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[20697] 【2スレ目】ダンジョンに挑戦するいじめられっこの話【習作・ネタ】
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/04 19:52
見えないという意見があったので2スレ目です。

1スレ目→ http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=tiraura&all=19470&n=0&count=1


2スレ目における1スレ目の適当なあらすじ。(1スレ目もチラ裏にあります。)


「第一部」
突然死んでしまった少年、佐藤ハルマサがダンジョンに挑むことになりました。
クリアすることで天国にいけるというのが報酬です。
ダンジョンは10階層からなり、第一から第三階層はモンハン2Gのモンスターが魔物として出現します。
ダンジョンに挑み、アホみたいに高い難易度に何度か死につつも、レベルアップシステムとスキル熟練システムによってビックリするほど強くなり、ハルマサ少年は第一層をクリアしました。

「閑話」(37話~)
もしくは現代編。
やたら長いくせに大したことはやっていないので読み飛ばしても問題ないですが、やたら人気のあるお母さんが初登場するのがココなので見たほうがいいかもしれないとさり気に読ませようとする私。

「第二部」(50話~)
第二層に挑戦し、その難易度の跳ね上がり方にハルマサ君は苦しみます。
しかしゾンビになったりお宝ゲットしたりしながら、頑張ってクリアしました。
レベルが上がって気持ち悪いほど強くなりました。ようこそ人外の世界へ。

「閑話」(105話~)
短く纏まってしまった現代編その2。たったの4話。

「第三部」(109話~)
ここからがこのスレでの始まりです。でも初めて読む人がココから読むと、ハルマサがテンションの高い頭のおかしい少年にしか見えないと思うので、面倒だとは思いますが、チラ裏の方から読んでいただきたいと思ったり。いやウソです。読んでいただけるだけで最高ですよね!

では、読んでやってもかまわネェ、と漢気溢れる人たちは、読んでやってください。
作者が気持ち悪いほど喜びます。



[20697] 109
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:19

<109>


紳士の礼服タキシードを着込んだハルマサは、首元に蝶ネクタイを絞め、黒塗りの革靴を履いた完全装備で、ダンジョン入り口へと降り立った。
腕輪は服の下でピッチピチになっていたので、服を破いたら、服は腕輪の下で繋がって良い感じになった。

その彼を迎えたのは360度視界を埋める、鬱蒼とした密林であった。
閻魔様のところの観葉植物が、ダンジョン入り口で二度目の旺盛を極めているのだ。
しかも蠢き、敵であるハルマサを捕らえようとしている。

周囲の敵の悪意がひしひしと感じられる! 状態のハルマサだが、別に焦りはしなかった。
彼にとってこの程度のピンチというのは日常茶飯事であり、寧ろよく知る友のように、付き合い方などとっくに心得ているのだ。
ハルマサは大して心を揺らさず、さっさとこの状況を跳ね除けることにした。

「聖者の骨に……オーバーソウルッ!」

別にオーバーソウルではないが、骨に魔力の炎を纏わせる。
魔力伝導率の高い「セレーンの大腿骨」だからこそ出来る炎の棍である。

「せりゃああああああああああああああ!」

それを回転させ、密林へと叩きつける。
太い木だって、筋力が118万ある彼にとってはさしたる抵抗ではない。

メキメキと多くの木あつるをなぎ倒され、しかもそこに炎をプレゼントされたため、周囲は一気に炎上した。
その惨状に、密林の主が姿を現す。
巨大な顔から触手が生えたような奇怪な姿の魔物である。

―――――――ぼるぼるぼるぼる!

「出たね親玉! 行くよ相棒!」

『オッケーニャ!』とでも言うように、とても手に馴染む大剣ソウルオブキャットを振りかざし、ハルマサは跳んだ。

その速度は人知を超えており、とても怪物についていけるものではない。
彼のタキシードもついて来れず風圧で破れている。
しかし、ハルマサの頑丈な体は、もう少々の風圧にならば耐えられるのだ。

「一刀両断! 兜割りッ!」

スパァ―――ン!

体がほとんど顔のような生物をハルマサは叩き割り、飛び出す臭い汁と息も、剣を振るうことで吹き飛ばした。


これは……ウォーミングアップに丁度良い!
体が適度に温まる!
よぉし、ここだ! この適度にテンションも上がり、魔力もほとんど消費していないこの状態こそ――――カロンちゃんを呼ぶに相応しい!

ハルマサは武器を水を生み出して洗ったあと「収納袋」にしまい込み、頭の中にいるAIに話しかける。

「ねえサクラさん。」
≪はいマスター。あなたの伴侶、AIサクラはここに居ますよ。≫

さり気に何かをアピッてくるサクラの言葉を流しつつ、ハルマサは尋ねた。

「今の僕だったらカロンちゃんを召喚できるかな。」

そうですね……と考えた後、サクラは答えた。

≪スキル「神降ろし」のレベルが少し不足しているかもしれませんが、恐らく可能です。ただし、彼女は強大な能力を持っております。数分でマスターの魔力を吸い尽くすでしょう。≫

「そうか! 出来るんだね!」
≪そうですが……あの、マスター≫

気合を入れるハルマサに、サクラは厳かな声で告げた。

≪よろしければ、一つ提案があります。≫






「カロン――――――召喚ッ!」

特技が発動し、ハルマサの体から魔力が流出する。
魔力は密に凝固し、空中で形を成す。
そしてカロンちゃんの緑の光が飛来し、それに乗り移った。
成功である。ハルマサは気持ち悪いほど喜んだ。

「できた! 出来たぜぇ――――! ヒィイイヤッホォオオオオオオオッ!」
【む? おお! 召喚したのはハルマサか! よぅやった! 褒めて……ぬ?】

呼び出したカロンちゃんは、思わずつッつきたくなるようなふっくらとした頬を持つ、黒髪の可愛らしい女の子だった。
怪しげな黒いローブを頭から被っており、禍々しいオーラを発する鎌を持っていようと、ハルマサにとっては可愛らしい女の子なのだ。
フードから垂れる二本の髪の房を三つ編みにしてあげたいと、ハルマサは思った。

カロンは3頭身の体を、フワフワと浮かせている。
そう3頭身である。下手したら2頭身かもしれない。

【ハルマサか……?】
「骨じゃないカロンちゃんも可愛い……。」
【そ、そうかの? …………ではないわい! ハルマサ、貴様えらく大きくなっとりはせぬか?】
「いや、カロンちゃんが小さいんだよ。」
【なぬ!?】

カロンちゃんは全長12、3センチの頭でっかちな姿であった。
これがサクラの提案。
魔力消費を抑えるエコ召喚である。

召喚は呼び出した者の体を維持するのに大量の魔力を消費するらしく、だったらその体を小さくしてやろう、ということである。
これであれば、「神降ろし」のレベルが不足することもない。
さらに魔力消費を抑えた結果、半日以上、保てるらしい。素晴らしいことである。

【ほほぅ……!】
「もっと魔力があればよかったんだけど、今はこれが精一杯なんだ。ゴメンね。」
【ふ、謝らずとも気にしとらん。】

フヨフヨとカロンちゃんは飛び上がり、ハルマサの頭に着地する。

【こういうのもまた、乙というものじゃ。フフ。】

風が気持ちええのぅ、と呟くカロンにハルマサも顔を綻ばす。

【さぁ行くのじゃ巨神兵ハルマサよ!】

頭をタフタフ叩いてカロンが叫ぶ。ノリノリである。

「オッケー!」
【そこは猛々しく咆哮せんかい!】
「やだよ恥ずかしい。」
【フンドシ履くような男が何を言う。】

不可抗力だよカロンちゃん!

≪ウフフ。マスターが楽しそうで良かったです。≫
「ありがとうねサクラさん。君がナレーターでよかったよ。」
≪お役に立てれば本望です。……ポ。≫

でも、ひまわりのことも忘れないで上げてくださいね、とサクラは言うのだった。



「よし、第三層に突入だッ!」
【ハッハー! ゆけいハルマサよ!】
「うん! お願いキャシー!」

ドコォ! と指輪をキャシーに叩きつける。
度重なるDVにキャシーの堪忍袋の尾が切れる日も、遠くは無いかもしれない。

ともあれ、新たに出現していた「3」の枠へと指輪をつけると、ハルマサは第三層へと転移していくのだった。

ハルマサだけ。






【へぶっ!】

突然消えた足場に、カロンは地面へと落下する。
この姿は頭の比重が重くて、上手くバランスが取れず着地に失敗したのだ。

【……?】

鼻を押さえつつ起き上がれば、ぽつんと、荒野に一人。
ヒュゥ、と風が吹き、先ほどハルマサが倒した怪物の残骸が風に吹かれてどこかへと運ばれていく。

【…………その…あれじゃ。別に寂しくないのじゃぞ?】

誰にともなくカロンは言い訳し、ふて腐れて、自分の体の半分もあるような草をぶちぶち引き抜きだしたのだった。






<つづく>



魔力 : 1075206 → 1158028
精神力: 761385 → 786652


神降ろしLv13: 23072 → 48339
魔力放出Lv15: 267322 → 290784
魔力圧縮Lv15: 243890 → 277983

◆「神召喚」
 精霊、神を召喚し、使役する技。召喚する精霊、神のレベルよりスキルレベルが高い場合、召喚した精霊、神を服従させることが出来る。呼び出しに使用する魔力、召喚維持に消費する魔力は、呼び出す精霊、神によって異なる。


カロンちゃん(ミニ)だと、呼び出すのに魔力を10万消費し、維持するには一秒当たり「神降ろし」に必要な魔力プラス5 の魔力を消費する必要があります。
カロンちゃん(通常)だと、呼び出しに消費する魔力は一緒で、維持するのに必要な魔力はおよそ千倍。
これは、ミニにしたことで体積が千分の一になっていることと関係しています。

何かをしてもらう際にはさらに魔力が必要です。






[20697] 110
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:20

【第三層・挑戦一回目】


視界がブレ、焦点が合うと、そこは第三層の大陸の上空だった。
大陸はまた広大で、広大すぎて、端が見えない。遠くに天を突くような塔があるのは見えるのだが。

ハルマサは、すぐさま「暗殺術」を発動しつつ、上空に向かって空を蹴った。
大陸を俯瞰するためである。
大陸は第二層よりも明らかに大きく、広かった。

「いかり型だ……。」

青筋立てている形ではなく、船を停泊させる際の重りの形の大陸である。
その重りの先端部分がこれから落ちようとしているところで、そこだけ出っ張っている。(これから便宜上この場所をスタート地点とする。)
いかりの根元部分からは高い高い塔が天を貫いていた。

大陸はその周囲から中心に行くにつれて盛り上がり、その尾根はちょうど矢印のようになっている。
日本のような山脈ばかりで平地の少ない大陸となっていた。
最南端から最短で塔に向かうとすれば、まず矢印の先っぽから山を登り、そして尾根を辿っていく必要があるだろう。

山の標高は相当に高いらしく、その半分ほどまでしか植生が見られない。空気も薄いだろう。
どうやら迂回していくのが賢い選択のようだ。
その山の周りは、スタート地点に近いほど熱いらしく、まず砂漠、平原、森(塔に近づくほど広葉樹林から針葉樹林へ変化)、そしてほとんど植生が見られない永久凍土となっている。
永久凍土は溶け出して、沼のようになっていた。

そしてモンスターだが――――


≪マスター。観察中のところ申し訳ありませんが、重要な報告があります。≫
「どうしたのサクラさん。」

サクラが割りと深刻な声をだす。

≪カロンさんが一緒に転移できなかったようで、置いてきてしまっています。≫
「―――なんだとぅ!?」

さっと頭を触るが、先ほどまで乗っていたカロンがいない!
なんという喪失感!

「カ、カロンちゃん召喚ッ!」

シュバッと呼び寄せたカロンちゃんは、何故か凄く後ろのほうから飛んできた。
何故か手で草を握り締めている。
カロンは、ハッと気付くと直ぐにハルマサに飛びついてくる。

【我を置いていくとは何事じゃ――――!】

鎌の背で頭をポコポコ叩いてきた。
その体を手でそっと包む。

「ごめんねカロンちゃん。もう、君を二度と離さないから。」
【ふ、ふん! そんな言葉で騙されるほど、我は安くないわい!…………頬を触るでないッ!】

膨れたほっぺたをプヒュッと押した指が、ぺしっと払われる。
自分でも気付かないうちにやっていた。このほっぺには魔性のものがある……!

≪しかしマスター。いずれ魔力が切れるてしまうのでは?≫
「…………魔力が切れるまでは二度と離さないからね!」
【貴様は………まぁええわい。】

ふぅ、とため息を吐くカロンちゃんだった。
可愛いから頭撫でたいんだけどダメかな。






【……ハルマサ。】
「どうしたの?」
【その……いや、なんでもない。】
「?」

手の上に据わって居るカロンちゃんの頭をクリクリ撫でていたら、カロンちゃんがモニョモニョ言っている。
どうしたんだろう。

ハルマサたちは今、地上へと落ちている。
というか引っ張られている。
重力以上の力である。逃れられそうにない。
何も出来ないのでカロンちゃんを撫でつつ、この階層のモンスターを観察しているのだ。

どうやらスタート地点に強く引かれているようである。
スタート地点は四方を高い壁に囲まれた牢獄みたいな場所だ。
森は鬱蒼としており食べ物に困ることは無いと思うが、狭いので強いモンスターが居るとかなりキツイ。
そして、その牢獄には一つ、大陸へと続く道があり、その入り口に強いモンスターが横たわっているのだ。
そのせいで通り抜ける隙間が無い。
モンスターは恐らくラオシャンロンである。大きさはウルトラマンサイズ。ウルトラマンタイマーが欲しい……。

四方を包む壁の向こうは全部海であり、基本的に、大陸に行くには強いモンスターを越えなければいけないらしい。
ただ、その強さがおかしい。

≪平均ステータスが約13億、すなわちレベル28相当の魔物ですね。≫

鼻汁吹いた。
1.3ギガということか……さすがG級だぜ! いや、G級かは分からないけど、三階層に分かれてるんだから下級→上級→G級かなぁ……って。

積極的にスルーしたいなァ……。
常識的に考えて勝てないと思うんだけど。

しかし僕はスタート地点という牢獄に吸い込まれていく……!

≪あ、マスター。ハチエ様の反応があります。≫
「え、ホント!?」

地面に到達した。
威力が殺されて、ゆっくりと降り立つ。
周りは木々が密に立ち並び、非常に見通しが悪い場所である。
革靴を履いた足裏で、柔らかい土と草を感じ取る。
空気は温かかく、多くの湿気を孕んでいた。海の匂いもする。

「熱いところだねぇカロンちゃん。……カロンちゃん?」

さっきから撫で続けているカロンちゃんが一言も喋らないなァ……と思って見てみると、いつの間にかカロンちゃんはハルマサの手に顔から突っ伏しており、ハルマサの指は小さい尻を撫でていた。
尻をいじられているカロンちゃんはビクンビクンと蠢いている。

【……! ……!】
「……あの、カロンちゃん大丈夫?」
【ふぅ……ふぅ……。は、はるましゃのあほぉ……!】

元気が無いようだった。
撫でられると疲れるのだろうか。

「ごめんね。」

カロンを頭に乗せて、ハチエさんを探しに行く。
サクラの案内にしたがって森を掻き分けると、開けた場所に出る。
ハチエさんは直ぐに見つかった。


ミイラだったけど。


「!?」

オシャレめなジーンズ生地のツナギを着た女の人が、大きな木づちを持ち、大木に背を預けて座っている。
しかしハルマサが近づいても、うな垂れた頭はピクリとも動かない。

「し、死んでる………!」

≪まだ、生きていらっしゃいますマスター……。≫
「あ、ホントだ。」

今にも途切れそうだが、呼吸をしていた。
何かを言っているような気がしたので耳を近づけると、しゃがれた声が聞こえた。

「みぃ……水ぅ……」
「ミミズ?」
「ちゃう……わぁ……こんボケぇ………」

突っ込む元気も枯れ果てているらしい。

≪マスター、確か4号様にいただいた食料の中に、強力な気付け薬が入っていたはずです。≫
「そうなの?」

という訳で。

「いくね。」

顔を上に向かせてそろりと流し込んだ。

「ん……グホォ!」

ところが吐き出してしまった。受け付けないのだろうか。
一気に入れてみよう。

「行くよ!」

ドバッと。そして無理やり顎を閉じさせる。
女の人は目を見開くと、ハルマサの手を払いのけた。

「……! ……ゴバハァ! 死ぬわァ! 半死人そのまま逝かせてどないすん……ありゃ? 動けとる。」
「おお……凄い効き目だね……」

ハルマサが手にしているのは「スタミナX」とラベルに書いてある、リポDみたいな小瓶である。
「飲めば死にかけのじいさんすらバッキバキ!」とか胡散臭い事が書いて在ったのだが、効果はあるらしい。
やつれていたのにツヤツヤとした肌になったハチエさんを見れば、良く分かった。


ハチエさんと一緒にご飯を食べつつ、話し合うことにした。

「ありゃあ、閻魔様んとこのお仲間さんかいな。こんなところに来てもうてお互い大変やなァ。」
「そうですねぇ。本当に。」

しみじみしちゃうね。
仲間って良いかも。

ハチエさんは食料が切れて干からびていたらしい。
この肥沃そうな場所は、実は食料が少ないとか。水も無いらしい。神のいやらしさが際立つね。

「それで、あのレベル28のラオシャンロンに向かっていったんですか?」
「28もあったん!? そりゃあ無理やわぁ。ここのモンスターら一つレベル上がるだけでおかしいくらいに強ぅなるもんなぁ。」

ハチエさんは、そのモンスターを倒してからでないと強さが分からないらしい。
今までは、どんな相手でも自分の中で一番強い武器を使っていれば倒せたが、今回は無理だったとか。
動きは速くなかったので何とか近くまで行って切りつけたのだが、かすり傷も与えられなかったらしい。

「一発で剣折れてしもうてなぁ。使える武器のうなってしもうてん……。」

ウチに残っとるのはこの呪われた木づちとナマクラの剣だけやねん……と暗く沈むハチエさん。
しかも木づちは呪いの効果で手に張り付いているらしい。

「装備した時に『この武器は呪われている!』とか言われると気力なくなるで。」

まぁ本気出せば直ぐに壊せるらしいのでそれほど困っても無いとか。というか目の前で壊した。

「んで、ハルマサ君はなんか秘策ある?」

ハルマサは考える。この窮地、安全にでもなくて良いから抜け出すには?


「その前に能力紹介しません?」
「ウチはかまわへんけど、君はええのん? 能力ってホイホイばらすもんちゃうで?」
「別に構わないですよ。」



で、以下のことを教えあった。


ハルマサLv18
基本的に行為を反復すればそれに関するスキルを習得できる。
条件を満たせば卑怯くさい特性も手に入れられる。
近接武器は大概使えるし、魔法と格闘が出来る。
強い敵に突っ込めば、あっさり死ぬか、もしくはかなり強くなることが出来る。
なんでも食えるからエサはいらないし、再生能力あるから放っておいてもしぶとく生きます。
家庭においては、炊事洗濯裁縫できます。
姿を消せるので犯罪もできます。
あとまぁ色々できます。


「あれやな。君なんでもありやな。石食えるとか、サーカスのおっちゃんかい。」
「てへへっ!」
「褒めとらんのやけどな。」
「ッ!?」


ハチエLv17(ステータス的にはLv16)
武器を持ったら強くなります。たくさん持てばドンドン強くなります。
敵を倒したらカード化した武器を入手できます。カード化を解除した武器は、またカードに出来ます。
あと、最近野生の勘が良く働くようになりました。
現在、武器は3種類しかなく、その1つはLv18まで使えません。

「とてもシンプル!」
「あんま応用効かへんけど、選択肢あり過ぎて迷うっちゅうことはないわな。まぁごり押しでいけるし。二層のボス戦はやばかったけど。」
「第二層のボスって?」
「え、知らへんの? あの顔二つもあるボス。」

メッチャ堅くて、武器をほとんど使い潰してようやく鱗を壊したと思ったら、その鱗を全部落としてスピードアップ! とかしてくる敵らしい。

「フリーザじゃなくてザーボンで良かったわ。」

第三の形態があったらやばかったらしい。

「ていうかなんで知らへんの?」


ハルマサはクエストの説明をした。

「ほへぇ……そんなんあったんか。ウチ、武器欲しい思ぅて全部倒してしもうとったからなァ……。」

まぁ人間倒して武器でたか分からんから丁度よかったんかもな、とハチエさんは軽く笑ったのだった。


話し合いは、どうやってココを脱出するかに焦点が絞られていった。


<つづく>




「神降ろし」スキルの熟練度が唸りを上げて上昇中。







[20697] 111
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:21

切り立つ壁の牢獄から、大陸に行くには一本道を通る必要がある。
しかしそこには超強いモンスターが居るのだった。

「基本的に正面突破は無理やと思うねん。」
「土の下はどう?」
【海の上を迂回すればよかろう。】
「土の下も海の上もちょっと……って、はぎゃ―――――――! なんじゃこりゃあ! かわ……可愛いな!」

復活し、話に混じってたカロンに、ハチエは過剰に反応した。

「ええと、カロンちゃんって言って、僕の……なんだろう?」
【守り神じゃな!】

なるほど。
胸を張るカロンちゃんにハチエさんはハァハァ言いつつ擦り寄っていた。

「な、なぁ、そのほっぺた触らせてくれへん?」
【こ、怖い! なんじゃ貴様は!】
「ちょこっと、ほんのちょこっとでええから、な?」
【さ、触るな! シャ――――ッ!】

指で触ろうとして、鎌で威嚇されている。
諦めきれない表情でカロンを見つつ、ハチエは呟く。

「ええなぁ守り神…。くれへん?」

なんてことを言うのだッ!

「ダメだ! あげないよ! これは僕のだ!」
【そ、そうじゃ! 我はこやつが気に入っておる! 離れるつもりは無い!】

カロンちゃん……!

カロンが嬉しいことを言ってくれたのでハルマサは即座に壊れた。

「僕はもう君にメロンメロンだよ! 結婚しよう!そうしよう!」
【ま、待て……!】
「ウチの入る余地はないんやね……。でもハルマサ。危ない人に見えるから程々にしときや。」

そうですか?

カロンちゃんは、【きょ、今日は帰る! また明日じゃ!】と言って帰ってしまった。
もしかして嫌われてしまったのだろうか。
すこし自重しよう。明日もしっかり呼ぶけど。

ともあれ、話を戻して、海の近くを通ることを嫌った理由について、ハチエさんが話してくれた。

「それは、少女ハチエが地面を掘った時のことでした……」
「……少女?」
「お肌とかプリプリやろ?」
「確かに!」
「それは美しい少女ハチエさんが健気に地面を掘って行った時のことでした……」

余計な修飾語をつけつつ、ハチエは話してくれた。
この下を掘ったのは割と早い段階のこと。おそらく十日は前だった。
穴が開通し、吹き上げてくる水にまけずに潜ったところ、ウルトラマンばりにデカイ蟹が仄暗い水の底からこちらを見ていたとか。
その半端ではないプレッシャーに、ハチエは危険を感じて戻ったらしい。


「十日前だったら、クエストの蟹とは関係ないねぇ。」
「そうみたいやね。」

どうせレベルは26だろう。
海から行くのは却下。

陸から行くのは端から却下。

「じゃあ空しかないね……うん?海? ……あ!」

ハルマサは「収納袋」に入っているモンスターの素材に思い至った。

「そうだ、ハチエさん。これで武器作れるんじゃないですか?」

ハルマサが思い出したのは、いつぞやにガノトトスを倒した時のドロップ。
「魚竜の重牙」という剛強さがウリの牙で、ソウルオブキャットの修繕に使おうと思っていたものである。
でも2号が良い感じに直してくれているので、もう必要無いのだ。
そしてハルマサが持っている素材はもうこれだけだ。
後は空腹時に全部食べてしまった。
もったいない。

ハチエさんの能力は、魔物を倒すか、魔物の一部を破壊することで武器を得られるもの。
だったらドロップを叩き壊しても良いはずだ。

「ハルマサぁ! あんたええ奴やなぁ! よっしゃ、ちょっと見ときぃや! ……でい!」

バキャーン! とハチエが拳で「重牙」を叩き壊すと、破片がモヤモヤと光り、一つに纏まる。

そして一枚のカードになった。
白い刃を持つ小振りの剣の絵の下に、説明が書いてある。



○「魚竜牙の投剣」(Lv13)耐久値:12288
 魚竜種の重牙を削り出し、整形した投剣。その刃は、あらゆる甲殻種の防御を抜く。(でも砦蟹だけは勘弁な!)
筋力(+600%)、敏捷(+1200%)、器用さ(+800%)


「これ、ごっつ使えるんやけど―――――!」

うぉぉ、とカードを掲げて目をキラキラさせていたハチエだったが、くるりとハルマサに振り向いた。

「これ、ほんまに貰ってええのん?」
「うん。僕使わないし。」

投剣スキルも無いし。何より今のハルマサにはソウルオブキャットがある。

「口に咥えられるような小さい武器はすんごい貴重なんよ? ほんまにええのん?」
「ど、どうぞ?」
「返せ言うてもその時には唾でベタベタやで?」
「いやあげるから。」
「……分かった! んなら貸し1やで! 次なんかええモン手に入れたらハルマサ君に譲るわ!」
「え、いいよ。」
「遠慮せんでええよ? これは凄いものやねんから。」
「そこまで言うなら……カードを具現化する時に「存在せよ!」みたいなキメ台詞を叫んでほし」
「それはイヤや。」

結局あとで良いものを貰うことになった。


ハチエさんの指の中で、ジジジ、と端から燃えるようにカードがなくなっていく。
カードがなくなったときには、ハチエさんの指には、一本の短剣が挟まれていた。

「むぅ……やっぱ凄いわこれ。」

に、と笑ったハチエの口は、歯がいやにギザギザしている。まるで牙のような―――――

「ん? ああ、これか。」

ハチエは、武器の概念を体に発現するとか。
今は八重歯のように鋭い牙が生えているらしい。

ハチエは上昇値を確認した後、ぱん、と短剣を上下から挟むようにし、引っ付けた掌の間には、カードになった短剣があった。


まぁ戦力が少し増強されたところでラオシャンロンに敵うとは思えないのだが、ハチエは違うようだった。
ニヤニヤしつつカードを眺めていたハチエは、ハッと気付くと、ハルマサを見てきた。

「なぁハルマサ。自分なんでも出来るんよな?」
「ま、まぁ大概のことなら。」

ハチエはずい、と乗り出し、肩を掴んできた。

「武器作って欲しいねん。もしかしたら、一気にラオシャンロン倒せるかもわからんし。」


と、いうわけで。


「第1回! 武器生成祭り――――!」
「そ、それは第2回もやってもらえるッちゅうことやね!?」
「……さてそれでは、始めましょう! ここに取り出したるは」
「なんでスルーするん!?」
「この右手! そしてぇええええ、左手ッ!」

ババーンと口で良いつつハルマサは両手を広げる。

「錬・金ッ!」

バンと両手を地面につけると、そこから魔力を注入する。
硬そうな鉱石を集めて、それをギュッとね。
固めるのだ!

そしてズズズ、と地面から柄を浮かび上がらせ、ズルゥと引き抜く。
その大きさは、半端ではない。
柄の長さは1.2メートル。重さは数十トン!

「おおー! やるなハルマサ!」
「完成! とっても硬い「超合金Zハンマー」ッ!」
「超合金Zは言いすぎやろ。……どれ。」

ハチエさんは、自分が作った武器でなくてはカード化できないらしく、「超合金Zハンマー」の強さは持ってみないと分からないらしい。

「えらい重たいなァこれ。ん? おお? ……ダメや。」

ハチエさんが残念そうにハンマーを置く。
やはり、自分で作った武器でないとダメのようだ。

「残念や。……んでも、武器があるッちゅうことはそれだけでありがたいねん。ありがとな。」

結局、ラオシャンロンを回避して、大陸へと到達する方法について話し合うことになった。



<つづく>

ぐだぐだですんません。








[20697] 112
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:21


「じゃあ、空から、と言うことで。」
「そやな。でもラオシャン怖いから迂回してこな。」

陸海がダメなら空しかない!
という訳で、飛んでいくことでFAである。
その方法。
ハルマサが、ハチエを引っ張って飛ぶのもありだが、今のハルマサには頼れる武器がある。

「いでよッ! ソウルオブキャ――――――ット!」
「テンション高いなァ……。」

テンションは大事ですよハチエさん!
特にこのダンジョンでは!

「収納袋」から取り出したのは漆黒の大剣である。
魔力を通せばふわりと浮くそれは、魔力を燃料とした何らかの機構で飛ぶようだ。

≪引力と斥力のコントロールですね。飛ぶことに特化させたため、攻撃には用いれないようですが。≫

2号さんスゴイなァ……。

「おお、なんや物々しい剣やな。触ってもええ?」
「あ、いいよ。」

柄を握った瞬間、ハチエさんは叫んだ。

「おおお! 凄いなこれぇ!」

確かにその剣は凄いが、凄いのはハチエさんのほうだとハルマサは思った。
ビババッババババ! と台風のように振っている。
ハルマサより明らかに使いこなせていた。

「おろ? しかもこれ……空飛べるや――――ん!」

ヒュバ! とハチエは飛び立ち、空でクルクルと回り始める。
空中での停止、加速、さらには遠心力を利用した戦い方など、すぐに見つけて実践してしまっている。
物凄い順応性だった。

「……。僕の方がうまく使えるんだ……」
≪拗ねないで下さいマスター……。その内いい事ありますから。≫

サクラが慰めてくれたので、ハルマサはシャキッとすることにした。


「ほんじゃあ行こか。」

ハルマサがソウルオブキャットにハチエさんを乗せて移動する計画は、ハチエさんが僕を引っ張っていく計画に変わっていた。
それが一番速いからね。
スピード的には以下のような感じ。
「魔力放出」で飛ぶハルマサ < ソウルオブキャットで飛ぶハルマサ < 全力全快の「魔力放出」で飛ぶハルマサ ≦ ソウルオブキャットで飛ぶハチエさん

破れた皮膚から血液噴射しながら飛んでも勝てずに、おまけにドン引きされたハルマサは悔し涙を我慢する。

(悔しい! でも、これが一番なんだ!)
≪マスター……。顔が梅干をたくさん食べたみたいになっています……。≫

泣くのを我慢してるんだよぉ!


左手でソウルオブキャットを握ったハチエさんが刀身に横向きに座る。そしてハルマサは刀身の上に立ち上がっていた。
ハチエには出来ない、「風操作」をして風を避ける役である。これをすることでさらに速度は増すのだ。

二人による強力プレイ! モンハンらしくなってきたァ―――――!とハルマサはテンションが上がっている。

ハルマサたちの乗ったソウルオブキャットはラオシャンロンの反対側から海に飛び出し、そこから迂回して、大陸の東側へと向かっていく。
上空50メートルくらいでの、意外と心地よい飛行だった。

タキシードを着ているハルマサは、踵を揃えてしゃんと背を伸ばし、刀身の先端に立って後ろでに手を組んでいる。

――――これこそが紳士立ち!
美しく伸ばされた背筋が、全ての男性の憧れだとかそうでもないとか!

そんなことを思っているハルマサに、ハチエが声をかけてきた。

「なぁハルマサ。」
「? どうしたのハチエさん。」
「ウチのことお姉ちゃんって呼ばへん?」

――――なぜ。

「そして一気に親密さを増したハルマサに言うんやけどね?」
「は、はい。」

増してないですよね。
と思ったハルマサは次の言葉で固まった。

「正直、蝶ネクタイ全然似合うてへんで?」
「なん……ええ!?」

閻魔様が折角直してくれた蝶ネクタイが……!?

≪実は私もそう思っておりましたマスター≫
「ぇえ―――――――!?」
「ま、まぁそのチョウチョ外したら結構カッコええし、そんな落ち込まんでもええんちゃう?」
「い、いやでも、これは大切な……」
≪あの時、閻魔様もボソッと、「蝶ネクタイは正直無かったかもな」ってお言いになってました≫
「は、早く言ってよぉおおおおおおおおおおお!」

とんだピエロボーイだぜぇ――!

「おおっと! せまいんやから暴れたらあかんて、な?」
「ごめんなさい……」

もうこの海にマリアナ海溝より深く潜りたいよ!

そう思ったハルマサの心が通じたのだろうか。
彼らを引き摺り込む腕が海を割って現れた。

ドパァアアアアアアアアアン!

――――――――――――ギィイイイイイイイイイイ!

海中から伸びた巨大な鋏が、50メートルの距離を瞬時に縮め、ハルマサたちの乗っていたソウルオブキャットを前後にガキーンと挟み込んだのだ。

「うぉおお!?」
「わぁ……大きいカニやで。ウフフ。」

急停止する剣の上で慌てるハルマサだが、ハチエさんは混乱しすぎて慈しむ目をカニの鋏に向けている。
それに突っ込む余裕もない。

ハルマサは一瞬、第二層で会ったカニかと思った。だが違う。
この威圧! 殺意! 明らかに敵だッ!
水の底から出てきたのか!?

ハルマサは咄嗟に掌の上に雷を集め、回転させる。

バチバチバチッ!

「くらえぇえええええ、「雷球」ッ!」

メキャア!

雷球は鋏へと当たり、表面へとダメージを与えた。
だがそれだけだった。
強打した掌にジン、と痛みが残る。
「観察眼」で見れば、やはりレベルは26。サクラによれば平均ステータスは3億。
ハルマサでは、ダメージを与えることさえ出来ていない。

「ク……!」
「ダメや! 攻撃全然効かへんッ! ハルマサのハンマー折れてもうた!」

ハチエの手の中には、一発で砕けたハルマサ製のハンマーがある。短い命だったね……。
それにしても防御が硬すぎる……!

こうなれば―――――――できることは全部やってやる!

「……よぉぉぉし!」

ば、とハルマサは空中に躍り出る。

「ハチエさん! 後よろしく!」
「ちょ、なにするん!?」

―――――――「黄金の煌毛(コウモウ)」発現ッ!

バチィ! と耳元ではじける雷光を聞きつつ、ハルマサはスーパーハルマサになった。(色的に)
そして両手を伸ばし肘あたりに鉄塊を生成。
電力を……プラズマ化するほどの電流を!

「レェエエエエエエエエルガンッ!」

――――――――キュボッ!

軽い音で、今度はちゃんと前方向に打ち出された塊はカニの鋏に直撃する。
一発じゃ足りない! 二発! 三発!

「―――――ッ!」

ドゴッ! ドゴォッ!

予想以上の衝撃だったからだろうか。
挟み込み、海へと引き込む力が弱った!(らいいなとハルマサは思った)
ハルマサは、ココに全てをかけると以下の三つを発動させる。

――――――――「濃赤の沸血」発現! 「剛力」発動ッ!――――――特技―――「加速」ッ!

ゴォオ、と周りが遅くなる。膨れ上がった筋肉を、熱い血潮で赤く染め。

≪長くもちません。10秒以内に決めてください。≫

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

空を蹴りつけ、ハルマサは後ろへと下がる。一瞬で数十メートルの後退。
そして跳ね返るように前へ。

「空中着地」で、ギと空を踏み――速度を上げ――――――ギシ、と踏んで―――さらに倍速ッ!

10秒?
そんなにいらない! 欲しいのは渾身の力をこめた一撃! いや二撃ッ!

「突撃術」が発動し、ハルマサの体が赤く染まる。
腰にひきつけた腕に力が溜まる。
その最中、ハルマサはじっと見ていた。「解体術」で見えた黒い点、針の穴ほどの弱点を。

接触の瞬間、ハルマサが「空中着地」で作り出した足場に、空を揺るがす勢いで震脚を踏み込む。

―――――――――崩・拳ッ!

ゴォン! と巨大な鋏が揺れる。
硬すぎる甲殻にハルマサの右手が砕け、骨が潰れて血が飛んで。
痛みを感じる暇もなく、ハルマサは、送り足に力を込める。
体を小さく纏め、自分の血でマークした甲殻の弱点に左手を触れさせ。

―――ギシリギシリと力を縛る。暴れる全てを拳にこめる。
奥歯を噛み砕いた瞬間、特技が発動した。

「無、空波ぁああああああああッ!」

――――――――ドォン!

撃った瞬間、ちょっと硬すぎるよこれ、とハルマサは思った。
拳の耐久力が、敵の甲殻のそれに全然届いていない。
手は手首までぺちゃんこになり、深い亀裂がまるで陶器に入ったヒビのように腕を走り、一拍置いて血が噴出す。
肘、肩の関節が砕け、腱と筋が悲鳴を上げる。
「加速」「突撃術」「撹乱術」「空中着地」の急加速、急減速について来れなかったのか内臓が軋み、胃を吐き出したいほどの吐き気とともに、口の中に血が滲む。

頭は痛いし、鼻血も出てるし、もう何が何だか分からない。

――――でも効果はあった。

「ギイィイイイイイイイイイッ!」

彼の放った全力の二連撃は、カニの甲殻にヒビを作り、その鋏を開かせたのだ。
ハチエが一瞬の隙を逃さず、ソウルオブキャットを拘束から救い出す。
蟹の足を蹴って、ハルマサに手を伸ばし――――

「―――――――――ハルマサッ!」

その声を聞くか聞かないかするうちに、ハルマサは気絶していた。



<つづく>


これだけ色々やっても、ほとんどかすり傷っていう。
敵の装甲8億だし。
だが、レベル8つ上に挑んだのは無駄ではない!
という訳でスキルアップ祭り。


満腹度: 799441 → 4966483(496万)
耐久力: 920597 → 3140635(314万)
持久力: 798217 → 4965259(496万)
魔力 : 1158028 → 14943283(1494万)
筋力 : 1186530 → 22029855(2202万)
敏捷 : 1127386 → 22136311(2213万)  ……★33204467(3320万)装備品により1.5倍。
器用さ: 1279876 → 27571986(2757万)
精神力: 786652 → 10894924(1089万)


○スキル(上昇値が高い順)
拳闘術 Lv21 : 189230 → 11289421(1128万)  ……Level up!
戦術思考Lv20 : 158273 → 10127492(1012万)  ……Level up!
雷操作 Lv20 : 130293 → 9871112(987万)  ……Level up!
空中着地Lv20 : 103426 → 8274821(827万)  ……Level up!
魔力放出Lv20 : 290784 → 8117245(811万)  ……Level up!
剛力術 Lv20 : 130223 → 7011942(701万)  ……Level up!
解体術 Lv20 : 30671 → 6782911(678万)  ……Level up!
魔力圧縮Lv20 : 277983 → 6097724(609万)  ……Level up!
撹乱術 Lv20 : 182938 → 5992011(599万)  ……Level up!
突撃術 Lv20 : 168293 → 5891123(589万)  ……Level up!
風操作 Lv20 : 239211 → 5902234(590万)  ……Level up!
身体制御Lv19 : 92273 → 4228301(422万)  ……Level up!
的中術 Lv19 : 87309 → 4082993(408万)  ……Level up!
撤退術 Lv19 : 123984 → 4017992(401万)  ……Level up!
鷹の目 Lv17 : 50021 → 827123(82万)  ……Level up!
神降ろしLv15 : 48339 → 187392(18万)  ……Level up!





<あとがき>
お久しぶりです。(4日ぶりでしょうか。)
MtG使いじゃなくて、ただのパンプアップ少女になったハチエさんの登場です。

カロンちゃん祭りは始まりかけて終わりました。申し訳ない。

明日も更新!

ハチエのシステムは最初ちょっとMtGで書いていたんですけど、書きにくいし書いてて面白くないしで却下にしました。
面白そうだと思っていただいていた方には申し訳ないです。
で、新しいシステムは118くらいまで書きましたがいい感じです。
色々意見ありがとうございました。携帯で見ながら、かなり参考にさせていただきました。


>次に戻ってこれるのはいつに成るのか。
まじでいつになるんでしょうか……

>母ちゃんがいいキャラしてますなあ……。
ウルトラ書きやすい母ちゃんです。

>イチャラブならぬカタラブ……ありですね
ギャグ的にもうこっちに行こうかと何度思ったことか。

>さあ、次は「ポケモンゲットだぜー!」
忘れとった。なに捕まえようかな。

>あと必要なパーティーメンバーはウィルオウィスプとデーモン辺りか
神卸しよりは天罰よりですね。

>骸骨相手に告白するハルマサ君マジ男前。いやもうそこらへんの普通の主人公には出来ませんよ。そこに痺れる憧れる。
彼はまぁ色々と普通じゃないですからね。頭の構造はハッピーな感じですし。

>ポケモン出るなら美人系出してほしいな、サーナイトとかミロカロスとか
そして舐められたり食べられたりしちゃと。エロイ。

>どれくらいの甘さになるのか楽しみです!
なんかすいません。甘いって何だろう。

>3話での主人公は筋力3だったのに(ノ∀`)
そういえばそうでした。笑っちゃうほど強くなってますね。

>カロンちゃんはもう落ちたねコレは。
落ちましたかね。

>母がかわいいなあ。
こんな母ちゃんいねえよと思いつつ書いてます。

>カードがマジック・ザ・ギャザリングである事に不安が拭えないです。ステータスとか違いもありわかりにくいですし。いまさらだけど遊戯王の方がよかったんじゃないかと思いました。
ステータスの調整は、かなり苦労します。強すぎもせず、弱過ぎもせずが理想です。それだけのために4日かかりましたからね。遊戯王じゃないけど竜騎士はその内登場しますよ。

>母の愛に感服。 弁当毎日作ってるんだろうけど食材のストックは余ったらどうしてたんだろう
捨てるしかありません。その辺あえて書いてませんでした。食材を大事にしろと怒られてしまう!

>ヨドミさん(♀)きた!!!
メスとは限らないんだぜ。ていうか出すとも限らないんで肩透かしになっちゃう可能性が。

>つまり後半に行けばエムラクールとか甲鱗様とかの召喚もできるかもしれないということか
むしろエラクムールはこのダンジョンのラスボスにしたい。あの強さはおかしいですよね。あのカードには「飛行」いらないんじゃないかと思うんですけど。

>姉系素直クールとか俺得すぎる。
気に入ってもらえたようで何よりです。

>…サーナイト ラプラス ハクリュー ミロカロス が擬人化して、ヒロイン化しないかry
擬人化……いい案ないかなぁ。

>プロ野球選手カードに吹いた。
しかし私は別にプロ野球に詳しくないという。何かを根っこから間違えている設定でした。

>そしてついにカロンちゃん出たか・・・そもそも性別あるのか?へたしたらエヴァのカオル君的な存在だったら・・・
BLは、ネタならいける!

>・俺は人間をやめるぞ――――! このネタがないのが不思議だった。
もっと早く言ってくれたら………! でも武美ちゃんが、ハルマサに対して『ズギューン!』お前の唇なんたらかんたらぁ!(うろ覚え)はしてくれました。何言いたいのか全然わからんと思いますけど。

>ギャザってわかりにくいよね!!
まさに、そうでした。

>絶対に設定を生かし切れないに900000リュピコ。
そもそも話をかけないに15諭吉。

>ICHIRO-召喚でハチエ無双ですね?わかります^^
考えてなかった。そういえば彼はビーム放てるんでしたね。

>Nice boat
ボートの描写は難しくて……
あ、ちゃんとわかってますよ! ほんとだよ!

>閻魔様、制限かけるなら他も(特に敏捷)下げようぜw
敏捷のこと全然考えてなかった……。

>まさかソウルオブキャットが13kmも伸びるなんて
セレーンの骨を合体させればいけますね。

>卍解、バリアジャケット、先端からビーム、乗って飛べるようにする
マジで適当に考えたんで他にもっと使えるのがあったんじゃないかと考え中。

>4号はでれるときにデレーって言うんですか
言ったらキモイなぁ……

>6版ウルザブロックのころ黒ウィニーで遊んでたな
作者も最近遊んでないです。カードすら持ってねぇ……

>母に桃色解除スプレーは使う必要はないのだろうかw
使ったけど効果ない感じで。

>深夜0時の段階で魔物を倒すカードが手札、山札に存在しない場合は詰む?
ハチエがレベルアップするしかなくなるという設定でした。

>デスペナで髪が…とかは負けたらってこと?
どの辺ですか? ちょっと自分の書いたなのにすら把握できてないです。
4層の人のルールのことでしたら、それなりの秘密が。

>ゾンビ化解除の薬はもらえるならもらっとくべきだと思うんだ、ハルマサ君。
ハルマサ君は頭があれなのでそこまで思考が回りませんでした。

>「堅硬なる骨」の耐久力上昇値も変更したほうがいいのでは?既に上昇値(+15000)が空気だし。
確かに。新たに強い骨概念得たらそうします。

>強さが通常時の25倍はチート過ぎるけど、ヨシツネ具象化があったかもしれない。
そんなんでしたっけ。あの漫画もうそろそろ最初のへん忘れてるんですよね。

>剣 さん
色々とありがとうございます。
コンセプトは、事前準備して数で圧倒。だったんですけど、それを書くのだるかったんで。

>たとえば、ハルマサがハチエをおぶって、走って移動すると、
第三層めちゃめちゃ広くしたんでありでしたね。

>さあ!、モンスターボールを手に入れたからには2層のシェンを仲間にして、3層でラオを仲間にして怪獣大行進
4層消滅のお知らせが! でもゲットできるならさせたいな。

>板移動はしないのですか?
こんなんでもいいんでしょうか。
じゃあ第三層が終わったら2レス目をその他板へあげましょうかね。

>もはやレベルが-になってひいひい言ってたのが嘘みたいだw
ほんとにそうですよね。
でもそろそろ新しい要素を加えないと書くのがだれてきます。まずは協力プレイですかね。

>設定がキャラによって完全に変わるのは厳しくないかい?作者的にも読者的にも
asadaさんは慧眼ですね。バレテーラって思いました。

>敏捷MAXな主人公が、現世での危険度=災害レベルな件についてw
韋駄天もついてこれそうにないですね。
本気出したら今どれくらいなんだろう。

>火力1点で90%ってデカ過ぎません?ショック一発で相手死にかけですよ?
一点タフネスが上がると強さが10倍になる敵に対処するにはこんなんでいいかな、と。

>つーかハチェだいじょぶ?彼女の設定はめんどくさすぎて話をスムーズに造れなくなるんじゃないか?
心配していただいてありがたいです。ものすごい勢いで方向転換したので大丈夫かと。




[20697] 114(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:23



<114>



ハルマサたちがいるここは最高神の作ったダンジョンであり、隙を狙い打つように危険が舞い込んでくる鬼畜仕様な場所である。

ハルマサが「空間把握」(半径90メートルほど)でそれらの接近を察知したのは、浜辺でハチエさんと食事を取っているときだった。
ちなみに食事は4号さんに貰った食料である。とても美味しい。

死にかけた上に急激な成長もあって、やたら腹が減るわ! とハルマサが携帯食料を食べていると、ピン、と地面が震えだした。
ハルマサはその方向に顔を向ける。

「―――――――くるッ!」
「もごふッ!」

彼女も何かを感じ取ったらしい。
一気に残りを頬張り、飲み下し、懐に手を入れてカードを引っ張り出す。

そして二人同時にその場を飛びのいた。


―――――――ドゴォオオオオオオオオオ!


砂の下から岩盤の破片を散らしつつ、モンスターが飛び出してきた。
ねじくれた二本の角、長く硬い尻尾、あと巨体。
ディアブロスだった。
しかも2体だ。

「レベルは19なんだね」
≪マスターのステータスはすでにレベル22相当です。案ずる必要はないかと。≫

何時の間にそんなに強くなったの?

「凄い成長したね……。僕は良いとして、ハチエさんは大丈夫かな。」
≪あの方は、普段のステータスがレベル16相当しかありません。しかしココまで来れた理由があるはずです。心配するのは逆に失礼に当たるかもしれません。≫
「……そうだね。じゃあサクッと倒して、見学しようか!」

ハルマサはソウルオブキャットを構え、腰を落とした。






ハチエはぺろりと唇を舐める。
二体出てきて、ハルマサと彼女でそれらを挟む位置取り。
自然と、一人一体のノルマになった。
ハルマサは声をかけようともしない。
どうでもいいと思っているか、心配していないか。
後者だと嬉しい、とハチエは思う。

「ォ、オ、オ、オ、オ、オッ!」

目の前で唸るディアブロスは、恐らく強い。第二層のボスと同じくらいの圧力を感じる。
しかも、武器はナマクラしかない。
だが、ハチエにはハルマサに貰った投剣がある。
それで十分だ。

「そんだけあったら釣りが来るわな。」

「魚竜牙の投剣」カードを具現化させる。
長さ18㎝の投剣となったその柄を口に挟みこむと、ミシリ、とハチエに牙が生える。
そして体の組成が作り変えられる。より強靭に、よりしなやかに。

悪くない、とハチエは思う。
こんなに力が満ちているのに、まだ両手は空いているのだ。最高じゃないか?

指に挟んで片手に4枚。両手で8枚。
ハチエの能力はどれだけ多く武器を持つかにかかってくる。
ならばこのナマクラ剣を―――――持てるだけ持てばいいではないか!

指の間に柄が現れ、そして剣先へと具現する。長大な両手剣を八本ぶら下げる姿は普通じゃない。普通ではないが、これで良いのだ。

ハチエはかつて、死を経験した折、武器を「ナマクラ剣」しか持たない状態になった。
その時相手は強大で、ナマクラ剣の耐久値では豆腐も同然。

ではどうする?

(まずは――――投げつけるやろ!)

豆腐が飛んできたら、きっと誰でも鬱陶しい。

ギュル、とその場で回転するハチエの筋力敏捷、すでに人外。
回転のさなかで強烈に捻られた体幹が、そして引き絞られた弓のような腕が、ミシリと骨格を締め上げる。

限界までひねり上げられた右手を、右足で地面を踏むと同時に振り下ろし――――投擲!

ォン! と4本同時に放たれた音速の剣は、一本たりとも外れず、ディアブロスへと直撃する。
ハチエの回転は止まらない
さらに一回転して、今度は左のアンダースロー。

ゴゥ、と放たれる凶弾がまたもやディアブロスの体を叩く。
水でもコンクリートを抉るのだ。ポンコツとは言え一応剣。ダメージは通ったか?

「ゴァアアアアアアアアアアアアアッ!」

残念、怒らせる効果しかないらしい。まぁ豆腐投げつけられたらね。
口から黒い煙を吐きつつ、ディアブロスは体を沈め、

――――ドォン!

蹴り足で砂地を爆発させると、巨体にあらざるスピードで突っ込んでくる。

(まだまだ、ウチの攻撃はこれからが本番や!)

ハチエはさらに8枚、カードを手に取り、指に挟む。
身体能力をアップしてくれるが、硬さが豆腐の剣を持って戦わなければならない時、どうすればいいだろう。
ハチエの場合は――――――足を使う。


ズォ! と砂地を蹴り飛ばし、ハチエは地を這うように走る。
ハチエは、靴を履いていない。既に足の硬さは鋼鉄のようになっているのだ。レベル17とはそういうものだ。

ナマクラ剣×8 + 投剣 で、ハチエの敏捷は約1432倍。数値4億を超えている。速さにおいて、彼女はハルマサのはるか上を行っていた。

メキィ!

正面から蹴り砕かれた角が宙を舞う。
彼女のとび蹴りは、ディアブロスの視界には影としか映らず、モンスターは角を蹴り折られてからやっと蹴られたことに気付く。
勝敗は既に決しているといえた。



ハルマサから見て、ハチエの攻撃は、苛烈であった。
恐らく我流で組み上げたであろう蹴りの技術は、戦いの中で研磨されてきたのか、一種の踊りのようになっていた。
蹴りで巨体を付きあげ、飛び上がり、ナマクラ剣を翼のように広げてモンスターを蹴り降ろす。
ハイキックで、半円を描く足の軌道が美しい。
野蛮で、粗雑で、荒々しく、しかし目的はぶれていない。
彼女の戦う技術は、明らかにハルマサより上である。
スキルシステムが無いからこそたどり着ける境地もあるのだと、ハルマサは教えられたのだった。

「ていうか速過ぎてよく見えないんだけどね。」
≪おかしいです……彼女は敏捷が高いのは分かりますが、それだけであの速度は出せないはず……地面の摩擦が……空気抵抗も……≫
「……サクラさん?」
≪むむ! あれは……魔力を放出して……!? システムの補助……! 4号さん……流石です……!≫
「サクラさーん?」
≪あのシステムをうまく活用すれば、彼女は大魔道士になる可能性がありますね……。≫
「???」




そして戦い終わって。

「うーん、ちょっと足痛いわァ。」
「それだけで済んでいるハチエさんに驚きを隠せないよ。」

ハルマサのほうは何もさせる前に瞬殺し、彼女も無事ディアブロスを倒したので、戦後のお疲れ会みたいなノリになっている。
目を瞑っていた(おそらくステータスを見ていたのだろう)ハチエが、嬉しそうに叫ぶ。

「おお!? なんや何時の間にかレベルアップしとるやん! これで二層のボスの武器が使えるでぇ!」
「おお、やったねハチエさん!」
「……おおぅ……!」

ハルマサが一緒に喜ぶと、ピクリと、ハチエさんは震え、そしてしみじみと言った。

「……誰かに祝ってもらうのって……ええなァ……ジンと来るでホンマ。」

わかる、分かるよ!
僕は最近サクラさん居るからそうでもないけど、前はテンションあげてないと寂しくて死んじゃいそうだったからなァ……。
ていうかサクラさんみたいな子は居ないんだね。

「しかも見てやこれ! 戦っとる最中に角折ったから、おまけの武器もゲットしたんやで!」
「なんと! お得な感じだね!」

ハチエが手に入れたのは、格好良い武器ばかりだ。

「ハルマサ。これ欲しかったらあげるで。」
「………いいの?」
「魚竜牙の投剣のお返しや。それに弓二つもあってもよう使わんわ。」

この人………さては良い人だな!?
ハルマサは断ろうとも思ったが、あまり断り続けると逆に失礼だと思い、あり難く好意を受けとることにした。

「じゃあ遠慮なく……いただきます。」
「ふふ、もってきもってき。」

ハチエが今回手に入れた武器は以下の3つだった。



○「重殻の破鎚」(Lv19)耐久値:3407872(340万)
 ディアブロスの鱗から作られた大鎚。
耐久力(+1200%)、筋力(+1200%)、敏捷(+600%)、器用さ(+800%)

○「双角の遠弓」(Lv19)耐久値:1835008(183万)
 ディアブロスの捻れた角を利用した重弓。使いこなすには器用さが必要。貫通属性の矢を放てる。
持久力(+1000%)、筋力(+800%)敏捷(+600%)、器用さ(+1400%)

○「捻れた投槍」(Lv19)耐久値:2359296(235万)
 ディアブロスの捻れた角を利用した投槍。螺旋に回転し、投擲時に貫通属性を得る。
筋力(+1400%)、敏捷(+1400%)、器用さ(+1000%)


ドロップ品も角だったらしく、それを叩き折ったら投槍が出たとか。
そしてハルマサがもらったのは、遠距離武器、「双角の遠弓」である。

ハルマサは弓を手に入れたッ!

「ウチのカードの弓って、ホンマ謎過ぎるんやけど、矢筒から矢が永遠に湧いて出るからお得やで。」
「ありがとう! 大事に使うよ!」

ふふ、これでスナイパーへの道が……!

そう思っていると、早速獲物が現れたようだった。

ドドドドドドドドドドドドド……。

地平線の彼方から明らかにこっちに向けて、地響きを上げつつ、モンスターの群れが駆けてくる。

「あれなんなん? 遠くてよう見えへんけど。」
「ドドブランゴかな。……それがいっぱい。」

20匹くらい。
そしてその後ろから、彼らを追う大きな影。


これは………クエストフラグか!?


<つづく>


ディアブロスは華麗な土中殺法を披露する予定だったのに、ステータスの上昇値が爆発して瞬殺されてしまった。
何故だぁ―――――!


ハチエ
レベル: 17 → 18   ……Lvup Bonus:327680
耐久力: 326475 → 654155(65万)
持久力: 326477 → 654157
魔力 : 326470 → 654150
筋力 : 326474 → 654154
敏捷 : 326483 → 654163
器用さ: 326474 → 654154
精神力: 326490 → 654170
経験値: 1022933 → 1685293  残り:936147


ハルマサ
満腹度: 4966483 → 4998998(499万)
耐久力: 3140635 → 3173150(317万)
持久力: 4965259 → 4997774(499万)
魔力 : 14943283 → 14943283(1494万)
筋力 : 22029855 → 22251486(2225万)
敏捷 : 22136311 → 22227882  ……★33341823(3334万)
器用さ: 27571986 → 27571986(2757万)
精神力: 10894924 → 10894924(1089万)
経験値: 1477108 → 2132468 残り:487970

○スキル
観察眼 Lv20: 149382 → 5589422  ……Level up!(前々回忘れてた分)
両手剣術Lv15: 24656 → 187232  ……Level up!
突撃術 Lv20: 5891123 → 6009234
概念食いLv15: 200984 → 293022
鷹の目 Lv17: 827123 → 908731







[20697] 115
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:23

ドドブランゴは僕たちのほうへと走ってくるが、一体どうするつもりだろう。
僕らの後ろって海なんだけど。泳ぐのだろうか。
それとも、これが俗に言われる集団自殺……!

「あ、そうや! 弓、忘れんうちに具現化しといたるわ!」

ハルマサがどうでもいいことに気を取られているうちに、ハチエが弓を出してくれた。
ハチエも収納袋を持っており、ハルマサの作った武器たちもそこに入っている。
しかし、自分の作った武器はカード化しておくのが癖のようで、ハルマサに譲るも「双角の遠弓」もカードの状態だったのだ。

「む……おっきいなぁこれ。まぁ弓は大きいのが多いんやけどね。はい!」

本当に大きい。
「双角の遠弓」は巨大なディアブロスの巨大な角を贅沢に使って作られているので、小さいはずも無かったが、弓の長さがハルマサの身長より長いって凄い。

渡された弓を構えるハルマサに、ハチエが叫ぶ。

「さて―――ハルマサ君! 素晴らしい目を持っている君に、敵の分析をお願いしたいッ!」

彼女の向けてくる目は、挑戦的な光を放っており、君に出来るかな? と語っていた。
もちろん答えはこうだ。

「フ……期待されたら、応えるしかありませんね!」

ハルマサEYEッ! 開☆眼ッ!

ピキ―――――――ン! 見える、見えるぞぉ! 時が見える!(「観察眼」が発動しました。)

「いくよハチエさん! 聞き逃しても知らないよ!」
「いつでも来ぉいッ!」

まずドドブランゴたち!
サーベルタイガーみたいな鋭い牙を生やした巨大ゴリラに見えないことも無いモンスターだ!
彼らはその中でも、砂地に適応した亜種に見える!
何故なら奴らの純白だった毛皮の色は、黒色とクリーム色の入り混じる、お世辞にも綺麗とはいえないものになっているからだ!
しかし、砂地に適応することで、さらにその剛毛は硬さを増し、足腰は鍛えられ、全体的な強さは数段アップ!
レベルにすれば、12です!

「よろしい! では次! 一層での強敵だった奴らが、ヒイコラ言いつつ逃げてきている原因は何だハルマサ君!」
「モンスターであります!」
「見たら分かる! そのモンスターの生態を解明しろぉ!」
「割りと理不尽ですけど、イエス・マム!」
「お姉ちゃんと呼べぇ!」
「イエス・お姉ちゃん!」
「グフゥ!」

ハルマサぁああああああああ、EYEッ!(2回目)

ドドブランゴの後ろを追って居るのは、巨大な影!
その正体は、聞いて驚けティガレックスだ――――――!
T-レックスじゃないぞ!
ティガレックスは四足歩行をする飛竜!
その大きさは、22メートル!
時々飛ばしてくる岩塊がジャガイモに見えることから、ジャガイモ飛ばしとして恐れられているモンスターだ!
近くに行けば、硬い鱗に包まれた体を生かした突進・回転・噛み付き攻撃!
遠く居れば、ジャガイモが飛んでくる!
近くもよし! 遠くもよし!
耐久力500万、筋力1500万、敏捷1500万!
レベルにすれば20だ――――――!

「よぉし、よく分かった! ハルマサ君! 命令だッ!」
「はい!」
「君は突っ込め! 援護は任せろッ!」
「もしや一人でティガの相手させてその間に『ドドブランゴのドロップおいしいです』するつもりじゃないですよね!?」
「何てことを言うんだァ! 君に拒否権はあるが、行使できない! さぁ行け!」
「否定しないの!?」

ていうか僕今、弓構えてるんですけどねぇ―――――!

「……まぁ、そろそろ真面目に行くとして、ハチエさん。」
「ん? もう止めるん? なんか楽しゅうなってきてんけど。」

最初から楽しんでましたよね。

「それは置いといて、ドドブランゴ助けたらクエスト発生するかもしれないんだ。」
「お? もしやそのハルマサがつけとる腕輪みたいなアイテムが手に入るチャンスなん?」
「そうそう。ママチャリの可能性もあるけどね。」
「ああ、DXな。もうママチャリでもええからほしいわ。他には日傘とかあったらええなァ」
「熱いもんねぇ……」

ここは砂漠の砂浜。
太陽と海風に晒され、ペンペン草も生えていない。
空に浮かんだ太陽が、SHINE! とばかりに熱光線を浴びせてくる。


「じゃあ、僕が援護するから!」
「ええやろう! 全身余すことなく部位破壊しまくって、目指せドロップ5個以上!」

トリャ――――! とハチエさんは飛び出していった。

彼女も良い感じにテンションが上がってきたみたいだ。
太陽に頭をやられたのだろうか。

ハルマサは、腰に装着した弓筒から弓を引き抜き……引き抜こうとして、引っかかって、矢が折れた。

「矢が長すぎるッ!」
≪マスター! まだ時間はあります! もう一度です!≫
「いよぉぉぉぉし!」

僕は不屈の魂を持つ男ぉおおおおおお!
今度は気をつけて、右手でスラリと矢を抜き、弓に番える。
ふふ、何となく分かるぜ! 才能あるんじゃない!?

「いっけぇええええええええ!」

キリリ……シュパ―――――ン!

ハルマサの放った矢は、見事に見当違いの方向に飛んでいく。
そして密かに弓の弦によってハルマサの右耳は強打されており、ハルマサは無言で痛みに耐えるのだった。

「……! ……!」
≪マスター……≫






(ちょ、援護来ぃへんねんけど! これは無言の信頼やろか!?)

ハチエは先ほど手に入れた武器を両手に装備している。
このドロップした二つの武器のなんと素晴らしいことか。
二つのステータスアップ値は以下の通り。

「重殻の破鎚」
耐久力(+1200%)、筋力(+1200%)、敏捷(+600%)、器用さ(+800%)
「捻れた投槍」
筋力(+1400%)、敏捷(+1400%)、器用さ(+1000%)

これによりハチエは、筋力:6240万、敏捷:3360万、となる。
武器の概念を発現することで、肌にはディアブロスの鱗が浮き上がり、頭にはオオクワガタの顎のようなうねった角が耳の上から前方に向かって生えている。

ウチ、ちょっとアレな姿やなぁ、とハチエは思ったが、それもティガレックスをメッタメタにするためには仕方ない!

「どりゃぁあああああああ!」

これなら、短剣を咥える必要も無い!

「ギャォアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

走るハチエを、ティガレックスは尻尾の振り払いで迎え撃った。
飛び上がった次の瞬間、足元の砂が盛大に抉られる。

しかし、尻尾は誘い。本命は次弾!

「ガァッ!」

ハチエの目の前には、巨大なアギトが鋭い牙を並べて彼女を出迎える。

「――――ハ!」

思わず、ハチエはニヤリと笑う。
このモンスター、強いやん。

「嫌いやないで!」

ハチエはクルリとその場で体を回す。まるで、空で寝返りを打つように。

――――ゴキィ!

右手に続き、一瞬遅れて落ちてきたハンマーが、モンスターの頭を上から叩き下ろす。
轟音とともにティガレックスの巨大な頭は地面に刺さる。
ハチエは反動で体を回転させると、ティガレックスの首を踏み台に、真横に跳んだ。
そこには振り切った後の尻尾があった。

「尻尾もろたで!」

空中で左手を引き上げ、胸を開き、体を反らし。
次の瞬間、手が霞む速度のオーバースロー!

――――ズグン!

ギュルリと螺旋に回転する投槍は、ティガレックスの尻尾を深く縫いとめる。
そして一瞬後、ステータスダウンが起こるより前に、ハチエはハンマーを叩きつけていた。
釘をトンカチで打つように。

―――――――ゴォン!

周囲を揺らす轟音とともに、尻尾が半ばで断ち切れた。

「ギャァオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

ティガレックスは暴れ、豪腕でハチエを弾き飛ばした。

「おふ……!」

ズギャアアアアアア、と砂を掻き分けハチエは転がる。
デニム生地のツナギが一撃でボロボロだ。
だが、体自体のダメージはそれほどない。
ハチエは跳ね起きるとギリギリ引き抜くのが間に合った投槍を構える。

「まだまだぁ! あと爪と牙と翼やなんかも、まだまだ壊させてもらうでぇ!」

その口角は不敵につり上がっていた。







「うーん……」

向こうのほうでは、ハチエさんが楽しそうにティガレックスを苛めている。
彼女って、普通にバトルジャンキーだよね。

そしてハルマサは唸っていた。
何故なら、ドドブランゴがめっちゃ攻撃してくるからである。

「ガォア!」
「グォオォォォオオオオォォォオ!」

砂を吐き出してきたり、体当たりしてきたり、時には地面の下から強襲してきたり。
それらをピョンピョン避けているのだが、一向に事態が好転しない。

「早々クエストって出ないのかな?」
≪マスター。もう倒してしまえばよいのでは?≫
「どうせ経験値も少ないし、放って置きたいんだけど……」
≪確かお肉は美味しい部類であったと思いますよ。≫
「なんと!」

そういえば小腹が空いている!

「そいつは俄然狩らないといけないね!」

ハルマサは、さっさと弓をしまう。

「ハチエさんとの晩御飯に、色を添えてやるぜ――――――!」

ハルマサは両手を広げてドドブランゴへと飛び掛った。
相変わらず食には忠実な男である。






大量やで、とハチエがホクホクしながら戻ってくると、そこでは少年がドドブランゴを狩りつくしていた。

「いよっしゃぁー! 「アバラ肉」GET!」
「いや、ゲットちゃうやろ。クエスト発生とか言っとったんはどの口やねん。」
「残念だけど、発生しなくて……あ、おかえり! どうだった?」

おかえりと言われ、ハチエは一気に嬉しくなった。

「あ……へへへ! それがな、まぁ聞いたってや! この武器なぁ……」
「うぉおお! 格好よすぎる!」

まぁ、そもそもそんなにクエストとやらには期待もしていない。
それよりも、こうして話し合える相手の居る事が、どんなに嬉しいことか。
ハチエは、新しい武器を素直に喜んでくれる連れの存在を、とてもありがたく思うのだった。



<つづく>



今回はハチエの分だけ。ハルマサは大して変わってないです。
ハチエさん、レベル上がるとゴリゴリ強くなるなァ……。

ハチエ
レベル: 18 → 19   ……Lvup Bonus: 655360
耐久力: 654155 → 1309515(130万)
持久力: 654157 → 1309517
魔力 : 654150 → 1309510
筋力 : 654154 → 1309514
敏捷 : 654163 → 1309523
器用さ: 654154 → 1309514
精神力: 654170 → 1309530
経験値: 1685293  → 2996013  残り: 2246867








[20697] 116(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:24

大分暗くなってきたので晩御飯である。

ガリ、ゴリ、ゴキン!

「うわ、いたぁ……自分そんなん食べて口の中痛くならへんの?」

ハルマサが、「概念食い」によって、ドドブランゴの爪を食べていると、ハチエが痛そうな顔をしつつ尋ねてくる。

「ふふふ。」

ちょっと余裕気味に笑ってみる。
でも口の中って、耐久力の変化が少し反映されにくいって言うかね。
すげぇ痛いです。
血の海だよ。
ゾンビの時だったらすぐ血は止まったんだけどな。

でも、これで爪が伸びるようになったらなんかカッコいいよね、と思ってついつい食べてしまうハルマサである。これで4個目だ。

「いや、口の端から血ィ垂らしながら笑われてもやな。」

反応に困るで、ハチエさんに呆れた目で見られていると、頭の中で音が響いた。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫

おお、久しぶりのファンファーレ!
ついに僕にも「伸びる爪」が……

≪一定時間内に、一定量以上の血液を飲んだことにより――――――≫

(そっち!? しかも吸血鬼っぽい!)

≪特性「増血注入」を取得しました。血を飲むのがとても好き! そんなあなたは他の人にもその楽しみを広めたいはず! でも「血液飲んで」なんて言えないよ! 口実が欲しくて仕方が無いあなたに、この特性を送ります。正直になれよー!≫

桃ちゃんの声だった。

(いや、別に血液は好きでもなんでもないけど。)

最早懐かしささえ感じるネタ系特性だろうか。
ステータスを見てみるとこんな感じだった。


□「増血注入」
 他人を元気にさせる血液。あなたの血液は、他人の心と体を元気にさせます。栄養たっぷり、コクとニオイが堪らない! 皆で送ろう飲血ライフ! あの人はもう……あなたの血液に夢中ッ! ※同種の生物にしか効きません。中毒性があるので多様は禁物!


(桃色くせぇ―――――――――――!)
≪はい。桃色系です。ブレスレットを外してしまうと、匂いにつられたハチエ様が口に飛びついてくる可能性もあります。ご用心下さい。≫

サクラさんの言葉でハルマサはうな垂れた。

まぁ……あれだよ。甘い息が強化されたと思えば……

「そう思えば、少しは空しさがなくなるよね………」
「なんでいきなり沈んどんの!?」

ハチエさんは慌てたように、ハルマサを見てくる。

「ハチエさん……。人生って疲れるよね……。ふぅ。」
「暗ぁッ! ま、まぁ元気出してぇな! ほれ、このさっきドロップした「轟竜キャンディー」食べてええから!」

ハチエさんからティガレックスの顔の形をしたごついペロペロキャンディーを貰った。
こんなのがドロップしたハチエさんだって、落ち込まずに頑張っているのに。
ていうかこのキャンディー本当に大きいな。僕の顔ぐらいあるんですけど。

………ハッ! いけない! 僕が落ち込んでいてどうするんだ!
僕は地上に輝く元気星!
テンション上げていくぜ―――――!

「ひゃぁっほう! 飴もらったぜぇ――――――ッ!」
「そ、そんな嬉しかったん……? なんの役にも立たんモンかと思うとったけど、意外に喜んでもらえるもんやなァ。また飴出たら捨てずにとッとかんとあかんな。」

ハチエさんめっちゃ良い人だなぁ。誤解だけど。


パチパチと火を燃やし、ドドブランゴのアバラ肉(50キロくらいある)を炙って美味しくいただいた。

「魔法ってええなぁ……。ウチも火いつけるくらい出来るようになりたいわ。」
「魔力あるなら出来るんじゃないかな。」
「そうなん?」
「イメージが大切だってカロンちゃんは言ってたよ。」

スキルが行うのは、あくまで補助である。
ハルマサの場合はスキルにおんぶ抱っこ状態だが、別になくても出来ないことはないだろう。

ハチエは少し試して、ライター程度の火なら出せるようになっていた。


寝る間、交代で見張りをしよう、ということになった。
ハルマサも「おやすみマン」がゾンビ化のせいで消えているので、ありがたい。
「土操作」で砦を作っても良かったが、ラオシャンロンとか来たらどうせ三匹の子豚の藁の家みたいに簡単に壊されるだろうし、その上逃げるのに邪魔になりそうなのでやめた。

「じゃあ、先に寝るな~。お月さん真上に来たら起こしてや。」

ハチエさんはヒラヒラと手を振って、横になった。
下は砂地だから柔らかく、それなりに寝やすいだろう。
というか結局、この浜辺から今日は動かなかったな。

ザザァ……と潮が満ち引きする音がゆっくりと流れている。
ハルマサの作った火が、無音で夜を照らしている。

ハチエさんはハルマサに背を向けて寝転がっていた。
ティガレックス戦で、彼女の服の尻は盛大に破れたようだが、そこはしっかり女の子。
魔力で服を直す術を編み出しているらしい。
ハルマサも自動再生する革靴とタキシードに頼らず、服関係をもっと強化すべきかも知れない。

不意にハチエが声を出した。

「……襲ったらあかんで?」

コロリと寝転がってハルマサを見てくる。起きていたらしい。
ふ、とハルマサは笑う。

「そう言われたら……襲うしかないじゃない!」

ハルマサがそう言うと、ハチエさんはにわかに狼狽した。

「え!? じゃ、じゃあナシ! 今のナシや!」
「ということは襲っても良いということか――――! テイク・オフ!」
「脱ぐなぁ――――――――!」
「おふぅ!」

冗談なのにすげぇ殴られた。上着脱いだだけなのに……。
まぁ普段のハチエさんはそんなに筋力高くないからダメージはあんまりないけど。

「じゃあお詫びとして……ハチエさんがよく眠れるように、寝物語をします!」
「あ、ええなぁ。話して話して。なんやドキドキするで。」
「怖い話バージョン!」
「え、イヤや! 怖いのキライやで!」
「あるところに嫌われ者の教師が小学校におりました。」
「あーあー! 聞こえへん、聞こえへんよぉー!」
「生徒たちは彼の横暴に辟易し、一泡吹かせようと彼の給食のシチューにゴキブリを混ぜたのです。」
「………ん? これ怖いんか?」
「彼は美味い美味いと綺麗にたいらげました。」
「うえぇ……」
「その3日後のことです。突然その教師はお腹を押さえて、「気持ち悪い」と一言いうと、倒れて死んでしまいます。」
「えらい唐突やな。」
「不審な死を疑問に思った学校関係者が、彼の解剖をお願いしたところ……実は教師が食べたのは卵を抱えた雌のゴキブリで……お腹の中から大量のゴキブリが!」
「ひぃぃ……」
「ワサワサワサワサッ!」
「ひゃぁああああああああ! 眠れるかぁアアアアアア!」

また殴られた。
GTOのモロパクリだけど、ハチエさんは知らなかったようで効果抜群だ。

「ごめんごめん。」
「……なんか歌ぅてくれたら許したる。」

……。

「なんやめっちゃ涙出るなぁ……。グスン。」

まぁそんな風にして夜は更けていった。

ハチエが眠りに付いて、一人炎を眺めていたハルマサは、唐突にティン! と思いついた。

「そうだ! ゾンビ化で特性消えたって、もう一回とれば良いじゃない!」
≪申し訳ありませんマスター。一度消去された特性の再取得は条件がより厳しくなります。「おやすみマン」の場合ですと、怒っているラオシャンロンの頭の上程度の脅威の中、眠りにつく事が条件となりまして……≫
「それは……無理っぽいね。」

寝る前に確実に逝っちゃうよ。
つまりは全部それくらいの難易度になるってことだね。やっぱりゾンビ化はひかえようかな。

そろそろ月が真上に来るなぁ、とハルマサは空を見上げた。



<つづく>



新しい武器

○轟大剣(Lv20)耐久値:576万   ……牙を砕いて入手
 ティガレックスの大牙を模した大剣。刃は牙を並べたギザギザの形であり、掻き切るように敵を切り裂く。
耐久力+800%、持久力+800%、筋力+1000%、敏捷+600%、器用さ+800%

○轟大鎌(Lv20)耐久値:418万   ……爪を砕いて2つ入手
 ティガレックスの巨爪から削り出された大鎌。刺してよし、刈ってよし。農作業にも使える一品。
耐久力+400%、持久力+600%、筋力+600%、敏捷+1200%、器用さ+1200%

○轟剛鞭(Lv20)耐久値:680万   ……尻尾を千切って入手
 ティガレックスの尻尾を大胆に使用した長大な鞭。扱うには筋力が必須となる。
耐久力+600%、持久力+400%、筋力+1200%、敏捷+800%、器用さ+1000%

○轟竜の翼斧(Lv20)耐久値:380万   ……翼を叩き千切って入手
 ティガレックスの翼を研いで刃とした剛斧。意外ともろいので扱いには注意が必要。
耐久値+400%、持久力+800%、筋力+1000%、敏捷+1000%、器用さ+800%

○獣骨の三節棍(Lv12)耐久値:28669   ……ドドブランゴのドロップ「重厚な骨」を砕いて入手
 骨太な獣の骨を用いた、三節棍。ギミックがあるにもかかわらず、かなり丈夫。
耐久力+600%、持久力+200%、筋力+200%、敏捷+600%、器用さ+800%


全部で6つ。
ちなみに一つ呪われています。


ドドブランゴのドロップ:爪×4、アバラ肉×2、骨×1、毛×3



<あとがき>
もう知らん。ハルマサとかどうでもいい。マック食べたい。




>とりあえず、この一言だけを今アナタに伝えたい。
照れるっス。んでもこんな長い話を読んでくれている人たちもすごいと思うっス。

>ハチエって誰だお… あ、サーナイト早くお願いしますね。
トクルさんの感想にはいつも噴出してしまうんだ。
乾いた私の生活にはとてもありがたいです。

>4号さんのセリフ少し直した方が良いんじゃないですか?
どこのことか教えていただいていいですか?ちょっと見つけられなくて……

>有益な特性が消えるのは痛いなぁ…デスペナが増えたようなものか?
そうですね。あと、ゾンビにポンポンなられると面白くないかな、と。

>よし、とっとと爺耳消そうか
残念ながらそれは概念なんだ。

>いきなりステータス上がり過ぎて意味分からねえ。今のハルマサくんがどのくらい凄いのかさっぱりだ。
作者もさっぱりです。

>マジでゲーム化しないかな…
クソゲー過ぎて密かな人気が出そうですね。モスやべぇwwみたいな。

>カロンちゃん無双が開始されてもいいはず。※ただし、ハルマサはミイラ化
……あるっ!ミイラ化するのはないかもしれませんが。

>スキルアップだけで、ステータスが20倍になってる!?
そんなになってましたか。第一層のドド戦と同じくらいの上げ率なんですけど、敵がちょっとあれでしたからね。

>空を飛んで蟹と戦う → 逃げる → 回復してもう一回 → 無限ループ!
私はハルマサ君が苦しむ姿が好きなので、2回目でコロッと死にますね。

>あとカロンちゃんが可愛すぎる件について。ほっぺに肉がついたんですね。
ふっくらしてます。

>テテテテッテッテッテー・・・

( ゚д゚)


( ゚д゚ )

こっちみんなww

>そういえばレウス&レイアの鱗(特に天鱗)とか食わないの?
第二層でククリさんが寝ている間にしっかり食ってます。描写してないけど。

>f さん
ありがたいです。光速に届きそうな勢いですねw
いつの間に。
きっとレベルが上がるにつれて実際の上昇値は少なくなっているとか言う設定がいるかもしれないと思っちゃいますね。

>ゾンビ化で忘れた特性はまた覚えなおせるの?
その答えを急遽ねじ込みました。納得できるかはわかりませんが。

>敵のレベルが高いとちゃちな鎧じゃすぐ壊れるだろうし
ハチエなんか武器も使い捨てですからね。

>>二人による強力プレイ! 多分誤字なんだろうけど、実力者が揃うとあながち間違いにならない件w
ミスった……もうそのままでいきますね。ウケましたし。

>金ちゃんは捕まえに行かないんカナ?
まだ行けませんね。

>インフレ起こしすぎたww
やりすぎたかもしれませんね。

>擬人化なら、ドキドキノコを原料にしたモドリ玉の煙を吸い込んだモンスターが人になるというお話をどこかで見た気がが よーするにDQでいうパルプンテみたいな効果とかで人間にすれば!
なるほど! 私は光を見た。

>そろそろ釘パンチを使ってもいい時期だと思うんだ
あれって島ぶーの描写力が半端ネェんですけど、じつはただの強いパン(ry

>きっと次の階層は世界樹の迷宮な世界と期待
それは内緒です。まだ決まってないわけではないよ! ほんとだよ!

>ハチエのステータスは百の数値が耐久だけ6、後は4…と言う事はハチエは生前の時点で耐久力が100以上あったと言う事ですか?
なんというミス! 武器もって死んだことにしましょうか。

>計算式だと合計2600%上がる筈なのに、1300%しか上がってないですよ。ついでに言うとナマクラ剣の上昇合計値が220%なので20%多いです。
無刃さんありがとうです。話の中ではちゃんと直ってると思うんですけど。
ハチエの強さを決める際、色々試行錯誤した名残ですね。

>ハチエのステータスでラオに攻撃して戻って来れるなら、ハルマサならラオの傍に居るだけで安全にスキルをギュンギュン上げられそうですね
ラオはスピードそんなに速くしてないです。見た目的にそうだと思ったんで。
なので攻撃はできたのですが、耐久力的にぜんぜん届かず。直後に鼻息で吹き飛ばされました。

>ゾンビ化の取って付けたようなペナルティは正直なくていいと思う。元々取得条件が厳しいのと、弱点増加ってペナルティあったんだし
正直取って付けた弱点ですが、常にゾンビ化しているってのもどうかなぁ、と思いまして。スピードが三倍に比べたら弱点なんてないようなものですし。

>特性消失はちょっと後付感たっぷりすぎる……  桃色が消えるのは万々歳というかトーク消したかっただけだろ………?
まぁサイコロで決めたんですけどね。そんな厳しいかな……?むしろゾンビの方が取って付けた感が強いと思っていたんですが。

>蟹にモンスターボールぶつけたら中に入ってる隙に逃げれたりして。
シレンのやり過ごしの壺的な使い方ですか。二秒で出てきそうですね。




[20697] 117・スレ変更後の新規投稿分はここから!
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/29 19:31


<117>


朝である。
良い天気だなァ……。

海風がそよそよと吹き、砂漠はしん、としている。

「いやぁハルマサのおかげで歯磨きも洗顔も出来るし、最高の朝やね!」

上機嫌のハチエさんを後ろに乗せたまま、ハルマサは足を一定の速度でシャコシャコ動かしていた。

(そう! 今の状態はタンデム!)

絶賛チャリンコ中である。
第二層で手に入れたママチャリDXには荷台がついていたので、じゃあ二人乗りしようか、という話になったのだ。

海辺で二人乗りとか、ドキドキしちゃうぜ!

チリンチリーン!

「何か青春って感じだね!」
「どっちかというと姉弟のスキンシップやなぁ……お、ええ風。」

ハチエさんは大学生3年だったらしい。確かに、姉と弟のポジションの方があっているかな、とハルマサも思った。

朝日が出たばかりの時間。
ハチエさんもハルマサも5時間ずつくらい寝たので、はっきりパッチリ元気満タンである。

「いよぉおおおおおおおおおし! スピード上げていくぜぇ―――――――――!」
「いけぇ―――――! ぶっ飛ばせぇ―――――――!」

ギャリリリリリリリリッ!

砂を盛大に巻き上げて、ハルマサエンジンが点火される。
高速で回転する車輪が、砂を巻き上げつつ、二人を運んでいく。

「ギア、サードッ!」

ガキン!

ギアとチェーンが噛みあって、さっきの数倍の効率でハルマサの脚力を推進力に変換する。

「風になぁあああああああああああれぇええええええええええええええッ!」
「ウヒャ――――! ええぞハルマサ――――!」

シュパァン! と砂地でチャリを漕いでいるにしてはありえない速度で二人は進んでいくのだった。




二人の居た位置は、錨型の大陸の先端部分に近いところである。
そこから、二人は大陸の中心に向かって、マッハの速度で進んでいく。
やがて行く手には、巨大な山々と、その麓にある森が見えるのだった。


この大陸は、海から内陸に行くほど、高度が大きくなっていく。
しかし、海から山の麓まで120kmという大陸の大きさから、あまり上り坂を意識することは無く、ハルマサは進んで行って……

そしてモンスターに出会った。

――――――――ゴァアアアアアアアアアアアアア!

上空から竜の咆哮が聞こえ、空を仰いだハルマサの目に、一匹の飛竜が目に入った。

「な、なんや?」
「あれは……モノブロス亜種かな? だけど―――」

羽ばたき、飛翔している飛竜。それは昨日のディアブロスとよく似ていながらも、白銀の鱗を持ち、まっすぐの一本角を額から生やすモンスター、モノブロス亜種だった。
そしてその背中には、影があった。

見辛いが、あれは―――――――

「ドドブランゴが乗ってる!」

なんとドドブランゴ亜種がその背に跨っていたのだ。
普段四足歩行のくせに人間くさいたたずまいである。
そして何故か、自分の体と同じくらいの大きさの剣を持っている。

「グォオオオオオオオオオオオオオ!」

巨大な剣を振り回し、ドドブランゴはやる気満々だった。

モノブロスのレベルは19。
ドドブランゴのレベルは12。
しかし、二つで一つと見たとき、ハルマサの「観察眼」は、レベルが23だと判断した。

あれかな、融合?して竜騎士ガイアになった感じ?
全く全然さっぱり納得できんけどなぁ――――――!


バン、と上空のモノブロスが翼を打って、急降下してくる。

――――疾い!

ゴォ!

ハルマサは避けようとして、一緒に自転車に乗っている人のことを思い出す。

(―――――ク!)

一瞬の判断の元、ハルマサは魔力を練り上げる。

「だぁああああああああああああああ!」

揺らめくように出現したのは、いつぞやに倍する厚い壁。

ゴカァン!

白銀の角をかざして、モノブロスは壁をあっけなく突き抜いてくる。
だが、レベル20の「魔力圧縮」の壁が大事な一瞬を稼いだ。

ハルマサは知っていたのだ。「空間把握」のより、後ろのハチエもまた、素早く反応していたことを。

「ふむん!」

襟首を引っつかまれ、ハルマサは横に引っ張られる。
ゴォと背中から感じる熱。
振り向いて、ハルマサはハチエの姿に驚いた。

「すごい……!」

ハチエの背から、炎の翼が生えていた。
恐らく右手の弓の概念を発現したのだろう。
しかしあまりにも荘厳だった。
ハチエは短剣を咥えた口で笑うと、火の粉を撒きつつ羽ばたき、加速しながら地面をけった。
直後、地面にモノブロスが突っ込んだ。砂が爆発したように天へと噴き上がる。

なんとか避けれた。
しかし安堵する暇も無い。

「そうか! 潜れるのか!」

頭から着地した二匹のモンスターは、そのままの勢いで砂を掻き、砂地へと潜る。

モノブロス、ドドブランゴ亜種はともに砂の下からの強襲するモンスターである。
ズゴゴ、と足元が揺れ、今にも飛び出して――――――来る前にハチエが反応した。

ブォン!

ハチエが炎の翼で地面を打つ。
恐ろしいほどの推進力が生まれ、二人は上空へと飛び上がった。
その一瞬後、二人の足元からドパァン!と砂を散らしつつ、竜騎士ドドブランゴが出現する。

「グゥオア!」

―――――――シュァアアアア!

そしてモノブロスの背のドドブランゴが口から激流の如き砂を吐いて来る。
二段攻撃とかあり!?
ていうか攻撃範囲広いッ!

「……ぉおおおおおおおおお!」

――――――「加速」!

ギュウゥ―――……ン!
時が遅滞し、ハルマサが世界で一番速くなる。
ハルマサはハチエの腰を抱きかかえると、「空中着地」で、空を蹴った。

(きつい……ッ!)

そして直ぐに「加速」を解除。
ど、と吹き出る汗に、「加速」が多用できないことを知る。

「ふぉ!?」

景色が一瞬で切り替わったことに驚いたのだろう、ハチエが驚きの声を上げている。
モンスターたちはこちらを見失っていなかった。

――――――――――ギャォオオオオオオオオオオ!

モノブロスがドドブランゴを下からすくい上げるように飛び上がり、こちらへと向かってくる。

「ハチエさん! 援護を!」
「………!」

ハルマサはハチエの腰を離し、漆黒の大剣を繰ってモノブロスへと向かう。
ドドブランゴが乗っているモノブロスは、ギュインと顔をこちらに向け、大きく口を開け―――

(――――咆哮か!)

どうする!?――――――もう止まれない!

しかし、案ずることは無かった。今の彼には助けてくれる仲間がいるのだ。
ハルマサを追い越して、ギャリギャリと空気を抉りつつ螺旋の回転をする槍が飛んでいく。

(これは「捻れた投槍」ッ! ハチエさんか!)

ディアブロスの角から作られた槍は彼我の距離を瞬時に縮め、モノブロスの口へと直撃した。

―――――ガァン!

「ゴアァッ!」
(素敵すぎるよハチエさん!)

槍は砕け、モノブロスは動きを止める。
その一瞬で――――――充分だ!

「ぬりゃぁあああああ!」

「突撃術」が発動し、ハルマサの体が赤い光に包まれる。
ドン、と「空中着地」を使い、一瞬でモノブロスへ肉薄。渾身の力で大剣を振り下ろそうとし―――――
だが、ハルマサが一人ではないように、敵も一人ではないのだ。

(――――――な!?)

横殴りの一撃が側面から飛んでくる。必死に刃を引き戻し、防御。

「―――ぐぅ!」

ハルマサは吹き飛ばされる。
線にも見える速度で突撃していたハルマサを、ドドブランゴが迎撃したのだ。
スキルが発動した時の速さは、明らかにこちらが上だ。
だが、それを弾き飛ばせるのは勘か、剣の腕か……。
防御できなければ体が二つになっていたほどの衝撃だった。

吹き飛ばされたハルマサに、モノブロスが追撃をかけようとして、空から飛来する5本の火の矢に打ち抜かれる。

「ゴァアアアアアアア!」


戦いは、まだまだ終わらない。




<つづく>

ステータスの変化は次回。
現在のハチエさん。

E:炎翼の飛翔弓
E:魚竜牙の投剣

耐久力: 130万
持久力: 130万
魔力 : 130万
筋力 : 130万 → 6416万
敏捷 : 130万 → 2億2千万
器用さ: 130万 → 1億3千万
精神力: 130万 → 1439万

もう一人で戦えば? って思った。


竜騎士ドドブランゴはだいたいこんなの。二匹ともこんな感じで。
耐久力: 5千万
持久力: 5千万
魔力 : 3千万
筋力 : 7千万
敏捷 : 一億2千万
器用さ: 7千万
精神力: 3千万









[20697] 118
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:28


ハルマサは敵の連携に苦しめられていた。

二匹はまるで一匹の獣のように、互いの隙を庇いあい、攻撃してくる。
人馬一体ならぬ獣竜一体。

それを見ていると、ハルマサは第二層で一方的に操り、最後はポイ捨てした金火竜、金ちゃんの事が思い出されてくるのだった。

「見ていると悲しくなるから……もう終わらせるよ!」

ハルマサは必殺技の一つを開放する。

その技を―――――「ごり押し」と言う。

(「濃赤の沸血」発現ッ!「剛力術」発動ッ!)

ボコォ、と筋肉が膨れ上がったハルマサは、沸騰する血液で荒くなる呼吸を吐き出し、足に力を込め――――――走った。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

手には、漆黒の大剣、ソウルオブキャット。
もうスピードなんか必要ない! 全ては……筋肉で決める!

スピードなんかいらないと言いつつ、ハルマサのスピードはかなり速い。
地面へと降り立っていた竜騎士ドドブランゴへ、高速で迫る。

ハルマサは彼我の距離、200メートルはある道のりをほぼ一瞬にして踏破し、手にした大剣を振り下ろした。

「くらぇえええええええ!」

ドゴォ!

剣はぶつかり、あたりの砂を巻き上げる衝撃波が生まれる。
しかし、ダメージは通っていない。
ハルマサの渾身の一撃を、モノブロスの背から飛び降りたドドブランゴが、剣で受け止めていた。

「グルゥウウ……!」

ドドブランゴの腕が、肩が、背中が、3倍ほどにも盛り上がっている。

(こいつ、特技を使っているのか!?)

「グォオオオオオオオオオオオオ!」
「―――――くっ!」

ごり押し作戦は既に失敗しているような気がするハルマサだった。






ハチエは、翼が生える武器が好きだ。
意志のままに動く翼は、ハチエにこの上ない自由を感じさせる。
しかし、今はそれ以上の自由を感じてもいた。

仲間が居ることによってである。

ハルマサの存在は、彼女にとって既に唯一無二。
彼がいるお陰で、これまで我慢するはずだったダンジョン探索が、楽しくて仕方なくなっている。

見ろ、今も自分の体格の何倍もあるドドブランゴを相手取り、なんと力比べをやっている。
アホじゃないかと思う反面、その我武者羅な姿勢を好ましく思う。

そして、モノブロスがノーケアなのはハチエを信頼してるから?

(ははっ! ええで! 応えたろやないか!)

ハチエはキリリと弓を引き絞る。
この弓の名は「炎翼の飛翔弓」。
矢は自らが生きているように飛んでいく。

ボボボボッ!

弦を引き絞るハチエの指の間、挟んで持った4本の矢が燃え上がる。

(―――――行け!)

―――――キュオ!

二人の勝負に、余計なチャチャを入れようとする銀色のモノブロスに向かって、4本の弓を解き放つ。
狙うのは体ではなく、鼻面だ。
どうやら炎は効きにくいようだが、牽制に使うならば問題ない。

こちらの矢に気付いたモノブロスは翼を開いて急停止する。
その間に、ハチエは翼で空を打っていた。

バァン! と炸裂するような音とともに火の粉の筋を描き、ハチエは急降下する。
まるで隕石のような、突撃だった。
その手には、手に入れたばかりの大剣がある。
ティガレックスの牙から作った「轟大剣」。ハチエの牙は太さと鋭さを増し、咥えた短剣に突き刺さる。
あかん、これちょっと力入れたら噛み砕いてまうな。

「ぬぁああああああああああああッ!」

だからハチエは、咆哮しつつ、切りかかる。

ゴキィ! とモノブロスの頭を叩き落し、しかし大剣もその力に耐え切れないのか、鋭いはずの刃が欠ける。
別に良い。こいつを倒して、新しい武器を手に入れる!

ハチエは口から零れた短剣と、左手の弓をカードに戻す。遠くからチマチマ狙い撃つのはもう終わり。

(ウチには、もう一つの翼があるんやで!)

彼女が取り出したのは「轟竜の翼斧」。彼女の腕から、メキリと翼が伸びてくる。
大斧と大剣を装備して異形となったハチエは、一つ咆えると、モノブロスへと飛び掛った。



マッスルハルマサと、マッスルドドブランゴ。
二つの剛力が、剣を挟んでぶつかり合う。
ギリギリと軋むのは互いの腕の骨格で、二振りの剣はビクともしない。
相手の剣も特別製だ。どうせ神の作った物だろう。

ドドブランゴ亜種は目を見開き、牙を食いしばって剣を押し付けてくる。相手も必死。

「グルォ、オ、オ、オ、オ、オ!」
「負、け、る、かぁああああああああああああ!」

ハルマサは、一気に力を込める。
肩と背中から魔力を噴出し、その代償に血液が飛ぶ。
皮膚とタキシードを突き破って魔力を放出しつつ、鼻血が出るほど歯を食いしばっていた。
しかし、どうしても向こうの方が上背がある。
筋力の差で拮抗できているが、やがてこのバランスも崩れるだろう。持久力の減りがヤバイ。

チラ、と見ると、ハチエがモノブロスを引きつけてくれている。というか圧倒している。

負けてられないねッ!

ハルマサは博打に出た。力を抜いたのだ。ゴ、と迫る剛剣が、ハルマサの額を割ろうとし――――
ぐり、と体を左にずらすのが間に合った。
ハルマサの右側へとソウルオブキャットを巻き込んで巨剣は突き刺さるが――――ハルマサは既に手を離している。

ハルマサは、ココしばらくの戦いで、自分の手がよく壊れることに気付いていた。
でも壊れるのなら、強化すれば良いのでは?

「――――――ぉりゃあ!」

―――――ゴッ!

ハルマサの左のアッパーが、ドドブランゴの顎を跳ね上げる。
そして返しの右を、鼻面へと叩き込む。
鼻の血管が切れたのか、ドドブランゴから血飛沫が舞う。

―――――――はは、全然痛くない!

両手は魔力の膜に覆われていた。硬く「圧縮」した魔力の5重層だ。
ハルマサはギ、と拳を握り、呼気を吸い―――――――――叫んだ。

「オォオオオオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴンッ!

驚異的な速度の連打は、一繋がりの音を出し、ドドブランゴの顔面をしこたま打ち据える。

≪新特技「鉄腕連打」が発動しています。発動限界時間はあと2秒、1秒……≫

――――――ゼロ!

サクラの声と同時、ハルマサは跳び上がっていた。
アッパーで跳ね上がったドドブランゴの頭を見据えて右肩を引き、そして寸暇の間も置かず、拳を叩きつけた。

「―――――だあッ!」

ドゴォ! と上から殴りつけ、ドドブランゴの巨大な頭を地面へと埋める。
砂が噴き上がり、ハルマサはそれに煽られてバランスを崩し、落ちた。

(す、凄い疲れる……!)

ステータスを見ると、持久力はあと100も無い。
恐ろしい消費量だ。
もう、腕を上げるのもしんどい。
さっさと「沸血」「剛力」を解除する。

相手は瀕死だ。あと一発で良いのだ。

「これで―――、……まてよ?」

歩み寄り、拳を握ったハルマサは、最後の力を振り絞ろうとして、良いことを思いついた。
目の前でピクピクとしている牙獣は今瀕死。
だったら、出来る事がある。

そう。

「モンスターボ――――――――ルッ!」

袋から取り出す紅白のボールは、日光を受け、ピカピカ輝く新製品!
それを、ハルマサは躊躇せずにドドブランゴに叩きつけた。

すると、ビカー! とドドブランゴは赤い光に覆われ、ボールの中へと吸い込まれてしまった。
吸い込んだボールは、ピクリとも動かない。

「……? これでいいの?」

≪マスター。新たなモンスターを手に入れました。名前をつけますか?≫
「おお……! モンスター、ゲットだぜぇ―――――――!」

彼の記念すべき一匹目は、ドドブランゴ亜種となった。
ちなみに名前は顔が青いのにヒゲが白いので「白ヒゲ」にした。



<つづく>


ハルマサ
満腹度: 4998998 → 5936351(593万)
耐久力: 3173150 → 4596603(459万)
持久力: 4997774 → 5935127(593万)
魔力 : 14943283 → 18449357(1844万)
筋力 : 22251486 → 30381400(3038万)
敏捷 : 22227882 → 25302341       ……★37953512(3795万)
器用さ: 27571986 → 30795704(3079万)
精神力: 10894924 → 11406354(1140万)

○スキル
拳闘術 Lv21: 11289421 → 13984432(1398万)
剛力術 Lv20: 7011942 → 9527334(952万)
PテイスターLv18: 268473 → 2398492(239万)  ……Level up!
突撃術 Lv20: 6009234 → 8008736(800万)
魔力圧縮Lv20: 6097724 → 8027739(802万)
両手剣術Lv18: 187232 → 2098744(209万)
身体制御Lv20: 4228301 → 5893201(589万)  ……Level up!
魔力放出Lv20: 8117245 → 9693304(969万)
土操作 Lv18: 73742 → 1578723(157万)  ……Level up!
空中着地Lv20: 8274821 → 9374806(937万)
的中術 Lv19: 4082993 → 5109284(510万)
心眼  Lv17: 178202 → 729827(72万)  ……Level up!
回避眼 Lv16: 75832 → 591283(59万)  ……Level up!
戦術思考Lv21: 10127492 → 10638922(1063万)
防御術 Lv16: 63322 → 563820(56万)  ……Level up!
観察眼 Lv20: 5589422 → 6039201(603万)
鷹の目 Lv17: 908731 → 1159832(116万)  ……Level up!
解体術 Lv20: 6782911 → 6836748(683万)
撹乱術 Lv20: 5992011 → 6029382(603万)
撤退術 Lv19: 4017992 → 4046789(404万)
空間把握Lv15: 167492 → 189023(18万)
蹴脚術 Lv12: 20483 → 28731(2万)


◆「鉄腕連打」
 魔力によって鋼鉄と化した拳を連続で叩きつける技。拳の耐久力は、「魔力圧縮」「土操作」によって変化。使用中は耐久力、筋力、敏捷が増加し、持久力が25倍の速度で減少する。任意の時間で終わらせる事が出来る。





[20697] 119(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/30 17:10


<119>


「やっぱり腕についとる羽根やと戦いにくいなぁ。」

ハチエは戦い終わった後、そう一人ごちる。
モノブロスを倒したのは良いが、空中戦はやはり苦手だと再認識させられた。

だいたい、腕に獲物を持って戦うのに、その腕で飛ばないといけないって言うのが辛すぎる。
いや、このティガレックスの武器だからまだましかもしれない。
腕が完全に翼に変化し、指がなくなってしまう場合だってある。
でも飛竜とは、そういうものだ。腕が翼に進化した種なのだ。

理想は古龍の翼由来の武器である。
古龍は四肢とは別に翼を持ち、その翼を発現するハチエも両手がフリーになる。

「炎翼の飛翔弓」の元となったモンスターも古龍に分類される。
惜しむべきは、弓な点か。
剣とかだったら最高だ。

「あー、古龍落ちてへんかなぁ……。」

この戦いでも武器を手に入れたハチエだったが、時には高望みもしてしまうのだ。

「あ、ハチエさん。どうだった?」
「ん? そりゃああんた、バッチリやで!」

でも取りあえず親指は立てておいた。完勝には違いない。




ハルマサがポケモン使いにジョブチェンジした、というか魔物使いも兼任出来るようになったようだ。

「もう、出来へんことないんちゃう?」
「そうかも。あ、回復は……」
「出来へんの?」
「したくない。」
「出来るんかい!」

なんとも器用な少年である。
一点突破型の自分とは相性が良いのではないだろうか。
まぁ悪くても離れる気にはならないが。
なんか居心地良いんよねぇ、とハチエは目を細めた。






【ふむぅ。この猿、えらい懐いておるのじゃな。うぃ奴よ!】

カロンちゃんが嬉しそうに言う。
9時になったので彼女を呼び出したのだ。
昨日の事があって気まずいかと思ったけどそんなことも無く、カロンちゃんは無邪気に喜んでいる。
その笑顔に癒されるね!

で、懐いているお猿さんはドドブランゴ亜種である。
君に決めた! とドドブランゴ亜種、名前は「白ヒゲ」をボールから出したら、何故かハルマサに服従していたのだ。

サクラに理由を聞いてみたら、モノブロスが倒れた時にレベルが12になってしまった事が関係しているのではないか、と言っていた。
じゃあ正面から殴り合って友情が深まったということにしておこう。この猿オスだし。
でも、やっぱり融合素材の片割れがいないと強さは元に戻っちゃうんだね。剣は持ったままだけど。
いやまてよ? じゃあ、モノブロスを捕まえて一緒に出せば、また竜騎士ドドブランゴが爆誕するのでは?

「よし、モノブロスも捕まえよう!」
「別にええねんけど、この「白ヒゲ」の食事ってどないするん? アホみたいに家計を圧迫しそうな体格しとるねんけど。」

確かにエンゲル係数が跳ね上がりそうだね……。

≪モンスターボールの中では、時の流れは遅く、さらに捕獲された者は仮死状態となります。活動時間に見合ったエネルギーを補給してあげれば、活動に支障はないと思いますよ。≫

また2号さん無茶を……。

【ぬ、おいハルマサ。なんぞ奇怪な猿がおるぞ。】

となりでノシノシ歩くドドブランゴの頭に座っていたミニカロンちゃんが、声をかけてくる。

「奇怪?」
「ほら、あれちゃう? あの、空中に浮かんどるドドブランゴ。」

ハチエさんが指差す先には、凄く遠くだが、確かに変な格好で浮かんでいる猿が見える。
腰の辺りを引っ張り上げられて宙吊りな状態だ。だが、その吊り上げているものは見えない。
確かに奇怪。

「………そう言えば、モンハンって消えるモンスターおらへんかった?」
「ああ、古龍の……なんだっけ?」

応えはハルマサの中から返ってきた。

≪オオナズチですよマスター! 別名「霞龍」と呼ばれるモンスターです!≫
「あ、それだ!……というかサクラさんモンハン知ってたんだね。」
≪はぅ……! お恥ずかしい……!≫

お恥ずかしくは無いと思うけど。
ハチエさんも知っているし。

「サクラさんかー。ウチもそんなシステムナレーターが欲しいわぁ。」
「いると居ないじゃ大分違うだろうね。サクラさんがいないと僕はもうダメかも。」
≪マ、マスタぁああああああああああッ!≫
【……一言いいたいところではあるが、ハルマサよ。この猿を抑えるのもそろそろ限界じゃ。仲間を助けたくてウズウズしておるぞ。】

カロンちゃんは、どうやってか知らないが白ヒゲを止めていてくれたらしい。
ありがたい。

でも白ひげレベル低いからなァ……傷も全然治ってないし。
せめて竜騎士になってもらわないときつそう。
二の舞になる姿がありありと想像できるよ。

「ゴメンね。あの猿は僕たちが助けるから、少し待ってて!」
「よっしゃー! 羽千切って飛べる剣ゲットするでぇ―――――――!」
【ぬ、我も行くぞ!】

「……グルゥ。」

まぁ服従しているハルマサに待てと言われれば、待つしかないわけで。
一気に走っていった三人に、お座りした白ヒゲは切なそうな視線を送るのだった。



折角消えられるのに、獲物をぶら下げてたのがオオナズチの失敗だったのだろう。
ぶっちゃけ良い的である。
あと100メートルといったところで、カロンが宣言した。

【最近呼び出されても何もしとらんからの。ここは少々我に任せぃ!】

カロンはやる気満々に、ハルマサの頭の上で怪しげな呪文を唱える。
ぐん、とハルマサから魔力が吸われていく。

「おふっ!」
【―――――――生と死の砂よッ!】

途端、吊り上げられているドドブランゴの上で、ピシリ、と大気に亀裂が入る。
その隙間から、ざぁ、と黒い砂が漏れ出した。
なんと禍々しい色か。

「カロンちゃん………凄いぜッ!」
【まぁの!】

カロンちゃんが薄い胸を張ってふんぞり返る。

「ドドブランゴ巻き込まへん?」
【そこいらの盆暗と同じに見るでないわ。それくらいちゃんと考えておる!】
「お、おおー。なんとも魔法チックやねぇ。」

黒い瘴気を放つ砂はドドブランゴをしっかり避けてその周り、見えないモンスターの体を這いずるように纏わり付く。

――――――――キロロロロロ……

珍しい鳴き声をあげつつ、モンスターはドドブランゴを取り落とし、そして姿を見せた。

「でか!」
「30メートルくらいあるね。」

紫色の翼が生えた、カメレオンみたいなモンスターである。
額には尖った短刀のような角が生えている。
レベルは20。

――――キロロロ……ロロ……グフゥ……

しかしもう死にかけだった。
頭を支えるのも辛いようで地面に横たわっている。舌がダランと口から漏れていた。
効きすぎだよカロンちゃん。

≪魔力を500万ポイント使用しただけあって、効果が凄いですね。≫

それって満タン状態の3分の1じゃない?

「あ、ちょお待って、殺したらあかんでぇ!」
【心配せずとも、「老い」で弱らせておるだけじゃ。】
「おお、そうなん!? そぃじゃあ、お姉ちゃんは部位破壊してくるわ! ハルマサは後からゆっくりきぃやー!」

空を自由に飛びたいねーん! と自称ハルマサのお姉ちゃんは走っていった。






で、よぼよぼになったオオナズチの翼に執拗に攻撃したハチエは、二枚目を破壊してようやく欲しいものが出たらしい。

「たはー! ええモン手に入れてもうた――――! ウチもうこれだけでええくらいや!」
「あの、ハチエさん、早く止めさしてあげないとオオナズチが可哀相で……」
「あ、そやね。」

サクーン! とハチエが止めを刺した時、キョェエエ、とオオナズチはないて、少し耳に残ったハルマサだった。



「どんなのが手に入ったの?」
「ふふー。まぁ見てぇや!」


○「霞翼の風鳴剣」(Lv20)耐久値:681万
 オオナズチの翼から作られた片手剣。軽いが硬い。鋭く振ると、風を孕んで輪郭がぼやける。風属性。
耐久力+700%、持久力+400%、魔力+600%、筋力+600%、敏捷+1000%、器用さ+700%

○「揺らぎの短刀」(Lv20)耐久値:628万
 オオナズチの角から削り出された短刀。光を屈折し、刀身を見えなくする。硬い。
耐久力+700%、持久力+400%、筋力+600%、敏捷+1300%、器用さ+1000%

紫色の柄の二つの武器である。ハチエさんは色は気にならないのか、非常に上機嫌だ。

「実はハルマサにもろうた投剣、さっき思いっきり噛んでもうて、もう壊れる寸前やッたんよ。ちょい長いけど、短刀手に入ってホンマ嬉しい! 翼も手に入って最高やないか! 運が来とるでぇ!」

カードを眺めてニヤニヤしているハチエさんを見ながら、そろそろお昼にしようかなぁ、とハルマサは考えていた。




<つづく>


前回忘れていたモノブロス亜種の武器は以下。

○白銀の螺旋槍Lv19
 角を用いた巨大な槍。螺旋の溝が、投擲時に貫通力を増大させる。使いこなすには強い力が必要となる。

○銀鱗の鉄拳Lv19
 白銀の堅殻を大胆に使用した、拳を守る堅固な手甲。拳の軌道が銀色の帯となって描かれる。

○月輪の大太刀Lv19
 輝く刀身が弧を描く、美麗な野太刀。重心が先端に近く、遠心力を生かした攻撃に有利。





[20697] 120
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 19:06


<120>


ハルマサの頭の上を定位置と決めたカロンが、うつ伏せに寝転びながら、前方を見ている。

【のうハルマサ。】
「どうしたのカロンちゃん。」

ハルマサは後ろを努めて気にしないように応じた。

【先ほどから、猿がついて来ておるぞ?】

き、気にしないようにしていたのに――――――!

ちょっと現実逃避していたハルマサである。
彼の後ろ、正確には、彼とハチエを乗せてノシノシ歩くドドブランゴの白ヒゲの後ろに、さっき助けたドドブランゴがついてきているのだ。

「あれちゃう? 我々の仲間を、従えたあの者についてゆけば、間違いない! 的なホニャホニャ。」

ハチエが曖昧に考えを口にする。

≪恩を返すチャンスを伺っているのかもしれません。猿の恩返し。≫

柿ぶつけられたりしないかな。

ゲットしても良いけど、ポケモン的に同じモンスターを二匹も連れているのはあまりよくないし……。

うん。逃げようか!

「ゆけぃ白ヒゲッ! 全速前進だぁ―――――!」

そう彼は叫んだが、白ヒゲはハルマサを振り返っただけだった。

「……グルゥ?」

レスポンス悪っ!
呼んだ? みたいな顔をしないでおくれよ白ヒゲぇ!

「どうしたんだ白ヒゲ! 君だって思いっきり走り回りたいはずだ!」
「いやそんな、鎖につながれた犬やないんやし。」

ハチエの指摘にハルマサが嘆いていると、頭の上のカロンちゃんが、乗り出してくる。

【ハルマサ、何か来るぞ。】

何が? と聞こうとしたとき、空から危険が迫っていることを「心眼」が訴えた。

「白ヒゲ!」

言葉が通じたのか、乗っているハルマサたちごと、白ヒゲが後ろに飛びすさる。

「そういえば、あれやな。ここに来てから、毎日時間はちゃうねんけど、すんごい大きな音がして、地面が揺れるんよね………。」

ハチエさんが何か言っている。

「これだったんかいな。」

直後天から巨大な影が落ちて、あたりを覆い――――

「―――って、逃げないと!」

完全に落下してくるものの下敷きになる。
どうする―――――加速か!? でも持久力が…!

【ハルマサ。我がおろうが。頼れ。】

こんなところに頼れるこの人が居たぜぇ――――――――――!

「お願い!」
【良かろう!】

カロンちゃんはちっちゃな犬歯をむき出して笑うと、祝詞を口にする。

【―――――――――ッ!】

何時ぞやに聞いた、聞き取れない音域での声。
みきり、とハルマサの体が痛む。
そう、これは。

【――――――世界樹召喚ッ!】

大量の魔力と、またもやハルマサの耐久力を呼び水に召喚された世界樹は、ハルマサの耐久力の劇的な成長により、その大きさが以前と比べて桁違いだった。
幹は子山の如き太さで天を突いており。
枝葉は空を覆い尽くし、根は大地を抉り侵食する。

まさに世界樹。砂漠に突如として誕生した命の象徴だった。

「うひゃああああああ! なんじゃこりゃぁああああああ!」
「グルォオオオオオ!」
「か、体中が痛い……。」

そしてその世界樹が、上から落ちてきたものを支えた。

ズ……シィ!

衝撃が、巨木を震わせ、その根の上にいたハルマサたちを浮かび上がらせる。

ミシミシミシミシィッ!

【このサイズでも支えるのはきつかったか。】
「ら、ラオシャンロン……!?」

「空間把握」で知り得たその姿はこの階層の入り口で見たモンスターと似通っている。
ゴジラサイズの龍が天から落ちてきたのだ。そんなの、ただの災害じゃないか。
蒼くないので亜種では無いが、それがどうした。

「空間把握」の見ている先で、ラオシャンロンは大きく息を吸い、咆哮した。

――――――――――――ギォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

「う・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・あッ!」
「ちょ、これしんど……!」

衝撃波を伴う咆哮がハルマサたちを苦しめる。
ハルマサとハチエは耳を押さえて転げ、白ヒゲも苦しんで、土を引っかいて潜ろうとしている。
ちなみにもう一匹居たドドブランゴは世界樹に巻き込まれて、幹の途中から上半身を仰向けに出してダラン、としていた。

【うるさいのぅ……。響け『音吸いの鈴』】

頭の上にいるカロンがそう呟く。
シャン……と涼やかな音が鳴り、辺りが絶対の静寂に包まれた。

「――――!」

ハルマサは自分の呼吸音さえ聞こえない状況で、しかし「心眼」により危険を悟る。
体は痛いが、休んでいる暇は無い!
ハルマサはモンスターボールのボタンを押し、地面に潜ってケツだけ見せているドドブランゴを回収すると、ハチエの手をとって走り出した。

【おお、鈴が割れる……!】

―――――――――――!

世界樹の根元で、無音の爆発が起こる。
衝撃波が大地を震撼させ、ハルマサたちを吹き飛ばした。





「…………ぷあッ!」

砂に突っ込んでいた頭を引き抜き、ハチエは直ぐに状況を確認した。
手は…ある。
足も…ある。
顔……多分ある。
音も聞こえる!

「ハルマサは!?」
「――――――ハチエさん! 横に跳んで!」

ハルマサの声が響くと同時、後ろから風切り音が―――――――

ハチエの指は自然と滑っていた。もう何度となくおこなった動きは体が覚えている。
左右のポケットに滑り込み、そこに間隔をあけて仕掛けてある4枚のカードを指で挟んで引き抜いて。

――――具現化!

両手に8枚のカードが瞬時に燃え上がり、8本の剣となる。攻めにも守りにも使えない、「ナマクラ」の剣たち。
しかし最後に頼れるのは、一番慣れ親しんだコレだった。

「ぬぁあああああああああああああ!」

グン、と上がる身体能力。そしてハチエは気付いていなかったが、無意識の内に魔力が地面を固め、足場を作る。
ハチエは砂地を爆砕させ、横に跳んだ。
その一連の行いで、――――――見事、死のアギトから逃れる事が出来た。

ドォオオオオオオン!

今まで大きいと思っていたモンスターがミジンコに見えるほどでかい龍の尻尾が、遥か上から地面を打つ。
霞むほどの速度で巨大な質量が叩きつけられ、砂地が盛り上がり津波が起こる。
それを飛び越えながらハチエは思う。
かなり速いが―――対応できないほどではない。
現に今、避けられた。

武器を持ち帰るハチエに、ハルマサの声が聞こえる。

「ハチエさ―――ん! このモンスター、ここで倒しますよ――――――!」

ハルマサはこのでっかいのを倒す気だ。
そしてハチエもその気になった。

「ええやろぉ! 倒したるわぁ!」

気炎を巻きつつ、ハチエは獰猛に笑った。



<つづく>


ステータスとかその辺は明日。




<あとがきという名の言い訳祭り>

突然2スレ目立ててごめんなさい。読んでくれたあなたに感謝。

今回多めに改定しました。
さらにスレ立てに伴って第~部の始めと終わりを題名につけています。

昨日の感想で、魔力放出でもないと、敏捷いくら高くてもめっちゃ遅くてハチエさんいらない子じゃね?
という意見があって、114話とかを改定しました。こんなんでどうでしょうかfさん。

ゾンビ化のペナルティですが、代替案は魅力的なのが多い……!
まぁ、「不朽の魂」はその内どうにかして消そうと思っていました。
もう良い機会なんで消そうかな、と思ってたんですけど、確かに113話でサクラから突然そういう話をされるのは後付け感が際立つので、ゾンビ化した話のところでそういう説明を入れることにします。

反対意見は多かったんですけど、寝ている間に思いついたこともあるのでこのまま行きますね。


ちょっと改定多くなったので、明日は更新できるか分からないです。

皆さん、意見ありがとう!


>そういえばゾンビ化出来るなら静かなる中条のビッグバン・パンチ出せるんじゃね?
打てそうですね。しかしゲッターを私は知らないんだ……

>あとボスがメスだったらやばいね!
やばいと思ったのでレベルが上の敵には効かなくしたんだぜ。何話か覚えてないけど。

>どうせ作者のことだからこの後も何度もころころハルマサ殺すんだろ?
第三層では死んでないので分かりませんね。とか言っといて……

>無謀,勇猛な感じで突っ込んでピチュンするのもハルマサ君の魅力のひとつだと感じるので。
むしろ悲壮な感じで死なれると後始末に困りますよね。

>便利すぎる特性を付けちゃった時にGMが取り上げるためぐらいに考えてもいいんじゃないでしょうか?
おやすみマン消すために持ち出して、こんなことになるとは思いもよらなかったのです……!

>すみません、携帯で表示できないので新しくスレをたててほしいのですが……
すいません。配慮が足りていませんでした。

>>まぁ普段のハチエさんはそんなに筋力高くないからダメージはあんまりないけど。 筋力130万あるのに…もう、普通じゃ満足できない体になっちゃったのね。
完全な鈍感野郎もしくはドMですね。

>ゾンビ化に因る特性消失は要らないと思う
もうゾンビ化飽きません? 作者だけだろうか。

>お休みマンがあるとハチエさん涙目ですがwww
そのシーン書いてからおやすみマンに気付いちゃって……こんな騒ぎですよ。

>特性消失を消すなら代わりに何かしらのペナルティーをつけたらどうです?
それもありなんですが、これ以上計算増えるのは正直きついと思いまして。でもいい案でした。迷いました。

>特性消失は…あるほうがいい、というか消えて欲しい特性があるといった方が正しいかな。→ゾンビ化
同じ考えの方がいたんですね。理由は少し違うようですがw

>特性は次々増えていくでしょうし、長期的に見れば消えるではなく入れ替わるになるでしょう。戦い方も大きく変わり、マンネリを防ぐためにも有効かと。
長めに書いてるとマンネリが一番の敵ですから、Delera さんの考えは(私に)非常に当てはまりますね。

>一定時間スキルが『腐る』という方向で行くのもありかなと。使用不可、もしくはマイナススキルに変化などなど……緊張感付けや、ご都合主義的に使いやすいかも??
面白いネタがそっち方面で浮かんでいれば十分ありえました。

>このノンストップジェットコースターみたいな話の展開と勢いだけを楽しんでる自分は少数派?
最近は少し勢いがないような気がしますけどね。次の話は原点に返りたいです。

>ゾンビ化の能力取らないほうが、スキルが減らなくてよかったということになるスキルもあるだろ。
まぁ一回生き残るのに使えたから充分じゃんって私は思いました。

>イベント (菊の門を死守せよ)
イベントは色々考えたいですね。ただ、私はノンケが好きなんだぜ。

>1000%ってこんな簡単に出るレベルなの?それならハチエ設定はバランス壊す気が・・・
ハチエの設定正直ミスってるし、書いててすでにきつくなってきたので、そのうち、ちょっと修正はいります。

>性消去がダメなら、次に「不朽の魂」が発動するまでの間いくつかの特性を無効にしたらどうでしょ?
無効は簡単そうですね……別の形で使うかもです。

>ゾンビ化の特性消失は、ここまであとになってからでは後付け感がやっぱりひどいです。始めから説明あれば問題なかったペナなんですが。
ですよね。もう最初からそういうことにしてやりました。必殺ちゃぶ台返し的な。

>なんというトンファーキック
ほ、ほんとだ……おふぅ。

>ゾンビ化での特性消失は正直どーかと思います。
多分最初から説明していればこういうことにならなかったんだろうな、と反省しますね。もっとよく考えるべきなんでしょうねぇ。

>2月くらいしたらまた読もうと思います!
そのころまで続いているかどうか……
続いていたらお願いします。

>死亡したときに、そのまま死亡するか?特性消失してもゾンビ化するか?の判断を、せめて主人公にさせたほうがよくないですかね?
そうですねぇ。主人公が判断……難しいです。

>武器を銜えて、両手に構えて、そこから放つ蹴り…なんというトンファーk(ry
ここまで大真面目にトンファーキックやった作者も珍しいでしょうね……

>ゾンビ化による能力消失は下手すると今まで使っていた魔力操作等の基本技能が消失した場合に詰んでしまう可能性が高い
もう詰んだら詰んだで、第一階層に戻るとか、まぁ色々と話は続けられるのです。ゾンビがあるのに、なんでこいつさっさと死なないの?って作者が思い続ける状況よりはましかな、と。

>亡くなったヨシムネの魂はソウルオブキャットにあったんだ!
下手したら初めての精霊じゃないかな。今まで神ばっかりだったし。

>ランダムならば尚更、カロンちゃんが召喚出来なくなる可能性があるんだぜ!!
大丈夫だ! スキルは消えない!

>ガチでまずいことになったら「一定数の特性を失ったので~」でまた強化すればいいし。
ありですね。

>ハルマサは今回で弓関係のスキルは得なかったんですか?
耳が痛かっただけです。

>やったね○○ちゃん(さん)、コノフレーズの度に欝になってしまうwww
なんか元ネタがあるのでしょうか。適当に使ってたけど、控えましょうかね。

>サクラさん、えっと植物にとって花は生殖器だから、満開状態ということは・・・・・・
サクラさん感情表現がストレートだから。

>3層に入る前の2号さん4号さんとの会話でON/OFFをシステムに組みこむような話の流れにしたらどうでしょう?
これは考えました。もう正直これでいいんじゃないかと……まぁでもゾンビそんないらねって思いまして。

>シンプルで分かりやすい能力も、頭の悪い私としては理解しやすくうれしい限り。
頭の容量が少ない作者も助かります。

>べ、別にあんたの為に感想書いてあげてる訳じゃないんだからぬ!ぬ!
ツボッたwwサーナイトはあと20話くらい待ってると出るかもしれないです。

>最初の頃死ぬ度にスキル失ってた頃を考えるとそれほど変でもないのか?
そういえば最近スキルなくなりませんね……消そうかな。

>弓そんなでかくなくね?
意外とでかくないですか?しかも重そうだし。えっとこれはブロスホーンボウだったかを参考にしてみたんですけど。


明日は分からんけど明後日なら更新できると思う!




[20697] 121(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/30 17:10


<121>




目の前では、巨大というにも大きすぎる樹が中ほどでへし折れており、その上にラオシャンロンが鎮座している。
ハチエさんが、執拗に目を狙って特攻をかけているようだ。
その光景を前にして、ハルマサは「セレーンの大腿骨」を手に取った。

カロンちゃんが2回連続で大技を使ったので、ハルマサの魔力は虫の息だった。
だから、ハルマサは無駄に魔力を吹かす事にした。

「うぉおおおおおおおおお!」

空気を裂いて、ハルマサはラオシャンロンへと迫る。

体から撒き散らされる魔力!
凄まじいオーラを放っているみたいだ……!

「こうすることで、「魔力放出」の熟練度が鰻登りになり、魔力は見る見る回復していく! いわゆる一つの無限回路だぁ――――――!」

叫ぶハルマサにカロンが頭の上から心配そうな声をかけてきた。

【……頭を打ったか?】
「燃料は――――カロンちゃんへの愛なんだッ!」
【な、何を言っておるバカ者! 往来で叫ぶでない…!】
「あ…ゴメン。君と一緒にいたいという心が暴走しちゃって……ハルマサ反省。」
【も、もう少し控えろ。まぁ…悪い気はせんが……】

ああ、カロンちゃんが頭の上でテレテレしている!
もうその姿をおかずにご飯三杯はいける!
あ、オカズってあっちの意味じゃないから嫌いにならないでねぇ――――――!

≪マ、マスター……≫

はッ…! サクラさんが呆れている!
そうだ! カロンちゃんでエアーご飯食っている場合じゃなかった! 目の前のデカイモンスターに集中しなきゃ!

「ぅおおおおおおおおおおおッ!」

ハルマサは背中のバーニア(肩甲骨)から魔力を吹かしまくって、ラオシャンロンへと骨を振り下ろした。









ハチエは左手に剣を握り、空を翔る。
右手に白銀の螺旋槍を構え、上空から一気に降下した。

「目ぇエエエエエエエエエエ!」

ラオシャンロンの硬さは身に染みて分かっている。
だったら狙うのは口の中か、目しかない!

「霞翼の風鳴剣」によって生えた翼を操り、一直線に目へと迫る。
神速で突き出された槍が、ラオシャンロンの目玉に迫り――――――

ガキーン!

弾かれた。

「目玉すら硬いんかーい!」

もう反則だ。
正確には、目の上に張られている透明の甲殻に弾かれたのだが、ハチエにそれが分かるはずもない。
一撃で槍の先端が折れ、ハチエの心も折れそうになった。

「また蹴りかなぁ……」

新たに武器を取り出し、ラオシャンロンの頭の周りを飛行する。
とりあえずは、鱗が砕けるかもしれないという望みにかけて、目玉を狙い続けてみるが……

武器攻撃が効かない敵には耐久力を高めての蹴りしかない。
でも、こんな硬そうな敵を蹴るのって一体どれだけ耐久力が必要なのか。

(ウチ計算苦手やねんけど……ナマクラ剣持ったほうがええんかなぁ。)

カキーン! また武器を破損させつつハチエは嘆く。

考え事をしていたからだろう。
ラオシャンロンが咆哮しようとしているのに、気付いたのが、一瞬遅れた。

「まず……!」

―――――――――――――ギォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

至近距離で食らうラオシャンロンの咆哮は、それはもう強烈だった。
ハチエの耳は一発で戦闘不能になり、平衡感覚がどっかに行ってしまったようである。
涙かと思ったら血涙だし、鼻血も止まらない。
何より、頭が割れるように痛い。

(ぁあああああああああああああ!)

ハチエは、激痛で白くなる視界の中、とにかく距離を開けようとした。
だが、それも遅く。
ラオシャンロンの巨大な顎が、ハチエを上から地面へと叩きつけた。





ハルマサも同様に動きが止まっていた。
咆哮は全方位にばら撒かれ、これはチャンス! と後ろから近づいていたハルマサもしっかりダメージを食らったのだ。
顎でハチエを叩き落した巨大龍は、ぐるり、と尻尾をめぐらせて、ハルマサを強打する。

バチン、とハルマサ吹き飛んだ。斜めに地面へと叩き込まれ、クレーターが出来る。

【音吸いはもう使えんでの……すまん。】
(ううん、ありがとう。)

圧倒的な筋力を持つラオシャンロンの攻撃を食らって、ハルマサが生きているのも、カロンの守りの壁、すなわちバリアーのお陰だった。

それでも、既に瀕死だった。
バリアーは即座に壊れ、ハルマサは骨で防御し、なんとか生き残っている状態だ。
このままゾンビ化すれば何とかなるか? と思考が頭をよぎる。

【呆けるな!】
「――――――!」

ハルマサは考えずに、横へ飛んだ。
直後、巨大な脚が、地面を抉る。
ゴボォ! と岩石がめくれ上がり、ハルマサの体を上に跳ね上げる。
行動を妨げられ、息が肺から漏れる。そのハルマサの上に太陽を追い隠す巨大な影が落ちた。
「心眼」が警報をかき鳴らす。

―――――――く、「加速」ッ!

だが、発動するのが遅すぎた。
最初から使っておくべきだったのだ。
高速で空を蹴り離れようとしたハルマサを、巨大な質量の広範囲攻撃、いわゆる「のしかかり」もしく「ボディプレス」が襲う。

(避けれな――――――!)


その硬い腹鱗が、ハルマサの体に触れた途端、ズシン、と体が重くなり、成すすべもなく、ハルマサは地面へと叩きつけられる。
衝撃に痺れて動けないで居るハルマサを、起き上がったラオシャンロンの巨大な牙が噛み千切った。





(………?)

ハルマサは気付けば、大きな川の縁に居た。
暗い。
川の水は闇を吸い込んだように黒く、空は曇り空で、空気は冷えている。

「……あれ?」

ハルマサは訳が分からなくなった。
僕はここで何をしているのだろうか。
これまで何をしてきて、どうすれば良いのだろう。
でも、僕は罪に塗れているから、なんだかあっちに行かなきゃいけない気がするな。
あの小舟が止まっているところ。

ハルマサが目指す場所は、人が並んでいる。皆表情を無くして佇んでいた。

ふらりと歩き出すハルマサの頭の中で、声が響いた。

≪マスター!≫

あ……だれだっけ。

≪特性「不朽の魂」が自らの効果によって消滅しました。その際、上手くシステムが起動せず、こちらへ来てしまって……≫

そうなんだ。上手く考えられないけど、もう終わりってことかな。

≪マスター!?≫

歩みを再開しようとしたハルマサは綺麗な声を聞いた。ひどく心が揺れる声だ。

「何故ここに来たハルマサ。お主がここに来るのは、まだ早かろう。」

目の前に黒い人影が現れた。空間から滲んでくるように。
その人は身長はハルマサより頭一つ分小さく、小柄で、黒いフードを被っていた。
この人物を見ると、ひどく心が暖かくなる。

カロン、と言う言葉が胸に浮かんだ。

「早ぅ帰れ。ここにおると、思考が死ぬぞ。」

あっちじゃ、とフードを被った女の子は、ハルマサの後ろを指す。
フードから覗くほっぺたが柔らかそうだ。

「どうしたはよぅ行け。」
「……また会える?」

女の子はキョトンとした後、ニヤリと笑う。

「お主が呼べばいつでもの。」

あくどい顔が実によく似合う雰囲気を持つ女の子だな、とハルマサは思った。


<つづく>



[20697] 122(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/03 19:49


<122>


【執務室】

閻魔は書類に押印していた手を止めた。

「で、帰ってきたと。」
「………」
「いや、咆哮されて動けんようになったところをパチーン、てやられてん。」

調子に乗ってたんはあるけど、まいったでホンマ、とハチエは肩をすくめる。
そのハチエの横には、放心状態のハルマサが居た。

ハチエは居住まいを正すと、閻魔をじーっと見てきた。

「………相変わらず閻魔様はええ乳してはりますね。」
「見るな。目が怖い。」
「どうか触らせていただけまへん?」
「いつも言っているだろう。断る。」
「ここは、私をねぎらう意味で一揉みさせていただきたいッ!」
「口調を変えてもダメだ。」

ハチエは地団太を踏んで悔しがりだした。子供か。

「どうしてだめなんですか―――――! どういうことですかッ! ウチの乳が薄いのがそんなにダメなんですか!」
「貴様の胸はどうでもいいだろう……。」

いつも通り鬱陶しいな、と閻魔が思っていると、ハルマサが再起動したようだった。

「ハッ…!」
「おお、やっと目覚めたかハルマサ。いつもより時間がかかったのは何故だ?」
「なんでハルマサにだけ優しいんですか! ずるい! えこ贔屓やん! おっぱい触らせてぇな!」
「…もうお前だけ送って良いか?」
「きっと乳神様の胸触ったらウチの胸も膨れるんや―――――!」
「そんなわけ無いだろう……」

呆れている閻魔に、ハルマサが話しかけてきた。

「なんかゾンビ特性が消えちゃって、魂が迷ってたみたいです。コッチじゃない、って言ってくれた人が居て無事ここに来れました。でも………」
「でも?」

ハルマサはふらり、と床に手を付いた。

「頭の上にカロンちゃんが居ない喪失感が凄くて、動けませんでした……!」

それを聞いた私にどうしろと?

「自分カロンちゃん好き過ぎやろ。」
「ふふん! まぁね!」

ハチエのツッコミに対し、即座に跳ね起きて胸を張るハルマサを見て、閻魔は複雑な気持ちになる。
まぁ誰と仲良くなろうと、ハルマサが上手くやっているなら問題ないではないか。
なんだか胸がモヤモヤするが、それはまぁ置いておこう。
本題に入ろうとしてとして口を開こうとしたところ、ハルマサが閻魔を見ていた。

「あ、閻魔様も大好きですよ!」

突然そんなことを言う。超笑顔だった。

「調子のええやっちゃなァ……。」
「閻魔様のためなら、100回は死ねます!」
「それレベルやばいことになるやん。」

そうか。そうなのか。
うんうん、と閻魔は頷く。
なんか胸が軽くなったが、きっと気のせいだろう。

「ふふ、まぁハルマサはそういう奴だ。好きになられるのは別に嫌ではないしな。」
「……なぁハルマサ。閻魔様にフラグ立っとらへん?」
「ははは! まさか!」

フラグってなんだ? と閻魔は思ったが、取りあえず本題に入ることにした。




「おい、2号4号、今すぐ来い。帰ってきたぞ。」
『うぃッス!』
『かしこまりました。』

机の上の伝声管からここに居ない二人の声が聞こえる。

「2号さんと……4号さん?」
「なんかあるん?」
「二人に用事があるそうだ。」

閻魔がそう言うと同時、バタンと扉が開いて4号が飛び込んできた。

「ハチエ――――!」

勢いのまま飛び込んできた4号のタックルを、ハチエが受け止める。

「あ、ああ4号さん。元気そうやね。あとめっちゃ顔近ぅない?」
「とっても元気ですよ! そういうあなたは……あら、いい顔になってます! ハルマサさんがそうさせたのだと思うと、嬉しいような……嬉しいです!」
「悔しいとか言われんでよかったわ。」

ハチエは、すがり付いてくる4号の顔の近さに戸惑っていた。
相変わらず近い。ちょっと苦手。
4号は目を輝かせて、ハチエを見る。

「ハチエ、あなたのシステムって凄く強いですよね? 上昇値が掛け算されるなんてホントにやり過ぎだと思いません?」
「そ、そうやね。」
「……何でだと思います?」
「いや知らんけど。」
「またまた!」
「なにが!?」

ハチエの言葉をウフフ笑いで流して、4号はポンと手を合わせる。

「実は、レベルに上限があるのですよハチエさん。最大値が20までという設定で。」
「すぐそこやん!?」
「ハチエさんにそのシステムを使っていただいて、色々と問題点も見えてきました。……そこで!」
「そこで?」
「改良版です!」

改良とか出来るらしい。というかプロトタイプを積み込まれていたことに初めて気付いたハチエであった。
確かに、武器を使うことに特化してそうに見えて、実はトンファーキックを連発しないといけないシステムには疑問を持っていたのだが。

「なんと、2号さんとの合作です! 武器のプラス補正が掛け算で無く足し算になり、デスペナルティで武器がナマクラにならずに消えちゃうようになりますけど、きっと役に立つと思います!」
「それええトコないやん!?」

むしろそれだけなら最悪だ。ハチエは極限に弱くなるだろう。だが、4号は胸を張った。

「メリットは、武器以外も出るようになったことです! 防具とか出るようになりました! さらに自分よりレベルが高い武器でも装備できるようになりましたよ! もちろんレベルの上限も50まで上がってます!」
「………おお?」
「詳しくはシステムのナレーターに聞いたほうが良いですね。」

メリットとデメリットがハチエの中では上手く整理できていなかったが、4号の言葉にピクリと反応してしまう。
ナレーター?

「ナレーターさん付くのん!?」
「? はい。少し複雑になるものですから。」
「そんなんもうそっちに変えるに決まってるやん!もう人が悪いで!それ早ぅ言ってくれな!」
「??? ではシステムをアップグレードするということでよろしいですか?」
「もちろんや!」

4号はにこりと笑って「そうですか」と言った。
そして背中から巨大な注射器を持ち出した。
ハチエの顔が一気に青くなる。

「……やっぱナシにしてもええ?」
「ダメです。」

ハチエは逃げ出した。
しかし回り込まれてしまった!

「てい!」
「はぅッ!」

ブスッと首に刺されてハチエは気を失った。
なんで首やねん、と呟きながら。



「うわぁ……」

ハチエが首にぶッとい注射器を刺されて、怪しげな液体を注入されている光景をハルマサは恐々としつつ見ていた。
ハチエさんが片言で喋りだしたりしませんように、とだけ祈っておく。
手を合わせていると、後ろから声がかかった。

「あんまり見ないほうが健全な精神で居られると思うッス。」
「あ、はい。」

何時の間にか2号さんが来ており、ハルマサへと話しかけてきたのだ。

「そう言えば、2号。お前が渡したいものってなんなんだ?」
「それはこの! ゾンビ解除薬ッス! 徹夜で作ったッスからなんと5個も…」
「あ、ゾンビ特性もう消えちゃいました。」

からん、と2号さんの手から瓶が落ちる。

「い、今なんと……?」

2号さんは震えつつ、ハルマサを見てくる。目が動揺しまくっていた。

「ゾンビ特性消えちゃいまして。」
「ファ―――――――――――――――――――ック! 神は死んだッ!」

2号さんは頭を抱えると、地面に突き刺さる勢いでブリッジをした。というか突き刺さった。

「あまりそういうことを大声で言うな2号」
「大丈夫ですか……?」
『久しぶりの発現者なのに……もうッスか……』
「きっと徹夜で疲れているんだろう。そっとしておいてやってくれ。」
「はぁ……」

大丈夫かなぁ……



閻魔は、もう二人を送るだけ、となったところで、前回から気になっていたことを解決することにした。

「ハルマサ。ちょっとコッチに来い。」
「…?」

広い机を迂回して、ハルマサがやってくる。
閻魔はハルマサの首に手を回し、黒い蝶ネクタイをシュルリと外してやった。
うん。思ったとおりだ。

「やはり無いほうが似合うな。男前だぞハルマサ。」
「……!」
「いや、胸ばかり見るな。」
「は、はい!」

まぁ胸元を開くような服を着ている閻魔のせいでもあるのだが、こいつは少々見すぎな気がする。
穴があきそうだ。まぁ別に良いのだが。
閻魔はいまだに胸を見てくるハルマサの額をデコピンしつつ、席へと戻る。
いまだに意識を取り戻さず、ピクピクしているハチエを見つつ、閻魔は頷いた。

「それじゃあ、がんばって来るんだぞハルマサ。」
「はい!」
「ハチエもな………では、行って来い!」

バシューン! と二人はまとめてダンジョン入り口へと飛んで行った。



【ダンジョン入り口】


「サクラさん、あの暗い場所ってなんだったんだろうね。」
≪知識としてしかありませんが、恐らく地獄への最後の門です。カロン様が居たことからもほぼ間違いありません。≫

そうなんだ。軽く地獄に行きかけてたんだね。

「ゾンビ特性消えちゃったのが原因?」
≪はい。ダンジョンに挑む方にこのシステムが積み込まれたのは初めてのことなので、ケアが行き届いておりませんでした。申し訳ありません。ですが……≫
「ですが?」
≪あの場所を経験したことで、一つ新たな特性を取得しました。本来ならば、大量のアンデッドに囲まれなければ得られない特性です。≫

そんな状況にはなりたくないなぁ……


□「塞ぎ耳」
 ひどく便利な耳の機能。あなたは外界の音を締め出す事が可能です。これで、ゾンビ供のうめき声も気にならない! うるさい小言もシャットアウッ! 相手は怒りで、メッラメラだぜぇ―――!


ネタ系の説明を見るとき、いつも頭に桃ちゃんの声が流れる。
システムの仕様なのだろうか。


≪アンデッドは生きているものの精神を削る声を発します。そのための対抗策として、2号様は組み込まれたのですが、今回は別のことに使えますね。≫

「咆哮対策だね!」

いいもの手に入れたぜぇ――――――――!

ちなみに、発動したら、耳が餃子みたいにパタンと閉じて、ちょっと気持ち悪いです。



で、ハチエのほうは。

≪あなたの頼れるパートナー、AIカエデです! よろしくお願いしますね!≫
「4号さんの声やんコレ……」

ハチエは脱力しつつも、まぁシステムナレーターが居ると助かるし、寂しゅうないからええわ、と思いなおす。
ハチエは自分のシステムの変化が気になったので、早速聞いてみた。

「それで、なんが変わったん? 防具が出るって聞いたんやけど。それだけ?」
≪他にも出ますよ! 武器や防具、お菓子や玩具まで!≫
「いや、後ろの二つ完全にいらんやろ。」
≪対価なしで、新しいシステムを加えることは出来ないのです!≫

そうですか。

≪それに、敵に関係あれば何でも出ます。むしろこのために色々出るようにしました。ハチエ様が耐久値の低い武器に悩むことは少なくなるのでは?≫
「あ、それは普通に助かるわ。」

「ハチエさーん! そろそろ行きませんか――!」

そうこうしている内にハルマサの用事も終わったらしい。

「行くのはええねんけど、ラオシャンどうする? また海飛んで行く?」
「正直あんな簡単にやられるなんて思わなかったし、賛成だね。もっと高く飛べば安全にいけると思うし。」

じゃあそういうことにしましょうか、と二人はキャシー(立て看板)に指輪を叩きつけるのだった。





<つづく>



展開が半端なく強引ですが、もういいや。直すの疲れた。
取りあえずハチエがトンファーキックの達人になるのを阻止したかったんだ。



ハチエ
レベル: 19 → 18      Level down Bonus:-666360
耐久力: 1309515 → 392252
持久力: 1309517 → 392254
魔力 : 1309510 → 392248
筋力 : 1309514 → 392251
敏捷 : 1309523 → 392258
器用さ: 1309514 → 392251
精神力: 1309530 → 392264
経験値: 2996013 → 1310720 残り:1310710

武器:ナマクラ剣×24、炎翼の飛翔弓、轟大鎌×2、轟剛鞭、轟竜の翼斧、揺らぎの短刀、銀鱗の鉄拳、月輪の大太刀




ハルマサ
レベル: 18 → 17   ……Lvdown Bonus:-327680
満腹度: 5936351 → 1961683(196万)
耐久力: 4596603 → 1432008(143万)
持久力: 5935127 → 1960704(196万)
魔力 : 23965437 → 9218360(921万)
筋力 : 30381400 → 11721885(1172万)
敏捷 : 25302341 → 9698132   ……★14547198(1454万)
器用さ: 30795704 → 11885926(1188万)
精神力: 12737189 → 4671286(467万)
経験値: 2132468 → 655359   残り:655360



スキル名
拳闘術Lv21 : 13984432 → 11187546
蹴脚術Lv12 : 28731 → 22985
両手剣術Lv18: 2098744 → 1678995
片手剣術Lv8 : 3071 → 2457   ……Level down!
槌術Lv8  : 3072 → 2458    ……Level down!
棒術Lv14  : 169932 → 135946  ……Level down!
鞭術Lv2  : 18 → 14
盾術Lv12  : 29774 → 23819
解体術Lv20 : 6836748 → 5469398
舞踏術Lv12 : 27483 → 21986
身体制御Lv19: 5893201 → 4714561  ……Level down!
暗殺術Lv12 : 40993 → 32794    ……Level down!
消息術Lv9  : 5387 → 4310     ……Level down!
突撃術Lv20 : 8008736 → 6406989
撹乱術Lv19 : 6029382 → 4823506  ……Level down!
空中着地Lv20: 9374806 → 7499845
走破術Lv8 : 2720 → 2176     ……Level down!
撤退術Lv19 : 4046789 → 3237431
金剛術Lv14 : 123495 → 98796
防御術Lv16 : 563820 → 451056
剛力術Lv20 : 9527334 → 7621867
天罰招来Lv10: 9450 → 7560
神降ろしLv17: 1518227 → 1214582  ……Level down!
炎操作Lv13 : 78190 → 62552
水操作Lv13 : 72813 → 61825
雷操作Lv20 : 9871112 → 7896890
風操作Lv19 : 5902234 → 4721787  ……Level down!
土操作Lv17 : 1578723 → 1262978  ……Level down!
毒操作Lv4 : 97 → 77        ……Level down!
魔力放出Lv21: 15209384 → 12167507
魔力圧縮Lv20: 8027739 → 6422191
戦術思考Lv20: 10638922 → 8511138  ……Level down!
回避眼Lv16 : 591283 → 473026
観察眼Lv19 : 6538290 → 5230632  ……Level down!
鷹の目Lv17 : 1159832 → 927866
聞き耳Lv12 : 50022 → 40018    ……Level down!
的中術Lv19 : 5109284 → 4087427
空間把握Lv14: 189023 → 151218   ……Level down!
心眼Lv16  : 729827 → 583862
洗浄術Lv2 : 13 → 10
折紙術Lv5 : 270 → 216
描画術Lv4 : 158 → 127  ……Level down!
調理術Lv2 : 14 → 12
布加工術Lv5: 232 → 186
水泳術Lv9 : 4534  → 3628
概念食いLv15: 293022 → 234418
PテイスターLv18: 2408374 → 1926699


□「塞ぎ耳」
 ひどく便利な耳の機能。あなたは外界の音を締め出す事が可能です。これで、ゾンビ供のうめき声も気にならない! うるさい小言もシャットアウッ! 相手は怒りで、メッラメラだぜぇ―――!





[20697] 123
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/29 18:58

<123>


【第三階層・挑戦2回目】


ヒュバババババ! と蝶ネクタイの無くなったタキシードが風にはためく。
風圧を受けつつ目を開くと、大陸を俯瞰する事が出来た。

上空から見る大陸の形はやはり錨型だった。
一度目にここに来たときよりも「鷹の目」スキルが上がっているので、遠くまでよく見える。

「なぁハルマサ。」
「どうしたのハチエさん。」
「ウチらをハエみたいに潰してくれたラオシャンロンどこ行ったんやろな?」

そういえばそうだ。
あのサイズで、あの位置だったなら影くらい見えても良さそうなのに。

「まぁその内分かるよ……分かるといいな」
「希望かい」

そんなこんなで、二人はスタート地点へと降りていくのだった。





【スタート地点】


第三階層で最初に降りるのは、三方を高い壁に囲まれ、大陸へと続く道を巨大なモンスターにふさがれている場所である。
そこには鬱蒼と多くの木がひしめいているのだが、その自然が今、破壊されている。
ハチエさんが地面に着くなり、そこらの木々を蹴り倒し始めたのだ。

なんというか、多感なお年頃なのかも知れない。
ついつい物に当り散らして、でもそれを後から後悔して、「ウチは何てアホな子なんや」って嘆いてしまうような―――――そんな感じですか?

「ちゃうわ! お前がアホや!」

ハチエさんは怒鳴ってきた。
どうやら彼女のシステムは、物を壊した際のアイテムポップ率も上がっているらしい。
よって何かアイテムを得るために木々を蹴倒しているだけで、ムシャクシャしている訳ではないらしい。

「お、出た!」

早速何か出たようだ。


○「割り箸」
(Lv0)耐久値:2
 太い樹木から作られた木目の美しい割り箸。石油製の紛い物とは一線を画した使い心地。衝撃を一度だけ完全に吸収する。使い捨て。
耐久力+2%(←お情け)


「なんで割り箸やね―――――――ん!」

ハチエさんは、崩れ落ちた。
あ、でもほら、衝撃吸収するらしいし! 使えるじゃない!

「でも、割り箸やねんで……?」
「見た目に騙されちゃダメだ! 本質を、本質を見るんだ――――――!」

思わず叫んでいた。別に理由は無いけど。

「う、ウチが間違っとったわ……! よぅし、もういっちょ割り箸こーい!」

ドキャア!

ハチエさんの回し蹴りが三本くらい纏めて木をへし折る。

あ、また出た。

木の破片が一つにまとまりカードとなっていく。

「よぅし、今度も割り箸かぁ!?」

ハチエさんはもう、まともなモノが出てくるのを諦めているのではないだろうか。
だが得てして、探し物は探すものをやめた時に見つかるものだし、諦めた時にこそ!


○「しゃもじ」
(Lv0)耐久値:2
 太い樹木から作られた綺麗なしゃもじ。なんとご飯が引っ付かない! 一度だけアバンストラッシュが放てる。
筋力+2%


「しゃもじぃいいいいいいいいいいいいいい!」
「ああ、ハチエさん……!」

ハチエさんはドリルさんばりのブリッジを見せてくれた。
そんなショックを受けなくても! アバンストラッシュ出せるよハチエさん!

「……ん? 頭で石砕いたみたいや。なんか出たで。」

僕らの頭はすでにダイヤモンド並の硬さだもんね。


○「石ころ帽子」
(Lv1)耐久値:5
 存在感が薄くなる石製の野球帽。話しかけても「居たの?」って言われるようになる。
耐久力+50%、持久力+50%


「あれ、まともなモン出たで?」
「まともかなァ……」

耐久値低すぎない?
ハチエさんは心に癒えない傷を負ったのかも知れないと、ハルマサは思った。




取りあえず、海である。
前回と同じように、ラオシャンロンとは反対側から飛び出し、大きく迂回して今度は西側に回ることにした。
今度は前回の失敗を踏まえて高さ100メートルである。

「ええ風やなァ……」
「「風操作」で大分和らげているからね。」

ハチエさんはまた横座りしており、ハルマサはまた立っている。
風を魔力で操りながら、ハルマサは迷っていた。

そろそろカロンちゃん呼ぼうかなァ、どうしようかなァ……
でもまたカニに襲われたら魔力ある方が対処できるし、いやでもカロンちゃん居た方が対処は取り易いのか?

「なぁハルマサ。」
「どうしたの?」

ハチエさんが声をかけてきたので、考えを中断する。

「下からカニさんがめっちゃ見取るんやけど。」

本当だった。
前見たカニより若干白い。
まさか……!

――――――ギィ……

下のカニがそろりと手を伸ばしてくる。
その手には、さっきの死亡で取り落としていたハルマサの武器「セレーンの大腿骨」が!
どうやってか知らないけど、拾っておいてくれたらしい。

「き、君は……あの時の!」

―――――ギィ!

≪恐らく正解ですマスター。≫

「れ、レンちゃぁあああああああああん!」
「ちょ、ハルマサ!?」

ハルマサはソウルオブキャットから飛び降りた。
今、離れていた心は一つに……!

―――――ギィ…………!

シェンガオレン(砦蟹)のレンちゃんはハルマサの体を鋏で優しく受け止めた。
なんという包容力!

「ああ、今すぐ君をモンスターボールに入れてお持ち帰りしたい!」
≪マスター。現在のレベルですと、好感度が2.0であれば、傷つけずとも捕獲する事が可能です。≫
「ほんとに!?」

どれだけ懐いてくれているのだろうか。
鋏にしがみ付いてぺろりと舐めたら、青いカニ甲羅が瞬時に赤くなった。
照れているのかもしれない。
ちなみに好感度はマックスの2だった。

「ハルマサ……何時の間に手なづけたん? あ、この子が2層のクエストの?」

何時の間にか近くに来ているハチエさんが、声をかけて来た。

「そうみたいだよ。今からこの子をゲットするんだ!」
「そら、ごっつい頼りになるけど……ええんかなぁ。えらいズルしとる気分になるわぁ。」

ポケモンやっている時に、他人からレベルマックスのミュウツー貰ったような気分かな。
でも、この子は僕が育てたようなものだからね!

「まぁ良いんじゃない? 僕らがさっさと戦えるようになればいいんだし。」
「そやね。」

ポン、とモンスターボールを当てると、シェンガオレンの巨体が、小さなボールに収まった。
巨大な質量が消えた海はざざざと波が巻き起こっている。
取りあえず……

「レンちゃんゲットだぜ―――――――!」

こんな感じで、ハルマサのポケモンライフもドンドン充実していくのだった。


<つづく>



PテイスターLv18: 1926699 → 2438982(243万)




[20697] 124
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/29 19:30


<124>


今回は仲間を増やしながら、大陸へとたどり着くことが出来た。
幸先の良いスタートである。

ここまで来たら、カロンちゃんを呼ばねばなるまい……というか呼びたい。
そう思って、集中しようとしたとき、ハチエが声をかけてきた。

「なぁハルマサ。」
「どうかした?」
「ハルマサはこれからもモンスターを捕まえていくのん?」
「うーん………」

後一匹欲しいかな。ドドブランゴの騎竜として。
で、それ以外はいいや。
いつか一緒に冒険できるかもしれない金ちゃん枠もあけておきたいし。

「あと一匹だけね。白ヒゲの乗る騎竜が欲しいかな。」
「……まぁハルマサがそれでエエなら、まぁええねん。ちゅうかハルマサがこれから出会うモンスター全部捕まえてもうたら、レベルアップできへんウチが完全に役立たずになってまうと思ぅてな。」
「ハチエさんが居てくれるだけで、僕はいいけどね。」
「………」

あれ? 返事が帰ってこないと、予想以上に恥ずかしいな。

「ハチエさん?」
「…ま、それやったらもうちょい一緒に行動しよかな。よろしゅうな。」
「……うん。」

ハチエさんはとても良い笑顔をしていた。


まぁハチエさんはいいとして、カロンちゃんを召喚せねばなるまぃいいい!

「ウチの扱い酷ぅない?」
「カロンちゃん………おとりよせぇ―――――――!」

緑の光が天から飛来し、ハルマサの作った魔力塊へと飛び込む。
魔力塊は形を変え、小さなカロンちゃんになった。

そしてカロンちゃんにいきなり叩かれた。

【もっと早ぅ呼ばんかい! 忘れられておるのかと……お主が呼ばぬと、我は他のやからに呼び寄せられてしまうのじゃぞ!? ええのか!?】

な、なんだとぉ―――――!

「だ、だめだ――――――! そんなこと言うと、もう片時も君を放さないからな――――――!」
【そ、それでよいのじゃ……】
「ラブラブやね……ちょっと妬けちゃう。」

ハチエさんそんな見ないで。



西側も一面の砂漠だったが、しばらく進むと、昨日は見なかったものを見つける事が出来た。

向こう岸が遥か向こうにある、大河である。川幅が一キロ以上あるのではないだろうか。

ハルマサたちはその河に沿って、山に向かって、つまりは大陸の中心に向かって進んでいくことにした。
足はチャリンコである。

「ふ~んふふ~ん♪」

シャコシャコ。

漕ぎ手は、自らかってでたハチエさんである。

「ハチエさん鼻歌上手いね。」
「喜んでええもんか微妙やねぇ。」

ハチエは首を傾げるが、他人を悲しくさせる歌しか歌えないハルマサとしては純粋に羨ましい。

「綺麗だし、楽しくなるよ。誰かを楽しくさせられるって最高だと思うんだ。」
「褒めすぎやで、恥ずかしいわぁ」

手で顔をハタハタしているハチエを横目で見つつ、ハルマサはあたりに警戒を払っていた。

前回のモノブロス強襲もあり、気が抜けない。
しかし僕の頭の上で髪の毛をいじっているカロンちゃんを見ると、とても冷静ではいられない……!
み、三つ編みにしているだと……!?

動揺するハルマサはさて置き、河は大きく蛇行しているようだった。
河のカーブの内側は流れが緩やかなこともあり、意外と植生が豊かである。
外側も外側で、土砂などが打ち上げられるので肥沃な土地となっているようだ。

つまり河の両端は意外と木が多い。
木が多いということは実りが多く、そこに集まるモンスターも大勢居るということである。

「グゥ?」
「グルル。」
【猿ばっかりじゃの。】
「凄い生態系やな……」

しかし居るのはドドブランゴの亜種ばっかりだった。
何故か凄く友好的で、避けて道を明けてくれたり、果物を投げ渡してくれたりする。

見覚えのあるリンゴのような果実も含まれており、ハルマサは遠慮なく食べる。

シャリッ。

「うまい……」
【……のぅハルマサ。我にも一口くれぬか?】
「あ、ウチもー!」

もとより独り占めするつもりも無い。
ここで休憩しようか、という運びになった。



「―――――ハッ!」

―――――手刀斬!

シパパ! と素手で皮を剥き、種を取る。
「解体術」も使った早業である。

「さぁお食べ!」
【うむ……!】
「うまいなぁこれ…なんなんやろ。」

折角なので、ドドブランゴの白ヒゲもボールから出してあげている。
仲間と嬉しそうにじゃれているのを見ると、ここで開放したほうが良いのかもしれないな、と思えてくるのだった。




世の中には、昔話というものがある。
その中に、川の上流から桃に入って流れてくる男の子の話があるのだ。子どもの無い老夫婦はそれをとてもありがたがったという。
しかし、ここはダンジョンだ。
上流からどんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れてくるものがあるとすれば、それは歓迎されないものであることが大半だ。

今回の場合では、ラオシャンロンでした。

「なんでラオシャンロンがどんぶらこっこと流れてくんね―――――――ん!」
「ハチエさん、抑えて抑えて!」
【何度見ても大きいのぅ。】

流れてきたというよりは、スイー、と泳いできたという方が適切だが、まぁ細かいことは関係ない。
眼と鼻と背中を浮かせたラオシャンロンは、ゆっくりと泳いでくる。
意外と静かに泳げるらしいという無駄な情報を得てしまった。

色からして亜種ではなく普通のラオシャンロンだが、強いことには変わりない。

「ど、どないしょ。逃げへん?」

ハチエさんはすでにおよび腰である。確かに前回何も出来ずに捻り潰されたし、今はデスペナを食らった後なのである。
勝てると思う理由が無い。ただ、一つを除いて。

「いや……僕らには新しい仲間が出来たんだよ! レンちゃんという、頼れる仲間がね!」

ハルマサは、腰の「収納袋」からモンスターボールを取り出すと、河に向かって投げ込んだ。

「いでよ! 超巨大甲殻種、シェンガオレぇぇぇぇぇン!」

役目を終えたモンスターボールがシューン、とハルマサの手に戻ってくると同時、河の水が盛り上がり、そして弾けた。

――――――――――――――ギギギギ、ゴゴゴ……!

少し白みがかった青い甲殻に、巨大な宿、そして体長の3分の2を占める長い足。
間接の音を盛大に響かせつつ、我らがレンちゃんは立ち上がった。
巨大な体積を持つ巨大蟹が突如として現れたことで、河の水は左右にザバァ、と溢れる。
それを高い木に飛び移って避けつつ、ハルマサとハチエは状況を見守っていた。

シェンガオレンが現れると、ラオシャンロンもそうそう余裕ぶっこいてはいられないようである。
ごばぁ、と水を掻き分け水の中で立ち上がった。

でかい。そして高い。

「やっぱりあかんよ! 大きさ全然足りてへんやん!」

ハチエさんがそう叫ぶのも無理は無い。
河の水深は相当なもので、レンちゃんの長い脚が半分以上水の中へと沈んでいるが、ラオシャンロンは立ち上がった際の後ろ足が沈んでいるだけである。

サイズが全然違った。
それもそうだろう。シェンガオレンが、ラオシャンロンの頭の骨を宿として用いているのだ。
全高は2倍ほどの差がある。

でも、「観察眼」によるレベルは一緒だし、

「何よりレンちゃんなら、やってくれると、僕は信じているッ!」

――――――ギィイイイイイイイイイ!

シェンガオレンの口元に、想像を絶するような魔力が凝縮する。
次の瞬間、それは水の塊となっており――――――打ち出された。

――――――ドォン!

衝撃波で、川の水が放射状に津波を起こし、ハルマサたちの捕まっている木もぐわん、と揺れる。
その威力、速度、そして規模。
ラオシャンロンの鱗を抜くには十分だった。
そして、ラオシャンロンの腹を抉った水は、一発では終わらなかった。

――――――――――――ドォッ――ドォンッ!

二発三発と打ち出される水塊が、ラオシャンロンの体を打ち据える。
ラオシャンロンは苦悶に身を捩り、しかし踏み出して右前足を振り上げ―――目の前の敵を叩き伏せた。

――――ギャオオオオオオオオオオオオオオ!

ゴギギギギ、と盛大に甲殻が砕ける音が響き、レンちゃんが天地を逆転し、川底へと突き刺さる。

ズゴォ、ともうただの地震だろコレ、というレベルで地面が振動し木の上のハルマサとハチエは空へと放り出された。
地面に居た白ヒゲは、ちゃっかり仲間を率いて避難しているようだ。
ハルマサはソウルオブキャットを取り出し、ハチエの腕を掴む。キュン、と飛行術式が発動し、二人の体は安定する。

「ちょ、ヤバイで!」
「!? レンちゃん!」

ラオシャンロンは、そのまま長い首をたわませて、ひっくり返っているシェンガオレンへと牙を立てる。

メキメキメキ、と目を覆いたくなるような轟音が響き、宿が砕けていく。
だが、シェンガオレンは今齧られている部位から、攻撃を放つことが出来るのだ。
ハルマサたちの見ている前で、大きく魔力が凝縮していき、

キュゥゥゥゥゥ――――――

直後、目が潰れるような光が溢れた。

カッ―――――――!

今度の衝撃は並ではなかった。何しろ、第二層のボスを一撃で大地ごと消し飛ばした砲撃だ。
ゴォオオ、と大気が荒れ狂い、あたりの木々は根こそぎ、生えていた大地ごと吹っ飛んでいる。

顔面に砲撃が直撃したラオシャンロンは、たまったものではないだろう。
弾かれるようにひっくり返り、盛大に水しぶきを飛ばしている。

だが、やはり死ななかった。
この龍は大陸よりも硬いのだ。

―――――――――――ギォオオオオオオオオオオオオオオオオ!

口から怒りで煙を吐きつつ、憤怒に目を染めてラオシャンロンは起き上がる。
鼻の上にあった角は折れ、顔の鱗も大半が消し飛んで、血を落としている。
だが、まだまだ限界には程遠い。

レンちゃんも、起き上がり、ブクブクと泡を吹いていた。
しかしその姿は痛々しい。
左の鋏は途中でおかしな方向に曲がっているし、宿が半壊して弱点部位のコブが覗いてしまっている。

「なぁハルマサ。」

隣で、じっと戦いを見ていたハチエが呟いた。

「ウチ、助太刀してくるわ。」
【……それでか?】

カロンがそう言うのも無理は無い。
ハチエの手には、「しゃもじ」と書かれたカードが握られているのだから。




<つづく>


ハルマサのスキル
身体制御Lv20: 4714561 → 7309283  ……Level up!
風操作Lv20 : 4721787 → 7089237  ……Level up!
魔力放出Lv21: 12167507 → 14028736
観察眼Lv20 : 5230632 → 5493820  ……Level up!
鷹の目Lv18 : 927866 → 1408274  ……Level up!
戦術思考Lv20: 8511138 → 10029384
PテイスターLv21:1926699 → 12487582  ……Level up!




<あとがき>
今回もつっこみ多そうなんだぜ……
読んでいる人を置き去りにしているんだろうなぁと思いつつ。
ゾンビ騒動で読む人が減り、今回でさらに減ったら……!
もうアワアワ言ってしまいそう。


あとカロンちゃんが空気。やべぇ。


明日も更新するだろうか。

>できれば2スレ目への移動が終わってから1スレ目の109話以降を消して頂きたかった
ほんとに申し訳ないです……読んでくれてありがとう。

>捕まえた白ヒゲは特技を使うことが可能なんですか
レベルが上がればいけますね。

>ハチエさんがヒロインでいい気がしてきた
カロンちゃんテラ空気だからですかね。

>最初の注意書きに1スレ目のURLか、リンクを張ると新規の人が助かるかもしれません
貼ってみたっす。貼り方これでいいのかなぁ……

>白ヒゲですかぁ。いつか地震を引き起こしそうだなぁ
「あなをほる」くらいなら今すぐにでも使えるんですけどね。ポケモン的に。

>静かなる中条は一応ジャイアントロボOVA版のつもりだったんだが
ろくに確認せずに書いた私は罰としてジャイアントロボを見るべきかもしれない。というか見たい。

>最近ハルマサがあんま目立たなくなってきましたのう。
難しいところですね。
今回も彼は大して動いてませんし。

>獲得経験値とかはどうなってるんでしょうか
分ける感じでいきます。

>さぁ、今度はポケモンを食べましょうw
食べますかね。どうしようかな。

>ハチエさんは一度魔力の扱いを覚えたら化けそうですね。
違う方向に化けてほしいと思ってシステム変えちゃったんだぜ。

>ふたりして食べられて、腹の中で大冒険すると思ってたのになぁ
なん……だと……!
このネタを使ってもいいでしょうか。いやマジで。

>両手武器の存在価値がなくなっちゃうので、正直計算式は「元ステ×(武器1+武器2+・・)」のがいいような。
そっちのほうが計算も軽いですよね。
そうしました。ぶっちゃけあのまま行ってもトンファーキック無双でしたしね。

>オオナズチ捕まえて古龍ライダーにすればよかったのにww
これは私も迷ったんですが、仲間食おうとするモンスターに乗らせるのも変かな、と。

>もう1人の第4層で足止めうけてる人は、この鬼のような第3層をどうやって攻略できたのか、だんだん不思議に思えてきます
ハチエさんのシステムが変わってから、彼女のシステムも宙ぶらりんです。なんかいいネタ思いつかないかなぁ。

>パーティー登録方法
これ作っちゃうと、そもそも最初っから組ませること前提だった話になっちゃうのであんまりよくないかな、と思います。ありっちゃあありなんですけど。

>やったねたえちゃん
虐待か……

>正式なタイトルをつけてオリジナル板に
タイトル超むずいっスね。シュレディンガーのハルマサとかしか浮かばない。
もうちょいここでやらせていただこううかな、と思っています。

>ハチエさんレベル上がってさらに強力な武器装備できるようになったらゾンビ化の3倍とか目じゃないくらいの能力の跳ね上がり方しますよね
しますね。とんでもねぇ数値になって計算間違ったかと思うでしょうね。





[20697] 125
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/09/29 01:42

<125>


アメリカ版のゴジラを見たときの衝撃を、ハルマサはいまだに覚えている。
それまで、彼の中では「怪獣」=「動きが鈍い」という式があったのだ。
しかし、あの映画のゴジラは格が違った。
「そんなもんに、当たるかよぉ!」とばかりにミサイルを避けて見せたのだ。
デカイ上に、速いなんて反則だ、とハルマサは思ったものだ。

しかし現在、彼の身近には反則が溢れているようである。

―――――ギィイイイイイイ!

高さ30メートルの巨大なカニが口から直径6、7メートルは在るような水の塊を連射する。

―――――――ギァアアアアアアアアアアアア!

高さ60メートル、尻尾の先まで入れたら80メートルを楽に越える巨大な龍は、左に倒れこんで攻撃を避けつつ、体をクルリと回転させた。
回転にあわせて、龍の長く太く硬い尻尾が天を分かつように上空へと跳ね上がり―――――――そして叩きつけられる。

―――――――ギィイ!

その前にシェンガオレンが、ギシリ、と体を沈ませて、横に跳んだ。

バァアアアアアアアン!

一瞬遅れてデカイ尻尾が叩き付けられた河の水が、ハイハイもう慣れましたよ、とばかりに爆砕する。
飛んで避けた巨蟹は着地すると鋭角に跳ね返り、巨大龍へと体当たりをかます。
前足を付いて立ち上がろうとしていたラオシャンロンは不意を突かれた格好だ。
カニの体当たりは、自身の体重の何倍もあるような龍を吹き飛ばす威力だった。

―――――ドゴォオオッ!

こんなデカイ物体が跳ぶのかよ、と思うハルマサの前で、シェンガオレンはさらに追撃をかける。
空中で脚を開いてシェンガオレンの頭へと取り付き、右のハサミをしならせるように振って叩き付けた。

筋力はラオシャンロンの圧勝だが、甲殻の硬さはシェンガオレンに分があった。
高速で振られた硬いハサミは巨大龍の頭を砕き、バギン、と盛大に鱗が飛ぶ。

―――――――ギォオオオオオオオオオオオ!

だが、ラオシャンロンは怯まなかった。
倒れかけていた体を起こすと、しがみ付いているシェンガオレンごと、首をしならせて頭を川岸の地面に叩きつけたのだ。

ドゴォオオオオオオオ! と衝撃波、土津波が周囲を襲う。



「………ハチエさんはあれに割って入るの?」

ソウルオブキャットに座っているハルマサは、隣に居るはずのハチエに聞く。
彼女は今見えるのに見えない。
「石ころ帽子」という名の野球帽をかぶったことで、存在感が希薄なのである。
隠密性は透明化するハルマサの「暗殺術」とほぼ同じか。

「ちょっと行ってくるだけや。アバンストラッシュ効かへんかったら戻ってくるわ。」
【アバン……? なんじゃ?】

意味が分からんと片眉を上げる、膝の上のカロンちゃんの頭を撫でつつ、ハルマサは止めることより、彼女を援護することを選んだ。

「……………だったら左目の上の鱗が剥がれている所が一番狙いどころだよ。」
「ん? 遠くて全然見えへんけど……まぁ分かったわ! ちょい試してくるで!」

そう言ってハチエさんは空中に踊り出す。
弓を具現化し、背中から生やした炎の翼で飛んでいった。

「……こうなると、僕もここで見てるだけにはいかないね……!」
【のぅ、アバンなんたらとはなんじゃ?】

頭を撫でていた指を小さい手で挟んで止めつつ、カロンが見上げてくる。

「なんだろう。すごい必殺技かな。」
【……ほぅ!】
「だから、その必殺技が撃てるようにサポートしてあげようと思うんだ。」

ハルマサは「セレーンの大腿骨」を握る。
デカイ相手にはやはりこれだ。
カロンをすくい上げて頭に乗せ、ハルマサは剣の上へと立ち上がる。

「「魔力圧縮」……「土操作」ッ!」

骨の周りに巨大な岩塊が出現する。しかしこんなのではまだまだ足りない。
もっと、もっと大きく!

ズズズズズズズズズズ………!

ずんずんと大きくなる岩に力を込め続けるハルマサの脳内では、サクラが報告をしてくれている。

≪特技「武器生成」が発動中です。残り魔力にご注意ください。また、「土操作」の熟練度が524万2880を越えました。スキルレベルが上昇しました―――――

岩塊は止まることなく大きくなっていく。







ハチエは右手に普通サイズのしゃもじ、左手に弓を構えて、炎の翼を打ち鳴らし、一直線にラオシャンロンへと向かう。

現在の戦闘は、ボクシングで言う、アウトボクサーとインファイターの戦いのようである。
巨大蟹が、水で攻撃しつつ、円運動で遠ざかろうとするのに対し、遠距離攻撃を持たない巨大龍は距離を詰めようと疾走する。
カニは体の小ささを生かした小回りで永らえているものの、絶対的な速度はラオシャンロンの方が上である。
地面を蹴る力は同じでも、その脚が何処まで地面を掴めるかは違う。体重の差による摩擦力の差であった。

―――――――――ギォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

「ッくう、ビリビリ来るなぁ……!」

風を切って進む中、ラオシャンロンのあげる声がハチエの耳を苦しめる。
あれは攻撃としての咆哮ではない。ただの鳴き声のはずなのに。

(咆哮されたらしまいやから、気付かれる前に――――――――!)

ギュゥウウ、と速度を高め、一直線に飛んでいく。
翼の熱は最高潮。
ハチエの体を、芯の芯から熱くする!

(狙うんは、その鱗の剥がれたドタマやぁ――――――――――!)

ハチエはしゃもじを逆手(?)に構え、飛びながらも右手を後ろに捻る。確か構えはこんなんだったはず。

「いくでぇ、アバン――――」

もう距離は数十メートル、ぶつかるまでもう一秒! シェンガオレンの動きを予測し、頭へと急速に接近する。
そんな時、ラオシャンロンはぐりっとハチエのほうを向く。
――――――何故ばれた? 勘か? 熱か!? 戦ぅとる最中に余所見しよってからに!
答えの分からぬまま、ハチエの目の前で龍は大きく息を吸って―――このままだと咆哮が―――ああ、間に合わへんやんこれ――――――

――――――ちょっと静かにしててねぇえええええええええええええ!

ドゴォオッ!

だが、咆哮が飛び出す一瞬前にハルマサの声が聞こえ、隕石がラオシャンロンの頭を殴りつけた。
一瞬にして砕けたそれは、しかし隕石ではなかった。長い長い長い柄が付いている。
あれは、常識外に柄の長い大きなハンマーだ!

(ハルマサ、自分最高やで!)

巨大な質量のハンマーは、龍の咆哮を中止させることに成功していた。
ハチエはニィと笑うと、息を吸い、叫んだ。

「――――――――――アバァァァァァァン、ストラァアアアアアアアアアアッシュ!!!!」

その一瞬、体が勝手に動いた。
ハチエが初めて味わう特技の補正だ。
現在のステータスからは考えられない速度で右腕が振り切られ、ラオシャンロンの皮膚を裂いた。

スパァ………ッ!

恐ろしいほどに抵抗なくしゃもじは振り切られた。
その直後、ブシュゥ! と血が吹き出てくる。

――――――――ギォオオオオオオオオオオオオオ!

ラオシャンロンが頭を振って、ハチエは慌てて離脱した。
手に残ったのは頭のもげた、黒焦げのしゃもじの柄である。

ハチエは感動し、打ち震えていた。
あのような洗練された動きが、この世にあったとは……!
戦いの中でなければ、自身で体験できたことへの歓喜で叫んでいたかもしれない。

目の上から、血を噴出すラオシャンロン。

その隙を、満身創痍の巨大蟹は、見逃さなかった。
傷ついた体をクルリと回す。
その背中にはすでにスタンバイされた砲撃があった。

――――――――ギィイイイイイイイイイイイイイッ!

ハチエにはその声が、ええ加減そろそろ死ねや! と言っているように聞こえた。

カッ―――――――――!

今度の砲撃はラオシャンロンの重心を捉える一撃だ。
ラオシャンロンの巨体は浮き上がり、落下する。
地響きと衝撃波が荒れ狂う中、シェンガオレンはガクリ、と脚を折る。
全てを出し尽くしたか。


ハチエは一枚のカードを取り出した。

「月輪の大太刀」。モノブロス亜種の鱗から作られた、2メートルはある大太刀である。
太刀を装備したハチエは、グン、と強靭になる体を駆って、攻撃のショックが抜けていないラオシャンロンへと突撃する。

体で覚えた動きを、試してみたくて仕方ない。
そんな気持ちで、彼女は叫んだ。

「――――――だりゃああああああああああああああああッ!」

特技の補助を思い出し、動きをトレースする。
先ほどのスピードは無かったが、それに数倍する威力、そして武器の長さがあった。
彼女の技は、ステータス以上の鋭さを剣に与え、ザクリと、ラオシャンロンを切り付けた。

それが、耐久力を削りきられていたラオシャンロンへの、最後の一押しとなった。
額にめり込んだ刃は、そのまま脳を破壊し、そして威力に耐え切れず砕け散った。
興奮により誤魔化されていた疲労が一気に出てくる。

「練習が必要、と言ったところやね。」

まだまだ、向上の余地がある。
彼女はふぅ、と満足気に息を吐くのだった。





なんか普通に特技っぽいの使ってる。すげー。
呆けながらハチエを見ているハルマサの頭の中でサクラが声を出す。

≪マスター。魔物を撃退したことにより、経験値を入手しました。また、使役したモンスターにも経験値が入っています。≫

ん? 止めはハチエさんが刺したけど?

≪貢献度により、経験値は増減します。今回は、使役するモンスターの分も換算し、一人で倒した場合に比べ、3割5分を入手しました。≫
「なんかハチエさんに悪いなぁ。体はったのハチエさんなのに。」
≪……それでしたら、ドロップを譲って差し上げればよろしいかと存じます。そこから作られる武器は彼女にとって何よりも変えがたいものでしょう。≫
「そうか……なるほど。サクラさんホントいつもありがとね。」
≪い、いえ、当然の責務だッッ!!!≫

力強い断定だね。ていうか噛んだの?

≪き、消えてしまいたい……≫
「全然気にしてないから元気出して……」




ハチエのほうでも、システムナレーターが経験地の取得を報告する。

≪ハチエ様、レベルが上がりましたよ! おめでとうございます!≫
「うん………。ハルマサの獲物攫ってしもうて、ごっつ悪い気するんやけど。」
≪2号様が作られたシステムは貢献度によって経験値が入るので問題ないかと思います。ハチエ様のシステムも同様ですよ!≫
「そうなん? 美味しいとこ獲りっちゅうのはでけへん訳か。良かったわ。」
≪しかし、止めを刺したのはハチエ様です。ドロップの他に、アイテムが出ていますよ。≫
「お、そいつはお得やね!」

ハチエが壊したものは、集まってカードになる。
それがモンスターであった場合、ドロップや金貨が弾かれるように出てくるのだ。

「んでもハルマサ、「概念食い」とか持っとるし、甲殻とか食べたかったかも知らんなぁ。悪いことしたで。」
≪それでは、ドロップは譲って差し上げるのですか?≫
「当然やな。」



という訳で行き場を失ったドロップは、結局シェンガオレンのレンちゃんへと贈呈されることになった。
今回のMVPだからとすんなり決まったのである。
レンちゃんは岩盤のようにぶ厚い、ラオシャンロンの甲殻をセンベエのようにボリボリ食べていた。
とても美味しそうでした。




<つづく>



「しゃもじ」はカタカナで書く事が一般的だそうです。
でもシャモジって書くと、私は「ラブやん」のジャモジさんを思い出して指が止まってしまうので、ひらがなで通しました。

経験値はラオシャン一匹で8388万6080ポイント。
それをハチエ3割、ハルマサ0割、レンちゃん7割(ハルマサに3割5分)で計算です。


ハチエ
レベル: 18 → 22    ……Lvup Bonus:9,830,440
耐久力: 392,252 → 10,222,692
持久力: 392,254 → 10,222,694
魔力 : 392,248 → 10,222,688
筋力 : 392,251 → 10,222,691
敏捷 : 392,258 → 10,222,698
器用さ: 392,251 → 10,222,691
精神力: 392,264 → 10,222,704

経験値: 1,310,720 → 26,476,544 残り:15,466,496


スキルによってゲットした武器
○「震天動地の巨剣」(Lv26)耐久値:671,088,640(6億)
 ラオシャンロンの背骨を削り、繋ぎ合わせた斬艦剣。その重さゆえ、相応の筋力がなければ振ることすら難しい。
耐久力+1400%、持久力+500%、筋力+1900%、敏捷+500%、器用さ+700%


ハルマサ
レベル: 17 → 22    ……Lvup Bonus:10,158,080
満腹度: 1,961,683 → 12,694,538
耐久力: 1,432,008 → 12,164,862
持久力: 1,960,704 → 12,693,558
魔力 : 11,079,589 → 29,810,570
筋力 : 11,721,885 → 24,753,838
敏捷 : 9,698,132 → 20,176,386   ……★30,264,579
器用さ: 16,848,098 → 34,781,469
精神力: 6,189,532 → 19,769,777

経験値: 655,359 → 30,015,487  残り:11,927,553



○スキル(上昇値の大きい順)
PテイスターLv24: 12,487,582 → 127,655,089  ……Level up!
回避眼Lv20 : 473,026 → 6,782,227  ……Level up!
魔力圧縮Lv21: 6,422,191 → 11,367,827  ……Level up!
土操作Lv20 : 1,262,978 → 5,784,932  ……Level up!
魔力放出Lv21: 1,402,8736 → 17,656,001
鷹の目Lv19 : 1,408,274 → 4,762,733  ……Level up!
解体術Lv20 : 5,469,398 → 8,722,736
槌術Lv19  : 2,458 → 2,876,331  ……Level up!
戦術思考Lv21: 10,029,384 → 12,876,774  ……Level up!
心眼Lv17  : 583,862 → 1187,223  ……Level up!
空中着地Lv20: 7,499,845 → 7,820,019
概念食いLv16: 234,418 → 487,732  ……Level up!






[20697] 126(誤字修正×2)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/09/29 01:43


<126>

シェンガオレンは先の戦いで一番活躍し、一番ケガを負っていた。
背中のヤドはまぁ命に別状は無いとして、左のハサミが折れてもげそうになっているのが痛々しい。

「……レンちゃんケガ大丈夫かなぁ。」
≪魔物は総じて回復力が高いので大丈夫だと思うのですが……。≫

―――――――――ギィ?

脚を折り曲げていることで、5メートルくらいのところまで下がってきているシェンガオレンの眼がクリクリと動いている。
こちらの視線を感じ取ったのだろうか。
レンちゃんはおもむろに、無事な右のハサミで、折れている左のハサミを掴み、

―――――――――ギィ。

ブチッと根元から引き抜いた。

「は?」
「うわぁ、痛そうや……」

ところが血は吹き出ない。
変わりに根元からは小さなハサミがぴょこんと飛び出してきていた。

≪あれが成長し、元に戻るということでしょうか≫
「なんや可愛いなあのハサミ!」

シェンガオレンは引き抜いたハサミを何故かハルマサに差し出してくる。

―――――――ギィ!

【あげると言うておるぞ。】
「言葉分かるの!?」
【主らの言葉が分かるのと一緒じゃ。】

へえぇ……。カロンちゃん凄いね。
まぁくれるというなら、しっかり貰って……食べますよ!

「レンちゃんありがとね! いただきまーす!」
「食うんかいな。まぁ、それをえぐいと思わんウチもウチやけど。」


で、ハルマサがハサミを食べはじめると、レンちゃんは凄い勢いで赤くなった。慌てて、大きな体を隠すように河へと潜り、眼だけ出している。
恥ずかしいのだろうか。
全部食べ終わると、サクラが報告をしてきた。

≪マスター。「ポケモンテイスター」のスキルレベルが上昇し、昇華しました。≫
(「ポケモンイーター」になっちゃったの!?)
≪イエス。好感度2.0のモンスターの部位を摂取することにより、その概念を高確率で吸収します。「概念食い」をあわせれば、ほぼ100パーセントの確率です。≫


■「ポケモンイーター」
 ポケモンテイスターの上位スキル。
モンスターボールに捕獲したモンスターを服従させる
モンスターを舐めることにより好感度を測る
これらに加え、服従させている、好感度が最高のモンスターの部位を摂取することで、そのモンスターの力を得る事が出来る。力を得る確率は80~100%である。
[(スキルレベル)×(対象の好感度)-10]以下のレベルのモンスターを服従させることが可能。

本当に食べる能力だったのか………。
ということは今回のこのハサミも?

≪吸収しました。概念名は「砦蟹の重殻左腕砲」です。≫


◇「砦蟹の重殻左腕砲」
 驚異的な密度の青い甲殻に包まれた左腕。ズシリと重く、扱いには相応の筋力を要する。発現時魔力を消費する。発現中、左腕耐久力を10倍し、全体的な敏捷がマイナス10%される。魔力を消費することで、掌の穴から「砲撃Lv27」を発射可能。


「砲撃Lv27を発射可能」ってあのレンちゃんの砲撃だろうか。危なくて放つ気が起きないんだけど。
ともあれ…まずは試してみるものさ!

「―――――発現ッ!」

ガキキキキキキキ!

肌から滲み出た魔力が、硬く硬く圧縮され、青く固まる。
肩から指まで覆った甲殻は、腕をふた周りほど太くし、タキシードの袖を弾き飛ばした。
ズシリとくるぜ!

【ふむ。】
「カッケェ……!」
「うはぁ、ごついなぁ」

指をカキカキと曲げてみるが、間接の内側は覆われておらず、普通に動かせる。
恐ろしいことに肘、肩、手首の稼動に不自由を感じなかった。
カロンちゃんがふむふむ言いつつペトペト触ってくるのが分かることから、痛覚も通っているらしい。

【ええ腕をもろうたの】
「ふふ、そうだね!」
「強そうやなぁ……」

―――――ギィ……

レンちゃんはいまだに水から出て来れないようだった。




滔々と流れる大河の水と、運ばれる土砂に育てられ、ハルマサたちのいる森では大きな樹が生えている。
その大きな樹をハチエが先ほどから断続的に倒していた。

メキメキメキ……ドシィ…ン!

階層が深まるにつれ、木とか石とかも徐々に硬くなっているとハルマサは思った。
でなければ、ステータスフィーバーが起こったハチエの蹴りで爆砕しているだろうから。

倒れた樹は、光になって一枚のカードとなった。

「でた?」
「んー。ダメや。んでもお菓子が出たで。ポッキーやって。」
【なに!?】

ハルマサとハチエは話し合い、何かしら良いアイテムが出れば、スタート地点に居たラオシャンロンを倒しに行こうということになった。
10枚出るまで自然を破壊し、スカばっかりだったら先に進む予定である。
ハチエさんとしてはもう一回「しゃもじ」が出て欲しいようである。

「カロンちゃんポッキー好きなの?」
【い、いやそれほどでもない!】

それほどでもありそうな反応を返してくれる。
ハチエさんが笑いつつ、箱を渡してくる。

「まぁハルマサにあげるわ。好きにしてぇな。」
「なんかさっきから貰ってばっかりで悪いなぁ。」
【そしてそれを食べるばかりの我は一体なんなのじゃ……】

カロンちゃんは落ち込んでいたが、チョコでコーティングされたポッキーをあげたら元気になった。

結局最後まで技を出せるカードは出なかったが、10枚目で防具が出たようである。


○「木製の盾」
(Lv7)耐久値:300
 木製の軽い盾。軽いのでお腹の減りが遅くなる。錆びないが燃えやすい。
耐久値+300%、筋力+100%、敏捷+300%


「なんで盾持ったらお腹の減りが緩やかになるのん……?」
「さぁ……?」

永遠の謎である。


出たカードは、お菓子(ポッキー、バームクーヘン、小枝)、ペーパーナイフ、木彫りの人形、割り箸×3、ゴム、そして木製の盾である。

「ゴミばっかやん……。」

と、ハチエは嘆くが、実はそうでもない。
ペーパーナイフは厚さが5ミリ以下の物なら何でも断ち切れるし、木彫りの人形は「青眼の白龍」を1回召喚できる。
ゴムは他にあとパーツを11個揃えたら一度しか起動できないがエヴァンゲリオンになるらしいし、割り箸は一回だけ完全に衝撃が吸収できる。

「全部すごい効果付いてるし、良かったじゃない。特にこの人形とか。」
「そうやろか……」

ハチエは納得できないようだったが、とりあえず進路は塔への最短距離へと決定した。
大陸の中心に向かって、進むのだ。





<つづく>

木彫りの人形は、カイバーマン人形です。
ハルマサ君は手から凄いのが撃てるようになりましたが、魔力が全然足りません。
1発当たり魔力1億必要ですし。


「ポケモンイーター」Lv25: 127,655,089 → 176,873,021  ……New!





[20697] 127(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/31 23:17


<127>


ドォン、と地面を蹴るたびに、周囲の光景が置き去りにされる。
向かい風で服がはためき、ハチエさんの髪がなびく。
頭の上で正座しているカロンちゃんのフードも脱げていたりする。
フードをそっと直してやりながら、ハルマサは感嘆のため息を吐いた。

「白ヒゲは速いねぇ。」

自転車で走るのよりは絶対疾い。
このヒゲの白いモンスターは、森を走る術を心得ているようなのだ。
どう走っても直ぐに樹にぶつかりそうなものだが、白ヒゲはスルスルと木々を避けつつ、スピードを緩めずに走っているのだった。

シェンガオレンを回収し、ひょっこり戻ってきたドドブランゴに乗って移動を始めてからまだ10分。
河に沿って進む一行は、すでに山脈の麓までたどり着こうとしていた。



この錨型の大陸の山脈は矢印状の形をしているが、その中で高い山は二つある。

一つはその根元、ハルマサたちから一番遠いところであり、もう一つは今ハルマサたちが近づいている、三本の線の交わる場所にある山だ。

そしてその山は、常に煙を吐いている山でもある。
おそらく活火山なのだ。

「おお、あったあった。なんや第二層の火山ッポイなぁ。」
「これ見よがしに入り口が開いてるんだね……。」

山肌には巨大な洞窟の入り口が大きく口を開けていた。
中は暗く、先が見えない。

ハルマサたちは、今日はもう日没まで時間もないので、睡眠を取って朝から火山の攻略を始めることにした。
休むところとして、小さな湖の近くを選択したのは特に意味があったわけではないが、魔力で作り出してない水を確保したいという密かな欲求があったのかもしれない。

自分の魔力で作った水は、飲めはするが、喉が潤った気がしないのだ。

しかし、湖の水は凄く濃い魔力を含んでいた。

「なんだここ……?」
「変な湖やな。」
【少し不快じゃの……ハルマサ。少し眠らせてもらう。】
「あ、うん。おやすみ。」

カロンちゃんはタキシードのポケットにスポンと飛び込んで丸くなった。
直ぐにスースーと寝息が聞こえはじめる。

「いいのかなぁ……こんな可愛い子と一緒に旅できて。」
「ええなぁ……ウチも守り神欲しい……」

ハチエさんチラチラとタキシードのポケットを見つつ、ため息を吐いていた。


寝床を他に探すのも面倒だということで、簡易なハンモックでも作ろうとして居たら、一緒にやってきたドドブランゴの白ヒゲがウロウロとしていることに気付いた。
白ヒゲはどこかに行ってもすぐに戻ってくるので、基本的に放置しているのだ。

見ていると、白ヒゲは水を舐めようとして、コイツはくせぇ――――――! みたいなリアクションを取っている。
意外と芸が細かい。
そうハルマサが思った次の瞬間、なぜかドドブランゴは湖の中へと飛び込んでいった。

「白ヒゲ?」
「ん? 白ヒゲがどしたん?」
「……落ちた」
「湖に?」

意味が分からな――――――これは!

ハルマサは「空間把握」で「何も無い」空間を察知する。
その空間は、いつか見た古龍の形をしているように思われた。
「空間把握」で感じ取れるのは、視覚情報+αといったところで、そこまで精密ではないのだ。
地面の下もろくに探れないし。
だが、この形。
間違いない!

「ハチエさん! オオナズチだ!」
「え!? あ、白ヒゲそれにやられたんかいな!」

足滑らせたんかと思うたわ! と言いつつハチエさんは武器を具現化させた。

「……大きくない?」
「ラオシャンロン倒した時に手に入れてん。」

ハチエさんが持っているのが、アンバランスで仕方ない、巨大な剣である。
20メートルはあるだろうか。
いつぞやにハルマサがガレオスキングを倒した時の剣のサイズとほぼ等しい。
力強さはハチエの剣の圧勝だが。

色は赤く、刃に当たるところは骨のように白い。
さすがに重いらしく、両手で持っていた。

服の背中を付きぬいて、背骨たちがトゲのように突き出している。

「ハルマサ、位置は?」
「えっと……あの辺をチョロチョロと」

示そうとしたが意外と素早く動いているので指定できない。おちょくるように左右に動いているのはなんなんだ。

「メンドくさぃ! ―――――「メラ」ぁ!」

ハルマサは手から全力のメラを放つ。
精神力の分だけ規模の増す魔法は、今のハルマサが放つと、とてつもない広範囲攻撃になるのだ。

ゴォオ!と燃え上がる炎の中で、不自然に揺れる場所が浮かび上がる。

「ナイスや! 見っけたでぇ――――――――――!」

ハチエは飛び出すと、ズシン、と一歩踏み込んで、大上段に構えた剣を振り下ろした。

ドゴォッオオオッ!

局地地震かと思うような衝撃があたりを揺らし、ハチエの剣の半分が地面に深く埋まっている。
ハルマサはカロンに衝撃が行かないように、「身体制御」による衝撃吸収を発動していたりする。

「あかん、外れてもうた! 重すぎやでコレ!」

ハチエの一撃はオオナズチの翼を切り落としただけだった。
しかし血が噴出して、居場所が丸見えである。

―――――――コロロロロロロ!

それを悟ったか喉を鳴らしてオオナズチは姿を現す。
カメレオンのような目をぐりぐり動かし、自分を攻撃したハチエを見た。彼女は剣を引きずり出しているところである。
オオナズチは口を開き――――――

「させるかッ!」

ハルマサの風弾に弾かれて吹き飛んだ。
恐らくハチエなら問題なかっただろうが、ついやってしまった。
余計なことしたかな、と思う。

「お、助かったでハルマサ!」

しかし彼女は陽気に笑うと、引き抜いた剣を振り、反動を利用して自分の体を回転させる。

「ふふん、使い方分かってきたでぇ! 重さを利用すんねんな!」

彼女はコマの如く回りつつ跳躍し、オオナズチの上に到達。
回転する風車のように、上から剣を振り下ろした。
先ほどより何倍も速いその動き。
吹き飛ばされて平衡感覚がちょっとアレになっていたオオナズチには避けれるはずも無かった。




ハチエは手に入れたアイテムがかなり良かったらしい。
とても嬉しそうである。

「ハルマサ、なんやええモンゲットしてもうた!」
「なに? エヴァンゲリオンのパーツ?」
「いや…まぁそれも欲しいっちゃ欲しいねんけど、もっとまともなモンやで!」

ハチエさんがこれやねん!と見せてくれたカードには、白い色をした魔女が被っているような帽子が描いてあった。


○「霞龍の鳥帽子」(Lv20)耐久値:2,621,440
 オオナズチの特上皮を用いた、鳥帽子。特殊な加工で音を通さないため、つばで耳を塞げば咆哮が来てもヘッチャラ!
耐久力+400%、魔力+400%、筋力+400%、敏捷+400%、精神力+400%


咆哮を無効化できる素晴らしい帽子である。
その上、カード化を解除した際の肌触りが最高らしい。
ハチエさんは、もうウチこれずっと被るー! とはしゃいでいた。

「でも、これで手札が揃ったねハチエさん!」
「そうやね。もうラオシャンロンには負けへんでぇ!」

あの咆哮さえ防げれば怖いことなんて(あんまり)ない!

「ぎったぎたにしてやりますよ!」
「燃えてきたでぇ―――――――ッ!」

でも今日は時間も遅いので、また今度なんだけどね。

と眠りかけてハルマサは大事な事を思い出した。
まだ、ドドブランゴが湖から上がってきていないのだ。

「忘れてた!」
「ビックリするほど放っといてしもうたな。生きとるやろか。」

濃い青色の湖面からは、泡すら上がってきていない。
ハルマサは、カロンちゃんの寝ているタキシードをそっと樹の根元に置いた。

「死んでは無いと思うけど……僕潜ってくる!」
「ちょい待ちぃハルマサ。なんや浮いてきたで。」

ハルマサが飛び込もうとしたとき、湖面に変化が起こった。
ボコボコボコ、と泡が出てきたのだ。
そして人影が浮かび上がってきた。

ザバァ………!

浮かんできたのは、白い光を放つわっかを頭に嵌めた、うす衣の女性だった。
水の中からの登場なのに、髪の毛は湿ってすら居ない。
鼻が大きく、大味な顔つきをしている金髪の女性で、肉感たっぷりな体つきである。

女性は、湖面に一重の波紋を波立たせて着地すると、呆気に取られている二人を見て、口を開いた。

『コンニチハ』

片言だった。

「はぁ……、こんにちは。」
「いや、誰やねん。怪しすぎやで。」

女性は無表情でハチエの言葉を流すと、右手を横にだして、くい、と指を上げた。

『アナタ達ガ、コノ湖ニ落トシタノハ……』

ザバァ、と湖の中から、魔力の糸で大きな金色の物体が引き上げられてくる。

「……!? まさか!」

その物体はハルマサがよく知っている形をしており―――

『コノ金色ノ物体デスカ? y/n』
「白ヒゲ!?」


ぐったりとしているモンスターを見てハルマサは叫んだ



<つづく>

翼を叩ききった時に出た、もう一個の出現アイテムカードは「霞翼の風鳴剣」です。
使われるか知らんけど。

ステータスアップは少ないのでまた今度。
経験値は
ハチエ :262144
ハルマサ:65536





[20697] 128(誤字修正×2)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/09/29 01:44


<128>




片言の金髪女性が、湖から引き上げたのは金色の体毛になったドドブランゴ、白ヒゲだった。
ヒゲまで金色で、顔は何が起こったのか緑色になっている。
一体何があった。

『コレガアナタノ落トシ物デスカ? y/n』

女性は無表情で尋ねてくる。
だが、ハルマサは頷かない。
というかこれって、金の斧とかくれる人の亜種じゃない!?

「違う! ノーだ! 白ヒゲは……なんていうかもっと汚い色をしているんだ!」
「自分結構ひどいこと言うとるで……?」

『ソレデハ、アナタガ落トシタノハ………』

女性は、金色のドドブランゴを水に落とし、もう一度引き上げた。

『コノ銀色ノ物体デスカ? y/n』

今度のドドブランゴは銀色の毛皮をした、月のように美しい毛並みのドドブランゴだった。
顔は白銀に輝く体毛に浮かび上がるような赤色である。

「確かに銀色はかっこいい………その白銀の毛は光を反射してとても綺麗だろう! しかし、ノーだ! 僕のドドブランゴはもっとくすんだ感じで、顔色も悪いんだ!」
「たしかに顔色青いのはウチも気になっとってん。何なんやろなあれ。」

金髪の女性は、『ソウデスカ』と呟いて、もう一度ドドブランゴを水につける。
ていうか水の中ってどうなっているんだろう。
見えないところで塗り直しているんじゃないだろうか。

『ソレデハ、アナタガ落トシタノハ、コノ流体金属デ出来タ物体デスカ? y/n』

なんか凄いのが出てきた。
流体金属て。
ターミネーター?

女性が引き上げたのは非常にメタリックな感じのドドブランゴだ。顔面までメタル。経験値がたくさんもらえそう。

「の、ノーです!」
「メタルや……」
『ソウデスカ。残念デス。ソレデハ、』

そろそろ来るか!? そのままの白ヒゲが出てきたら、ハイと答えて、金色にもなり銀色にもなり、さらにはメタリックにもなれるハイパーなドドブランゴがもらえるんだ!
でも下手して4匹もらえたりしたらどうしよう。正直いらない。逃がそうか。

女性は、メタルドドブランゴを水中に落とし、湖から新たなのカラーのドドブランゴを引っ張り上げた。

『アナタガ落トシタノハ、コノ炎ノエレメントデ構成サレタ物体デスカ? y/n』

ゴォオオオ!

また凄いの来たな……

火の精霊みたいな、燃え立つドドブランゴが現れた。ヒゲも、長い牙もゆらゆらと揺れており、目だけが唯一確固の物として緑色に光っている。ぐったりしてるけど。

「の……ノーだ!」
「え、ええのん? 凄い強そうやであれ。」
「いや、火の担当は既にいるから……」

金ちゃんがね!

『ソウデスカ。ココマデ粘ルプレイヤーモ珍シイ。』

ごめんなさい。ていうかもしかして、元の白ヒゲは帰ってこないの?

『次デス。』

ざばぁー。

『アナタガ(中略)、風ノエレメントデ構成サレタ物体デスカ? y/n』

ビョォオオオオオオ………!

いや、見えませんから。
白ヒゲが居るであろう場所に風が渦巻いているのは分かるがそれだけである。
ていうかこんな色々やられて大丈夫なのか白ヒゲ!

「ノーです! もっと目に見える感じで!」
『ソレデハ、光ノエレメントデ(以下略)』

カッ―――――――!

ぐぁあああ! 眩しくて直視できねぇ―――――――!

「目がぁ、目がぁあああああああ!」

ハチエさんしっかり!

「ノー! NOです! 直視できる感じでお願いします!」
『我侭ノ多イプレイヤーダナ……』

ご、ごめんなさい……

『ソレデハアナタガ落トシタ物ハ、魔法反射金属デ構成サレタ物体デスカ? y/y』

魔法反射金属………? っていうか選択肢がイエスしかないよ!?

『早ク寝タイ。』

そ、そうですか……。まだ夕焼けの時間なんですけどね。

「じゃあそれでいいです。なんかすごそうだし。ハチエさん、それでいいよね?」
「何? なんやぁ? 目が焼けるように痛いでぇ……」

答えるどころではないようだ。
思った以上のダメージを食らっている。
ドドブランゴ(光)を直視しちゃったんだね。
ゲリョスの閃光並だったからなぁ。「不死体躯」がなければ僕もああなっていたかも。

ハチエさんはフラフラと歩き回っている。
なんとか直してあげたいなぁ。

「白ヒゲは、「イエス」です! だけど、その代わりこの人の目も何とかできません?」
『ハッハーッ! 残念ダガ、ソノ願イハ、聞クコトガ出来ナイノd……コ、コラァ! ココノ水デ目ヲ洗ウナ、ヤメロォオオオオオオ!』

ハチエさんが湖水で目を冷やしているらしい。そこまで痛かったのか……

「ちょっとひんやりするわぁ……」

幸せそうな声が余計に可哀相だ。
だが、湖水を使ったことで、金髪の人も動かざるを得ないようだった。

『ク、クソウ! 分カッタヨ! 1人1回マデダカラナァ! 持ッテケ泥棒ォ―――――!』
「ほぁああああああああ!」

ハチエさんの瞼が内側から光り、直後ハチエさんが叫びつつ目を開く。
ん? 何も変わってないけど……治してくれたのかな?

『サラダバー!』

そういうと女性は問答無用で、湖の中に引っ込んだ。直後、湖水の魔力も感じられなくなる。
サラダバーって……サラダが食べたい気分だったのだろうか。
というか白ヒゲ返してもらってないんだけど……あッ!

湖の底から、大きな物体がプカリと浮かび上がってきた。
メタリックな色をしているが、白ヒゲだった。
引き上げて見ると、やっぱりぐったりしていたが、怪我は無いようである。

「白ヒゲ……炎になったり光になったり大変だったね……」
「グアフ……!」

そんなことも無かったぜ、的なニュアンスで左手の親指を立てる白ヒゲ。
なんか段々君が言いたいこと分かるようになってきたよ。
スキルレベルが上昇しているお陰かな。

白ヒゲは、全身の体毛が黒く輝くメタリックな仕様になっている。ヒゲもメタリックで白くない。
良く見ると黒い線で一本一本に模様が書かれているようだ。
顔は魔法金属とやらに覆われておらず、回り回って元の色に戻っていた。
すなわち、調子の悪そうな青い色である。牙だけが白く、とても目立っていた。

「君が無事でよかったよ……ちょっと失敬」

――ブチブチッ。

「グルッ!」

毛を少々引き抜いて食べてみた。
「ポケモンイーター」も活用しないとね!
噛んでみると意外と硬くない。元の剛毛の方がゴワゴワしていたように感じるね。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫

ファンファーレが鳴った。
好感度は2.0だったようだね! 自分の魅力が怖い!

≪概念を吸収しました。「魔法反射毛」です。魔力由来の物を反射できます。しかしマスターは体毛が少ないので、効果は低いかと。≫

そんなことないよ! 頭でビーム反射が出来るようになった!

でも、まぁ魔法撃ってくる敵には白ヒゲが超強くなったことは間違いない。
正直、白ヒゲ居てもあんまり役に立たないって思ってたけど……

「君はこれからバリバリ使っていくよ白ヒゲ!」
「グルッ!」
「盾として!」
「!?」
「いや、体毛を引き抜いて防具に……あ、ウソウソ!」

そんな逃げなくても。

「動物いじめたらあかんで。」
「あ、ハチエさん。目どうだった?」

そうハルマサが聞くと、ハチエさんはどう言ったものか、という複雑な表情をした。

「それやねんけど……エライことになってしもうて。」
「?」

ハチエさんは唐突に上に向くと今沈もうとしている太陽を直視する。
すると、キュゥウウン……と彼女の目の周りに光る粒子が集結していき――――――
ハチエさんが太陽から目を離して顔を右に向けた瞬間、その瞳から光線が飛び出した。

カッ――――――――――ジュバァアアアアアアアアン!

湖の水がごっそりと蒸発しつつ爆散し、あたりに雨の如く水が落ちてくる。

【な、なんじゃあ!? 何が起こっ……ここは何処じゃ!? で、出れぬ……暗いぃ……ハルマサぁ……】

衝撃でカロンちゃんが起きちゃってるし。おお、よしよし。僕はここですよぉー。
ザアア、と水が降る中、ハチエは頬をかきつつ、とても照れくさそうに言った。

「なんやソーラービームが撃てる様になってしもうてん。」

ハチエさんも人外への道を着々と歩んでいるのだなぁ、とハルマサは思った。
その後はメシ食って普通に交代で寝ました。

「……なぁハルマサ。」
「どうしたのハチエさん。」
「もうウチら最強なんちゃう?」
「かもね。」

眠る時にそんな会話が交わされたとか何とか。

さぁ、明日は朝から火山攻略だ!



<つづく>


ハチエさんの瞳。
◇「光芒なる瞳」
 光を吸収・増幅し、反射させる瞳。発現中、一定量以上の光を吸収した場合、光は自動で光線として発射される。威力、規模は精神力によって変化。


ハルマサの毛。
◇「魔法反射毛」
 魔力を反射する体毛。与えられる魔力、または魔力由来の物を同じ量、勢いで反射する。発現中は魔力が操作できない。



ハルマサのステータス変化。
魔力 : 29,810,570 → 29,923,491
器用さ: 34,781,469 → 34,993,685

○スキル
PイーターLv25: 176,873,021  →178,038,493
概念食いLv18: 1,052,834 → 2,076,381   ……Level up!
魔力放出Lv21: 17,656,001 → 17,768,922
風操作Lv20 : 7,089,237 → 7,196,722
炎操作Lv15 : 62,552 → 167,283    ……Level up!

(メタル)白ヒゲの好感度: 2.0 → 1.3




<あとがき>

感想いつもありがとうございます。
面白いって言っていただけると、やばいくらいテンションが上がりますね!
ていうか感想無かったら私もう書けないだろうな。





>板移動するならその他板が無難だと思います
ありがとうございます!

>腹の中に入って〜のネタ使ってokですよ。キノピオとかマリオとかトリコとかでもやってる展開だし。
ああ!トリコ!そう言われればそうだ! ありがとうございます流れさん! ネタがどうしても浮かばなくなったらありがたく使わせていただきます!

>大陸吹き飛ばせる攻撃に耐えられるシェンガオレンやばいですね。
実際、大陸ってどれくらい硬いのだろう。適当に書いてしまったんだ。

>4号さんのこのセリフがツボにきました
思わぬところがウケて有頂天ですが、それを言われて一瞬どこだっけと思った私は、もうやばいのかもしれない。

>読んでるよ!読み続けるよっ
あんた神やで。やる気でてきたぁ―――――!

>ハルマサはいつカロンちゃんを恋人にするのかな?
ラブコメってますからヤキモキさせるかもしれませんな。……ラブコメか?

>もしシェンガオレンが死んじゃったら食べるんですね?
死ななくてもいただいてしまったんだぜ。十傑集の情報はありがたい……

>先生ポケモンセンターはどこですか。
どこでしょうか。いや、こまっちゃたぜ。

>なにこの怪獣大決戦。
そんな雰囲気が出ていればいいな、と思っていました。嬉しいです!

>回収時に瀕死だった筈のドドブランゴ亜種もいつの間にか回復してるみたいだし。
マジでいつ回復したんでしょうか。作者的にも謎でござる。まぁ動ける程度に回復するくらいならそんなに時間はかからないだろうということで。

>BAD特性の【老いた聴覚】を消すチャンスが無くなっちゃいましたね
実は、ハルマサ君の得ている特性的なものは、スキル、特技、特性、概念、となんと4つもありまして、爺耳は概念なので消すには別の手段が必要だったのだ――――! わかりにくくて申し訳ない。

>ポケモンみたいにターン制じゃないなら攻撃される直前にモンスターボールに戻して、スカった瞬間に再度出して攻撃させれば無敵じゃ…
その度に仮死状態になるレンちゃんがやばいかな、と。あと、間違い指摘していただいてありがとうございました!

>カロンちゃんがかわいくて生きてるのが辛い…
そんなに!? 最近空気なのに……

>木からアイテムポップするならハルマサの腕や足の部位破壊でも装備でそうですね
やべえwwその発想はなかったけど、実行するには喧嘩をさせないと。

>レンちゃんゲットだぜ!
ゲットだぜぇ――――! もう擬人化いらんくね? と最近思い始めたり。












[20697] 129
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/31 23:19

127、128話で日が暮れない的な描写があったけど、そんなことは全然無いです。
普通に暮れるので上記の話を修正しました。




<129>


【第三層 塔入り口】

太陽がこの地でも東から昇り、西に落ちるとするならば。

第三層の大陸の最北端に当たる位置には、高い高い塔がある。
凍てつく大地に積み上げられた、一回り1.5kmはある巨石の円柱の塔である。
まっすぐ伸びているはずが、先の方が曲がって見えて、しかも天辺は雲に隠れて見えもしない。

その入り口の巨大な扉の脇に、一人の少女が座りこんでいた。
漆黒ドレスに身を包んでいる、病的に白い肌が一際目立つ少女である。
少女は白い息を吐きつつ、無表情で、手に持っている鎌をショリショリと研いでいた。

と、その手が止まる。
ザクリ、と霜を踏む足音がしたのだ。

「あら。プレイヤーの方?」

少女が小首をかしげて視線を送る先には、軟派な顔つきの男が居た。

「………そうだが? 嬢ちゃんはなんだ? 敵かい?」
「うふ。」

少女は哂う。口の端から漏れた息が白く漂う。

「違いますわ。あなたを待っていましたの。」
「そいつは嬉しいね。どっかで会ったっけか?」
「いいえ。始めまして。私メリーよ。」
「始めましてサリーちゃん。俺はマルフォイって呼んでくれ。」

軽い反応を返しつつ、男はさり気なく腰の獲物に手をやっていた。
このダンジョンで気を抜くことはすなわち死であると、男は学んでいた。
たとえこの目の前の可憐な少女が、魔物の擬態だとしても驚かない。

「鍵を、持っているのでしょう?」
「………何のことだ?」
「あら。」

少女は立ち上がる。手に持つ短い鎌がひどく浮いている。
いや、浮いてなどいないか、と男は考え直した。
この少女は、黒いアイシャドウに紫色の口紅をしている。
むしろ雰囲気にピッタリだ。

「あらあらあらあら。」

少女はサクサクと男へ歩み寄りながら、頬に手を当てて困った顔を作る。
しかし、瞳は別の色に染まっていた。

「隠し事かしら? 嘘はいけないわ。嘘つきは良くないわ。嘘をつかれたら――――――」

目を愉悦に歪ませて少女は地面を蹴った。

「―――――殺してしまうわ。」

紫色の唇が、裂けるように釣りあがる。
恐ろしい加速だった。
霞むような速度で近づいて来ながら、鎌を振り上げ、振り下ろしてくる。
しかし避けれないほどではないと男は思って、直ぐに顔を顰めた。

脚を地面から除いた白骨が掴んでいた。
直後に手も、腰も蛇のように白骨の手が伸び、万力のように締め付けてくる。

「――――――ッ!」

刃が首に食い込んで、血が噴き出る。振り切った刃の先から血が飛んで、白い大地に赤い円形の模様が咲いた。

「こんなもんで俺を縛れるかよ」

転がったのは、少女の首だった。
男は刀に着いた血を振り払うと、シュッと鞘に収める。
足に巻きついている白骨化した手を蹴って剥がしつつ、少女の生首へ手を伸ばす。
前髪を除けて顔を見るが、やはり見覚えはない。

「……何だったんだ? 鍵とか言ってたか?」
「あら。」

生首が喋った。

「な――――!」
「本当に知らないのね。だったら――――――――」

ドス、と男の背中、心臓の位置に鎌が刺さる。

「――――殺してしまうわ。」

男の吐血を顔面に受けつつ、地面に転がった生首は哂った。

鎌を振り下ろした、首から上がない少女の体の後ろには、塔の入り口がある。
入り口を硬く閉ざす扉には、二つの鍵穴があり、その下に短くこう書いてあるのだった。

『鍵を集めよ』と。





【第三層 火山入り口付近】

森林の朝は、枝葉に露がおり、空気も冷ややかで、少し肌寒いものである。
そして、柔らかな静寂に包まれていた。

『プレイヤーの皆様! お早うございマス!』

しかしハルマサの目覚めは、やかましい声によるものだった。
目を擦りつつ見てみると、第二層で良く見た、ビックリ箱である。

周りを見ると、ハチエさんは離れた場所に居た。
剣を持ち、汗をかいているところを見ると鍛錬をしていたのかもしれない。
彼女の方にも同様のビックリ箱が出ており、ハチエさんはおっかなびっくり剣で突付いてみたりしている。

また、カロンも起きた様だった。ハルマサが作った超小型ハンモックで目を瞬かせている。

【なんじゃ……?】
「あ、おはようカロンちゃん。」
【うむ! ……朝一番に見る顔がお主とは……ええもんじゃの。】

密やかに笑い、さらっとハルマサが鼻血を吹きそうなことを言って、カロンはフラフラと湖へと飛んでいく。
顔を洗うのかもしれない。

ビックリ箱からとびだした玩具の人形は言葉を続ける。

『プレイヤーNo.40:メリー・グレイズが、この階層に来てから1000時間が経過しまシタ! 時間経過ボーナスとして、魔物が強化されマス! さらに6時間に一度、いずれかの魔物が大量にポップしマス!』

ここに長く留まっている人のお陰で、探索の難易度が増すらしい。
もう慣れたぜ、とばかりにハルマサはため息をつく。朝からヘビーな話題である。

『また、これ以降、24時間ごとに魔物の強さは強化されマス! 報告は以上! 皆様、存分にダンジョンをお楽しみくだサイ!』

最後に最大の爆弾を落として、ビックリ箱は消えた。
相変わらず酷い仕様のダンジョンだ。

「ハルマサ! これヤバイんちゃう!?」

ハチエさんが走ってきた。
ハルマサも、嫌な予感がしていた。
第二層でモンスターが強化された時、強化されたモンスターはレベルが一つ上昇していたのだ。
レベルが上がるということは単純に強さが2倍。
明日になれば4倍か?

「ハチエさん、クリアを急ごう!」
「そうやね。ちょいと巻いていかなあかんね。」

ハルマサは朝食もそこそこに、火山へと突入した。




ハルマサたちが火山を避けなかったのは、以下の理由である。
1、山を迂回していくには山脈が長すぎること。(5~600kmの迂回になる)
2、明らかにここが要所っぽいこと。
3、要所じゃなくても、貫いて進んでしまおうと思っていること。

第二層のボスの居場所が似たようなところであり、外側を歩くよりも内側を突き進んだ方が速いというハチエの言もあった。

「途中で魔物いっぱい出るかも分からんけど、そんなん何処でも一緒やで。」
「確かにそうかも。」


洞窟に入ったハルマサとハチエは、並んで走りつつ、進んでいく。
洞窟の中は外とは打って変わってじっとりと熱い。
幅は20メートル、高さも同じくらい。
蛇行する道を、ハルマサが「空間把握」によって索敵し、道を塞ぐ岩などの障害にはハチエが当たって足を止めずに走っていく。

途中で見えない龍を蹴り飛ばした気もしたが、どうでも良いのでスルーしつつ、ハルマサたちは大きなホールへとたどり着いていた。


「ここが、最初の関門みたいやな。」
「あれはラージャンか。立ち上がると大きいね。」

二人の目の前には、大きな石像がずらりと並んでいる。
その石像は、第二層で苦戦した、ラージャンを象っていた。
ドドブランゴと似た体型の牙獣種で、こめかみから雄牛のような長い角を生やしている、黒色金毛のモンスターである。
その石像は、磨きこまれた黒曜石のような外見をしている。
大きさは12メートルほど。

で、それは確かに石像だったのだが、ピシ、と表面にひびが入る。
やがてビシビシとひびが入り、関節が曲がり、石の殻を落として、十二体のモンスターが出現した。
色は黒ではなく、赤かった。亜種だとでも言うつもりだろうか。
モンハンのゲームに無い物を出すのは止めて欲しいと、ハルマサは思った。

「レベルは24だって。」
「アホみたいに強いっちゅう訳やね。」

ラージャンたちが動き始め、強制的に戦闘が始まった。



<つづく>

カロンちゃん維持コストは毎秒17。
それに対し、現在の魔力回復量は、1日で満タン=1秒で347回復。
何時の間にかカロンちゃんを永遠に召喚することが可能となっていたのだ――――――!




[20697] 130(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 01:45


<130>


敵のレベルは「観察眼」によれば24。
ラージャンの上位種なんだから、速くて硬くて力強い、三拍子揃ったモンスターだろう。

十二体のモンスター、赤ラージャンは一斉に動き始めた。

――――――グォオオオオオオオオオ!

咆哮をする一体を除いて、全ての個体が、バチリと紫電を伴いつつ、疾走してくる。

何という初見殺し!
脚が止まったプレイヤーを皆でフルボッコにするんですね!
だが、甘い甘い!

僕には頼れるこの子が居る!

「カロンちゃん!」
【音吸いの鈴よ!】

―――――チリーン!

そして場には音が無くなった。この鈴は、鳴らすたびに音を吸う。

【この程度ならば、あと何発かは吸えるじゃろう。】

助かったよ! 戦闘中に耳をパタパタするのはイヤだからね!

「じゃハチエさん! ちょっと引きつけるから、数減らしてね!」
「うぇ!? 無茶振りやない!?」
「ハチエさんなら、きっと出来るよ!」

――――――――加速!

ギン、と間延びした時の中、ハルマサは逆に前に出る。
やはり、敵は疾い。
だが、僕の方が、もっと疾い!

「甲殻―――――――パンチッ!」

ズボォ!

「砦蟹の重殻左腕砲」を発現させ、殴りつける。
加速は疲れるから、持久力を消費する特技を使わないぜ!
勢いは十分についており、おまけに硬い拳の一撃は、赤ラージャンの剛毛による守りを抜いた。

そして持久力をあんまり使わない特技――――――――「水球」ッ!

ギュゴォ! と右手の上で渦巻く水流。
器用さに伴って威力の上がり続けるこれは、何時の時代も友達さ!
大きさは……僕の体より大きいぜ!

「ぬがぁああああああああ!」

ズギャ! と赤ラージャンの顔にめり込んだ水の一撃は、モンスターを回転させつつ吹き飛ばす。
死んだか!? ダメか!

だったら追い討ちだッ!

「レェエエエエエエエエエルガンッ!!!!!!」

キュボッ!

ありったけの電流を流して加速させた土の弾は、視認不可能な速度でラージャンに着弾し、目玉を貫いて脳に到達。後頭部を爆砕させる。

≪魔物を倒したことにより、20,971,520の経験値を取得! そしてお見事! レベルアップだぜぇ――――!≫

何故か桃ちゃんの声でレベルアップが告げられる。

「――――――っぷは! そろそろまずいね!」

加速を解除する。と同時、疲労が噴き出るが、そうも言ってはいられない。
何しろ、ラージャンが周りに10匹居るからね!

キラ、と視界の隅に光る線。
「回避眼」が見せてくれた攻撃予知線に従い、ハルマサは咄嗟に飛び上がる。
地面を擦るラリアットが足の下を通過し、しかし飛んでいるハルマサに向かってさらに攻撃が加えられた。
この時、雷によるスピードアップの起こっているラージャンたちの敏捷は2億1千万。
ハルマサ君には到底避けれません。

――――ドゴ、ゴ、ゴォン!

三体によるアタック、レシーブ、アタックの連続攻撃を一瞬の内に食らって、スーパーボールの如く跳ねたハルマサは、音速をブッちぎって地面に突き刺さる。
ここの地面は信じられないほど固いのだが、その硬さをハルマサ弾は楽勝で貫いて地面は陥没し、放射状にひびが入る。
しかし彼は死んでない。

一発目は左手で防御できたし―――――――――何よりカロンちゃんが居るからね!

【無茶するのぅ……】

クレーターの中、ハルマサの体の周囲を緑の膜が覆っている。折れた右手と右足がギュルンと再生する。

【というかお主であれば、もう自分で「守りの壁」くらい張れるじゃろうに。】

カロンちゃんに張ってもらうから、他の事に専念できるのだ。あとテンション上がる。
その時「心眼」が警報を鳴らす。さっきからずっと鳴ってるけど、一際激しくって意味で。

見れば、クレーターの上からは赤ラージャンの一体が、雷を纏って空中で回転しており―――――――これは第二層で死にそうになった特技か!

(こいやぁあああああああああああああああ!)

―――――――「剛力」「防御」!

ズギャギャギャギャギャ!

回転しつつ突っ込んできた赤ラージャンを、ハルマサは左手を突き出し受け止める。
ほんの数瞬で、掌の甲殻が削り取られて血が噴出す。歯を食いしばって耐えるハルマサは、腕を伝ってくる電流を「雷操作」で散らしつつ、右手は地面に魔力を流す。

―――――――土操作ッ!

ズガガガガガガンッ!

「ゴァアアッ!」

6本の柱が同時に右から飛び出して、赤ラージャンを殴り飛ばす。
ただ回転しているだけで僕を削ろうだなんて、横着さんめ!

のしかかるものが無くなったハルマサは素早く立ち上がり――――――直ぐにまた叩きつけられる。
周りに居るラージャンがもぐらたたきの如く、即座に叩いてくれました。
ちょっとくらい二足歩行させてくれても!
腕が千切れるかと思ったし!

「グルァア!」

岩の中に埋まっているハルマサを豪腕がさらに叩く。残像の残る速度で、よってたかってボッコボコの餅つき状態だ。

ドゴォ、ゴッ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴゴゴゴゴゴンッ!

左手がヤバイ! 甲殻は無事だけどなんか根元が!
肩が千切れる! 千切れるからァ!

ハチエさん、切実に問いたい。……まだですか?






(信頼しすぎやでハルマサ! やったろやないかい!)

ハルマサが突っ込んでから1秒後、ちょうどアタックレシーブを受けている時くらいにハチエは動き始めた。
射撃で遠くから仕留めるか?いや無理だ。
ハチエの弓では、大きいダメージは望めない。
ならばやはり隠密行動!
「石ころ帽子」を被り、「霞翼の風鳴剣」を握ると、ハチエは跳び上がる。

この広間の天井は高い。
約50メートルはあるだろうか。
その天井に取り付いたハチエは、上昇した筋力を余さず用いて、天井の岩を蹴りつける。

天井をへこませ、即座に地面へと跳ね返った。

狙いは咆哮をしていた一体!

(いぃぃぃぃぃやぁッ!!!)

落下の最中、手に持った片手剣を投げつける。
透明なハチエから投げつけられる剣を、誰が察知できるだろう。
だが、赤ラージャンは察知した。

「グルァア!」

ラージャンが後ろの飛びのいた直後、地面を陥没させる片手剣。
だが、問題ない。本命は次だし―――――――その位置は、まだハチエの間合い!

両手に持って具現化したカードは、長く長く伸びて、巨大な龍の剣となる。

「どっせぇええええええええええええい!」

ハチエは勢いそのままに叩きつける。
ゴボォ! と地面が直線状に割り砕かれ、しかしラージャンはそれすらも反応していた。
右腕を捨てながらも、避けて見せたのだ。

ブシッ! と無くなった右腕の付け根から赤い血を噴出しつつ、ラージャンは口を開く。
咆哮ではない。
そこに集うのは、圧倒的な雷撃だ。
――――――来る、雷の奔流が。

「――――――――オァアアアアアアアアアアア!」

パシッと前兆のような電光が見えた瞬間ハチエは動いた。
地面に突き刺さった巨剣から手を離し、代わりに地面に刺さっていた霞翼の風鳴剣を引き抜いた。さらにカードを具現化させる。「炎翼の飛翔弓」のカード。
概念を発現し、背中からブワリと生える紫色と炎の翼。
計4枚のそれは、ハチエの体を包み込み、彼女を守る壁となる。
直後彼女を巨大な雷の奔流が襲う。

―――――――バシィ!

ハチエは右側の翼を2枚とも焼き切られつつ、雷の奔流の横に躍り出た。
耐性を低くしたハチエは地面を蹴り砕き―――――走る。

「アバン―――――――ストラッシュ!」

この一撃はしゃもじで巨龍を切った一撃だ。
剣で使えば、まがい物といえど切れ味は十分!

ハチエはすれ違い様に、ラージャンへと、逆手に持った剣を叩き込む。
牙を断ち切り、口を引き裂き、ハチエの一撃はラージャンの頭を切り飛ばす。
同時に片手剣は砕けて折れた。

一瞬遅れて切断面から血が噴き出るが、ハチエがそれを見ることはない。
ハルマサが餅つき状態になっているのを視界の端で捉えたからだ。
アレはちょっと、まずくない?

(今、お姉ちゃんが助けたるでぇ!)

11体の怒れる雷獣が集う餅つき場に、ハチエは向かう。
巨剣を引き抜いて走るハチエの脳裏では、彼女のレベルアップが報告されていた。




<つづく>

赤ラージャンって正直どうなんだろう。
想像できるだろうか?
黒いところが赤くなっただけなんだけれども。


ステータスアップは次回。




[20697] 131
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/31 23:20


<131>



「グルァアアアアアアアア!」

―――――ドゴォ!

(もう……何発目だよ……!)

ハルマサは、圧迫される胸骨に血を吐きつつ、胸中で毒づいた。
雷の迸る豪腕は、太さも長さもハルマサの体を上回る。
その腕に寄る乱打乱打。
「剛力」「防御」が無ければ潰れて死亡。
「雷操作」が無ければ、一発で痺れて終了だ。
ここで雷でも吐かれたら――――――って吐こうとしてらっしゃいますね!?
やばい! やばいよ!

「カロンちゃん! 何とかしてください!」
【毎回曖昧な注文じゃのぅ……】

そう言いつつも、ハルマサの顔の横で浮かんでいるカロンは短く祝詞を呟いた。

【来たれ、炎の氷雨よ!】

空間を歪めて現れた二十本の燃え盛る氷の杭は、はるか高みから地面を貫き、硬質な、ガラスが砕けるような音をして、粉々に砕けた。
直撃を受けたラージャンは体が、燃え上がると同時に、直撃を食らった部位は凍りつくという摩訶不思議な現象を起こしている。
地面も凍りつき、寒い。

「魔力消費やばいね……!」

今の一撃で減った魔力は2000万。
レベルアップして4000万ほどとなっていたハルマサの魔力が一気にレッドゾーンである。

【何とかなるじゃろう、ハルマサならの。】
「そういわれたら、やるしかないね!」

ハルマサは岩を吹き飛ばして飛び上がる。
魔力で慣性を押さえつけ、地面に降り立ち、踏み込んだ。
このチャンスは逃してはいけない。
数を減らすんだ。

右腕なんざ、もういるか!

―――――――「無空波」ッ!

ドゥン!

ハルマサは未だ剛力状態。
通常の倍以上に膨れ上がった豪腕が、特技を放つ一瞬でさらに膨れ上がり、続いて生じた衝撃に、タキーシードの袖がはじけ飛ぶ。
この手応えは「的中術」が発動したな!?

「――――――――だぁ!」

顔面に与えた一撃で、赤ラージャンの脳みそを粉砕し、絶命させる。
右手がくちゃっと砕けて、凄く痛い。
これで残りは10体か!?
そう考えた瞬間、待ち望んでいた、ハチエの声がやってきた。

「せやああああああああああああああああ!」

ドゴォオオオオオオオ!

声だけでハチエの姿は見えないが、居場所はよぅく分かる。
一撃で、唐竹割りにされたラージャンが左右に分かれて崩れ落ちている場所だろう?
死体は、フワリと光ってカードになった。

「遅ぅなって悪いハルマサ! これで3体目やで! 残りは……7体か!」
「前衛お願い!」
「任せとき!」

ハルマ
サが後ろに飛び上がり、ハチエは前に。
「石ころ帽子」を脱いで、「霞龍の鳥帽子」を被ったハチエは、巨剣を握り、振り回す。
ハチエのレベルは24になっていた。
元の敏捷は4千万。二つ装備で約4億。筋力の上昇値はそれ以上だ。

巨剣を振れば、空気が割れ、真空刃が巻き起こる。
赤ラージャンといえど、避けれる速度の剣ではない。

一体一体確実に潰していくハチエを頼もしく思いつつ、ハルマサは空中から、レールガンで周りのラージャンを狙い打つ。
その威力、「魔力圧縮」「雷操作」の熟練度上昇に伴い、威力がおかしくなっている。

牽制の一撃の筈が、ラージャンの頭蓋を砕く一撃へと変わっている。
一発目で砕き、二発目で貫通。もう狙い撃ち状態だ。
何時の間にか「狙撃術」スキルが出てるし。

戦いの最中でもう一度レベルアップが起こり、威力はさらに凶悪に。
決着は直ぐについた。




ゴリゴリ。

「ぬぅ………コイツは中々硬い。」
「骨齧っとるハルマサ見とると、不思議な気持ちになるなぁ……犬飼いとぅなるで。」

戦いが何とか終わり、ドロップ分け分けタイムである。
ハルマサが倒した分は4体で、ハチエがひき肉にしたのが8体。
倒した分だけ経験値を手に入れ、両者ともレベルが24になっていた。

ドロップは角や牙、そして体毛と、骨である。
ハルマサは多めに出た骨を全部貰い、それを齧っているのだった。
最近骨が折れまくっているような気がするので、強化したいのだ。
いずれは無空波でも砕けない手を作りたい。
というか左手で打ったら砕けないかもしれないな。

【右手は治さぬのか?】
「あ、これ? その内治るから。」
【み、見せるな。痛そうじゃ…。】

で、ハルマサが倒した分はしばらく死体として残るので、それも有効活用した。

――――――――ギィ!

レンちゃんのおやつである。
今はすっかり食べ終わって、プクプクと満足気に泡を吹いていたりする。

レンちゃんの回復ッぷりは見事であった。
生えかけの小さなハサミは、一晩で全盛時の半分ほどまで伸びている。
しかもちょっと太い。
生え変わった方が強いハサミになるのかもしれない。

「次、エエの来い! 頼むでぇ!」

ハチエが願掛けしつつ角をへし折っている。
流石に素手では折れないようで、新しく手に入れた「重牙の耳飾」をつけていた。
ちょっと重いそうで、耳たぶが下に伸びている。

「あかん……また変なん出たで。」


○「男の怒張ケース」(Lv23)耐久値:120億
 ラージャン亜種の角をくりぬいた男のケース。全力全開なアレもすっぽり収まる巨大なサイズ。超頑丈。
耐久力+1000%、筋力+1000%、精神力+300%


「セクハラやん……」
「で、でもほら、異常なまでに頑丈だよ! 先っぽとんがってるし武器として使うのは」
「ペニスケース振り回すのイヤやねん……」

ですよね。


ちなみに僕の骨も強化された。


◇「野獣の骨格」
 牙獣種の堅牢なる骨格。発現中は、腕が長くなり、さらに耐久力が1.5倍になるが、満腹度が減る速度が2倍になる。


発現してみるとゴリラみたいになった。
僕にピッタリサイズだったタキシードが、7分丈になっている。
リーチが凄いなコレ。

【アンバランスじゃの。】
「ちょっとおもろいな。」

これで、相手の死角、すなわち真下からアッパーが打てる!
そんな機会あるか知らないけど。

お腹減るから解除解除。


「ほんなら先進もか!」
「そうだね!」

ハルマサの魔力回復を待っていたら日が暮れてしまう。
よって、休憩も早々に切り上げて、二人は洞窟の先へと進んでいくのだった。



<つづく>



ハルマサ
レベル: 22 → 24      Lvup Bonus:31,457,280
満腹度: 12,694,538 → 49,251,984
耐久力: 12,164,862 → 83,444,909
持久力: 12,693,558 → 49,251,005
魔力 : 29,923,491 → 136,854,013
筋力 : 24,753,838 → 107,357,838
敏捷 : 20,176,386 → 68,903,774   ……★103,355,661
器用さ: 34,993,685 → 159,204,708
精神力: 19,769,777 → 90,741,396
経験値: 30,081,023 → 103,481,343  残り:64,290,817


○スキル(熟練度上昇値の高い順)
雷操作Lv23 : 7,896,890 → 56,082,938  ……Level up!
魔力放出Lv23: 17,768,922 → 65,827,001  ……Level up!
神降ろしLv22: 1,214,582 → 40,728,921  ……Level up!
防御術Lv22 : 451,056 → 36,673,891  ……Level up!
PイーターLv25: 178,038,493 → 211,782,937
心眼Lv22  : 1,187,223 → 31,187,293  ……Level up!
魔力圧縮Lv22: 11,367,827 → 38,782,990  ……Level up!
剛力術Lv22 : 7,621,867 → 31,602,983  ……Level up!
突撃術Lv22 : 6,406,989 → 24,738,881  ……Level up!
回避眼Lv22 : 6,782,227 → 24,983,012  ……Level up!
土操作Lv22 : 5,784,932 → 23,784,903  ……Level up!
拳闘術Lv22 : 11,187,546 → 29,187,203  ……Level up!
身体制御Lv22: 7,309,283 → 24,876,831  ……Level up!
水操作Lv20 : 61,825 → 9,062,001  ……Level up!
観察眼Lv21 : 5,493,820 → 11,873,613  ……Level up!
空間把握Lv19: 151,218 → 3,652,983  ……Level up!
撹乱術Lv20 : 4,823,506 → 7,827,501  ……Level up!
撤退術Lv20 : 3,237,431 → 6,237,901  ……Level up!
的中術Lv20 : 4,087,427 → 7,083,912  ……Level up!
狙撃術Lv19 : 0 → 30001500  ……New! Level up!


■「狙撃術」
 遠くの的を狙い撃つ技術。射撃行為によって飛ばしたものが狙った場所に当たりやすくなる。スキルレベル上昇に伴い、魔力を消費して、射撃に用いる弾・矢に属性を付与できるようになる。
Lv10:「貫通弾」、Lv15:「徹甲榴弾」、Lv20:「炸裂弾」、……Lv40:「核弾頭」、……Lv60:「地球破壊爆弾」



ハチエ
レベル: 22 → 24       Lvup Bonus: 31,457,280
耐久力: 10,222,692 → 41,679,972
持久力: 10,222,694 → 41,679,974
魔力 : 10,222,688 → 41,679,968
筋力 : 10,222,691 → 41,679,971
敏捷 : 10,222,698 → 41,679,978
器用さ: 10,222,691 → 41,679,971
精神力: 10,222,704 → 41,679,984
経験値: 26,738,688 → 142,082,048   残り: 25,690,112



ハチエの手に入れたアイテム。

■武器
「金獅子の薙刀」
 ラージャンの煌毛が仕込まれた、雷光を纏う薙刀。振れば、軌跡が黄色い筋として残る。

「牛鬼の金棒」
 ラージャンの剛角を芯とした金棒。頑丈だが、振り回すには相応の筋力が必要。


■防具
「煌毛の手袋」
 煌毛が仕込んであり、打撃と同時に電気を流す手袋。左手のみ。

「重牙の耳飾り」
 ラージャンの牙を小さく加工した耳飾り。小さくても重く、長時間つけていれば福耳になれる。

「雷獣パンツ」
 ラージャンの煌毛を用いた、黒と黄色の縞々パンツ。履き心地は良いが、熱がこもる。

「男の怒張ケース」
 ラージャン亜種の角をくりぬいた男のケース。全力全開なアレもすっぽり収まる巨大なサイズ。超頑丈。


■アイテム
「避雷針」
 ラージャンの尻尾が巻きついている、雷を呼び込む長い棒。電流を一定量溜めると、根元のスイッチでビームとして発射できる。

「感知毛」
 敵意や殺意をキャッチして、静電気を発する金色の毛。探索にどうぞ。

「加速装置」
 エヴァンゲリオンのパーツの一つ。全12個そろえれば、使い捨てのエヴァンゲリオンが作成できる。



もうネタが浮かばない




[20697] 132
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/31 23:49


<132>



レベルが上がった二人は劇的に強くなった。
ハチエは、ピアス、雷獣パンツ、手袋など、着々と装備を手に入れている。
それらを着用することで、武器を持っていない状態でもおかしなくらい身体能力が上がっているのだ。(パンツはまだ履いていない)
それらの装備の概念を発現したハチエさんは、髪の先だけ金色になり、口元には牙が生えている。

ハルマサは、何を間違えたか魔力が5倍以上になっており、左腕のカニ砲撃も放てるようになっていた。
俺の左手が火を吹くぜ状態である。




火山はクネクネと曲がりくねった道が徐々に上へと登っており、その途中途中にモンスターが待ち構えている構造である。

「おかしいなぁ……もう大分登ったと思うけど。」
「もう頂上付近まで来てもうたんちゃう?」

二人はその膨大なスタミナを活用して、2時間ほど凄まじい速度で走り続け、蛇行する道を登ってきた。
途中で、見えない龍を蹴飛ばしてしまった気がしたが、やっぱりどうでもいいかとスルーして、終に二人は大きな扉の前にたどり着いた。

扉には文字が書いてある。

『力を示せ。』

「なんやねんこれ。しかもこの扉取ってついてないで。」
「うーん。押し開きかな?」

取りあえず「空間把握」や「観察眼」で調べてみたが何も分からない。
この扉が硬いんだな、ということが分かるだけである。

「ちょっと押してみよか。せっ!」

ギシィ、とハチエさんの筋肉が軋みを上げる。
ハチエさんの筋力は、帽子と耳飾りによって13倍されて5億以上ある。
しかし、それでもダメだった。

「ふんむぐぐぐぐぐぐぐ……!」

ピクリとも動かない。

「違うのかな。力っていえばこれしかないと思うんだけど。」
「まだ足りんのかも分からんで。武器持って挑戦や!」

ハチエさんは気合でラオシャンロンの剣(20メートル)を咥え、両手で扉を押してみる。
「震天動地の巨剣」の筋力補正は+1900%。
これでハチエの筋力は13億1千万。

ギ……

「ちょっと軋んだよ! ハチエさんガンバ!」
「ふんぐ――――――!」

動くには動いたが、少し力が足りないようだ。

「はぁ……はぁ……」
「ハチエさん。やっぱりここは、ペニスケース装着で」
「い、イヤや! まだ手はあるねん! 雷獣パンツを穿けばきっと!」

という訳で、ハチエはハルマサの「空間把握」にも引っかからない遠くまでパンツを穿き替えに行った。
すると、それまで頭の上で正座して、への字口のまま微動だにしなかったカロンちゃんが口を開いた。

【のぅハルマサ。】
「何?」

カロンちゃんは、ハルマサの頭から降りてきて、フヨフヨとハルマサの眼前に漂う。

【少しの間、我はこちらにこれぬ。今日もそろそろ帰らねばならぬ。】
「ええ!?」

何で今突然!?

【………しばらく呼ぶな。応えられぬ。】
「……それでカロンちゃんはずっと黙っていたの?」
【……。】
「そうか。」

言い辛かったのかな。

「そうだよね。理由は分からないけど、カロンちゃんだって色々したいことあるよね。」

プリン食べたりとか。

【い、いやそうでは……】

カロンちゃんは宿題が溜まってしもうて……とかごにょごにょ言い出した。
色々大変らしい。

「じゃあさ、毎日呼びかけるよ。」
【う、うむ? 呼びかけ? ……ちょっと待て、あの馴れ馴れしい声はもしやハルマサか……?】

カロンちゃんは怪訝な顔をする。

「どの声か知らないけど、カロンちゃんがプリンを落としちゃった時の馴れ馴れしい声は僕のだよ。ゴメンね。」
【なにぃ!? は、はよぅ言わぬか!】

わ、我は何ということを……!とカロンちゃんはぷるぷる震えている。
着信拒否のことだろうか。プリンのことで無ければいいけど。

「ねぇ、カロンちゃん。ちょっとだけでも毎日話したいんだけど……ダメかな。」
【……だ、ダメとは言っておらぬ。】
「じゃあ寝る前に「伝声」を使うね!」
【す、好きにせぃ……】

ひゃっほぅ! ドキドキするね!

【……またの。】
「今晩からだよー!」

カロンちゃん(ミニ)は空へと帰っていった。
短い蜜月だったな……!

「君の感触を……忘れない!」
「何変態チックなこと言うてるん?」

ハチエさんが戻ってきたらしい。

「ええ!? ……カロンちゃん帰ってもうたん!? まだウチほっぺ触ってへんのに……」

あ、僕も触ってない!



さてハチエさんだが、外見からは雷獣パンツを穿いているかどうかは分からない。

「もう穿いてるの?」
「う、うん、穿いとるけど……穿いとる下着知られとるのって、なんやめっちゃ恥ずかしいねんけど。………あんま見んといてや。」
「何言ってるのさ! 超見るよ! ハチエさんのパンツは虎柄か……。」
「やめぃ!」

剣ではたかれた。



取りあえずハチエさんはまた頑張って巨大な剣を咥え、扉を押す。

「ぬぉりゃああああああああああ!」

ギギギギギ………! ゴォン!

筋力が14億を突破していたハチエさんは見事に扉を押し開いた。
扉の向こうは空が広がっている。
そして空の下には、すり鉢上になっている広い円形の広場があった。
中心には、どろどろの液体が溜まっている。
カルデラ湖とでも言うべきか。
残念ながら、溜まっているのは溶岩だが。

そしてその溶岩の湖から、一匹の飛竜がボコリ、と浮き上がってくる。

≪濃密な殺気……! 危険! あまりに危険です! な、なにぃ!? レベル29相当だとぉ!? うわっ! ……す、スカウターが爆発しただとぉ!?≫

桃ちゃん何時に無くテンション高いな。

「観察眼」で見た情報を、桃ちゃんが余分な情報を付け加えつつ教えてくれた。

形は、ティガレックスや、ナルガクルガに似ていないこともない。
いや、やっぱり似ていないか。
小山のような体格をした四本足のトカゲに見えないこともない。
いや、こんなトカゲが居たらヤバイな。
頭の先から尻尾の先まで、赤黒くメタリックに輝く鱗に包まれており、背中には三列に太い棘が生えている。
さらに地面をこそげ取るような大顎に大木のような太さの牙が二本、上を向いて生えている。

「アカムトルムだね……。」
「ウチちょっとお腹痛ぅなってきたわ。帰らへん?」
「その選択肢は魅力的すぎる!」

もちろんそんな気はサラサラない。
ハチエさんは、最初は様子を見るのだろう、翼の生える弓を握り、それを横目にハルマサは骨を握る。
二人が武器を構えるのを待っていたように、覇竜アカムトルムは大きく口を開け、咆哮した。



<つづく>







<あとがき>
今日はかなり遅くなったぜ!(やる気が脱走してました)

夏休みだから宿題しないとね!
ということで。(なにが)
私も夏休み欲しいです……!

そしてジャイアントロボぉ―――――!なんで近所のゲオに置いていないんだぁ―――――!


明日も更新できる可能性は、少しだけ残されている!



>き・・きれいな白ひげwwww
最終的には綺麗でもなんでもない白ヒゲになっちゃったんだぜ

>レンちゃんかわいすぎて、もうシェンガオレン倒せない
それはそれ、これはこれ、で問題ないと思うんだぜ。

>ドドフランゴの形状を知らない僕にはビーストウォーズメタルスのメタルスコンボイかと思ってしまう。
ビーストウォーズ懐かしいなぁ。形はゴリラ+ライオンって感じかな。

>何故カロンちゃんとポッキーゲームをしないのだッ!!
高度すぎるプレイwそのままちゅるんと食べてしまうかも。

>ウホウホギイギイ言ってる方がかわいい。
私もそっちの方が書きやすいかな。

>よ~し、この調子で早く金ちゃんを迎えに行くんだ!
転送装置を手に入れないと!

>もう結構夜遅いのに普通に太陽が昇ってるってこの世界、夜無いんだっけ?
普通に間違っていました。申し訳ないです。

>ソーラービーム自動で撃つのか、遠距離攻撃としてはどうなんだろう
かなり使いにくいです。

>泉の精が出てきた瞬間、「ついに擬人化か、長かったな……」とか思ったのに
ドドブランゴを擬人化しても毛深いおっさんしか出てこないんだ。

>目からビームとは、デジキャ○ットかよ
その名前をとても久しぶりに聞いたw彼女たちはまだ活躍してるんですね。

>マホターンヘッドバット
マホカンタでも可。

>そして反射屈折跳弾ビームに・・・。
なにそれカッコイイ……

>オプティックブラスト
収束メガネはいらないんだぜ!

>ブルーアイズをゲットして白ヒゲと融合召還か。
ブルーアイズメタルモンキー?

>ハルマサ君はその内『ARMSのジャバウォック』になるんじゃね
ジャバウォック格好いいよね。反物質とか飛ばしたりして。

>腕が砲とかwwwそれなんて言うロックマン?
ああ、これを念頭に私は書いていたのかと、気づかされたんだぜ。
のどの小骨が取れた気分です。

>ポケモンブラック
最初にもらえる草ポケモンがウチに欲しいかな。
幻のポケモンはビキニとかエロイ名前だなって思ってたら違った。

>つまりカロンちゃんがいなければ、ハルマサとこのスレの読者は死んでしまうんだよ!!!
いなくなったけど死んじゃだめですよ

>月光超
危険すぎるww都心で使ったらみんな丸裸じゃないか。

>十傑集走りとか素晴らしい指ぱっちんとか衝撃波とか超見てぇ
ニコニコでMAD見てしまってから、私の集中力が脱走してしまったんだ。これが孔明の(ry

>ハチエさんがムス化したwww
大佐はいいキャラしてますよね。ギャップがたまんねぇ……!

>萌えモン
存在を知らなかった……

>素のままのモンスター達を愛(?)せる懐の広さを持っているようですし。
ベトベターだって抱擁できる程度の懐の深さを持っているんだ。多分。

>OVAかな?
OVAです。見てぇ……




[20697] 133
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 22:30


<133>


【第三層 塔入り口】


少女、メリー・グレイズが切り飛ばされた頭を体に引っ付けた後にしようとしたことは、男の死体から鎌を抜くことであった。

うつ伏せに倒れる男の背に生えている鎌の柄に手をかけながら、この後の予定を考える、
まず、この鎌の血糊を落とさなければならない。賢く武器を使うには整備が欠かせないのだ。
次に、血がついてしまった服を新しいものに着替えよう。ここの雪みたいにまっ白な奴に。
その次は……
と考えながら鎌を引き抜こうとしたマリーの腕が、力強い手に掴まれた。
死体のはずの男が後ろ手に手を回してマリーの腕をつかんでいたのだ。
マリーは僅かに驚き、尋ねた。

「あら。あなたは何で死んでいないのかしら?」

確かに心臓に刺したはずなのに。血もいっぱい噴き出たのに。
マリーの腕を掴んだマルフォイが寝転がったまま首を回してマリーを見る。

「サリーちゃんと一緒だろ。お仲間さんってことじゃね?」
「仲間なんていらないわ。」

マリーは不満げに顔を歪めた。今の装備では不死人を殺すことは出来ない。
そして何より不愉快なのは、何故かマリーをマリーの妹の名で呼ぶことだ。
立ち上がった男は背中の鎌を引き抜いて渡してきた。受け取って直ぐに捨てた。

「なぁサリーちゃん。こんなところで何やってんの?」
「マリーよ。」
「何が?」
「私はマリーよ。そう呼んで。」

男はおお、と合点がいったような顔をする。
ニカッと笑って、マルフォイは言った。

「分かったよ。サリーちゃん。」

絶対殺す、とマリーは思った。






【第三層 火山頂上】


火山頂上の闘技場の上にはぽっかりと空が開いている。
闘技場は半径300メートルの丸いすり鉢上だ。中心に鎮座するアカムトルムから300メートル以上離れるためには、高さが4、50メートルあるような壁を越えるか、空へ逃げるしかない状況だ。
入り口は入った瞬間跡形も無く消えていた。相変わらず無駄なところだけファンタジー。

その中で、ハルマサはアカムトルムの咆哮を見ながら、第一層のボス鋼龍クシャルダオラを思い出していた。
鋼龍の咆哮はその威力でもって、雪山を揺らし、雪崩を引き起こしたのだ。
それに対し、覇竜アカムトルムの咆哮は、何故か火山活動を活発にさせるようだ。

―――――――――!

「回避眼」が示してくれる攻撃範囲。
それらによって分かったことは、地面から幾筋かの溶岩流が噴き上がってくることだった。

―――――――――「加速」ッ!

ハルマサは帽子のつばで耳を塞ごうとしているハチエの腰を抱くと、その場を離脱する。
ズガ、と地面を擦りつつ停止し、即座に「加速」を解除。
直後、彼らの居た場所を含む六箇所で、高層ビルのような火の柱が地面の岩を溶かして噴き上がった。

(冗談じゃない!)
≪流石はレベル29だ!≫

ナレーターのAI桃ちゃんは感心している。
というかレベル29かよ。
なんで僕たち戦おうと思っちゃったんだろ。
その辺でラオシャンロン狩って力をつけてからでも遅くは……遅くなるか。

「ハルマサ、ありがとな。」
「あ、うん。」

ハチエさんが状況を把握したのか、ハルマサの頭をポンポンと叩く。
見上げれば彼女の目には、光が集まっていた。
そう、ここには空があり、日光を遮る雲はない。

「お返しや!」

彼女の瞳は特別製だ。光を吸収し増幅し収束し放出する。
溜めが必要で、発射のタイミングを自分でも計りづらい。
しかし、威力は絶大だ。

見開かれた瞳から放たれた二本の光条は、彼我の距離、300メートルを瞬時に走り、アカムトルムの鱗を焦がし肉を焼く。
僅かなりともダメージがあったのか、地鳴りのような唸り声をアカムトルムは上げ、目を憤怒に染める。

レベル29と言えばステータス平均は26億。見た目からしてアホみたいに硬いだろう。
その守りを少しとはいえ貫いたハチエビームは、別に魔力を使わないらしい。
すなわちビームが撃ち放題。
泉の妖精のチートッぷりが伺える。

(意外と楽に勝てるかもしれない!)

そう思ったハルマサに抗議する様にアカムトルムは大きく口を開ける。

―――――――――――ギィアアアアアアアアアアアア!

アカムトルムは黒く渦巻くブレスを吐いた。
放射状に広がるブレスが、地面をバターの如く抉りながら、ハルマサたちを襲う。

しかしハルマサたちは、そこに居ない。正直、範囲の広いブレスにはもう慣れたのだ。
いくら威力が高かろうと、その本質は吐息だ。
当たらなければ問題ない……とは言え、避けるのには全力が必要だった。

―――――「加速」ッ!

ハチエの腰を抱いたまま、円形の闘技場の淵を走る。
「加速」を用い、スキルの助けを借りて。
そして撃たれるハチエビーム。ここに移動砲台ハルマサハチエが完成した。

「ニ発目ぇッ!」

ハチエの瞳孔がキュッと窄まり、そこから光条が放たれる。
狙いは先ほどと同じ場所。一度でダメージが無いなら二度でも三度でも!
まさしく光速で飛ぶそれを、避けられるものは生物ではない何かだろう。
だがこのダンジョンは、三階層ともなれば生物ではない何かがゴロゴロしているところだった。

アカムトルムはハチエがビームを放つ一瞬前に体を沈め、その豪腕で地面を掻いて、横へ飛ぶ。
溶岩の湖に浸かりながら行ったために、燃える飛沫が周囲へと盛大に飛び散った。
その直後、モンスターの居なくなった空間をハチエビームが貫いていく。

巨大な龍が機敏に動くその光景を見て、ハルマサの腕に抱えられたハチエが悔しそうにハルマサの頭をバンバン叩く。

「なんで避けれるねん! おかしいやろ!」

ハルマサも全面的に同意である。
反応も早ければ、動きの軽さもおかしい。
体のサイズは頭から尻尾の先まで40メートル、全高は10メートル近い。
その巨体が軽やかに動くのだ。勘弁して欲しいところである。

―――――――ゴォアアッ!

巨体が呼び動作も無く、猛烈なスピードで突っ込んできた。
速さは今まで出会ったモンスターの中でトップ。

「くッ!」

―――――――「加速」ッ!

発動する前の一瞬で、アカムトルムの巨体は目の前に迫っていた。
そして加速している最中でも、かなりの速度で迫ってくる。
こちらの身長を軽く上回る牙が、二人を串刺しにしようとしているのだ。

ハルマサは歯を食いしばりながらその場を脱出する。
直後、轟音。
砲弾のように突撃した竜の巨体が岩壁を砕き、壁の一角が崩落する。
次々と落ちる瓦礫の中でアカムトルムが咆哮した。

その声は闘技場の反対側まで対比していたハルマサたちをも震えさせる。
「塞ぎ耳」を発動させつつ、ハルマサは汗を垂らしていた。
持久力の減りが大きい。

「ハチエさん、あと2回、出来ても3回しか「加速」できない。」

有体に言って追い詰められていた。
スキルによる敏捷補正なんて欠片もあてに出来ない状況で、「加速」が使えなければどうなるか。
――――確実に死に戻る。

「絶体絶命ってわけやね。」
「逃げない?」

ハルマサの提案は至極妥当なものだった。
特技「加速」の敏捷補正はかなりのものである。恐らくハチエが色々武器を持った状態でもこれには敵わないだろうという確信がある。
しかし、それをフルで活用しなければ敵わない。
光の速さであるはずの攻撃も避けられる。
どうすれば勝てるんだ!?
少なくとも今の状態では無理。

ハルマサの質問にハチエが答える前に、もう一度アカムトルムは地を蹴った。
霞むような速度で、中心にあるマグマの湖を迂回してくる。
いや、見えるのは一瞬一瞬の影だけである。
巨体を沈め、地を蹴る一瞬。
壁に着地し、蹴る一瞬。

――――――「加速」ッ!

「加速」された世界でまたも眼前へと迫っていた巨大な竜に、ハルマサは心胆が震えるようである。
強大な牙も剛強な前腕も恐ろしいが、何より怒りに燃える瞳が恐ろしい。

ぐ、と地面を踏みつけ、前へと跳躍。

度重なる加速は四肢に負荷をかけていた。
踏み切る一瞬、ハルマサはブチリと足の腱が千切れる音を聞いた。

やはり限界。
これを回復させれば、「加速」が使えるのは後1回。
目算は間違っていなかった。
ハルマサは痛みで蹲りそうになる自分の体を叱咤する。
腱が千切れる時の気絶したいほどの激痛も、覚悟していればギリギリいける。

「―――――――ぉおッ!」

未だ空中に浮かぶ巨体の下を潜り抜ける。
この怪獣から、一センチでも遠くに。
一飛びで走り抜け、また真後ろを取ったハルマサだったが、今度も攻撃は加えない。
いや、そんな余裕なんてなかった。
右足を復元させる方が優先だ。

「欠損再生」でちぎれた腱をもう一つ作る。あとは勝手に「不死体躯」がなんとかしてくれる。してくれるといいな。

今の一瞬で、残りの「持久力」は1千万。
「加速」はあと1回が限度である。

「―――――――ハチエさん! もう逃げ」
「ハルマサ。これ」

提案を遮ってハチエが示すカードには、胡散臭い被り物を被った木彫りの人形が描いてある。
カード名は「正義の味方カイバーマン人形」。
効果は、「青眼の白龍」の召喚。

「試してからにせえへん?」

ハチエはそう言って、片眉を上げて見せた。



<つづく>

ステータスのアップっぷりはアカム戦終了時に。


「加速」の敏捷補正=[(「雷操作」のレベル)+(「風操作」のレベル)]×元の数値
スキルのレベルが上がっていなければ、30億ほど敏捷にプラス。




[20697] 134
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 22:31


<134>


ハルマサのスキルの熟練度アップは、アカムトルムの攻撃を一度避けるだけで、持久力を800万近くも上昇させていた。
しかし、「加速」を一瞬使うだけで、持久力が一千万以上減っている。
レベルが上がったことで、必要な持久力が増えているような気がした。
ハルマサの持久力は既に一千万近くまで減っており、体の方も、限界だと訴えている。
何しろ、攻撃を一度も食らっていないのに耐久力が半分になっているのだ。

逃げないとまずい、とハルマサは思っていたが、ハチエが示したカードを見て、ちょっとそれもいいかな、と考えた。

何せ「青眼の白龍」である。
そんなモンスターがいれば、こんな状況も何とかなりそうではないか。


「いくで!」

ハチエはカードを具現化させる。

それをアカムトルムは待ってくれないらしい。
アカムトルムがこちらへと再度突進してくれば、ハルマサは最後の「加速」を使うつもりで居た。
だが、そうではなかった。

アカムトルムは咆哮し、地面から火柱を打ち上げたのだ。
今度はさっきの倍の12本。だが、これならば「加速」を使う必要もない。
左に飛び跳ね、足元からの炎柱を回避したハルマサは、アカムトルムの本当の狙いを知る。

こちらが飛び上がる一瞬を狙っていたのか。

ゴォン! と地面を蹴り砕き、アカムトルムが突っ込んでくる。
決して避けれる攻撃ではなかっただろう。
――――――ハルマサが空中を蹴れるビックリ人間でなければ。

―――――――「加速」「空中着地」ッ!

加速するまでの一瞬で、目の前に詰められるのは毎回のこと。
ここで一つぶっ放してやる。魔力なら、唸るほどあるのだから。
ハルマサはハチエを抱えたまま空中を蹴り、巨体の右側に回りこむ。

「砦蟹の重殻左腕砲」を発現し――――掌に、「魔力圧縮」ッ!
アカムトルムの右腹に押し付け、発射。

(この一撃は―――――――大陸を消した一撃だ!)

ズォッ―――――――!

反動で、ハルマサの左腕が跳ね上がる。
横腹にゼロ距離で発射した「蟹砲撃」は、アカムトルムの巨体を易々と吹き飛ばした。

直ぐに「加速」を止めたハルマサが見たのは、巨体を壁にめり込ませたアカムトルムと、ハチエの腕の中で怪しげな光を放つカイバーマン人形である。
何故か「ハーッハッハ!」と声を出すカイバーマン人形は、その目から放つビームで空中を切り裂き、黒と紫がまだらに渦巻く怪しげな空間への門を作った。

そこから出てくるのはもちろん、

―――――――――ギャオアアアアアアアアアアアッ!!!!

青い目の、巨大な白いドラゴンである。

≪なんんだとぉ!? レベル……30!? ふ、ふつくしい……≫

桃ちゃん曰くふつくしい(美しいの上位だとか)ドラゴンは、白い外殻に包まれた体を震わせ、大きく顎を開き、青白い光を凝縮させる。
カイバーマン人形では一度だけしか呼べないらしいので、もっと活躍して欲しかったが、いきなり決め技を放つらしい。

ハチエがノリノリで叫ぶ。

「滅びの、バーストストリィイイイイイイイイイムッ!!!!」

カァッ―――――――!

ズォオオオ、と続いた攻撃に、火山の頂上にある闘技場は激震し、余波でボロボロと壁が崩れていった。

ハルマサもハチエと共に吹き飛ばされる。
姿勢をたて直し、着地。「風操作」で埃を払う。

爆風と轟音が吹き荒れる中、必死に目を凝らせばアカムトルムが浮かび上がった。

あの巨竜は―――――――――死んでいない。

ゴォアアアアアアアアアアアアア!

甲殻を無惨に溶かされ、たけのこみたいな二本の長大な牙も折れ、しかしアカムトルムは怒りの噴煙を上げた。
今度こそ逃げようとハルマサが思っていると、ハチエさんはもう一度叫んだ。

「バーストストリィイイイイイイイイイイイイイイムッ!」

え、ブルーアイズまだ居たの?

――――――――ギャォアアアアアアアアアアアア!

まだ居たらしいブルーアイズホワイトドラゴンが、容赦なく白い奔流を浴びせかける。
また爆音、轟音、吹き荒れる風。
そして浮かび上がる巨大な影。

―――――――まだ死んでいない。

ゴァアア、ガァアアアッ!

瀕死の体だが、生きている。
巨竜は地面に爪を立て、大きく口を開き、ブレスを吐こうとして、

「バーストストリィイイイイムッ!」

ハチエさんの容赦ない攻撃が突き刺さった。







「いやぁ、勝ててよかったで。」
「いいのかなぁ……」

レベル29で、平均ステータスが26億の化け物を、そこら辺の樹から出てきた変な人形で倒せてしまって良いのかどうか。

「あの人形やと10秒間しか呼べへんからちょっと危ない思うたけど、無事に終わって何よりや。」

ハチエはそう言うが、10秒間は大した制限ではないような気がする。
もっとバーストストリームに制限をかけるべきなのではないだろうか。
連続で3発も撃つとか、反則じゃない?

まぁ、勝ったからいいけどねッ!

今回はハチエが経験値を7割持っていったが、レベルが5も上の敵だったのだから、問題なくレベルは上がっている。
ハチエはレベル27、ハルマサはレベル26である。

ハチエさんのステータスは全部3億3千万へとアップし、さらに霞龍の鳥帽子、重牙のピアス、煌毛の手袋、雷獣のパンツ、の4つを装備しているので、恐ろしいことになってしまった。

耐久力・筋力・敏捷が52億になっているのだ。
ステータス平均で見れば、レベル30相当。

もう、アカムトルムなんか正面切って殴り飛ばせるパゥアを手に入れてしまった。
それに比べたら、ハルマサの敏捷(6億)なんて霞んでしまいそうである。

今回手に入れたのはハチエの武器のみである。
武器は硬いハンマーで、使い勝手は悪くないそうだ。

そしてドロップが出なかった代わりに、火で出来た鍵が出た。
メラメラと安定しておらず、「炎耐性」のあるハルマサでも持つのが困難な温度である。
「観察眼」で見れば

≪【焼けつく鍵】:大事な鍵。大事なところを開けることが出来る。≫

とだけ説明がある。
取りあえず大事らしい。よく分からないが、ハルマサは岩で囲って袋に入れておいた。


「ほな、行こか!」
「そうだね!」

気合を入れるハルマサの肩をハチエがわっしと掴む。
なに? とハルマサが振り返ると、ハチエは笑顔だった。

「今度はウチがハルマサ運んだるわ」
「は?」
「ハルマサもあの恥ずかしさを味わうべきやと、ウチは思うんですよね」

思うだけでいいんじゃないでしょうか。
どうやら先ほど、腰を抱えて移動していたことを言っているらしい。
ハルマサは全力で違う方向に話をずらした。

「あ、そういえば新スキル「運搬術」が出ているんだ!」

何かを運ぶ時、それに衝撃がいかなくなるように出来るスキル。
卵とか持って走ると効果を実感できて良い感じ!

「という訳で、行こう!」

ハチエさんは誤魔化されてくれなかった。

「そんなにイヤなら無理にとは言わへん……妥協しておんぶでもエエで?」
「いやだ! どっちもいやだ!」
「ウフフ。我侭言ったらあかんでぇ。よいしょ。」
「くぅああああああああ!」

くそう、ステータスで負けていなければァ―――――――!

「剛力術」を使ってもてんで敵わないので、諦めてハルマサは運ばれていくのだった。



<つづく>



ハルマサ
レベル: 24 → 26       Level up Bonus: 125,829,120
満腹度: 40,251,985 → 246,476,381
耐久力: 83,444,909 → 209,274,029
持久力: 49,251,005 → 255,475,401
魔力 : 136,854,013 → 505,821,526
筋力 : 107,357,838 → 284,641,304
敏捷 : 68,903,774 → 450,774,733  ……★676,162,099
器用さ: 159,204,708 → 564,039,110
精神力: 90,741,396 → 276,586,761

経験値: 103,481,343 → 306,118,655


○スキル(上昇値の大きい順)
撹乱術Lv24 : 7,827,501 → 132,938,443  ……Level up!
魔力圧縮Lv24: 38,782,990 → 161,820,047  ……Level up!
運搬術Lv24 : 0 → 120,983,221  ……Level up! New!
心眼Lv24  : 31,187,293 → 151,894,722  ……Level up!
風操作Lv24 : 7,196,722 → 127,839,203  ……Level up!
魔力放出Lv25: 65,827,001 → 185,928,337  ……Level up!
回避眼Lv24 : 24,983,012 → 144,298,423  ……Level up!
雷操作Lv24 : 56,082,938 → 156,928,341  ……Level up!
撤退術Lv24 : 6,237,901 → 86,372,972  ……Level up!
戦術思考Lv23: 12,876,774 → 72,893,019  ……Level up!
身体制御Lv23: 24,876,831 → 82,394,229  ……Level up!
観察眼Lv23 : 5,987,263 → 55,728,301  ……Level up!
空中着地Lv23: 7,820,019 → 47,229,034  ……Level up!
突撃術Lv23 : 24,738,881 → 46,992,093  ……Level up!
空間把握Lv22: 652,839 → 21,938,220  ……Level up!
狙撃術Lv22 : 3,001,500 → 23,051,500  ……Level up!

■「運搬術」
 物を運ぶ技術。運ぶ際に感じる重さを軽減し、運ぶ物体への衝撃を緩和する。熟練に伴い、持久力または筋力または敏捷にプラスの修正。熟練者は山でも運ぶ。



ハチエ
レベル: 24 → 27       Level up Bonus: 293,601,280
耐久力: 41,679,972 → 335,281,252
持久力: 41,679,974 → 335,281,254
魔力 : 41,679,968 → 335,281,248
筋力 : 41,679,971 → 335,281,251
敏捷 : 41,679,978 → 335,281,258
器用さ: 41,679,971 → 335,281,251
精神力: 41,679,984 → 335,281,264

経験値: 142,082,048 → 611,844,096


新しい武器

○「たけのこハンマー」
(Lv28)耐久値:53億
 アカムトルムの大牙から作られた巨鎚。とにかく硬い。
耐久力+1200%、持久力+1200%、筋力+1200%、器用さ+1200%、精神力+800%



ハチエさんの防具

【霞龍の鳥帽子】
耐久力+400%、魔力+400%、筋力+400%、敏捷+400%、精神力+400%
【重牙のピアス】
耐久力+400%、筋力+800%、精神力+400%
【煌毛の手袋】
耐久力+400%、持久力+400%、敏捷+800%、精神力+800%
【雷獣のパンツ】
耐久力+300%、持久力+600%、筋力+300%、敏捷+300%、精神力+500%

【全体で】
耐久力+1500%、持久力+1800%、魔力+400%、筋力+1500%、敏捷+1500%、精神力+2100%


器用さはどこに行ったんだろう





[20697] 135(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/09/29 01:46


<135>




ハチエさんによる羞恥プレイは案外早く終わった。

「ハチエさん」
「んー?」
「そんなにくっ付かれると、僕の息子が元気になるかもしれないです」
「ひぃッ!」

ぺいっと放り出された。
そんな嫌がらなくてもいいよね。

大陸にある矢印状の山脈の、三本の線が交わるところに居たハルマサたちは、矢印の根元にある、雪山へと走っている。
アカムトルムを倒し「焼けつく鍵」を手に入れてから、ハルマサたちは山脈の尾根を進んで、雪山を越え、その向こうにある塔へと向かうのだ。

「なんやもう、ウチら超人やん。負ける気がせぇへんで。」

それにはハルマサも同意する。特にハチエが超人であるというところに。

「でも速く行かないと、ボスのレベルも上がってたりして。」

自分で言っといてなんだが、凄くありそうで困る。

「……急ごか。もっとスピード上げるでハルマサ」
「いやぁ、すでにいっぱいいっぱいって言いますか」

ハチエさんメチャクチャ速いから。
走り出した時に一瞬で置いていかれたぜ!

「おんぶはウチが危険やし……しょうがあらへんね。引きずっていこか」
「ぇえ!? もっと安全な………ぜ、全力をだすから! ね!?」
「何言うてんねん。戦う前に疲れてまうやん」

そう言って手をガッシと掴まれる。

「ほな行こかー」
「くそああああああああああああああ!」
「ほれほれ、暴れたら危ないでぇー」

爆走する二人の行く手には、高い高い雪山がそびえているのだった。







しばらく(100キロほど)進むと、雲が空を覆い、ゴォオオ、と風が舞い始める。
見えないが、太陽はまだ真南には達していない頃である。
つまりは昼前なのに、随分と暗くなってきていた。

そんな天候の変化の中、ハルマサは「心眼」にて危険の到来を感じ取る。
爆走するハチエに引っ張られてヒラヒラしつつ、ハルマサは叫んだ。

「――――――くるッ!」
「さっきもそんなこと言うてたやん。お姉ちゃんは離しまへんよ」
「ホントだよ! 今度はホントなんだよ!」
「さっきもそんなこと言うて(以下略)」

ぬぅうううう、この状態から逃れるための方便に、こんな形で苦しめられるとはぁあああああああああ!

こうなったら――――――――スーパーサイヤ人になってやるッ!

(「黄金の煌毛」発現!)
「――――――――はぁあああああああああああああ!」
「うわっ! なんやピリッときた……」

無駄に電気をパチパチさせたお陰でハチエが止まってくれた。

「もう、なん――――――――

ビシャァアアアアアアン!

彼女が不平を口にしようとした瞬間、行く手に巨大な雷が落ちた。
轟音。
切り立つ尾根を凹ませて、質量を持った何かが雷と同時に落ちてきていた。
発光する何かが天から降り立ったのだ。
甲高く馬が鳴くような声が、バチバチと放電している窪地から聞こえてきている。

「キタッ! ハチエさん!」
「ホンマやったんかいな! ごめんハルマサ!」

ハチエさんが剣を構えつつ叫ぶ。
いや、なんか僕の方がごめんなさい。

「ま、まぁ終わったことさハチエさん! 今は敵に集中しよう!」
「ハルマサはええ子やね……よっしゃ、ウチから行くでぇ―――――――――!」

ハチエが武器に選んだのはラオシャンロンの剣である。
馬鹿みたいに重いはずの剣を、彼女は小枝でも握っているかのように持って、走っていく。
彼女ほどの敏捷になると、重い武器を持った方が地面をしっかり蹴れるので速く走れる、ということでもあった。

「せぇい!」

ラオシャンロンの剣の利点はその重さであり、硬さであり、そして20メートルの刀身からなるリーチの長さである。
ハチエが剣を叩き込んだのは、発光する敵がまだ何者か分かっていない状態でのことだった。

雷みたいな速度で繰り出されたハチエの一撃を、その発光体は横に跳んで避けてみせる。
しかし剣でさらに力を増していたハチエの動きはただただ異常だった。
数十トンではきかない重さの剣を、山肌に叩き込んだ次の瞬間には跳ね上げ、発光体が逃げた方向に向かって振りぬいたのだ。

「ぬぁッ!」

ハチエの剣がその姿を真っ二つにしたことでこの戦いは終わったと思ったが、そんなことは全然無かった。
ハルマサの脳裏で、「観察眼」の情報を桃ちゃんが叫ぶ。

≪対象の情報を取得することに成功したぜ――――!
【キリン】:生物であり、自然現象でもある、魔法生命体。物理攻撃に応じて増殖。魔法吸収。
ステータスはなし。≫

(どんなモンスターだよッ!)

「コォアアアアアアアアアアア!」
「コォオオオッ!」

ハチエが切った瞬間、バチバチと紫電が爆ぜ、二つに断ち切られた発光体はそのまま別れて地に落ち、それぞれが立ち上がったのだ。
さっきほどと同じ大きさで、数が増えたのだ。

≪ふ、増えただとぉ―――――!? レベルは先ほどと変わっていません! 21のままだァ――――!≫

桃ちゃんが驚いてくれたので、ハルマサは少々冷静になれた。
これが増殖か!
物理無効なだけではなく、増えもするという……。最悪だよ! どうやって倒すんだよ!

「ど、どないすればええのん!?」

ハチエは、二体の猛攻を避けながら狼狽していた。
二匹のキリン(?)の動きは明らかにレベル21の範疇に留まっていない。
雷の速度そのままに縦横無尽に地を駆け、突進を繰り返している。
もしかしたら魔力を用いない上に物理攻撃かも怪しいハチエビームなら有効かもしれないが、残念なことに現在曇り。
彼女の瞳に光が蓄積するのはまだまだ先だ。

打つ手なしだろうか。
いや、まだ試してみることはある!

「レベル21以上の魔法攻撃ならいけるんじゃない!?」

でも、ハルマサはレベル21に効くような魔法攻撃を知らなかった。
カニ砲撃くらいだろうか。

そこで桃ちゃんに聞いてみた。

「桃ちゃん」
≪は、はいッ! 呼ばれて零れてお風呂にIN! 淑女の味方、桃ちゃん参上!≫

テンションたけぇ。

「魔法攻撃で強いのって何があるの?」

桃ちゃんはすぐさま答えてくれた。

≪ハチエ様が居る今なら! なんとマダンテが≫
「それ以外で」

ていうかそれだけはまさに死んでも使いたくない。

「もっとこう、ダメージがあるようなの無いの?」
≪自身の耐久力を全て使用することで特技「グランドクロス」が≫
「もっとできれば安全なので」

桃ちゃんはため息を吐くと「それではこんなんどうでしょう」と言ってきた。
ため息を吐きたいのはコッチだった。


ハルマサは体から魔力を発し、それを収束する。
右手に火! 左手に水! そして胸には雷! 口に風!

≪四方より集いて敵を穿て! 「混沌なる槍」ィイイイイイッ!≫
「ホゴァアアアアアアアアアアアアアア!」

口が閉じられないので不本意な叫び声となったが、ハルマサの放った魔力弾は今までの「極・~弾」を遥かに上回る威力を持っていた。
4本の魔力光が螺旋に絡み合い、一本の槍の如くキリンを串刺しにする。

≪ヒャッハーッ! 貫通してやったぜぇ!≫

桃ちゃんが喜んでいるが、ハルマサはとても喜べなかった。

「コォオオオオオオオッ!」

キリンが巨大化したからだ。明らかに魔法を吸収していた。

≪こうなることは何となく分かっていたさ! でも……試さずにはいらなかったッ! バカな私ッ!≫

そうですか。

それにしても、ハルマサの放った攻撃は明らかにレベル21の威力を超えていたはず。
それを丸々吸収するなんて……吸収させまくってパーン! は出来ないっていうのか!?
僕には、どうすることも―――――――――

≪かくなる上は、魔法の能力を無効化させないと……!≫

そうか! 白ヒゲか!
ハルマサはボールを取り出し、開放する。

「いけえ白ヒゲ! ボッコボコにしてやれぇ!」
「グルォオオオオオオオオオ!」

シュパーン! とボールから現れた魔法反射毛の白ヒゲは、状況を把握すると、一鳴きしてキリンへと殴りかかった。

「グルァアアアアアアアア!」

そしてヒョイと避けられた。

「グルゥ……」

向こうはレベル21を超越した動きを見せるのに対し、白ヒゲは一般的なレベル12の動きをするのだ。
攻撃が届くはずも無い。
そんな寂しそうに振り返られたって僕にはどうにもできない……。いや、投げるか。

「よぉし戻って来るんだ白ヒゲ!」
「グル!」

白ヒゲは元気にこちらへと駆けてくる。
その向こうで、ハチエさんが武器を二刀流に持ち換え、尋常じゃない速度で動いているのが見えた。というか見えなかった。
彼女の心配は……いらなそうだ。



<つづく>


◆「混沌なる槍」
 色々混ぜ合わせた槍型の魔法弾。貫通属性あり。混ぜ合わせる属性によって効果、威力は変動する。相反するものを混ぜ合わせるほど威力は高くなる。






[20697] 136
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 22:56


<136>

戻ってきた白ヒゲにハルマサは元気よく命じた。

「白ヒゲ! 丸まるんだ!」
「? グルゥ!」

白ヒゲは不思議そうにしつつも、丸まってくれた。
丸まるって言っても、骨格の問題で「ん」の字みたいになることしか出来ないみたいだけど。

ハルマサは体育座りしているドドブランゴを後ろから抱えると、狼狽して騒ぎ出すドドブランゴに魔法の言葉を吐いた。

「ちょっと黙ってて」
「―――ッ!?」
「でぇええええええええりゃぁああああああああああああ!」

掛け声と共に、ゴォ! と音速を遥かに凌駕するスピードで、ドドブランゴを射出する。
ドドブランゴは服従しているハルマサの命令のせいで一言も喋れないままきりもみ回転し、キリンへと直撃する。

ガァン! と激突音。

そう、音が鳴ったのだ。
目論見通り、白ヒゲの魔法反射特性は、魔法生物の増殖する特性を無視して、キリンへとダメージを与えていた。

「コォオオオ……ォオ……」

そして、一撃を受けたキリンは崩れ落ちる。
体を攻勢していた雷が拡散し、白い体毛に包まれた姿を現した。
額に青白く輝く角を生やしたその姿は、幻獣と呼んでも遜色の無い威容である。

≪で、でたぁ――――――! 対象の情報をキャッチ!
【キリン(真)】:雷から生れ落ちる幻獣。雷を自在に操る。
耐久力:5、持久力:5、魔力:500万、敏捷:5000万、器用さ:5、精神力:3000万≫

まともなモンスターが出てきた。
敏捷に特化したステータスをしているが――――

「とにかく倒せばいいだけだぁ―――――――!」

敏捷が6億を越えているハルマサにとってみれば、そんなことは関係ない。
走り寄る途中で目を回している白ヒゲを拾い上げ、振り回して叩きつけてしまうくらい余裕であった。

「コホォオオオオオ!」
「グワガッ!」

キリンの耐久値は凄く低いため、ドドブランゴを叩きつければ一発で倒せる。
こうして白ヒゲに経験値を入れてあげようという、溢れんばかりの僕の優しさ!

≪モンスターに酷いことしたので、スキル「ポケモンイーター」の熟練度が10%低下しました!≫

10か……。10パーセント!?
ちょっと脚持って振り回しただけなのに!

≪また、経験値を得たことにより、ドドブランゴのレベルが上昇しました。特技、「怪力」を習得しました!≫

おお、強くなったようだね白ヒゲよ。
そしてなんで僕から距離をとるんだ白ヒゲよ。
もしかして好感度は既に1(最低)なのかい?

「あんま苛めたらあかんでハルマサ。」
「あ、ハチエさん……ってキリンは?」
「ん? ああ、分裂する前に細切れにしたら倒せたで。」

そんなごり押しで……。

「さすがハチエさん!」
「そんなでも無いで? 照れるわァ……てへへ。」

ハチエさんが頭を掻いている向こう側では、白ヒゲが走り去ろうとしている。
甘いな白ヒゲ! 僕から逃げれると……モンスターボールッ奴を収納しろぉ!

白ヒゲは岩にかじりついて抵抗していたが、直ぐに引きこまれた。
そんなにイヤか……。


モンスターを倒した後は、恒例の戦果確認が行われる。

ハチエさんは、キリンとの戦いで「雷の石」をゲットしたようだ。

「あの、ピカチュウをライチュウに進化させる?」
「そうみたいやね。」
「……ドドブランゴに使えるかな」
「ハルマサは白ヒゲをどないしたいねん」

ハルマサの方は、白ヒゲとの美しい連携で倒したキリンがその場に残っていたので、もったいない精神を発動して美味しくいただいてしまった。
すると概念を得た。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン! 「概念食い」による、概念の吸収が発動しました! 概念「ピュアクリスタル・アイ」を取得しました。≫


目!? なんで目!?

◇「ピュアクリスタル・アイ」
 クリスタルのようにピュアに輝く瞳。暗いところでも光るので、他の人は明かりに困らない。※本人は眩しくて何も見えません。


早速発現してみた。
眩しくて何も見えない。「空間把握」で探って、ハチエさんの方を向いて笑ってみた。

「どう?」
「気持ち悪ッ!」

即答だった。ハチエさんって正直な人だから……

「いや、うん。気持ち悪い言うたんは言い過ぎ……でもあらへんけど、なんやゴメンな。落ち込まんとってや。もう飴ないねん」

……ハッ! また気を使わせて、僕のくそったれぇええええええ!

「いや、全然傷ついてなんかないよ! 便利な目だから感動しちゃって! この目を抉り出して、「欠損再生」を繰り返せば、一気に大金持ちだからね!」

希少価値がついてバカ売れだぜ!

「う、うん。ハルマサの目ぇやから止めへんけど……」

ハチエさんは凄く何かを言いたそうにしていた。




曇り空はやがて雨を降らし始め、ハルマサたちがさらに100キロほど進んだところで、雪が吹き荒れ始めた。
前が見えないくらいの暴風雪である。
ハルマサは寒さに耐え切れず、「濃赤の沸血」を発動した。
その瞬間に強い風が吹き、気付けばハチエさんとはぐれていた。

「ハルマサぁ――――! どこや―――――!」

遠くからハチエさんの声が聞こえる。
「空間把握」のない彼女には、とても厳しい状況ではないだろうか。

「ハチエさ――――――んッ! こっちこっち――――――! そっちじゃない逆!逆!」
「どっちやね――――ん!」
「だから逆…………ええいッ!」

――――「風操作」ッ!

ぶわぁ、とあたりの風が収まり、雪がドーム上に払い除けられていく。
「空間把握」でしか感じ取れなかった地形をやっと肉眼で見る事が出来た。

「ふぅ……危うくホワイトアウトするところだった。」

ぶっちゃけしてたけどね! まぁこれでよし!
無風の状態にしたドームの中で、ハチエさんはフラフラと歩いていた。

「ハチエさん? どうしたの?」
「おお……君はなんて使える弟やねん。ハルマサみたいな弟が居てウチはもう心残りはありまへんね……」
「ちょ、ハチエさん!? 目が虚ろだよ!? そっち誰もいないから! 何に話しかけてるの!?」

寒さのあまりハチエさんが危険なことになっていた。
顔がまっ白だ。
「沸血」で温かい指で、彼女の頬を触ると、赤く跡がつくほど冷え切っていた。
一刻を争うとハルマサは思い、全力で炎を頭上に放った。

「―――――――極・炎弾! 渦巻け!」

即座に「炎操作」で操り、ゴォ! と二人の周りを強大な炎の壁が包み込む。
一気に汗をかくような温度となり、しばらくしてハチエさんが正気を取り戻した。

「ハッ……! なんや、胸がたわわに実った夢を見たでぇ……」

幸せな夢を見ていたようだった。

「ハチエさん、寒いから雲の上通って行かない?」

そうすれば、こんな暴風雪を掻き分けて進む必要もない。優雅な空中遊覧が出来るだろう。
しかしハチエは乗り気ではなかった。

「んー。それでもええねんけど、さっき鍵あったやろ? 「焼けつく」っちゅうの」
「ああ、あったね」

持っただけで手が燃えそうになる鍵だった。

「あれがアカムで出るんなら、ウカムルバスでも鍵出ると思わへん?」

ウカムルバスは、アカムトルムと対をなすモンスターである。
体の形や大きさも似通っており、属性が違う。
アカムトルムが炎、ウカムルバスは氷である。

「凍てつく鍵、とか? ありそう……」
「そやろ? 二つ揃えたら何か起こる思うんよ。で、その辺にウカム居るかも分からんから、ショートカットは止めといたほうがエエと思うねん」
「なるほど」

そう言われればそうである。
この辺はモンハンをした事がなければ気付かないかもしれないし、大陸を俯瞰できるなら高い山が二つあることで気付くかもしれない。

「……このまま進むのはいいけど、ハチエさん寒くない? ずっと火で囲んでおこうか?」
「いやいや、心配いらへんで」

そう言ってハチエさんは一枚のカードを具現化させる。
ハチエさんの左手に豪奢な弓が出現し、同時に彼女の背から燃え立つ翼が生えてきた。

「暖房ならウチも持っとるねん」

バサリ、と炎の翼をはためかせて、ハチエさんは笑った。


<つづく>

PイーターLv25: 211,782,921 → 190,604,629



白ヒゲ(ドドブランゴ亜種・魔法反射毛)

レベル: 12 → 19
耐久力: 48,768 → 6,242,304
持久力: 12,868 → 1,647,104
魔力 : 5,152 → 659,456
筋力 : 26,884 → 3,441,152
敏捷 : 12,120 → 1,551,360
器用さ: 11,852 → 1,517,056
精神力: 15,204 → 1,946,112




<あとがき>
更新まだかって言われたらくるしかないぜ!
というのは嘘で、普通に書けたので投稿です。
遅くなりまして申し訳ないです。



>擬人化しない場合、せめて人間の言葉だけでも
そうしようかな。予定は未定ですが。

>この長い腕……ムガビだな!
ばれた!

>ネタがなければ、シリアスにすればいいじゃない
話のネタはとっくに枯渇気味なんですけど、そうではなくラージャン由来のアイテムの話だったんです……

>カロンちゃん宿題持ってきておいたらいいのに
空気になりつつもシコシコ宿題をするカロンちゃんか。

>LV60クラスのダンジョンってモノの強度も比例して強力になってるんだろうし、強力そうに見えるけど実はゴミスキルなんじゃ?
ゴミスキルかもしれないです。連射しても、痛くも痒くもないわぁ! とか言われるんでしょうねきっと。

>狙撃術のLv60:「地球破壊爆弾」 ドラえもんかいw
ほかにいい爆弾を知らなくて。

>アカムトルムとな、これは倒したあとに犬のように服従させてマサハルハーレム
みんながどんな話を読みたいのかわからなくなるんだ。
だから書きたい話を書くことにするよ。

>せっかくだから将来は波動砲撃とうぜ!
宇宙船艦食わなきゃ!

>個人的にはそれでも開かずに尋常じゃないほどイヤだけど、背に腹はかえられないという感じで真っ赤で涙目になりつつ男のケースを装着しようとするハチエさんが見たかった気がする
これを見たとき電流が走ったけど、直すにはすでに手遅れだったんだぜ。

>あのアカムがそんなに強いとは…たしかにムービーは誰お前ってくらい強いけど。
ムービーの格好よさに惚れた。実物は足が遅すぎると思うんだ。

>「いいえ。始めまして。私メリーよ。」「始めましてサリーちゃん。俺はマルフォイって呼んでくれ。」
もうそのまま使うことにした。別に伏線とかはないんでマルフォイきもいとか思いつつ呼んでください。

>全力を発揮できる状態でMPが尽きると防御しかできなくなるのですね、わかります。
どっかのプレイ日記で見たw
私はそこまで追い詰めたことはないなぁ……

>ふと、ゴッドイーターを見て、アラガミが出てきても面白いかな、と思った。
ゴッドイーターって面白いですか? モンハンあるからもういいやって思ってたんだけど。

>周りの女性人が魅力的過ぎて、ハルマサを呪い殺したくなってきた。
願い続けてるとハルマサが爆散しますね。多分。それかハチエの顰蹙を買って、一人旅になり、帰ったら母親にゴミのように扱われ、カロンちゃんには着信拒否される修羅道に突入するかもしれません。

>次に手に入れるべきアイテムは虎柄のブラだなw
ハチエはそんなに胸がないんだ……

>レールガンで風操作で空気抵抗を減らす様にするとかしたら面白そうだね ソウルオブキャットを弾にするとか
生えてくるんだし、ハルマサ君は腕とか飛ばすといいんじゃないかなと思った。

>咆哮でスタート地点までぶっ飛ばされそうな気がする。
ありだった……これをいち早く思いついていれば、あんなに展開に困ることも……!

>ゲットモンスターは食事でも経験値を得られるのだろうか?
殺さないと無理ですね。

>アカム弓の強さは異常。増弾のピアスと一緒に装備するとマジヤバイ。
使ってみたけど、強かった。いい感じですね。

>割り箸握りつつ無空波やれば無空波の連撃とかもできるのかな?
特技打った瞬間にぶっ壊れるのが確定してるので。そのダメージを抑えることができるくらいですね。でもどう持てばいいのやら……

>装備によって羽が生えたり牙が生えたりするなら、アレのケースを装備したらハチエさんフタn(ry
だ、大丈夫!素材の方の概念を発現するだけだから!

>更新マダー
おまた

>いつかは遅くなって、遅くなる=死ぬ
いつだってその危険はある!
でもやめるときはちゃんと言うよ!


…………修羅の門再開すんの!?ウソォ!? ソースは!? ソースはどこ!?




[20697] 137
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/08 00:09


<137>


【第三層 塔入り口】


「ハハーン。理解したぜサリーちゃん! この扉を見た瞬間、ピカッとな! ここで鍵を持ってくるプレイヤーを待っているんだろう!?」
「知らないわ」

マルフォイが鬱陶しくポーズを決めて叫んでくるので、マリーは心底この空間が嫌になった。
自分から動くのが面倒だとプレイヤーを待ち受けていたが、このキチガイと一緒に居るよりは、自分で鍵を集めに行った方が何倍もマシだとマリーは判断した。

「ん? 何処行くんだ?」
「……食事よ」
「それだったら、俺が美味しい死体を持ち歩いているぜ! 見ろ! 人間で80歳女性! 末期癌だ!」

最悪のチョイスだとマリーは思った。
この男とは死んでも分かり合えないだろうし、合いたくない。
まぁ、どちらも死んでいるのだが。

「いらないわ。もう話しかけないで」
「またまたー。この抹香臭いのがたまらないってサリーちゃんも思わな」
「潰して英霊」

メゴシャ!

マリーは呼び出した巨大骸骨でマルフォイを叩き潰してから、いささか軽い足取りで山へと歩を進めるのだった。




【第三層 中央連嶺】


びょうびょうと風が吹き荒れる中、ハルマサの作った無風のドームはハルマサとはチエを中心として、スルスルと雪山の頂上へと向かっていく。
気温はかなり低いが二人とも自ら熱を発しているので問題ない。
特にハチエさんの翼は温度の強弱が出来るようで、そばに居るハルマサも温かかった。
こんな便利な翼があれば、マッチ売りの少女も凍えて死なずに見世物小屋に売り飛ばされて悲惨な人生を……あれ?

とにかく。

「綺麗だねぇ」
「そうやろそうやろ! なんせウチは、ミス岡山大に選ばれそうで選ばれなかった女やからな!」

選ばれなかったんだね。
翼のつもりで言ったんだけど、まぁ訂正するほどのことでもない。

「学校祭の日にお腹壊してもうてん。緊張で」
「不戦敗なんだ」
「まぁ優勝したんが恩返しに来た鶴みたいな子やったから元々無謀な勝負やってんけど」
「でも、健康的な魅力ならハチエさんの勝ちだね!」
「ふふん! ウチのおだて方をわかっとるなハルマサ君! そんな君にはこの雪だるまを進呈しよう!」

さっきから固めた雪を手でショリショリ削っていたハチエさんが、怪しげな形をした雪だるま(?)を渡してくる。

この造形は……!

「間違いない、ゴジラだ!」
「惜しい! ガメラや!」

自信満々で言ったのに外れたぜ!
まぁ取りあえず巨大怪獣という点は正解だったようだ。
はい甲羅、とハチエさんがさらにパーツを渡してくる。
やたら上手だな……
くっつけてみても、甲羅を背負ったゴジラにしか見えないけど。
どうにかしてガメラに見えるビューポイントを探しているハルマサに、ハチエは呟いた。

「………もうドンくらい歩いたんやろか」
「さぁ……」

視界は360度まっ白である。
自分たちの居場所さえ下手したら見失うだろう。

目が利かないと言えど、まっすぐ進んでいることは間違いない。
切り立った尾根の形を「空間把握」で探りつつ進んでいるし。

「まぁいつかはつくわな。それよりご飯にしよか」
「イェア! その言葉を待っていた!」
「ブランゴのアバラ肉残っとるし、焼いて食べるためのカマクラ作ろか」

ハチエさんは案外雪いじりが好きらしい。雪の少ないところに住んでいたのだろう。
しかし雪を固める必要はない。
この生きる便利グッズことハルマサにかかれば!

ハルマサはいそいそと雪を掻き分けて露出させた地面に手をついた。
そこに魔力を注入!

「――――――土操作ぁ!」

ゴガーン! と地面から中が空洞の立方体を出現させる。
扉を作るほどでもないと、入り口は穴だ。

「おお、ハルマサナイスや。ついでに網も作ってくれへん?」
「任せておくれ!」



入り口の穴からホワホワと煙が昇っていき、ハルマサの行っている「風操作」の範囲外に出た途端吹き散らされていた。
二人は魔力の火の上に設置した網の上でジュウジュウと薄切りにした肉を焼いていた。
他の具材は各種キノコとリンゴだ。
「収納袋」の中は基本的に物が腐ったりしない。時間が止まっているという便利グッズである。

「む、この薬草に巻いて食べると美味しさがアップ!」
「おお、苦いのがなんとも……乙な味やね」

彼女と出会ってまだ2日だが、こうして一緒にご飯を食べたり命を預けたりしていると、もはや家族みたいな親近感が湧いてくる。
ついついハチエ姉さんと呼んでしまいそうになるのだった。

「うーん……」
「どうしたん? お肉足りひんならもうちょい切ろか?」
「そうじゃないけど、お肉は欲しいです!」
「はいはいっと」

ハチエが短刀で肉を薄く切っては網に載せていく。
こういうのもいいな、とハルマサは思った。



ご飯を食べ終えて、二人はさらに歩を進める。
雪の中、疾走するのはまた逸れてしまいそうなので、進むスピードは大分遅くなっていた。

「ハルマサ、一つ言ぅてええ?」
「…? 何?」

ハチエさんは泣きそうな顔をしていった。

「足、メッチャ冷たいねん」

確かに地面は冷たい……

「ていうかハチエさん裸足じゃん!」

ハチエさんの足がやばい色になっている。

「ちょっと浮かびながら行ってもええやろか?」
「いいと思います! というかなんで今まで我慢してたの!?」
「いや、フラフラしとるとまた逸れるんちゃうかなぁって」
「だ、大丈夫だよ! 居なくなってもすぐ見つけるから!」
「ありがとう……」

さっきから風はますます強くなっており、気を抜いたら「風操作」の許容量を越えた風が吹き込んでくることもある。
それでも「空間把握」があるから、一瞬にして200メートルくらい吹き飛ばされなければ大丈夫なはずだ。

ずっと羽ばたくのも辛かろうとハチエにソウルオブキャットを貸してやり、進んでいくこと数十分。

ハルマサの「回避眼」がハチエを襲う光の筋を視界に映した。
瞬時にハルマサは動く。

「ハチエさん!」

剣の上に座って翼の炎で足を炙っていたハチエの手を掴み、こちらへと引き寄せる。
その直後、雪の空を切り裂いて雷が着弾した。

雪だろうが関係なく地面を抉った雷は、やはり先ほどと同じモンスターだった。

「またキリンかいな!」
「待ってハチエさん! まだ来る!」

ビシャァアアアアアン! ピシャアアン! ピシャアアアアアン! ピシャアアアアアン!……

暴風雪の檻に囲まれたハルマサたちの周囲に、何度となく雷は落ち、バチバチと電光を迸らせながら十を楽に越える数の発光体がいななき出す。

「落ちて来過ぎじゃないかな!?」
「豪勢やね……」

ハチエさんがぺろりと唇を舐め、金棒を取り出した。
ミシリと彼女の頭から雄牛のような角が生える。

「んでも、倒し方分かっとるから、アイテムゲットのチャンスやでぇ!」
「確かに……それなら僕は踊り食いに挑戦しよう!」

「概念食い」だったら多分雷だって食えるよね!

≪うぉおおおおおおおおお! いっけぇえええええええええええ!≫

桃ちゃんが熱いセリフを叫んでいるので、いけると判断。
ハルマサは飢えた捕食者となり、電光の群れへと襲い掛かった。



<つづく>






[20697] 138(誤字修正×2)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/08 01:07
<138>



ハチエであれば、追いきれるキリンの速度も、ハルマサだと結構キツイ。
だからハルマサは本気で行くことにした。
広範囲に広げた「風操作」のドームのなかで、ハルマサは叫ぶ。

「加速ッ!」

ギャイ、と周囲の風景を置き去りにして、ハルマサは走った。
軽く300億を突破した動きは、光速すら凌駕している。
色々無理はあるだろうが、きっと万能ツールの「魔力」が何とかしてくれているのだろう。

ハルマサは電光より速く動き、キリンに接近すると大きく口を開け、齧り付いた。

≪「概念食い」発動です! ビリビリきます?≫
「全然こないね!」

「黄金の煌毛」(=雷耐性100%)を発動しているので、何も問題は無い。
雷の味と言うものはよく分からなかったが、案外すんなり食べる事が出来る。

モンスターでもあり自然現象であるキリンは、咥えられてもあまり痛い様子も見せず、ジタバタと動いていた。
ハルマサは一気に吸い込んだ。
素麺を食べるようにつるん、と。

胃の中でバチィと電光がはじける感触。
桃ちゃんがファンファーレを鳴らしもせずに叫んだ。

≪で、でたぁああああああああああああああ! 概念吸収しちゃったよマスター! 新概念は「電流の体躯」! 名前からして強そうだァ―――――!≫

確かにその通りである。


◇「電流の体躯」
 電気によって構成される肉体。胸の部位にある直径一センチのコアを除き、物理攻撃無効。外部からの雷属性の攻撃を吸収する。光の速度で移動可能。発動中は、雷属性以外の魔法が使えなくなり、物理的な干渉が不可能になる。


おほー。

「普通に使える!」

主に緊急回避が必要な場面で。
敵を抑えておいて、僕に構わず攻撃しろぉ――――!って言える様になったぜ!

早速発現してみよう!

―――――――バチバチバチッ!

手を見てみれば、はじける雷である。
自分の体を触ってみれば、手が体を素通りした。どうなってるんだろうコレ。ちょっと怖い。
電気の精霊みたいになったハルマサは、重要なことに気付いた。
この姿だと、雷以外使えないから「風操作」できないや。

ブワワワワワワ!

風のドームは脆く崩れ、暴風雪がなだれ込んでくる。

「―――――!?」
『ああッ!? ハチエさんが……あれ?』

ハルマサの声は空気を震わせていなかった。
自分に聞こえるのもテレパシーな感じである。
そしてその時気付いたが、五感の内、働いているのが視覚だけだった。
あとは全部分からない。
ハチエの叫びも聞こえない。

地味に咆哮対策も出来るということか!
でも今は解除しなきゃ!

「―――――――解除! ………寒ッ!」

発現し終わってから気付いたが、来ていた服が体を素通りして落ちている。
ブレスレットも落ちている。
何故か指輪と腕輪はついたままだが、この寒空の中、全裸。

―――――し、死んじゃう……

≪マ、マスターの大事な袋があんなに縮んで……!≫

桃ちゃんが何か言っていたが、無視して、急いで服を着る。ブレスレットも嵌めて、と。
こんな姿見せたらハチエさんに嫌われちゃうぜ!

――――――「風操作」ッ!

フォン! とあたりの風を沈静化させると、ハチエさんは風にあおらながらもキリンを倒し続けていたようで、残りのキリンはもう2匹しか居なかった。
そして――

「これでしまいやぁ―――――――!」

ヒュババババババ!

ハチエさんの素早すぎる金棒捌きによって、キリンは纏めてかき消されるのだった。



「おおー。またエヴァンゲリオンのパーツ出たで」
「パーツって言うか………乾電池?」
「単三やな」

エヴァンゲリオンのパーツがどれもこれも貧相な気がしてならない。
名前は全部カッコいいのに、描いてあるイラストがことごとく貧相だ。

「衝撃吸収剤」っていうアイテムはどう見ても小さなゴムタイヤだし、「加速装置」は小さなモーターだ。
今回の「S2機関」とか、ただの単三乾電池。
永久機関って名づけたんだからせめて充電出来る奴にしたらいいのに描いてあるのは使い捨てである。
というかこれって出来上がるのエヴァンゲリオンじゃなくてミニ四駆なんじゃ……?

いや、でもカイバーマン人形であの強さなんだから、きっと出来あがるエヴァンゲリオンも強いに違いない。
パーツを12個も使うんだし。
でも次にホイールとか出てきたら覚悟はしておこう。エヴァンゲリオン号という名のミニ四駆が出来ることを。

「あとな、生活お役立ちグッズが出てん」
「そうなの?」
「そうやねん。これや」


○「電子レンジ」
(Lv2)耐久値:30
 業務用の電子レンジ。中に生物を入れてチンするとヤバイ。扉を開けて側面を叩いたら、5発だけ「気功砲」が撃てる。
耐久力+200%


イラストには、上半身裸で丸坊主の筋肉質な男が、電子レンジを構えつつ、「はぁッ!」と叫んでいる一コマ漫画が描いてあった。

「…………天津飯?」
「そうやねん。ドラゴンボールの天津飯やねん」
「絵ぇうまいな……誰が描いてるんだろう。そして何で電子レンジ……」
「ちょいちょいキッチン用品でるんよね。次のもそうやで」


○「アイスピック」
(Lv18)耐久値:400万
 キリンの角から作られた氷を砕く鋭いキリ。取り扱いに気をつけないと指に突き刺さってなんじゃこりゃぁあああ、ってなる。氷であればどんな硬さでも貫き砕く。
耐久力+200%、筋力+200%、敏捷+1200%、器用さ+2000%


「普通に強―――――――い!」
「ネタ系かと思っとったら普通に使えるのが出て驚きやねん」

ハチエさんは色々と諦めているようである。
合計10体倒したハチエさんだったが。やたらS2機関がいっぱい出たらしく、今回ゲットできたのは4種類だけらしい。
最後のカードを出してハチエさんは言った。

「そして極めつけはこれやねん」


○「ゴロゴロの実」
 極稀に生成される悪魔の実。食べたものは雷人間になれるが、水鉄砲で即死するくらい水攻撃に弱くなる。もちろんゴム人間の前には無力。そしてお風呂にも入れなくなる。実の効果は約12年続く。


「つ、ついに悪魔の実キタ――――――!」
「お風呂ダメやと、とても食べる気になれへんのよね」
「でもハチエさん! 敵に食べさせたら凄くない!?」
「……ッ! 即死やん!」

これでボス戦楽勝だぜ! とハルマサとハチエは一しきり騒ぐのだった。


「ていうかウチお風呂入ってへんやん! ……ものごっつ臭いんちゃうかな」
「そう? 良い匂いだけど?」
「か、嗅いだらあかんて!」

頭をはたかれた。

「…………じつは臭気排除って言う特性があってうんたらかんたら」
「……ならハルマサの近くにおったら臭わへんっちゅうことやね」

乙女的には、臭う状態はNGらしい。
入り口で半月ほど足止め食らっていたときはともかく、昨日の晩に体を清めなかったことを死ぬほど後悔していた。
今すぐにでも風呂に入りたそうなハチエさんだったが、ハルマサの特性を聞いて、なんとか我慢してくれたのだった。
閻魔様のところに行った後だから汚れは落ちているし、一日くらいでそんなに変わらないと思うけど。



S2機関(乾電池)を大量に手に入れたハルマサたちは、さらに先へと進んでいった。
何時の間にか上り坂になっており、上からは冷たい空気が氷を伴い落ちてくる。
氷は風の膜を容易く貫通してくるので迎撃せねばならず、さらに進むスピードは遅れるのだった。
ハチエが、炎の翼をワサワサさせつつ、雪で何も見えない空を見る。

「やっぱ飛んで行った方が早かったかも知れへんなぁ」

直径2メートルはある氷の塊を弾きながらハルマサは答える。

「こうやって進む道にこんな障害が用意されているってことは、上空にも同じくらいの障害があったんじゃないかな」
「そうやろか」

第二層の入り口みたいな迎撃があってもおかしくはないとハルマサは思っていた。
楽な道を容易に選ばせない、執拗なまでのいやらしさがこのダンジョンにはあると確信しているのである。

ハチエさんは自分の提案で僕を大変な目にあわせていると思っているのかもしれない。

「ハチエさんの提案に乗るって決めたのは僕なんだし、気にしなくてもいいんじゃないかな」
「ん? そう?」

そう言ってハチエさんは炎の翼を撫で付ける。

「ハルマサに気ぃ使わせてもぅたなぁ……。んでも」

ハチエはハルマサの頭をポンポンと撫でる。

「嬉しいわ。ありがとな」

ハルマサは少し恥ずかしくなったのだった。


<つづく>




fさん、でいさんありがとう。
誤字修正 N2→S2



[20697] 139
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/08 00:11



<139>


山肌はいよいよ急勾配になり、ほとんど四つん這いならなければ進めないほどである。
上からの吹き降ろしは、これが俺の本気だ! とばかりに勢いが増している。

「ハチエさん、ここからはもう一気に飛んでいかない?」
「そうやね。ウチなんか既にソウルオブキャットに乗っとるし」

そう、急斜面に苦しんでいるのはハルマサだけ。
ハチエは山肌の近くをフワフワ移動しているのである。

「ソウルオブキャットで一気に行こう!」
「よっしゃ、行くでぇ――――――!」

今となっても、ソウルオブキャットの扱いは彼女の方が上である。
ハチエの手から魔力の注ぎこまれた漆黒の大剣は、飛行術式を開放し、一気に地面と反発。
空中を弾丸のように進んでいく。

ハルマサの「風操作」にかかる負担は一気に重くなり、直ぐにほとんど無くなった。

雲の上に出たのである。

「雲の上はやっぱり晴れてるねぇ……」
「ハルマサ、あれちょっとよう見えへんけどまずいかも分からんで」

そういうハチエは既に目に光を集め始めていた。
彼女の「光芒なる瞳」はハルマサの大半の概念と同じくON・OFFが出来る。
そのスイッチをいち早く入れた彼女が見ているのは、雪山の頂上。
火山の頂上にあったものと同じく、半径300メートルほどの氷のリングである。
その上で、アカムトルムより少し大きい、小山のような白い竜が、こちらに向けて口をあけていた。

≪レベル29! あの竜を倒せた君たちなら、きっと倒せる! ガンバレガンバレ負けるな諦めるなもっと輝けぇえええええええええええええええええッ!≫

レベル29か。それなら何とかなるか……!
ハチエが唸る。

「ぬぁッ!」

ここの光は強い。
かなり短時間で溜まった光は纏め上げられ、ハチエビームが放たれた。

キュン、とここから白い竜までの距離800メートルほどを一気に切り裂いて、ハチエビームは竜が大きく開けた口に着弾する。
しかし竜は一瞬ひるんだだけで、その口から氷の奔流を吐き返してきた。

ハチエはソウルオブキャットと、自身の背に生えた翼を使って、攻撃範囲がバカ広い攻撃を回避する。
その中で、ハルマサはソウルオブキャットの上に立ち上がり、左手を構えていた。

「ん? カニ砲撃つん?」
「いや、今回は違うんだ」

さっき気付いたけど、この左手には、肘まで届くような穴が手の平から空いている。
綺麗に円柱状に。
だから、そこに電流を流せば―――――

「レェエエエエエエエエルガンッ!」

レールガンを片手で撃てる!

空気の壁を貫いて、プラズマ状態の鉱石が飛び出していく。
ヒョゥ、と飛んだ弾は、瞬き一つの時間をかけて、ウカムルバスに着弾。

ハルマサの持つスキル「狙撃術」は放つ矢弾に属性を付与できる。
今回付与したのは―――――炸裂弾。

ゴォン! と着弾した弾が爆発。ウカムルバスの鱗がはじけ飛び、その巨体を揺るがせる。

それを見据え、バチバチと放電する左腕を構えてハルマサは魔力を練り上げる。

「まだまだぁ!」

シュオン! シュオン!

連続で飛び出していくプラズマ弾が、ハルマサの魔力で炸裂する爆弾へと変化する。
着弾し爆発が連続して起こる。

―――――――ガォアアォオアアアアアアアアアアア!!!!!!

遥か視界の先で咆哮するウカムルバス。
ハルマサはさらに攻撃を加えようとして――――――攻撃を止めた。
「重殻左腕砲」の発現を止めた腕がシュゥゥ……と焦げて煙を上げている。

「どしたん? もう倒したん?」
「いや―――――」

ハルマサはその視界の先で動く、小さな影を見る。

「人が居る」

その小さな人影はウカムルバスに無造作に歩み寄ると、右手の武器を尻尾に突き刺した。
次の瞬間尻尾が千切れる。恐ろしく切れ味が良いのか、それとも違う要因か。
人影は飛び跳ねて、ウカムルバスの頭へと到達し、一気に頭を割った。
鮮やかな殺戮劇だった。

ていうか獲物取られた。

「………ハチエさん、降りよう」
「? まぁ構へんけど」

ぎゅん、と二人は雪山の頂上へと降りていく。
近づけば近づくほど空気が冷たい。

「ん? もう倒されとるやん」
「………」

ブワッと氷の欠片を吹き飛ばして、ソウルオブキャットは地面から1メートルの位置に静止した。

「あら。プレイヤーの方たちかしら?」

ハルマサたちに声をかけてくるのは、先ほど獲物を攫ってくれた紫色のルージュを引いた背の低い少女である。
その顔には薄気味の悪い笑みが浮かんでいた。

「そうだけど……」
「人の獲物横取りするのはちょっとあかんのんちゃう?」

ハチエさんはこの少女があまり気に入らないようである。声があまり穏やかではなかった。
しかし、少女はハチエを無視して口を開く。

「私、鍵を探しているの。一つは手に入れたから、もう一つが欲しいの」

少女の左手には氷で出来た鍵があった。

「鍵……」

この極寒の地においてなお冷気を放つ氷の鍵はそれを持っている少女の腕をパキパキと、ゆっくりとだが凍らせていっている。
しかし、彼女の表情には何の痛痒も、恐怖も浮かんでいなかった。
そこらで摘み取った花でも下げているようだった。

「なぁ、あれって……」
「うん」

ハチエさんが声をかけてくる。
ほぼ確実に、ハルマサたちがアカムトルムから手に入れた燃える鍵と対になるものである。

「あなたたち、鍵のことを知っているのね!」

少女は一層、笑みを深める。
ネトッと空気が重くなり、これが純粋な殺意なのだとハルマサが気付いた時には少女が動き出していた。

「私にくれないかしら。必要なのよ」

腹の傷からはみ出した内臓みたいな笑みを浮かべつつ、少女は歩み寄ってくる。

「ねぇ、いいでしょう? いいわよね。黙っていてはいけないわ。はやく答えないと―――――――」

その少女の声を遮ったのは、陽気な男の声だった。

「よぅ! 俺はマルフォイ! こっちの嬢ちゃんはサリーちゃんだ! あんたらの名前は?」
「うるさいわ」

突然少女の横に出てきた男が、振り返りざまの少女の鎌で首を飛ばされる。
その首を、首が無い体が空中で掴んで切断面に押し付ける。
その一連の動作の後、今しがた即死したはずの男は言った。

「中々疾いな! さっきは実力を隠していたんだなサリーちゃん! なんてステキな少女なんだ! 俺と付き合ってくれないか?」
「あなたは死ねばいいわ」

殺された男が交際を申し出るという訳の分からない状況に混乱しつつも、しかし、ハルマサは理解していることがあった。

≪なんとぉ―――――――! レベル30とレベル32相当! 男の方がバカ強いです!≫

この二人は強いということと、敵だ、ということである。

「まぁ、このゾンビは無視していいの。それよりも。あなたたち鍵をもっているのでしょう? はやく出さないと―――――――殺してしまうわ」
「まぁどっちにしても殺すんだけどな」

少女は薄気味悪く、男は朗らかな笑顔でこちらを見るのだった。



<つづく>




[20697] 140(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/13 23:27



<140>

「まぁ、どっちにしても――――――殺すんだけどな」

ハルマサは、その男のセリフを聞くと同時に地面を蹴った。
二人が強いという情報を、ハチエさんに伝える時間すら惜しかった。
男の方はレベル32、すなわちステータス平均214億7千万。
一秒過ぎたら二人とも死んでいるかもしれないのだ。

―――――――――――加、速ッ!

周囲の空気は体を重く押さえつけるゴムの牢獄のようだ。
それを掻き分けるためにハルマサの体を風の膜が覆い包む。
そして体中の神経に、筋肉に雷が走る。
通常の神経の周りに擬似的な神経を作り上げ、情報の伝達速度を上げなければ、とても現状についていけない。

そしてハルマサの敏捷は227億。光速を越えた。
光速とは、一秒間で地球を七周半する速度。秒速30万キロメートル。
ここまで来ると、もはや普通の視覚では役に立たない。
自分に跳ね返った光に追いつき追い抜くことになるのだ。
一瞬前の自分が見えると同時に周りの光景も入ってくる。当然混乱する。

だから、ハルマサは目を閉じていた。

――――――――――「空間把握」ッ!

音も光も置き去りにする速度の中で、これほど頼れるスキルも無い。

地面を削りながらハルマサは動き、男の背後に回り込む。
背後に到達して、「解体術」で男の壊れやすい部分を見て怖気が走る。
壊れ「にくい」ところが全然無かったのだ。

怖気を振り払い、体の勢いを乗せて「手刀斬」で首を刎ね飛ばす。
ゾル、という身の毛のよだつ感触と共にあっけなく男の首が宙を舞った。

――――笑ってる…!

クルクルと回る男の首が面白い玩具を見つけた! という具合に満面の笑みに変わっていた。
粟立つ体を抑え、次に少女のほうへと攻撃を加えようとして――――とてつもない悪寒!

(――――――クッ!)

―――――ヒュオッ!

頭を下げると、2センチ上をハルマサの敏捷を遥かに上回る速度で刀が通り過ぎる。
男の首なし死体が振り返り様に右手で居合いを放ってきていた。
下げ遅れた左手に激痛。

(!?)

左手の手首から先が、男の首と同じようにクルクルと回転していた。
切断面から血が盛り上がり―――――――

(ぅおおおおおおおおおッ!)

その血がふき零れる前に「重殻左腕砲」を発現する。甲殻の手首から先は具現化されない。
それでもいい。手首で直接―――――――殴れッ!

――――――――「無空波」ッ!

グボォ、と手首が、甲殻にヒビを生じさせつつ男の体にめり込んでいく。
特技の効果で生じる振動が男の次の動き―――――刀の切り下ろし――――――を僅かに遅らせた。

(おらぁあああああああああああああああッ!)

その、生まれた一瞬の隙にハルマサは埋まったままの左手から、カニ砲撃をぶっ放した。

―――――――ズォッ!

手首から発射された魔力の奔流が眩く溢れ、男の上半身を消し飛ばす。

(だぁ、らぁああああああああ!)

そしてハルマサは止まらない。
まだ浮かんでいる男の頭を横に向かって蹴り飛ばし、少女にぶつける。
その行方を見ることなく、まだ空中で回転している左手を掴んで手首に押し付け、「欠損再生」を発動する。
最低限くっ付くのを待ってハチエのそばに駆け戻り、彼女の手を引っ張って一足飛びにその場を逃げ出した。
僅か一秒にも満たない時間のことであった。



ダン、ダンッ、ダンッ!

空中を蹴り、ハチエを引いて空を移動する。
およそ5キロほども移動したか。
ハルマサは「加速」を止め、ハチエの持っているソウルオブキャットに魔力を送り込んで飛行を始めた。

「はぁ……はぁ……」

持久力もほぼカラだ。
かなりの量熟練度ボーナスで回復していたが、それでも枯渇寸前。

ハルマサの中で最も威力が高いと思われる攻撃の連続使用だったが、決してあの男を倒せているとは思えなかった。
感触が、脆すぎたのだ。
そう、まるで腐肉でも殴っているかのように。
それに、男の反応が恐ろしかった。
ハルマサの「魔力放出」も用いた全力の動きに、男の視線は確実についてきていたのだ。
と言うよりも、ハルマサより遥かに疾い。
さっきので死んだか? いや、桃ちゃんが何も言ってこない。生きている。
今度会えば、上半身を消し飛ばされるのはこちら側だろう。

早急に力をつけなければ。

「なんなん? どうしたん?」

雲の上で、ソウルオブキャットの全力飛行を行っているとハチエの認識が現在に追いついたのか、突然景色が切り替わったことに驚いていた。

「………ハチエさん。あの二人、僕らより確実に強かった」
「そ、そうなん? まぁイヤな感じやったけど」
「レベルを上げないととても敵わないと思う」
「急すぎる展開になんともいえんけど、強くなるのは賛成や。んでもええ敵おったっけ?」
「入ってきたところの森に戻ろう」
「……なるほど」

あそこには、巨大な龍が居る。
ハルマサたちでも倒せるであろう強さの、レベルが上の相手である。

「……ハルマサ。どうでもええねんけどな?」
「どうしたの?」
「左手変やない?」
「え……ほぅあああああああああああああッ!」

掌が手の甲のある位置にあった。
裏表にくっ付けていたらしい。

――――――なんという違和感ッ!
どうりで中々引っ付かないなと思っていたよ!
ハルマサは痛みに苦しみながら切り離し、引っ付け直すのだった。





【第三層 雪山頂上】


少女の胸を貫通して地面に突き刺さったマルフォイは快活に笑っていた。

「カハハ、容赦ねぇな! 気に入ったぜ!」

マルフォイは下半身だけの体を放棄し、首から体を再生させる。
彼の体の基点は5つ。
魔力砲で3つ潰されたが、特に問題ではない。
頭の基点は生半可なことでは消えないのだから。

「ぬぅ…ッ!」

四肢を踏ん張ってスポンと頭を引き抜くと、胸の大穴をギュルギュルと再生させている少女が無表情で呟いた。

「あら。死んでいないの」
「残念そうに言われるとテンション上がるぜ!」
「忌々しい。死ねば良いのに」

全然残念そうでも忌々しそうでもない表情である。
というか無表情である。
この少女には、気味の悪い笑顔と無表情しか表情が無いのではないのではないだろうかとマルフォイは思った。

少女は、穴のあいた服を魔力で補填しながらため息をつく。

「あの男の子、私より速いわ」

確かにそうかもしれない。
マルフォイよりは格段に遅かったが、少女ではきついかもしれない。

「しかも動いてる最中にドンドン速くなってたな。どうなってるんだ? 食べてみてぇな!」
「あなたを殺したいわ」
「なんで話題戻ってるんだ!? まぁ、俺を殺したいほど独り占めしたいのはよく分かったぜ!」
「………あなたは海に突っ込んで死ねばいいわ」
「それは普通に死んじゃうから勘弁だな!」
「あら!」

少女が今までにない心底嬉しそうな表情で「英霊」と呼んでいた骸骨を召喚し、殴り飛ばそうとしてくる。

「おっと」

マルフォイは霧になって避けた。
ブォオ、とマルフォイの体を巨大な骨の腕が通過していく。
少女は露骨に舌打ちする。
初めての反応でマルフォイのテンションが上がる。

「吸血鬼だったの?」
「実はそうだったんだぜ! サリーちゃんは?」
「マリーよ。男の子を止めるには手が足りないわ。新しい死体が欲しいの。死んでくれない?」
「それは愛するサリーちゃんの頼みでも聞けないけど……この婆さん使うか?」

一応聞いてみたが返事はなく、鎌の斬激が飛んできた。
それを指で挟んで止めながら、マルフォイは真面目に提案した。

「あの大きいモンスターを捕まえれば良いんじゃね?」

あら、と少女は意外そうに言いつつ、鎌を引く。

「………あなたも時々は役に立つのね」
「照れるぜ!」
「でも死んで。」
「断るッ!」
「死んで欲しいなぁ」

そんな拗ねたような表情……ズルイな!

「だが、この男マルフォイ、その程度で死んでやる訳には――――」
「……ダメ?」
「う、上目遣いだとぉおオオオ!?」

マルフォイは無駄に苦しんだ。




<つづく>



ハルマサ
耐久力: 209,274,029 → 249,242,267
持久力: 255,475,401 → 356,946,210
魔力 : 505,821,526 → 1,076,075,276
筋力 : 284,641,304 → 509,900,001
敏捷 : 450,774,733 → 874,594,617  ……★1,311,891,926
器用さ: 564,039,110 → 1,169,024,830
精神力: 276,586,761 → 276,586,761

○スキル
魔力放出Lv26: 185,928,337 → 519,829,301  ……Level up!
風操作Lv26 : 127,839,203 → 382,450,654  ……Level up!
雷操作Lv26 : 156,928,341 → 404,912,773  ……Level up!
魔力圧縮Lv26: 161,820,047 → 398,172,833  ……Level up!
観察眼Lv25 : 55,728,301 → 262,273,891  ……Level up!
拳闘術Lv25 : 29,187,203 → 229,028,391  ……Level up!
空間把握Lv25: 21,938,220 → 198,430,120  ……Level up!
撹乱術Lv25 : 132,938,443 → 284,718,022  ……Level up!
空中着地Lv25: 47,229,034 → 192,381,022  ……Level up!
撤退術Lv25 : 86,372,972 → 209,378,115  ……Level up!
心眼Lv25  : 151,894,722 → 255,928,301  ……Level up!
身体制御Lv24: 82,394,229 → 139,300,281  ……Level up!
突撃術Lv24 : 46,992,093 → 97,827,110  ……Level up!
狙撃術Lv23 : 23,051,500 → 53,448,019  ……Level up!
土操作Lv23 : 23,784,903 → 53,844,920  ……Level up!
鷹の目Lv22 : 4,762,733 → 29,833,400  ……Level up!
水操作Lv21 : 9,062,001 → 16,823,981  ……Level up!
炎操作Lv20 : 167,283 → 7,829,001  ……Level up!
概念食いLv20: 2,076,381 → 5,987,220  ……Level up!
回避眼Lv24 : 144,298,423 → 147,829,033

<あとがき>
なんで北海道なのにこんなに暑いの!? そしてウチワが売り切れってどういうこと!?

光速を越えた時の現象はかなり適当。
光速越えた瞬間、質量が無限大になるとか聞いたことあるけど、きっと魔力的な何かが良い様にしてくれてるんだよ。
ドラゴンボールの「気」みたいに!

という言い訳祭り。


>ハチエは胸がないっていうけど、概念で見た目が変わるなら胸が大きくなる概念を込めたブラを出せばいいんじゃね?
魔法のブラですね。おっぱいでかい敵のおっぱいを引きちぎっていたら出てくるかもです。

>よく分からないけど、ソースを置いておきますね^^
こんなの見せられたらお好み焼きが食べたくなるでしょ!?
座布団一枚進呈。

>外道照身霊波光線!!ところでコレの光はハチエさんの『目からビーム』の充填に使えるんでしょうか?
予想を超えるものが世の中にはあるものだ……
使えるんじゃないでしょうか。いや、使えませんけど、二人で見つめ合ってビームが撃てたら素敵ですよね。

><修羅の門>3000万部の人気格闘マンガ 13年ぶり連載再開へ
もうちょい生きてみようかな

>白ひげの高感度が下がったようですが……このままいくと非常食にw
なっちゃいそうです。うそです。

>「貧乳」は、ステータスだ!!!
女の子に言うと殴られるんで注意が必要なんだぜ。

>カロンちゃああぁぁぁぁぁんんんんん かむばあぁぁぁぁぁぁっく!!!
魂がこもるほど叫ばなくてもw
その内ヒロインに返り咲くはず!

>モンハンと同じくゴッドイーターも仲間とやると凄く楽しいです。
孤独を愛しすぎている私には到底無理だ!

>しかし「マダンテ」の発動条件ってなんだったけ?
親友の心臓です。一定以上親しければオーケーなので、母ちゃんの心臓でもいけます。

>これはセクシーコマンドー習得フラグだなw
セクシーコマンドーはもう少し下の階層じゃないと出せないな!

>魔力の要らない砲台の能力はハチエよりハルマサがとるべきだった。
まぁノリで書いてるんで不合理たくさんですよね。個人的にそもそもカロンちゃんは召還すべきではなかった……

>修羅の門復活の話聞いて俺のテンションが有頂天に!
やっぱ上がりますよね!

>このままだとハルマサはハチエとの能力差がどんどんと広がっていって、戦闘では空気になりそうで心配です。
そうなったらそうなったで。カロンちゃんといちゃついてればいいかな、と。

>左腕にしこんだサイコガン、間違いないヤツはコブラだ!
なついww
顔面を整形しなきゃ!

>この世界にも、elona並のスキル成長速度のプレイヤーがいてもいいと思うんだ・・・・・・
elona初めて知ったんですけど、富樫病を発病しちゃいそうです。更新が遅れちゃう!

>ハルマサの髪の毛も魔法反射の効果がg・・・
そうですよね。でもドドブランゴを使ってあげる優しいハルマサ君なのです。

>ドロッセル様
これは見たほうがいいのか!?

>マヨもあるよ
青海苔もください

>ハチエとのステータスの差がすごいな、ハルマサいらない子じゃね?
いらなくなったハルマサ君は端のほうでカロンちゃんと宿題やるんですかね。

>446,091,178以上で光の速さを超える・・・?
もはや私の想像を超えましたね。

>そう言えば地面の硬さが気になってきた。ハルマサの力+頑丈+素早さだと立ってる所がプリン状態になってるって事なのかな?
なってもおかしくないと言うか、どうなってるのかわからない。
いったいどうなってるんだけしからん!

>某青眼龍はレベル8の攻撃力3000だったと思うんだ。
とんでもねぇ雑魚……いや、むしろ十倍のレベル80でもよかったな。




あと最後に一つ。

>「暖房ならウチも持っとるねん」がツボに嵌った。
なぜ。



次の更新はすげえ遅れます。
一月後くらいに見ていただけるとうれしいです。



[20697] 141
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/13 23:28

間があき過ぎたので、第三層の軽いあらすじ。


砂漠を越え、モンスター(体長12メートルのゴリラと40メートルの巨大蟹)をゲットし、火山を制覇して、順調に第三回層を攻略していたハルマサとハチエだったが、中ボス(二匹目)を蹴散らそうとしたところで、最大の敵に出会った。
気味の悪い少女とゾンビ男である。
その敵に戦う前からビビッたハルマサは、最後っ屁とばかりに奇襲で頭を蹴り飛ばしてさっさと逃げ出し、スタート地点に向かって飛んでいるのだった。
スタート地点に居る敵をボコってレベルアップ! そして力をつけて、リベンジマッチ! と言うところである。

場所説明
ハルマサたちが向かっているスタート地点と言うのは、この階層に来た時に強制的に引き摺り下ろされる、三方を壁に囲まれた正方形状の場所である。
角の丸い矢尻型をしている第三階層の大陸の先端に、おまけのように引っ付いた島という位置取り。
三方の壁は天辺が歪んで見えるほど高く切り立っており、乗り越えても向こう側は海である。壁がない方向には、左右が崖になった道がついており、大陸との連絡通路となっていた。

そしてその連絡通路に、第二層のボスよりレベルが9も高い(=2の9乗強い)、レベル28の巨大な龍が行く手を遮るように寝そべっている。(現在はモンスター全体が強化されるイベントが発生したためレベル29)
ハルマサたちの狙いは、この龍、ラオシャンロンというモンスターである。












<141>


空を高速で一本の剣が飛んでいく。その上に乗った二人はテンション高めに叫んでいた。

「もっともっとやぁああああああ!」
「光に、なぁれぇええええええええええええええええええええええええ!」

シュバアアアアアアアア!と過剰に込められた魔力を溢れさせつつ、二人の乗った大剣・ソウルオブキャットは空を切り裂くように飛んでいく。

行きに二日かけた道のりも、全力で空を飛んだら数時間である。
軽く600kmくらいあったが、超人と化したハルマサたちがその程度の距離でへばるはずも無い。
スタート地点に帰ってきたのは日が暮れる前だった。

「―――――――居たッ!」

2日前と変わらずラオシャンロン亜種はスタート地点の出口に陣取っていた。
空を飛ぶ小さな人間に気付いたのか、ごおぉ、と風を巻きつつ巨体を起こす。

―――――――――キォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

こちらに向き、咆哮するラオシャンロン亜種に、ハチエさんは耳を抑えつつソウルオブキャットで近づいていく。

「ハルマサ、このまま突撃するで!」
「望むところ!」

立ち上がれば高層ビルすら余裕で凌駕するラオシャンロンの巨体は、上空から見下ろしてやっとその全容が分かる。
力強く長い尻尾。
大きな顎。
長い首。
羽は生えていないが、広く長い背中にはゴツゴツとトゲがあり――――――――そのトゲが眩く輝きだした。

それを見ていたハルマサに悪寒がする。
ああ、遠距離攻撃ないとか思ってごめんなさい。このダンジョンでは何でもありだった―――――

「あれやな…ゴジラが光線吐く時の前フリみたいや」

ゴォ!

ハチエが言った直後に、巨龍の口から、天を穿つ巨大な火柱が放たれる。
当然狙いは空を飛んでいる小バエのようなハルマサたちである。

「熱いけどッ!」

しかしまぁ、ハルマサたちにとって見ればそんな遠くから撃たれたら、テレフォンパンチならぬテレフォンビームに他ならない。
いくらビームの太さがビルくらいあるとしても、避けるのは比較的簡単だった。

その次の攻撃がなければ。

「―――――――!」

ハルマサの「心眼」スキル(=危険察知)に大きな反応があり、ハルマサは「魔力放出」でソウルオブキャットの進む方向を無理矢理変更する。

カクンと直角に真下へ落ちた直後、水の奔流が頭上を通り過ぎていった。

「水……!?」
「カニか!」

スタート地点を囲んでいる海に、合計4体の巨大なカニ、シェンガオレンが顔を出していた。
そしてそのうちの3体は背中を向けており、背中に背負った龍の顔(骨)には濃密な魔力が凝縮していた。

(これが高い場所を飛んだ時に襲ってくる障害だったのか!)

ハルマサたちがあえて避けていた、ラオシャンロンを大きく飛び越えていく作戦。
イヤな予感がしたからなのだが、やはりシャレにならない障害が用意されていたようだ。レベルが低い時に受けたら普通に死んでいただろう。

「や、やばいんちゃう!?」

ハチエの言葉を補足するように、「回避眼」の攻撃予知線は広範囲というか空いっぱいに広がり、カニの背から放たれる魔力弾を避けることは難しいことを示している。
しかし―――ハルマサにはこんな時の秘策があった。
ハルマサが袋より取り出したるは赤と白で塗り分けられたモンスターボール。そこに封じられているのは、魔法反射毛を持つモンスター。

「いでよ白ヒゲぇええええええええええ!」
「グル……ォオオオオオオオオオ!?」

登場した白ヒゲは勢い良く咆哮しようとしたが体長12メートルはある白ヒゲでは、長さが二メートルちょいしかないソウルオブキャットの上に乗るのは無理がある。
高速移動中に呼び出されたせいで、あっと言う間に置き去りにされて、空を飛ぶ術を持たない白ヒゲはただ地面へと落ちるだけである。

「オオオオオオオォォォォォ………!」
「し、白ヒゲぇえええええええええええ!」
「また嫌われそうやね……」

ふ、好感度はこれ以上下がらないよ! 何しろ既に最低だからね!
とは言え、この状況をどうしよう。白ヒゲを回収している時間は………!
そう思っているとハチエさんが不敵に笑う。

「ついに、コイツを使うときが来てしまったみたいやね……」

彼女は懐から三枚のカードを取り出した。それらは全て同じ名前。
その名も……

「割り箸や―――――!」

ハチエは高々と掲げたそれを具現化する。
何の変哲もない割り箸が三本飛び出し、三方向から飛んでくる半径500メートルくらいの大きすぎる魔力砲に、ハチエはそれを一本ずつ掲げる。
一応は説明に「どんな衝撃も一回だけ吸収する」と書いてあるアイテムだったが、大陸を削り取るような攻撃にも有効なのかハルマサは甚だ不安だった。

(だ、大丈夫かなぁ……)

「割り箸バリア―――――――ッ!」

大丈夫でした。超余裕でした。
割り箸に触れた瞬間、魔力弾はピタリと静止し、そして拡散したのだ。
魔力弾の勢いを全て吸い取った箸は折れ、焦げて二度と使えないものになった。

「……ハッ! ほうけている場合じゃなかった! この間に!」

ハルマサはソウルオブキャットを地面に急降下させる。

「もう、白ヒゲは頼りにならない……ここはレンちゃん! 僕らの最高の連携でカニどもを倒すよ!」

―――――――――ギィイイイイイイイイイイ!

空中でモンスターボールからシェンガオレンのレンちゃんを召喚する。
左のハサミは完全に回復しているようだ。

「ヤドがまだ直ってないけど……レンちゃんならやれる!」

―――――――ギィ!

レンちゃんは勇ましく咆えると、完全復活してちょっとおかしいくらい太くなった左のハサミを振り回しながら空中で水を噴射し、4匹いる内の一番左へと凄まじい速度で向かっていく。
同種だろうがなんだろうが、彼女には関係が無いようで何よりだ。
頼りになるぜ!

「ウチはラオシャンロンやな!?」
「うん! お願い!」

ハルマサはソウルオブキャットをハチエに預け、シェンガオレンの方へと魔力全開で飛び出した。





「いっけぇええええええええええええッ!」

――――――――ドォン!

ハチエは下に落ちる勢いのまま、ラオシャンロンの頭に突っ込んだ。
ゴィン、と巨大な頭を吹き飛ばし、反動で距離を取る。

ソウルオブキャットが良い感じに鱗を抉ったようだが、顔を引き戻したラオシャンロンには目立った傷も無い。
やっぱり硬い、とハチエは唇を舐める。硬いなら、切るより叩くほうが良いだろう。

―――――――――ゴォアアアアアッ!

ラオシャンロンは怒り、噛み付いてくる。
ハチエは正面切って迎え撃った。

ソウルオブキャットを蹴って跳躍し、巨大なトンカチを具現化させる。
アカムトルムの牙を壊して手に入れた、「たけのこハンマー」だ。
この時、ハチエさんの筋力は92億。
たけのこハンマーの耐久値は52億。
そして敵の装甲は40億。

「せぇえええええええええい!」

その一撃は、ラオシャンロンの超絶な反応が無ければ一気に顔を抉り取っていたかもしれない。
ラオシャンロンは勘が働いたのか、わざと体勢を崩すように足を広げ、首の軌道を変えたのだ。

ハチエの打撃は鱗をかするだけだったが―――――――それだけでラオシャンロンの頭を叩き落した。
反動で吹き飛びつつハチエは体勢を立て直し、上手く足から着地する。
ラオシャンロン亜種も、モンスター強化の影響でレベルがアップしているのだが、ハチエが規格外なのだ。

「レベル29やってなぁ! 色々壊させてもらうでぇ!」

ハチエはたけのこハンマーを握り締め、跳躍した。




ハルマサのシェンガオレンはレベルが26のままである。
モンスター強化によってパワーアップしているシェンガオレンを相手どれば苦戦する、とハルマサは思ったが、全然そんなことは無かった。

砲撃を撃った後の硬直を狙って一気に飛び掛り、その逞しい左手で敵の頭を強打! 強打! 強打! 強打!

―――――ギィイイ!

ハメ状態である。
シェンガオレンの身体構造的に頭上がもろに死角で、加えて手も届かない場所になっているので、そこに取り付いて滅多打ちであった。
もうライフが無いんじゃないかって言うくらいになっても殴り続けて、機先を制したまま最後までボッコボコにしてのフィニッシュ。

あまりの益荒男ぶりにハルマサは大興奮である。

「すごいや! レンちゃんカッコイイ!」

―――――ギィ!

レンちゃんは嬉しそうに鳴きつつ、背中の壊れたヤドをポイと捨て、代わりのヤドを敵から剥ぎ取って装着。
レンちゃん完全復活である。
そして今、倒した敵の経験値でレベルアップもしたらしい。

「最強のカニはレンちゃんに決定だぜぇ―――――――!」

――――――――ギィイイイイイイイイイイ!

ハルマサは援護が要らないことを確信し、自分もレベルアップするために一番離れたところに居た敵のシェンガオレンに突撃したのだった。


結果:レンちゃんが3体倒して一つレベルアップ。ハルマサが1体倒してレベルアップ。

「そして―――――これからお食事タイム!」
「相変わらずテンション高いねんな。まぁ分かるけど」

そう言うハチエさんはレベル29のラオシャンロン亜種を倒して一つレベルアップ。
いろんな部位を破壊して、大剣他、色々武器を手に入れたらしい。
防具は新しく靴が出たようだ。

「靴っていうか……まぁこれやねんけど」

ほれ、と見せてくれたカードは以下。


○「健康サンダル」(Lv22)耐久値:40億
 ラオシャンロンの頬肉を使った履き心地抜群のサンダル。サンダルなので足は遅くなるが、足のツボを刺激するので、麻痺と眠りに50パーセントの耐性が出来る。
耐久力+200%、持久力+200%、魔力+200%、筋力+200%、敏捷-99%、器用さ+200%、精神力+1100%


サンダルだった。
つぼに当たるようイボが配置されている。

「なんも無い状態では絶対にはいたらあかんサンダルやねん。素早さが100分の1になってまう」
「すごいサンダルだね……耐久値も高いし」
「一応履くんやけど……。普通の靴が欲しいと思うのは贅沢やろうか……」

ハチエさんは贅沢なため息をついていた。
まぁまぁと宥めながらレンちゃんが倒したお陰で全然消えようとしないカニを丸々1体モリモリ食べているとファンファーレがなった。

≪マスター! 凄い概念出ました!≫

桃ちゃんがアバウトな報告をしてくる。
ステータスで見てみた。


□「巨蟹の重殻左腕砲・ネオ」
 驚異的な密度の青い甲殻に包まれた左腕の強化版。ズシリと重く、扱いには相応の筋力を要する。発現時魔力を消費する。発現中、左腕耐久力を20倍し、全体的な敏捷がマイナス15%される。魔力を消費することで、掌の穴から「砲撃Lv30」を発射可能。


(パワーアップキタ――――――!)

テンション上がるぜ―――――! となったカニ退治でした。








<つづく>


以下ステータス。
簡単に言うと、ハルマサは結構強くなったけどハチエさんはもっと強くなりました。


ハルマサ
レベル: 26 → 27        Lvup Bonus: 167,772,160
満腹度: 347,947,190 → 518,947,148
耐久力: 249,242,267 → 420,242,225
持久力: 356,946,210 → 527,946,168
魔力 : 1,076,075,276 → 1,261,299,181
筋力 : 509,900,001 → 701,316,408
敏捷 : 874,594,617 → 1,068,668,944  ……★1,603,003,416
器用さ: 1,169,024,830 → 1,394,090,740
精神力: 276,586,761 → 464,229,750
経験値: 306,118,655 → 641,662,975  残り: 28,114,945


○スキル
PイーターLv26: 190,604,629 → 382,091,823  ……Level up!
観察眼Lv25 : 262,273,891 → 287,923,712
解体術Lv22 : 8,722,736 → 33,920,188  ……Level up!
戦術思考Lv24: 72,893,019 → 92,763,848
魔力放出Lv26: 519,829,301 → 537,281,046
風操作Lv26 : 382,450,654 → 399,018,222
拳闘術Lv25 : 229,028,391 → 245,167,382
撹乱術Lv25 : 284,718,022 → 300,287,134
身体制御Lv24: 139,300,281 → 154,829,011
突撃術Lv24 : 97,827,110 → 112,837,623



ハチエ
レベル: 27 → 28     Lvup Bonus: 335,544,320
耐久力: 335,281,252 → 670,825,572  ……☆ 12,074,860,296(防具でのステータス修正後)
持久力: 335,281,254 → 670,825,574  ……☆ 14,087,337,046
魔力 : 335,281,248 → 670,825,568  ……☆ 4,695,778,976
筋力 : 335,281,251 → 670,825,571  ……☆ 12,074,860,282
敏捷 : 335,281,258 → 670,825,578  ……☆ 10,069,091,932
器用さ: 335,281,251 → 670,825,571  ……☆ 2,012,476,714
精神力: 335,281,264 → 670,825,584  ……☆ 22,137,244,272
経験値: 611,844,096 → 1,282,932,736 残り: 43,515,904


○防具
霞龍の鳥帽子、重牙のピアス、煌毛の手袋、雷獣パンツ、健康サンダル

【防具でのステータスアップ】
耐久力+1700%、持久力+2000%、魔力+600%、筋力+1700%、敏捷+1401%、器用さ+200%、精神力+3200%







[20697] 142
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/13 23:29


<142>


白ヒゲの耐久力は600万。
ちょっと高いところから地面に叩きつけられたくらいでは、そうそう傷を負うことも無い。ましてや、下は海である。液体である。
白ヒゲが泳げれば、何も問題ないはずだった。

「ゴメン白ヒゲ。ワザとじゃなかったんだよ。そんなに怯えないで」
「グル……」

レンちゃんが海の中から引き上げてくれた白ヒゲは、ヒゲに絡みついたワカメを取りつつ、そっぽを向いている。

「ハルマサ、怯えとんやのうて、怒っとんのちゃう?」
「グルッ!」

白ヒゲはそうだと言わんばかりに牙をむき出してうなる。
どちらかと言うと拗ねているのだろうと、ハルマサは納得した。
確かに彼の扱いは酷かったかもしれない。雷の化け物に投げ込まれ、上空1キロから自由落下させられ、止めはレンちゃんによる荒々しい蘇生(海水を飲んで膨らんだお腹にデカイハサミでチョップ)である。ピンピンしているのが不思議なくらいである。

「よしよし、怖かったんやなぁ…。あそこのタキシードは、羊みたいな顔してやることはサラッとエグイねんから気をつけなあかんで?」
「グル!」
「よーしよし。よぅ見ると案外可愛いやっちゃな白ヒゲは」

考えていると何時の間にかハチエさんが敵に回っていた。
白ヒゲのメタリックな体毛を撫でてやっている。白ヒゲも何処となく気持ち良さそうである。
やはり、男の僕よりは、女の人に懐くと言うことだろう。
白ヒゲもオス、ということか。
もう、ハチエさんが白ヒゲのマスターになればいいような気がする。そんな気がする。
………白ヒゲを譲ることは出来るのだろうか。

「あの、サクラさん?」
≪は、はいぃッ! サクラです! お久しぶりですマスター! もう二度と呼ばれないかと……≫

凄く元気に登場したサクラさんは、すぐさま涙声になった。
そういえば最近のナレーションは桃ちゃんばかりだった気がする。

「言ったじゃない。サクラさんが居ないと、僕はダメなんだって」
≪はぅ……ッ! サクラは、サクラは幸せです……! あ、ダメですよ、桃は下がってなさい!≫
≪マスター! 私にはそういうこと言ってくれないのに―――!≫
「まぁ、桃ちゃんも居たほうが良いかも」
≪扱いが酷いぃいいいッ! ま、マスターのバカー! ゾンビー!≫

捨てゼリフを残して桃ちゃんの声は聞こえなくなった。確かに酷いかもしれないけど、比較対象がサクラさんだから仕方ないよね。

≪桃が失礼しました。あの子最近情緒不安定で……≫
「AIも大変なんだね」
≪と、ところで、どういった用件でしょうか≫

そうそう。忘れるところだった。

「ハチエさんに白ヒゲ譲ることって出来る?」
≪譲渡するのですか……?≫
「うん、だって……」

見れば、離れたところで、ハチエが楽しそうに白ヒゲと遊んでいるところだった。

――――――ほぉれ白ヒゲ! ちんちーんッ!
――――――グルォオオオオン!

「………彼女の方が僕よりよっぽど上手く白ヒゲと付き合えそうな気がするんだ」

というか野生のプライドとかはないんだね白ヒゲ。

≪……少しお待ち下さい。こういうことに詳しい者が居りますのでその者にお聞きください……。ひまわりー! ひまわりー!? マスターが……≫

モニョモニョ言いつつサクラの声は聞こえなくなった。こういうことにはひまわりの方が詳しいらしい。実はひまわりはシステムの内部では偉いのかもしれない。
そうこうしている内にAIひまわりの元気な声が頭に響いた。

≪お待たせお兄さん! ひまわり参上!≫
「あ、久しぶり。元気?」
≪うん! とっても元気元気ッ! 滑舌もすこぶる順調ってもんさ!≫
「若干口調が変わってる気がするけど、それは良かった。ところで―――」

聞けば、普通にモンスターボールを譲渡すれば、所有権が移るそうで。
白ヒゲの頭の毛を三つ編みにしているハチエさんに、早速モンスターボールを渡すことにした。

「という訳で、ハチエさん。大事な話があるんだ」
「ん? なんや? まさか……告白!? 白ヒゲと遊ぶウチの姿にときめいたんか!?」

全然違います。ゴリラにちんちんさせる女性にどうドキドキしろと。
でもノってみた。

「えーと、ハチエさん。あなたのことは多分そこそこ好きでした」
「微妙やな! ていうか過去形!?」
「でもごめん、好きな人が居るんだ」
「知っとるわ! このロリコンめ!」
「ぼ、僕はロリコンだったのか……!?」
「え、違ったん?」

衝撃の事実を突きつけられ、動揺が収まるまで結構な時間がかかった。




そして夜。

「というような事があったんだよ」
【ふむ……】

ハチエが眠りにつき、その横で焚き火を見つめつつ、ハルマサは約束していた「伝声」による通信を行っていた。
相手はハルマサの意中の人、カロンちゃんである。
「カロンちゃーん!」と呼ぶと「うるさいわ! 女神と呼べぃ!」と嬉しそうな返事が返ってきたので、さっきショックを受けた時の話をしているのだった。

「確かにカロンちゃんちっちゃいし、僕はロリコンかもしれないね。でもそんな自分を恥じてないよ僕は!」
【また無駄に男らしいの……というか我は小そぅない! 立派なレディじゃ!】

しかし言葉はババアである。一人称は「我」だし。
それはさて置き、確かに子どもらしくない落ち着きがあるとハルマサは思った。

「……何歳なの?」
【今年で222歳じゃ! ゾロ目なのじゃ!】
「めでたいね」

誇らしそうに言ってくるが、年もババアだった。いや、妖怪か。
でも、きっと指をVサインにして見せ付けてきているであろうカロンちゃんを想像して、ハルマサはもう歳とか些細なことは気にしないことにした。



で、ゾンビつながりで今度の敵に関して詳しそうなカロンちゃんに色々聞いてみた。

【首が飛んでもダメージが無いとすると、明らかにお主が一度なっておった不死者より位階が高い存在じゃな。見た目がまともならば、狼男か、吸血鬼か、夢魔かのどれかじゃろうの。まぁ、他の可能性もあるが、それなら大したことはせずとも日が昇れば消えるじゃろ】
「ふぅん……」
【お主の数倍程度の強さならば、大したことは無い下っ端じゃ。集めた光で焼くか、塩でも撒けば溶けて消えるじゃろ】
「そんなナメクジ退治みたいに上手くいくかな……。聖なる塩とかじゃなくて良いの?」
【清めようがどうしようが、我からすれば大して変わらん】

そうですか。

【お主が使っておる骨も有効じゃの。あれは我にも少し痛い】

まぁ大して効かんのじゃがな! と得意そうに鼻を鳴らすカロンちゃんの声を聞きつつ、ハルマサは戦法を考える。
まず必要なのは、塩か。いや、別に聖別されていなくて良いなら、海水のままぶつける手もある。
そして、聖者の骨で殴る。ハチエさんのビームで細切れにしてもらうのもありだろう。
女の子の方は、男のほうより弱かったし、なんとでもなりそうだ。

「よっし! 勝てそうな気がしてきたよ!」
【ふふ、ならば良し】

そのあと30分くらいどうでも言い話をした。
カロンちゃんは現在、ハルマサのところにかかりっきりになっていて仕事をほったらかした罰として軟禁中らしく、夏休みの宿題を終わらせたカロンちゃんは暇で暇で仕方ないとのこと。
しかし明日にはインターネットが開線するとかで、ワクワクしているようだった。ネットゲームや動画サイトに嵌って引きこもりにならないことを祈るのみである。

【名残惜しいがそろそろ時間じゃ。朝ちゃんと起きねば母様が怒るゆえな】
「そうか……じゃあ、明日も連絡するね」
【うむ。待っておるぞ】
「おやすみー」

特技「伝声」は精神力に依存して効果時間が決まるのでまだまだ続けることも出来たが、カロンちゃんも眠らなければならないのだ。何処にいるとも知れないカロンちゃんだが、日の巡りの速度は変わらない。夜には寝て、朝起きる。
……時差とか無いのだろうか。
考えても仕方ない。
ハルマサはプツリと「伝声」を止め、空を見上げる。

長い、長い一日だった。本当に長かった。一ヶ月くらいかかっ(ry
明日には、敵の強さがまた二倍になる。何てクソな仕様だろう。
あまり時間をかけることは出来ない。早くあの不気味な二人組みと接触し、鍵を手に入れて、ボスのところへと向かわなければ。

ハルマサは決意を固めるのだった。




そして夢の中。
幼稚園児がクレヨンで描いたような風景の中、この世界の住人三人が寄り集まってなにかをやっていた。

「あとさきなぁーし、負けたらかーちぃよ!」
「じゃん、けん!」
「「ほいっ!」」

グー、パー、手なし。

「やったぁ―――――! これで、明日も私こと桃ちゃんの番! ヤハ―――――!」
「ヒドイよ! 僕がパーしか出せないのを良いことに!」
「そうです! ズルイですよ桃! 私なんて……手すらないのに!」

細い手足の生えた奇怪な桃が、グーを掲げつつピョンピョン跳ねている。
その前では、小さなひまわりが手(葉っぱ)を震わせつつ、悔しそうにしていた。
その傍らで、恨めしそうに桜の樹(人面樹)がサワサワと枝を揺らしている。満開だった花はもう散っているようだった。

その光景を、座り込んだハルマサはぼんやりと眺めていた。
胡坐をかいた足の上で、ヨシムネが丸くなっている。アイルーというより、最早完全にネコと化しているがまぁ本人がそれで良いのならいいだろう。
背を撫でると、ピクピクと髭が揺れていた。

奇怪で大きな桃はクルクルと回りつつ叫んでいる。

「ふふふ、前日の勝者が勝負を決めるこのルール! サクラさんに負け越した私は既に過去! ようこそいらっしゃい新しい私!」
「うぅ……まさか神様シリトリで負けるなんて……不覚です……」
「肉体系の勝負ばっかりなっちゃったもんね……」
「でも、このままでは……参加も出来ずに負けるなんてこのAIサクラには許されません! ……はぁああああああああああああああ!」
「サクラさん!?」

相変わらずぼんやり眺めるハルマサの前で、桜の樹が樹皮のシワとウロでできた顔(でも美人)を歪めて、メキメキと不穏な音をたて始める。
と思ったら、幹の左右からにゅるんと手が生えた。妙になまめかしい、人間の女性の手である。
その手をニ、三度握ったり開いたりを繰り返し、桜の樹は満足そうに息を吐いた。

「よい感じです…! 人型になる日も……近い……!」
「ま、負けませんよ―――!? 私だって! ふんぬぅうううううううううううううう!」

桜の樹の行動に触発されたらしい奇怪な桃はそう叫ぶと、メリメリと、桃の中央から人の顔のようなものが盛り上がってくる。
やがて、ぱん、と皮を引き千切り、桃の果汁と共につるんとした肌の女の人の顔が桃の中央から飛び出してきた。
一応美人は美人である。でもバランス悪い。ボーボボのドンパッチみたいな、生物としては謎な体型である。基盤は桃だし。
それを見てひまわりも何故か焦ったらしく、アクションを起こした。

「ぼ、僕だって! でやぁあああああああああああああ!」

ひまわりも叫ぶと、その根っこが一つに寄り集まり、太くなる。
そして枯れ木のような細さの足になった。ただし、右足だけである。

ひょろりとした足の上に咲く、小さなひまわりは、花弁の中央にある顔をハルマサに向けてこういった。

「はぁ……はぁ……。どう、お兄さん?」




「こわぁああああああああああああああああああああッ! 妖怪かッ!」
「な、なんや突然。ビックリするわぁ……」

叫びつつ飛び起きると、驚いた顔のハチエさんが居た。
どうやら、何時の間にか朝になっていたようだった。

そして、目の前にビックリ箱が出現する。

『プレイヤーの皆様、おはようございマス! 強化イベントが始まってから24時間が経過! さらに敵が強化されマス! また、昨日の大量ポップモンスターは、ラオシャンロン、キリン、ラージャン亜種、シェンガオレンでシタ! それでは、冒険をお楽しみ下サイッ!』

そう言えば、6時間ごとにいずれかのモンスターが大量ポップするんだった。忘れていた。
朝っぱらからイヤな現実だが、眠気覚ましの効果はあるらしい。
ハルマサは眠気の吹き飛んだ頭で、よし、と気合を入れるのだった。





<つづく>







[20697] 144
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/14 08:19
<144>




空の上に居る時に攻撃されたら咄嗟に動くのが難しいこともあり、ハルマサとハチエは、地を進んでいる。
大陸を右回りに進んでいくつもりだ。
海沿いを動かなければ、奇襲されても環境はこちらの有利に働くだろう。
足は、久々に登場した自転車・ママチャリDXである。
シャカシャカこぎつつ、ハルマサは上機嫌だった。

「いやぁ、毎回毎回100キロくらい出してるのに、軋み音一つ上げないなんて! この自転車は丈夫で良い!」

以前なんか、砂漠に埋もれてしまったというのに、ギアが絡まる様子も無い。ママチャリなのでそこまで速くは漕げないが、それでも歩いたり走ったりするよりはいい。

「ええなぁ。ウチも欲しいなぁ……そこら辺に落ちてへんかなぁ……」

後ろに座ったハチエさんがモノ欲しそうにキョロキョロしている。

「流石に無いんじゃない?」
「んー………あ、あれはなんや!」

そう言うと、ハチエさんはぴょんと自転車から飛び降りて砂漠のほうに走って行ってしまう。

「ハチエさん!?」

ハルマサが慌てて方向を転換し後を追うと、広大な砂漠にポツンと小さな石の台座が置かれていた。
その上に、みずみずしい野菜が突き刺さっている。
不自然極まりない物体だった。

「何やろかコレ……」
「……ネギかな」

みずみずしい野菜はネギだった。白い部分は透き通るように輝き、二股に分かれた緑色の部分はおいしそうに太陽光を照り返している。
台座に文字が刻まれていたが、象形文字だった。もしくは手の震えが止まらない人が引いた一本の線。
でも、何となく意味は分かった。「観察眼」スキルのお陰かもしれない。

台座にはこう書いて在るようだ。

『ドンパッチソード』

名前は分かったが意味は分からなかった。聞いたことはあるような気がするが思い出せない。ハチエさんも知らないらしい。
取りあえず抜いてみることにした。

「思い切り握ったら潰れてしまうんちゃうかな……あ、意外と……ひんやりする」
「硬くは無いんだね」
「だってネギやで? フニャフニャや無いだけマシやな」

ハチエさんはY字のネギを掴むと、ソロリと抜き出してみる。
抵抗も何も無くあっさりと抜けたようだ。
彼女が抜いてから、罠があった可能性に気付いたが、まぁ何も無かったし次から気をつけよう。

『チャラララ~!』

二人で何の変哲も無いネギに首をかしげていると、突然聞き覚えのある音が流れた。

「ゼルダの伝説の音やな」
「ああ、アイテムを手に入れたときの」

どうやら音は台座からしているようだった。
音は直ぐに止まり、代わりに片言のセリフが聞こえてきた。

『ドンパッチソードは使用者を選ぶ魔剣でアル! 剣を掴みし冒険者ヨ! 楽しむことを怠るナ! さすれば、剣は使い手に答えるだロウ!』

それだけ言ってセリフも途切れる。イベントは以上のようだ。

「おお、なんやねん」
「楽しむことを怠るな?」

一応ドンパッチソードと言う名のネギを観察してみた。

≪情報の取得に成功!
【ドンパッチソード】:使用者のテンションの具合によって威力が跳ね上がる魔剣。躁状態で扱うことが望ましい。逆に鬱に入ると、ネギ以下の硬さしかない物体になる。テンションに応じた威力、規模の衝撃波を出せる。≫

「だって」
「つまりテンション高いウチが持てば、最強の魔剣っちゅうことやね?!」

言葉通りハチエのテンションは非常に高い。
だが考えれば、彼女がダンジョンで神の用意したアイテムをゲットしたのはこれが初めてなのだ。
テンションが上がるのも無理は無いとハルマサは思った。
ハルマサも宝箱を見つけたときは思わず小躍りしそうになったものである。

ハチエは、衝撃波を出してみる気満々らしい。

「いくでぇええええええええええ! アバンストラァアアアアアアアアアッシュ!」

逆手に構えたネギを腰だめから斜めに振り上げる。
そういえば彼女は「アバンストラッシュ」をしゃもじによってマスターしていたのだった。
彼女の言葉と共に逆手で振り切られたネギの軌跡から、白光の刃が放たれて、遥か彼方にある大陸の山脈の上のほうを吹き飛ばした。
射程・威力ともに無茶苦茶だった。

「お、おお! 何と言うコレ! 使え過ぎるやろこのネギ! 今の技は、「山脈斬り」にしよかな!」
「あの、ノリノリのところ悪いけどハチエさん、ハチエさんが切り飛ばした山の向こうになんか居るんだ」

ハルマサはそちらに目を釘付けにしつつハチエを揺さぶる。

「なんや?」

山の向こうには、大きな大きな何かが居た。
山くらい大きいそれは、大きな塊とそれから生えて、うねっている細い物に分かれている。
ウニのように見えなくも無い。

しかし、「鷹の目」スキルによってはっきりと姿を見ることの出来るハルマサの目には、その生物がおぞましいものである事が見て取れた。

「あれは―――……」

それはどう見ても、十数匹のラオシャンロンがくっついて肉団子になり、頭と尻尾が、その周囲に生えてうねっているのだった。

「控えめに言ってキメラかな」
「……大げさに言うと?」
「ウニドラゴン……?」
「表現が可愛くなっとらへん? まぁそういう風に見えへんこともないけど」

正確に表現する言葉が見つからなかったハルマサは口をうーんと悩むのだった。
しかし、悩んでいる暇はそれほど無いかもしれない。
巨大な龍の塊は、地面に首と尻尾を突き刺しながら、体を引きずり、大陸を削りつつこちらへと近づいてこようとしている。
その強さは、ハルマサのシステムが壊れていなければ、レベル33、となっている。







突然山の上半分が吹き飛んで、マリーとマルフォイは大いに驚いていた。

「おいおいおい、なんかスゲえ威力だな。ちょっと舐めてらんない相手か?」
「今の魔力は女のほうだわ。評価の上方修正が必要かしら」

彼女もマルフォイも相手から漏れ出る魔力の強さで相手の力を推し量る事が出来る。
昨日はただのゴミ虫だと油断していたところ、とんでも無く早いゴミ虫だった。もう一人の、女のほうも何かそういう驚かせてくれるような隠し技があるのかもしれない。
でもまぁ、とマリーは紫で彩った唇を歪める。

「この子が居るならあまり関係ないわ」

そう言って彼女は自身が座っている硬い甲殻を撫でた。
二人が乗っているのは、巨龍の頭であり、その頭が生えているのは、巨龍ラオシャンロンが絡み合って溶け合った肉団子からであった。
昨日大発生したモンスターの一つがラオシャンロンであり、それらを全て溶け合わせると、恐ろしい濃さで魔力を発生させ始めた。

「さぁ行きなさい。ひき肉にしてあげましょう」
「鍵の場所はどうすんだ?」
「死体に聞くわ。……這いずると時間がかかるわね。転がって、私の新しい子」

そう言って、マリーは龍の頭へとずずずと埋まって行ってしまう。
恐らく回転する巨体の中心へと行くのだろう。そこは鬱陶しい光も届かない快適な場所に違いない。
しかしマリーはそれで良くても、マルフォイのほうとしては大変困る。
このまま乗っていれば、巨体で押しつぶされるだけだ。

「おいおい、まいったな。自分で走っていくか。……俺を蹴り飛ばしてくれた少年も居るようだし、丁度いいか。お返ししないとな!」

ハッハーと笑いつつ、男は龍の頭を蹴って地面と平行に飛び出していく。今の踏み切りで龍の頭にヒビが入り、マルフォイの脚も折れたが、魔力を流して直ぐに修復する。
マルフォイはこれからの戦いを想像してニヤニヤ笑いつつ、砂漠を走る。
一歩ごとに魔力で固めた砂がはじけ飛ぶ。
その後ろで、巨大な、山ほどもある肉の塊が、頭と尻尾をスパイク代わりに地面に突き刺し、地響きを立てて転がり始めた。






笑いながら、光速をブッ千切って走ってくる男の姿を最初に捉えたのはハチエだった。
光に頼るハルマサの「鷹の目」スキルでは、その姿は見えなかったのだ。
だが、心眼による警告がハルマサの脳裏で響く。

「来たで!」
「どこ……あ!」

一瞬遅れてハルマサも気付く。
ハルマサの空間把握の範囲は約半径200メートルまで拡大している。
その範囲に男が入ってきたのだ。
しかし、ハルマサが出来たことは本当に僅かなことだった。

「加速」を発動させ、「セレーンの大腿骨」を構えることだけである。

―――ゴギィンッ!

周囲の全てを震わせて鈍い音が響き渡る。
間一髪であった。
骨が無ければハルマサの首は胴体と生き別れである。
だが、間に合ったのは構えることだけで、踏ん張ることも足場を固めることも出来なかった。

光速を超える勢いが乗った一太刀で、ハルマサは容易く吹き飛ばされた。
全ては一瞬のことで、そしてその一瞬はまだ終わっていなかった。
吹き飛んだハルマサに容易く追いついた男が、ニ太刀目を振り下ろしてくる。

(くぅ――――!)

奇襲の意趣返しといったところか。
ハルマサは奥歯を噛みつけながら、体勢を立て直す暇も惜しんで、「空中着地」で空を蹴って体をずらし、斬激を避ける。
空振りの衝撃で地面を割った刃が、間髪居れずに刃の向きを変え、切り上げられる。
それを骨で受け、さらに吹き飛ばされる。

「――――――ハハッ! よく防ぐな!」

(ふざけるな! 速すぎるよ! 特技も特性もスキルも、何も使う暇が無いッ!)

加速しているハルマサの、なお上を行く男は、空中を魔力で固定してそれを蹴りつけ移動している。
ハルマサの「空中着地」と良く似たそれは、しかし、回数制限などが無さそうで、空中に居るハルマサは、不利な条件ばかりが募っていくことに焦燥が湧き上がる。

「どんどん行くが、まだまだ死んだらダメだぜッ!?」

吹き飛び回転するハルマサに、跳び上がってきた男が刀を振り下ろしてくる。

「ぐぅ!」

と叫ぶ声が自分の耳に聞こえるよりも速く、ハルマサは地面に叩きつけられていた。
受け損ねた。今の斬撃で、左手の人差し指と中指が切断され、焼けるような痛みが加速された神経を渡ってやってくる。
歯を食いしばるハルマサの上では男が空中を蹴って、鋭い刃の切っ先をハルマサへと突き出してくる。
地面にめり込んだハルマサに、次の攻撃を避けれそうには無かった。

だが、一瞬の時間が出来た。

この状況を打破するには、更なる速さが居るだろう。だが、スキルによる補正は、ほとんど意味が無い。スキルの熟練度アップによるボーナスを待っていられる状況でもない。
だったらするしかないだろう。
「加速」中の―――――――「加速」を。

(―――――――ぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!)

体から魔力が迸り、更なる加速を行うために神経を補強し、増強する。
しかし、光も映せない速すぎる刃が、最早目の前へと迫っていた。
その鋭い刃が額に触れ、ぬかに釘を打つように何の抵抗も無くハルマサの頭蓋を貫こうとした瞬間に、

(―――――――ッ!)

特技が発動した。

加速中の加速。加速の重ねがけによる、さらなる高速の世界。
ズシリと重い感覚が手足を縛る。体中が見えない何かで固定されているようだ。
極端にスローになった視界で、額に突き刺さる刃がゆっくりと進んでいく。

(ぐ……うっ!)

刃が突き通ろうとしている頭を無理矢理捻る。首の筋肉がギシリと軋む。
持久力が恐ろしい勢いで減っていくのが分かる。
この状態、もって一秒かそれ以下だ。
抉られた額から血を噴出しつつ、ハルマサは手に持っていた獲物で、男を殴った。
凄まじい速度で震われる骨。無理な動きを要求されたハルマサの腕と腰と背中で、ブチブチと筋繊維が引き千切れ、しかし、痛みを無視するかのようにハルマサは聖者の骨を振り切った。

「だりゃあッ!」
「――――ガァッ!」

男から上がる苦悶の声。
聖属性の骨が、不死の男の、腰から左の肩へと、体組織を蒸発させながら通り抜けた。手応えはほとんど無い。
骨の勢いで、二つに分かれた男の体が、回転しながら飛んでいく。
それを見届ける前に、ハルマサは持久力が一気に減ったことで意識が飛びそうにそうになった。

(これ以上は無理……!)

出来れば追撃で、粉々にしておきたかった。が、どうやらその前にこちらの体が限界だ。

「くは……ふぅぅ……」

口から血を滲ませつつ、ハルマサは「加速」を解除し、砂に開いた大穴の中で立ち上がった。

フラリと意識が揺れる。
今度は痛みで体がヤバイ。
腕・肩・腰に辛い痛みが走っている。おまけで背中も首も痛い。骨振っただけなのに。
左手の指が二本斬り飛ばされてるし!
持久力は残り半分で、こいつはさり気にピンチじゃないか!
YOU寝ちゃいなよ! としきりに誘惑してくる本能を無視しつつ、敵の行方を捜す。
直ぐに見つかった。

(…………ッ! やっぱり、死んでないか)

上半身を吹き飛ばされても生きていた男である。何があっても驚かないことにしよう。

もうもうと巻き上がる砂の向こうに、男がいる気配がした。
軽く風を操作し、砂煙を振り払うと、右手と胸だけの男が砂の上に浮かんでいた。

「イテェ、なんだ、その骨。ふざけてやがる……クソ」

聖者の骨によって焼け焦げた傷口から煙が上がっていた。
しかもジリジリと爛れた傷が男の体を侵食している。
流石カロンちゃんにもわずかにダメージが通る武器である。

魔力を噴出して浮かんでいた男はおもむろに、右手の剣で自らの首を切り飛ばした。
勢いよく血が噴き出る中、ズルリとマヨネーズが搾り出されるように、男の首から体が生え、代わりに、残っていた右手と胸が霧になったかのように消え失せる。
ちなみに服は直ぐに魔力で余れてからだを包んだ。
一呼吸の内に五体満足になった男は、地面に落ちようとしていた刀を拾うと、夜叉の如き面相で低く呟いた。

「聖属性の骨か……いーもん持ってんな小僧。ぶっ殺してやる」

どうやら、ココからが本番らしい。
「欠損再生」で左手の指を生やしながら、ハルマサは頭の中で戦術を練り始めた。




ハルマサの後ろには約3キロ向こうに海がある。
そしてそれとは逆の方向に3キロ離れた場所で、ハチエが巨大すぎるウニに、立ち向かっているのだった。






<つづく>


ステータス変化(今のところ)なし。






<あとがき>


お久しぶりです。マジでお待たせしました。
一月後のはずが遅れてしまいました。
二話目に納得がいかなくて、書き直したりサボったりゴルゴ読んだりしてました。
そうしているうちに詰まっているところが何とかなったので更新します。
このssは勢いで出来ているので、詰まる時もきっと勢い良く詰まるのですよ(ウソ)。
なかなか手ごわい詰まりでして、正直もう書くの止めようと思ってましたが、まぁ思い付きで解決しました。意外と何とかなるものですね。

次の更新はまた間が開いて申し訳ないんですけど半月後になります。もっとかかるかもしれませんが、多分一月後にはならないはずです。
その後はまた毎日更新に戻すつもりです。きっと新章に入れば……いける!

それではまた。


>あかん!その電池あかん!N2は爆雷や!
キレのいい突っ込みが心地よいです。
もう爆弾積んだミニ四駆でいい気がしてきましたけど、直しておきました。

>ウカムルパスさんが捌かれちゃった。
戦闘シーンの味気なさが半端ではありませんでしたね。

>某コピペで載ってたけど、う○こが光速になっただけでも銀河がやばいことになるんだが…魔法ぱねぇ!!
そのコピペはどこかで見たような見てないような。七色に輝くとか書いてあった記憶があるので本文中に入れてみました。

>しかしまだN2が残ってます
オウフ

>一回の投稿で4話。4話めは感想返しで遅くなってるとみた!
分かってらっしゃる。今回は感想返し終わるまで仮アップしてみました。

>最後に出てきた2人も、悪すぎる人間じゃなかったんだよな。地獄行きか天国行きか決まってないから。
話の中で完全に説明不足なのが悪いのですが、一応二人は閻魔様に関係ないことになってます。じゃあどこに関係あるのかっていうとどこにも関係ないのです。ポッと出の使い捨てキャラという訳です。

>S2を概念食いで髪が白くなる、そして目が赤くなるんですね?わかります。(なんと言う中2病)腕が疼くぜ
中二病っていうと、早く逃げないと俺に精気を吸われるぞ! って感じでしょうか。武装連金を思い出しますね。

>……モンスターボールを概念食いしたらどうなるのかな? かな?
ど、どうなるんですかね。私馬鹿だからよく分からない。

>マルフォイはサザンアイズの不死人みたいなのになってんのか。
無限の住人の不死の人みたいに基点があることにしています。しかもそれのパワーアップ版。やりすぎちゃったぜ。

>ドラゴンボールの瞬間移動は身体を気粒子に変えて、光速の8倍くらいで指定した先に移動できる技らしいよ!
指標があったことにビビリますねw
今書いてるところで、マルフォイ君が高速の6倍くらいで動いているので、瞬間移動を超える日も近いですな。

>即死効果と不死属性はどっちが優先されるんだ?
不死っつっても多分死にます。万能って面白くないので。だから即死って書いてあると多分死にます。

>elonaは嵌りだすと、一気に深みに嵌るから程ほどに……
クソ嵌りましたが、二週間くらいで底まで行って、今は若干浮上したんではないでしょうか。最近は10分くらいやると猛烈な眠気が……

>富樫じゃないよ冨樫だよ!
そうでした。でも直す気力はないです……

>このssの魅力はなんといっても強敵と戦うときの緊迫感だと、勝手に再認識しました。
最近戦闘書いてて面白くなかった理由はここにあったのか……
だからちょっと敵を強くしてみました。
するとどうやって勝てばいいのか分からなくなりました。

>待っていてくれた人たちへ
遅れてすいませんでしたぁ――――ッ!
その代わりといっちゃあ何ですが、今回ちょっぴり量が多かったり。
……どうでもいいですねすいません。
待ってていただいてありがとうございます……

>L・Nさんへ
情報ありがとうございます。とりあえず第一部は連続するようにしました。
というかこのssを読み返す猛者がいるとは。
とても二度読みに耐えられる仕様では無いと思うので、ありがたくも申し訳ないです。




[20697] 145
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 01:34



<145>


ハチエの前にはとんでもない大きさの肉団子がある。
いや、あるはずである。
巨大すぎて、遠くからでないと全体像が把握できないのだ。実際ハチエには黒い壁にしか見えない。上のほうは霞んでいる。

ラオシャンロンは山の如き大きさの龍だが、それは少し誇張がある。精々小山サイズ。標高100メートルもいかないような平べったい山くらいである。しかし、その龍がたくさん集まり、縦横に絡み合ったコイツはまさしく山サイズ。
その前に立って武器を構えるハチエの、なんと小さなこと。

しかも武器が、ネギである。
テンションを力に換えるドンパッチソード。
ちょっとビビッてしまったハチエの心境そのままに、ネギはしんなりとしおれている。

肉団子といえど、表面はラオシャンロン製の硬い鱗で覆われており、全方位に頭が飛び出しているお陰で巨体にありがちな死角もない。
数えてみれば、ハチエから見えるだけで首が4本に尻尾が3本。
リーチも手数も向こうが上である。
ハチエを熱心に見つめる4対8個の瞳に、ハチエのテンションはだだ下がりであった。

だが、人間型であればくみしやすい訳ではない。ハルマサのほうの相手は人間型だが、アッチに参戦するのは早々に諦めた。
スピードの領域が違いすぎる。目で追えても反応できない。それに、人型の生物を相手にするには、少し気後れする部分もあった。
それなら、このウニドラゴンを引き付けておくべきだとハチエは判断した。
ハルマサ曰く、ハルマサの相手よりもレベルが上らしいが、全身全霊をかけ、引き付ける位はして見せよう。
ハルマサが相手を倒して参戦して来るまでの時間を稼ぐのだ。

「でも、別に倒してしもうてもかまへんのやろ!?」

死亡フラグを吐きつつ、ハチエはネギを握り締めてウニドラゴンに吶喊した。






マルフォイは、聖者の骨で体を抉られた事が余程頭に来たらしい。
ヘラヘラと笑うのを止めて凶相を浮かべていた。
見た目には全然ダメージが無いのだから、笑って流して欲しいとハルマサは思った。

「ぶっ殺してやる」

そうマルフォイが言った直後、ハルマサは悪寒を感じ、「加速」を発動していた。
彼の速度には、加速していなければ反応も出来はしない。
先ほどの攻防で一度だけ使用する事が出来た「空中着地」の熟練度アップボーナスで、5千万ほど敏捷が上がっているが、相手にはまだ全然届かない。
圧倒的なスピードの差があった。

どうすればいいだろうか。
考えている時間はあまり無い。

マルフォイが地面を蹴り、一瞬にして肉薄される。

(くぅ……!)

―――――ガォン!

横ざまに叩きつけられた刀を聖者の骨で受け止める。
相変わらず速い。というかさっきより相手の速度が上がっている気がする。
ズシリと体に衝撃が来て、軽く吹き飛ばされる。
今度は地面をスキル「土操作」で固めて受けたというに、あまり関係ないらしい。

(く……、どうすれば……! 海は遠いし!)

故意か偶然か、海から離れるようにマルフォイはハルマサを切りつけてくる。
何時の間にか海までの距離は先ほどの倍ほどとなっていて、そちらに向かって走り出した途端背中をバッサリやられるのは明白なので、心理的には海までの距離がひたすら遠かった。

(少しくらいッ!休ませてくれてもッ!)

――――ギィン! ギン! ギギギギギギギン!

ハルマサの心の叫びは華麗に無視され、加速度的にマルフォイの剣速が速まっていく。それでいて、右手一本で振るわれる刀が、両手で受けてなお重い。
威力を抑え速さ重視となった攻撃に、ハルマサは縫い付けられたかのようにその場を動けなくなった。
霞むような速度で動きまわる男の右手を必死で追う。

だが、ハルマサがマルフォイの右手に集中したその瞬間、マルフォイの左手が閃光の如く突き出された。
意識の隙間を縫って接近したマルフォイの手の平は、ハルマサの頭をガチリと掴む。

―――――まずい!

頭蓋骨を万力で締め上げられつつ、ハルマサは男の氷の如く低い体温と、かすかな腐臭を感じ取った。

―――――逃げられない!

男が怖気の走る表情を浮かべて大きく右の肘を引く。
ハルマサが苦し紛れに骨を振る前に、男の構えられた右手の刀は、弓に番えた矢の如く射出された。

「じゃあな」

突き出された切っ先が、指の間に露出しているハルマサの左の眼球を割り、捻られつつ彼の頭蓋を貫いた。

(―――――――――く……ぁあッ!)
「……あ?」

しかし、ハルマサは生きていた。
マルフォイの突きによって拡散していた頭部が素早く復元される。

(痛ぁ……くないね! 寧ろ肌の感覚が無い! 痛覚も無い!)

ハルマサの体が眩く発光していた。
輪郭は揺らめき、末端からバチバチと電光が迸る。
こういう時に役に立つ概念をキリンの踊り食いによってゲットしており、それの発現が間に合った。
発現した概念「電流の体躯」は、ハルマサを(見た目)ただの少年から、物理無効の電撃少年へと変貌させた。

「!?」

ハルマサの顔を掴んでいた手が電光に焼かれ、バチリと弾ける。
さらに頭に刺さっている刃をバチバチと電光が這い、男はそれが手に到達する前に刀を引き抜いて、跳びすさった。

「―――――? ――――!」

マルフォイが何か言っているが、鼓膜の存在しないこの体では何を言っているのか分からない。
どうせ「なんだよそれ」とか「化け物」とか言っているのだろう。お互い様だ。

そしてハルマサは、相手が戸惑っているうちにさっさと逃げることにした。
なぜなら、マルフォイは常時光速を上回ることの出来る化け物だ。
一方、電撃少年となったハルマサの最高速は光速で、しかも攻撃は電流だけ。

(何やっても避けられちゃいそうだからね!)

この状態ならば空中でも自在に動けるハルマサは、前触れも無く急転直下し、電流の残滓を残しつつ地
面に到達。
地表につく直前で「電撃の体躯」を解除する。
この概念、もうちょっと速い段階で出ていれば、光速で動き回れる事がとてつもないプラスになったのだが、いかんせん敵が光速越えをし始める第三階層で出たものだから、緊急回避用としてしか使い道が無いのだった。もったいない。

概念を解くと同時、「土操作」で穴を作り、上から落ちてくる骨や服なんかを回収しつつ土の中に滑り込む。
土を操作して塞いだ頭上から、巨大な振動が伝わってくる。地表でマルフォイが暴れているのだろうか。
だが、地下一キロくらいまで潜ればハルマサには届かないだろう。
ハルマサは少し余裕が出来たので、マルフォイを倒すための策を実行に移すことにした。
まずは、腰のモンスターボールを開放することからだ。






ハチエは、離れた場所からの大きな衝撃を感じた。
チラリと見やれば、ハルマサの相手の男が地面に向けて元気玉みたいなものを叩きつけている。
あんなもの食らったらハルマサは蒸発してしまうと思ったが、ハルマサなら何とかなるだろうとハチエは思った。なっているといいな、とも思った。そして最後に、覚悟はしておこうと思いなおした。

マルフォイ氏の放つ元気玉は半径が20メートルはある魔力塊で、地球なんか粉微塵にしそうな威力ではあったが、このダンジョンは階層が深まるにつれて土や岩などのオブジェクトがやたらと硬くなっている。あれでも少々派手に抉れるくらいだろう。

そして、その硬いはずの地面を盛大に削り飛ばしつつ、ウニドラゴンが暴れていた。
ギュラギュラと地面を削りながら、ハチエの行く場所を遮るように龍の首と尻尾が動き回る。
あんまりそっち集中していると、何時の間にか接近していた巨体が、ロードローラーよろしくハチエを潰しに来る。

ハチエが相対しているウニドラゴンは、幸いにしてそれほど速くなかった。ハチエでも十分に対応できるレベルだ。
その代わりに硬く、重かった。
というか攻撃が全く効かなかった。
叩いたハンマーは弾き返され、放った矢は刺さらず、最終的に死ぬほど嫌っていたペニスケースさえ使ってみたが、一発で砕けた。(その時ハチエは少し清々とした)

本日は快晴で、目玉に光を集めて発射するハチエビームも絶好調。
ハチエの意志に拠らず勝手に射出されるビームが、向かってきていた龍の頭の額を焼く。
しかしあろうことか、その甲殻でハチエビームはパチューンと無様に跳ね返った。
だが、まぁちょっと熱かったらしい。龍の首が少し揺れた。
そしてハチエはその隙を逃がしはしなかった。

「ぉおおおおおおおおおおッ! ええ加減にせえよ肉達磨ぁ―――――――!」

ハチエは飛び掛りつつ、手に持っている大剣で龍の鼻面を跳ね上げる。手に重い痺れが走り、剣がすっぽ抜ける。ひょーんと飛んでいく剣。
だが、取りに行っている暇はない。このウニドラゴンは大して速くない代わりに、たくさんある触手(頭と尻尾)が絶妙なコンビネーションをみせるのだ。
今回はぐわんと跳ね上がった首の下から、地面をこぞぎ取るように太すぎる尻尾が迫っていた。
さらに右斜め上からも尻尾が降ってきており、両者を避けて左斜め上に逃げようものなら、待ち構えているかのように開いた状態でスタンバイしている複数の顎が閉じられることになるだろう。
逃れる道は最早後ろに退くのみ。
ハチエは収納袋からスルリとY字のネギを引っ張り出した。
もちろん食用としてではなく、武器として。

(もう、コイツしかあらへんな!)

敵の甲殻は硬く、生半可な武器では何処に叩きつけようと当てた瞬間砕けるだけだ。
奴に通じるとしたら、恐らくこれだけ。

ハチエは追い詰められて、やおらテンションが上がるのを感じた。

「いくでぇええええええええええええ!」

ハチエはドンパッチソードを振りかぶる。
途端にしんなりしていたネギが勢い良くピンと伸び、漲るパワーで青々と輝いた。
腰だめに構えて、一気に振りぬく。
ハチエはそれを使って彼女の持つ中で、最強の技を放った。

「アバン、ストラッシュ!」

カッ――――――――!

ズバン、と衝撃が走り、ウニドラゴンの鱗を抜いた。
血飛沫が盛大に舞い、ビルほどもある首が切断され、落ちる。
ハチエはさらにテンションが上がるのを感じた。多段ロケットのように彼女のテンションは上へ上へと登っていく。いずれは大気圏を突破する勢いであった。

「おおっし! まだまだいくでぇ――――――――!」

ハチエは咆哮すると、らーッしゅ!ラッシュ!と連続してネギを振る。
そのたびにチカッ、チカッ、と白光が瞬き、ウニドラゴンの首や尻尾がはじけ飛ぶように両断されていった。
さらに、触手ではなく肉団子部分に直撃した白光は、深くめり込み内部から爆発が起こっている。

だが、3本目を切り落として、敵の状態を確認したハチエは心が折れた。
それはもう、キュウリをぼりんと左右に折るように、彼女の心はもろく砕けた。
さっき切った半ばで断ち切れた龍の首の切断面から肉がボコボコと泡立ち、新しい頭が形成されようとしていたからだ。切った一瞬後には再生するような卑怯な速度だった。
新しく生えた龍の首たちは咆哮する。

――――――――ォオオオオオオオオオオオオ!

「さ、再生するんかいな……」

そりゃあないで、とハチエは思った。
彼女のテンションを反映して、ネギはへにゃりと垂れていた。





<つづく>


ステータスアップは最後にまとめてやります。






[20697] 146
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 01:35


<146>




ハルマサは、腰の袋から3つのモンスターボールを出して、開放する。

「いけぇサクラ号、ひまわり号、人造人間ハルマサ16号ッ!」

砂の中に現れたのは、彼の腹から這い出した後、出番のなかった彼の身代わり三体である。
頑張って痛みに耐えつつ何故三体にこだわったのかと言うと、桃ちゃん達が欲しがったからだ。
桃ちゃん曰く、「この機体は私達がパイロットになれるんだい!」とのことで、知能があまり無く「イェース」しか喋れない劣化ハルマサを彼女たちが操ってくれるらしい。

≪サクラ、行きます!≫
≪はっしーんッ!≫
≪私が一番上手くマスターを操れるんだ――――――ッ!≫

ハルマサの身代わりたちは、サクラさんの操る個体を「サクラ号」、ひまわりの操る個体を「ひまわり号」、桃ちゃんの操る個体を、彼女だけ激しくこの名を希望した「人造人間ハルマサ16号」と名づけられ、各々、好きな感じにカスタマイズしたらしい。
具体的に言えば、外見が変わっている。
ひまわり号は糸のように目を細めて優しい笑みを浮かべているし、サクラ号は眉を顰めて口がへの字になっている。
そして桃ちゃんの16号は、やたら目つきが鋭く、獰猛な笑み浮かべよだれを垂らしていた。

特技「身代わり」で作成した劣化ハルマサは特技・スキルが使用可能なため、「加速」することすら可能である。

「じゃあ、作戦通りに行くよ!」
≪了解です!≫
≪りょーかい!≫
≪グランドクロスを決めてやんよぉ―――――!≫

三体は各々バラバラに返事を返しつつ「加速」を発動、「土操作」を発動して地表まで続くトンネルを作り上げ、弾丸のように飛び出していく。
ちなみに桃ちゃんの言う「グランドクロス」とは使用者の耐久力を全て消費する自爆専用の特技である。
だから彼女の機体は16号なのか、と納得しつつハルマサも気合を入れる。

(さて……僕も行こう! 概念発現!)

≪概念「砂弾く魚鱗」を発現しました! 地属性に対して強い耐性を持つ代わりに、炎・雷属性に大して弱くなります!≫

淡い青色の鱗が体中に浮かび上がる。地中を水中のように移動するモンスターの鱗だ。
それを纏い、ハルマサは砂中でシュルリと体を震わせる。砂と砂の間へ体が滑り込むように進んでいく。
ここはもう、水中と変わりない。

(まさか、砂の中を泳ぐ日が来るなんてね!)

ハルマサは目的地へと向かって滑る様に泳ぎ始める。目的地に着くまで、一秒の時間もかからなかった。





マルフォイは自分の作ったクレーターを空中から見下ろしている。
少年の魔力反応は地下深くにあった。

(逃げたか……)

そう結論付けて、マルフォイは遠くなった少年から意識を逸らした。
久しぶりに痛みを感じて、しかも特大の傷みだったものだから激昂してしまったことが恥ずかしい。
色々引き出しを持っており、戦うには面白い相手だったが、逃げるならそれもいいと思った。
そこまでして戦いたい相手でもなくなった。

(サリーちゃんには怒られるかもしれないけどな)

苦笑しつつ、刀を鞘に納めようとした時、魔力反応が4つに分かれる。そのうち3つが、急速に近づいていることをマルフォイは感じ取った。4つの魔力反応は全て同一。魔力探知を誤魔化すためにデコイを残すのはよくあることだが、ここまで反応が同じとは恐れ入った。

ふ、と息を吐く。
あの少年は、まだ何か仕掛けてくるらしい。あっちから仕掛けてくるなら、気は乗らないが受けて立とうではないか。

(一人だけ逃げている者を追うか? でも背後から攻撃をかけられるのは……)

「まぁ近いほうからやるか」

マルフォイは迎撃のために、手に魔力を集めた。
こちらに向かってくる3つの魔力反応を迎撃するためである。
出てくるのを待つまでも無く、クレーターの底の染みにしてやるつもりだった。
だが、こちらの考えを見透かしたかのように、敵も地中から攻撃を仕掛けてきた。

きゅるん、と地面に、底の見えない穴があき、そこから電気を帯びた鉱石の槍が飛び出してきたのだ。

ヒュボッ!

衝撃波を巻き起こしつつ、石の槍がマルフォイを襲う。
が、陸空問わず光速の6倍までの速度を出せるマルフォイにとってその速度は大したものではなかった。

「何がしたいんだ……?」

首を捻りつつ、横に避ける。
鉱石の槍は二本連なっていた。一本目が弾かれても、二本目で刺すというものだったのだろうか。
いや、そうではなかった。二本目には少年が取り付いていたのだ。
少年は石の槍を蹴って飛び上がり、手に持っている骨を突き出してくる。
武器の先から衝撃波やビームが出ることがそう珍しくないこともあり、マルフォイは射線から身をそらそうとして、しかし間に合わなかった。

「!?」

突きだす速度に加え、伸長する速度も加わった骨が、マルフォイの腹部を貫いたのだ。
だが……まぁ無傷だ。
腹部を霧に変えている。
ゆらりと霞む彼の腹部を、骨が空しく貫いていた。
攻撃を素通りさせたマルフォイは、手の魔力をぶつけてやろうと目の前の少年を見て、違和感を覚えた。
目の前の少年はあまり驚いておらず、その上、

(―――――光っている!?)

何故か眉を顰めてむっつりへの字口を結んでいる目の前の少年は、眩く輝いていた。
マルフォイの思考が纏まる前に、目の前の少年は風貌に見合わぬ、女性のような声で叫ぶ。

「そういう避け方は予想外でしたが、問題ありません。何故なら―――――――グランドクロスがありますからッ!!!!!!」

カッ――――――――!

少年を中心に、光が爆発する。

(クッ―――――!)

マルフォイは焦る。手にある魔力では相殺することも出来ない恐ろしい威力だった。飲み込まれれば、マルフォイの命の保障は無い程の衝撃だ。
が、まだ大丈夫だ。この爆発ならまだ避けれる。避けれるはずだ。
急いで逆方向に移動すれば、きっと。

マルフォイが動こうとした時、彼の逆方向、すなわち背中から、どんとマルフォイにぶつかるものがあった。

振り返れば、遠くで、地面に足をめり込ませ何かを投げた後のようなポーズをしている少年と、マルフォイの背中に取り付く、やたらと人相の悪い少年がいる。

(こいつら同じ顔――――、分身か―――――!)


マルフォイの背中に取り付く少年はとんでもない悪党面で、子どもが引き付けを起こしそうな笑みを浮かべている。
直後、その人相の悪い少年も眩く輝き、爆発した。

(クソッ―――――)

マルフォイは毒づきつつ、二つの爆発に挟まれ、衝撃に飲み込まれた。






ずずん、と周囲が空気ごと振動するのを感じながら、劣化ハルマサ、「ひまわり号」の中から、ひまわりは空を見上げていた。
「加速」中のハルマサ16号を「加速」中のひまわりが投げることで、劣化ハルマサのスペック以上の速度を出した奇襲は、どうやら上手くいった様だった。
しかし、その代償は安くは無い。
ひまわり号は反動で右肩から先が動かないし、腕の骨だけでなく鎖骨も胸骨も折れた。
耐久力が激減してしまったので、耐久力を消費する「グランドクロス」も大きな威力は望めない。
精々が、目くらましになる程度だろうか。

だが、実質三体の劣化ハルマサを使い潰した攻撃でも、マルフォイはしとめ切れていなかった。
空中から、ハルマサからサクラが預かった「セレーンの大腿骨」、マルフォイの右手がくっ付いたままの刀と共に、マルフォイの頭が落ちてくる。
マルフォイの生首はボロボロで、脳みそがはみ出していたり、眼球が白く濁っていたり、皮膚が激しく爛れていたりと、お子様には見せられない仕様である。
そのような状態でも、マルフォイの魔力反応は大して変化していなかった。
すなわち、放って置けば直ぐに再生できるということである。

ひまわりは考えた。動きも取れない今のマルフォイなら、聖者の骨で突けば死ぬんではないだろうか。
落下中の聖者の骨は、あの爆発の中にあろうとも無傷であった。

(―――――いける!)

ひまわりは、骨の落下地点に向けて走り出した。
「加速」中のひまわり号の敏捷は、416億。光速の2倍ほどである。
一秒間に地球を14周する速度でひまわり号は爆走し、空中の骨を掴み取る。

「てぇえええええい!」

そしてそのまま、落下中のマルフォイの頭に向けて、振り返りつつ、横に薙ぎ払った。
ジュオッ! と一瞬にして消えるグロ生首。

(――――倒した! ……でいいのかな?)

あっけない、とひまわりが少し自信をなくした瞬間、ひまわり号の後頭部から、額を貫いて刃が飛び出してきた。
ズルリと赤黒い刃が、ひまわりの視界の中心に飛び出してくる。

「―――っか、あ……」
「今度こそ死んだかと思ったぜ。「死」って言うのはゾッとしねえな」

マルフォイの声がする。
痙攣するひまわりは振り返ることも出来なかったが、何が起こったのかは悟った。
手だ。
刀に引っ付いていた右手から再生したのだ。かつて頭から全てを再生したように。
ひまわりにはそれ以外に考えられない。

それはさて置き、ひまわりは遠ざかる意識の中で、お兄さんの役には立てたのだろうか、と思った。

そして早速聞いてみた。

≪どうなのお兄さん! 僕は役に立った!?≫
「帰ってきて第一声がそれだと良く分からないけど……」

乗っていた劣化ハルマサが壊れたので、引き戻されたひまわりはハルマサの目を通して外界を見る。
そこには、薄い青で彩られた風景が見えた。
どうやら、時間を稼ぐという役目は果たせたようだ、とひまわりは安心した。






ハルマサは空中に浮かんでいた。
そして水中に居る。
いや、正しくは海水で出来た巨人の胸に、心臓のように埋め込まれているのだ。
巨人は、彼が「水操作」で作り上げたゴーレムだった。
海鳴りの如く巨人は唸る。

「さぁ、反撃はココからだッ!」

ざざざ、と海から足を踏み出し、踏み下ろした際に砂をどふんと巻き上げつつ、水の巨人は上陸した。






<つづく>




◆「グランドクロス」
 必殺技シリーズその2。耐久力を全て消費することで発動し、属性のない魔力爆発を起こす。






[20697] 147
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 01:35



<147>


でかくて硬くて、おまけに再生する敵である。
ハチエは心がポッキーのように折れるのを感じつつ、ウニドラゴンを見ていた。

(に、逃げよかな)

かなり本気でそう思った。
だがその時、ハチエビームのチャージが終わった。
もちろん、溜めておくことは出来ないので、すぐさま発射されるハチエビーム。
着弾した場所は、彼女が先ほどアバンストラッシュを打ち込んで、内部から爆発させた敵の腹(?)の傷であり、着弾した結果を見て、ハチエにも勝利への道が見えてきた。

その傷口は肉が盛り上がり、元の形を成そうとしていたところだった。
そこにハチエビームが直撃し、半径10メートルほどを消し飛ばしたのだ。

「あれ? なんや効いとる…」

さっきは甲殻に弾かれたのにおかしいな、とハチエは思う。
だが、まぁ―――――効くのなら何でもいい。
しかも、消し飛ばしたところからは煙が上がるばかりで、肉が盛り上がってくる気配が無い。

「おお……これはいけるッ! いけるで!」

ハチエのテンショングラフが、急激な上昇を見せた。それはかつてWEBで行われたポケモン人気投票のコイルショック時にピカチュウの人気を上げるための操作が行われた時の投票数グラフと同様の(以下略)。
彼女のテンション急上昇に伴い、しな垂れていたネギも男性の素敵なサムシングのように元気になった。

「勝利の鍵は――――ビームや!」

彼女の作戦は速攻で決まった。
甲殻に弾かれるなら、アバンストラッシュで甲殻を切り飛ばして、最高のタイミングでビームを打ち込もう。
まずはどのタイミングでハチエビームが放たれるか、それを確かめなければ。
なに、数秒もあればチャージされるだろうし楽勝だ。

「おぉっし!」

気合を入れなおし、ゴロリと一転がりで数十メートルを詰めてくる巨体から、距離をとるために地面を蹴ろうとして、ハチエはイヤな予感を覚えた。

「……ん?」

獣の勘というか、魔力の気配を感じたというか、まぁ何か危険なものを感じ取り、予定していたのよりも大きく、その場を飛びのく。
直ぐに地面が盛り上がり、ごばぁ、と砂を散らしつつ、白骨化した人間の手が飛び出してきた。
ただし、物凄く巨大な手だった。人差し指だけでハチエくらいありそうだ。

「でかっ! なんやねんこれ!」

そう、大きすぎた。肩まで飛び出たそれは、空を覆い、太陽を遮るほどであった。

「ちょ、」

ハチエがもう一度飛びのき、そこに遅れて巨大な掌が降ってくる。
ばぁん、と周りの岩盤が反動でめくれ上げるような衝撃が響く。
そして肩より下が引っ張り出されてきた。
出てきた肩も出かければ、次いで出てきた頭蓋骨もデカイ。後者は縦に5メートルくらいある。

――――――グォオオオオオオオ!

顎の骨をガキガキと打ち鳴らしながら、両手をついて足を引き抜こうとした骸骨。
だがハチエが居た場所はウニドラゴンの進路であり、ウニドラゴンの速度は骸骨が出てきたからといって方向を変えられるほど遅くもなく、また小さくもなかった。

――――――どぐしゃあ!

よって、骸骨は転がってきたウニドラゴンに引き潰された。

「あ。」

気のせいかもしれないが、骸骨の悲鳴を聞いた気がした。
ハチエはつい足を止め、同時にウニドラゴンもどうやったのか知らないがピタリと止まった。
この光景は笑うべきだろうかとハチエは思案したが、結果的に見れば笑うべきではなく逃げるべきだった。いや、逃げるべきでもなく、潜るべきだった。地面に。
ハチエが逡巡していると地面がぐらりと揺れる。

オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!

突如、吹き荒れる風のような雄叫びが響いた。それは若干の怒りを含んでいるような気がしたが、多分ハチエの気のせいだろう。
その雄叫びはウニドラゴンの巨体の下から響いていた。

「お、怒こっとるで……はよぅどけたらんと」

そう、ハチエが言おうとした時だった。
山サイズのウニドラゴンが、ぐわん、と持ち上がったのだ。
持ち上がるだけで、大きく大気が動き、風が吹き荒れた。
山が動くということはそういうことだった。

「冗談やろ……」

持ち上げたのは、体が半分埋まった巨大白骨であった。筋肉も血管もないスカスカのくせに力持ちだった。
巨大白骨は、ピンと伸ばしていた手をちょっと曲げると、よっこいせとばかりに振りかぶる。

「ちょ…」

――――――グォアッ!

そしてウニドラゴンをハチエのほうへと投げてきた。

「ぉおおおおおおおおおおッ!?」

走った。ハチエは走った。
人生でこれだけ必死になったことはないと思いつつ、走った。
乙女の恥をかなぐり捨てて、男らしく叫びつつ走った。
しかし勢いをつけて投げられる、直径が山ほどもある球体を前にそうそう逃げ切れるものでもなかった。
光速を越えて走れる彼女でも無理だった。
というか巨大な物体がとんでもない勢いで移動しているために衝撃波が荒れ狂って、風の操作が上手く出来ないハチエでは、満足に進むことすら出来なかった。
実は風に弄ばれつつ足で地面を引っかいている有様だった。
ハチエは必死に頭を回す。このままではあの骸骨の二の舞だ。何か、何か使えるものはなかったか!

「そ、そうや加速装置! 加速装置を使えば!」

彼女の頭が一つの回答を導き出した。
だが、ハチエの思い付きをシステムナレーターのカエデさんが悲しそうに却下した。

≪エヴァンゲリオンのパーツは、単体では使えないのです≫
「役に立た――――――ん!」

そして、飛んできたウニドラゴンに、プチンと彼女は潰された。






ザザザザザザ……!

ハルマサが「水操作」によって海水から作り上げた水の巨人は、頭がないことを除けば完全な人型である。胸の部分で、ごぼごぼとハルマサがあぶくを吐き出しつつ、前を睨んでいる。

ざばぁ、と体の表面を波立たせながら、水の巨人はマルフォイへと距離を詰めていった。
あまり足の長くないハルマサの願望が入っているので、巨人はやたらと脚が長く、一歩で20メートルを移動する。
巨人の動きは意外とスムースで、振り上げた豪腕が振り下ろされるのもまた淀みない。

ズボォ!

ハルマサの魔力によって硬質な鈍器と化した海水の鎚が、砂地を抉り飛ばす。
手応えはなし。元より当てられるとも思っていなかったが。
衝撃で前が見えなくなるほどの砂が飛び上がって行く。その砂を物ともせずにハルマサへと急速に接近してくる影がある。
マルフォイだ。
陽光を受け輝く刃が、一筋の線となり、蛇行しつつ恐ろしい勢いで迫っており――――いや、即座に到達した。

―――――ィン!

振り終わりだけが見えるような速度の斬激が水の巨人を二つに割った。
脳天から股まで。
辛うじてハルマサは避けており―――そして避けられたなら、ハルマサの攻撃の番だった。
懐に誘い込むという、賭けに勝ったのだ。

「でぃッ!」

切り裂かれた断面から、巨体の表面から、そして振り下ろしていた拳から。
無数の水の触手が、蛇の如く執拗に、津波の如く圧倒的な量で、飛び出していく。
串刺しにし、叩きつけ、跳ね上げ、退路を塞ぐ。
マルフォイを執拗に追い詰める攻撃は、しかし、一本の刀で全て防がれている。

(一発くらい……当たって!)

威力より、攻撃範囲へと水のツタを操作する。重さより、速さへ。
「加速」を使っている状態で、「水操作」を続けるのは辛い。それが、限界以上の速度を求められる状況となれば尚更だ。
ドクドクとこめかみで血管が脈動している。
頭痛を堪えるために噛み締めた奥歯が、軋みを上げていた。
そんな、鼻血が出そうなハルマサに比べ、マルフォイは余裕の表情だった。そして、つまらない、という顔をしていた。
だが、その避ける動きでハルマサは確信する。相手は海水がかなり苦手であり――――――どうやら突っ切ることも出来ないらしい。流石はカロンちゃんの情報である。
その時、ハルマサの集中に限界が来た。
隙間の開いた一瞬で、触手の波から飛び出したマルフォイは、地面に降り立ち面倒くさげに呟いた。

「鬱陶しい……もうさっさと終わろうぜ」

ギワン、とマルフォイは左手をあげ、魔力を集める。体内の魔力というよりは、空気中から集めているようだ。
瞬き一つで急成長した魔力塊は、ハルマサが操る全長40メートルの巨人と同じようなサイズである。
ハルマサは歯噛みしつつ、最後の仕込みのために魔力を開放する。
バッと手を振り上げ、叫んだ。それはマルフォイが魔力玉を投擲してくるのと同時であった。
ハルマサの攻撃はマルフォイの攻撃とかち合うことはなかった。
彼の攻撃は下からだったのだ。

「――――――――行けえッ!」

ゴォッ!

マルフォイの下から、海が噴き上がった。
水の触手で捕らえられる確率は低いと思っていた。だから、保険をかけておいた。地面の下に、凝縮した水を仕掛けておいたのだ。あとは開放させただけ。

(やった、―――――――けど)

ハルマサの策はマルフォイの意表をつくことに成功したが、自分の安全を度外視している事が欠点だった。
マルフォイの魔力によって産みの巨人は一瞬にして蒸発し、中心部のハルマサを高温の蒸気で焼き尽くそうとしていた。


<つづく>








[20697] 148(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 20:03

<148>




「ふぅ……ふぅ……」

マリーはウニドラゴンの中で荒い息をついている。
額には弾のような脂汗が浮いていた。
ウニドラゴンの操作や回復で手一杯だったのに、さらに英霊を召喚したのだ。魔力が足りていない。そして既に、首や尻尾を操作する余裕も無い。
でも相手の女は強く、そして疾かった。
敵を捕らえる事が出来たこのチャンスに、一気に決めよう。
でなければ、破れるのはマリーになるかもしれない。

ちら、と魔力を探れば、あの軽薄男、マルフォイの魔力がひどく頼りないものになっている。
助けは期待できない―――――、そう思った瞬間、自分の気持ちを恥じた。
あんな男に助けを求めるなんて、死んでも御免だ。
そう、あんな男は、さっさと敵を殺して私の強さを見に来れば良いのだ。
そして、もう生意気言いません今度から名前を間違えませんと誓わせてやる。
その想像は、如何にも楽しそうだった。
彼女は額の汗を拭うと、大きく息を吸った。

「英霊! 叩き潰してッ!」

彼女の命令は聞きとげられ、彼女を乗せたウニドラゴンは尻尾を掴んで大きく振り上げられる。掴んだのも振り上げたのも、這い出してきた巨大骸骨、英霊である。

―――――――オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!

直後、ウニドラゴンは地表へと叩きつけられた。





「ぐぐぐ……」

ウニドラゴンののしかかりで、虫の如く無惨に潰されたハチエであったが、その時点ではしっかり生きていた。
地面の硬さとハチエの硬さであればハチエの方が断然上であるためである。
ただ、ハチエの何倍もの硬さと重さを持つ塊に、背中から押されて地面に埋まっていくのは結構な衝撃があり、ハチエは口から朝ごはんが飛び出しそうになっていたのだった。

「ぬぅうう、吐かんでぇ、ウチは二度とあんな姿は……」

必死に嘔吐感を我慢するハチエは、大の字に埋まっていた。
ウニドラゴンは概観すれば触手付きの球体であり、その重さと丸さゆえ、存在するだけでクレーターが作成される。
ハチエはその真ん中でうつ伏せに押し付けられている格好だった。

そのハチエの上から、ふ、と重さがなくなった。
実際は、風の吹き荒れる音と、衝撃であたりの砂や岩が巻き上がってそんな平和な感じではなかったが、とにかく彼女の上には何もなくなった。

(――――?)

だが、それはハチエにとってなんら幸運なことではなかった。
ウニドラゴンが持ち上げられたのは、――――――再度叩きつけられるためだったのだ。

(―――――――!?)

ごぉ、と風が吹き荒れる中、肉球から飛び出た尻尾を掴んでウニドラゴンは大きく振り上げられている。それをなしている巨大な骸骨の姿を、ハチエは見た。
直後、山が落ちてきた。

咄嗟に顔の前に腕を交差し、背中を丸めたハチエだったが、そんなもので受け止めきれる衝撃ではない。

――――――――ゴォギッ!

一段と深く地面に埋め込まれつつ、ハチエは右手がひしゃげる音を聞いた。
腕の中に鉄球でも捻じ込まれたような違和感と、激痛。指が痙攣し、掴んでいたネギが落ちる。
叫ぶ暇もなく、もう一度ウニドラゴンが持ち上げられ、落下。

(ちょ、待って……)

―――――ドォンッ!

もう一度。さらにもう一度。

――――――ドゴォ!

衝撃は腕だけで支えきれなかった。
鼻が痛い。多分折れた。前歯も折れた。膝の皿も割れた。めっちゃ痛い。
折れた歯が唇を突き破り、痛みと共に、ぬるぬるとした塩気溢れる液体が口腔を満たしていた。
衝撃で圧迫された内臓が裏返りそうになり、毛細血管がちぎれるぷちぷちという音が聞こえそうだった。
視界は白くぼやけ、一瞬自分が何処に居るのか分からなくなるような痛みが一瞬の内に幾度となく襲い掛かってきてくる。喉からせり上がってきた血が呼吸を奪う。
そしてその間も、骸骨とウニドラゴンの攻撃は止まらない。

(ぁぎ……ッ!)

5度目の振り下ろしで、肩が外れる感触と共にとんでもない激痛がした。
右腕の感触が根元からなくなる。

(あかん―――――、)

死ぬ、と思った。
ハチエの近くにココまで死の影が近づいてきたのは久しぶりのことだった。
何度経験しても慣れない。
冷たい指先が頬を撫でるような怖気がハチエの背骨を振るわせる。
また―――――――死ぬのか。

ハチエは半ば諦めて、目を閉じ―――しかし、ちら、と今同行している少年のことを思い出した。
脳裏をよぎるシーンは、多数の赤ラージャンに囲まれて餅つかれ状態になっていた姿。あの時もハルマサは諦めていなかった。必死に足掻き、生き残った。
だからあの子なら、こんな時でもきっと――――――――

「ぉ、おおおおおおおおおおおおおッ!」

諦めて……たまるかッ!

ハチエの咆哮は、歯が盛大に欠けているため歪んだ音にしか聞こえず、しかも、大気が轟々と唸っているものだから、自分の耳にすら届かなかった。
己を奮い立たすことも出来ない咆哮は、しかし、ハチエを動き出させるきっかけにはなった。
腕は折れ、鼻は曲がり、口からは荒い息をつきつつ血を滝のように垂らしながら、ハチエはギラギラと燃えるような光を眼に宿す。
そして、ウニドラゴンが振り上げられるタイミングにあわせて跳ね起きた。

幸いなことに左腕が動いた。おまけに指も動く。小指は動かないけどそれ以外は全部動く。とんでもない奇跡だ。

(ネギはどこや!)

既に彼女の眼は疲労によって視力が失われつつあった。それはもしかしたら血液が不足しているせいかもしれなかった。
しかし、濁った視界の中で不思議と、彼女の探し物は光っているようだった。なぜかは分からない。
そんなことよりも頭の上から迫り来る巨大な物質をどうするかの方が重大だった。

(見っけた!)

ドンパッチソードを指先で挟むようにし、すくい上げた。
彼女の腕は半月を描くように振り上げられる。
そしてネギが眩く発光し、彼女の気合を衝撃に変えた。

「あああああああああああッ!」

喉も裂けよとハチエは絶叫し、ネギから莫大な熱量が放射され――――龍の首を二つに割り、その付け根の甲殻を吹き飛ばした。
それだけに止まらず、ウニドラゴンの体躯を高々と跳ね上げた。
それは彼女が今まで出した中で最高の威力だった。

(無駄、なんか……?)

が、ウニドラゴンを仕留めるにはその二倍の威力は必要だった。
ハチエは呆然と、跳ね上がったウニドラゴンを見つめる。
もう一度、今の意欲を出せるかと言われれば、答えはNOだった。
視界一杯を埋める巨大な質量は、彼女から見ればアバンストラッシュを放つ前と大して変わらず、何をしても無駄に思えた。

降って来る。
三分の二ほどになったが、それでも巨大な質量だ。
迫る死を見上げつつ、ハチエは何も出来なかった。
もう体力も気力も残っていない。反撃の手段は何も思いつかない。

オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛
ッ!

巨大骸骨が轟々と咆哮し、ウニドラゴンを振り下ろしてくる。

(ああ……)

終わりとはあっけなく訪れる。
窮地に至っても、彼女の特別な力が偶然目覚めたりはしなかった。
状況を覆すアイディアが都合良く閃いたりもしなかった。
現実はとても非情で、そして彼女はいつでも孤独だった。

だが、今はそうではないのだ。
彼女の仲間は―――――彼女の内にいる。

≪――――――箸です! 「割り箸」を使うのですハチエ様ッ!≫
「箸……?」

その声は、彼女にシステムを積んだ人物の声であり、今、彼女のシステムのナレーターをしてくれているAIカエデの声だった。

≪やっと……届きました。集中し過ぎですよハチエ様。≫
(箸……)

ハチエの思考は半分停止していたが、一筋の光明を得た彼女の動きは思考に関わらず正確だった。
気付けば左手はネギを放し、懐のカードを掴んでいた。
指の間に挟まれ抜き出されたのは「割り箸」と銘打たれたカードである。
効果は、完全なる衝撃吸収。ただし一回だけ。

(なんでウチはこれを思いつかんかったんやろ……?)

気付けば、これ以上はない解決策だ。
それだけ圧倒されていたということか。カエデは一体何時から叫んでいたのだろう。
さっさと気付けていれば、こんなにならなくて済んだのに。

「せいッ!」

ハチエはカードを具現化し、出てきた割り箸を最早眼前へと迫っていたウニドラゴンに突き刺した。
箸は即座に黒く染まってへし折れたが、巨大な肉塊は勢いを失った。
一瞬のことだったが、インフレしまくっているハチエの速度から見れば、それは時間が止まっているようなものだ。

(ぉお………ッ!)

足もまだ動いた。奇跡だ。
ハチエは空中のネギを引っつかみ、だん、と地面を蹴ってすり鉢上に抉れているクレーターの内部を全力で駆け上がっていった。
満身創痍でやることではなかった。一歩踏み込むごとに体が軋み、内臓が止まってくださいと血の涙を流して懇願してくる。泣きたいのはハチエのほうだ。
彼女の本来の速度から見れば亀のように遅かったが、常人から見れば神速であり、巨大な肉塊が重力に引かれて大地をさらに一段へこます頃には、ハチエはクレータを抜け出していた。

≪ハチエ様の攻撃は、一撃では効果がありませんでした。≫

走っている最中にも、カエデの声がする。

≪ですから、何度も切れば良いのです。同じ場所を、治す間もなく。≫
「はぁ……!」

一つ息を吐くと、口の端からボタボタと血が飛び散った。内臓が飛び出ていかないのが不思議なくらい苦しい。もう、ぶっ倒れてさっさと寝たい。
だが、ここで止まっていたら意味がない。
それに、もう長くは動けないとハチエは感じた。体中で無事なところは無い。9割くらいが重傷で、5割くらいが致命傷だ。今動けているのは、何度目の奇跡なのだろう。
さらに、走り、距離をとる。何度も跳んでようやく全体像が見えてきた。首と尻尾が、力を無くした様にダランと垂れている。敵もどうやらそれほど余裕は無いらしい。

「……ははっ」

立ち止まると、その場に座り込みたくなった。内臓を全部吐き出したくなった。喉の奥から競りあがる血は、相も変わらず鉄の味だった。余裕の無さではハチエは絶対負けない自信があった。

カエデが言ったことを考える。
何度も切る?
無理だ。のんびりやっていては、コッチが先に倒れてしまう。
だから――――――

「ぁああああああああああああああッ!」

ハチエは何度も何度も、武器を振った。切り下ろし、切り上げ、横に振り、縦に割り、倒れる前に出来るだけ。全ての軌跡は、その中央が一点を通っていた。

(これが終わったら、たくさん寝たる! 二日くらいは寝続けたるでッ!)

彼女の切り返しはまさに神速だった。ネギから衝撃波が発生されるよりも速い速度であった。
それは、彼女の体の状態から言えば奇跡のような速度であり、4度目の奇跡にもなると、代償も存在するのだった。

(これはちょっと、まずいやろか……?)

大事なものが体から抜けていく。
彼女の体はどうしようもなくガス欠で、燃やすものなどもう一つしか残っていなかったのだ。
今はもう、一振りごとに命が削られていた。
体は霞むようであり、血は薄まるようであり、ハチエの存在が根底から消えうせるようだった。

≪ハチエ様! これ以上は! 耐久力の最大値が減少して……!≫

ハチエの耐久力の最大値が削られていた。命を削るとはそういうことだった。
だが、ハチエは止まらなかった。今ある分だけではない。未来の分まで削る勢いで――――実際に、これから得られるであろう耐久力すら消費するという矛盾すら起こし、振りぬく武器に命を込めた。
幾度も幾度も、一瞬にして数十を越える軌跡を描いたネギは、外に放出できなかったエネルギーで丸々と太った。
ネギというより大根のようになったドンパッチソードは、彼女の最後の咆哮と共に、盛大に光り輝き――――――――破裂する。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああッ!」

ネギの破裂と共に、天地を分かつような命の光が放たれた。





マルフォイは、苦手とする海水に包まれた。
ハルマサは超高温の気体に包まれた。
互いの攻撃で、同時に死にそうになった二人がその後とった行動は、また同時であり、その際あげた雄叫びはこれまた同時であり、そして、とった行動も酷似していた。

「「ぉおおおおおあッ!」」

―――――――パァンッ!

体から魔力を放射し、襲い来る猛威を退けたのだ。
気化した水を吹き飛ばし、ハルマサは地面へと降り立った。一瞬のことだったのに、体中が火傷しているようだった。いや、火傷ではない、これは炭化だ。
傷ついた体を隠すように、燃え尽きたタキシードがゆるゆると再生を開始していく。

(か、は……ッ!)

高温の蒸気は吸い込んだ喉を一瞬にして焦がした。喉を押さえた手の筋肉が火傷で引きつっており、押さえた喉は表面が炭化していた。
眩暈がする。酸素が足りない。
だが―――敵よりはましか。

見やれば、ブスブスと煙をあげつつ、マルフォイは立っていた。
魔力の放出で、海水を払ったようだが、体を守る余裕はなかったようだ。辛うじて四肢は揃っているが、輪郭があやふやな化け物と成り果てている。
塩気で傷ついたためか、回復する兆しも見られない。
マルフォイはぼろぼろと崩れている顔を片手で押さえ、声にならない声を上げる。

「■■■■……」

マルフォイは諦めていないようだった。傷口を掻き毟り、塩で傷ついた皮膚を落とそうとする。
それを見つつ、ハルマサは足を踏み出していた。それだけで、足の筋肉が断裂した。「加速」による反動は最早限界に達していた。それだけではない。火傷によって、皮膚は引きつり、筋肉は萎縮し、視界は濁り、もしかしたらハルマサもマルフォイと同じく化け物のような風貌をしているのかもしれなかった。
ハルマサは麻痺したような顎を動かし、気付けのために舌を噛み切った。
それだけで頬の皮膚がびちりと弾け、噛み切った舌から出た血は小麦粉の味がした。
だが相手と違い、ハルマサは動けた。

(ぬぁあああああああッ!)

ハルマサは二歩目を踏み出し、三歩目で力を込めて地面を蹴った。
小麦粉の味がする血をごくりと飲み込み、腕や脚を振る。
皮が爆ぜ、血や筋肉が、ぼたぼたと落ちていった。

でも、それでいい。かまわない。
引きつる皮は無視しよう。
焼けつく肉は置いていこう。
燃え上がる血は――――己を動かす燃料だ。

「―――――――ぉおおおおおおおおおらッ!」

ずぶん、と手首までマルフォイの腹へと拳が埋まった。
死体にはとても火が似合う。ハルマサはそう思った。

(―――――――「炎球」ッ!)
「―――■■■■■ッ!」

マルフォイが苦悶の声を上げる。
深く突きこんだ拳から炎が溢れ、マルフォイの体を内側から燃え上がらせた。



ゴォオ、と耳鳴りのような音が聞こえると思ったら、自分が燃える音だ。
俺は死ぬのか、とマルフォイは思った。
もう魔力も体力も、何も残っていなかった。
だが、それでよかった。どうでも良かった。
生きることも死ぬこともどうでもよかったし、何時死んでもいいと、てきとうな人生を送ってきた。
血を吸われて不死者となった時も、退屈な時が長く続くのだろうと、微かに失望したこと以外は、別段何も思わなかった。
だが、今は―――――――少し生きたいと思っていたのだが。

マルフォイは、マリーが居るであろう場所を探った。
彼女の魔力は、同じ不死者とは思えないほど、生き生きとしていた。生きているとはこういうことかと思った。その様に憧れもした。

だから、白濁した瞳でその光景を見た時、彼は―――――――笑った。

(足掻いといて、良かったぜ)

煤となって燃え尽きようとする拳が動き、己の腹に手を突き入れていたハルマサを弾き飛ばした。







ウニドラゴンの中でマリーは狼狽する。
反撃を何とか耐え切り、今度こそ潰してやろうと、ウニドラゴンを叩き付けた瞬間に、不可解な現象が起こった。そして敵を見失った。まずい。危険。

「どこ、どこに行ったの!?」

必死に彼女は魔力の反応を探した。
それだけの行動でさえ、彼女は頭痛を覚えたが――――――――――迫り来る危険を感知して、痛みのことは頭から吹き飛んだ。
極大・超密度の光刃が、今まさにウニドラゴンに直撃したところであった。

シュワッ――――――!

炭酸がはじけるような音だった。
ウニドラゴンは一撃で根こそぎ消えうせた。
それは、無理矢理空気を注ぎ込まれた風船が破裂するかのようだった。
そして中央に残る小さなマリーには、ウニドラゴンを破ってなお大きい光刃へと対処する方法が無かった。

「いや………いやよ……!」

塵も残さず消えうせる自分がありありと想像できた。とても恐ろしい想像だった。
彼女は泣きそうになりながら、魔力を噴射した。
だが、ウニドラゴンを操ることに全精力を傾けていた彼女の余力は少なく、また、多少動いたところで光刃の攻撃範囲から逃れることは出来なかった。
つまり彼女の抵抗は甚だ無意味だったが、マリーはそれでも足掻いた。死にたくなかった。



そして――――――マルフォイはそれを遠くから眺めている。
彼の体は、既に原型がなく、ただその青い瞳だけが、元のままだった。
少年を殴った腕は崩れ落ち、左手も肩から焼け落ちた。腹の穴は治らず、再生能力の限界が来ていることを教えてくれた。
耳も眼も鼻も、無事なところは何処にもない。足も体重で押しつぶされそうだ。おまけに体の内部から燃やし尽くされようとしている。
しかし、動くはずのない体には、不思議と力が溢れているようだった。
彼は崩れる足を踏み出した。一歩目は軽く、二歩目には地面を蹴って、三歩目には光速を越えた。
即座に崩れ落ちるはずだった体は、何故か形を保っていた。
それは、この胸から溢れる、白い光のお陰かもしれなかった。不思議と力が溢れてくるこの光。相手取っていた少年の分身たちが自爆する時の光に似ているような気もする。
まぁなんだか知らないが、彼女のところまでいけるなら、ありがたい。
壊れた体は、動くたびに剥離していく。
もう、あと数秒で………死ぬだろう。
でも、それで良かった。

「――――――――ォオオオオオオオオオオオオオッ!」

マルフォイは、初めて自分の生に意味がある気がした。





ドンパッチソードは、仕事を終えたとばかりに破裂した。
その残骸を手に、ハチエは確信した。

(捕らえた……!)

空を切り裂き飛翔する白い光は、刃というには巨大すぎる。まるで光の津波である。
その津波に、敵の少女が飲み込まれようとした時だった。

音もなく、一筋の流星が走る。
白色に眩く輝く光の筋が飛来し、少女に激突し、その体の末端を衝撃でちぎりつつも、少女を攫っていった。

(そんなんありかぃな……)

もう、立っているのも限界だ。そうとは気付かずに自然とハチエの膝から力が抜けた。

(あかん、まず……)

何時の間に倒れたのだろうか。地面が目の前にある。鼻に砂が入って苦しかった。

――――プツン。

大事なものが切れる音がする。
ハチエが覚えているのはそこまでである。




光に攫われ、空を吹き飛んでいくマリーの右手の中で、マルフォイは頭だけになっていた。
その頭は、今もなお崩れ続けている。
だが自分の消滅にまるで頓着しないように、男の生首は声を出した。

「間に合ったみたいだなサリーちゃん」

マルフォイはまるで変わりない声で喋り、笑みすら作って見せた。
この男は自分の消失が怖くないのだろうかと、マリーはとても不思議に思った。
先ほど、マリーはとても怖かった。そこから助けて出してくれたのだから、サリーと呼ぶくらいは許してやろうと思った。

「……どうして私を助けたのかしら?」
「気まぐれさ。死ぬ前にいい事したくなったんだ」

マルフォイは助けたことを誇らしげに喋った。この男は勝手に助けて、勝手に死のうとしていた。とても腹立たしいとマリーは思った。

「……そう。でも、あなたは私のお気に入りのドレスに穴を開けてくれたわ。死ぬ前に弁償して欲しいわ」

マリーの横腹の服は破れ、肌には大きな痣が在った。ついでに言えば、左手と両脚が千切れた。そして、それらを回復する余力が少女にはもう残っていなかった。
マルフォイがうろたえた様に声を出す。生首なのに喋るとは。マリーは自分のことを棚に上げてそう思った。

「服くらいよくね? 命助けたんだから十分じゃね?」
「ダメよ。命よりも大事なの。この繊細な意匠は私には直せないわ」
「……どうでもいくね?」
「ダメ」

男は呆れたようにため息をつく。
少女は身を捻り、首を小脇に挟んで、空いた手を服のポケットに入れた。
そこには、彼女がこのダンジョンで手に入れていたアイテムがあった。
「モドリ玉」と書かれた小さな玉を少女は手のひらで握りつぶす。

「だから、死んではダメだわ」
「…………死なせてくれよ」
「死なせないわ」

マルフォイが疲れたように、だが、少し嬉しそうに微笑んだ。
次の瞬間アイテムの効果により、緑の閃光が辺りを包み、生首を抱えた少女はこのダンジョンから消え失せた。


ハルマサは最早手遅れと思いつつも叫んだ。

「―――――――待て……っ!」

消え行く二人に聞こえたのかどうか。彼の声は空しく響いた。
マルフォイの一撃は効いた。意識が飛びかけた。一瞬脚が止まったし、その分スタートが遅れたのは確かだ。
でも、追いつけない距離ではないと思った。だが。

(あの光はいったい……?)

瀕死のマルフォイは、突然光り輝き、今までで最も速く動きだしたのだ。
―――――マルフォイが異常に速くなった気がしたのだ。
何が起こったのだろうか。

だがそんな疑問など、次の瞬間吹き飛んだ。
「空間把握」で、倒れているハチエの姿を察知したからだ。

「ハチエさん……!」

駆け寄りつつ叫ぶ。
返事は無い。

(ひどい……!)

肩を揺するのも躊躇われる重傷だった。だが、まだ微かに呼吸をしている。生きている。
ハルマサは急いで処置を開始した。




<つづく>




ハルマサ
レベル: 27
満腹度: 805,120,488 → 1,193,804,760
耐久力: 420,242,225 → 1,111,746,928
持久力: 527,946,168 → 916,630,440
魔力 : 1,261,319,156 → 1,987,024,053
筋力 : 701,316,408 → 1,436,893,960
敏捷 : 1,068,668,944 → 1,795,080,577  ……★2,692,620,866(メビウスリンケージの効果で1.5倍)
器用さ: 1,394,130,848 → 2,533,768,698
精神力: 464,229,750 → 669,586,645



スキル
水操作Lv27 : 16,823,981 → 817,291,002  ……Level up!
棒術Lv27  : 135,946 → 681,928,301  ……Level up!
防御術Lv26 : 36,673,891 → 591,820,123  ……Level up!
空間把握Lv27: 198,430,120 → 672,981,074  ……Level up!
魔力放出Lv27: 537,301,021 → 928,777,631  ……Level up!
心眼Lv26  : 255,928,301 → 601,288,325  ……Level up!
魔力圧縮Lv27: 398,172,833 → 732,401,120  ……Level up!
撤退術Lv26 : 209,378,115 → 472,091,883  ……Level up!
戦術思考Lv25: 92,763,848 → 298,120,743  ……Level up!
回避眼Lv26 : 147,829,033 → 348,192,825  ……Level up!
舞踏術Lv25 : 21,986 → 182,011,901  ……Level up!
消息術Lv24 : 4,310 → 120,973,227  ……Level up!
突撃術Lv25 : 112,837,623 → 220,408,015  ……Level up!
風操作Lv26 : 399,040,101 → 502,981,001
撹乱術Lv26 : 300,287,134 → 401,928,301
雷操作Lv26 : 404,931,002 → 504,991,821
的中術Lv24 : 7,083,912 → 107,083,912  ……Level up!
水泳術Lv23 : 3,628 → 71,283,628  ……Level up!
鷹の目Lv24 : 29,833,400 → 87,192,093  ……Level up!
PイーターLv26 :382,091,823 → 438,122,689
空中着地Lv25: 192,381,022 → 242,381,022
土操作Lv24 : 53,844,920 → 102,819,099  ……Level up!
炎操作Lv23 : 7,829,001 → 57,829,001  ……Level up!
観察眼Lv25 : 287,923,712 → 328,191,756
身体制御Lv25:154,829,011 → 191,023,942
概念食いLv22:5,987,220 → 30,917,267  ……Level up!




ハチエ ………Level up!

レベル: 28 → 29   Lvup Bonus: 671,088,640
耐久力: 670,825,572 → 134,165,144(80%減少) → 805,253,784 ……☆14,494,568,112(防具による修正後の数値。以下同)
持久力: 670,825,574 → 1,341,914,214 ……☆28,180,198,486
魔力 : 670,825,568 → 1,341,914,208 ……☆9,393,399,456
筋力 : 670,825,571 → 1,341,914,211 ……☆24,154,455,802
敏捷 : 670,825,578 → 1,341,914,218 ……☆20,142,132,418
器用さ: 670,825,571 → 1,341,914,211 ……☆4,025,742,634
精神力: 670,825,584 → 1,341,914,224 ……☆44,283,169,392
経験値: 1,282,932,736 → 2,792,882,176 残り: 2,575,826,944(ウニドラゴンの経験値は[Lv28の分]×9でした)


「モドリ玉」:モンハンに出てくる、ベースキャンプへのワープという不思議効果を持つ煙玉。これをモンスターにも使えれば捕獲クエストとか凄く楽になると思えるのですがそれは言わない約束ですかそうですか。このssでは、ダンジョン外の思い浮かべた場所へ飛ばされます。結構貴重品。




<あとがき>

お久しぶりです。
みんなストーリー忘れてるだろうけど、このssはストーリーなんてあってないようなものだからとっても安心ですね!
今回の目玉は148話。
わずかに描かれていた脳内プロットをすらブッ千切る超展開に、第三階層でのストーリーの行く末が激震しました。
また、全体的に書き直したので、その余波が誤字として存在しているかも。



さぁ、明日も更新だ!




以下コメ返です。毎度ありがとうございます……。

>待ってましたよぅ!
お待たせしてしまったよぅですね!

>べ、別に更新待ってたりなんかしてなかったんだからね!!
べ、別に読んでほしいんじゃないんだからね! あ、嘘です!

>その内ナイトウォッチよろしく光速の5千倍とかで動いちゃうのかww
ナイトウォッチってそんなすごいんですか。もうどんなことになっていることやら。

>おかえりっ!
ただいまです。

>奪還屋みたく「光速?ナニソレおいしいの?」レベルになってしまうのだろうか…
奪還屋そんな面白いことになってたんですか。読んでいればよかったぜ。

>おかえりぃぃぃぃぃ!!!
激しいぜ!

>加速中の加速って、それは『世界』を発動中に『世界』を発動するようなものじゃ?
多分二度と使いません。どうなってるかよくわからないし。

>たかが一月が随分昔に思える。
そうですね。時間の流れって速いです。ビビリます。

>再開万歳!
飛び飛びですいませんでした。
少なくとも明日とあさっては更新します。

>ウニドラゴン・・・・主人公のエサですね解ります。
ハチエさんのえさでした。

>長かった・・・お待ちしてました
長いですよね。すいませんでした。

>カロンちゃんとのラブシーンはまだかあぁぁぁぁぁぁぁ!!
もうちょっと待ってほしいんだぜ。……ラブシーン?

>光速超えても声は普通に聞こえてるけどなぜだろう…
多分ものすごい早口でしゃべってるとか、特殊な声音を使ってるとか……よく分からないっす。気にしたら負けなんだぜ!

>この日を1ヶ月全力で待っていた!!!
……ありがたいとともに申し訳ないです。もっとがんばります。

>ハルマサはレベルが上の相手と戦う時、加速度的にスキルが上がっていくなら、ハチエと模擬戦したら安全に無限に強くなれるのでは?
スキルレベルが高くなってくるとそうでもないんですけど、少しは強くなれるかもしれないですね。そういうシステムの穴はポロポロあります。

>まさかの身代わりスキル!
あれです。完全にelonaの影響を受けています。最初はピッコロ風に仲間を増やすつもりだったんですけどね。

>お帰りなさ~い~♪
お待たせしました。

>光速で動いたら衝撃波とかがすごそうですねコレハ武器になるかも
格下だと、近くで動くだけで木っ端微塵ですな。

>ドンパッチソードは鬱状態で折れたら壊れるのか?
折れるほど硬くないでしょうね。腐るんじゃないでしょうか。

>来てたー!!!!
密かにきてました。お待たせして申し訳ない。

>不死人にピュアクリスタル・アイを使うとどうなるのっと
効くんですかね。日光が割と平気なんでダメージはあっても低めになるでしょうね。

>しかし……ドンパッチソードを松岡修造がもったとしたらどうなるのだろうか?
上書きされて松岡修造ソードになりますね。

>13日+半月(=15)=28日…
日付が変わってしまったけどセーフだとお思いたい。やっぱアウトかな。







[20697] 149
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 20:03



<149>


「ハチエさん…………ッ!」

彼女は敵を倒した。あんな強かったんだから、レベルアップして耐久力も回復しているはずではないのか。
だが、現実では彼女は重傷であり、ハルマサの言葉に一寸たりとも反応しない。
ハルマサは歯噛みし、自分の指を噛み千切る。

(これしかない……!)

血液が迸り出るその指をハルマサはハチエの口へと突っ込んだ。
口の中は湿り気が感じられない。それが恐ろしい。

(目を覚まして……!)

ハチエの喉が、コクリ、と動いた。

ハルマサの特性に、「増血注入」というものがある。
体を流れる血が、他人に元気を与える性質を持つようになる特性である。
桃色に分類されるため取り扱いは要注意だが、ハルマサの持つ中で唯一、他人に使える回復手段であり、ハチエが生き延びられるかはこれにかかっていた。

もうどれくらい注ぎ続けただろう。
ハチエの瞼が――――――――もう全然ちっとも開かなかったので、ハルマサは貧血になるまで注ぎ続けた。





さて、戦いの後に残ったモノは、多くが傷跡であった。
大地を深く抉り、穴をあけ、クレーターを作り、もうやりたい放題した結果、砂丘の連なる美しい砂漠から砂丘の吹き飛ばされた汚らしい砂漠へとフィールドチェンジされていた。
砂の量が減り、下の地層の岩やら土やらが露出しているのだ。

そして、その上に持ち主に回収されずに置いていかれた全長40mの骸骨が落ちている。
その巨大骸骨は無惨に打ち捨てられているかといえばそうではなく、やたら人間臭く体育座りをしたりしながら、海をぼんやり眺めている。そして、眺めるのに飽きたのか、先ほどからこちらに向かってチラチラと視線を送ってきていた。

≪マスター、その、仲間になりたそうな目でこちらを見てきておりますが。≫

AIのサクラさんが報告してくれるが、ハルマサはどうすれば良いのか分からない。
というか眼球が存在しないのに、視線を感じさせるあの骸骨はいったい何だ。ハルマサが楽勝でもぐりこめそうな眼窩はぽっかりと黒い闇を抱えており、ハルマサは微かに恐怖を覚えた。
どう対応したら良いのかさっぱり分からないので、ハルマサは他の人に意見を求めることにした。

「どう思うサクラさん」
≪少々お待ち下さい。サクラぁ……、EYEッ!≫

何をしているのか、頭の中でシュキーンと音がする。
サクラさんのどこに目があるのだろうか。木肌にはへこみとシワとウロしかなかったような……。真の姿があるだろうか。
ハルマサが頭を捻っていると、サクラさんの声が聞こえた。

≪……見えました。あの骸骨はメスです。置いていきましょうマスター。≫

きっぱりと言い切った。
いつもと変わらない声音がなんだか怖かったので、ハルマサの返事は少し跳ねていた。

「よ、よくメスだって分かったね」
≪私の「サクラEYE」は全てを見通す事が可能です。残念なことに一月に一度しか使えませんが。≫
「もっと大事なところで使って欲しかったと思わないでもないね」

まぁ意見は意見である。ハルマサは心のメモ帳に、「放置する:1」と書き込んだ。
続いてひまわりに聞いてみた。

≪あのね、一人ぼっちは寂しいと思うんだ。ここに一人で置いていったら可哀相だよ……。仲間にしてあげようよお兄さん!≫
「ふむ……」

ひまわりはいい子だった。ほんわかするのを感じつつ、心のメモに「仲間にする:1」と書く。
次に桃ちゃんに聞いてみた。
脳裏にて、彼女はわざとらしく咳払いしてから、厳かに言った。

≪醤油……ですね。やっぱり。≫

醤油らしい。

「ごめん。意味が分からないんだけど」

ハルマサが率直な感想を返すと、桃ちゃんは心外だという風に叫んだ。

≪な、何言ってるんですかマスターッ! 古来より骨につける勝負ダレに関しては、醤油派とソイソース派に分かれて熱い論争を繰り広げて来たじゃないですかッ!≫
「へぇー」

ハルマサは心のメモに「意味不明:1」と書いた。

≪ま、まさか知らない!? バカな……! い、いや、バカだ! マスターはとんでもないバカだッ!≫

桃ちゃんがさらに何か言っていたがそれはしっかり聞き流しつつ、ハルマサは次の人に尋ねた。

「ハチエさんはどう思う?」

凄まじく重傷だったくせにあっさり意識を回復したハチエさんは、今は寝そべっていた。

「んー? 何がー? あ、白ヒゲもうちょっと下や。……ああ、そこやそこ。そこが痒かったんや」
「グルゥ……」

白ヒゲに背中をかいてもらっているハチエさんは、地面に片頬をつけてうつ伏せに寝そべっている。
ケガは粗方治ったが、体が少し麻痺するらしい。神経を治すのにはもっと血液が必要なのかもしれない。だが、ココまで来ればもう自然回復でもいけそうだ。

ちなみに「増血注入」は以下のような説明がなされている。

□「増血注入」
他人を元気にさせる血液。あなたの血液は、他人の心と体を元気にさせます。栄養たっぷり、コクとニオイが堪らない! 皆で送ろう飲血ライフ! あの人はもう……あなたの血液に夢中ッ! ※同種の生物にしか効きません。また、中毒性があるので多様は禁物。

「元気になる」=「健康になる」=「病気とケガが治る」という論理展開で回復効果があると桃ちゃんが言うので使ってみたのだが、ベホマ並の効果があった。
ただ、ハルマサがぶっ倒れるまで血を注いでも結局は治りきらなかったので、耐久力が増えていくこの先、この特性を当てにするのは考え物である。一々桃色解除薬を吹きかける手間もいるし。
ここは別の回復手段を探すべきだろう。ハルマサが他者を回復する手段を探すか、ハチエが自己再生する手段を持つか。できれば、両方が理想的である。

それはさて置き。
とりあえずハチエさんは骸骨の処遇に関しては興味が無さそうだったので、ハルマサは心のメモに「どうでもいい:1」と書いた。
さて、意見を求めるのもこれが最後である。
ハルマサは巨体を見上げつつ、尋ねた。

「レンちゃんはどう思う?」
「ギィ!」

巨大蟹のレンちゃんは元気よく鳴くと、待ってましたとばかりに左のハサミと右のハサミを激しく振る。
そして身振り手振りで、真剣に意見を述べた。

「ギィ! ギギッギギィ! ギィイィ? ギュイ――ンッ!」

動くハサミと巨大な体によるボディランゲージは大量の情報をハルマサへ運んでくる。

「なるほどね」

ハルマサは一つ頷き、心のメモの数字の部分を書き変えて、「意味不明:2」とした。
レンちゃんの情報を受け取るには、彼はまだ未熟だったのだ。

白ヒゲには嫌われているため聞かなかったので、以上で意見の聴取は終了である。


結果。

放置する  :1
仲間にする :1
意味不明  :2
どうでもいい:1

(ひどい……!)

「意味不明」票が最大なところが特にひどい。
しかも結局決まっていない。
やはり、他人に決めてもらおうなんて虫の良い話は通用しないということか。

「困ったなぁ……」
≪あの、ハルマサ?≫
「うーんうーん…」
≪重要なネコを忘れてないかニャ? ボクの意見が必要ではないのかニャん?≫

ハルマサは叫んだ。

「よし決めたッ! 連れて行こう!」
≪…酷いニャ……もう絶対卍解教えてやら無いニャ……≫

何か聞こえた気もするが、とにかくハルマサは決めたのだ。
ハルマサは巨大な骸骨に駆け寄り、声をかけた。

「あのぉ!」
『な、なんだ!?』

挙動不審に骸骨はビクついた。

「仲間になってくれない?」
『う…うむ! そこまで頼まれたら仕方ないなッ! いいだろう!』

テレパシーでちゃんと喋れるらしい骸骨(♀)はとても嬉しそうにパーティへと加わったのだった。




「で、新しく名前がいるんだって」
「なんで?」
『それは……』

巨大な骸骨はでっかい手をモジモジカシャカシャさせつつ、事情を説明した。
彼女(?)は非道なゾンビの少女に捕らえられ、無理やり名前をつけられてコキ使われていたらしい。
特に先程などは、重たいもの(ウニドラゴン)の下敷きにされて、骨折するところだったとか。
名前が変わらないままだとまた「召喚」で呼び寄せられてしまう可能性が高く、そうなる前に他の人に名前をつけてもらいたいとのコトだった。

『骨折したら中々治らないんだ! 横暴にも程があると思わないかッ!?』
「名前うんぬんって、精霊とかにようあるこっちゃないの? 真名知られたら基本的に言いなりになるってファンタジーの常道やん。」
「ハチエさんは本当にサラッと無視するよね」
『ファンタ……? いや、私はすでに死んでいる身ゆえ、名はないのだ。だからだろうか、勝手につけられた名前で縛られてしまってな。』

骸骨は、ハルマサには読めない文字が掘り込まれた第3胸骨(丸太くらいある)を忌々しそうに見ている。
その文字を削り取り、新たに名前を彫ればいいらしい。

「取りあえず先に名前削っておこうか」
『う、うむ』

ハルマサがソウルオブキャットを持ち出すと、骸骨はビクリと体を震わせた。

『や、優しくしてくれ』
「エロイやん骸骨のくせに。破廉恥骸骨やな」
『私のどこが破廉恥だ!』
「まぁまぁ。それじゃあいくよ」
『待て、心の準備が――――』

ゴリッ!

『はぁああ…ッ!』

ゴリリッ!

『こ、壊れる……!』

一削りするごとに骸骨が悶えるものだから、ハルマサもかなり神経を使う。作業は遅々として進まない。
そんな骸骨に、傍らで寝そべったままのハチエが声をかけていた。

「なぁなぁ。なんで声がエロイん? わざと?」
『違う! で、出てしまうのだ!』
「ふーん。破廉恥骸骨も大変やなぁ」
『だから違うと……!』
「まだまだ削れてないから、ドンドン行くよ!」
『ま、待て! 少し休ませて……ぬああッ!』


10分後。


「……ふぅ。」
『酷い……何度も止めてって言ったのに……シクシク』
「いや、泣きまねはええから」
『ひど……!』
「それより名前どうしようか。ハチエさん何かある?」
『格好いい名前にしてくれッ!』

途端に元気になった巨大骸骨がうるさいくらいに主張してきた。
それは無視して、ハチエが首をひねる。

「破廉恥骸骨やと長いしなぁ。もうハレンチでええちゃう?」
「分かりやすい」
『アホか! 絶対にお断りだ! もっと武士っぽい名前で頼みたい!』

骸骨がバンバン地面を叩きつつ叫ぶ。
砂や土が舞うので邪魔臭い。
漂ってくるそれらを手で払いつつ、ハルマサはふと思いついた案を口にした。

「じゃあ、「タッカラプト・ポッポルンガ・プピリットパロ」はどう?」
「ナメック語やんw」
『なんか格好イイなそれ! 意味は?』
「遥かな蒼空に流れる雲、だよ」
「ウチ、時々ハルマサが凄いと思ってしまうねん(意訳:よくそんなウソがサラサラ出るね)」
『ほほぅ……風流だッ! 気に入った!』
「ええんかなぁ……」

という訳で、巨大な骸骨の名前は「タッカラプト・ポップルンガ・プピリットパロ」、通称パロちゃんに決定した。





<つづく>


骸骨が仲間になりました。

「ポケモンイーター」スキルが600万ほど上昇。





[20697] 150
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 20:04


<150>

「そういえばパロちゃんってモンスターボールに入れるのかな」
『なんだそれは』
「魔物かどうか微妙なラインやからなぁ……」
『?』

ハルマサは取りあえずやってみることにした。

「てい」

コン! とボールをぶつけてみる。

『うわぁああぁあああぁあぁぁぁああああああああああッ!』

パロちゃんは叫びながら吸い込まれていった。

「ぱ、パロちゃんゲットだぜぇ―――!」
「なんか凄いひどいコトしてしもうた気分やな……」

ところが、ハルマサが掲げたモンスターボールがガタガタ揺れたかと思うと、勝手に開いた。

『何をするんだぁ――――――!』

そしてパロちゃんが飛び出してきた。

「あれ? 仮死状態は?」
『仮死だと…? フンッ! 私はもう死んでいる!』
「うわぁ…無茶な」
「流石骸骨や」
『ふふん、それほどでもないッ!』

多分何を褒められているか分かっていないだろうに、パロちゃんは元気よく胸を張った。

という訳で、パロちゃんもモンスターボールに入れる事が判明したところで、攻略は再開である。
ハルマサとハチエはもう一度氷の鍵をドロップするモンスター、ウカムルバスの居たところに行ってみることにした。
パロちゃんが言うには、彼女の元所有者、マリー少女はダンジョンから居なくなっているらしい。
パロちゃんが「間違いない」と言うと大変不安になるが、まぁこの場では信じるより他にない。
鍵がダンジョンから持ち出されたなら、新たなウカムルバスがポップしている可能性もある。
ていうかポップしてなかったら困る。

「よし! 白ヒゲGO!」

ハチエさんが白ヒゲの背中でダランとしながら、声だけは元気よく叫ぶ。
麻痺も治って彼女は絶好調なのだが、だらける快感に目覚めたとかで、だらだらしているらしい。

「よぉっし!」

疾駆する白ヒゲに続いて、ハルマサも走っていく。
眼前に屹立する山々は、ハチエが斬り飛ばした分を差し引いても、前見たときよりも低く感じた。


しかしまぁ、走るよりも飛んだ方がよっぽど速いので、結局はソウルオブキャットにハチエを乗せて出発である。
ハチエが座り、ハルマサが立っているのはいつものことだ。
シュォオオ……と風を切りつつ飛ぶソウルオブキャットの上で、ハチエはぼんやりと風景を見ていたが、唐突に口を開いた。

「あんなぁハルマサ」
「なに? お腹空いた?」
「ちゃう。ていうかお腹空いたんはハルマサやろ」
「ハハハッ! それで何?」
「まぁご飯はもうちょっと後やな。そんでな……」

珍しくハチエが口ごもっていた。
よほど言いにくいことなのだろうか。
こういう時、相手の言いたいことを察してやるのが、いい男の条件であるとハルマサは信じていた。
ハルマサはいろいろと考え、そして結論を出した。
もうこれしかないと確信した。

「ハチエさん、我慢させた僕がバカだった。直ぐに下に降りるから、遠慮なくお花を摘んでくるといいよ」
「ほんまバカやな。頭どうなっとんねん。一片脳みそほじくりだしてみたいわ」
「うわぁ……」

ハルマサが身代わりで勘弁してもらえないかな、と考えているとハチエがため息をついて、ようやく本題を切り出した。

「あんな、ウチ、ちょっと真剣に魔法習おう思ぅてな」
「……?」
「魔法少女ハチエになろう思ぅとるんや」
「???」
「ウチ美乳やし」

最後のは明らかに関係ないと思ったが、美乳か微乳か、聞いただけでは判断できなかったハルマサには、フォローはおろか質問すら出来なくなってしまった。
だから曖昧に頷いた。

「ふぅん?」
「うわぁムカつく声。しばいてええ?」
「だ、ダメですけど」

殴られてはかなわないので、ハルマサはさっきのハチエの発言を考えた。
そして気付いた。

魔法少女。
………少女? ハチエが何歳か忘れたが、少し無理があるのは間違いない。だが、それ以外に何と言う。魔法熟女はもっと無理がある。魔法女子大生? 魔法女学生? 魔法女? 魔法姉貴? もう魔女でよくないか? いやでも……

「ハチエさん」
「ん?」

ハルマサは色々迷った挙句、目を合わせながら説得するように口を開いた。

「魔法少女は無理がアイタ―――――ッ!」

皆まで言う前に目玉に弾丸のような唾を食らった。とても痛かった。危険なので二度としないで欲しいと思った。

さて、ハチエさんがなんでそんなことを言い出したかというと、先の戦いで力不足を感じたらしい。敵がちょっと固くて再生するからって、あんなに苦戦するようではダメだ! ということらしい。
結局勝ったのだからいいと思うのだけど、ハチエさんとしては、もっと応用力のある攻撃方法が欲しいようだ。
確かにハチエの攻撃は基本物理攻撃だし、敵の弱点を突くのは難しいことが多いのかも知れない。

「という訳で、魔法を練習するねん。ドンパッチソードもしばらく使えんし」
「ネギ、どうしたの? 壊れたの?」
「もげたけど、なんかちょっとずつ回復しよんで。ホレ」

見せてくれたネギは長さが5分の一くらいになっていたが、引きちぎられたような切断面からウネウネと線のようなものが延びていた。
有体に言うと気味が悪かった。でもそのまま言うのは気が引けたので柔らかい表現を使ってみた。

「なるほど、目の毒だね」
「それでオブラートに包んだつもりなら完全に失敗やで」
「ッ!!?」

ショックを受けたので、ハルマサはハチエに背を向けて座り込んで、黙ることにした。

「ハルマサ」

その後、10分くらい飛んでいると、ハチエがまた声をかけてきた。

「ん?」
「ウチなぁ、ちょっと怖かってん」

振り向こうとするとハチエさんが後ろから抱き付いてきた。

「……何が?」
「ウチがケガしてな、さっきも手の痺れが中々とれへんかったやん? ハルマサと旅できんようになるかもって思ったんや」
「そ、そうかな。僕はハチエさんがケガしようがゾンビになろうが近くにいるつもりだけど」
「ハルマサは優しいな……」

ハチエほうを向くと、至近距離で目が合う。

「でも、それじゃあかんねん。ここはダンジョンで、足手纏いは敵より邪魔や」
「……?」
「いや、そんな難しいこと言うてへんで。なんでそんなアホ面になっとんねん」

どんな顔をしていたのか凄く気になる。
ハチエは微笑むと、目を瞑る。

「ウチなぁ、足手纏いになるくらいならいっぺん死んでケガ治したいねん」
「……!? でも……!」
「元気に旅したいんや。やけん、これからウチが勝手に死んでも、怒らんでな」
「でも……」
「ゴメンな。でもウチ、ハルマサと離れとぅないんや」

ハチエさんはどんな思いで、こんな話をしているのだろう。
僕はバカだから分からないけど、取りあえず思った事がある。

「僕もハチエさんとは離れたくないよ」
「そ、そう? 相思相愛やな。照れるで。」
「どっかに行っちゃったらダメだよ。探しに行くから」
「……どこも行かん。要らん言うてもついてッたるわ」
「……うん」

そう言って抱き着かれたまんまのハルマサだったが、いかんせんこの格好は恥ずかしい。

「あんまひっついとるとカロンちゃんに悪いなぁ。うん。」

と言いつつハチエさんは離れてくれないので、ハルマサは狼狽していらないことを口走るのだった。

「……そ、そういえばハチエさんって結構胸大きいよねぁイタ――――ッ! 頭が! 頭がァ―――――ッ!」
「ふんぐるぃッ!」
「後頭部が齧り取られるッ!?」

ハルマサの頭にはその後4時間くらい歯型が残った。





そして雪山の上空にたどり着いたハルマサとハチエだったが、二人はどのように目を凝らしても、ウカムルバスの姿を見つけることは出来なかった。
ウカムルバスの体色は雪山に紛れる白色だが、体長は30メートル近いので、いれば直ぐに分かると思ったのだが。
どこにもいない。

「鍵どうしようか……」
「ハルマサの便利な魔法で作ってみたら?」
「うーん……」

氷を作ることは比較的簡単だ。
風を水に吹きつければ多分出来る。
また、圧力を加えれば、多分出来る。
でも、それで鍵を作れるだろうか。
思い出してみれば、ハルマサの相手、ゾンビのマルフォイは魔力の使い方が巧みであった。
しかし、そんな彼でさえ扉の鍵を求めて戦いを挑んできたのだ。

「作れる可能性は低いと思う」
「うーん。ポップするの待つしかないんかなぁ」

どうしようかなぁと二人+AIたち+骸骨で考えたが、日が暮れても、その日は特に良い案が出なかった。
「とりあえず明日鍵の穴があるところまで行ってみよう」という、半ば物見遊山的な思考が結論となって、長い一日がようやく終わるのだった。







<つづく>



スキンシップの激しいハチエさん。

「魔力放出」スキルがちょっぴり上昇。





[20697] 151
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 20:05



<151>




とっぷりと日も暮れた山の麓で。
遠く離れた相手とも、声を伝え合える特技「伝声」を発動し、ハルマサは朗朗と謳い上げる。

「拝啓。朝夕に爽秋の気配が感じられる頃となりました。カロン様におかれましては、いかがお過ごしで」
『まどろっこしいわ!』

一言で切って捨ててくれたのは、ハルマサの恋愛感情を一身に受け止めるカロンちゃんである。

「ババァ言葉で喋るし実年齢222歳なのに天使のように可愛らしいという悪魔のような神様のカロンちゃんに、敬意を持って接したくて」
『馬鹿にしておるのか? あ、すまん。バカはお主じゃった。失敬した。』

ホントに失礼だと思ったが、このやり取りも二回目なので言うのは止めた。ちなみに一回目の相手は閻魔様である。

「最近、みんな僕のことをバカバカって言うけど、バカって言う人の方がバカになれッ!」
『何を言っておるのじゃ。頭でも打ったか?』
「あ、ごめん。カロンちゃんの声を聞くとなんだかテンション上がっちゃって。常時はぁはぁ言っちゃいそうだよ」
『できれば止めてくれんか』
「いやもう、全然歯止めがかからないから、実は社会の窓もフルオープンなんだ」
『ほほぅ……意味が分からんが豪勢じゃの。でも時々は閉めておくんじゃぞ?』
「勿論さ!」

意味が分かって言っているのか微妙なラインだが、カロンが言ったことは全て真実となるという病気を患っているハルマサにとっては大した問題ではなかった。

「ああ、まずい。カロンちゃんへの愛が溢れて体が弾けとびそうだよ……結婚しよう! もう結婚しようッ!」
『ちょ、ちょっと落ち着くのじゃッ! 母様に聞こえてしまうッ! 深呼吸じゃ、深呼吸をするのじゃ!』
「ヒッヒッフゥー………よし落ち着いた。それにしてもカロンちゃん。すごく好きです。結婚しようッ!」
『どこが落ち着いておるのじゃッ! そ、それに、そういうことは静かに言うものじゃろう……?』

そうか、とハルマサは思った。確かに興奮しながらのプロポーズはみっともない。ここは真摯にいくべきだ。

(あなたと――――――結婚したい)
『な、なんじゃ!? 変なテレパシーがッ!』

ハルマサは新たな能力に目覚めたらしかった。
テロか!? と騒ぐカロンちゃんを何とか宥めて(天界ではテレパシーテロが流行っているらしい)、ダラダラと話した。

「そういえば、昨日インターネットがどうこうって言ってたよね。無事繋がった?」
『うむ。如才ない。早速友達も出来たぞ』
「な、なんだって!? そいつの名前は!?」
『シブカワタケミといったかの』
「タケミちゃん!?」
『知っておる名前か? じゃが、恐らくは人違いじゃ。我が繋いだのは天界ネットじゃからな』
「いやだって名字……」
『まぁそやつが実は神じゃったという事があれば分からんが、それは可能性が低すぎるじゃろう』
「でも筋力80もあったしなぁ……」

「タケミちゃん」=「神様」疑惑が持ち上がったことを除けばその日は特に何もなく、有意義な時間を過ごした。
カロンちゃんは明日、ついに動画サイトへと進出してみるらしく、「子犬の動画を見るのじゃ!」と張り切っていた。

『……じゃあの』
「またね!」
『うむッ!』

そうしてハルマサは眠りにつき、密かに起きていたハチエは独り言をべらべら喋るハルマサを見てついに頭がおかしくなったかと悲しんだ。
翌日誤解は解けたが、次からハチエも会話に参加することになった。






鍵を使う扉は、大陸の北端にある塔のものである。
大地は凍り、空気も凍り、命すらも凍り付こうとする土地に立つ直径数百メートルはある巨大な塔。
早朝にたどり着いた一行は、扉を空けられないかと、試行錯誤しているのだった。
現在は、「燃え立つ鍵」をパロちゃんに鍵穴にねじ込んでもらい、ハルマサが残った鍵穴にピッキングを仕掛けていた。
「燃え立つ鍵」は誰かが押さえてないとぽん、と排出されてしまうので、パロちゃんの役は結構重要だ。
が、彼女は悶えていた。

『あ、熱くない! 全然熱くないぞぉ――――!』
「いや、無理せぇでも。ちょっと指の骨溶けとるし」
『無理を通せば、道理が引っ込む! 心頭メッキャーク! 火もまた、アチャ――――ッ!』
「パロちゃんて、でっかいくせに可愛いなぁ。不思議やで」
≪あの出っ張りとか押してみてはどうでしょうか≫
「ん……あれか。それ!」

カチャン。

≪……ダメですね≫
「そうだね」

サクラさんから見てもダメらしい。
狭い穴を覗き込み、棒であちこち突付いてみたハルマサは立ち上がり、うーん、と腰を押さえて背を反らす。
雲一つない、綺麗な青空だ。冷えた空気が肺に心地よい。
ハルマサはいい気分で言った。

「ピッキングはダメだね」
『だと思ったわ――――ッ!』

40メートルある巨躯を屈めて熱い鍵を鍵穴に刺していた巨大骸骨が、キレた。
地面に「燃え立つ鍵」を叩きつけると、自分の頭蓋骨を撫で回す。
もしかして架空の髪の毛をかき回しているのかもしれない。

『指の骨が溶けるほど頑張ったけど、無駄に終わったって全然悔しくないわァ―――――――!』

とても悔しそうだった。

「10分もかかってゴメンね。こんどパロちゃんが欲しいもの何かプレゼントするから」
『ほ、ホントか!?』

巨大骸骨は嬉しそうに顔を上げた。
その頭蓋骨を嬉しそうにカタカタいわせながら、パロちゃんは凄い勢いで喋る。

『ウソじゃないな!? 前の所有者は、そう言って何度も何度も「ウソですわ」とか言ったんだぞ!? 信じても良いのか!? いや、簡単に信じてはいけない! 安い女だと思われるぞ! 私は安売りしない女になるんだ! 下着は一つ3万金貨ッ!』

後半は自分に対する戒めのような叫びになっていたが、丸聞こえなので、聞いていると切ない。
下着とか言ってるし、生前から大変だったんだなぁとハルマサは思った。
そして言った。

「ウソでした」
『ほ、ホラ見ろやっぱりな―――――――! 期待していなかったモンね! 全然悔しくないぞぉ! 全然悔しく……うぅ……ないもん……ねー……』
「いや期待しすぎやろ」

ハチエの言葉が止めとなって、骸骨はメソメソと凍った地面をほじくりだした。

『いいもんいいもん……。お宝掘り当てて億万長者になる夢を見るもん……』
「…………」

見てても聞いててもとても切ない骸骨である。夢って。
可哀相になってきた。

「いや、ウソウソ。ホントだよ。」
『!?』

ピクン、と顔を上げる骸骨。

「で、何が欲しいの?」
『骨かなッ!』

途端に元気になって、尺骨(腕の骨)を見せびらかすポーズを決めつつ即答してくる。
そんなパロちゃんを見つつ、ハチエさんが感慨深げに呟いた。

「純粋やなぁ……ずっとそのままでおって欲しいわ」
『笑止ッ! 私は死んでからこの10年間、ずっと変わらん! いや、生まれてこの方、私のままだッ!』
「とても純粋なんだね……」
『まぁ、背は何故か伸びているがな。実は、元々ハチエたちと同じくらいの背なのだ』
「ウソォ!?」
『肉体という枷が無くなったので、骨も元気に成長したのだろう』
「いやいやいやいや」

そうこうしている内に「燃え立つ鍵」が地面を溶かして落ちていっており、ハルマサは慌てて拾い上げたのだった。



まぁパロちゃんに「セレーンの大腿骨」をプレゼントするわけにもいかないし(多分パロちゃんが溶ける)、プレゼントの入手方法は追々考えることにした。
それより何より、今はこの塔を登らなければならない。

「しかし外側をいくのはダメだもんねぇ」
「そうやね。血の雨が降るとは思わんかったで」

偵察に行かせたハルマサの分身がミンチになって落ちてきたのだ。
何があったのか、それに乗っていた桃ちゃんは引っ込んでしまっているので分からない。
でも相当怖い思いをしたらしい。

そしてピッキングもダメ。違う入り口もない。大陸の相当な深さまで壁は埋まっている。
この塔に入るためには、もう強行突破しか残されていなかった。
しかし扉を蹴倒そうにも、ハルマサチームの筋肉エースであるハチエさんは腹が減って力が出ないとか言っている。

「誰が筋肉エースやねん。あとお腹空いたなって言ぅただけやん」
「ハハハッ! ……レンちゃんならいけるかな」
「……前から思ぅとったけど全然誤魔化せてへんでその笑い。むしろ、ちょいイラッと来る」
「ッ!?」

ショックを受けつつもレンちゃんをボールから召喚する。

「頼んだよ!」
「ギィ!」

レンちゃんは一つ元気に鳴くと、扉から距離をとった。
そして―――――

「ギィイッ!」

カッ――――――!

魔力砲を放った。
衝突と共に、ギャイ――ン! と神経に刺さる音が響くが、ハルマサは我慢して応援する。

「いっけ―――――ッ! 僕は頑張る君が好き――ッ!」
「またそんな無責任なことを……」
「ギュィイイイイイイイイイイイイイイイインッ!」

レンちゃんの全身が一気に赤く染まり、魔力砲の太さが二倍くらいになった。

「か、界王拳だと……!?」
「ラブパワーやない?」
「ギュオァアアアアアアアアア!」

しかし、彼女の必死の攻勢にもかかわらず、扉はビクともしない。

「なんだと……!?」

そして必死に魔力砲を撃ち続けているレンちゃんが、段々しぼんでいるような気がしてならない。

「く、君にだけ、辛い思いはさせないよッ! 重殻左腕砲・ネオッ!」

バシィ、とタキシードの袖を弾き飛ばして、青い甲殻に包まれた逞しい腕が発現する。

「その発現のしかた、相変わらずカッコええなぁ」
「へへへッ!」
「でも早ぅせんとレンちゃんミイラになってまうで」
「そうだった―――! 食らえ! 僕とレンちゃんのダブルアタックッ!」
「ギィイイイイイイイイッ!」

ハルマサは腕からカニ砲撃Lv30を撃ち放つ。
それと同時にレンちゃんも最高潮に赤くなり、ビームの太さは三倍になり、そして二つのビームは絡み合って、扉に直撃した。

カッ―――――!

光ったのは一瞬で、ズボォン!と音がすると共に扉が吹き飛んでいく。
吹き飛んだ先には黒々とした闇が広がっていた。

「やった! 僕らはやったんだ!」
「ギ……ギィィ……!」

レンちゃんが死にそうになりながらもガッツポーズを決めている。彼女の健気な様子に、ハルマサはキュンと来た。

「しかしハルマサ少年はまだ、入り口に辿り着いただけなのであった……。つづく」

ハチエが暇なのかナレーションをしているが、その言葉が甚だ不吉である。
あと、「つづく」ってなんだろう。このまま突入しようと思ってたんだけど。

「まぁまぁ。急ぐ気持ちも分からんでもないけど、その前にご飯でも食べなさいハルマサ君」

なんと、ハチエさんがご飯を用意してくれていたらしい。
彼女は横で突っ立っていただけだと思うんだけどどうやったのだろう。

「白ヒゲが一晩でやってくれました」
「ウソだッ!」

だって白ヒゲは猿である。
彼に出来るのはせいぜいバナナの皮むき程度のはずだ。

「まぁ一晩はウソや。一時間でやってくれたで。魚釣るところから。」
「な、何が起こったんだい白ヒゲ!」

ウソと言うかパワーアップしている。
白ヒゲを見ると、メタリックな体毛に身を包んだ彼は、岩から削りだしたであろうプールの如き巨大な鍋を火にかけ、巨大なしゃもじで、焦げ付かないように中身をザバザバと回しているところだった。
鍋の中からは白い蒸気がもうもうと登っている。
おまけに風に乗ってとても良い匂いが漂ってきた。
これは……魚介に加えて、あの懐かしいニオイ!

「コンソメッ!? コンソメじゃないか!」
「なんでかウニドラゴン倒した時に手に入ってん。不思議やろ」
「ホントになんで!?」

まぁ疑問はさて置き、とにかく食べることにした。
既にレンちゃんが巨大な身をかがめて食べ始めており中身を干す勢いで汁を吸い込んでいるので、味わえなくなる前に食べるべきだ。

「いただきます!」
「あ、それレンちゃん用やで。ウチらはこっちや」
「なんと!」

スープの中に飛び込む寸前でハチエから声がかかった。
見ればハチエの前には土鍋サイズの鍋がおいてあり、良い塩梅にクツクツと煮立っていた。

「美味しそうだ……白ヒゲ凄いね」
「ふふん、あの子の適正を見ぬいたウチの手柄やな」

確かにそうかも知れない。
料理に適正があるとか、夢にも思わなかった。というか実際に調理する姿を見ても違和感が半端ではない。

「まさか白ヒゲが料理とはねぇ。剣で打ちかかってきた頃が懐かしいね」
「そんな前のことでもないんやけどな。どんな毛皮の色やったかもう思い出せへんで」
「そうだね」

今では何を間違ったかメタリックゴリラである。
まぁ白ヒゲについては置いておいて、早速コンソメスープの魚介鍋をいただくことにした。
いただきまーすと唱和して、削り出しの木製スプーンで汁を口に運ぶ。

「普通に美味い。白ヒゲやばい。」
「うまー。」

手が止まらなくなるハルマサの前でハチエも舌鼓を打っている。

「ハチエさん。せっかくご飯作ってもらったし、こうしよう」
「? どうすんの?」
「はい、あーん」
「……は?」
「スキありぃ!」

じゅ。

「あっつぅッ! 鼻が! 鼻がッ! 何してくれんねん!」
「わざとじゃないんだ! ハチエさんの鼻が魚食べたそうだったから思わずアイタ―――――――ッ!」

口の中の魚の骨をダーツのように飛ばすのは止めて欲しいと、額に刺さった骨を抜きつつハルマサは思った。



その後、ハチエにアーンしたり、お返しに、じゅ。とやられたりしながらご飯を終えて、いよいよ塔に突入である。
何が出てくるか分からないので戦力を増強しておくことにした。
ハルマサはモンスターボールを取り出し、叫ぶ。

「いでよ! タッカラプト・ポッポちゃん!」
「メンドくさなったからいうて、途中で略したらダメやん。鳥が出てきそうやし」

ボワンと飛び出てきたのはちゃんとデカい骸骨だった。
彼女はシャキンとポーズをとる。

『呼ばれて飛び出て――――――ん? 良い匂いがするッ! ご飯か!?』

出てきて早々に騒がしい骸骨である。

「ご飯はさっき終わったよ」
『な、なんだと……!?』

全身がバラバラになりそうなくらいショックを受けていた。

『なんで……なんで誘ってくれないのだ! 私も団欒に参加させておくれよぅ!』
「あ、そうだね。気が回らなくてゴメン」
「ていうかスープとか食べれるん?」
『ふふん――――当然無理だッ!』

胸を張ってこたえるパロちゃん。

「それって逆に切のぅならん?」
『だが骨なら食べられる! 次から私にも食事を用意して欲しい! もちろん醤油ダレで頼むぞ!』

醤油ダレ?

「ソイソースだったら?」
『ダメだッ! いくら私の所有者といえど、そんなミスをされては看過できん!』
「そうなんだ」
「ていうかどっちもいっしょやん」
『全然違うわッ!』

まぁつまりはそういうことらしい。桃ちゃんの戯言もあながち無意味ではなかったということか。あの場の発言としてはやっぱり意味不明だが。
取りあえずうるさい骸骨には白ヒゲが捌いた魚の骨を与えて、塔の中へと進むのだった。

『全く、醤油がないとは……ぶつぶつ』

パロちゃんはぶつぶつ言いつつも実に美味そうに骨をしゃぶっていた。





<つづく>


骸骨の書きやすさが異常です。
分身を出したので満腹度が20パーセント減少し、ご飯を食べたので少し増えました。
他には魔力放出・魔力圧縮・ポケモンイーター・概念食いスキルが上昇。

◆「テレパス」
 離れた相手に思念を伝える事が出来る。一方通行。字数制限あり。






[20697] 152
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/29 20:18

<152>



塔の中は真っ暗で外からは何も見えない。
扉を境界にして、その先が突然見えなくなっているのだ。実体のない黒い壁のようなものだった。「空間把握」でも探れない。
その闇の帳に、パロちゃんが恐々と腕を入れたり出したりしていた。

『うわっ! ヒヤッとするぞ!?』
「パロちゃんは元気やなぁ……」

ハチエが、縁側に座って茶を啜るおばあちゃんのように、微笑んでいた。いわゆる慈しむ目というやつだった。

「ちょっと探ってみるよ」
『し、慎重になッ!』
「パロちゃん、それはクリリンとかヤムチャのポジションやで。」
『?』
「まぁ大丈夫だよ! はぁああああああッ!」

ハルマサの目が宝石になり、燦然と輝きだす。

「ピュアクリスタル・アイッ!」

この瞳の光を吸収しきるほどの仕掛けではなかったらしい。
圧倒的な光量は、ピカァ! とばかりに闇を貫き、塔の内部を照らし出した。
ちなみにハルマサは自分の目が輝くので、眩しくて全く見えない。

「見える?」
「おー。バッチリやで。」
『待て、何かいるぞ! 気をつけろッ!』
「パロちゃん、ヤムチャが板についてきとるなぁ……」

ハチエさんが優しい目で見ていることも気付かず、パロちゃんはそのごつい指先で照らし出された塔の中を指差している。
勿論ハルマサには何を指差しているのか見えない。凄く気になる。

「何が、何がいるんだい!?」
『こう、モヤっとして、ウネウネとしていて、とてつもなくデカイ! あと樹が生えているぞ!』

まるで理解不能だった。

『歯もある!』

ますます混乱した。

「具体的に言えば?」
『タコだな。気をつけろ、歯並びがいいぞ。』
「あ、ヤマツカミやない?」
「ああー……」

そういえばタコみたいな体して、やたら歯並びがいいモンスターがいた。歯茎も健康的なピンク色だった。

ヤマツカミは空を飛ぶ緑色の巨大な軟体動物である。タコやイカの、内臓が入っている袋がなくなったような体型で、触手は10本くらい。人間のような口を持っており、歯並びが美しいモンスターである。
モンハンでは、よく「口内炎にしてやる」と歯茎を槍で突付かれたりしている。
主食は山らしい。食べ過ぎたのか、古代の樹に寄生されていたりする。
大きさは30メートルくらいか。

まぁそんなモンスターである。
パロちゃんに尋ねられたのでそう答えておいた。

「分かった?」
『さっぱり分からんが、それほど怖いモンスターではないのだな?』
「見えないから何ともいえないけど。というかパロちゃんの強さもよく知らないし。」
『だったら私の雄姿を見るが良い! たぁ――――――!』

パロちゃんはそう言うなり、扉の中へと飛び込んでしまった。

「ヤムチャせんようになー!」

いや、ハチエさん。白ヒゲの上でくつろぎながら見送ってる場合じゃない。

「仕方ない、追おう。ハチエさんも気をつけてね」
「大丈夫矢と思うけどなぁ。まぁわかったわ。よーし白ヒゲ、警戒態勢で微速前進ッ! 危険を感じたら即座に穴掘って地面へ退避や!」
「グルッ!」

それは気をつけ過ぎじゃないだろうか。まぁ気をつけるに越したことは無いか。
ハルマサも、目の光消して、塔の中へと飛び込んだ。
そして、目の前に出現したビックリ箱に鼻を打ちつけて蹲った。ビックリ箱はとても硬かった。

「鼻が……!」
『警告デス! プレイヤーNo.46、プレイヤーNo.54は正式な手順を踏まずに、『塔』へと足を踏み入れマシタ! 塔の第一層の門番、魔物:ヤマツカミが大幅に強化されマス! しかし、あなた方はこのまま引き返すことを選択しても構いマセン! どうなさいマスカ!?』
「!?」

いきなりやる気が削がれる報告だった。大幅に強化ってどれくらいだろう。レベルが5くらい上がるのか。いや、それで済めば良いが……。
しかし、すでにハルマサの仲間が入って行ってしまったのだ。
ハチエさんを振り返ると、意志の強い目で見返される。是非を問うのは野暮のようだ。
ハルマサは覚悟を決めた。

「行きます!」
「ウチもや!」

ハルマサがビックリ箱の人形に向き直ると、ビックリ箱の人形はびよん、びよんと揺れつつ、口を動かした。

『承知いたしました! では、これより困難に挑まれるプレイヤーたちに敵の情報を提供いたしマス!』
「情報?」

人形の動きが止まり、サー、とカセットテープの回る音がする。

『―――――ガァ――――ン! ―――――ゴァッ!』

生々しい音が響いてくる。

(これは、戦闘音?)

肉のつぶれる音や、爆発音が連続して聞こえる。そして耳を突く咆哮。
それらの合い間に人の声が聞こえた。

『―――――リだ! 扉が閉まっ―――』
『――――爆破しろ!』
『オレが押さえ――――』

細切れに聞こえる声の中、突然野太い声がはっきりと喋った。荒い息遣いのまま叫ぶ。

『絶対に戦うなッ! 全力で―――――逃げろッ!』

――――爆音。

後に聞こえるのは爆発の余韻と、―――咆哮だけであった。
そして、テープの流れる音は止まる。

「これは……?」

ハルマサは思わず尋ねたが、人形は答えなかった。

『情報は以上デス! では、以降もダンジョン攻略をお楽しみ下さいッ!』

ボゥン、とビックリ箱は消える。

「今のは……」
「何やッたんやろね。取りあえず逃げたらええんかな?」
「まぁ敵を見てからで――――」

その時、パッと明かりがついた。
まずハルマサの視界に入ったのは広大な空間である。
半径数百メートルの塔の内部は、外周より一回り狭いとは言え、間仕切りも無く、広大だった。
高すぎてどれくらい高いのか分からない天井と、巨大な石が敷き詰められた石畳。その石畳と同様、巨大な石の積みあがった壁。
壁には梯子があった。打ち込まれた無数のコの字型の鉄杭によって天井へと、梯子が作られていた。上に進めということなのだろうか。

そして広い円形の広場のほぼ中央で、骸骨のパロちゃんが手を振っていた。

『おおーい! 遅いからもう倒してしまったぞぉ―――!』

全長40メートルのパロちゃんが米粒みたいに小さく見えるような距離である。
パロちゃんの足元に潰れる様に落ちているのは、どうやらヤマツカミのようだ。

「無事見たいやな。良かったで」
「うん。……大幅に強化されるって言うけど、元が弱かったからそんなにきつくないかもね」

ハルマサは楽観して歩き、だが足の下から這い出てくる悪寒に、その場を飛びのいた。

(――――!?)

石の継ぎ目から、にゅ、と飛び出てきたのは触手である。
続いて目、そして体。
大きく跳びすさったハルマサの前に、ずるん、とヤマツカミが出現していた。

≪対象の平均ステータスはLv30相当です。恐らく倒せるでしょう。≫

観察眼の情報をサクラさんが教えてくれる。

「……敵が一体なら、そうかもね」
『おおお!? いっぱい出てくる! むぅ、奇怪な奴め!』

パロちゃんが、素手でヤマツカミを殴りつけている。スピードは遅いが威力が凄い。一撃でヤマツカミを屠っている。ハルマサに経験値が入ったようだ。
だが、いくら倒そうとそれは氷山の一角であり、一匹倒す間に4匹に囲まれているような状況だった。

「パロちゃん、コッチ来て!」
『む、承知!』

イヤな予感がしていた。
ハルマサはその場を蹴って、ハチエのほうへと退避する。

「ハチエさん、白ヒゲをボールに戻してくれない?」
「……そうやね」

ハチエもイヤな予感をヒシヒシと感じているようだった。
暗い予感は、先ほどの戦闘の音や叫び声と直結して、ほとんど確信へと変わっていた。

ハルマサの目の前では、広大な面積の床を埋め尽くすほどのヤマツカミが出現していた。そして、いまだに増えている。
これらがこのまま襲い掛かってくるなら、ハルマサにとってはむしろうれしい状況だ。スキルもレベルも跳ね上がるだろう。
だが、ハルマサの警報はガンガンと鳴っていた。
出来るだけの速度でこの場を離れるべきだと、うるさいくらいに「心眼」が主張しているのだ。

『少々数が多いな。範囲攻撃が出来れば良いのだが』

パロちゃんが、残念そうに言う。
彼女は数の多さを脅威に思っているらしい。
しかし、そんなことは脅威ではない、とハルマサは思うのだ。

「パロちゃん、この塔の上を目指すよ」
『む、戦わないのか?』

意外そうに骸骨は頭を傾げる。
ハチエを背負いつつ、ハルマサは頷いた。

「イヤな予感がするんだ」






ヤマツカミたちは、最初ゆっくりと、次第に速く動き、一点へと収束していった。
二つが一つに。三つが一つに。10が一つに。100が一つに。
次々と、巨体が折り重なり、互いに融合していく。
それは、まるでマリー少女の作った奇怪なウニドラゴンのようだった。しかしこの化け物は、規模が全然違ったし、外見が最悪だった。

それは、巨大なヤマツカミの姿だったが、良く見れば、以前と違うところもあった。
触手が、主根に生える側根の様に、死体に生えずる蛆のように、太い一つから細いモノが無数に生えてうねっていたのだ。
そして、目が無数に付いており、また、口も一つではなかった。
人間のような口が体中にびっしりと、触手の裏にすら、それはぽっかりと丸い穴をあけていたのだ。
ヤマツカミの集合体は、広大な広間を丸ごと埋めるような巨躯を震わせた。
わん、と空気が震える上がる。
巨大な口と、全身に数百ある小さな――――比較的ではあるが小さな口が、同時に開かれた。

――――――――キィイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアッ!

化け物は、無数の口からヌラヌラと唾液で輝く白い歯をむき出しにし、体中の触手を震わせて、生誕の咆哮を上げた。







<つづく>



パロちゃんが勝手に二体倒してくれたので、ハルマサは棚ぼたで経験値を取得。

ハルマサ  ………Level up!
レベル: 27 → 28 Level up bonus: 335,544,320
満腹度: 872,930,221 → 1,244,181,128
耐久力: 1,111,746,928 → 1,447,291,248
持久力: 916,630,440 → 1,287,881,348
魔力 : 1,987,024,053 → 2,337,040,708
筋力 : 1,436,893,960 → 1,808,144,867
敏捷 : 1,795,080,577 → 2,166,331,485  ……☆3,249,497,227
器用さ: 2,533,768,698 → 2,869,313,018
精神力: 669,586,645 → 1,039,928,461
経験値: 641,662,975 → 1,983,840,255  残り: 700,514,303



○スキル
運搬術 Lv25: 120,983,221 → 228,102,983  ……Level up!
PイーターLv26: 438,122,689 → 541,029,823
観察眼 Lv26: 328,191,756 → 372,819,223
戦術思考Lv25: 298,120,743 → 332,918,239
空間把握Lv27: 672,981,074 → 701,827,391
心眼  Lv26: 601,288,325 → 620,933,765
魔力放出Lv27: 928,777,631 → 937,822,011
概念食いLv22: 30,917,267 → 38,902,774
魔力圧縮Lv27: 732,401,120 → 737,829,075





<あとがき>
骸骨って書いてるときは面白いけど、読んでみるとそうでもないことに気付いてしまった。
書いているときのテンションがおかしいんだろうなぁきっと。
それはさて置き、何時の間にやら150話越えています。一話がWordの5ページ以上だから、750ページ以上ありますね。最初から読む人は勇者ですね。

明日も更新。





>新規読者ですが、1スレから読み進んできました。
勇者居た――!?
やばいっすね。時間かかりませんでした?
何はともあれありがとうございます!

>マリーとマルフォイはそのまま幸せになっちゃえば良いよ
なるほど。
どうしようかな。

>つまりはほぼ直角っていうことですかw
誰も分からんかもって思って書いただけに、気づいてもらえるとうれしいですw

>漸く終ったが痛み分けっぽいですね。
そうですね。長々と書いてこの有様ですよ。でもライバルいたほうが燃えるってバクマンが言ってた。

>これは…再戦フラグか
忘れたころにやってくる感じで

>久しぶりに読んで冷静になったのか、すでに黄金聖闘士よりも強くなっていることに改めて気付かされた。
この話は一杯ひっかけて、ヤジを飛ばしながら読むくらいでいいんじゃないかと思ったりします。黄金セイントってよく分からない強さなので多分勝てないんじゃないかと。

>もっとインフレを!ドラゴンボールやハンター以上のインフレを期待してますwwww
すでに単身で銀河から離脱できるくらい強いんですけどまだこの先を望むのですね。
第四層はどうしてやろうか。オラわくわくしてきた!! あと毎日って……マジありがたいです。

>強くなって帰ってくるフラグ。
よっぽど強くなってないと主人公たちにボロ負けですがね。多分。

>ハル魔者ってwww
ファ―――ッ! 大事なところやないですか! ありがとうございます!




[20697] 153
Name: 大豆◆191a376c ID:9d835427
Date: 2010/09/30 22:03


<153>



ハルマサはハチエを背負い、巨大な骸骨の掌の上にいた。

『いくぞ!……でぇい!』

グン!―――――ボッ!

巨大な骸骨のパロちゃんは、掛け声と同時に、ハルマサを持っている腕を振り上げた。
物凄いGが二人の体にかかり、背中のハチエがうめく。
だがそれも一瞬のことで、風の壁を突き破り、二人は射出された。

風操作で空気を掻き分けつつ、ハルマサたちは上へと飛んでいく。
即座に音速を超えた二人は、グングンと上昇する。

「戻れパロちゃん!」

その最中に、忘れずにモンスターボールへとパロちゃんを回収しておく。
ボールから伸びた光はパロちゃんを遥か高みへと一瞬で引き上げて、ハルマサたちは、そのまま塔を上へと飛んでいった。
みるみる床が遠ざかっていく。

「パロちゃんってえらい力強いなぁ。どんくらいあるんやろ」
「レベルは30くらいなんだけどね」

そろそろ失速し、いったん塔の壁を蹴ろうかと風を操作したその時である。
下から、空間を切り裂くような甲高い咆哮が爆風となって二人を追い抜き、周囲の大気を荒れ狂わせた。
ビリビリと響くそれは、一撃でハルマサの耳を破裂させ、三半規管を震わせた。

(――――――――づッ!)

「塞ぎ耳」を使用しておかなかったのは、自分の耐久力が上がっていることに過信を抱いていたからである。
もはや音程度で破れはしないと思っていたのだ。
事実、ハチエの鼓膜は先日のウニドラゴン戦ではビクともしなかった。
だがヤマツカミの集合体に限っては、そうではないらしい。ハチエを背負っているので、耳を塞ぐのが一瞬遅れたのも痛い。
なんか変な周波数でも混ざっているのだろうか。

音の衝撃で、ハルマサの平衡感覚は完全に崩壊していた。
再生しようと思っても、どんな構造か、そもそも何処が壊れて平衡感覚が崩れているのか分からない。
上は、下はどっちなのか。空中に浮いている僕はいま何処に向かって移動しているのか。
ぐらり、と揺れる。

(まずい――――落ちる――――――――!)

「こっからはウチの番やなッ!」

しかし、ハルマサは一人ではなかった。
耳を塞ぐことで聴覚器の破壊を免れたハチエが、ハルマサの胴に腕を回して抱え込み、背中に生やした炎の翼で羽ばたいた。
上ではなく、壁へ。
ふわりとチョウのように壁へと近づいたハチエは、ガォン!と稲妻の如く梯子を蹴りつけて、上へと登っていく。
ハルマサは意識が朦朧としていたが、風を操作し、ハチエの移動を補助することは忘れなかった。

(ぐぅう、もう良く分からないし、耳の辺り全部回復しろぉおおおおおおッ! 「欠損再生」ッ!)

魔力と持久力を過分に消費して、ぎゅるり、と聴覚が再生される。ハルマサに、平衡が戻ってくる。
そして、ようやく聴覚が再生された時、ハチエの声が聞こえた。

「見えたでッ!」

見上げれば、いまだ遠いが微かに見える、上の階層への入り口。天井に開いた無数の穴だ。

あと数秒もすれば――――!

その時、ハルマサに悪寒が走った。

「―――下から来てるッ!」
「――――――!」

ハルマサが叫ぶと同時、ハチエは真横に跳んだ。一蹴りで数十メートルを移動した直後、下から高層ビル一つ分はあるような巨大なタコ脚がまっすぐに飛んできて、壁に突き刺さった。
ズゴォ、と壁は盛大に罅割れ、欠片が飛散する。
下を見れば、ありえないほど遠くから化け物が脚を一本伸ばしてきていた。敵が大きすぎて、間合いが全然つかめない。

≪「観察眼」が情報を取得しました。敵対する魔物のレベルは――――48です。≫
(48! シャレにならない!)
≪さらに残念な情報ですが、レベルが10以上離れている敵は、スキルの上昇に寄与しません。よって交戦しないことをお勧めします。≫

鼻汁が噴き出た。
そりゃあ、逃げたいことは逃げたいけどもッ!

狼狽するハルマサを掴んだまま、ハチエは逃げようとするが、―――敵の攻撃は、巨大な脚を振り回すだけではなかった。

――――ギョルギョル!

敵の脚には、無数の瞳と口がついており、それらが呪いの様な音をたてて蠢いている。
その上、産毛のように触手も生えているのだ。
比較すればたいそう細く見えるが、それぞれがハルマサの体以上には太く、そして呆れるほどに長かった。
急速に伸びた細い触手が、ピュンピュンと矢のように空中のハルマサたちを狙い打つ。

――――――速いッ!

「ぬぅッ!」

ハチエの炎の翼が貫かれ、散らされる。ハルマサたちの真横を巨大な脚が通過し、ハチエの体がカクンと、と揺れる――――――――
そして、避けた触手に一筋の亀裂が走り、パカリと開く。
亀裂は口でありその中には、大雷光虫らしき物体が、今にも弾けそうなくらいに詰まっていた。

(―――――――!!)

即座に、火炎放射のように雷光の塊が大量に吐き出される。
ハルマサの背に冷や汗が噴き出た。
確か、ヤマツカミが吐き出す大雷光虫は――――――爆発するのだ。
フィン、と大雷光虫が一斉に光り出し―――

「ハチエさん! 「加速」するよッ!」
「!」

反応を待っている時間は無い。ハチエには伝わったと信じたい。
ハルマサは口を噛むと、彼女の体に手を回し、強く抱きしめた。

――――――――「加速」ッ!

コォオオオオオオオオ……

微かな耳鳴りを残して、世界の音が消え、全ての事象が止まったように遅くなる。すぐ傍で、巨大な口をぽっかりと開ける触手。そこから吐き出され、膨れ上がり、爆発しようとしている大雷光虫。
もはや、一秒後は地獄であった。

(ぉおおおおおおおおおッ!)

―――――――「空中着地」ッ!

ダァン、と空を蹴り一歩目は右下へ。空いている空間がそこしかなかった。
そして二歩目は、真上へ。鋭角に空中を移動する。
自分の体からも、掴んでいるハチエさんからも、ミシミシと軋む感触が響く。
ハルマサの敏捷は現在32億。「加速」を用いれば1500億まで跳ね上がる。レベルが上がっていることで、「加速」の効果は莫大なものになっており、耐久力との差が開きすぎていた。
その反動は、強烈なGと、筋肉の裂断である。

「っっっはぁ……ッ!」

触手の攻撃範囲から遠くはなれ、「加速」を解除する。

「ぐぅ……!」

抱えているハチエさんの、押し殺した悲鳴が聞こえる。いや、それはハルマサが上げた悲鳴かもしれなかった。
もう一度使うとしても、直線移動以外はハルマサの体が千切れてしまう。

「――――――クッ!」

ハルマサは「空中着地」で空を蹴り、上へ上へと走り出した。

下を見やれば、ガシガシと塔の壁に脚を打ち込んで、巨大なヤマツカミが登ってきていた。猛烈なスピードであり、その広い体は、緑の大地がせり上がってくるようだった。
体中にある口の端々から大雷光虫をばら撒きながら、化け物が迫ってくる。
ガツンガツンと、巨体が壁を穿ちながら登ってくるのだ。
ハルマサの上昇するスピードよりも早かった。

(だけど、このまま行けば!)

空を蹴りつつそう思った瞬間、一番近い壁からタコの脚が飛び出してきた。
爆砕する壁の中から大地が倒れてくるように、現われたのだ。
巨大な岩塊を飛び散らせながら、倒れこんでくる巨大な脚から、無数の触手がハルマサに襲い掛かる。
触手についている口からは、大電光虫が飛び出してくる。

瞬く間に、逃げ場は無くなった。
「空間把握」で前後左右の攻撃を見切り、移動する。
速いが、速いことよりも脅威は別にあった。
ガクン、とハルマサの体が引っ張られたのだ。

――――――――シュゴォオオオオオオオオッ!

(マジか……ッ!)

巨大な脚にある大小あわせて数十の口が、一斉に空気を吸い込んでいた。

(風操作が―――――まずいッ!)

操る空気がなければ、風操作も何も無い。
空気が急激に薄まることで真空状態が発生し、ハルマサの動きは一気に縛られた。
そして強烈に引き付けられるハルマサを迎えるのは、脚から伸びる槍のような無数の触手である。
剣山のように向かってくる触手を、全ては避けれない――――。

バンッ!

刺さるというより、ハルマサの肩が弾け飛ぶ。
左手が――――焼けるように熱いッ!

「ぐぅうッ!」

ハルマサの状態も酷いが、加速の反動を特技の補正なくして受けたハチエの状態はもっと悪い。
ハチエの顔色は青を通り越してどす黒くなっている。
鼻血も出ているし、口の端にも擦り取った血の跡が見える。
恐らく内臓が危険な状態になっている。とてつもなく苦しいだろう。
だが、それでも彼女の瞳には力があった。ハルマサに全てを任せると、その瞳が言っていた。
それはハルマサに決心させるには十分だった。

魔力を起こし風を纏う。雷で神経を焼き体の芯を震わせた。

――――加――――――速ッ!

「…お……お、おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

―――――――ガァン!

「空中着地」によって固められた空は、一蹴りで砕かれ、急激に圧縮された窒素が固化する。それはキラキラと、砕けたガラスのように輝いた。

ハルマサは襲い来るヤマツカミの脚をくぐり抜け、大雷光虫を動きの余波で吹き飛ばし、生暖かいハチエの吐血を感じながら――――――空を走った。

動くたびに脚の筋肉がビチビチと断裂していく。

(ハチエさん―――――!)

辛い、とてもつらい数瞬だった。ハチエを抱える手から、彼女の苦しみが伝わってくるのだ。
自分の体が痛いのはこの際どうでもいい。慣れっこだ。だけど心が痛いのは―――――――慣れない。
今後慣れることも無いだろう。慣れたくも無い。

だから、天井にいた無数の穴に潜り込みくぐり抜け、十数匹の魔物が待ち構えているのを見た時、ハルマサは叫んだ。

「そこを――――――――――どけぇッ!」









<つづく>


とまぁここまで結構シリアス調ですが、次はギャグです。





[20697] 154(修正)
Name: 大豆◆191a376c ID:9d835427
Date: 2010/10/03 19:46

<154>


敵は全て大きなかがり火のような頭を持つ、チャチャブーの親玉、キングチャチャブーであった。
体はそれほど大きくないが、剣を持ち、軽い身のこなしでハンターを翻弄するモンスターである。
レベルは20。どうやら、このモンスターは強化されて無いらしい。というか凄く弱い。

「―――――ッ!」

しかし、その姿を確認したのは一瞬だ。
ハルマサの動きはそれだけで莫大な余波を生んでいた。空気は荒れ狂い、衝撃波があたりを崩壊させるほど。
すなわち、傍を通り過ぎるだけで、キングチャチャブーの体が粉々になった。
速さ特化型であることもキングチャチャブーにとっては不利に働いていた。ことさらに耐久力が低いのだ。
穴から飛び出るという動作だけで、取り囲んでいたキングチャチャブー12匹は吹き飛んだ。
いや、そのうち1匹はハルマサが殴り飛ばしたから、11匹か。

ハルマサは即座に「加速」を解除した。
そうしなければ体が空中分解しそうだ。
床にハチエを横たえることだけやりきって、ハルマサは倒れた。
もう動きたくない。というか動けない。内臓が裏返って口から飛び出してきそうだ。
だが、それよりもハチエさんは?

「ハチエさん……大丈夫?」
「ちょっとぎづい……ゲフッ!」

ちょっとどころか半端ではなくきつそうだ。
噴水のように血液を吹き上げるハチエさんを見ていると、余命わずか。といった感じがヒシヒシとする。

(やはり「増血注入」しかないか……!)

ハルマサはブレスレットを外す。

(大丈夫だ! 飲ませた後、桃色解除薬をシュッとかければいいんだ! 楽勝だ!)

ただ、飲ませるほうのハルマサが死にそうなことを除けば、結構いけそうなプランである。

「ハチエさん、これを飲んで!」
「無理ぃ……吐く……ああ、なんや眠たいわァ……」

今にも閻魔様のところに帰っていきそうなハチエさんの口に、ハルマサは無理矢理指を突っ込み、力を込めた。

「フンッ!」

ブシュ―――――ッ! と傷から大量の血が飛び散り、ハチエさんの口の中を濡らす。ハルマサの「身体制御」スキルにかかれば、この程度お茶の子さいさいだ。
ハチエは吐く吐くと行っていた割にはゴクゴク飲んだ。

「……めっちゃ美味いなこれ……」
「あ、貧血……」

ハルマサは起こしていた半身をばったりと倒した。
すぽん、とハチエの口から指が抜ける。
もう精根尽き果てた。耐久力を見るとのこり「2」という奇跡の低さだった。最大値14億なのに、2て。

「う……動けない……」
「……ふふ、実はウチもやねん……」

この階層にも間仕切りは無かった。
とても広いこのフロアには無数の穴が空いている。
その穴につき12体。キングチャチャブーがスタンバイしていた。
だが今、フロアに異分子が現われた。
それに反応して、フロア中の数百というキングチャチャブーが、二人を排除するために動き出しているのだった。

という訳で有体に言えば、ピンチだった。嬲り殺しにされる可能性大だった。

「ギギギ……あ、やっぱりダメだ……」

裸足のゲンばりに歯を食いしばっても、ポンコツになった体は動きはしない。
ハチエのほうもほんのりほっぺたが桜色になっていたが、全快には程遠い。

「そうだ、ポケモン……!」
「指が動かへんねんけど……ちゅうか喋るのも辛くなってきたで……」
「あ、世界がまっ白に見える……」

ハルマサが貧血を起こしそうになった瞬間、ハルマサの懐の収納袋の中から巨大な物体が飛び出した。

『忘れるな――――――私がいるぞッ!』

とても元気な骸骨、パロちゃんだった。
彼女はすでに死んでいるので、仮死状態になるというモンスターボールの内部環境を軽々と無視して、勝手に飛び出ることを得意技としているのだ。

「パ、パロちゃん……!」
『フン! 二人ともナスビみたいな顔色をしよって、あとは私に任せるがいい!』

今回のパロちゃんは頼もしかった。
パロちゃんはフロア中を見渡し、咆えた。

『私の所有者をよくもボロボロにしてくれたな! 私は………怒ったぞキサマら―――――――ッ! トウリャ――――――!』

完全な誤解だったが、怒りで燃えたパロちゃんは格好よかった。
身長が40メートルもあるパロちゃんが、グリコのポーズで跳躍した時なんか最高に痺れた。

『いくぞ! 骨になってから苦節10年、ついに会得したこの技を見よッ! トランスフォームッ!――――――――ドリルッ!』

ガシャーン! ガキーン! ドキャーン!

――――――ズギャギャギャギャギャ!

『ウハハハハハハハハ―――――ッ!』

なんだかよく分からない。全然わからない。
だが、彼女なら大丈夫だとハルマサは安心して、気を失った。





ハルマサは、自分を回復する特性を有している。
「不死体躯」と名づけられたそれの効果は、骨折を数時間で完治させる程の、自然回復力の向上である。
つまり寝て居ても彼は再生するのだ。

「うくくく……良く寝たァ……!」

という訳で、目が覚めたらハルマサは全快していた。
RPGの主人公もここまで露骨な回復はしないだろうという速度での回復である。
ずるい。かなりずるい。
その証拠に、傍らのハチエなんて、完全に危篤状態である。

「フヒュー……フヒュー……」
「ああ! まずい、ハチエさんの顔色が縄文土器みたいになってる!」

ハルマサは即座にブレスレットを外し指先を傷つけると、ハチエの口に突っ込んだ。
ブレスレットを外せば、ハルマサの血は命の水である。
その液体が「身体制御」スキルによって、蛇口から飛び出る水の如く、ハチエの口腔にぶちまけられた。


ハチエの体の細胞はもうボロボロだ。
度重なるダメージに、体中の細胞は長い間虐げられてきた。
持久力や魔力すら使い、何とか生命を維持している状況である。
だから、彼女の口にエリクサーとも言うべき液体が流れ込んできた時、体はそれを貪欲に吸収しようとした。
具体的に言えば、指を齧り取る勢いで血液を吸い始めたのだ。

―――――――ズギュウウウウウウウウッ!

ハルマサにとっては予想外の吸引であった。

「おほぉ! 吸われるぅ! あ、待ってちょっと待って! シャレにならな……あ、貧血。」

バタリ。ハルマサはミイラのようになって倒れた。
ちゅぽん、と指が抜け、それと同時にハチエが目を覚ました。

カッ! と彼女の目が見開かれる。

「ふぉおおおおおおおッ!」

既に体は全快していた。
ハチエ復活! ハチエ復活! と体中の細胞が踊っている。
起きた勢いのまま跳ね起きると、ハチエは自分の手を見る。

「おお、力が溢れて来よるで……!」

ハチエは瀕死から復活したサイヤ人のように、劇的な活力を備えていた。
全ては「元気になる」という効果を持つハルマサの血液の結果だった。
そして、枯れ木のようになったハルマサの姿を目にしたハチエは、慌てて傍にしゃがみ込んだ。

「ど、どないしたんハルマサ! 誰が一体こんなことを!」
「スヒュー、ヒュー……」

呼吸すら怪しいが、ハルマサはパクパクと口を動かし、何かを必死に伝えようとしている。
か細き声になんとか意味を見出そうと、ハチエは必死に耳を傾けた。

「んん? 犯…人…は、……前田? 誰やねん」

ハチエの呟きと共にハルマサはばったりと気を失った。

「……まぁハルマサなら死なへんやろ。ゾンビ見たいな奴やしな。あ、ブレスレット外れとるやん。つけてあげよか」

そうして、ハチエがブレスレットを腕に嵌めてあげた時、床から白い塔が回転しながら飛び出してきた。

―――――ゴバァン!

『今帰ったぞぉ――――――!』

いや、違う。パロちゃんだった。
床に大穴を開け、尖塔のようになったパロちゃんが出てきたのだ。

『全滅させてやった! 歯ごたえのない敵だな!』

40メートルの尖塔がハチエの目の前にそそり立ち、ハチエは少しビビッた。

「ど、どないなっとんねん。え、頭ここ?」
『トランスフォームッ!』

驚くハチエを気にも留めず、パロちゃんはガシャーン! ガキャーン! バキーン! と音をさせ、もとの骸骨へと戻った。
どうやって変形したのか、じっと見ていたのにさっぱり分からない。

『む、何故か知らないが元気になったようだなハチエ! 結構だ!』
「いやぁ、お陰さまで。」
『ややッ! ハルマサがミイラのようになっているではないか! 吸血鬼にでもやられたか!?』

巨躯を折り曲げて、ハルマサの顔を見るパロちゃん。
はたから見れば死体をむさぼろうとしている骸骨にしか見えない。

「……血? あ、ウチか。ウチがやってしもうたんか。悪いことしたで」
『なにぃ! 私の所有者の生き血を啜るとはどういうことだ! 許せん、決闘だッ!』
「なんでやねん。……実はこれこれこういうことやねん」
『なるほど……ならば、血液は返せないにしても、水分を補給するとしよう。大分違うはずだ。』
「そうやなぁ凄い勢いで吸収しそうな外見しとるしな」
『しかし、肝心の水が無いな』
「パロちゃん、骨髄液とか出せへんの?」
『む、無茶を言うな! ハチエは私を何だと思っているのだ!?』
「骨」

二人でうーむ、と考えて、案を思いついたのはハチエの方が先だった。

「それならあれや! レンちゃんに頼もや!」
『名案だ!』



――――どんっ!

何かが何かにぶつかる重たい音を聞いた気がして、ハルマサが目を開けたとき、彼は水に濡れてびちゃびちゃであり、骸骨とカニとハチエに覗き込まれている状態だった。

「……?」
『おお、目を覚ましたぞ!』
「凄い吸収っぷりやったな。レンちゃんのお手柄や」
「ギィ?」

ハルマサはむっくりと起き上がった。頭がふらりと揺れたが、何とか持ち直す。
差し出されたレンちゃんのハサミに捕まりつつ、ハルマサは周囲を見渡した。
死体は残っておらず、フロアには穴が増えていた。

「みんな、ありがとね」
『ふ、もっと褒めてくれ! 私は褒められて伸びる子だッ!』
「まだそれ以上伸びるつもりなん!?」
「ギィ!」

愉快な仲間達だなぁとハルマサは微笑んでいたが、直ぐに顔を引き締めた。

―――――どーん!

上の方から不吉な音が聞こえたからだ。
見上げれば、200メートルほどの高さの天井に、巨大な扉がついていた。ウニドラゴンでも通れるであろうサイズである。

「あれは……?」

ハルマサに釣られて皆も見上げたのだろう。好き勝手に声を上げている。

『あんなものあったか?』
「ギィ……」
「なんかめっちゃたわんどらん? 今にも開きそうな――――」

―――――ドカァアアアアアン!

ハチエの言葉に応じるように扉は勢い良く開かれた。というより弾き跳んだ。
そして、巨大な龍が落ちてきた。






<つづく>




パロちゃんのレベルが30、キングチャチャブーのレベルが20なので、パロちゃんは一体当たり1280の経験値を得ています。ということはハルマサはその半分の640しか得ておりません。
このフロアには下の階層から貫通する穴が50個ほど開いてますので、その穴ごとにキングチャチャブーが12匹いるとして、12×50×640=384,000の経験値をゲット。
しかしハルマサが次のレベルに上がるために必要な経験値は700,514,303なので全然足りませんでした。

では、次からボス戦です。




[20697] 155
Name: 大豆◆191a376c ID:9d835427
Date: 2010/09/30 22:03



<155>


―――――――――――ギャォオアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

二人と骸骨とカニの前には、この階層のボスがいた。
確信は無いが多分そうだ。
だってがレベル33だ。

敵は、ゲームで見たときの何倍も威圧的な大きさと外見だったがミラボレアスではないかと思われた。
大きさは立ち上がれば30メートルちょい。尻尾から頭までの長さはその2倍はあるだろう。
白い厚鱗に覆われた体と、長く細い首、長い尻尾を供えている。枝分かれした角が頭から生えている。
体からは絶えず赤い稲妻が迸り、白く美しい体を幻想的に見せていた。

「み、ミラボレアスやろか」

ハチエが自信無さそうに呟く理由は、ハルマサにも痛いほど分かった。
頭が三つあったのだ。黒いのと赤いのと白いのである。
キングギドラみたいだった。もしくはブルーアイズアルティメットドラゴン。頭はそれぞれ色が違うが。

「二層は顔2つやったから、三層のボスは3つってことなん?」
「さぁ……」
「………ミラボレアスDXって感じ?」

―――――――――ギォオオオオオオオオオオッ!

『来るぞッ!』

3つの首は同時に紫電を吐き出した。
ゴァ、と視界が一瞬で光に覆われる。
ハルマサは、未だに「加速」を使わなければ光速に到達しない。
ハチエはようやく光速くらいの動きが出来る程度である。
そして骸骨もカニも二人よりは断然遅い。
だから、もしかすれば一瞬で全滅していたかもしれないが――――今度の敵は、ハルマサとはすこぶる相性が良かった。

―――――「電流の体躯」ッ!

概念を発動したハルマサは、雷の体へと変化する。脳裏で、冷静なサクラさんの声がする。

≪概念「電流の体躯」を発現しました。光の速度での移動を可能になります。物理的接触が無効となりました。そして―――――言う必要もないでしょうが―――――――雷属性の攻撃を吸収できるようになりました。≫

バァンッ!!!!

一歩前に踏み出すと同時に両手を広げて仁王立ちしたハルマサに、紫電はぶつかった。
世界が割れるような音が響き、あたりに閃光が溢れる。





目もくらむような光をハチエの目は勝手に吸収していた。
そう、ハチエビームのチャージ中である。
日光だけかと思いきや、人工的な光以外は勝手に吸収する目なのだ。
その副次効果として、ハチエの目は閃光に対してすこぶる強くなっていた。

(ハルマサやばいな! どうなっとんねん、格好よすぎるで! 丸裸やけど!)

溢れる閃光を片端から吸い込むハチエの瞳には、ハルマサが津波のような紫電の奔流をその身一つで受け止めている光景が映っている。
タキシードは雷を受け止めると同時に弾け飛んでいた。

『流石私の所有者だ……格が違うッ!』

隣の骸骨は目玉がないせいか閃光もへいちゃらのようだった。
その隣のカニは目玉を押さえて蹲っている。眼球が飛び出ている構造だから余計に辛いのだろう。

「よっし、この隙に、首の一つは落としたる! パロちゃん手伝ってや!」
『いいだろう!』
「ギィッ!」
「レンちゃんはボール戻っとき、な?」
「ギィ……」

レンちゃんは切なそうにしながらも、吹き飛んできていたハルマサの収納袋から自分のボールを探り当てると、自分にぶつけていた。

(なんや一々可愛いわぁ……)

和んでいるハチエの横で、パロちゃんが叫ぶ。

『はぁあああああああッ! 「変身」―――――――クレイモア・モードッ!』

ガキャーン! 腕が体に巻きつき、
ガシーン! 頭蓋骨が前後に割れ。
バキャーン! 4メートルくらいの剣になった。

『愛着を込めてこう呼んでくれ……「パロちゃんソード」とッ!』
「いや待って待って! 最後よぅ分からんかった! もう一回やって!」
『ダメだ! 時間が無いッ!』

重さだけで地面に突き立ったパロちゃんソードが叫ぶ。長さが10分の一になったが、重さは健在のようだ。

「くっ! 確かにそうやな! やけど、あとで絶対もう一回見せてもらうで!」
『ふふ、良いだろう! さぁハチエ、私を使え!』

ハチエは一瞬顔が固まった。すぐに再起動する。

「え、ウチが使うん?」
『他に誰もいないだろう! というか手伝えと言ったではないか! ウソだったのか!?』
「いやぁ、まぁ言ったけど予想外やで…………折れへんかなぁ。心配やなぁ。」
『笑止ッ! 私の固さはモース硬度2万くらいだ!』
「いや、何の基準か知らんけど」
『つまり絶対に折れん!』
「パロちゃんに保障されると逆に不安になるんやけど……まぁ丁度ええわ!」

見るからに硬そうなミラボレアスDXに通じそうな武器が無いのは確かだ。
ネギもまだ修復中だ。

ハチエは軽く跳んでパロちゃんソードの柄をがっしと握り、引き抜いた。
握った感じはとても硬そうだ。
反動を用いて、回転し、地面に着地するとパロちゃんソードの重さで、ずしん、と音がする。
見やれば、ハルマサはまだ雷の奔流を受け止めていた。

「おおっし! もうちょい我慢してやハルマサ! いくでぇッ!」

ハチエは爆発的な跳躍を行った。
一瞬後には、200メートル上空にある天井へと到達していた。
200億ある敏捷で、最早彼女は閃光の女。
影すら残さず天井を蹴りつけ、一瞬後には、ミラボレアスの首の一つへとパロちゃんソードを叩きつけていた。
黒い首とパロちゃんソードが火花を立てて接触する。

―――ガキィッ!

『痛ぁ!? とても痛いぞ!?』

痛いんかい! と心の中で突っ込みつつも、ハチエは首を蹴りつけ距離を取る。
パロちゃんは痛がっているが、固いのは本当だったらしい。
一撃で、硬そうな鱗が割れて砕けた。
ガクン、と黒い首が揺れ、放出していた雷が一本少なくなる。
雷を吐くのをやめた首は、縦に割れた瞳でギロリとハチエを睨んだ。
直後、顎が開かれ、紫電が迸る。

――――――ギォオオオオオオッ!

「ぉおッと!」

口を開けた瞬間にはもう雷が走っているような攻撃だ。余程気をつけていなければ避けれないが―――――――それは気をつけていれば避けられるということだ。

「―――――ふふん、こいつは……貰ったでッ!」

ギャ、ギャ、ギャッ!とジグザグに走り、パロちゃんソードの切っ先で地面を擦って火花を上げながら(『熱ぃッ』とパロちゃんがわめいたが無視した)、ハチエは接敵し、武器を振り上げた。

『痛くないッ! 私が本気を出せば、50%の力で痛くないぞッ!』
「おりゃあッ!」

良く分からないことを叫んでいるパロちゃんを全力で叩きつける。

――――バキィンッ!

『痛ぁああああッ!!!!』

叫ぶ剣を無視して、ハチエは反動を使って回転し、ニ発目を叩きつける。

「でぇい!」

――――ガキィン!『痛いッ!』

「まだまだやぁ!」

――――ゴキィ!『凄く痛い!』

「おりゃあ!」

――――ドガァン!『痛すぎる!』

ハチエの攻撃は、折り重なっている鱗を次々と砕き、ついに肉を露出させる。
キラキラと飛び散る黒い鱗のなかで、地面に着地したハチエは咆哮を上げた。

「ぉおおおおおおおおおッ!」
『だんだん気持ち良くなってきた……』

ドォ! と肉に刃が食い込み、黒い首を流れる赤い血が噴出する。
ハチエは些かもひるまず、力を込める。
一瞬ハチエの筋肉が盛り上がり、剣が首を切り落とす。

ズバ……ァンッ!

「おっし!」
『肉はやわいな! 他愛ない!』

しかし、ハチエに止まることは許されなかった。
切り落としたはずの首の目がカッと見開かれ、地面をギュルギュルと這ってハチエを飲み込もうとしたのだ。

「――――クッ!」

咄嗟に飛び上がり、頭のうえから剣を叩きつけた。

メキャァ!と4メートルのパロちゃんソードが、龍の首を地面へめり込ませる。
眼球が飛び出し、血を吹いて今度こそ動かなくなった。

「コイツ首だけで動きよった……!」

他の魔物が絶命したときのように、ぼんやりと透けていく龍の首を見ていると、剣が叫んだ。

『ハチエ! 再生しているぞッ!』
「はぁ!?」

見上げれば、ミラボレアスDXの今切り落としたところから、ずるん、と黒い首が生えているところだった。
粘液を跳ね散らし、龍は瞼を開く。

―――――――ゴォオアアアアアアアッ!

「デフォかッ! 首が再生するんはデフォかッ!」

ハチエは毒づきつつ、吐き出された雷を避けるために跳躍した。





ハルマサは、絶えず吐き出される雷の奔流を受け止めつつ、ミラボレアスDXを見ていた。
物凄い勢いで「雷操作」が上昇するのを感じつつ、攻撃する隙を探していたのだ。
だから、ハルマサがその数字を見たのは必然だった。

(……?)

ハチエに切り落とされた龍の頭が再生する時に、ミラボレアスDXの頭上に数字が現われたのだ。
緑色で描かれたアラビア数字だ。

そのまま見ていると『600/600』であった数字は、首が生えると同時、『599/600』と変化した。

(減った?)

なんとなく、ハルマサは理解した。
つまりはあと、599回首は生えるのだ。
それは再生というより、ストックで、つまり無限ではない。
ということは――――

(あと、599回首を落とせばいいんだッ!)

まぁそれが分かったところで、彼のテンションは全く上がらなかった。





<つづく>






[20697] 156(数字修正)
Name: 大豆◆191a376c ID:9d835427
Date: 2010/10/03 19:45


<156>

ミラボレアスDXの攻撃は、雷撃と噛み付きと、まれに尻尾での突き・なぎ払いであった。

ハチエは攻撃を避けながら考える。
再生する敵に、まともにぶつかって良いのか。
再生するのが頭だけとは限らない。
粉々にしたって復活するかもしれない。

(ちょっとせこいかもしれへんけど……)

ハチエは懐に手を伸ばしカードを掴む。
彼女の脳裏には、二日前にあったキリン戦の後にハルマサと交わした言葉が蘇っていた。

『つ、ついに悪魔の実キタ――――――!』
『―――――とても食べる気になれへんのよね』
『でもハチエさん! 敵に食べさせたら凄くない!?』
『……ッ! 即死やん!』

その後、ボスに使うならあーでもないこーでもないと戦い方を話しあったのだ。
つまり、今すぐ使ってもハルマサの援護が期待できる。

(まさかホンマにボス戦で使うことになるとは思わへんかったけどな!)

そう、彼女が取り出したのは「ゴロゴロの実」である。
悪魔の効果は、電流の体を得ると共に、水攻撃に異常に弱くなるということ。
アイテムは使いようだ。メリットを得るために自分に使っても良いし、デメリットを付与するために敵に使ってもいい。
この硬くて再生する最悪な相手に、強制的に弱点を付与できるのはとてもありがたい。
ハチエはアイテムを具現化し、ハルマサに確認を取った。

「ハルマサ――――――! これ使うでぇ――――――!」

電流ハルマサが雷の奔流を受け止めつつも力強く親指を立てたので、ハチエは頷き、悪魔の実を持って跳躍した。





(あれは……悪魔の実! ハチエさん……やる気だな!)

ハチエの魂胆をそれだけで理解し、ハルマサは親指を立てる。
だが、ハチエがアレを使うなら、ハルマサは何時までも雷の奔流を受け止めているわけにはいかない。
彼女には弱点を突くための水属性攻撃が出来ないからだ。

タイミング良く、AIのサクラさんが報告してくる。

≪雷属性の攻撃を受けていることにより「雷操作」の熟練度が上昇しています。現在の上昇速度は毎秒12億4千万程度です。熟練度が42,949,672,960を越えたことにより、スキルレベルが上昇しました。≫

(ちょっと上がりすぎだと思うけど………好都合ッ! 反撃の時は―――今だ!)

――――――「電流の体躯」を解除! それから「雷操作」ッ!

揺らいでいたハルマサの体が現実感を取り戻し、雷の奔流がジッとハルマサの肌を焼く。
それとほぼ同時、ハルマサは向かってきている電流を操作し、ちゃぶ台返しのようにひっくり返した。
電流が、崖にぶつかって砕ける波のように、反り返る軌跡を描く。

(ぉおおおおお!)

全裸ハルマサは空中を漂っていた黒い布の破片、恐らくタキシードの切れ端で股間を隠しつつ、跳躍した。
黒い布に魔力を送ると、彼の意を酌んだのか、黒い布は急速にその面積を増し、半ズボンになった。
毎回千切れたり吹き飛ばされたりして大変だろうに、健気に股間を覆ってくれるタキシードにハルマサは感謝しつつ、体からさらに魔力を放出する。

――――――キュォオオオオオオオッ!

ちゃぶ台返しによって勢いを失い霧散しようとする雷を、一つの球に纏め上げる。
雷が圧縮され、硬質に輝きだした。それはまるで、太陽のよう。
ハルマサは飛び上がり、それをバレーのアタックのように叩きつけた。

(―――ぜぇいッ!)

弓なりになった背中を起爆剤とし、腕が背中から伸び上がるような軌跡を描く。最高点に達した掌が雷ボールを強打する。
ドキュウッ! と雷スパイクが衝撃波を撒き散らし、摩擦で空気を燃え上がらせながらミラボレアスDXへと飛翔し――――直撃。閃光が弾ける。
ここまで、親指を立ててから1秒経っていない。

荒れ狂う空気の中で、赤い首が弾け飛んでいた。
だが、直後新しい首がズルリと生えて――――――そこへ待ち構えていたようにハチエが飛び込んできた。






半ズボンハルマサが跳び上がって雷スパイクを打つまで、ハチエもただ呆けていたわけではない。
一秒という短い時間でさえ30万kmを移動するような、高速すぎる戦闘なのだ。
ハチエは左手で悪魔の実を抱え、跳びあがる。
右手のパロちゃんは、一拍置いてから振り上げた。刃の軌跡は斜め下から斜め上。
これこそが、奥義ッ!

―――――――アバン・ストラッシュ!

ビキィ、とハチエの右手の筋が悲鳴を上げた。この剣技を使うには、パロちゃんは少々重すぎるのだ。
だが、技は問題なく発動した。
シュパァッ! と白い軌跡がミラボレアスDXの白い首へと直撃する。その一撃は鱗を剥がし、肉を抉る。
パッと鱗が舞って赤い血が噴出し――――――その下をハチエは走り抜けていく。

そして、ハルマサが弾き飛ばした赤い首が、ずるりと生える場面に遭遇した。

(―――――ッ! ここやッ!)

チャンスは、首が生えてくるところだとハチエは思っていた。
恐らく一番無防備な瞬間だ。
だが、敵は第三階層のボスである。
流石と言うべきか、生えると同時、ハチエを食いちぎろうと顎を開いていた。

(甘いわ!)

そこにハチエはパロちゃんを蹴りこんでいた。

『な、なにを――――』
「とりゃあ!」

ガキィ、と巨大な口の中でつっかえ棒となったパロちゃんに掴まりながら、雷を吐かれる前に、ハチエは左手の悪魔の実を喉の奥へポイと投げ込んだ。



――――――――ドクン。



ミラボレアスDXの巨体は一度だけ鳴動した。
ハチエはパロちゃんを引っつかんで即座に口を飛び出し、ハルマサの横に退避する。

ミラボレアスの変化は劇的だった。
ボロボロと鱗が剥がれ落ち、内側から輝く黄金の体毛が現われる。
バチバチと紫電を纏うその姿は、明らかに先ほどよりもランクが上の生物だった。
敢えて言えば、スーパーサイヤ人の限界を超えて、スーパーサイヤ人2になったと言うところだろうか。
恐らく光の速度で動く事が可能で、物理攻撃も無効。それなのに相手はこっちを殴れて、その上30メートルの巨体、三本の首という視野の広さ・リーチの長さは軽い悪夢ですらある。

だが、その時ハルマサが準備を終えていた。怪物となったボスを倒す準備を。

「行くよレンちゃん!」
「ギィ!」

ハルマサは床石の隙間に突き込んだ手から魔力を開放した。
直後、ミラボレアスDX雷バージョンの真下から、間欠泉のように水が吹き上がる。
それは覆いかぶさるように、ミラボレアスの巨体を包み込む。

(これで包めれば僕らの勝ちだ!)

しかし、相手はボスである。ギュバァと襲い掛かる水の牢から、一足早く逃げ出していた。逃げ出す先は、水の無い、上。
そしてそこには、既にレンちゃんが水の光線を放っていた。
いや、光線ではなく海そのものが具現化したような、大量の、水だった。

「ギィイイ!」

ゴバァ、と空に海を作る勢いで、レンちゃんの水が放出される。
それを避けるには、そう、蒸発させるしかないだろう。

―――――――ゴォオオオオオオオッ!

キィン! と一瞬光が瞬き、ミラボレアスの周囲の水が大量に気化する。

「ぉおおおおおおりゃッ!」

――――水操作ッ!

その水蒸気を掻き分けて、ミラボレアスの左右から巨人の腕が出現する。
巨人の腕は掌を広げ、ミラボレアスを押し包もうとし、また蒸発させられる。

ハルマサは血管が切れそうなほど集中し、次の手を模索する。水を操り押し包み、パッ、パッ、と光が走る。辺りが大量の水蒸気で覆われていく。
ハルマサは、敵の注意を、引きつけ続ければいいのだ。
こちらの本当の狙いは―――――



ハチエは弓を引き絞る。
巨大な弓だ。色は白い。
ギリリと絞られる弦は硬く、ハチエは歯を食いしばる。
ハルマサが水から作り上げた、水晶のように煌く矢を番え―――――待っていた。

―――――――集中。世界から音が消え、色が消え―――――

ハルマサが隙を作り上げ、ハチエが撃つのだ。
ただ、それだけで良いのだ。

「―――!」

隣のハルマサが叫ぶと同時、ミラボレアスDXの周囲から、水の針が無数に襲い掛かる。
その針の牢を凌駕する速度で、レンちゃんのビームがミラボレアスDXの体に到達し、その一帯が消し飛んで――――

―――――――今ッ!

カッ、とハチエは目を見開いた。ゴォ、とハチエは耳元で弦が震える音を聞く。
手という楔が外れ、指で挟んでいた矢が猟犬のように飛び出していく。
矢は、ハルマサが作った特別製だ。

―――――ジュッ!

矢は一瞬にして空を駆け、ミラボレアスDXの首を消し飛ばす。そしてそれだけで終わるはずも無い。
その細く美しい外見からは見取れぬほどに圧縮された水の矢は、内部の轟々と渦巻いていた水の流れを接触の刺激によって周囲へと開放した。

―――――――キキキキキキキィン!

それはウニの如く無数のトゲとなって円球状に放射され、ミラボレアスは断末魔を上げることなく消えうせる。ミラボレアスDXの頭上の数字が一気に減って、カチリと音をたて『0/600』へと変化した。

ウニのような水の彫刻が、地面に落ちて、ぱしゃん、と砕ける。




そして、上からリングが煌きながら、ゆっくりと落ちてきたのだった。









第三部・完
NEXT:閑話「逆襲の夜川」





<つづく>



ハルマサ:ハチエ:レンちゃん:パロちゃん=4:4:1:1
という内訳で経験値をゲット。

レンちゃん → レベル28に。
パロちゃん → レベル30のまま。



ハチエ    ……Level up!
レベル: 29 → 30       Lvup bonus: 1342177280
耐久力: 805,253,784 → 2,147,431,064 ……★38,653,759,152
持久力: 1,341,914,214 → 2,684,091,494 ……★56,365,921,366
魔力 : 1,341,914,208 → 2,684,091,488 ……★18,788,640,416
筋力 : 1,341,914,211 → 2,684,091,491 ……★48,313,646,842
敏捷 : 1,341,914,218 → 2,684,091,498 ……★40,288,213,391
器用さ: 1,341,914,211 → 2,684,091,491 ……★8,052,274,474
精神力: 1,341,914,224 → 2,684,091,504 ……★88,575,019,632
経験値: 2,792,882,176 → 5,577,900,032  残り:5,159,518,208



ハルマサ    ……Level up!
レベル: 28 → 30       Lvup Bonus:2,013,265,920
満腹度: 1,244,181,128 → 3,257,617,785
耐久力: 1,447,291,248 → 5,333,151,376
持久力: 1,287,881,348 → 3,301,318,004
魔力 : 2,337,040,708 → 90,694,079,418
筋力 : 1,808,144,867 → 3,821,472,819
敏捷 : 2,166,331,485 → 4,180,198,528  ……☆6,270,297,792
器用さ: 2,869,313,018 → 115,168,109,691
精神力: 1,039,928,461 → 3,053,668,954
経験値: 1,983,840,255 → 7,352,933,375  ……残り: 3,384,484,863


○スキル
魔力放出Lv33 : 937,822,011 → 48,291,032,843  ……Level up!
雷操作 Lv33 : 504,991,821 → 44,233,415,792  ……Level up!
魔力圧縮Lv32 : 737,829,075 → 39,728,391,033  ……Level up!
PイーターLv32: 541,029,823 → 37,290,918,273  ……Level up!
空間把握Lv32 : 701,827,391 → 29,380,192,382  ……Level up!
水操作 Lv32 : 817,291,002 → 24,389,037,281  ……Level up!
観察眼 Lv29 : 372,819,223 → 3,829,182,773  ……Level up!
金剛術 Lv28 : 98,796 → 1,872,693,004  ……Level up!
心眼  Lv27 : 620,933,765 → 1,298,372,809  ……Level up!
鷹の目 Lv27 : 87,192,093 → 689,273,922  ……Level up!
身体制御Lv25 : 191,023,942 →228,932,656
戦術思考Lv25 : 332,918,239 →333,392,812
風操作 Lv26 : 502,981,001 →503,381,270
空中着地Lv25 : 242,381,022 →242,601,820
撤退術 Lv26 : 472,091,883 →472,309,291
撹乱術 Lv26 : 401,928,301 →402,137,890
運搬術 Lv25 : 228,102,983 →228,289,080




<あとがき>

マリー&マルフォイ戦頑張りすぎて、ボス戦がしょぼくなった。
前にもこういうのあったような気がする。流石私だ学習しないぜ!
あと600って言う数値は死んだキングチャチャブーの数と一緒です。全然活かせてないね!

コメ返です!

>もう悪魔とか邪神とか這い寄ってくる混沌なアレとの領域に足突っ込んでそうw。
最後のが分からないんだぜ。でも下手な邪神なら即殺される領域なんだぜ。

>このヤマツカミの吸い込み、防げるか?
このコメを見て少し書き直したんだ。吸い込みのこと完全に忘れてた。やばかった。サンクス。

>あなたと――――――結婚したい
元ネタ見てないのです。よく知りもしないのにネタとして使ってしまう私は許されるのだろうか。というか許してください(切実)。

>ラ=グース
何のことか分からなかったので元ネタ調べてみたら、
壮大なSF陰陽忍者時代劇バイオレンスサイキックアクション怪奇ホラー格闘ツインテール僧侶漫画
となっていたのですげえ読みたくなった。時間がないって言うのに―――――!

>あれ、流れるじゃなくて浮かぶじゃなかったけ。
そうでしたね。あれですね。やってしまたぜ。あと骸骨はただ単に好きなだけです。

>最初から読みました。2日で読破。思ったよりも短かったです(ぇ
とてもありがたいです。こんな私のたわごとに反応していただいて。
そしてこんな私のssが誰かの2日間を吸収しているという……怖い! ネット怖い!

>Lv30のヤマツカミを一撃って、パロちゃん強ええww
ヤマツカミはクソとろいです。そしてパロちゃんのパンチ力がやばいです。そういうことにしました。

>ヤマツカミを食ったら歯並びがよくなりそうだwww
考えてなかった。しかし、歯並びが悪い主人公はいないと私は信じています。

>魔法少女ハチエさんの降臨を望みます。
ハチエさんに羞恥プレイをさせたい人は実は結構いるのでしょうか。羞恥プレイはカロンちゃんにさせとけばいいやって思ってたんですけど。

>パロちゃんのキャラが母ちゃんとカロンちゃんと桃ちゃんを足して3で割ったみたいになってる。ちゃんばっかだな。
確かにそうですね。そういう性格のキャラがすきなことが一目瞭然ですね。言われてから気づきましたが、個性ってどうすればいいのか皆目分からないです。
分からないのでこのままいってそのうち個性がつけばいいなって。

>ちなみにレベル上限って決まってるんですかね?
後付けで出てくるかもしれないです。今のところ主人公たちのシステムは50までしかあがりません。ほかの人は知りません。

>自分の書いてる小説の後書きのようなところで、この小説をオススメしたりしても構いませんか?
全く問題ないです。むしろこのssをネタとして使っても問題ないです。3次小説とかもありだと思います。誰もやらないだろうけど。
私がこのssを書くきっかけになったssとかもいつか紹介したいと思っています。
残念なことに既に消えちゃいましたけどね。



[20697] 157
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/01 20:29





<157>




ピー、と電子音が響く。
それは彼が生まれ変わった音でもあった。
ばちん、ばちん、と体を留めていた拘束具が弾け飛ぶ。

「人工筋肉は問題なく稼動中じゃ。動力も順調じゃの。間接は動くか?」

体は重く、硬かった。
ぎしり、と軋む腕を使って、夜川丈一は体を起こした。
手術台のような硬いベッドの上で、頭に張り付いていた電極を取り去る。
続いて、体中にスパゲティのように繋がれていた大量のチューブを一つずつ取り去っていく。
床に脚を下ろすと、ガツン、と音がした。

「調子はどうじゃ?」

傍らにいる、白衣を着た白髪のじじいが言葉をかけてくるが、夜川は聞いていなかった。
体のうちから湧き上がる喜びに打ち震えていたのだ。
これで、あの憎きハルマサをボコボコに出来る。
くくく、と口から笑みがこぼれた。
彼の首から下に、昔の彼の名残は無い。鋼鉄に覆われて鈍く輝く体が、そこにはあった。
つるりとした華奢なフォルムとはかけ離れたパワーが体の中で踊っている。
ついには高笑いをしつつ、夜川は叫んだ。

「ハーッハッハッハッハッハッハッ! ―――――――オレは、人間を止めたぞぉ! ハルマサぁ!!!!!」

改造人間夜川の復讐(というか逆恨み)が成就するかどうかは、まだ、誰も知らない。








閻魔様は機嫌が悪かった。

「すまんが、私は今機嫌が悪い。話しかけるな」

自分で言いもした。
相変わらず姿は美しかったが、イライラと葉巻を吸い、書類に判子を押す手を片時も止めず、ハルマサたちの方を見もしなかった。
そんな放置プレイをされるとM心が疼いて仕方ないハルマサは、変な性癖がこれ以上増えても困ると、傍らで暇そうにしていた2号さんに尋ねた。
2号さんも相変わらず髪の毛がファンキーな色であり、服装はチャラチャラしていた。

「あの、何があったんですか?」
「実はッスね、ライバルにやられてしまったんッス」

実は話したくて仕方なかったのか、2号の食いつきは凄かった。

「……ライバル?」
「そう、それは去ること230年ほど前のこと――――」

2号さんは当時を思い出すように空中へと視線を向ける。
230年前は神様が創ったダンジョンがまさにクリアされようとしていた頃だったらしい。
閻魔様は後進組みだったが、破竹の勢いでダンジョンを攻略して行き、まさに後一歩で秘宝に手が届くというというところまで行った。
その時お供に付いて行っていたのが2号と、ハルマサはあった事が無い、武闘派の1号である。
最下層のボスは、多人数参加型のボスで、他の閻魔のチームも参加していたとか。

「……他の閻魔ってなんですか?」
「ん? ああ、閻魔様の担当地域は決まっているんス。流石に世界中の人間を裁くわけにもいかないッスから」

で、問題はその他の地域の閻魔―――――琉球担当だったらしいが――――が最後の最後で裏切りを見せ、秘宝を独り占めにしてしまったことらしい。

「まぁダンジョンの中は無法地帯で、やることはプレイヤーの良識にかかっているところもあるんで、仕方の無いことではあるんスけど、閻魔様はそれ以来すっかりあの人と対立してしまっているんスよ」

あの人、とは妙な言い方をする、とハルマサは思った。
少なからず、敬意のようなものが感じられたからだ。

「あの人というか、実は閻魔様のお姉さんなんスけどね」

そうですか。
姉妹って大変なのかな。ていうか閻魔様一体何歳?

「で、閻魔様の反発を受けて向こうも張り合いだしたのが、今回のイライラの原因ッスね」
「どういうことですか?」
「閻魔様のお姉さんのところのプレイヤーが、第四階層を突破しちゃったらしくて。それで昨日延々と自慢されてあんなんになってるんス」
「うるさいぞ2号ッ! あんなんとはなんだ!」
「なるほど……いやよくは分からないですけど」
「第四階層に到達するのはこっちが先だったんで、余裕綽々だったんスけどねぇ……」
「そうですか……」

閻魔様を盗み見ると、閻魔様もコッチを見ていたらしく、目が合った。
そっとウインクしてみた。

「ウインクをするなッ!」

ブレスレットをしているから大丈夫なのに、と理不尽に思いつつ、怒られてシュンとしていると、執務室の扉が開いて、ハチエさんが飛び込んできた。
満面の笑みを浮かべている。

「どぅやハルマサッ! 何か気付くところはあらへんか!?」

うわぁメンドクセェ、そういう質問は恋人にしてよと思ったハルマサだが、ハチエの姿を見て気付いた。

「なに……Cカップ……だと!?」
「なんでカップまで分かるねんこのスケベ!」

言葉とは反対に、嬉しそうにしながらハルマサの頭をペシペシと叩いてくる。
ハチエの胸が、前よりもTシャツの生地を押し上げていた。Bカップだったはずなのに。
ハルマサアイにかかれば、トップとアンダーの数値を読み取れることなど造作も無いので間違いないはずだ。

「しかしその通りやでハルマサ君! ウチもついに巨乳の仲間入りや! いやぁ長かったでぇ……。ダンジョンに入る前は抉れ胸って言われとったからなぁ……」

感慨深げに自分の胸を触っているハチエさん。
巨乳というにはまだ早いとハルマサは思ったが、時たま賢明になる彼はその言葉を口にせず、違うことを尋ねた。

「もしかして、それが階層クリアの報酬?」
「そうですわ。良く分かりましたねハルマサさん」

ハチエの後に続いて4号さんも入ってくる。
相変わらず清楚な出で立ちだが、先ほどハチエに引っ張られて退場した時よりも明らかに疲労していた。
彼女が豊胸術を施したのだろう。
一分少々の時間でワンカップサイズを増やすとは、恐ろしき技である。

「ん? 用事は終わったンすね。じゃあハルマサ君を送るッスよ。ハチエさんはどうするんスか? 希望するなら一緒に行くくらいは出来るんスけど」
「送るって、どこに送るん?」

現世に送ると言う話をすると、一も二も無く、行きたいということだったのでハチエさんも付いてくることになった。

「多分、帰ってくる頃には閻魔様の機嫌も直ってるッス。自分ではどうにも出来ないみたいで。嫌わないで上げて欲しいッス」
「そんな、閻魔様を嫌うなんて、天地がひっくり返ってもありえないですよ」
「相変わらず素晴らしいお乳してはりますしね」

ハチエさんの言葉に激しく同意だが、閻魔様の魅力はそれだけではない。
切れ長の瞳に見られればテンションが上がり、ふっくらとした唇が微笑を見ればテンションが上がり、もうとにかくテンションが上がるのだ。
細い葉巻をくゆらせている姿もまるで一枚の絵のようだ。そしてその性格はまるで慈悲の神の権化のようであり、かつて迷えるハルマサの心を救い出してくれたのだ。
彼女が目の前にいるだけで、ご飯が5杯はいける。

ハルマサは叫んだ。

「ここに白米を持てぃ!」
「と、突然どうしたんハルマサ。カッコイイようでいて実はちょっとキモイで」
「へへへ、テンションが上がっちゃって」

ぐだぐだ話していると2号さんの準備が出来たらしい。

「じゃ、二人とも準備はいいッスか? いくッスよー。そぉーれっ!」

てきとうな掛け声と共に、ハルマサたちは意識を失った。






ハルマサたちを送った後、2号は呟いた。

「……あれでよかったんッスかねぇ? 閻魔様が器の小さい人って誤解されてしまったかもしれないッスよ」
「でも、ハルマサさんたちを侮辱されて腹が立っているなんて、本人の前では言えないんではなくて?」
「閻魔様、身内には優しすぎるところあるッスからねぇ。オレッちが拾われた時も……」
「おいそこ! グダグダ言わずにさっさと仕事に戻れ!」
「は、はい!」「はいッス!」

バタバタと駆け出していく二人を見送った後、閻魔はため息を吐き、姉のことを思い出してイラッと来たので葉巻を深く吸い込んだ。







ハルマサとハチエは、気付けばハルマサ宅の前にいた。

「ん? もう着いたん?」
「そうだよ。ここが僕の家。えーと、午前5時38分です。今日は日曜日か」
「あ、ハルマサの名前や」

表札に書かれた佐藤の字の下の母さんの名前の横に、いまだにハルマサの名前がある。
それを見てハルマサは少し嬉しくなった。
ここに帰ってきてもいい、と言ってもらえている気がする。
隣を見れば、ハチエさんが家を見上げていた。

「ほぉー。二階建てのええおウチやね」
「うん。住み心地はいいよ。ハチエさんの家は?」
「ウチ? ウチの家は平屋やってん。狭いところで兄弟の二郎と三郎がいつもうるさくケンカしよるし、カズエは母親通り越して婆ちゃんみたいな貫禄持ってみんなを厳しく躾けようとするし、四郎も五郎も嫁さん連れ帰ってさらに部屋狭くしよるで、最悪やったわ。一番仲が良かったのはシチエやなぁ。でも一番ケンカ強いのシチエやねん」

「でも」の意味が分からない。ていうか皆名前のつけ方が安易である。

「……兄弟が多くて楽しそうだね」
「そうでもないんやけど……8人おってな、ウチ末っ子やねん」

ハチエが肩をすくめる。

「へ、へぇ……会いに行かなくても良いの?」
「後でエエわ後で。それよりもウチ友達の家に入ったことないねん! ハルマサの部屋どんなんか気になって仕方ないで!」
「あ、あんまり面白いものはないよ?」

エロ本も片付けたし。パソコンも破壊したし。
ハチエと喋りつつ家に入ろうとして足を踏み出した時、ハルマサは後ろに足音を聞いた。
振り返ると、予想した顔があった。
夜勤明けなのだろう。疲れた顔をしており、どんな仕事をしていたのか、血の匂いをさせていた。
そして、少し痩せていた。
だが、間違いなくハルマサの最愛の母だった。

「ハル、マサ?」
「うん。ただいま、母さん」
「――――ッ!」

ぎゅう、と抱きしめられる。
ハルマサも大事なものを包むように抱きしめ返した。確かに母さんがここにいる、とハルマサは思った。
そうしていると、ほたり、と頭に温かい雫が落ちる。

「おかえり少年。無事でよかった」
「うん」
「本当に、よかった」

母さんからはこの世で一番安心できる匂いがした。






<つづく>


ロボ夜川(笑)






[20697] 158
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/01 20:29


<158>




女性二人はリビングで向き合って、自己紹介をしている。

「初めまして。ハルマサの母の静香です。」
「初めまして。ハルマサの姉のハチエです。」
「ハチエさん、せめて義姉だって言わないと」

ハルマサは台所で料理を作りつつ、一応突っ込んでおいた。義姉弟の契りを交わした覚えもないが。
どこかずれている気がしないでもない自己紹介だったが、ハルマサの母の器の大きさは広大無辺である。
いい感じに面倒くさいところをスルーして、ハチエを姉だと認めたらしかった。

「いい姉を持ったな息子よッ!」
「まぁ母さんがいいならそれでいいけど」

キリリとした表情の母さんを見て、ハチエは手を組み目を輝かせている。

「ええお母ちゃんやなぁ。ウチのお母ちゃんになっていただけまへん?」

母さんはふ、と笑うと両手を広げる。

「何を言う、君がハルマサの姉なら、すでに私は君の母だッ!」
「お、お母ちゃーん!」
「娘よッ!」
「わーい!」

ひしと抱き合う二人に、てきとうに歓声を送りつつ、サラダの盛り付けを完了したハルマサは食卓に器を運んでいく。
歩きながら視線を感じて、眼を向けると母さんが慈しむ目を向けてきていた。

「ふふ、良く出来た息子だろう、娘よ。」
「どこに出しても恥ずかしくない弟やなお母ちゃん。」
「何かがおかしい……」

ハルマサはぼやきつつ中華にまとめたご飯を並べていく。
母さんは仕事帰りなのでお腹が空いているだろうし、ハルマサたちに関してはボスを倒した後なので減りまくっているので、大量だ。
ホカホカと湯気を立てる料理を前に、母さんは胸に手を置いて目を瞑り、香りを堪能している。

「息子の手料理の香りが幸せを運んでくれるよ。母は嬉しくて胸が一杯です。クスン。でもご飯は食べます。お腹が減っているのです」
「お母ちゃん、泣き真似しとる場合や無いで。ご飯が冷えてまう」
「僕もお腹が減ったよ。はやく食べよう」
「うむ! そうだな! いただきます!」
「「いただきます」」

カチャカチャと、食器が音を立てる。

「ハルマサよ、母は酢豚を所望する! パイナップルを忘れずにのせてくれ!」
「はいはい、と。」
「お姉ちゃんも欲しいで。」
「ハチエさんは自分でよそえる位置にあるでしょ」
「ええ!?」

ショックを受けるハチエさんにハルマサの方がビビッていると、母さんが助け舟を出した。

「そんなことを言わずによそってあげなさい息子よ。君の指先から出る液体が入っているのといないのとでは味が全然違うのだ」
「なにそれ怖い!」
「ハルマサ汁やな」
「知ってるのッ!?」
「おしいが外れだ娘よ」
「どうおしいの!? 正解は!? いや、聞きたくない!」
「ウチもまだまだやな」
「何が!?」
「これから頑張っていけばいいさ。姉道は、長く険しいからな」
「お母ちゃん! ウチ頑張る!」
「カオースッ! 常識が崩壊しているッ!」

食卓は始終騒がしかった。


食器を洗っていると、食卓を布巾で拭いていた母さんが唐突に言った。

「そうだ。動物園に行こう!」
「おお、ええですね。行きましょ行きましょ」
「ハチエさんの馴染みっぷりがすごい」

という訳で、動物園に行くことになった。







ゴトン――――――ゴトンゴトン――――――

窓の外の風景がゆったりと流れていく。
ハルマサはそれをぼんやりと眺めていた。
横では静香がすぅすぅと、ハルマサにもたれつつ寝息を立てている。
無理も無い。
いつもは寝ている時間だし、夜勤明けで疲れていたのだ。
ハルマサがいる時は無理して明るくしてくれているようなところもあるので、今はゆっくり寝て欲しい。
こうして眠る母は幼い少女のようだった。

ボックス席の向かいの席では、さっきあれほど食っても足りなかったのか、ハチエがちょいちょいと駅弁を食べつつ、時たま自分の胸を見下ろしてはニヤニヤしていた。
窓枠の上には6センチくらいの小さな骸骨が窓に張り付いて外の光景を眺めていた。
この骸骨、パロちゃんである。
『携帯用形態だ!』などと言って小さくなったパロちゃんが収納袋から飛び出してきた時は驚いたが、町の風景を見たくて仕方なかったと聞いて、別に良いか、と許してしまった。
何か思うところがあるのだろう。先ほどから一言も喋らないので、置物のようだ。
鈍行の閑散とした車内では、皆が各々文庫本を読んだり音楽を聴いたり、ゲームをいじっていたりと、勝手に時間を潰している。
静かで、穏やかな空間だった。

(なんかいいな……)

これほど平穏な気持ちになることは、ダンジョン内ではありえない。
幸せというのはこういうことを言うんだろうな、とハルマサは思った。
列車が甲高い音をたてて急停止したのはそんな時であった。

ギギギギギギギィ―――――――ッ!

ぐらりと車内が揺れる。静香の体を支えつつ、慣性で転ぼうとする骸骨をキャッチした。

「なんだろう……?」

ザワリ、と非日常の気配が紛れ込んできて、静かだったじゃないがにわかに色めき立っていく。
耳を澄ませば、ザワザワと前の列車から噂が伝わってくる。

『ちっ、なんだよ』『何が起こったの?』『……』『人が飛び込んだって……』『おい、前行ってみようぜ!』『ニュースになんのかな』『めんどくさ』『でも轢いた人がいないんだって』『何で?』
『……だから事故だよ!』『ねぇちょっと、電話しないでよ』

「なんやえらいことになっとるなぁ」

ハルマサと同じく聞き耳を立てていたハチエさんが呟やく。お弁当を仕舞いつつ、窓を開けて外を見ようとしていた。
ハルマサの腕の中で、静香が目を覚ましたようだった。母さんの眠りを妨げる結果になってしまって、本当に残念だ。

「ん? おお、寝てしまったか。」
「母さんおはよう」
「……うむ。悪くない。おはようハルマサ。」

静香は一度ハルマサにぎゅ、と抱きつくと立ち上がる。

「聞くに、どうやら人身事故のようだな。手伝えるかもしれないから、私は行って見ようと思う。二人はここにいるか?」
「ウチも行くで。力仕事なら出来るし」
「僕も行くよ」

助ける力があるのなら、使うべきだと思うから。
キーホルダーのフリをして手の中でダランとしているパロちゃんをポケットに入れつつ、ハルマサも立ち上がった。

「でも、連結部に人が詰まってて通れないね」
「窓からいこか」

ハチエがガラリと窓を引き上げる。
だが彼らが行くまでも無く、この騒ぎの元は向こうからやって来た。

――――――ゴンッ!

電車の天井が内側に陥没したのだ。
ハルマサは「空間把握」によって電車の上にいるものを探る。
そして驚愕した。

「夜川君……!?」

電車の上から拳をつきこんでいるのは、鋼鉄の体となった、夜川丈一であった。




<つづく>




パロちゃん携帯用形態時の能力その他の低下具合
レベル: 30 → 2
サイズ: 40m → 6cm
体重 : 9Mt → 100g
硬さ : カッチン鋼 → 軟骨






[20697] 159
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/01 20:29


<159>



夜川丈一は拳を振り上げる。
電力を供給された人工筋肉がうなりを上げて、二発目の拳が電車の屋根へと突き刺さる。
軽い。体が自由自在に動く。それに丈夫だ。どんなことをしても傷一つ無い。
魔術の代償によって衰弱しきった体がここまで動くようになるとは。
流石ドイツ出身の科学者である。
いまだに母国の科学が世界一だと信じている思想には少々付き合い切れないが、一週間でここまで改造を施せるのだから我慢しようではないか。

「出てこいハルマサッ! ここにいるのは分かっているぞ!」

夜川は突きこんだ二つの手で、屋根を掴み、べきべきと引き剥がしに罹る。
それと同時に車内の熱分布を調べていた彼は、窓から飛び出してくる一つの熱源を察知した。

「やめろッ! 僕はココだ!」

振り返るとハルマサが壁の向こうから飛び上がってくる。
夜川は凶悪に口を歪ませた。

「はははッ! いい度胸だッ! ボロボロにしてやる! この生まれ変わった俺のパワーでなッ!」

ガォン、と背中のブースターが火を吹いた。
それにしても、なんでコイツはタキシードなんざ着ているのだろうか。真夏だぞ……?








静香が列車の中を歩き回りケガ人の確認をしたが、結局誰一人ケガをしていなかった。
ハチエはそれについて回っただけである。
目の前で静香は車掌に話を聞いている。ハルマサの母は息子とは違って美人なので、簡単に話を聞かせてもらえていた。
車掌は目の前で人間を轢いたのに、何時の間にかいなくなっていたと話している。

「轢かれた人物が見当たらないというのはよくあることなのですか?」
「いやぁないんですけどネェ。不思議なことです。仏さんが消えちまったもんで、今のところ、一番のケガ人はコイツでしょうな」

車掌さんは帽子のつばを持ち上げつつ、今まで運転していた電車を見上げた。
電車の正面には、人型の窪みがありありと残っているのだった。

「普段なら、電車がこうまでへこむことなんて無いんですけどネェ。消えちまったし、人間じゃなかったかも、なんてね」

彼は苦笑して帽子を被りなおした。
じゃあ、はやく復旧させますから車内に戻っておいて下さい、と車掌が言うので、二人は電車に乗り込んだ。

「ハルマサはいったいどこに行ったんだと思う?」
「知り合いだって言って窓から出て行ったきりやから、この騒ぎの元のところに行ったんやないですか? 天井叩いてた迷惑な人のところに。」
「大丈夫だろうか。思うに、電車に轢かれても平気で動き回る奴だろう?」

ハチエは頬を掻きつつ苦笑を返した。

「まぁ、多分大丈夫やと思いますけど」

そう言ってハチエはぎゅっと拳を握った。
みしり、と骨が鳴る。
今回の現世訪問において、ハチエの力は全くセーブされていない。
それはハルマサも同じだろう。
彼女は装備によって「筋力」が「器用さ」よりも大分大きくなっている。あまり精密な作業は出来ないだろうが、ハルマサは逆だ。器用さが半端なく高く、自らの体をほとんど完璧に制御できる。周りに被害も出さずに上手くやるだろう。
また、彼は耐久力が50億とか言っていたか。
まさに矢でも鉄砲でも持ってこい状態のハルマサに、傷一つでもつけられる人物がいるのかとハチエは安心しきっているのだった。







ヒィイイイイイン……ッ!

彼の背中でドンドンと圧力が高まっていく。ゴゴゴ、と周りの空気が震えるようだった。

「…………」
「どうしたハルマサ! ビビッて声も出ないか!?」

汗を垂らしているハルマサを見て夜川は確信した。
コイツビビッてやがる!
このまま殺すのは簡単だが、ここは一つオレの強さを見せ付けて絶望に落としてやろう!

ヒュウン……。

背中のブースーターの火を落とす。

「こ、こないの?」
「なぁに、何も分からずに殺されるお前が余りに可哀相でな。ここは一つオレの力を見せてやるよ」
「へ、へぇ……気前が良いんだね」
「ここは狭い。場所を変えるぞ」

チラリと見やれば、近くにビルが解体されて撤去された、広い空き地があった。

「それは賛成だね」

ハルマサに目を戻すと、彼はもう電車を蹴ってその空き地の方へと跳び出していた。

(あのやろう……!)

夜川も電車を蹴って一飛びで50メートルは離れた場所にあった空き地へとおり立った。
ズシン、と脚が地面にめり込む。何せ300キロはある体だ。その体で軽々動くオレ様カッコいい。
途中で抜かしてしまったのか、遅れてハルマサが到着する。夜川はニヤニヤ笑いが止まらない。

「ふん、ノロマめ」

だが、ハルマサはまるで予想していなかった表情をした。

(哀れみ、だと……!?)

彼の表情は憐憫に染まっていたのだ。

「……まだ僕にこだわっていたんだ。君も大概しつこいね。そんな体になったのは……」
「は、知れたことだろ。お前をぶちのめすためだよ」
「そ、そう。大変だったね」

相手は汗を流しながら困ったように笑う。
夜川は腹が立ってきた。コイツ……!

「……舐めてんのか? これからお前が―――――大変なことになるんだよ!」

足を踏み出すと同時にコォ、とブースターが点火され、夜川の周囲の空間が歪むように流れていく。
右の抜き手を突き出し、顔面へと叩きつける。

ハルマサは驚いたように、両手で夜川の腕を掴んで止める。

(はは、流石空から落ちても傷一つない男だ! だが―――――)

腕の内部でガリン、と歯車が回る。

(コイツならどうだッ!)

ガキン、と撃鉄が打ち込まれ、掌から電磁加速された一本の杭が飛び出した。

―――――――バァンッ!

辺りの空気が震えて、土が放射状に弾け飛ぶ。
しかし――――いや当然というか―――――その中心でハルマサは立っていた。

「…………ッ!?」

首をかしげてパイルバンカーを避けたハルマサは、少し驚いた顔をしていた。
というかそれだけだった。

(ふざけるな! そんなことが出来るはずがないだろう! 音速なんてもんじゃねえんだぞ!?)

そもそも、300キロに突進力をも加味されたパンチを受け止めて、何故一歩も後退していないのだ。足が地面にめり込んですらいない。
コイツは一体なんなんだ!
ハルマサが口を開く。

「ねぇ、一つ聞きたいんだけど。」
「……あ?」

ハルマサは、信じられないことに、杭をギィと曲げつつ、聞いてきた。

「僕の位置をどうやって知ったの?」
「――――――知るかよッ!」

(こいつならどうだッ!)

カシュ、と両肩が盛り上がり、露出した銃口から連続で弾丸を吐き出していく。
ほぼゼロ距離で毎秒400発の弾丸が吐き出される。
が、それは2、3個弾丸を吐きだしたところで毟り取られた。

「無駄だよ。質問に答えて」

ハルマサが左手で受け止めた弾丸と右手でねじり取った機械を握りつぶしながら言ってくる。
金属が捻じ切られていることよりも、速すぎて影にしか見えなかったことに戦慄を覚える。

(くっ、毒なら――――!)

ゴォ!

首の穴から噴出した薄青い気体は、何故か唐突に発生した上昇気流に巻き上げられた。

「無駄だって。何やっても」
「ふ……」

しかし夜川はまだ余裕があった。

「まさか第二形態を見せることになろうとはなぁ――――!」

ガキャーン、と間接が鋭角にフォルムを変えていく。
脚はガイゼルのごとく、腕は野獣の如く。
脳内のリミッターが外れ、世界がより鮮明になる。空気の味さえ感じられた。

「はははッ! リミッターを外したオレに今のような事が出来ると思うなッ!?」

ギャッと飛び上がり、背中のブースターを吹かす。
そして両手を組んでハルマサの頭へと叩きつけた。

――――――――ゴォン!

「無駄だってば。」

片手で受け止められていた。そのまま投げ飛ばされる。

「クッ!」

空中で体勢を立て直し、脚から着地する。
どうやら相手を認めなければいけないようだった。
これは使いたくなかったが仕方ない。

「特別に第三形態を見せてやるよッ!」
「!?」

キュオ、と夜川の腹に穴が開く。
その奥には凡字で描かれた複雑な図形があった。
科学者は言った。

『コイツは強力すぎて町ひとつ消してしまう―――――――』

(もう町なんかどうでもいいぜぇ――――――――!)

ゴォオオオオオ! と腹の中で内圧が高まっていく。凡字が光り、夜川のエネルギーを高めているのだ。

「冥土の見上げに教えてやるよハルマサ! 貴様を見つけたのは―――――――偶然だ!」
「なにぃ!?」

ハルマサが今まで一番驚いている。しかし、偶然でもなければ、一々電車を止めたりしない。
焦って電車とガチンコしてしまったのは決して人には言えないだろう。
もういい。目撃人ごと葬り去ってやる。

「町ごと吹き飛べぇ! ハルマサぁッ!」

キュゥウウウウウウッ――――――――――ッボッ!!!!!!!

夜川の腹から、彼のエネルギーを全て使い果たして凶悪なエネルギー砲が放たれようとした。
しかし放つ瞬間、夜川は何故かハルマサの方ではなく空を見ていた。
視界一杯に広がる空。

(一体何が――――!?)

足を掬われたのか? バカな、俺は300キロあるというのに――――!
そして背中に物凄い衝撃を感じた。

「そんな危険なものを、街中で使うなッ!」

声と共に、ドゴォ! と空へと蹴り上げられる。
背中の装甲が砕けるのを感じつつ、夜川は宇宙に向かって盛大な花火を上げた。





自由落下の法則にしたがって、どぉん、と空き地に背中から落下し、夜川はクレーターを形成した。
その淵にハルマサが居る。当然奴は無傷。それに比べ俺は……!

ありえない、この俺が完膚なきまでに……!

「く、お前は一体……!」
『おいッ!』

しかし彼が最後まで喋る前に変な声が聞こえた。
見下ろすと、目の前の地面に小さな骸骨がいた。
骸骨は夜川を指差すと甲高い声で叫んだ。

『貴様の敗因は一つ! 肉体に囚われていることだッ!』

(……は?)

「いや、それは違うでしょ」
『だがハルマサ、奴は余りに弱すぎる! 少なくとも、彼我の実力の差くらいは理解せねば! そのためにはやはり骨になるしかないだろう!』
「いや、骨って……。夜川君、第一階層なら突破できるくらい強かったんだけどね」
『何を言っているのだ! ダンジョンは、第三階層まではふるいのようなものだろう! 突破できないものは皆弱者だ!』
「え、ウソ。ふるいなの? 初耳なんだけど……ホント?」
『私がウソなど吐くかぁー!』

小さな骸骨がペンペンと地団太を踏んでいる。
その奇怪な姿と、できればウソと言って欲しかった! と仰け反っているハルマサを見て、夜川は思った。

(オレはとうとう狂っちまったのかな……)

何となく全てがバカらしくなったのだった。


後日、彼はパロちゃんの言葉をヒントに解脱し、全世界初の強くて優しいロボット坊主になったりならなかったり。
とりあえずはこの日、夜川が飲み屋でくだを巻いている姿が見られたという。





「ほら、大丈夫やった」
「う、うん? それよりもハチエ。あの小さな骸骨はなんだ?」
「ああ、パロちゃんやな」
「……パロ?」
「本当は身長40メートルやねん」
「???」



<つづく>



夜川編終了しちゃった。






[20697] 160
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/01 20:57
<160>



一行は無事動物園へと到着した。
動物園は休日と言うこともあってそこそこの賑わいである。
その雑踏の中、母さんが象を掌で示しながら言う。

「はい、こちらが象さんだ。大きいなぁ」
「大きいねぇ」
「しわしわやな!」
『しかし元気がないぞ?』

みーんみんみんとセミが鳴き、コンクリからは陽炎が立ち昇るような暑さである。
そりゃ象も元気がなくなるだろう、とハルマサは思った。
だが、そんな猛暑にもかかわらず、母の静香とハチエはお揃いの麦藁帽子を被ってはしゃいでいる。

「リンゴを食べるだろうか。冷えているからきっと美味い。元気が出て走り回るかも知れん」
「うん。あげないでね」

ハンドポシェットからリンゴを取り出して思案している母親にハルマサは一応言っておく。
これで常識はある人だから大丈夫だとは思うが一応。
そんなハルマサの頭の上ではーいはいはいと骸骨が背伸びをしながら手を挙げる。

『私にあげさせてくれないだろうか!』
「いやダメだって」
「そうやで、パロちゃんごと食べられてしまうやん」
「そんな意味で言ったんじゃないよ!?」
「そして鼻を通って出てくるのか。素晴らしいな!」
「大冒険やん!」
『うぉおお、俄然行きたくなってくる!』
「あの、あんまり動かないでね、目立つから」

ワクワクシャカシャカと踊る骸骨に釘を刺すが、すでに手遅れかも知れなかった。
先ほどから周囲でカシャーン! パシャーン! とカメラのシャッター音がちょいちょい聞こえるからだ。
最近の若者は平気で携帯電話のカメラを向けてくるから怖い。きっとムービーも録られているだろう。
これがゆとりか、とバッチリゆとり世代のハルマサは思った。
ちょっとコッチ来てみ、ペンギンよりよっぽど面白いから! と電話する人も居て、周りのギャラリーは増える一方だ。
いっそ「暗殺術」を発動して透明になってやろうかと思わないでもない。
いや、それはそれで騒がれそうである。

少し考えていると、目の前にパロちゃんが引っ付いたリンゴを差し出される。

「さぁハルマサ君。これを持ってあげてきなさい。」
「どうして僕があげに行くことになった! というかなんで母さんはこういう時だけ敬語なの!?」
『象もあんなにパォパォ鳴いて期待しているだろう。』
「どこが!? 暑さでぐったりしてますけどッ!」
「まぁまぁ」

とハチエさんが間に入ってくれる。ああ、彼女は常識が――――
ハチエさんはリンゴを受け取ってハルマサに押し付けた。

「透明になったら楽勝やろ?」
「味方は居ないのか――――――ッ!?」



「暗殺術」を発動して行こうとしたが、装備品は透明に出来ても生き物は透明にできないみたいで空中にパロちゃんが漂う光景となってしまい、みんなは断念した。
もっと早くに、常識という壁を前にして断念して欲しかった。

「というかハチエさんが行けば良いのに。帽子で透明になれるでしょ」
「お母ちゃんとお揃いの帽子を脱げと!? お母ちゃん! 弟がグレた!」
「ふふ、ハルマサにもようやく反抗期が来たのか……寂しくなるな」

良く分からない展開で、ハルマサに第二次反抗期が来たと思われたらしかった。




しばらく見て回った後、パラソルの刺さったテーブルに座って、少し休憩である。
母さんはパンフレットを熱心に読み、子どもたちはアイスを買ってもらった。
ようやくギャラリーも減ってきたので、ゆっくり出来る。
まぁまだ時折シャッター音が聞こえるが。
アイスクリームを舐めながらハチエさんが尋ねてくる。

「なぁハルマサ」
「どうしたの、今日食べてばっかりのハチエさん」
「しばくで。……そうやのうて、なんでコーンだけ残してるん? 普通一緒に食べてしまわへん?」

ハルマサはクリームだけ食べてしまってコーンはまるっと置いていたのだ。

「実は海よりも深い事情がありまして」
「それ、自分に無茶振りしとらへん?」
「い、いや、そんなばはは。」
「しどろもどろやん」

それを聞いたのか母さんがパンフレットから目を上げた。

「ハルマサが唯一苦手とする食べ物がそれだ」
「理由しょぼッ! というかピンポイント過ぎまへん!?」
「何を隠そう、私はクリームが苦手だ。バランスが取れているだろう?」
「うわぁ……」

呆れているハチエさんのアイスが溶けて落ちそうになっていて、ハルマサは気が気ではない。
しかし、それを忠告してしまえばまるでハルマサがアイスがもっと欲しくてハチエの分を羨ましそうに見ていると勘違いされる!
ああ、困った困った。
親切心が誤解される世の中なんて碌なもんではないね。
アイス欲しいなぁ。

ハルマサが苦しんでいると、机の上で飛んだり跳ねたりチョロチョロしていたパロちゃんがハルマサの腕を突付いてきた。

『なぁハルマサよ』
「ん?」
『あれを貰ってもいいだろうか』

パロちゃんが指差すのはハルマサが食べ残したコーンだ。

「いいよ。食べるの?」
『笑止ッ!』

パロちゃんは鼻で笑い飛ばすと(鼻息が出るのかは知らないが)、コーンの先のほうを切り取って頭に被せた。
そしてハルマサの方を向いて胸を張る。

『どうだッ!』
「何が?」
『似合っているだろう?』
「……そうだね」

ひどくシュールだった。
そのシュールの源であるコーンの先をハチエがひょいとつまみ上げ、口に放り込んだ。

「食べもんで遊んだらあかんよ。ほら、そろそろ行こや」
『あああああああああッ!?』
「ど、ドンマイ」
『くぉおおおおおおおおおおッ!』

悔しがりすぎだよパロちゃん。

ハルマサが代わりに、コーンを包んでいた紙で帽子を作ってあげると、パロちゃんの機嫌は一秒で直った。


『ふん♪ふん♪』
「ご機嫌良いのは分かるけど、鼻歌混じりに僕の髪の毛を毟るのは止めてね」
『おおっと失敬! ついついな!』

ついついでやられたら僕の毛根も浮かばれないだろう。可哀相に。

「パロは楽しそうだな。その帽子も似合っているぞ」
『そうだろうッ! 静香は見る目がある! これはハルマサが作ってくれたのだ!』
「なぁ、ハルマサはカロンちゃんとか、人外ハーレムを形成するつもりなん?」
「ええ!? 何のためにッ!? カロンちゃんは確かに好きだけど!」
『な!? 私は狙われていたのか!?』

いや、狙ってないけど。

『こ、こんな変態の頭には乗っていられない! 助けてくれハチエ!』
「ええけどウチの帽子毟ったら、またパロちゃんの帽子食べるで?」
『わ、わかった!』

パロちゃんがぴょいと飛び移っていく。
何となく寂しく思って見ていると、ぽんと肩に手を置かれる。

「少年よ」
「母さん……」

母さんは、うむ、と一つ頷いて言った。

「少し節操を持ちなさい」
「母さんッ!?」

味方はまたしても居なかったが、だんだん慣れてきたハルマサだった。





その日は暑く、動物たちも元気がなかったが、ハルマサの周りの女性は元気一杯だった。
そのお陰だろう、閉園まで動物園に居たが、飽きることはなかったのだった。

その後、ハチエさんは家族のところに行ってくると、帰っていった。
ハチエさんが高速道路を疾走している姿(ハチエさんの実家は岡山である)を目撃されて都市伝説になったり、パロちゃんの動画がネットにあげられて祭りになったり、夜川を蹴り上げるハルマサの画像も張られていたりしたが、おおむね問題なかった。
一番人気はサイボーグ夜川が居酒屋でくだを巻いている動画や画像だったからだ。
酒屋の親父のインタビュー記事すら乗っていて、掲示板はその後二日くらい騒がしかった。

だからハルマサは誰憚ることなく家に帰って、犬用のほねっこを嬉しそうに齧るパロちゃんを見たりしながら、ゆったりと母との時間を過ごせたのだった。




そして閻魔様のところに帰るさいに、母さんが唐突に口を開いた。

「そういえばハルマサよ。聞くべきか迷っていたのだが、敢えて聞かないのも変だと思うので尋ねるのだがな」
「な、なに? 母さん」

静香は少し考えて口を開いた。

「……なんでタキシードなんだ?」
「今さら!?」


まぁそんなこんなで、ハルマサたちはまたダンジョンに挑むことになるのだ。





閑話「逆襲の夜川(笑)」:END
NEXT:第4部





<つづく>







<あとがき>
現代編がどんどん短くなりますな。
そして夜川退場。
明日は投稿できないかも。
3日くらい猶予がほしいのです。




>パロちゃんという強キャラまで仲間になってしまって強さがインフレを起こしまくっている昨今、レンちゃんは付いていけるんだろうか・・・
レンちゃんはこれから大活躍する予定なんだ。あくまで予定だけど。

>電流になったミラボDXは電流の体躯で吸収できなかったの?
ゴロゴロの実は実体非実体を使い分けられる設定です。でもうまくやればいけますね。

>パロちゃんソードはあれだな、ガッシュに出てきた変形する敵が元ネタかな?
よく分かりましたな! 正直私も元ネタ覚えていなくて、このコメを見て、ああそうだ……って思い出しました。感謝!

>スーパーロボット系と同じですね、変形の理不尽さwwwww
今回はさらに理不尽です。パロちゃんだからって許される範囲を超えてしまったかもしれない。

>インフレ漫画の法則「どんな攻撃受けても膝から上は一ミクロン足りとも破れない」と違ってしっかり破れるみたいだけど、カバーは完璧だねw
ssですから。破れるときは破れます。ちんこの描写はしませんけど。

>48って、桁違いにも程があるwww
ボスが倒せるなら逃げ切れるかもしれないな、程度のレベルでした。ヤマツカミは超鈍足ですからな。

>毎秒12億上がるっていうのは、光速で展開されている戦闘においてはめちゃくちゃ遅いんじゃないかと。
そうですね。一秒ごとにカッチカッチとあがってるわけじゃないんですけど、バトル中のスキルアップを当てにすることはもうできないでしょうね。

>二回目読んでたら気になるところが出てきた。
ええと、キングチャチャブーが居たところは、真空になっていたところよりはだいぶ離れているところです。なのでたぶん空気はあるんじゃないでしょうか。
回復のうんぬんはもっともなので直しておきますね。ありがとうございました。

>雷操作の熟練度、本文よりステータス説明の数字が低い件もよろしくー。
おっと。エクセルのほうがちゃんとなってたので比較的直すのが楽でよかった……。サンクスです。

>今回も楽しく読ませていただきました。また、毎日更新されるようで楽しみですww
ありがとうございます。しかし明日更新できるかは分からんのです。多分無理だと……

>ドリルは漢のロマンですね
かっこいいですよね

>アカウカムが出てたんでボスはミラだとは予想していたけど、まさかのキングギドラ化。
モンハン2Gのモンスター全部出そうとして横着した結果ですけどね。さすがに亜種は無理でしたが。

>そして最近カロンちゃんがまったく戦闘に登場しないのはなぜなのか気になります。
カロンちゃんは謹慎中です。でもしばらくしたら解除されるので。

>やはり神様から直接チート能力貰うよりこうやって修行してチート能力が使えるようになるほうが良いなぁ、と再確認
結局チートなんですけどね。まじめに強くなろうとしている人を小ばかにしているのではと悩むこともあります。

>作者さんの書き始めた理由の小説って、旧題手垢かな?
あれも好きですが、違います。
隠す意味もないので言いますと、「失われた青春を取り戻しに行くマダオの話し」というssです。あの話の中書きに「ダンジョンssが増えることを祈る」というようなことが書いてありまして。じゃあ書くか、と。まぁいろいろあったんですけど、直接的にはこれですね。なぜ消えたし。

>夜川しつこいなw
退場させてやったぜ! 余裕があれば酒屋でくだを巻くシーンも書きたい。酒屋の親父目線で。

>どうでも良いことですけど神金貨?は拾っているのだろうか?拾っている描写は最近見ないので気になりました
数えるのが面倒になって途中から数えてないですね。キングチャチャブーのところとか何枚出たんだろ。ハルマサたちもきっと考えずに袋に放り込んでます。







[20697] 161(第4部はここから)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/10 04:42

<161>


【執務室】


「ハルマサ一等兵、ただいま帰還しましたッ!」
「…………」

閻魔様は無言だった。
鼻で笑ってもくれなかった。
何言ってんだコイツみたいな目でちらりと見られただけだった。
ハルマサにM心がなければ涙を流して走り出していたかもしれない。

というか閻魔様の機嫌が直ってない。
スッパスッパと葉巻を吸い散らかし、判子をてきとうに押している。執務室が煙たくなっていた。

「ちょ、2号さん! どういうことですか!」

暇そうにしている2号さんに尋ねると、2号さんは肩をすくめた。

「いえね、何とかなるかと思ったけどあてが外れたッス。実は閻魔様って根に持つほうなんスよね」
「……なるほど。よく言えば一途ってことですかね」
「ちょっと無理があると思うッスけど、その言い換えには少し感動したッス」
「ハルマサフィルターにかかればこんなもんですよ」

2号さんと朗らかに話す体勢に入っていたハルマサの隣に、ハチエが転移してきた。
ハチエとハルマサは違う場所に居たので、若干のタイムラグが生じたらしい。
ツナギの色が変わっている以外は彼女の格好に変化はない。

「あ、ハチエさん。」

しかし、現れたハチエさんは一言も喋らない。
うつむいている。

「あの、ハチエさん?」

良く見るとはチエは肩で息をしていた。

「ハルマサ……ハァ……ハァ……」
「ど、どうしたのハチエさん。そんなハァハァ言っちゃって」

ハチエさんはうつむいたままポツリと言った。

「お……、」
「お?」
「お前の血をよこせぇえええええええええええええええええええええいッ!」

彼女は顔を上げると、血走った目を見開いて、飛び掛ってきた。異常に速かった。

(こ、怖ぁあああああああああああああああああああああああいッ!)

―――――――「加速」ッ!


ハルマサはギャッと地面を蹴ってハチエさんの後ろに回りこむ。加速の反動は痛すぎるが、彼女は明らかに正気ではない彼女を止めねば――――――
しかし、ハチエさんはピタリと止まると振り返りもせずに後ろに手を伸ばす。その手は加速中のハルマサを正確に捉えていた。

(――――――なにぃ!?)

―――――――バシィッ!

「加速」が問答無用で解除される。
彼女の手にガッチリと顔をつかまれたハルマサは驚愕に包まれた。
振り向いたハチエさんは笑っていた。ハァハァしながらよだれを垂らして嬉しそうに笑っていた。

「逃げたらあかんよハルマサ。ちょっと吸わせてもらうだけやん。…ハァハァ!」
(か、母さんがよだれ垂らしてハァハァ言ってる人は信用しちゃダメって言ってたッ!)
≪マスター! 「増血注入」の中毒症状です!≫
(ああッ!)

そういえば、ヤマツカミ戦でハチエが負った傷を治した後、ハルマサは気絶してしまったから「桃色解除薬」を吹きかけていなかった。

「な、ちょっとだけやで! いただきまーす!」
(ちょっとって言ってあんた全部吸うでしょォオオオオオオオオ!?)

ハチエがハルマサの首に顔を近づけてこようとするのをハルマサは必死に止める。しかし、力の差は歴然だった。

「ま、負けるかぁああああああああッ!」

―――――――「剛力術」ッ!

ずん、とハルマサの手が太くなり、3倍になった筋力がハチエさんの顔面をしっかりと受け止める。かと思いきや全然そんなことはなかった。
ハチエの筋力は、ハルマサの10倍はあるのだ。

グググググググ、とハチエさんは近づいてくる。

(こ、ここで死ぬのか……!?)
「なんか大変そうッスねぇ……これは桃色的な何かで?」
「2号さんがいたー!! そうです! その通りです!」
「そうッスか。えい。」

ぱよえーん!

2号さんの腕から謎の効果音(というか人の声)と共に、光が飛び出した。

「なんや、邪魔せんと……」

パタリ。

それはハチエさんを包みこみ、彼女の意識を失わせた。

「これぞ必殺、「ラリホー」ッス。」
(ラリホー強ぇ……!)

こんなの、敵に使えたら速攻で勝てるじゃない!

「さ、今の内にシュッとやってしまうッスよ!」
「そ、そうですね!」

こうしてハチエ騒動は幕を閉じた。




ハチエさんは中々目を覚まさなかった。
そして閻魔様は目の前の騒ぎにも眉一つ動かさなかった。
閻魔様とハチエさんが黙ってしまうと、横でヘラヘラしている2号さんしか話せる人が居ない。
というか口を開くのも憚られる状況である。
そんな重たい空気を促進させるような声で、閻魔様が喋りだした。

「ハルマサ」
「は、はい!」
「私は今機嫌が悪い」
(見たら分かります! でも言えない!)

閻魔様は心底不快そうに続けた。

「だが喜べ。忌々しいことに、次の階層の情報がもたらされた」
「(忌々しいって……閻魔様が喜んでくれないと、僕も喜べませんッ!)」
≪マスター! いいコト言っているのに声が小さいです! 張って張って!≫
「お前に言っておくから後でハチエにも伝えておけ」

サクラさんのアドバイスはありがたいけど、僕には無理だ。空気が重いもん。
閻魔様は葉巻を灰皿に押し付けて、言葉を続ける。

「第四層はポケットモンスターというゲームがテーマらしい。街から街へと移動するものだそうだ。……チッ」

なんで今舌打ち入ったんですか閻魔様。めっちゃビビるんですけど。

「以上だ。キサマラの健闘を祈る」

そう言って閻魔様は再び判子押しに戻った。
それにしても、閻魔様も持て余すような感情って凄いな。だけどもしかしたら、僕が力になれるチャンスなのかも知れない。

「あのッ!」
「……?」

疑問を浮かべる閻魔様にハルマサは宣言した。

「僕頑張ります! さっさと四層クリアして、そのお姉さんのプレイヤーに追いついてキャーンて言わせてやりますよ!」

閻魔様は面食らった顔をした後、少し笑ってくれた。

「ああ。期待しているぞ、ハルマサ」

もうその言葉だけで宇宙に飛び出せそうなハルマサだった。



ダンジョン入り口に送ってもらう前に、4号さんに一つ頼み事をされた。
第四層から、ずっと帰ってきていない人物に関してだ。

「きっとハチエみたいに困っていると思うのです。どうか力になってあげてください。彼女の名前は白根アオイです。目つきが鋭いですが、優しい子ですので。」
「はい、わかりました」
「それと……」

4号さんはいまだに眠ったままのハチエさんを横目で見つつ、声を落とした。

「ハチエのこともお願いしますね」
「僕に出来ることなら全力でやりますよ!」
「ふふっ頼もしいです」

4号さんはふんわりと笑う。
これが、口でツーン! とか言っていた人なのだから、話してみなければ人のことは分からないと痛感させられる。

何はともあれ、ダンジョンに出発である。









【ダンジョン入り口】





ダンジョン入り口には広い広い荒野が広がっている。
草原であったここを、ハルマサがライフドレインで見渡す限り死の荒野に変えてしまったのだ。
そこにハチエを背負ってハルマサは立っていた。

「ほら、ハチエさん、もう朝ですよ」
「ううう……二日酔いや……お水欲しい…」

彼女は昨日の夜、家族で酒盛りをしてからの記憶がないらしい。
どおりで髪の毛がぼさぼさなのだとハルマサは思った。
まぁ暴走した記憶もないようなのでハルマサ的にはグッドである。

ハチエが二日酔いから回復するまでに時間がかかりそうだからちょうどいい。
閻魔様の話を伝えておこう。


「ポケモンか……どうせまたありえへんほど強いんやろな」
「小さいのも多いからやりにくそうだね」
「可愛いやつが多いのもきついで」
「楽な階層だったらいいなぁ……」
「ありえへんやろけどな」

まぁ全ては行って見れば分かることである。
二人は頷くと、同時に立て札のキャシーへと指輪を叩き付けた。




<つづく>





[20697] 162
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/04 19:53


<162>



【第四層・挑戦一回目】




ヒュババババババババババッ!

ダンジョンは上空から落ちるのが習わしなのだろうか。
確かに大陸を俯瞰できるのはありがたいが、ここまで来る人たちは大概空を飛べるはずである。
いちいちこんな高いところから落とす意味が分からない。
ハルマサはそんな益体もないことを考えていた。

見下ろせば、第四層もまた、大きな大きな大陸であった。
しかもまた形が変だ。
第三層は錨のような形だったが、第四層は、大の字に寝転んだ人型である。
ハルマサは、その頭の額へと降りて行っているのだ。

太陽は人型が仰向けに寝転んでいるとするならば、大陸の右手の方角にある。水平線から頭を出したばかりに見えた。

髪や服を風に弄ばれながら落ちること1分ほど。
ようやく降りる場所の細部が見え出した。
降りる場所は都市であった。
中央に太い道路が走った城塞都市である。
この都市を大陸上の位置づけから額都市と呼ぼう。
額都市を貫く太い道路は、大陸の目の間を通って鼻筋へと抜けているようであった。
すなわち、大陸を縦に二分するかのような長い長い道路である。

額都市の城砦の外は荒野となっているがしばらくすると森に覆われている。
一口に森と言っても色々あるが、額都市を囲むのは魔境の類であろう。
トトロの樹サイズの樹木がそこら中に見受けられるのである。
額都市は掃除が行き届いていないのか犯罪都市と言う名が似合いそうな様相で、額都市にもそれを囲む森にも、ポケモンから連想される牧歌的な雰囲気は微塵もなかった。

「うわぁ……」

降り立つ前からテンションを下げつつハルマサは降りていく。
と、そこで気付いた。

ハチエさんが居なかった。

「ハチエさん!?」

背中に背負っていたハチエさんが居ない。
キャシーへは二人同時に指輪をかざした筈なのに!
え、落とした?
そんなはずはない。

く、焦ってはいけない! こんな時こそ冷静に他の人の意見に耳を傾けるんだ。そう、例えば最近声しか聞いていないカロンちゃんとかに――――そうだ! 「伝声」だッ!
ハチエさんに「伝声」だ!

「もしもしハチエさんッ! ハルマサです! 今何処!?」

(届いて……!)

「伝声」は離れた相手に声を届ける特技である。効果時間は相手と自分の精神力に左右される。
天元突破しているハルマサとハチエの精神力ならまさに昼夜問わず喋りたい放題。携帯電話要らずである。
発動して待つこと数瞬、ハチエの声が帰ってきた。

『おおお!? ……あ、伝声か! ハルマサやな!? ウチの声聞こえる!?』

通じたッ! これで安心だ!

「ハチエさん! 聞こえるよ!」
『お、おおー、不思議やなぁ……あ、感心しとる場合ちゃうな。ハルマサ今どこ? 姿消しとるん?』
「え、いや違うよ? ハチエさんこそ何処に居るの?」
『えーと……ウチ、今落ちとるんやけど……』
「僕も今落ちてるんだけど……」
『???』
「あれぇ?」

その時脳裏でサクラさんが提案してきた。

≪マスター。近くにハチエ様の反応はありません。大陸の何処に居るか聞いてみては?≫
「な、なるほど。ハチエさん、えっと大陸のどこらへん?」
『うーんと、どこやろ。大陸って人型してるやろ? 仰向けに寝転んどるとして、右脚の先っぽのへんや』

(なんだって!?)

ハルマサが落ちていっているのは人型の額である。別々な場所に転移してしまったらしい。
この大陸にはスタート地点が複数あるのか!?

ハチエのところまでは簡単に行ける距離ではない。第四層は第三層よりも広いのだ。
ソウルオブキャットを使って全力で飛んでも、半日以上かかるだろう。
空を悠々と飛ばせてくれるかさえ分からない。第二層のようにビームが飛んできたりするかもしれない。
これでは合流するのだって時間がかかる。

(4号さんに頼まれたって言うのに……ッ!)

――――――プツン。

その時、「伝声」がふっつりと途切れた。

「な、何が!?」

疑問にはサクラさんが答えてくれた。

≪地表から強烈なジャミングが発生しています。恐らくテレパシーの類は使用できません≫
「なんだって!?」

そんなのありかよ! 離れ離れにしといて、通信すら断つなんて!
ていうかそれってカロンちゃんにも連絡取れないじゃないか!?
ぬあ――――ッ!

―――――――――空中着地ッ!

ガァン、と空を蹴って高く飛び上がる。
ハチエさんにはジャミングのせいでもう通信は届かないかもしれない。
でも、カロンちゃんには届くはずだ。
これから連絡できないと言っておかないと、嫌われてしまう!

「カーロンちゃ―――――――――ん!」
【ぅぐぅ……眠いのじゃ………誰じゃ? じいか?】
「いえ、ジイではなくハルマサです! カロンちゃん、しばらく連絡できないけど嫌いにならないでねぇ――――――――――!」

もう限界だった。
地面へと引っ張る力が発生しており、ミシミシと体を軋ませている。
第三層でもあった現象だ。しかし、あの時より何倍も強い。

「話せなくても、僕たちの心はいつも一つッ! カロンちゃん大好きだ―――――――――ッ!」
【は、ハルマサか? 何が……】

――――――プツン。

「伝声」が切れる。

ふっ、とハルマサは笑った。
もはや、彼に怖いものなど何もなかった。
彼は言いたいことを全て言ったのだ。

(我が人生に…………一片の悔いなしッ!!!!!)

―――――――キュドォッ!

直後、ハルマサは街の石畳へと突き刺さった。






――――――ズン。

それと同じ頃、ハチエも地面へと降り立っていた。
足を置いた石がクモの巣状にひび割れる。
さすがにハルマサと同じように墜落したりはしなかったが、炎の羽で精一杯勢いを抑えたというのに着地した脚にかかる負担は相当のものである。
というか、立っているだけでもしんどい。
これは……。

≪ハチエさん、大丈夫ですか?≫

AIのカエデさんが声をかけてくる。
ハチエにつける敬称が何時の間にか様付けからさん付けへと変わっていたが、そっちのほうがフレンドリーでいいとハチエは思った。

「どうなっとるかわかるカエデさん? 体が重いんやけど……うぎぎ」

体全体が地面へとひきつけられている。腕を上げる動作でさえ半歩遅れるのだ。
加えて、お腹の中、すなわち内蔵への負担がきつかった。
激しく動いたらまた血を吐いてしまうだろう。

≪恐らく……重力が大きくなっているのだと思います。ハチエさんの体にかかる負荷から見ますと、数百倍や数千倍の規模ではないでしょう。少なく見積もって20万倍です≫

20万倍って言えば、体重100グラムのパロちゃんが、20トンになる倍率である。体重50キロの人ならば一万トン。
Z戦士が成すすべもなく潰れてしまいそうな重力である。
ハチエの体重はレベルアップによる筋密度骨密度増大などでとても口には出来ない重さになっているが、とにかく重いのだった。

(これは……ハルマサと合流するんも大変そうやな……)

先ほど「伝声」が唐突に途切れた時、微かにノイズが聞こえたのだ。恐らくジャミングだろうとカエデが言っていた。つまり、連絡をとる手段がなくなったのだ。
ハチエが顔をゆがめていると、どこからか聞き覚えのある声がする。

『しんどうそうだなハチエ。私は降りた方がいいか?』

見れば、右肩に身長6センチの小さな骸骨が居た。
ハルマサの所有する元人間今巨大骸骨、現在キーホールダーサイズの骸骨、通称パロちゃんである。

「なんでコッチにおるんやパロちゃん」
『それはだな』

骸骨は遠い目をして答えた。目は無いが。

『ハチエの方が良い匂いがすると思って引っ付いていたところ、こっちに釣られて転移してしまったようなんだ』
「へ、へぇ……ていうかなんでパロちゃん平気なん?」

この小さな骸骨は意外と柔らかいのだ。
確か『鳥の軟骨くらいだ!』と自分で言っていた。
体重が100グラムから20トンになってしまったら即座に潰れそうなものである。

『? 何がだ?』

しかし、パロちゃんは何も感じて居ないようだ。

(―――――ッ! まさか)

この階層はポケモンがテーマだと閻魔様が言っていたらしい。
ということは――――――

「何が何でも、ポケモンで戦わせようってコトなんか……?」

魔物への重力増加は免除されている可能性があるのだった。きっとポケモンも魔物だろうから。
その時、偶然だろうが、目の前にビックリ箱が出現する。
箱の蓋を勢い良く押し開いて登場した人形が叫んだ。

『ようこそ第四層へいらっしゃいマシタッ! これより、あなたに贈呈されるポケモンが決定シマスッ! お心の準備はよろしいでショウカッ!』

準備もクソも、唐突過ぎるやろ、とハチエは思った。






同じ頃、ハルマサもハチエと同じ重力増加に苦しんでいたが、彼の場合はもっと深刻だった。

―――――ミシミシミシ………ッ!

(し、死ぬゥ………)
≪マスター! 耐久力が物凄い勢いで、あ、すでに瀕死です!≫
(ま、まずい……! これは非常にまずい……!)

ハチエが苦しく感じる重力は、彼にとっては致死量であった。
何せ、ハルマサの耐久力や筋力はハチエの10分の一以下。
立つ事すらハルマサには無理であった。
というか自重で足の骨が逝った。超痛い。
ついでに言えば、落下の衝撃で耐久力が半端無く削られて、今にも死にそうだ。
「身体制御」の衝撃吸収は、ほとんど役に立たなかった。

(マズイマズイまずいよこれ! ここで死んだら、ステータスが下がってしまうし!)

ステータスが下がれば、この地で活動することはさらに困難になるだろう。
ハルマサが歯軋りしている周りでは、彼を遠巻きに見ている人々が居る。
この街の町人だろうか。彼らは重力を克服しているのか……!?

(いや、違う……! それだと彼らのレベルが低すぎる! きっと僕にだけ……プレイヤーにだけかかっているんだ!)

ハルマサが確信すると同時に頭上でボゥン、と音がする。

『ようこそ第四層へ! これからあなたに……と、その前に、あなたはこのフィールドで活動するのが難しいご様子デスネ! そんなあなたに耳よりな情報がございマス!』
(ビックリ箱か……! 情報って……? あああああ、イタイイタイ、心臓が痛い! 何でもいいから助けて!)
『取引の情報でございマス! あなたがお持ちの神金貨10000枚と引き換えに、あなたへの重力付加を解除して差し上げマショウ! ただし、この取引に応じたプレイヤーは、この階層に居るあいだは、一般人程度に身体能力魔力などを制限させていただきマス! どうデショウ、応じていただけますでショウカ!』
(一万……!? いや、仕方ない! ここはイエスだ!)

しかし、彼は重要なことに気付いた。
答えようとしても口が開かない。頷くことも出来ない。

「ぬぅううぐぐぐうううううう!」
『悩む気持ちも分かりマスガ、ここはどうかご英断ヲ!』
(悩んでるわけないだろぉおおおおおおおおお!?)

この時、ハルマサの脳みそがキラリと光る。

(そうだ! ここは「剛力術」でッ!)

「剛力術」スキルの効果は筋力3倍。
3倍となった筋力で、この重力で押し付けられている口を開けば良いのだ!
しかしそれを実行に移す前に、サクラさんが悲しそうな声音で言う。

≪マスター。耐久力が0になりました………≫

残念。現実は非情である。
直後ハルマサは閻魔様の元へ召された。




<つづく>


ハルマサ    ……Level down!
レベル: 30 → 29    Lvdown Bonus :-1,342,177,280
満腹度: 3,257,617,785 → 1,139,995,912
耐久力: 5,333,151,376 → 2,394,168,900
持久力: 3,301,318,004 → 1,174,956,088
魔力 : 90,694,079,418 → 53,609,193,919
筋力 : 3,821,472,819 → 1,485,083,047
敏捷 : 4,180,198,528 → 1,700,731,091  ……☆2,551,096,637
器用さ: 115,168,109,691 → 76,882,525,923
精神力: 3,053,668,954 → 1,025,818,484
経験値: 7,352,933,375 → 2,684,354,558   残り:2,684,354,560


スキル名
拳闘術Lv25 : 245,167,382 → 196,133,906
蹴脚術Lv11 : 22,985 → 18,388  ……Level down!
両手剣術Lv18: 1,678,995 → 1,343,196
槌術Lv18  : 2,876,331 → 2,301,065  ……Level down!
棒術Lv26  : 681,928,301 → 545,542,641  ……Level down!
盾術Lv11  : 23,819 → 19,055  ……Level down!
解体術Lv22 : 33,920,188 → 27,136,150
舞踏術Lv24 : 182,011,901 → 145,609,521  ……Level down!
身体制御Lv25: 228,932,656 → 183,146,125
暗殺術Lv12 : 32,794 → 26,236
消息術Lv24 : 120,973,227 → 96,778,582
突撃術Lv25 : 220,408,015 → 176,326,412
撹乱術Lv25 : 402,137,890 → 321,710,312  ……Level down!
空中着地Lv25: 242,601,820 → 194,081,456
撤退術Lv26 : 472,309,291 → 377,847,433
金剛術Lv28 : 1,872,693,004 → 1,498,154,403
防御術Lv26 : 591,820,123 → 473,456,098
剛力術Lv22 : 31,602,983 → 25,282,386
神降ろしLv22: 40,728,921 → 32,583,137
炎操作Lv23 : 57,829,001 → 46,263,201
水操作Lv31 : 24,389,037,281 → 19,511,229,825  ……Level down!
雷操作Lv32 : 44,233,415,792 → 35,386,732,634  ……Level down!
風操作Lv26 : 503,381,270 → 402,705,016
土操作Lv23 : 102,819,099 → 82,255,279  ……Level down!
魔力放出Lv32: 48,291,032,843 → 38,632,826,274  ……Level down!
魔力圧縮Lv32: 39,728,391,033 → 31,782,712,826
戦術思考Lv25: 333,392,812 → 266,714,250
回避眼Lv25 : 348,192,825 → 278,554,260  ……Level down!
観察眼Lv29 : 3,829,182,773 → 3,063,346,218
鷹の目Lv26 : 689,273,922 → 551,419,138  ……Level down!
聞き耳Lv12 : 40,018 → 32,014
的中術Lv24 : 107,083,912 → 85,667,130
空間把握Lv32: 29,380,192,382 → 23,504,153,906
心眼Lv27  : 1,298,372,809 → 1,038,698,247
調理術Lv14 : 82 → 83,142  ……Level up!
水泳術Lv23 : 71,283,628 → 57,026,902
概念食いLv22: 38,902,774 → 31,122,219
PイーターLv32: 37,290,918,273 → 29,832,734,618
狙撃術Lv23 : 53,448,019 → 42,758,415
運搬術Lv25 : 228,289,080 → 182,631,264







[20697] 163
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/04 19:53

<163>



「で、帰ってきたと」
「てへへ!」

帰ってきてしまったことは悲しいが、閻魔様の機嫌が通常に戻っていたので全然平気である。
むしろ収支的にはプラスである。
潰されるのはかなり痛かったけど、そんなのへいちゃらだい!

「いやぁ、今度の階層も中々厳しそうです!」
「なんでお前は嬉しそうなんだ?」
「それは! 閻魔様が……好きだからッ!」
「そ、そうか。いや、繋がりが分からんが。」
「まぁ時々は冷たくされるのもありですけど」
「私にはお前の言いたい事がさっぱり分からない」

最近告白ばっかりしているような気がするが、ハルマサの気持ちは本物である。純粋たる気持ちで言っているだけに性質が悪かった。
閻魔様と楽しく話していると、執務室のドアが開いて4号さんが入ってきた。

「閻魔様、1号さんがそろそろ動きたいと―――――あら」

ハルマサと目があうと近寄ってくる。

「ハルマサさん、お早いお戻りで」
「て、てへへ!」

彼女は何の気なしに言ったんだろうが、ハルマサはちょっと心に傷を負った。ハルマサがM心を発揮するのは閻魔様に対してだけなのである。
そんなことはお構いナシに、4号さんがぽんと両手を合わせる。

「丁度良かったです。先ほど渡し忘れていた、2階層へ行って戻ってこれるテレポーターです。使い捨てですけど」

言葉と共に、黒い指輪を渡される。

「なんですかそれ?」
「忘れたんですか!?」

信じられない、という顔をされても分からないです。
そう思っているとサクラさんが教えてくれた。

≪あの、マスター。第二層から持ち帰ったピアスのことでは?≫

ああッ! そういえばあったような気がする!
金ちゃんを捕まえに行けるぜ! と嬉しくなった記憶があるよ。
でも金ちゃんは「甘い息」使って無理矢理仲良くなった仲だし、すでに「甘い息」の効果時間が切れている彼女をわざわざ捕まえに行く必要性を感じない。
放って置いてもよくない?

「ははぁ…思い出しましたよ。どうやって使うんですか?」
「指輪に手を置いて「カイカイ」と言えば、2層への門が開きます。60分で閉じてしまうので、用事があるならお早めに」
「みじかッ! 意外と短くないですか4号さん!」

大した事ができない時間だ。
金ちゃんを捕まえることくらいなら出来たろうが……すでにその気は無くなったし。

「60分が限界だったんです。……だいたいなんですか。ハチエのことを頼んだのに、それを放って置いて悠々と第二層を旅するつもりだったんですか? ハチエさんを助けていただく報酬として直す約束をしていなければ、有耶無耶にしましたのに!」

4号さんからプレッシャーが溢れ出してきた。
ここで、「ハチエさんはしばらく会えないところに行っちゃいまして。てへへ」とか言ったらブチギレれられそうである。
ハチエのことはハルマサだって心配だが、ハルマサよりも強かな印象がある彼女なら大概のことは大丈夫なのではないだろうか。
最後に話した感じでも、もう落ち込んでは居なかったし。
かといって、ハルマサも平気ではない。ハチエとは一緒に旅をしたいのだ。

「……そうですね。指輪はありがたくいただきますけど、今は2層に行ってもすること無いんで、直ぐに4層に戻ります!」
「ふん、それでいいのです」

4号さんが偉そうに言う。ハルマサは最初に会った時の彼女の印象を思い出した。
あの「ツーン!」は、聞いている時は腹が立つがしばらくするとまた聞きたくなる魔性の言葉である。
まぁそれはさて置き、ハルマサは指輪を受け取ると、閻魔様に向かって言った。

「では、行ってきます閻魔様!」
「ああ、気をつけてな」

閻魔様は微笑んでくれた。その笑顔の分だけ、ハルマサの心は軽くなり、体には力が漲るのだ。

―――――バビューン!

閻魔様の指先から出た光を受けて、ハルマサはダンジョンへと飛んで行った。







【ダンジョン入り口】

閻魔様に微笑んでもらえたハルマサはテンションマックスである。
今なら大暴れできるヨカーン!
ハルマサ旋風を巻き起こしてやるッ!

「行くぜッ! 全ては閻魔様の名のもとにッ! タァ―――――――!」
≪ちょ、マスター!?≫

ハルマサはわき目も振らずにキャシーに指輪を叩きつけた。








【第四層・挑戦2回目】





「……………―――――――――ァァァぁぁぁぁあああああああああああああああ――――――――!」

ぺちゃ。





【執務室】



「む、ハルマサか。いったい何があった。少々早過ぎないか?」
「…………。」

は、早死にの記録更新しちゃった……。

まさか地面に墜落して死ぬなんて。魔力噴射も、ソウルオブキャットも全くダメだった。
今度の階層は本当にシャレにならない。
第四層から本番というのは本当かもしれない。

「……大丈夫か?」

落ち込むハルマサに、閻魔様が心配な表情を向けてくる。
大丈夫かそうじゃないかと聞かれれば、大丈夫ではないハルマサである。
しかし、彼には男としての意地もあった。
ハルマサはしゃんと背筋を伸ばして言った。

「もちろん大丈夫ですとも! ちょっと僕が強すぎて面白くないから、力を落としておこうかなってッ!」
「………そうか。だが、余り無理はするなよハルマサ。お前には期待しているのだからな」

閻魔様の笑みは慈母のようだった。

(み、見透かされている! その上で激励してくださる!)

ハルマサの心にガッツが満ち溢れる。今なら神様だって殴れるぜ!

「送ってください閻魔様! 今度こそ、朗報を持ち帰りますッ!」
「ああ。気をつけて……行って来い」

バビューン!






【ダンジョン入り口】


ひゅおお、と荒野に風が吹いている。
まるでこれから第四層へ突撃するハルマサの心境そのものである。

「さて、短い時間で三回もここに訪れてしまったわけですが……サクラさん、何かいい案ありませんか?」
≪……もう無闇に突撃しないと誓っていただけますか?≫

ごめんなさい。
そう言えばサクラさんは止めてくれようとしていたっけ。

「うん。僕にはサクラさんが居ないとダメだってよく分かったよ。いつもありがとうね」
≪そ…ッ! そんなことはないですけど……………お世辞でも嬉しいです…≫
「お世辞じゃないけど……まぁこれからもよろしくねサクラさん」
「ハヒィ!」

ハヒィて。サクラさんが噛むの久しぶりに聞いたな。

「あれ、ていうかパロちゃん居なくない?」

何か使えるものがないかと袋を漁ってみると、パロちゃんのボールが空である。
どこかに落としてしまったのだろうか。
まぁ彼女は僕よりも頑丈そうだからそんなに心配ではないけど。

≪最後に見たのは第4層に入る前で、ハチエ様にくっ付いていました。恐らくハチエ様にくっ付いて転移したのでは?≫
「一緒に転移できるの? 前、カロンちゃん置いて行っちゃった時があったけど。」
≪しがみ付いていたのでいけたのではないでしょうか……確証はありませんが。≫
「なるほど……」

まぁそれはさて置き、サクラさんにご教授願おう。

「さぁサクラさん! 案を授けてください!」
≪は、はいッ! でも、その、申し訳ありませんが、私が持つ策も確実ではありません。マスターが死んでしまう可能性は大いにあります。≫
「まぁ僕なんにも思いつかないし、君に賭けるよ」
≪では、重力に潰されない落下中にビックリ箱を呼んでみるのはどうでしょう。出てくれば、まだこの階層で戦うことが出来ます。≫

そうサクラさんは言うのだった。



<つづく>

2回連続で減らすと結構減りますね。同じレベル28でも、これではもうマルフォイ君には勝てないでしょう。

ハルマサ   ……Level down!
レベル: 29 → 28       Lvdown Bonus:-671,088,640
満腹度: 1,139,995,912 → 141,773,398
耐久力: 2,394,168,900 → 820,107,001
持久力: 1,174,956,088 → 169,741,538
魔力 : 53,609,193,919 → 28,133,158,675
筋力 : 1,485,083,047 → 333,045,422
敏捷 : 1,700,731,091 → 448,496,267   ……☆672,744,401
器用さ: 76,882,525,923 → 49,707,021,824
精神力: 1,025,818,484 → 89,614,627
経験値: 2,684,354,558 → 1,342,177,278   残り:1,342,177,280


スキル名
拳闘術Lv24  : 196,133,906 → 156,907,124   ……Level down!
蹴脚術Lv11  : 18,388 → 14,710
両手剣術Lv17 : 1,343,196 → 1,074,557   ……Level down!
槌術Lv18   : 2,301,065 → 1,840,852
棒術Lv26   : 545,542,641 → 436,434,113
盾術Lv11   : 19,055 → 15,244
解体術Lv22  : 27,136,150 → 21,708,920
舞踏術Lv24  : 145,609,521 → 116,487,617
身体制御Lv24 : 183,146,125 → 146,516,900   ……Level down!
暗殺術Lv12  : 26,236 → 20,988
消息術Lv23  : 96,778,582 → 77,422,865   ……Level down!
突撃術Lv24  : 176,326,412 → 141,061,130
撹乱術Lv25  : 321,710,312 → 257,368,250
空中着地Lv24 : 194,081,456 → 155,265,165
撤退術Lv25  : 377,847,433 → 302,277,946   ……Level down!
金剛術Lv27  : 1,498,154,403 → 1,198,523,523   ……Level down!
防御術Lv26  : 473,456,098 → 378,764,879
剛力術Lv21  : 25,282,386 → 20,225,909  ……Level down!
神降ろしLv22 : 32,583,137 → 26,066,509
炎操作Lv22  : 46,263,201 → 37,010,561  ……Level down!
水操作Lv31  : 19,511,229,825 → 15,608,983,860
雷操作Lv32  : 35,386,732,634 →28,309,386,107
風操作Lv25  : 402,705,016 → 322,164,013  ……Level down!
土操作Lv23  : 82,255,279 → 65,804,223
魔力放出Lv32 : 38,632,826,274 → 30,906,261,020
魔力圧縮Lv32 : 31,782,712,826 →25,426,170,261
戦術思考Lv25 : 266,714,250 → 213,371,400
回避眼Lv25  : 278,554,260 → 222,843,408
観察眼Lv28  : 3,063,346,218 → 2,450,676,975  ……Level down!
鷹の目Lv26  : 551,419,138 → 441,135,310
的中術Lv23  : 85,667,130 →68,533,704  ……Level down!
空間把握Lv31 : 23,504,153,906 → 18,803,323,124  ……Level down!
心眼Lv27   : 1,038,698,247 → 830,958,598
調理術Lv13  : 83,142 → 66,514  ……Level down!
水泳術Lv23  : 57,026,902 → 45,621,522
概念食いLv22 : 31,122,219 → 24,897,775
PイーターLv32 : 29,832,734,618 → 23,866,187,695
狙撃術Lv22  : 42,758,415 → 34,206,732  ……Level down!
運搬術Lv24  : 182,631,264 → 146,105,011  ……Level down!


ちなみに数えたら神金貨は11316枚ありました。






[20697] 164(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/05 21:22

<164>



サクラさんの案は、能力を落としてもいいから生き残る、というものであった。
第四層ともなれば敵はべらぼうに強くなり、一般人程度の能力になったハルマサは死にまくってしまうのではないかとハルマサは思ったが、サクラさんは言った。

≪恐らく、ポケモンを操るのです。寧ろそうさせるためにマスターの身体能力を落としに来ているのでしょう。同時にポケモンを捕まえる必要が出てきますが……それはまず、第四層で情報を得てから考えましょう。≫
「なるほど!」

ということでキャシーという名の立て札に指輪を叩きつけ、ハルマサはダンジョンにダイブしたのだった。






【第四層・挑戦3回目】

今回もまた頭頂都市へ落ちるようである。
落下しつつハルマサは叫ぶ。

「ビックリ箱さん! 出て来い!」

すると、ボゥンと煙が出て、あっさりとビックリ箱が出てきた。

(あっさりだなぁ……)
≪よかった……≫
『お呼びデショウカ! おお、あなたは先ほど虫けらのように潰れたはずのプレイヤーデスネ! 生きていたのデスカ!』

ひどく驚いた様子である。
生きてたらダメなのだろうか。

「さっき話していた取引、僕は受けるよ。ただし神金貨は5000枚しか払わない!」

値切ってみた。

『―――――ふざけるナッ!』

ブチギレられた。

『10000枚からビタ一文まからんワッ! 足らなかったら死ネ!』
「そう、仕方ないね。払うよ」

ハルマサは従順に頷いた。ちょっと怖かったのは内緒である。
ビックリ箱は歪んでいた表情を元に戻すと、口調も元通りに喋りだした。

『ハイッ! お手持ちの袋の中に神金貨があるのを確認しマシタ! では、重力付与を解除しマス!』

ふわ、とハルマサの落ちるスピードが遅くなる。
ステータスを見てみれば、ハルマサのステータスはオール10だ。
一般人並とはこういうことか、とハルマサは思った。
スキルレベルが変わっていないところが救いといえば救いである。

『それでは、本題に入りマショウ……とその前に地面が見えてまいりマシタ。サービスとして減速してあげマショウ! 感謝してクダサイ!』
「あ、ありがとうございます……」

釈然としないものを感じつつ、ハルマサは一応礼を言う。
ぎゅぎゅぎゅ、と勢いが弱まり、ハルマサは町へと降り立った。

降り立ったのは、またもや額都市を二分する大通りの上だった。
見渡せば、街は石造りの家々で成り立っている。
全体的に不衛生で、空気が淀んでいた。

「あ、ポケモ……ン?」

遠くに走っているポケモンが居た。

額には牛のような角。体も牛のようだが、パワーが満ち溢れていた。
レベルは7らしい。今のハルマサよりは格段に強い。第一層のドスファンゴと同じ強さである。
何処からどう見てもケンタロスである。実物を見ると少し感動すらする。
しかし、間違いなくポケモンのはずだ。

―――――――家畜が逃げたぞッ!
―――――――私の子どもを返して――――ッ!

その後ろを突っ込みどころ満載のセリフを上げつつ、複数の町人が武器を持って追いかけていたり、

―――――ブゴォ! ブルフゥ!

ケンタロスがぐったりとした子どもを咥えていたりしなければ、ケンタロスがポケモンであることには疑いは無かった。

「あれ? おかしいな。ポケモンが子どもを攫っているように見えるよ? 夢を見ているのかな。何回も死んだから幻覚かな?」
≪マスター、しっかり! あの光景は間違いなく現実です!≫

混乱するハルマサの前に、ビックリ箱がふよふよと降りてきた。

『おやおや! 治安は良くないようデスネ(笑)! それはさて置き、あなたに贈呈されるポケモンが決定いたしマシタ!』

箱の中からぽん、とモンスターボールらしき球体が飛び出してくる。
それを受け取ったハルマサは、取りあえず中心のボタンを押して召喚してみた。

バビューンと光が出て、ポケモンが召喚される。

「……ッ!?」

飛び出すと同時に蹲ったその姿は……幽霊? いや、テルテルボウズか?
大きさは40センチほど。白い布で体を覆っており、緑色のヘルメットのような髪型とその間から前頭部と後頭部に生えた二本の半楕円形の平べったいトサカを持つ。いや、トサカではなく角か?
顔は緑の髪に隠れて口しか見えない。
ハルマサの記憶が確かならラルトスとかいうポケモンである。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【ラルトスLv0】:きもちポケモン。エスパータイプ。
赤いツノであたたかな気持ちをキャッチすると全身が仄かに暖かくなる。
耐久力:3 持久力:3 魔力:6 筋力:3 敏捷:3 器用さ:3 精神力:7≫

(うわぁ、弱ぁ…)

弱くなったハルマサよりもさらに弱い。うずくまる気持ちも良く分かる。
ハルマサがこれからの旅を思って表情を暗くしていると、殊更明るい声でビックリ箱が叫んだ。

『それでは、第四層におけるルールを説明しマス! この階層では、人型の大陸の末端にある5つの都市から出発していただき、胸の中心にある「心臓都市」を目指していただきマス! ただし、旅の途中には関門となる都市が存在しマス! あなたの場合であれば、「鼻都市」「顎都市」「喉都市」が関門都市に当たりマス! 各関門都市では、プレイヤーに対してクエストが一つ発生し、それを解決するまで都市からある程度までしか離れる事が出来マセン! 都市を無視して通り過ぎても構いマセンが、その場合、心臓都市に居るボスが大幅に強化されマス! また、どの都市から出発しても、途中の関門は3つデス!』

(そんなたくさん言われても覚えられないんだけど……)

ハルマサの頭は二つ以上のことを一度に聞かされるとトコロテンのように最初のひとつが出て行ってしまうのだ。
まぁサクラさんが覚えてくれるだろうと、期待して、ハルマサは耳を傾ける(そして聞く端から忘れて行く)。

『関門の数は同じなのに、末端から心臓都市への距離が随分違うことに賢明なプレイヤーの方々ならお気づきになられるデショウ! あなたの場合ならば、スタート地点は額都市! ラッキーかとお思いならば、それは違いマス! なぜならば、距離が近いプレイヤーに課せられるクエストは解決が相応に困難になるからデス! この都市で、あなたに課せられたクエストはこれデス!』

ビックリ箱の中から紙が飛び出てきたので、取りあえず受け取る。
ビックリ箱はまだ喋るようだ。

『続いて、ポケモンのレベルアップシステムについてご説明いたしマス!』

(まだ続くのか……眠い……)

『ポケモンとは、神金貨を食べさせてレベルアップを行う生物デス! レベルアップするごとに能力は高まり、使える技も増えるデショウ! お肉も美味しくナリマス! 現在あなたのポケモンの強さはレベル0ですが、レベル1へ上げるために必要な神金貨はたったの1枚! しかし、レベルが一つ上がるごとに必要神金貨は倍になりマス! お金持ちのプレイヤーなら、換金所がございマスので、ご利用クダサイ! また、弱らせたポケモンをボールを用いて捕獲することも可能デス! モンスターボールはショップでお一つ200神金貨で販売しておりマスので、是非ご利用クダサイ!』

(ハチエさん元気かなぁ……)

『この階層にいる大型の動物は、人とポケモンだけデス! しかし、人間はポケモンに大きく身体能力が劣るため、都市に閉じこもっている状況デス! つまり、この階層は殆どの地域にポケモンが居マス!そしてこれは重要なことですが、あなた方外部から訪れた人間、すなわちプレイヤーはポケモンにダメージを与えることは出来マセン! クエストのクリアや、都市間の移動、ボス戦においても、ポケモンの強さが重要な要素となってくることデショウ! それでは説明は以上デス! ご質問はございマスカ!? あっても答えマセン! それでは、ダンジョン探索をお楽しみクダサイ!』

ペラペラと一方的に喋り終えて、ビックリ箱は消え去った。
うずくまってふるふると震えているラルトスをを見つつ、ハルマサは頬をかいた。
ビックリ箱の話は全く頭に残らなかったのだ。

「ええと……まずはどうすれば良いのかなサクラさん。」
≪マ、マスター……。………いえ、だからこそ私がいるのですね! 私ファイッ!≫

サクラさんは何故か自分に気合を入れると、ハルマサに教えてくれた。

≪まずは、そのポケモンに神金貨を与えることから始めましょう!≫
「わかった!」

ハルマサはうずくまっているラルトスを抱き上げた。ふんわりと柔らかく、力を居れたら壊れてしまいそうだ。
顔を上げてみれば、暴れていたケンタロスは人間を蹴散らしてどこかに走り去ったようだった。



<つづく>

ビックリ箱の長ったらしい説明を箇条書きにしてみよう!
・この階層にはスタート地点が5つある
・この階層のボスは心臓都市にいる
・心臓都市へ行くには都市(鼻・顎・喉)を三つ通らなければならない。通らなかった場合、ボスが超強くなる
・各都市でプレイヤーはクエストを一つクリアせねばならない
・ポケモンにはプレイヤーの攻撃は効かない。
・ポケモンは神金貨を食って強くなる種族である
・ポケモンのレベルが上がるごとに必要神金貨は倍になる
・モンスターボールがあればポケモンを捕まえられる。

こんなところですかね。


どうでもいいですが、重力付与の解除は、プレイヤーの所有神金貨の9割以上をパクッていく鬼畜仕様です。


金貨:11316 → 1316



<あとがき>


最初はシンオウ地方でも旅しようかと思ったけど資料集めるのも面倒だし、勝手に作った大陸で好き勝手やらせてもらうことにしました。
それにしても、長ったらしい説明は書く方も読む方も疲れるので最悪ですね。


あしたもこうしんだ!


>つーか僅か一話で第三形態まで変身とかないわぁ・・・小物過ぎる。
夜川不人気すぎてすごいですね。最後はやっぱり自爆したほうがよかったかも知れない。まぁハルマサは無傷ですけど。

>人間をやめた夜川、しかし奴らは常識をやめていた・・・
確かにw人間の技術をひねったくらいでは届かない領域にいたんですね

>そのうち合体して巨大化したりして。
夜川ロボ量産しなきゃ

>さようなら夜川君・・・君の事は完全に忘れていたから、感想を書き終わったらまた忘れると思うよ
ひど過ぎるww

>もう夜川とかだれ?新キャラ?
あなたが最強にひどかったw金メダルをあげます。

>タケミちゃん神様疑惑を確かめさせてくれないのは作者の陰謀か。
忘れてたんだぜ。どっかで入れようっと。また忘れるかも知れんけど

>ただ量が量だったんで飛ばしたところがないか確認のためにも一スレ目から読み直してきますね。
か、体を壊さないように……一時間に一回くらいは休憩をね!

>お母さんとハチエさんの相乗効果がすさまじいw
予想以上にスラスラと書けました。こういうことがあるから書くのはやめられないと思いますね。

>息子さん、お母さんを僕に下さい!!(切実
息子「僕を倒せてから言ってもらおうか」

>全十層だからー…… ハチエさんのバストサイズどこまで行くん
そのうちケツの方にシフトするかも。

>現実での、最初のイベントが夜川か…いらねぇw
笹さんも地味にひどいw
お疲れさまです。

>もしドラクエで、スライムさえレベル30オーバーとかだったらどうしようw
ドラクエかぁ……FFより馴染みがあるから書くならそっちですね。
まだ先のことはぜんぜん決まってないから……

>タキシードのまま次の階層いくのか。
防御力の数字がとたんに大きい意味を持ちますね。耐久力に+6ですから。

>読者も、多分作者も出来る事(技?)が多くなりすぎて何使えばいいとか把握が大変ですが
ホントにね。いっそ大量にスキルを消そうかな。
概念とか特性を丸ごとって言うのも捨てがたい。

>てか、骨密度が酷いSSだなもうwww
二重の意味でそうですね。葉知恵さんの骨とか密度高まりすぎてそのうちブラックホールが発生しそうだ。

>たしかもうとっくにバイキルトが使えたはず・・・
ヘイストとかありましたね。どこかもう思い出せませんけど。
マジで一度使えなかったのをまとめたほうがいいかもしれないですね。
口だけですけど。






[20697] 165
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/05 21:23
ポケモンの鳴き声は表現し切れないので、アニメ版と同じくフリーダムにいきます。


<165>



【第四層 右足都市】

ハチエが居る場所は人型大陸の右足の先に位置する都市、その名も「右足都市」。
安直なネーミングだが、分かりやすくていいとハチエは思った。
彼女はシンプルなものが好きなのだ。

右足都市は比較的キレイで近代的な都市である。
人もたくさん歩いていたが、空から降ってきたハチエの周りには誰もいない。
まぁ普通はビビるだろう。
周りの視線を無視して、ハチエはさっきビックリ箱から貰ったモンスターボールを早速開いてみる。
頭が異常にでかくて2頭身くらいしかないペンギンもどきが出てきた。
ポケットモンスター「ダイヤモンド」・「パール」・「プラチナ」でもらえる最初のポケモンの一匹である。

「……ポッチャマかいな。……しかも弱ッ!」
「ポ? ――――ポッチャマッ!」
「いや、「ポッチャマ!」やないで……元気なのはええんやけどね……」

小さな羽根を広げて元気に叫んだポケモンにハチエは呟く。
ハチエはハルマサのように正確な強さを測ることは出来ないが、大体の強さなら魔力の反応で察知できる。
とりあえずボールから召喚してみたポッチャマがクソ弱いことは分かるのだ。

「ホンマどうするんコレ……」

重力で碌に動けないハチエとクソ弱いポッチャマ。
幸いハチエの神金貨は1000枚くらいある。
レベルは結構上げる事が出来るので、そんな虚弱なポケモンではなくなるだろう。
だが、その程度だ。
果たしてこの先やっていけるのか。というかハチエがこの先大丈夫なのか。

『私を食べようとするとは! 躾がなっていないようだな! そこに直れッ!』
「ポッチャマ―――ッ!」

まぁ、ポッチャマと死闘を繰り広げているパロちゃん(携帯用形態)が楽しそうなので良いか、とハチエは思った。

「まずはクエストをクリアせんとあかんな」

ぺラリとビックリ箱から貰った紙を開くと、ハチエに課せられたクエストが書いてある。
各都市で課せられるクエストは降り立った都市にも存在するのだ。

【右足都市:ポケモントレーナーのコバルトを戦闘不能にせよ。難易度:★】

(まずは、コイツが何処におるか、どの程度の強さなんかの情報が必要やな……)

ハチエはポッチャマを掴み上げると、ズシズシと重い足音をさせながら街の雑踏へと踏み込んでいく。
トレーナーのコバルトとやらが、ポッチャマで倒せる程度の敵であるならば問題ないのだが。


雑踏に消えていくハチエの体。その後ろをひっそりと付いていく影があることに、ハチエは気付かなかった。






【第四層 額都市】

ハルマサの額都市におけるクエストは、中々に厳しいものであった。

【額都市:ポケモンを二段階進化させる。難易度:★★★】

この階層のゴールである「心臓都市」への道のりが短い代わりとは言え、かなりキツイ。
例えばハルマサのラルトスは、ハルマサは良く覚えていないが、2段階目へ進化できるのはレベル30を下らないはずだ。
サクラさんにざっと計算してもらったところ、1レベルに付き必要神金貨が倍になるここのシステムでは、10億枚の神金貨がいる。
そんなたくさんの神金貨を持ったらハルマサの腕が千切れてしまうだろう。
何せ彼は今一般人なのだ。

まぁクエストのクリア方法は追々考えるとして、今は少しでもこの小さなラルトスを強くしたいとハルマサは考えていた。

「ラルトス、君ってメスだったんだね。エルレイドにはなれないのか」

格好よくて好きなんだけどな。

「ラルゥ……?」

ラルトスがハルマサを見上げてくる。髪に隠れて目は見えない。
ラルトスは地面に座って、ハルマサが積み上げた神金貨を相手に格闘中だった。
ポリポリと必死に神金貨を食べているが、そろそろ限界が近いようだ。
ケフッと可愛らしくゲップをしたりしている。
だが、あと2枚、すなわち合計63枚でレベル6なのだ。
まぁ正直40センチしかない小さな体で61枚もよく食べたとは思うが、あとたったの二枚である。
ハルマサは神金貨を二枚だけ残して袋にしまう。そしてその二枚の神金貨を差し出した。

「もうちょっとだラルトス! ノルマはあと二枚さ! さぁおたべ!」
「ラルゥ……」

食べたいけどもう無理です。という風な雰囲気をかもし出すラルトス。
小さな手でお腹をさすっている。
だが、詰め込めばいけるとハルマサはふんだ。

「お・た・べ!」
「ルゥ……!」

ホントに無理です、お腹がポンポンなんです、といった感じか。
しかし、いける! キミならいける!
思わず食べてしまうような雰囲気を作ってあげるから!
ハルマサは決心すると神金貨をラルトスに持たせて、自分は立ち上がり、パンパンと顔の横で手を打って拍子を取り始めた。
軽快な足踏みと共にコールを開始する。

「ラルトスの、ちょっといいトコ見てみたいッ!」
「ラルッ!?」

ここからは軽快な手拍子を加えるぜ! ハイッ!

「お・た・べ! お・た・べ!」

――――――パン!パン!

≪あの……マスター、非常に問いづらいのですが、その…何をしているのですか?≫
「え、思わずノリで食べたくなるような愉快なコールさ! ここからスパートがかかるんだ! 連続で同じ言葉を口にするから、噛んでしまわないか心配だよ」

器用さが高かったら楽勝なんだけど、仕方ないね!

≪そ、そうですか……頑張ってください≫
「うん! どんどんいくよ―――! さぁ、お・た……んッ!?」

お・た・べコールを再開しようとすると、ハルマサの「心眼」が危険をキャッチした。
咄嗟にラルトスを抱きかかえて飛びのこう―――――――として脚がもつれたので、転がった。
まぁ結果的に危険を避けられたのでグッドだ。

―――――――ズギャアッ!

ハルマサが転がった直後に石畳を擦り上げつつ、丸いものが通過していく。
あれは―――――

≪対象の情報を取得しました。
【サンドLv8】:ねずみポケモン。地面タイプ。
砂の色の表皮を外側にして、アルマジロのように丸まり、敵をやり過ごす。
耐久力:1531 持久力:1271 魔力:768 筋力:1792 敏捷:768 器用さ:1268 精神力:768≫

(いやいやいや、やり過ごすどころか殺しに来てますけど!? ていうかレベル高ぁ!?)

今のハルマサなら即死できるレベルである。

「ち、外した! 偶然こけるとは、運のいい奴ね!」

ハルマサがうろたえていると、何時の間にか近くに居た、とてもスカートの短い制服の女子高生が悔しそうに呟いた。

「な! いったいなんだって言うんだ!」
「ワタシはスカート団の戦闘員オリーブッ! あんたの神金貨をいただくわ!」
「な、何ィ! スカート団だと!? 一体どんな団体なんだ!?」

ハルマサはある単語に激しく反応した。男の子なら仕方のないことであった。
ハルマサの感情をその角で感じ取ったのか、ラルトスが仄かに暖かくなっていた。
だが、敵のオリーブさんとやらは、じん、と感じ入ったような表情をした。たぶん勘違いしたであろうことは、その後のセリフを聞けば分かった。

「スカート団に入って3年…こんなに素晴らしい反応をしてくれたのはあなたが初めてよ……ありがとう! だけど、あなたは敵だわッ! 容赦はしないわよ!」
「く、後生だ! スカート団が一体どういう団体か教えてください!」

そう、ハルマサは知りたくて仕方なかったのだ。
なんで彼女のスカートはあんなに短いのか。
きっと団則に記入されているに違いない。「膝上10センチ以下のものはスカートは認めない」とか。

「そこまで言うなら教えてあげる! スカート団は、スカートを穿く女性のみで構成された、世界征服を狙う団体よ!」

ばーん、とポーズをとって彼女は言い切った。

「じゃ、じゃあ、キミの素敵なスカートは団体の制服なのか!?」
「ふ、お世辞を言って助かるつもり!? ワタシのスカートなんて……! ええい、さっさとあんたのポケモンを寄越しなさい! 下っ端の戦闘員ではこの程度のスカートしか穿かせてもらえないけど、偉くなるほど穿くスカートの丈を短く出来るんだからッ!」
「な、なんて素晴らしい団体だ……!」

きっと幹部レベルともなれば常にちらつくレベルだろう。
何がちらつくかは言わずもがなだが、ハルマサは今までの恨みも忘れて神様ありがとうと叫びそうだった。

「キミたちの理念には感動した! 僕も入れてくれないか!」
「あんた男でしょう!?」
「実は女です!」
≪マ、マスター……≫

は、やばい! 必死になりすぎてサクラさんがドン引きしている!
手に持つラルトスは暖かくなりすぎて熱いくらいになっていたが。感受性が豊かだと大変だね。
ハルマサはエヘンと咳払いをして、言った。

「まぁ冗談は良いとして、君にコイツはあげられないよ!」
「いや、私が欲しいのは神金貨……」
「大事な仲間だからねッ!」
「ラル……」

抱えていたラルトスがこちらを見上げてきた。
髪の間に見えるつぶらな瞳にウインクしてみる。

「安心して、キミは僕が守るから!」
「……ッ!」

ラルトスは顔を伏せてしまった。ウインクが気持ち悪かったのかも知れない。

「ふ、ふん! そんなカスみたいな強さのポケモンを大事にするなんてね! いいわ、そいつごと倒してあげるッ! いけぇサンドッ「ひっかく」よ!」

オリーブさんがサンドに指示をする。
ハルマサでは敵わない。レベルが5になっているラルトスでも敵わない。
ここで死んだか!? と諦めつつあったハルマサの脳裏にサクラさんの声が響いた。

≪マスター。ビックリ箱は言いました。プレイヤーではポケモンにダメージを与えられないと…。ならば、プレイヤーではなく魔物ならば問題ないはずです! マスター! シェンガオレンをッ!≫

熱い! 何時になくサクラさんが燃えている!
ハルマサはサクラさんの熱に動かされたように叫んだ!

「いでよッ! 超巨大キングラー、レンちゃんッ!」



<つづく>



PイーターLv32 : 23,866,187,695 → 25,372,893,021






[20697] 166
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/05 21:23

<166>



「ギィイイイイイイイイイイッ!」

ドゴァ! と大通りの左右の家屋を押し崩しつつ、召喚されたレンちゃんが立ち上がる。
ギギ、ゴゴ、と間接が重い音を上げた。
その40メートルもある巨体は明らかに規格外だ。見上げれば、太陽の影となり表情は伺えない。
でも、レンちゃんは重力付与をされていないようだ。動くのがつらそうな雰囲気はない。
何も考えずに出してしまったけど良かった良かった。

「ギイッ」

レンちゃんがスッと脚をハルマサの横に差し出した。
スッというか、ゴフゥアッ! という感じで風が巻き起こったが、ハルマサは踏ん張った。「身体制御」スキルがなければ危なかった。

爪でひっかこうと飛び掛ってきていたサンドがレンちゃんの差し出した壁のような脚にぶつかって、ゴン、と跳ね返る。

「ピギュアッ!?」

意外と可愛い声を出してサンドが転げていく。

「ギィ……」

当たったところが痒かったのか、レンちゃんはハサミで脚を掻いた。

「……は?」

オリーブさんは驚いたようだった。
鯉のように口を開け閉めしている。
まぁこんなポケモンはいないだろうし。

「な、なによそれ!」

レンちゃんを指差す彼女の指先は震えていた。
ハルマサはもったいぶって笑った。

「ふ……見て分からない?」
「く……! 分からないから聞いてるの!」

悔しそうに尋ねてくる。
予想以上に気分がいい。自慢の仲間を紹介できるこの感じ! 堪んねぇ!
ハルマサは自身満々に言った。

「どこからどう見てもキングラーじゃないか!」
「どこからどう見たらッ!?」
「これだからキングラーも見たことの無い田舎者は……。」
「キ、キングラーくらい私も知ってるわよ! 馬鹿にしないで!」
「だったら良く見なよ……左のハサミが大きいでしょ?」
「た、確かに……! って危ない! 問題はそこではないわ! 惑わされてはダメよオリーブ! 問題の本質を見極めるの!」

オリーブは自分に言い聞かせている。
というか問題の本質も何も、サイズが大き過ぎることに突っ込むべきだとハルマサは思った。
ハルマサは腕をバッと横に振る。

「まぁ、ここまでくればもはや問答は無用!」
「な、なんですって!?」
「いけぇレンちゃん! 手加減してあげてね!」
「や、やめてぇ―――――!」
「ギィ!」

―――――ドシュッ!――ドキャアッ!

「ピギぃいいいいいいッ!」
「さ、サンドぉ――――!」

ハルマサが指差した方に、弾丸のような速度の水流が放出される。
サンドは吹っ飛ばされて民家へと突っ込み、豚の断末魔みたいな声を出した。
レンちゃん。やりすぎだよ。
ラルトスがレンちゃんをキラキラした瞳で見ていたが、ハルマサは見なかったことにした。

「そ、そんな……降りてきたばかりのプレイヤーが、こんな強力なポケモンを……!?」

オリーブさんは口をパクパクとさせている。

(降りてきたばかり……? プレイヤー……? この子はプレイヤーの存在を知っているんだね!?)

色々と知っていそうな情報源をゲット! とハルマサは思った。






【第四層 右足都市】


白根アオイは閻魔のプレイヤーの中でいち早く第四層に到達した人物である。
その姿は切れるナイフを無理やり人型にしたような鋭利過ぎる印象を与え、目には烈火が宿り、唇は笑みを知らぬように引き結ばれている。
彼女のシステムは、しかし、彼女に最もそぐわないものだった。

その名も「淑女システム」。
淑女らしい行動をとれば溜まる淑女ポイントで、色々な技が出せるという単純かつ強力なシステムであった。

4号さんが「もっと女らしくなるように」と思いを込めて作ったシステムらしいが、そんなことは知ったことではないし、自分の生き方を毛頭変えるつもりのないアオイには、そのような思いは邪魔なだけであった。
だが、まぁ強力であることは間違いない。
食事を音をたてずに食べたりするだけで、必殺技が放てるようになるのだ。

ハルマサたちと同じレベルアップシステムと共に、搭載されたそのシステムは、彼女の快進撃を助けもしたが、この階層では全く役に立っていなかった。
このシステムを搭載した状態でコミュニケーションをとることは、彼女にとって非常に辛いことだったのだ。
ただでさえ誤解されやすいのに、語尾まで気をつけなければならないとは。
彼女の性格で語尾に「ですわ」「ございますわ」をつけるのは死にも匹敵するのだ。しかし、つけなければ淑女ポイントが凄い勢いで減ってしまう。
その彼女をあざ笑うかのように、この都市で課せられたクエストは「ポケモントレーナーのみで三人パーティを作る」こと。

彼女は悩んだ。
そして、待つことにした。
彼女と同じ匂いのする――――――あの乳お化けのところからやってきたであろう―――――人物を。
何故なら、彼女たちのシステムには互いに仲間を見分ける機能があり、近づいても攻撃されないだろうからだ。
絶対仲間になってくれるとは思わないが、彼女を見るだけで攻撃してくることはないだろう。
何とか近づいて、このクエストの紙を見てもらうのだ。仲間が一人でも出来れば、助け合ってクエストをクリアしていける。
正直アオイは、一人で戦うのはもう疲れているのだった。

そんな彼女はその凶悪な風貌ゆえ、誤解されやすい人なのだ。

その険悪に釣りあがった瞳が映すのは、先を歩いていく女性の姿である。
その女性は、肩に骸骨を乗せ、右手でポケモンの頭をわしづかみにしながら歩いている。
動きがぎこちないのは、恐らく数十万倍に膨れ上がった重力のせいだろう。
アオイも最初は辛かったが、次第に慣れた。
彼女もきっと慣れるだろう。
体が、勝手に見つけ出すのだ。この高重力下で動きやすい魔力の運用を。
そして、次に筋力が増大していくだろう。それはレベルアップに拠らない強化だ。
だが、それらがあるのも、彼女がこの重力下で活動できるからこそだ。

アオイは仲間になるであろう女性が、頼もしい存在であることを確信し、ニヤリと笑う。
それはとてもお子様には見せられない笑顔であった。

彼女とハチエの冒険が交錯するまであと数分――――――



<つづく>






[20697] 167
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/05 21:24


<167>

【第四層 額都市】


空は青く晴れ渡っているのに、この額都市はなんでこうも殺伐としているのだろう、とハルマサは思った。
それは恐らく街の汚さや、時折聞こえる誰かの怒鳴り声のせいだろうが、現在ハルマサと向き合って座っているオリーブさんの雰囲気のせいかもしれなかった。
二人が居る喫茶店は、内装が陰鬱で、コーヒーもまずい。コーヒー代金の銀貨一枚というのもぼったくりの匂いがプンプンする。
椅子もがたついてお尻の収まりが悪かった。
彼女はコーヒーカップをカチリとソーサーに置くと、剣呑な視線でハルマサを睨みすえる。

「ワタシから組織の情報を得ようとしても無駄よ」
「ああ、スカート団。いや、それはもういいです」

もう十分妄想で楽しんだし。
僕がパンチラを見たいのは二人だけだし。
彼女はもはや逃げ切れないと思ったのかハルマサの言うとおりに動いてくれている。
ハルマサは彼女から、この街の情報を得ようと考えていた。
分からない事が多すぎるのだ。

食事は何処で得れば良いのか。
宿などはあるのか。
そしてハルマサのクエスト、【ポケモンを2段階進化させる】を達成するために必要な神金貨をどうやって集めれば良いのか。
そして戦闘の最中にレンちゃんが壊した家はそのままにして来たけどあれで本当に良かったのか。

ラルトスは先ほどの戦闘で気疲れしたのか、ハルマサの膝の上で今は眠ってしまっている。
この殺伐とした街の中で、一番の癒しである。
窓の外をポケモンをつれた人相の悪い人が歩いている。
鋲つきの革ジャンとかなんで着るんだろう。
やたらとガンを飛ばしていたが、窓の中のハルマサと目が合うと急にヘコヘコしてどっか行った。
さっきから妙にかしこまられている気がする。ここの店員には全くかしこまられないのに。
それどころか、「おまちどぅー」と落とすようにカップを置いてくれたお陰でコーヒーがタキシードに跳ねた。まぁ気にしないけど、二度目は無いぞというか二度と来ない。

窓の外を見ながら、ラルトスの頭を撫でつつ、オリーブへの質問を整理する。
が、纏まらなかったので数秒で諦めた。
ハルマサの頭では的確に情報を纏めることは難しいのだ。
という訳で。
ハルマサは意志を込めて、オリーブを見た。

「オリーブさん」
「何よ」

ハルマサの表情に全く圧されていないオリーブが問い返してくる。
彼女の瞳はくだらないことなら承知しないわよ、と言っていた。
だが、ハルマサはくだらないことを言うつもりはない。

この先、ハチエさんといち早く合流するために。
そして白根アオイさんを見つけ出すために。
ハルマサは思っていた最良の手段を口にした。

「しばらく雇われてくれない?」
「…………ハァ?」

まぁそうなるよね、とハルマサは思う。
怪訝な表情を向けてくる少女に、ハルマサは言った。

「一日神金貨10枚でどうだ!」
「乗ったッ!」
「よっしゃあ!」
「え、あ、待って! ウソよ! いや、ウソではないけど、理由を聞かせて! 怪しすぎるわ!」

勢いで押し切ることも出来そうだったが、これからしばらくパートナーとなるのだ。
ちゃんと話したほうがいいだろう。
ハルマサはオリーブへと向き直った。

こうしてみると、彼女は背中に流れる長髪を薄く茶色に染めており、薄く化粧もしており、目はパッチリしており、ちょっとキレイだけど全然目立たないような女子高生だった。
「観察眼」によれば16歳らしい。年下の女性はこのダンジョンで初めてではないだろうか。

ハルマサはこれらの情報を取得し、オリーブを見る。

「その前に確認したいんだけど……学校は?」
「あー。こないだバリヤードの大群が攻めてきた時に破壊されちゃったわ。だから、ワタシは今暇なの。空を眺めてたら如何にも弱そうな人が来たからついつい一番乗りしちゃったわ」

この街は意外と危険なようだ。
だが、ハルマサはバリヤードよりも、一番乗りという単語が気になった。

「……もしかして他にもポケモントレーナーが待機していたの?」
「そうよ、プレイヤーはカモだからね。特にあなたみたいに重力で苦しんでいない人はごり押しで倒せるってもっぱらの評判よ? プレイヤーとバトルしたの、ワタシは今回が初めてだったけど、あなたは特別なのかしら。それとも私が弱かったのかしら」

どっちもかな、とハルマサは思ったが、ここは黙るのが正解だと思って口をつぐんだ。

「だけど、あなたがありえないほど大きなポケモンを出したでしょう? あれで野次馬と一緒にトレーナーは皆逃げたんじゃないかしら」
「ふぅん。まぁレンちゃんは強いから、ありうるかもしれないね」
「ねぇあのニセキングラーってどれくらい強いの? レベルは?」

ずい、と彼女はテーブルに身を乗り出してくる。
何か香水をつけているのだろう。柑橘系の匂いがする。
ハルマサは閻魔様のことを思い出した。あの人からも柑橘系の匂いがするのである。

「135かな……」
「ウソぉ!?」
「あ、ウソウソ。それはおっぱいが大きい方のレベルです。」
「もう、訳分かんない事言ってないで教えなさいよ。気になるじゃない」
「28だったような気がする」
「にじゅぅ……はち……」

オリーブはふらり、と後ろによろめき、どすんと椅子に腰掛けた。

「こんな……田舎の街にいていいレベルじゃないわ……この街の一番強い人でも20くらいだもの……」

なにやら大層強いらしい。流石レンちゃんだ。

「まぁ、レンちゃんは置いておこうよ。何か確認したいんじゃなかったの?」
「あ、そうだった」

オリーブは背もたれに預けていた体を起こした。

「なんでワタシを雇おうとするの? 言ってはなんだけど、ワタシのポケモンは決して強くないし、スカート団の助力を期待しているんならやめた方がいいわよ? 情報力も組織力も殆ど無いもの」

スカート団の内情が凄く気になるけどここは我慢である。

「まぁ正直誰でもいいんだ」
「……そうよね」
「そう、信頼できれば誰でもね」
「お、落としといて上げるの止めなさいよ! もう! ワタシなんか信頼して、裏切られても知らないんだから!」

顔を真っ赤にして言ってくる。

「そうなった時はそれでいいや。とにかく、早く心臓都市に行きたいんだ。」
「……どうして? あそこまでの道はとても危険よ?」
「僕はプレイヤーだから、そこを目指すっていうのもあるけど……僕に期待をかけてくれる女の人が居るんだ。」
「そうなの……」
「それに、連絡をしたい女の子もいるし」
「そ、そう。……二股?」
「さらに、ハチエさんにも会いたいし」
「三人目!?」
「そして見つけ出さないといけない女性も居るんだ。」
「また女なの!? 浮気すぎる!」
「愛しているのは一人目と二人目だけだッ!」
「一人に絞れよッ!」
「あ、三人目もだ」
「増えた!」

キレのいいツッコミを炸裂させたオリーブは、息を荒らげていたが、やがてため息を吐いた。

「……分かったわ。あなたは馬鹿だけど、悪い人ではなさそうだし。ワタシはこの都市の中だけしか動けないけど、手伝ってあげるわ」

なんで初対面の女性にも馬鹿な事がばれているのだろう。
不思議で仕方ないが、事がうまく運んだのでよしとしよう。

「じゃあまず……お腹が減ったからご飯かな」
「あ、それなら美味しいところ教えてあげるから奢ってちょうだい!」
「いいけど……貨幣価値を教えてくれたらね」


彼女が言ったとおり、連れて行かれた定食屋はなかなかのものだった。
オリーブお勧めの特盛りB定食を頼むと、ラルトスが風呂には入れそうなほどデカイかつ丼定食が来て、彼女は笑っていた。
そしてハルマサが余裕で全部平らげると顔を青くしていた。胸焼けが起こったらしい。
しかし、それでも代金は二人併せて銅貨8枚。
やっぱりさっきの喫茶店はぼったくりだった。
コーヒー一杯で銀貨一枚はない、とハルマサでも分かる。
それとも、なに特別な材料を入れているのだろうか。それで不味くなっているのだったら世話はないが。

貨幣価値だが、彼女の話を総合すると、銅貨一枚で300円くらい。
銅貨10枚で銀貨となって、銀貨10枚で金貨になる。金貨10枚で神金貨らしい。
銅貨の下の単位もあるが、重いしかさばるしで余り使われないらしい。だいたいお釣りはいりませんで済ましてしまうらしい。
ということは神金貨一枚、30万円。
すなわち、一日神金貨10枚は払い過ぎである。そりゃあ彼女も乗るわ。
というかポケモンのレベルが上がりにく過ぎる。
よくオリーブはレベル8まで上げたものだ。

そして、神金貨もって降りてくるプレイヤーがカモになる理由もわかった。
弱いくせに大金持ちなのだ。
まさにネギカモである。

「これは……ラルトスの進化は少し先になるね」
「いや、ていうかかなり先じゃない? ラルトスって……確か進化はレベル20よ?」

早速ハルマサが上げた今日の分をサンドに食わせているオリーブが言う。

「その、クエストだっけ? それをクリアするんなら、虫ポケモンじゃなければ難しいんじゃない?」
「やっぱそうだよね」

実はハルマサもそう思っていた。
虫ポケモンの進化が早いのは世界の常識(多分)である。
虫ポケモンの内、二段階進化させるのに必要なレベルが10のものがいるので、そいつが狙い目だ。
幸い、神金貨はまだ、一千二百枚以上残っている。
レベルを10まで上げるのならば1023枚あるため、稼がなくても可能である。

「よっし、いざ森へ……!」
「いえ、森は危ないから、その辺のトレーナーから奪ったら?」
「え? いや、そんなロケット団みたいな手法は取れないよ………もしかして、ココでは普通のことなの?」
「あ、そうか。知るはず無かったわね。モンスターボール、高すぎるでしょ? 金貨200枚なんてふざけてると思わない? 新しいモンスターを捕まえることも出来ないわ。だから普通、トレーナーの間では、モンスターボールやポケモンを賭けて戦うのよ。時には神金貨も賭けるけど、皆さっさと自分のポケモンに食べさせちゃうから殆ど無いわ。ワタシも前負けちゃってモンスターボールはないの。ワタシに残っているのはこの子だけよ」

そう言ってサンドにほお擦りしている。

「え、じゃあサンド下さい」
「ええ!? イヤよ! あなた鬼!?」
「じゃあいいや。別にいらないし」
「からかってるの!?」
「そうじゃないけど。」

そうするのがマナーかと。

「ていうかモンスターボールがないと誰のポケモンか分からないから奪い放題じゃない?」
「ボールを奪われたら一緒だし、奪われるのがイヤな人は役所で登録してるよ。面倒だから殆どの人が利用してないけどね」
「ふーん」

どちらにせよ、ハルマサは人から奪うのはイヤだった。
という訳で、彼はこの治安の悪い街よりもさらに状況が悪い街の外へと出ることを決心したのだった。


<つづく>






[20697] 168
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/05 21:39

<168>


【第四層 右足都市】



アオイは目の前の光景に焦っていた。
彼女が追いかけていた女性が、長身の男に絡まれているのである。

(あいつは……!)

長身をぴっちりとした高級なスーツで覆うその姿は好青年に見えなくも無いが、その本性は知れ渡っている。
原則として、半殺しが基本のポケモンバトルにおいて、平気でポケモンを殺すような攻撃を連発し、さらにはトレーナーすら傷つける奴だ。
しかも厄介なことにそういう奴に限って強い。確かレベル22のポケモンを持っているはずだ。さらに手持ちも多く、二人や三人でも敵いはしない。
警官隊にも賄賂を欠かさず、もはやこの都市の独裁者であるかのように振舞っている男。
今度の標的は、素人丸出しの彼女に決まってしまったようだ。

奴の名は―――――コバルト、と言う。

アオイの淑女イヤーが二人の会話を雑踏の中から拾い上げる。

「お嬢さん、僕とバトルしていただけませんか?」
「……ん? アンタ誰や?」
「僕ですか? 新米トレーナーのコービィと申します。あなたもお見受けしたところあまり慣れた様子ではないようです。どうですか、新人同士。」
「ふーん……別にエエで」

(馬鹿ッ! 止めろッ!)

アオイは顔を歪めつつ走った。
コバルトは平気で彼女を殺しかねない。
それに対して、彼女は重力のせいで青息吐息ではないか。顔も青いし、脂汗も流れている。そんな状態で倒せる奴ではないのだ。
やっと見つけた仲間だ!
殺させるか―――――!

アオイは迷わず淑女ポイントを消費し、技を発動する。

――――――――「淑女ダッシュ」!

それはまるで水面をすべる木の葉のように。
彼女の体はスルスルと雑踏をすり抜けていく。
埃すら舞うことの無い、湖面のように静かな高速移動術、それが「淑女ダッシュ」である。
しかし、今は音速も出せていない。重力が本当に忌々しい。
手には取り出したモンスターボール。いつでも彼女のモンスターを盾として召喚できる。
だが、アオイの頑張りは、結果的には無意味に終わった。

「それでは、始めましょうか」

ニコリと笑いつつモンスターボールを取り出す男に、女の方もニコリと笑いつつ言ったのだ。

「別にええけど、善人面してウソ吐く奴はウチめっちゃ嫌いやねん。バトルすんのはあんたがホンマのこと言ってからや」

次の瞬間女性の圧力がとんでもなく大きくなった。
アオイは驚きで思わず足を止めたが、それ以上に驚いたのはコバルトの方だろう。
羊かと思っていたらライオンだったのだ。

「あんた、何が目的やねん」

ズズズ、と形容し難い圧力をかもし出す女性に、コバルトが直接的な手段に出た。

「く……! いけ! ドンカラス――――――」
「ドンカラスちゃうわぁ!」

パチーン!

直接的な手段に出ようとしたが、取り出したモンスターボールは女性の手に弾かれて弾丸のように飛び、通りに面した服飾店のショーウインドウを粉々にした。

「……は?」
「男やったら自分の腕で勝負せい!」

そちらを向いてアホ面を晒していたコバルトの頭に女性がチョップを落とす。

―――――メゴシッ!

次の瞬間、コバルトは地面に頭から突き刺さっていた。

「あ、あかん! 手加減間違えてもうた! 生きてとるかなぁ? もしもしー?」

そして周りの人々から上がる歓声。コバルトには皆イヤな思いをしていたのだ。
戸惑う彼女の様子を見て、アオイは笑っていた。

「……ははッ」

アオイは嬉しくなった。
やはり、この仲間は頼もしい。







ハチエは自分が砕いたショーウインドのガラスと自分が叩き伏せた男を交互に見る。

「うわぁ、どないしょ……」

男からは返事は無いが、生きてはいるようだ。気を失っているだけだ。
どうしようかと思っていると、制服らしき地味な衣装に身を包んだ女の人が話しかけてきた。

「あの、救急車呼んでおきました」
「あ、ここの店員さん? ありがとぅございます。あと、これ弁償しますんで。手持ちで足りるか分からんけど、働いて払います」
「あ、いえ、そこまでしていただかなくても。よくポケモンバトルで壊れるんで、保険に入ってますし大丈夫ですよ」
「いやいや、ちゃんと払うで。ウチ神金貨1000枚くらいしかないから足りるか知らんけど」
「いっせんまい……」

店員さんはフラッとよろめいて倒れようとする。
それを後ろから支える女性が居た。

「あ、すいません。あまりの大金についつい……ヒッ!」
「…………」

店員さんは支えられていた女性の方を向いて硬直する。
ハチエもなんとなくその理由は分かった。
黒いチャイナ服を来た背の高い女性が、鋼のような印象を放つ目を三日月形に歪めていたのだ。
口も同じく三日月型につりあがっている。彼女の短髪が覇気か何かでざわざわと揺れているように見える。
その手につかまれた店員がとって食われそうだった。

「だ、誰やねん! 店員さんを放さんかい!」

(こいつ、強いで……!)

今殴り飛ばしたヒョロ夫なんか目ではない。
魔力の反応がとても濃いのだ。
第三層のボス並だ。

だが、その女性はぺい、と店員さんを捨てると、ハチエに歩み寄ってきた。
その女性が近づいてくると、160程度しかないハチエは見上げるようにしなければならなかった。

(180はあるやないかこの人……)

第三層のボスにもビビら無かったハチエがその威容の前に気圧されていた。
その女性は、すっと距離を詰めてきた。

(く、まずい―――!)

だが、ハチエが逃げる前に、女は動きを止め、一枚の紙をハチエに差し出してきた。


【右足都市:ポケモントレーナのみで3人パーティを作ること。難易度:★】


「………ん? これクエストの紙やん。あんたプレイヤーなん?」

コクリ、と頷く女性。
ハチエの脳裏でAIのカエデさんが言う。

≪ハチエさん。今気付きましたが、この方、白根アオイ様です。ほら、第四層で止まっているっていう≫
「えええ!? 白くも無いし青くも無いで! 真っ黒やん!」

主に雰囲気が真っ黒だ。地獄の使者かと思った。
ハチエのセリフを聞いたのだろう、目の前のアオイさん?が暗い表情をする。
だがその表情は、殺人マシーンのように無表情だった。

「あ、ゴメン、悪気はなかってん。ウチはハチエです。えっとアオイさん? よろしくやな」

手を差し出すと、向こうは少しあわてて握り返してくれた。
なんだか、ETと友好をもった少年の気持ちが少し分かるような気がする。
そして、アオイがシクシクと泣き出しているのを見て、ちょっと怖いけど実は普通の人間かもしれない、と印象を改めたハチエだった。




服飾店に男の治療費とショーウインドの弁償に神金貨100枚ほどを渡して店員に泡を吹かせてから、ハチエとアオイは喫茶店に入った。
相手を知るにはまず会話だが、何故か口を聞こうとしない彼女のために筆談をしようと思い立ったのだ。
ハチエがそう言うと、アオイはまるで卵を縦に立てる方法を思いついたかのように瞳を輝かせ、ハチエを大層怯えさせた。

そして現在。何故かパロちゃんがアオイに懐いている。

『ううむ。凄まじい覇気だ……! この髪もワイルドだな……!』

わしゃわしゃとアオイの体を這い回っているが、表情は読めないアオイもどこか嬉しそうなので、ハチエはそのままにしておいた。

アオイとの筆談は順調に進んだ。
神金貨100枚は渡しすぎかもしれないとちゃんと分かった。
この階層における常識を教えてもらったハチエは、ダージリンティーで口を湿らせてから、アオイのクエスト用紙を見た。

「問題はあと一人誰を仲間にするかっちゅうことやね」

アオイも頷いている。
ハチエのクエストは何故かクリアしてしまっていたので、彼女のクエストを満たせば直ぐにでも出発したかった。

アオイのレベルは32。ハチエはかなり劣っているが、装備をすれば寧ろ勝るし、パロちゃんもいる。前衛はもう十分だ。
えり好みをするなら、後方支援が出来る人が欲しかった。
今回のことで分かったが、ポケモン勝負と言えど、それを操るのは人間だ。
人間が弱くてはモンスターを出す前に死亡である。それではお話にならないので、ある程度自衛できる後方支援担当が欲しい。
アオイがサラサラと紙にペンを走らせる。

≪後方支援担当が欲しい。魔物使いであれば最高だ。≫
「そうやねぇ、まぁそうそう都合よくおらへんと思うけど……とか言っとると見つかったりするんかな」
「ふふっ」

(おお、笑ったッ! この人笑うんかいッ!)

ハチエがかなり失礼なことに驚愕を覚えていると、喫茶店の扉が開いた。
カランカランと扉に取り付けてある鈴が鳴る。
何の気なしにそちらを見たハチエはダージリンティーを吹き出して、パロちゃんを水圧で吹き飛ばした。

『な、なんだ!? ハチエ、さすがの私もこうまでされ……ッ!? こ、この魔力は……!!』
「アオイさん、居ったで。最後の一人。マジで来たわ」
「……!」

扉を押し開けて入ってきた、黒いドレスを上品に着こなしているその人物は、ハチエたちのほうを見て、

「あら、ごきげんよう」

悪魔のように笑った。








【第四層 額都市】

どうやら、一日でポケモンが食べられる神金貨の枚数はレベルが低いうちはそれほど多くないらしい。
レベルがゼロだったラルトスに50枚以上食べさせたハルマサは鬼畜だと、オリーブさんに怒られた。

「というかこの袋がまた重いんだよ。力が落ちちゃったから、中の神金貨がズシッと来る」
「銀行あるよ?」
「それだッ!」

筋肉疲労によってプルプルしていた体に活を入れ、ハルマサは銀行に向かった。



一番良い銀行につれてきてもらったら、その銀行は激しくセレブな仕様だった。
入って良いのか躊躇われる豪華な門を潜ると、貧乏人が踏んだら脚が弾け飛びそうな高貴な印象を放つ赤い絨毯が受付まで伸びている。
タキシードがギリギリでハルマサをこの場に調和させていた。本当にギリギリだが。

「えー。ご新規のお客様ですね。当銀行は万全のセキュリティを持つアーカイブス銀行でございます。額都市支部とは言え、万全のセキュリティを維持せねば沽券に関わるのです。そのような訳で、毎月神金貨2枚分の預かり料をいただきますがよろしいですか?」
「高ぁ!?」
「まぁそんなに長いこと居ないし。構わないです」
「いいの!?」

私こんなトコ入るの初めて~と言いつつ付いてきたオリーブさんが激しく叫んでいる。
銀行内は静かだから目だって仕方ない。

「ご理解いただき、ありがとうございます。当方が預かりますのは、神金貨50枚からです。」

払えるかしら?という考えが透けて見える笑顔で受付嬢は言ってくる。

「じゃあ一千枚で。」
「一千………は、はい。承ります! あと、少々お待ちください。支店長をお呼びしますので」
「いや、時間かかりそうだから結構です。偉い人好きじゃないし。面倒なんで他の銀行行って良いですか?」
「そ、そう言わず! 分かりました! 私の責任で預からせていただきます! ひーん。」
「じゃあ、あなたのことを覚えておきますね。ええと、名前は……名札から手をどけてくれません?」
「や、止めてください! 見ないで!」
「………」
「え、えへ。それよりこちらに暗証番号と母音を……」

結局1200枚預けてから、ハルマサたちは銀行を出た。





身軽になったハルマサは大通りを歩いていた。
街の外へ行く道は一つしかない。その出口である巨大な門に向かっているのだった。
ハルマサの横で心配そうに、オリーブが尋ねてくる。

「ねぇ、本当に行くの? 死んじゃうよ! 街の外はやばいっていうのに、さらにやばい森に行くなんて、正気じゃないって!」
「うーん、正気じゃないかもね。確かに」

最近頭のネジが一本二本飛んでいる気がするハルマサである。

「まぁでも、多分帰ってくるよ」
「や、約束だよ!? ワタシだって……あんたに期待してるんだから!」
「ふふ、ありがとうオリーブさん」
「絶対帰ってこないと許さないからね!?」
「りょうかい」

まぁ死んでも生き返るだろうし……いや、死んだ時一体僕はどうなる? 能力が下がっている状態からさらに下がるのか?
デスペナルティがいつも通りだとすると、全部マイナスになってしまう。
それって死に続けるんじゃないか!?

ハルマサはにわかに怖くなってきた。

そのハルマサの前。
外界と都市を隔てる門は、まるで地獄の門のようにそびえ立っているのだった。



<つづく>



【ラルトスLv5】:きもちポケモン。エスパータイプ。
赤いツノであたたかな気持ちをキャッチすると全身が仄かに暖かくなる。
耐久力:96 持久力:96 魔力:192 筋力:96 敏捷:96 器用さ:96 精神力:224

覚えている技:なきごえ

すでにラルトスは殴るだけでハルマサが死ぬレベル。
ちなみにレンちゃんは。

【レンちゃんLv28】:やどかりポケモン。水タイプ。
普段は青い甲殻だが、ハルマサが舐めると赤くなる。
耐久力:36億 持久力:4億 魔力:16億 筋力:7億 敏捷:4億 器用さ:4億 精神力:24億

そしてハルマサ。

【ハルマサLv28】:にんげん。ニュータイプ。
普段はとてつもない馬鹿だが、戦闘中は良く頭が回る。
状態異常:能力制限
耐久力:16 持久力:10 魔力:10 筋力:10 敏捷:15 器用さ:10 精神力:10

装備のお陰で、耐久力と敏捷が少し高いです。


<あとがき>

マリー少女の加入ですが……昨日の敵は今日の友達って、ポケモンのエンディングで言ってた!
え、古いって? ポケモンアニメは初期しか見てないのでそんなこと知りません。
コバルト君は出てきて即退場。やられ役なんてこんなもんさ。



>あんなに上がった熟練度やステータスが・・・見てて読者も悲しくなるんですが。
強いのと戦えばすぐにもとどおりさ!
でも、悲しくさせてごめんなさい。ボス戦しなかったと思えばそうでもないんですけどね。

>パロちゃんポケモン扱いだけど進化の石とか喰えそうだね。
食えそうだなぁ。肉体を得てしまうのかなぁ。

>即効で二死wwww
三死はさすがにひどいかと思ってやめておいたんだ。

>やっぱり戻って金ちゃん捕まえに行くべきだったんじゃ……
そうだね。とてもそう思います。しかし、本当に金ちゃんが必要なのはハチエたちのほうなんだ。理由はまぁ追々明かしていきますけど。

>ポケモン同士の戦闘の余波でハルマサ死んじゃうじゃ…?
死にますね。わりとあっさりと。

>ところでパロちゃんもレンちゃんもこっちで普通に使える(というか戦わせてもいい)のかな?
戦わせないと先に進めない仕様にします。

>また、ポケモンのLvが神金貨によってなされるということはつまりかなりの稼ぎ場所なのではないでしょうか。
なるほど。しかし稼ぎすぎてもハルマサ君にはもつことはできなくなるっていう……。
銀行に預けたからって安心してたらダメなんだぜ。

>地形変えるのが朝飯前なバンギラスとか、2秒で1000発のパンチを放てるカイリキーとか、マッハ2で飛べるピジョットとか、体当たりでビル破壊できるサイホーンとか、一般人涙目すぎるwww
そういう情報が得られるところを知りたいです。どこかにまとめられてたりしませんかね。

>ラルトス………って事は『サーナイト』キタァー!!!!
数ヶ月前にすごく欲しいっていってた人がいたので、なんとなく所期ポケモンにしてみました。

>そして疑問に思ったのが、この階層のポケモンバトルでポケモン死ぬんですか?
死にまくります。なくなったら持ってる人から奪うしかないですね。強奪の旅が始まるぜ!

>やっとレンちゃんが満足な活躍できるね…最も無双は多分できないだろうけど。
よく分かってらっしゃる。

>これは身代わりになったり足止めの攻撃をしたりなんかは好き放題出来るんでしょうか
足止めはどうしようか考え中です。身代わりはできますが。

>それともう少しハルマサ君に強さ的な意味で援助してあげてww
ハルマサ君のいいところは結構追い詰めたつもりでも意外と何とかなってしまうところです。
私は追い詰め、ハルマサ君ががんばるという図式が完成していてですね。

>伝説とか一体どうなってしまうんだろうかww
伝説のポケモンってわりと無茶な説明ついてますよねwどうしようかな。
誤字報告ありがとうございました。

>ポケモンかぁ…。最近のはやってないけどキュウコンとウィンディが好きだったなぁ。
その二匹は私も好きです。
最近のはモンスターが増えすぎてやってられない感じです。やっぱり初期ポケモンが一番なじみがありますね。







[20697] 169~171?(打ち切り)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:6e35c1f3
Date: 2010/11/03 18:39
前回のあらすじ

・第4層は町ごとにクエストが設けられている。
・ハルマサはポケモンを2段階進化させなければならない。→街の外で虫ポケモンをゲットだ!
・ハチエはポケモントレーナーのコバルトを倒さなければならない。→すでに倒した。
・アオイは仲間を二人集めなければならない。→一人(ハチエ)は決定したけどもう一人どうしようか……というところで、アオイとハチエのいる喫茶店にマリーがやってきた。



<169>



【第四層 右足都市】

「あら、ごきげんよう」

黒いドレスの少女が入ってきたことで、ハチエとアオイが楽しくお茶をしばいていた喫茶店の空気は

見る見る悪くなった。

「ごきげんようやないわ。ウチあの時死に掛けたんやで?」
「ふふふ、いい気味だわ」

何故会った早々こんなにギスギスしているのかアオイには計りかねたが、取りあえず横の椅子を引い

てあげた。
黒いドレスを着た少女を見る。

「おおぅ、アオイさんは相変わらず殺人鬼みたいな目やね」

ハチエが少し引いていた。どんな目だ。

「あら、素敵な視線。ゾクゾクしちゃう。……あ、座っても良いのね。うれしいわ」

何故か少女はうれしそうに身を震わせると、トテトテと歩いて、アオイの横にストンと座った。
体からかすかな腐臭がする。
腐肉でも持ち歩いているのだろうか。
ふわりと座った少女はハチエとアオイとを交互に見て、口を開いた。

「それで? 見たところ二人ともビックリ箱の申し出を受ける必要も無いほど強く見えるのだけど、私

に何か用かしら? 私は見ての通り、自力で立てもしなかったから力を一般人程度に抑えられているわ

。だからいじめないで欲しいの」
「いじめたら呪われそうやから止めとくわ。」
「ウフ。あら、ご苦労様。ホットミルクをくださるかしら?」

やってきたウエイトレスに注文している少女を見ていたアオイだが、この少女は本当に強いのだろう

かと疑問に思った。
動作は洗練されているとは言い難いし、気味が悪い以外はただのお嬢様である。
アオイよりもよほど淑女システムに相応しそうではあるが、それは置いておこう。
しかし、アオイが認めるハチエを殺しかけたのなら、何か秀でたところがあるのだろう。
紙にペンを走らせる。

≪何が出来るんだ?≫

それを見たハチエが言った。

「そういえばよぅ知らんわ。何が出来るん? えーと、名前なんていうん?」
「マリーよ。何が出来るかといっても、そこらの不死人よりも弱い今は、死体を操るくらいしか出来

ないわ。この前の傑作はあなたにやられちゃったから、今持っているのは骸骨と骸骨犬だけよ?」

そう言った後、マリーなる少女がチラリと視線を向けた先には、4つ脚テーブルの脚の影に隠れて震

えている小さな骸骨の姿があった。
先ほどアオイの体を這い回っていた奴だ。くすぐったかったが、動物に好かれたことの無いアオイに

は新鮮で、少し嬉しかった。
マリーが冷ややかな目をして言う。

「英霊? 何でこんなところに居るのかしら?」
『ふ、ふん! そちらから捨てておいてよく言う! 私はもうお前の支配など受けないぞ! 新しい主人

が出来たからな!』
「震えながら言っても格好良ぅないでパロちゃん。……それにしても、あんたこの子になにやっとっ

たん。えらい怖がられとるやん」
「別に普通のことよ。この子は死んでから日が浅いから自意識が濃くて辛かったかもしれないけど、

その内慣れる程度のことだったはずよ。それよりも……ああ、名前を刻み直したのね。まぁ骸骨はた

くさん居るから構わないわ。英霊ほど強力なのはもう一体しか居ないけど」

ウフフ、と笑う少女。どこか不気味だ。不穏、と言った方がいいか。

「それで、その新しい主人は何処にいるのかしら?」
「ああ、別々に転移してもうてん。額都市やったっけ。ここから一番遠いところにおるで」
「マルフォイは左手都市だって言ってたわ」
「いや、聞いてへんけど。ていうかあいつ生きとったんかい。それにしてもハルマサ大丈夫やろか…

…」

話についていけなくて少し寂しいアオイである。
いや、大事なのは積極的に行動することなのだ。
ハチエのコロンブスの卵的な発想で筆談とは言え会話できるようになったのだから、ドンドン参加し

ていかなければ!
アオイはサラサラと文字を書いて、運ばれてきたミルクに口をつけているマリーにそれを見せる。

≪マリーのクエストはなんだ?≫
「……なんでこの人は喋らないの?」
「さぁ。わからへんけど、なんや事情があるやない? あとアオイさんやで」
≪白根アオイ。18歳だ≫
「年下なん!?」
「アオイさんね。よろしく。マリー・グレイズ。私は87歳よ」
「年上!? ていうかお婆さんやん!」
「失礼ね。あなたの名前は教えてくれないの?」
「あ、ハチエやで。19……かな? なんやダンジョンに来てからえらい年取ったような気がするで」

確かにダンジョンでの時間は濃いとアオイも感じていた。
漫然と過ごしていたこれまでの人生全部と同じか、それ以上の密度である。

「……ハチエの喋り方は変ね。初めて聞くわ」
「実はあれや。ウチより年くっとる人がこの喋りを聞くと、一分ごとに一つ年老いていくねん」
「……え?」
「だから、マリーはもう90代やな。まさか年上とは思わんかったで。すめんすめん」

ハチエがてきとうに謝る動作をする。
びちゃびちゃと音がすると思ったら、隣で盛大にマリーが動揺していて、手に持ったカップからミル

クが零れていた。

「え、ウソよね? ウソと言って! お願いよッ!」

すがりつきそうな勢いでハチエに詰め寄るマリー。
その牛乳まみれの手を避けつつハチエは言った。

「実はウソや」
「そ、そう。それならいいわ。いえ、良くはないけど」
「というのもウソやねん」
「ええ!?」
「しかし、今回だけは本当やねん」
「…………あら? ちょっと待ってくださる? どっちがどっちだか……」
「はっはっは! そういえばアオイさん、ウチ目玉からビーム出せるで」
「……!」
「ね、ねぇ、結局ウソなの? 本当なの?」

聞いてくるマリーに、ハチエは肩を竦めて言った。

「ビーム以外は全部ウソや」
「そ……」

マリーは一瞬表情を固めたが、直ぐに席に座りなおした。

「そうよね。ふ、ふふん。そのくらい予想していたし、ここで全然怒らない大人な私。ミルク美味し

いわ。ぶっ殺したい。」

マリーは小刻みに震えながら少なくなったミルクを飲んでいる。
本音漏れてる、とアオイは思ったが、紙に書くのも面倒だったので何も言わなかった。
そして、この二人なら一緒に旅をするのも悪くない、とは思うのだが、少し仲良くしてくれないかと

、思いもするのだった。

『なぁアオイ』

しばらく沈黙が流れていると、机に登ってきていた身長6センチの骸骨がアオイに話しかけてきた。

「……?」
『話すのがダメなら、私のようにテレパシーを覚えれば良いのではないか?』
(……簡単に言ってくれる……)

それくらい、アオイも試したことはある。
だが、取っ掛かりも無い状態では上手く行くはずもなく――――待て。取っ掛かりならここにいるで

はないか。
アオイはペンを握り、文字を書いた。

≪教えてくれるか?≫
『勿論だ! 任せろッ!』

小さな骸骨はスカスカの胸を張るのだった。




「私のクエストはこれよ」

マリー少女の出しだしてきた紙には、今まで見たクエストとは少し毛色が違う事が書いて在った。

【右足都市:手持ちのポケモンを増やす。難易度:★ ……clear!】

「あれ? これもうクリアーしとるやん。」
「実はさっきモンスターボールとやらを拾ったの。ついてるわ」
「拾ったんかい」

何処で拾ったかと言うと、服飾店の前だったとか。で、拾ったポケモンは、「ドンカラス」らしい。

「コバルト君のやん」
「この階層に来たばかりにも関わらず、すでにクエストをクリアーしている私に賛辞を送ってくれて

もいいわ」
「いや、ネコババしとる人に言われても。それにウチもクリアーしとるし」
「なんですって!?」
『そして私もこれでクリアーできる……声は届いているか?』

突然念話が話に参加してきた。アオイさんだ。とても声がハスキーである。

「アオイさんかいな。テレパシー、もう出来るようになったん?」
『教師が優れているのだ! 出来ないはずが無いだろう!』

パロちゃんも割り込んでくる。相変わらず声は甲高い。これで通常サイズに戻ったら普通の声になる

のだから不思議だ。
アオイさんが深く頷く。

『その通りだな。素晴らしい教えの対価として私の頭の居住権を払った。なにやら居心地が良いよう

だ』
『フカフカなんだぞ!?』

パロちゃんがアオイさんの短髪の上でピョンピョン跳ねている。
まぁ二人とも幸せそうやしええか、とハチエは思った。
マリーがアオイのほうを向く。

「アオイさんのクエストは何だったのかしら?」
「え、普通ウチから聞かん?」
「どうでもいいわ。少し黙ってちょうだい」
「あ、さっきのこと根にもってるんやろ。大人気ないでマリー。ウチのを聞いてみんかい」
「……そこまで言うなら、教えてちょうだい」
「それはなぁ、」
「あ、やっぱり興味が無いわ。黙ってて」
「ムキャー!」
「ウフフ、猿みたい。」
『私のクエストは3人パーティを組むことだ。マリーはポケモンを拾って二匹にしたのだな?』
「ええ。さっき拾ったものをあわせて二つよ。しかも拾ったのが意外と強いの。」
『まぁそうだろうな』
「大きなカラスみたいなポケモンよ。羽の色が艶のある黒で綺麗なの」
「返してあげんでええんかなぁ」
『別にかまわんだろう。どうせ誰かから奪ったものだ。……それはさて置き、マリーがポケモントレ

ーナーであれば尚更頼みたい。私と共に旅をしてくれないか?』

アオイさんが手を出すと、マリーが手を握る。ちゃんとミルクは拭いたのだろうかと、ハチエは心配

した。

「こちらからお願いしたいくらいよ。頼もしいわアオイさん。あとついでにハチエ。」
「誰がついでやねん。一番弱いのはマリーやで?」
「馬鹿にしないで! 骸骨が使えるわ!」
「はいはい」
『なぁ、少し仲良くしないか?』

そしてこの3人はパーティを組み、見事右足都市から脱出できるようになったのだった。
しかし、まだ3人はスタートラインに立っただけである。


<つづく>





<170>



【第四層 額都市】

そろそろ日も暮れようかという頃である。
斜陽に浮かび上がる30メートルの巨大な門は、ハルマサを押しつぶすような圧力を放っていた。
それはそのまま、扉の向こう側へ対するハルマサの恐れの現われでもあった。

「オリーブさん、一つ言っておこう」
「な、何よ?」

ハルマサはオリーブさんへと顔を向けた。

「あのね。」
「……うん」

ゴクリとつばを飲むオリーブさんに、ハルマサは厳かに言った。

「今さらだけどすごく……不安になってきたよ……それじゃ、行ってきます!」
「ちょ」

キィと巨大門の脇にある通用門を開けると、瘴気というか濃い魔力というか、なにやら禍々しい風が

流れ込んでくる。

ゴクリ。こいつぁ危険が満載だぜぇ……!

≪ポケモンだと思われる魔力反応が無数にあります。ポケモンの準備はよろしいですか?≫
「あ、よくないよくない。」

袋からいつでもレンちゃんを出せるようにスタンバイする。
そしてラルトスはもう召喚して、頭の上に乗せた。

「ラルゥ!」

喜んでくれているようで何よりだ。
しかし、ラルトスの体重は6キロ。
気を抜くと首がもげる。
という訳で降りてもらった。

「ラルゥ……」

寂しそうだ。
く、心が痛む。
ここは首がもげるのを覚悟して乗せるか……!?
ラルトスを小脇に抱えて逡巡していると、オリーブさんが声をかけてきた。

「き、気をつけてね! 待ってるから! ずっと待ってるから!」
「う、うん。またね!」

こ、こいつは死ぬわけには行かないね!

何となく踏ん切りがついたので扉を潜り抜けた。
踏み出た途端、ゴファ、と黒い風がハルマサの体を通り抜ける。
全てのレベルが1になった気がしたけど、全然そんなことは無かった。
ハルマサのステータスは殆どレベル1みたいなものだし。

通用門の外には、心臓都市へと真っ直ぐに伸びる道路が延々と続いている。
この道の上に、顎都市やら喉都市やらがあるのだろう。
「鷹の目」スキルでも、全然次の都市は見えなかった。

幅20メートルはある太い道路が地平線まで延々と続いているだけである。そしてその両脇には森が

あるだけ。
オリーブさん曰く、都市南東の森に、虫ポケモンが居るらしいとのことなので、そちらに向かうこと

にした。
よし、と頷いてハルマサはモンスターボールを開いた。

「出でよレンちゃん!」
「ギィイイ!」

ずおぉおおおおおおおん、と出現したレンちゃんに乗って、ハルマサは右の森へと入っていくのだっ

た。





木々をなぎ倒して進むレンちゃんの背中で、ハルマサはポケモンを探していた。
レンちゃんの高さまである木は無いため、上に乗っていると探しやすい。
レベル10で2回目の進化をするポケモンは、キャタピーとかケムッソとか、いもむしみたいなポケ

モンである。
ハルマサは探すことに集中していたため、そのポケモンに気付くのが遅れた。

「ラル……!」
「……ん?」

ラルトスがハルマサのタキシードの袖を引く。
振り向くとラルトスは少し震えていた。
指人形みたいに指の無い小さな手で、上を必死に指している。

「上?」

見上げた先には、緑色のポケモンが居た。
大きさは1.5メートル、人型で、両手が鎌のようになっている、蟷螂のポケモンだった。
腕組みしているかのように、鎌を体に巻きつけて、背中の羽を震わせて静止している。

(ストライク……?)

ポケモンと目が合った。

「貴様がその方らの将か。」
「ええっ!?」

喋っただと!? しかも意外と渋い!
いや、口があるんだし喋ってもおかしくはないのかな……?
ハルマサがうーん、と唸っているとストライクが口を開く。

「ここは我らの領域だ。これ以上進むと言うならば、私は貴様を討たねばならん。生きたいならば、

去れ、人間よ。」

そう言って、冷ややかに睨んでくる。

≪「観察眼」での情報取得に失敗しました! 魔力反応からの推定レベルは、およそ33です!≫
(……ミラボレアスといっしょ?)

あのミラボレアスだって、強化されていたって言うのに。

≪勝率は限りなく低いです。交戦は控えたほうが宜しいかと≫

ですよね。いや、できるならそうしたいけど。

第三層の入り口近くに居たレベル28のラオシャンロンと言い、入り口近くに強い奴を配置するのは

心を折るためなのだろうか。
しかし、諦めるのはまだ早い。
言葉が通じるのは大きいぞ!
交渉が出来るじゃないか!

「あの、別に荒らすつもりは無いんですけど、イモムシ型のポケモンを仲間にしたいなって」
「森の若者を連れて行くだと……!?」

ストライクから強大なプレッシャーが膨れ上がる。

「森の未来を担うものたちを、貴様ごときが連れ出すだと!?」

あ、やばい、怒らせた! これは気付いたら死んでいるパターンか!?
いや、言葉でこちらに害意がないことを伝えるんだ!
キーワードは、「若者」と「頑固な大人」だ!
なんかいけそうだ!
この時ハルマサの灰色の脳みそがフィーン! と高速回転し、活路を見つけ出した。

ハルマサは慌しく手を振りつつ、弁解する。

「き、きっと外の世界に出てみたいって言う子も居るはずだ! 一人くらい居るでしょ!?」
「……………」
「い、いるんだね!? その子に外の世界を見せてあげるだけさ!」
「何故、貴様は我らの子を欲しがるのだ」

あ、やべ。考えてなかった。

「む、虫ポケモンが好きだから、一緒に冒険したいのさ!!!!!!」
「………」

一息に言い切ったハルマサは、ストライクにじー、と見つめられる。

じーーーーーーー、と見つめられる。

じぃ~~~~~~~~、と……。

(長い……! 長いよストライクさん!)

たっぷり数分は見据えてから、ストライクはふむと頷いた。

「貴様の言うことにはウソの臭いがするが、子らを大事にしそうではある。その幼き者にも好かれて

居るようだしな」

ばれてたぜ! でも何とかなりそうなヨカーン!
そういえばラルトスがさっきから背中に隠れているんだったぜ!

「良かろう! 確か、蝶の子に外に出たいと申すものが居た。だが……」
「だ、だが!?」
「貴様の力を見ないことには安心して預けられぬ……抜け、人間よ!」
「は、はい?」

両の手をこすり合わせて硬質な音を立てるストライクに、ハルマサはうろたえる。
なにを抜けばいいんだろう……。血? 献血しろだなんて、社会的なポケモンだなぁ。
……いや、冗談だよ。ちゃんと分かってるよ! でも敵うわけないよねぇええええええええ!?

≪マスター早く構えて!≫
(言われずとも! くそう見せてやるぜ! 迅竜から取得した僕の刃を!)

―――――「刃を持つ腕」、発現!

ブッチィイイイッ!

(痛ぁああああ!?)

ハルマサの肌を突き破り、黒い刃が腕から飛び出してくる。
久しぶりにやるとメチャクチャ痛いなこれ……。
ビタビタ零れる血に、後ろのラルトスがドン引きしている気配がするぜぇ……!

「ほぅ。」

ストライクは喜んでいる。
ちょっとは気圧されて欲しかった!

「ラル! ラルゥ!」

ラルトスが、傷口を押さえようと近づいてくるのを尻でガードする。
血を止めてくれようとしてくれてるんだね。ありがとう。
ありがたいけど、危ないから後ろに下がっててね。後ろって言ってもレンちゃんの上だけど。

「ギィ……!」
「レンちゃんも動いちゃダメだよ! これは僕の戦いなんだ!」

レンちゃんの声を振り切って、ハルマサは殻を蹴って飛び上がる。

「うぉおおおおおおおおッ!」

「空中着地」でストライクへと、走っていく。
彼我の距離はたったの10歩!
二歩、三歩と走る内に、ハルマサの体が赤い光に包まれる。「突撃術」が発動しており、そのスピー

ドはただの人間には出せない領域に到達する。

コォオオオオ! と赤い筋を引いて走るハルマサは、ストライクが鎌を振り上げるのを見た。

「その意気や良し! だが、遅すぎる! 消えうせろッ!」

空気を引き裂いて振り下ろされる刃がハルマサに到達する瞬間、ハルマサは切り札を発動した。

(見よ、これが―――――――「電流の体躯」だぁあああああああああ!)

概念が発現し、バチィ!とハルマサの体が電光へと変換される。

「電流の体躯」は魔力も要らないし、持久力も要らないし、速さが~倍される、ではなく「光速で動

ける」体となる概念である。元々がどれだけ貧弱だろうと問題ない!

ハルマサがすり抜けた後に、残っていたタキシードを切り裂いたストライクの背後へと、ハルマサは

回り込む。
そして緑色の首筋に、電流の手刀を突きつけた。

『これでどうだ!』

ハルマサが空気を震わせない声で叫ぶ。テレパシーかなんかで伝わるといいな、と思いながら。

「ふっ。驚いたぞ。空蝉の術とは中々やるではないか」

―――――ィンッ!

ストライクは笑ったかと思うと、次の瞬間には消えていた。
瞬間的にトップスピードに移ったというのか!?

「空間把握」によって把握した位置は、ハルマサの真後ろである。
「回避眼」がハルマサの胸を輪切りにする攻撃を予知させる。そこにはハルマサの核がある。正確に

この体の弱点を見切られていた。

『くッ……!』

――――――シュボッ!

空気を発火させるような鎌が振り始められる前に、ハルマサは体を沈める。
それでギリギリだった。

(こんどはコッチだ!)

だが、振り向き様に放った雷光の速度の後ろ回し蹴りは、浮かび上がって避けられる。
ハルマサはそこからさらに動いた。
コマのように体を回してストライクの頭上から蹴りを落とし、それを後ろに避けたストライクに、最

後の一撃を食らわせる。

『だぁああああああッ!』

バチィイイイ!!!!!!!

「ぬ……!?」

ハルマサの手が3倍ほどに伸び、ストライクの腹を叩いていた。イメージによって留められている「

電流の体躯」だからこそ出来る攻撃である。
「野獣の骨格」という、腕の伸びる概念を経験しておいたのがこんなところで役にたった。

だが、ストライクにダメージはない。
もともと静電気くらいしか感じないだろうと予想されるし、それ以前にストライクの腹の前に透明な

障壁が出現しているようだった。ポケモンに危害を与えられないというのは、電気人間であっても適

用されるらしい。
だが、反撃は来なかった。逃げようとして、ハルマサは動きを止める。

『……あれ?』

ストライクは手を組んだまま目を細めていたが、ニヤリと口を吊り上げた。

「よかろう、見事だ人間! 貴殿を我が森の子を預けるに相応しいと認めようッ!」
『お、おお?』

どうやらやったらしい。
よっしゃあ、とガッツポーズをしつつ、ハルマサのポケモンたちを振り返ると、ラルトスは手で目を

覆っており、レンちゃんは覆っているようにみせて鋏のあいだからしっかりと見ているようだった。

甲殻が赤いからバレバレである。
そうか、そう言えば全裸だ。
ハルマサは、慌てて切り裂かれたタキシードを拾いに行くのだった。




<つづく>





<171>




【第四層 右足都市】


女性三人は未だに喫茶店でくつろいでいた。
パロちゃんは、アオイの頭の上で昼寝しており、歯軋りしながらうなされている。
ハチエは、ふと聞いてみた。

「マリー、あんた金貨いくら持ってるん?」
「ふふん、聞いて驚くと良いわ」

そう言ってマリーは収納袋らしきものを開く。

「ええとね、ひぃ、ふぅ、……」
「数えてへんのんかい」
「たくさんあるから面倒だわ……」

マリーはそう言いつつも、どんどんと数えていく。

「にひゃくにじゅうに、にゃくにじゅうさん……ハチエ、数えたい?」
「なんでやねん」

200枚を超えたくらいで数えるのが面倒になってきたようだった。まぁ分からないでもないので、ハチエが半分ほど受け取って数えるのを手伝ってやっていると、アオイが言葉を発した。

『……二人はもうレベルアップに神金貨を使ったか?』
「いや、ウチはまだや」
「私も来たばかりだもの」

『間に合ったか』とアオイはつぶやいてコーヒーを口に運ぶ。
頭が少しも揺れない当たり、洗練されている。
アオイ曰く、このような動作でも淑女ポイントは溜まるらしい。
使う時はゴソッとなくなるから常日頃から溜めておくのが肝心だとか。
それはさておき、アオイはカップを静かに置いて、視線を向けてくる。

『実はな、金を稼ぐ必要は無いのだよ』
「なんで? 神金貨ないとレベルアップできへんやん」
『ビックリ箱はダンジョンのシステムだ。言うことは基本的に間違っていないが、大体言っていない

ことがあると見るべきだ。このダンジョンのいやらしさはもう身に染みているだろう?』
「……ということはどういうことになるのかしら?」

マリーが収納袋を仕舞いつつ尋ねる。

『ポケモンのレベルアップは普通の魔物と変わらない。ただ、金貨でもレベルがあがる、というだけ

だ。あとはおまけで毛並みが良くなったりする』
「……意味があるのかしら。経験地でレベルが上がるなんて、すぐに皆気付いてしまうと思うわ」
『金稼ぎに翻弄する様が見たいのではないか? 私もバイトをしようとしてしまったからな。断られた

が』

寂しい表情になるアオイさん。その強面も慣れれば案外いけるものだと、ハチエは思った。未だに睨

まれると怖いが。

「そやったら、神金貨いらへんやん」
『いや、そうでもない。モンスターボールを買うためには必要だし、何よりトレーナー関連の物品は

やたらと高い。ポケモンセンターを使うだけでも、神金貨が十枚単位で飛んでいくぞ。大金持ちにな

ったからと浮かれていたら直ぐに身動きが取れなくなってしまうだろう』

苦労させられた、という雰囲気を漂わせるアオイさん。

『だから、攻撃技を覚えるまでは金貨を使い、それ以後は大事に溜めておくのが賢い使い方だと私は

思う。ご丁寧に、技を一つも覚えていないレベル0のポケモンが支給されるようだからな。』
「アオイさん色々と考えてるんやなぁ」
「ハチエが全然考えて無いだけだわ。突進するしか能が無い可哀相なハチエ。」
「はっはっはー。脳みそ2gのマリーちゃんに言われたらしまいやな」
「ウフフ。いったい何処のマリーちゃんかしら。」
『もう少し仲良くしないか? な?』

アオイが仲裁に入り、さらに丁度良く料理が運ばれてきたので、二人は黙った。
それにしても、ハルマサ大丈夫かなぁ、とハチエは窓の外を眺める。
お金がなくてヒィヒィ言っている弟の姿は、ありありと想像できるのだった。







【第四層 額都市南東の森】


ストライクが森を出たいポケモンを連れて現れたのは、もう日が暮れてからだった。

「さぁこの子だ。名前はアムールと言う。事情は話しておいたぞ」

キャタピーは緑色の芋虫ポケモンである。頭がハンドボールくらいある巨大な虫だ。目玉が野球ボー

ルくらいある。
レベルは2。

「ぴー!」
「よろしくね」
「そしてこの子はボイドと言う」
「!?」

ストライクは二匹目を繰り出してきた。こんどは球体を繋げたような芋虫型のポケモン、ビードルである。頭に角が付いており、全身が茶色。目は小さくつぶらである。

「ビー!」
「い……一匹じゃないの?」
「最近の子らは外の世界に興味津々でな」

遠い目をするストライク。聞きたかったのはそういうことじゃない。
一度に二匹も仲間になることは想定外である。しかし下手に断れば即座に死ねる。どうやって断ろうかと思案するハルマサに、しかしストライクは容赦はしなかった。

「さらにこの子はキュアという」
「!?」

ストライクがカマに乗せて差し出す三匹目はケムッソというこれまた芋虫型のポケモンである。
それを受け取りながらハルマサの思考は完全に逝った。

「ついでこの子が――」
「ま、まだ増えるの!?」
「まだまだいるぞ。お前の後ろを見てみろ」

揺れる頭を抑えつつ振り返ったハルマサの後ろには、木の梢にたわわに実る芋虫型のポケモンたち。キャタピーとビードルとケムッソしか居ないが、それぞれ何匹いるか数えるのが不可能な密集具合である。イメージで言えば葡萄だろうかと、ハルマサはぼんやりする頭で思った。
それらを一匹づつ指し示しながらストライクが名前を教えてくれる。

「あの木の天辺にいるのはディオラ、その下がイース、その左がフィム、その左がゴルム………」

途中からハルマサの頭には記憶されなかったが、サクラさんによると総勢128匹いたらしい。

「子らを頼んだぞ、人間よ」
「あ、あの……」
「では、さらばだ!」

ハルマサの出した手はむなしく空を切る。闇夜に飛び立ったストライクは、ものの数秒で見えなくなってしまったのだった。
残されたハルマサは、辺りでミューミューキューキューと鳴きまわる芋虫たちに囲まれて、呆然とするよりほかに無かった。










【第四層 額都市】

次の日。
どこにでも居そうな女子高生のオリーブは額都市の門のそばで、手持ちポケモンのサンドを撫でくすぐりつつ、ハルマサの帰りを待っていた。
角質化した表皮の隙間をなでられたサンドが身を捩ってゲゲゲと笑っている。
燦燦ときらめく日光の下、開け放たれた門からは、通商隊が出て行こうとしている。
大型の四足獣、ケンタロスに引かれた馬車が、石畳の上をゴトゴトと動いていく。
それを傍目に、オリーブはハルマサを心配していた。
どうしてここまで気になるかはよく分からない。恋愛感情ではないだろう。しかし、放っておけない危なっかしさがある少年なのだ。
もやもやとした気持ちを抱えつつため息を吐くオリーブの視界の中、通商隊の面々がやおら騒ぎ始めた。
うわぁ、とか、うひぃ、とか騒ぎ立てる男どもにオリーブは眉を顰めつつ、その方向を見た。どうやら、騒動の元は外からやってきたらしい。
見ていると、門の途中で固まっている通商隊の横をすり抜けるようにして一人の男が顔を出した。

「ハルマサ!」

彼女が待ち望んでいた男である。彼女はサンドを拾って駆け寄っていく。

「あ。オリーブさん。元気だった」
「それは私のセリフだけど……うわぁ……」

ハルマサはどうやら傷ひとつ無いようで、一先ず落ち着いたオリーブが周りの状況を認めて思わず吐いた言葉「うわぁ」。
それは、この場に存在する全ての人の言葉なのかもしれなかった。

ハルマサの姿は普通(?)のタキシードだったが、彼のつれているポケモンは普通ではなかったのだ。姿が、ではなく数が。
ハルマサの肩越しに見えた光景は、彼の足元から門の外へとずらっと連なる芋虫ロードである。乗った途端に潰れて体液が靴とズボンに跳び散りそうなフワフワの芋虫ポケモンたちが粛々とハルマサに這い寄ってきているのだった。
彼女の様子に気づいたのか、ハルマサは困ったように笑う。

「まぁ……色々あって、虫ポケモンをゲットしたんだ。128匹」
「そ、そう……よかったね」

いったい何があったのか、予想もできないオリーブだった。













<謝罪>



もう書くの止めます。すいません。
この後の予定では、蛹化したポケモンを「かたくなる」させてから投擲スキルで投げつける外道ハルマサが光臨したり、羽化した大量のポケモンによる状態異常攻撃で強敵を蹂躙したりする予定でしたが、今の状態で書いてもつまらないものしか出来ないのでお目汚しになる前に打ち切らせていただきます。
楽しみにしていてくれた方、本当に申し訳ありません。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。読者の皆さんの感想が無ければ、多分夏の間に終わってました。お褒めいただいた言葉は忘れることが出来ません。




感想返しで少し触れましたが、この作品を書こうと思ったきっかけは、「失われた青春を取り戻しに行くマダオの話し」の中でダンジョン物が増えてほしいと書かれていたからです。
そして、ダンジョン物を書くに当たって脳裏に浮かんだのが、SAOでした。私はあの作品を読む前にWEBで連載されていたと言う情報から、このように思いました。「一層一層クリアしていって74階層で終わったのか。いったいどれほどの長編物なのだろう。一層ごとに少しづつ成長していく主人公。一層ごとにイベントがあり、ボス戦があり、出会いの喜びや別れの苦しみがあるのだろう。そして全体を見たときに壮大な話が完成しているに違いない。」読む前から、ワクワクがとまりませんでした。しかし、読んでみれば実際は最初っから74階層。
そりゃそうだよね、と思いつつ私は思いました。

「一階層からクリアしていく壮大な話を書こう」と。

まぁ結局無理だったわけですが。
敗因は色々ありますが、主人公が簡単に超人になってしまったことが問題だったのかもしれません。
もっと苦しみ、痛みを負って精神から強くなっていく、そんな姿を書くべきだったのでしょう。書けるかどうかは別にして。
ネタに走りすぎて全体が見えていなかったと言うのもありますし、そもそも明確なテーマもプロットも無く、見切り発車だったという罠。そりゃ無理だ。現代とか混ぜたせいで訳のわからないことになったし。
ともあれ、私には無理だったので、無責任ながら他の人にこの夢は託します。
読めるかどうかも分かりませんが、勝手ながら期待しております。

それでは、今まで読んでいただいて本当にありがとうございました。


2010/11 最終投稿



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