バルムンク〉が、編隊の中央で爆発する。
きれいに編隊を組んでいるのが命取りだ。
核の炎を見ながら私は、さらに仮定を考える。


仮定その三、BBSを知っている我々の口封じ。

太陽系解放同盟の反乱によってBBS(バイドバインドシステム)という技術が生み出され、
これによって、バイド制御の方法が提示された。
これをTeam R-TYPEなどが知れば放っておかないはずだ。この技術を取り入れようとするだろう。
しかし、バイド由来兵器であるフォースに拒絶反応を起こしたグランゼーラ革命政府のように、
人々が諸手を挙げて賛成するとは思いがたい。
そこで考えられるのが軍または政府がBBSを秘密裏に研究し配備しているという想定だ。
その場合BBSの事を知っている我々は邪魔者であるので、
反乱軍とでもして口封じに潰してしまおうという事になるかもしれない。
あの研究施設…ベストラで見たドプケラドプスの異容もBBSの研究かもしれん。
反乱軍の言う事は聞くな。とでも命令が出ていれば、こちらの呼びかけに応答しなかったことの説明はつく。
しかし、この説の穴は本部基地が廃墟になっていた事だ。


タブロックとスレイプニルの脅威を排除すると、ゲインズ3が襲ってくる。
私の艦隊のゲインズ3ではない。…これは敵だ。
そして、巨大な四ツ葉の様なバイドが立ちふさがる。
遠目でも見えていたバイドの生命要塞ベルメイトベルルだ。
布陣的に旗艦ではないだろうか、この生命要塞がこの艦隊の戦力の要に違いない。
コンバイラを前に出し、決戦に備える。


仮定した3案の内、一番目についてはどうしようもない。
敵として滅ぼすしかないだろう。
しかし、二、三番目であればまだ対話の道がある。
今のところ敵は我々の呼びかけに応じる気配は無いが、
対話せざるを得ない状態に持ちこむことは可能だ。
ともかく、敵艦隊に居るバイドを排除し、敵を降伏させなければならない。


私は敵を撃破し続ける。
彼らが同胞であると分かっているのだが、私は目の前の敵を効率的に葬り去る。
まるでDNAに刻まれているかのようだ。
クロークローとアーヴァングを犠牲にしてゲインズ3を破壊し、
ベルメイトベルルの衝撃波を貰いながらもコンバイラの主砲でコアを撃ち抜く。
ベルルが谷間に沈む。
これでバイドは最後だろうか?


そうすると、山岳に立ちこめる霧の中から輸送艦とR機が姿を現す。
ヨルムンガント級と早期警戒機スイートルナだ。
旗艦らしき艦が見られなかったことから、アレにこの艦隊の司令官が乗っているのだろう。
コンバイラに対峙するには、正直、戦力外も良いところだ。
敵もそれを分かっているから指揮に徹して、艦を隠していたのだろう。


追い詰められたヨルムンガント級。
この輸送艦には自衛用のレールガンしか武装が無い。
輸送艦にいるであろう司令官もすでに勝敗が決したことを悟っただろう。
私は改めて呼びかける。
これで終わって欲しいという願いを込めて返信を待つ。


しかし、輸送艦の反応は私の予想とは違った。
投降するでもなく、逃走するでもなく、
レールガンを乱射しながらコンバイラに突っ込んできたのだ。
普通なら撃沈するのであろうが、諦めきれない私は推進装置だけ狙い撃つ。


左右のスラスターの内、片方が炎を上げ、
バランスを崩したヨルムンガント級が明後日の方向に艦首を向ける。
艦首に固定されたレールガンが山肌を抉りラインを刻む。
その先をなんとなく見た私は、一気に血の気が引いた気がした。


そのレールガンの射線の先、山間の墓地に子供が一人居たのだ。


敵がばら撒いているレールガンの直撃コースだ。
戦闘機や艦艇には牽制以上の意味は無い攻撃だが、
生身の人間ならば、至近弾や着弾の際の破片でも致命的だ。
私はコンバイラを子供と敵の間に滑り込ませる。
普段であれば一人を助けるために、艦を盾にしたりはしない。
しかし、とっさにその様な行動をとってしまったのは、
彼女が地球で見た初めての人間だったからだ。


コンバイラであれば耐えられる。
鈍い音が響き、コンバイラの装甲が削られる音がする。
この攻撃を反撃として捉えた、私の艦隊の戦闘機が攻撃態勢に移る。
最後のあがきを見せたヨルムンガント級とスイートルナにバイドシステムβが止めを刺す。


私はここに来て、一人でも誰かの事を守れたことに浮かれて
私はその女の子を見てしまった。


その子は私を指差し、唇を動かす。





バ・イ・ド





…え?
バイド…?





後ろを振り返るが、少女の指し示す先にいるのは私のコンバイラのみ。
私は何をバカな。と笑おうとして失敗した。
別に顔が引きつったとかではない。
私に『表情筋』なんてものが存在しない事に気がついたからだ。


心の底まで冷えてゆくのを感じた。
私は自分の在る状態を確認する。


副官達は何処に居る?
 目の前に居たはずの副官達や艦橋のクルー達が、滲んで消える。
 後には何も残らない。


私のいる場所はどこだ?
 私が艦橋であると思っていた風景は、機械と肉片をむちゃくちゃに繋いだようなものに変わった。


私の艦隊はどうなった?
 目の前にはグロテスクな機体、ベルメイト、ノーザリー、バイドシステム…
 艦隊はバイドの群へと変わった。


…私はどうなった?
 私が乗っていると信じていた紅の戦艦は、赤い装甲のバイドへと変わっていた。
 視点もコンバイラのものに変わる。


これは…


私は想像していなかった…
いや…ずっと、気付かない振りをしていた事実を突きつけられる。


地球がバイドに侵蝕されたのではない。
我々がバイドになっていたのだ。


忘れていたのではない。思いせなかっただけ…
いや、思い出さないようにしていたのかもしれない。


あの瞳の中に吸い込まれた先は、
琥珀色の空間。
あの謎の心地よい空間で我々は変質していった。


異質であるのは我々であったようだ。
超攻撃的文明なんてもともと存在しなかったように。
私の艦隊なんてすでに存在していいない。
地球軍は我々を疎外していたのではない。
ただ彼らにとって、BBSの鎖がついていないバイド…我々は排除すべき敵なのだ。
バイドとともにいるのはBBSを完成させたのだろう。


私は居るはずもない部下達に指示を出しながら、
同胞を倒しながら地球へ侵攻していたのだろうか。


自嘲したいのか、
部下達に謝りたいのか、
私が倒した同胞に懺悔したいのか、
もう良く分からないが、ここにいてはいけない事だけは分かっていた。


ここは守るべき星であったが、
もはやここに私の居場所はない。
以前戦ったあのコンバイラが…英雄ジェイド・ロスがしたように、
私は地球を離れる事にする。


振り返るとそこには、緑に溢れる丘陵が連なっており、雲の間から漏れる光が大地を照らす。
雨上がりのすがすがしい空気の中、山から山へと大きな虹が掛かっていた。
もう…地球を見ることは無いだろうが、
これが地球最後の景色と言うのは、なかなか気が利いている。


私は雨上がりの山岳から旅立った。




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よかったー。GW中に更新できた!

挿話の話
最近挿話がメインストーリーに思えてきました。
パラドクスはバックトゥザフューチャとか色々なイメージが混じったらああなった。
ちなみに特に明記していないけど、この作品では
攻撃的文明は、異次元過去に漂着した26世紀人の受精卵が大本という二次設定。
人類の皆さん、一人ドッヂボール乙です。

次回は、最終MAP「太陽に身を焦がす」とエピローグの2本立てです。
長くなりそう…。



[21751] 23 太陽ノ使者
Name: タメ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/08/01 00:02
・太陽ノ使者




私は太陽表面近くにいる。
すでに温度感覚を失って久しいが、
私の中に残るヒトが、視覚情報から熱いと感じている。
装甲を舐める放射熱。
太陽の表面が沸き立つように見えるのは、
小規模なフレアが至る所で顔を出している所為だろう。


こんな所まで来たのは違和感を感じたせいだ。
何か異物が現れたのを感じた。
今までは、‘そんな気がする’で済ませていたが、
現状を理解した今、これがバイドの感覚であると分かった。
どうやら、バイドは「こちらに敵意をもったモノ」に強く誘引されるらしい。


隊伍を整えながら太陽まで来た私を待っていたのは、
今まさに太陽の中に顕現しつつある黒い巨大な物体。
その形状は歪なベツレヘムの星の様だ。
もしくは、足を千切られて再生中のヒトデを思い起こさせる。


そして、ヒトデの内部から現れたのは、周囲を飛び回る蜂の様な小型飛行体。
私はあれを見たことがある。
琥珀色の瞳を撃破した後、琥珀色の空間を舞っていた機体だ。
太陽の光の中で、なお明るいオレンジの燐光を放ちながら飛び回る。
おそらく100体は下らないだろう。


そこに居るものの正体を私は知らない。
ただアレらは私を敵として狙っているらしい。
敵であるのは確かだった。
敵であれば倒さなければならない。
…そういう欲求が私の中で頭をもたげてくる。
これがバイドの証だろうか。


まだ、これからの事は考えていない。
しかし、バイドの様に敵を求めて彷徨い歩くのだけは嫌だ。
アレが何であろうとも、これで太陽系での最後の戦いにしたい。


今、艦隊を動かしながら感じるのは耐え難い孤独感だ。
今までは副官達が居てくれた。
仲間と地球に還るために戦ってきた。
地球への思慕はあったが、そこに孤独は無かった。
おそらく、私が副官達が居るかのように振舞っていたのは、
まるで艦隊が未だ存在するように指揮をしていたのは、
私は私がこの孤独に耐えられないと無意識に知っていたからではないだろうか?
私はそんな事を考えていた。


…不毛な戦いはこれで終りにしよう。


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認識:次元振動を確認、次元間ワープ反応を確認。ワープアウト成功。
認識:索敵モード。対象を発見、微速接近中。
検索:監視対象検索。惑星破壊兵器〈B1〉亜種と認識。
認識:当システムへの敵対行動を認識。
判定:脅威度レベルAA
判定:行動規範〈ケース6〉適合。〈B1〉亜種の破壊を認証。
判定:最優先保護事項不在。対象の殲滅を最優先事項に繰り上げ。
検索:〈ケース6〉…本体による破壊、分解処分の実行。
判定:攻撃モードへ移行。〈衛兵〉活性化。


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敵が動いた。
太陽表面の熱と光の所為で非常に見にくいが、
あの蜂の様の小型機が布陣したのは見えた。
敵意が強くなる。


私も、持てる戦力すべてを展開する。
コンバイラやベルメイト、ノーザリーといった艦艇級バイドを始めとして、
小型バイドも全て投入する。
私は異形の艦隊を整える。


敵は未知の勢力だ。
いや、実際には一度見ているのだが、交戦はしていない。
こちらから積極的に仕掛けるのは愚策だ。
幸い敵もこちらに敵意を持っているので、向こうから攻めてくるだろう。
私は防御陣を布いて待つこととする。


太陽表面は何も無いように見えて、実は複雑であった。
圧倒的なエネルギーを内部で生産しているため、常に中心部からエネルギーが噴出しているし、
ちょっとした条件でそれが乱流となり、何者も寄せ付けない壁となっている。
周囲ではフレアも頻発しており、迂回路は取れそうに無い。
しかし、おあつらえ向きなことに太陽表面で結晶化している巨大なバイドルゲン鉱石が数個ある。
バイドルゲン鉱石の後方には太陽から放射されるエネルギーが乱れて乱流となっており、
壁として使えることだろう。
私は部隊をその壁に密着させるように防御陣をしいた。
唯一開いている入り口にはコンバイラとベルメイトを一歩引いて置いてある。


さあ、アレらはどう来るのだろうか。


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認識:〈衛兵〉ユニットk8-3より通信。恒星系の惑星の一つで生命活動を感知。〈ケース27〉により、〈衛兵〉ユニット1小隊を該当惑星探査に派遣。生命体探査及び、敵性体の存在確認。
検索:当次元での〈ファインモーション〉の降着は確認されず。
認識:〈衛兵〉ユニットk8-3より情報受信…解析。
検索:当星系第3惑星で生命体および兵器を確認。兵器は〈想定敵α〉亜種と同定。
認識:〈想定敵α〉亜種を要殲滅目標として認識。接触中の〈B1〉亜種の殲滅と当星系第3惑星攻撃について、優先度の提示を要求。
検索:行動規範により〈想定敵α〉亜種殲滅が優先するが、同時行動可能。
判定:〈B1〉亜種については〈衛兵〉による処理を継続。〈想定敵α〉亜種は広域破壊攻撃〈破滅への開門〉による殲滅を行う。
認識:注意・当星系第3惑星までの測定距離が〈破滅への開門〉の射程を僅かに超過。
検索:太陽自転及び、第3惑星の公転軌道を算出。およそ120sec後に射程内に進入。
判定: 120sec後に〈破滅への開門〉を発射。〈衛兵〉ユニットは攻撃を開始。
認識:メインユニット〈使者〉は発射準備、全〈門〉ユニットはチャージ、〈柱〉ユニットは各次元の〈門〉ユニットとの調整に移行。


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敵の様子が何かおかしい。
まず敵の小型機は壁の存在に気が付かないかの様に、此方に直進してくる。
迂回路を探そうとも、入り口に回ろうともしない。
何を考えている?
アレらの装甲はあの乱流を抜けられるほど強固なのだろうか?
私は警戒を強め、部隊を乱流の壁に密着させる。
もしアレが強行軍でくるなら、乱流の中で撃破すべきだからだ。
渡河中を狙うのは定石だ。


私が警戒を密にしていると、左翼に展開しているノーザリーから連絡を受けた。
亜空間から接触を受けたとのことだった。
忘れていた。亜空間潜行は人類とバイドだけの技術ではなかった。
私は左翼と右翼それぞれに配備している索敵型バイドのジータに、
亜空間ソナーを打ち込むように指示した。


コーンという音と、小規模の振動。
そして現れたのは100機以上もの亜空間潜行機体のマーカーだった。
我々は亜空間から包囲されていた。


私は直ぐに指示を飛ばす。
亜空間バスターを持つベルメイトを最前列に移動させ、
一般機はその場を動かないように命令した。
今一番怖いのは、敵が一斉に亜空間から通常空間に戻ってくることだ。
私は急いで布陣を密にし、陣形の内部に潜り込まれないようにする。


急ぎ小型機に対する防衛を続けるが、頭の隅に引っかかる事がある。
次に遠くに見えている本体らしき巨大構造体。
あのヒトデの様子が妙だ。
先ほどまで正対していたが、今は軸をずらして明後日の方向を向いている。
おまけにエネルギーが高まっているのを感じる。
いまいちどこが砲身だか分からない形状であるが、主砲を撃つ気だろうか。
少なくとも此方への敵意は薄らいだ様に感じる。
何をする気だ。


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認識:砲身の異常過熱を感知。暴発の危険性0.03%、発射許容範囲。
判定:発射活動の継続を指示。
認識:〈門〉との接続良好。エネルギー充填率100%。誤差修正完了。〈破滅への開門〉発射可能。
判定:目標該当星系第3惑星。〈破滅への開門〉発射。


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一瞬にして膨大なエネルギーが検知されたと思ったら、
次の瞬間、エネルギーの奔流が宇宙にむけて発射された。
その余波は周囲の太陽放射を吹き飛ばすほどだ。
おそらく、その威力はウートガルザ・ロキをも凌ぐだろう。
その先にあるのは…地球!?


私は慌てた。
まさかこの距離から狙撃できるとは考えていなかった。
私はその射線の先を見つめる。
いくらバイドに成りは絶えたとはいえ、
地球は我々の故郷であったことには替わりはないのだ。


私は能力の限り望遠して地球を覗き込む。
敵の発射した荒々しいエネルギーは、方々に散り、ほどけながらも地球に到達する。
そして。


一条の煌きとともにエネルギーが爆散する。


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認識:〈破滅への開門〉着弾確認。第3惑星破壊失敗。砲身の異常過熱を確認。
検索:砲身の加熱により、エネルギー収束に失敗。また、ターゲットの防衛システムに阻まれたものと推測。
認識: 砲身冷却を開始。発射までは150sec、本来性能までは300secの冷却が必要。
判定:300sec冷却後、再度〈破滅への開門〉を発射。〈衛兵〉ユニットによる処理は続行。


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地球は無事なようだ。
見たところ、どうやらレーザー衛星システムの強化版が展開していたらしい。
以前、我々が見たものは網目のようなレーザーであったが、
技術改良で面をカバーできるように成ったらしい。


アレが主砲を発射したとき、余波としてエネルギーが拡散していた。
余波が激しいという事はそれだけ周囲の空間にエネルギーを逃がしているということだ。
長々距離射撃には向かないだろうが、何せあの威力だ、再度地球に着弾すればどうなるか分からない。


私は止っていた指示を出し、亜空間バスターを撃ち込みながら考える。
アレは我々だけでなく地球を滅ぼそうとしていた。
アレをこの太陽から出すわけには行かない。
太陽から来たお客様は、太陽へとお帰り願おう。


地球を防衛していた衛星システムはその使命を全うし、壊れたようだ。
敵が再度あの凶悪な砲を撃つ前に、敵本体にたどり着き、発射を妨害しなくてはならない。
砲身…と言うよりは発射口だが、これにダメージを与えればいいだろう。
ともかく、この小型機の群を片付けて、本体までたどり着かなくては。


私の意識に反応するように、各機が反撃を始めた。
ベルメイトは亜空間バスターを連射して、小型機の足を留めて数を減らし、
通常空間に戻ったところを小型バイドで叩く。
本部跡でラストダンサーを相手に行った作戦だ。


敵は物量で攻めてくる。
本来なら精神的にきついのだが、今の私はバイドだ。
物量戦ならば問題は無い。
エネルギーが続く限りは艦内で分裂増殖が効くし、予備パイロットが足りなくなることもない。
私はひたすらに前進を命じる。


これが、この太陽系での最後の戦いだ。
バイドとして野獣のように敵を食らうのではなく、
一人の地球人類として、地球のために戦おう。
それが私の「提督」としての最期の意地だ。


バイド?
帰る場所なんて無い?


そんなの関係ない。
ただ地球を守る。
それだけじゃないか。何を迷う必要があるのか。


地球を守って燃え尽きるかもしれない。
それでもかまわない。
バイドにしては上出来な最期ではないか。
もはや命令を受けることも、出すことも出来ないが、
私は最後の任務に就く事とした。


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認識:〈B1〉亜種。攻撃さらに圧力増大。〈衛兵〉消耗率25%。
判定:第2〈柱〉ユニットの増員を指示。他の〈柱〉ユニットは引き続き調整。
認識:冷却終了まであと100sec。エネルギーを充填に120sec。


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コンバイラと小型バイドで一気に敵小型機の群を突破する。
亜空間バスターで通常空間に戻ったところをフラガラッハ砲で穴を作り、突破した。
ジータとベルメイトはその場に残り、小型機を釘付けにする役だ。


私は後ろを見ずに一気に振り切る。
追ってきている感じはするが、直曳の小型機が相手をしていてくれる。
敵を振り切って先を急ぐ。
そのとき急に敵意を感じた。


何処からだ?
本体の方からのようだが、
本体は未だに地球の方向を向いてチャージを続けている。
それ以外…あれか?


よく見るとヒトデの先端からよく分からない器官が延びている。
まるで、足の長い独楽のようだ。
形状からして、R-9Eのレドームのように何かと交信している器官なのかもしれない。
私はミスティレディを向わせ、コンバイラでもミサイルで狙いを付ける。


その時、反応が無かった独楽に急にエネルギーが収束する。
エネルギーが収束し炎として放たれ、ミスティレディへと吸い込まれていく。
この太陽表面という熱量の中でも保持していた霧状防護膜だったが、
その独楽から放たれた業火が一瞬で膜を剥ぎ取り、ミスティレディを焼き尽くす。


私はその威力に驚くが、同時に組しやすい相手であるとも思った。
あの独楽はコンバイラではなく先行したミスティレディを攻撃した。
単純な自立制御型の防衛兵器のようだ。
コンバイラの放ったミサイルは円盤に届き小破させる。
私は後詰めにバイドシステムλを出して先へと急ぐ、
本体はすでにかなりのエネルギーを充填している。
私はその門のような発射口に主砲とレーザーを叩き込んだ。


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認識:第2〈柱〉ユニット小破。〈使者-門〉接続部被弾。第一外部装甲一部剥離。〈破滅への開門〉に支障なし。
判定:〈B1〉亜種、脅威度をAAAに変更。第2~4〈柱〉ユニットを迎撃対応へ。
認識:〈柱〉ユニットの制御量低下により、チャージ効率低下。〈破滅への開門〉発射まで300sec。
判定:再充填開始。ターゲット第3惑星。
認識:〈B1〉亜種、接近。注意。
判定:〈衛兵〉予備ユニットを放出。目標〈B1〉亜種。


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エネルギーが膨大な光と熱量になって発射口の脇から放出される。
これで地球にあの炎の渦が落ちることは無くなった。
私が胸を撫で下ろしたとき、また発射口に灯が燈る。


一気に上がっていくエネルギー密度。
この連射性能こそがアレの最大の武器か。
これでは直に再発射されてしまう。
それに先ほどの攻撃は主砲の発射こそ止められたが、
砲本体にはほとんどダメージが入っていないようだ。
早く発射不能状態に持ち込まないと、手が足りなくなる。
ジェネレーターは別なのか?
ともかく破壊しないと。


焦る気持ちに追い討ちを掛けるように発射口の脇から小型機が沸いてきた。
さらに、先ほどの独楽が3器攻撃してきた。
こんなときに!


私はゲインズ3を貼り付けてその独楽の破壊向わせる。
コンバイラは小型機を引き剥がすのにいっぱいいっぱいだ。
早くしないと。


この小型機は通常空間では非常に強い。
攻撃は当たらないし、レーザー、体当たりも強力だ。
装甲が激しい音を立てて削れて行くのが分かる。
Uロッチやアーヴァン久で引き剥がそうとするが中々上手くいかない。
はやく、本体の攻略に向わなければならないのに。


纏わりつく小型機と強力な火炎攻撃に苦戦しながらも、
ゲインズ3の一隊が独楽を一つ破壊したとき、私は可笑しなことに気が付いた。
明らかに敵の主砲のエネルギー充填速度が低下したのだ。
もしかして、あれがジェネレーターかそれに類する器官なのだろうか。
私は小型機のレーザーを受けながらも指示を出す。


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認識:第2〈柱〉ユニット脱落。他次元の〈門〉ユニットとのコネクト効率20%減。第1、3〈柱〉ユニットも小破。エネルギー運用効率低下。これ以上のダメージは危険。
検索:条件検索…〈ケース86〉、戦略的撤退を推奨。
判定:〈ケース86〉を否定。〈B1〉亜種に当ユニット機能を目撃されているため、対象の殲滅が必須。
検索:再検索…、脅威度AAA〈B1〉亜種への戦力の集中を推奨。
認識:〈B1〉亜種への戦力の集中を承認。全機能を〈B1〉亜種殲滅に用いる。〈破滅への開門〉ターゲット〈B1〉亜種へ変更。


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敵の本体が向き直った。
どうやら、敵は私を片手間に倒せる存在ではないと認めたらしい。
好都合だ。
攻撃は激しくなるだろうが、地球の防衛をしながら戦うよりはやりやすい。


…とはいえ、コンバイラも装甲がかなり削れているし、
後方に残してきたベルメイトもそろそろ限界だろう。
小型バイドもまともな戦力はゲインズ2とアンフィビアン、ジギタリウスくらいだ。
これ以上の消耗戦はできない。一気に決めよう。


実はすでに、アレを倒す方法は分かっている。
アレに限らずどんな兵器でも全力射撃を行う瞬間に、その出口を塞いでやれば暴発する。
あれだけの威力を誇る主砲だ。暴発すればあの巨体を吹き飛ばすだけのエネルギーがある。
問題はタイミングと艦首砲クラスのエネルギーを逆流させなければならない事。
そして…そんなことをすれば大爆発が起きて、それを行った方も無事では済まない事。


言うほど楽な作業で無い事は分かっている。
もちろん敵だって暴発を防ぐため、発射前に砲身に損傷が起きればセーフティが掛かり、
内圧を高めているエネルギーを外に排出するようになっているだろう。
発射直前のタイミングをはからなければならない。


私は残りの小型バイドを総動員して、小型機や独楽を引き付けさせる。


フラガラッハ砲を最大までチャージして、私は敵の正面から踏み込む。
狙いはただ一つ。中央発射口。


太陽より尚明るく発光してゆく発射口。
私は早まりそうになる気持ちを抑えながら、
エネルギー収束率を確認してゆく。
発射時にどれくらいのエネルギーを充填するかは先ほどのデータがある。


エネルギー充填率60%…
70%…私はギリギリまで近づく。
80%…フラガラッハ砲のセーフティを切る。
8…5%、ん?おかしい発射はまだなはずなのに、発射口が開く…
90%!最大までチャージしきらない内に発射するつもりか!?


私は急いで射線から退避するが
視界を光が覆い尽くす―。


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認識:ターゲット敵残存戦力の50%を撃破。
判定:殲滅を続行。


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コンバイラは左肩スラスターをごっそり持っていかれ、
ミサイルが発射不能になっている。
射線からは逃れられたが、あの強力な余波で装甲全てを削られた。
フラガラッハ砲自体は無事だが、エネルギーが一部流出してもう一度、チャージをする必要がある。


後方にいたベルメイトや他の小型バイドも敵の小型機ごと巻き込まれたらしい。


抜かったな。
恐らく主砲を最大出力で運用していなかったようだ。
最大限にチャージしたときのデータを、発射タイミングの目安に用いたので、
失敗したのだろう。


コンバイラの被害は甚大だ。
アレの主砲で抉られた部分からエネルギーの流出が止らない。
すべてのエネルギーをフラガラッハ砲にまわしてあと一回が限度だ。
成功失敗に関わらず次が最後のチャンスだろう。
もう失敗は出来ない。


私は、全てのエネルギーをフラガラッハ砲に注いで、敵に正対した。


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認識:警告。砲身の加熱が臨界値に接近。
検索:状況より、強制冷却を推奨。
判定:強制冷却の否定。
認識:ターゲット射線中央…全力射撃時の絶対殲滅圏内で停止。
判定:最大出力で〈破滅への開門〉を発射。チャージを開始。


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敵のエネルギーの再充填の開始を確認した。
強制冷却されて黒くなった発射口に再び火がともる。


10%…

横目で地球を見やる。
太陽から見るとはるか遠く、やっと青い星とそれを取り巻く月が見える程度。
此方から見える面は昼。きっと地球の人々は明るい空の下で日常生活をしているのだろう。


20%…

さらに向こう側には火星。ここからでは点にしか見えない。
火星都市グラン・ゼーラがある第二の有人惑星。
都市グラン・ゼーラは復興して、以前の様に活気ある交易都市に戻ったのだろうか。


30%…

木星はメインベルトの小惑星に遮られて見えないな。
衛星での戦闘や、木星大気内でバイドと戦ったな。
最前線の激戦区であったので正直戦闘の記憶しかない。


40%…

木星―土星間にあるのは要塞ゲイルロズ。
難攻不落の要塞にしてグランゼーラ革命軍の本拠地。


50%…

天王星、海王星は長らくバイドの勢力圏で入植が余り進んでおらず、基地しかない。
ここで印象的であったのはもちろんソーラー兵器ウートガルザ・ロキだ。
正直…敵として当たってばかりであったので、余りいい思いではないな。


60%

太陽系の終着点、冥王星基地グリトニル。長距離ワープ施設を持つ基地だ。
休戦を迎えたり、新たな艦隊の出発の地になったり、数々の節目になった基地。


70%

それより外はバイドと地球外文明の世界だった…。
バイドとして彷徨った星や星系…
人間であれば絶対たどり着けない…場所や光景ではあった。


80%…

…そろそろか。思い出は胸にしまい…現実のみに目を向けるときだ…
走馬灯、なんてまだ早い…
負けてやるつもりなんて…ない。
タイミングを見計らうんだ…


90%…!


先ほどはここら辺で撃ってきたが…まだエネルギー収束…率は上がっている。
アレも…本気と言うことか…
私も…フラガラッハ砲に全てのエネルギーをまわしている所為で…
思考が上手く回らない…
互いの…意地を掛けた我慢比べというわけだ…


100%!

発射はまだない…

落ち着こう…
アレは、「私」に狙い…を付けている
「私」を…「殺そう」と、しているのだ。
バイドは…敵意に、敏感だ。
アレ、の殺意が最大に高まった瞬間…に叩きつければいい…


110%
逸りそうに、なる気持ちを抑えて…ただ敵意に、感覚を研ぎ澄ます。


111%…

112%…

113%…まだだ…

114%…

115%…この威力ではもう避けられんな。

116%…

117%…そろそろ…だろうか。

118%…

119%………!



120%!!
来る!


フラガラッハ砲発射!


私の持てる全てのエネルギーを乗せたフラガラッハ砲が、
敵の主砲発射口から今まさに溢れてくるエネルギーにぶつかる。


―閃光。


その瞬間。
凄まじい閃光と、行き場を失ったエネルギーの暴風が吹き荒れる。
私はその爆風により、敵から大きく引き剥がされると、
バイドルゲンの巨大な鉱石に当たってやっと止まる。


暴風の後、あの星型は角の幾つかを欠き、
装甲は捲れあがって滅茶苦茶になった内部をさらしている。
その巨体ゆえに損傷部から次第に崩壊が始まったようだ。


コンバイラも装甲が殆ど吹き飛びコアが露出している。
私はエネルギーの枯渇によってすでに動く事が出来なくなっていたが、
目の前で崩れてゆく敵を見て、思った。


…我々の勝利だ。


________________________________________________________________________________




認識:警告!警告!〈破滅への開門〉が暴発。〈使者〉への被害甚大!
検索:被害状況、〈柱〉ユニット…4本中3本が全損。残り1本も大破。稼働率9%。
〈門〉ユニット、多次元のユニットと交信不可。〈使者〉主構造ダメージ86%。
検索:〈ケース3〉自己保全のための任務の一時中断を推奨。
判定:〈ケース3〉認証。最優先目標の変更。目標の殲滅から〈使者〉主構造の維持へ移行
認識:〈使者〉損傷率91%を超過。稼働率低下中、端末ユニット〈衛兵〉残存率13%
判定:〈使者〉主構造維持のため大破判定の次元コントロールユニット〈柱〉を投棄
認識:主構造維持策失敗。主構造崩壊継続中。
検索:………〈ケース166〉緊急行動規範の適用を推奨。
判定:〈ケース166〉承認。最優先目標の変更。主構造〈使者〉維持から、ターゲットの投棄へ移行
認識:次元コントロールユニット〈柱〉の全損により、他次元〈門〉ユニットへの同期不可。
検索:使用可能〈門〉ユニットを検索。〈使者〉埋め込み式ユニットのみ使用可能。
判定:緊急規範により、〈B1〉亜種を当時空からの投棄〈開門〉を決定。
   時間軸設定…次元コントロールユニット 〈柱〉損傷により設定不能。ランダムで決行。
   次元設定…次元コントロールユニット 〈柱〉損傷により設定不能。ランダムで決行。
認識:全体損傷率90%超…670sec後に主構…崩壊確定…回避策無し。
判定:…〈開門〉



==================================================================
⇒光に包まれる。



[21751] エピローグ 見果てぬ悪夢は目を閉じても終わらない
Name: ニ…◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/07/19 00:22
・エピローグ 見果てぬ悪夢は目を閉じても終わらない



オレンジ色の光の中
そこに私はいる。


すでにエネルギーが尽き動く事が出来なくなっていた私は、
太陽にいた敵の放った光に飲みこまれた。
少し懐かしい感覚…まるでワープ空間の様でもあり、少し違うようでもある。


しかし、結論だけいうと状況はさして変わらない。
どこに流れついたのかは知らないが、出口も恒星の表面だった。
ここは太陽なのだろうか?
ワープしたのなら別の恒星?
それを確かめるすべは無い。


恒星に引かれて落ちてゆく身体。
すでに機動に必要なエネルギーは使い尽くし、動くことも出来ない。
バイド素子が内包するエネルギーで繋ぎとめていた装甲は、
エネルギーを失い剥離し、もとの物質の性質のままに蒸発してゆく。


赤い装甲が光の中に消えてゆく。
一枚、また一枚と装甲がはがれて様を見ながら思う。


精神までバイドになりきる前に消滅することは、
ある意味救いなのかもしれない。と。


ゆっくりゆっくりと質量を失ってゆく私の身体。
もはや、コアさえも蒸発し、エネルギーの塊と言える状態だ。
バイドが破壊衝動の塊などと言ったのは誰であったか?
欠片さえも思い浮かばないが、それが嘘であると分かった。
私はこんなにも落ち着いている。






ただ…


敵を倒しても
この身が燃え尽きても
悠久の時が過ぎても
瞳を閉じても


この悪夢に終焉は訪れない。




…終りが無いならせめて、ただ眠ろう。
悪夢のような現実の中でも、夢くらい見られるかもしれない。























…あれからどのくらい経っただろう。
1ヵ月?
1年?
いや千年かもしれないし、
実は一瞬しか経っていないのかもしれない。


どうでもいい。
すでに私には時という概念は用をなさない。
私はただ、この光の中いつか見た夢を思い出して漂うだけだ。
それがいつのことか、どこの光景なのか思い出せないが、
美しいならそれだけでいい。
私は瞳を閉じたまま夢を見続ける。


南の海
月面からの遠景
土星を望む基地
夕日
黄昏の海
海鳥
街の灯
ワープ空間
波動砲の光
虹の山岳
見慣れた恒星








『………………。』



なんだ。
ざわざわする。
この感覚はなんだろう。
耳元で囁かれるような。


私はまどろみの中で、そっと聞き耳を立てる。
ざわめきは消えずに大きくなってくる。
ノイズではないようだ。
何かが近づいてくる?
私が感覚を研ぎ澄ますと、
何者かが通信回線を開きながら近づいてくるのを感じた。


私は耳を澄ます。








『聞こえているなフォアランナ。こちら試作型工作機Rr-3。今からあの‘切れ端’のようなモノを引き上げる。』







==================================================================
⇒そして、瞳を開く

〈了〉



[21751] if もう一つの旅路
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/07/19 00:20
・if もう一つの旅路

※ifまえがき
エピローグの後の話になりますが、完全に蛇足なのでifという事にします。
あの終りじゃ後味が悪すぎると言う人用(作者を含む)です。
R-TYPEに希望は必要ないという方は読まれない方がいいと思います。









そっと目を閉じる…そして開く











…そこには、先ほどと変わらない白い壁だけの部屋があり、私はため息をついた。



________________________________________________________________________________



【グランゼーラ戦役中期_地球連合軍月面基地ルナベース6】




私と私の部下達は地球連合軍月面基地であるルナベース6にいる。
私たちの軍法会議が行われるため、この基地の一室にそれぞれ閉じ込められているのだ。
別に私が物資横領したとか、味方に壊滅的な被害を与える原因を作ったとかではない。
私は私の正義に従っただけだ。
無駄に時間もあることだし、ことの発端を思い返してみる。


________________________________________


『直ちに月面都市セレーネ、第23区市街地に赴き、暴徒を鎮圧せよ。
なお、暴徒より攻撃を受けた場合は直ちに武力を以て暴徒を排除し、治安を回復すること。』


特別連隊隊長としての私に与えられた命令だった。
別の任務から戻ったとたんにこれだ。
全く本部の連中は実働部隊の事を考えもしない。
せめて前回の戦いで負傷したホセ中尉を降ろしたかったのだが…。
ちなみに、ここで言う武器とは、R機アローヘッドと、フォースのことだ。
私は荒れ狂う暴徒達から市民を救うためにヨルムンガンド級輸送艦で現場に急行した。


________________________________________________________________________________


『悪魔の兵器を根絶しろ!』
『地球連合は太陽系を食い物にしている』
『フォースは人類の敵』
『バイドを街に入れるな!』


現場に入ったが、人の流れはゆったりとしており暴徒という感じではなかったので、
ディスプレイで拡大してみた。
そこに居たのはプラカードを掲げた非武装の市民団体だった。
確かに人だかりで経済活動は一部麻痺しそうだが、ごく普通のデモだ。
機動兵器や重火器どころか、火炎びんやナイフを持っている者もいないようだ。
暴徒など何処にいるのか。 


私は、デマに司令部が踊らされたのかと思った。
市民団体はただ地球連合政府の関連施設を取り囲んでいるだけだ。
きっと、政府機関の誰かが怖がって、軍に暴徒がいるとでも通報したのだろう。
我々の出る幕じゃない。我々では彼らを刺激するだけだ。


私は、司令部に通信を繋いで、現状を連絡した。
司令部要員が作戦会議で出払っていたので、伝言を頼んだ。
とりあえず緊急を要する案件ではないし、会議中に呼びつけることも無い。
向こうからの応答待ちだ。
その間私は思考の海に潜っていた。


私は輸送艦リャキルナの艦橋から下を見やった。市民団体の集団がみえる。
彼らの本心はともかくとして…フォースを嫌うのはなんとなく同意できる。
私は士官学校で始めてフォースを生で見たとき、言いようの無い不安を覚えた。
それが何かは分からなかった。
私は同期の候補生達にも聞いてみたが、同じようなことを感じた奴はいなかった。
模擬艦隊戦でも、私はあまりフォースを使わなかった。
拒否感があったのだろう。


そのうち私は士官学校を卒業して私は軍人となった。
艦上任務に着き、フォースは身近な存在になった。
しかし、私は違和感を覚えたままだった。
その内に不安原因が分かった。
暗がりの中予期せず鏡を覗いてしまったとき同じ感覚がしたのだ。


あの光を見ているとフォースに吸い込まれそうに感じる。
未だに、フォースの光は好きではない。


…そんな事を考えている内に司令部から通信がきたようだ。
私はメインディスプレイに回すように言った。
すると司令部の頭髪の寂しい参謀長が映り、あいさつも抜きに話し出した。


『大佐、君は勘違いをしているようだ。我々司令部もそこの様子を観測しているが、
市街地は未だ‘暴徒’が占拠している。君の使命は暴徒を鎮圧することだ。
大佐、武力を持って暴徒を排除したまえ。これは司令からの命令だ。』
「参謀長!彼らは非武装の市民団体です。それを武力で排除するなど…!」
『あれは‘暴徒’だ。大佐、3度は言わない。命令に従いたまえ。』


暴徒ということにして、地球連合に不満を持つ市民を押さえつける気だろうか。
しかし、それが軍人のすることか?
市民を銃で脅して口を封じることが?
ふざけんな。ハゲ!


「………拒否します。あれは暴徒ではなく市民です。私には市民を撃つことは出来ません。」


自然に言葉が口から出ていた。
参謀長(ハゲ)は一瞬驚き、顔を険しくして言い放った。


『残念だ、大佐。君には何を言っても通じないようだ。基地に戻り、司令部に出頭したまえ。』


______________________________________


こうして、基地ルナベース6に着くなり私達は拘束された。
この窓の無い、見張りつきの控え室につれてこられ、4時間以上閉じ込められている。
あまりに放っておかれたので、こうして回想に耽っていたのだ。


私と私の部下は命令違反で軍法会議に掛けられることになっている。
停職…では済まないな。降格か…不名誉除隊か。
…Team R-TYPE送りだけは勘弁して欲しいものだ。
しかし、後悔は無い。
市民を虐殺するよりマシだ。


私は「若き英雄」ジェイド・ロスにあこがれて軍人になった。
特別なことではあるまい、私くらいの年代のものは皆そうだった。
私は人類の剣・盾として軍人になったのだ。


私も士官学校に入りたての頃のように、世間知らずではない。
キレイごとだけでは、世界が回らない事だって分かっている。
しかし、あの命令だけは自分の意地に掛けて従えないと思った。
軍人の基本が命令遵守とはいえ、超えてはならない一線だって存在する。


考える事もなくなってきた頃に、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
静かな部屋に良く響く。
足音は部屋の前で止まった。
時間か。


法務科の士官と基地の憲兵が来て、私に部屋から出るように促す。
入り口に居る見張りは哀れむような視線を送ってくる。
しかし、私は恥じるようなことは何もしていない。
胸を張って堂々としていればいいさ。


私は両脇を憲兵に固められて歩かされる。
法務科の士官は軍法会議所が設置された会議室の前で止った。
部屋の中から、私の名前が呼ばれる。


私は覚悟を決めて、軍法会議所の扉を開けた。


________________________________________


部屋の中央には軍法会議長官を務める月面司令部の司令官とその幕僚が数名。
横に座っているのは数名の士官、法務科の士官のようだ。
軍法会議では、基本的に下位者が上位者を裁くことは無い。
私は大佐という比較的高い位にあるので、この法廷には将官…
つまり月面司令部のメンバーばかりが集まっている。
なかなか豪華な顔ぶれだ。


法廷の軍人達の視線を浴びながら、私は被告席まで連れて行かれる。
私はせめてもの意地でまっすぐ前を向いて隙なく敬礼した。


軍法会議長官が開廷を宣言すると、軍法会議が始まった。
そして、法務官が私に掛けられた罪状を読み上げる。
罪状は戦線放棄と命令不服従、上官侮辱罪だった。
法務官に内容に間違いは無いかと、形式だけ尋ねられたので、
「命令にあった暴徒は存在しなかった」と解答したが、今回の争点ではないと無視された。


私が罪状(罪とは思っていないが)を認めているので、軍法会議はスムーズに進む。
一部、侮辱とも取れる発言もあったが、私は少なくとも表面上は冷静に応えた。
ただし、発言した奴の顔は覚えておく。


しかし…明らかに、この法廷にいる軍高官たちは、
世論が反政府・反軍であることを知っていながら、
それを弾圧して押さえ込もうとしている。
法廷にわずかにいる士官も見て見ぬ振り。


市民を敵とするなら、私達軍人は何を守るのか?
少なくとも連合政府や政権を守るためでないことは確かだ。
だから私は自分のしたこと、考えたことをそのまま供述した。
並居る将官たちからの視線が突き刺さるが、知ったことか。


そのあと嫌がらせの様な質問が続いた後、長官が槌を叩き判決を下す。


「判決を述べる…」




―被告を軍籍剥奪の上、無期懲役刑に処する。




え?


一瞬、息が詰まる。
長官が判決理由を述べているが、耳には入ってこない。
無期懲役?
敵前逃亡やスパイ行為に適用される銃殺を除けば、ほぼ最高刑ではないか。
どうなっている? 普通は単純な命令違反だけでこんな罪状にはならない。
周囲を見やると皆、目をそらすようにしている。
私は理解した。


今、地球連合軍の恐れることは、世論や人がグランゼーラ革命軍に流れること。
そのためにグランゼーラ革命軍やそのシンパは、テロ活動を続ける悪でなくてはならない。
あそこで起きていたのはグランゼーラ派による「暴動」や「テロ行為」で、
地球連合軍は市民を守るために部隊を派遣して、無辜の市民を守った。
そういう、筋書きであったのだろう。


…私を収容所に閉じ込め、口を開けないようにすると言うことだろう。
今の連合軍はそれほどまでに腐っているのだろうか?
いや…地球連合そのものがそうではないと、信じたい。
信じたいが、しかし…
胸の奥に何か冷たいものがストンと落ちた気がした。


いつの間にか閉庭しており、私は憲兵に促されて牢に入れられる。
法務官の話では私は明日月面の別クレーターの収容所に送られた後、
他の囚人とともにさらに火星都市グラン・ゼーラにある収容所に送られ服役するのだという。
火星都市グラン・ゼーラ…グランゼーラ革命軍が発足した地であり、
現在は地球連合軍の支配下で、思想犯専用の収容所がある。
私は地球連合軍から思想犯として認定されたということだろう。


_______________________________________


翌日、私は護送車に乗せられた。
そこには私の主立った部下達も乗せられており、彼らも収容所に送られるらしい。
私の副官であったホセ中尉と、副官見習いのワイアット少尉、ヒューゲル少尉ほか、隊の幹部が懲役刑を受け、
他の隊員達もそれぞれ何らかの処分を受けるということだ…。


私は後悔こそしていないが、部下に申し訳ないと思い、
護送車が走り出してから、小声で詫びた。


「…みんな、巻き込んでしまって、すまなかったな。」
「隊長、そんな顔しないでください。いつもの何でも無いっていう態度でいてください。」
「そうそう、それに隊長このまま素直に終わるつもり?」
「?」


この娘は何を言っているのだろう?
意味を問いただそうとヒューゲル少尉の顔を見て、
私が口を開こうとしたその時、急ブレーキがかかり、
私は頭から前の座席の背もたれに押し付けられる。
顔面を押さえて身を起こした私が見たのは、アクション映画のごとき光景だった。


体力自慢だった幹部の一人が運転手を殴って昏倒させハンドルを奪っている。
ワイアット少尉ともう一人の男性幹部が、居眠り寸前だった見張りを更に深い眠りに付かせ、
ヒューゲル少尉は奪ったキーを使って手錠を外して回る。
もちろん外した手錠を見張りや運転手の手足にはめることも忘れていない。
ホセ中尉は重傷を負っているため壁側に担架ごと固定されているので、
私の様に無様に椅子から転げてはいないようだ。


「…は?」


何だこれは?
私はアクション映画の世界に紛れ込んでしまったのだろうか?


「隊長。呆けてないでどこに行くか命令して下さい。」
「そうですよ。こんなところで濡れ衣着せられて終る気ですか?」
「さっき衛兵達が言っていました。他の隊員もまだ艦内に残っているって。」


ホセ中尉、ヒューゲル少尉、ワイアット少尉から口々に言われる。


すでに護送車を襲ってしまった手前、もはや言いわけは立たないだろう。
脱走しかあるまい。
てか、こんな大事な事を事後報告か!
…もうヤケだ!
こうなったら最後まで行ってやるさ。


一般乗組員達は昨日の今日で全員艦から降ろせないだろう。
きっと我が隊の母艦ヨルムンガント級輸送艦‘リャキルナ’に未だいるはず。
とすれば行先は…


「よし、行先はルナベース6併設されている宇宙港の5番ドックだ!
リャキルナと我々の仲間はまだそこにいる。」


行け。と命令すれば、月面で車両が出せる最高速で目的地に向かう護送車。
トップスピードのまま宇宙港のゲートを突っ切りドックまで護送車のまま向かう。
ゲートの係員と衛兵は一応轢いていない。
破ったゲートとともにすっ飛んでいっただけだ。


私達は貨物用通路を無理やり護送車で抜けると、
ドックに係留されている輸送艦‘リャキルナ’を見つけた。
私達は護送車を降りてリャキルナに向かおうとした。


「隊長危ない!」
ヒューゲル少尉の声で、とりあえずコンテナの隙間に隠れると、
今しがた私が居た場所に銃弾が撃ち込まれる。
特殊合金製のコンテナ表面が削り取られる。
そのままだったら蜂の巣どころか、人の形が残るか怪しかったな…


ドックの入り口から少なくない数の衛兵が現れる。
説得もせずに撃ってきたな。こいつら。
私達は慌てて全員遮蔽物の影に隠れる。
我々がもっているのは見張り兵の持っていた銃が3丁のみ。
はっきり言って、防弾チョッキも着ていない人間なんて肉の壁にもならない。
こちらは戦力3なのに、向こうは完全武装の兵が10数名。
おまけにこちらには重症のホセ中尉もいる。
この銃激戦のなか15m先のリャキルナの開閉装置を操作して、
ハッチを空けて無事走り抜けるのは無理だ。


「…ここまでか。」


そう呻くように呟いた時、閉まっていたハッチが急に開いて、
その奥から光線が走り、警備部隊を撃ち抜いてゆく。
あれは低出力レーザー?


「こらっ!若いの何をしているか!頭がおらんと始まらん。とっととこっちへ来い!」


20名ほどのつなぎを着た整備兵達がR機装甲用の板金を盾に、
装甲裁断用の低出力レーザーや杭打ち器、溶接用バーナーといった、
工作用の器具を持ち出し、応戦している。
背後からのいきなりの奇襲に、警備隊はすでに半数以上が倒れている。
そして、大声でこちらに叫んでいるナイスミドルは、確か整備班長…だったはず。
彼は私の顔知っていただろうか?
…ああ、そういえば私は佐官用の軍服のままだな。そりゃわかる。


数の暴力で整備員たちとその場を制圧すると、ドックの他の入り口をロックして時間を稼ぐ。
幹部の一人にホセ中尉を医務室に連れて行かせ、
私とヒューゲル少尉、ワイアット少尉達は艦橋に急ぐ。
逃避行に付きあう酔狂な人員だけを残し、後の人員は退艦させなければならない。
時間が必要だ。


艦橋のドアを蹴破るように開けると、いきなり声が飛び込んでくる。


「現在メインエンジン推力50%。後1分30秒で出港できます。」
「周辺部隊への情報かく乱はあと5分継続できます。」
「R機隊、アローヘッド奪取に成功しました。ただしフォースはありません。」
「2-3-7方向、警備が手薄です。想定航路設定しました。」


そこにあるのはいつもと同じ光景。
オペレータは席でマイク・ヘッドホンを付けており、航海士は航路のチャートを開いている。
その場にいた最上位者である航海士がきれいな敬礼をして告げる。


「隊長お待ちしていました。特別連隊リャキルナ隊176名全員そろっております。命令を!」


私はしてやったりと笑う部下達を見回してから、ため息をつく。
私が、脱走者に付いてくるとは全員頭のネジが飛んでいるな。というと。
司令部に逆らった隊長ほどではありませんと、答えられる。


周りのクルーも全員ニヤニヤしている。
こいつら全員グルか。
何時もならそれと分からせないような方法で制裁を加えるのだが、
今は気分がいい。無かった事にしてやろう。




私は頬が緩むのを押さえつつ、出航を命令する。




「さあ、行こうか!」




================================================================
提督はエピローグで物語の発端である‘バイドの切れ端’として回収されてしまったわけですが、
番外編22話目で26世紀人の言っている通り、‘純粋な過去’に戻る方法はありません。
つまり提督は自分の歴史に‘良く似た過去’に飛んでしまった訳です。

このエピソードを書いたのは‘純粋な過去’ではないことを際立たせるためと、
あと最後くらい「さあ、行こうか」で〆たかったためです。

ifと銘打ちましたが、実はエピローグの没案です。
本当は現エピローグの後に続く一続きの話だったのですが、
蛇足に感じたのであのエピローグで切り、こちらをifとしました。
何故、没ったかというと…


理由1:誰コレ。こんなん前編の提督じゃねぇ。
前編のテンションを再現することが出来ず、もはや、似せる努力を放棄しています。

理由2:R-TYPEは基本BAD ENDの方が似合う
あちらのエピローグで終わっておく方がR-TYPEらしいし、
むりやり明るい方向に持っていくのもどうかと思いました。

理由3: 続きそう
続きません。
グランゼーラ編は書きません。



[21751] あとがき
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/11 02:47
・あとがき


○書き終えて

思えば、処女作で長々編とか正気では無いように思います。どうしてこうなった。
始めは、嵌ったゲームのネタ短編を書こうと思って、前編を書き始めたのですが、
なんとなく話の流れを追って書いているうちに、後編、番外編にまで手を出すことになっていました。

そのせいで、前編の突飛なギャグから番外編のドシリアスまで、テンションや作風が全く違う、落ち着きの無い作品になりました。
今読み返すと前編のテンションの高さが怖いですし、番外編の鬱っぷりも酷い。
前編は続きを書く事を想定していないので、投げやり気味にネタを散らしてすきほうだいしています。
番外編が鬱なのは、もともとの話が鬱なのと、作者がリアル鬱になっていたからです。

この作品を書いていて一番楽しかったのは番外編の挿話で、
ほとんど機体設定上でしか語られないTeam R-TYPEや、26世紀地球が書けたのが良かったです。
あとなぜか腐れ開発チームが自己主張して、ここから別短編が派生したり。
他にも「オベロン」も「沈む夕日」も「琥珀色の風」も「鬼畜コンテナ」も書けたし満足です。



○エンディング解釈について

TACTICSⅡのあのエンディングには賛否両論、(いや否が圧倒的か…)
解釈も色々あるのですが、今のところこれと言った解答はないようです。
まあ、ぶっちゃけ投げっぱなしということで有名です。

作者なりの解釈としてEDムービーの工作機はRr-3つまり、今の工作機の初期型であり、
背景のドックっぽいのはフォアランナの格納庫、
太陽っぽいのは、フォアランナが探査中に発見した恒星の一つです。
つまり人類初のワープ探査で太陽系外の恒星の表面にある‘バイドの切れ端’を採取しようと、
格納庫の出入口から恒星を眺めているシーン。…という妄想。



○言いわけ
エピローグの題名はニコ○コ大百科の「そっと目を閉じる、そして開く」の項からパクったことをココにさらしてみる。



○スペシャルサンクス
この作品を執筆するに当たってお世話になった方々へ。


・作者をR-TYPEの世界に引き込んで、TACTICSⅡを買う原因となった、
 某動画投稿サイトで「ゆっくり劇場」を投稿されているうp主様。

・作者にR-TYPEの小説というジャンルを思いつかせて下さり、
 非常にハイレベルなR-TYPEクロス小説を提供してくださっているR-TY○EΛの作者様。

・執筆中のBGMを提供してくださった、某動画投稿サイトのバイドルマスターの皆様。

・動画を執筆資料として使用させていただきました、プレイ動画シリーズのうp主様。

・同じく執筆資料としてかなりの頻度で使用させて頂いたサイト、
 R-TYPE TACTICS I & II@攻略・まとめwikiの編集者の皆様。

・さらに執筆資料として使用させていただきました、何故か異様に充実している
 ニコ○コ大百科のR-TYPEの関連項を編集されたニコニコR-TYPERの皆様。

・R-TYPEとBYDO、R機という深い世界を作り、TACTICSⅡでは感動と地獄を、
 初代とデルタでも地獄と地獄と地獄を見せてくださったアイレムの新旧製作陣の皆様。



そして、最後までこの小説を読んで応援してくださった読者の皆様に、最大限の感謝を申し上げます。
どうもありがとうございました。



平成23年5月10日




…まだ、もうちょっとだけ続きます。



[21751] オマケ 前編のノリで番外編19話あたりを書いてみた【ネタ・グロ】
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/05/14 09:29
・オマケ 前編のノリで番外編19話あたりを書いてみた【ネタ・グロ】



※注意

・ネタ以外の何ものでもありません。
・番外編19話「ある星系の外縁部」ステージ終了後の話です。
・シリアス成分はありません。結構どうしようもない話です。
・世界観をぶっ壊しています。
・前後の話の繋がりなんてこれっぽっちも考えていません。
・グロ注意








昼前の司令室に微妙な空気が流れる。
私は嫌な予感をひしひしと感じる。
逃げ出したいが、相手と一対一というシチュエーションなのでそれも叶わない。



『提督、なぜ皆さん私のお菓子を食べてくれないんでしょう?』



目の前に立っているガザロフ中尉に聞かれる。
やっぱりそっちの話題か!


_____________________________________


ガザロフ中尉はいわゆる飯マズだった。


あの味は拷問だと思うのだが…本人には言えない。
家庭的に見えるのに、絶望的に料理が下手だなんて。
きっと味覚がおかしいし、発想もぶっ飛んでいる。
味見もしていないに違いない。


いや、飯マズというのは、ちょっと違うかもしれない。
もしかしたら、お菓子類を作るのが致命的に下手なだけかもしれない。


余りにも身体に悪そうな味なので、
いつもは他の副官と示し合わせて地雷処理(パイロット等に横流し)をしているのだが、
やはり自分の作る食品が拒否られていると薄々感じていたらしい。
ちなみに一番被害にあっているのは私、次にマッケランだろう。


『私考えたんです。軍人は体が資本だからお菓子の類は良くないんだろうって。』


嫌な予感がする…


『だから、今日はお料理にしました。提督、私の愛の詰まったハンバーグです。食べてくださいね。』


!!

やられた…。お菓子はしょせん大きくてもケーキ一切れ程度だったが、料理で来るとは…
ワゴンから白い皿に乗ったハンバーグとライス、そしてスープが出てきた。
それより、そのワゴンは何処から持ってきた。


私は目の前の肉塊を眺める。
見た目は問題ない。
しかし、これが一番の問題だ。
ガザロフ中尉は見た目を良く料理をつくる名人なのだ。
私も何度騙されたことか。


内部に塩が結晶化した塩チョコだとか、
片栗粉と米粉とショートニングで練られた歯が欠けるほど固いクッキーとか、
シュー生地の中に、蜂蜜を直接注ぎこんだ甘さ200%エクレア(蜂の子いり)とか、
限りなくアルコール度数の高いエタノールフルーツポンチとか、
ロシアンティーに梅ジャムを入れられたこともあったな…


毎度胃腸薬のお世話になっていたが、そろそろ真剣に胃壁が心配だ。
私は部下を訴えてもいいと思う。
過去の激戦を思い出しながら、現実へと目を向けた。
ちなみに先ほどまでいたワイアット少尉やラウ中尉はすでに退避済みだ。
上官を捨てて退却するとは…後で思い知らせてやる。


ハンバーグは色艶良く、ドミグラスソースで良く煮込まれているようだ。
湯気が上がっているし、中が生ということは無いだろう。
ナイフを入れたら肉汁が溢れそうだ。
皿の上には大きなハンバーグが丸々2つ…うん、普通のハンバーグだ。
それだけに不安がつのる。
私は次の確認に移る。


匂いは…異常なし。
しかし、これは安心材料にはならない。
なぜなら内部にトラップが隠されている恐れがあるし、
塩などの劇物は嗅覚では判断できない。
以前バニラエッセンスで香り付けされた柑橘シャーベットを食べさせられたことがある。
訓練された私なら、ニオイで分かるようなものは比較的簡単に回避できるはずだ。


触覚については、問題なさそうだ。
先ほど皿を置いたときに見ていたが、ほどよい弾力を持っているようだった。
以前のように湯気と思ったものが冷気で、
実はカチカチに凍っていたと言うことは無いだろう。
これなら歯が欠けることはないな。


あとは味覚なのだが…。
どうしよう、拒否するだけの理由が見つからない。
お菓子なら後で食べるといって、廃棄することが可能だが…。
ハンバーグ…しかも盛り付け済み。
私はこの茶色の肉塊に恐怖を抱く。攻撃的文明なんて目じゃない。
何故、司令室に持ってきた。
せめて艦橋であれば、用事を思い出したと言って誰かに押し付けられたのに。


『提督、冷めちゃいますよ?』


ワザとか!?ワザとなんだろ!
暖かい方が味覚が鋭敏に成るのを知っていて…


クソッ、ガザロフ中尉。君には私の心の涙が見えないのか。
いままで無残にも散っていった同胞(巻き込まれたクルーやパイロット)の
(吐)血と(脂)汗と涙を無駄にしろと?
…大げさではない。
胃痛持ちのクルーがガザロフ中尉の持ってきた健康コーヒー(濃縮黒酢入りエスプレッソ)
を飲んでしまい、胃痙攣を起こして医務室に担ぎ込まれたことがある。
あとで私が軍医に怒られたのが凄く腑に落ちない。


しかし、もはや後には引けない。


ナイフを勢い良く切り分け、目をつぶって口に放り込む。
そして咀嚼!
右手はすでにナイフを放棄し、水の入ったグラスを握っている。





…あれ?
普通に美味しい。
いや、ごく普通のハンバーグだ。


今までの経験から物凄い味を覚悟していたため、
普通のハンバーグがとても美味しく感じた。
よく考えると味付けが微妙だが、十分及第点をつけられる料理だ。
私は2つほどぺろりと平らげた。


『今日は新鮮なお肉がいっぱい手に入ったから、作ってみたんです。』


にこやかに笑うガザロフ中尉の笑顔がまぶしい。
私は少し君を誤解していたようだ。








…そして私は腹を下した。


後でアッテルベリ中尉に言われた。


『提督、コンバイラは機械系だから、多量の有機物を取り込むと拒否反応がでます。
というより余り取り込みすぎるとベルルみたいに膨れますよ。』



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前編と番外編のテンションが余りにも違うことは、作者自身ネタにしてきたのですが、
ふと思いついて前編のノリで番外編の小話を書いてみた。
R-TYPEの狂気も混ぜつつ、前編の能天気なノリを再現してみました。
話的には番外編の19.5話あたり。
裏コンセプトはグロ話をノリだけで如何に誤魔化せるか。
どうしようもないネタで本当にすみません。

話の繋がりがおかしい? 司令室ってどこだよ? 提督も副官も身体無いだろ?
オマケだからいいんです。

とりあえず作者のストックは出し切りました。
…と思ったら、まだ書いている不思議。
終わる終わる詐欺というやつですね。分かります。



[21751] 外伝1 飛べない鳥
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/06/06 20:41
※この話には重大な欠点があります以下の点にご注意ください。


・一部公式設定に改変があります。
・キウイはグランゼーラ陣営じゃなきゃイヤという方はご遠慮ください。
・ぶっちゃけ、書いた後にキウイがグランゼーラ陣営機だと気が付きました。










・外伝 飛べない鳥



ブーストでジャンプすることは出来るが、空中に留まることはできない。
陸地以外では運用不可。
地上をキャタピラで進む。
波動砲とフォースを持たないR機。(機体番号もR番ではない。)
それがキウイ・ベリィだ。


キウイに搭載されているザイオング慣性制御システムは非常に非力なものだ。
と言うよりは下手に重力加速度を制御してしまうと、
接地できずキャタピラが空回りして動けなくなる。
地面を踏みしめて進み、ミサイルと砲撃で相手を狙い撃つ。
正に戦車だ。

この地球連合陸軍南半球第一宇宙基地所属第一機動部隊、通称キウイ大隊は、
隊長機は真っ赤なクラン・ベリィ
その下に5隊24機のキウイ・ベリィがいる。


所属名が短いのは、陸軍というカテゴリーが非常にマイナーで、
人員や戦力が限られているためだ。
ちなみにこの基地でキウイが配属されているのもここでは第一機動部隊だけで、
他の部隊は汎用戦車しか配備されていない。
いわゆる日陰者扱いだ…。


ここ南半球第一宇宙基地は地球連合軍の本部のある基地だ。
当然地球上でもっとも戦力が充実している基地であり、
今も上空に配備されている宇宙艦隊の他、
キウイ大隊が所属する陸軍、水上艦隊が所属する海軍が揃っている。
しかし、悲しいかなこのR機による宇宙戦闘が主流の時代で、
宇宙艦隊は増強され、陸軍、海軍は縮小を余儀なくされている。
正直、R機の性能と汎用性があれば対地、水中攻撃は可能なのだ。


貧乏な陸軍は実機を使わずに訓練している。
あとは体力づくりの名の下に演習場の整備に駆りたてられる。
今日も本部基地から少し離れた演習場の上空にはR機が舞っている。


「いいなぁ、オレも空飛びたいなぁ…痛ぇ!」
「俺たちは陸軍。地上を防衛するのが仕事なんだよ。」


木陰の草の上に寝そべっていたオレは、いきなり後ろから殴られた。
カポンと間の抜けた音が頭で響き、飛び起きたオレは殴った相手を見る。
ヘルメットを片手に持ったセギ曹長だ。
キウイ乗りの曹長は面倒見が良く、オレは何かと可愛がってもらってる。
知らない間柄ではないし、今は休憩時間なので緩めに反論する。


「痛ぇ…セギ曹長、ヘルメットで殴ることは無いでしょうに。」
「ばっか、スコップで殴られなかっただけありがたいと思え。
というかこんなところに寝そべって、キウイで踏むぞ。」
「万年金欠のこの部隊が通常訓練で実機を動かせるはず無いでしょうが。」
「そういうことを言っているんじゃない。まったく若い奴はこれだから…。」
「セギ曹長…オヤジくさいです。」
「おーおー、そうさ、陸軍暦25年のオヤジだからな。」


オレはもう一回殴られた。
今度は少し強めだ。


陸軍に来るのは宇宙任務に就けず、適性に弾かれた物が多い。
オレは心肺機能が人より劣っており、無重力空間でさらに機能が弱れば、
地球の重力に耐えられず地球に戻れなくなる可能性があるので、陸軍にいる。
体力勝負のパイロットなんてもってのほかだ。
セギ曹長は致命的に宇宙がダメな体質のため、宇宙での任務に就けないらしい。
こんな感じで地上を離れることのない人間が陸軍には集まっている。
そうでなければ、ついこの前までやっていたグランゼーラ戦役へ投入されていただろう。


オレは戦死したいとは思わないが、どうしても同じくらいの奴が
R機で自由に飛んでいるのを見ると、うらやましい。
セギ曹長もそういう事情を知っているので、あの程度のお叱りで済んだのだろう。
キウイ乗りがそんな事をぼやいていたら、本当にスコップで殴られかねない。


ただ、オレはキウイの面倒を見るのが嫌いじゃない。
オレもキウイも飛べない。そのことで妙な親近感を持っているのか?
まあ、キウイだけならオレはそこらの整備兵より熟知している。
オレの弱っちい身体が許せば、バラバラ部品からだって一機仕上げてみせる。


「おい、若者のお前に仕事をくれてやろう。」
「何です?…あーあ、だからあの辺りには近づくなって言ったのに。」


アレ。といってセギ曹長が、指差したのは穴に嵌って動けなくなった汎用戦車だった。
確か、新兵訓練に使ってるんだったっけ。
周囲は直系5mはありそうな穴が大量に開いている。
前の演習で対地デコイが置いてあった辺りだ。
久しぶりの実機訓練だったので、キウイ乗りは皆張り切って大砲を撃ちまくった所為でできた穴だ。


オレはぼやきながら汎用戦車の方に行くと、他の整備達と引き上げを行った。


________________________________________


「おい、聞いたか。また太陽系の外からバイドが来たってよ。」
「なんだ、まだバイドが巣を喰っていたのか。戦役の所為で駆除しそこなった奴か。」
「グランゼーラの連中、バイド飼っていたんじゃないだろうな。」
「違うって。本部に勤めてる奴に聞いたんだよ。バイドの大群が地球に向ってるらしい。」
「大群って、ロス艦隊が本拠地を叩いたんじゃないのか。」
「いや、分からんけど、本部は蜂の巣をつついた様な状態だ。」
「それがマジならやばいな、各宇宙艦隊は戦争で歯抜けだし、まともな宇宙艦隊は第一だけだろ。」
「ああ、例の討伐艦隊もまだ帰ってきてないしな。」
「でも、あれって半分はグランゼーラなんだろう。信じられるのか?」


ある日、夕食をとるために食堂で順番待ちの列に並んでいると、
ふと、そんな話し声が耳に入った。
バイド
遠い世界の言葉だ。
少なくともバイドは地球に攻め入ったことはないし、
英雄ロス艦隊が地球を出てから激減し、ここ10年は大規模なバイド戦は起きていない。
陸軍のオレ達も一応対バイド用に訓練はしているが、
実際にはあたったことは無い。


そんな事を考えているといつの間にか手に夕食を持ってたたずんでいた。
どうしよう。いつもは整備班仲間と食べているけれど今日は時間が違うし。
オレはトレーをもったまま食堂をウロウロする。
と、横から声を掛けられる。


「おい、お前。他の整備班とはぐれたのか?」
「あれ、セギ曹長。こんな時間にどうしたんです?」
「新入りが無理して練習してたから、付き合ってやったらこんな時間になっちまった。」
「つきあってたって。もう夜勤時間ですよ。」
「そういうこともあるさ。それよりどうしたウロウロして。」
「開いてる席を探していたんです。」
「なんだ、一人か。ここで食え場いいじゃないか。」
「え、いいんですか?」
「もちろん。」


オレはセギ曹長の前の席に座り食べ始める。


「それより、妙に夜勤時間にしては人が多いな。特に仕官連中が。」
「そういえば。」
「大方、本部から溢れてきたんだろうが、この時間に普通じゃない。キナ臭いな。」
「…。バイドが来るって…」
「何!」


セギ曹長に目を怒らせて問われる。
周囲の人も何事かと目を向けてくる。
曹長がしっしと集まった目線を追い払い、続きを促す。
しかし、その目は鋭いままだ。
オレはその空気に呑まれ、小さな声で答える。


「さ、さっき、そこで訓練部隊の教官の人たちが話してたんです。」
「バイドがくると?どこから?」
「太陽系外から。その人は本部で聞いたって言ってました。」
「…調べるか。おい、おまえ。この話は誰にもするなよ。パニックになる。」
「は、はい。」


セギ曹長は残っていた夕食をかっ込むと、食堂から出て行ってしまった。
オレは暫くぼうっとして見送っていた。


________________________________________


噂を聞いてから一週間、噂はもはや公然の秘密となっていた。
整備兵もパイロットも2人以上集まると、口からでるのはその話題であった。
噂もグリトニルで戦闘が起きたとか。
もう、木星まで迫っているとか。
グランゼーラのはぐれモノ部隊が、バイドとの戦闘の邪魔をしているとかだ。


実際、陸軍にも命令が降りてきた。
いつでも配備できるように、整備も久々の実弾をキウイや汎用戦車に込めている。
R機の訓練部隊に居た最上級の連中は卒業繰上げで宇宙に上げられたらしい。
海軍だって活発に動いている。
みな不安でいっぱいで、針でつつけば弾けそうだった。


「おい、お前ちょっと付き合え。」
「あ、セギ曹長。」


最近、会わなかったセギ曹長だった。
いつもの余裕のありそうな態度は身を潜め、
まるで映画に出てくる鬼軍曹(曹長だが)みたいだった。
でも、オレはその時曹長を見て安心した。
他の皆みたく不安そうにしていないから、この人についていけば大丈夫と思った。
オレと曹長はそのままキウイの格納庫の裏あたりに行く。


「どうしたんですか、曹長? 忙しかったんじゃ?」
「お前は、この部隊の中じゃ比較的冷静そうだから言っておこうと思ってな。」
「なんです?」
「直にバイドがくる」
「え。だって宇宙艦隊が…」
「今の宇宙艦隊はグランゼーラ戦役の影響でガタガタだ。すでにグリトニルは突破された。」
「ゲイルロズを死守できればいいが、難しい。地球上空までなだれ込むかも知れん。」
「ぼ、防衛システムは?」
「展開するだろうさ。でも何匹…いや艦隊規模で飛び込んでくるかも知れん。あと…」
「あと…?」
「他にもらすな。地球上にはすでにバイドが居る。巣を喰っているんだ。
その活動がどんどん活発になっているらしい。」
「え、オレ達が戦うって事ですか?バイド相手に?」
「そういう可能性があることを想定して置け。パニックになる前にな。」


パニックになるなって言われてもどうすればいいんだよ。
どうすればいいのか分からないから困っているのに。
…て、目の前に落ち着いた大人の見本が居るのだから聞けばいいじゃないか。


「セギ曹長、パニックにならない方法ってあります? 
今平気でもオレ絶対にパニック起こす気がするんです。」
「慣れろ。」
「慣れろって言われても…。曹長はどうやって慣れたんですか?」
「…慣れざるを得なかったんだ。俺は第一次バイド戦役の頃に徴兵されたからな。
いきなりPOWで宇宙にたたき出されて宇宙酔いになって死に掛けて、もういちど乗せられて死に掛けて、そんな事をやっているうちに、戦場は慣れたが宇宙空間そのものがトラウマになってな。今じゃ宇宙のことを考えるだけで気分が悪くなる。」
「…すみません。変なこと聞きました。」
「ばっか、謝るな。」


オレは頭を垂れて、反省した。
そうだよな。曹長の年齢の人ならあの戦役の経験者だよな。


________________________________________


蒸し暑い夏のある昼、オレは基地の警報でたたき起こされた。
今日は非番なのに…って緊急配備警報!?
整備服を着て装備を持ち、二段ベッドを駆け下りる。
既に廊下は大勢が、走り回る音が聞こえる。
ここで兵舎内に放送が掛かる。


『第一戦闘配備発令。第一戦闘配備発令。各員持ち場に就け。地球上空にバイドが出現、迎撃態勢を整えよ。繰り返す―。』


オレは既に陸軍格納庫、別名キウイ舎に向って走っている。
バイドって…まさか、セギ曹長の言っていたことが本当になるなんて…!
オレは多くの人に抜かされながらも、キウイ舎にたどり着く。
暴れる心臓と切れた息のまま整備班長のところに行く。


「整備班は全機、実弾装備に換装。15分以内に戦闘可能にさせろ。汎用戦車は後回しでいい。キウイからだ!全員担当機に就け!」


整備班長は大きな声で命令しており、オレもセギ曹長のキウイのところへ走る。
焦っていても、息が切れていても、毎日のように弄っているキウイの整備手順は完璧だ。
簡単なチェックをした後、燃料タンクを開き、
オレの太ももくらいありそうなチューブで燃料を注入しながら、息を整える。
周りの整備員の声が聞こえる。
第一宇宙艦隊が抜かれたとか、ここが戦場になるとかだ。


「おい、お前、俺のキウイはいつ出れる!?」


振り向くとパイロットスーツを着たセギ曹長が走りこんできた。
オレはかすれた声で答える。


「…あと、実弾換装が終われば直ぐです。搭乗してステータスチェックを行ってください。」
「分かった。あと1時間でバイドの第一波がくる。気をつけろ!」
「はい。曹長も!」


セギ曹長のキウイの整備を終えて次の機体に取り掛かった辺りで、
キウイ大隊の緊急ブリーフィングがイヤフォンから流れてきた。
普通は担当別に集まってやるのだが、よほど緊急なのか、全員の通信機に送信されている。
キウイ乗りは内部ディスプレイで映像つきで見ているようだが、オレ達整備班は流石に見れない。


その情報によると、現在地球上空で第一宇宙艦隊による防衛戦が張られているが、
バイドの大群に押されており、取りこぼしがこの基地付近に降下してくる恐れがある。
宇宙艦隊が戻れない以上基地の防衛戦力は陸、海軍と、訓練部隊のみとなっている。
オレ達陸軍キウイ大隊の役割は、R機訓練部隊とともに基地の防衛。
歩兵連中は周辺市街での避難誘導。
海軍は避難経路の確保と必要人員の輸送。


…実質戦力はキウイ25機に、R機の訓練部隊だけか。
大型バイドに来られると厳しそうだ。


ともかく手を動かしキウイを全機稼動常態にして、発進を見送る。
目まぐるしく情報が伝えられていくが、オレたちにできるのは整備だけ。
槍が降ろうと、バイド来襲の一報が入ろうと手を休めない。
弾の運搬と、換装部品の用意、予備機の準備などやることはいくらでもある。


外では爆音が聞こえ出した。
バイドが来たんだ!そう思ったが、誰も口には出さない。
整備員は皆ひたすらに作業を行っている。
一度戦闘が始まってしまえば、オレ達整備員は戦況なんて分からない。
忙しいから考える暇が無いと、バイドが怖い自分を騙している。
オレだけじゃなく、整備員は皆そうだろう。


中破したキウイが戻ってきて修理して。
弾切れの機体にミサイルと弾を補充して。
大破したキウイからパーツをもぎ取って。
格納庫前に墜落したR機までパイロットの生死を確認に行ったり…


戦闘開始から何時間過ぎたんだろう。
いい加減に脳内物質で騙すことができないほど疲れてきていてる。
格納庫の奥の方まで陽が差し込んでいる。
今何時だろう。


戦況が思わしくないのは、整備員にも分かっている。
段々と被害の酷い機体が増えてきたし、戻らない機体もある。
訓練隊もほとんどが落とされている。
戦闘の音が徐々に近づいてきている。
さっきは工廠から宇宙戦艦が発進していった。
正式配備されていない奴まで持ち出すなんて…
セギ曹長もさっき3回目の整備・補給をすませて、出て行ったが、
曹長の小隊はすでに半数が抜け落ちている。


5分の休憩の中で、オレは身体を休めながら考えていた。




「おい、あれ見ろ!戦艦が落ちてくるぞ!」



誰かの声にハッとして、格納庫の出入り口から空を見上げる。
各所から黒い噴煙を上げる白い戦艦が徐々に高度を下げてきていたのだ。


「ボサッとするな!退避ーッ!」


優に100mはある槍状構造が地面と接触し、破断。格納庫に降り注いでくる。
その白い槍は格納庫の屋根を容易く貫通して破壊する。
オレは逃げ惑いながらも、何処に居ても同じと思って、格納庫の柱の影に隠れる。
白い戦艦の本体は格納庫前の演習場へ落ち、地響きと耳をつんざくほどの轟音が響く。
そして、爆発―。



_______________________________________



オレはいつの間にか格納庫跡を離れて一人、
日が暮れかけ、廃墟と化した街を歩いていた。
ここは何処なんだろう…。
…あっちに本部基地があるから、こちらは市街地か。
バイドは…いない。戦闘は終わったのかな?
オレは目的もなく街をふらついていた。


キウイが見える。
オレは見慣れたその機体に引き寄せられるように、ふらふらと近づいていった。
コックピットが少し歪んでいるが、砲と足回りは無事だ。
機材があれば直ぐに整備するのに…
ふと、マーキングを見る。


機体番号は04…セギ曹長のキウイだ!
オレは夢中で走り出して、コックピットに取り付いて、
ロック機構の歪んだ風防を無理やりこじ開ける。
パイロットシートで、ぐったりとした曹長が見える。
右手がすでにオレの知っている手の形をしていない…!


「セギ曹長!」
「ちっ…耳元で五月蝿いぞ。」
「その怪我は?」
「挟んで潰れた…。痛み止めは飲んだし、無理やりだが止血もしてある。」
「ともかく手当てをしないと!」
「…血は止っている。少なくとも今すぐ死ぬ怪我じゃないし、おまえは工具で手当てが出来るのか?」
「じゃ、じゃあ、医務室に。」
「ばっか。陸軍基地はもう壊滅状態だろうが…。」


ともかく、曹長をどこかの医務室に!
そんなやり取りをしていると、突然キウイの無線機ががなり立てる。



『此方歩兵部隊第二小隊! 誰か居ないのか!
小型バイドが一体避難シェルターのほうに向っている! 橋のたもとのシェルターだ。
誰でもいい。救援を!』



突然、入った無線に、ヒュっという音とともにオレは息を呑む。
バイドがまだ生き残っている…!
R機はすでに全滅。
キウイ大隊だって壊滅状態だ。
少なくとも戦場に動いているキウイは居ない。
そこでオレは曹長と目が合ってしまった。


「おい…いくぞ。」
「セギ曹長!その手じゃ操縦は無理です。」
「ばっか、お前がやるんだよ。」
「ええ!オレだってパイロットじゃないし、適性0です。」
「整備兵なら整備中に動かしたことくらいあるだろ。」
「戦闘なんて無理ですって。」
「良く聞け。お前しかいないんだ。他の大隊のメンバーは撃破された。R機も訓練兵はもう残っていない。」


曹長は左手でオレの頭をつかんで無理やり目を合わせさせる。


「お前が、アレを、殺らなきゃならない。…出来るな。」




________________________________________




「…違う!ザイオングシステムは出力最低にして、キャタピラで前進するんだ。」
「で、でもこんな、ザイオング無しで、このスピードで事故ったら潰れます。」
「道は真っ直ぐなんだから大きな瓦礫を踏まなきゃ大丈夫だ…痛ぅ」
「瓦礫踏まなきゃって、瓦礫だらけです。オレがやったのは格納庫内を移動させるだけなのに…」
「レーダーを確認しろ。このままならものの2分で敵が射程範囲に入る。よっと…」
「セギ曹長…!何しているんですか!モルヒネ打ちすぎです!」
「死ぬほど痛ぇんだよ。まともな状態でやってられるかっ!いいから前!」


オレはパイロットシートに座って半泣きになりながら操縦している。
右手に重症を負ったセギ曹長は、後部のシートの隙間に身体を納めて指示を出している。
本当はセギ曹長には医療施設に行くか休んでいて欲しかったのだが、
オレ一人でいきなり実戦は無理だったので、オレが操縦して、曹長が後ろから指示を出してる。


オレは確かにキウイを動かしたことはある。
でもそれは整備するために、格納庫内で体勢を変えさせたり、
Uターンして前後を入れ替えたりするくらいだ。
間違っても、市街地を戦闘速度で飛ばしたり、砲撃なんてしたことなんて無い。


「セギ曹長、つ、次はどうすればいいですか!?」
「この橋を渡って川向こうに…おい、あのバイド野朗。此方に向き直ったぜ。」
「え?そ、それってつまり此方に攻撃してくるって事ですか!?」
「ミサイル来たぞ。着弾は2秒後!スラスター踏んで緊急回避!」
「う、嘘、あ、え、回避ーっ!」


オレはすでにパニック状態だ。
頭の中はぐちゃぐちゃ、何も考えられず、
言われたことだけに反応するだけになっている。
だから、オレはいわれたとおりにスラスターを吹かしてジャンプする。
そうすると、目玉で出来たグロテスクなミサイルが、
キウイのキャタピラを掠めて、下方に逸れていく。
爆音。


「よし、上手くなってきたな。そのまま橋を渡ってから反撃だ。」
「セ、セギ曹長、橋が…橋がミサイルで落ちましたっ。オレ達も、お、落ち…」


キウイが居た橋はミサイルの直撃を受けて、崩壊。
衝撃が大きかったのか、当たった箇所以外も落ちる。
下は、ほとんど海に近い河口。
キウイは水中での活動は考えられていないから沈むし、風防に穴が開いている…。
つまり落ちたら溺死は必至…


「…ばっか、止るな!ザイオング制御システムをフルに入れて、スラスターをめいっぱい開けろ!踏み込め!」


オレは泣きそうになりながら、とにかく指示にしたがってペダルを踏み込む。
機体が前傾して一瞬浮遊感が包む。
そして心臓が止るかと思った。河口は遥か下、明らかに空を飛んでいるのだ。
“キウイは空を飛べない”


「セギ曹長!う、浮いて…これじゃ落ちます!」
「大丈夫だ。キウイは跳べる。羽ばたけないだけだ。」
「でもでもでも…」
「それより良く見ろ。敵が丸見えだ。照準を合わせろ!」
「跳びながら撃つなんてサーカスできませんよ!」
「照準は機体が合わせてくれる。制御もいらん。撃った後は落ちてもいい!」
「オレは嫌ですっ!」
「いいからやれ!!」


落ちたくないのに、どうしたらいいのか分からない。
もう、まともに頭が働かなくなっているオレは
近くで出されている命令に従っている。
ディスプレイが射撃モードに変わり、簡易照準がバイドにセットされた。
オレが大砲射撃モードを選択すると、照準が固定される。


-Ready?-


「トリガーをひけぇ!!」
「うわあああぁ!」


オレは泣きながら操縦桿についているトリガーを引き絞る。
キウイ最大の武装である大砲が俯角をとり、バイドに向けて打ち下ろされる。
キウイ自身もその衝撃で少し後ろに下る。
そして…爆炎。


「見ろっ。バイドがレーダーから消えたぞ。お前がやったんだ!」
「え?ほんとに…、本当ですか!」


オレがやった?
バイドを?
キウイで空を飛んで?
…あははは、やれば出来るじゃないかオレ。


感極まったオレは泣き顔のまま、後ろに居るセギ曹長のほうを向く。
その瞬間ゴンっという感触が肘に伝わる。


「あ」
「え?」


セギ曹長の顔が引きつった。
オレがそれを見て不思議に思うと…
“浮遊感”を感じた。
…え?


「え?え?え?」
「ばっか!ザイオングシステムのレバー触っただろう。早く立て直せ!」
「何を?どうして?どうやって!?」
「いいからレバーを直せ!」


-stall-


失速警報!
パニックを起こしたオレの頭はどのレバーがなんなのか思い出せない。
さっきまで動かしていたのに、どれだっ!
河口なんかとっくに跳び越して、下はすでに市街地。
地面が迫って…


「もういい!ブースターペダルを踏めぇ!」
「ペダル!?これですか!」


右足にあるペダルは一つだけ。
それを思いっきり踏み込む
ザイオング制御システムがほとんど効いていないので、物凄いGがかかる。
それでも足だけは離さない。
高空からの自由落下にブレーキが掛かるが、勢いが殺し切れない。
破壊された市街地が迫ってくる…!
落ちる!




________________________________________




オレが覚えているのは接地した瞬間まで。
目を覚ましたら病院のベッドの上だった。
助かったのは奇跡だと思っている。
あの後、バイドの本隊が来たり、
例の討伐艦隊がそれを撃退して、そのまま追撃に入ったり…
いろんな話を聞いた。


陸軍一機動部隊は壊滅的被害を被り、再編成にまわされることになった。
大隊は、生き残りより戦死者の方が多かったとのことだ。
仲の良かった整備班の仲間の多くも、あの爆発で死んでおり、
キウイ乗りだってほとんどか戻ってこなかった。クラン・ベリィに乗っていた大隊長もだ。
それを聞いたオレは病院でひとしきり泣いた後、
死んだ奴らを絶対に忘れないようにしようと思った。


再編成では同じく被害を受けた陸軍の他の部隊と合併することとなっているそうだ。
新キウイ大隊になるのだろうか。
でも、そこにセギ曹長たちはいない…


退院したオレは久しぶりに「墓」に来ていた。
慰霊碑とは別にこっそり作った、キウイ大隊の戦死者が眠っているところだ。
オレを含めた大隊の生き残りは、今日、小さな勲章を貰った。
生きていることが勲章に値するぐらいの激戦だったということだろう。
でも、オレは勲章なんていらないので、死んだ仲間達に勲章を渡しに来たんだ。


演習場の片隅にキウイの砲身が立っている。
戦闘中に折れた奴を持ってきて、重機を使ってここに立てたやつだ。
その根元に来たときオレは大いに笑った。
俺のもらったのと同じ勲章が何個も 置いてあったのだ。
誰もかれも考えることは一緒だ。





「よう、お前も来てたのか。」





後ろから声が掛かる。


「あ、お久しぶりです。セギ曹長。」
「ばっか、もう曹長じゃねぇって言ってるだろ。」


背後に居たのはセギ曹ちょ…セギさん。
彼はあの時の怪我で右手を切断し、義手になっている。
それを機に退役したというわけだ。
今は、土建屋で重機のオペレーターをしているらしい。
この辺りはいま、復興ラッシュだから人手がいくらあっても足りないってことだ。


「でも、勿体無いですよ。今は義手のパイロットなんて珍しくないし、キウイ乗りやめなくてもいいじゃないですか。」
「やっぱり違和感があってな。俺は感覚で動かすタイプだから。」
「訓練でどうにかなるって聞きましたけど。」
「それもできるが、俺はエンジェルパックなんか嫌だからな。」
「何です?そのエンジェルなんとかって?」
「…まともな整備兵でいたいんなら、忘れろ。」


墓の前であれやこれやと話していると、
第二整備班の技師がやってきた。もちろん手にはあの勲章。
その後も次々に隊の仲間が集まってきて、いつの間にか20名以上の大所帯になっていた。
怪我が元で復帰が難しく、隊や軍を離れた人たち。
パイロット不足で、宇宙軍に引っ張られてしまったキウイ乗り。
幸運にも生き残って隊に残る整備兵。
いろんな人が集まっていて、同窓会のようだ。


聞いたらオレはキウイで飛んだバカ整備員として、結構有名になったらしい。
ついでに格納庫の壊滅でも、キウイでの無理な接地でも怪我をしなかったのに、
パニックで心臓に負荷がかかり過ぎて失神、入院したので、二重にバカだといわれた。


暫く、みんなで笑いあう。
整備班の仲間も、キウイも、キウイ乗り達も随分居なくなってしまったが、
オレはやっぱりこのキウイ大隊に居続けようと思う。






飛べない鳥(了)


==================================================================
…グランゼーラの機体だったんですね。キウイ・ベリィ。
グランゼーラ編プレイしてないし、後半はどうせ全機開発できるから、知らんかったよ。
でも書いちゃったから上げる。

またシリアスになってるし。しかも無駄に長い。
途中まで「キウイ・ベリィ大隊の憂鬱~飛べないキウイはただのキウイ~」
を書いていたはずなのに、どうしてこうなったし。

「沈む夕日」の裏話なのですが、実は後編14話執筆中からキウイの話を書く予定でした。
つまり、後半14話の時点で設定をミスってるわけですね。
orz

コレで終りっていうとまた、終わる終わる詐欺になりそうな気がするので、
また、何か思いついたら書きます。

ということでまたその時まで、ばいばいど。



[21751] 外伝2 ハヤシダ隊員の従軍日記
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/06/06 20:46
・ハヤシダ隊員の従軍日記


M.C.00×× ××月××日
特別連隊のハヤシダ一等兵

自分の日記の中に名前を書くのは微妙だけど、一応。
表紙とかに名前書くと悪戯好きの隊の奴らが、勝手に見るかもしれないし、
でも、何も書いていないと、戦死したときとかに家族のところに渡らない恐れがあるから、
毎回書いている。…はい、言い訳はこれまで。

15のときから始めた日記も、今日で10冊目になった。
毎日書くとか無理なことをしないのが継続の秘訣だろうか。
仕事が忙しいと結構書かないこともあるけど、こんな仕事だからしょうがない。
…今時、紙ベースの日記も珍しいけど、これは趣味。
新しい日記の出だしの話題として、俺の現在の境遇を書いておく。

俺は現在、ヨルムンガント級輸送艦にいる。
今日、この艦隊の旗艦の保安部隊に異動になった。
異動というけど、前身の特別連隊からそっくり移っただけだから余り感慨は無い。

もっとも、艦隊といっているけど、この艦一隻しかないから、旗艦もなにもないと思う。
俺の所属する保安隊は部隊秩序の維持、要人警護、重要区画の警備、
その他、面倒事の後処理が仕事だ。
まあ、日常の任務は、言い換えるとケンカの仲裁、巡回警備、紛失物の処理とかの庶務。
あとは儀仗任務。どうみても肉体派雑用係だ。

小さい部隊ならそんなに遠出する任務もないだろうし、気楽に行こう。


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M.C.00×× ××月×日


今日も一件、ケンカ仲裁してきた。
備品を壊すと俺たちの書く報告書が長くなるのでやめて欲しい。

ちなみに今回は随分エキサイトしていたので肉体言語で仲裁した。
よほどの事がなければ仕官を殴ったりはしないが、肩をつかんで威圧するくらいはする。
このとき、添えてるだけに見せかけて、力を込めるのがテクニックだ。
保安隊は強面が集められているので、それで大体大丈夫。

ああ、仕事をした後の酒は美味いな。
酒保の酒は質が悪いけど、仕事後なら何でも美味しくなるから不思議だ。


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M.C.00×× ××月××日


特に書くことの無い良い日が続いたので、日記が白いな。
ところで今日、保安隊でベストガールズコンテストを開いた。
もちろん一位は新任の司令部要員ガザロフ中尉だ。初々しさが良い。
二位は会計課のショートヘアーの似合う事務の子。
三位はオペレーターのボインちゃん。
ちなみに、なぜか一票POWアーマーが混じってた。
だれか整備の連中に毒された奴がいるな。

改めて書くと普通の部隊では上位に来るパイロットがいないのが微妙だ。
…うちの女子パイロットとかみんなゴリラだからな。
ザイオング慣性制御システムあるから、そんな筋力つける必要ないのに。
あれは胸でなくて胸筋だ。


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M.C.00×× ××月××日

なんか軍の最高機密兵器の警護をやるらしい。
こういう任務がくると俺たち保安隊は非常に忙しくなる。
艦内警備がヘビーローテーションで組まれるのだ。
今回は艦内にその機密を入れないらしいので、まだましだが…。

とりあえず、物資の搬入が多くなるとの事なので、そちらにも警備で回された。
物も人も外との交流が多いと警備が大変だ。
まあ、一番大変なのは補給担当なんだけどな。


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M.C.00×× ××月××日

グランゼーラと戦闘した。
しかし、××が×××してゆくのは気持ちが悪い。
その筋から聞いた噂では×××システムというらしい。(※検閲修正)

戦闘を終了したあと、パイロットが話していたのだが、敵を取り逃がしたらしい。
最高機密を知った敵を取り逃がすとか、やばいな。
緊急監査とか入らないだろうな。
保安部は今回の機密に関わっていないが、余計な物が発覚するのは面白くない。
今の内に懸案事項を全て無理やりでも処理しておこうということになった。

徹夜か…


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M.C.00×× ××月××日

俺たち保安部は、今日はみなゾンビになっている。
意外と処理事項が多かったのと、
結局、監査が無く、肩透かしを食らったからだ。
とりあえず、監査が入るかもと言った隊員を皆で殴っておいた。

追記、新しく駆逐艦が配備されるらしい。
もちろん、保安部も2つに分かれて乗り込まなければならない。
あと、新人保安隊員の配置とか…仕事が増える。

体力自慢の脳筋が配属される部隊に、事務処理させるなんて効率が悪い。
そんな事を言っても仕事は減らないので、身体に鞭打って端末を叩いた。
仮眠で睡眠時間1時間なんて…眠い。


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M.C.00×× ×月××日


今俺たちの艦隊は火星基地チューリンに向っている。
革命軍を討伐して基地を奪還するためだが、戦闘自体は保安隊には余り関係ない。
ただ、念のために白兵訓練や、警備ローテーションが増加する。
まあ、そんなこんなだけれども、一応隊内は今日も平和だ。

とりあえず、補給をしながらなので火星到着までは2~3日かかる。
そうすると、景気づけに酒保を利用する奴らが増える。酔っ払いは面倒なんだよな。
今日はパイロット連中。
明日は整備班が酒盛りするらしいので見回りを強化することとなった。

追記:パイロットの奴らは、なんで酔うと暴れるんだ?


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M.C.00×× ×月××日

昨日は散々だった。パイロット連中の乱闘を止めるのは骨が折れた。
それに比べて整備班は比較的大人しい。
…ただ、だからといって扱いやすいわけじゃない。
むしろ理屈っぽくなる奴が多いので、精神的に疲れる。絡み酒だ。

整備班の連中にPOWがいいか、サイバーノヴァがいいかで絡まれ。
その後はアローヘッドのデザインについて座った目で語られた。
知るか!俺はあんた等みたいなマニアじゃないんだ。
と思ったが、酔っ払いに怒るほど不毛なことは無いので適当に流していた。

あと、絡まれていたら、技術士官っぽい人に同情された。
同情するなら休みをくれ。
しかし、あんな士官いたか?ジャケットで階級章が見えなかったのだが…
まだ意識が残っていそうな整備員達に聞いてみたが、誰も知らなかった。
新しく配属された人だろうか?
野次馬根性は身を滅ぼすと分かっているが、今度探りを入れてみよう。


本日のお説教4名、肉体言語で説得1名。


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M.C.00×× ×月×日

チューリン攻略。
熱い。
しかもエンジン区画警備とかまじ勘弁。
消防士が尊敬されるのがよく分かった。

ところで、チューリン占領後に捕虜を取ることとなったのだが、これが非常に気を使う。
だって、乱暴に扱うと条約違反と言われるし、
さりとて、下手に出て舐められれば、反乱もありえる。
他の部隊では×××××という噂もあるけど。(※検閲修正)

何とか、最上位者を引っ張り出し、捕虜を全員整列させ、
その後は武装隊員とともに警備に移ったのだが、
俺は捕虜の後ろから脱走を警戒する役だった。
提督が来て何事か話していたが、正直聞こえないし良く見えなかった。
とりあず、条約通りに処理されることになったらしいので一安心した。
捕虜に暴れられる心配がないからな。

ふう、二三日ここに留まって後処理か。
…ところで連合の基地要員残ってるんだろうな。
逃げてたら俺らや補給、会計が最低限の基地業務を代行する事となる。


追記:基地要員居ません。
近場の基地から応援くるまで、俺らで必要最低限の処理をします。
デスマーチ確定しました。日記はオヤスミします。
どうせ部屋になんて戻れないし。


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M.C.00×× ×月××日

…終わった。出航準備まで終わった。
応援人員に業務を引き継いだ。
これで寝れる…。


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M.C.00×× ×月××日

不穏な噂が流れてきた。
この艦隊に、グランゼーラの本拠地ゲイルロズを攻略する命令が下ったという物だ。
難攻不落の要塞ゲイルロズを攻略するとか、ありえない。
この艦隊そういう規模じゃないぞ。正規艦隊の役目だろう。
明らかに戦力不足に思える。皆不安そうだ。
こういう雰囲気だと隊内も不安定になって、諍いが多くなるから歓迎できないな。

明るい話題もある。
火星基地チューリンで鹵獲した巡航艦を、隊の戦力に加えたことだ。
保安隊もさらに分かれて、輸送艦と駆逐艦と巡航艦に分けられる。
新たな補充人員を加わったし、これから暫く訓練をしないとな
ちくしょう、仕事が増える。


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M.C.00×× ×月××日

不味いことになった…。
旗艦の水槽を壊してしまった。

俺たちは新しいヴァナルガント級の船内に慣れるために、
積極的に白兵訓練を行っていたのだが、貯水区画の隣で訓練しているときだった。
俺が内部隔壁の開閉と間違えて、外部隔壁を開けてしまったのだ。
間が悪いことにその時は貯水槽の点検をしていたらしい。
作業のため逆流防止弁を外して、バルブが半開きになっていた貯水槽は、
急激な気圧の変化に耐えられず、パイプか何かが破断。

応急修理で当面は何とか使える状態にしたが、
水資源の90%が流出してしまった。
飲料水にも支障が出るレベルだ。

艦隊は、水を確保するために寄り道をする羽目となった。
そこでもバイドとの戦闘があったが、俺は謹慎で自室にいる内に終了した。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。


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M.C.00×× ×月××日

俺と上司は司令室に出頭し、今回の処分を受けに行った。
部屋から出た時点でたぶん俺の顔は真っ青で、脂汗をかいていた。
上司が何か言っていた気がするが全然覚えていない。

司令室で上司が今回の事故について説明している間
俺は提督の顔が見られずに、足元ばかりを見ていた。
だって、艦隊指令って将官だぞ、普通は顔を合わせない階級だし、
(法令上は知らんが)隊員の生殺与奪の権限がある。
本気でこの場で艦を降りろと言われれば通ってしまいかねないからだ。

俺の聞いていたのは提督の声だけだけど、
今回の件が重大な失態であったことを指摘されたときは、もう終りだと思った。
でも、故意でなくて日頃の行いもいいから、今回は反省文でいいと言ってくれた。
俺は死ななくて済んだために、ホッとして半泣きになっていた。
そのあと、気を引き締めて何とか泣かないようにして退出してきた。
疲れた。


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M.C.00×× ×月××日

今日、提督の副官経由で反省文の詳細が通知された。
3日以内、400字詰め、100枚…
上司も同情して、3日間謹慎にしてくれた。
どうしよう…
埋まらない…。普通に書いたらせいぜい5ページだ。
頑張って詳細を書いても20ページ…
どうすればいいんだろう。
どうしよう。謝って許してもらうか?
無理だよな…


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もうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありません


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M.C.00×× ×月××日

ゲイルロズを攻略が終わってた。

今日、上司と反省文を提出に行った。

もう無理。

俺無理。


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M.C.00×× ×月×日

今日から仕事復帰だった。
周りの仲間も心配してくれているが、顔が引きつっているから。
きっとやつれているんだろうな、俺。

今日はゲイルロズの攻略がひと段落して、比較的落ち着いた日だったのだが、
あの、技術士官を見た。
あやしい。作業用のジャケットの襟でシャツの階級章を隠しているのが不審だ。
さりとて、相手は仕官様だ。
保安隊員だとしても間違いましたではすまない場合もある。
慎重に調べよう。どうせ艦内にいる分には逃げ場はないからな。
誰と話したかを確認しておこう。
今日はここまで。


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M.C.00×× ×月××日

艦隊は今、土星の廃棄基地グリーズへ向っている。
バイド反応が観測されたらしいからだ。
しかし、この艦隊には休みというものが無いな。
普通、いくつか任務を達成したら母港に帰ってまとまった休暇が入るものだが。
よし、こういう不可解なできごとは全てTeam R-TYPEの所為にしておこう。
おのれTeam R-TYPEめ、俺の休暇を奪いやがって。

独自調査結果。
昨日、あの技術士官が話していたのは、若手の整備員だった。
証言では、たまに来る士官の人で、取りとめもない話をしていたという。
名前は知らないが、たまに来ては整備班長と話しているそうだ。
整備班長か…悪い人じゃないけど、独特だからな。
どうするか…


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M.C.00×× ×月××日

廃棄基地グリーズの目の前だ。
A級バイドらしき反応があるので、突入前のチェックを行っている。
バイド戦で俺達保安のできる仕事は多くないが、それでも万全を期しておきたい。
バイドの巣に侵入することになるので、艦内のチェックを念入りに行った。
特に外部と接する機会の多い、ハッチや格納庫の洗浄装置や気密チェックだ。

そんなこんなで、艦内をひたすら歩き回った。
保安隊が歩いていると言うことで、無用の争いを抑制する意味もある。
皆気が立っていて、パイロットは殺気すら感じるくらいだった。
格納庫では全員総出で整備や確認を行っていたが、あの技術士官は見当たらなかった。
もしかして、彼は開発や整備関係者ではないのだろうか?


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M.C.00×× ×月××日

グリーズ攻略中。

周囲は皆殺気だって忙しそうに動いている。
しかし、保安隊は戦闘中だと艦内警備か待機なんだよな。
俺達にお鉢が回ってくるのは、何かが起きたときなので暇な方がいい。

…と思って休憩中に書いていたら、たった今防護服着て来いと、呼び出し食らった。
なんだ?


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M.C.00×× ×月××日

昨日の日記、変なところで終わっているな。
まるでホラー映画の死亡フラグだ。

ともかく疲れた。昨日はR機の洗浄が間に合わなかったので駆り出されてた。
体力には自信があるほうだが、慣れないことをするのは結構疲れる。

そういえば、今回の敵は×××××××だったそうな。
俺ら見てないから××××バスターと言われても全然実感が沸かない。(※検閲修正)

にしても、戦闘後の葬儀が一番徒労感が残るな。
毎回のこととはいえ、気が滅入る。
保安隊は儀仗隊も兼ねるから、葬儀へは全出席だ。
保安隊が戦死することはあまり無いが、巡回警備回ると居なくなっている奴がいる。
やっぱり、知っている奴の葬儀は辛い。


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M.C.00×× ×月××日

艦の修理や、新艦艇の受領でこの宙域に留まるらしい。
といっても、流石にグリーズ基地内はイヤなので、近場に陣を張っている状態だ。
新しい艦艇は、駆逐艦となんとヘイムダル級戦艦だ。
型落ち戦艦だが、かつてのバイド戦役での実績は消えない。

戦艦が入るだけで戦力は増すし、隊員のレクリエーション施設がそれなりあるので、
下手に駆逐艦なんかに乗るよりは戦艦に乗りたい。
小型艦艇の方が人員がカツカツだから、忙しいし分業もしにくいから何でもしなきゃならない。
ともかく今日は残務整理だな。


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M.C.00×× ××月×日

辞令で、ヘイムダルに異動することになった。
ヘイムダルが来るのは明日なのでそれまでは待機だ。
といっても、残務整理は昨日の内にほとんど終わっているので、あいさつ回りに行った。

お世話になった上司(貯水槽の一件ではすみません)
お世話をしたR機隊(断トツで喧嘩回数が多かった)
息抜きに駄弁った整備班(良くお邪魔した)
事務方の友、補給と会計課(備品を壊しているのは俺らじゃないんで睨まないでください)
余り関わることのなかった艦隊司令部(でも旗艦勤務だから、またお世話になります)

まあ、大体艦内を回ったのだが、A級バイドを攻略したって事で皆沸き立ってるし、
大きな戦闘の後なので、みんな忙しくてなんかお祭り騒ぎだった。
まあ、いつまでも湿っぽいより良いか。
明日から新戦艦勤務!


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M.C.00×× ××月×日

乗り換え初日。
To do リストの長さに目眩がする。
しかも上は3日で処理しろとおっしゃる。
デスマーチがまた始まる…


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M.C.00×× ××月××日

また、なん日か書けなかった
あれだ、72時間はたらけますか?
しかも、保安隊がそんな事をしている内に、かん隊は次の任務についていました。
今度は天王星えい星オベロンの反乱を平定することだそう

とりあえず休まないと…
明日は○休ん×△……(判読不能)


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M.C.00×× ××月××日

昨日の日記酷いな。そもそも書いた記憶が無い。

さて、保安隊の余りの惨状に驚いた上司を脅して、半交代制で休みを貰った。
オベロン平定する前に、俺らが反乱起こすぞって言ったら何とかしてくれた。
たぶん、俺も他の隊員も目が据わっていたと思う。

移動中で比較的穏やかな日だ。これなら出歩いても平気そうだ。
仕事以外で喧嘩に巻き込まれるなんて御免だからな。
とりあえず、新しい艦内を見て回ることにした。
内容は後で追記予定。


追記。
やっぱり戦艦は広いな。
ラウンジとか生活空間がちゃんとしているのにはびっくりだ。
整備の連中は大体引き継いできてるな。
まあ、そうだよな。旗艦だから、メインの人員は引継ぎだよな。

ところで、今日の一大ニュースはあの技術士官に会ったことだ。
何時もの格好で副官章をつけた士官と話していたようだったので、観察してみた。
ただ、ラウンジは人が余り多くなく、余り接近すると注意を引きそうだったので、
離れたところから雑誌を読んでいる振りをしつつ観察。
俺は唇を読むなんて芸当は出来ないので、話の内容は分からなかった。

技術士官と話しているのは、落ち着いた感じの女性士官で、
副官章と中尉の階級章を付けていた。恐らく提督付き副官のベラーノ中尉だろう。
彼女の態度からどうやら、あの技術士官の方が階級が上のようだった。
最低でも大尉。技術士官とすればかなり上だ。
暫く何かを談笑していたあと、ベラーノ中尉(たぶん)が仕事に戻っていったところで、
俺は観察していた技術士官と目が合い話しかけられた。
観察していたのがばれたのかと思ってしどろもどろになってしまったが、
ハヤシダ隊員か、この艦の貯水槽は壊さないように。と笑いながら言われた。
俺が唖然としている間に、どこかへ行ってしまった。

なんで、俺の名前知っているんだ!?
処分を食らったから名前は公表されているんだろうけど、
顔は出ないはず…
何でだ?


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M.C.00×× ××月×日

オベロンに到着した。
事前に保安隊長から制圧に白兵戦が予想されると言われて待機していたのだが、
R機ほどもある岩石が雨あられと打ち出されているのを、
舷窓から見たときはさすがに血の気が引いた。

内部から進入する作戦に切り替わり、ヘイムダルは外でお留守番になった。
暫く待機していると砲撃が止み、艦長の判断で内部に突入することになり、
ヘイムダルと本隊との挟み撃ちでこの採掘基地の戦力は叩き潰せたようだが、
俺達の仕事はそれからだった。

反乱に組した労働者の拘束手伝い(実際にやるのは陸戦部隊)や、
拘束されていた人達の解放、それにかかる事務。
葬儀。今回はミッドナイトアイ隊だな。
あの隊は本当に死亡率が高い。

ああ、休憩時間が終わったら、また仕事だ…


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M.C.00×× ××月××日

反乱の平定は疲れる。
保安隊にかかる負担が多いよ。
保安隊は、実働部隊からは事務寄りの戦闘員と思われていて、
事務方からは戦闘員寄りの事務員と見られているので、
何かあると両方からヘルプが掛かる。どっちかにしてくれ。

そんなこんなで数日かけて処理と修理をおえた艦隊だが、
和やかな雰囲気だと午前中に思っていたら、
午後になって司令部がバタバタし始めた。
また、出動かな?
戦闘前だけでも休もう。

ところで、いつ地球に帰れるんだ?


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M.C.00×× ××月×日

ありえん。
グリトニル奪還とかありえない。
なんでよりによってウチの艦隊なんだ?
戦果が目立ってたからか?
俺は命令に文句を言う立場じゃないが、これはおかしいだろう。
寄港も少ないし、どことなくみんなイライラしている。
負け戦が無くて、団結力のある隊だからなんとか回っているが、
喧嘩が多くなってきている。

ともかく艦隊は冥王星に向うらしい。


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M.C.00×× ××月××日

何も書いていない数日だったけど仕事だけはいっぱいあった。
非常時でも日常でも仕事の総量が変わらない…。
バイド掃討もいい加減慣れてきたのが、怖い。
明日はソーラー兵器ウートガルザ・ロキの横を通過するそうだ。
あの超兵器が見られるかもしれない。


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M.C.00×× ××月××日

昨日、興味本位で書いた所為だろうか。
今日ウートガルザ・ロキに立て篭もったグランゼーラ軍を相手にすることになった。
なんでもロキの砲身は地球に向けられており、発射寸前まで行ったらしい。

俺は今日まで、これほど旗艦勤務を恨んだことは無い。
何故か俺の乗っている旗艦ヘイムダルは発射寸前のロキの射軸上を進軍していた。
後で聞いたら敵の本隊を引き付けるための囮だったらしいが、
段々と明るさを増していくロキの砲身は非常に心臓に悪かった。


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M.C.00×× ××月××日

俺達を乗せた艦隊は一路グリトニルに向っている。
バイドなどの小規模な戦闘はあるが、問題の無い程度だ。
鎧袖一触という具合で勝っているのにも関わらず、艦内の雰囲気は硬い。
もちろんグリトニル攻略戦が近づいているせいだ。

ここ数日で分かったのは、
俺達単独ではなくて他の宇宙艦隊も作戦に参加すると言うこと。
グリトニルには追い詰められたグランゼーラの残党が終結しつつあること。
精鋭部隊が詰めており、敵の戦力がバカにならないこと。

…あまり良い情報じゃないな。


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M.C.00×× ××月××日

ここ連日、司令部では作戦会議が行われている。
パイロットとかより、司令部がピリピリしているのは珍しい。
…この艦隊は突飛な作戦が多いからな。
まともな作戦を講じて欲しい。

ともあれ、無茶な作戦を立てざるを得ないのは、
そもそも、本部から送られてくる指令が無茶な物だからとも聞く。
そういう意味では、ウチの司令部は良くやっているのかもしれない。
提督様々という事だろうか。
とりあえず、司令室の方角に「生きて帰らせて下さい」と念を送っておく。

あれ、そういえばウチの提督ってどんな顔していたっけ?


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M.C.00×× ××月×日

あと3時間で、グリトニルに到着する。
艦隊の緊張はピークに達していると思う。
流石に、この作戦を前に喧嘩を起こす奴はいないが、
息が詰まりそうだ。

つい先ほど艦内通信で、提督から激励があった。
作戦名はオペレーション「ビターチョコレート」と決まったらしい。
よく分からない作戦名だけど、まあ、古今東西作戦名なんてそんな物だろう。
とりあえず、まだ艦隊のトップがジョークを言える精神状態ということが救いだろうか。


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M.C.00×× ××月×日

ついさっき前哨戦が終わった。
こんな作戦の途中でなんで日記なんて書いてるって、
怖いからだ。
今は俺に割り当てられた小休止の時間で、身体を休めるように言われているが、
こんな状態で休めるわけがない。

今も舷窓からはR機や艦艇の残骸が大量に見える。
あれらの仲間入りはしたくない。
その奥でグリトニルがその口を開けているようだった。

…たった今、全艦通信があった。
提督のテンションがおかしいようだが、大丈夫か?
まあ、悲壮感に溢れているよりは良いと思おう。

この日記が遺書になりません様に!


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M.C.00×× ××月××日

勝った!
戦争は終わった!!!


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M.C.00×× ××月××日

昨日は、興奮して何もかけなかった。
昨日、俺達保安隊は陸戦隊と一緒にグリトニルに乗り込んだが、
敵将キースンは逃げた後だった。取り逃がしたらしい。
でもグランゼーラとは休戦協定を結んだ。
つまり戦争は終わったということだ。
…一応、休戦だから戦争は続いている扱いだが、
現場から見れば終わったと言うことになる。

ともかく今日はこれから終戦祝いの宴会だ!


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M.C.00×× ××月××日

頭が痛い…呑みすぎた。
でも、こんなに酒飲んだのは久しぶりだからいいか。

艦内は死屍累々だった。まともに動ける奴のほうが少数派だ。
まあ、この様子じゃ保安隊は必要ないな。

俺はさっき整備倉庫で目を覚ましたんだが、何してたんだっけ?
…整備班と合流して祝宴を挙げてたんだったか…



…ヤバイ
嫌なこと思い出した。
とりあえず、もうだめだから明日書く。
きもちわるい。


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M.C.00×× ××月××日

艦隊はもう通常営業だ。
みんなタフだな。
休戦といってもほとんど地球連合が勝ったといっていいから、
みんな、表情が明るい。


やっと地球へ帰れる。


…そうそう前回の日記のこと。
俺は整備班と整備区画で飲んでたのだけど、
暫くして、あのジャケット姿の技術士官が酒もって来たんだ。
そのときには俺も相当出来上がってた。
だから何を思ったのか絡んだんだ。
「前から怪しいと思ってたが、お前は誰だ。」って。
側に居た整備班長が笑い出したのが不審だったので、
整備班長の指差す先を良く見た…

ああ、今思い出しても、ヤバイ。
その技術士官は何時ものジャケットの下に将官服を着てた…
うん、俺が絡んだのは提督だったよ。畜生!
作戦前に見たのに分からないなんて…
提督は無礼講と言ってたが、考査どうなってるかな…








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以上、太陽系外縁部で回収された遺留品No.251より抜粋。※地球連合軍情報部検閲済み

内容から、同宙域で消息を絶った特別遠征艦隊旗艦フィンデルムンド保安部のT・ハヤシダ隊員の日記であり、月面演習からグリトニル戦役の時期の出来事について書かれている。
現在において、特に秘匿する事項もないことから、機密文書指定を解除を依頼する。


Team R-TYPE資料課



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完結っていったけど、また来ちゃった。

プレイヤーによっては減給されたり、宇宙に放り出されそうになるハヤシダ隊員です。
せっかくの原作名前持ちキャラなので弄りました。
実はハヤシダ隊員による、提督観察日記。
艦隊の旗艦勤務とか実はハヤシダ隊員保安隊の中ではエリートなんじゃ。

ところで、原作は時間の流れを特定できる記述がほとんど無いのです。
だから日記の日付は検閲で消されたって事で…

原作では何回か提督の服装が確認できるのですが、何回見てもヒラっぽい。
軍帽とか飾緒なかったらヒラ士官と変わらないと何時も思うのです…
軍服には~軍装とか色々あるらしいので、脳内補完しています。



[21751] 外伝3 R-9 (前編) 
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/07/04 21:57
・R-9 前編 



Rwf-9A“ARROW HEAD”

第一次バイドミッションを駆け抜けた英雄。
R機の知名度を不動のものとしたR機の代名詞だ。
戦艦の主砲に値する破壊力を持った波動砲、
物理法則を超越し、新たな機動戦術を切り開いたザイオング慣性制御システム、
そして、最強の矛にして最強の盾、悪魔の兵器フォース。
これらがR-9という言葉から連想される特徴であり、
まさに、次元戦闘機R機の雛形といえる。
バイドミッション後に、地球連合軍の主力機として大量に生産、配備されている。
機体番号にR-9を冠する機体は多いが、
単に「R-9」と言えば、Rwf-9A”ARROW HEAD”を指す。


かつて、バイドの侵略によって滅亡の危機に瀕していた人類。
人々の希望を託され、敵地バイド帝星に投入されたのがR-9大隊だ。
陽動の艦隊や、一緒に突入した僚機が撃墜されていく中、
POWアーマーや、大隊の僚機の捨て身の支援を受けて、
一機のR-9がバイド中枢の破壊に成功した。


残念ながらパイロットは死亡していたが、
宇宙空間を漂流していたR-9は回収され、
調査後に封印された。


地球連合政府の発表ではそうなっている。




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【第一次バイドミッション開始一ヶ月前_前線基地】


「この部分のパーツの組み合わせを変更すれば、フォースの挙動も落ち着きます。」
「でも、今から変更するのでは30機も改修しきれないぞ。」
「我々Team R-TYPEで換装して、調整を基地の整備員と分担すれば、期限内にいけます。」
「パイロットの慣らしも必要だぞ、ミッションの遅延は出来ないんだ。」
「寝なければ、5日で30機行けます。」


喧々諤々と打ち合わせ…というより口論をしているのは、
Team R-TYPEの末端に位置する研究者達と作業服を着た整備員達だ。
後に悪名を轟かせるTeam R-TYPEであったが、
この場に居たのは地球の未来を真剣に考える研究者達だった。
純粋な目をした研究者達は整備に混じって機体を仕上げながら、
R-9をより早く、より安定して、より強力に作り上げることに心血を注いでいた。


白衣を油まみれにさせて機体の最終調整を進める研究者達を、
一番近くで見ていたのはR-9大隊に選抜されたパイロット達だった。
当初は、研究者とパイロットという壁から衝突することが絶えなかった両者だが、
数回の真剣な話し合い(胸ぐらをつかみ合っての言い合い)を経て、
今や、互いを認め尊重しあうまでになった。
お互いが地球のために自分が出来ることに、全力で取組んでいると気が付いたからだ。


パイロットの姓名は知らされない。
Team R-TYPEの研究者の姓名も知らされない。
秘匿項目だからだ。
しかし、彼らも軍人や研究者である前に人間だ。
互いに「なあ」や「おまえ」で呼ぶのは辛くなってきていた。


作戦期日が迫ったある日、
R―9大隊のパイロットの発案で、あだ名制を導入することになった。
要は、パイロット達が戦場で使うTACネームを基地内でも使おうというのだ。
R-9大隊の方はいつも使っているTACネームで決まったが、
Team R-TYPEの研究者達は困った。そういう遊び心とは無縁だったのだ。


それを呆れた顔で見たパイロットチームは第一印象で研究者達にあだ名をつけ始めた。
‘キツネ’だの、‘ノッポ’だのを割り振られて微妙な顔をする研究者チーム。
最後につけられた男のあだ名は‘若いの’だった。


「ほら、‘若いの’。飯いくぞ。」
「待ってください‘クインビー’。まだ、換装スケジュールが…」
「いくら若いからって一日2食でレーションだけじゃ身体壊すぞ。
あと、流石にその白衣は脱いでいけ。整備員より油まみれだ。」


Team R-TYPEの中でも若い研究者は、パイロット達に誘われて昼食に出た。
パイロットスーツの上にジャケットを羽織った不良中年といった風体の‘クインビー’は、
R-9大隊の小隊長で、機体制御に定評のある男だ。
積極的に整備に加わって自分達の機体を作り上げてゆく‘若いの’を殊更に可愛がっていた。
時間の節約として食事をレーションで済ますことの多い‘若いの’を、
よく食堂に引っ張り出していた。


「‘クインビー’。まだ機体換装のスケジュールを消化していないんです。
バイドは待ってくれません。食事している場合では…」
「そう、バイドは待ってくれない。お前がぶっ倒れても待ってくれない。」
「…」
「俺達、パイロットの仕事は戦場で戦うことと、いつでも戦場に立てるように訓練と、
体調管理を欠かさないことだ。おまえも体調管理はして置け。」
「でも…」
「整備だって一人でやるもんじゃない。チームでやるもんだ。お前だけやってても変らん。
それなら、ちゃんと休んで午後から本気だせ。」
「…分かりました。」


‘若いの’も目の前の不良中年が自分のことを気遣ってくれているのはわかったので、素直に頷いた。
しかし、やはり一人やり込められるのは面白くないと思い、
意地の悪い笑みを作って‘クインビー’に尋ねる。


「…ところで、もちろんこの場は‘クインビー’の奢りですよね。」
「え…部下からもたかられているのに、お前もか…。」


食堂の席に付いた‘若いの’のと‘クインビー’の周囲にいたパイロット一同は、
口々に「あざーす」とか「ゴチになります」などの言葉を‘クインビー’に投げかける。
‘クインビー’は口をへの字に曲げてムスッとする。


「あー、分かった分かった。お前らもおごってやる。」
「ご馳走になります。」
「そういえば‘若いの’。お前も随分丸くなったよな。
前はツンケンした鼻持ちならない研究者って感じだったのに。」
「整備の仕事に手を出すようになって、整備員達から随分怒られましたからね。」
「天狗の鼻が折れたか。まあ、若いうちは現実を知って挫折するのも良いだろうさ。」
「Team R-TYPEやめて、整備に来いといわれるのは、未だに閉口しますが。」
「まあ、俺から見てもお前は職人気質だからな。整備の道もいいと思うぞ。」
「やめて下さいよ‘クインビー’。このままだと、本当になりそうで怖いのですから。」


バイドミッションまで一ヶ月に迫ったある日の出来事だった。


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夕食時を少し過ぎた時間、前線基地の食堂に大勢の人間が集まっていた。
テスト飛行や、訓練戦の後の喧騒とは違う雰囲気だ。
整備員やパイロット達は普段袖を通すことの無い礼装、
Team R-TYPEの研究者達も珍しく白衣では無くスーツを着ている


何か浮ついた雰囲気で、皆笑っているが、不安そうな仕草が目立つ。
それを振り払うように、アルコールに口をつける参加者達。
バイドミッション開始前のパーティーは、上辺は陽気に過ぎていった。


会も中頃を過ぎたあたりで、一人のパイロット章をつけた士官がきょろきょろと周囲を見回す。
珍しくまともな格好をした小隊長‘クインビー’だった。


「おい、‘マリポーサ’。‘若いの’のやつ来てないのか?」
「なんだぁ‘クインビー’。アンタはあいつの保護者か? それより、ちゃんと呑んでるのかぁ。」
「お前に聞いた俺がバカだった。どうでもいいけど明日に酒を残すなよ。」
「おーう、パイロットが作戦時にアルコールを残すわけ無いだろぅ。」
「…ったく。作戦前パーティーだからって飲みすぎだ。」
「っておい、‘クインビー’何処へ行くんだ?」
「便所。ついて来んなよ。」


‘クインビー’は会場を後にして、格納庫の方に歩き出す。
それを僚機のパイロットの‘マリポーサ’はニヤニヤして見送った。


さして長くない廊下の向こう、セキュリティーを通過して機密区画に入る。
その区画内の半開きになっていた分厚い耐圧扉の隙間に‘クインビー’が身を滑り込ますと、
薄暗い格納庫の片隅でセンサーの機動音と、工具の音が聞こえた。
呆れたようにため息をつくと、音のする方に向う。
明日の作戦のために最終調整をうけた30機のR-9が並んでいる。
直ぐ後ろにまで来ても、こちらにまったく気が付く様子の無い捜し人に声を掛ける。


「何をやっているんだ。」


意外と大きく響いたその声に‘若いの’が振り返る。
パーティー用に着てきたらしきスーツの上着は乱雑に脱ぎ捨てられ、
ワイシャツには油ジミが付いている。


「‘クインビー’…。パーティーはどうしたんです?」
「酔っ払いがウザかったから少し抜け出てきた。お前はここで何をやっているんだ。」
「何って。換装部位の最終確認です。」
「それは今日一日かけてやっただろう。明日も出撃前に整備が総出で点検する。」
「それでも…」
「そんなに整備が信用ならないか?」
「そういうわけでは…」


手を止めて黙る‘若いの’。沈黙が周囲を支配する。
見詰め合ってたっぷり5秒、目を閉じてため息をついた後、口を開く。


「明日、R-9大隊が出撃してしまえば、我々Team R-TYPEはもう何も出来ないんです。」
「…当然だ。そこまでもって行くのがお前らや、整備の任務だろう。」
「分かってはいるのですが、それでも居ても立ってもいられなくて。」
「…お前、ちょっとそこに座れ。」


相手がしぶしぶといった感じでセンサーやら工具を置いて、床に座るのをみて、
‘クインビー’もその前に胡坐をかく。



「お前らTeam R-TYPEに足りないのは協調性だ。研究者だから秘密主義に傾くのは分かるし、お前らがこのR-9に並々ならぬ情熱を持っているのも分かる。だが、一人が全てを完全にこなすなんてできやしない。」
「はい。」
「いいか。お前がすべきは懸案事項を全て吐き出し、周囲と共有すること。そして、任せた相手を信頼することだ。」
「信頼する…ですか。」
「そうだ、信頼できる相手に一切合財を預けられる。それが仲間だ。」
「…」
「お前のプロ足ろうとする根性は認める。協調性も始めに比べたら格段によくなった。でも相手を信頼することを躊躇っている。」
「信頼していないわけじゃないんです。しかし…」
「整備の奴らは適当なお墨付きをだすか?俺達パイロットはそんなに頼りないか?」
「そんなことは思っていません!」
「ならば信頼しろ。お前ら…いや、俺達は明日の作戦のために全てをつぎ込んできた。
それは信頼に足らぬ物ではないはずだ。」
「…そうですね。まだ色々もやもやしますけど。なんとなく今の自分の状態が不安定なことは分かった気がします。」
「はじめっから自分のすべきことが全部分かっている奴なんて居ない。
みんな最初は半人前なんだ。だからお前は‘若いの’なんだ。」
「はぁ…いつになったら一人前に慣れるんでしょうね。」


ため息をついて、立ち上がった‘若いの’が周囲の工具を片付けようとすると、
静かな格納庫に、大きな腹の音が鳴り響く。
沈黙と気まずさが広い格納庫を支配する。


「…」
「…」
「…これはですね。」
「…飯はちゃんと食えと言ったろ。だからお前は半人前なんだ。」
「ちゃんと食事とっていますよ。」
「俺はチューブレーションを食事とは認めない。」
「栄養価は完璧なんですよ、あれ。味もちゃんと研究されていますし。」
「…この作戦終わったら、ちゃんとした店連れてってやるからな。」
「ちゃんと味分かりますよ。娯楽としての食事と、栄養摂取のための食事を分けているだけです。」
「それはやっぱり分かってないんじゃないのか?」
「‘クインビー’こそ、パイロットなのにレーション嫌いってどうなんですか。」
「パイロットだから嫌いなんだ。まぁ、片付けはあとにして、会場に戻ろう。まだサンドイッチくらいは残っているだろう。」
「そうですね。戻りましょうか。」


油まみれの皮手袋を投げ捨てて、‘若いの’と‘クインビー’は格納庫を出て行った。




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【第一次バイドミッション終了時_前線基地】


Team R-TYPEのRwf-9A調整班に所属する若手研究員は、
手持ち無沙汰にしながら、イライラと基地内を闊歩していた。
パイロット達から‘若いの’と呼ばれた研究員だ。
聞こえてくるのは悪い噂ばかりだ。
さらにR-9大隊の機体と思われる破片も一部回収されていた。
自分達には破片の解析しか出来ないのが、更に苛立ちを増幅させる。
その時、廊下を走ってくる足音がした。振り向くと同僚の研究員だった。


「おい、聞いたか?巨大バイド反応の消失が確認されたって、あと、R-9が帰ってきたぞ。」
「本当ですか!」
「ああ、そんなに急かなくても…あ、おい、何処へ行くんだ!」
「R-9開発主任の所です。あそこなら情報が入るはず!」


機密区画に設置された研究室に走りこむ。
すでに、白衣の研究者達が集まって着ている。
彼は息を切らして飛び込み、少し息を整える。
壮年の研究者は少しそれを見咎めるような目線を送るが、何も言わなかった。


「主任! R-9が戻ってきたって聞きました。」
「まず、落ち着きなさい。今から説明するから。」
「…失礼しました。」
「さて、ここにきたのは全員情報が知りたくて来たと思うのだが…」


壮年の主任研究員が頃合を見計らって、集まってきた全員に向けて言う。
大して広くは無い部屋に、自分では情報を見られない末端の研究員が詰め寄せている。
その目は、自分達が送り出した人類の希望の顛末を聞きたがっていた。
無言の圧力と熱気が部屋を支配している。


「あー、まずは分かっていることから。5時間前に作戦エリアにおいて、巨大バイド反応が消滅した。」


それを聞いた瞬間、沸き返る研究者達。
バイド中枢の破壊、人類の反撃が成功した証だ。
ひとしきり騒いだあと、別の研究者になだめられて静かになる。


「1時間前に、巡洋艦クロックムッシュが作戦宙域付近を漂流しているR-9を発見、回収。
確認作業を行い、つい先ほど、このR-9がバイド中枢を破壊したと結論付けられた。」


こんどはあまり騒がずに抱き合って喜ぶ研究員達。泣いている者もいる。
昨日まで、何時バイドが地球に押し寄せてくるか、恐怖と闘っていた反動だろう。
その中で、一人の若手研究員が発言した。‘若いの’だ。


「生存者はっ!R-9大隊の生存者はいるのですか!?」


叫び声に近い‘若いの’の質問にシンと静まり返る室内。
緊張感に満ちた一拍の沈黙の後に、主任が口を開く。


「生存者は0だ。彼らは身を挺して地球の危機を救ったのだ。」
「回収されたR-9は…」
「パイロットは既に死亡との報告を聞いている。」


そう言って主任は若い研究員から目をそらす。
その後いくつかの質問があり、主任がまだ分からないと回答したあと、
一般発表があるまで、緘口令が敷かれ解散となった。


Team R-TYPEの末端に過ぎない若い研究員達はそれ以上を聞く権限を持たず、
日々の研究に戻ることとなった。
後日、正式にバイドミッションの成功が発表され、地球圏は沸きかえった。
R-9大隊は隊員氏名こそ発表されなかったが、英雄として讃えられた。
また、この作戦の立役者となったTeam R-TYPEの名も広く知られるようになった。



…そして、英雄機R-9は宇宙要塞アイギスでしばしの眠りに付く。



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アイレムからグランゼーラが独立し新たな第一歩を踏み出したことですし、
ここらでひとつ初代の話題を持ってきました。

一気に書ききろうとしたら、前後に分かれました。相変わらずプロットが甘い作者です。
前編だけだと本当に何を書きたいのか分からないような話ですね。
しかも「R-9」と題しているのに、戦闘シーンが全く無いという、相変わらずの提得っぷり。

うーん、今後編を手直ししているのですが、外伝2がギャグ調だったせいか、見事にダーク寄りです。



[21751] 外伝3 R-9 (後編)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/07/07 00:05
・R-9 (後編)



【第一次バイドミッション終了一年後】



「遠路遥々ご苦労様。そこに掛けなさい。」
「はい、失礼します。」


白衣を着たTeam R-TYPEの幹部の前に座ったのは、
白衣はきれいになっているが、‘若いの’と呼ばれた研究員だった。


「さて、君を呼んだ理由なのだが…‘サタニック・ラプソディ’のことは聞いているかね?」
「地球に暴走した惑星破壊兵器が落着して、試作機が鎮圧に向ったということだけです。」
「君は前線を離れていたのだったね。」
「はい、詳しいことは全く知りません。」
「では、この書類を読みなさい。」


記録媒体を受け取り、中からデータを取り出すと、概要だけを流し読みにする。
暫く、クリック音だけが響く。
携帯用端末を置くと、若い研究員が発言する。
心なし顔色が青くなっている気がする。


「…この事件は回収されたR-9がバイド汚染されていたことが原因ということですか?」
「我々はそう見ている。」
「このR-9は…鹵獲されたのですね。」
「そうだ、バイド汚染された前線基地で、Rwf-9A2デルタと戦闘後、半壊状態で鹵獲した。」
「これの調査を行うということですか。」
「君はバイドミッション当時、この機体の整備から全てに関わっていたと聞いている。
細かい部品まで造形が深いと思う。」
「はい…。」
「君に与えられる研究は、バイド素子の徹底した除去法の確立だ。」
「暴走についてではないのですか?」
「それについては、すでに別の班が調査済みだ。」
「…後処理ですか?」
「我々Team R-TYPEが研究を続ける上で、この研究は急務なのだ。
君をリーダーとしてプロジェクトチームが組まれる。今回の件で軍も過敏になっていてね。
プロジェクトチームには軍の技術者も入ることとなった。」


若い研究員は、腑に落ちないものを抱えながらも、
自分の手から離れてしまったR-9にもう一度関わることができるならと、
バイド汚染の後処理法の確立という、微妙に地味な研究に取り掛かった。


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『プロジェクトリーダー、もうじき軌道衛星に到着します。準備をお願いします。』


リーダーとは誰かと、一瞬考えた後自分のことであったと思いなおした。
連絡艇の乗組員は表情が硬い。しかも、微妙に腫れ物を触るような扱いだ。
Team R-TYPEの研究員という肩書きが、その原因である。
バイドミッションが終わってからこの一年。Team R-TYPEは変質し始めていた。


以前は地球のためという目的が研究者を纏め上げ、一つの方向に邁進していた。
しかし、バイドミッションの成功とともにタガが外れた。
膨れ上がった組織はいとも簡単に、進路を失い始めた。
バイドミッションによって拡大された権力を使い、対バイド研究の名の下に、
倫理や常識を逸した研究を繰り返していたのだ。
以来、軍人や軍の技術者との溝は拡大し続けている。


連絡艇は比較的大きな軌道衛星にドッキングし、
資材と人員を降ろす。
ドッキング直前に舷窓から見えたのは量産型のR-9だった。
プロジェクトリーダーとなった男は衛星に移ると挨拶もそこそこに、ラボに向った


「これが英雄機か…。」


分厚い気密扉の向こうに安置されているのは
表面装甲のほとんどを失い、内部がむき出しになったR-9だった。
ひと目で、どれほどのダメージを受けたかが見て取れる。
機体がバラバラにならなかっただけでも奇跡だろう。
かつて彼が寝食を忘れて手を加えたR-9だが、
見るも無残な姿となって再会することとなった。
推進部は既に破壊され、ザイオング慣性制御システムも取り外されている今、
それは戦闘機の形をしたオブジェだった。


「…酷いな。」
「全くです。サンプルをここまで壊すなんて。」


いつの間にか横に来ていたのは、このプロジェクトで彼の下に付くこととなった、
若い研究者だった。
まだこの衛星に到着して1時間も経っていないが、この男が皮肉屋であることは分かっている。
どうやら、ここでの軍人や一般技術者との不和の原因はこの男に在りそうだ。
そうリーダーとなった男は思った。


「現在のバイド係数は?」
「0.06。基準値を下回っています。活性化することは無いはずですが。」
「きっと、回収された当初もそう言われていたさ。
整備員や軍の技術者にも防護服を着用するように徹底させよう。」
「あいつらをここに入れるんですか。」
「‘サタニック・ラプソディ’で皆過敏になっているからな。
こそこそやったりすれば、すべてはTeam R-TYPEの責任と言われかねない。」
「何を噂されようと、我々は我々です。研究効率を第一に考えるべきでは?」
「我々だけで出来ることなんてたかが知れている。途中で助けを求めるくらいなら、始めから参画してもらおう。」


そう言いながら機体の様子を探る。
波動砲で抉られたのか、右側面は装甲どころかレーザーユニットまで失われ、
残った部品もひどく溶解している。
しかし、外部装甲にくらべてコックピットブロックはあまり傷ついていないようだった。
そこでリーダーになった男は、器用に機体をよじ登り、中を見る。
パージされたらしき風防は歪んでいるのか、
非常にあけにくかったが、少しだけ開いた隙間に身体を滑り込ませる。
レバーや壊れた機器は当時のままのようだ。
きょろきょろとしていると、コックピットの内壁にお目当ての物を見つけた。
そこにあったのは、王冠を被ってニヤニヤと笑うミツバチの絵だった。


「これは…」


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リーダーは衛星に着たその日から動き出した。
まず、先にここに居た部下の研究者と、衛星中を歩き回り挨拶をして、ともかく顔を繋いでおく。


感じたのは、そこまで露骨ではないが、Team R-TYPEに対する恐れと、嫌悪だった。
ついでに部下が微妙に排他的で、周囲を見下しているように見えた。
こんな、小さなコミュニティーで諍いのタネをばら撒いてどうするのか。と思ったが、
かつての自分もそうだったかもしれないと思いなおして、そっとため息をつく。


「きっと悪気は無いんだろうが、誰かに鼻っ柱を折ってもらわないとならないな。
俺のときはR-9大隊のみんなとか、整備の人達がいたからな。
俺じゃあ身内だし人生経験が圧倒的に不足しているしな…」


あてがわれた部屋に戻ってから机で頭を抱えて呟くリーダー。
さっきまではリーダーだからと、ちょっと落ち着いた様な振りをしていたが、
今は、1年半前に周囲から‘若いの’と呼ばれていた頃の姿だった。


やがて吹っ切れたのか、翌日からはとにかく行動をと、動き出した。
リーダーは、研究者として実験するより、プロジェクトリーダーとしての調整役に回ることが多かった。
軍人と技術者、白衣組との不和を取り除きつつ、Team R-TYPEの実験計画を練り、
事務方との調整、上への報告を続ける。
自分は研究者だったはずだが、なんでこんな事をしているのかと、
疑問を呈しつつ、全力投球をし続けた。


現実問題として、Team R-TYPEは研究者集団であったため、
このような折衝役を受け持つ中堅というのがほとんど居なかったのだ。
なまじ、バイドミッションまでが研究に没頭していればそれで十分であったため、
そのような問題が放置され続けてきた。
それが、このサタニック・ラプソディを契機に浮上してきたのだ。


組織として非常に歪な形になったTeam R-TYPEは、
その歪んだ基礎のまま成長し続けることとなる。


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「バイド化物質にあるバイド素子は沈静化できるが、検知閾値未満で残留している。長時間かけて、あるとき爆発的にバイド素子が増殖して、暴走するか。」
「ええ、内部まで汚染されて居れば、沈静化による完全除去は難しいでしょう。」
「だからこの実験か。沈静化がダメなら、共振によってバイド素子に莫大なエネルギーを与えて、バイド素子を破壊する。乱暴な実験だ。」


カタンと、データ端末を机に戻すリーダー。
この1年のデータはだいたい頭にたたき込んである。


「はい、リーダー、これがこの前の実験でバイド素子の完全除去に成功したサンプルです。」
「この部品一つからバイド素子を除去するのに、この衛星のブレーカーが落ちたのか…」


白衣の部下がリーダーに渡したのはサンプル袋に入った、
片手で持てるサイズのやたら無骨な操縦桿の柄だった。
リーダーはこの部品と、データを見比べてからため息をつく。


「これが結論だな。」
「ええ、バイド汚染の完全除去は可能です。」
「しかし、費用対効果を見た場合は無理という言葉の方が正しいな。」
「新品の機体の10倍以上の費用が掛かるのでは、研究材料以外は破棄することになりそうですね。」
「仕方が無いだろう。第二次サタニック・ラプソディなんて御免だ。」


「軍人や技術屋はどうしましょう?」
「今まで現場に居たから分かっているだろうが、そのままのデータを渡そう。
汚染機の再利用は事実上不可能だが、少なくとも対バイド滅菌室であれば保管は可能だ。
管理体制がキチンとしていることを分かってもらえれば、
Team R-TYPEで研究を続けることに否定的な意見を鎮められる。」
「…というふうに上に報告するのですね。」
「今から胃が傷むよ。研究自体はともかく、
こんな折衝役は本来なら俺みたいな下っ端のやる仕事じゃないだろう。」


ここ半年の成果で、なんとか軍人や技術者と正常な意見交換がもてるまでに回復した。
Team R-TYPEに送った中間報告などの報告書に対する、適当な反応を見るに、
リーダーは自分がここに居る理由は、
他部署との関係を正常化するという意味が大きいと推測している。
リーダーが駆けずり回る中で、部下の男もなんとか性格が丸くなった。
何故か尊大な態度は変わらないが、本人の努力(とリーダーのフォロー)の結果、
信頼には足りないが、技術は任せておいて大丈夫という、評価を得ていた。


本部へ行ってこの報告書を渡して終りだろう。
そして、聞かなければならないことがある。


「さて、次の連絡艇で本部に行くか。」
「じゃあ、私はここで実験していますので、頑張ってください。」
「問題は起こすなよ。」
「最近は起こしていませんよ。」
「…」



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「遠路遥々ご苦労様。」
「ありがとうございます。半年振りですね。これが報告書です。」
「研究報告を聞く前にひとつ。軍人や軍の技術者との連携はどうだね。」
「正直不信感は拭えませんが、適切に実験内容を公開することで、不満は抑えられたはずです。この短期間で全面協力は難しいですが、業務連携は可能です。」
「ふむ、鎮圧にも試作機が活躍したし、これでサタニック・ラプソディの不審は拭えたかな。」
「むしろ、これから歩み寄ることが必要でしょう。人事交流などが必要ではないでしょうか。」
「残念ながら、Team R-TYPEの研究は基本的に極秘で非公開だ。これは譲れんよ。」
「…」


コーヒーを一口飲んで、考えるリーダー。
ここで揉めても仕方ない。
後で提言書を提出した方がより多くの人に話が伝わる。そう考え沈黙する。
幹部の男は話を変える。


「最終報告では、外部汚染については除染可能、内部汚染については費用的に不可能との事だったが。」
「変更はありません。内部除染は専門設備が必要で、しかも膨大なエネルギー資源を必要とします。一部部品には劣化も見られます。正直難しいでしょう。」
「ふむ、方法次第では費用の件も考えたのだが、共振による内部破壊ではな。」
「根本的な解決法は、これ以外に方法は無いでしょう。」
「ふむ。仕方が無いな。」


データを呼び出して実験結果を素早く読み進める幹部男性。
だいたいの用件が終わり、幹部男性の発言がなくなったところで切り出す。


「一つお聞きしたいことがあります。」
「なんだね。」
「あのR-9に乗っていたパイロットのことです。」
「あれは無人状態でバイド化し、サタニック・ラプソディを引き起こした。パイロットなんて居らんよ。」
「ええ、そうでしょう。しかしバイドミッション時はいたはずです。」
「死亡したという発表があっただろう。」


「いいえ、彼は居たはずです。あのR-9のコックピットは破壊されていませんでした。
少なくとも彼が戦闘では死んで居ないはずです。
そして、あのR-9には通常脱出装置が作動した痕跡がありました。
もし、戦場であれば座席射出型の緊急脱出装置が使われますが、作動していたのは通常型でした。
ご存知の通り初期型のR-9は任務の際に、バイド素子の進入を防ぐために風防を溶接します。
それが内部火薬でパージされた形跡がありました。自らの意思で機を降りた証拠です。」


リーダーは勝負とばかりに、一気に言い切った。
そのまま、幹部男性を見つめる。


「ふむ、君は内部監査官にでもなるつもりかね。」
「いいえ、真実が知りたいだけです。」
「…まぁ、研究者としては正しい姿勢かな。来なさい。」


幹部男性の後について、奥の部屋についてゆくリーダー。
資料室のようだが、異様なのはどの資料も極秘のシールが張ってあることだ。
幹部男性は一つの引き出しを開け、その中にある記録媒体を引っ張り出す。
そして、無言で差し出す。
リーダーも無言で受け取り、端末に挿入する。
認証番号の提示を促されるが、横から幹部男性が手を出し、12桁の文字列を打ち込む。


題名を見て息を飲む。


―人体のバイド化過程における精神・肉体的変化について―


その後は文字が続いたが、よく分からないことが書いてある。
椅子に座ることも忘れて、そのまま立ち読みするリーダー。


救出時データ:肉体損傷なし、バイタル正常、精神汚染濃度24pt、バイド係数0.07
経過1日:バイタル正常、精神汚染濃度31pt、バイド係数0.11
経過2日:バイタル正常、精神汚染濃度34pt、バイド係数0.17
経過3日:バイタル正常、精神汚染濃度56pt、バイド係数0.25.自己認識崩壊予兆あり。



経過16日:バイタル検出不可能、精神汚染濃度187pt、バイド係数0.82、バイド化確認



経過30日:変化なし。研究終了。実験体組織は‘BY-023株’として保管。


書いてあることは分かるが、まったく現実味の無い資料に思えた。
目が研究データを上滑りして行く。全く頭に入らない。
そして、ページを捲って画像資料を見た瞬間。悲鳴を上げて端末を投げ捨てた。
力任せに床に叩きつけられた端末は、
狂ったように様々な画像を映し出したあとブラックアウトした。
肩で息をするリーダーと、突然のことに驚いたように見ている幹部。


「なんで…。」
「ショッキングな画像なのは認めるが、そこまですることは無いだろう。」
「なんで、彼が…バイド化して…」
「映像資料かね。被験者からの情報は可能な限り残すものだろう。」
「‘クインビー’は被験者じゃない。パイロットです!」
「変わらんよ。バイド化されたのなら、それは人ではない実験体だ。」
「人類のために命をかけた英雄をこのように辱めたのか!」
「時代がかった言い草だね。何をそんなに怒っているのか。」


動悸がする。息も肺に入ってこないように思える。
リーダーは目の前の男がよく分からなかった。
最早、言葉が通じて居ないのではないかと錯覚するほどだ。
そして、資料の内容とそれの示す意味をもう一度反芻して、
口を開く。


「今まで、こんな狂った実験を行ってきたのですか?」
「口を慎みなさい。我々は機会を逃さず、人類のために活用している。
これからも、機会があればそれを活かすために全力を尽くすだろう。
…それが研究者というものだろう?」
「狂ってる…」
「狂っていて結構。正常ではまともなデータは手に入らんよ。」
「…っ! 私はここを出ます。辞表は後ほど持ってきます。」
「引止めはしないよ。君程度の研究員は掃いて捨てるほどいるのだよ。
君の有用性はR-9の中身に詳しくて、他部署と調整役ができることのみ。
…それに、ここを出て行ってどこにいくというのかね。」
「好きなようにします。変わりましたねTeam R-TYPEも。昔は研究者としての誇りがあったはずだ。」
「Team R-TYPEに懐古主義者はいらない。
それにそれは君の理想だろう。自分の考えを人に押し付けるのは良くないな。」
「Team R-TYPEが、こんな狂人集団になるとは!」
「ああ、そうそう。辞表は郵送でかまわんよ。ただし守秘義務だけは守ってもらう。」
「ええ、俺もこんな非人道的な実験をしていたと思われるのは不本意です。わざわざ喧伝したりはしません!」
「それは殊勝な心がけだ。その心に免じて選別をあげよう。
我々にとっては意味の無いゴミだが、君にとっては大切なものなのだろう。」


余裕綽綽の笑みを浮かべるTeam R-TYPE幹部から投げ渡されるのは、
先ほどのサンプル。
除染されたR-9の部品。
受け取って思わず、投げ捨てようとするが、理性が思いとどまらせる。
それ以上の言葉は無駄であると思い、これ以上の怒鳴り声をあげる前に引き上げることとする。


「そうそう、もし情報を流出させるようなことがあれば」
「…っ! 失礼しますっ!」


これ以降、彼がTeam R-TYPEの敷地に踏む込むことは無かった。




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【太陽系開放同盟追討作戦開始150時間後 _特別遠征艦隊旗艦エンクエントロス格納庫】



サタニック・ラプソディが起きてから10年以上の年月が過ぎ、
バイドミッションも過去のものとなりつつあった。
すでに、若いパイロット達はバイドミッション当時を昔話扱いしている。


格納庫の取り付け窓から見えるのは、
星海と二重写しになった奇妙に捻じ曲がった空間だ。
奇妙な光に包まれた空間で戦闘機動を繰り返すR機達が飛び回っている。
一機のレディラブが牽制にレールガンを撃ち込んでは、
相手のプリンシパリティーズの波動砲のチャージを解除し、
その後ろではストライダーがバリア弾で防御しながら、
大型ミサイルを撃ち込むチャンスをうかがっている。


一進一退の攻防を繰り広げるR機達。
しかし、この均衡を崩すべく後方のR機が動いた。
エクリプス隊がその高速を活かして、敵陣に切り込み圧縮波動砲を打ち込む。
迎撃する暇もなく光に包まれるナルキッソス。
次の瞬間には、踏み込みすぎたエクリプスに多数の砲門が向けられる。
飽和攻撃に晒されたエクリプス隊にミサイルが迫り…


そして、ミサイルから飛び出したピンク色の染料で染め上げられた。


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今、特別遠征艦隊は、太陽系開放同盟討伐の任につき、
開放同盟艦隊を追ってワープ空間を巡航中だ。


ワープ空間は通常空間と物理法則が異なるため、
R機の機動や艦の姿勢制御などの訓練を行う必要がある。
だから、この日特別遠征艦隊では近辺にバイドや開放同盟軍が居ないことを確認し、
演習を行っていた。


ワープ空間になれるための簡易模擬戦が終了して、
旗艦の格納庫には続々とR機が戻ってきた。
模擬戦用の低収束波動砲で撃たれて撃墜判定を貰った機はきれいだが、
模擬ミサイルやレールガンなどのペイント弾で撃たれた機体は、
ピンクのまだら模様になっている。
これらの機体は模擬戦で負けたチームが責任をもって洗浄する。
洗浄の終わった機から整備員達が取り付きデータを吸いだして、整備を行ってゆく。


パイロット達が全員退場し、工具と重機の音だけになったココが整備員の戦場だ。
もっとも今日は模擬戦であったので、
消耗部品のチェックやワープ空間用の調整が主な仕事だが。
やがて、模擬戦後の喧騒が通り過ぎ整備員達が格納庫を引き上げてゆく。
一部残っていた整備員も交代時間に備えて引き上げる。
最後まで残っていた若い作業服の青年も居住区への出入り口に向った。


彼は、本来予備パイロットなのだが、登場順位が一番下で、実機訓練もあまりできない。
R機隊の隊長から、パイロットならR機の機体のことをまず学べと言われて、
待機時間やシミュレーション訓練が終わると作業着を着て、整備に加わっている。
今日も実機訓練に加われなかったので整備員として、
格納庫に張り付き誰よりも長くR機を見ていた。


彼が後片付けを終えて、明りを落として引き上げようとしていたとき、
格納庫の隅で未だに響く音に気が付いた。
彼は、またかと思い、格納庫の一角に向う。


「お疲れ様っス。これで上がります。」
「おーう、小僧か。明日はその機体の装甲を換装するから、整備始まる前にバラして置けよ。」
「うへっ、大物ですね。…って、俺一応パイロットっスよ。」
「明日は訓練無いだろう。パイロットとしてはまだまだヒヨッコだが、整備なら手があまることは無い。」
「まあ、一日中シミュレータに入っているわけには行かないですが…
俺、隊の人たちからも整備員って思われていそうで…
って、おやっさん、またそれ弄ってんすか?」
「それとはなんだ。小僧。お前の生まれる前から地球を守っていた英雄だぞ。」
「へえ、でもアローヘッドなんてスペック的にも、今の戦争じゃ辛いでしょう?」
「対R機戦は難しいが、バイド戦ではまだまだ使えるし、なによりクセがなくて練習機にはぴったりだ。」
「練習機って、俺これに載せてもらったことは無いんスけど。」
「お前にはヒヨッコすぎるからだ。いいか、このR-9は量産型だが、
第一次バイドミッションを生き抜いたR-9のパーツを受け継いでいるんだぞ。」
「ええ! そんな昔のパーツ入れてるんですか。怖いッスよそれ。」
「バカもの、俺が整備をしてるんだから、故障なんてしない。」
「初代アローヘッドって、ほとんど帰還できなかった奴じゃないですか。絶対事故ります。」


二十歳前の青年と会話しているのはこの特別遠征艦隊のR機整備班長。
かつてTeam R-TYPEとしてバイドミッション等に関与していたころの固さは無く、
技術一本でこの世界をわたる凄腕整備員がいた。


「まったく最近の若い者は…。」


小僧と呼んでいる青年を帰らせた後、
整備班長はR-9の底部の機構を弄っていた手を止め、半ば無意識に呟く。
R-9を支えているハンガーに寄りかかって座った後に、
いわゆる、オヤジ臭い言葉を発してしまった自分に対して顔をしかめる。
自分がいつの間にか古い人間の仲間入りをし始めていることに気付かされたのだ。


老齢に差し掛かった整備班長が見上げるのは、
ピカピカに磨き上げられたRwf-9A”ARROW HEAD”だった。


















































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【琥珀色の空間】


鈍い音が聞こえる。
眠りを妨げるのは、水中で重いものをぶつける様な音だ。
耳に水の詰まった多ような音の聞こえ方…


向こう側でおやっさんと叫ぶ声が、微かに聞こえる。
何をしていたのだったか…
意識は中々表に浮かび上がらない。
まどろみと苛立ちの混じった奇妙な意識の中で、
特別遠征艦隊の整備班長は、今までの取りとめも無いことを思い出していた。


「おやっさん!おやっさん!起きてくださいよ!」


耳元で誰かの泣き声がする。
うっとおしく思って、目を開けると、
視界いっぱいに、作業服を着た予備パイロットの青年が写った。


「……い。」
「え? おやっさん気が付いたんスか!?」
「か…が……い。」
「え?聞こえないッス」
「顔が近いと言っているんだ。ばか者!」


整備班長は青年に頭突きをして、触れ合わんばかりに近づいていた青年の顔を引き剥がし、
手を付いて立ち上がろうとする…が、立ち上がれない。
不審に思ってみると、自分の右腕の肘から先がなくなって、床には血黙りができていた。


「何だって…。」
「痛てぇ、あ、整備班長動いちゃだめです。まともな手当ても済んでないんです。」


良く見ると、格納庫のいたるところに穴が開き、琥珀色の粒子が舞い込んできている。
エアーが漏れているのかと驚くが、不思議なことに呼吸に問題は無かった。
ただ身体が異様にだるく感じるだけ。
気密服を着ていないにも関わらず、息苦しくなく、減圧症などの症状も無いようだ。
ワイヤーの切れ端で無理やり止血してある腕だって、
普通、切断すれば失血死しても可笑しくない重症だ。
自分はまだ生きていて、少なくとも状況を把握するだけの思考を保っている。


「これは…」


どういうことだ。
その一言を飲み込んで、思考を開始する。
自分に出来ることは何か。
一機でも多くのR機を飛ばせるようにすることだ。


「…おい、小僧。R機の様子はどうなっている。」
「え…えーと、予備機は全機戦場に投入されていますし、
修理で入っていた機体も今の爆発で大破しています。」
「アレじゃあ、外のも無事じゃすまない。動かせるR機が必要だ。」
「少しでも動かせそうな機をかき集めて来い!」
「はいっ。」


予備パイロットの青年が格納庫を走りまわると、
周囲の整備員も集まってきた。皆、酷い怪我をしている。
整備班長は、動ける整備員にそれぞれに仕事を割りふる。
使える機体を探す者、パーツを集める者、吹き飛んだ重機や工具を集める者。


整備班長も壁に寄りかかったまま周囲を見渡す。
破壊されたR機が漂っている。あれでは修理もできないだろう。
なんとか立とうと身を捩るが、流石にこの怪我では、動かない方がいいと諦める。
全く動けないわけではないが、他の者の邪魔になるだけだろう。
そんなことをしなくても部下達は動いている。
整備はチームで行うものか。と整備班長は思い出す。


皆忙しく動き回るなかで、大きな声が聞こえてくる。


「あった。ありましたよ、おやっさん。無事なR機です。」


重機でガラクタと化したR機のパーツを蹴散らしながら走ってくるのは、
小僧と呼ばれた青年だった。
重機の後ろに牽引されているのは始まりのR機、R-9だった。
整備班長が手をかけていた機体だ。
しかし、良く見ると波動砲ユニットや機動パーツが破損している。


「R-9…今度は無事だったか。」


呟く整備班長は一瞬ホッとしたような表情を見せる。
そして、息を大きく吸い込んで腹から声をだす。


「よし、お前ら。仕事をするぞ!
カミノ、お前の班は波動砲の修理だ。多少無理にでも高威力波動砲を取り付けろ。
ヴァーモス、お前の所はパーツを集めろ。チョリは機動パーツを取り替えだ。
マトラカのところは使えそうな機体を探せ! 全員、整備員根性を見せろ!」


発破をかけられて一気に動き出す作業服の男達。
整備チームごとに皆が自分の仕事に邁進している。
そこに躊躇いがちに声を掛ける男が居た。
整備チームに重機を奪われ立ち尽くしている‘小僧’だった。


「あ、あのおやっさん。俺は何をすればいいんスか?」
「何をぼさっとしている! とっととパイロットスーツを着て来い!」
「え…。でも俺…。いえ、1分で用意します!」
「30秒だ!」


パイロットスーツのあるラックに走り込む若いパイロットを見ていると、
耳に突き刺さるノイズとともに全艦放送がかかった。
スピーカーがイカレているのか、マイクが調子が悪いのか。
音が割れてしまっている。


スピーカーから流れてきたのは、
整備班長が‘若いの’と呼んでるこの艦隊の司令官、提督の声だった。
普段の様子からは考えられないほどに、切羽詰った声で告げるのは、
武器を求める声。
艦隊は最後の一手を打てるR機を求めていた。


「まったく。」


そういいながら、残った左手で体重を支えて無理やり立ち上がり、
直ぐ側にある通信システムに向かい、通信を入れる。
指揮所の通信コードは何だったかと、考えながら通信を繋げる。
直ぐに通信士が取り次ぎ、端末の画面に提督が映る。
こちらに食いつきそうな。若い提督を押しとどめ現状を報告する。


「整備班長だ。ここに最期のR機が一機ある。
…慌てるな。整備班総動員で飛ばせるようにしている。
元は練習機としておいてある機体だが、大破した機体の波動砲ユニットを無理やりつけた。
パイロットもいる。後30秒で出せる。これが正真正銘最期の一機だ。」


そこで、言葉をいったん止めて画面に映る提督を見る。
その目は迷い無く此方を見ていた。


「…‘若いの’、良い面になったじゃないか…それこそ男の顔だ。」


画面の中の提督は一瞬笑みを浮かべ、感謝する。と敬礼した。
良い敬礼だと整備班長は思った。
なかなかお目にかかれない心の篭った奴だ。


「もう、‘若いの’なんて言ったら怒られるな。今度から、ちゃんと提督と呼んでやるか。」


そう、独り言をいいながら、格納庫の壁を背にずるずると座り込む。
無様だと思うが、身体に力が入らなくなってきている。
何故か痛みは無い。ただ眠い。
降り注ぐ金色の粒子を見ていると、目蓋が閉じそうになる。
それをむりやり押し留めて、整備班長はR-9を見続ける。
駄目になったR機から取り外した波動砲ユニットが取り付けられたR-9には、
あの予備パイロットが着座し、発進を待っている。
…既に自分が何もしなくても、問題はない。


「おやっさん。発進準備終了です!」


走り寄って来た整備員になんとかGOサインを出すと、
ハンガーに繋がれたR-9の戒めが解かれる。
R-9のスラスターが青く発光し駆動音が一気に激しくなる。
そして、一気に加速して半壊したカタパルトから発進した。


最期に見たのは、琥珀色の空間に飛び出すR-9の後ろ姿だった。


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マウスのホイールが壊れました…スクロールがこんなに面倒くさいなんて。

初代を期待した人すみません。「R-9」の皮を被った、おやっさん小説です。
設定だけはあったけれど、本編ではまったく活かされていない話を回収しました。

せっかく前後編に分けたのに、書きたいことを付け足していくと、
後編が前編の2倍の長さに…おまけにつけた琥珀色の空間が無駄に長い所為ですね。
ともあれ、エピソードを全て盛り込むと短編じゃ終わらない分量になる予感がしたので、妥協。



[21751] 外伝4 ウォルトン艦長の憂鬱
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/07/20 21:50
・ウォルトン艦長の憂鬱




私の名前はナイジェル・ウォルトン。
地球連合軍大佐で、この艦隊で旗艦艦長を務めている。
この艦隊の前身である特別連隊の時代から艦長であり、
古くはバイドミッションにも参加しているので、
地球連合軍の中でもかなりの古株ということになるだろう。


数年前までは、輸送艦の艦長などでは栄転もないだろうし、
定年になったら退職して民間クルーザーの雇われ艦長を務めようか。
などと将来設計をしていたものであるが、取らぬ狸の皮算用というやつであろうか。
私は今、ワープ空間を航行中のヘイムダル級戦艦の艦長席に座っている。


すでに還暦を過ぎていたのだが、艦隊司令からの残留を望む声と、
宇宙を駆けることをやめられない性分の所為で、未だに艦長席に座ることとなったからだ。
本来であれば、輸送艦の艦長で終わったであろう私の軍歴であったが、
この艦隊の設立に居合わせたという、望外の幸運のおかげで、
私は特別遠征艦隊の栄えある旗艦の艦長を任せられている。


ワープ空間の艦隊制御の習熟訓練は先日終了したことであるし、
私の視点でこの隊のことを話してみようと思う。


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【冥王星基地グリトニル出発後5日_ワープ空間】


ジェラルド・マッケラン中尉


「ウォルトン艦長!おはようございます!」
「おお、マッケラン中尉か。今日も元気だね。」
「艦長、こちらが提督からの書類です。チェックをお願いします!」
「分かった。処理して置こう。」
「お願いします。艦の状態について問題はありませんね?はい、失礼しました。」


朝一番に艦橋に来たこの男は、提督の主席副官を勤めているマッケラン中尉だ。
彼とはこの艦隊では古い付き合いだ。
かつて提督の副官であり負傷退役したホセ中尉の変わりにやって来た若い仕官で、
ハキハキとした受け答えをする軍人らしい軍人だ。嫌いではない。
少し愚直な所があるようだが、最近のナヨナヨとした指揮官候補より好感が持てる。
柔軟な考え方は、これから少しずつ身につけていけばいいだろう。


いかにも軍人然とした外見に反して、提督の副官達の中では一番事務能力が高い。
しかし、提督からは微妙に避けられている。
…暑苦しいというのが理由らしいが、軍人なんてそんなものではないだろうか。
いくら、人材難や性差の是正によって、女性軍人が増えたとはいえ、
私は軍隊の暑苦しさ、泥臭さは変わらないと思っている。
大体…


「また、艦長のブツブツがはじまった。」
「艦長、アレさえなければいい人だけどねぇ。それよりレーダー見てないとまた怒られるよ。」


…艦橋のクルー達の小言が聞こえる。
おじいちゃん艦長には聞こえないように言っているつもりのようである。
私の外見は白髪の老人といった態であるが、軍人として一定の体力は維持しているし、
視覚、聴覚、集中力の検診は定期的に受けている。
艦橋内のことであれば、大体聞こえるし把握するように努めている。


この場でクルーを叱責することもできるのだが、現時刻は早朝。
本来の私の勤務時間には大分はやいし、悪口といってもそんなに悪意のあるものではない。
艦橋で私語が多いようでは困るが、何も言い出せないような雰囲気になるのも問題だ。
後でやんわり注意するに留めておこう。
私はそっと頭の中の考査表にメモ書きを添えた。


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エマ・クロフォード中尉


「失礼します。クロフォード中尉です。」
「クロフォード中尉か。おはよう。どうしたのかね?」
「はい。朝の連絡に来ました。」
「毎日ごくろうだね。今はこちらから報告することはないか。」
「分かりました。失礼しました。」


彼女は規律に厳しい。
今のも原子時計が第一始業時間を指した瞬間に入室とは、少し病的ではないだろうか。
そういったことをバンバン指摘するので、
艦橋クルーも彼女が艦橋に来ると私語を慎むほどだ。
艦橋はシンと静まり、時折報告の声のみが大きく響く。
私はそうでもないが、この艦隊の緩めの規律に慣れたクルーには辛かろう。
もっとも、彼女は用が無ければすぐに退室するので、余り長く艦橋にいることは無いが。


彼女は気が張りつめているようだ。
グランゼーラ革命軍派の副官ということで、
現在追撃している太陽系開放同盟と確執があるせいだろう。
それについては提督が話しているのを聞いたことがある。
私としては彼女が能力の100%を出しきれる状態にあればいいと思う。
しかし、本人が望むならともかく、害が無いなら余り他人の過去に踏み込むことは無い。


旗艦艦長という任に当たれば、
口を噤む能力というのは意外に重要であると気が付かされる。
そして、これまた意外なことにこの能力はなかなか持っている者が少ないようだ。
若い艦長などであると、どうしても好奇心が先立つのだろう。
二番艦のターナー艦長も、三番艦のヤマモト艦長も、
私より若いが指揮、運営能力的には、旗艦艦長になっても問題ない軍人だ。
それでも、私が旗艦艦長に引っ張り出されたのは、
この口の固さを見込まれたのだと思っている。


「口は災いの元。」
私はそう呟きながら、通常業務に戻った。


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アイリ・ヒューゲル少尉


「ヒューゲル少尉です。入ります。提督~って、あれ居ない?」
「ヒューゲル少尉、君も士官なのだからもう少し言葉遣いを…」
「あ、ウォルトンのおじいちゃん。提督こっちに来なかった?」
「ウォルトン艦長、もしくは大佐。言葉遣いを正すようにといつも…」
「え、提督は司令室に行った? ありがとう。行ってみるね。じゃあおじいちゃんも後でね。」
「話を…」


行ってしまった。
ヒューゲル少尉はその名前の通り、
バイドミッション時の総司令部幕僚のヒューゲル参謀長のお孫さんだ。
かつてヒューゲル参謀長が、補給部にいたときにはお世話になったので、
彼女が小さい頃に会ったことがある。
同じ艦隊になったときは感慨もひとしおだった。
グランゼーラ革命軍に彼女が参加したと聞いたときには驚いたが、
こうして、同じ艦に乗ることになるとは、運命の悪戯という奴だろうか。


口が悪いのが珠に瑕だが、戦闘時には真面目になることもできるので、
(果たしてTPOを弁えているかは疑問だが)私と違って、将器はあるかと思う。
口は災いの元というが、彼女にいつ特大の災いが振ってくるのかとハラハラさせられる。
それだけ問題発言が多いのだが、どういったわけか敵視されるようなことは言わない。
困った奴で済んでしまうのが、彼女の特技なのだろう。


こういった人員は、艦の運営上絶対必要だ。
言いたいことを言えない艦橋はストレスがたまる。
罪の無い悪口や軽口を聞くことで、自分が言えないことを言ってくれているように感じ、
同じ悩みを共有しているという感覚から、ストレスが多少なりとも拡散させられる。
真面目な(に見える)人間の多い艦隊司令部において、
彼女は自らその役割を買って出ているのかもしれない。
と、好意的に評価しておこう。


…ただ、提督にも同じ口調で話すのは、やめてもらいたい。
横で聞いている私の胃が非常に痛む。


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リョータ・ワイアット少尉


「失礼します。ワイアット少尉です。お昼前に失礼します。」
「ふむ、午後の予定に変更でもあったのかね。」
「ええ、バイド反応のある物体が検出されたとのことなので、午後の演習は取りやめ、
偵察を密にして進軍するとの事です。」
「対バイド戦の恐れか。分かった、こちらでも留意して置こう。」
「お願いします。では失礼しました。」


ワイアット少尉が敬礼をして艦橋を出て行く。
素直ないい子だ。私としてはもう少し覇気が欲しいが、命令には従順だし、
地球連合からグランゼーラに飛び込んだらしいし、いざというときは行動できる人間だろう。
後進が育っているのを実感するのは良いものだ。


しかし、彼の将来で心配な面がある。
押しに弱いのだ。
今も扉が閉まる瞬間に、廊下でお局クルーに捕まっていたのが見えた。
彼は完全に女性スタッフのオモチャと化している。


かわいい。
食べちゃいたい。
純なところがいい。
Etc.


軍人として身を立てている彼女達だから、
一般女性より比較的積極的な性格の者が集まっている。
こういうのは何というのだったか…? そうそう、肉食女子が多くて困る。
新人の軍人などはこういう場面に出くわすと、逃げ腰になるほどだ。
彼女らのよい男への執着は凄まじく、少しでも将来性のある男を狩ろうと、
日夜、牙を研いでいる。
その熱意を軍務にも適応してもらいたいものだ。


…しかし、仕事中に猥談を始めたりするのはどうかと思う。
冗談ではなく、放置するとそこまで話が飛びかねないのだ。
そして、そうなったら最期、男では割って入れない世界が形成される。
一度、放置したらかなり露骨な会話が始まってしまい、
私を始めとした男性スタッフが、いたたまれない雰囲気に耐える羽目となった。
話が始まってしまえば、セクハラ容疑が掛かるのが怖くてとめられないのだ。


だから私の仕事は、咳払いをして、早期に艦橋の空気を正常に戻すことくらいだ。
彼女達はこちらを見て謝罪をした後、「見つかっちゃった」というような顔をするが、
男性スタッフはホッとした顔と、名残惜しそうな顔が半々だ。


ワイアット少尉がいつまで清純でいられるのか。
私には祈ることしか出来ない。


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クロード・ラウ中尉


「司令部ラウ中尉です。先日の艦隊シミュレーション結果を届けに来ました。」
「ふむ、今回は設定増援ありであった所為もあるが、艦の被弾率が酷いな。」
「ええ、しかし旗艦がかなりの敵機を吸引しましたので、それはしょうがないでしょう。
脱落した艦も無いことですし、対R機戦としてはかなり勇戦したのではないでしょうか。」
「そういってもらえるとありがたいが…評定はいつだね?」
「本日の午後からの予定でしたが…例の件があるので、明日に持ち越しになりそうですね。」


次に艦橋に来たのはラウ中尉だ。
落ち着いており、この艦隊の司令部ではまともな方だ。
グランゼーラ革命軍からの出向組で、少し軍歴などを誇るような素振りがあるが、
問題の無い程度だし、生粋のグランゼーラ派にしては地球連合派へのヘイトが少ない。
少し頭でっかちであるが、作戦時には常識的な献策をするし、安定している。
総合的に見て有能な副官といった所だろう。


提督はあまり彼を重用していないように見えるが、
出来るならばこの艦の艦橋スタッフとしてくれないだろうか?


無理…だろうな。
もともと、この艦隊の提督付き副官の多さは、
地球連合とグランゼーラのパワーゲームの結果だ。
提督や私を含む艦隊の中核メンバーは、地球連合軍の人員だが、
それに対して、発言力やら人資源やらのバランスを考えた結果、
艦隊司令部に対して、地球連合と同数の副官を乗せるということで決着が付いた。
つまり、彼らは艦隊のグランゼーラ派人員について、
不利益を被らないように監視する役目を担っている。
提督といえども、彼らを無為に動かすことは出来ないだろう。


ああ、よい艦橋スタッフが欲しい。


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ヒロコ・F・ガザロフ中尉


「ガザロフ中尉です。入ります。あ、艦長こんにちは。」
「おや、今日は提督付きの任務の日では?」
「ええ、提督から指令を持ってきました。」
「ふむ、何かな。ついでに持ってきたのは指令だけではないようだ。」


ガザロフ中尉は左手でトレーと焼き菓子の山を支えながら、右手だけで綺麗に敬礼をする。
立ち昇るバターの香りが敬礼とミスマッチだ。
…今日の犠牲者は誰だろうか。


「はい、先行艦及び、哨戒のミッドナイトアイから報告がありました。
この先の空間で、バイド係数の上昇が認められるとの事です。
一時間後にはバイドが存在する恐れのある曲路に差し掛かるとの事で、
1500を持って第二種戦闘配備に移行せよとの命令です。」


「あと、15分か。気合を入れて掛からなければならないな。レーダー探査の強化を行う。」
「はい、お願いします。提督も此方に来るとの事です。」
「ふむそうか。しかし、ガザロフ中尉。それならばこちらに通信を入れて、15分後に提督と一緒に来ればよかったのでは?」
「私もそのようにしようかと思ったのですが、提督から
『私は哨戒機からの最終報告を受けてから行くから、
先に艦橋へ行って君のお菓子を振舞っておいてくれ』と言われまして。」
「………そうかね。」


…提督は我々艦橋クルーを生贄に差し出したようだ。
私は艦橋内を見回す。皆がそそくさと目をそらし忙しそうにする。
どうせ、誰かが被害にあうならダメージが小さい者を選ぶべきだろう。
その中から、二人のクルーを呼ぶ。味音痴と鋼鉄の胃腸の持ち主だ。
私は二人に、折角だから頂いておきなさいと言って、
ガザロフ中尉の焼き菓子の処理を命じた。


彼女は結婚できるのだろうか。
それだけが、心配だ。


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提督


「提督!新たな敵を発見しました。前方距離3000。小規模バイドの群れです。」
「斉射準備、打ち方良く狙え。」
「私のセリフ…」ボソッ
「前方バイド群に向けて、主砲斉射!撃てぇ!」
「…状況報告を。」ボソッ


時計が16時を示す前にバイドとの戦闘が始まっていた。規模はたいしたことはない。
このワープ空間に取り込まれ、寄り集まっていたバイドだろう。
提督と私は現在戦闘艦橋にいる。
この提督は小規模戦闘だと艦橋に居ることがままある。
結構気を使うから、できればCICに行って欲しいのだが…


提督…我艦隊の最高司令官にして、私の直属の上司になる。
歳で言えば私の方がかなり上だが、彼は指揮官適正選抜を受けた士官で、
若くして艦隊司令にまで上り詰めた人でもあるので、私では比較にはならないエリートだ。
彼の率いる艦隊がグランゼーラ革命軍の最終拠点グリトニルを攻略したことで、
地球連合とグランゼーラの戦争は事実上の停戦となり、
艦隊指令であった提督は‘終戦の英雄’として知られるようになった。


戦略級光学兵器ウートガルザ・ロキの砲身に向けて、チキンレースをさせられたり、
難攻不落の要塞ゲイルロズに一個艦隊で仕掛けてみたり…
けっこう無茶をさせる人でもある。
しかし、提督自身も司令本部からゲイルロズやグリトニルの奪還を、
指示されていたりするので、お互い様といった感もある。
彼も苦労している事を思うと、逆に彼の胃が心配になるが、
私と違って余り気にしない風なので、意外と大丈夫なのかもしれない。


提督はクルーからは真面目だが何を考えているか分からない。と評されることが多いが、
意外と適当な性格であることを知っている人間は少ないと思われる。
最近は責任感が表に出て貫禄がでてきたが、以前は結構酷い指揮をしたりしたものだ。
無茶な指揮で私を振り回す元凶でもある。


…提督、お願いだから、私の仕事を取らないで欲しいのです。


_______________________________________________________________________________


ディアナ・ベラーノ中尉


「失礼します。ベラーノ中尉です。提督はいらっしゃいますか。」
「ああ、こっちだ。ベラーノ中尉。」
「提督、御用との事でしたが…」
「ああ、今回のバイド遭遇戦について、意見を聞きたくてね。」


その後も続く提督とその副官ベラーノ中尉の会話。
一見するとただの上司と部下の会話だが、私は違和感を発見した。
データを弄るのであればCICや、中央情報制御室の方が環境良いし、
そもそも、ベラーノ中尉である必要が無い。
提督が確認していることは、すでに部下を育てるための問答にも見えなくもないが…


私はスクリーンの航路図に視線を移し、そっとため息をつく。
若いもの同士の甘酸っぱい青春はいいものだ。
微笑ましいような、気恥ずかしいような、懐かしいような微妙な気分にさえなる。
遥か昔には私にも類似の経験があったはずだ。
そう…私ももう年だ。


…が。
できれば、余所でやっていただけないだろうか。
ここは艦橋であって、あなた達の私室ではない。
合ってはならぬことだが、オフィスラブとやらがしたいなら、
せめて、司令室に行ってやって頂きたい!


私の怒りにも似た内心を知ってか知らずか、
ベラーノ中尉はそっと提督をいなして、仕事に戻ってしまう。
私の考えを察したかのようなタイミングで艦橋を出て行くベラーノ中尉。
…提督、何かすみません。
いや、私が謝るようなことは何も無いのだが、
何でもないような振りをしながらも、
所在なさそうに視線を彷徨わせる様子は、少々哀れだった。


「男女の駆け引きは、ベラーノ中尉のほうが上手か…」


私は極々小さな声で呟いた。


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ディードリヒ・アッテルベリ中尉


「…ウォルトン艦長。前回交戦時の旗艦運用についての詳細データが欲しいのですが。」
「! アッテルベリ中尉。いつの間に艦橋に?」
「15分くらい前です。声をお掛けしたのですが…」
「ああ、そうか気付かなくて、すまないな。」
「いえ…」


驚いた。居たのか!
彼はアッテルベリ中尉。バイドや兵器に非常に詳しく、頼もしい人材だ。
普段の振る舞いを見るに、献策は余り得意ではないようであるが、
彼の知識量はそれを補うだけの価値のあるものだ。
今では提督にその技能を変われて、
副官というよりは技術参謀として艦橋やCICに詰めていることが多い。


頭の中にチップがあって、データベースが詰まっているのではないかという噂もあるが、
私は彼が一戦ごとに情報を持ち帰り、研究していることを知っている。
彼の知識はその弛まぬ努力の賜物だ。
それを誇るでもない彼の淡々とした態度から、
彼は賞賛を必要とはしないことが分かったので、私はその謙虚さに敬意を表して、
彼に請われたデータや助言は可能な限り与えるようにしている。


正直彼の分析したデータは地球連合軍にとって宝となりえるものだ。
戦術研究などの基礎とできるように、レポート化して発表するようにと促すのだが、
残念なことにあまり乗り気ではないようだ。


「アッテルベリ中尉。データは何時もの所に入っている。今セキュリティを外したからもって行きなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
「一応、私は20時で上がる予定だから、それまではここの端末を使っていてもいい。」
「よろしいのですか?」
「かまわんよ。君が重いデータの処理に四苦八苦しているのは良く分かっているからね。」
「ありがとうございます、ウォルトン艦長。」


艦隊の影の功労者である彼に、少しばかりプレゼントがあってもいいだろう。
さて、今日は余り遅くまでここに居ることはできないな。
アッテルベリ中尉に言ったように20時で艦橋を出ないといけない。


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【提督私室】


「ウォルトン艦長が私の部屋に来るなんて珍しいな。」
「実は私も、最近、艦長席に根が生えているのではないかと疑っておるのですよ。」
「あはは、確かに艦長席に座っている光景以外想像できないな。」
「ええ、…しかし現実問題として私が艦長席に座っているのはそう長くは無いかもしれません。」
「ふむ…。」


提督が無言で冷蔵庫からボトルを取り出し、冷えたグラスに注いで私によこす。
私も二人の前に琥珀色の液体の入ったグラスが並ぶのを待つ。
ウイスキー風味のノンアルコール飲料だ。
雰囲気が出ないことこの上ないが、何があるか分からない空間で、
艦長や司令官が酒に酔うわけにはいかない。
それでも呑むのは、酒の上での話というポーズをとってくれたのだろう。
確かに、いきなり素面で話すには重い話だ。


「…頂きます。」


アルコールを抜かれた舌先だけのウイスキーが喉を湿らせる。
決して酔えないが、一種の儀式に近いものだろう。


「私は提督によって、日の目を見ない輸送艦の艦長から旗艦の艦長に引き上げてもらいました。」
「ふむ。」
「以前は戦艦の艦長になれるとは思いませんでしたし、旗艦で指揮を任されるとも考えていませんでした。今のこの職は私にとって過分すぎるほどの待遇です。」
「私は過分であるとは思わないが。」
「いえ、しかし体力の衰えは気にせざるを得ません。
今は軍務に耐えうる体力を維持できていますが、次の遠征があれば、
その間艦長職を務めきれる自信がありません。」
「それで。」
「この遠征が終わったら、艦長を辞させて…いえ退職させて頂きたいのです。」
「ふむ…」
「二番艦ターナー艦長は少々走りすぎるきらいがありますが、経験も積み能力は一線級です。
私の後任には彼を推薦します。」


からからと氷の入ったグラスを回しながら、黙っている提督。
思っていた事は言い切ってしまったので、私も黙って成り行きを見守る。
暫く、目を瞑って何かを考えていたようだが、提督が此方をみて告げる。


「ウォルトン艦長、あなたの意見は分かった。今日のことは記憶に留めておこう。
しかし、今は遠征中だ。思う所もあるだろうがこの遠征が終わるまでは現在の職に留まってもらいたい。」
「はい、是非やらせていただきたいです。」
「もとより、この艦隊の編成は太陽系開放同盟討伐のために組まれた臨時編成だ。
この遠征が終わればじきに再編成となるだろう。
正直、私としてはまだあなたに艦長を続けてもらいたい気持ちもあるが…
この遠征が終わったときに、もう一度あなたの意思を聞きたい。」


提督は右手に持っていた酔えない液体を一気に飲み干すと、
先ほどまでの真剣な表情とは打って変わって、
ニヤリとした笑顔を顔に貼り付けて尋ねてくる。


「さて、ウォルトン艦長。あなたは悠々自適な退役生活をどう楽しむつもりかね。」
「…そうですな。実は軍人は実入りが悪いことに気が付いたので、宇宙海賊も良いかと思いまして。」


提督はキョトンとした顔をしてから、盛大に笑い出した。
私はジョークも言わない老人と思われていたのかもしれないが、
この年若い提督から一本取ることができたと思えば、気分がいいではないか。




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時間軸的にはゲーム後編の始めあたり。

ウォルトン艦長は、地球連合陣営で最初からいる艦長ユニットのデフォルト名です。
でも本編で艦長の出番まったくなかったですね。
本編書いているときは、モブが増えると管理しきれないので、
提督+副官くらいしか固有キャラとして描写していないんですよね。艦長ごめんね。

そもそもTACⅡって個人名少ないですよね。副官ズ(8人)、ホセ中尉、ハヤシダ隊員、
キースン大将、ハルバー提督、カトー次席参謀、ロス提督(Ⅰ提督)くらいかな。
艦長らは名前あるけどゲーム中の扱いはモブだから、実質14人しかいない。

ラストは「俺、この戦争が終わったら退役するんだ。」を
出来るだけ格好良く書いてみました。



[21751] 外伝5 空に舞うのは…
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2011/09/26 21:35
・空に舞うのは


「動け!このポンコツ!」

僕は久しぶりのアローヘッドのコックピットに座って起動を急いでいた。
風防には破片が貫通した小さな穴と、それを埋める発砲性の充填素材が見え、
シートは血と脳漿でぐっしょりと濡れている。
シートの主はついさっきコックピットから強制的に降りてもらった。
早くしないと! 
もうバイドがそこまで迫っている。


「早くしないとバイドが来る!動け!」


僕を乱暴に叩く。ジッという音がしてコックピット内に光が戻る。
電装が次々に起動していく。


「…いける。Rwf-9A アローヘッド発進する!」


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「っていう夢を見たんだ。昨日。」
「夢見がちだな。」
「五月蝿い。」


僕と同僚の一人は、職場の昼休みの時間にグダグダと駄弁っていた。
僕は地球連合軍の本部基地所属の航空管制官。
死亡率の高い前線任務を経てたどり着いた、みなが憧れる後方職。
仕事としてはこの基地に来る輸送艦の航路チェックや指示、
たまに入港してくる宇宙艦隊の発着場所の指示、基地周辺航路の監視などだ。


今や殆ど戦闘の無いこの基地では、他の事務職のように書類に追われる事も無い。
しかし、広域空間把握能力や複数目標同時処理能力など特殊技能が求められるので、
誰でもなれるというわけでもない。
むしろ、必要技能の関係で、前線の戦闘職からの異動が多いという特殊な後方職だ。
…その所為で精神を病んでいるものが多いのは公然の秘密となっている。


ここは地球にある南半球第一宇宙基地。
地球連合軍の本部がある基地だ。
その中で僕らが居るのは、この基地の外縁にある管制塔の中段にある露天デッキだ。
管制塔にいるみんなは、展望デッキとか煙草デッキとか呼んでいる。
視界の端では基地R機隊の機体が離発着を行っているのが見える。


ここは曲がりなりにも地球連合軍本部。
ここの地上用レーダーは、あの日まで敵を写したことは無かった。
本来なら訓練飛行や駐留艦隊の管制しかすることの無い僕らであったが、
(それでもさすがは本部。普段から仕事量は半端じゃない。)
しかし、三ヶ月前のあの日は違った。
この基地にバイドの大群が押し寄せてきたのだ。


僕は視線を空から地上に移す。


管制塔から地上を見ると、いろいろな所で重機が動いているのが見える。
良く見ると航空機用滑走路の脇にはところどころに大穴が開いている。
あの襲撃から3ヶ月たった今もこの基地は絶賛修理中だった。


「施設課は大変だな。」
「施設課統括は、今が戦争だって言っていたぞ。過労死は戦死に入るのかってぼやいていたし。」
「…それはご愁傷様。」
「しかも、兵員の寝る所が無いんで、兵舎が出来るまでプレハブだってな。」
「ああ、兵舎を含めて周辺施設も大分なくなったからね。お陰で管制がし易くなったよ。」
「民間のビルも粗方無くなったし、職場から海が見れるなんて、豪勢だよな。」
「海軍に志願したらどうだ?」
「あんな華が無い上に、壊滅した様な所はごめん被る。」


郊外からの出勤組である僕と同僚は人事の様に言う。
兵舎などの建造物はバイドとの戦闘で、
基地周辺に林立していたビルは、味方の艦首砲でバイドごと破壊され、倒壊している。
基地周囲には高層ビルの土台だけが、そのまま残っている。
背の高いビル群に囲まれていた南半球第一宇宙基地だが、
今は、だいぶ空が広くなった。
ここは海岸線からは何kmか離れているのだが、
ビルがなくなった所為か、海鳥も見かけるようになった。


「あの時、どんな管制をしたとか、全然覚えてなんだ。」
「俺はお前の顔が真っ青だった事だけは良く覚えている。」
「僕は暴れたり奇声を上げないようにするのが精一杯だったからな。」
「そういや、お前パイロットからの転向組だっけか。」
「そう。僕みたいにPTSDになってパイロットから管制になる奴多いらしいな。」
「戦役初期のパイロットは目の良さが折り紙つきだからな。あの時は役に立ったよな。」
「レーダーが全く使えなくなって、肉眼だけで管制だったからな。まったく、いつの時代だよ。」
「まさかR機が墜落して来るとは誰も思わない。しかもレーダーと管制塔の半分を抉ったし。」


僕はかつてR機パイロットだったけど、ひどいPTSDにかかって管制に転向した。
生きているだけで表彰される戦闘って何だ?
特に活躍もしていない僕は、隊の他の人員が全滅したことから、話を捏造して英雄にされてしまった。
バイドとは関係ない本部の事情とやらで精神もやられた僕は、部署転換を願い出た。
幸い、パイロット適正はそんなに高い方ではなかったのと、
パイロット技能として取得していた広域空間把握能力は管制には持ってこいの技能だった。
余りにひどいノイローゼとPTSDで僚機を撃墜しかねない奴を戦場に置いておくより、
他部署に回した方が良いと人事課が判断したため、一時の休職を経て僕は今ここにいる。


僕は真新しい手すりにもたれ掛かる
手すりに身を預けて仰け反って見ると、管制塔は継接ぎだらけだ。
もちろん本部基地の施設が、こんなにぼろいわけが無い。
先ほど言ったとおり、バイドとの戦闘で半壊したためだ。


「外から見ると酷いな。」
「継ぎはぎ補修でなくて、ちゃんと立て替えて欲しいよな。」
「半分しか壊れなかったからな。全壊した施設優先だろう?」
「半壊の方が、いつ壊れるか怖いぞ。せっかく生き残ったのに倒壊で事故死とか嫌過ぎる。」
「管制は安全というのは幻想だったな。」
「ああ、地上基地勤務の管制の戦死なんて、ここ10年くらい無かったからな。」


管制室は半壊(瓦礫の山どころか、床が抜けて、空も見えてた。)
レーダーはアンテナごと消失。
残りの計器も電源がイカレたのかブラックアウト。
機器の大半が使用不可能になった管制塔だが、
有線で司令部と繋がっている通信回路だけは生きていたので、
生き残りだった僕や、今横でタバコを燻らせている同僚が必死に目視で管制したのだ。


「そういえば、PTSDは治ったのか?」
「まさか、バイド恐怖症がさらに酷くなった。」
「そうか? お前が妙に冷静に管制をしていたから、てっきり。」
「あの時は、管制をしないと理性が飛びそうだったからなあ。」


バイド恐怖症は治ってないが、管制塔にはバイドが向ってこなかったのでどうにかなった。
バイドが此方に向ってくるのを見たらパニックを起こす自信がある。
中年男が泣き喚いて取り乱すなんて事にならなくて本当に良かったと思う。


「実際、どうなんだ。お前R機操縦できるのか?」
「無理だな。R機の操縦なんて2週間もしていなかったら勘が鈍るし、
3ヶ月しなかったら再訓練しないと戦闘不可。一年経てばただ飛ばせるだけの素人だ。」
「そんなものか。良く映画とかで、隠遁しているかつてのエースが事件に巻き込まれて、人外の活躍する…みたいな英雄譚あるだろう。」
「それこそ人外だ。どこの天才様が訓練もなしにエース級の活躍できるんだ。」
「やっぱり映画は映画なんだな。」
「僕は、うん10年以上前に引退したロートルだからな。」


英雄なんて作られるものだ。
設定は上層部が勝手に作って、それらしく広報課が公表する。
英雄本人(生きていれば)は、「機密なので」と笑って回答を拒否しながら写真を取られる役だ。
後は、娯楽に飢えたマスコミや民間が勝手に話を作ってくれる。
軍人でないパイロットがバイドと戦闘し殲滅したとか、ドプケラドプスが人語を話すなどといった、
噴飯物の脚色…現実からかけ離れ過ぎてしまっていて、
もはや固有名詞を使った創作の域になっているアニメーションなども作られているらしい。


地面が恋しくなる僕は性格がパイロットには向いていない。
というか、そもそも軍人に向いていないような気がするが、
このご時勢、軍人はもっともとっつきやすい職だ。
他に技能もないし、徴兵で入った軍にダラダラと居続けている。
無意味に機密に関わってしまったので軍を辞められないという現状もある。
僕は何をしているのか。と、ボーと考えていたら同僚がぽつりと言った。


「そういえば、聞いたか。」
「何を?」
「この基地を襲ったバイドの残存勢力を、特別遠征艦隊が仕留めたらしいぞ。」
「ふーん。」


たしか、ドプケラバスターの称号を持つ艦隊だったはずだ。
記録上の僕と同じく…


「でも、太陽系外縁部で、大爆発が確認されたらしい。でもあれじゃ艦隊もヤバイかもな。」
「どうでもいいさ。」


そう、英雄は作られるものだ。本人の意向に関係なく。
呆れ顔をする同僚を無視して、僕は空を見る。


青い空をバックに編隊飛行で行くのは、人類の希望、R機。
ウェーブマスターが5機編隊を組んで基地上空を飛び去り、
さらに上空を見ると、雲の中に見え隠れしてミッドナイトアイが周囲を睨んでいる。
海上ではカロンが、エーギル級水上艦から発艦訓練をしている。
格納庫からはラストダンサーが出てきて、訓練飛行に飛立ったところだ。


人類の空が帰ってきた。
僕は地上からこの光景が眺められれば満足だ。
僕は管制塔の下部デッキから、ずっと空を見上げていた。
時計を見て僕は、伸びをする。


さあ、仕事の時間だ。
今日もいつもと同じ午後が過ぎてゆく。




「おい、リョウ。中に戻るなら俺のコーヒーも入れておいてくれ。」




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アアッアーアアールタイッ! こんにちは作者です。黒歴史と言われているアレをヤッツケました。
別に『プロジェクトR!』でデル太が難産だから、こっち書いたわけじゃ…

管制官の熱い話…と思ったら、なんかひたすらテンションの低い話になった。
これR-TYPEである必要ないよなと思っていたら、変な電波が流れてきて、こんな話に…。

やっぱり、むせる話の方が需要あるのでしょうか。


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