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[19639] Muv-Luv Alternative 鷹が行く~海軍衛士たちの軌跡~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2011/07/23 01:54
この物語は戦術機大好き人間が書いてしまっています。

特に海軍戦術機が好きでたまりません。

もともと、海軍戦闘機が大好きだったもので。

あまりに好きすぎて、A3のF-14Dを購入してしまいました。

ということで、本作の主人公は海軍戦術機たちと言っても過言ではないかと思います。

常々疑問だったんですが、Muv-Luvの世界では日本は条件付き降伏で西側陣営に加わりますよね。

でも、戦艦は史実に登場する大和や武蔵に加え、計画だけだった紀伊まで登場します。

なのに、なのに、なぜ・・・日本の航空母艦は登場しないのか?

アメリカは設定上ちゃんとニミッツ級がでてるのに。

で、つい先日、メカ設定集(4400円)を購入。

そこで俺が目にしたのは・・・「日米安保条約によって戦艦の維持を義務付けられた帝国海軍は正規空母を配備しておらず・・・」という一文。

しかし私の心に潜む「空母愛!艦載機萌え!」という欲望を抑えきることができず、結果このSSができあがりました。

なんとしても、原作・公式設定に則った設定で空母を登場させたかったので、時代設定が桜花作戦後になってしまいましたが。


主な注意点として。

◎オリジナル戦術機、オリキャラ多数登場。

◎なるべく公式設定に則った形で。

◎ただし、設定の無い部分は自分なりの解釈で書いております。

◎ですので、公式設定に変更が加えられた場合、それまでの話に修正が加えられる可能性があります。

◎基本的に趣味に走った愚作です。

以上をご諒解の上、読んで頂けると光栄です。

なお、空母での航空機運用模写はキース・ダグラス著「第14空母戦闘群シリーズ」を参考にしております。空母好きにはたまらない必読書です。

その他、誤字脱字、矛盾点の指摘など建設的なご意見は大歓迎ですので、宜しくお願い致します。


◎更新履歴

・2011/7/23
始動篇~参~及び~四~を掲載。設定集、装備設定集、用語集、キャラクター資料を追加。

お久しぶりです!約半年ぶりでしょうか・・・ぼっちりぼっちり書き溜めていたら二話分ぐらいにはなったのでうpしました。
そうこうするうちに、クロニクル02が発売になりましたね!TDA、やりてーなー(*´д`*)

私は先日、不知火弐型(チョビ機)のプラモを購入しましたw
現在、誠意制作中です(笑)


・2011/1/19
始動篇~弐~を掲載。装備設定集、用語集、キャラクター資料を追加。

なんと、年が明けてしまった(笑)どんだけ、更新遅いねん!って感じですな(´・ω・)
というか、やっと主役の空母が登場です。。。しかも、最後に一瞬だけwww
懲りずに読んでくださっている読者の方々、感謝です(´;ω;`)


・9/14
始動篇~壱~を掲載。各種設定資料を追加・整理。

試験やら何やらで更新遅くなりました。クロニクル01、発売されてしまったorz
しかし、金欠によりまだ入手しておらず・・・エンタープライズ級の公式設定がでたのでウハウハですけどw
しかし、ニミッツ級とほぼ同等の船体で、搭載18機ってのはどうにもなぁ・・・


・7/24
前夜篇~参~を掲載。各種設定資料を追加・整理。また海軍戦術機部隊の名称を「母艦戦術機甲兵団」に変更しました。



[19639] プロローグ
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2010/06/18 18:15

AD.1967。

東西のイデオロギー対立に湧いていた人類は、未曽有の危機に直面することとなった。

人類種の天敵・・・BETAの出現である。

前年に火星で発見されていたこの外宇宙生命体たちは、間をおかず月面サクロボスコ・クレーターにも出現。

恒久月面基地プラトー1から派遣されていた地質調査チームがこれと接触し、壊滅する。

世に言う「サクロボスコ事件」である。

この事件をきっかけに、人類史上初の地球外生物と人類との接触及び戦争「第一次月面戦争」、後のBETA大戦が勃発した。

過酷な月面上での戦いに脆弱な人類は、強靭なBETAによってされるがままに蹂躙されていった。

その凄惨な光景は、当時の国連航空宇宙軍司令官をして「月は地獄だ」と言わしめるほどだった。


AD.1973.04.19。

そして、この年・・・BETAはついに地球の中国領・新疆ウイグル自治区カシュガルへと侵攻。

航空戦力を前面に押し立てた中国軍の猛攻により人類の圧勝と思われていた地球上での戦いだったが、高出力生体レーザーを放つ光線属種の出現により、航空戦力は無力化。

戦線は一気に崩壊した。

それから30年余り・・・人類は絶望的な撤退戦を続け、ユーラシア大陸の90%以上を失陥。

BETAの脅威は極東の日本帝国にまで及ぼうとしていた。


AD.1998。

BETAによる日本本土侵攻。

台風が猛威をふるう中、BETAは九州地方に上陸。海上部隊は展開できず、孤立した地上部隊は次々とBETAに蹂躙された。

帝国軍の必死の抵抗も空しく、ついに首都・京都を失陥。

一時は関東以西にまでBETAが迫り、横浜および佐渡島における二つのハイヴ建設開始が確認された。

そして・・・アメリカは度重なる日本の命令違反を不服とし、一方的に日米安保条約を破棄。極東より撤退した。


AD.1999。

明星作戦_オペレーション・ルシファー。

帝国軍・大東亜連合軍・極東国連軍による横浜ハイヴ攻略作戦。

2発の新型爆弾《G弾》により、人類史上、初のハイヴ攻略に成功する。歓喜に沸く人類。

だが、戦況は依然として好転する事はなかったのである。


そして・・・AD.2002.1.1。

満を持して行われたオリジナルハイヴ攻略作戦で、全人類は世界各地の戦線で一大陽動作戦を実施し「あ号標的」の排除に成功する。

BETAの行動のすべてをつかさどる中枢体の排除。こうして人類は、多大な犠牲を払いながらも、とりあえずではあるが滅亡の危機から救われたのである。



だが、人類とBETAの戦いが終わる事はなかった。

地球上には、未だ20以上のハイヴが存在しており、これらハイヴの排除が最優先目標となっていた。



これは、そんな物語の“終わり”から始まる、新たな“あいとゆうきのおとぎばなし”である。



[19639] 前夜篇~壱~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2010/07/24 20:17
◎2002年3月5日 カムチャツカ半島沖 現地標準時刻0900時



シベリアに訪れたつかの間の春の兆し。地平線から顔を出し始めた太陽光が、徐々に冷え切った気温を上昇させている。しかしBETA侵略による気候変動は、そんな予兆すらも吹き飛ばす凍える突風を極地の海上に吹き荒らしていた。

その極寒の海を白波立てながら突き進むのは、日本帝国海軍聯合艦隊第1航空艦隊第1航空戦隊所属、巡洋戦術機母艦「鈴谷」。

今、この極東の地には人類種の天敵・・・BETAに一矢報いるため、各国軍が終結していた。

事の始まりはこの年の始まり。

桜花作戦_オペレーション・チェリーブロッサムによるオリジナルハイヴ・・・俗に言う「あ号標的」の排除をきっかけとして、全人類は各地で反撃の狼煙を上げていた。

そしてここ、東シベリア地区では、ヴェルホヤンスク及びエヴェンスクに建設された二つのハイヴを奪還するため、それまで極東・アラスカ方面へ後退を続けていたソ連軍が大規模反撃作戦の実施を決定していた。

北東ソビエト最終防衛線方面には、虎の子の親衛師団をも投入したソ連陸軍主力部隊と、さらなる増援として派遣されたアメリカ軍を中核とする極東国連軍によって最終防衛線を押し上げる陸軍合同反攻作戦“ノースウィンド2002”が展開される事となっている。

一方のエヴェンスクハイヴ南に位置するオホーツク海においては、環太平洋諸国海軍による連合艦隊が形成されていた。



環太平洋海軍合同作戦“リムパック2002”。



主戦力は、母艦戦闘群と戦艦打撃群、そして戦術機母艦多数によって編成される機動艦隊・・・搭載されている戦術機部隊は合計で師団規模に相当する。

その中核を担う戦術機母艦部隊は、参加国の惜しみない努力によって抽出された戦力だった。


まず、この作戦の主催者ソビエト連邦海軍からは新鋭戦術機母艦ウリヤノフスクと軽母艦キエフ及びミンスクの3隻が参加している。

特にウリヤノフスクは、国際計画「海軍戦力再編計画」の一環としてニミッツ級ベースの大型戦術機母艦として設計された。ペトロハバフロスク・カムチャツキーの大型艦建造ドッグにおいてウクライナ技術陣によって建造され、1995年に就役した約8万トンという大きさを誇るソビエト連邦最大の戦術機母艦である。

かつて精強を極めたソ連海軍も、欧州を喪失した今では太平洋艦隊と北方艦隊を残すのみとなったが、ウリヤノフスクはその旗艦として北方艦隊に配備され、北極圏方面における間引き作戦の主力を担っている。

本作戦はソ連太平洋艦隊が主導しているが、その打撃戦力の中核として、一時的にではあるが配置転換されてきたのだ。

ウリヤノフスクはSu-33とSu-33UBを1個大隊強搭載し、2基のカタパルトによって安全海域からの戦力投射を可能としている。さらにソ連海軍には、キエフおよびミンスクの二艦にも4個中隊相当の海軍戦術機部隊を搭載しているほか、後詰の陸軍部隊を搭載した中型戦術機揚陸艦をも多数随伴させ、本作戦の主戦力を構成している。


次に極東国連軍への派遣部隊として、アメリカ海軍からは空母セオドア=ルーズベルトとカールヴィンソンが参戦している。ニミッツ級空母であるこの二隻は、それぞれF-18E/Fを1個大隊強ずつ搭載し、ソ連海軍の戦術機部隊と共に本作戦の双翼を構成している。特にルーズベルトは、98年のBETA日本侵攻の際には琵琶湖に展開し、京都撤退防衛戦で一役買った船でもあり、日本にとってなじみ深い存在である。

極東国連軍には、これらに加えて、ANZAC(オーストラリア・ニュージーランド連合軍)、大東亜連合軍、カナダなどから、多数の巡洋艦・駆逐艦・補給輸送艦からなる支援艦隊が派遣されていた。


そして・・・飛び入りとして直前に国連軍への参戦を申し入れた日本帝国海軍からは、巡洋戦術機母艦の鈴谷と熊野を中核とした第1航空戦隊、同じく巡洋戦術機母艦の利根と筑摩を中核とした第2航空戦隊が参戦していた。


鈴谷と熊野は正規空母を未だ配備出来ていない日本帝国が建造した戦術機動艦隊試験運用艦である。

1992年のインド洋派遣での戦訓を踏まえ、帝国政府は戦術機を海洋展開するための戦術機動艦隊用の正規母艦の必要性を痛感した。

それまで配備されていた三浦級中型戦術機母艦では、明らかに能力不足であったのだ。だが、すぐさま正規母艦を設計・建造する技術も予算も、海軍には与えられていなかった。それよりも、陸軍の戦術機甲戦力の拡充が最優先とされていたため、それは当然と言えば当然の結果ではあった。


そこで海軍は、最上級重巡洋艦の3番艦鈴谷と4番艦熊野の船体を利用した試験運用艦の建造を提案。

この案はなんとか採用され、1994年より改修作業が開始された。そして3年後の1997年、2隻は鈴谷級(改最上級)として再就役し、その後の本土防衛戦や明星作戦に参加した。

この2隻は大型の巡洋艦であった最上級の船体後部および両舷側にV字型の飛行甲板と2基の蒸気圧式二層カタパルトを設置したもので、前部砲塔はそのまま残されるなど、かなりいびつな形状をしている。

しかし、本土防衛線以降の実戦において、砲打撃力と戦術機投射能力の両立というコンセプトが意外に良好であることを示し、単なる実験艦としてではなく、正規母艦が就役するまでの場つなぎとして未だ航空艦隊の主力をなしているのだ。

またヘリコプター搭載型重巡洋艦であった利根級2隻も、鈴谷級と同じ改造を施され、2001年に再就役。鈴谷・熊野と共に海軍戦術機部隊を搭載して、クーデター戦や甲21号作戦、桜花作戦に参加し、こちらもまた陸軍戦術機部隊に負けず劣らずの戦果をあげていた。

これら4艦は、いずれも本格的な生粋の戦術機母艦ではないので搭載機は最大で20機程度である。だが、そこに搭載されているのは日本帝国軍が誇る第三世代戦術機・・・94式戦術歩行戦闘機《不知火》の海軍型・・・《叢雲》である。





「カタパルト、接続よろし!」

鈴谷のブリッジ上で、発艦作業士官が手旗信号を大きく振った。蒸気圧式二層カタパルトに接続されていた《海軍型不知火》_海軍衛士たちには《叢雲》と呼ばれている_が、跳躍装置のエンジン出力をフルパワーにあげる。

カタパルトとの接続元であるアレスティングギアがきしみ、戦術機の巨体がニーリングポジションへと移行する。


「飛行甲板、発艦作業はじめ!」


プリフライ_発着艦指揮所に陣取るエアボス_飛行長の号令一下、二層式カタパルトが戦術機を猛烈な勢いで加速させ、飛行甲板から放り出しはじめた。その光景を複雑な思いで見つめながら、浅木光也海軍大尉は相棒のRIO(レーダー迎撃士官)と共に、愛機の元へと飛行甲板上を急いでいた。

彼は、1992年のスワラージ作戦を初陣とした後、BETAの日本上陸に際しては京都防衛戦、西関東間引き作戦などを海軍戦術機部隊として戦い抜き、そして明星作戦及びその後の本土奪還戦においてBETA撃滅の英雄としてその名を轟かせた“海軍の鷹”である。海兵らしいごつごつした体格、“鷹”の異名にふさわしい厳めしい顔にある大きな傷跡は、京都防衛戦において要撃級の一撃を管制ユニット至近に食らった際についたものだ。

「大尉。大尉は我が軍の今作戦への参加をどう思われますか?」

そんな彼に声をかけてきたのは、部隊に先月配備されたばかりの榊原少尉だ。配属間もない新人少尉・・・アメリカ海軍に言わせるなら“ナゲット”というやつだ。

「どう、とは?」

「今回の“リムパック2002”は、我が海軍が急きょ作戦参加したと聞いております。なにもこの時期に、無理をしてまで北の辺境へと出向く意味があるのでしょうか」

浅木大尉は元々厳めしい顔をさらに険しくして少尉を見返す。

「大切なのは意味ではない。我々帝国軍人は、ただ陛下と御民のため、命令あれば死地に赴く。その覚悟が必要とされているのだ」

榊原の言いたい事は浅木も重々承知していた。海軍戦術機部隊は、局地戦力投射と一撃離脱戦法を前提としているため、陸軍戦術機部隊に比べて遥かに被害が少ないとはいえ、決して他国に戦力を貸し出せるほど余力がある状態ではない。

「それはわかりますが・・・私が聞きたいのは、今作戦に我が海軍が参加する事がどれだけ陛下と民のためになるのか、ということです」

「甲20号作戦・・・か」

「その通りです」

榊原の目は浅木の厳しい表情にも怖気づくことなくまっすぐ見返している。


錬鉄作戦・・・国際呼称“オペレーション・スレッジハマー”。


朝鮮半島に巣くう、鉄原ハイヴを攻略するために計画されている反攻作戦である。これが成功すれば、日本帝国本土防衛線のひとつである九州戦線の負担が圧倒的に軽くなるはずである。

「我が軍は、5月に対馬奪還作戦を控えております。海兵隊と共に、我々海軍機甲兵団も、その先陣を切る予定になっているはずです。にもかかわらず、このような極北の地における作戦でむざむざ戦力を消費するなんて・・・」

榊原が言う事は尤も過ぎた。海軍戦術機部隊の一つである母艦戦術機甲兵団は、98年からの本土防衛戦、その後の明星作戦で立て続けに投入され、少なからず損耗している。

甲21号作戦では斯衛軍第16大隊と共に緊急展開用戦力としておかれていたために被害が最小限度にとどめられたとはいえ、第2航空戦隊が搭載するはずの第2機甲兵団は、未だ再編中という有様。

そのため、今回の作戦では、急きょ第11機甲兵団(二線級予備部隊)から抽出された海軍型97式《雪風》の部隊が搭載された。なけなしの予備部隊を投入してまで、この作戦に飛び入りした理由は何なのか?

「リムパックには環太平洋諸国の軍が国連軍として参加している。はるばるオセアニアのANZACや大東亜連合軍までが参戦しているのだ。極東アジアの盟主である我ら日本だけがどうして手を抜ける?」

「確かにそれはそうです。ですが、それならば海軍から戦艦や巡洋艦による打撃支援艦隊を派遣すればよいだけのことではありませんか。現に、我が国と同じ戦術機動艦隊を創設したオーストラリアは、今作戦に支援艦隊の派遣しただけではありませんか」

浅木は思わず返答に詰まった。浅木の指摘はまさに的を得ていたのだ。

豪州は「海軍戦力再編計画」による戦術機母艦共同開発によって設計・建造された中型戦術機母艦アデレード級を就役させ、日本に遅れながらも戦術機動艦隊を創設している。にもかかわらず、今作戦ではそれらを派遣することはなく、ニュージーランドと共同で巡洋艦・駆逐艦からなるANZAC打撃支援艦隊を派遣しているだけだ。それは、彼らにとって主力を注ぐべきは東南アジア方面であり、地球を半周したシベリアの辺境での戦いは、単なる国際アピールの一環でしかない。そんな場に、主戦力である戦術機動艦隊を派遣する余裕などない、という意思の表れであろう。

日本は錬鉄作戦の主力を担うために、戦力・・・とくに主力を担うはずの戦術機甲部隊は少しでも温存してなければならないはずだ。オーストラリアよりは距離が近いとはいえ、戦力的には十分な余裕があるわけでもなく、ここまでの無理をして戦術機動艦隊を派遣したのはなぜか?

残念ながら、浅木にはその答えがわかる。長年、海軍で暮らし、飯を食い、戦って「鷹」と称されるようになった彼には。

軍と帝国政府のそれぞれが懐に秘めた思惑。

それらが複雑に絡み合った結果・・・自分たちはここに連れてこられたのだ。航空艦隊総隊司令部に下った将軍殿下直属の命令書によって。

榊原の言に、以前の浅木ならば同意していたかもしれない。この“戦い”にどれほどの“意味”があるのか?と。そこまで考えて、榊原の表情を見た浅木は、(若いな・・・)と心の中で苦々しくほほ笑んでしまった。少尉の真剣な表情は、まさに自分が初の実戦に臨んだあの時を・・・スワラージ作戦を思い出させるものだった。

1992年・・・今から10年も前に行われたインド洋派遣。その時、浅木はまだ新人の少尉にすぎなかった。“戦う意味”・・・あの頃の自分はまだ、そういうものを常に心の中で問い続けていただろうに。いつから自分は、それを問い続けることを“無駄”と思うようになったのか。

いつから自分は、こんな“戦闘マシーン”になってしまったのか。何も考えることなく、ただ命令通りにBETAを駆除し続ける“マシーン”に。そんな苦い思いが、浅木に答えを詰まらせることとなったのだ。

そして会話が途絶えているうちに飛行甲板の端に着座している愛機の姿が見えてきてしまった。

ほかにも左舷飛行甲板上には3機の《叢雲》が着座している。加えて、中央甲板に備え付けられた4基の大型エレベータが次々と《叢雲》を格納庫から甲板上へ送り出していた。

「時間がないな・・・話は作戦の後にしよう。さっさと搭乗手続きを済ませるぞ」

「・・・わかりました、大尉。では、後ほど」

榊原はまだ少し不満げな顔で自らのRIOと共に、浅木機よりもさらに後方で着座している機体へと向かっていた。

浅木は彼の後ろ姿から、目前に迫った着座状態・・・まるで人間がリクライニングしたソファに腰掛けるような体勢・・・で簡易ハンガーに納まっている愛機へと視線を移す。

ダークグレーに塗装され、腰部装甲ブロックに白く書かれた「VTF57-夜鷹」の文字と肩部装甲ブロックに書かれた「201」のマーキングが光る。

原型機では比較的大型だった肩部装甲は、艦載機改造に合わせて小型化されているが、その肩部にハリネズミのハリの如く装備されたミサイルポッドのおかげで、マッシブさを失ってはいない。その巨大なボディからは複座型管制ユニットが引きだされており、茶色のジャケットを着たPC(機付長)が機体の最終チェックを行っている。

「若いですね」

「そうだな」

愛機に見とれていた浅木に、今度はRIOの飯森かなめ中尉が話しかける。

「大丈夫です。大尉だってまだ30じゃないですか」

「・・・まだ29だ」

「そうでしたっけ?」

20代前半(本人談)の可愛らしい笑い声がクスクスと聞こえる。彼女とは98年本土防衛戦からの付き合いだ。それも“公私事ともに”。

明星作戦に放り込まれ、次々と仲間たちが力尽きていく中、浅木と彼女は狭い管制ユニットの中でひたすら互いを励ましあい、勇気づけあいながら、あの地獄を戦い抜いた。そんな二人が上官と部下という垣根を超える事等、造作の無い事であろう。たとえ彼に愛する妻と娘がいたとしても。

中尉と共に、機付長から手渡されたチェックリストを素早くチェック。そして自らも機体の周囲をぐるりと回り、見落としがないかチェックする。陸上基地ならまだしも、狭い飛行甲板上で動作不良で転倒・・・等という事態になったら目も当てられない。

何も異常がない事を確認すると、Cウォーニングジャケットを脱ぎ機付長に手渡すとラダーを登り、管制ユニットの前席へと潜り込む。

「管制ユニット、閉鎖します!御武運を、大尉!」

「お互いにな!機付長!」

脇を締めた海軍式敬礼を交わし、管制ユニットが閉鎖されると一瞬周囲は闇に包まれたが、管制ユニットと強化装備がリンクしすぐさまシステムに火が入った。外部映像が網膜投射によって、浅木の目に直接投射される。

主機出力をミリタリーパワーへ。

全システムが起動し、着座状態で待機していた叢雲が、簡易ハンガーから起こされ、直立する。

同時に脇に設置されている多目的担架が機体後方に回り込み、全自動で背部兵装担架に武器を装着、続いて腰部走行ブロックに跳躍ユニットを装着する。

計器ですべての兵装が完全装着されたことを確認した浅木は、簡易ハンガーに固定されている脚部ロックボルトを解除。ハンガーから解放され、自由になった叢雲は微速前進。飛行甲板上へしっかりと両足で立ちあがった。

発艦作業のため風上に向け全速航行中の甲板上にはすさまじい風が吹きつけている。そんな風の中を立ちあがっても叢雲が転倒しないよう、オートバランサーがめまぐるしく姿勢を制御していた。

足元では、叢雲を固定していた簡易ハンガーが収縮し、甲板要員にけん引されて舷側に設置されている機材用小型エレベーターへと運ばれる。狭い飛行甲板で邪魔にならないよう、艦内へ格納されるのだ。

後席では飯森中尉が、刻々と計器の数値を読み上げながら、機体動作をチェックする。

「プリフライ(発着艦管制所)。こちらナイトホーク1、チェックイン」

「プリフライ、諒解。ナイトホーク1をキャット1へ誘導する」

黄色いジャケットの誘導要員に導かれ、キャット1・・・左舷の第1カタパルトへ誘導が開始される。

カタパルトの上には発艦を控えた《煉獄(ヘルファイア)》機甲挺身隊の機体が乗っており、ブラストディフレクターを挟んだその後方にはヘルファイア機甲挺身隊の後続機がもう2機が待機中だ。

黄色のジャージを身につけた誘導要員の指示に従い、カタパルト横の係留スペースから後方甲板の待機スペースへ向かっていると、ヘルファイア挺身隊の叢雲が轟音とともにすぐ横のカタパルト上を駆け抜けていった。

風圧で機体が一瞬きしむが、オートバランサーが適切にそれを打ち消す。

黄色ジャージはカタパルトに並ぶ列の最後尾に浅木達を誘導すると、そこで「待機」の手信号を送った。発光信号で諒解の意思を伝えると、浅木は少し肩の力を抜いた。

自分たちの順番まで、あと10分はありそうだ。最終チェックはすでに済んでいる。浅木は、榊原とさっきの会話の続きをしてみることにした。

「4番機、聞こえるか?」

『はい、良好です。何でしょうか?』

通信がつながると、浅木大尉は少し表情を緩めて榊原に答えた。

「さっきの話だが・・・こう考えてはどうだ、少尉。我々が駆る94式の事を貴様はどう思っている?」

『ハ!世界最高の戦術機だと思っております!』

「そうだ。現状では海軍戦術機で唯一の第3世代機でもある」

もっとも、それはもうすぐ更新されてしまうだろう。欧州では第三世代機タイフーンとラファールが完成し、海軍型の機体も先行配備が始まっているという。加えて各国が共同開発中の陸海軍統合運用の第3世代機F-35《ライトニング》もあと数年以内には実戦配備されるのではないか。

「この最高の海軍戦術機を世界に知らしめる。この作戦はその絶好の機会ではないか?」

少尉が息をのむ表情が見える。と、同時にキャット1上の叢雲が轟音とともに上空へと舞ったのが見えた。順番が進み、浅木もそれに合わせて機体を少し前進させる。

「少尉。君が帝国を思う気持ちはよくわかる。スワラージ作戦に参戦したころの自分を思い出す」

齢29になる浅木にとって、榊原少尉の熱意は眩しすぎた。スワラージ作戦で82式M型《翔鶴》を駆りハイヴ突入部隊を援護したあの時、自分は“死の8分”を乗り越えた。あの戦いは誰もかれもが絶望的な状況で戦った。そして戦い続けるうちに、“戦いの意味”などどうでも良くなっていく自分がいる事に気がついたのだ。

「この戦争はBETAと人類の生存競争と言っても過言ではない。確かに桜花作戦は成功したが、世界にはまだハイヴがいくつも残っている。これは帝国一国でどうにかなる状況ではないのだ。我々がBETAに打ち勝つためには、時にアメリカやソビエト、そして環太平洋諸国と手を携えて戦う事が必要不可欠。今度の戦いは一見意味なく見えるが、この戦いで我が国の海軍戦術機と巡洋母艦の優秀さを他国に見せつける事で、国連での我が帝国の立場はより強固なものとなるだろう。さすればこれからのハイヴを討つ時には、彼らの助力を請う事も出来ようし、各国の技術交換によって94式を上回る高性能な戦術機を誕生させる事が可能になるかもしれん」

少尉は黙って浅木の話に耳を傾けている。自分の言っている事がいかに空々しいことか・・・浅木は苦々しい思いで、さらに機体を前に進めた。

ついに自分たちの発艦順序が回ってきたのだ。

アレスティングギアとカタパルトランチとのずれが大きすぎると、カタパルトへの接続がうまくいかない。浅木がフットペダルの細かな操作で誘導に答えると、まもなくカタパルトランチに両足が固定された。

赤いジャージの兵装下士官が搭載兵装と推進剤容量、そして機体総重量が書かれたフリップボードを掲げて見せる。

「試02式中隊支援砲1、87式突撃砲1、74式近接戦闘長刀1、86式中距離準自律誘導弾システム4、65式近接戦闘短刀2、57mm予備弾倉2、36mm予備弾倉4、120mm予備弾倉2だな」

浅木が好む迎撃後衛_ガンインターセプター装備。最大搭載量での発艦だ。

その中で特に目立つのは、太古の戦士が持つ槍のごとく、戦術機が両腕で保持する巨大な戦術機用中隊支援火器。この試02式中隊支援砲は、欧州連合で使用されているラインメタル社MK57中隊支援砲の日本帝国正式採用モデルだ。

これまで帝国軍では、本土防衛を主任務としており、常に海岸が近く水上部隊の投入や砲部隊の揚陸展開も容易であったことからMK57中隊支援砲の導入意義は薄く、検討もほとんどされていなかった。

しかし、2001年の甲21号作戦の成功により日本本土からBETAの脅威を排除し、続く2002年初頭の桜花作戦の成功によって大陸反攻、すなわち内陸部での作戦活動が視野に入ってきたため、2002年前半に急遽導入が検討され始めたのだ。そこで正式採用・ライセンス生産を前に試験運用を行うため、ラインメタル社より直接購入した少数のMK57中隊支援砲の内、16門が今作戦で帝国海軍第1空母戦術航空団に配備されたのだった。しかも実験的に02式近接突撃短刀を砲身下部に装備しており、日本帝国での近接戦闘運用をも想定した仕様となっている。

だが、この火器はその見かけどおりやはり重量がかさむ。この重量ではLZ(降下予定地点)までのNOE巡航速度は時速500kmがせいぜいだろう。重量を確認した緑ジャケットがカタパルトを操作するカタパルトオフィサーに発艦する戦術機の総重量を伝えた。その数値を見たカタパルトオフィサーはカタパルトの圧力を設定。カタパルトから水蒸気が漏れ出し、機体の足元から艦首に向けて白い帯を作り出している。

と、飯森中尉がクスクスと笑う声が後席から聞こえてきた。

「過去を悔いるなど、らしくないですね」

「そうか?俺も歳を取ったのかもな」

そう言って苦笑する浅木の表情は、どこか悲しげだった。

「少尉。貴様には話していなかったかも知れんが・・・私には妻と娘がいた」

『・・・え?』

「2年も前の事だ。98年のBETA日本上陸・・・横浜にいた妻と娘は奴らの手にかかった」

浅木は下唇をかみしめながら2年前を思い出した。あの時、アメリカが日米安保を一方的に破棄し、早々と撤退してしまった。そして、当時京都に住んでいた妻と授かったばかりの娘を失った。

「もうあんな悲劇を繰り返させるわけにはいかんのだ」

後席の飯森中尉も少し悲しげなため息をもらす。浅木の厳格な中に見える弱さ。悲劇の直後、すぐそばにいた彼女はそれを嫌というほど知っていた。

なぜあんな事態になってしまったのか。自分はどうすれば良かったのか。それを己に問わない日は、この四年の間で一日となかった。そして、先ほどの答えが浅木の現在の到達点であるのも確かだった。それがいかに“空々しく聞こえようとも”。

『わかりました、大尉。我々がここで戦う事は、確かに陛下や御民のためになるのだと。私は帝国軍人として、それを胸に刻んで初陣を迎える事にします』

「その意気だ、少尉」

満足気に頷いた浅木は、プリフライから飛び込んできた指示に耳を傾けた。

「発艦30秒前だ・・・LINK16(戦術データリンク・フォーマット)との接続は完了しているか?」

「肯定です、大尉。JTIDS(統合戦術情報伝達システム)により、戦域データを正常に受信しています」

「よし・・・発艦に備えろ!」

きっかり30秒後・・・浅木はスロットルをフルパワーにまでたたき込んでいた。

『ナイトホーク1、射出(エジェクト)!』

その声と共に発艦士官が片膝を付き、右手の伸ばした人差し指と中指で艦首を指し示す。

ガツンという衝撃の後、浅木たちの乗る不知火M型が圧倒的な加速で飛行甲板を駆け抜け、たった70mのカタパルトから、時速160km以上の速度で射出される海軍型不知火・・・もとい《叢雲》。

甲板を離れ宙に浮いた巨体が一瞬だけ墜落したかのように艦首の先に沈み、次の瞬間には青い炎の光跡と轟音を残して蒼穹へと舞い上がった。

「ナイトホーク1、発艦(エアボーン)!」



[19639] 前夜篇~弐~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2010/07/24 20:18
◎2002年3月5日 カムチャツカ半島沖 現地標準時刻0910時


帝国海軍第1母艦戦術機甲兵団第57戦術機甲挺身隊・・・通称《夜鷹(ナイトホーク)》機甲挺身隊は、《煉獄(ヘルファイア)》機甲挺身隊、《銀狐(シルバーフォックス)》機甲挺身隊と共に、時速500kmで白波を切り裂きながら、一路上陸地点のリバチを目指していた。


『CATCC(空母航空戦術管制センター)よりナイトホーク1。艦隊からの艦砲射撃は継続中。レーザー級による迎撃率は約64%。すでにリバチに先行上陸している海兵部隊が、LZを確保している』

日本帝国海兵隊はこの作戦に配備が間に合わなかったため、今回先行上陸を担っているのはソ連海軍機甲兵隊とアメリカ海兵隊だ。

「LINK16によって確認している。リバチを確保しているのは・・・ソ連海軍機甲兵隊か」

『はい。ソビエト連邦海軍第207戦術機甲兵戦隊です。リバチ戦域に展開しているBETA個数は師団規模と推測されます。が、後方に増援が無限に控えている事もお忘れなく』

「ナイトホーク1、諒解だ。そいつらが出向いてくる頃には、母艦に戻って祝杯でも挙げているさ」

『CATCCよりナイトホーク1。うまくいったら一杯奢りますよ、大尉』

CATCCとの会話を終え、浅木はLINK16の戦域データに目を落とした。LINK16によれば、アメリカの担当するマガダンとソ連の担当するノヴォストロイカにも海兵隊は上陸している。

だが、海軍戦術機部隊の上陸は位置的にも自分たちが一番早くたどりつきそうだった。同僚のシルバーフォックス挺身隊隊長から、激励の通信が入る。

『シルバーフォックス1よりナイトホーク1。貴官が我が海軍の壱番槍だ!我々はその後に続きます!』

「ナイトホーク1、諒解!そっちがしっかりケツを持ってくれれば、俺たちは安心して突っ込める!頼んだぞ!」

浅木は即座に部隊内通信に切り替え、全中隊員に告げる。

「ナイトホーク1よりナイトホーク全機。AL弾砲撃で重金属雲が発生しているが、レーザー照射警報には注意しろ!上陸と同時にBETAどもに《飛燕》を食らわせる!」

『『『諒解!』』』

朝霧の彼方に、僅かに見え始めた水平線。そこではすでに“戦争”が始まっていた。

戦術機やBETAの姿はまだ見えないが、煌めく閃光と烈火のごとく吹きあがる爆炎が網膜ディスプレイに投影されている。

「・・・上陸まで30秒」

やがて、大地を埋め尽くさんばかりの地球外生命体が、徐々に視界に入り始める。それを悪鬼のごとく押しとどめる戦術機の姿も。

「・・・上陸まで20秒。全機、雷撃戦用意!」

マスターアーム・オン。FCS・オン。兵装選択を《飛燕》ミサイルシステムに。

「・・・上陸まで10秒。いよいよだぞ!我ら帝国の維新に懸けて、BETAどもを血祭りに上げろ!」

そして・・・

「上陸、今!フィート・ドライ!」







ソビエト連邦海軍第207戦術機甲兵戦隊の12機のSu-24M《ファハトヴァリシカ(剣闘士)》は、705型リーラ級原子力支援潜水艦(NATOコード:アルファ級)から離脱した後、このリブチに強襲上陸した。

Su-24Mは、ソ連のスフォーニ社が開発した第二世代戦術歩行攻撃機(シュトゥルモビーク)である。A-6《イントルーダー》をベースに開発されているため水中作戦行動能力があり、長らくソ連海軍機甲兵隊の主力機として運用されてきた。

装甲はA-6よりも軽装になっており、またA-6と違いMig-23や27のように可変翼機構を採用した跳躍装置を装備しているため、陸上においてある程度の機動性能を有する。主兵装は36mmチェーンガン6門と、120mm滑腔砲2門、ミサイルランチャー6門。

加えて、ソ連製戦術機ドクトリンにもなっている近接戦用モーターブレードも機体各所に装備し、近接格闘戦能力も保持している。

戦隊長の脇を固める2番機クークラ2は、LINK16によって後方から接近中の戦術機部隊の姿を確認すると、攻撃の手を休めることなく戦隊長へ通信を入れる。

『クークラ2より1。日本海軍の連中が上陸してきますぜ』

それに答えるのは若き女性戦隊隊長。

「Да(了解)。しっかりエスコートしてあげましょう。クークラ全機、主砲一斉射撃用意!」

主砲と呼ばれた2門の120mm滑腔砲の砲口が、LZに侵入しようとする戦車級と要撃級BETAの群れに向けられた。

『全機、目標捕捉!』

「彼我の間を分断する!お客様に下等生物を近づけるな!制圧射撃、撃ち方始め!」

響き渡る号令。

『ОгонЬ(撃て)!』

副隊長の声と共に120mm滑腔砲から広域キャニスター弾がBETAたちに向け放たれる。

爆炎と爆風吹き荒れる中、数百の戦車級と十数体の要撃級が動かぬ肉塊へと変わった。その直後、轟音とともに浅木大尉の駆る叢雲が極東ソビエトの地に降り立つ。

そして、海軍機甲挺身隊の見せ場とも言うべき場面がやってくる。

「ナイトホーク1、エンゲージ。シーカーオープン、レーダーロック・・・FOX1!」

『ナイトホーク2、エンゲージ。レーダー・トーンを確認・・・FOX1!FOX1!』

着地と同時に、叢雲が肩に背負ってきたランチャーポッドから、次々と中型クラスターミサイルが撃ち放たれる。4番機を任されている先ほどの新米少尉も、恐怖を隠すかのように怒声を上げた。

『ナイトホーク4、キツネが一匹!くらえ、糞ども!!』

86式中距離準自律誘導噴進弾装置《飛燕》・・・《フェニックス》ミサイルを参考にして開発された中型クラスターミサイルと、高出力長距離レーダーユニットの複合システムである。

「全機、レーダー誘導を維持しろ!その間は梃子でも動くなよ!」

浅木の号令に、飛行隊員全員から即座に諒解の返答が返ってくる。
このミサイルの欠点はまさにこの点にある。

コストを安価にするため誘導方式をセミアクティヴレーダー誘導方式にしたため、着弾までの間レーダー誘導を続けなければならず、その間は戦術機の機動が著しく制限されてしまうのだ。

だが最大搭載した中隊単位の集中運用により光線属種を含む旅団規模のBETA群に大打撃を与えるというフェニックスと同等の威力を持ち、なおかつフェニックスより安価なこのミサイルシステムは、少数部隊を一撃離脱投入する事が大前提の海軍機にとって必要不可欠な装備と言ってもいいだろう。

このミサイルはスワラージ作戦でも運用されたが、その際の戦果は今でも世界で高く評価され、世界では《スパロー》ミサイルシステムと呼ばれ、導入を検討する国が後を絶たないという。

着弾までの十数秒間。動きを鈍らせているナイトホーク挺身隊を、クークラ戦隊が圧倒的火力で援護する。

『クークラ1よりナイトホーク1。こちらはソビエト連邦海軍第207戦術機甲兵戦隊のエリシア=ザハロア大尉だ。ようこそ、我がロージナ(母なる祖国)へ!貴官らを歓迎する!』

「クークラ1。日本帝国海軍第57戦術機甲挺身隊の浅木光也大尉です。BETAどもにプレゼントが届くまでの援護をお願いしたい!」

『諒解した!見事生還できた暁には、ペトロハバロフスクで一杯奢らせてもらおう!』

最前線で戦う者同士にしかわからない、血と硝煙で結ばれた絆。たとえ国が、言葉が、文化が違えども、浅木とエリシアは互いにどこか通じるものを感じていた。

「ナイトホーク1より各機!死んでもプレゼントをBETAどもに送り届けろ!なお、これより通信回線は駆逐艦“秦風”のCPに引き継がれる!」

ミサイルがRIOによって誘導され、着弾地点へ向かっていくのがレーダーモニターに表示されている。

その間も突撃級や要撃級の合間を縫って津波のように押し寄せてくる戦車級に対応するため、浅木は中隊支援砲を横なぎに斉射してなぎ払う。突撃砲とは比べものにならない圧倒的な衝撃と威力をもって、57mm劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲弾(APCBCHE)が、戦車級だけでなく、突撃級や要撃級を次々と肉片に変えていく。

「弾着まで5秒!」
残り5秒が永遠のように感じられる。4機の叢雲がもつ中隊支援砲の強力な火線を軸としつつ、残る8機の叢雲と、12機のSu-24が放つ36mm砲弾の火線が、無情に突進を繰り返す地球外生命体に向けて撃ちこまれ続ける。

『危ない、大尉!』

いつのまにか横合いに忍び寄っていた要撃級が、浅木の機体に頑強な前腕を振りおろそうとしていたのだ。それに気付いたSu-24の1機が両腕に展開したモーターブレードを突きたてて、間一髪のところで要撃級を始末していた。

「弾着、今!」

直後、彼方の空が巨大な閃光に包まれた。

いくらかはレーザーで迎撃されたようだが、艦砲射撃と重金属雲によって守られた30発近い中型クラスターミサイルが着弾地点上空にて分解し、無数の小爆弾が広範囲に降り注ぐ。

それらの爆炎が、地上だけでなく空中までも赤く染め上げたのだ。戦術回線が大歓声に包まれる。

『危なかったですね、大尉殿』

歓声が収まると同時に、再び聞こえたその声に、浅木はレーダーディスプレイを確認する。自機の横にいるクークラ4からの通信だった。

「助かった、クークラ4」

『ワレンコフ海軍中尉です。我が祖国の地で客人を死なせるほどの恥はありませんからな!』

「すまん。作戦終了後に、是非にでも一杯奢らせてもらおう!」

直後、再び銃撃音と爆発音が辺りを満たし、敵第二派・・・要塞級を主力として、その周囲を無数の戦車級が埋め尽くしている・・・の接近を知らせた。

『ナイトホーク2よりナイトホーク1。敵第二派が接近中!アシの遅い敵の後衛ですね・・・要塞級をも多数確認!レーザー級も前に出てくるかもしれません。至急迎撃を!』

「ナイトホーク1、諒解。各機、全兵装使用自由(オールウェポンズフリー)!ここが正念場だぞ。最優先目標は、レーザー級。フォーメーション・ハンマーヘッド・ワンで迎撃する!」







作戦開始から100分経過・・・現地標準時刻1050時


「ミサイル・・・弾着、今!」

叢雲に残っていた最後の《飛燕》ミサイルが、増援に向かってきていたBETA群を粉みじんに吹き飛ばした。

最後の抵抗とばかりに、突進してくる僅かな数のBETAを、黒鉄の巨人たちが冷酷無慈悲に蹂躙する。

「ナイトホーク1より各機へ。統合センサーに感なし。当該戦域の掃討完了(オールクリア)。全機、別名あるまで警戒態勢のまま待機せよ」

シベリアの地は地球外生命体の肉片により、朱色一色に染まっていた。折り重なるようにして、地面に広がる戦車級BETAの残骸。脚部を破壊され、戦闘能力を失いながらも未だうごめく突撃級BETAたち。

つい数時間前まで大地を埋め尽くしてたBETA群は、ナイトホーク機甲挺身隊と他の2個機甲挺身隊、そしてソ連海軍機甲兵隊3個戦隊によって完璧に駆逐されていた。

一斉に返信される諒解の声を聞き届けた後、浅木はRIOにCPとの回線を開かせた。

上陸後の通信を中継している駆逐艦“秦風”のCICに設置されたCPに向けて、浅木は静かに報告を始めた。

「ナイトホーク1よりCP。当該戦域のBETAは掃討した。残敵は認められず・・・我任務完遂せり」

『CPよりナイトホーク1。もう掃討したのか!』

「銀狐隊と煉獄隊はどうなっている?」

『シルバーフォックス隊は、大型種を全て駆逐。現在は残った戦車級を掃討している。ヘルファイア隊も手こずってはいるが、もうまもなく掃討を完了するとのことだ』

「各隊の損害は?」

『現在のところ、我が海軍の部隊に損害は確認されていない。久々の大勝利と言うやつだ』

本来、師団規模の部隊が必要なBETA群を、艦砲射撃と《飛燕》ミサイルがあったとはいえたった2個大隊規模の戦術機でせん滅したのだから、大戦果である事は間違いない。

だが、浅木の中には喜びの感情など微塵も感じられない・・・ただ虚ろな空気だけが漂っていた。

『ナイトホーク隊の担当区域は、他よりもBETA個体数が多かったはずなんだが・・・さすがは“海軍の鷹”というわけだ』

「CP、お褒めにあずかり光栄だが、いつまでものんびりとしているわけにはいかない。ハイヴからの増援がいつ押し寄せてこないとも限らん」

にべもない言葉をかける浅木に、久々の戦果にすっかり浮足立っているCP将校も、声を引き締めなおした。

『諒解。現在、補給艦がそちらに向かっているが、会合予定地点まで少し遅れているようだ。ただHQからの衛星情報では、そちらの戦域に向かっているBETA群は存在しない。もうしばらく、警戒待機していてくれ』

「ナイトホーク1、諒解。洋上で推進剤が切れてシベリアの海を寒中水泳するよりはマシか・・・」

CPとのやり取りを聞いていたRIOの飯森中尉が不安げに話しかけてくる。

「浅木機長・・・残弾が25%をきっています。推進剤も・・・」

浅木はすぐさまLINK16の部隊内統合データによって、各機のコンディションを確認。残弾、推進剤残量などのデータが表示される。

「・・・レーザー級が前に出てきてから、回避機動で派手に推進剤を消費したからな。新型OSの副作用、といったところか」

「ただでさえこの叢雲は不知火壱型丙や武御雷高機動型と同じエンジン_FE108-FHI-225ですからね。陸軍の不知火よりも機動性能は格段に向上してますが、やはり燃費が悪いのが欠点ですね・・・」

「その点に関しては、一撃離脱や緊急展開に特化している海軍機甲挺身隊で運用される限り、大した欠点にはならなかったはずなんだがな。一概に、そうもいえんということか・・・ふむ、他機も似たりよったりと言ったところのようだな」

そのまま通信回線を少し離れた区域に展開しているヘルファイア機甲挺身隊につなぐ。

『どうした、浅木大尉?』

ヘルファイア機甲挺身隊隊長の権藤少佐の顔が網膜投影され、目の前に大写しされた。権藤少佐は第1母艦戦術機甲兵団の副司令を務めているベテラン衛士で、海軍の中では浅木よりも古残の部類にあたる。

「少佐、御相談が・・・」

『ん。迎えがまだ来ない事だろう?』

「はい。我が隊は残弾と推進剤が殆ど底を尽きかけています。補給コンテナも使い切っています。補給艦にはかなり前進してきてもらわなければなりません」

『我が隊の状態は貴隊よりひどい・・・損傷機がいなかったのが幸いと言えるが。先ほど銀狐どもにも聞いたが、やつらは一番余裕がありそうだ』

「そうですか・・・とりあえず補給艦が到着するまでの間、部隊を集結させておきませんか?CPは、敵の増援は当分無いと言っていますが・・・」

『ここは奴らの巣窟だからな。何が起こっても不思議ではない・・・諒解した。我々はこれよりそちらに合流する。左翼に展開している銀狐どもにも伝える』

「それと、ソ連海軍の機甲兵戦隊ですが・・・」

『彼らは“泳げる”からな。我々に付き合ってもらう事もなかろう。先行して撤退してもらった方が賢明だな』

「諒解です。ではまた、後ほど」

権藤少佐との通信を終えると、浅木はすぐ傍らで警戒を続けるザハロア大尉の機体にLINK16経由で通信を入れた。

西洋の美しさに東洋の妖艶さが入り混じった典型的なロシア美人の顔が映し出される。戦闘突入時にも顔は見ていたはずだが、改めて落ち着いてみると惚れ惚れするような美女だ。

「ザハロア大尉。我々は帰艦前の補給艦とのランデブーがあります。今少し補給艦をこの場で待たねばならないようですので、あなた方だけでも先に帰還してください」

『アサギ大尉』

それまで氷のごとく表情のなかった大尉の顔に、柔和な笑みが浮かぶ。

『お心遣いには感謝するが、我々は帰ろうと思えばいつでも帰る事が出来る。客人を残して我らが先に引き上げたとなれば、ソ連軍人の名折れというものだ。』

「しかし・・・!」

『我々クークラ戦隊は、最初に祖国へ上陸し、そして最後に祖国を去る。その任務を全うさせて頂きたい』

その言葉に浅木はザハロアの説得をあきらめた。まったくどいつもこいつも・・・なぜこうも軍人とは愚かなのだろう?と、思わず苦笑してしまう。

同胞のため、祖国のため、そして戦友のため・・・結局、西側だろうが東側だろうが“軍人”とはそういった事のために命をかける人々だという事だ。

「あなたの矜持に、深き敬意を。ザハロア大尉」

ザハロア大尉に感謝の意を表した再敬礼を送り、通信を切った浅木は、再び回線を機甲挺身隊全機に切り替える。

「ナイトホーク1より各機。フォーメーション・サークル・ワンで全周警戒。特に音響センサーに重点を置いて索敵しろ」

時間は刻々と過ぎつつあった。

先ほどまでの喧騒が夢だったかのように、周囲は静まり返っていた。

そしてそれは、その後に襲いかかる地獄・・・崩壊へとつながるまでの、つかの間の静寂だった。





◎2002年6月29日 カムチャツカ半島沖 現地標準時刻1135時



「定時報告。ナイトホーク1、異常なし」

『同じく定時報告。シルバーフォックス1、異常なし』

『ヘルファイア1、諒解した。クークラ1、そちらはどうか?』

『こちらクークラ1。こちらも異常はない』

方々に散っていた各隊が終結し、10分毎に行っている定時報告もこれで3度目・・・そろそろ補給艦が航続距離に入ってくる頃だった。

「少佐。そろそろ離脱が可能では?」

浅木の通信に、権藤少佐も同意する。

『そうだな・・・銀狐ども、お前たちの残存燃料ならこの距離でも補給艦とランデブーできるはずだ。先に行け!』

『諒解です、少佐。シルバーフォックス9、お前たちの小隊から離脱しろ!』

シルバーフォックス機甲挺身隊を預かる落合大尉は部下に離脱を命じる。

《銀狐》の刻印が入った叢雲が次々と海岸を飛び立ち、補給艦の待つ方角へとNOEで水平線へと消えてゆく。

『落合、方位を誤って海に落ちるなよ!』

海軍の中でも新進気鋭の若手隊長となった士官学校以来の後輩に、浅木は珍しく茶々を入れる。

『そんなヘマはしませんよ、先輩。先に空母で祝杯の用意をしておきます・・・とはいっても、ノンアルコールですがね』

爽快に笑いながら答える浅木に、

『では、お先に!』

最後の一機・・・落合の機体が飛び立ち、銀狐たちの姿は消えた。

レーダーディスプレイから、見る見るうちに味方の数が減っていく。

艦上で上げる事になるであろう祝杯を想像しながら、それを見届けていた浅木に、権藤から待ちに待った命令が下る。

『次はナイトホーク、お前たちの番だ』

「少佐、よろしいのですか?」

『1隻に機関トラブルがあって、こちらに向かうのが遅れるそうだ。我々が殿を引き受ける。お前たちが先に行け!』

諒解・・・と答えようとした浅木を、部下の一人の通信が遮る。

『こちら、ナイトホーク4。振動・音響センサーに、感あり!』

それは、唐突に訪れた・・・まさに崩壊の予兆だった。

「何だと!?」

報告してきたのは、あの新人、榊原少尉だった。権藤少佐の声が必然と上ずる。

『こちらは捉えていないぞ!誤認ではないのか?』

『ナイトホーク4、RIOの大竹です。間違いありません!方位は真北・・・どんどんこちらに近付いてきます!!』

そして、その反応はその場にいたすべての機体のセンサーに広がり始める。

『こちらナイトホーク9。こっちでも捉えました』

『こちらもだ!こいつは・・・まさか!』

警告の嵐の中、前方の禿山の一角が崩れ始め、やがて大規模な崩落が起きる。もうもうと上がる土煙り。

その中から現れたのは・・・

『べ、BETAだ!突撃級に戦車級・・・要撃級までいやがる!!』

『落ち着け!全機、迎撃態勢をとれ!』

一瞬にして絶叫と悲鳴が通信回線を満たす。

その中にあって、浅木はすぐさま配下の小隊機に叱咤を飛ばし、自機を迫るBETA群へと向かわせた。先頭を切って迫る突撃級に中隊支援砲を構える。

放たれた57mm粘着榴弾(HESH)が、突撃級の外殻にへばりつき・・・そのまま炸裂。すると傷一つ付いていないはずの突撃級が次々と動きを止める。

HESH弾のホプキンス効果により、突撃級の装甲内部が剥離して飛散し、その内部をズタズタに引き裂いたのだ。

それでも1個小隊の火線で防ぎきれなかった突撃級が浅木の機体に迫る。

だが、浅木機は後退跳躍と見せかけて急激な横ステップをかけ、軽々と突進をかわし、突撃級の後方から接近しつつあった要撃級に57mmを浴びせかけた。そのまま間をおかず急反転し、無防備な後方をさらしている突撃級にも57mm弾をお見舞いした。

搭載されて間もない《XM3》と呼ばれる新型OSの特性を理解した、見事な戦術機機動だ。

「飯森!」

浅木の意思を読み取った飯森中尉により、背部兵装担架に装備された1門の突撃砲が操作され、機体後方から迫りつつあった要撃級に向けて36mmHVAP弾が撃ち込まれる。

浅木機が撃ち漏らした敵は、僚機によって次々と刈り取られていく。

『ヘルファイア1よりCP、コード991発生!繰り返す、コード991発生!』

他の機も敵の出鼻をくじいた浅木たちのおかげで、続々と攻撃に加わり始めていた。

が、BETAの数はそれを上回るペースで増え続け・・・やがて限界を迎えるだろう。

『CPよりヘルファイア1。現有戦力にて、増援のBETAに対処可能か』

『ヘルファイア1よりCP。ネガティブ(無理だ)!センサーが捉えているだけで敵個体数は大隊規模。まだまだ増え続けている!こちらは推進剤も弾薬も限界寸前だ!』

権藤少佐とCPのやり取りが繰り返される間にも、BETAはその数をどんどん増やし続けて行く。

『BETA個体数、なおも増加中!500・・・550・・・600』

『マジかよ!このままいったら、連隊規模・・・いや旅団規模に膨れ上がるぞ!』

『個体識別を急げ!レーザー級がいないか注意しろ!』

『CP、このままでは、最後の補給艦が到着する頃には乱戦になって撤退が難しくなる!レーザー属種が出現しないかも心配だ!撤退のための支援砲撃を請う!』

『CPよりヘルファイア1。我が艦隊は投入火力をすべて投入したため、現在補給作業中である。支援砲撃再開は未定だ。』

『なら増援部隊の派遣を1航艦(第1航空艦隊)へ要請しろ!このままでは、2個挺身隊が全滅するぞ!』

『・・・CP、諒解。増援派遣を艦隊司令部へ要請する。追って通達があるまで、現状のまま対処せよ』

現状のまま対処せよ?

支援砲撃はともかく、増援部隊がすぐに展開できるわけがない。第2航空戦隊の部隊は、すでに敵増援があったアメリカの担当戦域へ派遣されている。つまり現状で日本海軍第1航空艦隊に残存した戦術機甲戦力は無いのだ。

浅木は思わず口を挟もうとCPと権藤少佐の通信に割り込もうとした時、戦域データリンクを介して別の通信が割り込んできた。国際共通規格言語・・・英語による通信。それは、他の戦隊が撤退した後も帝国軍と共にこの戦域に残ってくれていたソ連軍第207戦術機甲兵戦隊からのものだった。

『JE(日本帝国軍)CP、こちらはソビエト連邦海軍第207戦術機甲兵戦隊所属、クークラ1のザハロア大尉です。たった今、我が海軍の戦術機揚陸艦群より後詰の陸軍戦術機甲部隊が発進したとの連絡がありました。そちらで確認できていますか?』

唐突に割り込まれたため、しばらく通信が途切れたものの、やがてCPから返信がもたらされる。

『JECPよりクークラ1。そちらの情報を確認しました。ソ連陸軍第17師団第177戦術機甲大隊および海軍の母艦戦術機部隊が、当該戦域に向けて急行中。ETAは15分後。加えて、支援砲撃要請をANZAC支援艦隊が受諾してくれた。砲撃開始時刻は・・・現時刻より15分から20分後と予想される』

よし!

完全武装の戦術機甲大隊と母艦戦術機部隊が駆けつけてくれれば、支援砲撃と合わせてBETAを押しとどめる事が出来るだろう。一同はとりあえず胸をなでおろした。

そして、ザハロア大尉の美声が、まるでヴァルキュリア(戦乙女)のごとく通信回線を満たす。

『クークラ1よりクークラ各機。あと15分の間、お客さま達に傷一つ負わせるな!ソビエト連邦の意地と誇りにかけて、同志たちの到着まで持ちこたえて見せろ!』

『『『Да!!』』』

それに負けじと、権藤少佐も声を張り上げる。

『ヘルファイア1より残存各機!たった15分だ・・・ソ連軍ばかりにカッコつけさせるな!帝国軍人として持ちこたえてみせろ! 』

それに合わせて、部下を叱咤すべく、浅木も自分の中にこみあげてくる熱い何かを吐き出すように、腹から目一杯の声を振り絞る。

『絶望するのはまだ早いぞ!ここまで来たのだ・・・皆で生き残るぞ!』

『『応!!』』

再び勇気を取り戻した衛士たちの声が、頼もしく響き渡った。



[19639] 前夜篇~参~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2010/07/24 20:47
◎2002年3月5日 カムチャツカ半島沖 現地標準時刻1145時


「ナイトホーク4、弾切れです!リロード!」

「諒!」

リロード作業に移る4番機・・・あの榊原少尉が駆る叢雲・・・をカバーすべく、浅木は機をいったん後退させる。

彼は初の実戦で、見事“死の8分”を乗り切っていた。もちろん第3世代機である叢雲の性能や、“衛士の損耗を半分に抑えた”とも言わしめる新型OSの影響も大きいのだろうが、彼に新兵特有の戦場に対する恐怖や不安と言った様子はもはやない。

強襲掃討_ガンスイーパー担当として、ナイトホーク3と共に4門の突撃砲で戦車級の群れを淡々と駆逐し続けてきた。彼らの役割は、味方の最前衛がこじ開けた敵の穴をさらに押し広げること。

榊原少尉は、長機であるナイトホーク3と共に、その使命をしっかりと果たしていた。

だが、そんな彼の機体もすでに突撃砲2門の弾薬はそこを尽き、残った2門で対処している状態だ。今の交換で最後の弾倉になったのではないか。

そう言う浅木機の中隊支援砲も、今撃っているのが最後の弾倉だ。背部兵装担架の突撃砲も、36mm弾が800発程度と120mm弾を2発残すのみ。突撃砲の予備弾倉も36mmが1つを残すのみ。

だが、状況はさらに悪化していく。ヘルファイア挺身隊の最前衛機がBETAとの密集格闘戦にもつれ込んでしまったのだ。

すでに突撃前衛機が、74式長刀や65式短刀を用いた近接戦闘を行っている。

そもそも間引き作戦において、戦術機甲部隊は自衛以外の近接戦闘を禁止されている。

だが、敵の増援は連隊規模にまで膨れ上がっており、とてもではないが砲撃戦のみで耐えきれる物量ではない。

推進剤を残しておかなければならないこの状況で、跳躍ユニットを使った高機動戦闘にも限界がある。

状況は近接戦闘を避けて通ることを許せるような状態ではなくなってしまったのだ。

増援到着まであと5分強だろうか・・・このままでは、部隊が全滅してしまう。すでに補給艦の1隻はギリギリ航続距離内に入っている。

火器などデッドウェイトを投棄してなるべく機体を軽くすれば、補給艦までもつだろう。脳内で素早く決断を下した浅木は、急ぎ権藤少佐に通信をつないだ。

「権藤少佐、撤退してください!」

『何だと?』

「我々の弾薬は、まだ余裕があります!密集格闘戦になったら、支援砲撃も撤退もできなくなる!今の内に離脱してください!」

『だが、お前たちはどうなる!もう1隻の補給艦がランデブーポイントに到達するまで、あと15分はかかるんだぞ!』

「ソ連軍の増援まで後5分です・・・耐えきって見せますよ!こんな場所で我らが航空団副司令を失うわけにはいきませんからね」

しばらく通信が無音になる。網膜に表示された権藤少佐の険しい顔は苦渋に満ち、下唇には血がにじんでいた。

『・・・大尉。鈴谷の甲板で、お前たちを待っている!必ず、帰ってこい!』

「諒解です、少佐。行ってください!」

少佐の気を静めるべく、浅木はその無骨な顔にうっすらと笑みを浮かべて見せた。

間引き作戦とは言え、珍しく戦術機甲部隊の損害を皆無で抑え続けて、ここまでこれたのだ。

ならばせめて、損害が出たとしても、“最小限度”で抑えなければ。

『ヘルファイア1より、ヘルファイア各機!撤退するぞ、余計なものはすべておいていけ。ちょっとでも機体を軽くするんだ!』

「ナイトホーク1より、ナイトホーク各機!ヘルファイア隊の撤退を援護するぞ!ケツをしっかり守ってやれ!」

『『『諒解!』』』

ナイトホーク隊の呼吸を合わせた一斉射撃によって、BETA群の勢いが一瞬だが挫かれ、その隙をついてヘルファイア隊12機が海上の補給艦方面へとNOEで飛び立っていく。

あとには兵装担架や、突撃砲、中隊支援砲、近接戦闘用長刀など、さまざまな火器が一面に残されていた。

これらの武器をも使えば、なんとか耐えることができそうだ。

浅木はヘルファイア隊の離脱を見届けた後、ザハロアにも通信を入れる。彼らSu-24Mの弾薬はとっくに底をついているのだ。

それでもなお、鈍重な機体を跳躍ユニットで無理やり振りまわし、機体各所に装備されたモーターブレードでBETAを駆逐し続けている。

「ザハロア大尉!貴方達もだ。もう充分です!帰還してください!」

ザハロア大尉の機体は、すでに多目的兵装庫は投棄されており、要撃級あたりに持って行かれたのか右肩部の装甲を欠損していた。

密集格闘戦のせいで、全身にBETAのどす黒い体液を浴びており、もはや別の機体かと思うようなありさまだ。

だが、それでも網膜に映るザハロア大尉は首を縦に振ろうとはしなかった。

『お心遣いは大変うれしい。だが、先ほども言ったはずだ!この地を最後に去るのは、我らソ連海軍機甲兵だと』

「今はそんな事を言っている場合では・・・」

浅木がなおも食い下がらんとした時、通信回線に別の機体の通信が割り込んできた。

『くそ!戦車級がとりつきやがった!』

戦術データリンクによれば、通信元はクークラ4・・・さきほど浅木を守ってくれたワレンコフ中尉の機体だ。

浅木の顔面から血の気が引く。戦車級は小型だが、その強靭な顎はどんな重装甲も食い破ってしまう。

Su-24Mは、叢雲よりも遥かに重装甲だが、戦車級の前ではそれは気休めにしかならない。

機体に取りつかれた場合、早めに駆除しなければ危険だ。

「待ってろ!ワレンコフ中尉!今助けて・・・」

『ああ、アサギ大尉殿!ご心配なく、自分の面倒ぐらい自分で見まさぁ!』

ワレンコフの声は戦車級に取りつかれていると思えないぐらい落ち着いている。

彼の機体が、自機に取りついている戦車級をモーターブレードで次々となぎ払っていく。

だが、なぎ払ってもなぎ払っても、次から次へと新手の戦車級が取りつき始めていた。

ついには、腕部を支える関節部にまで戦車級が取りつき、アクチュエーターを食いちぎられた両腕が戦車級と共に脱落する。

「中尉!」

『クークラ4!』

『くそったれぇぇぇぇ!!ぐ、ぐぎゃぁぁぁああああ!!』

あとは一瞬の出来事だった。崩れ落ちて行くSu-24Mの機体に、戦車級が次々と取りつき、やがてその姿は見えなくなる。

ワレンコフの悲鳴に満ちていた通信も唐突に切れる。まるで、彼の命がそこで尽きたかのように。

『・・・・・・クークラ全機、突貫戦用意!』

それまでの冷静沈着な姿からは想像もできない咆哮をあげたザハロア大尉が、機体を短距離跳躍させて、BETA群の中へと突貫していく。

それを合図にしたかのように、残るSu-24Mも次々とBETA群に突入。全身のモーターブレードやブレードベーンで、凄惨な密集格闘戦を繰り広げ、BETA群の前進を阻止し続ける。

『同志諸君、絶対に引くな!何があろうとも、自らの職責を一分も逃さず全うせよ!』

「ザハロア大尉!何を・・・!」

『アサギ大尉!貴官らは、一刻も早く海岸線まで後退されよ!』

「そんなこと・・・」

『ここは我らの土地!我らが祖国だ!異国人の血で、ここを汚すわけにはいかない!』

ザハロア大尉の不敵な笑みが、網膜いっぱいに広がる。今まで感じた事がない、女性衛士の凄みに、浅木は言葉を口にする事が出来なかった。

ザハロアに続いて、次々とほかのソ連衛士たちの通信が割り込んでくる。

『そうだぜ、日本人!お前たちなんか、偉大なるロージナで死なせてやるわけにはいかんよ』

『最後のおいしいところは、俺たちが持っていかないとな!』

ザハロアのSu-24Mが無数に襲い掛かる要撃級を次々と蹴散らし、戦車級を踏み潰す。

それに続いていく、ソ連軍衛士たち。

一機一機がまさに獅子奮迅のごとき働きを見せるが、圧倒的な数を誇るBETAの前に次々と力尽きるものが現れる。

『うぉぉぉっ!?こ、この野郎!!』

『ちくしょう・・・化け物め!』

『ここまでかよ、くそったれ・・・・・・母さん!』

通信回線を満たす衛士たちの苦悶。目の前で次々と人が死んでいく。その凄惨な光景を前にした浅木の脳内に、これまでの戦場の思い出がよみがえる。

愛国心、忠誠心、友情、そして誇り。

国籍など関係ない。

今まで共に戦った多くの戦友たちは、こうして死んでいったのだ。

自分たちと同じ『人間』として死んでいったのだ。

そして、自分たちは“また”彼らの屍を踏み台にして生き残るのか?

『お先に逝きます!大尉殿』

『おさらばです、同志大尉』

追憶が追憶を呼び、浅木はついに耐えきることができなくなった。

「ナイトホーク1より、ナイトホーク各機。これより我々はソ連軍を援護、BETA群に突入する!全機、白兵戦用意!」

部下たちの機体が次々と、近接戦用の長刀に武器を切り替える。

長刀を装備していない機や弾薬の尽きた機もヘルファイア隊の投棄していった火器や長刀を拾い集め始めた。

この状況下において、誰一人弱音を吐くものはいない。

言葉にはしないが、みな浅木と気持ちは同じだった。

そんな自らの部下たちの姿を、浅木は心の中で誇りに感じた。

「各機、フォーメーション・アローヘッド・ワン。主脚走行、全速前進!目標1000m前方、ソ連軍ラインまで一気に進出する!」

『『諒!』』

地響きをうならせながら、12機の叢雲が矢じり型の陣形を組み、時速80kmで一斉にシベリアの大地を疾駆する。

目前に迫るは、脚の踏み場がないほどに群がるBETA群。

そんなBETAの絨毯に向け、前衛小隊による突撃砲の集中射撃が行われ、死闘を繰り広げるソ連軍クークラ戦隊までの進行スペースが確保される。

「大尉、両側面からもきます!」

「フォーメーションをアローヘッド・スリーへ変更!側面防御を行いながら、このままクークラ戦隊のポイントまで前進する!」

飯森中尉の指摘に的確な指示を返しながら、浅木自身も側面から迫る戦車級の一群を殆ど弾の尽きかけている中隊支援砲の制圧射撃で抑え込む。

『浅木大尉、何を!?』

浅木たちの接近に気がついたのか、ザハロア大尉が驚愕の声を上げる。

浅木はそれに答えず戦車級を踏みつぶしながら機を突進させ、その勢いのままザハロア機の後方に迫りつつあった要撃級に向け、試02式突撃戦用短刀を装着した中隊支援砲を槍のごとくを突き刺す。

巨体に深々と銃剣を刺され、動きの鈍った要撃級をゼロ距離から砲撃し、炸裂させる。

断末魔の声を上げる要撃級から、すぐさまターゲットを変更。真正面から突入してきた突撃級の両足を兵装担架の突撃砲で狙撃、動きの鈍ったところを横合いから再び中隊支援砲の槍で串刺しにする。

さらなる零距離射撃を加えたところで、中隊支援砲の弾薬が尽きる。

中隊支援砲を投棄。左腕武装選択、89式突撃砲。右腕武装選択、74式近接戦用長刀。

「各機、フォーメーション変更!サークル・ツーで、クークラ戦隊を防衛する!」

抜刀した浅木機は、その勢いでさらにもう一体要撃級を屠る。同時に突撃砲で接近してくる戦車級の群れを駆逐。

後席の飯島による的確な目標指示があってこそ、なせる技である。

部下の機体も、短刀で、長刀で、時には機体そのものを武器として、圧倒的多数のBETAを前に、クークラ戦隊までの道を切り開いていた。

浅木たちがなんとか陣形を整え、クークラ戦隊を守る円陣を組んだ時、クークラ戦隊はすでにその数を6機にまで減らしていた。

残った機体も、いつ稼働不能になってもおかしくはない状態だ。

だが、浅木はあきらめるつもりはなかった。

ソ連軍増援の到着まで、もうあと数分。BETAの群れを押しとどめながら、じりじりと円陣ごと海岸方面へ後退を開始する。

しかし、そんな綱渡りを許すほど、BETAは甘い存在ではなかった。ほどなくして、最初の犠牲者が出る。

『があああああぁぁぁっ!』

辺りに響き渡る轟音と、無線を通じて流れる絶叫。

『ナイトホーク7、待ってろ!今、助けて・・・!!』

真横から突撃級の突進が直撃したナイトホーク7の機体が、編隊から脱落したのだ。

崩れ落ちた叢雲の機体を、別の突撃級が踏みつぶし、戦車級が蹂躙する。

それを助けようと編隊を崩してしまったナイトホーク8が、左右から要撃級の挟撃を受け、動きを止めたところを戦車級に止めを刺された。

「ナイトホーク11、12! 7と8の穴を埋めろ!」

ついに隊から犠牲が出てしまった。

ナイトホーク7と8は、明星作戦以来の生き残りで、隊の中でも浅木に次ぐベテラン衛士だった。

7と8の穴に付け込もうとした戦車級の群れを、突撃砲に残った最後の120mmキャニスター弾で吹き飛ばしつつ、浅木は残った者たちにテキパキと指示を下す。

今は戦友を失った悲しみに暮れている暇はない。

対BETA戦では、このような状況から一気に隊が崩壊することが多々ある。

そして、事態は冷酷にもその通りに転がり始めていた。

『ちくしょう!あんたたちなんかに・・・殺されるもんか!!』

『落ち着きなさい、大河原!』

隊から犠牲が出たことで、もっとも狂乱に陥りやすいのは、実戦経験の少ない“ナゲット”たちだ。

穴埋めに入ったナイトホーク12_大河原機は、今作戦で配属されたばかりの“ナゲット”だ。

ナイトホーク11と12は、砲撃支援_インパクトガード装備の最後衛を務める機体で、必然的に近接戦闘をあまり考慮されていない。

隊内で唯一、残弾に余裕がある89式支援突撃砲を装備しているのだが、狂乱に落ちいった大河原は、RIOの静止も聞かず、74式長刀を装備してBETAの群れに突っ込み始めたのだ。

「ナイトホーク11、12を止めろ!陣形が崩れるぞ!」

『やってますよ!あの、馬鹿!』

相棒のナイトホーク12が、11を編隊に戻そうと追いかける。だが、この混乱に一瞬気を取られたことが、命取りとなった。

「機長、10オクロック!突撃級多数が急速接近!」

飯島の悲鳴で、浅木は始めて危機的状況を知った。

10時方向_左舷前方・・・要撃級や戦車級が道を譲り、BETAの群れに開かれた一本道を、横列で突貫してくる無数の突撃級の群れ。

回避推奨警告が網膜ディスプレイに立ちあがり、警報音をけたたましく鳴らす。

「間に合うか!?」

突撃級のいち早く気がついた機体が、急速散開して回避を試みる。

ザハロアたちも、浅木たちの回避になんとか追従しようとする。

だが・・・

(くそっ!振り切れない!)

あまりに突撃級の横列が広すぎた。

とてもではないが、主脚走行ではかわしきれない。目前に迫る突撃級。

刹那、浅木の管制ユニットを信じられないほどの衝撃が襲った。

てっきり突撃級の直撃を受けたものとばかり思っていたが、緊急停止していた機能が復帰すると同時に、衝撃の正体が判明した。

「ナイトホーク4・・・榊原少尉か!?」

『ご無事ですか、大尉?』

網膜には榊原少尉の顔と、浅木の機体に覆いかぶさっているもう一体の叢雲の姿が映しだされていた。

榊原少尉の機体・・・俺をかばったのか?

混乱する頭を何とか整理しつつ、姿勢制御プログラムで機体姿勢を元に戻す。

「飯島、損害報告!」

「っ・・・機体損傷、右腕アクチュエーターに断裂。右腕は使用不能!ですが、主脚と跳躍ユニットに損害はありません」

想像以上に軽微な損害だった。

「助かったぞ、榊原」

『いえ、せめて“隊長だけでも”生き残ってもらわねば困りますから・・・』

そう言って笑う榊原の笑みは、ひきつっていた。

ハッとして部隊内データリンクを確認する。ナイトホーク11、12のマーカーが消えていた。通信にも応答がない。

部隊は8機にまで減ってしまった。

さらに、クークラ戦隊もその数を4機にまで減らしていた。

よくみれば、榊原少尉の機体ももはや満身創痍の状態だ。

右腕部は脱落し、損傷をお他ところどころから、推進剤が漏れ出している。

『こちらクークラ2、メニショフ中尉です。同志ザハロア大尉は・・・戦死されました。部隊の指揮は私が引き継ぎます』

ザハロア大尉が死んだ。そう、人の死はこうもあっけないものなのだ。

『隊長、私と福田副隊長が時間を稼ぎます。あと少し・・・逃げ切ってください』

『隊長、福田です。榊原の面倒は最後まで私が観ます』

「お前たち、何を・・・」

次の瞬間、福田副隊長機と榊原少尉機が、噴射跳躍。

わずかな火器と近接戦装備を手に、BETA群へと突っ込んでいった。

「よせ!福田、榊原!!」

『隊長・・・隊長の話の続き、聞きたかったです』

それが榊原少尉からの最後の通信だった。

二人の突貫で、一瞬、BETA群の勢いが弱まるが、すぐに何事もなかったかのように、BETAたちは前進を再開した。

ほどなくして、部隊内データリンクから、さらに2機のマーカーが消えた。

浅木と共に残った5機の叢雲が、そしてザハロアの部下たち_クークラ戦隊の残存機も必死の近接戦闘を繰り広げ、獅子奮迅の如くBETA群を押しとどめる。だが、これもいつまでもつか。

おそらく、あと1分ももつまい。

「これまで・・・だな」

絶望。もはやそんな言葉しか、心に浮かんでこなかった。

「大尉・・・あきらめてはダメです!」

スワラージ作戦での初陣から約10年。ここまで生き残ってきた自分も、もはや年貢の納め時ということだろう。

「もういいんだ・・・俺が無能なせいで、皆を殺してしまったんだ」

部隊を預かる重圧。部下の命を背負うプレッシャー。

ナイトホーク隊の隊長に就任してからというもの、常に浅木の心に重くのしかかっていたものが一気に噴き出した。

「そんなことありません!あきらめるなんて、私が許しませんから!」

「あいつらのところへ・・・逝かせてくれないか」

浅木の手から操縦桿を握る力が抜けていく。目の前に浮かぶ、散って行った戦友の顔。そして・・・

「洋子と美鈴のところへ、逝かせてくれ」

「・・・そんなのイヤです!イヤ!」

飯島の悲痛な叫びが管制ユニット内に響く。

「あなたには生き残ってもらわないと困るの!・・・ちゃんと、責任を取りなさいよ!このバカ男!」

後席の彼女の表情は見ることができない。泣いているのか?彼女は・・・





それはまるで天界から告げられたオラクルのようだった。

突如、戦域データリンクを通じて緊急回避警告が発せられる。

それは、飯島の“責任”という言葉に浅木が反応した直後のことだった。

機載レーダーが遥か海岸線の彼方から超低空で飛来する大型ミサイルの接近を知らせている。

その後方から接近する機影は、30機を越える戦術機のものだ。

そして、雑音混じりの通信回線がまるで天使の声のごとく、浅木の元へと届けられる。

『―――ちら、ソビ―――陸軍第177戦術――大隊のマルクス中佐だ』

増援・・・IFFによって表示されたのはソビエト連邦陸軍第177戦術機甲大隊の識別信号である。

『重金属雲による通信障害のため、通達が遅れてしまった。海軍機が放ったフェニックスミサイルがまもなく海岸線に到達する!至急、爆撃効果範囲から待避せよ!』

自分たちが生き残る希望の光を告げる通信に、浅木の身体をこれまでにないほどの安堵感が襲った。

通信回線を満たす無数の歓声。

あまりのことにうれし泣きする者までいた。

ほどなくして飛来した無数のフェニックスミサイルが、超遠方からのレーザー迎撃を切り抜け、ありったけのクラスター弾をまき散らし、浅木たちに迫りつつあったBETAの一派を瞬時に殲滅する。

その直後、24機のMig-29M《ラストーチカ》が先方として上陸する。

ジュラーブリクとともにハイ・ロー・ミックス構想のローを構成するソ連陸軍の主力機体。

米国のF-16やF-18に匹敵する総合性能を持ち、なおかつ近接格闘戦では上回るっているとも言われるこの機体は、コストパフォーマンスが高い機体としてソ連以外にも東欧社会主義同盟やアフリカ連合などでも正式採用されている。

続いて、最後尾を占領するのは12機のSu-25SM《グラーチュ(ミヤマガラス)》。

小型種掃討における米国のA-10の威力を目の当たりにしたソ連軍が、A-10をモデルに作り上げた戦術歩行攻撃機。

その機体形状はA-10よりもA-10と試作競走を争ったYA-9に良く似ていることから、スフォーニ設計局がYA-9の設計図を裏ルートから入手して作り上げた機体ではないか、ともっぱらの噂だ。

A-6やSu-24が装備する多目的兵装庫を2基装備できるため、瞬間火力はA-10を上回るとされる。

Su-25SMの肩装甲に装備された2門の主兵装Gsh-30ガトリングモーターキャノンが、一斉に火を噴きBETA群をなぎ倒していく。

さらに、その火線の隙間をMig-29MのA-97突撃砲が埋めていく。

『チャーイカ1よりナイトホーク1。我が海軍の大型支援潜水艦が浮上し、待機中だ。最低限ではあるが推進剤補給を行える。待機座標は戦域データリンクを通じて送っておいた。

フェニックスを撃ち尽くした我が海軍の戦術歩行戦闘隊もこちらに向かっている故、戦力は十分だ。ここは我々に任せて、貴部隊は速やかに離脱せよ。援護する!』

さらに頭上を越えて次々と着地してくる戦術機たち。

さきほどフェニックスを放った母艦戦術機部隊・・・10機のSu-33UBだ。

浅木たちにはその姿が、天空から舞い降りる天使軍_セラフィム・ゴートのように見えた。

BETA群を殲滅していく天使たちに背を向けて、浅木たちは最後の力を振り絞り、残った部下たちを叱咤してソ連軍から送られた座標に向かって機体を噴射跳躍させる。

そして、ANZAC艦隊からの艦砲射撃が開始された頃・・・浅木も部隊の一番最後に、海上へ向けて機体を飛翔させた。


第57機甲挺身隊の残存6機が、海上で待ち構えていた3隻のソ連海軍改タイフーン級大型支援潜水艦の甲板に1機ずつ着陸し最低限の推進剤だけを補給して、母艦の鈴谷の甲板へと帰艦したのは、それから20分以上後のことである。


この日、人類は東シベリア奪還の礎として、ノースウインドおよびリムパック両作戦合わせて8万以上のBETA群を間引くことに成功し、対して人類側の損耗率は5%以下に抑えられるという稀にみる大勝利をおさめていた。

この大勝利の勢いに乗り、極東国連軍とソビエト連邦軍は、東シベリアの奪回に向けて動き出すのである。



2002年3月5日

作戦名:リムパック2002

部隊:海軍第1戦術機甲兵団第57戦術機甲挺身隊_TVF-57

目標:B-05戦区ニ展開スル師団規模BETA群ノ殲滅

戦果:飛燕噴進弾、機動砲撃ニヨリ、四千二百余ノBETAヲ駆逐セリ。任務完遂。

損害:中破2、小破4






未帰還:6



[19639] 始動篇~壱~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2010/09/15 02:16
◎2002年3月7日 日本帝国・東京 帝国国防省 第三会議室



「やってくれたな・・・」

広大な会議室内に、蔓延する重い空気をそのまま口から吐き出したような言葉が響く。会議室に集まっているのは、帝国海軍の高級将校ら十数名。その中でも最も上座に鎮座し、苦虫をかみつぶした表情を浮かべているのは、俗に「海軍三長官」と呼ばれる海軍大臣、軍令部総長、聯合艦隊司令長官の三名である。

彼らの脇には、海軍省艦政本部長と航空本部長、聯合艦隊の各艦隊司令官、第1航空艦隊司令官に第11航空艦隊司令官らが控えている。

その中で、最初に口火を切ったのは、田原 総一提督・・・海軍航空艦隊総隊司令官だった。

「結城提督、先日の“作戦”における第1戦術機甲兵団と第2戦術機甲兵団の損害を、君はどう見る?」

彼らの矢面に立たされているのは、帝国海軍戦術機甲兵団総隊司令官、結城智則海軍提督であった。若干40歳、新進気鋭の海軍少将(Rear Admiral)に対し、最近著しく老けたと噂の三長官の視線が集中する。

「ハッ、赫々たる戦果を上げたと報告を受けております」

初の海軍戦術機《翔鶴》の開発に関わって以来、多くの作戦にて軍功を上げ、若干40歳にして戦術機甲兵団総隊の司令官に就任した猛者は、その視線をもろともせずに直立不動のまま口を開いた。

「第1兵団、94式M型6機が未帰還!続いて、第2兵団、97式M型は8機が未帰還!・・・合わせて約20%の損耗率だ!“単なる間引き”において、これのどこが“赫々たる戦果”だというのかね?」

「お言葉ですが、司令長官。我が海軍機甲兵団はたった2個戦術機甲大隊規模の戦力で、師団規模のBETAを駆逐しました。この戦果に対し、損耗率20%という数字は、そこまで悪いものとは言えません」

「そうともいえんな、結城提督。リムパックに参加した人類側の平均損耗率は約5%。アメリカやソビエトと比べ、我が軍だけ異常に損耗率が高いのだぞ」

さらに海軍省の艦政本部長が追撃する。

「我が海軍戦術機部隊は、陸軍戦術機部隊に比べ数も少なければ、予算も少ないのが現状です。少数で効率よく敵を撃破し、損耗を回避する・・・そのための一撃離脱機ではなかったのですかな?」

智則が反撃の口を開く前に、会議室は火がついたように騒がしくなる。おのおのが隣席の将校と意見をぶつけ合っている・・・大半は罵り合いに近いものだったが。

「アドミラル56の実戦配備が間近に迫ったこの時期に・・・」

「左様。正規母艦が完成しても、搭載する戦術機部隊がこれでは・・・」

「一体何が原因なのだ?」

「指揮官の指揮能力に問題があるのではないのか?」

「確かに。第1兵団の損害は、すべて第57挺身隊から生じたのものだ」

「第57挺身隊の隊長は・・・浅木光也海軍大尉か」

「確か、あの男を隊長に推挙したのは、君だったのではないか?」

急に話をもどされた智則だったが、とくに慌てた反応を見せることもなく、冷静に回答する。

「その通りです」

「君の判断に誤りがあったとは言えないか?」

「戦闘詳報をご覧いただければわかると思いますが、第57挺身隊は、他隊の撤退を確実なものとするため、最後の最後まで敵地に踏みとどまり、漸減作戦では通常行わない密集近接戦を行いました。損害が多いのは当然かと・・・」

「その状況に陥った原因こそ、浅木大尉にあるのでは・・・」

智則は、相手に最後まで言わせる前に、反撃に打って出ることにした。

「お言葉ですが、第57挺身隊の損害の大きな原因は補給艦の到着が遅れた事、さらに言えば地中侵攻によりBETA増援の報告が遅れたことにあります。この件で彼を責めるのは、いささか不当かと」

「それはそうだが・・・」

「では、小官から言わせていただきます。今回の損害の原因は、ひとえに我が軍の94式M型と97式M型の密集近接戦闘能力の低さにあると考えております」

智則が投じた一石に、会議室が再び混乱に陥った。だが、智則はそれを気にせず、毅然とした態度で発言を続ける。

「戦闘詳報をみる限り、57挺身隊がBETAとの密集近接戦闘を避けようがなかったことは明白なる事実であります。また、アメリカ軍の後詰として投入された第2戦術機甲兵団に至っては、砲撃戦主体のアメリカ軍戦術機部隊に代わって、やむをえずBETAとの密集近接戦闘を行わなければならなかったことが判明しております」

室内が徐々に静まり始める。そこで彼は、いったん言葉を切り、周囲の注目を集めてから再び口を開いた。

「確かに我が軍の海軍戦術機部隊は、創設当初からアメリカ海軍を参考とし、緊急展開・一撃離脱を念頭に置いて編成されてきました。しかしながら、リムパック2002での状況からも推察できますように、対BETA戦では予測不可能な事態が頻発いたします。大規模な後衛部隊や打撃部隊が戦術機母艦部隊に常時随伴していれば、一撃離脱戦法による火力投射で凌ぎきることができるでしょう」

「我が海軍にも強力な戦艦打撃部隊が存在するではないか!」

誰かが野次を入れる。確かに日本帝国には大和級や改大和級を代表とする強力な戦艦打撃部隊が控えている。それに続いて、待っていましたとばかりに将官たちの野次が飛び始める。

「それでは、我が海軍戦術機部隊の意義は・・・」

「スワラージ作戦への派遣では、このような問題はでなかったのだぞ」

「左様、今まではそれで問題がなかったはずだ。今更になってそれは・・・」

だが、智則には相手に反撃の暇を与えるつもりはなかった。

「スワラージ作戦での派遣はあくまで限定されたものにすぎませんでした。本格的な戦術機母艦もなかった海軍戦術機部隊は、主力を務めた戦艦打撃部隊の“おとも”をしただけです。ですが、リムパック2002は戦艦を省き海軍戦術機部隊を主力とした、初めての遠洋海外派遣でした。陸軍砲兵部隊や戦艦打撃部隊からの十分な火力投射が期待できたスワラージ作戦や、大陸への派遣とはわけが違います」

再び周囲の野次が止まる。

「加えて、我が海軍の戦艦部隊はアメリカと違い、九州方面とサハリン方面における間引き作戦で本土近海にくぎ付けにされております。必然的に、戦術機母艦に随伴できる戦艦は限定されます。」

「さらに言えば、今後、海軍戦術機部隊が投入される対BETA攻勢作戦では、今までのように沿岸部への火力投入だけでなく、内陸部への進攻をも考慮せねばなりません。アメリカのように十分な戦力的余裕があり、遠洋に大規模部隊を展開可能ならば、海軍戦術機部隊は圧倒的火力を投入し、事後を陸軍の後衛部隊や戦艦打撃群に任せて速やかに撤退する事も可能でしょう。しかし、皆さまがよく御承知の通り、今の我が軍には・・・陸軍にも海軍にも、そのような戦力的余裕はありません。」

「必然的に、我が国の海軍戦術機部隊にも、近接戦闘を担当する機会が増える事となります。」

何人かの将校がなるほど、といった顔で智則を見つめはじめていた。同時に、この新進気鋭の青年提督が、只者ではなかったことを悟ったのかもしれない。その微妙な空気の変化を読み取った智則は、ここで場の流れを自分に呼び込むため、あえて勝負に出た。

「小官は、今回の事件は我々海軍にとっての“チャンス”であると考えております。」

「チャンス・・・だと!?」

何人かの将官が怒りをあらわにして語気を荒げる。だが、智則はそれを聞こえなかったかのように、話を続ける。

「甲21号、および甲1号のハイヴが排除されたことで、我が国の直接的な脅威は確かに減少しました。これからの我が海軍の任務には、我が国の国際的な場における発言力を向上させるための海外派遣が加わりつつあります。このたび実戦配備される予定のアドミラル級正規戦術機母艦も、そういった海外展開をも視野に入れて建造されたものです。」

「何を血迷った事を・・・我が国には、未だ九州方面とサハリン方面においてBETAの脅威が残っておるのだぞ!」

「確かに。しかしながら、海軍の任務に“海外諸国の同胞たちの救援”が加わりつつあることは、リムパック2002への参加から明らかであります。そして、それらは国防省と帝国議会によって決定された方針でもあります」

反論が一気になりをひそめる。居並ぶ将官組の中にも、今回のリムパックへの参加を国防省・海軍省へ働きかけた人間が数多くいる。それは、智則の上司、田原提督も例外ではない。

「そのような海外派遣任務に際し、我々には米軍のように“数”をそろえる余裕はありません。これは、先刻も申した通りです。だからこそ、我々の戦術機甲戦力は、“多目的”かつ“一騎当千”の能力を要するのです」

「なるほど・・・“数”より“質”か」

「“百発百中の一砲能く百発一中の敵砲百門に対抗し得る”というやつだな」

列席の中、比較的冷静に事を見守っていた将官の一人が発した言を、聯合艦隊司令長官が繋いでいく。彼の言葉は、日本帝国海軍における軍神、東郷平八郎海軍元帥によるものだ。

時は、日露戦争終結後の1905年12月21日。有事編成であった聯合艦隊を解散し、平時編成へと戻す解散式の際、当時の聯合艦隊司令長官であった東郷元帥が読んだ「聯合艦隊解散之辞」の中に、その言葉はあった。錬度向上を謳ったその言葉は、多くの帝国海軍軍人の中で、いまだに生き延びている。

「左様です。その東郷元帥閣下の言は、過度の精神論を主張したものと取られ、後に海軍兵学校において確率論の点から否定されました。しかしながら、対BETA戦争において、我々人類は物量において圧倒的に劣勢であります。奴らに打ち勝つためには、彼らの“数”をすら凌駕する“質”が必要なのです。我々は、リムパック2002で、これまでの“過ち”に気がついたのです!」

「過ちだと!?貴様、これまでの我が海軍の戦術機運用理論を否定する気か!」

田原がついに耐えられず、怒号を発しながら立ちあがった。怒鳴るしか能がない上官に、智則はひるむことなく、まっすぐな視線を返した。

「そうです、過ちです!優秀な衛士と貴重な機体を失った事で、我々はその事にようやっと気がつけたのです、田原提督!ならばこそ!今こそ!その過ちを是正するために海軍戦術機の強化を行うべきではないのですか!?」

一瞬の沈黙。そして、トドメの一言。

「失った英霊たちに報いるためにも!」

会議室の半分は納得したそぶりを見せている。だが、問題は残りの半分だった。
始めに沈黙を破ったのは、やはり田原提督だった。

「都合の言いことを・・・責任逃れにしか聞こえん!」

唾を飛ばしまくり、腕を振りまわしながら激こうする老提督に、智則は冷ややかな視線を向ける。

「いいえ、田原提督。これが私の“責任の取り方”であります」

「貴様!」

田原は智則に今にも飛びかからんばかりの勢いで前に進み出た。その様子を見て、智則は自らの上司にあたるはずのその男に向けてため息をつく。彼がかみついてきたり、嫌味を言ってくるのはいつもの事ではあるが、ここまで来ると正直うんざりもする。無駄と知りつつ、再び智則が口を開いたその時、第三の声が二人の間の亀裂を埋めた。

「まぁ、待て。彼の言う事にも一理ある」

言葉を発したのは帝国海軍三長官が一人、大高野 海軍大臣だった。

「大臣!」

「結城提督。貴官がそこまで言うからには、海軍機の戦闘能力を“多目的かつ一騎当千”に向上させうる何らかの策があるという事だな?」

「はい、大臣閣下」

温厚そうな大高野の視線を受け、智則は少しばかりの微笑を浮かべ、深くうなずいた。大高も、それを受けてにこやかにうなずき返す。

「よろしい。そこまで言うなら、この件は彼に一任しよう。長官、総長、それでよろしいかな?」

誰も何も言えず、会議はそのまま終了となった。





大高野は、現役将校であった頃、戦術機動艦隊の創設を提案し、「帝国海軍機甲挺身隊の父」とまで呼ばれた男だった。気高き武人であり、士官・下士官問わず、多くの海軍軍人から信頼を得ている。そんな彼は現在、退役して帝国政府の海軍大臣を務めていた。

智則は、当時から大高野を慕っており、大高野の提案に真っ先に手を挙げ参画した一人で、今でも大高野との付き合いは根深い。

「まったく・・・緊急会議が聞いてあきれる」

そんな老相・大高野は、会議室を後にするなり智則の隣で深くため息をついた。

「あれでは責任のなすりつけあいではないか」

智則は黙って大高野の後に続く。

「そもそも、今回の作戦参加自体が、あまりに性急に事を進めすぎたと言わざるを得ません」

リムパック2002への参加。

それは、国際連合における日本の発言力向上のためのデモストレーション・・・日本帝国海軍には、アメリカやソビエトに匹敵する優秀な海軍戦術機部隊があり、外洋遠征も十分可能であるという世界に向けたプレゼンス。

“BETAに対する国際的支援“という美辞麗句の裏には、そんな本性が隠されていた。

「帝国議会や政府の言い分もわからんでもない。だが、今回の失敗を次に生かさなければ・・・君の言った通り、死んでいった者たちに顔向けができんよ」

「・・・そのための海軍戦術機の性能向上です」

大高野は、智則の目に固い覚悟の色を見てとった。この男は、部下の“無駄死”を認めない。部下の死が、決して無駄ではなかったという、ただそれだけの結果を得るために、彼は海軍の歴々が居並ぶ場で、あそこまで大風呂敷を広げたのだろう。それは、海軍と言う閉鎖社会に対する、智則の一世一代の反攻に他ならない。

そんな智則の姿を、大高野は好ましく思った。そして、話は具体的な部分へと進んでいく。

「我が海軍機・・・《叢雲》と《雪風》は、米国機のごとく飛燕ミサイルによる一撃離脱にこだわるあまり、密集近接戦における生存性が元型機よりも低下しているように思われます。本作戦における敗因の一つは、そこにあるかと」

「ふむ・・・確かに両機種は、一撃離脱用に短時間・高出力の主機を搭載している。だが、飛燕ミサイルの運用能力を削れば、海軍戦術機部隊の存在意義が問われる事になるまいか?」

「ええ。ですから、飛燕ミサイルの運用能力を保持したまま、密集近接戦能力を向上させるのです」

「先ほども言っていたが・・・考えがあるのだな?」

「はい。陸軍で私と似たような事を先に考え、実行した男に一人心当たりがありまして・・・」

大高野の脳裏に、一人の男の顔が浮かんだ。そして、この男を智則も思い浮かべているはずだ。

「なるほど、考えたものだ」

「それに加えて、閣下に一つお願いがあるのです」

「言ってみろ」

「・・・研究用として購入した“例の機体”をぜひ使わせて頂きたいのです」

「例の・・・まさか、あの欧州機か!?あれはTRDI(国防省技術研究本部)が技術検証目的で購入したものだ」

「そこを何とか、大臣のお力でお願いしたいのです!我が海軍戦術機の技術向上のためには、我が国の第三世代機技術を独自に改良して発展させた後発の欧州第三世代機の力が何としても必要です」

智則のこぶしが自然と握りしめられる。ダウンフォール(本土防衛)、明星、甲21号、桜花・・・そして、今回のリムパック2002。これらの作戦で散っていった同胞の数は、もはや数え切れない。

軍人だけではない。ダウンフォール時には、3600万もの日本帝国国民が犠牲となった。その多くが、逃げ遅れた老人や病傷人たちだ。今の日本人で、家族や友人を一人も失った事のないような幸運な人間は皆無だ。そんな目を覆いたくなるほどの多大な犠牲に報いる事が出来ずして、何のための帝国海軍か!何のための軍人か!

「まもなくアドミラル56が実戦配備されます。長期外洋遠征すら可能な正規母艦を有した艦隊があれば、我が国の国際社会での発言力はさらに高まる事になりましょう。そのためには、より一層強力な艦載機が必要です!」

生き残った7000万の日本人、彼らを“もう一人たりとも無駄に死なせない”、そんな思いが智則の語気を自然と高めていた。その様子を見た大高野は、まるで我が子を見るように表情を緩めた。

「かわらんな、君は・・・」

「は・・・」

「わかった。国防大臣と技研本部長に掛け合ってみよう。ついでではあるが、航空本部長にも話を通しておいてやろう」

「感謝します。閣下」

「若者が無駄に命を散らせていくのは・・・老体には辛すぎる。ワシも歳をとったものだ」

国防省メインエントランスに着いた大高野が、短い敬礼の後、すでに止めてあった防弾仕様が施された黒塗りセダンの後部座席に乗り込む。

「期待しとるよ、提督」

「ハッ、おまかせを!」

大高野の乗った海軍省ビルへ向かう公用車が見えなくなるまで、智則は敬礼を続けていた。





大高野と別れ、執務室に戻った智則は、椅子に腰かけるが早いかすぐさま電話の受話器を取った。交換係の女性海士に、帝国軍のとある部署の名を告げる。
何度目かのコールの後、智則が望んでいた男が受話器の向こう側に出た。約半年ぶりに聞いた旧友の声に、必然と智則の声もうれしそうだった。

「久しぶりだな、巌谷」

そして、歯車は動きだす。



◎2002年5月1日 日本帝国・沖縄 帝国軍沖縄要塞群 辺野古演習場


南西諸島要塞群・・・通称「沖縄要塞」。

1945年の敗戦後、約半世紀をかけて建造された極東アジアの一大拠点である。当初は、中共の海軍勢力を封じ込める防波堤として建造された要塞だったが、航空宇宙軍が新設されるとその主力打ち上げ基地としての役割も担う事となった。

そして現在・・・沖縄要塞は、駐留する帝国海軍と帝国航空宇宙軍、そして国連太平洋方面軍を最大の武器とし、なおかつ周囲を囲む海を鎧として、BETAをユーラシア大陸に封じ込めるための絶海の要塞島と化していた。

その一画に、辺野古演習場はあった。


雷鳴を轟かせながら、蒼穹に舞い上がった巨人は、太陽を背にして空中で反転し、黒影を地に落とす。

『ガレオン2、エンゲージ・ディフェンシブ。リーダー、シックスオクロック!』

「ちぃっ、後ろか!?」

管制ユニット内に鳴り響くロックオンアラーム。

今しがた頭上を飛び越えて行った機体に気を取られている間に、後方に敵機が出現したのだ。急制動に伴うGに身もだえする中、レーダースクリーンに表示されているのは2つのブリップ、“UN35bat,F-15E”の文字、方位はそれぞれ真東と真西。自分たちは完全に挟撃されようとしている。

今そこでは、沖縄要塞の警衛を担う第1041警衛機甲挺身隊《ガレオンズ》所属の97式M型《雪風》2機と、同じ沖縄の嘉手納基地に駐留している国連太平洋方面第11軍第35戦術機甲大隊《トゥームレイダース》所属のF-15E《ストライク・イーグル》2機が、月初めの部隊間交流訓練を行っていた。

第35戦術機甲大隊は、甲21号作戦と桜花作戦において消耗した国連部隊のひとつで、つい先ごろ戦力補充をし終えたばかりの部隊である。元々、F-15Cを扱っていた彼らだが、再編にあたってF-15Eへと機種転換を行っていた。彼らにとっても、今回の訓練は実戦復帰のための最終完熟訓練である。必然と訓練にも力が入る。

『レイダー1よりレイダー2。このまま2機を挟撃するぞ』

『レイダー2、諒解』

レイダー隊は撹乱役のレイダー2と狙撃役のレイダー1に分かれ、市街地残骸を利用して潜伏する2機の雪風を挟撃しようとしていた。2機のイーグルが跳躍ユニットを巧みに操作し、雪風の射線を交わしながら急速に距離を詰める。その多角的機動は、まさにストライク・イーグルが“最強の第二世代機”と呼ばれる所以である。F-15Cのそれをさらに強化した機動性能は、第三世代機であるはずの雪風を凌駕する部分がある。

「挟撃されるぞ、ガレオン2!シックスを固めろ!」

『諒解!』

雪風を操る結城零嗣 海軍中尉は、ウイングマンに背を任せ、接近し自機上方を取ろうとしてくるレイダー1に牽制射を加える。高度制限があるとはいえ、頭を押さえつけられていては、身動きが自由に取れない。

牽制が効いたのか、レイダー1は逆噴射を行い、緊急回避機動。いったんは詰まっていた距離を、再度取りなおす。

追撃とばかりに120mmキャニスター弾を放つが、レイダー1はこれを三次元多角機動で易々と交わし、レーダー索敵範囲外へ離脱する。レイダー2はと言うと、こちらも捕捉される前にさっさと距離を取りなおしたようだった。

「速い!さすがは“最強の第二世代機”!」

主機換装を行っているとは言え、元が高等練習機である雪風の主機出力は、ストライク・イーグルのそれに及ばない。パワー、スピード・・・いずれをとっても雪風には荷が重い相手だ。

『機体だけじゃない・・・衛士も凄腕だぜ!』

ウイングマンの大石亮吾 海軍少尉が言う通り、ストライク・イーグルを駆る衛士は、数々の作戦を経て生き残ってきた歴戦の勇士だ。桜花作戦時には確か重慶ハイヴへの陽動作戦に参加していたはずだった。

敵機が後退した事で、二人の間に再び静寂が訪れる。最悪の状況は変わらない。

「だけど・・・勝てない相手じゃないな」

新米衛士とは思えない不敵な言葉を放つ零嗣。全周索敵。機載コンピューターは、各種センサーからの情報を統括し、敵機が潜んでいるであろうポイントの候補をいくつか上げてきている。それを見つめていた零嗣の表情に、うっすらと笑みすら浮かぶ。

「ポイントB-5・・・大石、狙えるか?」

相棒にただそれだけを問う。

『さぁね・・・わからんけども、やってみるさ!』

とても演習中とは思えない軽薄な答え。だが、その答えに零嗣は満足していた。

「よし、プランQを試す!」

『りょーかい!』

零嗣はニヤリと満面の笑みを浮かべると、スロットルを開放し跳躍噴射。高度を取ったおかげでルックダウンセンサーが、山間部に潜んでいる2機のイーグルを捕捉した。ポイントB-5!コンピューターの予測候補に自らの思考を加えて割り出した予想が見事ハマっていた。

だが、こちらが敵の位置を把握したということは、すなわち敵からもこちらが丸見えということになる。敵からすれば、零嗣の行動はセオリーを無視した無謀な突撃としか捉えられない。

案の定、敵も零嗣機を捉えたらしく、突撃砲の一斉射撃を浴びせかけようと、砲口を上空の機影に向けた。零嗣はその射線を冷静に読み、自動回避機動モードをキャンセル。跳躍ユニットを起動させ、ロケットモーターを噴射。左右に細かく機体を連続機動させる事で、ストライク・イーグルの対空弾幕をすり抜ける。

その間に、キャニスター弾と36mm弾で反撃。敵はこれを強引な三次元機動で回避するが、そのおかげで敵の射撃精度も低下する。

着地と同時に、零嗣はジャムスモークを展開。敵の視界とセンサーを一時的に奪う。

すぐさま、スモークから距離を取ろうと後退する2機のイーグル。

「ハハッ!やっぱり速い・・・でも!」

全身にのしかかるGに悶えながらも、零嗣は思わず笑い声を洩らした。その表情は、まるで子供が大好きな玩具を手にした時のようだ。

残弾の残っている腕部の突撃砲を投棄し機体を軽量化。続いて、主脚のバネとロケットモーターの最大出力、さらに山間部の斜面を利用した圧倒的な突進力で、零嗣の雪風が後退する2機のイーグルに迫る。その右腕部は、背部兵装担架に唯一残されている74式近接戦闘用長刀に伸びている。

零嗣機の意図を察したのか、レイダー2がレイダー1を守るようにして、零嗣機との間に割り込む。真正面からの突撃をしかける零嗣機に向け、兵装担架に装備された2門を前面に起動させ、4門による全門一斉射撃。

雪風の格闘攻撃が届かないギリギリの距離・・・だが、突撃をかけてきている雪風が、避けようのない距離だ。当然と言えば当然だが、レイダー2の衛士は、トリガーを引いた瞬間に自身の勝利を確信していた。

その直後、レイダー2の衛士を激しい震動と衝撃が襲う。そして、機体はそれっきり動かなくなった。

《レイダー2、背部に致命的損傷。判定:作戦続行不能》

網膜ディスプレイに表示された内容を、レイダー2はしばらく理解できなかった。いったい何が起こったのか?

レイダー2が全門射撃を零嗣機に浴びせかけようとした直前、零嗣は前進突撃をキャンセル。ロケットモーター推力を下方に指向し、レイダー2の斜め上方へ噴射跳躍。

それだけでは、突進力を殺しきれず完全な軌道変更になりえないため、主脚で地表を蹴りさらに斜め上方への推力を加算。

雪風はレイダー2の上方を宙返りしながら、放たれた射撃を紙一重で回避。そして空中で敵の後方を占拠した一瞬を逃さず、背部に近接長刀を叩きこんだのだ。

零嗣機は見事、空中宙返りを決め、機能を停止し崩れ落ちるレイダー2の後方に着地した。零嗣機の目前にレイダー1の機影。レイダー1は、零嗣機のアクロバティックな動きに驚愕したようだったが、すぐに気を取り直して、着地直後に硬直している零嗣機に突撃砲の狙いを定める。

僚機はやられてしまったが、この演習は長機を撃破した方が勝利する。作戦目標は目の前。例え今からどんな機動をしようとも外しようがない距離だ。
おしかったな・・・と、心の中で呟きつつ、レイダー1の衛士がトリガーに指をかけた・・・刹那。

どこからともなく飛来した36mm弾によって、レイダー1のコクピットブロックが黄色一色に染め上げられた。その正体は、目立たぬよう、こっそりと山間頂部の狙撃ポイントまで移動していたガレオン2・・・大石機の87式支援突撃砲から放たれた3バースト狙撃だ。

《レイダー1、胸部コクピットブロックに致命的損傷。判定:作戦続行不能》

『CPより各リーダー。状況終了。訓練開始地点まで速やかに後退。別名あるまで、待機せよ』





辺野古演習場の端に設けられた野外ハンガーに固定された、ネイビーブルーの海軍型吹雪。海軍衛士たちから《雪風》の愛称で親しまれているその機体の胸部装甲が開き、管制ユニットが露わになる。

コクピットレベルにまで上昇しているリフトが機体の前に寄せられ、そこに降り立った衛士に向けて、機体周囲を取り囲んでいた地上クルーたちから一斉に拍手と喝采が送られた。

その光景を見た当の衛士本人・・・結城零嗣 海軍中尉は、呆気に取られていた。
みんな、何をこんなに喜んでいるのか?

地上に降り立った彼は、訳のわからぬまま、もみくちゃにされたかと思うと、屈強な整備クルーたちに担ぎあげられた。

「ちょ・・・と、待ってくれ!みんな!」

零嗣の抗議など露ほども気にせず、整備クルーたちが歓声と共に高々と胴上げを開始する。

F-15Eを97式で屠った男。ひとえに言ってしまえば、彼らの無邪気な喜びの
原因はそこにあった。

世代的に言えば、97式の方が最新式にあたる第三世代戦術機ではある。だが、元々が「練習機」であり、決して不知火のような突き詰めた性能を誇っている訳ではない。

性能的には、「最強の第二世代戦術機」と呼ばれるF-15Eの方が上なのは、誰が見ても明らかだった。

その格下の機体で、国連軍の古残部隊を完膚なきまでに叩きのめしたのである。彼らが喜ぶのは、当然と言えば当然の結果だったのだ。

ようやく地面に足がついたかと思えば、今度は部隊の同僚衛士たちが手にしていた合成麦酒をシャンパンファイトのごとく零嗣に浴びせかけ始めた。


5分後・・・

「大変だったな~」

お祭り騒ぎからようやく解放され地面に大の字で横たわる零嗣の前に、ウイングマンの大石亮吾がニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。衛士とは思えない髪の長さ、さらには身体つきも海兵と言うよりはモデルのそれに近い。

「・・・みんな浮かれすぎだよ。強化装備がベトベトだ」

「隊の他の奴らは、連中に惨敗してる。実戦経験なしの新兵ばかりの俺達が、性能の劣る雪風でストライク・イーグルにあんな派手な勝ち方したんだ。浮かれるのも当然だろ?」

相棒の言葉を聞きながら、零嗣は強化装備に着いた砂を払いつつ立ちあがる。

「俺たちの相手はBETAだ。戦術機じゃないよ」

「相変わらずだなぁ・・・戦術機に乗ってるときは、あんなに楽しそうだったのに」

「戦術機に乗ると、なんだか自分が自分じゃなくなるような・・・」

「ふーん、難儀な体質だな」

零嗣の適当な返事を大して気にする様子もなく、亮吾は大の字になっている零嗣を片腕で引っ張り起こす。

「っと、忘れてた!お前をお待ちかねの“お客さん”だぜ」

亮吾が指し示した先。零嗣がその先を視線で追うと、そこには一人の人物がたたずんでいた。それは、零嗣がこの世で最も会いたくない男だった。

「・・・・・・親父!」



[19639] 始動篇~弐~
Name: ジョリーロジャース◆fc22a805 ID:d2748853
Date: 2011/01/19 03:04
そう言えば・・・俺はなんで、海軍衛士になったのか。

衛士への道は決して平坦ではない。

世界は慢性的な衛士不足とはいえ、まず適性試験をパスしなければ、その育成課程に入る事すらできない。

単純に考えれば、陸軍衛士の方が採用数も多く、確率的に考えればそちらの方が衛士になる可能性が高い。

海軍衛士は、ただでさえその“席”が少ないのだ。

だが今思うと、自分が衛士を志した瞬間、海軍衛士の事しか頭に浮かばなかった。

なぜ?


きっかけは“憧れ”だった。

父と母に手を引かれ、幼い時に見たとある映画。


時は1987年。

前年にアメリカで公開され、全米興行収入1位を記録した名画。

「TOPGUN」

トマス・クルーズ演じるマーヴェリックのTACネームを持つ主人公のピート・ミッチェルが、ミラマー海軍基地のアメリカ海軍戦術機兵器学校・・・通称TOPGUNで苦難と挫折を乗り越えながら、一流の衛士に成長していく姿を描いたアクション映画だ。


時はBETA大戦真っ只中。人類側の劣勢が連日伝えられ、世界は未曾有の戦時体制に陥っていた。すべてが軍事優先。それは戦場から比較的離れていた日本帝国でも同様だった。

生まれてこの方、娯楽など殆どなかった。


だが、映画だけは別だった。


殆どが戦意高揚のための戦争物か、70年代に作られた旧作の繰り返しばかりだったが、それでも幼い好奇心を満たすには十分だった。

TOPGUNもそんな中で作られた国策映画の一つだ。

映画の中では、厳しい訓練風景や教官であるチャーリーとの恋に加え、マーヴェリックたちとBETAとの死闘、そして戦いを生き残ったマーヴェリックが、対BETA戦術を後輩衛士たちに伝えるため、TOPGUNに教官として帰還し、チャーリーと再開するまでが描かれている。

特に幼い零嗣の心を引き付けたのは、スクリーンいっぱいに飛び回る戦術機・・・F-14《トムキャット》の姿だった。

1982年に米国海軍で配備されたばかりで、当時としては最新鋭の第二世代戦術機だった。

米国海軍の全面協力により、映画には実機のトムキャットや、エンタープライズ級正規戦術機母艦が使用された。

物語のクライマックスを飾るインド大陸防衛線におけるBETAとの戦闘は、一部CG技術で加工を施されているものの、実際のBETAとの戦闘記録映像を流用しており、そのすさまじい臨場感に子供ながら圧倒されたのを覚えている。


そして、見終わった直後から、自分はいつか衛士に・・・それも海軍衛士になるのだと、幼いながらに心に決めていた。


おりしも、日本帝国海軍が外洋展開するための戦術機動艦隊を創設した直後の事だった。


後で知った事だが、その当時、日本帝国軍でもF-14とF-15の採用競争が行われていたそうだ。


結果的にF-15が技術獲得目的で導入されることとなり、海軍でF-14の導入が検討されたが、それも廃案となったらしい。


たぶん、自分が海軍衛士を目指したのは、TOPGUNのせいだ。そうに決まっている。


だが、今目の前にたたずむ男の姿を見て、自分の心が揺れているのがわかる。


俺が海軍衛士を目指した理由は・・・本当にそれだけだったのか?



◎2002年5月1日 日本帝国・沖縄 帝国軍沖縄要塞群 辺野古演習場



「久しいな、零嗣」

回想は、無粋な一声で中断させられた。

「・・・何の御用でしょうか?“提督閣下”」

遥かかなたの海上に見える大型艦建造用浮きドックエリア。そこでは、今もアドミラル級2番・3番艦の建造が行われている他、伊勢級戦艦のFRAM(大規模近代化改修)も行われているという。

その光景を背に、自分の前にたたずむ“上官”を、零嗣はまっすぐ見つめ返した。

「おいおい、親父に向かってそんな堅苦しいのは止めにしろ。こっちは肩が凝るんだ」

相変わらずのもの言い。そして、その飄々とした風体は、濃紺色の海軍将校服に身を包んでいても、軽々しいことこの上ない。

とてもではないが、帝国海軍きっての青年提督とは思えない。

「しょうがないでしょう?親父は、“一応”海軍提督だ。血のつながりがあるとはいえ、ただの一衛士に過ぎない俺が、ため口をきいていい相手じゃない」

「一応ってなんだ、一応って・・・まぁ、お前の言う事ももっともだが、久々の親子水入らずの時ぐらい、気楽にいかせてくれや」

ニヤリとからかうような笑みを浮かべる父を、零嗣は忌々しげに睨みつける。相方の亮吾は、零嗣と父の不仲を知っている。

彼特有のていの悪い悪戯か・・・亮吾は、零嗣に父の来訪を告げた後、周囲の人払いをし、“親子水入らず”の空間をあっという間に作り上げてしまったのだ。

これ以上、突っ張っていても時間の無駄と判断し、零嗣は話を先に進める事にした。

「で・・・こんな“辺境”の土地に、海軍提督閣下が一体何の用があるんだ?まさか、俺の部隊の演習を見に来たってわけでもないだろ?」

基地や部隊の仲間がいないのを良いことに、零嗣は本音を言葉に混ぜ込んだ。


“辺境”。


国連軍にとっての極東防衛の要・・・対BETA戦争における不沈空母とまで言われている沖縄要塞群だが、実際に要塞自体がBETAの侵攻を受けた事は皆無である。

沖縄近海は、比較的浅い深度をたもっている東シナ海から、断絶したように、周囲を深海に囲まれている。

過去のデータから、BETAは深度500m以上の深海では活動できないと報告されており、沖縄本島を含む南西諸島は、BETAからの攻撃を受けない(であろう)絶対的な天然の要塞と化しているのだ。

つまり、沖縄要塞群の主力を占めるのは、東シナ海を哨戒する海防艦などの護衛艦隊戦力であって、航空艦隊を始めとする戦術機甲戦力ではない。これらの戦力は、半島・大陸への間引き作戦など、限定的攻勢作戦でなければ活躍する事はないのだ。

そんなわけで、沖縄駐留の警衛機甲兵団の主要な任務は、演習と退屈な周辺哨戒に限られる。

もっとも、海軍警衛機甲兵団自体が、二線級部隊である第11航空艦隊と共に、第一線級の海軍衛士を養成する予備役部署であり、現在各航空戦隊に配されている衛士たちの中にも警衛機甲兵団で一時的に任務を受けていた者たちも多い。

陸軍と同じく、慢性的な衛士不足に陥っている海軍だが、新米衛士は一度、基地警衛機甲兵団で訓練と経験を積みつつ、前線部隊となる母艦機甲兵団へと配備されていくのが、通例である。

“辺境”ではあるが、教練部隊から出たばかりの零嗣が配属となるのも当然と言えば当然のことではある。

だが、教練部隊を出て、いきなり母艦機甲兵団へ配属される者もいるにいる。多くは教練部隊の首席衛士ら優秀な成績を収めた者がそうなるのだが・・・

零嗣の場合はそうならなかったのである。

教練部隊におけるスコアは、零嗣と亮吾のペアが常にトップを張っていた。にもかかわらず、零嗣と亮吾に下されたのは、この沖縄への配属だった。

“あの事件”のせいで。

加えて、沖縄駐留部隊は、本土の警衛部隊に比べてすら、 “場末部署”とみなされているのが現状である。

それは、佐世保や呉、舞鶴、横須賀など、本土の警衛機甲兵団は、98年の本土侵攻以降、常にBETA戦の最前線に立たされており、実質上第一線もしくは第二線級部隊と同等にみなされるようになったためだ。

もちろん沖縄にもBETA侵攻が全くないとは言い切れない。

BETAは人類の予想を裏切る事が何度もあったし、これからもあるだろう。

よって、“念のため”に要塞化はされているし、警衛部隊である戦術機甲部隊も配置されているのだ。

それでも、零嗣にとっての沖縄は、本土の基地警衛部隊に比べて遥かに安全な“後方地帯”であり、対BETA戦における“辺境”である事にかわりはなかったである。

これらの事はひとえに、今まさに目の前にいる“親父”が裏で根回しをしたからだと、零嗣は考えていた。

“大事な大事な一人息子”を、BETA戦争の最前線に送り出すことなどはできない、と。

そんな零嗣の想いを知ってか知らずか、父の方は顔に子供のような満面の笑みを浮かべている。

「よくぞ、聞いてくれた!お前にちょっと頼みたい仕事があってな」

「仕事?」

零嗣は、いぶかしむ表情を浮かべる。衛士になって早々、自分をこんな“辺境”へとばした親父が、今更何の用なのか?

「そう邪見な顔をするな。別に激戦地へ放り込もうってわけじゃない。まぁ、とりあえず乗れ。詳しい話は着いてから、だ」

と、智則が右手で傍に止めてあったメガクルーザーを指差した。どうやら、頼みたい仕事の場所まではこれで向かうらしい。

メガクルーザーは、1990年代に帝国陸軍に配備された高機動車の民生用である。本家、高機動車は陸軍と海兵隊に集中配備されているため、海軍や航空宇宙軍などではこちらが配備されている。

今では殆ど部隊に配備されているため、特に珍しいものでもないが、あろうことか智則はそそくさと運転席へ乗り込む。

提督自らがハンドルを握る等、そうそうありえる事ではないが、昔から車好きな親父ならば十分にあり得る、と零嗣は思った。

大方、従卒がついてくるのを嫌って、こっそり乗り逃げでもしてきたのだろう。

零嗣が黙って助手席に乗り込むと、智則がイグニッションをまわす。

《15B-FTE》4.1リッター直列四気筒エンジンが唸りをあげ、車体が一瞬身震いした。

170馬力をはじき出すこのエンジンは、軍用としては強力とは言い難いものの、元型の高機動車と同じ四輪駆動方式の採用によって、少々の山林など軽々と走破してしまう。

オートマチック・トランスミッションをドライブに入れた智則は、何かを思い出したかのように、零嗣を振りかえってニヤリと笑った。

「いや、すまん。やっぱり激戦地に放り込む事になるかもな」

ニヤリと笑って意味深な言葉を残した智則は、そのまま高機動車を急発進させた。衛士特有とも言える荒っぽい運転に、零嗣は舌打ちする間もなく、身体をシートに押しつけられた。



◎2002年5月1日 日本帝国・沖縄 帝国軍沖縄要塞群 嘉手納基地


メガクルーザーを走らせること、小一時間。零嗣たちがたどり着いたのは、嘉手納基地だった。

ここは、沖縄要塞群を構成する主力基地の一つであるが、零嗣自身、基地内に入るのは初めてである。

なにせ、この嘉手納は国連軍所属の基地であり、いかに帝国軍と言えど、許可なくその中に立ち入ることはできない。

各国の大使館と同じ・・・日本帝国の領土内にあって、日本帝国の主権が及ばぬ治外法権の地なのである。

ゲート前で立っている歩哨も、日本人ではなくアフリカ系だった。

帝国海軍のマークが入ったメガクルーザーの登場に、歩哨や門衛が一瞬体を硬直させるが、運転席の開け放った窓から智則が一言二言告げると、慌てて敬礼を返し、屈強な扉が開いた。

「国連軍基地に・・・一体何の仕事があるっていうんだ?」

智則は、零嗣の言葉を無視して、基地内道路を走り続ける。やがて、嘉手納基地を構成する巨大な滑走路が見え始めた。

滑走路の脇には、見覚えのある機体がずらりと整列していた。先ほどの演習を終えて帰還したのであろう第35戦術機甲大隊《トゥームレイダース》のF-15Eストライクイーグルだ。

《トゥームレイダース》の隣には、旧式のF-15Cが居並ぶ。

さらに反対側に並んでいる野外格納庫から姿を現したのは、米国陸軍からこの嘉手納基地国連軍へ供出されている第2戦術機甲師団第2ストライカー旅団のF-16SC《ストライカーファルコン》である。

これには、さすがの零嗣も目を見張る。

第2戦術機甲師団は、アメリカ太平洋陸軍第8軍の隷下、韓国に配備されていた精鋭部隊だが、1998年の韓国からの撤退以後、この沖縄要塞群嘉手納基地へと移動してきた。

在日米軍撤退後も、師団ごと国連軍に供与され、極東防衛を担ってきた米陸軍の精鋭部隊である。

特に2000年からは、沖縄に配備していた2個戦術機甲連隊をストライカー旅団戦闘団(SCBT)へ改編しており、いざとなれば真っ先に台湾や九州地方へ展開することになっている。

そのストライカー旅団には3個ストライカー戦術機甲大隊が配備されており、その専用戦術機が、F-16SCなのである。

F-16SCは、ペイロード250トンを誇る巨人機An-225ムーリヤに3機を搭載できるよう徹底した軽量化が図られ、専用のストライカー装甲カプセルによって輸送される。

加えて、背部兵装担架を犠牲にして、航空機並みの航続距離を実現するための長距離巡航ユニットを装備する事も可能であり、これによって輸送機によらずして、戦術機単独での緊急長距離展開をも可能としているのである。

第2師団のストライカー旅団は、帝国軍との演習にもあまり参加しないため、零嗣もストライカー・ファルコンを見るのはこれが初めてだった。

と、徐々に大きくなりつつある轟音に気が付き、頭上を振り仰ぐと、巨人機An-225ムーリヤの編隊が、まさに主滑走路へのランディング・アプローチに入っているのが見えた。

数は全部で4機。目を凝らして見ると、専用のストライカー装甲カプセルを背負っていることが確認できた。大方、台湾あたりで展開していたストライカー旅団の戦術機甲大隊が一時帰還したのであろう。

目線を反対側にそらすと、そこには巨大な電磁式カタパルトが2基備え付けられており、それが天に向かって高く伸びている。

こちらは、国連航空宇宙総軍のHSST(再突入型装甲駆逐艦)を軌道上に投射するためのものだ。

こうしてみると、嘉手納に駐留する戦術機甲戦力は、駐留する航空宇宙総軍の軌道降下兵団も合わせれば、数個師団にも及ぶのではないか。

一見してそれほど戦術機の数が多く映らないのは、野外格納庫に出ているものなど、見えているものが全体の一部に過ぎず、大半が地下施設内で運用されており、加えて今現在も台湾などへ出撃している部隊もあるからなのだろう。

帝国海軍の辺境基地でしかなく、少数の警衛部隊と母艦機甲兵団部隊が駐留するのみの那覇基地に比べ、なんと充実していることか。

呆気に取られている零嗣を尻目に、メガクルーザーは巨大な基地の一番片隅にある野外格納庫の前で停止した。

他の野外格納庫に比べ、異常とも思える多数の警備兵たち。

みな国連軍の軍装に身を包んだ者たちばかりだが、その中に帝国海軍の軍服の上から白衣をまとった青年軍人の姿が見えた。

その存在は、圧倒的多数を占める国連軍の軍人たちの中で、圧倒的に浮いている。

智則に促され、メガクルーザーから降り立った零嗣を、例の白衣の軍人が出迎えた。

近くで見ると、まだ歳も若く、恐らく自分と同じか・・・もしくは少し上なぐらいではないか。

「お初にお目にかかりますね、結城中尉。国防省防衛技術研究本部の矢作俊輔です」

矢作と名乗り、にこやかに笑いながら青年軍人が右手を差し出してくる。その手を握り返しながら、彼の襟元・・・海軍大尉の階級章に目をとめた零嗣は、条件反射というべき反応で、とっさに敬礼をする。

「あぁ、敬礼は止めてください。私は軍属で、たまたま大尉待遇なだけですから」

「彼は、富嶽重工からTRDIに派遣されている技術者だ。なんと18歳でアメリカ合衆国屈指のマサチューセッツ工科大学へ国費で留学し、戦術機工学理論を研究してきている。富嶽重工開発局きっての英才だ」

智則が、さも自分のことのように自慢げに話す。別にアンタがすごいわけじゃない・・・と思った零嗣だが、単純に目の前の青年が、自分より遥かに高見の存在であることを感じ取ってはいた。

彼がまとうオーラは、まぎれもなく科学者のそれである。カタブツぞろいの軍人としては、かなりはみ出た存在感を醸し出している。さきほど、妙に浮いていると思った第一印象は間違っていなかったということだ。

だが問題は、なぜ、この場で、自分が彼に会わなければいけないのか?というところにある。
そんな零嗣の考えを知ってか知らずか、智則はベラベラとしゃべり続ける。

「彼を“昔の戦友”に紹介してもらってな。今年の始め・・・桜花作戦直後に日本へ帰国していたところを、俺が引き抜いた」

「引き抜いたって・・・TRDIがなんでこんな場所に?帝国軍の新型機でもあるっていうのか?」

さっぱり訳が分からない。

「いや、そもそも俺は、まだなんでこの場所に連れてこられた、聞かされてないんだが」

「ふふん・・・当ててみろ、わが息子よ」

少し得意げな表情でじらす父親に、零嗣のイライラがたまっていく。

「大方、帝国海軍の新型機でもおいてあるんだろ」

投げやりに答える零嗣。

「正解・・・と言いたいとこだが、惜しいな」

それを受けてさらにニヤニヤしだす父親。

「提督。説明するより、御子息にご自分の目で確かめてもらった方が早いと思いますよ」

零嗣がさらにイライラを募らせようとしていたのを見かねた俊輔が、すかさずフォローを入れた。

俊輔の言葉を受け、智則が周囲の警備兵に合図を出す。零嗣は、周囲を警備兵に囲まれながら、目の前のハンガーの中へと誘導された。

ハンガーに一歩はいると、整備ハンガーに固定されている見慣れない戦術機の姿が、零嗣の目に飛び込んできた。

(まさか・・・本当に、帝国軍の新型戦術機!?)

と、思った矢先、零嗣は自分の過ちに気が付く。

「いや、違うな・・・これは・・・資料で見た事がある。“ラファール”か!」

目の前にそびえたつネイビーブルーと白色で塗装された機体は、フランス軍で1998年に実戦配備された第三世代戦術機《ラファール》そのものだった。

同じようにBETAとの近接戦闘を想定した機体であるが、日本製戦術機にはあまり見られない固定武装が機体の随所にみられる。

肩部装甲や腕部装甲、そして足部に装備された鋭いブレードエッジ・・・斯衛軍の《建御雷》ほどではないが、かなり刺々しい機体だ。

しかし、機体全体としては、きわめてスマートで洗練されたものに見える。

資料で米軍の第三世代機・・・F-22を見たことがあるが、マッシヴなそれに比べ、かなりの細見であり、日本機に近いものがある。

零嗣の顔が見る見るうちに、柔和なものへと変化していく。

まさか、こんな辺境の地で、遥かかなた欧州大陸で運用されている新型戦術機に出合えるとは・・・

「さすがですね、中尉。ですが、正確に言えば、ハズレとも言えるのです」

さすがにはしゃぐ事はしないが、まるで新しい玩具をもらった子供のように目を輝かせている零嗣に触発されたのか、矢作の声も心なしか上ずっている。

「なんだって?」

「この機体の正式名は、試製99式M型戦術歩行戦闘機《疾風》です」

「研究目的で購入したフランス軍のラファールを、帝国軍仕様に改修したものだ」

すかさず智則が補足を入れる。

「研究目的って・・・帝国がなんでフランス軍の機体を・・・」

「我らが帝国政府と欧州連合には、なかなか根深い因縁があってな。この4機は・・・その“報酬”といったところだろう。とはいっても、実機が届いたのが半年前だがな。」

智則の説明に納得しかけた零嗣だったが、ふとある事に気がついた。

「海軍仕様・・・帝国海軍は、次期主力機にこいつを導入するつもりなのか!?」

「ま、当たらずとも遠からず・・・と言ったところだな。最初は陸軍で運用する予定だったが、急きょ予定変更で海軍仕様のM型改修キットを送ってもらう事になったんだ」

「回りくどいな・・・はっきり言ってくれ」

智則の言い回しに段々苛立ってきた絶妙のタイミングで、矢作が口を挟んできた。

「結城中尉、XFJ計画について小耳にはさんだ事は?」

「ああ。陸軍が、アメリカのユーコン国連軍基地で行った94式不知火の強化改修計画のことだろ?開発をボーニングと共同したっていう・・・」

「そうだ。そして、海軍もそのXFJ計画の恩恵をあずかろうと言う事になってな。」

「なんだって??」

「結城零嗣 海軍中尉!現時刻をもって、貴様を海軍大尉へ昇格させ、この試製99式M型戦術歩行戦闘機“疾風”の主任開発衛士に任命する。」

その言葉を聞いた零嗣の中に、何か熱いものがこみあげてきた。




◎2002年5月10日 日本帝国・沖縄 帝国軍沖縄要塞群 嘉手納基地


「う、うぉぉおおお!!」

跳躍ユニットのS88エンジンが唸りをあげる。

強烈な推進力が爆発し、自身の身体を管制ユニットのシートに押しつける。

雪風とは比べ物にならない・・・いや、もしかすると叢雲以上かもしれない。

爆発的な直進加速を行い、突撃級との距離を一気に詰める。視線照準でロック。

突進を紙一重で交わしながら、すれ違いざま、至近距離から脚部への砲撃で次々と撃破。

まるでダンスのステップのように、地表面滑走で鋭角な高速ターンを決めつつ、クイックな動きでBETAたちを翻弄していく。

ターンの度に、強化装備のフィードバック機能を越えたGが、身体に襲いかかるが、今はそれさえも心地よかった。

「こな・・・くそ!」

ターンの先で待ち構えていた無数の戦車級の群れに、勢いに任せて突っ込む。

脚部ブレードベーンによって、ズタズタに引き裂かれた戦車級が赤い霧となって宙を舞う。

速度が相殺され、0となって停止した一瞬の間に、腕部ブレードベーンで周囲の戦車級を刻む。

それと同時に両腕部に保持したたままの突撃砲で、BETAの群れをなぎ払う。

半秒後、跳躍ユニットが再び唸りを上げ、機体は再び急加速。

噴射炎で、小型種を吹き飛ばしながら、短距離跳躍。

着地予定地点には十数体の要撃級。

零嗣の顔に自然と笑みがこぼれ出す。

この機体なら、できる・・・楽しくて仕方がない!

跳躍の速度をつけたまま、脚部のブレードベーンを使った踵落とし。

と同時にもう片方の脚部で強烈な蹴りをお見舞いする。

群れの先頭にいた要撃級がもんどりうって倒れる。

要撃級からブレードベーンを抜き、ふわりと再着地した機体に向かって、残った要撃級が突進してくる。

突撃砲を正面に指向し、一斉射撃。

36mmと120mm弾を浴びた要撃級が次々と肉片へと変わっていく。

突撃砲の弾薬が切れると同時に、素早く兵装選択。

突撃砲投棄した後、背部兵装担架から近接戦闘用長刀を両腕に保持。

74式よりもソリッドで先鋭的な形状をした長刀で、残ったBETA群を格闘戦でせん滅する。

『こいつが、最後の“的”だ』

その声と共に、目の前に現れたのは、全高66mを誇る要塞級BETA。

18mを誇る戦術機ですら、こいつの前では赤子同然の存在でしかない。

だが、今の零嗣に怖いものなど無かった。

長刀を携えながら、一気に噴射跳躍。要塞級のウィップをクイックターンで避けながら、要塞級で唯一の死角とも言える上方を占拠し、その背に着地。

機体を踏ん張らせ、三胴各結合部分に強烈な斬撃を見舞う。

その後、崩れ落ちる要塞級から、疾風のごとき素早さで離脱する。

だが、それだけでは要塞級を撃破した“判定”とはならなかったようだ。

しぶとく、体勢を立て直す要塞級。

その頭部に、投げ槍のごとく投擲された1本の長刀が、深々と突き刺さる。

『満足したか?ナイトレーベン1。状況終了だ』

その声と共に、魔法が解ける。

JIVES-統合仮想情報演習プログラムが終了し、平地におけるBETAとの単独戦闘を模した仮想映像が切り替わる。

ここは、嘉手納基地の総合演習区画。

突然の命令から、早2日。

零嗣は新型戦術機・・・試99式《疾風》の実機を駆る事ができていた。

搭乗したての頃は、日本機との感覚の違い・・・特に、それまで乗っていた吹雪との挙動の違いに戸惑ったが、それも殆どなくなった。

まだ、軽量高出力の機体に振り回されているところはあるが、搭乗から一週間たった現在では、なんとかその制御を可能にしていた。

『さて・・・ナイトレーベン1。わずか1週間足らずでここまで乗りこなした事は見事としかいいようがないな。だが、今日はもう一つ、余興を用意している』

「余興?」

いぶかしがる零嗣に、センサーが演習場へと侵入してくる高速飛行体を感知したことを知らせた。

データ照合。これは・・・

「自由フランス海軍・・・ラファールM!」

轟音と共に、零嗣の機体の前へと着地したのは、零嗣が駆る試99式のベースモデル・・・フランス海軍第三世代戦術機《ラファールM》であった。

ラファールMも、銃砲の類は一切装備していない。

そして、背部兵装担架から、先端が鉤爪状に歪曲した近接戦闘用長刀を抜き、右腕部に装備した。

零嗣も右腕に残っている長刀を構えさせるが、ふと数日前の出来事が思い浮かんだ。





一昨日、命令を受けた零嗣は、驚くと同時に、漠然とした不安を抱いていた。その不安を矢作に打ち明けたのだ。

「いきなり欧州機を任されても、俺に使いこなせるかどうか・・・なんたって、既存の帝国製戦術機やアメリカ製戦術機とは一味もふた味も違いそうだからな」

「その点は全く心配ありませんよ。そのために、強力な“助っ人”を呼んであるのです」

「“助っ人”??」

「ええ。あと数日でこちらに到着するんじゃないですかねぇ~?まぁ、楽しみにしておいてください」





なるほど・・・矢作の話はウソではなかったという事だ。

「話はだいたいわかった・・・これが“助っ人”ってやつか」

零嗣は、深々と嘆息した。

『そうだ。“彼女”は強いぞ。機体に傷をつけるなよ』

智則のその言葉が合図だった。JIVESが再起動。対戦術機近接格闘戦モード。

零嗣が“彼女”という言葉を聞き返す間もなく、ラファールMが一気に距離を詰めてくる。

すれ違いざまに放たれた斬撃を、零嗣はなんとか長刀によって受け流した。

速い!しかも、速いだけではない。なんというか・・・動きに無駄がない。

叢雲を越える直進加速性や主機出力に振り回されず、その速度をなるべく殺さないよう、空力特性を最大限に利用し、三次元的な妖艶なステップを駆使してくる。

フランス軍で長らく運用されている戦術機《ミラージュ・シリーズ》の名のごとく、幻惑を見ているような滑らかな動きだった。

「これが・・・本当の欧州機の動きか!」

零嗣もスロットルを開放し、ラファールへ切りかかる。

だが、零嗣の思惑とは反対に、長刀はむなしく宙を切っただけだった。

そもそもラファールは常に機動し、速度を0にする瞬間がない。

日本機で行うように、足を止め、機体を踏ん張らせ、脚部のバネを用いた格闘戦を行ってこないのだ。

「やりにくい・・・これなら、どうだ!!」

再接近してくるラファールを捉えるべく、試99式を正面に立たせ、長刀を振りかぶらせた。

ラファールもそれに呼応するかのごとく、長刀を下段に構え、突っ込んでくる。

互いの殺傷範囲に入った刹那、両機が動く。

先に動いたのは零嗣。長刀を上段から一気に振り下ろす。だが、その剣撃は、ラファールに届く前に阻まれた。

「なっ・・・!?」

ラファールの左腕部に装備されている鋸刃型ブレードベーンが、長刀を受け止めていた。

上段から振り下ろされる勢いが最大限に発揮される前・・・振り下ろす直後を狙って、ブレードベーンを盾にしていたのだ。

長刀がブレードベーンに弾かれ、試99式の体勢が崩れる。

「まだだ!」

跳躍ユニットを噴射し、崩れそうになる体勢を起立させ、その勢いで再び長刀による斬撃を行う。

が、その最後の抵抗も無残に打ち据えられた。

ラファールが放った“フォルケイトソード”の一撃。

その切っ先に、零嗣の長刀が絡めとられた。

強烈な金属音と共に、マニュピレーターがオーバートルクに耐えられず、長刀を強制排除したのである。

『そこまで!』

その声と共に、再び、JIVESの魔法が解け去った。

大きく弧を描き、演習場の地面に落下し、突き刺さった長刀が、夕日に焼かれていた。

『CPより各機、状況終了―――各機、ハンガーまで速やかに帰還せよ』





「紹介します。自由フランス海軍所属の・・・」

「アラン=フルエニ=リリス海軍中尉です。」

格納庫で機体から降りた零嗣を迎えたのは、3人の男女だった。

矢作の説明を途中で引き継ぐ形で、アラン=フルエニ=リリス自由フランス海軍中尉が自己紹介をする。

西洋人形のような純白の肌とカールしたブロンドのロングヘアが、ハンガーの外から入り込んだ日光に照らされる。その姿はまるで・・・

「天使みたいだろう?」

相変わらず図星を突いてくる親父の言葉を無視し、零嗣は目の前にたたずむ天使のような少女に視点を合わせた。

俺は、この少女に負けたのか・・・完膚無きままに叩きのめされた事実が、零嗣の肩に重くのしかかる。

「彼女は以前、スエズ派遣艦隊シャルル・ド・ゴール母艦打撃群に配備されているFlottille12F(第12F海軍航空隊)に所属していた。Flottille12Fは、自由フランス海軍で最初にラファールMの配備を受けた精鋭部隊でな・・・彼女も桜花作戦の陽動作戦を経験し、実戦経験も豊富だし、何より親戚に日本人がいたとか何とかで日本語が堪能だ。そこで、今計画のオブザーバーとして、来日してもらった」

「なるほど・・・それで、“ここ”だったわけだ」

零嗣の中でなぜ帝国海軍の新型機の試験を、国連軍所属の嘉手納基地で行うのか、その理由がようやく明白になった。

リリス中尉と彼女のラファールMは、フランス海軍から国連軍出向という形で、この日本へときたのだろう。

「にしても・・・なんで欧州機、それもフランス機なんだ?」

ここ数日、零嗣自身の中でずっと引っかかってきたことだった。

帝国は過去に米軍のF-15を導入しているが、欧州機は運用した事はない。

海軍戦術機も米国にはF-14やF-18などの機体が多く存在する。

零嗣は、整備員から手渡された飲料水をあおりながら、試99式を見上げた。

身体の節々が悲鳴をあげているのがわかる。

「フランス海軍におけるラファールMの運用方針は、私が目指す帝国海軍機の運用とよく似ているのだ」

智則の説明を、すかさずリリス中尉が補足する。

「我々フランス海軍は、アメリカのごとく大量の戦術機母艦を有している訳ではありませんわ。必然的に投入できる海軍戦術機部隊は、限られてきます。」

「その限定された数で一定の戦果をあげ、なおかつこちらの被害を最小限度にとどめるため、ラファールMには一撃離脱能力と同時に、高速機動砲撃戦と密集近接戦もこなす能力が与えられているのです」

「まさに“一騎当千”というやつだ。そして、それこそが我が帝国海軍が欲する戦術機の能力でもある。」

「なるほどね・・・だから、あんな機動ができるわけだ」

零嗣がリリス中尉に視線をやると、彼女も僅かに微笑みを返した。

「いえ、大尉の対BETA戦闘機動も見事でしたわ」

まぁ、愛想笑いかもしれないが・・・

そこで、智則がさらに驚くべき命令を伝えてきた。

「さて・・・これから、お前とアラン中尉は、海軍機甲教導団に新設される独立試験挺身隊に合流してもらう。そこで、第909分遣隊を編成し、他部隊と共に残りの各種試験項目を実施しろ。」

「分遣隊?」

「そうだ。お前を小隊長とし、アラン中尉を副官とする。試99式はあと2機が試験配備される予定だから、あと2名を加えて編成される。」

小隊長?俺が?

新型機の評価試験だけではなく、まさか小隊を指揮する事になるなんて・・・

「小隊の人選は、お前に一任する。さっそく、今日から考え始めろ。時間は無いぞ」

「宜しくお願いします、ユウキ大尉」

格納庫に入り込んだ夕日で照らされたリリス中尉の顔が、零嗣には眩しかった。




◎2002年5月15日 日本帝国・沖縄本島沖合 40km海上


穏やかな潮風を甲高い噴射音が切り裂く。巡航速度で海上をNOE(匍匐飛行)する4機の戦術機。

リリスは、その管制ユニットの中で、自機・・・ラファールMの機動を制御しつつ、網膜に投射された斜め前方を飛行している同型機の背を見つめていた。

その機は、自分が今度仕える事となった隊長機だ。

1週間前、初めて彼と顔を合わせた時に行った言葉。あれはお世辞などではなかった。

JIVESでのBETA戦闘を見ていたリリス自身、わずか一週間であそこまで零嗣がラファール・・・もとい試99式を操れるようになっているとは、思ってもみなかったのだ。

なにせ、本家フランス軍の衛士でさえ、ラファールへの機種転換は2週間を要するのである。

自分も、この機体を乗りこなすために10日はかかったはずだ。

それを他国軍の衛士が、わずか1週間でこなした。

常識的には考えられないことだった。

何が、彼をあそこまで駆り立てるのか。

「ああいう人を“侍”って言うのかな・・・」

何気なしに口に出た“侍”という言葉。それがきっかけとなって、子供の頃の出来事を思い出す。

母はよく語ってくれた。

遥か遠い海の向こうにいる、古い友人の話を。

亡き父と共に欧州大陸でBETAと戦った日本の“侍”の話を。

母は言った。

自分たちの国にいた“騎士”たちは、「正義」のために戦う人たちだった。

その「正義」は、常に「他者」に向けられている。

「弱者」、「悪」、「異教徒」、「封主」、「教会」。

西洋騎士たちは、そう言う者のために自らの命をかける。

だが、“侍”は違う。

「侍は、“名誉”のために戦うの。自らの名を汚さぬための・・・その最後の手段として」

そう。侍は、“己”のために戦う。

端的に表現すれば、“騎士”とは自ら考えることを許されず、与えられた正義のために戦う、いわば戦闘マシーンだ。

対して、“侍”とは尊厳ある意思をもった“人間”である。

常に自らの正義を問い詰め、またそれを他人に押し付けることはなく、好んで戦わず、しかし尊厳や名誉を守るためには、やむを得ず剣を抜く戦士である。

BETA戦争が始まって、早30年・・・多くの衛士たちはBETAと戦う“騎士”・・・戦闘マシーンへとなり果てている。

リリスはそれも仕方がないことだと思いつつ、だが、心の奥底でなぜか納得できないものを感じていた。

自分は甘いのかもしれない。人類が総力を集結しても敵うか怪しい相手との戦争で、“侍”になる余裕などないのかもしれない。

だが、“あの経験”を経た自分は、やはり母が語ってくれた“侍”を目指したいのだ。

はたして“彼”は、自分が憧れる“侍”なのか、それとも“騎士”なのか。リリスには、まだわからなかった。





そんなリリスの思惑を全く知らない零嗣は、沖縄の晴れた蒼穹を駆け抜けるそう快感を存分に味わっていた。

網膜に映し出される蒼海は、自分が駆っているのが戦術機であり、戦争の真っ最中であることを忘れさせるほどの効果があった。

そして・・・その視線の先に、現れた“目的地”にひそかに身体を震わせた。

最初は点でしかなかった“それ”がどんどん巨大化していく。

美しき蒼海に浮かぶ、鋼鉄の市街地。

洋上に君臨し、戦術機40機以上と、3000名もの軍人を有する、現代の要塞。

半月前に進水し、1週間前に沖縄要塞を出立して処女航海を行っている帝国海軍の期待の新鋭艦。

その圧倒的な存在感に、零嗣は思わず、厳かに、言葉を紡ぐ。

「・・・アドミラル、イソロク!」

提督(アドミラル)級正規戦術機母艦は、全長390mに及ぶその巨体を悠然と沖縄の海に浮かべ、零嗣たちを迎え入れようとしていた。



[19639] 始動篇~参~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:d2748853
Date: 2011/07/22 23:09
『ブリッジよりフライトデッキ。戦術機、揚収準備!』

『マーシャル管制区にて待機中の機数は4。先導機が、間もなく着艦アプローチに入る。』

飛行甲板上の騒音に紛らわされないよう、デッキクルー達は各々ヘッドセットを被っている。

プリ・フライから指示に従い、黙々と作業に走る。

着艦用アングルド・デッキに、戦術機揚収用着艦拘束装置が展開され、アレスティング・ケーブルと連結する。

『こちら飛行長。連中はマーシャル管制区で、お行儀よく順番待ちだ。野郎ども!お手て引いて、丁重にお出迎えしてやれ!』

飛行甲板を牛耳る飛行長(エアボス)がプリ・フライ(プライマリー・フライト・コントロール)から激を飛ばす。

1MC(艦内スピーカー)から流れる少々下品とも言えるエアボスの声を、アドミラル56初代艦長の大河原淳蔵 海軍大佐は、戦闘艦橋から着艦のための最終アプローチに入り始めた新型戦術機《疾風》の姿を見つめながら聞いていた。

彼は、スワラージ作戦以降の殆どの作戦をくぐり抜けてきた歴戦の兵である。

そんな彼の脳裏に、複雑な思いが駆け巡る。

正確に言えば、飛行甲板を走り回る様々な色のベストを着用したデッキクルー達は、“野郎ども”だけではなかった。

陸軍ほどではないが、海軍も深刻な人手不足に悩まされており、この空母に乗り込んでいる3000名の乗組員の内、約三分の一は女性なのである。

さらには若年兵たちの姿も多く目につく。

以前、巡洋戦術機母艦で勤務していた者も多いが、その多くがここ数年で海軍に徴兵された新兵であり、その動きに精悍さがない。

何人かは、自らの仕事をまだ把握しきれておらず、甲板上でオロオロうろたえる姿も見える。

長期化するBETA大戦の傷跡は、こうした至る所に現れていた。

人的資源は無限ではないという当たり前の事実に、帝国政府も軍上層部もようやく気付き始めたようであるが、時すでに遅しの感があった。

現に、一昔前では考えられないほど、女性や若年の海軍軍人が多く存在しているのである。

今では海兵隊の海神を運搬する潜水母艦の艦長にも、女性がいるとか・・・

潜水艦に女性を乗せるのは、多くの海の男たちから忌み嫌われていたことのはずだった。

もはやジンクスのたぐいであったが、その信仰にはかなり根強いものがあったはずだ。

そんなジンクスなど構っていられないほどに、帝国軍は人的資源の不足に悩んでいた。

数の問題ではない。

戦術機に搭乗できる“衛士”の資格を獲得できる人間は、ただでさえ少ない。

海軍にしても、高度に電子化された現代の軍艦を運用するには、前大戦の頃と違いそれなりの適性が必要だった。

また、海軍は陸軍と違い、女性を乗せる場合、それ専用の艦内設備を増設しなければならない。

例えばトイレ、風呂、更衣室、そして寝室である。

加えて、セクハラや恋愛がらみのケンカなど、問題はあとを絶えない。

アメリカでは、人材が豊富なのにもかかわらず、かなり早い段階から女性を艦船に乗せる試みがなされていた。

最初期の実験は1972年・・・まだBETAの地球侵攻の前の出来事だったという。

おそらく、その根底には女性差別問題の是正があったのだろう。

その実験では、病院船USSサンクチュアリに420名の男と女性志願者53名が乗艦して、洋上テストが行われた。

その後、1978年には工作艦USSヴァルカンでも同様の実験が行われた。

表向き成功と言われているこれらの実験だったが、非公式に漏えいした情報により、乗艦した女性の内、数名が妊娠していた事が後に発覚する。

さらに女性をめぐった争いごとも多々あったようである。

人々は、非公然にではあるが・・・こうした船を「ラブ・ボート」と呼んでいるそうな・・・

そこまで思いを巡らせて、大河原艦長は苦笑する。

帝国海軍においても、こうした行為は規則で禁止されている訳ではない。

(そうなると、今や帝国海軍艦艇の全てが“ラブ・ボート”となるな・・・)

それは何も日本だけのことではない。これらの諸原因は、全て、BETA大戦の激化によるものなのである。

今では、PDA・・・“公然たる愛情表現”を前線国家で禁止している国など殆どないのが現状だ。

そんな余裕がある国は、“安全地帯”の後方国家だけだ。

帝国海軍でも“やるなら見えないところで”というのは、暗黙の了解となりつつある。

そして、個人的感情を仕事場に持ち込むな、という鉄則も、新兵訓練時には必ず叩きこまれている。

(そうは言うものの・・・な)

理屈は分かっていてもなかなか納得がいかない・・・そこが、古き海の男、大河原艦長である。

もっとも、ここまで帝国が追い詰められている最大の原因は、1998年・・・あの忌まわしい本土決戦にあることは明白だった。

(あの激戦で、日本の人口は7400万にまで減少した・・・海軍でも多くの船と男たちが共に沈んだ・・・)

BETAとの正面決戦を行った陸軍ほどではないが、海軍も多数の艦艇が光線属種の餌食となった。

ことに、敵前への強襲上陸を幾度も行った海軍と海兵隊の戦術機部隊は、壊滅状態だった。

比較的安全な海上にいた聯合艦隊も、打たれ弱い駆逐艦や海防艦などの損耗が特に激しかった。

駆逐艦の艦長をしていた大河原の長男も、その時、艦と運命を共にした。

撤退する陸軍戦術機部隊の援護のため、光線属種排除を志願し、特攻攻撃を仕掛けたのだと言う。

彼と乗組員の挺身により、光線属種は殲滅され、戦術機部隊は噴射跳躍によって戦線を離脱できた。

大河原艦長は、艦橋内に掲げられた肖像画に目をやった。

試験航海に出てから、早1週間・・・この艦では、すでに大小様々な問題が、多数起こっている。

先任たちが悲鳴を上げてきていることも、艦長の耳に入ってきていた。

殆どが経験の浅い新兵で、艦と同じく今回が始めての航海というなら、なおさらなのかもしれない。

(申し訳ありません、“提督”。今の帝国には、これが精いっぱいなのです。)

前大戦の折、帝国海軍の智将と言われた男。

帝国の威信をかけた艦に、その名を受け継がれた名将。

高野五十六 海軍元帥の肖像画は、そんなこの艦の行く末を、儚げに見つめていた。



◎2002年5月15日 日本帝国・沖縄本島沖合 戦術機母艦アドミラル56上空


「IFF(敵味方識別信号)チェック・・・コンプリート。 クリアランス、OK。チェックナンバー(着艦許可番号)・・・確認」

『ナイトレーベン901番機、アプローチに支障なし。風力15から18、風向0-4-5。着艦コースへ進入せよ』

「ラジャー、56。」

零嗣は、疾風の管制ユニットの中で、網膜に投射され徐々に大きくなるアドミラル56のアングルド・デッキと、ILS(計器着艦システム)を見つめていた。

視線操作によって、足裏に装備されたアレスティング・マグネットをオンに。

『901、少し高度が高い・・・あと20フィート程さげたほうがいいな』

「ラジャー」

先にアドミラルへ搭乗している先任の衛士が、LSO(着艦誘導士官)としてスポットから零嗣の機に、適切な方位と高度を指示する。

その声に、零嗣は無意識に機体高度を修正した。

警衛兵団の戦術機部隊も、母艦への着艦訓練をつねに欠かさず行っている。

だが、アドミラル級への着艦は初めてだ。

しかも、乗っているのは勝手知ったる日本機ではない。

一歩間違えれば貴重な評価試験機と共に海の底・・・必然的に自身のアドレナリンが激増していくのが感じられる。

『よし、そのままで問題ない。のんびり降りてこい』

VTOL能力を有する戦術機は、垂直着陸も可能だが、上下左右に激しく揺れる艦船への垂直着艦は容易ではない。

例えば、人間が陸地から陸地へジャンプする分には、何の問題もない。着地の衝撃さえ受け止められれば、跳躍しても怪我を負う事は無いだろう。

激しく噴射跳躍と着地を繰り返す戦術機にとってもそれは同じで、戦術機の脚部はカーボンアクチュエーターと衝撃緩和機構により、かなり丈夫かつ柔軟に造形されている。

しかし、もし人間が水上に浮かぶ小舟に飛び移るとしたらどうだろうか?

着地点が陸地と違って、波浪により前後左右・・・さらには上下の運動を行っているのである。

一歩間違えればバランスを失って転倒。最悪、海に落ちる。

また、不規則に揺れ動く甲板上でそのような激しい動きをすれば、最悪の場合、戦術機自身の脚部を損壊する(人間でいう捻挫のように、カーボンアクチュエーターに過負荷がかかる)事もありうる。

もっとも、戦術機は人間と違い、空中静止が可能だ。

が、そういった機動は、難易度も高い上、推進剤も多量に消費する。

また、着艦するまでの間、高熱のジェット噴射が大量に飛行甲板を襲う事となる。

おなじVTOLでもヘリコプターのダウンウォッシュなどより、甲板員にとって遥かに危険な存在だ。

陸上基地での通常着陸は、長いランウェイを用いて、飛行からサーフェイシング、そしてランへと徐々に速度を殺すことによって、安全に行うことができる。

だが、陸地ほど距離を取れない飛行甲板では、そういった悠長な着陸は不可能だ。

可能な限り、ソフトに、安全に、そして迅速に。

そこで、日本の戦術機母艦では、ヘリ運用で培ったベア・トラップ技術を戦術機用に改造した着艦装置を開発し、三隅級や巡洋母艦などで試験的に運用していた。

まず、降下アプローチに入った戦術機は、甲板に設置されアレスティング・ケーブルと連結された戦術機用ベア・トラップへと着地する。

と同時に、戦術機の足裏とベア・トラップに装備された電磁石によって脚部がベア・トラップと固着し、続けてベア・トラップ側の拘束装置によってさらに戦術機を固定。反動で戦術機が飛び出すのを抑える。

そして着艦に伴う速度と衝撃は、アングルド・デッキを滑るベア・トラップと、連結しているケーブルの張力によって相殺される。

むろん、これをこなすには相当の技量を必要とする。

故に、着艦までの誘導にも、最新式レーザー・ビーコンと、機載ILS(計器着艦システム)、FLOFS(着艦信号灯システム)が用いられ、夜間や悪天候下でも、衛士の負担を極力軽減するよう工夫されている。

『901、ボールをコールせよ』

零嗣は、アングルド・デッキの左側に張り出した緑色のライトを視線に入れた。

「901、ミートボール。」

ミートボールは、着艦の時に、適切な進入角度(上下&左右)の誤差を、色の違う専用ライトで、衛士に教えてくれるものだ。

元々、航空機用に開発されたものであるが、戦術機母艦でも用いられている。

実は、このミートボールを、一番最初に開発し、運用をしたのは、我らが帝国海軍だという・・・

「残存燃料、4.0」

着艦に全て異常なし。

零嗣の網膜を、巨大な飛行甲板が埋め尽くす。

次の瞬間、母艦のデッキに時速350kmで降下した疾風が、轟音と共にベア・トラップを引っぱたいた。

足裏に装備されている電磁石がベア・トラップのそれとしっかり固着する。

ベア・トラップの拘束装置が、脚部の両側から競り上がり、両足を挟みこんで固定する。

戦術機脚部にかかる負荷も、ベア・トラップに装備されたアクチュエーターと、慣性を利用して分散させる。

零嗣機を乗せながら、火花を散らせてアングルド・デッキを滑っていくベア・トラップを、連結するアレスティング・ケーブルが停止させるべくその張力をフルに発揮する。

急減速Gと共に、ベア・トラップが停止。

『今の着艦は“良好”だな』

LSOの嬉しげな声が、零嗣の耳に響いた。

『901着艦。さすがだな、結城大尉』

零嗣機の前方で、デッキ要員がシグナル・ライトを振って合図を送っている。

LSOへの返答もそこそこに、すぐさま足裏のアレスティング・マグネットを解除し、跳躍ユニットの主機を落とす。

ベア・トラップから開放された疾風を、誘導に従って飛行甲板前部に設置されている簡易ハンガーへとタキシングしていく。

簡易ハンガーへ足を踏み込ませると、両足が固定され、続いて両腕の武装をサイドストレージに収める。

その間に、肩部サブアームが肩部装甲を戦術機前方へと移動させる。

さらにサイドから競り上がってきた4基の多目的担架が、全自動で跳躍ユニットと背部兵装を回収する。

すべての装備を解き放ち、本体だけとなった疾風の腰部を、これまた下から競り上がってきた座椅子のようなガントリーが固定。

座椅子部分のアームが、疾風の腰部をゆっくりと落とし始める。同時に、脚部は前方へとスライド。

腰部と脚部の3点を支えられる形で、ゆっくりとハンガーが伸縮し、疾風をリクライニング状態の着座姿勢に納めていった。

母艦での戦術機運用は、格納スペースの関係からこのリクライニング状態が常である。

戦術機が立って動くのは飛行甲板の上だけに限られるのだ。

すべての安全確認が済むと、零嗣は機体の蓄電池と燃料電池出力を落とす。

すべての電源が落ちた事で、管制ユニット内が暗闇におおわれるが、それもユニットが外部へ放出されるまでの一瞬の間だけだ。

暗闇からいきなり南国の光に照らされて、零嗣は思わず瞼を閉じる。

ユニット内に吹き込む潮風が、身体の解放感を伴って心地よい。

簡易ハンガーの仕様上、機体の背中側から開放された管制ユニットに、外からラダーがかけられる。

「お待ちしておりました、結城大尉」

ラダーを駆け上がってきた機付長が、まだ管制ユニットに収まっている零嗣に向けて海軍式敬礼をよこした。

返礼をしながら、零嗣は機付長をマジマジと見た。

女性である。しかもかなり年が若い。

整備用繋ぎの胸には、《MFX計画》のマーキングが施されていた。

《MFX計画》

嘉手納基地出発前に初めて伝えられた、海軍次期主力機選定評価計画の正式名称だ。

《疾風》もその評価計画の1機種である。

(名前と体裁だけ立派でもな・・・)

その内情には、陸軍が先年から進めているXFJ計画・・・そのお零れに預かろうという魂胆が丸見えだった。

「自分は、大前円(だいぜん まどか) 上等整備兵曹です。MFX計画で、901番機の機付長を務めさせていただきます。」

今まで嘉手納基地で行ってきた機体の動作確認試験の際は、国連軍所属のフランス軍技師が担当してくれていた。

しかし、これからは帝国軍の管轄で本格的な評価試験が開始されることになる。

《MFX計画》整備班にもフランス軍からオブザーバーが派遣されているが、基本的には自前で整備を行うこととなっている。

《疾風》が制式採用された場合に、我が国でその整備的基礎を築く必要があるためだ。

大前上等兵曹は、その先駆けとなるためにこの艦に派遣されてきたのだろう。

「結城大尉・・・??」

返事をしない零嗣を、円がいぶかしげにこちらを覗きこむ。

「あ、ああ、よろしく」

慌てて返礼を返しながら、零嗣は管制ユニットから立ち上がり、ラダーへと足をかけた。

どうぞ、と、円から渡されたウォーニングジャケットを受け取り、袖を通しながらラダーのステップを踏む。

まだ、稼働中の機体が殆どいないためか、騒音は思ったほどない。

聞こえるのは、接近中のラファールM・・・リリス機のエンジン音と、吹きつける潮風の風音ぐらいだ。

周囲にはすでに機体に取りついている何人かの整備兵たちの姿が見えた。

赤いジャケットを着た兵装要員が、多目的担架に装着されている兵装と跳躍ユニットを取り外し、可動担架へ積み替えている。

これらを二人がかかりで押して、兵装用エレベーターで甲板の下にある格納庫へ移動させるのだ。

零嗣がラダーから甲板へ降り立ったちょうどのその時。

轟音と共に、リリスが操るラファールMが着艦した。

ベア・トラップとケーブルが、甲高い金属音を上げている。

潮風にあおられながら、零嗣はしっかりと甲板を踏みしめた。

以前に乗った三隅級や鈴谷級とおなじ、ざらざらとした滑り止めのついた灰色の飛行甲板。

だが、それらとは比べ物にならない広さに、零嗣は思わず感嘆の声をあげた。

確かに三隅級も元々タンカーの設計を流用しているだけあって巨大ではあったが、この本格的な戦術機母艦の飛行甲板の広大さは、それとはまったく別物だった。

単なるタンカー流用と違い、海の上に浮かぶ限られた船体を可能な限り使うための工夫・・・徹底的に練り続けられ、実験データを活かした設計の集大成こそが、この正規戦術機母艦なのである。

アイランドまでの距離も果てしなく遠く感じる。

まさか、海に浮かんだばかりのこの新鋭艦に、自分が乗れるなど、思ってもみなかった。

振り返れば、母艦の先端から、どこまでも続いている蒼海がのぞいている。

一瞬、BETAとの戦争など忘れてしまいそうな感慨に浸りながら、アイランドへと歩を進めて行く。

零嗣が歩くすぐ横を、兵装を収めた可動式担架が、二人の整備兵に押されながら通り過ぎて行った。

可動式担架は、アイランド手前の兵装用エレベーターへ運ばれていく。

同時に、地響きを立てながら、リリス機が簡易ハンガーへと向かってきていた。

飛行甲板は戦場の次に危険な職場・・・先任の海兵たちから、嫌というほど聞かされてきたことだった。

しかし、久しぶりの飛行甲板・・・それも新鋭艦のそれは、そんなことを忘れさせてしまいそうなほどの高揚感を零嗣に与えていた。

続いて、着艦降下を開始したのは、戦術機部隊に配属されて間もない“ナゲット”である最年少の遠藤汐見 少尉だ。

彼女が、なぜこの試験評価部隊に抜擢されたのか・・・その理由は、零嗣にすら知らされていなかった。

零嗣は、合流する以前の彼女のデータを見たが、砲撃戦適正に優れると言う事の他は、特に秀でたものは見つけられなかった。

だが、人選は“海軍の鷹”と“親父”によって行われたと言うし、ならば彼女は何らかの才能を持っているからこそ選ばれたのだろう。

現に、配属直後の慣熟機動訓練で、海面すれすれのNOEによる編隊飛行をなんなくこなしていた。

普通、配属されたばかりのナゲットたちは、海面にビビって機の高度を高めに取る事がある。

彼女の操縦からは、そうした“ビビり”が感じられなかった。

しかも、乗りなれた日本機とは、明らかに勝手が違う欧州機で、である。

(少なくとも、ただの新米ってわけじゃないみたいだな・・・)

汐見少尉機が、見事なランディングを見せた頃、アイランドとの距離が縮まり、その根元にある水密扉の前に立つ二人の男の姿が目に入り始めた。

一人は白衣を着ている・・・おそらく、先に乗り込んでいた矢作だろう。

そして、もう一人は・・・

「結城零嗣 大尉だな?」

もう片方の男が、零嗣に声をかけてきた。

夏季用海軍BDUを身につけ、頭にはクラニアルと呼ばれる安全ヘルメットをかぶっている。

「ハッ・・・!」

階級章に目をやる・・・二本線に一つ星、海軍少佐だ。

とっさに脇をしめた海軍式敬礼を送ると、少佐の方も返礼を行った。

そして、僅かに不敵な笑みを浮かべると、厳かに口を開く。

「私は、浅木光也 海軍少佐。君たちが所属する部隊、第1独立試験挺身隊の指揮官だ。」

敬礼を解いた右手がゆっくり差し出される。

「ようこそ、アドミラル56へ。君たちを歓迎する」

零嗣が浅木の右手を握り返すと、背後から3機目の戦術機が着艦した轟音が零嗣の鼓膜を襲った。

だが、零嗣の意識はすでに眼前の男に注がれていた。

海軍の英雄・・・自分が、帝国軍で“二番目”に尊敬している憧れの人物がそこにいた。

これが、零嗣と、“海軍の鷹”と呼ばれた男との、ファーストコンタクトだった。


◎2002年5月15日 日本帝国・南西諸島沖 戦術機母艦アドミラル56艦内・CVIC(シヴィック)


その空間の広さに、零嗣は圧倒された。

戦術機母艦情報センター・・・通称CVICと呼ばれるその空間は、母艦に乗り込む艦隊情報科の職場として使用される。

艦隊情報科は、海軍軍令部の第三部に属し、OS班とOZ班に分かれている。

OS班は通信の暗号化と解読が主な任務であり、BETA大戦ではあまり重要ではないため、殆ど縮小されている。

そして、メインとなるのが作戦計画とブリーフィングを担当するOZ班である。

彼らは、衛星その他の偵察情報などの各種インフォメーションに基づいて、BETAの動向を分析し、艦隊の意思決定者たちにインテリジェンス(解析・分析済み情報)を与える役割を担っている。

さらに、航空戦隊に随伴する駆逐母艦から、81式E型《住吉》(TSR-Type81-E/EA-6J)を展開し、BETAの動向を強行偵察させる権限までも持っているのである。

これら情報部門は、先の大戦で帝国軍が軽視していた事もあり、発足したのは戦後になってからである。

そのため、現在、これらの部署や用語、運用形態は、アメリカ海軍を模範としている。

彼ら情報部門の職場であるこのCVICだが、実のところ役割はそれだけではない。

巨大とはいえ、限られている艦内スペースを有効活用するために、CVICは衛士たちのブリーフィングルームとしても使用される。

なにせ、情報部門が近くにあり、巨大なテレビ・スクリーンがあり、空間も広大で多くの人員を収容できる。

そのため、ブリーフィングではうってつけなのである。

だが、公試中であるこの艦には、まだ肝心の戦術機部隊が搭載されていない。

そのため、ほどなくしてこの巨大な空間に集まったのは、たった16人の衛士たちだ。

その中に、すでにBDUに着替えた零嗣たちの姿もあった。

零嗣に続いて室内に入ったリリス達も、その広さに周りをキョロキョロ見回しながらも、並べて置かれたパイプ椅子に着席した。

と、先に着席していた衛士たちが、零嗣の顔を確認し、ざわつき始めた。

彼らは、《MFX計画》で自分たちの対抗馬として編成された試験小隊のメンバーだ。

それまでの他愛もない雑談ではない。

何かもっと、不穏な感じがする・・・そこには恐怖や畏怖、果ては憎しみに似たものさえ感じる。

零嗣の隣に着席したリリスは、その衛士たちの反応に戸惑った。

反応からして、この衛士たちの感情が零嗣に対して向けられているのは間違いない。

その中の一人の衛士・・・どうやら小隊のリーダー格と思われる衛士が、椅子から立ちあがり、零嗣の方へと向かってきた。

BDUに書かれた名前は・・・

(オオトリ、シンヤ?)

零嗣と同じ海軍大尉だ。

「おい・・・なんでこの場所に、テメェみたいな奴がいる?」

オオトリという衛士が、まず口を開く。怒りに染まったその目が、零嗣に向けられている。

「命令だからな」

悪びれる様子もなく返答する零嗣に、オオトリはさらに怒りを膨らませる。

「ふざけるなよ・・・俺が聞いてるのは、そういうことじゃねぇ!」

オオトリの剣幕に、室内が凍りつき、薄ら寒い空気がリリスの頬をなでた。

「テメェみたいな“叛逆者”が、なんでこんなところにのうのうと顔を出しているのかって聞いてんだよ!」

「・・・“叛逆者”?」

零嗣に向かって放たれたその言葉を、リリスは心の中で復唱した。

彼が・・・零嗣が、“叛逆者”?

「なによ、あんた。自分の隊長がどんな人間かも知らないの?」

呆気に取られているリリスに向けて、オオトリの後ろに立つ女性衛士・・・名前はヒナギクと書いてある。どうやら副隊長らしい・・・が、小馬鹿にしたように口を開いた。

それに気がついたオオトリも、リリスの方を振り返る。

「貴様、外国人か?」

「私は、自由フランス海軍から派遣されているアラン=フルエニ=リリス中尉です!さっきからいったい何なんです、あなた方は!?」

リリスも気を取り直し、自らが使える事になった男を守ろうと口を開く。

「・・・ふんっ、皮肉だな!よりによって、外国人が“叛逆者”の下につくとはね」

「結城隊長は、“叛逆者”なんかじゃありません!仮にも同じ帝国海軍の大尉ですよ?もう少し敬意を・・・」

「あんた本当に何も知らないのね?」

だが、リリスが話し終える前に、ヒナギクが口をはさむ。

「でも、12.5事件ぐらいは知ってるわよね?去年起こった、帝国陸軍第1戦術機甲連隊の一斉ほう起事件・・・」

「え、ええ・・・」

「おい!もうそのぐらいにしておけ!」

それまで黙っていた亮吾が止めに入るが、無駄だった。

「黙ってろ、ナンパ野郎!テメェもこいつと同じ“叛逆者”だろうが」

オオトリの言葉に、亮吾は悔しそうに押し黙る。そんな姿を尻目に、ヒナギクが憤然と話の先を続けた。

「アンタんとこの隊長と、そこのナンパ野郎はね・・・あの事件に、クーデター派とし参加してるんだよ!」

「俺が当時所属していた部隊は、こいつらに壊滅させられた・・・こいつらに殺されたんだ!」

「・・・隊長?」

リリスがこわばった顔を零嗣の方に向けて、気がついた。

これだけ言いたてられているにも拘らず、零嗣の眼は、穏やかで・・・少し、悲しみに包まれている。

相手が言っている事を否定もせず、言い訳もせず、ただ受け入れいている。

そんな眼だ。

それを見て、リリスは零嗣を疑う事をやめた。

この人は叛逆者などではないのではない、と。

リリスがまだ幼かった頃、祖国を裏切ろうとした人間の姿を見た事があった。

アラスカ経由でソビエトへ密かに亡命しようとし、ジャンダルム(国家憲兵隊)に捕縛された“彼”はこんな眼などしていなかった。

“彼”にも、主張があり、それこそが正義と信じていた。

“彼”は、非難されれば相手が間違っていると反抗したし、最後まで自らの主張を変えようとはしなかった。

“彼”の眼には、最後まで祖国に対する怒りと絶望が宿っていた。

だから、リリスには分かった。

零嗣の眼は、彼女の“兄”のような眼ではなかった。

まだ付き合いは浅いが、そんな眼を見た瞬間、無条件で零嗣の事を信じようと思った。

だが、リリスの想いを周囲の人間が知る由もなく、オオトリたちはまだ零嗣に対する暴言をやめない。

「人類の面汚しどもが!テメェらがクーデターなんぞ起こさなければ、甲21号作戦や、桜花作戦は、もっと順調に進んだはずなんだ!それを・・・」

我慢できず、リリスが割って入ろうとしたその時、思わぬ助け舟が出された。

「艦長がCVICに入られる。総員、傾注!」

室内に独特の緊張感が走り、その場にいた男女が一斉に椅子を蹴って立ちあがる。

オオトリやヒナギク、零嗣も例外ではない。

まず室内に入ってきたのは、浅木光也・・・海軍の鷹だ。

浅木は、部屋の空気から一瞬にして先ほどまでの状況を読み取ったようだった。

「何か問題があるようだな・・・」

室内を見渡し、零嗣とオオトリを見据える。

「その問題は後回しにしろ。いいな?」

零嗣とオオトリが、互いを一瞥し、素早い返答と敬礼を返した。

オオトリはなおも不満そうだが、彼も軍人。

それ以上は表に出そうとはしない。

それを確認した浅木がうなずき、声を張り上げる。

「気をつけ!アドミラル56初代艦長、大河原淳蔵 海軍大佐に、敬礼!」

室内にいる男女十数人が、室内に入ってきた初老の艦長に向け、一斉に海軍式敬礼を送った。

大河原艦長も、16人の衛士たちを見渡しながら、見事な返礼をした。

「諸君、我がアドミラル56へようこそ!申し訳ないが、本艦はまだ公試運転中であり、なおかつ一部の艦内設備に多少の不備がある。諸君らが迷惑をこうむる事も少なからずあることだろう」

「だが、それももう少しの辛抱だ。公試を終え、本格的に母艦戦術機部隊を迎え入れれば、本艦は我が帝国海軍で最新鋭にして最強の艦となる。」

「しかし、単に我が艦の公試が終了し、本格的に就役したところで、すぐさま本艦の力が100%発揮されるわけではない。諸君らも知っての通り、戦術機母艦である本艦の戦闘能力は、ひとえに搭載する戦術機部隊と同じであるといっても過言ではないからだ。」

「本艦は、予備機も含め最大で50機近い戦術機や支援航空機を搭載し、長期にわたって洋上基地として運用する事が可能である。つまり、搭載する戦術機が強力であればある程、我が艦の戦闘力は増加し、強化されるのである」

「そのためにも、諸君らがこれから本艦を利用して行う《MFX計画》は、極めて重要なものなのだ。本計画が成功し、我が艦とその姉妹艦に搭載する戦術機部隊が強化された時こそ、アドミラル級と帝国海軍が、“真の意味”で最新鋭、そして最精鋭であることを世界に示す事ができるだろう!」

「諸君らの奮闘に期待する。以上だ」

全員の敬礼と、踵を鳴らす音が室内に響き渡る。

着席する一瞬に注がれる“叛逆者”に対する冷たい視線。

それらは、零嗣を無慈悲に締めつけた。


◎2002年5月16日 日本帝国・鹿児島県沖 戦術機母艦アドミラル56艦上


翌日・・・第一次評価試験当日。

甲板上でカタパルト・シャトルへの接続を待つ零嗣。

甲板作業員がたどたどしい・・・しかし幾度も訓練を経た力強い手つきで、疾風をシャトルに接続する。

その作業の間も、昨日の出来事が重く心にのしかかる。

隣のカタパルトでも、リリスが駆るラファールMがシャトルとの接続作業を開始していた。

リリスは、あの一件をどう考えているのだろうか。

そうする間にも時間は過ぎ去っていき、ほどなくして、カタパルト接続完了のサインが網膜に投射された。

跳躍ユニット他、全系統に異常は無い。

機体の背後でJBDが競り上がり、カタパルト要員の指示に従いスロットルを全開まで開放する。

「射出準備、完了。TLS(最終射出信号)送信」

『ナイトレーベン1、TLSを確認。シー・ユー・オン・ザ・ビーチ!(上陸地点で会おう)』

カタパルト士官からの放たれる上陸作戦の決まり文句。

蒸気カタパルトが咆哮し、零嗣の機体はアドミラル56の第1カタパルト(キャット1)から空中へと放り出された。

時刻は帝国標準時0900。

異国から舞い降りた疾風の鷹が、蒼穹をつかもうと力強く空中へ羽ばたいた。



[19639] 始動篇~四~
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:d2748853
Date: 2011/07/23 02:00
アドミラル56のカタパルト上に固定されたラファールMの機内で、リリスは昨日の出来事を思い出していた。

そう、あの後・・・大河原艦長がその場を去ると同時に、壇上に歩み出たのは浅木だった。

「では、改めて挨拶しておこう。私は、浅木光也 海軍少佐。《MFX計画》の実働評価部隊、第1独立試験挺身隊《VFX-01》の指揮官を任されている」

OZ班の要員がコンソールを操作し、前方スクリーンに映像を投影する。

「まず、第57試験小隊・・・部隊コードは《ナイトホーク》。小隊指揮官は鳳信也 海軍大尉。機体は、試01式M型《海軍型不知火弐型》。海軍内呼称では《草薙》と呼ばれる予定だ」

スクリーンに投影された機体に、リリスは先ほどの喧騒も忘れて見入っていた。

彼女は、大半の衛士たちと同じく、人類の剣とも言うべき戦術機が大好きだった。

もちろん、ラファールに匹敵する戦術機は存在しないと思っているが、それでも、他国の戦術機は彼女の興味を大きく刺激した。

ベースこそ《叢雲》-もとい帝国軍の《不知火》だが、それより遥かにマッシブな機体がそこには映し出されている。

「現在、帝国陸軍で導入が検討されている不知火弐型の蓄積データをもとに、海軍用の改修を経て完成した。」

《草薙》の機体の隣に、ベースとなった《不知火弐型》が比較対象として映し出される。

機体の外見について殆ど大きな差は見られない・・・というか、不知火弐型そのものだ。

「ミサイルシステム自体に、不知火M型からの大きな違いは無い。が、本機には米海軍が運用中の《AMRAAM》自律型中距離クラスターミサイルの搭載能力が付与されている。」

「AIM-120《AMRAAM》・・・Advanced Medium-Range Auto-Attack Missileの略であり、直訳すれば《先進型中射程自動攻撃式ミサイル》となる。《スパロー》ミサイルシステムをベースに開発された、アクティブ・レーダー誘導装置を組み込んだファイア・アンド・フォアゲット方式の中射程クラスターミサイルだ。《飛燕》ミサイルと違い、最後までレーダー誘導を行う必要がなくなったため、発射後は任意に戦闘機動を取る事ができるようになった。F-14よりも小型なF-18DやF-18Fに搭載が可能であるため、米海軍母艦戦術機部隊の主兵装となっている。」

「さて、機体本体については、肩部スラスターや腰部スラスターによる機動性向上と、各関節部の試作型カーボンアクチュエーターへの換装を行ったことで運動性向上をも実現している。叢雲の欠点でもあった密集格闘戦能力を補いながら、一撃離脱性能をさらに先鋭化させようというのが本機の大きな特徴だ。これからの実証評価試験の間に、主機出力・効率の向上と、跳躍装置及び脚部へのコンフォーマルタンクの増設など各種強化プランも考えられている。」

そこで、映像が切り替わる。

映し出されたのは、ラファールM・・・ではなく、帝国仕様の《疾風》だ。

先ほどより室内がざわつく。といっても、ざわついているのは、零嗣たちではなく、鳳たちだが。

彼らにとっても帝国で欧州機を見るのは、珍しい事なのだろう。

「もう一方の実証機は、試99式M型《疾風》。こちらは、第909分遣隊に配備されている。小隊指揮官は結城零嗣 海軍大尉。部隊コードは《ナイトレーベン》だ。」

わざとらしい舌打ちが聞こえるが、浅木は無視して説明を続ける。

「戦術機に詳しい諸君には説明は不要かとも思うが・・・本機は、TRDIと陸軍がEF-2000タイフーンと共に、技術研究目的で試験購入していたフランス軍の第3世代戦術機ラファールを改修キットにより海軍運用型のM型に変更したものである。」

「本家ラファールは、1998年に配備が始まって以来、現在ではフランス陸軍第1海兵戦術竜騎兵連隊及び第13戦術竜騎兵連隊などで250機あまり、海軍戦術機隊で100機あまりが稼働中だ。不知火の配備より4年後・・・というだけあって、同じ第3世代機ながら、その総合性能は極めて高い。」

リリスが少し顔を赤らめた。

いきなり祖国が褒められるとどういう反応をしていいか困るのだ。

「今現在も順次改修が加えられ続けており、先行量産型の《F1》、制式量産型の《F2》、F2型を改修した《F3》と仕様により区別がなされている。現在陸軍で前線配備されているのはF2仕様だが、海軍ではASMPミサイルシステム及びRECCE-NG偵察支援ポッドの運用能力を持たせたF3仕様が稼働中で、本機の内容もF3仕様に準じている。」

「《疾風》はラファールが持つ極めて高い機動砲撃戦能力を受け継いでいる。それを支えているのが、頭部に搭載している新型IRST《OSF(前方象限光学装置)》だ。OSFは赤外線(左側)、可視光線(右側)、レーザー(右側)を使用したセンサーで、光学及びパッシブ赤外線で目標を探知識別し、レーザーで測距を行う。おかげで、極めて正確で効率的な近接射撃を行う事ができ、弾薬の消費量を格段に減少させる事が可能となった。」

「加えて、特筆すべきは《SPECTRA》と呼ばれる防御回避支援パッケージシステムを搭載している事だろう。機体各部のセンサーが、機体全方位を常に監視。探知した自機を狙ってくるBETAを脅威度順に選定して衛士に警告すると共に、コンピューターが最適な対抗手段(迎撃手段や回避コースなど)を考え、衛士に対し表示するものである。この《SPECTRA》の恩恵は非常に大きいらしく、一説によれば衛士の生存率を飛躍的に向上させたと言われている。TRDIいわく、新型OS《XM3》との適正化効率を高めることによって、このシステムはより有効なものとなる可能性がある・・・とのことだ。」

「搭載する主機スネコマS88-2は、単結晶高圧タービンブレードやサーメットディスク、デジタルエンジン制御機構を搭載し、小型軽量であるため、フランス軍機特有の高いサーフェイシング能力を獲得している。加速性能、推力制御については、EF-2000と同様で、叢雲を越える能力を持っていると言われる」

「さらに本機で特筆すべきは、腕部の鋸刃型ブレードベーンなどを始めとした多くの固定武装が装備されている点だ。これら固定武装は、アタッチメント式で素早い交換が可能である他、特に腕部は必要に応じて追加センサー装備や追加弾倉を装備する事も可能で、汎用性も高く、装備自体の空力性能も上々だ。」

「さて、ミサイルキャリアーとしての能力についてだが・・・本機は単座機であることから、《飛燕》ミサイルの搭載と運用が行えない。そこで、フランス軍で運用中のASMPミサイルも同時に試験導入されており、本機はこちらを運用する事になっている。」

スクリーンが切り替わり、《ASMP》空対地巡航ミサイルが映し出される。

「ASMP(Air-Sol Moyenne Portée)は、フランス軍の超大型巡航ミサイルだ。F-14の《フェニックス》ミサイルシステムに対抗して開発され、1986年よりフランス陸・海軍で採用されている。」

「当初は、焦土作戦用の核搭載型ミサイルとして開発されたため、戦術機はもちろんの事、爆撃機などにも搭載可能だ。現在では、核兵器運用能力は封印され、代わりにS-11弾頭及び広域クラスター弾の運用を前提としている。1発あたりが《フェニックス》よりも遙かに大型であるため、威力は同じ最大搭載数6発でも中隊運用(72発)で准師団規模(8000)のBETA群に打撃を与える事が可能だ。」

「誘導方式は、GPSプログラム誘導を採用している。そのため自律誘導の《フェニックス》システムよりは安価に運用でき、なおかつ、レーダー誘導ではないため単座機での運用が可能だ。それが機体の軽量化および人的損耗防止につながっているとされる。」

ここでスクリーンが暗転し、再び室内に明かりが灯る。

「さて。以上で、現在のところ我がVFX-01に配備されている機体の紹介は終了とする。しかし、もう一点。」

「ここだけの話だが、我が帝国と欧州諸国の間では、少なからぬ技術供与のつながりがある。諸君も少しは耳にした事があるだろう。」

「ラファールにも、EF-2000と同じく、我が国の技術が使われている。だが、フランスの開発者たちは、我々の技術をたった数年で発展させ、本機を完成させた。しかも、彼らの祖国は、われらと違って、すでにBETAに蝕まれているにも関わらずだ」

「リリス中尉。貴君の祖国の技術者たちの努力は称賛に値する」

「・・・は、ハイ!光栄です、少佐殿」

突然話を振られて、リリスは慌てて立ちあがった。

ガタンと折りたたみ椅子が倒れ、敬礼した後あたふたと立て直す。

浅木はにこやかにうなずくと、リリスに着席を促した。

着席したリリスは、なおもこそばゆい思いがした。

リリスの母は、ラファールの開発に少なからず貢献している。

特に、《SPECTRA》の開発には尽力したと言われている。

ラファールが称賛された事は、まるで、母が称賛されたのと同じように感じたのだ。

「しかし、少佐殿。本当にそれでよろしいのですか?」

リリスの気分をブチ壊したのは、やはりというべきか・・・鳳大尉だった。

「我が帝国には、諸先輩方がBETAとの戦闘により積み重ねてきたノウハウがあります。確かに高い機動砲撃能力を持つラファールは魅力的な機体ではありますが、帝国軍の根本的な対BETA戦思想から逸脱する恐れがありませんか?」

ありていに言ってしまえば、日本には日本のやり方がある。

外国機など参考にならん・・・といったところか。

「大尉の指摘ももっともだ。海軍上層部からもそのような指摘がなされた。」

浅木少佐は、そんな部下の質問にも快く応じた。

「《疾風》が有する全ての特徴は、BETAとの密集戦闘を近接格闘武器による“格闘戦”を主体に考えていた日本機とは異なる発想からきている。だが、それこそ今の日本帝国に必要な機体ではないかと私は思うのだ。」

「どういうことでしょうか?」

「先ほども説明したとおり、ラファールは不知火や叢雲にはない機動砲撃能力と機動格闘能力を有しながら、なおミサイルキャリアーとしての能力も十二分に両立させている。それだけの性能を、この規模の機体に詰め込んでいる点は、まさに欧州の技術力の賜物だといっていい。そして、我が海軍は大陸奪還と国際貢献に向けて、今以上に優秀な対BETA戦術を見つけなければならない。私を含めた本計画主導部は、この優秀な欧州機から少しでも有用な対BETA新戦術の可能性を見出し、次世代機の開発の礎としたいのだ。既存のものにこだわってばかりでは前には進めない。本機を導入したのには、そんな背景がある事にも気をかけてほしい」

「帝国海軍は、必要とあらば優れた技術や発想を、内外問わず取り入れる。そうすれば・・・死んでいった彼らに、少しでも償いができると、私は信じている。」

(シベリアで散った、部下たちの死に報いるためにも・・・この計画は成功させる。)

一瞬、浅木の声に暗い影が差したのを傍らで待機していた飯森中尉は見逃さなかった。

最後は浅木自身の独白だろう。

だが、すぐにその影は消え去り、浅木はいつもの調子を取り戻した。

「他に質問はないな?それでは、明日以降の実証試験スケジュールについて説明する」





そして・・・

回想にふけっていたリリスの下に、カタパルト士官が、シャトルに機体が固定された事を知らせてきた。

右隣のカタパルトが作動し、一足先に零嗣の機体を空中へと放り出した。

「ナイトレーベン2、射出準備完了。TLS(最終射出信号)送信」

『ナイトレーベン2、TLSを確認した。シー・ユー・オン・ザ・ビーチ(上陸地点で会おう)』

カタパルト作動。

リリスとラファールMは、蒼き空をつかんだ。


◎2002年5月16日 日本帝国・鹿児島県沖 戦術機母艦アドミラル56上空


帝国標準時0900。

零嗣機とリリス機より先に発艦していた2機の戦術機・・・ナイトレーベン3とナイトレーベン4は、マーシャル管制区を緩旋回していた。

その2機に合流すべく、限界高度を超える事の無いよう、自機を緩やかに上昇させる。

すこし遅れて、キャット2から発艦したナイトレーベン2も合流する。

『CATCCより、ナイトレーベン1。試験項目を開始する。JIVES起動。』

「諒解。オール・レーベンス、JIVES実証試験プログラムA-25を起動せよ」

A-25・・・小隊単位での着上陸プログラム。

プログラムの最終目標は、上陸地点後方に展開する光線級集団の殲滅。

上陸地点に展開するBETA群の規模は旅団規模(5000)で、重金属雲は規定濃度展開済み。

『ナイトレーベン隊はLZに向け、旋回せよ。ベクター、ツー・ファイブ・ジロ。』

「ナイトレーベン1、コピー。オール・レーベンス、散開しつつ転進。方位250。高度50へ降下」

『『諒解』』

零嗣は、機体をマーシャル管制区から離脱させ、指示のあった方位に進行方向を合わせる。

LZは、鹿児島県鹿児島湾。

別名、錦江湾とも呼ばれ、過去にはハワイのパールハーバーと地形が類似していたことから、真珠湾攻撃の奇襲訓練にも用いられた。

その美しさは、帝国百景に選定されるほどだったが、98年の本土侵攻によって、他と例外なくBETAによって更地にされてしまっている。

現在は海軍戦術機部隊の演習場があり、広大な海岸を利用した上陸作戦の演習に用いられている場所だ。

疾風を、高度150から50へ降下させつつ、スロットルを開いて増速。

その際、スロットルを緩やかに開くよう心がける。

零嗣の機体は、ASMPミサイルシステムの他、突撃砲1門、多目的追加装甲、近接戦闘用長刀2基を搭載している。

突撃砲は帝国の87式だが、長刀は試作型長刀・・・元はアメリカ軍でYF-23と共に導入が検討されていたXCIWS-2Bだ。

これまで帝国で用いられてきた74式よりもソリッドな形状をした長刀。

現在、最前線にて近接格闘戦を強いられることの多い米海兵隊で、制式導入の話が検討されているらしく、どうやら格闘戦に定評のある帝国にそのコンバット・プルーフを取らせようという魂胆らしい。

さらに多目的追加装甲も、92式の改修型だ。

欧州連合軍で採用されているシェルツァンを参考としつつ、取り回しやすさを重視して、2重構造だった追加装甲自体を下半分に限定して小型化。

装甲裏には各種予備弾倉や兵装を懸架することも可能で、装甲先端にスーパーカーボン製パイルバンカーを装備している。

そして、両肩の装甲ブロックに装備されたASMPランチャー。

跳躍ユニットには、推進剤を満載した増槽を装着。

それだけの重装備を負った機体を、軽量高出力なS-88エンジンが驀進させる。

強化装備のフィードバック越しに伝わる加速Gに心地よさを感じながら、零嗣は小隊内データリンクに通信をつなぐ。

「今回は小隊単位での戦域突入だが、俺たちの担当区域に展開中のBETA群は、旅団規模(5000)に達する。ASMPを無駄にするなよ!」

ASMPは通常、一個中隊規模での運用によって、准師団規模(6000~8000)のBETA群に打撃を与える能力を持つ。

が、今回の突入は小隊単位。単純に考えて、威力は3分の1となり・・・2000~2800のBETA群を削れれば十分といったところだろう。

『『アイ・コピー』』

『りょ、諒解!』

他の二人より、一鼓動遅れて返信を返してきたのは、3番機の汐見少尉だ。

緊張しているのだろうか。表情と声色もどことなくこわばっている。

零嗣は、個人回線を開こうとして・・・その手を止めた。

気がついたのだ。

同じくウィンドウに表示されているリリスの表情も少なからず強張っている事に。

これは、評価試験の緊張もあるだろうが、むしろ“昨日の一件”が原因なのではないだろうか。

だとしたら、自分は、汐見少尉に一体何と声をかければいいのだろう?

自分のような“叛逆者”が。

と、そんな沈黙に無遠慮な割り込みをいれたのは、亮吾だった。

『なんだぁ、汐見。ビビってんじゃないだろうな?』

にやけた亮吾の日焼け顔がピックアップされ、それに驚いた汐見が憤然と反撃する。

『び、ビビってなんかいません!』

『そうかぁ?そんな風には見えないぜ。小便チビったかどうかなんて、強化装備のログみりゃ一発でバレるんだからな、気をつけろよ~』

と、亮吾機が一瞬右腕を振ったのが見えた。

“俺に任せろ”

その意図を読み取って、零嗣は相棒の心遣いに感謝した。

部隊内回線では、それからも痴話ゲンカが続く。

『な、何を・・・実戦じゃあるまいし!下品すぎます!!』

『強がっちゃってまぁ・・・大丈夫だ!怖い思いしたら、今夜お兄さんが優しくベットで手ほどきしてやるから、安心しろよ~』

『っ~!!』

『お?初々しい反応してくれるじゃないの!まさか、お前もしかして、バー・・・』

『あ、あ、あ・・・ああああんたみたいなチャラ男なんかに純潔奪われるぐらいなら、純潔守ってBETAに食い殺された方がマシよ!この馬鹿!』

『おほ~言う言う!まぁ、汐見にとっちゃこれがホントの“処女航海”なわけだ』

『まだ言うかこの・・・』

と、そこで驚異的な出来事が3人を襲う。

『ップ・・・プフッ!プフフ・・・・アハハハハッ・・・ッハハハハ!』

どこからともなく聞こえ出した盛大な笑い声。

汐見と亮吾も思わず愕然としている。

発信元は言うまでもなく・・・リリス機からだった。

まだ隊員として付き合い始めて日が浅いとは言え、リリスがここまで感情を表に出して笑う所を零嗣は初めて目の当たりにした。

それからリリスは、数秒間盛大に笑い続けた後、ハッと何かに気付いたかのような表情をして何事もなかったかのように元の状態に戻った。

言いあっていた汐見と亮吾はすでに“何も見なかった”とばかりに、我関せず状態。

しかたなく、零嗣がリリスとの個人回線を立ち上げる。

「えーと・・・リリス中尉?」

『はい。なんでしょう、隊長?』

まったく何事もなかったかのごとき反応に、零嗣の顔が一瞬ひきつる。

「い、いや・・・そちらは特に問題は無いか?」

『はい。機体コンディションは全て正常。全系統異常ありません』

いや、そうじゃなくて!っと、零嗣は脳内でむなしい一人突っ込みを入れる。

「そ、そうか!ならよかった」

脳内とはまったく別の事を口に出してしまい、零嗣は激しく後悔する。

『・・・どうかしましたか?』

「・・・別に・・・」

零嗣はふと思った。

(この子・・・もしかして、天然・・・)

だが、零嗣の失礼な予想は、見事に裏切られた。

リリスの女神のような頬笑みによって。

『隊長。一人で抱え込まないでくださいね』

「・・・え?」

『我々はチームなんです。この、“疾風”の実戦配備を目指す一ための・・・』

『昨日の出来事は、私にとってまだよくわかりません。でも、私はあなたが“叛逆者”なんて“軽いもの”でないと思ってます。それは、あなたの目を見ればわかる・・・』

「・・・」

『あなたは、“彼”と同じ眼をしていた。私は・・・』

画面越しに伝わる彼女の眼光と、彼女の言葉が、零嗣の心に深々と突き刺さる。

『・・・申し訳ありません。今は作戦行動中でした・・・続きは、艦に戻ってからにしましょう』





リリスの言葉をかみしめていた零嗣は、機内に鳴り響く警告音で、現実に引き戻された。

すばやく頭を戦闘モードに切り替える。

第四級光線照射危険地帯・・・すなわち、光線属種が該当戦域に出現しており、重光線級射程範囲(自機半径40km以内)外に存在していることを示している。

上陸地点まで30kmちょっと・・・光線属種の集団は海岸線から10kmほど後方に展開しているようだった。

すでにJIVESの仮想シミュレーションによって、艦隊からの支援砲撃が開始されており、それらはレーザーに迎撃されながらも濃密な重金属雲を形成しつつあった。

BETA群の規模からしてレーザー属種の数は、100体前後といったところか・・・

重光線級と光線級の割合は、双方ともに1%前後ずつだが、今回のプログラムに重光線級が出現するのかどうかは、零嗣たちにも知らされていない。

そこはもはや運任せだ。

『CATCCよりナイトレーベン1。重金属雲、規定濃度に展開完了。突入コリドーが確保された。準備が完了次第、順次突入を開始せよ』

「諒解!ナイトレーベンス、これより戦域突入を開始する!」

そう言い放ち、零嗣はさらに機体高度を10mまで下げる。

他の3機もそれに続く。4機の戦術機が駆けたその後を、白い水しぶきが舞い上がる。

「絶対に頭を上げるなよ!重金属雲が出ていても、狙い撃ちされるぞ!」

『CATCCよりナイトレーベン1、重光線級有効照射圏内に突入!』

緊張の瞬間。しかし、レーザー照射警報は表示されない。どうやら重光線級は存在しないらしい。

が、それは何の安全の保障にもならない。そこにBETAがいることに、変わりは無いのだから。

『光線級有効照射圏突入まで、1分!ASMPによる攻撃を開始せよ』

「ナイトレーベン1、諒解。オールレーベンス、マスターアームを起こせ!ASMPで、上陸地点をなぎ払うぞ!!」

『『『諒解!』』』

「ナイトレーベン1、エンゲージ。シーカー・オープン。誘導システム、所定入力開始」

零嗣の視線がなめらかに動き、ASMPミサイルのシーカーと誘導システムを起動。

両肩装甲ブロックに接続されている6発の試験用模擬ミサイルが、重たげに鎌をもたげる。

衛星のBETA配置情報を参考に母艦で計算された複数の誘導プランを、データリンクを通じてCATCC経由で機載コンピューターにダウンロード。

複数の誘導プランの中から衛士が最良と思われるコースを選択し、ASMPミサイルの慣性航法装置(INS)に入力する。

他の3機もデータリンクを通じて、INSへの誘導コース入力が終了した事を知らせてきた。

「よし、全機一斉射・・・FOX1!」

零嗣がサイドスティックのリリースボタンを押しこむと同時に、模擬ミサイル4発のロケット・モーターが点火。

全長5.4m重量840kgの巨体が、白煙を残し、疾風の機体から次々と解き放たれる。

24発のASMP模擬弾は、わずか数秒で超音速へ加速。

その後、ラムジェット推進に切り替わり、さらに加速していく。

超低空をマッハ3で突進するミサイルから、ショックコーンが放たれ、海面に巨大なしぶきを巻き上げる。

『全ミサイル、順調に飛行中・・・着弾まで30秒』

秒速1km以上を誇るASMPミサイルならば、30kmもの距離すらわずか30秒足らずで駆け抜ける。

目標到達までの時間が短ければ短いほど、レーザーに迎撃される可能性を低くなる。

あとはミサイルが無事着弾し、自分たちの上陸地点が確保される事を祈るしかない。

疾風はというと、秒速250mの速度で残り20kmの距離を飛行中。

上陸地点(LZ)到達までは、2分を切っていた。

網膜に投射されるカウントダウンを見つめながら、レーザー照射警告に備える。

すでに光線級有効射程圏内に突入しているが、JIVES上にシュミレートされた仮想の支援砲撃と重金属雲のおかげで現在のところはまだ照射を免れている。

万が一の場合も、より距離の近いASMPミサイルへ先に迎撃の照射が向かうはずだ。

『ASMPにレーザー照射を確認!10体のレーザー属種が6基のミサイルを迎撃!』

考えた矢先に飛び込んでくる警報。

CATCCにいるオペレーターからの口頭報告だが、同時に網膜上にも警告が表示されている。

「だが・・・もう遅い!」

切迫した状況にも関わらず、零嗣の顔に笑みがこぼれた。

すでにASMPミサイルは、残距離10kmまで肉薄する事に成功している。

さらにASMPミサイルはセンサーがレーザー照射を感知すると、撃墜される前に自動的に事前起爆するようプログラムされている。

直撃は望めないが、それでもBETA群に少なからぬダメージを与える事が可能だ。

『2発が迎撃されましたが、4発は事前着弾に成功!残り18発の着弾まで6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1、ナウ・インパクト(弾着、今)!』

刹那、海岸線に無数の火柱があがるのを、疾風の光学センサーが捉えた。

まずASMPに搭載されている中型クラスター弾が分離し拡散。

そこからさらに無数の小爆弾が周囲に散らばり、海岸線一帯を火の海に変えたのだ。

要撃級や突撃級の大型種は小爆弾の爆発で四肢を吹き飛ばされ、防御力など皆無の戦車級などの小型種は爆発によって生じた炎に焼かれた。

それらはすべて、JIVESによってシミュレートされた結果のものである。

それでもこの威力は・・・飛燕ミサイルを上回っている!

『CATCCよりナイトレーベン1。LZ一帯のBETA群、約2500を撃破。試験項目を続行せよ。なお、戦域突入と同時に戦闘管制はCDC(戦闘指揮所)に引き継がれる。オーバー・アウト』

データリンクを通じて通信回線が、母艦から戦域突入までの航空管制を行うCATCCから、戦闘管制の一切を取り仕切るCDCへと切り替わったことが知らされた。

残存BETA数、約2500。上々な削り具合だ。

光線級が後方に控えているとすれば、前衛の数を相当数削った事になる。これで、光線級への突貫が幾分かやりやすくなる。

「ナイトレーベン1、諒解。さて、お待ちかねの着上陸戦だ・・・白兵戦に備えるぞ。各機、フォーメーション・ダイアモンド・ワン!」

それまで傘型隊形だったフォーメーションを、菱型隊形に。

ナイトレーベン3を先端に、両翼をナイトレーベン1とナイトレーベン2が固め、後方をナイトレーベン4が押さえる。

「上陸まで10秒・・・ナイトレーベン3、120mmキャニスター、斉射3連!進路をこじ開けろ!」

『諒解!』

強襲掃討(ガンスイーパー)担当の汐見機は、4門の突撃砲を装備しており、格闘戦力には劣るが面制圧能力に長ける。

彼女を起点とし、ASMPミサイルがこじ開けたBETA群の穴を押し広げて橋頭保を確保するのだ。

零嗣の眼の前に、生き残っているBETA群に埋め尽くされている海岸線が広がる。

「ナイトレーベン1、フィート・ドライ。全機、オールウェポンズ・フリー。全部平らげるぞ!」

『ナイトレーベン3、FOX2!』

手始めにまず、汐見機が背部兵装担架装備の120mm砲2門でキャニスター弾を連発し、着地点をなぎ払う。

BETA群の中にぽっかり空いた体液と残骸の沼地に、激しい土砂を巻き上げながら4機の巨人たちが降り立つ。

同時に、跳躍ユニットから、空になった増槽が投棄され、機体を少しでも軽量化する。

着地した零嗣は、その余韻をかみしめる間もなく、キャニスター弾攻撃から生き残った戦車級と要撃級に冷静に狙いを定めた。

疾風のOSFの赤外線・可視光線センサーがBETA群を識別し、レーザーセンサーが正確無慈悲に目標を捕捉する。

ロックオンと同時に、突撃砲を掃射。

両腕で保持された87式突撃砲が、機載コンピューターの補正を受けつつ、照準し、36mm砲弾を吐き出す。

弾薬を無駄にすることなく、各クラスのBETAに応じた弾薬が送り込まれる。

いずれも、行動不能にするための弱点に向けて。

1体に弾丸を送り込むと、即座に次の目標が選定され、照準が移る。

まるで特殊部隊のバースト射撃のごとく、最小弾数で最大数のBETAを無力化していく。

零嗣が視線を移し、小隊機の様子を見やる。

右翼側では、リリス機が試02式57mm中隊支援砲で、見事な精密射撃を展開し、BETAの波を押さえこんでいた。

さすがはオールTSFドクトリンの申し子。中隊支援砲の扱いは、最近扱い始めたばかりの帝国の衛士に比べて、数段使い慣れている。

まるで儀仗槍のごとく、中隊支援砲を華麗に振りかざすその姿は、戦術機ラファールの姿と相まって、さながら中世の槍騎兵そのものだ。

一方、汐見機も奮闘し、果敢に4門の突撃砲でBETA群を押さえこんでいる。

零嗣やリリスに比べれば、精密さには欠けるが、それでも4門の突撃砲をたくみに使いこなしているあたりはさすがだった。

しかも、リリスと違い、彼女が搭乗しているのは乗りなれた機体ではなく、新造されたばかりの疾風だ。

使い慣れれば戦術機をまるで自らの四肢のごとく使いこなす事を可能にした、フィードバックシステム。

その最大の問題点であるログは、未だ改善の兆しを見せていない。

ロールアウトしたばかりの新造機体の場合、強化装備側に蓄積された情報が完全にマッチングする事ができず、操縦感覚に違和感が発生する。

そのため、新しい機体に搭乗する衛士は、その機体を違和感なく操縦できるようになるまで、ある程度の慣熟期間を置く。

が、汐見は分遣隊に一番最後に合流したため、今回のテストに至るまでの慣熟に時間を取る事ができなかったのだ。

が、先ほどの海上長躯NOEや、今行っている射撃戦を見ても、彼女は機体をまるで元々自分の機体であるかのように使いこなしている。

衛士の中には、極たまにではあるが、圧倒的にわずかな時間でこの“違和感”を克服し、慣熟を済ませてしまう者も存在する。

おそらく、彼女は通常の衛士がかかるよりも遙かに短時間で、機体それぞれの癖を見抜き、それを“自分の癖”としてしまうのだろう。

(これが、親父が彼女を隊に抜擢した理由か・・・)

そんな3機を尻目に、4番機・・・亮吾機は、後方支援に徹していた。

最後方の位置から、87式支援突撃砲によるスナイピングで、3機が打ち漏らしたBETAを冷静に仕留めて行く。

それでも、BETA群は際限なく数を増していく。

大型種が前方に展開しているため、後方で生き残っている光線級から照射を受ける事は無いが、たった4機で大小合わせて2500体ものBETAを相手にするのは並大抵のことではない。

戦力比はざっと600:1。1機あたり、最低600体を相手にしなければならないのだ。

しかも後方の光線属種を制圧しない限り、高度を取った飛行は不可能であるため、上空に逃げる事も出来ない。

プログラムの最終目標は、光線級集団の殲滅。

そのためにはまず、BETA群の陽動が不可欠だった。

上陸ポイントで、可能な限りBETA群を引き付け、光線級と前衛集団を引き離すのだ。

可能な限り光線級とその他のBETA群を引き離さなければ、光線級集団にたどり着いたとしても、護衛の要撃級や戦車級BETA群と混戦になる。

光線属種に狙われながらの混戦など、可能な限り御免被りたい状況だ。

『ナイトレーベン1、突撃級の接近を探知!距離1500、速度150、数は10。12オクロック!』

その警告より先に、零嗣機の《SPECTRA》防御支援システムが脅威目標を選定していた。

前方のBETA群の波が左右にわれ、そこから10体の突撃級が猛スピードで突進してくる。

《SPECTRA》が対処案と回避コースを表示する中、いち早く動いたのは、汐見機だった。

『ナイトレーベン1、私に任せて下さい!』

彼女の両腕に装備されている2門の突撃砲が120mmAPFSDSを吐き出し、先陣を切る2体の突撃級にAPFSDSが命中する。

しかし、その攻撃は突撃級の厚い前面装甲に浅い傷跡を作ったに過ぎなかった。

だが、汐見はひるむことなく、驚くべき射撃術をみせる。

先ほどの着弾点を狙って再度放たれたAPFSDSは、狙い通りに命中し、見事に突撃級の前面装甲を貫通した。

驚くべき事に、彼女はそれを二体同時にやってのけたのだ。

しかも、その間に接近していた戦車級も、背部兵装担架の120mmキャニスター砲でなぎ払っている。

疾風は彼女のような砲撃戦適正のある人間にも向いているのかもしれない。

その妙技を繰り返し、彼女が弾倉内の120mmAPFSDSを全て撃ち尽くした時には、先陣を切っていた5体の突撃級が葬り去られていた。

前方の突撃級が倒された事で、後方の突撃級の速度が一瞬殺される。

『ナイトレーベン3、リロード!』

その僅かな隙に、汐見は弾倉交換を開始。

零嗣は、この瞬間をチャンスだと感じた。うまくいけば、光線級まで一気に辿りつける。

リリスに号令をかける。

「諒。ナイトレーベン2、フォーメーション・ウイング・ワン。残った5体を片づけるぞ!」

『アイ・コピー・サー!』

弾倉交換中のナイトレーベン3を援護するように、左右に展開していた零嗣機とリリス機が前方に突出し、陣形はYの字に。

サーフェイシングで、突撃級との距離を一気に詰める。

鳴り響く耳障りな衝突警報を無視し、突撃級との衝突直前で短距離跳躍。

空中で180度ターンを決めて、弱点である突撃級後方に120mmHESH弾を撃ち込んで無力化。

着地と同時に再度180度ターンを決めて、サーフェィシング。

リリス機と2体で残る4体の突撃級を翼で覆うように包囲し、足を狙い撃って行動不能にする。

おびただしい体液と装甲殻の破片をまきちらしながら、瞬く間に無力化されていく突撃級。

後に残ったのは、BETA群の中に突撃級を避けるために作られた回廊だった。

「よし・・・突撃級が開けた回廊が閉じる前に突っ込む!後方に陣取る光線属種を始末するぞ!」

零嗣の号令に従い、4機の疾風が水平跳躍噴射機動。

同時にレーザー照射警告。

BETAがいなくなった回廊に飛び込む・・・それはすなわち、障害がなくなり後方の光線級からレーザー照射を受ける危険性が増す事でもあるのだ

刹那、《SPECTRA》が反応。全自動で脚部に内蔵されていたALロケットが放出される。

ALロケットからすぐさま重金属雲が展開し、放たれたレーザーの威力を相殺。

「初期照射を感知!全機、乱数回避開始!」

4機の疾風が、威力の弱まった幾条ものレーザー光線を、航空機では不可能な機動で振り切りながら着地。

次弾照射までのわずかな隙に4機はさらに短距離噴射跳躍で距離を詰める。

回廊をふさごうと迫りくる要撃級と戦車級の群れにむけ、4機は主脚走行で突進。

4機は射程圏内に入った要撃級に制圧射撃を加えつつ、再び、跳躍。

《SPECTRA》が、最適な回避機動コースをシュミレートし、それに従って1つ目の光線級集団に向かう。

S-88が咆哮し、戦車級を吹き飛ばしつつ、目前に迫った要撃級の頭上ギリギリを飛び越える。

光線級の初期レーザーから本照射に至るまでの僅かな時間中に、再び高度を下げて要撃級の陰に身をひそめる。

そうした複雑な地形追随飛行を繰り返しながら、零嗣がついに1つ目の光線級集団を射程内に納めた。

が、零嗣の射撃直前に数体の要撃級が光線級を庇うように立ちふさがった。

「邪魔だ!!」

ひるむことなく、零嗣機はさらに加速。

噴射跳躍の勢いを殺すことなく、1体の要撃級に強烈な蹴りを放つ。

足部に装備されているスーパーカーボンブレードが、要撃級の腕を斬り飛ばす。

そのまま機体を慣性に任せて回転させつつ、要撃級の上部に左腕の追加装甲を叩きつけ、“撃発”。

装備されたスーパーカーボン製パイルバンカーが爆圧によって、要撃級を串刺しにする。

同時に、隣にいた別の要撃級にむけて120mmHESH弾を連射し仕留める。

体勢を立て直すと同時に、横合いから殴りかかってきた要撃級の腕部を追加装甲で受け流し、がら空きになった前面に突撃砲を撃ちこむ。

120mmHESH弾と36mm砲弾がさく裂し、要撃級は体液を滴らせながらその動きを止めた。

さらに追いついてきた汐見機と亮吾機が、周辺の護衛戦力を掃討。

その間に、射界を得たリリス機が30体余の光線級を一匹残さず刈り取った。

『CPよりナイトレーベン1、光線級集団の殲滅を確認。高度制限を解除。』

『これで、残りは2つ・・・』

「もたもたしてる時間はない。全機、残弾及び推進剤残量を確認!」

『ナイトレーベン2、弾薬・推進剤共に許容範囲内』

『3、同じく』

『4、こちらも問題なし』

「よし、このまま試験を続行。次の集団に向かうぞ!全機、ルート確認。迷子になるなよ!」

『『諒解!』』

1つ目の光線級集団を撃破した僅かな喜びを胸に、4機の疾風が号令と共に低き青空に舞い上がった。


◎2002年5月16日 日本帝国・南西諸島沖 戦術機母艦アドミラル56艦内・CDC


アドミラル56のアイランド直下、03デッキ(フライトデッキの一層下部)に設けられたCDCには、多数のモニターと表示装置が並んでおり、防眩のために照明を最低限にまで落としており、昼間でも真っ暗だ。

さらに、多数の大型コンピューターを動作させているため、その冷却も兼ねて、クーラーを効かせた室内は、外界が南西諸島の熱帯地域であることを忘れさせてしまうほどの、寒冷地帯となっている。

CDCは、戦術機母艦とその随伴艦から形成される機動部隊・・・アメリカ軍で言うところの母艦打撃群(CVSG)・・・の作戦の全てを取り仕切る部署だ。

その性質上、艦長室や司令官室にも隣接している。

「うわさ通りの性能だな・・・ラファール・・・」

今、そのCDCには、戦域に突入し奮戦する4機の疾風の姿が映し出されていた。

「先に評価試験を終えたナイトホーク隊のペースと、ほぼ同様か・・・戦域突入能力も、こちらの方が僅かながら勝っているように思うが」

モニターを静かに見守りながら、そう口にしたのは、今朝このアドミラル56に到着したばかりの第1航空戦隊司令官、団堂重光 海軍提督だ。

隣に立つ大河原とは、海軍士官学校の同期だと言う。

黒く焼けた肌と、深く刻まれた皺が、彼が人生の大半を海の上で暮らし、潮風にさらされ続けてきた事を物語っている。

航空戦隊司令官は、機動部隊が編成された場合、そのまま機動部隊司令官も兼任する事となっている。

必然的に彼は、このアドミラル56そのものだけではなく、そこに搭載される戦術機部隊も指揮する事となるのだ。

将来、自分が指揮する事になるかも知れない戦術機の性能に興味を示すのは当然と言えた。

『“草薙”は、予定されている跳躍ユニットの換装がまだ済んでいません。新型跳躍ユニットに換装すれば、スペック上は疾風を上回るかと・・・』

「だが、提督。貴君が提唱している海軍・海兵隊再編構想で、“疾風”に必要となるのは、むしろ戦域突入能力よりも継戦能力なのではないか?」

「海軍戦術機の戦域突入と同時に、海兵隊の機動旅団の第一波部隊が突入。海軍機が母艦に帰還し、補給作業を行う間、橋頭保を維持。その後、再突入を開始する海軍機及び後詰の陸軍部隊を教導しつつ、機動旅団第一波は後退しつつ補給作業を行い、その間に第二派部隊がこれを援護。補給終了後、敵中枢まで突入し、上陸作戦後の戦線を構築する・・・」

口をはさんだのは、VFX-01の指揮官となった浅木光也。

彼の視線は、今この場にはいない・・・通信モニターの中の男に注がれていた。

『その通り。“海軍の鷹”に私の“海兵機動旅団”構想を覚えていてもらえるとは、感慨深いものがあるね』

通信モニターの中で、ニヤリと笑ったのは、遥か本土の海軍省にいるはずの結城智則だった。

「何をいまさら。この《MFX計画》に誘って頂いた時に、貴方からからさんざん聞かせて下さった話ですからね、覚えもしますよ」

あきれた表情を浮かべる光也をほんのわずかだけ睨みながら、スルーを決め込んだ智則は、団堂と話に戻った。

『・・・疾風の継戦能力は、折り紙つきですよ、団堂司令官。新型センサー《OSF》のおかげで、射撃精度が向上し、弾薬消費率を飛躍的に押さえている上に、我が帝国の不知火系列と違ってラファールは固定兵装が充実している。それに加えて、跳躍ユニットのS-88は軽量ながらアメリカや我が国のそれよりも推進剤効率が非常に優れています・・・』

「ふむ。まぁ、カタログスペックではそうだが・・・実際はどうかな?」

団堂提督の挑戦的な言葉を受け、智則は再び不敵な笑みを浮かべる。

『それは、もうまもなく、我が不肖の息子が証明してくれると思います。』

ナイトレーベン隊を映し出すモニターは、ちょうど2つ目の光線級集団を殲滅するところを映し出していた。



[19639] 設定集
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2011/07/23 00:42
◎日本帝国海軍聯合艦隊総軍(編成・戦闘序列)

◎日本帝国海軍聯合艦隊総軍(編成・戦闘序列)
聯合艦隊は、機動艦隊(第1艦隊、第2艦隊、各航空艦隊)と、各地域別の海防艦隊に分類される。海防艦隊は、本土防衛軍の各方面軍に所属するほか、機動艦隊も状況に応じて、本土防衛軍各方面軍へと抽出され活動する。その際は、各艦隊から抽出された戦隊・艦艇によって“機動部隊”を編成する。

●聯合艦隊直轄
第1戦隊(紀伊、尾張、出雲、他支援艦艇)

●第一艦隊
→聯合艦隊主力部隊。多数の戦艦を有する戦艦打撃機動艦隊。
第2戦隊(信濃、美濃、加賀、他支援艦艇)
第3戦隊(大和、武蔵、他支援艦艇)
第6戦隊-打撃巡洋艦部隊
第9戦隊-打撃巡洋艦部隊
第1水雷戦隊-駆逐艦部隊
第3水雷戦隊-駆逐艦部隊

●第二艦隊
→イージス巡洋艦、駆逐艦を集中配備する打撃機動艦隊。
第4戦隊(金剛、比叡、他支援艦艇)
第5戦隊(榛名、霧島、他支援艦艇)
第7戦隊-打撃巡洋艦部隊
第8戦隊-打撃巡洋艦部隊
第2水雷戦隊(妙高、鳥海、高雄、摩耶)
第4水雷戦隊(愛宕、足柄、那智、羽黒)

●第四艦隊
→九州および南方諸島方面を統括する海防艦隊。

●第五艦隊
→北方・樺太戦線を統括する海防艦隊。

●第八艦隊
→通称:日本海艦隊。日本海側にてBETAの海中侵攻を探知・迎撃する海防艦隊。多数の海防駆逐艦と潜水母艦にて編成される。
第34機動艦隊
第55機動艦隊
第56機動艦隊(再編中)

●両用戦艦隊
→大隅級戦術機揚陸艦を集中配備する上陸支援用艦隊。

●機動部隊
→大規模作戦や海外遠征の際に各艦隊より戦力が抽出され、運用される最大級の戦闘単位。アメリカにおける任務部隊(タスクフォース)の役割を担う。2001年の甲21号作戦では、第2戦隊及び第3戦隊に両用戦艦隊を加えた第2機動部隊及び第3機動部隊が編成された。


●聯合艦隊航空艦隊総軍(編成・戦闘序列)
第1航空艦隊(1航艦)は戦術機母艦部隊によって編成される連合艦隊所属艦隊の1つである。所属する第1~3航空戦隊(1~3AF)は、第1航空艦隊の中核をなす主力第一線部隊であり、最新鋭艦が優先的に配備される。また、戦術機母艦だけでなく少数(2~3隻)の護衛艦も配備されている。
各航空戦隊に搭載される各母艦戦術機甲兵団には、主力海軍戦術機が配備され、特に1994年以降は、94式M型が最優先で配備されている。
一方、2003年にアドミラル79が配備されると、巡洋戦術機母艦を中核とした第2航空艦隊が設立され、第4、第5航空戦隊(4、5AF)には、それまで主力として第1航空艦隊に配備されていた巡洋戦術機母艦と護衛艦が配備され、主力艦隊の側面支援を行う。
そして、第11航空艦隊は横須賀、呉、佐世保、舞鶴などの各海軍基地を警備する警衛戦隊や海軍衛士を育成する教練航空戦隊に加えて、第11航空戦隊と呼ばれる第二線級予備部隊を統括している。第11航空戦隊には、航空艦隊創設当初に主力を務めていた三浦級中型戦術機母艦が所属しており、主力航空戦隊の後詰部隊として、必要に応じて各戦隊へと抽出される。
また、主力戦隊より退役した85式に加えて、97式M型が配備されている第11母艦戦術機甲兵団も同様で、必要に応じて各機甲兵団へと所属挺身隊を抽出する。


1985年
○第1航空艦隊旗下
第1航空戦隊(大淀他×4)
第2航空戦隊(仁淀他×4)

○第11航空艦隊旗下
基地警衛戦隊
教練航空戦隊(三浦)

1997年
○第1航空艦隊旗下
第1航空戦隊(鈴谷・熊野)
第2航空戦隊(仁淀他×4)
第3航空戦隊(大淀他×4)
○第11航空艦隊旗下
警衛航空戦隊
教練航空戦隊(三浦)

2001年~2002年5月
○第1航空艦隊旗下
第1航空戦隊(鈴谷・熊野)
第2航空戦隊(利根・筑摩)
第3航空戦隊→一時解体
○第11航空艦隊旗下
第11航空戦隊(大淀他)
警衛航空戦隊
教練航空戦隊(三浦)

2002年5月~2003年
○第1航空艦隊
第1航空戦隊(アドミラル56)
第2航空戦隊(利根・筑摩)
○第2航空艦隊
第4航空戦隊(鈴谷・熊野)
○第11航空艦隊旗下
第11航空戦隊(大淀他)
警衛航空戦隊
教練航空戦隊(三浦)
独立航空戦隊(伊勢)



●母艦戦術機甲兵団(CAW-Carrier Armored Wings)
空母機甲兵団、単に機甲兵団と呼ばれることもある。海軍の前線展開用戦術機甲部隊であり、各機甲兵団の戦力は陸軍編成で1個戦術機甲大隊程度だが、総合戦力は航空戦隊の支援艦船、また飛燕ミサイルシステムなどを合わせることによって1個旅団戦闘団規模の戦力に匹敵する。
作戦行動中は各航空戦隊の指揮下にあるが、編成・運用・管理に関しては機甲兵団総隊司令部が統括している。


○第1空母機甲兵団・横須賀(94式M型×36機+予備機4~8機)
第57戦術機甲挺身隊《夜鷹》
第71戦術機甲挺身隊《煉獄》
第43戦術機甲挺身隊《銀狐》


○第11空母機甲兵団(85式M型及び97式M型)


●基地警衛機甲兵団
各海軍基地に駐留する二線級戦術機甲部隊。聯合艦隊航空戦隊の指揮下に入らず、駐留する基地司令部の独立指揮下で運用しているため、「独警兵団」とも呼ばれる。

○沖縄要塞那覇基地・第104独立警衛機甲兵団
第1041警衛機甲挺身隊(97式M型)
第1042警衛機甲挺身隊(82式M型)


●海軍教導機甲兵団
各主力機甲兵団が航空戦隊の指揮下にある中で、この教導機甲兵団のみ例外で聯合艦隊の海上訓練指導隊群(FTC)の隷下部隊のひとつとなっている。そのため、FTGと呼ばれることもある。
アメリカ海軍の海軍戦術機兵器学校“トップガン”をモデルにしており、教練挺身部隊の他に、他部隊へのアグレッサー役を務める教導挺身隊が存在し、これらの部隊には海軍衛士最精鋭が配置されているため、実戦へ投入される事も多い。
なお、教導機甲兵団への配属は、操縦技量が高いことは最大の前提条件であるが、原則として希望して配属されるものではなく、教導隊の隊員が認めた衛士のみ、一本釣りのような形で打診があると言われている。
配属後は、教導隊(アグレッサー役)としての訓練を重ねる事になるが、操縦技量のさらなる向上だけでなく、格闘戦の組み立て方や、指導する相手側(一般部隊)へのコーチング能力の向上が重視され、非常に理路整然と両者の操縦を判断できる能力を要求されるため、配属間もない衛士にとっては、非常に大きな壁を感じる事もあると言われている。
また、2002年5月には、海軍戦術機甲挺身隊の次期主力機評価試験のため、第1独立試験機甲挺身隊が設立された。

○第1独立試験挺身隊
 |_第57試験機甲分遣隊《夜鷹(ナイトホーク)》(試01式M型)
 |_第909試験機甲分遣隊《夜渡烏(ナイトレーベン)》(試99式M型)
 |_第21独立試験小隊《黒歌鳥(ブラックバード)》(試00式M型)

●帝国海軍海兵隊
日本帝国軍の海兵隊は、海軍隷下の陸戦部隊である。3個師団が編成されており、各師団は2個両用戦術機甲群(大隊規模)を中核としながら、陸戦部隊として1個戦術機甲大隊、機甲大隊、機械化歩兵大隊、砲兵大隊などによって編成されている。装備は陸軍とほぼ同様であるが、両用戦用装甲車を有するほか、戦術機甲戦力では海兵隊の代名詞ともいえる81式を中核としている。
一方で、通常の戦術機甲戦力に限って言えば94式は陸軍に、94式M型は海軍に優先配備されているため、その戦力の多くは89式と77式(いずれも海兵隊仕様)である。が、97式も配備が開始されている。機甲戦力に関しても90式MBTは陸軍に優先配備されているため、陸軍の改良型74式MBTを主力としている。強襲揚陸艦と大隅級戦術機揚陸艦による敵前上陸を主任務とする他、本土防衛戦では陸軍部隊の後詰として運用された。

海兵第1師団(横須賀鎮守府)
海兵第2師団(呉鎮守府)
海兵第3師団(佐世保鎮守府)

○海兵隊両用戦術機甲群
81式《海神》を集中配備する強襲上陸戦部隊。各海兵師団の基幹部隊として編成され、作戦に応じて部隊に組み込まれる。スティングレイ中隊やサラマンダー中隊などが所属。



[19639] 装備設定集
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2011/07/23 01:27
◎主力艦艇(戦術機母艦他)

●日本帝国

《改最上級(鈴谷級)巡洋戦術機母艦》
排水量は3万t強、主砲の30.5cm三連装砲は前部2基のみに減ったが、後部及び両舷側に広がるV字型飛行甲板に蒸気圧式二層カタパルト2基を備え、砲打撃力と戦術機投射能力を両立させた実験艦。戦術機搭載能力は格納庫と甲板露天係留を含めても20機(格納12機、露天係留8機)が限界である。よって、2隻で1個空母機甲兵団(3個中隊+α)を搭載する。
当初は三浦級とアドミラル級をつなぐものとして、ソ連のキエフ級巡洋戦術機母艦をモデルにして設計されたが、後に砲打撃力と戦術機投射能力の両立した構造が本土防衛線や、明星作戦において評価されたため、アドミラル級就役後も主力航空戦隊を支援する役割を負う事となった。

1番艦 最上(大型指揮巡洋艦)
2番艦 三隅(対レーダー構造テスト艦)
3番艦 鈴谷(1997年1AF→2002年9月4AF)
4番艦 熊野(1997年1AF→2002年9月4AF)


《改利根級巡洋戦術機母艦》
ヘリコプター搭載型重巡洋艦として最上級の設計を元に建造された利根級の後部及び両舷側に、鈴谷級と同じくV字型飛行甲板と蒸気圧式二層カタパルト2基を設置した巡洋戦術機母艦。鈴谷と熊野の砲打撃力と戦術機投射能力の両立というコンセプトが、98年の本土防衛線やその後の明星作戦などにおいて意外に有効であった事が立証された事を受け、利根級も鈴谷級と同様の改造を受けた。元々、ヘリコプター用甲板を後部に備えており主砲の30.5cm三連装砲3基が前部に集中配備されていたため、飛行甲板の設置にあたっても撤去する必要がなく、よって鈴谷級よりも砲撃能力は上回ることとなった
約2年の改修工事の末、利根と筑摩が2001年に再就役し、第2航空戦隊として各地を転戦した後、アドミラル級の就役に合わせて主力航空戦隊を支援する任務に就く事となった。

1番艦 利根(2001年2AF→2003年5AF)
2番艦 筑摩(2001年2AF→2003年5AF)


《アドミラル級航空戦術機母艦》
1992年のインド洋派遣後に計画された日本海軍初の正規空母。国連統合軍の「海軍戦力再編計画」によって計画されたニミッツ級ベースの大型戦術機母艦。予算、技術面、そして1998年に起こったBETA本土侵攻など様々な苦難が襲いかかり、結果として設計から建造、就役に至るまで10年の月日がかかったものの、2002年に1番艦を就役させることに成功。ニミッツ級での戦術機運用理論をベースにしながら、改最上級、改利根級で得られた実戦運用データをも参考にして建造されており、排水量8万t、蒸気圧式二層カタパルト2基、アングルドデッキ、エレベーター8基を設置しており、格納庫と露天係留を併せて、最大で44機(1個大隊強)の最大搭載機数を誇る。

1番艦 アドミラル56(2002年1AF)

《改大隅級(三浦級)中型戦術機母艦》
全長340m、全幅66m。スーパータンカーの設計を流用した大隅級戦術機母艦を帝国海軍は多数配備していたが、戦術機搭載数は最大16機であり、支援機能は簡易整備と補給に留まり、また航行能力が外洋遠征に対応していなかかったため、正確には揚陸艦といえるようなものであった。この艦の能力は陸軍戦術機部隊を運搬する分には十分な能力であったが、海軍が1980年代に上陸支援及び緊急展開用の戦術機動部隊の保有を決定すると同時に本格的な支援能力を持った長期運用型の戦術機母艦が必要となった。しかし、日米安保条約によって金食い虫である戦艦の保持を義務づけられている帝国海軍に本格的な大型戦術機母艦をすぐに開発し、運用する能力も予算もない事は明白であった。
そこで帝国海軍はさらに大型の本格戦術機母艦開発の研究を進めると同時に、大隅級をベースにした中型戦術機母艦の建造を決定した。16基のエレベーターを最後部の2基のみ残し、格納庫を吹き抜け構造とすることで艦内スペースを確保。その余剰スペースを使い、艦内に本格整備用の戦術機整備支援担架と各種整備機材を設置している。また、上部甲板には油圧式二層カタパルトを2基設置しており、これにより母艦を危険にさらすことなく、より安全圏から戦術機を投射する事が可能となったこともあり、2002年現在、未だ戦没艦が存在しない。その点が本級の予備戦力としての存在意義を高めていると言える。
一番艦三浦のみが大隅級を直接回収した実験艦であり、以後建造された8艦はいずれも新規建造されたものである。そのため、艦名は大隅級の半島名から、河川名に変更された。

1番艦 三浦(1985年TAF)
2番艦 大淀(1985年1AF→1997年3AF→2001年11AF)
3番艦 仁淀(1985年2AF→2001年11AF)
4番艦 長良(1985年1AF→1997年3AF→2001年11AF)
5番艦 五十鈴(1985年2AF→2001年11AF)
6番艦 名取(1985年1AF→1997年3AF→2001年11AF)
7番艦 由良(1985年2AF→2001年11AF)
8番艦 鬼怒(1985年1AF→1997年3AF→2001年11AF)
9番艦 阿武隈(1985年2AF→2001年11AF)


●ソビエト連邦

《ウリヤノフスク級航空戦術機母艦》
ソビエト連邦海軍が誇る最新鋭戦術機母艦。国連統合軍の国際軍備計画「海軍戦力再編計画」によって計画・建造された大型戦術機母艦のうちの一艦であり、アメリカのニミッツ級および日本のアドミラル級の姉妹艦にあたる。1995年に就役した8万トン級の本格的戦術機母艦で、ソビエト連邦最大の艦船でもある。キエフ級と違い、建造当初からニミッツ級航空戦術機母艦のデータを参考にして、戦術機運用を視野に入れて建造されており、またキエフ級巡洋戦術機母艦で得られた戦術機運用データも取り入れられているため、極めて良好な性能を示している。本級の就役より数年前に実戦配備されたSu-27の海軍型であるSu-33と、フェニックスミサイルを運用するため複座型管制ユニットを搭載したSu-33UBを併せて40機程度(1個飛行隊は10機で編成)を搭載し、2基のカタパルトによって安全海域からの戦力投射を可能としている。


《キエフ級巡洋戦術機母艦》
ソビエト連邦海軍の1443「クレーチェト」計画重航空巡洋艦(тяжёлый авианесущий крейсер)として計画され、1975年に就役した4万トンクラスの巡洋戦術機母艦。1番艦建造途中の1973年にBETA地球侵攻があり、光線属種の出現と、戦術機の登場により、2番艦以降の建造計画を急きょ各種設計変更プランが、提示・承認された事により、キエフ級は巡洋戦術機母艦へと変貌を遂げた。また1番艦のキエフも同様の改修を受け、1977年に再就役。1978年には2番艦ミンスクが就役した。だが肝心の艦載機開発は一向に進んでおらず、1975年に運用を始めていたMig-21に応急的な改良を施し搭載、2艦は北方艦隊へと配属された。1978年にはミンスクハイヴ攻略を目的とした「パレオゴス作戦」の発動に伴い、キエフ級2隻はバルト海に配備された。限定的ながら戦術機部隊を展開し、ヴォールク連隊のハイヴ突入を側面から支援したとされる。以後、1982年に3番艦ノヴォローシスク、1987年に4番艦バクーが就役。4艦はソ連の戦線後退と共に北海・北洋艦隊へと配置を変えながら激戦をくぐりぬけた。
1990年代には艦載機の旧式化が深刻な問題となり始めていたが、1992年に配備されたSu-27の海軍型が後継艦載機として候補に挙がる。しかし、機体の大型化が巡洋戦術機母艦での運用に支障が出るため、1994年に実戦配備されたMig-29の海軍型Mig-29Kの搭載が決定した。なおMig-29Kは20機程度搭載可能である。
また11434号計画によって建造された4番艦バクーは、後のアドミラル・クズネツォフ試験艦として建造されたため、艦形及び兵装や電子機器が他の艦と異なっており、「改キエフ級」と呼ばれて別クラスとされる事も多い。また、空母ながら巡航ミサイルを始め対地、対艦、対潜各種ミサイルを戦闘艦並に装備している事も特徴の一つである。


●欧州連合海軍

《シャルル・ド・ゴール級航空戦術機母艦》
国連統合軍の「海軍戦力再編計画」によって計画・建造された、フランス海軍の6万トン級中型戦術機母艦。クレマンソー級の能力をさらに拡大する形で、空母3番艦として1981年に計画された。おりしも1978年の「パレオゴス作戦」にてキエフおよびクレマンソーが一定の効果を与えた事、BETAの西進がさらに激しくなった事が原因となった。また1986年にはフランスがECTSF計画を脱退し、独自の戦術機開発を開始しており、この戦術機の海軍型を運用できる事も前提とされた。
建造は海外県のモロッコ・カサブランカにおいて行われ、1番艦シャルル・ド・ゴールは1989年に就役した。2番艦のマキシム・ウェイガンは1991年に就役した。
こちらは2002年現在、最新鋭機ラファールMを26機+補用6機搭載し、スエズ運河防衛線へと派遣されている。


《クレマンソー級航空戦術機母艦》
フランス海軍の4万トン級中型戦術機母艦。元々は1950年代に計画されたものの、当時の軍事力が航空宇宙戦力へとシフトしていたために、予算削減から計画は中止された。しかしながら、BETAの地球侵攻、戦術機の登場により、再び計画に火がともり、戦術機運用を前提とした大規模な設計変更を行った。その結果、ニミッツ級ほどの外洋展開能力はなくなったものの、20機+補用4機の戦術機を運用する事が可能となった。1978年に1番艦クレマンソーが就役、続いて1979年に2番艦フォッシュが就役した。
2艦は、シュペル・エタンダールを搭載し、英仏海峡艦隊の主力として派遣されている。


◎その他補助艦艇(巡洋艦・駆逐艦)

●日本帝国海軍

《金剛級イージス巡洋艦》
日本帝国海軍が誇る、イージス巡洋艦。旧軍の金剛級戦艦の名を受け継いでおり、その圧倒的な対地火力から海軍関係者からは「金剛級巡洋戦艦」とも呼ばれている。
VLSに搭載されているのは、対地攻撃用TLAM-D(クラスター弾166発搭載仕様)。
旧軍の高雄型と妙高型の巡洋艦の艦名を踏襲している。1990年以降、約2年ペースで1艦が就役している。なお、搭載しているイージス武器システム(AWS)は1983年に就役したアメリカ海軍のタイコンデロガ級巡洋艦の廉価版を提供された。
このイージスシステムからは、現実のような対空戦闘システムはオミットされ、対BETA戦用に衛星データリンクを通じたトマホークミサイルを用いた対地攻撃能力を特化させたものである。
金剛級にはVLSだけでなく、最上級と同じ30.5cm3連装主砲を2門搭載している。
1番艦 金剛
2番艦 比叡
3番艦 榛名
4番艦 霧島

《妙高級イージス駆逐艦》
金剛級巡洋艦に随伴する対地攻撃駆逐艦として計画された。
1番艦 妙高
2番艦 鳥海
3番艦 愛宕
4番艦 足柄
5番艦 高雄
6番艦 摩耶
7番艦 那智
8番艦 羽黒

《千代田級駆逐母艦》
駆逐艦や潜水艦に対する補給支援活動を行う他、水雷戦隊の旗艦も務める。双胴型船体をもつ。また、偵察型《海神》(EA-6J)を4機搭載する事も可能であり、各航空戦隊にも1艦が配備され、強襲上陸地点の強行偵察を行う。



◎戦術機

●日本帝国

○82式M型(TSF-Type82-M)《翔鶴(海軍型瑞鶴)》
将来の正規戦術機母艦配備に備え、海軍機甲挺身隊用機として開発された機体。改大隅級戦術機母艦での運用を想定し、前年に斯衛軍で運用が始まっていた《瑞鶴》をベースとし、複座型管制ユニットと、《飛燕》ミサイルシステムの運用能力、艦載機装備が追加されている。また、将来に正規戦術機母艦を保有した際における、搭載機の実験的要素を持つ機体でもあった。非公式に、海軍衛士たちの間で《翔鶴》と呼称されている。1985年、運用開始。

○81式強襲歩行攻撃機(TSA-Type81:米軍呼称A-6J)《海神》
帝国海軍海兵隊にて運用される水陸両用型の戦術機。跳躍ユニットを持たない代わりに、強力な火器を有し、拠点防衛にて威力を発揮する。

○81式E型強襲歩行偵察機(TSR-Type81-E:米軍呼称EA-6J)《住吉》
帝国海軍にて運用されている水陸両用型の電子偵察機。米海軍にて、運用されている強襲歩行偵察機で、A-6を上陸地点偵察用に改修したEA-6B《プラウラー》をライセンス生産した機体である。
ベース機A-6と違い、多目的兵装庫部分に120mm滑空砲とミサイルの代わって、大量の偵察用電子センサーや小型無人偵察機、場合によってはHARM(高速対レーザーミサイル)を搭載する。
潜水母艦にも搭載できるほか、千代田級駆逐母艦に4機搭載でき、豊富なセンサーを用いて、安全な海中より上陸予定地点に展開するBETA群の動向を偵察することが可能となっている。
潜水母艦に搭載される場合は上陸地点付近まで接近できるが、駆逐母艦はレーザー射程圏外に待機しなければならないため、駆逐母艦から運用される場合には、機体後部に長距離侵攻用の増槽を搭載する。ちなみに、《住吉》はスミノエと発音し、「澄んだ入り江」を指す。

○97式M型(TSF-Type97-M)《雪風(海軍型吹雪)》
海軍機甲兵団の予備役・教練部隊用として導入された吹雪の海軍仕様。また海軍基地警衛部隊用としても配備が進んでいる。国連の要請に基づいた各国への輸出を行うための吹雪・実戦仕様改良プランをベースにしており、主機は実戦用の高出力のものに換装されている。基地警衛部隊用の機体は単座型で近接戦闘を重視した仕様となっている一方で、予備役・教練航空団の機体は複座型管制ユニットを搭載しており、8発だけだが《飛燕》ミサイルの運用も可能となっている。
そのため、吹雪とは性能的にも外見的にも似て非なる機体となったため、海軍衛士たちの間では「雪風」という名を頂戴している。2002年現在、二線級部隊に配備されている85式はいずれ全てがこの雪風に代替される予定である。
1998年、運用開始。

○94式M型(TSF-Type94-M)《叢雲(海軍型不知火)》
海軍機甲挺身隊仕様に改良を加えられた不知火で、公式には海軍型不知火と呼ばれているが、海軍衛士たちの間では叢雲という呼称が一般的である。M型のMはMarineのMである。
ベースモデルは陸軍が前線の要求にこたえて改良を施した不知火・壱型丙であり、複座型管制ユニット、《飛燕》ミサイルシステム運用機能、艦載機仕様などの変更点が加えられている。
壱型丙は元型機よりエンジン出力が向上しており近接戦闘能力も向上しているが、稼働時間が極端に低下したうえ、それを補佐するための新型OSによって操縦系統がかなりピーキーになったため、本家陸軍では100機に満たず生産中止になったいわく付の機体である。
だが、稼働時間の減少は一撃離脱を基本戦術とする海軍機にとって大した欠点とはならず、むしろ出力向上によって得られた高機動性能や武装積載能力は、海軍機のコンセプトである一撃離脱、緊急展開に合致した非常に好ましいものであった。後にその性能から、クーデター戦時に遭遇したアメリカ軍に「ゼロファイターの再来」と称された。ただし、海軍仕様に改造するにいたって原型機よりも近接戦闘能力が低下しており、密集格闘戦における生存性が問題となりつつあり、アドミラル級空母の就役に合わせて新設予定の機甲兵団に配備される新型海軍機の導入が検討されている。
1996年、運用開始。


○試01式M型戦術歩行戦闘機(MFX-01)《草薙(海軍型不知火弐型)》
海軍戦術機は飛燕ミサイルシステムによる一撃離脱を基本戦術としているが、そのために密集格闘戦能力がおろそかにされている傾向があった。その欠点は2002年に環太平洋諸国海軍合同で行われたリムパック2002において露呈する事となり、海軍は第1航空艦隊に正規母艦が配備されるにあたって、新設される空母機甲兵団の配備機に密集格闘戦闘能力を持つ機体の選定に乗り出した。
そこでXFJ計画にて得られたアメリカの技術ノウハウを吸収した陸軍次期配備予定機である不知火・弐型に白羽の矢が立ち、海軍用への仕様変更がなされた。結果、計画開始からわずか数カ月で《AMRAAM》ミサイルシステムを運用しつつ、格闘戦能力の強化と機動性能の強化の実現に成功した。
機体名称は、正式には「海軍型不知火弐型」であるが、海軍内呼称で叢雲の剣と同一視される草薙の剣から、「草薙」と名付けられた。


○試99式M型戦術歩行戦闘機《疾風(ラファールM)》
欧州フランスの独自開発機ラファールの海軍型ラファールM(F-3仕様)の改修機。研究目的で99年に帝国軍が購入していたラファールMを日本帝国仕様に改修した機体。
機動近接格闘戦を重視した設計となっている他、ミラージュ2000より受け継がれた軽量高出力の主機と高い噴射地表面滑走(サーフェイシング)能力を持ち、高速近接砲撃戦を保有している。
その高い近接射撃照準性能は、搭載するオリジナルのIRST《OSF(Optronique Secteur Frontal)》によるところが大きい。OSFは《前方象限光学装置》の略で、疾風頭部に搭載され、赤外線(左側)、可視光線(右側)、レーザー(右側)を使用したセンサーで、光学及びパッシブ赤外線で目標を探知識別し、レーザーで測距を行う。このおかげで、極めて正確で効率的な近接射撃を行う事ができ、弾薬の消費量を格段に減少させる事が可能となった。
加えて、特筆すべきは《SPECTRA》と呼ばれる防御回避支援パッケージシステムを搭載している事である。機体各部のセンサーが、機体全方位で監視。探知した自機を狙ってくるBETAを脅威度順に選定して、警告すると共にコンピューターが最適な対抗手段(迎撃手段や回避コースなど)を考え、衛士に対し表示するものである。また、装置を自動モードに設定しておけば、自動迎撃及び回避も可能である。このシステムのおかげで衛士は密集射撃戦闘をより安全に行う事が可能となった。また、新型OS《XM3》との適正化によって、このシステムはより有効なものとなりつつある。なおこれらの装備は、近接戦を格闘戦主体で行う日本機には搭載されてこなかったものでもある。
搭載するS88-2エンジンは、単結晶高圧タービンブレードやサーメットディスク、デジタルエンジン制御機構を搭載し、小型軽量であるため、加速性能、推力制御については、叢雲を越える能力を持っている。しかし、競合機であったタイフーンが搭載するアエロジェットAJ200に比べて、比較的小型であるため、最大速度や燃費の点で僅かながら劣っている。(本機にS88-2が搭載されたのは、比較的小型なクレマンソー級やシャルル・ド・ゴール級母艦にて運用をする事を前提としているためである。)
後に日本仕様へのアップデート型として零嗣機に搭載された開発中のスネコマS88-4Eは、こうした欠点を改良し、跳躍ユニットの大型化と重量増加は招いたものの、最大出力の強化と共に、推進剤消費率も改善された。
腕部の鋸刃型ブレードベーンなどを始めとした多くの固定武装が装備されており、密集近接戦闘も想定した点も従来の日本機と異なる点となっている。これら固定武装は、アタッチメント式で素早い交換が可能である他、特に腕部は必要に応じて追加センサー装備や追加弾倉を装備する事も可能である。

本機の導入に合わせ、帝国海軍ではフランス軍独自の大型ミサイルシステムであるASMP(Air-Sol Moyenne Portée)空対地巡航ミサイルも同時に試験運用している。同ミサイルは、核兵器運用も可能であるが現在はその能力を封印し、広域クラスター弾もしくはS-11弾頭を搭載している。また本機は、複座型管制ユニット採用せずともASMPミサイルを運用することが可能であり、それが軽量化および人的損耗防止につながっているとされる。


●アメリカ合衆国軍

○F-18SE/SF《サイレント・ホーネット》&F-18E/F《スーパーホーネット・ブロックⅡ》
アメリカ軍及びオーストラリア軍で評価試験中のF-18E/Fの強化改修機。
元々、本機は開発が難航しているF-35までのつなぎ機体として、アメリカ海軍・海兵隊向けにボーニング社が開発プランを立ち上げたものであった。準第3世代機としての能力を誇るスーパーホーネットをベースに、前線部隊・・・特に海兵隊からの強い要望があった近接格闘戦能力の強化を行いつつ、新型のレーダーやATFIRなどを搭載。さらには、AH戦闘を考慮した限定的ステルス能力も付与された第3世代相当機となるはずであった。
ところが、当のアメリカ海軍ではF-35Cに対する期待とその開発が一定のめどを見た事から本機は採用されることなく、代わりに開発中に得られた新型レーダーやATFIRのみを搭載した改修型がF-18E/F・ブロックⅡとして生産された。
当てが外れたボーニング社は、戦術機動艦隊の編成を急ぐオーストラリア海軍及びF-35Bの開発難航に辟易していたアメリカ海兵隊に目をつけ、猛烈な売り込みを行いつつ開発を続行。同社の別チームが先行して開発していたF-15SEのデータを共有し、2002年、ついに概念実証機の生産にこぎつけている。


○F-16SC《ストライカー・ファルコン》
アメリカ軍にて新設中のストライカー旅団戦闘団での運用を目的としたストライカーTSF計画より生み出された機体。空輸による緊急展開を容易にするため、可能な限りの戦術機のスリム化を図ることとなり、候補機にはF-16とF-18が上げられたが、小型化とコスト面、なおかつ陸軍が前線配備しているF-16Cを現地改修するだけですむことからF-16に軍配が上がった。
ムーリヤ輸送機に最大4機積載(3機を上部装甲カプセル、1機を分解して機内に収容)が可能となるように徹底した軽量化が図られており、その影響から、既存のF-16よりも機動性能がさらに向上している。ムーリヤへの搭載に当たっては、装甲カプセル3基を収容できる新型の大型装甲カーゴが用いられる。これにより、1個大隊40機相当を空輸するために必要なムーリヤは10機であり、同数の機体で2倍の部隊を空輸可能としている。(ストライカー旅団の戦術機部隊の輸送に当たっては30機程度で可能)

また、後方基地から長距離飛行を経て緊急展開が可能とするため、大型ウイングユニットとジェットエンジン2基を組み合わせたストライカーユニットを背部兵装担架に装備することで、航空機並みの超長距離巡航が可能となっている。これらウイングユニットには、増加燃料タンクとヘルファイア対地ミサイルを装備することができる。さらに脚部にも、コンフォーマルタンクを装備可能である。背部兵装担架が潰れる事で、戦闘継続時間と火力は落ちるものの、それを補って余りある緊急展開能力が付与される事から、米陸軍の各主力師団にて、配備数を伸ばしている。
加えて武装も見直され、AMWS-21を標準装備としながら、代わりにA-10が両肩に装備しているGAU-8アヴェンジャー・36mmガトリングモーターキャノン1門や、艦載砲から転用した新兵装オート・メラッラ社製76mmスーパーラピッド砲1門なども場合に応じて装備が可能である。また、通常装甲が他機に比べてあまりに貧弱なため、重量増加になるがERA装甲などを後付けで装備できる。


●ソビエト連邦軍

○Mig-29K《ラーストチカ》
1994年に実戦配備された軽量小型戦術機の海軍モデル。本家ソ連海軍にも配備されているが、東欧社会主義同盟やインド軍にも配備されている。単座型であり、フェニックスミサイルの運用はできない。

○Su-33《ジュラーブリク》
1992年に実戦配備された大型戦術機の海軍モデル。密集格闘戦に優れたソ連海軍の主力艦載機。空母ウリヤノフスク以外の戦術機母艦でも多数が運用されている。

○Su-33UB《ジュラーブリク》
Su-33の複座型で、Su-32と同様、フェニックスミサイルを運用する。空母ウリヤノフスク級には2個中隊しか搭載されていないため、火力を補うためにフェニックスミサイルを最大で10発搭載可能である。

○Su-25SM《グラーチュ》
アメリカのA-10と同様の戦車級駆逐機として開発された重戦術歩行攻撃機。A-10と正式採用をめぐって争ったYA-9をモデルにしている部分もあり、A-10と違い、多目的兵装庫を2基搭載可能である。


●自由フランス軍

○ラファール《Rafale(突風)》
フランスの空母運用要求と搭載主機で食い違いが生じたユーロファイター計画から脱退したフランスが、独自に開発した第3世代戦術歩行戦闘機。量産1号機(ラファールC)が1998年に実戦配備された。
基本仕様でF1、F2、F3と分かれており、これに陸軍向けC型などの番号が付けられる。陸軍で第13戦術竜騎兵連隊を筆頭に、近年では緊急展開部隊である第3海兵竜騎兵連隊(第9海兵旅団隷下)にも、250機余りが運用されており、そのほとんどがスエズ方面に展開されている(2002年現在)。一方、海軍では、100機余りが稼働中で、シャルル・ド・ゴール戦闘群の搭載部隊、Flottille 12F(第12海軍航空騎兵隊)などへの配備が進んでいる。また、後述するようにラファールの強化改修プランがUAEと共同で進められているなど、フランス政府では他国への輸出に積極的である。

<ラファールF1仕様>
先行量産型仕様。若干機(中隊規模)が生産され、前線で評価配備されたにとどまる。
<ラファールF2仕様>
先行量産型で明らかになった欠点について、若干の改良を施した制式量産タイプ。OSF(前方象限光学装置)、データリンク(Link16と互換性あり)、スペクトラ防衛支援パッケージを搭載している。現在配備されているのは陸軍・海軍共にこのF2仕様機であり、F1型も評価試験後にこのF2仕様に改修された。
<ラファールF3仕様>:海軍の要求に従い、F2にASMPとRECCE-NG偵察ポッドの運用能力を持たせたタイプ。ASMP-A核装備スタンドオフ空対地ミサイルの運用も可能にしている。
<ラファールF4仕様>:UAE(アラブ首長国連邦)に共同開発を提案しているという能力向上型。主機をM88-4Eに強化し、レーダーや電子戦システムも新型に換装するとして開発が続けられている。

<ラファールA>
デモンストレーター機で、もともとはACX(実験戦術機)という名称だった。主機にGE製のFE404-GE-400を搭載したため、機体サイズが量産型よりも大きい。
<ラファールB>
陸軍向けの複座型。RBE2マルチモードレーダー、《SPECTRA》防御支援パッケージを搭載している。
<ラファールC>
陸軍向けの単座型で、1998年に実戦配備された。ラファールAよりも機体は小型で、RCSを減らし、機体にレーダー吸収塗料を適応している。跳躍ユニットのカナード翼は大型化して機動性をあげている。
主機はスネコマS88-2またはS88-3。

<ラファールM>
海軍の装備する艦載機型。陸軍型に簡易改修が行われた程度で、改修キットがあれば簡単に改修作業が可能である。ASMPミサイルシステムの運用能力(最大搭載数6発)が付加され、アレスティング・マグネットを追加し、降着装置を強化してある。
搭載レーダーはRBE2パッシブフェイズドアレイレーダーである。主機はスネクマS88-2。現在、フランス海軍配備機は全てF-3仕様となっている他、順次主機もS88-3が搭載される予定である。

<ラファールMk2>
主機をS88-3に変更し、レーダーをアクティブ電子スキャンアレイレーダーに換えたもの。脚部側面に張り付けるコンフォーマルタンク(推進剤2トン搭載)も開発されている。
<ラファールN>
ラファールBにM型と同様の艦載能力を持たせた艦載練習機。少数が生産されたのみである。

○シュペル・エタンダール
空母の艦載攻撃機であったエタンダールⅣの名を受け継いだ海軍型戦術機。元々は1970年代にエタンダールⅣの後継機計画としてスタートしたが、BETA大戦の影響を受け、急きょ戦術機開発計画に移行。結果、F-5及びミラージュⅢをベースの第1世代機としてロールアウトした。1978年に実戦配備が開始され、就役したばかりのクレマンソー級に搭載された。1985年には近代化改修を受けており、第1.5世代相当の能力を確保すると共に、欠点であった武装搭載能力を補うべく大型巡航ミサイルASMPの搭載能力(最大搭載数4発)も付与された。こちらはシュペル・エタンダールM型と呼ばれ、現在配備されているシュペル・エタンダールはすべてこのM型である。諸外国への輸出も行われており、中東やアフリカでもASMPと共に運用されている他、南米でも生産されている。


*今後登場予定の機体

○試00式M型《武御名方(海軍型武御雷)》

○試03式《雀蜂》

○F-35A/B/C《ライトニング》



◎火器

○試02式中隊支援砲
試02式中隊支援砲は、欧州連合で使用されているラインメタル社MK57中隊支援砲の日本帝国仕様試作モデルである。これまで帝国軍では、本土防衛を主任務としており、常に海岸が近く水上部隊の投入や砲部隊の揚陸展開も容易であったことからMK57中隊支援砲の導入意義は薄く、検討もほとんどされていなかった。しかし、2001年の甲21号作戦の成功により日本本土からBETAの脅威を排除し、続く2002年初頭の桜花作戦の成功によって大陸反攻、すなわち内陸部での作戦活動が視野に入ってきたため、2002年前半に急遽導入が検討され始めたのだ。
そこで正式採用・ライセンス生産を前に試験運用を行うため、ラインメタル社より直接購入した少数のMK57中隊支援砲の内、12門がリムパック2002において参戦した帝国海軍第1空母戦術航空団に配備された。この試作モデルは、実験的に試02式近接突撃短刀を砲身下部に装備しており、日本帝国での近接戦闘運用をも想定した仕様となっている。


○試02式近接突撃用短刀(XM-9改)
YF-23のXAMWS-24に装備された銃剣をベースモデルにした戦術機用大型銃剣。中隊支援砲の他、87式突撃砲、支援突撃砲などにも装備可能。

○試03式近接戦闘用長刀(XCIWS-2BE)
同じく旧式化の感がある74式長刀の後継として、採用が検討されている長刀。YF-23での運用を想定されていたXCIWS-2Bであったが、YF-23の採用脱落と、米軍の戦術機運用方針によって、その採用を見送られていた。だが、2001年の12.5事件において、砲撃戦主体のF-22が不知火との近接格闘戦に敗れた事で砲撃戦主体機の限界が露呈した事や、常日頃から最前線に投入されBETAとの激しい近接格闘戦にさらされる海兵隊を始めとする海外派遣部隊の衛士たちからの希望により、XCIWS-2Bが再び日の目を浴びる事となる。
この試03式長刀は、米国での導入前に格闘戦には定評のある帝国軍にそのコンバット・プルーフを取らせようという魂胆から、若干の改良と共にMFX計画と同時に配備された。基本的にはXCIWS-2Bと同様、ソリッドな形状をしている。


○86式中距離準自律誘導弾システム《飛燕(スパロー)》
F-14の《フェニックス》ミサイルシステムは、揚陸部隊の上陸に先立ち、水平線や地形などの遮蔽物を盾に光線級の射程範囲外から制圧攻撃を加える大型クラスターミサイルであり、一個中隊の運用で旅団規模BETAに打撃を与える事が可能だった。しかしながら、GPSによる自律誘導により完全なファイア・アンド・フォアゲット方式を採用したミサイルと、長距離レーダーシステムを併用するこのシステムは当然のことながら、非常に高価であった。
帝国海軍首脳部は、海軍戦術機部隊設立にあたり、フェニックス同様に揚陸部隊の上陸に先立ち、水平線や地形などの遮蔽物を盾に光線級の射程範囲外から制圧攻撃を加えるクラスターミサイルを海軍機に搭載する事をもくろんだ。
最初に考えられたのは、《フェニックス》ミサイルの購入及びライセンス生産であるが、システム全体の高コストに加え、艦載機として開発された82式M型の機体では大型でかさばるミサイルの運用と高性能レーダー類の搭載が困難だった事によって、それは断念された。
そこで、アメリカ軍が《フェニックス》システムよりも低コストで、かつF-18のような軽量型機体に搭載可能な中型ミサイルシステムとして開発が行われていたものの開発停止に追い込まれていた《スパロー》ミサイルシステムに白羽の矢が立つ事となった。日本帝国は交渉の末《スパロー》ミサイルシステムの開発設計図を購入。若干の改修を重ねた上で、完成したミサイルは飛燕と名付けられ85式と共に試験的に実戦配備された。
《飛燕》ミサイルシステムは、フェニックスよりも小型である分、搭載弾数を増やし肩部専用ランチャーポッドに8~16発を搭載でき、BETAへの打撃力を確保。加えて、高コストの要因である完全打ちっぱなし形式を採用せず、セミ・アクティブ・レーダー誘導方式を採用した事で低コスト化を実現した。ただし、セミ・アクティヴ・レーダー誘導では射程距離に限界が生じたためフェニックスのそれには及ばなかった事、最終誘導までレーダー誘導が必要となるため攻撃中は戦闘機動が制限されてしまう事等、新たな欠点も生み出した。
しかしながら、(最大搭載した)中隊単位の集中運用により最大で光線属腫を含む旅団規模のBETA群に大打撃を与えるというフェニックスと同等の威力を持ち、なおかつフェニックスより安価なこのミサイルシステムは、スワラージ作戦において見事な戦果をあげたことで、海外でも多くの国が興味を示しているという。


○AIM-120《AMRAAM(アムラーム)》
《スパロー》ミサイルシステムをベースに開発された、アクティブ・レーダー誘導装置を組み込んだファイア・アンド・フォアゲット方式の中射程クラスターミサイル。F-14よりも小型なF-18DやF-18Fに搭載可能であるため、米海軍母艦戦術機部隊の主兵装となっている。もちろん、F-35Cにも搭載可能である。AMRAAMとはAdvanced Medium-Range Auto-Attack Missileであり、直訳すれば「先進型中射程自動攻撃式ミサイル」となる。


○ASMP(Air-Sol Moyenne Portée)空対地巡航ミサイル
F-14の《フェニックス》ミサイルシステムに対抗して開発され、1986年よりフランス陸軍で採用されている超大型巡航ミサイル。開発当初は、焦土作戦用の核搭載型ミサイルとして開発され、戦術機はもちろんの事、爆撃機などにも搭載可能。後に戦術核に匹敵するS-11弾頭の運用も可能となった。《フェニックス》よりも遙かに大型であるため、搭載数はシュペル・エタンダールで4発、ラファールMで6発が限界である。しかし、プログラム誘導を採用しているため自律誘導の《フェニックス》よりは安価であり、なおかつ威力もラファールMの中隊規模での集中運用(72発)で、准師団規模(6000~8000)のBETA群に打撃を与えることが可能であるため、一撃離脱用兵器として《疾風》と共に帝国海軍に試験導入された。


○AGM-88高速対レーザー偵察ミサイル《HARM(High-speed Anti-Laser Recon Missile)》
EA-6《プラウラー》に搭載する特殊ミサイル。上陸拠点の光線属種の照射点を探知し、可能な限り排除する事を目的としたミサイルである。
EA-6の多目的兵装庫に格納されたHARMは、偵察衛星、EA-6のセンサー及び無人偵察機によって収集したデータに基づいて割り出されたレーザー属種予測地点に向けて射出される。超低空を巡航しつつ、データリンクを通じて予測地点を逐次修正しながらレーザー属種に接近する。標的に可能な限り接近したHARMは、標的から数キロ地点にて迎撃のレーザー照射を受ける。その際、予備照射を受けたミサイルは、標的の最終地点を特定した後、最終加速。標的が本照射を行う前に超音速で突入する。照射を受けなかったミサイルも、他のミサイルのデータリンクを通じて順次目標へ突入していく。最終的にはクラスター爆弾をまきちらし、広範囲に散らばっている光線属種を殲滅する。
本ミサイルは、非常に大きな打撃力を持つ半面、多大な情報処理能力を有する機体でしか取り扱えないため、現在はEA-6《プラウラー》でしか扱えない。EA-6では1機につき、12発まで搭載可能である。が、アメリカ海軍では、後継機としてEA-12《グラウラー》を開発し試験配備している。こちらは、最大で24発のミサイルを搭載可能である。

○RGM/UGM-109TLAM《トマホーク》
アメリカや帝国軍が実戦配備を進める最大射程1250kmを誇る艦対地巡航ミサイル。弾頭は核搭載型(Block.ⅠTLAM-N)や通常弾頭(Block.ⅡTLAM-C)など各種選択できるが、対BETA戦では小爆弾166発を内蔵したクラスタータイプ(Block.ⅡTLAM-D)が一般的に用いられる。水上艦からだけでなく、潜水艦からの発射も可能(こちらはUGM)。1988年より配備開始。



[19639] 用語集
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2011/07/23 01:43
◎国際計画「海軍戦力再編計画」

日本のアドミラル級をはじめとして、数々の戦術機母艦を生み出すきっかけとなった計画。1990年に国際連合にて採択され、ニミッツ級をベースとした大型艦と、ニミッツ級をサイズダウンした中型艦(ライトニミッツ級)の二種類が計画され、参加各国が共同で出資、建造することとなっている。日本も1992年のスワラージ作戦以降に参加している。
現在までにアメリカ、ソ連、オーストラリア、イギリス、インド、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、日本などが参加。
この計画によって建造された艦には、ニミッツ級ベースのウリヤノフスク級、アドミラル級のほか、ライトニミッツ級ベースのシャルル・ド・ゴール級、グラーフ・ツェペリン級、ヴィクラマディーティヤ級、アデレード級などが存在する。


◎南西諸島要塞群
沖縄本島を中心に南西諸島の各島々に築かれている基地・要塞群。
通称「沖縄要塞」。
沖縄近海は、比較的浅い深度をたもっている東シナ海から断絶したように周囲を深海に囲まれており、過去のデータからBETAは深度500m以上の深海では活動できないと予想されていることから、本島を含む沖縄諸島は、BETAからの攻撃を受けない(であろう)絶対的な天然の要塞と化している。
また、海外に避難している主要な重工企業から送られてくる兵器・資材・その他補給物資などの中継地点ともなっており、その重要性はBETA大戦後、日増しに増している。
主要基地として那覇基地、嘉手納基地、普天間基地が存在し、そこには帝国海軍と海兵隊に加えて、国連軍極東方面軍も駐留している。
そのため、“要塞”と言っても実質は“基地群”と言うべきである。加えて、沿岸には大型艦用浮きドックがいくつも作られており、BETAの本土侵攻に備え、主要な海軍の建造・整備を行う事が可能となっている。現に、アドミラル級戦術機母艦の建造や伊勢級戦艦のFRAMなどはすべてこの沖縄要塞にて行われている。
以上のように、沖縄要塞の重要性は確かであるが、こと戦術機部隊と衛士たちにとっては、この要塞は別の存在となる。

沖縄要塞群の主力を占めるのは、東シナ海を哨戒する海防艦などの護衛艦隊戦力であって、航空艦隊を始めとする戦術機甲戦力ではない。これらの戦力は、半島・大陸への間引き作戦など、限定的攻勢作戦でなければ活躍する事はない。
もちろん沖縄にもBETA侵攻が全くないとは言い切れず、“念のため”に要塞化はされているとはいえ、沖縄駐留の基地警衛部隊は、他部隊に比べて遥かに安全な“後方部隊”であり、対BETA戦における“辺境”となりつつある。



◎映画「TOPGUN」
トマス・クルーズ演じるマーヴェリックのTACネームを持つ主人公のピート・ミッチェルが、ミラマー海軍基地のアメリカ海軍戦術機兵器学校・・・通称TOPGUNで苦難と挫折を乗り越えながら、一流の衛士に成長していく姿を描いたアクション映画。アメリカ本国では、1986年に公開された。
BETA大戦の真っ只中における数少ない娯楽の一つであったのが映画であり、そのほとんどが戦意高揚のための戦争物であった。しかしながら、本作品はそのストーリーとリアルな模写によって、まさしく全米を震撼させ、その年の全米興行収入1位を記録している。翌年から世界各国でも公開された。
映画では、TOPGUNでの厳しい訓練風景や、教官であるチャーリーとの恋に加え、マーヴェリックたちとBETAとの死闘(印度亜大陸へのBETA南進により発せられた緊急命令を受けて出撃した)、そして戦いを生き残ったマーヴェリックが、対BETA戦術を後輩衛士たちに伝えるため、TOPGUNに教官として帰還し、チャーリーと再開するまでが描かれている。
また、米国海軍の全面協力により、1982年当時に米国海軍で配備されたばかりで、当時としては最新鋭の第二世代戦術機だったF-14《トムキャット》の実機や、エンタープライズ級正規戦術機母艦が映画内にて使用された。
加えて物語のクライマックスを飾るインド大陸防衛線におけるBETAとの戦闘は、実際のBETAとの戦闘記録映像をCG加工したものを使用している(残虐なBETAの戦闘を“生”のまま民間人に見せる事の抵抗から)が、その迫力はすさまじかったようで、当時実際にBETAとの戦闘を経て本国へ生還した兵士たちの間でも「トラウマがよみがえるほどにリアル」と評されるほどだったという。
いずれにせよ、この映画に影響を受けた若者は少なくなく、米国のみならず世界各国で“マーヴェリック”に憧れた少年たちが衛士を志していったと言われている。

ちなみに、陸軍の協力を受けて、1982年にすでに公開されていた「ランボー(原題:First Blood)」という作品(BETA戦争から生還した機械化歩兵ジョン・ランボーと、平和なアメリカ社会の格差を描いた問題作)の続編「ランボー/怒りの脱出」(ランボーが機械化歩兵として、ベトナムの戦場に潜入する作品)が1985年に公開されており、こちらも人気を博していた。
しかし、海軍が全面協力したTOPGUNの成功で、多くの若者が海軍戦術機部隊を目指してしまったため、それを挽回しようと息巻いた陸軍の協力で「ランボー3/怒りのアフガン」が製作され1988年に公開している。こちらの作品では、なぜかこれまで機械化歩兵だったランボーが、戦術機を駆る衛士になっており、もはや一作目とはまったくの別物となっていることから批判も多い。



◎ストライカー旅団戦闘団構想
1990年代後半に入るに至って、アメリカ合衆国陸軍は世界各地に配置している従来の戦術機甲師団を、中核となる戦術機甲連隊に、緊急展開能力を持たせたストライカー旅団戦闘団を加える形態へ再編成する事を検討し始めていた。
重装備の機械化部隊では緊急時における輸送・展開力に課題が多く、結果対応が遅れてしまう。また陸軍で緊急即応部隊として存在する空挺部隊は、航空戦力を封じられる対BETA戦争においては無力であった。この為陸軍では、レーザー安全圏までの空輸が可能な軽量で、打撃力に優れた緊急即応部隊を編成するに至る。
1999年に第2戦術機甲師団第3旅団をモデル部隊として、緊急展開力と機動力を重視し、戦略・戦術輸送機に搭載可能な軽量戦術機及び装甲車両を採用・配備し、紛争地帯及び作戦域に96時間以内で展開可能で司令部の情報を共有出来、また緊急時には、独自に戦術情報リンクから収集した情報に基づき作戦が行えるデジタル化部隊が編成される事となった。
長らく米国の緊急即応体制は海兵隊が重きを担ってきたが、陸軍の21世紀ビジョンのプランとして提案されたのは、重装備の戦術機部隊と機甲部隊編成の従来型部隊(Legacy Forces)と緊急展開能力に特化した軽装備の暫定型旅団戦闘チーム(Interim Brigade Combat Team)に再編成し、前者はBETAの本格的攻勢や能動的作戦に対応・解決する為、後者はその初期段階における対応を主任務とし、将来的には全ての部隊が情報を共有出来るデジタル化を施され、高機動で打撃力に優れた統合型次世代部隊(Objective The Next Forces)に段階的に進化するとした。
これはひとえにG弾の運用を前提としたアメリカの対BETA戦略に則ったものであるとも言え、従来型の戦術機甲連隊を常時前線展開させておくのは、非常に非効率と言えたためである。

SBCTは3つのストライカー戦術機甲大隊、1つの騎兵大隊、1つの野戦砲兵大隊、1つの旅団支援大隊、1つの旅団司令部と司令部中隊、1つのネットワーク通信中隊、1つの軍情報中隊、1つの工兵中隊、そして1つの重機械化歩兵中隊より構成される。
主力装備は、専用に開発されたF-16SCストライカーファルコンと、ストライカー装甲車である。
2002年現在、陸軍現役6個と陸軍州兵1個の合計7個旅団が編成済みあるいは編成に着手しており、今後も増加する予定である。その殆どが国内に配備されている。しかしながら、第2師団は国連軍へと師団ごと供与されており、また第2戦術騎兵連隊は米国欧州派遣軍の一員として英国に駐留するなど、海外に常時展開している部隊もある。

第2師団第2旅団(第22ストライカー旅団)-国連軍配備・沖縄要塞嘉手納基地
第2師団第3旅団(第23ストライカー旅団)-同上
第25師団第1旅団(第251ストライカー旅団)-ハワイ州スコーフィールドバラックス
第25師団第2旅団(第252ストライカー旅団)-アラスカ州フォートウェインライト
第2戦術騎兵連隊(第2ストライカー騎兵連隊)-英国
第28師団第56旅団(第2856ストライカー旅団)-ペンシルバニア州兵


◎正規戦術機母艦艦内部署
アイランド
⇒右舷側にそびえ立つ艦橋構造物。全8階の階層がある。
ナビゲーション・ブリッジ(航海艦橋)
⇒アイランド最上階に設置されている操艦用の艦橋
アンレップ・ブリッジ
⇒航海艦橋の右舷側に設置されており、アンレップ(洋上補給)の際に使われる。
フラッグ・ブリッジ(旗艦戦闘艦橋)
⇒航海艦橋の一層下に設置されている司令官用艦橋。戦闘時はCDCで戦闘指揮を取るため、旧軍時代からの名残として設置されている。
プリ・フライ(発着艦指揮所)
⇒アイランド左舷側に設置された航空管制室。エアボス(飛行長)の指揮の下、母艦周囲の航空管制及び、飛行甲板におけるデッキ・オペレーションの監督を行う。

CVIC(戦術機母艦情報センター)
OS班(艦隊情報部通信・暗号班)
OZ班(艦隊情報部ブリーフィング・作戦担当班)
⇒母艦に乗り込む艦隊情報科のスペース。艦隊情報科は、海軍軍令部の第三部に属し、OS班とOZ班に分かれている。OS班は通信の暗号化と解読が主な任務であり、BETA大戦ではあまり重要ではないため、殆ど縮小されているが、メインとなるのが作戦計画とブリーフィングを担当するOZ班である。
OZ班は、衛星その他の偵察情報などの各種インフォメーションに基づいて、BETAの動向を分析し、艦隊の意思決定者たちにインテリジェンス(解析・分析済み情報)を与える役割を担っている。航空戦隊に随伴する駆逐母艦から、81式E型《住吉》(TSR-Type81-E/EA-6J)を展開し、BETAの動向を強行偵察させる権限までも持っているのである。
また、情報部門が近くにあり、巨大なテレビ・スクリーンがあり、空間も広大で多くの人員を収容できるため、ブリーフィングのスペースとしても使われる。

CDC(戦闘指揮所)
⇒母艦機動部隊の作戦指揮を行う戦闘指揮所であり、アイランドの真下にある。作戦中の指揮はここから取られる。
CATCC(母艦戦術航空管制センター)
⇒CDCに隣接して設置されている航空管制センター。戦域までの間の航空管制(戦術機管制)が行われる。

ストライク・オプス(戦術機攻撃作戦班)
フロッグ・プロット(海図・作戦室)



[19639] 登場人物
Name: ジョリーロジャース◆72c2a910 ID:2df8d38c
Date: 2011/07/23 01:50
◎結城零嗣(ゆうき れいじ)
年齢:19歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍中尉→海軍大尉
部隊:第1独立試験挺身隊第909分遣隊《夜渡烏》
役職:VFX-S909隊長(ナイトレーベン1)
本作の主人公その1。海軍士官学校を卒業した後、沖縄要塞の基地警衛部隊に所属していたが、その天才的な操縦技術と指揮能力を買われ、独立試験挺身隊へ。試99式《疾風》の評価試験を担当する第909分遣隊の隊長に就任する。
ちなみに父は帝国海軍戦術機甲兵団総隊司令官である結城智則海軍少将(提督)である。

◎浅木光也(あさぎ みつや)
年齢:29歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍大尉
部隊:第57戦術機甲挺身隊《夜鷹》→第1独立試験挺身隊《VFX-01》
役職:VTF-57隊長→VFX-01隊長(ナイトホーク0)
本作の主人公その2。1992年のスワラージ作戦で初陣を迎えて以来、主要な作戦に参加し続け、生き残ってきたベテラン衛士。その伝説的な活躍から「海軍の鷹」との異名を取る。BETA本土侵攻の際、京都にいた妻と娘を失っている。しかし、隊長に就任してからというもの、自身の指揮能力に疑問を抱いているところを、第1独立試験機甲挺身隊の隊長として、智則からスカウトを受けた。

◎アラン=フルエニ=リリス中尉
年齢:19歳(2002年時点)
所属:自由フランス海軍
階級:海軍中尉
部隊:第1独立試験機甲挺身隊第909分遣隊《夜渡烏》
役職:VFX-S909付運用オブザーバー(ナイトレーベン2)
本作のヒロイン。ラファールMの日本帝国仕様である試99式《疾風》の運用オブザーバーとして独立試験挺身隊へと着任する。自由フランス軍では、シャルル・ド・ゴールでラファールMを運用していたが、本国命令によって一時的に国連軍所属となり、日本帝国へと渡った。

◎矢作俊介(やはぎ しゅんすけ)
年齢:20歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍大尉待遇(軍属)
部隊:第1独立試験挺身隊
役職:VFX-01隊付技術士官
18歳より2年間、アメリカのMITに国費留学して戦術機開発研究を学んできており、驚異的な戦術機工学知識を持つ。そのため富嶽重工開発局の期待の新星と言われており、智則によってMFX計画の技術責任者に抜擢された。便宜上、TRDIが主導で行う計画のため、出向大尉待遇の軍属となっている。

◎飯森園子(いいもり そのこ)
年齢:22歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍中尉
部隊:第57戦術機甲挺身隊《夜鷹》→第1独立試験挺身隊《VFX-01》
役職:VTF-57→VFX-01(ナイトホーク0-RIO)
1998年の本土防衛戦以来、浅木のRIO(レーダー迎撃士官)を務めている女性衛士。VFX-01への転属後は、浅木の副官となった。

◎大石亮吾(おおいし りょうご)
年齢:18歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍少尉
部隊:第1独立試験挺身隊第909分遣隊《夜渡烏》
役職:VFX-S909隊員(ナイトレーベン4)
結城のウイングマンを務めている衛士。結城とは海軍士官学校の同期生である。天才的な狙撃能力を持つが、当人はそれを隠すように軽薄にふるまって見せている。

◎遠藤汐見(えんどう しおみ)
年齢:16歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍少尉
部隊:第1独立試験挺身隊第909分遣隊《夜渡烏》
役職:VFX-S909隊員(ナイトレーベン3)
リリスのウイングマンを務める事となった女性衛士。戦術機部隊員として配属間もないが、その機体適応能力を買われ、909分遣隊に配属された。

◎鳳 銀次(おおとり ぎんじ)
年齢:19歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍中尉→海軍大尉
部隊:第1独立試験挺身隊第57分遣隊《夜鷹》
役職:VFX-S57隊長(ナイトホーク1)
零嗣や亮吾とは士官学校の同期である。卒業後、横須賀基地の警衛機甲兵団第2051挺身隊に配属されていたが、2001年の12・5事件で遭遇した零嗣の部隊によって、2051挺身隊は壊滅状態に陥った。それが原因で零嗣をひどく憎み、また、乗機を零嗣機によって撃墜された事もあり、彼に対し対抗意識を燃やす。元々、勝気で負けず嫌いな性格である彼は、その後、着実に腕を上げ、桜花作戦後に第1機甲兵団第57挺身隊に配属されて、浅木の下で活躍。同部隊が大打撃を受けたシベリア戦でも見事、多大な戦果をあげて生き残った。その事を浅木に認められ、試験部隊として再編成される事となった第57分遣隊の隊長に抜擢される。


◎結城智則(ゆうき とものり)
年齢:40歳(2002年時点)
所属:帝国海軍
階級:海軍少将(提督)
部隊:海軍戦術機甲兵団総隊司令部
役職:戦術機甲兵団総隊司令官
1984~5年に初の海軍戦術機《翔鶴》の開発に関わって以来、多くの作戦にて軍功を上げ、若干40歳にして戦術機甲兵団総隊司令部の司令官に就任した猛者。《翔鶴》の開発に関わった事を理由に、MFX計画の計画最高責任者に抜擢された。
普段は飄々とした風体だが、根は誰よりも国を愛し、息子を気にかける軍人であり父である。軽薄に装っているのは、母を亡くした零嗣に明るくふるまってみせる必要があるため。なお、階級は海軍少将であるが、日本帝国海軍では将官は提督とも呼称される。

◎巌谷榮二(いわや えいじ)
年齢:?
所属:帝国陸軍
階級:陸軍中佐
部隊:帝国陸軍技術廠
役職:第壱開発局副部長
翔鶴の開発に当たって瑞鶴のテストパイロットであった彼の助力があったらしく、それ以来、結城提督と交流がある。今回、武御雷の海軍機化にあたって、斯衛軍とのパイプ役となった。

◎大高野 幹康
年齢:65
所属:帝国国防省
階級:なし
部隊:-
役職:帝国海軍大臣
帝国海軍戦術機部隊の父と呼ばれる男。現海軍大臣。TRDIにかけあい、ラファールMを海軍試験部隊に配備する。

◎田原 総一
年齢:58
所属:帝国海軍
階級:海軍中将(提督)
部隊:海軍航空艦隊総隊
役職:海軍航空艦隊総隊司令官
結城智則の直接的な上司に当たる。新進気鋭の智則に今の地位を脅かされるのではないかと、何かと智則を追及する。



●オマケ:帝国海軍部署

国防省_陸軍省(陸軍大臣)
  |_海軍省(海軍大臣)_海軍次官_各内局局長
  |         |_聯合艦隊
  |         | |_海兵隊
  |         |_軍令部総長_各部長_各課長
  |         |_艦政本部(外局)
  |         |_航空本部(外局)
  |         |_海軍大学校等その他外局
  |_帝国軍参謀本部_本土防衛軍_各方面軍
  |_TRDI


聯合艦隊司令長官 _参謀長_各幕僚
        |_各艦隊司令官
        |_航空艦隊総隊司令官_各航空艦隊司令官
                  |_機甲兵団総隊司令官_各機甲兵団長

※軍政・人事は海軍大臣、軍令・作戦目標決定権は軍令部総長がもち、聯合艦隊司令長官が実戦部隊の長を務める。基本的に統帥権は政威大将軍もとい皇帝陛下にあるが、海軍の最高司令官は海軍大臣である。
※航空艦隊司令官は、作戦行動中、各艦艇と搭載する機甲兵団を指揮下に置く。
※機甲兵団総隊司令官は、聯合艦隊下の役職であるが、海軍省の外局である航空本部下の役職の側面もあり、海軍省機甲兵団の編成・運用・管理(人事も含む)を掌握している。


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