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[19645] 【習作・ネタ】狙撃手(HUNTERXHUNTERに幽遊白書の刃霧要)
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/06/19 00:49
ズズン・・・。
遙か地方の山奥に場違い過ぎる轟音が響く。
爆発音。
直後に聞こえてくる狂気の嗤い声。
「はッははははははははははははははぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!!!!」
嗤い声の持ち主は2メートルを遥かに超える大男。
「おぉい、ウボォー! 目ンタマまで吹っ飛んでダローが!! 手加減しやがれ脳筋!!」
隣やや後方に控えるチョンマゲの男が叫ぶ。
やり過ぎるなと注意はしているが、言っている本人も神速の抜刀で対する人間達を細切れにしている。
「ったく・・・アイツら今回の目的わかってんのかね・・・?」
「しょーがないね・・・あいつらタダのバトルマニアね・・・」
「あーあ・・・まったく・・・これじゃあ団長に怒られちゃうかもなー」
大暴れする2人組みを、やや離れたところから評している3人。
こちらも手は休まずに虐殺に精を出している。
ただし攻撃は悪魔で首から下だ。
「あっちにもバカが2人いるんだけど・・・」
グラマラスな、鷲ッパナでなければ相当な美人であろう女性が示す方向。
そこには両手をやたらめったら振り回し、群がる人間を塵芥に変えている巨漢がいた。
「はっはっはーー!! 『俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)』!!」
男の5本の指を向けられた二刀流の剣士は、その瞬間にボロ屑のように吹き飛んだ。
その男の背中を守るように陣取っている男もまた両手をグルングルン振り回している。
ただ巨漢が横方向に腕を薙いでいるのに対して、この男は縦方向だ。
「へっへっへ・・・こんぐらいでいいか? 『廻天(リッパー・サイクロトロン)』!」
ドンッ。
男が腕を振り下ろした瞬間、そこには小規模といえどクレーターが出現していた。
 
 
 
***
「ぐぅッ! この悪魔供め!!! 良くも同胞を・・・ッ! 死の報いを受けよ!!」
民族衣装を纏った双剣の戦士が斬りかかってくる。
だが俺は動かない。
特筆すべき念能力が在るでも無いタダの戦士。
俺の『盗賊の極意(スキルハンター)』を使う価値もない。
斬りかかってくる刃を避ける必要すら俺には無い。
なぜなら・・・。
ヒュパン!
空を切り裂く音と同時に、斬りかかってきた男の手に握られていた刀剣がへし折れる。
男が驚きに目を見開くがそれも一瞬だった。
ヒュパン!
再び、この音がした時・・・男の脳天には綺麗に穴が空き、その場に崩れ落ちた。
・・・。
「フッ 相変わらず見事だカナメ・・・ド真ん中だ・・・」
クロロは呟く。
しかし賞賛された本人は遙か遠くだ。
クロロの周りには、同じように額に風穴を開けられた死体がゴロゴロしている。
全ての者はクロロの10メートル以内に近寄る前に死体に変えられていた。
クルタの誇り高き戦士は憎むべき怨敵の首領に近づくことさえ許されずに皆生き絶えたのだった。
 
 
 
***
「はははは!! 本当におもしれぇなコイツら!! 切れるとマジで目が赤くなりやがる! しかも強ェェ!!」
ウボォーギンはまさに、千切っては投げ千切っては投げの大虐殺を嬉々として行っている。
目は爛々と輝き、オモチャで遊ぶ少年のようだ。
「おめぇ・・・だから目は潰すなって言ってんだろぉがよー」
かつてクルタが住んでいた村は既に血の海と化しいる。
だが同胞の血の海を勇ましく駆けて、クルタの戦士は向かってくる。
目を緋色に輝かせ体中にオーラを漲らせ向かってくる。
「ちっ・・・まだ向かってくるとはよ・・・上等だぜ。 ・・・半径4メートル・・・寄らば斬る・・・」
4メートル。
チン・・・。
クルタの戦士が射程圏内に入った瞬間。
クルタの男は上半身と下半身が別れたのだった。
「ケッ こいつらも割とクレイジーな奴らだぜ。 死ぬのがまったく恐くねぇみたいだな」
「へへっ こいつらも大好きなんだろ? 戦うのが・・・よッ!!」
ドゴォ!
同じく、勇敢にも諦めずに立ち向かったクルタの戦士はウボォーの鉄拳を喰らい、首から下が吹き飛んだ。
だが肉片になりつつある男の背後から、もう1人・・・同胞の肉を掻き分けて突っ込んでくる剣士がいた。
「(!? 1人は捨石! 本命は・・・コイツかッ!!)」
既にクルタ剣士の射程圏内。
ウボォーギンの右拳は伸びきっていた。
左で迎撃を試みるがどうにも間に合いそうもない。
「ウボォー!!」
ノブナガの刀も、クルタの男を捉えつつあるが。
「「(間に合わねぇ!!)」」
2人がそう思った瞬間。
ヒュパン!
ナニかが超高速でクルタの刀剣を砕く。
ヒュッ、ヒュヒュパン!
続けて第2第3と迫る超高速の物体。
怨敵の喉元まで迫ったクルタの戦士は、手足と頭部をしとどに打ち抜かれ吹き飛ぶ。
「ぐぅ・・・があ゛ぁぁぁぁ゛ああ゛ぁ゛!!!」
刃が届かなったことに無念の表情を滲ませ、戦士は絶命した。
既にここら一体に、人間は13人しかいない。
今しがた生き絶えたクルタ族が14人目の人間だったのだ。
かつて人間であった肉ならそこら中に転がっているが。
「ふぅ~・・・今のはちょいと危なかったな・・・」
「ったくよぉ・・・気ぃ抜いてんじゃねーぞウボォー」
納刀しつつノブナガは安堵の表情を浮かべる。
「気が抜けているのは2人共よ! まったく・・・なに殺られそうになってるのよ」
手厳しい言葉にノブナガは顔をしかめる。
「けどよーパク・・・あれは明らかにウボォーの油断だろぉ?」
「な、なんだとう! 俺は油断してねー!! あれは・・・あれだ! 情けだ情け! 一太刀ぐらい浴びてやんねーと可哀想だろ!?」
ウボォーギンの言葉にいつの間にか隣にやってきた小柄の男が口を開く。
「はは♪ あのオーラ量じゃウボォーの体でもバサりだたね♪ お情けで首斬られてやるなんて寛大通り越してタダのバカね」
「バカだな」
「つかバカだな」
「脳筋」
「アホ」
「ぬぐ・・・・・・ッッ!!」
フェイタンに続き、フランクリン、フィンクス、パクノダ、シャルナーク・・・である。
血と肉片だらけの集落の広場に、自然と集まっていた。
「ったく・・・カナメに感謝するんだね・・・貸1だよ、これは」
「あ゛ぁ゛!? 確かにカナメには貸1だが、それでなんでマチが誇らしげなんだよ!?」
皆に言い返せなかった鬱憤をマチにぶつけるウボォー。
「あら・・・さすがに脳筋ねウボォー・・・気づきそうなものだけど・・・」
「はっ?」
パクノダの言葉に目が点になる巨漢。 それと同時にマチも慌て始める。
「な、なに言ってるんだいパク!? ウボォーもだよ! 誇らしげになんかしてないだろ!」
「別に今更って感じだけどね」
「見ててイライラすんな・・・ストロベリーは」
「フィンクスのはただのヤッカミだろ?」
「やっかんでねー!」
「ところで、その話題のカナメと団長は?」
「おいおい、自分でフッておいて打ち切んのかよパク」
思わずフランクリンがツッコミを入れる。
「団長とカナメは南から、俺らが追い立てたクルタを狩ってたから、もうすぐ来るんじゃ・・・お、噂をすれば」
皆、シャルの視線の先を見る。
そこには黒髪の男が2人・・・こちらにゆっくり歩いてくるのが見えた。
悪魔的な空気を醸し出し、そこからは強烈なカリスマが感じられる。
黒のコートを被り、髪をオールバックにしている。
額には十字の刺青。
幻影旅団団長、クロロ=ルシルフル。
その隣に付き従う、幽鬼のように不確でどこか儚ささせ感じさせる青年。
非常に寡黙で、淡麗な容姿を持った黒髪の青年の名をカナメ=ハギリといった。
幼い頃からの付き合いである旅団メンバーですら、彼の言葉は日に一言二言しか聞けない。
決して自己主張せず淡々としている彼だが、何故か気づいた時には副団長のようなポジションになっていた。
「やれやれ・・・追い立てるために暴れろ・・・とは言ったが・・・・・・少々やり過ぎだ・・・お前ら」
クロロは溜め息を吐くと、いたずらをした子供をたしなめるように呟く。
だがその口調からは、非難するような意思は感じられない。
団員達もどこ吹く風だ。
「ふぅ・・・まぁいい。 では緋の目の回収といこうか」
団長命令に、団員達が「うーい」と気の抜けた返事をする。
 
 
 
***
幻影旅団・・・。
世界で最も恐れられる犯罪集団の1つ。
ルクソ地方の山奥は、その幻影旅団に襲われ阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
無残な死体がゴロゴロ転がっており、その死体の眼球を旅団員が抉り出している。
惨劇の原因はルクソの山奥に隠れ住むクルタ族。
世界的に希少な民族であるクルタの瞳は、感情が昂ると恐ろしく美しい緋色に変化する。
世界7大美色の1つである緋の目は、コレクター間で目を張るような高額で取引される。
故の惨劇である。
クルタは勇敢な戦士でもある。
また一族特有の緋の目によって爆発的な力を発揮する。
超人集団といえる幻影旅団にとっても大仕事といえた。
戦闘民族がまるまる相手である。
少数民族といえど、かなりの数だ。
本当に骨が折れた。
とはいえ団員達の殆どがこの大仕事を楽しんでいたのだが。
しかし採算的にはこの大仕事はそこまで大成功・・・ということにはならなかった。
クルタ族は強かった。
それは旅団員が手加減できなかった程の強さだったのだ。
結果、死体の破損が大きくなってしまった。
回収できた緋の目、348対。
その内、闇市場が「商品価値アリ」と判断した緋の目は、たったの36対。
しかしこの結果でもクロロは特に不満は無かった。
クロロはこの緋の目の美しさが大相気に入ったからだ。
幻影旅団が一同に会した大仕事、「クルタ狩り」は終焉した。
こうしてクルタは滅んだ。
たった1人の生存者を残して。
 
 
 
***
任務完了・・・。
面倒事は好きではなかったが団長命令とあらば確実に遂行する・・・。
群れるのは嫌いだったが、コイツらと居るのはガキの頃から妙に居心地が良かった。
クルタの大掃除も団長命令と仲間達の尻拭い故に参加した。
・・・俺はガキの時分にゴミ溜めの中で目を覚ました。
記憶は無かった。
ゴミ溜めに居る理由も分からなかった。
なぜか自分が子供であることにも違和感を感じたが、それ以上にこの世界そのものに激しい違和感を感じた。
「ここ」は本当に俺の居るべき世界なのだろうか、と・・・。
暫くゴミ溜めをさ迷ったが、見える景色は全てゴミだ。
大小様々なゴミ・・・何らかの生物の死体もある。 当然人間の死体も。
人間の死体を見ても少しも心は乱れなかった。
中には明らかに兵器の類も捨ててあった。 ミサイルなんて初めて見たな・・・。
自分の足元に転がっているモノ・・・銃・・・。
狙撃銃・・・というやつか。
・・・。
狙撃・・・。
・・・。
・・・・・・。
狙撃・・・か・・・。
・・・・・・。
あぁ・・・。
そうか・・・そうだった・・・。
その時、俺は思い出したのだ。
自分が何者か・・・。
『刃霧要』。
それが俺の名。
そして自分の能力、『狙撃手(スナイパー)』。
俺は・・・この力で『あの人』に協力した。
暇つぶしが主な理由だったが・・・ほんの少しだけ・・・俺はこの世界が壊れればいいと思う感情を持っていた。
この下らない世界・・・どいつもこいつも卑屈な面をしてやがる・・・。
そしてアイツと戦った・・・。
浦飯幽助。
俺はアイツを追い詰めていた。
純粋な戦闘力では俺はアイツの足元に及ばなかった。
しかし圧倒的に優勢だったのだ・・・。
非力な人間が猛獣を仕留めることができるように・・・。
肉体の強さだけが勝敗を決めることはない。
俺は浦飯を『ハント』していたのだ。
止めを刺そうとしたその時・・・背後から突然、俺の胸を何かが「通って」きた。
それは刀。
それを確認した瞬間・・・俺は自らが死んだと思った。
こんなつまらぬ世界になど未練は無かった。
死への恐怖は無かった。
しかし。
俺は助かった。
医師(ドクター)神谷によって一命を取り留めた俺は、仙水さんの敗北を悟った。
事実、その後・・・仙水さんを見ることは無かった。
その後は、適当に気に入らない奴を狩ったりしていた。
手に入った金は、親に送っておいた。
腐り・・・壊れていた俺だが・・・親には感謝していた。
例え無意味だったとしても・・・『俺』という存在を生み落してくれた人だから。
確か・・・5年間は似たようなことをしていたと思うが・・・。
その後の記憶がぷっつり無い。
なぜ俺は子供になっているのか。
なぜ俺はゴミ溜めにいたのか。
分からないことだらけだが。
どうでもいい。
生きているなら・・・生きるだけだ。
だから俺は・・・今もこうして生きている。
この世界は俺の知る世界ではない。
しかし・・・ココこそが・・・『俺のいるべき世界』なのかもしれない。
ここには俺と同じような力を持った奴が多くいる。
この世界では力のことを『念』と呼ぶらしい。
こちらに来てから、俺の能力は格段に強くなった。
『念』という概念が在るためかどうかは分からなったが、俺の肉体と共に『狙撃手(スナイパー)』も鍛えることができた。
今では俺のテリトリーは半径およそ1キロメートル程度・・・。
『死紋十字斑』も1キロメートル以内ならば自動追尾できる。
俺がこの世界で目覚めてから10年が経った。
俺はこの世界で今も生きている・・・。
異臭漂うゴミの掃き溜めで・・・這いずり回りながら日々を生きていた時出会った仲間達と共に。
この世界では暇を潰す必要もない・・・。
この世界は・・・以前に比べてずっと・・・・・・ずっと『面白い』のだ・・・。
世界は・・・この先も俺を受け入れてくれるだろう・・・。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第2話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/06/25 03:49
某月某日・本拠地(ホーム)。
クロロの収集を受けて4人の旅団員が集まっている。
シャルナーク、パクノダ、マチ、そしてカナメである。
皆、沈黙し団長の発言を待つ。
読んでいた本を閉じて立ち上がり、おもむろに4人を見渡す。
「・・・・・・8番が殺られた」
クロロの発言に4人は顔を見合わせる。
「へー 8番がねぇ・・・・・・・・・そんなに弱くは無かったはずだけどね」
「情けないね・・・蜘蛛って自覚に欠けてたんじゃないのかい?」
シャルは事も無げな感想を、マチは辛辣な意見をそれぞれ口にする。
「団長は8番が誰に殺られたのか目星は付けているんですか?」
パクの質問にクロロは数拍、間を置いて答える。
「ああ・・・・・・『ゾルディック家』だ」
「「「!!」」」
「・・・・・・ゾルディック・・・・・・か」
衝撃の相手の名を告げられ、初めてカナメが発言する。
しかしその表情は相変わらず微動だにしない。
もっとも自分の胸を刀で貫かれても眉一つ動かさない男である。
この程度では微動だにしないのも当然か。
「ゾルディックとはね・・・厄介な奴に狙われてるね・・・」
マチは親指の爪を軽く噛む。
表情は軽くない。
「あの一族は敵に回したくないなぁ・・・」
シャルも顔を顰める。
「・・・・・・狩る・・・か?」
カナメとてゾルディックの評判は知っている。
しかしカナメは「殺れ」言われれば「殺る」人間だ。
カナメの能力とこの人格は旅団の敵対者に一切の慈悲を許さなかった。
「・・・動じなさ過ぎよカナメは・・・昔っからあなたの表情が変わるの見たことないんだけど・・・」
パクは『ゾルディックに狙われている』という事実より、カナメ=ハギリの態度の方に溜め息をつく。
この男は、例え相手が圧倒的に強者であろうと淡々と「狩る」のだ。
格下であろうと格上であろうとカナメは「狩る」。
カナメの前では誰であろうと平等なのだろう。
その精神、思考こそが刃霧要の恐ろしさだ。
「フッ・・・お前ならそう言うと思ったが・・・しかし残念ながら今回はゾルディックの相手はしない」
クロロの言葉にカナメは軽く「そうか」とだけ呟くと、再び沈黙してしまう。
「なんだい・・・蜘蛛が泣き寝入りしようってのかい団長? カナメならゾルディックだって殺れるよ」
マチはムクれっ面で抗議の声をあげる。
蜘蛛だけでは無く、殺られたら31倍にしてやり返す・・・というスタンスは流星街の者ならば誰しもが身に付けている。
それに例え『あの』ゾルディック家が相手だろうと、この冷静沈着な狙撃手ならば撃ち殺してしまうに違いない。
マチはそう確信していた。
「ここでカナメがゾルディック家の者を殺ってしまえば全面戦争になる・・・それは得策ではない・・・・・・それに8番は勝手が過ぎた。
いずれこうなることは予想できた・・・ようは自業自得だ。 俺達が報復に出る程でもないだろう?」
クロロは僅かに笑みを浮かべている。
ひょっとしたらクロロ自らが、8番の処分を考え始めていたのかもしれない。
「・・・報復が無いのなら何で集められたのかなオレ達?」
シャルの疑問も尤もである。
「マチは各団員に8番の死亡を伝えろ・・・カナメ、シャル、パクは代わりになりそうな団員を探せ」
シャルの疑問に簡潔に答えるとクロロはそのまま出口に向かって歩き出す。
「だんちょー 次のお帰りはー?」
「お前らが、代わりを見つけた時・・・だ」
振り返らず、そう言うと彼はそのまま姿を消した。
 
 
 
***
「うーん 代わりを見つけろって言ってもなぁ・・・」
旅団一の頭脳派が頭を捻っている。
「団長が私達に人選を任せるなんて、珍しいこともあったもんね」
パクノダの言う通り。
今まで旅団に欠員がでた時は、団員を殺した者が入団の意思をみせる・・・または、団長が補充を見つける。
そのルールでやってきたのだ。
「珍しい本でも見つけたんじゃないのかい? 大好きだからね・・・本」
「本を読むのに大忙しって? ・・・・・・そういえばさっき団長が読んでた本・・・ボーボボの新刊だったような・・・」
マチの言葉にパクノダは顎に指を置き、眉根を寄せる。
「まぁとにかくやってみますか。 っぽい奴見つけたりしたら各自連絡を取り合いましょうってことで」
4人はシャルのその言葉で自然と散っていった。
・・・と、思われたがマチだけはカナメに付いてきたようだった。
歩き出して10分もたった頃、マチが口を開いた。
「カナメ」
青年は両の手をポケットに突っ込んだままゆっくりと振り返る。
「・・・・・・・・・」
相も変わらずの無言。
「・・・カナメは心当たりとか在るのかい?」
マチが心配そうな顔で覗いてくる。
「・・・馬鹿にするな 心当たりはあるさ・・・」
呟くように告げるとカナメは携帯を取り出す。
ピッピッ・・・。
そしてどこぞに掛け始める。
トゥルルルル・・・。
ガチャ。
「・・・・・・久しぶりだな・・・カイト・・・・・・」
カナメは連れ立っているマチを放ったまま話し始めてしまった。(尤もマチが勝手に付いてきたのだが)
・・・。
カイト・・・。
初めて聞く名前だ・・・。
女の名前ではない・・・。
・・・・・・・・・別に女だったらどうこうするわけじゃないが・・・。
しかし・・・カナメとは幼い頃からずっと一緒にいるのだ。
付き合いは長い。
寡黙な男だが、カナメが何を考えているか・・・とかは何となく分かるつもりだ。
何でも知ってると思っていた。
なのに今、カナメの口からは聞き慣れない男の名前が飛び出し・・・そして私を置き去りにして話し込んでいる。
・・・・・・。
面白くない。
何故だか分からないが、とにかく面白くない。
寧ろ不愉快だ。
「・・・ねぇカナメ」
クイックイッ。
カナメの服の裾を引っ張る。
「・・・・・・そうか・・・幻獣ハンターなんてモノ好きなことだ・・・・・・あぁ・・・あぁ」
・・・。
構わずカナメは電話を続ける。
・・・。
・・・・・・。
「・・・なぁカナメったら・・・おい」
グイーッグイーッ。
今度はかなり強めに引っ張る。
服が伸びてビロビロになってしまうんじゃないか、という程強く引っ張る。
「・・・そうか・・・いや、無理を言ってすまなかったな・・・・・・じゃあな」
ピッ。
通話は終了した。
「・・・何のつもりだマチ・・・邪魔だったぞ・・・すごくな」
携帯を閉まったカナメはマチを軽く睨む。
本当に軽くだが、もともと鋭い目をしたカナメだ。
耐性の無い人間が睨まれたら一溜まりもない。
「・・・カイトって誰だい・・・」
マチは自分でも理解し難い怒りを込めてカナメに質問する。
マチ自身でも処理出来ていない怒りの理由を、ましてやカナメが理解出来るわけがなかった。
「・・・・・・お前には関係無いことだ」
カナメの冷たい一言。
これは別に、マチに電話の相手を知られたくないとか・・・そういう理由ではないのだろう。
恐らく本当に、関係が無いのだろう。
それが分かっていてもマチは感情を抑えられなかった。
「・・・なんだいその言い方・・・電話の相手・・・旅団に勧誘しようとしていたんじゃないのかい? だったらその時点で私にも関係があるだろう・・・!」
ズオォッ・・・!
ついオーラを漲らせてしまう。
カナメの一言に、カチンッときてしまった。
・・・我ながら幼い反応だと思うが・・・抑えられなかった。
なぜ自分はガキみたいにムキになっているのだろう・・・。
なぜオーラでカナメを威嚇するような真似を・・・・・・自分でも分からない・・・。
私の反応を見てカナメは戸惑っているようだった。
カナメから見れば、私は・・・『いきなり勝手にキレだした』と見えているのだろう。
言い返せない・・・。
だって本当に私でもわかんないんだ・・・。
でもキレるのを抑えられなかった。
「・・・・・・マチ・・・団員同士のマジギレは法度だ」
カナメは1つのコインを取り出す。
それは蜘蛛のエンブレムが刻まれたコイン。
団員同士の揉め事は、このコイントスで決められる。
ピンッ・・・パシッ。
「裏」
「・・・表」
コインは蜘蛛を太陽光に晒している。
表だ。
私は賭けに負けた。
この結果は何があろうと覆らない・・・。
これで私は『カイト』とは何者なのかを聞く権利を失ったわけだ。
・・・ふん。
別に私には関係ないね・・・。
カイトなんて野郎はさ・・・。
・・・・・・。
男・・・だよね・・・?
いや別に女でもいいんだけどね。
・・・。
・・・・・・。
なんだこれは・・・。
女かもしれない、と思ってみたら・・・。
すごいムカツイてきた。
今日の私はどうかしてるね。 ホント。
今日はさっさと帰って寝よう・・・。
 
 
 
***
1週間後。
カナメの隣にはメガネを掛けた少女が立っていた。
1週間前と同じメンツが集まったホームで、クロロはおもむろに話しだす。
「コイツの名はシズク・・・カナメの推薦だ。 今日から『8番』になる・・・・・・ カナメ・・・お前の推薦だ。 暫くはお前が面倒を見てやれ」
各団員に伝言しておくように。
最後に、私にそう命令して団長は再び姿を消した。
「へー どこで見つけたんだカナメ? ま、うまくやりなねー」
「・・・無用なイザコザが起きなければいいんだけど・・・無理そうね・・・どうやらお姫様がご機嫌斜めよカナメ?」
シャルとパクは勝手なことをほざきながら去っていった。
残っているのは私とカナメと・・・旅団の新8番。
「・・・えーと・・・こんにちわ」
ペコ。
メガネを掛けた黒髪の少女がお辞儀する。
その瞬間、豊かな胸が揺れる・・・・・・私だって別に小さかないけどね・・・ふん。
カナメは相変わらず無表情でこちらを興味なさげに見ている。
今日も私のわけのわからない怒りは、私の脳内を駆け巡っていた。
疲れる1日になりそうだ・・・。
はぁ。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第3話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/06/27 04:07
「で、アンタは何してンだい?」
マチの視線の先には黒縁メガネの少女がいる。
タダの視線ではない。
鋭い。
「・・・・・・お話してるだけだけど?」
そんな視線もなんのその。
黒髪の天然少女には効かない。
「そんなのは見りゃ分かるよ 私が言いたいのは『近過ぎる』んじゃないのかってこと」
口調は比較的、落ち着いているように聞こえる。
だが鋭い。 視線が。
「・・・・・・」
すすす。
シズクは黙ったまま、右隣に座っている男にさらに擦り寄る。
「・・・・・・」
ミシッ。
何かが軋むような音をたてた。
「話ならウボォーとかフランクリンとしなよ アイツら意外と話好きだから。 なんならアタシが相手になってやるよ・・・カナメは無口だからツマンないだろ?」
「おもしろいよ」
シズクの速攻の返し。
その反応の速さは0.1秒を切っているかもしれない。
空気が凍てつく。
今、1人の男を挟んでマチとシズクのせめぎ合いが行われていた。
だが挟まれている男は平然と本を読んでいる。
コンクリートや鉄筋が剥き出され、廃材等が乱雑に放置された部屋に危険なオーラが充満していた。
「・・・あの2人またやってるのかよ・・・・・・ったくよーー 良く飽きねーな」
溜め息をつきながらフィンクスが頭を掻く。
「しかしシズクもカナメによく懐いてるよな」
「本当だよね ペットに懐かれるってあんな感じなのかな?」
「仕方ないね カナメが世話役だたからね。 ・・・・・・カナメも災難ね」
フィンクスの感想にノンキに乗ってくるシャルとフェイタン。
確かに刃霧要はシズクが入団してからというもの何かと世話を焼いていた。
時には、あの無口でぶっきら坊なカナメとは思えない程シズクを気遣っていた。
別に惚れた腫れたでは無い。
その理由は至極簡単。
『団長が面倒を見ろと言った』からである。
その結果、カナメは手厚い世話を焼き・・・コレである。
シズクは大層、カナメに懐いてしまった。
そして発生したのがこの軋轢。
まぁ必然とも言えるだろう。
仕事やそれ以外でもしょっちゅう見られる光景。
他の旅団員達もいい加減見慣れた。
1999年8月31日(火) ヨークシンシティ。
その一角にそびえる廃ビルに幻影旅団は集まっていた。
「まぁあの辺はほっとこーぜ。 しかし幻影旅団が全員集合とはな・・・・・・何年振りだっけか?」
ウボォーが嬉しそうに喋りだす。
「あーその話しはウチらもしたぜ 3年2ヶ月振りだな まぁ4番と8番は入れ替わってるけどよ」
ノブナガも嬉しそうだ。
全員集合する程だ。
しかもここはヨークシン。
明日はマフィア開催のドリームオークションときた。
期待しない人間などこの幻影旅団にはいない。
「何を盗むのかしらね・・・やっぱり書籍全般かしら?」
「いやーやっぱりグリードアイランドでしょ! あれ興味あったんだよねー 盗ったら是非やってみたいなぁ」
久々に集合し大仕事を前にして、皆実に楽しそうだ。
こうして祭りの前夜は更けていった。
 
 
 
***
「全部だ。 地下競売のお宝・・・丸ごとかっさらう」
クロロの衝撃発言から始まった地獄の宴。
意気揚々と金庫を襲ったものの、そこにお宝は無かった。
どうやらマフィアお抱えの念能力者が移動させたようだった。
「わーあ 団体さんのお着きだ♪」
「へっへっへ 手を出すなよお前ら。 いいよなカナメ?」
我慢出来ないといった様子で目を輝かせているウボォーギン。
そのウボォーに、カナメはコクリと頷き一つで返す。
鬼が蟻の群れに放たれた。
つまらない殺戮ショーの始まりだ。
「何で時間潰す? 数だけは結構いるぜーアイツら・・・」
「じゃーん」
うんざりした様子のフランクリンに対して、シャルナークは待ってましたとばかりに遊具を取り出す。
由緒正しき偉大な遊具・・・トランプである。
「ほぉー? 負けねぇぞ?」
「私もやろうかな」
「へぇ・・・じゃあコテンパンにしてあげるよシズク」
フランクリン、シズク、マチの参加が決定した。
「カナメ達はどうする?」
一緒にやろうよ!
シャルナークの目はそう語っていた。
「パス」
「下らないね」
「・・・・・・」
残念ながら取り付く島もなかった。
カナメに至ってはシカトである。
早くも観戦に集中していた。
「ちぇっ・・・ しょーがない・・・4人でダウトでもしよーか?」
カナメの不参加に若干、残念そうなマチとシズク。
しかしムサい大男が虫けらを踏み潰すショーなんぞ見たくもなかった2人はダウトに興じる。
「どー観るねカナメ?」
フェイタンがくつろぎながら尋ねる。
しかし返答はノブナガから返ってきた。
「ゴリラ対アリだな 勝負にならんぜ」
「・・・そんな事分かてるよ 何分で片付くかという意味ね・・・ しかもお前には聞いてないね」
「まぁ20分ってとこじゃねぇか? 数多いし」
「だからお前には聞いてないね」
2人の会話を後ろに聞きながらカナメは観戦している。
ウボォーは相変わらず強い。
単純に強い。
今しがた片手でバズーカを止めた。
ウボォーは堅すら使っていなかった。
ただの纏だ。
自分ならば・・・硬まで行かないだろうが、堅は必要だろう。
纏ならば死にはしないだろうが軽くはない怪我を負っているに違いない。
・・・。
眼下の戦場に変化が生じた。
新手の敵。
「・・・あれが陰獣か・・・結構いいオーラしてんな」
そう言うノブナガの顔はにやけている。
一目で格下との認定をしたようだ。
他の団員も同様の反応。
旅団は強い。
在籍している者は皆、圧倒的な実力を有している。
しかし、だからこそ旅団は常に油断していた。
尤も、それもしょうが無いことなのかもしれない。
ほぼ頂点にいるからこその怠慢。
挑戦することなど殆ど無く、寧ろされる側。
命の遣り取り・・・といったレベルの戦いなどクルタ狩り以来ほぼ無い。
油断・・・怠慢・・・そして悪戯心。
旅団内には、その空気が満ちていた。
「あ ウボォーの肩の肉、持ってかれてる」
「毛や歯で鋼鉄を誇るウボォーギンの肉を裂くとは」
「かなり鍛えられた念能力者だ やるよあいつら」
手伝おうかー、というシャルの提案も一蹴。
ウボォーは毒で動けない状況だったが・・・結局、陰獣を圧倒した。
油断し切っていてもコレだ。
旅団が弛むの仕方ないのかもしれない。
しかし。
ジャラ・・・。
シャルやシズクと遣り取りしていたウボォーギンの体に、いつの間にか鎖が絡まる。
ギュン!
「うおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉーーー!!!???」
そして・・・猛烈な勢いでウボォーを引っ張っていく。
すかさずマチが念糸を刺そうとした・・・が。
ヒュパ!
それより速く・・・鎖すらも追い越して石のつぶてが超高速で飛んだ。
行き着く先は鎖の根元。
『狙撃手(スナイパー)』の能力を持つカナメにしか見えず、攻撃出来ぬ距離にいる敵。
敵の乗った乗用車にカナメの弾丸が襲いかかる。
ガンッ! ガガガガンッ!!
ドゴォォン!
瞬間にして車は蜂の巣になり爆破炎上。
ドサッ。
「イテッ!」
ウボォーが落下する。
「・・・さすがだね・・・カナメ」
マチがやや悔しそうに・・・しかしそれ以上に嬉しそうに呟く。
「敵さんはアチラか! 舐めたマネしやがって! ぶった切ってやるぜ!!」
いつも以上に興奮したノブナガがいきり立つ。
煌々と燃え盛る車を目指し、駆ける蜘蛛達。
しかし。
「・・・誰もいねぇか・・・逃げられたみたいだな やっぱ残りの陰獣か?」
ドガガガガガガッ!
燃える車両にさらに念弾を叩き込むフランクリン。
車はもはや小さな破片になってしまっていた。
「・・・しかし結構な使い手っぽかったな・・・なかなか速かった・・・やっぱり大仕事になりそうだなぁこれは」
ノブナガが不敵に笑う。
その時、丁度シズクに毒を吸い出されたウボォーが到着した。
「ちくしょー! 何モンだあの鎖使い・・・ヒヤッとしたぜ・・・・・・毒で動けねーとはいえ油断したな」
その言葉にマチはニヤリとする。
「これでカナメに貸だね いつぞやの貸と合わせて貸2だね♪」
マチは上機嫌だ。
「あ゛ぁ゛!? ・・・ちっ! まぁ今回は言い返さないでいてやるよ! ・・・すまねぇカナメ・・・借りは返すからよ・・・・・・
しかし悪いけどなぁ・・・鎖野郎とは俺が決着をつける! オメーら見つけても手出しすんなよ!!」
獣が吠える。
目に怒りと喜びの色を宿らせて。
「あーあ ウボォー本気になたね・・・鎖野郎も気の毒ね」
宴はまだまだ始まったばかりだ。
夜は長い。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第4話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/07/03 02:42
現在位置、仮宿(アジト)。
そこで旅団は祝杯を上げていた。
「「「「「かんぱーい!」」」」」
旅団員達が思い思いに酒を飲み語らい寛いでいる。
だがその中で1人浮かない顔をした男がいた。
ウボォーギンである。
「どうしたウボォー! シラけた面ぁしやがって! 飲めよ! オークションのお宝全部頂けたんだぜ!?」
長年の相棒であるノブナガがかんらかんらと笑いながら寄ってくる。
確かに当初の目的は果たせた。
陰獣も全滅させたし、その中にいた運搬役の梟なる男も宝と能力を奪って放逐した。
だが陰獣の中に『鎖野郎』はいなかった。
鎖野郎に一瞬とはいえ肝を冷やされたのだ。
その礼はしておきたかった。
「・・・鎖野郎か・・・?」
ノブナガは察したようだった。
いや、恐らく最初から理解していたのだろう。
「・・・あぁ・・・奴は陰獣じゃなかった・・・くそ! 鎖野郎の面をぶん殴るのが楽しみだったのによ!!」
ドゴン!
ウボォーが地面に八つ当たる。
その瞬間仮宿がいささか揺れた。
「おい 揺らすなよ ビールがこぼれたじゃねーか!」
フランクリンが抗議する。
しかしウボォーの耳には届いていない。
「あーくそ! やっぱ駄目だ!! 団長! 俺に鎖野郎を殺らせてクレ! 頼む!!!」
勢い良く立ち上がりながらウボォーはクロロに嘆願する。
コルトピ、パクノダらと飲み交わしていた杯を置き、クロロはウボォーを見据える。
「・・・目的は達成したんだ・・・明日の朝にヨークシンを離れる これは決定事項だ」
その言葉にウボォーは悔しそうに顔を歪め俯く。
だがクロロが、その後に紡いだ言葉に一転する。
「だが明日の朝までに片付けられるのならば構わんさ 行って来い」
顔を見る見るうちに輝かせるウボォー。
無邪気な子供のようにはしゃぎだす。
「だ、団長ぉぉ~~! ありがてぇ! じゃあ早速行ってくるぜ!!」
早速ビールの束を抱えて飛び出そうとする。
「鎖野郎がどんな奴か分かっているのか?」
「あ」
・・・。
・・・・・・。
やはり強化系は単純バカが多い。
ヒソカは確信した。
「はぁ~ そんなことだろうと思ったよウボォー・・・俺とパクが調べておいたよ」
ホイ。
シャルがウボォーに資料を渡す。
その紙面には数名の人物の情報が記載されていた。
「お! おぉ~恩に着るぜシャル、パク! どれどれ・・・・・・ノストラードファミリー? ここに鎖野郎がいんのか?」
「まぁほぼ確定だと思うよ? そこのボスの娘のボディーガードはみんな念使いらしいからさ。 パクが調べたから間違いない」
確かに陰獣が全滅した今、ヨークシンにいるマフィア側の念使いとなると相当限定されてくる。
記載されている奴らが仮に全て念能力者だとすれば、その中に鎖野郎がいる可能性は高い。
「よっしゃー! 愛してるぜ2人共!!」
ウボォーはシャルとパクに肩を回し二人の頬にキスをかまそうとする。
だが。
「うわ! キタネ! 愛はいいから金をくれ!」
と、シャルは暴言を。
ドゴ。
「ぐふっ」
パクに至っては返事では無く、裏拳が飛んできた。
「いてー 冗談がわかんねーなぁパク・・・ とにかくありがとうよ! じゃあ行ってくるぜ皆! 朝までには戻るからちょっと待っててくれや!!」
勢い良く飛び出そうとするウボォーギンであったが。
「待て」
クロロによって阻まれた。
ウボォーはしかめっ面でクロロを見る。
「鎖使いは恐らく具現化系か操作系だ。 お前の強さは重々承知だが、1対1の場合・・・お前が敗れる可能性が高い相手がこの2タイプだ。
・・・・・・1人では認められない カナメを連れていけ・・・それが条件だ」
辛辣ながら的確な分析。
ウボォーもただのバカではない。
自分の苦手とする相手は承知していた。
「・・・了解。 じゃあカナメ、頼まれてくれるか?」
クロロ、ウボォーの双方から要請されて刃霧要に否は無かった。
こくりと頷く。
「よーし・・・じゃあ今度こそ行ってくるぜ! あ、カナメ! オメェーは立ちあってくれるだけでいいからな! 余計な手出しすんなよ!?」
羅刹の如くの戦士はカラカラと笑いながら歩き出す。
幽鬼の如くの狩人は静かに歩き出す。
血の惨劇に見舞われた夜のヨークシンに、再び2匹の蜘蛛が放たれた。
同胞を見送る旅団達。
その中に2匹の蜘蛛に絡みつく妖しい視線が一対。
「(ククク・・・♣ 君も実に美味しそうだ・・・♠ そろそろ食べさせてもらうよ・・・カナメ♥)」
 
 
 
***
プルルルルル・・・。
プルルルルル・・・。
プルルルルル・・・。
目の前に1人・・・静かに佇んでいる。
女顔の優男。
ひょっとしたら女なのかもしれない。
それほどに顔立ちが整っている。
右手に鎖を括り付けている。
鎖使い・・・。
携帯の呼び出し音が部屋に鳴り響く。
彼も2人の訪問者もただ見つめ合っていた。
「1人か? 感心だな・・・どこで死にたい? 選ばせてやるよ」
ウボォーから発せられる凄まじい威圧感に、少しも臆すること無く目の前の青年は答える。
「そうだな、人に迷惑のかからない荒野がいいな・・・ おまえの断末魔はうるさそうだ」
かつて幻影旅団に対してここまでの台詞を吐けた人間はそうはいない。
目の前の青年のオーラは少しも揺らがない。
本気だ。
本気で勝つ気でいる。
ウボォーの顔は自然破顔してしまう。
今すぐにここでお楽しみといきたい所だったが、そこはグッと我慢だ。
ガシャン!
鎖野郎が窓から飛び出る。
鎖をビルに突き刺し体を宙に舞わせる。
ウボォーとカナメも後を追う。
わざわざ独りで安普請の一室で待っていたくらいだ。
逃げることはないだろう。
鎖野郎は勝つつもりでいるのだから。
ビョオォォォォ・・・。
3つの影が月明かりに照らされてヨークシンの夜に舞う。
ビルからビルを飛び越えて。
どれほど移動したか。
ビル群を抜けだして荒野へ。
あたりの風景はマフィアや陰獣達を葬った場所に似ていた。
ここが鎖野郎の墓場になる。
ウボォーは確信していた。
自分が負けるなどあり得ないと思っているし、何よりカナメがいる。
この万が一の保険は、あまりにも心強い。
カナメもまたウボォーが負けるとは思ってもいない。
ましてや、いざとなれば2対1なのだ。(ウボォーは怒るだろうが)
100%勝つ。
そう思っていた2人であったが。
荒野には思わぬ先客がいた。
ねっとりと纏わり付くような視線と笑みを浮かべる男。
両頬に星と雫の特徴的なペイント。
その男は・・・。
「ヒソカ!? てめぇ何してやがる・・・」
「・・・・・・!?」
ウボォーが声を荒げる。
カナメもさすがに若干戸惑っているようだ。
無感情の切れ長の瞳が僅かに見開かれている。
「クックック・・・♠ いやぁ~君達ほどの使い手が2人だと彼が可哀想だろう? だからちょっとお手伝いしてやろうと思ってね♣」
カナメとは違った意味で感情が掴めぬこの男。
旅団ナンバー4。
以前4番だった男を殺し入団した、自称奇術師。
「・・・・・・オメー正気か? 旅団を裏切ろうってのか? ・・・冗談じゃ済まねぇぞ?」
喧嘩と旅団をこよなく愛するウボォーの目に激しい殺気が走る。
カナメも裏切り者を許す気は無い。
「・・・・・・ヒソカ・・・俺達がホームを出る時・・・貴様はまだあそこにいた。 尾行も感じ無かった・・・・・・つまり貴様は先回りした・・・・・・そうだな?」
カナメからも殺気が滲む。
物静かだが・・・その殺気はウボォーをも上回っているかもしれない。
「クックック・・・・・・♦ まぁそういうことになるかな?」
2人から凄まじい殺気を浴びせられても奇術師は笑みを浮かべるのみ。
両手でトランプをシャッフルさせている。
しかし笑みを浮かべトランプを弄っていても、発せられるオーラはとてつもなく禍々しい。
「・・・・・・貴様は・・・最初から鎖野郎と繋がっていたわけか・・・・・・」
ズズズ・・・。
カナメからヒソカに勝らずとも劣らずのオーラが展開される。
「ヒソカァァァァァ・・・テメェがユダだったか! 前からテメェは気に食わなかったが・・・これで遠慮無く殺れるわけだ!」
ドン!
爆発的なオーラがウボォーから発せられる。
「クククククク・・・ウボォー・・・君の相手は僕のパートナーのクラピカくんだよ♣ 僕の相手はカ・ナ・メ♥」
まさに一触即発。
強大なオーラが空気を震わせる。
「ヒソカ・・・ぶん殴ってやりてぇが、テメーはカナメに殺されな。 ・・・とりあえずは・・・俺は鎖野郎だ!」
ズァ!
言葉が終わると同時にウボォーが走りだす。
「ぬぅん! 破岩弾!!」
ズガァン!
ウボォーの拳が地面を砕き破片の嵐がクラピカとヒソカを襲う。
2人の視界が一寸、塞がれ・・・次の瞬間にはウボォーとカナメの姿は目の前から消えていた。
ヒソカは右方向から飛んでくるナニかを円で捉える。
「!? 速い!」
回避は不能。
そう判断し堅による防御の態勢をとる。
が。
ドドドドン!
「ッ!!」
両手での堅のガードごとヒソカは吹き飛ばされる。
「(凄まじい威力! あぁ・・・! やはり君もいいよカナメ!!)」
軽く宙を10メートル程舞ったヒソカに追撃が襲いかかる。
ドウ!ドウ!ドウ!
一発一発が凄まじく重い。 両腕の骨を始め、既に何本かは持ってかれてしまった。
そのままヒソカは吹き飛び、はるか後方の岩肌に叩きつけられ瓦礫に埋もれる。
カナメは緩めない。
ヒソカが極めて強力で危険な能力者であることは重々承知している。
この程度で終わるはずが無いことをカナメは知っていた。
ウボォーのことも気にはなったが、今はヒソカに集中すべきと理解していた。
もうもうと立つ煙の中から返礼が飛んでくる。
ヒソカのトランプ。
カナメはそれを冷静に撃ち落とす。
ヒュカカカカ!
次々と飛んでくるトランプ群。
その全てを『狙撃手(スナイパー)』で撃ち落とす。
同時にヒソカが飛び出す。
真正面から全速力で向かってくる。
これだ。
これをやられると自分は弱い。
カナメはガチンコの強化系と相性が悪いと自覚していた。
以前の世界・・・。
そこで浦飯幽助という男と戦ったが、あの男はこの世界の基準でいくと放出系よりの強化系だろう。
あの男との戦いでもそうだったが、優れた身体能力を持つ敵は馬鹿正直に真正面から飛んでくる攻撃など叩き落す・・・またはダメージ覚悟で押し通る。
そういうことを平然とやってのけるだ。
ヒソカは変化系だが、恐らく世界でも屈指の実力者。
強化系まがいのことはやってみせるだろう。
ヒュパン! ヒュパパパパパパパパパ!
カナメは『狙撃手(スナイパー)』を撃ち出す。
まさに連撃。
だがヒソカは、微妙に角度を付け投擲したトランプで逸らしてしまう。
逸らせなかった弾丸は手にしたトランプで切り落とす。
そのままヒソカのトランプはカナメに襲いかかる。
周で強化されたヒソカのカードは受けるには危険。
「くッ!」
カナメは体を捻って避けるものの。
「!!」
その隙を付いてヒソカの接近を許してしまう。
「ククク♣ 捕まえた♠」
ニィィィ。
ヒソカは哂う。
ヒソカの全力の右ストレートがカナメの脇腹を襲う。
ドゴォッ!!
咄嗟に左腕と左脚でガードを固めたものの、今度はカナメが数メートル吹き飛ぶ番だった。
「ぐ・・・うぅ!!」
グン!
慣性の法則に従いそのまま吹き飛ぶはずだったカナメが、突然宙で向きを変える。
『伸縮自在の愛(バンジーガム)』!
「やぁ、いらっしゃい♥」
そしてそのままヒソカの右拳に突っ込む。
ドゴォ!
続けざまに飛んでくる左拳。
ドガドガドガドガドガ!!
カナメにラッシュが叩き込まれる。
ヒソカは両腕の骨が折れていることなどまったく気にせず叩き込む。
ヒソカの怒涛のラッシュにカナメは身動きがとれない。
このまま削り殺されのみか。
そう思われた瞬間。
ドドドド!
カナメの指拳がヒソカに逆撃を喰らわした。
「!?」
バッ。
生じた隙を突いて少しばかりの距離を稼ぐ。
ヒソカも最初の奇襲によるダメージは軽くは無かったが、それでも今のカナメに比べれば軽い。
「・・・今の指拳・・・なんのつもりだい? 苦し紛れにしても軽すぎるよ♣」
再び『伸縮自在の愛(バンジーガム)』で引っ張ろうとしたヒソカにカナメは言う。
「『死紋十字斑』。」
ドン!
発動。
「!?」
その瞬間ヒソカの両腕、左胸、腹に模様が浮かび上がる。
それはまるで的。
的が自分の体に浮かび上がった。
カナメの能力は『狙撃手(スナイパー)』。 そして浮かび上がった的のようなモノ。 そこから導きだされる答えは1つ。
驚くヒソカにカナメは宣告する。
「お前・・・もう俺から逃げられないぜ」
ポイっ。
カナメが拾っていた石を軽く宙に投げる。
ピタァ。
ギュン!
そして宙に一瞬静止した後、猛スピードでヒソカの的めがけて突っ込んでいく。
「ク!」
一連の動きに警戒していた為なんとか避けることできた。
が。
グゥン ギュン!
避けた石つぶてが軌道修正し再び的めがけて襲ってきたのだ。
「これは!?」
バババ!
向かってくる石つぶてを砕く。
ようやく念の弾丸は生き絶えたようだった。
だがカナメは既に次の行動を起こしていた。
念を込めた右ストレートで地面を砕く。
ズガァァン!
巻き上げられた破片、塵芥が空中で静止する。
「(・・・まさか!?)」
次の瞬間、それらの全てがヒソカに向かって襲いかかった。
先程までとは比べものにならない弾丸の数!
一発の威力は普段のカナメの『狙撃手(スナイパー)』に劣るものの、決して低くない。
しかもこの数が自動追尾で襲ってくるのだ。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!
再び攻守は交代した。
『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を発動させる隙もない。
カナメは次々と地面を砕き、弾丸を生成している。
数千数万の弾丸が四方八方から襲ってくる。
これらを全て喰らえば、いかに最強を自負するヒソカとてただでは済まない。
例え強化系を極めたウボォーギンといえども、一発一発は耐えれてもいずれジリ貧になるだろう。
その程度の攻撃力は維持されたいた。
このままいけば遠からずカナメが勝つ。
少しばかりの余裕が出てきたカナメはウボォーの姿を探した。
ウボォーならばもう決着を着けているかもしれない。
そう思ったカナメの視界に飛び込んできた光景は、期待していたものとは真逆の光景であった。
鎖に捕らえられ、何故か絶の状態でモガイているウボォーギンの姿。
瞬間、カナメはウボォーが極めて危機的状況に陥っていることを悟る。
そして。
石つぶての弾丸を構えると鎖野郎めがけて撃ち出す。
「!?」
カナメの『狙撃手(スナイパー)』はクラピカの右腕を撃ち抜いた。
右腕が宙に舞う。
その瞬間ウボォーを縛っていた鎖が消失する。
ウボォーはその隙を逃さず鎖野郎に『超破壊拳(ビッグバンインパクト)』をお見舞いした。
ウボォーの勝ちだ。
だが。
ウボォーとクラピカに意識を持って行かれたカナメは。
弾丸の生成を怠った。
弾幕が薄くなりカナメ自身の注意も逸れていた。
ドス。
鈍い音を立てて自分の胸板を何かが貫く。
ヒソカの腕が自分の胸から生えていた。
ゴプッ。
血が噴き出てる。
刃霧要はその場で崩れ落ちた。
最期に想うことは旅団のこと。
旅団員達といつものように日常を過ごす。
そんな風景。
それを最後に・・・。
刃霧要の視界は暗黒に覆われた。
 
 
 
***
ウボォーギンはまさに死を迎える寸前だった。
鎖野郎ことクラピカに『束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)』なるもので拘束された。
強制的に絶にさせられた。
精一杯足掻いてみたが・・・どうやら自分の力では抜け出せそうもなかった。
助けを期待したがカナメもなかなか苦戦しているようだった。
仕方がない。
相手はあのヒソカだ。
本当なら強化系の自分の方がヒソカとは相性が良いだろう。
ヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』で引っ張られようが何をされようが自分の堅ならばヒソカのパワー如きでは貫かれない自信があった。
お互いが、敢えて相性の悪い相手と戦わねばならなくなった理由は、偏に自分のわがままだ。
鎖野郎は俺が殺す!!
そう息巻いていたからだ。
この結果は。
団長とカナメに注意しろ、と言われたのに。
情けない。
油断していたのだ。 凝すらも怠り、敵を操作系と決めかかって。
自分の油断で、自分だけが死ぬのはいいがこのままではカナメも危険だ。
鎖野郎とヒソカが相手ではカナメとて危ない。
どうにかして無事に逃げて欲しい。
身動きができなくなって、そんなことを考えていた時に。
目の前の鎖野郎の右腕が吹っ飛んだ。
「(カナメ! カナメがヒソカの野郎をぶっ殺して加勢に来てくれた!!)」
俺を縛っていた忌々しい鎖も消え去った。
すかさず飛び出し鎖野郎に礼をしてやる。
「超破壊拳(ビッグバンインパクト)!!!」
ズゴォォォ!!
右腕が千切れた所に俺の渾身のパンチ!
勝った!!
鎖野郎は遥か彼方にぶっ飛んでいく。
だけどコレでカナメに借り3か・・・参ったな・・・今度飯でもおごろう。
いつものように無表情で立っているんだろうな。
礼をしなきゃな。
俺は振り返る。
だが俺が見たのは。
カナメが。
血反吐を吐いて。
胸からおびただしい量の血を垂れ流して。
そして糸が切れた操り人形みたいに。
倒れた。
そんな光景。
「・・・カ・・・」
声がでねぇ。
息が詰まる。
俺はありったけの胆力を込めて叫ぶ。
「カナメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」
同時に走りだす。
ヒソカをぶち殺したくて。
「うおぉぉおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
ドォォォォォォォン!
ヒソカめがけて再び『超破壊拳(ビッグバンインパクト)』を繰り出す。
地面が激しく抉れる。
軽く数十メートルはありそうな深く大きなクレーター。
まるでウボォーギンの慟哭と怒りを象徴しているよな。
だがその感情は恐らく、ヒソカに対して以上に自分に向けられているようだった。
避けたものの、それでも堪らずヒソカが大きく後退する。
地面が消失し、新たに現れた抉れた地面に落下するより速く。
ウボォーギンはカナメの体を抱き抱える。
「カナメ! カナメェ!! 済まねぇ!!! お、俺の・・・俺のせいで・・・・・・!!」
屈強な巨男が、その厳しい顔を涙と鼻水でグシャグシャにしている。
ヒソカと鎖野郎はまだ生きているだろう。
しかしもはやウボォーギンの頭の中には撤退しかなかった。
「まだ・・・まだ息はある・・・!! マチなら・・・団長なら・・・・・・!!!!」
ウボォーは、体温を失いつつあるカナメの体を抱きながら凄まじい速度で仮宿を目指した。
僅かな光明を信じて。
仲間達の所へ。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第5話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/07/09 03:58
何者かが猛スピードで仮宿に近づいてきている。
コルトピの言に最初は警戒していた旅団の面々だったが、その人物の咆哮ともいえる叫び声を聞いて一瞬で正体が判明する。
旅団一のドでかい声とパワー、タフネスを誇る男・・・ウボォーギンだ。
しかし只事では無い。
旅団の誰もがそれを悟る。
ウボォーの声はかつて無いほど切羽詰ったモノだった。
仕切りにクロロとマチのことを呼んでいる。
宴会をすぐさま切り上げ、外に飛び出る。
旅団がそこで見たもの・・・。
それは血まみれのカナメを両手で抱えたウボォーギンの姿だった。
「なっ!! カ、カナメ!? ウボォー! 何があった!!」
フィンクスが声を荒げる。
だが息を切らせたウボォーはフィンクスを無視する。
「団長・・・俺の油断でカナメがやられた・・・! まだ息はある・・・頼む! カナメを助けてくれ・・・!!!」
カナメの胸板には痛々しい風穴が開けられている。
団員の誰の目にもカナメの命が風前のともし火であることはわかった。
わかってしまった。
ドッ!
マチがウボォーの頬を殴りつける。
「・・・ッ!! さっさとカナメを置きな! 私が念糸縫合でなんとかしてみる・・・!!」
ウボォーは殴られたことなど全く意に介さず丁寧にカナメを下ろす。
マチがすぐさま傷口の縫合を試みる。
そのスピード、正確さ。 まさに神業だ。
しかし刀剣等の鋭利なモノではなく、その傷口はヒソカの手刀によってこじ開けられたものだ。
皮膚は裂け、筋肉はめくれ上がり内蔵は削れ背骨は砕けている。
極めて損傷が激しく、マチの腕を以てしても縫合は困難だった。
おまけに、カナメは既にかなりの量の血液を失っていた。
なんともならない・・・!
絶望感に苛まされながらも、マチは懸命に処置を続ける。
深く傷つき、力なく横たわるカナメの姿を捉える視界が滲んでくる。
今こうしている間にもカナメの顔色は見る見る悪化している。
シズクは目を見開き放心状態でその様を眺めている。
他の旅団も言葉もなく立ち尽くしている。
その時。
クロロ=ルシルフルが口を開く。
「ウボォーはそのまま待機。 パクはウボォーの記憶を覗け。 マチは引き続き、処置を続けろ。
残りの奴らは30秒以内に出来る限りの食料と水を調達しろ。」
指令が下る。
団長命令が。
その言葉を受けて10秒にも満たない時間、放心状態に陥っていた幻影旅団は甦る。
次の瞬間には皆が命令通りに行動していた。
「みんな デメちゃんで食べ物と水を集めるから、みんなはデメちゃんが吸い込む前に片っ端から取って! デメちゃんお願い!」
シズクによって具現化された異形の掃除機『デメちゃん』がギョギョっと元気良く返事をする。
猛烈な勢いで吸引を始める。
遥か彼方から大小様々な食料、飲料水が引き寄せられてくる。
世間から見れば怪現象である。
あらゆる食べ物や飲み物が、ある地点めがけて飛んでいくのだ。
到達地点である、旅団の仮宿に殺到されてもおかしくはない。
もっとも、彼らには隠そうという意識が最初から欠けているのだが。
「パク、調達班が戻ったら仮宿の地下に届けさせろ。  マチ・・・カナメをそこに移動させる。 行くぞ」
クロロが駆け出す。
マチはクロロの命を受けて念糸縫合を中断。
壊れ物を扱うかのようにカナメを抱き抱えると後を追う。
マチはただカナメの顔を眺めていた。
綺麗な顔をしている。
顔色を除けば、ただ単に眠っているようにも見える。
それだけ見ていればいつものカナメの寝顔に見える。
カナメが死にかけている等、どこか夢じみていた。
本当に夢ならばいい。
だが幻影旅団として、生と死が綿密に重なりあった生活を続けてきたマチには・・・それが紛れもない真実だと理解できてしまっていた。
ヨークシンの仮宿、その地下の密室。
クロロらがそこに到着してから10秒ほどで次々と調達班がやってくる。
その両手には大量の食料、水等が抱えられていた。
「ふむ ・・・1ヶ月分・・・といったところか では皆、部屋から出るんだ」
団員達は渋々・・・といった感じだが言葉に従う。
今は一刻を争う。
質問等している余裕は無かった。
最後にマチが振り返り振り返り、部屋を出て行く。
扉が閉められる。
密室の完成。
『盗賊の極意(スキルハンター)』!
ヒュボ!
パラララララ・・・・・・『密室遊魚(インドアフィッシュ)』。
クロロが盗んだ念能力の1つ。
閉めきった密室でのみ生息可能な念魚を作り出す。
念魚は肉を・・・特に人肉を好む。
こいつに攻撃されたのなら、その対象は能力が解除されない限り・・・『死ねない』。
クロロは、まさに死のうとするカナメを念魚で攻撃させる。
念魚がカナメの腕の肉を僅かばかり食らったところで、念魚を捕獲。
条件は成立した。
これでカナメは『密室遊魚(インドアフィッシュ)』を解除しない限り死なない。
あとは自分が、念魚にこれ以上攻撃させないよう見張り、能力を維持し続ける。
部屋に搬入した食料は、詰めて食せば自分なら半年は持つだろう。
まったく・・・俺にこれほど気苦労を掛けるとはな。 お前が俺をサポートしないでどうする?
お前にはまだ死んでもらっては困るんだ。
お前は俺の半身だ。 お前が生きていれば、俺は何処までだって歩いて行ける。
カナメ・・・お前は俺より早く死ぬな。
「さて、と・・・」
クロロは独り呟く。
未だに夜は明けなかった。
 
 
 
***
仮宿の1階。
先程まで皆で飲み明かしていた大部屋。
俯いたウボォーギンが1人見下ろされる形で、蜘蛛が集っていた。
「・・・で、どういうわけだ? なんだってカナメが死にかけてる? 何があったウボォー」
ノブナガが語りかける。
沈黙しているが、全員が恐らく同じ質問をしたいに違いない。
ウボォーが重たい口を開きだす。
記憶を覗いてもらったパクのほうが上手く説明出来るのだろうが、こればかりは自分の責任として果たしたかった。
「・・・・・・ヒソカが裏切った・・・・・・俺は鎖野郎にいいようにやられて・・・殺されかけて・・・カナメが助けてくれたんだが・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのせいで・・・・・・カナメが・・・カナメがやられた・・・・・・」
その瞬間、室内の空気が凍りつき軋む。
「・・・・・・そういやヒソカの野郎がいないね・・・・・・」
フェイタンが顔中の筋肉を軋ませる。
怒り、歪んだオーラが滲み出る。
「みんな・・・詳細はコレのほうが早いわ。 見て頂戴」
パクノダが銃を構える。
「怖いならやめるけど?」
一応、形式として聞いてみるが。
「アホか 5年や10年の付き合いじゃねえだろ」
さっさとしろと急かされた。
『記憶弾(メモリーボム)』!
BANG!
放たれた銃弾が蜘蛛達の頭めがけて突き進む。
脳天にぶち当たった瞬間にウボォーの記憶が流入する。
クルタの生き残り、クラピカ。
対旅団用の恐るべき能力。
ヒソカの裏切り。
ウボォーギンの油断。
そして・・・ヒソカの手刀をまともに受け崩れ落ちるカナメの姿。
再度の装填で旅団全員に記憶が行き渡る。
「ヒソカの野郎・・・・・・絶対に許さねぇ・・・!! 必ずぶち殺してやる!!!」
まさに怒髪天を突いているフィンクス。
普段感情が読み取りにくいシズクも怒りにその身を震わせ何事かを繰り返し呟く。
「・・・殺す。 絶対に殺す」
皆が皆・・・思い思いに感情を発露させているが等しく共通していることがある。
ヒソカを殺す、という決意と・・・ウボォーの油断が許し難いモノである・・・ということである。
「ウボォー・・・だいたいテメーも何してやがる!! 凝も使わねぇでよぉ!! 俺らの仕事は特攻だ・・・仲間を守る為に進んで捨石になる・・・! そうだろうが!!」
ノブナガの拳がウボォーの右頬に命中する。
ウボォーは敢えて最小限の纏に留めている。
今はこの痛みが心地良かった。
「お前・・・カナメの足引張た・・・挙句に助けて貰てカナメを死なせかけたね・・・ナニか反論あるか?」
フェイタンの鋭い視線が突き刺さる。
それにもウボォーはただ俯いて答えるしか出来ない。
「・・・ねぇよ・・・」
ドゴォ!
答えた直後にフェイタンのブローが飛んでくる。
ご丁寧なことにクラピカに捕らえられた際、殴られた場所と同じところを攻撃してきた。
ウボォーはこれにもひたすら無言で耐える。
フェイタンにしては、これでも優しい方だと思う。
「・・・それぐらいにしてやれ・・・ウボォーも参ってるんだ・・・」
「そうだよ そんなことしたってウボォーが潰れるだけだろ もうやめなって」
フランクリンとシャルナークがさすがに止めに入った。
折角、カナメが助けたのに旅団の私刑で死なせたのでは洒落にならない。
プルルルル・・・。
プルルルル・・・。
その時、シャルの携帯が鳴り響く。
クロロからだ。
「団長、カナメの容態は? ・・・・・・・・・うん・・・そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・わかった 任せて」
シャルは神妙な面持ちで携帯を切る。
右手で口元を隠し、少々思考にふける。
「おい、シャル!! カナメはどうなんだ!? 団長は何て言ってた!!」
俯くばかりだったウボォーが叫ぶように尋ねる。
「落ち着きなよウボォー。 ・・・・・・みんな 団長からの指令を伝える」
団長からの指令・・・。
その内容とは。
①カナメはクロロの能力により最長、半年の間は死なずに済む。 だが仮宿、地下の密室が崩されると能力が解除されカナメは死ぬ。
②移動は困難なので(部屋ごと移動出来れば問題ない)敵の襲来等に備え、最低でもガードを3人は置くこと。
③ヒソカと鎖野郎については、最大限の警戒をしつつ今は無視し、カナメの治療を優先すること。 最低でも3人の班で行動する。
④密室状態の部屋の外から治療を施せる・・・あるいは死亡したとしても、その遺体が新鮮ならば蘇生可能、といった能力を持った人・・・あるいはモノ、を見つけること。
以上である。
当然、蜘蛛達に否は無かった。
「それじゃあチームに分かれよう。
第1班は俺、ノブナガ、シズク。 第2班はパク、フェイタン、マチ。 ガードチームはウボォー、フランクリン、コルトピ、フィンクス。
1班と2班は、街に出て情報収集。 ガードチームはヒソカや鎖野郎が、仲間を引き連れて来ないとも限らないので十分注意を!」
蜘蛛が蠢動する。
千切れかけた足を紡ぐ為に。
自分を地獄の底に繋ごうとする鎖を引き千切る為に。
裏切りの卯月を永遠に滅ぼす為に。
 
 
 
***
1999年9月3日(金) 。 ヨークシンシティ。 その一角にある、どこぞの組みのどこぞの事務所。
そこに3人の男女がいる。
情報収集チーム第2班・・・パク、フェイタン、マチの3人だ。
片っ端から襲っている。
パクノダが原記憶に語りかけ、フェイタンが体に聞いている。
この2人の尋問は実に見事だ。
次々に情報を引き出している。
そして2人が情報を引きずりだした、絞りカス。
その処分がマチの仕事。
ただただ念糸で縊り殺す。
思考する必要もない単純労働だ。
今のマチには、正直なところそれしか出来ないのだ。
今、マチを支配している感情は『後悔』。
ウボォーが感じているであろう後悔と、およそ同等の質と量を持っている。
パクに見せてもらったウボォーの記憶。
カナメの胸を貫いたヒソカの手刀。
あの右腕は・・・・・・。
カナメに致命傷を負わせたあの右腕は・・・・・・自分が治療した。
天空闘技場で団長の伝言を伝えた際に・・・バイト感覚で念糸縫合してやった・・・。
私はバカだ!!
なんで治した!!
普段から気に食わなかった男の腕を治してやって・・・・・・挙句にその男は旅団を裏切って。
肝心のカナメの傷は治せず仕舞い。
今は死線をさ迷っている。
なんで・・・なんで治したんだよ・・・・・・・・・。
カナメ・・・・・・。
私がカナメを傷つけたようなものだ。
カナメを・・・。
マチは泣きたかった。
喚いて喚いて泣き叫びたかった。
子供のように泣きじゃくって・・・カナメにすがりつきたかった。
あの時、ヒソカが旅団を裏切るなどと予想できた者は、少なくとも旅団内にはいなかっただろう。
当時、マチがヒソカの治療を施したのは・・・同じ旅団員ならば当然の成り行き。
マチに非はないと、旅団の誰もが言ってくれるだろう。
そうだとしてもマチは自分が許せなかった。
「マチ!」
「!!」
パクに呼ばれ、マチは負の思考サイクルから抜け出した。
どうやら何度も呼ばれていたらしい。
「・・・余計なことは考えなくていい。 今は団長を信じましょう・・・カナメは助かるし、ヒソカも鎖野郎も殺す・・・・・・そうなるわ」
力強く、しかしどこかに優しさを感じる言葉。
原記憶を覗ける能力を持つパクノダ。 パクからもたらされる情報は常に正しかった。
だからだろうか。
その言葉も正しいモノに思えた。
「・・・・・・そうだね・・・今は・・・私に出来ることをする。 考えてるヒマなんてない ありがとう・・・パク」
マチは薄く微笑む。
この世の終わり・・・みたいな顔をしていた先程に比べればいくらかマシか。
あくまで「いくらかマシ」、という程度だが。
「そうね ウジウジしてるヒマあたら手を動かすよ。 それに悪いの筋肉ダルマね 諸悪の根源てやつよ」
フェイタンが最後の1人の首をへし折った。
これで、この辺りのマフィア事務所は全滅だ。
有益な情報は仕入れることは出来なかった。
半日かけてこの様とは。
意気消沈して仮宿に戻った3人だったが・・・。
そこには喜色の笑みを浮かべるシャルナークが待っていた。
「お帰り 首尾はどうだった?」
良い情報を得たのだろう。
随分機嫌が良さそうだ。
「こっちはダメだったわ。 ・・・・・・そっちはその様子だと成果があったようね?」
パクも期待の眼差しをシャルに向ける。
その言葉と視線に、ニカッと笑ってシャルは答える。
「当然♪ じゃあみんな揃ったところで話を進めようか。 ・・・・・・グリードアイランドってゲーム・・・・・・知ってるよね?」
フェイタンがすかさず答える。
「世界一危険なゲームらしいね 私興味あたよ。 でもそれがどうしたね?」
「幻のゲーム、グリードアイランド・・・そのクリア報酬を突き止めた。 ゲーム内で使用できるカードを3枚・・・現実世界に持ち帰って使用出来るらしい。
そのカードの中に『どんなケガや病気でも瞬時に治す』カードがある・・・らしい。
13年間クリアが出てないらしいけど・・・まぁ俺達なら半年以内にクリアできるでしょ」
シャルナークの語った内容は・・・正に今、旅団が欲するものだ。
「本当か!? なら話は早ェ! さっさとそのゲームをクリアしようぜ! 半年と言わず1ヶ月でクリアしてやるぜ!!!」
カナメを助けられる希望を見出し、俄然やる気になるウボォーギン。
さすが強化系。 単純なものである。
「・・・らしいって言葉多いのがちょっと気になるけど・・・他に有力な情報無いし、やってみる価値はあると思う」
シズクも同意。
すぐにでも、そのカードが欲しいのだろう。
少しそわそわしている。
マチの顔も引き締まり、瞳に力が戻っている。 他の団員達も特に異論は無さそうである。
「じゃあ決まりだね♪ 取り敢えずオークション会場から盗ってこないと・・・」
俺が行く! 俺も! 俺も俺も!
三馬鹿強化系トリオが騒ぎ出す。
幻影旅団に再び活力が満ちていた。
ヨークシンの宴は未だ終焉の兆しを見せることはなかった。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第6話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/07/09 11:08
サザンピースオークション。
ヨークシンで行われる競売の中で最も権威を誇るオークションである。
入場するだけで1200万Jもするカタログが必要になる。
が。
勿論、幻影旅団には関係ない。
欲しいモノは盗る。
それが盗賊というものである。
眼前には数多の死体、死体、死体、死体・・・・・・。
先日は地下競売のお宝全てを分捕ったが、今日はここサザンピースオークションである。
だが今回は別に全て盗ろうというわけではない。
目的は1つ。
グリードアイランド。
「3個ぐらいありゃいいよな?」
「十分だろ さっさと戻ってプレイしようぜ」
「地下競売があの程度だったからなー つまんねーな 鎖野郎みたいなヤツら、もういないのか?」
ドガ。
ゲシ。
ボカ。
フィンクスの頭、背中、ケツが3人からド突かれる。
犯人はノブナガ、マチ、シズク・・・である。
「いてーな! なにすんだよ!」
「アンタね! カナメが死にかけてるんだよ!! ちったぁ真面目に出来ないのかい!?」
「時と場合を考えろ! 死ね!」
「あんまりフザケてると・・・殺すよ?」
有無も言わさず袋叩きだ。
「いや、わかってるけどよ・・・どうせなら楽しんだほうがいいじゃねぇか 団長のお陰で半年はカナメ死なねーし」
必死に反論・・・というかフィンクスなりの持論を展開してみるが。
「「「・・・・・・」」」
3人の目が座っているのでフィンクスはもう発言しないことに決めた。
特にシズクがヤバい。
あの視線はヤバい。
ちょっと怖い。
鋭さに定評のあるカナメやマチと違った怖さだ。
気分はホラー。
しかし今回の仕事では、まず地下競売を襲い・・・次いでサザンピースを襲った。
予定より大分、派手になってしまった。
幻影旅団の悪名と賞金が、また釣り上がることだろう。
4人はグリードアイランドが起動しているジョイステーションを大事そうに抱えながら、いそいそとアジトへ戻っていった。
 
 
 
***
ジョイステーションが3機。
盗ってきたはいいが今思うと3機も必要なかった。
団長とカナメを除いて10人。
その中から2人を守るガードチームを4人。
G・Iをプレイできるのは6人のみ。
メモリーカード差込口が片方塞がっているとはいえ2機で事足りたようだ。
「さて・・・誰が行く?」
ジョイステーションを前にシャルが立候補を募る。
だが結果は分かりきっていた。
「私は行くよ」
「俺は絶対いくぜ!」
「私もともと興味あたね 行かせてもらうよ」
「カナメの為だ 俺も行くぜ」
「私は行くよ?」
「僕も行きたいな」
「当然俺も行くからな?」
「私も行きたいわね 興味あるわ」
「留守番が多かったんだ 今回は行かせてもらうぜ」
この有様である。
目下No.1とNo.2を失い、自然に纏め役におさまっていたシャルナークは頭を抱える。
「あのねぇ・・・ここで団長とカナメを守るのも立派な仕事だよ?」
溜め息をつきながら、言葉を紡ぐ。
「しょーがない・・・いつも通り俺が班分けするからね! ガードチームはコルトピ、フランクリン、フェイタン、ノブナガ。
それ以外はグリードアイランドね」
自分が選ばれたことにホッとした表情のウボォー。
そして居残り組に対してイタズラな笑みを浮かべる。
「よっしゃあ! へっへっへ・・・悪ぃなお前ら! ちゃーんとカードとやらを盗ってくるからよ! 団長達を頼むぜ?」
コルトピを除いた居残り組はかなり不機嫌そうだ。
特に前々からゲームに興味を持っていたフェイタンの無念さは察して余りある。
「・・・私をメンバーから外す・・・覚えとくといいねシャル・・・」
射殺すような視線をひしひし感じながらも、慣れたもので軽く流すシャルナーク。
いつもの張り付いたような笑顔を浮かべる。
「さて・・・カナメの命がかかってるし・・・ちゃっちゃとやろうか♪」
その言葉を皮切りに皆がゲーム機を囲み発の態勢をとる。
まずは旅団の特攻隊長ウボォーギンだ。
バシュ!
その瞬間ウボォーギンが消える。
「「「おぉ~」」」
フィンクス、ノブナガ、フランクリンが驚嘆の声を上げる。
マジマジといった様子で凝視している。
「へー 今のでゲームの世界に入っていったんだ?」
次はアタシが・・・。
そう言ってマチが発。
バシュ!
消えた。
団員達は次々に発でゲーム世界に飛んでいく。
が・・・。
その様子に違和感を感じ、思考にふける人物が2人。
「・・・どう思うパク?」
「そうね・・・精神をゲームの世界に持っていくのだとしたら・・・条件が甘すぎる。 発ではせいぜいどこかに転移させるのが関の山・・・」
「だよね。 体ごと消えてるのもその証拠かな・・・ゲーム機はタダの転送装置・・・・・・だとしたらグリードアイランドは・・・」
面白いものを見つけた。
シャルは哂う。
「・・・この世界のどこかにある・・・ってことかしら?」
ニヤリ。
パクも哂う。
これは面白いことになってきた。
ならばわざわざゲームをプレイする必要もない。
だがまずは検証が必要だろう。
バシュン!
シャルとパクの2人もグリードアイランドへと旅立っていった。
・・・。
・・・・・・。
コルトピ、フランクリン、フェイタン、ノブナガ。
居残り組の4人は、その様子を寂しそうに・・・そして恨めしそうに眺めていた。
「・・・・・・この恨みは忘れないね・・・シャル」
大層、感情のこもった声で呟くフェイタンだった。
 
 
 
***
幻影旅団が6人。
大草原の中に佇むシソの木の麓に集まっている。
太陽は穏やかに輝き、空は澄み渡っている。
「はーー しっかしゲームとは思えねぇーな すげー」
フィンクスがはしゃいでいる。
「風がいいな 風が。 確かにコレはすげー」
ウボォーもはしゃいでいる。
2人は大草原のド真ん中で、腕組仁王立ちのスタイルで風を受けていた。
「バカは放っておきましょう。 ・・・まずは情報収集ね 視られている方向に行くのでいいかしら?」
「そうだね そっちに街なり村なりがあるだろうから、そこを中心に情報収集といこう♪」
パクの提案に乗るシャルナーク。
監視のつもりなのだろうか。
バレバレなのだが。
ぼちぼち歩き出そうとしていた時、旅団は近づいてくる飛来音に気付く。
きぃぃぃん・・・。
空気を切り裂く高音と共に目の前に現れた男。
片膝を着き、こちらを不敵な笑みで見つめている。
「ほぉ~ なんだ今のは? 念か?」
フィンクスが感心したように尋ねる。
これが念能力ならば現実世界で待っている団長に良い土産ができる。
空を飛べる能力だとしたら大層便利だ。
「ききき・・・さぁ~て何かねぇ・・・(こいつら・・・スペルカードも知らねぇのか くくく)」
男は6人を嘲笑う。
気の毒なことに、彼には実力が足りなかった。
ゲームをする上での知識、経験は持ち合わせていたようだが、実戦経験があまりに足りなかった。
彼には、この6人の実力は見抜けなかった。
「ブック!」
ボン!!
男が手に本を出現させる。
あれがブックか。
旅団はただ観察するのみ。
「(ブックにはブック! これはG・Iの基本! これでコイツらはド素人確定・・・! どうせ良いカードは無いだろうからな・・・だったら・・・コイツで十分!!)
追跡(トレース)オン! フィンクスを攻撃!!」
シュバ!
男がカードを持ち宣言した瞬間。
光弾がフィンクス目がけて発射される。
「!!」
フィンクスは瞬間的に回避行動にかかる。
彼の高速の回避運動に光弾は翻弄される。
光弾とフィンクスとの舞踏を旅団は冷静に、仕掛けた男は驚愕の顔で見つめていた。
「(スペルは物理的な回避は不可能だ・・・! だが何だアイツの動きは!! 人間業じゃねぇ!!)」
男には動きが見えていなかった。
一瞬、影が揺らめいたと思うと・・・そこをスペルの光弾が軌跡を描きながら追尾していく。
光と影が揺らめく様は幻想的ですらあった。
「フィンクスー 多分それ喰らっても大丈夫だよ。 多分ゲームの中の呪文だと思うよ。 試しに喰らってみてよ!」
「勝手なこと言ってんじゃねー!」
避けながら反論するフィンクス。
知的探究心を一蹴されたシャルナークは仏頂面だ。
「(コイツら・・・ヤバい!) 再来(リターン)オ・・・!?」
男はスペルカードで撤退しようと試みた。
しかし。
「動くな」
いつの間にかピンクの髪の女に後ろに回り込まれ、挙句に両肩に手まで置かれている。
まったく気が付かなかった。
恐怖で息が詰まる。
膝が笑い、顔面が蒼白になる。
背後からの殺気で、男は完全に心が折られていた。
「た、た、たた頼む・・・! ここここコロ、殺、殺さな殺さないで、で・・・・・・ッッ!!!」
男の懇願などまったく聞く気はない。
地上を闊歩する人間に、虫けらの声が届くはずもないのだ。
「パク お願い」
ピンク髪の女が声を掛けると、胸元を大きく開けたスーツを着こなす女が近づいてくる。
「アレは何? このゲームについて・・・アナタの知ってることを教えて貰おうかしら?」
ガッ。
パクノダが男の首を持ち上げる。
記憶の流入。
そして。
「ふーん そういうこと・・・フィンクス! それ、無害だから大丈夫よ このゲームのことは大体分かったわ」
未だにワルツを続けるフィンクスに向けて、踊りの中止を要請するパクノダ。
その要請を受けてフィンクスは大人しくスペルを喰らう。
彼もそろそろ避けるのが面倒になっていたようだ。
「ブック ・・・じゃあ全部カード出しなさい」
パクノダは本を出現させると男の持っていたカードの全てを奪う。
未だに恐怖で震えている男。
絶対に関わってはいけない危険人物。
今、自分を囲んでいる6人はそういう人間なのだと今更ながら気付けた。
そして自分の運命にも・・・気付けた。
全ては遅かったが。
全てのカードを捧げた男に旅団が与えたモノは、デメちゃんの頭突きだった。
側頭部からの頭突きで、哀れな男の頭部は飛散し・・・その生涯に幕を下ろすことになった。
ずず~。
シズクが男の残骸を清掃する。
天然で大雑把で忘れっぽい割に、具現化に掃除機を選ぶだけあって意外に綺麗好きなのだろう。
「みんな 説明が面倒だから『これ』・・・撃ちこむわよ」
パクノダが『記憶弾(メモリーボム)』を発現させる。
この日、グリードアイランドに「話題のボマー」を上回るプレイヤーキラーが参戦してしまった。
その数6人。
グリードアイランドの難易度がさらに跳ね上がる記念すべき日になりそうだった。
 
 
 
***
「ここは現実世界だ」
シャルナークが断言する。
プレイヤー達の記憶を覗く。
シズクの念で吸いとってみる。
等の検証の結果、シャルナークはそう結論付けた。
「本当はコルの『神の左手 悪魔の右手(ギャラリーフェイク)』でも実験をしたかったけど・・・・・・まぁほぼ100%ここは現実だ」
1日でここまで確信めいた結論を出せた者はこれまで皆無だろう。
「ここが現実!? マジか!!」
ウボォーギンが素っ頓狂な声を上げる。
ウボォー以外のメンバーも多かれ少なかれ驚いているようだ。
パクは気付いていたようで動揺は無い。
「ここが現実だからって何なんだ? 別に趣旨は変わんねぇだろ?」
ゲームの世界では無いと知ったところで幻影旅団のやることは1つ。
スペルカードをコンプリートし「大天使の息吹」をゲット。
ゲームをクリアする。
「ちっちっち これからが重要なんだよフィンクス。 ここが現実世界なら何もルールに沿ってゲームをプレイする必要なんて無い。
クリア報酬のカード3枚なんて言わず何枚でも持ち帰られるかもしれない・・・・・・地図の広さから推測すると広さはコトリタナ共和国程度・・・ゲームマスターは1人じゃない」
ニヤリと悪い笑顔。
だがその意見にパクノダが食いつく。
「・・・やめた方が無難だと思うわ。 プレイヤー達の記憶も『らしい』って程度だったけどルールを逸脱した者にはゲームマスターが制裁を加えるそうよ。
多分、不正な方法で島の出入を行なおうとした人間・・・クリア時に3枚以上のカードを持ち出そうとした者・・・とかにはペナルティが加えられるんじゃないかしら。
普段ならやる価値はあると思うけど、今回はカナメの命が掛かっている・・・・・・確実にカードをゲットするべきだと思うわ」
幻影旅団らしからぬ安全策。
いつもならば、まず誰も賛同しない。
だが。
「私も同意見だね。 状況によってはリミットは半年も無いかもしれないんだ・・・今回はさっさとゲームをクリアしようよ」
マチも。
「私もパクとマチに賛成。 不正するならカナメを助けてからやろうよ カナメと一緒の方が楽しい・・・」
シズクも。
「・・・だな。 シャル・・・今回はやめとこうぜ 現実(おもて)には鎖野郎とヒソカだっているんだ。 奴らが団長達に仕掛けねーとも限らねぇ。 ぱぱっとクリアしてぱぱっと帰ろうぜ」
ウボォーもパクに賛同する。
発言は無いがフィンクスもパクノダ派のようだ。
別にシャルナークとしても無理に不正をする気はない。
ただ不正をした方が手っ取り早く目的を達成出来るのでは・・・と考えただけなのだ(ちょっとだけお宝大量ゲットの期待もあったのだが)。
「まー確かにその可能性は俺も考えた。 じゃあ今回は確実に行こう とりあえずプレイヤーキルは不正では無いし手っ取り早いからサクサク殺していきましょう!
あ、カードを全部頂いてから殺すようにね皆♪」
満面の笑みで次策を提示する。
今度は誰の反対も無い。
「じゃあ何かあったら交信(コンタクト)で連絡をとるってことで3組に別れて攻略しよう。 俺とウボォー、パクとマチ、フィンクスとシズク・・・で組もう」
シャルの言に皆が頷く。
「よーし・・・どの組が1番早くカード集めるか競争な!」
「殺したプレイヤーの数も競争しようぜ」
ウボォーが子供のような純粋な笑顔を浮かべ、フィンクスが悪どいヤクザのような笑顔を浮かべる。
旅団が本格的に動き出す。
ヨークシンからグリードアイランドへと場所を移し・・・再び宴が始まる。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第7話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/07/24 01:10
「ゲームを始めてはや4ヶ月弱か。 ヤバいね 97枚になったのは良いけどリミットまで後2ヶ月だ」
少しばかり深刻そうな表情を見せるシャルナーク。
「やっぱり伝説のゲームだけあるわね。 意外に手こずるわ・・・」
「くそっ! ゲームっつー制約が無ければサクサク行けるんだがよ・・・」
パクとウボォーが心底悔しそうに呟く。
「後3枚か・・・」
マチもかなり不機嫌そうだ。
無理もない。
残りは3枚と言えど、そのカードが問題なのだ。
「No.000、No.073闇のヒスイ、・・・そしてNo.002一坪の海岸線・・・ これがネックだよね」
とはシズクの言。
プレイをしてきて4ヶ月弱。
碌な情報が手に入らなかったカード。
持っているプレイヤーすらいないので奪うことも出来ない。
「これ以上は聞き込みをしても意味が無いだろうね。 きっと一坪の海岸線は情報の獲得の時点から何らかのイベントを起こさないと駄目なんだと思う」
「イベント~? 一体何やりゃイイんだよ! こちとらやれること全部やったぜ!」
シャルの冷静な分析にフィンクスは思わず声を荒らげてしまう。
ビキビキとコメカミに青筋を浮かべている。
「一坪の海岸線はとりあえず後回しだ ひとまず状況の整理をしよう。 まず現実(おもて)の様子は変化無し。 警戒すべきプレイヤー達は・・・
第1位がツェズゲラ組、第2位がゲンスルー組、第3位がゴン組、 で・・・ハガクシ組、トクハロネ組と続く感じかな(それ以外のプレイヤーの殆どは殺しちゃったし)」
フィンクスの怒気を気にも留めず情報の整理に徹するシャルナーク。
「・・・ゲンスルーは爆弾魔(ボマー)でいいんだよね?」
シズクが首を傾げながら尋ねる。
「そうでしょうね。 プレイヤー達の記憶の多くで、ゲンスルーから爆弾魔(ボマー)の話題を聞いているわ。 中には多少不自然な切り出しもあった・・・
恐らく能力の発動条件に関わっているキーワード・・・それが爆弾魔(ボマー)・・・!
奴は以前ハメ組に属していたはずよ・・・それがこの前大量死して奴だけが生き残っている・・・ ゲンスルーが殺ったんでしょうね」
隣で頷くシャル。
彼の予想も同じのようだ。
「あーハメ組ね・・・奴ら顔を合わすだけでさっさと逃げちまうからヤル気萎えたもんだぜ。 けど爆弾魔(ボマー)か・・・おもしれぇ・・・是非一度お手合わせ願いたいもんだな」
完全武闘派のゲンスルー。
その未知の実力に想いを馳せるウボォーギン。
フィンクスと共に歪んだ笑顔を見せる。
「・・・このゴン組ってどんな奴ら?」
またもやシズクの疑問。
当然と言えば当然の疑問だろう。 何故なら1ヶ月程前まで指定ポケットカードはスッカラカンだったのだから。
「あぁ子供のチームらしいんだけどね 集めるスピードが凄くてさ。 まー要警戒かなーって思って」
「でも所詮ガキだろ? それに私達だって80枚ぐらいまでは1ヶ月かかんないで集めれたしね。 そこで終わりだよ どうせ」
マチは歯牙にも掛けない。
シャルの心配も一蹴である。
「よーは敵はツェズゲラ組とゲンスルー組ってことだ。 さっさと奴らをぶっ殺してカード頂こうぜ!」
短絡思考の3大巨頭の1人、フィンクスが息巻く。
「だーかーらー コイツらも一坪の海岸線は持ってないんだって! 殺しても意味無いんだよ・・・・・・でもゲンスルー組は闇のヒスイ持ってるからなぁ 殺るのもありか・・・?」
考え込む。
この段階に来るとプレイヤーキルも余り意味が無くなってきた。 手詰まりだ。
今まで手は尽くしてきたがどうにもNo.002の情報が得られない。
さてどうしたものか。
「・・・他のプレイヤーと組んでみるのもアリかしら・・・」
パクノダが呟く。
皆が思案。
珍しく答えに詰まりぎみの蜘蛛達であった。
 
 
 
***
「やだ! 絶対反対!! 奴らなんかと組むもんか!!!」
バカでかい声でゴンが叫ぶ。
「~~~~~ッ!!」
キルアは思わず耳を塞ぐ。
頭がキンキンする。
「そんなこと言ってもさ! 実力合って1グループで多人数ってコイツらしかいねぇって!!」
キルアとて感情では組みたくは無い。
だがそうも言ってられないのだ。
ゲンスルー組と徒党を組むなどあり得ない。
奴らは問答無用でコチラを殺そうとしてくるだろうから。
ある意味では幻影旅団の方が話が通じる奴らだとキルアは思っているからこその提案だ。
「・・・早くコンタクトとらねぇと万が一にもゲンスルー組と組まれると最悪だぜ? 武闘派同士気が合っちまうかもしれないしな」
ゴレイヌの意見は最も。
「まぁ僕がここにいる時点で交渉決裂は確実だと思うよ? 蜘蛛の裏切り者だしね♥ 奴らは僕を殺りたくてウズウズしてるはずさ♣」
物騒な話のはずだがヒソカはどこか嬉しそうだ。
「それはなんとかなるだろ? 名前は変えてあったから・・・マッド博士の整形マシーンで顔変えて、喋らずにいれば能力使わなきゃバレないさ」
キルアはさり気無く非道い。
「・・・・・・あれって5%の確率で失敗しなかったっけ?」
ヒソカの質問にもケラケラと笑って、大丈夫だよの一言で終わらす。
そういう少年である。
「結果的にはクラピカって人も大丈夫だったのですし、一番危険な敵ならばいっその事味方にしたほうが良いのでは?」
猫かぶりモードのビスケ。
気持ち悪ッ。
キルアは素直にそう思った。
「なぁゴン・・・ クラピカも『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』で何とか助かったんだしさ。 俺らが黙ってりゃ大丈夫なんだ。
クラピカも今は復讐よりも、仲間の目を取り戻そうと努力してる・・・俺らがいつまでもそんなことに拘っていてどうするんだよ!」
そう。
クラピカは旅団への復讐より仲間の目を優先した。
ウボォーギンという男に吹き飛ばされ(吹き飛ばされながら『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』で回復し、死なずに済んだらしい)、深手を負いつつも戦闘地点に戻ったクラピカ。
そこで見た光景はクラピカにとって余りにも衝撃的だった。
血だらけの仲間の遺体?を抱きしめながら涙を流し・・・慟哭していた。
そして、ソレを大事そうに抱えながら、翔ぶように駆けて去っていった。
クラピカは蜘蛛もまた仲間を想う人間だという事実を見せつけられてしまった。
クラピカもまた慟哭し、やるせない思いをただ地面にぶつけるしか無かった。
千切れた右腕も『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』で繋げることができた。
尤もクラピカは『癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)』を酷使し過ぎて(正確には絶対時間(エンペラータイム)だが)1週間以上寝込んだが。
ともかくクラピカは仲間の目を取り戻すことを優先させる決意をした。
以上がゴン達が知る事の顛末である。
それでいいと思った。
チープな言い方だが・・・復讐は何も産まない。 ただ浪費するだけ。
クラピカという魂が磨り減るだけ。
ゴンとキルアは、クラピカのそんな姿は見ていたくなかった。
だから、復讐を一時的にとは言え中止してくれたことが嬉しかった。
今はクラピカは仕事、レオリオは受験勉強の為ここにはいない。
旅団を抜けた時からヒソカはゴン達と行動を共にしている。
ヒソカの真意は見えてこないが・・・。
そして現在。
ゴン一行は、当初の目的通りグリードアイランドをプレイしている。
道中出会ったビスケに教えを乞い(ヒソカは修行には非協力的であった)、ゴレイヌやカヅスール達と一坪の海岸線イベントを発生させることに成功した。
・・・・・・のだが。
ゴン組、ゴレイヌ以外の圧倒的実力不足の為話にならず、一時撤退中。
レイザーに対抗できる仲間を探しているのだ。
各々のバインダーで相応しい人物を探していたのだが・・・。
そこで見つけた名前が旅団の面々だ。
ヒソカがお遊びで名前を変えていなければ本当に危なかった。
ゲーム中にいきなり襲われる可能性もかなりの確率であっただろう。
今はその旅団達と組むか組むまいか議論の真っ最中である。
「う~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・わかった・・・・・・」
渋々といった様子だがゴンが了承する。
「よし! じゃあ交渉するからな。 ・・・あっ! ヒソカ! 絶対喋るなよ!」
しっかりと釘を刺す。
はいはいと気怠そうに生返事を返すヒソカを尻目にキルアはカードを取り出す。
「じゃあ早速・・・」
そのカードとは『交信(コンタクト)』でも『同行(アカンパニー)』でも無い。
『マッド博士の整形マシーン』。
「げ♠」
ヒソカの整形まで秒読み段階。
「後で戻すからさ♪」
キルアは爽やかに笑うのだった。
 
 
 
***
ボンッ。
「お?」
フィンクスのブックが勝手に発動する。
「他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使いました」
バインダーが機械的に告げる。
珍しいことも在るものだと他の面々も経緯を見守る。
「俺の名はゴレイヌという。 現在5人のチームだ 早速だが要件に入るぜ ・・・アンタ達と組みたい。 詳細は会って直接話したいんだが・・・」
自分達と組もうとするヤツらがいるとは。
サクサクとプレイヤーを殺してきた自分達の噂ぐらいは聞いてるはずだが。
どーする?
目でシャルナークの判断を仰ぐ。
シャルが頷きフィンクスと変わる。
「代理のシャルナークだ。 ・・・君達と組むメリットが俺達にあるのかな? 殺してカード盗った方が早い気がするんだけどな?」
笑顔で冷酷に言い切る。
「・・・・・・取り敢えず会って話がしたい。 時間も無い イエスかノーで返事が欲しい」
ゴレイヌもまた冷静だ。
シャルはパクノダを見つめる。
パクノダは頷いた。 肯定だ。
他の面々は、任せる・・・と目で語っている。
「・・・イエス。 こちら側は周りに人はいないし内緒話にはモッテコイだ。 待ってるよ」
「わかった 今からそちらに「同行(アカンパニー)」で行く。 いきなり攻撃なんてしないでくれよ」
・・・。
・・・・・・。
通信終了。
「と、いうわけでこれからお客さんが来るよ」
一同を見渡しつつシャルナークが告げる。
「相手もなかなか肝が座っているわね。 私達の評判は知ってるでしょうに・・・」
パクノダは本当に感心しているようだ。
爆弾魔(ボマー)と同じかそれ以上に悪名が高くなってしまった今、交渉に来ようとするとは豪胆な連中だ。
きぃぃぃぃぃん・・・・・・。
空を裂く高音。
連中のご到着だ。
ザシュ!
1人2人3人・・・。
全部で5人。
その内子供が3人。
恐らくあの3人がゴン組だろう。
ゲームを真っ当にプレイ出来ている子供など、その1組しか聞いたことがない。
一目で分かる。
静かで美しい、良いオーラだ。
あの年齢に似つかわしくない実力を持っていそうだ。
引率している大人2人もなかなかの力のようだ。
・・・・・・。
片方の男のオーラが若干・・・どこぞの誰かの歪なオーラに似ているような気がしないでもないが。
「ようこそ 俺はシャルナーク。 えーと・・・どちらがゴレイヌさん?」
俺だ、と言うと同時に男が一歩前に出る。
なるほど。
名は体を表す。
どこからどう見ても・・・・・・ゴレイヌだ。
それ以外考えられない。
「なんだ?」
「いや失礼 なんでもない。 では早速本題だ・・・・・・・・・・・・君達と俺達が組むメリットは?」
空気が一瞬で模様を変える。
温度が急に下がったような・・・そんな空気。
ゴンとキルア、そしてゴレイヌの頬を汗が一筋流れる。
恐らくメリット無しと判断された時点で・・・殺される。
目の前の青年はニコニコと笑顔を浮かべているが、纏う空気とオーラが殺意を明らかにしている。
後ろに控えている者達も同様。
無表情、或いは笑顔のままで凄まじい圧力。
ヒソカ以外の面々は・・・ビスケでさえも極々僅かながら焦燥しているように見える。
これが・・・これが幻影旅団!
キルアは自惚れていた。
ビスケを師として自らを鍛えた。
ここに来てからのレベルアップは尋常では無かったはずだ。
既に一端の実力は持っている。
そのつもりだった。 だが・・・「つもり」になっていただけだった。
それが分かった。
しかも相手は全く「殺る気」になっていない。 恐らく軽く殺気を飛ばしているだけ。
だがそれでも6人の実力が分かった。
相手の実力が分かるのも実力の内・・・・・・そういうことなのだろうがキルアには・・・そしてゴンにもこの事実は衝撃的だった。
ゴレイヌが唾を飲み込む。
一呼吸置きシャルナークに答える。
「・・・一坪の海岸線の情報を持っている・・・俺達と組めばそれを提供しよう」
その発言に蜘蛛達の表情が少しばかり驚いたものへと変化した。
「へぇ! 本当!? それはスゴイなぁ! 俺達でも手がかり掴めなかったのにな」
青年はニパッと破顔させ笑う。
僅かに空気が軽くなる。
今が交渉の好機。
そう判断すると、未だ冷や汗をかきながらもゴレイヌは畳み掛ける。
「言っておくが、このカード アンタ達が自力で入手するのは絶対に困難だぜ。 内容を聞けば納得してもらえるはずだ」
ゴレイヌの言葉に考え込むシャルナーク。
チラリとパクノダを見る。
僅かに頷く。
個々で出来る事も6人で出来ることも片っ端から試した。
それでも入手できなかった一坪の海岸線の有益情報。
丁度、他グループと組むことも視野に入れ始めていたのだ。
確かにこれは僥倖とも言えた。
しかし。
「君達はバッテラに雇われたプレイヤーだろ? 組めば、こっちにも当然分け前くれるんだよね♪ 確か500億だっけ ・・・じゃあ60%頂けるんなら考えるよ」
「な! ろ、60%!? そ、それは流石に・・・!!」
法外な割合を提示され狼狽するゴレイヌを尻目に、シャルナークはけらけらと笑う。
「アハハ♪ 冗談冗談! ・・・・・・金なんか要らない・・・俺達からの条件は唯1つ。 クリア時の報酬・・・現実に持ち帰られる3枚の指定ポケットカードの内、
「大天使の息吹」を俺達が持ち帰ること・・・それだけだ。 それさえOKなら組もう」
この条件は大問題だ。
何故ならばゴレイヌ達、バッテラに雇われたプレイヤーは最初の段階で「現実に持ち帰ることが出来るカードはバッテラに提供する」と契約してしまっているのだ。
ゴン組の交渉はゴレイヌに一任されている。
だがこれを今、自分が決めてしまうのは躊躇われた。
が。
ゴレイヌはすぐさま、この条件を飲まざるを得ない状況に追い込まれた。
相手側のオーラがあからさまに攻撃の意思表示をしてきたのだ。
旅団としては当然だった。
一坪の海岸線の情報を持っているという。
ならば1人、2人半殺しで残して、後は全員始末すればいい。
そして残った人間からパクノダが記憶を探る。
それで十分なのだ。
だから交渉決裂になろうとも、それは望むところだった。
「・・・わかった! その条件飲もう。 クリア報酬の指定ポケットカード3枚の内の1枚は「大天使の息吹」で、アンタ達のものだ。 だが残りの2枚とバッテラ氏の報酬500億は
俺達のもの・・・・・・それでいいな?」
ゴレイヌとしては苦渋の決断だ。 後々バッテラ氏に事情を説明し、2枚のカードで納得して貰うしかない・・・。
想像するだけで気が重い。 場合によっては契約不履行にも・・・。
ゴレイヌのそんな気苦労など露知らず、その言葉に満面の笑みを返すシャルナーク。
交渉成立。
「よし 組もう。 じゃあ一坪の海岸線の話し・・・聞かせてもらえるかな?」
 
 
 
***
「そういうことか・・・人数とはね・・・これはアタシ達には無理なはずだね・・・」
マチが嘆息する。
15人以上で「同行(アカンパニー)」を唱え、ソウフラビまで飛ぶ。
それが条件だったのだ。
例え全員でプレイしていたとしても幻影旅団には一生無理な条件だ。
「そっちと私達を足しても11人だけど・・・残りはどうするの?」
シズクの問題提起。
キルアが答える。
「残りは数合わせのクズを入れるのさ。 カード分配の心配が無くていいだろ?」
なるほど・・・とシズクも納得。 さらっと非道い少年だなぁというのがシズクの感想であった。
「で? 当然競技の内容は調べてきてんだよな?」
今度はフィンクス。 解答を用意したのはゴレイヌだ。
「ああ これだ。 見てくれ」
皆にメモを披露する。
「俺達が見てきたのは9種だけだが、状況によっては相手が自分達に有利な競技に変える可能性もあるだろうな」
メモを見つめていた巨漢が大声を張り上げる。
「俺は相撲をやるぜ!」
やる気満々のウボォーギンだが、そんな彼を冷たく見据える少年が1人・・・。
「あ それダメだぜオッサン。 相撲は俺だから」
「オ、オッサン!? おめぇ俺をオッサンっつったのか!? 俺はまだ20代だ!!」
「え! そうなの!?」
思いもよらぬ出来事にゴンも驚愕してしまう。 ゴンはこの巨人のことを30後半ぐらいだと思っていたのだ。
「ぬお!? 黒髪の坊主もか! て、てめーら・・・揃いも揃っていい度胸だ・・・! そこへナオれ!」
逃げる少年2人を追い回す巨漢。
どうやらいきなり相性がいいようだ。
ウボォーは子供に受ける性格をしているのかもしれない。
「じゃあ私リフティング」
「俺はレスリングを希望するぜ」
「俺ボクシングな 一発で消し飛ばしてやるぜ」
「あ! 待てフィンクス! 相撲の次に俺狙ってたんだぜ! 相撲ダメなら俺ボクシング!」
「あ゛? ふざけろ 早い者勝ちなんだよ。 諦めな」
「じゃあアタシはバスケ」
「私はボウリングにするわ」
「私は卓球がいいです」
「じゃあ俺フリースローでいいや」
次々に決まっていく。
ウボォーとゴンはすっかり置いてかれてしまっていた。
「・・・・・・どうしようウボォーさん?」
「・・・おいシャル 後、何が残ってる?」
ガッカリとあからさまに気落ちしているウボォー。
「えーとね・・・これは彼が出るから・・・後はビーチバレーだ。 丁度2人必要だからウボォーとゴンはこれね!」
決定されてしまった。
皆、特訓だーと言って散ってしまう。
取り残されるウボォーとゴン。
「・・・・・・おいゴン・・・お前、ビーチバレーやったことあるか?」
「・・・・・・ない」
「俺も無ェ!」
この数分後・・・シャルナークに泣きつく強化系バカが2人いたそうな。



[19645] 狙撃手(スナイパー)第8話
Name: ぞーもつ◆60607513 ID:96299327
Date: 2010/08/24 03:03
「勝者 ビスケ!」
「勝者 パクノダ!」
「勝者 クワバラ!」(ヒソカ)
「勝者 シャルナーク!」
大差での4連敗。
残る7人も実力は申し分無さそうだ。
ゲームマスターたる自分もギリギリの戦いを強いられるかもしれない。
そう思えるレベルの者達だ。
面白くなってきた。
いよいよ自分の出番だ。
その段取りの最中に・・・。
何とも間抜けなことに、部下の1人が造反した。
「このクソゲームに付き合うのも、もうやめだ!」
やれやれ。
本当に間抜けな奴だ。
タブーを口にするとは。
それに何より・・・ジンの・・・俺達のゲームをクソと呼んだ。
目の前で侮蔑されて気にしないでいられる程、俺は優しくないぜ? ボポボ。
ブン。
グシャアァァァ!
俺の念弾で、リンゴが弾けるようにボポボの頭が砕ける。
やれやれ。 今の一連やりとりでバレてしまったかな?
「ふん・・・殺されはしないとタカくくってたか バカが! ・・・・・・よし 次はオレがやろう」
レイザー出陣。
提案は8対8のドッジボール。
「8人・・・!! メンバーを選んでくれ。 こっちはもう決まっているからな」
ズズズ・・・。
レイザーの背後に出現する異形の人。
その数7体。
「!! ちょっと待てよ! 勝敗はどうするんだ! 1人1勝なんだろ!?」
ゴレイヌが抗議の声を上げる。
だがレイザーは平然と答える。
「ああ 1人1勝だ。 だから勝った方にに8勝入る・・・・・・簡単だろ?」
つまり・・・。
今までの勝負はただのお飾り。
無いも同然。
「な~る。 つまり俺達が雑魚相手に何勝しようが、アンタが1人で帳尻合わすシステムってわけだ! 14人の悪魔ってアンタの能力だったんだねー♪」
してやられた! と、愉快そうに悔しがるシャルナーク。
「オ、オレは嫌だぜ! 現実に帰れなくてもいい!」
「俺もだ! あんな奴と闘うのはまっぴらだ!」
「オレももう帰るよ!」
騒ぎ出すクズ達。
戦力になるのは7人。
後はこのクズの中から選ぶ。
「アンタら・・・何か勘違いしてるんじゃないのかい? アンタらに拒否権なんて無いよ。 出な」
ガッ。
マチが1人の首根っこを掴みフィールド内に投げ捨てる。
「ぐひゃ! ま、待ってくれ! 最初と約束が!!」
「ごちゃごちゃうるせーな・・・・・・馬鹿なテメーらにも分かりやすく説明してやろうか? ようは今オレに殺されるか、もうちょい生き延びるか・・・どっちがいい?って話だ 分かったか?」
フィンクスが実に簡潔に、彼らの置かれた状況を説明してやる。
クズ絶体絶命。
その時思わぬ助け舟が出る。
ゴンだ。
「俺達7人だけでやろうよ。 命がけなんだから、やれる人だけでやろう? こっちは7人で構わないでしょ?」
だがレイザーの答えは事務的で非情なものだった。
「いやダメだね 8人でやってもらわないと。 15人集めさせた意味が無いだろ?」
「そっちは1人じゃないか! ・・・ゲームのキャラにこんなこと言っても意味無いかもしれないけど・・・仲間だったんだろ? ボポボって人が殺されなきゃいけない程の何をしたって言うんだ!」
激昂する。
何とも純朴で真っ直ぐな少年。
初めて出会った人間の為に、心の底から怒り悲しみ喜べる人間。
それがゴンだった。
だがそんなゴンを嘲笑うかのような声が味方陣地から飛んでくる。
「あははは ゴン・・・アイツは死刑囚だよ。 ここは現実だ ボポボって奴はハンターに雇われた現実の犯罪者さ」
シャルナークの衝撃発言。
「え?」
ゴンを始め・・・キルア、ビスケ、ゴレイヌらが固まる。
「ここが・・・現実!?」
ゴン組一同は誰もこの事実に辿り着いていなかったようだ。
無理もない話だが。
「さっきの遣り取りからして、レイザーはゲームマスターの1人でしょうね。 実在の人間よ 彼らは」
パクノダのアシスト。
ゴンは未だ狼狽を隠せない。
キルアとビスケらも同様だ。
「ここが現実・・・!」
「気付きもしなかったわさ・・・」
ダムッ!
ボールが勢い良くバウンドし、レイザーの手の中に収まる。
「まっ 本来はどちらでもいい話さ。 外界から隔離された空間であることには変わりない」
ここが・・・現実。
「えっ・・・ちょっと待って! ここが現実ってことは じゃあまさか・・・・・・ジンもこの中にいるの!? G.Iの中に!!」
ジン・・・?
キルアとビスケ。 その2人以外の頭の上に疑問符が浮かんでいる。
「! そうか お前がゴンか」
「うん!」
ゴッ!!
ゴンの返事を聞くやいなや、レイザーの体から凄まじい量のオーラが溢れ出す。
何という練!
伝説のハンターの仲間というのは伊達ではないらしい。
「お前が来たら手加減するな・・・と言われるぜ。 お前の親父にな」
ゴゴゴゴゴ・・・。
圧倒的オーラ。
ゴンはその力を前にして、自らが昂ぶるのを感じていた。
旅団達も感心する強さ。
だが。
覚悟も才も無い人間達は違った。
その念に当てられ心が折れてしまった。
脱兎の如く逃げ出す。
が・・・しかし、それを許す旅団ではない。
「・・・逃げたら殺します」
静かに・・・だが明確に。 シズクが圧倒的な殺意を込めて宣言する。
それだけで男達は動けなくなってしまった。
ゴンは心配そうに様子を伺っている。
「大丈夫。 ちゃーんと説得するからさ」
そんなゴンにシャルナークが笑顔で答える。
彼がちょいちょいと手招きし、男4人を呼び寄せる。 男たちはおっかなびっくり・・・といった様子でシャルに近づいていった。
少しの会話の後・・・突然1人の男が大人しくコートに向かう。
目が少々、視点が定まってないように見えるが・・・嫌々には見えない。
あんなに嫌がっていたのに・・・。 不思議に思うゴンとキルア。
「(見えなかった・・・・・・けど何かやったに違いない。 説得なんかする連中じゃない・・・!)」
ゴンはもともと善悪に無頓着な性格。 僅かだが、特訓期間中に旅団に慣れ親しんでいた。 キルアとビスケのみが、そう疑うことができた。
ゴンにもキルアにも、シャルナークが特に何かを仕掛けたようには見えなかった。
『「携帯する他人の運命(ブラックボイス)」』!
男を注視すれば、腹部に深々と針が刺さっていると気付くだろう。
だがそれに気づいているのは旅団以外ではヒソカ(クワバラ)とビスケのみ。
レイザーは位置、距離が災いして気付くことが出来なかったようだ。
シャルナークの「説得」によりメンバー決定。
ゴン。
キルア。
ウボォーギン。
フィンクス。
マチ。
シズク。
ゴレイヌ。
操られた男A。
この8名が選手として出場する。
レイザーがルールを説明している。
いろいろくっちゃべっているが・・・。
「・・・・・・・・・えーと」
「・・・ようはどういう事だ?」
目を点にしているゴンとウボォー。
「ようは球はよけるか捕るかしろってこと」
キルアが慣れたように補足してやる。
「(なんだかゴンがもう1人増えたみたいだ・・・・・・)」
ゴンが大きくなったら、こんな感じなのだろうか?
キルアは心の中で苦笑するのだった。
「それでは試合を開始します。 審判を務めるNo.0です よろしく」
レイザーの念獣が律儀に挨拶。
「スローインと同時に試合開始です!!  レディーーー・・・ゴー!!」
ボールが高々と投げられる。
死を賭けた遊戯が始まる。
 
 
 
***
その巨体を買われスローイン役に決定したウボォーギン。
「おらぁぁぁ!」
気合を入れてボールを奪ったが。
スッ。
念獣はあっさり球を譲る。
「!?」
拍子抜けさせられた一同にレイザーは薄ら笑いを浮かべながら言う。
「先手はくれてやるよ」
嘲りにも聞こえた言葉に、捕球したゴレイヌは心が苛立つのを実感していた。
球を持つ手にも力が入る。
「余裕こきやがって・・・ 挨拶代わりにかましてやるぜ!! どりゃっ!」
掛け声と共に投げられた球は、十分な威力が込められていた。
小柄な念獣が、獣のような不気味な叫び声を上げて倒れる。
「おおっ やった!!」
「よーし まず一匹!!」
キルアの感嘆にゴレイヌはガッツポーズで答える。
キルアから見ても、先程の球の威力に不満は無かった。
外野の男Aから、再びゴレイヌへと球が渡る。
「よっしゃ もう一丁行くぜー そらよ!」
ゴレイヌの投球。
再度、威力申し分無し。
続けて更にもう一匹。
滑り出しとしては重畳。
キルアやゴレイヌらはそう思う。
「よーし 準備OK」
2匹の念獣が外野の3方向を固めた時点で、レイザーから見当違いの声が聞こえてくる。
「あ? 今、何ていった?」
思わずゴレイヌは聞き返してしまった。
「お前達を倒す準備が整ったって言ったのさ」
余裕綽々、といった態度を崩すこと無く・・・シレッとレイザーは答える。
ルール無用の本当の戦いならば、これ程の使い手達を前にここまでの余裕は保てないだろう。レイザー程の実力者であってもだ。
だが死の危険が有るとはいえコレはゲーム。遊戯。
ドッチボールなのだ。
公平に作ってはいるがルールもこちらが決めている。
こちらの土俵で戦ってもらっているのだ。
だからこそ独りであるレイザーにも十分勝機がある。
「・・・・・・・へェ ・・・面白ェ! やってみろよ!!」
気合一閃と共に打ち出されたゴレイヌの渾身の投球は。
バシッ。
「!?」
しかし、無常にもレイザーに片手で捕球される。
「(か・・・片手で止めやがった・・・・・・!!)」
球を持ったレイザーの右手にオーラが集まっていく。
ズ・・・ズ・・・。
「さぁ・・・てと・・・ 反撃開始だ」
レイザーがゆっくりと投球姿勢に入る。
コートのかなり後方でだ。
心理としては、普通少しでも前で投げたいと思うのが常であろう。
「(あんな遠くから!? パスか!?)」
ゴレイヌがそう思っても仕方がないというものだ。
ゴンとキルアも、この点では同様だった。
ゴッ!!
思考を許さぬほどの速度で迫る球!
球は一直線にゴレイヌの顔面へ向かう。
「(強・・・・・・!速・・・避・・・・・・無理!受け止める 無事で!?出来る!?否!死!) へぶッ!?」
ド! メキッ!
『白の賢人(ホワイトゴレイヌ)』『黒の賢人(ブラックゴレイヌ)』。
優れた念能力を持ってはいたのだがルールの制限によりゴレイヌはこれを使用できなかったのだ。
結果、『白の賢人(ホワイトゴレイヌ)』を出現させていなかったことから彼は哀れにも球を回避できなかった。
ぶっ飛んで行ったゴレイヌの顔面は見るも無残なことになっている。
顔面の骨は粉々だろうが辛うじて息がある。
「「ゴレイヌ!!」」
ゴンとキルアが慌てて駆け寄る。
「あの一撃をモロに喰らって生きてんのか。 結構やるね あのゴリラくん」
大人しく観戦していたシャルナークの正直な感想であった。
これでも褒め言葉だ。
並の使い手なら今の一撃で頭が消し飛んでいても不思議ではないのだ。
ポボポのように。
「・・・! 非道い怪我だ・・・! ビスケ! ゴレイヌの治療・・・頼める!?」
2人にやや遅れて駆けつけたビスケに懇願するゴン。
未だ披露していないビスケの能力『魔法美容師(まじかるエステ)』。
これは単純な外傷の回復には即効では無い(自然治癒の補助の様なことは出来るであろうが)。
精神的、肉体的な疲労などといった内在的なモノに優れた効果を発揮する。
「・・・やるだけはやってみるわさ・・・・・・とにかく死なせはしないからアンタらは試合に集中しな。 いいね!」
力強い師の言葉に2人は「押忍!」とだけ元気よく返答する。
球はリバウンドによりレイザー側へ。
再度あの攻撃が来る。
「さあ次いくぞ!」
ビュオ!
だがレイザーの放った球は念獣へ向かっていた。
「パス?」
「はぇーな」
キルアが驚嘆している背後で何とも呑気な会話が聞こえてくる。
バッ!
ビッ!
シュ!
超高速で陣地の周りを巡る球。
ゴゥッ!
超高速パスの勢いを殺さぬまま、外野の一匹が攻撃!
シズク目掛け球は猛然と突き進む。
ズガァァァ!
シズクは旅団でもその身体能力は下の下。
何とか目で追い受け止めることは出来たが・・・。
球の勢いに体が押され、それをマチが止める。
「ぷっ シズク押し負けてやがる。 左腕逝ったろ?」
「危ねーな! 線越えたらアウトだろ!? マチいなかったらアウトじゃねーか ぐはは ダセー!」
顔面近くで捕球していた両手を下ろす。
咄嗟のことで”堅”でしか防御がままならなかったシズクの顔面は、僅かだが傷付いていた。
「・・・・・・メガネが割れた・・・・・・それに今のはちょっとした油断だよ! 負けてません」
意外にも負けず嫌いなのか、メガネを外しながらフィンクスとウボォーの野次にやや声を荒らげて反論するシズク。
「怒ってる」
「怒ってないよ!」
今度の言葉は自分を支えてくれていたマチから飛んできた。
ゴンとキルアからしてみれば冷や汗の連続なのだが。
だがこの幻影旅団は、そんなことを微塵も感じさせない。
味方だとこれ程心強い連中も、そうそう居はしまい。
「・・・・・・(強いな・・・1、4、5の球では倒しきれない・・・か)」
レイザーは独り心中でボヤく。
ダメージはある程度通ったようだが。
ゴン一行の反応速度では致命傷は与えることが出来そうもない。
それに・・・連中から球を取り戻すのも・・・なかなかに難儀になりそうだ。
「ほれ シズクぱーす その手じゃ投げれねぇだろ?」
「いや俺だろ ヘイ! シズクぱーす」
フィンクスとウボォーが両手を上げて球を要求する。
まるで子供のようにはしゃぎながら。
「・・・・・・」
2人の要求を完全にスルーし、シズクは無言のまま投球フォーム。
「え!? シズクさん!?」
恐らく折れているであろう腕で投げるつもりマンマンのシズク。
それを見てゴンが止めようとするが。
ミシ。
折れた腕の痛みを耐えながら満身の力をこめて投げる。
ゴォォゥ!
念獣No.3が受け取りきれず吹き飛ぶ。
「意地っ張りね・・・」
パクノダが呆れたように、しかし温かく微笑む。
シズクは無表情のままだが一矢報いた事でどこか誇らしげだ。
球はレイザー陣地上空を未だ滞空。
このままいけばレイザーが捕ることは疑いなし。
だが。
「デメちゃん! ボールを吸引!」
「!?」
宙の球は猛スピードでシズクの元へ引き寄せられる。
球はそのままデメちゃんの口の中へ飲み込まれてしまう。
「ゲェっぷ」
「ダメだよデメちゃん 吐き出して」
言われるとデメちゃんは、口から先程の球をペッと吐き出す。
デメちゃんは直前に飲み込んだ物ならば吐き出すことが可能なのだ。
「(なるほど・・・いい能力だ・・・とんでもない奴らだぜ・・・)」
これ程の使い手達と1人でヤリ合うのも、そう経験出来ることではない。
自分は運がいい。
ドッチボールで、というのが安心していいのか悲しむべきなのかは思案どころだが。
レイザーは素直にこの状況を喜んでいた。
「審判 今のはアリだろ?」
キルアがNo.0に確認をとる。
「はい 念能力による捕球ですので問題ありません。 足が線を越えなければOKです」
その言葉にニヤッと笑うフィンクス。
「なるほどなるほど 念なら結構何でも有りな訳だな! 楽しいじゃねーかドッチボール!」
楽しそうにしている旅団。
この程度、旅団にとっては本当に只のゲームだ。
シズクからパスを受け取るフィンクス。
コイントスで投手の権利をウボォーから奪っていたのだ。
球にオーラを収束させる。
「へへへ 行くぜェ!? オラァ!!」
ギュオォォ!
「スゲェ!!」
「(威力は申し分無し!)」
キルアが声に出して、ビスケは心の中で賞賛する。
「(2、6、7では受け切れん)」
レイザーが念じたその瞬間、フィンクスの球に狙われていたNo.6、7の様子に変化が生じる。
幻影のように揺蕩い、そのシルエットが1つに重なる。
「!?」
ガシィッ!!ズザ、ザザザッ。
後退しながらもしっかりと球を捕球している。
巨体の念獣。
胸部と顔面にはデカデカと13の数字。
「アレありかよ!!」
「アリです」
「合体アリなら分裂もアリってこよかよ!?」
「ハイ ただし規定人数をオーバーするのはダメですから」
キルアが抗議の声を上げるも当然意味はない。
ルール違反ではないのだから。
No.0はレイザーの念獣の一体とはいえ高度な知性と公平な精神を持っている。
妥当な判定といえよう。
「おいキルア やいのやいの言うな。 ようはなァ・・・今度はアイツらが捕れねぇぐらいの球投げりゃいいんだよ・・・!」
口ではそう言っているフィンクスだが、捕られたのが相当悔しいのだろう。
コメカミに血管が浮き出ている。
「さぁ・・・ これで再び攻守交代だな」
レイザーは不敵な笑みを浮かべる。
再度レイザーの「あの」球が・・・来る・・・!
「ガキども、”堅”だ! やれるな?」
自身のオーラを高めながら、ウボォーギンがゴンらに問いかける。
なんだかんだで気にかけているようだ。
「オッサン 誰に言ってんだよ。 特訓で見たろ?」
「うん! 大丈夫!」
『堅』!
ゴウッ!!
素晴らしい。
特訓で見せた”堅”よりもずっと滑らかだ。
美しくすらある。
それが旅団員達・・・そしてレイザーの正直な感想であった。
「ほォ・・・ ”堅”ができるか ならば死ぬことはあるまい。 ・・・当たり所が良ければな・・・・・・ 行くぞ! ゴン!」
「・・・来い!!!」
一瞬の間の後、力強くレイザーへと応える。
ジンとの約束。
手加減はしない!
そう決めているレイザーの一撃がゴン目掛けて放たれる。
ゴレイヌへのモノと比べても明らかに強力!
現段階でのレイザーが放つことが出来る最高の一撃。
槍のように一直線にゴンへと突き刺さる。
「”硬”!!!」
ド!
”堅”では受け切れぬとのゴンの咄嗟の判断。
それは正しい。
だが。
ゴゥッ!!
ゴンが消える! 否! 吹き飛ばされた!
一瞬で後方の壁へゴンは叩きつけられ、砕く。
「「ゴン!!」」
キルアとウボォーギンが駆け寄る。
「ゴン!」
「生きてるか!?」
両名が問うと、ゴンはすぐさま顔をあげる。
額から流血しているものの致命的なダメージは負ってなさそうだ。
「大丈夫! 全然へーき!!」
「じゃねーだろ!」
とは言っても、キルアはそう突っ込まざるを得なかった。
流血はしているのだから。
「”硬”はナイス判断だったぜゴン お前の”堅”じゃぁ骨持ってかれてただろーからな」
ウボォーがゴンの頭をポンポンと叩きながら褒める。
「うん! ”硬”で頭と手をガードしちゃったから足の踏ん張りが効かなかった・・・・・・。 でも手も動く・・・ 次は捕る!!」
ゴンが笑顔を浮かべながら、吹き飛ばされる前よりも元気良く答える。
その答えに対し、ウボォーギンもニカっと笑う。
「よっしゃあ! その意気だぜゴン! レイザーに球ぶち込んでやろうぜ!!」
わはは、と笑いあう強化系2人。
キルアも何だか釣られて笑ってしまう。
「ぼーるはあそこかー・・・」
「随分派手にめり込んだね・・・」
シズクとマチが天井を見上げている。
そこにはポッカリと穴が空いている。
「ボールの落下予想地点からゴンチームの内野ボールで試合を再開します! なお、天井と壁も床の延長とみなしますのでゴン選手はアウトです!」
ホコリを払いながら立ち上がるゴン。
No.0の宣言を聞きながらゴンは決意を・・・というより意地を語る。
「『バック』は俺が宣言するからね」
駆け寄ってきていたシャルナークが、しかめっ面をしながらゴンを見る。
「でもさ ゴン」
「するから」
・・・・・・取り付く島もない。
ゴンが『バック』を宣言? とんでもない。
確かに才能は十分だが、現段階での戦闘力は旅団員のそれに及ばない。
それならば旅団の誰かが『バック』の権利を行使するのが当然と言えた。
「こーなったら聞かねーよ」
キルアも呆れ顔で嘆息する。
だがシャルナークも引き下がるつもりはない。
「・・・あのねえゴン・・・君はまだまだ弱い。 なんでそんな君に貴重な『バック』を使わせなきゃなんないんだい?」
弱い。
それは確かだ。
幻影旅団の面々。
ビスケ。
ヒソカ。
そしてレイザー。
彼らと比べれば自分は未だに圧倒的に弱い。
それはこのドッチボールを通してでも痛感している。
悔しいが何も言い返せない。
ゴンが諦めかけたその時・・・思わぬ所から助け舟がでた。
「いいじゃねーかシャル ゴンに使わせりゃあよ」
「ウボォーさん・・・」
「ウボォー?」
ゴンとシャルナーク、そしてキルアは無言で。 三者三様の驚きを示す。
「ゴンは確かにまだ弱っちいけどよ・・・ドッチボールならいけっだろ? それに俺達が『バック』の権利持ってても使わねーよ。 アウトにならねーからな・・・」
ウボォーの言葉に目をパチクリさせているシャルナーク。
そう言われれば・・・。
「うーん・・・ まぁ確かに・・・。 俺達がアウトにならなければいいだけの話か。 じゃーいーよ ゴンで」
許可がでた!
ゴンは満面の笑みでシャルナークに礼を言う。
「ありがとうシャルナークさん!」
そして言い終わるやいなやウボォーに向き直り。
「ありがとうウボォーさん! 俺絶対やってみせるから!!」
と、またもや満面の笑みのゴン。
「へっ ゴン・・・ 言ったからには意地みせろよ? 無様なマネしやがったらブッ飛ばすからな」
「うん!」
元気よく返事をすると、ゴンはキルアと共にコートへと駆け戻っていく。
「・・・・・・」
シャルナークがウボォーを見ている。
ニヤニヤと。
「・・・なんだよ?」
ギロリとウボォーが眼を飛ばすが・・・。
「いやー 良いパパだな。 って思ってね♪」
いい笑顔のシャル。
人をバカにする時に見せる最高の笑顔だ。
「俺はまだ独身だ!!」
ウボォーの悲痛な叫びは広大な部屋へと虚しく木霊したのであった。


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