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[20671] 【ネタ】魔法先生フェイま!【こんな話はどうよ?】
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2011/02/07 20:43
ネギのポジションにフェイトを放り込んでみるテストにより生まれました。
フェイトについては解らないことが多いし、オリジナル設定山盛り。
可愛いよ、アーニャ。
なんでこうなったネカネさん?



そういうことが許せる方だけどうぞ(ぁ











[20671] 第一話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2011/02/07 18:16
思った以上の反響にホイホイ書いてみた。

穏やかな昼下がりだった。見渡す限り緑の草原とソレが織りなす起伏 山々。
高山の遅い春の訪れを満喫できる最高の日差しや温度。お気に入りの木陰でその少年は本を広げる。
『魔法と精神の相互影響について』
暑さは極厚、表紙はハードカバー。刻まれるのはこの句の公用語 英語ではなく、ラテン語。
リラックスしているはずなのに、その表情は少年を代表するべき『無』。
作業工程の一つとでも言いたげな画一化された動作でページを捲り続ける。
だがその動作に終わりを告げるのは土煙を上げて疾走する人影。

「卒業式も出ずにぃ……」

足音と共に山彦に乗る唸り声。怒りを湛えて燃え上がる声。
「あぁ、また来たよ」とでも言いたげな確認の視線を僅かに送り、ため息をひとつ。
半ばまで差し掛かっていた読書を中断、パタリと閉じられた本。

「何をやってんのよぉ!!」

跳躍する人影は少女。黒いマントに黒いトンガリ帽子。由緒正しい魔女ルック。赤茶色のツインテールを翻す10に届くか微妙な少女。
跳躍の結果足る自由落下の過程で突き出すのは右足。それが燃え上がった。炎を宿した跳び蹴り。

「読書さ……」

淡々たる回答と共に読書家 年の項を少女と同じくらいにするだろう少年 閉じた本で驚きの燃える蹴りを逸らす。
撫でるような軽い動作だったが、到達するべき焦点を失った力が大暴走。見事に空中で一回転の後、ゴツンと後頭部を打ち付け、少女は仰向けに倒れる。

「読書さ……じゃないわよ! 今日という今日こそそのねじ曲がった根性を!」

しかし今日という今日は負けられない! 正義の味方じみた使命感が少女を奮い立たせた。
上半身を起こしかけて『パチーン!』と軽い音と衝撃、起き上る勢いに合わせて凸ピンが愛らしいおでこに炸裂。
起き上った軌道をそのままに再び後頭部が地面とランデブー!

「■■■!!」

後頭部を抑えて不思議な言語で叫びながら、のたうち回る少女を起こそうと手を差し出し、少年は問う。
先ほどから少女の激しいリアクションにも一切反応を見せない表情。身長は少年のそれだが神は老人のそれ 白髪。

「そういう君は? 何をしに来たの?」

ピタリとイモ虫運動を停止させ、差し出された手の意味を理解して、ちょっと頬を染めながら握りかけて……

「だから卒業式に出ろと▼■●!!」

全ての元凶をアーニャは思い出して絶叫、詠唱、攻撃!

「ふぅ……」

自分が悪いなんて欠片も考えず少年 フェイト・アーウェルンクスはため息、回避、反撃、鎮圧!


結局アーニャが自分の目的を達成するのは、全く無駄に魔力と精神力と体力消費した十数分後であった。
此処はのどかな英国の片田舎、ウェールズの山の中。
今日は若き魔法使いたちが学び屋を巣立ち、新たな世界へと舞う日。
多くの場所 ソウサクセカイ で行われた変化無き一コマで在りながら、そこに立つ一人の少年だけが違っていた。





卒業式という一年に一度の一大イベントが終わった直後なので、知った顔しかいない片田舎にも来賓やらの関係上、知らない顔が多かった。

『おやアレは?』

『イスタンブールの忌子じゃないか』

だからこういった陰口も何時もより頻度を増すし、ボリュームも大きくなる。

『今ではウェールズの忌子ですよ』

もっとも言われている本人 フェイトは全く気にした様子もない。
そこでそんな会話が行われている事にすら気がつかない……いや聞こえていて、理解していて、無意味であると切り捨てている。

『まぁウェールズも今日でソレとはおさらば出来るのですから、喜ばしい限りでしょうな?』

だが後ろに続くアーニャはそうもいかない。すさまじく耳障りであり、恐ろしく気分が悪い。
そしてさらに腹立たしい事に、そう言った陰口は余所者たちだけが行っている訳ではない。
見知った者たち ウェールズにこの学園に籍を置く多くの魔法使いたち 自分には優しい彼らからすら、そんな陰口は聞こえてくる。

否! 聞こえ続けている。フェイトがここにきた数年前から途切れずに……


『いやいや喜ばしい事ですが、彼の修業先には同情しますな』

『見たかい? あの目はきっとゴルゴンの目だ。石にされてしまう』

『ウェールズもサウザンドマスターの息子を失った代わりに得たのがアレでは……』

限界だった。声を出そうか、拳を出そうか、魔法を出そうか?
言われている本人がでは無い。どこまでもおせっかいなフェイトの数少ない友人(たぶん)がである。

「やめなよ、アーニャ」

沸騰寸前、ヤカンに放り込まれたのは氷でも水でも無く、石。
煮立っていた水が溢れてしまい、生じたのは空白。襲いかかる脱力感に肩の力が抜ける。
彼女の方を見るでもなく、呼び出しに応じるべく歩を進めるままにフェイトは続けた。

「僕は別に何を言われても良いけど、君は此処でも優等生なんだ。敵は作るべきじゃない」

「だって……」

アーニャは黙りながらも前を歩く背中を見つめながら思考に沈む。
優等生なんて言葉で示すのもおこがましい天才の背中を見つめながら……
一度だって試験でも勝った事なんて無い。明晰すぎる頭脳、溢れる魔法の才能。
だけど……彼は忌子なんだそうだ。バカバカしい! 
この私がいくら努力しても届かない凄いヤツをそんな風に貶すなんて……まるで私まで罵られている気分だ。
ノックの音が彼女の意識を現実に引き戻す。いつのまにか大きな扉の前 校長室の前。

「失礼する」

気負った様子もなく淡々と入っていくフェイトをアーニャは追う。
自分に与えられたのは『卒業式を欠席するような悪ガキを連れ戻すこと』。
そして気になっていた『フェイトの試験先を知ること』であったのだから。

「卒業式までサボるとはジイさん、悲しくて泣いちゃうぞ? フェイトや」

「男の涙なんて絵にも物語にもならないから止めた方が良いね、ご老体」

この学校の長であり、歴戦の魔法使いたるその人物を前にしてもフェイトの口調は変わらない。
さらにその意見の鋭さは増すばかり。

「それに厄介事が居ない方がスムーズに終わったでしょ? 貴方の長い話も、来賓の綺麗事も」

「ふ~む、もう良いわい。式自体に意味は無いが、これはしっかり受け取って貰わないとな」


差し出されたのは封筒。これからの長旅の目的地を告げる魔法の封筒。
卒業生は誰もが式で受け取るのだが、もちろん欠席したフェイトは持っていない。
最大の興味の対象にアーニャは後ろから覗き込み、自分の者を取り出して言う。

「ちなみに私はロンドンで占い師! で! アンタは!?」

「マギ・ステルマギ―立派な魔法使いに成る為の試練……か。受けないとダメ?」

面倒で堪りません!と表情の変わらない事で有名な顔からも読み取れる意思。
この人間嫌いは魔法使いでありながら、これにすら興味を示さないのか!?とアーニャは憤慨!
その様子に校長も溜息。許可が出れば、運命の精霊が描く行き先と修行内容も見ずに握りつぶしそうな教え子に困ってしまう。

不意に扉が開く音。聞こえたのはこの部屋には居ない人物を呼ぶ声。

「ネギ!」

「「「!?」」」

きっとこの世には居ない英雄の息子の名前。入ってきたのは金髪の女性。
年はフェイトたちよりも上、20を僅かに前にする程度。だが猛烈に『病的』な印象。
身長もそれなり、女性らしいプロポーション、綺麗な髪。若干痩せ過ぎている気もするが、何より問題はその目。
夢を見ているとしか思えない色。混沌と悦楽。エデンの園で失楽園を信じない様。
起きて20分とかならばまだしも、時間はお昼過ぎ。
そして居ない人物の名前を叫び、近寄り……肩を抱き……笑顔。

「卒業おめでとう、ネギ。今日はお祝いね?」

「大したことじゃないよ、ネカネさん」

「まぁ! 背伸びしたい年頃なのかしら? それと『お姉ちゃん』でしょ? ネギ」

抱き寄せられたのはフェイト、語る相手もフェイト。だけど女性が見ているのはネギ?
その様子にアーニャは思わず顔を逸らし、校長も苦い顔。

「それで! 修業先は何処になったの? 内容は?」

「これから見るところ。見たらちゃんと部屋に帰るんだよ? 先生も心配してる」

だがそんな他者の様子を気にするでもなく女性 ネカネは楽しげに、フェイトは何時も通りに会話を続ける。
無造作に破かれる封筒。捕りだされた紙は白紙。やがて灯された魔法の光が描く奇跡。



『日本で教師をすること』





しかし彼が主人公だと一切のハプニングが起きずに見事修業を終えそうで怖い訳だが……読みたい人がいるのかって事がもっと怖い訳だが(ry







[20671] 第二話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48
Date: 2011/02/07 18:17

これから見知らぬ地で試練が待ち構えているとしても、魔法学校の卒業は一つの大きな節目であり、大いに祝われるべき事柄である。
由緒正しくも少子高齢化の波を受ける魔法学校であっても、僅か数人の卒業生と関係者たちを巻き込んで、盛大な祝いの席が設けられていた。

「居るわけないか……」

当然その席で知り合いの祝福を受けながら、アーニャはある人物を探している。
絶対にここに居るべき人物。首席卒業、もっとも優秀なる者、期待された魔法使いの卵筆頭。
他よりもわずかにだが確かに整えられたその席には誰も居らず、そして周りの誰もがそこに居ない事を無視……いや喜んでいる。

「どうせ一人で本でも読んでるか魔法の練習でもしてるか……あぁ」

授業はしょっちゅうサボるくせに首席卒業たるその少年は勤勉である。
何よりも息をするように努力し、溢れる才能に胡坐をかかず、そうすることが当然であるという態度。
ソレから考えればこんな意味の無い集まり(某少年談)に来るはずもなく、日課のごとく予習復習に興じている。
と、考えかけて思い出した。彼も今は祝いの席に居るのだろう。大人数の仰々しいものではない。
たった一人の本当に親しき者から祝福される本当のお祝い。こんな悪意を向けられるだろう万魔殿よりも素敵な場所。

「ネカネさんと二人っきり……かぁ」

素敵な場所なのだろうが、アーニャはみずからそれを体験したいとは思わない。
何せ彼を祝ってくれているだろう女性は彼を フェイトを見ては居ないのだから。





「どうだった、ネギ?」

「美味しかったよ、ネカネさん」

はるか昔、多くの魔法使い候補たちを受け入れるために作られた学び屋には空き部屋が多い。
いまでは関係者が寝泊まりする部屋になっているその場所も昔は教室だったようだ。
もうそんな話をされなければ理解することが無いだろう歴史的事実は抜きにして、フェイト・アーウェルンクスはたったいま平らげた料理を簡潔に評する。
味わいなどという者に深い感慨を持たず、栄養の補給程度に考えている節すらある彼をもってしても、その料理はおいしいと思えた。
『多くの不特定多数のために作られた豪勢な料理よりも、たった一人のために愛情を込められた素朴な品の方が美味い』
なんて詩的な表現をする訳もない人物だったがつまりはそういう事だ。

「コーヒー、貰えるかな」

「はいはい、いま入れるわね」

彼と向かい合う形でテーブルについていた女性 ネカネ・スプリングフィールドが席を立った。
台所で準備に励む彼女の後姿は部屋の構造上、フェイトからは良く見える。
なんとなくその後ろ姿、金色の長い髪が揺れるのを見ながら会話。

「本当はね、毎日作ってあげられるのよ? でも先生が許してくださらないの。私はもう『平気』なのに」

見ず知らずの他人をもう死んだ弟と思い込んで接している限り、それは決して『平気』な状態とは言えない。
そんな感想を言葉はもちろん、顔の欠片にも出さず、何時も通りの無表情でフェイトは答える。

「別に大丈夫だから。ゆっくり治した方が良い」

「そぉう? でも……しばらく会えなくなるのね……」

運ばれてきたホットのコーヒー、基本をチャンと押さえた入れ方とフェイトの好きな豆のブレンド。
匂いを楽しみ、口に含んでフェイトは頷く。頭の方には色々と問題がある人物だが、コーヒーは美味しく淹れてくれる。
もっともネカネがこんな風に『壊れて』居なければ、フェイトを弟だと勘違いしなければ、彼はこの地に居ることが出来たかどうかもわからない。
そういう意味では本当に感謝すべきなのだろうが……姉弟『ゴッコ』は心に悪い。
顔には出さずとも確かに感じているのだ。自分を通して死者へと向けられる底なしの愛情、狂愛。

「手紙は書くよ。このコーヒーが飲めなくなるのは残念だけど、魔法使いだからね。行くしかない」

本当はサボって別のどこかに高跳びという手段を考えないでもないのだが、修行の場所が図書館島を有するあの場所であるならば話は別である。
本当の弟とは全く違う容姿、反応をもってしてもネカネにとって、フェイトはネギ。
だけどいかに強く作られたソレであろうと、所詮は夢……綻びは何時でも襲いかかってくる。

「でも昔はミルクティーが好きで……コーヒーなんて……ア・レ?」

耽溺の微笑に穴が開く。ソコが抜けた泉から水が無くなり、そこに沈んだ醜い残骸が見えてくる。
村が悪魔に襲われて……村人はみんな石にされて……私のネギは……ネギは……
喜びは恐怖や絶望へ。そして自分の目の前に居る少年が誰なのか分からなくなりかけて……

「久し振りに料理をして疲れたんだよ。おやすみ、ネカネさん」

突き出されたフェイトの左手。中指に輝く魔法発動体たる銀の指輪。紡がれるのは初級魔法 催眠。
簡単に崩れ落ちる血でも縁でも繋がっていない女性を抱き止めたフェイトはため息を吐いた。





「リ・シュタル ビ・シュタル ヴァンゲイ…「居た!」…アーニャか」

宴が終わり、多くの住人が眠りに就いた後にもフェイトは日課としている魔法の練習を怠らなかった。
むしろこの時間だからこそ出来る事がある。しかし始動キーを唱えかけて気がつく来客の存在。
彼がここで深夜にこんな事をしている事を知っているのは学園で一人だけ。彼に恐怖や嫌悪以外の感情を寄せる唯一の存在。

「こんな時でも何時も通りって訳ね? 首席卒業は違うわ」

「?」

そんな嫌味に似た感想を述べながら、お気に入りの場所 学園から近い森の一角 に入ってきた少女を見て、フェイトは首を傾げた。
別に文句に腹が立ったとかそういった事ではない。ただ純粋にその語群が久しく聞いてなかった類のものだったので、疑問に思っただけ。
そして疑問は即時解消を心情とするゆえに彼は問う。

「そういう言葉を聞くのは久しぶりだ。どういった理由でまたそんなセリフを吐こうと思ったんだい?」

「え?……別にその……」

予測されたリアクションとは異なる回答、思わず言葉を詰まらせるアーニャにフェイトの追撃。

「最初のころは『石化魔法なんて悪魔と一緒』とか『なによ、その目は! 表に出なさい!!』とか……」

「ワーワー!! そんな若気の至りを穿り返さないでよね!? 小さい男はモテないわよ!!」

恥ずかしい過去、自分よりも優秀で生意気な余所者に対する、子供らしい典型的な反応。
フェイトが浮かべる回想のビジョンを必死にかき消し、アーニャは慌てて答える。

「何となく……あんたとこんな話しするのも最後な気がしてさ……」

本人に許可を取るでもなく、フェイトの隣で腰をおろして見上げるのは星空。
邪魔をする光が無いウェールズの山奥において、夜空は想像以上に騒々しくも美しい。

「センチメンタリズムかい?」

「かもね」

「回想に魅力は在っても実りは無いよ」

実にらしい返答に思わずアーニャからもれるのは苦笑。
どうして『イスタンブールの忌子』なんて呼ばれるのかも聞けていないが、過去に色々ありそうなのは明白なフェイトが口にすると真実味が増す。
たぶん普通の人が星の輝きや星座にロマンを求めるのに対して、恐らく星座の位置から自分に居る場所と日付の確認とかをしていそうだ。

「僕は生まれた時に魔力を暴走させ、出産のために居た医師・助産婦・祖母・母親などなど、合計11人を石化した」

「え?」

まるで日記の一ページを読み返すような軽い口調。淡々と告げられるべき真実のみがアーニャの記憶にしっかりと刻みこまれる。

「嘘……それって生まれてすぐ魔法を使ったってこと? しかも石化は古代ギリシャ語上級魔法……」

「僕を始め、どんな魔法使いにもいまだに解除できずにいる。生まれて直ぐに凶行、解けない呪い。
 隠蔽したいおぞましい存在であるが故に僕は『イスタンブールの忌子』なのさ」

ずっと知りたいと思っていた事柄はあっさりと本人の口から告げられ、アーニャはどんなアクションをとればいいのかも分からない。
フェイトはそんな事実の跡にあっさりと付け加える。

「だけどそれすら過去の回想。実りなき魅力もなき行為さ」

「……こうして私と話してるのも実りのない過去になるって訳ね!」

何を聞いてるんだ!? 本人には全く変わらない調子だが、凄まじく重い過去を話してくれている。
それが何を意味するのかは分からないけど、もうちょっとシリアスに……それこそセンチな感じで乙女チックに受け止めるべきなのでは!?
アーニャのバカバカバカ!!


「実りは無いね。だけど魅力ある回想として足りうるよ」

「そっか……」

「そうさ……」

魅力あるか……えへへ~♪





「……やっぱりウェールズは星がきれいな場所だったんだな」

降り立った羽田でフェイトは呟いた。人工の明かりが余りにも騒がしく、星は余りにも遠い。
本当に魅力ある存在となったお節介な同級生との一時を回想し、すぐさま記憶の本棚に整然と納めて歩を進める。

「行こう、マホラへ」





そしてフェイトじゃなくて病んでるネカネさんやツンデレアーニャを書くのが楽しいんだって気がついた(遠い目




[20671] 第三話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48
Date: 2011/02/07 18:17
最近の私、輝いてる……嘘です。
謎の連休にインフルエンザでの強制休日が重なっただけです。









その少年は電車の始発から乗っていたが、終点が近づく麻帆良学園都市の敷地へ入る頃から、減ってきた乗客の中で違和感を増してきた。
正確にいえばギュウギュウに詰まっていた空間に空きが出来ただけなのだが、そんな事は実に小さな案件。
周りには学生服、如いてはこの路線上に位置するエリアの都合上から女の子が多い中で、彼は異彩を放っていた。

年は10歳に届くか否か?という微妙なライン。日本人ではない事が瞳や髪や肌の色から容易く推測できた。
身を包むのはスーツ。淡い色彩 アイボリー色のジャケットとズボン。血のように赤いネクタイは、清潔な白のワイシャツの首元でしっかりと止められている。
その上からは白いロングコートとストール。足元には古い革製の旅行鞄 トランク。

多くの異常を内封する巨大な学園都市に向かう電車の中であっても、その少年は異彩を放っていた。
言葉にするのは難しい事なのだが、その姿を見ていた誰もが理解している。
少年である事、外国人である事、スーツである事。そんなことで彼がめだっている訳ではない。
何かもっと深い部分で違っているのだ……と。


「ねぇ? ボク?」

「?」

「「「「「!!」」」」」

集まる視線の中、少年に向けて発せられた言葉。声の主は何処にでも居る女学生。
声をかけられた少年は首を傾げ、他の乗客からは驚きと称賛の声。気には成っていたが、声を掛けられない状況の打破。

「この先は麻帆良学園の中でも女子部が集まるエリアだよ。降りる駅を間違えたなら駅員さんに言って…『ありがとう』…っ!?」

外人然とした外見からは信じがたい綺麗な日本語。平坦な視線からは観察されているような印象さえ受ける。
言葉にも表情と同じく起伏がなかったが、そんなまま放たれた感謝の言葉にはいわゆる『ギャップ萌え』が生み出す破壊力がある。

「見知らぬ外人の身を案じてくれたのかい? ありがとう、お嬢様。」

『お嬢様』なんて日本人的な普通の感性をもっていては決して口にできない言葉だろう。
そんな単語に思わず顔を赤らめて、悶絶する女性徒を観察するように見ながら、少年 フェイト・アーウェルンクスは続けた。

「でも心配いらない。僕の行く先はこっちなんだ。麻帆良学園女子中等部……そういう場所」









「……」

仕事場の最寄り駅、その入り口近くの喫煙スペースでタカミチ・T・高畑は紫煙を吐き出した。
彼はいま人を待っている。新人の教師であり、魔法学園を卒業したばかりの魔法使いの卵を。
本来ならば彼の人柄からしてこう言った場面に立ち会うのは喜びを感じるはず。
なのに彼の顔には重く辛い色を湛えている。全ては数日前に渡されたその教師であり、修行に来る若者の写真が問題だったのだ……



「学園長! これは一体どういう事ですか!?」

「どうもこうも無かろう? 全てが正式な書類、しかも気心知れたウェールズの友からの手紙じゃぞ」

「しかし!!」

「絶対に君が考えている人物との接点はない。これは生まれであるイスタンブール魔法学校からもお墨付きがあるんじゃよ」

「……分かりました。ですが迎えにはぜひ私を。この目で見極めなければ気が済みません」

「あい、分かった。だが昼間からもめごとは勘弁じゃぞ?」



常に有効的な関係を築いてきた学園長とあんな悪い空気になったのは何時以来だろうか?
そしてこれからの事を考えるとさらに気が重くなり、自然と煙草を消耗するスピードも速くなるというものだ。
半分は入っていたはずのケースには空白が目立つ。約束の時間よりも早く来てしまったのだから仕方がない。

「喫煙は貴方の健康を害する恐れがあります」

「!?」

冷たい声だった。ふざけた事を言っているのに笑っていないような声色。

「箱にも書いてあるのに、どうして止められないのだろうね?」

慌てて顔を向ければ近くのカフェのオープンテラス。当然の風景 見慣れた日常の一コマとして処理していたはずなのに、そこに居る存在に気がつかなかった。
年を10に届くか否かという少年。老人のような白髪。整った顔立ち。

「君が……」

「なんだか警戒されていたみたいだから、少し様子を見させてもらったよ」

ピッチリと身に付けたスーツ。横に置かれていたのは古びた皮の旅行鞄。絵になるように手に持ったコーヒーのカップ。
だが駄目だ。自分が考えている人物とは何の関係が無いとしても、その目だけは許容できない。

「悪名を轟かせているつもりはあるけど、個人的にそこまで嫌われる覚えはないんだ」

全てに対して価値を見出していない冷たい瞳。氷のように解ければ消える冷たさでは無い。鉱石が持つ永遠の鈍い輝きと永遠の冷たさ。
自分に向けられる悪意にも、向けられている自分にも大した興味がないという目。
魔法世界を弄び、幾千もの命を無碍に散らし……自分の命にすら頓着がない瞳。

『アレ』と同質の目だ。












「案内の彼には大分嫌われてるみたいだ」

案内されるまで終始無言だった事を鑑みて、フェイト・アーウェルンクスは通された学園長室でまずそう呟いた。
そして目の前にいた不思議な頭部についての思考を巡らせる。魔法の副作用だろうか?と

「ほっほっほっ、何やらイヤな思い出があるらしくての。どうか気を悪くしないでやってくれ、フェイト君や」

「嫌われるのは馴れているからお構いなく。僕は『イスタンブールの忌子』だよ」


『全く珍妙な取り合わせだわ』

当事者以外に不幸にもこの場に居合わせることになった源しずなは内心でそう呟いた。
魔法世界にもこの人在りと知られる大魔法使いにして、普通の学校としても魔法学院としても有名な麻帆良学園の長たる近衛近右衛門
そしてそんな人物を前にして、もっと言えば自分の一生を左右する立派な魔法使いを目指す修行開始を前にしても動じないこの子。
ここに来る魔法使いの卵として名前を告げられた時、魔法教師の誰もが息を呑んだ恐るべきネームバリュー。
自ら名乗った通り悪名高き『イスタンブールの忌子』。生まれた瞬間に上級魔法 石化を暴走させ、十人を超える人間を永久石化。
それ以降は優秀すぎるほどに修練を怠らず、十歳を前にして忌むべき力 石化魔法すら使いこなす異能の天才。


「とりあえずは様子見じゃな。中等部を中心に英語の教師をやっておくれ。担任を持つのも貴重な体験じゃろうから、2年A組も任せるぞい」

「少しばかりトルコ訛りがある英語で良ければ……修行であれば是非も無いけどね」

「よろしい。ではしずな君、案内してやってくれんか?」

そこで自分に矛先が向いたしずなは先ほどの思考を一切表に出さずに笑顔を浮かべて頷いた。
2年A組へと至る道中にて写真付きの名簿を渡したり、『困ったことがあったら言ってね』と声をかけながら彼女は思考する。
自分でもイヤな女だと思いながら、この人物との距離の置き方を念入りに考えていた。


「早くみんなの顔と名前を覚えられると良いわね」

「目的地に着くまでには覚えるよ」

「……」


試験内容を決定する運命の精霊の意思はほぼ無条件で快諾されるのが常であり、今回もそれに従ってこそいるが、やはり人心はそうはいかない。
イスタンブールの忌子のネームバリューは大きいし、誰よりも他者の信頼厚いあの高畑君の反応が不味かった。
会議でこの子の写真付きプロフィールが配られたら、テーブルに拳を叩きつけるくらいの同様っぷり。
今日とて私が迎えに行くはずだったのにわざわざ変わってまでの敵情視察。
彼は詳しい理由を私たちには語らなかったけど、それだけの反応をする理由をこの子は持っている訳だ。
本当ならば厳しい試練 十歳の子供が学校教師なんてモノに挑むのだから、親身になって助けてあげたい。
だけどあまり深入りするのは良くないだろう。本人と会ってみてその感想が大きくなった。

「ここが2年A組よ」

歩きながら写真付き名簿を見つめていたフェイト君もその言葉に顔を上げる。
扉に手を掛けたところで思い出したようにこんな事を呟いた。

「貴女の立ち位置が僕は一番うれしい」

「え?」

『優しくしてくれてありがとう』と言う意味だろうか? そりゃ最初に遭ったのがあんな珍しい態度の高畑君じゃそう思うのも……

「優しく接する『ふり』をして、一歩引いた場所に居てくれる」

「!?」

心を読まれていた? 魔法!? いや……流石にそれくらいは私でも分かる。
きっと経験。私みたいに考えて、私みたいに接してきた人物もたくさんいたのだろう。


「そういう人が一番気が楽なんだ」


そして何より恐ろしいのは『ふりでも良いから僕には近づくな』と平然とした顔で言えてしまう事。
固まった私にはすでに興味も無いと既に前を向いてドアに手を掛けている。
この子は教師なんてできるのかしら?……そういう私も駄目な教師なのかもしれないけど……












頭上に落下物。使用済みの黒板消し。古典的な歓迎トラップ。
古典的だけど本気で仕掛ける奴らの気が全く知れない。恐るべき日本の女学生。


さて、これはどう対処するべきか? 
回避する→→大き過ぎる挙動 Non。
払い除ける→→せっかくの一張羅が汚れる Non。
掴み取る→→この年がするアクションか? Non。
甘んじて受ける→→→→被害は顔だけ、洗えばとれる。
子供の顔面をチョークの粉塗れにしたという『貸し』を早々に作っておくのも悪くない。

よし、決めた。


ここまで一秒とかからず。


フェイトは軽い衝撃を頭部に覚え、衝撃の割には多くの白い粉が飛散するのを確認。
使い古した黒板消しは軽い衝撃だと、吸着した粉を飛ばし憎くなる事を考えて、わざわざ新品を使用しているらしい。
そんな余分な事まで考えて、一歩教室内に足を踏み入れようとした時、彼は足元に堂々と張られた縄に気が付く。

「「「「「……」」」」」

突き刺さる無数の視線に一切動じることなく、その縄の先にある金タライを確認。
そこから連動する形で吸盤付きの弓矢発射装置も視認。
さらにそこから延びるピアノ線は床に……あぁ、跳ね上げ式なのか。レベル高いな、さすが技術立国日本。

「……」

そこから数秒先ほどと同じく消去式の思考を行った結果、彼は自分が受け持つクラスの面々に向かって、初めての言葉を決定した。

「僕はこれらのトラップに全て引っかかるべきなのかい?」


数秒の沈黙。

「うぅ……ごめんなさ~い!」

室内で在る事を鑑みて、女子中学生とは思えない加速を魅せた某シスター見習いが、フェイトを一度教室から押し出してドアを閉める。
ここから先の数十秒間の事はフェイトとしずなには見えなかったが、室内が大騒ぎする音だけが聴こえて来た。
『どうして解除しちゃうの!』とか『あんな目で見られたら謝るしかないっしょ!』だの。
やれ『だから最初から仕掛けなきゃ良かったんだよ』やら『そんなの良いから早く金タライ取って!』
挙句の果てに『ギャー暴発した!!』とかもうお祭り騒ぎである。

「自己紹介をする前にこのクラスの事が何となく分かったよ」

「貴方みたいに出会い頭で彼女たちを御する人もそんなに居ないわよ?」

「……顔と髪を洗ってくる」



結局三分ほどをお互いの良好な関係の為の下準備に費やして、今度こそ室内に足を踏み入れることに成功した新任教師は自己紹介。
クラス中 31人分の好奇の視線を浴びながら、長い道中の132分の1の時間を費やして考えた言葉。


「はじめまして、僕の名前はフェイト・アーウェルンクス。色々あってこのクラスの担任をやることになりました。
 みなさんとはお互いに『害』の無い『程度』の関係を築きたいと思っています。どうぞ、よろしく」




フェイト、つまらね~(なに



[20671] 第四話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48
Date: 2011/02/07 19:45
やっぱりフェイト主役だと盛り上がりに欠けることが判明しました。










「はじめまして、僕の名前はフェイト・アーウェルンクス。色々あってこのクラスの担任をやることになりました。
 みなさんとはお互いに『害』の無い『程度』の関係を築きたいと思っています。どうぞ、よろしく」



いまいち言っている事の意味が理解できなかったり、もしくは理解できて首を傾げたりしながら、彼女たちが漏らすのは小さくも大きくも無いどよめき。
もしもっと子供『らしい』子供の先生ならば、焦ったりするようなそぶりでもあるならば、反応は違うのだろう。

「おぉ! 本当に子供で先生なんだ! 幾つ?」

「今年で10になる」

「えっと……ご出身は!!」

「イスタンブールの片田舎。育ちはウェールズのド田舎」

「それって何処ですか!!」

「トルコとイギリス。
イスタンブールは東と西が交わる場所だからモスクから教会まで見る物は多いかな。
 ウェールズは……草原だね。そこらじゅう緑色の」

質問に対する答え。余りにも澱みない。

「兄弟とかは?」

「心配性で弟離れが出来ない病気がちな姉が一人」

口にするのも躊躇われるはずの偽りで危うい姉弟関係も容易く口にする。
どうせ確認する手段なんて一般の女学生には無いのだから。

「はいは~い! 趣味は何ですか!?」

「読書かな。体を動かすのも嫌いじゃないけど」

当たり障りのない意見。インドア派、アウトドア派 どちらにも得られる一定以上の共感。
全てがある程度計算されていた答え。盛り上がり過ぎるのは良くない。これからの事を考えれば。
2年A組というのはお祭り好き大集合たる麻帆良学園全体から見ても、かなり高レベルのお祭り好き集団である。
故に『外国人の子供の教諭』なんて現れれば、それこそ押すな押すなの大騒動になる事が予想されていた。
だがそれが無い。誰も席を慌てて立つことも無かったし、質問もフェイトが一つ答えていくのを待つだけ。

理由は様々あるだろうが、もっとも大きな影響はフェイトの雰囲気。
『近寄るな!』という有毒動物がもつような分かり易い警戒の色を発している訳ではない。
むしろ『近寄らない方がいいよ?』という穏やかな程度の物と言えるかもしれない。
だが穏やかであるが故に落ち着いて受け止められる『凄味』というものがある。
凄味を放つ10歳と言うのも色々と問題だと思われるが、分かりやすく表現するならばいわゆる『クール』というものだろう。

もっともそれは反応の代表的なモノであり、少数な感想としては某ショタコン委員長が妄想を加速させていたり、某ロリ真祖が鼻につく石化の匂いに顔を顰めたり、某バカレッドが愛しい高畑先生を強奪したガキンチョにプンスカしている程度。



「質問はこれくらいかな? 後でも受け付けるけど」

勢いが落ちて来たところを見計らい、フェイトは言う。クラス中から上がる不満の声。
ソレもある程度は計算の内。それを手で制して続ける。

「君たちには平凡で詰まらない授業かもしれないけど、僕には人生初の授業なんだ。柄にもなく少し緊張している」

もちろん嘘も方便。別に失敗したった死にはしない位の認識。
しかし嘘も方便。形だけでも困った様子。年下と言う優位を生かす戦術。
大人っぽくて取っつきにくいクールなアイツの新しい魅力発見作戦。

「はい、みなさん! フェイト先生も困ってらっしゃいますわよ! さっさと準備をしなさい」

直ぐに食いついてきた人物の名前を思い出す。雪広あやか、たしかクラス委員長だったはずだ。
こう言う人間が一人でも居てくれるとフェイトとしては大変に遣り易い。すぐさま味方につけておくべきだろう。

「ありがとう、雪広あやかさん」

「あら!? もう名前を……感動です!」

本気で感動しているらしくガッシリと手を掴まれ、涙まで浮かべるというアクションにフェイトは若干困惑。
予想以上の取り込みに成功? いや……身の危険も感じるのはどうしたことか?

「あ~ぁ、ショタコン委員長が興奮しちゃって……」

どこからか聞こえたそんな言葉にビキリと空気が凍った。
声の主は茶系の髪をツインテールにした左右の瞳の色が違う オッドアイの少女。

「あら~明日菜さん。それはもしかして私の事ですか?……このオジコン」

一瞬の沈黙。

「「……」」

その後、大爆発。

「「■■■■!!」」


取っ組み合いのケンカを始める二人の生徒を観察しながらフェイトはため息。
ある程度ロジックを検討しておいたとて、人間というのは64億人いれば同じように対処できる物など本当に僅かだ。
そしてこの決闘を眺めながら賭け事を始めるこのクラスに対する認識も改めなければならない。

「雪広さんに神楽坂明日菜さん。二人の仲がいい事は良く分かったから、性癖暴露はそろそろ止めてもらっていいかな?」

本人悪口やジョークのつもりは全くなく、ただ事実としてそんな事を告げる。

「何が性癖暴露よ!!」

「あぁ……フェイト先生にまでそんな風に見られていたなんて……」

言われた方といえば片方は怒りでテンションが上がり、片方はショックでテンションが下がり、差が大きすぎてケンカの続行は不可能と相成った。
ニ強を御してしまえばあとは難しいことは無い。

「さて、面白くも無い価値ある平凡な授業を始めよう」

生徒よりも真新しい教科書を広げて、生徒よりも小さな子供は、生徒たちよりも冷めた目でそう宣言した





「初日ならこんなものなのか」

麻帆良の日本離れしたレンガ造りの街並みを夕暮れが染め始め、多くの学校で授業が終了したころ。
ローマを彷彿とさせる石像が中央に据えられた広場 石像の足元でフェイトは大きく伸びをした。
これからもう一度学園長室に顔を出し、初日の調子なんかを報告したり、今日から寝泊まりする場所を確認する必要がある。

「でも『イスタンブールの忌子』という看板が無いだけやり易いんだな」

魔法関係者と相対する時、彼を見る目は『変なガキ』である前に『イスタンブールの忌子』なのだ。
目付きが悪くて冷めた態度の子供には危険がない。石化魔法を暴走させた子供には危険がある。
当然のことなのだがその分類は魔法関係者だけがするのだ。今日出会った学生たちにはフェイトは唯の『珍しい子供の教師』に過ぎない。
そしてその待遇を僅かながらにも『心地よい』と考えている自分に驚きを覚えるだけ、客観的で冷静な視点を持ち得るのがフェイトである。


「ん?」

そしてそれが目に入ったのも全くの偶然だ。そろそろ学園長室へ赴こうと立ち上がった視線の先。
石造りの階段の上に山積みにした本を持ってヨタヨタと下り始めた少女の姿を確認。
既に写真付き名簿から2年A組の生徒の顔と名前は完璧に頭に入っている。

「宮崎のどか」

それにしても危険な上に非効率的な運び方だ。あの量の本を効率的に運送するなら二つの袋に入れて両手で一つずつ持つべきだろう。
いったい何をどうすればあんな風に一列で積み上げようと思うのだろう?

「キャー!!」

そして案の定、滑った。しかも階段の外側に落ちる形。アレではまともな受け身が取れない。
骨折か……下手したら頭部をぶつけて脳挫傷の危険性もある。さてフェイト・アーウェルンクスはどうするべきだ?
普通に考えればこの距離で、あの高さから落ちる人間を、この年で子の体格の人間が走って行って受け止める事は不可能だ。
よって、宮崎のどかが固い石畳に全身を打ち付けられる様子を眺めている事しか出来なくても、何の問題にもならない。
しかしながらフェイトは魔法使いである。しかも天才という部類に入る生き物であり、身体強化系の魔法もこの年ではかなり使える。
それを全力で行使すれば在りえない加速であの落下の下に滑り込む事も今は不可能ではない。
しかしこれには問題がある。『魔法の秘匿』という魔法使いの常識だ。これは魔法を知らない一般人にその存在を知られてはならないという事。

それを優先するのであれば彼女が落ちるに任せてしまっても良いのかもしれない。
だが立派な魔法使いを自称する魔法使い共は同時に『人助け』を叫ぶのである。
いま考えてみても全く分からないのだがつまり『魔法を知らない人の為に魔法を使い、それを彼らには気づかれてはならない』ということ。
全くもって相反する内容である……まぁ、そんな事はどうでも良い。幸いにも今は周りに多くの人影がない。

それにもっと掘り進んで推測して見れば、ここで助けない事の方がマイナスだと気がつく。
何せ魔法教師には悪名を轟かせており、この場にいて助けなかったという事になれば、自分が否応なく罵倒されるのは目に見えている。
普通の10歳魔法使い見習いでは身体強化など出来ないのだから、実力さえ隠しておけば文句を言われる云われは無いように見える。
だがそれも自分が普通の魔法使いだったときだけ。全くもって面倒な忌名。

「ふぅ……」

ここまでの思考には1秒も費やしていない。吐き出したため息が風に溶ける前に駆け出す。
『戦場の舞踏』何種類か存在する身体能力強化目的肉体魔力付与術式の中でもピーキーな部類。
それゆえに高性能。子供離れどころか人間離れした速度で落下中ののどかの下に到着。
足と同じく強化された両腕で自分よりも大きく重いはずの少女をフェイトは容易くキャッチ。

「大丈夫かい?」

「え? あれ?」

いまいち状況が理解できないようなのどかをゆっくりと下に降ろすと、凄いスピードで駆けよってくる問題を発見。

「ちょっと……アンタいま何かしたでしょ?」

神楽坂明日菜……見られた。ボーとしているのどかから距離を取るように引き摺られて連行。
しかし幸いにも使ったのは身体能力強化の魔法。風や水でのどかを受け止めていたら誤魔化すのには遥かに面倒 もしくは不可能になっていただろう。

「何かって?」

「だって! アンタの居た場所から階段まで結構な距離よ! 走って落ちるのに間に合うなんておかしいわ!!」

確かにその通り。普通ならば絶対に間に合わない。普通を何とかしてしまうのが魔法であり、それを使うのが魔法使い。

「そうかな? 体は鍛えてる方だし、君が感じたよりも僕は階段側に居たのかもしれない」

「嘘よ! そんな程度じゃ!」

だけど魔法があるという前提。もしくは今までにそれを匂わせるミスを犯していなければ、一般人では辿り着かない結論だ。

「他にどんな理由がある? 僕が非科学的な何かでも使ったのかな?」

「それはその……超能力とか?」

「それこそ在りえないよ。もう良いかな? 宮崎さんも困ってるみたいだし」

超能力だろうが魔法だろうが『早く動いた』程度では少々インパクトに欠ける。
元より口下手でバカレッドたる明日菜には今の現象の問題点を的確に言い表す事も出来ないだろう。
それに今は二人っきりでも無い。のどかの存在が明日菜にこれ以上の追撃を思い止まらせた。

「もう! しょうがないわね」

踵を返す明日菜の背中を見ながら思考する。今は誤魔化せたけど、あとあと追求してきたら面倒だ。
一般人に魔法がバレた時の対処として、忘却の魔法というのがある。忘れさせる度合いにもよるが、『小さな疑問』くらいならば誤魔化す術は簡単だ。
詠唱も簡易、魔方陣や媒介も必要無い。ここで唱えれば効果を及ぼすまでの時間も僅か。

「……」

沈黙しているかのような詠唱。前を歩く明日菜に気が付いた様子は無い。
フェイトの左中指に嵌められた銀の指輪 そこに刻まれた古代ギリシャ文字 『ゴルゴンの瞳に口づけ』が鈍い石色の光を放つ。

「!?」

光の刹那、魔法は発動し完了した。それは間違いない。だがフェイトが浮かべるのは驚きの表情。掛け間違えるなんてありえない初級の魔法 それが弾かれた。レジスト!? いや、彼女が魔法を使った様子は無い。
使えるのならば先ほどのフェイトの動きに驚きはしない。つまり魔法関係者ではないはずだ。
それにレジスト 抵抗などという生易しいレベルでは無かった。消されるような感覚。確かめなければ。

「……っ!?」

先ほどよりも力を込めてより確かに呪文を詠唱していた時、不意に割って入ってくる人物。
ガシリと掴まれた左腕、目の前にいつの間にか立ちふさがる長身の男性。

「なんのつもりだい? 高畑・T・タカミチ」

フェイトは今にして朝からの怨敵の名前に行き付いた。
大戦の英雄 『赤き翼』の一角で在り、現在は『悠久の風』のトップエース。
気と魔力という禁忌の融合を会得した究極なる闘法を用いると聞く腕利き。
今朝の殺気の意味も良く分からないが、どうして今自分の魔法発動を止めているのか理解できない。

「君こそ何のつもりだ。明日菜君……いや、教え子に魔法を使おうとするなんて」

「君たちの大好きな人助けで彼女に魔法を見られた。大した魔法じゃ無かったから少し忘却の魔法でも掛けようと思った程度さ」

「っ!」

タカミチの顔には焦りの色。どうやら自分の早とちりに気が付いたらしい。
慌てて離された左手を払いつつ、フェイトは追撃。別に嫌われるのには慣れている。
問題は自分の魔法を消し飛ばした明日菜の方だ。

「いい機会だから聞いておこうかな? 神楽坂明日菜に魔法が消された」

「っ!? それは……」

脈あり。その理由をタカミチは知っている。そしてそれこそがわざわざ飛び出してきて、自分の腕を掴んだ理由だとフェイトは理解。

「本人は魔法も知らないんだ。レジストじゃない。何か生まれ持った能力でも……」

「黙れ。『ただの』魔法使い見習いに教える事柄じゃない!!」

正義の味方は熱くなり易い。フェイトはもはやその言葉を聞いた時点でこれ以上の追及に利益が無い事を確信した。
肩を竦めて言葉を納める。もはやそのアクションだけで唯の女子中学生では無いと語ってしまっているのだから。

「あまり大きな声は出さない方がいいよ、ナイト様」

「?」

「どうして守りたい姫様が戻ってくる」

「!?」

タカミチが不味いと思った時にはもう遅い。1時間程度の短い付き合いでも明日菜の性格は理解している。
頭よりも先に体が動く人種だ。後ろに付いて来ていると思っていた要注意人物が消えていたら、間違い無く何かやらかしていると思って戻ってくる。
そこから愛しい高畑先生の声など聞こえたら尚のことだ。

「あれっ!? 高畑先生!! なにしてるんですか、このマセガキと!!」

焦るとストッパーが外れる性格らしい。『マセガキ』と心の中の日本語辞典に登録したフェイトは何時も通りに無表情。
『説明はお任せするよ。君が招いた厄介事だ』と、タカミチに視線を向ける。

「いや! たまたま通りかかってね。教師初日の感想を……」

「高畑先生が担任じゃなくなって寂しいですけど、あのガキの面倒は私がしっかり見ますから!」

「そんなに気を遣わなくても大丈夫だと思うけどね」

何やら自分の面倒をみる事を勝手に進言している明日菜と困った顔をしているタカミチを捨て置いて、フェイトはさっさと歩み去ろうとした。
それを止めるのは先の二人からしたら控えめで……好意的な声。

「あの~フェイト先生。実はこれから先生の歓迎会が……」

「歓迎会?」

『面倒だ』
なんて口が裂けても言えない。面倒なのは間違いないが、初日からそういうお誘いを無視するのは今後の円滑な関係に支障をきたす。
元より最悪なスタートを切ったウェールズではもはや回復不可能だったが、ここでいきなりそこまで落とす必要もあるまい。
明日菜いわく『マセガキ』で留めておくべきだ。

「それは嬉しいな。お世話になるよ」

可能な限り愛想が良く『見える』顔を『作って』、フェイトは何故だか嬉しそうに先導するのどかの後に従う。
なんかラブコメを始めたタカミチと明日菜を置き去りにして。


こうして暮れる初日。









タカミチと明日菜のカップルが好き過ぎる自分発見。
そういえばフェイトの家はどうしようかしら?



[20671] 第五話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48
Date: 2011/02/24 21:26
ネギポジにフェイト……それ以外のオリジナル要素が!!







フェイト・アーウェルンクスが重視する『家の条件』。
まず屋根がある事。それに壁があるとなお良い。電気と水道、ガスが通っていれば最高である。

「悪くない」

オランダの海抜並みに低いハードルを彼に与えられた新居は容易くクリアーしていた。
ただ問題があるとすればそこは女子寮の一角である事くらいなものである。
本来ならば倉庫として使われていた一室が彼に与えられたのは、深いのか浅いのか定かではない学園長の思慮が原因だった。


『他人と接する時、何処か距離を置こうとする君は教え子たちに揉まれて、柔らかくなっちゃえば良いのさ』

小難しい理屈を並べ立てていたが、簡単な言語で表わせば大体そんな感じの意味になる。
もちろん少なくない数の教師陣が反対の声を上げたが、知恵と権力で勝る妖怪相手に砂上の楼閣は容易く陥落。
『良いんじゃないか?』とか『さすが学園長!』とか『秩序はいま死んだ』なんて言葉が聞かれるに至り、フェイトもすぐに諦めることにした。


物置として使われていたとはいえ床もフローリングだし、慌てて整えたにしては家具を完備している点でも評価が高い。
いや、家具を完備しているというよりも倉庫として使われていたのだから、まるで家具屋のショールームのようなありさまだった。
そこから必要な物だけをセレクトし、並べたのだろうが素人がそれらしく並べようとした結果、違った意味でショールームのようなありさま。
違った意味とは綺麗に並べすぎた生活感の欠如によりショールーム、もしくはセンスの無いドラマのセット。

「まぁ、そんなのは小さな事さ」

フェイトがコートを掛けたハンガーを納めるのは、学校の更衣室に在りそうな業務用の金属製ロッカー。それが×2
反対側の壁にはこれまた個人の部屋に、似つかわしくない大きな本棚が壁を覆っている。もちろん中身は空っぽ。
部屋の中央にはこれまた似つかわしくない古めかしいアンティーク調の丸机。
それと対をなす椅子が三つ。もちろん一人暮らしをするフェイトには無用の長物。

家具の一つ一つが異彩を放ちつつ、ドラマのセットのような作りモノ臭を漂わせ、その主が放つ浮世離れした雰囲気と相まって、さらに加速する違和感。
数分前にガスコンロにかけていたヤカンが告げる甲高い沸騰を告げる音。完成した熱湯が注がれるのはインスタントタイプのコーヒーパック。
本来ならば豆をひく所から始める本格的な味を楽しみたいフェイトだったが、この不可思議な部屋を与えられて僅か数時間、流石に難しい。

「飲めないよりは良いだろう」

口の中に尊大なほどの苦みを残すこの飲料を一日七回は飲めるほど好んでいる。
水道とガスが通っている事に本当に感謝しつつ、腰掛けるのはアンティーク調の椅子。
物置代わりの部屋に押し込められていたにしては座り心地が素晴らしい椅子に身を沈め、フェイトが手に取るのは数少ない私物。
ここに来るまでの彼の手荷物 古めかしい皮の旅行鞄が一つだけなのだから、それは本当に貴重な私物。

「■■■♪」

不意に室内に響くのは若干の音割れした電子音 インターホンの音。

「? はい?」

全く覚えのない来客。フェイトは首を傾げつつ、扉越しに外を窺う。見えたのは見覚えのある顔が三つ。
そして扉一枚越しにならば聞こえる彼女たちの会話。

『夕映~やっぱり先生も迷惑だろうし~』
『何を言っているですか、のどか!!』
『っていうか今から逃げ出したらピンポンダッシュだよ! ほら、突撃!!』
『まってハルナ! 心の準備が……』


「こんばんは」

余り長い事コントを鑑賞していても仕方がないと、フェイトは先手を選択する。
内側から開けられた扉にビクリと外の三人組は驚きの表情。

「夜分に淑女が三人も来室とは男冥利に尽きる」

変わらない表情から繰り出された英国ジョーク? それを受けた三人の反応はそれぞれ。

「言うね、先生!」

「外国の方だからか、テレが無いです」

「淑女……あうあう~」

眼鏡の少女 早乙女ハルナはどこか嬉しそうに、黒髪長髪の少女 綾瀬夕映は淡々と、前髪が瞳まで隠した宮崎のどかは真っ赤。
そんな教え子の反応にも対した興味を抱くでもなく、フェイトの口から出るのは確認の言葉。

「何か用があったのでは?」

「そうそう!」

「実は今日の授業で質問が!」

『どうして授業の質問に来て宮崎のどかを前面に押し出すのだろうか?』
さっぱり理解できないまま、押し出されたままアタフタしているのどかを観察してみるが、やっぱり答えは出るはずもない。

「何せ初めての授業だからね。分かり難い点の一つや二つあるだろう」

「そっそんな事はありません!!」

フェイトの言葉に思わずのどかが上げるのは否定の叫び。

「?」

そして言われた方が首を傾げる。当然彼は額面通りに言葉の意味を理解する。
授業の質問に来たからには理解できない部分があったはずだ。それ以外に教師の部屋をわざわざ訪問する必要はない。
しかし目の前の教え子は『分かり難くなど無かった!』と声高に宣言したのである。

「っあ……」

「つまり何の用事なの?」

「「……」」

真っ赤どころ己の失策に気がついて真っ青になっているのどかと、それを観察する瞳が変わらない色のフェイト。
そして頭を抱える付き添い兼仕掛け人の親友二人。しばらくの沈黙の後、ハルナは強硬策を展開。

「え~い! なにはともあれ、フェイト先生!!」

「なに?」

ビシリと指を指して首を傾げるフェイトへ、自信満々とハルナは言い放つ。

「何時まで可愛い教え子をこんなところに立たせておくつもり!? 英国紳士なら部屋に入れた方がいいですよ!!」

「……どうぞ」

もはや完全なる唯我独尊。言いたい事だけ、伝えるべき事だけを簡潔に言い切る。
もうこれ以上立ち話をしたところで、フェイトにはどんな利点も在りはしない。問題点を上げるならば、せっかく淹れたコーヒーが冷めてしまう。
ならばさっさと彼女たちを部屋に入れるか追い返すかしなければならないのだが、やはり今後の事を考えると追い返すのはマイナス。
『態度が気に入らない!』などと無自覚な部分でマイナスを背負いこんでしまうことがフェイトとしては、自主的に回避可能な部分は確実に実行するべきだ。

「おじゃましま~す!」

「おじゃまするです」

迷い無く突撃していく親友たちのようには行動できないのどかは、チラリとフェイトの顔色を窺う。
良かった。機嫌を損ねてしまった訳ではなさそう。せっかく柄にも無く好きになって、柄にも無く強気にアタックしているというのに。
これで印象を悪くしてしまっては本末転倒。今まで見た時と『ずっと』同じ表情……あれ?
ずっと同じ……初めての授業も、私を助けてくれた時も、歓迎会でも、この急な訪問を受けても……み~んな同じ。
緊張していないの? 安堵していないの? 嬉しくないの? イヤじゃないの?

「あれ? それって凄く変なんじゃ……「入らないの?」……っ!? おっおじゃまします!!」

本人の声で現実世界に引き戻され、のどかは慌てて扉を潜った。
今までの思考は全て、完膚なきまでに彼女の想像の産物だ。それを全て他人に適用するのは余りにも非常識で在り、礼節に欠けるだろう。
だがその妄想が全て真実だとしたら? ゾクリと恋する乙女の背筋に何かが駆け抜けた。



部屋に通されて一言目にハルナはそう呟いた。そして他の二人も内心で同意することになる。

「……変な部屋だね?」

「何せ来たばかりだからね? 元は物置代わりだったらしくて、家具バリエーションは豊富だ」

「いえ、これはバリエーションが多いというよりも無秩序・無法則ゆえの混沌だと言えるです」

片方の壁には何も入っていない図書館や書店サイズの本棚。
反対側にはアコーディオンカーテンと更衣室に在りそうな金属製ロッカー。
中央には円形のアンティークテーブルとそれと対になる椅子が複数。

「どうせ寝る程度の役割しかないんだから問題ないよ。教科書などを準備しておいて。ちょっとコーヒーを淹れてくるから」

「あっ! お気遣いなく~」

正直にいえばフェイトの部屋にあがりこんで、親友が彼との交友を深める事を目的としているハルナと夕映の興味は教科書になど無い。
図書館探検部に所属する故に二人の目に留まったのは本だった。テーブルの上にポツンと置かれた本。
何の躊躇いも無く開く表紙は皮造り。現れたページは唯の紙では無く、古めかしい羊皮紙。茶色がかり、無数の深い皺が刻まれている。
そこに描かれているのは見た事が無い文字。見た事が無い絵。

「夕映、これ……英語じゃないよね?」

「たぶんラテン語ですね。しかし読書好きとは言ってましたがフェイト先生、かなりの通です」

もちろん読めないのだがその特異な書物に読書好きのアンテナは大きく反応。
読むとはいえないままページを捲り続け、文字が蛇のようにのたくって見えてきて……

「そこまでにしておいた方がいい」

「「っ!」」

横から伸びた手がバタンとページを閉じる。我に返ってみれば人数分のカップを乗せたお盆を持ったフェイトが居た。

「それは魔法の書物。あまり熱心に読むと喪って逝かれるよ」

「え?」

「なんてね……冗談」

「あっ……もう! 先生ったら意外とお茶目だね~」

恐怖を誘う不可思議で突拍子もない発言→すぐさま否定の言葉、戯れという意思表示。
そこに隠された意図にはあえて触れない、戯れたつもりで一歩引いた事を誤魔化された本人が誤魔化す。
フェイトの読もうとしていた本=二人が飲み込まれかけた本はウェールズの隠し財宝=閲覧要注意扱いの魔道書→卒業記念に拝借。
笑いながら困ったような安堵した表情を複雑に浮かべ、誤魔化すためにフェイトのお凸に軽いデコピン。
コーヒーをテーブルの上に並べつつ、お凸をさするフェイトを見て起こるのは暖かな笑いの渦。
中心たる人物は極寒の心理状態だろうと暖かな状況というのは生まれる物らしい。

「あの~」

「?」

しかしそんな状況に満足できない人物が一人。本当なら話の中心に居なければイケない宮崎のどか。
自分を焚きつけて初の男性(男の子?)の部屋に連行してきた親友二人の方が盛り上がり、完全に蚊帳の外に置かれた自分に対する危機感。
頑張って部屋までお邪魔したのに報われない想いの大暴走。

「あの! 本がお好きなら!……その!……図書館島にご一緒しませんか!!」

「図書館島……」

親友の大爆発に本来の目的を思い出した二人からの援護射撃。

「そうそう! この麻帆良の図書館は凄いんだよ!」

「先生がお好きな本もきっと在ると思うです!!」

元よりフェイトはその存在を知っていた。それがあるからこそ詰まらない立派な魔法使いになる為の修業も受けたのだから。
魔法使いにとって……イヤ、人間が人間である限り知恵とは=で力と直結する→独自の世界観。
元より周りは敵だらけであるイスタンブールの忌子。力は在るに越した事は無い。

『「それは楽しそうだね。是非とも『君たち』とご一緒したいな」』

そんな一定量の好意を抱かれるだろう語群を喉から絞り出しかけてフェイトは思考。
熱っぽい視線、絡み付くほどの好意、余り覚えが無い感覚。その原因たるのどかを見ながら考える。
ここで三人に対して『好意』を口に出すべきなのだろうか?と。
一連の行動から考えるに他の二人は彼女の為にこの部屋に突撃を敢行したのであろう。
一部を覗いて彼女のアシストに徹している点。圧倒的に目的を違えている熱意。
彼女への感謝を優先して伝えるべきだ。差別は駄目だが区別は必要。

言語怪編。


「それは楽しそうだね。ぜひ『君』とご一緒したいな」

さりげなく差し出す手。英国紳士的なスマイルを目指した試作品の表情。
フェイトの馴れない行動に答えるのは花が咲き乱れるほどののどかの笑顔。
それを見て親友の大いなる武勲にハルナと夕映は頷き合い……



「そこまでですわ! 宮崎さん!! これ以上はフェイト先生と親しくするのはこの雪広あやかが許しませんわよ!!」

更なる突撃者 小さな男の子が大好きなクラス委員長の絶叫が奇妙な部屋に木霊した。














ウチ 和泉亜子は恋をしている。




「はぁ~」

こうして朝のホームルームの前でも愛しい彼の事が頭から離れない。
彼との出会いは偶然だった。いや、必然だったのかもしれない。
一目見た時から感じていた。私とは……ううん、普通の人とは全く違うと感じた。

『普通』

『脇役』

身に馴染む言葉であると同時に大嫌いな言葉。
取り分けて得意な事がある訳でもなく、人を引き付けるほどの魅力も無い。
得意以前に熱心に打ち込む事もせず、人の中心に居ようとする努力もしない。
全くもって普通であり、脇役で在る事を望んでいるようにしか思えない自分に驚愕を覚える。

そして同時に求めているのだ。

『主役』を……




『普通』⇔『異常』を。




そんな時に彼は来た。白い髪、冷たい瞳、子供→先生、変わらない態度。
キュンと来た。ときめいた。あんな風に成りたいと思った。一目惚れである。

「おはよう」

今日も今日とて平坦な声で部屋に入ってくる姿を見つめながらもう一度ため息。
絶対に他とは違う彼 フェイト・アーウェルンクス君の傍に行きたいと思う。
思うのだが……万年脇役兼普通体質が邪魔をするのだ。

「はぁ~」

さらに溜息。





亜子が好きだからしょうがない。
最近シュピーゲルシリーズのせいでサイバーパンク?とか言うのを書いてみたい(ぁ



[20671] 第六話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:9c20ba48
Date: 2011/03/05 23:53
そろそろこの話を赤松版へ、偽ラクス様をその他版へ移動させようかな?と思っております。













「そうか……上手くやっているようじゃの? フェイト君は」

夕暮れに染まりつつ在る麻帆良学園女子中等部の学園長室にその声は厳かに響いた。
見た目は仙人かぬらりひょん。中身は更にたちの悪い何か……もとい巨大な麻帆良学園の最高責任者にして最強の魔法使い 近衛近右衛門。

「はい……順調過ぎるほどに順調です」

答えるのは向かい合う形で立つ源しずか。手に持った資料を捲りながら、その人物に対する評価を読み上げていく。

「教師たちからの評価は『なぜ子供が教師を?』という物を除外すれば、おおむね良好。
 教え方などの技術面から必要な事を伝える能力まで大きな問題なし。
あの新田先生すら『一を教えれば五を理解する』と太鼓判を押しています」

次の紙を捲る→生徒からの評価のページ。

「生徒からの評価も一英語教師としては全く問題ないレベルです。
 『分かり難い部分を伝えれば、次の授業では分かり易くなっている』などの学習改善能力も高い。
 『子供先生、テラカワイイ』とか『なんという綾波レイ』とか『はう~お持ち帰り~』などの意見は無視して構わないでしょう」

最後のページ。そこに刻まれた文を読む一瞬、しずかの顔が歪んだ。
ある程度は予想していたが実際に目の前に刻まれると心に鈍い痛みが響く。
そんな感想すら当の本人は鼻で笑ってしまいそうなのだが……口から零れる。

「教師・生徒に共通する否定的な意見としては『人形みたいで気味が悪い』が挙げられます」

それを聞いた近右衛門は髭を撫でながらため息。

「ふ~む……こればっかりは中々の~」

「しかし、そんな評価を計算に入れても優秀であることに変わりはありません……私は合格点を上げても良いと思います」

そんなしずなの声に面白い物を見るような優しい声色で麻帆良を総べる妖怪は問う。

「ほっほっほ、君は彼の事が苦手だったのでは無かったのかね?」

そう聞かれたしずなは思い出したような困った微笑を浮かべて、こう返した。

「何時でも淡々としている彼を見ていると、わざわざ意識している自分がバカらしくなってしまって」

「なるほどの~さて……そんなフェイト君にはもう少し丸くなって欲しいの~だから試練を追加じゃ!」

もの凄く楽しそうに『試練』とやらが刻まれているだろう封筒を差し出すぬらりひょんに、しずなは内心で大きなため息をついた。





「なるほど……」

態度だけでその少年 フェイト・アーウェルンクスは『大きな問題は無い』と宣言しているようですら在った。
たとえどんなに難易度が高い試練 例えば『攻撃魔法1000種類習得』とか『闇の福音一人討伐』などと示されていても、その表情は変わらないのかもしれないが。

「見ても良いかしら?」

興味を惹かれたしずなは渡したばかり、なおかつ開かれたばかりの手紙を覗き込む。
そこには随分と達筆なお茶目な文字列が綴られていた。

『ふぇいと君へ
 次の期末試験で二―Aが最下位脱出できたら
 正式な先生にしてあげる♪』

それを見たしずなは『なるほど』と頷く。ただ授業を教えるだけでは『あの』二年A組を今までより良い成績を取らせるのは難しい。
それこそ一歩や二歩、踏み込んだ付き合いに基づく勉強なんかをさせなければならないだろう。
『人形みたいで気味が悪い』などと悪評があるフェイトがその態度を改善するには絶好の機会だ。
あんなに楽しそうだった学園長もやっぱり少し位は色々と考えているらしい。

「なるほど……」

何か納得したようなフェイトは続ける。

「どうやらここの魔法使い達は僕をすぐにでも追い出すつもりは無いらしいね」

しずなは身震い。背筋が冷える。躊躇い無く口から零れる躊躇い無い悪意=冷静な評価。
心臓に悪い言葉が妙に清々しく感じる気がする自分を発見する女教師→自己嫌悪。
そんな彼女の様子を横目で捉えつつ、フェイトは帰りのホームルームを行うべく、2Aの教室へと歩を早めた。













「期末テストが目前に迫っている事はみんな承知の事だと思う」

フェイトがそんなホームルームでそんな事を言った。

「そして僕も担任をやっている以上、過去にこのクラスが行ったテストの成績表にも目を通した」

何時もならば本当に必要な事だけを告げて、さっさと退室してしまう子供先生が長々と語る口調。
クラスの誰もが物珍しそうに聞き入る態勢。

「お世辞にも『成績が良い』と断言する事は不可能だった。どちらかといえば悪い。常に最下位というのは逆に難しいと思う」

クラス内を満たすのは何故か大きな笑い。笑い飛ばす者は笑うしかないし、頭を抱える者は沈黙を選ぶ。

「学生であるが故に勉学に励む事は義務であり特権だと僕は考えているけど、それは万人に当て嵌まる事ではない。
 例え何年に鎌倉幕府が成立しようと、今日の夕食が食べられなくなる訳でない。
 いくら最も軽い元素が水素であると理解していても、明日から世界が平和に成りはしない。
 ギリシャ神話の怪物メデューサが三姉妹である事実なんて、未来を生き抜く一助になるとは思えない」

それにしても珍しいと大部分の生徒はとても貴重な口数が多いフェイトに見入っていた。

「だけど、今回に限っては違う。危機迫った事態だ」

「「「「「「「「?」」」」」」」」

全く危機など感じさせない何時も通りの口調で、首を傾げる教え子たちにフェイトは告げた。



「次のテストでこのクラスが最下位だった場合、僕は教師を辞めなければならない」



数秒の沈黙。

「「「「「「「「……えぇええええ!!」」」」」」」

そして大爆発。質問の声が無数に飛び交う中、それを手で制すとフェイトは続けた。

「さっきも言った通り、テストで出る知識なんて実際の生活で役に立つ事の方が少ないだろう。
 中国の古文を読めるようになるなら、木の年輪で方角を読む方法を知っていた方が役に立つ。だけど今回は違う」

ほんの少しだけ、感情と表情が豊かな人と比べればあまりにも小さな変化。
あの変わらない表情の子供先生が僅かにだが悲しそうな顔をしたのである。

「僕はもう少し、具体的にいえば君たちの中学卒業までは『ここ』に居たいと思っている。
 君たちと一緒に居たいと願っている。最下位脱出は難しいかもしれないが、不可能ではないはず。
どうか助力を」

悲しみから憂い、そして懇願の色。あの鉄面皮が、全く子供らしくない子供先生がそんな顔をする。
これはもうそれだけで感受性豊かなお祭りクラスは大騒ぎである。

「みなさん! 次の期末は必ず最下位脱出ですわ!」

手が心配になるような音を立てて雪広あやかが立ち上がり、クラスを一喝。

「よ~し! 頑張っちゃうよ!!」

次々と上がる同意の声。『子供先生』などという楽し過ぎるネタを離したくない群れは次々と裂帛の声を上げる。
そして誰もが声を揃えた。

「「「「「「特にバカレンジャー!!」」」」」」

『レンジャー』……軍隊か何かかな? もしくはジャパンの特撮?
聞き慣れない言葉にフェイトは首を傾げつつ、戯れに似た非難の言葉を浴びせられている五人を発見。
神楽坂明日菜、佐々木まき絵、長瀬楓、古菲、綾瀬夕映……確か成績で常に右端(ビリ)をキープしている五人。
もはや人外の域に達している天才二人を含む成績上位数人を有しながら、このクラスが万年最下位に甘んじている原因の大きな一つだろう。

「あそこを何とかしないとダメか……」

フェイトのそんな呟きは大騒ぎのクラスの渦へと掻き消えた。












「これはエライ事です……」

綾瀬夕映はなし崩し的に突入した放課後の大勉強会の休憩時間に、訳の分からない名前のジュースを啜りながら絞り出すように呟いた。
まさか勉強嫌いがこんな所で足を引っ張るとは……クラスの足、もしくはフェイト先生の足、もっと言えば……

「夕映どうしよ~」

さっきから自分を揺さぶり続けるアップアップな親友 宮崎のどかの恋路の足を引っ張ってしまっている。
なんでも危ない所を助けてもらったとかで、赴任一日目の先生が大好きになってしまったのだそうだ。
男嫌いで内向的な親友が踏み出した大きな一歩、もう一人の親友と共に当事者が『もう良いよ~』と半泣きになるほど後押しした。
そのおかげ?かは定かではないが、最近は先生と一緒に図書館島でデートする中である。
問題点があるとすれば選択肢が図書館島限定である事、そして私とハルナがデートに同伴している事くらいなモノだ。

「どうしようもなにも、頑張って勉強するしかないです」

残りの僅かな日数で何処まで出来るかは分からないが、とにかくやれる事をするしかないだろう。
もしこれで私の成績が改善せず、さらにクラスの平均点も改善しなかった場合、のどかに『この裏切り者ぉ~!!』と背中から刺されかねない。
一切の誇張的表現を排除してそう思う。






「まき絵~!! 勉強! 勉強するよ! しなよ! しなさいってば!!」

ウチ 和泉亜子は混乱していた。どうして私の大好きな→異常=フェイト君が教師を辞めなければならない!?
親しくなるどころかまともに話しかける事すらない数日だったけど、もう見ているだけで胸のトキメキが収まらない。
全てにおいて人の常識を容易く飛び越える姿・立ち振る舞い・言葉。さっき『最下位ならば教師を辞めさせられる』と告げた時もなんと平坦なことか。

「分かったよ~亜子! 首!! 首が締まってる~」

そんな様にも胸に暖かい物を覚えたが、これで居なくなってしまっては堪らない。
思わず親友にチョークスリーパーを掛けてしまったが、これは全くもってバカピンクの汚名を被っているまき絵が悪いのだ。
ウチは断じて悪くない。

「亜子、まき絵も反省しているから許してあげて? ね? 亜子の恋路は応援するから」

こちらも親友 水泳部の期待のエース 大河内アキラの言葉にバカピンクを開放。
荒い息を鎮めようとフェイト君へと視線を送る。大勉強会の片隅で何時も読んでいる分厚い本を淡々と熟読する。
質問を受ければ答えるが、それ以外は自ら動く気なし。自分の進退がかかっているというの余裕の態度。
いや……アレは……『大丈夫だと計算済みなのかな?』 ゾクリとする。踊らされている感覚。
堪らない! あ~ますます惚れちゃうわ~フェイト君♪












先ほど実施した小テストの出来を評価しながら、フェイトは鷹揚に頷いた。

「やっぱりやればできる人たちだ。安易な言葉で煽っておいて良かった」

『2Aを期末テストで最下位から脱出させる』
それだけ書かれた試練の内容を目にした時から、この作戦を取ると決めていたのだ。
自分の教え子たちを見る限り、勉強に本当に熱心な娘は少ない。だけど他の事には熱心に成れる。
所属クラブの多さや運動部に所属すること、本当の帰宅部が少ない事からも明らか。つまり熱心にやらせれば伸びる余地はいくらでもある。
そして数日を共にして築き上げ、冷静な評価を下すならば『自分は彼女たちに好評価を得ている』という事実。
『好かれている』というムズ痒い言葉を使って表現しても良いだろう。
「担任を続けられない」と発表した時に生じる反発→対抗措置=試験の為に勉強の熱の入り様たるや煽っておいて若干驚愕すら覚える。

「あとは余りにも足を引っ張るばバカレンジャーをもう少しなんとかすれば安全かな?」

その方法を色々と考えているが地味かつ堅実な方法が一番なのだろう。
テストを数日後の控え、告白からも数日だ。勉強しただろうがまだまだ時間には余裕がある。
欲をいえばもう少し特効薬のような存在でもあれば……



「図書館島?」

そんな事を考えいたらバカレンジャーの一角、本当の知識や知恵ではかなり優秀な部類に入るだろう綾瀬夕映が話しかけて来た。

「はい。読むだけで頭が良くなる本を探しに行こうと思うのですが……もちろん!勉強に支障をきたさない範囲で行える計画です」

……なるほどね。よっぽど簡単にクリアするのが面白くないらしいね? あのフェアリー→仙人=学園長は。

「行ってみようか?」

乗ってみよう。その戯れに







亜子の性格がよくわかりません。



[20671] 第七話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:df2b7242
Date: 2011/07/21 08:01
いや~盛り上がりませんね?(なに








「何時見てもナンセンスな作りだ」

フェイト・アーウェルンクスはそう呟いた。
図書館島。二度の世界大戦から貴重な書物を守る為、世界樹の加護のもとに作られた避難所。
だが無計画に本を突っ込み、足りなくなったら下へと増築するという大暴挙によって、作られたのはまさしく現代のラビリントス。

「一体何をどうすれば本棚の上を歩く必要があるのだろうか?」

……というか下が見えないほど高さが在る本棚に納められた本をどうやって回収するのだろう?
まぁそんな事はどうでも良いのだ。重要なのはこのふざけた道先に在る宝物。
周りにはテストの点数的に不安を残す、麻帆良学園女子中等部2年A組の選ばれし者たち(反語)バカレンジャー+1。


「次の分岐を左、そこから二百メートルほどの場所に休憩所があるので一休みするです」

先導するのは出席番号四番 バカレンジャーの頭脳担当……なんか不可思議な表記な気もする……綾瀬夕映。
『A組で最も頭が悪い五人』に所属こそしているが、それは一般的学問でのみ評価されているからに過ぎない。

「そこで目標行程の何割程度だい?」

フェイトが最も優先している目標は決して『胡散臭い魔法の本を入手すること』ではない。
最終的に達成するべき目的は『A組が期末テストで最下位から奪取すること』なのである
もし仮に存在し、一定以上の効果があるという希望的な推測と僅かな遊びによって探している『頭が良くなる魔法の本』の重要度は低い。
確実性に欠ける一撃必殺の切り札などよりも明日の授業を万全の状態で受ける方が効率が良いとフェイトは試算していた。
故に気になるのはこの二次的目標と遊びに対してどれだけの時間と労力を消費するのか?

「ここまでで往路の六割程度になるです。残り四割は未整理区域が中心になるので、費やす時間と労力は同程度、もしくは少し多いかと」

返事は直ぐに来る。『綾瀬夕映は頭が良い』。これはフェイトの確固たる見解だった。
一般的知識 学校での勉強には興味がないものの彼女は基本的『知の者』である。
知りたい、理解したいという思いは少々偏っていても、それだけで知識の習得→思考の練成。

「……以上の事から日を跨ぐ前、一時間程度の遅延を考慮しても午前一時には地上へ帰りつく計画です」

「ふむ……」

フェイトは満足げに頷いた。
バカレンジャーに有るまじき的確なプレゼンテーション→欲しい情報だけを的確に与えてくる。

「問題ないね」

距離的な問題は解決。他に問題になる事があるとすれば、図書館島特融のトラップだろう。
こちらについてはやはり大した心配はしていなかった。絶妙なタイミングに見つかった宝の地図。
その中身を見せてもらって直ぐに作りモノ→ぬらりひょん学園長の差し金だと理解できた。
宝の地図とはその作られた方で二種類に分けられる。
一つは普通の地図の上から宝への生き方を描いた物。
もう一つは宝への行き方→そこへ辿り着く道だけを書いた書きだした物。

夕映がたまたま見つけたという地図はいわゆる普通の地図だった。
つまり普通の地図の上から宝へのルートを書きこんだ物のはず。
なのにコレには足りない物がある。書き損じの後=道を間違えた跡が無いのだ。
偶然発見されたはずの地図には書き損じ、もしくは修正した跡など欠片も存在しない。
古めかしい年代物を装いながら、随分と綺麗な色を残すルートを示す線は狙ったように地図の中央。
そして小さく右下にはラテン語にて『中級者向け』の表記→何度も使うのだろう。
図書館探検部の余興、もしくは魔法関係者の実地試験か何かに。


「それに……っ!」

思考を巡らせることと油断する事は=で結ばれない。思考を中断→足元に違和感。
カチリと何かを踏み込んだ感覚。長大な本棚の上板でこの感覚は不自然≒罠。
常に一定量展開している魔法障壁の出力を上げて……それが無駄だと気が付いた。

「おっと!」

弓が撓るような高音→風切り音。その後に遠い闇の中から飛来した矢を軽々と受け止めるのはバカブルーこと長瀬楓。
日本人女子中学生の平均身長を軽々とぶち抜く長身、それに見合う抜群過ぎるプロポーション。

「ありがとう」

淡々と礼を述べながらもフェイトは思考する。考える事は生きる事だ。謎を謎のままで捨て置いてはいけない。
で……だ? この魔法使いでも何でもない女子学生は何をしたのだろうか? 
トラップを踏んだ本人がギリギリで反応するよりも早く、何処から跳んでくるか分からない矢を受け止める事など出来るはずがない。

「油断大敵でござるよ、フェイト殿。ニンニン♪」

そこでふとフェイトは思い至る。
『ニンニン♪』といえば東洋の神秘たるスパイソルジャー NINJA。
情報源が大昔の冒険譚だったり、ペラッペラでチープな挿絵が満載の書籍だったりするのが不安材料だが、概ね間違いあるまい。



「……なるほど」

そして更にフェイトは理解できたことがある。



「あいや!」

掛け声一つで襲いかかってきた巨石を蹴り落とす古菲。


「わ~びっくりした!」

本棚から落ちたかと思えば新体操のリボンで落下を免れる佐々木まき絵。


「ほらっ! ボケっとしない!」

ボケっとしているつもりはないのだが、僕にまで気を使いながらトラップを走破する美術部(笑)の神楽坂明日菜。


「フェイト先生、いま気が付いたのですがこちらのルートを通った方が早くて安全みたいです」

図書館探検部というアドバンテージを考慮に入れても、この短時間により良いルートを理論的に導き出せる綾瀬夕映。


以上の事から
『バカレンジャーとはクラスでもっとも学業(以外)で優れた集団の一つ』……そんな認識。
もちろんそんな事は表情に出しはしないし、足を止めもしない。

「は~みんなすごいわ~」

「そうだね」

ここに居るバカレンジャー以外の生徒 近衛木乃香の呟きにただ小さく肯定の意思を示すのみ。











そこから先は何のトラブルも在りはしなかった。別段表記する事もない。
ただ魔法の本が安置されている場所でちょっとした爺の戯れに遭遇した程度。





無駄な程に広く作られた空間とその中央に厳かに置かれた本が一つ。

「ついに……魔法の本の安置室です」

感慨深げに宣言する夕映の声を聴きつつ、フェイトは周囲を冷静に観察→まず目に留まるのは本の左右に聳える二つの石像。
僅かに漏れる魔力≒巧妙な隠ぺい→質・量ともに最高峰と推測。麻帆良の妖怪め、矮小な魔法使い見習いに当てつけるような才能の無駄遣いだ。
本が置かれた祭壇の周りには深い堀+そこに掛かるのは石の橋。下に覗くもう一つの橋が罠の薫り。

「こういうのは最後に罠があるに決まって…『キャー!』…遅かったか」

既に突撃していたバカレンジャーが見事に罠にかかっていた。一番上の橋が外れ、下に在った石版が露わになる。
ツイスターなどと呼ばれるゲームに用いられる形状。そして動きだす二つの石像。手には大剣とハンマー→無駄な演出。

「「この本が欲しければ……質問に答えるのじゃ!」」

それにしてもこの爺、ノリノリである。



「その前に少しアドバイスを」

基本的にお祭り好きで負けず嫌いなバカレンジャー一同が、英単語ツイスターなるゲームに嬉々として挑戦しようとするのをフェイトは止めない。
もちろん在る程度の勝率を考えた上での行動だ。だが所詮はバカレンジャーだし、加えられたゲームの要素も足を引っ張るだろう。
それゆえに予防措置が必要だ。

「長瀬さん」

話しかけるのはこの中で最も心身ともに強いだろう教え子

「おろ?」

そっち耳打ち。

「いざとなったら……強行突破する。最優先は人、可能ならば本を」

「心得た」

表情一つ変えないフェイトと微笑のまま崩れない楓。


「他のみんなも無理はしないで。どうせオマケ程度の本だ」

「でも!」

噛み付いてきたのは恐らくこの中で最も負けん気が強いだろう明日菜。
フェイトに対して良い感情は懐いていなかったが、大好きな高畑先生に『このマセガキの面倒は任せてください!』と啖呵を切ってしまった。
それに『テストで最下位脱出が出来なかったら僕、首になるそうです(訳文)』と告げた時のフェイトの表情にはその……オジコン少女も若干グッと来るモノがあったらしい。

「問題ないよ。僕は君たちの能力を的確に把握しているつもりだ。あんな物に頼らなくても最下位脱出など容易いよ」

淡々と自信満々に『君たちならば問題ない』と言い切られるのは、女の子的にドギマギする何かを内封しているモノだ。
言った本人にはそんなつもりは欠片も無いのだが、バカレンジャーは誰もが多少の差はあれ頬を赤くしている。
そして『自分がこのマセガキにトキメキを覚えた』という自体そのものが気に入らない明日菜は照れ隠しに叫ぶ。

「でも! このまま手ぶらで帰るなんて絶対イヤよ! わざわざこんな所まで来たんだから!!」

そんなひどく子供染みた宣言にフェイトは何故だか一つの納得を得ていた。
余りにも短絡的な思考結果そのもの=だが真理そのもの。
何も好きで学園長の掌で踊りたい訳ではない。ここで一発かましてやればさぞ気分が良い事だろう。

「確かにその通りだ。ではそれを目指した各自の動きについて……」

まさか同意が得られるとは思っていなかった明日菜は驚きつつ、他のメンバーともどもその指示に頷いた。





そして始まるふざけたお遊戯。

ギャーギャーワーワー言いながら凄い体勢で頑張るバカレンジャーたち。

そして迎えた最終問題。


「おさら!……おさる?」

ミスった。


フェイトは眉一つ動かさずため息すら吐かず、最も安全な手段を放棄→バカらしくて騒々しい全く好みではないはずの手段を選択。

「砂嵐よ」

簡易詠唱。ただの風の魔法にもっとも得意な石・砂系統の魔法をプラス。
一瞬で辺りを舞う砂→目隠し≒ゴーレムに対するモノだけではない。
少し派手な魔法を使う為=バカレンジャーたちに対する目隠し。

「リ・シュタル ビ・シュタル ヴァンゲイト」

フェイトは砂嵐に紛れて起動キーを唄う。
それに気がついたゴーレムの中の人が本来の目的を達すべく、その武器を振り上げようとして砂嵐の中から飛び出してきた褐色の拳を足に受けた。

「はいや!!」

「なんとぉ!?」

石でできた しかも麻帆良一の魔法使い制作のゴーレムにビシリと皹を入れる→中国武術研究会のトップエースの拳。
巨体で在れば在る程に小さな衝撃でバランスを崩し易い。拳打に晒されてひび割れた足が僅かに浮き上がるが、何とか片足で態勢を維持しようとするが……

「どりゃあ!!」

「!?」

維持させない。砂嵐を突き破り明日菜は走る。狙うのは微妙なバランスで体を支えるもう一方の足。
それを押す。ただ押す。それで十分。

「本当に分かり易かったわ!」

明日菜がフェイトから受けた指示は『古菲が殴った足と反対の足を全力で押す』
それだけで巨大なゴーレムは仰向けにひっくり返ってしまった。



「硬く冷たい腕にて貫け……石の槍」

相棒の転倒に気を取られていたゴーレムは更に悲惨な結果が待っていた。
襲い掛かる巨大な石の柱は正しく槍の如く、ゴーレムの腹に深々と突き刺さる。

「■■■!!」

「ふむ……改良型の方が貫通力は高いみたいだね」

ゴーレムとのリンクが裏目に出て、腹に大穴があいたような激痛に叫ぶ老人の声はBGM。
魔法使い見習いでは在りえない規模と精密さで魔法を唱えるフェイトは一人頷き、背後に降り立った影に問う。

「首尾は?」

「上々でござる」

楓の手には本が一つ。横目で確認。淡々と告げる。

「全速で離脱する」

「承知」








こんな感じの多少の損害(二体のゴーレムとか学園長の受けた激痛とか)で図書館島大冒険は予定の時間内で円満な解決を見てしまった。











地底図書館? ちょっと良く分かりません。



[20671] 第八話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:fa0eaabf
Date: 2012/02/29 22:15
久しぶりすぎる……偽ラクス様じゃなくてごめんなさい。









「……」

フェイトは本を読んでいた。ただの本では無い。
図書館島の奥深くからゴーレム二体を破壊して手に入れた珍品。
そんな彼の前には期待で目を輝かせた大冒険の仲間たち=バカレンジャー+Ω。

「で! どうなのよ!? この本があれば頭が良くなるんでしょ!?」

「ふむ……」

さて? どうやって説明するべきだろうか? 
期待に満ちた視線を幾ら向けられようと決して事実に変化など起きはしない。
重要な事は自分に向けられる期待に対して、ショックを与えないような返答をしてやる事だろう。

「確かにこの本には思考能力を向上する方法が書かれている」

一気に盛り上がる場 フェイトの自室の雰囲気。
たとえ一晩を開けた後の放課後とはいえ、深夜の大冒険の果てに手に入れた起死回生の切り札への思いは大きいのだろう。

「それを理解するには高度な知性と思考能力と莫大な知恵と魔術的素養が必要だ」

しかし続けられた言葉によって辺りの雰囲気は一変する。

「「「「「「???」」」」」」

辺りを満たすのは疑問符。頭が良いとは決して言えない集団で在るのだから当然だろう。
そんな彼女たちに分かり易く、なおかつ穏便に事実を伝えるために、フェイトは使わなくても良かったはずの頭を使いながら言葉を紡ぐ。

「例えばの話をしよう」

事実を直ぐに話すだけでは余計な混乱と怒りの渦を作成する手伝いをするだけ。
ほんの少しばかり自分の頭でも考える余裕を与えて上げる必要がある。

「ここに医学書があるとしよう。簡単な風邪への対処法から難病の手術まで書かれている」

「それがなによ?」

「例えば風邪を治す方法を調べればきっとこう書かれている……『暖かくして寝ろ』って」

ここでフェイトは言葉を区切り、自分の視界を熱心な視線の一つである神楽坂明日菜へと向ける。そこには言葉以上の疑問符と品定めの色→向けられた方は無意味な対抗心。

「君はソレを理解して、実行する事が出来るかい?」

「OK~そのケンカは言い値で買っちゃうぞ♪」

凄い笑顔で凄い勢いでボキボキと指を鳴らす女子中学生から、しっかりと距離と視線を外してフェイトは続ける

「そう……それくらいの事ならば誰もが『理解』できるし実際に『実行』するのも容易い」

フッと指を掲げる。それだけで注目を集めるに足る動作。完成された芸術品のソレ。

「だけどこう書かれていたらどうだろうか? 『病巣外科的切除』……『特定薬品静脈注射』なんて」

「それは……お医者さんでもなきゃ」

急激に過ぎるレベルアップでフェイトを囲んでいたバカレンジャー+αにはザワメキが満ちる。
当然の反応だろう。何せ風邪への対処法と専門医のみが実行できるような同列に捉える質問だ。

「でもどちらも『書物に方法が示されている』ね? 条件は同じ……と考えられないかな?」

「それはさすがに無理です。高度な医療的技術は理解して実行するのに専門的な予備知識が必要で……あっ……」

そこまで口にしてバカレンジャーの頭脳労働担当にして、一般的な勉学以外ではその思考をいかんなく発揮するバカブラックこと綾瀬夕映は言葉を失った。
残念ながらフェイトの言いたい事が理解できてしまったのだ。

「そう……つまりはそういう事なんだ。書物と言うのは持っているだけでは何の意味もない」

書物自体には価値も力もない。書物の価値=記されている情報。
情報とは『持ってる』→無価値、『理解している』→真価。

「この書物に記されている情報を理解し、その方法を実戦できるだけの能力を有するならば……」

なるべく遠回しにしつつ分かり易く、せっかく無駄な努力で手に入れた戦利品の無能っぷりを誤魔化したいフェイト。
だが結局のところ、結論をどんな形で伝えようともバカレンジャーを始めとした一同は、何処までも素直である。

「きっと中学生の定期テストなんて何の問題にも成らないだろうね」

つまるところ『この本は中学校のテスト程度に四苦八苦する連中には無意味に過ぎる』という事だ。
フェイトの言葉の他にも夕映の捕捉を受けて、バカレンジャーは自分たちの大冒険がどういった結果を獲得したのかを理解してしまった。

いわく『無駄足』。


「でも……」

ため息と共にバラバラに砕けそうな程に白けきった空気が引き締まるのが分かる。
小さな呟きとピンと立てられた人差し指。そして見つめる視線は平坦にして平穏。

「君たちはあの図書館とも呼べないラビリントスを抜け、英単語テストとも称せぬお遊びに耐え、浮世離れした岩の巨人を撃破し、それが守っていた書物を入手して帰還した」

それだけならばただの事実の確認でしかない。だがフェイトが続けた一言。

「普通の女子中学生はそんな事はしないだろう?」

「まぁ……そうね?」

「つまり君たちはあらゆる能力で女子中学生よりも優れている……そう考察できる」


『優れている』とはこの場合、知力体力気力などなどを総合し、バカレンジャーという枠組みの中で足し算をした上で、割った平均値の話である。
あからさまに体力と精神力が突き抜けているチャイニーズと二ンジャー、頭の使い方を間違えているとしか思えないブラック在っての方程式。

「そんな君たちであるならば、普通の学生が受けるテストなんて……何の問題にも成らない」

理論のすり替え≒更にたちの悪い結果のすり替え。
本来ならば知力だけで議論すべきテストに対する問題度を、体力と気力まで計算にいれるインチキ。
しかも討論の余地をこれ以上挟まない断定系である。

真っ当な議論と良識を愛する鉄面皮の子供先生らしくはない。


「そっそうかな?」

「なんだか自信が出て来たアル」

「えへへ~ありがとう、先生!」

「ご期待には答えるです」

「にんにん♪」


だが効果は在った。何せ相手はあのバカレンジャーである。
良く言えば素直→悪く言えば単純。褒められるという事に余り耐性が無い一同ならではの即効性。

「それじゃあ、今回は英語からで良いかな?」

自分の下らない言葉遊びでやる気を維持してくれる教え子たちに、フェイトは『満足気に』表情も変えず教科書を取り出す。
彼は真っ当な議論や良識を愛しているが、それ以上に自分たちが得られる結果を信奉している。

「おっけ~」

「了解です」

口々に返す教え子の返答にやはり満足そうな無表情でフェイトは頷き一つして……ふと思考を巡らせる。

『自分は無駄な努力と言葉遊びの果てに得られる結果=[この少女たちの教師を続けること]にそれなりの執着を持っているらしい』と

「ふっ……」

「どうしたでござるか? フェイト殿」

「いや……大したことじゃない」


そしてそんな自分の内心を客観的に分析し、その執着を『大したことじゃない』と断じてしまえる点でやはり彼は……枯れている。










「なんですってぇえ!!」

今まで一番大事な期末テストの朝、二年A組の教室に響き渡る怒声。


「……」

人間とは一切の音響機器を発さずにこれだけの音量を実現できるのだろうか?
耳をしっかりと塞ぎながら、この教室を任された担任教師たる少年魔法使いは驚きのため息。


「明日菜さんを始めとしたバカレンジャー+αがまだ来ていないですって!?」

「雪広さん、落ち着いて。テストの前に血圧を上昇させても、人間の発声量の限界にチャレンジしても、利益は一つもないよ」

撒き散らされていた雪広あやかの怒声をしっかりと鎮め……

「みんなには万全な状態で試験を受けて貰いたいからね?」

「はっはい! 先生に身を案じて頂けるなんて……はふ♪」

一部(主に某クラス委員長)からは耽溺のため息を頂戴する様は全く何時も通りだったが、フェイト・アーウェルンクスは内心僅かに焦っていた。

『来ない? テストを受けなければ平均点の足を引っ張らない『程度には』仕上げた意味がないじゃないか。
 昨日は本番の今日に備えて夜の勉強会も早めに終了にしたんだけど……』

幾ら考えを巡らせても答えは出ない。何よりも求められるのは的確な状況確認とその打破である。
小さなスーツの内ポケットから取り出されたのは白い飾りっ気のない標準的なデザインの携帯電話。
素早くアドレス帳を開いて呼び出すのはバカレッドの電話番号。

「■■■♪」

「……」

軽快な呼び出し音を聴く為に沈黙を持って携帯電話を見に当てるフェイトの姿は、コーヒーカップを掲げる姿にも負けず絵になっていた。

「■■■♪」

「……」

まだ出ない。


田舎育ちの魔法使いの卵はこの小さな情報機器に対して、高い評価を持っていた。
迅速かつ簡易な連絡を可能にし、少し料金を足せばインターネットまでスムーズに閲覧できる。
そんなフェイトの携帯電話のアドレス帳は二年A組のメンバーを始めとした教え子、親心を持って接してくる先輩教諭などの連絡先が、普段の彼のイメージと反比例するようにビッシリ並び、増え続けていた。



「■■■♪」

「……」

まだまだ出ない。


アドレスの収集は別に一般的な人間が持ちうる『友達意識』が形作る幻想に由来するモノでは断じてない。

『情報は力である』

近代社会の基本とも言うべき標語。
人は信じていなくても、それがもたらす情報には一定の評価を持つ冷血少年→情報源の多様性を模索した結果。


『■■っなによ!?』

あっようやく出た。

「今日は何の日で、今が何時かの把握は万全?」

『あ~もう! 分かってるわよ!』

苛立ちを満載した声。コレはこっちのセリフだと言い掛けて、フェイトはグッと黙る。

「いつものメンバーは全員そこに?」

『えぇ! 仰るとおりよ、先生! これだけ居て全員寝坊なんてありえないったら』

どうやあフェイトの自室を早めに退去したは良いが、違う場所で一夜漬けを断行していたらしい。
教師として、魔法使いとして、一晩でどれだけの事を覚えられるか?という疑問には『否』と回答したい彼。
故に昨日は十分な睡眠に終始して欲しかった。そうすればこんな面倒な事には成らなかったはずだ。

「場所は通学路かな? ただの寝坊だね?」

『あと十五分くらい! ただの寝坊よ! 悪かったわね!?』

「なら良いんだ」

思わぬ軽い許しの声に電話相手である明日菜を始め、怪獣大決戦に聴き耳を立てていた生徒たちからもザワメキ。

「たった十五分程度の遅刻なら点数がどうにか成る訳じゃない。僕が新田先生に少し注意されればいいだけの話だ。
 これで今は世界の果てに居るとか、魔王と戦っているというのならば、大問題だけど」

『「「「「……」」」」』

呆気にとられた沈黙が双方で満たされ、怒るどころか欠片も焦っていない担任教師の姿は強制力を持った平静な姿は自信に満ちていた。

「僕からも遅延の件は伝えておく。恐らく別室での試験になるだろうけど、何時も通りにしてくれていい。
 変な気負いは逆効果だ」

『わっ! わかってるわよ』

「健闘を祈る」

問題児筆頭格、しかもテスト当日に遅刻なんてやらかした相手に対しても、彼の淡々とした態度は変わらない。
それは断じて冷徹で在る訳でも無ければ、諦めている訳ではない。自分が見て来た十数日を元にして導き出した正当な結論。
彼女たちならば問題無いと確信している。

「さて……」

だが決して過信している訳でもない。

「始めようか? 君たちには一切の不安を覚えない」

だからこそ目をかけていたバカレンジャー以外の生徒たちにも『発破』をかけておく。

「よろしく頼むよ」

任意足る同意。
どんな叱咤よりもどんな激励よりもそれは受ける者の心を捉えていた。

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

先ほどの某委員長をはるかにしのぐ大音量が教室を揺らした。










「あの……先生?」

「なんだい、宮崎さん?」

「そのテストの結果なんですけど……」

フェイトの辺りには痛い沈黙がある。場所は食堂。巨大なスクリーンにはテスト結果の速報が流れている……いや流れていた。
それがたった今終了したのだ。最下位のクラスを告げる形で。


『二年A組』


スクリーンにはそう映し出された。フェイトが教師を続ける条件は『A組の最下位脱出』。
これはつまりそれが潰えたということであり……彼は教師を続けられないという事。

「悪かったわね……」

「尽力……及びませんでした」

恐らく足を引っ張ったであろうという勝手な推論の下、バカレンジャーたちが沈痛な面持ちで謝罪の言葉を口にする。

「コレはミスだ」

だがフェイト本人は一切気にする事が無いような口調でそう断言した。

「いや……でも……」

「この点数は低すぎる。僕が数人分の自己採点から導き出した平均点を余りにも下回り過ぎている。
 恐らく遅刻してきた面子の点数を足す事無く、平均を出したんだろうね?」

周囲のメンバーからはザワメキ。希望とも絶望とも解釈できる。

「そろそろ訂正が入るはずだ。最下位脱出は当たり前……もしかしたらトップも在りえる」






数分後……『一位 二年A組』と刻まれたディスプレイとバカレンジャーを筆頭にした大歓声。


そしていつもの無表情で胴上げされるフェイト・アーウェルンクスの姿が在った。









盛り上がらない……なにこの話?(ぉぃ
好きだった灼眼のシャナも完結したので、何か書きたいな~時間と気力があれば(ぁ



[20671] 第九話
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:fbceab19
Date: 2012/03/24 23:02
和泉亜子らしき人物が出てきます(ぇ







麻帆良学園 女子中等部 二年A組 出席番号五番 和泉亜子は『普通』である。
これは自他共に認める事柄であり、特に彼女自身は『普通』を信仰→いや『普通』に侵されていると言っていい。


「はぁ……」

そんな彼女の口から零れるのはため息だった。苦痛に満たされたソレではない。
自分の内に渦巻く甘い耽溺と陶酔を吐きだして、熱を冷ます冷却のため息。
今は授業中で在る事を考えるとあまり褒められた行為ではないだろう。
だが幸いにもそれを咎める者はこの場には居ない。何せ隣の席たる宮崎のどかも同じような表情をしているからだ。

「今日も素敵やわぁ……」

しかしもし真剣に二人の表情を見比べる者が居たら、亜子の表情は常識とは離れたものであると理解できるだろう。
のどかのそれが恋慕であるならば、彼女のそれは『崇拝』だり『傾倒』に近い。
そしてその対象は現在教壇にて自分の受け持ちたる英語の授業を何時も通り淡々と進める教師。


「フェイト……フェイト・アーウェルンクス」


口に出すだけで更に心臓の鼓動を高める魔法の名前。
名の主は男性であり、それなりにイケメンで在る。
故に教師と言う立場を差し引いても、多感な女子中学生が恋慕を覚えるのは一般的と言えるかもしれない。

だがそれは『大人』であると仮定してこそ初めて成り立つ『一般的』である。

「年下やのに……」

女子中学生よりも年齢が下→僅か十歳の教師=異常。
十歳+新任→不安を覚えて当たり前なのに<淡々とした表情。

「はぁあ……」


和泉亜子は普通の人間である→一つだけ普通ではない点。

『憧れ』  『崇拝』  
『憧憬』  『傾倒』
『神愛』 『Like→Love→Faith』

普通であると極度に主張する彼女は『普通ではないことへの過度な恋慕』を患っている。
だから隣の席に座っている者とは趣向が異なると断言できるのだ。
もっと話せるようになれれば幸せだろう。万が一、愛を囁かれれば卒倒してしまうかもしれない。


だけどそれが全てではないのだ。


そこに居れば良い。
視界の中に入っていればいい。
その行いが、その言葉が、その視線が、その表情が『アレバ』良い。
それだけで満たされる。普通すぎる自分とは異なる『異常』を愛好している。

例えば日本人は桜を見ること(≒その下で宴会を開くこと)を好む。
この場合、桜という存在に求められている事は何だろうか?→ただ綺麗に咲いていること。


それと同じだ。


ただそこに居れば良い。
桜も梅も菜の花もチューリップもヒヤシンスもアジサイもパンジーも蘭も菊も……
ただそこに綺麗に咲いていれば良い。

ただそこに異常として居てくれれば良いのだ。それだけで和泉亜子は満たされる。



何処までも普通な彼女だったが、そんな考えだけがただただ『異常』であった。










「う~すっかり遅くなってしもた」

空には太陽がなく、代わりに出るのは月と星。周りには人影の一つもない。
街灯に照らされた通学路とはいえ、やはり女子中学生が一人で歩くには危うい時間だ。
ちょっと不思議な趣味[異常鑑賞]を持っているとはいえ、他の部分では一般人と大きな差がある訳ではない。

「そう言えば誰かがいっとったな……」

亜子がふと思い出すのは中学生らしい噂話の一つ。学校と言う場所を考慮すれば『怪談』とする事も出来るかもしれないソレ。

「満月の夜……さくら通り……」

ザワリ

「あれ?」

背筋を駆け抜ける感覚に思わず声が漏れ、首を傾げる。
この感覚には覚えが在った。絶対に『在りもしない』怪談なんかに恐怖を覚えたのではない。

この感覚は『好感』だ。
この感覚は『喜び』だ。
この感覚は『陶酔』だ。


「ふん……今日は和泉亜子か」

背後にふわりと何かが舞い降りた軽い風圧。
冷たい……フェイト君とは異なる冷たさ……他者すら冷ます氷の冷たさを持った声は幼い。
桜の薫りが満たしていた夜風に混じるのはほのかに甘い香り。
黒いウィッチ・ハットにボロボロのマント、その隙間から伸びる長髪は見事なまでの金色。


「あぁっ……」

胸の高鳴りを絞り出し、ゆっくりとした動きで振り返る。


『月の夜……桜通り……ボロボロの布を纏った……血塗れの……吸血鬼』

何処までも普通であり、霊感とか巻き込まれ体質とか隠された魔力とかを持っている訳ではない亜子だったが、異常に対する疑い無き直感を有していた。
故に不意に現れたその存在が変身願望に満ちたパチモノじゃなく、本物の異常であると確信できる。



だが……



結局のところ、何処まで逝っても普通である和泉亜子は……

「眠れ」

もちろん、魔術的対抗策も体術的対抗策も勘違い系対抗策も有しない。

「キャアア……グゥ」

故に僅かな悲鳴を残す事しかできず、魔法の呪文に抗える筈もないまま、意識を手放していた。










グッタリと倒れ伏す和泉亜子を見下ろして、桜通りの吸血鬼は詰まらなそうに呟いた。

「血も普通っぽそうだな……」

だが思い出したように視線を戻し、睨みつける先には新しい人影。

「やぇ、良い夜だな? 先生」

桜通りに出没する吸血鬼は新たな人影 小柄な十歳前後のソレに親しげにかけた言葉は『先生』である。
場違いと言う違和感を放つ言葉だったが、返事は直ぐに来た。

「あぁ、そうだね。『こんな』時間に『こんな』場所で『こんな』人物に出会わなければ、良い夜だったよ」

答えたのは白い髪、動じない表情+ピッチリと着込んだスーツ+小柄な少年=フェイト・アーウェルンクス。

「おいおい、自分の生徒相手に酷いじゃないか?」

フェイトを先生と呼ぶ吸血鬼が生徒である事は理論上、一切の間違いはない。
だがやはりその言葉、この会話には恐るべき違和感が付き纏う。

「僕は教え子に対して一定以上の誠意を持って接しているつもりさ。
 だけど君の名前は僕の最小値たる思いやりを消し飛ばすには十分すぎる。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル……闇の福音 ダーク・エヴァンジェル」

闇の福音……魔法と関わり合う者ならば、その名前を聴いたことが無い者は皆無だろう。
生まれたばかりの幼子とて、彼女の悪名は寝物語に聞かされているほどだ。

「最初にクラス名簿を見た時は『随分な偶然も在るモノだ』と思ったけど……まさかの本人とはね」

魔法使いにして、吸血鬼。
吸血による死亡を原因として低確率で感染・増殖する低俗な一般種ではなく、自らの魔道で人を捨てた『真祖』。
高名な人形遣いとしても知られ、自らが作り上げた千体を超える人形と共に国すら相手に戦争をしたと語り継がれる『大悪党』。



『彼女の声は聴けば死が約束される→故に闇の福音』



「使う魔法は世界すら凍えさせ、首を跳ねようとも殺せず、幾千の人形を自在に操る。
 傲慢にして狡猾。奔放にして慎重。激情にして冷静。幼稚にして老獪。
 闇の福音・真祖の吸血鬼・人形遣い・黒のエンプレス。
 サウザンドマスターに討ち取られたと聞いていたけど……此処に封印されている、のかな?」

『サウザンドマスター』という単語に皮肉った彼女の表情が僅かに歪んだのを、フェイトは見逃さなかった。
その点に触れるのは止めておこう。何せ彼女と無駄な争いをするのは望むところではない。

「で? どうするんだ、先生。こんな時間にこんな事をしている私を生徒指導室にでも連れて行くかい?」

「そうだね……なら教師として聞かせて欲しい。こんな事をする理由は?」

教師という職務には忠実だろうと、教師と言う名誉にはこれっぽっちも興味が無さそうな鉄仮面が吐いたそんな言葉。
エヴァンジェリンは否憎げな言葉遊びを続けようかと企むが、不意に思い止まった。
胡散臭い正義感でも、攻撃のスキを作る卑怯な手段でも無く、ただ純粋に問われた言葉に正直な形で答えたくなったのである。

「少しの飢えを満たす……ただの暇つぶしだ」

ため息と共に吐き出す感情は彼女が見た目通りの年月しか生きていないのならば、絶対に実現不可能な冷たさと重さを兼ね備えていた。

「封印によるストレスを発散する食事と娯楽?」

「ほう……まぁ、そんな所だ」

人間としての感覚よりも吸血鬼としての感覚で紡がれた担任の言葉に、フェイトの価値を少しだが引きあげる闇の福音。

「君の食事と娯楽は彼女……和泉亜子に何か障害を生じさせる?」

「私は外僕が欲しい訳じゃない。ただ今夜の記憶と貧血になる程度の血液を失うだけだ」

「ふむ……」

異常の情報[自分の力量+エヴァンジェリンの現在の実力+和泉亜子の存在+自分という存在の立ち位置]を元にして、フェイトはこれからの行動と告げるべき言葉を導き出した。
表情変わらず、淡々とした表情で教師として……そして立派な魔法使いとしてあるまじき言葉を口にしていた。


「なら、彼女は君の好きにすると良い」


もちろん驚きの言葉でソレに相対するエヴァンジェリンは言う。

「おいおい! それで良いのか、先生!?」

「構わない。覚えていない被害なんて無害と同じだ。
 僕は無害に抗する策として、強敵に挑みかかるなんて蛮勇は好まない。
 見たところ、魔力はかなり抑え込まれているようだけど……数百年の経験と技量は測りがたいものがある。
 だから『ソレ』は好きにすると良いよ。闇の福音」

もうすでに興味がないと背を向けるフェイトに、世紀の大悪党が感じるのは娯楽がタダで手に入った愉悦ではない。
鼻で笑い飛ばしながらも、信じていたかったモノ=信念≠存在に裏切られた怒り。

「ちっ! つまらん……貴様には失望したよ」

「それは心外だ。僕はフェイト・アーウェルンクス。イスタンブールの忌子。英雄の息子じゃないんだよ」

「っ! どこまでも生意気で下らないガキだ」

エヴァンジェリンは金輪際興味も抱かないだろう最低な生き物へ→最後の悪意を吐き捨てる。
やはりそんな言葉に一切の反応も示さない背中から視線を外し、まるで『与えられた』ような腹立たしい感覚を覚える食事と娯楽へと意識を向けた瞬間。


『障壁突破』


「っ!?」

夜風に桜の薫りと同レベル→一瞬で生じ、瞬く間に混じるさっきと呪文。
視線を起こす。驚愕の視線を向ける先→ロスト=荒削りながらも瞬動。
知恵でも理解でも無く感覚が閃く。数百年の闘争の記憶が叫んでいる。


『回避を』と


「石の槍」

今度は近い。直ぐに分かった。身を捻る。餌を置いて距離をとる。

「貴様……何のつもりだ!」

ゴッ!と風切り音と共にエヴァが居た場所を鋭利な石の刃が穿つ。
そしてその行動の主はやはり淡々とした声で答えた。


「何のつもり……ただの不意打ちさ」

自分の生徒を吸血鬼に差し出すという愚行のフリをしてまで、不意打ちという行為の万全を期す。
やはり彼 フェイト・アーウェルンクスは普通の魔法使いではないのだろう。

「僕は強敵に『正々堂々』と挑みかかるなんて蛮勇は好まない」

フェイトは[自分の力量+エヴァンジェリンの現在の実力+和泉亜子の存在+自分という存在の立ち位置]から考えうる最高の手段を選んだだけ。


「ふむ……『弱まっている今なら』きっと、『囮』を使って『不意打ち』をすれば、忌子の僕でも勝てると踏んだんだけど……いやぁ……失敗してしまった」

ちっとも困った風に聞こえなかった。




盛り上がった!……ごめん、嘘ついた。


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