<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20064] 【ネタ・習作】 あの夏の戦争 【サマーウォーズ】 【完結】
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2011/10/09 22:46
 ※これは、サマーウォーズのSSです。大人になった健二のモノローグです。
 公式とは違う捏造設定が満載ですが、そういう仕様だと思っていただけると幸いです。











 私の半生には、何度かの大きな転換期がある。

 それはきっと、誰にでも訪れるモノ。

 最初の転換期は、両親の離婚。

 私は父に引き取られ、母は当時住んでいたアパートから出て行った。

 父は黙って私を育ててくれた。

 朝早くから夜遅くまで休む事無く働いて、せめて暮らしだけでも豊かであるようにと思っていたそうだ。

 当時の同年代の子供よりも多少、そこら辺の機微には敏感だった私は、そんな父に我儘を言えなかった。

 いや、言えなかった。それに、周囲に敏感にならざるを得なかった。

 言い換えれば、私は常に周囲の人間を観察していたのだ。

 大人しい性格だった私。しかし周囲の環境に恵まれていながら、私は知り合い以上友人未満の関係しか構築出来なかった。

 何故恵まれていたと思えるのか?

 当時のクラスメートは皆元気ではあったが、苛めなどは無かったからだ。引っ込み思案だった私など、ちょっと乱暴なクラスメートがいれば格好の玩具になっただろう。

 まあ、それから私は空気のように学生生活を送った訳だ。

 私を育ててくれた父だが、私が中学二年になる頃から海外出張に頻繁に出掛け始めた。

 後で知った話だが、どうやら会社に掛け合って私が一人でも大丈夫な年齢になるまで海外出張は延期されていたそうだ。

 最も、それを知ったのは本当に後になってからなので、当時は『父に疎まれているのでは?』と思っていたものだ。

 お陰で内気な性格に拍車が掛った。……いや、例え父がいたとしても内気ではあっただろうが。




 次の転換期は、親友との出会いだ。

 友人の名は佐久間 敬(さくま たかし)。

 出会ったのは、中学時代最初の冬。『OZ(オズ)』と呼ばれる当時から全世界を繋ぐツールとして利用されていた地球規模の巨大コミュニケーションサイトだ。

 同時期に小遣い稼ぎのつもりで『OZ』の保守点検に応募したのが切っ掛けだった。

『キミ、中学生?』

『え、キミも?』

 最初はそんな事を話したように思う。

 そこから私たちは意気投合した。

 プログラムは敬が、演算は私がほんの少し上だった。

 そして、自分たちの長所を伸ばしたり、短所を改善していった。思えば、負けてなるものかと思っていたように思う。

 その間に『彼』と出会ったのは、佐久間(当時私はそう呼んでいた)と私にとっては僥倖だった。

 彼は、独自にAI(人工知能)を作成していた。

 彼の友人たちは『JIN』と呼んでいたので、私たちもそう呼ぶと、彼はどこか恥ずかしそうに、

『侘助(わびすけ)ってのが俺の名前なんだよ』

 そう教えてくれた。

 つまりそう呼んでくれという事だろう。

 彼は佐久間のプログラムの師匠であり、私にとっては頼れる兄貴分だった。

 しかもポツリと零しあったのだが、お互いに家庭環境に問題があった事も、親密になる切っ掛けだったように思う。



 

 そして、高校に入学して――私は『愛しい女(ひと)』を見つけた。

 名前は篠原 夏希(しのはら なつき)。

 剣道部に所属する、我が高校のアイドル。

 その快活な笑顔に魅了された男子は数多い。

 無論、私もだ。

 しかし、だ。

 いくらそう思った所で我々に接点など無い。そう、思っていたのだが、ここでも大きな転換期が訪れていた。

 彼女が私と佐久間が所属していた物理部(オタク部、パソコン部と揶揄されてもいた)に彼女がやって来たのだ。理由は覚えていない。舞い上がっていたから。

 それから私たちは彼女と交流するという当時のクラスメートからしてみれば最高峰の栄誉を手に入れた。(尚、彼らがソレを知ったのは二年の夏が終わった頃なのだが)

 そして私は更に一つ年上の彼女に魅了されていった。

 そしてその言動から、彼女が古き良き大和撫子のような気質を持っているように思われたのだ。(現に当時の彼女の『OZ』のアバター(分身)は鹿の角を持った大正時代の女学生の格好をしていた)

 彼女と接していく度に私は彼女を見ていた。

 しかし私は彼女にアプローチをかける事は無かった。

 生来の引っ込み思案(所謂ヘタレ)な私には、彼女に話しかけられてしまうと流暢な会話が出来ぬ程に舞い上がってしまうという悪癖があったからだ。

 幸い、彼女はそんな私に気付く事無く普通に接してくれたお陰で、一年かけてある程度改善出来たのだが……






 そして最大にして最高の転換期が訪れる。

 夏希先輩に乞われ、長野県の田舎にある上田市に向かう事になったのだ。

 そこで私は、家長たる老女、強い女性陣、穏やかな自衛隊員、気弱な電気店店主、ファンキーな漁船の船長、こんな私を慕ってくれる中学生、憧れの先輩を想う青年、元気一杯の子供たち、そして――『彼』といった個性的な面々に出会う事となった。







 そう。

 これはたった二日間の戦争。

 現代における合戦。

 槍や弓矢の代わりに、知恵と手先とコネを使う戦い。

 共通するのは、絆と縁、そして度胸。

 


 ――サマーウォーズ。

 


 私はあの二日間の合戦を、そう呼んでいる。



 そして敵は――画面の『向こう』にいた。








(あとがき)

様々な作品を放置しといて何をしているんだ自分……!

いい加減、再開の目処が立たないヤツは更新停止ときちんと書くか、削除する予定です。




[20064] 01 家族 ~集う人々~
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2010/08/08 22:37
「とりあえず……もう少し考えましょうよ夏希先輩」




 意気揚々と夏希との待ち合わせに行くと、大量の荷物を持たされ、新幹線に揺られて長野県上田市に着き、彼女の親戚である女性陣の荷物まで持たされ、気付けば彼女らの玩具にされながら彼女の曾祖母の古式ゆかしい和風屋敷に着いたと思うといきなり家長であるらしい『陣内 栄(じんのうち さかえ)』の前に連れて来られ、彼女はとんでもない爆弾を投下した。



『おばあちゃん。紹介するね、アタシの彼』



 時が止まるという例えを、小磯 健二(こいそ けんじ)はその時初めて理解した。

 栄もまた驚いた顔で彼女と健二の顔を往復する。

 だが、すぐに今回の裏を読めたらしく呆れたような顔をした。

 夏希はバレっこないと思っているようだ。ならば何故そんな『大丈夫大丈夫』といったニュアンスの手をそんなあからさまに振るのかと健二は問いたかった。

 そのせいで栄が溜息を吐きたそうな顔をしているのだ。……ああ、これは十中八九バレてるなぁ。そう健二は瞑目する。

 だが、そこから栄の取った行動に健二は更に混乱した。



『確か……健二さんと言ったね』



その声にはある種の迫力があり、自然と背を伸ばさなければならないような気分になる。



『この子は我儘で世間知らずだ。それでも……ちゃんと幸せにする自信はあるかい?』



 彼女から『何か』を感じる健二。

 産まれてこの方武道など一切齧った事の無い彼であっても気が付く明確な威圧感。

 それこそ、只者ではない証拠だろう。

 しかしそれにしても、その視線には何故だか既視感を覚えた。

 だがすぐに気が付く。自分の交友関係はそこまで広くないのだから。(事実はどうあれ彼はそう思っていた)

 『彼』だ。

 何故『彼』とこの栄という女性、共通点の無い二人に似た感覚を感じるのか、健二には判らなかった。

 だが、栄はそんなこちらを気にする事無く、ただ黙って見据えている。

(これは……きちんと答えないとなぁ)

 だから、言う。本来ならば、きちんとした恋人として言いたかった言葉を。



『――はい。幸せに、してみせます』



 キッパリと。

 そんな健二に驚いた顔を見せる夏希。そういう態度を取る健二を見た事が無かったからだろう。

 逆に栄の方がそんな彼の態度を面白そうに見ていた。



『夏希、何か健二さんと話したい事があるんだろう? こっちの事はいいから、行くといいよ』



 それは言外に『アンタの企みは全部判ってるんだからね』と言っているようなものなのだが、それに気付かない夏希は、『うんっ、ありがとうおばあちゃん!』そう言って健二を引っ張って行くのだった。









 さて、夏希に屋敷の外の人気の無い場所まで引っ張られた健二。

 そこで夏希から今回の彼氏というか『婚約者役』の名目でここへ連れて来られたのだと教えられた。

 どうにも親戚との電話であの『栄おばあちゃん』が病気がちらしいと知らされた夏希が、そんな彼女を元気付ける為に彼氏を連れてこようと思い立ったという事らしいのだが……その架空の彼氏のカバーストーリーが笑えない。

 旧家の出で東大卒でアメリカ留学の経験がある天才。

 それが健二が演じる役だというではないか。まるっきり『彼』の事ではないか。

 なんというか……笑えない。

 確かに東大の理学部を目指そうかとも思っているし、アメリカの大学にいる兄貴分からの紹介を貰えば佐久間と二人でそちらに行ってみようか、と冗談半分で語った事もあるが、それもまだ未定なのだ。

 そこで健二は冒頭の言葉を吐いた。

 『彼』との交流でこの健二、『史実の健二』よりも多少皮肉を吐けるようになっていたのだ。それが良いことなのか悪いことなのかは別にして。

「あのですね、夏希先輩? 明らかに僕は先輩の後輩かもしくは同学年でしかない顔や身長ですよ。しかも大学生でアメリカ留学の経験あり、ですか? 無理にも程があるでしょう? それと……なんでしたっけ? 旧家の出? この僕のどこら辺に旧家の風格がありますか? ただの会社員の息子ですよ僕は」

 そう説教してしまう。

 内心では憧れの先輩になんて畏れ多い事を……! などと自分自身に戦慄していたが、そんな内心とは裏腹に説教を言い切ってしまう自分の口。

 どうやら、緊張やらストレスやらで少し自分でも知らず知らずの内に溜まっていたらしい。

 そんな健二に頭を下げる夏希。

 そこまでされてしまったら仕方ない。惚れた弱みだ。

 だから、こう言ってしまった。

「……判りました。出来る限り頑張ります。……まぁ」

 ――そうは言っても、あのおばあちゃんは気付いていたみたいですけど、ね。

 そう小さく呟いて。











 その日の夕食時。

 夏希に親戚一同を紹介された健二。

 一応紙に書いて渡されはしたが、その多さに顔の筋肉が引き攣るのを感じた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 家長 【陣内 栄】 御歳九十歳

 栄の子 長男・【陣内 万蔵】(夏希の祖父 五年前に他界)

 同上 長女・【陣内 万理子】 七十一歳(本家筋)

 同上 次男・【陣内 万助】 七十歳(新潟港 漁師)

 同上 三男・【陣内 万作】 六十八歳(上田市 内科医)※親族の中で一番夏希たちの『そういった事』に興味津津。『ところで婿殿、二世の方は……』

 万蔵の子 【篠原 雪子】 四十七歳(夏希の母 篠原家に嫁ぐ)

 雪子の夫 【篠原 和雄】 五十五歳(夏希の父 東京都水道局員)

 万理子の子 【陣内 理香】 四十二歳(上田市役所勤務 独身)

 同上 【陣内 理一】 四十一歳(陸上自衛隊員 東京都市ヶ谷駐屯地勤務)

 万助の子 【陣内 太助】 四十五歳(陣内電気店店主) 

 同上 【三輪 直美】 四十二歳(離婚歴あり 派手な美人)

 同上 【池沢 聖美】 三十九歳(名古屋市内 介護福祉士 池沢家に嫁ぐ)

 聖美の夫 【池沢 佳主夫】 三十九歳(子煩悩 会社員)※現在赴任先のハワイより帰国中。

 万作の子 【陣内 順彦】 四十五歳(松本市内消防署勤務 救急救命士)※明日到着予定

 順彦の妻 【陣内 典子】 三十七歳(専業主婦)

 万作の子 【陣内 邦彦】 四十二歳(諏訪市内消防署勤務 消防士長)※明日到着予定

 邦彦の妻 【陣内 奈々】 三十二歳(新婚)

 万作の子 【陣内 克彦】 四十歳(上田市内消防署勤務 レスキュー隊員)※明日到着予定

 克彦の妻 【陣内 由美】 三十八歳(長男の高校野球の結果に一喜一憂)

 和雄・雪子の子 【篠原 夏希】 十八歳(健二の想い人 久遠時高校のアイドル 剣道部所属)※尚、久遠時高校は健二、敬、夏希の通う東京都立高校。

 太助の子 【陣内 翔太】 二十一歳(上田市内の交番勤務 警察官)※夏希に好意を抱いている為に健二に不信感と嫌悪感を抱いている。

 聖美・佳主夫の子 【池沢 ○○○】(格闘ゲーム好き 特技:太極拳、少林寺拳法)※名前が醤油の染みで滲んで読めない。

 順彦・典子の子 【陣内 真緒】 九歳(髪を頭の横で左右対称に纏めている)

 同上 【陣内 真悟】 六歳(翔太に瓜二つ 知らない人には兄弟と間違われる)

 邦彦・奈々の子 【陣内 加奈】 二歳

 克彦・由美の子 【陣内 了平】 十七歳(上田高校野球部キャプテン ピッチャー)

 同上 【陣内 祐平】 七歳(オカッパ頭で眼鏡をかけている)

 同上 【陣内 恭平】 零歳


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 そうして、一部(金髪警官)除いて和気藹々と話している間に、健二は庭先に出た。

 東京では見れない満天の星空を見ながら、健二は敬に連絡を取る。

「……佐久間、こうなるって判ってた?」

 そう、本来なら佐久間が来る予定だったのだ。バイトをしないかと夏希に誘われた時、健二と敬はジャンケンをしたのだ。

 結果は佐久間の勝ちだったが、その夜に夏希が『敬が来れなくなった』と連絡があった。

『当ったりー。俺はね、親友の為なら一肌も二肌も脱げるんだぜ?』

「……全く。まあ、そこはいいんだ。たださ……この『空気』は、ちょっと苦手かなぁ」

『…………ああー……まぁ、四日もすりゃ帰って来れんだろ? なら、さっさとヤる事ヤって恋人同士になっちまえ』

 テレビ電話の画面の向こうの敬が親指を突き立ててウィンクする。

「下品だっての」

 それから二言三言話して通話を切ると、それを見計らってか健二の父から連絡が入った。

「……ん、父さん?」

『ああ、健二か? 今はどこに……』

 そう訊いてくる父にむず痒さを憶えるものの、婚約者云々は端折って高校の先輩の曾祖母の実家にお邪魔していると話した。

 そう言うと、父がその人の名前を訊いてきたので答える。陣内 栄と。

『……そうか。お前、あのヤバい『妖怪』の家にいるのか……』

 携帯の向こうで父が目を手に当てて天を仰いだのだが、通常の通話をしている健二には見えない。

「妖怪って、父さん……」

『いいか、健二』

 真剣な声で息子の言葉を遮る父。

『そこに九十を超えた老女がいるだろう? その女はな、この日本の政財界を始めとした殆どの組織に顔が利く化物だ。電話一本するだけで日本経済が動くとさえ言われてる。下手に眼を付けられたら、洒落にならん事になる。気を付け――』

「全く、こんなばあさん捕まえて妖怪だなんだと失礼な話じゃないか、小磯の小僧」

 いつの間にか、健二の横にいた栄が、電話から聴こえてきた健二の父に話しかける。空気を読んで健二は通話のボリュームを上げる。

『……よく言う。おい妖怪、ウチの息子に要らん手を出すなよ。もしウチの息子の将来に傷を付けるような真似をしたら、俺と俺の伝手全てを使って、アンタと戦うぞ』

「ふふふ。そんな気は毛頭無いよ。始めはまさかとは思ったけど、随分とアンタとは性格が違う息子じゃないか。礼儀正しい子だし、アタシに気押されもしなかった。正直言えば、ウチの婿に相応しいと思ってるよ」

 そう言うと、父は絶句したらしく、少し黙った。

 しかしすぐにこう言う。

『ウチの健二が、アンタん所の婿に、ねぇ。……悪いが却下だ。……おい、健二』

「な、なに?」

 いきなり話しかけられ、戸惑いながらも健二は父の言葉を待つ。

『お前が前に話していた例の子が、この妖怪の親族だとは知らなかったが……お前がその子に惚れてるのなら、奪ってでもウチに嫁入りさせろ』

 かなりの爆弾発言だ。

「なぁ……っ!?」

「そういった話は当人たちが決めるもんだろ? アタシら外野が囃し立てるモンじゃないさ」

『……そうだな。つーか、妖怪。言質は取ったからな?』

 手は出さない、という所だろうか。

「はいはい。アタシも小僧の戯言に構ってやれる程暇じゃあないのさ。さっさと息子と話でもしてやりな」

『おう。……妖怪』

 声のトーンが低くなる父。

「……なんだい?」

『身体、大事にしろよ』

 それにどんな意味があるのか、健二には判らなかったが、それを聞いて栄は微笑む。

「あの無頼漢な営業が随分と丸くなったじゃないか。……その調子で家族を護りなよ」

 そう父に告げて、栄は座っていた座布団のある上座まで戻っていった。

「父さん……栄おばあちゃんと――」

 何かあった? と訊く前に父が話し出す。

『あの妖怪にな、父さん新人の頃こっ酷くやられてな。それで母さんとの縁も出来たんだが、まあ、お陰で頭が上がらなくてな。あ、コレ内緒だぞ? 俺の尊敬する人の一人だよ。まあ、昔っから悪態を吐き合う仲さ』

 そう言って苦笑する父。

 変な所で自分の父と栄が繋がっていた事に健二は驚いていた。そして父は更なる爆弾を投下する。




『ああ、それとな……父さん、近々母さんと逢う事になったんだ』




「………………は?」

 その発言に痴呆のように返すしかない健二。

『…………まあ、そういことだ! じゃあ、詳しい話は帰ってからしよう!!』

 そう言って通話を切る父。

「は? え? えーと……? つまり? …………えぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 混乱する健二。

 健二の両親は離婚している。

 もう七年は前だ。

 確か理由はお互いの海外出張が多くなってお互いに擦れ違ったからだとか。

 しかも健二が覚えている限りでは、二人とも凄く意地っ張りだ。

 なのに、そんな両親が二人で逢う?

 これには健二は驚いた。



「どっかで聴いた声だと思ったら健二じゃねぇか。どうしたんだよ」

 そんな耳慣れた声が聴こえると、健二は混乱のままにその声の主に話しかける。

「たっ、大変なんだ侘助(わびすけ)さん! う、ウチの両親が逢うって……!!」

「あ? あの意地っ張りってお前が言ってた両親か? ……そりゃ驚くわ」

「そう! そうなんだ!! こんな驚いたのは初めてだよ!? っていうか、コレってどういうコト!?」

「まあ、一般的に言えば縒りを戻すってコトじゃねぇか? どっちがそれを言ったのかは知らんが」

「……ですよねぇ。え? もしかして、まさか、ねえ?」

「いや、何がだ」

「えっと……実は離婚してからも度々ウチの両親、僕だけじゃなくてお互いに連絡を取り合ってたみたいで……もしかしたら七年かけて縒りを戻そうと決めたのかな、と思いまして」

「……あー、その……スマン。マジで意地張ってたんだな」

「……いえ、いんです」

 そんな事を話していると、



「……侘助?」



 栄が庭先で騒いでいた二人を見て呆然としていた。

 いや、栄だけではない。

 夏希以上の年齢の者全てが、二人の仲の良い会話を聴いて唖然としていた。

「シシシ。なんだよ、一族勢揃いじゃねぇか。……いや、まだ来てないのもいるか」

「え? じゃあ、ここが侘助さんの実家!?」

 驚く健二。それと同時に納得もした。

「ああ、似てるわけだ。侘助さんと栄おばあちゃんの雰囲気」

 そんな健二の呟きに反応する二人。

「おいおい、俺とババアが一緒とか何言ってんだ?」

「全くだよ」

 そう言ってお互いを見やる二人。

「……素直じゃないなぁ」

 そう呟くと、二人は異口同音に言う。



「「誰が」」





(あとがき)

さて、実はここでもいくつかの設定が変わっています。

それどころか、これからの展開次第では性別すら変わるキャラクターも出てくるかもしれません。……まあ、誰なのかは明白ですが。

しかし……そうなると、ここ理想郷でのSWのSS先達であらせられる某SSと似た名前になってしまいます。どうしましょう?

まあ、要はヒロインを増やすべきか、それとも夏希だけでいくかの違いなんですけどね。……どっちも書きたいので、両方書くやもしれません。……でも、本当に名前どうしよう(汗)


尚、このSSでは漫画=映画>小説の順に参考にしています。



[20064] 02 深夜 ~蠢く影~
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2010/08/08 20:25
「何でここにお前がいんだよ」

「何でって……夏希先輩に呼ばれたからですよ。婚約者(役)だからって」

「……ほぉ。婚約者ねぇ。っと」

「あっ」

「これで俺の勝ち。まだまだ甘いぞ、健二クン」

「……おっかしいなぁ。前は勝てたのに……」

「そりゃお前、あの時はそっちの運が良くて俺が本調子じゃなかった。それだけだろ」

「うわ、今ナチュラルに僕が侘助さんにコレじゃ勝てないって言いましたね。それに勝負なんてのは時の運って聞きますよ?」

「馬ぁ鹿。三桁も負けていてその癖勝ち星が増えないお前は俺より下だ」

「……相変わらず、思っていても普通は言えない事を言うなぁ」

「そんな俺に普通に話しかけられるお前や敬も大概変人だとは思うがな」

「酷いなぁ」

 花札をしながら和気藹々と話す健二と侘助。

 それを横で驚いた顔のまま眺めている夏希。

 既に家族の殆どは夕食の後片付け等や何やらで縁側の座敷にある人影は三つ。

 健二と侘助、そしてそんな二人を見る夏希。

 二人のまるで兄弟のような気安い会話を聞きながら、夏希は先程の事を思い出していた。






 侘助と健二が知り合いだった。

 これを聞いた陣内家の反応は様々だった。

 困惑する者、驚愕する者、そして――更に嫌悪と不信を深める者。

 しかし、唯一栄だけが、詫助と健二のやり取りに目を細めていた。

 そこにあったのは――安堵と寂寥。

 栄にとって、侘助はある意味『特別』な子供だった。

 いかに他の子と平等に扱おうとしても、自分があの子に甘いという事実だけは変わらなかった。

「侘助」

 一旦会話が途切れたのを見計らって栄が呼び掛ける。

 その瞬間、侘助の肩が一瞬震えた。

 視線を合わせない『息子』。

 だが、それでも栄には侘助の表情が見えるようだった。

「御飯、食べたのかい?」

 それだけで充分。

 訊くのは、それだけで充分なのだ。

「いらねぇよ」

 拒絶にも取れるその言葉。

 万助たちが少し険しい顔をしているが、それはそれ。

 しかし栄には判っていた。

 その言葉に隠された意味を。

 だから言う。

「……そうかい」

 手酌でビールを近くにあったコップに注ぎ、勝手に飲みだす侘助。

「おう健二、お前も呑め」

「ちょ、侘助さん!? 僕はみ――じゃなくて、呑めないって知ってるでしょう!?」

「固い事言うなっつーの。ホレ、呑め呑め」

「……いや、本当に勘弁して下さいよ」

「……ぷっ」

 爆笑。

 情けない顔をした健二を見て侘助が笑う。

 だが、その笑いは気安い人間に見せる親愛の笑顔。

 夏希は驚いた。

 この家族の中で最も侘助に気安く接してきた自分も知らない笑顔。そんな彼に釣られて健二も苦笑する。

 爆笑しながら健二の背を叩く侘助。

 十年の月日が流れているのだ。

 それこそこの叔父にもいろいろあったのだという事は理解出来る。

 だから――嫉妬してしまう。

 誰に?

 夏希は驚く。

 一体自分は『誰に』嫉妬していた?

 十年振りに逢った大好きな叔父と婚約者役を頼んだ――恐らく自分が最も身近に感じる異性である――彼。

 そのどちらに嫉妬していた?

「夏希?」

 そんな自分を心配してか、翔太がそう呼び掛ける。

 それを聞いて侘助がこちらに顔を向ける。

「おお、夏希か。随分デカくなったじゃねぇか」

 爆笑しているものの侘助は翔太の声を聞き逃さず、そちらに振り向いた。

 憧れの叔父さんが十年振りに目の前にいる。

 それをやっと実感すると、夏希は嬉しくなって小走りで近付いてゆく。

 そして彼と他愛の無い会話を交わすのだが、夏希は心の奥底で首を傾げていた。

 何故自分は『こんな気持ち』を抱いているのだろう、と。








「…………眠れない」

 有耶無耶の内に夕食が終わり、侘助たちとの会話も一段落着いたので、健二は幼い子供たちと風呂に入った。

 そのせいか、真緒を始めとしたチビっ子三人組みからは「ケンジ兄ちゃん」と呼ばれるようになった。

 嗚呼、弟や妹ってこんな感じなんだ、と変な感慨に耽る健二。

 一人っ子の健二にしてみれば、その「兄ちゃん」という呼ばれ方は新鮮だった。

 しかし、健二が眠れない理由はそれではない。

 夏希の事が気になるという訳――それは常である――でもない。

 侘助が別れ際に気になる事を言っていたからだ。



『知らんヤツからのメールに気をつけろ。それと――“スイッチ”は入れるなよ?』



 それは、侘助と敬、そして健二だけに通じる言葉。

 分野は違えど類稀なる技能を誇る健二と敬。

 侘助という『天才』と交流し、その技能や考え方に触れ、彼に手解きをされた二人は、史実よりも若干ではあるがその才能を伸ばしていた。

 それ故に“スイッチ”と呼ばれるモノ(侘助命名)が彼と敬には備わっていた。

 要は自分のスペックをフルで扱えるように『切り替える』自己暗示のようなモノだ。

 しかし欠陥が無い訳ではない。

 使い過ぎれば鼻血を出して気絶してしまう。

 要はPCで言うところの熱暴走だ。

 しかもこの“スイッチ”、健二の場合は時折勝手に入る時がある。

 気が緩んでいる時に自分の得意な分野の問題が出されると、それが難しければ難しい程、熱中してそれにのめり込んでしまうのだ。

 敬も“スイッチ”が入るとプログラミングに没頭して寝食を忘れてしまうが、健二よりは比較的軽度ではある。

 侘助に言われた事が気になり、健二は寝られなかった。

 仕方なく『OZ』内の伝手を頼り、何か変わった事は無いか調べた。

 結果――アメリカに住む侘助の知人が、彼に政府の関係者らしき人物がコンタクトを取っていた事を教えてくれた。

 彼は研究者だ。

 そして専攻は――『AI』。

 政府関係者が侘助と逢う。

 しかも彼が作成している『AI』の性質を考えると――

「…………嫌な予感しかしないなぁ」

 彼が作ろうとしている『AI』。それは少し構成を弄れば瞬く間に世界を牛耳る存在になってしまう。

 彼が作成していたのは、『他者との交流を通して自己を進化させるAI』。

 故に『AI』に『好奇心』を組み込んだと彼は語った。

 自己の好奇心の赴くまま交流する他者の思考ルーチンや行動ルーチンを学習し、自分の糧として成長――つまり『自己進化するAI』。

 それが侘助の目標だ。

 そう、健二と敬は聞いていた。

 言いようの無い不安を感じてしまう。

 ふと、携帯を見る。

 『YOU GOT MAIL(メールが届きました)』

 某国の人型鼠のような耳を着けた健二の姿をしたアバターがメールが届いた事を知らせる。

 宛先は、知らないアドレス。

 先程侘助に言われた事を思い出し、不安がマッハで急上昇している。

 しかも題名が『Solve Me(私を解いて)』。

 不安に思い、それを削除しようとするが――

「あ、ヤバ――」

 間違えてそのメールを開いてしまう。

 そこあるのは、規則性の無い数字の羅列。

 いや、これは――ある規則性に沿った暗号だ。

(マズ――)

 そう思いながらも“スイッチ”は勝手に入る。

 止めろ、解くな。

 そう思っているのに、健二の手はゆっくりとリュックサックからノート大のメモ帳を取り出し、シャープペンを握る。

(いいさ。解いても返信しなけりゃいいんだ……)

 そう開き直り、健二は嬉々として暗号を解いていく。

 カリカリとシャープペンが紙面を走る。

 そして――事態は急展開を迎えるのだった。









 小惑星探査機「あらわし」。

 数年前に地球を出発し、五十六億年前から存在すると推測される小惑星「マトガワ」の資源採取が目的だった。

 その資源を採取し、「あらわし」は地球に向かっていた。

 そして、採取した資源を入れたカプセルを砂漠に投下するのが「彼」の目的であった。

 だが――「彼」はその任務を計画通りに全う出来なくなった。






 その原因は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州南部のピッツバーグという都市にあるロボット工学研究所にあった。







(あとがき)

うーん……まだ性別が決まらない。

と、取り敢えず次回までに決めます。






[20064] 03 焦燥 ~走る四十一歳~
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2010/08/09 23:23
 陣内侘助。四十一歳の無精髭を生やした敬の師匠。健二の兄貴分。

 趣味は酒にゲーム。特に花札。

 交遊関係は以外に広いのだが、表向きは非社交的な研究者として知られている。

 約十年前にアメリカに渡米。

 以後は国内を転々とし、三年後に『とあるAI』の基礎理論を引っ提げて、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるロボット工学研究所に研究員として落ち着く。

 ロボット工学の研究、それもAIに関する研究では時に異端とさえ呼ばれるくらいに奇抜な発想を周囲に発表し、新しい刺激を与える男として他の研究者たちからは好かれていた。

 だが、それと同じくらいに嫌われてもいた。

 いつの世も、最先端を走る人間や異端と呼ばれる人間を毛嫌いする者はそれなりに多くいるのだ。

 彼が目的とする完成形、それ自体が気に入らないという者もいた。

 限りなくヒトに近く成長する人工知能(AI)。

 それを嫌悪する者、出来ないと否定する者、夢物語だと嘲る者はいくらでもいた。

 だが、彼の基礎理論に触れた優秀な科学者たちは、叶わない理想ではないと思い、彼は成功するだろうと思っていた。

 だが、彼の研究には莫大な資金が必要だった。

 彼がどこからか調達した潤沢な資金――日本円で数億という額だった――も底を突き、スポンサーを探していたある日、彼はアメリカ政府から接触を受けた。

 彼らはどこから仕入れたのか、彼が研究所の酒の席で語った『試作AI』について興味を持っていたのだ。

 史実において彼が全額を注いで作成したAIではあるが、彼は自分を慕う少年たちとの交流で自分の理想を追う事を決めた為に凍結させていたのだ。

 ソレを政府関係者は求めた。

 だが、彼はそれを拒んだ。

 確かにアレはあと少しで一応の完成を迎えた。

 しかしそのAIには必要なモノが、大事なモノが抜けていたのだ。

 彼は思う。

 アレは、確かに優秀だが欠陥品だ。

 しかし、そう言いながらも削除出来ないのは、彼の中にある小さな親心のせいだろうと彼の友人たちは証言する。

 彼は研究所のスパコンを用いてそのAIが引き起こす事態をシミュレートした事があった。彼のAIに興味を持っていた研究者仲間たちもそれを見学した。

 結果、満場一致で改良が加えられない現状でこのAIを野に放つのは危険すぎるという反対意見が上がった。

「スカイネットかコレは?」

 侘助の友人の一人であるダグラス・サンダーソンが呆れたようにそう言ったのが印象的であった。

 だが、成程。彼の発言は的を射ている。

 辿る過程は違っていても、行き着く先は人類滅亡という結果なのだ。

 それを政府関係者に伝えたのだが、その反応はとても好意的に受け止められる物では無かった。

 彼らは軍事利用出来る兵器が完成間近なのにそれを封印しようとする侘助たちの発言が理解出来なかったのだ。

 あまつさえ、彼らは侘助たちが資金が欲しがっていると勘違いし、潤沢な資金を持って侘助本人を説得に来る始末。

 そうなると、掌を返す者も現れた。今までとは百八十度違う意見を出されて途方に暮れる侘助。

 彼らは裏で侘助を説得すれば資金の援助を確約すると持ち掛けられたのだ。

 ついには、侘助の友人たちを除いた研究所の職員の殆どに説得される事になった。

 そして、侘助はついに折れ、そのAIの開発を再開した。

 そして、AIの開発を進めながら侘助は思う。

 最初あった資金だけでは足りず、それ以上の莫大な金が必要だったのだが、試作AIが完成すれば本来の目標の開発資金に目処が立つどころか、恩人である『彼女』に貰った金を倍、いやそれ以上にして返す事が出来るのだ。

 だが、その為には実証実験が必要だった。

 『人様の役に立つ男になれ』と言われて育った自分が、規模はどうあれ世間を騒がせるモノを野に放つのだ。

 恐らく、絶縁されるだろう。

 そうでなくても金の件で良い顔をしている親族はいないのだ。

 あの人が何も言わなくとも、あの家に戻るのはもう無理だろう。

 そう思うと、あんなに煩わしかった広い家も懐かしく思えるのだから不思議だ。

 そして、『完成した』と政府の関係者に連絡を入れて、彼は日本に飛んだ。









 例のAIが、研究所のサーバーから脱走した。

 侘助がそれを知ったのは、自分の弟分がとある暗号を解く数時間前。

 丁度花札が一段落着いた時期だった。

 そして、政府から実証実験の場が知らされる。

 『OZ』。

 もう一つの現実とさえ呼ぶくらいに現実(リアル)と密接に関わっている地球規模のコミュニケーションサイトだ。

 あのAIの特性の一つに、自分では解けない問題を他者に質問するというモノがある。

 もしそうだとすれば、目の前のこのお気楽そうな顔をしている弟分は、嬉々として問題を解くだろう。

 計算速度だけでもこの弟分は、世界トップクラスをひた走る怪物なのだ。

 自分の弟子もまだまだ自分には敵わないが、発想という点では他者と隔絶したモノを持っている。

 閃きが違う、とでも言うのだろうか。








 そして、事件は明け方に起きた。

 問題を解いてくれという文を受け取って一時間後、弟分のアバターがマントを羽織って悪戯を始めたではないか。

 やがて混乱は津波の様に広がっていく。

 始まったのだ。実験が。

 侘助は別に使っている予備の端末を引っ掴んでPCやiPhoneが入っている鞄に突っ込む。

 こうなるんだったら屋敷に泊まるんだった。

 そう舌打ちしながら、侘助はホテルが用意してくれたタクシーに飛び乗る。

 慌ただしく山頂の屋敷(陣内家)に行くように指示を出す。

 出来ることなら早朝の七時くらいのニュースが始まる前には着きたい。

 そうしなければ機械や電子の世界に詳しくないあの連中の事だ。

 テレビを鵜呑みにして、健二を逮捕しかねない。特に翔太が不味い。

 そうじゃなくとも健二に夏希の件で悪感情を持っているのだ。

 証拠無しで逮捕する可能性が高い。

 内心小躍りして手錠をかける様が眼に浮かぶようだ。

 冗談ではない。

 自分の不甲斐無さのせいで健二に要らない迷惑を掛けて堪るか。

 iPhoneを操作して自分の一番弟子を呼び出す。早朝だが構うものか。

『……ふぁい。どちら様ですか……?』

「……俺だ、敬」

『あれ? 師匠?』

「前置きは無しだ。すぐに『OZ』に入れ」

『はぁ?』

「いいから入れ!! 健二を犯罪者にしたいのかお前は!?」

『はいィ!? ちょ、ちょっと待っ――――はぁあああっ!?』

 半分寝ぼけ眼でも言われた通りに『OZ』にログインしてみれば、見知ったアバターが暴れているではないか。

 しかもそれが自分の相棒のアバターなのだから驚くなというのが無理だ。

『ちょ――なんスかコレ!?』

 一瞬で思考をクリアにした敬が師に問う。

「……さぁな」

 俺のAIの実証実験に健二が巻き込まれたんだよと言えたらどれだけ良いか。

 だが、結果がある程度出る迄、侘助には守秘義務が発生するのだ。

 それを掻い潜って真相を語るには、誰かに自分がこの騒動の原因の一つだと自力で辿り着いて貰わなければならない。

 そして、侘助はその役目を師匠の贔屓目を抜きにしても優秀な敬に任せたのだ。

『……判りました。つまり、健二がこのアバターを使っていないって証拠と犯人を挙げろってことですね』

「ああ、任せた。俺は健二の泊まってる屋敷に向かってるからすぐに代えの端末を貸してやるつもりだ。アドレスはお前の携帯に送っておくから健二の親御さんとかに伝えてやれ。心配してるだろうからな」

 腕時計に眼をやる。

 時刻は、六時十分。

 普段なら到着まであと二十分程度だが、祭りの関係で道路が多少混んでいるのでもう少し時間がかかるだろう。

 本格的に混み出すのはもう少ししてからだろうが、そう考えると非常にギリギリだ。

 だから、侘助は焦った。

 こんなことなら、夏希やあの甥っ子の連絡先だけでも聞いておくべきだった、と後悔すらした。

『なんで師匠が健二が泊まってる屋敷を知ってるんですか?』

 スピーカーの向こうで、ガチャガチャガチャとキーボードを高速でタイプしながら敬が訊く。

 尤もな意見だ。

「アイツがいるのは俺の実家。以上」

『あぁ、なーる。……って、はぁあああっ!?』

 敬、再度絶叫。

「そろそろ俺も車から下りれそうだから切るぞ。詳しい話はアイツを交えてからだ。それと、健二の仮アバターは、『仮ケンジ』って名前で俺が作っとくから」

 それだけ告げて侘助は通話を切る。腕時計に眼を落とせば七時の文字。

 それと同時に運転手が到着したと告げる。

 窓を見ると、昨夜はよく見えなかったが、確かに古くなっている懐かしい門があった。

 運転手に万札を一枚手渡す。

 釣り銭を渡そうとする運転手にいらないと告げて、侘助は開かれたままの門を潜り駆け出す。

 山道を走りながら、侘助は庭へと向かう。

 玄関を通るだけ時間の無駄だ。

 時刻は七時過ぎ。渋滞に捕まり過ぎた。

 昨夜夕食を食べていた縁側に通じるその広間には、家の皆が観るテレビがあるのだ。もし健二のニュースを観るとしたらそこしかない。

 台所にもテレビはあるが除外。健二がこの家の『女の聖域』で料理をしている筈がない。

 確かにあの弟分は一人の時間が長かったせいか、人並み以上の料理の腕を持っている。まぁ、そう焚き付けたのは侘助本人なのだが。

 息を切らしながら目的の場所に辿り着くと、そこには真悟と裕平に連れられてテレビを観ている健二がいた。

 案の定、思考が追い付かずに呆けた弟分の顔があった。

 だから言ってやる。



「――ったく、何やってんだよ。折角注意してやったのに」



 その言葉の裏に、安堵を隠して。



(あとがき)

とりあえず今回は侘助おじさんオンステージです。

名前だけですが、オリキャラがいます。

もしかしたらまだ出るかもしれません。



次回、やっと『キング』を出せます。




[20064] 04 冤罪 ~辿り着く元凶~
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2010/08/17 13:04

「……なに、コレ」

 朝食の準備をしていてふとテレビを見ると、自分がちょっと気になっている後輩の男の子の顔が映し出されているではないか。

 画面には、『OZ』の管理塔に侵入して乗っ取り犯罪行為を愉しんでいるアバターがあった。

 よく知ったアバターだ。

 現実の彼と同じどこか自分を安心させてくれる顔をそのアバターはもうしておらず、デフォルメされたギザギザの大きな歯を常時剥き出したままの、なんとも性根が悪そうな顔をしていた。

 テレビの解説者やコメンターが訳知り顔で、彼の事を愉快犯と読んでいた事に夏希は衝撃を受けた。

 それと同時に、テレビの向こうの彼らに反発心が沸き上がる。

 何故なら、判っているからだ。

 あの心優しく――だけども時々ちょっと言い方がキツい――自分の一番親しい男の子が、こんな事をする筈がない、と。

 理屈も何もない唯の感情論。

 だが、彼の性格や気質を知る者からしてみれば、それこそが正しかった。

 恐らく彼ら全員が世間の反応が間違っていると主張するだろう。

 そう――彼を知る者ならば、だ。

「夏希っ!」

 どこか使命感に満ちた顔をしている従兄が息を切らして自分に話しかける。

「あのガキはどこだ!?」

 その顔は、彼が犯人だと疑っていない顔だった。

「……知らない」

 だからだろう。

 翔大の問いかけに不機嫌そうに返したのは。

「なになに、ケンジ君がどうかしたの?」

 由美を先頭に料理を作っていた女性陣が近付いてくる。

 それに翔大が健二が犯罪者だったと説明すれば、もうどうしようもない。

 テレビでもその線でしか報道されていない。

 まるで生贄だ。

 だから、夏希は健二を探すために駆け出した。

 背後から呼び止める翔大の声を無視して。











 さて、その頃。

 健二は盛大に困惑している間に侘助に連れられて、狭い納戸のような場所に連れて来られていた。

 そこには、先客がいた。

「……誰?」

 夏希とは対照的な日焼けした小麦色の肌、短いショートカットの黒髪、赤いタンクトップと短パンを着た中学生くらいの子供がそこにいた。

「……あん? お前、カズか?」

「なんでボクの名前知ってるの、おじさん?」

「まぁ、そりゃそうか。お前と逢ったのも十年以上前だしな。――俺は侘助。お前のおじさんだ」

「――ああ、あの」

 納得したその子は、次に健二を見る。

「あ、僕は――」

「知ってる。『OZ』に喧嘩を売ってる人――でしょ」

「なんで知っ――ああ、成程」

 驚いたが、すぐに納得する。

 その子が見ていたサイトに、目線は隠されていたが紛れもない自分の顔があったからだ。

 こうなるとネットの住人の行動力は凄い。

 恐らく、自分に関するデータは粗方出尽くすだろう。

 だが、それを気にしている場合でもない。

 どうせ聞き入れはしないだろうが、一言自分の分身を奪った相手に言いたい事が出来たのだ。

 今はそちらが先だ。

「ホラ、健二」

 アカウントを再設定された携帯を渡される。

 画面には、何の権限も無いなんだか美的センスを疑う不細工な黄色い狸(上半身Tシャツ装備)がいた。

 少々兄貴分の美的センスを心配しながら、健二はソレでログインする。

 周囲の声を拾えばどこにソイツがいるのかなど簡単に判った。

 場所は管理塔前の広場。

 そこでは、様々なアバターが群れを成しているではいか。

 それを指揮者のように指揮する自分のアバター。

 自分に気付いたソイツがー振り返る。

 その顔を見た瞬間、納得してしまう。

 ――ああ、コイツはヤバい。

 理屈云々ではなく、直感で判った。

 放っておけば、行き着く所まで突っ走る、と。

 周囲に整列していたアバターもこちらを見る。

 同じ顔だった。

 確かにアバターは千差万別だが、そのどれもが口が一昔前のー口裂け女宜しくギザギザな歯を生やして嫌らしく笑っていたのだ。

 それを見た瞬間――冷や汗が吹き出た。

「逃げろ!!」

 兄貴分の忠告通りにすぐに離脱しようとする。

 だが、ソレは追ってこない。

 興味を失ったようにアバターたちを使って犯罪行為を加速させていく。

 いや、これは挑発だ。

 笑うような効果音が聴こえている。

 「キシシシ」と笑って、ソレは被害を拡大していく。

 既に現実でもパニックは起きている。

 なのに、愉快そうに笑っているのだ。

 だから、健二は咄嗟に動いた。

 何も考えずに反転。

 その短い手を振りかぶって自分のアバターを奪った相手へと殴り掛かった。

 例え無駄な行為だとしても、自分の顔を模したアバターが嫌らしく笑っているのが我慢ならなかったのだ。

 だが――

「――ヘブッ!?」

 華麗な胴回し回転蹴りが『仮ケンジ』の顔面を襲う。

 カウンターだ。

 まるでお手本のようなソレを食らって吹き飛ぶ黄色い狸。

 後は蹂躙だった。

 殴り掛かった自分が言えた義理ではないが、いつの間にかここら一帯が『OZマーシャル』という格闘ステージのフィールドへ変更され

ていたのだ。

 一方的に殴られ蹴られ叩き付けられ、そろそろ体力ーゲージがマズいという状況で――救いの手が伸ばされた。

『ケンジっ!』

 猿のドット絵の頭に首から下は普通の人型のアバターが、『仮ケンジ』の手を掴んで逃げ出す。

 そのアバターは、自分の相棒であり無二の親友が使用するアバターだった。

「佐久間っ!?」

『お喋りは後だ! 逃げるぞ!!』

 しかし、ソレは逃げ出す二体のアバターを追って跳躍する――が、横から跳んできた蹴りにより迎撃された。

 頭にはゴーグル、上は赤いベスト、そしてジーンズを着た人型ウサギのアバター。

 それは、『OZ』という世界において、最も有名なアバターの内の一体。

 観客を魅了する軽妙な格闘戦を繰り広げ、その強さに敵う者はおらず。

 『OZマーシャル』という参加者数万人規模の格闘ゲームにおいて、二年前から徐々にその名声を広げていった、決して喋らずチャットでのみ会話する孤高の兎。

 しかしその者は現在において、ある称号を持っていた。

 曰く、最強。

 『キング・カズマ』。

 使用を憚られる王(キング)の称号を誰に遠慮する事無く使える――最強のアバター。

 それが、目の前にいた。

「なんで……キングが――って、ええっ!?」

 ふとこの納戸の先客である子のPCを見てみれば、そこには自分と親友を救ってくれた件の最強がいるではないか。

「黙ってて」

 真剣な声でそう言われる。

『おい、どうした?』

「いや、なんでもない」

『そうか? まぁ、今はいいや。師匠、そこにいます?』

「おう、いるぜ」

 ハンズフリーにした携帯に話し掛ける侘助。

『見付けましたよ、健二が無罪だっていう理由の材料』

 それを聞いて、健二は驚き、侘助は満足そうに頷く。

「流石俺の弟子だ」

『――どうも』

 久し振りに褒められた敬は、そう言って画面の向こうで頭を掻く。

 詳しい話を続けようとしたが――彼は気付く。

『ちょ――マジかよ!?』

 敬の視線の先には、カーチェイス宜しく空中で追いかけっこを繰り広げていた二体が地面のある場所に降り立ったのだ。

 そして、ソレは健二のアバターから仏像を模した姿へと転じた。

 すぐに敬がソレを調べる。



『――やっぱりだ。コイツ、今まで奪ったアバターを使って処理速度を上げやがった!!』



 その言葉を証明するかのように、今まで防戦一方だった相手が、徐々に『キング・カズマ』を追い詰めているではないか。

 蹴りも拳も防がれ、徐々に攻勢が転じるのが素人の自分たちにも手に取るように判った。

 拳は止められ、蹴りはかわされ、フェイントは全て見切られる。

 荒い手付きでキーボードを叩いている姿を見れば一目瞭然だ。

 荒い息遣いには、隠しようの無い焦燥が込められていた。

 そして――

「あっ」

 仏像を模したアバターの蹴り上げた右脚が、常勝無敗の代名詞だった『キング・カズマ』を地に這わせたのだ。

 これには、観客たちも呆気に取られる。

 そんな彼らを尻目に、ゆっくりと仰向けに力尽きている兎のアバターにソレは近付いていく。

 そして、敗者へ向ける指が光り出す。

『マズい! アイツ、キングを『奪う』気だ!!』

 それを聞いて健二は動く。

「ちょっとどいて。――佐久間」

『おう』

 呆然自失となったその子を横に無理矢理寄せて、キーボードをタイピングする。

 強制ログアウトを施行。

 『OZ』のアルバイトとして長くやってきた健二や敬は、有事の際に『OZの管理者』としての権限が――全体のたった一割未満ではあるが――使えるのだ。



 それを駆使して、健二は本人に無断だがアカウントに関する全ての情報のバックアップを取り、『キング・カズマ』の強制ログアウトを佐久間の権限で実行。

 そして、『キング・カズマ』は消えた。

 それと同時に指から伸びた光が一秒前まで彼がいた場所を貫く。

 残っているのは野次馬と、先程まで追い掛けようとした獲物が二匹。

 健二/黄色い狸は言う。



『次は、敗けない』



 その言葉を残して、黄色い狸とドット絵の猿は消えた。















「……ふぅ」

 こちらの足跡を特定されないように隠蔽プログラムやら防衛プログラムにリソースを注ぎ込んだ隠れ家にアバターを潜ませると、健二は溜息を吐いた。

 相手が人間であるならば、特定するのに時間が掛かる筈だ。

『こっちも終わったぞ』

 敬も敬で、『OZ』内で信用の置ける者たちに隠れ家の場所を教えがてらに至る所にダミーの隠れ家をいくつか設けていたのだ。

 しかもご丁寧に、中には自分達の姿を模したダミーデータまで入れる徹底振り。

「でも佐久間、本当にここまでする必要があるの?」

『それがあるんだなー。ちょっとヒットした内容が内容でさ。ちょっとヤバい可能性が出てきたんだ』

「どんな?」

『まず――そうだな。お前さ、昨日の夜から深夜にかけてで、なんか変なメール受け取ってないか?』

 その言葉にギクリとなる。

 『OZ』に関連する一切の操作は出来ないが、昨夜というか早朝に自分がしでかした事はハッキリと覚えている。

「メール? そんなの受け取ってないけど……」

『多分、夏希先輩は迷惑メールのフォルダに入ってるんじゃはいですかね? 俺の今使っている物理部のPCにも似たようなメールが来てますし、多分アカウントを持っていてメールを受け取れる人全員に来てると思いますよ』

「おおー本当だ」

 夏希が自分の携帯の迷惑メールフォルダを覗き込みながらそう感心する。

「……って」

 そこで健二は気付く。

「なんで夏希先輩が、ここにいるんですか!?」

『ああっ、本当だ!? すっごいナチュラルに会話に参加してたから気付けなかった!!』

 驚く二人。

 そんな弟分と弟子の反応にくつくつと侘助は笑う。どんな状況であれ、普段通りに行動出来るというのはこの二人の長所であって短所だ。

 そこまで黙って会話を聞いていたその中学生――髪や言動を鑑みるに男の子だろう――は、健二の服の裾を引っ張って先程の強制ログアウトについて説明を求めた。

「ねぇ、なんであんなコトしたの?」

 まだ声変わりしていないであろうどこか女の子のようにも聴こえる高い声でそう質問する。

「うん、佐久間が変なコトを言ってたから――かな。『奪う』……だっけ? 何を奪われるかは判らないけど、なんだかヤバそうに思えたからね」

『事実ヤバかったぜ。なんで健二がキングのアカウントを操作出来たのかはなんとなく察しが付くけどお前なんて羨ましい――っと、そこは後にしようか。あのままだったら百パーセントの確率で、キングは『OZ』における権限の全て――つまりアカウントを奪われてた』

 その言葉に絶句する。

「……え?」

『ソイツの名前は『ラブマシーン』。アメリカのピッツバーグにあるロボット工学研究所で作成されていた試作型のハッキングAI。コイツがその研究所のサーバーから脱走したらしい。んで、ソイツがある問題をバラ撒いたせいで『OZ』の管理塔から全員が締め出されてる。まだオフレコだけど、多分今日の夜にはその情報が出回るだろうぜ』

「…………えっと、つまり?」

 余りそういった事柄に詳しくない夏希が首を傾げる。

「つまり犯人はAIで、このお兄さんは冤罪だってこと?」

『その通り。でも、なぁ健二?』

 敬の半眼から視線を逸らし、言う。

「……はい。『解いてくれ』って書いてあったから、僕がその問題を解きました」

『そう。この馬鹿と同じように例の問題に挑戦した連中の全員がアカウントを奪われてる。正解不正解問わずにな』

 夏希はそれのどこに健二が罪の意識を感じるのか判っていないようだったので、敬が説明を続ける。

『えっと……先輩は、『OZ』のセキュリティについてどれくらい知ってますか?』

「え? そんなには知らないよ。私が知ってるのは、『OZ』のセキュリティは世界最高で、そうそう簡単に破られるものじゃないってくらいで…………え?」

『そう、世界一高度なセキュリティなんです。二千五十六桁の数字からなる暗号。しかもその暗号は時間によって変更される。そんなモンを解けるヤツなんてそうそういませんよ。でも、その解ける馬鹿がそこにいた』

 横にいる後輩に眼を向ける。

『そこの馬鹿が言ってませんでした? ソイツ、数学のオリンピックで最終選考に残るくらいには計算に関しては強いんですよ。んで、その馬鹿はホイホイとその怪しい問題を解いてしまった、と。多分、あのAIがそこの馬鹿のアバターを使ってるのは、一番最初に返信してきたからでしょうね。――しかも不正解だったんだから余計に救えない。アカウント取られ損じゃねーか』

「ええっ!?」

 驚く健二。

「そんな、だってあれで合ってるはずなのに……」

 自分の計算にそれなりに自信を持っていた健二は、その言葉にガックリと肩を落とす。

「でもさ、なんで不正解だって判るの?」

 褐色の肌の少年が問いかける。

 どこか少女を思わせる仕草で健二に身体を寄せる。暖かい体温を感じて少し頬が熱くなる健二。

「…………」

 それにどうしてだかムッとした夏希は反対に陣取り健二が使っている端末に顔を近付ける。

『健二……お前、帰ってきたら高いメシ奢れよ』

 それを画面越しに見た敬が眼鏡をギラリと輝かせてそう低い声で言う。

 その余りのプレッシャーに健二はコクコクと頷くしかなかった。

『……話を戻すけど、健二が何時頃返信したのか判るよな?』

 そう言われたので、携帯の送信ボックスに入っているメールを見直してその時間を告げる。

『ああ、やっぱ違うわ。『ラブマシーン』が管理塔に侵入して事を起こしたのはそれから十分後だ。AIが、閉じられてる門を開ける鍵を持っているのに十分間も入らなかったっていうのは考え難い。なら、当たってなかったって考えるのが妥当でしょ?』

「「……成程」」

 感心したように頷く親戚二人。

 そして次に敬は侘助に向き直る。

『で、師匠』

「なんだ」

『師匠、知ってましたよね? ラブマシーンの事。師匠が今いる研究所から脱走したAIがいるなんて……知らされていないワケがないでしょう』

「……ああ、知ってた。言いたかったんだが、ちょいと言えない理由があってな」

『守秘義務ですか。……だから俺に調べさせたんスね?』

「……悪いな」

 侘助の視線に何を感じたのか、敬は再度嘆息する。

『いいですよ。弟子が師匠助けるのは当たり前ですからね』

 そう言って、再度情報を集め始める敬。

 そんな弟子の態度に侘助は、

「馬ぁ鹿、生意気言いやがって」

 そう言って笑うのだった。


















「……ねぇ、どういうこと?」

「さあ?」

 納戸の扉の向こうで中にいる彼らの会話を聞いていた残りの家族たちは怪訝そうな顔でお互いを見つめる。

 奈々が今まで起きていた事を整理するように口を開く。

「えっと……つまり、健二くんが犯人っていうのは、ただの冤罪で……」

 続いて直美が。

「本当はその『AI』が犯人で、今の混乱はソイツのせい」

 その次に理香が。

「……それなのに、翔太ぁ? テレビの発言や回覧板とかを鵜呑みにしたアタシたちが言えた義理じゃないかもしれないけど――っていうか、その手にある手錠は何?」

 そう問われて翔太が声を荒げる。

「う、ウルセェ!! 犯人ってああも大々的に報道されりゃほぼ罪状が確定してんのと同じなんだよ! それを捕まえんのが俺の仕事だっつーの!!」

 そう言った翔太に理一が。

「だが、翔太。結果を見ればお前がしようとしていた事は誤認逮捕だった。昨今の警察だと、お前もしそのまま逮捕してたら責任取らされてクビだぞ」

 それに翔太の父である太助も追従する。

「それ以前に夏希ちゃん、健二君が犯人じゃないって信じてたからね。もしお前がそんな夏希ちゃんの前で逮捕なんかしたら、ただでさえお前を見てない夏希ちゃんが余計に離れていくぞ」

 容赦の無い言葉を父と伯父から受けて、更に声を荒げようとする翔太が口を開く前に納戸の戸が開けられる。

「……なぁ、覗き見すんなら、もうちょっと声を落とせよ」

 呆れた顔で親戚を見下ろす侘助たち。

 それについて弁明しようと誰かが口を開く前に、



「まったくだね。一体これはどういう事だい?」



 彼らの背後から栄が現れた。

 彼女の手を引いているのは真緒たちだ。

 どうやら栄を呼びにいっていたらしい。

「それと……夏希?」

 呼びかけられ、夏希がビクリと身体を震わせる。

 何故なら、栄が厳しい顔で自分を見ていたからだ。

「健二さんについて皆に話さなきゃいけない事があるだろう?」

「な、なんの事だか……」

「言いたくない気持ちも判らなくないけどね。健二さんの嘘の経歴についてと、婚約者っていうデマについてさ。本当は彼、アンタの一つ下だそうじゃないか」

 そう言われて、ほぼ全員の視線が自分に集まる。

「……あ、う……」

「まったく。誰が嘘の婚約者を連れてこられて嬉しいもんか。アンタ、アタシにならともかく健二さんに恥をかかせるのも大概にしな」

 そう言われて、漸く夏希はその事に気付けた。

 バイトとはいえ、夏希の婚約者。

 しかし、それが健二にとって果たして良かったのだろうか。

 もし彼が他に好きな人がいたとして、その人ではない女と婚約者になって嬉しいだろうか。

(――あれ?)

 健二にもしかしたら好きな女の子がいるかもしれない。

 そこに思い至った夏希は胸が苦しくなり、少々腹の底がムカついているのを自覚した。

「お兄さん――」

「あ、健二でいいよ」

「じゃあ、健二さん。夏希姉ちゃんの恋人って嘘なの?」

 自分の感情が酷く不安定な事を自覚した隣で、和気藹々とした会話が続く。

「うーん。まぁ、そうだね。婚約者じゃないよ。僕はただの後輩」

「それなのに、こんな田舎まで来たの?」

「そうだね」

「昨日由美叔母さんたちが言ってたけど、お土産が沢山入った重い荷物を担いで?」

「うん。まぁ、ちょっとインドア派な僕には辛かった……っと、冗談冗談。あの程度なら軽かったよ」

 年下の子がいるのだ。ここは嘘でも虚勢を張りたい健二。

 そんな親友を見て、携帯の向こうの敬が忍び笑いを洩らす。

「で、屋敷についてみれば、おばあちゃんの目の前で婚約者だって初めて聞かされて、翔太兄に服を掴まれて『夏希をお前なんかに渡さねぇ!』なんて言われて、ちょっとした不注意が祟って今は全国に顔が知られた犯罪者? ……健二さん、怒る時は怒った方がいいよ」

 誰に、とは言わない。

 恥じ入る顔と憮然とした顔があったが、どちらが誰を指しているかなどは明白だった。

「……えと、つまり東大生ってのも嘘なのね?」

 由美が最後の確認を取る。

「………………はい。私がおばあちゃんを喜ばせようと後輩の健二くんに婚約者役を頼みました」

 羞恥に頬どころか顔全体を紅くした夏希がそう事の真相を告げる。

 それを聞いて、翔太の顔が安堵で緩む。他の者はどこか詰まらなそうな顔をしている者がほとんどだった。

 翔太の顔を見て、健二は思う。

 ――ああ、この人は本当に夏希先輩が好きなんだな、と。

 誰に憚る事無くそんな気持ちを吐き出している翔太を健二は羨ましく思った。……実際は隠し通そうとしていたが、家族や親戚のほぼ全員にバレていただけなのだが。気付いていないのは当人である夏希ただ一人だけだったりする。

「……あら?」

 それに気付いたのは万理子だった。

 テレビには由美の長男である了平が甲子園出場をかけた準決勝に対する意気込みを語っていたのだが、そこには臨時ニュースが流れていた。

 日本どころか世界の至る箇所で水道管が破裂したり、誤情報のせいで医療関係者たちがフル稼働しなければならなくなったり、道路情報が滅茶苦茶になっている等と大小様々な混乱が起きていたのだ。

 それに気付いた他の家族も、夫や仲間に連絡を取り始める。現在の状況を知る必要があったからだ。

 残っていたのは、どこにも連絡をする必要が無い栄と真緒たちチビッ子三人組と、夏希と翔太が残った。

『あー……成程ね。おい健二、健二!』

 端末からではなく、侘助のノートPCの画面から敬が呼んでいる。

「佐久間、何か判った?」

『ああ。あのAI、管理塔の中のデータを滅茶苦茶に引っ掻き回してやがる。お陰で『OZ』に関連してある施設は大打撃。休日返上でほとんどの職員が出て事態の鎮圧に乗り出してるけど、状況が掴めなくて浮き足立ってるみたいだ。つまりほとんど焼け石に水ってコト。まぁ、コレが今の現状だな』

 どうやら各地で被害が出始めているようだった。

『これを含めたAIの情報を『OZ』や警察に送りたいんだけど……今のままじゃ無理だ』

 そう言われて、健二は愕然とする。

「ど、どうして?」

 夏希が訊く。

「『OZ』の運営側が健二さんが犯人じゃないって言わないと、容疑者として逮捕される可能性があるから、でしょ?」

『その通り。だけど、それにはこの混乱がある程度収まらないといけない』

 そう言って、『OZ』の混乱に拍車がかかっていくのをただ見ているしかないかと思われたその時。

 今まで黙っていた栄が口を開く。

「つまり、この騒ぎが静まれば健二さんの容疑は晴れるって事かい、侘助?」

「ああ、それでいいぜ」

「そうかい。なら――」

 そこまで言って踵を返す。

 自室に戻ると彼女は、様々な手帳を引っ張り出し電話をかけ始めた。

 まずは孫たちに。

『はい、こちら――』

「頼彦! くじけないで一軒でもお年寄りの家を訪問するんだ。いいね!?」

『え? ばあちゃん!? なんで専用電話にかけてんの!?』

 それには応えずに再度念を押して栄は次に次男の邦彦に連絡を取る。

「邦彦!」

『ばあちゃん!?』

「へこたれるんじゃないよ、意地を見せな」

 次に、三男の克彦。

「いいかい克彦、これは戦だよ。アタシもなんとかしてみるからアンタも頑張んな」

『なんとかって……』

 そして次は友人知人に連絡を取る。

「お久し振りねぇ勘ちゃん。同じ武田家家臣団のよしみで聞くけどね、国土交通省はどんな手を打ってるんだい?」

「曽根やん、引退した人でも構わないで沢山の医療関係者に呼びかけて消防庁に協力して欲しいんだよ」

「飯富さん、大事なのは昔みたいに人と人とが声を掛け合ってコミュニケーションを取る事でしょう?」

「千さん、アンタの決断にかかってるんだ」

「新田さん、先生はよして下さい。ただの年寄りのお願いです」

「昔の事を蒸し返しなさんな。アンタをぶん殴ったのは半世紀も昔じゃないか」

「柳ちゃん、そう不安そうな声を出しなさんな。上のアンタがそんなんで一体誰が纏めるんだい?」

「よっちゃん、それでいいからやっておくれよ。何もしないってのが、今回は一番駄目だからね」

 次々と電話しては、浮き足立って言った組織のトップたちの頭を冷やしていく栄。

「小幡くん、こんな時に警察が率先して動かなきゃ無駄飯食らいって叩かれても文句言えないよ」

「おい、今の小幡って警視総監……」

 翔太が呆気に取られた声を出す。他にも有名政治家や大企業の社長など様々な人たちに連絡をいれていく栄。それは全て、彼女の教え子たちや友人たちであり、長い月日をかけて育んだ絆の成せる業だった。

「渾身戦えば悔い無し! ここで頑張らないでいつ頑張る!?」

「これはアンタだから頼んでるんだ」

「お前さんにしか出来ない事だろう?」

 そして、誰にも最後にこう言って締め括る。



「諦めなさんな。諦めない事が肝心だよ」




「アンタなら出来るよ」



 そして、健二もまたその言葉に胸を打たれた。

 すぐに納戸へと戻る。

 侘助のノートPCで通話状態のまま待っててくれた相棒に話しかける。

「佐久間、管理塔に入れないっていったよね。どういう事?」

 そう訊かれると、敬はあるパスワードの入力画面を出した。

『なんか適当な数字入れてみろ。そしたら暗号が出る。――任せた』

 確かに敬が言った通りに、昨夜自分が解いたのと同じ二千五十六桁の数字が現れた。

「任せてよ」

 相棒にそう応え、健二はメモ用紙を取り出すと“スイッチ”を入れる。

 カリカリカリカリ――とシャープペンが紙面を走る。

 何枚も何枚も書いては次の紙面に走らせる。

 大丈夫。そう、大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせる。

 好きな夏希がいるのだ。兄貴分の侘助だっている。自分より年下の子だって見てる。

 下手な姿は見せられない。

 そして――

『諦めなさんな』

『アンタなら出来るよ』

 脳裏には先程聞いた栄の声が響く。

 そうだ。

 諦めてはいけない。

 それに先程自分は『ラブマシーン』に言ったではないか。

 『次は敗けない』と。

 ならば、その言葉を嘘にしてはいけない。

「――――よし」

 解けた。

 慎重に文字を入力していく。

 解読したパスワードを入力すると――管理塔へのゲートが開いた。

『よっしゃあ! ……ってあら?』

 敬が何かに気付いてくつくつと笑う。

『健二、朗報だぜ』

「コイツが犯人じゃないって証拠か?」

 侘助にそう訊かれ頷く。

『はい。健二、世界であの問題を解いたのは五十人近くいる。んで、そこにお前の名前はやっぱり無かった』

「……やっぱり?」

『お前の答えと解答を照らし合わせてみたら理由が判ったぜ。――最後の文字が間違ってた。タイプミスだなこりゃ』

 ご丁寧に間違っている部分を点滅させるという芸の細かさで間違いを指摘する敬。

「うわあ……」

「健二、お前ってヤツは……」

 恥ずかしい。こればっかりは恥ずかしい。

 何故なら、これと同じような失敗をしたせいで数学オリンピックの日本代表に選ばれなかったのだ。

 その時と同じような間違いをしていた事を知った健二は頭を抱えてしまう。侘助も落選した理由を知っていたので苦笑いを浮かべてる。

 しかしそんな阿呆には目もくれず敬は話を続けた。

『しかしこれでお前への嫌疑は晴れたワケだ。すぐにコレを警察と『OZ』に送っとくよ』

「うん、ありがとう佐久間」

『いいって事よ。んじゃ、何かあったらまた連絡しろよ』

 そう言い残して、敬は通話を切った。

 それを見越していたかのように、健二が借りていた端末が鳴る。

「はい、もしも――」

『健二!?』

 父だった。恐らく敬から聞いていたのだろう。

「あ、父さん」

『ちょ、おま、なんでそんな慌ててねぇ…………ゴホン。――んで、何があった?』

 自分の息子を信じている父は、慌てる自分を抑えて事の顛末を訊く事にした。

 だから健二はきちんと応える。 

 父親の心配を完全に払拭してやるために。













 圧巻だった。

 ただそれだけを二人は感じた。

 一方は、一年前から知っている男の子が本気を出す姿に見惚れていた。

 一方は、今日初めて逢った年上の少年の凄さに肌を奮わせた。

 それは、戦う男の顔だった。

 剣や拳ではなく、ペンと紙束を武器に戦う姿。

 それは自分たちの周りにはいない男の姿だった。



 だからだろうか。こんなにも自分の胸が熱くなるのは。



 彼女『たち』は、改めて『小磯 健二』という少年に眼を向けようと思った。

 その理由は違えども、その根底にある感情は同じだと気付かずに。






(あとがき)

な、難産でした。

とりあえず、『キング』の性別を決めました。

判る人には判ります……よね?






[20064] 05 急転 ~彼が願った事~
Name: SRW◆173aeed8 ID:6727ef40
Date: 2011/01/22 23:16
「……ふぅ」

 脱力したのか、そのまま仰向けに倒れる健二。

 父親の後は、母親までもが息子の安否を気遣って連絡してきたからだ。

 いくら両親が離婚していても、健二との交流は頻繁に取っていた母。

 離婚の理由も健二は知っていた。

 お互いに同時期に仕事が忙しくなって、すれ違いが続いて――それが爆発したせいで離婚したらしい。

 しかし、お互いに相手を離婚しても想っていたというのは両親との会話お節々から感じていた。

 それとなく『父さんと逢うんだって?』と確認すると、慌てた様子で言い訳を聞かされた息子は事実だと確信する。

 恐らく、電話の向こうの母の顔は真っ赤だっただろう。

「健二さん、あのさ……」

 赤いタンクトップに短パンの少女が話し掛けてくる。

 周囲に散らばった紙を拾いながら、問う。

「何者なの?」

「偉く唐突だね」

 苦笑してしまう。

「ただの高校二年生――じゃ、納得しないよね?」

 当たり前だとばかりに頷かれる。

「うーん……人より数学やプログラミングが得意な高校生、かな? 得意なのは数学」

「ふーん。どれくらい得意なの?」

「そう、だなぁ……」

 どう言おうか迷っていると、頭上でしゃがみ込んで自分の顔を覗き込んだ夏希が言った。

「え? 佐久間くんがさっき言ってたよね? 数学オリンピックの日本代表に選ばれたんじゃなかったっけ?」

 かなり近い距離にある夏希の顔に混乱しそうになるが、“スイッチ”を入れたせいで脳が上手く回らないからか健二は普通に返した。

「……に、なりそこねた人間です。まぁ、代表メンバーは初戦敗退したらしいんで、僕もそこまで凄くはありませんよ」

 そう言う健二だが、オリンピックと名の付く大会のしかも日本代表を選ぶ選ぶ最終選考にまで残ったという事は、その分野にかけては上から数えた方が早い人間なのだと二人は理解した。

 更に侘助が補足する。

「同年代って括りで言えば、ソイツは天才の部類に入るぜ。数学のな。誤字とか無けりゃ、とっくに代表に選ばれてたのになぁ?」

「あ、あははは……」

 侘助にそう言われて苦笑するしかない健二。

 この兄貴分に健二は、誤字のせいで代表の座を掴み損ねたと敬が教えた時、散々からかわれたのだ。

 どうやらまだまだイジる気らしい。

「……ふふっ」

 そんな二人を見て、『カズ』と呼ばれた浅黒い肌の少女が小さく笑う。

「――ああ、そうだ。そう言えばキミの名前、聞いてなかったね?」

 その少女に顔を向けてそう言う健二。

 彼としては特別な意味は無かったのだろう。

 だが、それでも『彼女』は嬉しかった。

「池沢、佳主美(かずみ)」

 女である事がちょっと嫌で、男として振る舞っていた。

 外で名乗れば『佳主美ちゃん』と呼ばれるので、それさえも嫌だったのだが――目の前の彼は違った。

「えっと、佳主美ちゃ――どう呼ぼうかな?」

 アバターが男性型、一人称が『僕』、服装や髪型も男の子が着ていてもおかしくない格好。

 そんな彼女に呼び方を確認する健二。『ちゃん』という呼び方は嫌かもしれないと空気を読んだ。

 気遣ってくれるのは嬉しいが、佳主美は少々不機嫌になっている自分を感じて戸惑う。

「――呼び捨てで」

 自分の事を『ちゃん』付けされるのは基本的に嫌なのだ。

 だが、女扱いされるのも何か違う。

 だから、呼び捨てというのが一番良いと思った。

「えっと――佳主美?」

 そう呼ばれて、少女の頬が少し朱に染まる。

 存外、衝撃が強過ぎた。だが、悪い気はしない。

「うーん……女の子を呼び捨てにした事は今までないからなぁ。ちょっと違和感が……」

「なら、どう呼ぶの?」

「うーん……」

 つい、と視線を唸っている健二から外すと、不機嫌な夏希が視界に入る。

 これまで生きてきて一度も働かなかった『女の勘』とやらが最大級の警報を鳴らす。

 理屈ではない。

 ただ、お互いに判った。

 相手は『敵』なのだと。

 そんな夏希と佳主美の放つ異様な空気を受けて半歩下がる翔太と、面白そうな顔をする侘助。

 だが健二は、そんな事に気付きもしなかった。

「カズ君、いや、カズちゃん? いやいや、むしろそれなら佳主美ちゃんでいいしなぁ。でも女の子扱いは嫌がりそうだし……こうなったらカズとでも呼ぶ――ってどこのサッカー選手だって言われそうだし――」

 どう佳主美を呼んでいいのかで悩んでいたからだ。

「よし、なら佳主美くんで」

 そして、最終的にそう呼ぶ事を健二は決めた。

 それを聞いてちょっと不機嫌になる佳主美。

 だがそれも、健二の苦笑混じりの言葉で霧散してしまう。

「女の子にくん付けなんて今までした事なかったけど、キミにはその呼び方が合ってるしね」

 自分に合った呼び方をしてくれる。

 ある意味これはとても嬉しい。

 言い換えれば、これは自分だけの『特別な呼び方』となのだ。

 確かに従姉の夏希の呼び方も『特別』ではあるだろう。

 だが、それが気にならないくらい嬉しかったのだ。

 だから、少し頬が熱くなってしまうのは仕方がないのだ。

「あ、ありがと……」

 精一杯気持ちを込めてそう言う。

「え? あ、いや――どういたしまして?」

 頬を染める佳主美、困惑する健二、そして――笑顔で背後に般若を背負う夏希を見比べて、侘助は面白い見世物が始まった事を知って更にニヤニヤしていた。

「……どうなってんだ?」

 ただ一人、なんだか異様な空気を感じながらもそれが何なのかを理解出来ない翔太はそう言う。

 誰も知らないが、この時に奇しくも健二と翔太は同じ気持ちを抱いていた。

 それこそ、何がどうなっているのか全く判らないが故の戸惑い。

 その空気は、連絡が一段落着いた万助たちがやって来てやっと有耶無耶になった。

 そして――話はその日の夜に急変する。












「ふんふん……」

 所変わってここは久遠寺高校物理部部室。

 学校に許可を得て、敬は部室で寝泊まりしているのだ。

 既に空は薄暗い。

 ほとんどの生徒が帰宅している中、たった一人で敬は『OZ』の関係者等と『ラブマシーン』への対応を話し合っていた。

 しかし、上位権限者たちも既に半数以上がアカウントを奪われているらしく、対応は絶望的に遅れそうだ。

 しかし敬は諦めずに様々な海外にある情報交換掲示板を覗いていく。

 とある人物にメールを送って、返信が来るまでの時間潰しのつもりだったが、集中して読み進める。更に事態が大事になっていたからだ。

 海外でもアカウントを強奪された人間は数多くいた。

 既にかの『ラブマシーン』に挑んでアカウントを強奪された者は億を越えても勢いを落とさずに増え続けている。

 既に判っている被害者だけでも二億人を突破している事が判明した。

 有名な大学で教鞭を取っている教授でさえも歯が立たずに完敗している。

 名の知れた格闘派、知能派のアバターたちは上位の人間から次々に奪われているのだ。

 だが、それだけではない。

 『ラブマシーン』は、現実でも要職に就いている人間のアバターのアカウントでさえも無作為に強奪している。

 このままでは、アメリカ大統領のアカウントですら強奪されかねない。

 かの人物のアカウントには、核ミサイルの発射への最終認証システムが組み込まれていると噂になってるのだ。

 様々な職種のアカウントを所持している現在の『ラブマシーン』ならば、様々な手順をすっ飛ばして大統領のアカウントのみで核ミサイル打ち上げを強行する事など造作もないだろう。

 だが、そうだというのにアメリカの軍部が然程混乱していない。敬はそう感じた。

 いや、大多数の軍部の人間が混乱しているが、慌てていない高官がいるらしいのだ。

「まさか――」

 嫌な予感が敬の頭を走る。

 そんな映画のような話なんてあるワケが無い。

 だが、あの国にはそういった陰謀が得意な機関があった筈だ。

 映画や漫画でも『かの組織』の暗躍はよく登場しているが、実際は違うだろう。

 いや、しかし、事実は小説よりも奇なりとはよく聞く話だし、親友兼相棒である健二が全国に指名手配された事だって映画みたいな話だ。

 そう思ったが、敬は冷や汗が背中に流れるのを無視した。

 あるワケが無い。

「……いやいや、無い無い」

 この事態を引き起こしたのが米軍だなんて――

 その瞬間、師匠繋がりで交流のある黒人の友人からメールが届く。

 読み進めていく内に、自分の懸念が真実味を帯びてきた。

 掛けていた眼鏡がズリ落ちているのを直しながら、嘆息する。

「……うわぁ……ビンゴかよ。悪い予感は当たるなよなぁ」

 差し出し人は、ダグラス・サンダーソン。

 侘助の同僚で、友人である。

 侘助を説得する為にバラ撒かれた金に手を着けなかったが故に、研究所の人間でも守秘義務に囚われずに全てを話せる人間なのだ。

 それ故に監視されているが、隙を見て情報を敬に渡してくれた。

 その資料は様々で、音声データから、書類のコピー、更には『ラブマシーンの行動予測』と銘打たれたレポート等々。

 それら全てには、『ある事実』が書かれていた。

 政府関係者が、侘助に『ラブマシーン』の作成を周囲に圧力を掛けて作らざるを得ない状況に追い込んだという事実が。

 そして、それの追伸には『JINが動けばこっちも動く』とあった。

 それに感謝の返信を入れながら、敬は不審に思う。

 確かに普段は飄々とした男だが、彼が筋を通す男だという事を自分は知っている。

 このメールや資料が事実なら、日本に帰ってきたのは理由がある筈だ。

 一瞬、逃亡目的かとも思ったが、それは余りにも彼のイメージに反していた。

 むしろ、身内に被害がいかないようにする為に帰ってきたという方が説得力がある。

「……そういや師匠、今実家なんだよな。――――って、まさかっ!?」

 慌てて健二に連絡を取る。

 相手の顔が見える『OZ』経由の通話で、だ。

 繋がる。

 画面には、少々引きつった顔をした親友。

『……なに、佐久間』

 緊張で小声になってる親友に違和感を感じながらも、敬は叫ぶ。

「おい! そこに師匠はいるか!?」

『いるよ。いるけど――今は話すのは無理、かな』

「はぁ!? なんだよそれ!?」

 混乱している敬に健二は説明する。

『ええっと、まずは……そう、侘助さんが――』

「師匠が『ラブマシーン』の開発責任者だってのはダグラスのオッサンが教えてくれた! そんでオッサン言ってたぞ。もし反対してたら、政府に罪状を偽造されて捕まってた可能性があるって!!」

 その叫びに、健二は驚く。

 それどころか、夏希が画面を覗き込んで確認している。

『佐久間くんっ、それ本当!?』

 その剣幕に気圧されながらも、敬は『侘助の事情』について憶測も交えてだが、話し出そうとするが――

『いい。喋るな敬……!』

 厳しい声で侘助が遮った。

 いつもならば、ここで敬は引き下がる。

 だが、今回ばかりは違った。

 敬は激昂し反論する。

「ンな事言ってる場合じゃ無いだろ!? もしこのままいったら師匠、どうなるかなんて余裕で想像がついてるんでしょうが!? 俺は嫌だからな、師匠が全部の罪を被って捕まるなんて!!」

 そう言ってやる。

 空気を読んだ健二がカメラを侘助のいる方向に向けてくれたので、彼がどんな状況なのか理解出来た。

 栄が薙刀の刀身を侘助の首筋に添えていたからだ。

「……っ!?」

 これには敬も驚いた。

『……確か、敬さんだったかい? 詳しい話をお願い出来ないかね?』

 添えられていた薙刀を外さず、栄がこちらを見ながらそう言った。

 勿論願ってもない事だ。

「――はいっ」

 そして――敬は話し出す。

 侘助が何故『ラブマシーン』などという人工知能を作り、それが何故『OZ』を騒がせているのかという理由を。





(あとがき)

今回は短いです。
ちょっと物足りないかもしれませんが……


次回は、侘助と栄おばあちゃんをメインに書く予定です。
勿論主人公である健二くんもこの二人に絡ませます。
と言うか、絡ませないとそのままお別れになってしまいますんで。




[20064] 06 和解 ~そして彼は往く~
Name: SRW◆173aeed8 ID:993140f7
Date: 2011/01/22 23:17
 事態は急変する。

 頼彦たちがやってきて、今日の騒動を労う宴会の最中の事だった。

 佳主美が説明した『ラブマシーン』というAIを造ったのは、なんと侘助だというではないか。

 これには侘助と仲の良い健二も驚愕を隠そうともしなかった。

 淡々とそのAIのスペックを解説する。

 彼曰く、『試作AIに知識欲を組み込んだ』そうではないか。

 そして、それを造っている事を政府に知られ、高額で買われたと言う。

『今日どれだけの人が被害にあった? どれだけ人様に迷惑をかけた!?』

 人を救う仕事を生業にしている頼彦たちはそれを聞いて激昂。

 だが、それを受けても侘助は動じない。

 その掴み合いの様相を呈してきた口喧嘩を尻目に、佳主美は健二を盗み見る。

 そこには、不可解という顔をする少年がいた。

 それを見て、どうかしたのか問い掛けようとした瞬間――



『逃げてっ!!』



 突然、夏希の悲鳴が耳に入る。

 視線を戻せば、無表情に侘助の首筋に薙刀を突き付けた栄がいたのだ。その眼だけが苛烈だった。

 だが、侘助はそれを凪いだ視線で見下ろす。

『……侘助』

 静かな声。

 だがそこに込められた迫力に背筋が震えてしまう。

『何を隠しているんだい?』

『…………別に、何も』

『嘘吐くんじゃないよ』

『……嘘じゃねぇよ』

 そんな押し問答を繰り返し、空気が更に張り詰める。

 既に真緒たちは訳も判らずに泣きそうになっていた。

 その時だった。

 健二が現在使っている携帯が鳴り出したのだ。

 どうやら『OZ』を経由してのテレビ電話で、佐久間敬と名乗った健二の友達だった。

 彼は慌てた様子で健二に話し掛ける。

 そして、彼は侘助の事情を話そうとするが、それを本人に止められた。

 だが、今回は佐久間という少年に軍配は上がった。

 栄がそれを促したからだ。














 そして――彼は全て話した。

 何故侘助は凍結させていた『試作AI』の開発を再開したのか。

 何故そうしなければならなかったのか。

 何故――今更帰って来たのか。

 それらを憶測も交えながら説明される度に、彼の顔は不機嫌になってゆく。

 それこそ図星だからだろう。

 人の機微にはまだ疎い中学生の佳主美にだってそれは判った。

『それもこれも全部、栄おばあさんの為だったんですよね、師匠?』

「――ったく。ああ、そうだよ。もう殆ど俺が『アレ』を創るのは確定時事項みたいなモンだった。だったら縁を切られる前に、せめて金だけでもばあちゃんに返そうかと思ったんだよ」

 それが悪いのか、とばかりに言われて、気炎を上げていた頼彦たちも口を閉ざした。

 勿論万助たちも何も言えない。

 彼は十年前に渡米する際、栄より数億の金を持たされていた。

 それを侘助に与えたと知った当時の万助たちは良い顔をしていなかったが。

「まぁ――ちょっとばかし契約違反されてっけどな」

 そう言って、苦々しげに吐き捨てる侘助。

「『ああ、やっぱり』」

 そう言いながら納得の顔をする健二と敬。

『だよなぁ。師匠って、自分が造ったモノへの強制介入コードかリミッターを着けてないんだからおかしいと思ったんだよ』

「うん。いつもならもう少し性能を落として安全性や確実性を上げるよね」

『そうそう。大体このAI、カタログスペックより高性能だしな。ってコトは……』

「……安全装置、全部外されてる?」

 弟子と弟分の頼もしさに眼を細める侘助。

 こんなに優秀な奴らが育っているのだ。

 それを成す要因の一つが自分だと考えると少し嬉しくなる。

「そうみたいだぜ。さっき強制介入コード打ち込んでも、効かなかったしな。多分、奪ったアバターのプログラムを使って防御してんだろうよ。――お陰でこっちの言う事も聞きゃしねぇ」

 最後は嘆くようにそう言った。

『『『…………』』』

 重たい空気が流れる中、そこでやっと薙刀を下ろした栄が言う。

「侘助――――風呂、入ってきな」

「は?」

「今日は、一緒に寝ようじゃないさ」

 そう言って、栄は笑うのだった。

 前歯の無い、だが見た者をほっとさせるような暖かな笑顔。

 それには流石の侘助も逆らえず、渋々と従うのだった。













 それから、宴会はなし崩しに終了してしまった。

 健二が渡り廊下を歩いていると、曲がり角で誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。

 栄だ。

 慌てて駆け寄って身体を支える。

「――いやぁ、悪いねぇ。長物ちょっと振り回しただけですぐガタがきちゃってさ。本当、歳は取りたくないねぇ」

「――いえ」

 肩を支えながら栄の部屋に連れていく健二。

 栄が座った事を確認して、片付けの手伝いに戻ろうとすると――彼女に呼び止められた。

 対面に座らせられ、あれよあれよという間に花札をする事になったのだ。

「健二さん、アンタに花札を仕込んだのは侘助かい?」

「ええ、この前初めて勝ちました。今日すぐにまた負けちゃいましたけどね。――こいこいです」

「ほほぉ、やるねぇ。あの子に勝てたのかい? 夏希たちはアタシと侘助には勝てた試しは無いんだけどねぇ」

「まぁ、『OZ』のカジノステージっていうネットでの対戦でしたから。リアルで対戦したのは数えて数回ですけど、全敗してます」

「成程ねぇ。健二さんはあの小僧と同じでそっち関係(パソコン)には強いのかい?」

「小僧って……父さんですか? ……どうでしょう? 僕は父さんみたいに海外で活躍しているシステムエンジニアじゃないですから」

「なぁに、今日の混乱を止めたのはお前さんだって話じゃないか。もっと自信を持ちなさいな。アンタは出来る子なんだから」

「……はい。ちょっと自信はありませんけど、頑張ります」

「うん、良い返事だ。ウチの孫娘たちの事だけど、宜しく頼むよ。許婚の代役を頼む馬鹿な子やちょっと人と話すのが苦手な子だけど、根は良い娘なんだ。アンタみたいに芯の強くて優しい男の子が近くにいれば、きっと二人にとって良い変化があるだろうからね」

「えっと……そう、なんでしょうか?」

「なんなら、どっちか気に入った方を嫁にしたらいい。それとも……大昔の武将宜しく両方を娶るかい?」

「ええっ!? か、からかわないで下さいよ――って、あ」

「はい、これでアタシの勝ち」

 彼女の役は『五光』。

 健二を見据えて、彼女はまた笑う。

 そして、それが健二が彼女と過ごした最期の時間となった。


















「侘助」

「なんだ、ばあちゃん」

 天井を見上げ、二つ並んで敷かれた布団。

 その中で決して眼を見合わせない母と子。

「……どうするつもりだい?」

「……その事なんだけどさ、明日になったら俺、ちょっと昔通ってた大学まで行って来るわ」

 何をしに行くのかは言わない。

 言わなくても栄にはしっかりと伝わっているからだ。

「……ケリを着けられそうかい?」

「どうかな。こっちの命令を受け付けないから……かなり強引な手段を取る事になると思う。最悪、アイツを解体じゃなくて消去しないと、な……」

 そう言う侘助の横顔はどこか寂しそうだった。

「アタシにはその違いが判らないけど……この騒動の発端を開いたのがあちらの国だとしても、手段を与えたのはお前だ。ケジメだけはしっかりと取れば、いつ帰ってきてもいいんだよ」

「…………そういうワケにもいかねぇだろ。俺ぁばあちゃんから億って金を借りてんだぞ。それを返すまではおいそれと帰ってこれるかよ」

「……相変わらず頑固だねぇ。本当、死んだ爺さんにそっくりだ」

「うっせぇ」

 ぶっきらぼうな侘助の態度に栄は面白そうに笑う。

「……お金の事は気にしなくていいさ。どうせ爺さんが蓄えてた泡銭なんだ。無くなった所で、助けてくれる人がいなくなったワケじゃないのさ。気にし過ぎだよ」

 そう言われ、驚いた顔で栄を見る。

「……いいのか」

「いいさ。それにアタシも年だ。あと十年も待ってられないからね? すぐ帰ってくるんだよ」

 そう言って、暖かな手が侘助の頭を撫でる。

 それに泣きそうな顔をするものの、されるがままだった。

 図星だった事も原因だ。

 彼は、栄が寝静まった頃に翔太から借りた車を飛ばして近くの大学まで行くつもりだった。

 近くでは使えるスパコンがあるのは大学だけにしか無いらしいのだ。

 だから彼は深夜に車を飛ばすつもりだった。

 しかし今はお祭り一色の町内だ。

 観光客で車の渋滞が予想される。

 今から出ても夕方か夜くらいにしかならない。

 だがそれでも、侘助は行く。

「…………おう。すぐ帰ってくるよ」

 そして、侘助は部屋を出て行く。

 振り返りはしない。

 そんな様子もまた栄に死んだ夫を思わせる態度だとは知らずに。

「……まったく。これでやっと肩の荷が下りた」

 彼が行ってしまったのを確認してそう呟く栄。

 そこには、寂しさと嬉しさが混ざった複雑な笑顔があった。

 そして思い返す。

 思えば、生まれからして不幸な子だった。

 夫とは交流は無く、生母との過ごした時間は短く、そして良いものでは無かった。

 引き取られた先にいたには、年老いた義理の母となった自分と余りに歳の離れた腹違いの兄弟たちや同年代の甥や姪。

 家庭環境が健全だったとは間違ってもいえないが、それでも良い子に育ってくれたと彼女は確信した。

 捻くれていて口も悪く協調性も欠ける――それでも優しい子。

 安堵したせいか、酷く眠くなる栄。

 ほとんど落ちた目蓋の裏側に、先に逝った夫の姿が見えた。

 隣にはあの子の母親が。

「……なんだい、古女房見限って若い子と向こうにいるのかと思ったら、待っててくれたのかい? はいはい、アタシだってお爺さんには言いたい事が沢山あるんですからね。アンタにだって言いたい事はあるんだよ。自分の子にあんな名前をつけて……」

 そう言いながら、彼女は眠った。

 その顔はとても満足そうな顔だった。














 そしてその日の深夜、彼女のアカウントは奪われた。

 奪った存在の名は『ラブマシーン』。

 彼女のアカウントに登録されていたものは二つ。

 友人たちや家族に連絡を最短で取れる事と、彼女の身体の異変を担当医に送信する事。

 何故強奪されたのか。

 それは、彼女のアカウントが発端となって事態の収拾が始まったからだ。

 二度と自分の行動を妨げさせない。

 そう考えた『ラブマシーン』が奪ったのだ。

 しかし、この判断は間違いだった。

 彼女のアカウントを奪ったせいで――『ラブマシーン』は敗北する事になる。













 そして話は翌日の朝へと進む。

 その日、健二はこの家で飼われているハヤテという犬の鳴き声で眼を覚ました。

 夢で栄が薙刀を振り上げて『ラブマシーン』と対峙しているというなんとも不安に駆られるモノを見たせいか、すぐに飛び起きた。

 不安が彼の中を渦巻いている。

 そして、それは現実となった。

 



(あとがき)

ここからようやくラストに向かっていきますが……これですれ違いは解消出来たと言えるのでしょうか。

少々不安ですが、ここの栄おばあちゃんは満足して逝けたのではないかと思っています。

そう書けているでしょうか……?

不安です。





[20064] 07 決意 ~涙が流れる五時二十一分~
Name: SRW◆173aeed8 ID:993140f7
Date: 2011/01/23 00:01

 陣内栄。

 各界の著名人を友人に持ち、教育者として多種多様な人物を世に送り出した女性。

 女傑、才女、烈婦、そして優しい人などと友人知人教え子問わずに評された。

 そんな彼女は生前紫綬褒章すら貰っていたらしく、その人脈や影響力の高さが伺える。

 私個人としては、『家族や友人知人を大事にする優しくも怖いおばあちゃん』となるのだが。

 後日、私が父にそれとなく彼女の噂を訊ねれば、電話一本かけるだけで政財界が動くという噂があったと教えてくれた。どうやらその噂は限りなく真実だったらしいが。

 実際に彼女が電話を掛けた直後から、あの戦争初日の混乱は鎮静化していった。

 しかし、皮肉なことにそれこそが彼女の命を奪う要因になるとは――ついぞ私たちは誰も気付けなかった。

 あのAIの産みの親である彼でさえも。










 『ラブマシーン』という当時世界中を混乱の渦に叩き込んだAIと彼女が対峙するという奇妙な夢を見た瞬間、私は布団を撥ね飛ばして飛び起きた。

 嫌な胸騒ぎを感じていると、侘助さんから借りていた端末が眼に入る。

 まだ普段ならば寝ている時刻だ。

 ふと、外に眼を向ける。私が泊まっていた部屋は縁側に面しており、よく聴こえた。

 当時、陣内の屋敷で飼われていた老犬ハヤテが屋敷に向かって吠えていたのだ。

 それに混じって誰かが叫んでいるのが聴こえた。

 それは、『おばあちゃん』と呼んでいるようだった。どこか焦ったような声色で、ともすれば泣きそうな声。

 嫌な予感が更に強くなった。

 侘助さんに借りた端末と自分の携帯を引っ掴んで声のする方に駆け出す私。

 そこには――『栄おばあちゃん』に心臓マッサージをしている頼彦さんたちの姿があった。

 今マッサージをしているのは克彦さんのようだ。

 口々に彼女を呼ぶ。

 ふと横を見る。

 呆然とした翔太さんがいた。

「代われ克」

 兄にそう言われても、それにすら無視して彼は手を動かしていく。

 聞こえていなかったのだろうか? いや、聞こえていたのだろう。

 彼は代わる時間さえも惜しんだのではないだろうか。

「――もういい」

 万作さんがそう力無く呟く。

「駄目よ、続けて!!」

 誰かがそう叫んだ。

「……無駄だ」

「続けてぇっ!!」

 そんな冷静で残酷な言葉を掻き消すかのように夏希先輩が叫んだ。

 しかし――

「……皆、揃ってるな」

 その言葉が、全員の耳に響く。

 万作さんがゆっくりと自分の腕時計に目を落とす。

「五時二十一分」

 八十九年と三百六十四日。午前五時二十一分。

 陣内栄という女性が誕生して、そして永遠に眠った時間である。












「狭心症でな」

 死んでしまった彼女の周りで泣き崩れる女性陣から離れ、縁側に腰を下ろして万作さんは言った。

「ニトロ処方してた」

 携帯には彼女のバイタルデータに異常があればすぐに連絡が入るのだが、その情報が昨晩から送られていなかったらしい。

 私は『OZ』の奪われたアカウントの中にシステムの管理者の物もあったから、情報が送られて来なかったのだと推測した。

 それを聞いて兄の万助さんが問う。

 いつも通りなら助かったのか、と。

 しかしそれにも万作さんは首を横に振る事で応えた。

「いや、元々調子は良くなかったんだ。……寿命だろうなぁ」

 遣る瀬無い思いを紫煙に乗せて、彼は遠くを見た。

 万作さんは医者だ。

 恐らく最もこの家族の中で長く深く様々な人の死に触れている。

 だからこそ、比較的冷静に受け止められたのだろう。

 だが、それを認められない人物もまた、存在した。

 万助さんは周囲の人間に侘助さんの所在を聞く。

 一発殴るつもりだったと彼は後に語っていた。

 しかし、既に彼はここから少し離れた場所にある有名大学の研究施設で使われているスパコンを使用して『ラブマシーン』を解体しようと翔太さんの車を借りてこの家を出ていた。

 だが理由を知らない皆は彼が『おばあちゃんに怒鳴られて出て行ったのだろう』と思った。

 しかし私は彼らの知らない侘助さんを知っていたので、そうは思わなかったのだ。

 彼に借りていた端末を使用して連絡を取ればそれはすぐに判った。

 数回のコール音の後に通話は繋がる。

「侘助さん? 今ドコに――え? なんでそんな事――ケリを着けるって……?」

 彼は『自分がこれからさっさとケリを着けて来るから、ばあちゃんには心配するなと伝えてくれ』と言ってすぐに通話を切った。

 運転中であったのだから、それは正しい。

 正しいのだが……今回はそれが裏目になった。

 元々運転中の携帯やPCの操作は交通違反だ。

 しかも現在の道路では祭の準備で警官も多数いた。

 そんな中、それらを運転席で操作するのは捕まえてくれと言っているようなものだろう。しかも後で知った事だが渋滞に巻き込まれていたらしい。

 彼が持っているのはPCだ。

 いくら膝に乗せても窓から見えないが、それでも視線は下を向いてしまう。

 それでは何かをやっている事など簡単に判ってしまう。

 だから私は言われた事をそのまま伝えようと振り返ったのだが――見てしまった。

『…………』

『…………』

『…………』

 無言。

 誰も彼もが屍のように様々に座り込んでいたからだ。

 泣く人。

 沈み込む人。

 受け入れようとする人。

 そして――何かを決意した顔の少女。

 そんな中、縁側で呆然としている人がいた。

 夏希先輩である。

「……先輩」

 その隣に座る。

 別に何かしたい訳ではなかった。

 ただ、あの時は『そうするべき』だと思ったのだ。

「…………握って」

 どこをとは聞かない。

「こぼれちゃう」

 ただ優しく、脇に置かれてあるその右手の小指に触れる。

 すると、彼女の眼から大粒の涙が零れ落ちた。

「……先輩、聞いて下さい」

 嗚咽する彼女に言い聞かせるように、言う。

「栄おばあちゃん、優しかったですね」

「…………うん」

 指が絡む。

「格好良い人でしたね」

「…………うん」

 ぎゅっと少し力を込める。

「お誕生日、お祝いしたかったですね」

「…………うん…………っ!!」

 そして、彼女は泣いた。

 誰に憚る事無く大声で。

 泣きじゃくる彼女を抱き締める事が出来れば良かったのだが、生憎と純情だった当時の私には無理な話だった。

 だから私はただ黙って、覚悟を決めた。

 大切だと思っている人が泣いている。

 それで充分だ。

 ヘタレていても、情けなくても、体力が無くても、それでも私は男なのだ。

 侘助さんは既に動いている。

 だが、大学のスパコンを使用するにしてもまだ時間が掛かるだろう。

 その間、他にこういった事態が起きないと誰が言えるだろうか。

 そして、彼はその事を知らない。知らせる必要があった。

 だがそれをするのは自分ではない。

 夏希先輩を始めとした『家族』がするべきだ。












 そして、先輩を連れて居間へやって来た私は聞いた。

 万作さんが『敵討ち』を訴え、女性陣は現実的なアレコレを見据えて冷ややかに反応していたのだ。

 理一さんや太助さんは黙ったままで、翔太さんは呆然としたままだ。

 佳主美くんは……手元のPCを見ている。

 ゆっくりと息を吸い、宣言する。



「僕も賛成です。『ラブマシーン』を、叩きましょう」











(あとがき)

短いですが、やっと形に出来ました。





[20064] 08 準備 ~そして彼は途方に暮れる~
Name: SRW◆173aeed8 ID:4c398320
Date: 2011/07/03 22:15
「ラブマシーンを叩きましょう」


 かつての内気だった自分としては精一杯の言葉。

 しかしそれは真理子さんたちを動かす一言にはなりはしなかった。

 彼女たちにとって、所詮私はどこまでいっても部外者でしかないかったのだ。

 直美さんからは面と向かって言われもした。

「はいはい、部外者は黙っててね」と。

 しかしそれも当然だろう。

 現実問題として栄おばあちゃんの通夜や葬儀で彼女たちは対応に追われるのだ。

 この現代において敵討ちなど、所詮は絵空事(テレビの向こう側の出来事)でしかない。

 それに動かされたのは、陣内家男性陣だった。

 万助さんは言うまでもなく。

 理一さんは静かに。

 太助さんは少々感心しながら。

 そして、佳主美くんは、ノートPCの画面を眺めながら。

 しかし、そう思っていたのは彼らだけで、万作さんや頼彦さんたちは迷うだけだった。

 翔太さんに至っては、私の言葉が耳に届いてすらいなかった。栄おばあちゃんが死んでしまったショックで呆然自失といった様子だった。

 万作さんや頼彦さんたちも葬儀の為に動くように家長となった真理子さんに言われ、後ろ髪を引かれる思いのようだったが出て行った。

 だが、それでも。

 私たちは止まらなかった。

 誰もが栄おばあちゃんの葬儀の為に動き出す中、動かない人間は四人。――いや、五人。

 呆然としたままの翔太さんもその場にいたのだ。

 夏希先輩はと言えば、残りたかったようだが真理子さんに呼ばれて出ていった。

 しばらくして、太助さんは私を称賛した。

「いやぁ、よく言ったね健二くん」

「……いえ、なんだかすいません。出過ぎた真似をしたみたいで」

「いやいや、ウチは女傑が多いのが特徴でねぇ。ああも真正面からあの人たちに意見が言えるんだ。……栄おばあちゃんの眼は正しかったってことかな?」

「それにきみの意見は正しい。人を守ってこそ己を守れる」

 理一さんが静かにそう言った。

「それ、自衛隊のモットーってやつ?」

「いや、七人の侍の言葉」

「いやぁ、そりゃ母ちゃんの口癖……いや、親父のだったかな?」

「はは、さすが武士の末裔」

 そして、話は『ラブマシーン』をどうするか、という話に変わっていく。

 既に端末を通じて、父と佐久間、そしてダグラスさんを呼び出す。

 既にメールで栄おばあちゃんが死んだ事は説明してあるし、これからどうするのかも教えている。

 三人とも『ラブマシーン』を叩くのに同意してくれた。

『さて、そんじゃあ……どうすっかね?』

 通話画面の向こうにいる父がそう零した。

 それを皮切りに様々な事を話し合った。

 その全ては、『リベンジ』の為に。

 そんな時、

「太助おじさん」

 佳主美くんが口を開いた。

「なんだい?」

「これより高性能なPCある?」

 後で知った話だが、太助さんの電気店は市内で大学にスパコンを卸しているらしい。

「勿論。それと確か大学に納入予定のスパコンがあるよ」

 その発言に佐久間と父が引き攣った顔をした。

 売り物だろうに一切の躊躇い無く使用する太助さんに若干引いていたようだ。

 ダグラスさんに至っては面白そうに口笛を吹いた。

「なら、ブラウン管モニターは?」

「いいのがあるよ」

 二人がそう話をしていると万助さんが、

「あん? スパコン――だったか? それ、ウチの電気で賄えんのか?」

 そう、スパコンは電気を酷く消費するのだ。

 これは余談になるが、二千十一年当時でもで最新最高性能のスパコンは三日分の電気代が一千万を超えたらしい。

「うーん、厳しいですねぇ」

 太助さんがそう言って唸る。

「……よっしゃ、そんじゃオレがなんとかしてやる」

 万助さんはそう言ってくれたので、電気はこれでなんとかなった。自身があるようなので誰も異論は無かった。

 次に問題となったのは回線だ。

 市販の回線では『ラブマシーン』の処理速度には届かないだろうというのが、我々が出した結論だった。

「……そういえば、松本の駐屯地にアレがあったよな? ……回線は任せてくれ。多分何とか出来そうだ」

 理一さんがそう言ってくれたので、回線の問題もクリア出来た。

 次は、

『ヤツを閉じ込める“檻”だな』

 そう、佐久間の言う通り、まずはあのAIを閉じ込めなくては被害は広がる一方だ。

 いくら復旧が進んでいるとはいえメインサーバーは使えない。

 だからこそ、スパコンが必要だった。

 好き勝手に弄る事が出来る檻が。

「……それで、どこに設置します?」

『なぁ、ケン』

「はい?」

 ダグラスさんが呼びかける。

 ちなみにケンというのは私のニックネームだ。

 佐久間はタカシと呼ばれている。

『『OZ』の管理塔とかどうよ?』

『おいおい、サンダーソンさんよ、そいつは……お誂え向きか』

 その提案に父が苦言を述べようとして、その案に納得した。

 既にメインサーバーにある管理塔の中には世界各国のGPS情報とそれを管理するプログラムだけしか残っていない。

 様々なサーバーにバックアップを幾つも取った状態で、分散させてある。

 管理塔にそれらが全て戻るのは、この件が全て終わってからだろう。

 まぁ、管理塔に残っているそれだけでも世界を混乱させるには充分なのだが。

『となると、檻の作製に、干渉遮断プログラムに、行動阻害のプログラムか』

『確か『OZ』のアバターにある放水プログラムって、多少だがアバターに干渉が出来たよな?』

『それだ』

 ダグラスさんの発言に父が案を思いついたようだ。

『知り合いにその手のプログラム、アバターに搭載してる連中がいたら片っ端から連絡しろ。阻害するプログラムは俺がやっとく』

 そう言い残して、父はログアウトした。

 父にとって、栄おばあちゃんは恩人だ。

 その恩人の命を奪った『AI』との合戦なのだ。

 万が一にも失敗は許されなかった。

 そう、後に父は私に語ってくれた。

『となると……おいタカシ、お前が檻を作れ』

『俺がっスか?』

 ダグラスさんにそう言われて佐久間は戸惑う。

『全部お前独りでやれって言ってるんじゃねぇよ。伝手とか使って、お前主導で動けって事だ。俺らが主導で動いたら、政府はジンに全部の責任を被せるかもしれねぇからな』

 そう。

 既にダグラスさんの所属する研究所では、過半数の人間が侘助さんに、『ラブマシーン』を造るように、詰め寄っていた。

 つまり、政府の息のかかった人間ばかえりなのだ。

 そんな研究所の人間が主導で動けば、どう転んでも詫助さんに余計な罪状が付くのは眼に見えていた。

 だから、『佐久間という彼の弟子が主導で動き、友の身の潔白と師匠の間違いを正す』といった筋書きを作るのだ。

 その為に沢山の人間を巻き込め――とダグラスさんは言った。

『まぁ、大河ドラマとかでも、合戦にやるには大人数だしなぁ。それに、作戦は戦国時代の焼き増しだし……よし、一丁やってみますか』

 それぞれが、走り出した。












「なぁ、なにしてんだよ」

 そんな時だ。

 私が『OZ』で『ラブマシーン』の現在の状況を調べている時に、翔太さんが話しかけてきたのだ。

 半ば呆然としたままの表情。

 だが、しかしその眼には『怒り』があった。

「なぁ、なんでばあちゃん死んだのに、お前、なにやってんだよ」

 彼は聞いていたが、聞いていなかったのだ。

 だが、ようやく栄おばあちゃんが死んだ事に自分を無理矢理に納得させている内に、気付けば誰も彼もが動き始めていた。

 祖母や叔母たちは葬式の準備。

 叔父たちは、葬儀の為に外回りをしている。

 小さい従兄弟たちは、まだよく判っていないので無邪気そうにしていても――腹立たしいが、そこはしょうがない。

 だが、祖父(万助さん)が、父(太助さん)が、従妹(佳主美くん)が、叔父(理一さん)が、そして見ず知らずの恋敵(私が)、まるで関係の無い事をしているようで、許せなかったのだろう。

「何やってんだって訊いてんだよ!?」

 胸倉を掴まれ、そう怒鳴られる。

「……『ラブマシーン』を、叩きます」

「ああ!? テメェ……ウチはなぁ、ばあちゃんが死んでんだぞ。それなのに、葬儀放り出しておいて、AI風情とケンカするってか!! 冗談じゃねぇ!!」

 そして、思いっきり突き飛ばされる。

 個人的には殴られると思ったが。

「やっぱテメェ部外者だ。とっとと荷物纏めて、東京帰れよ」

 そう言われたが、

「帰れません」

 私はそれを拒否した。

「――あぁ?」

 ドスの利いた声で凄まれても、私は動じなかった。

 そんなもの、侘助さんが本気で怒った顔や、生前の栄おばあちゃんの威圧感に比べれば、どうという程のものではなかった。……それでも怖かったのは事実だが。

「もう、引けません。それに――僕のアカウントを取り返してもいなければ、おばあちゃんの敵討ちだってしていません」

「だからテメェは部外者――」

「部外者はどっちですか!!」

 思わず私はそう叫んでいた。

「何もしようとせず、ただ自分だけが悲しいみたいな顔で蹲っていた貴方に、僕が、僕だけじゃない皆の気持ちが判りますか!? 悲しむ事しかしようとしなかった貴方と違って、やらなきゃいけない事を、しなきゃいけない事を皆さん頑張ってるんですよ!!」

 そう言われて、翔太さんは鼻白んだ。

「独りで悲しんでばかりいる人に、僕たちがどんな気持ちで動いているかなんて、判りっこない。そして、独りで悲しんでばかりいる人の気持ちだって、僕は判りたくも無い」

 そう吐き捨てて、私は縁側へと歩いていく。

 珍しく激昂した自分に、少々ではない驚きを感じながら。

 そして、

「……判ってんだよ。ンな事ぁよ」

 ポツリと、翔太さんがそんな事を言ったのが微かに聴こえた。

「ばあちゃん、俺、どうすりゃいんだろうなぁ……」

 その声は震えていた。













 そして、準備が整った。

 太助さんが自身の電気店から大学に納入予定のスパコンを。

 万助さんが新潟にある自分の漁船にある水冷式の発電機(三百キロワット)を。

 理一さんが松本にある駐屯地からミリ波通信用のアンテナモジュールを。

 佳主美くんが、それらによって最高に強化された『キング・カズマ』を。

 佐久間を始めとした有志一同が造り上げた最高の闘技場を。

 頭部にあったゴーグルを外し、金髪の髪を靡かせた『キング・カズマ』は短い文を発する。





「果たし状」

「本日正午(日本時間)OZ格闘技場にて待つ。 キング・カズマ」












 『それ』は不服だった。

 混乱を呼び込めば強者が現れると思っていたのに、ある時を境に向かってくる者がめっきり減っていくのだ。

 これでは命題を果たせない。

 ならばもっと大きな混乱を引き起こすべきか。

 そう思っている時、『それ』は気付いた。

 最も手強かった――仕留め切れなかった獲物。

 ソレが再戦を求めているのだ。

 ソレの隣には、自分に最初に殴りかかってきた黄色い狸の姿もあった。

 ――面白い。

 シシシ、と。

 生みの親と同じ笑い声を上げて、ゆっくりとそちらを向く。

 約束の時間までもう直ぐだ。

 ならば急がなくては。

 『それ』は嗤う。

 そして、ロケットのように飛んでいく。

 獲物を今度こそ仕留める為に。






「さぁ――リベンジだよ」

 少女の声。

「しまっていこう」







 丁度その時、ここに来る予定であった陣内了平さんが率いる野球部の甲子園決勝戦も始まっていた。

 そして決着もまた、彼らと同じだった。

 



(あとがき)

おひさしぶりです。



[20064] 09 決闘 ~しかし役者は揃わない~
Name: SRW◆173aeed8 ID:4c398320
Date: 2011/07/10 22:59
『キング・カズマ』

 陣内佳主美が操作するアバター。

 年々増加する格闘系アバター、その頂点に君臨する人型の兎。

 赤いジャケット、青のジーンズ、頭部のゴーグル、籠手のような指貫きグローブというシンプルな外見でありながら多種多様などのアバターと闘っても必ず勝利してきた風格がそれには備わっていた。

 その戦闘方法は、純粋な体術のみ。

 剣も、弓も、槍も、果ては重火器で武装する『OZマーシャル』内において、素手で掴み取った王者の栄光。

 それ故に、『キング・カズマ』は『OZ』という世界において熱狂的な人気を誇った。

 しかし、その栄光に泥を点けた者がいる。

 しかもそいつは『AI』だそうではないか。

 人間の操るアバターが、キングが、たかがAIに敗けた。

 故に何も知らない者たちは、そのAIを倒せば己が最強になる――そう思い、『ラブマシーン』に挑んでいった。

 結果は言うまでもない。

 現在の『OZマーシャル』内で最強と呼ばれたアバターが、為す術無く倒された、その異常性にやっと気付いた頃にはランキング上位のアバターは軒並み『ラブマシーン』の糧となった。

 こうなってはどうしようもない。

 中堅では歯が立たず、新参や下位の者は論外である。

 故に、誰もが諦めようとしていた。

 そんな中、一度敗けたキングの再戦要求。

 アカウントを持ち、しかし『ラブマシーン』に立ち向かわない彼らは、それを見た。

 嘲笑、侮蔑、揶揄、激励、興味……そして敗けたキングへの前と変わらぬ大多数からの応援の声。

 『敗けるな』『二度も負けんなよ』『まだキングとか名乗ってんのか?』『無理だろ』『さて、どうなるか』『かってください』『AI風情に負けっぱなしで終わんな』『そんなアバターで大丈夫か?』

 それらを見て、しかし佳主美は思う。

 声を掛けられるということは、気にかけて貰っているという事だ。

 それがくすぐったかった。









 佳主美は、元々は弱気で内気な少女だった。

 しかしそのせいで、同じクラスの悪ガキに苛められてしまう。

 一時は不登校になりかけた佳主美に、祖父である万助が少林寺拳法と太極拳を教え込んだのだ。

 拳法とは心身を鍛練するものである。

 身体と心を鍛え、磨く。

 それによって自信を得た佳主美は、自力で苛めていた悪ガキたちを撃退した。

 そのせいで男女と揶揄されるもその声は小さく、クラスメートの称賛の声に掻き消されてしまう。

 そして、イメージトレーニングの一環として取り組み始めた『OZマーシャル』において、彼女は自分の才能を知った。

 先を読み、効果的な攻撃を当てる。

 単純で尚且つ最も難しい事を比較的容易にやってのけたのだ。

 『OZ』内での格闘、その驚異的なセンスと人型の兎――俊敏性は高いがその他のパラメータが低い――は驚くほどに噛み合った。

 そして、キングを名乗ってから初めての敗北。

 しかも相手は『AI』。

 人が――いや、侘助が造った0と1で出来た怪物。

 佳主美は思う。

『やっぱり実感が湧かないなぁ。妹が出来るなんて』

『そうそう捨てたモンじゃねぇぞ、兄弟ってのはな。まぁ、おやつは少なくなるしケンカもするし腹立たしい事はしょっちゅうだけどな、護るモンが増えれば人は強くなれるもんだ。コイツが、ウチの強さの秘訣だな』

 師匠である万助の言葉が脳裏を過る。

 『ラブマシーン』との決戦前に、祖父と鍛練しながら言われた言葉だ。

 護りたいもの。

 脳裏に映る、父、母、母のお腹にいる妹、従兄弟たち、夏希、万助――家族の顔、友達、お世話になった人、そして――初めて興味を持った歳上の少年――いや、一目惚れした健二の姿を最後に思い浮かべていると、誰かが叫んだ。

『来たぞ!!』

 まるでミサイルのように頭から突っ込んでくる『ラブマシーン』。

 既に正午の鐘(時報)は鳴っている。

 ならば、

「――ふっ」

 弾道を見切り、ヤツとの距離が縮まり接触する直前に、跳躍し――闘技場の地面に蹴り落とす。

 撒き起こる粉塵。

 それを掻き分けるように、ヤツが殴りかかってくる。

 拳を避け、蹴りをいなし、肘や膝を受け流す。

(――いける)

 前のように、向こうの動作についていけないワケではない。

 打ち込まれる左の崩拳を受け止め、払う。

 体制を崩したヤツの頭、腹、股間に一発ずつ蹴りを放つ。

 現実では決して出来ないであろう、空中での横回転しながらの三連撃。

 左側頭部を右で蹴り抜き、その反動を使って左で腹に突き刺すように叩き込み、そのまま再度右で――男子において最大の急所とされる金的を――蹴り抜いた。



『『『――――っ!?』』』



 彼女の戦闘を共に見ていた健二たちはその容赦の無い蹴りを見て、下腹部に言い様の無い鈍痛が走るのを感じた。

 如何に鍛えようとそこは絶対の急所。

 しかし電子体であるヤツにどれ程効果があるか。

 これが生身であったなら先の一撃は心を折るのに充分な一撃だったと言えるだろう。

 だが、相手はAI。

 蹴り抜かれた脚を掴み、ジャイアントスイングを片手でやってのける。

 充分に遠心力がついたと見た『ラブマシーン』は、その軌道を変え上段から格闘技場に叩きつけようした。

 だが、甘い。

 相手が凡百のそれならば良かった。

 だが、相手は『OZ』において最強のアバター。

 上段に振り上げられた瞬間、無事な左脚で自分の脚を掴んでいるヤツの手を狙う。

 着弾。

 その衝撃で脚を手離したヤツの右側頭部に右脚が叩き込まれ、地面を削るように吹っ飛んでいく。

 そこで更に追撃が入る。

 地を滑るように低空を高速で飛来し――その速度のまま顔面に蹴りを叩き込む。

 立ち上がろうとした『ラブマシーン』は、再度吹き飛ぶ事となった。

 圧倒的。

 正にその言葉そのものの光景がそこにはあった。

 キングは、たった一度の敗北で地に落ちるような存在ではないのだと、見ている者全てが納得できる光景だった。

 構えを解かず『掛かってこい』と両手で手招きする。

 しかしそれを見て、ヤツは上空へと逃げる。

 だが、佳主美は思う。



 そう、それでいい。



 ヤツはこちらが見立てた通りに行動している。

 地上戦において完膚なきまでに叩きのめせば、次は空中戦に移るのは容易に想像出来た。



 後はこのまま、『指定されたポイント』までヤツを誘導すれば――



 しかしヤツは立ち止まり近くにあった巨大な文房具や車などをこちらに投げつけてきた。ある程度の質量を設定されてあるそれらは、容赦なく『キング・カズマ』に襲い掛かってくる。

 だがキングはそれらを危うげも無く避け、打ち落とし、踏み落とす。

 飛んできた車を踏みつけ、反動で更に上へ飛び上がる。



 ヤツは、どこに――――いた。



 そう思った瞬間、真横から衝撃が来た。

 不意を突かれた。

 だが、それはヤツがいる方向ではない。

「――――っ!?」

 『OZ』内のビルをヘシ折ってそれを横から叩きつけたのは一体誰だ?

 視線の先には、別のアバター。

 見覚えがあった。

『アレ、『ラブマシーン』に奪われたアバターだっ!!』

 ランキング上位の常連。

 佳主美とも何度か闘った事がある。

「後ろ!!」

 健二の声で気付いた。

 自分たちの進行方向に、同じようにビルを構えた別のアバターがいる事に。

 こちらもランキング上位者で、ヤツに奪われたアバターだった。

 轟音。

 ビル二つによるサンドイッチ。

 身動きの取れない『キング・カズマ』に悠然と近寄る敵。

 二体のアバターは光の球体となって、『ラブマシーン』の背中にある円に吸い込まれた。

 よく見ればそこには今まで奪われたアバターのデフォルメされたアイコンがある。

 その中には健二のそれもあった。

 手に持った柄の長い金剛杵を振りかぶる。

 しかし、それが降り下ろされる事は無かった。

「――――――――ぃぃぃぃいいいいいいいいいいやぁああああああああああああああああああああああっ!!」

 頭巾を被った烏賊のアバターが、『ラブマシーン』を吹き飛ばしたのだ。

 反転し、人型になったアバターは、その手に持った二本の刀でヤツの持つ金剛杵と鍔迫り合った。

「師匠!?」

「カズ、今のうちに脱出せいっ!!」

 手にしたDSを操作しながら、そう叫ぶ。

 しかし、すぐに弾かれる。

 それでも、万助は食らいついた。

「貴様との決着はワシらが着ける! それが、母ちゃんとワシら家族のケジメだ!!」

 再度鍔迫り合いに持ち込むも、また弾かれた。

 だが、再度万助は立ち向かう。

 二刀を縦横無尽に振るい、しかし――落とされる。

「師匠!?」

「構うな!! ヤツを例の場所へ誘い込め――」

 そして、攻守が逆転する。

 飛ぶ。

 飛ぶ。

 飛ぶ。

 そして、指定されてあった場所に到着する。

 そこには、周囲の外観とは似合わない――和風の城があった。

 これこそこの作戦の要。



 かつて二千という大軍を率いて敵対した徳川秀忠を敗走に追い込んだ、武田家臣上田一門の戦術。



 その開かれた城門に、『キング・カズマ』は飛び込んだ。

 それを追い、門の内側に入る『ラブマシーン』。

 その作戦を知る誰もが思った。



 かかった――と。



 門を潜り、奥深くまで『キング・カズマ』を追い込んだヤツだが――その横を獲物が通り過ぎたのに動きを止めた。










 横を抜けていった獲物を追おうとして――ソレは気付いた。

 そこには無数の光源――外への扉があったのに、それが一斉に消えていくではないか。

 そして、唯一残った光源へと向かう獲物。



 嵌められた。



 それを肯定するかのように、鎖が自分の身体に巻き付いていく。

 だが、それを巻き付かせたまま、最後の光源へ向かう獲物の脚を掴む。

『っ!?』

 驚いている獲物。

 だが、それは――自分が脚を掴んだからではない。



『おい、仏像ヤロー、どのツラ下げてウチの身内に手を出してんだよ?』 



 獲物の目の前にサングラスをかけ、警棒を持った猿(頭にバイクのサドルのような二本の角と頭頂部に桜の紋様の入ったライト付き)がいたからだ。

『翔太兄ぃ!?』

『さっさとその手を離せやコラァっ!!』

 そして、無防備な己の顔面に警棒が叩き込まれる。

 そこらで配信されてある十把一絡げの格闘モーションデータ。

 だが、確かにその攻撃は『ラブマシーン(自分)』に届いていた。

 しかし、連打されようとも、ソレは獲物を離さない。

 逆にその警棒を受け止め、握り締めてやった。

『クッソがぁ――――なぁんつってなぁ!!』

 悪態を吐く――かと思えば、猿が勝ち誇った声を上げる。

 その理由を、ソレはすぐに理解した。



 その言葉と同時に大量の水が自分に浴びせられた。



 その容赦の無い放水のせいで獲物を掴んでいた両手が若干緩んだ。

『『今だっ!!』』

 その声と共に、頭上から斧が振り下ろされる。

 いつの間にか接近していたオレンジ色の犬のアバター。

 咄嗟に避けると、その隙に獲物二匹の腕とその犬の身体に包帯が巻き――光源の向こうへと引っ張られていった。

 光源の向こうには、包帯を巻き戻す小さな犬のアバターと消防用ホースを構えた犬のアバターがいた。

『おじさんたち!?』

『子供ばっかりに手間はかけさせねぇって!!』

『こちとらゲーム歴は三十年なんだよ!! 舐めんなAI!!』

『最近ロクにやっちゃあいなかったが、腕は錆付いてなかったみたいだぜ!!』

 そして、最後の扉も閉まってゆく。

『あばよ、クソAI……!!』

 最後にそう猿が言って、扉は閉められた。










 それを観ていたアバターたちから歓声が上がる。

 そして、城の周囲の外観が変わってゆく。

 普段の『OZ』のそれでは無く、和風の城の群れへと。

『皆さん、お願いします!!』

 そう黄色い狸――のようなリス(健二)が叫んだ。



『『『任せろっ!!』』』



 彼らは知人から出回ってきた『放水』機能を持ったアバターへの協力要請のメールを見て、今回の合戦に参加してくれた人々だった。

 人種国籍性別年齢を問わず、ただその機能を有したアバターたちが一斉にその城へ取り付く。

 用意されていた注水装置へ放水機能を持ったアバターを接続させる。

 そして、その城の内部を大量の水が圧迫してゆく。

 AIに水攻めは効かない。

 だが、行動を阻害する事は出来る。

 しかも健二の父を始めとしたプログラマーたちが組んだ行動阻害の鎖付きなのだ。

 故に、誰もが思った。



 やったか――と。



 だが、古来よりそういった言葉は逆の展開を引き起こすトリガーとなってしまうものだ。

 万全の備え。

 人事を尽くし、天命を力任せに引き寄せた。



 だが、しかし――届かない。



 史実のようなミスは無い。

 スパコンの冷却は完璧だった。

 スパコンを冷却する為の氷を動かす人間はおらず、それどころか史実においては『ラブマシーン』の檻を破る直接的な要因となった金髪警官の、

『そんな装備(氷)で大丈夫か?』

 という発言により急遽店へ蜻蛉返りした父(太助)がスポットクーラーを四台持ってやって来た事で、熱暴走の心配は無くなった。

 では何が原因だったのか?

 それは、ただ純粋に――



 万全の備えとして用意されたそれらが、『ラブマシーン』の性能より劣っていたからに他ならない。



 そして、破滅はすぐにやってきた。

 気付いたのは、檻の内部をスキャニングしていた佐久間だった。

『……ん? って、『ラブマシーン』のサイズがデカくなってる!!』

 次に、健二の父が。

『おいおいおいおい!? 俺らが作った鎖を引き千切りやがっただとぉ!? しかも力業かよ!?』

 最後に――その場にいた全員が。



 檻を破り、現れた巨大な黒い巨人を見上げた。



 人事を尽くしたと思っていた彼らだが、実はまだ足りなかった。

 そう、生みの親である『彼』の助力も必要だったのだ。



 だからこそ――第二ラウンドが始まる。






(あとがき)

あと一、二話。もしくは三話程度で終わります。

……ここまでくるのに一年かかったなぁ。





[20064] 10 敗北 ~黒い巨人は兎を喰らう~
Name: SRW◆173aeed8 ID:4c398320
Date: 2011/10/09 23:35
 ソレは歓喜した。

 強い。

 強い獲物だった。

 足りないモノを、他の獲物の助力を得て、そして自分に向かってきた。

 既に『この個体』では、勝てない事は明白。

 それ故に、『AI』であるが故に、ソレは一切の逡巡をせず――己が得た全てを吐き出した。

 固体そのものの頑強さは先程の固体よりも劣るが、群体となってしまえば、その中に在る己へと到達する確率は極めて低い。

 そして――ソレは知った。知ってしまった。

 数の暴力というものを。

 その強さを。

 その有用性を。

 その――恐ろしさを。

 組み込まれた好奇心。

 本来ならばそれだけの感情しか持たないAI。

 だが、愚かにもその身に仕掛けられた枷の全てを解き放った事で、ソレは曖昧ながらも『自我』と呼べるモノを構築した。してしまった。

 たった一つ。

 好奇心という感情から、喜悦や悲哀、恐怖を知ってしまった。

 学習能力の高さが裏目に出た結果と言えるだろう。

 故に、ソレは思考した。

 この身に課せられた命題は『混乱させ、それを鎮圧しようとする優秀な固体を取り込み――進化しろ』というもの。

 この命題を阻むモノは、須らくが障害。

 それら全ては、己が先へと進化するが為の糧。

 故に、ソレは手を伸ばす。

 逃れられぬ敗北を獲物に刻み込む為に。
















 それは檻を破り、姿を現した。

 真っ黒な魔神。

 そう呼んでも過言ではない威容を誇る。

 管理塔すら飲み込んで現れたソレは――まさに巨人と呼ぶに相応しい外観だった。

『おいおい、あのヤロウ今まで取り込んだアバターを全部出してやがるぞ!?』

 健二の父が叫ぶ。

『判った! あれは群体なんだ!! 独りじゃ勝てないから、数を揃えたんだよ!!』

 佐久間の発言にダグラスは呆れと恐怖が綯い交ぜになった顔をする。

『判ってる被害件数だけでも四億だぞ……!?』

『四億ぅ!?』

 それに翔太が驚きの声を上げる。

『じゃあ、アレが……『ラブマシーン』の、奥の手……――っ!?』

 そして、健二が気付いた。

 観られている。

『佳主美くん!!』

 ヤツは『キング・カズマ』を見詰めている。

 だが、『キング・カズマ』は、佳主美は――動けない。

 判るのだ。

 相手との戦力の絶望的な差が。

 それ故に、動けない。

 ゆっくりと――巨人がその「腕」を延ばす。

 誰もが反応しない。

 余りに馬鹿げた大きさに何が出来るかすら判らなくなっているのだ。

 そしてその「腕」は、『キング・カズマ』を掴み、投げた。

 高速で投げ出された兎のアバターは、天蓋部分――白い空をモチーフとした場所に――叩きつけられた。

 めり込み、動かなくなった王者。

 こうなっては、敗者への罵倒も何もあったものではない。

 誰もが思う。



『こんなモノ、相手に出来るワケがない』



 それを敏感に感じ取ったのか、巨人――管理塔のあった部分から――時報が鳴った。

 そして、本来ならば時刻を知らせるワールドクロックには、徐々に減ってゆく数字が表示される。

 言い様の無い不安が掻き立てられる一同。



「なんの…………カウントダウン…………なんだ?」



 何かが起きている。

 無言となる広間において健二の声だけが響く。

 そして、映し出される――世界各国の原子力発電所。

 不安が、恐怖へと変わる。
 


「……大変だ」



 それを裏付けるかのように、理一が緊張した声で言った。

「今、米軍の秘匿回線でアラームが上がってる」

 外回りに出ていた万作たちも帰ってきたが、それに気付かず彼は言う。

「日本の小惑星探査機「あらわし」が、制御不能のまま地上へ落下中……」

 一瞬の静寂。



『『『――はぁっ!?』』』



「「あらわし」はGPS誘導で任意の場所に落下できる性能がある。もしヤツがGPS制御を司るアカウントを奪っていたとしたら……!」

「「あらわし」をあのヤローが操ってるってのかよ!?」

「そ、それじゃ……このカウントダウンは……」

 翔太の発言に、その場にいた全員が理解する。

 健二が恐る恐る問いかける言葉に、理一は多少言い難そうにしながらも、言った。

「世界五百箇所以上ある核施設のどこかに、「あらわし」が墜落するまでの時間……!!」



 それは、世界の危機だった。



「秒速七キロで落下する再突入体は、直径一メートル程度だろうと弾道ミサイルと同じモノと考えていい。仮にそれがどこかの原子炉を突き破れば、広範囲に撒き散らされるだろう核物質による被害は見当もつかない。過去にあった原発事故、それの最も甚大な被害をもたらした事例すら、恐らくは比較には出来ない混乱が起きる」



 淡々と紡がれる崩壊への仮説。



「米軍内の、事情を知ってる連中すら混乱しているようだ。……実証実験のつもりが、こんな世界崩壊の序曲を引き起こすなんて考えもしなかったんだろう」

 理一は思う。

 国防を担うべき軍人が、引き起こして良い事件じゃない。

 これは既にテロだ。

「…………恨むぞ、米軍……!!」

 自衛官としての矜持――民間人の安全――を傷付けられた男は、誰ともなしにそう言った。










 その頃、陣内了平もまた、苦境に立たされていた。

 序盤優勢だったにも関わらず、結果は延長。

 昨日の延長十五回を一人で投げ切った疲労すら抜けていない。

 そしてそれをテレビで見守る母・由美。

「おばあちゃん、了平を守って~!!」

 既に泣きそうである。










 その頃、夏希は万里子の手伝いをしていた。

 ふと気付く。

 本に一つ、いや二つ何かが挟まっているではないか。

 どちらも何の変哲も無い封筒。

 その一つに書かれてあるのは――

「あばあちゃん――」

 心が暖かくなる。

 まだちょっと悲しくて寂しいけど、それでも――

「ありがとう」

 だからこそ、最後の後押しになった。

 昨夜、自分と彼と健二の他愛の無い会話が思い出される。



『侘助さん、昔から暗証番号やロックナンバーをそんなに変えた事が無いんですよね? 何か意味があるんですか?』

『ケッ。お前には教えてやんねぇよ』

『じゃあ私にはー?』

『もっと嫌だ』

『んー……あれ? 確かそれって明日のひ――』

『だぁ! 馬鹿、言うんじゃねぇよ!!』

『ちょ、ヘッドロックは痛いですから!?』



 有耶無耶にされたが、夏希には確信があった。

 取り落とされた侘助の携帯。

 そのロックを解除するパスコード。

 それを――夏希は入力した。



「……おじさん、いまどこ?」



 最後の鍵が、集まろうとしていた。












 『OZ』は大混乱だった。

 世界崩壊。

 それがリアルな足音を立てて迫っているのだ。

 その不安を煽るかのように、様々な言葉が拡散される。

『ヤツにとっちゃコイツは所詮ゲームでしかねぇ』

 健二の父がそう分析すれば、ダグラスも頷く。

『ああ、混乱を引き起こして、それを解決する為に集まるモノ全てを根こそぎ奪うっていう、な』

『それが、効率の良い進化の方法だったから。……放って置けば混乱と進化の無限ループ、か。愉快犯ってのはだから性質が悪いんだよなぁ』

 佐久間がボヤく。

「それ、世界が滅茶苦茶になる……よね?」

 健二の発言に、電子に詳しい三人の焦燥に満ちた顔で頷く。

『健二、とにかく今は「あらわし」のGPS制御のアカウントを奪い返すしか道は無いぞ』

「父さん……」

『問題は、どうするか――だよな。この事態を引き起こした我が国の軍人様だが、もうどうしようもねぇぞ』

 ちなみにこの事態を引き起こした彼ら(軍人たち)だが、現在責任の擦り付け合いを見苦しくも続けていたりする。

『取られたアカウントは四億一千二百万と少し、か。全体の三十八パーセント……おい、どうすんだよコレ。タイムリミットだってあと二時間……』

 何も浮かばない中、時間だけが確実に過ぎていった。















 そんな時だった。

 万里子たちがやってきた。

「はいはい、皆片付けてご飯食べちゃって。お通夜とお葬式でここ使うのよ」

 そんな姉に万助が怒鳴る。

「馬鹿野郎!! 葬式どころじゃねぇ、世界の一大事だぞ!」

「我が家だって一大事ですっ!」

 言い返す万里子。

 そんな彼女に、万作が言う。

「今、寺に連絡した。葬式は後回しだ」

「万作まで……!?」

 常識人と思っていた弟の行動に、遂に張り詰めていた緊張の糸が切れた万里子は泣き出してしまう。

「わたしがどれだけ苦労してると……!!」

 そんな彼女にやってきた夏希が駆け寄る。

「万里子おばさん! みんな判ってるよ」

 家長として頑張っているのは皆知っていると、夏希は言う。

「ぜんぜん判ってないわよぉ」

 弱弱しく泣き出す彼女に、夏希は言う。

「聞いておばさん。これ以上侘助おじさんの機械が暴れたら、いちばん悲しい思いをするのは私たち家族だって、さっき健二くんが言ってくれたの。私、嬉しかったよ。今関わってくれてる人はみんな自分の家族を思って戦ってるんだよ」

 事を起こす前、健二は夏希にそう言っていた。

「でも、私はゲームなんて詳しくないし……」

 涙を拭きながらそう言う姉に、

「良いんだ、姉ちゃん」

 弟が言う。

「姉ちゃんが家の事をやってくれるから、俺ら男共が心置きなく戦えるんだ。それでいいじゃねぇか」

「ほんと勝手なんだから……」

 涙交じりにそう言う万里子。

 そんな彼女を支えながら理子と直美が訊く。

「それよりそっちはどうなってんの?」

「ちゃんと勝ってるんでしょうね?」

 そんな彼女たちに翔太が毒づく。

「……何も知らねぇってのは良いよなぁ」

「「……なんですって?」」

 半眼になった二人に、後ずさる翔太。

 どうにもこういった気の弱さは父の遺伝のようだ。

「……『ラブマシーン』は、「あらわし」を操って世界各地にあるどこかの原子力発電所に墜落させようとしています」

 健二の発言に、二人は驚愕する。

「はぁ? なにそれ!?」

「「あらわし」って最近しょっちゅう言ってるアレ!?」

 そんな彼女たちの声を聞いて、料理をしていた聖美たちもやってくる。……尚、由美は相変わらず息子の応援で忙しいようだが。

「もう「あらわし」の落下は始まってます。当初の予定の砂漠に落ちる事は限りなく有り得ません。確実にどこかに被害が出ます。――それも未曾有の被害が」

 健二の言葉に誰もが声を出せない。

「被害を最小限に抑えるには、GPS制御を『ラブマシーン』から奪い返して安全な場所へ落とさせるしかありません。それこそ、人のいない砂漠や海に」

「出来るの!?」

 そんな問いかけに佳主美が答える。

「ムリだよ……」

 立ち上がり、淡々とその絶望的な事実を告げる。

「四億を超えるアカウントからどうやって見つけるの? しかも二時間以内に……」

「でも、やるしかない」

 楽観的にも見える健二の台詞に彼女は涙を浮かべて反論する。

「だから無理だって!! それ以前に誰が戦うの!?」

 その時、『キング・カズマ』へ向けて文章が送られる。

『キング・カズマ ヤツを倒して!!』

『お前しかいない』

『世界を救ってくれ!!』

『頼む!!』

『キングっ』

 その言葉の重圧に泣きそうになる佳主美。

「無理だよ、だってボクはもう……」

 負けんたんだ。

 そう言いたかった。

 みんなだって観ただろう。

 そんな彼女に、声がかかる。

「……佳主美」

 はっとする。

 視線の先には、不安そうな母や叔母たちの姿があった。

「何が起きてるの? それ……ゲームの中の話でしょ?」

 半笑いだが、彼女も判っているのだ。

 そうでなければ不安そうにその出産間近の自分の腹に手を置く理由などない。

 だがそれでも、否定して欲しかったのだ。

 この不安と恐怖は気のせいなのだ、と。

「ね? そうでしょ?」

 母が、妹が、危険に曝されている。

 今、救えるのは、護れるのは、強い自分『キング・カズマ(佳主美)』だけ。

 そう思い、半泣きのままにキーボードを乱雑に叩きまくる。

「お、おい……!」

 背後から聞こえる雑音は無視。

「佳主美くん、何を……」

「黙ってて!!」

 健二の声を遮り、埋没している己のアバターを操作する。

 周囲の天蓋を砕き、突貫する。

 ボクがやらなきゃ――!!

 家族を護れない。

 その恐怖に突き動かされ――『キング・カズマ』は巨人に向かう。

 しかし、巨人はただ指を伸ばすだけ。

 その部分を構成するアバターたちが一斉に『キング・カズマ』に向けて襲い掛かってくる。

 十、百、千――文字通りの数の暴力。

 その前に為す術無く『キング・カズマ』はズタボロにされた。



 キーボードを叩く。「動け……っ」



 しかし、分身は応えてくれない。



 キーボードを叩く。「動け」



 力無く漂う兎に巨人がその口腔を開ける。



 キーボードを叩く。「うごけっ」



 徐々にアバターがその口へと流れていく。



 キーボードを叩く。「動け!」



 汗が流れようとも、涙で視界が滲もうとも。



 キーボードを叩いた。「動けぇ……っ!!」



 しかし結果は変わらない。

 『キング・カズマ』は破れ、喰われ、そのアバターは吸収された。



「ごめん、大おばあちゃん。母さんを、妹を、護れなかった……!! うぅ……」



 大粒の涙を流し佳主美は栄に詫びる。

 そんな彼女の頭を万助は優しく撫でた。











 勝った……!!

 ソレは充足感を感じていた。

 散々梃子摺らせた最高の獲物。

 それを喰らえたのだ。

 誇るようにソレは頭部に兎の長い耳を形作る。

 そしてそれは狂喜した。

 このプランは最高だ。

 どんどんと強く有能な餌が向こうからやってくる。

 ならば、更なる混乱を――!!

 だから気付かなかった。

 自分を追い詰める最後の鍵が、揃った事に。



















 田舎道を白い車が走っている。

 法廷速度を三十キロ以上も超えているが、走らせている本人からしてみればそんなことはどうでも良かった。

『おばあちゃんが死んじゃったの』

 脳裏にリフレインする姪の言葉。

『心臓が弱ってた』

 そんな事は知らなかった。

『『OZ』の混乱のせいで間に合わなかったって』

 それでは、殺したのは自分ではないか。

『今ね、健二くんたちが敵討ちしようとしてくれてるの』

 なのに自分は一体何をしている。

『でも、やっぱりそこにはおじさんもいなきゃ駄目だよ』

 深夜に人知れずに出て行って、もうすぐ昼だというのに何も出来ていない。

『それに、おばあちゃんが待ってるんだよ』

 帰らなければ。



 ばあちゃんが、待っている。















 敗北。

 沈んだ空気の中、嗚咽する女性陣を尻目に健二は言った。



「まだです」



 そんな彼に反発するかのように、佳主美は言う。

「負けたんだよ! これ以上何をするって――」

「カズ」

「――わぷっ!?」

 涙を流して激昂する従妹を翔太がタオルを投げつけて宥める。

「落ち着けよ。――んで、だ。小僧、もう一回言ってくれや?」

 睨む。

 これ以上は無駄だと、彼はそう思っていた。

「まだ、負けていません。まだ全部出し尽くしていない……!!」

 だが、その言葉と眼に在る意思の強さに逆に気圧される翔太。

「渾身戦えば悔い無し、か。……だが」

 万助はそう言いながら、脳裏に浮かんだある人物を思う。

「もうこうなったら『ラブマシーン』を造った侘助だけが頼りだ。……だが、」

 理一もまた、同い年の叔父を思った。

「帰ってくるの?」

「どこにいるのかも判らないのに」

 女性陣は不安を消せない。

 現実問題ここにいない人間を思ったところでどうにもならない。

 噂をすれば影が差すなど、所詮迷信でしかな――



「俺が、なんだって?」



 その言葉に全員が振り向いた。

 有り得ない、そう思いながら。




 そこには、息を切らしそれでも平静を装おうとしている侘助の姿があった。









(あとがき)

予定ではあと二話です。

本来の予定では夏の期間に終わらせようと思っていたんですが季節を跨いでしまいました。




次でようやく最後のゲーム――になると思います。








[20064] 11 勝利 ~絆とは人の力~
Name: SRW◆173aeed8 ID:7be48cfa
Date: 2011/11/02 09:25
 家族。

 それは一体何なのだろうか?

 私はこれまで生きてきた人生で、未だにその問いへの明確な答えが出せないでいる。

 私の父と母は、私の幼少期に別れ――しかしあの日を境に縁りを戻した。

 あの夏の日に出会った家族は、多少の諍いを抱えながらも支え合っていた。

 普通の家庭であれば有り得ない厄介な問題を抱えていながら、決して壊れなかったその絆の強さ。

 上手くいかない家庭など、生きていればそれなりに耳に入る。

 綺麗事では済ませられない事態がある事も理解していた。

 だが、どうしてだろう?

 私は、決して壊れない家族の絆を知っているのだ。

 だが、それは恐らく、言うのは容易く、実行し続けるには些か難しい代物だ。

 万人がそれを実行出来ないのは、判っている。

 しかし、それでも――人の縁という『繋がり』があれば、大抵の事はなんとかなる。そう思っているのだ。

 そう思う私は、傍から見ればただの楽観主義者か、何も考えていない大馬鹿者にしか見られないだろう。

 だが。

 だがしかし、私は見たのだ。

 絆という『人と人を繋ぐ眼に見えない代物』が、世界を救ったという事実を――。

 これより私が記すのは、その日世界を滅ぼそうとした『AI』と最後の戦い。その最終章。

 万全を期したつもりで――それを為しえておらず、結果的に相手を追い詰めて進化させてしまった私たち。

 だが、それでも見苦しくも足掻いた最後の物語。



 空気が変わったのは、我らが兄貴分が帰ってきて、家長となった万里子さんが読み上げた二通の『栄おばあちゃんからの遺言状』だった。










 ――まぁ、まずは落ち着きなさい。人間、落ち着きが肝心だよ。

 こんな文体で始まった遺言状には、財産を残してやれなかったがお世話になった皆さんがいるから手助けして貰いながら精一杯働きなさいという厳しいお言葉が綴られていた。

 最も、女傑と名高い陣内栄に育てられた人々なのだ。

 彼女の財産を当てにしている人は、その場にはいなかった。

 そして、その後に書かれてあったのは、侘助さんの事だった。

 十年前に出て行ったきり一切連絡も無いけど、帰ってきたら庭にある果物や野菜をお腹一杯に食べさせて欲しい、とあった。

 幼少期、初めて出会った血の繋がらない息子の耳が旦那に似ていた、と。「今日からウチの子になんるんだよ」と言うとただ黙ってきゅっと手を握り返してくれた、と。


 ――あの子をウチの子に出来る。そんな私の嬉しい気持ちが伝わったんだろうよ。


 その時の彼の顔を、私は生涯忘れない。

 そう、栄おばあちゃんは書いていた。

 ――家族同士手を離さぬように。人生に負けないように。もし苦しいときや辛いことがあっても、いつもと変わらず家族みんな揃ってご飯を食べること。一番いけないのはお腹がすいていることと、一人でいることだから――。

 ――私は、あんたたちがいたお陰で、大変幸せでした。ありがとう。じゃあね。

 恐らく、心臓が弱っていると息子である万作さんに聞いた時に書かれた遺言だったのだろう。

 そして、もう一つの便箋の封が切られる。

 封筒も中の手紙も、明らかに真新しい。 



 ――私は機械の事には詳しくないけれど、皆で力を合わせればきっと何とか出来るって信じてるよ。

 ――頑張りなさい。

 ――あんたたちなら出来るんだ。

 ――そう私に自慢させておくれ。



 恐らくあの夜に私と会った直後に書かれた物なのだろう。

 と言う事は、あの時点で死期を覚っていたのだろうか?

 そうとしか思えない文面だが、真相は既に判らない。

 在るのはここにいる者全てに向けた応援の言葉。

 そんな彼女の優しさに啜り泣く人々。

 端末の向こうにいる父も泣いていた。

 敬たちも少々鼻に来たらしい。

「ばあちゃん……っ」

 侘助さんは、全ての遺言を聞いて泣き崩れた。

 最早自分を取り繕う余裕は全く無いのだろう。

「さて、それじゃあみんな」

 そこで万里子さんは全員を見渡して――言った。

「ご飯にしましょ」

 そこには、栄おばあちゃんとは違うものの家長としての風格を備えた女性がいた。






 栄おばあちゃんが寝かされている部屋にやって来た侘助さんは、優しく彼女の手を握った。

 もう血が巡っていない、冷たい手を。

「ばあちゃん……ただいま」

 言うに言えなかった一言だった。

 二度と言えないと思っていたのに、自分は赦された。そう当時を振り返り、彼は述懐している。

 だから、この一件を片付けて身奇麗にしたら、きちんと真正面から『ただいま』と言うつもりだったそうだ。

 それが数時間で叶わぬ夢になるとは流石に思いもしなかったと言う顔にありありと後悔が透けて見えた。

 だが、気落ちしたままこの人が終わる訳が無い事も、私は知っていた。



「侘助さん」



 どこか肩の力が抜けた兄貴分の背中に声を掛ける。

「これからが正念場です」

 そう声を掛ける。

 彼の『家族』も黙って彼を見据えている。

「――おう」

 そう言う彼の眼には、静かな、だが強い光があったように私は感じたのだった。









 その頃。

『さあ、延長十五回松商学園を抑えた上田高校。ここから逆転なるか!?』

「いけぇ――っ、了平~!!」

「もう! 由美さんこっち!!」

「あぁん、今良い所なのにぃ~~!!」

 テレビに噛り付いて了平さんの応援をしている由美さんを奈々さんたちが引っ張って、食事が始まった。









「原発が狙われてる!?」

 いくらんでもこれは寝耳に水だったらしい由美さんは素っ頓狂な声を上げた。

「ちょ、それなのにご飯食べてていの?」

「遺言だからな」

 万作さんが今夜の通夜用に作ってあるおにぎりを齧りながら言う。

「敵は圧倒的なんでしょ? 勝てるの? ――って、そんな状況ならて、テレビも消さないと……」

「構わん。了平だってウチの家族だ」

 圧倒的。

 由美さんの言った言葉は間違いではない。

 だが、

「慶長二十年の大阪夏の陣じゃ徳川十五万の大軍勢に討って出たよ、ウチのご先祖は」

 そう理一さんが言うと、万助さんも言う。

「結果だけを見りゃ負け戦だが、こうしてワシらは産まれてる。そうそう悲観したもんじゃねぇぞ」

「でも、負けた事に変わりは……」

「こういうのは勝ち負けの問題じゃねぇんだよ」

 そう言う兄の言葉に弟の万作さんも追随する。

「例え負け戦でもウチはやるんだよ。それも毎回」

 そう言えば、理香さんは呆れたように呟く。

「馬鹿な家族」

「そう。そして私たちはその子孫」

 そう言う万里子さんは開き直っているようにも見えた。

「でもでも、何か策はあるんでしょう?」

 そう侘助さんを見る由美さん。

 問いながらも食事の手を止めない辺り流石陣内家の人間だと思ったのは秘密だ。

「これからリモートでヤツを解体する。幸いスパコンもここにはあるからな」

 そんな侘助さんに、

『出来るのか?』

 画面の向こうの父がそう短く訊いた。

 プログラミングにかけては人より出来る程度でしかない私にはその難易度は判らない。

 だが、難しい事に間違いは無いだろう。

「出来る。アンタと、ダグラスの協力があれば」

『まぁ、ウチの健二が世話になってる礼もまだだからな』

『任せろよ兄弟』

 二人が快諾する。

 それを聞いた親友が悔しそうに言った。

『くっそぉ、俺ももうちょっと腕を磨いといたら良かったのに……!!』

 そうすれば師匠の大仕事を手伝えたのに、と。

 弟子の台詞に侘助さんは苦笑した。なんとも師匠冥利に尽きる言葉だったのだろう。

 そんな彼に私は夏希先輩のフォローを頼んだ。

 自分でも判っている事だが、その時私が使えたのは仮アカウント(黄色い狸のようなリス)。

 それを本アカウントに変更するにはいくつかの手続きが必要で、しかしそれを行うには『OZ』が正常でなければならない。

 佐久間――いや、敬のアカウントを経由して準が幾つか付いた管理者権限を使用する事も出来るが、本アカウントへの変更は出来ないのだ。

 つまりその時の私は、『OZ』内では仮の住人でしかなく、アバターの最低限の行動すら出来ない存在だった。

「え、ちょっと待って。なんで私? っていうか何をするの?」

 いきなり話が飛躍したので、訳が判らない先輩は混乱しているようだった。

「先輩、コンピューターにとって分が悪い勝負って何だか判りますか?」

「え? うーん……」

 考えても判らない夏希先輩に私は花札を差し出した。

「運ですよ。運が関わる勝負事に関しては人だろうとAIだろうと同じです」

 それどころか、百の手順があればそれらを片っ端から試すAIと、直観による最善手を打てる人間が同じ種目で争った場合、人間が勝つ確率はそれなりに高いのだ。

 しかし、背負うリスクも大きい。

 所謂ハイリスクハイリターンというモノだ。

 だが、それを躊躇いなく選ぶのも人間。

 まぁ、本音を言えば時間が無い事が理由なのだが。

 それ故にこの場で勝負運が(自分や栄おばあちゃんを除いて)最も強いと侘助さんから聞いた夏希先輩に花札で、『ラブマシーン』に対抗して貰いたいと告げたのだ。

 余計に混乱する彼女を尻目に、彼女の家族は納得の頷きを見せた。

 翔太さん曰く「オヤツをかけては根こそぎ持ってかれた」

 万助さん曰く「何度小遣いをせびられた事か」

 そう言った父の台詞に娘である直美さんが非難の声を上げた。

「やだ父さん、お金賭けてたの!?」

 その言葉で少々キツい視線が彼女に集まったものの、

「ま、俺やばあちゃんには勝てた試しは無いけどな」

 そう言った侘助さんの声で有耶無耶になった。

「だったらおじさんがすればいいでしょ!?」

 むっとした顔で夏希先輩がそう言ったが、侘助さんはこれから解体作業があるのだ。

 ダグラスさんや父も同様に。

 例えこの三人が本職の賭博師も真っ青になるような博打の才能があったとしても、優先順位というものがある。

「お前が負けても誰も責めやしねぇって」

「あんたに賭けるのはみんなの意見なの」

「だからあんたは精一杯やってみなさい」

「なぁに、駄目だったらまた次の手を考えるさ」

「だいじょうぶだよー」「「だいじょうぶだいじょうぶー」」「うー」

 家族からの暖かい言葉に夏希さんは泣きそうになる自分を抑え、言った。

「よっし! 任せてっ!!」

「…………負けたら――だけどね(ぽそ)」

 何やら佳主美くんが言ったようだが、それを聞き留めたのは夏希先輩ただ一人だったようで、

「生憎だけど、私はカズちゃんが相手でも容赦はしないよ?」

「……こっちこそ」

 何やら先程よりも強いオーラのようなモノを感じられたが、一体何を言われたのだろうか。

 今になっても彼女たちはそれを私には教えてくれないのだ。

「……ふむ、女の子ってのは凄いな」

「当たり前よ、ああなった女の子に勝てないモノはあんまりないのよ」

 そう理一さんと理香さんが話していたのが印象的だった。




















 ――来た。

 更なる混乱が訪れる一時間前に、ソレはゆっくりと『餌』がこちらへ向かってくるのを感じた。



『カジノステージにようこそ』



 電子音で構成された女性の声が響き渡る。

 その声と同時にソレの周辺の外観が変化した。

 様々なモノを賭け、古今東西ありとあらゆるゲームで競うステージ。

 それこそが、このステージ。

「あなた、そんなにアカウントが欲しいの?」

 凛とした少女の声。

 そこには、頭に耳を付けた大正時代のような格好をした少女のアバター。

「いいわ。だったら私のをあげる。――ただし、私との勝負に勝ったらね」

 その発言と共に、進行役(女性音声)が宣言する。

『花札が選択されました』

 そして更に景色は変わる。

 純和風のフィールド。

『UNKNOWNさんが勝負を受けました。掛け金を選択して下さい』

 その言葉に、ナツキ(アバター)は力強く宣言する。

「掛け金は――私の家族っ!!」

 その言葉を受けて、彼女の背後には様々なアバターが現れる。

「みんなのアカウントを賭けて勝負よ!!」








 陣内家が喧々諤々と騒いでいるのを尻目に、健二と侘助たちは淡々と作業を続けていく。

「……ちっ、無駄にデカくなりやがって」

『全くだ。手綱を握る人間が変わらなけりゃ、コイツもこんな事には利用されなかっただろうぜ』

『それ以前に、もしかしたらコイツがお前の考えてる『成長するAI』の雛形になったかもしれねぇのにな』

 健二の父やダグラスの言葉に、彼は苦笑で応える。

 思わなかったかと問われれば嘘になる。

 だが、

「テメェの作ったAI(ガキ)が人様に迷惑かけてんだ。……ったく、親にグレるとこまで似なくても良いだろうが」

「グレてませんよ。ただタチの悪い大人に捕まっただけですって」

 健二のその発言に、父とダグラスは噴き出した。

 これでは今回の事件を仕組んだ軍人も形無しである。

 だが言われてみれば彼らが行った事は、他人の子供を奪って犯罪行為に走らせたというものなのだ。挙句自分たちにも甚大な被害を被っている。

 反論などしたくても出来ないだろう。

 『そんなつもりじゃなかった』とは決して言えもしないのだ。

 既にピッツバーグの研究所でも再三危険性については説明されていたのにも関わらずこの体たらく。

 自分たちなら上手くやれると思った彼ら。

 だが古今東西においてそう思い上がった者は、多少の例外を除いて破滅している。

 組織の重職に就く人間であるならば、ありとあらゆる可能性を考慮するべきなのだ。

 世界を犠牲にした実験だったにも関わらず、結果はこのようなお粗末極まりない結果。

 AIは制御を受け付けずに人類を滅ぼそうとしている。

 落とし前はつけるべきだ。

 健二の父を筆頭に、大人三人はそう思っていた。

 何せ息子が、歳若い友人が、弟分が、謂れの無い罪のせいで世界中に顔が知られてしまったのだ。いくら目線を隠したからと言って、このご時勢ではいくらでも調べる方法はあるものだ。

 現に敬はすぐに気付いた。

 ならば、犯人にはソレ相応の罰を受けて然るべきだと考えていた三人。

 何だかんだ言いながら、やはり健二が一時的にとはいえ犯罪者云々とレッテルを貼られたのに我慢ならなかった。

 だからこそ、『ラブマシーン』を解体回収を行い、連中が言い逃れなど出来ない証拠を手に入れようとしているのだ。

 行動履歴と命令を実行した者、そして開発者でもある侘助の証言。

 これらがあれば、少なくとも今回の一件に関わった者たちは更迭されるだろう。

 この一件が明るみに出るのは最早確定事項であり、そうなれば米軍の権威は失墜する。

 それをアメリカは良しとしないだろう。

 だからこそ関係者に責任を取らせ、正義を執行したと取り繕う必要があるのだ。

 だが、全てはこの事件が収束しなければ意味の無い話でしかない。

 それどころか、未曾有の大災害どころか人類存亡の危機になってしまう可能性さえあるのだ。

 だからこそ、誰も彼もが懸命にやれる事をやっている。

 健二が夏希たちの方を振り返ると、歓声が上がった。

「よっしゃあ!! “青タン”っ!」

『“こいこい”しますか?』

 その声に全員が叫ぶ。

「「「こいこい!!」」」

 ナツキは更に勝利を積み重ねていく。

『“三光”です。“こいこい”しますか?』

「こいこい!」

『“タン”です。“こいこい”しますか?』

「こいこい!」

 そしてやっと一勝目。

『ナツキさんが勝ちました。二十六のアカウントがナツキさんに移動します』

 響き渡る歓声。

「こりゃあいい。やっこさんてんで素人だ」

 そう万作が兄と笑えば、

「ちっちゃい頃からばあちゃんに仕込まれたウチらを舐めんじゃないわよ!!」

 理香がそう威勢の良い声を上げる。

「次いくよ!!」

 夏希は安堵の溜息を吐くと、レートを十に上げてゲームを再開する。

 そこからは怒涛の展開と言えた。

『“タネ”です』

『“三光”です』

『“猪鹿蝶”です』

 怒涛の二十一連勝。

 次々に解放されていくアバター。

『レートが百に上がります』

 更に上げられる掛け金。

『“赤タン”です』

『“月見で一杯”です』

 解放されるアカウントの数は勝ち星を積み上げていく度に多くなっていく。

「こいこい!!」

「「「こいこい!!」」」

「こいこいっ!!」

 そして気付けば、ナツキは短時間で三十万というアバターを解放した。

『夏希先輩すげぇ』

 サポートに付いた敬がその凄さに感嘆の声を上げる。

「理一さん、解放されたアバターの中に危機回避に有効なアカウントは?」

「いや、無いな。四億の中の三十万……まだまだ先は長そうだ」

「それなら……!」

 夏希はレートを一気に一万まで上げる。

「ちょ、おい夏希!?」

 翔太がそれを止めようとするが、万作が夏希を少々苦い顔で肯定する。

「いや、あと三十分なんだ。不安だがやるしかない」

 ちらりとワールドクロックの見ると確かにあと三十分――

『先輩!?』

 敬が焦った声を出す。

 『ラブマシーン』の役が揃ったのだ。

『UNKNOWNさん“花見で一杯”です』

「しま――」

 そして、

『UNKNOWNさんが“こいこい”しませんでした。ナツキさんの負けです。得点が移動します』

 三十分掻けて掻き集めたアカウントが向こうへと流れていく。

 そして――残り七十四。

「うわぁあああっ。やっちまった!!」

 翔太が頭を抱える。

「デカく出過ぎたか」

 万助が苦い顔で呟く。

『レートに対して掛け金が不足しています』

 案内音声が言った。

『ここでゲームを終了しますか?』

 震える夏希。

 目尻には涙が浮かんでいる。



 もう、どうしようもない。



 そう誰かが言おうとした時だった。

『諦めんのはまだ早いぞ』

『そうそう』

 そう健二の父とダグラスが言った。

「でも……」

 佳主美が反論しようとした時――掛け金が変わった。

 七十四から七十五へと。

 いや、それどころか一気に百を超えるアカウントが掛け金に加わった。

「え?」

 ナツキが隣を見ると、初期のままの粘土人形のようなアバターが現れた。

『ナツキへ ぼくのアバターをどうぞ使って下さい』

 彼はドイツ在住の十歳の少年だった。

 『OZ』で繰り広げられる一連の戦いを彼は見ていた。

 何度負けようとも諦めずに戦う彼らを見て少年は格好良いと感じたのだ。

 そして、ナツキというアバターが『HANAHUDA』というゲームで黒い兎巨人と対決し、何度も勝利し、しかしピンチに陥っているのを見た瞬間――彼は『力になりたい』と考え、自分のアバターを掛け金に上乗せした。

 そして、様々な人々がこの少年に続く事になる。

『先輩、ファイト!』

『ウチの部員が負けるんじゃないわよ』

 剣道部の先輩や後輩が。

『俺のも使ってくれ』

『クラスメートのよしみってやつだ』

 クラスメートたちが。

『JINの姪っ子さんへ 俺も参加するぜ』

『罪滅ぼしだ。使ってくれ』

 侘助の同僚が。

『サクマから聞いた。我ら久遠寺高校物理部OBも参加しようじゃないか!』

『ウチの後輩のアバター勝手に使ってる馬鹿がいるらしいな。勝って取り返してくれ』

 敬と健二の知人友人が。

 その彼らの知り合いが。

 見ず知らずでも『なんとかしてやりたい』と思ってくれた世界中の人々が、アカウントを譲渡してくれた。

 一千万……三千万……六千万……そして、一億。

 まだ増える。



『『『ナツキに私たちのアカウントを預けます。私たちの大切な家族を、どうか守ってください』』』



 そして約一億五千万というアカウントと想いが夏希へと送られた。

 もう、涙は止められなかった。

 そして、『OZ』の守り神である二頭の鯨『ジョン』と『ヨーコ』からとあるモノが贈られた。

 花吹雪や光のエフェクトと共に衣装が変わり、美しい着物に孔雀の尾羽と鳳の翼を生やした姿へとなった。

「なんだアレ?」

 翔太の問いに父である太助と敬が推測を述べた。

「ジョンとヨーコが吉祥のレアアイテムを授けたってことは……」

『これで運営側も夏希先輩に未来を託したってことじゃないかと』

「そう考えるのが妥当だね」

 二人の発言に翔太や佳主美、頼彦たちといった所謂若い世代は納得し、敬の発言の意味が判っていない万作たちは戸惑いながらも、

「よ、よく判らんが……ありがたや」

 ジョンとヨーコに向かって手を合わせた。








 UNKNOWN――『ラブマシーン』は歓喜した。

 この勝負も面白い……!

 そして、この敵も……強い。

 今まで戦ってきた敵とは全く違うベクトルの敵。

 この敵を下せば、更なる進化が出来るだろう。

 そして、敵の下に集った餌も膨大だ。

 だから、レートを吊り上げる。

 手早く狩る為に。

 一千万にレートを上げた。

 だが、ソレは知らなかった。

 徐々に自分を構築する情報が読み解かれている事に。

 群体という鎧が無くなれば、自分は為す術が無くなるという事実を。

 ソレは理解していなかった。








 レートが上がる。

「一千万……!?」

 丸い頭部のアバターのマリコが息を詰まらせる。

「ヤロウ、勝負を着ける気だな」

 翔太が忌々しそうに言った。

 だが、誰もが判っていた。

 これはチャンスだと。

『ゲームを再開します。UNKNOWNさんが親です』

 そして、ここで異変に翔太が気付く。

「なんだ? 坊主を捨てる? 山札からはスカりやがったか。ざまぁみろってなぁ!」

 『ラブマシーン』の演算――つまり思考に侘助たちの手が届いたのだ。

「いけるっ!」

 夏希の手番となり、彼女は次々に役を作っていく。

『ナツキさん“三光”です。“こいこい”しますか?』

「「「こいこい!!」」」

『“赤タン”です』

『“青タン”です』

『“猪鹿蝶”です』

『“雨四光”です』

 誰もが叫んだ。

『『『KOI!!』』』

「「「こいっ!!」」」

 その度に新たな役が出来る。

『『『KOIっ!!』』』

「「「こいっ!!」」」



「これで――ラスト!」



 天高く最後の札が昇る。

「「「いっけぇえええええええええっ!!」」」

「「「ぶちかませ――――――――っ!!」」」

「「「やっちまえ――――――――っ!!」」」

 家族の声援。

 そして、

「先輩、いけます!!」

 大切な、男の子からの声援。

 だから――頑張れる。



「うおおおおおおおおおおおおっ!!」



 最後の役が出来上がる。

『“五光”です』

 その言葉と共に、敵の持っていたアカウントが減っていく。

『ナツキさんの勝ちです。アカウントがナツキさんへ移動します。UNKNOWNさんが退出されました』

 そして、

『ゲーム終了です』

 最後のゲームが終わる。

「ワールドクロックは……」

「止まってる、な」

 誰もが呆然とした中、健二は夏希に近寄って労いの言葉をかける。

「お疲れ様でした、先輩」

「健二くん、私……私……」

 そして、歓声。

「「「勝ったぁああああああああああ――――っ!!」」」

 歓声が響いた。

 誰もが抱き合って喜んでいる。

 健二にしがみつく二人の少女は歓喜に顔を彩った。

 お祝いや感謝のメールも多数こちらに寄せられている。

 事件はコレで収束する――かに思われた。



 Pi――という電子音が響き渡る。



 それが彼らの背筋に冷たい汗を感じさせた。

「なんてことだ……」

 理一の焦燥に満ちた声。

「カウントダウンが止まらない!!」

「「「ええっ!?」」」

『ちょ、世界中のワールドクロックは正常に戻ってるぞ!? 原発の映像だって全部消えて――え?』

 一つ、残っている。

 そこにカーソルを合わせ、拡大していくと……こちらへと吼える犬と見覚えのある庭と建物が映っていた。

「もしかして…………」

 健二たちは、『ラブマシーン』の思惑に気付いた。

「ここに「あらわし」を落とす気か――――――っ!?」



 そして、最後のゲームは終わり、最後の勝負が始まる。









(あとがき)

みなさんお久し振りです。

夏に終える予定でしたが、諸所の理由で九月まで延びてしまいました。

さて次回は最終話。

このような拙作にお付き合い頂いた皆さんには感謝の念が耐えません。

他にも色々と書きたい話があり、色々と筆が進まず、とても難儀しました。


よくよく考えれば、これが私のきちんと終わる作品になります。

ではまた次回の更新で。




[20064] 12 未来 ~出せない『答え』は無い~
Name: SRW◆173aeed8 ID:7be48cfa
Date: 2011/10/11 16:06
 『ラブマシーン』が今まで溜め込んだ膨大なアカウント、その九十九パーセント以上を奪われた時、ソレは自身の消滅への『恐怖』を学習してしまった。

 本来ならばAIが感情を学習するという事はまず有り得ないのだが、『好奇心』という感情を組み込まれたAIは学習と経験によって、歓喜や愉悦といった感情を習得してしまったのだ。

 更にそのような有頂天なAIを容赦無く敗北させれば、その敗北から『憤怒』や『恐怖』を学習するのは当然だったと言える。

 『恐怖』を覚えたソレはまず何をするだろうか?

 甘やかされて育てられた子供が、今まで積み上げてきた勝利の全てを無に返すかのような敗北を経験するようなものだ。

 そのような経験をした者の大多数は、そうなった原因から遠ざかる事を選択し易い。

 故に、『ラブマシーン』はそれを選択した。

 原因である『陣内家の排除』という、最もシンプル且つ効果的な選択を。

 AIであるが故にソレは人の生死に頓着しない。零と一の羅列で出来た存在だからこそ選択出来た手段だと言えるだろう。

 この事件を振り返った侘助はこう述懐する。



 ――感情は仕込めても、あのAIには『心』を組み込めなかった。

 

 それこそが最大の失敗だったと。

 『心』。

 そんなあやふやで曖昧なモノをAIに組み込む。

 だから侘助の研究は夢物語と嘲られた。

 出来るわけが無い、と。

 だが、今回の件を通して彼はその夢が現実味を帯びたと知人や友人に話していた。

 その理由は――










「ここに「あらわし」を落とす気か――――――っ!?」

 驚愕と恐怖が皆を包む。

「ちょっと侘助一体どうなってんの!?」

 直美と理香が作業を続けている侘助に尋ねる。

「あんにゃろ……アカウント二つ残して潜伏しやがった!!」

 二つ?

「あ、僕のアカウントと……」

「「あらわし」の制御アカウント……!」

 画面の向こうに健二のアバターを奪った『ラブマシーン』が現れた。

『シシシシシ』

 身の丈程の鍵を持って。恐らくはアレが制御用のアカウントなのだろう。

「ざけんな! なんのつもりだコラーっ!!」

「こっちの接続場所を突き止めたんだ。もうこれ以上止められないように、ここを消すつもりなんだ!」

 翔太の怒声と太助の推論に、起きるであろう被害を想像した皆は顔が青くなる。

「もう任意のコース変更は無理だ……っ」

 そこへ理一が更に追い討ちをかける。

 騒然となりかけるも、それは頼彦たちの言葉で回避された。

「落ち着いて、まずは退避!」

「近所の人たちにも伝えるんだ。どんな被害が出るか見当も付かない!」

 誰もが慌ただしくも動き出す。

「車出してくれ!」

「まかせて!」

「おうちふっとんじゃうの~?」

「吹っ飛ぶくらいで済めばいいけど」

「栄おばあちゃんどうしよう!?」

「担いでいくのよ!!」

「ええっ!?」

「母さん通帳!!」

 まさに阿鼻叫喚の様子だった。

 そんな中、夏希と佳主美だけは、じっと画面の向こうを睨んでいた。

 出来る事なら画面の向こうで小憎らしく嗤っている存在をグーで殴りたい。

 だが、それすら今の自分たちには出来ない。

 歯噛みする二人。

 知らずに眼が滲み始める。



 だが、諦めない馬鹿がいた。



 持って来たリュックからノートとペンを取り出し、相棒に声を掛ける。

「佐久間! 管理塔にヤツのログは残ってる!?」

『お、おう。任せとけ!』

『何する気だ健二!?』

 快諾する相棒とは反対に怒鳴る父親。

 だが、健二は絶対にここで退くつもりは無かった。

「健二くん、何を……」

「もう任意のコース変更は無理だって……」

 夏希と佳主美の言葉を遮って理一に問いかける。

「理一さん、「あらわし」はGPS誘導だって言いましたよね!?」

「あ、ああ。確かにそうだが……」

『成程! 補正情報を改竄するんだな!? だとしてもそこまで大規模な変更は出来ないだろ?』

 ダグラスの言葉に健二は肯定しながら言った。

「はい。でも、被害が一番少ない場所に落とすくらいは出来ます。だから理一さん、一番落ちても大丈夫そうな土地の座標を割り出して下さい!」

「わ、判った!」

「「え、そんな場所あるの!?」」

 諦めない。

 ようやく射程圏内に捕らえたのだ。

 ここで逃せば勝てる勝負も負けてしまう。

 今まで負けっぱなしだったのだから尚更だ。

「あったぞ、ラブマシーンのログ! 足跡くっきり……だけどマジにやるのか? もう時間無いだろ」

「大丈夫。まだやれる」

 キーボードを叩きながら、横にいる少女たちに健二は言う。

「でも上手くいくか判らないので、他の皆さんは退避して下さい」

「そんな……皆も逃げようよ!」

 そう言うものの、健二も、理一も、侘助も動かない。

「健二くんっ! おじさんたちも!!」

「あった。よし、あとはこれを……」

「健二くん!!」

 何度呼びかけても三人の大馬鹿者たちは、自分の仕事を続けていく。

 目の前の画面にここ一日二日の間によく見るようになったパスワード入力画面が出てくる。

「補正情報を送信する為のパスワードを解けば……勝てる」

 初めてだ。

 こんなにも頑固なこの少年を見るのは。

 何度呼びかけても聞いてくれない。

 それなのにその横顔が魅力的に見えてしまう辺り、自分も末期だと言ったところだろうか。

「何やってるの!? あんたたちも早く――!!」

 だから、つい叫んでしまう。



「「まだ負けてないっ!!」」



 その言葉を証明するように、健二はパスワードを解読する。

「出来た!!」

 すぐにそのコードを入力。

 これにて危機は回避された――かに思われた。

 だが、それを許すAI(ラブマシーン)ではない。



 無常にもエラーとの文字が表示される。



「弾かれた!? なんでッ?」

 その問いに佐久間が答える。

「アイツ、裏で暗号を書き換えてやがる!! いくら師匠たちのお陰で演算速度が遅くなってるからって、このままじゃ鼬ごっこだ!」

 ここままではタイムアウト――

 そう思った時だった。

 バン、と背中を叩かれ誰かが横に座った。

「しゃんとしろ! 俺たちが付いてる!!」

 翔太が。

「君にしか出来ないことなんだろうこれは!?」

 万作が。

「頼む!!」

 侘助が。

『ここまでやったんだ。結果を見せろ!!』

 父が。

「「がんばれ!!」」

 夏希と佳主美が。

 皆が背中を押してくれている。

 だから、言う。

「はいっ!!」

 タイムリミットはもう直ぐ。

 だが、まだゲームセットには早い。












 そして、テレビの向こうでも状況が変わろうとしていた。

 延長十五回。

 了平があと三人打ち取れば、上田高校が優勝という場面に差し掛かったのだ。

 もう疲労困憊だ。

 このまま倒れてしまいたい。

 だが、それでは駄目だ。

 共に頑張ってきた仲間たちがいる前で、倒れるわけにはいかない。

 あと三人打ち取れば、そう、たった三人打ち取ってしまえば全てが終わる。

 体力を搾り出せ。

 自分の身体に鞭打って、白球を握る。

 疲れているせいか、余分な力みが身体に入らない。



「ストラ――イクっ!!」



 審判がそう宣言する。

 一人、また一人と打ち取っていく。

 熱狂する場内。

 茹だる様な熱気と割れるような歓声。

 その中心に確かに了平はいた。

 最早朦朧となる意識の中で、その時了平は確かに聴いたのだ。



 ――あんたなら出来るよ。



 故郷の地にいるであろう栄おばあちゃんの声を。

 だから腕に力が宿る。

 自分ならやれる。

 単純な自己暗示に過ぎないが、それが良い結果に繋がる事もあると彼は知っていた。

 それを思い出させてくれたのは、脳裏に響いた曾祖母の声。

 奇しくも、故郷にて全く知らない年下の少年が世界の、いや了平の家族の危機を退けようとしている最後の瞬間、彼にもその言葉が聴こえていたらしいのだが、二人はその事を最後までお互いに話すことは無かった。

 そして、最後の一人。

 白球は、最も信頼している相棒のミットへと吸い込まれていったのだった。












 計算。

 事この分野において小磯健二という少年は非凡と呼べた。

 如何に普段が冴えず、凡庸であろうとも。

 彼にはその分野では最前線を走る事の出来る少年なのだ。

 そしてその才能は、自身や好意をもった少女やその家族の命という重く尊いものを背負った事により、今まで徐々に開花していったソレをあるレベルまで強引に開花させた。

 結果――本来ならば多少の時間がかかる計算をまるで算数でも解いているかのような速さで解読していった。

「解けたっ」

「は、速い」

 思わずと言った様子で、佳主美は呟く。

 しかしそれを打ち込んでも、表示されるのはエラー。

「クソ……!」

 思わず畳を叩く。

 だがすぐに再度現れた暗号に挑戦していく。

 諦めないその姿勢。

 佳主美は、その姿がとても尊く見えた。

 だから、何か出来ないかとノートPCを開いて、解放された自分のアバターと繋がる。

 だが、まだ体力ゲージは回復していない。

 しかしそれを急速に回復させる手立てはいくらでもあった。

 ヨリヒコを始めとした医療系のアバターや僧侶系のアバターには、体力ゲージを回復させるスキルがあるのだ。

 それらのスキルを持つアバターたちが、キング・カズマを回復させていく。

 その事はボロボロだったアバターに巻かれていく包帯が物語っている。

 まだだ。

 逸る気持ちを抑え、佳主美は行動可能になるのを待つ。

 しかしその指は何かの切っ掛け一つでキーボードを叩くだろう。

 そして、その切っ掛けが、



「……よっし!」



 侘助の声。

 意味は判らないものの、すぐにアバターをい動かそうとして、

「また駄目だ!?」

 翔太の悲痛な声で動きを止めた。

 ふとカウントダウンを見る。

 もう残り時間は少ない。

「あと二分だぞ!?」

 もう時間が無い。

 健二は脳を酷使した時に感じる鈍痛の中、ゆっくりと――ペンを取り落とした。

 彼は思う。

 このまま悠長にノートに計算式を書いていては間に合わない。

 暗号解読と並行してパスワードを入力しなければならない、と。

 だから、更に脳を酷使する。

 つ、と鼻の奥から生暖かい何かを感じるも、それすら健二には意識の外へ置いた。

 最早、健二の意識は暗号解読のみに向けられ、その類稀なる思考速度は彼の要求に応える。

 カタ……カ、タ。

 カタ。……カタ。

 まるで夢遊病者のような不安定な指の運び。

 だが、確かに健二は文字を打っている。

 そして、その事実に太助が気付いた。

 え、と理解出来ないモノを見るかのように健二を見て、言った。

「まさか…………暗算!?」

 それがどれ程の難行だろうか。

 健二の鼻からは脳を酷使した影響か、鼻血が垂れてきた。

 キーボードに血痕が落ちる。

 呆けたように健二を見ている佳主美に、侘助が叫んだ。

「カズ! ヤツを叩け!!」

 振り返る。

「アイツを護ってるモノはもう無い! 往けっ!!」

 そして健二の父が。

『選別だ。コイツでブン殴れ!!』

 キング・カズマの両手に今まで嵌めているグローブではなく、手甲が装着される。寧ろ鋼鉄製のグローブと呼ぶべきだろうか。

 動けるようになったアバターを操作しようとして――師匠のアバターである烏賊の侍(マンスケ)に手を掴まれた。

「……師匠?」

 そして、『ラブマシーン』のいる方向へ向けて、

「往ってこい!!」

 投げられた。

 様々なアバターが、激励の声を掛けてくれる。

「……っ!!」

 嬉しかった。

 その勢いを殺さぬまま、速度を上げる。

 その時、健二は最後の文字を打ち込んだ。

 だが、

『シシシシシ』

 『ラブマシーン』がその暗号を書き換えようとして――



『ジャマするなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――っ!?』



 渾身の力を込めた右拳がその顔面を打ち貫いた。

 ピシピシと分解されていく『ラブマシーン』。

 それを見ようともせず、健二は叫ぶ。





「宜しくお願いしまぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――すっっ!!」





 そして、叩き込まれるエンターキー。

 補正情報が送信されると同時に、ラブマシーンは分解されてキング・カズマの手甲に吸収された。

 こうして、世界を大混乱に陥れようとした事件の実行犯は解体された。

 だが――衛星の落下が止まったわけではなかった。

「みんな固まれ!」

「子供たちを中に!」

「健二くん!!」「健二さん!!」

 そして健二は、近くにいた二人の少女を抱き締め、覆い被さった。


















 ――そして衛星は屋敷より少し離れた地点に落下した。

 その衝撃によって巻き起こされた風圧により、屋敷の門は全損。

 屋敷自体も酷くボロボロになったものだ。

 そして、耳をつんざく轟音が響く私の耳に聴こえてきた上田高校優勝のテレビの音は今でも鮮明に覚えている。

 それを聴いて由美さんは涙を流して喜んでいた。

 感動のフィナーレと、実況の人は言っていたが、それはこちらにも言える事だった。

 落下地点からは噴水のように温泉が噴出していたのも昨日の事のように思い出せる。

 その日の内に行われたお通夜だが、恐らく私の知る限りであれ程陽気なお通夜――いや誕生会もなかっただろう。

 みんなが栄おばあちゃんの誕生日を祝い、夏希先輩に至っては彼女の形見だという浴衣を着ていたのだ。

 万助さんは捕ってきた烏賊を来客に振る舞い、万作さんはそれを美味しそうに食べていて、万里子さんは戸惑う来客に笑顔で対応していた。

 他にも様々な理由で来れなかった了平さんや夏希先輩のご両親、そして佳主美ちゃん(いつの頃からかそう呼ぶようにと言われた)の父親などがやって来て、栄おばあちゃんの死を悼んだ。

 そして侘助さんだが、彼はそのまま『ラブマシーン』の全データを持って出頭。

 データという裏付けや彼の所属する研究所からの証言もあって非難は最低限に抑えられた。

 と言うよりも、米軍に向けられた非難の声が大き過ぎてそちらの方が優先になったからなのだが。

 聞いた話ではこの件に関わった人間は須らく法的に罰せられたそうだ。








 ――話は変わるが、その時に行われた記念撮影において、私はとても果報且つ災難な目に逢う事となる。

 その写真は今も私の手元にあり、その写真には――冴えない一人の少年の両頬に二人の少女がキスをしているというモノだった。

 その後、私は鼻血を出して失神し、陣内家の皆さん(翔太さんを除く)に笑われたのだが。

 




 そして、私はその日から二人の少女に振り回される日々を送る事になる。

 大学へと進学し、新たな仲間や友人、そして相変わらず隣にいてくれる相棒(敬)にからかわれながら。

 彼女たちは私が入ろうとしていた/入った大学に進学したのだ。

 どんな馬鹿であろうとその理由の一旦が私にあると判るだろう。

 現に彼女たちは私が所属したサークルに参加し、私の周囲に必ずいたのだから。

 そしてこれは卒業してからも続く。

 二人の少女、その間に挟まれ、ある種優勝商品となってしまった私。

 どちらかを決めねばならないのだが、優柔不断はそうそう治りそうに無い。

 だが、いつかは決めなければならない。

 どんな選択であれ、答えを出さない事が一番いけないのだから。

 ……ふと脳裏には、栄おばあちゃんの『両方を娶るかい?』といった言葉がリフレインするときがあり、心動かされない……と言ったら嘘になる。

 だが、それは余りに公序良俗に反する行いだろう。





 何故私がこうやって過去の出来事を文章にして書いている理由だが、これはかつての自分の過去を見直して『答え』を出すための手段なのだ。

 だが、余計に判らなくなってしまった。

 しかし、いくら悩もうと答えはきっと私は出す。



 何故なら――諦めなければ、出せない『答え』など無いのだから。
















 ああ、そうそう。

 離婚していた私の両親だが、あの後直ぐに復縁した。

 そして妹や弟も産まれた。しかも三人。

 そして、今日も元気に口喧嘩をしている。

 だが、妹弟たちは気にしていない。

 これが二人のコミュニケーションだと判っているからだ――


















「……ふう」

 健二はゆっくりと椅子に身体を預け、伸びをする。

 大人となり多少頼り甲斐のある容姿となった自分の顔が目の前のPCの画面にうっすらと映っているのが眼に入った。

「……昔の自分が見たらどう思うかな?」

 ふと、そんな事を思う。

 冴えない自分の容姿を理由に、周囲に埋没しようとしていた高校時代までの自分が今の自分を見たら、きっとこう言うだろう。

 ――人って変われるんだ、と。

 きっと呆然とした顔と声で言うに違いない。

 なんとなくそう思ってしまい、笑う。

 電子音が鳴った。

 アバターがメールを届けてくれたのだ。

 侘助からだ。

 彼は今、日本の研究所でAIについての研究に従事している。

 ダグラスたちとも交流は続いており、頻繁に日本とアメリカを行ったり来たりしているようだが。

「近々帰る……か」

 返信を書いて、アバターに持たせる。



 ギザギザの歯を剥き出しにした笑顔で額にハートマークのついたアバターに。



「頼んだぞ、『ラブマシーン』」

『オヤスイゴヨウ』 

 そう健二へ返事をして、心を持ったAIとして再生された『ラブマシーン』は主人の下へ帰っていった。

 ふと、ドアの向こうで誰かが言い争いをしているのが聴こえる。

 きっと彼女たちだろう。

 そう思い、健二は笑って椅子から立ち上がる。

 ドアを開けようとして――勢い良く開かれたドアに鼻をぶつけて、後頭部から床へ落下した。

『うわ!? ちょ、健二くん!?』

『ああっ、鼻血が出てる!?』

 そんな声を聴きながら――健二は意識を喪った。


                                 ≪幕≫




(あとがき)

どうも皆さん、お久し振りです。

夏までには完成させたいとかほざいておいて、結局十月までかかってしまい申し訳ありません。


色々とネタが浮かんでおり、それらをメモしているうちにそっちに夢中になってしまいました。




ですが、これにて自分なりに改変した『サマーウォーズ』のお話は終わりです。

些か拙い部分が多々見受けられましたでしょうが、楽しんで頂けたのなら幸いです。






さて、次の更新はもう一つの方――といきたいのですが、思いついた嘘予告を何本か書かせて頂くかもしれません。

これと並行して、もう一つの文章も書いてはいますが、少々往き詰まっていまして……これ以上は愚痴にしかなりませんので、ここまでにしときます。




では皆さん、また別の作品にてお逢いしましょう。





感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.059259176254272