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[19647] 【ネタ】ヤムチャ in H×H(完結 ドラゴンボール DB ハンター クロスオーバー)
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2011/12/29 23:24
※これは『もしもヤムチャさんがハンター世界を訪れたら?』を描いた世界観融合型のクロスSSです
※ここではヒソカ最強説が採用されているため、本気ヒソカ(HISOKA)は原作描写以上に強く設定されています。
※作者の都合により、初期と後期で作風(文章・改行など)が大きく変化しています。あらかじめご了承ください。


***


ザバン市にある小さな定食屋の前に一人の男が立っていた。

「ここがハンター試験会場だな。」

山吹色の胴着。

キリッと刈り上げた短髪。

ダサカッコいい頬の十字傷。


ヤムチャさんである!


「真実の愛への登竜門か。待ってろよオレのかわいこちゃん! すぐにハンターになって戻ってやるぜ!」

「いらっしゃいませ~」

「ご注文は?」

「ステーキ定食、弱火でじっくり」

「お客さん奥の部屋へどうぞー」

「おっ、うまそーだな」

案内された個室でステーキにパクつくこと数分。

チーン!

ヤムチャの乗ったエレベーターが地下100階の地下道へと到着した!

「よっしゃ、いくか!」

先に会場入りしていた連中の視線がヤムチャに集まる。

(よーし、流石に悟空やベジータみたいにバケモノじみた奴はいないな。これならオレでもなんとかなりそうだ)

試験会場までこれただけあってある程度の達人ぞろいのようだがせいぜいがチャパ王クラス。

ヤムチャの見たところ、自分よりも強そうな奴はいなかった。

だけどむさい男ばっかりで女の子は一人もいない。ヤムチャはかなしかった。

「番号札です」

「どうも、って42番かよ。縁起わりーな」

ヤムチャはちっさい豆男のマーメンから番号の書かれたプレートをもらい、周りにならって胸につけた。

「よう、新人さんだな」

「ん?」

「オレはトンパ。よろしく」

「ヤムチャだ」

16番のプレートをつけたおっさんが話しかけてくる。

(けっ、豚鼻のおっさんが話しかけてきやがって何の用だよ)

手を差し出してくるのでヤムチャは仕方なく握手をした。

ワイルドな外見とは裏腹にヤムチャさんは紳士なのだ。

「アンタからは他の奴にはないオーラを感じるぜ。」

「そ、そうか? いやー分かる奴には分かるかーオレの場合隠しててもにじみ出ちゃうんだよなあ!」

「お近づきのしるしだ。一杯飲みなよ」

「おう! トンパだったか? お前なかなか見る目があるじゃないか!」

「お互いの健闘を祈って乾杯!」

トンパとヤムチャはぐびぐびごっくんとジュースを飲み干した。

「じゃーな! 試験がんばれよ!」
「ジュースありがとな!」

にこやかに笑ってトンパが離れた10秒後。

ぐぎゅるるぅぅぅ!

「はううぅぅぅおお!?」

ヤムチャさんの腹がエマージェンシーコールを奏でた。

「なんだ!? 急に腹がっ! く、くそっ! ト、トイレは!?」

そもそも地下にはトイレなんて存在しない。出口はここに下りてきたエレベーターの一か所だけだ。

「な、なに? え、えれべーたーが1階にもどっているだとう!?」

下りてくるのを待つ余裕はない。八方ふさがりだった。

「うわぁぁぁあああ!!」

ざんねん! やむちゃのぼうけんはここでおわってしまった!






「申し訳ないっ!」

「いいよ、そんなに謝らなくても」

トンパはゴンたちに謝っていた。

(くそっ間抜けなボンボンかと思ったらとんだ野生児だぜ)

トンパは遅く会場入りしたゴン、レオリオ、クラピカの新人トリオにも強力な下剤入りのジュースを飲ませようとしたが

最初にジュースを口に含んだこの黒髪ツンツンの野生児が味が変だといいだしたせいでジュースを飲ませることができなかった。

(結局、下剤入りジュースを飲んだのは42番の変な胴着の奴と99番のガキだけか)

人からもらった飲食物は受け付けないという忍者294番ハンゾー。

持っていたノートパソコンを使って自分が新人つぶしだと見抜いた187番ニコル。

話しかけるのも憚られる顔面針男の301番ギタラクル。

(今年の新人はベテラン並みに癖のあるのがそろってやがるな)



「トンパさーん! さっきのジュースもっとくれる?」

「あ、ああいいぜ」

トンパは話しかけてきた99番の少年、キルアに、2本目、3本目と下剤入りジュースを渡す。

(おかしいな。一本目の下剤はもうとっくに効いているはずなんだが)

「心配?」

「え?」

「オレなら平気だよ、訓練してるから。毒じゃ死なない。」

(こいつ、オレが何の薬を盛ったかまではわからないのに平気で飲んだってのか!?)

結局、キルアはトンパからもらった5本目の下剤入りジュースを飲んでから悠々と去って行った。

「ちっ! つぶせたのは一人だけか、 今年の新人はとんでもねーな。」

(だが、それだけつぶしがいがあるってもんだ)



ジリリリリリリリリリ!

「ただ今をもって受付時間を終了いたします」

地下通路の脇に立っていたカールひげの黒服紳士サトツがベルを止める。

「これよりハンター試験を開始いたします」

サトツは試験ではケガをしたり死んだりする可能性があると警告し、覚悟の無いものは辞退するよう促すが、

誰一人帰ろうとはしなかった。

「承知しました。

 第一次試験、404名全員参加ですね」

ここに第287回ハンター試験が開幕した。




第一次試験の課題は二次試験会場まで試験官について移動することだ。

「なるほどな」

「変なテストだね」

「さしずめ、持久力試験ってとこか」

一次試験担当官のサトツに先導されて、会場に集まった403名の受験生たちが地下通路を走っていく。

「ねぇ、きみ、年いくつ?」

「もうすぐ12歳!」

「……ふーん。やっぱ俺も走ろっと」

キルアは持っていたスケボーを使うのをやめて、ゴンと一緒に併走しはじめた。

「オレ、キルア」

「オレはゴン!」

ゴンとキルアが同い年ということで親交を深めていたころ、



(ん? これは……)

試験者たちを二次試験会場へと案内していたサトツは鼻をつく異臭に気がついた。

「かぁぁあああ、めえぇぇええ!」

「はぁああ、めぇええ!」

前方から反響してくる気合のこもった声。

下半身を露出した受験番号42番、ヤムチャさんが地下通路の端で脱糞していた。

地上のトイレには間に合わないことを悟ったヤムチャさんは瞬時の判断で通路の奥へと超高速で移動!

人気のないところで排便に勤しんでいたのである!

「波ぁああああ!!」

ヤムチャさんのお尻からぷりぷりっとひねり出されたゲーリーくんの臭気が通路に充満する。

サトツは眉をしかめながらも余裕でスルー。

さらにヤムチャさんのうずくまっているところを後続のハンター試験受験生たち(403人)がどかどかと通過していく。

「うわっ、なんだあいつ!」

「臭っ!」

「なんなんだよこの匂いは!」

「あれも受験生なのか!?」

ざわざわ、ざわざわ。

駆け抜ける受験生たちの話題の中心はヤムチャだ。とんだ羞恥プレイだった。

(あの42番、見ないと思ったら上にいかないでこんなところで糞してたのかよ)

興奮のあまり、トンパの身体から汗が噴き出した。

自分の仕掛けたことの結果とはいえ、あまりにショッキングな光景だ。

(やっぱり今年の新人は一筋縄ではいかないぜ)

ヤムチャとトンパの視線が交差する。

苦痛と絶望にゆがんだヤムチャの表情を見ると、トンパは満ち足りた優しい笑みを浮かべた。



親指、びしぃっ!!!



「お前のことは忘れないぜ!」

「だ、騙しやがったなこのブタッパナァ!!」

ごろごろごろ。

「お、おごぉぉおおお」

説明しよう!

キルアのような耐性を持たない一般人(ヤムチャ)がトンパの用意した超強力下剤を飲むと、下痢と腹痛で3日間は動けなくなるのだ!


(((あんな恥をさらしたら、もう来年は試験を受けにこれないだろうな。……来るなよ! もう絶対に来るなよ!!)))


傷つき倒れたヤムチャさんの姿が、多くの受験生たちの心を一つにしていた。





毎年、数多くの将来有望な若者たちが

新人つぶしのトンパによって再起不能にされていく。

ハンター試験には魔物がすんでいるのだ。




「ハンター第一次試験

 10km地点通過

 脱落者1名(試験開始の6時間前)」



(^o^) トンパのジュースに引っ掛かる間抜けなルーキーの話が書きたかった。反省は(以下略)



[19647] ささやき えいしょう いのり ねんじろ!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/06/29 15:21

試験開始からおよそ6時間後、

80km地点。

ヤムチャさんにつづく、あらたな脱落者がうまれようとした。

(オレが脱落……!?

 そんなバカな!!

 いままでオレに敵う奴なんて一人もいなかったのに!)

「ゼーッ、ヒュー、ゼーッ、ヒュー、ゼーッ、ヒュー、」

(オレが落第生!? 脱落者!? 負け犬!?)

「……いや……だ……たく……ない」

「くくくっ」

「ヘイ! ルーキー!」

「だらしねーぞ、ボーヤ。」

すでに体力が限界にきている187番の新人ニコルを取り囲み、

アモリ3兄弟が言葉による追い打ちをかける。

「まだ走りだして6時間程度だぜ?」

「こんなトコでへばる奴、初めて見るぜ。恥ずかしいヤローだ」

「表彰モンの能なしだぜ、テメーはよ」

「ハンター試験はじまって以来の落ちこぼれだよ、オマエ。」

アモリ3兄弟のあびせる罵声が、

ニコルの心をずたずたに引き裂いて、

最後の気力を奪っていく。



   orz (……orz)



ニコルは力尽きた。

「才能ねーんだよ、バーーーカ!!」

「二度と来んなクズ野郎!!」

「ひゃはははははは!!」


・・・

「ありがとよ。上出来だ。」

ねぎらいの言葉をかけて、トンパはアモリ3兄弟に約束の報酬を手渡す。

「あいつおそらくもう試験は受けないな。新人にしちゃいいセンいってたのに」

「人を傷つけるウソってのは心が痛むぜ」

「トンパ、本当にお前さんは相手の弱点を見抜いてえぐるのがうまいな。」

「ふふん。オレの生きがいだからな」

アモリ3兄弟の精神攻撃によってひきおこされたニコルの脱落。

今年が初受験の新人であるニコルの脱落は、

新人つぶしのトンパによる策略だったのだ。

(これでようやく2人めか。今年はレベルが高いぜ)

ヤムチャ。ニコル。

2人のルーキーの哀れな最期を思い出すと

トンパは充実感と幸せを感じる。

「今年の新人はあと6人か。」

さらなる犠牲者をもとめて、トンパの暗躍はつづく。






一方その頃。

トンパの超強力下剤にやられたヤムチャさんはというと……

「ふんぬぅぉおおお!」

プリッ、ドロドロドロ。

いまだに超強力下剤の効果がきれず、下痢に苦しんでいた。

(と、止まらん。このままでは死んでしまう。いったいどうすれば!?)


1.予期せぬ助っ人が現れてヤムチャさんを助ける!

2.下半身はだかで糞尿をまき散らしつつも試験に参加!

3.現実は非情である。ヤムチャはここでリタイアしてしまう!


まともな人間ならとっくに死んでいてもおかしくないほどの苦行。

これまで10時間以上に及び、ヤムチャさんはここでふんばっていた。

(くっ、腹痛で体力の消耗がはげしい! オレはここまでなのか!?)

しかし、こんなところで本当に脱落するヤムチャさんではなかった!!

(いや、まてよ?)


4.ヤムチャさんは「天才的なひらめき」でこのピンチをのりきる!!!


「そ、そうだ。アレを使えば……」

起死回生の一手!

ヤムチャさんはいざという時のための切り札があったことをようやく思い出した。

ごそごそごそ。

ポリポリポリ、

ゴックン。


「あの豚野郎が、な、舐めやがってーーー!!」


ヤムチャさん完全復活!!

「ハァアアアッ!」

バシュゥゥゥゥン!!!

とっておきの仙豆を食べて下痢から回復したヤムチャさんは、

全身から気を放出しながら猛スピードで先頭集団を追いかけていく。

仙豆によって体内のトンパジュースの解毒に成功し、さらには失ってしまった体力も回復したのだ。

こうしてヤムチャさんは完全復活を遂げたのだった。






「ムッ!」

「ひっく、ひっく、ぐすん……」

再びスタートから80km地点。

orz

全身から汗やら涙やら鼻水やらの噴き出した小男が、うずくまって泣いていた。

「どうした?」

「……オレは負け犬で……落ちこぼれで……」

ぶわっ。

ぽたり、ぽたり。

溢れる涙が次から次へと床へ落ちてゆく。

「……おまえの名前は?」

「…ニゴ……ニ……ニコル……」

「そうか。いくぞ! ニコル!」

ヤムチャはニコルを抱えて走りだす。

「…ど…どぼじて?」

「おまえが昔のオレに少しだけ似てるから、かな」

「これを食べておけ。仙豆っていうんだ。」

「…は、はい………あれ?」

差し出された豆をコリコリと食べると、いきなりニコルの体力が全快した。

「それに、おまえも奴に嵌められたんだろ?」

ボロ雑巾のようになっているニコルの惨状をみた瞬間、

ヤムチャはそれが誰の仕業なのかぴんときた。

「オレたちには共通の敵がいる。だから、オレとおまえは仲間だ。」

足元には壊れたノートパソコンが転がっていた。

コイツを嵌めた奴が壊していったに違いない、とヤムチャは確信する。

「くそぅ、トンパの野郎だけは絶対にゆるさん。」

ヤムチャはニコルを抱えながら猛スピードで疾走していく。

ヤムチャさんの実力をもってすれば人一人の重さなど誤差の範囲でしかないのだ。

「トンパ? 新人つぶしのトンパのことですか? そうだあの、あなたのお名前は?」

「オレはヤムチャだ!」

「ヤムチャさんですね……!」

これまで常にトップを独走してきた超優等生であるニコルにとって、他者とは利用するための駒でしかなかった。

しかし、地獄に仏とはこのことか。

落後者となってしまった自分を、もはや社会のクズである自分を仲間と認めて助けてくれたヤムチャ。

ニコルはその生涯で初めて、心の底から信頼し尊敬できる人間と出会ったのである。





サトツに引率された受験生たちが地下から地上へと通じる大階段を抜けると、

そこには大自然が広がっていた。


「ヌメーレ湿原。通称「詐欺師の塒(さぎしのねぐら)」

 二次試験会場にはここを通って行かねばなりません。

 十分に注意してついてきて下さい。だまされると死にますよ。」


ウィィィィイン。

受験生たちの背後でシャッターが下りた。

これで時間内に階段を登りきれなかった受験生たちは出口を失ったことになる。


「この湿原の生き物はありとあらゆる方法で

 獲物をあざむき捕食しようとします。

 標的をだまして食い物にする生物たちの生態系……

 詐欺師の塒と呼ばれるゆえんです。

 だまされることのないよう注意深く、しっかりと私のあとをついて来て下さい」





そして試験官たち一行におくれること数十分。

「かめはめ波ーーー!!」

どかーん!

ヤムチャの気功波によって地下通路からのシャッターが破られた。

「そんなバカな!? いったいどんなトリックなんですか!?」

「タネも仕掛けもないさ。オレもかなり修行したからな」

(ぜったいに人間技じゃない。やっぱりヤムチャさんは神様なんだ!)

ヤムチャさんと、ヤムチャ教の信者と化したニコルが湿原へとたどりついた。

「誰もいないな。もう先に行ったのか?」


(そうだ集中して気を探れば……

 いた。人間の集団がいくつか向こうの方にいる。

 他は野生の動物か? ずいぶんと邪悪な気だな)


「? ヤムチャ様? 急に目を閉じて、いったいどうしたんですか?」

「おいおい。みんな次々に死んでいってるぞ。特に、あっちの方向。ひときわまがまがしい気を持ってる奴が殺しまくってやがる」

「……たぶん、44番のヒソカでしょうね。その容姿と戦い方から奇術師とも呼ばれている殺人狂ですよ。」

人間離れした身体能力と必殺技の「かめはめ波」にくわえ、

さらなる異能として遠方の人間を感知する

『全てを見通す神の眼(スカイネット)』(ニコル命名)を披露したヤムチャ。

ニコルの信仰心は留まるところを知らずギュンギュンに高まりまくっていた。

ちなみにヤムチャさん脱糞事件を目撃したことは記憶の奥底に永久封印されている。


「そうか! 哀れな愚民どもを助けに行かれるんですね! さすがはヤムチャ様です!」

「え? あ、ああうん。そうだよな。人殺しは良くないもんな」

ヤムチャの現在の目的はハンターライセンスの取得とトンパへの報復だ。

わざわざ殺人狂と戦ってまで人助けをするつもりなどさらさらなかったヤムチャだったのだが、

こうも期待に満ちた眼を向けられては動かないわけにもいかない。

「よーし、お兄さんがんばっちゃおうかなー!」

「さすがはヤムチャ様! あなたこそ新世界の神になられるお方です!」

ヤムチャさんは空気の読める男だった。





「君達まとめて、これ一枚で十分かな。」

「「ほざけェエーーー!!」」

「くっくっく、あっはっはァーーーア!」

「うわぁあ!!」

「ぎゃぁあああ!!」

「君ら全員、不合格だね。」

第一次試験のさなか、

試験官ごっこをはじめたヒソカの凶行を止められる者はおらず、

いまやヒソカと対峙しているのはクラピカ、レオリオ、チェリーの3人だけだった。

左腕に傷を負った403番レオリオ、

対の木剣をかまえた404番クラピカ、

ベテランの受験生である76番、格闘家のチェリー。


「おい、オレが合図したらバラバラに逃げるんだ。

 奴は強い! 今のオレ達が3人がかりで戦おうが勝ち目はないだろう。

 お前たちも強い目的があってハンターを目指しているんだろう、

 悔しいだろうが今は…… ここは退くんだ!」


己の分をわきまえているベテラン受験生であるチェリーが、

レオリオとクラピカに撤退をささやく。

「いまd」

バシュゥゥゥゥン!!!

「っ! なんだ!?」

「あ、あいつは!?」

(空を飛んできた? 放出系の飛行能力者かな。)

一方的な狩猟場になるかと思われた戦場に、

最強のワイルドカードが登場した。


びっ!


「消えろ。ぶっとばされんうちにな。」


不敵な表情を浮かべ

左手の中指を立てたキメポーズ。


「「まさか……ヤ、ヤムチャなのか!?」」


いま、世界最強の超戦士が参戦する……!!!



[19647] ヤムチャさん参戦! 必殺の繰気弾!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/09 00:12

びっ!

「消えろ。ぶっとばされんうちにな。」

「「まさか……ヤ、ヤムチャなのか!?」」

第287回ハンター試験には受験生ほぼ全員に知られている

知名度の高い人物が存在する。

去年20人の受験生を再起不能にして試験官を半殺しにした『奇術師ヒソカ』

本試験連続出場30回の大ベテラン『新人つぶしのトンパ』

なんと一次試験開始前に脱落していたうわさの下痢ルーキー『ウ○コ野郎のヤムチャ』

……以上の3名である。



「凡愚どもは下がっていなさい。ヒソカは最強の戦士であるヤムチャ様がかたづけます!」

ヤムチャさんの背中にひっついてきたニコルが、堂々と宣言した。

(バカな!? あいつは命を捨てるつもりなのか!?)

「へぇ、キミが最強の戦士なのかい?」

「あまり他人に迷惑をかけるな。降参するならいまのうちだぞ。」

「無謀だ! よせ!」

ビュッ!

ヒュオッ!

ザララララ!

シパパパパンッ!

ヤムチャさんはヒソカの攻撃をよゆうで回避し

投げつけられたトランプもかるく弾いてのけた。

「ふーん。」

「なん……だと?」

チェリーは目を疑った。

これまで受験生たちを紙のように切り裂いてきたヒソカのトランプを

ヤムチャは素手で防いでいたのだ。

「今度はこっちからいくぞ。」

びしっ!

(こいつヒソカを相手にたいした自信だぜ)

(あの構えはいったい?)

(ウ○コ野郎のヤムチャが……ほんとうに強いのか?)

「狼牙風風拳!」

シャッ!

バババババ、シュバッ、ドォン!

「はやい!」

「あいつヒソカに攻撃を当てやがった!」

「いま、狼の影のようなものが見えなかったか!?」


「……なかなかいい攻撃だ。それで終わりかい?」


「ふん。少し手加減しすぎたようだな」

(骨折してもおかしくないくらいの攻撃だったはずだが…

 このヒソカってやつ意外と頑丈だな……ならば!)


「見せてやるぜ!! 新狼牙風風拳!!」


ギュンッ!

さらに速度と威力を増した攻撃がヒソカをおs

「足元ががら空きだよ。」

ゴッ!

地を這うような水面蹴りがヤムチャさんの足元をとらえた。

「なっ」

ヒソカのカウンターアタック!

バシッ、ガン、ドゴォッ、バキィッ!


ヒソカの連続コンボが

ヤムチャさんにクリーンヒットした。


…グシャッ!



           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
     rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
     、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
       ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
     r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
        _  ::\,!ィ'TV =ー-、_メ::::  r、
         ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
        ;.   :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.::  ,.
        ~ ,.  ,:ュ. `ヽニj/l |/::
           _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "
              `’ `´   ~

byサイバイマン




「「ヤムチャーーー!!」」

「クッ!」

「お待ちなさい!!」

ヤムチャに加勢しようとするクラピカを、ニコルが止める。

「しかし!」

「ヤムチャ様に敗北はありえません。」

ニコルの言葉通り、

ヤムチャはふらつきながらも立ち上がった。

「な、なかなかやるな。ちょ、ちょっとだけ本気をだしてやろうじゃないか!」

バババッ!

ヤムチャさんは必殺技のかまえをとった!

「とっておきを見せてやる!」

ボウッ!

「繰気弾(そうきだん)!!」

ギューン!

ハッ、セイ、ムン、ハァッ、チェィッ!

ヤムチャさんの気合の入った指の動きを受けて、

繰気弾がヒソカのまわりを縦横無尽に飛び回る!


(遠隔操作型の念弾。あの指の動きでコントロールしているのか。)


ギューン! スカッ!

ヒソカはよけた。

ギューン! スカッ!

ヒソカはかわした。

ギューン! スカッ!

ヒソカはしらけたかおでこちらをみている。

(あ、あたらん!? なぜだ!?)

「それがキミのとっておきかい?」

ヒソカはさっと腕をうごかすと、

自身の念能力を発動する。

『伸縮自在の愛(バンジーガム)』

グン!

ヤムチャさんの顔面に張り付けてあったオーラが

急速に伸縮する。

「のわっ!?」

ヒソカの腕の動きに合わせてヤムチャさんの身体が宙を舞う。

ギュン!

コントロールを失った繰気弾と

一本釣りされたヤムチャさんの軌道が空中でクロスした。

そして…


「念弾の操作に気をとられすぎ。お粗末だね。」


ボムッ!!!




           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
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               `’ `´   ~

byサイバイマン




「ヤムチャーーー!!」

「クッ!」

「お待ちなさい!!」

再度ヤムチャに加勢しようとするクラピカを、

やっぱりニコルが止めた。

「だがあれでは!」

「ヤムチャ様は無敵です。敗北などありえません。」

「わるいがオレはいく。止めたって無駄だぜ。

 ヒソカの相手はもともとオレ達だったんだからな!

 助っ人に任せてこそこそしてられっかよ!!」

苦戦しているヤムチャをみて

我慢の限界に達したレオリオがほえた。

「……そういうことだな。私も付き合おう。

 右から行く。レオリオは左に回り込んでくれ。」

「おうよ!」

「レオリオ! クラピカ!」

「ゴン!?」

「おまえ、戻ってきちまったのか!?」

「うん、レオリオの声が聞こえたから。あの人は?」

「地下でゴンも見ただろう。あのヤムチャだ。どうやら私たちを助けに来てくれたらしいのだが……」

うまく説明することができず、クラピカは言いよどんだ。

(さっきのあれはなんだったんだ?)



(才能はある。オーラ量は多いし力も強い。けど戦闘センスの悪さが致命的だね。能力もありきたりだし。)

ぴぴぴ。

ヒソカの携帯の着信があった。

『ヒソカ、そろそろ戻ってこいよ。どうやらもうすぐ二次会場につくみたいだぜ』

「OK.すぐ行く。」

協力者からの連絡をきいて、

「じゃあね。」

ヒソカは霧の中へと姿を消した。


・・・

「痛タタタタ…」

ヒソカが立ち去ったのを確認して

やられたはずのヤムチャさんがむくりと起き上がる。

「やれやれ。なんだったんだいまのは?

 自分の必殺技をくらって倒れてたんじゃカッコがつかないぜ。」

(まさかオレの繰気弾がやぶられる日がくるとは…

 少し鍛え直した方がいいのかな?)

ひそかに自信を抱いていた必殺技をあっさりやぶられて、

さすがのヤムチャさんも少しショックを受けていた。

「やられたふりですね! 敵といえども慈悲の心で見逃してやるとは、さすがはヤムチャ様です!!」

「へ? …あー、うむ。オレさまにおそれをなして逃げ出したようだな!」

「「あっはっはっはっはっ」」

(これが熱狂的なファンってやつか。ミスターサタンもあれでけっこう苦労してたのかな?)

((…なんなんだこいつら……))


「ま、なにはともあれ、あんたのおかげで助かった。礼を言わせてもらうぜ。

 オレはレオリオという者だ。」

「ヤムチャだ。無事で何よりだった」

レオリオとヤムチャさんが握手を交わす。

「ありがとうヤムチャ。私の名はクラピカだ。」

「オレはゴン!」

「ニコルです。よろしくお願いします」





ザザザザザッ。

ゴン、クラピカ、レオリオの3人は

ヤムチャとニコルの先導で二次試験会場へ向かっていた。

「おい! あのヤムチャってやろうのいうことは信用できんのかよ!?」

「私たちには現在地も目的地もわからないのだ。他に選択の余地はないよ。」

(あれだけヒソカにやられていたのにほぼ無傷。

 なにやら爆発もしていたのに胴着がぼろぼろになっただけで平然としている。

 このヤムチャという男はあきらかに異質だ。)

ヤムチャとニコルが空から降ってきたところは全員が目撃している。

その気になれば数百キロ先にいる人間の気配がわかるという話も

おそらく真実だろうとクラピカは判断していた。

「大丈夫だよ。臭いけど悪い人じゃなさそうだし」

「お前は人を簡単に信じすぎるんだよ!」

「ソッチハキケンダ! コッチガアンゼンダゾ!」

「あれはホラガラスですね。嘘をついて獲物を罠に誘いこみます。」

「ぐわっ!?」

「ああ、そっちに生えているのはジライダケです。踏むと爆発するので注意してください。ヤムチャ様でなければ死んでいたかもしれません。」


(-_-;(-_-;(-_-;)


「ほんとうに大丈夫なんだよな?」

「うーん、たぶん。」

「ソッチハキケンダゾ!」

「ホラガラスか。詐欺師の嘘だけが私たちの安全を保証してくれているとは、皮肉だな。」

「やっぱおめえらも半信半疑なんじゃねえか!!」

「あっ! いまなにか建物が見えた!」

「よし、もうすぐゴールだぞ! あそこに大勢の気が集まっている!」

「どうやら間に合ったようですね。」


5人は無事に二次試験会場へとたどりついたのだった!




「第一次試験、

 地下通路耐久レース 脱落者92名!

 ヌメーレ湿原 脱落者161名!

 ヤムチャさんたち150名、第一次試験突破!」




[19647] 遠い星から来た彼氏
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/19 16:48

ヌメーレ湿原をぬけると、そこはビスカ森林公園だ。

二次試験会場である仮設小屋の前には

多数の受験生たちがたむろしていた。

第二次試験はまだ開始されていない。


「どうやら間に合ったようですね」

「あんたらがいてくれて助かったぜ!」

「ありがとうヤムチャさん!」

「いいってことさ。試験がんばれよ!」


・・・

「チッ、ヒソカの野郎もきっちり到着していやがるぜ」

「ああ。試験管の目の届く範囲では大人しくしていると思いたいが…」

「ところで、なんでみんな建物の外にいるのかな?」

「中に入れないんだよ。」

「キルア!」

「どんなマジック使ったんだ?

 絶対もう戻ってこれないと思ったぜ」

「ヤムチャさんが案内してくれたんだ。」

「は? ヤムチャって、あのヤムチャか?」

「うん。それにヒソカとも戦ってくれたんだよ!」

「へぇー」

(あの野グソ野郎がここまで?

 ヒソカとあってよく無事だったなー)

「それで、なんで中に入れないの?」

「見ての通りさ」

仮設小屋の入り口には看板が掛けてあった。

『本日 正午 二次試験スタート』






そして正午。

第二次試験はビスカ森林公園で開始された。

試験官は美食ハンターのブハラとメンチである。

「二次試験は料理よ!!

 美食ハンターのあたし達2人を満足させる食事を用意してちょうだい!」

「料理だと!?」

「くそォ、料理なんて作ったことねーぜ」

「こんな試験があるとはな」

受験生たちの困惑とざわめきのなか

巨体の男性試験官、ブハラが課題を告げる。

「オレのメニューは豚の丸焼き! オレの大好物。

 森林公園に生息する豚なら種類は自由。

 それじゃ、二次試験スタート!!」


「豚の丸焼きか。むずかしい料理じゃないし楽勝だな」

「あ、ヤムチャ様。豚を発見しました。」

どぉぉぉん。

そんな効果音とともに姿を現したのは

やけに巨大な豚だった。

(なんだ? あの大きな鼻だけでも人間と同じくらいの大きさがあるぞ?)

「世界で最も凶暴な豚、グレイトスタンプです。」

「「ブオオオオオ!!」」

「ていっ!」

ゴゴス!

ドサッ、バタッ、

獲物を潰し殺そうと突進してきたグレイトスタンプだったが

ヤムチャさんのワンパンチでしずんだ。

しょせんはトンパの親戚である。

「お見事です。仕留めたグレイトスタンプはボクが焼きますから、ヤムチャ様は休んでいてください」

「わかった。」




グレイトスタンプをさくっと捕まえて

二次試験前半をトップ通過しちゃったヤムチャさん。

(あのウ○コ野郎もしかしてとんでもなく強いんじゃ…!?)

トンパはその雄姿を目撃してしまっていた。

ギンッ!

「ハッ、しまった!?」

「オレは怒ったぞトンパァーーー!」

「すんませんっしタァァァーー! オレが悪かったーー!!」

ざしゃっーーー!

怒りもあらわに迫ってくるヤムチャさんに対して

トンパは土下座スタイルでおうじた。

「…いいや許さん!」


「待て! ちょっと待て!

 聞いてくれ! オレも悪気があってやったわけじゃないんだ!

 ハンター試験をはじめて受けに来たなんてやつらは、大概がささいな不注意で死んじまうんだよ!」


「…それがどうした!!」


「オレも試験の常連だからな。そんなやつらをたくさん見てきた。

 それで、オレは自分で罠を仕掛けることにしたんだ。

 オレにはめられて脱落したルーキーは次の年からはより注意深く、慎重になる。

 わかるだろ? オレはあんたに死んでほしくなかったんだ!

 あんたのすごい才能を、可能性を、バカげたことで失ってほしくなかったんだよ!!」


「トンパ…おまえ……」

「恥をかかせてすまなかった。もうこんなことはやめる。たのむ許してくれ!!」

「……わかった。もういい。試験、いっしょにがんばろうぜ。」

(ピッコロや天津飯たちだってむかしは悪党だったんだもんな。

 もうやめるっていうなら、オレはその言葉を信じるぜ、トンパ。)


ヤムチャさんは笑顔でトンパに手を差し伸べ、

トンパはヤムチャさんの手を涙ながらに握りかえす。


(まさかあの下痢から復帰してくるとは予想外だったぜ。

 あれは完璧に社会からも抹殺できたと思ってたんだが……

 ウ○コ野郎のヤムチャが。つぎは確実に脱落させてやるぜ!)


・・・

「すまん、ニコル。」

「いいえ、ヤムチャ様の決断はご立派です。ブタには過ぎた配慮だと思いますが。」

「オレのことはヤムチャってよんでくれよ。様なんてつけなくてもいいんだぞ?」

「でも、ヤムチャ様はヤムチャ様ですから(はぁと)」



二次試験前半「豚の丸焼き」料理審査。

ヤムチャニコルペアほか70名通過!






そして後半戦突入!

「あたしはブハラと違ってカラ党よ!

 審査もキビシクいくわよー

 二次試験後半、あたしのメニューは…

 『スシ』よ!!」

一ツ星(シングル)ハンターにして女性試験官であるメンチが課題を告げる。

(スシ…!?)

(どんな料理だ?)

(全く知らない料理を作るなんて不可能だぜ)

ざわざわ。ざわざわ。

「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも」

「ほほう。シースーか。」

「知っているのか?」

「うむ。酢飯の上におもに魚介類をのせた食べ物だ。オレもこの前ジャ」

ビュンッ!

ガシャアン!

「ぐわっ」

どさっ。

「あ…」

人差し指をぴんと立て、

得意げに解説していたヤムチャさんの頭に

メンチの投げたお皿が命中した。

「なんっでいきなり作り方ばらしてんのよ!!

 あんたバカじゃないの!?

 てゆうかバカよね!? いっぺん死んできなさい!!」

「バカはそっちだろうが! なんでそんな簡単なものを試験にだすんだ!」

「あーあーーきこえなーい、きこえないー」

「っ、このアマ」

「ぐだぐだいうと失格にするわよ?」

「くっ…」

「ふふん。わかればいいのよ。

 さ、中を見てごらんなさーーーい!!

 ここで料理を作るのよ!!

 スシに不可欠なゴハンはこちらで用意してあげたわ!

 そして最大のヒント! スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!

 あたしが満腹になった時点で試験は終了!

 その間になんコ作ってきてもいいわよ!

 それじゃスタートよ!!」


ゴーン!


試験開始を告げるドラが鳴り響いた。

それぞれの思惑を胸に

受験生たちがうごきだす。


(ニギリズシ、ニギリズシか。)

(どんな食材を使うんだ?)

見当もつかずにまごつくもの。



「酢飯と魚介類っていってたね。」

「ああ、まずは外で魚の調達だな。」

ヤムチャさんの解説を聞きかじったもの。



(この課題もらったぜ!

 まさかオレの国の伝統料理がテストになるとは!)

「うーむ、ニギリニギリと」

チラ…

「ぶぷっ!」

(こいつ…知ってるぜ!?)

(知ってるな。)

(カンペキに知ってやがる!!)

合格確実だと浮かれているもの。



そしてヤムチャさんはというと…

「ほれ。ニギリズシを持ってきてやったぞ!

 このわがまま娘が!」

「あら、もうできたの?」

ぱくり。

「…ダメね。不合格よ!!」

「なんでだ!?」

「これ作り置きでしょ! しかも機械で作った量産品!

 男だったら持ち込みなんかしないで自分の力とアイデアで勝負しなさい!!」

「メンチ、持ち込みとはいってもこんな場所でスシを用意できたのはすごいことだと思うよ?」

「あ。あんたの場合は並のスシじゃ認めないからね?」

「…なんだって?」

「最初からスシのこと知ってたんじゃ不公平でしょ? そのくらい当然よ!」

「だからメンチ、この場合はスシを知っていたことをほめるべきで」

「ブハラは黙ってて。

 だいたいこいつ生意気なのよ!

 美食ハンターの前で料理の講釈なんて100年早いわ!!」

「いってくれるじゃないか、

 食べたこともないようなものすごいスシを持ってきてやる!

 あとでほえづらかくなよ!!」

「はいはい、さっさと逝っちゃいなさい」

しっしっ!

「メンチ…」

「さて、どんなキワモノが出来てくるのか楽しみだわ。

 今日は試験官としてってより料理人として来てるからね。」

「料理人として……ってのはマズイんじゃ…」

「何?」

「いやなんでも…」

(メンチの悪いクセが出なけりゃいいけど)




「出来たぜーー! オレが完成第一号だ!!

 名付けてレオリオスペシャル! さあ食ってくれ!」

つ『ニギリメシに生きている魚を突っ込んだナニカ』

「食えるかぁッ!」

ぽいっ!

「よーし次はオレだ!」

つ『ゴハンのうえに生きた魚がのっているナニカ』

「403番とレベルがいっしょ!」

ぽいっ!

「これだ!」

つ『一口大のゴハンに新鮮な魚を突っ込んだナニカ』

「あんたも403番並!!」

ぽいっ!

ガドーン!!

「そんなにショックか!?」

レオリオ、ゴン、クラピカ轟沈!

さらに後続集団にもニギリズシの体をなしているものはあらわれず

このまま試合終了かと思われたそのとき!

ジャポン出身の忍、294番ハンゾー推参!


「ふっふっふっ。

 そろそろオレの出番のようだな。

 どうだ! これがスシだろ!!」


つ『まともなニギリズシ』


「ふーん、ようやくそれらしいのが出てきたわね」

ぱくり。

「ダメね。おいしくないわ! やり直し!」


「な、なんだとーーー!?

 メシを一口サイズの長方形に握ってその上にワサビと魚の切り身をのせるだけのお手軽料理だろーが!!

 こんなもん誰が作ったって味に大差ねーーベ!?」



「「「なるほど、そういう料理か!!」」」



アホな忍はスシの作り方を暴露した!

「ちょww なんで材料どころか作り方までばらしてんのww 」

ハンゾーの後ろに並んでいたニコルがピヨッた!


「味に大差ないだと?

 ざけんなてめー!!

 鮨(スシ)をマトモに握れるようになるには十年の修行が必要だって言われてんだ!

 キサマら素人がいくらカタチだけマネたって天と地ほど味は違うんだよボゲ!!」


ついで試験官がキレた!


「もーハゲのせいで作り方がみんなにバレちゃったじゃないの!!

 こうなったら味だけで審査するしかないわね!」


「次はオレだ!」「いやオレだ!」

どどどどど!

やいのやいの、わいわい

ぎゃあぎゃあ、がごすがごす!


(あーあ。メンチの悪いクセが出ちまった。

 熱くなったら最後、味に対して妥協出来なくなるからなー

 メンチを満足させられる料理人なんて世界中に数えるほどしかいないっつーの)


試験会場に発生してしまったカオス空間。


そこに、

「なんだ。まだ合格者ゼロなのか? 真打登場ってとこだな。」

さっぱりしたかんじのヤムチャさんがさっそうとあらわれた。

「ヤムチャ…」

「ヤムチャだ…」

「胴着が新しくなってる…」

「まさかあいつもニギリズシを…」

「なによ42番! 自信満々じゃない!!」

「まあな。ここらでお遊びはいいかげんにしろってところを見せてやるぜ」


つ『見た目は普通のニギリズシ』


(なるほど。いうだけあって見た目は合格ラインね。さてお味の方は…)

ぱくり。

キュピーン!

「42番! あんた合格よ!!」

「よしっ!」



「「「なにーーーーーー!?」」」



「どういうことだ!?

 なんでオレのがダメでこいつのはいいんだよ!?」


「握り方についてはあんたたちとどっこいだけど、

 いくらかのポイントは抑えてる。素人の仕事にしたら上出来よ。

 で、問題はネタの魚よ。そこらのゲテモノと違ってそこそこの一級品ね。

 しかもあたしがこれまで食べたことのないものだったわ!!」


「え、うそ、メンチが食べたことない魚?」

(メンチは一般に流通している魚はもちろん

 希少とされている魚でも一通り試食していたはず。

 味が一級品ならなおさら見逃してるわけないと思うんだけどなー)



「合格者が出たわ! 悔しかったらあんた達もすごいの用意して見せなさいよ!!」

「しゃあ! なめられっぱなしで終われるかよ!」

「「オレ達のたたかいはこれからだぜ!!」」


ブハラの困惑をよそに試験は続行される。

未知の食材Xの持ち込みによりヤムチャさん一発合格。

合格者がでたことで受験生たちの士気は高まり、

競争は激化の一途をたどった。

しかし…


ぱくぱくぱく。

ごくごくごく。

「ふーっ、

 …ワリ! おなかいっぱいになっちった!」

てへっ☆

終~~~了ォ~~~~!



「第二次試験後半

 メンチの料理(メニュー)

 合格者1名!」




「マジかよ」

「まさか本当にこれで試験が終わりかよ」

「冗談じゃねーぜ」

「納得いかねェな」

(#^ω^)ピキピキ

暴動寸前にまで張り詰める緊張の中、


「そうですね。このような試験結果になるとはまことに遺憾です。」


「ちょっと遺憾ってなによ!!

 え? あれ? サトツさん!?」


「アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服いたしかねます。

 異例ではありますが、再試験の実地を要請いたします!」



試験の推移を見守っていた

カールひげの黒服紳士、

第一次試験の試験官サトツが待ったをかけた。




[19647] へんじがない。ただのやむちゃのようだ・・・
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/07/29 00:36
「アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服いたしかねます。

 異例ではありますが、再試験の実地を要請いたします!」


ざわ…ざわ…


「どういうつもりなのかしら?

 各試験の試験方法と選考基準は試験官に一任されているはずよ!

 いくらサトツさんでも」


「そうですね。私にその権限はありません。しかし…」

サトツは口元に指を一本立てると、

ふと空を見上げてみせた。



「……あれは…飛行船!?」

「ハンター協会のマークだ!」

「審査委員会か!!」


ゴオンゴオン。

あたりに飛行船の駆動音が鳴り響く。


そしてはるか上空、

サメを模した飛行船のハッチから


ヒュゥゥゥゥゥウウウウウ…

ドォン!!


白髪の老人が降ってきた。


(何者だこのジイサン?)

(てゆーか骨は!? 今ので足の骨は!?)

「…審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の最高責任者よ。」

「「「!!」」」

「ま、責任者といってもしょせん裏方、

 こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃ。」

「会長へは私から連絡して来ていただきました」

「サトツさんが?」

「はい。先程も申し上げた通りです。

 アレが合格で99番や294番が不合格というのは承服しかねます」

「アレって42番のことよね?

 思考の柔軟性は申し分ないし、

 優れた食材を調達した手際も見事。

 見たところ腕も立つみたいだし超優良株でしょ?」


メンチの高い評価を聞いても、サトツは小さく首を横に振った。

(…サトツさんなんで42番のこと嫌ってるのかしら?)



「さてメンチくん。」

「はい!」

「二次試験の途中から試験課題の主旨が変質しており

 審査が不十分なのではないかとの意見が出ておる。

 現役のプロハンターであっても突破が難しい超難関となってしまった。

 と聞いておるのだが、どうなのかな?」

「それは…」


「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、ただ一人を除いてその態度に問題あり。

 残る71名はハンターとして不合格と判断したわけかね?」


「……いえ。テスト生に料理を軽んじられる発言をされてついカッとなり、

 その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして

 頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいになってですね…」

「つまり自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」

「…はい」


「ふむ。そういうことなんじゃが、かまわんかな?」

ネテロはヤムチャさんに問いかけた。

再試験を行うとなれば現状ただ一人の合格者であるヤムチャさんの合意を得る必要がある。


「試験をやり直すというのは別にかまいませんが、オレの合格は取り消されるんでしょうか?」

「いいや、おぬしの二次試験合格はすでに確定しておる。再試験には参加せずとも結構じゃよ。」

「わかりました。」


(この人がハンター協会の会長さんか。まるで武天老師さまみたいな人だな。

 …おっぱい見てるし。)


ネテロ会長がさりげなくメンチの胸を見ていることにヤムチャさんは気付かない振りをする。

ヤムチャさんは空気の読める男であった。






そんなこんなで二次試験延長戦『クモワシのゆで卵』スタート!


「着いたわよ」


受験生たちをのせた飛行船が着陸したのはある山の頂上付近だった。

山の真ん中には山を両断するかのような深い深い谷がある。

「高いな。まるで底が見えねェ」

「安心して。下は深ーい河よ。

 流れが早いから落ちたら数十キロ先の海までノンストップだけど。

 それじゃお先に。」


「え!?」

とん、

「「「えーーーー!?」」」


ヒュウウウウゥゥ!

メンチは一直線に崖から飛び降りていった。


「マフタツ山に生息するクモワシ、その卵をとりに行ったんじゃよ。」


ネテロは動じることなく今回の試験について解説をはじめる。


「クモワシは陸の獣から卵を守るために谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしておく。

 その糸にうまくつかまり、

 1つだけ卵をとり、

 岩壁をよじ登って戻ってくる。」


「よっと、この卵でゆで卵を作るのよ」

谷底から戻ってきたメンチの手には卵が握られていた。


(簡単に言ってくれるぜ!

 こんなもんマトモな神経で飛びおりられるかよ!?)


「あーよかった。こーゆーのを待ってたんだよね。」

「走ったりわけのわからん料理作りするよりよっぽど早くてわかりやすいぜ!」

「よっしゃ行くぜ!!」

「そりゃあー!!」

ばっ!

威勢よく谷へと飛び込んだのは受験生たち全体の4割ほど。

残りの6割は足がすくんで飛び降りることができずにいた。


「残りは? ギブアップ?」

「やめるのも勇気じゃ。テストは今年だけじゃないからの」





(よし。飛び降りる場所もタイミングもバッチリだ!)

ヒュウウゥゥ、

ガシッ!

「ふぅ」

ぶらーん。

崖から飛び降りたトンパは、見事クモワシの糸にぶら下がることに成功した。

(こういうときにはゲレタのやつの冷静さが頼りになるんだよな~)

ベテラン受験生の動向を把握し

その行動を模倣することでリスクを抑えるのはトンパの常套手段だ。



「あっぶねー! 勢いで飛びこんじまったけど、ここめちゃくちゃたけーじゃねーか!!」

「実際、何人かは糸をつかみそこなって落ちていったようだな。」

「へへん、おっさき~」

「あっ! キルア!

 くそ~、崖登りならオレだって負けないぞ!」


(チッ、お気楽なルーキーどもが。…今に痛い目を見せてやるからな!)

はしゃいでいる初心者組にガンをとばし、

トンパは片手でバランスを保ちながら卵を一つ手に取った。


「トンパさん!」

(ん?)


メキョッ!


振り向いたトンパの顔面に、忍び寄っていた男の足がめり込んだ。

「ぶばぁ!?」

「お元気そうですね。トンパさん?」

「お前、ニコルか!?」

ニコルは張られている糸に両手でつかまった状態から

身体の反動を利用して蹴りを放ってくる。


「3兄弟に確認してきましたよ。やはりあなたが黒幕だったそうですね」

(げっ! あいつらオレが妨害頼んだのばらしやがったのか!?)

バキ! ビシ!

「ぐっ、やめ」

「釈明なら結構です。どのような事情があろうと、あなたがボクを陥れた事実は変わりませんから。」

ゲシゲシゲシ!

(やばい! いったん卵を手放して体勢をとt)

「はーーー! ちぇすとーー!!」


ドン!!


「あっ…あっ…」

(こんな、こんなバカなことでこのオレが…?)

宙へと伸ばした手がなにかをつかむことはない。

トンパの体は重力に引かれて深い谷底の川へと落下していく。



「ニィコォルゥゥゥウウウウーーーーッ!!」




……ドボォン!!!





「第二次試験後半

 メンチの料理(メニュー)

 最終合格者43名!」






ゴオンゴオン。

二次試験に合格した受験生たちをのせた飛行船が、夜の空を泳いでいく。


「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください」

「ゴン!飛行船の中探検しようぜ」

「うん!!」

「元気な奴ら…オレはとにかくぐっすり寝てーぜ」

「私もだ。おそろしく長い一日だった」


このあとゴンとキルアは船内で出会ったネテロとゲームをすることになり、

レオリオとクラピカはぐっすりと休養をとることになる。




ほとんどの受験生が疲れ果ててぐったりとしている

飛行船内の一角に

のほほんと夜景を眺めている2人組がいた。


「ヤムチャ様はなぜハンターになろうと思ったんですか?」

「オレはちょっとわけありで戸籍がないんだ。だから身分証明に使おうと思ってな。

 それにハンターライセンスを持っていればほとんどの国はフリーパス。公共施設も無料で使えるって話だからな。」


(そんでもってかわいこちゃんたちにもモテモテのウハウハだしな!)

ぐふふふふ。

ヤムチャさんの顔がにへらっと緩んだ。


「そういうニコルはどうしてハンターになりたいんだよ?」

「…ボクがハンター試験を受けたのは父を見返すためなんです。」

ニコルはとうとうと語りだした。


「ボクは父と賭けをしたんですよ。

 今年のハンター試験を受けて、落第したなら大人しく父の後を継ぐ。

 でも、もしも一発で合格できたならボクの選ぶ人生に文句を言うな、とね。

 ルーキーがハンター試験に合格する確率は3年に一人だと言われています。

 きっと、自分だけは特別な存在だと思いあがっていたんですね。

 ヤムチャ様がいなければボクは一次試験で脱落していました。」


「へぇ~、そ、そうなのか~」

(お、重いな。オレと違ってニコルはこの一回に人生がかかってるのか!?)

「…そういうことならオレもできる限りの協力はするぜ!」

ガシッ!

「ここまでヤムチャ様に助けられてばかりでしたから、今度はボクがお役に立って見せます!」

「よし! ぜったい一緒に合格しような!!」





同じく飛行船内の一室で

サトツ、メンチ、ブハラの試験官トリオが

食卓を囲んでいた。

「ねェ、今年は何人くらい残るかな?」

「合格者ってこと?」

「そ。なかなかのツブぞろいだと思うのよね。

 一度はみんな落としといてこう言うのもなんだけどさ。

「ルーキーがいいですね今年は」

「あ、やっぱりー!?

 まぁ294番のハゲも捨てがたいけど、あたしはぜったい42番ね!!」

(二人だけスシ知ってたしね。…294番の方は落とそうとしてたけど)

「42番…ですか。私は断然99番ですな。彼はいい」

「サトツさんはどうして42番のこと嫌ってるのよ? 良い奴じゃない。」

(ちゃんとスシに使った魚のあまり譲ってくれたしね)

もぐもぐもぐ。

ブハラは黙々とフォークを進めている。


「そのことについては食事を終えてから説明します。」


・・・

食後のコーヒーを飲み終えて、

一時的に席を立っていたサトツが部屋に戻ってきた。

「一次試験の監視カメラの映像を借りてきました。」


ピピッ


サトツがリモコンを操作すると

「彼が会場入りした時の映像です」

エレベーターから降りてくるヤムチャさんの姿が部屋のモニターに映し出された。


「…あれってトンパだよね。ジュースなんか飲んだらやばいんじゃない?」

「トンパ?」

「新人つぶしのトンパ。受験回数30回を超える名物人です」

「あー! 思いだした!! あたしが試験受けた時にもいたわ!

 あいつこのあたしに睡眠薬なんか盛ろうとしやがってさー!!」


トンパと別れてすぐ、映像の中のヤムチャさんが苦しみ出す。

ヤムチャさんはエレベーターの表示を確認したかと思うと

次の瞬間にはその姿を消した。


「えっ?」

「……」

「スローでもう一度再生します」

ピッ

カメラは手で腹をおさえながら超高速で移動するヤムチャさんの姿をとらえていた。

「…無駄に速いわね。ブハラ、いまの動き見えた?」

「ぜんぜん。メンチだってちゃんと見えなかったろ?」

ピッ

サトツの操作で場面が切り替わる。


『お、おごぉぉおおお』

ゲーリーウルフと化したヤムチャさんの横を

サトツと受験生たちが走って通過していく。

「うは! きったないわねー!! なにさっきのジュース強力な下剤入り!?」

(あーこれじゃ印象悪いよなー)

「その後、回復した彼は」

ピッ

『ハァアアアッ!』

バシュゥゥゥゥン!!!

「すごいスピードで飛んでる…」

「念能力を隠そうって気はないのかしらね。師匠はどこのどいつよ?

 …監視カメラの前で披露してるのはお粗末だけど、念能力に関しては一流ハンター並か。あ~なんか腹立ってきた!!」

ピッ

映像が地下通路の出口、シャッター付近のものに切り替わる。


『かめはめ波ーーー!!』

どかーん!

(……)

(……あのシャッター壊しちゃまずいんじゃないかなー)

ヤムチャさんはニコルを背負って空へと飛んでいった。

ピッ

ブツン。

「監視カメラの映像はここまでです」

「これはひどい。」

「注意力は凡人以下。念能力頼りの体力馬鹿ね。」


「強いことがプロハンターとなるための必須条件です。

 その意味では彼にも十分にその資格があるといえるのですが…」


「サトツさんが警戒してた理由がわかったわ。

 こんな醜態さらしてた

 42番だけ合格にしてたら、

 他のテスト生たちからは苦情殺到ってわけね。」


「…受験生たちの不満はハンター協会への不信につながります。

 仮に今年唯一の合格者としてプロハンターになった42番が問題を起こせば

 試験の総責任者であるネテロ会長の責任問題に発展する危険性がありました。」



・・・・・


「皆様大変お待たせいたしました。目的地に到着です」

時刻は午前9時30分。

機長による船内アナウンスが流れると、

受験生たちを乗せた飛行船は、高い高い円筒状の建物の屋上へ着陸した。

「何もないぞ。殺風景なところだな。」

「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。

 ここが三次試験のスタート地点になります。

 さて試験内容ですが、試験官からの伝言です。

 生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。」


マーメンから三次試験の課題が発表されて

第三次試験の参加者たちが動きだした。


「側面は窓ひとつないただの壁か」

「ここから降りるのは自殺行為だな」

「…普通の人間ならな。」

グッ

「このくらいのとっかかりがあれば一流のロッククライマーなら難なくクリアできるぜ」

ス、ス、

「うわすげ~」

「もうあんなに降りてる」

器用に外壁をつたって降りていく姿に

キルアとゴンが感心するのもつかのま、

「あ……」
「ん?」
「あれ」

ゴンの指差す方向からは、グロテスクな怪鳥がばっさばっさと飛んできていた。

「ふふん。どうやら三次試験の合格第一号はオレ様のようだな……

 …ッ!?

 うわぁぁあああッ!?」

哀れ。

外壁をつたって降りていた自称一流ロッククライマーは怪鳥の餌食となってしまった。


「よぉ! こりゃ外側から降りるのは無理そうだなー!」

その様子を見ていた黒装束の男、ハンゾーがキルアとゴンに話しかけてくる。

「おっさん、なんか用?」

「そう警戒すんなよ。

 オレの名前はハンゾーだ。

 試験官にハンターとしての資質を認めてもらった者同士、

 お互い仲良くしようぜ。な!」

「あ! 294番!!

 二次試験の時にキルアと一緒に褒められてた人だ!」




「屋上の床にはいくつか隠し扉があるようですね。こちらが正規のルートでしょう」

「オレはここから飛んで降りるつもりだが、ニコルはどうする?」

「…ボクは隠し扉から降りようと思います。いつまでもヤムチャ様に頼ってばかりもいられませんから。」

「そうか」

ヤムチャさんはニコルの言葉にうなずくと

袋から取り出した仙豆を一粒、ニコルに放った。

「下でまた会おう」

「ッ、ありがとうございましたッ!

 それではお先に失礼させていただきますッ!!」

ガコン。

ニコルは近くにあった隠し扉を作動させてタワーの内部へと姿を消した。

(妙に気合が入ってたな?)


きょろきょろ、

(隠し扉には他の連中もあらかた気づいてるな)

ニコルを見送ったヤムチャさんは余裕たっぷりだった。

ヤムチャさんは舞空術で自在に空を飛べる。

このトリックタワーがどんなに高くても、

普通に飛んで下まで降りて、一階の入り口から入ればそれでミッションコンプリートなのである。


(もう少し人数が減ってからこっそり降りるか。三次試験は楽勝だったな)

「ってうわぉ!?」

バクン!

なにげなく歩いていたヤムチャさんの足元が抜けた。





ゴン、キルア、レオリオ、クラピカにハンゾーを加えた5人は、

密集した5つの隠し扉を見つけていた。

「1、2の3で全員行こうぜ。ここでいったんお別れだ。地上でまた会おう。」

「ああ」

「1」

「2の」

「「「3!!」」」

ガコン。

スタ! スト、ドカ! ザッ! タッ、

「くそ~。どの扉を選んでも同じ部屋に降りるようになってやがったのかよ」

「短い別れだったな。」

地上での再会を期して別れた5人だったが、落ちた先は同じ部屋だ。


「この部屋…出口がない…?」


出口の見当たらない閉ざされた部屋。

壁には文章の書かれたプレートがかけられている。


『多数決の道。君たち5人はここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えなければならない』


「多数決の道か……」

プレートの前にある台座には少し変わった形のタイマー(腕時計)が5つ置かれていた。

「この○と×のボタンがついてるタイマーをつけるわけだな。」

クラピカ、レオリオ、ハンゾー、

続いてゴンとキルアもタイマーを腕につけた。


ゴゴゴゴゴ。


「なるほど。5人そろってタイマーをはめると」

「ドアが現れる仕掛けってわけだ」

壁の一部がスライドしてあらわれた扉には、こんな文言が書かれていた。

『このドアを

 ○→開ける  ×→開けない』





シュタッ!

ヤムチャさんがうっかり落ちてしまった先もまた、

出口の見当たらない部屋だった。


『ようこそ42番! さあ、右手の壁にあるスイッチを押したまえ!!』


備え付けのスピーカーから男の声が響く。

「これか?」

ポチッと!

ズズズズズ、

ヤムチャさんがスイッチを押すと

壁面の一部がスライドして試験内容を記したプレートがあらわれた。


『知識の迷宮。君は出題される問題に解答しながらゴールを目指さなければならない。

 答えを間違えても先への道は開かれるが、間違えるたびにペナルティが科される。』


「なるほど知力を試そうってわけか。

 ふふん。なかなか面白そうじゃないか。」


『問い一 アイジエン大陸に存在する国の名前を3つ挙げよ』


余裕綽々で問題文に目を通すヤムチャさん。

問題文の書かれたとなりには回答入力用のパネルが用意されている…


「ッ……国の名前……!?」

(しまった! ぜんぜんわからん!!)


かつてない強敵の出現!!

はたしてヤムチャさんはこのピンチを乗り越えることができるか!?




[19647] ヤムチャさんが最強の地球人にパワーアップするようです
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/08/09 00:19

第3次試験の課題はトリックタワーの攻略だった。

自分の力で試験合格を勝ち取るために

屋上でヤムチャさんと別れる決断をしたニコル。

彼が挑んでいるのルートは、


『ちょっと不思議な迷宮(ダンジョン)』だ。


古めかしい石造りを模した通路と部屋。

ニコルは各所に仕掛けられている眠りガスやトラばさみの罠を回避しながら、

階段と落とし穴を利用して最下層を目指した。


解いた暗号を頼りに分岐点を進み、

居眠りしている試練官(魔道士)の横を忍び足で通過して

宝箱に納められていたカードキーをゲットする。


(いける! いけるぞ!

 オレはヤムチャ様に頼らなくても、

 一人でも立派にハンター試験を突破できるんだ!!)


順調だった。


「ハンター試験に合格したら、ヤムチャ様と一緒に世界中を見てまわりたいな。」


怖いくらいに順調だった。


「おっと、ピアノ線に弓矢を組み合わせたブービートラップですね。

 簡単な罠ばかりだ。こんなものでボクをとめられるものですか!」


一度立ち止まって考えるべきだった。


・・・

階段が見つからなかったため

ニコルは落とし穴から下層階へと降りた。

シュタッ!

降りた先、四角い部屋の出口は一か所だけだ。

カギのかかった鉄格子の扉がニコルの行く手を阻んでいる。

「ふむ。」

(…壁の模様に違和感がありますね)

ゴトン。

部屋の壁に隠してあったカギを発見し、

ガチャン!

鉄格子の扉をあけた。


部屋を出て、薄暗い通路を歩いた先には

下りの階段とエレベーターがあった。

天井に設置されているスピーカーから、男性試験官の声が流れてくる。


『カードキーは手に入れたかな?』


「もちろん手に入れましたとも。」

ニコルは宝箱から手に入れたカードキーを誇らしげに取り出すと、

エレベーターの横に付いているスリットに差し込んだ。

ピッ!

エレベーターの電子ロックが解除されて

トリックタワー1階への直通エレベーターが使用可能になった。


『おめでとう!』


「当然です!」

試験官からの祝福の言葉を聞いて、

ニコルは上機嫌でエレベーターへと歩を進める。



カチッ!



「え?」


そしてエレベーターに乗り込む一歩手前、ニコルの足元で

試験官が仕掛けた最後のトラップが発動した。


『そして、さようなら。』


(; ̄д ̄)!?


どっかーん!!

大爆発!!


「ひでぶ!」

ニコルは瀕死の重傷を負った。







多数決の道。

ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア、ハンゾーの5人が通路を進んでいくと、

とても大きな部屋にでた。

部屋の中央には正方形のリングがあり、その周囲は底の見えない吹き抜けになっている。

通路は部屋の入り口で途切れていた。


「我々は審査委員会に雇われた「試練官」である!

 ここでお前たちは我々5人と戦わなければならない!

 勝負は一対一で行い各自一度だけしか戦えない!!

 順番は自由に決めて結構!

 お前たちは多数決、すなわち3勝以上すればここを通過することができる!

 ルールは極めて単純明快!

 戦い方は自由!

 引き分けはなし!

 片方が負けを認めた場合において残された片方を勝者とする!!」


リングをはさんで向こう側の通路に立っている

スキンヘッドの試練官、ベンドットがここのシステムを解説する。


「こちらの一番手はオレだ!

 さぁそちらも選ばれよ!!」


ゴゴゴ…

部屋の入口から中央のリングまで足場が伸びた。


(いやな目をしてやがる…)

「…オレが行こう。

 奴が提案してくるのは十中八九デスマッチだ。

 殺し合いも含めた直接戦闘なら俺が適任だろう」


ハンゾーが一番手として名乗りを上げ、足場を渡ってリングに向かった。

正方形のリングの上で、ベンドットとハンゾーが対峙する。


「勝負の方法を決めようか。オレはデスマッチを提案する!!

 一方が負けを認めるかまたは死ぬかするまで、戦う!!」


「いいぜ。

 ただし、わざわざ殺すのも手間なんでな。

 どちらかが意識を失った場合はそこで決着にしてくれ。」


(こいつ、このオレに勝てる気でいるのか?)

「…よかろう!

 ならば、勝負!!」


ザザッ!

ベンドットは床をけってハンゾーとの距離を詰めr

フッ…

「な!?」

ズンッ!

ハンゾーの拳がベンドットの腹を直撃した!

「ッ~~~~~!?」

ダン!

狙い澄ましたハンゾーの手刀が

悶絶しているベンドットの首筋に打ち込まれる。


どさっ、


「安心しな。

 気絶させただけで命に別状はないぜ。

 オレの勝ちだな。」


第1試合 勝者ハンゾー!

わずか数秒足らずの戦いで

試練官ベンドット(戦場帰りの男)は意識を失い敗北した。


「すっげ~!! なにもんだよおまえ!!」

「自信を持つだけのことはある。今年の受験生の中でもトップクラスの実力だろう」

「ふっふっふっ、ここだけの話だけどよ、

 実はオレ忍者なんだよ!

 忍者ってのは忍法という特殊技術を身につけた戦闘集団なんだがな、」

「はいはい。わかったわかったすごいすごい。それで? 次はだれが行く?」

「オレが行くよ!!」


第2試合 セドカン戦

持っているローソクの火が消えたほうが負けという変則バトル。
セドカンに仕掛けられたトラップを逆に利用してゴン勝利!


第3試合 マジタニ戦

ベンドット戦と同じくデスマッチ。
A級賞金首である幻影旅団の一員を詐称してみたマジタニだったが、
クモのイレズミを見てキレたクラピカ(緋の眼)に一撃で打ちのめされた。クラピカ勝利!


試練官たちとの5番勝負は、

無傷の3連勝によりゴンチームの勝利に終わった。

キルアとレオリオは出番なし!!


「…大丈夫なのかクラピカ」

「ああ、私にケガはない。」

「つーかお前に近づいても大丈夫か?」


感情が激しく昂ると瞳の色が緋色に変化するクルタ族の特異体質。

いきなりキレたクラピカを見て、レオリオはちょっとだけビビっていた。


「わかっていたんだがな。一目見てたいした使い手ではないことくらい。

 あのイレズミも理性ではニセモノだとわかっていた。

 しかしあのクモを見たとたん目の前が真っ赤になって……

 …と言うか、実は普通のクモを見かけただけでも逆上して性格が変わってしまうんだ」


「難儀な性格してんだな。昔いやなことでもあったのか?」

「少しワケありでな。驚かせてすまなかった。」

ハンゾーの疑問の声に、クラピカは言葉少なに答えた。


「なにはともあれ三連勝だ!!

 この調子でバリバリ進もうぜ!!」

「おっさんは何もしてないだろ。」

「んな!?」

「? キルア、なんか機嫌悪い?」

「……別になんでもないよ」

(あんな連中片づけるくらいオレだって楽勝だっつーの!)


ズズゥウウン!!

ぐらぐらぐら!


「っと! なんだ!? 地震か!?」

「…いや、いまの揺れは下からじゃねーな。

 他の連中が爆弾でも使ったか?」






トリックタワー内にあるモニタールーム。

お菓子を食べながら監視カメラの映像を見ているのは

賞金首ハンター兼刑務所長にして第三次試験官のリッポーだ。


「新人ばかり5人集まってどうなるかと思えば

 3連勝とは。報告通りなかなか優秀じゃないか。」


パリポリ、クチャクチャ、


(44番は流石というべきか。

 途中にある隠し通路をすべて発見して最短ルートでゴールに向かっているな。)


ズズゥウウン!!

ぐらぐらぐら!


「チッ! 42番め、問題がわからなかったら力づくか。バカなんだか利口なんだかわからんな。」


リッポーがヤムチャさん専用に用意したルートの名前は「知識の迷宮」

まずは簡単に解ける問題を連発して調子に乗らせ、

ターゲットをトリックタワーの内部に誘いこんだところで

退路を断ち、高難度の問題と重いペナルティをぶつけるはずだったのだが…

まさか最初の常識問題からつまづかれるとは想定していなかった。




・・・・・・


説明しよう!

ヤムチャさんは悟空やベジータといった脳筋な仲間たちと比べるとすこぶる頭が良い!

Z戦士きっての頭脳派というわけだ!!

しかしだからといってハンター世界の地理や歴史を知っている道理はまったくなかった!!

いかにヤムチャさんの知性が優れていようと、知らないことを答えるというのはやはり無理があるわけで……


「とりゃーッ!」

ドーン!!

トリックタワー最上層の天井をぶち破り、大空に向かってヤムチャさんが飛び出した!

バシュゥウウウウ!!

ピタッ。

「べ、別に問題を解いてやってもいいんだけどな!

 解くのにかかる時間がもったいないし、

 せっかくだからオレは舞空術で外からおりるぜ!!」


と、そのとき

『ゲッゲッゲッ』

なにやら不気味な鳴き声がして、

空中に浮かんでいるヤムチャさんの顔に影が差す。

「ん?」

不審に思って上空を見上げると

グロテスクな怪鳥が、大口を開けてヤムチャさんを狙っていた。

バクッ!

「おっと」

ヤムチャさんは急降下してきた怪鳥の大口をひらりとかわす。

「なんなんだこいつら?」

空中にいるヤムチャさんを狙って、

グロテスクな怪鳥の群れがばっさばっさと集まってきていた。


「ハンター協会のペット、というわけではなさそうだな。

 このオレを狙うとはバカな鳥だ。

 少しおしおきしてやるか!」


バキッ! ドガッ!

大口を開けて迫ってくる怪鳥の頭にげんこつを落とし、

別の1羽のあごを蹴り上げる。


『ゲゲッ!?』

「おまえたち、逃げるならいまのうちだぞ?」

がしっ!

ヤムチャさんは怪鳥の尻尾をつかむと、

そのまま大きく振り回し始める。

ブゥン! ブゥン! ブゥン!

「それっ!」

『ギョッ!?』

ビュッ! ドシャアッ!!

ヤムチャさんがスイングして投げた怪鳥に近くを飛んでいた2羽が巻き込まれて、

合計3羽の怪鳥がタワーの屋上へと落ちていった。


「まだやるか?」

『ググゥッ』


獲物だと思っていたヤムチャさんの秘めていた力に震えあがり、

グロテスクな怪鳥たちは大慌てで散っていく。


ぱんぱんっ!

「今日のところはこの辺にしといてやるぜ!」

ビシッ!

戦いに勝利して気の晴れたヤムチャさんは

舞空術で地上へと降りていった。


『42番 ヤムチャ

 3次試験通過第一号

 所要時間1時間43分!』



「1時間43分ってことは、あと70時間は待たないといけないのか」

(次の試験が始まるまで3日もあるなら、その間に少し修行しておくか。)


タワー1Fにいた黒服から許可をもらったヤムチャさんは、

トリックタワーから外に出ると舞空術で近くの山へと移動した。


「このあたりでいいか」

ごそごそごそ、

ぽいっ

ヤムチャさんの放ったホイポイカプセルから


BOMB!


カプセルコーポレーション製の立派な宇宙船があらわれる。

ウィィィィン

ヤムチャさんは宇宙船に乗りこむと、

人工重力装置の目盛りを100Gにセットして起動スイッチを押した。




・・・・・・


100倍の重力場が発生している宇宙船内で、

界王拳(かいおうけん)の赤いオーラに包まれたヤムチャさんが拳を振るっていた。

自身の気の流れを確認しながら、一つ一つの動作を丁寧に繰り返している。


「997……998……999……1000!」


ランニング、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、

最後に新狼牙風風拳の1000本ノックを終えて

ヤムチャさんはその場に倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


(手加減している状態だったとはいえ、

 ヒソカには新狼牙風風拳も繰気弾も通用しなかった。

 前からうすうす感じてはいたが、あれではっきりしたぜ!

 オレにはもっと強力な必殺技が必要だ!!

 オレよりも強い敵があらわれても、それこそあのフリーザでも倒せるような新必殺技が!!)


グッ!

ヤムチャさんは強い決意を込めて拳を握りしめる。


(新狼牙風風拳と繰気弾はもう10年近く前に編み出した技だもんな。

 今のままじゃ技の隙が大きすぎるし、強い奴を倒すには威力が足りない。)


孫悟空の瞬間移動かめはめ波。

クリリンの気円斬。

ピッコロの魔貫光殺砲。

天津飯の気功砲。

いずれも一撃必殺の可能性を秘めている、真の意味での必殺技だ。


「よーし! みんなに負けないすごい必殺技を開発してやるぜ!!」


気のコントロールの向上。

新狼牙風風拳の更なる改良。

必殺技としての繰気弾の進化。


ヤムチャさんの当面の課題はこの3つだ。


「悟空……ッ、オレがもっと強くなって、お前の分までみんなを守ってみせるからな!!」


食事と睡眠をはさみながら、

ヤムチャさんの修行は3日3晩つづけられた。





トリックタワー1Fの広間。

ズズズ…

扉が開いて、ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア、ハンゾーの5人が現れた。


「ふぅ~ッ

 なにが5人で行けるが長い道に3人しか行けないが短い道だよ!!

 最短でも45時間だと!? 20時間足らずで降りてこられたじゃねーか!!」


「やはり我々の仲間割れを誘うためのブラフだったのだろう。

 実際にどちらの道を選ぶかで揉めたことだしな。」

「確実に間に合う保証はないって誰かさんが大騒ぎしてたからね。」

クラピカの言葉にキルアが続く。


「なんだそりゃ! オレがバカだっていいてぇのか! あん!!」

「そうじゃないけどさ(そうだけど)

 お互いに面識もない面子であの選択肢をつきつけられたら

 仲間よりも確実性をとって殺し合ってただろうなってことだよ。」


「同感だ。多数決の道なんて考えた試験官は絶対に性格ワリィよな。

 ま、うちにはぜったいに5人一緒に合格しないとやだ、なんていうお子様が混じってたしな。」

なでなで。

「長いほうの道を選んで全員で合格できたんだから良かったじゃんか!」

「まーな!」

(ま、オレはどのみち、最後の分岐点さえ通過できればあとは合格できると踏んでたわけだが…)

じーっ、

「ハンゾーさん?」

(やっぱわかってねーよなぁ。ったく、オレのこといい人だなんて勘違いしやがって)

「わっ!?」

わしゃわしゃわしゃっ、

ゴンのまっすぐな目に面映ゆい感覚をおぼえて、

ハンゾーはゴンの髪を乱暴にかき回した。




・・・・・・


「おっ、ニコル!

 3日ぶりだな。大丈夫だったか?」

「…ヤムチャ様から頂いた仙豆がなければ、ボクはここには居られませんでした…」

「仙豆が役に立ったのか。合格できてよかったじゃないか!」


きょろきょろ、


(レオリオとゴンにクラピカも合格できてるな。

 よかった。

 む、そういえばトンパがいないな。

 せっかく心を入れかえたのに脱落したのか。気の毒にな。)



・・・


『タイムアップーーーー!!』


「第3次試験

 トリックタワー脱出

 通過人数26名!!(うち1名死亡)」



3次試験の終了を告げるアナウンスが流れ、

受験生たちがぞろぞろとトリックタワーの出口へ向かう。



トリックタワー1Fの外に集まった25名の受験生たちを、

三次試験の試験官だったリッポーがむかえた。


「諸君。タワー脱出おめでとう。

 残る試験は4次試験と最終試験のみ。

 4次試験はゼビル島で行われる。

 では早速だがこれからクジを引いてもらう。

 このクジで決定するのは狩る者と狩られる者。

 それではタワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」


(オレからか)

最初の合格者だったヤムチャさんがクジを引く。

出てきたカードには384番と書かれていた。

(384番…)

チラッ

(あの色黒な男の番号だな)

ヤムチャさんに続いて他の受験生たちも順番にクジを引いていく。


「それぞれのカードに記された番号の受験生がそれぞれの獲物(ターゲット)だ。

 奪うのは獲物のナンバープレート。

 自分の獲物となる受験生のナンバープレートは3点。

 自分自身のナンバープレートも3点。

 それ以外のナンバープレートは1点。

 最終試験に進むために必要な点数は6点。

 ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること。」


(25人でナンバープレートの奪い合い。

 合格できるのは多くても12人までか。)


説明を聞いた受験生たちは、

胸のナンバープレートを懐にしまい込んで情報を遮断した。

自分を狙っているのは誰なのか。自分の獲物は誰なのか。

受験生たちはハンター協会が用意した船に乗り込み、

波に揺られながらゼビル島へと移動する。


(42番……ボクの獲物はヤムチャか。)

(44番…ヒソカの番号だ。)

(199番……誰だろ?)

(187番。ニコルだな。ヤムチャと組まれると厄介だが…)

(246番だと? くそっ、誰だかわかんねーよ!)

(198番。あの3兄弟がオレの獲物か。問題はオレを狙っているのが誰かだな)

(80番。サングラスの彼女がボクの獲物ですね。女性だからといって手加減はしませんよ。)

「あの案内役の女の子けっこう可愛いよな。」


ヒソカ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ハンゾー、ニコル、ヤムチャ。


サバイバルの開幕だ。



[19647] HISOKA×強過ぎ×ワラタ
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:71fd6e89
Date: 2010/08/29 00:11

4次試験に参加する25名の受験生をのせた船が、ゼビル島に接岸した。

試験会場となるゼビル島は、島全体が樹木に覆われた自然あふれる無人島だ。


「それでは第3次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます!

 一人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式をとります!!

 滞在期限はちょうど1週間!

 その間に6点分のプレートを集めてまたこの場所に戻ってきてください!

 それでは1番の方スタート!!」


案内役の女の子から指名されたヤムチャさんが、

うっそうと生い茂る森の中へと歩いていく。


(2分置きにスタートってことは、

 最後の一人が出発するのは50分後か。

 あの色黒な男は何番目なんだ?)


「なるほど。先に行ける方が有利だな」

「ああ。自分は先に身を隠し、狙った獲物の動向をチェックできるからな」

ヤムチャさんを見送るクラピカとレオリオ。


そして2分後、ヤムチャさんを狙うヒソカがスタートダッシュをかけた。



・・・


森に入ったヤムチャさんはあたりを軽く見まわすと、

タン!

軽くジャンプして木の上に身をひそめた。

(このままスタート地点の近くで待ち伏せして

 ターゲットの順番がまわってきたらすぐにプレートを奪ってしまおう。)


しかし、

ザザッ!

「やあ。」

追ってきたヒソカにあっさり見つかった。

「…ヒソカか」

「キミのプレートを奪りにきたんだ。

 たしか42番はキミだったよね。」


ヒソカはクジで引いたカードを取り出して見せた。

カードに描かれている数字は42番。ヤムチャさんの番号だ。


(この殺気……戦る気まんまんって感じだな。

 武道家として、強いやつと戦いたくなる気持ちは分からなくもないが…

 ここだと人が来る。場所を変えるか)


ヤムチャさんは木から飛び降りると、森の中を駆け出した。

「逃がさないよ。」

島の奥へと移動するヤムチャさんを、ヒソカが追いかけた。




・・・・・・


スタート地点から遠く離れた草原で

ヤムチャさんとヒソカが向かい合っている。


「ここなら誰かを巻き込むこともないだろう。

 オレのナンバープレートが狙いなら相手になるぜ。」


ヤムチャさんは軽く拳を上げてかまえた。


「降参するか戦闘不能になったほうの負け。

 負けた方は勝った方に自分のナンバープレートを渡す。どうだ?」


「OK.この間の戦いの続きといこう。

 今度は手加減なしで最強の戦士とやらの本当の実力を見せてもらいたいな。

 今回は時間もたっぷりあることだしね。」


ヒソカはニタリと哂う。


「へえ、手加減してたの気づいてたのか。」

「キミがこの場に立っていることがそれを証明しているよ。

 自分の必殺技で自爆したのにピンピンしてるなんて不自然だろ?」


「なるほどな。

 一つだけ訂正しておくが、オレは最強の戦士なんかじゃないぜ。

 悟空、ベジータ、ピッコロ、世の中上には上がいる。」


戦いを前にヤムチャさんの気が高まっていく。

ヒソカも愛用のトランプを構えて臨戦態勢だ。

ばさばさばさ!

とたとたとた!

戦いの気配を察知した野生の動物たちが付近の森から逃げだしていく。


「オレが獲物(ターゲット)とは運がなかったな。

 ヒソカ、悪いがお前にはここで退場してもらうぞ。」


ジャッ!

「!」

ガガンッ!

高速で接近したヤムチャさんのワンツーパンチを

ヒソカはかろうじて防いだ。

シュッ! シュビッ!

ヒソカの反撃のトランプが空を切る。

ヤムチャさんは体勢を低くしながら前へと踏み出し、

「はっ!」

ドゴォン!!

強烈なアッパーカットで両腕のガードごとヒソカをぶっとばした。

タンッ、

ヒソカは地面に片手をついて半回転。体勢を立て直す。


(速いな。動きが以前とはまるで別人だ。)


「やはりな。

 お前は攻撃が当たるとき、瞬間的にその場所に気を集中させているんだ。

 だから見た目以上に打たれ強いし攻撃も重い。」


「正解。

 念の応用技の一つで『流』と呼ばれる技術だ。

 キミはまだ知らなかったようだけどね。」


ズ…


「目を凝らしてよく見てごらん。」

ヒソカは左手の人差し指と中指を立ててみせた。

「なに?」

ヤムチャさんは言われたとおりに目を凝らす。と、

(なんだこれは!?)

ヒソカの指先から伸びたオーラが、自分の左腕に張り付いているのが見えた。


「よくできました。」


ギュン!

「!?」

ヒソカのオーラに左腕を強く引っ張られて、ヤムチャさんはバランスを失う。

バキィ!

ヒソカの右ストレートがヤムチャさんの顔面を捉えた。

「ぐがっ」

そのままヤムチャさんは地面にたたきつけられるも、すぐさま飛び起きる。


「これ、伸縮自在の愛(バンジーガム)っていうんだ。

 よく伸びよく縮む。つけるもはがすもボクの意志。」


(バンジーガム! 気にゴムとガムの性質を持たせる技なのか!?)


「そろそろ本気でいかせてもらおうかな。

 あっさり死なないで愉しませてくれよ。」


「こんなものっ」

グニグニ、グニョーン。

ヤムチャさんはつけられたオーラをはがそうと手で引っ張ってみるが、

オーラは力を加えられた分だけゴムのように伸びるばかりだ。

…引っ張った右手にもオーラがはりついてしまい、

むしろ状況は悪化した。


「………」

「それで、どうするつもりなのかな?」


グッ!

「おっと!」

再び身体を引っ張ろうとするヒソカのオーラに対抗して、

ヤムチャさんはその場に踏みとどまった。

にやり。

「へっ、引っ張られるからなんだと言うんだ。

 力比べなら負けやしないぜ! 逆に振り回してやる!」


ヤムチャさんは得意げな表情でヒソカのオーラを引っ張る。が、

ウニョーーーーン。

引っ張ってもオーラが伸びるだけだった。ヤムチャさんはバランスを崩してたたらを踏む。


「………」

「あんまり隙を見せられると殺っちゃいたくてウズウズするんだよね。

 そろそろ本気で戦ってくれないかな?」


「…いいだろう。お遊びはここまでだ。

 念とやらについて教えてもらったことには感謝するぜ。」


ゴオッ!!

ヤムチャさんの身体から大量の気がほとばしる。

その圧力を受けて、ヒソカがヤムチャさんに張り付けたオーラが千切れとんだ。


(これは…)

「お前じゃオレには勝てない。終わりだ。ヒソカ。」

ギュアッ!

正面から超高速で接近したヤムチャさんの拳がヒソカを、


『奇術師の真実(レベルリミッターリリース)!』


バシィ!!

「なっ!?」

「――おどろいた。つい本気を出しちゃったじゃないか。」


ヤムチャさんの拳はヒソカの手で受け止められていた。


(ヒソカの潜在パワーが一気に膨れ上がった!?

 どういうことだ!? まだ実力を隠していたのか!?)


「よく熟れた果実はどうしてこうも美味しそうなんだろうねェ。

 これほどの力を持っているとは嬉しい誤算だよ。

 いいね。久しぶりに本気で戦えそうだ。」


ヒソカの顔は大切な宝物を見つけた少年のように紅潮していた。

空間に濃密な殺意が充満する。

ゾクッ!

(うおっ! こいつは……ヤバイ!!)

ヒソカの放つ邪悪な気配。それはかつて見たサイヤ人やフリーザたちと同質のものだ。

バッ、

ボウッ!

ヒソカから距離をとったヤムチャさんの右手に繰気弾が浮かぶ。

「その技はもう見切っているよ。」

ボウッ!

さらにヤムチャさんの左手にも繰気弾が浮かんだ

「!」

「繰気連弾(そうきれんだん)!!」

ギューン! ギューン!

ダン!

上空に跳躍することで

ヒソカは辛うじて繰気連弾の初撃を回避した。

(遠隔操作型の念弾を二つ同時に扱えるのか。)

左右で異なる動きをするダブルの繰気弾。

今回はヤムチャさんが手加減していないため、

以前に比べてパワーもスピードも格段に上がっている。

(悪いが手足を潰させてもらう。しっかりガードしろよ)

ギューン! ギューン!

一方の繰気弾を回避しようとすればもう一方の繰気弾が直撃する。

この絶妙の時間差攻撃が繰気連弾の真骨頂だ。


「なるほど。意のままに動く念弾を二つ同時に回避するのは難しそうだ。でも、」



ヒソカは自分に向かって飛んでくる繰気弾に手を伸ばすと、

バチュッ! バチュウッ!

飛んできた繰気弾を伸縮自在の愛(バンジーガム)で包み込んだ。


「避けるのが難しいんなら受け止めればいいだけだよね。」


(オレの繰気弾を自分の気で覆った!?)


「これも知らなかったようだから教えておいてあげよう。

 遠隔操作型の念弾は本体との連絡を絶つことで無力化できるんだ。」


ヒソカの両の掌にヤムチャさんの繰気弾が収まった。

繰気弾の表面は伸縮自在の愛(バンジーガム)でコーティングされていて、

ヤムチャさんの指示をまるで受け付けない。


(まいったな。

 本当ならパワーもスピードもこっちが上のはずなのに

 あのバンジーガムと『流』のせいでその差が埋められちまってる。)


「どうやってボクを出し抜こうか考えているのかな?

 かかっておいでよ。少し遊んであげよう。」

にやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべながら

ヒソカはヤムチャさんを挑発している。


「やなこった。足元のそれをひっこめてくれるなら考えてやらんでもないけどな」


「あれ? 見えてるんだ。

 大量のオーラで全身を満遍なく覆っているから

 『凝』を使わなくても『陰』が見破れるようになっているわけか。

 『流』が使えていないことといい、キミはつくづく規格外なんだね。」


ヒソカを中心に半径5メートルほどの範囲の地面に

薄く伸ばした伸縮自在の愛(バンジーガム)が広がっている。

それはさながら獲物が掛かるのを待つ蜘蛛の巣、あるいはゴキブリホイホイだ。


(『凝』に『陰』に『流』か。

 言っていることの意味がさっぱりわからん)


「キミが無様に転げまわる姿が見たかったんだけどな。残念。」


ダァン!!

ヒソカはジャンプ一番、

大きく振りかぶって第一球を…投げた!

「!」

ドゴオオオオン!!

ヒソカが地上へ向けて放った繰気弾が大爆発を起こした!!



・・・


ドゴオオオオン!!


轟音が響きわたり

大気が弾け、地面がグラグラと揺れる。

あまりに危険過ぎてハンター協会の試験官でさえ近づかない

いま世界で最も危険な戦場の片隅に2人の受験生が潜んでいた。


(オイオイオイオイ! なんだよ今の爆発は!?

 なんなんだよあいつらの化け物っぷりは!?

 戦ってるときの動きが全然見えねーぞ!

 木はなぎ倒すわ地面は陥没させちまうわ!! 超能力バトルか!?

 オレみたいなパンピーが役に立ちそうな空気なんて欠片もねーじゃねーか!!)


ヒソカのスタートダッシュを見て

ヒソカのターゲットがヤムチャさんであることに気付いたレオリオは、

自分の命の恩人であるヤムチャさんの力になるべく、

こうしてほふく前進で様子を見に来ていたのである。


(空気がすごくピリピリしてる。

 ヒソカもヤムチャさんもすごい。

 オレに敵意が向けられているわけじゃないのに、

 見ているだけでこの場から逃げ出したくなる。)


ゴンもレオリオに同行しているが、

こちらはターゲットであるヒソカのプレートが目的だ。


(なんだろうこの感覚。

 すごく怖い。でも、

 なんだかオレ、ワクワクしてる。)


戦場から逃げだしてくる動物たちの動きを逆にたどれば、

ヒソカとヤムチャが戦っているこの場所を見つけ出すことは容易だった。

戦いの巻き添えになることを恐れて誰もが距離をとろうとするなか、

ヤムチャさんの身を案じるレオリオと、ヒソカのプレートを狙うゴンはこの戦いを見守っていた。




・・・


繰気弾の爆発によって発生した衝撃波で

周辺の草木はなぎ倒され、

あたりはクレーターのような荒野へと姿を変えていた。


「……ッ」


舞空術で上空へと逃れていたヤムチャさんが

険しい表情でヒソカをにらむ。


「キミは本当に強い。

 その高みに至るまでにどれほどの経験を積んできたんだろうね。

 幾多の戦いを乗り越え、何十年にも及ぶ鍛練を積み、最後にはここで無残な屍をさらす。

 これまで積み重ねてきた何もかもが無に帰する瞬間。最高だと思わないか?」


繰気弾の爆発が気に入ったのか、

ヒソカは恍惚とした表情で饒舌に語った。


(手加減したままで倒せる相手じゃないな。全力でいく!)


『界王拳(カイオウケン)!』


ヤムチャさんの身体が赤いオーラにつつまれ、その気が数倍にまで増幅される。

もはや人間ではありえないほどのオーラ量。

プロハンター100人分にも匹敵するほどのすさまじいオーラだった。

それを見せつけられたヒソカの顔に浮かぶ感情は、歓喜。


「クククッ、クァハハハハァーーーー!!

 本当に素晴らしい! キミは最高のエモノだよ!!」


ズズズ…!!

ヒソカのオーラがさらに強大さと禍々しさを増した。


(くそっ、なんだってんだ!

 気の大きさは圧倒的にこっちが上なのに、ひどくいやな予感がしやがる!)


ビギュオッ!

ヒソカはもう一つの繰気弾をオーバースローで上空のヤムチャさんに投げつける!

ガシッ、

ヤムチャさんは飛んできた繰気弾を右手でつかむと、

「ふっ!」

パアン!

そのまま力を込めて握りつぶした。

「!」

ギュン!

「新狼牙風風拳!」

瞬時に間合いを詰めたヤムチャさんの

流れるような連続攻撃がヒソカを襲う。

ボギィ!

ヤムチャさんの手刀をガードしたヒソカの左腕が折れた。

ヒソカは左腕にオーラを集中して防御したが、そもそものオーラ量が違いすぎて防ぎきれていない。

ボギョ!

続いてヤムチャさんの蹴りをガードしたヒソカの右腕も折れる。

「…っ」

たまらず距離をとろうとするヒソカだが、

ズドドドドドドッ!!

ヤムチャさんに滅多打ちにされて

タンッ、

「か・め・は・め・波ァーーーー!」

どーん!

ヒソカはボロクズになった。



・・・


「やれやれ」

自らの勝利を確信したヤムチャさんは界王拳を解いた。

かめはめ波の直撃を受けて仰向けに倒れたまま、ヒソカはピクリとも動かない。

ヤムチャさんはヒソカから44番のナンバープレートを回収した。


「悪いな。

 お前が強いもんだからうまく手加減できなかった。

 ハンター協会の人に連絡して回収に来てもらうから、それまでここで大人しくしていてくれ。」


ヒソカを気遣うような言葉を残して戦場を後にするヤムチャさん。


(意識はない。かろうじて生きてはいるようだが、

 完治するまで少なく見積もっても半年以上はかかるだろう。

 …ん、デジャブか? 前にもこんなことがあったような気がするな?)


ヤムチャさんが若干の違和感を覚え、

過去の戦いに思いをはせようとしたその時、




「油断大敵だよ。ヤムチャ。」





不吉な声がヤムチャさんの背後から聞こえてきた。

ガバァ!

死んだふりをしていたヒソカが起き上がり、

下半身から飛ばしたオーラをヤムチャさんの背中にぺたりとはりつける。

ヒソカがつけた伸縮自在の愛(バンジーガム)を通じてさらに大量のオーラを送りつけると、


バチュウゥウウ!


「ぐっ、なんだ!?」

ヒソカのオーラがヤムチャさんの全身を厚く覆った。


『変幻自在の愛(バンジーボール)』



ヒソカの念が具現化され、ヤムチャさんの身体を中に閉じ込めた状態で実体化する!

ヒソカが最初のオーラをつけてからわずかコンマ数秒の間に

ヤムチャさんを中心とした直径2m強の球体、バンジーボールは完成していた。


「両手に凝縮したオーラを一気に放出する、

 キミのかめはめ波はシンプルかつ強力な技だった。

 でも、詰めが甘かったね。」


グンッ!

ヒソカが気合を込めると、バンジーボールが収縮して内部に閉じ込められているヤムチャさんの全身を締めあげた。

「ぎ、がぁ!」

ギュォォオオオオオオッ!!

追いつめられたヤムチャさんは再び界王拳を発動する。

全身から気を放出して、収縮しようとするヒソカのバンジーボールに対抗した。


「すごい力だね。

 どんな怪力の持ち主でも身動きできなくなるはずなんだが

 全身からオーラを放出することで抵抗しているのか。

 すべてのオーラを使い果たすのが先か、それとも呼吸ができずに動けなくなるのが先かな。」


(くそっ、油断した! とにかくここから抜け出さないと!)

ボコッ! ボコッ! バコッ!

中でヤムチャさんが暴れる度に、バンジーボールが飛び跳ねる。


「無理無理。

 ボクの変幻自在の愛(バンジーボール)は内部からの圧力ではまず破れない。」


下半身でバンジーボールの手綱を握っているヒソカは、

破れるものなら破ってみろと言わんばかりの余裕の表情だ。


「これならどうだ!

 か・め・は・め・波ーーーー!!」


ゴオッ!


グニューーー

ヤムチャさんのかめはめ波に押しだされて

バンジーボールの上部が空へ向かって伸びていく。

ーーーーーーンンン……

大きく形を変えて、どこまでも伸びる。

100m、200m、300m、

あたかも一本の塔のようにそびえ立つバンジーボール。

その伸長が、ある高さまで伸びた時点でピタリと止まった。


(ぐっ、破れん!

 というかこれはもしかして…

 ちょ、やばいぞ!!)


ゴムの反動!!

バシュルルルルルル!!


バンジーボールを破りそこなったかめはめ波のエネルギーが、

ヤムチャさんにそのまま跳ね返ってきた。

溜まりに溜まったエネルギーに加え、

密閉空間による折りたたみ効果で倍率さらにドン!


「だああああ!?」


ちゅどーん!!!



すさまじいエネルギーの炸裂に、バンジーボールが赤く輝いた。

ボコボコボコボコ!

激しいバウンドと変形を繰り返し、

ぶしゅーーーー!

表面に入った無数のひび割れから、爆発のエネルギーが拡散していく。

ヒソカは即座にオーラを送り込んでバンジーボールを補強し、ほつれた部分を修復した。


「強化系の力技は通用しない。

 操作系や具現化系だと道具を使うためのスペースが足りない。

 そして変化系と放出系は自分の首を絞める結果に終わる。

 よくできているだろう。」


(さあ、どうするんだいヤムチャ。

 それともこれで終わりなのかな。)


これはヤムチャさん絶体絶命のピンチ!

むしろいまので死んだんじゃね? と思われたそのとき!


ドコッ!

ヒソカの頭部を釣り竿のルアーが直撃する。


ザッ!


「ヤムチャさんを離せ! ヒソカ!!」

「そこまでだ!

 それ以上やるってんならオレたちが相手がなるぜ!!」


釣り竿を握りしめているゴンと、

折りたたみ式の刃物を持ったレオリオ。


敗色濃厚なヤムチャさんを助けるために

2人の戦士が戦場に姿を現した!







*****


ヤムチャの予想を上回る実力を発揮する奇術師ヒソカ!

はたしてヤムチャは変幻自在の愛(スーパーボール)を打ち破り勝つことができるのか?

次回、

「ヤムチャ死す! 恐るべしHISOKA!」

みんなぜったいに見てくれよな!


*****




[19647] ヤムチャ奮闘! 恐るべしHISOKA!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7f72d672
Date: 2010/09/09 23:59
ヒソカの死んだふりに騙されて、バンジーボールの中に閉じ込められてしまったヤムチャさん。

敗色濃厚なヤムチャさんを助けようと、2人の戦士が戦場に姿を現した。


「ヤムチャさんを離せ! ヒソカ!!」

「そこまでだ!

 それ以上やるってんならオレたちが相手がなるぜ!!」


摩訶不思議な超能力バトルはさっぱり理解できなかったゴンとレオリオだったが、

バンジーボールに閉じ込められたヤムチャさんがスーパーピンチであることだけはわかっていた。


「キミたちは…

 確かゴンとレオリオだったかな。

 ヤムチャを助けに来たのかい?」


乱入者である2人に、ヒソカは笑顔を向けた。


「キミたちがヤムチャを助けたいなら、

 ボクを殺すか気絶させることだ。

 それで彼を閉じ込めている変幻自在の愛(バンジーボール)は解除される。

 早くしないと死んじゃうから急がないとね。」


 
表面上は穏やかなヒソカの対応。

だが、ヒソカから放たれるプレッシャーによって

ゴンとレオリオは身動きがとれなくなっていた。


(な、なんだこれ!?

 ダメだ! これ以上近づけない!!)


ヒソカと戦うどころの話ではない。

ゴンはすぐにでもここから逃げ出したい衝動に駆られた。


(ダメだ! もう無理!! 限界!!

 見るに見かねて飛び出しちまったが、こいつはヤバイ!!

 こうやって向かい合ってるだけで心臓が止まっちまいそうだ!!)


レオリオは全身がガタガタと震えだしていた。

この場に立っているストレスだけでショック死しそうな勢いだ。


「そうだな。このまま立ち去るのなら見逃してあげよう。

 でも、そこから一歩でもこっちに近づいたら」


『死ぬよ。』


ババッ!


ヒソカの用いた「舌」と「錬」に気圧されて、ゴンとレオリオは弾かれるように後退した。


ガクガクブルブル…

ガクガクブルブル…

ガク…

体の震えは止まらない。


「畜生…チクショー!!

 オレはな!!

 友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!」


ダッ!


「レオリオ!」

「うぉおおお!!」


レオリオは刃物を腰だめに構え、ヒソカに向かって突撃する!!


「うん、いい顔だ。」


ガッ!


レオリオが突きだした刃物は、ヒソカの胸に刺さることなく止まっていた。


(……え?)


トン。

ヒソカが軽くなでるようにレオリオの足を払うと


グルグルグルンッ! ドシャアッ!


レオリオは真上に吹っ飛びながらくるくると2回転半。

頭から地面に落下する見事な車田落ちを披露した。


「レオリオーー!!」


戦いの荒野にゴンの絶叫が響きわたる。



・・・


『オレはな!! 

 友達(ダチ)を見捨てるような真似だけは死んでも御免なんだよ!!!』


「……ぐッ」

(この声は……レオリオ、か?)

ヒソカのバンジーボールの中で、

気絶していたヤムチャさんの意識が覚醒した。


(そうか、オレはかめはめ波をはね返されて

 気を失っていたのか。

 ぐっ、身体に力が入らん。限界を超えた界王拳の反動か!)


バンジーボールに反射された自分のかめはめ波を、

ヤムチャさんは界王拳の倍率を無理やり引き上げることで凌いでいた。

状況を把握するため、ヤムチャさんは精神を集中して外の気を探る。


(外にいるのはヒソカと…

 小さい気がレオリオだな。

 レオリオと一緒にいるのはゴンか?

 まずいな。ヒソカは2人が敵う相手じゃないぞ。)


本気になったヒソカはヤムチャさんを追いつめるほどの実力者だ。

まかり間違ってもゴンやレオリオが太刀打ちできる相手ではない。


『レオリオーー!!』


(ゴンの声!!

 なんでレオリオとヒソカが戦ってるんだ!?

 くそっ、2人が危ない。

 ぶっつけ本番だが、やるしかないか。)


ヤムチャさんはギシギシときしむ身体に活を入れて、

残っている気を右手に集中していく。


「技を借りるぜ。クリリン。

 はぁぁぁああッ!!」


ボウッ!

ブゥン、ブゥン、ブゥン、

ヤムチャさんの右手に浮かんだ繰気弾が、回転しながらその形を変えていく。


「へへへ、泣いても笑ってもこいつが最後だな。

 オレは卑怯なだまし討ちでむざむざ殺されてやるほどお人よしじゃないぞ。

 行け! 繰気斬(そうきざん)!!」


渾身の繰気斬を放ったことで

全身の気を使い果たし、ヤムチャさんは意識を失った。


ザシュッ!

ギューン!!


ヤムチャさんの繰気斬が、バンジーボールを切り裂いてヒソカに襲いかかる!




・・・


痛みにもだえるレオリオを鑑賞して悦に入っていたヒソカだったが、

「ッ!!」

繰気斬によってバンジーボールが内部から切り裂かれていくのを感知して

バッ!

その場から大きく飛び退いた。


ザシュッ!

ギューン!!


(しまった。)

バンジーボールから飛び出したヤムチャさんの繰気斬は弧を描き、

バシュッ!

ヒソカとバンジーボールをつないでいたオーラだけを切断して飛び去っていった。


(円盤状に練り上げたオーラを高速回転させて

 ボクの変幻自在の愛(バンジーボール)を切り裂いたのか。

 やられたね。)


パァン!!


ヤムチャさんを閉じ込めていたバンジーボールが弾けるように消滅した。

ヒソカの身体から離しては使用できないという、

変幻自在の愛(バンジーボール)を維持するための制約が破られたためだ。


「なるほど。器用なことをする。

 でも、今ので本当にガス欠みたいだね。」


ヤムチャさんはその場に倒れたままで立ち上がる気配がない。


(今の光線みたいなのはヤムチャがやったのか!?)


解放されたヤムチャさんにゴンが駆け寄って行くのを見て、

レオリオは決断した。


「ゴン! ヤムチャを連れて逃げろ!!」

「レオリオ!?」


「オレはここでヒソカを足止めする!!

 心配すんな!!

 相手は両腕折れてる上に顔面ぼこぼこの重傷なんだからよ!!

 オレはいいからヤムチャを守ってやってくれ!!」


気合と根性で立ち上がったレオリオは、

汗をだらだら流しながらもそう言い切った。


「…わかった!」


ゴンは意識を失っているヤムチャさんを肩に担ぎあげ、

隠れる場所の多い森へ向かって――


ドゴォ!

ギュルルルルル!! ズシャァーーー!


「!?」

逃げようとしたゴンの目の前に、きりもみ回転しながらレオリオが飛んできた。

レオリオは顔面が大きくはれ上がり、完全に意識を失っている。


「ダメダメ。

 キミとそっちの彼はともかく、

 ヤムチャを逃がすわけにはいかないな。」


(ダメだ。逃げられない。

 オレとレオリオだけなら逃げられる?

 ヤムチャさんを残して?

 …違う、ダメだ。オレはレオリオからヤムチャさんを頼まれたんだ。

 絶対にあきらめるもんか!)


「オレは、絶対にあきらめない!!

 勝負だ! ヒソカ!!」


ヤムチャさんを肩からおろし、

ゴンは決死の戦いに挑む覚悟を完了した。


「ん~~いい顔だ。

 仲間を助けるために命をかけるのかい?

 いいコだね~~~~」


ダッ!

追い詰められたゴンはヒソカに向かって猛ダッシュ!

「うわぁああーーーー!!」

武器である釣り竿をがむしゃらに振り回した!

スッ、ススッ、

そんなゴンの攻撃を、ヒソカは容易く回避した。

ドッ!

ヒソカのつま先が、ゴンの腹にめり込む。

「……っ」

ゴンは釣り竿をとり落とし、前のめりに膝をついた。


「グッバイ。ゴン。」


がしっ!

「?」

ヤムチャに止めを刺しに行こうとするヒソカの足に

ゴンは必死でしがみつく。


「レオリオに……頼まれたんだ……

 ヤムチャさんには…指一本……触れさせないぞ…!」


「そのセリフはもっと力をつけてから言うべきだね。

 少なくとも、今のキミじゃボクを止めることはできないな。」


ビッ! ドシャア!

ヒソカは大きく足を振ってゴンの拘束を振り払った。



『ヒソカの完全勝利』




すべての障害を取り除き、

ヤムチャさんの命に王手をかけたことでヒソカは勝利を確信していた。…だが、


ピシッ!

ヒソカの背後、足元の地面に亀裂が入る。


「!」

ザシュゥッ!!


次の瞬間、地面を割って飛び出してきた繰気斬によって

ヒソカの胴体と両腕はざっくりと切断されていた。

「…ごふっ…」


(バカな…飛び去ったオーラが地中から…

 ヤムチャが意識を失っている以上、念弾の遠隔操作は不可能なはず……?)


ヒソカに致命傷を与えた繰気斬はゆっくりと空へ舞い上がり、

徐々に速度を落としながら緩やかに弧を描いていく。

繰気斬を構成していたオーラは霧散し、光の粒子となって中空へと溶けていった。


(ククク、なるほどね…

 こっちの念弾は自動追尾型……いや、先行入力型なのか。

 初撃が回避された場合は地中からボクを狙うようあらかじめインプットされていた…

 攻撃の気配が希薄だったのは本体がすでに意識を失っているから…

 これはずるいよ。ヤムチャ…)


ヒソカは視界がかすみ、意識がもうろうとする。


(すべてを失い、すべてが終わる。

 これが死という感覚か。悪くない。

 でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。

 ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?

 きっと面白いことになる。)


――ヒソカは死亡した。



・・・


「はっ、はっ、はっ、」

ヤムチャとレオリオは倒れ、ヒソカは死んだ。

戦場に残されているのはゴンだけだ。


(ヒソカが、死んだ…?)


「…そうだ!

 レオリオ! ヤムチャさん!」


(良かった。レオリオは気を失ってるだけだ。

 ヤムチャさんは…?)


「あれ? ヤムチャさん…?

 …息してない!!

 し、死んでる…!?」


ヤムチャさんは力尽きていた。


DEAD END …?



[19647] 「再開×あらすじ×嘘予告」
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/07/09 23:37

*本編開始以前からのあらすじ*

本場のドラゴンボールをめぐるナメック星での戦い。

超サイヤ人に覚醒した孫悟空は、全宇宙の支配をもくろむ宇宙の帝王フリーザを倒した。

それからおよそ1年半後のこと。


「あれが地球だよ。パパ…」


サイボーグ化して復活を遂げたメカフリーザと、その父コルド大王が地球に襲来する。

「いまだ! 全員でかかれ!!」

「魔貫光殺砲!」「魔閃光!」「気円斬!」「繰気弾!」「気功砲!」

フリーザ親子を迎え撃つベジータと地球のZ戦士たち。

「やったか!?」

「フフフ、宇宙最強である我が一族に挑んでくるとは命知らずなことよ」

「地球人…それにベジータとナメック星人か。また殺されに来るとはね」


威風堂々。舞い上がった土けむりの中から、無傷のコルド大王とメカフリーザが姿をあらわした。


「フリーザ! 貴様の相手はこのオレだ!!」

「くそっ、地球をやらせはせんぞ!」

「ピッコロさん!」

ベジータ、ピッコロ、孫悟飯。


「や、やっぱりダメなのかよ…」

「こんなのどうしようもないじゃないか…!」

「四身の拳・気功砲!」

クリリン、ヤムチャ、天津飯。


名だたる戦士たちが束になってかかってもフリーザ親子には歯が立たない。

だが、彼らがかせいだ時間はけっして無駄にはならなかった。

孫悟空が地球に帰還したのである。


「そこまでだ。フリーザ。」

「ようやく到着かい?

 待ちくたびれて地球を壊してしまうところだったよ」

「貴様が孫悟空か。ふん、伝説の超サイヤ人といえども2対1では手も足も出まい」

「そうでもねえさ」

「減らず口を! やるよパパ!

 こいつにはたっぷりと思い知らせてやらないと気がすまない!!」

そして開始される超サイヤ人孫悟空とメカフリーザ&コルド大王との闘い。

「おのれ! ちょこまかとうっとおしいやつだ!」

「あいかわらずだなフリーザ。パワーだけじゃオラには勝てねえぞ」

フリーザ親子の超パワーにもどこか余裕をもって対応する孫悟空。

「なんだとッ!?」

「ま、また消えた…!?」

「瞬間移動かめはめ波だーーーー!!!」

遅れて参戦した孫悟空の活躍により、フリーザ親子はこの宇宙から消滅した。

しかし、この戦いがきっかけで孫悟空は心臓病にかかり命を落としてしまう。



・・・


「心配するな。悟飯、お前はお母さんについていてやれ」

「ピッコロさん…」

たとえドラゴンボールを使っても病死したものを生き返らせることはできない。

母のため、立派な学者さんになるために戦士を引退する悟飯。

悟飯を戦わせないために地球の守護者となることを決意するピッコロ。

「カカロットが死んだだと!? ふざけやがって!

 あいつはこのオレがぶっ殺してやるはずだったんだ!!」

怒りに震えるサイヤ人の王子ベジータは、超サイヤ人の境地を目指してフリーザ軍の残党狩りに明け暮れる。



そして…

「だぁっ! とうっ! 新狼牙風風拳!! てりゃー!!」

シュババババババッ!!

親友であった悟空の死に責任を感じたヤムチャさんは、

悟空に代わってみんなを守ろうと、きびしい修行を繰り返していた。

「はぁ、はぁ、はぁ、ダメだ。こんなんじゃいつまでたっても悟空には追いつけない!」

いったいどうすれば……

「ん? 悟空……? そうだ! その手があった!」

わりとかしこいヤムチャさんはカプセルコーポレーションへダッシュ。

「宇宙船だ! 悟空は宇宙で修行して強くなったんだった!!」

地球での修業に限界を感じていたヤムチャさんは、ブリーフ博士に頼みこんで人工重力装置と宇宙船を作ってもらう。

ヤムチャさんはトレーニンググッズや食料を買い込み、カリン様から仙豆を分けてもらって旅支度をととのえると、

「それじゃいってくる。留守は頼んだぞプーアル!」

新たな可能性と未知なる武術を求めて、宇宙へと旅立ったのだった。



・・・


「よし、あの星に降りてみるか。

 地球よりも重力が強くて酸素が薄い。

 修行にはおあつらえ向きの場所じゃないか」


やがて修行に最適な環境と優れた武道家が存在するH×Hの世界へと到着したヤムチャさんは、

「やあ。キミ、ここでなにしてるの? ちょっと身分証を拝見させてもらえるかな」

「えへへ、すみません、どうも家に忘れてきてしまったみたいで」

不審者として官憲に拘束されかけたりしながらも、

「うーむ、言葉が通じるのはいいが文字はうまく読めんな」

ネットカフェや図書館を利用してこの星の文化を学んでいった。


(来週にはハンター試験があるのか。いいタイミングだ。

 天空闘技場にも行ってみたいけど、まずは就職して足場を確保しないとな)


プロハンターになってハンター協会に身分を保証してもらえれば国境を気にせず自由に動けるようになる。

公的施設はタダで利用できるようになるし、てきとうにノルマをこなせばお金には困らないだろう。

世界最強の武道家とうたわれているネテロ会長にも伝手ができるかもしれない。

…そしてなにより女の子にモテる!


「まさに一石四鳥ってわけだ。

 よし! オレはプロハンターになるぜ!!」


こうしてヤムチャさんはハンター試験に参加することになった。

一次試験の耐久マラソンは脱糞アクシデントで出遅れるも無事合格。

料理が課題の2次試験は地球産の魚を調理することで難なくクリア。

3次試験の難関トリックタワーも舞空術であっさり一番乗りを果たした。

そして自然豊かな無人島、ゼビル島で行われている4次試験、プレート争奪戦の現状はというと――



*****

――ヤムチャとヒソカのプレート争奪戦は相討ちの結果となった。

渾身の力を込めた繰気斬を放ってヒソカは倒したものの、ヤムチャさんは力尽きてしまったのだ。

「ヤムチャさん、ヤムチャさん!」

「くそっ、こんなところで死ぬんじゃねェ! 目をあけてくれよヤムチャ!」

ゴンとレオリオの呼びかけにも返事はない。

ヒソカとの戦いで傷つき倒れたヤムチャ。

彼を助けにあらわれたのは意外な人物だった。

ザッ!

「ドンピシャだ いま助けるぜ ヤムチャさん」

「! 誰だよアンタ!?」

「名はバショウ この場はオレが 預かるぜ」

いつの間にあらわれたのか、そこにはダンディなオッサンが仁王立ちしていた。


『オレ様が 殴ったヤムチャは 蘇生する。

 流離いの大俳人(グレイトハイカー)!!』


ドゴォッ!

死者蘇生の念を込めた右ストレート!!

「ぶふぉぅ!?」

なんと、死んでいたはずのヤムチャさんが息を吹き返した。

「ヤムチャ!」「ヤムチャさん!」

「こいつはオレの祖国が誇る文学で俳句という。

 オレが読み記した句は実現する。以上、説明終わり。」

バショウはジャケットの内ポケットから紙札を取り出すと、スラスラと筆をはしらせる。


『オレ様が 殴ったヒソカは 蘇生する。

 流離いの大俳人(グレイトハイカー)!!』

ドゴォッ!

死者蘇生の念を込めた渾身の右ストレート!!

バショウはヒソカの顔面を全力で殴りつける。

変化は劇的だった。


シュォォォオオオ…!


バショウの拳からヒソカの身体へと大量のオーラが注ぎこまれると、

ヒソカを構成していた各部パーツがオーラを纏い、空へと舞いあがった。


ガキーン! ジャキーン!


切断されていたヒソカの上半身と下半身、そして両腕が空中でドッキング!


ジュバッキーン!!


合体ロボットみたいな効果音とともに、道化師ヒソカは復活した。


「ん、呼び戻されたのか。

 ボクは死ぬのって今回が初体験だったんだけど、

 あの世ってホントにあるんだねェ。」

「ヒソカも生き返っちゃった!?」

「ぬお! い、いきなり殺しにかかってきたりしねェだろうな!?」

「ボクがそんなことするわけないじゃないか。」

ビビるレオリオに、ヒソカは心外だというポーズで無害をアピールしてみせる。

「キミがボクを蘇らせてくれたのかな?」

「そうだとも だから話を きいてくれ」

ヒソカの蘇生に大量のオーラを消費して、青色吐息になったバショウが頭を下げる。

「OK.いってごらん。キミの願いを聞き届けよう。」


・・・


ヤムチャ、ゴン、レオリオ、ヒソカの4人は一時休戦することに合意。

バショウとの話し合いの場を持つ。最初に口を開いたのはヤムチャさんだった。


「すまんな、助かった。

 でもなんでバショウがこの島にいるんだ?」


バショウはヤムチャさんがジャポンに滞在していたころの知り合いだ。

ヤムチャさんがハンター試験を受験するためにジャポンから旅立ってまだほんの数日ほどだが、

いま目の前に現れたバショウは以前とはかなり印象が違う。


「いや、お前は……

 お前はオレの知っているバショウじゃないな。」

「ごめいさつ オレは未来の バショウだぜ」

(?)

「疑問に思っている顔だな。

 もういちど言っておくが、オレはお前が知っているこの時代のバショウじゃない。

 そう、オレは歴史を変える為にタイムマシンでやってきた未来のバショウだったんだよ!!」


「「「な、なんだってーーー!?」」」



未来からやってきたというバショウが語った内容はおそるべきものだった。

そこはヤムチャとヒソカが死んでしまった未来の世界。

人類はキメラアントと呼ばれる危険生物との生存競争に敗れつつあり、絶滅の危機にひんしているというのだ。

キメラアントの王『メルエム』に対抗するためヤムチャとヒソカをスカウトしにきたタイムトラベラー。それがバショウの正体だった。


「本当にヒソカもいくのか?」


ヤムチャ、ヒソカ、バショウの3人は未来の世界にいくためにタイムマシンにのりこんでいた。

さっきまで殺し合っていた相手と行動を共にすることに一抹の不安を覚えるヤムチャさんだったが、


「もちろん。

 相手はあのネテロ会長を殺してハンター協会を壊滅させた連中なんだろ?

 すごく面白そうじゃないか。未来の世界で成長したゴンたちにも会ってみたいしね。

 大丈夫、ボクとヤムチャが組めば絶対無敵さ。」


このヒソカ、ノリノリである。


「よし行くぜ! 未来世界に タイムリーーープゥ!!」


ぽちっとな!

バショウの声だけを残して、

ばみょーん!!

3人が乗ったタイムマシンは時空の彼方へと旅立ったのだった。



***


舞台はキメラアントによって支配された未来の世界!

キメラアントの王『メルエム』を倒すため、ヤムチャたちの快進撃がはじまる!!


「さっきのライオンくんは期待はずれだったけど、

 キミはそこそこ楽しませてくれるのかな?」


ゴゴゴゴゴ……!!

「師団長クラスを倒した程度で調子に乗らないでいただきたい。

 私はメルエム様に仕える直属護衛軍が一人、シャウアプフ。

 ここから先へは通しません」

バシュッ!

「オレの繰気斬が効かない!?」

「私の能力『蝿の王(ベルゼバブ)』は無敵です。

 あなたごときに破れるはずもない。それだけのこと…」

「ここはボクに任せてもらおうか。

 ヤムチャはあっちのデカイのをヨロシク。」


「くらえ! 特大繰気弾!!」

「ケッ!

 馬鹿正直に当たるかよ!

 死ねやオラァ!!」

ギュン!

「ガァッ!?」

「知らなかったのか? 繰気弾からは逃げられない……!!」


直属護衛軍とヤムチャたちの戦いの行方は!!

彼らは伝説のハンター『ジン=フリークス』を喰らい完全体となった『メルエム』に勝てるのか!?


「悟れ。余に貴様らの攻撃が届くことはない。」

「ヒソカ!」

「ヤムチェ…キミは優し過ぎるんだよ。

 相手を殺すことを忌避するあまりに全力を出し切れていないんだ…」


「20倍界王拳ッ!」

「逝け! ヤムチャ!!」

(四方を埋め尽くす夥しい数の念文字…!

 これが余のチカラを封じているのか!?)



『こいつで終わりだ!! 超狼牙風風拳ーー!!』



*****

(´・ω・`) バショウのくだりから先はマルっと嘘ネタです。ツッコミどころ満載でお届けしました。



[19647] ニコル×クラピカ×ギタラクル
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/07/29 23:45
ヒソカとの戦いが決着する少し前。

ヤムチャさんとヒソカが激闘をくりひろげ、ゴンとレオリオがそれを観戦していた一方そのころ。

ヤムチャさんを慕うニコルもまた、世界でもっとも危険な戦場をめざして進んでいた。


(やってやる。やってやるぞ!

 一次試験は脱落していたところを助けてもらってゴールまでたどりついた!

 二次試験はお情けで追加試験を認めてもらって合格できた!

 三次試験では事前に仙豆を分けてもらっていたから死なずにすんだ!

 今度はボクがヤムチャ様の力になる番だ。

 愚かな受験生どもにボクの実力を見せつけてやる!!)


ドゴオオオオン!!


遠く戦場で、ヤムチャさんの繰気弾が爆発する。

轟音がひびきわたり、地面がグラグラと揺れる。


「くっ! なんのこれしき!

 待っていてくださいヤムチャ様、ボクが華麗に助けてあげますからね!」


とうっ!

タッタッタッタ!

足取り軽く、ニコルは戦場へと向かっていた。




***


前回までのあらすじ。


「あれ? ヤムチャさん…?

 …息してない! し、死んでる…!?」




           トv'Z -‐z__ノ!_
         . ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
       ,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
     rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|:::  ,.、
     、  ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ   ミ ∧!::: .´
       ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf::::  ~
     r_;.   ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
        _  ::\,!ィ'TV =ー-、_メ::::  r、
        ゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ:::  ._´
        ;.   :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.::  ,.
        ~ ,.  ,:ュ. `ヽニj/l |/::
           _  .. ,、 :l !レ'::: ,. "

               `’ `´   ~


ヒソカとの激闘の果て、ヤムチャさんは力尽きたのであった。


***



ヤムチャさんと合流するため戦場へと急ぐニコル。

だが、そんなニコルを見つめている影があった。


(……やはりここに来たか)


ニコルの進路上、木の上に隠れて様子をうかがっているのはクラピカだ。


(ヒソカによってヤムチャが足止めされているのなら好都合だ。

 ニコル個人の格闘能力はさほど高くないだろうが、

 あのデタラメなヤムチャと組まれてしまえばプレートを奪うのは難しくなる。

 試験開始の直後、彼が単独行動を強いられている今が好機!)


遅れてスタートするニコルがすぐさまヤムチャさんのもとへ向かうであろうことは容易に想像がついた。

ヒソカに狙われているヤムチャに加勢しようという

レオリオの提案を断ったクラピカは、単身で自身のターゲットであるニコルを待ち構えていたのだ。


がさがさがさっ、


草木におおわれた森の中、

高くしげった草を踏み分けてヤムチャさんのもとへと急ぐニコル。


\(^o^)/~~~♪


その雄姿はものすごい自信とやる気と慢心に満ちあふれていた。

上方の死角に潜んでいるクラピカに、ニコルはまったく気がついていない。


(……隙だらけだな。

 待ち伏せを警戒している様子もない。

 それだけヤムチャとの合流を急いでいるということか)


駆け足で進むニコルがクラピカの隠れている木の下を通過するその瞬間。

ふっ、

タイミングを見計らっていたクラピカが、音もなく木の上から飛び降りた。


ごしゃっ!


「ぶぎゅるっ!?」


ビッターン!!

落下してきたクラピカの一撃に押し潰され、下敷きにされて地面に突っ伏すニコル。

「ぐっ、いったいなn……はうっ!?」

ガシィッ!

ギリギリギリ、

クラピカは間髪いれずに背後からニコルの首を両腕でロック。

「……が……ぎ……ッ」

ジタバタと抵抗するニコルを全力で絞め落としにかかる。

「……っ……ぉ……――」

どさっ。

戦いとも呼べないような戦い。その決着はあっけないものだった。

クラピカはニコルが意識を失っていることを確認すると、

ニコルのポケットから187番のナンバープレートを回収した。


(すまない。

 4次試験の形式上やむを得ないこととはいえ、

 一次試験で助けられた恩をアダで返す形になってしまった)


クラピカは倒れているニコルに胸中で詫びる。


(自分のプレートとターゲットのプレートを合わせて6点。

 これで合格の条件は満たした。後は試験が終わるまでどこかに身を隠せば――)


ちゅどーん!!!

赤い閃光が森を照らす。

くぐもったような爆発音が聞こえてきた。


(ヤムチャとヒソカの戦いが続いているのか。

 どちらも人間離れしているとは思っていたが、これほどとは。

 もはや人間の領域を超えている…!)


「ゴン、レオリオ、死ぬなよ。」


ぽつりとつぶやき、クラピカは森の中へと姿を消した。



・・・

・・・・・・


クラピカの襲撃にあったニコルが意識を取り戻したのは

しばらく経ってからのことだった。


「ぐぞッ、油断したッ!」


うつ伏せの姿勢で地面に倒されていたニコルは

背中にズキズキとはしる痛みをこらえて跳ね起きる。


(オレのナンバープレートがない!!

 誰だ! いったい誰が奪っていった!?

 拘束されていないのはそれだけの余裕がなかったからか!?)


ナンバープレートを奪っていったのだから、

自分を襲った相手が他の受験生たちの誰かであることは確実だ。

だがそこまでだった。ニコルは襲撃者の顔を見ることすらできずに敗北している。


「~~~ッ!」


ニコルは乱雑に頭をかきむしる。

(チクショウ!!

 どうして防げなかった!?

 オレを狙ってるヤツがいることはわかっていたはずなのに!

 相手が誰かも分からないんじゃ取り戻しようがないじゃないか!!)

止めを刺されることもなく、拘束されることもなく、ただ捨て置かれた。


(まるで相手にされていない……! このボクが、敵に情けをかけられたとでもいうのか!?)


ニコルの体が自分自身への怒りに震える。


(まだだ。まずは80番の彼女を見つけてプレートを奪う!

 自分のプレートを失っていてもこの試験には合格できるんだ。

 ターゲットのプレートを手に入れれば3点、状況は五分に戻せる!

 残りの3点は適当なやつらから奪ってそろえればいい!!)


ニコルはわりと無謀な計画を立てると、

普段の余裕と冷静さを失って再び駆け出していた。


(とにかくヤムチャ様と合流しよう!

 ヒソカから奪ったプレートが余っていれば譲ってもらえるかもしれない。

 くそっ、ボクが油断するのはこれが最後だぞ!!

 オレの前に立ちはだかる奴はどんな相手だろうとぶっとばす!!

 オレの……オレのジークンドーの力を見せてやる!)



・・・


ザザザザザ、ザッ!

ニコルははやてのように森を駆け抜け、目的地へと到着した。


(戦いはもう終わってる。

 一足遅かったか。

 あの襲撃にさえ遭わなければ!!)


遅れて到着したニコルを待っていたのは

えぐれた大地となぎ倒された木々、そして物言わぬヒソカのむくろだった。

戦場にただよう血の匂いに惹かれた好血蝶がひろひらとあたりを舞っている。


(ふん、ヤムチャ様を襲って返り討ちにあったんだな。

 合格確実と言われていた奇術師ヒソカもここでリタイヤか。

 ヤムチャ様はどこに行ったんだろう?)


この戦場跡にヤムチャさんの姿はない。

ならばどこに行ったのか。

ニコルはヤムチャさんの行き先を知るための手掛かりが残されていないかとあたりを調べる。


(これは、折りたたみ式の刃物?

 ヤムチャ様は武器なんて使わないしヒソカの武器はトランプのはず。

 2人以外にも誰かがここに――)


「やあ。」


ふいに、背後から声をかけられた。

「!?」バッ!

即座に反応したニコルが後ろを振り向くとそこには――



       ヽ--、ヽ`ートィ_,ィ
       ーヾ_,?_ミl}//p     カタ
       ノ? o  o  pヽo     カタ
       ,、/o  o,    ヽた   カタ
        l o p ヽ o  { l8   カタ
       ,-l、 / へ、_   ∠、}   カタ
    r-、lム   ='=  (='ゝ,=}=O
    `-'ヽミ_l{|    8 {`  ノ´
        o_l`ミ_ヘ ー==┘l-o
        ol、_ l_l; `o├ーo
  r ‐、   ,、_」 9l l  8 l} rー、
  ヽ ヘ /l○(  oヽ=r=o )r' (⌒i
 -、_,、-'´ ヽ O``--、r', O}-く 、//ー' (⌒i
 _ノ、  r‐、`丶、__○_ム-'´   //丶、/>-'
  ヽ)  ヽノ、     |<|    ´  ヾ`ヽ、
    r‐-、       |<|   ,--‐-、  /Z,
   ヽ- く        |<|   l 301l /Z ヽ



ニコルの後ろには顔と首筋に数十本の針を刺している不気味な男が立っている。

ひどく病的な様相の顔面針男ルーキー、301番のギタラクルだった。


(なんだコイツ!?

 こんなに見通しが良い場所なのに気づかなかった!?

 いったいどこから現れたんだ!?)


困惑するニコルをよそに、ギタラクルは顔に似合わぬ気楽な調子で言葉をつづける。


「ヒソカ、死んでるね。

 まさかヒソカの方が殺されちゃってるとは思わなかったよ。

 そんなに強そうには見えなかったんだけどなー」

(コイツ、もしかしてヒソカの仲間なのか?)

グッ、

「ああ、そんなに警戒しなくていいよ。

 キミは見逃してあげるから。」

(ハッ! このボクを“見逃してあげる”だとぅ!?)

(#^ω^)ビキビキ。


「42番がヒソカを殺したのはまあどうでもいいけど、

 弟にまで手を出されるようだとちょっと困るんだよね。」


なおも一方的にしゃべり続けるギタラクル。

その間、ニコルの視線はギタラクルの左胸につけられている301番のナンバープレートに吸い寄せられていった。


「キミは42番とよく一緒にいた人だよね。

 ねェ、42番ってどういう人物なのかな?」

「…………」

ギタラクルの問いかけに沈黙で答えるニコル。

見るからにオツムの出来が悪そうな男に、スーパーエリートである自分が軽んじられている。

その事実が、ニコルには例えようもなく不愉快だった。


シュッ! シュバッ! ビシィッ!


ニコルは大仰な動作で相手を威嚇するような構えをとる。完全な戦闘態勢だった。

「このボクが、命の恩人を売り渡すようなマネをするとでも思いましたか?」

「ん?」

「さきほど貴方はこのボクを見逃すなどと言っていましたね。

 思い上がりもはなはだしい!

 来なさい。格の違いを教えてさしあげましょう!」


波乱含みの出会い。マジでキレる5秒前。

それが謎の顔面針男ギタラクルと、ニコルのファーストコンタクトだった。


「うーん、42番の情報だけ教えてくれればいいんだけどな。

 キミを殺したのが42番に知られたらめんどくさいことになりそうだし。」


クワッ!!

ギタラクルのなにげない一言に、自分を無視されたニコルの怒りが爆発する。


「……ふざけんな。

 なめてんじゃねーぞ! このドチクショーがァ!!」

ジャッ!

ニコルは力強く大地をけった。

右と見せかけて左、左と見せかけて右。

ニコルはいくえにもフェイントを交えたトリッキーな動きでギタラクルに襲いかかる!

「ちぇすとー!!」

「ん。」

ビッ!

ドスドスドスドス、ブシュゥッ!!

ギタラクルが右腕をひらめかせると、投擲された無数の針が飛びかかろうとするニコルの顔面に突き刺さった。

「あ…が…」

苦悶の声をあげて、ニコルはその場にくずれ落ちる。


「あーあ。殺しちゃった。

 せっかく見逃してあげようと思ったのに。

 なんで攻撃してくるかなー」


(ヤ…ムチャ…さ……ま………と…う…さ……ん……)


「情報を引き出すだけなら死んでたってかまわないか。

 あんまり無駄な殺しはしないように言われてるんだけどな」


ギタラクルの声には緊張感の欠片もない。

殺人を犯してもなお、ギタラクルはどこまでも自然体だった。



・・・


とある手段を用いて、

物言わぬ死体となったニコルからヤムチャさんの情報を引き出したギタラクル。

わかったことはヤムチャさんが世界有数の念の使い手であろうという事実だ。


ギタラクルは考える。

(かめはめ波、舞空術、繰気弾、狼牙風風拳。

 強力な発を複数習得している、おそらくは放出系に属する念能力者。

 強化、放出、操作の3系統を高いレベルで使いこなし、仙豆という優秀な回復手段まで有している。)


「なるほど。これならヒソカが負けるのも無理ないか」


戦闘目的で練磨された複数の念能力とほぼ無尽蔵とも思える圧倒的なタフネス。

正面からの戦闘で打ち破るには骨が折れる相手だろう。

加えて、ヒソカにはギリギリの戦いを愉しもうとする悪癖があった。

仙豆を持っていることを知らずに対峙したのなら、ヒソカほどの実力者であっても足元をすくわれることは十分にありうる。


(まだヒソカを真っ二つにした奥の手も隠し持っているはず。

 それに、オレが42番の擬態を見抜けなかったってことは

 42番はオレよりも数段上の実力者ってことになっちゃうんだよね。)


とはいえ、自分から率先して戦いを仕掛けるほど好戦的ではないようだし

こちらから手を出さなければ問題はない。

この試験に参加している自分の弟が殺されることもないだろう。

そう結論付けたことで、ギタラクルの心配事は解消された。


「あ、死体が見つかったら傷口でオレが殺したってわかっちゃうよね。

 しょうがない。埋めとくか。

 そうだ。寂しくないようにヒソカも一緒に埋めておいてあげよう。

 うーん、オレって優しいな~」


猫目の青年は素手で地面を掘りはじめる。


ザック、ザック、ザック、


――ヒソカとニコルは仲良く埋葬された。




[19647] キルア×ハンゾー×ヤムチャ復活?
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/08/19 00:15
ヒソカとニコルが眠っている場所とは別方向に位置する森の中。

この場所でも仁義なきプレート争奪戦が幕を開けようとしていた。

「199番ねェ。他のヤツらの番号なんかおぼえてねーよ」

銀髪の少年、キルアは一人てきとうに島を探検しながらぼやいている。


(ひい、ふう、みぃ、3人。たいした連中じゃないな。

 ま、ヒソカとハンゾー以外なら何人いてもオレの敵じゃないだろうし、

 ハンター試験ってもこんなもんか。)


期待はずれ。

そんなことを思いながらテクテクと歩いていくキルアの目の前に、


「見つけたぜ!」

ザザザッ!

しっかり者の長兄アモリ、力自慢の次兄ウモリ、ちょっと臆病な末弟イモリ。

アモリ3兄弟があらわれた!!


「よぉボウズ、プレートをくんねーか。

 おとなしくよこせば何もしない。」


末弟のイモリがキングオブチンピラーの風格を漂わせ、キルアにプレートを要求する。

イモリの後ろからは長兄アモリと次兄ウモリがにらみを利かせていた。

キルアは心底どうでもよさそうな表情(カオ)で3人組を見つめる。


「うしろ、危ないぜ」

「あん? そんな手にのると思って」

「うおッ!」

ガッ!ドガッ!ダダンッ!

3兄弟の死角から忍び寄っていた黒い影が、後方にいた長兄アモリを襲う。

「に、兄ちゃん!?」

「くそっ、後ろに一人隠れてやがった!」

「円陣を組め! 警戒!」

キルアの忠告により難を逃れたアモリの号令で、3兄弟は素早く戦闘に意識を切り替える。

3人が背中合わせになって全方位を警戒する防御陣形(ディフェンスフォーメーション)だ。


「てめ、人が助けようとしてやってんのにバラすとはどういう了見だゴルァ!」


抗議の声を上げたのは、さきほどの黒い影こと雲隠れ流の上忍ハンゾーだ。

彼はキルアを援護するために奇襲を仕掛けようとしていたのだが……


「べつに。助けてくれなんて頼んでねーし」

「ッ、協調性の欠片もないクソガキだな!?」


3次試験を一緒に突破したよしみで助けに出てきてみればこのざまだった。


(どうやら知り合いみたいだが、連携しているわけでもないようだな。

 あとから出てきた黒いヤツの狙いはオレのプレートか?

 はさみうちの形になったのはただの偶然……)

キルアとハンゾーのやりとりから、アモリは2人が積極的な協力関係にはないことを悟った。


「黒いヤツはオレが相手をする。ウモリとイモリはさっさとそのガキを仕留めろ!」

「了解。」「わかった!」

「GO!」

ダッ!

長兄アモリの指示を受けて、ウモリとイモリがキルアに襲いかかる。

まずは弱そうなキルアを弟たちに速攻でかたづけさせて、

その余勢をかって強そうなハンゾーを3人がかりの盤石の布陣で仕留める。

それがアモリの目算だった。


弟たちとキルアの戦いを背に、アモリはハンゾーと対峙する。

「ようアンタ、せっかく助けにきたってのに肝心の相手があれじゃ報われねェな」

「お、わかってくれるか。

 いやー、こう見えてもオレって結構世話焼きなところがあってよ

 目の前で知り合いが絡まれてるとちょっとほっとけないんだわ」

ばき!

「そうかいそうかい。

 お互いに苦労性みたいだな。アンタとは気が合いそうな気がするよ」

ぼかぼか!

「……時間かせぎのつもりかも知れんがな。見込み違いだぜ。」

ごす! ごす!

「なにを言って」

ぼかばきどかばきぐしゃっ!

「ぎゃああああ!!」「のわあああ!!」

「!?」

弟たちの悲鳴を聞いて、思わず後ろを振り返ってしまうアモリ。

彼が見たのは、最愛の弟たちがキルア少年のヤクザキックを喰らってケチョンケチョンに負けている光景だった。

「ウモリ! イモリ!!」

ダン!

狙い澄ましたハンゾーの手刀が、

無防備をさらしているアモリの首筋に打ち込まれる。


「自分のこと以上に兄弟を気にかけるってのには感心するがな、敵から目を離すのはよくないぜ。」


ハンゾーのチョップがクリティカルヒットしてアモリお兄さんもノックアウト。

本試験の常連でありチームワークには定評のあったアモリ3兄弟だったが、

キルアとハンゾーのルーキーコンビ(?)に敗れ、今年は第4次試験で姿を消したのだった。


・・

「あったぜ。198番だ」

「お、199番みっけ。ラッキー♪」


やっつけたアモリ3兄弟のポケットをあさり、

無事にターゲットのナンバープレートを回収できたハンゾーとキルア。

どちらからともなく顔をあげると、両者の視線が交差する。


「ありがとうはどうしたクソ坊主。」

「別に。誰も助けてくれなんて頼んでねーし。

 こんな連中くらい何人いたってオレの敵じゃないよ。

 3人組を倒すのに協力してやったんだ、むしろ感謝してほしいのはこっちだね。」

「ハァ?」

手にしたプレートをもてあそびながら持論を展開するキルア。

ハンゾーは顔をひきつらせ、青筋を立ててキルアをにらみつける。

ぷい。

2人はほとんど同時にそっぽを向いて、それぞれが別々の方角へと歩きだした。

「クソ生意気なガキだぜ。ゴンの素直さを少しは見習えやボケ。」

「うっせーよ。おせっかいなハゲ忍者。」

「ッ、オレはハゲじゃ…!」

タッ!

キルアはハンゾーの抗議を華麗にスルー。駆け足でその場を離れていく。


「あーあ。まだ6日間も残ってるんだよなー

 だいたい早抜けなしで1週間ってのが長過ぎだろ。

 こんなもん一日あればよゆーで集められるっつーの」


キルアはぐだぐだと愚痴をこぼしながら、ゼビル島の探検を再開するのだった。



・・・

・・・・・


さて、なんだかんだで試験開始から数日後の夕方である。

ゴン、レオリオ、ニコル、クラピカ、ギタラクル、キルア、ハンゾー。数多くの受験生たちがしのぎを削っているそのさなか。

会場であるゼビル島のとある場所で、あの男が復活を遂げようとしていた。



***


『でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。

 ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?

 きっと面白いことになる。』


とある奇術師の戯言。


***



ヤムチャさんがぼんやりと目を開けると、

そこは薄暗い洞窟の中だった。


(ん、ここは……?)


ヤムチャさんは敷き詰められた木の葉の上に寝かされている。

右腕は透明なチューブで点滴パックとつながれていた。


「ヤムチャさん!」

「やっと目ェ覚ましたのかヤムチャ!

 ったく、丸2日以上もグースカ眠ってるもんだから心配したんだぜ!?」


(ゴン、レオリオも、無事だったんだな。)


ヤムチャさんは上体を起こそうとする。が、


「が……ぎっ……ぐ…げごっ…!」


バタンキュー力尽きた。

ヒソカ戦のダメージでメキメキと身体が痛み、起き上がることができない。

「ヤムチャさん!」

「無理すんな、まだ起き上がらないほうが良いぜ。

 ヒソカと戦ってたのは覚えてるか?

 オメーは極度の疲労でぶっ倒れたんだよ。

 オレがゴンにたたき起された時には心肺停止状態だったんだ。蘇生処置が間に合ってよかったぜ。

 本当なら正規の病院で診てもらった方が良いんだが、いまはハンター試験中だからな。

 栄養剤と痛み止めを打っといたから

 しばらく安静にしてれば動けるようにはなると思うんだが――」

心配した様子のゴンとレオリオがヤムチャさんの顔をのぞき込む。

ヤムチャさんは2人を安心させようとせいいっぱいの笑顔を作ってみせた。

「2人でオレを運んでくれたのか、サンキューな。おかげで助かった。

 すまんが、帯の裏のところに仙豆の入った袋があるはずだ。ちょっと食べさせてもらえるか」

「「センズ?」」

ごそごそごそ、

「これかな?」

「ああ、それだ。一粒でいい。」

ゴンは見つけた皮袋から仙豆を一粒取り出すと、ヤムチャさんの口へと放り込んだ。

カリッ、ポリポリポリ、ゴックン。

「よっ!」

シュタッ!

ヤムチャさん復活!!


「「!?」」


「心配させて悪かったな。もう大丈夫だ。

 これは仙豆と言って、カリン様という仙人から分けていただいた特別な豆なんだ。 

 一粒食べればどんなケガでも治るし体力も回復する。」

「どんなケガでも?」

「ああ。どんなケガでもだ。首の骨が折れていたって助かるんだぜ」

ゴンの質問にちょっぴり自慢げに答えると、

「この点滴、外したいんだが抜いてもいいか?」

軽い感じで点滴パックのチューブを外そうとするヤムチャさん。

「ま、待った! ちょっと診させてくれ!」

レオリオは目の前で起こったヤムチャさんの突然の復調が信じられず、

ワタワタとヤムチャさんの診察をはじめた。


(……健康体だ。

 疲労している様子はないし肌の色つやもいい。

 おまけに損傷していたはずの骨や筋肉まで完全に治ってやがる!!

 ついさっきまで起き上がることもできなかった人間が一瞬で!?)


「って、なんじゃそりゃーーー!!!」


暗い洞窟に、レオリオの絶叫がこだました。



・・・


その日の夜。

ヤムチャさんたちがいる洞窟に忍びよる2つの影があった。


(フン。一息ついて気が抜けたか?

 見張り番も立てないとは能天気なやつらだ。

 どうやってヒソカから逃れたのかは知らんが、

 あの野グソ野郎を助けたのが運の尽きだったな)


からくもヒソカを退けたヤムチャさんたちのもとに、あらたなる刺客の魔の手がせまる!!



[19647] 仙豆を食べたヤムチャさんは、無敵だ!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/08/19 00:25

その日の夜。

ヤムチャさんたちがいる洞窟に忍びよる2つの影があった。

一つはエリート猟師のゲレタである。

浅黒い肌、帽子を目深にかぶり、肩には愛用の大きな吹き矢を携えている。

彼はターゲットであるゴンのプレートを狙い、襲撃の機会をうかがっていたのだ。


(フン。一息ついて気が抜けたか?

 見張り番も立てないとは能天気なやつらだ。

 どうやってヒソカから逃れたのかは知らんが、

 あの野グソ野郎を助けたのが運の尽きだったな)


フフッ、と男前な笑みを浮かべるゲレタ。

「少し予定と違うがいけるか?」

「問題ない」

ゲレタと共に潜むもう一つの影、頭にターバンを巻いた蛇使いバーボンがこくりと頷いた。

ヒョオッ!

シャー! シャー!

バーボンが短く口笛を吹くと、使役されている無数の毒蛇たちが洞窟の中へと侵入していく。

バーボンの毒蛇に咬まれた者は動けなくなりやがて死にいたる。

助かる方法はバーボン自身が持つ解毒薬を使うほかにないだろう。

これで洞窟の中にいる受験者たちを一網打尽にできるはずなのだが……


「……妙だな」

「どうした?」

「手ごたえがない。奴らは本当にこの中にいるのか?」

「まさか」


バーボンとゲレタは互いに顔を見合わせる。

とまどった様子のヘビたちが一匹、また一匹と外へ戻ってきた。


「やはりな。別の出口から外へ出たか、あるいは仲間割れで全滅でもしたか?」

「……何らかの罠である可能性もある。慎重に行くぞ」


入口に罠が仕掛けられていないことを確認すると、バーボンとゲレタは洞窟の中へと足を踏み入れた。



・・・

スッ、ススッ、

忍びこんだ二つの影が、暗闇にまぎれるようにして静かに洞窟の奥へと進む。


「……なんだあれは?」

「わからん。運営委員会が用意した休憩ポイントなのかもしれんな。」


小声でやり取りをするゲレタとバーボン。

洞窟の中の広間には、あからさまに怪しい白いドーム型の建物が収まっていた。

扉と窓と思われる部分からは明りがもれている。


(入り口が閉じている。バーボンのヘビが通用しなかったのはそういうわけか)


その正体はヤムチャさんがホイポイカプセルから出した小型のカプセルハウスだったりするのだが、

常識人である2人にそんなことがわかるはずもなかった。

こっそりと忍び寄ったゲレタが、窓らしき場所から中の様子をうかがう。


「やっぱりダメだ。受け取れないよ。それはヤムチャさんが命懸けで手に入れたものじゃないか」

「そう意地を張るなよゴン。ヤムチャがいいっていうんだからよ」

「じゃあこうしよう。

 このヒソカのプレートはゴンにやる。オレが持っていても1点にしかならないからな。

 その代わり、オレとレオリオが試験を合格できるように手伝ってくれ」

「う~ん、そういうことなら、わかった! オレがんばるよ!」

「うむ、よろしくたのむ。

 オレのターゲットは384番だ。こう、背が高くて色黒な男だったな。レオリオは?」

「246番なんだが、さっぱりだ。相手が男か女かもわかんねェ!」

レオリオはお手上げのポーズで天井をあおぐ。

建物の中では椅子に腰かけたヤムチャ、レオリオ、ゴンの3人がお茶を飲みながらほがらかに談笑していた。


(いったいなにをしているんだこいつらは)


予想外の状況にあぜんとするゲレタの

ぴしっ、

その足元の地面に亀裂が入った。

「クッ!?」

ギュオ!

地面から飛び出してきた繰気弾を、大きくのけぞって間一髪でかわすゲレタ。しかし…

グルン!

ボン!

「ご…が…」

ばたり。

ループ軌道を描いて戻ってきた繰気弾が顔面に直撃して、ゲレタは気を失った。


「おのれ罠か!?」


危険を察知したバーボンはヘビをばらまきながら全力で逃げ出したのだが、

ギュン!

ボン!

「げふっ…」

同じく地面から飛び出してきた2つめの繰気弾が後頭部を直撃し、やっぱりゲレタと同じ運命をたどった。


「む、かかったみたいだな」


外の物音に気づいてカプセルハウスから出てきたのはヤムチャさんだ。

ヒソカとの闘いで先行入力型の繰気弾を習得したヤムチャさんは、

地中に隠した複数の繰気弾にあらかじめ操作条件を込めておくことで即席のトラップに仕立てていたのである。

今回のケースでは、カプセルハウスにこっそりと近づいてくる人間を撃退するようにセットされていた。


「うーむ、思った以上にうまくいくもんだなぁ」

(練習のときにはなかなかうまくいかなかったのに、

 ヒソカとの戦いでコツをつかんでからは一発で成功するようになったもんな。

 やはり実戦に勝る経験なしか。

 仲間内での組み手以外じゃ地球のサイバイマンと界王星でフリーザの部下と戦ったのが最後だったからなぁ)


「かかると大きい音がするし、これなら夜は3人とも休んでて平気だね」

「こっちの色黒のほうはヤムチャのターゲットじゃねェか?

 ぬおっ! ヘビだ!!」

『シャー!』(ご主人様には指一本触れさせないぞ!)

ジロリ。

『しゃ~』(ボクらは野生にかえります。さようなら~)

バーボンの傍にいた蛇たちはヤムチャさんのひとにらみで追い散らされた。

「「おおー」」

パチパチパチ。

ゴンとレオリオは蛇たちをなんなく退けたヤムチャさんの手腕に拍手を送ると、

繰気弾で気絶したゲレタとバーボンの回収にかかる。

よっこいせ、足をつかんでずるずるずる。


「しっかしスゲェな! 本物の気ってのはよ! テレビでやってたインチキくさいのとはエライ違いだぜ!!」

「ふっふっふっ、かなり修行したからな。ちなみにこの繰気弾はオレのオリジナルだ。

 ちなみにこの繰気弾はオレのオリジナルだ!!」

「……ヒソカも気を使ってたんだよね。練習すればオレにも使えるようになるのかな」

「ああ。ヒソカのは念といって、オレのとはちょっと流派が違うんだけどな。ゴンは強くなりたいのか?」

「うん。オレ、ヒソカを止めようとしたけど力が足りなくて、なんにもできなくて……」

暗い表情でうつむくゴン。なんとなく気まずくなって、ヤムチャさんは頬をかいた。


「…もし時間が余るようなら2人にも少しだけ稽古をつけてやるよ。助けてもらったお礼もかねてな」

「ホント!?」

「よっしゃ! 超能力者レオリオ様の誕生だぜ!

 どっちが先に気を使えるようになるか、競争だなゴン!」

「うん!」


ずるずる、ずるずるずる。

パタン。

カプセルハウスはあわれな侵入者2名を収容して、その扉を閉じた。



・・・


翌日の朝。

ヤムチャさんたちは洞窟のカプセルハウスを引き払い、本格的にプレート集めを開始しようとしていた。

ヤムチャとゴンはターゲットのプレートを手に入れて6点分集まっているので、残るはレオリオの2点分だ。


洞窟の外は雲ひとつない晴天だった。

ヤムチャさんは舞空術で空中に浮かび、空からゼビル島をながめながら周辺の気を探っている。


(それらしい気は感じられないな。

 この島には野生の動物たちも多いし、

 気を探って他のヤツらを見つけ出すのは難しそうだ。

 空から見つけるにしても森が邪魔で視界が通らないか)


ヤムチャさんはゴンとレオリオが待つ地上へと降りたつ。

「どうだった?」

「ダメだな。

 どうやらみんな気を抑えているみたいだ。

 ニコルとクラピカの気も感じられない」

「そうか」

ヤムチャさんの気配を探る能力が当てにできないと知り、レオリオは難しい顔で「うーむ」とうなる。


「だけど、何人かこっちを見ている奴がいるな。」


相手が気を抑えているため正確な位置まではつかめていないが、自分たちをうかがっている気配があることはわかった。

ヤムチャさんは鋭い視線をあたりに向けると、静かに気を高める。


「2人とも、ここを動くなよ」

シャッ!

「き、消えた!!」

驚くレオリオ。

「違うよ。すごいスピードで飛びまわってるんだ」

動体視力に優れたゴンには、かろうじてヤムチャさんの動きが見えていた。

シャッ! シュビッ! シャウッ!

ヤムチャさんは瞬間移動とも思える速度で移動と攻撃を繰り返す。


「もう人間技じゃねーよな、実際。

 プロハンターになれるヤツってのはあんなバケモンぞろいなのかね。

 もう根本的に住むべき世界が違うような気さえしてくるぜ」

「そうかもしれないけど。

 それでも、オレはハンターを目指すよ。

 レオリオだってハンターになるのをあきらめるつもりはないんでしょ?」

「ケッ、あッたりめーよ! オレがもっとすごくなればいいだけの話だからな!!」


ゴンとレオリオがいい笑顔で語り合っているところに、一通りの掃除を終えたヤムチャさんが戻ってきた。

スタッ!

「ま、ざっとこんなもんだ」

どさどさどさっ。

もとの位置に戻ってきたときには、ヤムチャさんはなんと4人もの人間を捕まえていた。

281番の剣士アゴン。

384番の拳法家ケンミ。

そして見慣れない黒服が2人……!!


「ヤムチャさんよ、お前がスゲェことはよーく分かるんだがな」

「この人たちもしかして試験官の人なんじゃ」

「……えっ?」



・・・


黒服の試験官たちは受験生の行動を採点するために隠れて監視していたらしい。

ヤムチャさんたちは誤って殴り倒してしまった2人の試験官さんにごめんなさいして、いそいそと近くの川辺に移動した。


「えー、コホン。

 気を使うための修業を始める前にひとつだけ約束してほしい。

 武道は人生をよりよく生きるためのものだ、私利私欲で使っちゃいけない。

 手に入れた力は決して悪用しないこと。いいな?」

「「押忍!!」」

ヤムチャさんの言葉にゴンとレオリオが力強く答える。


「よし、まずはお手本を見せるぞ」


ヤムチャさんは左右の掌を合わせると、それを腰だめにしてかまえる。

「かめはめ波!」

どどん!

手から放たれた気功波が近くの立ち木に命中して、小さな爆発を起こした。


「かめはめ波は体内の潜在エネルギーを凝縮して一気に放出させる大技だ。

 体中からかき集めた気を右手と左手の間でうまく溜めるのがコツだな。

 さ、やってみてくれ」

「「お、押忍!!」」



『かめはめ波! かめかめ波! か・め・は・め・波!』



「……できるわけねーだろうガァッ!!」


ムダに必殺技を空打ちする恥ずかしさをこらえ、一通り試してみたところでレオリオの怒りが爆発した。

「もしかしたら出来るかと思ったんだけどなぁ。いきなりは無理だったか、スマンスマン」

(とはいったものの、どうしよう。

 オレの場合は亀仙人さまのところで修行させてもらっている内に自然と身についていたからな。

 気を使えるようにするのにどの修行をさせればいいのかいまいちよくわからんぞ)

うーむ。

「よし、2人ともまだ気を意識できてないみたいだから

 まずはそこからだな。身体を鍛えるのと並行して学んでいけばいいだろう」


とりあえず亀仙流の修行をやってみることに決めたヤムチャさんは、

こんなこともあろうかと用意しておいた修行用のホイポイカプセルを放った。

BOM!

カプセルを投げた地面から煙がたちのぼり、

亀仙流のトレードマーク。ずっしり重たい亀の甲羅があらわれた。


「2人ともこれをつけてくれ。

 かなり重たいから気をつけろよ」



・・・・・・


それからの3日間。ゴンとレオリオはヤムチャさんの指導のもと修行にはげんだ。


よく動き、

「オレの後についてこい!

 走り込みのあとはオレと組み手だいくぞー!」

「「オー!!」」


よく学び、

「気、オーラ、エナジー、チャクラ。流派によって呼び方はいろいろあるんだが

 これらはゴンもレオリオも誰もが内に秘めている力、生命エネルギーのことなんだ。

 いま2人にやってもらっているのは身体を鍛えて気の絶対量を増やし、精神を鍛えて自分の中にある力を感じとるための修行だな。

 気のイメージをしっかり掴んでコントロールできるようになれば、2人もかめはめ波が撃てるようになるはずだ(たぶん)」


よく遊び、

「オレが四方からこの小石を投げるから、2人はその円の中だけで避けてみてくれ。

 感覚を研ぎ澄ませて音や空気の流れ、気配を感じとるんだ」

「押忍!」

「よっ、とっ、あいたっ」

「レオリオ! 後ろにも目をつけるんだ!」


よく食べて、

「狼牙風風拳にはいくつかの型分けがある。

 通常の壱式、スピード重視の弐式、足技を主とした参式。

 そして…」

「狼牙風風拳のことはもういいから他の技のことも教えてくれよ」


よく休んだ。

(指導する側に回るってのは新鮮な感じだな。

 プーアルのやつは今頃どうしてるだろう。

 ニコルとクラピカもちゃんとプレートを集められていればいいが)


・・・

そして第4次試験最後の夜。

ヤムチャさんは草原に横になり、夜の星空を見上げている。

ゴンたちとともに修行をこなしているうち、ヤムチャさんはあることに気がついていた。


(なんだかやけに調子がいいな。

 体が軽い… それに感覚も鋭くなっている気がする。)


ヤムチャさんは遠く星空に右手を伸ばす。

目には見えない何かを掴もうとして、グッと拳を握りしめた。


ヒソカとの闘いに勝利を収め、死の淵から這い上がったことでヤムチャさんは飛躍的な成長を遂げていた。

少ない気を集中して活用するヒソカの洗練された戦闘技術『流』を目の当たりにしたことで、より繊細に行えるようになった気のコントロール。

実戦的な方向へと進化した繰気弾と繰気連弾。

そして繰気弾と気円斬を組み合わせた新たな必殺技、繰気斬の完成。

死力を尽くした激闘に勝利したことによって得られた自信が、ヤムチャさんの気を以前よりもはるかに力強いものにしていた。


(まるで自分の中の可能性が引き出されていくような感覚だ。宇宙に出てきてよかった。

 この星で実戦経験を積み武術を学べばオレはまだまだ強くなれる!

 極められるかもしれない。

 思い描いていた最強最後の必殺技『真の狼牙風風拳』を!)


宇宙の帝王フリーザをも凌駕する最強の超地球人。

地球から遠く離れたこの星で、

ヤムチャさんの潜在能力は人知れず開花の時を迎えようとしていた。




ちなみに…


『かめはめ波ーーー!!!』


そよっ、

ゴンとレオリオはそよ風が起こせるようになった!



[19647] スーパーヒーロータイム
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/08/30 08:45
4次試験開始から一週間が経過した。


『ただ今をもちまして第4次試験は終了となります。

 受験生の皆さんはすみやかにスタート地点へお戻りください』


ゼビル島に降り立った迎えの飛行船から、試験終了のアナウンスが流れている。


『これより一時間を期間猶予時間とさせていただきます。

 それまでに戻られない方はすべて不合格とみなしますのでご注意ください。

 なおスタート地点へ到着した後のプレートの移動は無効です。

 確認され次第失格となりますのでご注意ください』


ハンター協会からのアナウンスに応じて

6点分のプレートを集めた受験生たちが集合場所に続々と姿をあらわした。


プロハンターを父に持つ野生児 ゴン。

天才少年 キルア。

緋の目を持つクルタ族の生き残り クラピカ。

気は優しくて力持ち、医者志望の レオリオ。

雲隠れ流の上忍 ハンゾー。

森の狩人にして弓の名手 ポックル。

質実剛健の武道家 ボドロ。

謎の顔面針男 ギタラクル。

世界最強のウ○コ野郎 ヤムチャ。


『第4次試験

 プレート争奪サバイバル 合格者は9名!

 合格者はネテロ会長の担当する最終試験へ!!』



・・・


ハンター協会の所有する飛行船内、その第一応接室。

ここでは最終試験に先駆けて、ハンター試験の最高責任者、ネテロ会長による面談が行われようとしていた。


「42番のヤムチャです」

「よく来たの。まあ座りなされ」

「はっ。失礼いたします」


面談の場となる第一応接室にはタタミに座布団、掛け軸や生け花といったジャポン風の内装が施されていた。

ふすまを開いて入室したヤムチャさんは、ネテロ会長にすすめられるまま座布団に腰を下ろす。


「最終試験の参考にちょいと質問させてもらうだけなんでな。

 かたくるしくすることはないぞ」

「はい」

ヤムチャさんは神妙な面持ちでうなずいた。


「まず、なぜハンターになりたいのかな」

「就職先としてもっとも好待遇だったからです。

 国境をフリーパスで通過できるようになる特典が魅力的でした」

(`・ω・´)ノ


「……なるほど。

 おぬし以外の8人の中で今一番注目しているのは?」

「403番のレオリオと405番のゴンですね。あいつら才能ありますよ」


「では最後の質問じゃ。

 8人の中で今一番戦いたくないのは?」

「特にはいません」

「ふむ、質問は以上じゃ。さがってよいぞよ」


「では失礼します。ありがとうございました」

一礼して立ち上がり、ヤムチャさんは落ち着いた様子で退室していった。


「ほっほっほ。いまどき珍しい礼儀正しい好青年じゃの」

(少々上から目線なのが気になるが、あまり裏表のない人間のようだの)

ネテロは好々爺とした笑みを浮かべると、手元の資料に目を落とす。


『非常に強力な戦闘系の念能力者。

 出身地は不明だがジャポンに縁のある人物と推測される。

 身体能力には眼を瞠るものがあるが、品性下劣で注意力に欠ける』


トンパごときにはめられて脱糞事件を起こしたこと、

脳筋な行動で数々の破壊行為を繰り返していることから

サトツ・メンチ・リッポーら試験官からのヤムチャさんに対する評判はあまりよろしくない。

だが…

(以前見かけた時よりも明らかに強くなっておる。

 ちゅーか、あいつワシより強いんじゃね?)


・・・

ネテロ会長による面談はトントン拍子に進んでいった。

質問内容はハンターになりたい理由、今一番注目している人物、今一番戦いたくない人物の3点である。


「ハンターになって親父に会いに行くんだ!」
「42番のヤムチャさん。すごい人だと思う」
「うーん、42・99・294・403・404……ダメだ。多過ぎて選べないよ」

「オレは医者志望だ。そのためには先立つものが必要なんだよ」
「405番だな。ここまでずっと一緒にがんばってきたし、このまま合格してほしいと思うぜ」
「42番。ありゃバケモンだ。戦っても絶対に勝てねェだろうさ」

405番ゴン、403番レオリオ、


「A級賞金首の幻影旅団を捕まえるため、賞金首ハンターを志望している」
「42番だ。彼は我々とはどこか異質な存在であるように思える」
「理由があればだれとでも戦うし、なければ誰とも戦いたくはない」

「べつになりたいわけじゃないよ。ためしに受けてみただけ」
「ゴンだね。405番のさ、同い年だし」
「53番かな。戦ってもあんまし面白そうじゃないし」

「隠者の書を探すためにハンターライセンスが欲しい。一般人じゃ入れない国にあるらしいんでな」
「99番だな。実力はあるにせよ、クソ生意気なガキだぜ」
「42番のヤムチャだ。とぼけた顔してやがるけどな、ありゃ敵に回したらダントツでヤバいぜ。」

404番クラピカ、99番キルア、294番ハンゾー、


「オレは幻獣ハンター志望だ。世界中をまわって、歴史に名を残すような仕事がしたい」
「注目しているのは404番だな。見る限り一番バランスがいい」
「403番だ。ヒソカとの戦いで爆発物を使っていたのはやつだろうからな。要注意だろう」

「資格自体に強いこだわりはない。私がハンター試験に挑むのは己を磨くためだ」
「42番だ。同じ武道家として一度手合わせしてみたい」
「405番と99番だ。子供と戦うなど考えられぬ」

「仕事で必要」
「99番」
「42番」

53番ポックル、191番ボドロ、301番ギタラクル。


以上、最終試験に臨む者たち9名全員の面談が終了した。

そして時が過ぎ、


『みなさま長らくお待たせいたしました間もなく最終試験会場に到着します』


受験者たちをのせた飛行船は最終試験の会場となるホテルへ到着した。



・・・


「さて諸君、ゆっくり休めたかな?

 ここは委員会が経営するホテルじゃが、

 決勝が終了するまで君たちの貸し切りとなっておる」


ホテル内の大広間に集められた受験生たちに、ネテロ会長から最終試験についての説明が行われていた。

場には各試験の試験官だったサトツ・メンチ・ブハラ・リッポーらの面々と、試験官のサポート役をつとめる黒服たちもいる。


「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。

 その組み合わせは、こうじゃ」




                  ┏━━ ゴン
               ┏━┫
               ┃  ┗━━ ハンゾー
            ┏━┫
            ┃  ┗━━━━ ポックル
         ┏━┫
         ┃  ┗━━━━━━ キルア
      ┏━┫
      ┃  ┗━━━━━━━━ ギタラクル
不合格━┫
      ┃        ┏━━━━ レオリオ
      ┃     ┏━┫
      ┃     ┃  ┃  ┏━━ クラピカ
      ┗━━━┫  ┗━┫
            ┃      ┗━━ ヤムチャ
            ┃
            ┗━━━━━━ ボドロ



ネテロがトーナメント表の描かれたホワイトボードを提示する。


「さて最終試験のクリア条件だが、いたって明確。

 たった1勝で合格である!

 すなわちこのトーナメントは勝ったものが次々ぬけていき負けたものが残るシステム!

 この表の頂点は不合格を意味する!」

「つまり不合格になるにはたったの1人。あとは全員で合格できるってわけか」

思った以上に合格枠が多いことを知り、ヤムチャさんは少し嬉しそうにそう言った。


「左様。しかも誰にでも2回以上の勝つチャンスが与えられている。

 戦い方も単純明快。武器OK反則無し相手に『まいった』と言わせれば勝ち!

 ただし相手を死に至らしめてしまったものは即失格!

 その時点で残りの者が合格、試験は終了じゃ。何か質問は?」

「組み合わせが公平でない理由は?」

武道家のボドロが質問する。彼に与えられたチャンスは最小の2回だ。


「当然の疑問じゃな。

 この取り組みは今まで行われた試験の成績をもとに決められている。

 簡単にいえば、成績のいいものにチャンスが多く与えられているということ」

「それって納得できないな。

 もっと詳しく点数のつけ方とか教えてよ」

質問者であるキルアに与えられているチャンスはレオリオと同格の3回。

成績の順位でいえば平均よりやや下に位置することになる。


「ふむ、よかろう。

 審査基準は大きく3つ。身体能力値、精神能力値、印象値から成る。

 身体能力値と精神能力値は各々の総合力を評価したものじゃ。

 だが、これらはどちらも参考程度。

 最も重要なのは印象値!!

 これはすなわち先に挙げたデータからは測れない何か。いうなればハンターの資質評価といったところか。

 それと諸君らの生の声を吟味した結果こうなった。以上じゃ!」

「……」

(試験の結果や能力面ではオレの方が上のはず。資質でオレがゴンに劣っている!?)

天才少年キルア。

同年代の子供に負けるという彼にとって初めての経験は、彼の精神に大きな衝撃を与えていた。


「それでは最終試験を開始する!!」


ネテロは新たな質問が出てこないことを確認すると、最終試験の開始を宣言した。


・・・

ホテル内の大広間。

普段は300人規模の宴席に利用されているこの場所も、トーナメントが終了するまでの間はハンター受験生同士がしのぎを削る戦場となる。

テーブルやイスなどは事前に撤去されており、受験生たちが戦うのに十分な空間が確保されている。


『第1試合 ハンゾー 対 ゴン!』


サングラスをかけた黒服の一人が前に出た。

「私は立会人をつとめさせていただきますマスタです。よろしく」

「よお久しぶり。

 アンタ4次試験の間ずっと俺を尾けてたろ」

「お気づきでしたか。」

「当然。4次試験では受験生一人一人に試験官が尾行してたんだろ?

 まあ他の連中も気付いてたとは思うがな」

「ええ、まあ。」

チラッ

マスタに意味深な視線を投げかけられて、ゴンは申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。


「礼を言っておくぜ!オレのランクが上なのはアンタの審査が正確だったからだ!」

「はぁ。どうも。」

生返事を返すマスタ。

「さてと、

 念のため確認するぜ。

 勝つ条件は『まいった』と言わせるしかないんだな?

 気絶させてもカウントは取らないしTKOもなし」

「はい…それだけです!」

(なるほど。こいつはちっと厄介だな)

簡単には勝てそうもないなとハンゾーは表情を引き締める。


(ハンゾーさんが強いのはわかってる。

 でも、オレだってヤムチャさんとレオリオと修行して強くなってるんだ)

簡単には負けない。そんな決意を込めてゴンはハンゾーに対峙する。


「それでは、はじめ!」


審判役であるマスタの合図と同時。ハンゾーはすべるように移動してゴンに手刀の一撃を見舞う。

(チッ! 浅いか!)

(よし! 反応できるぞ!)

シュババッ!

ダッ!

素早く左右の連打を繰り出すハンゾー。

ゴンは小柄な体を利して上下左右に回避する。

ダッ! ドガガガガッ!

(ガードがかたい。思った以上によく動きやがるな)

逃げるゴンとそれを追うハンゾーの図式が出来上がっていた。


「ずいぶんすばしっこいな」

「うむ。死角からの攻撃にもうまく対処できている。

 目で見るのではなく気配を感じて避けているのだろう」

予期せぬゴンの善戦にポックルとボドロは感心している。


「くそっ! ゴンのやつ防戦一方じゃねェか!?」

「こりゃ勝てそうにないな」

「いや、あれでいい。ゴンの狙いはおそらく……」

レオリオ、ヤムチャ、クラピカの3人もはらはらしながら戦いを見守っていた。


変化のないまま攻防はしばらく続いた。

だがふいに、ハンゾーはゴンを追うのをピタリとやめた。

自然体で立ち止まり、深呼吸してわずかに乱れていた呼吸を整える。


「読めたぜ。オレを動きまわらせて体力勝負に持ち込もうって腹だろ」

(…! もうばれてる)

図星を突かれ、ゴンの動きが止まった。

「もうこっちから追うのはやめだ。ほら、かかってこいよ」


(こうなったら真っ向勝負だ!)


「やっ!」

ゴンはハンゾーに飛びかかり、ありったけの力を込めたラッシュを仕掛ける。

シュバババッ!

だがゴンの攻撃はことごとくハンゾーに捌かれた。

ドガッ!

攻撃後のすきを突いてハンゾーの裏拳がヒットした。ゴンは床にたたきつけられる。

「くそっ!まだまだ!」

ダッ!

とび跳ねるように起きた反動を利用して、すぐさまとび蹴りを繰り出すゴン。

ブン!

バキィッ!

ゴンの蹴りが空振りしたところに、ハンゾーの回し蹴りが炸裂する。

「ぐっ」

ゴンはバウンドしながら吹き飛ばされるも、ダウンすることなく体勢を立て直した。


(結構本気でやってるんだがな。

 これを喰らってもまだ動けるのかよ)


「このぉっ!」

(そのタフさは認めてやる。

 だがな、ゴン。お前の攻撃は素直すぎるんだよ。

 戦闘経験が圧倒的に足りてない)

ハンゾーはゴンの右ストレートにタイミングを合わせて腕をつかみ、

関節を極めて流れるような動作でゴンを押さえこんだ。

「おまえには前にも言ったよな。

 オレは忍びという特殊技術を身につけた戦闘集団の一員だ。

 こと戦闘において、今のお前がオレに勝つ術はねェ!(キリッ)」

「――――ッ!」

「それがどうしたって面だな。

 まだあきらめないってんならこの場で腕を折るぜ。

 おねがいだ。ここで『まいった』と言ってくれ」


「いやだ!」


「よく考えろよ。

 ここで意地を張ると次もその次も勝てなくなるんだぜ。

 ここを逃してもまだまだチャンスはあるんだ。

 傷が浅いうちにギブアップして、次の試合で勝てばいいじゃねェか」


「絶対に言わない!!」


「ああそうかよ!」

ゴンの闘志がいっそう燃え上がる。それにつられてハンゾーの語気も荒くなっていった。



「メンチ、あの子やばいんじゃない?」

大きな腹を揺らして心配の声をあげたのは、2次試験で試験官をつとめていたブハラだ。

「まったく。会長の性格の悪さときたら私たちの比じゃないわね。

 気軽に『まいった』なんて言える奴がここまで残ってるわけないじゃないの。

 意地の張り合いの行き着く果ては拷問。なぶり殺しよ」

「成績のいいものに多くのチャンスを与えるという名目でしたが、

 会長としては成績優秀者同士で潰し合いをさせる腹積もりなのでしょうね」

苦虫をかみつぶしたように語るメンチの解説を、カールひげの紳士サトツが引き継ぐ。

「クックックッ、だがその思惑に受験生たちが乗るかどうかは別の問題だ。

 今年のルーキーは一筋縄ではいかんよ」

会長の思惑が外れることを愉快そうに予言するパイナッポーリッポー。

トリックタワーの罠(トラップ)を攻略してみせたルーキーたちの絆と意外性に、リッポーはゆがんだ信頼を寄せていた。



「やれやれだぜ」

心底あきれたという様子でため息をつき、

ハンゾーは腕を極めて抑え込んでいたゴンを開放して立ち上がる。

「?」

「オレがどんなに痛めつけても

 お前はどうせまいったなんていわねーだろ。

 死ぬほど頑固な上に特大の単純バカだからな。」

「……」

ゴンはなんとなくムスッとした顔をするが、事実なので何も言い返せなかった。


「まずは勝負の方法から決めようぜ。

 お前が負けてもそれで納得できるやつにしろ」

「え、う~ん」

ハンゾーの突然の提案にとまどいながらも腕組みをして考え込むゴン。

「よっぽど不公平な競技じゃなければなんでもいいぜ。

 かけっこ・高跳び・的当て・遠投・かくれんぼ。

 とりあえず思いついたモン言ってみろよ」

ハンゾーは子供っぽく平和な競技を並べてみせる。すべて自分に有利な種目なのはごあいきょうだ。


「う~ん、よし! ジャンケンで勝負だ!!」


「「「ジャンケンだと~~!?」」」

ゴンの発言に会場が騒然とした。


「おま、バカ野郎ッ!

 これでハンターになれるかどうかが決まる最終試験なんだぞ!?

 ジャンケンなんかで決めちまっていいと思ってんのかよ!!」

外野なのになぜかヒートアップしたレオリオがほえる。

「いいぜ。

 ただし5回勝負だ。先に3回勝った方の勝ち。

 負けた方は素直に負けを認めて降参すること」

「わかった!」

「いやいやいや!

 おかしいだろうが! テメェらハンター試験なめてんのか!?」

「彼らが話し合いで決めたことだ。我々が口をはさむ筋合いではないよ」

今にも乱入しそうな勢いのレオリオをクラピカがいさめた。


(なるほど、腕力でも頭脳でも勝てそうにないから運否天賦で勝負しようってわけか。

 意外と抜け目のないヤツだぜ。

 だがまだまだ甘ェ。ただのジャンケン勝負なら確率は五分五分だろうが、

 複数回の勝負となれば相手の裏をかく心理戦がものをいう。

 誤算だったな。オレたち忍は相手の心の動きを読む訓練も積んでるんだよ。

 この勝負もらったッ!)

そんなハンゾーの確信は――



「最初はグー!

 ジャンケンポン!」



――脆く儚く崩れ去った。




「勝者! ゴン!!」


orz。


ずーん。

「やべえよ、マジやべえって、なんでオレこんなガキに負けてんだよ。

 ありえねえだろ。はっ、はははっ、これで霧隠れ流の上忍なんだぜ。

 笑えよ。笑えばいいさ。オレの17年間って何だったんだろうな」

ずずーん。

うつうつとした闇を抱えて、ハンゾーは這いつくばっていた。


対戦成績0勝3敗。

ハンゾーはゴンとのジャンケン対決にストレートで完敗したのであった。


「ナイスファイトだった! おまえなら勝てると信じてたぞ!」

「おめでとう!」

「ハンター試験合格第一号だな!」

「えへへ」

思い思いに祝福の言葉をかけるヤムチャ・レオリオ・クラピカにゴンは笑顔で応える。


その一方で、

敗者となったハンゾーにはキルアが声をかけていた。


「なぁ。なんでジャンケン勝負なんかしたんだよ。

 まともにやればアンタが勝ってた。

 まいったと言わせる方法なんてごまんとあるだろ」

キルアの探るような問いかけに、ハンゾーはため息一つ。

「なら、お前さんだったらどうしたよ。

 まいったと言わせるために友達と戦って、拷問して、屈服させて。

 そんなんで合格して満足か?

 オレは御免だ。オレが痛めつけたせいでゴンが不合格になったんじゃ納得できん。」

「……ゴンとは、べつに友達ってわけじゃないよ」

「ハァ? おまえら友達なんじゃないのかよ」

「オレはその、ゴンとは友達になれたらいいなとは思ってるけどさ、あいつはどう思ってるか分かんないし」

ほほう。キルアの歯切れの悪さにハンゾーはにんまりと人の悪い笑みを浮かべる。

「おーい! キルアの奴がゴンに話したいことがあるんだってよ!」

「な!?」

「どうしたの?」

「キルアがお前さんと友達になりたいんだと。」

「? もう友達じゃん」

ゴンのあっけらかんとした言葉に、キルアは自らの心の壁が崩れるような感覚を覚えた。

「ゴン……合格おめでと。」

「うん!」

パン!

2人の少年はハイタッチを交わす。

家庭の事情により友達いない歴12年を更新中だったキルアはこの瞬間、一匹オオカミを卒業したのだった。

そんな様子をニヨニヨと生温かい視線で見つめるブラックニンジャ。

「オレも友達になってやろうか?」

「……ふん」

キルアは鼻を鳴らすと、照れ隠しにそっぽを向いた。


・・

『第2試合 クラピカ 対 ヤムチャ!』


マスタによって次の対戦者がコールされる。

「いよいよオレの出番だな」

ヤムチャさんは不敵な表情でビッと帯を締めなおす。気合十分だ。

「相手は自分とおなじ人間だなんて思うんじゃなーぞ。かなわないと思ったらソッコー降参しろよ」

「心配は無用だ」

レオリオのアドバイスを聞き流して、クラピカは部屋の中央へと足を進める。

クラピカはヤムチャさんの正面――5mほどの距離――で立ち止まり、


「最初に言っておきたいことがある。

 4次試験でニコルのプレートを奪ったのは私だ。」


その言葉を口にした。



[19647] 賭博黙示録 クラピカ
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/09/09 23:55

最終試験の会場となっているホテルの広間では、

第2試合、クラピカとヤムチャの対戦がはじまろうとしていた。


「最初に言っておきたいことがある。

 4次試験でニコルのプレートを奪ったのは私だ。」


ざわ… ざわ…

クラピカの言葉に場の空気が緊張する。

ヤムチャとニコルが協力関係にあったことは、この場にいる人間の半数以上が知っている事実だ。

「そういうことだったのか、なんとなく避けられてる気はしたんだよなー」

大方の予想に反し、ヤムチャさんの反応は軽かった。


「私を責めないのか。あなたはニコルと親しかったはずだ」

「別に卑怯な手を使ったわけじゃないんだろ?」

「ああ」

「ならいいさ。ニコルがルールの上で戦って負けたならオレがとやかく言えることじゃない」


戦い競い合った相手であっても、事が終わればノーサイド。それがヤムチャさんの流儀だ。

一緒に合格しようと約束したニコルの力になれなかったことを残念に思う気持ちはあっても、それでクラピカを責めたりはしない。

ヤムチャに恨まれることを覚悟していたクラピカにとっては拍子抜けの結果だった。


「今度ニコルにはクラピカが気にしてたって伝えておいてやるよ」

「あ、ああ、すまない」


「それはそれとして、勝負の前にルールを提案しときたい。

 際限なく戦うんじゃお互いに大変だからな。

 気絶したりダウンしたりして動けなくなったら負け。

 天井か四方の壁に体がふれたらその時点で場外負け。

 負けた方は『まいった』ということ。どうだ?」


「承知した。私としても戦いを不毛に長引かせることは避けたい」

ヤムチャさんが天下一武道会をイメージして考えたルール案をクラピカはあっさりと承諾した。


この2人の話し合いを聞いて頭を抱えたのがハンゾーだ。

(しまった~~~!!

 オレもああいうルールでやっとけばよかった!

 普通に気絶した方の負けってことならゴンのやつも納得したかもしれん!)


ざ・わ…

(守勢に回ればそのまま押し切られるだろう。

 こちらから仕掛けて善戦できたとしても、空に逃げられてしまえばそれまでだ。

 生半可な攻防をしている余裕はない)

クラピカは油断なく対の木剣を構えてヤムチャさんを見据えた。


「ヤムチャ、新狼牙風風拳でこい」


(私とヤムチャの地力の差は明白。正面から戦えば敗北は免れない。

 だが、ヤムチャの新狼牙風風拳は攻撃する瞬間、足元に隙ができる)

過去にヒソカとヤムチャさんの対戦を見ていたクラピカは、そこにヤムチャ攻略法を見出していた。

ヤムチャさんは自ら編み出した必殺技にこだわりを持っている。だからこそ挑発に乗ってくるだろうとクラピカは判断したのだ。


「ずいぶんと自信があるみたいだな。

 いいだろう。オレの必殺技を披露してやる」

ビッ!

ヤムチャさんは狼牙風風拳の構えをとった。

破れるものなら破ってみろと言わんばかりだ。

その自信ありげな態度を見たクラピカに電流走る――!


「いくぞ! 新狼牙風風拳!!」


(足元狙いは見透かされているか、ならば!)


クラピカは一度きりの勝機に全てをかけた。

視線を下方に向けることでヤムチャさんの足元を狙っていると見せかけつつ、

大きく踏み込んで前方に加速。突進してくるヤムチャさんの腹部を狙って渾身のダブル疾風突きを放つ。


「シッ!」


クラピカがお留守なはずの足元ではなく腹部を狙ったのには理由があった。

それは情報。ヒソカに破られて以来、ヤムチャが必殺技の改良に取り組んでいたことはゴンとレオリオから聞いて知っている。

技の欠点を認識していたがゆえに生じる、相手は足元を狙ってくるはずだという先入観。

それが鍵穴。足元のスキを意識して重点的に対策している分だけ、おのずと上半身への攻撃に対する警戒が薄くなる。


クラピカの狙いは確かに的中していた。

下段攻撃と見せかけての中段攻撃を選択したことでヤムチャの意表を突くことに成功。

予想外の挙動にヤムチャは反応できない。完璧なタイミングで放たれた、必殺のカウンターアタック。

当たるべくして当たる必中の一撃。試験合格への片道切符……!!


(もらった!)


だが届かない。クラピカのつかんだ勝利へのカギはもろくも砕け散る。

クラピカの思惑のことごとくを飛び越えて、ヤムチャさんは超絶無敵だった。

ヤムチャのみぞおちに木剣が突き刺さり、そして何の抵抗もなくすり抜ける。


「残…像っ…!」

「惜しかったな。今回はオレの勝ちだクラピカ」


標的を見失いたたらを踏んだクラピカの後方、背後にヤムチャの本体。

ヤムチャの両手がクラピカの背中に添えられた。殴るでもなく、叩くでもない、ただ純粋に背中を押すという行為。

攻撃とすら呼べぬようなそれが致命傷。クラピカを奈落の底へと突き落とす悪魔の一手。


ドウッ!


圧倒的な衝撃。物理法則をどこかに置き忘れてきたような一撃が、クラピカの体を水平方向へと大きく吹き飛ばす。

「うわぁぁぁぁ!」

(まずい! 壁までふきとばっ)

クラピカは手にしていた木剣を床にたたきつけて、なんとか勢いを殺そうと試みる。だが…

ズギャッ!

ガリガリガリガリ!

及ばない。努力実らず。慣性に引きずられて上滑りする身体が止まった時、クラピカの身体は壁に触れていた。

クラピカは目を閉じてうつむくと、大きく息を吐き出して心を落ち着けた。そして…


「まいった。私の負けだ」


場外負け。敗北を認めたクラピカの胸中に湧き上がる感情は畏怖。そして安堵。

もう勝ちの見えない綱渡り、命懸けのギャンブルに挑まずともよいという心の安息。魂の理想郷。


「ふっふっふ、これでオレもプロハンターの仲間入りだな」

(あぶないあぶない。念のために残像拳を組み合わせておいてよかったぜ。

 カウンター狙い対策用のバリエーション、名付けて狼牙残像拳ってところか。

 馬鹿正直に突っ込んで、みんなの見てる前で必殺技を破られるなんてかっこ悪過ぎるからな)


ヤムチャさんは周囲からの期待と必要に合わせて常に力をセーブしている。

ヤムチャさんの真の力をもってすれば、まだ気を満足に操ることができないクラピカを問答無用の力押しでねじふせることもできた。

それをしなかったのは、相手と同じ土俵で勝負を楽しみたい、鍛え上げた技と技とを競わせたいという武道家としての本能ゆえか。



・・・


『第3試合 ハンゾー 対 ポックル』


「よぉ、ちっと提案なんだがな。

 オレ達もさっきの試合のルールでやらないか?」

「気絶したりダウンして動けなくなったら負け。四方の壁に身体がついても負けってやつか」

ポックルは口元に手をやり、ハンゾーの案を検討する。


(身体が動けなくなった時点であきらめてくれるなら、オレにとってはそのほうが好都合か)


「よし、わかった。それでいこう」

ポックルの不幸はハンゾーの眼に宿るギラついた光に気付けなかったことだ。

「はじめ!」

(接近戦はこちらが不利だ、まずは牽制から)

マスタの合図をうけて、ポックルは愛用の短弓を手に身構える。

「え?」

ポックルの口から間の抜けた声が発せられた。

駆け引きもなにもない。まばたきほどの一瞬の間に、鬼の形相をしたハンゾーが懐に潜り込んでいた。

気配と足音を殺し、無音での移動を可能とする忍び独自の体術。

ハンゾーからしてみれば、まだ様子見気分で集中しきれていないポックルの意識の間隙を縫うことなど造作もないのだ。


「死にさらせやオラァッ!!」


ドゴーン!!


「ひでぶらぁっ!」


ハンゾーの満身の力を込めた昇龍拳アッパカットが一閃。ポックルの体が宙を舞った。


「ポックル戦闘不能! ハンゾーの勝ち!」


倒れたポックルが意識を失っていることを確認したマスタが、ハンゾーの勝利を告げる。

「おっしゃあ!」

「ただしあくまでも暫定勝利です。目覚めたポックル氏が敗北を認めなかった場合には再度試合続行となります」

「何度だってぶっとばしてやんよ」

ポックルとて最終試験まで残ったツワモノだ、けして弱くはない。

ゴンを圧倒していたハンゾーの実力を考慮してなお、勝算はあると判断して挑んだ戦いだった。

しかしハンゾーは予測をはるかに上回る力を発揮。とっさのガードも容易く弾き飛ばしてポックルの意識を刈り取った。

それはゴンに対する不本意な敗戦によって生じた怒りや苛立ちといった負の情念が、ハンゾーの拳を強化したからに他ならない。

結果。ポックルは倒れた。


ハンゾーは確信する! オレってやっぱ天才忍者だぜッ!!



・・・


『第4試合 レオリオ 対 クラピカ!』


ここでも事前の話し合いによりヤムチャルールが採用された。

わざわざ反則無し、ルール無用の泥沼仕様で逆トーナメントを開始したのに、

ルーキーたちが勝手にルールを作って各々納得してしまうというネテロ会長涙目の展開となっていた。


「最後の最後でオメェとやり合うことになるとはな。

 手加減はしねェ! 全力でいくぜクラピカ!!」

レオリオはなんか暑っ苦しい感じの闘気を立ち上らせている。


「望むところだ」


愛用の木剣を手に表面上は平静を保っているクラピカだったが、内心には一抹の不安があった。

対の木剣を手にしているクラピカに対し、ヒソカとの闘いで武器を失ってしまったレオリオは徒手空拳のままだ。

ヒュヒュォッ!!

試合開始と同時にクラピカはクルタ二刀流の素早い剣撃を繰り出す。だが、

ガカッ!

左右の剣撃はレオリオの両腕によって受け止められていた。


「へっ、一週間前のオレと同じだと思うなよ!」

「そのようだな」

ゴッ!

クラピカの前蹴りがレオリオの腹にヒットする。

「ぐぇっ… にゃろう!」

シュッ、

反撃の左フックを、クラピカはバックステップで回避した。


(剣をガードした腕はまったくの無傷。

 油断していた腹を蹴り上げてもひるませる以上の効果は期待できないか。

 今の動き、ほとんどダメージが通っていないな。厄介なことだ)


クラピカの悪い予感は的中していた。

短期間だがヤムチャさんに師事していたことで、対戦相手のレオリオは明らかにパワーアップしていたのだ。

師匠に似たのか慢心してしまっているきらいもあるが、人間離れした耐久性を身につけていることは疑いなかった。


(……亀の甲羅がカッコ悪過ぎるからと距離を置いてしまったのが裏目に出たか)



このレオリオの成長は試験官組でも話題となっていた。

「さきほどのゴン君もそうでしたが、レオリオ氏も纏を習得していますね。

 男子3日会わざればとは申しますが、2人とも本当に素晴らしい才能の持ち主です」

四大行のひとつ『纏(テン)』は身にまとうオーラで身体を頑強にする念法の基本だ。

常人であれば数カ月を要するであろうそれを、わずかな期間で身につけたゴンとレオリオの才能をサトツは素直に称賛する。


「クハハハッ、こうも念の使い手を量産してくれるとは、やはりあの42番のバカっぷりは筋金入りだな!」

表試験を席巻するヤムチャルールといい、裏試験の存在をおびやかす念修行といい、意外性にもほどがあるだろうと手を叩いて喜ぶリッポー。

トリックタワーの刑務所長を務めるこの男は、基本だれかが困っているのを見るのが好きな人なのだ。


「うーん、たしかに403番の……レオリオだっけ、は強くなってるけど、むしろ404番の動きが悪いような気がするかなぁ」

「攻撃するのをためらってるっていうか、なんとなく本気を出せてないって感じよね。

 ここまで協力してきた仲間意識なり思い入れなりがあるんでしょうけど、

 このまんまなら404番に勝ち目はないわ」

ブハラとメンチの見立ては正しい。

無意識下でレオリオを仲間だと認識してしまっているクラピカは、十全の実力を発揮することができないでいた。

・・


「くっ」

クラピカは攻めあぐねて守勢に回っていた。

素早い身のこなしでなんとかヒットアンドアウェイをくりかえしているが、その攻撃はほとんど効いていない。

クラピカとレオリオはもともと身長にして20cm以上の体格差がある。そこに気による防御力アップが加わっているせいで有効打が出せないのだ。

ヤムチャのように分かりやすい大技を使ってくるわけではないのでカウンターを狙うのも難しい。


否、クラピカはすでに気がついている。自分がレオリオに後遺症を負わせかねないような攻撃をあえて避けていることに。

みずからの心が行動の選択肢をせばめているのだ。本当の敵は己のうちにある。


(理由があればだれとでも戦うと言っておいてこのざまか。

 私はハンターにならねばならない! クモを捕らえ、同胞たちの無念をはらすために!)


自分自身を鼓舞して戦意を燃やそうとはしているのだが

どうしても内心の迷いを断ち切れず、クラピカはじくじたる思いでほぞをかむ。

そして、まどいとまどっている状態であしらい続けられるほど、レオリオは甘い相手ではない。


「うおりゃぁーー!」


肉を切らせて骨を断つ気迫でレオリオはドカドカと距離を詰めてくる。


「レオリオタックルゥ!」


はっとしたときにはもう遅い。

レオリオは体格差を活かした体当たりでクラピカに組みつくと


「レオリオスイーング!」


勢いよくブン投げた。

と同時、レオリオはクラピカの着地点へ向けて猛ダッシュ。


「レオリオ! スーパー! キィークッ!!」

(いちいち…)


ドゴッ!

空中に投げ出され身動きの取れないクラピカに、レオリオのドロップキックが炸裂する。


「…技の名前をさけぶなぁぁぁぁ!」


現実逃避ぎみな抗議の声(ツッコミ)を残して、クラピカは初戦に続いての場外負けをきっした。



・・・


さて最終試験も後半戦に突入。次なる対戦カードは

「キルアー! がんばれーー!!」

「おう」

友達であるゴンの声援に片手をあげて応えるキルアと、

「……」

ハンゾーにやられて仏頂面の狩人ポックルの一戦だ。



[19647] ハンター試験終了!!
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/09/29 23:46

『第5試合 キルア 対 ポックル』


(ちっ、なにがヤムチャルールだ。

 手加減なしに攻撃されるぶん、オレが不利になっただけだったじゃないか!)

ハンゾーとの試合開始からコンマ数秒で意識を失い、目が覚めたときには負けていたポックルは不満たらたらである。


(こいつなんか地味っていうか、冴えないモブキャラ臭がただよってるんだよなぁ。

 次に控えてるギタラクルとかいうヤツとやったほうがまだ面白そうなんだよね)


キルアは冷めた視線でポックルをながめる。

戦闘者としてはすでに底が知れているポックルのことなどキルアの眼中にはない。

友達であるゴンからの応援がなければ、試合放棄して不戦敗になってもかまわないくらいだった。


「それでは、はじめ!」


おたがいにヤムチャルールのことは持ち出さない。

ポックルはさきほど安易にルールを認めてしまったせいでひどい目にあっているし、

キルアは妙な圧迫感をただよわせるヤムチャさんに苦手意識を持っていた。


ザッ!


ポックルは十分な距離をとると、小型の弓に矢をつがえてキルアに照準した。


(あほらし。さっさと終わらせよ)


キルアはやる気なさげな表情を隠そうともせず無造作にポックルに近づいていく。

ハンゾーとの戦いぶりを見れば、ポックルの実力が自分に遠く及ばないことは明らかだった。


「このっ!」

ビシュ!

ひょい、

ポックルから放たれた矢を、わずかに身体を傾けることでかわすキルア。

飛んでくる矢の軌道を完全に見切っていた。

ポックルの攻撃後のスキをつき、キルアは一気に近づこうとして、


「ふっ!」

ビシュ!

(へぇ、意外と速いじゃん。)

初の矢をかわした直後には、もう二の矢が飛んできていた。

相手の懐に飛び込む機を逸したキルアは、一度後退して距離をとる。


(そう簡単には近づかせないぞ。

 矢には即効性のしびれ薬がぬってある。

 直撃しなくてもかまわない。一発でもかすらせることができればオレの勝ちだ)


取らぬ狸の皮算用。

ニィ、

ポックルの口の端が得意げにつり上がる。


(あ、コイツ笑いやがった。手ェぬいてやってりゃ調子に乗りやがって…)


その行動がキルアの癇に障った。


スゥゥゥ――


おもむろに横方向に歩き出したキルアの姿が分裂していく。



「でた!」

「キルアのやつ分身しやがった!」

ゴンとレオリオが興奮気味の声をあげる。

「本当に分身しているわけじゃないさ。動きの緩急で相手の視覚をだましているんだ。本物は――」

壁際に腕組みして立っているヤムチャさんが解説をくわえる。


(まどわされるな! 本物は先頭にいる一人だけのはずだ!)


キルアはポックルを中心に円を描くように移動していく。キルアの技を見極めようと目を凝らすポックルだったが…


「――あいつの後ろだ。」


ポキッ!


「ぎゃあああああ!!」

ポックルは悲痛な叫びをあげてよろめいた。


「大げさだな。肩の関節はずしただけだぜ?」(すごく痛いようにやったけど)


ポックルはいつのまにか背後に立っていたキルアからあわてて距離をとり、

痛む右肩を押さえてゼェゼェと呼吸を整える。


「どうする?

 降参するなら元通りにハメてやってもいいけど、

 まだ続けるんならもう片方も外しちゃうぜ?」

「ッ、誰が」

「あっそ」

ポキッ!

「うわたぁ~~~!!」

キルアは目にもとまらぬ早業でポックルの左肩の関節も外してしまった。

「じゃ、次は足ね。」


「待て! オレの負けだ!

 まいった! まいったァッ!!」


「最初からそう言えばいいのに。直してやるよ。ほいっ」

ゴリリッ!!

「あんぎゃーーー!」

ポックルは口元からぶくぶくと泡を吹き、断末魔の叫びをあげて失神した。


「勝者! キルア!」


・・・


『第6試合 クラピカ 対 ボドロ』


「先の勝負と同じく試合形式をとりたいと思うが」

「わかりました。では気絶して動けなくなるか、四方の壁に身体がついた方の負けということで」

「うむ。ところでひとつ確認しておきたいことがあるのだが」

「なんでしょうか」

「お主、もしや女性ということは」

「……私を侮辱しているのか。」

クラピカの声のトーンが低くなる。

「そ、そんなつもりではなかったのだが、すまんな。それでは勝負といこうか」

(うぬぅ、けっきょくどちらなのだ?)

ボドロさんはなぜか動きがにぶくて負けたそうです。


・・・


『第7試合 ポックル 対 ギタラクル』


「カタカタカタカタ」

「今度こそオレが勝つんだ!」

だんだんと板についてきた踏み台キャラのイメージを払しょくし、更新される連敗記録に待ったをかけるべく

烈火の気合でギタラクルとの戦いにのぞむシンアスカ――もといポックル。


「くらえぇぇ!」

ビシュビシュビシュ!!


愛用の短弓から放たれた3本の矢はするどく空気を切り裂いて

ぱしっ。

ギタラクルの手のひらに納まった。


(・3・)「あるぇー?」


ギタラクルの反撃!

キュドドドドッ!

視認することすら困難な速度で放たれた鋭い4本の針が、ポックルの両手両足に突き刺さった。


「あがががが……」


ポックルは苦悶の声をあげてその場にヒザをつき、持っていた弓矢をとり落とす。

ガシィッ!

ギタラクルはおもむろにポックルの顔面をつかむと、そのまま身体を持ち上げて宙吊りにした。


「降参してもらえるかな」


ギリギリと頭にアイアンクローをめり込ませながら、ギタラクルは平坦な声でポックルに降参をせまる。


(か、身体がうごかない……!?

 コイツに刺された針のせいなのか!?)


ヤムチャさんに敗れたヒソカとおなじく、ギタラクルもまた念能力者である。

ギタラクルが習得している念能力は『針を刺した対象を操作できる』というもの。

4次試験の時、死んでしまったニコルからヤムチャさんに関する情報を聞き出せたのもこの能力によるものだ。


「う…ううっ……」

(ダメだ。奥歯に仕込んでおいた解毒剤も効かない…)

ポックルは反撃をしようにも指一つ動かすことができなかった。


「はやくしないと殺すよ。」


ギタラクルから濃密な殺気が放たれる。

「まい…った…」

「カタカタカタ」

ギタラクルは不気味に笑い、もう用済みだと言わんばかりにポックルを床に投げ捨てた。


「勝者! ギタラクル!」


・・・


『第8試合 ポックル 対 ボドロ』


キルアとはちがい、冷酷なギタラクルがアフターケアを考慮するはずもなかった。

床に横たわったポックルの身体には針が刺さったままである。

もはや立ちあがることもできなくなったポックルは視線だけを動かし、次の対戦相手となるボドロに語りかける。


「ボドロさん、最後のイスはアンタにゆずるよ」

「本当にそれでよいのか?

 お主は幻獣ハンターを志していたはずだ。その機会を自分から放棄するなどと」


「オレはもう戦える状態じゃない。自分の体のことはオレ自身がよくわかってるさ。

 今年はもういいんだ。ハンター試験にはまた来年、挑戦するよ」

(やれると思ってた。合格できると思っていたオレが、甘かったんだ。)


無力をかみしめるポックルの目から、涙がつたう。


竜頭蛇尾の最終戦。

ボドロ必殺のマッパハンチとジャーマンスープレックスが陽の目を見ることはなかった。

戦うことなくポックルが敗北を認めるという異例の結末で、今年のハンター試験は幕を閉じることとなる。


***

こうして第287期ハンター試験は終了した。

その後、ヤムチャさんを含む8名の合格者たちはプロハンターの証となるハンターライセンスカードを受けとり、

プロハンターとしての心構えや協会の規約について講習を受けたのだった。


「この建物を一歩出たら諸君らはワシらと同じ!

 ハンターとして仲間でもあるが商売敵でもあるわけじゃ。

 ともあれ次に会うまで諸君らの息災を祈るとしよう。

 それでは、解散!!」


***


試験関係者たちは広間から退室してそれぞれ次なる目標に向かって歩きだす。

ヤムチャさんはゴン・レオリオ・クラピカらと別れのあいさつを交わしたあと、ネテロ会長と面会するため再び広間に戻ってきていた。

室内にはネテロの秘書であるマーメンくんも残っている。


「ヤムチャか、どうかしたかの?」

「わたしを弟子にしていただけませんか」

「弟子入り志願か」

片ひざをついたヤムチャさんの申し出に、ネテロはヒゲを撫ぜて思案する。


「おぬしはもうじゅうぶん強いだろうに。なんでワシの弟子になんぞなりたがる?」

「無き友の背中を超えるため。

 心原流拳法のネテロ師範は世界最強の武道家だと聞いています。

 師範のところで修行を受けてオレはもっと強くなりたいんです」

「ふむ、ならば練(レン)を見せてもらおうか」

「練?」

「練とはハンター用語で鍛錬の成果を示すこと。

 早い話がおぬしの実力のほどを見せてほしいということじゃよ」


(オレに弟子にとるだけの才能があるか確かめようってわけか。これはミャクありだぞ!)

「わかりました! まあ見ててください!」

タッ!

ヤムチャさんは広間の中央に移動する。

「はぁぁぁぁっ!」

ズオッ!

ヤムチャさんが抑えていた気を開放すると、体から大量のオーラが噴き出した。


(やはりオーラ量はワシよりもかなり上か。

 力強いまっすぐさを感じさせるオーラじゃ。良い才能と環境に恵まれたようじゃの。

 ジャポンには一子相伝の暗殺拳を伝える一族がおるという。そういった類の縁者のものか?)


最強の念使いと呼ばれていた全盛期の自分に匹敵するほどの力量をそなえているかもしれない。

それがネテロのヤムチャ評であっ


「3倍界王拳!」

ギュィィィィン!!

「……その、すごいパワーじゃね。まだ上がんの?」

「フルパワーでこの5倍くらいですかね」

「……」

「狼牙風風拳!」「多重残像拳!」「繰気連弾!」「繰気斬!」

ヤムチャさんはホテルの広間を舞空術で飛びまわり、数々の必殺技を無双乱舞してみせた。

縦横無尽に飛びまわるヤムチャさんの雄姿が、ネテロの心をふるわせる。そして――



・・


「それじゃ弟子にはしてもらえないんですか!?」

「アホか。なにが悲しゅうて自分より強いものを弟子にとらにゃならんのだ。」

鍛錬の成果を見せようとハッスルした結果、弟子入りを断られてしまい愕然とするヤムチャさん。

ネテロはあさっての方向を見ながら耳をほじっている。

「でもほら、オレって知識がちょっとかたよってますし必殺技とか奥義みたいなものも伝授していただけたら」

「しんどいからやだ。」

ちょっとごねてみるヤムチャさんだったが、バッサリ断られた。


「そうさな。代わりといってはなんだが、これ持ってきな。」

「これは?」

「その本は師範代以上の高弟にのみ持つことを許される、

 いわば心原流の奥義書といったところだな。

 ワシの直筆サイン入り本なんてこの世に一冊しかないレア中のレアだぜ。」

「あ、ありがとうございます!」


・・・


「では、色々とありがとうございました」

「達者でな」

「お体にお気をつけください」

ヤムチャさんはネテロとマーメンに見送られ旅立とうとして、

とっとっと、

聞きそびれていたことを思いだした。

「そういえば、187番だったニコルの連絡先とかわかりますか?」

「187番ですか…」

少し答えづらい質問にマーメンは言葉をにごす。


ヤムチャさんとしては、もう故郷に戻っているだろうニコルを訪ねて

一緒に合格する約束を果たせなかった埋め合わせでもしておこうかと軽い気持ちで聞いたのだが…


「死んだ。資料によれば、4次試験中に他の受験生と交戦して死亡しておる」


ネテロ会長からつきつけられた現実はわりとシリアスで、ちょっぴりヘビーな感じだった。




***

さーて来週のヤムチャさんは?

ヤムチャさん不在のスキをつき、ハンター試験を終えたゴンたちの前に立ちふさがる新たなる敵!

「や。」

「あんたはたしか……ギタラクルさん?」

レオリオたちの目の前で、ビキビキと不気味な音を立ててギタラクルの顔が変形していく。

「そんな、まさか。」

変装を解いたギタラクル。その正体は猫目で黒髪ロングなイケメンであった。

「久しぶりだね、キル」

「あ、兄貴……」

なんと! ギタラクルの正体はキルアの兄、イルミ=ゾルディックだったのだ!


「おまえなんか、ヒソカやヤムチャさんに比べたら全然こわくない!」

「ヤムチャ直伝のかめはめ波で粉々にしてやるぜ!」

友人であるキルアを守るためイルミに対抗するゴンとレオリオ。

(ゴン、レオリオ、耐えてくれよ)

一人別行動をとるクラピカは、まだホテル内にいるヤムチャさんの助けを求めて大地をかけた。


「キルア、お前はどうしたいんだ? この兄貴が言うみたいに殺し屋になりたいのか?」

「オレは… 殺し屋になんてなりたくない。オレはゴンと一緒にいたいんだ」

恐怖で動けなくなった家出少年キルアを背中にかばい、ヤムチャさんはギタラクル改めイルミと対峙する。


「だそうだ。やっぱりキルアは渡せないな。納得しないんならオレが相手になるぜ。」

「殺し屋がキルの天職だよ」

「オレの仲間にも世界一の殺し屋にされちまいそうになってたやつがいたけどな。

 そいつは自分で将来を決めたぜ。バカな師匠をぶっとばして武道家になる道を選んだのさ!」

ヤムチャさんにはキルアの境遇が、長いつき合いの武道家仲間である天津飯と重なっているように思えた。

「ウチの弟にあまり変なこと吹き込まないでほしいな。

 やっぱり君らは殺すしかないみたいだね。」

ヤムチャとイルミの対決が、暗殺の名門ゾルディック家をゆるがす大事件へと発展する!!


どうするどうなるゾルディック!

→ネクストステージ『キルアとイルミの里帰り』

***

注・この次回予告は実在するSSとは無関係のフィクションっす。ゾルディック編やりません。



[19647] 天空闘技場のヤムチャ
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/10/19 23:20

「死んだ。資料によれば、4次試験中に他の受験生と交戦して死亡しておる」

ヤムチャさんが気づかないうちにニコルは殺されていた。

当然、ヤムチャさんはニコルの死についてくわしい説明を求めたのだが、


「それを知ってどうする?

 187番が命を失ったのはおのが認識の甘さと力不足ゆえじゃ」


ネテロの対応は冷やかだった。


「あるいは、

 本来であれば一次試験で落とされておるはずのものを四次試験にまでつれてきてしまった

 ヤムチャ、おぬしの責任でもあるかもしれんな」

「!」

ネテロのいじわるな言いようにヤムチャさんはショックを受ける。

が、ヤムチャさんはすこしだけ申し訳なさそうな顔をすると、あわてず騒がずこう言った。


「ニコルのことは、死んだんじゃなくて行方不明ということにしておいていただけませんか」


「どうするつもりかな?」

「生き返らせます」

「ぇ」

ヤムチャさんの意味不明な言動に、ネテロの目が点になる。

「それはどういう…」

固まってしまったネテロにかわってマーメンが質問を投げかけるが、

「3日、長くても一週間以内には。

 それじゃ、よろしくお願いします」

ピッ、

ヤムチャさんは人差し指と中指を立てて別れのあいさつにすると、

深く追求されることをさけるようにそそくさと立ち去った。


「いっちゃいましたね。あの本、ホントにあげちゃってよかったんですか?」

「しょうがねェだろ。あんないいモン見せられちゃよ」

「それにしても妙なことを言ってましたね。死んでしまった人間を行方不明扱いにしておいてほしいなんて」

「死者を生き返らせる、か。

 普通なら信じないところだが、あいつは色々と規格外っぽいからの」

「会長は信じているんですか?」

「少なくとも嘘はついておらんかった。

 ニコルという男を生き返らせることができると、あやつは心の底から信じておるよ」

マーメンくんとネテロに見送られて、ヤムチャさんはハンター試験会場を後にした。


・・・


ハンター試験終了の翌日。

ヤムチャさんは大陸にある天空闘技場を訪れていた。


天空闘技場。

地上251階、高さ991m、世界第4位の高さを誇る巨大な建物だ。

ここは勝者のみが上の階層へと進める格闘技場であり、一日平均4000人の腕自慢が集まってくる。


今日も天空闘技場の受付前には長蛇の列ができている。

その列の中ほどに、パンフレットを片手に空を見上げる一人の男がいた。

山吹色の胴着。キリッと刈り上げた短髪。ダサカッコいい頬の十字傷。ヤムチャさんである。


「ここが格闘の聖地、天空闘技場か。話には聞いてたけどでかい建物だな~」


天空闘技場の最上階では2年に一度、バトルオリンピアと呼ばれる格闘技の祭典が開かれている。

ネテロからもらった本で新たな技術である心原流念法について学びつつ、闘技場の最上階を目指すことで実戦経験を積む。

そしてこの星最強の戦士たちが集うバトルオリンピアで優勝できたなら、ヤムチャさんは一度地球に戻るつもりだった。


受付の順番がきたので、ヤムチャさんは参加用紙に必要事項を記入していく。


(格闘技経験30年、流派は亀仙流。職業はプロハンターだ!)


・・・


ヤムチャさんが選手入場口から天空闘技場の一階に入ると、

そこは周囲をぐるりと客席に囲まれたコロシアムになっていた。

中央には番号が振られた小さめのリングがいくつか用意されており、各所で一対一の闘いが行われている。


『ヤプー様、ヤムチャ様、Bのリングへどうぞ』

「さっそくオレの出番か」

ヤムチャさんは小走りにBのリングへ向かう。

その途中、観客たちのざわめきが聞こえてきた。

「ヤプーって、もしかしてプロボクサーのヤプーか?」

「えっ、マジかよ? 対戦相手再起不能にして追放されたやつだろ?」

いかつい体格の角刈り男、元プロボクサーのヤプーは観客席からの声にニヤリと笑い、

「ウオォォォォォォオオオ!!」

おたけびと共に拳を高々と突きあげた。

「すげぇ! 本物だぁ!」

「血濡れのヤプー! またド派手な戦いぶりを見せてくれぇ!」

観客席がワーワーと盛り上がる。


(へぇ、オレの対戦相手はわりと有名なやつらしいな)

ヤムチャさんはとくに気負うことなく石造りのリングに上がった。


「よう小僧。いきなりこのオレ様と当たるとはツイてなかったなぁ」

ムッ、

「ここって武器の使用は禁止だろ? こいつボクシンググローブつけてるけど反則じゃないのか?」

「あ、ああ、拳を保護する程度のものなら武器とは認められていないんだ。金属が使用されていれば別だけどね」

ヤプーの挑発を無視したヤムチャさんの質問に、人の良さそうな審判のお兄さんが答えた。

「おいこら、シカトしてんじゃねェぞ!

 オレがなぜ血濡れのヤプーと呼ばれてるか知ってるか?

 それはな、戦うたんび対戦相手の返り血をあびて真っ赤に染まっちまうからだよ!!」

「そうなのか。オレはてっきり、毎回相手にボコボコにされて血まみれになってるからだと思ったぜ。」

売り言葉に買い言葉。場のムードはどんどん険悪になっていく。

「ぎゃはははは! いいぞ兄ちゃん! もっと言ってやれ!」

「一発かましてやれぇっ!」


「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断します。

 制限時間3分以内に自らの力を発揮して下さい。

 それでは、はじめ!」


「ハッ! 速攻でぶちのめしてやるよ!」

グローブをはめた両こぶしを口元に寄せてファイティングポーズをとったヤプーが、

キュ、キュキュ、キュッ!

小刻みに足を動かしてリズムをとりながらヤムチャさんに迫る!

「1ラウンドKOだ!」

シャシャシャシャシャ!!

ヤプーが繰り出したするどい左右の連打を、ヤムチャさんは上体を動かすことでなんなくかわした。


「おいおい兄ちゃんビビってんのか!? もっと手ェ出せよ!」

「よけてばっかりじゃ勝負になんねェぞ!」

消極的な戦い方をするヤムチャさんに観客たちからヤジが飛ぶ。


シャシャシャシャシャ!!

かわす。

シャシャシャシャシャ!!

かわす。

シャシャシャシャシャ!!

まとりっくす。



「の、残り30秒です」

「ハァ… ハァ… ちくしょうどうなってやがる。」

2分半にわたってラッシュをかわされ続けたヤプー。

最初はヤジを飛ばしていた観客たちも、あまりの異常事態に静まりかえっていた。

「それで終わりか?」

「ケッ! テメェごときにゃもったいねえが、冥土の土産に持ってけカスが!」


『爆裂拳18連打!(スペシャルウルトラスーパーマシンガンパンチ)』


「オラオラオラオラオラオラオラァ!!」

連続で放たれた18発のパンチが、ヤムチャさんの残像を撃ち抜く。

「こっちだ。」

「っ!?」

「狼牙風風拳!」

ズン!

ヤムチャさんの右ストレートがヤプーのボディにめりこんだ。

「お、おごぉ、あ…うぷ。」

ヤプーは身体を九の字に折って苦しんだかと思うと

「ぺげろっぱぁっ!」

ゲロリバースしてリングに沈んだ。


観客たち「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「ヤ、ヤプーが一撃かよ!」

「何者だアイツ…」

「きたねぇ花火だぜ」

「……そこまで! ヤムチャ選手の勝利とします!」

ひとしきりおどろいていた審判は我に返ると試合終了を宣言。手もとの機械を操作し始める。

審判はヤムチャさんの登録データに目を通して、どこか納得したようにうなずいた。


「ヤムチャさん、プロハンターの方でしたか。

 すばらしい戦いぶりでした。160階クラスへお進みください」

「どうも」

「あなたならすぐに上までいけるでしょう。がんばってください」

好意的な審判さんと握手を交わし、ヤムチャさんは天空闘技場の一階を後にした。


・・・


試合終了後。

「お疲れさまでした。ファイトマネーをお受け取りください」

ヤムチャさんはハンターライセンスを使ってファイトマネーを振りこむための口座を開設すると、

天空闘技場内にある宿泊施設へと移動した。

ヤムチャさんは100階クラス以上の上級闘士専用に用意された個室にチェックイン。

売店で購入したかた焼きそばをパクつき、まとめ買いしてきた栄養ドリンク(1本298ジェニー)をグビグビと飲み干した。


食事を終えて一息ついたヤムチャさんは部屋のベッドに寝そべりながら、

ネテロからわたされたハウツー念法の解説書をパラパラと読みふける。

『HOW TO USE この書の内容を悪用したものは、死ぬ』

「これはまた、えらくぶっそうなことが書いてあるな」

表紙を開いてすぐ目に入った文言に、ヤムチャさんは苦笑しながらページをめくった。


***

心原流の理念と武道を学ぶものとしての心構え。

念能力者としての系統を知るための水見式。

念法の基本となる四大行。

纏(テン)
練(レン)
絶(ゼツ)
発(ハツ)

四大行の応用である各種派生技。

凝(ギョウ)
硬(コウ)
堅(ケン)
流(リュウ)
円(エン)
陰(イン)
周(シュウ)

そして各系統別の修行方法と、系統ごとの得意技。

自らリスクを負うことで能力を高める制約と誓約。

後半のページには師範であるネテロの自伝などが書かれていた。

***


本の内容をひととおり流し読みしたところで、ヤムチャさんはいったん本を閉じる。


(まずは自分の系統を調べるところからだな)


水をはったグラスを用意して木の葉を一枚浮かべる。

そこに気、念法でいうところのオーラを干渉させることで、自身の念系統を調べることができるのだ。

ヤムチャさんがグラスに手をかざしてオーラを出すと、それまで透明だった水の色が赤みを帯びた。


「水の色が変わるのは… 放出系か。

 具現化系だったら面白かったんだけどな」


念能力のタイプは強化系・放出系・操作系・特質系・具現化系・変化系の6つの系統に分類されている。

ヤムチャさんの適性は放出系。

放出系の次に相性がいいのはとなりに位置する強化系と操作系で、

あとの変化・具現化・特質の3系統に属する能力をあつかうのは苦手ということになる。


(強化系の狼牙風風拳、放出系のかめはめ波に、放出と操作を合わせた繰気弾。

 オレは自分にふさわしい技を自然と身につけていたわけか。

 この理屈でいくと、放出系のオレは打撃系の技よりも気功波の扱いに才能があるんだよな)


理論上はかめはめ波や繰気斬を練習していった方が強くなれるのかもしれない。

だが、ヤムチャさん的にはプーアルとともに開発した最初の必殺技。狼牙風風拳をプッシュしたい気持ちも少なからずあった。


(……放出系ならではの奥義とかあるのかな)


新しい技術を学ぶことができるワクワクとドキドキ。

ヤムチャさんはこの手の本が好きだった。読むだけで強くなれるような気がするのだ。

努力を欠かさない天才戦士、ヤムチャさんの探究はつづく。



・・・


ところ変わって、ここはA級賞金首の盗賊団『幻影旅団』の仮アジト。

放棄されていた廃ビルの一室に、パソコンのキーをたたく音がひびいていた。

「あれ? ダンチョー、ヒソカ死んだっぽいよ。今年のハンター試験に参加して死亡発表されてる」

電脳ページのプロハンター専用サイトを閲覧していたシャルナークが声をあげる。

シャルナークは組織の情報担当にして金髪碧眼のナイスガイだ。

「ヒソカを殺せる人間がそうそういるとは思えないが」

またヒソカが悪だくみを始めたのかと頭の隅で考えながら、

幻影旅団の団長であるクロロ=ルシルフルは読んでいる本のページをめくる。

「んー、もしかしたらこれじゃないかな。

 キルア=ゾルディックとイルミ=ゾルディック。イルミの方はギタラクルって偽名で参加してたみたいだけど」

ゾルディック家といえば伝説の殺し屋一族だ。

過去には現当主であるシルバ=ゾルディックと交戦し、当時の旅団員の一人が殺害された経緯もある。

「なるほど。ゾルディックがらみか」

どうせ偽装だろうと判断していたヒソカの死が、多少の真実味を帯びてきた。

興味をひかれたクロロは読んでいた本を閉じて立ち上がり、シャルナークの後ろからパソコンのモニターをのぞきこむ。

モニターには今期試験の概要と、合格者のリストが表示されていた。

「不自然だな。旅団員にはゾルディックに手を出すなと通達してあった。

 逆にゾルディックが暗殺の依頼で動いていたなら、わざわざ標的が警戒している時期を狙う必要はない」

「ヒソカはあれで、決められたルールは律儀に守る奴だったからね」

「少し調べてみるか」

クモという通り名が示すように、幻影旅団の定員は頭と手足を含めて13人。

何らかの理由で手足が失われた場合には新たな人員をスカウトするのが慣例だ。

新団員選定の最有力候補は現団員を倒した人物となるため、まずはヒソカの死の真相を確かめる必要がある。

「パクノダとコルトピを連れていく。シャルナークは新しい情報がないか調べておけ」

「ラジャ。」

――光の届かぬ暗闇のなかで、ひそかにクモが動き出す――



[19647] 天空闘技場のウルフハリケーン
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/10/29 23:19

ヤムチャさんが天空闘技場を訪れてから数日が過ぎた。

クールな眼差しとホットなハートをあわせ持つ最強無敵のナイスガイ、ヤムチャさんは

160階クラス・170階クラス・180階クラスと連日勝利を重ね、天空闘技場で大人気のスーパースターとなっていた。


『次なる対戦者の入場です!

 青龍の方角! 蝶のように舞い! ハチのように刺す!

 あらゆる攻撃を回避して対戦相手を一撃KO!!

 新進気鋭のプロハンター、狼牙風風拳のヤムチャ選手ッ!!』


シャッ!

東側の入場口から黒い影が飛びだした。

クルクルクル… シュタッ!

大きくジャンプして空中で3回転。そして会心のスペシャルファイティングポーズ!!

いわゆる「優勝したもんねー!」のポーズで登場したのはヤムチャさんである。


観客たち「ヤームーチャ! ヤームーチャ! ヤームーチャ! ヤームーチャ!」


会場に巻き起こるヤムチャコール。ヤムチャさんはここ数日で天空闘技場にすっかりなじんでいた。

「どーもどーも!」

大きく両手を振って会場中に愛想を振りまくヤムチャさん。

ヤムチャさんとしてはことさら己の力をひけらかしたいわけではない。断じてないのだが、

やいのやいのと持ち上げられるとニヤニヤしてしまうのもまた事実だった。


『白虎の方角! 2mを超える長身に、体重は圧巻の200kgオーバー!

 その肉厚な身体にはあらゆる打撃が通じない! 拳法家殺しのファットマン選手だッ!!

 ここまでの対戦成績は12戦して無敗! その快進撃は今日も続くのか!』


西側の入場口からはズシンズシンと重たい足音をひびかせて、超肥満体形の巨漢がぬうっと姿をあらわした。


『たがいに全勝同士の好カード、注目の一戦です!

 観客席のみなさんギャンブルスイッチの準備はよろしいでしょうか!?

 それではスイッチオーン!』


巨大電光掲示板に表示された賭け倍率はヤムチャさん1.2倍に対してファットマンが2.3倍だ。


『観客席の予想ではヤムチャ選手が圧倒的優勢!!

 さすがの貫録! 武闘派プロハンターの肩書きはダテではありません!

 拳法家殺しのファットマン選手、この前評判をくつがえすことができるのかーーー!?』


(ぬふふふ、プロハンターといえども恐れるに足らず!)

(こいつはいままでのやつらよりもかなり強いな。念使いか)

コロシアム中央に用意されたリングのうえで対峙するファットマンとヤムチャさん。

対戦相手のファットマンが念能力者であることを見抜いたヤムチャさんはとりあえず様子見のかまえだ。


「それでは試合はじめ!」

審判のお兄さんの号令で試合が開始された。


「ぬふぅ、このわたしと対戦した記念に一発だけ撃たせてあげましょう。パンチでもキックでもお好きなほうをどうぞ」

「いいのか? オレは強いから一撃でKOしちゃうかもしれんぞ」

「ふぁっ、どうぞ試してみてください。

 わたしは今までありとあらゆる拳法をこの体で殺してきたのですよ」

でぶい腹をゆらしながら自信満々に語るピザファットマン。


「それじゃ、お言葉に甘えて」

ヤムチャさんはとりあえずパンチを一閃。

「はあっ!」

ズブン!

ブヨリとした手ごたえとともに、ヤムチャさんの腕がファットマンの腹に埋まってしまった。


(ちょろいですなぁ)


ヤムチャさんの視界の外。

両腕を大きく振りかぶったファットマンが、動きの止まったヤムチャさんを見下ろしてにやりと笑う。

次の瞬間、無言で振り下ろされたダブルハンマーパンチが

「ぐえっ!」

ヤムチャさんを叩き潰した。


『ああっとファットマン選手! 自ら攻撃を誘っておいての強烈な反撃! これは汚い! きたないぞーっ!』


「ふんぬぁ!」

「なんのっ」

続くファットマンの追撃をヤムチャさんはゴロゴロと横に転がって回避。

ドゴォンッ!

ふりおろされたファットマンの足が、一瞬前までヤムチャさんの後頭部があった場所をふみ抜いた。

「クリーンヒット&ダウン! 2ポイント!」

審判が攻撃の有効を告げる。

天空闘技場の試合はポイント&KO制と呼ばれるものだ。

有効打を浴びせて10ポイント奪うか、対戦相手を戦闘不能に追い込むことで勝敗を決する。


(なるほど。打撃を無効化できる防御型の念能力なのか。こんなのもあるんだな)


「ぬふふふ、これぞ拳法家殺し!

 わたくしの身体はあらゆる打撃の威力を10分の1にまでダウンさせる!

 つまりおまえの攻撃はわたくしにはまったく通じないわけだ。この意味がわかるかぁ?」


「つまり、さっきの10倍の力で攻撃すればいいってことだな」

いまのヤムチャさんであれば気を高めるまでもない。

キィィィィィィン――

ヤムチャさんは右の拳にすべての気を集中させる。

念の応用技の一つ『硬』普段は全身を満遍なく覆っているオーラを一点のみに集中させることで、その攻撃力は数倍、数十倍にも跳ね上がる。

「狼牙――

ヤムチャさんはファットマンのふところに踏み込むと、さきほどと寸分たがわぬ場所に向かってパンチをふりぬく。

 ――風風拳っ!」


どっかーん!


剛拳一閃。

見事ファットマンをぶっとばしたことで、ヤムチャさんは200階クラスに昇格した。


・・・


「200階クラスへようこそ。

 このクラスでは申告戦闘制といいまして、一戦ごとに90日の戦闘準備期間を用意しております。

 その期間内に戦闘を行われませんと、即失格となり登録が抹消されてしまいますのでご注意ください。

 これより先では武器の持ち込みも可能とさせていただいております。

 このクラスをクリアするには10勝が必要となります。しかし10勝する前に4敗してしまいますと、これまた失格となります。

 晴れて10勝いたしますと、フロアマスターに挑戦することができます」


ヤムチャさんは受付のお姉さんから200階クラスについての説明を受ける。

おおまかな内容は事前にパンフレットで把握していたので特に聞き返すようなこともなかった。


フロアマスター(階層支配者)とは天空闘技場の230階から250階をそれぞれ占有している21名の最高位闘士のことである。

200階クラスで10勝した者がいずれかのフロアマスターに挑戦し、勝利した時点で新たなフロアマスターとして認められる。

そしてフロアマスターとなった者には格闘技の祭典、バトルオリンピアへの優先出場資格が与えられるのだ。


「こちらに登録の署名と戦闘希望日の記入をお願いいたします」


ヤムチャさんは『試合で怪我したり死んだりしても文句は言いません』という内容の同意書にサインした。


「いまが2月で… 次のバトルオリンピアは9月でしたっけ」

「今年のバトルオリンピア開催予定は9月15日から10月1日となっております」


(まだ半年以上時間があるから

 あせらなくてもじゅうぶん間に合うな。

 戦闘希望日の指定は特になし、っと)


希望日時いつでもオーケーのチェック欄に線を引いてお姉さんに渡すと、ヤムチャさんは自室へと引き上げた。



そんなヤムチャさんを物陰から観察していた3人組がいる。

「新入りか」

「彼も使えるようだね」

「そのようだ」

車イスの闘士リールベルト。

能面のような顔をした隻腕の闘士サダソ。

失った両足の代わりに鉄製の義足を身につけた一本足の闘士ギド。

彼らはまだ200階クラスでの戦闘経験があさい新人を狙って勝ち星をかせぐ、新人つぶしの3人組である。


・・・


時は流れる。天空闘技場の223階で、ヤムチャさんとギドの対戦が行われようとしていた。


『さあ次も注目の一番!

 連戦連勝で勝ちあがってきた武闘派プロハンター、狼牙風風拳のヤムチャ選手と

 ここまで3勝1敗、舞闘独楽(ぶとうごま)の使い手 ギド選手の対戦です!』


「なん……だと……?」


選手紹介を聞いたギドの背中を汗がつたう。

ヤムチャさんが武闘派プロハンターというのは初耳だった。

戦闘準備期間が残り少ないからと、ろくに下調べもせずに試合を挑んだのは早計だったかもしれない。


観客たち「ヤームーチャ! ヤームーチャ! ヤームーチャ! ヤームーチャ!」


会場に巻き起こるヤムチャコール。

続くギャンブルスイッチの結果もヤムチャさんを圧倒的に支持。

ギドの方が古株なのにこの扱い。もはやアウェイの空気すらただよっていた。


(よもやプロハンターを相手取ることになろうとはな)


全身をすっぽりとおおうフードとローブ。そして顔のマスクによって隠されてはいるものの、

ギドはすっかりビビっていた。

だが、後には引けない以上自分にできることをやるしかないなと開き直り、ギドは覚悟を完了させる。


「ポイント&KO制、時間無制限一本勝負! はじめ!」


(様子見をしてくれているのはありがたい。

 まだ油断しているスキに短期決戦で仕留めるほかあるまい)

ギドは先端のまるくなった一本足の義足を支点として、グルグルと独楽のような高速回転を始める。

ギュルルルルル!!


『出ました!

 自らを独楽とするギド選手攻防一体の竜巻独楽(たつまきごま)

 のっけからフルスロットルだぁーーー!』


「くらえ! 散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)!!」

ギドは手もとの独楽にオーラを込めて、回転の勢いそのままにヤムチャさんめがけて撃ちだした。


(へぇ、本当にコマで戦うんだな)


ギドから散弾のように放たれた独楽をひょいひょいっと余裕でかわすヤムチャさん。

しかしそれもギドの思惑のうちだ。

ガキィンッ!

よけられた独楽はヤムチャさんの背後で互いにぶつかり合って火花を散らし

ドゴォッ!

「ぐわっ!」

ヤムチャさんの背中に激突する。

予期せぬ方向からの攻撃と、思っていた以上に力強い衝撃にヤムチャさんはよろめいた。

「クリーンヒット! ギド選手1ポイント!」

「これぞ戦闘円舞曲(戦いのワルツ)!

 複雑に舞い飛ぶ独楽は予測不可能な動きでキサマを襲う!」


ガッ! ガガッ! ギィン!

ギドの操る20個の独楽たちは、お互いに弾きあって進む方向を変えながら、ヤムチャさんの周囲をはいかいする。


(見ためのわりに力が強いな。念能力は思い入れがあるとパワーアップするというアレか。

 自分の身体までコマっぽく改造するほどだもんな、よっぽどコマに思い入れがあるんだろう)


勝手に納得したヤムチャさんは、サッと左手を横に伸ばすと

バシッ。

直撃コースで飛びこんできた独楽の一つを無造作につかみ取った。

「なにィ!?」

「飛び交うコマ全部の動きを見切ろうとしたら大変なんだろうけどな、

 手の届く範囲に入ってくるコマだけを意識していればそうむずかしいことじゃない」

目の前をよこぎっていこうとする独楽。背後からぶつかってこようとする独楽。足元からはねてくる独楽。

ヤムチャさんはそれらすべてを掴み取っていく――

カラカラ… カラン…

ヤムチャさんが両手を開くと、動きを止められオーラを失った20個の独楽たちが、地面に転がり落ちた。


『おおっ! これはすごいぞヤムチャ選手!

 ギド選手の舞闘独楽による包囲網を完全破壊!!

 その実力の高さを見せつけたァ!!』


(さすがに強い。だがオレの竜巻独楽は攻防一体! ヘタに手を出せばダメージを受けるのはヤツのほうだ!)

ギュルルルンと高速回転しながらギドは次の一手を考える。

だが、その考えがまとまる前にヤムチャさんが仕掛けた。

「繰気斬(そうきざん)!」

ブゥン!

繰気弾を薄い円盤状に形状変化させ、高速回転させることで敵を切り裂くヤムチャさんの必殺技だ。

ドドドドゥッ、ズバババッ!

対抗して撃ちだされた独楽を真っ二つに切り裂いて、繰気斬がギドに迫る。

「チィッ!」

ギャリッ!

ギドは空中に跳ねることで繰気斬を回避。

ドゥンッ!

勢いをつけた2回目の跳躍でさらに空高く舞い上がると、

ジャキィンッ! 丸みを帯びた義足の先端がスライドし、さきっちょからドリルが飛び出した。

ギドは空中から一気に急降下。ヤムチャさん目掛けて突貫する。


「これぞ我が奥義! 空中大回転螺旋竜巻独楽(くうちゅうだいかいてんらせんたつまきごま)だーーー!!」


高速回転している鉄製の義足ドリルで超電磁スピンよろしく相手を貫く。

実際の命中率には難があるものの、ギドが用意できる手札のなかでは最も威力の高い必殺技だ。

これが炸裂すればさすがのヤムチャさんといえども無事では済まない。ハズだった。


「むんっ!」

ギュオッ! ズバシュッ!

ヤムチャさんが気合を込めると、操作されて返ってきた繰気斬がギドの義足部分を切断した。

「なんとぉ!?」

竜巻独楽は回転軸を失ったことで大きくバランスを崩した。

ギドは大回転の勢いそのままに、頭から地面にたたきつけられて真っ赤なお花を――


(切……! やば… 地面……

 立て直せる!? ここから!?

 …無理! 死……)


「おっと」

――咲かせる寸前、スライディングで飛び込んできたヤムチャさんによってキャッチされた。

「大丈夫だったか? っと、気絶してるのか」

「ギド選手 戦闘不能! 勝者、ヤムチャ選手!!」


『ヤムチャ VS ギド 決着!

 ギド選手のくりだした竜巻独楽をヤムチャ選手が光刃を飛ばして迎撃!!

 空中で失神してしまったギド選手をダイビングキャッチで救助しての劇的な幕引きだ~~~!!』



大きな余裕を見せつけるヤムチャさんの活躍ぶりに、観客席はワーワーと盛り上がっていた。

選手入場口の通路。ここまで戦いを観戦していたリールベルトとサダソが話している。

「なぁ。オレたちはあいつに挑むのやめにしないか?

 プロハンターだし、ヘタしなくてもフロアマスターなみに強い気がするぜ」

「それはグッドアイディアだね。

 ギドっちはこれで3勝2敗、今夜は残念会でも開いて慰めてあげようか。

 リールベルトはなにか食べたいものとかあるかい?」

「その相談はギドを回収してからな。相手がプロハンターだと知ってたら止めたんだが」

ため息をつき、やれやれと首を振ってリールベルトは移動を始める。

「気に病むことないよ。プロハンターもピンキリだしね。

 それに、お人好しそうだって見立ては当たってたから命は助かった」

「それが不幸中の幸いだな。

 ん? オレらってヤムチャに感謝する立場なのか?」

「さあ?」

友人であるギドの敗北は悪いニュースだが、しょせんは他人事でもある。

サダソはいつも通りの軽い足取りで、リールベルトの後を追った。


・・・


一方その頃。

ここは地球にあるカプセルコーポレーション。


「ブルマさん、ドラゴンボール集まりました」

「あらクリリン、ごくろうさま。庭の方に持って行ってくれる?」

「あのー、ところでベジータのやつは」

「ベジータならいないわよ。

 ちょっと前に一度帰ってきたんだけどね。

 超サイヤ人になる修行するんだってまた出て行っちゃったわよ。

 『カカロットにできてオレにできないはずはない』ーとかいっちゃってさ

 ほんとサイヤ人って負けず嫌いよね」

「あはは、そうですね」

(そのまま帰ってこなけりゃいいのに)


クリリンとしてはベジータの目と鼻の先でドラゴンボールを使うのは遠慮したかった。

目の前にチャンスをぶら下げて、また不老不死だの世界征服だのと野心を抱かれたのではたまらない。


フリーザ親子の襲来以降、地球は平和を保っている。

ピッコロはどこかで修行しているのかしばらく姿を見せていないし、

ベジータもナメック星の一件で生き返らせてもらったことにいちおうは恩を感じているのか、地球で暴れたりはしていない。


カプセルコーポレーションの庭先で、クリリンが集めた7つのドラゴンボールがかがやきをはなっている。

ブルマは大きく両手を広げ、合い言葉をとなえた。

「いでよ神龍(シェンロン)そして願いをかなえたまえ!」

カッ!

あたりに雷雲が立ち込め、ドラゴンボールから大きな龍が姿をあらわした。


「願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう。」


「ヤムチャが参加したハンター試験で怪我したり死んじゃったりした人たちを、みんな元に戻してあげて!」

「あれ? ヤムチャさんに頼まれたのはニコルって人を生き返らせることなんじゃ…」

「なにいってんのよ。せっかくドラゴンボール使うんだから大きなお願いごとしたほうがお得でしょ?」

「ま、まずいですって! だれか余計な人たちまで生き返っちゃったらどうすんですか!」

「もー、クリリンはいちいちうるさいわね」

「変なことして、もしもニコルって人がちゃんと生き返らなかったらヤムチャさん怒りますよ」

「はいはい。わかったわよ」

気を取り直してもう一度。

「さっきのなし! ヤムチャの友達のニコルを生き返らせてあげて! 安全確実にお願いね!」

「……たやすいことだ。」

神龍(シェンロン)の双眼が紅く輝いた。光の柱が空へ向かってのびていく。


「願いはかなえた。さらばだ。」


地球からはなたれた光は宇宙空間を突き進み、ハンター第4次試験会場であるゼビル島へと降りそそいだ。


・・・


「あれ、ここは……?」

ニコルは気がつくと、実家である屋敷の前に立っていた。

ゼビル島で無謀にもギタラクルに襲いかかり、返り討ちにあったはずの身体には一切の怪我がない。


(ボクは悪い夢でも見ていたのか? それともここは死後の世界?)


「ニコルぼっちゃま!」

屋敷の前にぼうぜんと立ちつくすニコルを発見して、家の使用人たちが駆け寄ってくる。

ニコルにとっては見慣れた光景。

以前はエリートとして当然だと受け止めていた、うざったくすら思えていた日常の風景。

それが妙に温かく、かけがえのないものに感じられて、ニコルの両目から涙がこぼれた。


***


次回『天空闘技場の狼虎激突』



[19647] 天空闘技場の狼虎激突
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/11/19 00:06

ヤムチャさんが天空闘技場で活躍している一方その頃。

ここはパドキア共和国の内陸部に位置するククルーマウンテン。

伝説の殺し屋一族、ゾルディック家が住まう場所だ。

広大なゾルディック家の敷地と外界をへだてる長大な城壁と巨大な正門。

力無きものの侵入を拒むことから、正式名称「試しの門」

片側16トン、合計で32トンにもなる両開きの門が、

ズズズズズ……

内側からゆっくりと開けられていく。

巨大な門を開けて出てきたのは、冷酷さを感じさせる冷めた瞳の男だった。


幻影旅団の団長、クロロ=ルシルフル。

艶やかな黒髪をオールバックにまとめ、十字架をあしらった漆黒のコートを羽織った青年だ。

クロロの後ろには背の高い金髪の女性パクノダと、長い前髪で顔を隠した小柄な青年コルトピが付き従っている。

ゾルディック家の敷地から出てきたクロロは灰色の曇り空を見上げると、ポケットから携帯電話を手に取った。

「オレだ。

 キルア=ゾルディックとイルミ=ゾルディックはシロだった。

 ヒソカを殺したのはヤムチャという男らしい」

『ヤムチャか。今期の合格者の一人だね。どうやって調べたのさ?』

携帯電話の通話先は、旅団の情報担当シャルナークだ。

「イルミから直接聞いた。

 やっていない殺しを自分たちのせいにされたくないそうだ」

『そりゃま、ごもっとも。

 ヤムチャはいま天空闘技場だね。現在200階クラスで3連勝中。

 フロアマスター入りは確実ってことで大人気みたい』

「現在判明しているヤムチャの念能力についてはメールで送る。

 見たら驚くぞ。いままで無名だったのが不思議なくらいだ」

クロロは携帯電話を操作して、シャルナークのパソコンにメールを送信した。

『えーと、分かっているだけで発が4つに超回復効果がある仙豆か。

 本人は明らかに戦闘系だから、仙豆はヤムチャの仲間が作成したものだろうね。

 でも、数キロ以上はなれた相手のオーラを感じ取れるってのはさすがにガセなんじゃない?』

「イルミ=ゾルディックと取引して得た情報だ。精度については信頼していいだろう」

『ふーん。とりあえずの方針はヤムチャのスカウトってことでOK?』

「ああ、可能なら引きこむつもりだ。

 全団員に連絡をまわせ。ひまな奴は天空闘技場に集合。

 ゼビル島でヒソカの死体を確認したあと、オレたちも合流する」


・・・


「うーむ」

天空闘技場の自室で座禅を組みながら、ヤムチャさんは悩んでいた。

ネテロ会長からもらった本を読んで修行をおこない、一通りの基本技と応用技を身につけたヤムチャさんは、

繰気斬に続く新たな必殺技、念法でいうところの『発』について考えているのである。

(放出系と強化系と操作系、3つの系統をうまく組み合わせれば最強の必殺技が完成するはず)

放出系はオーラを飛ばす能力。

各種気弾のほか、孫悟空の瞬間移動もこれに分類される。

強化系は肉体や武器を強化する能力。

代表的なのは狼牙風風拳だが、試してみたところ手に持った青龍刀やヌンチャクを強化することも可能だった。

操作系は主に物体や生物を操る能力。

ヤムチャさんは繰気弾の誘導に使っているが、使い方によっては対戦相手自体を操ることも可能らしい。


うむむむむっ、と考えこむヤムチャさん。

ファットマンやギドとの戦いを経てもまだ、これといったインスピレーションがわいてこない。

悟空のマネをして難易度Sランクの大技『瞬間移動』にも挑戦しているのだが、いまだに成功してはいなかった。

(考え方を変えよう。格闘技以外でオレが得意なものというと、やはり野球だよな)

念能力はなんらかの思い入れがあった方が強力な技になりやすいのだと、ヤムチャさんはギドとの戦いを通して実感していた。

ヤムチャさんはバットを握りしめて敵に殴りかかる自分を想像してみる。

あるいは繰気弾を野球のボールに見立てて相手に投げつけてみるとか……って、

(ピッチャーに殴りかかるバッターに、最初からデッドボールを狙って投球するピッチャーか、それはもう野球じゃないよな)


なかなか考えが煮詰まらないヤムチャさんは座禅を解き、気分転換のためにテレビの野球中継をつけてみた。

テレビ画面のなかでは、ヤムチャさんがひいきにしているウルフルズと、ライバルのタイガースが一進一退の投手戦を繰り広げている。

(気をピンポイントに集中して瞬間的に攻防力をあげる『流』と『硬』も使えるようになったことだし、

 気円斬と繰気弾を組み合わせた繰気斬があれば、必殺技についてはもう充分かもしれんな)

ヤムチャさんがテレビを見ながら栄養ドリンクとスナック菓子をつまんでリラックスしていたその時、


ピピピピピッ!


とつじょ室内にひびく電子音。

テーブルの上に置かれたヤムチャさん専用通信機、これが鳴るということは、依頼完了の証!

ヤムチャさんは素早く通話ボタンを押して、通信機に向かって話しかける。

「ブルマか?」

『あ、ヤムチャ?

 ドラゴンボールにニコルって人を生き返らせてくれるようにお願いしといたわよ』

「サンキュー!」

『おほほほ、いいのよこのくらい。

 その代わり、おみやげのジュエリーは一番高いやつをよろしくね!』


・・・


ブルマからニコル復活の報を受けたヤムチャさんは、ハンターライセンスを使ってニコルの連絡先を調べた。

電話でアポを取り、舞空術で移動してニコルの実家を訪問する。

「はじめまして。プロハンターのヤムチャです」

「どうも、ニコルの父です。息子が家に友人を招くなんてひさしぶりのことですよ」

ヤムチャさんはぽっちゃりしたインテリのニコルパパと握手を交わす。

「ヤムチャ様!」

「よっ、ひさしぶりだな」

ニコルと再開したヤムチャさんは、ニコル脱落後のハンター試験について語る。

ニコルは父親との約束を守って親の会社を継ぐこと、来年のハンター試験には参加しないことを表明した。

お互いの好きな食事やスポーツについての雑談。語られるハイスクール時代の武勇伝。

サーフィンをしたり、バーベキューをしたり、一緒にテレビを見たりして、ヤムチャさんは数日間、ニコルの家に滞在した。


そして別れの日。ヤムチャさんとニコルが屋敷の門前で話している。

「もう少しゆっくりしていけませんか?」

「すまんな。天空闘技場で次の試合が控えてるんだ」

「そうですよね。ごめんなさい」

「ニコル、オレがおまえのことを生き返らせてやれるのはこの一回きりなんだ。

 命を大切にしてくれ。親父さんと仲良くやるんだぞ」

「はい。ヤムチャ様もお体にお気をつけて。

 バトルオリンピアがんばってください。ボクもかならず応援に行きますから」

「ああ。もちろん優勝してやるさ」

「はい!」

空に向かって飛び立つヤムチャさんを、ニコルは笑顔で見送る。


そんな2人の様子を、ニコルの父親は少し離れた位置から見守っていた。

(ハンター試験を終えて戻ってきたとき、息子からは人を見下す傲慢さが消えていました。

 わがままでいつも独りよがりだったニコルが、人の上に立つにふさわしい人間となって帰ってきてくれた。

 すべてはヤムチャさん、あなたのおかげです。ありがとう。本当にありがとう)

ニコルの父親はヤムチャさんに心からの感謝をささげ、深く頭を垂れた。


・・・


ヤムチャさんがニコルのお家を訪問していた時のこと。

クロロ・パクノダ・コルトピの3人は、第4次試験の舞台となったゼビル島に上陸していた。

ヤムチャさんとの闘いに敗れ、ギタラクル(イルミ)によって埋められていたヒソカの死体が、クロロたちの手で地面から掘り出される。

ヒソカの死体は両腕の骨が折れて、上半身と下半身が分かれた状態で発見された。

「死体は本物よ。

 ヒソカを殺したのはヤムチャで間違いないわ。

 緑の服を着た子供と、スーツ姿の男も手伝っていたみたい」

ヒソカの死体に触れて目を閉じていたパクノダが、調査結果をクロロに報告する。

パクノダは人や物体に触れることで、そこに残された記憶を読みとることができる特質系の念能力者だ。

「このなかにいるか?」

「この2人だわ。ゴンとレオリオね」

第4次試験の参加者リストに目を通したパクノダが、ゴンとレオリオの顔写真を指差した。

「コルトピ」

「ボクもこの死体は本物だと思う」

クロロに意見を促されたコルトピが、この死体は偽物(フェイク)ではないと断言する。

コルトピは物体のコピーを創りだせる具現化系の念能力者であり、物の真贋を判定するスペシャリストだ。

最後までヒソカの死に疑念を抱いていたクロロだったが、専門家2人の意見が一致した以上、もはや事実と認めざるを得ない。

(残念だよ。ヒソカ)

クロロは瞑目して、かりそめとはいえ家族の一員であったヒソカのために祈りをささげた。


ヒソカの死体を調べたことで、クロロたちがゼビル島を訪れた目的は達した。

だが、クロロにはさきほどから一つ気にかかっていることがある。

(同じ場所に埋めたと言っていたもう一つの死体がないな)

現時点でニコルのことを知っているのは、イルミから直接話を聞いたクロロのみだ。

ニコルはヤムチャの関係者ではあるが、すでに死亡しており、本人も念能力者ではなかったという話なので重要視していなかった。

(オレたちが来る前に誰かが持ち去った?

 動機がないな。ハンター協会の公式発表は行方不明。

 ……いや、そう考えればつじつまは合うのか)

「まさに魂の存在証明というわけだ」

「団長?」

「念能力による死者蘇生。可能だと思うか?」

旅団は次第に、事の真相に辿り着きつつあった。


・・・


『さあついにこの日がやってきました!

 本日は天空闘技場200階クラスが誇る最強闘士たちのドリームマッチ!

 狼牙風風拳のヤムチャ選手 VS 虎咬拳(ここうけん)のカストロ選手の一戦です!』

「がんばれヤムチャー! オレはおまえを信じてるぞー!」

「カストロ様ー! 負けないでー!」

観客たちの声援のなか、ヤムチャ、カストロ両選手が入場する。

「ヤムチャ、君と手合わせできて光栄だ。いい試合にしよう」

「こちらこそ」

カストロは柔和な笑みを浮かべてヤムチャさんと言葉を交わす。

ヤムチャさんの対戦相手であるカストロは、白を基調とした服装とマントの似合うハンサムさんだった。

ていうか、肩まで伸ばしたロン毛が似合っている超イケメンだった。


『絶好調のヤムチャ選手はここまで3勝0敗といまだ負け知らず!

 対するカストロ選手も初戦で敗れて以来8連勝! 8勝1敗という好成績を残しています!

 それでは会場のみなさま、ギャンブルスイッチをどうぞっ!』

ギャンブルスイッチの結果はヤムチャさん1.7倍に対してカストロが1.8倍と僅差だ。

(フッ、私の方が彼よりも下と見られているか。プロハンターの肩書きとは偉大なものだな)

(どうやら相当の使い手みたいだ。気を引き締めてかからないとな)

ゴゴゴゴゴ……

こいつには負けたくない。

同じ武道家としてのライバル意識から、2人の緊張が高まっていく。


「ポイント&KO制、時間無制限一本勝負! はじめ!」

ダッ! 試合開始と同時、2人は申し合わせたかのようにダッシュをかける。

「狼牙風風拳!」

「虎咬拳(ここうけん)!」

ズガァッ!

リング中央で2人の必殺技が火花を散らした。

ヤムチャさんが繰り出した狼牙のごとき鋭い右ストレートを、カストロは上下にかまえた掌(てのひら)の虎口で迎え撃つ。

交錯してすれ違い、動きを止める2人の武道家、わずかな静寂の後。

ブシッ!

ヤムチャさんの右腕に裂傷がはしり、鮮血が散った。


観客たち「ウオオオオオオオッッッ!!」

『双方待ったなしッ!

 いきなりクライマックスの第一ラウンドッ!

 狼牙風風拳と虎咬拳、狼虎のぶつかり合いはカストロ選手に軍配が上がったーーー!!』


さほど深い傷ではないものの、ヤムチャさんはダメージを受けた右腕を見て渋い顔をする。

両者の技のキレはほぼ互角。技に込められたオーラ量ではヤムチャさんが若干勝っていた。

ではなぜこのような結果となったのか?

(このカストロという男、強化系だな)

勝負の明暗を分けたのはオーラによる肉体強化の効率の差。

強化系と放出系、カストロとヤムチャさんの天性のオーラ資質の違いにほかならない。



試合には直接関係しないものの、今日の観客席にはひときわ異彩を放つ集団が座っていた。

「アイツ全然たいしたことないよ。ヒソカに勝たとは思えないね」

「どっちもまだまだ本気じゃねェだろ。お手並み拝見といこうぜ」

糸目の少年フェイタンと、眉の無い強面の喧嘩師フィンクス。

「相手のカストロって男もそこそこできるみてェだな」

顔につぎはぎのある大男フランクリン。

「以前ヒソカに負けてた奴だし、ヤムチャに勝てるとは思えないけどね」

可憐な容姿の格闘美少女マチ。

彼らはクロロの招集に応じて集まった幻影旅団のメンバーたちだ。

「おまたせー」

軽く一仕事終えて戻ってきたシャルナークが、ついでに盗ってきた人数分の飲み物をみんなに配る。

「首尾は?」

「細工は流々、あとは仕上げをごろうじろってね」

マチの問いかけにシャルナークは自信ありげに答えると、自分用の缶コーヒーに口をつけながらヤムチャさんの試合に目を向けた。



「どうした? こないのならばこちらからいくぞ!」

リングの上。カストロはかまえた両手にオーラを集中して、ヤムチャさんに突進する。

カストロの虎咬拳は、掌(てのひら)を虎の牙や爪に模して敵を裂く拳法だ。

その極限にまで強化された手指には岩をも噛み砕き、大木を真っ二つに切り裂くだけの威力が秘められている。

ババッ! シュバッ!

虎の爪に見立てた両手をふるってヤムチャさんを切り裂こうとするカストロ。

「むっ」

ヤムチャさんはヤプー戦でも見せた回避能力を発揮してカストロの連続攻撃をかわしていく。そして…

「どうした、足元がお留守だぜっ」

「なにっ!?」

ドゴォッ!

ヤムチャさんの反撃! 動揺してしまったカストロの『腹』にヤムチャキックが炸裂した!!

「クリーンヒット! ヤムチャ1ポイント!」

『これは意外な展開です! ちょっぴりズルい心理作戦がみごとに的中! 先にポイントを奪ったのはヤムチャ選手だぁ!』

「貴様ァ、なにが足元だっ!?」

「すまん。言ってみたかっただけだ」

ヤムチャさんはカストロの抗議をさらりと受け流した。

(うーむ、へたに防御しても防ぎきれんよな。

 相手は接近戦が得意な強化系。正面きっての殴り合いじゃちょっと分が悪いか)

「私を愚弄するか!」

接近戦は危険と判断したヤムチャさんは、頭部を狙ってきたカストロの蹴撃を大きくのけぞって回避。

シャッ! シャッ! シャッ!

そのまま連続でバク転して距離をとりながら、繰気斬を放った。

「繰気斬(そうきざん)!」

ギューン!

切れ味鋭い念の刃がカストロに迫る。

カストロは回避を選ばない。その場に足を止めて掌を上下にかまえ、真正面から迎え撃った。

「虎咬拳!」

ズギャッ!

怒れる虎の牙が上下から突き刺さり、繰気斬をかみ砕いた。

「!」

「今のはギドとの試合で使っていた技だな。すまないが、その技はすでに研究済みだ」

ヤムチャさんの過去の戦いを事前にビデオで確認していたカストロは、

繰気斬が回避しても遠隔操作で追いかけてくる性質を持つこと、上下から加えられる圧力に弱いであろうことを承知していた。

「私に一度見せた技が通じるとは思わないでもらおうか」

「なるほどな。だったらこいつでどうだ」

ビッ!

『ここでヤムチャ選手、再び狼牙風風拳の構えです!』

「こりない男だ」

「はいやぁー!」

(狼牙風風拳。狼のごとき鋭い攻撃を繰り出す必殺拳法――)

「――だが見切った!」

最初の激突で右腕を負傷してしまった影響か、ヤムチャさんの動きが鈍っているのを見てとったカストロは、

(足元がお留守なのは貴様の方だ!)

さきほどの意趣返しの意図も込めて、カウンターの虎咬拳でヤムチャさんの軸足を刈りにいく。

ボウッ!

しかし、カストロの虎咬拳は空気だけを裂いてすり抜けた。命中したと思った瞬間、ヤムチャさんの姿がぶれて消えたのだ。

(しまった! 誘われていたのか!?)

カストロは馬鹿正直に突っ込んできたヤムチャさんが残像だったこと、

さきほどの挑発が自分のカウンターを誘うための布石となっていたことに思い至ったが、時すでに遅し。


「狼牙残像拳だッ!」


虎咬拳を空振りしたスキをついて、死角から忍び寄っていたヤムチャさんの拳がカストロの顔面をとらえた。

「とりゃーーーっ!」

ズドドドドドッ!

ヤムチャさんは身体がわずかに宙に浮いて身動きが取れなくなっているカストロを、高速の連続コンボでメッタ打ちにする。

(こいつで終わりだ!)

最後にヤムチャさんが気を集中し、強力な掌底を叩き込んで勝負を決めようとした、次の瞬間!

バキィッ!!

カストロとヤムチャさん、2人の横から飛び込んできたカストロツヴァイの蹴りがヤムチャさんのわき腹を直撃した!

(なんで!?)

ドーン!

不意打ちを食らったヤムチャさんはリングの外までふきとばされた。


「クリティカル&ダウン! ポイント4-3!」

『め、めまぐるしい攻防の末なんとヤムチャ選手とカストロ選手がダブルノックダウン!

 審判は両選手にたいしてクリティカルヒットとダウンの判定です!

 突如としてあらわれた2人目のカストロ選手(?)がヤムチャ選手を蹴り飛ばしたように見えましたが…

 今のはいったい何だったんだーー!?』


全身に打撲を受けながらもなんとか立ち上がったカストロと、よっこら歩いて場外から帰還したヤムチャさんがリング中央で相対する。

「ヤムチャ。私は君の実力を侮っていたようだ。その非礼をここに詫びよう」

「こっちこそおどろいたぜ。まさか分身するとはな」

「私の分身(ダブル)を初見で理解したか。さすがはプロハンターだと言っておこう」

スゥ――

ヤムチャさんと観客たちの目の前で、一人だったカストロが2人に増える。

「私は念によって私自身の分身(ダブル)をつくり出すことに成功した。

 つまり君は2人の私を同時に相手にしなければならないというわけだ」

(自分の分身を具現化する念能力か。天津飯が使ってた四身の拳と同じタイプの技だな)


カストロの念能力『分身(ダブル)』は残像拳とは違う、実体をもった本体の写し身だ。

仮にカストロの分身が本体と同等のパフォーマンスを発揮するのであれば、相手と同等になるよう戦闘力を抑えたままのヤムチャさんに勝ち目はない。

「これこそが念によって完成した真の虎咬拳。名付けて虎咬真拳(ここうしんけん)だ!!」

2人のカストロがそろって虎咬拳のポーズをとる。

『これはすごいぞカストロ選手! でもそのまんまのネーミングだー!』

「本来ならヒソカとの再戦まで使うつもりはなかったのだがな。

 ここからは出し惜しみなしだ。どちらがより優れた武道家か、いざ参る!」


「虎咬真拳!」

「繰気連弾(そうきれんだん)!」


手数は2倍! 強さも2倍? 2人に増えてしまったカストロを、ヤムチャさんは2つの繰気弾を操り迎え撃つ!!










オレたちの本当の戦いはこれからだッッッ!!




・・・


試合終了後。

天空闘技場200階クラスの第4戦を勝利で飾ったヤムチャさんは、いきつけの売店に足を向けていた。

(なんとか勝てた。本にも載ってたけど、やっぱ得意系統の影響は大きいんだな)

カストロとヤムチャさんの試合は接戦にもつれ込んだが、最終的には複数の繰気弾をばらまいてけん制しつつ

空中からのかめはめ波でカストロの本体と分身を一気になぎ払う作戦に出たヤムチャさんのKO勝利に終わったのだ。

「おばちゃん、いつもの栄養ドリンクね」

「アいよ。ヤムチャちゃん今日モ勝ったんダってね。記念に一本おまけシとくよ」

「ありがとうございます」

ヤムチャさんは軽く頭を下げる。

「いいんだヨ、常連さンは大切にしないとネ。

 その代わリ、次の試合もがンばるんダよ!」

「ふっふっふ、任せといてください」

おばちゃんに向かってVサイン。ファンに応援されて嬉しくなり、心の中でるんるんスキップしちゃうヤムチャさん。

売店のおばちゃんに起こっていた異変には気づかぬまま、ヤムチャさんは自室へと戻っていった。



***

次号急展開!

カストロとの戦いでうっかり片腕を失ってしまったヤムチャさんは(注:失ってません)幻影旅団に襲撃される!

人数に押されて防戦一方となってしまうヤムチャさん。ピンチに陥ったヤムチャさんを救ったのは見覚えのある独楽だった……!

「勘違いするなよ。お前には命を助けられたからな。その時の借りを返しに来ただけだ」

「おいおい一人で格好つけるなよ」「ギドっちだけじゃ殺されちゃうよ?」

助けに来たのはかつてのライバルたちだ。ギド・リールベルト・サダソら新人狩りの3人。

「ふふっ、戦う姿も美しい。レインボーサイクロン!」

ピエロメイクの「美しい魔闘家鈴木」そして――

「ふぁっ、なさけないですね~」

「勝手に負けかけてんじゃねえぞコラ! テメェを倒すのはこのヤプー様なんだよ!」

爆肉鋼体でマッチョマンにクラスチェンジした元ファットマンと、ツンデレキャラとして謎のパワーアップを遂げたヤプーだった!

はたしてピエロさん特製のインチキグッズを装備した彼らの実力とは!?


次回『助っ人闘士軍団全滅! ヤムチャ怒りのヌンチャク殺法!』


星の光が胸を撃つ時 サザンクロスが燃え上がる 轟けヤムチャサイクロン!!

***

――というのはもちろん嘘予告です。イイネー、そんな熱いバトル展開になったらオモシロイヨネー(遠い目)



[19647] 空と海と大地と捕らわれたヤムチャ
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/11/29 23:33
その日の夜。天空闘技場にあるヤムチャさんの自室。

テレビをつけっぱなしの室内で、ヤムチャさんは床に倒れてぐうぐうと眠っていた。

だらしなく開いた口元からはよだれが垂れており、近くには栄養ドリンクの空き瓶が落ちている。

「おじゃましまーす」

こっそりと部屋に侵入してきたのは金髪碧眼のハンサムボーイ、シャルナークだ。

シャルナークは寝ているヤムチャさんの首筋あたりにプスリとアンテナを刺して、手に持った携帯電話から念能力を発動する。

『携帯する他人の運命(ブラックボイス)』

眠っていたヤムチャさんが目を開き、うつろな表情でむくりと立ち上がった。

シャルナークの念能力は操作系。付属のアンテナを刺した人間を、オリジナルの携帯電話を介してロボットのように操ることができるのだ。


ヤムチャさんを生きたまま拉致れとの団長命令を受けたシャルナークは

クロロがゾルディック経由で仕入れてきた情報と、自身がプロハンター専用サイトで集めた情報をもとにその方法を検討。

このときシャルナークが目をつけたのは、ヤムチャさんがハンター試験でトンパの下剤入りジュースを飲んでいるという事実だった。

薬物を用いるのが最も効果的だと判断したシャルナークは、売店のおばちゃんを操ってヤムチャさんに睡眠薬入りのドリンクをつかませることに成功。

結果。ハンター世界最強の超戦士であるヤムチャさんを、いともあっさりと無力化してしまったのである。


『部屋の貴重品類を回収。出かける準備をしてオレについてこい』

「ワかリましタ」

シャルナークが携帯電話に指令(コマンド)を打ち込むと、ラジコンロボットと化しているヤムチャさんはそれに従って行動を開始した。

ヤムチャさんは仙豆・念法の解説書・ホイポイカプセルのケースを手に持って、部屋の戸締まりをしてから主人であるシャルナークの後に追従する。

シャルナークはバックアップとして部屋の外に待機していた武闘派コンビ、フィンクス・フェイタンと合流して、夜の街へと姿を消した。


・・・


街の郊外に位置する廃ビル。

仮の集合拠点として定められたこの場所に、幻影旅団のメンバーが集まっていた。

「団長、ヤムチャ連れて来ました」

「ご苦労だったな」

任務を達成したシャルナークたちにねぎらいの言葉をかけたのはクロロ=ルシルフルだ。

団長であるクロロと共にゼビル島に行っていたパクノダとコルトピ。

昼間にカストロ戦を観戦していたシャルナーク・フィンクス・フェイタン・マチ・フランクリン。

殺されたヒソカをのぞく幻影旅団の構成員12人のうち、8人までがこの場に集まっている。


「さて、なにから聞きましょうか」

「現在の行動目的、仲間はどこに何人いるのか、ニコルを生き返らせた方法はなんなのか、だ」

「了解」

クロロからの指示を受けて、パクノダは呆けた表情で固まっているヤムチャさんの肩に手を置いた。

パクノダは特質系の念能力者だ。対象に触れて質問を投げかけることで、相手の記憶を読みとることができる。

「あなたの現在の行動目的は?

 ……修行中。フリーザのような敵が現れた時のために強くなること」

(フリーザって誰だ?)

聞いたことのない名前にフィンクスが首をかしげた。

「仲間はどこに何人いるの?

 ……地球にたくさん。十人以上」

(チキュウ?)

まったく知らない地名の登場に、シャルナークは胸中で疑問符をうかべる。

「ニコルを生き返らせた方法は?

 ……ドラゴンボール。7つ集めると龍が出てきてどんな願いでも叶えてもらえる」

「おいパク、お前さっきからなに言ってんだ?」

デタラメとしか思えないパクノダの言動に違和感を覚えたフランクリンが、彼女をにらみつけた。

他の団員たちもさりげなく警戒姿勢をとり、周囲の変化に気を配る。

それは自分たちが気づかないうちになんらかの攻撃を受けているのではないかという、疑念。

「あなたはどこの誰なのかしら?」

パクノダは最後にそう尋ねると、ヤムチャさんから一度手を離した。


「結論から言うとね。この男は宇宙人なのよ」

(!)

パクノダがヤムチャさんを指差しながら放った予想外の一言が、一同の表情に疑惑と緊張をはしらせる。が、

「ウチュウ? 聞き覚えのない国ね」

「地図で言うとどのあたりだ?」

フェイタンとフィンクスののんきな発言が、張り詰めた空気を一瞬にして弛緩させた。


「……地球という遠い星から、宇宙船に乗ってこの世界にやって来た異邦人。それが彼の正体よ」

パクノダはこめかみを押さえて頭痛を堪えるようなしぐさをすると、ため息交じりにそう吐き出した。


・・・


その後もパクノダはヤムチャさんから次々と記憶を読みとっていった。

新たに出てくる未知のキーワードについて質問を重ね、芋づる式に記憶を引き出す。

「オーケィ、記憶をみんなに送るわよ」

ある程度の情報がまとまったところで、パクノダはその手に拳銃を具現化する。

『記憶弾(メモリーボム)』

パクノダが持つ2つめの念能力。自分が持っている記憶を、具現化した弾丸に込めて相手の脳に直接伝えることができる。

パクノダはその場にいる団員たちに記憶弾を発砲して、ヤムチャさんから引き出したすべての情報を7人の頭に叩き込んだ。


タ━━━━・(゚∀゚)・∵━━━━.ン!!!!


「ヘ、ヘヘッ」

記憶を受け取ったフィンクスの口から引きつったような笑いが漏れる。

「全宇宙を支配しようとたくらんだ宇宙の帝王フリーザと、それを倒した伝説の超サイヤ人」

「天国と地獄。閻魔大王(えんまだいおう)が治める死後の世界」

「なるほど。どんな願いでも叶えてくれるドラゴンボールか、放っておく手はねェな」

マチ・コルトピ・フランクリンが一つ一つの事実をかみしめるように発音した。

「事実は小説より奇なり。荒唐無稽の法螺話としか思えないものが、現実に存在するのはままあることだ」

空の彼方に存在する未知の世界。無限に広がる大宇宙に思いをはせて、クロロはうっすらと笑みをうかべた。


「でも、こうなるとヤムチャはうかつに殺せないな。地球にいるヤムチャの仲間たちを全員敵に回すことになる」

シャルナークはあごに手を当てて、少し考え込むようにつぶやいた。

「なんでだよ? 知られなきゃいいだけの話だろ?」

「いや、殺したらすぐにばれるよ。

 今回の相手は死後の世界を活用できるんだ。あの世にいる閻魔大王なら死因を特定できる。

 他にも界王や地球の神、占いババがいるからこちらの行動は筒抜けになる可能性が高い」

フィンクスの唱える楽観論を、シャルナークは一蹴する。

「情報が漏れれば警戒されて待ち伏せされる。やつら化け物みたいに強いし、まともにやりあったら苦戦するだろうね」

絶対に勝てないとまでは言わないが、ヤムチャの仲間たちと戦闘になれば十中八九敗北するだろうというのがシャルナークの見解だ。


「パクノダ。ヤムチャは仲間に入ると思うか?」

「どうかしら。

 元盗賊だけあって盗賊稼業にはそこそこの理解があるようだけど、それも過去の話。

 人殺しには強い忌避感を持っているみたいだから、まず間違いなく断られるでしょうね。

 でも私たちを捕まえようとはしないと思う。彼は自分の周りに火の粉がかからなければ動かないタイプよ」

「ふむ。まあそうだろうな」

ヤムチャさんの説得はおそらく不可能。

武力による恫喝や、なんらかの交換条件といった手段を用いるには彼我の戦力・技術力に差があり過ぎる。

クロロはヤムチャさんの今後の扱いについて一時保留とした。


・・・


ヤムチャさんが抱える事情と背後関係について分かったところで、一同の興味はヤムチャさんの持ち物へと移っていた。

テーブルの上に置かれているヤムチャさんの貴重品は3つ。仙豆・念法の解説書・ホイポイカプセルのケースだ。

このうち、この世界の品である念法の解説書は以前手に入れたことがあるためクロロの興味の対象外だった。

「コルトピ。ケースと仙豆のコピー頼む」

「わかった」

コルトピはホイポイカプセルのケースに左手で触れると、自身の念能力を発動する。

『神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)』

ズズズ……

コルトピの能力は物体の複製だ。なにも持っていなかった右手側に、オリジナルと寸分たがわぬ贋作(がんさく)が創りだされた。

同じ要領で仙豆もコピーし終えたコルトピは、かすかに引っ掛かるものを感じて念法の解説書を手に取った。

「どうした?」

「これ、サインに念が込められてるよ。たぶん現在地を追跡するためのものだと思う」

コルトピはヤムチャさんが持っていた念法の解説書に細工があることを指摘する。

「うまくカモフラージュされているが、太字のサインに重ねて細かな神字が書いてあるな。

 元々の持ち主はハンター協会のネテロ会長。ヤムチャの危険性を憂慮して鈴をつけておいたといったところか」

本を受け取って念のサインをあらためたクロロは、当面は無害なものだと判断してテーブルの上に本を戻した。


続いて、クロロはコピーされた仙豆を口に運ぶ。

「やはり腹は膨れないな。量産は不可能か」

コルトピが創りだした方の仙豆には、食べると満腹になる効果も体力回復の効果も備わっていなかった。

コルトピの念能力にはいくつかの制約が存在する。

物体の姿形はコピーできるものの、それが念による産物である場合、秘められた特殊能力までは再現できないのだ。

能力で創りだされた贋作は24時間経つと消滅してしまう。ただし、贋作をさらにコピーすることで実質的な寿命を延ばすことは可能だ。


クロロは淡々と検証を進めていく。

コピーされたホイポイカプセルのケースを持って外に出ると、カプセルをいくつか放り投げた。

BOM!

煙が上がり、丸いフォルムの大きな宇宙船・魚と肉の入った大型の冷蔵庫・トレーニンググッズの詰め込まれたカバンなどが姿をあらわす。

「「おお~!」」

「こちらは問題ないようだな」

見物していた旅団員たちから感嘆の声が上がる。

ホイポイカプセルや宇宙船は念能力とは無関係の超科学による産物なので、コルトピの能力で100%再現されていた。

幻影旅団の8人+操られているヤムチャさんはぞろぞろと宇宙船に乗り込んでいった。


・・・


宇宙船の1階はキッチン・シャワー・寝室などがある広々とした居住空間。

階段を上った2階には、宇宙船の操縦室と人工重力装置が設置されたトレーニングルームがあった。

「シャル。動かせるか?」

クロロに促されて宇宙船の操縦席に座ったシャルナークが、ピコピコといくつかの機能をいじってみる。

「うん、読めない。パク! 地球の文字表記についての知識をお願い!」


タ━━━━・(゚∀゚)・∵━━━━.ン!!!!


「宇宙船各部に異常なし。目的地を入力すれば自動で飛んでくれるみたい。地球までは約3日かかる(キリリッ」

ハンター世界と地球では使っている文字表記が異なったりするのだが、その問題はヤムチャさんの記憶を撃ち込むことで一発で解決した。

「宇宙船の運用はオレたちでも可能か?」

「認証システムの類は採用されていないし、操作はすごく簡略化されてる。

 細かいところはコンピューターが自動でやってくれるから、特に専門知識がなくても大丈夫」

地球にだったら今すぐにでも飛んで行けるよと、シャルナークはいい笑顔で請け負った。


お次はこの宇宙船の目玉アイテム。人工重力装置のお出ましだ。

「とりあえず5倍くらいからいってみようか」

みんなから船内の機械いじりを一任されたシャルナークが、軽い感じでスイッチを押した。

部屋の中央に設置されている人工重力装置がうなりをあげて、超重力を発生させる……?

シュッ! シャシャシャッ、シュピッ!

フィンクスが軽快な動きでシャドーボクシングをしてみせた。

「これで普段の5倍なのか?」

「むしろ体が軽くなってる気がするけどね」

マチが素直な感想を告げる。

「あれ? おかしいな」

「重力の倍率はヤムチャが住んでいた地球が基準になっているんだろう」

クロロの指摘を受けてシャルナークは改めて重力を20倍にセット。超重力を発生させた。

グググググッ。団員たちの身体に20倍重力による強い負荷がかかる。

「こいつはキクな」

「かなり重たくなてるね」

フィンクス・フェイタン・フランクリンら戦闘要員にはまだ余裕があるものの、

全団員の中でも非力な部類に入るパクノダとコルトピは立っているのがやっとの状態だった。

「もういい。重力装置も含め、船内の設備はすべて使用可能とみていいだろう」

クロロは宇宙船内の調査切り上げを宣言した。


・・・


「でもよ、どんな願いでも叶えられる念能力なんてホントに成立すんのか?」

ビルの室内に戻って他のカプセルから出てきたアイテムをチェックしていたところ、なにやら考え込んでいたフィンクスが口を開いた。

「まず不可能だろうね。

 実際に叶えられる願い事には上限があるはずだよ。

 念獣を呼びだすまでの手順を難しくすることで、すごく広範囲の願いをかなえられるようにしてあるだけ」

「それだよ。難しいってもレーダー見て7つのボールを集めるだけだろ?」

フィンクスは「どんな願いもかなえる能力の制約にしては簡単すぎないか?」との疑問をシャルナークにぶつけた。

「いまならね。

 でもブルマって人がドラゴンレーダーを開発していなかったとしたら?

 手掛かり一切なしの状態で世界中に散らばったボールを見つける。ほとんど実現不可能でしょ」

「あ、そうか」

「たぶん、ヤムチャに知らされてないだけで細かな制約はいっぱいあるんだと思うよ。

 あとは伝承とかも利用してるのかな。『我ら部族の守り神(サンダーバード)』って念獣、覚えてる?」

「なんとかって部族が使ってたやつだな。結構手強かったような覚えがある」

「あれは族長が代々同じ念獣を引き継いでいくことで、歴史と信仰を持たせる手法で成り立ってた。

 ナメック星人たちも似たようなことしてるんじゃないかな。

 念能力は本人たちの認識によって強化されるから、星の住人全員に幼少期からすり込めたならかなり有効なはず」

(でも、どんな願いを叶えても代価は同じってところが引っ掛かるんだよなぁ)

シャルナークは何の役に立つのか意味不明なヌンチャクをそのへんに放り投げながら、ドラゴンボールの持つ制約について思考を巡らせていた。


「じゃ、この場にいない4人には最優先でここに集合するように連絡します。

 予定していたヨークシンでの仕事はキャンセル。次の標的は地球にあるドラゴンボールということで」

一通りの作業を終えたあたりで、シャルナークが団長代理として本日のまとめに入った。団員たちからは「異議なし」の声が上がる。

ちなみに団長であるクロロは、いまオレに話しかけるなオーラを出しながら地球産のマンガを読みふけっていた。

「パクノダは4人が来たら状況説明よろしく」

「ええ」

「地球までの移動手段は確保しとかないとマズイから、

 コルトピはホイポイカプセルのケースを毎日コピーして維持すること」

「わかった」

「クロロ、ヤムチャの扱いはどうする?」

「……元の場所に戻して来い」

「ま、そうなるよね」

自分の意思で旅団に入らないのであれば、このままヤムチャさんを手元に置いておくことのメリットは乏しい。

ここで殺すのは論外。あの世で死因について詮索されると、せっかく手に入れた情報アドバンテージが失われてしまう。

かといって、へたに捕獲したままで時間が経つとヤムチャの仲間たちか、ネテロ会長率いるハンター陣営からの襲撃を受ける恐れがある。

「仙豆は何粒かもらておくといいね。袋に穴をあけとけばバレないよ」

フェイタンに持っていた仙豆の半分を奪われ、パクノダによって各種修行方法の詳細、仲間たちの所持する念能力、

ドラゴンボールの使用方法と制限についてなどの重要情報を引き出されてから、ヤムチャさんは解放されることになる。


「次に地球のドラゴンボールが使用可能になるのはおよそ一年後。

 それまではクモの強化合宿といくか。お前らこれ全員参加だからな」

参加拒否は認めねーから。クロロは超重力修行による旅団の戦力底上げを決定した。


・・・


翌日の朝。天空闘技場にあるヤムチャさんの自室。

壁にもたれるようにして眠っていたヤムチャさんは、窓から差し込む日差しで目を覚ました。

「ふぁ~あ」

寝ぼけ眼のヤムチャさんは、口元のよだれをぬぐって洗面所へと移動する。

コップに水を汲んで軽くうがいをしてから、ばしゃばしゃと顔を洗って眠気を吹き飛ばした。

(うーむ。昨夜の記憶がない。どうやら眠ってしまったらしいな)

ヤムチャさんは「いかんいかん」と反省しながら歯ブラシを手に取る。

昨夜行われた幻影旅団の暗躍には一切気付くことなく、ヤムチャさんはいつもと変わらない朝を迎えていた。



それからの約半年間、ヤムチャさんは穏やかで充実した日々を送った。

一方的にライバル宣言してきた武道家カストロ、2人のファンを名乗る「美しい魔闘家鈴木」と意気投合して食事仲間になり、

幻のゲーム『グリードアイランド』の購入資金を稼ぐために天空闘技場を訪れていたゴンとキルアに再会した。

儲け話に参加することでゴンとキルアの金策に協力しつつ、ヤムチャさんは順調に勝ち星を重ねて200階クラスで10連勝。

フロアマスターを打ち破った際にはゴン・キルア・カストロらはもちろん、これまで戦ってきた他の闘士たちからも祝福のメッセージが届いた。

繰気斬を進化させた新必殺技も完成させ、ヤムチャさんは天空闘技場のフロアマスターとして万全の態勢でバトルオリンピアにエントリーする。


またたく間に月日は流れ、ついに格闘家の祭典バトルオリンピアが始まろうとしていた1999年9月15日。

地球のこよみでいうところのエイジ767年5月12日。ヤムチャさんにとって最大の転機が訪れようとしていた。



[19647] 最終話 帰ってきたヤムチャさん 前編
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/12/29 23:15
ヤムチャさんがバトルオリンピアに挑もうとしていた一方そのころ。

エイジ767年5月12日 地球。

南の都から南西9キロ地点にある大きな島の市街地に、2人組の人造人間が出現していた。


「きゃはははは!」

楽しげな奇声を発して暴れているのは、真っ白な肌をした小太りの男、人造人間19号だ。

道行く人間をくびり殺し、大型トラックを建物に投げつけて、物を破壊する喜びを満喫している。


「エネルギー吸収機能に異常なし。パワーも想定していた値をクリアしている。性能試験の結果は良好のようだな」

19号とともに街中を闊歩しているのは、浅黒い肌と腰まで伸びた白髪を持つ老人、人造人間20号だ。

深い知性を感じさせる声をしており、頭にはレッドリボン軍のイニシャルRRの文字が入った円筒状の帽子を被っている。


街の中心部に位置するメインストリート。

ファンファンファン!

市民からの通報を受けたパトカーが、けたたましいサイレンを鳴らしながら2人の人造人間を包囲した。

「動くな! 両手を頭の上に! 無駄な抵抗はやめなさい!」

ジャキジャキジャキっ!

十数人の警官たちが、19号と20号に対して一斉に銃を向ける。

「ふむ」

シャッ!

20号は目にもとまらぬスピードで動くと、左右の手刀で警官2人を血祭りに上げた。

「ひゃはっ!」

バギャッ!

19号の繰り出したとび蹴りが、警官の一人の首をへし折った。

「こ、こいつら!? 撃て! 撃てェ!!」

ダン! ダダァン!

警官たちの発砲した銃弾が19号と20号に直撃するが、その身体には傷一つ付けることができない。

「彼我の戦力差も理解できんか。おろかな連中だ」

ギュアッ!

ズドォォォォン!!

20号の手から放たれたエネルギー波により、辺り一帯を巻き込む大爆発が起こった。


・・・


この日、突如としてあらわれた人造人間たちの攻撃により、島は壊滅状態となった。

犯人を制止しようとした警官隊は全滅。国王の要請により出動した軍隊も、犯人たちの前になすすべなく敗北する。

この事態を察知したピッコロ・クリリン・天津飯・餃子(チャオズ)ら4人のZ戦士たちは、現地へと急行した。


「20号。パワーレーダーに高エネルギー反応を感知しました」

「こちらでも確認している。人間のデータを大きく超えたエネルギー値が4つ。孫悟空たちだ」

タッ、タタッ。

破壊された市街地に立っている19号と20号を発見したピッコロたちが、舞空術を解いて空から降り立った。

「貴様らは何者だ! どこから来た!」

ピッコロが犯人たちに向かって誰何の声をあげる。

「予想していたよりも少々遅かったな。待ちかねたぞ」

「ピッコロ・クリリン・テンシンハン・チャオズ… ソン・ゴクウはいないようですね」

「なんだと? オレたちのことを知っているのか?」

「こうして事件を起こせばお前たちの方からやってくると思っていた。

 自己紹介をしようか。ワタシは20号。そちらは19号。我々はドクターゲロによって生み出された人造人間だ。

 その目的は、レッドリボン軍を壊滅に追い込んだ孫悟空への復讐」


かつて世界征服をたくらんでいた悪の組織、レッドリボン軍の科学者だったドクターゲロが、

組織を滅ぼしたにっくき孫悟空を抹殺するために製造した殺戮マシーン。それが人造人間シリーズの正体だ。


「ドクターゲロ本人は死んでしまったが、彼が造りあげた人造人間はこうしてここにいるわけだ」

「……孫悟空ならもう死んでしまったぞ」

「なんだと? デタラメを言うな!」

「嘘ではない! 孫悟空は一年ほど前に心臓病で亡くなった!

 お前たちが倒すべき相手はもうこの世にはいない!」

「……!」

ピッコロとの問答で、当初の目的がすでに失われてしまっていることを知った20号は、少し考えを改めることにした。

「いいだろう。ならば代わりに孫悟空の仲間たちを皆殺しにしてやるまでだ。

 その後にキングキャッスルを制圧し、レッドリボン軍の成し得なかった世界征服の夢を実現する!」


・・・


いくつもの倒壊した建物と、そこかしこに転がっている人間の死体。

運良く生き残れた人間たちはすでに全員が避難しており、街は完全なゴーストタウンと化していた。

静まり返った街中で、ピッコロ・クリリン・天津飯・餃子(チャオズ)ら4人の戦士と、人造人間19号・20号が対峙している。

「20号。ここは私が」

「よかろう。この場はお前に任せる」

老人タイプの人造人間20号にお伺いを立ててから、白面デブの人造人間19号が前に出た。

「変だぞあいつら、まったく気を感じない。人造人間だからなのか?」

「今までの敵とは少し違うようだな。厄介なことだけはたしかだ」

未知の存在である人造人間を警戒するクリリンとピッコロ。

「敵の実力は未知数だ。ここはオレがいこう」

この場にいるZ戦士の中ではナンバー2の実力者である天津飯が、危険な先鋒役を自ら買って出る。

やられたらドラゴンボールが失われてしまうピッコロや、実力的に一段劣るクリリンとチャオズを危険にさらしたくないという配慮だった。


「むんっ!」

ズオッ!

天津飯は界王拳を使って体内の気を増幅させると、戦闘態勢に入る。

「なるほど。たしかにかなりのパワーアップを果たしているようだな。

 だが、ワタシはもちろん19号でも十分に倒せるレベルだ」

「ほざけ!」

ギャウッ!

大地をけり、高速で接近した天津飯のキックが19号をぶっとばした。

(速い!)

ドガガガガッ!

天津飯は19号に対して息つく暇もないラッシュを浴びせる。

「はあーーーっ!」

ズッ! ドガーン!

天津飯は最後に19号の腹部に両掌をそえると、ゼロ距離からの気功波を叩きこんだ。

「いいぞ!」

「天さん、すごい!」

クリリンとチャオズが歓声を上げるのもつかの間。

気功波の爆発で民家に突っ込み、ダウンしていた19号が無表情のままむくりと立ち上がった。

「……ちっ、あれだけの攻撃を喰らってもケロッとしていやがる。やつら痛みを感じないようだな」

ピッコロは苦々しくつぶやいた。20号の強気な発言が、ただのハッタリではないことが証明されてしまったからだ。


「きえっ!」

奇声を発した19号は天津飯に対して突撃。掌底のようなパンチを連続で繰り出した。

シャシャシャッ! ――ズガッ!

19号の攻撃を回避した天津飯は、お返しとばかりに鋭い手刀をお見舞いする。だが、

がしっ。

(!)

天津飯からの攻撃を受けながらも、19号はひるむことなく天津飯の両腕をつかんだ。

「くっ!」

(なんだ? ち、力が抜けていく……!?)

拘束から逃れようともがく天津飯を見て、19号はニタリと笑ってみせた。


・・・


「……様子がおかしいぞ! 天津飯の気が急激に減っている!!」

攻撃らしい攻撃を受けてないのに弱っていくという異常事態に、クリリンがあせりの表情をうかべる。

「天さん!」

「まてっ! うかつに飛びだすんじゃない!」

ピッコロの制止を振り切り、大好きな天津飯のピンチを救おうと飛び出したチャオズだったが、

ズギャッ!

「わっ!?」

「そこで黙って見ているがいい。天津飯の最後をな」

間に割って入った20号に叩き落とされてしまった。


「天津飯! 餃子! くそっ、こうなったら」

ダッ!

クリリンが20号に向かってダッシュをかける。

そのまま殴りかかると見せかけての――

「太陽拳!」

「ぬぅっ!?」

クリリンは気を光に変化させて、ひたいから目くらましのフラッシュを放つ。

「でかしたぞクリリン!」

近距離からの太陽拳で20号がひるんだスキをついて、ピッコロは天津飯の援護に向かった。

「ちぃ、こしゃくなマネをしおって!」

ビッ! ビビッ!

「わっ、たっ、うわっ」

20号の目から放たれたエネルギー光線を、クリリンは不格好なステップでなんとか回避。タカタカと走って建物の陰へと身を隠した。


ドゴォ!

「……!?」

天津飯のフォローに駆けつけたピッコロのボディブローが19号の左わき腹に突き刺さる。

「だあっ!」

さらにピッコロの後ろ回し蹴りが19号の顔面に炸裂して、19号はたまらず天津飯から手を離した。

ピッコロは消耗している天津飯を抱えて素早く離脱する。

「どうした? お前らしくもない」

「気をつけろ… やつの手に掴まれたところから力が抜けていった。あの腕になにか仕掛けがあるんだ」

「…わかった。少し休んでいろ、あとはオレがやる」

バサッ! ドスンッ!

ピッコロは修行用に身につけていた重いマントとターバンを外して身軽になると、全身から気を開放した。


・・・


「バカな!? ピッコロのパワーが19号と同レベルにまで跳ね上がっただと!?」

ピッコロの巨大なパワーをレーダーに捉えた20号が、あまりのおどろきに動きを止める。

(ええい、いったいどうなっているのだ)

20号は地上の死角に隠れているクリリンを追いかけるのを中断し、見通しのきく空中へと飛び上がった。

もしもクリリンがピッコロクラスの実力を隠していた場合、逆に自分が倒されてしまうかもしれないという万に一つの可能性を恐れたのである。


ピッコロと人造人間19号の戦いは、ピッコロが優勢に進めていた。

今回がデビュー戦である19号はまだ実戦経験に乏しく、多くの実戦で培ってきたピッコロの動きについていけないのだ。

19号の繰り出す単調な攻撃が空を切る一方で、ピッコロの攻撃は19号を的確に痛めつけていった。


「ぬんっ!」

ピッコロが牽制に放った気功波を、19号はジャンプしてよける。

だが次の瞬間、ピッコロは右腕を数メートルほど伸ばして空に逃れようとした19号の足を掴んだ。

ピッコロは19号をそのまま振り回して手近な地面へと叩きつける。

「……ッ」

19号は緩慢な動作で起き上がると、鋭い目つきでピッコロをにらみつけた。

互角のパワーを誇っていたはずの自分がいいようにやられてしまっている現状に、19号は苛立ちを隠しきれないでいた。

たび重なる攻撃を受けて19号の動きが鈍っているのを見てとったピッコロは、止めの必殺技を撃つ態勢に入る。


ピッコロの右手。ピンと立てた人差し指と中指に集中した気が、バチバチと音を立ててスパークする。

「魔貫光殺砲(まかんこうさっぽう)!!」

ズギュオッ!

集束され、螺旋状のひねりを加えられた気功波が一直線に19号へと伸びる。

百戦錬磨のピッコロが必殺を確信して放った一撃。

だが、19号はまるで我慢していたご褒美をようやくもらえた子供のような、歓喜の表情を浮かべていた。


「ひゃっはーーー!」


ギュウウウンッ!

19号が向けた掌のレンズに、ピッコロの魔貫光殺砲が吸い込まれる。

「オレの技を吸収したというのか……!?」

「うかつだったな! 今の攻撃を吸収したことで19号のパワーは大幅に上昇したぞ!」

敗色濃厚の展開にはらはらしていた20号が、喜色満面の笑顔で叫んだ。

人造人間19号と20号の動力にはエネルギー吸収式が採用されている。

エネルギー吸収式最大の特徴は、掌に埋め込まれたレンズから他者の気を吸収することで、際限なくパワーを増していくことができる点だ。

相手の身体に直接触れればもちろんのこと、撃ちだされた気功波の類であっても問答無用で吸収することが可能なのだ。


ギッ! ドンッ!!

「ぐわっ!」

少なからず動揺していたピッコロは、19号が唐突に放ったロケット頭突きをまともに喰らい、ビルを3棟ぶち抜いてがれきの中へと姿を消した。

「離れて遠くから攻撃しようとしてもダメってことか。

 でも接近して戦ったら天津飯の二の舞だし、どうすりゃいいんだよ……」

天津飯とピッコロがやられてしまってちょいピンチ。

だが、物陰に隠れて弱音を吐いているクリリンの前に、ついにあの男があらわれた!!

ザッ!

「あの程度の敵になにを手こずっていやがる」

青と白を基調とした戦闘服。キリッと逆立っている黒髪。超絶ふてぶてしい態度と邪悪な気配。ベジータさまである。


・・・


「黙って見ていれば、どいつもこいつも情けない戦い方ばかりしやがって」

Z戦士たちがピンチに陥ったのを見かねて、サイヤ人の王子ベジータさまが自信たっぷりに登場した。

真打は遅れてやってくる。彼はかなり最初のころから戦闘の様子をうかがって、出待ちしていたのである。


「ベジータか。いまさら貴様1人が加わったところで戦況は動かん。

 ピッコロや天津飯たちと協力していれば話は違ったかも知れんがな」

ピッコロを退けた19号と合流して、強気になった20号がベジータの参戦をあざわらう。

「ふざけるな!!

 このオレがナメック星人や地球人なんぞと手を組んで戦うわけがないだろう!

 貴様らごとき、このオレ一人で十分だ!!」

グググ……

ベジータはなめた態度の人造人間20号に対してタンカをきると、おもむろに気を高め始めた。

「はぁっ!」

ベジータが気合を込めると、サイヤ人の特徴である黒髪が金髪へと変化する。

ボウッ!!

そこにはかつてフリーザ親子を打ち破った孫悟空と同じ、黄金色に輝くオーラを纏った金色の戦士がいた。

(ベ、ベジータが超サイヤ人になった……!?

 おだやかな心を持っていないとなれないんじゃなかったのかよ!?)

初めて見るベジータの超サイヤ人形態に、こっそり移動中のクリリンはビビりまくっている。

「変身しただと? ワタシと19号のパワーをはるかに上回っている……!!

 どういうことだ!? おまえは本当にベジータなのか!?」

チッチッチ、金色の戦士は立てた人さし指を横に振り、舌を打ち鳴らしてからこう言った。

「どうやらなにもわかっていないようだな」

「な、なんだと?」

「オレは、(スーパー)ベジータだ!!」


「ス、(スーパー)ベジータだと? (スーパー)ベジータとはいったいなんなのだ!?」

「説明するのも面倒だが、ようするに」

「きぇい!」

2人の会話をさえぎり、19号が奇声をあげながらベジータに掴みかかる。

(19号め! ベジータのパワーに目がくらんだか!

 たしかに奴のパワーを吸収することができればお前は最強の存在になることができるかもしれん。

 だがそれは、吸収することができればの話だ!)

ガッ! ガシィッ!

ベジータは19号の両腕をつかんで止めた。

「ガラクタ人形ふぜいが。どうした? 掌から気を吸収するんだろう? やってみろよ」

「ぬぎぎぎぎ……」

ギリギリギリ、ブヂィッ!

19号の両腕はベジータの圧倒的なパワーによって握りつぶされ、ねじ切られた。

「~~~ッ!」

エネルギー吸収装置を破壊された19号は声にならない悲鳴を上げると、大きく後方に飛び退いた。

そして十分な加速距離をとってから気合とともに突撃する。さきほどピッコロをぶっとばしたロケット頭突きだ。

ギッ! ドゴォンッ!!

「ぶばぁっ!」

ベジータとの衝突で本日最大の打撃音をひびかせると、19号は鼻血らしきものを噴き出しながらぶっ倒れた。

「どうした。オレはまだ一歩も動いていないぞ」

ベジータはただ、19号が突っ込んでくるのに合わせてヒザ蹴りを叩き込んだだけだ。

「あ… あう……」

「もう終わりか。つまらんな」

ベジータは戦意を喪失している19号に向かって手をかざすと、掌に気を集中させる。

「ひっ! ま、まって」

ボンッ!

ベジータから放たれた気功波が、19号の身体をバラバラに打ち砕いた。


(まさかベジータがここまで強くなっているとは…

 ワタシとしたことが、と……とんでもない誤算だった)

「さてと、次は貴様の番だな」

キッ!

ベジータは残った人造人間20号に向けて視線を飛ばした。

「くっ」

シャウッ!

勝てるわけがない。20号は全力を持ってこの場からの逃亡を図る。だが……

「ピ、ピッコロ!?」

「あの程度でくたばったとでも思ったか? オレたちから目をはなしたのは失敗だったな」

「すぐに止めを刺さなかったことを後悔させてやるぜ」

クリリンから気を分けてもらって復活したピッコロと天津飯が、20号の逃げ道をふさいでいた。

「だから終わりだと言っただろう。自分がかこまれていることにも気づかんクズが。

 てめえら人造人間はパワーはあっても戦い方はまったくの素人だ。終わりなんだよ。人形野郎」

ベジータ、ピッコロ、天津飯。前に出てきていないクリリンとチャオズも加えれば5対一の戦力差だ。

進むことも逃げることもできない絶望的な状況。19号を失った20号には、もはや打つ手がなかった。


「おのれ! この場に17号と18号がいれば……

 17号と18号さえ起動していれば、すぐにでも貴様らの息の根を止めてやれるものを!」

「ほう。そいつらならこのオレにも勝てると言いたいわけか?」

20号が苦し紛れに言った言葉にベジータが興味を示す。

「そ、そのとおりだ!

 永久エネルギー炉を搭載している17号と18号は、エネルギー吸収式タイプであるワタシや19号をはるかに上回る性能を持っている!」

「ならばなぜそいつらを連れてこなかった」

「まだ調整が完全ではないため今回は連れてこられなかったのだ! 再調整を行えば完成させられる!」

「なるほどな。その再調整とやらにはどのくらいの時間がいるんだ?」

「おい! ベジータ!」

会話を聞いていたピッコロが抗議の声をあげるが、ベジータは無視した。

「……1週間もあれば可能だ」

「3日だ。3日だけ時間をやろう。3日後の正午、その17号と18号とやらを連れてこの場所に来い」

超サイヤ人に覚醒して名実ともに宇宙最強の戦士となったベジータの決定に、異を唱えられるものはいなかった。



[19647] 最終話 帰ってきたヤムチャさん 後編
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:7091132c
Date: 2011/12/29 23:46
北エリアの山岳地帯に隠されている洞窟 ドクターゲロの秘密研究所。

「おのれ! 孫悟空は死に、ベジータが19号を破壊できるほどにパワーを増していたとは計算外だった!」

ベジータに見逃された人造人間20号が、制御に失敗してお蔵入りしていた人造人間17号と18号の再調整を行っていた。

「だが、ワタシの人造人間をガラクタ人形呼ばわりした報いは受けてもらうぞ」

カタカタカタ、

コンピューターのキーボードをたたく音が室内にひびく。

「戦闘系に回すエネルギーを抑えて制御系を強化する。これならばワタシの命令にも従うはずだ。多少の弱体化はやむをえん」

16号・17号・18号の永久式人造人間シリーズは、動力に永久エネルギー炉を採用して無限のエネルギーと強大なパワーを獲得している。

しかしその代償は大きい。制御機能に割くための容量が足りなくなった結果、命令を無視して行動してしまうという致命的な欠陥を抱えてしまっていた。


(パワーを抑えれば命令に従うようにすることは可能だ。

 だが、あまりにもパワーを抑え過ぎれば強くなったベジータに対抗できなくなってしまう。

 可能な限りのコントロールと、ベジータを倒せるパワーを両立させる。絶妙のさじ加減が必要だ)

20号は3日間の時をかけて慎重に、念入りに調整を施した。


「よし、ベジータと孫悟空の仲間どもを最優先抹殺対象に指定!

 さあ目覚めろ17号! 18号! ワタシをコケにした奴らを抹殺するのだ!!」

20号は万が一に備えた緊急停止用の制御コントローラーを片手に、2人の人造人間を起動させる。

プシュー!

壁際に備えつけられていた2つの大きなカプセルが開いて、中から人造人間17号と18号が姿をあらわした。

17号は首に赤い色のスカーフを巻いているオシャレな少年タイプ。

18号は金髪でつり目のかわいい女の子タイプだ。

「おはようございます。ドクターゲロ様」

起動した2人の人造人間は、人造人間20号ことドクターゲロに、うやうやしく挨拶をしてみせた。


・・・


エイジ767年5月15日。

最初の交戦から3日後の正午。南の都から南西9キロ地点にある島の、破壊されてしまった旧市街地。

20号はベジータとの約束通りに人造人間17号と18号を従えて、ベジータ、ピッコロ、クリリン、天津飯たちZ戦士の前に再び姿をあらわした。


「そいつらが17号と18号か。思ったとおり大したことはなさそうだ」

「図に乗るなよベジータ! お前たちでは17号と18号には勝てん。絶対にだ!!」

苦心して調整を終えたばかりの人造人間たちをベジータにバカにされて、20号は怒りをあらわにする。

先日破壊された19号とは違い、17号と18号は戦闘を目的に造られている。その性能には絶対の自信があった。

「勘違いするな。貴様らをぶっ壊すのはこのオレだ! 後ろにいるこいつらはただのギャラリーにすぎん!」

「……もしお前がやられても人造人間はオレたちで始末してやる。安心して負けていいぞ」

自分たちを観客扱いするベジータに、ピッコロは口元を歪めて毒を吐いた。


「お前たちは絶対に手を出すんじゃないぞ!」

ボウッ!!

ベジータは気を高めて超サイヤ人になると、ごきりと両手を鳴らして前に出た。

「へぇ、本当に変身するんだ」

「髪が金色になったな。雰囲気も少し変わったか?」

超ベジータのすさまじいオーラを前にしても、18号と17号に動揺はない。

「油断するな。変身したベジータのパワー値はお前たちとほぼ互角のはずだ」

「そいつはすごい」

パワーレーダーを搭載している20号からの警告を受けて、17号はベジータの強さに感心してみせる。

「ごちゃごちゃ言ってないでかかってこい!

 ガキか! 女か! 2匹まとめてかたづけてやってもいいんだぞ!!」

「ふふ、ずいぶんと強気じゃないか」

「いいわ。わたしが相手してあげる。こういうムダにプライドの高い男ってキライなんだよね」

かわいい女の子タイプの人造人間18号が、戦闘態勢で前に出た。


「な、なあベジータ、移動しないか? ここで戦うと街に被害が」

「うるさい! 地球人どもが何人死のうがオレの知ったことか!」

おっかなびっくりで誘導を試みるクリリンだが、ベジータはまったく聞く耳を持たない。

シャッ!

先に仕掛けたのは18号の方だった。ベジータがクリリンに気を取られたスキをついた形だ。

「ちっ」

無言で接近してきた18号の左フックをベジータは右腕をあげてガード。

つづく右の拳を左手で受け止め、そのまま18号の身体を引き寄せて反撃のひざ蹴りを叩き込む。

ズンッ!

「……ッ」

「なるほど。少しは楽しめそうだ」

攻撃が当たる瞬間、18号が打点をずらしてダメージを軽減したことを察して、ベジータは満足げにうなずいた。


・・・


ズガガガガッ! サッ!

高速で繰り広げられる力強い攻撃の応酬。ベジータと18号の戦いは、空中戦へと移行していた。

「す、すげえ……」

「戦い方に余裕がある。相手の人造人間もすさまじい強さだが、それでもベジータの方が実力は上のようだ」

ベジータと18号の戦いを見上げているクリリンと天津飯の口から感嘆の声が漏れる。

「はははっ、そりゃそうだよな。ベジータは悟空と同じで超サイヤ人になったんだ。負けるわけないもんな」

「……1対1の戦いならそうだろうな」

上空の戦いに見入っているクリリンたちとは違い、ピッコロは地上にいる17号と20号の方を注視していた。


「まずいな。あれではベジータの体力が尽きる前に18号が破壊されてしまう」

永久式の人造人間は無尽蔵のエネルギーを持つとはいえ、まったくダメージを受けないわけではない。

20号が予想したデータでは両者のパワーはほぼ互角。スタミナ切れが存在しない18号がベジータを押しきれるはずだったのだが……

ベジータは3日前の19号戦を上回るパワーを発揮して、18号を追い詰めつつあった。

「17号。おまえも行って18号と2人がかりでベジータを倒すのだ」

「よろしいのですか?」

17号はまだ動きを見せていないピッコロ、クリリン、天津飯、餃子らに視線を向けた。

18号に続いて17号までもがベジータとの戦いに参加した場合、フリーになった彼らが20号を襲うかもしれない。

「わからんのか、ここで18号が倒されるようなことがあれば我々の敗北は必至だ!

 ワタシのことはいい。お前たちは確実にベジータを倒すことに専念しろ!」

「かしこまりました。ドクターゲロ様」

17号は20号ことドクターゲロに向かって深々とおじぎをする。その口元には、あざけるような笑みが浮かんでいた。


ドガガガガッ!

上段、下段、中段。ベジータの繰り出す連続キックが、18号を翻弄している。

「くそォッ!」

「そろそろ身体にガタが来ているんじゃないか!」

バギャッ! スッ、

(!)

18号を殴り飛ばし、さらに追撃をしようとしていたベジータの前に17号が割って入った。

「楽しそうだな。オレも混ぜてくれよ」

「ふん、負けそうになったんでここからは2人がかりってわけか。いいだろう、遊んでやる」

「では遠慮なく」

シャッ!

オシャレな少年タイプの人造人間、17号の参戦により、戦いの流れは人造人間たちに一気に傾いた。

ドカッ! バキッ!

「ぐっ、くそっ、ちょこまかと動き回りやがって~~~!」

空を縦横に駆け巡り、息の合った一撃離脱をくりかえす17号と18号。

1対1のタイマン勝負なら持ち前の戦闘センスで圧倒できるベジータだが、次から次へと繰り出される死角からの攻撃には対応しきれない。

彼ら人造人間には気が存在しない。ゆえに、視界外からの攻撃を察知することが極めて困難なのだ。


・・・


「まずいな。ベジータの奴が押されはじめた」

「オレたちも加勢しないと!」

「やめておけ。文句を言われるのがオチだ。

 それにやつらは強い、オレたちが束になってかかっても一時的な足止めがせいぜいだろう」

天津飯は戦況を冷静に見つめている。すぐにでも飛びだしていこうとしたクリリンを、ピッコロが押しとどめた。


「オレたちで20号の方を先に倒すぞ。あの2人がベジータにかかりきりになっている今がチャンスだ」

「ベジータには加勢しなくていいのか?」

「1人で戦うのは奴が自分から言い出したことだ。せいぜい利用させてもらうさ」

「わかった」

天津飯の確認に、ピッコロは非情な答えを返した。腐っても元大魔王である。

「でもよ、あいつも今は一応味方なわけだし」

「心配するな。本当にやばそうだったらオレが助けに入る」

それでもベジータを仲間と認識して食い下がるクリリンに、ピッコロは柔軟な答えを返してみせた。


・・・


「よし、打ち合わせ通りに行くぞ」

「おう」「任せろ」

ピッコロ、クリリン、天津飯ら3人の戦士は散開して、20号を包囲する陣形をとった。

「うるさいハエどもめ。17号と18号を避けてこちらにやってきたか」

シャッ!

油断なく身構える人造人間20号に対して、ピッコロが格闘戦を挑む。

「はっ、でやっ、たあっ」

「このワタシを甘く見てもらっては困る!」

左右の連打、左のボディブロー、右のハイキック。

マントとターバンを脱ぎ捨てたピッコロの素早いコンビネーション攻撃を、20号はことごとくかわしてみせた。

「反応が良い、というわけじゃなさそうだ。オレの動きを先読みしているのか?」

「いかにも。先日の19号との戦いで十分なデータをとらせてもらった。貴様の動きはお見通しだ」

「ふん、オレたちの実力をデータなんぞで計れると思うなよ。本当の戦い方ってヤツを教えてやろう」

「そうしてもらおうか」

ピッ!

「ぐわっ」

予備動作なしに20号の目から放たれたアイビームが、ピッコロの胸をつらぬいた。

(!)

ピッコロをひるませることに成功した次の瞬間、20号は側面に回り込んでいた天津飯の気の高まりを感知する。

「ハァーーーーッ!」

天津飯が腰だめにかまえていた両手を前に突き出すと、左右の手から気功波が放たれた。

「バカめ! ワタシに気功波は効かん!」

ギュウウウンッ!

20号は振り向きざまに両手を突き出し、天津飯が放った気功波のエネルギーを掌から吸収する。

(かかった!)

ズバッ!

「なにぃ!?」

エネルギーを吸収するために動きが硬直する瞬間。それを狙っていたクリリンの気円斬が、20号の両腕を断ち切った。

「いくらパワーがあってもしょせん貴様は科学者だ! 戦い方は素人だったようだな!」

エネルギーを吸収しているコンマ数秒の間、20号は無防備になる事を見抜いたピッコロの作戦だった。

「ぐうっ、17号! 18号! 戻ってきてワタシを」

「おそいッ!」

バギャァッッ!!

背後から襲いかかったピッコロの強烈なキックで、20号の首が千切れとんだ。

「おのれピッコローーー!!」

宙を舞った20号の頭部が、怒りに血走った目でピッコロをにらみつける。

「ふむ。予想はしていたが、頭だけになっても生きていられるとはな。しぶといもんだな、ドクターゲロさんよ」

「なんだと!? まさか気づいていたのか!?」

「オレの耳は特別製なんでな。

 そもそも貴様の言動には最初から違和感があった。決定的だったのはお前が17号と18号に命令していたことだ。

 戦闘力で勝るあの2体が従っている理由、それは貴様が人造人間たちの生みの親だからだ。そうだろう?」

「ぬぅぅぅぅ……」

「おい人造人間ども! いますぐ戦いをやめて降参しろッ! 降参しなければドクターゲロの命はないぞ!」

ピッコロは人造人間20号ことドクターゲロの頭部を地面から拾い上げ、空へ向かって高々と掲げた。


「人質だと!? あいつら勝手なことを」

ズギャッ!

ピッコロの声に気を取られて動きを止めたベジータを、17号は容赦なく後ろから攻撃。地上めがけて蹴り落とした。

「合わせろ!」

ズババババババッ!  ドドォォオオオンッ!!

2人の人造人間はベジータの落下地点めがけて連続エネルギー弾を叩き込み、ベジータを地上の街もろとも爆砕した。


・・・


「やめろっ! おとなしく降参しないとドクターゲロを本当に殺してしまうぞ!」

「ふふ、人質だってさ。どうする?」

「あいつの命なんて知ったことじゃないよね。きっちり始末してくれればよかったのに」

「まあそういうなよ。話くらいは聞いてやろうぜ」

人造人間17号と18号は、ピッコロの呼びかけに応じて地上へと降り立った。


「ど、どういうつもりだ! 17号! 18号!」

危うくピッコロに握りつぶされそうになっていた20号の頭部が、17号と18号を叱責する。

「べつに。ドクターゲロを助けることよりも、ベジータ殺害の方が優先順位は上だったからな」

「そういうこと。ああ、こっちも片付けとかないとね」

ビッ!

18号が指先から放ったエネルギー波が、地面に転がっていた20号の身体を爆散させた。

「ワ… ワタシの身体が……? 自分たちがなにをしているのかわかっているのか!?」

「お前が持っていた制御コントローラーを敵に使われるわけにはいかないからな。適切な処置だろ?」

17号はニヤニヤと、悪意に満ちた挑発的な笑いをうかべる。

「なにを言っているのだ17号!? じょ、冗談のつもりなのか……!?」

ピッコロたちが制御コントローラーを奪って使うなどということはあり得ない。彼らはその存在自体を知らなかったのだ。

ましてや、制御コントローラーを主人であるドクターゲロの身体ごと吹き飛ばす必要性などどこにもないはずだった。


「なぜかって? お前が言ったんだよな。『ワタシのことはいい。お前たちは確実にベジータを倒すことに専念しろ』だっけ?

 お前の身体を破壊することぐらいどうってことないさ。ドクターゲロを助けろだの守れだのという命令は受けていないからな。

 それに、お前はどうせベジータとピッコロたちを始末できたらオレたちを停止させてしまう。それじゃ面白くない」

「正直さ、また眠らされるなんてまっぴらなんだよね。せっかく外に出てきたんだからもっと色々と遊びたいわけ」

もはや17号と18号の反意は明らかだ。周囲すべてが己の敵だと悟り、20号は顔面蒼白となった。


「バ、バカな!? ワタシは永遠の命を手に入れたはずだ!!

 17号! 18号! いますぐワタシを助け――」

「うるさいな。邪魔するなよ」

ビッ! ドムン!

17号が口封じのために放ったエネルギー波が、ピッコロが掲げ持っていたドクターゲロの頭部を破壊した。

「くっ!」

「さてと、邪魔者が消えたところで戦闘再開といこうか」

「あわわ。ど、どうするんだよピッコロ!」

「万事休すだ。オレたちだけではやつらには勝てん……!」

最大の戦力だったベジータが脱落し、ドクターゲロを人質に人造人間たちを降参させるという作戦も失敗に終わったことで、地球の未来は絶望に包まれた。

まずい流れになったと狼狽するクリリン。だが、ピッコロがあきらめの言葉を口にしたまさにその時、最後の戦士が戦場に到着しようとしていた。


・・・


最初に気づいたのはクリリンだった。

「……! 誰だ? 大きな気がこっちに近づいてくる!」

「悟空? いや違う、あれは……!」

空を見上げた天津飯の身体に震えがはしる!

天津飯の優れた視力は、自分たちを手助けするため自ら死地へと飛び込んでこようとする男の正体をとらえていた。

鳥か!? 飛行機か!? いいやちがう! まったくちがう! あれは! そう、あの男の名前は!!


「ヤムチャさんだ! ヤムチャさんが来てくれたんだーーー!」


シュタッ!

「すまんな。遅くなった。だいたいの事情はブルマから聞いてる」

「なんだヤムチャか。孫悟空だったら面白かったのに、おたがい残念だったな」

「わざわざこんな場所にあらわれるなんて、自殺願望でもあるわけ?」


ドクターゲロから与えられた情報によれば、狼牙風風拳のヤムチャとは有名なかませ犬であり、ヘタレであり、いわゆる雑魚である。

知らないうちにどこかで死んでいたとしても何ら不思議はない男。戦士としてはほぼ完璧にノーマークだった。

それがなぜこのタイミングで出てくるのか、17号と18号にはさっぱり理解できない。


地球からの緊急連絡で人造人間という新たな敵の出現を知ったヤムチャさんは、苦渋の決断で試合を放棄。

人造人間との戦いには間に合わない可能性が高いことを感じつつも、バトルオリンピア出場をあきらめて地球への帰路についたのだ。

ドクターゲロがリベンジを挑んでくるまでの3日間で宇宙船を飛ばしに飛ばし、この局面にぎりぎり間に合ったのである。


「いちおう確認しておくが、話し合いでどうにかする、というわけにはいかないんだよな?」

「話し合う必要なんかないさ。こいつはゲームなんだ。

 オレたちかお前たち、どちらか全滅した方の負け。シンプルで良いだろ?」

「やさしさなんぞ期待するだけ無駄だ。さっき奴らの生みの親であるドクターゲロを人質に取ったが、何のためらいもなく殺されてしまった」

「うーむ、気を感じられないからよく分からんのだが、もしかして超サイヤ人よりも強かったりするのか?」

「いいや、1人1人の力は超サイヤ人になったベジータよりも下だ。もっとも、オレやお前よりもはるかに強いのは確かだがな」

ピッコロの皮肉っぽい言い回しに、ヤムチャさんは苦笑を返した。


「わかった。1人はオレが倒して見せる。後のフォローは頼むぜ」

「倒すだと? いまオレたちを倒すって言ったのか? ヤムチャのくせに?」

(ヤムチャ、お前には無理だ)

ヤムチャさんをバカにした言動をくり返す17号と、ヤムチャさんには一切期待していない天津飯。

彼らは知らない! ヤムチャさんがきびしい修行を乗り越えてきたことを! 新しい必殺技をひっさげてここに来ているという事実を!


「はぁぁぁぁぁ!」

メキメキメキ……! ボンッ! バチバチバチィッ!

ヤムチャさんの全身の筋肉が大きく膨張して、灼熱のかがやきを帯びたオーラがスパークした。

肉体を一時的に活性化させ、内に秘めている潜在パワーを100%引き出す強化系能力『爆肉鋼体(ばくにくこうたい)』だ。

過去にはヤムチャさんの師匠である亀仙人が、異なる次元の未来においてはトランクスという青年が使用した高等技術である。


「こ、これは!?」

急激に高まっていく気の波動を肌で感じて、3人のZ戦士たちは目を見開いた。かつもくせよ! これがヤムチャさんだ!

「むぅぅぅうん!」

ボウッ!

ヤムチャさんの右掌に、膨大なオーラを凝縮した繰気弾が生み出された。


放出系と強化系と操作系、3つの得意系統をうまく組み合わせて最強の必殺技を完成させる。

ハンター世界で心原流念法の奥義を学び、ヤムチャさんがたどりついたのは、とてもシンプルな答えだった。

放出系と操作系の複合技である繰気弾に、強化系のパワーを上乗せする。


『螺旋繰気弾(らせんそうきだん)』


気のコントロールを磨きあげることにより実現した、野球ボール大の圧縮繰気弾。

天空闘技場のライバルたちの協力により習得した爆肉鋼体と、数え切れぬほどに繰り返した投球練習。

それら約1年もの長きにわたる武者修行の集大成。大きく振りかぶったワインドアップモーションから放たれる魂の一球!


「いくぜ! これがオレの新必殺技! マックスパワー螺旋繰気弾(らせんそうきだん)だ!!」


キュゴォウッッ!

ヤムチャさん自身の投球技術と繰気弾に付与された操作能力によって強烈な螺旋回転を加えられた魔球が、超高速のレーザービームとなって17号を襲う。

ボンッ!

ヤムチャさん渾身のジャイロストレートは、とっさに受け止めようとした17号の両掌と胸を貫通して、彼方へと飛び去った。

「え…… 17号?」

事態を飲み込むことができない18号の目の前で、心臓部に大穴をあけられてしまった17号の身体がゆっくりと後ろに倒れていく。

彼の最大の敗因は、ヤムチャさんを侮っていたことだった。

容量の都合からパワーレーダーが搭載されておらず、実戦経験にも乏しかったために、ヤムチャさんの必殺技の危険性を見抜けなかったのだ。

マックスパワー螺旋繰気弾。様々な要素がかみ合った相乗効果により飛躍的に増した攻撃力と貫通力は、超サイヤ人の一撃をも凌駕する。


「あ、あああ、あああぁぁーーー!」

目の前で17号を失い、狂乱した18号がヤムチャさんに襲いかかった。

「くっ」

ヤムチャさんは急いで体勢を整えようとするが、その動きはにぶい。

螺旋繰気弾はとても強力な反面、大量の気を消費してしまう。オーバーアクションゆえに前後の隙も大きい、まさに諸刃の剣なのだ。

「ヤムチャさん!」「やらせるか!」

「お呼びじゃないんだよ! 邪魔をするなっ!」

怒りに燃える18号は、ヤムチャさんのフォローに入ったクリリンとピッコロを一瞬で叩き伏せる。

「死ねヤムチャ! 17号のカタキだ!!」

「真・狼牙風風――」(ダメだ! 迎撃が間に合わない……!)

「新気功砲(しんきこうほう)!」

ズドンッ!

ヤムチャさんの目の前にまで迫った18号を、横殴りの衝撃波が吹き飛ばした。

「サンキュー! 天津飯!」

「ふっ、まさか本当に人造人間を倒してしまうとはな。オレは正直、お前を見直した」

ガラガラガラッ、

吹き飛ばされた際に突っ込んだ建物のがれきを押しのけて、18号が立ち上がる。

「やはり無理か。オレの気功砲ではダメージを与えることはできても致命傷を負わせることはできない。

 ヤムチャ。さっきの技、もう一発いけるか?」

「ああ。けど、あの技は準備するのに時間がかかっちまうんだ」

「まかせろ。時間だったらオレがかせいでみせる」

勝機はある。あとはそれを実現するだけだ。天津飯の目には捨て身の覚悟が宿っていた。

(悲しまないでくれ餃子。無事にお前のもとに戻るという約束、オレは果たせないかもしれん)

憤怒の表情を浮かべて迫りくる人造人間18号に対して、天津飯は全身全霊を持って

「……あ。すまん、もう必要ないみたいだ」

「なんだと?」

ギュアッ!

決死の戦いを覚悟していた天津飯とヤムチャさんの横を、金色の戦士が駆け抜けた。

「どこを見ていやがる! 貴様の相手はこのオレだぁっ!」

ズギャッ!

猛スピードで強引に割り込んできた超ベジータの蹴りで、18号の身体が空中に跳ね上がる。

シャッ! ドゴォッ!

さらにベジータは空中に先回りして、両手を組んでの強烈な打ち下ろしを叩き込んだ。

ズドーン!

生意気な18号を地面にめり込ませると、ベジータは最後の力を振り絞って突きだした右腕にありったけの気を集中させる。

「やばっ! 天津飯! いますぐここから離れるんだ!」

「わかった!」

危険を察知したヤムチャさんは、気を失っているクリリンを背負って大急ぎで退避する。

天津飯も、弱っているピッコロに肩を貸してすぐにその場から逃げ出した。


「くらえ! こいつが(スーパー)ベジータの ビッグ・バン・アタックだ!!」


カッ!!

ベジータの右腕から放たれた巨大な光弾が直撃した18号は、そばにあった17号の遺体もろとも、あとかたもなく消滅した。

あとに残ったのは市街地の半分を消し飛ばしてできた巨大なクレーターだけだ。人造人間たちの全滅により、この戦いは終結した。


「あぶなかったー 派手にやりすぎだろベジータ! これじゃどっちが悪党なのかわかりゃしないぜ!」

「貴様こそ余計なまねしやがって! あいつら2人とも、このオレが粉々にぶっ壊してやる予定だったんだぞ!」

超サイヤ人を維持できないほどに消耗して、普段の黒髪に戻ったベジータがツバを飛ばしながら怒鳴り立てた。

「宇宙からはるばる帰ってきたってのにひでー言い草だな! だいたい敵を倒すのなんて早い者勝ちだろうが!」

「よっぽど死にたいらしいな! こっちへこい! 貴様に引導を渡してやる!」

「やなこった! くやしかったらここまでおいでーだっ!」

「ガキか、お前ら……」

こうしてヤムチャさんとベジータ、天津飯たちZ戦士の活躍により、地球の平和は守られたのだった。

ところで。今回の事件により、修行で他所の惑星にいると地球の危機にすぐ駆けつけられないという大問題が発覚した。

しまった! 瞬間移動を習得しないことには安心して地球をはなれることができないぞ! ヤムチャさんの冒険はここで終わってしまった!


・・・


その後のハンター世界について語ろう。


1999年3月 幻影旅団

ヤムチャさんを捕らえたことで地球その他に関する情報を得た幻影旅団は、超重力修行による戦力強化を実施した。

宇宙は広い。上には上がいる。自分たちが扱っている念能力には、都市を一瞬で消し飛ばし、星をも砕くだけの可能性が秘められている。

その現実を認識するに至ったことで、精神的ブレイクスルーを遂げた幻影旅団の面々は、短期間のうちにメキメキと力をつけていった。


1999年9月 ヨークシンシティ ドリームオークション

ヤムチャさんのおかげで金策に成功したゴンとキルアはグリードアイランドの落札を狙うが、GIの買い占めを行っていた大富豪バッテラにより撃沈。

同じくGIを狙っていたキルアの兄、ミルキと協力して最後の一本を手に入れようと計画するも、大富豪バッテラの資金力にはあと一歩及ばなかった。

2人はゲーム本体を手に入れることこそできなかったものの、ゴンの機転よりGIプレイヤーとして雇われることに成功する。


1999年9月 天空闘技場 バトルオリンピア

優勝候補の一角であったヤムチャさんは「すまんが急用ができた」と戦線離脱。ニコルへの伝言を残して地球へと飛び去った。

きびしい修行をおこない、さらに磨きをかけた新虎咬真拳を武器に参戦したカストロだったが、初戦でぶつかった謎の覆面闘士ミスターエックスに敗退する。

今大会は特別招待選手であるミスターエックスが圧倒的な強さを見せつけ優勝をさらった。その正体はハンター協会のネテロ会長ではないかとうわさされている。


2000年1月 第288期ハンター試験

ヤムチャさんが受験した第287期の4倍近い人数、約1500人もの受験生たちが本試験会場へと集結した。

本来の歴史では今年唯一の合格者となるはずだったキルアは、去年のハンター試験ですでに合格しているため参加していない。

今期合格者の中には、ヤムチャさんの繰気弾を喰らったことで念能力に目覚めたゲレタ&バーボンと、去年は惜しくも不合格となったポックルの姿もあった。


1999年 ~ 2000年 グリードアイランド攻略

ヤムチャさんの指導により原作以上に力をつけていたゴンとキルアは、順調にゲームを攻略していく。

ビスケ・ゴレイヌ・ツェズゲラ・ハンゾーらと協力してゲームマスターであるレイザーに挑むが、ヒソカ不在の穴を埋めることができずレイザーに敗北。

爆弾魔(ボマー)との戦いには勝利したものの、ツェズゲラ組が離脱してしまったため人数が足らなくなり、レイザーに勝つための準備で足止めを喰らっている。


2000年5月 NGL キメラアント編

巨大なグルメアント(キメラアント)の女王がNGL自治国に潜伏。人間を餌として大量繁殖する生物災害(バイオハザード)が発生。

女王を守る直属護衛軍、ネフェルピトーに敗走したプロハンターカイトからの要請により、ネテロ会長ら討伐隊がキメラアントの巣を強襲する。

蟻の女王を守るため巣に集結したキメラアントたちだったが、ネテロ必殺の5倍界王拳『百式観音(ひゃくしきかんのん)』によって全滅させられた。



        クラピカは幻影旅団の情報を求めて裏社会をさまよっている。レオリオは医術と念法を学んで仙豆もどきを具現化した。

       ヤムチャさんに敗れてしまった奇術師ヒソカは、凶悪な宇宙人たちが跳梁跋扈する地獄の世界で楽しい日々を過ごしている。

                死の運命を免れた者たちがいる。生まれ出ることすら許されなかった者たちがいる。

                 良くも悪くも、ヤムチャさんの存在はこの世界の歴史に多大な影響を与えていた。


                              ヤムチャ in H×H END.














***

『でも、クロロと殺り合えないで終わるのが少し残念かな。

 ねェヤムチャ。ボクの代わりにクロロと戦ってみないかい?

 きっと面白いことになる。』

とある奇術師の予言。

***


『終幕 幻影旅団 in DB』

帰ってきたヤムチャさんと超ベジータが活躍した今回の戦いを、人知れず見ていた者たちがいた。

「ありゃ勝てねーわ」

「1000年に一度あらわれるって伝説の超サイヤ人。ふつーに2人目が出てきたじゃねーか」

「ピッコロが殺されるとまずいってんで見にきたけど、とんだ無駄足だったね」

司令塔のクロロ、武闘派のフィンクス、情報担当のシャルナーク。

気配を消して高みの見物をしていたのは、100倍の超重力修行を克服してすでに地球入りしていた幻影旅団の面々だ。


「あいつら想像してた以上に強くなってるよな。オレたちが見てなかった半年間でヤムチャも急成長したみたいだし」

「クリリン、ヤムチャ、天津飯はまだいいとして、ピッコロとベジータはなんか対策しとかないとやばいだろ」

「むしろベジータと戦えてた人造人間ってのがすごいよね。この星の技術水準からみてもあれは異常なレベルでしょ」

ヤムチャさんが披露した新必殺技の威力と、ベジータが覚醒していた超サイヤ人の強さにはすさまじいものがある。

しかしそれ以上に彼らの興味を引いたのは、超サイヤ人に匹敵する力を持つ人造人間と、それを開発した天才科学者ドクターゲロの科学力だった。


その後、ドクターゲロに関する情報を集めた幻影旅団は、北エリアの山岳地帯にある洞窟にて彼の秘密研究所を発見する。

幻影旅団はドクターゲロの遺産である完全機械仕掛けの超戦士「人造人間16号」とその内部に搭載されていた「地球破壊爆弾」を入手。

さらには同研究所の地下に隠されていた「スーパーコンピューター」と、作成途中だった究極の人造人間「セル」をも掌中に収めた。

これにより幻影旅団は、コルトピの能力で複製した使い捨ての人造人間16号を、シャルナークの能力で遠隔操作するという最強コンボを完成させる。


                           「さて、そろそろ始めるとするか」


  絶対の切り札を手に入れたと確信した幻影旅団は、団長であるクロロ=ルシルフルの指揮のもと、Z戦士たちとの戦いに打って出る。

      最後にドラゴンボールが使用されてから1年が経過したその日、ヤムチャさんと人造人間たちの戦いからおよそ4ヶ月後。

              ヤムチャさんたちと幻影旅団によるドラゴンボール争奪戦が幕を開ける。かもしれない。


                                to be continued...



[19647] 劇場版記念 外伝「カストロさんまじカストロ!!」
Name: アズマ◆f6e2fcf0 ID:a6b5affc
Date: 2013/12/19 00:14

天空闘技場の狼虎激突からしばらくたったある日のこと。

『プロハンターとしての君に頼みたい仕事がある。ぜひ力を貸してほしい』

ヤムチャさんは対戦相手だったカストロからの連絡を受けて、天空闘技場のロビーへと足を運んでいた。


「先日はいい試合をさせてもらった。

 あらためて自己紹介をさせてもらうが、

 私はカストロ。君と同じ天空闘技場200階クラスの闘士だ」

「プロハンターのヤムチャだ。身体はもう大丈夫なのか?」

「おかげさまでね。傷は完全に癒えているよ」

カストロは手振りでヤムチャさんに席をすすめると、自らもその対面に腰掛ける。

持参していた高級そうなティーセットを使って2人分の紅茶を注ぎ、その片方をヤムチャさんへと差し出した。


「それで今回の仕事の内容っていうのは?

 悪党退治、危険生物の捕獲、秘境の食材調達、なんでも請け負うぜ」

とてもワクワクした様子のヤムチャさんが、少し前のめりになって口を開いた。

プロハンターとしての営業活動をしていないヤムチャさんにとって、今回が記念すべき初仕事となるのだ。


「ある男を捜してもらいたい。おそらくは君も知っている人物のはずだ」

「ふむふむ」

ヤムチャさんは頷きながら紅茶に口をつけると、依頼達成のための算段を考えはじめる。

(人捜しか。あまり得意な分野じゃないが、ハンター専用サイトを使えば情報は集められるだろ。

 気を探れる相手ならすぐに見つけられそうだが、オレの知り合いといえばジャポンかハンター試験の関係者か?)


「奇術師ヒソカ。対戦相手をことごとく殺害していることから、死神とも呼ばれている男だ」

(……ヒソカか。試合の時にもそんなこといってたっけ)

あやうく殺されかけたヤムチャさんとしては、忘れたくても忘れられない相手である。

「今年のハンター試験を最後に消息を絶ち、戦闘猶予期間を過ぎても姿を見せていない。

 死亡したとの情報もあるが真偽は不明だ。直接連絡をとれるのがベストだが、彼がいまどこで何をしているのかを教えてくれるだけでもいい。

 報酬については――」

「ちょっと待ってくれ。いくつか質問したいことがある」

「――どうかしたのか?」

普通なら最も関心を持つだろう報酬の話をさえぎったヤムチャさんに、カストロは怪訝な表情を浮かべた。


「まず、どうしてオレに依頼しようと思ったんだ?」

「もっとも身近にいて、能力的にも人柄的にも信用できる人物として君を選んだ。

 反応から察するに、やはりヒソカとの面識はあるようだな。今回の依頼には君が適任だろう」

「カストロとヒソカとはその、仲が良かったりしたのか?」

「まさか。私は一度彼に負けていてね、いま捜しているのは過去の再戦の約束を果たすためだ」

カストロからの否定の言葉に、ヤムチャさんはそっと胸をなでおろす。

これで実は血を分けた兄弟ですなどと言われたなら、この場で謝り倒すほかなかっただろう。


「すまんが、この仕事は受けられない。ヒソカはオレが倒したんだ」

ハンター試験でヒソカに襲われたこと。相打ちになる形で殺されかけたが、ゴンとレオリオのおかげで命拾いしたこと。

返り討ちにしたのは正当防衛だったことをアピールしつつ、ヤムチャさんはヒソカがすでに死んでいることをカストロに伝える。

相槌を打ちながら聞いていたカストロは、ヤムチャさんの繰気斬によってヒソカが敗れたことに納得したようだった。


「オレは遺体を確認してないから、どうやってか生き延びている可能性もゼロじゃないけどな」

「……そうか。全力を出したヒソカに勝利して前回の雪辱を果たす。それが当面の目標だったのだが、先を越されてしまったな」

カストロがあまり動揺していないのは、こうした展開も半ば想定していたからだ。

ヤムチャさんほどの達人が同じ会場にいたのだ。戦闘狂であるヒソカが興味を持ち、戦いを挑んだであろうことは予想できた。

そしてヤムチャさんが生きてここにいる以上、ヒソカはその時に敗死してしまっているのではないかと考えるのは、ごく自然な発想だ。


(なんにせよ、ヒソカとの決着の機会は永遠に失われてしまったというわけか)


嫌っていた相手とはいえ、目標としていた人物が手の届かない場所に行ってしまったことに、カストロは一抹の寂しさを感じる。

落ち込んでいる自分を心配してくれているのだろう、どう声をかけようかと頭を悩ませているらしいヤムチャさんの顔を見ると、感謝の念がこみ上げて……?

のろのろと視線をあげて、ヤムチャさんの顔を視界に入れたところでカストロは、はたと重要な事実に気づいてしまった。


( ヒソカ < カストロ ≦ ヤムチャ )

( よ く 考 え て み た ら ヒ ソ カ に こ だ わ る 必 要 は な い の で は な い だ ろ う か ? )


たしかに2年前、まだ念能力に目覚めていなかったカストロは奇術師ヒソカに敗北した。しかしそれも過去の話だ。

念を修めた今の自分なら、間違いなくヒソカにも勝てるとカストロは確信している。

空虚な思いにとらわれかけていたカストロのオーラが力強さを取り戻す。自分が挑戦すべきは過去ではない! いま目の前にいるこの男だ!


「いいだろう! ならばヤムチャ、今日から君は私の目標でありライバルだ!

 後日、改めて私ともう一度勝負してもらいたい!

 ヒソカに勝った君を私が倒す。それが私がヒソカを超えたことの証明となるだろう!!」


ガタッ、ビシィッ!

座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、なにやら強い決意を感じさせるポーズをとったカストロは高らかに宣言する。

雰囲気につられたのか、周囲からパチパチと控えめな拍手が巻き起こった。


・・・


ライバル宣言をしたカストロはすぐさま再戦を申し入れたのだが、ヤムチャさんは公式戦を行うことに難色を示した。

「うーむ、修行の一環として手合わせするんじゃダメか?

 練習試合用の、たしか修練場だっけ、そんな施設もあったよな?」

「……了解した。お願いしているのはこちらのほうだからな。

 ほかにも条件があったら言ってくれ。可能な限り善処しよう」

「いいや、他には特にないぞ」

少しだけ考えてから、ヤムチャさんは首を横に振った。

(公式戦ともなれば大勢の観客の目がある。全力で戦うに当たって、むやみに手の内をさらしたくはないということか)

(オレはともかくカストロはもう2敗してるからな。もうすぐ10勝なんだし、変に邪魔したら悪いよな)

ヤムチャさんがカストロとの公式戦を避けた理由。

カストロは一人合点してしまっていたが、実はヤムチャさんがカストロの戦績悪化に配慮したためというのが真相であった。


・・・


そして現在。200階クラスの闘士に用意された修練場のリングで、カストロとヤムチャさんが対峙していた。

「全力で行かせてもらう!」

「おう! かかってこい!」

2人が纏うオーラは力強く、戦意に満ちている。

ギャラリーもいない練習試合とはいえ、カストロの表情は真剣そのものだ。

ダッ!

(!?)

カストロは早速ヤムチャさんに向かって突撃しようとしたが、奇妙な違和感を覚えてピタリと足を止めた。

(いま、なにか……)

ヤムチャさんが迎撃態勢をとったその瞬間、わずかに周囲の空気が変わったように感じられたのだ。

『凝』

カストロは高めたオーラを目に集めて、ヤムチャさんのことを油断なく観察する。

強化された視界でよく見ると、ヤムチャさんの身体から放射されたオーラが、薄くドーム状に広がっているのが確認できた。

すでにカストロ自身も広がったオーラの中に入り込んでいるが、特に影響を受けた感じはない。カストロの知識にはない念の技術だった。


「前回は使わなかった隠し玉というわけか? 面白い!!」

「こいつを使いこなせるようになったのはつい最近でな。ちょうど試してみたかったところだ」


カストロは意を決してヤムチャさんへと躍りかかった。

オーラを飛ばすといった攻撃方法を持たないカストロは、相手に近づかなくては文字通り手も足も出ない。

ヤムチャさんの能力の正体がなんであろうと、接近する以外に道はないのだ。


(一体どんな能力なのか、戦いの中で見極める!!)


カストロは具現化した『分身(ダブル)』を正面からけしかけると、自らは気配を消してヤムチャさんの死角に潜んだ。

正面から迫る分身に気をとられた相手の隙を突くための布陣。カストロの基本戦法だ。

ヤムチャさんは分身が放ったやや大振りの手刀を回避すると、続いて本体が放った死角からの貫手をすばやく察知。右の裏拳をぶつけて弾き返してみせた。

バシッ!

「その手は食わないぜ」

「見事」

シュババババッ!

リング上をめまぐるしく動きまわる3つの影。放たれた拳打が、蹴撃が交錯する。

お互いに高い技量を持ち、相手の手の内を知っている武道家たちの格闘戦は、不思議と拮抗していた。

カストロが繰り出す4本の腕と4本の脚での連続攻撃を、ヤムチャさんはすべて捌いて見せる。

それはまるで、攻撃の来る場所があらかじめわかっているかのような奇妙な動きだった。

(強い! 体術、念の扱いともに以前よりさらに鋭くなっている……!!)

ヤムチャさんは正面から殴りかかってくる分身の腕に横から手を添えて、突き出された拳の軌道をそらす。

次の瞬間、背後から足元を刈りにきた本体の虎咬拳をわずかに跳躍して避けると、

攻撃をいなされて身体が泳いだ分身に掌底をたたきこみ、その反動を利用した回転蹴りで本体のカストロも吹っ飛ばした。

ズギャッ!

「ぐっ」

「こいつはおまけだ!」

カストロは体勢を立て直そうとするが間に合わない。追撃に放たれた気功波を、再び具現化した分身を盾にして辛くもしのいだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

ここまで数分程度の攻防だったが、能力を全開にして戦っているカストロの息はもう上がっていた。

カストロの『分身(ダブル)』は一時的に戦力が2倍になる強力な能力である代償に、スタミナを普段の倍以上のペースで消耗してしまう。

この欠点にはヤムチャさんも気が付いており、先の攻防ではワザと大きく動き回ることでカストロを振り回し、体力を大きく削ることに成功していた。


「分身の技にこだわりすぎなんじゃないか? 分身を出すのに意識を割いてる分、動きがぎこちなくなってるぜ」

「大きなお世話だ。といいたいところだが、なるほど。空間内の相手の動きを知覚できる能力のようだな」

「正解だ。けっこう神経使うんだぜ、これ」


すでに『円』(気を張ることで周囲の物体を把握する技術)を使いこなしているヤムチャさんに奇襲のたぐいは通用しない。

加えてカストロは念能力を十全に使いこなせておらず、分身の維持に集中力を使ってしまうと動きの質が悪くなるため、2対1であっても対処は可能だ。

心源流念法を学び、戦闘技術にさらに磨きをかけている現在のヤムチャさんから見れば、カストロの『分身(ダブル)』はさして怖い能力ではなかった。


「……いくら死角を突いても無駄というわけだ。本物がどちらかを見分けているのもそれの力かい?」

「ん、本体と分身とは表面上はまったく同じなんだけどな。よくよく探ってみると本体のほうが気の総量、潜在オーラってやつが大きいんだよ」

気を探ることに慣れてるやつなら判別できるから注意したほうがいいぞ、とのヤムチャさんからのアドバイスに頷きながらも、

カストロとしてはそんなことのできる人間がどれほどいるのだろうかとも思う。少なくとも自分の知る限りでは、目の前にいる男一人だけだ。



――それからさらに数分後――


「新狼牙風風拳!」

ヤムチャさんの繰り出した嵐のような高速拳が、カストロを打ちのめし、石畳のリングへと叩き伏せる。

修練場のリングの上。そこには涼しい顔をして立っているヤムチャさんと、うつ伏せに倒れて真っ白に燃え尽きているカストロの姿があった。

南無。


・・・


こうしたやりとりはその後も幾度か繰り返されて、2人は交流を深めていくこととなる。

カストロが厳しい修行を積み、今度こそは勝てると思って挑むたび、ヤムチャさんは高い壁となって彼の前に立ちはだかるのである。

ヤムチャさんという完全無欠なライバルの存在は、カストロの戦闘能力を急速に引き上げていくとともに、

彼の戦闘スタイルをこれまでのバランス型から、格上相手に一矢報いることを目的とした『乾坤一擲』のそれへと変化させていくことになる。


・・・


天空闘技場232階 特設会場

『みなさんお待ちかね! フロアマスターチャレンジマッチの時間がやってまいりました!

 挑戦者のカストロ選手は先日200階クラスで10勝を達成! 今回がフロアマスターへの初挑戦となります!』

「いけーカストロー!」「一発で決めてやれー!」「がんばってー!」

白いマントをたなびかせ、自然体で入場してくるカストロにファンからの熱い声援が送られる。


『そして挑戦を受けるのは天空闘技場が誇る最上位闘士の一人!

 厳正なる抽選の結果選ばれたのは、フロアマスターランキング19位! 疾風のゲハ選手です!!』

続いて入場してきたのは黒装束を着た坊主頭の男だ。服には『風』の一文字がでかでかと刺繍されている。

「「ゲーハ! ゲーハ! ゲーハ! ゲーハ!!」」

観客たちによるゲハコール。

「オラァ! いまハゲって言ったやつ出てこいやぁ!」

「ぎゃはははは!」「いいぞー!」


『ゲハ選手の持ちネタはあいかわらずの鉄板ですねー!

 このやりとりで気合が入ると公言しているゲハ選手ですが、ファンとの交流は勝利をもたらす追い風となるんでしょうか!

 ギャンブルスイッチの結果はカストロ選手がやや優勢の模様! この二人はどんな戦いを見せてくれるのか!』


両者ともに固定ファンのついている人気選手であるため、会場は大きな盛りあがりを見せている。

観客席にはカストロからフロアマスター戦のチケットを贈られて、応援に来ているゴン・キルア・ヤムチャさんらの姿もあった。

「カストロさんがんばれー!」

「よっし! カストロに大金かけてもあんま倍率が下がらない! さすがフロアマスター様だぜ!」

「しっかりやれよー! 油断しなけりゃ勝てる相手だぞー!」


リング上。カストロへの声援を聞いたゲハは、面白くなさそうにフンと鼻を鳴らす。

「大した人気者っぷりだ。初心者狩りで勝ち星を稼いでるような連中とはデキが違うようだな」

「ありがとう。そう言ってもらえると光栄だよ」

「アンタの人気は認めるさ。ここまで勝ち抜いてきた努力も評価しよう。

 けどな、生半可な実力でフロアマスターの地位を得られると思ったら大間違いだ」

両目をつり上げ、闘争心にあふれた野獣のような笑みを浮かべて、ゲハはカストロにメンチを切る。


「悪いが勝たせてもらうぜ。降参するならお早めにだ」

「そうかい? 君では無理だと思うけどな」

「はっ! 言ってろよ。次回の挑戦ではオレより弱いやつに当たるように祈るんだな」


『ポイント&KO制、時間無制限一本勝負! はじめ!』


審判から始まりの合図を受けて、カストロはその場で身構える。

一方のゲハは素早いバックステップで距離をとると、右手の指先にオーラを集中。それを真一文字に横に振るった。

『真空刃斬(かまいたち)』

シュパー!

独特の風切り音を響かせて飛来する風の刃を、カストロは姿勢を低くすることで回避する。


「オレの技についてもちっとは調べてきてるようだが、戦いには相性ってもんがある。

 格闘戦に特化しているアンタは間合いを詰めなければ手も足も出ない。そしてオレはアンタを近寄らせない。

 この試合、アンタは俺に指一本触れることもできず無様に負けるんだよ!」

「なるほど。理に適ったいい作戦だね」


『なんとゲハ選手が自分から作戦を解説するファンサービス!

 それに対してカストロ選手がまさかの称賛! というか作戦をばらすのは結構な負けフラグだと思いますが大丈夫なのか!?

 両選手、距離を取って慎重な立ち上がりを見せます。これは長期戦になりそうだ!』


「さぁ、踊ってもらおうか! 死のダンスをなァ!」

ゲハが腕を振るうたび、研ぎ澄まされた風の刃がカストロに襲い掛かる。

(相手の間合いの外から、風の性質を帯びたオーラを飛ばす技。以前の私であればそれなりに脅威を感じたのだろうが……)

風を武器にしているだけあってスピードはある。視認性の低さも長所といえるだろう。

だが、攻撃の軌道は直線的だし、破壊力も控えめだ。

術者によって操作され、鋼鉄をも真っ二つにするヤムチャさんの繰気斬と比べると明らかに見劣りする。


『えーと、ゲハ選手が飛ばす風の刃をカストロ選手がひたすらよけているのだと思われます!

 観客席にいる我々からはまったく見えない攻防が続く! 見た目が地味すぎるぞなんとかしてくれーーー!!』


「チッ、いつまでもかわし続けられると思うなよ!」

ゲハはオーラを手元に集中しつつ、両手を組み合わせることで『印』を結ぶ。

「喰らっちまいな! 『斬空烈風陣(ざんくうれっぷうじん)』だ!!」

大きく両腕を振るい、一気に複数の風の刃を繰り出すゲハ。

攻撃対象であるカストロの逃げ道をふさぐように配置された風刃、その数16発。


(これは確かに避けきれないな)

カストロはその場で足を止めると、強固なオーラを体の前面に集中展開する。

『堅』

ズババババンッ!

荒れ狂う風刃が石畳のリングを切り裂き、小さなつぶてを飛び散らせる。しかし――

「そよ風だな」

カストロへと殺到した無数の風の刃、そのすべてが、強固な念の鎧を突破できずに雲散霧消した。


「くそっ、これだから強化系は嫌なんだ! なんでもかんでも力技で乗り切ってきやがって!」

徹底したアウトレンジからの攻撃でポイントを稼ぎ、TKO勝ちを狙うという作戦が破綻して、ゲハは思わず悪態をついた。

手数を増やした分、一発一発の威力がやや落ちていたのは事実である。だが、驚くべきはカストロの強化された防御力!

(やべぇな。いつの間にここまでの力を身につけたんだ?

 今のオーラ量と密度はどう見ても上位マスタークラスだ。オレの風刃じゃ太刀打ちできんぞ!)


「様子見は済んだか? ならば本気を出せ。フロアマスターの名が泣くぞ」

「ッ!? まだ全っ然本気じゃねえし!」

『ゲハ選手の必殺技が炸裂するもカストロ選手はまったくの無傷!!

 どうやらピンチに追い込まれたゲハ選手ですが、あの構えは『豪風竜巻斬(ごうふうたつまきざん)』でしょうか!?

 一度喰らったら最後、中から脱出する方法はないと言われるゲハ選手の最終奥義が唸りをあげるか!!』

「させないよ」

カストロの挑発に乗ったゲハが複数の印を結び、さらなる大技を繰り出そうとする数秒間のタメ。

シャッ!

その隙を見逃さず、両足にオーラを集中したカストロがゲハのもとへと疾駆する。

(速い!? 虎咬拳をもらうわけにはいかねぇ!)

カストロの必殺技、虎咬拳が直撃すれば一撃で致命傷となる。

それだけは絶対に避けなければならないという過度の警戒心が、ゲハの判断を鈍らせた。

カストロが選択したのは真正面からの飛び蹴りだ。

「がはッ!?」

白い流星のごとく駆け抜けたカストロの放った最速の一撃が、

拳による攻撃を警戒していたために反応が遅れたゲハの腹部へと突き刺さる。

大きく吹き飛ばされてリングの外、観客席の壁へと激突したゲハに、もはや戦う力は残されていなかった。


「友人が見ているのでね。無様をさらすわけにはいかない」

『決まった~~! ゲハ選手戦闘不能! カストロ選手の勝利です!

 この瞬間、カストロ選手はフロアマスターへの昇格が決定いたしました!!』


無傷のまま勝ち名乗りを受けたカストロは、観客席にいるヤムチャさんへと視線を向ける。

(一足先に上で待っているぞ、ヤムチャ)

(ああ、すぐに追いつくさ)

カストロの勝利を喜び、静かに親指を立ててカストロの勝利を祝福するヤムチャさん。

そのとなりには同じく勝利を喜んでいるゴンと、ギャンブルの配当金をゲットしてとてもまぶしい笑顔ではしゃぐキルアの姿があった。


・・・


「さて、初めてフロアマスタークラスの戦いを見た感想はどうでしたか?」

「とってもすごかったっす!!」

歓声に沸く観客席の一角で、眼鏡をかけた柔和な青年ウイングと、胴着姿の少年ズシが会話をしていた。

一撃必殺を体現したカストロのかっこよさについて興奮気味に語る少年に対し、眼鏡の青年はニコニコと相槌を打っていく。

「では最後に、今日の試合のおさらいをしましょうか。

 まずはカストロ。彼は今回、強化系の基本に忠実に戦っていました」

ウイングが試合内容についての総括を始めると、ズシは真剣な表情で聞き入った。

「肉体を強化して防御を固め、脚力を強化して間合いを詰め、その強化した脚力で一撃を加える。

 攻撃と防御のバランスに優れた強化系らしい戦い方でしたね。必殺技を使うまでもなく圧倒しました」

(カストロさん、すごすぎるっす)

師匠であり心源流の師範代でもあるウイングから手放しで褒められるカストロに、ズシは尊敬の念を抱いた。


「ゲハの武器は風の刃。オーラを風の性質に変化させていましたからおそらく変化系でしょう。

 カストロとの接近戦を嫌い遠距離攻撃に終始しましたが、放出系との相性はいまいちなので威力は控えめでした。

 悪い選手ではないのですが、カストロの方が一枚も二枚も上手でしたね」

ウイングはゲハのことをあまり高く評価していない。全体的に冷静さを欠き、自滅的な行動が目立ったためだ。


「もう一つ。ゲハが使っていたのは『印(イン)』と呼ばれる制約と誓約の一種です。

 両手を特定の法則に従って組み合わせ、技の名前を声に出すことで、比較的簡単に強力な『発』を使用できるようになります」

「それを覚えれば自分もすぐに必殺技が使えるようになるっすか!」

「注意しておきますが、今回ゲハが使っていた『印』という技術。君はまだ手を出してはいけません」

勢い込んで質問を投げかけてくるズシ。ウイングは弟子が誤った道へと進まぬよう、特大サイズの釘をさした。

「押忍(オス)!」

(返事はいいんですけどね)

ズシの表情から完全には納得していないのを見てとったウイングは、厳しい口調でさらに説明を重ねる。

「まだ未熟な術者であっても、『印』を用いれば高度な念能力を使うことができます。

 ですが、強い力を求めて自分の身の丈以上の力を引き出そうとすると、必ずどこかに歪みが生じます。

 まだまだ発展途上である今の段階で小手先の技術に頼ることは、あなたの成長の可能性を潰してしまう」

「師範代……」

「もちろん、専門家の指導を受けた者が適切に使用するのであれば、有用な技術であることは疑いありません。

 それは私の使っている『神字』も同じです。いつかはあなたに教える時が来るでしょう、しかしそれは今ではない」

「押忍!!」

ズシへのお説教を終えたウイングは表情を和らげて、彼を元気づけるために素直な気持ちを言葉にする。

「同年代のゴン君やキルア君に差をつけられてあせる気持ちはわかりますが、ズシにはズシの良さがありますよ。

 今度のバトルオリンピアには私の師匠も来ますから、ぜひあなたを紹介させてください。私の自慢の一番弟子だとね!」

「師範代の師匠っすか! 会えるのが楽しみっす!」



・・・


後日のこと。天空闘技場の修練場に、カストロは一人で佇んでいた。

深く呼吸を整えて精神を安定させると、両手の人差し指と中指をぴんと伸ばし、顔の前で十字に交差させるポーズをとる。

「『分身(トリプル)!』」

ボフッ!

カストロは気合のこもったかけ声とともに念能力を発動する。

どろんと立ち込めた煙が晴れると、そこには3人のカストロが立っていた。

3人のカストロは互いの存在を確かめるように視線を交わすと、必殺の虎咬拳を3人同時に発動させる。

『新虎咬真拳(しんここうしんけん)!!』

その状態を維持すること数十秒。

やがて本体の左側にいたカストロが消滅し、わずかな間をおいて右側にいたカストロも消え失せた。

「かはっ」

中央にいた本体のカストロは苦しそうにうめくと、その場に片膝をついた。

短い時間とはいえ、本体と同等に近い性能の分身体を2体維持しながら虎咬拳を使用したのだ。

本来出せる力の三倍を引き出す暴挙は、カストロの肉体に大きな負担をかけていた。

「――できる。理論上は可能だ」

大きく息を荒げて、鼻から一筋の血を流しながらも、カストロは満足げにつぶやいた。

この新必殺技であれば、圧倒的強者であるヤムチャさんにも届くかもしれない。

『分身(トリプル)』の習得によって生まれた虎咬拳の新たなる可能性、その名は『新虎咬真拳(しんここうしんけん)!!』

必殺の牙をさらに研ぎ澄まし、虎は頂点へと駆け上がる!


……続きません。


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