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[19819] 『ソゥニート』某名作SLGの縛りプレイをネタにしようと思う
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/13 13:20
 俺の名は、高嶺悠人。

 いや、今はこう名乗るとしよう――ユート・E・タカミネ。

 ちなみにEとはエトランジェ、つまり来訪者であることを示す。

 俺は……英雄となるべくしてこの世界に召喚された男なのだ。

 嘘かゲームの話だと思うだろ?

 現実なんだぜ、これ。



 王家に伝わる不思議な剣を授かり敵を討つ、異世界から来た勇者。

 大まかに言って、俺の現状はこんなものだ。

 違うのは、


 ・敵は魔王じゃなくて、他の国のスピリット(美少女型戦闘兵器)

 ・俺が助け出すのはお姫様じゃなくて人質の義妹、お姫様はむしろ俺に戦いを強制する側

 ・貰ったのは剣というより鉄塊(まあ、こう言うとこのバカ剣はキレるのだが)


 こんなところか。

 しかも勝った所で褒美があるわけでもなく、俺と義妹の処刑が少し先延ばしされるだけ。

 俺だって死にたいわけじゃないからOKしたけど、正直やってられない。

 何人かのスピリットが部下になるし、そいつらに戦わせればいいよね。

 働きたくないでござる、絶対に働きたくないでござる。



 ……ところで。

 スピリットが人間に逆らえないなら、人間の軍団が囲んでフルボッコすればいいんじゃないだろうか。

 エトランジェも王家の人間には逆らえないのなら、王家の人間がこの剣持てばいいんじゃね?

 やっぱり、時代は剣を持つ美少女ですよ。

 捨て台詞言っただけでビビってたあの王様は無理としても、顔色一つ変えない姫様は似合うと思うんだけどなあ。











「そこまで!」



 エスペリアの『献身』から光が消えていくのを確認し、私は胸を撫で下ろす。



「エスペリア、下がりなさい」



 一礼して下がってゆくエスペリア。

 今回の模擬戦は彼女にしか頼めないことだったとは言え、悪いことをしてしまいました。



「……レスティーナよ、儂はお前に指図を許した覚えはないぞ?」

「申し訳在りません。しかし父様、あのまま戦いを続けていればエトランジェの力は恐るべきもの。この玉座の間すら半壊したやも知れませぬ」

「馬鹿なことを……エトランジェは我々王家の血に逆らえぬ、そうであろう?」

「何事にも事故は起き得ます、何かあってからでは遅いかと」

「ふふふ、相変わらず臆病な娘よな」



 一撃目の薙ぎ払いに対して刃の下を転がるように避け、掴み取った剣で続いた突きを弾く。

 エスペリアが手加減していた――だからこそ私が動きを目で追えたのですが――とは言え、それがどれだけ難しいことか。

 カオリから聞いた話ではあのエトランジェ、ユートは戦いなど何一つ知らない生活を送っていたとの事。


 神剣がなければスピリットも人と変わらない。

 ならば、エトランジェもそうであると考えるべき。


 その状態であれだけの動きができるなら、彼は天賦の才を持つ戦士であり……『求め』を手にすればその力は、どれほどになるのだろう。



「これよりお前はわが国のエトランジェとして戦うのだ。この娘の命が惜しければ、な」



 それを、この父は失うことをどうとも思っていない。

 反抗したら処刑すればよい、どうせ逆らえないのだから、と思っている節すらある。

 

 確かにカオリもエトランジェ、神剣を扱える可能性はある。

 けれどあの娘は優しく弱く、とても戦う事などできないだろう。

 戦う理由も能力もないだろうカオリは、とてもユートの代わりにはならない。

 ユートを戦わせる私の台詞ではないが……せめてカオリを戦わせないために、二人への謝罪を込めて、私の全力を尽くして。



 ユート、貴方を守ります。

 だから貴方もカオリのために、剣に負けることが無きように……








あれ、どうして後半シリアス気味なんだろう。

しかも分量的に、こっちが主役なんじゃね?






折角なので、誰得だけど縛りの内容を書き込んでみる。



使用可能キャラクター
 アセリア、エスペリア、オルファリル、ウルカ、セリア、ネリー、シアー、ヒミカ、ナナルゥ、ハリオン、二ムントール、ファーレーン、ヘリオン、イオ


使用禁止キャラクター
 高嶺佳織、倉橋時深、碧光陰、岬今日子、E・アセリア、E・エスペリア、E・ウルカ、E・オルファリル、E・ユウト、E・キョウコ


限定使用キャラクター
 高嶺悠人

高嶺悠人の使用可能条件
 ・ゲーム開始からサードガラハム討伐戦まで
 ・ラキオス奇襲防衛時の「動力炉防衛」
 ・マロリガン攻略戦の「砂塵の決闘」
 ・サーギオス城内戦の「求めと、誓い」(ただし、最初の1ターンのみとする)


難易度条件 ノーマル・1周目


以上の条件に従い、『永遠のアセリア(PS2版)』を開始する。



[19819] 2人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/06/25 14:06
 エスペリアの防御、アセリアの斬撃、(ほとんど牽制レベルだけど)オルファの魔法。

 正直、敵は滅茶苦茶弱かった。



「いえ、ユート様の的確な指示があってこそです」

「でもエスペリアが指揮を取るなら、同じ戦法にしただろ?」

「それはそうですが……」



 やってることは単純。

 後衛を盾が守り、その間に前衛が敵をなぎ倒す。

 まあエスペリアの説明聞いてれば、それ以外の選択肢なんてないしな。



「というわけで、俺がいなくても何とかなりそうなので」

「なので?」

「そろそろ次の敵が来る頃だけど……悪い、ちょっと用を足してくる」

「……分かりました、くれぐれもお気をつけて」



 赤くなっちゃって。

 エスペリア、可愛いなぁ。











 それに気付いたのは、本当にただの偶然。

 用を足し終えた瞬間に、ふと思い立ったこと。



「……あれ?『どこに敵がいるか分からない状況で単独の立ちション』ってこれ、死亡フラグじゃね?」



 咄嗟に、ジッパーも開いたまま横っ飛びに転がる。

 いや、本当はサイドステップするだけのつもりだったんだが……爆風で、吹き飛ばされたのだ。

 たった今、俺が立っていたその場所こそが、爆心地。

 その時背筋が冷えた俺を誰が責められるだろうか、いやむしろ褒めるべき。



「あ、あぶねー……」

「――全く悪運の強いことだ、一撃で確実に仕留めてやろうと思ったのだが」



 底冷えする声。

 目をやれば鮮やかな真紅の髪と瞳の美人が、丁度草むらから現れる。



「それと――」



 だがこちらに向けた双剣が、全力で彼女は俺の敵だと主張していた。



「――そのみっともないモノを早く仕舞え」

「ならこのタイミングで攻撃するんじゃねえよっ!?」











 竜巻のような攻撃、と言えばいいのか。

 双剣、つまり赤スピリットの近接戦闘力を馬鹿にしていた俺は、早くも後悔していた。


 左、右、左下、左上、右下、右――


 双剣が扱い難い武器なのは認める。

 だが使い手のスペックが高いなら、そんなのハンデにならない。

 そりゃそうだ、例え手足を縛ってあってもフリーザ様に戦闘力5で勝てるわけがないからな。

 今のところ攻撃の軌道が見えているから、バカ剣で受けられるのが救いではあるけど。


 ――逆手の刃で斬り上げた、次の順手での切り払いにバカ剣を合わせて力任せに飛び退る。



「エトランジェ、流石だな。神剣を使いこなせていないようだが、アベンジャーと呼ばれたこの私を相手に仕切り直しまで持ち込むか」

「……っ、はぁ、っはぁっ、っは、はぁぁぁっ……」



 ……大きく深呼吸して息を整えるけど、正直、もう戦えない。

 敵の声もほとんど聞こえてない。

 バカ剣の強度がアホみたいに高いせいで盾にできたけど、もう握力が保てない。

 ゴールしてもいいだろ、これ。



 どうして俺は、エスペリアを呼ぶなり何なりしなかった?

 どうして俺は、戦ってるんだ?

 どうして俺は、こんな所で命のやり取りなんかしなきゃいけない?



 エスペリアは戦闘中だ、今呼んでしまえば自分が死んででも来るだろうがそれは困る、まだアイツには居て貰わないと。

 俺が戦うのは、死にたくないから。

 そして俺はあの日自分の運命を差し出したから、こんなクソッたれな世界に居る。



 そうか。

 あの日俺が佳織を助けるために契約した悪魔は、バカ剣、お前だったのか。

 俺が売り渡した運命に、お前は俺以外の運命まで巻き込んだのか。

 それがお前のやり方で。

 それが、俺があの日支払った代償か。


 なら――



「赤スピリットを相手に、間合いを取ることの意味を教えてやr――」


(――奇跡の代償を踏み倒されたくなかったら力を貸せ、『求め』!)

(…………煩いぞ……契約者よ)











 もうボロボロなんです。



「……ユート様、大丈夫ですか!?」「パパ、どうしたの!?」

「もう無理早く帰って寝たい」


「申し訳在りません、戦闘中とは知りませんでした。こちらも手が離せず……如何様にも罰を」

「じゃあ悪いけどエスペリア、辛いからちょっと肩貸してくれ。あと、そう言えば倒したスピリットがこれ持ってたんだけど、機密文書ってこれじゃね?」

「――はい、確かにその通りですが。ユート様、お一人で敵を……?」

「ああ、ほぼ相打ちだったけど……砂で目潰しした一瞬の差で俺が勝った」


「「……」」



 頑張ったはずなのに二人の目が冷たい。

 どうしてだろうね。











序盤だけちょっとシリアスになるニート。

ここから下がる予定です。



[19819] 3人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/06/27 23:33
 永遠神剣を持つ者と持たない者の差は何かと言えば3つ。

 体がマナで構成されていること。

 神剣の加護による、非常識なまでに高い身体能力。

 そして神剣魔法。



「OK?」

「ええと……大丈夫か、という意味でしたね?」

「あ、うん」

「はい、大まかに言ってその認識で間違いないと思います。私たちにはハイロゥがありますが、ユート様にはありませんから」

「じゃあエスペリア、忙しいところ悪いけど神剣魔法教えてくれ」

「……え?」

「この前の戦闘は魔法喰らっても生きていられたけど、やっぱりあると便利だから」

「あの、神剣魔法なしで戦われたのですか?」











 俺だって、決してアホの子ではないのだ。

 むしろテストの成績で言えば、秋月や光陰に及ばずとも今日子よりは確実に上だったのである。

 ……勉強量は今日子以下だけどな。

 アイツはなるべくいい点数を取ろうと、出題範囲を満遍なく勉強するからダメなんだ。

 テストの極意とは、範囲の40%だけを覚えること。

 可能なら俺のように、先生が出したがるポイントを絞り込むと効果倍増。

 そうすれば、3時間で赤点脱出も楽勝となる。



「……さて」



 『神剣魔法を習得したいです』と言った俺にエスペリア先生が提案したのはなんと、パワプロでお馴染み『精神練習』である。


 何でも、神剣魔法とは要するにイメージでどうにかするものらしく。

 『燃えろ!』って言うと炎が出たり、『傷よ治れ!』って言って治った姿を思い浮かべると治ったり。

 青スピリットの詠唱が他の詠唱に割り込める程早いのも、『相手の魔法なんてなかった』とイメージするのが一番楽だから、だって。

 だからエスペリアは『精神を集中することでイメージを固めましょう』と言ったのだが。


 ここで問題なのは、俺の神剣魔法なのだ。


 スピリットは色でそれぞれ適性が分かるようになってる。

 青なら否定の氷、赤なら殲滅の炎、緑なら庇護の風、(見たこと無いけど)黒なら心の闇。

 ならばあとは白い光、と思いついたのはいいが。


 どんな効果があるのか、全く分からん。


 エトランジェなんて前例少ないし、そもそも神剣魔法についての資料なんて碌に残ってない。

 どうしよう。











「ユート様、どうでした?」

「無理。正直俺理論派だからさ、イメージとか作るの苦手なんだよね」

「理論派……? では方法を変えて、第二詰所の講義に出席して頂きましょうか? 確か神剣魔法はセリアの担当でしたから、理論に関しては大丈夫だと思います」

「セリア? 聞いたこと無い名前だけど、予備役のスピリットかな?」

「ええ、実戦レベルになったのでスピリット隊に配属されるのも遠くないと思います」

「じゃあ今のうちに、顔を合わせておくのもいいかもな」



 まあ授業はそれなりに聞いておこう。

 俺は、楽をするためになら努力を惜しまない人間なのである。

 あとエスペリア、何故に『理論派』で首を傾げた。



「……ユートは本番になってから、思いつきでどうにかしそうな気がする」



 うん、それお前には言われたくないからなアセリア。

 お前こそ理論とか思考とか無視して、直感とパワーで戦うタイプだろうが。



「あー、確かにパパはそんな感じかも」



 貴様もかオルファ。

 後でちょっと部屋に来なさい、シーン回想埋めてやr――



「――ユート様?」



 いえエスペリアさん、僕は何も言ってないです。

 なので『献身』とか包丁とか引っ込めてください。

 まあ、元々この話がPS2版ベースだからシーン回収とか無理だしなー……











 結論から言えば、俺が第二詰所の講義に参加することはなかった。

 次の日魔龍討伐任務が言い渡され、それどころではなくなってしまったから。


 そしてそれが類稀なほどの幸運だったと知るのはもっと後、本人を目にしてからのことである。









 次回はガラハム戦でしょうか。



[19819] 4人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/06/28 10:10
 風よりも速く走り、岩よりも揺るがぬ突撃で、雷よりも鋭い一撃を叩き込む。

 小細工が必要ない強さ、それがエトランジェ。



「――煉獄の炎よ!」

「勇者舐めんな!」



 肩から斜めに一閃した『求め』に手応えが伝わり、同時に喉が焼けるように痛む。

 どうして炎の中突っ切る時に、口を閉じることを忘れるのか。

 アホか俺。

 まあ閉じていた目は別として、それ以外の全身痒かったりピリピリしたりで大変なんだけど。

 これ、全身火傷だろ?



「エトランジェは抵抗力もたk へぶぅっ!?」



 右からくるブレインシェイクな一撃に、独り言すら最後まで言えずに吹っ飛ばされた。

 頬を伝う生温い感触に、自分が受けたダメージと……そしてそれだけのダメージを受けて、なお立ち上がれることでバカ剣の加護の凄さを実感する。



「痛ぇ、超痛ぇよぉ……」

「インフェルノから追撃まで受けて、それで済んでいる方がよほど異常だ」

「エトランジェに魔法はまず効かねーんだよ。殺したいなら、その剣で急所を狙うんだな」



 ゆっくりと立ち上がり、剣を構える。

 敵も右手一本で、双剣を水平に構えて腰を落とす。

 どうやらさっきの一撃は、左腕が使えなくなるくらいには効いたらしい。



「そのようだ、今度こそ死ね!」

「冗談っ!」



 地を蹴ったのはやはり同時。

 左から来るフック気味の一撃を、下から『求め』で弾き上げる。

 互いに剣を振り上げたような形から、俺の唐竹割りと奴の突きで相打ち。



 その未来を覆す、左足での蹴り上げ。

 俺のそれは狙い通りに、足元の砂を舞い上げる。



 スピリットの剣技は綺麗すぎた。

 無駄なく効率よく、最大速度で最大威力の連撃を叩き込む剣。

 確かにパチスロで鍛え抜いた動体視力があるとは言え、加護なしでも俺に剣筋が見えたのはそれが理由だ。

 次に効率がいいのはどの斬撃かを予測すれば、そこに攻撃が来る。

 つまりこいつら、ダーティな戦いには慣れてないわけで。



「何だこれは――」


「――忍法・畳返し斬り。この場合は砂塵返し斬り、でもいいか」



 行動不能となった一瞬で、スピリットは神剣ごと一刀両断されたのだ。











 という夢だったのさ。

 回想だけどね。



「死にたい死にたい帰りたい」

「小さき者よ、その剣はただの飾りか?」



 ドラゴン。

 それが象徴するのは王権であり、財宝であり、名誉であり。

 そして圧倒的な、力。


 一瞬で勝負は決まっていた。


 飛び掛ったアセリアは、その鞭のような尾の薙ぎ払いで洞窟の壁に叩きつけられ。

 それを見て警戒し、防御体制を取ったエスペリアに向けられたのは、大きく開いた口から放たれた冷気。



「素質は良い。だが妖精よ、我を討とうとするには未だ力が足りぬ」



 無茶言わんで下さい。



「さて、もう一度問う……異界の小さき者よ、その剣は飾りか?」

「飾りって事にしておきたいです」

「ならば、汝は見逃してやっても構わぬが。だが、我を討たんとする者は許せぬ」

「……どうするんだよ」

「まずはこの妖精達が来た町を滅ぼし、そしてそこにいる小さき者が逃げる先全てを破壊するとしようか」



 なんてこった。


 あの城には佳織がいる。

 アレでも二人きりの家族だ。

 俺はそれを、また殺されるのか?

 自分の運命を支払って助けた命が、こんなところで消えるのか?

 俺の運命の値段なんて、所詮その程度か?



「……冗談じゃない」

「どうした、小さき者よ」



(契約者よ……、汝、力を欲するか?)

 力を貸せ。今だけでいい。

 終わったら龍のマナを喰わせてやる。

 これなら、お前の利益にもなるだろう?


(……よかろう、再び契約だ。我は我の利益になる時にのみ、汝に力を貸そう)

 それでいい。

 だから、それ以外の時は俺に干渉してくれるな。



「行くぞバカ剣、力を貸せっ!」

「小さき者よ、その剣は飾りなのだろう?」

「例え、これが『ひのきの棒』だとしても。お前に、佳織を殺させるものか――!」











 真横から迫る巨木の幹。

 龍の尻尾が、俺にはそう見える。

 邪魔だ。


 右手で握り締めた『求め』を、横薙ぎに叩きつけて迎撃。

 その一撃で、龍の尾は中途から断ち切られた。



「■■■■■、■■■――!」



 龍が何か叫んでいるが、聞き取れない。

 ただ吼えただけかもしれない。

 どうでもいい、今はその息の根を止めるだけ。


 振りかぶられる右腕はその鋭利な爪が当たったら、オルファなどひとたまりもないだろう。

 だからタイミングを合わせて、大上段に振りかぶった剣を叩きつける。

 その勢いで地を蹴り、奴の顔面めがけて俺は跳んだ。



「アイ、キャン、フラァァァァイッ!!」



 開かれた口。

 冷気が収束していくのが、マナの流れに鈍感な俺でも分かる程。



「小さき者よ、汝に敬意を払うとしよう――■■■■■■」

「この野郎……っ、『来るな』、『来るな』、『来るな』ぁっ!」



 光の壁。

 俺の前に広がる八角形のそれが、冷気とレーザーに抵抗する。


 得意不得意はあっても、障壁は初歩の神剣魔法。

 そのイメージは『守り』『不屈』、そして『拒絶』。

 何が言いたいか?

 俺の張った障壁が見た目ATフィールドそっくりなのは、テレビで新劇場版やってたのが悪いってことさ。



「風よ盾となれ、ウィンドウィスパー!」



 さらに俺の後ろには、エスペリアの援護もある。

 サードガラハム、お前に俺は殺せない。


 そして俺を殺せないのなら、お前が死ね。



「……今なら無防備。敵を、倒すっ!」

「行くよ、ふぁいあぼるとっ!」



 オルファの魔法がほとんど効かないのはご愛嬌。











「さらばだ妖精よ、小さき者よ……汝の求めに、純粋であれ」

「……じゃあな、ガラハム先生」









今回ちょっと長いですね

アクション描写は苦手です。

でも好きな作品は軒並みアクションあり。

そして好きな作品はSS書きたくなる。困った。



[19819] 5人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/12 21:22
「エスペリア?」

「何でしょうか、ユート様」

「いや、ちょっとした頼みがあって」



 こればっかりは、流石にオルファやアセリアに頼むわけにも行かないしなぁ。



「……ユート様」

「何さ?」

「私を頼りにして下さるのは嬉しいのですが、もう少しオルファにも構ってやって下さいませ。あの子はユート様が大好きなのですから」

「まあ『パパ』とか呼び始めるくらいだし、それは俺にも分からんでもないけどな……OK、以後気をつけるよ」

「お願いいたします。それで、今日のご用件は何でしょうか?」



 今でこそ剣なぞ扱っているものの、俺は本来頭脳派なのだ。

 そして頭脳派には必要なものを、今の俺は持っていない。



「読み書きを教えて欲しい」

「……はあ」











 やあ。

 この度正式に、スピリット隊隊長に任命されたユートだ。


 おめでとう、なんて言ってくれる人も居るかもしれないが、俺からすれば決して喜んでなどいられない。

 何せスピリット隊ってのは(人間は認めようとしないが)メインの軍事力である。

 つまり、その隊長ともなれば参謀総長レベルの権限を得ることになる。

 もちろん責任も。


 確かに俺は現在、ラキオス最強の戦士とされているが……それだけで隊長職が務まるか?

 NO。

 隊長として人間サイドの指揮官との打ち合わせのために、ある程度書類が必要になる。

 逆に言えば。

 戦闘指揮とその書類仕事さえしていれば、俺は少なくとも隊長としての仕事をしていると言えるのだ。



「急にどうなさったのですか?」

「俺も隊長になったんだしさ。エスペリアにこの仕事をいつまでも丸投げ、じゃあ申し訳ないだろ?」

「ユート様……」



 そのためにはまず、読み書きを覚えなければどうにもならぬ。

 あれエスペリア、どうして『献身』とか持ってきたの?



 シャキッ

「……本音をおっしゃって下さい」

「書類仕事と戦闘指揮さえすれば自分が戦わなくても隊長で居られると思ってました、サー」



「本当に戦いたくないのですね……そのために、お嫌いな勉強ですら厭わないほどに」

「痛いし辛いし、疲れるからな。それと比べれば読み書きを覚えるくらい大したことないよ」

「……分かりました。ただ、他の娘の前ではそのような発言は謹んで下さいませ」

「努力はする、ただし約束はできない(キリッ」



 最近、どうもエスペリアが俺の思考を理解して来ているようで困る。

 初めて会った時はあんなに純粋だったのに。

 何が悪かったと言うのだろう。











「ヒミカ・レッドスピリットです。ユート様、よろしくお願いします」



 ラキオススピリット隊の攻撃の要。

 それが、今回俺の指揮下に入ったこの赤スピリットらしい。

 第二詰所では、剣技の指導教官もある程度兼ねているとのこと。



「ああ、こっちこそよろしく頼むよ。あと、俺に敬語とか必要ないから」

「はあ……?」

「そうだ、今までどんな感じで戦ってた?」



ネリーやシアーに聞いてもしょうがないだろうし、ヘリオンは始終慌ててるから会話にならないし、ハリオンは話すと疲れるんだよ……



「え、ええ。私とセリアが前線で攻撃指示を出しつつ切り込み、後方支援と防御に関してはエスペリアが指揮を担当していました」



 ふむ。

 やっぱりエスペリアから聞いてたのと大差ないか。

 俺には『求め』があるとは言え、指揮の経験が足りないし……



「……あの、ユート様?」

「お、何か質問でもある?」

「いえ、敬語が必要ないとの事ですが……」



 だって何か偉くなった気がして恥ずかしいじゃん。


 実は俺、未だにエスペリアが朝起こしに来てくれるだけで胸がときめくお年頃なのだ。

 佳織とは違うのだよ、包容力とか胸囲とかメイド力とかがな。



「要らないよ、エスペリアみたいにそれが性格だって言うなら止めないけど。でも俺、尊敬されるようなことしたわけじゃないからな」

「いえ、ユート様は龍を討伐した勇者ではありませんか」



 あの龍も、別に殺さなくても良かったと思うんだけどなあ。



「……そもそも、俺が倒したわけじゃないし……まあいいや、とりあえず戦術に関しては今まで通りで」

「ユート様はどうなさるのですか?」

「俺は、全体の総指揮と索敵に集中したい。つまり俺の下にエスペリアとヒミカが付いて、そこから実際の指揮が入る感じで。とは言っても、戦闘中はほとんど丸投げになるけどな」



 現場を知らない無能な上層部が、余計なこと言ったせいで負けるのはお約束だからな。



「正直、ユート様の戦力は惜しいですが。確かに、周囲に気を配らずに戦えるのは有難いですね」

「神剣相手の索敵なら任せてくれ、伊達に第四位じゃない」



 伊達にアセリアとの隠密訓練でボコボコにされて鍛えられたわけではないのだ。



「ところで……ユート様、失礼ですが指揮に関しては?」

「ん、盤上模擬戦では今のところほぼ互角、やや俺が有利かな。最近手加減がなくなってきてるから困る」

「……まさかエスペリアと、ですか?」

「ああ。リクェム料理が夕飯に出てくるかどうかを賭けるんだけどさ、どうしても俺に食べさせたいらしくて」







実は盤上戦、何気に強い設定のエスペリアとニート。

ニート≧エスペリア=レスティーナ>セリア≧ヒミカ=ファーレーン>その他、ぐらい。


会話メインだと書きやすい。



[19819] 6人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/16 23:41
「ヒャーハハハハッ!! 脆い、脆いよなぁ!?」



 ラセリオにて。

 物見台の上から戦況を俯瞰し、敵のスピリット隊に対して哄笑を浴びせるその姿。

 どう見ても悪役にしか思えない。

 こんな人を英雄として祭り上げる自分の国が、少し不安になった瞬間だった。











「セリアは前で敵の攻撃を食い止めろ、ナナルゥは力を温存しながら敵にプレッシャー! 無理に敵を倒そうとするなよ!」



 背後から響く声に、私の心は揺れる。

 突然隊長に就任したその男はエトランジェであり、第四位という高位の神剣を持っていながら自ら戦おうとしない。

 せめて神剣魔法で援護してくれれば、もう少し楽になるはずなのに。

 安全な後方から指示を出し、私たちスピリットを戦わせるばかり。

 これでは、人間と何ら変わりない。


 ――けれどその指示の内容だけが、奇妙だった。



「防衛は万全、地の利は我にあり……おまけにここで時間さえ稼げれば、本隊がリモドアにいるこっちが有利。無理をするな、何としても生き残ることを考えろ!」

「……了解です」



 その判断は戦術的に正しい。

 だが同時に、本来不可能な判断。


 私とナナルゥでは防御も回復も不得手。

 エトランジェが参戦すれば別だったかもしれないが、それでも苦しい戦いになっただろう。

 捨て駒になる覚悟すら持って、この戦いに臨んだというのに。


 それを可能にしたのが、彼の専守防衛戦術。

 そしてそれ以上に、あり得ないレベルで整えられたラセリオの防衛体制だった。











「……お疲れ様、助かったよ」

「ユート様こそ見事な指揮でした」



 軽い嫌味、このくらいは許されるだろう……まあ、気付かないほど愚鈍ではないと思う。

 その程度には、この人の指揮を評価している。



「一応言い訳しておくぞ?」

「何をですか?」

「俺が戦場に出なかったことさ。敵からすれば、これは最大の切り札が見えない状態だ」



 確かにその通り。

 エトランジェがいると分かっていれば、当然敵はそこから注意を逸らすことなど出来ない。

 伏せ札は伏せてあるからこそ効果を発揮する、とも言える。

 現に、敵はその兵力の一部を常に警戒に割り振っていたため、全力で攻め切れていなかった。



「そういうこと。まあ、セリアとナナルゥが頑張ってくれたから俺が出なくて済んだんだけどな。アレがネリーとかオルファなら、絶対フォロー入らないといけなかったし」

「私たちの活躍よりは、状況が味方したと言うべきかと。ラセリオは、いつの間にこれほど防衛に向いた都市になったのでしょう」

「……そう言えばあの姫様、意外と話せる人かもしれない」

「……どういうことですか?」


「俺がラセリオ防衛計画を出した時、大臣は『敵が攻めて来ない場所にエーテルは費やせない』とか言っててさ」

「はあ」

「けど姫様が『エトランジェに全権を委ねます』って言ってくれたからごり押しできたんだよ」



 今度話す機会があれば……でもエトランジェにはそんなもんないかなー、などとのたまう男を他所に、私は静かに戦慄していた。


 このエトランジェが。

 ラセリオへの敵の来襲を予測し、完璧とも言える防衛計画を立て、そしてたった2人のスピリットを指揮してバーンライトの特殊部隊を退けたのか。



 緊張感のない横顔に何かを感じたのは、決して私の気のせいなどではない筈だ。











「……サモドアが、陥落しましたか」



 それは、バーンライト王国滅亡を意味する。

 私が生まれる前から続いてきた確執……バーンライト、ダーツィ、そしてサーギオス。

 その1つがユートとカオリが現れた途端、あっさりと消え去った。

 まるで、歴史が動き出したとでも言うように。


 かつての四英雄のような活躍を期待し、それ故に勝利を当然と喜ぶ父様や貴族たち。

 だがエトランジェの力を、ユートはほとんど発揮していないと聞く。


 ならば、エトランジェが現れたことで歴史が動き出したのではなく。

 彼こそが、歴史を動かす者なのではないか。

 私は私の目的のために。

 何としても彼だけは、味方にしておきたい。



「ユート。貴方は、私に――」



 ――期待させて、くれますか?








 冷静なキャラは書き易いので出番が多くなりがち。

 そして身内以外からの評価が理不尽なまでに高いニート。


 あ、第1話に縛りの内容をうpしたのでよろしければご覧下さい。



[19819] 7人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/20 11:46
 佳織の手料理。

 料理スキルに乏しい俺からすれば、この食事は非常にありがたいものである。



「そう言えば、もうそろそろテストの時期だな」

「うぅ、思い出させないでよ……」

「佳織は俺と違って成績いいし、大丈夫だろ。俺もそんなにヤバくないし、むしろ心配なのは今日子だよな」

「私は勉強してるから……でも、成績キープするのもそれなりに大変なんだよ?」



 困ったように眉を八の字にする佳織。

 俺の台詞の前半にだけ答えるあたり、どうやら佳織ですらフォローは難しかったらしい。

 ならばせめて触れないでおいてやろう、という優しさを見た。



「成績ね……そういや聞こうと思って忘れてたけど、志倉からの話はどうなったんだ?」

「うーん、お兄ちゃんに迷惑は掛けられないし、断ろうかな、って」



 勿体無いなあ。

 佳織の音楽の才能、捨てるのは惜しいレベルなんだが。



「別に迷惑しないけどな。俺は勉強嫌いだから進学する気はなかったしさ、金銭的にも奨学金とか使えば大丈夫だろ?」

「そうだけど、いつまでもお兄ちゃんに頼りっぱなしなのも……」

「遠慮するなよ。もし悪いと思ってるなら、早く偉大な音楽家になって俺を養ってくれれば泣いて喜ぶ」



 冗談交じりの言葉にあはは、と苦笑で返す佳織。

 常日頃働きたくない、と言っている俺に対して思うところもあるのだろう。

 パチスロで稼いでくるたびに「ギャンブルはダメだよ~」と泣きついてくるし。


 実は佳織に渡す以上に稼いだ分を、敢えて別の日に負けてくることで出入り禁止を防いでいたりするのだが……まあ、それは秘密にしておこう。



「まあ音楽を続けろと強制はしないし、佳織がしたいようにすればいいさ。俺は出来る範囲で応援してやるから」

「……うん」





 それは平凡な日常の欠片。

 俺たちが、まだ壊れてしまう前の物語。











「エスペリア、いるー?」



 返事は返ってこない。

 まあ、エスペリアも忙しい身だしな。

 家事全般に加えて戦闘訓練、そして何やら最近はお姫様に呼び出されることも多い。

 俺も家事くらいできればいいのだが、正直それほど得意でもない。

 ……実際は『やりたくないし、やってくれる人がいるからいいや』という状態なんだけど。



「万年筆のインク、切れちまった……」



 苦楽を共にした相棒は、今や力を失いただの鉄くず。

 残念ながら小遣いでも貰っていれば、自分で買いにいけるのだが。



「あれパパ、どうしたの?」

「あ、オルファか。欲しいものあったんだけど、エスペリア知らないか?」

「エスペリアお姉ちゃん……? さっき、買い物に行くって街に出たよ?」



 ……むぅ。

 エスペリアが財布を全て管理していたはずだし。



「じゃあ、仕方ない。なあオルファ」

「え、パパ遊んでくれるの?」

「それはまた後で、今日の訓練終わったらな。あと、コレのインクの予備ってある?」

「んー、ごめんね。ちょっと分かんないや」



 街に出るしかないのか……すれ違いにならなきゃいいけど。











 そして、どうしてこうなった。



「それワッフルじゃないよ、ヨフアルだよっ」



 市場を彷徨っていたところ、紙袋を抱えた女の子に捕まってしまったのだ。

 何故かは知らないが、いきなり声をかけられて強引にこの高台まで連れてこられ、さらにお菓子までごちそうになっている。



「……? 何、私の顔に何か付いてる?」

「いや、ワッフ……じゃない、ヨフアルまでご馳走になって悪いんだけどさ。俺、君が誰だか分からないんだけど」

「あー……うん、私も知らないよ」



 いいのかそれで。

 基本的に城から出ない俺が知らないだけで、この国では逆ナンパが流行っているのだろうか。

 あるいは頭の弱い子なのか。

 もしくは美人局――それはないな、確かに可愛い子だが小さすぎる、うん。



「ちょっと、今何か失礼なこと考えなかった?」

「何も考えてないよ。それより、俺を知らないなら何でこんなところに連れてきたのさ」



 街を歩いていた限り割と西洋風の人が多かったし、俺の容貌が目立つのは事実だが。



「えーと、あ、そう! 一人で食べるのも寂しいじゃない!」

「君からすればとりあえず誰でも良かったから、ちょっと目立つ上に暇そうにしてた俺に目を付けたんですね、分かります」

「むー……とにかく、私の名前はレムリア。レムリアって呼んで?」

「分かった、分かったってレムリア。俺の名前はユート、高嶺悠人だ、これでいいか?」

「いいよ。じゃあユート君、折角だしもう少しお話していかない?」



 俺の知る限り、「折角だから」という言葉は偶然に対して使うものだったと思うのだけど。

 まあいいか、いざと言う時友達という名の味方は多いほうがいい。

 いつか、この出会いが俺にとってプラスに働くといいなあ。











「……しかしレムリア、お城の関係者かと思うぐらい警備に詳しかったなあ」



 小さい頃にお城に忍び込んで捕まった経験でもあるのだろうか。

 お団子にした黒髪が活発なレムリアには似合っていた。



「あれ?」



 お団子に出来るくらい長い黒髪。

 紫がかった瞳。

 人の話を聞かない強引さ。

 白を基調とした服装。



 誰かに似てるような気が――



「――ああ、あのヘタレ王が黒髪の美少女になるとああなるのか」



 残念だ、色々と残念すぎる。








残念なのはお前だニート。



[19819] 8人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/22 23:58
「戦勝の勢いを以て、引き続きダーツィ大公国に攻撃を仕掛けよ、か」



 好き放題言ってくれる、とは言えない。

 上の命令には逆らえないのが俺の宿命なのだ。



「ユート様、どうかなさいましたか?」

「いや……この戦争はいつまで続くんだろう、いつになったら終わるんだろう、と思ってな」



 確かにエトランジェの力は凄い。

 何度か使っただけだが、それは嫌というほど分かる。

 だからそれを手に入れた側が、つい有頂天になって戦争を仕掛けるのも分からないではない。

 今回の戦い、それを使わずに勝てたのだ。

 使えば次も余裕だろう、と踏んでいることすら容易に想像できる。


 でもそれって、喜んでエアガン振り回す子供とどこが違うんだ?



「――申し上げにくいのですが」

「いいよ、何でも言ってくれ」

「レスティーナ殿下からの書簡です」

「もう読んだんだろ? 内容だけ聞かせてくれるか?」

「『サルドバルト・イースペリア間に不穏な空気あり、要警戒』との事です」



 知らせてくれただけ有難いけど。

 どっちも龍の魂同盟じゃなかったのか。



「武器だって使い続ければ錆びる、磨り減る……なあエスペリア、俺達はあとどれだけ戦い続ければ平和になれる?」

「……すぐに、平和になるはずです。ですから、今は……」



 分かっている。

 エスペリアにこんなことを聞いても仕方ない。


 でも。

 俺はいつまでエスペリアたちを戦わせれば、解放される?

 あいつらはどれだけ他人から奪えば、満足する?

 俺は本当はただ、何もしないで――誰にも迷惑を掛けないで、のんびりと暮らしていければそれでよかったのに。

 そんなことすら、許されないと言うのなら……



「……エスペリア」

「はい」

「まずはいったん足を止めて、守りを固めつつ戦力の増強だ。それが終わり次第ヒエムナ、ケムセラウトの順で落とそう」











「カオリ、入りますよ」

「あ、はい。どうぞ」



 レスティーナ様。

 フルネームはレスティーナ・ダイ・ラキオスというらしい。

 人質となっている私に、色々と良くしてくれた人。



「それは……もう、本が読めるまでになりましたか」

「あはは、そうは言っても絵本ですから」

「いえ、このような状況かつ短期間で、新しい言葉をそこまで習得できるのは誇ってもいいと思いますよ」



 レスティーナ様がいなかったら、きっと私は今頃暗い地下牢に閉じ込められていた。

 感謝してるけど、それ以上に。

 美人で気品があって頭も良くて、私もそうなりたいと思ってる。



「カオリの世界の人々は、皆このように勤勉なのですか?」

「そうでもない、と思いますよ。私もそれほど勉強家ってわけじゃないですけど」



 勤勉、という言葉から程遠い人を知っているだけにコメントが難しい。

 お兄ちゃん、今も戦っているのかなあ。


 ……お兄ちゃんの評価は難しい。


 例えば今戦っているのは、何のためなのか。

 本人は自分のためと言うだろうけど、それが本心かどうかは分からない。

 行動は読めるんだけど、思考は読めないんだよね……



「ならば血は争えないということですか。ユートも書類を自分で作れるほど、読み書きを覚えたようですから」

「私、義妹なんですけど……お兄ちゃんは本気を出すと凄いからなぁ」

「……正直なところ、ユートの本気は底が知れないのですが」



 読み書きをマスターするほどの何があったんだろう。

 お兄ちゃん、滅多に本気なんて出さないのに。











「訓練は青と緑、次いで赤スピリットを重点的に、ね。これはユート様の指示?」

「ええ、そうですよ」

「私、ユート様自身が訓練してる所を見たことないんだけど」

「『どうせ剣を振っても筋力が付くわけでもないし』だそうです」

「あの人、やる気を根こそぎ奪い取るわね……エスペリア、疲れた顔してるけど大丈夫?」

「……ええ、ありがとうセリア。私は、まだ頑張れます」



 ところで。

 基本的に弱音を吐かないエスペリアの『まだ頑張れます』は、結構致命的な状態だと思うのだけど。

 それほどまでに酷いのだろうか、あの隊長。


 まあ、ひどいわよね。

 能力はあるだけになおさら。








色々な人の評価。


佳織がいい性格になってきました。強い子です。

ニートの性格は信用してても人格が信頼されていないのですね。



[19819] 9人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/23 20:13
 神速とも言える一閃。

 奴の姿が消えた、その瞬間俺は右前方に『求め』を押し出すように構えた。

 衝撃を感じ取る暇もなく、剣戟の音を聞き取るよりも早く。

 左下に向けて切り払い、続けて右脇腹を庇う。



「……エトランジェ、か」



 遅れて、三連の金属音。

 気がつくと、鞘に収めた刀を提げた侍はもう初期位置に戻っていた。



「まあな……とは言っても、今ので分かったろ? 俺じゃ、お前には勝てやしない」

「謙遜には及びませぬ。手前の剣を三合受けたこと、決して偶然ではありますまい」



 偶然です。

 本来なら障壁を張って凌ぎたい所だが。

 日頃の訓練をサボっていた俺は、一方向に対してしか障壁を張れないのだ。

 あの速さに対抗するなら、むしろ足を止めての殴り合いがベストだろう。


 次に連撃が来たら、確実に腕か脚をやられる。

 ……これがゲームならHPがある限り戦闘力が落ちたりしないし、急所に当たっても一撃で死んだりしないのだが。



「未熟ではありますが、訓練を怠らなければ良い剣士となれましょう。名を、お聞かせ願えますか」

「ユートだ。けど、できれば俺よりもアセリアを相手してやってくれ」

「先程の青スピリットですか。ユート殿、アセリア殿。その名、覚えておきましょう」

「……へえ、見逃してくれるのか?」

「手前の任務は、ラキオス軍以外に対する撹乱……そして、ラキオス軍への威嚇。もはや、戦う理由もありませぬ」



「ただし、シュン殿から伝言を預かっております」

「秋月……あいつも、この世界にいたのか。伝言の内容は?」











 昔から、そいつが気に食わなかった。

 運動会ではトップだったし、テストは軒並み百点だった。

 病弱ではあったものの秋月家の跡取りで、誰よりも優れていることを期待されていた僕にとって、そいつはひたすらに邪魔だった。


 両親を病気で亡くしたと聞いて、当時まだ小さかった僕は心の中で嘲笑ったものだ。

 お前ごときが、僕の邪魔をするから罰が当たったのだ、と。

 流石に今は僕も、そこまで不謹慎ではないが。

 けれど苗字が変わっても、やっぱりアイツは僕にとって邪魔でしかなかった。

 だが、僕が今アイツの事を気に入らないのは、そんな理由じゃない。



 アイツが、僕の足元にも及ばなくなった。



 自分が提案した家族旅行で両親を再び亡くし、打ちひしがれた時に。

 愚かにも、あの時の僕は言ったのだ。



「――義理の両親までついに殺したのか、この疫病神」



 それから、アイツは何もしなくなった。

 他人に直接迷惑を掛けない最低限の事だけはするが、それ以外の事はしない。

 その癖それに自分で気付かず、「自分は楽をしたがっている」と思い込んでいる。

 周囲は「事故のショックで怠け者になってしまった」と勘違いしたようだが、それは違う。


 アイツを壊してしまったのは、僕だ。


 僕にはアイツの考えが良く分かる。

 「余計な事をしなければ、他人に迷惑を掛けなくて済む」「だって俺は、疫病神なんだから」


 アイツの心を折ってしまった者として。

 僕は、アイツに責任を取らなければならない。

 アイツを、立ち直らせなければならない。

 だから。



「悠人。僕がお前の敵だ、本気を出して――」



 ――僕を、殺しに来い。











「ユート様」

「ああ、エスペリアか」

「……イースペリアの件について、悩んでいるのですか?」

「間違っちゃいないけど、ちょっと違うかな」

「と、申されますと?」

「日頃の自分の訓練不足を痛感した」

「では、明日の訓練には――!」

「もう二度と『ここは俺に任せろ』なんて言ったりしないよ!」



 え、あれ。

 何でそんな涙目で『献身』振り上げてるの?

 俺何か悪いこと言った?


 ちょ、待って、いや、峰打ちとかそういう問題じゃ、アッーー!








国が滅んでいきますね。

次はサルドバルトだ!



[19819] 10人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/26 21:27
 サルドバルト軍は予想していた以上に多く、そして積極的だった。

 けれど。



「ユート様」

「おう、エスペリアか。どうした?」

「戦術について、お聞きしたい事があるのですが」



 守るだけなら余裕。

 そして。

 守りきった時点で俺たちの勝ちは確定している。



「何か気になることでもあったかな?」

「……いつも通りの専守防衛戦術はお見事です。ですが、こんな戦い方は戦術教本になかったのが気になりました」



 確かに、俺が以前借りた教本にもなかったな。



「この戦術は、一体どこで学ばれたのですか?」

「自分で考えた」

「ユート様がご自分で、ですか?」



 話を少しだけ変えよう。

 スピリットの館には風呂がある。



「その理由をお答え下さい、緑コーナーのエスペリアさん」

「ええと、私たちの体は人間のそれよりも疲れが溜まり易いのです。それを癒すために、ですよね?」



 そう。

 エスペリアに背中を流して貰えないのは残念……いや、そうじゃなくて。

 碌に戦わない俺には微妙に分からないのだが、その疲れは野宿では取れないほど深刻なものらしい。


 ここで質問。

 スピリットを駒としか思っていない人間が、「疲れたから」なんて理由でスピリットが撤退することを許すのか?



「つまりこっちが守りを固めてれば、向こうは勝手に疲れ果てて行動すらできなくなる」

「……そう、なりますね」

「なら敵が元気な時に攻めるより、弱ってからタコ殴りにすればいいんじゃね? 俺も現場で指揮を取る以上、街からあんまり動きたくないし」

「……」

「あれ、どうしたのエスペリア?」

「……ユート様は、本当に発想が自由と言いますか、容赦がないと言いますか……」



 褒められてる気がしないのは、気のせいだろうか。

 あとエスペリアさん、素直にえげつないと言ってくれていいのよ?

 光陰で慣れている俺のハートは挫けない。

 あいつら、元気にしてるかなあ。











「よくやった、エトランジェ・『求め』のユートよ。今儂はとても気分が良い」

「……は」



 今日の晩飯何かなあ。

 リクェムが出てくることは確定してるんだよな……

 模擬戦で勝てなくなってきたからって、久々にお茶クイズで挑んでくるエスペリアさんマジ鬼畜。


 え、王様の話? あんまり聞いてないよ?

 それなりに付き合いも長い。

 中身のある話をする相手じゃないのは分かってきたし、適当に跪いて「……は」って言ってあげれば終わるし。

 そう思うと、このヘタレ王に対しての敵意も湧いてこない。

 何だろう、この慈愛にも似た生暖かい気持ちは。



「ふふふ、これで聖ヨトの血は正当な我々だけになった。正しき血筋によって、龍の魂同盟はあるべき姿に戻ったのだ」



 正当な血筋って、マナ消失引き起こしたり同盟相手を吸収したりを平気でするのな。

 戦争がこの世界の人間にとってゲーム感覚だとすれば、ゲームやってる時の俺とやること変わんないじゃん。



「……エトランジェよ」

「は」

「今回の働きは値千金と言えよう、何か褒美を取らせようではないか」



 むう。

 俺、アンタの家来じゃないんだけど。

 褒美って言われても、今欲しいのは自由……流石にそれはまだ早い。

 向こうだって、貴重な戦力を手放したりはしないだろう。

 同じ理由で佳織も解放しては貰えない、人質だからな。

 なら、選択肢は一つ。



「わたくしは何も要りませぬ。褒美が頂けるのでしたら、いずれそれに相応しき戦功を挙げてから頂きとうございます」



 従順さをアピールするしかない。

 不利な交渉なのは分かっているが、これも将来への布石だ、うん。

 あの姫が王になった時に、温情をかけてもらうとしよう。



「父様、この者の義妹を解放するのは如何ですか?」



 ……え?



「何を言っているのだ、レスティーナ。それはできぬぞ」



 ここは王の方が正しい。

 この姫は賢そうだと思ったが、読み違えたか?

 いや、それともそうする理由があるのか?



「この者はエトランジェ、この国で戦う以外に帰る道はありません。それにどの道、我が王族には逆らえないのですから」

「やけに入れ込むな、レスティーナ……そう言えば、昔からエトランジェに興味があるようだったな」

「私は聖ヨトの血を継ぐ者、異邦人に魂を奪われるなど有り得ません」



 エトランジェですが、玉座の空気が最悪です。

 王は姫を疑ってるように見えるし、姫は「アンタ異邦人の力に魅了されてるじゃん、馬鹿なの?」とでも言いそうな視線を王に向ける。


 あと、聖ヨトの血にエトランジェって逆らえないのか。初めて聞いた。

 でもそれ、死亡フラグだと思うの。

 インド神話にいたよね、殺されない条件を付けまくった挙句、屁理屈で殺された奴。

 シェイクスピアにもあった気がするし。











 とりあえず、佳織は解放されることになったらしい。

 今後の忠誠を誓わされたけど、まあ別に逃げる気はない。

 だってここにいれば、最低限の頭脳労働してるだけでパーフェクトメイドにお世話してもらえるんだぜ?


 あと、マジであの姫が何を考えてるのか分からない。

 このくらいで俺が感激して忠誠を誓うと思ったか、あるいはどうせ逃げないと読みきったのか。

 本当に、佳織と話すのに飽きたから解放しただけなのか。

 一度でいい、1対1でお話したいところである。








最初の謁見で無駄に逆らわなかったせいで、エトランジェの設定を知らなかったようです。

そして第2章クリア。この章だけボスがいないんですよね。

次は日常編でしょうか?



[19819] 11人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/28 11:36
「よう、佳織」

「お兄ちゃん……」

「俺、佳織に謝らなきゃいけないことがあってだな」

「うん、何?」


「佳織がこの世界に来たのって、俺が『求め』と契約したからなんだよ」

「……知ってるよ。お城で読んだ絵本の勇者様も、そうだったから」

「絵本?」

「うん、昔々の神剣の勇者様のお話。お兄ちゃんは、その勇者様の再来って言われてるんだよ」

「へえ……」



 このバカ剣と付き合うのはさぞ大変だったろう。

 俺は不干渉条約を結んでるけどな。

 そう言えばこの前、バカ剣と協力して新技開発したんだった……試す機会、ないといいなあ。











「よう」

「……え、あれ?」

「お久しぶり、レムリア」

「そうだね。こんにちは、ユート君」

「ああ、こんにちは」



 そう言えば、この高台はこの子に教えてもらったんだっけ。

 すっかり忘れてた。



「でも、会えるとは思ってなかったよ。今日ここに来たのだって、偶然だし……ユート君は?」

「俺は散歩してたら道に迷っちゃってさ。見覚えのある路地を辿ってきたところなんだ」



 暇だから散歩していたら、道に迷っただけである。

 この場所、レムリアのホームポジションかとも思ったが、ただの偶然か。

 場所選択式ギャルゲーだと、ヒロイン毎のホームポジションとかあるからなあ。

 あれ、俺の今の生活って擬似ギャルゲーじゃね?



「……綺麗な景色だよね」

「そうだな」

「ちょっと得したかな? ユート君に会えたらいいな、とは思ってたけど会えるとは思ってなかったし」

「淡い期待ってところか。ま、俺もここに来たのはこの前会ったとき以来だしね」

「あ、私もそうなんだよ……奇遇だね」



 しかし、期待されてたのか。

 俺と話しても、別に面白くもないと思うんだけど。



「ところでさ。こうやって偶然の出会いが2回続くのは、何かの運命だと思わない?」

「どうかな。1回目のアレを、そもそも偶然と呼ぶのかどうかが怪しい」

「でも、これは偶然だよ?」

「それはそうだけど……まさか赤い糸で繋がってる、とか言い出すのか?」



 勘弁してくれ。

 それだと、俺がバカ剣と契約してこの世界に来たのも運命って事になるじゃないか。

 もしくはいずれレムリアが、俺の世界に来る運命でもあったのか。



「ユート君の世界でも、そういう言い方するんだ?」

「あれ、知ってたの……って、そう言えば高嶺悠人って自己紹介したのに、一発で悠人が名前だって分かってたな」

「え、そうだっけ? とにかく、私は運命だって信じたいの!」



 ……まあいいか。

 細かいところ突っ込むと、キリがなさそうだし。



「でも、エトランジェって忙しくないの?」

「それはこの国を守ってるわけだから、それなりには。今日はたまたまやる事が少なかっただけ」



 俺にも自覚はある。

 自分のために国を守って、国のために敵を討つ。

 直接戦うのが俺でないあたり、微妙に締まらないのだけど。



「……ねえ、ユート君」

「ん?」

「この国、嫌い? ……誰も聞いてないから、正直に言って」

「難しい質問だな」

「……それは、どういう意味でかな?」



 文字通りの意味ですけどね。



「国って、そもそも何だろう……この国の王様なのか、土地なのか、国民なのか。その辺曖昧だよな」

「ううん……そっか。じゃあ、それぞれ答えて」

「土地なら好きだな、豊かな土地だし過ごしやすい」

「そうだね、私も好きだよ」



 中世ヨーロッパの、華やかなイメージそのままって感じ。



「王様はあまり好きじゃないな。いつも偉そうな顔してるし、顔に落書きしたくなる……ああ、でもあのお姫様とは一度話をしたいかな」

「そうなの?」

「ああ。思えば俺、微妙に何回かあの人に助けてもらってるから」



 エスペリアの時とか今回の佳織とか。

 好きにはなれないが、完全に嫌いにもなれない。

 強いて言えば要注意人物?



「国民だったら、嫌いじゃない」

「それは、私も含めて?」

「ああ。そりゃスピリットを差別する人たちはどうかと思ったけど、でも俺の世界にも差別がないってわけじゃないからな」

「……」

「レムリアみたいに俺と仲良くできる、そんな人だってこの国にもそれなりにいると思うんだ」

「……そっか、嬉しいよ。私、この国が大好きだから」



 俺にこれを聞いて、どうするつもりだったのだろう?



「ユート君」

「おう」

「私は今日はそろそろ帰るけど、ちょっとゲームしない?」

「1人でゲームとか悲しすぎる」

「違うよ、次に偶然この場所で出会ったらデートしよ?」



 デートね……、今までのもそれに近い気はするけど。

 どうして俺にそれほど執着するのやら。

 身の回りに男がいなかったりするのだろうか。



「時間も場所も分からない、二度と会えるかどうかも分からない運命的なデートの約束」

「ロマンチックだな」

「でしょ、手を繋いでお散歩して、私が作ったお弁当食べて……」



 ベタだな、とは言うまい。

 今日子に同じ事言ってハリセンが飛んできたことあるし。

 しかも佳織と小鳥にまで糾弾されるし。



「……いいよ、じゃあ次に会えたらデートに付き合う」

「ホント!? 絶対だからね!」

「ただし幾ら運命を引き寄せたいからって、弁当作って毎日うろつくのは禁止な」

「……運命を、引き寄せる……?」

「その分の食材を無駄にしたら、農家の人に申し訳ないからな。分かったか?」

「……うん。じゃあ、またね」

「ああ、またな」











 うっかり話し込みすぎて夕食に遅れ、エスペリアに怒られました。

 確かに俺が悪いんだけどさ。

 だからって、急遽リクェムの肉詰めを追加するのはずるいと思います。








スーパーレムリアタイム。

原作の会話を端折るのにちょっと苦労しました。



[19819] 12人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/29 08:37
「オルファ、聞いていますか!?」

「聞いてるよ~……」



 あーあ、また怒られてる。

 今日の訓練の成績悪かったからなぁ。


 メニューは精神訓練。

 剣を握ったまま精神を集中させ感情をフラットに保つことで、体内のエーテル制御を完璧にしよう、という訓練だ。

 オルファの場合、『感情を制御する』って概念がなさそうだし。



「まだ小さいから、アレは難しいんじゃないかな……」

「でも、お兄ちゃんは凄かったよね」

「おっと、佳織か」



 独り言に反応が返ってきて、ちょっとびっくり。



「感情がフラットに限りなく近いって訓練士さんも言ってたよ?」

「まあ、アセリアやナナルゥには負けるんだけどな……あいつらは雑念がそもそもないから」



 佳織の授業参観、ということで俺も珍しく訓練に参加した。

 疲れない訓練なら、参加するのもやぶさかではないのだ。

 精神集中は割と得意だし。

 パチスロ的な意味で。



「さて、じゃあ飯までには間がありそうだし、俺風呂入ってくるわ。覗くなよ?」

「覗かないよ……」

「いやほら、佳織にそんな気はなくてもオルファに唆される危険性があってだな」

「それはないから。今オルファは、エスペリアさんに怒られてるから」

「そうだった、じゃあ行って来る」

「ごゆっくりどうぞ」











「これは……まさかシナニィじゃ、ない!?」

「ふふふ、私のオリジナルブレンドを見切れる?」

「残念だったな佳織。俺は、その技を既に『経験している』……エトランジェに同じ技が、2度効くと思うなよ?」

「なら答えて、このブレンドを!」

「決まっている、こいつは――」


「――シナニィと見せかけたミクルー……だが、その答えはお前が用意したミスリードッ!」


「……正解は、ルクゥテとクールハテのブレンド以外にあり得ない! お茶の師匠(エスペリア)の名に賭けて!」



 俺たち、何やってるんだろう。



「流石だね、お兄ちゃん……私ですら、目の前でブレンドされなければ分からないほどの微妙な違いなのに」

「日々エスペリアと、激戦を繰り広げたからな」



 ちなみにこのブレンドは、つい先日エスペリアが俺に対して挑んできた切り札ブレンドである。

 勿論その時は見事に引っかかり、俺の夕食は地獄と化したのだが。



「こっちの世界で、俺は戦争ばかりやってたわけじゃないんでね」

「そうだね……でもこのままだと、お兄ちゃんは元の世界に戻る気失くしそう」

「確かにな。戦争が終わったら、誰かと一緒に喫茶店のマスターとか始める可能性はあるか」

「うわ、ものすごくあり得る……」



 難点って言ったら髪を短くしなきゃいけないところか。

 面倒だけど、それでも他の職業よりマシだろう。











「ところでお兄ちゃん、今気になる人とかいるの?」

「何を藪から棒に」

「『誰かと一緒に』って言ったから」

「俺が料理できないからなんだけどな……まあいいや、気になる人、か」



 アセリアは料理できそうにないので却下。

 エスペリアは……全部任せて良さそうだけど、小言を聞き続けるのは勘弁。

 オルファはあれでなかなか料理も出来るのだが、ロリコンの称号はいらんです。光陰じゃないし。

 佳織と兄妹で喫茶店もアリだが、それはそれでシスコン呼ばわりされる気がする。


 あ、気になる人いるじゃん。



「気になる人と言うなら姫様一択、だな」

「レスティーナ様?」

「ああ、何考えてるか分からないから一度話をしてみたくて。喫茶店にしても、看板娘がアレだったら話題を呼べそう」

「確かにレスティーナ様、綺麗だし優しいし格好良いし、お姫様って感じするもんね」



 料理の腕が未知数なのが不安点だけど。

 まあそこは、最悪俺がカバーすればいいのだろう。

 佳織から聞く限り、人格的にはかなり良く出来た人らしいし。

 一種の神秘性、カリスマまで持ってるあたり、『お姫様』の最終進化発展系っぽい。



「うんまあ、あのお姫様が喫茶店やるとは思えないけどな。若い天才貴族とかと結婚して女王即位、とかが妥当じゃないか?」

「……まあね」








着々とフラグ。

だがまだだ、まだルートは確定しておらぬ。



[19819] 13人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/30 21:21
「もう無理はしないって誓った矢先にこれだよ」

「……煩い、死ねエトランジェ!」



 やあ。

 いきなりのホットスタートだが俺、高嶺悠人。

 現在アセリアと一緒に、エーテル変換施設守ってる。



「……ユート」

「アセリア、こっちは気にするな、突っ込め!」

「……ん!」



 敵は黒黒緑。

 緑は支援魔法に集中するようだし、俺が1人抑えれば勝てるはず。

 本当は嫌なんだけどなあ。

 俺ずっと訓練してないから、エーテルの蓄積量が少ないんだよ。

 レベルで言えば、6ぐらいしかない。


 攻めに出る余裕はない。

 初手、居合いの姿勢からの斬り払いをバカ剣で受ける。

 次、左手を添えての斬り上げを飛び退いて回避。

 そして。



(今だバカ剣、アレやるぞ!)

(……良かろう)











「……アセリア、ユート様ッ!」

「パパ、大丈夫!?」

「あ、それ初陣の時にも似たような台詞聞いたな。大丈夫、3体来たけど全部アセリアが斬り倒した」



「ところでユート様、床が妙にこう……濡れているというか、ヌルヌルするのですが」

「うん、まともにやっても凌げたと思うんだけどな。ちょっと敵を牽制するためにテンタクラーを出したから、その液体が……」


「…………」


「大丈夫、アセリアにも被害出てないし、もう二度と使わないから。……ごめんなさい」











 スピリットの館に火を放たれるかもしれないと思ったが、そんなことはなかったぜ。

 とは言え、もっと厄介な奴が出てきて厄介な状況になってる。



「ウルカ。お前が今回の襲撃の、指揮官だな?」

「ご覧の通り、と申しましょうか」

「……佳織を連れて行くのか?」



 館の上空。

 漆黒の翼を大きく広げ、そこに佳織を包み込むようにするウルカ。

 懐の佳織共々、謝るような目を俺たちに向ける。

 って、どうして佳織までそんな目で俺を見る?



「ごめんなさい、お兄ちゃん……私が行けば、もう誰にも手を出さないって、ウルカさんが」

「……ユート?」

「やめてくれ、アセリア。アレは間違いなく、今のお前よりも強い……エスペリア?」

「ダメです。魔法ではカオリ様まで巻き込んでしまいます……手が、出せません」



 だろうな、分かってた。

 俺たちにはどうすることも出来ない。

 いや、俺ならどうにかできる可能性もあるが……佳織を、確実に殺してしまう。



「シュン殿から、再び伝言です。正確にお伝えしましょうか」

「聞かせてくれ」



『佳織は僕のものだ。取り戻したかったら、追ってこい。僕がいる場所まで、這ってでもたどり着いてみろ』

『僕の『誓い』で、貴様の『求め』を破壊してやる』











 一夜明け。



「……レスティーナ殿下は、ご無事だったのですか?」

「私は、大丈夫です」



 『私は』、か。

 玉座の間に集まった側近達の落ち着かない様子、そしてレスティーナが玉座に座る姿。

 おそらくあのヘタレ王は、帝国のスピリットに殺害されたのだろう。



「……ユート」

「はっ」

「……いえ、何でもありません。皆、今は悲しむのではなく、成すべき事を考えましょう」



 一瞬こちらに向けられた、気遣うような視線。

 それを、俺は信じても良いのか。

 佳織は信じていたが、その優しさが本心なのかどうかが俺には分からない。


 だが。

 俺は佳織に、不自由をさせてはいけないんだ。

 この世界に巻き込んだ責任を取るために、佳織を一刻も早く解放しなければならない。

 そのためにしばらく力を借りるぞ、レスティーナ。








実は原作だと、前回と時間軸が繋がっているんですよね。

さて、第2章も終了しました。
次回もよろしければお付き合い下さい。



[19819] 14人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/31 19:56
「いや、しかし即位式はちょっと緊張したなあ」

「……こう言っては何ですが、ユート様はもう少し恐れを知るべきだと思います」

「エスペリア、最近容赦ないぞ」

「容赦していたら身が持たないと実感しましたので、少し自分に正直になろうかと思いました」

「それで少しかよ……いや、いいことだとは思うけど」



 レスティーナ王女、いや今はラキオス女王か。

 その即位式は、思った以上に簡素なものだった。

 だが一番驚いたのは、その席でレスティーナが俺に頭を下げたこと。


 勿論女王という立場がある。

 奴隷に限りなく近いエトランジェごときに対して、本当に頭を下げたわけじゃない。

 けれど「許されないことをしてきた」と認め、その上で対等の立場から「力を貸してくれ」と頼んでくる。

 彼女の立場を考えれば、これは最大限の謝罪と言ってもいいだろう。


 俺は佳織とは違う。

 人を1年やそこらで信用したりしない。

 けれど、そこまで俺に対して敬意を払ってくれるのなら、俺は今現在ラキオスの味方でいようと思う。



「……この発言は如何なものでしょうか」

「思ってることは正直に言わないと、誰にも伝わらないだろ?」

「あの場で処刑されても仕方ないことを、正直に言わないで下さい」

「即位式に血を流す奴はいないって。あと、俺だってちゃんと相手を見てやってるさ」



 あそこまで俺の顔を立ててくれるのなら、俺もそれに合わせてそういう立場である、と周囲にアピールしたほうがいいだろうしな。











「マロリガンとの交渉が上手く行けば、次の敵は帝国か……」

「そのために、今陛下が会見中なのでは?」

「まあな。無理だと思うけど」

「……ユート様は、本当に味方の心を折るのが上手です」

「待ってくれエスペリア、今回はちゃんと理由がある」



 今まで俺たちが戦ってきたのはバーンライト、ダーツィ、サルドバルト。

 敵は少しずつ強くなってきた。

 だがここで俺たちが帝国と戦うには、まだ少しばかり戦力が足りない。

 あと1段、踏み台が足りないのだ。


 ならば、マロリガンこそ次の踏み台になるんじゃないだろうか?



「何というか、そういう流れで動いてる気がしてるんだよな」

「流れ、ですか」

「そういう星の巡りと言うか、運命と言うか、台本と言うか……」

「気のせいだと思いますが」



 それは別としても、いずれにしても同盟は難しいだろうな。



「理由をお聞かせ下さい」

「分かったって、今度は真面目な方の理由だ。エスペリア、これまで俺たちは戦争に次ぐ戦争で勢力を拡大してきた」

「……はい」



 マロリガンから見れば、ラキオスは戦争国家になるだろう。

 帝国を倒すための同盟が終わり次第、ラキオスの野心はどこに向くのかと疑うだろう。

 そして帝国の持つエーテルまで得たラキオスに、対抗できる国などない。



「確かマロリガンは共和国だって話だよな?」

「そうですね」

「なら国民がそう疑った……いや、疑うかも知れないという時点で、ラキオスとの友好関係は築けなくなる」

「……」



 だって、それは自分の政治生命を殺すことになる。

 共和制は日本とそんなに変わらないはずだから、俺の想像はそう間違っていないと思う。











 誰かに見られている気がする。

 ラキオスじゃ感じたことのない視線。

 俺の姿でもなく、エトランジェとしての立場でもなく、もっとこう、何か深層的な名状しがたい物を見るような。

 誰だ?


 ――あ、あの人か。

 会見の前にレスティーナと少しだけ話してた、痩せ型のおっさん。

 マロリガン大統領だろうか?



「貴殿が『求め』のユート殿か」

「あ、どうも。ラキオスのエトランジェやってます、今後ともよろしくお願いします」



 どのくらい丁寧に言えばいいのか分からないけど。

 でも交渉決裂したらしいし、こんなものじゃないだろうか。



「……噂の程は聞き及んでいる。成る程確かに、戦いに向いているとは言い難い面構えだ」

「ははは。俺は剣士でもないし騎士でも、まして戦士でもないですからね」

「だが、いい目をしている」



 人を扱き下ろしといて持ち上げる、か。

 俺は今、何を見られた?

 俺の目から、この人は何を見た?



「……ふ、また会うことになるだろうな」

「俺と貴方が会うとすれば、それは俺が貴方を追い詰めた時しかあり得ない……違いますか?」



 だって、戦争が膠着するなら国家元首が出てくる必要ないし。

 ラキオスが負けるなら、大統領が出てくる前に俺は討ち死にしているだろう。



「さて、な。だが、確信した」

「何をです?」



「貴殿は間違いなく――本物の、天才だ」



 背を向けて歩み去っていく姿は、まるで「だからこそ負けるわけにはいかない」と宣戦布告するようで。

 俺はそれ以上何も言えず。

 ただ、見送ることしかできなかった。








クェド・ギンフラグ成立。


今思った。

このニート、そんなにボンクラじゃない、だと……!?



[19819] 15人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/07/31 21:55
 パタン、とエスペリアが黒い手帳を閉じる。



「私から申し上げる事項は以上ですが、どうなさいますか?」

「え、開戦までは待機してていいんだろ?」

「……ユート様。今のうちに、訓練や建設をしておくべきだと考えますが」



 しまった。

 そう言えばそうだったな……



「じゃあヘリヤの道の出口、ランサに訓練所と回復施設の建造を。詳細は後で書類出しておくから、担当の人に伝えておいてくれ」

「了解しました。訓練はどうしましょうか?」

「基本的には今のうちに自主訓練ってことで休みを取ってもらうけど……エーテルは青と緑に重点的に。あ、ただしヒミカは最優先で」

「青と緑、ということは白兵戦主体ですか」

「そのつもりだ。マナが薄くて魔法が効き辛いなら、剣で倒せば良い。勿論相手もそれは承知してるだろうから、緑も忘れずに」



 よし、じゃあ俺も昼寝に戻ろうかな――



「――ユート様?」

「分かったよ、ちゃんと書類出してから寝るよ……」











「……あれ、訓練場に誰かいる」



 青いポニーテールで、自主訓練をわざわざしている。

 セリアで確定だな。

 ネリーは絶対そんなことしない。



「よう、セリア。精が出るな」

「ユート様ですか。今日の訓練は終わりましたから、ここを使うのでしたらどうぞ」

「そういうつもりはなかったんだけど。少し話でもしないか?」



 あ、怪しまれてる。

 そりゃそうか、滅多に訓練にも出てこない名ばかり隊長の誘いだもんな。



「忙しいなら断ってくれていいよ?」

「……いえ、分かりました。場所はここで構いませんか?」

「ああ」

「では、失礼します」



 男女が膝つき合わせて、2人きりでお話。

 まあ、色っぽい話なんて出てこないと分かってるんだけどね。

 相手が相手だし。



「ではユート様、まずは何故訓練に出ないのか、聞いてもよろしいですか?」

「やっても意味ないからな。どうせエーテルは全部お前らに回してるし、剣を振っても筋力が付くわけでもない」

「実戦で勘が鈍る、という考えはありませんか?」

「そんなの、書類作りながら脳内で仮想敵と戦ってれば済む話だし。マナの体って、そのあたり楽だよな」

「……ユート様、相変わらず微妙なところで飛び抜けた力を発揮していますね」



 いやだってアレ、ただの作業だろ。

 むしろ脳の暇潰し感覚なのだが、何故かエスペリアは分かってくれないんだよなあ。



「で、聞きたいのはそれだけか?」

「……本当は、もう1つ訊こうと思っていました。私たちを、ユート様はどう思っているのか、と」



 難しいな。

 それは難しい、けど。

 強いて一言で言うのなら。



「……大人になった子供、かなあ」

「大人になった、子供?」

「うん、後ろからその活躍を見せてもらうって意味でも、いざという時に全責任は俺にあるって意味でも」





 結局セリアは微妙な顔をして帰っていったのだが、アイツは俺に何を期待していたのだろう?

 俺にそこまで気の利いた台詞を期待されても、正直困る。











 現在、アセリアお料理中。



「ユート様、ここは危険です! お下がりくださいっ!」



 うわぁ。

 エスペリアがマジだ。

 戦闘中でもこんな風に言われたことないぞ……って、それは俺がいつも後ろにいるからか。



「……ユート」

「ん?」

「大丈夫、任せろ」

「……そうか、任せたぞ」



 信じてる、とは言えなかった。

 失敗した時――まあ、正直確信してるけど――、アセリアがどれだけ悲しそうにするかが、分かっているから。



「信じるって、時に残酷だよな……」











 ……苦い。


 サラダだから、と安心していた自分が憎い。

 どうして安心できた。

 エスペリアのあの切羽詰った声と、今こうして疲れ切った表情から、何故ここに安全圏があると判断できた、高嶺悠人!?



「……とりあえずだ、アセリア。はっきり言わせて貰う」

「うん」

「しばらく台所禁止な」

「……!?」

「いや、食ってみろ。そしたら分かるから」



 ナンの皮のような物を手に取るアセリアは、いつもと変わらない様子でサラダに手を伸ばす。

 そしていつもどおりの量を乗せ、包む。

 その量はヤバいだろ、と言うか俺の感想から少しは用心しろよ。

 あ、頬張った。



「……!!」



 硬直。

 目のハイライトすら消えている。

 あれ、別に俺がマナを吸収した訳じゃないんだけど……



「……おいしく、ない」



 お、ハイライトが戻ってきた。

 悲しそうな顔。

 喜んで欲しかったんだろうなあ。

 フォロー、入れておくか。



「アセリア、こうなった原因は分かるか?」

「?」

「いいか、誰だって初めては上手く行かない。練習して上手くなる、それは剣の扱いも同じだろ?」

「……ん」

「だからまずしばらくは、ちゃんと教えてくれる人の言うことを聞け。エスペリアもオルファも、ちゃんと教えてくれるから」

「ん、分かった」








何気に原作にあった「惨劇再び」フラグを潰すニート。

まあ、ついでにセリアフラグも潰してますけど。

ちなみにアセリアのハイライトが消えるのは原作準拠です。
エスペリアも地味に消えてたり。



[19819] 16人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/02 16:11
 玉座の間に呼び出された。

 どうやら、俺に客が来ているらしい。

 オルファによるとスピリット、との事だが。

 俺を訪ねてくるようなスピリットに、心当たりなど……ないこともないけど、でも玉座の間っておかしくないか?

 それ、国家としての賓客待遇だぜ?



「お待たせして申し訳ありません、『求め』のユート、只今参りました」

「遅い! 呼んでからどれだけ経ったと思っているのですか!」

「……は」



 いきなり怒られた。

 悪いのは俺じゃないのに、俺に伝えるのを忘れてたエスペリアなのに。

 理不尽すぎる。

 まあ俺が怒られることでそれぞれの面子が立つんだし、文句は言わないけどね。



「――いえ、突然押しかけた私に非があります。お気になさらず」

「そう言って頂けると助かります」



 レスティーナと一緒にいたのは、確かにスピリットだった。

 杖型の神剣に赤い瞳、白い肌と髪……レッドスピリットだろうか?


 でも、姿以外にも何か違和感がある。

 何がおかしいかは分からないのだが、何かがおかしい。

 何と言うのか。

 本人が気付いてない骨折箇所を、第三者の視点で見た時のような違和感がある。


 最近違和感ばかり感じてる気がするな……。



「ラキオスのエトランジェ、『求め』のユート様ですね?」

「その通りです。今後ともお見知りおきを」

「私はイオ、スピリットです……出会えた事を、マナの導きに感謝します」



 仕草は落ち着いた大人の女性、とでも言えばいいか。

 俺の周りには今のところ自称お姉さんやメイドしかいないから、妙に新鮮だ。



「私は主の言葉を伝えに、ラキオスへ来たのです――ラキオスの聡明な女王レスティーナ様と、エトランジェ『求め』のユート様に、と」



 イオがレスティーナへと手紙を差し出す。

 蝋で封印してある手紙とか、初めて見たよ……

 それだけ重要な手紙なんだろうけど。



「預からせていただきます」











 読み終わった手紙は、即座にレスティーナによって焼却処分されてしまった。

 ……あれ、俺まだ読んでないんだけど。

 俺にも何かあるんじゃなかったの?



「分かりました、イオ殿。すぐに使者を出しましょう」

「ありがとうございます、主人も喜ぶでしょう……案内役を勤めさせていただきます」



 俺、置き去りで涙目。

 この会談、俺がいる必要はあったんだろうか。



「ユート、使者としてイオ殿に同行せよ。持参する書簡は四半刻の後、館に届けさせる。エスペリアを伴うが良い」

「……承りました」

「此度は国を離れる事が出来ぬ私の代理を、そなたに勤めてもらうことになる。くれぐれも、先方に失礼のないようにせよ」

「はっ」



 結局それだけかよ……本当に俺、何のためにここに来て怒られたんだ。


 それとも人前で話せない程、俺に手紙を渡せない程に重要なことだったのか?

 エトランジェの立場上、俺に手紙を渡すとなれば側近経由だしな。

 その側近にも見られたくない、と言うのなら分からなくもないが……。











「不純物を除き、純粋なる元素へと姿を変えよ――『ピュリファイ』」

「しかし何度見てもそれ、便利な魔法だよな……」

「その代わりに、と言うのも妙ですが。私には戦闘能力はありませんので、万が一の時はお願い致します」

「分かってる」



 イオの『理想』。

 戦闘能力はないが、生活に密着した魔法(火をおこしたり氷を作ったり)を使える神剣。

 まあ、イオの力なのか剣の力なのかは不明だけどね。



「……でも確かにある意味理想と言えば、理想なわけだ」

「ユート様?」

「いや、俺が元いた世界にはエーテル技術に似た物があってな。ただ、それは生活を便利にするのと同時に軍事利用もされてた」



 むしろ、最近は軍事研究のデータを民生に流用してるって噂すらあるな。

 良くも悪くも科学は力、とそういうことなのだろう。



「マナに関する技術も、今は軍事利用が主体だけどさ。こういう使い方ができるんなら、神剣ってのも悪いものじゃないと思う」



 俺はバカ剣のこと、嫌いじゃない。

 確かに最初はキンキン煩かったし厄介だったが、今じゃ滅多に喋らない。

 契約中だけは信用できるんだよな、こいつ。


 あれ、エスペリアが頷きつつ考え込んでるのはいいけど。

 どうしてイオが無表情にこっちを見てるんだ? 何か俺、地雷でも踏んだか?








次回おそらく賢者編。

そしてニートは自覚のないハイスペック。



[19819] 17人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/05 23:02
「……大、賢者殿?」



 本に埋もれて気持ち良さそうに寝てるこの女性が、世紀の大賢者と呼ばれるヨーティア・リカリオンその人だとか。

 よく寝られるな、こんな所で。



「……主人がお見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」

「いえ、俺たちは待たせてもらいます」



 流石に2度出直そうとは思わないが(三顧の礼の故事も三回目昼寝してたよな)、数時間程度待つくらいなら構わない。

 と言うか、起こして相手の機嫌を損ねるほうが怖い。

 今の俺たちは、ラキオスの代表だからな。











「ふーん……お前が、あの『求め』のユートか」

「どういう噂をお聞きかは分かりませんが、『求め』のユートです。初めまして」

「礼儀正しいのはいいことだ。だが、龍の魂同盟をひとつにした勇者とは思えないねえ……ただの貧弱な坊やじゃないか」

「俺は何もしていませんよ。全て女王レスティーナと、スピリットたちの力のおかげですから」



 ふむ、と頷く賢者ヨーティア。

 しかし変人とは聞いていたけど、本当に失礼な人だな……そうでもないか。

 何せ相手は賢者だ、賢者から見れば俺などはとても一人前の人間ですらあるまい。


 あ、そもそも俺エトランジェじゃん。人間じゃないんだったな。



「まあいいさ、真実はいつだって失望と同義だ。それと、堅苦しい話し方はいらないよ。ヨーティア、と呼び捨ててくれていい」

「分かった、そうさせて貰う。ああ、あとこっちは俺の補佐をしてくれてるエスペリア」

「初めまして賢者さま。ラキオスのスピリット、エスペリアと申します」



 腰を曲げる角度までも完璧な一礼。

 流石だ、エスペリア。



「アンタが『献身』のエスペリアか。バカが多い中で随分とまともな人材らしいな」

「いえ、そんなことは……」

「謙遜のしすぎも良くないぞ、エスペリア。この大天才がそう言ってるんだ、素直に誇っていい」

「……ええと、有難うございます」



 俺もそれは同感。

 エスペリア、スピリットとしてはオーバースペックなんだよな。特に知識面。

 あの黒い手帳が怪しい、と個人的には思っているけど。



「さて、挨拶も済んだしユート、ちょっとその辺に座ってくれ」











「おいユート、『マナ限界』とは何か知ってるか?」

「知らない。けど想像は付く」



 ラキオスに帰ってきた。

 行く時より人数も荷物も増えており、荷物持ちを手伝わされた俺涙目。

 こんなことなら、エスペリアくらいに荷物多くしとけば……いや、結局手伝うことになっただろうな。



「ほう、じゃあ想像で構わんから言ってみろ。レスティーナ殿も興味あるだろう?」

「そうですね、我が国のエトランジェが持つ認識はどの程度のものでしょうか」

「あまり期待しないで欲しいな……じゃあ、始めるぞ?」



 マナ限界とは、おそらくマナの総量に限りがあるということ。

 スピリットに訓練させていると分かるが、エーテル……つまりマナは、スピリット隊には一定量しか回ってこない。

 無限にマナがあるなら、それをスピリットに注ぎ込めば超強くなるはずだ。

 それをしないのは、定量のマナから軍事に回すと生活に使うマナが足りなくなるから。



「ふむ、ここまでは及第点だが……」

「じゃあもう少し言わせてくれ」



 つまり軍事拡張か生活向上をしたいなら、他国の持ってるマナを奪えばいいことになる。

 でも、実はそんな単純なことじゃないと思う。

 だって俺たちスピリット隊がこれまで侵略することで得てきたマナは、そこから奪ったはずの量よりも遥かに少ない。

 残りのマナが生活に使われてるとしても、ラキオスの生活水準が劇的に向上した様子もない。


 風の噂では、先王時代から内政はレスティーナの担当だったらしい。

 そして、レスティーナが理由もなく軍事を軽視するとは思えない。

 つまり俺から見ればレスティーナが何かのために、余剰マナを溜め込んでいると考えられる。

 例えば――



「――等価交換できるはずのマナとエーテルが実はそうじゃなくて、その損耗分を補填するため、とかな」



 あれ、反応がない。

 ヨーティアもレスティーナも、ポカンと口を開けて固まっている。


 確かに飛躍したことを言ってる自覚はあるけど、我ながらそれほど無理な結論じゃないと思っていたんだが。



「ユート、お前……何かエーテル関係の論文読んだことはあるのか?」

「予備知識なんて何もないぞ、今ふと思いついたことを喋ってただけだし」

「……ユート、貴方が今言ったことは、この世界の基盤そのものを揺るがしかねないのですよ?」



 分かってるさ。

 でも想像を話してみろって言うから。想像するのは勝手だろ?



「そして一番の問題は。それが、正しい予備知識も実験も証明過程もないのに、真実を言い当ててるって所だな……」

「え」

「私たちはそれを危惧し、命であるマナを消耗していくエーテル技術を封印しようと考えているのです」

「その旨を書簡で貰ったから、この大天才もラキオスに来たってわけだ」



 時々自分の才能が怖くなるね。

 実は俺、天才なのかもしれない。

 だとすれば俺、戦いが終わったら遊んで暮らせるんじゃね?



「しかし……残念ながら、私たちには直接的な力が不足しています」

「技術と頭脳も、流石に暴力には勝てないんでね」

「ですから改めて、ユート。私たちに、その力を貸してはくれませんか?」


「え? ああ、いいよ」





 俺の脳内は、戦後どうやって楽に暮らすかで一杯だったのだ。

 この時生返事を返したことを、俺は後に激しく悔やむことになる。








この天才、放置するのは危険すぎる。
いや、逆に放置しておけばただの自堕落で終わるかもしれない。



[19819] 18人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/08 09:16
 ラキオスにヨーティアが来てから、約10日。

 戦争――と言うより、むしろ戦後処理――の準備にレスティーナが追われていた間、俺は暇潰しに困る日々だった。

 スピリット隊は訓練してるし、街に出てみても俺に知り合いなんて碌にいない。

 エスペリアから渡された本は読破して内容もほぼ把握済み、ヨーティアの所に行けば遊ばれることは分かりきってる。


 まあ、夜小腹が空いた時にイオが食事作ってくれるようになったのは嬉しいけど。

 流石にエスペリアを起こすわけにもいかないし。



「で、ここに俺を呼び出したということは……いよいよ、なのか?」

「まあ焦るなユート。暇なのは分かるが、敵の戦力が分からんことにはどうにもならないだろ」

「別に焦ってるわけじゃないさ。戦わずに済むのなら、その方がいいに決まってる」



 直接戦闘がないとは言え、前線に身を晒して指揮を取る身。

 それなりに疲れるし、戦争になれば俺の書類仕事も当然増える。

 暇は潰せるけど危険が増える以上、総合ではマイナスか。

 やっぱり戦争は良くないよな、うん。



「……ではマロリガンの戦力について、我が国の情報部が調べた結果を話します」











「情報、意外と少ないな」

「すみません」

「……レスティーナ殿は良くやっているさ。しかし流石に、これなら私個人の方が詳しいかもしれないね」

「さっき言ってたな、デオドガンが防御すら出来なかったんだっけ?」



 デオドガンを一瞬で葬った、神剣に呑まれていない精鋭部隊。

 さらに、エトランジェと思しき2人組。



「とりあえず油断できない相手、ってのは分かったけどな」

「現場指揮官として、ユートの意見も聞きたいところですが」



 また無茶振りか。



「ん……当然と言えば当然、かな?」

「ほう、何がだい?」

「その精鋭部隊が神剣に呑まれていないってところ」



 結局神剣を使いこなすってのは、どれだけ効率よくマナを動かせるかだ。

 そして効率を上げたいなら、本人のイメージをより強固にして神剣に叩き込むことで、そのイメージを再現させなきゃいけない。

 剣に負けるような奴に、そんな精神力があるわけない。


 スポーツでも何でも、思考した通りに肉体を制御するのが強くなるための第一歩。

 多分。











「イオー、小腹が空いたから何か作ってくれー」

「……またですか」



 ここ最近、どうにも間食癖がついてきたような気がする。



「これはイオが料理上手なのが悪いと思うんだ」

「ほう。ユートも、なかなかどうして話が分かるじゃないか」

「はぁ……ヨーティア様が、2人に増えた気分です」



 エスペリアの料理も決して引けは取らない……いや、若干イオの方が上かな。

 いずれにせよ、エスペリアの料理が不満というわけじゃないんだが。

 しかし食べ慣れた味よりも、たまに食べる方が美味く感じる。


 ……俺、お茶にしてもこの世界で舌が肥えてきてる気がするな。

 大丈夫だろうか。



「分かりました、今何か作りますからお待ち下さい」

「サンキュ」





「イオは良い子だなぁ」

「グータラめ。イオも私も、少なくともお前より年上だけどね」

「……俺、ヨーティアよりは生活能力あるぞ」

「なら、料理はできるんだろうな?」

「俺が料理ができないと証明できるのか?」

「お前の性格からして、エスペリアが居る限りは料理を自分でする気にならないだろうよ」



 言い負かされた。

 ちょっとヘコんだ。

 何も、こんなところで賢者スキルを発動させなくてもいいのに。











「どうだグータラ、エーテルジャンプは上手く行ったか?」

「ああ、ちょっと酔ったような感じはあったけど。ところでアレ、俺たちを一時的に分解した上で再構築してるんだよな?」

「そうだ。エトランジェは元の世界だと生身の肉体だが、この世界に来る時マナを使用して肉体を構成するだろ? それと同じさ」

「俺という情報を別の場所に送信できれば、材料になるマナはあるんだから作り直せる、か……俺のコピーとか作れそうだけどな」



 と言うか、俺単体ならともかく『求め』まで分解してる時点で凄いことだと思う。

 一応第四位のはずなんだけど。



「コピー……写し身か? 残念だが、お前の心や自我を複写する手段が私にはなくてね」

「俺が2人いれば仕事量も半分になると思ったんだが……」

「いや、それは明らかに2人ともサボるだろう。まあ、それ以前に交代で剣を振るう羽目になるんじゃないか?」



 ごもっとも。

 今のように気楽ではいられなくなるだろうな。

 仕方ない、諦めるとしよう。



「ところでさ、これ分解したのが元に戻らなくなるってことはないのか?」

「少しは私を信用しろグータラ」

「いや、ヨーティアの腕は信用してるさ。ただ、敢えて欠陥品を作る気はないかな、と」

「そんな物作って何になる?」


「敵を直接マナに分解できれば、最強の防衛兵器になりそうな気がして」

「その発想はなかったな……だが、コイツは同意した対象以外には使えないんだ」



 無理、か。

 エーテル技術も、決して万能なんかじゃない。

 万能だったらそもそも、ヨーティアみたいな技術者が存在しなくて良くなるだろうしな。



「しかし待てよ、逆変換に引きずらせる形なら……いいやダメだ、大気中のマナがそれを緩和してしまうから、マナ消失地帯が必要だな」



 何を言ってるのか分からない。

 まあいいや、そろそろランサに戻って戦闘の準備でもしようっと。

 遅れてエスペリアに怒られるのは俺なのだ。








発想のフリーダムさが酷い。

もっと原作を見習うべき。



[19819] 19人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/09 23:43
 砂漠での防衛戦の中で。

 スピリット隊を補給のために下がらせたのは、我ながら失敗だったかもしれない。



「……ユート殿、そのお命頂戴致します」

「お前は俺を倒せる、と本気で思っているのか?」

「神剣の力、それのみが勝敗を決するわけではありませぬ。手前ならば、不可能では……ない」



 確かにその意見には賛成だ。

 そして事実、俺の剣術やエーテル量でウルカに対抗することは難しい。

 だから、ここで小細工の1つもさせてもらう。



「残念だったなウルカ。既にエーテルジャンプ技術の応用により、俺という存在は複数生み出されている」

「なんと……!」

「俺は数ある『俺』の中で最も弱い俺だ、その俺を倒せばどうなるか……分からないお前ではないな?」

「くっ……そも任務とは言え、手前もここでユート殿を討つのは本意ではありませぬ。ここは、退くと致しましょう」



 あ、本当に帰っちゃった。

 時間稼ぎのつもりだったのに。

 ノリが良いのか、頭が悪いのか、単純に真面目なのか。


 ……生真面目そうだもんなあ。











「ユート様、いらっしゃいますか?」

「クソ、また同じ内容か……露骨過ぎるだろ、これ」

「……ユート様?」

「ああ、エスペリアか。悪い、気付かなかった」



 書類の山から向き直り、ひとまずペンを置く。

 現実から逃げたわけじゃない。

 人と話す時は目を合わせる、基本だろ?



「いえ。お茶をお持ちしましたけれど……その書類は?」



 最近俺の仕事振りを信用する気になったらしく、書類がエスペリアじゃなくて直接俺に回ってくる。

 エスペリアが知らない書類なんて、昔はありえなかったんだけど。



「ん、ラキオス王城から進軍要請が出てるんだよ。『即刻進軍し、速やかにマロリガンを屈服させるべし』ってな」

「しかし我が国のスピリットは練度はともかく、数において劣ります。攻勢に出る戦力は……」

「ないな」



 何せ俺たちが勝ち続けてるのは、単純に専守防衛戦術と兵の練度のおかげだ。

 その辺が分からないレスティーナではない。

 俺もその程度には、彼女を信じてる。



「これ、レスティーナの周辺からは出てないんだけどな。各省庁の大臣クラスから揃って出てるんだ」

「同様の内容が、ですか?」

「一種の不敗神話が出来てるんだろうな……『エトランジェがいれば負けはない』、みたいなのが」

「ユート様が前線に出て頂ければ、話は変わるのですが」



 おっと、薮蛇だったか。

 とりあえず『陛下のご命令がない限り、私の独断で指揮を取らせていただきます』とでも返事を書いておこう。



「俺の事はさておいて。戦争は金が掛かる、きっとこの世界でもそうだ」

「故に早く終わらせたい、ということですか?」

「金のために戦力を失うことなんて、考えてもいない。スピリット育てるのも大変なのに、補充なんて簡単にできると思ってる」



 確かにスピリットは自然発生するらしいけど、でもそんな不確定なものを当てにしている。

 それどころか、長年の常識とやらで得体の知れない兵器を信頼しきっている。

 まさかこの世界には一部を除いて、『考える』という行動が存在しないのだろうか?



「今まで自分たちが安全だったといっても、流石に楽天的過ぎないか……?」

「……そこで『命が失われる』と言わないのが、ユート様ですよね」

「まあな。けれど、やっぱり思うことは――」



「――この世界は、どこかおかしいよ」











「ところでユート様」

「おう、まだ何かあったか?」

「先程の戦闘参加の件、私はまだ諦めていません。私たちに可能である戦闘と指揮の両立が、ユート様に出来ないとは思えません」

「全力で遠慮する。俺がいなくても、戦力が足りないって事はないはずだ」

「ですが、イオ様には既にユート様の訓練も依頼しておりまして」



 裏切りやがった。

 最近時々黒いよね、この子。



「……分かったよ。そのうち訓練に出られるよう善処する、これで良いんだろ?」

「分かりました、今回はこれで引き下がりましょう」








ニートが世界への疑惑を強めているようです。



[19819] 20人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/21 15:34
「……ねえ、パパ」

「どうしたオルファ、暑くて休憩でもしたくなったか?」

「オルファも休憩はしたいけど、それはパパの方じゃないかな……じゃなくて」



 砂漠は暑い。

 出来ればこの暑さは勘弁して欲しいのだが、夜に進むとなれば寒さに加えて暗闇が俺たちの敵となる。

 何せ、土地勘があるのは向こうなのだ。

 いずれにせよ、喋るのも億劫。



「じゃあ何だ? 俺も辛いから、今言うなら手短に頼むな」

「うん。あのね……」



「……パパって、病気なの?」











 思春期心因性自己認識不全症候群、とでも言えばいいのだろうか?

 オルファは、俺がそれに罹患していると疑っているようだ。


 三文字で説明しよう、邪気眼である。



「時々だけど、パパ、誰もいない方向に剣を向けてたりするよ。聞いても、『誰かが俺を見てる』って」

「いやホントだって! 最近、時々誰かに見られてるような気がしてるんだって!」

「……アセリア、何か気付いた事はありますか?」

「ん」



 首を横に振るアセリア。

 くそ、見捨てられたと言うのか。



「やっぱりパパ、前に話してくれた『ちゅうにびょう』になっちゃったんだね……」

「俺を哀れんだような目で見るな!」

「いいんだよ? 『えたーなるふぉーすぶりざーど、相手は死ぬ!』とか言っても」

「そろそろ俺が泣きそうなので勘弁してください」



 大体、今の俺の現状そのものがリアルファンタジーだっての。

 リアルファンタジーという言葉の並びが面白すぎるけど。

 と言うか残念ながら、俺本人はアレを発症しなかったしなあ……



「マロリガンの偵察兵、と考えるのが妥当でしょうか」

「それにしても、気配がそんなに離れてるわけじゃないんだよな。アセリアとオルファなら、何か感知できてもおかしくないと思うんだが」

「確かにアセリアは物理的な感知、オルファは神剣関係の感知能力に優れていますから」

「じゃあ身体能力と神剣の力、両方に優れた存在、か」



 それって要するに。



「……エトランジェじゃね?」











 訓練が一通り終わったのを見計らって、訓練場へと足を踏み入れる。



「よう、イオ。訓練はどんな感じだ?」

「ユート様ですか……ひとまず、順調ですね」

「それは良かった」



 まあヒミカからも訓練の質が上がった、と報告されていたし、あまり心配してはいなかったけど。



「ユート様がここにいらっしゃるとは珍しいですが、訓練をお望みですか?」

「いや、今は遠慮しとく。イオと1対1で戦ってたら、命がいくつあっても足りないな」

「そうですか。エスペリア殿からは訓練の希望があったのですが」

「エスペリアは俺が逃げるの分かってて一応言ってるだけだから、問題ないよ。それよりイオ、外から訓練見てたんだけど」

「ええ」



 最近本当に諦めモードだからなあ、エスペリア。

 一時期は訓練参加を賭けて盤上模擬戦挑んできたけど、十面埋伏喰らってからはそれもない。



「アレだけ強いんなら、戦闘参加できるんじゃないのか?」

「……それは、参加して欲しい、と?」

「いいや、ただの疑問。ヨーティアの助手はラキオスの客分、そんな事させるわけにはいかないって」



 そもそも、訓練や建設にヨーティアの世話と研究助手までしてるのだ。

 これ以上酷使したら、それこそイオが倒れかねない。

 珍しい白スピリットと考えれば、(言い方は悪くなるが)生きた研究資料でもあるだろうしな。



「私はハイロゥが展開できませんので、ご期待には添えないかと」

「あー。それだと剣は防げても、破壊エネルギーの余波は防げないよな……俺みたいにマナ放出して、力任せに防ぐんなら別だろうけど」

「効率が良くない防御方法ですからね」

「それを言われると辛いです」











 そろそろ、俺も訓練を始めた方が良いのかもしれない。

 マロリガンにエトランジェがいるなら、エトランジェに対抗できるのは王族かエトランジェしかいない。

 そして先代ラキオス王の例を考えた場合、レスティーナを戦場に出すわけにも行かないのだから。



 エトランジェ。

 俺がこの世界に召喚され、そして佳織も召喚された。

 召喚条件が俺と『求め』の契約だったことを考えると、召喚された人物の共通点が見えてくる。


 おそらくは俺と近い関係にあった人間の運命が、俺に引きずられているのだろう。


 ならば、あいつらも?








次回登場予定です



[19819] 21人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/22 18:11
 ふと、違和感のようなものを感じた。



「……ん?」

「どうしました、ユート様?」

「いや、あの岩なんだけど」



 道から少し離れた場所にある岩場を、そこからは見えないように指差す。



「私には、特に何もないように見えますが……まさか」

「最近は向こうも気配の隠し方が上手くなってるから、断言はできないけどな」



 一見何かあるようには見えないし、その向こう側の景色にも不自然さはない。

 でも――



「――その岩場、影の形が歪んでるんだよ。そこにいるんだろ、エトランジェ?」



 答えは、雷だった。











「やれやれ、折角俺の『因果』で気配を殺してたんだがな。流石にエトランジェ、そう上手くは行かないか」

「こっちは死にかけてるんだ、冗談じゃない」

「殺す気だったからな」



 懐かしい声がする。

 けれど、驚きはしない。

 むしろ驚くべきは、俺に剣を向けるもう一人。



「空気の光屈折率を変えての光学迷彩か。悪い手じゃなかったが……そんなことより、これはどういうことだ」

「見たままの事だと思うぜ、悠人」



 俺の知る岬今日子は、あんな空虚な目で「殺す」とか「殺してやる」とか言い始める女ではなかったんだが。

 そして俺を殺しに来るような、ヤンデレでもなかったと思う。多分。

 あ、そもそもデレがないか。



「エトランジェがお前たちなのは、俺も予想していたさ。だけど今日子のコレはどういうことだ、碧光陰」



 マロリガンの鎧と手甲に身を固め、雷の走る剣を手に俺を睨む今日子。

 そしていつものようにニヤリと笑って、巨大な双刃剣『因果』を担ぐ光陰。

 信じられない。

 今日子がこんな状態であることを、光陰が許容しているという事実が。



「答えろよ、光陰」

「お前なら分かるはずだ。『求め』と共に、様々なスピリットを見てきたお前なら」

「分かるけどさ。心の支えがあれば、そんなことにはならないはずだろ?」



 その瞬間。

 空気の読めない俺ですら地雷を踏んだ、と分かるほどに光陰の表情が変わる。



「そうだ。俺が今日子を支えてやれれば、こんなことにはならなかった……だが、もう『空虚』は侵食を始めてるんだ」

「今日子が喰われるまでの時間を稼ぐためには、戦うしかないってことか」

「ああ。俺が殺されてやっても良いが、それはお前と秋月が終わってからだ。そうじゃなきゃ、今日子がお前らに負けちまうからな」

「俺にはお前たちと戦う意志はない。それでも、ダメか?」



 軽く首を振る光陰。

 そうだろう。

 だって、あいつらは戦いのために戦うわけじゃない。

 俺を殺さなきゃいけないから、そのために戦うのだから。


 なら、俺の選択は1つしかない。











 悠人が少し考えたかと思うと、腰の無骨な剣――『求め』だろうな――を抜き。

 構えるかと思いきや、俺たちに差し出してくる。



「……おい、悠人よ。それは何の真似だ?」

「お前たちはマナが欲しくて、俺は戦いたくない」

「それでどうする気だ?」

「このバカ剣を砕かせてやるから、お前たちは俺たちと共に戦えばいい。お前たちがいれば、俺にはこの剣も必要ないんだ」



 なるほど。

 流石は悠人だ、俺たちじゃ考えも付かない解決策を提示してくる。

 だがな、悠人。



(提案を受けるのか、契約者よ)

(分かってる答えを聞くなよ)

(……)



 お前は、問題文のうち読んだ部分に解答しただけだ。



「悪くない申し出だけどな、お断りだ」











 耳を疑う。

 今、光陰は何と言った。



「お断りだ、と言ったんだよ」

「心を読むなよ」

「はは、悠人は裏を読むくせに裏のない奴だからな」



 何故断られた?

 アレが断られる理由はないはずだ。

 双方にとってデメリットがあり、そしてそれより大きなメリットがあるはずなのに。



「どうして俺の提案を断った、どうして受けるふりをして騙まし討ちしなかった?」

「断るに決まってるさ。俺の目的がたった1つだと、誰が言った」



 つまり、それは。



「俺は本気を出したお前と、決着をつけたい。だから今日は、俺たちの力を見せに来たんだ」

「本気を出さなきゃ、死ぬだけだ、ってか」

「今まで先送りにしてたけどな。俺は今度こそ、お前を越えてみせる……行くぞ、今日子」



 去り際に、今日子が俺に向けた「次は確実に殺す」の一言。

 俺には「早く助けて」と聞こえたのは、気のせいだっただろうか?



 あと、煩いぞバカ剣。








えとらんじぇは しりあす たんとう ですよ

途中で息切れした感があるのはご愛嬌。



[19819] 22人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:fd7977e5
Date: 2010/08/25 08:54
 ノックを2回、返事は返ってこない。



「……ユート様?」

「うあー……」



 私がそっとドアから覗き込むと、ユート様は頭を抱えていた。

 まさか、『空虚』や『因果』と接触したことで剣の侵食が!?



「ユート様、大丈夫ですか!?」

「あ、エスペリア? そんなに慌ててどうしたんだ?」

「……え?」











 今後の戦術に悩んでいたら、エスペリアが慌てて部屋に飛び込んできた。

 事情を説明したら早合点だと分かったようで、ちょっと恥ずかしそうにしてるのが可愛い。

 このあざとくないドジっ娘感、いいよね。



「コホン、私のことはともかく」

「だな、話を戻そう」

「……マロリガンのエトランジェは、ユート様のご友人なのですよね?」



 碧光陰、岬今日子。

 元の世界じゃ事ある毎に「やればできる」だの「もっと頑張れ」だの言われたものだ。

 何故か俺の家に入り浸っていたけど。

 ……光陰の狙いは明らかな気もするが、知らないことにしておく。



「ユート様が辛いようでしたら、私たちが――」


「――却下」



 それだけは、ダメだ。

 俺だって自分のエーテル量じゃあいつらに勝てない事は分かってた。

 だからそれは考えないでもなかったが、それはさせられない。



 俺がこの先も生き残り、勝ち続けるためには、少しでも戦力を温存しておきたい。



「エスペリアは、雷を見てから避けられるか?」

「雷を、見てからですか?」

「あいつらが能力を隠すとは思えないから、今日子は雷、光陰は風使い。それは間違いないんだ」

「ですが、神剣魔法を使うには詠唱が必要です。その間に対策を取ることができれば」


「それこそ無理だ、エトランジェにアイスバニッシャーは効かない」



 そしてスピリットの守りじゃ、あの雷からは生き残れない。

 それ以前に、俺なしで隠れた光陰を感知できるかどうかの問題もあるのだが。



「光陰は迷わない。俺が出ない限り、俺以外を容赦なく確実に殺しに来る……逆に言えば、俺が最優先目標だ」

「……ユート様は死ぬのが、怖くはないのですか?」

「怖がる理由はないよな」



 エスペリアが心配してくれるのも分かるけど。

 俺に対しては、まず光陰が1対1で挑んでくるはずだ。

 『空虚』の場合は勝つことじゃなくて殺すことが目標だから、勝った方を狙って来るだろう。

 そして、1対1での戦いなら。



「俺はこんな所じゃ死なないし、あり得ない事を怖がる理由がない」











 次の日から、俺は自分に割り振る事が可能なエーテル量を計算し始めて。

 スレギトを陥落させなければ無理だと悟ることになる。

 エトランジェって燃費悪いのな。

 オルファほどじゃないけど。



「だから、ヨーティアにはスレギト攻略の糸口を掴んで欲しいんだが」

「いきなり何の話かと思えば……おいグータラ、お前まさかコレを知ってたんじゃないだろうな」

「何の話だ」



 ヨーティアさん、目が怖いです。

 酔っ払った姿を見たことないけど、ひょっとして今酔ってる?



「誰が酔っ払いだコラ」

「今日はやけに柄が悪いじゃないか」

「私だって人間だし、そんな日もあるさ。それはともかく、ありゃマナ障壁って奴だね」

「何さ、それ」



 まあ名前で想像付く、と言うより一度経験してるけどさ。

 スレギトに到着する直前、俺たちを襲った攻撃的なマナの奔流。

 あのマナ嵐はやっぱり人為的なものなのか。



「以前ユートが言った、スピリットをマナに分解する兵器さ」

「あ、エーテルジャンプの時の?」

「そうだ。エーテルがマナに戻ろうとする時に、周囲のエーテルまで引き込む性質を利用したものでね」



 俺たちだって、体はマナやエーテルで出来てるからな。

 つまりあれは俺たちの体がマナに変換されそうになった、ということなのだろう。



「……あれ、でもそれ無理だって言ってなかったっけ?」

「大気中にマナが豊富にある場合はその勢いが緩和されちまうから、兵器として使える威力にはならないのさ」

「俺たちの体として固定されてるエーテルより、流動的な大気中のマナが優先されるから?」

「ご名答だ。そしてマナが極端に薄い砂漠で使うなら、その問題は解決される」



 証明終了。完璧すぎる。



「けど、手はあるんだろ?」

「まあな……私とイオがいるし、それに概案は頭の中にある。10日あれば、装置も完成するだろうよ」

「了解した、そっちは頼む」

「任せな、コレも私の仕事だからね」



 アンタも自分の仕事、きっちりこなしな。

 研究室を出る直前、そう言われた気がした。

 誰も彼も、そんなに俺の本気が見たいのだろうか。


 俺には、いつだって余裕なんかないのに。








自称いっぱいいっぱいなニート。

事実なのかどうなのか。



[19819] 23人目
Name: 狂戦士◆377472df ID:2f3d6ab3
Date: 2010/09/25 09:43
「ヨーティアが出先から帰ってきたと聞いて飛んできました」

「いいから帰れ、お前の狙いはどうせ私じゃなくてイオだ、違うかグータラ?」

「ソンナコトナイヨー」

「……棒読みもいいところだな」



 こちらヨーティア研究室。

 デオドガンまで足を延ばしたヨーティアの話を聞こう、と前線から急遽帰ってきたのだ。



「冗談はともかく。マナ障壁装置は何とかなりそうか?」

「いや、構造は把握できたが解除には至らなかった。解除したら、装置そのものが自爆するようになっててね」

「対策が完璧すぎる……」



 向こうからすれば、装置の解除と引き換えに唯一の頭脳を爆殺できればよし。

 解除を諦めるようならそれも良し。

 こういうときに取れる対策は。



「じゃあ、装置を停止させずに無効化する方法が必要になるな」

「それに関しても、帰りの道中である程度考えてきた……が、今度はこっちが対策を取ることを敵も予想するだろう」

「要するに、次は俺たちが道を切り開いてヨーティアが装置を止める、ってわけだ」

「ああ。装置が完成するまでの間も含めて、よろしく頼むよ」



 既に何回か同じ台詞聞いた気がする。

 俺、信用ないなあ……いや、変に信用されて重要な仕事回されても困るんだけどさ。



「しかし、解除されたら爆発する仕掛けとか、明らかに解除されること前提じゃないか」

「……アレを作れるのも解除できるのも、今じゃこの世界で5人といないはずなんだがね」

「じゃあ誰が作ったか考えようぜ。えーとまず、ヨーティアが作るわけないな」



 まあ、誰が候補なのか分からんけど。



「当然イオやユートも除くとして、あとこんな罠を仕掛けるようなアホは……やっぱ、アイツか」

「俺を当たり前に数えるな」

「この兵器の原型を思いつくところまでは行ったんだ。なら、時間と知識さえ与えてやれば作れるだろう?」

「……それがないから無理なんだって」



 つーか、もう3人カウントされてるし。

 マジで5人といないんなら、誰が作ったかは確定してるじゃないですか。



「まあいいや、要するに敵はヨーティアの知り合いなんだな?」

「ああ、古い知り合いだ。背が高くて褐色の肌、そして目つきが鋭い男なんだが知らないか?」

「その人って、今のマロリガンの大統領じゃないのか?」

「…………は?」











 今日も今日とてヨーティアの研究室。

 俺とヨーティア、そしてレスティーナ。

 ……あれ? 軍事、技術、内政のトップが揃ってないか?


 そろそろこの部屋、国家戦略研究室とかに改名してもいいんじゃないかな。



「このデータを見てくれ」



 差し出された2つのグラフ。

 その動きは完全にシンクロしているように見える。



「何のグラフなのか、分かるかい?」

「これは……各国の農産物収穫率と、出産率ですね?」

「流石はレスティーナ殿。そして、この2つは年々低下している」

「だな、グラフになってるから俺にも分かるけどさ。これ、全体的に見ると誤差っぽい感じで微妙に減り続けてる」



 言ってみれば101が100になるような、そんな減り方。

 このグラフのうち、隣り合った2つの数字を出されれば誤差にしか見えないが……それが続くのならば、それは異常だ。

 む。



「なあ、この両方が大きく減ってるのは何だ? 24年前、大戦争でもあったのか?」

「シージスの呪い大飢饉、ですね」

「飢饉って呪いで起こるのか?」

「……分かりません。ですが雨量は充分だったにも関わらず、ほとんどの農作物が収穫できなかったようです」

「ダーツィ大公国が魔龍シージスを殺したから、その呪いだ……なんて言われちゃいるがね。こいつを見てくれ」



 新しいグラフ。

 今度は全体的に安定した数字だが、25年前などに何度か大きく跳ね上がっている。



「コレが何のグラフか。ユート、分かるかい?」

「俺に話が振られるってことは軍事関係だろ、スピリットのエーテル強化量かな?」



 軍事関係でグラフにできそうなものなんて、精々その程度。

 どの国も今までスピリットの数は大きく変動してないらしいから、軍事力の変化とエーテル強化量はほぼイコールで結べる。


 あれ?

 戦争や小競り合いをずっと続けてたはずの北方五国が、スピリットを減らしてないって変じゃないか?

 減った分だけしっかり補充されてるなら別だけど。

 スピリットだって自然発生だ、数に偏りが出ないわけがないのに。

 ……戦力バランスがコントロールされてるとすれば、一体誰がそれを…… 



「おいユート、何をぼーっとしてる」

「え、あ、すまん。続けてくれ」

「頭が回ると思ったらこれだ……まあいい。このグラフを重ねてみよう」



 一致――いや、逆転か。

 エーテル強化量は他2つのグラフが大きく減る直前、必ず跳ね上がっている。

 コレで関係がないって方が嘘だろうな。



「ヨーティア殿は軍事力を増強すれば、農作物と人口が減る、と?」

「……話を変えよう、エーテルってのは元はマナだ。じゃあマナってのは何だ、ユート?」



 え。


 少なくとも、俺たちの体や永遠神剣はマナで出来ている。

 で、俺たちはそのマナを使って神剣魔法を唱えるわけだが……このマナが尽きると、心が喰われる。

 正確には俺たちがまず肉体を維持するために、それ以外を切り捨てる。

 その後は植物状態になった肉体を、神剣が操作して戦う事になる。


 となれば。



「んー……生体エネルギー、かな? 人間も死ぬと体内のマナが無くなるらしいし、命って言っても良いかもしれないけど」

「……つくづく叩き台にし甲斐の無い奴だな。ユートに話を振るのも考え物か」

「では、ヨーティア殿も?」

「そうだ。マナとは――この世界の命そのものだ、と私は考えている」








お久しぶりです。

ちなみにそこはかとなくイベント順番が変わったり設定が変わったりしてます。
22人目でうっかりしてたからその整合をとる作業に追われてました……。


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