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[20264] 【ネタ?】フルメタル・シスターズ!【とある魔術・科学の〜】
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/30 15:57
「妹達の訓練、でありますか?」

「ああ、そうだ。現在00001号から9796号までが破壊。樹系図の設計者が算出した方法を疑うわけではないが、もう半数に達するというのに能力者には何の変化も見られない。付け焼き刃にしかならないだろうが、19998号から20000号までに訓練を課し、難度を上げることにした。少しでも能力者の力を引き出すために」

「確かに“私”たちは軍用クローンであり、成長の余地はありますがあまりにも時間的猶予が――」


少女が口を開くが、男は不愉快そうにそれを遮る。


「発言は許可していない。やれ、と言ったんだ。わかるな? 20000号」

「はい。直ちに訓練を開始します、とミサカは――」

「その口調は不愉快だと言ったはずだ」

「はい。申し訳ありません」


少女――妹達 20000号は気にした風もなく頷いた。





◆◆





「そういう事情により、私があなたたちの教官となったミサカ20000号であります」

「待ってください。ミサカたちに優劣はないのであなたである必要性がない、とミサカは不満を隠すことなく――」


と、19998号が口を開いた瞬間。
20000号の眼が怪しく光り、大きな声で信じられないことを口にした。


「口からクソを垂れる前と後にsirと言え! 分かったかウジ虫ども!」


少女の口から出たとは思えない言葉に、2人は困惑を隠せない・・・・・・明らかに間違った方向に突き進んでいる20000号であった。


「・・・・・・あなたは何を言っているのですか、とミサカは――」

「聞こえなかったのか雌豚! sirはどうした! 穴にぶち込まれるしか脳のない雌豚め!」

「・・・・・・sir,Yes,sir」


散々な言われように、不快そうな表情で19998号が小さく命令に従った。


「ふざけるな! 大声出せ!」

「・・・・・・sir,Yes,sir」

「妊娠でもしたか阿婆擦れ! 誰の子だ?」

「・・・・・・」

「答え無し? 魔法使いのババアか! 上出来だ、頭が死ぬほどファックするまでシゴいてやる! 間抜けなアヘ顔晒すまでシゴき倒す!」


鼻先がくっつきそうになる距離で言い捨て、20000号は19998号の隣、19999号の前に移動した。


「貴様の仕事はなんだ、雌豚、簡潔に答えろ」

「・・・・・・殺されることです、サー」

「自殺志願か」

「sir,Yes,sir」


隣でああも言われていれば、無駄口を叩く気もおきず、素直にsirを付け、答えた。


「自殺の顔をしろ」

「sir?」

「死ぬ時の顔だ! アーッ! こうだ、やってみろ!」

「・・・・・・あー」

「ふざけるな! それで死ねるか! 気合いを入れろ!」


ズイと顔が近付いてくる。唾でも掛かりそうな距離だ。

「あーっ」

「迫力なし。アヘ顔と一緒に練習していろ」

「・・・・・・sir,Yes,sir」




――これから2ヶ月近い訓練が19998号と19999号、そして20000号に課せられた。
だが訓練の終了後に彼女たちを待っていたのは実験の中止と治療のであった。
訓練のためにミサカネットワークからも切り離されていた彼女たちは永遠に訪れることのない実験のため、知らぬまま死に物狂いの訓練を続けていた。










「先生。お願いがあります」

「うん? ・・・・・・ああ、そうか、君は20000号だったね。どうかしたのかい?」

「妹達――その中でも19998号と19999号のことで、お願いが」

「とりあえず、聞こうか」




◆◆





「なるほどね。確かに君たち3人は少々特殊だ。だから外の研究施設で上手くやっていけるか不安だと」

「はい。私たちは初対面の相手への挨拶がファックだと思っていますし、口調もお姉様ほどではありませんが粗暴です」

(彼女以上だと思うけど)


初対面でファッキン・ゲコ太と挨拶されたのをカエル顔の医者は思い出した。

それ以外にも、彼女たちには他の妹達以上に常識等に欠落がある。


「ですから此処に彼女たち2人を置いていただきたく」

「ふむ・・・・・・」


などと考える素振りを見せるが、カエル顔の医者は元からそのつもりだった。
こんな彼女たちを外に出すのは、彼女たちにも周りの人間にも危険だ。


「構わないよ」

「! ありがとうございます。では早速彼女たちにも伝えてきます」

「ああ、気をつけてね」


気をつけてね。
妙な送り出しだとカエル顔の医者は笑った。





◆◆





「――!」


3人に与えられた病室の一部屋。
影に隠れながらドアを一気に開け、銃を室内に向けた。


「大人しくしろ! 妙な真似をすれば撃つ!」


――と、そこまで言って視界内に2人の姿がないことに気づく。


「まさか、罠――!」


慌てて周囲を確認するが、不信な点はない。


「――軍曹でしたか、とシスター02は肩の力を抜きます」


肩の力を抜くとは言うが、ベッドの下から現れたミサカには微塵の隙もない。


「相変わらず見事です、とシスター03は軍曹を尊敬の眼差しで見つめます」


同じように隣のベッドの下から現れたミサカが軍曹、20000号を賞賛した。



「喜べウジ虫ども、我々の戦場がこの学園都市に決まった。ロシアや韓国で任務に就いている妹達よりも辛い任務になるが、貴様らにはお似合いだ。どうだ、嬉しいか?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


腹から出される大きな声。
2ヶ月前などよりも明らかに軍人然としている。


「よろしい。1130よりブリーフィングを行う、遅れた者はカエルの子を孕め!」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」

「嬉しいか?」

「sir,No,sir!」
「sir,No,sir!」






軍用クローン、妹達。
たった3人の妹達が学園都市の影で暗躍する――!








「軍隊ごっこは他の患者の迷惑になるからやめろーって御坂妹!?」


不幸にもその妹達の部屋に踏み込んだ男。


ガチャッ×3


「待て待て待て! 銃を仕舞え銃を! ってどこを触ってるんですかミサカさん!」


シスター02が不幸な男のボディーチェックを行い、その結果を軍曹へと報告。


「軍曹、短小なマラ以外何もありません!」


女の子への幻想がぶち殺される一言だった。


「・・・・・・ふ、不幸だーっ!」



「この状況で叫ぶその胆力、気に入った。ウチの姉をファックしていいぞ」








######
なにやってるんだろう、おれ。



[20264] とある科学の軍用妹達①2
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:28
警備ロボ・・・単価120万
ミサカ・・・単価18万


「分かるか、貴様らは無機物にも劣る。価値のないウジ虫だ!」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


訓練が開始してから1ヶ月と少し。
ほぼ完璧と言えるほどにミサカたちの洗脳は完了していた。
例えば服装。
迷彩服に身を包み、ブーツの紐はキツく締められている。
例えば思考。
常に襲撃される危険性を配慮し、隙はない。
例えば口調。
妹達特有の口調が少し変化し、シスターというコールサインに変わり、さらにその後に続く補足は油断を誘うためのブラフへと変化していた。


「――今日から特殊な訓練を開始する。嬉しいか?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


うむ、と20000号は満足そうに(とは悟られぬように)頷く。


「実戦を想定した訓練であり、貴様らが私の想像を超えるクズだった場合は死ぬだろう。訓練内容は――」








七月二十日


「吐け! “幻想御手”とは何だ! とシスター03は尋問します」

「テメェこそ何だ!? 風紀委員だとしてもこれは横暴過ぎるだろうがっ!」


ターゲットの溜まり場である路地裏を走り回り、漸く見つけたターゲット。
所謂、不良。


ミサカ19998号――シスター03の行動は迅速だった。
発見と同時に無力化、地面へと組み伏せる。


「へっ、どうしても聞きたいってんならその貧相な体でも使ってみたらどうだ?」


小馬鹿にしたような態度。
他の妹達であるならば体を使う、という意味を理解できなかっただろうが、たった3人のシスターズだけは理解していた。


「必要ならはそうします、とフェラ豚であるシスター03は肯定します」

「は・・・・・・?」


自身を組み伏せる少女の口から出た言葉に呆けた声を出す不良は間違いなく童貞。


「ですが、この状況ではそうするよりもこうした方が速いです、とシスター03は徐にあなたの右手の親指に手を添えます」


――そして。


ベキッ、と嫌な音と一瞬遅れて耳障りな悲鳴が路地裏に響いた。


「ぎゃあああああ!? い、言う! 言うからやめてくれ!」





◆◆





「幻想御手とは音楽ソフトであり、それにより共感覚性を利用し、テスタメントと同様の効果を齎していると推測されます」

「ほう」


20000号は19998号が得た情報と幻想御手を研究員(訓練を命令した者と同一人物)へ提出。


「しかし使用者と思われる学生が相次いで昏睡状態に陥っており、間違いなく欠陥品であります」

「君たちと同じでね」

「・・・・・・はっ」


何の感情の変化も見せず、20000号は肯定。
愉快そうに研究員は顔を歪め、白衣のポケットからリモコンを取り出した。


「・・・・・・?」

「絶対能力に到達するには20000通りの方法で君たちを殺害しなければならない」

「はっ、存じております」

「ならば一人、寝込みを襲われて死亡というのもいいだろう? どうせ教官役の代わりは山ほどいるんだ」


そう言われれば20000号には理解できた。
研究員が何をしようとしているのか。


「共感覚性を利用していると言ったな。なら聴覚への刺激を強くすれば共感覚も大きくなる。もしかすればレベル5へ到達できるかもしれん」


豚のような笑みを浮かべ、耳栓をした研究員がスイッチを押した。




・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・






「――ッ」


気絶から覚めた20000号はすぐに状況を確認。
あまりの大音量に気絶していたらしい。
鼓膜は破れており、何も聴こえない。


「・・・・・・大した問題はありません」


周囲を見回すも研究員の姿はない。
後は勝手にしろということか。


「・・・・・・レベルは本当に上がっているようですね」


耳が聴こえない状態での発声に慣れるため、独り言として状態を報告する。


自己判断としてはレベル2から――――レベル5、超電磁砲に匹敵するまでに成長している。
そのおかげで、体から出ている電磁波も強力になり、聴こえない耳の代わりにはなりそうだ(半径10メートル内の異変を感知できる程度だが)。


「・・・・・・とりあえず訓練に戻りましょう。昏睡状態に陥るまでは個人差があるようですし」





◆◆





「シスター02よりシスター03、軍曹と連絡は?」

『こちらシスター03、未だ取れず。02は監視を継続しろ』

「シスター02、了解」


ザザッというノイズと共にインカムからの声は途切れ、19999号、シスター02はスコープ越しに見えるターゲットに意識を集中する。


「窓際の席を選ぶとは愚かな、とシスター02はオリジナルとその仲間たちを侮蔑します」


彼女が見つめるのは喫茶店の一角。
其処に座る妹達のオリジナル 御坂美琴と風紀委員、そしてもう一人、研究者らしき女性。

シスター02が彼女たちを発見したのは偶然だ。
訓練には何の関係もないオリジナルを見つけたところで何も思わなかったが、彼女たちの会話(無論、声が聞こえたわけではなく唇の動き)の中に『幻想御手』というものがあれば話は別だ。


「――あれは」


シスター02のスコープがターゲットの席の窓に外からへばり付く2人を捉えた。
そう。それはまるでターゲットを庇うように――


「ッ、流石はオリジナル。あんな大胆に護衛を配置するとは」


言うまでもないが、その人影は風紀委員 初春飾利とその友人 佐天涙子である。断じて御坂美琴の護衛などではない。


結局、02はオリジナルの大胆不敵な策略(勘違い)に戦々兢々としながらもスコープを覗き続けた。










#####
人物&用語紹介

20000号(コールサイン シスター01)
下の2人の教官役であり、軍曹(サージェント)。
彼女の間違った知識からハートマン式訓練が始まった。
一応主人公であり、今回幻想御手によりレベル5に覚醒、最強主人公(笑)。
色々と間違った知識が多い。
口調は基本的に堅いが、気に入った相手には姉をファックさせようとするなどはっちゃける(本人に自覚はない)。

19999号(シスター02)
狙撃手。
立派な軍人になりました。
銃を媒介とした電磁砲(レールガン)による銃撃戦が得意分野。

口調はミサカがコールサインに変わっただけ。

19998号(シスター03)
フェラ豚。
立派な軍人になりました。
白兵戦が得意分野。
能力のレベルは三人の中で一番低い、が元から能力に大した差はない。

口調はミサカがコールサインに変わっただけ。


#####
感想貰えるとは思わなかったから調子に乗って投稿。訓練中のおはなし。



[20264] とある科学の軍用妹達①3
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:29
七月二十二日 早朝


「マスかき止め! パンツ上げ!」


陽が登りきる前に彼女たちの1日は始まる。
いつものように目覚まし代わりの軍曹の怒号に反応し、シスター03はすぐさま立ち上がり、シスター02はパンツを上げる。

虫けらを見るような目で軍曹に見られ、02はさらに濡れた。


「私が居ない間に何か問題は?」

「はっ。特にありません!」


02が敬礼と共に報告。
軍曹が離れていた一昨日から“オリジナル”(御坂美琴)と“オセロ”(白井黒子)を監視していた(“痴女”(木山春生)は研究室に籠もっていたため、監視を断念、“花瓶”(初春飾利)と一般人は人数の都合上監視を外さざるを得なかったが)。


「軍曹殿は今までどちらに?」

「それは貴様が知る必要はないことだ、03」

「はっ、失礼しました!」


20000号はあの後研究員に呼び出され、延々とデータやら何やらを録られ続け、開放されたのはつい先程。正直倒れたいところだが、その内黙っていても倒れるので我慢しておく。
それよりも起きている間にやるべきことをやらなくてはならない。


「現時刻をもって特殊訓練を終了。痕跡を残すな」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


それは上からの命令。
今行われているのはあくまで絶対能力進化であり、超能力者量産ではない。
欠陥品である幻想御手にこれ以上の価値は見いだせない、そういうことだろう。

幻想御手について音声ファイルであり、共感覚性を利用したものであるとしか知らない02と03は納得はいかないものの興味もない、素直に敬礼で答えた。


「私は所用がある。貴様らは通常訓練に戻れ」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


所用――それが何なのか、02と03には想像もつかない。彼女たちには来たるべき実験の日まで訓練以外にすることなどないのだから。





◆◆





数時間ほど前、九八一一次実験が行われ、9811号が殺害された。
現在の時刻は午後11時。20000号が所用で出かけてから半日以上が経過している。


「・・・・・・」


夜道をコンビニの袋片手に歩く彼、一方通行は不機嫌だった。
数分ほど前に自分を女だと勘違いした馬鹿が話しかけてきてくれちゃったからだ。


(百合子ってのは誰のことだァ?)


問答無用で吹き飛ばしたものの、不愉快極まりない。
もう一度言おう、彼は不機嫌だった。



「――あァ?」


そんな彼が夜道に人影を捉えた。それも愉快な格好をした見知った顔を。


「今日の実験は終わりじゃなかったのかァ?」

「――肯定です。あなたの今日の実験は数時間前に終了しています」


夜道であるとはいえ、彼女の姿は特異であり、この学園都市に置いて明らかに場違いな服装。
俗に言う迷彩服であり、さらに銃器で武装を施した少女は数時間ほど前に殺害した、いやこれまで九千以上の数を殺害した少女たちと同じもの――――その少女の名はミサカ、ナンバーは20000。


「なら、そンな愉快な格好で何の用だ?」


実験の順番が回ってくるのは最後、数ヶ月後のはずの彼女。
無論、彼女の番号など一方通行は知る由もないが。


「あなたは幻想御手というものをご存知ですか?」

「知らねェな。それとテメェが此処に居ることと何か関係があンのかよ」


彼女の口調に――否、彼女との会話に違和感を感じながらも一方通行は不機嫌そうに尋ねる。
違和感の正体が“ミサカと実験について以外の会話をしていること”だと気づくのに数瞬掛かったのは彼が他人と会話をするという行為が久しぶりだったからだろう。


「肯定です。私はその幻想御手を使用し、数十時間後には昏睡状態に陥ります」

「あァ?」


その幻想御手が何なのか一方通行には分からないが、それよりもだからといって何故、自分に会いに来たのかという疑問が氷解しない。
実験の予定が繰り上がったのならばさっさと始めればいい。
だが目の前のミサカは装備こそ物々しいが、戦闘体勢をとってはいない。


「あなたに会いに来たのは私の独断であり、実験には何の関係もありません。ただ私は・・・・・・」


そこでミサカは言葉を途切れさせた。何と表現すればいいのかと迷うように。


「――ただ私は、あなたに挑まずして負けることを良しとしたくない」


それは20000号に訪れた小さな変化。


「私はあなたの能力を引き出す為に予定よりも早く培養槽から出ました。ならばせめて最初に与えられたその任務だけは果たさなければならない――軍人として」


間違った知識から得た、間違った常識。
だが同時にそれはミサカネットワークから離れた20000号を他の誰でもなく20000号たらしめていた。
酷く特異で歪んだ、彼女だけのパーソナリティー。


「楽しそうですね」


彼女の耳は未だ音を拾うことはできないが、読唇をするまでもなく一方通行の愉悦は感じ取れた。


「くはははは! あァ、他の妹達よりも万倍面白ェよ、お前。本当に第三位のクローンか?」

「肯定です。パパの精液がシーツの染みになり、ママの割れ目に残ったカスであるオリジナルから生まれたのが私です」


その言葉にさらに一方通行は唇を吊り上げる。


「どんな洗脳したらあの無表情の妹達がテメェみてェになるンだ? 最高に愉快だよ、お前」

「ありがとうございます。では“戦争”を始める前にあなたの名前を教えてください。能力名しか私は存じていませんので」

「ンなもン覚えてねェよ」

「そうですか。では第一印象から精液まみれのディック、略してディックと呼ばせてもらいます。ファッキン・ディック」


こうまであからさまに喧嘩を売られたのはおそらく初めてだろう。
だが彼に怒りはなく、愉悦と――心の底に悲哀だけがあった。



[20264] とある科学の軍用妹達①4
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:29
深夜の第七学区にパシュンという銃声が小さく響いた。サイレンサーを装着したコイルガンの銃声は人通りのない夜の道でさえ、気を抜けば聞き逃してしまいそうなほどに小さい。
だがその威力は人を粉砕するのには十分過ぎるほどのもの。

無論、それが一般人やレベル3以下の能力者だったならば、だが。

例えば20000号たちのオリジナル、御坂美琴ならば弾丸を弾くことも、消し飛ばすことも容易だろう。
そしてそれ以上に学園都市230万人の頂点、一方通行にとっては弾丸など意に介すまでもない、塵芥に過ぎなかった。

――反射。
一方通行が纏う唯一にして最強の盾。


(今までの実験で9811番までの妹達が誰一人として破ることのできなかった反射の壁・・・・・・理論上は肉弾戦で“返す”ことによってダメージを与えることは可能。しかし)


理論上、反射の膜に触れるか触れないかの位置で攻撃を逆に引き寄せれば、戻っていく攻撃を一方通行に反射させ、攻撃をすることは可能だ。
だが反射の範囲も分からず、分かったとしてもそんな格闘技術を20000号は持ち合わせていない。


(それでも、彼の――ディックの力を引き出すのが私の役割。それにオリジナルと同じレベル5という領域に立った以上、簡単に殺されるというのも納得できません)





◆◆





「妹達・・・・・・?」

「虚数学区や幻想御手と同じようにこの学園都市で噂になっているものです。上位能力者のクローン・・・・・・だそうです」

「クローン・・・・・・罪深いものだね。そんなことをしても元となった人間の数パーセントの力しか再現することは適わないだろうに」

「神の力の一端を持つ聖人が神を模したものであるように、ですね」

「だが模したのが人と神とでは宿る力が違いすぎる――それとも彼らにはそんなことは関係ないのか・・・・・・いや、これは僕たちにこそ関係のない話だったね」


この時はまだ、目に見える形で科学と魔術が交叉することはなかった。





◆◆





「なンだ? 今度はかくれンぼかァ? いいぜ、付き合ってやるよォ」





「ハァッハァッ・・・・・・」


一方通行は何の警戒もなく20000号が隠れた物陰へと少しずつ近づいてくる。


(まるで新兵の行進のように隙だらけ・・・・・・ですが、あの反射を破れないというのが事実。これが230万人の頂点、最強の能力者・・・・・・私たち程度を殺害したところで本当に絶対能力へと進化できるのでしょうか?)


相対して理解した。
妹達ではどうしようもなく役者不足だと。
たとえ2万人を殺害したところで、彼の経験値の何の足しにもならない。

甘かったと認めざるを得ない。
最強。挑んでから気づくその圧倒的な力。
同じレベル5であるオリジナルでさえも彼の前では霞むだろう。


(・・・・・・せめて、彼の虚を突くぐらいのことはしなければ)




「――見ィつけた。ガタガタ震えやがンのかァ? ンな縮こまってよォ」

「残念ながら、私は恐怖という感情を理解できません。ですが感情のない私だからこそ、あなたの虚を突くことができる」


数十センチの距離にまで接近していた一方通行が能力を発動させるよりも速く、20000号はコイルガンの引き金を引いた。

当然、それは反射に阻まれ、金属製の弾丸は寸分違わず20000号の眉間を撃ち抜く――――はずだった。


「あァ?」

「フルメタルジャケット。先ほどの非磁性体の弾丸とは違い、磁性体である金属です――“全く同じ力で反射する”あなたの能力と電気関係では私の方に分があります」


20000号に到達する直前に弾丸は再び一方通行へと向かっていく。
強力なN極を持つ弾丸が、それ以上に強力なN極と反発している。


(オリジナルと比べればまだまだ荒削りな能力の使い方ですが・・・・・・)

弾丸は一方通行へと到達し、反射されることなく、今度は一方通行の眼前で制止した。
反射された力よりもさらに強力な磁力が弾丸と反発し、反射を許さない。


「私は初めに言いました。戦争を始める、と――これが戦争です。ディック」


20000号が取り出したのは弾丸。それをコイルガンに装填するでもなく、人差し指で押さえながら親指の爪に乗せた。


バチッと電気が迸る。
それに呼応するように一方通行の眼前の弾丸も勢いを増した(一方通行がそれに気付くことはないが)。


(オリジナルのコインとは違い、超伝導体を用いた専用の弾丸・・・・・・これならば――!)


暗い世界に煌めく電撃。
それは見間違うはずもない、圧倒的な暴力の光。
最強の電撃使い、学園都市第3位と同じ――――超電磁砲。


「――――はッ」


――――!!



その電光の中、一方通行は愉しそうに笑った。










「・・・・・・」


特別製の弾丸は一方通行の横をすり抜け、そのまま数百メートルを刹那に抜け、“窓のないビル”に阻まれて地に落ちた。


20000号が弾丸を外したのは一方通行の身を案じたからなどではない。
万が一、いや二つに一つ以下の可能性で反射された時のことを考えたからだ。
人を殺害するだけならば直撃などしなくとも、その余波だけで十分。
だからこそ20000号は外し、自身の安全を確保した。



「・・・・・・」


超電磁砲の衝撃波によってもたらされた暴風。舞い上がった土埃のせいで一方通行の姿は確認できない。


(ゴーグルも今ので壊れてしまいました)


妹達の装備であり、電気に耐性のあるゴーグルとはいえレベル5の電撃に耐えられるはずもなかった。


(ですが、これで少しは――――)


役に立てたでしょうか、と心の中で呟く直前、20000号の肩を銃弾が貫いた。


「――はっ、最強の俺の虚を突くゥ? 三下のクローン如きがかァ? おもしれェジョークだなァ、オイ」

「・・・・・・これ以上強くなって、どうしようというのですか、あなたは。あなたはもう十分強いというのに」

「テメェみたいに思い上がった奴がいなくなるぐれェに強くなンだよ。テメェらみたいな雑魚を相手にすンのは面倒だからなァ」


さて、と20000号は思考する。切り札も通じず、どうしたものか。


(虚を突くこともできない、取るに足らない雑魚。それが私。もう、これ以上の手はありません)


そんな諦観にも似た思考に行き着くのと同時に20000号の体が不可視の力に吹き飛ばされ、宙を舞った。


(今のは超電磁砲の衝撃波を“操作”したんでしょうか・・・・・・?)


単純な反射ならば自分は生きていないだろうと冷静に分析。体の痛みは無視して。


「もう終わりかァ? 相変わらず脆いな、お前ら」

「・・・・・・・・・・・・私はまだ動けます。私の機能が停止するまで、終わりはありません」


唇が見えず、一方通行が何と言ったのかは分からなかったが、20000号は立ち上がった。
左手はあらぬ方向に曲がり、迷彩服はボロボロに切り裂かれている。


(・・・・・・悪足掻き、というのをしてみましょう)


いくら整頓された脳でもこの状態では複雑な演算が出来るはずもなく、単純に電気を発生させ、辺りのゴミを手元に引き寄せる。
握力もロクになかったので、無事な右腕に籠手のように纏わりつかせるとシルエットは歪な槌のような形になった。
――――ミシリと身体が歪んだ気がした。


「――ディック。どちらかが負けを認めるか、全てを殺すまでが戦争です」


私は負けを認めません。言外に20000号は言い捨て、悪足掻きとして能力をがむしゃらに発動した。


――――空で雷鳴が轟いた。


「あァ。お望み通りに殺してやるよォ!」

「――その胸糞悪い笑みを消せ! 顔面に伝えろッ! 3秒やる、3秒だ、マヌケ!」


一方通行の凶悪な笑みはさらに深くなる。


「アホ面を続けるならッ、目玉抉って頭蓋骨でファックしてやる! 1!」

「――2ィ!」


20000号が地を蹴り、跳ぶ。最後の悪足掻き。20000号の身体は能力の応用か、それとも別の何かか、ビルを越え、一方通行の遥か上空に一瞬で到達した。
――――内から身体が裂ける。
槌を振りかぶる。
――――雷が煌めく。


「3ッ!」
「3!」










雷。槌。籠手。親。子。
――偶像の理論。

『何か』を模したものは『何か』の力がほんの少しだけ宿るという。
聖人が神の力を宿したように。
妹達が御坂美琴の力を宿したように。


――この瞬間、確かに20000号は『雷神』の力を宿し、確かにこの瞬間、科学と魔術は交叉した。











#####
今までで一番長くなってしまった。
とりあえずこんな感じ。
説明やら何やらは次回に。
後、前回冒頭の02に誰も触れないのは優しさなのか・・・?



[20264] とある科学の軍用妹達①5
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:30
「――」


一方通行は倒れていた。
瓦礫の中に“無傷”で。


(なンだ? 何をやりやがった?)


一方通行は理解できない。
何故、自分が倒れているのか。

傷がない、ということは反射の鎧が破られたわけではない。
では何故倒れている?


「・・・・・・あァ?」


立ち上がった一方通行が見たものは血溜まり。
赤く染まったヒトガタ。


(・・・・・・違ェ。これは“アレ”の傷じゃねェ)


辛うじて人の形を留めている20000号を見下ろし、一方通行は思考する。


最後の一撃が反射して、それに直撃したならば人の形を留めてはいない。
アレはこの程度で済む威力ではなかった。


「ぁ・・・・・・っ・・・・・・」

「オイ、最後のアレはなンだ?」


虚ろな目で喉を震わした20000号に一方通行は尋ねる。


(・・・・・・ああ、綺麗ですね)

20000号の目には既に一方通行は映っていない。
ただ星空が見えるだけだ。


「・・・・・・ッ!?」


安らかな表情を浮かべる20000号の折れた左腕を躊躇なく一方通行は踏みつける。


「オォイ、聞こえてますかァ?」

「ッ・・・・・・っは、聞こえ、て、います、よ。ディック」


何とか目を動かし、一方通行の言わんとしていることを読み取る。
まったく、耳が聴こえないことがここまで不便だとは思わなかった。
これではロクに星空も眺められない、と心中で毒吐くが実際の空は黒雲に覆われ、月も星も見えはしない。


「私にも、何が起こったのか分かりません。あなたのその表情を見るに、悪足掻きが実を結んだということでしょうか・・・・・・?」

「はッ、これのどこが実を結んだって言うンだ?」

「そうですね。そうかもしれません・・・・・・あは」

「笑ってンのかァ? それは」


一方通行には血まみれの少女が口を半開きにしているようにしか見えない。


「とりあえず後のことはお任せします。所謂煮るなり焼くなりというやつです」

「そォかよ」


あの力について知らないならば、一方通行とて20000号に用はない。

これまでの妹達や馬鹿達と同様、挑んできたなら殺すだけ。





「――その必要はありません、とシスター02は被験者を止めます」
「――その必要はありません、とシスター03は被験者を止めます」


そんな一方通行を、2人のステレオの声が止めた。


「オイオイ、こいつは実験とは関係なくケンカを売ってきたンだ。テメェらの出番はねェよ」

「ならもう止めてください。これが実験でない以上、あなたが彼女を殺害する理由はないはずです、とシスター02は再度お願いします」

「――だからよォ、これはテメェらの出る幕じゃねェっつってンだろォが」


鬱陶しげに2人を見て、面倒くさそうに一方通行は右腕を振るった。


「――!?」
「――!?」


その動作だけで2人の身体は宙を舞う。


「・・・・・・その2人こそ関係ありません。ディック、お願いします、彼女たちは――――ッ!」

「うるせェよ」


今度は左足。
身体と繋がっているのかどうかすらも分からない激痛が20000号を襲う。


「まァテメェらみたいな雑魚を実験以外で相手にすンのも面倒だから、見逃してやるよ。とっとと消えな」

(あ・・・・・・よかっ、た・・・・・・)


激痛に苛まれながらもそれを知り、再び穏やかな気持ちが20000号に芽生えた。


「しか、し・・・・・・実験以外で妹達を失うのはあなたにとってもデメリットしかありません、とシスター03は・・・・・・?」


不自然に19998号が言葉を途切れさせる。


(ネットワークに強制接続・・・・・・? これは・・・・・・!?)


「あン?」

「最後の力を振り絞り、彼女をネットワークに接続しました。ネットワークを介した能力の応用です」


えへんと胸を張ろうとするが、その力も残ってはいない。


「・・・・・・・・・・・・20000号を九八一二次実験の個体と認定したそうです、とシスター03は報告します」

「ほォ。なら掃除はテメェらがやってくれンだな」

「・・・・・・はい、とシスター03は肯定します」


そォかよ、と一方通行は笑い、足で20000号の頭を――――


「・・・・・・さようなら」



――――踏み潰した。






九九一二次実験終了。





◆◆





「私が新たに教官として着任したミサカ19997号であります! とミサカは胸を張って宣言します」


あれから。
実験の後片付けを行って戻った2人を待っていたのは新たな教官。
彼女たちの役割は何も変わらない。
ただ強くなり、殺されていくことだけ。


「返事はどうした! とミサカは怒鳴り散らします」





「・・・・・・02、訓練の後に話がありますとシスター03は教官を無視しつつ提案します」

「02、了解。と教官を無視しつつシスター02は快諾します」


変わらない、はずだった。





◆◆





「幸い軍曹と私がネットワークに接続したお陰で記憶の共有が出来ました。後は容れ物さえ確保できれば問題ありません」

「それは明確な反逆行為であり、軍規違反でもありますが?」

「罰はいくらでも受けましょう」

「なら問題はありませんね」


以前よりも大分ヌルい訓練を早々に切り上げ、19999号と19998号は研究所の一室で密会していた。
勿論、監視カメラの類にはダミーを流してある。


「“痴女”の方は私が適任でしょう。03は“容れ物”の確保を」

「元よりそのつもりです。そちらの作戦が成功次第、すぐに実行に移ります――――本当に良いのですね?」

「愚問ですよ、シスター03。罰は後でいくらでも受けます。受けられるものならば」


そうですね、と03は頷き、銃器の点検を始めた。


(一方通行の能力、上位個体、絶対能力進化、妹達。分からないことばかりですが、大した興味は今はもうありません。今はただ、軍曹を取り戻すだけです)










#####
やはり死亡フラグは折れなかった20000号。
しかし発生する生存フラグ。
次回、幻想御手編クライマックスです。



[20264] とある科学の軍用妹達①6
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:31
七月二十四日



「こちらシスター02、目標を視認。“花瓶”を人質に逃走しているようです」

『シスター03、了解。“痴女”が確保されるまでは動かないように。上位命令を使われるわけにはいきません』

「了解」


――幻想御手をバラまいた犯人が木山春生であるということは簡単に調べがついた。
否、元より予想はできていた。

偶然、02が街でオリジナルを見かけ、オリジナルと共に居た人間の素性を調べあげている内に木山春生の過去を知れば、簡単に予想はついた。

そして彼女が幻想御手の開発者であるからこそ、2人は彼女に用がある。

だが先日の20000号の行動により、反乱防止のために2人はミサカネットワークへの接続を強制された。
いざという時、上位個体による上位命令、という安全装置を作動させるためだ。


彼女たちは隠密且つ速やかに作戦を果たさなければならない。


この作戦の成功条件は木山春生と容れ物の確保。

逆に失敗条件は上位命令の発動。

上位命令を発動させないためには、彼女たちの行動が研究者たちにバレてはならない。
教官役であり監視役ともいえる19997号には少し眠ってもらったが、ハデなことをすればネットワークを介して妹達に伝わり、場合によってはすぐさま上位命令が発動されるだろう。

故に行動は一瞬。
発動するよりも速く音速の弾丸で目標を貫く。
発動するよりも速く容れ物を確保する。

そうすれば、後はこちらのもの。

彼女たちは集中を途切れさせない。
来たるべき刹那のために。




「こちら02、目標が警備員と接触・・・・・・いよいよですね」


今が来たるべき刹那だと、02はそう考えた。
だがそれは裏切られる。







「バカな! 学生じゃないのに能力者だと!?」





◆◆





圧倒的だった。
何が、と問われれば力が。

先日の一方通行に似た、圧倒的な暴力。


多才能力者へと至った木山春生と、オリジナル 御坂美琴。
2人の戦いは圧倒的な暴力のぶつかり合いだった。



(・・・・・・軍曹はあの域に達していた。流石軍曹。ああ、早く会いたいです。早く声を聞きたいです。早く罵られたいです)


オリジナルに付く白井黒子のような、それ以上に歪んだ想いを抱えながら02はスコープを覗き込む。



(オリジナル。上手くやってください)


02も03も理解していた。
超能力者には有象無象の能力者たちが束になったとしても適わないことを。

それこそ第1位などには、妹達2万人がまとめてかかっても勝負にすらならず、遊ばれて終わりだ。


02が待つのはオリジナルが勝つ瞬間ではない、その先にある刹那。


「こちら02、目標の沈黙を――――?」


そして当然のようにオリジナルは勝利したかに見えた。


『02、正確に状況を報告しろ』

「・・・・・・出来の悪い映画を見ているようです、と02は呟きます」


02のスコープが捉えたのは胎児のようなナニカ。


「目標より生命体――いえ、謎の物体が発生。幻想御手のネットワークの暴走によるものかと」

『・・・・・・作戦に変更はない。目標は木山春生です』

「心得ています。これよりあの化け物を“幻想猛獣”とし、作戦を続行します」


オリジナルの混乱を余所に、2人は冷静だった。
不測な事態が起こるのは戦場の常。
兵に必要なのはそれにどう対処するかの能力。


「尤も、我々が対処するまでもなくオリジナルがやってのけるでしょうが」


あんな木偶にオリジナルがやられるわけもない。
軍曹に対する信頼とは別の確信。


「ですから私は目標から目を離さずに――――と」


再度、照準を木山に合わせると静観できない状況に陥っていた。


(失敗に絶望し自殺でしょうか? ならやはり釣れるはず)


隠し持っていた拳銃を頭に当て、引き金に手をかけた木山春生。
その拳銃だけに狙いを定める02。
後は引き金を引くだけで寸分違わずに拳銃だけを撃ち抜くはずだった。


「――!」


ぐらりと地面が揺れる。
化け物――幻想猛獣による流れ弾が運悪く02のポイントに着弾したのだ。


照準は外れ、指は引き金から外れる。


「しまっ――」


すぐに体勢を立て直し、照準を付け直す。





「――ダッ、メェーッ!」


木山春生が引き金を引く直前、初春飾利が木山に飛び付く。



ニヤリと02の口元が緩む。



「グッジョブです、花瓶」


こんなミスを犯すなど、軍曹に知られたらどうなることか、と自身を叱咤しながらも02は今度こそ引き金を引き、銃弾は木山の持つ拳銃を撃ち抜いた。





◆◆





(ネットワークで繋がっているとはいえ、読心することは不可能。つまり私が研究所に居る真意も妹達には伝わらず、上位命令はまだ発動しない)


発動するのは妙な動きを見せてからだ。


(――穴はある。安全装置とて完全ではなく、元々は反逆など考えつかないようテスタメントを使っているのですし)


事実、02も03も反逆などつい数日前までは考えもしなかった。
その考えが変わったのはきっと、彼女の最期を見たから。


(軍曹。もうすぐお迎えにあがります)



「――――それにしてもまさか妹達が命令に逆らうなんてねぇ」

「わざわざ寿命を調整してまで長い間、外に出してれば色々な影響も出るわよ。まあ結果、実験がほんの少し早まっただけで済んでよかったわ」


03とは反対側の通路から2人の研究員が歩いてきた。
覚えのある顔。確か生まれてから初めて見た顔だ。



「おっ、君は命令違反なんてしちゃ駄目だよー?」


1人が話し掛けてくる。問題ない、予想の範囲内だ。

「――勿論です、とミサカは何を当たり前のことを訊くのかと呆れます」

「あはは、だよねー」

「あの個体が異常なだけで、他の妹達にはそんな考え浮かびもしないわよ」



一言言葉を交わしただけで2人は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
それはそうだ、妹達と世間話に興じるような酔狂な人間は此処にはいない。


(・・・・・・それにしても、この常盤台の制服というのはどうもなれません。潜入任務とはこういうものなのでしょうが・・・・・・ううむ、一考する必要がありそうです)


そしてまた、同じ格好をした妹達を見分けることができるような人間も。




『こちら02、オリジナルが幻想猛獣の核を破壊。警備員もこちらに向かってきています――――頃合いかと』

「――03、了解。これよりこちらも作戦行動を移行します」




こうして、たった2人の妹達の反逆が始まった。





◆◆





「えー、3時32分、確保と」

「警察24時の見過ぎだろ」

「一度言ってみたかったんだよ」


前部座席でそんな会話が交わされているのも知らず、木山春生は静かに瞳を閉じる。


(幻想御手を利用した人間の脳を使った演算装置を作り出すのは失敗に終わってしまったが・・・・・・なに、刑務所だろうと私の脳は此処にあるんだ。いつか必ず、あの子たちを救ってみせる)


彼女の心は安らかだった。
つい数十分前には絶望し、自ら命を断とうともした彼女だったが、希望はまだ消えてはいない。

だから今は、少しだけ休もう。
一時間もすればしたるべき場所に護送される。
今だけは――と、微睡みに身を任せようとしたその時だった。


ガクンと車が揺れる。


「――おわっ!?」

「なんだっ! どうした!?」


車はコントロールを失ったが、警備員が咄嗟にハンドルを切ったおかげで衝突も転倒もすることなく、道路から外れて止まった。


慌てて2人は扉を開き、車の様子を。
残った2人は後ろに乗る木山春生の様子を確認する。




「あちゃー・・・・・・完全にパンクしてやがる」

「おいおい、釘でも踏んだのか?」

「馬鹿言え、こいつはそんなもん踏んだぐらいじゃパンクなんざしねぇ・・・・・・はずなんだが」

「いや、見事に鉄釘が刺さってるんだが」


彼らは気づかない。
その鉄釘が磁力狙撃砲によって発射されたものだと。






「おい、大丈夫か?」

「・・・・・・随分と乱暴な運転だな。手錠のせいで咄嗟の受け身が取れなかった」

「いや、どうやらパンクしちまったようなんだ」

「パンク・・・・・・?」


微睡みに身を任せようとしたところに起きた急な揺れのせいで派手に鼻を壁に打ち付け、鼻を赤くして涙目な木山が尋ねる。


「ああ、釘を踏んじまったらしい」

「学園都市の科学力ってのはそんなもんなのかねぇ」

(・・・・・・偶然、なのか?)


たまたまタイヤが傷んでいて、たまたま釘が落ちていて、たまたま鼻を打ち付ける程度の衝撃で済んだだけなのだろうか?


(・・・・・・偶然に決まっているか。あの男――木山幻生のせいでどうも偶然というものは信じられないな)


「後から来る警備員と合流するしかないか。まあ大人しく待っててくれや」

「ああ。心配しなくとも逃げたりしないさ。今の私には逃げ切ることなどできはしない」


自嘲するように言う木山春生だが、鼻が赤いせいで台無しな気がしなくもない。


「そりゃ懸命な判断、だ・・・・・・?」

「む? どうかしたのか?」



小窓からこちらを覗く警備員が窓から姿を消した。


「――――心配しなくて構いません。少し眠ってもらっただけです」


背後の扉がゆっくりと開き、開けた人物の顔が見える。


「・・・・・・御坂美琴、ではないな」

「あなたならご存知でしょう? 木山春生。私と一緒に来てもらいます。拒否権はあなたにありません」


木山に向けられた銃口は、彼女の持っていたモノとは比べものにならないほどに大きく感じた。





◆◆





02が木山春生を護送中の車を襲撃する直前。
03もまた、目的のため行動していた。


頭の中にある地図を頼りにある区画へと一直線に進んでいく。




――妹達培養施設。

人間が入るサイズの培養機が並んでいるこの部屋で、もうすぐ生まれる妹達の培養機を見つけ、開放。

培養機を満たしていた液体が排出され、ゆっくりと開く。


「――お迎えにあがりました、軍曹」


ペタリと座り込む生まれたばかりの少女の髪は長く、瞳は潤み――――


「うわぁぁぁぁん!!」


声を大にして泣いた。

テスタメントによる教育を行っていないため、彼女はまさに生まれたばかりの新生児なのだ。
そりゃあ泣く。



「問題ありません。私の知識の中には赤子の子守の知識まで――」

「うぇぇぇぇん!」

「・・・・・・認識を改めます。初の実戦では知識だけあってもどうしようもありません」


布きれを被せると、03は彼女を抱きかかえて走り出した。



「こちら03、容れ物を確保。直ちに合流地点に向かいます」

『02、了解。こちらも目標を確保。5分で合流地点に到達します』

「了解」


――流石に妹達も上に報告し始める頃だ。
報告し、研究員が動き出し、上位個体に到達し、命令を入力する。まだ少しだが時間はある。

そして、それだけあれば彼女たちの目標は達成できる。



「軍曹、申し訳ありませんが少々手荒くなります。ご容赦ください」


隣の区画に移動後、前もって用意しておいた弾丸を用いて壁を粉砕、道を作る。

専用の弾丸を使えば、欠陥電気とはいえ壁の一枚や二枚を粉砕する威力の電磁砲は放てるのだ。
それも、軍曹が教えてくれたこと。
「一気にぶち抜きます。少しだけ、辛抱してくださいね」


残された弾丸は2発。
十分だ。
超電磁砲はこの程度の壁を――――容易く撃ち破る。




「――ハッ、ハッ・・・・・・流石に、これほどまで急激に能力を使用したことはありませんから、些か堪えます」


額に汗が滲む。気を抜けば倒れそうにもなる。
だが、



――ギュッ



「――行きましょう、軍曹」


背中の少女が服を握る感触に気付くと、何故だかまだまだ動けそうな気がするのだ。



「――止まりなさい、19999号、とミサカはミサカを代表し停止を促します」


そう。
まだまだ頑張れる。


「ど――けぇッ!」


欠陥の烙印を押された電撃。
だが知識での戦争しか知らない妹達に隙を作るのには十分だった。
最後の弾丸が解き放たれる。


――――!




「――それではご機嫌よう、姉妹たち」


軽く手を振り、検体番号 10000の妹達を抱えた03は研究所の外に消えた。





◆◆





「――どうやら間に合ったようですね、と02はひとまず胸を撫で下ろします」

「・・・・・・君たちは何をしようとしているんだ? 何故私を?」

「説明した通り、反逆です、と02は頭の悪い痴女に嘆息します」


手錠をつけたまま木山春生が連れてこられたのは学園都市でも珍しくない廃ビルの一つ。


「――ミサカネットワークからの乖離。そしてそれに代わるネットワークの作成。あなたにしか出来ないことです」

「それは何故だ? 何故ネットワークからの独立を願う?」

「そうしなければ軍曹をお連れした意味がないからです、と03は答えます」

「・・・・・・軍曹?」


廃ビルに入って来たのはまたもや御坂美琴と同じ顔。


「一から説明してる暇はありませんので簡潔に説明します。一つ、新たなネットワークの作成には幻想御手を用いるため、その作成者であるあなたの協力が不可欠である。二つ、私たちはあなたの望みを叶える術を知っている」


その言葉にピクリと木山が反応した。


「三つ、これはお願いではありません。命令です、と最も重要なことを02は付け足します」

「・・・・・・やれやれ。どの道選ぶ道は一つか」


木山は銃口を向ける2人の少女の眼を知っていた。
これは、絶望に立ち向かう者の眼だ。


「幻想御手の改良には多少の時間と設備が必要だ」

「いずれそれは用意しますが今は無理です、と03はこの廃ビルにそんなものがあるように見えるか? と呆れ顔になります」

「な、ならどうするつもりだ? 君たちには時間がないんだろう?」


オリジナルと違って強かな妹達に若干調子を崩されている木山が尋ねる。


「軍曹が目覚めればどうとでもなります、と02は軍曹を愛おしげに見つめます」


後から来た少女が背負っていた長い髪の妹達を見つめる2人。


「とにかく、時間がないのでさっさと聴いてしまいましょう」


03は3人分の音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳につけさせる。


「初めて聴く音楽がどういうものなのか大変興味があります」





◆◆





「上位命令の発動急いで! さっさと停止させないと他の妹達にどんな影響が出るかわからない!」

「あー! 20000号に続いて19998号と19999号もなのぉ!?」

「やっぱり20000号が最期に接続した時のネットワークの乱れが影響してるの・・・・・・? いや、あの時、接続していなかった19999号のことを考えるとやっぱり20000号自身の影響か・・・・・・こりゃ後始末が大変だわ」


頭を抱える研究員たちだが、彼女たちはさほど事態を重く見てはいなかった。
たかが2人だ、ちょうどいい、安全装置のテストになる。その程度にしか考えていなかった。


――しかし


「――! ネットワークに乱れが発生! 2日前に発生したものと同じですがこれは・・・・・・」

「一体なに!?」

「あの時とは違い、乱れが妹達全体に広がっています! このままではどんな影響が出るか分かりません!」


モニターを見ると、ネットワーク、妹達の脳波に乱れが生じている。

整頓された脳、完全に一致している脳波、それが乱れ始めている。


――妹達以外の人間がミサカネットワークに接続した場合、整頓されていない脳では情報量に耐えきれず、脳が焼き切れるだろう。

だがもしも、何らかの方法で既に接続している妹達の脳波を変えたら?
常にネットワークで繋がっている妹達全体に、乱れは広がる。


「――ッ、マズい! 上位命令を変更! すぐに19999号と19998号をネットワークから切り離して!」


――それを止めるにはウイルスを破壊するか、それを流している個体との接続を切るしかない。





◆◆





「・・・・・・可聴域外でした」

「それはそうだ、五感に働きかける音なんだ。それでこれからどうするんだ?」

「もしかしたら痛いかもしれませんが我慢してください」

「――?」


意味が分からず首を傾げるが、すぐに理解した。
頭に走る激痛。
幻想猛獣を生み出された時と同じか、それ以上の痛み。

頭の中を何かが這い回るかのような感覚だ。


「私たちが逆に幻想御手のネットワークを用い、記憶を電気信号に変え、軍曹に発信しています。ネットワークの管理者であるあなたにとっては異物感しかないでしょうが」

「う、ぐッ・・・・・・」


断片的にだが木山には見えた。
彼女たちの言う軍曹の記憶と、絶対能力進化の実態が。


(・・・・・・なる、ほど。分かったよ、君たちが何故、反逆なんてものに思い至ったのか)


――私と同じだ。理不尽が許せなくて、大切なものを取り戻すために、ルールに背いた。


(だが違うのは、彼女たちは絶望などしていないこと。御坂美琴と同じ、強い意志・・・・・・)







「――――」


どれくらいだろう、漸く頭痛が止み、周囲を見渡すと長髪の妹達――軍曹が目を開いた。


「・・・・・・おはようございます、言葉は分かりますか? と03は動揺を隠しつつ尋ねます」

「はい」

「・・・・・・では、検体番号は? と02は震えを隠しつつ尋ねます」












「検体番号は20000――階級は軍曹、だ。ウジ虫ども」


長い髪に隠れた瞳に鋭い光が宿った。









#####
おおぅ、文章量がいつもの数倍に。
復活を引っ張った結果がこれだよ!
次回エピローグです。
復活した軍曹さんですが寿命の問題とか残ってるので、そこら辺を。
後、木山せんせーについてとか。



[20264] とある科学の軍用妹達①7
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/30 15:59
「状況は把握した。そして貴様らがどうしようもないクズだということも理解した」

「・・・・・・」
「・・・・・・」


目覚めてすぐ02と03の腹を殴打、2人は言葉も出せずに這いつくばっている。
02の表情には若干の喜悦があるようにも見えるが。


「さて」


20000号は木山春生に向き直り、向き直られた木山は反射的に身構える。


「巻き込んでしまってすまない。約束は果たそう。貴方の生徒たちの快復方法と事故の原因の究明。必ず弾き出してみせます」

「・・・・・・そう、か――ありがとう」

「だが少し準備に時間がかかる。調整も受けずに引っ張って来られたからな」

「も、申し訳ありません・・・・・・」


調整。
十四日間でオリジナルと同程度まで成長する妹達だが、その寿命は短い。
急速な成長を促すホルモンや薬物の除去を行わなければ、の話だが。


「まずは即刻、此処を離れる必要があります。妹達の反逆というこの件に研究者たちがどう動くかは分かりません。処理係を差し向けるのか、それとも泳がせるのかどうかも」


確率としては後者の方が高い。が、下手な動きを見せれば研究者たちにではなく“暗部”に消される。
実験について警備員に通報でもしたら確実に暗部が動く。
それに小娘3人の首輪が外れたところで、研究者たちにとっては大した痛手ではない。

単価にして18万円、設備さえあればボタン一つで作り出せるクローンだ。


――彼女たちにとって最良の道は、実験が完全に中止になること。
だが、それはつまり最強の能力者 一方通行が敗れるということに他ならない。



「――身を隠す、というのなら一つ心当たりがある。命の保証という点ではそれ以上の場所は知らない」

「・・・・・・ではそこに案内してください」


安全ではなく命の保証、というのが気になったが、20000号は彼女の意見に従うことにした。





◆◆





「患者に必要な物なら僕は何でも用意するよ?」


ゲコ太パネェ。
それが彼女たちの偽らざる感想であった。


冥土帰しとも呼ばれる医者。
彼について木山春生が知ったのは幻想御手の使用者が5千人ほどになった頃だ。

人伝に聞いた話。凄腕の医者。だが今更、止めることなど出来なかった。

しかし今は違う。
幻想御手を用いた樹形図の設計者の代替品の作成は失敗に終わり、また一からの練り直し。

今なら藁にもすがる思いで彼の下を訪ねられる。
・・・・・・尤も、計画が失敗に終わった時点では彼のことなど忘れていたが。
当然だ、計画が失敗に終わるということは警備員に捕まり刑務所行き。
訪ねられるはずもない。




「――子ども、たちを」


もしかしたら。


「うん?」


彼ならば。


「――子どもたちを助けてくれ・・・・・・っ。お願い、します・・・・・・子どもたちを助けてください」


助けてくれるかもしれない。


悲痛な表情で彼に縋る木山春生。
そんな彼女に彼は、こう言う。



「――患者はどこだい?」















「これでは私たちの立場がありませんね、と02はどうしたものかと考え込みます」

「なに、もう一つは私たちの仕事だ。木山春生の生徒たちが被験者となった実験、その失敗の原因の究明はな」

「しかしどうやって? と03は軍曹に尋ねます」


そんなことも分からないのか、とでも言いたげな表情で20000号は03を見やる。


「今更戻れんのだ。反逆者は反逆者らしく、造物主に逆らえばいい――――身体の調整や銃器の到達、その他の準備には長く見積もって1ヶ月と少し。その時期ならば妹達はまだ1万人近く残っている、十分だろう」

「・・・・・・成る程、と03は軍曹の考えていることを理解して戦慄を隠しきれません」


木山春生が1万人の脳で演算を行おうとしたように、彼女たちもそれを行うつもりなのだ。

――1万人の妹達を使って。



「――我々の次の作戦は約1ヶ月後。作戦内容は上位個体 最終信号の奪取。理解したか?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」




――奇しくも作戦実行の日は八月三十一日。
一方通行と打ち止めが出逢う、その日である。


無論、それよりも少しばかり早く一方通行はある無能力者に敗れ、実験は止まるのだが――――今の彼女たちが知る由もない。

今はただ、来たるべき時まで体を休め、牙を磨く。



任務を果たすその時まで、シスターズの戦いは終わらない。










#####
最後はやっぱりゲコ太のターン。
エピローグということで短め・・・。
元々ネタなのでご都合主義なのは勘弁な!


オマケでシスターズの現在の戦力↓


シスター01
復活の軍曹。
能力の強度・・・?

シスター02
軍曹大好き狙撃手。
能力の強度・・・3

シスター03
これといって特徴のない娘。
能力の強度・・・3程度


木山春生 New!
絶賛手配中 ネットワークの“元”管理人。
今のところ、子どもたちの快復と実験失敗の原因が究明されたら大人しく自首するつもり。今のところ。

ゲコ太 New!
おいしいところを持って行く人。
もうこの人だけでいいんじゃないかな。




[20264] フルメタルシスターズ? ふもっふ
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:32
八月一日


「――で、またあなたたちですが」

「はっ、申し訳ありません!」

「病院で大きな声を出さないっ!」


もうお決まりの光景となった、婦長に叱られる3人の少女の姿。


「何度も言ってるでしょう? 病院にこういうオモチャは持ってこないようにって」

「いえ、それはオモチャなどではなく――」

「黙らっしゃい! とにかくこれは没収します」

「あ・・・・・・」


また今日もいつものように、銃器を婦長に没収される少女たちの姿がそこにはあった。










「これは由々しき事態である。今日、此処に来てもう十二丁目の拳銃を婦長に奪取されてしまった」

「軍曹、銃の他にも地雷や携帯対物ミサイルなど、ただでさえ数の少ない武器が没収されています、と03は被害を報告します」

「ふむ・・・・・・」


彼女たちに与えられた病室で真剣な表情で会議が行われていた。
ちなみに19998号こと02は別件(軍曹の寝込みを襲おうとした)で婦長に叱られている。


「匿ってもらっている以上、あまり文句は言えないが、仕掛けたトラップの類も除去されるのは看過できない。敵の襲撃に備えは必要だというのに」

「敵の襲撃の前に、僕の患者たちがトラップにかかってるんだけどね?」

「っ、これはゲコ太殿! 敬礼!」


病室に入ってきたゲコ太ことカエル顔の医者が呆れたように言う。
軍曹たちは彼に恐縮しながらも一糸乱れぬ敬礼をしてみせた。


「特に下の階の“彼”なんて、一日一回のペースで引っかかっているんだよ?」

「む、地雷の減りが凄まじいのはその人のせいでもありましたか」


時折外から聞こえる、不幸だー! という叫びを思い出して納得。
ギャグだもの、地雷程度で人は死にません。


「というか君たちのせいだよね?」

「これは必要なことなのであります」


20000号の態度に少し呆れて嘆息するカエル顔の医者。
些か彼女たちは常識に欠ける。


「それはそれとして、今日は君に少し話があってね?」

「はっ、何でありましょうかっ?」





◆◆





20000号はカエル顔の医者と共に別室へ。


「――」

「・・・・・・何をしてるんだい?」

「盗聴器の類がないか確認を――大丈夫、問題ありません」


無表情で言う20000号だが、本人は至って真剣である。


「それで、話とは?」

「君たちの先生を、木山君に頼もうと思ってね?」


・・・・・・。


(先生? つまり教官。木山春生が私たちの教官? 身体能力は私たちの方が上で、従軍経験のない彼女が教官・・・・・・もしや隠されたデータがあった? いやしかし彼女の身のこなしは素人のそれ・・・・・・まさかそれもフェイクっ!?)

「あー、何やら考え込んでいるところすまないけど、君の想像しているものとは違うと思うよ?」


無表情な20000号の瞳に鋭い光が宿り始めたところで、カエル顔の医者は声を掛けた。


「ミサカネットワークから切り離された君たちに必要なのは、最低限の常識なんだね?」

「はっ・・・・・・?」

「君たちがテスタメントで学習したのはほとんど戦いの知識だけだね? 以前までならネットワークで知識を共有できたいたけど、今は違う。これからのためにも必要なことだね?」

「いや、しかし我々は・・・・・・」

「必 要 な こ と だ ね ?」

「はっ・・・・・・はっ! 了解であります!」


有無を言わせぬ謎の迫力に気圧され、20000号は見事な敬礼でそれを了解したのだった。





◆◆





「我々の教官となった木山春生殿に敬礼!」

(結局、押し切られてしまった・・・・・・)


木山春生は目の前で敬礼する3人を見て思う。
彼女はカエル顔の医者に教師役を頼まれた時は断るつもりだった。
もしもこれが全て終わってからだったなら間違いなく引き受けただろう。
だが、今はまだ何も解決してはいない。
子どもたちの治療は順調だが、目覚めるには今しばらく掛かるし、実験失敗の原因の究明も、自らの罪を償ってもいない。
そんな自分が再び教鞭を執るなど・・・・・・と彼女は考えていたのだが、匿ってもらっている身であることと、カエル顔の医者の謎の迫力が合わさり、結局引き受けてしまったのだ。


(だが・・・・・・思い出すな、あの頃を。引き受けてしまった以上、やれることをやろう)

「――私が今日から君達の担任になった木山春生だ、よろしく」

「はっ、よろしくお願いいたします!」

「よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いいたします!」


・・・・・・何か違う。
そんな疑念が頭を過ぎるが、木山春生は昔を思い出して次の行動に移る。


「では自己紹介を――」


と、言ってから気付いた。


(・・・・・・私は彼女たちを何と呼べばいいんだ? というか彼女たちは何と自己紹介するんだ・・・・・・?)

「はっ! では僭越ながら私から――――検体番号 20000。ミサカ軍曹であります!」

「・・・・・・終わりか?」

「はっ!」


・・・・・・やっぱり違う。


「検体番号 19999。ミサカ一等兵であります!」

「検体番号 19998。ミサカ一等兵であります!」


・・・・・・全然違う。


「はー・・・・・・」


・・・・・・先が思いやられる。



「まずは自己紹介の仕方から、か。まったく手の掛かる・・・・・・」


そう言って頭を抱える木山春生の瞳はどこか優しげだった――。











#####
頑張って書いた日常パートがこれだよ!
木山せんせーかわいい。



以下、説明というなの言い訳。

この時点でもう、幻想御手を用いたネットワークはほぼ木山春生の手を離れています。
幻想御手の改良により、脳波はミサカたちので一定しており、ミサカネットワークとの混線を避けるために木山春生を通して電波を飛ばしている感じ。
偽ミサカネットワークとはいえ、木山春生が接続したら頭があぼーんなので、ゲコ太が一方さんに作ったような装置を身につけてもらっています。
一方さんのとは違って演算補助等はできないし、幻想御手制作者の木山春生がいればこの時点でも作れるかなーということで、ネットワークの問題は解決しました。



[20264] とある科学の軍用妹達②1
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:32
八月十五日


「長くても邪魔なだけだ、適当に切りそろえてくれればそれでいい」

「いえいえ。髪は女の命ですので、不肖シスター02、全力を持って任務にあたります」

「・・・・・・まあ、任せるが」


婦長によって鋏を含む刃物の持ち込みが禁止されていたが、本日、木山春生の教育が多少なりとも実を結び、一時的に鋏の持ち込みが許可された。
20000号にとっては邪魔でしかない長髪を切る、やっとの機会である。


(我々やオリジナルのような短髪というのも面白くありません。此処は一部の筋で至高と呼ばれるポニーテールができる程度の長さを残すというのも・・・・・・ウェッヘヘヘ)

「・・・・・・何故か極めて特殊な変態の気配が」


ゾクリと20000号の背筋が震える。
女、或いは軍人の勘らしかった。







「まだ邪魔ではあるが、まあいい。いざという時は切って目くらましにでもするとしよう」


バサリと肩に掛かった髪を後ろに回す。
本人はあまり気に入ってはいないようだが、これでも一般的な長さ(例をあげるならば佐天涙子より少しばかり長い程度)しかない。


「さて、そろそろ時間だ。移動しなければ」

「はっ!」

「・・・・・・それは処分しろ」

「・・・・・・上官命令と言えどそれは了承しかねます」

「・・・・・・はぁ」


20000号の髪を一房、大事そうに握りしめる02、それを見て20000号は嘆息。
どこで教育を間違えたのやら。
確かに泣いたり笑ったりできなくはしてやったが、しなければいいというものでもない。
というか無表情の方が怖い時もある。


「勝手にしろ、馬鹿者」





◆◆





「――であるから、つまり水着と同程度の露出である下着姿を晒しても問題はない、というのが私の考えだ」

(あれから二十二日。実験が順調に進んでいれば、既に九千九百番代に入っているはず・・・・・・)

「しかし一般的にそれは推奨されておらず、むしろ排他されている。それをどう感じるかは人によって様々だが、私としては起伏に乏しい人間の下着姿を見て劣情を催す男性が居るとは思えない。では何故――」

「先生」

「なんだ、ミサカ2号」

「むしろ起伏に乏しい女性でないと劣情を催さないという男性も多く、その考えは危険なものではないでしょうか」

「ふむ・・・・・・」

(彼の能力の前では、いくら武装を充実したところで無意味。ならば――)


パシンッと気の抜ける音。
木山春生が手に持っていた本で20000号を叩いた音だ。
ちなみにタイトルは『知っておかなければならない千の常識』。


「・・・・・・何か?」

「今は私の講義中だ」

「承知していますが」

「・・・・・・」


その様子に木山春生が呆れたようにため息を吐く。


(何を考えているのか分かっていないとでも思っているのか? この子は)


二十二日。
彼女がもう一度生まれた日からそれだけの日が経った。

ネットワークから外れ、最終信号と与えられた役割から解き放たれた彼女たち。
だが彼女たちの心は未だ、何からも解放されてはいなかった。

20000号だけではない。19999号と19998号も、未だ何も変わってはいない。

実験から解放?
否、彼女たちは生きる意味を失った。

20000号を助けるために反逆した2人。
彼女たちは何故、20000号を助けたのか自分でも理解できなかった。
ただ、そうしたいと思ったから行動したのだ。


――彼女たちの心はひどく歪で、どうしようもなく空虚。

それを埋めるため、20000号は一方通行との戦いを想い、2人は作戦のため、技を磨いている。
それしか彼女たちは知らなかった。

たとえどんなに常識を学んだところで、彼女たちは変われない。





◆◆





20000号は思考する。

自分はどうするべきなのだろうか、と。


たとえばあの時。
命令もなしに一方通行に挑んだ時。
何故そんなことをしたのだろうか?
最初に与えられた任務だから?
馬鹿な、そんなことを言う者が軍人のはずがない。
軍人とはただ最新の命令通りに動けばいい。

超電磁砲の軍用クローン、即ち私は軍人であり兵器だ。
ならばそうしなければならなかった。
なのに何故?

それに命令に反しても何も目的は達成していない。

最後の一撃とて、私も彼も何が起こったのか理解していない。


「・・・・・・感情のままに動く兵器など兵器ではない。そんなものは兵器であってはならない」


では、私に感情が生まれたのは何故だ? 何時そんなものが生まれた?


「彼に、ディックにもう一度逢えば何かが分かるのでしょうか?」


生まれて初めて命令に背いたのは彼が絡んだ時だ。
ならば彼に逢えば或いは・・・・・・?


「実験とは既に無関係な私なら大丈夫のはずです」


そうだ、彼はあの時も2人の部下を見逃してくれた。
それは実験に無関係だったからに違いない。


「思い立ったが吉日。ああ、良い言葉です。先人たちは実に良い言葉を残してくれた」


木山春生から学んだ言葉を呟き、20000号は病院からの脱出を敢行。
自らが仕掛けたトラップの厄介さに満足しながら、脱出に成功。


そして外に出たところでふと思い出した。

『私も君たちも追われる身だ。外出は避けた方がいい。どうしても必要な場合は私に声をかけてくれ・・・・・・どうにかしてみせる』


木山春生――所謂恩師の言葉。


「また命令違反――もしかすると私は軍人に向いていないのかもしれません。とはいえ、これ以外の生き方を私が上手く出来るとも思えませんが」


オリジナルや妹達に見つかるようなヘマはしないから。
そんな言い訳を心の中で並び立てて、20000号は外の世界に飛び出した。


――それは、御坂美琴が初めて校則を破る時のような、そんな背徳感と高揚感に満ちた表情に近いものを彼女の表情から感じる。
一見して無表情なことに変わりはないが。


恩師曰わく、“若気の至り”というやつだろう。







#####
みんなが木山せんせーの教えることなんて脱ぐことしかないとかなんとか言った結果がこれだよ!



[20264] とある科学の軍用妹達②2
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/13 19:33
木原数多の朝は遅い。
以前は朝も夜も研究漬けでいつ寝ているのかも分からない状況が続いていたが、今は違う。

かつて彼が全力を注いだ実験体である一方通行。
一方通行が学園都市最強の超能力者となり、木原数多は満足感と共に一方通行の研究から手を引いた。


彼の手から一方通行が離れた後、絶対能力進化実験を被験すると聞いた時には心が踊った。
そんな狂った実験に身を委ねるということは、精神が壊れていなければできない。

“木原の一族”らしく、実験体が壊れるまで開発してやった、とさらなる充足感に包まれたものだ。


――だが、数週間前に彼が耳にしたのは一方通行が妹達の3人を見逃したという木原数多からすれば信じられないもの。


(――おいおい、違ぇだろうが一方通行。お前はもう“壊れて”るんだ。どんな事情があろうとも楯突いた奴を見逃すはずがねぇ、そんなマトモな精神があっちゃいけねぇんだ)


ふと、親戚の少女に思い至った。
自らを実験体とする、“木原”でも異端の少女。
木原幻生の実験体、同じ実験動物である子どもたちに情を移した馬鹿な少女。


「ちッ、那由他のことを言えねぇな。『実験体をギタギタにぶち壊して限界を超えるのが研究の第一歩』・・・・・・はっ」


自分が研究者として欠陥品だったのか、それとも一方通行が“優しい人間”だったのか、それは分からない。
だが、それから木原数多の人生は変化した。

独自に進めていた研究をやめ――いや、量産型能力者計画や絶対能力進化実験を含め、あらゆる研究から身を引いた。
研究者を辞めたのだ、木原数多は。

木原の本分である研究を辞め、木原に伝わる格闘術に打ち込み始めた。
元は最強である一方通行に噛みつかれないために始めた木原の術を、ただひたすらに。


「・・・・・・そういや、那由他のやつは漸く第一歩を踏み出したんだったな」


前述の親戚の少女、木原那由他が壊れたというのを思い出した。
無論、壊れたというのは義体の話であり、彼女自体は生きている。

自分が研究から離れた一方で、彼女は着々と木原の研究者らしくなっている。


「まあ、興味ないな」


――――♪


そう木原数多が呟くのとほぼ同時、テーブルに置かれていた携帯電話から軽快な音楽を流れ出した。
木原数多の趣味ではない。


「テレサの奴、また俺の携帯をいじりやがったな」


ため息を吐き出して携帯電話を手に取ると、ディスプレイに表示されたのは今名前の出たテレサ――テレスティーナ=木原=ライフライン。


「――何の用だ、おい?」

『よくもそんな口が利けたなぁ、数多!』

「あぁ?」


通話口から聞こえてきたのはテレサの素の口調の罵倒。


『幻生のジジィの所の置き去りのことだ! 急に行方が分からなくなって調べてみたら他の病院に回されてやがった! しかもどこにだと思う? 冥土帰しの病院にだ!』

「・・・・・・それで? 何で俺がテメェに怒鳴られなきゃいけないんだ?」

『惚けんじゃねえ! あの量産型能力者計画はお前が関わってただろうが!』

「――ちょっと待て。関わってやがるのか? 妹達が?」


気怠げだった数多の瞳に光が宿る。


『例の3人だ! どうしてくれるんだよ、おい!?』

「・・・・・・」


例の3人、つまり一方通行が見逃した妹達。


(――こりゃあ本格的に実験が狂い出してやがる。もう俺の知ったこっちゃねえが、一方通行にケチをつけた実験動物に興味はある)

『聞いてんのか、数多!?』

「おお、おお。聞いてるぜ、テレサ。で? テメェは俺に何をしてもらいたいんだ?」

『手伝え! ガキ共を取り返す!』


――八月十五日。
九九八三次実験が行われるのと同日、学園都市の某所での一幕である。





◆◆





「20000号がいない?」

「ええ、時間になっても授業に来ないので、彼女たちを問いただしたところ、どうやら外に出たようです」

「ふむ・・・・・・」


木山春生とカエル顔の医者が困ったような表情を浮かべる。
その後ろでは、19998号と19999号が無表情にその様子を眺めていた。


「居場所はネットワークがありますし、すぐに分かりますが、私が探しに行くワケにもいきません。誰か人を向かわせてもらえませんか?」

「そうしたいのは山々なんだけどね? 残念ながら今日はちょっと動けないんだよ?」

「・・・・・・?」


動けない? その言葉に首を傾げた木山春生に、カエル顔の医者はPCの画面を見せた。


「ついさっき警備員の調査が入ることが決まってね?」


画面には小難しいことが長々と書かれているが、簡潔にまとめるとポルターガイスト――RSPK症候群の反応が近辺で確認されており、その調査に本日伺う、というものだ。


「この部隊の隊長はテレスティーナ=木原=ライフライン――木原幻生の孫娘だ」

「――!」


木原幻生の名を聞き、木山春生の表情が変わった。


「まさか・・・・・・あの子たちをまだ、利用する気なのか」

「大丈夫。あの子どもたちは僕の患者だよ? 僕が責任を持って治す。それまでは何処にも渡さない」


木原と置き去り、冥土帰しと木山春生。
そして妹達。


様々な思惑が交叉する中、八月十五日は始まった――。





一方その頃、軍曹は一方通行が見つからず途方にくれていた。










#####
いや見てくださってる方々、本当に申し訳ありません。
間違って全削除、みなさまからいただいた感想もパーに・・・・・・。
以後気をつけます、本当。

で、作品中では木ィィィィ原くゥゥゥゥン!!が登場。
アニメのテレスティーナのフラグを回収しておく。
木原くん、木山せんせーと同じくらいのお気に入りキャラです。



[20264] とある科学の軍用妹達②3
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/18 10:48
冥土帰し、そんな大層な名で呼ばれるカエル顔の医者だが、彼とて人の子、神ではない。

以前、死すらも克服する方法を見つけはしたが、それは神の御業ではなく、一つの科学の境地に過ぎない。

科学というのはオカルトとは違う。魔法陣を描いて呪文を唱えれば傷が治る、なんてことはないし、薬がなければ病を治すこともできない。


――冥土帰しの真に恐ろしい部分は、患者に必要なものは何であっても用意する気概とそれを可能にするコネクション。


しかし今回ばかりはコネクションは存在しない。

子どもたちに必要な“薬”は『能力体結晶の1stサンプル』。

相手は統括理事会でもなければ学生でもない、“木原”という一族。








「警備員 先進状況救助隊、MARのテレスティーナです。今日はRSPK症候群――俗に言う“ポルターガイスト”の調査に参りました。此方で能力の暴走が原因で昏睡状態に陥ってる患者が居ると聞きましたが?」

「確かに、その子たちはこの病院に入院してるね?」

「でしたらすぐにでも私たちの研究施設に搬送を。この件は私たちの分野ですから」

「それは出来ない。まずはちゃんとした書類を用意して、君たちが信用に値すると分かるまでは僕の患者を預けるわけにはいけないよ?」


カエル顔の医者は子どもたちを渡すつもりなど毛頭なく、テレスティーナもまた、こんな話し合いで子どもたちが手に入るとは思っていない。


(オメーのモットーはよぉく知ってるぜぇ? 患者に必要なものは何でも用意する――ガキ共の教師で、行方不明の木山春生・・・・・・あいつも此処に匿ってんだろぉなぁ?)


テレスティーナは警備員であり、木山春生は指名手配中の犯罪者で、しかも子どもたちの関連性は濃厚。
木山を確保すれば匿っていた冥土帰しも罪に問われ、その患者の子どもたちも回収できる。
それがテレスティーナの狙いであった。
――無論、いざという時は武力行使も辞さない考えであることには変わりなく、乗ってきたトラックにはキャパシティダウンと隊員たちが駆動鎧に身を包んで待機しているが。





◆◆





『こちらイエロー、東棟に侵入』

「ンなことは一々報告なんざしなくていい、木山を見つけるまで余計な口は叩くな」


テレスティーナと冥土帰しが論争をしている間に木山を確保する、それが木原の仕事。

今日の調査はほんの一時間ほど前に決まったもので木山が別の場所に移動する時間はない。
念の為、此処に来るまでの間、別の人間が病院を監視していたが木山春生らしき人物は外に出た形跡はない。
間違いなく木山春生はこの病院の何処かにいる。


(そして絶対能力進化実験を裏切った妹達もな)


木原数多の興味は木山春生などではなく、妹達にしかない。
これで木山が見つかり、万が一にもテレスティーナがレベル6に辿り着いたところで木原には興味がない。


今の木原数多には、木原が木原足る研究への歪んだ情熱はなく、ただ冷めていた。


(一方通行がおかしくなったのは妹達のせいか? それとも俺が研究者として欠陥品だったのか?)


木原の興味はその一点だけにある。
テレスティーナの実験に興味は――ない。










『こちら02、東棟にて侵入者を補足、数は4。動かせる患者は最上階に避難させた。残りは重傷患者3名と看護師が2名』

「こちら03、了解。同じく西棟で侵入者を補足、数は5。患者と看護師は下に避難させた」


数多とテレスティーナ、2人の木原に相対するのは02と03、2人の妹達。
彼女たちにあるのは興味でも執着でもなく、与えられた任務を果たすという義務感だけ。


(標的は木山春生。目的はあの子どもたち・・・・・・まったく、軍曹が居らっしゃらない時に限って)


彼女たちの任務は侵入者の撃退、可能ならば1stサンプルの奪取。
1stサンプルをテレスティーナが持っている以上、現在遂行可能なのは侵入者の撃退のみ。


(ですが今の軍曹の手を煩わせたくはありません。彼女は今、私たちの届かない域に達しようとしている)

20000号とのネットワークのリンクは既に切っている。
20000号がただの実験動物から、一人の人間に変わろうとしていると、02と03は無意識に感じていた。


――彼女たちの不幸は木原数多の顔を知らなかったこと。
名前こそ一方通行の開発者ということで知っていたが、プロテクトが強力で詳しい経歴は覗けなかった。
故に彼が量産型能力者計画に関わっていたことも、彼女たちが知る由はなかったのだ。


――それが意味するのは、妹達のスペックやデータを木原数多は完全に把握しているということ。
妹達に共通した『自分だけの現実』をも完全に把握していると、そういうこと。


遠くない未来、木原数多は一方通行を打倒する。
それを為せたのは彼の強靭な肉体と神がかったセンス、そして一方通行のデータを完全に把握していたからだ。









#####
二章は木原VS妹達。
数多の方が出て来るとテレスティーナが小物に見える不思議。
ちなみに子どもたちは最上階に入院してて、木山せんせーも今は子どもたちのそばにいます。


で、以下はキャラ紹介。


テレスティーナ=木原=ライフライン
顔芸の人。小物っぽい。安全第一。
アニメとは違い、オリジナルではなく妹達対策がバッチリなので数多と同じく妹達にとっては最悪の相手。

木原数多
木ィィィィ原くゥゥゥゥン。
木原マサキとは多分親戚。
このSSでは出世が甚だしい人。
この時期はまだ猟犬部隊には入ってない、猟犬部隊に入るのは今回の件が絡んでたりする。
このまま話が続いていけばもう一人の主人公にしたいなぁ。


次回は軍曹サイドの話が入ります。



[20264] とある科学の軍用妹達②4
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/19 12:54
「・・・・・・? 妙ですね。2人のリンクが切れた」


20000号は異変に気付いた。
以前のように20000人が接続しているならともかく、たった3人だけのネットワークだ。誰かがリンクを切ればすぐに分かる。


(記憶の共有を定時のみにしたのがミスだったか・・・・・・? いや、常時の記憶の共有は『自分だけの現実』の獲得の障害になる、間違いではない)


立ち止まり、病院のある方に目をやる。
3人の中には強制命令を行える上位個体は存在しない。
元々そういう風に造られていないのだから当然だ。
一応の命令権を持つのは軍曹の彼女ではあるが。


(考え得る可能性としては急な検査が妥当だが・・・・・・)


だんだんと彼女の口調が堅く、軍人じみたものへと変化していく。


「・・・・・・やはり戻るべきだな。罰は甘んじて受けよう」





「in short それは研究所に戻るということかしら? else 19999号たちの所にかしら?」


病院の方向に一歩踏み出したところで、背後から声が掛かった。
聞き慣れないが、聞いたことのある声。


「――関係者だとは思っていましたが、まさかあなただったとは。盲点でした」

「はじめまして、ミサカ20000号」


20000号が振り向いた先には白衣の少女――布束砥信が無表情に立っていた。


「私たちを処分するのに研究員を使うはずがありませんから、後を附けているのが誰なのか疑問でした。ですが分かりません、何故、研究から手を引いたあなたが?」

「私も疑問があるの。何故あなたたちが実験を裏切ったのか」


人通りの少ない路地に、2人の声は互いによく聞こえた。


「私は――――」





◆◆





『こ、こちらイエロー! 2人やられた! 敵の位置は不明!』

『・・・・・・妹達か。全員無線を切れ、後の判断は各自でしろ――――残りは後二階か』






「漸く気付いたようですが、既に残りは両棟共に2人ずつ・・・・・・まったく、まるで新兵の行進のようですね」


病院の2つほど隣のビルの屋上に02は居た。
彼女の真骨頂は遠距離射撃にある。
本来ならばさらに離れ、この学区以外からの狙撃が好ましいが、監視が居る可能性もあり(実際に監視されていた)、巨大な狙撃銃を持ち出すことは叶わないため、カモフラージュケースに入るサイズの銃ではこの距離が最も適切だと02は判断した。


「どんな場所であれ、敵の領域に踏み入れる時に観察を怠り、油断が生じた時点で死んだも同然です」


例えば窓。
学園都市の病院は夏場といえども基本的には常にロックされているが、今日に限っては最上階を除き、全ての窓が全開になっている。

狙撃のための下準備。
それに気づかなかった時点で彼らの勝敗は決したも同然だ。


「む、窓際から離れた・・・・・・流石に気づきますか。ですが十分です」


残りは半数、最上階までは二階残っている。
最上階に辿り着くまで多数のトラップが仕掛けられているのは当然として、03も病院に残っている。


「彼ら以外の部隊は内部には侵入してはいないようですね――――?」


他に異変がないかスコープを動かしていくが、異常はない――と思った矢先、1人の男が目に入った。


「――」


すぐに照準を合わせ、息を止めて集中する。
スコープの倍率以上に敵が近くに感じてくる。手を伸ばせば届きそうな位置にまで感じて――


「――ッ!」


そして、男と眼が合った。


反射的に顔をスコープから離す。
今の一瞬で汗が滲んできた。



「偶然・・・・・・いえ、あの男――」


――笑っていた。


間違いなくこちらを見て。

刺青の入った顔を愉悦に歪めていた。



「・・・・・・成る程。軍曹の言っていたことを漸く理解しました」



――狙撃手は大抵、死ぬか失明するかのどちらかだ。


ああ、理解した。攻撃の届かない狙撃手を殺すのはああいうモノだ。



そして同時にこんな言葉も思い出した。

――深淵を覗いている時、深淵もこちらを覗いている。



「・・・・・・03、刺青の男に気をつけろ。アレは危険です」

『03、了解』





◆◆





「――――私は裏切ったつもりはありません、というのは屁理屈ですね」

「・・・・・・?」

「殺される為に努力して、そして殺された。それだけです。私たちの役割は殺されるだけの実験動物。結果は同じです」

「だから裏切ってないと?」


まさに屁理屈だ。
死ぬ為に生まれてきて、そして死んだ。だからいい。
屁理屈以外の何物でもない。


「正直なところ、理由は私にも理解できません――おそらく私はこの“感情というものを持て余している”から」

「あなた――」


妹達の感情の獲得。
それこそ布束砥信のやろうとしていることだ。
それを目の前の20000号は既に自力で獲得しているという。


「私の行動を説明するのは教官・・・・・・いえ、先生の言う“感情”というものが最も適切だと判断したのでそれを用いただけです。私自身はまったく理解していないことをお忘れなく」

「・・・・・・そう」


今の会話で布束砥信は確信した。
妹達が感情を獲得すれば間違いなく実験は破綻する。


彼女たちを救える。


「ありがとう。これで確信が持てたわ」

「いえ、私は何もしていませんが・・・・・・?」

「still 感謝するわ」


実験が破綻すれば20000号たちもちゃんと保護という形で迎えることができる。

そのためにも準備を進めなくては、と布束は踵を返した。








「待ってください。私からも一つ、訊きたいことが」

「・・・・・・なにかしら」


布束が20000号との出逢いに感謝していたように20000号もまた、布束との出逢いに感謝していた。


「一方通行についてです」


それが一番の目的であり、20000号にとっての鍵。


「残念だけど、彼についてはあまり私も知らないわ。私はあくまであなたたちの使ったテスタメントの監修が主な仕事だったから」

「――研究者たちは妹達の反逆を恐れ、上位個体を造りました」

「・・・・・・? ええ」


ずっと気になって、ずっと調べていた。


「――では、被験者である一方通行は?」


最初は研究さえ出来ればいい人間しかいないのだと思った。


「実験が終了した時、無敵の彼が牙を剥く可能性は? いえ、今のままの、最強である彼が牙を剥く可能性は考えなかったのですか?」


だが、それは間違いだ。
少なくとも目の前にいる布束はそんな人種ではないし、天井亜雄なども自分の命に頓着しない、そんな人間には見えない。


「そんなはずはない――教えてください。そんな事態が起きた時の為にあなたたちは用意していたはずです。最強を、無敵を、一方通行を倒すナニカを――――それは一体、なんですか?」



布束の脳裏に1人の男が浮かんだ。








#####
布束さん登場。
感想版で更新間隔が空くかもって零したのに2日連続更新。もうちょっと頑張ります。
で、木原くんの伏線回収。

木原幻生やテレスティーナがレベル6を目指していたので、数多も同様に目指していたという設定です。
で、量産型能力者計画から絶対能力進化実験にも万が一の保険として関わっていた、とそんな感じ。



[20264] とある科学の軍用妹達②5
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/22 19:02
『東棟のターゲットのポイントB4への誘導に成功。私も東棟に向かいます』

「了解。西棟のターゲットは現在F2を通過、F4にて迎え撃ちます」

『今のところは順調・・・・・・03、西棟の刺青の男に注意を。アレは危険です』

「了解」


作戦は順調に進んでいる。
だが不安が拭えない、刺青の男の眼が02の脳裏に焼き付いて離れない。


「――こちらシスター03、そちらの様子は?」

『問題ない。相変わらず目覚める様子もないがね・・・・・・』


無線から聞こえる木山春生の声には自嘲が混じっていた。


「絶対に目覚めます。目覚めさせてみせます」

『・・・・・・ありがとう』


任務は果たしてみせる。
その決意を胸に03は行動を開始した。





◆◆





(ちっ、数多の奴は何チンタラやってやがる・・・・・・まあいい、理事会に話は通してある。数多の奴が見つけられなくても令状さえ届けば合法だ)

「ふむ・・・・・・埒が明かないね。今日のところはこれで終わりにして、また出直してくれないかな?」

「いえ、我々も上に令状を申請していますので、もう暫くお待ちくださいな。ポルターガイストがこれ以上続けばこの学園都市そのものが崩壊するかもしれない・・・・・・私はその憂いを早く取り除きたいんです」


嘘。学園都市がどうなろうと、知ったことではない。

学園都市とは学生全員をモルモットとした、レベル6に至るための実験場に過ぎない。
そう、レベル6にさえ至れば学園都市など必要ない。


テレスティーナは今、狂喜している。
数多が一方通行を完成させ、絶対能力進化実験が始まったと聞いた時には憤慨したが、内容がクローン二万人の殺害となれば、時間がいる。
数多の実験体である一方通行が二万人を殺しきるよりも早く、レベル6を完成させる。

これはそのための一歩なのだ。

冥土帰しにも妹達にも、身内にさえも。
誰にも邪魔はさせない。


『隊長、イエローとブラウン、両隊とも半数を削られ、未だに木山は見つかりません』

「――ちっ」


目の前の冥土帰しに聞こえないよう、小さく舌打ち。


(何をしてやがる、数多・・・・・・!)

「アレを準備しておけ、後十分で届かなかったら使え」

『了解しました』


あまり時間を掛けたくもない、後十分して令状が届かなければキャパシティダウンを使って妹達を始末する――そう決めて、テレスティーナは命令を伝えた。


「此処は病院だよ? 以後、通信は控えてくれるかな?」

「失礼しました。私でなければ判断できないことでしたので」





◆◆





テレスティーナが命令を伝えてから少し後。


侵入者はトラップでさらに減り、残りは東棟の3人が残るだけ。
だが最上階まで後一階のみ。
最上階への侵入を許せばその時点で負けは決まったようなもの。
それは阻止しなければならない。


(他の2人に遅れを取ることはないでしょうが、やはり02の言っていたあの刺青の男は・・・・・・危険な眼をしている)


倒すには1対1の状況を作るか、不意打ちのどちらかでなければ不可能だろう。

ならば、と03は懐から柄の短い錐のようなナイフを取り出し、構えた。


(02を待って徒に最上階に近付けるよりも、此処で終わらせる――――1、2、3!)


心の内でカウントを取り、背後から侵入者の1人に向かって取り出した3本のナイフを投擲。


「ぐっ・・・・・・?」


鋭い痛みが三カ所に走ったかと思うと、次の瞬間に床に倒れ伏す。


「ちっ・・・・・・!」


すかさずもう1人の男が銃を構えるが、突如現れた敵に照準を合わせるよりも速く、03が懐に潜り込み腹に一撃。


「がッ・・・・・・!?」


そして、さらに取り出した同型のナイフを首筋に突き刺し、もう1人の男も床に倒れ込んだ。


「――やっとお出ましか、待ちくたびれたぜぇ?」


刺青の男――木原数多が何かを呟いている間に03は距離を離す為、前に転がるように跳ぶ。


着地すると同時に銃を構え、すぐさま狙いを定める。


「投降しろ。殺しはしない」


命令口調で言い放つが、木原数多は口元の笑みを崩そうともしない。
得体の知れない寒気が03の背に走る。


「こいつらに使ったのは学園都市製の麻痺薬ってところか」

「武装を解除し、手を頭の後ろで組め」

「はっ、様になってるじゃねえか。それも訓練の賜物ってやつか?」


武装を解除、と言ったが木原数多は銃を手に持ってはいない。
懐に入ってはいるのだろうが、木原数多は侵入を開始した時から銃を構えてはいなかった。


「三度は言わない。すぐに武装を解除しろ」


値踏みするように見る木原数多に03は再度命令する。
もしもこれで命令にそぐわない行動を取った場合は迷いなく撃ち抜く――殺す気ない、尤もこの病院では誰一人殺すことはできない。
冥土帰しという医者が居る限りは。



「――――あーあー、わかったわかった、わかりましたよ。銃を捨てりゃあいいんだろ?」


木原数多は懐から銃を取り出す、そして次の瞬間にはガシャンと銃が床に落ちた。





◆◆





「――お礼ということで教えてあげる。恐らく、今日は妹達の研修日。1人だけど外に妹達が出てる。早く戻った方がいいわ」

「・・・・・・それが罠で、私の後を附ける可能性もあります」

「信じる信じないは任せるわ。――さようなら」


20000号の疑いの言葉を聞き流し、布束砥信は今度こそ踵を返し――


「・・・・・・さようなら」


少しだけ布束の後ろ姿を見つめ、20000号も踵を返して病院へと足を向けた。









#####
少しずつキャラが揃い始めました。
後、漸くアニメ版超電磁砲借りれた。
後後、最近軍曹の暴言がなかなか出せない。



[20264] とある科学の軍用妹達②6
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/28 19:48
「ッ――――!?」


ガシャン、と音を立てて“03の拳銃が床に落ちる”。


「この音は・・・・・・ッ!」

「キャパシティダウン。テレサが作った能力者の演算を司る分野を刺激する音だ。俺たち非能力者にとってはただの甲高い音だがな」

膝を折りそうになるが、寸でのところで踏みとどまる。


(集中がかき乱される・・・・・・音を出所は!?)

「スピーカーは外の車両に積んである。この病院は“ご丁寧に窓が全開”だからなあ、ここまでよく届くだろ?」


狙撃のために開けていたのが逆に仇となり、キャパシティダウンは03の頭によく響く。


「もう1人も今頃耳を押さえてうずくまってるだろうよ。後はもう1人居るはずだが――まあ終わってから回収すりゃあいいだけの話だ」

(此処には――ない。危険ですが上になら・・・・・・)


耳を押さえながら視線を左右に動かすが、目当ての物は見つからない。
当然だ、廊下に転がっているはずもない。


「とりあえずお前だけ連れてさっさと木山とガキ共を回収するか」

「ぐッ・・・・・・!」


どうにか拳銃を取ろうと背を向けたところを背後から蹴り飛ばされる。


「もしも尻向けて誘ってんなら悪ぃが、実験体に欲情する趣味はないんでな」


地面に這いつくばった03の髪を掴み、無理矢理に立ち上がらせる。


「テメェらはそこで這いつくばってろ。無能でも一応テレサの部下だから俺が殺すわけにもいかねえんだわ」


木原数多は床に伏せる2人の男に冷たく言い放ち、03を伴って最上階に繋がる階段を目指して歩き出した。









そうして木原数多は最上階へと辿り着く。


「・・・・・・」


扉が開いた音に木山春生が振り向く。
まず目に入ったのは新しい教え子である妹達の1人。
次に木原数多。



「・・・・・・同じ眼だな。あの時、私がその眼を知っていればこんなことにはならなかった」

「あのジジイと同じってのはちいと心外だな」


笑みを崩さず、数多は言う。それが本心からの言葉かどうか木山春生には分からなかった。


「で、お前はどうやったら大人しくついて来てくれるんだ? こいつを殺すと言えばいいのか――そのガキ共を殺すと言えばいいのか?」

「っ・・・・・・下衆が」


吐き捨てるように木山春生は言って、続けて口を開く。


「・・・・・・」

「馬鹿なことは考えないでください。あなたがすべきことは何か・・・・・・分かっているはずです」


苦しそうに顔を歪め、03が木山春生を促す。


「・・・・・・ああ、分かっているさ。今、私が抵抗したところでどうにもなりはしない――分かって、いるさ」


そう、どうにもならない。
下手に抵抗して、もしも子供たちを殺されたら?
そんなことはさせない、させるわけにはいかない。

なら、木山春生が取るべき選択肢はただ一つ。


「・・・・・・だが、たとえどうにもならなくても。どんな絶望の中でももう二度と――――諦めないと誓ったんだッ!」


木山春生は駆ける。
妹達や数多と比べればあまりにも遅く、直線的な動き。


「おーおー、吠えるねえ。感動的だ。だがよ――」


どうにもならないことはどうにもならない、そう言って数多は03に突きつけたものとは別の拳銃を木山春生へと向ける。
しかし、


――バチッ


「――そう。抵抗するのは、反逆するのは、私たちの役目――!」


レベル3程度の力しかない持たない03。キャパシティダウンの影響下ではその能力を発動することもままならないはずの彼女がこれだけ時間を掛けて漸く起こしたのは、日常でも起こり得る静電気による火花放電。
――03が知る由もないが、もしもこの時、数多がいつもと同じようにマイクロマニピュレータを手に着けていたならば結果は違った。
数多が妹達との戦闘でモーターが用いられているマイクロマニピュレータが役に立たないと外していなければ、静電気は何の結果も残さなかっただろう。


「――ちっ」


熱いものに触れば手を引くように、静電気が起きれば人間は反射的に手を引く。
数多もその例に漏れず、03に突きつけた銃ごと、手を引いた。


「ふッ――!」


振り向く力を利用した回し蹴りがもう一方の銃を弾く。それを見届けるよりも速く、03は後ろに跳び、懐から何かを取り出す。


「伏せて!」


それだけ叫び、木山春生の返事も待たずに03は取り出した何か――スタングレネードのピンを抜き、床へと落とす――はずだった。


「――はっ、テメェら妹達の考えることなんざ、全部把握してんだよ!」


背後から強い踏み込みの音が聞こえたかと思うと、次の瞬間には03の手からピンを抜く前のスタングレネードは奪われ、さらに03の体は数多の蹴りによってガシャンと派手な音を立ててキャスターラックに激突してラックの中身をぶちまけながら倒れ伏した。


「バァカ。テメェら妹達の思考パターンは完全に頭に入ってる。無駄だっつーの」

「ぐっ・・・・・・!」


数多は倒れ伏す03の背を踏みつけ、スタングレネードをその場で即座に分解してみせる。


「ただ、その女の行動は予想外って言えば予想外だ。そんな女だとは思わなかったぜ?」

「くっ・・・・・・」


再び銃口を向けられ、木山春生の動きが止まる。


「だがまあ、やることが分かってるとはいえ抵抗を続けられるのも面倒だ――達磨にして持ってくか?」

「・・・・・・」


03はもう静電気を起こすことすら容易ではない。
数多もこの状況で妹達が取る行動は投降することだ、と確信していた。


(確かにこの音のせいでまともに能力は使えない・・・・・・だからスタングレネードを使い、自分の耳を潰して捨て身で挑むつもりだった)


ギュッと手に力が入る。
03はまだ諦めてなどいない。

この状況になった時点で、03の頭には次の策が浮かんでいた――それがとんでもない愚策だと知りながらも、それしか思い浮かばない自身の頭を呪ったが、その策を実行に移すことに躊躇いはなかった。


「ああ――?」


数多が怪訝な声を上げると同時、03は床にぶちまけられた物の中からペンを二本手に取り、“迷うことなくそれを用いて己の鼓膜を潰した”。







「・・・・・・成る程な。確かにテメェらは違う。ンな手を妹達は使わねえ」


自ら耳を潰し、キャパシティダウンの影響下から脱する。

そんな愚策を他の妹達がするはずはない。
キャパシティダウンから解放されたところで、聴覚を失えば以降の戦闘は格段に不利になる。
――だが彼女たちは知っていた、耳が潰れた状態で最強の能力者 一方通行と戦った者を。


故に03にとってこの策を実行することに迷いなどなかった。

そしてそれは、02にとっても――――。








#####
03大活躍・・・?の回
とりあえず数多に一泡ふかせました。
木山せんせーも頑張りました。
次回は漸く軍曹登場。


そんでもって調子に乗って版移動。
いくら【ネタ?】とはいえ、割と続いてきたので色んな人の感想欲しさに負けました。



[20264] とある科学の軍用妹達②7
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/28 19:49
「この音は・・・・・・どういうつもりかな?」

「申し訳ありません。機材が不調のようですわ」


白々しい口調で嘯くテレスティーナ。
其処に1人の隊員が駆け寄る。


「――令状も届きました。これで子どもたちを引き渡していただけますね?」

「・・・・・・本物のようだね」

眼前に突きつけられた令状を確認し、カエル顔の医者は溜め息を吐く。


「子どもたちは最上階だよ」

「ご協力に感謝します」





◆◆





『こちら03、現在交戦中。状況はあまり芳しくはない』

『そちらに向かいたいのは山々ですが・・・・・・下からMARの部隊が上がってきています』

『――なら02はそちらの足止めをこちらは私がやります』

『・・・・・・了解』


03と同様にキャパシティダウンの影響から逃れた02とネットワークを介して会話すると、即座に03は判断を下した。


本来であれば侵入者たちを捕縛し、MARに突き出してMARの違法行為を摘発するつもりだったがそれも木山春生が捕まってしまえば叶わない。
木山春生と子どもたちがMARの手に落ちれば、理事会がバックにある以上、彼女たちにはどうにもできないのだ。


「・・・・・・なら、あなたたち全てを打倒して警備員に突き出すとしましょう」


耳に痛みが鬱陶しいが、演算を乱すには至らない。
電撃を発し、拘束から抜け出す。


「ああ? おいおい、俺の知る妹達は――って、テメェらは違うんだった。けどンなことを言ってもどうにもならねぇよ」


数多はそれを気にした風もなく言う。

03とて自分の言っていることが不可能に近いのは知っている。


「テメェらは妹達とは違うしオリジナルとも違う、だがそれだけだ。――それだけじゃ、何も変わらねえ」


ああ。知っている。
自分たちにはオリジナルのような力はないし、それに、他の妹達と自分たちが違うとも思わない。


今の発言だって本気で言っているわけではない、ただの鼓舞だ。
慇懃無礼なリーダーを真似て、虚勢を張ったに過ぎない。


「――って言っても鼓膜潰しちまったんだから聞こえるわけねーか」

「いえ。一応読唇の心得はありますので」

「そぉかよ」


何となくだが、言っていることは理解できた。


「それじゃあ殺しとくか、一応? お前らは期待外れだったみたいだしよ」

「私たちに何の期待をしていたのか理解に苦しみますね。私たちほど何の期待もできない実験動物は存在しないと思いますが」

「テメェらはもう実験動物ですらねえ」


違いありません、とだけ03は呟いて、数多へと肉薄した。

木山春生はただ、それを見ていることしかできなかった。





◆◆





病院内がそんな状況に陥っているとは知らない人物が1人、外でうずくまっていた。


「ッ――耳障りな・・・・・・」


検体番号 20000 この状況を打破できるかもしれない、一つの可能性。

だが事情は知らずとも、キャパシティダウンは能力者全てに影響を与える。

今回、彼女は無力なまま事態は変わらないはずだった。


「――どうやらこの音が演算に使う脳の分野を刺激しているみたいだね?」


20000号がいっそのこと鼓膜を破った方がいいだろうか、と思案していると影が彼女を覆う。


「使うといい。単純だが、最も簡単な方法だよ?」

「・・・・・・これはゲコ太殿。今の状況は?」


影の正体はカエル顔の医者。20000号に手渡したのはただの耳栓だ。

それを大人しく耳に付けると、キャパシティダウンの影響は当然のようになくなり、カエル顔の医者の声も聞こえなくなるが大した問題ではない。

・・・・・・確かに最も単純で簡単な対策方法だ。
常日頃から耳栓を持ち歩いている人間などそうはいないだろうから、キャパシティダウンの弱点とは言えないだろうが。


「木山春生と子どもたちが狙われてる。君以外の2人が守ってくれているけど、ついさっき正式な令状が出て大人数の捜索が入ったから、長くは保たないだろうね?」

「成る程。此処までの道が閉鎖されていたのはそのせいでしたか」


状況とは裏腹に2人は冷静そのものだ。
20000号は軍人として冷静さを失わないようにしているが、カエル顔の医者が冷静なのは恐らく――


「閉鎖されてたのなら君はどうやって此処まで?」

「300メートルほど匍匐前進で移動してきました。・・・・・・申し訳ない、私の勝手な行動のせいで迷惑を」

「構わないよ。君たちが人間らしくなるのは僕たちとしても嬉しい」

「――この責任は今此処で、必ず取ります」


――信頼しているから、なのだろう。


「それに、やはり私は感情を持て余しているようです」


ピン、と手慣れた動作で取り出したコインを弾き、そして耳障りな音を垂れ流すスピーカーを積んだ車両に向けて撃ち出す。


「――射程は50メートル程度。やはり専用の弾丸には及びませんね」


爆風で髪を揺らすその姿は、間違いなく学園都市第3位と同じ位に立つ者。


――超電磁砲。


「――思えば幻想御手を使った時からです。私の感情というものがざわめくのは。幻想御手を通じて他者の『自分だけの現実』に触れた時から、私の中で感情というものが生まれた――そんな気さえします。ミサカネットワークとは違う、他者の感情に触れた、その時に」


しかし凛と佇むその姿は他の誰でもない、検体番号 20000 でしかない。

妹達でも、オリジナルでもない。
たった1人だけの少女が其処には居た。





「それでは状況を開始しましょう」







#####
軍曹到着。
今回のおはなしは軍曹のいいとこ取り・・・だけじゃなくしたいなあ。
20000号のレベルについての説明(というか言い訳?)は次回にでも。



[20264] とある科学の軍用妹達②8
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/08/01 20:31
「これだけの駆動鎧・・・・・・厄介ですね」


02は続々と階段を上がって来る駆動鎧の集団を見て呟く。
駆動鎧自体との相性は能力的には悪くない、が数が多すぎる。
全て相手にしていたら、すぐに“電池切れ”になってしまう。


(最初に侵入させた部隊は捨て駒で、トラップの排除が目的だったようですね。尤も、あの刺青の男は別でしょうが)


最上階までのトラップのほとんどは先の侵入者たちが面白いように引っかかってくれたせいで残り少ない。


(テレスティーナ・木原が違法行為を行ってるのは明らか。ならばこれを乗り切れば、全て終わる)


逆に子どもたちがテレスティーナの手に渡れば、今日の事実は統括理事会が揉み消してしまうだろう。
今一度自身の任務を確認し、02は覚悟を決める。


「そうだ、この任務が終わったら軍曹と結婚――はできませんので、報酬の一つでも強請ってみましょう」





◆◆





20000号は敵の数の少ない非常階段を利用し、一気に最上階まで駆け上がっていく。
02が1人で戦っているのだろう銃撃音も聞こえたが、彼女はそれを無視し階段を駆ける。


(最優先事項は子どもたちの安全。既に最上階に侵入されている以上、優先すべきは最上階の敵の排除)


自身に言い訳するように心中で呟く。――1人でも足止めは不可能ではない、02ならできる、そう言い聞かせて此処まで来た。


「このっ――!」


駆け上がってくる20000号に気づき銃口を向ける駆動鎧が3。
あまりに遅く、あまりに稚拙。

バチバチッと音を立て放たれた電撃が階段から駆動鎧を叩き落とす。


その放たれた電撃もオリジナルに比べればあまりにも稚拙な欠陥電気。
だがそれでも、この場を切り開く確かな力となる。


「――ふッ!」


足場との磁力の反発を利用し、駆動鎧たちを飛び越えるとまた同じように電撃で階下へと落としていく。


そうして最上階まで辿り着くと、一度立ち止まり手を階段につける。


「とりあえずはこれで――」


地上から砂鉄を束ねて持ち上げ、階段を切断。
どれだけの負債になるのか考えたくはないが、追って来られるよりはマシだ。


「一安心ですね」


落ちていく階段を一瞬だけ見つめ、また走り出す。
非常口を開ければ、子どもたちが眠る病室まで一直線の通路。
他のルートから駆動鎧はまだ上がって来ていない。
02が上手くやってくれているようだ。


「私も私の仕事を・・・・・・!」

再び電気を身体から発し、
「果たすッ!」


病室の扉を吹き飛ばした。そして――







「――武装を解除し、投降しろ」

「漸く本命登場か、検体番号――10000でいいのか? それとも20000か?」


病室には頭から血を流し、肩で息をする03。
03を守るように立つ木山春生。
木原数多に銃を向ける20000号。
笑みを浮かべ、20000号を見る木原数多。

眠り続ける子どもたち。


「木原、数多・・・・・・」

「俺のことを知ってんのか? ――まあいい、お互い、もう計画とは無関係だしな」


突きつけられた銃口に物怖じすることなく、木原数多は笑う。

何故木原数多が、という疑問が20000号の頭を過ぎる。


「ああ、俺は別に身内の誼で此処まで来たわけじゃねえ」

「ッ――」


把握されている、自分たち妹達の思考パターンを。


「多少、テメェらの心情に変化があったところで何も変わらない。お前らはお前らのままだ。整頓された脳構造ってのはこっちとしても解りやすいもんなんだよ」


――レベル5に至ったところで、それは借り物の力。『自分だけの現実』ではない。
その力を振るう、20000号自身はまだ変わって――いない。
それでもいいと思った。任務を果たせるなら。

だが、これでは不可能だ。


「キャパシティダウンをぶっ壊したテメェの電撃――ありゃあ超電磁砲だな? ってことはレベル5相当・・・・・・幻想御手を使った時に触れた他者の『自分だけの現実』、その利用か。普通の妹達には思いつかねーだろうな。だがテメェ自身は何も変わってねえ」

「・・・・・・随分お喋りなことですね。状況を把握しているのですか?」

「テメェの銃弾なんざ、この距離でも十分だっつーの」


コツコツコツ、と数多は自身に向けられた銃口へと自ら近付く。
その距離はもう1メートルもない。


「だけど何だか萎えちまった。お前らみたいな奴が一方通行にケチをつけたなんて、お笑い草だ」


――結局、俺が木原足り得なかっただけかよ、と吐き捨てるように言って、数多は20000号の眼を見つめる。

「・・・・・・獲物を前に舌なめずり。三流のすることですね」

「自分が獲物ってのは理解してんだな」


理解はしている。
自分は今、圧倒的な強者と相対していると。
だがただの獲物のままで終わる気はない。


「――一つ、言っておきます」


少しでも噛みついて、あわよくば退かせる。


「私を殺せば、あなたも終わりです」

「・・・・・・あ?」

「私たちは妹達とは違う。それはあなたが言ったことです。“私が死んだ後の2人がどういった行動に出るのか”あなたに想像できますか? ――私には出来ない」


ハッタリだ。自分にはありありと想像できる。
自分が死んだところで何も2人は変わらない。

「――はっ」


それを聞いて数多は愉しそうに顔を歪めた。


「なら、お前はどうなんだ? 俺があいつを殺せば、お前はどうなるんだ?」

「――ッ」

満身創痍の03を一瞥し、意地悪く笑う。

「教えてやるよ。“お前は何も変わらない”俺があいつを殺してる隙にどうしようか考える、それがお前らだ。そういう風に出来てんだよ、お前ら妹達は」

「・・・・・・そうですね。それが合理的だ」


力無く、銃を下ろす。
俯き、呟く。








「――そんな自分は嫌だから、そんなことはさせない」


数多と20000号、2人の間で電気がバチッと鳴り、その光が一瞬の眼くらましになる。


「言ったはずですよ。獲物の前で舌なめずり、三流のすることだと」


その隙に数多の脇を抜け、03と木山春生の前に立つ。


「軍曹・・・・・・」

「これだけタメてから出てきておいてあっさりとやられるのは、少し恥ずかしいですから」

「――それは、同感ですね」


その言葉に03は笑い、自分の力で立ち上がる。

――数多の誤算はやはり20000号の存在。
曖昧だった彼女の感情を、布束砥信との会話でハッキリと自覚したこと。
もう自分でも抑えられない程の感情を彼女が抱えていたこと、それが数多の誤算。


「・・・・・・はっ、やっぱり違ぇ」


未だ笑みを崩さずに数多が振り返ると、3人の間に人が飛んで来る。


「ぐ・・・・・・ッ!」


03と同じようにボロボロの姿の――02。


「5分弱、か。1人であの数相手にそれだけ保ったなら、及第点は上げられそうです」

「・・・・・・? これは、軍曹、殿。いつ、お帰りに?」

苦しげに顔を歪め、02が尋ねる。


「任務中だ。余計なことは考えなくていい」

「それも、そうですね。――しかし相変わらず軍曹は厳しい。これでやっと及第点ですか」


苦笑いしているような表情で何とか立ち上がる。


「お前は私の信頼に応えてくれた。十分だ」

「――数は残り20程度。紫の駆動鎧がリーダーです」


どこか嬉しそうに報告。
半分とまではいかないまでも、その数は随分と減っている。



「何だ、かくれんぼは終わりか――?」


独特の駆動音を立て、槍を持つ紫の駆動鎧を先頭に、駆動鎧の部隊が病室へと入って来た。


――漸く、役者は揃った。


「何チンたらやってたんだ数多ァ! 死んでねぇじゃねーか! ったく、おい、とっととこいつらを片付けろ」


その号令に駆動鎧を纏った者たちがゆっくりと歩き出す。




「いくらケガを負っても、此処では死ねない。――私とゲコ太殿が死なせてやらない、いいな?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」









あとがき
展開が早い・・・。が目をつぶっていただきたい。
後二、三話でこの章は終わりです。



[20264] とある科学の軍用妹達②9
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/08/08 17:53
白刃が斬り裂く、磁力狙撃砲が撃ち抜く、超電磁砲が駆動鎧を薙ぐ。
既に彼女たちにとって駆動鎧はただの獲物に過ぎない。

木原数多に20000号の動きが読めずとも、19998号と19999号には手に取るように分かる。
それも道理だ、彼女たちは最早3人きりの姉妹なのだから。


「こ、の・・・・・・モルモット共がぁぁあ!」


数多に読めないものがテレスティーナに読めるはずもなく、彼女もただ部隊が蹂躙される様を見ているしかなかった。


「――はッ!」


無粋なコールサインも必要ない、そんなモノは必要ない。
誤射などするはずもなく、弾丸は敵に吸い込まれていく。


爆発。爆音。爆熱。爆風。
此処が室内だと忘れてしまいそうな目まぐるしい環境の変化。
だがそれでも木山春生と子どもたちに被害は出ていない。



――そんな中、木原数多は考える。

(・・・・・・どうしたもんかね、こりゃあ)

もう木原数多の20000号たちに対する興味はない。
当然だ、彼の興味の対象は実験動物としての彼女たちであり、人間とそう変わらない今の彼女たちに興味が湧くはずもない。

彼としては家に帰って眠りたいところだが、彼の頭脳はそんなことをしたらテレサに背後から撃ち抜かれる、という結果を弾き出している。


(――なら、テレサを潰すか)


そして彼の頭脳がそう決断するのは当然のことと言えた。







テレスティーナ=木原=ライフラインは考える。

(クソッ、クソッ、クソッ!)

否、それは思考というにはあまりに乱雑なノイズ。

彼女にとって今の状況は想像の範囲外だ。
相手がオリジナルならば部下たちが歯が立たないのもまだ理解できる。
だがしかし相手は本来、そのオリジナルの数%の力しか持たない劣化コピー。
それが3匹集まったところで何故こうまで押されている?


(・・・・・・クソッ!)


知らず知らずの内にテレスティーナの手が体晶の1stサンプルを握りしめる。

これを使ってレベル6を生み出す権利を得た、被験者となる能力者も見つけた、だというのにこれでは――。


「――くっくっくっ、分かったよ。もういい」


彼女の頭脳が弾き出した結論。


「テメェらモルモットは全員まとめて、建物ごと吹っ飛ばしてやんよ・・・・・・!」

それはあまりにも軽率なものだった。
しかしそれが、木原を木原たらしめているもの、なのかもしれない。





◆◆





数分の攻防の果て、テレスティーナと数多を残し、侵入した部隊は全滅した。
彼らが残ったのはストーリー上の関係などではなく、単にテレスティーナは1stサンプルの確保のため、数多は手を出してただで済む相手ではないと理解していたからに過ぎない。


「――こいつはテメェらのオリジナルの能力を解析して作った。オリジナルの超電磁砲より強力になぁ!」

先に動いたのはテレスティーナ、槍を構え、苛立ちを隠そうともせずに宣言する。数多は依然、動こうとはしない。
それは20000号たちにとっては好都合。


「・・・・・・あなたはそれで私たちを倒せると本当に思っているのですか、と03は虚を突かれたように尋ねます」

「思っているからああも堂々としているのでは? と02は笑いを堪えながら言います」

あからさまな挑発。
普段のテレスティーナならば一蹴していただろう挑発。しかし相手が人間以下のクローンであることも重なり、テレスティーナの怒りは頂点に達した。


「その喋り方が気に入らねぇんだよぉぉお!」


その怒声と共に20000号たちとその後ろの子どもたちに向けられた槍が駆動し、展開していく。


「――対ショック!」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


テレスティーナのレールガンにエネルギーが充填されていくのを見ながら20000号は指示を飛ばす。
その指示を得て、2人はすぐに後ろに下がり、木山春生を伏せさせる。


そうして、テレスティーナと20000号は相対した。


「あまり発射まで時間がないようなので一つだけ」

「あぁん?」


余裕を崩さないその態度にテレスティーナが唸る。
それを尻目に20000号はどこに隠していたのか、“弾丸”を袖から取り出す。


「超電磁砲はオリジナルの代名詞ではありますが、決して最強の切り札などではない、と私は思っています」


ピン、とコインと同じように弾丸を親指で弾く。


「――ですから、たとえあなたの一撃を防いだところでオリジナルを超えたことにはならないのが不満ですね」

「――ふざけてんじゃねえッ!」


同時に弾丸は放たれ、中空で拮抗。
――だがそれも一瞬。
次の瞬間には20000号の弾丸がテレスティーナのレールガンを吹き飛ばし、彼女の体へと直撃した。





「それにただの学生であるオリジナルが専用の弾丸を持っているはずもありませんし、たとえあなたやオリジナルに勝ったとしても超えたことにはならないんですよね」


それだけ言って、20000号はオリジナルよりも長い髪を少し鬱陶しそうに後ろに回す。
・・・・・・テレスティーナは駆動鎧の存在と1stサンプルの存在を憂いた20000号の加減もあり、病室の壁に激突し、壁を穿つだけに留まった。


「――っ」


テレスティーナの無事を見届けると、20000号は膝を突く。
やはり能力の乱用による“電池切れ”はオリジナルはおろか、02や03よりも遥かに早い。
分不相応な力を求めた代償なのだろう。
オリジナルが血の滲む努力の果てに到達した場所に軽々しく踏み込んだ罰。


(――これから追い越すまでです。・・・・・・これからがあれば、ですが)


乱れた息のまま顔を上げ、木原数多の姿を探す。

――――居た。
テレスティーナに歩み寄る人影、木原数多以外の何者でもない。


(立たなければ)

その思いとは裏腹に体は動かない。

(立たなければ)

無駄な努力を繰り返す20000号の前に、02と03が立つ。

・・・・・・こんな時にまで彼女たちが何と言おうとしているのか分かる、姉妹の繋がりが憎らしい。


(・・・・・・後は任せる他ありませんね。まったく、格好がつかない・・・・・・)


それでも、崩れ落ちそうになる体を支えることだけはやめなかった。









#####
病室はアニメ版の最終決戦の施設を思い浮かべてください。
呆気なくテレスティーナ撃破。木原くンがいるとどうしてもかませ感が拭いきれない。
次回で終了の予定です。

###
修正しました。



[20264] とある科学の軍用妹達②10
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/08/19 17:34
「あーあー、やられちまったなぁ、テレサ」

「数、多・・・・・・!」


カツンカツンという足音にテレスティーナの意識が奇跡的に覚醒する。
しかし体は動かない。感覚もない。

ただ血走った眼で自身を見下ろす数多を睨み付ける。


「テ、メェ、何してやがる・・・・・・早く、あいつらをぶち殺せ・・・・・・ッ」

「あー? 別に殺してやってもいいが――――」


言いながら数多は足元に転がっていた体晶の1stサンプルを拾い上げる。


「――死ぬお前には関係ねえ話しだろ?」

「あ・・・・・・?」


何を言っているんだ、とテレスティーナの表情が訴える。


「お前が生きてたら絶対に俺を売んだろうが。今更“木原”に人生引っ掻き回されたくねえんだよ」


一瞬の沈黙。
次の瞬間にはテレスティーナが鬼気迫る表情で叫ぶ。


「ッざけんじゃねえ! ああ!? 関係ないフリできると思ってんのか数多ぁ! テメェは何処までいっても“木原”の名前からは逃げらんねえんだよッ!」

「んなもんに拘ってねえよ。大体、今更名前を引っ張ってくんなよ。俺や那由他はそっちから放り出したいくらいだろうが」


木原幻生などその最たる者だ。
行方不明の彼が数多のことを知っているのかは分からないが、あの少女――那由他のことは数多を含めた血族全員、“木原”ではなくただの実験体としか見ていなかっただろう。


「――幸いアレイスターとの繋がりは生きてる。今を乗り切ったら適当に潜りゃあいいだろ」


数多の言う通り、彼はこれから1ヶ月程度で猟犬部隊の隊長へと上り詰める――落ちぶれる、と言った方が良いのかもしれないが――。


「っつーわけだ。あばよ、テレサ。テメェのことは3日ぐらいは忘れません、ってな」


そう言って数多は懐から最後の一丁を取り出し、テレスティーナに銃口を向けた。


――当然、彼女たちがそれを黙って見ているはずはない。





「待ちなさい。彼女を撃てば、私があなたを撃ちます。私たちの動きを把握していたとしても、避けられるものではないでしょう」


02の磁力狙撃砲の照準が数多に合わせられる。
手負いの身とはいえ、彼女がこの距離で外すはずなどない。


「最悪、テレスティーナでなくあなたでもいいんです。木原幻生の関係者ならば多少の情報は得られるでしょう」


ひょっとしたら上位個体を待つまでもなく、真実に辿り着けるかもしれない。
彼らを逃す理由はなかった。


しかし数多は余裕を崩さない。彼はまだ一度としてその余裕を崩してはいない。


「――撃つならよ、コイツを回収してからにしたらどうだ?」


そう言って、片手に持った1stサンプルをゆっくりと02たちの方へ放った。


「っ――」


02は一瞬気を取られるがすぐに数多へと意識を戻す。
まだ両者の引き金は引かれていない――だが、銃口の向かう先が変わっていた。数多の銃が狙うのはテレスティーナではなく、弧を描く体晶、1stサンプル。


――そして、03よりも、他の誰よりも早く彼女が動いた。


「――ぁぁぁあッ!」


――木山春生。
1stサンプルに全てが掛かっている彼女が動かないはずはなかった。


木山春生が走り出すのと同時、数多は再び銃口をテレスティーナへと向ける。









――――銃声は一度しか聞こえなかった。





◆◆





結果だけ言えば木原数多は警備員の警戒網を潜り抜け、逃げ切り、テレスティーナ=木原=ライフラインは死亡した。

彼女は冥土帰しの病院で死亡した、稀有な人間として一部の人間の記憶に刻まれるだろう。


だが、木原数多に言わせてみればテレスティーナは既に死んでいるはずの人間だ。
あの木原幻生の実験の、最初の被験者となっておいて生きている。有り得ない。

“生き残った”テレスティーナが有り得ないのか、“生き残らせた”木原幻生が有り得ないのか、それは誰にも分からない。


だからというわけではないだろうが、数多にはテレスティーナを殺しても何の感慨もなかった。
死ぬはずの人間が死んだだけ。悪意も害意も敵意もない、ただの殺意からの行動。


木原の血族は消え、そして後には――――






「木山せんせー!」

「先生ー!」

「教官殿」




――――後には、彼女の生徒たちが残った。
木山春生は出頭し、20000号たちを信じて報告を待つことになるのだが、木山春生が生徒たちを求めたように、生徒たちも木山春生を求めるのは当然と言えた。

そして患者が求めるものは全て用意する、それが彼のポリシー。
となれば帰結はただ一つ。


木山春生の罪は軽いものではないし、彼女に対する世間の風あたりは強い。
それでも、彼女はきっと――――幸せだった。





◆◆





「もしもし? 叔父さん?」

『おう、久しぶりだな那由他』

「うん。久しぶり・・・・・・だけどいきなりどうしたの?」


赤いランドセルに金髪のツインテール。
そして風紀委員の腕章。
ついでに倒れ伏す男たち。

学園都市においても随分珍しい光景が少女――木原那由他を中心に広がっていた。


「叔父さんから電話ってかなり珍しい・・・・・・いや初めてだね。でも今は仕事中だから手短にお願い」


那由他は自身が男たちから救った少女に視線をやりつつ言う。


『俺がお前相手に長話なんざありえねえよ――どうせ誰も教えねえだろうし、はみ出し者同士、俺が教えてやろうと思ってな』

「・・・・・・?」

『身体は治ったんだろうが、検査ついでに病院に行って来い』


叔父の言葉に首を傾げる。
はて、叔父はこんなことを言う人間だったろうか――?


『それだけだ。じゃあな』

「あっ、叔父さ――、・・・・・・?」


切れた携帯電話を見つめ、もう一度首を傾げる。
しかしすぐに気を取り直し、まずは職務を果たさなければ、と少女(とはいえ年上だが)に向き直る。


「――怪我はない? 柵川中学のお姉さん」

「大丈夫――ありがとうなの」


ぺこりと頭を下げる少女の首にはロケットが揺れている。


「そう。それじゃあもう行っていいよ。気をつけてね」


那由他はそう言うが、少女は左右に視線を揺らすだけで動こうとしない。


「・・・・・・お姉さん。お姉さんは何処に行くつもりだったの?」


心の中で溜め息を吐いて、再び少女に声をかけた。


「病院なの――お友達が目を覚ましたって、電話が来たから」


また一つ溜め息。
今日はどうかしてる、と思いつつも那由他は歩き出す。


「附いてきなよ、お姉さん。お友達のところまで案内してあげる」










#####
病院側はあっさりと。
この章は最後の2人の会話のためだけに書いていたようなものです。
数多のフラグも立てたし、やることはやった。

次は打ち止め編です。
一方通行編は関わりません。ミサカネットワークも繋がってないし。
ただ冒頭で触れますが。
プロットは打ち止め編と前方のヴェント編も出来てるし、少しずつ完結が見えてきた。

というか那由他って知名度あるんだろうか・・・アニメしか見てない人は分からないよなぁ。



[20264] フルメタルシスターズ? ふもっふ
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/08/19 17:45
八月二十二日

あの事件から数日が過ぎ、後は子どもたちの完全な快復と木山春生の保釈(現在、カエル顔の医者による手回しが行われている)を待つばかりである。

――数日。
その数日の間に、彼女たちの、妹達の世界は大きく変わった。

無能力者による、超能力者の打倒。
最弱による、最強の打倒。

それにより実験は凍結、妹達の多くは一旦分けて病院や研究施設に収容され、さらにそこから世界中の機関に散らばり治療と調整を受けることになった。

当然、彼女たち3人の拠点である病院にも数人、回されている。
しかし彼女たちにとってそれよりも重要なのは同じくこの病院に入院している、一方通行を打倒した無能力者、上条当麻の存在である。
ちなみにオリジナルをファック云々のやり取りは既に終えた。


――で、今はその延長。




「それで、昨日の今日でいきなり私が此処に連れて来られた理由は何なのよ?」

「いや、その何と言いますか・・・・・・」


ベッドに背を預ける上条当麻が腕を組む御坂美琴の視線に耐えかねて、視線をズラす。

その視線の先には御坂美琴と同じ顔をした少女が2人。
しかし1人はハッキリとした差違がある。
まずは服装。妹達に支給された常盤台の制服ではなく、黒いインナーに迷彩柄のジャケット。同柄のズボンに軍足。
次に髪。機能性を重視した服装とは裏腹に腰の辺りまで伸びた髪(体の調整の関係で二週間ほどでさらに伸びた)。それを結ぶでもなく、ただ流していた。


「えーと・・・・・・」

何と言ったら良いものか、と思案する上条当麻に助け船が出される。

「彼女の肉体は10000号のもので精神は20000号のものであり、彼女と19997号、19998号、19999号を加えた4人は番外個体(ミサカワースト)と呼称される個体です、とミサカはミサカの知り得る範囲で説明します」


番外個体、或いは除外個体とも言えるだろう。
その紹介を気にした様子もなく、20000号は一歩前に出て、見事な敬礼と共に名乗る。


「――あまり名乗る意味はありませんが・・・・・・ミサカ20000号であります。はじめまして、オリジナル。・・・・・・とはいえ番外である私の他に正式な20000号が存在しているでしょうが」


初めての対面。
この章でやるなよ、とか言われそうな場面である。

20000号の態度に少し気圧される上条当麻と御坂美琴。


「今回あなたをお呼び立てしたのは私であり、この場にあなたと彼女――御坂妹にも立ち会ってもらいたく此処に同席してもらいました」

「・・・・・・そう」


他の妹達ともまた違った堅苦しい喋り方だなぁ、などと思いつつも御坂は頷く。


「私が問いたいのは二つ。実験中止の――いえ、一方通行敗北の真偽と上位個体の居場所です」

「・・・・・・? 実験が中止になったってのは俺も御坂妹から聞いたし、それにお前らはミサカネットワークってので繋がってんだろ? なら――」


一方通行をぶっ飛ばした瞬間を知ってるんじゃないか、と上条は続けようとしたがそれよりも早く20000号が首を振り、御坂妹が補足する。


「彼女たち番外個体はネットワークに接続していません、とミサカは補足します」


その代わりのネットワークに19997号以外の3人は接続しているのだが、20000号はその事実は伏せる。


「上条当麻。あなたの右腕については聞きました。今の質問は一応の確認です。それと・・・・・・ありがとう、ございます」

そう言って頭を下げる。
20000号は上条当麻がどういう人物なのかよくは知らない。
一方通行との戦闘の際、多くの妹達を動かしたという声も姿も知らない。
しかし、実験中止という形で妹達の実験動物としての価値を奪った彼に伝えるべき言葉は知っていた。


「ん・・・・・・」

照れくさそうに上条は頭をかく。

「で、もう一つは?」

照れくささを隠す意味も込めて、上条は頭を上げた20000号を促す。

「いえ。次はそちらがどうぞ」

「?」

「次はそちらのターンです。何なりとお訊きください」

変なところに拘るなぁ、と思いつつも上条は何を訊こうかと考える。

「――では僭越ながらここは私から。軍曹のスリーサイズを――――ぐぇふ!」

言い切る前に声の主に蹴りが入った。
声の主が何処に居たのかと言うと、ベッドの下。
御坂美琴や御坂妹、20000号と同じ声がベッドの下から聞こえた。


「お気になさらず」

別に彼女に聞かれて困る話でもないと、ベッドの下の彼女を放置して20000号は話を進める。

「え、いや、今のは・・・・・・」

「お気になさらず。それよりも私のスリーサイズが気になるのなら、上から――」

「ってコラぁぁぁ!?」

「・・・・・・痛いです、オリジナル」

話を逸らす為に淡々とサイズを読み上げようとする20000号の頭に衝撃が走った。衝撃というかツッコミが入った。

御坂が上条ではなく別の相手に手を上げるというのは大変珍しい光景だったりする。

「何を言おうとしてんのよっ、あんたは!」

「何か問題が?」

「大有りよっ!」

この辺りが木山春生の生徒らしいところ、なのかもしれないがそれを御坂が知る由はない。
ガクガクと御坂に首を上下に揺らされながら20000号は上条に問う。

「この質問はタブーのようなので、違うものでお願いします」

「あ、ああ・・・・・・何だろう、上条さんは調子が狂います」

御坂とも御坂妹とも違うキャラに少々たじたじな上条。ちなみにベッド下の何かはスルーすることにした。

「もういいわ! 私から質問してあげる!」

「・・・・・・好きにしてくれ」





◆◆





上条当麻の入院する個室の上の上、屋上に子どもたちと19998号――シスター03の姿があった。

日の光を眩しそうに手で遮りながら、19998号は子どもたちを見る。

車椅子に乗った患者服の子どもたちと、ロケットを首にかけた少女、金髪ツインテールの少女。

「――クローンのお姉さん」

見ているだけのつもりが、金髪ツインテールの少女に話しかけられる。

「生きている時間で言えば、あなたたちの方が何十倍も長いです。ですからお姉さん、という表現は間違っています」

クローンという言葉には何も言わず、お姉さんの部分の訂正を求める。

「じゃあ何て呼べばいいのさ、クローンのお姉さん」

「好きなように。ミサカでも検体番号でもフェラ豚でも好きなものをどうぞ」

「・・・・・・」

最後のでドン引きだった。何か変なことを言っただろうか、と19998号は思う。

「・・・・・・ミサカのお姉さんは」

姉は変わらないのか、と思いながら金髪ツインテールの少女の言葉に耳を傾ける。

「これからどうするの?」

「任務を続けます」

とりあえずは木山春生が戻ってくるまで子どもたちの護衛と、その後の上位個体の確保までが任務だ。
その後のことはまだ分からない。
また新しい任務が始まるのかもしれないし、そうではないかもしれない。

「それだけ?」

「いえ――」

19998号の言葉に少女は意外そうに目を細める。

「まず、オリジナルを超えます。次に、一方通行を倒します。後は――分かりません」

簡潔な言葉に簡潔な目的。
思わず少女は笑った。

「だったらその次に、私たちを倒さないとね」

「――?」

「私は絆理お姉ちゃんたちとレベル5になる。その次にレベル5を超える。だから」

次は私たちを倒さなきゃ。
何が楽しいのか笑う少女を見て、どうやったら倒せるか考える。
木原数多やテレスティーナに比べたら容易く倒せそうな少女を見て、今はまだ倒せそうにないと気付く。

「それはお互い、卒業してからにしましょう。今あなたを倒したら、先生に怒られます」

「あはは――そうだね」

当然のように言う19998号に少女は笑い。
19998号もうっすらと笑った。

「ですがあなたの闘い方には興味があります。それを学ぶくらいなら問題ないでしょう」

「・・・・・・叔父さんに負けたの、根に持ってるんだね」

すぐに無表情に戻った19998号を見て、少女の笑みが苦笑へと変わる。

それから、ボロボロになった2人が戻ってきた木山春生――先生に怒られるのはまた別の話。

「それでは、私は病室に戻ります」

そろそろオリジナルの友人が来る頃でしょうし、あまり場をかき乱したくありません、と言って19998号は踵を返す。
それに少女も同伴しようとして、止められた。

「友人は大事にするものと教わりました。だからダメです」

またしても予想外な19998号の言葉に足を止め、少し照れくさそうにそうだね、と呟いた。



「それにそろそろ02を回収しなくては」









#####
第1話は一発ネタのつもりだったのでパラレル扱い。似たようなやり取りがあったと思ってください。
しかしギャグにできない・・・
ふもっふという名の幕間だと思ってください。
後書き方少し変えてみるテスト。

19997号の伏線と19999号のパワーアップフラグの回。

ちなみに彼女たち番外個体の意味は原作のミサカワーストとは異なり、サードシーズンとも無関係です。
ただ研究者たちが便宜上の呼び名として付けただけで、字面がピッタリだったので使用しました。
次回から打ち止め編。

で、以下キャラ紹介。
ロケットをかけた少女こと春上衿衣についてはwikiで事足りるでしょうが、金髪ツインテールは不十分だと思うので一応。


木原那由他
金髪ツインテール+赤ランドセルの先進教育局、特殊学校法人RFOの小学生ジャッジメント。さらに体の70%は人工物という色々な属性持ち。
自らを体晶の実験体として差し出すドM(違
その他実験の関係上、枝先絆理や布束、さらには滝壺とも面識ありのフラグっ子。
能力は体晶を用いずに能力を暴走させ、AIM拡散力場を見たり触ったりできる。が、このSSでは恐らくマトモに使われることはない。
木原数多の姪にあたる・・・・・・はず。
また木原真拳の継承者だったりもする。
夢は欠陥品と蔑まれる置き去りの子たちとレベル5になること(那由他の能力は絆理たちの実験の産物のため)。

御坂美琴や白井黒子、常盤台の寮監、削板軍覇との面識もあり。

偽典・超電磁砲のキャラクターで、このSSでは偽典も正史扱いです。



[20264] とある科学の軍用妹達③1
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/09/03 21:26
八月三十一日

学園都市のほとんどの学生にとっては夏休み最終日、ではあるが、学生ではない妹達――この場合は20000号以下2名にとってはあまり関係ない。




「私たちの情報が漏れていたのか、それとも偶然か・・・・・・いずれにしても任務に変更はない。我々の任務は最終信号の確保だ」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」

今日ばかりは口うるさい婦長も部屋には入って来ない。20000号たちの真剣な空気を察しているのだ。

「本来ならば明朝、最終信号が保護されていると思われる研究施設に侵入する予定だったが最終信号が逃亡した以上、この学園都市から最終信号を発見し、確保しなければならない」

調整が終了すると同時に実行に移すべきだったと唇を噛むが、今日までの時間は決して無駄ではない。
19998号にとっても、
19999号にとっても、
20000号にとっても。
或いは木山春生、木原那由他にとっても。

「まず私が各地区の風紀委員の端末にハッキングし、衛星から送られて来た映像を閲覧する」

未だオリジナルに及ばない20000号の能力では監視衛星に直接ハッキングを仕掛けることは出来ないが、風紀委員の端末程度のセキュリティーならばとある地区を除けば、突破は可能だ。

「逃亡から一週間経っているとはいえ、子どもの足でそう簡単に学園都市の包囲網を突破できるものではない。・・・・・・驚異なのは一週間もの間我々に最終信号の脱走を気付かせなかった芳川桔梗の方か」

それとも最終信号を逃亡させた“何か”或いは“誰か”の力か。

「貴様らは昨夜目撃情報のあった地区を捜索、新たな情報が入り次第連絡する」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


こうして、彼女たちの新たな任務が始まった。





◆◆





PM3:10

分かりやすく言えば、一方通行と打ち止めが遅い昼食のためファミレスに訪れているとのほぼ同じ時刻。
19998号と19999号は第七学区での捜索を続けており、20000号は2人に合流するために病院を出た。

そしてもう1人、行動する者。

木山春生。
先日保釈されたばかりの彼女は打ち止めが保護されていた研究施設へと車を走らせていた。


「――此処か」

青い車が止まり、短くなった髪を揺らしながら木山春生が中から出てくる。
目の下の隈は幾分か薄くなり、真剣な表情は鬼気迫って以前とは違う、凛々しさを感じさせる。

閉じられた門越しに施設を見上げる。ここは実験が凍結になる直前に引き継がれた施設であり、“襲撃”は受けていないはずだが既にボロボロ、とまでは言わないまでも綺麗とは言い難い。

ふぅ、と溜め息を一つ。

「私も随分行動派になったものだ」

車に引き返すと後部座席から梯子を取り出し、それを塀に掛けて登り始めた。
塀を越えたところで靴を脱いで手に持って飛び降りる。
ジンジンと足が痺れるがそれを無視して靴を履き直す。

「・・・・・・」

次に彼女の歩みを止めさせたのはID式のロック。
IDカードを読み込ませるリーダーの隣には来客用のインターホン。
一瞬考えて、腰に手を伸ばす。
そして――カードリーダーを拳銃で打ち抜いた。
バチバチッと音を立てながら点滅を繰り返すカードリーダー。
それを無視して扉を押すと、あっさりと扉は開いた。

「学園都市のセキュリティーも、まだまだだな」

さらに通路を歩き続け、ある部屋の扉をノックする。

「――誰だか知らないけど、この施設に大した物は残ってないわよ」

少し間が空いて、返答。
扉越しに「そのまま離れていてくれ」と忠告。
同じようにカードリーダーを拳銃で打ち抜く。

「・・・・・・随分乱暴な客人だこと」

芳川桔梗は開かれた扉から入って来た木山春生を見て呟く。

「私としては穏便に済ませたいだが」

「よく言うわ」

研究資料と思しき紙の束を机に置いて芳川が立ち上がる。

「木山春生――幻想御手の開発者が私に何のようかしら? あなたの昏睡状態に陥ってしまうという欠点を除けば完璧。今更妹達の研究データが必要とは思えないけれど」

「今回の件が片づいたらあの子たちの戦争ボケした頭をどうにかしたいとも思うが、やめておこう。それよりも幾つか君に訊きたいことがある」

「このタイミングからして、最終信号のこと?」

木山春生は頷き、口を開いた。

「あの子たちは気付かなかったようだが打ち止めの逃走の裏には何かある。そうだろう?」

「意外ね。もう知られていると思っていたけれど」

「私たちの情報網は酷く狭い。それにこの施設の電子機器はオフライン、サイバーテロの多いこの街では最も安全な手段とも言える」

だからこそ、20000号たちも交代で寝ずの監視を行う他なく、依頼者である木山春生も、それを止めることはできなかった。しかし何も出来なかった自分を悔いているから、今動いているのだ。

「やっぱり妹達なのね。此処を監視していたのは」

「番外個体。君たちがそう呼ぶ子たちだ」

その言葉に芳川は目を細める。

「そう・・・・・・。あの子たちが」

芳川も印象に残っている。あの3人の妹達のことは。
芳川だけではない。実験に携わっていた者たちに彼女たちは強く印象づいている。それは良い印象とは言い難いが。
ほとんどの者たちにとっては感情の希薄な妹達が感情があるように振る舞う姿は滑稽でしかなかったが、今目の前に立つ木山春生の目を見る限り――

「布束砥信の目指していたものを、彼女たちは手に入れたようね」

「――?」

聞き覚えのない名前に木山春生は疑問を覚えるがあえて追及をするようなことではない。

「私にも時間がないわ。手短に説明しましょう。一週間前、最終信号は“防衛本能”に従い逃避した」

「やはりか・・・・・・」

「不正に上書きされたウイルスからの逃避。ウイルスは上位命令を発動させるもので、現在解析中だけど恐らく内容は――」

「周囲に対する無差別攻撃、といったところか」

少し考えれば容易く想像できる。
世界中に散らばった妹達。
実験凍結に伴い路頭に迷うこととなった研究者。

実験に携わっていた者ならば簡単に考えつく。
理由は個人個人によって違うだろうが、彼らにはもう学園都市に居場所はない。


「ええ。・・・・・・でも意外ね。あの子たちなら真っ先に気付きそうなものだけど。情報戦も含め、戦闘はあの子たちの最も得意とすることでしょう」

「・・・・・・確かに戦闘においては専門家だが、あの子たちは戦いの裏にあるものを考慮しない。いや、“考えないようにつくられている”」

最初は妹達全員がそうなのだと思っていた、だが10032号――御坂妹を見て知った。
あの3人は妹達の中でも特別な改造を受けている。

「彼女たちの要点は任務を果たすことにしかない。その脳構造はまるで旧日本軍の兵士のそれだ。任務を受ければ何の迷いもなく遂行する。それがどんな任務であっても」

他の妹達も実験の為に死ぬことには何の躊躇いもなかった。しかし彼女たち3人は実験に関係のない木山春生の依頼にも躊躇いがない。
ただの絶対能力進化計画の為の個体ならばそんな脳構造にする必要はない。

「――19998号、19999号、20000号。彼女たちの担当になっていた男は野心に溢れる、凶暴な男だった。尤も20000号たちの暴走の後、責任を取らされて解雇。自殺したそうだけど。テスタメントを使ってそういう風に変えたのは彼でしょうね」

「・・・・・・私はあの子たちを見ていられない。いつも無茶ばかりするあの子たちを。他の妹達を見ていると思ってしまう、もしもあの子たちがミサカネットワークに繋がっていて、“彼”の姿を、言葉を聞いていたのなら・・・・・・」

変わっていたのかもしれない。他の妹達と同じように。

「何を言っているの。・・・・・・子どもにものを教えるのがあなたの仕事でしょう? 木山先生。あなたはあなたの、私は私の仕事をするわ。用が終わったなら帰ってちょうだい」

「・・・・・・いや。まだ用は終わっていない」

木山春生はバッグからノートパソコンを取り出し、力強く机に置く。

「何を――」

「この街が、私の生徒たちの居場所が壊されようとしているんだ。黙って見ているわけにはいかない」

少しは役に立つだろう。そう言って端子をパソコンに繋いだ。

「もう、あの子たちだけに戦わせたりはしないさ」









#####
少し時間が掛かってしまいましたが③開始。
まず木山せんせーのターン。
今回の章はそんなに長くはならないと思います。
元々が短い話ですし。


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