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[19470] 【習作・ネタ】ダンジョンに挑戦するいじめられっこの話
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 23:09

いろんな人のダンジョンssに触発されて、私も書いてみることにしました。
主成分は「勢い」で出来ているssです。
※ 主人公のテンションの高さが鬱陶しいかもしれません。
※ 主人公の頭の悪さが鬱陶しいかもしれません。
あと、チートだと思ってたんですけど、それは作者だけの勘違いでした。

ここは1レス目です。
第三部(109~)からは2レス目に移しました。




では以下より始まります。1~4話です。
※誤字多すぎだろって思って第一部をちょっと(というかかなり)修正しました。


<1>



僕は死んだ。あっけなく。

ゲームをしていたら目がすごく痛くなって、頭痛もしてきて、肩こりとかやばくて、寄生獣とか飛び出してくるんじゃないかってくらい痛くて……

気付けばゲームをしていた時のまんまの格好(ジャージ)で、でっかい机に座る閻魔様の前に立っていた。


「佐藤ハルマサ(18)よ。貴様の人生は誰も幸せにせず、社会に貢献をしたわけでもなく、努力して目標を達成したことも無い。つまりはとても残念な人生だった。」
「いやあの、のっけから傷つくんですけど。」

閻魔様は女性で、とっても乳がでかい。長い前髪に隠れがちな、ふっくらとした唇と、切れ長の瞳が扇情的だ。

「む……そうか。無様な姿を晒すことで、優越感など、他人の暗い欲望を満足させたことはあったな。失敬失敬。」
「いや、ほんとに失礼ですよね!?」
「ふ、ついついやってしまう私の悪い癖だ。許せ。」

むん、と胸を張る閻魔様。思春期の少年としては揺れる胸に目が行ってしまう。

「さて、私の胸ばっかり見ているハルマサよ。」
「は、はい!」

そういうことは分かってても言わないで欲しかった!

僕の気持ちも知らないまま、閻魔様は真剣な顔をする。
真剣な顔も美しい。

「貴様の判決は当然『地獄行き』」
「…………ですよね。」
「と言うわけでもない。」
「え!?」

フェイントとかヤラシイなさすが閻魔様!
閻魔様は嫣然と微笑む。

「貴様は何も功を成していないが、これと言って罪も無い。どちらに行くかは私の胸一つ、と言うところだ。」
「……そうですか。」
「そんな貴様にチャンスを与えよう。」
「チャンス?」

閻魔様は机の端から、紙を一枚取り上げると、こちらに渡してきた。細かい字で色々書いてあるが、一番上にポップな字体で目立つ一文があった。

「『ダンジョン探索への参加者募集』……?」
「うむ。」

閻魔様は長い赤髪をサラリと揺らしながら頷く。

「このダンジョンをクリアすれば、貴様を天国に行かせてやろう。」
「ダンジョン……?」
「実は最高神のジジイの趣味がダンジョン製作でな。」
「神様とかいるんだ……」
「何、閻魔たる私も居るのだ。神が居ても可笑しくはあるまい。権限を振りかざしよって忌々しいジジイだがな……」

ため息を吐きつつ頭を振る閻魔様。
閻魔様は確かに威圧感とか存在感とか凄いものがあるから納得できるけど、神様とか言われても……ぶっちゃけウソ臭い。

「……で、神様がなんでダンジョンとやらを作るんですか?」
「趣味もあるが、それ以上にすこぶる暇らしくてな。」

神様なにやってんすか。もっと地上に奇跡振り撒いてくださいよ。

「で、新作のダンジョンが出来たばかりのようだ。約200年ぶりの新作だが、今度のダンジョンは貴様ら人間の作り上げたものを盛り込んだと言っていた。難易度が非常に高いらしい。」
「はぁ」
「貴様は運が良い。ちょうどダンジョンが出来たところに来るなんてな。ダンジョンに挑めるなど……羨ましい! クソ、私も有給を使い切って居なければ……!」

どうやら閻魔様は雇われらしい。机を叩いて悔しがっている。

「えっとその、ダンジョンができていなかった場合どうなったんですか?」
「その仮定は意味が無い。貴様はダンジョンに挑む事が決定している。」
「いや、あの聞くだけでも。」

閻魔様は、ふん、と鼻を鳴らす。

「天国にも地獄にも適さないものは、面倒くさいので基本的に地獄行きだ。」

あー。地獄行きだったんだ。セーフセーフ!
………でも、もしかしたら地獄って大したことのない場所かもしれない。
落語でクリーンな地獄が出てくる話もあったし。

「あの、ちなみに地獄ってどんなところですか?」

ん? と閻魔様は右眉を上げる。

「人間が良い感じに酷いところを想像していたんでな。それに則って100年ほど前に大改装した。血の池でおぼれ続けたり、針の山を歩き続けたりできるぞ。行きたいのか?」
「いえいえいえいえいえ。」

ダンジョンあってよかったー!
神様ナイス!
安堵しつつ、僕はもう一度紙を見る。

『ダンジョン探索への参加者募集!』
・全10階層からなるダンジョンを踏破し、最奥にあるお宝を手に入れよう!
・意欲のある人なら誰でも歓迎!
・挑戦者の負傷、死亡、その他に対して、神様は一切の責任を負いません。


こんな感じの事がつらつらと書いてある。
そして最後、枠で囲った中に、奇妙な生物の絵がCGっぽく書いてある。
絵に矢印が引っ張ってあり、こんな魔物が出るよ!と書いてあった。

その生物を、僕は見た事があった。

「………アイルー……?」
「貴様知っているのか!?」
「わっ!」

唐突に閻魔様が立ち上がり、胸倉を掴んできた。ふんわりと柑橘系の匂いがする。ハルマサは否応無く鼓動が高まっていく。
こんな美しい上に良い匂いまでさせるなんて!

「あ、ええ、知ってますよ。ゲームに出てきました。後ろ足で立って、言葉を喋るネコです。」
「なん……だと……?」

そう言うと、閻魔様は手を離し、顎に手を当てて「バカな…しゃべるだと…?」などとブツブツと一人の世界に入ってしまう。
僕はとても手持ち無沙汰だ。

閻魔様はしばらくブツブツ言っていたが、一つ頷くと、こちらを見る。

「ハルマサよ! 貴様に頼みたい事がある!」
「……はぁ。」
「このアイルーとやらを捕獲してきてくれ!」

え、と思った。
何でアイルーを? というのと何で僕が?と言う疑問がわく。

「この絵を一目見た時から心奪われた! そして心底悔やんだ。なぜ、なぜ有給が残ってないのかと……!」

閻魔様は拳を震わせていたが、こちらをギラリと睨みつけると、人差し指で僕を指差す。

「だが、そこにこの魔物の正体を知るお前が現れた! しかもちょうど貴様は、罪も功も無いため、天国にも地獄にも送らなくて良い人材! これは貴様に頼むしかあるまい!」
「そ、そうですね。」

テンションたけーと思いつつ、気圧されてついつい頷いてしまう。
僕なら、僕みたいな貧弱なボウヤには絶対頼まないんだけどな、とも思った。

「さぁ行け! ハルマサ! ダンジョン制覇者に、始めて人類の名を刻んで来い!」



まぁ、なんとなくその時嫌な予感はしたのだけど、何かを言う暇も無く、『ダンジョン探索への参加者募集』の紙を持ったまま、僕は意識を失った。

そして目が覚めたら、地面にぽっかりと開いた穴、『ダンジョンNo.23』と書いてある立て看板、それ以外は見渡す限り草原、という場所に居たのだった。



<つづく>



<2>





目が覚めたら、草原でした。
すげぇ良い天気。超快晴。
でも僕の心は暗雲立ち込める酷い有様だった。

だって誰もいない。

閻魔様ー!
閻魔サマー!?
もっと説明とかぁー優しさとかぁー!
しっかりたくさん欲しかったぁー!

思い切り叫んでみたが、開けた空間に僕の声はあっという間に拡散して消えた。

寂しい。
寂しくて思わず立て看板(木製)に話しかけてしまいそう。
もしくは立て看板が話しかけてくれないかな。『オッス!オラ看板!』みたいな。「見たら分かるよ」って返すのに。

「それにしても、ここがダンジョン……?」

立て看板に書いてある数字と、自分が持っている探索者募集のビラに書いてある数字は確かに一致している。

しかし。
底の見えない落とし穴にしか見えない。
もしかして飛び降りなければならないのだろうか。
というかもっと説明とかないのだろうか。
いくらなんでもコリャ無茶だ。

あ、でも良く見たら奥のほうに光が見えるような……良く見えないけど。

むーむー唸りつつウロウロ歩き回っていた僕は、足を滑らせてあっけなく穴に落ちた。





【第一階層・挑戦一回目】





落ちた先は密林だった。

半分意識を失いつつ、また、密かにちょっぴり漏らしつつ。
僕は20秒ほどのフリーフォールの後、叩きつけられてグシャア、とかならず、地表付近で何故か失速。
ふわりと降り立ち、地面にしっかり立つことが出来ていた。

足が子鹿のように震えているが、まぁその辺はどうでもいい。
生きているって素晴らしい。
一頻り生の実感をした僕は、あらためて辺りを見渡した。

THE・密林とでも言おうか。
鬱蒼と草木が茂り、毒々しい色の花や、キノコが群生していたりする。
虫がほとんど飛んでいないのが救いと言えば救いである。

熱帯気候のようで、蒸し暑い。
ギャアギャアと甲高い声で何かが叫び、そこかしこで草木が揺れ動く。
遠くには潮の音さえした。
穴から落ちてきたはずなのに何故か太陽の光も感じられる。
不思議な場所だったが、神が創ったのであれば何でもありか、と無理矢理納得した。

なんだか夢の中のようにも思える。だが、雑多な匂いや音を感じた脳が、いやがおうにも現実なんだと叫んでいた。

「あ、そうだ。モンスター出るんだった。」

ふと思い出した。
モンスターが出るという意識を持てば、この密林の怖いこと怖いこと。
視界を遮る草や葉がそこらに生い茂り、逆に足元の草や枯れかけの枝は、こちらの場所を宣伝するかのように音を出す。

手元でクシャクシャになっていた紙には、階層ごとの大まかなコンセプトが書いてある。

第一階層から第三階層はテーマが『モンハン』だとか。
ちなみに第一階層は下位の村クエ、とかゲームをやりこんだ後が見える分類がしてあった。
同階層の中でも、奥に行くほど手強くなって来るらしい。

モンスターが出てくるんだろうか。

まさか、リアルでモンハンやるハメになるとは。
死亡フラグが「コッチにおいでYO!」と言っている気がする。
さっき聞こえた鳴き声って、もしかしたらランポスとかかもしれないし、そうであった場合、勝てる気が全くしない。
木に登ったら逃げられるかなァ。そうだと良いなぁ。

急速に不安になってきた。
未だに実感が湧かないが、ここに突っ立っていても不安が増すだけのような気がする。

とにかくまずは何か使えるものを……武器を探そう。
モヤシの僕が素手でうろつくには、この密林は怖すぎる。

武器に使えそうなもの……どこかにないか……?

目を皿にして、慎重に歩くこと十数分。
ガサリと草が揺れるたびに心臓が縮まる思いがする。
そうしてギャアギャアと叫ぶような声は近づいて来ているようないないような。

今の僕は、手ぶらである。
そして忘れていたけど裸足である。
格闘技のかの字も知らない僕が、今現在肉食のモンスターと出会って、生き残る確率は実に低い。
また、その前に毒っぽい草とか踏んであっけなく死にそうだ。
精神的に酷く疲れる。

すごく帰りたくなってきた。

くそ、何か、何かあって……!

出来るだけ土の部分しか踏まないように歩くことさらに十数分。
キノコとか、草とか色々あったが、素手で触っても良いものかどうか判断がつかないため放置。
そして大木の下で、半ば土に埋もれるようになっている白いものを見つけた。

「骨?」

触ってみると、手触りは固く、サラリとしている。
祈るような気持ちを込めて引き抜いてみる。
ズル、ズル、と抜けたのは長い骨だった。

「ははは! やった!」

バットくらいある骨だった。
嬉しさのあまり小躍りする。
ゲーム的には『棒状の骨』とかに該当するのではなかろうか。
60センチほどの長さは取り回しに適し、硬質な手触りとズシリとくる重さは力を込めるに申し分ない。
何という安心感。今ならいじめっ子たちにも立ち向かえる気がする。気がするだけだけど。

しかし声を上げたのは失敗だった。

禍福はあざなえる縄の如しとは上手く言ったもので、骨という幸運を手に入れた僕にもさっそく不幸がやってきた。

モンスター襲来である。


ガサガサと茂みが揺れる。
あたりに漂い始める獣臭が、獣の襲来を告げる。

しまったと思った時にはもう襲い。
思わず喉の奥で小さく悲鳴が漏れる。
いつの間にか10歩も離れぬ位置にモンスターの接近を許していた。

背中にコケを生やした豚。
頭はずんぐりと大きく、体は標準的な豚のサイズ。
短い蹄で地をかきつつ、モンスターはこちらを威嚇する。

「フゴッ、フゴッ」

こいつは―――モス。

「モスか……焦らせないでよ。」

ふいぃ、と額を拭う。
モンスターハンターの中で、僕が知る限り最弱のモンスター。
何故か怒っているが、それが何だというのか。
足が短いこいつなら、僕は簡単に逃げられるはず。

目の前で鼻を鳴らしてこちらを威嚇しているモスを見ていると、僕の心にムクムクと湧き上がるものがあった。
こいつくらいなら、と言う気持ちである。

(モスくらいなら、僕にも倒せるんじゃないか?)

何を隠そう、モンハン2Gにおいて、村クエ上位のガノトドス2匹討伐で躓き、攻撃力&防御力32倍のチートプレイに走ったハルマサだが、ハンターのようにモンスターを真っ向勝負で倒したいという気持ちは少なからず持っているのだ。

そして目の前の最弱を僕は見る。
こいつの攻撃は走って、体当たりするだけ。
しかも足が遅い。体が小さい。

ならばサッと避けて、手に持つ頼もしい骨で殴りつけてやれば良い。

(なんだ、簡単じゃないか!)

僕はニィと笑うと、骨を構え、叫んだ。

「さぁ来い!」

だが、僕は2秒後に驚愕する。

なんとあのモスが! 足の短いあのモスが!

「ピギィイイイイイイイイイ!」
「な―――はや―――?」

すごく足が速かったのだ!

ドパァン! と爆発的なスタートダッシュを切り、突っ込んでくるモス。
地面を抉り返しながらの驚異的な加速で瞬く間に距離を詰め、対応できない僕へと飛び上がり、

「がふぅ!」

衝突。
体の中でバキバキと骨が折れる音がする。

(こ、こんなのってないよ……)

弾き飛ばされた僕は後ろの大木へと叩きつけられ、後頭部を強打した。









そうして。

「おかえり。早かったな。」
「……!?」

目が覚めた僕は、机に座る閻魔様の前に立っていたのだった。




<つづく>






<3>





閻魔様の前に立つ僕は、薄汚れた格好で、手には骨。
どこの浮浪者だと聞かれそうな格好である。

触ってみると、さっき潰された僕の腹はなんともなくなっている。
傷が跡形も無く消えていた。

それはさておき、僕は閻魔様に聞きたい事があった。

「あの、なんでまた僕ココに?」
「死んだからだろ。」

閻魔様はこちらを見ずに書類にポンポン判子を押している。

「もう死んでたんじゃ……?」
「ん? ダンジョンは生きている者しか入れないからな。サービスで生き返らせてやっているんだ。お前はまたすぐ死んだようだがな。」

判子を置いて、閻魔様はこっちを見た。

「で、アイルーいたか?」
「いえ、あの、見つける前に僕が死んじゃいまして。」
「………そうか。」

残念そうな顔をする閻魔様に胸が痛くなってくる。

「ま、他の奴とは違って私が協力するお前は、なんと死に放題だ。これは物凄い特権だぞ? 何回でも挑戦できる。そんなの私だって無理だ。羨ましくて仕方が無いな。」
「そ、そうですかね……」

僕は何回挑戦しても、モスに瞬殺される自信があった。
心が重たい。
蹲ってしまいたいが、そうして閻魔様の不況を買った場合、すぐにでも地獄行きになる予感がする。
ダンジョンも地獄みたいなもんだが、希望がある分マシだろう。
一重に僕が今立っているのは、まだ見ぬ地獄への恐怖からなのだった。

まぁそれはさておき、気になる事がある。

「というかアイルーってどうやって連れてこれば良いんですか?」

今回入ってみて分かったが、ダンジョンの中から戻ってくるのは難しい。
頑張ってイャンクックとか飼いならせばあの落とし穴から脱出できるかもしれないけど、飼い犬にも手を噛まれる僕にモンスターテイマーの才能があるとは思えない。

「む? そうか、言ってなかったな。実は神の作るダンジョンには法則性があってな。」

閻魔様が言うには、一階層をクリアするごとに、入り口へと帰ってこれるアイテムを入手できるらしい。


僕がダンジョンから出てきたら、閻魔様には分かるそうなので迎えに来てくれるとのこと。

「ていうか一層をクリアできそうに無いんですけど……」

言ってて情けなくなるが、これは言っておかねばなるまい。
あそこに放り出されたってまたモスに会えば即座に死ぬだろう。
あの階層で一番強いのがモスであれば問題ないのだが、第一層は村クエの下位にあたるそうだからそれも望み薄である。
そうであれば、何かしら対抗手段がほしい。
閻魔様も協力してくれるって言っているし。
僕は、訥々と、最弱のモンスターに一蹴されたことや、それ以上強いであろうモンスターには確実に手も足も出ないであろう事を閻魔様へと伝える。

すると閻魔様はふ、と笑う。

「正直な奴だな。だが、心配はいらん。もともと人間にはダンジョンは荷が重いものだ。それを加味して、貴様には生き返らせた時に特別な術式を組み込んである。」
「術式、ですか?」

嗅ぎなれた匂いがプンプンしてくるのを僕は感じていた。

「その名も、『レベルアップシステム』と『熟練度システム』だ!」

そう、僕の大好きなチートの香りだった。










レベルアップし、強くなる。
色々な技能を習得し、さらに熟練し強くなる。
閻魔様が説明してくれたのは簡単に言うとこのようなシステムだった。
とにかく二つのシステムを組み込まれた僕の身体能力は、数値に直すことができるようになっており、閻魔様によって紙に書き起こされた数値は以下の通りである。

レベル:0
耐久力:2
持久力:1
筋力:3
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5

熟練度は割愛。
システムを組み込まれたばかりなので、全ては等しくほぼゼロ。
前回生き返るときに組み込まれたため、ひっそりと気配を殺すようにダンジョンを歩いた結果が反映されて、少しだけ穏行スキルと歩行スキルが上がっていたのかもしれないが、デスペナでそれもパー。

ちなみにレベルを除いたステータスの全ての数値は、成人男性の平均を10とした時の値である。


「お前弱いなー。」
「…………。」

一番高い精神力でも成人男性の半分とか。
なんて打たれ弱く折れやすい僕の体と心。


ちなみに各項目は

耐久力……どのくらいまで我慢できるか、という指標。HPと守備力を合わせた感じだろうか。

持久力……連続して物事を行う際、どれだけパフォーマンスを持続できるか、という指標。

筋力………全身の筋肉の強さの平均を示す指標。量ではなく、質。

敏捷………身軽さ、素早さを示す指標。移動だけでなく腕を振る速度などにも影響する。

器用さ……手先や体の動かし方がどれくらい上手いか、という指標。また、技芸をどれだけ上手くこなせるかという指標。

精神力……恐れに対する心の強さを示す指標。集中力などにも影響する。

こんな感じらしい。



「ていうか僕のレベル0ってなんか新しいですね。普通1から始まるものだと思ってましたけど。」
「ああ、お前死んでしまったからな。一つ下がっているのだ。」
「………えっ?」

死んだらレベルが下がるようだ。
今回はレベル1の状態からレベルダウンしてレベルゼロ。
おかげで元々低かったであろうステータスが残念なことになっているらしい。

「賢さとかはないんですか?」
「賢さとか(笑)。お前、頭の出来は人に頼るもんじゃないだろう。自分で努力しろ。」

そうですけど。なんか納得いかないな。笑われたし。

「それでハルマサ。やる気が出たようだから、もっとやる気が出るようにしてやる。」
「どういうことですか?」
「うむ。お前がアイルーを連れてくる事が出来たら、一つ、お前の願いを叶えてやろう。私の力が及ぶ範囲だがな。」

いつの間にかお前呼ばわりになっているのは、親愛の証か、ただの下僕扱いになったのか。
まぁどっちでも良いんだけど。

僕は閻魔様に、とてもとても気になっていたことを何とかする機会をもらうことにした。

「それなら、僕の住んでいた家に返していただけませんか?」
「生き返りたいのか? それはちょっとな……」
「いえ、一日でも、半日でも良いんです」

家に帰ってちょっと作業できる時間があれば良い。
何故なら、僕のパソコンのハードディスクをどうしてもクラッシュしたいからである。
そして床下に隠した宝の数々も処分したい。
パソコンにはパスワードをかけてあるし、床下の宝も早々見つからないとは思うが、見つかる可能性は何時だってある。

それに、母親に別れを言いたい気持ちもある。

閻魔様は少し意外そうな顔をしていた。

「そんなに現世に執着があったのか?」
「ええ、どうしてもやらなければならないことがありまして。」

力強く言い切ると、閻魔様は興味深い、とでも言うように目を細める。

「罪も功も無いお前のような人間は、現世への執着は無い物と思っていたのだが、そうでもないのだな。」

閻魔様は、ぎし、と背もたれに身を預ける。

「ふむ。ではこうしよう。貴様が一層クリアするごとに一日、貴様を現世に帰してやる。これでどうだ?」
「え、えと、嬉しいんですけど……」

そう何度も帰されてもする事がなさそうなのだが、どうしよう。
というか死んだはずの人間が度々現れては僕の家族も困るのではないだろうか。

「死んでる人間が何度も帰ったって仕方がないですよ」
「ん? 恐らく死亡扱いにはなっていないぞ。お前をダンジョンに送った時に、生き返らせたため、肉体はこちらに引っ張られている。今、お前は死亡ではなく失踪扱いだろうな。」
「し、失踪!?」

僕は間違っても家出するような子どもではないし、多分部屋にはつけっ放しのプレステ2が置いてある。
母親にとって謎過ぎる状況だろう。
死んでいるならともかく、居なくなるだけだったら中途半端だ。心配させてる気がするなァ。
第一層のクリアを早急に目指さなければならない。
閻魔様にアイルーを献上し、母さんの混乱を解くために。

確かにやる気は出たのだった。


「じゃ、行って来い。」
「ま、待って下さい!」

閻魔様はあげ掛けていた手を下ろす。

「あの、靴とかもらえません?」
「なんだ。そういうことなら早く言え。」

そう言って閻魔様は指を鳴らす。

「え? ……おお!」

気付けば僕は靴を履いていた。
すごいな閻魔様。本人に気付かせず靴を履かせるなんて。

靴は運動靴だ。
素足で履いてるから違和感あるけど。

「お前の靴っぽいのを持ってきてやった。これで良いか?」
「は、はい!」
「じゃあ行って来い!」

ビューン!
とかそんな感じで閻魔様の手からオレンジ色の波動が飛び出し、僕は意識を失った。

迷宮探索リスタートである。



<つづく>





<4>





【第一層・挑戦二回目】






今回は直接穴の上にでも転移してきたのか、気付けばあたりは密林だった。

相変わらず、蒸し暑い。
僕は、遥か頭上に見える入り口の穴確かめた後、少し場所を移動した。

もしかしたら他の探索者が降ってくるかもしれないからだ。

鬱蒼とする密林の中で、少し開けた場所を見つけた。
大木が倒れており、それに巻き込まれて周りの気が倒れた結果できたと予想できる空間である。

「はぁ……」

僕はそこにたどり着くまでに体力を消耗し尽くしていたので、倒れている大木に腰掛けて休憩を取る。
ただ歩いただけなのに、持ち歩いていた骨が重いし、肺も喉も横っ腹も何故か頭も痛い。

さすが持久力1である。幼稚園児以下じゃないだろうか。

一頻り呼吸を整えた僕は、立ち上がり(その際立ちくらみがしたが踏ん張った)、この場所に来た目的を果たすことにした。

目的は、戦いに役立つスキルの習得。
どうやったら手に入るかわからないので、適当に色々やってみることにしたのだ。
チートは大好きなので、期待が高まり、やる気は満々だ。
ちょっと位の苦しさなら我慢できる気がする。

そして最初に選んだのは簡単な運動。
すなわち素振りである。


「ふん! ふっ!」


ブンブンと野球のバットの持ち方で素振りをする。
こんなモヤシの僕でも、昔は草野球に参加した事がある。
三振して、相手側のピッチャーに自信をつけさせただけだったが、その後悔しくて、バットの持ち方くらいは調べたのである。
まぁ、野球には二度とお呼ばれしなかったので意味のない行為ではあったが、人生何処で何が役に立つかは分からないものだ。

骨をバットのように持ち、振る。力強く、体重を乗せるように。
しかし、やる気溢れる心と違い、僕の体は貧弱そのもの。
バットを振る度に体は流れてしまう。

二回振ったら息が切れ、三回目には汗が噴出し、四回目には肩が外れそうになる。

もうちょっと頑張れよ僕の体……!

流石、レベルマイナスは伊達じゃない。
モスに瞬殺された時と比べてもさらに弱くなっていると確信できる。

しかし、頑張らなければ、死に続けて弱くなり続けるだけである。
その内筋力が衰えまくって呼吸も出来ずに、死に続けることになるかもしれない。
なんという地獄。
しかし、振り続けることでその地獄スパイラルから逃れ出る事が出来るかもしれないのだ。

それでまぁ、休み休み振り続けていると、突然脳裏にファンファーレが響いた。
聞いた事がある曲だ。
……高校のチャイム代わりに使われていた……えーと、ヴィヴァルディの「春」の一節か。

頭の中で響くっていうのが気持ち悪いな。

ファンファーレに次いで、頭の中に、聞き取りやすく綺麗な声が響く。ニュース番組のキャスターさんみたいな声。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 長物を一定時間内に一定回数以上強振することにより、スキル「棒術」Lv1を取得しました。取得に伴い筋力にボーナスが発生します。≫

おおお!? 何かキタ!

不意に手に持つ骨の棒が軽くなる。
うお! 何だコレ!
数時間つけていたパワーアンクルを外したような感覚だ!
しかもそれがずっと続くとは!
これが筋力アップの恩恵か!
しかも何だか骨が手に馴染む。
本当にスキルを得たみたいだ。

どうやら当てずっぽうだったけど上手く行ったらしかった。
初心者に優しいシステムだなァ。

「ふふふふ! 今なら、素振りが10回連続でいけそうだー!」

初スキルである。
テンションが高くなるのは仕方がないだろう。

「ふん!ふん!ふん!……ふんっぐ! ……はぁ、ちょっと、ハァ、休憩……」

しかしダメだった。

調子に乗って振っていたが、持久力は変動していないので、すぐにバてる。
記録は変わらず四回である。
おまけに手首をくじきそうになった。

だが、スキルを覚えたことで、テンションが上がっていたのだろう。
僕は集中して骨を振り続け、頭に二回目のファンファーレが響くのはそう遠い時間ではなかった。


≪「棒術」の熟練度が2.0を越えました。熟練に伴い筋力にボーナスが発生します。≫













骨バットを振り続けてどのくらい経っただろうか。

「棒術」Lv1スキルの熟練度が5.0を超えた時に気付いたのだが、自分のステータスの見方を発見した。
なんか、こう自分の頭の中を目で見るような、そんな感じである。

で、熟練度アップはしっかりと反映されており、以下のような状況となっている。


レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:3
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り5

スキル
棒術Lv1  :5.03
姿勢制御Lv1:1.12



筋力は「棒術」Lv1スキルが1.0上昇するごとに1あがり、さらに5.0になった時は、耐久力・持久力・筋力・敏捷にボーナスがついたのだ。
また、同じ姿勢をとり続けたことにより取得したスキル、「姿勢制御」の取得時のボーナスが持久力アップであったのも嬉しい。

一心不乱に振り続けてきたわけだが、なんと筋力は平均に届きかけている。
スゴイ進歩である。
体重を乗せた一撃が放てるようになっているのが自分でも分かる。
まぁそれでも素振りは20回もしたらバてるのだが。

筋力の上昇に伴って発覚したのが、筋力は素振りに使わないところの筋力も上がっているということである。
全体的に筋力が無かったもやしの僕が、今や筋力だけは大人の人とタメ張れる。
見た目が大して変わっておらず、少し筋肉がついたかな、というくらいなのにスゴイ進歩である。

耐久力が落ちているのは手が豆だらけになっていることを反映しているのではないだろうか。
手に豆が出来ただけで、HPの3分の1が減るなんて、流石僕である。
もしかしたらお腹が減って喉が渇いているので、そのせいかもしれないけど。

そしてステータス画面で視線を下にずらせば、スキルも見る事が出来るようだ。


■「棒術」
 棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱えるようになる。


■「姿勢制御」
 姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。「よろめき」に弱耐性。


以上のように大まかな内容が分かる。


「棒術」スキルも5.0ときりが良いので、そろそろ違うことをしたい。
というかお腹減った。

しかし、そこらに生えているキノコなんかは食べたくない。
モンハンシリーズには、結構恐ろしい効果を持つキノコがたくさん出てくるので、どうも尻込みしてしまうのだ。

「これとかは多分いけると思うんだけど……」

目の前にあるのは薄っすらと青いキノコ。
おそらく「アオキノコ」であると予想できる。
モンハンシリーズでは薬草と調合することで回復薬になるという、貧乏ハンターには欠かせないキノコである。
でも、怖くて手が出せない。
もしこれが、毒入りでも、僕には判断できないのだ。

うーむ、うーむとキノコを見て唸っていたら、頭の中でファンファーレが響いた。

≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫

「新しいスキルか!」


■「観察眼」Lv1
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、情報を取得できる対象が増加する。


都合いーなー。助かるけど。

キノコを見てみると早速効果があるようだ。

≪対象の情報を取得しました。
【アオキノコ】:増強作用を秘めたキノコ。食べれないこともない。≫

おお、一応食べれるようだ。ありがたい。
そのままアオキノコの隣のシイタケっぽいキノコを見てみると、頭の中で警告音が響いた。

≪ポーン! 対象の情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv2が必要です。≫

そうですか。
レベルってどうやったら上がるんだろう。

というかなんで見ただけで情報が……
不思議で仕方ないが、このダンジョン自体が不思議の塊なのでもう気にしないことにする。
諦めこそが適応への近道なんじゃないかな。多分。

では早速。

アオキノコを毟り取り食べる。

「いただきます!……ムグ………………味がしないな………」

すごく塩がほしい。
網と火があれば最高だ。

キノコを5つほど土を払い落としつつ食べたところで、今度は喉の渇きが気になりだした。

水……どうやって探せば良いんだ?

地面を見ても分からない。
上を見上げても分からない。



観察眼なんて見つめてただけなのにスキルが発生した。
だったら、他にも何か適当にやればスキルが発生しないかと色々試行錯誤する。

雨乞いスキルとか無いかな、と思いつつと祈ったり踊ったりしてみたところ、「祈り」Lv1と「舞踏術」Lv1を得て、精神力と敏捷がそれぞれ上昇した。
それは美味しかったが、雨乞いは出来なかった。

それどころか、「雨降れやぁ!」と叫んだところ、


≪特技「雨乞い」を使用するには、レベルが10足りません。魔力が900足りません。器用さが1997足りません。精神力が1994足りません。スキル「舞踏術」Lv9、スキル「神卸し」Lv9、スキル「水操作」Lv9、スキル「風操作」Lv9を取得する必要があります。触媒「雨の結晶」「雲貝」が不足しています。魔法陣を作成してください。≫


以上のナレーションが頭に響いた。
なんか色々足りないことはよく分かった。
しかし「雨降れ!」って叫ぶだけで発動するなんて。
と言うかスキルじゃなく「雨乞い」って特技だったんだ。
特技って何だろう。

しかも魔力も使う。
魔力って僕には存在しないけど、このステータスの方式だから、大人の平均所持魔力の90倍もの魔力を使って、さらに色々触媒やら何やらを使わないといけないのか。
雨乞いって大変だね。

ため息をつきつつ、そういえば何かここは周りが静かだなァと思い、そして気付く。


「そうか、音だ!」


という訳で、遠くの音に気を配る。
これで、さっきの「観察眼」と同様、音に関する何らかのスキルが出るはず。

さっきから遠くでギャアギャアと甲高い声がしていたのでちょうど良いと思い集中してみた。
そうして3分くらい経っただろうか。

水探しに使えそうなスキルがやっとでた。

≪一定時間、同音源について注意を払ったことにより、スキル「聞き耳」Lv1を取得しました。≫


■「聞き耳」Lv1
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。


「これは……使える!」


水探しにも使えるし、何より索敵に使える事が嬉しい。

このスキルは有体に言って耳が良くなるスキルらしい。
聞き流していた音も、はっきりと聞こえるようになった。
今なら後ろからの奇襲にも驚かないだろう。

避けれるかどうかは別にして。


音に集中すると、せせらぎの音こそ拾い上げる事が出来なかったが、前方、後方、左方に動く獣の気配を感じる。

やはり便利だ。

思わずニヤリとしつつ、僕は敵の居ないであろう右に向かっていった。




<つづく>




現在のステータス

佐藤ハルマサ(18歳♂)
レベル:0
耐久力:2/3
持久力:3/3
筋力:9
敏捷:4
器用さ:3
精神力:6
経験値:次のレベルまで残り5



スキル
棒術Lv1  :5.01
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.13
観察眼Lv1 :1.09
聞き耳Lv1 :1.12
祈りLv1  :1.00


■「棒術」Lv1
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。

■「舞踏術」Lv1
 踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽などを表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。

■「姿勢制御」Lv1
姿勢を保つ技術。行動中または静止中における姿勢の保持が容易になる。熟練に伴い持久力または器用さにプラスの修正。上級スキルに「身体制御」がある。「よろめき」に耐性が付く。

■「観察眼」Lv1
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、情報を取得できる対象が増加する。

■「聞き耳」Lv1
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。

■「祈り」Lv1
 神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。








[19470] 5~8
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:aef51c80
Date: 2010/08/04 23:10




<5>




鬱蒼と茂る森の中。

「聞き耳」を立てつつ草を掻き分け歩いていくと、耳にチョロチョロと水が流れる音を捉えた。

(水か!)

思わず走り出しそうになる足を抑えつつ(走ったら即座にスタミナが切れる)、僕は音源へと近づいていく。

そしてバサッと草を掻き分けると――――――

確かに水源はあった。

苔むした岩の間から、細くはあるが、絶え間なく水が流れ出て、小さな水溜りを作り、そして水溜りから溢れ出した水は川の基点となってハルマサの来たほうとは反対側へと流れている。
澄んでおり、とても美味しそうな水だった。

しかし、その前に存在する障害。
そいつが問題だった。

「またお前か……」

そう。
またモスであった。

今まで寝ていたのか、寝転んでいたモスはハルマサに目を向けつつ、バッと跳ね起きる。
確実に豚の動きじゃない。

「君は、モスであって、モスじゃないんだね。」
「フゴッ!」

モスはトーントーンとその場で縦に何度か飛んでいる、その高さがおかしい。
優に1メートルは飛び上がる。

こんな機敏に動かれたら、きっと大剣は当たらない。
ボウガンだって散弾くらいしか当たらないに決まっている。

小さな的に、素早い動き。
普通に強敵だった。
もうこのダンジョンにモスは、スーパーモスと呼ぼう、と思いつつ、ハルマサは叫ぶ。

「だが、僕も以前の僕じゃない! かかって来い!」

ハルマサには勝算があった。
前回やられたのは、あまりに早い挙動にも原因があったが、なによりの敗因は驚いて体が固まってしまったことだ。

ならば予想している今は負けるはずが無い!


……そう思っている時期が僕にはありました。


モスはグッと体を沈ませると、次の瞬間、


「な――――――はや―――?」


残像すら残る速度で突っ込んできた。遅れたように地面が弾ける。強烈な力で踏み切った証だ。

(そんなバカな! 前は本気じゃなかったとでも!?)

混乱するハルマサ致命的に対応が遅れ。

またもやアバラが砕ける音を聞いたのであった。










【執務室】




そうして気付けばまたもや閻魔様の前である。


「で、また死んでしまったと。」

閻魔様の鋭い視線が非常に痛い。閻魔様は睨んでいるつもりは無いだろうが、受け取る側の気持ちとして。

「はい……」

しょぼくれる僕を見て、閻魔様は困ったように微笑む。

「落ち込むなハルマサ。レベルはマイナスになってしまったが。すぐに挽回できるさ。」
「ふふふ、泣きそうですよ……」


デスペナルティによるマイナス修正は以下の二つ。

・レベルダウン。それに伴う全ステータス20パーセントダウン(小数点以下切り捨て・最低1ダウン)。

・スキル熟練度ダウン。全熟練度の20パーセントダウン(小数点以下切り捨て・最低1ダウン)。スキルによって修正されていたステータスの再修正。



以上の修正が罹り、ハルマサのステータスは非常に残念なものになっていた。



ハルマサ(18♂)の残念なステータスはこちら。


レベル:-1
耐久力:1/1
持久力:1/1
筋力:7
敏捷:2
器用さ:3
精神力:4
経験値:次のレベルまで残り3


スキル
棒術Lv1  :4.01





スキルが一気に寂しくなった。


「あの、デスペナ厳しすぎません?」

ついに耐久力まで1になってしまった。
今度手の豆を潰したら、それだけで僕は死んでしまうのだろうか。
いや、そんなことはない。
ないと良いなぁ。

「そうは言ってもだなハルマサよ、生き返れるだけで安いものだろう?」

閻魔様はいつの間にか非常にフレンドリーな感じである。
その容姿に心臓をわしづかみにされている僕としても嬉しいことこの上ない。
閻魔様はこちらを見る。

「それで、なんで死んだんだ?」
「…………。」

前回と同じモンスターに即殺された、などと言っても良いものか。
閻魔様に見放されるんじゃないだろうか。

「な・ん・で・だ?」
「ヒィ……!」

プレッシャーをかけるのはやめてほしい。

結局洗いざらい喋った結果。

「なんで同じ相手に負けるんだ。一度食らった攻撃なら避けれるだろう。」
「いやそんな、セイント星矢じゃあるまいし」

だいたい、あの豚もどきはずるいのだ。
ぴょんぴょんと縦への視線移動を意識付けて置いてから、突然、最高速で突っ込んでくるのだ。
いや、勝手に引っかかっただけだけど。
ていうか早すぎるよ豚なのに。初見殺しにも程がある。

……未だにモスにすら勝てない僕は何なのだろう。
あいつは最弱なのに。
このまま負け続けて、その内ステータスオール1とかになりそうだ。
そうなったら僕はカス中のカス、キングオブカスになってしまう。

「ふぐうう、ううぅうう…」
「な、泣くな。」

思わず涙が流れてしまい、閻魔様に心配をかけてしまった。

「す、すみません……グス…こんなカスみたいな人間ですんません…」
「そうネガティブにならんでも」

まぁでもそうだ。
僕の大好きな歌手も歌っているではないか。
泣いたって何も変わらないと。
まぁ実際女性が泣いていれば、心が変わる男性はたくさんいると思うけど、男の僕は泣くだけ時間の無駄なのだ。

しかも閻魔様に迷惑をかけている。
無駄どころか害でしかない。
僕の涙って、僕の存在と同じくクソだな。

僕は唇を噛み締め涙を拭くと、へへ、と無理やり笑いを浮かべる。

「泣いてる場合じゃないですよね。送ってください。何、モス如き、今度は軽く倒して見せますよ」

完全に強がりだったが、そんな僕を見て閻魔様は微笑んでくれた。

「まぁ確かにお前はカスだが、それでも前向きな良いカスだ。お前の姿勢を私は好ましく思うぞ。それじゃあ、行ってこい!」

閻魔様に褒められ(?)て有頂天なっている僕は、閻魔様の細く長い指から放たれるオレンジ色の波動で、またもやダンジョンへと飛ばされるのだった。

バビューン!

「アイルー頼んだぞー! って聞こえてないか。」












【ダンジョン入り口】


さて、ダンジョンの入り口である。

周りは相変わらず一面の草原。
そよそよと優しく風が吹き、空は呆れるほど良い天気である。

今回は穴の上に転移されなかったのか、ダンジョンに入るまで僕は安全なココでいろいろ出来る。
手に豆はない。
相変わらず傷はリセットされているようだ。
ついでに言えば喉も渇いていない。




何が必要か考えて、とりあえず以前取得していた技能を取り直すことにした。


まず素振りから。
2回目の死亡の際、離していなかった骨を振りかぶり、一回、二回、と振りはじめる。
まぁ四回で当然の如く限界が来て、座って休む間は木製の立て看板を凝視する。


≪一定時間同対象を観察したことによりスキル「観察眼」Lv1を取得しました。≫


まずは一つ。

息を吐くと、ハルマサは骨を手に取り立ち上がった。



<つづく>





<6>


骨を振り終えた瞬間、頭の中にファンファーレが響き渡る。曲はもちろんヴィヴァルディの「春」だ。


≪スキル「棒術」の熟練度が5.0を越えました。耐久力、持久力、筋力、敏捷にボーナスが発生します。≫

「ふう……」

結構時間がかかったが、これで以前とっていたスキルは全て取り直した。
おまけに遠くを眺めていた時にスキル「鷹の目」Lv1を取得している。これは単純に目が良くなるスキルのようだ。


■「鷹の目」Lv1
 遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い、焦点距離が延長する。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。



現在の状況はこんな感じ。


レベル:-1
耐久力:2/2
持久力:3/3
筋力:8
敏捷:4
器用さ:3
精神力:5
経験値:次のレベルまで残り3


スキル
棒術Lv1  :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:1.76
観察眼Lv1 :2.51
鷹の目Lv1 :1.31
聞き耳Lv1 :3.83
祈りLv1  :1.00



何だかすごく強くなったように見える。
全部平均以下なんだけどね。
しかしまだまだ、こんなことじゃ満足しないよ!


僕はこの平原で、持久力や敏捷をあげたいと考えている。
筋力は及第点だが、足が遅いのは致命的である。
走ったらすぐ息が切れるのもまた同じく。
最低でも3くらいは持久力がないと足系スキルを上げることは出来ないと思っていたため、今まで必死こいて骨を振りまくっていたのである。
「棒術」の熟練度5.0で色々ステータスが上がるって知っていたしね。

という訳で、この地で少し走っていくことにする。

まずはダッシュだ。
どのくらいの速度でどのくらい走れるか知っておきたい。


「うぉおおおおおおお!」


結果:小学生並の速度で20メートルほど走ったら、足がもつれてこけた。

下が柔らかい土じゃなかったら、また体力が減っていたかもしれない。
草原でよかった。

あと自分で走っていて思ったが、全力で走ってもやっぱり足は遅い。

走り込みが必要だが、高速で動く技能をとる条件を、今の持久力では満たせないと予想する。
よってまずはスローペースで長く走ることを目標とする。
持久力を上昇させないと。

「よし!」

僕は一つ頷くと元気よく走り出した。




「ヒィ……ヒィ……」

まだ!? スキルはまだ!?

歩いているよりは早いかな? という速度でヘロヘロになりながら走り続ける。
持久力はとっくにゼロだ。
モンハン2Gで言えば、スタミナがなくなってもRボタンを押して走り続けている状態かな。

とても辛くて苦しいです……!


そうなってからどれくらい走っただろうか。
もう思考はまっ白で、頭痛、吐き気、胸の痛み、何故か眼球の痛み。
足は鉛を通り越して泥のように感覚が無く、腕を振るのも諦めざるを得ないような状態となっていた時。

頭の中で音が鳴った。


ファンファーレだ!


≪一定の速度で一定時間走り続けたことにより、「走破術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫

≪持久力が無い状態で一定距離を移動したことにより、「撤退術」Lv1を取得しました。取得に伴い持久力にボーナスが付きます。≫


二つ同時の取得だった。
持久力が上がったことで、体がすっと大分楽になる。
思わず立ち止まった僕がなんとか吐き気をギリギリ堪えられたんだから、大きな変化である。
倒れなかったし。



■「走破術」Lv1
 長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。


■「撤退術」Lv1
 逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。




頼もしいスキル、なのかな?
よく分からないけど持久力も増えたし、やっと次のメニューに移れるというもんだ。
次は何にしようか。

反復横跳びかダッシュか……






まぁどっちからやっても一緒だと思い、とにかく頑張ってやってみた。

僕はこんなにも頑張る人間だっただろうかと疑問が湧くが、結果がすぐに出るという事実が僕の行動を後押ししたのだろう。
僕は必死に足を動かしていた。


結果、体の中の多大な水分とカロリーを犠牲に、見事ファンファーレが鳴り響き、以下のスキルを得た。



≪一定時間内に一定速度での移動、停止、方向転換が一定回数以上行われたことにより、スキル「撹乱術」Lv1を取得しました。取得に伴い、敏捷にボーナスが付きます。≫

≪一定時間以内に一定速度以上での移動が一定回数以上行われたことにより、スキル「突進術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫



■「撹乱術」Lv1
 敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。


■「突進術」Lv1
 敵に向かっていく心のあり方。敵対対象を基点とした一定空間内で、敵対する対象との距離を縮める際、ひるまずに素早く移動する事が出来る。熟練に伴い、敏捷または精神力にプラスの修正。上位スキルに「突撃術」がある。




「突進術」の素早く距離を詰められるというのはとても有用である。
何故ならダンジョンでの死因は二回とも、素早く距離を詰められた後の体当たりなのだ。
これを軽視するようでは何で死んだのか分からない。
また、ふたつのスキルは、互いを高めあうためさらに嬉しい。

おまけにもう一つ、反復横とびをしている際に「姿勢制御」の熟練度が2.0を通り越して3.0まで溜まったため、持久力と器用さも一つずつ上がった。
特に器用さは重要だ。
走っている際よく靴紐がほどけてたのだが、結びなおす時間が短縮されて単純に助かったのだ。
というかこんなことすらも満足に出来なかった僕の器用さは本当に酷いと思う。
未だに上手く結べないし。



加えて、「聞き耳」や「観察眼」、「鷹の目」も休憩中に使えるため、ぐんぐんと熟練度を伸ばし、中でも「聞き耳」は熟練度が9.0を越えた。
ココまで、特に聴力に変化がない以上、熟練度はスキルに対する経験値のようなものだと判断するのが正しいだろう。
スキルの能力値変化が起こるのはレベルが上がった時だと考えると辻褄が合う。

という訳で10.0を越えた時、スキルのレベルが上がるかどうか少し期待してしまう。






「さて、と……」


いい加減お腹も空いてきた。
まだまだやりたいない感じはあるが、何か今ならモスに勝てる気がするし、とりあえずダンジョンに突入して腹ごしらえだ!


「トリャー!」


僕は威勢良く穴に飛び込むのだった。



<つづく>






<7>




【第一階層・挑戦三回目】





20秒間の自由落下は、まだ慣れない。
というか、いつか慣れてしまう日が来るんだろうか。
なんかいやだなァ。

緩みそうになる尿道を締めていると、落ちてきた勢いが嘘のように、僕はふわりと降り立った。
思い出したかのように重力が襲いくるので少し気持ち悪い。


さぁ、まずはキノコを食べよう。
未だに名前が分かるキノコは少ないが、それでも食べる分には問題ない。

前は青いキノコしか食べなかったが、今回は新たな味にチャレンジである。

目の前にはオレンジ色、黒色、赤色、黄色、紫色、灰色、など様々なキノコが並んでいる。
特に灰色は何か変なオーラが漂っているように見える。

よく見ようと目に力を込めると、脳の裏でポーン、と電子音っぽい音。警告音である。

≪対象の情報を獲得するには、スキル「観察眼」Lv2を取得する必要があります。≫

「観察眼」スキルが不足しているということか。

今、「観察眼」Lv1スキルは8.93。
まだまだ届きそうに無い。10.0になってもLv2になるか分からないし。
それ以外のキノコで、名前が分かるのはオレンジ色のものだけだった。

≪【キノコキムチ】:寒さを緩和し、スタミナを少量回復するキノコ。≫

オレンジ色のキノコは鼻を近づければなんとも懐かしいというか芳しい匂いがする。
ニンニクと唐辛子の匂いである。

「………はむ。」

口に入れた途端、舌の上で鮮烈な味が踊り、匂いが鼻へと突き抜ける。

コリャあ……ウメェ!

懐かしくも美味しいキムチ味だった。
キノコキムチって加工品だと思うんだけど……まぁいいか。ほんと上手いなコレ。

死んでからまだ二日もたってないだろうけど、なんだか、故郷の味を食べているような懐かしい気持ちになる。
あー、家に帰りたくなってくるなァ。
頑張ろう。

その前にもう一つ……ウマイ!













「さーて水、水。」

キムチ味のキノコを食べて、さらに喉が渇いたハルマサは、「聞き耳」を立てつつ移動を開始する。
前以上に集中し、今度は寝息すらも聞き逃さないと、気合を入れての移動である。

そろりそろりと、地面を注意深く観察しながら進んでいく。
ココでこけて耐久が残り1とかになったら泣くに泣けないしね。

そうして10分ほど、ノロノロと進むうちに、まず「聞き耳」、やがて「観察眼」スキルが10.0を突破。
これまで、熟練に伴ってステータス変化を起こさないスキルは熟練度が溜まっても何も起こらなかったが。今度ばかりは違うようだった。

≪「聞き耳」の熟練度が10.0を越えました。「聞き耳」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、効果範囲が増加します。≫

≪「観察眼」の熟練度が10.0を越えました。「観察眼」のレベルが上がりました。レベルアップに伴い、情報を取得できる対象が増加します。≫


辺りが一気に騒がしくなったようだった。軽く混乱しつつ、目を瞑って集中すると、遠くに水の流れる音を発見する。
そして、また獣の気配がそこに居るのも。

しかし、今度は鉢合わせるような真似はしない。大きく迂回して、中流あたりで喉を潤せば良いのだ。
正面切って戦うだけがダンジョン攻略じゃないはずだ。

そう思い目を開ける。自然とうつむいていたのだが、地面を見て、えらいことに気付いてしまった。

「……ッ!!」

カラスの足跡を何十倍も大きくしたような窪みが、植生に隠れるように左のほうから右のほうへ延々と続いている。
しかも通り道にある大木の根が踏み潰されている。
相等重いということか。
どれだけ大きいんだよ。

ここは大型の魔物の通り道だということか。
というかイャンクックな気がする。モンハン的に。

急いで離れなければ。
くそう、なんで僕はキムチなんか食ったんだ。
匂いで追いかけられたらどうする。
あの怪鳥の速度がモス以下なはずがないだろう!

「聞き耳」全開だ! いや、全開もクソも無いんだけど。集中していかないと!

その時遠くでワッサワッサと翼で空を叩く音がする。
次いでズシーンという音。

(何か聞こえたー!)

今、絶対怪鳥が着地した音だよね!?
しかもこっちに近づいて来てるだと!?

ど、どうしようどうしよう! って決まっているよ、逃げるんじゃイ!
さぁ逃げよう! そら逃げよう!

今こそ「撤退術」を見せる時! 光の速度で走ってやるぜ!

「うぉおおおおおおお!」

僕は用心とかそういうのを全て放り投げて、怪鳥らしきモンスターから全力で距離をとるのだった。
















そうして今。ハルマサは全力で隠れていた。
大きな葉っぱの下に、身を伏せて。
多分キムチの匂いのする口を両手で必死に抑え、鼻息も出来るだけしないように、震えながら隠れているのだ。

そのすぐ10メートルほど先。


「ブルフゥ! ブルフゥ!」

(おっとこヌシきた――――――!)


巨大なイノシシが鼻息荒くキノコを食べているのだ。

だだだ誰か助けて――――――!

あれ? おっことヌシだっけ?




<つづく>




ステータス


佐藤ハルマサ

耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:6


所有スキル

スキル
棒術Lv1  :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:3.56
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74
観察眼Lv2 :10.2
鷹の目Lv1 :7.12
聞き耳Lv2 :10.3
祈りLv1  :1.00




装備
ジャージ上下        ……お腹の辺りが少し破れている。
運動靴           ……ナイキ。通気性は良い。
棒状の骨          ……バット的な大きさ。まだ何にも叩いていないので新品(?)同様。






<8>





怪鳥から逃げ出した佐藤ハルマサは逃げた先で衝撃の出会いを体験する。
そこに居たのは、ハルマサの仇敵・ハイパーモスよりもよっぽど強いモンスター。
茶色い剛毛に身を包み、立派な牙を二本口元に携えたイノシシでした。

(こ、このモンスターは! おっとこヌシ、じゃなくて、ドスファンゴ!?)

いや、もしかしたらブルファンゴかも知れない! けどこんな8メートルもあるようなモンスターがブルファンゴだったら僕は泣く!
現在進行形で泣きそうだけど。

ちなみに体長8メートルくらい、という情報は「観察眼」が教えてくれました。大きさを見て取ることは、対象のレベルが高くても出来るらしい。
こうしてみると、僕の目は一気に便利になったな。



まぁそんなことはどうでも良い。
僕は緊張で暴れ狂う心臓と、荒くなりそうな息を必死に抑えつつ、音がしないようにゆっくり鼻で呼吸して、ドスファンゴの巨大なケツがフリフリ振られるのを見ている状態だ。
すごく苦しい。
肺が! 肺が!

どっかから、颯爽とヒーローが現れないかなァ。
そしてドスファンゴをズバッとやっつけておくれよ!


……まぁこれが後に考えればフラグだったんだけどね。





とにかく、気付かれたら即死亡、の未来がはっきりと見える現状である。
もしかしたら逃げられるかもしれないが、出来ればこのままやり過ごしたい。

少し開けた場所で、キノコ食ってるドスファンゴを見つつそう思っている時。
唐突に頭の中でファンファーレ、ヴィバルディの「春」が流れた。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫
「…………ッ!」

危うく鼻汁噴出すところだった。
全く心臓に悪い。

……しかし、ファンファーレである。
かくれんぼが得意になる系のスキルが手に入ったのかもしれない。
さっきから結構な時間隠れてるしね!
かなり期待しつつナレーションを待っていると、聞きなれたお天気お姉さんの声ではない、陽気な声が響く。


≪一定以上の脈拍で一定時間口を開かなかっことにより、特性「桃色鼻息」を取得しました。取得に伴うボーナスは特にありません。興奮しまくりの中、鼻息だけのお澄まし顔でよく頑張った! 感動です! そんなあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!≫


なれよー! と叫んでナレーションは途切れた。
いつもと声もテンションも違うナレーションである。
そして特性というのは初めてだ。
僕はいぶかしみつつスキルを確認する。


□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性を虜にするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。


(いらなぁあああああああああい!)

説明もテンションがおかしかった。
なんともふざけた説明と内容だ。

しかし特性について少し理解した。
どうやら体の性質なんだろうな。「特『性』」って言うくらいだし。
説明がハジけているのは……多分ネタだからだよね。そう思いたい。
特性が全部こんなんだったら泣いちゃうかも。

しかし新しく得た特性。
この状況では鬱陶しいことこの上ない。
フェロモンとか、余計に気づかれやすくなってない!?

鼻息で呼気すると、意味不明な化学物質(フェロモン)が体から発せられ、口で呼気すればキムチの香りが飛散する。
絶体絶命である。
取得した特性で無駄に追い詰められる佐藤ハルマサ(18歳)。

その時、もう一度ビバルディの「春」が脳裏で鳴り響く!

(こ、今度こそ! まともなの! 頼むからまともなの来てくださぁい!)

祈るハルマサに、頭の中でナレーションはかく語る。

≪敵対する対象を基点とした空間の一定範囲内で、一定時間移動せず、また攻撃を受けなかったことより、スキル「穏行術」Lv1を取得しました。取得に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫


(き、キタぁ――――――――!)

涙が出るほどうれしいとはこういうことを言うんだね!
早速確認だ!


■「穏行術」Lv1
 気配を隠す技術。対象による索敵に引っかかりにくくなる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。上級スキルに「暗殺術」がある。


なんか肌の色が変わったような……若干黒くなった? まさかカメレオン的な技術だろうか。

それにしても、敵の攻撃範囲内だからかもしれないけど、凄い勢いで熟練度が上昇している。
あとまぁ、あのイノシシ、僕より確実に強いしね。そのせいかも。
「観察眼」で詳しく見ようと思ったら≪ポーン≫て弾かれたし。Lv5は必要なんだって。

そんなことを思いつつも、僕は息を潜める。スキルのおかげか、緊張感を受けつつも息がそれほど苦しくならない。
スキルってやっぱりチートだぜぇフゥハハー!
まぁ、浮かれてたら、即☆殺されるんだけどね!

ていうか誰か助けて……






そんな感じで、現実逃避したり、愚痴を零したり、息を潜めたりしながら数十分。


(何時まで食べてんの!? ねぇ!? ドスファンゴさーん!?)

ドスファンゴは、未だにケツを振っていた。
食べているのはキノコからその隣にあった雑草類に変わっている。
モシャモシャと美味しそうに食べちゃってもぅ……

しかし、「聞き耳」立てつつ、ドスファンゴを「観察」している上に、息を潜めて「穏行」している状態が続いたおかげか、熟練度がハッピーなことになっていた。

特に前二つは、入り口の草原で使っていた時とは、熟練するスピードが全然違う。
やはり危険な場所でこそ、熟練度は上がるのだろうか……

という訳で現在のスキルたち(抜粋)。

「穏行術」Lv2 :24.3
「観察眼」Lv3 :30.5
「聞き耳」Lv2 :22.1

「穏行術」上がりすぎだよ! レベル上がっちゃってるし! 嬉しいから良いけど!
レベルが上がった「穏行術」は、やっぱり肌の色に現れてるみたい。
さらに黒くなってるんだよね。大きな葉っぱの影に隠れるみたいに。
カメレオンになっちゃったぜ! でもこれって服着てたらあんまり意味なくない……?

まぁそれよりも精神力アップの方が嬉しい。
ステータスのプラス修正は1.0上がるごとに行われるから、いまじゃあ精神力が30とか半端ないことに。
大人3人分ダヨ! 無駄に心臓強くなっちゃったな……
この状況でもドキドキが抑えられてきたよ!
おかげでさっきから呼吸が楽です。
今なら痴漢されても、やめて下さいって言えるかも。
なんか僕やたらと狙われるからな……電車内ではモテモテです。僕の尻が。そんなにプリプリしてるのだろうか。


それはさて置き、「穏行術」に加えて、「観察眼」もレベルが上がったみたいです。
30.0越えた瞬間ファンファンーレが鳴ったよ。
よく見えるようになりました。今ドスファンゴが食べてる雑草には、軽い止血の効果があると見た! って具合に。

僕もう野生で生きていける子になってしまったよ。
耐久力2しかないから基本戦略は「命大事に」だけど。

こんなどうでもいいことを考えられるほど、ある意味状況は安定していた。
僕が下手に動かなければ、ドスファンゴはそのまま去っていくんではないか、という期待も大きくなり始めた。



まぁそんなことはなかったんですけどね。



最初に異変を捕らえたのは、僕の耳ではなく、ドスファンゴだった。
不意に頭をあげるドスファンゴに危機を感じた僕は、耳に意識を集中する。
すると、聞こえるではないか。
ワッサワッサと死の羽ばたきが!


あああ、ヒーローに来て欲しいとか言っちゃったから!
いや、言ってないけど思っちゃったから!

とんだダークヒーローが現れたじゃないかァ!

心の中で数十分前の自分に錯乱パンチを食らわせる僕の上に、遥か上空から舞い降りるうす赤い怪鳥。


「ピェエエエエエエエエエエエエ!」



密林の支配者、イャンクック先生が優雅かつ迅速に舞い降りてくるのを、身を隠していた葉を吹き散らされあっけなく穏行を破られた僕は、呆然と眺めているしかないのだった。

あ、これは死んだかな☆



<つづいて>



ステータス

佐藤ハルマサ

耐久力:2/2
持久力:8/8
筋力:8
敏捷:6
器用さ:4
精神力:30


特性

桃色鼻息


スキル

棒術Lv1  :5.00
舞踏術Lv1 :1.00
姿勢制御Lv1:3.56
穏行術Lv2 :24.8
突進術Lv1 :1.00
撹乱術Lv1 :1.00
走破術Lv1 :3.22
撤退術Lv1 :2.74
観察眼Lv3 :30.7
鷹の目Lv1 :7.12
聞き耳Lv2 :22.6
祈りLv1  :1.00





[19470] 9~12
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 23:10


<9>



視界を埋め尽くす怪鳥の大きな翼。
それを見上げながら僕は体が震えるのを感じていた。
ちなみに、まだ這い蹲ってます。
クック先生の強大な敵意とプレシャーの前に、体が硬直しちゃってて動かないんだ。

精神力が30もあるのにそれはないだろうって?

たかが大人三人分じゃ、クック先生には不十分だったってことさ!
「穏行術」で精神力が増幅されているかもしれないけど、それでも状況に変化なし。

という訳で、蛇に睨まれたかえるの如く見事に体が動きません。

「フンゴー! フゴォオ!」

ああ、ドスファンゴさんも忘れてませんから、そんなに興奮しないで!
そっちに割く余裕がないだけなんだ!

ズシ……ン!

イャンクックは地響きと共に着地する。
うお、胃に来る!
ぶわわ、と土や葉っぱが舞い上がり、地面が揺れて、「姿勢制御」によるよろめき耐性を持つはずなのに体が揺れる。
風も来たけど伏せていたから大丈夫だった。

三者の位置は、僕とイノシシと怪鳥で一辺10メートルの正三角形を作っているという状況である。
10メートルとか目と鼻の先なんだけどね。

イャンクックは立派な顎(クチバシ?)と襟巻きみたいな耳が特徴的な、鳥のような竜のようなモンスター。
聴覚が優れる反面、大きな音にはめっぽう弱い。
確か、飛竜の中では小柄っていう設定があったと思うんだけど……

でかい。

「観察眼」によれば、体長は12メートル。つまり翼の先から翼の先までが12メートル。
頭の位置は地面から3~5メートルのところにあるような、絶望的な大きさである。
クチバシの中に僕がすっぽり入りそうだよ。
詳しく見ようと思ったら案の定≪ポーン≫と弾かれる。「観察眼」のレベルが7は必要らしい。

で、僕が硬直している間に、状況は推移する。

「ギョワァアアアアア!」
「フンゴォオオオ!」

ドカーン! ドカーン!

怪鳥(12m)とイノシシ(8m)による怪獣大決戦が始まってしまったのだった。




最初イャンクックはこっち振り向いて、僕は\(オワタ)/って思ったんだけど、この少し開けた場所そんなに広くないんだよね。
僕以外の2匹が異常に大きいから、クック先生の広げた翼がドスファンゴを叩いちゃったみたいで……

怒ったドスファンゴが、イャンクックにぶちかましを食らわせたんだよね。
12メートルもあるクック先生がぶっ飛ぶような威力で。
それに対してイャンクックもすぐさま起き上がり火を吐き返したりして……余波で、余波で僕が死ぬから!
と言うか二匹とも挙動が素早すぎるよ!
モスがアレだからって、強いモンスターたちの身体能力もそのまま強くさせなくても!
強さのインフレ起こってない!?
クック先生のクビの動きとか、残像残ってますからー!
そしてドスファンゴさんの突撃で、衝撃波起こってますから! 音速!?

咆哮と敵意と暴力が溢れる空間。
以前の僕なら不用意に動き出して、怪獣たちの注意を引いてしまったかもしれない。
しかし僕は叫びだしたりせず、その場に伏せ続けていた。

それは一重に「穏行術」のおかげだった。正確には「穏行術」の熟練度上昇ボーナスによる、精神力上昇のおかげだ。

「穏行術」の取得条件を覚えているだろうか。
モンスターにある程度近いところで、一定時間移動せずに、攻撃を食らわない、である。
スキルの熟練度は取得条件のような行動をとっている時に、上がりやすい。
そして僕は今、ドスファンゴにビビッていたときから場所を一度も動いていない。
もちろん攻撃も受けていない。

そして先ほど、危険な場所ほど、熟練度は上昇するという仮定を思いついたんだけど、多分それは正しいと思う。

この2大怪獣が暴れていて危険が倍倍に膨れ上がっているこの状況!
「穏行術」が凄いことになってるんだよ!

あ、またファンファーレ。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪「穏行術」の熟練度が75.0を越えました。熟練に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫

おおう、ファンファーレが鳴りっぱなし。
上がり過ぎだよ! またまた嬉しいから構わないけど!
精神力はこれで81。なんか三桁も夢じゃないって思えてくるね。
そのおかげで、非常に心臓に良くないこの状況でも何とか冷静で居られるよ。
あわてて飛び出したら巻き込まれて死ぬのが分かるくらいは冷静になれている。

そういえば「穏行術」、熟練が30と70を超えたときレベル上がった。
レベルが上がるごとにカメレオン能力がドンドンパワーアップしていくよ……
僕の肌とか、下草の色と同化して真緑色だよ。正直キモイ……

ついでに「観察眼」の熟練度も上がって50越えたけど、それは今どうでも良い。
「聞き耳」のレベルも上がってるけど、それでどうしろと……?

いや、そろそろ逃げなきゃ!
クック先生の吐く火がところ構わず燃え移って、辺りが火の海になりつつあるし!

よーし! よよよよよよーし!
あの大木の陰とかから逃げると良い感じかな!
ちょうど怪獣たちはがっぷり組み合っているし!

その時頭の中で、またファンファーレ。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 一定以上の脈拍で一定時間目を閉じなかったことより、特性「桃色ウインク」を取得しました。取得に伴うボーナスはやっぱりありません。興奮しながらそんなにガン見、しちゃイヤン! 時には相手の目を見てウインクだ! がっつき過ぎなあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!≫


(またかぁあああああああああッ!)

なれよー! といって切れたナレーションはまたもやテンションがおかしかった。

さっきも思ったんだけど、なんか違う状況と勘違いしてない!?
キャッキャウフフな状況だと思ってない!?
確かに怪獣決戦を凝視してたけど、それは目を離したら死んじゃうからだよ!
おっぱいの魔力に惹き付けられていたとかじゃないんだよ!

だが、怒りすら感じる特性の取得で弾みがついた。

(………それッ!)

跳ね起きると、足にグッと力を込め、後ろに跳ぶ。
タン、タン! と二度ステップして大木の後ろに回りこむ。
その時感じた体の軽さは、僕の予想を超えていた。
というかこんなに体が軽いとか、なんか感動! 今なら世界が獲れる!

体のキレは先ほどイャンクックから逃げた時の比ではない。

「撤退術」スキルはもちろん、「撹乱術」が発動する条件も満たしているのだろう。

(よ、よし! うぉおおおおおおおおおおおおお! 逃げろぉオオオオオ!)

僕は先ほどの失敗を繰り返さないためにも、「聞き耳」で手に入る情報をしっかりと認識しながら、怪獣たちに背を向け駆け出した。
ドスファンゴが飛んできて背後の大木に直撃したりしていたけど、そのせいで大木(幹の直径が1m以上)がメキメキ倒れてきてたりするけど!

何とか逃げ切ってやるぜぇええええ!

て、うわ近い!
あつぅ!

火の塊が近くを通って、余波で耐久力が減ったため、僕はさらに必死になって走るのだった。



<つづく>


ステータス

耐久力:1/2
持久力:減少中/11 ……3 up
筋力:8
敏捷:10      ……4 up
器用さ:5      ……1 up
精神力:81     ……51 up!

特性
桃色鼻息
桃色ウインク


変動したスキル:熟練度(少数点以下省略)

姿勢制御Lv1 :5     ……1.64 up
穏行術Lv4  :75    ……51.0 up Level up!
撹乱術Lv1  :3     ……2.91 up
撤退術Lv1  :6     ……2.74 up
観察眼Lv3  :58    ……28.2 up
聞き耳Lv3  :36    ……14.0 up Level up!


□「桃色ウインク」
 異性を魅了する魔性の特性。異性の目を見つめてウインクすることで、異性に好感を与えます。わざとらしくても大丈夫! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。





<10>


サァアァァ………

目の前を清らかな小川が流れている。


「平和、だなぁ……」


苔むした岩が敷き詰められている湿った場所で、僕は休憩していた。
頭上を覆う枝や葉の間から木漏れ日が覗き、水面に反射してキラキラ輝いている。


イャンクックとドスファンゴからどうにか逃げ切った僕は、耳をそば立てながらもリラックスしていた。
ていうかこのフィールドすごく広いよね。
僕、「走破術」(長い距離を走りきるスキル)の助けを借りて結構移動したんだけど、相変わらず森の中だよ。

そして、あえて言おう。

「水、うまッ!」

水場を探していたことを思い出して、川の水を飲んだ時、僕の脳髄に電流が走ったようだった。
……まぁそれは言い過ぎだけど、それくらい美味しかった。

考えてみれば「穏行」していた時もダラダラ汗出ていたし、そりゃあ喉渇くよね。

もう一度両手に水を掬ってみる。
透明な水は、当たり前だけど不純物も結構混じっている。
大きいものが沈むのを待ってから、細かいものは気にせず飲む。

「ング…ング……」

ふぃい……満足だ。
そういえばモンハンでハンターって肉食べてるけど水飲んでないよね。
まさか回復薬だけで喉を潤しているのだろうか。
塩分過多で小便とか茶色になるんじゃない?(←なりません)
ハンターは思った以上に過酷な職業かもしれない。

ていうか僕完全に生水飲んじゃってるんだけど、エキノコックスとかいたら悲惨だよね。
凄まじいまでにお腹を下しそうだよ。
僕は胃腸も弱いからなァ……。
耐久力低いから、毒とか、そういう継続ダメージで攻められるとすぐに死にそうだね。
ちなみに耐久力は、「観察術」で見つけた薬草を食べたことで治っている。

そうか、お腹に優しい薬草を食べれば良いのか!

という訳で、近くに生えていたそれっぽいものをモッシャモシャ。
まずい! もういらんね!



うーん、と伸びをする。
ふと、服の汚れが気になった。
少しニオイもする。
そういえば、閻魔様のところに死に戻るとケガとか体の汚れは消えるけど、服の汚れはそのままなんだよね。
近くにモンスター居なさそうだし、服洗おうか。





「~♪」

僕は鼻歌を歌いながら、ジャブジャブとジャージの上着を水につけてこねくり回していた。
表面に付いた、草の擦れた後や土なんかを軽く落とせれば良いからそんなに一生懸命やるのも何なんだけど、精神力上がったおかげかチマチマした行為が苦にならなくなってるから、ついつい本格的にやってしまう。
器用さが低いから手付きはぞんざいな感じだけどね。

結果としてスキルを得た。


■「洗浄術」Lv1
 汚れを落とす技術。掃除、洗濯を素早く丁寧にこなせるようになる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、どんなにしつこい汚れも素手で取り除く事が可能となる。


クリーニングスキルきた―――!

なんとも実生活に役立ちそうなスキルである。
現代では、洗濯機とかあるから、よっぽど熟練させないと使う意味がなさそうな気もするけど、今はとてもありがたい。
とりあえず上着を乾かすついでにシャツも……………誰も見てないし全部洗おうか。

順次洗って、一つずつ枝にかける。
ついでに靴も洗って干した。
もちろん下着(ボクサーパンツ)も干しているので、僕はこの大自然の中、全裸。


―――凄い開放感だッッッ!


今、まさに束縛されない心と体ッ!
少し感じる羞恥心が、ほどよいスパイスとなって心を盛り上げる。

「ヒャッッッッハァアアアアアア!」

奇声を上げつつヤッタヤッタと葉っぱ踊りをかましていたら「舞踏術」の熟練度が上がった。

≪「舞踏術」の熟練度が(以下略)≫

熟練度が2.0になり敏捷がアップしたらしい。
敏捷はコレで11である。
ついに大人の平均を越えてしまった。
やっぱりチートだなァ……。死に戻った時はたったの2しかなかったのに。
あの時の5倍の速さで動けるようになった僕。
この調子で行けば、今日中に人間の限界を超える事が出来そうじゃない!?


そして、ふと、冷静になった。
今日中って……最初に来たときから太陽の光の強さあんまり変わってないんだよね。
夜とかないかも。

で、太陽の光で思い至ったこと。
よく考えたら、木漏れ日しかないような森で、衣服が乾くわけがない。
僕は全裸で頭を捻る。

「うーん。」

とりあえず服を持ってバサバサと振ることにした。
もしかしたら、布を乾かす的なスキルを取得するかもしれないし。
上着の肩を持って振ってみる。

ワッサワッサ。

何か暇だな。
そうだ、この振る事で生まれた風を、枝にかけた服に当てるのはどうだろう。
どっちも乾いてグッドな感じだ!
今日は冴えてるな僕。

早速シャツに向かって強めにバサバサと振っていると、例のチャンチャラ鳴るファンファーレが響いた。

(ええ!? 布を乾かすスキルとか本当にあったの!?)

と思っているとナレーション。

≪一定時間内に一定面積以上の布を強振したことにより、スキル「布闘術」Lv1を取得しました。習得に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫

布闘術? 布?
何だろう。
どうやって闘うのか見当が付かないな。
まぁいいか。
布を振るのが何か楽になったし。
コツっていうの?
まぁ器用さの上昇もあるだろうけど。
微妙な効果だけどないよりはあった方が良いよね。

バッサバッサ。

火があれば楽なんだけど……起こしたらモンスター寄ってきそうだよねぇ。
早く乾かないかなァー。

バッサバッサ。

こうやってバサバサやっている間にも出来ることないかなァ。とりあえず「観察眼」と「聞き耳」は使ってるんだけど。
口笛とか吹いてみようか。いや、吹けないんだけど。

バッサバッサ。

あ、「布闘術」の熟練度上がった。
おめでとう僕。
器用さもこれで11か。
いつの間にか強くなったね僕も。

バッサバッサ。

そろそろレベルあげたいな。
何時までもマイナスじゃぁなぁ。
あ、耐久力もなんとかしたい。

バサー、ブワサァー。

おっと強く振りすぎた。
パンツが飛んで行ったよ。
ああ、あんな高いところに引っかかっちゃって!


そんな感じでノンビリ服を乾かしたり器用さを上げていたりするハルマサは、背後に迫る危険にも気付かないのだった。





<つづく>




ステータス

耐久力:2/2
持久力:12/12 ……1 up
筋力 :8
敏捷 :10
器用さ:11    ……6 up
精神力:81


変動スキル :熟練度(小数点以下省略)
布闘術Lv1 :3      ……3.28 up New!
姿勢制御Lv1:7      ……2.87 up
観察眼Lv3 :63     ……5.81 up
聞き耳Lv3 :41     ……5.22 up
洗浄術Lv1 :2      ……2.84 up New!



■布闘術
 布を用いて闘う技術。布を凶器として扱うことが出来る。熟練に伴い器用さまたはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、布を用いて鉄を断つ。

■「洗浄術」Lv1
 汚れを落とす技術。掃除、洗濯を素早く丁寧にこなせるようになる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、どんなにしつこい汚れも素手で取り除く事が可能となる。









<11>




どうも。
なんかずっと一人で居るから寂しくて、テンションがおかしくなっている佐藤ハルマサです。

パンツが吹っ飛んでいったので回収したらパンツは結構乾いている事が分かりました。


「……下着だけでも履いておこうかな。」


という訳で、プット・オン!

シャキーン!
ハルマサは下着を装備した!
胸中に安心感が広がった!


いやぁ、確かに全裸で居るのも悪くはないけど、やっぱり急所を丸出しにしておくのは良くないよね。

それに対して、このボクサーパンツ!
黒のポリエステルで出来た安物だけど、このフィット感!
ユニク○もバカには出来ないよね!
というか僕は大好きだよユニク○! 肌着しか買わないけど。

そんな訳で少し防御力を上げた僕はさらに身につける衣服を増やすため、もう一度上着を持とうとして、

(――――――――!?)

その場を飛びすさった。

(この身軽さ! 「撹乱術」が発動してるの!?)

直後、地面から飛び出す突起。僕の胴体ほどもあるような赤と白のまだら模様のそれは、数瞬前まで僕が居た場所を貫いている。
「聞き耳」で地面から響く不穏な音を捉えなければ、ケツの穴が増えるところだった。
というか確実に即死だった。
でもこんな避け方が出来るようになった僕って、カッコよくないだろうか。誰も見ていないので寂しいけど。

というかまた、モンスターなのか。
僕は急いで放り出してあった骨棒を拾い上げる。
僕の目の前で、地面からさらにもう一本突起が突き出す。

(いや、あれは突起じゃない――――――)

「鋏(ハサミ)?……あのカニみたいな奴か!」


マズイマズイマズイ!
あのでっかい盾のカニ(ダイミョウザザミです)だったら……

モコモコモコ!

ドロを跳ね飛ばしながら、白い甲殻を背負ったカニ(?)が現れる。

――――――でかい!

僕の身長(165cm)以上あるよ!?
まさかほんとにあのボス級の盾蟹モンスター!?

いや、「観察眼」がそれに異を唱える。
ついに「観察眼」がモンスターの名前を読み取ったのだ!


≪モンスター情報の取得に成功しました。
【ヤオザミ】:硬く厚い甲羅を持つ小型の甲殻種。弱点部位、弱点属性その他の情報を得るには、スキル「観察眼」Lv5が必要です。≫

まぁ弱点とかは良いにして……
小型の甲殻種……?

(どこが小型なのッ!? 人より背が高いんだけど!?)

ヤオザミは飛び出した黒い目をクルクルと動かしながら。両手の鋏を掲げてこちらを威嚇する。
ヒィィ! なんという絶望的な大きさ!

僕は、ヤオザミをモンハンのゲームにおいて、ガンナー装備でクエに行った時に、鬱陶しい敵だと言うくらいにしか認識していなかった。
しかしその認識は改めた方がよさそうだ。

だって見なよ! この圧迫感!

両の鋏を広げるとその感覚は3メートルを越え、一本一本がこちらの太ももよりも太い多脚が圧倒的な機動力を想像させる。
プレッシャーが体に纏わりついてくるようだ!

(くう……!)

骨を握り締め、唇を噛む。
いや、これは跳ね返せるプレッシャーだ!
さっきのイャンクックに比べれば何てことないはずだ!
そうだそのはずなんだ!
僕は強い! 僕は強ぉおおおおい!(自己暗示)

「観察眼」で名前が読み取れたと言うことは、こちらと実力が近い証拠!(←別にそんなことはない)

僕は気合を入れて叫ぶ。

「負けるかぁああ、ってうぉおお!?」

走り出そうとしたところで、ヤオザミが動き出す。
カニという特性か、回り込むように近づいてくる――――――疾ぁああ!?

(ひぃいいい!)

鋏を振り上げながら弧を描きつつ走り寄ってきたヤオザミが(いや走るというより最早滑っているように見える速度である)、
振り下ろした死神の鎌を間一髪、跳びすさって避けることに成功。
鋏は恐ろしいことに地面の岩に突き刺さり、しかしおかげでヤオザミに隙が出来る。
黄色い液体がチョチョ切れそうだよ!

しかし相変わらず会うモンスター会うモンスター強さがおかしい。
今のも、「撤退術」と「撹乱術」がなければ体を両断されているような、恐ろしい勢いの攻撃だった。
きっと耐久力が10あっても即死だね。
なぜなら成人男性は岩より柔らかいカラデス。
僕が食らったら頭がパーン! てなりそう。

だが、避けるだけなら僕にも出来る!
「撤退術」(離れる時スピードアップ)または「突進術」(近づく時スピードアップ)と、「撹乱術」(相手の近くでスピードアップ)。
常に敏捷系のスキルが二つも発揮されている現状、僕はいつもより早く動けている。

この状態なら――――――!

跳び退って空中に居た僕は、着地すると同時にヤオザミが振り切った鋏のほうに回り込み、骨を振りかぶり、

「だぁあああああ!」

強振!――――――ガンッ!

「クッ!」

ヤドに当たった骨は簡単に弾き返される。硬い!

「じゃあこっちだ! でい!」

ヤオザミの飛び出している目を叩く。
バシリと目に直撃し、ヤオザミは叫んだ。

「ギィイイイイイイイ!」

効いて……いるの?
反対側の鋏を振りかざして怒っているようにも見える。
効果があるかは分からないけど反応があったから殴り続け……ってやばい!

またその場を跳び退く。
ヤオザミは鋏が突き刺さったままの岩を持ち上げ振り回してきていた。

そのまま岩はすっぽ抜け、放物線を描きながらどっかに飛んでいって、後ろからバキバキと太い枝か幹が折れる音がした。
岩大きかったからなァ……

やはり、強い。
こちらは何発当てれば良いのか分からないのに、向こうは一発当てれば終了だ。
その上向こうはかなり速い。

ずるいじゃないか! G級クエレベルだよ! 僕はチートなしだと素材収集しかクリアしたことないんだよ!
……ちきしょう!
どうやったら、この状況を変えられるんだ!?


歯噛みする僕の前でヤオザミは、鋏を打ち鳴らして威嚇行動をとっていた。





<つづく>



ステータス変化なし

変動スキル :熟練度
聞き耳Lv3 :42    ……0.22 up
撹乱術Lv1 :3     ……0.90up
撤退術Lv1 :6     ……0.90 up

装備
棒状の骨
パンツ





<12>




「……くッ!」

横に転がるように避けた直後、鋏が地面に叩き込まれる。
すぐに起き上がって、また迫った鋏を避ける。

もう何度避けただろうか。
地面は穴ぼこだらけである。
このカニが単純な思考しか持っていないのでかなり助かっている。
攻撃パターンは、走り寄って鋏を振り下ろすのみ。
それでも避けるのはギリギリだ。
フェイントを入れられたら、もうとっくに詰んでいる。


実はもう打開策は思いついている。
スキルのレベルアップを狙うのだ。
「撹乱術」の熟練度アップのファンファーレで思いついた。
まぁ熟練度上がって、少し余裕が出来なかったら思いつきもしなかっただろうけどね。

スキルアップといっても、狙うのは逃げるためのスキルアップではない。
ヤオザミの直線距離の移動スピードははっきり言って越えられる気がしない。
モスの突進よりも速い気がするから。
避けれているのは、一重にヤオザミの旋回性能が低いことを利用しているからだ。
逃げたら、その瞬間追いつかれて脳天唐竹割り確実だ。

よって狙うのは攻撃スキルのレベルアップ!
もういっそ倒してやるぜ!
倒せなくても、足の一本でも奪ったら逃げやすくなるし。

しかしさっき「観察眼」で見たところ、骨バットの耐久値がかなり低い。3/20だった。

二回しか叩いていないのにこれはない。
このカニ、どれだけ硬いの!?
そして低くなった耐久値でもこの骨は僕の耐久力を上回っているという、ね!
僕ドンだけ柔らかいんだよ……。

という訳で骨バットが攻撃に多用できないことで、何か策を考える必要が出た。

ヤオザミが叫びつつ鋏を振り下ろす。

「ギィイイイイイイ!」

ガツン!

(よし! 上手く行った!)

ギリギリで鋏を避け、髪をかする攻撃に冷や汗を流すハルマサ。
だがそのかいあり、ヤオザミの鋏が岩に刺さるよう誘導するのに成功した。

さっきこれで隙が出来たのなら、また同じ事をすれば良いのだ。
この隙にハルマサは離れていたところに落ちていた50cmくらいの木の枝(腐りかけ、耐久値1/2)を取り、

「でりゃぁあああ!」

ヤオザミに突きを放つ。
当てるのは何処でも良いんだ。
熟練度を上げるのが目的だから。
今回はヤドに当たった。

耐久値が少ない枝は、一回の攻撃でへし折れる。
ダメージも通ってないだろう。
だがこれで良いのだ。

頭の中で、警告とファンファーレが連続して響く。

≪ポーン! 特技「突き」を使用するには、スキル「棒術」Lv2、もしくは他のスキルを習得する必要があります。≫
≪チャラ(中略)ーン♪ 「棒術」の熟練度が7.0を越えました。筋力にボーナスが付きます。≫

相手に攻撃することで、「棒術」の熟練度がぐいぐいと溜まっているのだ。
今の攻撃で最初に叩いたのを含め八回攻撃した。
一回で約0.25の熟練度が溜まっていると見て良い。

(フフフフ! この完璧な策! スキルレベルが上昇した時こそ、この骨バットを使ってあのカニに目に物見せてやる!)

全くダメージを与えられない戦闘でも、ハルマサの心は燃え盛っている。
鋏を引き抜いて襲い掛かってくるヤオザミ相手に、枝を投げ捨て、また回避行動をとるのだった。


ところで、避け続けるうちにハルマサはまたスキルを手に入れていた。

≪チャラチャ(略)ーン♪ 一定時間内で、自己の耐久力を上回る攻撃を一定回数避けたことにより、スキル「回避眼」Lv1を取得しました。取得に伴い、敏捷が上昇します。≫

■「回避眼」Lv1
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。レベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。


やはり即死級の攻撃だったのかと、大事な玉が縮む思いがするハルマサ。
ただ、避け続けたかいはあった。
このスキルはかなり役に立ったのだ。
ヤオザミの攻撃が行われる数瞬前、攻撃の範囲が光る道筋として視界に映る。
ギリギリで避けることが、この「回避眼」のおかげで容易になり、ヤオザミの体勢を崩すように誘導しやすくなったのだ。

このように様々なスキルの助けを借りつつ、木の枝でヤオザミを突付きまくること20回。

≪「棒術」の熟練度が10.0を越えました。「棒術」のレベルが上がりました。耐久力、持久力、筋力、敏捷にボーナスが付きます。≫

(待ってましたぁ―――!)

待ち望んでいた「棒術」のレベルアップが起こった。
途端、手に持つ骨バットが軽くなる。手に馴染み、内部に歪みが生じていること、重心がどの辺にあるということなどが感じ取れた。
今度のレベルアップはとても分かりやすい。

(これならいける!)

でもその前に、チキンなハルマサとしては練習したかったので、走りざまに木の棒(耐久値1/1)を拾う。

そして死の鎌を避けざまに、足を踏ん張り――――――突き込んだ。

「突きィッッッ!」

瞬間、枝を保持していた手に、いつもに倍するほどに力が漲り、片手で持って突き込んだにもかかわらず、恐ろしい勢いで枝が突き出される。

そして今までとは違う感触。
カニのヤドにヒビが入ったのだ。
今までかすり傷が精々だったのに!

枝は威力に耐えられなかったようで、バラバラになった。

(凄い!)

スキルの、そして特技の威力を目に焼き付けるハルマサ。
突然の反撃に、ヤオザミは驚いたように距離をとる。

「ギチギチギチギチッ!」

泡を飛ばして鋏を鳴らし威嚇を繰り返すカニに対して、ハルマサは自分が優位に立ったことを知った。
なぜなら先ほどの攻撃でダメージが通ったことを確信できたからだ。

木の棒であれなら、骨バットで発動した特技の威力はどれほどだろう。

(うぉおおおおおお!)

ハルマサは棒状の骨を両手で腰だめに構えると、正面から突撃する。

正直、彼は調子に乗っていた。
だがこの時、この考えなしの行動派プラスに働く。

「突進術」と特技「突き」。
これらの相乗効果は彼の攻撃の中で、最大威力であり、また最速だったのである。

「ハァッ!」

地面を裸足で凹ませつつ、吶喊。
その時彼の速度はヤオザミの反応速度を凌駕し、振り下ろされる鋏がハルマサの頭をトマトのようにする前に、骨がカニの甲羅を突き破る。

速度と、両腕から湧き上がる力を全て乗せた一撃は、ヤオザミの甲殻を貫き、内部を蹂躙し、ヤドで守られた背中の急所を穿っていた。

ビクリと痙攣するヤオザミからすぐにハルマサは離れようとする。
だが、想定外なことも起こる。

(骨が抜けない!)

ヤオザミの、内部に詰まる筋繊維(?)が骨バットを締め付けているのだ。

ここでぐずぐずしていたら、ヤオザミの反撃で体の上と下とが生き別れになる。

事実、ヤオザミは動き出す。重心を前に動かし、鋏を振り上げようとしている。
ハルマサは慌てて手を離し、その場を飛びのく。

「ギィ……ギィイ………」

しかしヤオザミはそのまま倒れた。

「勝った……の?」

急所を貫いたことを知らないハルマサは、想定外の出来事に少し唖然とする。

その時脳裏で聞き覚えのある音が響いた。
ビヴァルディの「春」ではない。
もっと以前に聞いた―――

(これってドラクエのレベルアップの音じゃん。)

もしやと思っていると、脳内でお天気お姉さん声のナレーションが始まる。

≪魔物を撃退したことにより、40の経験値を得ました。レベルが上がりました。レベル上昇に伴い、各ステータスにボーナスが付きます。≫

体の中から力が溢れてくるような感覚。
あの、イャンクックとドスファンゴが暴れていた時は、混乱していた頭が冷えていくことで実感したステータスの上昇。
今度のレベルアップでは、一度に色々な事が起こりすぎて、「力が! 力が溢れてくるぜ!」状態だった。

(おお…………凄い!)

手を開けたり閉めたりだけでなく、垂直跳躍、反復横跳びとかしてしまうハルマサ。
こいつぁチートだぜ! と身体能力の上昇を実感したハルマサはステータスの確認を行う。

その上昇っぷりを見てさらに驚く。
ほとんどの数値が段違いに大きくなっている。
一番低かった耐久値ですら22になっており、もはや彼はただの人間ではなくなっていた。

(これなら……)

「聞き耳」によって拾われる、「フゴフゴ」という鳴き声。
聞こえてくる方向をにらみつけたハルマサは、何度も自分を殺してくれた、因縁の相手に再戦を挑むことを決意した。




<つづく>


ステータス

佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:3       ……4 up レベルアップボーナスは19
耐久力:22/22   ……20 up
持久力:38/38   ……26 up
筋力 :32      ……24 up
敏捷 :39      ……29 up
器用さ:32      ……21 up
精神力:102     ……21 up

経験値:40 次のレベルまであと38


特技

突き

変動スキル :熟練度
棒術Lv2  :10    ……5.13 up Level up!
姿勢制御Lv2:10    ……3.39 up Level up!
突進術Lv1 :5     ……4.57 up
撹乱術Lv2 :14    ……9.32 up Level up!
撤退術Lv2 :12    ……5.81 up Level up!
回避眼Lv1 :6     ……6.48 up New!
観察眼Lv4 :71    ……7.12 up Level up!
聞き耳Lv3 :48    ……6.79 up

◆「突き」
 拳または獲物を用いて、敵対する対象の体の一点に強烈な攻撃を与える。貫通属性。

■「回避眼」Lv1
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。レベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。



スキル発動によるステータスのプラス補正は、
(スキルレベル)÷(補正のかかる数値個数)×0.1×(元の数値)
として計算しています。小数点以下は切捨てです。
上手く言葉が浮かばないため分かりにくいと思いますので、一つ例をば。
撤退術Lv1(敵から逃げる時持久力と敏捷にプラス補正)が発動している時、持久力10で敏捷10の人は、持久力と敏捷力に(1)÷(2)×0.1×10=0.5のプラス補正がかかります(そして切り捨てられる)。
さらにこの人に撹乱術Lv1(敵の近くで敏捷に補正)が発動している時、さらに敏捷に1のプラス補正がかかります。
数値低かったらそうでもないけどスキルレベルが上がればアホみたいなチートになっていきます。

レベルアップボーナスはレベルアップに用いた経験値です。




[19470] 13~16
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 23:11




<13>



モンスターに対して初白星を挙げたハルマサ。
しかし彼は現在落ち込んでいた。

「な、なんてこったい……」

よろよろピシャンと額を叩きたくなるこの状況。彼は未だにパンツしか穿いておりません。
それもそのはず。

なんということでしょう。彼の服は無惨にも破れ放題穴だらけになっていたのです。

ハルマサがピョンピョン跳ね回り、ヤオザミがそこらを叩き回った結果、彼の服は枝から滑り落ち、そこにカニの爪が、脚が!
結果彼が着れるのは、遠くに落ちていた黒無地の半そでシャツだけなのでした。

(パンツ一丁よりも恥ずかしいな……)

着てみた感想がこれ。
靴は辛うじて無事だったが、履くべきか履かないべきか……
履いたらさらに珍妙な格好に鳴ること間違いない。

(まあ誰にも見られないしいいか。)

いそいそと靴を履き始めるハルマサ。
人外魔境に放り込まれた結果、彼はさばさばした性格となっていた。

(あ、そうだ。骨は?)

そう思って先ほど倒したヤオザミを見ると、そこには2枚のきらめく硬貨と折れ曲がった骨、そしてカニの脚以外何も無かった。
さっきまでハルマサが死闘を繰り広げた相手は跡形もない。
カニの脚も一本だけだ。


(まさか……死んでなかった?)

起き上がって去っていったのだろうか。

それにしては、脚があるのは変だ。
脚には攻撃していないから、落としていく理由がない。
経験値を貰ったことから、生きていることは考えにくいのだ。
ゲームでの古龍戦のように追い返すだけで経験値がもらえたのだろうか?
そうとは思えないな。
多分雑魚だったんだろうし。

考えていると、不自然に落ちている金色の硬貨が目に入る。
ピカピカと木漏れ日を照り返す美しい硬貨。
さっきまでは確実になかった。
いくらハルマサがぼんやりしても見逃していたと言うことは絶対無い。

(もしかして……ドロップ品?)

ハルマサがその考えにいたったのはしばらく経ってからだった。
ここはダンジョンである。
今まで色々リアルすぎて忘れていたが、モンスターはポップして、死んだらドロップ品を落として消えていくとしても、おかしくはない。
色々と不思議ではあるが、納得できないことではない。

なるほど、だとすればあの脚もドロップ品か。
脚は二つの節があり、伸ばしたら150センチ近くある。
ゴツゴツとした硬質な手触りだ。

骨は……もう使えない。
半分どころか二箇所も折れている。ここに置いていこう。

武器ならカニの脚がある。
節があるので折角覚えた「突き」は使えないが、150cmものリーチとこの堅さなら強力な武器になるに違いない。

「観察眼」で見れば、耐久値は50/50もある。
パワーアップしたハルマサよりも堅いとは、頼もしい限りである。
結構重いが、ハルマサの筋力(51)ならば問題ない。
片手で振り回せるだろう。

ついでに美しい女性の意匠が施された金貨も「観察」する。

≪ポーン! 対象の情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv5 を習得する必要があります。≫

弾かれた。
しかしレベル5で良いならすぐにでも分かるかもしれない。
それにしてもスキルのレベルアップの法則はどうなっているのだろうか。

レベル2になったのは、熟練度10.0の時。
レベル3になったのは、えーと30.0だったっけ。
で、未だ到達したスキルは二つしかないけど、レベル4になったのは熟練度70.0になった時。

その法則性。分かる人には分かるのだが、ハルマサはお世辞にも頭が良い人物ではなかった。

(まぁ良いか。法則なんか無いかもしれないし。)

レベルが上がれば分かると、彼は考えを放り出し金貨と脚を拾う。
突発的な事態に対応するために、脚は手で持つ事が望ましいが、金貨は手持っていても投げつけるくらいしか使い道がないし、正直邪魔である。

ハルマサは、しばし考えたあと、ジャージの残骸を使って、袋を作ることにした。
上着のほうにはポケットという、千切りとって紐を通すなどすればすぐに小物入れになるようなものがあったが、彼はこの機械に大きな袋を作っておくべきだと考えていた。

この先、持ち運びたいと思うものが出てくるかもしれない。
金貨をたくさん手に入れるかもしれない。
その時、小さな袋だけでは選択肢が限られてしまうのだ。

一番期待していた上着の背中には大きな穴が空いていた。
だが、次に期待していた、ズボンは、比較的無事である。

(やった!)

右足の部分は酷い有様で、腰紐の部分や股間にも穴が開いているが、左足の部分は丸々無事である。
これなら、足首の部分を縛れば、長い筒状にして多くのものが入るだろう。

ハルマサは足首を固く肩結びにすると、中に金貨を放り込み、少し考えて上着の残骸も放り込んだ。

(何に使えるか分からないしね。)

あとは、辺りにある目ぼしい薬草とかを突っ込む。一応キノコも入れておいた。
だぼだぼのジャージだったから結構入ったけどこれくらいにしておこう。

あとは……

一応カニの脚で素振りもしていくことにした。
武器に少しは慣れておきたいのだ。

「フッ!」

ヒュオン!

「棒術」で得た体重移動のコツとかを上手く転用できるようだ。
尋常ではない膂力もあいまって、先のほうの速度は凄いことになっているのではないだろうか。
残念ながら棒とは見なされないようで、「棒術」の熟練度は0.01も上昇しないが、それならそれで違うスキルが熟練していくだろう。

何が熟練するのだろう。「多節棍術」とか? 語呂悪いな。

ヒュオ!

後ろに跳ぶと同時に薙ぎ払い。着地と同時に斜め上への振り上げ。

こんな長いものを自在に使えることに、だんだんテンションの上がってきたハルマサは、適当にそこらの葉っぱとかを攻撃しだす。

脚の先のほうは杭のように尖っており、葉やつるなどはすっぱりと切断される。
上手くしならせ、あたる瞬間に手を引けば、尖った部分が突き刺さる。
ふふふ、何とも良い気分です!

「だりゃあ!」

さらに、試しに幹の細い(直径20cmほど)木に叩きつけてみたところ見事にへし折った。

「おお……!」

かなりの勢いで叩きつけたのだが、耐久値が減っていない。
なんとも頼もしい武器である。

身体能力も上がり、武器も良いものを手に入れた。

「ふっふっふ……」

思わず気味の悪い顔になっても仕方がないよね!

(待ってろよモス!)

ハルマサは静かに闘志を燃やしつつ、モスが居るであろう方向へと移動していくのだった。






<つづく>


ステータス変化なし。
スキルは観察眼と聞き耳、姿勢制御がほんの少しだけ上がった。




<14>


草を踏み分け歩いていると、進行方向から不吉な音が聞こえた。

ブーンブーン!


「聞き耳」スキルはいまやレベル3になっており、僕の聴力は半端なく強化されている。
その耳に、ブンブンと僕のトラウマを刺激して止まない音が聞こえるのだ。

これは間違いない……蜂だ。
僕は蜂の事が大嫌いである。

僕のトラウマランキングでかなり上位に、蜂関連の出来事が位置しているのだ。

小学校の遠足の時のことだ。
遠足は最高学年のお兄さんお姉さんと手を繋いで近くの山へと赴く、嬉し恥ずかしドキドキイベントである。
そこで僕はお兄さんに手を引かれながら、遠足を満喫していた。
話下手であった僕に、お兄さんは気さくに話しかけてくれ、憧れが半端ない速度で上昇して行ったのを覚えている。
それだけでおわれば幸せな思い出なのだが、そうではない。
事件は、お昼時に起こった。
弁当を広げていた僕たちの周りに蜂が飛んできたのだ。
スズメバチだった。
腰を並べていたお兄さんは突然恐慌し、僕を蜂に向かって突き飛ばすと一目散に逃げ出した。
見事な裏切りに唖然としていた僕は蜂に見事にロックオンされ、執拗に狙われ、僕は泣きながら転げまわって逃げた。
……他の人のお弁当を踏み荒らしながら。
その時クラスの中心に居た女の子の弁当を蹴っ飛ばしたのが全ての運の尽きだったのかもしれない。
結局蜂には刺されたし。

思えば、あれが僕の人生を決定づけたのかなァ……
お兄さんは結局謝ってくれないし、僕は次の日から女の子に目の敵にされてネチネチいびられるし、関係無い子まで便乗してくるしで最悪だったよ。

思い出したら、嫌な気分になった。
火が吹けたら丸ごと焼いてやるのに。

避けるのも癪なので、僕はそのまま歩いていく。
以前は怒りよりも恐怖が勝ったものだったが、今の僕は精神すらも強化された人間だ。
僕は今までのティキンじゃないぞ!

僕は気炎を上げつつ低い木や背の高い草なんかを掻き分け、さらに進んでいくのだった。




ブーン、ブーン!
ブーン! ブーン!

蜂の巣に近づいていくと音はドンドン大きくなる。
そして「鷹の目」によって強化された目に、蜂の巣が見えた。

(……普通だ)

巣は大きい。
大きいが、常識的な大きさだった。
木の枝から釣り下がる巣は、楕円球型で縦の長さは80センチほどか。
周りにたかる蜂も、少し大きいかもしれないが、それでも3センチから5センチくらいだ
5メートルも有るような巣とか、蜂がネコくらいでかいとかじゃなくて良かった。

で、なんでネコを引き合いに出したかと言うと、

「ニャァアアアアア!」

無数の蜂にネコが襲われているんだ。

そのネコは棒の先に牙みたいな白い骨をくくり付けたものを持っていた。
腰には大きなどんぐりを加工したカバンを備えている。

あれアイルーじゃない?
「観察眼」もそう言っている。

ネコは大きな目から涙を流しつつ、白い毛に包まれた体を縮込ませて蹲っていた。

僕はその姿に非常に心を動かされた。
助けなくては、という気持ちが溢れたのだ。

あのように蜂に苦しむ人(ネコ)を放っておけるはずも無い。
なぜなら、僕もその気持ちは痛いほど分かるから。
手に持ったカニの脚を強く握る。

「うぉおおおおおおお!」

荷物を投げ捨て、僕は叫ぶと、蜂に向かって突っ込んだ。
高くなった敏捷が、一瞬にして距離を飛び越えさせる。
彼の敏捷は常人の約4倍。常人が15秒で100mを走れるとしたら、彼は約4秒しか必要ない。地面の硬さなどがあるのでそんな単純計算にはならないが、「突進術」もあるので20mくらいなら一秒かからないのだ。

風を切りながら走ったハルマサは、蜂たちに向かって振りかぶった脚を横に振り払った。

「だりゃあああ!」

バチバチバチバチ!

十匹近い蜂が空中で叩き潰され、体液が飛び散る。
うへぇ、気持ち悪!
一瞬散った蜂たちが、一拍の間をおいて、こっちに群がってくる。

「逃げるんだ!」

僕はアイルーに向かって叫ぶと、さらにカニ脚を振り回す。
ヒーローな僕カッコイイ! とか思っていた。
自己犠牲って尊いよね。

とにかく僕は、振りぬくたびに蜂を潰し、羽根をもいで、幾多の蜂を撃墜していった。




「……ニャ?」

蜂の攻撃が無くなったことに気付き、アイルーは恐る恐る顔を上げる。
するとそこには初めてみる生物が居た。

「うぉおおおお!」

長い、貧弱そうな4本の脚を持ち、アイルーやメラルーと同じように二本足で立ち上がって居る。
体毛は少なく、特に下半身を盛大に晒している理解が難しい生物である。
だが、何処と無くこの密林に生息する桃色の牙獣に、その姿が似ているのだった。

「逃げるんだ!」

アイルーにも分かる言葉で、奇妙な生物は叫ぶ。
助けてくれるのだろうか。
しかし、アイルーは逃げようとはしなかった。
その必要も感じられなかったのだ。

無双状態だったのだ。
霞むような速度で手にもつ獲物を振り回し、制空権を保っている。
蜂は無数に群がるが、全て近づくことも出来ず叩き落されている。もしくは潰されている。
その強さは、この密林で最弱の魔物であるアイルーにはとても計り知れないものだった。

まぁぶっちゃけこの密林に居る魔物は大概強さが突き抜けているのだが、この見たことない生物もその例に漏れないようだった。

だが、他の生物と違ってアイルーはこの生物に強い興味を持った。
話が通じること。
自分を助けてくれたこと。

この二つを同時に満たす魔物は、このアイルーにとって、一寸先も見えない闇における、一筋の光明に見えるのだった。




ハルマサは自分の状態に驚いていた。

(僕ってこんなに強くなっていたのか。)

脚を適当に振り回すだけで、あの怖くて憎くて仕方なかった蜂が、全く近寄ってこれない。
振りまくるうちにスキル「鞭術」を習得したことで、攻撃と攻撃の間が縮まり、蜂が入ってこれない空間はさらに広がった。
もうモスとかに拘っているのがバカらしく思える成長である。

だけどキリが無い。
視界はびっしりと蜂に覆われて、どれだけ叩き落しても壁がなくならないのだ。
80cmの巣は、飾りではないようで、後から後から蜂が出てくる。

アイルーに目を移せば、こちらを呆然と見つめている。

(逃げてくれれば僕も即座に逃げるのにッ!)

ハルマサだけなら逃げるのは容易だ。
蜂たちの動く速度を見てみてもそれは間違いない。
だが逃げた瞬間この視界を埋め尽くす蜂たちは、アイルーをまた襲うだろう。
そうなってはハルマサが来た意味が無い。
ジリジリと減るスタミナも焦りを煽る。
ハルマサは歯噛みしていたが、ふと思いついた。

(……僕はバカか―――! 一緒に逃げれば良いんじゃん!)

ハルマサは自分を罵倒する。
こんな簡単なことに気付かない自分に失望さえ覚える。

とにかく気付けば簡単である。
ハルマサは無理に蜂の壁を突っ切ると、ぼんやりしているアイルーの首を引っつかみ、地面を蹴ってその場から逃げ出したのだった。



<つづく>


ステータス

耐久力:22/22
持久力:15/39  ……1 up
筋力 :32
敏捷 :44
器用さ:34     ……2 up
精神力:102

変動スキル :熟練度
鞭術Lv1  :2   ……2.02 up New!
姿勢制御Lv2:11  ……0.85 up
その他色々、少しづつ上がった。


■「鞭術」Lv1
 鞭を操る技術。鞭の扱いが上手くなる。熟練に伴い敏捷及びその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、相手の弱点を正確に貫く。クリティカル率にプラスの修正。






<15>


「もう、追ってこないよね。」


蜂が追ってこないか後ろを振り返りつつ。
荷物を拾ってから、しばらく走り続けて止まった時、ふと左手に柔らかいものがポフポフ押し付けられるのを感じた。

見下ろすと、ネコが青い顔をして必死にタップしていた。
首をつかむ左手に力を込めすぎていたようだ。

「あわわ! ごめん!」
「ゲホハッ!ヒュー…ヒュー………死ぬかと思ったニャ……」

手を離した途端アイルーは蹲って咳き込む。
本当に語尾に「ニャ」ってつくんだ。
ファンタジーを生で見ちゃった気分。
喋るネコって、違和感が凄い。

「でも、助かったニャ。ありがとうニャ。」
「そ、そう?」

スッと立ち上がったネコに唐突にお礼を言われて、ハルマサは戸惑う。
感謝の念を伝えられたのはすごく久しぶりなのだ。
誰かを自分から助けたことも。

(僕が誰かを助けるなんてなぁ……)

今までは、困る人を見ても見て見ぬフリが多かった。
自分に何が出来るか、と言う心と、本当に助けてほしいのか?迷惑じゃないのか?と躊躇ってしまう事が多かったのだ。
自分はやはり弱かったのだ。
体も、心も。
だが、さっきは力があり、心は揺れなかった。

たとえチートによって手に入れた物とは言っても、自分の成長を嬉しく感じるハルマサだった。

「やっぱり言葉は通じるんだニャ……!」

アイルーが何か呟き、こちらの手を掴んで来た。

「……?」
「あの! 助けてもらったばっかりで厚かましいとは思うんニャけど、あんたの力を見込んで頼みがあるんだニャ!」

こちらの居住まいが正されるほど、必死な顔である。
死んでからよく頼み事をされるものだと思う。
それも今度は、力を見込んで、ときた。

「ええと……?」
「ボクたちを助けてほしいんだニャッ!」

ネコは茶色い瞳で見上げてくる。
その色は、ハルマサが生まれてこの方見たことのないほど、深い色であり、意志の炎が燃えていた。
彼に向けられるのはこれまで嘲笑の表情、侮蔑の瞳、興味の無いものを見る視線、これらが大半を占めていた。

「と、とりあえず話を聞かせて……?」

だからこそ、戸惑いはするものの、その瞳に答えたい、とハルマサは思ったのだった。



アイルーやメラルーはこの第一層において、もっとも力を持たない魔物であり、被食者であるらしい。(魔物=モンスターであるとハルマサは認識した。)
生身ではただの虫である蜂にさえ遅れを取るネコたちは、この現実に必死に抗った。
発達した知能によって武器を作り、防具を作り、道具を用い、罠に嵌め、なんとか生き残り、個体数を増やしてきた。
魔物が単体で行動しがちなのに対して、彼らは集団行動をとっていたことも大きかった。
現在では十にも及ぶ集落を作り上げることができたらしい。
だが彼らの種族は、壊滅の危機に瀕していると言う。

「原因は雪山からやってきて密林を侵食しつつある魔物、白毛の牙獣たちの軍勢だニャ。」

組織だって襲ってくる恐ろしい強さの魔物の前に、彼らの集落は一つまた一つと蹂躙されているらしい。
位置関係からして、次に襲われるのは、自分たちの村なのだと、目の前のアイルーは震えながら語った。

「お礼はするニャ! 出来ることは何でもするから、助けてほしいんだニャ!」

ネコは語らなかったが、実はこの魔物は他の村に同盟を頼みに行く使者だった。
しかし、ネコはいくら集まろうとも所詮ネコ。
蹴散らされる時期が早いか遅いかの違いにしかならないだろう。
それならば、この強者を信じてみたい。
これがもう最後のチャンス。
そう思っていた。

果たして、ハルマサはその頼みに頷いた。

「うん、わかった。できるだけやらせてもらうよ。」

こんなに頼まれたら怖いとか言ってられないよね、とハルマサは心を決めたのだった。




「あっちだニャ!」

そうと決まれば急いだほうが良い。
アイルーは駆け出し、ハルマサも駆け出し、やがてハルマサが走ったほうが速いということで、アイルーを頭に乗せて走り出す。

そうして走ること10分ほどか。
彼は持久も敏捷も常人の6倍程度はある。さらに「走破術」スキルの発動も手伝い、かなりの距離を移動していた。

「ニャ!? 村の方が騒がしいニャ!」
「うん聞こえる……襲われてるかも。」

二人は耳に聞こえた異変に、反応する。
ネコであるアイルーは当然聴力も高い。それに追随するハルマサの聴力の方が異常である。

この先で複数の獣が騒々しく動き回っているのが聞こえる。
咆哮。咆哮。なぜか爆発音。
ハルマサはさらに足の回転を上げる。

「ニャ!?」

ドンッ!

土を蹴れば地が抉れ、岩を蹴ればヒビが入る。
一歩一歩とグングン加速しながらも、「姿勢制御」によって体勢は地を這うように低く、空気抵抗を減らしながら、脚は動き続けている。

右肩に担いだカニの脚は地面と平行になり、頭上のネコは、振り落とされないようにか頭皮に爪を立ててくる。
靴が磨り減り、バラバラになってどこかに飛んでいく。
そうなってもスピードを落とさず走り続け。

目的地はすぐに見えてきた。



ガサ、と葉を掻き分けるとハルマサは崖の上に居た。
慌てて急ブレーキをかける。
そうして眼下の光景を目に入れて、ハルマサは息を呑む。

「城…?」

走るハルマサが零した言葉が、まさにアイルーの集落を表す言葉だった。
アイルーが集落、村などと呼称していたため、自然、木や藁で作った家が並んでいる集落を想像していたハルマサの衝撃は凄いものだった。

周りの木は伐採され、一面が草原となっている小高い丘。
巨岩を用いた石造り外壁が、延々ぐるりと建物の周りを取り囲み、その上に載った無数のアイルーがボウガンを持って打ち続けている。
内側からは絶え間なく大樽が飛び出し、地面に着弾、爆発が起こっている。
爆発音はこれか。

背後に切り立った崖を持ち、前面と側面を堅固な壁で固めた城塞。
壁の近くに高くそびえる塔からは、バリスタと呼ばれる大きな弓が巨大な矢を吐き出している。
知恵ある魔物が作り上げた集落が、ただの村のはずが無かったのだ。

そしてそれを攻める魔物の群れ。
いやこの数は軍隊だ。
白色の体毛に筋繊維の詰まったごつい体型。手足は物を掴むように発達しており、猿のような赤い顔を持つ。
ブランゴと呼ばれるモンスターはびっしりと城砦の下の草原を埋め尽くしていた。

『グ・ォ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オ・オ!!!!!!!』

「なんて数……」
「ニャァァ…」

咆え、駆け、跳ね回る白、白、白。

草原にある無数の罠、落とし穴、トラバサミ、毒の針、etc。
「観察眼」で明らかになったそれらを、軽々と無視、粉砕しながら、ブランゴたちは城砦へと吶喊する。
迎撃するアイルーたちの爆弾、弾丸、バリスタの巨矢をあるいは弾き、あるいは身に受けながらもひるまずに、意志の壁に体当たりを繰り返すブランゴたち。
何も考えていない力押し。

しかし、それでも劣勢なのは城塞都市のアイルーたちだった。
彼らが知恵を絞り、技巧を凝らし、時間をかけて作り上げた対抗策は、ただただ、身体能力に蹂躙されていた。
唸るほど押し寄せる魔物の群れは、10メートルもあるような壁の前に肉の階段を作り上げ、アイルーたちが慌てて爆弾を落とす。
石の壁にバカみたいな速度で突っ込む度に、壁は揺れ、アイルーたちは必死に壁にしがみ付く。
もはや抵抗など、風前の灯。
蹂躙される一歩前であった。


「無理ニャ……こんなの無理ニャ……」

頭の上のアイルーがそう思っても無理は無い状況だった。
一体何匹居るんだろう。
百匹は確実に居る。

ハルマサも一度は怖気づいた。
確かにこのネコたちは可哀相だ。
理不尽な暴力によって蹂躙される弱者。
しかし、その弱者を助けられるほど僕は強いのか?

だが、頭の上の絶望する声を聞いたとき決意は固まった。

(ボクは死んでも大丈夫だしね! 出来るところまでやって、死んでから後悔する! これでいこう!)

いつも理不尽な暴力に屈する側であった僕。
力がないといつも諦めていた。
反抗することから逃げ、生きることすらどうでも良くなっていた。
だが、閻魔様のくれたチートで強くなった今なら、何とかなるかも知れないのだ。

(いや、する!)

ハルマサは無理だと怖気ずく心を震え立たせ、決意を固める。
前向きになれた全ての要因は、精神力の多さにあるだろう。
彼の精神力はレベル5の水準に届かんとするほどの物であり、彼は恐怖に対して耐性を得ているのだ。

この事態において、まだマシだと言えることがあるとすれば「観察眼」によってレベルとともにブランゴの弱点部位、弱点属性が判明しているということだ。
猿の生態とほぼ同じであると言うことは見れば分かるので、弱点部位が分かると言うことにあまり利は無い。
ただ、「観察眼」によって詳しい情報が判明するという事が重要なのだ。

(つまりこいつらはヤオザミより弱いって言うことさッ! あいつを倒した僕なら、なんてこと無いんだ!)

自分に活を入れ、ハルマサはネコと荷物を下ろす。
ここなら魔物の集団には気付かれまい。

「よし! 行ってくるね!」
「ニャ! だめニャ!」

こちらを心配してくれているのだろうか。
アイルーにぎこちない笑みを返し、ハルマサはカニの脚を強く握り、助走を付け、跳んだ。

ハルマサは今、なりゆきで絶望的な戦いに身を投じようとしていた。




<つづく>

ステータス変化

姿勢制御と走破術が上がって、その影響で持久力と器用さが上がりました。




<16>


うわぁ……!
高い高い高い!
怖いよ―――――――――!

崖を飛び出したハルマサは、瞬間的に後悔した。
ちょっと格好つけすぎた!
僕そんなキャラじゃ無いのに!
その結果がこれだよ!

風圧で頬の肉をブルブルさせつつ、ハルマサはゆるいカーブの放物線を描きながら群れの真ん中に飛んで行き、

ドゥン!

腹に響く音と共にブランゴの上に斜め上から降り立った。

へ、へへへ。
死んだかと……死んだかと思ったァ!
あ、涙出そう。

ちなみに今ので耐久力一気に半分になりましたー。
死亡に向かって一直線だぜ!

膝をカクカクさせながら立ち上がったハルマサの脳裏にナレーションが響く。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。≫

30メートルの滑空ライダーキックは、ブランゴの耐久力を削りきったようだ。
経験値20っていうことは、あと一体倒したらレベルアップじゃないか!

と、ここでまたファンファーレ。

≪跳躍後に一定距離以上空中を移動したことにより、スキル「跳躍術」Lv1を習得しました。習得に伴い敏捷にボーナスが付きます。≫

新しいスキルである。
だが、今は確認している場合ではない。
一時硬直していたブランゴたちだが、新たな獲物として、こちらに向かってきたのだ。

ちょ、一気に来すぎw死ぬるw

前後左右、さらにジャンプしながら上からくるもの、合わせて6匹。
ハルマサの周囲が全部光り始める――――――「回避眼」の攻撃予知だ。
はわわ、あわわとテンパリそうな心を押しつぶし、正面から突撃してくるブランゴにカニの脚を叩きつける。
機先を制されて怯んだブランゴの上に逃げる道が出きた!
早速ブランゴを足蹴に乗り越え包囲網から脱出する。

だがその先にあるのも――――――包囲網。

思ってた以上にキツイなこれ!
ちょ、お前らこっちクンな!
せめて、一匹ずつでお願いしまぁす!

「ぬぁああああああああ!」

テンパリながらもハルマサは動き続ける。
手を、足を止めちゃだめだ!
なんか止まったら死ぬって言うのが直感的に分かっちゃうんだよ!
止まって無くても死にそうだけどねぇ―――!

なんでこんなとこに降りたんだ僕! もっと端から攻めろよ!

全方位から突撃してくるブランゴ。
その威力は石の壁を揺らすほど。
当たったらダメージはでかい。上がった耐久力(22)でも即死する可能性は高い。
何故なら「観察眼」によって判明した敵の筋力は―――90前後だから!
救いはそんなに素早くないことだね。

「ガオッ!」
「―――うわッ!」

鋭い爪が背後から。
「聞き耳」で危機一髪、攻撃を察した背面への攻撃を前へ跳ぶことで避ける。

「グォア!」
「ひぃ!」

そこに突っ込んできたブランゴをさらに飛び越える。

「ガアッ!」
「やられるか!」

着地地点で爪を振り上げるブランゴにカニ脚を叩きつけ、反動で左に。

「うおりゃあ!」

目の前に居るブランゴの顔を踏んでさらに逆へ。

「跳躍術」の効果はすぐに現れていた。
跳躍後の挙動がグッと早くなったのだ。
着地した直後は「跳躍術」「撹乱術」「突進術」「撤退術」の4つが重なり、驚異的な回避が可能になった。
無理な姿勢でも「姿勢制御」によってバランスは保たれ、周囲の状況を「聞き耳」によって把握する。
さらに「回避眼」が攻撃を避け、生き残るための道筋を指し示す。

これらが重なり、常人なら100回は死んでいる状況を、ハルマサは辛くも切り抜けているのだった。
まさにチート様様。
生き残ったら閻魔様を奉った祠でも作ろうかな。

だけど、「回避眼」は発動しないこともある。
思ったとおりに行動できないこともある。
その対価に削れるのは耐久力。
何度も攻撃がかすり、シャツはボロボロ。パンツもボロボロ。ポロリはまだだよ!
爪による切り傷も少なくない。

あ、やばい!
なんか耐久力下がっちゃってるっていうか、もともと半分しかなかったのに、さらに半分になったような気がする!
ふふ、今の僕ならパンチ一発で死ぬぞぉ!

至近距離での咆哮。唸りを上げて目の前を通過する鋭い爪。
後一歩横に居れば、肺腑を抉っていた獣の突進。
獣臭が鼻をつき、ブランゴの敵意で体が鈍る。
何より、避けることに集中しなければいけない状況の連続で、攻撃が出来ない。敵が減らない。
予断を許さない状況が、持久力を、集中力をガリガリ削って行く。

だが、極限の状況だからこそ、得られる対価は大きいものだ。

頭の中ではひっきりなしに熟練度アップ、新スキルの取得を知らせるファンファーレが鳴り響く。
それに伴い、徐々に洗練されていく動き。
もうどれほど避けたか。
何度直感により回避を行い、絶望的な死中での「生」を拾ったか。


(ここまで来たら死んでたまるカァアアアアアアア!)


ハルマサの自意識は、今こそ極限。

彼は、確かにここで生きていた。



≪チャラチャンチャンチャン(中略)チャーン♪ 一定範囲内に敵対す――――――
≪チャラチャン(ry 「鞭術」の熟練度――――――
≪チャ(ry 「回避眼」の熟練度が24.0を――――――
≪チ(ry 一定時間内に脚による――――――
≪t(ry 「撹乱術」「跳躍術」のレベルがともに3を越えたことにより――――――


雑多な情報が頭の中で氾濫する。
使えない特技と判断された行動に対する警告も鳴り止まない。
その中で、僕は待っていた。
僕の耐久力が、持久力が、カニ脚の耐久値が削れて行く中で。
僕の、避けるための攻撃が、どれか一匹に蓄積することを!
そして、クリティカルが発生し、ブランゴの耐久値を削りきることを!

なぜなら!
あと一匹倒せばレベルアップするからさ!

彼が左右からの同時攻撃に対して、右のブランゴにカニ脚を振りながら吶喊。
腕を弾き飛ばして顔面にスキル「拳闘術」Lv3による特技「突き」を打つ。
めぎゃあ、と結構良い手ごたえ!
スカッとしている暇も無く、左に体を倒し、跳躍。
その時脳裏に響くファンファーレは、彼が待ち望んだドラクエのものだった。


≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。レベルアップしました。全ステータスにボーナスが発生します。≫


(レベル4キタ――――――!)

流血によって重くなっていた体が、ぐん、と軽くなる。
体の内にはエネルギーが溢れ、切れかけていた息が持ち直す。

そして何より――――――今までレベル制限で使えなかった特技が使えるようになる!
なんかいろんな行動が特技とみなされて≪ポーン!≫ってなったんだけど、その中でレベル4になったら使える奴あったんだよね!

一瞬の思考の隙があったか。
飛び掛ってきたブランゴの下から突進してきたブランゴに、対応が遅れる。
咄嗟にカニの脚で受け止める。
猛烈な勢いに、しかしレベルが上がったハルマサは耐え切った。
だが、武器は耐え切れなかった。
手元に近いほうの節がもげ、50センチの棒になってしまったカニの脚。

(!?)

相棒が! 臨時だけど!
くそう!
貴様には取って置きを食らわせてやる! さっき偶然発見した、かっこいい名前の特技を!
でもその前に、

「突きィ!」

突進を避けざまに、わき腹へ「棒術」の特技「突き」を放ち、突き込んだそれを無理やり引き戻す。
筋力が上がったのか、さっきまでよりもブランゴが柔らかく感じるよ!
口を限界まで開け、衝撃に体を揺らすブランゴ。

――――――行くぞ!

僕は瞬時に重心を沈め、地面を踏み抜くような踏み込みと共に、腰だめに構えていた拳を放つ。

「―――崩拳!!!!!」

熟練度ではなく、レベルで制限のかかっていた特技「崩拳」。
もう名前からして強そうな特技は、予想通り強かった。
何の制限もなくなった今、彼の劇的に上昇した筋力によって放たれる拳は、爆発的な威力。

―――――轟音!

顔面に攻撃を受けたブランゴは瞬時に骨が砕け、次の瞬間、背中が内側から爆発。
周囲に血が飛びちり、赤い雨が降る。


◆「崩拳」
 踏み込みと同時に対象の体に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。


一撃で相手を沈黙させられる特技である。
これは使える!
カニ脚はもう役に立たないけど、「突き」「崩拳」さえあれば戦える!
まだまだ状況は油断できないけど。

(反撃は、ここからだぁああああああああ!)

血に濡れたハルマサの顔は、常には無く、生気が溢れるものとなっていた。





<つづくといい>




ステータス

佐藤ハルマサ(18♂)  ……Level up!
レベル:4        ……1 up レベルアップボーナスは20
状態 :流血(継続ダメージ小)
耐久力:40/57    ……35 up
持久力:91/141  ……98 up
筋力 :126      ……94 up
敏捷 :268      ……222 up
器用さ:122      ……89 up
精神力:166      ……64 up
経験値:80 次のレベルまであと78


あたらしい特技

崩拳


変動スキル :熟練度

拳闘術Lv3 :36   ……36.2 up New! Level up!
蹴脚術Lv3 :30   ……30.4 up New! Level up!
棒術Lv2  :10   ……0.03 up
鞭術Lv3  :45   ……43.7 up Level up!
姿勢制御Lv3:67   ……53.5 up Level up! 
突進術Lv3 :65   ……60.1 up Level up!
撹乱術Lv4 :74   ……60.1 up Level up!
跳躍術Lv3 :61   ……61.3 up New! Level up!
撤退術Lv4 :72   ……60.1 up Level up!
防御術Lv1 :2    ……2.88 up New!
戦術思考Lv2:14   ……14.3 up New! Level up!
回避眼Lv4 :92   ……86.3 up Level up!
的中術Lv2 :29   ……29.0 up New! Level up!
空間把握Lv2:18   ……18.1 up New! Level up!
聞き耳Lv4 :73   ……23.4 up Level up!


◆「崩拳」
 対象の体に踏み込みと同時に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。

■「拳闘術」Lv3
 拳で攻撃する技術。拳で攻撃する際、威力が上がる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は拳で大地を割る。
(一定時間内に一定回数以上拳による攻撃を繰り出したことにより、習得。)

■「蹴脚術」Lv3
 蹴りを繰り出し攻撃する技術。足で攻撃を放つ際、蹴りの速度が上がる。熟練に伴い敏捷またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は蹴りで衝撃波を放つ。
(一定時間内に一定回数以上足を強振したことにより、習得。)

■「跳躍術」Lv3
 跳躍後、上手く着地する技術。着地後、素早く動くことが可能となる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。上級スキルに「空中着地」がある。

■「防御術」Lv1
 攻撃を防御する技術。攻撃を防御する際、被害を軽減する。熟練に伴い、耐久値にプラスの修正。熟練者は、魔法による攻撃を無効化する。
(耐久力以上の攻撃を防御したことにより、習得。(カニの脚で防御した時に習得。))

■「戦術思考」Lv2
 戦闘中において思考する技術。戦闘中、冷静になる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。熟練者は、死の間際でさえ慌てない。
(一定時間以上、戦闘行為を継続したことにより、習得。)

■「的中術」Lv2
 攻撃を命中させる技術。攻撃が当たる度、確率でクリティカルが出る。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が増加する。
(一定時間内に一定回数以上攻撃を命中させたことにより、習得。)

■「空間把握」Lv2
 戦闘時、自分の周りの事象を把握する技術。自分を基点とした一定範囲内の事象を把握できる。スキルレベル上昇に伴い効果範囲が増加する。
(「撹乱術」「跳躍術」のレベルがともに3を越えたことにより、習得。)




[19470] 17~20
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 23:12



<17>


アイルーたちの村の名は、『ココット』と言う。
その村の村長は代々ココットの名を継ぎ、村の発展に力を尽くす。
そして今代のココットの頭脳は一級品だった。
彼は今までの村の概念を覆した。
隠れ怯える村から、守る村へ。
それが最も顕著に現れるのは、石を積み上げた壁だろう。
さらに、迎撃のためのバリスタ。
侵入を阻む罠をしかけ。
周りの木を切り払い、虫型の魔物が近づかないように。

これによってアイルーたちは安全な生活を勝ち取った。
だが、それは空しい努力だったのか。

ダンダンダン! ダンダンダン!

「――――――クッ!」

(効いてないだと……!)

渾身で作り上げた武器は、相手の勢いを少し削ぐだけ。
ココットは、雪崩のように襲い来る牙獣たちに必死に速射型のボウガンの弾を打ち込みながらも、歯軋りをせずには居られなかった。

だが――――――

「おい、ココット! あれを見ろ!」
「なんだ! ――――――何? 何だあれは………?」

ココットの視線の先、ボウガンも届かないような場所で、周囲を白の獣に囲まれて、一人で戦う戦士が居た。
単身で群れに挑むなど、正気の沙汰ではない、無いが――――――

「翻弄している……だと……!」

この世界は100匹の弱者と一匹の強者であれば後者に軍配が上がる世界。

後ろにも目があるような身のこなし。霞むような移動。重い攻撃。
縦横無尽に走り回り、群れをかき回している戦士は紛う事なき強者だった。

一体また一体と、確実に牙獣は沈んでいき、戦士は動きをどんどん加速させていく。
いずれ、群れの全てを倒してしまうほどの勢いだった。

必然、防衛をしていたアイルーたちへの負担が減少していく。
今まさに落ちんとしていたアイルーの村は、少し持ち直しているのだった。

ココットは心を決める。
名も知らぬ戦士よ。今はあなたを利用させてもらう!

「皆のものよ! 援軍だ! 援軍が来たぞッ!!!!」

声を張り上げると、周りがざわめきだす。

「援軍?あいつか?」
「凄い!」
「一人で!?」

ココットは、さらに声を出す。

「守りきれ! 時間を稼げば我らの勝ちだ! この戦い、勝てるぞ! 気合を入れろぉおおおおお!」
『おおおおおおおおおッ!』

今、アイルーたちは折れかけた心を持ち直し、強大な敵に向き直った。





敢えて言おう。
レベルアップ、ハンパネェ!
さっきまで脅威の塊だったブランゴたちが、案山子の群れに見えるよ!

「はははははっは――――!」

THE・有頂天状態になっているハルマサは、もう何も怖くない、とばかりに走り回って、手当たり次第にブランゴを蹴散らしていた。

「ふ、どうやら強くなりすぎてしまったようだね!」

などと、野菜王子の真似をするくらい余裕である。(でも怖いのでパンチをわざと食らったりはしない。)

「崩拳!」

どぐぁ、びちゃあ、とまた血の雨を降らせて、僕はその場を離脱。

「ガァアアアアアアア!」
「甘い!」

飛び掛ってこようとしたブランゴを蹴り上げる。
何が甘いのかよく分からなかったが、とりあえず。
この動きの特技はないようだったが、関係なく威力は高い。

もう一度崩拳を使おうとしたが、どうやら特技には再使用までの冷却期間があるようで、ただのパンチになった。
連続使用は出来ないみたいだ。
だがそれでも全く問題ない。

ただのパンチでもブランゴはぶっ飛んでいる。

彼の有頂天に火をつけたのは、さらにもう一つレベルが上がったことだった。
レベルが上がって4になった後、ブランゴを倒した時の経験値は半分になった。
しかし、それでも十匹近く倒すとレベルアップが起こったのだ。
よって今の彼のレベルは5。

もう、誰も追いつけない! そんな気がする!

腕を振れば数メートルも吹っ飛ばされて、足を振れば頭が割れる。
瞬く間に仲間の死体を量産されて、ブランゴたちはビビッてしまっているようだった。
レベル5になってからさらに取得経験値が減ったため、次のレベルまでは遠そうだ。
だが、これでもう十分。

ハルマサはもう脅威を感じていなかった。




それから十数分。
ハルマサは賢者タイムに入っていた。

目の前には死屍累々。
思わず、城壁に取り付いているものはおろか、逃げようとする奴まで屠ってしまった。
殺りも殺ったり132匹。
レベルは6になっていた。

ふぅ……。
何やってるんだろうな、僕。
自分より弱い生き物を倒して喜んでるなんて。

ハルマサが賢者タイムに入った理由は、ある特性の取得だった。


□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感が薄れる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。


ハルマサは血に塗れた手を見る。
あんなに血を浴びたというのに、何も、胸に湧き上がらない。
ニオイも臭いと思うだけ。
小説だと、こういうときに吐き気とかもよおすものなのに。
手には確かに頭蓋を叩き潰し、肺腑を貫いた感触が残っているが……正直それが何? といった具合。

テンションが下がった後でも生き物を殺した忌避感が沸かないのはおかしな気分だった。

この特性。今まで得た特性と比べて、遥かにまともなはずなのに心は晴れない。
僕はもう、人ではないんだね……

思わずため息が漏れる。
ハルマサは、忌避観を感じないことに強烈な寂しさを感じているのだった。


ブランゴたちの死体は消え去り、死体一つにつき、金貨一枚と尖った爪やくるくると丸められた布?(皮です)が残された。
それをぼーっと眺めていると、声が聞こえた。

「もし、言葉は通じるというのは本当か?」
「……ん?」

見れば、蜂に襲われていたアイルーと、彼よりも体格の良いアイルーが僕を見ていた。

「えっと……誰?」
「おお、本当に話が通じるのか。いや、すまん。私はこの村の村長。ココットだ。」

体格の良い、ココット?さんが軽く目を見開きつつも自己紹介をしてきた。

「あ、僕は佐藤ハルマサです。それで、何か用ですか?」

うむ、とココットは頷いた。

「まずは我らの村を助けていただいたことの感謝をしたい。我らの宴に参加してもらえないか? 貴殿を歓待したいのだ。」
「え、いやそれほどのことでも……」

いや、あるかも。
普通に死んじゃうと思ったし、感謝されてもいいのかな。むずがゆいけど。
あと、お腹もすいたからご飯はすごくほしい。

「じゃ、じゃあご馳走になります。お腹すいちゃって。」
「ふ、そうか。ならばウチのネコどもの腕を堪能してくれ。さ、こっちだ。」
「その前にお風呂はどうだニャ? ドロドロだニャ。」

それはすごくありがたかった。



「いてて……」

お風呂は、気持ちよさを感じる前に、傷に凄い沁みました。
切り傷とか沢山あるなァ……。
もう血は止まってるけど、ヒリヒリするよ。

ネコ用にだろうか底の浅い、木製のお風呂に入らせてもらった後、猫たちが速攻で織り上げたローブを借りて、宴の席に着いた。
ちなみにノーパン。ドキドキしちゃうぜ!

宴は野外で行われるようだった。丸いテーブルがそこかしこに並べられ、50を越えるようなアイルーたちが好き勝手に座っている。
こんな集落が他にもあるって言うんだから驚きだなぁ。

ココットが咳払いをして口を開く。

「では、諸君! 我らの勝利と我らを救ってくれた英雄に! 乾杯!」
『ガシャン!』

皆が杯を打ち付けあい、各々杯を呷ったり、料理をつまんだり、肩を叩きあい、談笑する。
ハルマサはこのような雰囲気は初めてであり、なんか良いなぁ、と思った。
ネコが代わる代わる話しかけてきてくれて、ハルマサも何とか場の空気に混じる事が出来ていた。
どうでも良いが、語尾に「ニャ」とつけるアイルーは半分も居ない。
年を取ると付けなくなるそうだ。

「ふむぅ、それにしても貴殿は謙虚だな。もっと英雄らしくしても良いのだぞ。」
「そうですニャん。ささ、もう一杯。」
「あ、ありがとう。って英雄!? いやそんな。」

ハルマサは、ココットに感嘆され、それに村一番美しいと言われる毛並みの綺麗なネコにお酌され、非常にむずがゆい思いをしていた。
だが、悪くない。
好意的に接してもらえるのはやはり、嬉しい。
ハルマサの顔にも自然と笑顔が浮かぶのだった。


そして宴もたけなわ。
ハルマサを連れて来たアイルー(ヨシムネと名乗った)が、他のネコと共に、布で巻かれた長いものを重そうにしながら持ってきた。

ココットは言う。

「ハルマサ殿。貴殿のしてくれたことに対して、見合うとは到底思えないが、これは我々の気持ちだ。どうか受け取ってほしい。」

ココットが、バサァ、と布を剥ぐと、そこにあったのは―――

煌く黄金色の巨剣だった。
幅広の刃は大胆かつ鋭角に切れ込みが入っており、刀身全体でまるでネコが牙を剥いているように見える。
日の光を照りかえしてキラキラと輝く様は、英雄の聖剣のようだった。

「ビーナス・オブ・キャット。この大剣の名だ。」
「そう、ですか。」

ていうかモンハンに有りましたよねコレ。
大剣で、ネコの紅玉とか使って作るやつだ、確か。
ネコの紅玉なかなか出なくてイライラした記憶あるもん。

大剣を手に取ってみる。
ひやりとした金属の感触。
ズシリと来る重さだ。
まぁ僕の筋力ちょっとアレだから簡単に持てるけど。
刀を触ると、パチッ、と静電気が走り、指先にシビレを感じる。
そういえばゲームでは麻痺属性あったっけ。
これで切ったら、敵がアばばばばば!ってなるんだね。

「ふ、どうやら気に入ってもらえたようだな。何よりだ。」

いや、こんな目立ちまくる装備貰っても。
「穏行」するとき邪魔なんですけど……
というのが本心だったが、すごく嬉しそうにしているココットさんに悪いので言い出せない。
まぁいいか。

あ、そうだ。閻魔様の頼みがあったっけ。
誰かついてきてくれないかなァ……?
これの代わりに、とかどうだろう。
でも、今連れて行っても、ボスとかいたらちょっと邪魔になりそうだし……。
第一層クリア出来てから考えようか。
ココに来たらアイルー居るのはわかったんだし。

「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」

こうして。
ハルマサは、武器を手に入れたのだった。




<つづく>


ステータス

レベル:6      ……2 up レベルアップボーナスは120(40+80)
耐久力:180/180 ……123 up
持久力:263/263 ……122 up
魔力 :120     ……120 up New!
筋力 :252     ……126 up
敏捷 :406     ……138 up
器用さ:244     ……122 up
精神力:292     ……126 up
経験値:500 次のレベルまであと138

あたらしい特性

殺害精神

スキル

拳闘術Lv3 :42   ……6 up
蹴脚術Lv3 :34   ……4 up
姿勢制御Lv4:71   ……4 up Level up!
突進術Lv4 :70   ……5 up Level up!
撹乱術Lv4 :79   ……5 up
跳躍術Lv3 :66   ……5 up
撤退術Lv4 :73   ……1 up
防御術Lv1 :5    ……3 up
戦術志向Lv2:18   ……4 up
回避眼Lv1 :94   ……2 up
観察眼Lv4 :73   ……1 up
的中術Lv3 :33   ……4 up Level up!
空間把握Lv2:22   ……4 up


□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感がなくなる。殺害に関して論理的に考えられるようになる。



敵が格下になって脅威がなくなったので得られる熟練度はガクッと下がりました。
格下or格上は、レベルで判断。
ちなみにブランゴたちはレベル4に相当します。
観察眼で筋力とかを判別できたのも観察眼がレベル4だったからと言うわけです。
今回、取得経験値は、レベル3の時20、レベル4の時10、レベルが5の時は5、レベル6だと2でした。




<18>

太陽が沈まないので分からないけど、多分一晩くらい眠ってから、僕はここを発つことにした。
なんか居心地良すぎて住み着いちゃいそうだけど、それはやっぱりダメだよね。

結構な数のアイルーが見送ってくれる中、僕は旅立つ。

ところでアイルーたちの好意により、装備が整いまくりました。
ありがてぇ。

まず装備一つ目!「ナップザック」!
僕がジャージで作っていた形を真似てくれたのか上の面が無い円柱型で、上のほうに紐が通してあり、引っ張ると口をすぼめる事が出来る構造だ。
中には食料やら水やらが入っている。

次に「剣帯」!
あんな大きい剣を引っさげていくのもなんか嫌だったので、お願いしたところ作ってくれました。たすき掛けにした革帯に剣を引っ掛ける鋲がついています。

そして「秘密のポーチ」!
何が秘密かは秘密ですが、中には大事なものを入れておけ、とのこと。金貨でも入れておこうかな。

最後にこれが最も重要だけど、「着る物一式」!
白を基調とした上着にズボンにインナー(下着)も! 靴も作ってくれて完璧です。
これで珍妙な格好とはオサラバダゼぇー!

で、着る物なんだけど、かなり丈夫です。
ブランゴの皮とか毛とか骨とかを使って猫達が一晩でやってくれました。
ただ強いだけの僕よりよっぽど社会に貢献できそうなネコたちだと思う。

盾もほしいな、と思ったけどココには魔物の攻撃に耐えられるような素材は無いんだって。
あっても加工が出来ないらしい。
まぁそこまで欲しいものでもないし、まぁ良いや。
あ、そんな「すいません」とか言って頭下げないで! こっちのほうがよっぽどすみません。
こんな良いもの頂いちゃって……

ちなみに作ってもらったもの全て、メイドbyネコって分かるようになっています。
具体的には剣帯は鋲にネコの顔が彫刻してあるし、布製のものにはネコのアップリケがついています。
服にもよく見れば胸のところで逆立ちしているネコの絵がある。
やたらポーズがカッコいいんだけどもしかしてコレ、ブランド?

まぁ良いものには違いない。僕はホクホクしながら装備を整える。
ブランゴがドロップした金貨とかも持って行けって言われたけど、今のところ使い道ないし、服のお礼として猫たちに引き取ってもらった。

「それじゃあ。」
「ああ、ぜひまた寄ってくれ。」

ココットさんに挨拶をして、僕は出発した。



ココットさんたちはこの世界をダンジョンだと認識しては居ないらしい。
死んだ時死体が消えるような魔物を疑問に思わないかと問うと、「魔物だし」の一言で終了した。
そういえばアイルーも魔物だったね。自分の存在に疑問なんて持ったりしないか。
で、彼ら曰く、密林は東と南と西が海に面しており、北は平原というか草の短い山々があり、さらに北に行けば雪山があるのだそうだ。
南北に伸びる楕円の大陸で、北に行くほど寒いと言うわけだ。
平原や北山に、何があるかはネコたちは知らないらしい。
北は魔物活動が活発なんだって。

という訳で僕も北に進むことにした。
密林に落とされたなら、そこから一番遠いところに下に行く道がありそうじゃない?
ふ、余のビーナスオブキャットも血に飢えておるわッ!
……名前長いなー。これから縮めてビーナスって呼ぼ。

で、密林が深すぎて、どっちが北か分からなくなりそうだと言ったら、木に登って確かめてみればどうか、と提案された。
そりゃそうですね。すいません。
何で今まで気付かなかったんだろう。僕は本格的に僕の頭が心配だよ。

え? モス?
いや、あんなのもうどうでも良いよ。
楽勝だろうし。
弱いものいじめする趣味は無いって。
殺されたことももうどうでも良いって言うか……これも「殺害精神」の効果なのかなァ。


と、思った矢先にモスに会った。というか進路上に居たんでそのまま進んだんだけど……。

「フゴォ、フゴォ!」

足で地面を引っかき、なぜかヤル気満々である。
そんなに張り切っちゃって……
一応「観察眼」で見ておこうかな。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【モス】:体に苔などの繁殖しているブタ。弱点部位は額など、多数。弱点属性はなし。攻撃パターンは突進だけ。避けたら勝手に死ぬ最速の突撃ブタ。
耐久力:1 持久力:1 魔力:0 筋力:56 敏捷:500 器用さ:1 精神力:1≫

「極端すぎるッ!」

思わず叫んでしまった。
勝手に死ぬって凄いな。
それに筋力60近くも有ったのか……。そりゃ耐久力が一桁の時にこんなんくらったら即死するよね。
最速の突撃ブタとかカッコいい二つ名までつけちゃって…………。

………………あれ?
……敏捷高くない!? 500!? 50じゃなくて!?

これって絶対避けれな――――――

「ピギィイイイイイイイイ!」

ブタが凄い勢いで突っ込んでくる。目がやっと終えるかどうか。
この野郎、前の時は手を抜いていたんだな!?

「オフゥ!」

あまりの出来事に動揺していた僕は見事に吹き飛ばされ、後ろの木に叩きつけられた。
お腹が抉り取られた感触がする。

は、腹! 僕の腹はあるか!? あ、あった良かった……。

あまりの衝撃に木が折れた。
幹は僕の胴くらいはあったんだけど……。
ああ、スピード×体重=威力なんだね。納得です。

お腹をさすりながら最速のブタを見れば、奴は満足そうに一鳴きしつつ消えていくところだった。
あとには金貨一枚とキノコが残るのみである。ちなみに奴の自爆なので経験値は入らなかったようだ。

「や、やられたよ……」

ステータスを見ると、耐久力が100近くも下がっていた。
吹っ飛ばされて木に当たったから?
確かにお腹も背中も痛いけど。
というか背中は剣が刺さって血が出てるんだよね。
しかも痺れて少し体が動かしにくい。

へへ、へ。これが、モンスターを舐めた代償って奴か。
手痛い授業料をありがとう。
もう、どんな奴でも舐めたりしないよ。
次に見かけたら「崩拳」叩き込んで内側からパーン! ッてしてやるよ!

そう決意しつつ、よろよろと立ち上がったときだった。
最初にモスが居た場所に、不自然な霞が、モヤモヤと発生した。

「……? なに?」

モヤはやがて形を成し――――――モスになった。

(そんな! リポップだって!?)

リポップ。
MMOなどで、フィールドにモンスターが湧き出る現象である。
この現象、ダンジョンならではと言えるが、何もこんなところでそれらしくしなくても……。
ていうか早すぎだよモンスター補充されるの。

「ピギィイイイイイイ!」

まぁちょいと痺れた僕に奴の突進を避けれるはずもなく。
僕の記憶に、奴の心なしか嬉しそうな鳴き声が響き――――――







気付けば閻魔様の前に居た。

「おかえり。」
「は、はい。」
「今回の敗因は何だ。」
「敵を、侮ったことです……」

フフ、泣きたいですよ……


さてお待ちかね(誰が)!
今回の下がりっぷりを見てみよう!

デスペナは
1 ステータスの全20パーセントダウン。
2 スキル熟練度のダウンとそれ伴うステータスのダウン。
さらに今回判明したのだが、そのレベルに上がった際のボーナスも引かれるという。つまり、
3.死亡前に得たレベルアップボーナスを高いほうから一つ、再修正。(今回はマイナス80ポイント)

これが上から順番に起こる。そうするとどうなるか?

レベル:(6→)5
耐久力:(180→)63
持久力:(263→)116
魔力 :(120→)16
筋力 :(252→)112
敏捷 :(406→)196
器用さ:(244→)98
精神力:(292→)128
経験値:(500→)158 次のレベルまであと160

こうなるのである。

「なにか感想はあるか?」
「一気に上がって、一気に下がったからよく分からないですね。」

と言うのが率直な印象である。つまり精神的なダメージはあんまり無かったです。
でも実はレベル4の時よりも弱くなってるんだよね。
デスペナ厳しすぎるのは相変わらずです。

「というか一気に装備が整ってるな。なんか有ったのか?」

女神様が、あ、間違えて女神様とか言っちゃった。
閻魔様が僕の服を見ながら尋ねてきた。
特に、刺繍してある猫の絵が大変気になるみたいだ。
きっとネコがお好きでいらっしゃるんだろうな。
ていうかナップザック置いてきちゃった。
ゴメンねネコさん。
ポーチはあるから金貨は持ってるけど。

「実は、件の魔物、アイルーに会いまして。」
「なんだとぉ!?」

うお、そんな寄らんでください。
相変わらず悩ましいおっぱいをしておられる……興奮してしまうよ。
ちなみに観察眼でサイズを測ろうとしたら当然のように弾かれた。

≪「観察眼」Lv134を習得する必要があります。≫
(無理だッッッ!)

桁が違ぇ……流石ですね閻魔様。
は! 違う、閻魔様の魔乳を鑑賞している場合ではなかった。
報告をしないと。

「実は云々かんぬんで……」
「ほうほう。えらいな。よくぞあの愛らしい生き物を守った。撫でてやろう、よしよし。」

お褒め頂いた!
触れていただいた頭がとろけそうだよ!
フンハー!

「おかしいな……お前みたいな貧弱な坊主が良い男に見えてきた。フッ……仕事のし過ぎか。」

閻魔様はニヒルに笑いながら離れていった。
残念。
閻魔様は、ギ、と椅子に座ると、こちらを見てきた。

「それでお前はボスが居るかもしれないからアイルーを連れ歩かない、と言ったな?」
「はい。」
「それは大正解だ。」

大正解らしい。

「まぁ連れて行ってたらモスに潰されていたでしょうから、そうかもしれませんね。」
「いや、そうではない。慎重になったのが正解なんだ。何しろ、神が創ったダンジョンのフロアボスは強さの桁が違うからな。」

そういえば神様っていっぱいダンジョン作ってるんだっけ。
幾多のダンジョンに(恐らく)挑戦してきた閻魔様が言うんだから間違いは無いだろう。
そうだな、と閻魔様は顎に手をやる。

「お前にやったレベルシステムがあるだろう? あれで換算すると、フロアに居るザコとはレベルが5は違う。」
「?????」

5違うとそんなに違うのだろうか。
確かにレベルアップするごとに僕もすごく強くなっているけど。

「分かってないような顔をしているな。お前に与えたシステムでは、レベルが一つ上がるごとに、強さがおおよそ2倍になるんだぞ? レベルが5違うということは、もうなんだ。アホみたいに強くなる。」
「ははぁ……」

えーと、1つで2倍なら、2つ違えば4倍で、3つで……8倍、4つで16倍、5つで32倍!?

「さ、32倍も違うんですか……?」
「おお、足りない頭で頑張ったな。」
「フフン! そんなに褒めないで下さいよ!」
「いや、褒めてないんだがな。あと、なんだかお前がさらに良い男に見えてきた……何だこれは……? まさか……いやバカな……」

閻魔様がブツブツ言っていたが、僕はそろそろダンジョンに行くべきではないか、と思い始めた。
蟲惑的かつ扇情的な閻魔様を見ていると、家に残してきたエ○本の事がどうしても思い出されてしまうのだ。
早く一層をクリアして処理しに帰らなきゃ!

「閻魔様! そろそろ僕をダンジョンに送ってください!」
「おお? もう行くのか? その前に茶でも、いや何を言っているんだ……忘れてくれ。」
「あの、嬉しいんですけどやめときます。生アイルーを早く閻魔様に届けたいですし。」
「う、うむ。そうか。私のためにな……フフフ。」

閻魔様は嬉しそうに笑っていた唇を引き締めると、言い難そうに言葉を発した。

「まぁ張り切るのは結構だが、その…なんだ。無理はするなよ。」
「は、はい!」
「…よし。行ってこい。」

ビューン!

僕はまたもや怪しい光に包まれるのだった。


<つづく>



レベル5
耐久力:63   ……117 down!
持久力:116  ……147 down!
魔力 :16   ……104 down!
筋力 :112  ……140 down!
敏捷 :196  ……210 down!
器用さ:98   ……146 down!
精神力:128  ……164 down!
経験値:158 次のレベルまであと160 ……342 down!

スキル

拳闘術Lv3 :34 ……8 down
蹴脚術Lv2 :28 ……6 down  Level down!
棒術Lv1  :8  ……2 down
鞭術Lv3  :36 ……9 down
布闘術Lv1 :2  ……1 down
舞踏術Lv1 :1  ……1 down
姿勢制御Lv3:57 ……14 down Level down!
穏行術Lv3 :60 ……15 down Level down!
突進術Lv3 :56 ……14 down Level down!
撹乱術Lv3 :64 ……15 down Level down!
跳躍術Lv3 :53 ……13 down
走破術Lv1 :5  ……1 down
撤退術Lv3 :59 ……14 down Level down!
防御術Lv1 :4  ……1 down
戦術志向Lv2:15 ……3 down
回避眼Lv4 :76 ……18 down
観察眼Lv3 :59 ……14 down Level down!
鷹の目Lv1 :6  ……1 down
聞き耳Lv3 :59 ……14 down Level down!
的中術Lv2 :27 ……6 down  Level down!
空間把握Lv2:18 ……4 down
洗浄術Lv1 :1  ……1 down
祈りLv0  :0  ……1 down リストから削除されました。



閻魔様はレベル136相当の猛者。レベル1の人の2の135乗倍強いです。第一層のフロアボスなんざ一ひねりですね。




<19>


さて、バビューんと飛んできて、またいつもの平原にきた。
ほら、あれだよ。ダンジョンの入り口(穴)のあたりに広がる平原さ。

ここに来るのももう四回目(内、一回は気絶していた)。
この人ッ気の無い空間にもそろそろ慣れが出始めるところである。

「ハイ! キャシー! 相変わらず綺麗な年輪! 元気にやってた!?」

ついつい立て看板(キャシー)に話しかけてしまうほどだ。
いや、別に寂しいんじゃなくてね。

それにしても、今回のレベルダウンで気付いたのだが、僕にいつの間にか魔力が備わっているんだ。
ビックリしたよ。
今回のデスペナで10分の一くらいになっちゃってるけど、まぁあるだけでなんだかテンションが上がるよね。

今回もなんかスキル手に入れていこうかな……。
魔法とか。
それに魔法とかさ!

と言いつつ、まずはこの背中に乗っている大剣を使えるようにしておこう。
目標は……体力有り余ってるしレベルが上がるまで行こうか!




≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「両手剣術」の熟練度が10.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。レベルアップに伴い、耐久力・持久(ry ≫

「ふぅ……」

超高速で振りまくってたら、意外と早く溜まった。
体のスペックの成長を感じるなァ。
最初なんか棒を四回振っただけでバててたのにね。
今回は一度も休憩しなくて良かったよ。

持久力高いもんね。三桁だよ三桁!
大人10人分かー。
ファンタジー漫画の主人公たちのようにはいかないけど、十分超人のレベルだよね。
モンハン風に言うなら、スタミナゲージが10本あるようなもんかな。
違う。それじゃ画面が見えなくなっちゃう。
10倍減りにくいということで納得しておこう。5倍ランナー!

ところで、大剣を持ったら試してみたい事がある。
モンハン2Gでの、あの技である。

足を開き、ビーナスを掲げる。
右肩に担ぎ上げ、体を反らし、背の真後ろに刀身が来るほどギリギリと体を捻る。
確かこんな格好だったよね。
振り下ろそうとしつつもそれを無理やり止める感じで力を決める。

すると剣がピカッ!と光りだした。
やっぱりあったみたい。
そう。
「溜め斬り」である。

さらに待つともう一回ピカッ!
どうでもいいけどコレ何だかすごく疲れる。

そして3回目が光ると同時に、自然と腕に力が、今までにない力が篭る。
上半身の筋肉が血管を浮き上がらせながら膨張し、

「うぉおお!?」

――――――どごん!

「うわっ!」

腹に響く重い衝撃と共に、勝手に振り下ろされた剣がクレーターを作ってしまった。
周りの土地がぐらぐらと揺れる。
草の生えた土の表層がめくれ上がる。
姿勢制御が無ければこけていたかも知れない。


◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。


凄い威力だなァ……。
遠くに差してある立て看板が、抜けて、穴に落ちるくらい。
……立て看板?

「ってそれはまずいよ!」

僕は駆け出した。
目の前では今まさに落ちんとするキャシー。
穴の中に飛び込んだ僕は空中のキャシーを掴むと、振り向きざまに穴の外に投げる。

全然興味なくて、言葉をかけてられても無視していた男。
だけど、私の命の危機に、身を挺して庇ってくれて……!
私、あれからあの人のこと……なんだか気になっちゃう……!でも素直になれないの……!

こんな感じで、キャシーが人間だったらすれ違いまくる感じの切ないラブストーリーが始まるところなのに、残念ながら彼女は立て看板。
こっちの気持ちには応えてくれないんだよね。
いや、何の気持ちも無いけど。
流石に看板に発情するほどアホでもバカでも変態でもないよ。

という訳で、魔法の練習も出来ずに、僕はダンジョンへと落ちていくのだった。
あ、剣は持ってるよ。




【第一層・挑戦四回目】




さて、前三回は怖さのあまり足元ばっかり見ていたけど、実はこの落下中って上空からこの大陸を俯瞰できるチャンスだ。

ははぁ、白い山が確かに見えるよ。あっちに行ったらいいんだね。
それと……、やっぱり見えた。

アイルーたちが作っているであろう集落がちらほら見える。
密林ってアホみたいに広いけど、「鷹の目」のおかげで結構見える。
ココット村も見える。ココから見て東にある。相変わらず城みたい。

やがて地表に近づき、ふわり、と勢いが殺される。

選択肢は二つある。
一つココット村によって、装備を整えてから、北に向かう。
もう一つは、このまんま北に向かう。

ココット村に行くと、また美味しいネコ飯が食べれる。
でも、閻魔様に僕やるよ!的なことを言って出てきた手前、寄り道するのはナンカなァ……
大剣で遊んどいて言うのもあれだけど、ここは北へ直進しよう!

そうと決まればランニングだ!
いや、待てよ?
戦闘で使えるスキルを熟練するためにジャンプしつついくか?
いや、むしろ新たなスキルを狙ってバク転しつつ行くとか、枝の上を飛び移りつつ行くとか……

むむぅ。持久力が豊富だから選択肢が増えて困っちゃうな。
……よし決まった!
枝から枝へジャンプしつつ、剣を振りながら行こう!

大丈夫、今の僕なら出来る!

「うららららら!」

こうして僕はビーナスを振って枝葉を切り飛ばしつつ、木の上を跳ねて進むのだった。

「聞き耳」を発動させつつ、数十分もそうやっていただろうか。
ついに密林の終わりが見えてきた。

ちなみに別に新しいスキルは出ませんでした。



<つづく>


ステータス

耐久力:63→67
持久力:116→139
魔力 :16
筋力 :112→140
敏捷 :196→211
器用さ:98→100
精神力:128
経験値:158 あと160


新しい特技

溜め斬り

スキル
両手剣術Lv2:28  ……28 up New! Level up!
姿勢制御Lv3:62  ……5 up
跳躍術Lv3 :64  ……11 up
走破術Lv2 :21  ……16 up Level up!
観察眼Lv3 :63  ……4 up
鷹の目Lv2 :10  ……4 up  Level up!
聞き耳Lv3 :68  ……9 up


◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。

■「両手剣術」
 両手剣を扱う技術。両手剣で攻撃する際、力を込めやすくなる。熟練に従い、筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者はどんな固い守りも叩き割る。






<20>


シュパン、と枝を切り飛ばし、進路を曲げずに突っ切った先は、延々と広がる丘陵地帯だった。
まばらに木が生え、一面に生えた短い草がそよそよと風に揺れている。
密林から流れ出した幅の広い川が緩やかに流れていた。
ちなみに川の水は飲める様だ。
レベルアップした「観察眼」は本当に卑怯だね。
遠くのほうに雪山も見える。
このフィールドにも山があるため、雪山の頭くらいしか見えないけど。


えー改めましてどうも。ついに3死してしまったハルマサです。
レベル5なのにレベル4の時よりも弱くなってしまったんですけど、それでも僕は元気です。
レベル3の時よりは格段に強いんで、問題ないんです!

それはさておき、今目の前には初めて遭遇したモンスターが居る。

モシャモシャと草を食んでいる恐竜みたいなモンスターで、こいつはアプトノスだったっけ。
近くでみると大きいなァ……。動物園で見た象より大きいんですけど……
眺めるだけではなんなので、「観察」EYE! 発動!

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【アプトノス】:草食でおとなしい魔物。気弱ですぐに逃げるが、時には反撃してくる個体もいる。
耐久力:242持久力141魔力6筋力100敏捷34器用さ21精神力18≫

なんだかんだでこのモンスターも極端だった。
モスみたいに地雷が無いだけマシだろうか。
あの突撃ブタ式多段ロケットは、恐ろしかった……。
ナップザックは惜しいけど、もう会いたくないな。
せめてこっちの敏捷が500超えてからにしてもらいたい。
それにしても……
このアプトノスも、攻撃が当たったらハルマサは即死する。
思えば、僕がヤオザミに勝てたのも、ブランゴに勝てたのも、すごく運が良かったんだな。
僕の方が小回りが効くとか、敏捷が勝っているとかで切り抜けてきたけど、一歩間違えば今でもレベルマイナスのどん底状態だったかも知れない。
モンスターが平均的に強すぎるんだよね……。

いつまでも黄昏ては居られないので、先に進むことにする。
密林と逆に向かって進めばいいから分かりやすい。

先ほどのアプトノスを見て思ったが、ここはモンハンで言う「森丘」のマップに相当するのかもしれない。
で、森丘といえば、僕はもう一つ思い浮かべるモンスターがある。
飛竜戦の時とかにやたらとじゃれ付いてきて迷惑するあいつ。

「ギャア! ギャアッ!」
「ランポスか!」

そうランポスである。青と黒の縞々皮に茶色いトサカ。鋭い牙を長い口にそろえ、両足には鋭い爪を持つ、小型の肉食恐竜のようなモンスター。
分類は鳥竜種だっけ。
もう何処が竜か全然分からないよね。
あ、恐竜か。
こいつも意外と大きい。こっちの身長くらいはある。
もう驚かないよ……!

凄い勢いで接近してきたので、「聞き耳」で捕らえた時はもう遅かったんだ。

「ギャア!ギャア!」
「ギャア! ギャア!」
「ギャア! ギャア!ギャア!」

そしていつの間にか増えていた。
五匹も居るよ……?
クッ!「観察」EYE!

≪対象の(ry
【ランポス】:小型の肉食モンスター。集団で狩りを行うため、囲まれたら危険。
これ以上の情報を取得するには、「観察眼」Lv5が必要です。≫

な、なんだって! 今まさに囲まれているじゃないか!
しかも、この「観察眼」Lv5ってヤオザミと同等……?

「ギャース!」
「うわッ!」

ガキン!

ブランゴ戦で手に入れた「空間把握」の範囲外から、姿がぶれる様な速度で突っ込んでくるランポス。
モスほど素早くも無いが、今の僕では回避は間に合わない。
ビーナスで防御しなければ死んでいた……
軽く吹っ飛ばされながらも思考する。

こんな奴が5体。
ブランゴとは違いこれは僕のせいじゃないのにきつい戦いばっかりだよ!

上手く着地すると同時に横に跳ぶ。「跳躍術」と「撹乱術」、「撤退術」のなせる早業だったが、そこまでして、ようやくランポスの攻撃をギリギリ避けられた。
これはかなりきつい!

(でも、僕はブランゴ戦でも生き残った男! これくらい、何てこと無いさ!)

でも! 攻撃は! 当たると! 即死しちゃうんだろうな! いい加減攻撃重いよ!

ガッキンガッキンとビーナスで攻撃を受け止める。

おちおち考え事も出来ない怒涛の攻めである。
防御に構えた大剣の向こうで、また「回避眼」の命じるまま体を反らせたすぐそばで、牙を打ち合わせる音がバッツンバッツン!するもんだから寿命が一秒ごとに縮まる思いである。

油断してたら跳び上がって上から攻撃してくるし、同時に他の奴まで攻撃してきた時なんてもう……

(死ぬわ! でりゃぁああああああ!)

僕はビーナスを盾に、目の前のランポスに突撃。軽くサイドステップで避けられたが包囲網からは脱出する事が出来た。

「ギャア!」

レベルアップにより拡張した「空間把握」で知覚した、追いすがり飛び掛ってくるランポスにすぐ向き直りざまに剣を放つ。
向こうもこっちも移動中なら、そんなに早くは感じない。
当てるのは難しくない!

(何時までもやられてると思わないでよ!)

「ふんむ!」

回転そのままに大剣を叩きつける。
こんな無茶な行動も「姿勢制御」でしっかりと体重の乗った攻撃となる。
攻撃はランポスの鱗を抜いたようで、血を散らしながら、ランポスは弾き飛ばされた。
ランポスはすぐに立ち上がったようだが、血は流れたまま。

(よし! こいつら、そんなに堅くない!)

こっちの攻撃は通じる!

噛み付いてくるギアノスを「回避眼」による攻撃予知線の外に間一髪跳んで避けながら、空中でバランスを取った僕は剣を振り下ろす。
ランポスの首をしたたかに打ち据えた大剣は、このランポスにもケガを与える。
血が飛び散って、白い服に斑点が出来る。

こうなると、この剣の麻痺属性のありがたさがよく分かる。
その威力は、計らずしも自分で確認済み。
斬りつけるごとに相手の動きは鈍くなり、こっちは熟練度アップで動きが素早くなっていく。
一撃で倒せなくてもいい、着実に避けながら当たる時だけ攻撃する!

ガツン! と牙をむき出して向かってきたギアノスに、腰を落として大剣を構え、攻撃を凌ぎきる。
「防御術」もレベルが上がった。
もう体勢が崩れない!
食らえば即死する攻撃だからだろうか、受けるたびに熟練度アップのファンファーレがなる。

そして敵が首を引いた一瞬の隙に、剣を支えていた右手を握りこみ、踏み込みと共に突き出す!
システム補助による不思議な力が体中に漲り、腕を通して相手の体で爆発する。

――――――「崩拳」!

拳に残った感触は、「堅い」、である。
大剣で切り裂けたとしても拳で破壊できるとは限らない。
ブランゴを爆発させた攻撃は、しかし、ランポスには致命打たり得なかった。
だが、隙を作る効果はあったようだ。

僕はランポスの横をすり抜けるように飛び込み前転、横から来ていたランポスを回避する。

「空間把握」と「聞き耳」、ともに良好! 周囲の状況が手に取るようだ!

そして起き上がりざまに、先ほど拳を突き込んだランポスに、剣の一撃。
当たると同時に、雷っぽいエネルギーが迸り、剣の効果が発揮されていることを確信する。

この調子! この調子だ!





そうして、息が切れ始めた頃、ようやく一体を絶命させることに成功する。
だが、僕は膝が砕けそうになった。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を得ました。≫

20!? たったの!?

このブランゴたちよりよほど強いモンスターたちでも、その経験値はそれほど大きく変わらない。
あわよくば、レベルアップしてくれと、淡い望みをかけていたハルマサの期待はもろくも崩れ去る。
そこで膝を突かないのは、精神力のおかげだろう。

(う、ぉおおおおおおお!)

荒い息をつきながら、ハルマサはランポスに突撃するのだった。



<つづく>


気になるあの子のステータス

ランポス
耐久力140持久力180魔力20筋力150敏捷350器用さ120精神力160

ブランゴ
耐久力110 持久力110 魔力80 筋力90 敏捷30 器用さ30 精神力110

各項目は10~20位の個体差があります。



ハルマサのステ
レベル:5
耐久力:67→116
持久力:139→169
魔力 :16
筋力 :140→178
敏捷 :211→287
器用さ:100→111
精神力:128→152
経験値:178 あと140

変動スキル

拳闘術Lv3 :42  ……8 up
両手剣術Lv3:58  ……30 up Level up!
姿勢制御Lv4:83  ……21 up Level up!
突進術Lv4 :72  ……16 up Level up!
撹乱術Lv4 :97  ……33 up Level up!
跳躍術Lv4 :78  ……14 up Level up!
撤退術Lv4 :85  ……26 up Level up!
防御術Lv3 :46  ……42 up Level up!
戦術思考Lv3:39  ……24 up Level up!
回避眼Lv4 :102 ……26 up
観察眼Lv4 :74  ……11 up Level up!
鷹の目Lv2 :14  ……4 up
聞き耳Lv4 :88  ……20 up Level up!
的中術Lv3 :41  ……14 up Level up!
空間把握Lv3:55  ……37 up Level up!



[19470] 21~24
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 23:13


<21>


「はぁ…はぁ……」

息が途切れ、体の動きは鈍い。
その背には大きな爪あとが傷を開いており、ハルマサはすでに青息吐息である。
血が出すぎた。
耐久力はほぼ限界である。
持久力はもう無い。

だが、敵も残るは一体のみ。
ビーナスオブキャットで何度も切りつけたので、痺れまくって動きは遅い。
本当にビーナスには助けられている。

敵と僕。
弱り具合では同等。
二人は同時に地を蹴った。

「ギャァアアアアアスッ!」
「だぁああああああ!」

ランポスとハルマサは、二人の中間点、とは言わず、かなりハルマサよりの位置で衝突。
二つの影はもつれ、ランポスの勢いそのままに、転がっていく。

決着は付いた。
上になっているのはランポスではあるが、その背からは大剣が突き出していた。

「ぐ、はぁあああ……」

ランポスの死体を押しのけハルマサは顔を出す。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。≫

し、しんどい……。
思わずその場に座り込む。
とにかく止血が必要だと、密林から持ってきていた薬草をポーチから出し、背中に刷り込む。
器用さが体の柔らかさも上げているのか、そこまで窮屈な作業ではなかった。
とは言え、それで最後の気力も振り絞ってしまい、草の上に倒れた。

(はは……ちょっと疲れたよ…。少し休もう。)

死亡フラグっぽいセリフを思い浮かべつつ、ハルマサは意識を落とすのだった。




――――――のしっ。

振動を腹に感じて、ハルマサは目を覚ました。
ハルマサの上に何かが、のっているのを感じる。

(重いな……何が……ってえぇええええええええええええ!?)

大きな足だった。
爪は凶悪に曲がり、指は4本に分かれている。
色は青。
トカゲのような体は「観察」すれば実に9m30cm!
長いアギトと頭には立派な赤いトサカ。

十中八九でドスランポス。さっき死ぬほど頑張って倒したモンスターの上位種だった。
「観察」すると≪レベル5習得しなさい≫と弾かれた。
ならば強いのだ。
少なくとも、イャンクックをぶっ飛ばしたドスファンゴと同じくらいには。

(ひ、ひぃいいいいいいいいい!)

仰向けに寝る僕。
その腹に足を乗せ、辺りをキョロキョロ見渡すオオトカゲ。
このまま、内臓を食いちぎりながら食べられる想像がありありと浮かぶ構図である。

ああ、閻魔様。今そちらに行きますんで、などと涙を零すハルマサだったが、いつまで経っても噛み付かれない。
それどころか足もどけられた。

(……?)

まさか、アイルーのように話が通じるとか!?などと妄想が頭をよぎるが、次の瞬間間違いだと分かった。


≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪ 「穏行術」の熟練度が143.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

(あ、穏行スキルか…………143!? ええッ!?)

「穏行術」が発動していたのだ。
僕の体も、ある程度なら攻撃と認識しないような耐久力もあるから、踏まれても「穏行」し続けていたんだろう。
筋肉とか意識して力を抜かないとカッチカチだから地面の一部と間違われていたんじゃないかな。

ランポスはハルマサのことなんか目に入らないように、辺りをキョロキョロと見回している。
何かを探して歩き回っている様子だが、その中心に有るのは、ランポスたちのドロップ品。金貨や皮や鱗など。

自分の配下?を殺したものを探しているのだろうか。
よく見つからなかったものだ。
「穏行術」は敵と近づかなければ発動しなかったはずだ。
効果が出る前にボロクソにやられてゲームオーバーになるのが道理だと思える。
もしかして効果範囲が広がったとか?

とにかく、こんな満身創痍で立ち向かえるはずも無い。
このままに横になっておくのが正しいだろう。

だが、「穏行術」は肌の色が変わるだけなのではなかっただろうか。
白い服は緑色の草原に溶け込むとはいえない。

すぐ分かってしまうだろうに。
そう思い、自分の格好を見てみると、地面が透けて見えた。

(僕の服までカメレオンになってる!)

正しくは透けて見えるようにスキルが迷彩を施しているみたいだった。
そんな服をどうなって居るのかとまじまじと見ていると「観察眼」が発動。
≪「穏行術」Lv4のスキルが発動しています。≫
とのこと。

何時の間に、こんな使えるスキルになったんだい!?
いや、クック先生の時は気付かなかっただけかもしれないけど!

あ、またファンファーレ。
またファンファーレだ。
またまたファンファーレだ。
またまたまた……
すごい上がってるなぁ……って近! ドスランポス近! 顔の横を大きい脚が! ところでその爪おっきいですね!

どうやらドスランポスとの距離で熟練度の上がり具合が違うらしい。
今頭の上に脚があるんだけど、熟練度が唸るように上がっている。
ガスメーターの数字のところが高速で回転してる感じ。
さっき踏まれてた時もすごかったんだろうな……。

≪チャラ(中略)ーン♪「穏行術」のスキルが150.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

というわけでレベルアップです。
イヤッフー! レベル5だぜー!
カメレオン能力がパワーアップというか、何だか服ごと体が透けてる。
なんというステルス。でもこのスキルって動いたら体見えちゃうから、待ち伏せにしか使えないよね……
いや、上位スキルに「暗殺術」があるのか。もしやこれを習得したら恐ろしいことになるんじゃ……!

ともあれ。
やっぱりスキルは凄い!
僕の原点はスキルによるチートだったんだ!
忘れるところだったよ。
よし、この機会だ、穏行だけではもったいない! 色々上げていこう!

「観察眼」「聞き耳」に……あれ?それだけしか使えない?

むぅぅ、この際だ! 目、耳ときたから鼻もいけるはず!
匂いをたくさん嗅ぐんだ!
なんか犬的なスキルが出るはず!
そうと決まれば、早速!

スゥウウウウウウ……!

ウホォ! くッサァ! 獣くさぁ! ドスランポス超くせぇ!
しかし我慢だ!

スゥウウウウウウウウウ……!

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫

(計算通りぃいいいいい!ほるぅあ(巻き舌気味に)!キタでしょコレ!)

≪一定レベル以上の臭気を一定量以上体内に取り込んだことにより、特性「臭気排除」を取得しました。あなたの周りは臭いものでいっぱいです。臭いものには蓋、なんていってられない! 消してしまいたい! そんなあなたにこの特性を送ります。良い匂いになれよー!≫

(あれ!? 予定と違う!? こんなネタ的なのじゃなくて! そしてこのナレーション、テンション高いな!)


□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。


波動って何? 僕は一体どうなったの!?
いや、まぁいいか!
臭くなくなってさらに気付かれにくくなったみたいだし!
次は、どうしよう! 呼吸でも止めてみようか!

その時、僕の横に放り出してあったビーナスにドスランポスの魔の手が!

――――――ガジガジ!

ああ、やめろぉ!
僕のビーナスに噛み付くなよぉ!(半泣き)
ク、くそう、ドスアギノスめ! 僕が手出しできないのをいいことに!
なんか! なんかあいつに天罰こーい!

【いぃいいだろぉオオオオオ!】

(なんか頭に野太い声が!?)

【おぬしの願い、聞き届けたりぃいいい!】

ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチッ!

(ええええええええ!? 雷!?)

≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「天罰招来」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が20.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い魔力にボーナスが――――――

「ギシャァアアアアアアアア!」

ああ!? 怒ってる! 雷的な何かを食らった、ドスアギノスが怒ってるよ!

そして。

≪チャラ(中略)チャーン♪≪チャラチャ(中略)ャーン♪ ≪チャラ(中略)ーン♪ ≪チャラチャ(中略)ャーン♪「穏行術」の熟練度が200.0を――――――

(さっきから上がりすぎだよね。)

まぁいいんだけど。


その後『天罰! 天罰ぅ!』と百回くらい願っていたら、2、3回雷が落ちて、ドスランポスはビビッて帰りました。
得たものは多く、とても有意義な時間を過ごせたと思いました。


<つづく>


ハルマサのステ
レベル5
耐久力:116→172
持久力:169→214
魔力 :16 →78
筋力 :178→253
敏捷 :287→392
器用さ:111→126
精神力:152→367
経験値:258 あと60


新しい特性

臭気排除

スキル

拳闘術Lv3 : 42 → 62   ……Level up!
両手剣術Lv4: 28 → 83   ……Level up!
姿勢制御Lv4: 83 → 114  ……Level up!
穏行術Lv5 : 60 → 232  ……Level up!
突進術Lv4 : 72 → 115
撹乱術Lv4 : 97 → 126
跳躍術Lv4 : 78 → 104
撤退術Lv4 : 85 → 113
防御術Lv4 : 46 → 87   ……Level up!
天罰招来Lv3: 0 → 62    ……New! Level up!
戦術思考Lv3: 46 → 67
回避眼Lv5 : 102 → 151 ……Level up!
観察眼Lv5 : 74 → 161  ……Level up!
聞き耳Lv5 : 88 → 187  ……Level up!
的中術Lv4 : 41 → 72   ……Level up!
空間把握Lv4: 55 → 84   ……Level up!


□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。

■「天罰招来」
 天に願い罰を落とす技術。天に願うことで、確率で対象に厄災が降りかかる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が上昇。熟練者は自在に天罰を呼び出す。






<22>




「あの木に天罰を!」
【ことわるぅうううう!】
「ちょ、そんなこと言わずに! あの木に天罰を!」
【…………。】
「あれ? 聞こえてない? あのぉー! あの木に天罰を落としてくれませんかー?」
【いやじゃぁあああああああ!】
「ク、じゃああの岩に!」
【ことわるぅうううううう!】
「チキショー! それじゃあなんだったらいいの!? 僕!?」
【いよぉおおし! いぃいいだろ―――――
「あ、ウソウソウソウソ!」
【おぬしの願い聞き届けたりぃいいいいいいい!】
「嘘って言ってるのにぃいいいい!」

ピシャァアアアアアアアン! バチバチバチ!

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました。「天罰招来」の熟練度が70.0を越えました。レベルが上がりました。また、熟練度が82.0を越えました。熟練に伴い、魔力にボーナスが付きます。≫

「………かふッ。」

す、凄い威力だ……。
魔力は10しか減ってないのに、寝て結構回復していた耐久力(150/172)が一瞬でレッドゾーン(2/172)に突入だよ……。
ドスランポスはこれを3発も……。やはり強さが違うな……。
ていうか死ななくてよかった……。死んでも全然おかしくなかった……!
耐久力2とか、今だから言うけどほんの誤差だよ。
僕、よく生き抜いて来たなァ。

僕は口から煙を吐きつつ、倒れ付す。
折角作ってもらった服も、ケバケバになってしまった。ごめんねネコさん。

僕はさっき手に入れたスキルを試していた。
木への天罰を30回連続で願ってもだめだったけど、何故か僕には初回で天罰。
確率がランダムすぎるよ……。
でもこれは……使える!
「穏行術」と合わせたら最強じゃないか!

さっきドスランポスが離れていったんだけど、その時、奴がかなり遠くに行くまで「穏行術」は発動し続けていたんだ。
だから、なんかモンスターを呼びつけるスキルさえ覚えたら、モンスターがこっちにやってくる頃には僕の姿は既になく、何処からか雷が落ちまくる!
もうスキルレベル上げ放題じゃない?

でもその前に。

僕は、まだ一度の発動したことの無いスキルのことを思い出していた。

それは「祈り」スキル。神や精霊に祈りを捧げることでいろんな恩恵を得られる、だったかな?
レベルダウンで消えちゃってるけど。

今回と同じように、天に「雨を降らせて」と願った時に手に入れたスキルだった。
なんか罵詈雑言が帰ってきて心が折れそうになった記憶があるんだよね。
だけど今考えたら、「天罰招来」と同じように魔術スキルなのかも。
だとしたら効果は期待できるよね。

という訳で、この今にも死んでしまいそうな状態を何とかしてもらうことにした。

(僕の体を癒してください!)
【いやじゃ!!!!!】

甲高い声が即答してきた。

(……? 小さい女の子の声……? 前はしゃがれた声だったのに。)

多分精霊の違いだろう、と考えてもう一度。

(僕の体を癒してください!)
【うるさいわ! 死ね!】
「……。」

ああ、まずい。心が折れそう。
雨の時よりも直接的な分余計に効くね。
しかし、僕の精神は大人36人分だぁー!

(僕の体を癒してよ!)
【ズウズウしいんじゃ! この、アホゥ!】

………。
ま、負けるかー!

(どうか僕の体を癒して!)
【お断りじゃ! 消え失せろ! この汚らしい下郎めッ!】

…………下郎て。
もういいや。疲れちゃった。あー折れた折れた。心がぽっきり折れましたー。
寝よ寝よ。
モンスター来ても勝手に「穏行」するでしょ。多分。
僕は木の根のところにお尻を押し込んで三角座りで寝ることにした。

でも最後に。

(どうか僕を癒していただけませんか女神様。)

適当なことを言ってみる。

【め、女神だなどと……もう、しょうがない奴じゃのう! よかろう! 聞き届けた!】

なんか通じた――――――!

【癒しよ、あれッ!】
「おおお!?」

僕の体が輝く緑色の光に包まれて、傷が徐々に耐久力が回復する。
じんわりとした温かい熱が周りから流れこんでくるようだった。
これが生命力って奴か?
ついでに、何故か服も綺麗になっていく。
破れていたところとかが補修され、汚れも落ちる。

【服はサービスなのじゃ。エネルギーが余ったゆえにな。】
(いい人だ――――――!)

その時思い出したかのようにファンファーレが鳴った。

≪天に祈りを捧げたことにより、スキル「祈り」Lv1を習得しました。また、スキルの発動に成功しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

いきなり80も上がった――――――!?
凄いよ女神さん(仮)!
なんだろう、実はこの女の子って凄い人なのかな?
もしくは祈りを聞いてもらうのに凄く努力が必要だから、成功すると熟練度が凄いとか。
褒めただけですごく簡単にお願い聞いてくれたけど。

あ、回復し終わってる。
しっかり全快。
何処も痛くないっていいなぁ……。

ところで、消費魔力は……全部?
まぁ回復するならアリかな。
とまぁ時間はかかるし魔力はなくなるけど、回復っていいな。
怪我したらまたお願いしよう。
さ、他のスキルの練習を――――――

そう思い、立ち上がって気付いた。

「き、木が!」

僕が背を預けていた木は、みずみずしい葉を広範囲に広げていたはずだ。
そこそこに大きい木であり、僕が座り込んだのも、木陰が大きく日差しが避けられるからだった。

その木が、艶やかで会った照葉が、全部枯れていた。

辛うじてぶら下がっている、という風情の葉が今にも折れそうな朽ちた枝に鈴なりになっている。
少し強い風が吹いたら、この辺りは落ち葉だらけになるだろう。倒木も出現するかも知れない。

つい好奇心に負けて、僕は軽く小突いてみた。

コン――――――ズゥ……ン!

即座に倒れる木。
あたりは枯葉が乱舞している。
非常に申し訳ない気分になる。

何でこんなことになったか。
思い当たることなど一つしかない。

(恐ろしい効果だ……)

さっきの女神様(仮)は「癒し」と言っていたが、その実質はライフドレインなのだろう。
「エネルギーが余った」とは木から命を吸い過ぎたってことだったのか?
使いどころを間違えたら、隣を歩いているアイルーが干物かミイラになって居てもおかしくない。

改めて、「祈り」の強さを知る僕だった。
あと恐ろしさも。


<つづく>

<おまけ>

雨乞いをしようとした際、「祈り」スキルを習得したときのこと。

ハルマサは、敬虔なキリスト教徒が教会で祈るように、膝をつき両手をあわせて握り、天に向かって祈った。

「雨を降らせてください!」

返事は意外なことにすぐ帰ってきた。
高いしわがれ声で。

【あんじゃと!? 黙れダニが! 今すぐそのあさましい口を閉じんと、飛竜のべべを捻じ込むぞ! どだい、全く努力もせずにワシに頼もうなどと、虫が良いにも程があるわ! 貴様の頭の中身はどうなっとるんじゃ! 気分悪いわボケ! いっそ死ね! 死んでワシに詫びろこのド阿呆が! 二度と話しかけるな! 死ねッ!】

「…………………」

≪チャラチャラ(ry 天に祈りを捧げたことによりスキル「祈り」Lv1を――――――

ハルマサの心は一撃で折れたという。



<おまけ終わり>


ステータス

レベル:5
耐久力:172
持久力:214
魔力 :78 →98
筋力 :253
敏捷 :392
器用さ:126
精神力:367→447
経験値:258 あと60


スキル
天罰招来Lv4:62 →82 ……Level up!
祈りLv4  :0  →80 ……New! Level up!

■「祈り」
 神や精霊へと願いを届ける技術。集中し祈ることで、確率で様々な恩恵を得る事が可能となる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率上昇。上級スキルに「神卸し」がある。精神を対象とした攻撃に耐性が付く。



<あとがき>
「祈り」を何とかしてみた。







<23>


さて、さっきの「祈り」によって空っぽになった魔力だったが、しかしスタミナと同じくじんじわと回復しているようだ。
適当にゆっくり30数える間に1回復している、という戦闘中に回復しきる速度ではないが、連戦でもしない限りは「天罰招来」の使用は問題なさそうである。

ハルマサは先に進むことにした。

レベルが上がったことで「聞き耳」の範囲はさらに広がり、一キロ先で針が落ちた音も聞き取れるのではないかと言うほどだ。
自然と雑多な情報が頭の中で飛び交うが、混乱を避けるために今はとりあえずモンスターの気配のみを拾い上げている。

ていうかこの辺りランポスめっちゃいます。
あっちに3匹後ろに6匹、進行方向にはドスランポス率いる10匹くらいの群れがあるし、ランポス祭りですね。

無効が気付いていないのにこっちが位置を把握しているというのは、優越感がやばい!
今も、ホラ。左側からランポスが4匹くらいで移動してくる。
このまま行けば後いくらかもせずかち合うスピードで。
4匹だったら、強くなってる僕なら問題ない!

これは、待ち伏せしちゃうしかないね!

僕は、ランポスたちの進路上に素早く移動。
上手い具合に風下にいい感じの木があったので、その後ろに身を潜める。
ついでに、

(「溜め斬り」………!)

剣を持った手を肩に担ぎ上げ、体を捻り、力を込める。

「溜め」が始まる前に、「穏行術」が発動する。
すぅ、と透明になっていく僕の体。剣まで透ける。

ピシュン! と剣が光り、力が漲る。一段階目。ランポスはあと、3秒ほどでここにくる。
剣が光るのは見えるから、「穏行」との平行使用は無理そうだ。

ピシュン!

2段階目。剣が光を増し、腕の筋肉が膨張しだす。
ランポスは――――――もう来た!

「ギャア!」
(でりゃぁあああああ!)

地を蹴り飛び出しつつ、木に近い場所を通るランポスに向けて、打ち下ろす。
動けば、攻撃すれば、穏行は解ける。
突然姿を表した僕に驚くランポスを、斬る!

――――――斬! 続けて轟音!

剣はランポスの首を刈り取り、勢いのまま地面を叩く。
クルクルと回るランポスの首が落ちる先は陥没した地面。
デスペナを食らったときから比べて、筋力は倍ほどになっているためか、ダンジョンの入り口で試した時とほぼ同等のクレーターが出来上がる。

ぐらりと地面が揺れる。
はっきりとオーバーキルだ。やりすぎた!
反省しつつ他のランポスを見ると、なんかよろめいていた。
姿勢制御であまり感じなかったが、かなり揺れたらしい。

(ラ、ラッキー!)

というわけで、今がチャンス!

地面に埋まりかけているビーナスオブキャットを引き上げながら、一番後ろを進んでいたランポスに接近。
ビーナスで下から切り上げる。

「おおおおお、りゃ!」

ズパン! とランポスの首が飛ぶ。
首の後ろの鱗が血液と共に飛んで行く。

ビーナスって、実は結構名剣だ。
普通の剣ってどれくらい切れるのか知らないけど、ランポスの鱗を切断できるこのビーナスはかなりの切れ味だと思う。

さっき拾ったランポスの鱗ってかなり硬かったんだよ。
軽いくせに頑丈とか、夢のような素材だよね。

「空間把握」によって後ろからの襲撃を察知。
慌てず、横に跳んで避ける。

僕の方が君たちよりも素早くなったみたいだね!
しかも圧倒的に!

(ハルマサの敏捷は(元の数値)+(撹乱術Lv4の補正)+(撤退術Lv4の補正)=392+(392×0.4)+(392×0.2)≒627 ランポスは350くらい)

そこからは、まさにスーパーハルマサタイム。
小枝を振り回すかの如く軽々とビーナスオブキャットを操り、ランポスたちに襲い掛かる。
襲い掛かってくるランポスに逆に詰め寄り、裁断。
鳴き声を上げようと―――仲間を呼ぼうとしたランポスも横薙ぎの一撃で吹き飛ばす。
そうして瞬く間に残り2体のランポスを屠ってしまう。
3匹目を倒したところでレベルアップが起こり、力が漲ったため最後のランポスは衝撃でエグイ姿になっていた。

≪魔物を撃退したことにより、20の経験値を取得しました。レベルが上がりました。全ステータスにボーナスが付きます。≫

おお、おおおお! 力が! 力が(ry

とにかくパワーアップだ!
今回のレベルアップボーナスは、デスペナでマイナスされた分の80!
これは大きい。
戦闘ごとに強くなってしまって、ランポスの皆さんには申し訳なくなるね!

未だにモスの敏捷を越えられないのは悔しいけど、多分スキルを使えば勝てるよね!
モスなんかもう怖くないぞー!
………もしかして、あの異常に早いリポップが行われるモスのところって、経験値を稼ぐ絶好の場所なんじゃ……?
耐久力1だったし、出現した瞬間に殺し続ければ、最初の頃でもかなり早くレベルが上がるじゃないか!
今なら勝てるけど……戻るの面倒だし、いいや!
僕は常に前へと進む! なんてね!

……ん?

ウキウキとしていたハルマサだが、彼は自分の着ている服が、今の戦闘でかなりお汚れてしまったことに気付いた。
特性「臭気排除」のおかげでニオイこそしないが、女神様(仮)に綺麗にしてもらった服が汚れたままになるのは申し訳ない、と思うハルマサである。

早速聞き耳で水場の場所を探る。
この森丘フィールドは意外と水場が多いらしい。
あっちからもこちからも水の音が聞こえる。
池などもあるようだ。
モンスターの気配も探り……今度は寝ている奴の呼吸すら拾う勢いで集中。
安全そうな水辺を見つけ出した。

レベルが上がったことで魔力も増加したし、ちょうどいい。
身奇麗にすると同時に魔法の練習でもしよう!

思い立ったらあとは常人の数十倍の体力を持つハルマサである。
ぴゅッと走れば、すぐに目的地へとたどり着くのだった。


<つづく>

Level up!
レベル:5  →6
耐久力:172→252
持久力:214→302
魔力 :78 →158
筋力 :253→337
敏捷 :392→479
器用さ:126→207
精神力:367→453
経験値:328 あと310

両手剣術Lv4:83 →87
姿勢制御Lv4:114→117
穏行術Lv4 :232→234
突進術Lv4 :115→119
撹乱術Lv4 :126→130
跳躍術Lv4 :104→105
走破術Lv2 :21 →26
撤退術Lv4 :113→114
戦術思考Lv3:67 →69
聞き耳Lv5 :187→190
的中術Lv4 :72 →77
空間把握Lv4:84 →86




<24>


ジャバジャバ。

僕はインナーのみになって、ネコさん作の服を水につけてジャブジャブやっていた。

「アイ○ァナビィヨアジェン○ゥマァ~ン♪ 上手く○ぎれ、てぇ~♪」

大声で歌いながらの洗濯である。
別に静か過ぎて寂しいわけじゃないよ!

ここはまわりを木に囲まれた池である。
太陽が水面に反射して少しまぶしい。
清涼な空気が気持ち良かった。

手元では水につけて擦り合わせているだけで、汚れが落ちていく服がある。
血液って落ちにくい汚れのはずなのだが、Lv1とは言え洗浄術スキルをもつハルマサにかかればこんなもんである。
このスキルを上げれば、いずれデコピンで染み抜きが出来るようになるかも。

『ふん! 染み抜きデコピン!』『スパァーン!』『まぁ! 生地から醤油の汚れが吹き飛んでいったわ!』
なんちゃって。

ちょっと妄想してしまうハルマサであった。


「~♪ スット○ンジカメレオ~ン♪ よーし終わり!」

テンションが上がってきたのでしっかり一曲歌いきってから、服をパン、と広げる。
水滴がその一発でほとんど生地から吹き飛んでいく。
なんて便利なスキルなんだ「洗浄術」。ちなみにLv2になっている。
まぁ洗い通しだったしね。
この服、丈夫な分だけ洗いにくいようで時間だけはかかったのだ。
洗っている間中歌い通して、非常に気分が晴れたのは内緒だ。

その時ファンファーレ、ビヴァルディの「春」が鳴った。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン♪≫

お? また「洗浄術」かな?

≪一定以上の声量で、一定範囲内に同種の生物がいない状態で一定時間以上歌い続けたことにより、特性「寂寞(セキバク)の歌声」を取得しました。あなたの境遇は寂しくて、思わず同情して泣いちゃいそう! そんなあなたにこの特性を送ります――――――

「そっち!? 歌の方なの!? しかも同情とか余計なお世話だよ!」

―――友達作れよー!≫

「うるさいよッ!」

まさかの歌関連であった。しかもまたネタ系特性。調子に乗って歌ったことをなんとなく後悔するハルマサである。


□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。


「また無駄な特性を手に入れてしまった……」

ネタ系特性はほんとに苛立たせてくれるな!
友達なんか、友達なんか……一人もおらんわ! 悪かったなぁ!

ハルマサは無駄に精神的なダメージを負いつつ、服を木に干す。
ここは太陽の光も豊富で、すぐに乾くだろう。

「さて、と。次は……お待ちかねの魔法だぜ!」

テンションを上げるハルマサ。
重ねて言うけど、寂しいわけじゃないよ!?



ハルマサは腕を突き出しつつ叫ぶ。

「いでよ! ファイヤーボォオオオオオル!」

広げた手から炎は出ない。代わりに警告音が響いた。

≪ポーン! 特技「超炎弾」を使うには、レベルが1足りません。魔力が442足りません。器用さが393足りません。精神力が147足りません。特性「炎耐性」を取得する必要があります。スキル「魔法放出」Lv5を取得する必要があります。スキル「火操作」Lv7を習得する必要があります。規定のポーズをとる必要があります。≫

(ハードル高――――――い!)

魔法を侮っていた。
思った以上に魔法って厳しいんだね……。
魔力あったら出来るというのは大間違いなんだ……。
ステータスとかはいずれ何とかできるとしても、特性……もなんか適当にやるとして……ポーズ!
ポーズが分からない! 五里夢中すぎる!
あとスキルね! 魔法放出とか……出来たらやっとるわ!

だが、一つ気になる事がある。
それは「火操作」スキルの存在である。

(これは……「雨乞い」の時も足りないって言われた奴の同類だ……。)

火はちょっと火種が無いけど、風とか水なら!
まずは水から。目の前に池があるし。

僕は水に腕を突っ込んでぐるぐる回してみた。5分くらい。
何も起こらない。
水面をパシャパシャ叩いてみた。5分くらい。
やっぱり何も起こりません。
「崩拳」を突っ込んでみた。
体中に水を被ったが、それだけだ。

「何か起これぇえええええええ!」

ズパーン! とビーナスで水面に「溜め切り」三段階目を叩き付ける。
水が飛び散って干していた洗濯物がびちゃびちゃになった。

≪ポーン! 水の精霊の怒りを買いました。「祈り」の熟練度が下がりました。熟練度低下に伴い精神力にマイナスの修正がかかります。≫

「ええッ!?」

確かにちょっとやりすぎたけど、それだけで熟練度下げなくてもよくない!?
踏んだり蹴ったりだよ精霊さん!

ステータスを確認すると、熟練度は5も下がって75になっている。
もう、水いじりは止めとこうか!

なんか風やっても意味あるのか分からないよね……
まぁちょっとやって見るけども!

手のひらを振ってみた。
僕の今の敏捷力なら、風を巻き起こすことなんてわけないよ!

ブォオオオ!
ザワザワザワ……

木々が揺れた。でもそれだけだった。

(い、一回じゃ足りないのかも!)

ブゥン!ブゥン!
ザワザワ~。ザワザワ~。

≪チャラチ(中略)ャーン♪ 新鮮な空気を森に送り込んだことにより、木の精霊が歓喜しました。「祈り」の熟練度が80.0を越えました。熟練に伴い精神力にボーナスが発生します。≫

も、戻ったー! やったー!
って、嬉しくねぇエエエエエエエ!
「風操作」出ろよぉおおおぉおおおおお!

ハルマサは悔しさで地面を叩くのだった。

さて、ずっと同じ場所で、バチャバチャバサバサ音を出していると何が起こるでしょうか。
答え:モンスターが寄ってきます。

必死にやりすぎていたツケだろう。
地下から忍び寄る奴に気付かなかった。
地面にorzしてドンドン叩いていたハルマサに、地を割って飛び出してきたのは、見覚えのある突起。いや鋏(ハサミ)だ。

「ぐふッ!」

鋏はハルマサを殴りとばす。
一メートルは上空へ飛ばされるハルマサ。

「や、ヤオザミか!」

ショックを受けつつも体をコントロールして足から着地。一足飛びにその場から離れる。
地面を掘り返して現れたのは、果たしてヤオザミだった。

ギチギチギチギチ!

鋏を打ち鳴らすヤオザミの、攻撃力はやはり高い!
200以上あったハルマサの耐久力は一撃で50ほどになっている。
いや、土の中からの攻撃だったから、大分威力は削がれていたはずだ。
直撃を貰うと、非常にまずい。
とりあえず「観察眼」!
Lv5だから詳しいところまでばっちりです!

≪対象の情報を取得しました。
【ヤオザミ】:硬く厚い甲羅を持つ小型の甲殻種。足は遅く、不器用。ヤドに守られた部位に即死部位あり。弱点属性は雷、炎。
耐久力:133、持久力:202、魔力:100、筋力:435、敏捷:38、器用さ:2、精神力215≫

足遅かったのかー! まぁ、じゃないと勝てませんよね! そうですよね!
ちょっと勝てたからって、俺強いとか調子乗ってた過去の僕を殴りたい!
ってヤオザミの筋力高いよ!
普通に即死するよ!

だが、あの時倒せたのだから、今の僕が倒せないはずは無い!
だってあいつの動きなんて止まっているようなものだ! 僕はあいつの10倍早い!
後ろに回りこんで「突き」を使おうか!
いや、弱点属性があるんだ、そっちを使おう!

という訳で「天罰招来」!

【いぃいいだろぉおおおおおおお!】

野太い声が聞こえる。
一撃で成功するとは! やはり僕の時代か! いや、レベル上がったおかげだろうけど!

【お主の願い、聞き届けたりぃいいいいいッ!】
(やっちゃってくださいッ!)

ピシャァアアアアアアアアアン! バチバチバチッ!

「ギャバババッ!」

雷が落ちても、ヤオザミはピンピンしている。
何故なら雷が落ちたのは……僕のビーナスだから!

【ぬぅうう! 避雷針があったかァあああああ!】
(ふ、ふざけんなぁああああああ!)

「カハッ……!」

痺れまくっている僕は、怒鳴ることも出来ないのだった。
だけど、ビーナスを通電したため「天罰」の威力は減少していたらしい。
耐久力はまた2だけ残ったぜ!
僕ってよくよくしぶといネ!

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました――――――

自爆による熟練度上げを行うハルマサの目の前では、ヤオザミがビックリしたのか少し距離をとっていた。

<つづく>


レベル:6
耐久力:252
持久力:302
魔力 :158→178
筋力 :337
敏捷 :479
器用さ:207→217
精神力:453

新らしい特性

寂寞の歌声

スキル

天罰招来Lv4:82→102
洗浄術Lv2 :1 →11  Level up!

□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。




[19470] 25~28
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 23:14





<25>


ふ、ウフフフ。天罰の精霊さんったらお茶目なんだから♪

危うく……危うく死ぬところだっただろオオオオ!?

この精霊は何度僕を死にかけにすれば気がすむの!?
武器を掲げていたらダメとか、使用上の注意がありすぎるよ!

ちなみに、「天罰招来」、「祈り」、ともに精霊さんと会話が出来るわけではないようだ。
こっちが願い、あっちが答える。
基本的に、言って帰ってくるだけで終了だ。
文句なんか聞いてないんだろうなぁ……


ギチギチギチ!

お、ヤオザミが再起動したみたいだ。
そりゃあ行き成り自分に雷を落とす奴なんて「少し様子見るか」ってなるよね。
しかしヤオザミはもうこちらの行動は虚仮脅しと見切った! とばかりに攻撃してくるようだ。

シャカシャカと足を動かし、弓なりの軌跡を描いて詰め寄ってくるヤオザミ。
いくら痺れていると言っても、この程度避けれないほどではないんだよ!
サッと避けると、ヤオザミは地面を鋏で穿っていた。

敏捷高くなったから分かるけど、こいつの動きってとても直線的だよね。しかも振り向きとか極端に遅いし。
付け込む隙はたくさんあるな。
流石不器用モンスター。

という訳で、

「てい!」

ザクーン! とヤドを攻撃する。
ビーナスオブキャットの切れ味が凄いのか、僕の筋力が大きいのか、ヤドは一発で砕けた。

「ギィ!?」

そしてそのまま返す刃で弱点部位であろうコブをズバーンと攻撃。

「ギィイイイイ………」

ヤオザミはあっさり崩れ落ちる。
こんなに弱いのか……

≪魔物を撃退したことにより、経験値を10取得しました。≫

前倒した時と比べて、4分の一の経験値になっている。
こっちのレベルが高くなるたびに2分の一になってるのかな?
ブランゴ戦とか思い出しても、正しいような気がする。

これってレベル上げるには上のレベルの敵を倒すのが手っ取り早いってことだよね。
まぁその分だけ強いんだから、手っ取り早く行くかは分からないけど。

ところで、ヤオザミの死体の後には、今度は鋏(ハサミ)と金貨が残された。
鋏は50センチほどの腕も付いている。

あ、そうだ。
金貨はもう観察できるかも。
「観察眼」Lv5、発動!
と言っても手にとってよく見てるだけなんだけど。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【神金貨】:神様のダンジョンの中だけで使える、女神の顔を浮き彫りにした美しい金貨。持っておくと役に立つ。純金製。≫

ほほぅ。
集めておいて、損は無いってことだね?
純金製って、集めて現世に持って帰ったら左団扇で暮らせそうだ。
まぁ現世で暮らせるわけでもないから意味のない仮定だけど。

そして鋏。
持って行って武器に使ってもいいんだけど(その場合、鈍器扱い)、僕お腹空いてきてるんだよね。
この体ってエネルギー使うのか、やたらお腹が減るんだよね。

食べれるかな?

カニの鋏に拳落として割ってから、中にびっちり詰まっている身を取り出す。
薄茶色い身だ。
食欲がちょっぴり無くなるが、とりあえず一口。

うーむ。微妙。不味くはないかな。決して美味しいわけでもないけど。

でもまぁお腹は膨れるでしょう!
こんなに大きい(ハルマサの胴体くらいある)し。

ムシャームシャー! と食べてから、まだ少し湿っている服を着て、場所を移動することにした。
何時までも留まっているわけにはいかないんだ!

で、雪山に向けて、行軍を再開します。

サクサクと短い草原を踏み歩きながら、僕はこれからの敵について考える。
僕が今まで会った中で、一番強いのは(閻魔様除いて)恐らくイャンクックだ。
「観察眼」で名前を確認できるようになるのが、「観察眼」のレベルが対象のレベルマイナス2以上の時だということには気付いている。
詳しい情報が見れるのは、対象のレベルと同じ時だ。
という訳で、ヤオザミはレベル5。ランポスもレベル5。
ブランゴはレベル4で、ドスランポスやドスファンゴはレベル7。
イヤンクックは≪レベル7の「観察眼」もってこい≫って言われたから、レベル9だと予想できる。

レベルアップのシステムから、ドスランポスはランポスたちの4倍強い。
クック先生はなんと16倍。
実はクック先生がボスなのかな。あんなフラフラと飛び回ってたからそれはないか。

閻魔様は雑魚に比べて5レベル強いとおっしゃってたけど、どっちから5高いのか。
イャンクックからだと、もう絶望するしかないよ。
短期のクリアは諦めて、ドス系を狩りまくるしかないだろうね。

いずれにしても、これからの方針は、会うモンスター会うモンスター、倒して倒して倒しまくる!
これだね。
ボスに向かって少しでも自分を鍛えなきゃ。

殲滅者に、僕はなる!

という訳で「聞き耳」でモンスターを探索。強襲or待ち伏せ。殲滅!
出来る! 今、強くなった僕ならできる!
でもクック先生だけは勘弁な! 死んじゃうから!

と、その前に回復できるかな。
「祈り」を使ってみる。

(可愛らしい女神様! 回復していただけませんか!?)
【ふふ、貴様分かっておるのぅ! よかろう! 聞き届けてやる!】

女の子の声がとても上機嫌に答えてくれた。

【癒しよ、あれ!】

声と同時に、周りの草とかが一瞬にしてゴソッと枯れ果てて、僕の周囲はまるで放射能でも撒き散らされたみたいになった。
相変わらず自然に優しくない能力である。

【服の乾燥はサービスなのじゃ。】
(うぉおおおおお! 風が!)

ついでにまわりから風が吹き付けてきて、服が瞬く間に乾いていく。
この女の子多芸だなァ……。

≪――――――スキルの熟練度が180.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い精神力が上昇します。≫

なんかさっきより熟練度の上がり方が大きい。いや、減るよりはいいんだけど、不思議だな……。

そして精神力が500を越えてしまった。恐ろしい成長。
チートとかそういう次元を超えていない?
精神力を使う……魔法とかあったら威力高いだろうになぁ……

いや、待てよ! 精神力って集中力とかにも関係してるんじゃないだろうか。
集中しまくれば、思考が加速したりしないかな。
例えば……クロックアップとかかっこいいよね!
オメガトライブ読んでから憧れが半端なかったんだ。
なんか仮面ライダーも使える人がいるみたいだし!

超人的な精神力を持つ僕なら、出来てもおかしくないぜ!
正直何に集中すればいいか分からないけど、取りあえず叫んでみるよ!

「クロックア―――ップ!」

≪ポーン! 特技「加速」を使うには、耐久力が159,748足りません。持久力が159,698足りません。精神力が159,447足りません。スキル「風操作」Lv15「雷操作」Lv15を習得する必要があります。≫

(絶対無理だ――――――ッ!)

前の時はこんな露骨な言い方ではなかった。
「全然足りない」。そう言ってくれていたはずだ。だが今回の露骨な発言。
きっとシステムはこう言いたいのだろう。精神力500くらいで調子のんな、と。
マジでごめんなさい。
しかし、あと15万以上必要って、凄いな!
いつかそんなに高くなるのかな! 僕のステータス!
あと、やっぱり空気抵抗とかあるんだろうね。「風操作」がいるみたいだ。でも、レベル15って……。
これもまた最近分かったんだけど、スキルレベルって、僕の体自体のレベルと同じように、レベルが一つ上がると、レベルアップに必要な熟練度(経験値)が2倍になるんだよね。
すなわちレベル15ってすごく時間がかかると思われるわけですよ。数値とか計算したくないくらい。
「風操作」Lv1すら習得できていない僕には遠い話しすぎて、鬼が笑うどころか屁で茶が沸くよ。あ、違うヘソだ。

仕方ない、今はおいておこう。
取りあえず、今は目の前に出てきたモンスターを倒すだけだ!
むむッ! あっちにモンスターの、ランポスの反応ハケーン!
早速殲滅任務に移ります!

ハルマサは調子に乗りまくりながらモンスターの群れへと走った。


<つづけ>


レベル:6
耐久力:252
持久力:302
魔力 :178
筋力 :337→338
敏捷 :479
器用さ:217
精神力:453→554
経験値:338 あと300


スキル
両手剣術Lv4:87 →88
祈りLv5  :80 →180 ……Level up!
戦術思考Lv4:69 →70  ……Level up!
観察眼Lv5 :161→163






<26>

次のレベルアップに必要な経験値は、300。
ランポスを倒して得られる経験値は、10。
30匹も何処にいるんだよ!と色々噴出しそうになった僕だったが、聞き耳の範囲(半径2キロくらい)に20匹は居るんだし、しかもリポップするであろうことを考えると、それほど悲観することでもなかった。
まぁ、モスみたいな速度でリポップすることはないだろうけど(あれは恐らく悪辣な罠だ)、少し待てばわらわら湧いてくるでしょ。
別に雪山に進んでもいいしね。

と、楽観しつつ、僕はランポスを狩っていた。
最早作業になりつつある。
モンハンでもランポス20匹討伐とかあったなァ……あれは面倒くさかった……
今? 今はどちらかと言うと爽快です。僕TUEEEE状態だからね。

「はッ!」
「ギャバア!」

体を切断することはまだ出来ず、弾き飛ばすようにランポスを切り捨てる。
返り血を浴びない倒し方すらマスターしつつあるハルマサである。
後ろに下がりつつ横薙ぎに振るとか、突きとか、「太刀」の技なんかを有効に使い、次々とランポスを屠っていく。
突きの時は特技が発動して、ランポスが酷いことになった。
プリンにフォーク刺すぐらいの感蝕しか感じなかった割に、大剣は硬いランポスの鱗を切断し、幅広の大剣だからランポスは真っ二つ。
貫通属性って馬鹿にできないと強く感じた。
でも、いつかこんな特技に頼らず通り過ぎた後で、モンスターの上半身と下半身がズルリとずれて、血が噴出す、とかかっこいい倒し方をしてみたいもんだね。
今は完全に力任せの戦い方だからまだまだ遠いけど。
でも、上手く斬ろうと努力すると、熟練度の上がりは少し早くなる。
もうちょっとで両手剣術の熟練度が100超えそうだよ。

ちなみに筋力が上がった今、崩拳を使ったら食らわせたランポスが何故かその場で上空に飛び上がってパーンってなりました。
横から殴ったのに意味不明。
物理学とか分からないから何ともいえないけど、リアル「キタネェ花火だぜ」になってしまい被害は甚大だった。
顔も体も血でベッタベタ。
なんで体は消えるのに、奴らの血糊は消えないんだろう。
神様がものぐさだから、というのに僕は一票だね。
ランポスの皮など、残った素材は使い道がないのでほとんど放置。
金貨のみしっかり確保する。
ポーチにはまだ余裕があるからいいけど、これ以上拾ったら溢れちゃう。
どうしようか。

最初に遭遇したランポスを速攻で撃破し、次の群れへと向けて移動している最中につらつらと考えにふけっていたハルマサは、不意に足を止めた。

(雪山の方から……なんか来る!)

「聞き耳」が拾うのは、大勢の獣の足音である。
ハルマサはこの足音に記憶があった。

「……そうか。リポップしたんだね。ブランゴが。」


ドドドドドドド――――――!
ブランゴたちは一心不乱に走っている。
一時期大幅に数を減らした獣たちは、一匹また一匹と何処からともなく姿を表し、瞬く間に50を越える大群となった。
ダンジョンのシステムがモンスター間のバランスが崩れると判断した結果、ブランゴたちはにわかに数が増えたのだ。
数が増えたブランゴたちは、わずかな時間でイノシシの群れに奪われていた雪山での支配権を取り返し、次に森丘へと繰り出してきたのだ。
ブランゴの群れの先頭には、一際大きな獣が走っている。
その姿は威風堂々。10メートルを越える巨体をしなやかに動かし群れを率いるモンスターは、ドドブランゴと呼ばれるブランゴの上位種だった。
白い体毛に包まれる体には、先ほど行われたドドファンゴとの死闘で傷を負っていたが驚異的な回復力で流血は既に治まりつつある。
ドドブランゴは口元を彩る豊かなヒゲを震わせ、牙を剥いて走る。
獣は怒っていた。
傷つき、眠っている間に自分の眷属が大量に数を減らされたことを。そのため雪山の支配すら奪われかけた。
憎き敵は、密林にいる。
何故かこの地域を支配していた青い魔物が減っていることは、獣にとって幸運だった。
彼は全ての眷属を率い、森丘を通過しようとしていた。

――――――とかだったら、良いのになァ……)

樹の上に上り、「鷹の目」で明らかに怒りながら走っているドドブランゴを見つつ、ハルマサは一人ごちる。
あ、長々と妄想してすいませんでした。
そうだったら、このままやり過ごせるかなとか考えていただけで他意はないです。
ブランゴが50匹くらいで群れているのと、それをドドブランゴが率いているのは本当です。
ドドがケガをしているのも本当です。
ドドブランゴ大きいよね。
普通に強そうだし。「観察眼」だと……≪Lv8が必要です。≫……ですよねー。
………レベル10なの!?
勝てるかーッ!
ボスじゃない!? ねぇあいつボスじゃない!?
僕の(だいたい)16倍強いボスじゃない!?
ていうかあいつがボスじゃなかったら、僕は……!

僕が戸惑っているうちに、ブランゴの群れはすぐ近くまでやってきている。
僕は動けない。逃げる機を逃したともいえるが、何より「穏行術」が発動し始めたので、そのまま隠れることにしたのだ。
何故なら、今居る場所は大樹の上、地上12メートルくらい。
ドドブランゴが腕を振り上げたら余裕で攻撃されるが、比較的安全でしかも敵に近いというこれから行うステルス作戦には欠かせない場所なのだ。
そして安全な場所にいる僕は願う。

(ドドブランゴに天罰いっちゃってー!)

そう、これぞ鉄板のステルスアタック!
敵はこっちの姿が見えないのに、こっちは好き勝手攻撃し放題という素晴らしい戦法なのだ!!!!
ちなみに願いを捧げたのは五回目である。精霊さんは四回連続で拒否ってくれた。
早くしないと群れがここを通り過ぎちゃうんだけど。
だが今回こそは―――

【いぃいいいだろぉおおおおおお!】
(よしキタ!)

野太い声が諾の返事を返してくれる。

【天罰ぅ、てきめぇえええええええん!】

なんか掛け声変わってるけど、何でもいいからやっちゃって!

ヒィィィィン――――――どぶぉおおおおッ!!

(あれ? 火の玉!?)

なぜか天から高速で炎の塊が落下して、ブランゴを直撃した。ドドブランゴではなくその後ろのブランゴにである。

「グぉあああああああ!」
「ガゥ!?」
「グぉ!?」
(ちょ、外れてません!?)
【ぬぅううう! すばしっこいのぅううう!】

今そんなに早く動いていないでしょう……。天罰なのに誤爆が多すぎると思うんだ。
……あ、でもめっちゃ効いてる。他の奴にも飛び火してるし。さらに群れは先頭に火の玉が落ちたことで、団子になってるし。
でも、後数秒天罰が発動するの遅かったら、ブランゴたちがこの木の下に来ていて、僕も確実に火達磨だよね?
そういうのってどうなの!? 毎回スキルに殺されそうになる僕って何なの!?

悲しむハルマサはさておき、「天罰」の効果は劇的だった。
着弾直後に、榴弾のように四方八方に炎を撒き散らしたのだ。
中心にいたブランゴは火達磨になり、カチカチ山状態になったブランゴは多数。
弱点属性であった火属性の攻撃であったことも大きいだろう。
ちなみにケツに火が飛んだドドブランゴは、驚異的な身のこなしで回避した。
やはり直接狙わないと難しそうだ。

と、そこでファンファーレ。

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しました。熟練度が122.0を越えました。熟練に伴い魔力にボーナスが付きます。≫

よし、こうやって魔力が回復するから、「天罰」スキルって使い放題で本当にチート!
ちなみに消費魔力は発動成功時に10。
成功すればするほど、ドンドン魔力が増えていくというチートなスキルだよ!

(とにかくまだまだァ! さらに天罰を!)
【ことわるぅううううううう!】
(ちょ、空気読んで!? ドドブランゴに天罰をぉおおお!)
【こォォとォォわァァるゥううううう!】
(うわぁムカつく言い回し! そういうのいいから、ホントお願いしまぁあす! ドドブランゴに雷をぉおおおお!)
【………。いぃいいだろおおおおおおおお! お主の願い聞き届けたりぃいいいいいい!】

ゴロゴロゴロ……

(え、なに? 雲!?)

やっと聞いてもらえたと喜んでいたハルマサだったが、にわかに曇り始めた空に驚く。
遠くからすべるように雲が集まり、一気に天は曇り空へ。
雲間に眩い雷光が集まり、ついに天罰が下される。

【死ねぇええええええええええええええ!】

(死ねってw ……ってすげぇ嫌な予感がする――――――トーゥッ!)

ビシャアアアアアアアアアアン! バリバリバリバリッ!

天罰は下った。
その威力は絶大。
天地を繋いだ黄色い閃光は、対象を一瞬にして焼き尽くす。
対象になったのはこの辺りで一番高かった―――つまりハルマサが潜んでいた―――大樹だったが。

【ぬぅうううう、避雷針があったかぁあああああ! ざぁんねんじゃあああああ!】
(う、嘘つけぇええええ! 声が若干満足そうなんだよぉおおおおお!)

間一髪、空中へ飛び出したハルマサはまさにファインプレーだった。
危険察知能力がスキルとは別に成長しているのかもしれない。
穏行は解け、雷を受けた大木を背景にハリウッドダイブする姿はすごく目立ったが、攻撃を余波だけしか食らわなかったのは大きい。
ただし、今回の天罰の威力は馬鹿みたいに高く、余波だけでハルマサは死にそうになっていた。

そして、当然だが、ハルマサの姿は、最強の敵ドドブランゴにも丸見えになっているのだ。
ハルマサは今、最強の敵と向き合うこととなった。
耐久力が2の状態で。



<つづく>

今回はステなし。

代わりにドドブランゴの。

レベル:10
耐久力:12192
持久力:3217
魔力 :1288
筋力 :6721
敏捷 :3030
器用さ:2963
精神力:3801

攻撃パターン

咆哮
かがやくいき(?)
岩投げ
突進
眷属召喚





<27>



花は桜木、人は武士。
未練のない潔さこそが最上であるという格言である。

しかし、ハルマサはそうは思わない。
例え死んでしまうとしても、最後の最後まで足掻いてやる!
泥を啜ろうとも生き残り、一秒でも早く現世に戻ってエ○本を処分してやる!
ぶっちゃけ死んでも○ロ本処理が遅れるだけって言っちゃダメだよ!? 頑張る気が薄れちゃうからね!

「グゥオオオオオオオオオオオ!」

ヒゲをワサワサ震わせながら、ドドブランゴはこちらを威嚇する。
正直、かなり恐ろしい。
目の前にしてみると、その威風堂々たる大きさと威圧感に心胆から震え上がるようだ。
白い毛を汚す赤い血が、歴戦の勇士を連想させる。
まさに戦士。まさに王。

その威容に比べて僕はどうか。
威厳なんてかけらもない。
精神も体も借り物の力で強化された、システムにおんぶ抱っこのくだらない人間!

でも、今ハルマサは蹲っていない。
借り物の力とは言え、彼はそれを用い、死線を潜り抜けてきたのだ。
その力は既に彼の物となりつつある。

(だから、恐れるな! 立ち向かうんだ!)

歯の根の合わない奥歯を噛み締め、ハルマサはビーナスオブキャットを握る。
耐久力は2。
例え攻撃を避けても、ドドブランゴが攻撃した地面から弾き飛ばされた飛礫ですら、ハルマサにとっては致命打になりうる。
まさに絶体絶命だった。

だが、ハルマサの中で、唸りを上げつつ変わるものもある。
スキルの熟練度が、上がるのだ。

≪「天罰招来」スキルの発動に成功しまし―――(略)―――魔力にボーナスが付きます。≫
≪「姿勢制御」の熟練度が――――――
≪「跳躍術」の熟練度が――――――
≪「撹乱術」の熟練度が――――――
持久力が、魔力が、敏捷が、器用さが上昇し、

≪雷属性の攻撃を、一定量以上受けたことにより、スキル「雷操作」を習得しました。「雷操作」の熟練度が218.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い器用さにボーナスが付きます。≫

新しいスキルが―――――――

(って、操作系スキルこうやって手に入れるんか―――――――い!)

まさか属性攻撃を受けることだったなんて。
というか218て。
なに? そんなにドドブランゴが脅威なの? それともさっきギリギリ避けた雷の威力が半端なかったって言うの!?
それに「器用さ」って僕のステータスの中で一番低い数値だったのに、アホみたいに上がってない!?
いや、嬉しいんだけどさ!

それよりどうする? この状況で僕に何ができる!? 生き残るために、何が!

ドドブランゴの後ろには未だ火に苦しむブランゴや、雷の衝撃に距離をとっているブランゴ、こいつらは無視していい!
目の前の王に集中しろ!

今目の前では、ドドブランゴが―――体を沈め―――地を蹴り―――飛び掛ってきた!
その一連の動作、実に0.05秒(くらい。もっと短いかも)!

だめだ! 考えが浮かばな――――――

その時ハルマサの頭に電撃のようなものが走った。
一瞬に凝縮された映像の群れ。
それは走馬灯と呼ばれる物。生き残りの手段を記憶をさらうことで見つけ出す、人間の体の神秘。

最後の希望として、ある手段が浮かんだのは幸運以外の何物でもなかっただろう。
何しろ、行動をしていては間に合わない状況なのだから。

「グゥオオ――――!」

ドドブランゴの凶悪に尖った爪が、ハルマサに届こうとする一瞬前、ハルマサは願う。
天への祈りを―――敵を退ける力を!

(―――――――――――女神様ッ!!)

果たして。

【仕方ないのう。】

願いは届いた。

一瞬にして彼我の距離を詰めたドドブランゴの、凶悪な爪が振り切られる。
ハルマサの体に触れんとした爪は、その1cm前で生じた壁に阻まれ――――――壁ごとハルマサを弾き飛ばした。

ガキィイイイイイン!

爪と壁がぶつかり、硬質な音が響く。
ハルマサは地面と平行に後ろに吹っ飛び、雷が落ちてボロボロの大樹をへし折った。
大樹を突き破った後もさらに20メートルもの距離を転がったハルマサだが、体に傷はなかった。

(これは……シールド!?)

体がぼんやりと緑色の膜に包まれている。そしてハルマサの立っている地面は見る見る荒廃していく。

【ふん。植物が少なくて10秒しか持たんぞ。いいか、普通ならこんなことはせんのじゃぞ? 特別なんじゃからな!?】
(10秒……きついけど、助かります女神様!)

女神なる少女(顔は知らないが)のことがすごくいい女に思えて仕方がない!
ありがとう女神様! 戦いが終わったら祠を作るよ! 崇め奉るよ!

≪「祈り」スキルの発動に成功しました。熟練度が300.0を越えました。熟練度が150.0を越えたことによりレベルが上がります。熟練に伴い精神力にボーナスが付きます。≫

ぐ、と体に力を入れて、立ち上がる。いや飛び退く。
一瞬前まで居た場所に、轟音と共に岩が突き立つ。
破片が飛び散るのを咄嗟にビーナスで防御する。シールドで勝手に阻まれるが、「防御術」は上がった!

≪「姿勢制御」の熟練度が――――――
≪「撤退術」の熟練度が――――――
≪「跳躍術」の――――――
≪「撹乱術」の熟練―――
≪「防御術」の熟練が――――――レベルが上がり――――――

行動するたびに凄い勢いでスキルは上がる。
でもまるで勝てる気がしない!逃げるのだって無理だ! 動きが速過ぎる!
違う、単純なステータスで勝てるわけがないんだ!
考え方を変えろ! からめ手を考えるんだ!
姿を隠すとか――――――「穏行」だ!
ドドブランゴの意識をこっちから離れさせることが出来れば―――

(天罰を!)
【ことわるぅうううううう!】
「くッ!」
「グォアアアアアアアアア!」

またしても霞むような速度で、突撃してきた雪山の王に叩き飛ばされる。ガードすら間に合わない!

バキィイイイイイイン!

またシールドが金属音を響かせる。
サッカーボールのように吹っ飛んで、さらに転がる。
そうそう上手く行かないか! っていうかいい加減イラつくなあの精霊!
く、もう10秒か、シールドが……!

待てよ、この精霊が必ず天罰を落とす時はなかったか!?
例えば何だかやたらと僕に雷を落としたがって――――――そうか! 今なら!

(僕に雷の天罰を!)
【いいぃいだろぉおおおおおお!】

目の前で、ドドブランゴは息を大きく吸い――――――ゲームで知っている、これは雪を吐き出す前動作!?
数秒続くであろう攻撃はガードなんか確実に吹き飛ばし、必ず僕を殺すだろう。
「回避眼」に映る攻撃予知線、いや線じゃない、バカみたいに広い範囲の攻撃だ。
必死に横に跳ぶが、僕の敏捷で避けるなんて、出来るとも思わない。
だが、死の奔流が吐き出される一瞬前!

【お主の願い聞き届けたりぃいいいいいい!】
(間に合った――――――「雷操作」ぁッ!)

何度雷を受けたと思う! タイミングなんか知り尽くしているとも!
「雷操作」を使う。
そう思った僕の体は自然と腕を挙げ、指の先から熱を持つ透明な波動を放出する。
上空から瞬間的に降り注ぐ雷は、僕の体から流れ出る波動――――なんだこれは魔力か?―――に導かれ、僕に向かう途中で軌跡を変更し、一瞬にしてドドブランゴに到達する。
雷は雪山の王の動きを一挙動、止めることに成功した。

成功すると思っていたよ! 雷の痺れる感じは強烈だからね!

そうして稼いだ一瞬で、僕は何とか「回避眼」に示されていた攻撃予知戦を超える。
直後ドドブランゴから吐き出される、白の暴力。
まわりの空気が瞬時に冷え、草木が凍りつくような絶対零度の中、跳びながら僕は熟練度アップの音を聞く。
「姿勢制御」「跳躍術」「撤退術」「撹乱術」「戦術思考」「回避眼」「観察眼」「空間把握」etc……
スキルの熟練度がグイグイと上がる。
しかし、全然足りない! 今は、避け続けろ!

よく見るんだ! ドドブランゴがかすかに示す、投擲の前の腕の引きを、突進の前の重心の移動を! 「回避眼」を使いこなせ!

(僕に天罰をおとして! 今すぐに!)
【天罰ぅうううううう!】

雷操作――――――コツは掴んだ!
指先から流れる魔力が雪山の王へと黄色の奔流を運ぶ。

バチバチバチバチィ!

「グ、ゥウオオオオオオ!」

電撃が当たっても行動が止まるのはほんの一瞬。
こわばりをすぐにいなし、ドドブランゴは跳びかかってくる。
体の横を通りすぎる豪腕の一撃一撃が、掠っただけで僕を殺す威力を持つ。

しかし、僕は死んでない。
まだ生きている!

ハルマサはギリギリのところで、死地を生き抜く事が出来ているのだった。

≪「雷操作」が規定のレベルに達したことにより、スキル「魔力放出」Lv1を習得しました――――――


<続く>




<28>

死地の中で、ファンファーレがなる。
引っ切り無しに頭で述べられるナレーションの中で、僕の直感が一つのナレーションを拾い上げる。

≪「姿勢制御」の熟練度が310.0を超えました。レベルが上がりました。「姿勢制御」が規定のレベルに達したことにより、スキル「姿勢制御」はスキル「身体制御」に昇華します。熟練に伴い持久力、器用さにボーナスが付きます。昇華に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫

――――――スキル「戦術思考」が言う。考えろ。冷静に、生き残る道を考えろ!

どこか引っかかったのだ。もちろんただの直感だ。だけどそれを無視するほど、僕には余裕がないんだ。

――――――考えろ!

「身体制御」自体は、体をより効率的に動かせるようになるという、こう言ってはなんだが、大したことの無いスキルだ。
では何に引っかかった? このスキルは、「姿勢制御」から昇華して――――――そう昇華!
レベル6にスキルを持っていけば、上位スキルがあるスキルは昇華する!

直後、さらにもう一つのスキルが昇華する。僕は考えながらも動き続けている。そうでなければ死んでいる。

≪スキル「跳躍術」はスキル「空中着地」に昇華しま――――――

空で着地できるスキル。
求めていたのは「空中着地」か? いや違う。避ける際の選択肢は増えたが、これでは状況を打開できない。
昇華させたいのは――――――そうだ、「穏行術」!
上位スキルは「暗殺術」だ!
姿を消したまま、移動できそうな雰囲気がプンプンするだろ!?

(だとすれば、どうにか相手の動きを止めたい! あ、やばッ! 雷を落としてくれ、僕に!)
【天罰ぅうううううう!】
(操作ァアアアア!)

バチィ!

ドドブランゴの猛攻はこちらが動かなければ、避けられない。しかも雷の痺れを利用した上でだ。
だが、雷で動きは一瞬止まる。

「穏行術」を昇華させるには……?

――――――足を止めて「天罰招来」と「雷操作」の連続使用。

これしか思いつかない。
「天罰招来」の熟練度アップのファンファーレがなる前に、魔力が切れるかもしれない。
雷に痺れながらも、ドドブランゴは僕を叩き潰すかもしれない。
だが、やらなくても、このままだとジリ貧だ。
こちらの持久力が切れるほうが早い!
行くぞ!

「僕に雷を落とせぇえええええええええええ!」
【いぃいいいいいいだろぉオオオオオ!!!!!】

足を止めて、手をドドブランゴに向けた僕に、巨大な獣は駆けてくる。
戦いの中、上昇した敏捷が何とか奴の足元には届いているようで姿を見失うことはないが、やはり疾い!
ここからが勝負、大博打だ!

「天罰招来!天罰招来! 招来!招来!招来!しょう、ライッ!」
【ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!】
「グ、ォ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!」

バチバチバチバチバチバチバチバチッ!

天から出でて、宙を滑り、視界を埋める黄金の輝き。
止まることのない電流は、ドドブランゴの毛を逆立てる。
その中で、ドドブランゴの腕は、脚は、体はガクンガクンと動き続ける。
表情は烈火の如く噴出す怒りに歪められている。
やがて、「穏行術」が発動。僕の体がすぅ……と透明になっていく。
次の瞬間、

≪チャラチャ―― ≪チャラチ―― ≪チャラ― ≪チャ― ≪チャ――― ≪チャラチャンチャ―― ≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン! 「穏行術」の熟練度が――――――

凄まじい速度で熟練度が上がりだす。ドスランポスの時と比べて数倍疾い上昇速度。
しかし間に合うか!? 僕は血を吐く思いで、必死に一つの言葉を繰り返す。
バカみたい? バカで結構! 生き残れればそれでいいッ!

「招来、招来、招来、招来招来招来招来招来招来招来招来招来ッ!」
「グ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!」

ドドブランゴは僕の位置を見失っていない!
ジリジリと詰め寄り、高く、12メートルも上に掲げられたその豪腕は、振り下ろせばもう僕の位置!
やがて限界はやってくる。

「―――――――しょうらぃいいいッ!」
≪ポーン! スキル「天罰招来」を使用するには魔力が――――――
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

――――――魔力……切れ?
間に合わなかったのか!?
最後の足掻きとビーナスを掲げようとし――――――
ゴォ、と空を裂き、迫る死の豪腕。
だが、またもやその一瞬前。死を前にして、奇妙なほどにゆっくりとそのナレーションは流れた。

≪――――――スキル「穏行術」はスキル「暗殺術」に昇華――――――≫
≪スキル「暗殺術」が発動――――――スキル発動限界まで――――――残り18秒です。≫

――――――ッ!!

(うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!)

即座に後ろに向かって全力で跳ぶ。
間に合うわけがない、すぐに―――あいつの爪が―――――防御しろ!

――――――ガギャン!

ビーナスが、体の前に掲げていた唯一の盾が、剛爪の前に一瞬で砕け散る。
真っ二つに折れ、飛び散る黄金の飛沫。
ビーナスはその身を用い、黄金にも勝る一瞬を稼いでくれた。
腕を震わせる衝撃を「身体制御」で上手く吸収し、ビーナスを破壊することで少し速度の鈍った、振り下ろされる爪を蹴る。
そして僕は空中へと飛び上がる。

姿が見えない僕の行方を、爪に感じた反動で知ったのか、ドドブランゴは逆の腕を振り上げる。
怒涛の連撃。どうやったって僕の敏捷では避けれない。だが――――――

「天罰招来!」
【おぉおおおおおおおおお!】

ファンファーレが追いついた! 僕の魔力は回復している!

バチィ!

一瞬止まる腕、だが、またもやその一瞬で僕にとっては十分だった。
何故なら僕には、――――――「空中着地」がある!

僕は『空』を蹴り、斜め下へと急降下する。頭上で、豪腕が暴風を巻き起こす。
地面をへこませないよう軽やかに着地、次いで、すぐさま走り出す。

もちろんドドブランゴとは逆に!

(に、げ、ろォオオオオオオオオオ!)

僕は脱兎の如く、その場を去るのだった。






18秒。それは長く、そして酷く短い。
結局僕は密林まで逃げ切れなかった。
潜んだのは森丘フィールドの森の中だ。
だが、ドドブランゴの鼻や耳から逃れることは出来たらしい。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

よく、生きていた。
死んでも全然おかしくなかった。
スキルを限界まで行使し、何度も分の悪い賭けを打ち、その結果何とか生を拾った。

「はぁ……はぁ……。はは……今さら……はぁ……震えが……ははは。」

膝には力が抜けて力が入らない。
いや、全身から力が抜けていた。
もう、立つことなんかできそうにない。

「疲れちゃった……。」

少し、眠りたい。

その時ファンファーレが鳴る。
今さら何? と思うハルマサの頭に響いたのは――――――

≪一定以上の脈拍を一定時間以上維持し、直後に睡眠に入ろうとしたことにより、特性「桃色トーク」を―――

桃色特性の取得を知らせるナレーションだった。

「桃、色………。」

桃色、桃色ねぇ………何もこんな時に、ねぇ?

「ふ…………ふふ。ッフフ、アハハッ」

何とも力が抜ける。こんな脱力感、今までなかった。 ダメだ。もう無理。
相変わらずの雰囲気台無しなナレーションが、可笑しくて、可笑しくて仕方がない。
ハルマサはこみ上げてくる笑いを我慢できなかった。

「……フゥ、涙出てきたよ。フフフ。」

涙を拭っていると、ナレーションはちょうど終わるところだったようだ。


―――送ります。幸せになれよー!≫

ナレーションのお姉さんの声は、とても陽気。
じんわりと、心に染み入るものがある。


―――うん。ありがとう。


自然と感謝が口からこぼれた。

どうもありがとう。

ハルマサはどこか幸せな気持ちで、眠りに付くのだった。






<つづく>


ステータス


ステータス
佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:6
耐久力:252→367
持久力:302→616
魔力 :178→1,414
筋力 :337→344
敏捷 :479→1,091
器用さ:217→1,012
精神力:453→856
経験値:388 あと250

特性

桃色トーク


昇華スキル

姿勢制御Lv4:117 →身体制御Lv6:362……New!
穏行術Lv5 :234 →暗殺術Lv6 :389……New!
跳躍術Lv4 :105 →空中着地Lv6:377……New!

スキル

両手剣術Lv4:87 →94
突進術Lv4 :119→121
撹乱術Lv6 :130→382  ……Level up!
走破術Lv3 :26 →77   ……Level up!
撤退術Lv5 :114→287
防御術Lv5 :87 →201
天罰招来Lv7:102→1072 ……Level up!
祈りLv5  :180→300  ……Level up!
雷操作Lv7 :0  →646  ……New! Level up!
魔法放出Lv5:0  →266  ……New! Level up!
戦術思考Lv5:69 →275  ……Level up!
回避眼Lv6 :151→424  ……Level up!
観察眼Lv5 :161→302
鷹の目Lv3 :14 →32   ……Level up!
聞き耳Lv5 :190→299
的中術Lv4 :77 →82
空間把握Lv6:86 →334  ……Level up!


□「桃色トーク」
 異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

(一定以上の脈拍を一定時間以上維持し、直後に睡眠に入ろうとしたことにより、特性「桃色トーク」を取得しました。終わった後、すぐ寝るなんて許しません! イチャイチャしながら素敵な話をして欲しい! 寝付きの良すぎるあなたにこの特性を送ります。幸せになれよー!)
※色々台無しなので本文ではボカしたんだぜ!

■「雷操作」
 雷を制御する技術。魔力を用いて、外界の雷を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「魔法放出」
 魔法を体外へと送り出す技術。全ての魔術特技に通じる基礎。熟練に伴い、魔力にプラスの修正。熟練者は、手足など末端から魔力を放出することで、体の動きを加速、減速する事が可能となる。

■「身体制御」
 「姿勢制御」の上位スキル。体の動きの制御に加え、衝撃の吸収を行える。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、一定時間に衝撃を吸収できる量が増加する。状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「暗殺術」
 「穏行術」の上位スキル。持久力を消費することで移動時にも透明化を保つことが可能となる。非移動時でも持久力を消費する。熟練に伴い、持久力にプラスの修正。[持久力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた持久力が消費される。※発動継続時間は(持久力の数値)秒以上にはならない。

■「空中着地」
 「跳躍術」の上位スキル。気体に対して任意の場所を、一度踏むまで足場にする事が可能となる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。レベルの数だけ空中に足場を作れる。









[19470] 29~32
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 23:15

<29>

どうも、ハルマサです。
目が覚めてステータスを確認してみたら、驚いてしまいました。
4ケタいっとる――――――!

敏捷もついに常人100人分!
100倍の速度で動けるとして、100メートルを何と0.15秒(くらい)で走れるのだ――――――!(秒速600m以上、マッハ2くらい?)
って流石に無理っぽいですけどね。そんな単純な話じゃないだろうし。
とにかくもう刃牙レベルは越えてしまったかも知れんね……。現在はH×Hレベルくらいか?

あと、魔力がフィーバーしてます。なんと1400!「天罰」使いまくったからなァ……。
これ、一回の使用で熟練度が20上がるとして………50回近く雷を使ったことになる。
それでも大して効いていなかったドドブランゴって一体、耐久力いくらなのか。よく生き残ったなァ……。
あ、ドドブランゴはもう近くにいません。
真っ先に確認しましたとも。

死闘を生き抜いたハルマサ。
目が覚めて、ある程度体のダメージが抜けていることを確認した後は石を拾い集めていた。
まずは戦いの最中に最高のフォローをしてくれた、女神様(仮)なる精霊少女を奉る祠を作ろうと思い立ったのだ。
この辺りハルマサは律儀であった。

(どんな祠がいいんだろ? 小さな洞窟型? ストーンサークル?)
【そんなもの要らんわッ!】

なんか反応返ってきた――――――!

≪神または精霊からの干渉により、「祈り」スキルが発動しました。≫

ちょ、この子フリーダム。

≪「祈り」の熟練度が320.0を越えました。スキルのレベルが上がりました。「祈り」が規定のレベルに達したことにより、スキル「祈り」はスキル「神卸し」に昇華します。熟練に伴い、精神力にボーナスが付きます。≫

しかも昇華した!

■「神卸し」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。※発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。

ほほぅ。
スキルに対する情報が少なすぎる現状では、意見をもらえる精霊と会話できるのはすごく助かるかも。
今僕の魔力1272/1400で、スキルはレベル6だから、1272÷24でえーと……53秒しか話せないけど。

早速行くよ! お礼も言いたいしね。

「えーと……神卸し!」

心に女神様(仮)の声を思い浮かべながら呼んでみたが、違う人が来る可能性もあるんだろうか。
空から、緑色の光が流星のように落ちてきて、ズギャーンと僕に直撃した。

【よくぞ我を呼んだ! 褒めてやる!】

頭の中で声が響く。ああ、女神様だ。良かった良かった。相変わらず綺麗な声ですね。

【き、綺麗などと……言うでないッ!】

僕の体を包む緑色の光が強くなる。照れ屋さんだなァ……。
あれ? 何か傷が治っているような。

【ふッ、我を憑依させれば、それくらい当たり前なのじゃッ!】

へ、へえぇ……。凄いんですね。まわりの木とか悲惨なことになってるけど。
もののけ姫のあのなんちゃら神状態だよ。歩くだけで通り道の草が枯れていく……!
常時周囲からライフドレインとか流石ですね……そういえば名前教えてもらえませんか? 何時までも女神様じゃなんなので。

【きさ、ぐぅ……! わ、我は女神じゃ! 女神なのじゃ! 黙って女神と呼べぇ!】

は、はい。すんません。

こんな感じで、お礼を言ったりとか、短い間だけど精霊の女神様と心温まる触れあいをした。
大した情報は得ることは出来なかったが女神様は最後に、

【祠なぞいらん。代わりにこれを体に刻んで置け。我が貴様の体に留まりやすくなるのじゃ。ではさらばじゃ! また呼ぶが良い!】

そう言い、緑の光を操って、僕の左手の甲に刺青のようにマークを残して去っていった。
左手のマークは、黒い鎌がしゃれこうべを脳天から突き刺している構図である。
何かアメリカンチンピラの刺青っぽい。アメリカンチンピラって何だ。
ともかくこの絵から連想する像は、僕としては一つしかない。

「……死神?」

女神と呼ばれることに何か思うことがあるんだろうなァとは思っていたけど、何となく理由が分かるような分からないような……
もしかしてライフドレインの方が本業なの?
というか精霊じゃなくてリアルに神様なのかも。神様っていっぱいいることになっちゃうけど。
まぁ僕にとっての、二人目の女神様であることは間違いない。もちろん一人目は閻魔様ね。
という訳で、これからも女神様と呼ぶことにしよう。

ちなみに女神様憑依中は、結構な速度で熟練度が上がっていた。精神力が1000近くになっている。
やっぱり色々規格外な方だなァ。

さて、魔力が空になったのだが、以前よりも魔力の回復が早くなっているような気がする。
以前は30秒くらいで1回復だったけど、今は10秒くらいで1回復している。
結構すぐに回復しそうだ。
僕は回復するまですることを考えて……そういえば武器が砕け散ったことを思い出した。

あああ……ビーナス!
ビーナスカムバ――――――ックッ!

と嘆いていても始まらない。どうするか考えなければ。
これから武器無しでやっていく?
NON!
ドドブランゴとかに素手で殴りかかれと? 死ぬわッ!
加工技術的なスキルを上げる?
NON!
材料のある位置とか知らないし、奴らに通じるような武器を作るまで何時までかかるか分からない。
雪山で、伝説の武器とかを探す?
NON!
武器を見つける前にドドブランゴに会ったらどうするんだ。
じゃあ……

「アイルーさんたちに頼ってみようか。」

ビーナスみたいな規格外な武器がまだあるとは思わないが、アイルーのところで加工技術を学べば、加速度的にスキルが上がるだろう。
また密林に逆戻りだが、仕方ない。

マッハの速度で駆けつけます!
ビューン!

空気の壁を越えたような、そんな感じがした。
意外と硬かったです空気の壁。耐久力減っちゃったぜ!





そしてたどり着いたココット村。

「グオオ!」
「ガァ!」
「グゥオオオオ!」

どかーん! ぼかーん!

「負けるな! 押し返せッ!」
『にゃぁああああああああああ!』

また攻められとるよこの村。
そして村を攻めるブランゴ50匹くらいとは別に、違う場所で、モンスター同士が争っている音が聞こえます。

「グォオオオオオオオオッ!」
「ピェエエエエエエエエエエッ!」

ドカーン! ズガーン!

密林の一部から上空に木が吹っ飛んだり、炎の塊が噴出したりしているのが見えます。
怪獣決戦がまた勃発しているようです。
今度の怪獣はサルとトリ。イノシシはやられてしまったのか?
どっちにしても巻き込まれたら即死である。

「と、取りあえず……ブランゴ倒しとこうか。」

幸い、怪獣決戦場はかなり遠いようで、今はこのブランゴどもを倒すことにする。

「だぁあああッ!」
『グギャァアアアアア!』

今のハルマサなら、ブランゴは何匹いようと脅威ではない。
短時間でブランゴは42匹全て消えた。





ココット村でハルマサを迎えたココットは暗い顔をしていた。

「……助かった。英雄殿、感謝する。」
「あ、いえ。」
「悪いが、謝礼は後で。」
「いえ、そんな。」

ココットはすぐに踵を返そうとして、しかしこちらに向き直った。

「…………よければ、英雄殿も我らの仲間の最後を看取ってくれないか。」
「……え?」
「一人の戦士だ。貴殿に看取られるとすれば、あれも喜ぶ。頼む。」

こっちだ、とココットは先に歩いて言ってしまう。
その先には大きな丸い岩を重ね、中をくりぬいた建物があった。
赤いペイントで何かの文字が書いてある。
あとで聞いたが、アイルーたちにとってのご神体だということだった。

ココットに次いで入り口をくぐると、日の差し込まない建物の中は、とても暗かった。
その闇に浮かび上がるように、びっしりと白いネコがいるのだった。
中心には体中に包帯を巻かれたネコが横たわっている。
包帯の巻かれた右腕は左腕と比べれば短い。腕が千切れてしまっていた。
血も止まっていないのか、包帯は白いところの方が少なかった。

「……。 はる、まさ、ニャ?」

こっちに気付いた用で横たわっているネコは声を出す。
頭にも包帯が巻かれ片目しか見えなかったが、その目は見たことのある意志の強い瞳だ。
いくらケガを負おうと、陰りのない光が宿っている目だった。

「まさか………ヨシムネなの……?」

僕をここに連れて来たアイルーだ。
思わず近くに寄っていた。
そばで手を握って、目に涙を溜めていた美しい毛並みのネコが、場所を譲ってくれる。
感謝を言う余裕もなく、ハルマサは膝を突く。
両手で包んだネコの手は、とても小さく、熱かった。
まだ、生きていると伝えるように。そして最後に命を燃えあがらせるように。

「来て……くれ、たん……ニャ?」
「うん。あいつらは全部倒したよ。」

アイルーの小さな肉球がハルマサの指を握る。

(……この、このネコを癒して……!)
【…………すまんが、無理じゃ。貴様以外は無理なのじゃ。】

祈りは叶わず、

「最後に、こんな……が、あるニャん、て………………最高、だニャ…………」

ネコの瞳は、一筋涙を流した後、光を失った。ハルマサの指を握っていた肉球から力が抜ける。

(死んだ……)

あっけないと思った。
大きな激情も沸かず、その様を見つめるハルマサ。
「殺害精神」によって、こんな状況でも何の感情も湧かない自分に反吐が出そうだった。

「英雄殿を呼んで来ると言ってな。……無謀なオスだ。だが、我らの中で一番の勇気を持っていた。」

気付けばココットが隣にいる。
ヨシムネは僕を呼びに行くために、死んだ?
やはり、何も浮かばない。僕が早く来ていれば。つまりはそうなのだろうか。
やがてヨシムネの死体は薄れていく。
アイルーも魔物であり、その遺体は残らないのだ。
全てが消え去った後には、赤い球体が残された。「ネコ毛の紅玉」だった。
コロン、と転がったそれを見て、毛並みの綺麗なネコが涙を零す。他のネコに抱きついて毛皮に顔を埋めて体を震わせていた。

ありがとう。
何故か、ココットに感謝の言葉をかけられた。
「ネコ毛の紅玉」は、自分の死に満足したネコの魂が、形を成したものである。そうココットは言うのだった。
ヨシムネは最後に、満足して死んでいったと。
ヨシムネは僕なんかに看取られて、満足できたのだろうか。
こんな僕なんかに。とても、不思議だ。


ココットは「ネコ毛の紅玉」を手に取る。

「この「紅玉」を使って英雄殿の武器を作る。……この者は貴殿を好いていた。どうか貴殿のそばに、この者を置いてやってほしい。」

ココット村の村長は瞳を赤くしつつ、頭を下げた。





ソウルオブキャット。
出来上がった武器は、ネコの魂という名の、黒塗りの大剣だった。
刃には切った相手を麻痺させる紫電が煌く。
ビーナスよりも力を感じる、とてもよい武器。
背中に背負うと、ズシリと、とても重かった。

自分のことで精一杯の僕に、ヨシムネの魂など背負えるのだろうか。
僕はそのことをとても疑問に思う。

外はいつの間にか曇り、空は泣きそうになっていた。

<つづく>



ステータス
レベル:6
耐久力:367 →371
持久力:616 →622
魔力 :1414
筋力 :344 →355
敏捷 :1091→1100
器用さ:1012→1013
精神力:856 →977
経験値:388 →598 あと40

昇華スキル
祈りLv5  :300→神卸しLv6:418 ……New!

拳闘術Lv4 :62 →71  ……Level up!
蹴脚術Lv3 :28 →32  ……Level up!
身体制御Lv6:362→363
突進術Lv4 :121→123
撹乱術Lv6 :382→384
走破術Lv4 :77 →79
戦術思考Lv5:275→277
聞き耳Lv5 :299→323 ……Level up!
的中術Lv4 :82 →94
空間把握Lv6:334→336

■「神卸し」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を第二人格として自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。※発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。



前半と後半のギャ――――――ップ!




<30>

「我が村の守りは堅牢でな。」

もう夜、という時間だった。
外は薄暗い。空模様は崩れ、雨が止め処なく降っている。
ネコのご神体の中で、ゆらゆらと揺れる炎を見ながら、ココットはため息を吐く。

「同属が死ぬのは本当に久しぶりで……ダメだな。いつもどおり振舞うのが、少し辛い。」

座っているハルマサに、槌が鉄を打つ甲高い音が微かに聞こえる。
違う場所にある鍛冶場では、アイルーたちが武器を作っている。
やりきれない気持ちを、ブランゴへの怨嗟を槌に込め、赤熱した金属を叩いているのだろう。
やがて、勇気の塊であったネコの「紅玉」も溶かし込まれ、鉱石の塊は一段階上のモノになる。

ゆらゆらと炉から上る陽炎と、舞い散る火の粉は溶け合って。
荒ぶる息が。振るう槌が。怨嗟に濡れて黒くなる。
悲しみの血涙が炉の中へと流れ込み、上がる蒸気が赤くなる。

やがて出来上がるのは漆黒の大剣。ネコの魂、ソウル・オブ・キャット。

「百匹の弱者でも、一匹の強者には敵わない大陸だ。ひどい世界だここは。」

ココットの瞳には炎が踊る。横に並んで座るハルマサの影も、壁で踊っている。

「だが、百で足りなければ五百でどうだ。千匹でもそろえてやる。既に他に村には同盟の使者を向かわせたよ。」

左手で、右手を握りこむココット。

「我らの種族は、子が多く、増えるのは速い。今を乗り切れば、やがて数の力で安寧を勝ち取れるはずだ。牙獣どもに、屈してたまるか。」

牙をむき出してココットは、言い切った。
ハルマサも炎を見つつ、声を出す。

「あの、アイルーたちが皆避難できるような、安全な場所があるとしたらどうしますか?」

ココットはハルマサを、探るように見て、そして溜息を付いた。

「……。恐らく、誰も行かないだろうな。」
「…………何故か聞いても、いいですか?」

また火に向き直り、ココットは傍らに置いていたボウガンを撫でる。

「……我らは、ここに生を受けた時から苦労しながら生きている。その中で、知力を振り絞り、力をあわせ、生き抜いてきたことに誇りを持つものばかりだ。ここで逃げ出せば、これまでを全て否定することになる。それを良しとする者たちは恐らくおるまい。」
「……そうですか……。」
「そのような場所があれば、私としてはさっさと皆を送ってしまいたいのだがな。皆が行かないのだ。私が行ける筈もない。」

これは閻魔様に、アイルーを諦めてもらわないといけないな、と思った。



村を出る僕への見送りは一匹だけ。毛並みの美しいネコだった。

「君の……夫だったんだよね。ヨシムネって。僕が……こんな僕が連れて行っていいの?」

美しい毛並みのネコは、真っ赤な瞳で僕を見る。

「あの人は、村のために全部を捧げたのニャん。だから、死んだ後くらいは…………好きにさせてあげたいのニャん。」

そして頭を下げられた。地面に涙がほたほた落ちる。

「どうか、どうかあの人をよろしくお願いしますニャん。」


僕に出来ることはないだろうか。この高潔で、誇り高い猫たちに。そして勇気を示した偉大なオスに。






外では、いまだイャンクックとドドブランゴの戦いが続いていた。
呆れるほどに体力の高いモンスター二匹は、どちらが倒れることもなく、一昼夜を戦い続けている。
レベルで勝っているのはドドブランゴであり、純粋な体力ではドドブランゴの圧勝であった。
だが、形成が悪いと見たイャンクックは、空に飛び立ち、炎を吐き落とす作戦に切り替えたのだ。

いくらドドブランゴが強かろうと空は飛べない。
岩や木を投げるが、攻撃としては弱い。雪を吐くが、避けられる。
ここに戦いの趨勢は逆転し、ドドブランゴは弱点属性の炎に苦しんだ。
だが、さらにもう一度、事態は転がった。
豪雨が降り始めたのだ。

雨は火の勢いを弱め、飛び続けるイャンクックの羽根を打つ。
イャンクックの持久力は加速度的に減り、やがて下から飛んで来る投擲物を避け損ね始める。
もう、落ちるのも時間の問題だと思えた。



それを遠くから見ていたハルマサは、今が機だと走り出す。
音速を超える速度で、空気の壁を突き破り、自分の体力を減らしながらも一直線に二匹の怪物に近寄っていく。

(暗殺術……)

雨に隠れていたハルマサの体は、スキル発動によって完全に消え、足跡が波紋となって泥を散らすだけである。
走りつつ、ネコの魂が込められた大剣を構えて力を込める。
ハルマサの「両手剣術」スキルは成長し、特技「溜め斬り」を使いこなすことを可能にしていた。
すなわち、走りながらの「溜め」が可能となっていた。
十数秒で二匹の獣に近づいたハルマサは、地面を蹴り、空に飛び上がる。

(空中着地…一歩……)

空を蹴り、瞬く間に上空へと飛翔していくハルマサ。

(三歩……四歩……)

イャンクックまで、あと一歩の距離。「溜め」は……最終段階になった。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

光が一直線に自分に近づこうとしていることに、イャンクックが気付いた時にはもう遅い。
空を裂いて進む赤い光は、最後の一瞬霞むような速度で振り切られ、イヤンクックに叩きつけられた。

次の瞬間、周りの雨粒が弾け飛ぶような衝撃――――――轟音!

頭に爆発するような斬撃を受けたイヤンクックは急所の耳から血を吹いて、ドドブランゴとの戦いで減っていた耐久力を削りきられた。
すなわち、死んだ。一撃で。

衝撃で逆方向に弾き飛ばされたハルマサは、これまでにない手応えを感じた腕を見て、その先に持つ剣を見る。
イャンクックに思い切り叩きつけたというのに、刃こぼれすらない剣は、何とも頼もしい。

その時脳裏でレベルアップ音。イャンクックを倒せたことを知るハルマサ。
これで、猫たちを脅かすモンスターが一つ減った。
またリポップするかもしれないが、少なくともすぐではあるまい。
猫たちが一秒でも長く、戦いに対して準備を整えられますように。

レベルアップボーナスによって全ステータスにボーナスが160付いたハルマサだったが、まだまだ、正面切ってドドブランゴを相手にするのは厳しい。
万全な状態のイャンクックだって怪しいところだ。
だが、このチャンスを逃せば、体力を回復したドドブランゴへ立ち向かわなければならないだろう。
それなら、今の方が有利じゃないか?

だから――――――ここで倒す!




「暗殺術」を解除したハルマサの目の先には、獲物を掻っ攫われて、怒りの咆哮を上げるドドブランゴがいた。



<つづく>


ステータス
Level up!
レベル:7  ……レベルアップボーナスは160
耐久力:371 →541
持久力:622 →838
魔力 :1414→1574
筋力 :355 →463
敏捷 :1100→1379
器用さ:1013→1211
精神力:977 →1181
経験値:598 →1238 あと40


両手剣術Lv5:94 →152  ……Level up!
身体制御Lv6:363→401
暗殺術Lv6 :389→435
突進術Lv5 :123→177  ……Level up!
撹乱術Lv6 :384→402
空中着地Lv6:377→441
戦術思考Lv5:277→294
観察眼Lv6 :302→329  ……Level up!
鷹の目Lv3 :32 →54
聞き耳Lv6 :323→342
的中術Lv4 :94 →132
空間把握Lv6:336→366





<31>

30mほど先にいるドドブランゴを見つつ、ハルマサは感慨を覚えていた。

不思議なものである。
数時間前まで、畏怖の対照でしかなかった体長10メートルのモンスターと、今はしっかりと向き合えているのだ。
精神力の向上のお陰だろうか。足は震えない。

「グォオオオオオオオオオオオオ!」

ドドブランゴが両手を挙げて叫ぶ。
同時、地面から泥を割って、ハルマサの周囲に見慣れたモンスターが飛び出してくる。
ブランゴである。
その数、一度に10匹。
泥の下で生息しているはずも無いブランゴたちを見て、ハルマサは納得する。

(なるほど、あの群れはドドブランゴが召喚していたのか。)

ドドブランゴは以前のハルマサの動きを覚えていて、数で足止めに来たのだろう。

(だけど、それはあまり意味が無いよ。)

クックを倒しレベルが上がったハルマサの動きは、スキルによって加速され、既にドドブランゴを凌駕するほどなのだ。
ブランゴに遅れを取るはずも無い。
それにいいことも分かった。ブランゴの大群がリポップによるものでないならば、ドドブランゴを倒すことでしばらく猫たちに平穏がもたらされるのだ。

(ふっ!)

常人からすれば瞬き一つの間に、まず一匹。通り過ぎざまに切り捨てる。
すぐに切り返し、もう一匹。早すぎる攻撃が少年が通り過ぎた後にブランゴから血を噴出させる。
これでもまだ、全力じゃない。
全力で動いたら、ソニックブームが発生する。
敏捷はスキルを発動せずとも1000を超えるが、耐久力は550程度しかない。
動いて生じる空気の圧力に、体が耐えられないのだ。
自らの体を傷つけるため、空気の壁に当たらないギリギリのラインを、ハルマサは加減しつつ動いている。
しかしそれは、秒速300m前後という、脅威の速さなのだった。
ブランゴたちは一方的に蹂躙されていった。



ビ、と剣を払い、刀身に付いた血糊を飛ばす。10匹倒したことで、得た経験値は20。
レベル上昇に伴い、獲得経験値は本当に少なくなっている。
半分の、しかも切捨て。次レベルが上がればブランゴからの経験値は1になる。
もう一つ上がった時、切り捨てられず、1のまま保持される可能性はある。
だが、そこまで甘い世界でないことを、ハルマサは肌で感じ取っていた。

戦いの最中、常に警戒していたのだが、ドドブランゴは動きを見せなかった。
気にしすぎて損をした、と思った直後、座り込んでいるドドブランゴを見て重大なことに気付く。

(そうか!体を休めていたのか!)

体力の回復、そのための足止めか。
ならば、速攻で倒されて、きっと歯噛みしていることだろう。

畳み掛けるなら、今。
全力で、仕留める。
今の僕と、この魂の剣なら、きっとできる!
ソニックブームで体力が減らされるなら……常に回復すれば良い!

(魔力がきれる前に、決める! ……「神卸し」!)

上空から飛来する緑色の女神が、僕の体に乗り移る。

【ふふん。何やら面白い状況じゃの。】
(女神様。何秒もちますか?)
【うむ……この感じじゃと、60秒くらいじゃな。】
(一分。それだけあれば――――――)



――――――十分だ!



ドォン! と空気の分子を叩く音がする。
地を蹴った途端、視界がとんでもなく早く流れ、ドドブランゴに一瞬で接近する。
奴の反応より、僕の動きの方が、やや速い!
跳びかかり、横に跳躍し、空中に飛び上がりながら、針金の如き剛毛に包まれた皮膚を切り裂き続ける。
魂の剣はその切れ味をいささかも減させず、それどころかますます切れ味を増すように、ドドブランゴの体を切り裂いていく。

その間にも、空気の壁にぶつかって破壊されたハルマサの額から。目から。鼻から。口から。筋肉から。体中から血が流れ、ライフドレインの緑の光が補修する。

服は既に泥と血液に黒く濡れ、手に持つ剣はもとより黒き怨嗟の体現だ。
斬るたびに、跳躍するたびに、獣の反撃を避けるたびに、スキルは上がり、攻撃は重く、動きはますます早くなっていく。
逆に、ドドブランゴは剣の付与効果、「麻痺蓄積」によってどんどん体が重くなる。

「グォオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「あぁあああああああああああああああああッ!」

雨の中、血を振り散らし、身を削りながら巨獣に挑む、神速の黒鬼がそこにいた。


【あと10秒しかないぞ。どうするのじゃ?】
「――――――じゃあ、一気に決める!」

「暗殺術」を発動。ハルマサの姿は透き通る。
姿を消して獣の姿を切り刻みながら獣の巨躯を駆け上るハルマサ。
そしてそのまま空へ。ドドブランゴは突然消えたハルマサの姿を見失っている。
そのまま、オロオロしとけばいい!
一歩、二歩、三歩、四歩!
空を踏み、ロケットのように飛び上がったハルマサは、ヨシムネの魂がこもった剣を頭上に掲げて力を込める。

一段階、二段階!

緩やかに惰性で空へと上っていたハルマサは、赤く光る大剣を握り、空を蹴る。行き先は、下。

ドゥン! 音速を超えた感触! これで五歩!

≪――――規定のレベルに達しました。スキル「突進術」はスキル「突撃術」に昇華――――――≫

重力加速度を加えて、真下に向かうハルマサ。その体が、昇華したスキルの効果で青く輝く。
体内で生じた強烈な力が爆発しそうに荒れ狂う。空気抵抗で血を噴出しつつ赤く光る巨剣を構えたハルマサは、輝く一筋の彗星のように巨獣へと迫る。
轟々とうねる風の中、悪鬼は地上へと向かう最後の一歩を踏み込んだ。

三・段・階・目ッ! 踏み込みと同時に振り下ろされる漆黒の剣!

「ぁあああああああああああああああああああッ!」

カッ――――――!

解放された力は、ドドブランゴの脳天を一瞬にして突き破り、骨を、肉を切り裂きながら地面へと到達。
轟音が響かせながら地面が爆砕する。
ハルマサは、「身体制御」で衝撃を吸収するも、全ていなすこと叶わず、紙切れのように吹き飛ばされた。

そして落下。
ハルマサの体は限界を超えていた。内臓は軋み、骨は折れ、肉は切れ。
仰向けになったハルマサは動くことが出来なかった。

【無茶をするのぅ。我が守りの壁をつくらんかったら、体がバラバラになっておったぞ?】

周りの草木が急激に枯れ果てている。
ハルマサは口にたまった血を吐いて、体の力を抜いた。
雨が気持ち良い。

【治しきれなんだが、時間じゃ。】
(ありがとうね。)
【ふん……また呼ぶが良い。貴様の体は居心地がいいゆえな……】

女神様はモニョモニョ言いながら消えて行った。
本当に、彼女には感謝仕切りである。




フゥ、と息をつく。
湿度飽和状態の雨の下では、吐いた息が暖かければ、それは白い蒸気となる。
それを見ながら、ハルマサはなんでこんなに無茶しちゃったのかな、と考えていた。

別にここまでやらなくても、勝てていた。
「天罰」スキルを使えば、隙を作るのは簡単だし、今の敏捷ならその隙を突く事も容易かっただろう。
だけど、ガムシャラにやってしまった。
いや、やりたかったんだ。

(……そうか。)

ハルマサは得心がいったよう瞳を動かし、右の手に持つ剣を見る。

(ヨシムネの仇を取りたかったんだね、僕は。)

「殺害精神」のせいで何も思わなかったなんて、嘘だ。
ホントは悲しい。
ヨシムネが死んだ時、何も感じなかったなんて、嘘だ。
だってこんなに胸が痛い。
だいたい説明に書いてあるじゃないか。
「薄れる」だけだって。

それに、君が死んでしまったって、君との記憶は変わらない。
楽しくって温かかった記憶は忘れたくても忘れられないみたいだ。

君が死んでしまって、寂しいよ。
だから、今、君を想って泣いても変じゃないよね。


「―――――、――――ッ! ――――!―――――ッ!」


雨音に全てはかき消され、情けない声は自分にすら聞こえない。
涙は雨で分からない。

だから僕は、勝手に死んだヨシムネに、勝手に怒って、勝手に謝って、そして勝手に泣いた。



<つづく>





<おまけ>

ココット村でハルマサは体の汚れを落としていた。


「ハルマサ、湯加減はどうニャ?」
「ん? あぁ、いいよ? ちょっと傷にしみるけど。」

ハルマサは苦笑しつつ、五右衛門風呂の下で、筒を咥え、火に息を吹き込んでいたアイルーを見る。
アイルーは汗を拭うように額を擦ると、こっちを見上げてきていた。
その顔を見てつい笑ってしまう。

「顔、煤で黒くなってるよ。」
「んニャ!?」

顔を手で擦る様が愛らしくて、ネコってほのぼのするなァ、とまた笑ってしまうハルマサである。

「ねぇヨシムネ。」
「何ニャ?」

こちらを向くアイルーに僕はなんでもない風に言った。

「あのね、僕は多分ここを直ぐに出て行くんだけど、僕が君に付いて来て欲しいって言ったら、ヨシムネはどうする?」

瞳に意思を滾らせる猫。それって僕に多分一番足りないものだ。
だから一緒に行けたらな、と少し思った。閻魔様のこととは別に。
ネコはきょとんとした後、思案顔でヒゲを撫でる。

「ニャ……。すごく魅力的な提案ニャけど……遠慮しておくニャ。」

まぁそうだよね、と思った。

「ゴメン、無茶言って。」
「あ、そうじゃないのニャ。すごく行きたい気持ちもあるのニャ。だけど……」
「だけど?」

アイルーは肩をすくめる。やたらこなれた仕草だった。

「ここには愛する妻がいるニャ。かなりの美ネコだから放っておけないのニャ。」
「ええ!? 結婚してたの!?」
「あ、何ニャ? 信じてないのニャ? 本当なのニャ。」
「いや、別に信じてないわけじゃなくて……。結婚ってどういうのか想像つかないから。僕って女、じゃなくてメスと付き合ったことも無いし。」

アイルーは驚いた後、ひどく可哀相なものを見る顔をする。

「なんか不憫なのニャー……。今日の宴、僕の妻でよければお酌してもらうと良いニャ。」
「いや、なんか余計に傷つく気遣いだよ、それ。」
「ふふん。あまりの美しさに、腰を抜かしても知らないニャ?」
「なんだよ、それ。」

あの毛並みの美しさはマタタビ100個分なのニャ、と力説するアイルーを見つつハルマサは微笑む。
彼との語らいはとても楽しかった。
そういえば、初めて出来た友達なのかもしれない。ネコが初めてとか、僕スゴイなァ……。
あれ?友達って思ってていいのかな?

「あの、ヨシムネ?」
「何ニャ。改まって。というか早く出ないと茹で上がっちゃうニャ?」
「あ、うん。いや、そうじゃなくて…………僕たちって、友達かな?」

アイルーは、何を言ってるんだという顔をする。

「そういうことは聞いちゃダメニャ。言葉にするもんじゃないんだニャ。」
「そういうもんかな。」

相槌を打つハルマサに、まぁ、とアイルーはトコトコと風呂の出口のほうに向かいながら言った。

「友達ニャんて付き合っていくうちに、勝手になるもんだニャ。」

その時アイルーは背を向けていたのだが、恐らく照れていたのではないか、とハルマサは思うのだった。



ヨシムネとの、初めての友達との、記憶だ。


<おまけ終わり>







ステータス

レベル:7→8  ……レベルアップボーナスは320
耐久力:541 →1005
持久力:838 →1734
魔力 :1574→1894
筋力 :463 →1641
敏捷 :1379→3175
器用さ:1211→1851
精神力:1181→2248
経験値:1248→2548 あと10

昇華スキル
突進術Lv5 :177→突撃術Lv6:585 ……New!


両手剣術Lv7:152→872 ……Level up!
身体制御Lv7:401→721 ……Level up!
暗殺術Lv7 :435→792 ……Level up!
撹乱術Lv7 :402→1023……Level up!
空中着地Lv7:441→874 ……Level up!
撤退術Lv6 :287→437 ……Level up!
神卸しLv7 :418→982 ……Level up!
戦術思考Lv6:294→411 ……Level up!
回避眼Lv7 :424→729 ……Level up!
観察眼Lv6 :329→487
鷹の目Lv5 :54 →276 ……Level up!
的中術Lv7 :132→637 ……Level up!
空間把握Lv6:366→575


■「突撃術」
 「突進術」の上位スキル。敵対する対象に向かって移動する際、筋力と敏捷にプラス補正。助走を一定距離以上とった攻撃時に、さらに筋力にプラス補正。熟練に伴い筋力と敏捷にプラスの修正。スキルレベルの上昇に伴い、二度目の筋力補正が発動する助走距離が短くなる。[(20-(スキルレベル))×10]m以上の助走距離でスキル発生。※10m以下にはならない。






<32>



条件は揃った。
最高神が設定した第一層の仕掛けは簡単なもの。
プレーヤーがダンジョンに入ると同時に活動を始める、ドスランポス、ドスファンゴ、イャンクック、ドドブランゴの四匹の魔物を消滅させること。
前二匹は魔物同士の争いで消滅。後者二匹はプレーヤーが討伐した。
今、神の仕掛けたスイッチが、第一層の最後の魔物の目を覚ます。




ピシリ。

小さいながらも不吉な音が雪山の頂上で、微かに響く。
何かが割れる音。

ピシリ。ピシリ。ビシッ! ビシビシビシ!

岩のように灰色の塊の表面に、無数にヒビが入る。
そして開いた隙間からは、ヒュウヒュウと風が吹き出してくるのだ。

バキバキと音をたて、灰色の塊の頭から尻まで、一直線にヒビが入る。
そうして硬質の殻を割り裂いて出てくるのは、まず背中。
そして長く細い首。いや、細いと言っても、それは全体を見ているからこそだ。
単体で見れば、そこらの木のよりは断然太い。
続いて引き抜かれるのは大小さまざまな角が後ろに向かって生えている頭だ。
顔は前後に長く、鰐のような長い口がずらりと鋭利な牙を揃えている。
それは龍の顎そのまま、色だけがくすんだ灰色の頭である。

目が覚めた第一層の守護者は、身を包んでいた邪魔な殻をはね飛ばし、大きく羽根を広げる。
蝙蝠のような翼は、しかし鈍色に硬質な輝きを放つ。
守護者は久しく動かしていなかった口を開く。パキパキと硬化していた鱗が剥がれ落ち、煌く金属質の鱗が顔を出す。
さぁ、叫ぼうか。大地を竦ませる、龍の咆哮を。

守護者の名をクシャダオラ。嵐を呼び寄せる古代の龍である。





雨がようやく収まってきたという頃。
友との別れを悼んで下がっていたハルマサのテンションも、どうにか盛り返してダンジョンクリアに目が向き始めた。
ドドブランゴ戦の疲れを癒し、何か新たなスキルを習得するか、このまま雪山に吶喊するか悩んでいた時である。


「――――――――――ォァァァァァァァァ―――――」


遠くから、相当に遠くから、身を竦ませるような声が届いたのだ。

(なに? 何だ!?)

猛烈な悪寒。
ハルマサは、たまらず「聞き耳」を全力で行使しつつ、高い木に登る。
「鷹の目」はレベルが上がっており、密林にいながら、雪山を見通せるまでになっていた。

「あれは……嵐?」

視界の先、焦点をあわせた先では、雪山の頂上辺りで、暴風が渦巻いている。
その中で、何か大きなものが蠢いているのが見えた。

まって! あれ、かなり大きいんですけど!
楽勝で10メートル越えてるし≪20m83cmです。≫あ、ありがとう「観察眼」。絶望をどうも。

あ、待てよ名前くらい≪ポーン!「観察眼」Lv9を習得する必要が≫無理だー!
こいつこそ真のボスだよ! なんか分かるもん!
ドドブランゴあんなに強かったのに、僕ってめっちゃチートだと思うんですけど、それでもすんげぇ苦労して倒したのに!
それより強い敵来たー!
ドドブランゴの二倍強い敵来たよー!?

勝てるわけ…………。

いや。諦めるのはやめよう。
僕はこのソウルオブキャットに相応しい人間になりたい!
勇気の塊であった僕の最初の友達に、誇れるような人間になるんだ!

大体考えてもみなよ。レベル15の敵とか来なくて良かったッでしょ!?
あの敵なら、何とか……何とか……出来たら良いなァ。

そのためには、まず勝てそうな材料を調えるんだ!
勝負のためのカードをネ!
あ、今チラッと見えたよ! 顔とかちょっと見えちゃった! すぐ隠れちゃったけど!

ねぇ……今のってクシャルダオラじゃない!?
村クエの星4つで出てくるくせに、やたら強かったクシャルダオラじゃない!?

クシャルダオラって20メートルもあったのかぁ……勉強になるなァ……知りたくなかったなァ……。
とりあえずまだ僕には気付いていないみたいだし、今の内に出来ることはやっておかなくちゃ。

クシャルダオラの弱点は?
はい!分かりません!

じゃあ弱点属性は?
はい! 知りません!

何か有効な武器は?
はい! ライトボウガンで通常弾撃ったら跳ね返ってきてエライ目にあいました! すぐ3死しました!

何か効くものは?
はい! 毒投げナイフとかが支給されてましたけど、全然当てれませんでした! フワフワ跳びすぎです!


結果。

「毒が効くかも!」

まぁそれ以外がさっぱり分からなかったって言うのが本音だね。
ていうか過去の僕はもうちょっと頑張るべきだったんじゃないだろうか。

攻撃力守備力32倍のチート使って倒したことはあるけど、あの時もゴリ押しで倒しただけで、風で吹き飛ばされまくって大変だった。
今の僕は何が出来るんだろうなァ。
吹き飛ばされてオウフ! ッてなったら即死だよね多分。
あ、オウフ! ッて言うのは地面に叩きつけられたときに出す予定の声ね。
そんなん出す間もなく逝っちゃう可能性の方が高いけど。

正直毒とかどうやって使えば良いのか分からないし、何か勝てそうな要素ないかなァ……。
とステータスを見ていた時、僕は気付いた。

(そういえばもう少しでレベル上がる!)

こいつぁ上げとかねぇと後悔するぜ! ッて具合にテンションの上がった僕は、モンスターを索敵する。
森丘の……あっちと……あっちとあっちに、ランポスがいる!

少しでも経験値を得るため、レベルが高くて群れているランポスをターゲットに据えて、ハルマサは動き始めるのだった。



<つづく>

ボス

耐久力:10209
持久力:7809
魔力 :9985
筋力 :14283
敏捷 :8534
器用さ:8321
精神力:11272



[19470] 33~36(第一部終わり)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/09/14 08:14
<33>



ハルマサは、焦っていた。

(モンスターが足りない!)

森丘中を回っても、ランポスは3匹しかいなかった。
通りすがりに、アプトノスを倒しているが、アプトノスに至っては、経験値はたったの1。

(あと、たったの2でレベルが上がるのに!)

やがてアプトノスの気配も絶え、ハルマサは歯噛みする。
クシャルダオラは、今この瞬間に動き出してもおかしくない。
くそう、早くリポップしろ! …………リポップ?

(異常に早くリポップする奴がいたじゃないか!)

僕を何度も何度も殺してくれた最速のブタが!
あいつのレベルは……4?5?
まぁ3ではなかったと思う。
だから、いずれにしても経験値は貰えるだろう。

(よし! 急げ!)

ハルマサは走りだした。








いまだ、クシャルダオラは雪山の頂上にいた。
彼はこの階層の最終関門。
渦巻く暴風の守護龍は、最も高き頂きにて地上を睥睨し、挑戦者を待つ。








「聞き耳」によって獲物を見つけ出したハルマサは、猛然と迫り、通り抜けざまに一閃。まさに鎧袖一触。
モスに何もさせないまま、速やかにその命を絶った。

(あと1!)

ハルマサの見ている前で、立ち上るもや。
もやが形を作る前にハルマサは近寄り、ソウルオブキャットを振り下ろす。
ズン、と地面にめり込む漆黒の刃は、生まれたばかりのブタを両断していた。
今や全力で剣を振れば、スキルや特技によるプラスや補正が無くとも、容易く地を割るハルマサである。
耐久力が1しかないモスは、彼にとって豆腐と同じであった。

≪チャラチャラチャーチャッチャー! 魔物を撃退したことにより、経験値を1取得しました。レベルが上がりました。全ステータスにボーナスが付きます。≫

今回のレベルアップボーナスは640。
加速度的に取得ボーナスは大きくなっている。
ステータスで確認すれば、持久力・魔力・筋力・器用さが2000ポイントを越え、敏捷などは4000ポイントに届こうとしている。
これで、何とか戦えるだろうか。
……分からない。敵の強さは霞の向こうにあるように見通す事が出来ない。
ならば、「観察眼」の熟練度を上げて、強さを確認してから行くのか?
そんな悠長なことをしている暇があれば良いけど。

フゥ、と息をつく。
とりあえず「観察眼」を発動させつつ、辺りを見渡す。
熟練度はほとんどと言って良いほど上昇しない。
五分で、1上がるか否か。

ハルマサのレベルが9に上がる時、必要とした経験値は1000を越える。
スキルのレベルアップがほぼ同じ形式であることを鑑みれば、一日かけても200程度しか上がらない現状、レベル11のクシャルダオラを「観察」することはいつまで経っても無理だ。

(何時までもウダウダ言ってられないね!)

ハルマサは魂の剣を背中に背負うと、密林の地を蹴り、駆け出した。





――――――敵が接近しているッ!
守護者は、その長大な体を歓喜に震わせる。
守護龍の目は千里を見通す眼球でできている。
その目に映る、小さく、しかし疾い生き物。
草の短い土地を走る魔物ではない『強者』を認め、龍はゴォオと風を吸う。
そして放たれる無色のブレス。
額に生える角を起点として風を制御するこの龍にとって、風の制御は呼吸よりたやすい。
その吐息は何処までも、拡散せずに届くのだ。

龍の口から放たれる圧縮された風の奔流は、わずかな時間で大陸の空を渡り、ハルマサへと襲い掛かった。






森丘を走っていたハルマサは目を疑った。
煌く視界。この光景は疑うべくも無い「回避眼」が発動したモノだ。
だが、視界を占める攻撃予知範囲の広さが異常。
見渡す限り全て攻撃範囲。前後左右、上空も!
そして攻撃距離も異常。
攻撃元は、雪山にいる!

(な!? 30キロあるのにッ! ふざけてるッ!)

膨大な風が周囲の空気を飲み込みつつ、迫る。こんなの、出来ることは一つしかない。
ハルマサは、攻撃範囲を離脱しようと左に飛びつつ、思考で「神降ろし」を発動する。

(女神さん! 何とかしてくださいッ!)

ズギャーン! 風の奔流に勝る高速で、緑の女神が身に宿る。

【また斯様な状況か。まったく貴様は退屈させんの。しかしまた10秒しかもたんぞ?】
(く、その時間内に攻撃範囲を離脱します!)

ヒィン! と体が、濃い緑色に包まれる。ドドブランゴ戦で命を救ってくれた、周囲の植物に優しくないバリアーだ。

【ふむ、まぁ場所を移ればもう少しは持つからの。精々足掻くが良い、人間。】

直後、風の奔流が地を抉り、ハルマサを枯葉のように吹き飛ばす。

(じょ、冗談じゃない!)

ハルマサと一緒に巻き上げられた、土つきの大木が、何かで――――――恐らく圧縮されて生じた真空刃で真っ二つになる。
何とか「身体制御」「空中着地」で態勢を立て直そうとするハルマサ。
だが、永遠に続くと思われるような風の奔流、その内部で断続的に発生する真空の刃がバリアーの上からハルマサの体を翻弄する。
もしバリアーが無かったら、すでにハルマサは細切れだ。そう、隣に浮かぶ元大木、現木片のように。
木片は直ぐにすりつぶされて塵になった。

【あと5秒じゃ。】
(く…………ッ!)

地上数十メートルに巻き上げられたハルマサは突風に舞う木の葉のように、振り回される。
耳は絶えずビョウビョウと荒れ狂う風の音に占有され、視界はあちらこちらへと揺らされる。
その時、必死すぎて気付いていなかったナレーションを、偶然認識した。
結果的に言うと――――――それはハルマサの命を救う。

≪「風操作」の熟練度が698.0を越えました。レベルが上がりました。熟練に伴い器用さに――――――≫

操作系のスキルは、その系統の攻撃に晒されることで習得できる。
先ほどから足掻きまくっていて、聞こえるファンファーレは「空中着地」「身体制御」「空間把握」など既存のものだとばかり、ハルマサは思っていた。
だいたい、連続で鳴り過ぎて、しかも重なって鳴るものだから違う曲にすら聞こえるのだ。

だが、操作系スキルの習得条件を楽勝で満たす現状下ゆえ、何時の間にか「風操作」を習得していたらしい。

(しかも熟練度700!?)

この状況が、どれだけシステムに危機的状況だと認識されているのかよく分かる。
10秒以下でそんなに上がるとか。
つまりバリアーが無ければ一瞬で死ぬような状況なのだ。

(って別に今までと大して変わらないね。すぐ死ぬ状況っていうの。)

そう思うと余裕すら出てくる。
ハッハッハー! 違うスキルすら発動させて、熟練度を稼いでやるぜー!

【あと二秒……一秒……終わりじゃ。……じゃあの。死んでも達者でな。】
(ああ!? 調子乗ってる場合じゃなかったぁああああああああああ! か、「風操作」ぁああああああああ!)

明らかにこれから死ぬと見なしている女神が、ハルマサの体から出て行くその瞬間、ハルマサは体から魔力を放射する。
頭に描くのはハルマサの体を包み込む球形。
風を弾く魔力の結界だ。

(うぉおおおおおおおおお!)

前に掲げた腕から前に向かって進み、ある一点で放射状に広がる透明な波動―――魔力はそのまま弧を描きハルマサの体の後ろまで包み込む。
当たり前だが、「雷操作」の時とは消費魔力の桁が違う。
体から一瞬ごとに大量に減って行く何か―――すまわち魔力に、ハルマサは顔を青くする。
さらに「風操作」を使っている状況でも、濁流に飲み込まれた空き缶状態は変わらない。
このままでは直ぐに―――

その状況から救ってくれたのもまたスキルだった。

≪「魔法放射」の熟練度が1507.0を越えました。レベルが上がりました。熟練度上昇に伴い魔力に―――――≫

何時の間にか体中から魔力を出せるようになっていた。
何時の間にか魔力を効率的に使用し、循環させることさえ出来始めていた。
何時の間にか――――――熟練度上昇で魔力がアホみたいな数値になっていたッ!

この、いい加減長すぎだろうと叫びたくなるほど途切れない風の奔流は、既にハルマサにとってそよ風と何ら変わりないものになったのだ。

(お前は、僕に時間を与えすぎたんだッ!)

前後左右上下から来る真空刃を「風操作」で体の後ろ側に逸らし、その反動を利用して前に進みすらする。
吹き飛んでくる木の破片も「魔力放出」で柔らかく跳ね返す。

雪山との境まで進んでいたはずが、風によって森丘の端から端まで吹き飛ばされて密林の近くまで移動させられていた。
だが、これなら直ぐに距離を詰めることが出来るだろう。
ハルマサは、鯉の滝登りの如く、驚異的な速度で奔流の中を登っていくのだった。

その先にいるのはもちろん――――――クシャルダオラ。



<つづく>


佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:8   →9 ……レベルアップボーナスは640
耐久力:1005→1645
持久力:1734→2374
魔力 :1894→7056
筋力 :1641→2283
敏捷 :3175→7795
器用さ:1851→7735
精神力:2248→4455
経験値:2548→2558 あと2560



変動スキル
両手剣術Lv7:872→874
身体制御Lv9:721→4459 ……Level up!
空中着地Lv8:874→2116 ……Level up!
風操作Lv9 :0  →4244 ……New! Level up!
魔法放出Lv9:266→4738 ……Level up!
神降ろしLv8 :982→2087 ……Level up!
戦術思考Lv7:411→873  ……Level up!
回避眼Lv8 :729→1609 ……Level up!
観察眼Lv7 :487→973  ……Level up!
鷹の目Lv8 :276→1871 ……Level up!
的中術Lv7 :637→638
空間把握Lv7:575→1055 ……Level up!



<あとがき>
ハルマサ君がピンチになったかと思ったら、全然そんなことは無かった。
レベルが2つ上の敵から即死攻撃をくらい続けたらこんなことになってしまったんだぜ。






<34>




龍は5分間ほど風を吐き続け、その結果を見て満足する。龍の風を受けても、挑戦者は生き残ったのだ。
久々に歯応えのある敵だ。
胸の内に湧くのは歓喜。

「キュォオオオオオオオオオオオオオオッ!」

守護者は、人の頭ほどもある牙が生え揃う口を開け、咆哮する。
雪山はブルリと振るえ、雪崩が巻き起こる。





空中遊泳楽しー!
風操れるとか、クシャ戦余裕じゃなーい?
熟練度アップのボーナスでなんだか体も異常に軽いしね!
よーし!このままクシャのいる山にとッつげきだぜぇー!

とか思っていた過去の僕を殴りたい。

(み、耳が……!)

足に力が入らない。立っていられず、ハルマサは蹲っていた。

この状況になる数秒前。
雪を散らしながら走り、クシャルダオラの座す山の麓に達した時。
空を引き裂くような咆哮が聞こえたのだ。

(これはクシャの!? う・ぁ・あ・あああああああああああああ!)

脳をかき回されるような痛みが、耳から侵入してくる。いや、これは音だ。
ビリビリと雪山を揺らし、雪崩すら誘発させるような暴力的な咆哮だ。
瞬時に耳を手で覆ったが、音は容易く手の平を貫通し、パン、とハルマサの耳から血が吹き出る。
「聞き耳」が強力になった代償が、今払われた。
鼓膜を破壊されたハルマサは前後不覚に陥ったいた。

モンスターの咆哮―――攻撃としての咆哮を初めて受けたのも災いした。
そうでなければ、何らかの対策を取れたのに。
通じるかどうかは別にして。

鼓膜の破れた耳では、ズ―――……と一定の低い音しか聞こえない。

痺れたように思考がまとまらなかった。
音の無い奇妙な光景の中、雪山の上から雪の大波が押し寄せてくる。
まるでテレビの中のような。
現実感の無いハルマサは対策を打つという選択肢すら浮かばなかった。
彼の体は、あっけなく雪に呑まれた。



ォオオオオ…………

一面の雪原と成り果てた雪山の麓で、ハルマサは戸惑っていた。

(ど、どっちが上!?)

視界いっぱいまっ白で、どうやら雪に閉じ込められている。
ハルマサが超人的な耐久力を持っていなかったら、死んでいただろう。
耐久力は半分ほどになっているが、これはどちらかと言うと龍の咆哮のせいである。
口の中にも雪が入っており、それを飲み下しながらハルマサは混乱していた。

……このままだと酸素なくなるんじゃない!?
って言うか音聞こえないんだけど、これって何も音がしてないの?
それとも鼓膜がイかれてるの!?(鼓膜がイかれて周囲が無音です)

そ、そうだ!困った時には頼れるあの人!

(助けて女神えも――――――ん!)
【誰が女神えもんかッ!……また珍妙な状況じゃな。たまには何でもないところで呼んでも良いと思うのじゃが。】

バビュンと参上してくれた女神様は、不満そうに言ってくる。ちなみに頭の中で会話しているので、耳が潰れていても関係ない。

【それにしても……よく生きて追ったのぅ。確実に逝ったと思ったのじゃが。】
(ふふふ、まぁね! 何時までも君におんぶに抱っこじゃないってことかな!)
【ふ、生意気な口を。まぁ近くに弱っっちいが図体の大きな魔物も居るようじゃし、その言葉が嘘でないか見せてもらうとしようかの。】

気安く話しかけてしまったが、結構好意的な反応である。
嬉しくなる。
ていうかあのレベルの魔物って弱いんだ。驚きだね。
それにしても耳が痛い。女神の少女を憑依させたことで、オートドレイン(植物限定)が発動して回復するはずなのに全然痛みが引いていかないような……?

(女神ちゃん。耳治らないの?)
【ちゃ、ちゃんづけじゃとぉおお!? 貴様……、ま、まぁよい! 特別に許してやる!】
(あ、うん。ありがとう。じゃなくて、耳が痛いから何とかできない?)

うむ。と頭の中で、頷いている気配がする。

【植物がないから無理じゃな。】

ダメなのか!

(女神ちゃん……植物ないと何も出来ないの?)
【う……】
「う?」
【うるさいわ―――――――――ッ! 我は役立たずなんぞではないのじゃッ!】

突然怒り出してしまった。何か気にしている事があるのだろうか。

【凄いんじゃぞ!? 我はかなり凄いんじゃぞ!?】
(うん。そうだね。なんかゴメン。)

とりあえず、女神ちゃんは置いといて、何とかしようと、手を動かす。
なんか今向いてる方が上っぽいね。
ふん! ……お、結構簡単に動けるな。かなり重いと思っていたんだけど。そういえば筋力も高いんだった。

【き、聞いておらぬな!? 良いだろう見せてくれる! 腰を抜かすな……】
(え!? 何か嫌な予感がするよ女神ちゃん! 聞いてる!?)

女神ちゃんは僕の声を無視して叫ぶ。凄い嫌な予感がするけど、雪のせいで直ぐには動けない!

【『――――――』ッ!】

高音すぎて聞き取れない言葉を女神ちゃんが叫ぶ。
体の下から、ミシミシと嫌な音が聞こえ、次の瞬間。

ボゴォオオオオオオオ!

体の下から硬いものが出て、体が上へと突上げられる。

「あぶぶぶぶb……!」

雪が、雪が鼻に! 口に! そして目が――――――ッ!
雪の層を突きぬけ、飛び出した先は、ピーカンのお天気な空だった。

「わぁ……良い天気……」

相変わらず何も聞こえないし、やたら体が痛いけど、僕はとても良い気分だ。
なんか、空中に放り出される感覚って病み付きになるんだよね。この開放感!

ハルマサは空中でゆるい速度で回転しながら放物線を描き、落下する。そして雪に突き刺さった。

「オウフ!」

後頭部から……だと……。
僕が丈夫じゃなければ死んでいる……! 「空中着地」はもう使い切っちゃってるからどうにも出来なかった。

【どうじゃ!】

頭の中で元気な声が響いたので、奇妙なオブジェ状態になっていた体を腕の力で引き抜いて、さっき飛び出してきたところを見る。
大木が生えていた。いや、巨木か?

(え? あんなの生えてなかった……もしかして、女神ちゃん?)
【そうじゃ! 我は、実技の試験ではいつも一番なのじゃ!】

非常に気になる物言いがあったが、とりあえずスルーして、雪原に突き立つ巨大な樹木を見る。
いくつもの木が寄り集まり、無理やり絡まって上空へと伸びたような……桂の木を思い浮かべてしまった。
規模は全然違うけど。
なんというか……

(世界樹?)
【おお、よく分かったのぅ! 貴様の体力を呼び水に召喚してやったわ! まぁ貴様の体力がゴミみたいに少なかったゆえあの程度じゃがな。】
(へ、へぇええ……凄いね。)
【そうじゃろう、そうじゃろう! もっと褒めろ!】

そうか。体が痛いのはそのせいだったんだね。
800くらいあった耐久力がもう23しか残ってないよ。明らかにやりすぎです女神さん。

【そういえば、耳が聞こえんのか知らんが、後ろから魔物が来ておるのに気付いておるか?】
(―――――え?)

女神様の言葉と同時、空間把握に感じる風の乱流。
雪を身に纏う風で巻き上げつつ、ノシノシと歩いてくるのは鈍色の龍だった。
改めて近くにいると威圧感が凄い。

40メートルほどに接近した、金属質な外皮を持つ龍が翼を広げて顎を開く。

「―――――――――――――!!!!」

なんか咆哮してるみたいだけど、顔とかにビリビリ来るだけで何を言っているのか分からない。
耳が聞こえないと困ることも多そうだけど、今はこれで良いかなァ。

【我はあと2分ほどしか居れん。その間に倒してみよ!】


女神様がわりと無茶なことを言っているのを聞き流しつつ、僕はソウルオブキャットを構えながら、クシャルダオラと対峙するのだった。



<つづく>

現在のダメージッぷり。

耐久力:  23/1645
持久力:2374/2374
魔力 :3411/7056(減少中)

インフレ過ぎて誰もついてこれないのではと思いつつ。
次の話をどうぞ。



<35>


いやぁ、音が聞こえないと変な感じだね。
クシャルダオラが僕の体より太くて長い腕を振り下ろして、雪原を盛大に掘り返しても、何も聞こえないよ。

僕はといえば、スキル発動してクシャより速く動けているから結構余裕です。
こうして対峙しているだけで、またスキルがチャランチャラン上がっているし。
相変わらず耐久力は低いけど。

でも、クシャルダオラって風を纏わせて攻撃範囲を増やしたり、風を使って早く動いたり、風を使って範囲攻撃をしてきたりと、風しか使ってないのに、かなり厄介です。
近寄れないんだ。
現在進行形で「風操作」を使って体を守っているんだけど、かなりの量の魔力を常時噴出さないとクシャが叩きつけてくる風を裁けない。
拮抗しても気を付けないと風にもみくちゃにされて吹っ飛ばされそうなんだよ。
しかも近寄るにつれて風の勢いが強くなって、剣で攻撃するなんてとてもとても。
敵のリーチってこちらの10倍くらいあるし。
近づく前に、風で動きの鈍った僕を、クシャルダオラが叩き潰すだろうね。
その内スキルが上がっていけるようになるかもしれないけど、2分以内はちょっと無理かも……

【なんじゃ。大口を叩いた割にはその程度か。失望したわぃ。】

と思ったけど、そんなことはないんだよ!
女の子に罵られる僕はもう死んだ!
ソウルオブキャットに誇れる男は、女の子に罵られたりはしない! 僕はやるよヨシムネ!

(いや、ここからが本番だよ! 奥の手の一つ!「天罰招来」を使う! ……あのモンスターに天罰をッ!)

「天罰」の精霊さん僕のこと嫌いっぽいからあんまり使いたくないんだけどね。
この状況を何とかできるのは彼だけなんだよ。
ちなみに奥の手のもう一つは「暗殺術」によるステルスアタック。
でもこの状況では、もみくちゃにされて持久力切れて終了です。

「天罰」の精霊は、こちらの声に反応した。

【ことわるぅううううううう!】

野太い声で帰ってくるのはやはり否定。
まぁそうですよね。さぁてやっぱり僕を経由して――――――

【おんどれぇええ! 断るとはどういう事じゃぁアああああああああ!】

「雷操作」のコンボでいこうと思ったら女神ちゃんがかなり口悪くキレた。

【え、な、何でカロンさんがそこに居るんッスか――――――!?】
【そんなことはどうでも良いじゃろうが! それより、ハルマサの頼みを断るとはどういうことじゃと聞いておるのじゃ!】
(いや、そんな女神ちゃん。別に僕は―――――)
【はぁあ!? 女神ィ!? カロンさんが女神だとぉ!? てめぇふざけんなよ!? カロンさんはなァ―――――】
【だまれぇええええッ! ハスタァ、貴様それ以上言うとどうなるか分かっとるんじゃろうなァ!?】
【ヒィ!】

頭の中でコントみたいな事が起こっている。
女神ちゃんってカロンって言う名前なんだ。今度からカロンちゃんって呼ぼうかな。

【――――――分かったか! 貴様は願われたことを黙って叶えておればよいのじゃッ!】
【はい、それはもう。誠心誠意やらせて頂きますッ!】

なんか話が纏まったみたいだ。
「天罰」の精霊、ハスターさんだっけ。立場が低い人っぽくて、逆らえない気持ちは良く分かる。
共感しちゃうなァ。

「―――――――!」
「と!」

クシャルダオラの尻尾が雪面を叩いて、また爆発させる。
舞い上がった雪は風で吹き暴れ、雲もないのに暴風雪状態だ。
尻尾長すぎ! 攻撃範囲の広さがふざけてる!
クシャルダオラから、一足飛びで距離をとった僕の頭に咳払いが響く。

【う、オホン! それでは、ゆくぞぉおおおおおおおおおおッ!】
(あ、よろしくお願いします。)
【ぬぅうおおおおおおおおおお!】

野太い唸り声と共に、天が突如として暗くなる。
何もない空に染み出してくるように雲が出来、雷光が雲間を走る。

【天ばt――――――】
「―――――――――――!」

今まさに雷が落ちようとした時、クシャルダオラが空に向かって風を吐く。
流石はボス。
異変を感じて潰しにきたか。
雲に大きく穴が開き、電撃は空中に拡散していこうとする。

【なにやっとんじゃい! しっかりせんか!】
【いや、でもあれは仕方ないって言いますか――――――】
(それなら――――――)

僕はクシャルダオラに向かって走っていく。

(僕がひきつけている間にお願い!)
【お主……ふッ…。よかろぉおおおおおお!】

僕のときだけ声を変えて応じてくるハスターに、僕は苦笑しつつ、雪面を疾走する。
倒すことは出来ないけど、足を止めるくらいなら!
雪を蹴り、走る。
本来なら、脚は容易く雪を踏み抜くが、足を下ろすあまりの速度に、雪は鋼のような感触を返す。水の上を走れるあの原理だね!

「だぁりゃぁあああああああ!」

「風操作」を覚えてから良いことはたくさんあったが、一番嬉しいのは本気で走ってもダメージを食らわなくなったことである。
自分から空気にぶつかって自爆していたため今まで「風操作」を覚えることはできなかったが、覚えた今なら風の通り道を示してやれる。
すなわち空気を掻き分け走る事が出来る!逆に真空状態を利用して速く走ることすら可能だ!

クシャルダオラの動きを上回る最高速度で、一気に距離を詰める。
「突撃術」が発動し、体が青く発光する。
空気の壁をいくつも破り、体は加速。
その姿は霞み、0.001秒以下というインフレのし過ぎな時間で二者の間を0にし、そのままの速度でハルマサはクシャルダオラに突っ込む!

ガ、キン!

渾身の力で振り下ろした剣は暴風のせいで勢いを削られて、しかしそのクシャルダオラの頭の鱗を叩き割る。
そのような感触を手に持った。
でもやはり硬い。見た目から何となく分かってたけど。これでは予想通り攻め切れない。

「キュアアアアアアアアアアアアア!」

直後、龍の巻き起こす突風に吹き飛ばされるハルマサだったが、彼の役目はまだまだこれから。
「風操作」「魔力放出」「身体制御」その全てを使って体勢を立て直し、直ぐに突っ込む。
剣を打ちつけ、すぐに風で跳ね飛ばされ、しかしまた突っ込む。
その攻防の中、ハルマサは手ごたえを感じた。

クシャルダオラ、どうやらほとんど反応できていないねッ!?

「だぁあああああああああ!」

着地の瞬間直ぐに走り出すため、着地した態勢の残像すら残して、ハルマサは攻め続ける。
クシャルダオラの体は硬い。
鱗を抜いたのは最初の、「突撃術」を使った一撃だけだ。
ソウルオブキャットは攻撃の度に刃が毀れ、すでにナマクラ状態だ。
だが、まだまだ!

ギギギギギギギギギギギギギギンッ!!!!!!

10秒に渡って行われたクシャへの斬撃は実に800を超える。
超高速で行われるヒットアンドアウェイはハルマサの持久力を著しく削るも、クシャルダオラの意識をひきつけることに成功した。
そして、ついに準備が整った。

【離れろォオオオオオオオオオ!】

ああ、ちゃんと言ってくれるのか!
かなり感動しながらハルマサは即座に距離をとる。

次の瞬間、ハルマサの体からゴソッと魔力が流れ出し、
代わりに天から黄金色の瀑布が流れ落ちる。

―――――――――!

音のしない中、視界を埋め尽くす電流がクシャルダオラの体を丸ごと包み込み、衝撃が周囲を震わせた。
中心の雪は一瞬で蒸発し、放射円状に雪が吹き飛ばされていく。

「風操作」「魔力放出」でそれらを防ぎながら、僕は薄目を開けていた。

クシャルダオラは――――――

「キュ、オ、オオオオオオオオオオオオオ!」

生きている。
完全に雪が消えうせた円状の空き地の中心で、体中に電流の残滓を纏い、焦げて剥がれた鱗を落としつつも、暴風の龍は動いていた。
だが、その動きは鈍い。
体力を削られ、しかも雷で痺れている!

(決めるなら――――――今!)

彼我の距離はおよそ120m。
「突撃術」が発揮される距離だ。

剣を構え、力を込める。ピカリと赤い光がネコの黒剣を包みこむ。
「溜め斬り」なら、龍の防御を抜けるだろう。
しかしこれで、この剣は折れてしまうかもしれない。
でもヨシムネなら笑って許してくれそうな、そんな気がする。
「全く、しょうがない奴だニャ」などと、こなれた仕草で肩をすくめそう。

二段階。赤く光る黒い剣を掲げ、タイミングを計りながら走り出す。

「お、り、ゃああああああああああああああ!」

踏み切った地面は爆発。
背後に砂塵を置き去りにし、ハルマサは、走る。
空気の壁をスタート直後に突破し、ハルマサは一筋の赤黒い稲妻となり、直ぐに「突撃術」が発動、青い色も後を引く。

今だ痺れるクシャルダオラに到達し、ハルマサは禍々しく光る剣を振り下ろす。

バキン、と砕ける感触。
ほぼ同瞬、轟音が響き、クシャルダオラの頭は砕かれながら、地面へと叩き込まれる。
ハルマサの腕は止まらず、地面に埋まった龍の頭を両断。
土を抉る感触を覚え、ハルマサは手を止めた。

硬い龍の頭は両断され、それはいくら体力のある龍といえど、致命傷だった。

荒い息を整えつつ、ぐ、と剣を引く。
引っかかった龍の頭から引き抜いた剣は――――――折れていなかった。
刃は幾箇所も毀れ、それどころか亀裂が走り、何で繋がっているのか分からないようなひどい状態だ。
だが、折れていない。
それがヨシムネの心の強さの証明のように思えて、ハルマサは嬉しくなる。
もう一度使えるように、なにかスキルを得ようか、と考えた。

ヨシムネと共に戦い抜いたような奇妙な一体感を覚えたハルマサだった。

≪魔物を撃退したことにより、経験値を2560取得しました。レベルが上がりました――――――




クシャルダオラの体は徐々に薄れ、あとの残ったのは、指輪であった。
キラキラと煌きつつ、ゆるく回転しながら輝く、シンプルな作りの銀の指輪。
外側に一つ、傷のようにも見える小ささで、宝石が埋め込まれている。

ハルマサは指でその指輪をつつく。
『キィ―――ン!』
脳に直接響く、硬質な音をたてるが、指輪は揺れるだけでそれ以外の反応は無い。

恐る恐る手に取ってみると指輪を覆っていた光は消え、ただの目立たない結婚指輪然としたものになった。
まじまじと見てみても何が分かるわけでもない。

≪ポーン!対象の情報を取得するには「観察眼」Lv1280を習得する必要があります。≫

眺めていてもどうしようもない。
ハルマサは覚悟を決めて右の人差し指に嵌め――――――








「……!?」

次の瞬間に、ダンジョンの入り口に居た。
入り口の穴がぽっかりと黒い穴を開け、その近くにハルマサが
穴の外に投げ出したキャシー(立て看板)が倒れており、入り口で間違いない。

(いったい……?)

そう思い、とりあえずキャシーを元々刺さっていたところに突き立てる。その時立て看板に書いてある文字が増えていることに気付いた。

『ダンジョンNo.23
第二層に転移する方は、下の枠内に指輪を触れさせてください。』

文の下には、四角い線で囲まれた、「2」という数字がある。

「えーっと……」

恐る恐る指輪を触れさせようとして――――――肩に柔らかい感触があった。

「――――――。」

振り返ると閻魔様が居た。
艶やかな笑顔の閻魔様を見て、僕はようやくダンジョンの第一層をクリアした実感が湧き始めるのだった。



<つづく>


佐藤ハルマサ(18♂)
レベル:9→10     ……レベルアップボーナスは1280
耐久力:1645→3499
持久力:2374→6049
魔力 :7056→17339
筋力 :2282→8349
敏捷 :7795→25916
器用さ:7735→22176
精神力:4455→12782
経験値:2558→5118 あと5120

スキル
両手剣術Lv9:874 →3609 ……Level up!
身体制御Lv10:3459→8634 ……Level up!
突撃術Lv9 :585 →4690 ……Level up!
撹乱術Lv10 :1023→7711 ……Level up!
空中着地Lv10:2116→8083 ……Level up!
走破術Lv6 :79  →341  ……Level up!
撤退術Lv9 :437 →3555 ……Level up!
天罰招来Lv8:1072→1877 ……Level up!
神降ろしLv10 :2087→5336 ……Level up!
風操作Lv11 :4244→12230 ……Level up!
魔法放出Lv11:4738→12929 ……Level up!
戦術思考Lv9:873 →4671 ……Level up!
回避眼Lv9 :1609→5309 ……Level up!
観察眼Lv7 :973 →1022
的中術Lv9 :638 →2599 ……Level up!
空間把握Lv9:1055→3048 ……Level up!










<36>



久々に見る閻魔様は、何故だか後光が差すようだった。

「――――――、――――――!」

閻魔様が口をパクパクさせている。
そういえば、鼓膜が吹っ飛んだままだった。
体を治すならこの人、カロンちゃーん!

【女神と呼べぃ!】

素早くやってきた女神ちゃんは、僕の体に乗り移ってライフドレインを発動させてから、僕にぶちぶちと文句を言い始めた。

【なんで、勝負を決める時に我を呼ばんのじゃ! 一番良いところを見逃してしもうたではないか! 全くあの時ハスタァが無駄に魔力を吸い上げなんだら……!】
(あの、ハスタァさんには優しくしてあげてね?)
【…………いやぁ、やっぱりハルマサは良いのぅ。あいつらと来たら、あそこをシメろ、こっちを倒せと我に暴力ばかり強要してきおって……。】
(あの、元気出してね?)
【うぅっ……! 優しさが沁みるのぅ……!】

黙って頭の中でカロンちゃんと話していると、どうやら鼓膜が修復されたようだった。

「何故……何故、こんなに……ありえん…………」

モニョモニョ言う閻魔様の声が聞こえてきたのだ。
閻魔様の声はやっぱり綺麗だなぁ。
馬鹿なことを考えているハルマサに、閻魔様は気付いたようだった。

「お、おお。もう、聞こえるか?」
「はい。ご迷惑おかけしました。もうすっかり聞こえますよ。周りの草とかが犠牲になりましたけど。」

その言葉を聴いた閻魔様は周囲を見たあと、訝りながら聞いてくる。

「おい、そのスキル………もしかしてカロンとか言う奴に力を借りているんじゃないよな?」
「へ? 良く分かりましたね。そうですよ。カロンちゃんです。」

僕の返答を聞いた閻魔様は渋い顔をする。徐々に萎れていく周りの草原を不気味そうに見つつ、僕に言う。

「ちゃん!? ……いや、あいつの評判はあまり良いのを聞かなくてな。何か嫌なことされていないか?」
「いえ、結構良い関係ですよ。」
【なんじゃと!?】

なんで君がそこで驚くの?
疑問に思いつつ閻魔様を見ると、閻魔様は何故か固まっていた。

「あの?」
「い、いや。そうか……良かったな。祝福するよ。」

言葉とは裏腹にすごく辛そうな顔をする閻魔様。

「祝福? あ、いや違います。そういう意味ではないんです。かなり助けられているってことです。」
「そうなのかッ! 全く、紛らわしいんだよ、気をつけろ!」

おお、突如として元気に……。頭をペシペシと叩いてくる。
やっぱり閻魔様は生き生きとしている方が綺麗だね。

【ふふん。勘違いさせて置けばよいものを。あのような脂肪の塊は破裂すればよいのじゃ。】
(えっと……。カロンちゃんは胸部が控えめなの?)
【うるさいわ! 女神と呼べぃ!】

あ、そうだ。アイルーのことを伝えなきゃ。

「あの、閻魔様?」
「……なんだ?」
「アイルーのことなんですけど……どうにも連れてこれなくって。」
「どういうことだ?」
「実は……」

ココット村での出来事を、身振り手振りを加えて話すと、閻魔様は泣きに泣いた。

「ヨシムネぇ―――!」

叫びすらした。

【ハルマサ……お前という、やつはぁ……偉い! 偉いぞぉ!……グスン。あ、時間切れじゃ……】

頭の中でもすごく騒いでいた(すぐに帰っていったが)。
ちょっとヨシムネのことを強調しすぎたかも。
でも彼のことを知る人が増えるのは僕にとっても嬉しい事だから仕方ないね。
それにしても何で「舞踏術」の熟練度が上がったんだろう。謎過ぎる。



とまぁそんな経緯で、何故か閻魔様は僕に小さな袋を持たせ、穴から落とそうとしていた。

「ちょっと行ってそれを渡して来い。中には色々入れといたから。……お前はネコたちを救うべきだ。」

ここにはロープ吊るしといてやるから、という言葉の下、もう一度ダンジョン内へ行くことになった。
閻魔様が5分で用意して持ってきた小さな袋には、見た目と違っていくらでも物が入るそうで、実はかなり高価なものだとか。
それをポンと出す閻魔様ってすごい!

「何が入ってるんですか?」
「うむ。つまりはネコたちが自衛を出来るようにすれば良いんだ。だから、聞いた話の技術レベルに合うような、武器の設計図や、防壁の強化案だな。あとは鉱石なんかも入れてある。重さはそのままだが……持てるようだな。」
「大丈夫そうですね。」
「よし、行って来い!」
「あの、この指輪一度外してつけたらここに戻ってこれるんじゃ……?」
「だめだ。外したら消えるんだそれは。」
「剣握る時に邪魔だなァ……」

ということで、ダンジョンに戻ることになった。






落下ではなく、「風操作」で滑空しながら上空を移動していると、「鷹の目」に映る影がある。

(イャンクック……! もうリポップしたの!?)

速すぎる。
こんなのではネコたちが蹂躙されてしまう。

僕は急いで地面に降り立つと、ココット村に急行した。
こんどは遅れないように。
しかし、現れた僕を、ココット村の人たちはかなり警戒してきた。

ネコにぐるりと囲まれる。ネコの手にはボウガンが持たれていた。

「誰だ! ここに何のようだ!」
「ええっと? ハルマサですけど……」

ココットが厳しい声で詰問してくる。
まるで僕のことなど知らないような声色だ。

「あの、ココットさん?」
「……なぜ私の名を知っている!?」
「だ、誰か知らニャいけど、この村に悪さをするなら出て行ってもらうニャ!」

ココットの横から現れたのは、すごく会いたくても会えなくなったはずの猫だった。
彼も手にボウガンを構えてこちらを狙っている。

僕は嫌な予想をしてしまう。
イャンクックの速すぎるリポップ。
ヨシムネの復活。
ここはダンジョン。

―――――――ボスを倒せば、全てはリセットされるのではないか。

ならば、僕の苦しかったあの旅は、猫たちの涙は、全て何の痕跡も残さず消えるのか。

「答えろニャ!」

いずれにせよ、もうここには用はない。

「以前助けていただいたネコの故郷がここと聞いて、御礼に来ました。ここに置いておくので、お確かめ下さい。必ず役に立つはずです。それでは。」


ハルマサは早口にまくし立ててから袋を地面に置くと、最後にヨシムネをチラリと見て、逃げるようにココット村を立ち去った。








「……何だったのニャ?」
「さぁな。それよりも……」

ココットが袋に手を伸ばす。

「いけませんココット! 何が起こるか……!」
「いや、彼の動きを見ただろう。その気になれば容易く殺せる我々に、回りくどいする真似をする必要はない。」

諌めようとする老ネコに首を振り、ココットは袋を拾おうとして――――――あまりの重さに持ち上げられなかった。

「どういうことだ……? む、なんだ? 中から……」

出るわ出るわ。袋には無限の物資が入っているようだった。

「この本は知らない文字だな……なぜか読めるが。」
「この石を見ろニャ! 信じられない純度だニャ!」

物資に群がる猫たちを見つつ、ココットは考え込んでいるヨシムネを見る。

「どうした?」
「いや……なんかあの生物に見覚えがあったような気がしたんですニャ。それに最後僕の方を見た時の目が……」

なんだかとても悲しそうで。
今にも泣き出しそうだったと、ヨシムネは思って、結局言葉にしなかった。

「……また会うこともあるだろう。その時に問いただせば良い。」
「そうですニャ……。」

でも、二度と会えない。
そんな気がするヨシムネだった。


禍々しさすら持つ漆黒の大剣を背負った少年の来訪は、ココット村へと技術革新という福音をもたらした。
猫たちは、試行錯誤を繰り返し要塞を強化、やがて完全自立式迎撃移動要塞フォゥラを作り上げ、密林における安住を獲得する。
しかし猫たちの記憶に、強烈に焼き付いたはずの少年の姿は、時と共に風化し、跡形もなく忘れ去られていく。
だが、その中で一匹のネコは、胸の痛みと共に少年の姿を記憶し続けた。
やがて、そのネコが丹精込めて打ち上げた最高傑作は、少年の持つ大剣と酷似していたという。
ネコたちはそれを、魂の剣と呼んだ。







しかしそれも、次の第一層クリア者が現れるまでのことである。
4年後にクリア者が出たとき、そこには少年の残滓すら、無くなった。








ロープを登って来たハルマサは無表情だった。

「渡してきました。」
「うむ。……何かあったか?」
「いえ、何も。」
「……そうか。」

言葉の通りには全然見えなかったが、閻魔は流すことにする。
無遠慮に触れないこともまた、時には必要だと長い経験の中で彼女は知っていた。

「では、お前を約束通り現世へと送る。きっかり24時間だ。行ったらすぐ時間を確認しとけ。」

ハルマサは頭を振って何かを振り払うと、こちらを見てくる。
随分と深い色を持つ目になった。
色々なことを飲み下し、自分の糧としてきた者だけが持つ目だ。

「わかりました。」
「うむ。では、やり残したこととやらを、やってくるが良い。」

閻魔の手から飛び出した光は、少年の体を包み込み、次の瞬間には跡形もなくなっている。

「まぁ、しっかり楽しんで来い。」

帰ってくれば、またダンジョンに飛び込む運命が待っているのだから。
閻魔は先ほどまで少年がいた場所を一瞥し、哀れんでいるような曖昧な笑みを零すと、執務室に戻るために踵を返す。
久しぶりにタバコが吸いたい、と閻魔は思った。
















第一部:End

Next:閑話・現代編1









※(注意)この下の「次の記事を表示する」を押しても次の記事へは飛びません。理由は記事番号が続いていないからです。お手数ですが次の話へと飛ぶときは上の目次からお願いします。




[19470] 37・改定(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/19 16:25



この作品のメインテーマである「勢い」。
それが現代編で薄れてしまったような、そんな気がしました。
よって書き直しておりました。
投稿の間隔が開いたのは、他にも事情があったりするんですが……
書き直さないと先に進む事が出来ないような気がしたので。
こんな行ったり戻ったりなssですけど、読んでいただければ嬉しいです。









<37・改定>




目が覚めると、自分の部屋に立っていた。
えっと……?
格好は違和感の無い、いつもの私服。すなわちジャージだ。

その時、手にクシャリとなにかを握り締めていることに気付いた。
紙……?

『貴様を地上に送るにあたり、身体能力に枷をかけてある。大人の事情ゆえ、理由は聞くな。無茶せず一日楽しんでこい。』

紙の終わりには、閻魔、と朱印が押してある。

ああ、閻魔様……!
思い出した。
僕は既に死んだ人間(?)
そして現役だった高校3年生。
服とかはなんとかしてくれたのだろう。
そういえば靴とかも指先一つで呼び出してくれたしね。
ソウルオブキャットがどうなったか少し気になるけど。

ステータスを見てみると、魔力と筋力が30になっていた。
元が数千ポイントとかだったから低いような気がするけど、結構高いよね。大人3人分って。
というか他のは下げなくて良かったのだろうか。
手とかをニギニギしてみると、明らかに力が入らない。
これが30か……かなり力が弱くなったと言うこと以外はよくわかんないね。
でも、魔力30って言うことは、カロンちゃんとかには頼れないってことだね。
危ないことはしないようにしよう。
まぁ耐久力はそのままだから、命の危険とかは多分無いだろうけど。


(そうだ。時計!)

閻魔様の言葉を思い出し、時計を見た。
時間は6時45分。
普通なら、僕はまだ寝ている時間だ。
それはさて置き、とても不思議に思った事がある。

「まだ5日しか経ってないの!?」

僕が死んだ日は、日差しの暑かった19日。
そして僕が帰ってきたのは、同年同月の、23日。
正確に言えば4日しか経ってなかった。
ダンジョンの第一層では、基本的に太陽の位置が変わらなかった。

あの濃密な時間がたったの4日。
信じられない思いではあったが、まぁそれはいいとして、やることはやってしまわないと。
あ、でもその前にお風呂入りたいかも。


その時、玄関が開く音が聞こえる。

「ただいまぁ~。」

母さんの声だ。
夜勤から戻ってきたらしい。毎回思うが、看護士は大変だ。
そんな中、僕がいなくなったことで心配かけていたらイヤだな。
どうでもいいけど、自分の部屋にいるのにはっきりと聞こえる。
スキルは使えるみたい。

「お帰り、母さん。」
「おお、しばらく姿を見なかったハルマサ君ではないか! 元気にしていたか息子よ!」
「ま、まぁね。」

まさか死んでいたとも言えまい。

どうやら僕が居なくなったことに気付いてはいないようだった。
とは言っても、家族仲が冷えているわけではない。
基本的に、僕と母さんの活動時間がずれているのだ。
母さんが家に帰ってきて眠ったあとに、僕が起き、僕が学校に行っている間に母さんは仕事に出る。
顔をあわせるのが数日ぶりというのも珍しいことではなかった。
4日程度ならなんとか許容範囲だ。その間母さんの休日も無かった様だし。

「君、この前ゲームつけっぱなしで外出しただろ。ああいうことをするとお小遣い減らすぞ?」
「あ……ちょっと急いでて。もうしないよ。」

人差し指を突きつけてくる母さんに、曖昧な笑いを返しておく。

この家に父さんはいない。
飲んだ暮れで僕を良く殴る人だったが、母との離婚の際に取り決めたため僕を中心に半径100m以内に侵入することを禁止されている。
あの人に関しては、正直良い思い出はない。

母は年に比べ、若く綺麗だ。再婚の申出も多いと思うのだが、僕が邪魔になってしまっているのか、そんな素振りを見せない。
だから、僕は自分がいなくなった方が母のためではないかと思っていたものだ。
実際高校を出たら直ぐにここを離れ、アルバイトをしながら一人暮らしをするつもりだった。

でもたった4日ぶりなのに久しぶりに会うような気がして、懐かしい。
そしてこれから会えなくなると思うと、寂しかった。

「んー。なんか顔つきが変わってる。なんかあったのかい?」
「まぁ……色々と有って。」
「ふむ…………そうだ! 久々に会ったんだから、朝食デートしよう! 美味しいものを作ってやるよ!」
「う、うん。……でも母さん眠いんじゃない? 無理しなくても。」
「ふふん! 眠さなど、とっくに克服してやったわ―――!」

鼻で笑い飛ばして、母は台所に行って、そして慌てて帰ってきた。

「化粧落とさなきゃッ」

これが、そそっかしくも頼もしい、僕の最愛の母親だ。




母に一言断って入った風呂場で、以前と比べ随分と堅くなった体を洗う。
関節が固くなったとかではなく、堅くなったって言うのは……本当に堅くなったんだ。
注射針が刺さらないくらいなんじゃない?
耐久力のせいだろうか。
そういえば鏡で自分を見るのは4日ぶりとなる。

「おおー。結構筋肉ついたかも。」

割れた腹筋や、くっきりと浮き上がる三角筋。盛り上がる胸筋に、アバラの上の前鋸筋。頼もしささえある大腿筋。
何時の間にか、僕の体は「痩せ過ぎ」から「細身筋肉質」へとジョブチェンジしていた。
筋肉の付きにくかった僕には、一番嬉しい変化かもしれない。

お風呂を出た後は部屋にとって返し、いつものジャージを着る。
このジャージ、5セット持ってるんだよね。
そして左手の刺青に気付いた。カロンちゃんの奴だね。
カロンちゃんには悪いけど、ちょっと恥ずかしいから包帯で隠そう。

台所に行くと、母が料理を並べていた。

「おお、ナイスタイミング。空気を読んでるな少年!」
「ふふ、そうかな。あ、手伝うよ。」
「じゃあ、お味噌汁を……ハルマサ、そんな格好して、もしかして学校行かないのか?」
「え……あー。えっと、行くよ。うん。」

そうだ、今日は水曜日で、普通なら高校がある日だった。
母さんを心配させるのは嫌だから、毎日高校には行っていた。
二日も無断欠席したことを、学校側はどう思っているのか。母さんには連絡が行ってないみたいだけど。

これから家には帰らなくなることを、どう母さんに伝えるか。
どれだけ順当に行こうとも、あと数回しか戻ってこれない。ここに居続けるのは苦しい。
いずれバレて何処に行っているのかと心配をかけるなら、いっそ居なくなった方が良いと思う。
だいたい僕はもう死んでいるのだ。
この有り得なかった筈の奇跡の時間を使って、出来るだけ母を悲しませないために何かをしたい。
旅に出たいとでも言おうかな? で、音信不通。逆に心配かけそうだ。
本当のことを話すなんて、論外だろうし。
学校で考えようか。

思案していると母親が、ご飯を並べ終えたようだった。

「む、何やら悩んでおるな青少年! 青春という奴か! まぁ何かあったらこの私に言いたまえ!」
「ふふ……母さんはいつもカッコイイなって思って。」
「母としては綺麗と言ってくれた方が嬉しいが……褒められて悪い気はせんな! それはさて置き、さぁ、食べよう!」

食事中、終始笑顔で母は喋っていた。
母の笑顔はこうして見ると魅力的で、今日、もしかしたらこの時で見納めだと思うと途端に胸が締め付けられるようだった。
僕は上手く笑えてたかな?

「なんだか、見ない間に良い男になったようだね少年。」
「そうかな? あ、でも筋肉は付いたよ。ホラ。」
「なんと! カッチカチじゃないかッ!」

母との朝ごはんは楽しかった。
ちなみに左手の包帯は青春の発露だと言って誤魔化した。
母さんは「ちゅう……いやなんでもない。まぁ頑張れ」とか言ってたけど、僕の存在自体がすでにそれだからもうあんまり気にならないんだぜ! フフフ……。


僕は詰襟を着て、大きめのカバンを持ち、靴を履く。

「行ってきます。」
「うむ。勉学に励めよ少年! 私は寝るッ!」
「うん、お休み。…………じゃあね。」

パタン。




朝の町並みは、活気に溢れている。
今日は少し早めに出てきたからいつもより人は少ないけど、それでもゴミを出しているおばさんや、自転車で軽快に走るスーツの人。果ては犬と共にジョギングしてる人なんてのもいる。
もう時分は初夏。
歩くだけでも体は少し熱くなる。長袖のカッターシャツは失敗だったか。
それにしても、と思う。
いつもより30分早いとこうも景色が変わるものなのか。
それとも……見る僕のほうの意識が変わったのかな?

この朝の風景は、奇跡の連続で成り立っているような気がするハルマサだった。

さて、そろそろ駅だ。
いつも憂鬱になっていた電車での移動だけど、今の僕ならどう思うのだろうか
少し楽しみですらあるハルマサだった。


<つづく>








[19470] 38・改定なし
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/08 19:44
<38>


おはようございます。
現在電車の中にいるハルマサです。
どう感じるか楽しみだ、とかいった罰でしょうか。
すんげぇ密着度高いです。
熱い。暑いじゃなくて、熱を感じる。背中から。

(や、やっぱり近くない!? このお姉さん近くない!?)

身長が僕より背の高い女の人が、ドアの近くにいる僕の背にもたれかかって来ます。
僕は扉に押し付けられる状態だ。いや、僕筋力は無駄にあるんで別に苦しくはないんですけど。
通勤ラッシュの時間帯といえど、これはセクハラなんじゃあ……?

いつもはおじさんがお尻を揉んでくることが多かったのに、この女の人は一体…………? って、鼻息荒いよこの人―――!
女の人だからか、なんだか良い匂いするし、くっ付かれても嬉しいくらいなんだけど、どんな顔してるのか(いろんな意味で)怖くて確かめられない……!

「ふふ、ボウヤ。緊張してるの……?」
(なんかAVっぽいこと言い始めた――――――!)

おかしい。明らかに変だよ! まるで発情期みたいな……あ、ぁあああああああああああああああああッ!!


□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません


(こ、こいつかぁあああああああああああ! く、口で呼吸するんだ! ち、違う、お姉さんのせいで興奮してハァハァ言ってるわけじゃないんです!)
「ボウヤ……私……!」
(み、耳を舐めないで!? ぼ、僕たちにはそういうプレイは早いと思います! じゃなくてッ! なんか打開策を!)

僕は動揺しまくっていて認識していなかった周囲の状況を、「空間把握」を用いて認識する。
しかしお姉さんの攻撃は止まらない。

(く、何か……ああ!? お姉さんそこ触っちゃダメです!)
「ウフフ……恥ずかしがっちゃって……可愛い♪」
(妖艶だ―――――!)

混乱しまくる中で、僕はあることに気付く。あれ? あっちのあの子、もしかして……。
僕は意を決して振り向いた。女の人は、頬を染めており童貞の僕には刺激が強すぎる顔をしていた。

「(うわぁ……!)あ、えっとすいません。通してください。」
「え? プレイを楽しんでいたんじゃ……? ここでまさかの放置に入るの!?」
「な、何の話ですか!?」

お姉さんが小声で叫ぶのを聞き流しながら(流せなかったが)、僕は狭い車内を移動する。
舌打ちや、無駄に暑い視線(多分「桃色鼻息」のせい)を受ける中、なぜかお姉さんも付いてきた。な、なんで僕の服掴んでるの!? こわッ!

桃色は危険すぎると思いつつ、電車を横切った僕は、体を縮こませている女の子に声をかけた。

「やぁ久しぶり。朝会うなんて奇遇だね!」

無理やりすぎる話しかけ方だと理解はしている。ついでに言えば、初対面だ。学校は同じみたいだけど。
女の子は驚いてこちらを見る。その後ろで息を荒くしていた男の人も、驚いたようだった。

「なんか人多くて苦しそうだね。こっち来る? まだ圧力少ないし。」
「……?……!?」

手を伸ばすと、女の子は僕の顔と手を交互に見て困惑している。
女の子の後ろの人は、驚いた後気まずそうな、悔しそうな顔をしてどこかに行った。
その瞬間、ほぅ、と息を抜く少女。

「あ、ありがとう……。」

消え入るような涙声で、女の子が話しかけてくる。

「いや、痴漢怖いよね。よく分かるよ……本当に。」
「ボウヤかっこいい……!」

いや、今の結構あなたへの当てこすりだったんですけど……全然効いてないですね。
まぁ僕が本当に怖いと思っていたのはおじさんの鼻息とかケツをまさぐってくる感じとかだったんだけどね。
僕のささやかな反撃では、まるでダメージを受けなかったお姉さんは僕の腕を握り締め、こちらを見てうっとりしている。
桃色ホントこえぇ……!

とにかく、僕は自分の精神力の向上を実感した。
この、勇気が恐怖に押し負けないというのは、いい。
女の子を痴漢の魔の手から救い出すことが出来たのだ。
これだけでも、僕が戻ってきた価値はある。
本来の目的である、エロ本とハードディスクはまだ処分できてない。母さんがいて、そんな気にならなかったし。
帰ったらしよう。

僕が感慨にふけっていると、涙目になっていた女の子がもう一度お礼を言ってきた。

「あの、ありがとう。私あの人に付き纏われてて……。」
「何ですって!?」

僕が何か言う前に、僕の腕を掴んでいるお姉さんが眉を吊り上げる。

「こんないたいけな子を……! ふふ、いいわ。お嬢ちゃん、私に任せなさい。決して這い上がれないような穴に突き落としてやるわ……!」

完全に自分のことを棚にあげているとしか思えないセリフではあったが、その表情は非常に頼もしい。

「だってさ。よかったね。」
「……うん。ありがとう、ございます……!」
「あら、いいのよ。私が気に入らないだけだから。」

あの、お姉さん? 世の中には他人の振り見て我が振り直せという言葉があってですね?

「もうメールを送ったから、これで大丈夫よ。だから私たちは続きを……あら、残念。着いちゃった。」

『間もなく~北十八条駅~お降りのお客様は……』

車掌の気怠い声が響く中、お姉さんはメモ帳を取り出して何かを書くと、僕に渡してくる。
数字の羅列と、「どんな時でもOKよ」と書いてある。ハートマーク付きだ。名前すら知らないのに……!?
地下鉄駅に滑り込んだ電車の扉が、開いた。

「お嬢ちゃんは自分から嫌って言う勇気を持ってね。私やボウヤがいつも居るとは限らないんだから。」
「は、はい。ありがとうございました。」
「じゃあね。またねボウヤ。」

女の人は颯爽と去っていった。
桃色さえ絡まなければすごく頼りになる人だ。ああいう人もいるのか……。
僕は思わず呟く。

「良い人だったねぇ……」
「え、知り合いなんじゃないの……?」
「ええ!? なんで!?」
「えっと、仲……良さそうだったし……」
「いや、初対面なんだけど、なんか気に入られちゃって……」

桃色のお陰でなッ!
いやぁ、全く……この桃色封印できないかな!
そういうモテ方してもかなり寂しいよ! いや、少しは嬉しいんだけどね! あ、ちょっと! ほんのちょっとだよ!?

でも鼻息か……。
この特性を発動させないためには口呼吸を続けるしかないんだけど、そんな、常時口で呼吸する人とか見たことないよ。
周り中の女の人発情させて、この特性は一体何がしたいんだろう。確実に僕が不幸になるでしょ。
ついでに周りの女性の人生もグチャグチャになりそう。
なんだこの完全な地雷……! 踏んでも居ないのに爆発しよるわ。

僕が唸っていると(さっきからずっと口呼吸だぜ!)、女の子が言いにくそうに話しかけてきた。

「あの、佐藤君だよね……?」
「あ、はい。確かに佐藤君ですけど。」
「体が細くて勉強も運動も出来なくて、いつもいじめられている佐藤君だよね……?」
「(遠回しに罵倒してるのか!?)そうですけど、あの、どこかで会いましたっけ……?」
「えっと……一応同じクラスなんだけど。……私影薄いし仕方ないよね……フフ…」

煤けた笑みを浮かべる女の子。
うわぁ、凄い申し訳ない。
いや僕が記憶力悪いとかじゃなくて、僕にとっては学校って耐えるところだったから、常に下を向いていたって言うか!

「あの、ごめ……じゃなくて、その、あまり目立たないだけで、君は可愛いからそんなの気にしないで欲しいッていうか!」

ペラペラ早口で僕の口は何を言ってるんだファ――――ック!

「そ、そうかな……てへへ。」

ま、まんざらでもないようだ。セーフ!
でも実際可愛いと思う! こう、小動物的な魅力で。

「私ね、佐藤君っていじめられても笑って誤魔化してるみたいで、私みたいに勇気のない人だと思ってたの。でも全然違うんだね。……助けてくれてありがと。」

女の子は申し訳なさそうに微笑む。

「い、いや……まぁね!」

全然間違ってないよ! 完全に意気地のないヘラヘラBOYだったんだよ!
笑ってやり過ごそうとしてましたァ―――! だってすごく怖いんだもんあの人たち。
で、勇気が出るようになった理由がアレだから本当のことも言えない。……チートのお陰ですとでも言えと!? 頭のおかしい子だと思われるわッ!

でも、もういじめられることを良しとはしないよ。
今日が最後の登校日になると思うけど、キッパリと撥ね退けてやる!
そして最後の学校を満喫してやるんだァ――――――!

『間もなく~……』

と、そうこうする内に学校への最寄り駅に着いたらしい。
ハルマサは鼻息荒く電車を降り、その過程で罪も無い女性をメロメロにして去っていくのだった。




<つづく>







[19470] 39・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/08 19:44


<39・改定>


僕と名前不明のA子さん(仮)は、学校までの道を並んで歩いていた。いや、A子さんはやめよう。犯罪者みたいだし。
ちなみにずっと口呼吸です。喉渇いちゃうねこれ。

駅から学校へと続く道は、選挙時に市長が公約していた緑地計画の一端として、かなり力を入れて整備されている。
具体的には、街路樹の増加や、自然公園の整備とか。
道を歩く側としては、結構良い仕事してるぜ! といった感じである。
今も、街道にの両脇に植えられている木が、青々とした若葉をつけており、もう夏なんだなァ、と実感させてくれる光景が続いている。
本州(北海道人は内地と呼ぶ)だともう梅雨の頃。
だけど、北海道はすこし空気が湿気るくらい。それも、若葉の爽やかさで完全に打ち消されている。実際梅雨ってどんなだか分からないんだよね。
あ、今さらですが僕は生まれも育ちも北海道です。

この風景もすごく懐かしい気がするよ。
思えば三回、いや自宅での死亡も併せればもう四回も死んでるんだね。
人生3つ分くらい懐かしく感じるのかな。

そんな中、隣の女の子は顔を真っ赤にしていた。

「な、なんか男の子と一緒に登校するのって恥ずかしいね……!」

体を縮込ませながら、女の子は言う。なんか痴漢が狙うのも理解してしまいそうだよ。
いじめてオーラが感じ取れちゃいそうだもん。
でも、残念ながら僕にはそんな属性はないんだ。いや、幸運なことに、かな?

「どうしよう、離れようか?」

というか離れたほうが良いような気がする。僕って今、いじめっ子に付け狙われているし。
もちろん今日綺麗に解決するつもりだけど、もしかしたらしこりが残って、この子に迷惑が行っちゃうかも知れない。

だが、女の子はきゅ、と拳を握るとこちらを見る。

「う、ううん! 頑張るよ! 実は佐藤君が勇敢なんだって知ったら、私も頑張らなくちゃって思ったの。だからこれくらいは、ね?」
「そ、そう?」

頑張る方向がずれている気がする。
それとも、この子の中では男と並んで歩くのと痴漢にやめて下さいって言うのは同じくらい勇気がいることなのだろうか。
まぁ、僕も平気なフリしてるけど、実は結構恥ずかしかったり。
さっきのお姉さんの濃密過ぎる攻撃がなかったら、今頃「恥ずかしいから離れよう!」なんて言っていたかも。お姉さんのお陰で、これくらいなんて事ないぜ! って思えるんだよね。
それとも精神力(一万二千)のお陰なのかな……?

「そ、それにね……」

女の子がチラリと上目でこちらを見る。

「いつかは、男の子と……その、付き合ってみたいって…思って……ああッ! 恥ずかしッ!」

人差し指を付き合わせつつモソモソ言っていた女の子は、両手で顔を覆ってしまった。純情すぎるよこの子。

「い、良いんじゃないかな? それくらい。あと、前見ないとこけちゃうよ?」

じゃあこれは予行演習ってことかな。
なんとなく、お姫様を守るナイト役を貰ったようで、誇らしい気持ちになった。

「じゃあ……よければ、会話の練習でもしてみる?」
「え、あ、うん!」

あの、そんなに力入れなくても良いからね?

「じゃあ、えーっと。何か話題有る? こう、カップル的な。」
「な、難易度高い……。つ、付き合ったことないから分からないよ……」
「僕も無いんだよね……」

いきなり暗礁に乗り上げる僕の提案。
助け舟は女の子の方から出された。

「あ、あのカップルとか、どんな話してるんだろうね……。」

指差された先には、茶髪の女子と、頭の髪の毛がかなりハードにそびえ立つ男子がいた。
仲良さそうというか、男の方が女の子の周りをウロチョロしている。
男がペラペラと喋っているので、「付き合う男女の会話・初級編」への取っ掛かりくらいはつかめるかも。

(持ってて良かったこのスキル!「聞き耳」発動ッ! 彼らの会話は、僕に丸聞こえになるッ!)

そうして二人の会話を聞いた。
なるほどなるほど。
二人を興味深そうに見つめていた女の子に、話しかける。

「あの、僕って耳良いからあの人たちの会話が聞こえたんだけど。」
「ここから聞こえるの!? 凄い!」

ゴメン。チートです。尊敬の眼差しが痛い。
とりあえず聞き取った話の内容。

『なぁなぁなぁなぁ、さっきダチがメールくれたんだけどよぉ』
『あなたって友達居たのね。』
『2億人くらい居るぜッ! っとまぁそれはいいんだけどよ、このAAを見てくれ』
『外国にも居るの……? そしてこの顔文字は何?』
『知らねぇの? オッパイ!オッパイ!だべへぇあ!』
『すごく不愉快だわ。殴って良いわよね? もう殴っちゃったけど』
『お、お前の拳ならいつでも歓迎だぜ!……でさぁ、このAAなんだけど、手の部分をそのままにしてさ、顔を反対側に書きかえると、こうなンだよ』
『……何が言いたいの?』
『フリッカージャブみたいじゃね?』
『フリ……何?』

とまぁこんな感じだった。

(全然分からん……!)
「男の子って……叩かれると嬉しいの?」

女の子がツンツンだというのは良く分かったんだけど。
あと、それは誤解だよA子さん。

そういえばと名前を聞いてみた。

「えっと、コホン。私は『渋川武美』っていう名前です。なんか恥ずかしいね……。」
(凄まじいまでのギャ――――――ップ!)

僕の頭に浮かんだのは合気道の達人である老人(刃牙的な)であり、イメージの違いに悶えてしまった。


「ね、その左手、ケガ?」

お返しにと、渋川さんがおずおずと聞いてくる。
ここには、男子高校生としては恥ずかしい刺青があるのだ。もう少しおとなしい絵柄なら良かったのだが。
包帯巻いておいて良かった……!

「そ、そう! ちょっと切っちゃってね!」
「そう……。」
「?」

何故か表情を暗くする渋川さん。
理由を聞くほどには僕たちはまだ親しくないと思い、僕は気にしつつも流した。

まぁそんな感じで歩いて行き、学校に着いた。



僕の高校は、裏門から入って真正面にグラウンドがあり、そこを横切って校舎に行けるようになっている。
正門の方が緑も多くて、華やかな感じだが、ワザワザ逆から行くこともあるまい。
それは渋川さん(やはり違和感がある……)も同じようだったが、彼女は部室棟に用事があるようで、入って直ぐ左に曲がるそうだ。
この学校が見納めになると思うと、今まで行ったことのなかった所も見ておきたくて、僕も金魚のフンの如く着いていった。

「おう、やっと学校に来たか佐藤ッ!」

すると、そこには僕のクラスの担任である体育教師が居た。
野球部の朝練が終わったところなのだろう。
生徒のことを思いやる気持ちが溢れる人だが、いささか、その情熱が空回りしている感のある教師である。

「お前に意地悪していた奴らは、ビシッときつく叱っといたから、後で謝ってくるはずだ。まぁ寛大な心で許してやれよ! そして今日からは学校を楽しめッ!」
「ちょ、先生?」

な……んと、いうことを。それは確実にいじめが加速するフラグだ。
これで僕が普通のいじめられっ子だったら、ここでUターンして家へ帰るところである。
だいたい、この教師は状況を悪化させる類の人だと思っていたので、知られないようにと注意していたのに。
小学校からいじめ続けられて来た経験は伊達じゃない。
我慢強さとか、あと、ダメな大人の見分け方とかは醸成されているのである。

僕がいじめられているという情報を何処で知ったのかと聞くと、体育教師は良くぞ聞いてくれたと、素晴らしい思い付きを披露する前の、得意そうな気持ち悪い顔になった。
聞いて驚け、という顔だ。

「いやぁ、今まで皆勤だったお前が突然休むとは思えなくてな。そこでビビッときた訳だ。これは何か有る…! ッてな!」
(先生って良く見なくても顔濃いよなァ……)
「そこで学級委員に聞いてみたら、みんなから意地悪されていると言うじゃないか。じゃれ合う程度だと言っていたが、休むほどなんてやりすぎだ! だから、こっぴどく叱ってやったのさ!」

そして状況を悪化させたんですね。
ちなみに無断欠席は、先生の独断によってお咎め無しにされたらしい。でも、親には伝えるべきだと思うんだ。僕は逆に助かったけど。

「あの……やっぱり学校には行かないほうが……」
「いや、ちょっと考えている事があるんだ。」

ボソボソと彼女と話し合う。
彼女も、体育教師ではいじめを悪化させたのだと認識しているらしい。
いじめに理解のある子だ。
ぜひ友達に欲しかった。今さらだけど。

「今日からは心配はいらん! 存分に勉学に励め! あと今日の体育とかにもな! フン!」

最後に上腕二頭筋を見せ付けつつ教師は去っていった。
こんなにどうしようもない人だったっけ?

「なんか先生って……ダメだね。」
「え、あ、うん。」

僕は少し腹が立ったけど、渋川さんの声を聞いてむしろ可哀相になった。
渋川さんにダメ出しされるとか……ちょっと同情しちゃう。
僕だったら崩れ落ちる自信があるね。

いじめを行うのは、そのクラスで支配的な位置に居る者たちだ。
だからこそ横行が許されるのだし、いじめが表面化することも少ない。
また、表面化してもそれにフィルターがかかっている事がまま有るものだ。
今回はこれみたい。
学級委員がいじめっ子だしね。
大人はこの手の問題に対して見ぬフリをするし、たまに向き合う人が居ると思ったら、僕の担任みたいな人だ。
どこに頼れば良いのだろう。
僕が死んだのって実はストレスとかじゃないのだろうか。

「あの、こう言うのも違う気がするんだけど……やっぱり今日も休んだ方が……」

渋川さんが言いにくそうにしつつ、僕を見る。

「多分、前よりもッと酷い事……されちゃうよ……!」
「あ、えぇ……それはイヤだけど……休むのも少しイヤかなぁ……」

心配してくれる渋川さんには悪いけど、僕は全く帰る気は無いよ!
僕だって色々としたいんだよ!
学生生活を一日でいいから満喫したいと思うのは、過ぎた思いというわけでもないはずだ!

そ、それに……渋川さんと一緒にお昼ご飯とか食べてみたいんだ!

「わ、私も食べたい……」

声が漏れていたらしい。
とても恥ずかしかったけど、顔を赤くする渋川さんに萌えました。






<つづく>


武美ちゃんに話を聞くのは何か違うな……と思って変更。
武美ちゃんは被害者ではなくなりました。






[19470] 40・改定・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/11 18:55





<40・改定>



少し考えたんだけど、僕って桃色トークっていう特性を持っているんだよね。

□「桃色トーク」
 異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

これって喋っているだけで発動するのかな……
あ、でも興味を引くだけってあるし、あんまり関係ないのかな……?
最後の『メッロメロだぜ』の部分に不安は残るけど……喋れないのはもっとイヤだしなぁ……。
ちなみに現在も口呼吸です。

「お、おまたせ。」

部室から渋川さんが出てくる。
卓球部に備品を置いてきたらしい。

並んで歩き始める。
こう、並んで歩くのってモヤモヤするよね!
渋川さんも頬がほんのり赤いし!
でも学校で一緒に歩いてると不味くないかな?
いや、今日で、僕へのいじめは終わらせるんだ!
だから渋川さんと並んで歩くくらいは……大丈夫だといいな。
でも保証はないんだよねぇ……

「渋川さん、僕たち一緒に歩かないほうが良いと思うんだ。」

瞬間的に渋川さんが愕然とし、次いで悲しそうな顔をする。

「……!? ……私…迷惑なのかな……」

ああ、そんな悲しそうな顔を……!
って違うよ渋川さん!

「違う! 渋川さんは悪くないって言うか、僕も一緒に居たいのは山々なんだけど、僕へのいじめがある内はやめといたほうがって思って!」
「私、佐藤君と歩きたいです」

渋川さんは地面の石を蹴りながら口を尖らせている。
す、拗ねないでよ!
断れないじゃないか!
ていうかさっきまで恥ずかしがっていた君は何処に行ったんだい!?

「迷惑かかるかもしれないんだよ!?」
「いいもん。」

良くねぇ――――――!

って叫べればどれだけ良いか……!
まぁ決めたよ。
僕は決めちゃったよ。

(渋川さんに降りかかる火の粉は、全て払ってやるよ! ……コソッとね!)

敏捷には枷もないし、「聞き耳」だってある。
君がピンチになりそうになったら何処に居ても駆けつけるよ!
そして今日中、できるだけ早くにいじめを失くせば、渋川さんへの被害は考えなくても良くなるはずだ!!!!

ついつい拳に力が入る。
早急に、いじめっ子たちへの対処を考えなくては……!

でも、折角だから渋川さんとの会話もします。もったいないしね!

「今日って授業何があるの?」
「ええと……」

並んで歩く渋川さんは、カバンから可愛いメモ帳を取り出すとパラパラめくる。
隣を歩くと、頭一つ分小さい渋川さん。
小動物的な魅力が光る。

答えてくれた内容は以下に。ちなみに僕のクラスは、進学する人で構成される普通科だ。僕は進学する気はあまりなかったんだけど、母親の強いプッシュで普通科に属している。
ともかく時間割。

一時間目
現代国語
おじいちゃん教師の催眠音波が、抗いがたい眠気を運ぶ。最近は受験対策にと、文章問題ばかり解かされる。そのあと、答え合せと解説。一時間目にこれを持ってくるとか、時間割を作る人は一体何を考えているんだ。

二時間目
数学Ⅲ
頭の剥げた恰幅の良い教師が死んだ魚みたいな目で、常に斜め上を見つつ講義をする授業。何処を見ているのか毎回非常に気になる。蛍光灯にピンクチラシでも貼ってあるのだろうか。これも最近は受験対策で、問題の解説ばかり。

三時間目
体育
数個の競技の中から一つを選び、同輩と切磋琢磨する。サッカー、バスケ、卓球など。何故かラグビーも選択しにあり、体育教師が張り切って指導しているらしい。僕は渋川さんと同じ卓球だ。彼女は卓球部らしい。

四時間目
音楽/美術
選択式の授業である。僕は楽器も弾けないし、人前で歌うのもご免だったので、美術。渋川さんもほぼ同じ理由で美術。油絵を描き始めたところだ。

昼休み
55分間。
基本的にいじめられてて、飯は食えない毎日だった。絶対に今日は食べる。久しぶりにお弁当だし。

五時間目
体育
また……? 謎だ。どうやら英語と振り替えらしい。それならそのまま体育を潰せば良いものを、体育教師が強固に反対したという。これも卓球。

六時間目
地理/歴史
選択授業。僕は地理だが、教科書を先生が読むだけの授業で正直退屈だ。これもまた渋川さんと同じらしい。バッティング率が凄い。ストーカーしたかった訳じゃないから許してね。

七時間目
生物/物理
選択授業で、またもや渋川さんと同じ。ここまでなって覚えていない僕って凄い。名前もすごく近いのに。ちなみに生物。先生は髪の毛がくしゃっとした背の高いおっさんだ。受験対策をする。



「選択被りすぎだね。」
「恥ずかしい……私ストーカーみたいになってる……」
「そ、そんなことはないんじゃない?」

いやぁ、渋川さんならストーキングされても大歓迎なんだけどね!
そんな会話をしていたところ、僕の「聞き耳」に、不穏な会話が聞こえてくる。

「おい、来たぜあいつ。」
「ふふふ、じゃあ予定通りやるわよ。」
「まじか! いやぁ楽しみだ! どんな顔すんだろうなァ!」
「ていうか、あの女誰?」
「……さぁ?」

こんな会話。
渋川さん、君の影は本当に薄かったんだね……!
女子にすら「さぁ?」って言われてるし。
こっちを見ているのは……男が2人に女が3人。

主に僕をいじめてくれている人たちだ。
厄介なのは、大きな体した男、剛川と、髪がクルクルしている女……花咲さんだっけ? ドリルさんって覚えてるから良く分からない。

その二人さえ何とかなれば、僕っていじめられないと思うんだけど……
いや、でも彼らじゃない人にもいじめられてきたしなぁ……良くわかんない。
僕ってそんなにいじめたくなる様なオーラが出てるのかな。

そして、そろそろ校舎にたどり着くという頃。
上から何かが、降ってくる。

まさか、コレは!
あの伝説の――――――!

ガシャ――――――ン!

剛川が投げ落としたのは机と椅子。そしてベランダから聞こえる叫び声。

「「「「オメーの席ね゛ぇがらぁッッッッ!」」」」

伝説の『オメーのセキねぇから』だった。なにが伝説かって……ニコニコでの再生数?

ご丁寧にせーの、と調子をそろえての叫びだ。
言った直後、彼ら彼女らは盛大に笑い出す。

いやぁ、まさかこれをやるとは。もう外聞とかどうでも良いのかな。
そんなことを考える僕の横で、渋川さんは身を竦めている。
大丈夫だよ、怖いことなんて無いから。

僕は渋川さんに微笑むと、さてどうしてやろうかと考える。

速攻で効果が望めて……母さんに迷惑がかからないような、そんなこと――――――桃色か?
正直、この桃色特性、効果強すぎるからどうなるか分からないけど……
それしか思いつかないや。

ごめんね花咲ドリルさん。
桃色で君を操らせてもらうよ。


<つづく>



<あとがき>

現在のハルマサ君の強さ。

レベル:10
耐久力:3499
持久力:6050
魔力 :30
筋力 :30
敏捷 :25916
器用さ:22186
精神力:12782

成人男性の平均はレベルが1でステータスはオール10です。



[19470] 41・改定・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/11 18:54

<41・改定>



今になってもしっかりと口呼吸を続ける僕の前に落ちてきたのは、僕の机と椅子だった。
マジックによる下手糞な絵や、落書きが掘り込んであったりと、見るに耐えない仕様になっている。

「ひどい……!」

ああ、渋川さんが悲しんでいるッ!
ダメだ! 君は笑ってないとダメなんだ!

「あの、渋川さん!」
「は、はいッ!」

渋川さんはシャキッと背を伸ばす。ああ、何かすごく良い子だ。
僕は思わず微笑むと彼女の手を引っ張って、校舎に入った。

「え、あの? 机は?」
「まぁまぁ。」
「あぁ! 手ぇ!」

そのとき彼女は手を掴まれていることに気付いたらしい。顔を真っ赤にする。

「あ、ゴメン。」
「う、ううん! 違うのッ! 嫌なんじゃないのッ!」

彼女はそう言うと、離そうとしていた手を強く握り返してくる。
いや握り返されるのは嬉し恥ずかしな感じなんだけど……。

「……渋川さん、今から上履きを履くんだけど、繋いだままで?」
「………………。」
(悩んどる――――――ッ!?)

結局手は離しました。



さて下駄箱といえば、恋文なんかが入っていたりする嬉し恥ずかしなイベントの宝庫だが、僕の場合は少し違う。
イベントの宝庫って言うのは違いないんだけどね。
ちょっと鬱系っていうかね。

「おお……今日はまた一段と黒々としておる……」

僕の上履きは、僕が居なかった間に、青少年たちが持て余すパワーを代わりに受け止めていたらしく、水気満載で青黒ずんでいた。
マジックとかで卑猥な単語も書いてある。このマメないびり方には本当に頭が下がるよ。
気のせいかこのシューズから哀愁が漂ってくるようだ……

(上履き……僕が不甲斐ないばっかりに……ゴメンね。)
『兄貴……オレ…頑張ったぜ……』
(ああ、頑張った! 君は立派だったとも!)
『もう、ゴールして……良いよな……?』
(う、うわばき――――――ッ!)

そこで僕は気付いた。
今の器用さ(2万2千)と「洗浄術」をあわせれば、こんな汚れなんて!

(上履き! ゴールするなんて許さない! 君は今! これから輝くんだ! はぁあああああ!)

タタタタタタタタタタタタタタン!

一瞬にして上下左右から汚れ部位に指を打ち付けるッ! その回数、実に一秒間に30回ッ! 微細な振動を受け、汚れは一瞬で布から弾き飛ばされるッ!
シューズの布繊維の弾力を利用して、汚れを空中に拡散させ、僕は呟く。

「ふふ、綺麗になった……!」

僕の上履きは新品同様!
シューズも、これが……オレ? と驚いているに違いない。
つま先のゴム部分とか、僕の顔を映すくらい光沢が出てしまったよ。
……これ不埒なことに使えちゃうね。
まぁ僕は真摯な紳士だからそういうことには使わないんだけど。

「ど、どうやったの?」

気付けば渋川さんが覗き込んでいた。
シューズの洗浄に気を取られすぎていたようだ。
いや、油性インクは強敵だったんだよ。
彼女は、そんな強敵と戦う僕の意味不明すぎる技を見たらしかった。

「え、ええと……実はこの4日間修行してて、その成果さッ!」

まぁ間違っては無い……よね。

「え、早すぎて良く見えなかったけど……凄いッ!」

凄いで済ませられる君も結構凄いと思うんだ。






机は、新しい机を取りに行った。
もう机が使用不可能になるのは2回目だからね。
その辺は対応もバッチリだよ。

「あ、椅子持つよ?」
「いいのいいの。」

渋川さんの有難い申し出は、以前だったら即受けだったけど、今の筋力なら問題ない。
30しかないとは言え、以前の何倍もあるだから。

「掃除の時、机が重くて運べなくて、つまづいて教科書をばら撒いていた佐藤君が…………。修行したって本当だったんだね、凄いよ佐藤君!」
「ま、まぁね!」

ちょっぴり傷ついたことは内緒です。






で、教室に着いた僕は、盛大なニヤニヤ笑いに迎えられた。
なんという悪意に満ちた笑い方だ。ブランゴに囲まれた時より居心地悪いよ。
僕の机の在った場所には、机の中に入っていたであろう物がぶち撒けてあり、さらに水がかけてある。背中に隠れている渋川さんには見せたくない光景だね。

という訳で、ここでもスキルを無駄遣い。
敵対する対象がいるこの空間は、「撹乱術」が発動する。僕の動きは、速くなるぞ!
もともと速いけど!
さらに「身体制御」で移動後の衝撃を吸収。

「な、何処に行ったの!?」
「ここだよ。」
「ぅわぃッ!」

一瞬にして、僕はドリルさんの後ろに立っていたッ!
あまりの素早さに、教室内で突風が巻き起こり、今時の女子のあれは極端にアレだから……分かるよね。
まぁ僕は紳士だから見なかったけどね! 渋川さんの薄い青のが一瞬…………見てないんだよ!ホントだよ!?
とりあえず渋川さんは教室の入り口に居るままです。
これから行うことの効果を万が一にも及ばせたくない相手だからね。
そんな僕は現在しっかり「鼻息」使用中。
そして早速使うぜ!「桃色ウィィィンク」!

「え、あんた、何時の間に――――――!」

振り返ってきたドリルさんに向かってパチンと片目を瞑る。

「さぁ―――ね!」

ズキュゥ―――――――ンッ!

「はぅあああああああああああッ!」

次の瞬間妙な効果音が頭の中に響いて、ドリルさんは服の上から心臓を抑えて仰け反っていた。
ウインクは予想以上に恥ずかしいけど、これはすごい威力だな。
そしてここで駄目押しの「桃色鼻息」! フンフフーン!フンナー! フンー! フンー!
ここは「風操作」を使って窓から吹き込んでくる風を循環させ、効果範囲を調節させるぜッ!
ああ、少ない魔力がゴリゴリ減っていくッ!
ちなみに6月ともなると窓は全開である。虫とかもフリーパス。網戸つけてー!

ともあれ、「桃色」系の説明を信じるなら、これで彼女は僕に好意を抱くはずだ。

「な、え? 何であんたなんかに……!? ウソよぉ!」

ククク、何処まで抗えるかなッ!? お前の頬はもう赤いぞ!?
僕は君の事は結構どうでも良いけど、君には僕のことを好きになってもらうよ!?
黒い、黒いなぁ僕!

そういえば風を循環させている範囲内にはドリルさんと一緒に机を投げ落としていた女子二人も居る。
黒髪ポニテというフェチ心をくすぐる女子と、茶髪の小柄な子だ。
黒髪ポニテの子は何でかへたり込んでいて、もう一人の短い茶髪の女の子は僕の方を見てなんだかモジモジしている。
そんなにモジモジしないで! されても僕は何も返さないよ! 放置プレイを楽しんでくれたまえッ!

二人の反応を見て気付いたが、「鼻息」を結構強烈に使っても、すぐさま暴走するわけではないらしい。
電車のお姉さんみたいになるかも知れないという一抹の不安は、杞憂だったみたいだ。
こう、仄かな恋心的な強さみたいだし、それくらいなら僕の心も痛まない。
もともとドリルさんの金魚の糞的な存在だったし、あとで個別に話せば何とかなりそう。
……まぁドリルさんを何とかしたあとに、だけど。

さてドリルさん。
ドリルさんには悪いけど、桃色に書かれているように、「メッロメロ」とやらになってもらう!
僕の言うことをすんなり聞いてくれるくらいには、魅了されてもらうよ。
その後は……どうしよう。正直考えてなかった。でももう魅了しちゃったしなぁ……。まぁなるようになるよね。

僕を凝視しているドリルさんに、話しかける。

「あの、花咲さん?」
「………はぁ!?」

あれ、なんか反応がおかしい。

「花咲さんじゃなかったっけ?」
「誰よッ! 私は森川ッ!」
「ああ、そう……」

花咲改め森川ドリルさんは、両手を握り締めて叫んでくる。

「ああ、そうって何よッ!」
「ごめん、あんまり人の名前に興味なくて。まぁもう覚えたから大丈夫。森川森川ドリ川さん。うん、よしッ!」
「良くないわよッ! 間違ってるじゃないッ!」

森川ドリルさんは何だか怒っているような反応である。
いつものドブ鼠を見るような視線を作るほど余裕は無いみたいだ。

「それで、あとで話があるんだけど。時間作ってくれない?」
「ふ、二人きりになって何するつもりッ!?」

いや、ウインクくらいしかしないけど。
自分の体をかき抱くようにするドリルさんは一体何を考えているのやら。

「まぁ大事な話だから考えといて―――ね?」

ドキュ――――――ン!

「ほうぁあああああッ!」

パチン、ともう一つウィンク。
ドリルさんは絶叫しつつ、きをつけをしながら後ろに仰け反って後頭部から床に落ちた。
凄い……首ブリッジだ。
ドリルさん、スカート短いもんだから、意外と可愛い趣味のパンツが見えて僕は目を逸らした。
紳士だからねッ! 別にドキドキしたとか……! ああ、したよッ! しましたァ―――! 僕をいじめていたドリルさんのパンツなんかにッ! 僕は悔しいッ! でも、僕も男なんだよッ!

そういうわけでさりげなく(残像が残るような速度で)顔を背けた僕は、ドリルさんを引っ張り起こすと椅子に座らせてあげた。
ドリルさんはドラッグきめたみたいな顔になっていて若干怖かったけど、こうさせた僕のウインクの方が怖いよね。
もう人前でウインクするのはよそう。
絶叫+ブリッジ+パンもろ、の三連撃は多感な女子には厳しいと思うんだ。
別に報復がしたいわけじゃないし。

僕は、こちらをぼぅと眺める残りの女子二人の視線を感じつつ、「鼻息」を止め、残りの魔力を全部使って教室の淀んだ空気を追い出した。
さて、あとは次の休み時間にでも決着だ!
と思いつつ振り返ろうとして――――――ぐわしと肩を掴まれた。

「よぅ、久しぶりだな。オレ様に挨拶は無しか?」
「あ、剛川君。おはよう。」

剛川君でした。
相変わらず大きいな。僕より30cmは上背があるしね。
だけど、もう君の大きさにビビッたりはしないんだ。もっと大きくて怖いものと戦ってきたし。

普通に返したら面食らっているみたいだけど、隣に居た痩せぎすの腕がひょろっと長くて前歯が突き出している男が、代わりに答えてくれた。

「タメ口きくなんて、生意気な奴だ! 剛川さんやっちゃってください!」
「うわぁ……」

思わずうわぁなセリフだったが、硬直していた場は動いたようだ。
剛川君はボキボキ指を鳴らしながら、僕にすごんでくる。

「ヘッその通りだな細川。お上品に挨拶交わすなんてオレらしくもなかったぜ。俺の挨拶といえば」
「へぇ凄いね。あ、机運んでくれたんだ。ありがとう渋川さん。」

長くなりそうだったので生返事を返しつつ、密かに机を運んでくれていた渋川さんにお礼を言うことにした。
この騒ぎの中でも淡々と作業できる君って意外と凄い。

「ちょ、私のことなんていいから! 佐藤君後ろ後ろ!」

さとぉ―――! 後ろ―――!

という具合に渋川さんが指差すのは、僕の後ろでプルプルしている剛川君です。
空間把握で見えてるから大丈夫なんだけどね。
彼はきっとトイレでも我慢しているのだろう。
顔も赤黒いし大きいほうかな。
他人の下の心配までしてあげる渋川さんには頭の下がる思いがするよ。

「渋川さんの優しさに、僕は思わず惚れちゃいそうだよ。」
「えぇ!? あ、えと……私……」

渋川さんがモジモジし始めて、失言だったかと不安に狩られたんだけど、剛川君がこの空気を振り払ってくれた。
空気読めてるよね。方法は野蛮だけど。

「聞けぇええええええええええッ!」

痺れを切らしたとばかりに殴りかかってくる剛川君。
しかしその動きは遅く、避けるのもさばくのも容易い。……周りに机と渋川さんが居なければ。

よってここは――――――防御だ!

メキャアッ!

普通に腕でガードした。机を使うという選択肢もあったけど、また新しいものを取りに行くのもいやだし。
で、拳を受けてみた感触は……

うぉお、予想以上に重たい……!
それもそのはず。「観察眼」で見た剛川君の筋力は、48あった。
大人の平均の4.8人分。
普通の人はパンチ力どんくらいなのか知らないけど……
ウエイトリフティング200キロくらい上げれるって言う噂は、嘘ではなかったらしい。

でも、まぁ僕の耐久力はアホみたいに高く、耐久力が高いということは、すなわち皮膚や骨や筋肉がやたら頑丈であるということである。
ついでに「防御術」スキルもある。
メキャッたのは剛川君の拳でした。

「おおお!?」

拳を抑えてしゃがみ込む剛川君。
凄い力で殴るから……
骨折とかしてないと良いけど。面倒だし。
あ、「身体制御」で衝撃吸収してあげたらよかった。後の祭りだけど。

「ご、剛川さん手が!? お前、鉄板でも仕込んでやがるのか!? この卑怯者め!」
「あー……うん。そうそう。危ないからもう叩かないでね。」

そういう僕の後ろでは、興味深そうにぺたぺた僕の腕を触ってくる無言の渋川さんが居たりする。
鉄板とか仕込んでないのばれちゃうから程々にしてね。
というか、さっきからちょいちょい気になることをしているけど、君の恥ずかしがりっていう設定はいったいどうなってるんだい?
君に触られて僕としてはドキドキするんだけど。
なんか近くにいるだけで良い匂いもするし……

「こんな細身なのに……なんてしなやか……ラケットを持たせたら……」

なんかブツブツ言ってる――――――!
表情こわッ! 君の隠れた一面、たくさんありすぎだよ!
評価が二転三転するわッ!

密かに戦慄する僕はさて置き。
唸っている剛川君を細川君が保健室に連れて行って、朝の時間は終わるのだった。



<つづく>







[19470] 42・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/08 19:46



<42・改定>



一時間目は現代国語の授業です。

老教師が、黒フレームの眼鏡で矯正された老眼を、教壇の上の問題集に落として問題の回答の解説をしている。

「えぇ――――――……とだねぇ。どこまで話したかねぇ……。」

(だ、ダメだ――――――ッ! 耐えられなぃいいいいいいいッ!)
「が、頑張って佐藤君ッ! あと半分だよッ! そ、そうだ、あの……眠くならないように、お手紙でお話しとかしない?」

苦しむ僕に、隣の席だった渋川武美さんがコソッと話しかけてくる。
ていうか、隣の席だったんだね。ホント僕の目は節穴だったみたいだ。
現在ゴミ箱の中にある僕の教科書を悲しそうな目で見ていた彼女は、現在僕と机をくっつけて今回の問題の載っている問題集を見せてくれています。
ええ子や……!

それにしても手紙、手紙か。
確かに私語ばっかしてると目立っちゃうもんね。
成績下げられたくないから、皆頑張って色々趣向を凝らしてこの授業を乗り切っている。
授業そっちのけで宿題したり、ケータイをいじったり。
手紙での会話もその一つ。

僕はいつも寝ているんだけど、今日が最後と思うと真面目に授業を受けてみようという気になった。
その結果がこれだよッ!
精神力の向上によって集中力が増したはずの僕を、簡単に眠りの世界に誘う、この声の調子! 音階! 大きさ! 全てが完璧な睡眠音波だッ!

そういえば、剛川は大したことは無かったらしく、朝のHRの間に教室に帰ってきた。

その剛川が僕のほうをすごく睨んでいるようだった。
ふふ、そんな敵意、軽い軽い。
僕をビビらせたかったら、その千倍は持ってこいッ!
……カッコ付けた所で眠いのは変わらないんだよね……。

ちなみに、かなり熱い視線も3つ感じている。ドリルさんたちかな。
前から2番目に座っている僕は、良い視線の的になるみたい。

それらはさて置き、手紙か……何を話そうか……と思案していると、後ろから机の上に紙片がとんできた。
折りたたまれたそれには、正面に「読め!」 と書いてある。
なんて横柄なセリフなんだ。
まぁ空間把握で誰が投げてきたかは知っている。

僕はそれをそのまま窓の外に投げ捨てた。

「なッ――――――!」
「んん? 誰か何か言ったかぁ?」

後ろから聞こえるドリルさんの声に、教壇の上にある教科書に目を落としていた老教師が反応する。

「いえ、消しゴムを落としてしまいまして。もう大丈夫です。」

僕が如才無く答えておく。老教師は「そうかぁ、気ぃつけろぉ」と言って、また催眠音波を発し始めた。

僕は手紙の内容を考える作業に意識を戻す。見ると、渋川さんはせっせと何かをノートの端に書いている。彼女から手紙を送ってくれるのだろうか。
手紙の綺麗な畳み方とかを学ぶためにも、その方がありがたいかも。女子の作るあの形はもはや芸術だと思う。
それが僕に送られてくるのは初めてで、少しドキドキする。
あ、さっきのドリルさんのはノーカンです。何となく。

また後ろから手紙が飛んで来る。
表面には「読んで」と書いてあるのを空中で読み取る。
今度は机に着く前に、筆箱で弾き飛ばし、場外(窓外)ホームランにした。
「空間把握」で、プルプルしているドリルさんが感じ取れた。
ドリルさん教師の前では良い子だから大変だね。
いっそハッチャケちゃえば良いのに。髪型はあんなに激しいんだから。

あー。渋川さんから手紙が来るまで暇だ。鼻呼吸できないし。
意味もなく「暗殺術」発動してやろうかな。
いきなり透明になったら渋川さん驚くだろうなァ。

……ていうかね、近いです。
今日会ったばかりなのに(違うけどそんな気分)、この距離は半端ない。
机同士をくっつけて、隣からふわふわ良い香りがしたら、当たり前だけどドキドキするよ!
こんなに女子と近づいた事があるだろうか! あ、朝の電車があったか。
あれもドキドキしたなぁ……。
そしてそのドキドキすら凌駕する先生の催眠音波は、なんか特殊な域にある才能とかじゃないだろうか。

「あの、佐藤君、これ。」

くだらない考察をしていると、隣から声がかかる。
見ると、プルプルしている手で渋川さんが手紙を差し出している。彼女にはもしかしたら手紙でさえ重いのかもしれない。
文学少女っぽいし。いや違うか、卓球部だったな。
そして手紙って投げ合うのが習わしだと思っていたけど、手渡しもありなんだ。(むしろ手渡しが主流。)

受け取り、その複雑な折り方を覚えつつ開く。
中には、書いては消し、何度も書き直した跡が見え、結局書いてある文はたった一つだけ。

『タケミって呼んで欲しいです』

(甘酢っぱァ―――――――――――イ!)

思わず振り向いて目に入った渋川さん、いやタケミちゃんが、目を逸らしつつ頬を染めていたので、僕は一撃で悶絶した。
こ、これが青春と言う奴かァ!
破壊力抜群だ……!
ズルイ、ズルイよ! 皆こんな良いものを経験していたなんてッ!
チクショウ、今日一日とはいえ、取り返してやるッ!

……いや、辞めとこうかな。すごく未練が出来そうだ。
良く考えろ僕! 帰ってこれるのはあと9回しかないんだぞ!?
ここに未練が残ったら、すごく辛いだろぉ!?
……でも、目の前のにんじんに齧りつかないで居られる馬は、あんまり居ないんだよッ!
そして僕の知能は馬とどっこいどっこいなんだ。

『了解。タケミちゃんって呼ぶね。』

試行錯誤の後、なんとか折り方を真似して(その時新スキル「折紙術」を習得した)、手紙を返す。
受け取った渋川さんは、

「タケミちゃん……!」

と、蒸気が出そうなほど顔を赤くし、教科書で顔を隠していた。

もう、あれかな。
僕は逃れられないかもしれないな。
いや、しかしあまり仲良くなるわけにはァ――――――!

また後ろから、手紙が飛んで来る。段々折り方が乱雑になっているのが興味深い。
そして表面には「読んでください」と書いて在った。
段々丁寧になっているところがさらに興味深い。
敬語まで使われてしまったので読むことにした。

『体育の時間の前に校舎裏に来て』

纏めるとこのような事が、ツンデレっぽい文章で長々と書いてあった。

『もっと近いところじゃないと面倒です。』

僕は返事を書くと、「折紙術」を駆使して、精巧な紙飛行機を折り上げ、ふわりと投げる。
今日室内を半周して見事ドリルさんの筆箱に当たった。
「鷹の目」スキルの恩恵でもあるのだろう。投げた瞬間にドリルさんにたどり着く事が分かった。
とってもどうでもいい使い方だね。
死角からの強襲にドリルさんはビビッて居るようだった。そこまで反応してもらえると、そっと投げた甲斐があるね。

タケミちゃんから手紙が来る。

『何を投げたの?』

飛行機を投げるところを見ていたようだった。机引っ付いてるし当たり前か。
手紙を返した。

『なんか森川さんから手紙が来たんだよ。それの返事。』

「飛行機……良いなぁ……」

なんかポソッと聞こえたので、無駄にアクロバティックな旋回をする飛行機を作って、タケミちゃんへの手紙の返事を飛ばすことにした。
彼女は喜んでくれたようだ。
女の子を喜ばせられるなんて感無量ですね。
それと、お陰で「折紙術」が向上した。


そんなこんなで授業は無事終わった。
教師が出て行くと同時にドリルさんが突撃してきた。

「下手に出てたら調子乗りやがってぇえええええッ!」
パチン!
「ヒファ――――――ッ!」

思わずブリッジさせてしまった。なんか彼女の怒った顔をみるとつい。
僕のトラウマ的なものなのかな。精神力上がってるから大丈夫だと思ったんだけど。

再度ブリッジしたドリルさん、今度は額で体を支えている。首を痛めそうだし、その内一回転しそうだ。
僕は急いで彼女を引き起こし、また座らせてあげる。
パンツのことは……まぁ、細部は分からなかったよ! ……正直ゴメン。
完全な無表情であらぬところを見ているドリルさんの姿に恐々としつつ、さっき書いておいた手紙を筆箱の上に置いておく。
次の休み時間に屋上の扉の前の空間で、ということで。

で、ドリルさんはこれで良いとして、もう一つの問題のほうだ。

授業中、バリバリと歯噛みをしつつこちらを睨んでいた剛川君が、ついに動き出すようだった。
細川君が「やっちゃえ!」と無闇に煽っている。
君はほんと……まぁいいや。実害はないしね。

「さっきは良くもコケにしてくれたなぁ! 腕に鉄板仕込んでようがなぁ、顔面殴ったらかわんねぇんだよ!」
「甘い、額受け!」

と言いつつ、僕は彼の拳が当たった瞬間、後ろに跳んだ。
一応額で受けたけど、彼の手にはほとんど感触が無いはずだ。
これ以上彼の拳を痛めるのもどうかと思って。

で、勢いつきすぎて黒板に当たってしまったわけですね。
ドバーン!と音がした。
「身体制御」による衝撃吸収が無かったら、黒板が割れていたかも知れない。
自分だけじゃなくて周囲も守る「身体制御」スキルは重宝します。

「す、すごいぜ剛川さん!」
「……?」

騒ぐ細川君と首を捻る剛川君。

僕はヒョイと起き上がると、グッと親指を立てた。

「ナイスパンチ!」
「な――――――!」
「テメェ……!」

細川君は驚き、剛川君は額に血管を浮き上がらせる。
でも僕はそれ所ではない。
服に黒板消しのチョーク粉がついてしまったのだ。
しかしここで「洗浄術」スキルが活躍する。

服を脱いで、一たたきするとアラ不思議! 見事にチョーク粉がとれているでは有りませんか!

「ふざけんな!」

さらに殴りかかってくる剛川君の拳を空間把握で見て、今度は手の平で受け止める。
パシッとね。
服を持っているほうを見ていたから、見もしないで受け止めた格好になってしまった。
「防御術」スキルを活用すれば、なんとか受け止める勢いである。

「ば、馬鹿な!」

まぁ驚くよね。こんな達人くさい事が出来るなんて僕も驚きだ。
そういえば彼は、柔道部だっけ。
これを利用して……

「ねぇ勝負しよう剛川君。」
「なん、だと?」
「柔道で勝負してさ、負けた方が勝った方の言うことを聞くんだよ。分かりやすいでしょ?」
「なんでわざわざテメェなんかと……オレは素人には柔道は使わないんだよ!」

だからって殴りまわってたらあんまり意味ないと思うけど。
まぁ、彼のような直情型には言うことを聞かせるテンプレのような言葉がある。

「自信ないんだ。僕が怖くなったとか?」

剛川君は乗ってくれたようだった。額に血管を浮かせた彼は、こちらに叫ぶ。

「ああ!? ふざけるなよッ! 良いだろう、受けてやるよ! テメエの首を裸締めで捻じ切ってやる!」
「じゃあ昼休みに、武道場でね。」
「いいんですか剛川さんッ!」
「黙れ!」
「痛いッ!」

とばっちりで殴られている細川君に同情しつつ、僕はヒラヒラ手を振ると上着を羽織り、唖然とするタケミちゃん隣の席に座るのだった。

「だ、大丈夫? 凄い音がしたけど……」
「ああ、修行したから。」
「そ、そうなの? そんな強くなれるんだったら私もしようかな……」
「何を言ってるの!?」

タケミちゃんは超人願望でもあるのだろうか。
若干の不安を覚えつつ、二時間目が始まります。



<つづく>


「折紙術」Lv2:11  ……New! Level up!

■「折紙術」
 紙を折る技術。イメージした形を、紙の許す限り再現する事が可能となる。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、造形し終わった紙の硬度が高くなる。






[19470] 43・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/08 19:47


<43・改定(というより最早別物)>


二時間目は数学Ⅲ。
太った数学教師が額の汗を拭きつつ、黒板にカシカシと数式を書いていく。
北海道の初夏といえど、40人ほどの人間が一堂に会したこの空間は結構暑い。彼が汗を書くのも頷ける。
この授業はみんな真面目に受けているみたいだ。

僕は今さら真面目に受けても何言ってるかチンプンカンプンなので、母さんへの言い訳を考えることにした。

突然居なくなってしまうのは心配をかけすぎる。
旅に出たい、と言うのは……意外といけるかもしれない。
ちょっと考えたんだけど、母さんってそんなに堅物ではないし、無理に高校に行かなくても良いって言っていた。
まぁ行って欲しそうではあったから僕は高校に行くことにしたんだけど、正直世界を巡って来たいとか言えば、何とかなるかも知れない。

でも、直ぐに音信不通。
誰かに頼んで、定期的に手紙を出してもらうか?

騙すことはイヤだけど、それで母さんが傷つかないならば、騙すのがいやだと言う心は僕の弱さだと思う。
そんな弱さは捨てることはできる。
でも最終的に、ばれたとしたら?
僕の頭で、絶対にばれないような仕掛けが作れるとは思えない。僕は自分の知能が全く信用できない。

僕が何時の間にか死んでいたら、母さんはきっと泣く。
母さんを傷つけたくは無いなぁ……
それだったら、今、母さんの目の前に居るうちに全てを打ち明けた方が良い気がする。
母さんの気持ちを受け止めて、あと数回は帰ってこられることを打ち明けて、徐々に理解してもらおう。
母さんが一人で泣くより、余程良い。

うん、帰ったら、母さんに聞いてもらおう。
僕が変なことになっていて、でもそれは生きていた時よりも余程充実していることを。
死んでるように生きていた時より、死にそうになりながらも生き抜いている今の方が、楽しいことを。

母さんはやっぱり泣いちゃうかな。

タケミちゃんがチラチラとこちらを見ていたが、話しかけては来ないようで、それを有難く思った。


無事授業も終わり、次は体育だー! とテンションが上がったり下がったりしているクラスメイトの中、僕はコソッと教室を出る。
こそっとどころか透明になって、だけど。

なんか先に行って置きたいと言う、安いプライドって奴かな。
ていうか、完全にウインクでとんでいたドリルさんが手紙に気付けたのだろうか。
待ちぼうけとか実に悲しいね。僕らしくはあるけど。

と、思っていると足音がする。
ちゃんと手紙を読んでくれていたようだった。

「あ、来てくれたんだ。」
「な、何!? 何処にいるの!?」

ドリルさんが狼狽するのを見て、僕は「暗殺術」を発動したままだったことに気付いた。
あんな疲れるスキルを発動したまんまだということに気付かないなんて、実は僕も緊張しているのだろうか。

「ごめんごめん。ココです。」
「うひぃ!」

ドリルさんは顔を引きつらせて盛大に叫んだ。
そりゃいきなり目の前に浮かび上がるように出てこられたら驚くかもしれないけど……ウヒィて。

さて、今まで知らなかったドリルさんのコミカルな表情もなかなか興味深いけど、時間も惜しいしさっさと本題に入ろう。

「あのね森川さん。」
「な、なによ! 仕返しするって言うの!?」

報復はさっき図らずしも行ってしまったのです。

「違う違う。僕をいじめるのやめて欲しいなって思って。」
「め、面と向かって言うなんて度胸あるじゃない!」

チートのお陰でその辺はバッチリです。

「でも、だめよ! 止めるわけにはいかないわ!」
「そこを何とか。」
「な、何よ! 近づかないで! か、肩つかまないでぇッ!」

もう速攻で決めたいから、遠慮なくパチパチ良くとしよう。
ドリルさんにまたブリッジされたり、一回転されたりしたら対応に困るので、もう、思いっきり方を掴んで容赦なく行きます。
ドリルさんは異常に狼狽しているけど、知ったことかぁ! といった心境ですね。

「お願い、ネ?」

パチン!
バキュ―――ン!

「だふぉ!」

ドリルさんはアッパーを食らったボクサーみたいに仰け反り、僕の手にホールドされているのでカクンとこっちに頭が戻ってくる。
これは首の骨を痛めそうだね。

……顔を挟んで持とうか。

「どうしてもだめ?」
「……はッ! って、近いッ!? で、でもやめるわけにはぁ……」

ウインクに対してやや耐性のついてきたドリルさんは、直ぐに意識を取り戻し、しかし至近距離の僕に狼狽し、しかし強情に拒んでくる。
おかしいな、桃色効いてないのかな?

「さ、佐藤君に悪いけど、私にだって事情が」

あるらしい。
顔を手で挟まれているドリルさんは、僕から視線を逸らしつつモソモソ言っている。

事情ってどんなだろ。
あんた呼ばわりだったのに何時の間にか君づけだから、桃色効いてるはずなのにそれでも拒むって相当だよね。
脅されて僕をいじめてたの?
明らかに楽しんでたと思うけど……まぁ過去はどうでもいいや。
とにかく、今いじめをやめられないのはそのせいなんだね。

「森川さん。」
「は、はひ。」

ドリルさんはもう顔真っ赤だし。手とか意味もなくワタワタしてるし、生まれたてのバンビのように膝も震えているし、完全に魅了されてると思うんだよね。
やめられる事情さえあれば止めてくれそうな感じ。

「僕、君に酷い事されるの辛いんだ。」
「わ、私だってやりたいわけじゃ」

湯気とか出てるんじゃないかってくらい紅潮しているドリルさんに言う。

「僕の目を見て。」
「ひ、」
「事情話して、ね?」
「あふん。」

駄目押しのウインクで彼女は落ちました。



<つづけ>



[19470] 44・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/08 19:48

<44・改定>



やっぱり脅されていたらしい。
僕をいじめなかったら彼女の恥ずかしい写真がいろんなところに出て行っちゃうとの事。
彼女の希望で筆談によって会話したのだが、彼女の持ち物のどれかに盗聴器も仕掛けられていて身動きが取りにくい状況になっていると、彼女は言った。
手紙で密会場所決めてよかったな。

しかも黒幕君は僕の小学校からの幼馴染らしく(僕は当然知らない)、執拗に狙い続けてきたと話していたらしい。
彼女も僕のいじめに巻き込まれた一被害者だったと言うことかな。

ていうかその黒幕君さっきからこっちを伺ってるんだよね。
無闇に効果範囲が広くなっている「空間把握」で、彼の挙動は丸見えだぜ!

「じゃあ、どうしても止めないって言うの?」
「そ、そうよ! アンタなんか教室に居るだけで反吐が出るのよ! 死ねば良いんだわ!」
「強情な人だね……いいよ。それなりの対応するから。」

と、うそ臭い芝居をして彼女とは別れました。
彼女は嘘を吐くのがかなり辛そうだったけど、まぁそれを交換条件に今までのことを水に流すって言ったら、真剣な表情になってやると言ったので、やってもらいました。
もともとどうとも思ってないから水に流すも何も無いけど。

で、彼女と別れた瞬間僕は走る。
壁を蹴り、階段を0.1秒で駆け下りると、そこには腰を浮かせた夜川君が!

「な!?」

驚愕の表情を浮かべる彼は意外とイケメンだった。どうでも良いけど。

「ええと……はじめまして?」
「な、何を言っている? ずっと同じクラスだったろう?」
「さぁ? 」
「……それで、こんな所で何してたんだ。お前らが遅いから先生に言われてお前らを呼びに来させられたぞ。」

最初ッから居たのに?
すぐ冷静さを取り戻す彼はかなりのやり手のようだ。

「いや、君がいろいろやらかしてくれたのは知ってるんだ。さっきから怪しすぎるしね。」
「……なんのことだ。それよりさっさと授業に……」
「どういうつもりだったか知らないけど、あんまり興味も無いし、率直に言うといじめ止めてほしいんだけど。」
「意味の分からないことを言うな。いじめているのはお前と一緒に居なくなった森川さんとかだろう。俺に言っても仕方ないだろう? ……いや、お前が酷い扱いを受けていることにはオレも心が痛んでいるんだ。これも良い機会だな。オレも止められるよう少し動いて……」

彼が何かもちゃもちゃ言い出したけど、彼に対する信頼度がゼロの僕としては、鬱陶しいだけである。
なんかもう面倒くさくなってきたよパトラッシュ。
でも、渋川さんのためにもいじめ終わらせないといけないし……彼にも強硬手段で行こうか。

僕は会話も早々に、素早く後ろに回りこみ、夜川君の首根っこを掴むと、屋上に上っていく。
筋力30でも意外といける。
扉の前でドリルさんが座り込んで泣いていたけど、まぁ置いておいて、そのまま彼を引きずって屋上に出た。

「良い天気だねぇ……」
「な、何をする! 離せ!」

喚く夜川君を引きずって屋上にでる。抜けるような快晴だった。

「いやぁあんまりにいじめが辛くなってね。ここらが我慢の限界で。」
「だから、どうだと言うんだ!」
「うーんとね。」

僕は夜川君を掴んだまま、一緒にフェンスに飛び乗る。

「一緒に死んでもらおうかと。君黒幕らしいし、ね。」
「やめ、馬鹿やろぉおおおおおおおおおおおお!?」

返事を聞くまでも無く、僕は彼を引きずってフェンスの上から飛び降りた。
こっち側には窓ないから見られないと思うし、グラウンドで体育やってる影も見えないから多分大丈夫だ!

で、数秒もしないうちに地面に迫り、僕は夜川君の下敷きになり、墜落。

鈍い音がして、僕の背の形に地面が凹む。

「空中着地」とか使って勢い弱めたら効果薄れると思うのでそのままの勢いで落下。
結構痛くて、耐久力が100ほど減った。大人が10人ほど死ぬくらいのダメージだったと考えると結構な勢いだったんだね。
夜川君には「身体制御」で衝撃吸収使ってるのでそれほどではないはずだ。

「フリーフォールって病み付きになるよね!」
「え、え? 生きて……?」
「ああ、あれ? ウソウソ。君となんて死ぬわけ無いじゃん。それに僕この程度じゃ死ねなくなってさ。」

僕は夜川君を放り出し、立ち上がって制服についた土を払う。
一瞬で綺麗になるぜ!

「で、いじめ止めてほしいんだけど。考えてくれた?」
「な……は?」
「君がうんと言うまで、僕は君と落ち続けるッ!」
「な、や、やめろ!」

彼を掴んで「空中着地」で屋上に駆け上がり、またフリーフォールッ!
またドスンと落着。
「空中着地」使い切るまでに彼がうんと言ってくれれば良いけど……

四回ほど繰り返した結果、彼は僕を化け物呼ばわりしながらどっか行きました。
逃げていく最中にも、何回か「撹乱術」使ったり「暗殺術」使ったりして回り込んで、「いつも見張ってるからいらないことしないで」と脅したり足引っ掛けたりしたので、最後は半泣きになってたぜ!
上手く、彼がおとなしくなってくれればいい。
普通に考えたらいつも見張るとかするわけ無いんだけど、これで上手くビビッてくれればあるいは……!
自信ないなぁ。
魔力あったらカロンちゃんに相談できるのに……。

そうそう。
夜川君は、僕の化け物っぷりを警察に通報するそうです。
化け物っぽいこと君にしかしてないから、多分誰も信じないと思うけど。
彼は痛い子扱いされるんじゃないかな。夜川君ファイト。

で、屋上に戻ったらドリルさんがこっちを目を丸くして見ていました。

「ど、どうやって……? 私、佐藤君が死んじゃったって……救急車……」

カタカタ震えながら119と表示された携帯の画面を見せてくる。

「もう呼んじゃったの!?」
「ま、まだ…」

セーフ!
いらぬ騒ぎを招くところだった……!
額を拭う僕に、ドリルさんは微かに震えつつ聞いてくる。

「な、何で生きてるの……?」
「えーと……」

化け物なのでもう関わるな、とか?
うーん?

「実は僕、凄く受身が上手いんだ。あと体が柔らかくて、少しくらい高いところから落ちても平気なんだよ!」

迷った結果の言い訳は、自分で言っといてあんまりだと思ったけど、訳の分からない光景で混乱しきっていたドリルさんは納得してくれました。
あとで思い出して色々考えるんだろうなぁ……
まぁいじめられた名残が渋川さんに飛び火したり、騒ぎになったりしなかったら良いから僕への評価はどうでも良いけど。

「あ、君の弱みのところは解決できなかったけど、何とかしようか?」
「いいえ、大丈夫です。何とかします。そこまで佐藤様に頼るわけには。弱みを握り返してやります。」
「ああ、頑張って……って敬語!? 様!?」

桃色がおかしな効果を発揮したみたいだった。
彼女は恐る恐る聞いてくる。

「ご、ご主人様の方がよかったですか?」
「い、いやだ――――――ッ!」

普通に話してくれないと二度と口をきかないと言って、なんとか無しにしてもらいました。
ご主人様プレイは僕には早すぎると思うんだ。

「って早く体育行かなきゃ!」
「そうで…そうね。」

危ないなぁ……。


体育の授業に遅刻して、だけど僕とドリルさんが一緒に居たことで、仲直りしたんだな、とか体育教師は一人で納得していた。
どうでも良いけど、体育の授業は体育祭に向けての校歌斉唱の練習に摩り替わっており、特性「寂寞の歌声」が発揮された僕の歌に、クラスメイトたちは泣き濡れることとなった。
曰く、「校歌半端ない」。
校歌への評価はうなぎのぼりだ。

あと、夜川君は早退したみたいですね。
彼がどうなったか見えるのは、第二層クリアしてからかな……?
それが超不安。
放課後に何かしようかな?
とにかくあとは……剛川君か。


<つづく>


作者の頭的にこの程度が限界かな。
44話が短くなったのは、41と42が長くなったことからのしわ寄せです。




[19470] 45・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/08 19:48



<45・改定>



涙の海にクラスを突き落としてしまった体育の時間が終わり、次は芸術の時間。
僕とタケミちゃんは手ぶらで美術室へと歩く。
道具とかは美術室に全部置いてあるのだ。
それにしても、彼女は僕とばかり行動している。
友達が居ないのかと聞くと、居るけど向こうが気を使って距離をとっているとの事。

「何に気を使っているの?」
「さ、さぁ~……なんだろうね?」

……タケミちゃん嘘下手だね。

結局何だか分からないが、そのお陰でこの、失われた青春とも言うべきタケミちゃんとの甘酸っぱい空間が出来ているのだから、感謝したいな。
隣を見ると、彼女のつむじとか見えてドキドキするぜッ!

……友達で思い出したけど、ドリルさんの友達二人への対応、どうしようか。
一度話して見て、決めようか。
昼休み、はタケミちゃんとのお弁当+剛川君との勝負があるので、その次かな。

それにしても楽しみすぎるねお弁当!
いじめられていたせいでろくに食べられなかったお弁当も、今日はしっかり味わえるし、おまけに隣には女の子。
どうしよう、逆に味が分からないかも知れない……!

「なんだかご機嫌だね。良いことでも有ったの?」
「い、いや? そんな嬉しそうな顔してた?」
「うん。」

油絵の機材を用意していると、タケミちゃんが話しかけてくる。
君の可愛らしい笑みを見ると誰でもご機嫌になると思うけど、そんなことは恥ずかしくていえない僕なのだ。

「そういえば、タケミちゃんはどんな絵を描いているの?」
「え……だ、ダメだよッ! 恥ずかしくて見せれない……!」

そう言って、油絵を立てているあの木製の枠(画架、イーゼルと言うらしい)を、こっちから全く見えないように回してしまう。
だが甘いよ!
僕のイーグルアイは微かに窓に映った情報から、君の絵を読み取るッ!

「うわぁ……まぁ僕も下手だし、一緒に頑張ろうね。」
「な、なんで!? どうやって見たの!? あと、佐藤君より上手いもん!」

彼女は僕の絵を見ていたらしい。
……それは僕も思うよ。そして君は案外、言うことは言う人だよね。


授業は滞りなく行われた。
鉛筆を動かすうちに新スキル「描画術」を手に入れた。カタカナで言うとデッサンスキル。
ここ意外で使うところが思いつかない。
授業は、下絵を描き終えて油絵の具を使い始める段階だ。
だが、僕はもう今日で最後だし、新品の絵の具を開ける必要もあるまい、と鉛筆画として書くことにした。
今まで書いていた意味の分からない絵を消し、折角なので隣の女性を描くことにした。

彼女は油絵の具を紙製のパレットの上に置き、時折混ぜ合わせて色を塗っている。
下書きは終わったらしい。
彼女の絵はますますカオスになって行っている。
一応今学期のテーマは「写実画」だったはずだが、彼女だけ「抽象画」みたいになっている。
中心の赤いのが、もしかしたら教卓に乗っているリンゴかもしれないことは辛うじて予想できるけど。

僕のスキルは冴え渡り、気付けばキャンパスには可愛らしくも美しい女性が居た。
モデルが良いし、スキルもあるしで、かなりの絵になった。
金賞とか狙えそう。
持って帰っても僕は直ぐ居なくなっちゃうし、この絵はどうしようかな。

悩んでいると気付けばタケミちゃんが後ろにいた。どうも敵意が無い人の気配には気付きにくいみたいだ。

「わ、上手い! なんで!? ていうかコレ私ぃッ!」
「なかなかでしょ。」

ちょうど良いや。
ほあぁ、とか言いながら僕の絵を見て頬を染めているタケミちゃんに進呈することにした。

「良かったら貰ってくれない?」
「え、どうして? 恥ずかしいけど……色塗ったのも見たい。」
「そ、そう? いや、でも……とにかく君にあげるよ。ここに置いておくから好きにしてね。」
「? う、うん。」

もう鉛筆で影とか付けちゃったし、ここで描くことはもうないし。
さぁ次は待ちに待ったお昼ご飯だッ!

「さぁ、お昼ご飯に行こう。」
「あ、そうだね。……恥ずかしい。」
「今から!?」

だって、と彼女は口を尖らせる。

「初めてだし……」
「……」

拗ねる彼女も可愛いなぁと思ったけど、そんなことはやっぱり言えない僕なのだった。



で、まぁ弁当弁当と浮かれていた僕だが、そう上手くことは運ばないのが世の常だと言うことを僕は忘れていたようだ。
弁当がグチャってるということも無く、タケミちゃんと会話しながら屋上に行った僕は、三人の女の子に迎えられた。

ドリルさんと黒髪ポニテの子と茶髪の子でした。

「二人が謝りたいって私に詰め寄ってくるもんだから……」
「い、今までごめんなさい!」
「ごめんなしゃ……なさい!」
(ひゃああ、噛んじゃったよぅ!)
(この子噛んだわ……)
(噛んだ……?)
(噛んだ……!)
「噛んだね。」←言っちゃう

言っちゃったのはタケミちゃんです。
君は本当に容赦ないね。

タケミちゃんは3人に向けてとても冷ややかな目をしていた。

「でも、あれだけ酷いことして、その程度で許してもらおうって思ってないよね?」
「タケミちゃん!?」
(く、黒い! タケミちゃんが黒いッ!)
「そ、そうよね……」
「そうだよな……虫が良すぎるよな。」
「ご、ごめんなさぃ……」

しょんぼりした三人は、やがて顔を見合わせて頷くと、声を揃えて言った。

「「「ここは一つ、体で」」」
「スト――――――ップ!」

あぶねぇ……この子達思考回路どうなってるんだよ。あ、桃色なのか!
チクショウ、何てハーレム!
僕の心を叩いて止まない響きだ!
だが、僕はこんなものに頼らないと決めているんだッ!
紳士だからッ!

「ダメだよ! そういうのは逆に僕が嫌なんだ!」

タケミちゃんも、そうだよ! と同調してくれた。

「それじゃ償いじゃなくてご褒美になっちゃうッ!」
「……タケミちゃん?」
「わ、私なんてことを……恥ずかしい。」

今さら頬に手を当てているけど、僕は未だに君が掴めないんだ。
やっぱり君、桃色にかかっているんじゃ……?
トークか?「桃色トーク」のせいなのか!?
ちきしょう!
かなり仲良くなったけど、これじゃ逆に寂しいだけじゃないか!

「皆目が曇ってるんだよ……僕にそんな価値はないよ。」
「そ、そんなこと無いよ! あの、何処が良いとは直ぐには言えないけど、何だかカッコいいもん!」
「「「そうよそうよ!」」」

確実に桃色のせいじゃないか――――――ッ!

「ふ……タケミちゃん、君の事は結構好きだったよ。あとホントゴメン。……バイバイ。」

デュワッと走り去る僕。いや、なんか居た堪れなくて。

「こ、告白なの!? そしてなんで逃げるの!?」
「待って!」
「あーんとかするよ!」
「私も食べて良いからぁ!」

屋上から逃げる僕に、なんか淑女とは思えないセリフが聞こえたりしたが、僕はもうこの学校を去ろうかな、と思い始めていた。
やっぱり親しくなったのは間違いだったかな、と思いつつ。


<つづく>

描画術Lv1:4  ……New!

■「描画術」
 絵を描く技術。イメージした形を紙や布などに精緻に描写する事が出来る。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、自らの想像を超えた絵を描く。







[19470] 46・改定・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/23 22:59




<46・改定>




ハァハァと武道場で息をつきつつ一人の男が倒れ伏していた。
その横には座り込んでいる少年がいる。
道場の端で、二人を見ている痩せぎすの男もいる。
決着は今しがた着いたところだった。

「や、やるじゃねぇか……」
「君もね、剛川君。」

まさかこれほど梃子摺るとは。
彼の上体バランスと下半身の安定感、何より勝負勘はかなりのものだった。
彼に対しては乱暴者としてのイメージしかなかったが、なかなかのアスリートでもあったようだ。
筋力が無いとは言え、チート満タンの僕にココまですがり付いてくるなんて。

「空中歩行」「空間把握」などスキルを発動しないようにして身体能力のみで戦った結果、2回ほど冷やりとした所があった。
一度掴まれれば、僕では抜け出すことが難しい。
綺麗に投げられることは無いと思うが、一本を取られる可能性もあったのだ。
という訳で、彼の掴みかかってくる腕を弾く僕と、その上を行こうとする彼で結構白熱して、何か友情っぽい者が芽生えた。
……なんでだろう?

「お前、ただのひょろひょろした根性無しかと思ってたぜ。」

とりあえず見直してくれたらしい。
昨日の敵は今日の友って奴かな。
なんかほっこりするね!

「勝てなかったのは久しぶりだ。これから放課後は稽古に付き合ってもらうぜ。」

唯我独尊なところは変わってないけど。

「それは難しいかな。僕もう学校来ないし。」
「はぁ!? 何だとぉ!?」

うおお、突然怒った。

「いや、家庭の事情でね、学校に来れなくなっちゃうんだ。だから、今日で最後。まぁ運が良ければまた会うかもね。今日ももう帰るよ。手遅れかもしれないけど、未練が残っちゃうし。」
「ちょっと待て、どういう……」

剛川君が起き上がってくるが、僕には時間が無い。
なんか武道場に向かって屋上に居たはずの女子たちが走ってきてるんだよね。
「聞き耳」で良く聞こえる。

「じゃあね。楽しかったよ。今から来る人には上手く言っておいて。」
「おい―――」

僕は上履きを掴むと、窓から飛び出して逃げた。




佐藤が何故か窓から出て行った数秒後、武道場の扉が開け放たれた。

「佐藤君は!?」
「……森川じゃねぇか。佐藤がどうしたんだよ。」

森川だけではなく、他にも取り巻きの女と、あとは見たことあるような無いような、そんな少女が居た。
髪の毛がクルクルしている森川は、汗まみれの彼を必死な目で見てくる。

「ここに来なかった!? いや、来たでしょう!?」
「……あいつはもう行っちまったよ。」

へっと笑ってしまう。

「……その様子だと、負けちゃったみたいね。」
「まぁな。負けたほうが言うこと聞くっていう約束も果たさずにどっか行っちまったよ。」
「どっかって……教室にじゃないの?」

ああ、と彼は頷く。

「学校やめるって言ってたぜ。今日ももう早退するってよ。」
「は?」

何言ってんのと目で問うて来る森川に、苦笑を返す。
まぁ信じられなくても仕方ないだろうなぁ、と剛川は思った。
というか彼もまだ、信じられないのだった。

嵐のような男だったな、と思った。




教室に戻ると、佐藤君の鞄は既に無く、私の机には紙飛行機が一つ置いてありました。
半日だけで、私の心を奪っていった彼は、ただ、『ありがとう。さよなら。』とだけしか残していってくれませんでした。
もう、会えないのかな。
また、会いたいな。

私は手紙の飛行機に一言加えると、折り目の通りにまた折り直し、窓からそっと手放した。
願わくば、あの人の下へと届いてください。
飛行機は高く高く、インメルマンターンとかしながら飛んでいった。






「ふふ、そんな僕が屋上でご飯を食べているとは思うまい……!」

どうもハルマサです。
折角だし、学校でご飯食べてから帰ることにしました。
一人だけど、誰にも邪魔されずに食べるご飯って良いよね!
母さん、絶品です!
「ふふ、我ながら素晴らしい出来だ! 楽しみにしておけ少年!」って言っていたけど、予想以上だったよ。
いい天気だし、最高だね。
これで隣にタケミちゃんが……く、未練がぁ!

そんな時、風に運ばれて紙飛行機が飛んできた。
こ、これはぁ!
タケミちゃんの机に置いておいた奴じゃないか!
一体どういう経緯でここに……

いぶかしみながらもそっと開けてみて、僕は嬉しいような寂しいような、良く分からない気持ちになった。

『また、会いたいです。』

そう一言書いて在った。

(た、タケミちゃ―――ん!)

僕もそうだよ、と思ったことは間違いなかった。

桃色特性を封印できたら、もう一度会いたいなぁ……。









何しようかな、とパワプロのサクセスストーリーみたいな感じで行く場所を思案していた僕だが、考えた結果、図書館に行くことにしました。
家に帰っても母さんまだ寝てるだろうしね。

そして探すのは刀研ぎに関することです。
やってきたのは大学の図書館だけど、結構あるもんだね。
えーと、おおぅ、良く分からん。
砥石を使うときの角度とか、3000番台の砥石を使えとか、そんなこと言われてもなぁ……。
良く考えたら、僕のスキルって実戦的なことを通して手に入れるものがほとんどだから、包丁とハンマーを買って、刃の部分を殴った方が早かったかも。

……もう出ようか。
閻魔様へのお土産でも買いに行こう。
向こうに持っていけるかは分からないけど。

そう思って立ち上がったとき、後ろから声がかかった。

「あの、お客様? 少々お時間よろしいですか?」
「? いいですよ。暇ですし。」

司書のお姉さんでした。
ボーイッシュな髪形をしていてそれが似合っている。

「実はお客様に見て頂きたい物がありまして。」
「???」
「こちらです。」

お姉さんは先導して、奥の扉をくぐっていった。
なんだろう。

扉の向こうは書庫であり、たくさんの書棚が窮屈かつ整然と並ぶ空間だった。
その傍らにおいてある学校の机。
上には帳簿が置いてあり、貸し出し記録をつけているのだろうと思われる。
その帳簿の上に、珍妙な壺が置いてあった。
どどめ色をした丸い壺で、いかにも安そう……≪時価24円です。≫……安かった!
でも24円て。下手したらこれを処分するのにかかるゴミ袋代の方が高いよ……

「観察眼」の情報でいらないことまで分かったが、お姉さんの見せたいものとはこれだったのだろうか。
そう思って振り返ろうとしたとき、

「危なぁああああああああい!」

と言いつつお姉さんが背中を押してきた。

グキッ

「はぅっ!」

そして手首を挫いた。
まぁ僕の背中固いし、体重も見た目より重いから。80キロくらいあるんじゃない?

「あぅうう……て、手首がぁ……」
「え、えっと……?」

手首を押さえて涙目になっているお姉さんに聞いてみると、彼女は朝電車に乗り合わせた人であると言う。
つまりまた桃色特性のせいだった。

(もう、桃色はお腹いっぱいだよ……)
「お、王子が悲しんでおられる! 悲しむ顔も素敵!」
「ち、近いよね!? 顔近いよね!?」

なんか一瞬で顔を掴まれていた。決して速い動きではないのに……思考の隙を突く動きだ!

「もっと良く見せて下さい……ハァハァ」
(ハァハァ言っとる――――――!)

僕はお姉さんのホールドから必死に抜け出して、密かに脱がされかけていた服を直す。
油断も隙もならない……!
こっちに来てから一番の強敵かもしれなかった。

「待ってください王子!」

さっきから呼び方が変だが、突っ込むとややこしそうなのでスルーである。

「な、何がしたかったの!? 突然背中押したり!」

あと手首挫いたりハァハァしたり!
お姉さんはばつの悪そうな顔をしながら語りだした。

「えっとですね? 今朝の王子が偶然職場に現れたので運命だと思ったんですよ。」
「ああ、うん。勘違いだね。」
「そこで処分に困っていた壺を使って、王子の弱みを握ることにしたんです。」
「さらっとエグイ!」
「壺を割ってしまった王子を言葉でちょっぴりいじめつつ押し倒して、見せたかったのは私のココだぁーって……」
「もっと慎みを持って欲しかったッ!」

お姉さんはこちらを上目で見て言った。

「……見ます? チラリ。」
「いや、見ません。じゃあ帰りますんで。」
「あああああああ! 王子カムバ―――ック!」

このお姉さんってまともな時どんな感じなのか凄く気になる。
桃色解除する方法が見つかったら、ここにも来なきゃ。
朝のお姉さんは電話番号があるとして、他の人はどうしようか……

そう思いつつ、僕は足早に図書館を去るのだった。

だが、ハルマサの受難はこれで、終わりではなかった!
商店街に繰り出した彼を襲う、無数の桃色脳の女性たち!
彼は彼女たちを千切っては投げ千切っては投げ……ということもせず、連絡先を聞いて全員丁重にお帰りいただいた。




「た、ただいまー……。」
「む、帰ったか息子よ! 少し早いが体調でも崩したのか?」
「あ、母さん。おはよう。」

家に帰ると寝ぼけ眼の母さんが迎えてくれて、かなりホッとしたのだった。




<つづく>


司書さんのキャラがデイ・クルールっぽくなってしまった……。
早く……早く、ダンジョン行きたいぜ!





[19470] 47・改定・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/11 18:56


<47・改定>


玄関で僕を迎えてくれた母さんは、決めた、と言った。

「ハルマサが居るなら、今日は有給を取る! 前から働きすぎだと言われていたしな! いい天気だし、布団干すから出しておきたまえ!」
「う、うん。」

母さんは寝起きから元気です。
話をするのは、母さんが休むなら夜で良いよね。
なんだか疲れたから、ゆっくりしよう。
あ、その前に処理するものがあった!
ていうかむしろこれが現代に戻ってきた目的だった!

僕は二階の部屋に上がり、まずはやばいものが色々入って居る外付けハードディスクを苦労しつつ、無駄に特技とか使って粉々にした。
「崩拳」使ったら手が痛かったけど、その後飛び散った破片を探すことにとられた時間の方がもっと痛かった。
とにかく、これで危機は去った。
いや、まだか。
この床板の下には爆弾が埋まっているのだ。
ていうかどうしよう。
皆はエロ本をどうやって処理しているのだろうか。
僕は捨てれないからドンドン溜まってしまっているんだよ。

目の前には取り出した30冊はある様々なエロ本。
グラビアあり、漫画あり、ジャンルも色々、何でもあり。
僕って雑食だから。

それはさて置き、よく考えろハルマサ!

案の一!
「しれっと台所にあるゴミ袋に入れる。」
どんな羞恥プレイ!? 僕には無理! 次だ!

案の二!
「コンビニにしれっと捨ててくる。」
いや、家庭ゴミ(?)を持ち込んだらダメだよね。却下。

案の三!
「ゴミステーションに直接イン!」
これだ! 台所からゴミ袋を持ってこよう!

僕はこの時忘れていた。
僕は敵意を持たない個体の気配を読むのが苦手なことを。
つまり、考えることに夢中になっていると―――――

「おおぃ、息子よ! 布団を……おっと、こいつは失礼。気にせず続けてくれたまえ。」

エロ本を前に唸っている所を母親に目撃されることになるんだよ!

(ってこれ一番避けたいことだったでしょうがぁあああああああ!)

僕の馬鹿! アフォ! THE・間抜け!
母さんは扉を開けた格好のまま、頬に手をあて、おやおや、などと呟いている。
って母さん、何時まで見てるの!? 空気呼んで出て行ってくれないの!?

「うむ。実は男性のそういう現場を見るのは初めてでな! 実の息子とは言えど興味はしんしんなのだ!」
「何を格好良く言いきってるの!?」

いや、まぁ理解があるのだから良いのかなぁ……
世の中にはこういうのを汚らわしいとして蛇蝎の如く嫌う人も居るらしいし。

「もう、いいから出てって出てって!」
「ふふふ、押すな押すな。この照れ屋さんめ。布団は手を洗ってから持って来るんだぞ?」
「分かったからぁ!」

僕の羞恥心は膨れすぎて破裂寸前だよ!
母親に見られながら何て照れ屋も何も無いと思うんだけど……
もうさっさと捨てよう。
燃えるゴミの袋……もう僕の部屋ので良いや。何も入ってないし。
詰めれば入るでしょ。

ようし、ちょっと破れそうになったけど、何とか入った。縛ってぎゅっと。
だが、捨てに行くのは今は無理みたいだ。
何か母さんが部屋の前でウロウロしてるんだよね。
ティッシュの箱持ってるけど、それは僕の部屋のティッシュが切れているからなの!?
もし僕が行為に及んでたら、良いタイミングで飛び込んでくる気満々なんだね!?
そんなところまでチェックされているとはぁああああ!

(く、こうなれば、窓から飛び降りてくれるわぁああああああ!)

カラリ、と窓を開けたところで、母親が扉を開け放ち飛び込んできた。

「ダメだぁ! 恥ずかしいからって死ぬな息子よ!」
「えええ!? ここ二階だよ!?」
「君は頭が悪いから早まったかと……! なんだ勘違いか。良かった。」

ふぅと額を拭う母さん。
さらっと暴言吐くよね。

「いや、もうこれを捨てようかと。母さんがいる家の中を通るよりはと思って。」
「なに、捨てるのか!?」

母さんは目を見開いたが、次の瞬間には手を突き出してきた。

「じゃあ、くれッ!」
「ええ!? いやだよッ!」
「息子の性癖をチェックしたいという、母の愛が分からんのかぁー!」
「全然分からないよ!?」

そんな地団太踏まれながら言われても……

「と、とにかく捨てるからね!」
「どうしてもダメか? 晩御飯に君の好物を作ってやってもいいぞ?」
「く……ダメだよ!」
「コロッケだぞ!? もちろんチーズも入れてやる!」
「!?」

く、僕の好物をそこまでピンポイントで……!
いや、惑わされるな!
好物と引き換えに、僕の恥部を満開には出来ないんだぁああああああああ!

「ダメか……仕方ない。今晩はカップラーメンだな。」
「参りましたぁあああ!」

僕の決意は5秒で裏返った。
晩餐がカップラーメンて! 母さんと一緒に啜るのか!?
無理だー!

……本は綺麗に使っていたし問題ないよね。
母子ものは避けていたから、気まずくもないはずだし。

「ふふ、最初から観念して居れば良いものを……もともと今日はコロッケだったのだ。」

な、何だと!?

「では早速!」
「ここで見るのぉ!?」
「ふふ、息子の反応も楽しみたいという母の愛!」
「違う! 何か違う!」
「むぅ、どっちかと言うと巨乳寄り……しかしロリも……金髪もありなのか……」
「やめてぇ―――!」

それから30分くらい恥辱プレイは続いたのだった。

母さんは、ふんふん言いながら呼んでいた本を閉じると、うむ、と頷いた。

「よし、良く分かった! 雑食の少年ハルマサよ! 捨てて良し!」
「や、やったーい。」

もう、悲鳴も出ないぜ……へへ。


その後布団を干したり、おやつを食べたり、テレビを見たりと、ほのぼの過ごした。
夕食の準備を手伝って、卵のかき混ぜ方とかで器用さが活躍し、母さんが驚いたりした。
母さんと居ると落ち着くなぁ……。
これがあと、9回しかないなんてね……残酷だよ。

「ふむ、やはり雰囲気が以前と変わっているな。一体何があったんだ少年。」

コロッケを飲み下した母さんが片眉を上げつつ問うてくる。
母さんが鋭いのか、僕が分かりやすいのか。どっちもありそうだね。

「うん。色々あってね。」
「……朝も言っていたな。どういうことなんだ? 母には話せないか?」
「いや、骨董無形で。信じてもらえないかもしれないけど………話すよ。話そうと思ってたんだ。」

もう、母さんとは暮らせないということも言うつもりだったんだ。
話そうと思うと、途端に口が重たく感じるのだった。



<つづく>





[19470] 48・改定・修正2
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/23 23:00

<48>


外はすっかり暗くなり、静かに夜の帳が下りてきていた。
リビングの柔らかい光の下で、僕は訥々と話した。
僕が死んだこと。
死んだ先で、良く分からないことに巻き込まれたこと。
天国に行くための試練の最中であること。
その最中に何とか戻って来れたこと。
あと数回戻って来れるかもしれないこと。
いじめられていたことは言わなかった。言う必要もない。

母さんは黙って聞いていたが、一言呟いた。

「それを話したのは私が最初か?」
「そうだよ。」
「ふむ……。そうか。君はもう、死んでいるのか。」

実感が湧かないな、と言った母さんは僕の頬を触ってくる。

「信じるの? かなり嘘っぽい話だと思うんだけど……。」
「君の目が、信じて欲しいと言っているよ。母としては、それだけで十分さ。でも、」

君が居なくなるというのは辛いな、と母さんは言った。
涙を一筋流した母さんを見て、僕も泣きたくなった。
いや、泣いていたかもしれない。

「また、戻ってこれるんだ。あと何回か。絶対に会いに来るよ。」
「うむ。絶対だぞ。来ないと泣くからな。」
「それはイヤだね。」

笑ったつもりだけどそれも怪しい。

「ふ、泣きそうな顔をするな息子よ。私まで泣きたくなってくるだろう。」
「……そうだね。」

もうどっちも泣いてると思うけど、そういうことは言わないのが母さんなのだった。

「やはり、良い男になったな。死後の試練がそうさせたのは複雑な思いがするが、息子の成長は嬉しいものだ。」
「確かに、試練は大変だよ。成長しなかったら乗り越えれないくらい。」
「どんな試練なんだ?」
「あのね……」

母さんとはたくさん喋った。

「そういえば「桃色特性」って言うのがあって……」
「ほほう、それは私もかかっている可能性があるな。」
「あ! ……どうしよう。」
「なに、もとより君の事は目玉に入れても痛くないくらいだったからな。大して変わらないはずだ。その、一つ私にウインクしてみないか?」
「え、イヤだよ恥ずかしい。」
「フフフ。」

こんな時間が持てたことは奇跡なんじゃないかと思った。

学校は退学しようと思っていたけど、あと数回でも行っておけ、と母さんが言ったので、そのまま籍を置かせてもらうことにした。
休んでいる間は病気にしておいてくれるらしい。
カルテの捏造とか危ない話が聞こえたけど、母さんなら上手くやってくれるだろう。

そろそろ時間と言う時になって、母さんは僕を抱きしめてから、額に唇を落として。

「頑張って来い、私の息子。」
「……うん。」

そういう、泣きそうになることは止めて欲しい。
すがり付いて離れたくなくなってしまう。

すぅ、と体が薄くなった僕に、母さんは「またな」と言ったので、僕も「行って来ます」と返した。
目を赤くした母さんの顔を見ながら、僕の意識は途切れ――――――






閻魔様の執務室に居た。

背中には慣れた重さの大剣、ソウルオブキャットがあった。
手には来る前に一応、と思って掴んでいたお土産入りのナップザックがある。
いろいろファジーだな。

閻魔様は相変わらず悩ましいものを見せ付けるような格好で、ペタペタ判子を押していたが、僕を見ると、ため息をついたのだった。

な、何かやりましたかね僕。


<つづく>


長くなりすぎたので切った。
そしたら48話がビックリするくらい短くなった。反省はしないぜ!

でも短いとアレなのでおまけ。
内容は変わってないです。


<おまけ>


これはありえたかも知れない授業の風景。

五時間目はまた体育だった。今度は普通にやるようだ。
僕はシェイクハンドを手に取る。

「うーん。卓球かぁ。」
「佐藤君って下手だよね。教えてあげようか?」

ははは、サラリとひどいことを行ってくれるぜタケミちゃん。

「ふふ、大丈夫だよ。修行したしね。そこらの卓球部よりは打てるんじゃない?」
「へ、へぇ~。そこらの、ね。」(←そこらの卓球部)

タケミちゃんが額に血管を浮かべている。

「ば、バカ! あんた早く謝っちゃいなよ!武美は、卓球に関することでは鬼になるんだから!」
「い、今なら間に合うわよッ!」

気を使ってくれたのか昼飯の後に登場したタケミちゃんの友達がヒソヒソ話してくるが、僕は引くつもりは無かった。

「今の僕には流石に勝てる人間は居ないでしょ。相手が4人居ても勝てるね。」
「バ、バカぁ!」
「知らないよ!? タケミちゃんは全国2位なのに!」
「しかも決勝では親戚の葬式で不戦敗をしただけで、実力的にはナンバーワンなんだよ!?」
「生理中でもプロにも勝ったし!」

タケミちゃんはうんうん、と頷いていたが、

「つまり、歯ごたえぐらいはあると?」

僕の言葉でキレた。

「そ、そこまで言うなら力を見せてくれるんだよね? 佐藤君?」
「ああ、もちろんだよ。笑ってるのに何故か怖いタケミちゃん。」

「「勝負!」」



卓球台の対面に居るタケミちゃんはマイシェイクハンドを取り出し、表面に着いていた透明なシールを剥ぐ。
あれはラバー面を守るためのものだ! えげつない回転を使ってくる前フリだ!
本気で叩きつぶしにきてるね……面白い。君の意外な一面を見たよタケミちゃん。

「さぁ、君に先行サーブをあげる。打ってきて!」
「ど、どこまでも……! 後悔させてあげるわ佐藤君!」

彼女は空中にボールを上げる。

「シッ!」

ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュズギャンッ!
その瞬間彼女の入れたフェイント12回!
13回目の振り(バックハンド)でこっちに入ってきたピンポン玉は……

(ば、バカなバックスピンで向こうに戻っていっただとッ!?)
「で、出た……相手に何もさせずにサーブを取るタケミちゃんの魔球23号……」
(あんなのがあと22球もあるの!?)

戦慄しつつ呟く、タケミちゃんの友達(1)。
だが、その次のタケミちゃんのセリフで僕はさらに驚く。

「ふふ、佐藤ハルマサ! この、一昨日会得した魔球24号を受けてみな!」
(口調変わった――――――!)

「行くよッ! はぁッ!」
(フェイントがないだと? 舐めているのか?)

彼女のサーブはこっちの向こうのフィールドを跳ね、こちらのフィールドで……跳ねなかった。
ギャるーんと回転しつつフィールドを駆け抜け、台が終わると垂直に落ちていった。

「このスーパードライブサーブ。習得するのに15年かかったわ……!」
「まて、君は何時から卓球をやっていたんだ!?」
「フ……初めてラケットを握ったのは生後2ヶ月よ!」
(タケミちゃんの両親何やッてんの――――――!?)

「さぁ、そっちのサーブよ!」
「どうやら、手加減している余裕はないようだね。」
「まだそんな口を叩けるなんて……ゾクゾクしちゃう…」
(キャラ変わりすぎじゃない?)

まぁいいさ。僕がやることは変わらない。
彼女の打球を返すのはどうやら回転を見て取る必要があるらしい。
なに、僕なら出来るよ。楽勝さ。

「行くよ!」

僕はぽい、とピンポンを上に放り……普通に打った。

「この程度なの!? 失望するわ!」

彼女は結構ゆるめに打ったサーブをスマッシュで打ち返してくる。
カコン、テン、テン、ズバァアアアアアアアアンッ!
といった感じだ。
だが、見えてるよッ!
このスマッシュは、左に跳ねる!

「――――――シッ!」

キュッと左に移動し、打ち返す。器用さの高い僕なら、どんなに回転がかかっていようと、どんなに早い打球だろうと、君のフィールドに返すくらいは出来るよ!

彼女の玉の回転を弾くように、ピンポン玉の上を擦るように、バックハンドで彼女に打ち返す。

「―――――――ッ!?」

まさか帰ってくるとは思わなかったのだろう。彼女は驚愕の表情を浮かべ、しかし直ぐに顔を獰猛なものに変える。

「ハハハッ!」

そして笑いながら打ち返してきた。流石、現役王者。
ズギャァアアアアアアアアアアン!
また、有り得ない音をさせつつ玉が叩きこまれる。
これは、跳ねないドライブ!

「甘い――――――さっき見た!」

ドライブというものは、こっちのものに当たったら、回転上、上に行ってしまう。よって、普通に打ち返したら、オーバーする。

(――――――ならば、打たない! 当てるだけにする!)

しかも当てる瞬間後ろに引いて、威力を殺す! ライジングショットッ!

コ――――――ン!

凄まじい回転がかかった玉は、着地と同時にラケットに当たり、体育館の天井にまで跳ね上がる。

「こんな返し方をしてくるなんてね。」

彼女はニィと笑うと――――――玉が着地した瞬間、台をこそげ取るようなバックハンドを放つ。
彼女にとってのドライブ回転がかかった玉に、それを上回るバック回転をかけ、こちらの領域に入れてくる。それこそが返し方。それ以上ない行動だ。

(正解を導き出したか……彼女も――――――只者ではないな!?)

ここで僕のとる行動は――――――ドライブで叩き込むッ!

「だらぁッ!」
「ハハハハハハ!」

僕の神速のドライブを、彼女はさらに凌駕し、ドライブを打ち返してくる。
ふ、ドライブ勝負か。面白い!

「ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!」
「ハーッハハハハハハハハハハハハハッ!」

僕は叫び、彼女は笑っていた。
二人の間を行きかうピンポン玉は僕がギリギリ反応できるほど。
彼女は恐らく見えていまい。
僕の予備動作、目線、彼女が打った玉のコース、全てを観察し、彼女の中の膨大な経験から導き出される僕の打つコースへとラケットを振っているのだ。

「中々やるなタケミちゃん!」
「ふ、君こそ! ワタシの全力を引き出したのは君が初めてよッ!」

玉の打ち合いが1000回を越えた頃、ついに体力が切れる。
無論僕のだ。
彼女が必要最低限の動きであるのに対し、僕は良く見える目と反射神経と器用さで戦っているのに過ぎない。
疲労度は100~1000倍は違うだろう。それほど彼女は洗練されている動きをしていた。

僕の中では新スキル「受流し術」が出ていたが、この状況では意味がない!
ついに僕の撃った玉が……オーバーした。彼女は僕が狙った位置でラケットを振りぬいている。
完全に負けた。技術差による力負けだ。
僕は荒い呼吸を整えながら、彼女に笑いかける。

「体力切れ。僕の負けだよ。強いねタケミちゃん。」
「い、いや佐藤君こそ……。……また打ちたいな。」
「今度はもっと体力をつけてくると約束しよう……十日くらいで。待っていてくれるかいタケミちゃん。」
「うん。待ってる。」

「なぁ十日ってマジで言ってんの?」
「顔を見る限りは本気っぽいよ……?」

横でヒソヒソやっている二人の会話を聞き流しつつ。
こうして、僕は第二層に挑んだ後に、挑戦者として帰ってくることを決意した。


<おまけおわり>






[19470] 49・改定
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/08 19:51

<49・ちょっと改定>



閻魔様は僕を見るなり、ため息をついた。

「さて、枷をつけたと言うのに、やってしまったようだなハルマサよ。」
「ええと、何やったんでしょうか。」

閻魔様は困ったものだと頭を振る。

「実は、お前の功罪は際どいところでフィフティフィフティだったのだ。」
「というと?」
「うむ。親より先に死んだ罪が貴様の唯一とも言える罪だった。が、それはお前が母を幸せにしていたことで帳消しになっていたんだ。だが、今回の小旅行においてお前がやったことは、ダンジョンをクリアしたくらいでは、天国に行かせてやれんくらいのことらしくてな。」

何をやったかは知らんがな、と閻魔様は嘆息する。

「つまり、僕はどうすれば?」
「うーむ。天国に行くには、ダンジョンクリアが最低条件だ。そして、丁度良いことに、お前は階層をクリアするごとに現世へと戻れるようになっている。そういう条件は既に貴様に組み込んである。」
「そうなんですか。」
「そこで、だ。天国に行きたいなら、現世で良いことをして来い。人助けとか、社会貢献活動をな。なに、お前なら出来るさ。多分。恐らく。できたらいいな、と思っている。」
「……。」

閻魔様は不安になる言葉を大量に追加してくれた。

「つまり貴様の地獄寄りになった評価を天国寄りにして来い、ということだ。上手く行けば、ダンジョンを攻略する必要もなくなるかも知れんぞ?」

ちなみに、と閻魔様は紙を差し出してくる。紙には、僕のプロフィールが書いてある。
「童貞」が太い文字で書いてあるのは何かの嫌がらせだろうか……
それで、一番下には大きくアルファベットのEとその右上に棒が引っ張ってあった。イーマイナスと読める。

「お前の評価は現在[E-]だ。つまり最低の一つ上、といったところだ。ノーベル賞級の社会貢献をして一つ上がると言われる評価だが、貴様は一気に7ランクダウンだ。これは逆に凄いな。なかなか無い。」
「うわぁ……。」

全然嬉しくない。

「という訳で、行く意味がないと嘆いていた現世にも行く理由が出来てよかったではないか。で、もしだが、次行った現世で悪さをして評価が最低になったら地獄行きは確定だ。くれぐれも気をつけるんだな。」

そこまで喋ったところで閻魔様はずい、と身を乗り出してきた。

「ところで……何をやったんだハルマサ。お前を現世に行かせたことが、私の責任問題にすらなりそうなんだ。さっさと喋るが良い。」
「思い当たることは……」
「喋れ。」
「はいッ!」

プレッシャーにビビリつつ、学校のことや、母のこと、桃色のことを話した。

「バカッ!」

殴られた。超痛い。耐久力が20しか残っていないんですけど閻魔様。

「フン! 対象の体力の99.5%を削り取る手加減パンチだ! ………よりによって桃色か! お前アレは最悪だぞ!? 二度と使うよう奴が出ないように、罪の中でも二親殺しより上になってるんだぞ!?」
「いや、でも勝手に特性として取得してしまいまして……知らないうちに発動しちゃうんですよね。」
「待て、それ私にもかかっていないか!?」
「閻魔様って僕と同種なんですか? ていうかこれ、閻魔様に効くんですか?」
「それが桃色の嫌らしい所でな……。おい、2号! 2号来い!」

何時の間にか机に取り付けられていた伝声管のフタを開いて、叫ぶ閻魔様。

そしてその後、フン、と体に力を入れてパリーンと言う音と共に、体から浮かび上がった桃色の鎖を引きちぎる。

「クッ……本当にかかっているとは……だが、一度レジストすればもう効かん! ちなみにお前の桃色特性はなんと言う名だ? 私が知っているものなら対処できる。」
「桃色鼻息と桃色トーk――――――」
「バカッ!」

また殴られた。耐久力はもう1しかない。というか良くこんな微妙な威力のパンチが打てますね閻魔様。どうでもいいけどすごい痛い。

「さ、最悪内の二つではないか! 呼吸しているだけで、会話しているだけで、貴様の周囲には桃色の呪いが降りかかっていく……。私はこれからお前にどう接すれば良いんだ!」
「い、いやぁ皆目見当つきませんね……希望は今まで通りなんですけど……」

僕の返答は聞こえていないようで閻魔様は頭を抱えて苦しんでいる。ていうか今話していてさらに呪いがかかっているのでは? あ、もう効かん! って言ってたし、大丈夫か。

「くぅう。あれをつけていなかった私の落ち度か? イヤ、まさかハルマサに使われるなど……」

なにやら苦悩しているようだが、体を動かすたびに悩ましい動きをする二つの幸せに、ハルマサは目が釘付けになっている。

「む、見るな。何だかお前に見られるのはイヤになった。」
「そんな!」


ハルマサが沈んでしばらくしてから、部屋に入ってきたのはチャラチャラした男だった。
アクセサリーや服、髪型など全身で性格の軽さを表現している。

「チィース。お呼びッスか? あとこれ、朝ごはんのカツ丼です。」
「ん、おう。そこに置いておけ。そして、こっちに来い2号。」
「? ご褒美ッスか?」

机の端に丼を置いた彼に、閻魔様はニッコリと笑う。犬歯が見えているのがポイントだ。

「し、ねぇえええええええええええッ!」

ハルマサが気付いた時には、男が頭を下にして床に突き刺さっていた。腰まで突き刺さっており、そこから生じた放射状のひび割れが、ハルマサの足元まで届いている。
全然見えなかった。
流石です閻魔様。音もしないとか。どうなってるんですか?

「む、いかん。手加減しすぎた。瀕死にするはずだったのだが。」

結構体力を残してしまったと呟く閻魔様。
今ので手加減したんですか。流石レベル100オーバー。
というか超展開過ぎて付いて聞けない僕に説明を下さい。

「つまりは、こいつが貴様のシステムを作った男だ。桃色を組み込んだりと、遊びが過ぎるようだがな。」

ギラギラと瞳を光らせる閻魔様も素敵だ。
でも製作者なら丁度良い。聞いてみたい事があった。

「あの、他人にかけてしまった桃色の魅了を解除する方法ってあります?」
『あー、本来の特性と一致させてるんで簡単ッスよ。』

床に突き刺さったままチャラ男が答えてくれた。頭は見えず、声はくぐもっている。

『魅了を解くには……チッスです。』
「……挨拶するんですか?」
『チューです。』
「!?」
『他にも粘膜接触なら問題ないッス。キワモノとして、眼球を舐めたりとかも有りッスね。』
「最低な特性ですね………」
「全くもってそうだ!」

閻魔様がうんうんと頷いている。
つまり、僕が魅了してしまッた女性全員にキスして、魅了が切れた瞬間に殴られたり怒られたりすると。何を考えてこんな特性を……

「そんなこと無いじゃないッスかぁ―――――――――――!」

スポンと床から抜け出し、チャラ男は叫んでくる。

「ハーレムッスよ! ハ、ア、レ、ム! 男の夢ッス! それが大した苦労もせずに実現できる! こんな素晴らしいぶぉ!」
「自分でやれ自分で! 他者に何を組み込んでいるんだ!」

最後のいぶぉは床の下から聞こえた。
また見えなかった。
流石ですね閻魔様。

「心配するな。私が解除できる道具を作ってやるとも。いや作らせる! 貴様の罪を軽くするためにも必要だろうしな! 私も昔はこれで……クッ……! ……ぬぅあああああああああああッ! 思い出しただけでイライラするッ!」

ああ、チャラ男がスタンピングされて……もう足首しか見えない。

「フゥ……桃色特性はヴェネビアという神が使っていたものでな……。うぅう……! 何故私はあんな女狐に唇を……!」
「ああ、閻魔様! おいたわしや!」

拳を握って震わせる閻魔様を見ていると、つい叫んでしまった。

「まぁ、もうアレのことはいい。私が天国中の女性を率いて、殴りまわして地獄に封印してやったからな。今回のは、どうやらこの部下2号が勝手に作り出したものらしい。」
「作れるものなんですか。」
「まぁ、その才で2号にまで登ってきた奴だからな。やろうと思えば余計なことも出来るだろう。そして厄介なことにこいつは元人間で現在半神なんだ。」
「ははぁ。」
「ふふ。相変わらず頭は良くないようだなハルマサ。とにかく、こいつは死後に天国で功績を上げて、神になる試練を受けている最中でな。」

天国のシステムがどのようなものか気になるが、先を促す。

「でだ。これが本題だが、こいつの作ったシステムを魂に組み込んだお前は、既にただの人間じゃない。神の領域に脚の先くらいは突っ込んでるんだよ。」
「つまり?」
「お前の桃色の効果範囲が以上に広くなっているんだ。おい、2号。そうだな?」
『……そ、そう…ッス……!』

さらにくぐもった声が聞こえてくる。あと声も弱っている。
どおりで、「同種の生物」と説明に在るのに、垣根を越えて効いた訳だ。ていうかカロンちゃんにも効いてない? やべぇ。

「だから閻魔様にも効いたんですね。どうでも良いんですけど、さっき閻魔様が呪いって言ったんですけど呪詛返しとか無いんですか?」

人を呪わば穴二つ、的な?

「ば、バカ! そういえばお前さっきから喋りっぱなしじゃ無いか! ちょっと黙れ! レジストした私から呪詛返しを受けまくっているんだぞ!?」
「いや、元々閻魔様のことは好きでしたし。あんまり変わった風では。」
「またそういうことをサラッと……」
『ぇえええええ!? 閻魔様が照れている気配がするッス――――――!』
「やかましいわッ!」

最後のスタンピングでついに足首も見えなくなった。さよなら2号さん。

「ま、まぁお前がいいならそれで良い! ……とにかく道具を作る。お前がそんな特性を得てしまったのはこいつのせいでもあるから、協力はさせよう。と言っても桃色対策は莫大な資金が必要でな。お前はこれからダンジョンに行くのだし、丁度良い。足りない分はお前が集めて来てくれ。」
「何枚くらいですかね。ここに20枚あるんですけど。」

ポーチの中には、ドドブランゴやイャンクックから得た金貨が入っている。
全部あわせて20枚になっていた。

「わからん。この2号の金を根こそぎ使うつもりだが……神金貨300枚分は確実に足りんだろう。1000枚あれば恐らく十分だ。かなりキツイが、やれるか?」
「……多分大丈夫です。」

第一層でのブランゴ戦みたいになれば、金貨は意外と集まりそうだ。簡単ではないだろうが。

「けど、特性このままで良いですかね?」
「そういえばそうだな。」

ぬむぅ。と閻魔様は腕を組む。腕に挟まれ強調された胸が! 胸がッ!

「む、見るな。対応に困る。」
『閻魔様が―――――――!?』
「黙れ!」

閻魔様が穴の中にビームみたいなのを打つと、「聞き耳」には2号さんの心音すら聞こえなくなった。

「……まぁ良いか。これは、以前ヴェネビアと戦った時に使った対桃色装備だ。半径2メール内において桃色の波動なり何なりをかき消す効果がある。大事にしろよ。」

閻魔様は机の引き出しからブレスレットを取り出し渡してくる。

「大事なものですか?」
「それが手元にないと少し不安でな。まぁ着けていなかった為にお前にやられてしまったが。」
「それなら……」
「使われない装備品に意味はない。気にせず持って行け。」
「あ、ありがとうございます。」

手につけると、凄い安心感だ。閻魔様と繋がっているとすら思える……これパスとか繋がってテレパシーなんかが使えるんじゃない?

閻魔様は僕に細い指を向け、切れるナイフのような美貌で言う。

「さぁ行って来い! お金を稼いで、お前の罪を消すために!」
「はいッ!」

閻魔様の指先からオレンジ色の光線が飛び出る!

「あ、その前に。」

僕は閻魔様の光線を避け、持ってきていた荷物を開く。
ちなみに光線は後ろの10メートル程の巨大な観葉植物に当たって、植物をどこかに運び去った。

「これ、お土産です。」
「こ、これはッ!」

閻魔様に渡したのは、モフモフした綿を詰め込んだ布袋。すなわちぬいぐるみだった。

「アイルーではないかッ!」

閻魔様は喜んでくれているようだった。
良かった良かった。

「あ、それと、お願いしたい事があるんですけど、構いませんか?」

この壊れたソウルオブキャットを預けておきたかった。持ち歩くだけで直ぐに砕け散りそうだからだ。

「構わないぞ。良いものも貰ったしな。」

閻魔様は快く引き受けてくれた。
ついでにポーチの中の金貨も預ける。
これで心残りも無い。

「それではお願いします。」
「うむ。頑張れよ。」

今度こそ光は僕に当たり、僕は飛んで行った。



<つづく>


やっとダンジョン編だよ……まだ入らないけど。

次から2部だぁ――――!






[19470] 50・(第二部開始)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:10
<50・変わってないです>


とりあえず、平原である。
陥没しているところがあったりするが、平原だ。
僕の前に光に飛ばされた観葉植物がウネウネしているが気持ち悪いので見なかったことにした。ていうかなんで動いてるの?

そして、僕はさっき思いついたテレパシーが使えないか試してみることにした。

(閻魔様ぁああああああああああああ!)

何も無い。思考だけではダメなのかも。叫んでみた。

「閻魔様アアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

≪ポーン!≫

何か出た!

≪特技「伝声」を使用するには、相手との間に経路を設置する必要があります。≫

ああ、やっぱりアクセサリーじゃダメか……。
でも、これが刺青なら? カロンちゃんなら「伝声」が使えるかも。
せぇの。

≪女神ちゃぁああああああああん! 僕だぁアアアアアアアア! 結婚してくれぇえええええッ!≫

『な、なんじゃ! 幻聴か!? ……もう歳かのぅ……』

(おお、伝わった!)

数秒だが向こうの声も聞こえた。
というかカロンちゃんの年齢って凄く気になる。絶対聞けないけど。


◆「伝声」
 叫ぶことで、肉声の届かない遠く離れて居ても声を届ける事が出来る。伝えられる量は両者の精神力に依存する。二者の間に経路が開いている必要がある。


カロンちゃんの精神力が低いはずないから、僕の精神力が高くなれば良いのかな。
その内会話できるようになったりして。

でも、まぁ会話といえば、「神降ろし」があるし。そこまで使うこともなさそう。

まぁ特技の確認も終わり、これから新しい階層に挑むことになるのだが、その前にどうしてもやっておきたい事があった。

魔法習得である。

魔法には、憧れがある。
敵を一撃で壊滅させ、味方を治癒し、仲間を補助する。
そんな魔法はあるのだろうか。
カロンちゃんに聞いてみよう。

耐久力も魔力も、閻魔様が移動させてくれるたびに回復している。
あの方が何か熱いものを注入してくれているんだ! そう思うと震えちゃうぜ!

という訳で「神降ろし」も問題なく使えた。

(カロンちゃーん!)
【…………。】

今日は無言で登場した。
機嫌が悪いのかな。

(何かあったの?)
【何も無いわぃ! あってたまるか!】

やっぱり機嫌が悪いようだ。
そっとしておこう。

(カロンちゃん、敵を一撃で葬ったり出来る魔法ってない?)
【あるぞ。】

カロンちゃんは簡潔に答えてくれた。質問には答えてくれるようだ。

【ただし、貴様の言うような強力な魔法には魔力が多く必要でな。】
(つまり僕にはまだ出来ない、と。)
【例外として、対価を払う方法もある。呪い等は相手から対価を取る事があるゆえ、比較的条件は軽いの。】
(へえぇ……じゃあ桃色の呪いはどうなっているんだろ。)
【桃色?】

カロンちゃんは怪訝そうな口調で聞いてくる。
そういえばカロンちゃんには話していなかったか。というか知らないんだね。閻魔様は天国中の女性を率いたって言っていたけど、カロンちゃんは閻魔様より若いのだろうか。
それか地獄の人なのだろうか。

(実はカクカクしかじかで。)
【ふむ、あの乳袋にでさえかかる呪いか……】
(ところで、カロンちゃんは大丈夫なの? 話をするだけで魅了してしまう特性もあるんだけど。)
【なんじゃとぉ!? ………ぬ、ぬーんッ! ふんなぁッ!】

カロンちゃんの唸り声と共に、頭の中でパリーンと言う音が聞こえる。桃色の鎖が弾き飛ばされた映像も(何故か)見えた。

(え、えーと?)
【ふ、ふふ。見事に捕らえられておったわ。跳ね除けてやったがの。これは巧妙じゃ。レジストする程の違和感を感じさせぬとは……どうりで最近……いや、でもこれは以前から……?】
(最近? 以前?)
【なんでもないわ! 兎角、今までの分は我がかき消したゆえ問題ないが、これ以後、貴様が我を魅了しようとすれば、逆に貴様が我に惹かれることになる。我はそのようなことは好かん。その特性を封印するまでもう話しかけるな。】
(そんな無茶な! 聞きたいことがたくさんあるのに!)
【相談役はハスタァでよかろぅ。我が許す。言っておくゆえ、好きに使え。】
(そ、そう? 君と話せないのは残念だけど、分かったよ。)
【く、違う、これは特性のせいでないというのか……!?】
(カロンちゃん?)
【ええい、話しかけるなというのに! もういい! はよぅ我を呼び出せるようにせぃ! 分かったな!】
(あ、うん。)
【さらばじゃッ!】

バシューンと空に飛んで行く光と化したカロンちゃん。もうとっくに惹かれまくってるけど言わないのが花だよね。
どうでもいいけどなんでカロンちゃんは死神なのに緑色なんだろうなァ……。

それはさて置き、早速「降ろ」す!
足を肩幅に開き、手の平を天にむけて、叫ぶ(心の中で)!

(来ぉいッ! ――――――ハスタァアアアアアアアアッ!)
【ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!】

シュパァアアアアアアアアアアアン!

ノリ良く野太い声で叫びながら降りてきて、僕に乗り移った光は初代「天罰」の精霊(?)ハスターさんです。
色は黄色でした。

(ハスターさんって雷の精霊なの?)
【それは誤りだぁあああああああ。我はぁあああ、最速の神よぉおおおおおお!】
(……韋駄天?)
【さぁな。】

いきなり普通に喋りだした。確かに唸りながら話すのってきつそうだもんね。

【俺は、風・雷を扱う。貴様らがどう呼ぶかは知らん。興味が無い。】
(そうなんだ……。あれ? 火を使ってなかった?)
【お主を丸焼きにしようと思って頑張った。ついやってしまったが、今も反省してない。】
(へ、へぇ……。……そういえばさ、カロンちゃんのこと聞いて良い?)

そう言うとハスタァは突然キレた。

【うるさぃわぁ! だまれぇ! 貴様、少し気に入られたくらいで、良い気になりおッてェ! 体の中から丸焼きにしてくれようかァ!】

すごいテンションの上がり方だった。ビックリしちゃう。

(うわぁ……。)

まぁカロンちゃんのことはいいや。
それよりも……。
魔法の練習をしよう。
この人に教わるのは……すこぶる不安だけど。

(ねぇハスターさん。魔法……あ。)

良く考えたら僕って腕輪してるから桃色トーク封印できてない?

(いや、やっぱりカロンちゃんに頼むからいいや。呼んだり返したりごめんね。)
【き、貴様ぁああああああああああ! 我を犬猫と勘違いしておらぬかぁ!? 覚えておれよぉぉぉぉぉ…………】
(いやホント、ゴメンね!?)

黄色い光はフェードアウトしていった。

今度こそ魔法習得編だ!

<つづく>





神降ろしLv10:2813→3342







[19470] 51・改定なし
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/08 19:52



<51・変わってないです>

「さて。」

立て札には相変わらず、「2」というワクが浮かび上がっている。
ここに触れれば第二層にいけるわけだが……その前に魔法なのだ!


「女神ちゃ――――――ん!」
【…………】

あれ? 来ない。まだどっか調子悪いのかな。さっきから五分も立っていないし当然といえば当然だろうか。

「お腹でも痛いのー?」
【違うわッ! …………行ってもよいのか? 先から僅かな時間しか過ぎておらぬが、特性を封じておるのか?】
「もちろんだよー!」
【最初からそう言えぃッ!】

言葉とは裏腹に非常に明るい声で、女神ちゃんはやって来た。

「カロンちゃん。魔法を教えて欲しいんだ。」
【………ハスタァに頼まなんだのか? 悔し涙を流しておったのだが。】

女神ちゃん。君は何を馬鹿なことを。

「綺麗な声の女神ちゃんと話せるのに、わざわざあんなおっさん声と練習はしたくなかったんだよ。」

僕って割りと最低な事がポンポン言えるようになっているよね。

【そ、そうか? いや、お主がそう言うのなら我としては吝かではないが……】

カロンちゃんがテレテレしながらモソモソ言ってる。なんかほっこりするね!
そして僕の呼び方が貴様からお主になってる! 凄い進歩だ!

【で、どのような魔法が使いたいのじゃ?】
「えっとねー、遠距離攻撃が出来る魔法が欲しいな。」

本当は植物が無いところで張れるバリアーも欲しいけど、これを言うと女神ちゃんに気を使わせちゃいそうだから、おっさん声に聞くか、自分で編み出してやるよ!

「以前、「超炎弾」? っていうのを発動しそうになったんだけど、確かポーズとか耐性とかが足りなくってダメだったんだ。」

その時はこんな感じでした。

≪ポーン! 特技「超炎弾」を使うには、レベルが1足りません。魔力が442足りません。器用さが393足りません。精神力が147足りません。特性「炎耐性」を取得する必要があります。スキル「魔力放出」Lv5を取得する必要があります。スキル「火操作」Lv7を習得する必要があります。規定のポーズをとる必要があります。≫

【ふむ? 「超炎弾」やら耐性やらは分からんが、ポーズというものは、恐らく体の構えではないじゃろう。魔法全般で必要な心の構えじゃ。今回の場合は、炎を出すという強い意志とイメージが必要なのじゃろうな。】

難しいな。気合がいるってことかな。

「耐性……どうしよう。今まで最多で食らったのも雷属性を3回だし……もっとくらってみれば出るかな……。女神ちゃん、ちょっとビリビリちょうだい。」
【我はあまり攻撃魔法は得意ではないのじゃが……やはりハスタァに……】
「女神ちゃんが良いんだよ! むしろ君でないとダメだ!」
【う、うむ……そこまで言われれば我も女じゃ! 行くぞ! 「雷槌」!】

瞬間ゴソッとハルマサの魔力は奪われ、ハルマサの頭上に巨大な円形の黄色い光が出現する。

バチバチバチバチッ!

大きすぎて、空がほとんど覆われているし、遠近感がつかめない。

「うわぁ……」
【手加減が苦手でのぅ……死ぬな。】
「そっちの苦手か――――――ッ!」

雷撃の槌が降って来る。

「ま、負けるかぁ―――――――ッ!(泣)」

ハルマサは全力で「雷操作」を発動。体の周囲を何重もの三角錐で覆い、周りの地面に雷を流す準備をする。
さらに、詰襟の上着を脱いで体の前面に掲げ、「これで「防御」してやるよ!」とばかりに「防御術」の発動も視野に入れ……ついに「雷槌」が降って来た。

バシィッ!

制御可能容量を飽和させ、一瞬で砕け散る三角錐たち。掲げる制服は一瞬で燃え上がり、質量すら感じる雷に、ハルマサの足は地面にめり込む。

(し、死んでたまるかぁあああああああああああああああッ! アバババババババババッ! ちょ、シビれ……!)

ぬぅおおおおおおおおおお!

「ま、負けるかぁあああああああああッ!」

残り少ない魔力で、三角錐を再構築、さらに制服からも地面に魔力のアースを引っ張る。
三角錐はまた一瞬で破壊された。
手の肉は焦げ、髪からは黒煙が上がり、ハルマサは鼻血が出そうなほど、歯を食いしばり、耐えた。
これって、カロンちゃんのオートライフドレインが無かったら死んでない?

やがて。

「い、生き残った……ぐふぅ。」

焼け爛れた腕でガッツポーズをするハルマサの姿があった。

【まぁお主のカスみたいな魔力の、さらに半分程度しか呼び水に使わなんだからの。耐えれて当然じゃ。
最後に残りの魔力を使ぅて回復してやろう。……またの。】
「さ、サンクス……!」

ポワワーンとか優しい音をさせつつ、体が緑の光に包まれる。あったけぇ……。

ハルマサは自分の格好を見る。
魔力はすっからかんになり、体もぼろぼろ(修復中)。さすがに修復する余裕は無いのか、服は下半身しか残っていない。
指輪とブレスレットは無事でよかった。
そして、周囲の様子はさらに悲惨。
草原が、ドレインのせいでただの荒野になってしまった。
もはやぺんぺん草も生えまい。
さっきウネウネしていた観葉植物は陰も形も無い。一体どうなったのやら。
そして。
立て看板のキャシーも、色素が抜けて白い木になってしまった。
何もこいつから奪わなくてもッ!

だが、その甲斐あって祝! 耐性獲得ッ!

≪一定時間以上、電気による刺激を受け続けたことにより、特性「雷耐性」を習得しました。≫
≪一定時間以上、一定威力以上の熱源による刺激を受け続けたことにより、特性「炎耐性」を取得しました。また熱による合計ダメージが一定量を超えたため、スキル「炎操作」Lv1を取得しました。習得に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫

炎系もゲットだぜッ!
にしても、バリアーを張らずに受けなければならんかったとは……ていうか、この「炎耐性」って風呂に入っているだけじゃダメなの? 2号さんがどんな基準作ったのか凄く聞きたいよ。
暖かいじゃなくて熱いと感じないとダメとか? 60度以上の、タンパク質が凝固し始める温度でないとダメ、とか?
難しいよ!
もっと日常の中で得られる耐性にして欲しかった!

ま、まぁ良いさ! これで計らずしも、スキルは揃った! あとはちょっと頑張ってスキルレベルを上げれば、魔法が使えるぜー! これで生肉ともおさらばだいッ!
一応図書館で火の起こし方を調べてみたけど、無駄になっちゃったね。

ところで、以前失敗した魔法は「超」がついている。ならば当然、付かない奴もあるだろう。
ただの「炎弾」も使ってみることにした。

炎……炎が出てくるイメージ!
手のひらを上に向け、もう片方の手で手首を押さえる。ここから、火が出る! 強い威力の火が出るゥ――――ッ!

「炎弾ッ!」

≪ポーン! 特技「炎弾」を使用するには、魔力が482足りません。≫

おお、ポーズ?はこれでいいみたいだ!
魔力は……ステータスで見ると今、18、19になった。
500いるってことですな。

これって余裕じゃん!
撃ち放題だよ!
でも魔力が回復するまで、試し撃ちも出来ないし、第二層に挑むのは魔力がないと不安だし……

ここで、寝てても良いけど、時間は有限! 有意義に使うべきだよね!

「いろいろ試してくれるわァ――――――! 「ショック」!」
≪ポーン! 特技「精神破壊」を使用するには、魔力が149986足りません。精神力が134339足りません。スキル「雷操作」Lv10、スキル「精神感応」Lv10を習得する必要があります。≫
(マインドクラッシュきた―――ッ!)


「ええい、次だ! 「バリアー」!」
≪ポーン! 特技「守りの壁」を使用するには、レベルが7足りません。魔力が199,972足りません。精神力が584,339足りません。スキル「土操作」Lv17またはスキル「風操作」Lv18、加えてスキル「魔力圧縮」Lv17を習得する必要があります。≫
(ハードルたか―――――いッ!)


「まだまだぁ!「サンダー」!」
≪ポーン! 特技「ポケモン召喚:サンダー」を使用するには、スキル「雷操作」Lv20、スキル「ポケモントレーナー」Lv10を習得する必要があります。ジムバッジが4つ足りません。≫
(ポケモン!? ジムバッジ!!?)


「負けるかぁー! 「マダンテ」ぇ―――――!」
≪ポーン! 究極秘奥義「マダンテ」を使用するには、親友の心臓が必要です。≫
(予想以上にえぐ―――――いッ!)


「く、くそぅ! 「バルス」ゥ!」
≪ポーン! 秘奥義「天の火」を使用するには、性交渉を終えた信頼する女性と手を繋ぐ必要があります。純度90%以上の風石が1t足りません。天空城を所有している必要があります。レベルが90足りません。魔力が(略)精神力が(略)スキル「風操作」Lv(略)。スキル「炎操作」Lv(略)。≫
(ハードルが高すぎる――――――ッ!)


こうやって遊んでいるうちに、何時の間にか魔力が2000以上になっており、そろそろ第二層行くか、と思ったハルマサだった。



<続く>




レベル:10
耐久力:3499 →4627
持久力:6050
魔力 :18280→18488
筋力 :8349
敏捷 :25919
器用さ:17976→23648
精神力:14788→15661
経験値:5118 あと5120

特性
炎耐性
雷耐性

防御術Lv7  :201  →1129 ……Level up!
神降ろしLv10:3342 →9014 ……Level up!
炎操作Lv1  :1   ……New!
雷操作Lv8  :646  →2078 ……Level up!
魔力放出Lv11:12934→13142


□「炎耐性」
 火からの刺激(熱)を和らげる、皮膚の機能。炎属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、特技は昇華する。

□「雷耐性」
 雷流への絶縁性を高くする、皮膚の機能。雷属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレーヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、特技は昇華する。

■「炎操作」
 炎を制御する技術。魔力を用いて、外界の炎を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。





[19470] 52・新投稿分はここ!
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/08 19:59
<52>

【第二層・挑戦一回目】


彼は今、とてつもなく高いところから落ちていた。

風が耳元をヒュゴォオオオオオオオオオオオ! と通り過ぎていく音を聞きながら、彼は下を見る。

わぁ……まるーい。

彼の足元に広がる大陸はそれほど丸くない。
地平線が丸いのだ。
つまりそのくらい高いところから、ハルマサは落下中なのだった。
上半身裸のハルマサは全身で風を感じつつ、「鷹の目」を使って大陸を見る。
大陸は大まかに見れば細い楕円形。
第一層の大陸に比べて、かなり大きい。

≪長径270km、短径53kmです。≫
「観察眼」は相変わらず絶好調だ。

ていうか大きすぎ。日本最大の島は……択捉だか国後だったか忘れたけど、北海道の上にある島で、面積は3,000平方kmくらいだったはずだ。その3倍くらいはある。
このまま行けば、ハルマサは楕円の長径の端、円周と長径の接触点に落ちそうである。
もう大分落ちてきた。
細かいところは見えないが、ハルマサが落ちる場所には全然植生が見られず、大地が酷く不気味な色をしている。

(すごく、紫色だッ!)

どう見ても、毒の大地に見える。
今から降りるには、とても勇気の要る光景である。
だが、それは一般人にとって。

(「風操作」がある僕には関係ないね!)

下から吹き上げてくるような風(ハルマサがぶつかって行っているだけ)を斜めに操作し、その上を滑るように落ちるハルマサ。
魔力を回復してきて良かったと思う。
でなければ、そのまま毒の大地にダイブするところだった。
危なかった……と額の汗を拭うハルマサだったが、まだ気を抜くには早すぎた。

キン、と視界に浮かぶ一筋の線。

(「回避眼」の攻撃予知線!? そんな、一体!?)

「鷹の目」でも見る事が出来ない大陸の反対側という距離から、ハルマサの体を狙い打つ精密狙撃。

(そんなッ! クッ!)

体を捩ろうとしたハルマサだったが、その行動は遅すぎた。
遠くから飛来したオレンジ色の燃え立つ光の筋が、一瞬にしてハルマサの胸部を貫いたのだ。

ジュゥウウ、と焼ける肺。「炎耐性」など物ともしていない攻撃であった。
幸運といえば幸運なのは心臓への攻撃を10cmほど横に逸らすことが出来たことか。
でなければ即死だった。

(ァアアアアアアアッ!)

痛くて意識が飛びそうになるが、必死に状況を把握する。
ここで気を抜いて、毒の大地に接吻するのは嫌である。
肺からこみ上げる痛みで顔が歪むハルマサは、視界に信じられないものを見る。

(く、一体――――――またぁ!?)

間髪を置かず、「回避眼」に映る輝く線。
それはしっかりとハルマサの体をポイントしている。

(ちょ、ちょっとぉおおおおおお! タイムタイム!)

「戦術思考」によって冷静さを無理やり取り戻したハルマサはすぐさま、「空中着地」で体を跳ね上げる。
ケツの下を通過するオレンジの光芒。
一瞬で光線は消える。まるでビームだ。

ていうか速過ぎだよ!
ハルマサにとっては「回避眼」がなければ避けようのない攻撃である。

(ここはダメだ! 狙い撃ちにされてる!)

ハルマサが下した判断は、落下。第二層の大陸は長く、山もある。
地表付近の敵は遠くからでは狙えないはずだ。
大陸曲射弾道的な攻撃をされなければ。
いくつもの光線を、「空中着地」でジグザグに動いて避けながら、ハルマサは急降下する。

そして終に地表に到達。
第一層と同じようにふわりと勢いが殺され、覚悟しつつも足を突いた瞬間、ハルマサは顔をしかめる。

じゅ、と足の下から煙が上がったのだ。
靴の裏はものの数秒で溶解し、素肌が徐々に削れる感蝕。
これは毒というよりもはや酸!
控え目に言って、泣き出したいほどの激痛だった。
さらに毒の大地は間違いで、毒の沼だったらしい。かなり深い。
早く足を抜かなければ、見る見るうちに沈んでいく!

(早く歩かないとスネ毛がツルツルになっちゃうよッ!)

皮膚ごと消失したらツルツルもクソも無いのだが、ハルマサは若干混乱しつつ走り出す。
魔力放出で浮くことは出来るがフィールドが終わるまで持たなそうだし……。風で吹き飛ばしても下も毒だ

この状態は、「魔力放出」が無くても耐久力がジリジリと削れるだけで、命の危険はそれほどない。
よってスキルの熟練度上昇は雀の涙だった。
だが、嘆いてばかりも居られない。
何故ならモンスターが迫っているからだ。

(く、相手をしている暇はない! 早くこの毒の沼を抜けないと!)

魔力を足の裏から放出しながら走るハルマサに、素早く群がってくるモンスターはただの光の塊だった。
キラキラと幻想的な姿をした、大電光虫だ。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【大電光虫】:電光虫が古龍の体内で昇華した姿。放電能力あり。物理攻撃無効。雷属性無効。弱点属性は雷以外全て。
耐久力:20持久力:20魔力:400筋力:1敏捷:1600器用さ:1精神力:200


ただの一匹ならなんの問題もない。簡単に置き去りに出来る敏捷だし、電気による攻撃も弱い。
幸い電気への耐性もある。
だが、相手が10匹いたら? 100匹いたら?

(物理無効って……ずるぅうううい!)

全方位から、視界を埋め尽くすように迫る大電光虫。
キラキラと輝く姿はとてもキレイだが、今のハルマサにとっては忌々しいだけだ。
風を起こして追い払おうとするが、物理攻撃と判定されて揺るぎもしない。
それに「魔力放出」で吹き散らしてもその後ろに居る奴らが出てくるだけだ。
さらに厄介なのが、電気を使うことである。

雷耐性があるとは言え、ダメージは確実にくらう。
体は痺れてしまうのだ。
大電光虫の体を掠めるだけで一瞬体が硬直し、その隙にさらに大電光虫たちは群がってくる。

(くそう、こうなったら……魔力パンチだ!)

つまり殴る瞬間に魔力を噴出すのである。
これが意外と効いた。
魔力での攻撃だと判定されたのである。
今まで、煙を殴って入るような感触しかなかった拳に、ゼリー状のものを吹き飛ばす感触がある。

キィ……ン!

と不思議なきらめきを残し大電光虫は沈む。

≪魔物を撃退することに成功しました。0の経験値を得ました。≫

(経験値ないの!?)

レベルアップはダメらしい。
大電光虫との接触から身を守るために全身から魔力を噴出し、雷を受流すためにさらに魔力を使い、浮かび上がるためにかなりの魔力を使い、と体内の魔力はかなりの速度で減っていく。
もう1000くらいしか残っていない。
さらに困ったことに、ちょっと早く動いたら魔力が出る前に体が大電光虫と接触してしまうのだ。

この包囲網から脱出するには、大電光虫の大半を倒すしかない!

(ハスタァ! 風で天罰的な何かお願い!)

電気無効みたいだし。

【断る。魔力が足りん。俺を使役したくばその3倍は持って来いッ!】

口調はかっこよかった。

(そこをなんとか! この前のアレなら謝るから!)
【いいや。決して拗ねている訳ではないのだ。これから俺は忙しいのだ。デートとかで。………だが、大変そうなお主に、この言葉を送ろうと思う。】
(……何?)
【『 Stand and Fight 』。立って…そして戦うのだ!】
(うるせぇ――――――ッ!)

そうしてハスタァの声はふっつりと途切れた。

状況は動かない。
だが、このままではいずれ魔力も尽きるだろう。
今まで何匹倒した? 100か200か?
大電光虫は後から後から湧いてくる。
無限に湧き出てくるようだ。

そして状況の膠着を嫌ったかのように、特大のテコ入れが飛んでくる。

(い、隕石降って来た――――――――――――ッ!)

ごぉおお! と空から炎の塊が落ちてくる。ちなみに燃える岩ではなく、炎の塊である。
その攻撃半径は「回避眼」で見る限りアホみたいに広い。
そしてその温度はハルマサが一瞬で溶けてなくなりそうなほど高い。

(く、こうなったら出し惜しみなんてしていられないッ!)

ハルマサはイメージする。自分の手から放たれる、炎の塊を!

「炎弾ッ!」

ハルマサの残り少ない魔力をほとんど吸い尽くして、手のひらから、火炎の玉が放たれる。
直径は2メートルほど。大電光虫のドームに、通路が開いた!
魔力切れにより「魔力放出」が途切れ、激痛を感じながらも彼は虫たちの隙間を駆け抜ける。

後ろで大電光虫を巻き込み、炎の塊が炸裂する。
全力で走るハルマサに、炎と毒の飛沫がかかりそうである。
というか、かかった。

(あ、ッつぅううううううッ!)

毒もブレンドされたかちかち山状態になりながら、ハルマサは虫の層を駆け抜けた。
だが、厚い虫の層を抜けた先に待っていたのは、更なる敵だった。

「ギョワァアアアアアアアアアア!」

毒の沼である地面から、毒を跳ね散らしながら飛び出してきたのは毒怪鳥。
紫色のゲリョスだった。
ゲリョスは腰まで毒の沼に埋めつつ、こちらを見る。

≪対象の情報を取得するには「観察眼」Lv9が――――――
(レベル11!? こんな時にッ!)

ゴム質の体に長大な翼、伸縮する尻尾。
13メートルを越える体を震わせて、ゲリョスは特徴的な頭のトサカを打ち合わせる。
カシュン、とまるで咳のような音をさせつつ1回、2回。

(く、そ―――――)

次に来ることをゲームの知識でハルマサは知っている。妨害するために彼は全力で走り寄ろうとして――――――間に合わなかった。
ガキン! ゲリョスの頭でトサカがぶつかり合い、

(閃光が来るッ!)

ハルマサは目を瞑り、さらに上から手で抑えたところで――――――次の瞬間閃光が辺りを埋め尽くす。

キィ――――――――――ン!

空気を震わせる澄んだ音と共に、ゲリョスのトサカから網膜を焼ききるような光が生じる。
彼の手のひらをあっさりと光は貫き、ハルマサはハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

「カッッッッ、目がッッッッ!」

目を押さえ、屈み込みそうになる体を必死に制御するハルマサ。
今屈めば、体中を毒にやられる。
眼球が燃え上がるようだが、それよりも重傷なのは目を通じて脳に与えられた衝撃である。
平衡感覚がおかしい。
ふらりと足を出した先は、やはり毒。
じゅ、と溶ける足に意識を引き戻す。

(く、「空間把握」と「身体制御」がある! 目が無くても、僕なら何とかできるはずだッ!)

だが、把握した空間に映るのは、さらに数を増やし全方位から距離を詰める大電光虫。
遠くから毒を吐いてくるゲリョス。
ゲリョスの毒を大電光虫に痺らされつつ何とか避け、ハルマサは打開策を模索する。

(く……まだ、何とか! 何か打開策が!)

≪ポーン! スキル「神降ろし」を使うには魔力が足りません――――――
≪ポーン! スキル「天罰招来」を使うには魔力が―――

(ぬぁあああああああああッ!)

盲目になりながら。
延々と痺れ続けながら。
毒の沼で体力を削られ。

再度天から飛来した炎の塊が近くに着弾、炸裂し、ハルマサは全身を焼かれた。




<つづく>

魔力少ない状態で突入するからぁ。




死ぬ前のステータス

レベル:10
耐久力:4627
持久力:6050
魔力 :18488→18511
筋力 :8349
敏捷 :25919→26578
器用さ:23648→25671
精神力:15661



撹乱術Lv10 :7711 →7783
身体制御Lv10:8634 →9388
空中着地Lv10:8086 →8673
炎操作Lv8  :1   →2023  ……Level up!
風操作Lv11 :12238→12242
魔力放出Lv11:12934→12957
回避眼Lv10 :5309 →6729 ……Level up!
観察眼Lv8 :1022 →1476  ……Level up!
鷹の目Lv8 :1874 →2150
空間把握Lv9:3048 →3102



◆「炎弾」
 魔力を変質させ、低級の温度の炎として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超炎弾」などがある。





<あとがき>
お久しぶりッ!(コギー風)
お待たせしすぎて、皆読まなくなるんではないかと恐々としつつ投稿。←と思ってたら感想板に嬉しい言葉が! ありがてぇ……!

やる気は結構早くに回復していたんですけど、体調がアレでして。
ssもちょくちょく書いてはいたんですけど以前の勢いにはなかなか回復せんのですよ。

あと不思議のダンジョンに浮気しておりました。
DSのシレン2に。相変わらずアークとアビスのドラゴン勢が鬼畜! あとブタが本気で鬱陶しい。
最近ゲームはss書くためにモンハンやっていただけなんで、久しぶりに本気でやってしまいました。
死にまくる感じに、たまんねぇ! ってなりますね。誰かss書いてないかなぁ……。シレン憑依モノ。

もう大多数の方に見放された可能性もおおいにあるんですが、とりあえず更新してみました。
改定した現代編の部分には色々あると思いますが、いじめられたことをどうでも良く思っていたら、ということを想像で書いてみました。
辻褄が合ってないところもあるかもですが、もうおなかいっぱいです現代編。

だからダンジョンに行くぜー!
これからも、命令コマンドは「ガンガンいこうぜ」でお送りしたいですね!

明日は更新!

続きが読みたいと思ったり、感想板にて書いてくださった方々には恐悦至極。
こんなんで良ければ読んでやってください。


>イストワール?
なんで分かったの!? ヴェネビア?
私あのRPGめっちゃ好きなんですよ。
時々思い立って一周しちゃうくらい。

>閻魔さまの前で穏行術
敵対する対象の近く、という条件があるので、彼女を怒らせればいけますね。




[19470] 53
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/09 19:20

<53>


閻魔様の前で、僕は黄昏ていた。
ちなみに服装は全裸だったが、不憫に思った閻魔様がローブをくれた。
閻魔様は書類を片付けていた手を止め、僕を見る。

「……えらく沈んでいるな。」
「いや、今回のは流石にきつかったって言いますか……。」
「敗因はなんだ。」
「さぁ……準備不足でしょうか。いや、良く分かりませんが。」
「やめたいなら、やめてもいいぞ?」
「……いえ、まだ頑張れます。」

僕はまだまだやる気だ。
母さんに会いに行かないといけないし。
今回はまぁ色々あって死んでしまったが、魔力さえあれば恐らく切り抜けられるはずだ。
問題はどの程度能力が低下したかだが、それは後で確かめよう。

「うむ。やる気があるなら結構。お前の次に送り込んだ人間はもう諦めてしまったから、お前のこともそういう目で見てしまった。許せ。」
「いえ、構いませんけど……他にもダンジョン探索をした人が?」
「そうだ。クリアされていないダンジョンがある時は、罪や功が曖昧なものはそこに送る事にしている。やる気が無い奴は即地獄に送るがな。お前の次の人間は、第一層の密林も越えずに地獄に行きたいと言いだしたよ。」

閻魔様はふぅとため息を付く。
ハルマサはその人間の気持ちも分かる気がした。
いくらチートなスキルがあろうと、ハルマサが一層を短時間でクリアできたのは運が良いからだ。
強くなる味を覚える前や精神力が高くなる前に何度も挫折し、さらにモンスターに蹂躙されれば、やる気が無くなっても仕方ない。

「まぁ僕はやることもありますし。あ、そうだ。閻魔様。このブレスレットって丈夫なんですね。」
「ん? まぁそれなりに丈夫だが……何故だ?」
「死ぬ前に丸焼けになったんですけど、このブレスレットと指輪だけ無事でしたから。」

服は丸焼けでした。
すっぽんぽんで閻魔様の前に居た時は羞恥でやばかった。
閻魔様が平気そうな顔をしつつも頬を染めていたのを見たとき、興奮してしまったのは秘密である。

閻魔様はふむ、と頷く。

「裸なのもそのせいか。」
「い、いや、これは……炎と、カロンちゃんのせいでもありますね。」
「なにぃ!? お前やっぱりあいつに何かされているのか!?」
「い、いえ実は……」

「雷槌」を受け止めたことを説明すると、閻魔様は呆れた顔をしていた。

「何ともまぁ無茶を。あいつの攻撃魔法は桁違いなことで有名なんだぞ? あんな歳で称号を得られているのだからな。……もっと弱い刺激でも問題ないだろうに。」
「まぁ何とかなったので。」

称号って何だろう。
カロンちゃんに聞いてみようかな。

今だからこそ思うが、あの無茶で「炎耐性」を得ておらず、「防御術」の熟練による耐久力アップもなければ、最初のビームで死んでいただろう。
やはり、僕は運が良い。
ていうか桁違いの魔法を知らずに受けた僕って……

「まぁ色々有るだろうが、決してクリアできないわけではないだろう。頑張って来い。」
「………そうですね。」
「じゃあ、行け! ハルマサよ!」
「ハイッ!」

ハルマサは閻魔の手から放たれる光に包まれた。




「っと。つい飛ばしてしまったが、あいつはあの格好でよかったのか?」
「全裸に布一枚ッスよね。」

独り言のつもりだったが、朝のおやつを持ってきた2号が答えてくれた。

「不憫だな……あいつの前に送り込んだ奴も居るはずなのに。」

このダンジョンが完成してから既に2人送り込んでいる。
無愛想な奴と、鬱陶しい奴だ。
奴らも何度か死にながら今は……3層と4層に居る。
ダンジョンの内部のことは、帰って来ても録に会話をしないので良く分からない。

「服送ってあげたら良いんじゃないッスか?」

2号の提案はもっともだったが、ハルマサを優遇しすぎだと最近思う閻魔は、止めておく事にした。
アイルーとか貰ったし、あのひたむきな姿は応援したくなるのだが……贔屓はダメだ。

「そういえば他の人って、どんなシステムを組み込んでるんスか?」
「ああ、貴様が試練の一段階に言っていたときだったのでな。人間界の情報に詳しい4号に頼んだぞ。」
「ああ、あのオタクッスか。」
「オタクとは何だ?」
「あいつのシステムとオレっちのシステムのどっちが優秀か分かるのは何時になるんスかねぇ。」
「な、無視するな! 気になるだろう!」
「ハルマサ君と他の奴が会えば分かるッスよね。」
「おいッ!」

こいつ、減給してやろうか、と思う閻魔だった。







そして、ダンジョンの入り口。
二層に入る事に、かなりの抵抗を覚えるハルマサである。

具体的な解決策が思いつかないのだ。
空に居れば襲い来る炎の光線。
永続的な毒ダメージ。
群がる雷光虫。
落ちてくる炎の玉。
そしてゲリョス。
特にゲリョス! あいつはやばい。
強い……上に賢い!
不用意に近づいてこず、遠くから毒を吐きつけてくるだけだった。
やらしいにも程がある。
確か、ゲーム中でも死んだフリとかをする奴だった。
そして、あの炎の塊はなんだったんだろう。
トラップ?
……わかんね。
いい加減閻魔様にはこれ以上頼らない、という姿勢を崩すべきかも知れないといハルマサは思う。
具体的には、魔法の使い方とかを聞いたり……。ああ、でも呆れられたくない!
ううう……。

そんなハルマサはさっきステータスを見たとき、なんだか微妙な表情になってしまった。
言葉にするなら「にょろ~ん」といった感じだろうか。



ハルマサ君にそんな表情をさせたステータスはこちら!



佐藤ハルマサ(18)……Death!
レベル:10    →9
耐久力:4627  →2047
持久力:6050  →2897
魔力 :18488 →9275
筋力 :8349  →4191
敏捷 :25919 →15325
器用さ:25671 →14259
精神力:15661 →8510
経験値:2558  あと2560


こんな感じ!
敏捷と器用さ以外はほぼ半分!
だがハルマサは思う。

(桁が大き過ぎて、良く分からん。)

これが本音であった。
だいたい筋力で見ても、常人の800人分が400人分になったところで、どう変わるのか。
一般人の感覚を持ち続けている彼は、とにかく凄いということ以外良く分からないのである。

(あ、でも耐久力と持久力、魔力が減ったのはきついかな……)

というか、そこが増えないことには、「神降ろし」や「暗殺術」の使い道が減ってしま……「暗殺術」……?

Q:「暗殺術」とは?
A:姿が消えるスキルだぜ!

Q:さっき上空で狙い撃たれたのは?
A:多分体が見えるから。

(「暗殺術」使っとけよォ―――――――――ッ!)

いやもしかしたら、熱源反応とかで撃たれたのかも知れないし、ね!
避けれるとは限らないじゃないか!
……でも…………でも多分避けれた――――――ッ!

「ちきしょぉおおおおおおおおおおおおおッ!」

バンバンと、地面を常人400人分の力で叩きつつ、悔しがるハルマサ。
だが、切羽詰ったあの場でそれを思いつくことは彼には無理だったのだ。
それが現実。
切羽詰った今にも死にそうな状況で、何度も起死回生を起こせるほど彼は超人ではない。
つまりはそういうことだった。

「ふ、ふふ……もう負けんぞぉ―――――――ッ!」

ハルマサは立ち上がった。
精神力だけは人一倍というより人の数百倍はあるのだ。
立ち直るのは早い。

「さぁキャシー! 僕を二層に送っておくれ!」

生命力を吸われて白い木と化している立て看板に、ハルマサは指輪の嵌っている指を押し付ける。
強くぶつけすぎてキャシーが崩れそうになっていたが、彼はそれを見ていなかった。

(スルーだ! あの毒の沼なんて……スルーしてやるッ!)

「風操作」と「暗殺術」でするっとね!

だが、彼は気付いていない。
毒の沼ではない場所が、安全であるとは限らないことを。
そしてそこにたどり着けるとも限らないことを。

<つづく>

デスペナルティ:1~3の順に修正がかかります。
1:全ステータスにマイナス20%の修正。
2:全スキル熟練度にマイナス20%の修正。それに伴うステータスへのマイナス修正。
3:全ステータスに一つ前のレベルアップボーナスの上昇分の再修正。今回はマイナス1280ポイント。

レベル:10    →ペナ(1) →ペナ(2) →ペナ(3)
耐久力:4627  →3701  →3327  →2047
持久力:6050  →4840  →4177  →2897
魔力 :18488 →14790 →10555 →9275
筋力 :8349  →6679  →5471  →4191
敏捷 :25919 →20735 →16605 →15325
器用さ:25670 →20535 →15538 →14258
精神力:15661 →12528 →9790  →8510
経験値:2558 あと2560

拳闘術Lv2 :71  →56   ……Level down!
蹴脚術Lv2 :32  →25   ……Level down!
両手剣術Lv9:3609→2887 ……Level down!
棒術Lv1  :8   →7
鞭術Lv2  :36  →28   ……Level down!
布闘術Lv1 :2   →1
舞踏術Lv1 :7   →6
身体制御Lv10:8634→6907
暗殺術Lv6 :792 →633  ……Level down!
突撃術Lv9 :4690→3752
撹乱術Lv10 :7711→6168
空中着地Lv10:8086→6468
走破術Lv5 :342 →273  ……Level down!
撤退術Lv9 :3555→2844
防御術Lv7 :1129→903
天罰招来Lv8:3021→2416 ……Level down!
神降ろしLv10:9014→7211
炎操作Lv8 :2023→1618
雷操作Lv8 :2078→1662
風操作Lv10 :12238→9790……Level down!
魔力放出Lv11:13149→10519
戦術思考Lv9:4671→3736
回避眼Lv9 :5309→4247 ……Level down!
観察眼Lv7 :1022→817
鷹の目Lv8 :1874→1499
聞き耳Lv5 :343 →274  ……Level down!
的中術Lv8 :2599→2079 ……Level down!
空間把握Lv8:3048→2438 ……Level down!
洗浄術Lv2 :26  →20
折紙術Lv1 :11  →9    ……Level down!
描画術Lv1 :4   →3



デスペナ計算がめんどいと何度言えば(ry




[19470] 54
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/09 19:21

<54>

【第二層・挑戦二回目】


ハルマサは体の周囲の風を制御しつつ、ご満悦だった。

(ふふ、快適……快適だァ――――――!)

しかも「暗殺術」も同時に発動して透明になっている。
彼は今、まさに風。
雲間に漂う、自由の体現者だった。
ついでに身に纏うのがローブのみと言うのも彼の開放感に寄与していた。
透明になった彼が見える人は、彼の見たくも無い大事な部分が丸見えだろう。

彼に新たな性癖が目覚めるのも……近い!

という戯言は置いておいて、ハルマサ君は果たして地上に着くまで透明で居られるのだろうか。
「暗殺術」スキルの持続時間は、『[持久力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続』である。
ハルマサの持久力は2897、地上に着くまでやや熟練度が上昇するとして、2900としよう。
そして「暗殺術」のスキルレベルは6である。
つまり2900÷24≒120[秒]
結構速めに地面に行かないと、また狙い撃ちされるということになるのだった。

ハルマサはそんなことを考えつつ、しかしゆっくりと空を滑空していく。
純粋に空を飛ぶのは楽しかった。
だが、空には彼の想像を超えるものが沢山あるのだ。

例えば、現在遥か前方から飛んでくる炎の塊とか。

「ッってこれ僕を丸焼きにしてくれた奴じゃない!?」

半径10メートルはあるような炎が唸りを上げつつ飛んでくるのだ。
誰か知らないが、殺す気満々であった。
しかも、その後ろにはもう一つ飛んできている。一つをかき消したとしても、意味が無いということか……

(じゃあ避ける!)

やはり降りていく運命にあるらしい。
ハルマサは今回の挑戦において一回目の「空中着地」を使用する。

ドォン、と空中を蹴って斜め前方へと移る。

これで攻撃はかわせるだろう。
何かにぶつからなければ、あの火の玉は炸裂しないと思ったのだ。
だが、数秒後にその考えを改めるハルマサ。
後ろから飛んできている炎の塊は、前方の炎の数倍のスピードであり、コースは二つとも同じだったのだ!

(ま、まさか二つを空中でぶつけて、範囲攻撃を――――――!?)

どんなモンスターがやったのか知らないけど、頭良すぎじゃない!?

ハルマサが幸運だったのは、「空中着地」二歩目を踏み込めたことだろう。
空気の壁を「風操作」で掻き分けて加速したハルマサの後ろで、二つの炎はぶつかり爆発する。
燃え盛る爆炎は四方八方へと飛び散り、ハルマサも爆風に押されて地面へと叩きつけられる。

(お、おお……毒の地面じゃなくて良かった……)

何時の間にか毒の範囲は超えていたらしい。
前に飛び込んだのが良かったのかもしれない。

周りには、生えていてゴメンなさいと言いそうなほどささやかに、はすの葉みたいな草がまばらに生えている。
後ろに数十歩も行けば、いきなり段差があり、毒の沼だ。
ギリギリだった。

(フゥ……)

足元はややぬかるんでいる。
歩くたびにぐちゃぐちゃ言う地面を踏みしめて、ハルマサは現状を確かめる。
植生が乏しいようで、「鷹の目」を持ってすれば、かなり遠くまで見通せた。
これは同時に、ハルマサの知覚範囲外から攻撃されることも意味する。
遠距離攻撃や、狙撃に対する守りが欲しいと切実に思うハルマサだった。

さて、周りを見渡して思うこと。
右には、ゲリョスや紫色のゲリョスがウロウロしている。というかハルマサが透明でなければ気付かれるだろう。
あの閃光は本当にしんどかったのでもう近寄りたくない。
一匹なら何とかなるとして、複数居てピカピカやられたらホント無理。
前転で回避できるわけでもないしね。

右斜め前方には小競り合いしている大きいモンスターたち。片方はイャンクックに似ているが、体は黒い。……イャンガルルガ? それが三匹。
もう片方は黒い体毛が尖っている……ヒョウのような顔をしたモンスターが一匹。尻尾が長く、四肢は太い。ナルガクルガっぽいね。でかいけど。
ナルガクルガは地面を這うような動きでイャンガルルガ3匹と対等に渡り合っている。というか動きが速い。影も見えない速度である。だが、イャンガルルガたちも連携して頑張っているのではないだろうか。どちらも速すぎて良く分からなかったが。

そして前方にはミジンコみたいな小ささでゲネポスっぽいものが見える。「聞き耳」で、地面にぽっかりと開いた洞窟の入り口から、「ホォアアアアアアアアアアアッ!」とかいう咆哮が聞こえた。なんかゲームで聞いたフルフルっぽいなぁ……。

そのさらに向こうは雨雲に覆われて見えない。

そして左前方。第一層でもみたような草の生えそろう平原が続いている。もちろん樹林もあるけど。
岩肌をさらす山なんかも有り、その上を十数匹の竜がクルクル飛んでいたりする。
あれは、リオレウスとかリオレイアとかかな。ピカピカの奴とかいたけど。希少種?

そして左。ゲリョスがいっぱい居ます。
そして後ろ。左後ろには毒の沼の上で虫みたいなのがブンブン飛んでいる。ランゴスタだ。虫のくせに大きすぎるよね。
真後ろには大雷光虫がいっぱい居るし、右後ろにはたくさんのランポスを赤くしたようなモンスター、イーオスがはしゃぎまわっている。仲間のくせに毒を吐き掛け合っているのはなんだろう。親愛の証?
とにかくこれらを見て思う事があった。

(モンスター、多すぎるよ! 包囲網が敷かれてない!?)

唯一の幸運は、この付近にはモンスターが見えないことだろうか。
半径数キロレベルでモンスターが居ない。
これ幸いと、ハルマサはさっと身を伏せて、「暗殺術」を解除する。
地面は最高にぬかるんでいるが、プライドとかは元々ない。
閻魔様のローブが汚れちゃうのが何とも残念だが仕方ないだろう。

ステータスを確認してみると、持久力は残り82しかない。あと3秒しかもたなかったのか。
どのモンスターもハルマサなんか気にしないかも知れないが、用心に越したことは無い。
ハルマサが見た中で、ステータスを確認できたのは、ゲネポスとイーオスだけなのだから。

一番レベルが高いモンスターはナルガクルガで、≪「観察眼」Lv12が必要です。≫と言われた。
Lv14かー。レベル下がったばかりの僕には厳しすぎる相手だ。下がって無くても厳しいけど。

大陸の半分も見えてないのに、このモンスターの詰まりっぷり!
殺る気満々だね!

しかぁし、僕はこの程度では諦めないよ!
さぁ、まずは左前方、竜の巣へ突撃だぜ!
前に進んでも良いけど、隠れるものが少なすぎて、きつそうなんだよね。
右に行くのは却下ね。ナルガクルガとか、気付いたら死んでるよ。
でかくて強くて速いとか。

ここは、頑張ってリオレイア、リオレウスを倒して経験値を得て、ついでにスキルアップも狙って、対抗できる速さを得るんだ。
どうしても無理ならスルーで。
幸い障害には今のところなっていないし。

グダグダ考えて居ても仕方が無い!
いっけぇ―――――!

と思いつつ、ハルマサは匍匐全身でシャカシャカ進んでいくのだった。


ところでもう一つ考察しておく事がある。
先ほどの火球二つによる範囲攻撃、あれはハルマサがあの付近に居る事が分かっており、かつ詳しい座標は分からないということではないだろうか。
やはり熱源反応だろうか。
火で攻撃されたことから、熱へと意識が行ってしまう。
でも、これなら毒の沼で火の玉が降ってきた事も分からないでもない。
最後の火の玉は直撃ではなかったことも確信を深める材料である。
そしてさっきの炎の爆発で、温度の分布はグチャグチャになったはずだ。
僕を見失ってくれていると嬉しいなぁ。



閻魔様から貰ったローブどころか、全身を泥で汚しつつもハルマサは森丘フィールドへとたどり着いた。
現在30秒に1ずつ回復する持久力は80ほど溜まっている。
つまり20分くらいで数キロ(6キロくらいです)の距離を匍匐前進してしまったハルマサだった。

本当、無駄に凄い身体能力だ!
でもこの大陸では中途半端なんだよねぇ……
レベル9とは、雑魚系(レベル5)には楽勝だが、中ボス系(レベル11以上)には負け、というステータスなのである。
今までレベルの高い相手に勝てたのは相手が遅かったことで優位に立てたからであって、今後はそういう幸運も続くとは思えない。
でも、チラッと見えたドスイーオスはレベル8だから雑魚系と中ボス系のさらに間に位置するのかもしれない。

(とにかく絡め手を考えなきゃ……!)

絡めてと言えば、暗・殺・術ッ!
「暗殺術」を使って何が出来るだろうか……
そう思いつつ、ハルマサは川を目指す。

森丘の風景は簡単に言うと、草原!川!林!岩山! である。
川の近くには林が茂り、それ以外は草原である。

これは雨が相当少ないと言うことでもあった。
植生が成長する条件は、日の光、水分、あと土壌の栄養、である。
草食動物が多すぎて、植生が寂しくなることもあるが、基本的には先の3つである。
この地域の場合、雨が少なく草原が広がっているのだった。
現世で言う、モンゴルと似た感じの気候なのだろう。

新しい戦術を考えつつ、ハルマサは川にたどり着いた。
で、まぁそこには先客が居た。

「……ブフゥ。」

ドスファンゴの下位種、ブルファンゴであった。
レベルは5。
何気にモスと一緒なのが納得行かない。

(どうしよう……。)

格下である。
ステータスも偏っていると言うわけでもなく、平均的に180前後。
序盤にあったら死にまくっていただろうが、今の彼に取ったら、普通の雑魚だった。

倒してしまっても良いのだが、ここは考えていた戦術を試すのが吉! とハルマサは考えた。

素手の彼に出来る攻撃は「拳闘術」「蹴脚術」あと魔法の3種に限られる。
どれでも倒せるだろうが、戦術は格上の防御を突破できるものでないと意味が無い。
そうなるとやはり……

(貫通属性……! 君に決めた!)

で、彼は「暗殺術」を発動。
気分はカメレオンである。
モンハン的には霞龍とでも言うべきか。
臭いは大丈夫だからゆっくりと近づけば……。

(そろり……そろり……)

左側面からゆっくりと近づく。
だが、やはりそこは野生種。
第六感とも言うべきか、それとも他の要因か、彼の接近は2メートルくらい前であっさりばれた。

「フゴォーッ!」

やはりイノシシにあらざるべき軽快な動きでサイドステップなんかを披露するブルファンゴ。

(ステルス作戦失敗!?)

「クッ!」

この場で一番怖いのは、騒いで飛竜が寄ってくることである。
焦ったハルマサはハルマサは唇を噛みつつ、素早く近づいて「突き」を発動した。

スキル補助によって連動する各関節。
しなる腰部腱筋、広背筋、大円筋、勅下筋、小円筋、菱形筋、僧帽筋(総じて背筋ですね)。
隆起する太もも、地面を踏み抉る足の指。
体幹の回転によって打ち出される硬い拳。

体重の乗った一撃はブルファンゴの頭を――――――

パアン!

貫くどころか消し飛ばせた。

(あ、あれえ?)

プヒューと血が吹き出る元イノシシ。
かなりエグイ。食事中の方にはお見せできないね!

貫通属性の思わぬ威力を知ったハルマサだったが、新戦術には全く参考にならないと頭を捻ることにもなったのだった。

あと、ドロップ品は金貨二枚と肉でした。
お腹空いていたからちょうど良い!
でも焼いて食ったら煙で居場所ばれそうだし……飛竜来たら困るし……。

またというのは以前カニを生で食った経験があるからである。
あの時は火を通さないカニの味気なさを、しっかりと確認したものだった。

……また生かなぁ……。
微妙な顔で、骨付き肉を見るハルマサだった。



<つづく>

拳闘術Lv3:56→57
暗殺術Lv7:633→682 ……Level up!
観察眼Lv7:817→922


持久力:2897→2946
筋力 :4191→4192


説明ばっかりでぬるい話ですね。
意味もなく長くなったし。






[19470] 55
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/09 19:22



<55>




ニク……
美味しく食べたいです。

彼の胴体サイズという意外と大きい生肉を前に唸るハルマサ。
新しい戦術とかはうっちゃって、とりあえず背中と引っ付きそうなお腹の心配が先に来るハルマサなのだった。

ブタに近いってことは寄生虫とか凄く心配なんだけど……
やはり生しかないか……と諦めかけたその時、彼の頭に電撃走る!

(干し肉! 干し肉が有るじゃないか!)

作り方知らんけどな!
と一人ツッコミしつつ、これは行けるのではないかと思い始めるハルマサ。
こう、風をヒュウヒュウ吹き付ければ!
乾燥して旨みが凝縮されたりしないかなッ!
日光にも晒せば消毒もされそうだーッ!
あ、でも薄く裂いた方が乾くのも早いよね。

僕って頭良い、などと思いながら、ハルマサは薄く削いだ肉を枝に突き刺してダルンと吊るし、光が当たるように枝や葉っぱなどを毟りまくる。
なにかの精霊の怒りを買って「神降ろし」スキルが低下したが、そんなことでは彼は止まらない。
林の中にぽっかりと日の当たる場所を生み出した彼は、むん、と魔力を操作する。

(いよおし、準備は満タン! じゃ無くて万端だ! 「風操作」ぁああああああ!)

手で巻き起こした風を魔力で操り、一点に集約させる。

ヒュボォオオオオ!

大型扇風機の如き猛風を吹き付けると変化は劇的であった。

おおお、凄い勢いで肉の色が変わっていくね。
ピンク色からくすんだ色に!
これはいける!
残りも全部やっちゃうぜ!
風は循環させて、と。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫

あ、なんかスキルでた。
もう多すぎて把握できてないんだけど、今度は何?

≪一定時間以内に一定量以上の対象を解体したことにより、スキル「解体術」を習得しました。習得に伴い、器用さにボーナスが発生します。≫

イェア!
「解体術」ゲット!
おお、肉の部位とその境界が、はっきりと分かるよ!
これで筋を痛めない最高の捌き方が出来る!

まぁ乾燥肉だから関係ないかもしれないけど。
将来食肉店で働けるかも!
あ、将来はどうなるか分からないんだった。

ふ、しかしこの肉の削げやすい面が見えるということはアレが出来る!

「フォ――――――ク!」

実は美食家トリコに憧れてて。
あとホントどうでも良いけどフォークじゃなくてナイフでした。

まぁ叫んだ言葉は特に関係なく、鋭角に切り込んだ手刀によって肉はテュルンと剥けた。
その薄さ、実に数ミリ。
ふわりと風に舞う薄さ。
向こう側が透けて見える薄切りだった。

(き、気持ち良い……!)

ハルマサは新スキルの力を確信する。
これは、良いものだ!

「ナイフ! ナーイフ! ナイーフ!」

テュルンテュルン剥いていたハルマサだが、気付けば、

「あれ、肉は?」

干していたはずの肉が千切れてどっか行っていました。
風が強かったのだろうか。
循環させていた範囲に肉は見えない。
枝にチョビッと残っていた肉片が何とも物悲しかった。

「肉……」

な、泣いちゃダメだ! 君はもう高校3年生なんだぞハルマサぁ!
後、精神力も高いじゃないか、耐えれる! 耐えれるんだ!

まぁ精神力が高いお陰かあっさりと泣きたい衝動は我慢できたが、ハルマサは今度は執拗に肉を固定し始める。

(一度犯した愚は二度と……肉よぉ! 乾けぇ―――――!)

という訳で殺菌できたかは甚だ疑問だが、とりあえずは乾燥した肉を口に出来て、満足したハルマサだった。

この一連の動作で実は新しい特技「手刀斬」が発動していたりとか、食べ終わった後で「風操作」で煙をどうにかすればよかったと気付いたとかは丸っきり余談である。







(「聞き耳」……発動!)

まぁ常時発動しているんだけど、やや集中を高めるという意味でね!

辺りを探ると、意外と小型のモンスターは多いようだった。
小型とは言えどハルマサ並には大きいのだが。
リオレイア、リオレウスは岩山の周辺に高密度で居り、後は時折飛来しては小型のモンスターを捕食したり生け捕りにしたりしていた。

生け捕りは巣に持ち帰っているのだろう。
もしかしたら幼竜が居るのかもしれない。

(まぁだからってどうとも出来ないんだけど。)

実は幼竜が弱いくせにレベル高くて経験値稼ぎ放題とかだったらいいが、そんなことはあるまい。
親竜に現場を見つかってその場でこんがり肉になる方が余程想像しやすい。

というか「観察眼」で見えているのはあくまで対象の強さは、~レベル相当、ということである。
ハルマサの基準に直して読み取ってくれているのだ。有難いことである。
という訳で、弱いモンスターを倒して経験値稼ぎ放題、とかは元々無理な話である。

つまり「観察眼」で情報が読み取れるのは対象のモンスターの強さの四分の一くらいには熟練したと気である、と言い換えることも出来るだろう。

この程度のことに気付けるくらいにはハルマサも頭の使い方が分かってきたということかも知れないのだった。


現在はエネルギーの補充も終えて、場所を移動している。
出来れば、飛竜に近づきたい。
そして、「暗殺術」の熟練を!

格上相手に、どのような戦術をとるにしても「暗殺術」の発動はほぼ必須となる。
よって近づいてこっそり発動、「暗殺術」の熟練が鰻上り!
とか狙いたい。

隙有らばそのままサックリやっちゃうぜぇ……!
と、少し黒いところも見せつつ、僕は岩山へと向かっているのである。
まぁ一撃で絶命させないと見つかってフルボッコになると思うけど……

ん? その一撃で決める技を先に練習すべきだろうか?
必殺技となるような……!

しかし必殺技。チート的になんて響きの良い言葉だろう。
ああ、もう「暗殺術」とかあとあと。
必殺技あったら生き残る確率も上がるでしょ。多分。
とにかく。

(今は、必殺技だぁ――――――!)

ハルマサはむん、と気合を入れつつ、練習に適した場所を探してうろつくのだった。



<つづく>



◆「手刀斬」
 刀を模した手で攻撃し、対象の体に強力な斬撃を与える。切断属性。

■「解体術」
 物品を解体する技術。対象を解体しやすい部分が分かる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は存在の繋がりすらも断つ。


拳闘術Lv3:57→58
解体術Lv1:0 →4  ……New!

筋力 :4192 →4193
器用さ:14259→14263





[19470] 56・誤字修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/10 19:02
<56>




この体は、適当な動作、言葉を叫べば、ファンファーレがなったり警告音が鳴ったりと、何かしらアクションがある。

つまり、色々試してみるという楽しみがあるのだった。
今まで必殺技と呼べる特技は「溜め斬り」くらいだろうか。
これは硬い装甲を持ったクシャルダオラの防御を抜いたという実績もある、頼れる特技だ。
だが、これは武器の耐久値が著しく減る上に、素早く動く敵には当てるのが難しいという弱点がある。
溜め時間が要るしね。
さらに光るので「暗殺術」と併用できないという致命的弱点もある。

出来れば以前のような、「穏形術」+「天罰招来」のような敵からは攻撃されない状態で攻撃できるというのが望ましい。
あ、でもコソコソしてるのって必殺技っぽくないなぁ。
こう追い詰められた時に光る何かが欲しいよね。
光ったら困るんだけど。

という訳で、まずは威力を求めてみよう。
当てれるかどうかは二の次で良いや。

「む……。半径500メートルに飛竜なーし。」

ということで準備も万端!
目の前のやたら大きい岩に相対した僕は、ざ、と足元の腐葉土を足で掻き、足場固める。
なんか渦を巻いているような大きな岩だ。
誰か螺旋丸でも打ち込んだのだろうか。

(ってそうだ――――――! 「螺旋丸」! これしかない!)

チャクラ的なものを回転させて撃つ!
出来る! 器用さが半端じゃない僕ならできる!

「ぬぅうおおおおおお!」

でもチャクラとか全く分からないので、手の平から魔力を噴出させて、クルクルとまわし始める。

「ってできるか―――!」

ゴメン。超むずい。無理。
一方向には廻せるよ?
魔力で銀河的な形を描けるよ?

でもそこから無理。
斜めにするとか。
マリカにのめりこんだ時みたいに体が傾いちゃうよ。カーブで曲がるときみたいに。
戦ってる最中にこんなこと出来るんだからあのラーメンボーイ、ハンパネェッス。

あ、でも風の通り道をこういう風に作って回転させたら……
結構魔力使うけど……いける!

「ぬぅうううううう!」

片手で風をフワフワ送りながら唸ること数十秒。

「でけた!」

でけたとか言っちゃったけど、出来たよ!
右手の上で縦横無尽に回転し球を形作る風の檻。

ヒョウヒョウ言うとりますでこやつ。フフフ。
おまけにトンでもねぇ圧縮度だぜぇ!
一万越えの器用さと「風操作」Lv10は伊達じゃなかった!

この技、結構難しいのかこの状態を維持しているだけで、結構な勢いで熟練度が上がり、魔力が減って行って……
って減りすぎ減りすぎ!
あ。やばい、止め方わかんないよ!?
あああああ、今開放したら僕ズタズタになっちゃう!
なんかシュイーン! とか言って回転してるしッ!

ああ、魔力がもう半分に!? カロンちゃんに頼ろうか!?
いや、魔力は極力大事にしないと!
前回の死因だし!

ここは……目の前の岩に叩きつけるッ!

「だらっしゃぁああああああい!」

あ、何か特技が発動したっぽい。
押しつける瞬間、風の回転が一気に高まり、青く発光して―――――

メキャゴリュッ!

「ギィイイイイイッ!」
「ええ!?」

岩が盛大に抉れて、四方八方に罅割れが走る。
そんな強い勢いで押し付けたわけでもないのに凄い威力だ……と驚く前に、岩が鳴いてかなりビビッちゃったよ!
いや、これは岩じゃない……!

(ダイミョウザザミだ――――――!)

なんて分かりづらい岩を背負っているんだい君は!
貝を背負ってよ! それか骨!
ていうか君、森丘生息域じゃないでしょ!?
たしか砂漠でしょ!?
なんでトラップみたいにココに居るの!? ずるい!

慌てるハルマサをよそに、地面を掘り返して、脚がにょきにょきと出てくる。
泥がこびり付いた岩のように見えた、赤茶けたハサミを顔の前からぐわ、と振り上げ、奴は鳴いた。

「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「あギャッ!」

耳がぁ、ミミガー!

そういえば至近距離で鳴かれたのって初めてザンス。
バインドボイスじゃなくても痛いよこれぇ!

中ボス級ともなれば、相変わらず大きい。
13メートルだってさ。
ハハハ!……死ぬぅ! 死んでしまう!
しかもレベル12相当だよこの人!

か、勝てるか――――――!

「ひ、必殺ゥ……「暗殺術」ッ!」

逃走用必殺技、「暗殺術」を発動する。
逃げるが勝ちだぜ!
と逃げようとしたところで、ダイミョウザザミは水を吹いてきた。

「ギョワァ!」

ブッシャアアアアアアアア!

回避眼に映るのは、放射状に広がる水の激流。
範囲攻撃か――――!
そりゃ、相手が消えたらつい範囲攻撃かましちゃうよね!
って攻撃早くて避けれな……!

「か、カロンちゃんバリア――――!」
【我はバリアでは……ぬおあッ!】

突然呼び出されたのにカロンちゃんは、ちゃんとバリアーを張ってくれました。
激流に容易く吹き飛ばされながらも、バリアーに守られたハルマサは体勢を立て直そうとする。
ちょ、どんな密度だよこの水ゥ!
即座に「水操作」でたよ!?

「暗殺術」もチャラチャラ言いながら熟練度が上がっている。
と、思いきや直ぐに攻撃は止み、ふぅと一息つく間もなく、ダイミョウザザミの死の鎌がバリアーの上からハルマサを地面へとめり込ませる。
そういえばぼんやり緑に光ってるから丸分かりですよね。
ていうか攻撃と攻撃のつなぎが短すぎるんですけど。

叩きつけた後、さらに爪での連撃が襲ってくる。
頭上に掲げた腕への衝撃は緩和されているはずなのに、かなり重い。
ハルマサの膝はクレータみたく抉れている穴のそこへととっくに着いている。
ぱ、パワーあるッスねザザミさん。

【む、不味い。「守りの壁」が割れるぞ。】
(えぇえええええええ!?)
【いや、もっと強固に張りたいところなんじゃが、なに分お主の魔力が少のぅての。】
(ご、ごめんなさーい!)

僕のせいかー! やっぱりね―――!
こうなったら、あのドドブランゴ戦の手しかない!

「天罰招らぁい! 雷こーいッ!」
【デート中だといっとろうが、あああ!? 姉さん!?】
【ハスタァ、お主……】

あんたまだデートしてたのかよ! カロンちゃんにばれてしまったのは自業自得だよ!?
後で怒らないでくださぁい!

ハスタァの墓穴はどうでもいいとして、ダイミョウザザミの速度は実はそれほど早くない。
レベルダウンした僕でも捕らえられるほどである。
死んでなかったら僕の方が早かったかも。カニ系は総じて遅いのかも知れないね。
イャンガルルガやナルガクルガみたいに影しか見えないような速度じゃない。
これなら、痺れてくれれば対応できる!

「一番最初の、あの弱いのでいいから!」
【む? あのカスみたいな雷でいいのか?】
「そ……そうそれ!」

あれで死に掛けた僕の立つ瀬がないけど、カスみたいなあの雷だよ!
でっかいの撃たれたら僕の魔力なくなっちゃうからね!

【よかろぉおおおお! 天罰てきめぇんッ!】

バチィ!

結果的にカニは痺れました。
0.0001秒くらい。
落ちた瞬間何事もなく殴ってきたよ。

ピンボールみたいに吹っ飛ばされましたぁ―――!
しかも飛んでいる最中に追いついてきて、地面にめり込ませてくれるおまけ付き。
ドラゴンボールか! 全く容赦ねぇぜ!

「ぜ、全然使えねぇ――――――!」
【だからカスみたいだと言っておろうが。】
【ハルマサ。あと2秒で限界じゃ。】

カロンちゃんがわりと絶望的な事実を伝えてくる。
まわりこんなに緑がふっさふさなのに……ってああ!? 死の森に!

僅か数秒の間に枯葉剤をばら撒かれたみたいになった森で、ハルマサは考える!
あと2秒だってよ――――――!
もう死ぬよ!
いや、待てよ!
ハスタァの雷でダメなら、もうちょっと強い雷なら……!

バリアーがビシビシと罅割れ、カニの一撃が頭に届く瞬間!
ハルマサはイメージする。
自分の手から、放出される雷をッ!

「―――雷弾ッ!」

バリィ!

瞬間的に迸る直径1メートルほどの雷の奔流。
特技「炎弾」の雷バージョンだ。
ダンジョン入り口で遊んでいた時に発見したものである。
他に水や風なんかがあった。土は試してないけど、ありそうだね。
まぁそれはいいとして、ハルマサの貴重な魔力500ポイントを食って生まれた太い雷によって、ダイミョウザザミの鋏の動きが一瞬止まったッ!

「――――――ッ!」

ハルマサはその場を緊急離脱する。
爆発的な踏み切り。
よし、上手いことに蹴った穴から土埃が舞って……上手いことじゃなかった――――――!
土が動きの後を追って、居場所がばれてしまう!

(「風操作」ぁ! 渦巻け!)

くん、と指を上げる動作と共に、ごぉ! と巻き上がる土と枯れ葉。
完全に相手はこちらを見失ったと確信した僕は、このまま逃走しようと走り出そうとして……ウロウロとこちらを探すダイミョウザザミの背中の殻を見た。
その岩は、ハルマサの螺旋丸もどきによって大きく抉れ、今もボロボロと剥離していた。
しかも……

(見える! はっきりと見えるぞ! 壊れやすい点が!)

「解体術」スキルが発揮されていた。
ハルマサは逃げるのを止めて、す、と近づく。

(これなら、「突き」で……いや、「手刀斬」って言う特技もあるの? これだ!)

切断属性、たしか殻を壊すのには有効だったはず!
ちょっと岩に手を突っ込むの怖いけどね!

【ハルマサ、何を……? さっさと逃げんのか?】
(いや、できることをやったほうが後々楽になると思ってね!)
【……ふむ?】

だ、と駆け寄るハルマサ。
だが、彼の接近は、ブルファンゴにすらばれた事をハルマサは忘れていた。
ダイミョウザザミは、背後の気配を、眼に頼らず、しっかりと感じ取ったのだ。

腕を突きこもうとする瞬間、「空間把握」で察知した、風を巻き込むバックブロー。

(ちょ、間にあわな――――――)

高速で旋回したダイミョウザザミの爪は、ハルマサを殴り飛ばし、大岩に叩きつけた。




<つづく>

レベル:9
耐久力:2047
持久力:2946 →5050
魔力 :9275 →10310
筋力 :4193 →4200
敏捷 :15325→15347
器用さ:14263→17646
精神力:8510 →9869
経験値:2559 あと2559


解体術Lv4 :4   →121 ……Level up!
身体制御Lv10:6907 →7632
暗殺術Lv9 :633 →2733 ……Level up!
突撃術Lv8 :3752→3766
撹乱術Lv10 :6168 →6179
撤退術Lv9 :2844→2852
天罰招来Lv9:2416→2533 ……Level up!
神降ろしLv10:7211 →8361
水操作Lv6 :0   →325  ……New! Level up!
風操作Lv11 :9790 →12006 ……Level up!
魔力放出Lv11:10519→11437
戦術思考Lv9:3736 →3945
観察眼Lv7 :817 →1220
聞き耳Lv6 :274 →549
空間把握Lv9 :2438→2789 ……Level up!


◆「雷弾」
 魔力を変質させ、低級の電圧の雷として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超雷弾」などがある。

◆「風球」
 魔力を用いて風を球状に圧縮循環させたものをぶつけることで衝撃を与える。球に内包する風の密度により威力は変化。一定以上の密度より、切断属性が付与される。

■「水操作」
 水を制御する技術。魔力を用いて、外界の水を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。




<あとがき>

岩に擬態するのはバサルモスだろうが――――――!(挨拶)
と、思うでしょうがこのssではそんなことはあったり無かったり。
というかカニとの戦いが書きたい気分だったので。

突然ピンチに陥るハルマサ君は健在ですな。
調子に乗ってる彼は死ねばいい。

風球とか解体術とか、名前変えただけじゃねぇか、っていうのはご尤もです。
でも安直だからと言えど、名前を変えないよりはいい! と思ったり思わなかったり。
この作品の1割はパクリで出来ているんだ。
残りが勢いで、誤差みたいなところに作者の想いがあったり無かったり。無いかも。

螺旋と名前につけないのは、「球」という定義自体に、ある点から一定の距離を三次元かつランダムに動く点の軌跡の集合体、的な意味が含まれているからです。含まれてるといいなぁ。

解体術は、解体屋から。直死の魔眼でもいいけど。

あと前回と同じような感じで切れているのは、偶然です。ホントダヨ!

明日も更新!


>通り縋さん
ありがとうです。

他にも誤字脱字たくさんあると思います。申し訳ないです!



[19470] ステータスとか(56話時点)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/09 19:32
いろいろ抜けているかも!

レベル:9
耐久力:2047
持久力:5050
魔力 :10310
筋力 :4200
敏捷 :15347
器用さ:17646
精神力:9869
経験値:2559 あと2559

拳闘術Lv3 :58
蹴脚術Lv2 :25
両手剣術Lv9:2887
小刀術Lv1 :1
棒術Lv1  :7
鞭術Lv2  :28
布闘術Lv1 :1
解体術Lv4 :121
舞踏術Lv1 :6
身体制御Lv10:7632
暗殺術Lv9 :2733
突撃術Lv9 :3766
撹乱術Lv10 :6179
空中着地Lv10:6468
走破術Lv5 :273
撤退術Lv9 :2852
防御術Lv7 :903
天罰招来Lv9:2533
神降ろしLv10:8361
炎操作Lv8 :1618
水操作Lv3 :325
雷操作Lv8 :1662
風操作Lv11 :12006
魔法放出Lv11:11437
戦術思考Lv9:3945
回避眼Lv9 :4247
観察眼Lv7 :1220
鷹の目Lv8 :1499
聞き耳Lv6 :549
的中術Lv8 :2079
空間把握Lv9:2789
洗浄術Lv2 :20
折紙術Lv1 :9
描画術Lv1 :3



特性
桃色鼻息
桃色ウインク
桃色トーク
殺害精神
臭気排除
寂寞の歌声
炎耐性
雷耐性

特技
突き
崩拳
溜め斬り
手刀斬
炎弾
雷弾
風球
伝声


□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません

□「桃色ウインク」
 異性を魅了する魔性の特性。異性の目を見つめて一度ウインクすることで、異性に好感を与えます。わざとらしくても大丈夫! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「桃色トーク」
 異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感が薄れる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。

□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。

□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「炎耐性」
 火からの刺激(熱)を和らげる、皮膚の機能。炎属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「雷耐性」
 雷流への絶縁性を高くする、皮膚の機能。雷属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレーヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

◆「突き」
 拳または獲物を用いて、敵対する対象の体の一点に強烈な攻撃を与える。貫通属性。

◆「崩拳」
 対象の体に踏み込みと同時に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。

◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。

◆「手刀斬」
 刀を模した手で攻撃し、対象の体に強力な斬撃を与える。切断属性。

◆「伝声」
 叫ぶことで、肉声の届かない遠く離れて居ても声を届ける事が出来る。伝えられる量は両者の精神力に依存する。二者の間に経路が開いている必要がある。

◆「炎弾」
 魔力を変質させ、低級の密度、温度の炎として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超炎弾」などがある。

◆「雷弾」
 魔力を変質させ、低級の電圧、電流の雷として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超雷弾」などがある。


■「拳闘術」
 拳で攻撃する技術。拳で攻撃する際、威力が上がる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は拳で大地を割る。

■「蹴脚術」
 蹴りを繰り出し攻撃する技術。足で攻撃を放つ際、蹴りの速度が上がる。熟練に伴い敏捷またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は蹴りで衝撃波を放つ。

■「両手剣術」
 両手剣を扱う技術。両手剣で攻撃する際、力を込めやすくなる。熟練に従い、筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者はどんな固い守りも叩き割る。

■「小刀術」
 長さが一定以下の刀剣を操る技術。小刀を使っての素早い攻撃が出来るようになる。熟練に従い、敏捷その他のまたはステータスにプラスの修正。熟練者は風のように動き、相手に気づかれる前に命を刈り取る。

■「棒術」
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。

■「鞭術」
鞭を操る技術。鞭の扱いが上手くなる。熟練に伴い敏捷及びその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、相手の弱点を正確に貫く。クリティカル率にプラスの修正。

■「布闘術」
 布を用いて闘う技術。布を凶器として扱うことが出来る。熟練に伴い器用さまたはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、布を用いて鉄を断つ。

■「解体術」
 物品を解体する技術。対象を解体しやすい部分が分かる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は存在の繋がりすらも断つ。

■「舞踏術」
 踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽など感情を表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。

■「身体制御」
 「姿勢制御」の上位スキル。体の動きの制御に加え、衝撃の吸収を行える。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、一定時間に衝撃を吸収できる量が増加する。
状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「暗殺術」
 「穏行術」の上位スキル。持久力を消費することで移動時にも透明化を保つことが可能となる。非移動時でも持久力を消費する。熟練に伴い、持久力にプラスの修正。[持久力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた持久力が消費される。※発動継続時間は(持久力の数値)秒以上にはならない。

■「突撃術」
 「突進術」の上位スキル。敵対する対象に向かって移動する際、筋力と敏捷にプラス補正。助走を一定距離以上とった攻撃時に、さらに筋力にプラス補正。熟練に伴い筋力と敏捷にプラスの修正。[(20-(スキルレベル))×10]m以上の助走距離で二度目の筋力のプラス補正が発生。※10m以下にはならない。


■「撹乱術」
 敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。

■「空中着地」
 「跳躍術」の上位スキル。気体に対して任意の場所を、一度踏むまで足場にする事が可能となる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。レベルの数だけ空中に足場を作れる。

■「走破術」
 長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。

■「撤退術」
 逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。

■「防御術」
 攻撃を防御する技術。攻撃を防御する際、被害を軽減する。熟練に伴い、耐久値にプラスの修正。熟練者は、魔法による攻撃を無効化する。

■「天罰招来」
 天に願い罰を落とす技術。天に願うことで、確率で対象に厄災が降りかかる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が上昇。熟練者は自在に天罰を呼び出す。

■「戦術思考」
 戦闘中において思考する技術。戦闘中、冷静になる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。熟練者は、死の間際でさえ慌てない。

■「回避眼」
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。スキルレベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。

■「観察眼」
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、取得情報が増加する。

■「鷹の目」
 遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い焦点距離が延長。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。

■「聞き耳」
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。レベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。

■「的中術」
 攻撃を命中させる技術。攻撃が当たる度、確率でクリティカルが出る。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が増加する。

■「空間把握」
 戦闘時、自分の周りの事象を把握する技術。自分を基点とした一定範囲内の事象を把握できる。スキルレベル上昇に伴い効果範囲が増加する。

■「神降ろし」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を第二人格として自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。
■「炎操作」
 炎を制御する技術。魔力を用いて、外界の炎を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「雷操作」
 雷を制御する技術。魔力を用いて、外界の雷を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「魔法放出」
 魔法を体外へと送り出す技術。全ての魔術特技に通じる基礎。熟練に伴い、魔力にプラスの修正。熟練者は、手足など末端から魔力を放出することで、体の動きを加速、減速する事が可能となる。

■「折紙術」
 紙を折る技術。イメージした形を、紙の許す限り再現する事が可能となる。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、造形し終わった紙の硬度が高くなる。

■「描画術」
 絵を描く技術。イメージした形を紙や布などに精緻に描写する事が出来る。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、自らの想像を超えた絵を描く。



[19470] 57
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/10 19:05


<57>



当たる瞬間気付いたのではなく、「空間把握」で事前に知れた事がハルマサの命を救った。
左腕を引き上げて「防御」しつつ、「身体制御」のよる衝撃吸収を発動、さらに迫り来る鋏とは反対方向に向け、「空中着地」で作った足場を全力で蹴る。
そこまでしてなお、左腕に感じた重みは強烈だった。

枯れ木が折れるような音をたて、左の二の腕の骨は折れ、その下のアバラさえも叩き折る衝撃。
肺から空気が追い出され、脳が揺れた。
弾丸ライナーの如く吹っ飛んだハルマサは、岩を砕きつつ貫通し、だが勢いが止まらずボロボロになりながら転がる。
「身体制御」の衝撃吸収を発動するような余裕もなく、ハルマサは重傷だった。

(危な……「防御」が間に合わなかったら……)

彼の盾にした左腕は折れ、その下のアバラも猛烈な痛みを訴えている。
口の中に喉から血の味がせりあがっていた。
肺にアバラが刺さったのか……?
加えて背骨もおかしい。足も上手く動かない。
無事なところは何処も無く、右腕が唯一辛うじて動く、というところだった。

鋭くもない鋏の殻でこの威力。
格上を舐めたことへの罰は、厳しすぎるものだった。
幸いなことに、転がる最中にいくつかの樹が折れたようで、それによってハルマサの姿は隠れていた。

「ぐ……う。」
【生きておるか?】
(……なんとか……)

不味いことに体が動かない。
「暗殺術」はまだ発動しているが、傷を負ったことでカロンのライフドレインも始まり、緑の光が体を覆っていた。
だが、すぐさま回復という効果ではないし、効き目を強くするように頼めば、すぐに魔力は切れるだろう。
またバリアーを頼むか?
だめだ。
奴にはバリアーの効果が薄い。魔力を消耗するだけだ。

ダイミョウザザミは、こちらへと眼を向けると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
姿は未だ消えているが、殴った感触から位置を割り出したのか、かなり早い段階での補足だ。
かなりの距離があるとは言え、ザザミがやろうと思えば一息で詰められる間合いである。
ガチガチ、と鋏を打ち鳴らしつつ、こちらに向かってくるダイミョウザザミは、まるで焦らしている様ですらあった。
あと数秒後。もしくは十数秒後。
ハルマサは死んでいるかもしれない。

だが、ハルマサは諦めない。
死んではやらないし、仮に死んでも、次に繋げる!

体は動かず、魔力も4分の一、雷撃が5発分程度しかない。
だがさっき見たとおり、ハルマサの雷撃は効果が薄い。炎はもっと効きそうに無い。
絶体絶命だった。
しかしハルマサの眼から光が失われないのは、ひとえに精神力のお陰だった。
また、この程度の死地、いくつも潜り抜けてきたという自負だった。

何か状況を打破できる策があるかもしれない。
もしかしたら新たなスキルを得るかもしれない。

(諦めて……たまるかッ!)

ハルマサは口の端からも血を流しつつ歯を噛み締め、ぎゅ、と右手を握る。
この程度の動作で、跳び上がるほど痛い。
だが回復してきたお陰か、思いどおりに動く。

(何が出来る……何が……!)

彼のスキルは……戦術思考、回避眼、観察眼、鷹の目……

――――――鷹の目ッ!

彼は仰向けに寝転んでいる。その眼、草の間から見えた黒い影、あれは……

(火竜ッ! リオレウスかリオレイアか知らないが――――――)

彼は唯一動く右手で、「空間把握」により石を探り当て、掴む。
叫びたいほどの激痛が襲うが、奥歯を噛み砕きつつ、彼は耐え、それを掴むと――――――

(こっちを見て! 旨そうなカニがいる、ぞッ!)

「―――――――――ッ!」

ハルマサは全力で上空を優雅に旋回する火竜に向けて、こぶし大の石を投擲した。
血を吐きつつ、彼は全身の筋肉を酷使。
胸筋、腕の筋肉、右半身の腹筋背筋、右足の筋肉全てを使って放たれた石に、さらにハルマサは「風操作」を行ってさらに加速させる。

飛ぶごとに速度を増すかのような石は、果たして火竜へと到達し、その頑強な翼に結構な衝撃を与えた。
火竜は驚き、異物が飛んできた方を睥睨する。

しかしハルマサがそれを見ることは無い。
全身に走る激痛に視界がホワイトアウトし、びくりと痙攣する体を抑えきれなかった。

一瞬我を忘れるが、すぐさま意識の紐を手繰り寄せる。
切るわけには行かない……!
火竜の位置は……

(よし、こっち来てる!)

火竜はこちらへ急行しているようだった。
目標は僕かダイミョウザザミか。
でも、今のまま行けばゆっくり動いているダイミョウザザミとかち合って……

「ギィイイイイイイイイイ!」

逃げれるかもしれない、と思ったハルマサの期待はその瞬間裏切られた。

ダイミョウザザミがハルマサに向かって恐ろしいスピードで動き出したのだ。
ゆっくりの動きは、僕への警戒だったのか!?
何も起こらないと見て、行動を警戒から排除にシフトさせたとでもいうのか。
実際のところはハルマサには分からなかったが、ザザミが迫ってきている現実は変わらない。

もう、間に合わない。
火竜が瞬間移動でもしない限り。
ダメ元で「雷撃」を……と思ったが、脳裏に響くのは無常なる警告音。

<ポーン! 特技「雷撃」を使用するには魔力が118足りませ――――――

最後の足掻きすら出来ないのかッ!
かなりの距離に渡る「風操作」だったせいだろうか。
魔力は下位の雷でさえ打つことが出来ないほどに消耗している。

「く!」

負けて溜まるか!
ダイミョウザザミは最早、一呼吸とかけずその爪を振り下ろすだろう。
だが、動けないなら、魔力を使って無理矢理動かぜるんだ!

「ぉおおおおおおおおお!」

ミシミシと軋む上半身を起こしかけた時に、ダイミョウザザミがたどり着く。
ダイミョウザザミはその硬質の鋏を振り下ろしており、その先がハルマサの顔面に突き刺さる――――――
その一瞬前に、彼の足掻きが戦の女神を微笑ませたようだった。

急激に上がる周囲の温度をハルマサは感じ取る。
その距離200メートルまで迫っていた火竜は、喉元からせり上がる業火を咆哮と共に吐き出したのだ。

「ゴァアアアアアアアアアアアアア!」

ドゴァッ!

「ギィ!」

巨大な火の玉が標的としたのは、ちっぽけな人間ではなく巨大なカニだった。
高速で射出された炎塊に、ダイミョウザザミは一溜まりもなく吹き飛ばされる。

(……ッ! 助かったか!?)

一概にそうとも言えなかった。
着弾と同時に火の玉は炸裂する。
圧縮されていた火が大地を舐め、草は燃え上がり、大樹の枝がうなだれるように燃え落ちる。
辺りは瞬時に火の海と化し、「炎操作」で魔力の膜を張らねば、ハルマサは燃えていたかもしれない。
彼の耐久力は残り72。
この温度であれば、容易く燃え尽きる命であった。

火竜はリオレイアだったようだ。
ゴロゴロと転がるダイミョウザザミへ追撃の炎塊を吐き出している。
ダイミョウザザミも火を受けつつ反撃に水を吐くが、当たらない。
総合的な能力、つまりレベル換算にしてダイミョウザザミの方が勝っているようだが、何よりリオレイアは速かった。
ハルマサなど問題にならないようなスピードと、直ぐにでもこの森を焼き払ってしまいそうな火力。
対し、陽炎で揺らめく中でも一向に運動能力の落ちない耐久力を持ち、何よりパワーがあるダイミョウザザミ。
両者は拮抗していた。

だが、何時までも見ているわけには行かない。
ここに留まり続けることは死ぬこととイコールである。
辺りに渦巻く熱によってじわじわと耐久力が減っているのだ。
一秒で1減っている。
「炎耐性」で被ダメージが39%減されているというのに、残された時間は30秒も無かった。

(カロンちゃん! お願い!)
【全く女神と呼べというに……まぁ、良く生きぬいたの。……残りの魔力を全部使うぞ。】
(ありがと。)

周りの木々も燃やされたり枯らされたりと踏んだり蹴ったりだが、そこはゴメンねと謝っておく。
ふわ、と体を包んでいた光が一段濃いものとなり、ハルマサは足の感覚を取り戻した。
これなら……歩ける!

「ぜぇええええい!」

揺らめく炎の帳と火の粉の雪の中、ハルマサは、気合と共に歩き出す。
まだ体は、気が抜いた瞬間バラバラになりそうだ。
歯を食い縛って歩くハルマサの後ろでは、彼の及ばない領域で二者が争っていた。

彼は手を出すことが出来ない――――――今はまだ。



<つづく>



耐久力:2047 →2898
持久力:5050 →6957
魔力 :10310→11858
筋力 :4200
敏捷 :15347→15508
器用さ:17646→20018
精神力:9869 →12722


身体制御Lv10:7632→8339
暗殺術Lv9 :2733→4628
撹乱術Lv10 :6179→6212
空中着地Lv10:6468→6583
撤退術Lv9 :2852→2877
防御術Lv8 :903 →1754 ……Level up!
神降ろしLv11:8361→10922 ……Level up!
風操作Lv11 :12006→13671
魔力放出Lv11:11437→12985
戦術思考Lv9:3945→4237
鷹の目Lv8 :1499→1726
空間把握Lv9:2789→3615
聞き耳Lv7 :549 →1067


<あとがき>

ハルマサ君はすぐ逃げます。
今回逃げずにクチャクチャにされたので次回からはもっと逃げるでしょう。

ていうかスキル増えすぎてどれ使おうか迷う。
ハルマサ君もだが作者も全然把握できてないぜ!




[19470] 58
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/10 19:06

<58>



ハルマサは川の近くで寝転んでいた。
周囲には動く気配もあるにはあるが、彼の敵となりそうなものは居ない。
遠くのほうでは竜とカニが戦っている音がまだ聞こえる。
元気になったら漁夫の利でも狙いに行きたいと思うハルマサであった。

そんな彼は現在、我慢する必要もないので完全に涙目であった。

(いた、痛ぁ! メチャクチャ痛いよ!?)

なんか魔力全部を使ったカロンちゃんパワーでも全快しなかったんですよね。
耐久力が高くなったせいかな。
歩いてきた道が一目で分かる仕様になっていたので、無駄に遠回りする感じでココに来ました。

確かに穴の空いていたっぽい肺とかアバラとか、歪んでいた背骨は完全に治って、動きやすくはなったんだけど。
他にも色々痛いところは治ったんだけど……。
でも、何も骨折した左腕を残さなくても……!
何かもう、声を出す元気も無いです。
ああ、ズキズキ痛むなァ……。
なんで漫画の主人公たちは腕折れても平気なんだろう。
尊敬するよ。

ていうかもう30分くらい寝転がってたんだけど、お腹空いてきました。
疲れた体がエネルギーを欲しているよ!
肉が食べたい! イノシシ狩りじゃあ―――!

と思って立ち上がったところ、なんかでました。

≪チャラ(略)ーン! 一定時間以上、一定段階以上の身体的苦痛を受け、かつ音声を発しなかったことにより、≫

(まさか、「痛み耐性」!?)

≪特性「痛覚変換」を取得しました!≫

(おお? なんか良く分からない。)

≪強烈な痛みに、声も出さずに良く耐えた! あなたの相手を思いやる気持ちに感動した! でも次からは一緒に気持ちよくなって欲しい! そんなあなたにこの特性を送ります。気持ちよくなれよー!≫

(??? 何これ。)

ステータスを見た感じではこうでした。

□「痛覚変換」
 一定段階以上の衝撃を、心地よいものとして脳に送る痛覚神経。あなたの神経は痛過ぎることを快感として受け取ります。これであなたは天然の娼婦! 彼氏の○○でベッタベタだぜぇー!

(性別がちがうでしょぉおおおおおおおおおおおおお!)

これ完全に女性用ですよね!?
しかも明らかにヤっちゃった後に取得する特性だよッ!
彼氏のホニャホニャでベッタベタとかゾッとするんですけど!?

ああ、腕の痛みが気持ちよくなっちゃうッ! やばいやばいやばい! イヤだ――――――!

…………。

……あれ、変わらないや。
あ! そうか! ブレスレット、体内の奴まで消してくれてるのか!
でも桃色じゃないのに?
まぁ同じネタ系特性だけど……。
ネタ系も消されるのかァ……。

それって「臭気排除」も消されるんじゃない!?
戦う時は外すか……?
失くしそうだしなぁ……攻撃が気持ちよくなっちゃうし。

ていうかブルファンゴとかザザミにばれたのってこれのせいかも……。
カニに嗅覚あるか知らないけど、そうなら先に言ってくれないと……。
これから、戦う時は臭いにも気をつけよう!
いや、元々僕が臭いって思わないと消えないから、特性が発揮されて居てもばれてたかも知れないけど。

よし、あ、腕痛ぁ!
動かさないように……イノシシ狩りじゃー!

腕が折れて居てもハルマサは元気だった。

(イノシシ……サーチッ!)

まぁ「聞き耳」だけど。
あ、あっちにいる、気がする。
あの辺開けてるから少し不安だなァ……。

でも、僕は進む! 肉のために!
倒してもお肉ドロップしなかったら、もう諦めてキノコ食べるけどね!
さぁて、こっそり接近!
今度こそ、気付かれる前に倒してくれるわァー!


移動の最中に魔力が結構回復していたことに気付き、カロンちゃんにブツブツ言われながら回復してもらったので、全快状態でイノシシ狩りにいけることになった。



「祝! 肉ゲット!」

今度は風を操って、風下から襲い掛かって、無事討伐。
「手刀斬」で首を落としたら、また肉が手に入りました。

こう、スパッと切れるっていいね。
返り血でえらいことになるけど、そこは置いておいて。
ナイフをすでにマスターしてしまったので、次はフォークだろうか。
それよりか、さらに手刀を極めてセイント星矢式エクスカリバーの高みに……「解体術」を上げれば出来ないこともないはず。
「この世に切れぬものなし!」とか、言ってみたい!
エクスカリバーの人のセリフかは自信ないけど。
とにかく夢が広がるね!

でも、夢じゃあお腹は膨れないので、お肉を食べます。
前回の干し肉で思ったんだけど、焼いても風で煙を散らせばいいんだよね。
さらに、何時までも同じ味では、現代人として恥ずかしい!
ここは、キノコキムチを使ってキムチ味を!
ニオイとか気にしてられ無いぜ!

という訳で。

「メラ!」

ボッ!

メラです。
小規模の火をつけます。
今回は落ち葉とか枝とか。
その上に枝を組み肉を載せて、と。

「よーし。オホン! ……ちゃっちゃら~ちゃららっちゃっちゃら~……」

BGMは自分で歌いつつ、肉をくるくる回すのだ!
ウルトラ上手に焼いてやる!
早く焼けないかなァ……。

あ、風風。循環させて吹き散らせーい!

それはさて置き「メラ」である。

◆「メラ」
 魔力を2消費してメラを放つ。精神力に応じて威力は変化。上位特技にメラミなどがある。

この体って、ドラクエ的な技だったら、条件はあるけど普通に出るんだよね。
以前、マダンテ試した時にナレーションが≪特技「マダンテ」が~≫って言ってて、これだけカタカナだったから、色々試してみた結果分かったんだけど。
ドラクエとかしばらくやってないから覚えている魔法少ないけどね。
消費魔力が少ないからか威力は控えめだけど、実生活では重宝しそう。

ていうかこうもポンポン魔法が使えると、僕も魔法使いになったんだって思えるね。
ちなみにホイミやベホマはやたら条件厳しかった。

それにブースト系の魔法はまだまだ手が届かなそうだね。
バイキルトとかヘイストとか使ってみたかったんだけど。あれ? ヘイストってFF?
とにかく「魔力放出」のスキルレベルも足りない上に、「魔法感応」「体質変換」スキルが必要らしくって。
どうやって得るのか皆目見当つかないよ。
でも「体質変換」っていえば、毒手が思いつく。
殴るだけで相手を無力化するあの拳……!
毒系っ憧れるなァ……格上を倒すにはこれ以上にって気がする。
どうやったら得られるかな。

ちょっと毒沼で泳いでこようか。
それともゴクゴク飲んでやろうかァ!

いや、痛いのいやだしどうしようか……。
まさかここで新特性の出番か!?
……イヤだなァ……。

そうこうするうちに、ジュウジュウと肉汁が火に落ちて良い匂いがし始める。
さらにニオイには香草の香りも含まれている。
「観察眼」で見つけたので、香草もこっそりと火に入れて置きました!

完璧だ! これぞ調理! 僕は今、文明人への一歩を……

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン!≫

おお、なんか出た! もしや調理系では?

≪(前略)「調理術」Lv1を習得しました。習得に伴い器用さにボーナスが付きます。≫

(キタ――――!)

美味しいご飯が食べれるぜ!
む、早速このスキルの恩恵か、お肉の焼き加減が分かってきた……ここだ!

「ウルトラ上手にッ! 焼けました――――――ッ!」

と言っても過言ではないはずだ! ウルトラかどうかは知らないけど!

火から降ろした骨付きマンガ肉は、ホカホカと湯気を立て、表面はパリパリとした皮がやや引きつって割れており、その下から赤い肉が肉汁を浮き上がらせている。
なんて美味しそうなんだ! 干し肉も悪くは無かったけどこの光景には負けるね!
美味しさはまず、見た目から! 次に匂い! 味! 喉越し! そして歯応えだー!

思わずむしゃぶりついてしまったよ。
うめぇ、うめぇっす。
この野性味がたまらん……!
そして、薄く裂いた肉に、キノコキムチを挟んで、さらに数種の香草をサンド!
これが伝統の肉バーガーですね!
頂きます!
ウメェ!

そうやって美味しくご飯を食べるハルマサ。
煙と同時に匂いが吹き散らされており、この付近一帯から肉食獣が集まっていることなど、彼には思いも寄らぬことなのだった。


<つづく>



魔力 :11858→11863
器用さ:20018→20027
精神力:12722→12723
経験値1取得

神降ろしLv11:10922→10923
風操作Lv11 :13671→13677
魔力放出Lv11:12985→12990
調理術Lv1 :0 →3  ……New!



□「痛覚変換」
 一定段階以上の衝撃を、心地よいものとして脳に送る痛覚神経。あなたの神経は痛過ぎることを快感として受け取ります。これであなたは天然の娼婦! 彼氏の○○でベッタベタだぜぇー!

◆「メラ」
 魔力を2消費してメラを放つ。精神力に応じて威力は変化。上位特技にメラミなどがある。

■「調理術」
 食材を調理する技術。美味しく調理する手順、タイミングが分かるようになる。熟練に伴い器用さにプラスの修正。熟練者は食べれないものすら美味しく出来る(でも食べれない)。



<あとがき>

肉食ってる場合か!
早く攻略しろや!
って作者が思うんだぜ。

「ウルトラ上手に焼けましたー!」って言う言葉はモンハンで「こんがり肉G」を作った時に聞けるセリフです。一応。ハルマサ君の頭がどうかなったわけではないんだぜ!






[19470] 59
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/10 19:06

<59>



禍福は糾える縄の如し。
ハルマサの幸福な時間は、あっという間に不幸な時間へと摩り替わる。

気付いた時、「聞き耳」で補足できるモンスターの数は……計測不能!
ていうかもう肉眼で見えるね。
いっぱい居るなァ。大雷光中思い出して若干嫌な気分になっちゃうよ。
みんな涎とか垂らしまくっています。
集まってきたのはこの匂いのせいか。

皆腹ペコなんだろうなァ……。
ていうか殺した直後に消えてしまう獲物ばっかりで、肉食の方々は大変かもねぇ。
モンスター同士ではそういうことも無いのかな?

余談ですけど、火竜とカニの戦いは、二体目の火竜参戦であっけなく終わったみたいです。
今頃美味しいカニを食べているかもしれない……いいなぁ。
それにしても火竜と戦う時は速攻で決めないと仲間が集まってきちゃうかもしれないんだ……。
気をつけよう。

周りのモンスターたちですが、主にランポスです。階層が変わっても強さに変化は無いみたい。
ハッ! 余裕だね!

……とか調子こいてさっきやられたんで、慎重に行こう。
それに「解体術」の有用性を試すいい機会だと思う。

ハルマサはしゃぶっていた骨を投げ捨てると、あたりのモンスターの位置を把握。
全部のモンスターを倒す最短ルートを導き出す!(なんてことは出来ないのであくまで気分)

(エクスカリバってやるぜぇ―――――!)

ハルマサは、「暗殺術」を発動し、その場から音も無く居なくなった。


突然姿の消えたハルマサに驚くモンスター。
その側面に高速で回りこむ。
やっぱり匂いがするんだろうか。
反応する素振りを見せるランポスの……弱点はココだぁー!

高速で流れる視界の中、ぎ、と右足で踏みとどまり、右手の手刀を跳ね上げる。
鱗の間を縫うような斬撃は、スパン、とランポスの首を飛ばした。
「解体術」と切断属性のコンボは、あっけないほどの手応えをハルマサの手に残した。
血が噴出す前に、ハルマサは次の標的に眼を移し、回り込む。

(これぞ必殺の暗殺スタイル!)

この相手なら、「暗殺術」を発動する必要はないし、ニオイで結局位置もばれるのだが、そこはハルマサの気分である。
速さで相手を翻弄しつつ、手についた血液を振り飛ばして、さらに左手で首を狩る。

(これなら岩でも切れそうだ!)

と、時々、岩を割ったりしながら、ハルマサはランポスを狩り終える。
残るは……

「ギャア!」

ドスランポスさんと、

「フゴァ!」

ドスファンゴさんですね。
雑食のくせになんで来てんの? とは思うが今回に限っては好都合。
このモンスターたちを倒せてこそ、「手刀斬」の効力を確信できる! あと僕の成長も。

「だりゃぁああああああああ!」

ハルマサは駆け出した。

ニオイで位置が分かるとは言っても、姿の見えない相手の挙動ははっきりとわからない。
反応は遅れる。
そもそもハルマサは彼らの10倍は疾い。
ハルマサがナルガクルガの動きを影でしか捉えられなかったことと同様、モンスターたちもハルマサの動きは捉えられないのだった。
つまりあっさり攻撃を加えられるのである。

「ブルァアアアアアアア!」

とは言え、ドスファンゴの厚い皮下脂肪に隙はなかった!

(弱点ないね……とりゃ!)

ザクゥ!

「ブキィイイイイ……」

何処にも弱点らしい弱点はなかったので適当に切ったら、しかしほとんど手ごたえも無しに致命傷が与えられた。

(「突き」の時にも思ったけど……特技って凄い!)

ハルマサは手に着いた血を払いつつ、最後の敵を見る。

(残りは……ドスランポ……って逃げとる――――――!)

何処にも居ませんでした。
流石ですね。

ランポス(Lv5相当)が、えーと27体?と、ドスファンゴ(Lv7相当)も倒したので、経験値がちょっと入りました。
経験値47ゲット!

残りは……2511必要です!
桁が違ぅッ!

やっぱりレベルが上の敵を倒さないとダメなんだね。
でも格上を相手にするには、毎回耐久力が心元ないのです。

スキルで上昇するの「防御術」での熟練度アップだけだから……。
で、自分より上の相手に対してスキル発動すると熟練度鰻上りなんだけど、格上相手に防御なんてしてたら、ザザミさんの時みたいになるって言う、ね!
どうしろと!

しょうがない、ここは僕の七大奥義の一つ―――――――「難しいことは後回し」だ!

ふふ、昔から面倒なことを後回しにすることは得意中の得意!
本当にしょうがない奴だって言われそうだけど、解けもしない問題を前に唸り続ける趣味はない!
そんなことより必殺技を考えるんだい!

まぁ必殺技の練習が楽しいっていうだけですけどね。

さぁ、前回はザザミとか言う空気の読めないモンスターに邪魔されたけど、今度は大丈夫だ!
さっきは風だったから……今度は雷とかどぅだろう。

そういえば以前「雷操作」のレベルが足りないって言われた特技があったような……なんだっけ?
サンダー召喚はそもそもジムバッチが足りないし……。
うーんうーん。
……。

わかんないや。
もう、雷パンチとかの練習しよう。

これのやり方は検討が着いているんだ! さっきの応用さ!
魔力を拳の周囲に這わせて、殴った瞬間にビリビリと!
………でもザザミには雷効かなかったしなぁ……。弱点ぽいのに。

じゃあ雷って何が出来るん?
……ああ、キルアみたいに電気で速度ブーストできるじゃないか!

んん?速度ブースト……あああああ、思い出した!

≪ポーン! 特技「加速」を使うには、耐久力が159,748足りません。持久力が159,698足りません。精神力が159,447足りません。スキル「風操作」Lv15「雷操作」Lv15を習得する必要があります。≫

こんな事がありました。

(無理だ――――――!)

「加速」って難易度高いッすね!
苦しすぎるんですけど!
特に耐久力絶対無理じゃない!?
今は3千くらいしかないのに……。
まぁこの警告がなった時は1000もなかったから大分成長してるのかな……。

雷での速度ブーストも保留、と。

やっぱり浮気はダメですね。
さっきの特技……「風球」って言うの?
それを練習しよう。

手の平を上に向け、脇を締めて構えるハルマサ。
その表情は結構真剣である。
ステータスにある、「風球」の説明を見て、よし、と頷くと、魔力を編み始めた。

一番! まずは魔力の線で球を編みます。線を多くするほど大変です。

二番! そこに風を送り込みます。手でハタハタと。いっぱい風を送り込むとそれだけ魔力が必要です。

三番! 魔力に沿って風が回り始めます。ここで魔力を送って風を加速させたりすると、維持が厳しくなります。

四番! 維持が出来なくなって、暴発します。

(って暴発した―――――! ちょ、イタイイタイ!)

パァン! と四方八方に溢れた風は、切断属性らしき物が付与されていたらしく、凄く鋭い。
ヒョロッとした木が、スパッと切れたりして。

一番近かった僕も結構な被害を受けた。
体はそれなりに頑丈なんで深めに切れた、くらいだけど、閻魔様に貰ったローブがズタズタになってしまったし。
あのカニの攻撃で大分ほつれていたから……。

使い物にならなくなったローブだが、何とか上手くして股間くらいは隠したい。

器用さの高い僕なら……こう、やって……フンドシが出来た!
ナイスフィット!
腰巻だけだとチラリズムがあるからフンドシでごわす。


(あと……カロンちゃ――――――――――ん!)
【女神と呼べぃ。フンドシなんぞ履きおってからに……。】

カロンちゃんは相変わらず綺麗な声です。
あとフンドシはどうでもいいよね。

(じゃあ女神ちゃん、傷をちょちょいと治してください。)
【毎回それじゃの。たまには違う用事で……】
(何か言った?)
【うるさいわ!】

まぁ頼むまでもなく治ってるんだけど。
相変わらず回りに優しくないね。
触るものみな、枯れ落ちる、みたいな?
ギザギザどころじゃないハートだよ。

(じゃあ女神ちゃん、今、練習している特技あるんだけど、見ててくんない?)
【聞こえとったんかぃ! ……別に構わぬが、我は魔法なんぞ感覚で撃っておるゆえアドバイスはできぬぞ?】
(女神ちゃんが見てるだけで頑張れるよ!)

好きな女の子は最高の起爆剤だからね!

【む……そうか?】
(そうだよ、明らかに声が嬉しそうな女神ちゃん。)
【違う! 気のせいじゃ!】
(そう? でも、いつかカロンちゃんを召喚して一緒に冒険できたらいいと僕は思ってるよ。)
【そ………う、うむ。我もこの窮屈なところより、貴様のそばの方がマシじゃの。はよう力をつけぃ。】

まぁ貴様のゴミみたいな魔力じゃ不可能じゃが……と殊更残念そうな声を出す女神ちゃん。
これは……期待しちゃうぜ!
さっさと強くなってやるゥア――――――!

(その時はよろしくね! じゃあやるから……「風球」!)
【ほう、面白い技じゃの……】


その後、カロンちゃんにダメだ下手糞と言われつつ、練習を繰り返しました。
カロンちゃんに貶されても全くやな気分にならないから不思議だね!

何回か失敗して、フンドシが切れてポロリとかあったけど、カロンちゃんは平気そうでした。
鼻で笑われなかっただけでなんか安心しちゃったぜ……。


<つづく>



レベル:9
耐久力:2898 →2909
持久力:6957 →7048
魔力 :11863→13193
筋力 :4200 →4257
敏捷 :15508→15519
器用さ:20027→21382
精神力:12723→13472
経験値:2560→2607 あと2511

拳闘術Lv4 :58   →115 ……Level up!
解体術Lv5 :121  →173 ……Level up!
身体制御Lv10:8339 →8387
暗殺術Lv9 :4628 →4677
撹乱術Lv10 :6212 →6243
神降ろしLv11:10922→11671
風操作Lv11 :13671→14926
魔力放出Lv11:12985→14315
聞き耳Lv8 :1067 →1782 ……Level up!
的中術Lv8 :2079 →2144

現在のスキル持続時間(全快時)
暗殺術 :335秒
神降ろし:694秒

<あとがき>

簡単にフラグ立てすぎなのかも知れない。






[19470] 60(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/09/14 08:10
<60>


「出来た……!」

シュイーンと右手の上で回転する風の塊。
直径はビー玉くらいになっていた。
最初はナルトの螺旋丸くらいの大きさでやってたんだけど、カロンちゃんに【なんでそんな小さい球を作っとるんじゃ?】と聞かれて、そういえばそうだね、と。

風の密度を上げるのも、操る球を大きくするのも同じくらい難しいんだけど、
威力は大きさに比例し、風の密度には乗数倍するみたい。
これ器用さ上がったらトンでもねぇ威力になるね……。
まぁとにかく、密度と大きさの関係がそうなんだったら、いっそ縮めてしまえと。
カロンちゃんは大きくしないのか、って言いたそうだったけど、大きくしたらまたパーンでポロリしちゃうから。

そして出来上がったのがこの殺戮ビー球です!
これを打ち合うビーダマンは血で血を洗う戦いとなるね!

とりあえず、そろそろ維持もきついんで岩に押し付けてみます。

「てい。」

バギャア――ン!

「ぅわ。」

キュウンキュウン回転する風の塊を押し付けた瞬間轟音が響き、もうもうと砂塵が立ち込める。
土煙が晴れたさきには――――――

「何もないね……」

岩が消し飛んだみたい。下のほうに抉り取られたような岩の基部が残っている。
あんなちっちゃかったのにすごいぜ!
ついでに反動で手の平の皮が一枚吹っ飛んでしまって血だらけだね。
さり気に痛いぜ!
ついでに砂塵が目に入ってちょっと痛い。

頭の中の少女声はうむ、と頷いて言った。

【小さい割にはなかなかじゃの。】

『なかなか』の判定出ました―――!

(ぃよっし! 完璧だッ!)
【いや、あんまり褒めておらんぞ?】

ガッツポーズを取る僕に女神ちゃんが呆れたような声を出すけど、貶されないだけで嬉しいのさ!
あとは器用さと「風操作」のレベルが高くなっていけば、ドンドン密度を高められるぞ! 大きくするのもありだし!
惜しむらくは手から離せないことだね。
離した瞬間、制御が半端なく難しくなるし。本当に螺旋丸っぽい。今は螺旋ビー玉だけど。


【む、そろそろ時間じゃ。また呼ぶが良い。】
(またねー。)

ビューンと飛んでいく緑色の光を見つつ思う。
カロンちゃんって何時呼んでも直ぐ来てくれるけど、用事とかないのかな。
ハスタァさんはデートとか言ってたからその辺気になるなァ。
でも聞くのも失礼だろうし……モヤモヤするね!


そうそう、「風球」の反動を受け止め続けていたら、「風耐性」が出たので、これからは風魔法も使えるのさ!
必殺技を練習するだけで、様々な才能が開く!
これぞティート! くそぉ噛んだッ!

ともあれ現在は魔力もなくなり、何をしようか迷うところである。
魔力に頼らない特技はあるが、さっきのビー玉を見ると、威力が全然違う。

もう基本戦術が「魔力大事に」になりそうだよ。
でも、本当にする事がない。
お腹はまだまだ大丈夫だし……

ここで僕の前には二つの選択肢がある。

1番。
先へ進む。レイアやレウスなんてスルー! スルー!
2番。
偵察しようぜ! 火竜戦は情報命! 戦う前に勝負は決まっている!

2番、かなァ……。
1番は魅力的だけど、正直このまま進んでも、加速度的に強くなっていく敵に対処できないと思う。
ナルガクルガとか、本当に無理っぽい。
折角、もう少しで手の届きそうな敵がうじゃッと居るんだから、ここで経験値とスキルの熟練度を稼ぐんだ。
でないと、どうせ死に戻りだよ。せっかくザザミに殴られても生き残ったのに。

それに……忘れかけていたけど、金貨も集めなきゃ。
だから倒せそうな敵はジャンジャン倒していく必要がある。
ちなみに金貨は、現在62枚。
ランポスの皮で作った袋っぽい何かに入れているんだけど、そろそろかさばって来た。
背負い袋とかが真剣に欲しいところである。

という訳で、選択肢は2番。
ふんどし一丁でランポス革の袋を担いだ男のスニーキングミッションが始まります。





ハルマサが大陸上空から俯瞰した光景と、現在の場所を頭の中で照らし合わせた結果、ハルマサの居る森丘フィールドは楕円形の大陸の左側、赤道?付近からやや南、毒の沼地よりに配置している。

森丘フィールドには中心に大きな岩山があり、その周囲を草原や川、川の両脇に生える河岸林の帯などが囲んでいる。
川は、大陸の北から流れてきているようで、森丘フィールドを横切り海へと流れている。

中心の岩山の周囲を回ってみることで、いくつか入り口を発見した。
とは言え、これだけでも結構な時間がかかった。岩山上空には、常に5匹以上の火竜が旋回しており、時たま地上に降りてきたりする。
5匹以上、なのだから時には7匹になったりする。
色も赤茶けた竜や緑色のもの、桜色に蒼い奴や金銀の奴も居て非常にカラフルである。
ゲームに出てきた、通常種、亜種、希少種はオス・メスとも網羅してあるようだった。

それらの監視の目を掻い潜りつつ、やたら巨大な岩山をくるりと回ったので、精神的に非常に疲れた。
近づくのも怖いので、基本的に1キロくらい離れての偵察である。
上空からの監視には「暗殺術」が有効なので、隠れるものが少ない時は積極的に使っていったが、敵から遠いためかスキルの熟練度はそれほど上がらなかった。

1回、寝ている金色の火竜のそばに行ってしまった事があった。

そばと言っても、「空間把握」に入るライン、60メートルほど離れた地点だったが、それでも見つかれば簡単にやられる距離ではあった。

鼻ちょうちんを出して寝ているリオレイアは鋭角なフォルムを金色の鱗が彩り、非常に綺麗だった。
その美しさと動揺、強さもまた頭一つ抜けていた。
何せ金色のリオレイアはレベル12相当だったのだ。
レベル11のリオレイアでさえハルマサよりかなり速かったのだから、レベル1つ分も違うこの火竜はどれほど疾いのか。
まぁ2倍くらいだろうが。

とにかくハルマサは無印リオレイアより遅かったダイミョウザザミと比べても遅いのだ。
ここは無難に避けるべきだろう。
この時ばかりは「風操作」も使い、音すらも伝わらないように気をつけたものである。

そうして一周回り終えたところ。
なんと夜になっていた。
この大陸は太陽が巡るらしく、上にあったと思った太陽が、やがて沈み、代わりに青白く光る満月が顔を覗かせていた。

「月がきれいだね……。」

岩の上でぼんやりしてしまうハルマサである。
そろそろ休む必要がある。
怪我したり回復したりと体も休息を欲しているようだし、精神的にも疲れているので休んだほうがいい。
明日は、朝から見つけた入り口の1つへ突入するつもりであり、さっさと寝るべきなのである。
だが、ハルマサは何となく眠れないで居た。

(やっぱり寂しいのかな……)

母と過ごした一日が、思いのほか効いているのだろうか。
誰かと一緒に過ごしたい気分になっていたのだ。
でも、こんな夜中にカロンを呼び出すのも躊躇われる。
用もないのに寂しいからって呼び出すのはダメだと思ってしまうのだ。

携帯電話とかあればなぁ……。
寂しい誰かと話したい。傷の舐めあいでもいいから、一緒に居たい。
そんな気分だった。

これは弱さだね、とハルマサは感傷を切って捨て、横になる。
視界に入る星空は、呆れるほどに綺麗だった。




<つづけぇー!>




レベル:9
耐久力:2909
持久力:7084 →7562
魔力 :13193→14698
筋力 :4257 →4260
敏捷 :15519
器用さ:21382→23047
精神力:12723→13628
経験値:2598 あと2520


拳闘術Lv4 :115  →118
身体制御Lv10:8387 →8392
暗殺術Lv9 :4677 →4836
走破術Lv6 :273  →592 ……Level up!
神降ろしLv11:10922→11827
風操作Lv11 :14926→16581
魔力放出Lv11:14315→15820
観察眼Lv9 :1220 →2971 ……Level up!
鷹の目Lv9 :1499 →3295 ……Level up!
聞き耳Lv9 :1782 →3540 ……Level up!
空間把握Lv9:2789 →4781
調理術Lv1 :4  →9




<あとがき>
蛍光灯頑張って!(マジで)

電灯が点いたり消えたり……眼に悪い!
私の地べたに這う視力をこれ以上奪わないでぇ―――!
蛍光灯かえても変わらないし……一度解体しないとダメなんだろうか……。時間ねぇよぉ。

それはさて置き、もう少しでフルメタの最新刊が出るようですね!
2ヶ月連続刊行とか、私を期待で破裂させるおつもりか!

私のssもワクワクする展開を心がけたいものです。
難しいけど、目指すのは別にいいですよね! 志は山よりも高ぁく!

明日も更新!

感想ありがとうございます! 若返りそうです!


>現代編がういてるように
うん。作者もそう思う。
違うレスにしようかいっそ消してしまおうか。
迷いますな。明日までに決めるッス。


>モンハンのモンスターじゃたりなくねぇか?
明日は少し違うのも出てくるんだぜ!

>烈火の炎
懐かしくなった。
そういえばそうでしたね。手元にないんで資料にできないですが安西さんの戦闘描写は言葉にしやすそう。

じゃ、また明日!



[19470] 61
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/11 18:57



<61>



朝。
木の根元に掘った簡易な洞窟の中で、ハルマサは眼を覚ます。
皮膚が堅いため虫刺されなんか気にしないで良いのが助かるところ。
刺してくる虫がランゴスタ並に大きかったら分からないが、幸運なことにそんな虫の襲撃はなかったようだ。

で、起きた原因ですが。

「ギャォアアアアアアアアアアア!」
「ゴォアアアアアアアアアアア!」
「グァオアアアアアアアアアアアア!」

力一杯鳴いている火竜たちのお陰。
岩山の上から、草の大地の上から、もう咆哮しまくり。
朝日には、彼らを狂わせる魔力でもあるのか。
岩山の上に居る奴も平原に居る奴も、同じ方向に向いて一心不乱に鳴きまくっている。

ニワトリかッ! と思いつつハルマサは起き上がる。
腹が減ったと川べり(キノコが生えているのだ)に向かうハルマサだが、直ぐに足をとめることになった。
川へつづく地面に昨日はなかった珍妙なものが鎮座していたのだ。

「……カボチャ? じゃないか。」

カボチャのような違うような変な作物である。
トリックorトリート!で使われるような、眼の穴が掘り込んである。

(???)

とりあえず触ってみようと伸ばした手が、サクン、と切られた。
というか小指が切り飛ばされた。
何時の間に出てきたのか、カボチャの横には鉈サイズの剣を持った小さな手が生えていたのだ。

「な!? ク…!」

ピュウ、と血が出る手を握りつつ、後ろに飛び退くハルマサ。
小指といえど焼けるように痛い!
直後、土を跳ね飛ばしつつカボチャ頭のモンスターが飛び出してきた。

「ピャー!」

とか言いつつ飛び出してきたのは、ハルマサにも見覚えがある姿である。
こちらの腰ほどまでしかないような大きさで、その体は3頭身から4頭身。
枯れ枝のように細い手足に不釣合いな、体の半分以上はある剣。

(チャチャブーか……!)

というかカボチャ見た時に気付いとけよ、と自分に突っ込むハルマサである。
だが、負傷してしまった現実は素直に受け止めなければ。
ハルマサは「ピッ!ピッ!プゥー!」と小馬鹿にしたような動きを見せるチャチャブーを睨みつつ、叫ぶ。
こんな時には頼れる彼女ッ!

「カーロン、ちゃ――ん!」
【………なんじゃぁ?】

眠たそうな声のカロンちゃんが来てくれました。朝早いもんね。ごめんね。
最近彼女のオートライフドレインに頼りすぎかもしれないが、他に頼れるものもないのである。

(右手の小指飛んじゃって……)
【む……痛そうじゃ。見せるな。……失った部位は復元できぬぞ? 切れ端を持ってきて傷口に押し当てるんじゃな。血止めくらいはしておこう。】
(さすがカロンちゃん。頼りになる……!)
【ふふん! 当然じゃ!】

ありがてぇ……!
僕の小指はチャチャブーの足元にある。
ならば、さくっと倒してやる!

彼が強気なのも、チャチャブーは「観察眼」で情報が読み取れるレベルであった事が大きい。

≪【チャチャブー】:擬態が得意な獣人族。弱点はマスクに隠された頭部。弱点属性はなし。状態異常無効。毒吸収。耐久力:1000 持久力:2000 魔力:0 筋力:6000 敏捷:23000 器用さ……≫

速さ特化型であった。
現時点で僕(敏捷:15519)よりも疾いが、ダイミョウザザミの時のように畳み込まれなければ……

(僕にはスキルがある!)

ギィ! と地面を踏み、チャチャブーの後ろに回り込むように移動。
「風操作」と「撹乱術」の発動により、僕はトンでもなく速くなる!
レベルが上がるごとにスキル発動時の上昇幅が大きくなってるんだよね!
体感だから細かくは分からないけど!

ともあれ、「撹乱術」Lv10はその効果を十全に発揮し、ハルマサはチャチャブーの背後に到達。
だが向こうの敏捷も高い。
チャチャブーは「ピギャー!」と鳴きつつ剣を横薙ぎにしてくる。

「――――――ク!」

咄嗟に身を引くが、チャチャブーはさらに剣を振ってくる。

ヒュ―ヒュ―ヒュオゥッ!

上中下、と体を高速で回転させながら繰り出された横薙ぎの斬撃を、頭を引き、腰を捻り、最後は飛びのいて避けるハルマサ。
ダメージはなかったが、それは向こうも同じこと。
スキルに振り回されているこちらより攻撃が上手い。手を出す暇が無かった。
ていうか前髪切れた。接近戦はまずい。

そしてチャチャブーの剣だが、「観察眼」Lv9では情報が読み取れないレベルのものらしい。
無骨なつくりの黒い剣だが、陽光に反射し、たまに紫色に輝くところを見ると……

「毒、かな?」
【うむ。正解じゃ。お主の手、ちょいと爛れておるぞ。】
「え……ほぅあ――――!」

む、紫色に腫れてる!?
痛いとは思ってたけど、こえぇ――――――!
どんなもの持たせてるんだよ神様!

【はよぅ勝負を決めて安静にせんと治療も出来んぞ。】
「が、頑張ります!」

スキルが一つで足りないのなら、さらに他のも発動するような状況にする!
ハルマサは手を翳し、叫んだ。

「風弾!」

手の先から魔力が噴出し、風となって牙を剥く。

「ピャ!?」

「風耐性」を得たことにより使えるようになったこの特技、とくとご覧あれ!
狙うのはチャチャブーではなく、その前の地面!
チャチャブーはバックステップして少し遠いけど問題なし!
ぶわ、と土ぼこりが巻き上がりチャチャブーの意識が僕から逸れた(らいいな)!

ハルマサは前方に向けてジャンプし、チャチャブーの真上で空を踏む。
行き先はもちろん、

(真下だぁー!)

「空中着地」「撹乱術」「突撃術」の3つが同時に発動。
この瞬間、ハルマサの敏捷はスキル補正により53540。
ぶっちゃけチャチャブーの意識が逸れていようがいまいが関係なかった。

「だりゃあああああああああ!」

真下に向け、拳を突き出す。
これなら攻撃の狙いをつけるために足を止めなくて良い!
突き出すのは無論左手である。
腐ったトマトみたいな右手だと、ぶつけた瞬間ぐちゃあってなりそう。

「突き」が発動。
拳を突き出す動作が洗練され、腕の肉が盛り上がる。
アホみたいな速度で突き込まれた拳にチャチャブーが反応できるはずも無く、チャチャブーは頭をカチ割られ、絶命した。

「ふぅ……強敵だった……」

毒による油汗がでている額を拭っていると、カロンちゃんが割りと感心した風に言葉を発した。

【ほぅ、カニ相手の時はワザとチンタラ動いとるのかと思ったが、やれば出来るではないか。】
「……そだね。」

ザザミ相手でも、スキルを発動できていれば速さで優位に立ていたかも知れない、とハルマサは思う。
もしかしたらリオレイアにだって速さで勝てるかも。

色々反省点はあるが、岩山に突入する前にスキルの有用性に気付けたのは大きい。
そのことはチャチャブーに感謝したいハルマサだった。

加えて、もう一つ感謝したい事があった。
チャチャブーのドロップは、何だか良く分からないつくりの小さな細工だったが(奇面族の秘宝らしい)、もう一つ、チャチャブーの使っていた剣が残っていたのだ。

(うわ、紫ッ!)

思いも寄らないところで武器ゲットである。
しかもその切れ味は先ほど体感したばかり。
これは使えるぜ! とばかりに飛び上がるハルマサであった。

その後、風で吹き飛ばしてしまった自身の小指を捜すことに結構な時間を使ったが、無事くっ付いてほっとするハルマサだった。


「じゃあね女神ちゃん。また後で呼ぶかも知れないけど。」
【ふ、良かろう。今日は他の呼び出しがあっても断ってやるわ!】

なんか束縛しているようで申し訳ないね。出来るだけ呼ばないつもりだったけど、積極的に呼んだ方がいいのかな。
いやしかし魔力が……!

「他の人からも呼び出しもあるの?」
【ふふん。我は人気なのじゃ。】
「分かる気がするなァ……。」

あの魔法の威力だと、頼りたくなるかも。

「女神ちゃんはみんなのアイドルなんだねぇ……」
【だと良いのじゃがの……そう言ぅてくれるのは貴様くらいよ……ふふ。】

何か暗いよカロンちゃん!

またの、と言って女神ちゃんはバビュンと帰っていった。
僕にはもったいない神様だね。

さて、手に入れた剣である。
近くで見たら黒いどころかほとんど紫で、うっかり触ったら毒に侵されそうなドギツイ色である。
大きさは鉈サイズ。
切れ味は、石を豆腐のように切れるくらい。
この上の段階はなんだろう。クシャルダオラを豆腐のように切れるくらい?
良く分からない。

まぁとにかく力もいれずに石を真っ二つに出来るこの片手剣(というには少し小さい)は僕の助けとなりそうだ。
盾も欲しいところだけど贅沢は言ってられないよね。

で、この剣があれば、ついに「暗殺」スタイルが完成するんじゃないかな。
背後にそっと忍び寄り……首を一閃!とか。
火竜に試してみよう。

ちなみに金貨は6枚出ました。ランポス革の袋に入れて……と。

よーし! やる気はMAX!
充実している!
やるぞぉおおおおおおおー!

ハルマサは、気炎を巻きつつ、「暗殺術」を発動して岩山へと突撃しようとして、その前に腹ごしらえをするため川べりへと向かうのだった。




<つづく>


毎度ステータスです。
今回はレベル9.5相当のチャチャブーを倒したので結構上がっています。
まぁ同レベルは格下扱いなんでそうでもないですが。

耐久力:2909 →2930
持久力:7562 →7609
魔力 :14698→15008
筋力 :4260 →4463
敏捷 :15519→15770
器用さ:23047→23381
精神力:13628→14171
経験値:2608→2928 あと2190


拳闘術Lv5 :118 →220  ……Level up!
身体制御Lv10:8392 →8425
突撃術Lv9 :3766 →3867
撹乱術Lv10 :6243 →6345
空中着地Lv10:6583 →6685
撤退術Lv9 :2877 →2929
神降ろしLv11:11827→12329
風操作Lv11 :16581→16892
魔力放出Lv11:15820→16130
戦術思考Lv9:4237 →4278
回避眼Lv9 :4247 →4250
観察眼Lv9 :2971 →3424
鷹の目Lv9 :3295 →3668


前回投稿分は割りと本気でスキルのことを忘れていました。
スキルないとそりゃあ死んじゃいそうになるよ。
手に入れたのは「奇剣チャチャブー」系の片手剣ではないです。
大きさは少し小さい感じで。




[19470] 62
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/11 18:58

<62>


キノコをモリモリ食って、川の水をガブガブ飲んだ後、ハルマサは岩山の入り口の一つへとやってきた。

岩山は、この大陸において二番目くらいに高い山だ。
一番は北に位置する山で圧倒的に高い。
対して、岩山はそれほど高くもなく、標高は400mちょいである。
巨大な岩が隆起し、、年月と雨や水が様々な加工をした結果、出来上がったような代物だった。
相変わらず制空権は火竜のもので、今日は一段と活発的にクルクルしている。
岩山に近づくのは「暗殺術」無しではかなり勇気が必要だっただろう。

透明になりつつも、衝撃吸収で踏み込み音を消しながらハルマサは走って岩山へと到達し、ピタリと背中をくっつけて人心地ついたところである。

さて、ハルマサの右にはぽっかりと岩の裂け目が口をあけている。
暗くて奥は見えないが、風がそよそよと流れ出ていることから、どこかに通じていることは分かる。
この辺りは木も生えていて、休んで居ても早々位置を補足されることはないだろうが、ばれたら火竜祭りが開催されることは間違いない。
長いこと留まる気はハルマサにはなかった。

(いくぞ……3……2……1ッ! GO!GO!GO!)

やたら高いテンションのまま、ハルマサは入っていった。
緊張しすぎて頭がハイになっているのかもしれない。




岩山の中は温度が低く、とても静かであった。
時折遠くから、小さく鳴き声が聞こえるくらいで、あとはハルマサの呼吸音と足音くらいである。
裸足でよかった、とハルマサは思う。
だが、その微かな音でさえ反響して良く響く。

頭上は2メートル程の高さ、幅も同様、とまるで人が通るために作られた通路のようだった。
実際その通りかもしれないが、この大きさなら飛竜は入って来れない。
少しは安心しても良いのだが、そうは行かない、とハルマサは感じていた。

「聞き耳」で探ったとき、微かにチャチャブーっぽい声も聞こえたのだった。
あの「ピャー!」という無邪気に聞こえる声である。
先ほどは楽に倒せたが、この狭さでは厄介に思えるのだ。
手元に武器があるのでさっきよりはましか?

あとはランポスの声も聞こえたけど、適当にやっても勝てる相手は基本的に放置だね。
会ったら金貨のために倒させてもらうけど。

「ふぅ……!」

息を一つ吐き、ぎゅ、とランポス革の袋を握ると、また先に進むハルマサ。
涼しいはずだが、背中には汗が浮かんでいた。


途中で、石を蹴飛ばしてしまって大きい音が鳴ってしまったり、ランポスを見敵即殺したりしながら、200m程進んだ頃だろうか。
延々と続くかと思われた岩の回廊は、唐突にひらけた。

いきなり足場がなくなり、一段どころか二段も三段も下がった先に広大な空間が広がっていたのだ。
幅も奥行きも30メートルくらいか。高さは上が暗くなって見えないが相当だ。
向こう側にはハルマサの居る高台より高い位置に穴が一つ開いていた。
もしかしてもう竜の巣? ちょっと心の準備が……などと思ったハルマサだったが、その予想は外れた。

「ピャ?」
「ピャー!」
「ピキャアー!」

チャチャブーの巣だった。
カボチャっぽい被り物をしたモンスターたちは、毒々しい色の剣を振りながら、こちらを見上げていた。
全部で7匹のようだ。

あれ? 森丘にチャチャブーの巣とかありなの?
ずるくない?

モンスターたちの大きさは皆均一で、上位種は居ないようだった。
確か、キングチャチャブーだっけ?
チャチャブーに梃子摺っている現状で、出てこられてもきつかったけど……。
ていうか複数ってキツイよ!

ここでじっとしているのが正解なのかな?
不思議のダンジョン系だと、複数を相手取る時は通路に引き込んで一対一が基本だったけど……
この通路の広さにこの相手だと、逆効果だね!
相手は複数で、素早く動けないこっちをフルボッコ状態になっちゃうよ。
ええい! やってやるッ!

と、決心を固めているうちに、チャチャブーの側からアクションがあった。
腰の後ろにつけた小さなドングリ型の鞄から取り出した、小さな樽を投げてきたのだ。

(……?)

そんなに速くも無いので軽く避ける。
何がしたかったのか、といぶかしんでいると、答えは直ぐに出た。

背後で爆発が起こったのである。
轟音と共に、岩が一部崩れたようだ。道がふさがったかもしれない。

(爆弾ッ!?)

彼の知識には無い攻撃である。
知識に無くてもデータにはあるのだが、ハルマサはどこか理不尽を感じてしまう。

爆風に押し出されるようにハルマサは高台から飛び出さざるを得なかった。
しかしその先に居たのは飛び上がってきているチャチャブーであり、いらっしゃいませ、とでも言うように剣を振り下ろしてきていた。

「ピャアー!」
「ちょ、ずるい!」

キン! と剣で受け止めるが、風を切り裂くチャチャブーの斬撃は、足場も無い状態では止められない。
元々筋力で負けていることもあり、あっけなく吹っ飛ばされて、その先は岩。

(く、「空中着地」ッ!)

だん、と作り出した足場を蹴りつけ、体を回転。
岩に足から着き、膝で衝撃を殺し、すぐさま移動する。
チャチャブーが素早い動きで迫っている。
ガツン、と岩を抉る斬激に肝を冷やしつつ、さらに移動。

岩に叩きつけられることは回避したが、短い間に2回も「空中着地」を使ってしまった。
火竜に挑むのは明日にしようかな……などと弱気が思考をよぎるが、それもこの場を乗り切ってからである。

毒の剣を振り上げ、小さな7匹の悪魔たちは迫ってくる。
その速度はハルマサにとって脅威以外の何物でもない。
スキルが発動しなければ勝れないということは、何もしていない状態では彼らの動きが捉えきれないということでもあった。
フンドシ一丁のハルマサには、かすり傷すらかなり怖い。

幸運なことは、この岩山の岩が頑丈なことだろうか。
踏み切っても、崩れる事が無いので動きは阻害されない。
それは相手も同じだが、着地の直後に敏捷が上昇するスキルを持っているハルマサにはとても重要なのだ。

一体なら、距離をとってしまえば如何様にも出来るが、7体はキツイ。

「――――――クぅ!」

一瞬にして繰り出される剣は3つ。右腕、頭、左脚、と狙いも降られる方向もバラバラで、勢いだけが等しく速い。
頭を下げつつ右手の剣で「防御」をし、左足を狙うチャチャブーに風を放つ。
そしてすぐさま離脱。
一瞬開く距離。だがすぐさま追いすがり、振られる剣の数、今度は増えて、倍の6!

(理不尽だぁアアアアアアアアアアアア!)

広いように思えたこの空間も、高速で動くモンスターを相手取っては狭いと感じるものだった。
ハルマサは縦横無尽に跳びまわるが、相手も壁走りなんて軽くやってくるモンスターである。
これほどの脅威を相手にして、スキル熟練度の上がり方は芳しくない。
やはりレベルが近い事が関係しているのか。

(くる……しいな!)

ギィン! と剣を弾きつつ、ハルマサは流れる体を「身体制御」で押さえつけ、少しからだの流れているチャチャブーの頭を掴み、隣で剣を振り上げていたチャチャブーに叩きつける。

(同士討ちでもして………お願いだから数減ってくださーいッ!)

先ほど右腿を切られて右足がズクズク痛んでいる。そろそろ限界なんだよぉ!

だが、その期待も裏切られる。
チャチャブーの説明にある「毒吸収」。
これは同士討ちの危険をなくすと共に、ハルマサの精神力をへし折らんとする特性だった。

ズバッ!

「ピャア~……」

切りつけられたチャチャブーは、紫に発光し、どこか気持ち良さそうな声を出す。
そしてハルマサが「風弾」で凹ましていた被り物がポコンと復元したのだ。

(もぅ無茶苦茶だよ……!)

全てを投げ出してしまいたくなる光景だ。
ていうか、こいつら仲間が瀕死になった時、切りつけて回復させたりするんじゃない!?
ドンだけ性格悪いんだよ! 神様なんかケツにウンコ詰まって死ねやファ――――ック!

神を口汚く罵りつつ、ハルマサは以前もこんな苦しい事があったな、と思い出していた。
あの時は、どうやって乗り越えた? いや、死んだんだった。
でも、解決策はあったはずだ……

――――――「暗殺術」か!

思いついてすぐさま発動ッ!
体を透過させつつ、ハルマサは上に跳ぶ。
全力での跳躍は足場にヒビを入れ、チャチャブーたちは消えた標的に戸惑い、隙が出来る。
ここに来てようやく作り出せた隙。
この機会を逃すほど、ハルマサには余裕もないし、慈悲も無い!

(はぁああああああああ!)

空中で右手を開き、ハルマサは魔力を凝縮させ始めた



<つづく>




レベル:9
耐久力:2930 →3929
持久力:7609 →8271
魔力 :15008→15438
筋力 :4463 →5217
敏捷 :15770→17512
器用さ:23381→24021
精神力:14171→14516
経験値:2928→2929 あと2189  ……ランポス一匹倒したので。





拳闘術Lv6 :220 →588 ……Level up!
片手剣術Lv6:0   →386 ……New! Level up!
身体制御Lv10:8425 →8730
暗殺術Lv9 :4836 →4942
撹乱術Lv10 :6345 →7204
空中着地Lv10:6685 →7011
撤退術Lv9 :2929 →3742
防御術Lv9 :1754 →2599 ……Level up!
風操作Lv11 :16892→17227
魔力放出Lv11:16130→16560
戦術思考Lv9:4278 →4623
回避眼Lv9 :4250 →4605
観察眼Lv9 :3424 →3819
空間把握Lv9:4781 →5026






[19470] 63
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/11 18:58


<63>



魔力は変質し、風になる。
密度の高い風が、押し込められて暴れ狂う。
青く発光する風塊がハルマサの手の上に出現し、辺りの空気を震わせる。

頭上に煌く青い光に気付いたチャチャブーが、壁を走りあがり、爆弾を投げてくるがもう遅い!

これは「風球」? もちろん違うさ!
繰り出すは「風弾」の上位魔法のさらに上位!

ギ、と風を握り締めたハルマサは、それを下へと叩きつける。
指の間から漏れる風。
握るハルマサの指を切り頬を裂く、烈風の凝集体!

――――――極・風弾。

「だぁああああッ!」

ゴォアッ!

それは以前食らったクシャルダオラのブレスに届かないまでも追いすがる、そんな威力の風だった。
凝縮され、渦巻き暴れる風塊は、爆弾の爆風すら飲み込みつつ、チャチャブーたちに直撃。
岩を掘削し、周囲に飛礫を撒き散らす。

『超』の上にあった『極』、という階位。
消費魔力はバカ高いが、威力は折紙つきだった。
これも「風球」練習している時に、【これ使った方がはやいぞ。】と教えてくれたカロンちゃんのお陰である。
名前の違うその技はこの体だと、「極・風弾」として扱われた。
スキルレベルの高い「風」でしか使えないが、ぶっちゃけこれが必殺技だと言われたほうが納得できる光景である。
ただ、消費魔力が5000で、『超』(消費魔力700)とあまりに違いすぎる。間にいくらか段階がある気がする。

残り魔力の半分を使って放たれた風塊は、チャチャブーの数を一気に減らすことに成功していた。
残りは……壁を駆け上がっていた2匹!
しっかり巻き込まれて半死半生だ!

ハルマサは空を蹴り、チャチャブーたちへと踊りかかる。
2体のモンスターは、互いを回復させようとでも言うのか、向き合って剣を振り上げているところをハルマサに蹴散らされた。



「ふぅ……シンドかった……。」

辺りに落ちた金貨と、残っていた3本の毒剣を拾い集めて、ハルマサは座り込んだ。
あ、カロンちゃん呼ばなきゃ、とも思う。

そんなハルマサだが、レベル9現在でレベル9の敵を倒すと、経験値は320手に入る。
6匹倒した時点で喜ばしいことにレベルが上がっていた。

ボーナスは1280で、一番低い耐久力にとってかなり大きい上昇値である。
ヒャッハー! レベル10二回目ッ!
前回より強いんじゃないかな!? どうなのかな!?
正直覚えてないわーッ!

ハルマサは思考をおかしな方向に飛ばせつつ、疲労のままにダルンと座っていた。
そんな彼が背を預けるのは岩の壁。
彼が侵入してきた方角から見て右方向の大岩である。

――――――ドゥンッ!

(わッ!)

その岩が、脈絡も無く揺れた。

え、ちょ、まじですか。
正直もう今日はこれでおーわりっ! って気分なんですけど。連戦とかやめて欲しいなー……なんて。

貴様の嘆きなど知らん! ワイのターンはコレからじゃい! とばかりに震える大岩は、二回、三回、と震え、四回目には内側から爆発した。

(ちょー! もうホント勘弁してくださァいッ!)

二回目の揺れで危険を察知して飛びのいたハルマサは、その勢いで進行方向の高台へと飛び乗り、泣き言を発している。
そんな彼の前に高さ20メートルはあるような大岩を砕いて現れたのは、今回の目的でもあるモンスターだった。

「グルル……」

GRRRRR……とでも表記できそうな音で喉を鳴らしつつ、蒼い火竜が鎌首をもたげ、ハルマサを見る。
30メートル四方の拓けた空間が一気に狭くなる。
竜の顔とハルマサとの距離は一メールほどしかない。

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【リオレウス亜種】:巣を中心に生息する飛竜の雄。長い年月により鱗は硬化し蒼く輝く。足爪に猛毒あり。
弱点部位、弱点属性その他の情報を得るには、「観察眼」Lv11が必要です。≫

見つめていると、蒼竜は鼻からひゅぼっと軽めに火を吹いた。
熱いッ! と思いつつハルマサは思う。

(YES! これは逃げろってことですねッ!)

こんな狭いところで火でも吹かれた日には、人型ステーキの出来上がりである。

「やってられるかァ――――――!」

ていうかこんな至近距離でどないしろっちゅねん。
殺人犯と一緒に居るなんて耐えられない、オレは部屋に戻るからな! 的な心境で、ハルマサは手に持っていた4本の毒剣のうち、2本を投擲。
そのまま後ろも見ずに駆け出した。

だが、「空間把握」で見えるッ!
鼻先で上手く二本の剣を弾き、口を大きく開けている蒼竜の姿を。
その喉奥からせり上がる炎の輝きが、ハルマサには見えてしまったのだった。

(いやだぁああああああああああッ!)

ゴ、――――――ォオオオオオオオオオオオ

背後から迫る爆炎は岩の回廊を溶かしつつ、ハルマサに迫る。
も、燃えてたまるかァ―――――――!

「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

手足を大きく振り、移動は腰から!
彼の一世一代のスプリントが始まった。















「で、帰ってきたと。」
「…………。」

ハルマサはチリチリになった髪の毛を直そうともせずに部屋の隅で膝を抱えている。
死に戻ってきた彼は、無言でその位置に収まったのである。
閻魔としてはメンドくさいと思わないでもないが、短期間で2層まで行った人物だ。
探索者の中ではお気に入りでもあるし、話は聞いてやろう、と思う。

というか裸で恥ずかしくないのだろうか。
右手に束ねて持った二本の毒々しい色の剣とか、反対の手の青い色のみすぼらしい袋とか気になるものも持っている。
話聞きてぇー、と閻魔は思った。

「何かあったのか? 話したくなかったら、まぁ構わんが。」
「……脚が毒で腫れてたんです……炎操作でも全然無理で……カロンちゃんは植物ないから無理とか言いますし……」

ブツブツ言い出した。

「要領を得んな。順を追って話してくれないか?」
「………実は……」


なんか色々大変なのだそうだ。
一日で金貨を110枚も集められるくらい。
でも閻魔なら余裕でクリアできそうだったので、感情移入も出来なかった。
というか火であれば、閻魔の場合、吸収してしまうのだ。

「そうか。大変だったのだな。そんな貴様に一つ良いものをやろう。」

でも、労ってやるくらいは出来る。
働きに応じた報酬もやろう。

今回金貨をたくさん持ってきたので、その褒美として倉庫で埃を被っていた「収納袋・中」を与えることにした。
これからは金貨回収も大変になるだろうしな。

「良いんですか……?」
「性能はあまり良くないがな。入ると言っても5万リットルくらいだ。」
「数字大きすぎて良く分からないんですけど……とりあえずたくさん入るんですね。」
「うむ。少々の衝撃や熱などにも耐える天国仕様だ。聞く限りでは貴様が居るところでは壊れはせんだろう。でも、あまり手荒に扱うなよ? 中のものには衝撃が行くからな。」
「はい。」

シャキッとハルマサは立ち上がる。
もう復活したらしい。
両手に毒々しい色の剣を持って仁王立ちである。

……少しは前を隠すべきではないか?

「……服を取り寄せてやろう。」
「助かります。」

いや、隠せよ。
遠まわしに指摘してやったろうが。
髪の毛チリチリのくせに何を堂々としているんだ。
というか何で髪の毛回復してないんだ? そんなにダメージがあったのか? 毛根に。

「服が燃えてしまって大変だったな。」
「ええ、ですが精一杯足掻いたんで食いはありませんッ!」

無駄に男らしいな。
……もしや楽しんでないか!?
じいっと見ていると、ハルマサは居心地悪そうに瞳を揺らす。
ようやく前を隠す気になったか?

「あの、閻魔様。そんなに見られると……」

ほ、頬を染めるんじゃない! あと見てない! 私は決して見てないぞ!?
そして隠せぇ――――――!



ハルマサの部屋着らしいジャージとついでに下着を転送してやったら、「もう少しで危ない趣味が……」などと言いつつハルマサは服を着込んだ。
ふぅ、困ったやつだ。
ちなみに靴は要らないらしいから裸足である。

床においていた「収納袋」をポケットに入れ、ハルマサは決意のこもった顔で、「お願いします!」と叫んだ。
いや、近いからそんな大声出さんでも聞こえてるぞ?

「うむ。頑張って来い。」
「ハイッ!」

元気でよろしい。少々やかましいが。
閻魔の手から飛び出した光に包まれて、恍惚の表情を浮かべつつハルマサはダンジョンへと飛んでいった。





<つづく>

いつもいつも逃げ切れると思うな!ということで。
たまにはこういう死に方もしとくべき。
デスペナ計算?
2時間かかりましたとも。
でも、もう慣れてきたぜ……!
次は半分でやってやる!
死ぬ前にレベル上がってしかもちょいと粘ったので、その分の上昇値も換算しています。


レベル9     →10(死ぬ前)→9
耐久力:3929 →6720  →3119
持久力:8271 →10588 →5346
魔力 :15438→19466 →9923
筋力 :5217 →7687  →3474
敏捷 :17512→21496 →11610
器用さ:24021→29326 →15411
精神力:14516→18782 →9756
経験値:2929 →5009  →2558 あと2560


拳闘術Lv6 :558  →446
蹴脚術Lv2 :25   →20
両手剣術Lv8:2887 →2309 ……Level down!
片手剣術Lv6:386  →1576 →1260 ……Level up!
棒術Lv1  :7    →6
鞭術Lv2  :28   →22
布闘術Lv1 :1    →0    ……Level down! 消えます。
解体術Lv4 :173  →138 ……Level down!
舞踏術Lv1 :6    →5
身体制御Lv10:8730 →9711 →7768
暗殺術Lv9 :4942 →3953
突撃術Lv9 :3867 →3093
撹乱術Lv10 :7204 →8872 →7097
空中着地Lv9:7011 →5608 ……Level down!
走破術Lv6 :592  →473
撤退術Lv9 :3742 →5339 →4271
防御術Lv9 :2599 →3872 →3097
天罰招来Lv8:2533 →2026
神降ろしLv11:12329→14216→11372
炎操作Lv9 :1618  →3547 →2837 ……Level up!
水操作Lv5 :325  →260 ……Level down!
雷操作Lv8 :1662 →1329
風操作Lv11 :17227→18342→14673
魔力放出Lv11:16560→19308→15446
戦術思考Lv9:4623 →5722 →4577
回避眼Lv9 :4605 →4723 →3778
観察眼Lv9 :3819 →4991 →3992
鷹の目Lv9 :3668 →2934
聞き耳Lv9 :3540 →2832
的中術Lv8 :2144 →1715
空間把握Lv9:5026 →5888 →4710
洗浄術Lv2 :20   →16 ……Level down!
折紙術Lv1 :9    →8
描画術Lv1 :3    →2
調理術Lv1 :9    →8


書いていて思ったんですけど、こんなずらずらとスキル並べて誰が読むんだって言う。
今度からデスペナの時はステータスだけ書こうか。




[19470] 64・誤字修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:01


<64>


閻魔様に話を聞いて貰っているうちに気付いた。
何時までもいじけていたってしょうがない!
せめて閻魔様の前では、潔くあろう!

そんな気持ちで立っていたのだけど、服着ろって言われてから閻魔様の表情を見ていると何だか変な気持ちがモヤモヤと……。
ダメだダメだ心頭メッキャ―――――ク!


そんなこんなで、またもや死んでしまった僕ですが、死んだ際、嬉しい誤算もありました。
新たな特性を得たのです。

≪耐久値を超える程度の苦痛を一定回数以上受けたことにより、特性「不死体躯」を取得しました。何度も何度も死亡しそうな攻撃に良く耐えた! 感動です! ていうかなんで死んでないのさこのゾンビッ! そんなあなたにこの特性を送ります。しっかり生きろよー!≫

またネタ系かと思わせる内容のナレーションだったが、意外や意外。
効果は凄く有用だった。


□「不死体躯」
 生命力を豊かに蓄える身体構造。あなたの体は、時間が経つごとに気持ち悪いくらい回復します。これであなたは不屈の戦士! 相手はビビッてベッチャベチャだぜぇー! ※涙でねッ!


『※』のところ全然いらないよね!
それはともかく、これでカロンちゃんへかける迷惑も少なくなるだろう。

気持ち悪いって言うくらいだから、ほんとに見る見る回復するんじゃないだろうか。
期待しちゃうね!



さてやってきました穴の前。
ダンジョンの入り口に来るのはもう何回目か分からないけど、その光景は来る度に様々に変わる。
基本は平原なんだけど、主に僕のせいで荒野になったりクレーターが出来たりと目まぐるしい変化である。

だが、今回の変化は僕のせいではない。
そう思いたかった。

(なんでジャングルになってるの……?)

太陽光が見えないほど、植生が繁茂していた。
ダンジョンの入り口周辺こそ、なにかのパワーで守られているのか平野のままだが、その5メートル離れたところから急にジャングルになっている。
太いつるや緑がかった苔むした大木が視界を妨げていて、遠くがどうなっているのかは見えない。
広がりを見せている枝葉のせいで、上に行くにもいくらかの障害を越える必要がありそうだった。

「一体なんでだろう……」

ハルマサは疑問に思いつつ、密林に歩み寄って……後ろに飛びのいた。
直後、ズギャ、と地面を抉る太いツル。
こ、これは……!

「もしかして閻魔様のところの動く観葉植物!?」

バカな! 前々回ライフドレインで死んだはずなのに!
地下にでも潜ってやり過ごしたのか!? それとも種か!?

ハルマサが呟くと同時、周囲の密林は一成にウネウネしだした。
この動き、やはり……!
確信するハルマサの耳に、遠くから「助けてくれぇ―――!」と男性の声が聞こえた気がしたが直ぐに声はしなくなった。
この辺周囲一帯は何も無かったはず。
するとこのダンジョンに挑みに来て……やられたのだろうか。

(た、助けに行ったほうが……いや、手遅れになっちゃった……)

「聞き耳」で、声が聞こえた辺りからジュウジュウと何かが溶ける音がしている。
命が一つ消えたようだ。

しかし、黙祷を捧げる時間も無い。

ジャングルのツタたちはぎゅ、と溜めを作り、次の瞬間恐ろしい勢いで伸びてきたのだ。
いや、これは射出という方が正しい速度。
それも周囲360度プラス頭上から3本、すなわち全方位からの同時攻撃であった。

だが、この程度の危機、幾度も潜り抜けたハルマサである。
全快状態の今、負けるわけが無いッ!
キン、と「回避眼」が発動。
逃げる道は……!

「だぁ!」

前に飛び出すと同時、手に持った毒剣でツルを切り払い、空いた空間に身を刷り込ませる。
だが、ツタは何故か螺旋回転をしており、掠ったジャージの肩が破れてしまった。
しかもかなり速い。
一層をクリアしていないハルマサであれば簡単に緑のムチに貫かれていただろう。

閻魔様は何でこんな危険なものを放置しているのだろう。
自分の光線でここに飛ばしたことは知っているだろうに……。

(あ、危険だと思っていないのか。)

あの方、強過ぎるから。
強者ゆえ、気付けないこともあるらしい。
ふ、ならばこのハルマサ、閻魔様の失敗を密かに帳消しにしてみせる!
隠れたところで超頑張れ僕ッ!

そんなハルマサが手を掲げて叫ぶのは、魔法の祝詞。

「超、炎弾ッ!」

手の先へと魔力があふれ出し、火炎へと変質、凝集する。
それを彼は密林へと投げつける。

「炎操作」のレベルは、前回火竜のブレスに巻き込まれた時にイヤというほど上がったからね!
「極」は撃てないけど、「超」だったら簡単さ!

ドゴォオ!

「超炎弾」の炎の温度は一定だが、規模は精神力によって変化する。
一万近い精神力のハルマサが放てば、それなりの規模となるのだ。

「シャギャアアアアアアアアアアアア!」
「な、鳴くんだ……。」

生態が謎過ぎる植物は密林全体を揺らして苦しんでいる。
ここが決め時!
畳み掛けるんだ!

「炎弾ッ!」

グバァ! と違う箇所も燃え上がるジャングル。
さらに、

「風弾ッ!」

風を送り込み、炎はさらに勢いを増す。
まだまだ行くよ!

「炎弾! 風弾! 炎弾! 風弾! 炎弾!炎弾!炎弾!炎弾! 炎弾ワッショーイッ!」

テテテテンション上がってきたァ―――!
フゥオオオオオオオオオッ!

異常に盛り上がるハルマサはさて置き、執拗なまでの攻撃に密林は火の海と化した。
その中心、これまで動かなかったこの密林の核が、郡体の危機を察して終に動き出す。

ジャングルの一部がズズズゥと盛り上がる。
それを「空間把握」で察したハルマサは、天へと「風弾」を放ち、視界を空ける。
そこに居たのはいっそ奇怪なまでの姿をした魔物だった。

「も、モルボル……?」

なんかあのFFXで出てきた、臭い息を吐いて状態異常をいっぱい誘発させる気持ち悪い外見の奴!
モルボルだっけ? ゲレゲレだっけ? 自信ない……。

密林の上に見える怪物は、目が着いた触手をメデューサのように頭にいっぱい持っており、口がでかくて、体の下には触覚がある。
現実に見せられると引くなァ……。
30メートルくらいあるし。
ズルズルとこちらへ近づいているようだ。

「ボルボルボルボルボル……」
(ぼるぼる言っとる――――――!)

魔力はあと……4000くらい。
僕に倒せるのだろうか……いや、僕は倒さなくて良い!
他に頼れる人が居るなら、ここはすっぱり任せよう!

「ハスタァ―――――――――――――ッ!」
【なんじゃああああああああああああああああい! ってお主、生きとるのか!?】

出てきたハスタァはいきなり驚いている。
え、生きてちゃダメなのだろうか。
さり気に傷つく。

「……この通りだよ?」
【む、ならば姉さんの勘違いか? そうだと思ったのだ。ふふふ、よい土産話が出来たわ! 今のオレは気分が良い! 何でも来い!】

言葉の通りハスタァは上機嫌である。
僕としても助かるね。

「雷雲を伴う雷を使って欲しいんだッ!」
【標的はあいつか! 良いだろう! 風もおまけしてくれるわァ―――――――!】
「おふっ!」

ハスタァが元気に宣言した瞬間、急激に魔力を抜かれて、ハルマサは軽いめまいを起こす。

【天罰ゥウウウウウウ……】

ゴォオと風が巻き起こりモルボル(仮)をもみくちゃにする。
緑色の血液(樹液?)が吹き出てかなり気持ち悪い。

【てきめぇええええええええええええんッ!】

言葉と同時、上空に集まっていた雷雲が、電光の瀑布を走らせる。
内臓にくるような爆音と共にハルマサは吹き飛ばされ、かなりの距離を転がった。
そして起き上がれば、今までで最高規模のクレーターが出来ているのだった。

ひゅう、と寂しく風が吹く。

怪物は影も形も無い。
ジャングルもあの怪物が拠り所となっていたのか急激に萎れていって無くなった。


【正直やりすぎたな、と今は反省している。】
「キャシーは残っているから良いけどね。」

立て札は少々焦げつつも立っていた。
……なんで残っているのだろう。今にも崩れ落ちそうなのに。
神様のパワーかな。

一層の中に煤が降り注いだ事が少し気になるけど、まぁ特に問題ないでしょ。

【では、さらばだ!】
「あーりがーとねー!」

黄色いハスタァは天上へと帰っていった。

焼け跡にあった白骨を、埋めてあげつつ、僕はこれからどうするか迷っていた。
ハスタァさんが魔力全部使っちゃったんだよね。
魔力回復するまで暇だなァ……。
「伝声」でも使ってみようか。

「カーロンちゃ――――――――――ん!」
『はわわ―――――ッ! あ、あ! あぁ……プリンが……』

プツン。
「伝声」の時間は終わった。

…………ご、ごめんなさーい!

その後昼寝したり寝すぎたりした。
そういえばカロンちゃんのライフドレインの方が早く片付いたかもなァなどと考えたりもした。

まぁそんな感じで魔力が4000ほど溜まった彼は、今度こそいけるだろうとキャシーに指輪を突きつけるのだった。


<つづく>

レベル:9
耐久力:3119
持久力:5346
魔力 :9923 →10570
筋力 :3474
敏捷 :11610
器用さ:15411→15551
精神力:9756
経験値:2563 あと2555


モルボル(仮)はLv6相当で、経験値は5でした。


天罰招来Lv9:2026 →2533
炎操作Lv9 :2837 →2907
風操作Lv11 :14673→14743
魔力放出Lv11:15446→15586
回避眼Lv9 :3778 →3779
聞き耳Lv9 :2832 →2841


□「不死体躯」
 生命力を豊かに蓄える身体構造。あなたの体は、時間が経つごとに気持ち悪いくらい回復します。これであなたは不屈の戦士! 相手はビビッてベッチャベチャだぜぇー! ※涙でね!



>現代編
良いと言ってくださる方もいる……。
もう分からない!
分からないので今のところ放置で。
話数たまってその他板行くか! ってなったらそのときもう一回考えることにします。

>グローなんたら
あなたが神か……

>H eroさん
ありがとうでありんす。

ほかにも誤字脱字いっぱいあると思います。申し訳ないです。




[19470] 65
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/12 19:56

ハルマサのステータス
耐久力:3119
持久力:5346
魔力 :10570
筋力 :3474
敏捷 :11610
器用さ:15551
精神力:9756

継続時間(全快時)
暗殺術:254秒
神降ろし:556秒

回復速度
持久力:3/分
魔力 :7/分




<65>


【第二層・挑戦3回目】


顔にバババと風を受けつつ、ハルマサは滑空していた。
既に姿は消している。
ジャージは風を受け止めやすいなァなどと思う。
そりゃフンドシと比べれば。

前回、上空で広範囲攻撃をされて危機一髪だったことをハルマサは覚えている。
よって、今回は攻撃が来る前に、目的地に向け空を蹴っていた。

ダン、ダン、ダン――――――!


ハルマサは、また森丘の攻略へと挑むつもりだった。
一度や二度の失敗ではへこたれんぞ――――――!
閻魔様のところで黄昏ていたのはノーカンで!

前方下方へ向けて全力で空を踏み込んで一歩ごとに加速しつつ、風を切って進む。

(ゆっくり空を飛ぶのも良いけど……こういうのも良いよね!)

僕は今、流星ッ!
人々の願いを受けて輝くのだ――――――ッ!
このダンジョン人いるか知らないけどね!

ハルマサは瞬く間に地表へと達し、神様印の衝撃吸収が行われ……勢いが殺され切らなかったので盛大に地面に突っ込んだ。
地面に足を脛まで突っ込みながら、ハルマサは巻き上がった泥に顔をしかめていた。
そう、泥。この辺の大地は非常に緩かったのだ。

「かはぁ、ペーッペッペッペ!」

うわぁ、また服が汚れちゃったよ。
神様の力も変なところで中途半端だ。
脛まで突っ込んだことで膝へのダメージがきつかったけど、地面柔らかいしまぁ大丈夫そうだね。
よっと。

ズボズボと足を引き抜き、森丘へと向かおうとしたハルマサは、「聞き耳」で嫌な声を聞いた。
ズシンズシンと大地を踏み鳴らしつつ、体長13メートルのモンスターが迫っていたのだ。

「ギョワアアアアアアアアアア!」

黒いゲリョスだった。強さはレベル11相当。

着地音がうるさかった……?
それとも?
……つまり、ゆっくり降りれば熱線に狙撃され、急いで降りれば衝撃吸収が完全には発動しなくてゲリョスに襲われる――――――ということか!?
もう何回目か分からないけど神様性格悪いと思うよッ!

ゴム質の尻尾をビヨンビヨン振り回しつつ、毒怪鳥はこちらに向かっている。
右方から来る彼らとハルマサの距離は、200メートルも無い。
ゲリョスは走ってきているが、走ることは彼らの本来の移動法ではないためだろうか、そのスピードはそれほど速くない。

(これならじっくり狙える――――――炎弾!)

ゴォオ! と飛んでいった炎塊は、斜め上へ飛び立ったゲリョスにあっさりと避けられる。


指先から飛ばしただけだから仕方ないといえば仕方ない。
もっとスピードを出すなら皮膚を焦がしながらでも掴んで投げないといけないので、ハルマサはしたくなかったのだ。
連続で撃つつもりだったが、ゲリョスのスピードは空において驚異的なまでに上昇していた。
地面を翼で叩くような羽ばたきをして、ゲリョスは黒い影となり空を舞う。

大きくU字を描くように空を飛び、きりもみ回転をしつつゲリョスは飛んでくる。
「暗殺術」で姿が見えないはずなのに、先ほどの魔法が打ち出された場所を見ていたのだろう、しっかりとハルマサのところに。

「ギョアッ!」

上空に居たはずなのに、距離はほぼ一瞬で無くなりハルマサは慌てて横に跳ぶ。スピード変化が激しすぎる!

ドギャア!

足爪から下りたゲリョスは地面を盛大に割り抉りつつ着地し、したと思ったら頭を少し上げてスン、と鼻を鳴らす。
そして間髪の間も入れず、ギョロリとこちらに眼を向けた。

「ゲリョァアアアアアアアアアッ!」
(こ、怖ぁ――――――!)

透明になってもほとんど関係ないのッ!?
嗅覚良すぎじゃない!?

ハルマサは驚きつつ、高速で吐き出された紫色の汚物を避ける。
汚物が落ちた地面は、半径3メートルが一瞬にして紫色に染まり、さらにジワジワと毒の範囲が広がった。

この毒!
この人チャチャブーみたいに「毒吸収」持って居ても全然おかしくないよ!
そして素手でゲリョス攻撃したら、そこから毒が吹き出そうだよ!

(ここは……必殺技の出番では!? ッてうわッ!)

考え事を中断して、低空飛行による突進をジャンプして避ける。
ゴゥ、と足元を過ぎていく黒い影に一発風をぶつけてやろうとして手を構え――――――
5倍ほども伸びたゲリョスの尻尾に足を掴まれ、引きずり落とされた。

「ちょ、なんでそんな正確に……いや、これまず、い……!」

足に万力で巻きつく尻尾は、ハルマサの力では外すのが困難である。
尻尾でさえもハルマサの筋力を上回っているのだ。

(く、「手刀斬」――――)

右手を振り上げた瞬間、ハルマサはぐぅんと足から引き上げられる。

「うぉ!」

またもや5倍ほども伸び、10メートルを楽に越す長さの尻尾はその長さの分ハルマサを持ち上げ―――――地面に叩き付けた。

「――――――ッ!」

咄嗟に地面に向け、右手の剣に左腕を添えて頭を防御。
瞬間、砕け散る毒剣と、折れるハルマサの腕。これで腕も毒剣も一本しかなくなった。

地表の下、厚い岩盤が叩き割られ、ハルマサも一発で瀕死の体になる。
肺から空気が搾り出されて声も出ない。
体に刺さった毒剣の破片が地味にやばい。

クレーターの中、ハルマサの足にはまだ尻尾が絡みついたまま。
もう一度やられたら………死ぬ!
しかし、それよりもさらにゲリョスは容赦ない。

尻尾が外れたと思ったら、ずしんと岩ごと体を抑える大きなゲリョスの足の爪。
左肩に食い込む巨大な爪より恐ろしいものが、岩に埋まったハルマサには感じ取れた。
「空間把握」にはこちらに向けて口を開くゲリョスの姿があったのだ。

(ここで毒なのッ!?)

間髪無くドボォ! と吐きつけられる毒の塊。
大半が岩を溶かすが、露出していた体がジュウ、と焦げる。
熱い……! 特に顔が痛い!
「空間把握」で見えるのは、二発目を吐こうと顎を開くゲリョス。

「ぐぅううううああああああああああッ!」

もう毒とか知ったことかッ!
折れた腕でゲリョスの足をがっしりとホールドし、

「――――――手刀斬ッ!」

「解体術」で見えた、ゲリョスの足指の弱点に、渾身の手刀をめり込ませる。
当たる瞬間「的中術」も発揮され――――――クリティカル発動ッ!

―――ブシッ!

「ギョアアアアアアア!」

丸太ほどもある足指は一撃で切断され、クルリと回る。
突然の痛みにゲリョスは跳び上がった。

切断面から飛び散る血液はやはり毒液混じり。
おかげで無事だった右腕まで毒まみれ。
痛いなんてもんじゃない!

ハルマサから飛びのいたゲリョスは、ざッざッざッ、と三度飛んで後ろに下がる。
「ゲゲゲゲ……」と喉を鳴らした後、怪鳥はおもむろに額のトサカを打ちつけ始めた。

カシュン!
一回目は掠っただけ。

(閃光ッ!? どうする―――どうする!?)
何とか岩を押しのけて立ち上がりつつハルマサは思考をまわす。

カシュンッ!
二回目も失敗。三回目は? 絶対成功するよね!?

(――――――考えてる暇がないッ!)

ハルマサは自身が持つ最も強い遠距離攻撃を選択する。
熟練度ボーナスで魔力はギリギリ足りる! ほとんどなくなっちゃうけど……死ぬよりマシだッ!
ぎゅお、と右手の上に巻く烈風。

「はぁあああああああああッ! 極・風弾ッ!」

今だ毒で煙を上げる右腕で、裂傷を受けつつ風塊を投げる。

ゴォッ!

開けた空間であるここで、少なからず風の塊は拡散する。

「ギョアッ!?」

とても致命傷には届かないが、広範囲を舐めた風は、ゲリョスを仰け反らせることに成功した。

ここだ! ここを逃したら、死ぬと思えッ!

(ぁあああああああああああああああああッ!)

体はまだ透明。ニオイで居場所を知る暇も無いほど――――――速くッ!

一歩、右上前方に飛び上がり。
二歩、彼我の距離を詰める踏み込みを空で踏み込む。

この一瞬複数のスキルが発動し、ハルマサは神速の領域へと踏み込んだ。
暴力的なまでの向かい風を操作し、自らの推進力に変える。

三歩、加速し。
四歩、到達した。

ゲリョスの頭上背後に来たハルマサは、空を蹴って跳ね返り、背面飛びのように下へ飛ぶ。

魔力が切れた。
ビュウと押し寄せる風に眼を細めながらハルマサは右手に力を込める。
空を蹴る爆音に反応してこちらを振り向くゲリョス。
その立派なトサカに、ハルマサは体に巻きつけるように溜めを作った右手を開放する。

(これで――――――!)

――――――手刀斬ッ!

(―――壊れろッ!)

ズガン! とハルマサの手は、ゲリョスの頭部を直撃する。
手ごたえあった!

バギャン!

「ギョァアアアアアアアアアッ!」

ハルマサが叩き壊したのはゲリョスのトサカ。内側から光り輝く鉱石をこぼすゲリョスの最ももろい部位であった。
痛みで頭を振り回すゲリョスに、ハルマサは弾き飛ばされつつ、接触の瞬間にトサカの欠片をもぎ取った。

ハルマサは弾き飛ばされたまま、地面を擦るように転がってから、よろめきつつ立ち上がった。

満身創痍だが、スキルの熟練度アップボーナスで魔力は回復している。
「魔力放出」を使えばこのくらい出来ないこともなかった。「身体制御」もある。

口の端から怒りの煙を吐きつつこちらを見るゲリョスに、ハルマサは「暗殺術」を解く。
そして、掴んでいるのも辛いゲリョスのトサカの一部を掲げ――――――握力で砕いた。

カシィと砕け、パラパラと落ちる鉱石の欠片。

「こう、なりたくはないだろう? もう止めにしない?」

無理やりに口元を引き上げる。
脅しにもなっていない脅しだが……

魔力はないし、耐久力だって無い。
腕も折れたし、体中が爛れて痛い。毒が効いて目が回る。
もう何も出来ない。

(これで……逃げてください……ッ!)

「ギョアッ!」

ゲリョスの返答は、毒吐きだった。

(ちくしょうッ!)

悲鳴を上げる体を操って横に跳ぶ。
どぽん、と地を侵食する毒の着弾音を聞きつつゲリョスに眼を向けると、

「ギャァ……ア……ァス……」
(……?)

ズシ―――ン! とゲリョスは地へと体を横たえた。

(???)

しばらく待ってみても動かない。
そこでハルマサはティン! ときた。

(し、死んだフリか――――――ッ!)

あなた全然ダメージ食らってないでしょ!?
「空間把握」であなたの瞼がピクピクしてるの分かりますからァ――――――!
やらしい! 死んだフリとかホントやらしいな!
でも、ありがとうございまぁ―――――――すッ!

「じゃあ、さよならッ!」

満身創痍なんだよぉッ!
しかもね、遠くからゲリョス亜種が寄ってきているんだよ!?
当然逃げるよ!
あばよぉ、ゲリョッつぁん!
僕はゴキブリの如くカサカサ逃げるぜぇ―――――――!

再度「暗殺術」を発動したハルマサは、死んだフリをしているゲリョスを放置し、明日(森丘)への逃走(匍匐前進)を開始するのだった。




<つづく>

「手刀斬ッ!」のところを「ナイフッ!」と読むと、ハルマサ君とシンクロ出来ます。


耐久力:3119 →3795
持久力:5346 →9728
魔力 :10570→12705
筋力 :3474 →5698
敏捷 :11610→15324
器用さ:15551→17476
精神力:9756 →12110
経験値:2563 あと2555



拳闘術Lv8 :446  →1946 ……Level up!
片手剣術Lv8:1260 →1725 ……Level up!
解体術Lv7 :138  →749 ……Level up!
身体制御Lv10:7768 →9082
暗殺術Lv10 :3953 →5744 ……Level up!
突撃術Lv9 :3093 →3610
撹乱術Lv10 :7097 →8345
空中着地Lv10:5608 →7423
走破術Lv8 :473  →2163 ……Level up!
撤退術Lv10 :4271 →5288 ……Level up!
防御術Lv9 :3097 →3380
炎操作Lv9 :2907 →3008
風操作Lv11 :14743→16236
魔力放出Lv11:15586→17721
戦術思考Lv10:4577 →6922 ……Level up!
観察眼Lv10 :3992 →5534 ……Level up!
鷹の目Lv9 :2934 →3428
聞き耳Lv9 :2841 →3257
的中術Lv9 :1715 →2725 ……Level up!
空間把握Lv10:4710 →5839 ……Level up!







[19470] 66(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/18 16:23



<66>


遠くからピーヨピヨピヨと小鳥のさえずりが聞こえる森丘の川のほとり。
ハルマサはそこでうつ伏せになり、右腕を川に突っ込んで脱力していた。

「はぁー……」

本当にしんどい……。
「不死体躯」が無かったらきっと毒で死んでるよね……。
今は毒と回復力が一進一退の攻防を繰り広げている感じである。

そういえば気になることが。
明らかにネタ系っぽい説明の「不死体躯」ってしっかり発動してくれてるんだよね。「痛み変換」は発動してないのに。
これって「痛み変換」だけが桃色認定されて、ブレスレットで封印されているってことかな。
いざとなれば気持ちよくなりながらここで毒に耐えていただろうことを考えると、これは本当に助かる。
………それじゃあ同じネタ系の「臭気排除」はきっと発動しているだろう。
「臭気排除」の発動が起こっていようが居まいがモンスターに見つかったのは関係なかったってことになっちゃうよ。
まぁくさいにおい以外はスルーだから分からないでもないけど。

何はともあれ「不死体躯」は発動し、体の回復力は高まっている。
だが、毒の解毒能力はついていないのか、体中は未だにまだらな紫色である。
下手したら全身が紫色だったかも知れない。僕の代わりに毒を浴びた岩には同情するね。

川に浸している右腕は、ゲリョスの体液をもろに浴びたので、二倍くらいに腫れています。
左手の骨折はむしろ治りつつあるから、どっちが骨折したか分からない状態だね。

あー……しんど。

さっきから何回目か分からないため息を吐くハルマサ。
連れが居たら鬱陶しいといわれるレベルである。

彼は二層になってから途端に難易度が上がった現状に少々疲れていた。
よってここで少しマッタリしていくことにしたのである。
誰も聞いてないし愚痴も吐きまくってやる!

あ、でもその前にカロンちゃんに毒治してもらお。魔力もそれなりに回復したし。

「カロン……ちゃーん。ヘールプ。」

呼んだのだが、しばらく反応は無く、やがておずおずといった感じで天から緑の光が降りてきた。

【ほ、本物か?】

第一声がこれである。

「ほ、本物ですけど? 僕のニセモノでも居たの?」
【いや……我が降りておる時、確かに死んだと思うのだが……】
「あー……」

火竜の炎に巻かれた時に呼び出して、【すまんが無理】とか言われて死んだのでした。
そういえばカロンちゃんには事情話してなかったね。
実はカクカクで。

【ふむ?】

しかじかなのです。

【なるほどのぅ。死に放題じゃな。】

注目するのはそこなんだ。

「いや、そうは言うけど死ぬのって痛いし、なんか大事なものが抜けていくような感覚するし結構イヤだよ?」
【我も死にとぅはないの。まぁ生きておるなら……本当に生きておるのか? まだらに紫色じゃが。不死人にでもなったか?】

不死人……ゾンビか。
僕の外見って思ったより酷いのかな。
毒ですよ毒。

【ふむ、まぁその程度の毒、我が力を入れれば……むん。】

ペカー、と回復する僕の体。

「すごい!」

腕をクルクルと回してみる。
その他の傷も、ライフドレインで回復している。
健康って……イイ!

今なら神だってフルボッコに出来るよ!
むしろしたい!

体が弱ると弱気になるって本当だね!
その逆も然りッ!
健康な体には元気な精神が宿ぉ―――――る!

「よっしッ! ちょっと火竜殴ってくる!」
【待て待て、もう魔力も無くなるぞ。】

む、それは不味い。
しかたない。
ご飯でも食って安静にしとこうか。
お腹の減りも尋常じゃないし。

【じゃあの。】
「うん。あ、プリンのことゴメンね!」
【な、何で知っておるのじゃァぁぁ……】

と言いつつカロンちゃんはフェードアウトしていった。

さぁて……




その後またイノシシを狩って、肉をゲット。
どうやら体を傷つけずに首を落とすと肉になるみたい。
肉ばっかりだと栄養的に心配だけど、知ったこっちゃないね!
メンドクサイから生で食ってやるわー!

そしてお腹が一杯になったら、ハルマサは寝た。
火竜にさえ見つからなければ良いや、と彼は楽観的に考えて、森の多い川のほとりで眠りに着いた。




「うーんうーん! ……バハァッ!」

目隠しされて「だーれダッ!」聞かれて、手が肉球だったから「アイルー!」って言いながら振り向いたらチャチャブーだったという嫌な夢から、ハルマサは叫びながら跳び起きた。
寝転がって川の中に頭を突っ込んでいた事が原因らしい。髪の毛が顔に張り付いてくる。
というか水攻め状態で良く寝続けたな僕は。耐久力が減っているのに。

ハルマサは頭をふって水気を飛ばしつつ立ち上がる。
何故か感じる股間の辺りの開放感。

(……あれ? 服は?)

何故か全裸であった。
ジャージは中の人が溶けて消えたように、横になった姿で置いてあった。
その上にハルマサは立っている。意味が分からない。
一応指輪と腕輪はつけたままのようだ。

その時ファンファーレが聞こえた。
いつものチャンチャラ言うやつではなくてベートーベンのジャジャジャジャーン!という運命的な奴だった。



≪条件:1「溺死」、を満たしたことにより希少特性「D」を獲得しました。残りは4つです。≫



……?
なんだろうこれ。
ステータスを見てみる。
こう、瞼の上を見る感じ。慣れたもんだね。



□「D」
 それは誘う文字。24日以内に文字を全て揃えよ。ではなくば、待つのは破滅。残り時間23:23:59



(説明、少なッ!)

これじゃ何にも分からないよ!
集められなかったら破滅とか!
一体どうなるの!? 気になるけど体験したくないッ!
2号さんは一体何を考えてこれを入れたんだろう。

ハルマサがうろたえているとさらにファンファーレ。
今度は聞きなれたヴィバルディの春だった。


≪一定の範囲内に一定数以上の敵対する対象が居る状態で一定時間以上睡眠状態にあったことにより、特性「おやすみマン」を取得しました。≫

(それ、オムツぅ――――――――ッ!)

ところがどっこい。


□「おやすみマン」
 安全に就寝する存在の在り方。寝ている間、存在が別時空へと転送、保存され、誰にも邪魔されず休息を得る事が可能となる。※転送には、衣服は含まれない。

(何かスゲ――――ッ!)

名前は今までないほどネタなのに!
別時空と来ましたか!

そして『※』の部分なんだけど……
だから起きたら裸なんだねッ!
誰に脱がされたのか凄く気になってたんだよッ!
寝ている間に取得して勝手に発動して、起きたからその知らせが届いたんだね。

でも、これで今度から何処でも寝れるね! ありがとう新特性。僕は敵の前でも躊躇無く眠りに着く男になるよ。
嘘だけど。眠りに着く前に殺されるって。

うーん、よーし。
うっかり寝すぎちゃったみたいだけど、体の調子は何時に無く良い。
火竜の巣である岩山の攻略……始めますか!

でもその前に、服服。
ハルマサはいそいそと衣服を着込むのだった。



<つづく>

24日はスパン長すぎたか。
期日来る前に作者が忘れるわ。
でもやる。それが勢いssクオリティ。

□「D」
 それは誘う文字。24日以内に文字を全て揃えよ。ではなくば、待つのは破滅。

□「おやすみマン」
 就寝時周囲と同化する技術。寝ている間はあなたの存在は別時空へと保存され、誰にも邪魔されず休息を得る事が可能となる。※衣服は含まれない。





[19470] 67
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/12 19:57


<67>



岩山攻略するぜ!
と息巻くのは良いのだが、前回と同じようにチャチャブーが大量に襲ってきたらまたボロボロになるかもしれない。
ゲリョスに「暗殺術」が大して通用しなかったので、さらに不安になる。
前に勝てたのは急に姿を消したからであり、最初から消していたりしたら直ぐに対応されるんじゃ……。

(ここは……なんか相手の動きを止める系のスキルを!)

特技でも良いけど。
そして足を止めるといえば……

(やっぱり土系のものになるよね!)

足元からグアッと。

今回は「土操作」のスキルをゲットするぜ!
という訳で精霊さんに土属性の攻撃をしてもらいます。

「天罰招来ッ! 土系の攻撃を……僕に!」

【いいでしょう。あなたの願い聞き届けます。】

なんか硬い感じの女性の声が聞こえたと思ったら、川原の地面がウネウネと脈動する。

(くるか!?)

ハルマサが身構えた瞬間。
ギュゴォ! と角柱が飛び出してきた。

(地面がウホォ! ありえない速度でギャフッ! 隆起してガハァ! 僕にグフゥ! 連撃を――――――)

角柱や円柱、さらには拳を象ったものまで飛び出してハルマサをタコ殴りである。
下からの攻撃で基本的にアッパーだが、ワザワザ上から叩き落す係りの土塊まであった。
そして軽く翻弄したところで本命の……

「ッてその槍は死んじゃうからッ!」

やたら先端が鋭い岩の槍を、必死に避けつつ、ハルマサは毒剣で切り飛ばす。

【……チッ!】
(舌打ち!?)

云われない悪意に傷つくハルマサ。
なんか精霊さんって人間キライな人多いよね。
最近思うんだけど、世界はもっと僕に優しくあっても良いんじゃないかな……?

岩の隆起による怒涛の攻撃を8発ほど受けたところで、待望の「土操作」が出た。


≪地属性の攻撃を一定量以上受けたことにより、スキル「土操作」Lv1を取得しました。取得に伴い、器用さにボーナスが付きます。≫


土の精霊さんはチッチチッチと舌打ちを連発し、【何で死なない……】などと怖いことをボソリと呟いたりして帰っていったが、ハルマサは(ストレス溜まってるのかな……?)程度の認識しか持たなかった。
基本的に精霊さんに対しては心が広いハルマサだった。

さらに嬉しい事が。

≪下位「操作」系スキル5つを習得したことにより、中位「操作」系スキルが解禁されます。≫


中位だってさ!
どんなものか分からないけど、光とかだったら嬉しいね!
「太陽拳」が放てるよ!
毒とかでも良い!
そして上位もあるんだ……なんか全然先が見えないところが素敵ですな2号さん!

そして「土操作」であるが、「魔法放出」のレベル(Lv11)に引きずられてか、それともハルマサの器用さが高いせいか、比較的容易に使いこなせている。

こう、地面にですねぇ、手を置いてですねぇ、フンと力を入れるとこの通り!

(フンッ!)

ドゴゴォ!

と地面から2本の角柱が斜めに飛び出して高さ一メートルくらいでぶつかり合って、砕け散った。

(れ、錬金術ッぽーいッ!)

ガンガン読者でもあったハルマサは鋼の錬金術師も大好物である。
まぁ詳しい設定は知らないが、地面に手を置いて色んな物を呼び出すのってカッケー! と思っているのだ。

で、夢中になって遊んでいるうちに、毎度の事ながら敵が来てしまうのであった。





「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアア!」
(え、火竜!?)

上空からこちらに急接近する、空を切り裂く羽音を耳にしたハルマサが顔を上げると、岩山の方角から赤い火竜が飛んできていた。
リオレウス(無印)だ。
その口からは、すでに火炎が漏れ出している。

(いつもいつも急すぎる……だけど、受けて立つよッ!)

地面につけていた手から魔力を流し、岩盤を操作。
目の前に幾条もの柱として飛び出させ、複雑に絡ませる。
これは壁だ。
一度に大量の土を操作できないゆえの苦肉の策である。
それが受け止めるのは……火竜の攻撃。

「ガォアアアアアアアアアアアアアアッ! ゴァアアア! ゴァアアアアアアアッ!」

計三発の炎塊が、唸りを上げて飛来し、ハルマサの作った壁に着弾、炸裂。
土の壁は一瞬にして砕かれ、火が飛び散った。
河岸林の長閑な風景は一瞬にして地獄絵図と化し、辺りの酸素が急速に薄くなる。

だが、ハルマサはすでにそこに居ない。
上空でハルマサは呟いた。

「眼くらましには使えるね……。」

彼が壁を作った理由。それはこちらの動きを見せないためだ。
着弾の一瞬前、ハルマサは隠れて「暗殺術」を発動。
遥か空へと跳んでいたのだった。

火竜は飛んでいた勢いのまま川原に突っ込み、地形を変えつつ着地する。
ゲリョスもそうだったが、飛竜は着地するたびに地形を変えるものなのだろうか。

それはともかく、明らかにこちらを見失っている。
ハルマサは、その背へと急行し、剣で首を狩らんとする。

(隙あり……ぃ? ――――ふぐッ!)

バシィ!

しかしこのモンスターもレベル11相当の猛者。
火竜の尻尾は振り払われ、空を駆け下りてきたハルマサを弾き飛ばした。
確実にこちらの姿は見えていないはず。
ならば…………勘?

(ず、ずるい! 僕にも下さぁい!)

やたら硬質だった尻尾を何とかガードし、体力を温存できたハルマサは、「身体制御」によってバランスをとり、空中で反転。
無事に着地する。
今の一撃で50メートルは吹き飛ばされてしまった。
ハルマサは顔を上げ、そして驚愕する。

「ゴァアアアアアアアア!」
(な、もう追撃が……!)

着地した瞬間また跳ぶことになった。今度は横へ。
直前まで居た地面は、炎塊が直撃し燃え上がる。
避けたはずのハルマサの服に、炎が燃え移りそうになり、慌てて炎を「操作」する。

そうして火竜はこちらを見失ったか、キョロキョロとし始めた。

(よ、よし! 今がチャーンス!)

と走り出すハルマサ。
右手には、風を魔力で集めだす。
やがて密集したそれは回転しだし、淡く発光。
暴風を秘めた球となる。

(――――――風・球ッ!)

一撃で決めてやるッ!

しかしハルマサが必殺技を抱えてあと一歩という距離まで走ったときだった。
火竜は、つい、と鼻をあげ、スン、と小さく鳴らし――――――ハルマサの方をギロリと見た。

(あ、あんたもかぁああああああ!)

だめだ、相手の動きを止め―――――「雷撃」を撃ったら「風球」が維持できない!

「ゴォアアアアアアアッ!」

ズゴ、と地面を凹ませて、火竜が天へと跳躍する。
ハルマサそれを追いきれず、一瞬行動を迷い――――――直後、真下に向かって吐き出された炎塊に飲み込まれた。



<つづく>



ステータスは次回!






[19470] 68
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/12 20:11
<68>

炎に飲まれ、体が蒸発しそうになる。
事実、炎に耐性の無い石油由来の服はドロリと溶け出していた。

(ぐぅうう……止まるなッ!)

炎塊の大半は「風球」をぶつける事で相殺できた。
だが、だからと言って平気かと言えば、そんなことは無いのだった。

ここに留まることは出来ない理由はそれだけではない。
ホラ、今も追撃の炎が迫っている!

「くそぉおおおおおおおおお! あんたも容赦ねぇえええええ!」

グバ、と炎を掻き分け、高速で横に跳び出す。
背後で着弾する炎塊の爆風を炎と風の「操作」で受け流し、さらに移動。
炎の残滓を引きつつ移動するハルマサは、火竜にとってはただの標的なのかもしれない。
連続で飛来する炎塊を、ジグザグに動くことでなんとか避ける。

ズン、ズン! と次々に上がる火の柱。

ハルマサの動きはスキルの熟練度上昇も手伝いさらに加速してゆくが、何時までも避けているわけにはいかないようだ。

(周りの温度が……呼吸も辛い!)

明らかに空気が薄くなっている。
不味い。

「ゴァアアアアアアアアアアアアアア!」
(くそぅ、どうすれば……!)

ここでハルマサに出来ることは何であろうか。
「炎操作」「風操作」で、相手の炎塊を弾き返す?
出来るはずもない。敵の魔力、精神力が詰まっている炎塊は、ハルマサの処理可能な領域から飛び出している。
「土操作」で壁を作る? 溶けます。
「水操作」……蒸発します。
「魔力放出」で……何スンの?

じゃあやっぱりこれしかない。

「ハスタァアアアアアアアアアア! 天罰だ! あいつを叩きおとせぇえええええええええええッ!」
【貴様に命令される筋合いは無いわぁアアアアアアアアッ!】

瞬間、天から風が吹き、飛竜は翼の重みに牙を噛む。

「ガァアアア!?」
(よし! 攻撃が……止まったッ!)

流石はハスタァ。文句を言いつつもしっかり仕事をこなす良い男である。
しかもちゃんと省エネだ。熟練度ボーナスでむしろ魔力が増える。

【ぬぅ、落とせはせなんだか。】
「十分だよ! 流石ハスターッ! ありがとうッ!」
【ふ、よせやい。超照れる。】

なんか少し可愛いことを言いつつハスタァの声は消えた。本当に感謝!
ハルマサはギシ、と剣を握り、僅かに高度の落ちた火竜へと空を駆ける。

だん―――だん! ダンッ!

三歩で上空百数十メートルに居る飛竜の懐へ。
懐に来た熱の塊に気付いたリオレウスが爪で掴みかかってくる前に……

「だぁあああああああああッ!」

バギャギッ!

火竜の堅い翼膜を、刃をこぼしつつも毒の剣が大きく引き裂いた。
左翼の三つあるうちの真ん中の一つが大きく破れることとなる。

「ギャォアアアアアアアアアアアア!」
「グフッ!」

火竜はバランスを崩しつつも尻尾を巡らせ、ハルマサをしっかり弾き飛ばす。
防御に使った毒剣が、負荷に耐え切れず砕け散る。

(「身体制御」……衝撃吸収!)

弾かれた勢いのままハルマサは地面に突っ込んだ。
緩和された衝撃でさえ、地面を抉り、左右の岩盤が隆起する。

落ちた先は河岸林から少し岩山よりの草原だった。

「く、ぁああッ!」

すぐさまクレーターから跳び出すハルマサ。
じっとしていれば、いつ火の塊が飛んできてもおかしくない。

土ぼこりと草が舞い上がる草原にて、ハルマサは空の王者が落下してきたことを知った。

――――――ズゥン!

片翼が破れたはずなのに、それでも無様に墜落しないリオレウスは尊敬に値する。
両足で着地したリオレウスは大きく口を開け……

(――――――やばッ!)

その奥に炎の兆しが見えないことで、ハルマサは瞬間的に身を伏せる。
土を操作し、頭を完全に土でガード。
呼吸できないのはご愛嬌。
しかも土と土の間には、風を操作して真空に近くした空気を入れてある。

これぞクッション構造!
時間ある限り層を増やしてやる!
これで防げなければ、もう耳なしホウイチとして戦ってやんよ!

「ガ・ァ・ア・ア・ア・ア・アッ!」

一秒も経たずに、飛竜の口から跳び出す咆哮!

轟音! 轟音!

土に包まれているはずのハルマサの鼓膜はやっぱり破け、土に隠れていない体はビリビリと音の衝撃に震え上がる。

(痛ぁあああああああああああああい!)

耳もそうだけど、なんか頭も痛いッ!
耳と鼻と眼から血を垂らしながら、ハルマサは土から顔を引き抜いた。
「空間把握」したところ、火竜がこちらに向けて、また火を吐こうとしていたのだ。

(もう、そのパターンは良いよ!)

瞬間的に手の平に生じさせた握りこぶし大の石の玉。
ご丁寧に縫い目まで再現してしまった、岩製野球ボール。
ハルマサはそいつをミシリと握ると跳ね起きて、片足を踏み込み、腰を回す。

「バッタぁァァァァ、投げましたァ――――――!」

腰に遅れて、胸が回転。
肩から腕がしなやかに伸び、指がボールを押し出して――――――投球!

投げるのはピッチャーだろ、とか、バット投げたら乱闘じゃんとか頭の冷静な部分に突っ込みを入れられつつ。
ハルマサが全力で投げた球は、物凄い勢いでバックスピンでホップしつつ飛んでいく。
空気摩擦で燃え上がる寸前までいった岩塊は、今まさに炎を吐き出さんとする火竜の口腔内に直撃し―――火の玉を口腔の中で爆発させた。

「―――――――ッ!」

仰け反って、口から活火山の如く火を噴き出すリオレウスの首の付け根に、ハルマサは「解体術」で、弱点を発見する。
あれは噂の逆鱗か!?

「だぁあああああああああああああッ!」

ここがチャンス! 狙えチャ――――――ンス!
地面を爆発させる踏切りと、地を這うような走りで一息にリオレウスの懐に到達したハルマサは、跳躍し、彼の竜の弱点へと手を突き出した。
その手には――――――風。

「はぁッ!」

――――――風球ッ!

ギュボッ!

火竜の喉を抉る風は、弱点であるもろい鱗を砕き食道内に侵入、炸裂する。

「―――――――――ッ!」

体の中を縦横無尽に暴れ勝る風は、リオレウスの内臓をすら傷つけ、リオレウスは苦悶に身を捩る。
そしてハルマサは知らないことだが、火竜の内臓器官には「業炎袋」というものがあって、外気に触れると大爆発する粉塵が詰まっているのだ。

よって風で体内を蹂躙された火竜は……内側から大爆発した。

カッ――――――!

まず、眼もくらむような光が溢れ、間髪いれず衝撃・轟音の波が来る。
ドカンと言う衝撃が鼓膜の無いハルマサにも衝撃として十分に伝わる、そんな爆発だった。

(じ、自爆!?)

勘違いしながらも「炎操作」「風操作」「身体制御」を使い、しかしハルマサはボロ切れのように吹き飛ばされる。
もう、後一歩で死んじゃう、と言うところまで追い詰められて――――ハルマサはレベルアップのファンファーレを聞いたのだった。



<つづく>


レベル:9    →10 ……レベルアップボーナスは1280
耐久力:3795 →6764
持久力:9728 →14061
魔力 :12705→17795
筋力 :5698 →10574
敏捷 :15324→25659
器用さ:17476→29374
精神力:12110→14913
経験値:2563 →5123 あと5115



拳闘術Lv9 :1946 →2773 ……Level up!
片手剣術Lv9:1725 →3839 ……Level up!
解体術Lv9 :749  →2330 ……Level up!
身体制御Lv11:9082 →12067 ……Level up!
暗殺術Lv10 :5744 →7438
突撃術Lv9 :3610 →4921
撹乱術Lv11 :8345 →10543 ……Level up!
空中着地Lv11:7423 →11265 ……Level up!
撤退術Lv10 :5288 →6232
防御術Lv9 :3280 →4082
天罰招来Lv9:2533 →2593
炎操作Lv10 :3008 →5538 ……Level up!
風操作Lv11 :16236→18430
土操作Lv8 :0   →1328 ……New! Level up!
魔力放出Lv12:17721→21471 ……Level up!
戦術思考Lv9:6922 →8445
回避眼Lv10 :3779 →5794 ……Level up!
観察眼Lv10 :5534 →6573
鷹の目Lv9 :3428 →4462
聞き耳Lv9 :3257 →3964
空間把握Lv10:5839 →7833 ……Level up!




<あとがき>
エクセルすげ―――――!(感動)

表計算を使うことで私の何かが加速しました。
エクセラレーター!
エクセルと格闘するうちに貯金がまるっと無くなってしまったけど、私は元気です。



明日も更新!


>Excel
サンクス!
でもそれが反映されるのは今日書いた明後日の分からなんだぜ!
キレイに整理されたスキル表を待っててくれよなッ!(多分あんまり変わってない)

>もっと慎重にならないの?
あとがきはほとんど読まないとおっしゃっていたのでここで答えてもいいのかアレですが。
失敗した後、解決策がまるで見えなければそうなるかもです。
ポジティブかつ楽観的に動かしているので、突破口がありそうだったらそこを狙って(私が)飛び込ませます。
ただ、この攻略、急ぐ必要がまるでないのも確か。
彼の精神力は高く、地道な下積みも我慢出来るはずですしね。
なんかそういう話書いてみたくなったな。
ともあれ、彼の行動に説得力を持たせるなら彼を急き立てる何かを用意すべき、ということですかね。
大陸端から沈めてやろうかな。

>『(`ェ')ピャー』
ピャー!
まだ次のチャチャブータイムが残ってるんだぜ!

>レベルを上げないでスキルを鍛えまくっておくほうが
断然そうですね。
そういうバランスです。これへの言い訳は無いのですが。
でもレベル上がって行く方がテンションあがりません? 私だけ?

>イメージ
特に無いですかね。あえて言えば色白キュルケかと。いやでも……わかんね。




[19470] 69
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/13 17:15



<69>




火竜が何故か爆発して物凄く痛かったハルマサです。

なんで爆発したの……?
もしかしてやられそうになると爆発する種族なんじゃ……?
それだともう戦いたくないなァ……。

でも……経験値がとても美味しいのです。
爆風にさらされても戦いたくなるくらい。

だって……レベルアップした結果のこの敏捷ッ!
二万五千もあるよ!
凄まじい成長だ……!
筋力もほぼ二倍になったし!
脱いだら凄い男になっちゃったね!
さっきの爆発や毒で上半身は脱げちゃったからデフォで半裸だけど!


頭の中では自身の成長を喜んでいたハルマサだが、実際は静かに黙って土の下に埋まっていた。
これも「土操作」を覚えたゆえの緊急避難だ。
呼吸は出来ないがそこは無駄に多い持久力が心肺機能を強化している。
結構我慢できそうだ。

改めて「土操作」は凄く便利だと実感するハルマサである。
ちなみに爆発を受流すために緊急避難したのではない。

ズシーン、ズシーン!

(あ! 今、真上通った!)

大爆発の音に誘われて寄ってきた、3匹の火竜をやり過ごすための避難。
ハルマサの上を巨大な質量を持つ飛竜が通り過ぎたところであった。

「空間把握」でキョロキョロしている様子が見えるぜ!
緑色と蒼色に銀色か……。
あの蒼色は僕を焼いた奴だろうか……。

ハルマサが埋まっているのは地下10メートル。
火竜たちが本気になったら余裕で掘り返されてしまうので静かにしておこうと思うハルマサ。
しかし、チョッカイをかけるくらいは良いのではないかと次第に思い始める。

(スキルも上がるしね!……「土操作」ッ!)

遠くの物を操作するのは難易度が高い。
だが、さっきの戦いでLv8まで上昇した「土操作」であれば、出来ないことはなかった。

で、足を引っ掛けようと銀色の奴の足元にアーチを作ってみたんだけど……。
余裕で回避されました。
どころか、警戒したのか3匹とも飛び上がり、火炎を吐きまくって絨毯爆撃を開始する始末。
もっと深くに潜らなければ死んでいた……。

焦土と化した地表を恐々と見つつ、馬鹿な事はするものではないと、とても勉強になったハルマサだった。


ちなみにリオレウスのドロップは、金貨は8枚と、大きな翼膜だった。
翼膜は放って置いたら、爆撃で燃え尽きたみたいだけど。

またさらに二つの希少特性が出ていた。

≪条件:3「焼死」、5「生き埋め」を満たしたことにより、希少特性「A」「H」を獲得しました。残りは2つです。≫

と言うことらしい。
なんか放っておいても集まりそうだね。





「耳も治ったし……行くか!」

「不死体躯」はホント凄まじい。
あっという間に耳が治りました。

腹ごしらえを済ませ、ハルマサは岩山にやってきた。
今の敏捷なら、チャチャブーにでさえ奇襲されなければ遅れは取らない。
少し足取りを軽くして岩山の回廊を進んでいく。
前回と同じ入り口からの侵入なので、見たことのある道を抜け、ハルマサがチャチャブーと戦った場所に来た。

先ほどの絨毯爆撃の時に確認したが、緑色より蒼色、蒼色より銀色が明らかに強かった。
無印と亜種、亜種と希少種には明確な力の差があるらしい。
つまり、無印を倒したハルマサと言えど、岩山は気が抜ける場所ではないのであった。

で、この前たくさん倒したチャチャブーだが、リポップしてました。

「ピッ、ピッ、プゥー!」×8

しかも8体になっていた。からかう様な動きをシンクロしてやってくる。

(どうして増えたァ――――!)

心で叫びつつ、ハルマサのいる高台に飛んできた小樽爆弾をキャッチし投げ返す。
結構な勢いで投げた小樽はチャチャブーたちの真ん中に着弾したが、チャチャブーたちは四方に散らばり回避した。

そして飛び出そうとしたハルマサを待ち受けていた、9本目の隠し刃。
高台の下に隠れていたチャチャブーが猛然と飛び上がり、毒剣を突き出してきたのだ。
だが―――

(見えてるよッ!)

そこは「空間把握」のあるハルマサ。
前に出ようとしていた頭を引き戻し、上へ通り過ぎていくチャチャブーの細い足を掴む。
そのまま横から強襲しようとしていたチャチャブーへと投げつける。

「ビャ!」
「ギャウ!」

二匹は衝撃に身をよじり……消滅した。

(そうだ、こいつら動きは速いし力も強いけど、耐久力は低いんだ!)

チャチャブーの耐久力はだいたい一千。
飛竜戦で成長し、筋力が一万ほどとなったハルマサであれば、攻撃が当たればほとんど一撃である。
それこそが速さに特化したステータスの代償でもあるのだ。

広場に突き出した高台の周囲から隙間もなく7体のチャチャブーが飛び掛ってくる。

「だったら動きを止めてしまえば――――――「土操作」ッ!」

「土操作」とは言え柔らかい土しか操れないわけではない。
そもそも「土」とは、微細な岩石の粉末の集合体の総称である。
岩を操れない道理は無かった。
ここの岩はかなり硬いから魔力を多く使ったが、思ったとおりに動かせる!

ズガガガガガガガガガンッ!

ハルマサが右手をつけた周囲の地面、壁から、破片を飛ばしつつ無数のトゲが飛び出した。
こんなもので倒せるとは思わないが――――――

「ピャ!」
「ピャウッ!」

(動きが止まれば良い!)

速さに特化しているとは言え、カウンターでしかも空中にいる時に攻撃を仕掛けられれば対応をしくじる者も出る。
今回針の山に絡まったのは2体。
そんな大きな被り物してるから。

ハルマサはその二匹を問答無用で沈黙させると、残り5体のチャチャブーを見る。

「ピャ?」
「ピャピャ!」
「ピゥ……」

何か話し合っている……?
が、隙だらけ。
ここで決める!

実は「炎操作」がレベル10になったから「極・炎弾」が使えるんだよね。
使ってみたくてちょっとウズウズしてました――――!
行くぞぉ!

「はぁああああああ、ああ?」

ところが使う機会は得られなかった。

「ピャア―――!」×5

チャチャブーたちは逃げ出したのだった。
チョロチョロ走り、こちらが追えない様な小さな隙間からあっという間に去っていった。

「まぁ逃げるのは良いんだけどね……」

この振り上げた手に渦巻く炎をどうすれば……。

「「炎球」でも練習しようか。」


折角炎もあることだし、有効活用しようぜ!

と言うことで、「炎球」も使えるようになりました。
岩が吹っ飛んだりはしなかったけど、当たった半径30cmくらいがドロリと溶けて凄く熱かった。
普通に手を大火傷した。
「不死体躯」で徐々に回復してるから良いけど……。

やっぱりこれは使うのやめようかな。
火傷って痛いしグロイし良いこと無いよね。
でも「炎球」でこれなら、「雷球」とかどうなるのだろう? 全身電気ショックで数秒フリーズとかだろうか。
そんな隙さらしたら即座に死ねるね。
もっと優しそうな、「水球」「土球」とかをメインに使いたい。
特に「水球」とか! やさしさに溢れていない? ウォーターカッターとかあるから不安だけど。

まぁ良いや。
頭を切り替えつつ、ドロップを拾う。
チャチャブーを倒すと、毒剣が残ったり残らなったりする。
今回は4体倒して一本手に入った。
ありがたい。
火竜の翼膜を切れたことからリオレウスには毒吸収特性は無いはずだから、この毒剣は頼れる武器である。
さらに金貨が6枚×4匹の24枚。これで今回は32枚集まった。
大陸序盤でこれだから結構簡単かもしれないね1000枚も。

ようし、僕は進むぜ―――!

ところで、この少し開けた場所。
前回蒼い火竜が壁をぶち抜いてくれたので、元々あった通路とは違う場所にもいけるのです。

迷う……迷うけど……大きいほうに決ーめたッ!

ハルマサはショートカットできそうなところはとことんショートカットする子だった。
マリオカートなんかではよく無謀なショートカットを狙ってビリケツになるような子だった。

その選択が今回はどうなるのか……それは進んでみれば分かることである。



<つづく>

なんだこのヒキ!


耐久力:6764
持久力:14061
魔力 :17795 →19582
筋力 :10574
敏捷 :25659
器用さ:29374 →31688
精神力:14913
経験値:5123 →5763 あと4475 ……チャチャブー一体の経験値は160でした。


炎操作Lv10 :5538 → 6543
土操作Lv9 :1328 →2637 ……Level up!
魔力放出Lv12:21471→22993
空間把握Lv10:5839 → 7626


◆「炎球」
  魔力を用いて炎を球状に圧縮循環させたものをぶつけることで熱による被害を与える。球に内包する炎の密度により温度は変化。一定以上の密度より、着弾時に爆発が起こる。







[19470] 70
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/13 17:16


<70>


さて、蒼色の火竜、リオレウス亜種は20メートル以上はある。
その火竜が通ってきたこの道は、当然ながらとても広い。
いや、道というのは間違いだ。
これはこの岩山の中心。
蒼竜が出てくる前に居たのは延大な広場だったのだ。
反対側が暗くなっていて、「鷹の目」を持ってしても見えないがざっと見て500メートル以上はある。

(ていうかね。飛竜がいっぱいいるんですね。)

その中に眠ったり、じゃれあったりと平和に過ごしている飛竜がたくさんいた。
上に開いた大きな吹き抜けから、今も一匹降りてくる。
これでこの岩山の中にいる火竜は7匹。

正面切って戦うにはきつすぎる数である。
しかも亜種が蒼・桜・桜と3匹。希少種である、銀のリオレウスと金のリオレイアが一匹ずつ居る。

(できれば……一匹ずつがいい……。)

そして希少種はレベルが上がってからが良い。

レベル10の時にレベル11の敵を倒したら経験値はどうなるか分からないが、少なくともチャチャブーよりは多いはずだ。
きっと4体くらい倒せばレベルアップするはず。するんじゃないかな。すれば良いな。

その成体竜の傍らに、幼竜も居た。ギィギィと鳴いて、今降りてきた桜色のリオレイアに餌をねだっている。
その桜竜が咥えているのはランポスみたいだ。
ランポスって旨いのかなァ……肉がドロップしないから僕は食べれないけど。

そんな様子をハルマサは岩に隠れ、さらに「暗殺術」を発動しながら見ていた。

(ていうか、無理に岩山の中から攻略しないで、外に出てきた竜を一匹ずつ相手にする方が楽なんじゃ……?)

今さらながらに、ここに居る理由をなくしそうなことに気付くハルマサ。
どう考えてもその思い付きを否定できない。

(出ようか。)

ハルマサは岩の横から出していた首を引っ込め、踵を返して――――――素早く横に跳んだ。
次の瞬間、地面から岩を割りつつ紫色の剣が飛び出してくる。

(チャチャブーかッ!)

「空間把握」を持ってしても、地面の下は深いところまで探れない。
だが、この竜の巣では足場が堅いから安心していたのだ。
まさかこんな堅い岩を掘り進んでくるとは思いもよらず、少々不意を突かれた形になった。

紫の剣に続いて本体も飛び出してきて……首を傾げた。

「ピャ?」

僕を見失っているようだ。
戸惑っている姿は可愛くないことも無い。
先ほど問答無用で殺しに来ていなければそう思うこともあったかも。

「ピャー。」

チャチャブーはしばらく首を傾げていたが、やがて剣を地面に立て、ぱっと手を離した。
当然剣はパタンと倒れる。

「ピャ!」

その倒れた方向に向かって、剣を拾ったチャチャブーは走っていった。

(なんだったんだ……!)

呆れてその姿を見送っていると、後ろから生臭い息がかかった。
そう、まるで今まで肉を噛んでいた様な……

「グルルルルル……」
(うわ―――――ッ!)

そこで駆け出さなかった自分を褒めてあげたくなったハルマサである。

彼の背後には至近距離では視界に入りきらない桜色の巨体があった。
何時の間に……、チャチャブーの音に反応したのか!?
数秒確かにチャチャブーに意識を取られはしたけど……ちくしょう!
もっと速く気づけよ僕!

動きの取れないハルマサが見ていると、桜色の竜は、つい、と顔を上げ、スンスンスンスンスンスン……、と鼻を鳴らして、どんどんどんどんハルマサの方へ顔を近づけてくる。
有体に言って、怖い。

(…ッ!…ッ!…ッ!…ッ!…ッ!…ッ!)

ハルマサは怖いヤーさんに絡まれた純朴かつ気弱な中学生の心境である。
あの、帰っていいですか……あ、だめですよねそうですよね。生言ってすいませんでした――――――ッ!

今にも土下座してしまいそうな心境で、しかしハルマサは自分を押さえつける。

(透明人間がこの巣に入り込んだことは知らないに違いない、きっと気のせいだと思ってくれる! そうさ! そうに決まっているんだよ! ちびるな僕ッ!)

ハルマサは自分を叱咤し、鋼の精神力で動くのをこらえた。
今動けば、さっきからこっちをじっと見ている他の火竜たちによる、火炎祭りが始まるに違いないのだ。

(そ、そうだ! 他の事で意識を逸らせばァ――――! ハスタァさーん!)
【なんじゃおらぁあああああああああああ! 何度も呼び出しおってぇ―――――!】

ご、ごめんなさーい!

【雷でよいのだろう!? 返事はいらん! 死ねぇえええええええ!】
(イライラしすぎだよ! って標的僕かァ――――――!)

最近ハスタァさんが何処を狙っているか分かるようになってきた事が、こんなところで役に立つとは!
最悪のタイミングでもあるけどねぇ――――!

(か、雷操作ッ!)

バチバチバチィ!

「グギャッ!」

つい目の前の怖い怖いモンスターに当てちゃったんだ。
火竜は驚いたようではあったが、硬直時間はやっぱり凄く短かった。

「グルォオオオオオオオ!」

怒った火竜は、ブォ、と辺りをなぎ払うような勢いで羽ばたいて浮かび上がり、その瞬間他の火竜がハルマサの恐れていた火炎祭りを始める。

「グォアアアアアアアアアアア!」
「ゴァアアアア! ガォアア! グォガォアアアアア!」
「ゴォアアアアアアアアアアアア!」

声高に鳴きつつドッカンドッカン!
爆発、炎上、爆発、炎上、爆発、溶解、爆発、炎上、爆発……

数秒しか続かなかったのに、岩山にはもう一つの大きい入り口が出来ていた。
周りの岩は赤熱し、ドロリと溶け落ちている。
ぴ、ピリピリしてるんだねッ!
まぁ巣だからね! 子どももいるし、親は強しって奴かな?
幼竜はなんか喜んでるけど。

そんなハルマサがいるのは、桜火竜の背中だった。

「グァ? ゴォ、オオオオオオオオオッ!?」

桜色のリオレイアは、もうしっちゃかめっちゃかに体を振り回し、尻尾で背中を叩きまくり、岩に擦りつけ、背中にへばりつく何者かを剥がそうとしている。

ゴリゴリィ!

「イ……ッ!」

僕は桜竜の背中に生えている長い棘を引き抜く勢いでしがみ付き、尻尾や岩に耐える。

(こ、ここまで来たら殺すか殺されるかじゃぁアアアアアア!)

恐らく一度離れたら二度とはこれない好ポジション。
ここを逃すつもりは無い。

ハルマサが攻勢に転じようとした時、桜火竜は剥がせないことを悟ったか、ゴゥ、と一つ大きく羽ばたく。
突然の移動にひるんだハルマサが身を持ち直した次の瞬間には、リオレイアはハルマサともども岩山を飛び出している。
さらに、二回三回と翼を打てば、もうそこは岩山の遥か上空だった。

(たかぃ……ッ!)

このダンジョンに落ちてくるときと同じくらい、すなわち、水平線が丸く見えるくらい飛び上がった桜火竜は、すぐさま空を翼で打って翼を畳み、下降に転じていた。

(ぬがぁ――――――ッ! はやいよ――――ッ!)

「風操作」がなければきっと空中に放り出されていたであろう速度。
この速度は、桜火竜でも無謀ではないか?
見ろ、顔の鱗が剥がれ、翼爪は折れて……まさか。

(一緒に死ぬ気かッ!?)

母親の覚悟がこれほどか。
倒せないと見るや……身を捨ててきたのか!
すでにスピードは最高潮。
手を離すことなど……

ハルマサは母親の決意にビビッていたが、空の王者とも言われる火竜がハルマサなんかのために命を捨てるわけが無かった。

(あれ、このまま行くと……)

ドボォオオオオオオオン!

(ぐぼぉおおおおお!)

リオレイアはお邪魔な虫を引っ付けたまま、大陸の外側を囲う海へと飛び込んだのだ。
身を打つ水の堅さはとてつもない物であり、しかしハルマサは手を離さなかった。
きっとダメージは火竜も同じ。

(こ、この程度!)

かなり深いところではあったが「水操作」で水圧を和らげ、ハルマサは寄りいっそう桜火竜の背にへばりつく。
火竜は飛び込んだ勢いが弱まると同時に、体を反転させ、見事な泳ぎを見せる。
翼を畳んで、尻尾まで使ったドルフィンキックを披露したのだ。
何でもありだと毒づくハルマサを引っ付けたまま、水面へと高速で泳ぎ、海上へ飛び出したリオレイアは、水を振り飛ばしながら空中で静止し、その場で一つ咆哮をかます。

「ギャォアアアアアアアアアアッ!」

(鼓膜が)パーン!

(痛ぁあああああああああああッ!)

地味にこれがハルマサに一番のダメージを与えていたが、リオレイアの咆哮はそれが目的ではなく、岩山から飛び出してきた仲間に向けてのメッセージだった。

そのメッセージ、人語に直せば『さぁ、私を撃て』というものである。

(ちょ、痛ァ……また鼓膜……)

耳血に苦しんでおり、しかも「聞き耳」の使えないハルマサは、決定的な距離に炎塊が近づくまで察知できなかった。
「空間把握」で知覚し、ハッと眼を向ければ、風を巻きつつ飛んでくる炎塊は12個もあった。
全て直撃コース。
おまけにそれは第一陣で、第二陣も第三陣も飛んでくる。
もうこれが火竜だ、と言わんばかりに炎を吐きまくる金色・銀色・桜色・蒼色・緑色・黒色の12匹の火竜たち。
正直勘弁して欲しかった。

(ちょ、タイム! ターイム! このザ、理不尽空間めぇ―――!)

しかも、ハルマサの引っ付いている火竜は火に突っ込んでいくのだ。
あんまりな状況に、ハルマサは終にキレた。

(こ、こいつを倒してから降りてくれるわァ――――――!)

高速で飛んでくる炎塊が直撃するまで約一秒。
ハルマサの集中力はその時極限に高まった。



で、集中しまくったハルマサには聞こえていないが、一つのスキルがここで発生する。

≪一定時間以上、魔物と触れ合っていたことにより、スキル「ポケモントレ――――――

このスキルの出番は……まだない。

<つづく>


70話だし、火竜いっぱい居るし、折角なのでチームプレイを披露してもらうことにしました。
戦闘中なのでステータスは後回し。








[19470] 71・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/23 23:02




<71>

ハルマサの攻撃手段は何がある?

毒剣……取り出している暇が無い。
風球……収束させる間に死にます。
極・風弾……チンタラやってると死にます。

(やっぱり最後に頼れるのは―――――――――自分の体ッ!)

――――――手刀斬ッ!

背中の首の付け根にある棘を掴んだまま、中腰になって振り下ろした手刀は、特技発動時のステータス補正、姿勢補正を受け、桜火竜の背に深く突き刺さる。

「ガ!?」

さらに――――――

(突きィッ!)

下段突き。腕が二倍は膨らみ、ワンインチパンチの如く、衝撃がおこり、手がさらにめり込む。

もう腕は肘まで入っている!
ここだ、魔力を爆発させろぉオオオオオオオオオ!

「極・風弾ッ!」

もう収束とかどうでも良いッ! と力を込めて、手から魔力をブシューッと放出する。
すぐさま風となったそれは、ハルマサの意に反し脆弱な威力しかなく、とても火竜の致命傷にはならなかったが、ある繊細な器官を傷つけることに成功していた。

その器官の名は、「業炎袋」。

そうです。またです。
爆発します。

(フオオオオオオオオゥ!)

今度は爆発を予想していたハルマサ。
それでなくても離脱するつもり満々だったので一瞬前に腕を引き抜き、火竜の背を蹴って高く空に脱出している。

彼の下で起こる、大、大、大爆発。
桜火竜の翼が、尻尾が、凶悪な隕石となって、大陸中に飛んでいく。
しかも直後に炎塊がこれでもかと叩き込まれ、空に上がるはでっかい花火。
それを尻目に―――――ハルマサは動いていた。

(ふんだらぁああああああああああああああああああッ!)

今ハルマサは最ッ高にハイ!

爆音に混ぜて「空中着地」で空を蹴り、空にずらりと並ぶ火竜たちの一番端、黒い火竜に飛び掛る。
その動き、すでに火竜の反応速度を凌駕しており、火竜は声を上げることすら難しい。

(ずりゃぁああああああああ!)

――――――崩拳!

ズゴン。

「突進術」が発動し、透明な人影を赤い光を覆い、おまけに「撹乱術」「空中着地」、速度アップに「魔力放出」すら用いた凶悪な一撃は、黒い火竜リオレウスの鼻先に突き刺さり、その衝撃を内部まで浸透させる。

逃げ場の無い衝撃は火竜の内部で暴発し、火竜を内側から破壊。
よってまたも袋が爆発ッ!

もう完全に「散り際に一花咲かせる種族」だと勘違いしつつ、ハルマサは素早く離脱し、次なる標的へ。
隣人(竜)が突然爆発して驚く火竜たちに、ハルマサは踊りかかる。

そのレベルは、レベル11の火竜を二匹倒した経験値により一つ上昇して、11となっていた。





「これで、4匹目ッ!」

「風球」を胸の傷口にえぐり込み、爆発する体を蹴って、爆風を利用して体勢を整える。
これで、無印は全部倒したか!?

どうやら、レベルアップが起こったらしい。
体が、軽くなっている。「風球」が作りやすい。
いや、これは熟練度アップの恩恵だろうか?

正直桜火竜の背に引っ付いていた時からチャランチャラン鳴り過ぎて訳が分からないんだよね。
レベル高くなってきたんだから、ファンファーレが鳴るのは百回に一度とかにしてくれないかな。
重要なスキルが出てても全然気付けないよ!
戦闘の際のBGMとして定着しそうだ。

ハルマサは、手についた血液を振り飛ばしつつ、残りの火竜を見る。
彼の動いた後には手や足から垂れる血が残る。
居場所などとうにばれている。

だが――――――ハルマサは空を蹴って向かっていく。
今の彼は全能感に包まれていた。
この力、この速度、この魔力!
――――――負けるはずが無い!

今度の標的は、一度殺してくれた蒼い竜、まぁ二匹居るけど、その片方だ!

確かに、火竜たちの速さを凌駕しているハルマサだったが、少ない歩数しか空を踏めない「空中着地」や、全力で動くと未だに追いつかない「魔力放出」による噴出などによって、動きは非常に直線的である。
空の覇者たる火竜たちにとって、何度も見せられれば、慣れてしまう程度のものだった。

向かう先、蒼い飛竜は強く羽ばたいて上へ飛び、目標を捕らえそこなうハルマサに、咆哮を浴びせかける。

「―――――――――――――ッ!」
「――――――くッ!」

耳が聞こえずとも衝撃に体がびくりと萎縮し、脳が震える。
衝撃に痺れるハルマサに、他の火竜が炎を吐く。

タラ、と流れる鼻血を自覚する間もなく、ハルマサは飛来した4つの炎に包まれた。

ゴォオオオオオオオ!

(く、ぅおおおおおおおお! 負、けるかぁ!)

調子に乗って、引き際を謝ったのは認めよう!
だけど、簡単には死んでやらないよ!

ハルマサの周囲に張り巡らせた「炎操作」の魔力線。
今の器用さと「炎操作」に感じる手応えなら……バリアーだって出来るさ!

ハルマサは自分を中心に魔力線をランダムに回転させる。
受けた炎の勢いを散らし、外縁に炎を止める。
一時止めておけば……風で吹き飛ばせる!

「極・風弾ッ!」

もう魔力の節約は考えない。
どうせ熟練度ボーナスで上がるはず!
今は……この七対一の状況を逃れるんだ!

真下に放った風の塊は、炎を吹き散らし、撒き散らす。
その中、炎を突っ切りながら、一人の人間が地表に向かって飛び出した。
だが、ここは高度400mの竜の世界。
簡単に逃してくれるはずも無い。

―――――グォアアッ!

至近距離を竜の巨体が迫り来る。

(くッ! ――――――「空中着地」ッ!)

スカッ。

(―――――え?)

だが、空を踏むことは叶わない。
彼は既にレベルアップして確保した最後の一歩を、先ほど踏み込んでいた。

「ギャァアアアオオオオオオオ!」

メシィ……ッ!

咄嗟に顔を庇った左腕に竜の顔が当たり、骨が軋む。
右手は尖った顎の先を掴み止めている。でなければ、ハルマサは腹から串刺しだった。

「―――――――ッ!」

金色の竜は、そのまま僅かにあいた口の隙間から火を噴き出してくる。

ゴォオオオッ!

(まじ……かッ!)

ハルマサは「炎操作」で熱を散らして必死に防ぐ。
逃れられない! 金色のリオレイアが飛ぶ速度が今のハルマサには辛すぎる!

(どうやって逃れたら……って、このまま地面に……!?)

鼻先でハルマサをすくい上げた格好の金色の竜は軽く上昇した後、ハルマサに炎を吹きつつ、地面へ向けて頭から急降下する。
「風操作」にまわす余裕のないハルマサの背中が、空気の壁に抉られ弾ける。
なんて状況。持久力がガリガリ削られ、「暗殺術」を保つことも出来ない。

(く、そ、がぁあああああああああああ!)

ハルマサは右手を離す。
リオレイアの尖った顎先が左腿を貫くのを感じながら、リオレイアの巨大な頭に、手を「突き」こむ。
狙いは……眼球ッ!

ズボォッ!

「!?」

手首まで突きこまれて、黄金の竜は身じろぎし――――――しかしそのまま地面へと突っ込んだ。

ド、――――――メキメキメキィッ!

「ぐ……はッ!」

やばいやばいやばいッ! このままだとッ!

体の下で砕ける岩盤、体の中で砕ける肋骨、火竜の棘が腿に深く突き刺さり、あっさり砕ける大腿骨。
様々な砕ける音が潰れた耳へと振動になって伝わり、ハルマサは苦悶と焦燥に身を捩る。
そんな時、横を見れたのは奇跡に近い。

彼の横にあったのは――――――蔦の絡んだ巨大な樹の根。その向こうに広がる鬱蒼とした樹林だった。


<つづく>



[19470] 72
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/13 17:28
<72>




顔の横に生える艶やかな青い草、その向こうに見える青葉を着けた無数の樹。
鬱蒼と茂る森丘一番の森林帯にハルマサは落下したのだった。
これは……!

しかし彼に考える時間は与えられない。
ぐい、と足に刺さった棘を支点に金色の竜はハルマサを持ち上げる。
その痛さ、筆舌に尽くしがたい!
ハルマサは、再度地面に叩きつけられようとする瞬間、金色の竜を見つつ叫ぶ。

ここは森林!
ならば呼ぶのは。

「―――――――――――カロンちゃんッ!」

カロンちゃんの声は逼迫した状況でも、のんびりと。

【また、えらく大変そうじゃのぅ。】
「助けてぇ――――!」
【ふむ。】

「ギャァアオオオオオッ!」

ドゴォ! と金色の竜が自らの顎ごと叩き付けたハルマサは、しかし緑の膜によりダメージを受けていなかった。
ぐりぐりと足を抉っていた顎の棘が緑の光に押し出されるように抜ける。

金のリオレイアは驚き、巨大な顎を広げて噛み付いてくる。
ハルマサは受けて立った。
がっきと上下の牙を量の腕で受け止める。
ギリギリと筋肉が軋むが、バリアーに助けられているこの状況、僕の筋力でも対抗できる!

緑の光が体を覆い、温かさに包まれ、この状況にも関わらずハルマサは安らぎを感じていた。
痛い。治り始めて体の痛さが弾けて疼く。
だが、彼は「不死」とも言われる体躯を備えた化け物である。
そこに生命力を周囲から吸い取る技が加わって、ギュルリと時を巻き戻すように骨折が直り、傷がふさがり、鼓膜が治る。

「ふっかぁああああああああああああああああつッ!」

復活! 復活! ハルマサ復活ッ!

「どりゃあッ!」

治ったばかりの左足で竜の顎を蹴り上げたハルマサは、緑の膜に包まれたまま飛び上がり、金色の竜を張り飛ばす。

「ギャァオアアアアアアアアアアア!」
「―――――ハハッ!」

なんだこのバリアーは。
全力で動いても、「風操作」が必要ない。
「魔力放出」に集中できる!

――――――最高だッ!

ドォン!

地面を蹴り、金色の火竜へと襲い掛かる。上から他の火竜が炎を降らせるが、そんな物は、軽く避ける!

「つち、操作ぁあああああああああ!」

ざり、と地面を抉るように突き刺した指の先、流した魔力に比例して、強固な岩石が顔を出す。
それが形作るは無骨な柄。
掴んでズルリと引き出せば、現れたのは、無骨で巨大な岩の剣ッ!

【ほぅ、中々の強度じゃの。】
(「なかなか」出ましたぁ――――!)
「――――よっしゃぁああああああああああッ!」

地面を抉り、縮地のように金色の竜に接近したハルマサは、岩の剣を振り上げる。

――――――ゴキン!

竜の顎の棘を砕きつつ、頭を跳ね上げ、

――――――ズガン!

地面に叩き落す。
砕けた鱗がキラキラ散って、その一瞬を彩りあげる。

【呆けるな。尻尾がくるぞ。】
「うん!」

カロンちゃんの絶妙なサポートに従い飛びのいた瞬間、金色の尾が周囲の樹と共に地面を抉り、土を巻き上げる。

「――――――行くよ。」

濛々と舞う砂塵の中、ハルマサは数百キロはあるような剣を、振り上げ跳躍。
迷わずリオレイアに叩きつける。
その重さ、速度、金色の竜の鱗を抜くには十分だった。
堅い鱗で盛大に刃こぼれしつつもその重量でもって肉を裂く。

ズグッ!

首を半ばまで断ち切られた竜は血を吐きつつ――――――咆哮しようとした。
ハルマサはそれを許さない。
空中でありながら、竜の首に足をかけてもう一度剣を振り上げ、同じ箇所に叩きつける。

ガツン! と首の下の鱗を弾き飛ばして、剣が竜の首を断ち切った。

勝負の最後はあっけない。
あれ、爆発は? と首を傾げるハルマサ。
だが、直ぐに顔を引き締めその場を飛びのく。

直後降り注ぐ炎の雨。
しかし今のハルマサには他愛ない。
簡単に避けれるし、当たっても多分大丈夫。

(カロンちゃんッ! 君はやっぱり最高だ!)
【な、なんじゃい突然……】

このままもう一匹倒せるか?
いや、やめておこう。
魔力もこの辺りの植生も、何時まで持つか分からない。

今日はこの辺が終わり時。

「よし、逃げるッ!」

ハルマサは、これが最後と岩の剣を投擲し、火竜の意識を逸らすと「暗殺術」を発動して素早く移動を開始した。
緑の中なら、この光は目立たないはず。
それで岩山の反対側まで行ったら大丈夫なはずだ。

あまりに潔い逃げっぷりにカロンちゃんは不満そうだったが。

【なんじゃつまらん。】
「まぁまぁ」

ハルマサの今日の冒険はここにてお終い。









で、新しいスキルやらがたくさん出てるんだよね。

カロンちゃんは魔力切れで帰っていき、僕もイノシシを狩ってお腹を満たし、後は寝るだけとなったところである。
日はとっぷりと暮れ、今日も見事な満月である。

一息ついたハルマサは、ステータスの特技、スキル欄に浮かぶNew!の文字を見つめていた。
凡そ12時間くらいで消えるこのNew!だが、最近戦いの最中にスキルのことなんか考えていられない僕としては新スキルをざっとチェックできるため、かなり助かるものである。

今回の新しい特性は
「水耐性」
「土耐性」
「E」←希少特性

「E」はよく分からないけど手に入っていた。
金色の竜に、上空から地面に叩きつけられた時にベートーベンの運命が流れたような気がするのだが、「墜落死」とか?
それとも「圧死」とかだろうか。
とりあえず、これで残りの文字は1つになった。

で、新しいスキルは
「金剛術」
「剛力術」
「魔力圧縮」
そして何故か「ポケモントレーナー」

「金剛術」は体を堅くするけど動けなくなるスキル。ワンピース臭い。どうせなら金剛族になれるとかだったら良いのに。
「剛力術」は力が強くなるけど敏捷が半分になるスキルだね。
「魔力圧縮」はそのまんま。風球とかの威力が上がりそうな予感!

「ポケモントレーナー」はポケモンが言うことを聞くようになるスキルだそうです。
モンスターボールが必要らしいので全く使えない無駄スキル。
このスキルはどうやって熟練度あげるのかも分からないけど、何故か熟練度が6000くらいある。
なんでこんな高いの?

そして、特技も新しいのが。

「炎の陣」っていうらしい。
炎を弾く魔力のバリアーだね。道理でよく耐えれたと思ったんだよ。
以前は普通に丸焼きになったのに、2倍とか3倍の量の炎を防げるんだもん。
特技が無いと無理だよねぇ……。

それと「武器作成」っていう今後活躍しまくるであろう特技が……!
「土操作」「魔力圧縮」によって硬度や切れ味が変わるらしい。要、修行!ッてとこかな。
それにしても弓作ったりとか夢が広がるなァ……!


でも、まぁレベルも上がったし、「金剛術」っていう熟練度アップで耐久力を上げるスキルも手に入ったので、これからの冒険は明るいんじゃないかな。
いや、今でもナルガクルガに勝てる気はしないけど。

とりあえず眠いので寝ようかな。
何となくカロンちゃんに就寝の挨拶をした。

「おやすみカロンちゃん。」
【おやすしゅみ……はるましゃくん……スー……】

なんか寝言っぽいの返ってきた――――――!
しかも「くん」付けとか……!

どうしよう!どうしよう! なんか凄くソワソワソワソワしちゃうよ―――ッ!
この落ち着かない感じはどうすれば!

と、とりあえず腹筋しようかッ!
腕立ての方が良いかなッ!

フーン!フーン!

ダメだ! 全然集中できないよ―――ッ!
カロンちゃ――――ん!

そうしてハルマサの一人寂しい夜は更けていくのだった。





<つづく>

レベル:10   →11   ……今回のレベルアップボーナスは2560
耐久力:6764 →18645
持久力:14061→27661
魔力 :19582→33049
筋力 :10574→24966
敏捷 :25659→51038
器用さ:31688→57336
精神力:14913→29759
経験値:5763 →19840 あと640
戦果:リオレウス無印×1、リオレイア無印×3、リオレイア亜種×1、リオレイア希少種×1

拳闘術Lv10 :2773 →6831  ……Level up!
両手剣術Lv10:2309 →5651  ……Level up!
解体術Lv9 :2330 →3658
身体制御Lv11:12067→19770
暗殺術Lv11 :7438 →15441 ……Level up!
突撃術Lv10 :4921 →10032 ……Level up!
撹乱術Lv11 :10543→16249
空中着地Lv12:11265→22385 ……Level up!
撤退術Lv10 :6232 →9246
金剛術Lv7 :0   →877  ……New! Level up!
防御術Lv11 :4082 →11046 ……Level up!
剛力術Lv8 :0   →1877 ……New! Level up!
天罰招来Lv9:2593 →2613
神降ろしLv11:11372→14105
炎操作Lv11 :6543 →12433 ……Level up!
水操作Lv9 :260  →2811  ……Level up!
風操作Lv12 :18430→21081 ……Level up!
土操作Lv10 :2637 →5602  ……Level up!
魔力放出Lv12:22993→31872
魔力圧縮Lv9 :0   →2008 ……New! Level up!
戦術思考Lv11:8445 →17998 ……Level up!
回避眼Lv10 :5794 →8200
観察眼Lv11 :6573 →11109 ……Level up!
鷹の目Lv10 :4462 →7693  ……Level up!
聞き耳Lv10 :3964 →6095  ……Level up!
的中術Lv11 :7833 →13904 ……Level up!
空間把握Lv12:7626 →25188 ……Level up!
ポケモントレーナーLv10:0 →5988 ……New! Level up!


□「水耐性」
 水からの刺激を和らげる、皮膚の機能。水属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「土耐性」
 土からの刺激を和らげる、皮膚の機能。地属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]%マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「E」
 それは続きの文字。24日以内に文字を全て揃えよ。ではなくば、あなたの気力は尽きる。

◆「炎の陣」
 炎を寄せ付けない守りの陣。魔力を用いて炎を弾き返す壁を作成できる。壁の能力は精神力によって変化する。

◆「武器生成」
 魔力を用いて鉱石を固め、武器を作成する。武器の能力は使用魔力、またスキル「土操作」「魔力圧縮」のレベルによって変化する。

■「金剛術」
 体の皮膚を硬化させる技術。鋼鉄のような皮膚で、敵の攻撃を跳ね返すことが出来る。熟練度に応じて耐久力にプラスの修正。動かない時間に応じて皮膚の硬度が倍加する。[(皮膚硬度)=(留まった秒数)×(スキルレベル)×(元の皮膚硬度)÷10]100倍以上にはならない。スキル発動中は持久力が一秒につき50ポイント減少する。

■「剛力術」
 筋肉を行使する技術。筋肉を隆起させ、いつもの3倍の筋力を使用する事が出来る。熟練度に応じて筋力にプラスの修正。スキル発動中は持久力が一秒につき50ポイント減少し、敏捷にマイナス50%の補正がかかる。

■「魔力圧縮」
 魔力の密度を上げる技術。圧縮した魔力は様々なことに応用できる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。
熟練者は圧縮とは逆の工程すら行えるようになる。

■「ポケモントレーナー」
 ポケモンを従える技術。モンスターボールに封じたポケモンの意志を捻じ曲げ服従させる。レベルが[(スキルレベル)÷10]以下のポケモンを服従させる事が可能。上位スキルに「ポケモンテイスター」が存在する。


<あとがき>

いちゴリ!にゴリ――――――!(ゾロが好き)

ポケモントレーナーの説明で、「熟練に伴い、足の爪がチーズ臭くなる(ポケモンにモテモテ)」とか書きたかったけど、そこは我慢した大豆です。

ハルマサ君が急に強くなったように思いますが、今の状態でナルガクルガに挑んだら瞬殺されます。
ナルガの敏捷25万にしちゃったからなァ。初期のハルマサなんて3とかだったのに。
でも戦術次第ならあるいは……。


明日もこうし―――ん!

PVが物凄い事になっていてとてもありがたいです。
それに、感想ありがとうございます!

>jip
???

>一番のヒロインは
呼んだ人の好きなキャラでいいと思う。
作者的にはまだ出てきてないけど77話のひまわりが好きです。

>でろでろさん
今日初めて気づきましたが、それは……ごめんなさい?
でもかわいいといってもらえると嬉しいです。



[19470] 73
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/14 18:46
現在のステータス。
レベル 11
耐久力 18645
持久力 27661
魔力 33049
筋力 24966
敏捷 51038
器用さ 57335
精神力 29759



<73>


なんとかソワソワを鎮めて眠り、翌朝。
ハルマサは、火竜との戦いの跡地へとやってきていた。
空中で爆散した火竜たちのドロップを拾い集めに来たのだ。
ここは一面焼け野原となっており、障害物が何も無く岩山から丸見えなのでしっかりと「暗殺術」を発動している。

火竜の落とす金貨は無印の奴で8枚。
スルーするには少々惜しいのである。
金貨が出現するのはどうやら爆発した後のようで、そこまで盛大に飛び散っているわけではない。
激しい炎にも溶けないので、かなり丈夫な材質のようだった。
結局見つかったのは32枚だったが十分だ。

(今日は、鳴かないんだな……)

と岩山を見るハルマサ。
相変わらず岩山の上では火竜がクルクル飛んでいたが、その数は二、三匹少ない。
数が減ったことで変わったのだろう。
昨日は13対1と言う局面に追い込まれて危なかったが、魔力も充実している今のハルマサなら全滅させることも出来るだろう。
でも、彼らって子どもを守るために戦ったのかもしれないし、全滅させるのって何か違う、とハルマサは思うのだった。

今でも襲われたら返り討ちにはするが、積極的に狩りに行こう、とは思えなくなったハルマサなのだった。

(それにクリアするんなら格上に挑んでいった方が早い。)

さらに、格上のモンスターに挑むことは正直寿命が縮むほど怖いが、そうすることで自らが飛躍的に高まっていく。
一度強くなる感覚を覚えれば、それは離れがたい強烈な魅力を発してハルマサを翻弄するのだった。


しかし、と。
ハルマサはステータスを見て思う。
あと640でレベルアップ。

ここは、レベルアップしてボーナスをウマウマしてから次のフィールドを目指すべきではないだろうか。
でも、火竜を倒すのは何かイヤだし――――――――ティンときた!

「待ってろゲリョォオオオオオオオスッ!」

何度も何度も(二回だけど)、痛い目にあわせてくれたあいつなら、この第二層火竜編(ハルマサ命名)の締めに相応しい!

ハルマサは、沼地へ向けて走るのだった。





踏み出した脚がぬるぅ、とすべる。
沼地に帰ってきたことをハルマサはちょっと後悔する。
地面が泥で出来ているようで、転んだりすると非常に嫌なことになる。
辺りには変わらず、まばらに細い草が生え、木は散発的に生えるだけ。
遠くまで見渡せ、遠くにある北の洞窟からは「ホァアアアアアアアッ!」という咆哮が聞こえる。

(わーフルフルだー!)

次あっちに行こうかな。
なんか耳栓的なもの作って。

そう考えるハルマサは「暗殺術」を発動していない。
すると……寄って来るよね。

「ゲリョアアアアアアアアアアアアアア!」

因縁の相手が!
寄ってきたのは黒いゲリョス。そのトサカは破壊されており、足の指は一本無い。ハルマサと戦った奴だ。
ゲリョスは最初から、口の端より煙を見せる怒りモードであった。
猛烈な勢いを広げた翼で緩めて、ゲリョスは着地する。

ズン!

着地の瞬簡に泥を盛大に飛び散らせつつ、ゲリョスは毒を吐き出してくる。
いきなり戦闘に突入である。

(別に良いけどね!)

ハルマサは、毒の下をかいくぐるように姿勢を低くして走りよる。
毒を潜り抜けた先に眼にする光景は――――――自身に迫り来る巨大なクチバシ。
太い首と大きな頭から繰り出されるついばみは、ゴゥ、と真上から頭を襲い来る。

――――――剛力術ッ!

「むぅ!」

スキル「剛力術」を発動した瞬間、膨張する筋組織。
ズム!と膝まで大地に埋めつつ、ハルマサは巨大な質量を受け止める。

(こ、これはスーパーサイヤ人2筋肉仕様みたいだッ!)

喜ぶハルマサ。
ステータス通りならハルマサの筋力は今、三倍となって7万を超える。
ならば、それを生かした攻撃が出来る!

「ふ、ん、ぬらばッ!」

ギシィと両手でゲリョスの頭を挟み込み、ぐわ、と地面から引っこ抜いて、自身を回転させつつ肩に担ぎ――――――地面に叩き付けた。

ドォ!

(意趣返し攻撃ッ!)

いやぁあの尻尾の時は痛かったからね。つい。

泥の大地のその下にある、岩盤を叩き割る一本背負いは、ゲリョスに少なからぬ衝撃を与えた。
が、レベル11の毒怪鳥は、これだけでやられるほど弱くは無いのだ。

「ギョァアアアアアアアアアアアアッ!」
「ッ!?」

尻尾を操り、膨れた筋肉のせいで遅くなっているハルマサの腕を絡み取り、投げ飛ばす。
空中で体勢を立て直そうとするハルマサは、毒怪鳥が真上に毒を吐き、自分で浴びるという光景を見た。

「ゲリョ~……」

ピキューンと回復するゲリョス。何故か頭のトサカまで復活している。

(ずるくない!?)

毒を吸収するって言っても、それ体内から出た奴でしょ!?
いろんな保存の法則を無視してない!?

「ピェエエエエエ!」

ガキッ!

とトサカをクチバシから派生した固い場所に打ち付けて、今度は一撃で閃光を発生させるゲリョス。

キン! と溢れる光は、必死に両腕で顔を庇ったハルマサの眼球を、刺激する。
太くなっている腕でも関係ないらしい。

「クッ……ハ!」

涙が溢れて止まらない! 別に悲しくは無いけど、理不尽すぎてイヤになるよ!
衝撃で揺れるハルマサに、毒が吐きかけられる。

「剛力術」を解いてから避けるか、そのまま避けるか。判断している内に一瞬避けるのが遅れ、脚の先が毒を浴びる。
じゅ、と溶ける足の爪。

(いったぁああああああい!)

結局「剛力術」を解除してハルマサは着地する。
もう、あれだね。

(回復する暇も無いほど、速攻で倒す!)

ズ―――ドゴン!

大地を蹴ったハルマサは、ほとんど同時にゲリョスの頭を殴っていた。
彼我の距離は経ったの20メートルだった。
そんな距離眼と鼻の先である。

地面に叩きつけたゲリョスの頭に、「剛力術」まで使って、蹴りをかまし空へと蹴り上げる。
手には、「魔力圧縮」によって爆発的に高まる炎。

「―――――――極・炎弾ッ!」

ハルマサの手から飛び出す炎の波は、ゲリョスを焦がしつくし、その表面を気化させる。

「これで終わりだぁアアアアアアア!」

――――――手刀斬ッ!

最後はやっぱり手刀斬ッ!
「剛力術」のおかげか「解体術」のお陰か知らないが、手刀はゲリョスの頭を見事に叩き割ったのだった。


で、戦闘後。
腕に付着したゲリョスの血液に苦しんでいると、ナレーションが響く。

≪毒属性の攻撃を一定量以上受けたため、スキル「毒操作」を取得しました。≫

い、今さら……?
まぁ助かるって言えば助かりますけど……。
腕痛いし……。

てい。

魔力で右手の被毒した部位を触ると、毒が引き抜かれるように、ちゅるんと取れた。
ちょっと気持ち良い。
ついでに足のところも取っちゃおう。
ちゅるん。おふっ!

……これどうしようか。

右手の上には魔力で纏めた毒の玉。
……まだ「毒耐性」が出ていないことを考えると、苦しいのを我慢して毒は置いておいたほうが良かったかもしれないけど……「操作」あれば十分だよ。

捨てよ。

ぽとんと地面に落とした毒は、緩い地面に穴を開け、その下の岩盤にも穴をあけ……凄く下の方へと落ちていった。
ちょっと魔力で凝縮してしまったのがダメだったのだろうか。
強烈過ぎる酸みたいになっていたけど。

で、祝!レベルアップ!
今回のボーナスは5120
いやぁ素晴らしい!
じゃあ、無事レベルアップもしたことだし……フルフルへ向けて耳栓でも作ろうか。


<つづく>

戦闘ばっかり書いていて、飽きられそうなヨカーン!
一応金貨8枚もゲットしております。

レベル:11 → 12 Lvup Bonus……5120
耐久力:18645 → 24209
持久力:27661 → 33004
魔力 :33049 → 38948
筋力 :24966 → 31638
敏捷 :51038 → 56566
器用さ:57335 → 63396
精神力:29759 → 35106

経験値:19840 → 21120 残り19838


○スキル  
拳闘術Lv10 :6831 → 7284
蹴脚術Lv7 :20 → 683  ……Level up!
解体術Lv9 :3658 → 4021
身体制御Lv11:19770 → 19925
突撃術Lv11 :10032 → 10232
撹乱術Lv11 :16249 → 16299
空中着地Lv12:22385 → 22420
防御術Lv9 :4082 → 4182
剛力術Lv8 :1877 → 2213
炎操作Lv11 :12433 → 12856
毒操作Lv4 :0 → 121  ……New! Level up!
魔力放出Lv12:31872 → 32562
魔力圧縮Lv8:2008 → 2097
戦術思考Lv11:17998 → 18225
空間把握Lv12:25188 → 25249
PトレーナーLv10:5988 → 5991


■「毒操作」
 毒を制御する技術。魔力を用いて、外界と体内の毒を制御する。熟練に伴い耐久力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量が増加する。


エクセルかなり楽です。
でも整然としたその美しさが投稿するとグチャってなるので悲しいです。





[19470] 74
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/14 18:46

<74>


フルフルと言えば、白くてエロくて(?)ほぁあああああ! な生き物だと認識しているハルマサである。

そのほぁあああああ!(咆哮ね)への対策をしないまま挑むのは、何回も鼓膜をパーン! された彼にとっては自虐行為のようなものだった。

三度目にパーン! された時は慣れさえ感じたけど、やっぱり鼓膜は大事にしたいんだ!
でも、ここのモンスターたちの咆哮って大概規格外だし、どんな耳栓をすれば良いのだろう。
リオレウスの咆哮は、真空っぽくした空間をサンドした土のヘルメットでも防げなかったし。

いや、でも真空を作るのは間違えてないはず。
音は波だから、その波が伝わるものが無い状態を作るんだ!
でも、ハンターハンターのゴンが水で濡らした耳栓をしていたことも思い出した。

よし、水も使って早速作ってみよう!

今度作るのは多層構造!
水を使うのは……真ん中にしよう。
土・真空・土・水・土・真空・土!
この順に重ねるんだ!

そして作り上がったのが、この耳栓です。
土を限界まで圧縮したので、耳栓のくせに重たいです。
でも、鼓膜がパーンてなるよりはいいよね。
真空の作り方は魔力で風を追い出しても、直ぐに他の空地が入るもんだから、魔力で風を弾きつつ、中から追い出すという、ちょっとメンドクサイ方法になった。
というか火竜の咆哮が防げなかったのって、どっかから空気が入っていたからだろうね。
土の圧縮も不十分だっただろうし。

風を弾くのに使っていた魔力を土へと変質させ、終に完成……な分けないだろ!
作ってから気付いたけど、こんなもん耳に捻じ込んだら耳血が止まらんわ!
何か周りを優しく覆うクッションみたいな……でもそこから音が入ったら意味ないし……。
難しい、もの作り難しいな!

そうだ! ヘッドホン形式にしよう!
捻じ込むから痛いんだ! 隙間なく引っ付けるように作れば問題ない!

で作ってみたのが試作二型。
ぴっちり頭に引っ付いて、少々髪とか土の中に巻き込んでいたり。
これは良い! 何も聞こえんぞ! ちょっと重いけど。
よし! ちょっと動いてみよう!

ちょっと走ったら髪の毛を引きちぎりつつ取れました。
禿げるかと思ったよ!
「不死体躯」って、毛根も再生してくれるのかな……

ヘッドホン型だと激しい運動には向いていない事が分かったので、いっそヘルメットを作ることにした。
でも、またもや抜け毛の心配をするのは嫌なので……

「チャラチャラッチャラ~! ゴム質の特上皮~!」

未だ辛うじて残っているズボンのポケット。そこに入っているのは閻魔様から貰った大事な「収納袋」である。
5万リットル入るらしいので、素材は基本的に入れてみたり。
今日の朝見つけた「金火竜の厚鱗」も入れてある。
なんだか凄く高価に見えたのでネコババしたような気分になったものだ。

その「収納袋」からゴム質の黒い皮を取り出す。
毒に塗れていないところが使用者に優しい一品である。
これをヘルメットと頭の間に挟めば、防具として使った際に衝撃の吸収も出来るし、弾力性があるので密着度も抜群!
言うことないね!
「観察眼」で見ると応答が返ってきた。

≪対象の情報を取得しました。
【ゴム質の特上皮】:脅威の弾力性を持つ、毒怪鳥の特別上等な皮。あらゆる衝撃を吸収する。≫

「あらゆる」は言いすぎだと思うけど、弾力性があるのは確か。
しかも5ミリくらいと薄くて使い勝手も良い。
結構面積もあるし、ヘルメットが終わったら、ボロボロのズボンの補修にも挑戦してみよう。

まずは僕の頭にあわせたヘルメットの外側を作るぜ!
「魔力圧縮」があるのだから、まず頭の周りを圧縮した魔力で覆います。
そしてその魔力を「土弾」の要領で土へと変質!
土、とは言っても、今まで操った事があるものならだいたい真似できるみたいなので、岩剣を作った時に土中から集めた鉱石に似た感じの材質にして、と。
黒光りするフルフェイスヘルメットの雛形が完成だ!
前見えないし息できない上にかなり重いけどね!

……息をする穴くらいは開けとこうか。
眼の穴は……どうせこれから行くのは洞窟の中だし、眼なんか使わないよね。
目立たないように鼻の穴もあけて、と。

脱着も出来るように首のところ広げないと。

で、出来た雛形の上に被せるように風の層、圧縮した土の層、圧縮した水の層……と順番に作って行って……最後に風を抜いて終了!
頑張れば全部魔力で出来るから助かるよ。
水も魔力で作れるようになったから、水も圧縮した魔力を変換して作ってみた。
よっし、完成!
持つと手にズシッとくる。
……重たくない?
ま、まあ良いさ! 僕の首の筋肉だって半端じゃないしね。
一般人が装着したら即座に首がもげるような重さでも、問題ないはず!

じゃあ最後に、内側へゴム皮を貼り付けたいんだけど……ボンドないかな……。
縫い付けるとしても糸が無いし、縫いつける場所がやたら固い。
熱で溶かしてくっ付けるか?
そんな微妙なこと出来るのかな……
ちょっと皮の端に向かって手を翳し、

「メラ!」

ボッと火があたるが変化なし。
まぁ想定の範囲内だ。

「ギラ!」

またも変化なし。
じゃあ二段階上で。

「べギラゴン!」

結構な火が出たが焦げもしない。
ゲリョスの皮膚ってどうなってんの?

「ちくしょー! インフェルノッ!」
≪ポーン! 特技「地獄の業火」を使用するには、生贄に精霊の頭部、左腕部、右腕部、左脚部、右脚部が必要です。魔力が5210217足りません。≫
(なんというエグゾードフレイムッ!)

サラッとエグイし、魔力がミリオン単位で足りない。

困ったなぁ。
困った困った。
困った時は?

「カロンちゃーん!」
【………なんじゃ? まだ朝飯も食うとらんのに……】

ブツブツぼやきつつ、カロンちゃんが来てくれた。
ちょっと呼ぶのが恥ずかったけど、声を聞くとほっこりするね。

「ゴメンね。多分直ぐ終わるから。これをこれに引っ付けたいんだけど、何か良い案ない?」
【そんなことか。真空状態でも作ればよかろう。接着魔法でも使ぅてやろうか?】

即答だった。

「カロンちゃん頭良いねぇ……。」
【まぁの!】

カロンちゃん嬉しそうだねぇ。
よし、じゃあ貼り付けるために皮を切ろう。

(ハサミ……生成ッ!)

ハルマサが両手を地面につけると、地面からズズズ……とハサミが生まれてくる。
何か無駄に格好良い!
カロンちゃんも【おお!】とか喜んでくれているし。
あ、ちなみにここらへんは泥じゃない、比較的地面が堅いところです。

地面から召喚したハサミを使ってショキショキ皮を切り、長方形を作る。
えーとここがこうで、こうだから……できた!

「強盗マスクぅ~!」

【なんでそれでマスクが出来るのじゃ?】
「カロンちゃんがところどころ張り合わせてくれたお陰かな。」

強盗マスクの完成です。
ゲリョスの皮って元々くすんだ黒色だし、これ被って銀行に行ったら即逮捕だね。

【のぅ、貴様の鼻の高さと頭の出っ張りまであわせてあるなら、その防具の内側にこれを貼り付ける必要はないのではないか?】

た、確かに―――!
この黒光りするヘルメット、ペプシマスクみたいに頭をピッタリガッチリ守るから、中にある布が引っ付いてないからってずれる心配は全然無い。
簡単には脱げないし。
カロンちゃんにはマスク作成で大活躍してもらったとは言え、悪いことをしたかも。

【別に構わん。】
「でも、」
【我はいっこうに構わんッ!】

お腹空いてるだろうに男らしいねカロンちゃん。
烈海王みたい。

じゃあ早速……装・着!

おお、何も見えないし聞こえない……。
鼻と口の空気穴(目立たない)は開いているので匂いだけがする。
外見はどうか聞いてみた。

【キモイ。】

酷いよカロンちゃん!
まぁ上半身裸だし、ズボンもボロボロだから見た目は変態だろうけど!

良いもん。ゲリョスの皮をやりくりして上半身の服も作ってやる!

と、こんなグダグダな感じで全身のラバースーツ、胸当て、手甲、脛当てを作る。
作っている最中に特技「防具生成」とスキル「布加工術」が出て、ゲリョスの皮を一片残らず使い切った。
作っている最中に気付いたのだが、これから行くのは雷を吐く飛竜、フルフルのところである。
ゴム質の服が絶縁性を持っているか分からないけど、無駄ではないはず!
裸足なのが若干不安だけど、魔力噴き出したいから我慢です。


何か戦隊物の人みたいになった。
カロンちゃんは全身タイツの如きラバースーツに難色を示していた。
でも、これは通気性もよく、フィット感が溜まらないんだよカロンちゃん。

そういう僕にカロンちゃんは

【貴様は……そうか。そうなんじゃな。】

と納得して帰っていった。
何を納得したのか凄く気になる朝だった。


<つづく>



耐久力 :24209 → 24209
持久力 :33004 → 33004
魔力 :38948 → 46070
筋力 :31638 → 31638
敏捷 :56566 → 56566
器用さ :63396 → 73565
精神力 :35106 → 35741


スキル
神降ろしLv11 :14105 →14740
炎操作Lv11 :12856 →13228
水操作Lv9 :2811 →5102
風操作Lv12 :21081 →22613
土操作Lv11 :5602 →10761 ……Level up!
魔力放出Lv12 :32562 →33971
魔力圧縮Lv10 :2097 →7175 ……Level up!
観察眼Lv11 :11109 →12774
折紙術Lv6 :8 →337 ……Level up!
描画術Lv5 :2 →198 ……Level up!
布加工術Lv5 :0 →290 ……New! Level up!



◆「防具生成」
 魔力を用いて鉱石を固め、防具を作成する。防具の能力は使用魔力、またスキル「土操作」「魔力圧縮」のレベルによって変化する。

■「布加工術」
 布を加工し衣服などを生成する技術。用途に合わせて布を加工できる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は布じゃないものからでも服を作れる。





[19470] 75
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/14 18:47

<75>


全身黒ずくめのハルマサは、頭のヘルメットだけはずして歩いていた。
ヘルメットは袋の中である。
フルフルの洞窟へと向かっているわけではない。
朝ごはんの時間なのだ。

「おはよぅ!」
「ブルフゥ!」
「今日も君の肉を貰うよ!」

ここは川原。ここ数日、毎日リポップしているドスファンゴの生息域だった。
ドスファンゴの肉って美味しいんだよね!
独特の野性っぽさが、もう僕を掴んで離さないよ!

今日はキノコ煮込みにする予定です。

完全にハルマサにとってお食事処と化している川原で、ドスファンゴは昨日と同じく、突進してきた。
ハルマサも昨日と同じく、食材への感謝の気持ちを込めつつ、横に避けながら首を落とす。

――――――手刀斬!

切られた頭はクルクルと回って飛んでいった。
体は傷がつかないように、抱きとめてある。
美味しいお肉は、モンスターへの正しい対処から!

ちなみにドスファンゴではもう経験値は入らない。
完全に食べるためだけの狩りだった。

僕のお肉を食べなよ!
とばかりにポップした骨付き漫画肉を、片手に持ちつつ、地面に手をつける。

――――――圧力鍋!

を呼び出そうと思ったが構造を知らないので、大き目の鍋を作り出す。分類は多分……防具?

「土操作」が生活に密着した便利スキルと化しているが、便利なのは間違いないのでハルマサは積極的に使うのだ。
ついでに生成した長い固めの槍をへし折って、鍋を支える台を作り、その下に空いた空間に魔力を送って火に変質させる。
「炎弾」だと温度が高すぎて鍋の底が抜けるかもしれないので、メラを常時発動させる。
今回は煙は上がらないけど湯気と良い匂いは出るので「風操作」もする。

調理は「魔力放出」と「炎操作」「風操作」のよい訓練にもなった。
スキル高くなったら自然とうまく使えるので訓練とかはいらないかも知れないが、いざと言う時に思いつくのは、普段親しんでいるものだ。
無駄にはならないはず、とハルマサは積極的にスキルを使いつつ炊事を開始した。
炊事とか、文明人っぽいよね!

キノコ牡丹鍋の美味しい作り方。
1番。水を張ります。火力を強めて沸騰させます。
2番。肉を入れます。一口大に「解体術」を用いて切ったやつです。大量なので鍋に入りきらない奴を枝に突き刺して火に炙ったりします。灰汁が半端ないです。掬います。
3番。肉がそろそろ良い感じだと、「調理術」が囁くので、キノコを入れます。キノコキムチは今回は使わない方向で。いつもアレだと飽きちゃうからね。
4番。目に付いた香草とか、薬草とか、体に良さそうなものは全部入れます。
5番。カオス! 確かにキノコと牡丹と鍋だけども!

闇鍋みたいになったけど、まぁよし。食えるさ。

モッチャモッチャ。
このキノコやたら傘が広いな。
モッチャモッチャ。

箸なんか無いので素手で中を掬って食べています。
モンハンの双剣に分類されていた、ナイフとフォークのセットでも生成しようかな。

うん、味は悪くない。よくもないけど。
塩か醤油が欲しい。

「ご馳走様でした!」

スープも全部飲んで、ハルマサは手を合わせる。
鍋を土に返し、

そういえば、海を強制的に200メートルくらい素潜りさせられたとき、確かにしょっぱかった気がする。
海水を乾燥させることによって、素晴らしき食生活が始まるのか!?

そうと決まれば、ダーッシュ!






うん。よく考えるべきだった。
前潜った時、その姿が見えなかったからって、居ないとは限らないよね。

ハルマサには、白い浜、蒼い海、そして水面に浮かぶ背ビレが見えた。
キャーオゥ!とか何とか、特有の甲高い鳴き声をさせて時折背びれを翻しているのは、水の支配者(?)ガノトトスさんです。
なんと全長30メートルもある。
「観察眼」で見ればLv12相当らしい。
逃げよッかな。
イヤでもレベル12だし……。
……いっちょやってみる?

やりますか!

(でぇい! 錬金ッ!)

錬金ではないが、ハルマサは砂浜に手をつき魔力を流す。
今ハルマサは手ぶらなので武器が欲しいのだ。
魔力から武器を作るのと、地中の鉱物から作るのでは、消費魔力が段違い。
これから戦うという時に、無駄な魔力は消費できない!

ズルリと地面から引き抜いたのは、一本の剣。
前と同じ岩の剣だけど、今度は少し形に凝って、バーサーカーモデルにしてみた。
ナックルガードが着いていると言うか、岩の板に取っ手が掘り込んであるというか。
昨日の鉄板に柄をつけました、といった感じの剣は、ベルセルクモデルと言えるかも。

さて、まずはこちらのフィールドに引っ張り出さないとね。

科学か生物か物理の授業で習ったけど、海水みたいな不純物の混じった水は……電流を通しやすい!

「雷弾ッ!」
「ギャァアアアアアアアアア!」

ブシッ!

水中から叫び声と共に一条の水の光線が飛び出してくる。
雷を空中で迎撃した水は、些かの威力の減退も見せず、遥か空へと跳んでいく。
まるでビーム。
そしてハルマサはその光景に記憶を刺激される。

なんか入った直後に貰うビームの水版みたいな………。
ていうかこのモンスターの溶岩バージョンが居たよね!
あれはえーっと、なんとかガノスっていうモンスターのせいだったのか!
……なんとかガノスは眼が良いんだねぇ。

一つスッキリ!

ハルマサがスッキリしていると、再度水中から飛び出す水流。
キラリと光る「回避眼」に、ハルマサが慌てて身を引くが、

その速度はあまりに速い!

水の光線はハルマサが視認する間もなく到達し、ハルマサの頬肉を抉って飛んで行く。
バシッと弾ける頬肉と穴の開いた耳が、はっきり言ってかなり痛い。

(や、やっぱ無理かも……。)

また同じ攻撃が水面から射出される。
今度は「回避眼」は発動せずに、水流はハルマサを襲う。
ハルマサが体の前に掲げていた岩の剣を貫通し、ついでにハルマサの肩も貫通し、水流は飛んで行く。
一瞬何が起こったかわからずに、次の瞬間走る痛み。
左肩が上がらないッ!

(痛ァ! ちょ、絶対無理ッ!)

ピシュンピシュンと飛んで来る水を「回避眼」だけを頼りに避けながら、ハルマサは後ろに跳ぶ。

(………え!?)

この時スキルが複数発動。
飛んで来る水のスピードが対照的に遅くなり、今なら避けれるか!? とハルマサに思わせる。

当然である。「撹乱術」「空中着地」「撤退術」を複合した結果、一瞬だがハルマサの敏捷は20万を越えたのだ。
ガノトトスの攻撃をかわせないほうがおかしい。

(それなら……!)

常に動き、スキルを発動させ続ける!
左右に高速で動き、ジグザグとハルマサは砂浜を移動して、海に向かう。

水の攻撃の威力とスピード。
同じレベルのはずのハルマサを圧倒することから、恐らくチャチャブーと同じ特化型!
ならば、その引っ込んでいる巨体の懐に潜れば――――――勝機ありッ!

ハルマサが高速移動を始めると、水の攻撃は目標を定めきれず、しかし直ぐに対策が取られた。
一回目は横薙ぎの一撃。
空に飛んでハルマサが良ければ、そこに食らわせられるのが、放射状に広がる範囲攻撃だった。
放射状に広がる攻撃予知線にハルマサは、唇を噛み締め、覚悟を決める。

ギシリと空を蹴り飛ばし、吶喊する。

「うぉおおおおおおおおおおお!」

岩剣から片手を離し、離した手に魔力を纏わせ眼前に突き出す。

――――――「水操作」!

ギュルリと無色のエネルギーがハルマサの右手を螺旋に覆い、手のひらへと収束する。

(これで穴を開ける!)

範囲攻撃は、収束されていない水の激流。
ただしその密度は異常だった。
これを潜り抜けようとするなら、「水操作」Lv11が必要だった。

メシリと。
突き出した手の指が4本、曲がらない方向に折れ曲がる。

押し寄せる水は一瞬で操作できる許容量を超え、ハルマサを吹き飛ばす。
水なのにその質感は硬かった。

「――――――ぐぅ!」

迫り来る金属の波とでも言うべきか。
防御に使った岩の剣は一撃で折れ、ハルマサもかなりの痛手を負う。

相手は自分の領域を出ず、その攻撃をやめさせる術は思いつかない。

(――――――クッ!)

ハルマサは唇を噛みつつ、撤退することに決めたのだった。




「痛い……。」

いや、もう。
指とか肩とか……そろそろ泣くよ?
頬は治ったけど、耳は削れたまんま治らないし……。
僕ずっとこの耳なの?

水面に映る自分の顔を見つつ、ハルマサは沈む。

いやぁもう。どうすればよかったのだろう。
ハスタァさんに雷でも落としてもらう?
また僕に落とすんじゃないだろうか。
カロンちゃんとセットなら安心して呼べるけど、そのためだけにカロンちゃん呼ぶのもなぁ……。
「暗殺術」使っても、水中だったら狙い撃ちジャン。
持久力無駄に減らすだけだし……。

森丘の川原でハルマサは一人反省会を開いていた。
先ほど「水操作」を使った時、こりゃあかん、と思ったのだ。
奴と戦うには、何かのレベルアップが必要不可欠。
今回は確かにスルー出来るが、また出てきたら?
しかもそれが逃げれない局面だったら?
対策が必要だ。

ハルマサは事前準備の大切さを改めて思うのだった。


<つづく>

耐久力 : 24209 → 24415
持久力 : 33004 → 33092
魔力 : 46070 → 47789
筋力 : 31638 → 31878
敏捷 : 56566 → 57103
器用さ : 73565 → 75714
精神力 : 35741 → 35963

拳闘術 Lv10 7284 → 7294
両手剣術Lv10 5651 → 5781
身体制御Lv11 19925 → 20143
突撃術 Lv11 10232 → 10432
撹乱術 Lv11 16299 → 16530
空中着地Lv12 22420 → 22538
撤退術 Lv10 9246 → 9365
防御術 Lv9 4182 → 4360
雷操作 Lv8 1329 → 1479
土操作 Lv11 10761 → 12538
魔力放出Lv12 33971 → 34829
魔力圧縮Lv10 7175 → 8036
戦術思考Lv11 18225 → 18447
回避眼 Lv10 8200 → 8345
観察眼 Lv11 12774 → 12839
聞き耳 Lv10 6093 → 6283
調理術 Lv2 8 → 12  ……Level up!





[19470] 76
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/14 19:05
<76>


修行とは、己を高める行為である。
しかしこのダンジョンにおいて、ハルマサはその行為の必要性をこれまで感じなかった。
なぜならば、適当に敵に突っ込めば強くなるのだ。
一人で頑張って苦しい思いをするまでもなく、何時の間にか強敵に勝てる力が備わっていく。
チートだなぁ、と思いつつハルマサはこれまでやってきたのだ。

だがここに来て、水中という無敵の要塞の中で攻撃してくる遠距離攻撃特化型のモンスターを相手取った時、何かしら対策を取る必要が出来た。

そう、これからは「修行編」だッ!

「火竜編」が終わったので、次は「フルフル編」だと思っていたが、その前に思わぬ強敵の出現だった。
ちなみにこうやって「~編」と区切るのは、ダンジョンに挑んでいることをどこかゲーム的に捕らえて寂しさを紛らわす一つの手段として、ハルマサの中で確立していた。

よって第二層攻略・2「修行編」である。






ガノトトスを相手取った場面を思い浮かべる。
ハルマサが望む戦い方は、地上に引きずり出しての接近戦である。
それならば、今までのモンスターたちで培ってきた力が発揮できるだろう。
よって、問題はどう地上に引きずり出すか。

……難しいな!

「暗殺術」で水面までは行けると思うんだ。
だけど、水中では簡単に分かっちゃうだろうし。
そこであの放射状の水流撃たれるときついなァ。
ビームも避けれないだろうし。
うーん。
何とか上手く水中から蹴り出せないものかな。

肝は水中戦。「水操作」の錬度と、後一つ何か……。

水中戦での脅威はなんだろうか。
それは素早く動けないことにより、狙い撃たれやすいことだろう。
また、水中でのタックルなども警戒しておいたほうが良い。防御力アップは必須だろう。
他には? ……呼吸か。
恐らく地上での何倍もの速度で持久力が低下するに違いない。

よってこれから主に向上させるのは、
①水中でのスピード
②防御力
③心肺機能
でいいかな?

①と③は川で潜って泳いでみよう。その中で「水操作」も併用すれば良い。
②は……あの、僕の中では最高硬度で作った岩剣があっさり貫かれたことから、盾を作るって言うのも……。
僕の中では?
……そうか!

ハルマサは懐の「収納袋」から輝く黄金の丸い板を取り出す。
表面に美しい紋様のある板は、今朝拾った「金火竜の厚鱗」である。
かなりぶ厚く2から3センチはある
軽く叩いてみると、キンキン、と音がする。

「金火竜の厚鱗」みたいに他のモンスターから奪った素材を使えばいいんだ!
岩剣で切った時も物凄く堅かったし。
まぁ削ったりなんて繊細な事が出来るかは怪しいから、盾の表面に嵌めこむ方向で。

よし②も決まった。
竜の鱗を集めよう。
目標は、全身が隠れる盾の表面をびっしり鱗で覆うこと。
「金火竜の厚鱗」一枚で僕の顔くらいあるから……縦に並べて七から八枚。
横に並べて四から五枚は欲しい。
僕は八頭身ではないだろうけど、互い違いにしたいから八枚だ。
だから、まぁ40枚あれば足りるかな。
絶対火竜足りないから、昏倒させて引っぺがすことにしよ。

さぁ、むきむきしてやるよッ!

ちょっとエロイことを呟きつつ、ハルマサは火竜の居場所を探るのだった。





ハルマサが塩を取りに来ていた(最初の目的はこれである)のは森丘が面する海である。
ハルマサが強制ダイビングさせられた地点からは少し南(毒沼寄り)の位置。

その場所で、空中にあらん限りの力で飛び上がったハルマサは、「風操作」でゆっくりと落下しつつ、「鷹の目」で獲物を探す。
できれば、希少種がいい。
なんか堅そう、とハルマサは思っていた。

「発見ッ!」

すぐさま「風操作」を使って下向きの風を吹かせ、地に着いた瞬間走り出す。
目指す先に居るのは……銀の火竜!



「ギャォアアアアア!」
「はーい! ちょっと痛いよ!」

ハルマサは岩から作り出した剣を振り下ろし、ゴキン! と痛いどころではない衝撃を頭部に叩きつける。
これで、昏倒してくれれば……と思うがそんなやわい種族ではない火竜の、さらに希少種である。
殴られつつも突っ込んでくるほど元気であった。

最早敏捷はハルマサが完全に上回っており、銀のリオレウスと言えど危なげなく戦える。
飛び上がろうとすれば翼を叩き、火を吹こうとすれば頭を叩く。
ただ、気絶させて鱗を剥ぎまくりたいと思うハルマサは、殺してしまいそうな攻撃も出来ず、なんだか、グダグダの戦いとなっていた。

火竜に取り付いて剥がしにかかってもよいのだが、それだと、また盛大に暴れられるのが関の山。
なんだか上手く行かないぞ、とハルマサは眉をひそめる。

試しに魔法を叫んでみる。

「スリプルッ!」
≪ポーン! 特技「睡眠誘導波」を使用するには、スキル「毒操作」Lv17が必要です。≫
(名前カッコイイな! しかも毒操作なんだ。)

「まだまだ! 甘い息ッ!」
≪ポーン! 特技「甘い息」を使用するには、桃色特性の封印を外してください。≫
(え!? 使えるの!?)

なんと二つ目で当たりである。
封印外すってことは……ブレスレットを外せば良いんだね。
よぅし、テイク・オフッ!
おっと。

迫る火竜の尻尾を、剛力状態になりつつ岩の剣で防御する。ガイーン!

さて、ブレスレットを袋にしまって……行くよ!

「甘い息ッ!」

モワーン……

その瞬間僕の肺に溢れる気体。
それを吐き出せば……ピンク色だった。

予想はしてたけどね!
まぁ良いや。多分眠るでしょ。ほれ吸えやれ吸え、もっと吸え―――!

風を送って火竜に吸わせる。

「ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

超絶に怒り出してしまった。

周りの大地を焼きつくさんと、火を吹きまくり、突進を繰り返し、咆哮をしまくる。
ふ、甘い!
「炎の陣」で火を受流し、突進は「剛力」「防御」で跳ね返し、咆哮は……既にヘルメットをつけている!
実は真っ暗の中、「空間把握」で戦っていたのだ――――――!
防音性能の思わぬテストになったけど、バッチリだった。
まぁ「空間把握」なかったら泣いちゃうレベルで外界の情報得られないからね!
体のゴム質スーツによって衝撃もほとんど感じない。
防具って凄い!

とまあそれは良いとして……なんで怒ったんだろう。
ステータスを見てみる。

◆「甘い息」
 一定時間、異性をメロメロにし、同性をガチでキレさせる魔性の吐息。所有する桃色特性の数によって効果は変化する。異種族にも有効。

へ、へぇー。
2号さん桃色好き過ぎだよね。異種族魅了して意味あるのか……。
とにかくリオレウスはオスなので怒り狂っているらしい。


と、そろそろ銀火竜の攻撃がピークを終えてきた。
疲れたんだろうか。
かなりガチでキレたんだろうね。桃色三個もあるし。「痛み変換」も併せたら四個だろうか。

ヒーコラ言い出して、逃げようとする銀火竜を殴ると、簡単に気絶した。
持久力なくなるとこうなるのか……僕も気を付けよう。




「ふむッ!」
ビクン!
「ふんぐぐぐぐ……!」

ベリッ!
ビクビクン!

「銀火竜の厚鱗」は、暗いところでも月色に淡く輝く魔性の鱗。
ヘルメットを外したハルマサはその光をとても美しく思った。
気絶している内に急いで剥ごうと思ったのだが、これが中々、結構強固に引っ付いている。
一枚剥くにも、「剛力術」を発動し、渾身の力を込める必要があった。
テコの原理を使おうと差し込んだ岩剣はボキンと折れてしまった程だ。

でも、苦労の甲斐あって既に十枚が袋の中に。
よし、この調子で……と頭の近くを見た時、他のと違う鱗が目に入った。

ん? んん?
とりあえず剥いでみよう。
ふーーーーーん、ぬらばぁ!

ベリィ!

「ギャァアッ!」
「うぉ!」

起きちゃった。
ハルマサは咄嗟に後ろに跳び退り、距離をとる。
しかし銀火竜は、こちらを一顧だにせず飛び去った。
見事な逃げっぷりだった。

場合によっては彼にまた鱗をお願いするかもしれない。
ずっと元気でいて欲しいとハルマサは思った。

で、最後に剥ぎ取った鱗だが……

≪対象の情報を取得することに成功しました。
【火竜の天鱗】:火竜の幻ともいえる鱗。武具に用いれば、天を掴む。
詳しい情報を取得するには「観察眼」Lv12が必要です。≫

ほほぅ……。
「天を掴む」は言い過ぎだと思うが、つまりとんでもなく堅いのだろう。
良いもの手に入れたぜ!

というか天鱗は、雌火竜の奴もあったよね。
じゃあ次は金火竜に突撃訪問だぁ―――――!



「あ、じゃあ痛いけど、ゴメンね?」
「グル……」

金のリオレイアに「甘い息」使ったら簡単に鱗は集まった。
何か従順すぎて情が湧くレベルだ。
ただ探しても天鱗は無かったため、あれは結構レアだったのかも。
そういえばゲームでもなかなか出なかったしね。

とにかく、これで材料は揃ったぜ!

手に入れた鱗を地面に並べて、圧縮した魔力で包み込み……鉱石に変質!
そうして出来ました!
終に完成ッ!
ババーン!(口で言った)
最強の盾、ピカピカデラックスッ!
略してピカデラだね。

作り出した盾は、幅70センチ縦170センチ、厚さは10センチで、とんでもなく重い!
表面には露出させた鱗が光り輝きかなりゴージャス。
豪華さでは天空の盾なんか眼じゃないぜ!

「さぁ、金ちゃん! ちょっとここに突進してみて!」
「ギャァ~」
「いや、僕をベロベロ舐めるんじゃなくてね? ここに……まぁいいや。」

ちょっと懐き過ぎだよね!
騎竜の戦士とかになれそうだけど、「甘い吐息」は制限時間がある。
我に帰った金火竜と、戦うのは心情的にかなりキツイので、ここらで別れておく事にした。

「じゃぁね! 付いてきちゃダメだよ金ちゃん!」
「グルル……」
「ダメって言ってるのに……。ゴメン!」

ハルマサは全力で逃げて、見えなくなった一瞬で地面に潜り、やり過ごした。

「ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

遠くで咆哮する金火竜の金ちゃんの声は、どこか寂しそうですらあった。
こ、心が痛い……。


<つづく>



耐久力:24209 → 27406
持久力:33004 → 34025
魔力 :46070 → 51943
筋力 :31638 → 36859
敏捷 :56566 → 58416
器用さ:73565 → 83890
精神力:35741 → 36528



両手剣術Lv10:5781 → 7433
解体術 Lv10:4021 → 6398  ……Level up!
身体制御Lv12:20143 → 23281  ……Level up!
突撃術 Lv11:10432 → 12032
撹乱術 Lv11:16530 → 16926
空中着地Lv12:22538 → 22861
走破術 Lv9:2163 → 2853  ……Level up!
金剛術 Lv8:877 → 1377  ……Level up!
防御術 Lv10:4360 → 6726  ……Level up!
剛力術 Lv9:2213 → 4982  ……Level up!
炎操作 Lv11:13228 → 14986
土操作 Lv11:12538 → 15527
魔力放出Lv12:34829 → 37745
魔力圧縮Lv11:8036 → 10993  ……Level up!
戦術思考Lv11:18447 → 19234
回避眼 Lv10:8345 → 8826
観察眼 Lv11:12839 → 14699
鷹の目 Lv10:7693 → 8409
的中術 Lv11:13904 → 14372
空間把握Lv12:25249 → 27001
心眼Lv4  :0 → 72  ……New! Level up!
PトレーナーLv11:5991 → 10272  ……Level up!


◆「甘い息」
 一定時間、異性をメロメロにし、同性をガチでキレさせる魔性の吐息。所有する桃色特性の数によって効果は変化する。異種族にも有効。

■「心眼」
 第六感ともいえる動物的な勘。確率で、危険を察知する事が可能となる。レベルアップに伴い、スキルが発動する確率が増加する。眼を瞑っていると発動しやすい。


<あとがき>

真のヒロインは金ちゃんだったんだぜ――――!(嘘です。)
火竜系の防具って水属性あんまり効かないらしいです。
だからガノトトス戦に向けて集めても良いよね。

あと今回、全部グダグダ!
明日は、明日は頑張る!(とか思っていたら明日も酷い。ちくしょう!)

明日も更新!

感想ありがとうございます。力出ますね。

>金貨1000枚
閻魔様が桃色解除薬みたいなのを作ってくれるのです。
何話くらいか作者もよく覚えていないけど。

>稀少特性の答え
そこのところをさっき書いたのだけどお気に召すかどうか定かではない!(力強く)
何ちゃってアストロンは上手い言い方ですな。

>レベル50までのモンスターがいうこときいたりしたら
ポケモンスキルはこれから急上昇して行っちゃうのであるかもしれません。

>波紋・幽波紋
……あるな!
こういうの考えるの楽しい。ちょっとわくわくしてきたぜ!

>先のお話だったのですか
申し訳ないです。
あとキャラに期待もしてはならない!

>ロケット団
初期しか知らないけど彼らの行動は好きです。よってスキルではなくとも何かしらで出てくる可能性は大ッ!

>あわわ
確認したけど、このキャラはえらい可愛いですね。
でも閻魔様はもっとこう、キリッと! してるのだろうか? やっぱりよくわからない。

修正:甘い吐息→甘い息



[19470] 77
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/15 17:31
レベル:12
耐久力:27406
持久力:34025
魔力 :51943
筋力 :36859
敏捷 :58416
器用さ:83890
精神力:36528

経験値:21120
金貨 :72枚


<77>


手元には盾に使わなかった鱗が1枚残っている。
金色の鱗はとんでもなく高価なんではないだろうか。金貨の代わりになるかもしれない。
だが、その防御能力を僕は買う!
つまり胸当ても強化だ!
ヘルメットには湾曲してないから無理だけどね。

そうして胸の中心、心臓を守る位置に光り輝く鱗をつけたカッコイイ胸当てが!
ゴメン嘘です。
怪しさが増したよ。


「よーし水を操るぜぇ――――!」

川原にやってきました。
そよそよと流れる川ですが、水深は5メートル、川幅は10メートルほどあります。

これから僕は、水中で素早く動くために「水操作」を鍛え、心肺機能を鍛えるために水に潜るのだ!
あわよくば泳ぎに関するスキルもゲットしてしまおうという今回の企画!
泳ぐんだから、服は脱ぐ!
トーウ!
かっこよく脱いだら脱衣系のスキルとか出ないかな。

ちなみに、胸当て手甲は攻撃を受けそうな部分以外はゴム製です。
脱ぐのも簡単!
こんなにゴム皮あったのかよって思うくらい、いろんな部分にゴム皮使ってます。
「布加工術」様々だね!
全身ラバースーツも脱ぎ捨てて、下着も全部「収納袋」の中に、イン!
外見に比例しない重さの袋はこの樹の根の辺りに埋めておこう。目印は棒で良いかな。

ただし盾だけは出しておく。
何故なら、これを持ってガノトトスと戦うからだ――――!

じゃあ、このやたら重い盾を持って、と。
おふっ。ズシッと来る。
盾と言うか、端がちょっと丸くなった四角い板にしか見えないし、かなり取り回しづらいけど、我慢だ。
片手で持たないといけない事が地味に辛い。
両手で持ったら何にもできないからこれも我慢だ。
シールドバッシュとかしたかったんだけど、今のままだと無理そうだ。
ていうか走ったらこける。体から離したら地面に擦っちゃうよ。岩剣よりは確実に重い。
今朝投げ転ばしたゲリョスと同じくらい重いんだけど。
これは「土操作」「魔力圧縮」が上達したお陰かな。
とにかく重たい。腰に来る。

でも水中だったら――――――!
ドボーン!

『ふんむぐ―――――!』

当然浮かない。
凄い勢いで沈んだ。

(今気付いたけどこれを持って泳ぐって、凄く難しくないかな!)

川底にめり込む盾を引っ張りつつハルマサは今さらのように思う。
仕方ない、ここは「剛力旋風」だ!

(説明しよう! 剛力旋風とは、「剛力術」を発動して旋風のように舞い、川底に沈んでいる盾を川原に蹴り出す技なのだ―――!)

対象を限定し過ぎなことを考えつつ、ハルマサは「剛力術」を発動。
筋肉が肥大し、体中に力が漲るが、同時に酷い疲労が体を襲う。

(あれ?)

と思い、ステータスを見ると、持久力の減りが半端じゃない。
一秒で百は減っている。
水中だからということか!
速くしなきゃ!
そう思い、手で持って投げれば良いのにハルマサは剛力旋風を使う。

ガイン!

(痛い!)

当然足の指が痛いですよね。
しかし今は足を抑えて蹲っている時間も惜しいハルマサ。
彼は盾を両手で掴むとジャイアントスイングを始める。

(ふん、なぁあぁぁぁぁぁぁあああッ! とんでけ―――!)

ブオッ! とジャイアントスイングで生じた渦巻きを切り裂きつつ、盾は川を飛び出していく。
投げた瞬間何かの特技が発動したのか、とても良い手ごたえだった。
川底でなければキラキラと爽やかに汗が舞い散っているだろう。
大変気持ちよく投げれたハルマサだったが、直後とてつもない危機感に襲われた。

(よく分からないけど何かマズい! み、水操作ぁッ!)

グワ、と手のひらを上に向け、水をかきあげる。
魔力に導かれて川の水は水龍のごとく暴れ、氾濫する。

(水の中なら、水流を激しくすればだいたいの事は防げるはず!)

そう思ったハルマサに迫る危機は、「だいたい」の範疇に収まっていなかった。

(た、盾が戻って来たー!?)

ギュルギュルと回転する巨大な質量の盾はブーメランの軌道を描くように戻ってきたのだ。
それこそが特技「盾ブーメラン」の効果だったが、返ってくる盾を受け止めなければならない方としてはたまった物ではない。
水底を蹴って思わず避けていた。

ズドォ! と川底に刺さる盾。

濛々とあがる川底の砂。
それを見つつ、ハルマサは意識が遠のくのを感じていた。

ああ、持久力切れたんだね……「剛力術」きっておけよ僕のバカ……



気付けば僕はよく分からない場所にいた。

空はクレヨンで白地を適当に塗ったみたいな色をしており、
ぐるぐる巻きの太陽が辺りを照らしており、
小学生が書いたみたいな雲が浮かんでおり、
目を写せば下手糞な絵の様な歪んだ森林があり、
ムニャムニャ聞こえると思って見下ろせば足元のひまわりはひまわりのくせに僕の脛までしかなく、顔が付いていて鼻ちょうちんを出しながら眠っていた。

「僕の顔を……食べなよ……ムニャ……」

寝言を聞き流しつつ顔を前に向けると、目の前数センチにカーネルサンダースがいた。
ケンタッキーフライドチキンの前で常に笑っている人だ。
とりあえず近いと思って身を引きつつ見ていると、太陽の胡散臭い光を浴びてマネキン特有のツヤツヤした光沢を浮かべつつデフォルトの笑顔のまま、口も動かさずにカーネルサンダースは喋り始めた。

「あのね。いい加減にしないとワシ怒るよ?」

怒るらしい。そもそも誰?

「分からんのか!? この姿を見ても!?」
「ふ、フライドチキン屋を全米で繁盛させた人ですか?」
「違うわ――――――!」

笑顔のまま怒られる。

「ワシじゃろうが! ワシ! 子どもに大人気の、盾の精霊じゃろうが!」
「は、はぁ……」
「お前が中々珍しい盾を作ったから見ておったら……水に沈めたり投げたりと……ちゃんと使え!」

徐々にヒートアップしていったカーネルサンダースは、表情を変えないまま、ダンダンと悔しそうに地団太を踏む。
ひまわりがスタンピングに巻き込まれて「ピギャー」と悲痛な声を出していた。

「痛いよぅ!痛いよぅ!」
「もう、ワシ耐えられん! そんな使い方されたら、ワシもう耐えられんのよ! ホント、ワシもう耐えられんよ!?」
(しつこいな……)
「踏まないでおくれよぅ!」

ひまわりを踏みにじっていたカーネルサンダースは唐突に動きを止めると、ハルマサに手に持っていたステッキを差し出してくる。

「だからお前にこれやる。」
「はぁ……」

いらないんですけど。

「その名も超力ステッキ! 食べれば筋肉モリモリじゃ!」
(食べ物なの……?)
「僕の友は、愛と勇気だけ……さ……」

ようやく足をどけられたひまわりが、寂しいことを呟いていた。
このマネキンよりあっちと話したいとハルマサは思った。

「素晴らしいステッキだけど、もうお前に上げちゃうよ! ほれ食え!」

顔面に押し付けられて鬱陶しい。カーネルは引き下がりそうにないので仕方なく食べる。バリバリと。ゲロまずかった。
ハルマサは顔をしかめつつ、気になっていたことを尋ねた。

「なんでそんな格好してるんですか?」

カーネルは雰囲気できょとんとした。しかし顔は1ミリたりとも動かなかった。お客を迎える笑顔のままだった。

「ワシの姿、直にみたら精神の鍛錬が足りんお前は廃人になっちゃうよ?」

真の姿は余程神々しいと言うことか。気を使ってくれていたらしい。

「あとワシ、フライドチキン好きじゃし。」

どっちかと言うとこちらの方が本命の理由らしい。
チキンの素晴らしさを滔々と語りだすカーネルの言葉を聴き流しつつ、ハルマサはさっきからすねを葉っぱでつんつんと突付いてきていたひまわりを見おろした。
ひまわりはハルマサを見ながら根っこでトコトコ歩き、葉っぱを広げた。

「太陽光が、美味しいねッ!」

とても良い笑顔だったので、ハルマサの顔も思わずほころんだ。





(……ハッ!)
「ゴボボバッ!?」

目が覚めると水の中だった。
そ、そうか! 水の中で意識を失ったんだった!
そして「おやすみマン」の効果で、溺死を免れたんだね!
ありがとう「おやすみマン」!
夜の不安をバッチリサポートしてくれる君は、僕の強い味方だよ!
変な夢を見たのは君のせいではないと信じているよ!

ハルマサは川底に沈んでいたらしい。
脱力しても体が全く浮かなかった理由にハルマサは心当たりがあった。
筋組織が密な人は浮きにくいということだ。
現世で計った時、ハルマサは見た目に反し、80キロを越えていた。
今では100キロあるかもしれない。
筋密度は異常の一言だろうし、川底に沈んでもおかしくない。

水泳で黒人選手がメダルを取れないのと同じだね!
それはともかく、さっさと水中から出よう!
体が冷えちゃったし!

ハルマサは沈んでいたお陰で、流されず、盾が刺さっていたところのすぐ傍にいた。
盾を引き抜き、今度は普通に放り投げ川原に送る。
酷く盾の取り扱いが楽になっていたため、何かのスキルを得たのかもと考えるが、今はそれどころではない。
持久力がまた切れそうなのだ。
どうやら眠っていたのは僅かな時間らしい。
それほど回復していない。
そしてどんどん減っている。
残りは……3。

(まずいッ! トゥ!)

慌てて「剛力術」の発動を止めつつ、ジュバァ! と水中から抜け出して川原に落り立つハルマサ。
体が冷え切って少しつらい。
この体は風邪とか引くのだろうか。

(分からないけど……べギラマ!)

なんだか丁度よく目の前に突き立っていた木に火をつけ、暖を取る。
あったけー。

≪ポーン! 火の精霊が狂喜し、木の精霊が激怒し、水の精霊が憤怒で卒倒しました。スキル「神降ろし」の熟練度が1000上昇し、8000減少しました。熟練度変化に伴いレベルが下がりました。精神力に修正がかかります。≫
(……水の精霊って気が短いんだね……。そんな倒れるまで怒らなくても。)

ていうか熟練度減りすぎ。
どうしてこうなった。
川に小便したらスキル消えそうだね。

……そういえばダンジョン入ってからお腹減るばっかりで、排泄物出してないんだけど。
大丈夫なのかな……物凄い便秘とかじゃないよね……?
まぁ考えても仕方ないよね。
なるようになぁーれッ!

そう思い、眠るハルマサだった。

寝て起きたら火が延焼して森林火災が起こっていて、「神降ろし」の熟練度がさらに1000下がっていたのは余談である。
あと、筋力に変化はあるのか、正直よく分からなかった。






<つづく>



短かったので夢を付け足したら2倍くらいになった。ひまわりが家に欲しいと思った。


耐久力:27406 → 28311
持久力:34025 → 36401
魔力 :51943 → 44076
筋力 :36859 → 37017  ……ステッキ効果により追加で100 up
敏捷 :58416 → 60815
器用さ:83890 → 85157
精神力:36528 → 28528

新特技
盾ブーメラン


蹴脚術Lv7 :683 → 741
盾術Lv7  :0 → 893  ……New! Level up!
身体制御Lv12:23281 → 23679
消息術Lv8 :0 → 2036  ……New! Level up!
撤退術Lv10 :9365 → 10021
神降ろしLv10:14740 → 6740  ……Level down!
水操作Lv10 :5102 → 5971  ……Level up!
魔力放出Lv12:37745 → 37878
心眼Lv5  :72 → 274  ……Level up!
遊泳術Lv8 :0 → 2054  ……New! Level up!


◆「盾ブーメラン」
 特殊な回転を加えることで、投げた盾を再び手元に戻す技。戻ってきた盾を上手く掴むには盾の重さ、形状に見合った筋力と器用さが必要となる。

■「盾術」
 盾を取り扱う技術。盾を上手く使うコツが分かるようになる。熟練に伴い、耐久力にプラスの修正。熟練者は飛ばした盾に飛び乗り空を渡る。

■「消息術」
 息を殺す技術。呼吸音がとても小さくなり、さらに少ない吸気で活動できるようになる。熟練に伴い、持久力にプラスの修正。熟練者はまる一日息を止められる。

■「遊泳術」
 泳ぐ技術。上手く速く泳げるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は嵐の中でも散歩するように泳ぐ。






[19470] 78
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/15 17:32

<78>



ステータスを見ると、New! と輝くスキルが4つもあった。
「心眼」「盾術」「消息術」「遊泳術」である。
とりあえずスキルは便利だから助かる。
そして、盾がギュルギュル言いつつ戻ってきた原因も特技の効果だったと分かったので、一つスッキリ。

盾を持つのも、けっこう楽になってるしね!
ヒャホォーイ!

しかし、今回のスキル取得と熟練度アップの方法は、結構使えるのではなかろうか。
水の中に入り!
思い切り動き回って!
気絶したら、おやすみマン!

完璧ッ! 完璧だッ!
よーし、ちょっとお腹が空いているけど、まぁなんとかなるさ!
やってやらぁああああああああああああ!

ドパーン!

勢い良く川に飛び込むハルマサ。
しかし彼は、お腹が減りすぎたとき一体どうなるかを知らなかった……




ギュバァ、ギュバァ!
水の中を鋭角に跳ね返りながら素早く動く。
ふふ、水の中で重たいものを持ちながら素早く動く方法を見つけたよ……それは、魔力を噴き出すことだったのだぁ!
「魔力圧縮」スキルがある今だからこそ出来る、究極の移動法!
皮膚の下で圧縮した魔力を「放出」! ついでに「水操作」で前を掻き分け背中を押す!
ぶっちゃけこんな重いもの持って泳げなかったので苦肉の策だぁ――――――!

魔力を噴き出し、水流を操作して背中を押す。
とても地上での速さは再現出来ないが、それでも良い感じだ!
そしてこの方法は空でも使える!
魔力をかなり使うからまだまだ実用的とはいえないけど、スキルがレベルアップすればもっと少ないコストで出来るはず。
そのうち、月歩のように空中を跳ね回れるはずだ!
「空中着地」は緊急回避用になりそうなヨカーン!

それにしてもお腹が空きすぎて眼が回ってきたな。
「水操作」のレベルアップがもう少しなのに!
あと熟練度が1000も上がれば多分レベルが11になるはず!

そう思い、ハルマサが一気に周囲の水を操ろうと魔力を放出したところで、ついに胃袋が限界に達する。

≪一定時間食物を摂取しなかったことにより、隠れステータス「満腹度」が顕現します。満腹度が0となったことにより、状態異常「腹ペコ」が付与されます。≫

キュゴォオオ!

胃袋が鳴動し、体がどこか萎れていく様な感覚に陥った。

(うぉおおおお!? 凄い飢餓感! ダメだ! 速く何か食べないと、倒れてしまう! ……って耐久力減ってる――――――!)

恐ろしきは「腹ペコ」状態。
ステータスを見る限り、一秒当たり1減少しており、ハルマサがアクションを起こせばさらに減る。
もはや、猶予はなかった。

い、急げ!
キン、と水中で「鷹の目」を発動するが、この近くに居た魚は暴れまわった人が居るので全部逃げている。
川原に飛び出してみれば焼け野原になっている。

そうこうする間に耐久力は残り1万を切っている。

(だめだ! 焦るな! 考えろ……焦った時こそ心に花を――――!)

十分に錯乱しつつ、ハルマサは頭を回転させる。

大丈夫だ! 動かなければ、まだ持つはずだ!
……森。そう森に行けばなんかある! キノコとか!
そして岩山の傍に大きな森があった!

(ダーッシュ! 走れ走れ走れ! 一瞬の風になれぇ―――――――!)

ハルマサは盾を放り出し、一路岩山目指して走るのだった。

だが、その途中でモンスターに遭遇した。

「ギャ?」
「ランポスッ!」

確か、火竜はこいつを食べていた!

驚いているランポスに、ハルマサは一瞬で思考をまとめ襲い掛かる。
と言うか齧りついた。

「いただきまッふんぐ!」

ガブゥ!

「ギャバァ!」

ブチィ! モッチャモッチャ。

(まずぅ! 便所が腐ったみたいな味が……)

≪ポーン! 「まずそうな生肉」を摂取したことにより、バッドボーナスが発生します。ルーレットスタート。≫

飢餓状態が治まったと思ったら、頭の中で始めてのナレーションがした。
次いでダラララララララララ! と小太鼓を乱打する音が頭に響く。
10秒ほど続いたところで音は止み、次なるナレーションが聞こえた。

≪ピキーン! バッドボーナスは「力の最大値減少」に決定しました。ステータスに修正がかかります。≫

「ほぅあ――――!」

ご、ゴソッと減りおったでぇ……!
三万七千から三万以下に……!
しかも満腹度はたったの1しか回復してないし!

「ギャァ……」

ランポスが人知れず息絶えていたが、それに構う余裕はなかった。
ハルマサはもっと死ねない状況になったのだ。
このまま死んだら……ぶっちゃけランポスをかじる前よりも状況が悪くなってしまう。

1とは言え少し余裕が出来たので、ハルマサは少し安心しつつ、森へと向かう。
しかし満腹度の最大値は持久力とほぼ同じであり、その満腹度が10秒くらいでまたゼロとなってしまい、ハルマサはおおいに慌てたのだった。




キノコを食べてこんなに安堵するなんて……。
ハルマサは両手いっぱいのキノコを瞬く間に食べ終わり、満腹度を200ほど回復させた後、さらに食べ物を探すことにした。
このステータス、厄介だ。
10数秒で1減っていることから、今の満腹度で活動できるのは2000秒ちょい。
30分くらいか……。

はっきり言って心元ない。
何か……肉!

そう肉である。あの満腹感。きっと肉は満腹度に対する値が大きく設定されているに違いない!

今、なつかしのイノシシサーチッ!
……。
発見! あっちに居たぁ――――――!

もうそろそろ太陽も沈む頃である。
細い川の河岸林にある寝床で眠りに付こうとしているイノシシを叩き起こして、首を落とす。
ドロップした肉を見ると、今までにはない情報が見えた。

Before

≪【生肉】:モンスターの肉。食用その他、あらゆる用途に使用できる。≫

After

≪【おいしそうな生肉】:モンスターの肉。食用その他、あらゆる用途に使用できる。100g当たり満腹度を5%回復する。≫

割合で回復か!
なるほど!
お腹がいっぱいになるわけだ!
そしてこの肉はどう見ても10キロくらいある!
お腹がいっぱいだぁ―――――!

ちなみに焼いてみると。

「チャッチャラ~……ウルトラ(略)ぁ――――!」


≪【美味しそうなこんがり肉G】:グレートな出来ばえのこんがりと焼けた肉。100g当たり満腹度を20%回復する。≫

「調理術」でウルトラ上手に焼いてみたら凄い肉が出来ていた。
ウマーい!
一切れほど食べてお腹がいっぱいなる。

残りの「美味しそうなこんがり肉G」を見て、ハルマサは考える。
満腹度出る前はお腹が一杯になっても全部食べていたけど、これ保存できないかな……。
「収納袋」の中って異次元っぽいし、出そうと思ったものが手元に来るし、入れて置いても平気なんじゃないだろうか。

でも念のために干し肉も作りました。

≪【普通の干し肉】:生肉を乾かした携帯食料。保存性にそこそこ優れる。100g当たり満腹度を3~5%回復する。≫

やり方がよくないのか「普通」になってしまったけど、それでもいいさ!
残りの生肉を全部使って沢山作ったから、とりあえず袋に……あれ?
そういえば埋めたまんまだ。

とりあえず戻ろうか。

ハルマサはこんがり肉と干し肉を抱えて来た道を戻るのだった。




帰る途中で冷めた「こんがり肉」は名前から最初に「G」が取れ、次に「美味しそうな」が「普通の」へと変わったところで、ハルマサはもったいなくなって干し肉以外を全部食べた。
旨くも無く不味くもない肉を詰め込むと、

≪満腹度の最大値が増加しました。≫

というナレーションが流れて満腹度が少し増加していた。
お腹いっぱいの時に食べると満腹度が上昇すると言うことを知ったハルマサだった。


ちなみにキノコはアオキノコの場合。

≪【普通のアオキノコ】:増強作用を秘めたキノコ。満腹度を5~10回復する。≫

レベルが低い時はこれでも大丈夫だったのか、とどこか驚いたのだった。


<つづく>

シレン系のシステムを投入。
あと操作系ばっかり上がるもんだから器用さがおかしなことに。
もっと精神力とか必要なのに!


満腹度:37454 → 40234  ……New!
耐久力:28311 → 30361
持久力:36401 → 39168
魔力 :44076 → 58399
筋力 :37017 → 29017
敏捷 :60815 → 61620
器用さ:85157 → 90659
精神力:28528


盾術Lv9  :893 → 2943  ……Level up!
身体制御Lv12:23679 → 25034
消息術Lv9 :2036 → 4803  ……Level up!
水操作Lv10 :5971 → 10087
風操作Lv12 :22676 → 22701
魔力放出Lv13:37878 → 43967  ……Level up!
魔力圧縮Lv11:10993 → 19227
空間把握Lv12:27001 → 27980
調理術Lv2 :12 → 18
水泳術Lv9 :2054 → 2854  ……Level up!

※以下読み飛ばしても全く問題ない説明。
「満腹度」=[持久力と同じ数値]+α
αは満腹時に食物を食べたことにより拡張された分です。死ぬとリセットされます。
特に動かなければ48時間で0になる速度で減っていきます。
作中で10秒くらいで1減ったと書いていますが、ハルマサ主観でそうなだけで、本当は5秒くらいで1減っていました。持久力に伴って満腹度も増加したので、減る数値はもっと大きくなっています。





[19470] 79(誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/16 13:02
<79>


ガノトトスへ対抗するための修行をしていたのに、食べ物を求めて走り回ることになった。

肉を抱えて帰って来ると、うち捨てられたピカピカデラックスが寂しそうに地面に刺さっていた。
あ、ピカピカデラックス、略してピカデラは僕の盾の名前だよ。
信じられないほど分かりやすいよね。
「竜鱗の盾」っていう名前の候補と最後までデットヒートを繰り広げて、結局はあみだでピカデラに決まったんだ。
ハンドメイドだから愛着もひとしおだよ。
まぁ今はハンドメイドじゃないものなんてほとんど持ってないけど。

とりあえず、「収納袋」を探さなきゃ!

目印の棒は見事に焼け落ちていたけど、空間把握を使えば地下一メートルくらいは探れるので、無事「収納袋」は見つかりました。
干し肉をしまって……と。

もう眠いので、寝ます!
だが、最後にこれだけはやって置く。
ハルマサは明後日に向かって声を張り上げる。

「カロンちゃ―――――――――ん! おやすみ――――――ッ!」

ところがカロンちゃんの耳に心地よい声は返ってこず、警告音が響いた。

≪ポーン! 特技「伝声」の効果は、対象にレジストされました。≫

(着信拒否――――――!)

ちょっと凹みつつハルマサは眠るのだった。







気が付けばまたあの変な空間に居た。
空にはぐるぐる巻きの太陽が浮かび、足元ではひまわりが寝ている。

「ホラ……足元がお留守だよ……スピー……」

やっぱり鼻ちょうちんを出しているひまわりはひとまず置いておいて、ハルマサは辺りを見渡した。
カーネルサンダースは居なかった。
あの一ミリも変化しない顔と妙なテンションは正直苦手だったのでホッとしていると、足元で鼻ちょうちんがパチンと弾け、ひまわりが眼を覚ましたようだった。
ほぁ! とか言いつつ目を開いたひまわりは葉っぱで眼を擦りつつ、こちらを見て嬉しそうに笑った。

「あ! この前のお兄さんだ! いらっしゃい!」
「ああ、うん。お邪魔します。」

相変わらず良い笑顔だなぁ。

「お邪魔なんてッ! 全然だよ!」
「そ、そう。」
「話す相手が居るなんて、幸せだよ!」

嬉しそうにしているひまわりはいつも一人で寂しいのかもしれない。
その気持ちは良く分かるハルマサだった。
ひまわりはよいしょ、と地面から根っこを引っ張り出して、トコトコと歩き出す。

「今日は白菜が良い出来だねぇ。」
「……?」

何となく着いて行くと、ひまわりは茶色い土が適当に塗ってある空き地? 見たいなところにやってきて、白菜がうんぬんと言い出した。
葉っぱを地面に当てると、ズボッと何かを引き抜いた。白菜だった。結構大きい。

「わぁ、ご立派!」

ひまわりは付着していた土を葉っぱでポンポンはたき落としている。あらかた叩き落とすとひまわりは言った。

「食べようか!」
「……そうだね。」
「どうぞ!」

毟り取って渡された一枚の白菜をムシャリと食べる。何の変哲も無い白菜の味がした。
ひまわりも自分の体と同じくらいの一枚を端からシャクシャク食べていたが、ハルマサの視線に気付くと、笑顔になった。

「とってもとっても美味しいね!」

良い笑顔だなぁと再度思った。



(……ハッ!)

目が覚めた。
もう太陽は高く登っていた。
昨日寝たのはもう大分暗くなっていた時間だったが、いくらなんでも寝すぎだ。

寝る前から全裸だったハルマサはやっぱり全裸であり、彼の大事な玉袋は朝の肌寒さに縮み込んでしまっているようだった。
なんか頭痛がする、変な夢を見たせいだろうか。

パン、と頬を叩き、ハルマサは気合を入れる。
何故なら、彼はこれから強敵に挑むのだ。
昨日の内にだいたい準備は終わった。
だから、今日は挑む。
簡単な図式だ。

(今日は……倒す!)

ハルマサは腹ごしらえをした後、ズボンだけを着込む。
靴も、上着も無しだ。
何故ならそこは魔力を放出する部位だから!

用意の整ったハルマサは、ガノトトスが居るであろう海辺へと盾も突っ込んだ「収納袋」を持って駆け出した。







砂浜には、カニが居る。
親指ほどの小さなカニも居れば、食べ応えのありそうな大きなカニまで色々居る。
そしてこのダンジョンには、とても大きなカニが居る。
ガノトトスは主にそういうカニを目的としてこの砂浜の辺りも縄張りとしているのだった。

ハルマサがやってきた時、まさにガノトトスがカニをバリバリ食べているだ最中った。
「暗殺術」を発動しつつ、そっと岩陰から食事の風景を伺うハルマサ。
「観察眼」で見れば、食べられているのはヤオザミらしい。
いつぞやにハルマサと死闘を繰り広げたカニも巨大な魚竜には勝てなかったようで、宿としている甲羅に噛り付かれている。

(ちゃ、チャンスなのか!?)

どうやって引き摺り出そうか考えていた相手が勝手に出てきている。
でも、とハルマサは思った。

(水中に居る相手を引きずり出す実力が欲しいんだ!)

ガノトトスがここに居る個体だけなら、このまま襲い掛かるのもありだ。
だが、それでは何のために準備をしてきたのか分からない。
ついでに言えば、昨日は手も足も出なかったガノトトスと、戦えるようになったのか、訓練で得た力を試したいとも思った。

ハルマサは袋から盾を取り出すと、まずは魚竜を水に追い込むことにした。

はぁあ、と手に纏めるた魔力を水にする。

「水遁・水龍弾の術!」

適当なことを叫びつつ手から発射した水は「水操作」の賜物かやや収束しつつ、魚竜に直撃する。

「ギャァオゥ…!」

ダメージを受けたというより奇襲に驚いた魚竜は、慌てて水の中へと戻っていった。
計算通り!
しかも、

≪スキル「水操作」の熟練度が20480を超えたことにより、スキルレベルが上昇します。≫

レベルも上がった!
準備は揃ったと、駆け出そうとするハルマサ。

しかし彼の前で、ボン! と煙を上げて虚空から何かが出てきた。

『?』が各面に描かれた立方体の小さな箱だ。
その箱の上面がパカッと開き、中からバネ仕掛けのおもちゃが飛び出してきた。
ビックリ箱だ。

(なんだこれ。)

びよん、びよん、と揺れる丸い顔をハルマサが指先でつつくと、キ―――――……ン、と頭に響く音がする。
クシャルダオラを倒した時に出てきた指輪をつついた時と同じ音だった。
これも、ダンジョンを作った神と関係あるのだろうか。

『プレイヤーNo.54:佐藤ハルマサが、魔物:甲殻種を魔物:魚竜種から救出したことにより、クエスト「うお・カニ合戦」を開始しマス!』

頭にキンキン響く声で、バネ仕掛けのおもちゃはカクカク口を動かして喋りだした。

『プレイヤーは甲殻種から望外の信頼を、魚竜種からは無上の敵意を向けられマス! プレイヤーが第二層クリアによるフィールドリセットまでに魚竜種を殲滅すると、討伐報酬として、最も多く魚竜種を討伐したプレイヤーにアイテムが授与されマス! 奮ってご参加下サイ! 残りの魚竜種は16匹デス!』

言うことは全て言ったのか、ビックリ箱は閉じられ、消える。

クエスト……?
このダンジョンにはそんなものもあるのか。
まぁいいや。
魚竜を倒せというなら、倒そうじゃないか。
アイテムにも興味は尽きない。

(俄然面白くなってきたぁ―――――!)

ハルマサは透明化を解除し、海へと飛び込む。
やはり盾が重い。だが上手く振り回し、重心を移動するコツも得た。
なにより魔力を噴き出して移動できる!

ユラリ、と海の深いところで大きな影が揺らめいた。
クエスト「うお・カニ合戦」。
それはプレイヤーに敵対するほうのモンスターの、強さが倍増するものであることを、ハルマサはまだ知らない。



<つづく>



満腹度: 40234 → 40614
耐久力: 30361 → 30462
持久力: 39168 → 39548
魔力 : 58399 → 59314
筋力 : 29017 → 29556
敏捷 : 61620
器用さ: 90659 → 91379
精神力: 28528


盾術Lv9   : 2943 → 3044
暗殺術Lv11 : 15441 → 15821
剛力術Lv10 : 4982 → 5521  ……Level up!
水操作Lv12 : 10087 → 10807  ……Level up!
魔力放出Lv13 : 43967 → 44882





[19470] 80
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/15 17:48


<80>



クエスト開始の影響を受け、ガノトトスのステータスは2倍になる。
もともと精神力に特化していたガノトトスは、精神力が164238となるという変貌を遂げる。
さらにこの魔物が特技「水放射」を使う時は精神力が二倍。
口から吐き出される水流は、火竜希少種の鱗を貫通するほどの威力となった。

と言うことを全く知らないハルマサだったが、海に入ると急に深くなる水辺の地形、その深くなった底で尻尾を揺らすガノトトスを「観察」して、レベルが12から13に上昇していることには気付いた。

ガンガン、と引っ切り無しに頭の中で警報が鳴る。
でも、ここまで来てしまっては、逃げれるものも逃げられない。
というか背を見せればよい的となる。

ハルマサに残された選択肢は、盾を握りつつ、ただ吶喊するのみである。

(うぉおおおおおお!)

昨日の訓練で分かったが、水の中は、持久力の減りが常時の2倍。
速くケリをつける必要があった。

グボン、と足の裏から魔力を噴き出し、ハルマサはガノトドスへと飛び掛る。
それを迎えるガノトトスは、辺りに溢れる水をエラから吸い込み、喉で圧縮。
狭めた出口から、ビームのように噴き出した。

見える!……わけないだろ!

「心眼」が危険をがなりたて、「回避眼」が攻撃ラインを浮かばせる。
水中という領域で、ハルマサが出来たのは、水を固めて、盾をかざす事だけであった。
認識する間もなく固めた水を貫き、盾を抉る水の光線。
だが、斜めに翳した事が有利に働いた。

水の中、水流が直撃しガオン! と盾が跳ね上げられた。
その表面の鱗が無惨に抉られているのをハルマサは「空間把握」で知る。
垂直に受ければ貫通していたかもしれない。

だが、斜め受けも多用できない!
盾の限界の方が速く来る!

それなら……!
ハルマサは、弾かれた勢いを利用してクルリと回り、魚竜を相手取る時のために考えていた戦法を実行する!

その1ぃ!

(口周りの水を圧縮して固定! 顎は、噛む力は強いけど開く力は弱いのだ―――――!)

あっけなくパリーン!
そして撃ってきた水を防いで、盾から鱗が一気に二枚剥がれて飛んだ。

(ちきしょう、その2だ!)

辺りの水を巻き上げて、水中なのに、陸の上状態!
魚竜大きすぎだし、結構速くて無理!

そのさぁん!
エラと口周りの水を巻き上げてその間に吶喊!

(こ、れ、だぁああああああああああああああ!)

一時的にエラ呼吸か肺呼吸かを迷わせる作戦は、エラから水を吸い込んでいた魚竜に意外と有効だった。
ハルマサは、戸惑う魚竜へと一気に接近する。

だが、ガノトトスは地上で水を吐く事が出来るよう、水袋なるものも持っている。

ギュゴォ! と水を掻き分け水が飛ぶ。

不用意に飛び込んだハルマサは上手く防御できず、衝撃をモロに受け止めた盾に大きくヒビが入り、真っ二つに割れる。
下半分は折れて底に沈んでいった。

(ピカデラが――――ッ!)

ハルマサは嘆いているが、受け止めた鱗が「天鱗」でなければ彼の腹に穴が開いているところだ。
だが、盾が割れたことはハルマサにとっても幸運だった。
何せ馬鹿みたいに重かった盾が一気に軽くなったのだ。
ハルマサの動きは速くなる。
そしてチェンジオブペースは相手を惑わせるのにとても有効なのだ。

(だぁあああああああ!)

それでも直ぐに狙いを定めて水を撃ってくる魚竜に、必死に盾を翳しつつ、ハルマサはジグザグに近づいていく。
あと20メートル!
巨大な魚竜と戦っていればホンの目と鼻の先だ!

ハルマサがかなり接近して、ガノトトスは戦い方を変更する。

「ギャーオゥ!」

突進してきたのだ。
水の中でも良く響く声を出しつつ、ミサイルのような速度でぶつかって来る魚竜。

「ふぐっ!」

ずしんと来る重さで、前に進む勢いも動きも止まるハルマサを、ギュルリと回転した魚竜の巨大な尾びれが襲う。

(これは……チャンス!)

どぉ! と背中から水を泡立てるような勢いで魔力を噴き出すことで、ハルマサは下へと潜り、横薙ぎの尻尾を回避する。
一瞬の放出で背中の皮膚が吹き飛んだが、構っていられない!

(ようやく隙を作ったな!?)

シュル、と右手に溢れる魔力!

――――――――極・風弾!

ドゥ! と魚竜を下から突上げる風の塊。
だが、これじゃ足りない!

(うぉお!)

ハルマサの足、背中から、無色の魔力が噴出し、魚雷の如く吶喊したハルマサはそのまま魚竜を突上げる。

(ぬぅおりゃぁあああああああああああ!)

ズン、と来る重みを、噴き出す魔力を増やすことで耐え、ハルマサはガノトトスの右足を両手で掴み上げ、水面へと持っていく。
シュゴォオオ! と足の裏から噴き出す魔力は、皮膚が吹き飛んだので血液混じり。

(うぉおお、めっちゃ、いた――――――い!)

魔力放出は、本気で動こうと思うとかなり痛い移動法だという事が良く分かった。

(って、なんか鱗すべる! くそぅ、「剛力」招来ッ!)

ジタバタ暴れる魚竜に対して、「剛力術」を発動。
敏捷は現在関係ないので、デメリットは持久力の減少だけ。

だが、水面が近い今ならそれほど関係ない!

ついに水面を突き抜け、蒼い空へ。
ハルマサは、手を放すと、空中を蹴って尻尾へ移動。
ガッチリと肉に指を食い込ませると、魔力を放出して力を込めた。

「うおらぁあああああああああ!」

ドパァン!

30メートルの巨体を振り回し、砂浜へと叩きつける。
飛び散った砂が舞い上がり、白い砂が付着したガノトトスはまだらに白い。
ガノトトスはすぐに起き上がるが、地上での動きは明らかに鈍かった。

「ギシャァアアアアアアアア!」

シュパァ!

と飛んで来る水流を「心眼」で察知したハルマサは、手と足から魔力を噴出して避ける。
空は移動を邪魔する水が無い。

(とっても動きやすい!)

空中を、魔力噴出による3次元撹乱機動で縦横無尽に駆けつつ、ガノトトスに迫るハルマサ。
方向転換のたびに、背から、足から血が吹いて、その内貧血になりそうな光景だ。

シパァ! こめかみを掠める水流に眼もつぶらずに、ハルマサは最後、と空中を踏み込む。

ドォン! 空を歪ませ、ハルマサは直下に突撃。
貴様の弱点は、あの、ちょっと一言で言い辛いけど、背びれの付け根から30cmくらい前に20センチくらい横に15センチくらいずれていてちょっと凹んでいる鱗と鱗のもう良いや!

「ナァ――――――イフッ!」

――――――手刀斬!

ズバァ! と背ビレの付け根辺りに食い込んだ手刀は、血を噴き出す前にガノトトスの体を両断。
特化型ゆえの体のもろさか、手応えは思った以上に軽かった。
着地して、足の裏の傷に刷り込まれる砂に悲鳴を上げつつハルマサが飛びのいてから、ガノトトスの切断面から血がドバァと噴き出し、ガノトトスはゆっくりと倒れた。

地上に引きずり出せば、ここまで簡単に倒せるのか。
ズゥン、と倒れる巨体を見つつハルマサは、手ごたえを感じたのだった。



ともあれ、5分足らずの戦いだったのに持久力も半分以下になったし、とても疲れた。

「ふぅ。」

と体を横たえて休憩するハルマサに、つい、と果物が差し出された。

「え?」

カニだ。
ヤオザミが果物を渡してくれたのだ。
なんか凄い感動した。
渡されたのはリンゴのような形の白い果実。「観察眼」で見ると……ドドブラリンゴ?

≪【ドドブラリンゴ】:ドドブランゴを下したものだけに食べる機会が訪れるという幻のリンゴ。≫

へぇー。いただきます。
ぱくっとな。

「うまい! こりゃ旨い!」

一口かじると芳醇な香りが口に広がり、たまらなく幸せになった。
ハルマサが食べているとカニはハサミを振り上げギィギィと鳴きだした。
喜んでいるのかな、と何となく分かる。

なんかさっきからポケモントレーナーの熟練度が唸るほど上がっているけど、これはモンスターと友好関係を結べたからだろうか。

「ふふっ。ありがとね。」

とハルマサがヤオザミのハサミを握ってシェイクすると、「ポケモントレーナー」スキルのレベルが13になった。
上がり過ぎ。

<つづく>



満腹度: 40614 → 42839
耐久力: 30462 → 33604
持久力: 39548 → 41772
魔力 : 59314 → 71479
筋力 : 29556 → 34286
敏捷 : 61620 → 67333
器用さ: 91379 → 95619
精神力: 28528 → 30178
経験値: 21120 → 31360 残り 9600 レベル13.5相当のガノトトスだったので経験値は10240



拳闘術Lv10 : 7294 → 8763
盾術Lv10  : 3044 → 5893  ……Level up!
消息術Lv10 : 4803 → 6734  ……Level up!
突撃術Lv11 : 12032 → 15027
撹乱術Lv11 : 16926 → 19736
空中着地Lv12: 22861 → 23973
剛力術Lv10 : 5521 → 7284
水操作Lv11 : 10807 → 14041
風操作Lv12 : 22701 → 23707
魔力放出Lv13: 44882 → 51746
魔力圧縮Lv12: 19227 → 24528  ……Level up!
戦術思考Lv12: 19234 → 20884  ……Level up!
回避眼Lv11 : 8826 → 10873  ……Level up!
観察眼Lv11 : 14699 → 15058
空間把握Lv12: 27980 → 29634
心眼Lv8  : 274 → 2038  ……Level up!
PトレーナーLv13: 10272 → 41201  ……Level up!


<あとがき>
そらをこえろ―――ッ!(アトム――ッ!)

アトムは10万馬力だそうで。
一馬力はフランス式で736ワット。一ワットは一秒間に一ジュールの仕事量をする仕事率。
じゃあジュールは……そこがのっとらんのですよ我が家の国語辞典! シュールがあるならジュールも頑張って欲しかった!
もっと性能の良い国語辞典がないとダメかな。ハルマサ君との性能の比較も出来ないぜ!

そして期待させたであろう、ひまわりはこの程度でした。

明日も更新したいけど、無理だったらすんません。
まだ書けてないんだ。




>材料つかって武具作る
どうせ使い捨てなんだぜ

>リオレイアを人化
それは……やめておこう。一瞬マジで考えたけど。

>桃色系統の使用って重罪
これについては後で。
というか桃色じゃないはず! ドラクエ的な特技だし。

>耳はどうなった
不死体躯で直ったんだぜ

>デモンズソウルの『イカ頭紳士』
どこに行けば見れるか教えてほしいです。
そしてしっかりと作品に反映!したい。

>ほああぁあぁぁ!さえなんとかすればスキル的には余裕
そのとおりなんだ。私が遠回りしていただけ。なんか疲れてて。

>ドラゴンナイトとなって嫁と一緒に下の階層へと
その展開も考えたけど、モンスターボールが必須。というかこれからの戦闘でクソ足手まといになる可能性が。

>仮面ライダーかと
仮面ライダーw
半裸のやつがいたら教えてほしいぜ!







[19470] 81(修正)
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 17:53
現在のステ。

満腹度: 42839 → 42839
耐久力: 33604 → 33604
持久力: 41772 → 41772
魔力 : 71479 → 71479
筋力 : 34286 → 34286
敏捷 : 67333 → 67333
器用さ: 95619 → 95619
精神力: 30178 → 30178
経験値: 21120 → 31360
金貨:84枚







<81>




水底に潜って二つに割れた盾を回収したハルマサ。
しばらく浜辺でカニと戯れつつ二匹目のガノトトスを待っていたが、待てど暮らせど来なかったので、仕方なく引き上げることにした。

これまで全然会わなかったので他のプレイヤー? がいるとは思わないけど、もしかしたら近くにいないだけかもしれないし、もうガノトトス倒してアイテムゲットは諦めようか。
そうハルマサは思った。

そう思うハルマサはこの戦いで、10枚の金貨と「魚竜の重牙」をゲット!

≪【魚竜の重牙】:魚竜の剛強な鋭い牙。発達した多層構造の牙は大型の甲殻種も容易く噛み砕く。≫

大型って……ダイミョウザザミも!?
半端ないな重牙!
是非ビーナスオブキャット再生の材料にしたい!
まぁそれはさて置き。

「じゃあねー!」
「ギィ!」

ああ、なんでこんなに動物との触れ合いは心を癒すのだろう。
ささくれ立った心が優しく撫で付けられるようだよ。
……ん?

ヒュルル……ドカーン!

ホコホコとした顔で歩いていた彼は、ささくれを思い切り引き剥かれるような事態に出会った。
金火竜の襲来である。
飛来した炎塊を半分になった盾で防いだハルマサは、目を見開く。

「な、君は……!」
「グルォアアアアアアアアアアアアアアア!」

ハルマサの鼓膜をパーンとさせつつ火竜は鳴く。

その火竜は、ハルマサ君が息で酔わせながらウロコを毟って、そのあとポイした金火竜、金ちゃんだった。
新しいウロコの生えていない体は、ところどころ金色ではなくなっており、みすぼらしい。
罪悪感で胸が痛くなり、耳の痛さとあいまって非常に苦しいハルマサだった。

だが、そこは精神力の高いハルマサ。復帰は早い。

「君を弄ぶような真似をしてゴメン! ……ところで盾が壊れちゃったからまたウロコを貰うね。」

―――――――甘い息!

「グルゥ~ン。」

この男、最低であった。



ハルマサはウロコを毟りつつ考え付く事があった。

そういえば、火竜の巣とか、お宝が眠っていそうな場所だよね!
閻魔様曰く、神はゲームとかを参考にダンジョンを作ったらしいから、何かがある可能性は高い!
そうと決まればレッツゴーだ!

「僕を乗せて、飛べ金ちゃん!」
「ゴォオオオオオオオオオ!」
(鼓膜が)パーン!
「ぅあ―――――――!」

「不死体躯」で治った鼓膜を再度弾けさせつつ、ハルマサは火竜に乗って、巣のある岩山へと向かうのだった。



さて、無事潜入完了である。
「暗殺術」を発動していたため、何事もなく巣に入る事が出来たが、竜の子達はキュイキュイ鳴きつつ透明なハルマサにむしゃぶりついて来た。
珍しい餌だと勘違いされたのかもしれない。
他の火竜に気付かれる前に優しく頭を叩いて失神させつつ、宝箱を探してみる。
早くしないと岩山の外でお座りしている金火竜の魅了が解ける。
散々ウロコを剥いでおいて言うのもなんだが、戦うのはちょっと申し訳ないので早々に見つけたい、と思っていると―――――――見つけた。

幼竜たちの寝床である、干し草のベッドの奥に、土に埋もれるようにして金の宝箱と銀の宝箱があった。

(二つもあるなんて!)

と感激したが銀の宝箱には触れなかった。
触れようとすると頭にキーン! と言う音が響き、≪プレイヤーNo.54がこの宝箱を開けることはできない。≫という文字が宝箱に浮かび上がった。

なるほど。まぁ金の奴だけで良いや。
開けられる条件分からないしね。

ハルマサが宝箱を開けようとすると、今度は金の宝箱に文字が浮かび上がった。

≪この宝箱には罠が仕掛けられているようだ。開けますか?≫

「………。」

即死級の罠が飛び出してきそうなヨカーン!

だが、僕は開ける!
何故なら「心眼」が発動しないからだ―――――――!
トリャ―――!


■「心眼」
 第六感ともいえる動物的な勘。確率で、危険を察知する事が可能となる。レベルアップに伴い、スキルが発動する確率が増加する。眼を瞑っていると発動しやすい。



『確率で』

この言葉の意味をハルマサ君はもう少し考えた方がよかった。

パカッ! ――――――バチバチィ!

「アビャビャビャビャビャビャ!」

開けた瞬間激しい電流がハルマサを襲う!

(か、「雷操作」ぁ―――――!)

どうにか雷をやり過ごした時には、耐久力が異常に減っていた。
残り1213である。
一気に三万以上削られた。
不意打ちの上に恐ろしい雷だ……。
今度から宝箱開けるときは操作系全部で、バリアー張ってから開けよう。

そう驚くハルマサの脳裏で、ベートーベンの運命のメロディーをなぞるファンファーレが響いた。

≪ジャジャジャジャーン! 条件:「感電死」を満たしたことにより、希少特性「T」を獲得しました。5つの死を疑似体験し、『DEATH』の全ての文字を集めました。特別ボーナスが発生します。≫

おお、なんだか知らないけど集まった。
24日以内とか全然いらなかったね。
一週間もかかってない。

≪ボーナスは全部で2つあります。≫

おお! なんてお得ッ!

≪一つ目。死を乗り越えたあなたに敬意を表し、ナレーションが親しみを感じる口調となります。≫

んん? 親しみ?

≪二つ目。死を乗り越えたことにより、命がストックされました。特性「不朽の魂」を取得しました。≫

わーい。なんだか良く分からないけどすごそうだし喜んでおこう。

□「不朽の魂」
 死しても蘇る、朽ちぬ魂。死んでも蘇る事が可能となります。とは言っても体は朽ちる! 蘇ったあなたは正しくゾンビィ! エンガチョエンガチョ! 寄らないで……臭ぇッ! ※二回死んだら普通に死ぬので注意。

すごい、凄いのだけど、なんだろうこの素直に喜べない気持ちは……。


≪それでは、親しみを得た私とよろしくお願いします。AIサクラがお送りしました。≫


ラジオみたいな終わり方をして声は途切れた。
ていうかAIだったんだ。
桃色の時の弾けっぷりは別のAIなのかな。話し通じなさそうだからどうでも良いけど。

そう思うハルマサの後ろで、突然巣の中で雷光が走ったことに違和感を感じた火竜が寄ってきていた。
またもやスンスンとニオイを嗅がれていることに気付いて、ハルマサは素早く動く。
宝箱の中にあった白い棒を掴んで、一気に離脱したのだ。

(僕は、今、風!)

撤退するハルマサの脳裏に響く、「撤退術」スキルの熟練度アップを知らせる声は、AIサクラではないが、どこかで聞いたことのある声だった。

≪ぱんぱかぱーん! スキル「撤退術」の熟練度が10022を越えたよ! おめでとう! ステータスにボーナスがつくよ!≫

(なんでひまわりの声!?)

寝た時に変な世界で会った、人面花の声だった。
まぁ確かに親しみはあるけど!
ちなみに「ぱんぱかぱーん」は肉声である。

あの世界は、もしや夢ではなく、システムに関係のあるところなのだろうか。
混乱しながら、岩山を脱出するハルマサだった。


<つづく>

文字が全部揃ったら死ぬって予想されていたかもしれないけど、2号さんはそこまで鬼畜ではないんだ。
ハルマサのゾンビフラグが立ちました。



満腹度: 42839 → 43959
耐久力: 33604
持久力: 41772 → 42892
魔力 : 71479
筋力 : 34286 → 35304
敏捷 : 67333 → 67711
器用さ: 95619 → 96978
精神力: 30178



身体制御Lv12: 25034 → 25893
暗殺術Lv11 : 15821 → 16730
撤退術Lv11 : 10021 → 10442  ……Level up!
剛力術Lv10 : 7284 → 8302
観察眼Lv11 : 15058 → 16082
心眼Lv9  : 2038 → 3492  ……Level up!
水泳術Lv9 : 2854 → 3021
PトレーナーLv13: 41201 → 50834






[19470] 82(修正)
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 17:56

<82>



金の宝箱に入っていたのは、長さ50センチくらいの白い棒だった。
うん、ぶっちゃけ人骨に見える。
とりあえず「観察眼」で見れば、凄い事が分かった。

≪対象の情報を取得できたよ!
【セレーンの大腿骨】:決して折れない聖者の遺骨。所有者の意思で縮んだり伸びたりする。聖属性。魔力伝導率高し。≫

(遺骨!? セレーンって誰!?)

の、伸びたり縮んだりって如意棒かしら?
ちょっと細くて使いにくいけど……決して折れないって言ってるから凄い武器になりそうだ。
防御にも役に立つだろう。
そして聖属性ってモンハンで必要なの?
あ、下の階層で出番があるのかな。

ハルマサは困惑しつつ、主要武器を手に入れた! と一応喜んだ。

岩山の外に居た金ちゃんと再度涙の別れをして(またポイしたとも言う)、ハルマサは次のフィールド攻略へと進むことにした。

そう、次のフィールドは、「ほぁああああああああああ!」な白い飛竜、フルフルさんである。





でもその前に、骨の性能試験と盾の修復だ!
骨は中が空洞になっていると思ったんだけど、叩いてみた感じは金属のような音がするから、これは骨であって骨でない、骨のような何かなんだろう。
とりあえず伸びると言うことなので伸ばしてみた。

「伸伸伸伸、シ――――ン!」

真ん中を持って伸ばしてみたのだが、両端が凄い勢いで延びて、上端は雲を貫き、下端はハルマサの足の甲を強打した。

「ふぐぅ!」

痛い! 右足の甲が、赤紫色に腫れている!
これ絶対折れた! 足折れた――――!

とは言え、かつてと比べてかなり堅牢となったハルマサの足をいとも簡単に折るとは。
期待できる武器である。
ハルマサは足の痛みでヒョコヒョコしつつ、にんまりするのだった。

さて、盾の修復である。
ガノトトス戦で気付いたが、自分の「土操作」「魔力圧縮」は、まだまだ竜の鱗に勝てないらしい。
と言うことは、こんなにクソ重くした盾だろうが、軽くした盾だろうが、ウロコが着いていれば防御力はそれほど変わらないと言うことだ。

そして、あんな大きい必要も無い!
戦いの最中、ぶっちゃけ邪魔だった。
そして、金ちゃんの炎塊を受け止めたときも半分の大きさで十分だった。
という訳で、この半分になった盾にウロコを重ねて、土の部分を減らそう。

「錬キ――――ン!」

という訳で完成! ウロコの体積を増やした結果、かなり軽くなりました!
完璧! これでフルフルをボロボロにしてやるぜ!

あ、そういえばもう一つ。
服の背中部分を開こうと思うんだ。
魔力噴き出す時に服で威力削がれちゃうし。

という訳で、ホイホイッと完成!
切り取ったゲリョスの皮は肩の部分の補修に使ったぜ!
密かにガノトトスのビームで穴開いていたからね!

よーし!
フルフル討伐に、出発だ!


≪ふあぁ……あ、何時の間にか「土操作」と「魔力圧縮」の熟練度がたくさん上がってるよお兄さん! おめでとう!≫

あ、ありがとう。君今、絶対寝てたよね。まぁ良いけど。




そうして森丘フィールドから、沼地フィールドへ。
沼地フィールドから北上し、ぽっかりと口を開けた洞窟へとやってきました。

中は不気味なほど静まり返っている。
だが、耳を澄ませば、いくつかのモンスターの息がする。
行くか。

ハルマサはヘルメットを被り、背中のがまるッと露出した怪しい服を着て、さらに股間の盛り上がりも分かりかねないピッタリスーツのズボンを履いて、手に盾と骨を持ち、吶喊した。
彼の格好は相変わらず変態的である。









洞窟は意外と狭かった。
「空間把握」では洞窟の奥行きが見えないが、左右は入ってから急に広がり100メートルほど。
現在半径90メートルくらいなら「把握」できるので、この洞窟なら問題はないと思えた。

洞窟の中、彼を待ち受けていたのは一匹のフルフルだった。レベルは12。
白い肌をくねらせながら、円筒形の顔をこちらに向けてくる。
クンカクンカしながらハルマサのことを見つけ出したのだろう。

「―――――――――ッ!」

ヘルメットをつけたハルマサには聞こえない何事かを叫び、フルフルはこちらに飛び掛ってきた。
その大きさは12メートル。
まぁ大きいね、となんだか慣れすら出てくるハルマサである。

ハルマサは正面から迎え撃った。

「突きィイイイイ!」

ギュン、と手元の骨が伸び、その骨を突き出す手に、特技の補正が作用する。
強烈な勢いを持つ骨の先端がフルフルに体に触れて……ぬるっと滑った。
伸び続けた骨はそのままの勢いで天井に突き刺さる。

(ろ、ローション付き!?)

やらしい、やらしいぜフルフルさんよぉ!

フルフルは自身を擦り上げた骨を無視して、空中にもかかわらず体に帯電。

「―――――――――ッ!」

さらに首を伸ばしてきた。

(そんなのあり!?―――――――「防御」!)

にゅるぅと伸びた首を、これまた盾でぬるぅと受流す。なんというローションプレイ!
弾ける紫電は服に弾かれ、飛び散る粘液にハルマサは慄く。

(でも頭部で攻撃するのって……正直どうなの?)

脳みそとか激しく揺れない?

ハルマサは骨を縮めて、メタァと殴った。
メキィと地面にめり込むフルフルヘッド。
飛び散る粘液。

ちゅるんと頭を引き戻したフルフルは一つ咆哮し………口に雷光を溜める。
そんな隙をハルマサが見逃すはずも無く。

「突きッ!」

ズゴンと口から骨を突きこまれたフルフルは首の中から内臓まで貫かれ、血を吐いて絶命した。

「あっけないなぁ……」

び、と骨を振りつつ。ハルマサは一人ごちる。
すでにレベル12の火竜希少種を圧倒できる彼にしてみればこの程度は出来て当然だが、苦労することに慣れつつあるハルマサは、あっけない結末を少し意外に感じるのだった。

とまぁそんな彼のために神様はちゃんと苦労を用意してくれていたようだ。
ぽた、とハルマサのヘルメットに何かが落ちる。
じゅ、と溶けて、少し音が聞こえるようになった。

スンスンスン、スンスンスン。

上から凄いすんすん聞こえ始めました。

「空間把握」は、色は分かりづらい。輪郭を捉えることを優先しているスキルなのだ。
甘い息の時色が見えたのは、瘴気かと思うほど色が濃かったからで、普通は色の濃淡が分かるくらいである。
その状況の中、洞窟の天井は白かった。
そしてところどころ赤かった。
何時の間にか天井を埋め尽くすほどのフルフルが鈴なりになっていたのだ。
ぱっと見10匹?

「ほぁああああああああああああああああ!」
「ほぁああああ!」
「ほぁああああ!」
「ほぉああああああああああ!」

ちょ、ドンだけ居るのさ。
ほぁほぁ鳴きすぎ。ヘルメットの中でも薄っすら聞こえるよ。
って穴開いてる―――!

ハルマサがヘルメットに手をやって驚いていると、頭上から5匹のフルフルが落ちてくる。
岩の間に溜まった水をジュバンと散らし、フルフル5匹は光臨した。
洞窟は広い。しかしフルフルの巨体は、その広さを狭いと錯覚させるのは十分だ。

そしてフルフルの攻撃は開始された。

「クォオオオオオオオオオオオオオ!」

天井からギュボッとフルフルの首が伸びてくる。

(ありえない! 天井から何十メールあると!)

「くッ!」

ハルマサが避けた場所に、ズガンと刺さるフルフルの首。
飛び散る岩のかけらが煩わしい。
なんて無茶な攻撃だ!

そう思うハルマサに、次々とフルフル首ロケットが襲い掛かる。
上から、横から、線となって襲い掛かる赤白のフルフルヘッドをハルマサは斜め前に跳んで避ける。

(って途中で方向変換するとかありなの!?)

避けたはずのフルフルヘッドが空中で方向を変え、U字を描きつつ伸びてくるのを盾で受け止める。

「キシャア!」
「ぬぁああ! 気持ち悪い!」

ガン、と牙を剥くフルフルの頭と盾はぶつかって火花を散らす。
至近距離のフルフルヘッドは、ぬるっとテカっており、太い血管(?)が浮いており、広げた口はハルマサを丸呑みにできるサイズで、なんかいやらしい形である。

正直キモイ。
手に持っていた骨で殴ろうとして、ハルマサは頭上でフルフルが雷を口に溜めているのを察知する。

「エ゛ァオオオオオオオオ!」

バチィ!

ついに電流を放ってきた。
ハルマサが目の前のヘッドを蹴って飛び退ると同時に同胞の頭へと着弾した雷光は、スピードが規格外。
弾けた雷光は、飛びすさっていたハルマサすらも範囲内だった。

ビリィ! と左足が痺れる。

(雷耐性があっても効くなぁ!)

一発で耐電性っぽい服が弾け、爛れて血が出る脚。
直撃を食らわないほうが良いと判断し、ハルマサは高速機動で一気に決めることにした。
ボ、と背中から手から魔力を吹かし、空中において右に動く。
ギュバァと一瞬前のハルマサが居た位置を貫いた二つの首を見つつ、壁を蹴って天井へ跳躍。
一瞬にして高度40メートルの高みに跳んだハルマサをどうやら目の前の赤いフルフルは捉えられていない様だった。

(好都合ッ!)

―――――――炎球!

彼の最近伸びまくっている器用さは、ついに「炎球」を完全に制御することに成功していた。
回転し、コオォと光る眩い炎の球は、火に強いはずの赤フルフルの胴体を少々溶かすことに成功する。

「キォアアアアアアアアアアアアアアア!」

止めの――――「突き」!

抉るように回転させつつ突き出した突きは、予想以上の効果を発揮する。

新特技・「捻刺棍」

それは貫通属性だけではなく外部破壊も兼ねた特技。
ギュルンと捻転した骨は、少々溶けていたフルフルの強靭かつ柔軟な皮膚を巻き込み千切りつつ、フルフルの内臓を破壊し、絶命させた。

(今のは……新しい特技?)
≪ぱんぱかぱーん! 新特技「捻糸棍」が発動したよ! 持久力が意外と減るから気をつけてね!≫

間髪入れずにひまわりが報告してくれる。
AIサクラがしてくれなかったこれは、非常にありがたい。

だが、自分の体だ。
持久力の減りはだいたい分かる。
ゴソッと疲れた今の感じ。
もう使わないほうが良いだろう。
今倒したフルフル亜種はレベルが13。レベルが上の敵を倒せてしまうこの特技、どうやら代償は安くない。

そして今倒したモンスターの経験値で――――――――

≪魔物を撃退したから経験値を取得して、なんとレベルアップ! おめでたいねお兄さん!≫

そうだねおめでたいね、と思いつつ、ハルマサは残りの敵を見るのだった。



<つづく>

骨って良いよね!


レベル: 12 → 13  ……Lvup Bonus:10240
満腹度: 43959 → 55122
耐久力: 33604 → 47785
持久力: 42892 → 54055
魔力 : 71479 → 84225
筋力 : 35304 → 51755
敏捷 : 67711 → 81029
器用さ: 96986 → 111656
精神力: 30178 → 43023
経験値: 31360 → 44060   残り37858


スキル(熟練度上昇値の大きいほうから降順)

棒術Lv9  : 6 → 3932   ……Level up!
空間把握Lv12: 29634 → 33279
戦術思考Lv12: 20884 → 23489
突撃術Lv11 : 15027 → 16820
土操作Lv11 : 15527 → 17282
盾術Lv10  : 5893 → 7430
防御術Lv10 : 6726 → 8207
身体制御Lv12: 25893 → 27331
魔力圧縮Lv12: 24528 → 25805
撹乱術Lv12 : 19736 → 20995  ……Level up!
炎操作Lv11 : 15486 → 16723
魔力放出Lv13: 51746 → 52975
観察眼Lv11 : 16082 → 17221
PトレーナーLv13: 50834 → 51765
的中術Lv11 : 14372 → 15238
剛力術Lv10 : 8302 → 9001
蹴脚術Lv8 : 741 → 1430   ……Level up!


◆「捻糸棍」
 強烈なねじりを加えた突きの動作。突くと同時に周辺組織にもダメージを与える。持久力を60%消費。貫通属性。





[19470] 83
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 17:56

<83>


「キュォオオオオオオオオオオオ!」

雷撃が飛び交い、

「エ゛ァォオオオオオオオオオ!」

電光を纏った巨体が襲い来る。

「ハキシュ!」

間を縫うように首を伸ばしてきたりする。
だが、ハルマサは意外と余裕だった。

動けばついてこれない。
ヌルヌルするだけで防御もそんなに堅くない。
そいて雷撃を出すまでのタイムラグ。

(これは……勝てる!)

速さが相手を上回るということは絶対的なアドバンテージを得ることであった。
レベルアップによってさらにスピードが増したハルマサは、踊るように戦場を舞い、骨で叩いたり突いたりしていた。

とは言え、敵も体格が大きい分だけ体力も高い。
適当な攻撃では、そうそう沈んではくれないのだ。
(主にフルフルヘッドが)入り乱れる戦闘において、「突き」を口の中に食らわせることは思った以上に難易度が高い。

どうするか、と考えて、ハルマサは重さで潰すことにした。
フルフルを全て叩き落した天井に骨を伸ばして突き刺して、魔力を通す。
「セレーンの大腿骨」はとても魔力伝導率が高く、骨の周囲では精度の高い「操作」が出来る。

ズゴォ、と天井から抜けた骨には、圧縮された岩がこんもりついていた。
決して折れない骨がしなるほどの重さだった。
とても支えきれない。
だが、ハルマサはそれを振り下ろすだけで良い。

「どっせい!」

メキャァ!

それを飛び掛ってくるフルフルに向けて振り下ろす。
距離の調節は骨の伸縮で。
ハルマサが片手で保持するのが難しいほどの岩塊は、重力加速度+振り下ろしの速度でフルフルを圧壊させる。

「ギォオオオオオ!」

翼の骨をへし折られてうめくフルフルを見つつハルマサは思う。

(この骨最高――――!)

なんか凄い使えるんですけど!
突いて良し! 叩いて良し! 魔力伝導率が良いから……炎の剣だってできるんだぜ―――――――!

正しくは燃える骨。
岩の塊から骨を分離させ、その周囲に炎を纏わせる。
たいまつのようなものだったが、ハルマサのテンションは上がりまくった。

ハルマサは身を屈めて左から跳んできた赤いフルフルヘッドを避けると、神速の踏み込みで、右斜め前のフルフルの懐へと入り込む。

(食らえ! ピカデラパーンチ!)

パァン! と盾を打ち付けフルフルの腹を波打たせる。
その一撃はフルフルを棒立ちにさせ、続く炎の「突き」で防御を破られる。
体の中に抉りこまれた骨から魔力が漏れて、風となり、体の内部を掻き回す。
まさしく致命傷。
フルフルは口から血液と汚物を撒き散らしながら、前に倒れる。

びちゃあ、とハルマサにかかる血と汚物。
その汚物とは、唾。フルフルが逆さまになった時ポタポタ落ちてくる……強力な溶解液だった。
多分胃酸。

(ほギャ―――――――!)

ジュゥ、と毒に耐性を持つゲリョスの服すら溶かす酸は、ハルマサのヘルメットなんて何のその。
瞬く間に溶かされ、ハルマサは燃え上がるような痛みを訴える頭皮に涙目になる。
ハゲる! ハゲるよ!
だが泣いていてもだめなのだ。
ここは敵地なのだから。
フルフルが咆哮する。

「ほぁあああああああああああああああああ!」
やっぱり(鼓膜が)パーン!
「ぅあ――――――!」

ヘルメットが壊れた途端にこれだよ!
ハルマサは蹲りそうになる体を強靭な精神力で抑えつけ、もうこんなのいらんとヘルメットを脱ぎ捨てる。
顔には眼と鼻と口の部位に穴があいた強盗マスクだけが残る。
上半身の服は溶け、頭頂部が円形に溶けたマスクを被る、ピッタリパンツの男。手には骨。
もう変態すぎて絵にしたくない姿である。

もうヤケクソだぜぇ――――! とばかりにハルマサは敵の集団へと突っ込んだ。






「うぃー……。」

勝ったぜー!
マスクは雷光で弾け飛んだけど、眼と鼻と口も付いてるぜー。鼓膜はまだ破れたままだけど。
返り血でベタベタだし……お風呂入りたい。

赤のフルフルが3体。
白のフルフルが8体。

結構な数のフルフルを倒したハルマサの前に、突然大きな宝箱が浮かび上がる。
なんのお知らせも無く、正直どうすれば…と眺めていると勝手に開いた。
バカン、と開いた宝箱に入っていたのは……

≪【ママチャリDX】:どんな衝撃にも耐える神様仕様。パンクしない。切り替えが3つ備わっており、幻の4段階目にギアを入れるにはパスワードが必要である。≫

「意味が分からないッ!」

思わずハルマサは吐き捨てていた。
なんでフルフルの巣にチャリ!?
これからの冒険に、乗って行けと!?
行くかッ!

でももったいない精神を持つハルマサは自転車を「収納袋」の中に押し込み、金貨とやたらかさばる「魅惑色の剛翼」とか食べられないらしい「フルフルの霜降り」とかを拾って、その場を後にした。


森丘の川原に返ってきたハルマサは、まず自分の身を省みる。
ネットネトだった。

もう、お風呂! お風呂入りたい!
フルフルのローションで体中がネッチョネチョだよ!

いでよ……五右衛門風呂ッ!

地面から浮き出る鉄の釜。
そこに敷く木材は適当にそこら辺から。

竈を組み上げ、その上に釜を設置!
水を入れて、と。
着火!



「ふぃー。良い湯だね。」

森丘の川原で五右衛門風呂に入りつつハルマサは考える。
これからどうしようかな、と。

次は……ナルガクルガの居たところに挑む?
でも結構足踏みしちゃってるし……先に進もう!
北へ! ひたすら北へ進むのだ!

風呂から上がったハルマサは、飯を食い、服装(ズボンだけ)を着て先を見る。
視界の先に広がるのは、みっしりと樹が立ち並ぶ。
言うなれば、「樹海」だった。

「ふんッ! 今度は一体何が待ち構えているのかぁ――――!」

戯れに自転車に乗って、チリンチリンとベルを鳴らしつつ、ハルマサはテンションを上げて森丘の北に広がる樹海へと進んでいくのだった。





<つづく>


宝箱に入っているのはまともな装備品とかも考えたけど、そういうssじゃないよね。

満腹度: 55122 → 55889
耐久力: 47785 → 52584
持久力: 54055 → 54822
魔力 : 84225 → 87750
筋力 : 51755 → 55252
敏捷 : 81029 → 83537
器用さ: 111656 → 119018
精神力: 43023 → 44021

経験値: 44060 → 63260
金貨 : 94 → 176

スキル(熟練度上昇値の高い順)
防御術Lv11 : 8207 → 10647  ……Level up!
空間把握Lv12: 33279 → 35490
突撃術Lv11 : 16820 → 18963
心眼Lv10  : 3492 → 5473  ……Level up!
土操作Lv11 : 17282 → 19237
魔力放出Lv13: 52975 → 54875
盾術Lv10  : 7430 → 9304
棒術Lv10  : 3932 → 5739  ……Level up!
身体制御Lv12: 27331 → 29011
魔力圧縮Lv12: 25805 → 27430
炎操作Lv11 : 16723 → 18234
解体術Lv10 : 6398 → 7883
観察眼Lv11 : 17221 → 18344
戦術思考Lv12: 23489 → 24487
風操作Lv12 : 23707 → 24438
撹乱術Lv12 : 20995 → 21664
蹴脚術Lv8 : 1430 → 2049
撤退術Lv11 : 10442 → 11006
回避眼Lv11 : 10873 → 11435







[19470] 84(修正)
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:11




<84>



【第三層】

第三層入り口付近の森。
その空き地で、一人の少女が唸っていた。

「うーん。まいったなぁ……。」

ガシガシと後ろでひっつめにした髪の毛をかく。
少女の目の前に広がっているのは、20枚ほどのカードだった。
彼女はカードを睨みつつ、作戦を立て、しかし放棄する。

「あー! ダメや! 絶対無理!」

少女は森の上へと目を向ける。
そこに見えるのは巨体。
ゴジラとタメ張れるくらいの魔物に少女は思い当たるものがある。
ラオシャンロン。しかも体は若干蒼い。亜種だ。
なんでこんなのが入り口に居るのかと、少女は頭を抱える。
しかもどいてもらわない事には通れそうに無い。

「どうやって勝つのん? 勝てるわけないやん! 武器もほとんどボス戦で壊れてまうし……。」

第二層の終盤は、怒涛の連戦だったのだ。
期待していたポップも今はまだ使えない物だったし。

倒せるモンスターが居ないと新たな武器もポップしないので、現状は大変苦しいのだ。
手元に残っているのはレベル制限で使えないものだし。
強力なのになァ……。
そして死ねば、これらも全てが失われる。
代わりに全然使えない武器に変わるだろう。
ああ、デスペナなんて消えてしまえ。

「はぁ……。誰かお人よし来て、素材分けてくれへんかなぁ。無理やろなぁ。」

少女は寝転んで、叶うことのなさそうな願望をこぼす。
ぶつぶつと独り言を言ってしまうのは、やはり一人きりが続いて寂しいからだろうか。
ダンジョンに来てからの相棒も壊されてしまったし。

とにかく彼女の方針は、待ちの一手。
次来た奴に頼んでみよ、と彼女は眠りに入るのだった。







【第四層】


ビルが立ち並ぶ町並みの一角で、陰険な目つきをした女が悪態をついていた。

「聞いてない……聞いてないぞ……仲間が必要などと……!」

紙を持っている彼女の手がブルブルと震えている。
その紙には、この街から出るためにはプレイヤーのみで3人以上のパーティを組む必要がある、と書かれていた。
いつもはとことん無口だが、一人なら結構喋る彼女は、彼女ともう一匹しか居ない状況で、愚痴を繰り返す。

「ありえんだろう……ダンジョンに入る前に知らせるべきだ……金貨が居ることや、仲間が必要なことを入ってから知らされる、この絶望感をどうすれば良い……!」

神のクソ野郎が、と言葉に出さずに呟く。
言葉に出してはいけない。誰にも聞かれてはならない。
それがルールだ。彼女が力を失わないための。

いっそ死ぬか?
そして一層からやり直して……だめだ、またルールが増える。もう勘弁だ。
現在だって、毎日決まった時間に太陽に向かってお祈りをしなければならないし、髪も30cm以上伸ばせないし、おまけに魚が食べれなくなった。
ああ、お魚たべたい……。

とにかく八方塞がりとはこういうことか、と彼女は思うのだった。

「くぅ……。」
「カゲー!」

傍らで、チョウチョを追いかけるトカゲもどきを女は忌々しげに睨む。
ふりふりと振られるオレンジ色のトカゲもどきの尻尾の先では、小さな炎が揺れていた。





【執務室】


執務室で閻魔はポツリと呟いた。

「最近誰も戻って来ないな。」
「そういうこともあると思うッス。皆さん順調にクリアしてるんじゃないッスか?」
「ハルマサはそうかもしれんな。一層でも死んだのは最初のほうだけだった。だが、新しい階層に挑んだばかりの奴らが一度も死なないなんて事があるのか?」
「強くなってましたらあるかも知れませんよ。あと、2号さん。あと50メートルほど離れていただきたいのですけど。」
「そんなにこの部屋広くないんで無理ッス。」

閻魔が零した言葉に反応するのは、チャラい格好をした男と、清楚な格好をした女性だった。
2号、4号と呼ばれる、閻魔の配下だ。
ちなみに4号は2号に対して冷たい。
というか男性全般に対してかなり冷たい。2号はマシなほうだ。
彼女がまともなシステムを作るのは女性にだけで、2号が復職しなければハルマサが二層に挑むことも無かっただろう。

そんな彼女は、難しい顔をする。

「それにしても2号さんのシステムを組み込んだ……佐藤ハルマサさんでしたか。男性なのに良くぞ第二層まで。オスなのに。とても信じられません。」
「ハルマサ君の頑張りもあるッスけど、基本は真面目に作ったシステムッスから。」
「本当かしら。」
「ちょっとしかふざけてないッス。」
「そのふざけた部分が酷すぎるぞ。桃色特性とはな。」
「効力は低いんスけどねぇ。」

閻魔がため息を零す。
恋愛の神から昨日もその件で小言を言われたのだ。
あいつもいい加減張り倒してしまおうか。

「ダンジョンの中だけッスから大丈夫かと思ったんスけどね。基本治外法権らしいッスから。」
「ダンジョンの中だけならそうでしょう。責任は全て最高神に行きますから。」
「まぁ現世に行かせたのは私が浅はかだったかも知れん。ハルマサも迂闊だった。そう思えば、貴様への罰は重いな。」

2号が失ったのは、神になる道への挑戦権。折角折り返し地点まで行っていたと言うのに。
厳しすぎる罰だ。これもほとんどの罪を自分から被った結果だった。

「そうでもないッスけど。オレっちは神とかどうでもいいんで。挑戦したのも何となくッスから。」
「まぁ。」
「……あまり往来でそのようなことを言うなよ。神であるという事にプライドを持つ輩も多いからな。」

閻魔はまたため息をつく。
個性的な部下が多いことは良いことだ。
退屈がまぎれる。
ただ、最近苦労がな……と少し滅入ってきている閻魔だった。
その手は自然と、膝の上においていたアイルーのぬいぐるみを撫でている。

「あ、そういえば、終わったッスよ。ハルマサ君の剣の修繕。」
「ほぅ。」
「あら、2号さんが手を加えたのなら、きっと他にも色々したのでは?」

嫌味たらしく4号が言うが、2号はむしろ、当たり前だと胸を張る。

「魂が素材だったんでちょっと興奮したんッス。持ったら髪が伸びるようにしてやったッス。」
「まぁ! 獣の槍ね!」

感動したように腕を組む4号。閻魔は全く分からない。

「他にも色々と改造したんで、ハルマサ君のリアクションが楽しみッス。」
「まぁ………程々にな。」

ハルマサも苦労が絶えないな、と閻魔は思うのだった。






【第二層】


「あ、お兄さん! いらっしゃい!」
「……うん。君は何時も元気そうだね。」
「えへん! ……そうだ!今日はお客さんが来てるよ!」
「へぇー。」

眠ると、またこの変な世界に来ていた。
すねにぽよんぽよんと体当たりを繰り返してくるひまわりを見つつ、ハルマサは疑問を口にする。

「ねぇ、ナレーションって君が?」
「そうだよ! このAIひまわりの仕事だよ!」

葉っぱで胸辺りの茎を叩きつつAIひまわりは誇らしそうに言った。
ちなみにAIサクラは別人格のようなものらしい。
他の人格にAI桃ちゃんが居るとか。
そいつだッ! とハルマサは犯人を確信した。
もちろん桃色ナレーションの犯人である。

「あ、お客さん! こっちこっち!」
「お客さん?」
「は、ハルマサか?」

AIひまわりがぴょんぴょん跳びはねるのを見ていると、後ろから聞き覚えのある声がした。

「その声は! …………誰?」
「こ、この姿を見ても分からんのか!?」

わかりません。
振り向いたハルマサはそう言おうとした。
何故なら、目の前に居るのは、薬局の前に立っているカエルだったからだ。
またマネキンか。とハルマサは思った。
赤い「+」が入ったナース帽を被っており、スカートも履いている。
一応メスのカエルらしい。
カエルの視線はマネキンらしく斜め上で固定されていた。
もちろん表情も固定されている。

一見すると、妖怪だ。
だが、ハルマサはその声に、とても聞き覚えがあったのだ。

「………カロンちゃん?」
「ふんッ! 女神と呼べぃ!」

嬉しそうな声で、カエルの外装を纏ったカロンちゃんは腕組みして言った。
マネキンが滑らかに動くのって少し怖いね。

「カロンちゃんってカエルなの?」

とても意外!

「違うわ――――! これは仮の姿じゃ! もっと我は美しい! あ、それほどでもないッ!」

どっち。
とにかくカエルじゃなくて良かった。

「アヴァリアートの奴が貴様に会ったと言うでな。我も来てやったぞ!」

ここって簡単に来れるのだろうか。というかカロンちゃんは暇なのだろうか。

「アヴァ……誰?」
「む? 古月の……いや言うても知らぬか。ならば、そうじゃな。恐らくは奴は盾の精霊と名乗ったであろうな。」
「ああ、カーネルおじさんか。」
「カーネル? 軍隊の知り合いでもおるのか?」

カエルと話していると凄い違和感がある。
視線が斜め上だし。
外装があるから惑わされるんだな。
心の目で見れば良いんだ。
ここはなんでかスキルも発動しないから「空間把握」もないし。

「……なんで眼を瞑っておるのじゃ?」
「カロンちゃんの声が綺麗だからさ! 必死に聞き取ろうとしているんだよッ!」
「そ、そうか。」

嘘ですゴメン。
カロンちゃんが常に斜め上を見ながら喋る人に思えてきちゃって。
でも、声だけ聞いてると、なんだか姿が浮かんできそう。
こう、黒髪で、背が低くて。

あと、貧乳。

ダメだ! 想像じゃ限界が有る! 姿見てぇー!

「あとどれくらい精神力上げたらカロンちゃんと向き合えるかなぁ……。」

この空間ででも、向き合えたら最高なのに。

「さぁの。ただ、普通の人間には声だけで失神するものもおる。こうして仮の姿とは言え我と向き合い、話せるだけでもそれなりじゃの。あと一歩といったところか。」

なんということだ! 早く強くならなきゃ!

「ぬぁああ! 君の姿を、見たいッ!」
「と、突然なんじゃ……恥ずかしい奴め。」

そういいつつ微妙に顔を逸らしているのはなんでなんだいカロンちゃん!

またの、と言ってカロンちゃんは去り、辺りは静かになる。
気付けば足元のひまわりは寝ていた。
スピョスピョと寝息をたて、やっぱり鼻ちょうちんを出している。
突付いて割ってみたがひまわりは起きなかった。
すぐに第二弾の鼻ちょうちんが出現した。




(……ハッ!)

頭痛がする。
夢でカエルに会ったような、そうでないような。
なんか良いことあったような、そうでもないような。

まぁ早く強くならなくちゃいけない気がするね!


そんな僕の前に、突然、ぼわん、と虚空から立方体が現れる。
あの、クエスト開始を知らせてきた奴だ。
今度も前と同様、蓋が開いて中から大きな顔が飛び出してくる。
びよん、びよん、と揺れていた頭はやがて不自然に停止すると、口のギミックをカクカク動かしつつ、喋りだす。

『プレイヤーの皆さんダンジョンをお楽しみでしょうカ! 定時報告の時間デス! クエスト「うお、カニ合戦」より24時間が経過しまシタ! 現在、最も多く魚竜種を倒したプレイヤーは プレイヤーNo.49:エコーズ・サムマリ デス! 記録は 二体 デス!』

お、意外と少ない! もしかしたら、僕にもまだアイテムゲットのチャンスがあるかも!
ハルマサが喜んでいると、ビックリ箱は続ける。

『また、味方とする陣営、魔物:甲殻種 の個体数が50%以上減少したことにより、敵対する陣営、魔物:魚竜種 が強化されマス! 敵陣営の魔物が自己進化を遂げ、魔物:ガレオス は魔物:ドスガレオス に、魔物:ドスガレオスは魔物:ガレオスキングに、なりまシタ! 魔物:ガノトトスの数が―――――


な、なんだって――――!


驚くハルマサをよそにビックリ箱の声は続いていた――――。



<つづく>






>1Jは1N(ニュートン)の力で1m押し込んだ時の仕事量ですね。
ありがとうございます。無知で申し訳ないです。きっとみんなこう思ったことでしょう。ググレや、と。

>「ときをこえろ そらをかけろ」のほうがいいかも
ありがとう窓さん。アトムの歌がうろ覚えだったことが露見しましたね。

>月歩って何?
ワンピースで出てくる六式と呼ばれる超人体技のひとつです。空中を蹴って移動するとか無茶なことをわりと軽くやってくれています。

>笹さん
ひwどwいwwwww
響鬼が俄然見たくなりますな。誰か時間くれぇ―――!

>【sm7991081】で検索してヒットするニコニコ動画の『8:58~』
なんか出たwww
リアルに見せられると効きますね!

>今回の更新で作品内に新しい風が吹き始めた!
書くのが苦しくなってきたので、作者が作品に飽きないように新要素を投入しました。テコ入れですね。

>「肩の後ろの2本のゴボウの(ry
懐かしいwあれと同じことをやっていたのかと指摘されて気が付きましたね。
サラッとパクッている自分が怖い。

>ヘルシングですねわかります
完全に意識しちゃいましたね。夢といえばあれだろう、と。

>同日更新の分は1つにまとめてはどうでしょう?
まとめてみたんだぜ。
分けていたことにいろいろ理由はありましたが、些細なことなので割愛。
問題ないようでしたらこれからもこれでいきます。

>相変わらず作者様はハルマサ君が嫌いなようです。
彼が調子に乗り出すとつい。

>リオレウスを人化させて、うほっ!
しないよ! 絶対しないんだからぁ―――!

>ドラゴンナイト・・・・現世に連れて行けば嫁じゃね?
破壊されちゃうよ! 災害的に!








[19470] 85
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 17:57



<85>


『味方とする陣営、魔物:甲殻種 の個体数が50%以上減少したことにより、敵対する陣営、魔物:魚竜種 の強さが強化されマス!』

そう人形は言う。

強化の内容は以下の通りらしい。

○ガレオス → ドスガレオス
○ドスガレオス → ガレオスキング(って何?)
○ガノトトス・ガノトトス亜種・ヴォルガノスがそれぞれ一匹増加。

ということであった。

(キツイな!)

ハルマサはそう思う。
何故なら、これらの強化が行われた理由が、甲殻種の個体数の減少だからだ。
これから敵陣営は強くなり、甲殻種はさらに減る。
次の強化は何パーセント減ったときだ?
さらに50%減ったときか?

(急がなくちゃ……!)

もう一刻も無駄には出来ない。
魚竜種の集まる場所を見つけ出し、叩く。
甲殻種が一所に纏まってくれていればそこを守る必要もあるだろう。
下手したら手が足りなくなりそうだ。

『残りの魚竜種は16体デス! では、皆様のご健闘をお祈りしマス!』

ボゥン!

ビックリ箱は虚空に消える。
討伐数は最高記録でたったの2体。
聞いた時は喜んだが、あまりに少なすぎる記録だ。
やっぱりこの階層にはプレイヤーが少ないのだろう。
強いプレイヤーはさっさと下に行っているだろうし、弱いプレーヤーは入った途端に死んでいる。
そう予想することはあまりにも簡単だった。

減る数と増える数が同じとは何たる事態。
他人に頼るのはやめたほうが良いだろう。
急いで行動方針を決める必要がある。

入り口付近で飛んで来るオレンジ色の光線は、ほぼ間違いなくガノトトスの類縁のモンスターの仕業だ。
あれが行く手を阻んでくることは想像に難くない。
あれは北から飛んで来ていた。
つまりボスに向かう時に、魚竜種との対決は避けられそうにないのだ。
だったら早急に魚竜種を倒す方が良い。あんまり多くなられたら対処できなくなるだろうし。

ハルマサは、急いで先に進むことにした。恐らく溶岩地帯は北にある。そこに居る魚竜種を倒すために。

ハルマサが現在居るのは樹海。
寝ている間の安全が保障されるので、ハルマサは眠りに突くまでの安全を考え、周りを圧縮して作った穴の中で眠っていた。
ハルマサは急いで服(と言ってもズボンだけだが)を整えると、干し肉を噛みつつ、穴から飛び出す。

そうして樹をスルスルと登り、天辺付近の枝にたどり着いたところで、空にめがけ跳躍する。
狙撃される可能性も高いが、今度はその方向すらも見定めるつもりだった。

一気に地上百メートルほどまで飛び上がったハルマサの眼に浮かんだ「回避眼」の攻撃予知線は――――――13本。

(多すぎる!)

咄嗟に背中から魔力を出して下降する。その上を通り過ぎる4本の熱線と、7本の水流。さらに2本の砂の線。

(砂……もしかして、ドスガレオス!)

そうだ、魚竜種はガノトトスとヴォルガノスだけではなく、砂漠に住まう者もいた!
ナレーションでも気付いたが新たにトライガレオスという種も生まれたらしい。

ハルマサは、今度は姿を消して、再び跳躍。
地形をしっかりと把握する。
この階層に来た時は、「鷹の目」のスキル不足で、また樹海の付近で雨が降っていたため見通せなかった、地形をしっかりと記憶する。
地形どころか、湖から顔を出すガノトトスも見えたりはしたが。


(整理しよう。)

この先、樹海の向こうにあるのは不毛の地。
まず砂砂漠が広がり、その先に岩石がゴロゴロと転がり砂のなくなる岩石砂漠。
さらにその先に低い山脈と、最北の巨大な山。
山からは煙が上がっている事が薄っすらと見えた。
活火山なのだろうか?

砂砂漠には大きな湖が二つ。
丁度この楕円形の大陸の眼のような位置だ。
そこにガノトトスは居た。
ドスガレオスの居場所は、分からない。
なんとかガノスも分からない。

(じゃあ分かるところからだね!)

ハルマサは、透明なまま、湖へと空を走ろうとして、ゾクリと背筋を凍らせる悪寒に体を捻る。
恐らくは「心眼」の警告。
じゃあ警告の原因は――――

下からハルマサの居た場所を白いモヤが通りすぎる。

「ピェエエエエエエエッ!」
「ピェエエエエ!」

(ヒプノックかッ!)

恐らく今の攻撃は、睡眠状態を引き起こすガスを吐きつけてきたのだ。

≪対象の情報だよ!
【ヒプノック】:尾羽が美しい鳥竜。天敵や獲物を、睡眠ガスで眠らせることで生存を図る臆病な性格。発達した脚部の攻撃は強烈。詳しい情報を取得するには、「観察眼」Lv12が必要です。≫

確かに油断は出来ない。
レベル12で、さらに睡眠ガスも吐く。
だけど、ヒプノックではたいした脅威でもないような……

――――――ゾクリ。

逃げろにげろ――――――――ニゲロッ!

(――――――ッ! 「空中着地」ッ!)

ハルマサが空中を蹴り、さらに足の裏から魔力を噴射し逃げた瞬間、ハルマサの近くにあった大木がズタズタになり、根元から折れて飛んだ。
幹に刺さっているのは白銀に輝く太いトゲである。
しかしハルマサはそれを見ている余裕が無かった。

(ここに来て―――――――――ナルガクルガか!)

やはりどのモンスターも避ける通ることは出来ないのか。
ハルマサの前では、獰猛に牙を剥いて唸る生粋の暗殺者、迅竜ナルガクルガが居た。
そのレベルは――――――14。
巨大なかつ体は強靭な四肢に支えられ、漆黒の体にはしなやかさが見て取れる。
前腕にある翼は発達して、ブレード状になっている。
なにより、疾い。
ハルマサは、やれるさ、と自分を鼓舞するように呟いたが、それはどうしても空虚に響いた。




【第二層 火山前広場】


ズゥ……ンと崩れるように倒れた岩肌の巨竜を一瞥だにせず、少年、エコーズ・サルマリは額を拭った。

「ふぅー。やってられねぇな。熱い。」

拭いてもその次の瞬間には玉の汗が吹き出てくるようだった。
エコーズは金髪の少年だ。
血気盛んで、向こう見ず。
しかし、その行動を肯定してしまう実力の持ち主でもあった。

「愚痴ばかり言うものではないと、ワタシは思う。」

傍らに居た背の低い人物、マリオネ・キルデガが、深く被った黒い帽子の下で呟く。
マリオネという女性の格好は黒尽くめで酷く暑苦しい。こんな場所では特にだ。
とにかく熱い。

「愚痴じゃなくて、事実なんだよ。」
「事実を嘆くことを、愚痴という。そうワタシは思う。」

はいはい口じゃ敵わねぇよ、とエコーズは肩をすくめ、目の前にそびえる巨大な山を見た。
今二人は魔物が群雄割拠する山脈を抜け、この階層最後の難関に挑もうとしていた。
山は天辺から絶えず黒い煙を吐き出し、周りに熱を撒き散らしていた。

二人、エコーズとマリオネは、クエストの存在を半ば無視していた。
二人の焦点は第二階層などには無い。
もっと深く。
得るだけで、名誉となるようなお宝を。
エコーズは義務のようですらある出世欲で、マリオネは家族のために、このダンジョンに来ているのだ。
決して遊びなどではない。
クエストなどという、遊びに関わっている暇も無い。

二人がぽっかりと口を開ける火山の中に入り、そして中からは獣の怒号が響き渡る。







<つづく>



満腹度: 55889 → 55931
耐久力: 52584 → 52584
持久力: 54822 → 54864
魔力 : 87750 → 88707
筋力 : 55252
敏捷 : 83537 → 86307
器用さ: 119018 → 120627
精神力: 44021


観察眼Lv12 : 18344 → 22003
空間把握Lv12: 35490 → 38559
心眼Lv10  : 5473 → 7822
身体制御Lv12: 29011 → 30620
魔力放出Lv13: 54875 → 55832
鷹の目Lv10 : 8409 → 8993
暗殺術Lv11 : 16730 → 16772





[19470] 86(改定)
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:13



<86>

「グルル…、――――ッ!」

ナルガクルガの攻撃の予備動作、そんな物は、探ろうとするだけ無駄であった。
気が付けば後ろに回りこんでおり、ハルマサがふりかえる間もなく、体に爪が食い込んでいた。

「――――――カッ! げ、ぐぅ……。」

「暗殺術」がショックで解ける。
樹を粉砕しつつ転がるハルマサは、何故自分が生きているのか不思議なほどであった。

そう、分かっている。
「回避眼」が間に合ったのだ。
一瞬前に、前へ跳ぼうと踏み出していた。
それがハルマサの命を救ったのだ。
だが、背に残る爪の感触。あれこそ、命を刈り取るものだ。

(ぐぅ………!)

グヒュウと背中から噴出す血。
ハルマサは、歯を噛み締める。
追い詰められた故の心境だろうか。血を流しすぎたせいだろうか。
ハルマサの体は自然と震えをやめた。
生き残るために。

「ガルァアアアアアアアアア!」
「――――――!」

「心眼」が発動する。
絶叫する警告に従い、その場から全力で右へ飛んだ時「撹乱術」が発動した。
スキルが発動すれば、一瞬前までハルマサが居た場所を抉る爪と、追撃に振るわれる前足が何とか見える。
避けれはしないが――――――防御なら!
盾を掲げた瞬間「防御術」が発動!
その鋭い前腕の刃翼にて、掲げた盾がウロコごと二つに裂ける。

(なんて切れ味!)

稼いだ時間で着地。後ろへと跳ぶ。

「――――――ガルゥアアアアッ!」

―――ュオン!

20メートルは跳びすさったはずなのに一瞬にして目の前に居た、黒い猛獣の振り下ろす凶大な爪。
何処までも冷静な思考の中、ハルマサは、伸びろ、と一度呟き、伸ばしたセレーンの骨を両手で掲げて構える。

―――――――――「剛力」・「防御」ッ!

ズシン、とハルマサは地面を陥没させつつ攻撃を受けた。
だが重い、動けない。
一瞬の硬直だった。しかし動けるようになった時ナルガクルガは目の前に居らず、代わりに目の前、ほんの数センチに、刃竜の尻尾が―――――――!

「――――――ッ!」

その時考えていたことは自分にも分からない。


ザクリと。

尻尾についている白銀のトゲが眼を貫き、脳をかき回し、一瞬遅れて飛んできた尻尾本体がハルマサの首から上を弾き飛ばした。
これ以上ない即死だった。

が。

ハルマサは動く。
ギョルリと吹き飛んだ頭を高速で再生させつつ、腕で迅竜の尻尾を捕まえる。
強靭な剛毛を貫き、指が肉を抉った。

≪特性「不朽の魂」が発動したよ! 特性発動時のボーナスとして、体が再生するみたい! そして「不死人」状態になっちゃった! 「不死人」の機能として、聖属性、光属性、火属性に弱くなり、状態異常無効、闇属性、魔属性吸収の特性を取得し、肉体の再生機能が50倍になったよ! さらに肉体のリミッターが30%外れるので気をつけて! 筋力・敏捷のステータスが3倍になるけど、今のお兄さんの場合、全力で動けば10秒で体が壊れるよ!≫

リミッターの解除。
なるほど、体の軽さはそういうことか。

ハルマサは笑った。
それはまさしく、強者が放つ傲慢な笑みだった。
少なくとも目の前の黒い竜には負けない、という自負だ。

「――――――――ォオオオオオオオアアアアアアアアアアアアッ!」

ハルマサの声帯はまだ回復していなかった。
彼は声にならない声を獣のように咆哮し――――走り―――――殴った。

ドゴォ!

地面が爆ぜ、ナルガクルガの牙が折れる。
地面にナルガクルガの頭を叩き込み、引きずり出し、また叩き込んだ。
ハルマサの拳は、骨が折れ、血が吹きだした。
走れば足から血を吹いた。
しかし自らの体を省みず、彼は暴れまわった。

竜の硬質な翼を叩き折り、肺腑を抉った。
アレほど強大で敵うはずもないと思わせたナルガクルガは、口と両眼から血を流し、わずか5秒で絶命した。
つまりそれほどの怒涛の連打であり、体に刻まれた代償は大きかったが、そこはひまわりの言ったとおり、10秒以内なら負った怪我は治るレベルだった。

ギュルリと体が回復し、ついに複雑な構造をした脳も再生される。
我に帰ったハルマサが思ったことはまず、ナルガクルガの有様が酷いということだった。

(うわぁ……えぐぅ。)

ええ、これ僕がやったんだよね?
思わずドン引きだよ。
ナルガクルガの目玉とかはみ出てるし。
ていうか僕の目は……!?
おお、治っている! 治っているぞぉ―――!
……あれ?

浮かれていたのも一瞬のこと。
僕は、しなければならないことを思い出した。

「そうだ……ガノトトス。」

≪あと、満腹度の減りも5倍になるんだった! 凄くお腹が減るってことだよ! そして腹ペコ状態だと、全ステータスが10分の一になっちゃうんだ! その上、特性も一つ消えちゃうの! 今回は「おやすみマン」が消えちゃった! これに頼っているとこの特性自体が消えて、そのまま死んじゃうから気をつけてね!≫

5倍!? 10分の一!? ていうか「おやすみマン」が―――――!
2号さん、ペナルティ多すぎませんかね!?
いや、ま、まぁあれさ。消えたのが「不死体躯」とかじゃなかっただけマシじゃない?
そう思って、僕は前向きに生きよう。死んでるけど。

≪そして今さらだけど、ぱんぱかぱーん! 魔物を撃退したことにより、レベルが上がったよ! おめでとう!≫

確かに今さらだね。じゃあ僕も今さらだけど。

「ひゃっほう! ナルガクルガを倒したぜぇ――――――――!」

テンション上がるわァ―――――――!

「そして死んじゃッたんだ…………。」

テンション下がるなぁ……。
ナルガクルガ速過ぎ。あれ絶対速さ特化型だよ。
レベルが上でさらに速さ特化とか反則にも程があるって。そりゃ死ぬよ。
……まぁ暗いこと考えてないで肉食おう肉。カユうま状態だからお腹が減ります。

「収納袋」から「普通の干し肉」を取り出し食べる。
ムシャー、ムシャー!

「ぶふっ!」

吹いた。
クソまずい。舌が痺れる。

(なんで!?)

ほとんど満腹度が増えてない。というか今ステータス見てる時間でさえ、上がった分より下がった分の方が大きい。
そして、そんなに満腹度は少なくないのに、狂おしいほど感じる飢餓感!
これはゾンビ化の代償だろうな……。

やはり満腹度を回復するには生肉か!?
それとも腐った肉か!?
それだけはなんかイヤだなァ……。
じゃあ生肉……例えば、今逃げようとしているヒプノックとかで試すべき!
一匹逃げちゃってるけど、問題ないね!

「君を丸ごといただきますッ!」
「ピェエエエエエエエエエエエエエエ!」

高速で回り込み、首に噛み付く。
骨を噛み砕いた感触のあと、ヒプノックは動かなくなった。

割りとエグイ事してるんだけど、食欲の方が先に立つね!

むしゃむしゃり……これは………いける! 美味い!
肉の硬さ、トリ臭さがたまらない!
脂身とか全くないなヒプノック!
羽根のアクセントがこれまた!

あっという間に食べつくしてしまった。
倒れたモンスターが消え去るまでの時間で、全部食べてしまったくらい。
美味しいのがいけないんだよ!
目的を完全に忘れて骨をしゃぶっていると、またひまわりの声がする。

≪一定時間内に一定量以上の「まずそうな」に分類される魔物の部位を摂取したことにより、スキル「悪食」Lv1を手に入れたよ! これでなんでも食べれるね! お腹の減りはもう心配ないね!≫

■「悪食」
 食べられないものを食べ、栄養とする技術。あらゆる物を食べ、糧とする事が出来る。スキルレベルに応じて、食べられるものが増える。上位スキルに「概念食い」がある。


なんか凄いスキル来たなァ。
この明らかに食べられなさそうな、迅竜のドロップ品「迅竜の刃翼」を試しに食べてみようか。

バリン、ボリン。

うん、堅いね!
鋭い破片で口の中が血だらけだよ!
直ぐ治るけど。

≪ぱんぱかぱーん! スキル「悪食」の熟練度が2560を超えたことによりスキルレベルがたくさん上昇したよ! スキルが昇華したよ! 「概念食い」になったみたい! おめでとう!≫

わーい!昇華はやーい!
そういえば上位スキルってだいたいレベル6でなってたもんね。
Lv14の迅竜の素材とか食ったらそりゃあ一発だぜ!

≪「刃を持つ腕」の概念を取得したので、腕から耐久力に応じた刃が出せるよ!≫

ヒャッハー! もう人間やめてるぜ――――――!
ていうかゾンビだった――――――!

腕からブレード! ARMSかッ!
でも耐久力って結構低いんだよね。
あんま使えないかも。

まぁ良いや。
強くなったし、ガノトトスを退治しよう。
そしてお肉を頂きマース!
翼も悪くは無いけど、やっぱりお肉!

完全に食への探究心に動かされつつ、ハルマサは樹海を抜けていくのだった。



<つづく>

ノリのままに書いていたら大変なことに。
勢いssだからこのまま行くぜ!
短時間で倒してしまったのでスキル上昇値は少なめ。ゾンビ補正が半端ないけど。


レベル: 13 → 14   ……Lvup Bonus: 20480
満腹度: 55889 → 88716
耐久力: 52584 → 107144
持久力: 54822 → 87439
魔力 : 87750 → 108230
筋力 : 55252 → 104777  → ☆314331  ……ゾンビ補正
敏捷 : 83537 → 134421  → ☆403243  ……ゾンビ補正
器用さ: 119018 → 146707
精神力: 44021 → 64501

経験値: 63260 → 83738 残り:80100
金貨 : 176 → 196

○スキル(上昇値の大きい順)

剛力術Lv12 : 9001 → 26389  ……Level up!
防御術Lv12 : 10647 → 27801  ……Level up!
撤退術Lv12 : 11006 → 22384  ……Level up!
撹乱術Lv12 : 21664 → 32573
心眼Lv11  : 7822 → 17348  ……Level up!
盾術Lv11  : 9304 → 18332  ……Level up!
突撃術Lv12 : 18963 → 27834  ……Level up!
的中術Lv12 : 15238 → 23384  ……Level up!
空中着地Lv12: 26743 → 34670
回避眼Lv11 : 11435 → 18734
拳闘術Lv11 : 8763 → 15984  ……Level up!
身体制御Lv12: 30620 → 37829
金剛術Lv10 : 1377 → 7831  ……Level up!
暗殺術Lv12 : 16772 → 21776  ……Level up!
空間把握Lv13: 38559 → 42387  ……Level up!
悪食Lv9  : 0 → 2603   ……New! Level up!
観察眼Lv12 : 22003 → 24391
PトレーナーLv13: 51765 → 47901

○取得概念
刃を持つ腕


■「悪食」
 食べられないものを食べ、栄養とする技術。あらゆる物を食べ、糧とする事が出来る。スキルレベルに応じて、食べられるものが増える。上位スキルに「概念食い」がある。

■「概念食い」
 「悪食」の上位スキル。食べられないものの概念を食べ、吸収消化する。稀に吸収した概念を体に発現する。スキルレベルに応じて、概念を発現する確率が上昇。

◇「刃を持つ腕」
 腕からブレードが飛び出す。概念起動時と、ブレード収納時に前腕部にダメージを負う。


☆不死人(ゾンビ)状態
メリット:状態異常無効、闇属性・魔属性吸収、肉体再生速度50倍、筋力・敏捷3倍
デメリット:聖属性・光属性・火属性ダメージ25倍、持久力減少速度2倍、満腹度減少速度5倍、腹ペコ時メリット消滅+全ステータスにマイナス90%の補正、「おいしそうな」「普通の」食物の満腹度回復効果にマイナス99%の修正。この状態になった時にランダムで特性が一つ消える。


あと飯とニオイの好みが反転したり、「まずそうな」に分類されるものを食べても「普通の」と同程度の満腹度が回復してバッドボーナスも免除されたりします。






[19470] 87
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 17:58

<87>


ガサリと、樹海を抜ける。
途中でバンビのような姿をしている草食のケルビというモンスターを捕まえて食べてみたが美味くない。
多分「おいしそうな生肉」をドロップするモンスターだったのだろう。

「お腹減ったな……。ガノトトス食べた――――い!」

樹海をスポーンと飛び出していった先は、サラサラの砂が続く砂漠だった。
耳を澄ませば、砂の中に何かが居ることは分かるが、位置の特定は難しそうだ。

そんなもんは――――――――スルーだ!
僕の心はガノトトスに夢中―――――――!

飢餓感で頭がパッパラ隊になっているハルマサは、湖に向けて疾走する。
彼は森丘フィールドから真北に来ており、樹海の、湖には程近い場所から出てきていたため、直ぐに目的地へと到着した。

このハルマサのあまりの速さに、砂に潜っていた砂竜と呼ばれる魚竜種たちは攻撃できず、見送るだけとなったのだった。




湖の周りは少しだけオアシスのようになっている。
その中で、翠色のガノトトスがヤオザミを齧っているシーンに、ハルマサがやってきた。

≪対象の情報を取得したよ!
【ガノトトス亜種】:稀に現われる翠色のガノトトス。長く生きたため鱗が変色している。水を吐いて攻撃する。詳しい情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv14が必要です。≫

どうやらナルガクルガと等しい強さらしい。
だが、ハルマサは速さ特化型であったナルガクルガさえ圧倒した男。
遠距離特化型のガノトトスに、地上で負けるはずも無い。

「ヤオザミを放せぇ―――――!」

と勢いよく叫んでハルマサはガノトトスにとび蹴りを入れる。
ギャオウ! と吹き飛ばされたガノトトスにさらに追撃の岩付き骨アタック!

ブスッと突き刺しズルゥと地面から抜き出す聖者の骨には、巨大な岩塊が付いていたが、今や30万にもなったハルマサの筋力なら、軽々と振り回せるのだった。
どうでも良いが、握った手がじゅ、と煙を立てていた。
そういえばこの骨、聖属性だったね。

とはいえ煙程度で怯むハルマサではなく、ガノトトス亜種はメッタ打ちである。
右から殴られたと思ったら左側から打ち上げられ、すぐに叩き落される。
骨の先の圧縮された岩が砕けるほどの連打。
水の中に居れば対抗できるかもしれないが、地上の魚竜なんてこんな物であった。

だが、そう上手くはいかないらしい。
ハルマサは、「心眼」の警告に従いその場を跳び退る。

直後水のビームが湖面から飛び出し、翠のガノトトスを抉った。

「ギャァアアアアアアアア!」
(仲間にも効くのか……!)

地上のガノトトスは怒ったようで、30メートルの巨体を立ち上げ仁王立ちし、水を吐いてくる。
ボロボロなのに頑張るなぁ……。

水は広範囲を抉る放射状のものだった。
ハルマサは、全力を出す。

横に跳び、回り込み、まだ水を吐き終えていないガノトトス亜種の後ろに回りこみ、よく見た。凄く良く見た。

(見つけた!)

「解体術」がしっかり発動。
やっぱり背ビレの付け根のうんたらかんたら……ココが弱点だァ――――――――!

―――――――手刀斬ッ!

ハルマサの横薙ぎの斬撃は、後ろからガノトトスの頭を切り飛ばした。
切断面から血が噴出して、巨体が倒れ伏す。
ハルマサがあんまりにも速く動くものだから、水中の魚竜は反応できず、むざむざと同種を殺されることとなった。



ハルマサが魚竜の巨体に隠れつつ、食欲に負けて魚竜をモリモリ食べていると、後ろから「ギィ!」と声が聞こえる。
振り返れば先ほど齧られていたカニである。宿と片腕をなくしているが、それでも元気そうだ。

「ん? ああ、無事……じゃないけど助かったんだ。良かったね。」
「ギィ!」

ハルマサがモグモグしながら話しかけると、宿を失くして弱点部位のコブを露出させたカニがカチカチと残っている鋏(ハサミ)を鳴らす。
ヤオザミかと思ったが、鋏の形が違う。
鋏と言うより、カマキリのような折りたたまれた鎌のような手をしていた。
「観察眼」で見れば「ガミザミ」と呼ばれる甲殻種である。
甲殻種の肉は以前食べた事があり、味は「普通」だった。
ということは今のハルマサにとって美味しくない、ということだ。
以上の理由から、甲殻種のガミザミは食欲の対象にはならず、普通に対応できているのだった。

そのガミザミが、ハルマサの腕をカマでくいくい、と引っ張ってくる。
なんだろう、とハルマサは立ち上がり――――――直後頭を引っ込めた。
そして、シュパァと、湖から飛来した水流が後頭部を削った。

「ちょっと待ってて。」

ハルマサは、やんわりとカニの手を押しのける。
「収納袋」から、「セレーンの大腿骨」を取り出して握った。
相変わらず聖属性がじゅうぅ、と手に優しくないが、これほど使える武器も無い。

「先にあのお魚さんを倒してくる、よッ!」

よ、といった時、既にハルマサは水に飛び込んでいた。

飛び込んだ瞬間、彼は失敗したかな、と思った。
いくら敏捷の高い彼でも、水の中では満足に動けない。
よって魚竜から狙い撃ちにされてしまうのではないか?
そうハルマサは思ったが、そんなことは無かった。

ハルマサには今、遠距離攻撃できる手段があるのだから。

(「突き」ィッ!)

ギュンと伸びた聖者の骨は、魚竜の知覚を上回る。
しかし、尖ってもいない先は特技の貫通属性を発揮できず、魚竜の頭を強打しつつ鱗ですべり――――――湖の底に深く突き刺さる。

(これは、これでオッケー! 縮めぇ―――!)

現在骨が縮まれば、固定されていないほうと固定されているほうでは、固定されていない方が動く。
ハルマサは骨でガノトトスに急接近すると、拳を放つ。
ただ、骨の縮む速度が速く、距離が極端に近くなって腕を伸ばしきる事が出来なかったが……それが新特技を発動させた。

――――――ブォン。

打つ瞬間、体中の筋肉が収縮し、その力と振動が拳に収束。
その手は高速で小刻みブレつつ、強大な威力となってガノトトスの鱗を貫いた。
そして内部にて、振動が爆発。
ドゥン! と強制的に振動が起こった内臓は裏返り、衝撃に脳の血管が破れ、ガノトトス(無印)は絶命した。

≪ぱんぱかぱーん! 新特技「無空波」が発動したよ! この特技も持久力を消費して、さらに腕を損傷するから気をつけて!≫

確かに凄い疲労だ。
打った拳は骨が折れたし。
だけど、水中にてガノトトスを倒すほどの特技。

(これこそが……必殺技か!?)

代償は確かに大きいが、追い詰められたら積極的に使おうと思うハルマサだった。


ガノトトスの死体を放り投げ、地上に出れば、翠のガノトトスは消えていた。
まだ全部食べていないのに残念だ。
だが、新しく手に入れたこいつを食べれば………!

「ギィ!」

あ、そうだった。
再度、ガミザミが腕を引く。

「うん。行こうか。」

ハルマサはガミザミに連れられて、オアシスの一角へと歩いていくのだった。





オアシスの一角には、木々に隠れて目立たないような洞窟がある。
こんなところ、連れられてこなければ絶対に分からないだろう。

緩やかに下っている岩の洞窟の中は一気に温度が下がっており、肌がゾクリとした。

ガミザミについていくと、やがて淡く光る結晶がある空間に来た。
ぼう、と照らされる空間にて、ハルマサは二つの卵が鎮座しているのを見たのだった。

「これは……?」

ハルマサが呟くと同時、二つの卵はぷりん、と弾け、中からまっ白なカニの幼生が出てきた。
白いだけではなくどこかキラキラと光るような色で、ガミザミやヤオザミを縮めたような姿をしている。
二匹のカニは、甲殻に覆われているというのにフワフワと柔らかそうである。
体長30cmほどのカニたちはプクプクと泡を吹くと、傍らに置いてあった木の実なんかをモギモギと食べ始める。
非常に愛くるしい姿だった。

≪【プラチナザザミ】:非常に非力な存在。しかしその体には、大きな可能性を秘める。
耐久力:5 持久力:300 魔力:2300000 筋力:2 敏捷:3 器用さ:6 精神力:43000≫

ん? 聞き間違いかな230万とか聞こえたんだけど。
だが、もう一つの白いカニ「プラチナギザミ」も同じようなステータスである。
これは一体……?
と思っていると、突然ぼわん、と目の前にビックリ箱が出現した。

定時報告には早いよね? と思っていると、ビックリ箱から顔が飛び出し、喋りだす。

『プレイヤーNo.54:佐藤ハルマサが複数の条件を満たしたことにより、プレイヤーのパーティ1つを対象とした、クエスト「プラチナ甲殻種の護衛」が始まりマス!』

二つ目のクエストの始まりだった。


<つづく>



満腹度: 88716 → 90715
耐久力: 107144 → 108497
持久力: 87439 → 89338
魔力 : 108230 → 112701
筋力 : 104777 → 115226  →345678
敏捷 : 134421 → 138669  →416007
器用さ: 146707 → 149811
精神力: 64501 → 66803

経験値: 83738 → 96538
金貨 : 196 → 217


概念食いLv10: 2603 → 6048  ……Level up!
拳闘術Lv11 : 15984 → 19305
鷹の目Lv11 : 8993 → 11843  ……Level up!
剛力術Lv12 : 26389 → 28993
身体制御Lv12: 37829 → 40339
空間把握Lv13: 42387 → 44882
観察眼Lv12 : 24391 → 26885
魔力圧縮Lv12: 27430 → 29843
戦術思考Lv12: 24487 → 26789
突撃術Lv12 : 27834 → 30001
魔力放出Lv13: 55832 → 57890
蹴脚術Lv9 : 2049 → 3784  ……Level up!
心眼Lv11  : 17348 → 19075
棒術Lv10  : 5739 → 7445
的中術Lv12 : 23384 → 25073
回避眼Lv11 : 18734 → 20391  ……Level up!
空中着地Lv12: 34670 → 35801
撹乱術Lv12 : 32573 → 33254
解体術Lv10 : 7883 → 8477
走破術Lv9 : 2853 → 3400
PトレーナーLv13: 47901 → 48981


◆「無空波」
 拳を相手に密着させた状態から腕を高速振動させ、衝撃波を相手にたたき込む。中位までの装甲を必ず貫通。持久力を50%消費し、特技に用いた拳は破壊される。









[19470] 88
Name: 大豆◆c457d23a ID:9d835427
Date: 2010/07/17 18:31


<88>

クエストの説明が始まった。

『No.54:佐藤ハルマサの属するパーティには、現在この場にいる2匹のプラチナ甲殻種の行動を妨げずに、48時間護衛を行っていただきマス! プラチナ甲殻種は非常に弱い魔物ですが、好奇心と食欲は大変旺盛! 逆に恐れを知らない魔物であり、守り抜くのは大変デス!』

「なるほど。」

確かにさっきからプラチナザザミがハルマサの足を小さなハサミで挟んだり叩いたりしているし、プラチナギザミは足の指に噛み付いている。
非常にこそばゆい。

『プラチナの魔物は、同種を除いた全ての魔物の最優先捕食対象デス! 魔物をひき寄せる芳香を発していマス! 内包する特殊で膨大なエネルギーによって、プラチナを食した魔物は凶暴化し、強さが約5倍ほどになりマス! 見事48時間守り抜き、プラチナ甲殻種が二匹とも成体となった時クエストはクリアとなり、報酬として、アイテムが授与されマス!』

5倍……。
モンスターによっては全然問題ではないが、例えば火竜希少種なんかがこの子たちを食べると非常に厄介なことになる、と。
かなりきつそうではあるが、ハルマサはこの愛らしい子ガニたちを守る気になっていた。
父性本能かもしれない。

『それではぁ、スタート デス!』

しかし、本当にこれで良かったのだろうか。
ハルマサは、現在、ガノトトスを初めとした魚竜種の殲滅を行わなければならないのである。
ここで、48時間も子ガニたちに構っている暇はあるだろうか。

と、ハルマサが思案していると何時の間にか二匹の子ガニは洞窟内の食料を食べつくしており、外へと続く上り坂をチョロチョロと登っていくところであった。

ハルマサが慌てて追いかけるようとすると、後ろにいたガミザミから、心配するような声が響く。

「ギィ?」
「あ、任せといて!」

思わず出た言葉だったが、それは本心でもあった。





ハルマサは、オアシスと砂漠の境界線に立っている。
「空間把握」と「聞き耳」を全開にしつつ、辺りを探る。
子ガニたちは後ろのオアシスの好き勝手なところで好き勝手に動いたり食べたりしている。
この小さな体から、しっかり芳香が漏れているのだろう。
ハルマサには何も匂わなかったが、モンスターには効き目抜群のようで、砂漠から、微かな音をたててモンスターが忍び寄って来ていた。

――――――――……ササササ……ザザザザザザザザザッ!

突如盛り上がる目の前の地面。

「ギャアア!」

ドパァ!

飛び上がると同時に砂を吐きかけて来るモンスターは、20メートルを越える巨体。
砂よりはやや黒色の体を持ち、砂海を泳ぐモンスターは総じて砂竜と呼ばれるが、彼はそれらのリーダー格。

≪【ドスガレオス】:ガレオスよりも一回り大きな体格と、黒く硬化した鱗を持つ、ガレオスのリーダー。詳しい情報を取得するには、スキル「観察眼」Lv13が必要です。≫

レベル13相当か。
ハルマサは砂を避けつつ、骨で殴りつけながらそう思った。

「シャアアアアアアアアアアア!」

ドブン、と砂に潜ったドスガレオスは驚くほどの速さで接近してくる。
が、ハルマサが地面に放った「突き」で周りの砂を吹き飛ばされ、体を串刺しにされて、動かなくなった。

レベル13相当のドスガレオスは耐久力が4万4千。敏捷が3万二千の猛者である。
しかし、平常状態で筋力30万、敏捷40万のハルマサにとって見れば、油断しまくっても倒されようの無い敵だった。

(問題は……キングだよね。)

定時報告によって知らされたガレオスキングなる存在。
聞くからに一筋縄ではいかなそうではないか。

それはともかく腹が減る。
クエスト中だろうが何だろうが、食事は欠かせない。
ハルマサは骨を縮めて、突き刺さっていたドスガレオスを引き寄せる。
その肉は……。
まぁ旨いが、肉よりもヒレとか鱗の方が美味しい。
鱗は表面の砂を落とすと青い美しい鱗だった。


そうやってガツガツ食べていると、後ろから子ガニたちが近づいてきた。

「どしたの? 食べる?」
「キィー!」
「キュッ!」

砂竜の肉体を差し出すと、白い子ガニたちは鋏を振り上げて飛びつき、一心不乱に食べだした。
肉を毟って小さく裂いてやる。
なんか親になった気分だな……。
そして、子ガニたちが食べだしたからか、ドスガレオスの体は消えようとせず長い間残り、やがて小さな子ガニたちとハルマサによって骨まで綺麗に食べられた。
ちなみに骨を食ったのはハルマサである。


≪ぱんぱかぱーん! 「概念食い」が発動して、「堅硬なる骨」の概念を取得! 概念に応じて耐久力が15000上昇したよ!≫


◇「堅硬なる骨」
 恐ろしく丈夫な骨。高い剛性を持つ。耐久力が上昇する。


「ほほぅ。中々。」

ステータスで耐久力の上昇値を見たが、既に桁が良く分からない次元になっているので、上昇地が大きいのかどうかも良く分からない。
でも「概念食い」っていいね! 好き勝手に食っているだけで見る見る強くなりそうだよ。
概念吸収が稀にしか起こらないのが残念!


キュ~。

考えていると不意に傍らから可愛い音が聞こえて来る。
見てみると、プラチナザザミがお腹(?)を押さえている。
腹が減ったのだろうか。
プラチナギザミは眠っている。鼻ちょうちんが出ていて可愛い。

プラチナザザミはキョロキョロ辺りを見渡すと、湖のほうへと近づいていった。
あの辺りには近づいていなかった。まだ食べるものがあるのだろう。

子ガニたちの食欲は旺盛だ。いや、旺盛すぎるとも言える。
自分たちの体積の何倍もの食物を瞬く間に食べ、眠り、そして直ぐに起きてまた食う。
30cmくらいしかなかった体は、脱皮もしないいまま、この一時間ですでに2倍になっていた。
卵から出てきた時に背負っていた宿では既に弱点部位を隠せて居らず、ハルマサが「土操作」でそれっぽいものを作って載せて上げている。

身長が追い抜かれる時も近そうだ。
それをどこか嬉しく思うハルマサである。
情が移りきってしっかりパパ気分となったハルマサだったが、湖の中に揺らめく巨体を「空間把握」で察知し、直ぐに表情を引き締めた。




「シャギャァアアアアアア!」
「この子たちを食べようとしたな―――――ッ!」

スパァ――ン!

ガノトトスを脳天唐竹割りにして、子ガニたちに提供する。
子ガニたちのお守を始めて早数時間。

(この子達は、まるで餌だね。)

二つのクエストを両立できるか当初は心配だったが、この「護衛」クエストは、「合戦」クエストのクリアに多大な貢献をしていた。
子ガニたちは強烈にモンスターを引き寄せていて、引き寄せた中に魚竜種も混じっていたからだ。
しかも捕食対象、というところがミソだ。殺すわけにはいかないから遠距離からの攻撃が少ない。
凄い楽だ。
「護衛」クエストを始めてから、倒した魚竜種はこれで4匹になった。ガノトトス、ガノトトス亜種、それにドスガレオス二匹だ。

そしてさっきから、オアシスの周りを、ドスガレオスや、中型で草食性のアプケロスというモンスターが2匹、さらにはケルビがウロウロとしている。
先ほど飛び込んできたドスガレオスを三枚におろして美味しくいただいた光景が効いているのだろう。
プラチナ甲殻種は、檻の中にあるエサ状態。

ああ、あれは罠! 罠なんだ! しかし……ああ、エサは美味そうだぁ!

そんな心境だろうか。もう辛抱たまりまへん、とでも言うように、よだれを垂らしつつドスガレオスとアプケロスの一頭が同時に飛び込んでくる。
それを見て慌てたように残りのアプケロスとケルビも飛び込んできた。
もちろんボッコボコにして、ハルマサはドスガレオスを、子ガニたちはアプケロスやケルビを味わった。

「ふぅ他のモンスターをココまで狂わせるなんて……。」

ケルビまで惑わせるとは大した物である。
新米パパから熟練パパを得て、親バカの領域まで突入しつつあるハルマサ。
彼の明日はどっちだ。

迷走するハルマサの精神はさて置き、そろそろ日が沈もうという時間になっていた。
だが、子ガニたちは短いサイクルで食って寝てを繰り返すので、恐らく夜も動き回るだろう。

「……だからパーティを対象としたクエストなのかな。」

ハルマサも腐った肉体の影響か、眠気を全く感じないが、普通の人間ならきついだろう。
なにせ二日連続で徹夜だ。
死んでしまったことを少し悲しく思っていたハルマサだったが、この肉体のメリットは計り知れないので、もう僕ゾンビでよくね? と思い始める始末だった。

夜になると、散発的な魔物の襲撃もほとんど無くなり、一番最後に襲ってきた桃色の毛並みをした牙獣種、コンガの肉体を炎弾で丸焼きにして食べてから、結構時間が経っていた。
ちなみにコンガの肉は意外なことに「おいしそう」に分類されるらしく、ハルマサはとても食べれなかった。

子ガニたちは空腹を我慢しきれずにオアシスの外に行こうとしているようだ。
もう子ガニと言ってもハルマサの身長を追い越していたが、行動には未だ慎重さがなく、危なっかしい。

ハルマサは二匹を止めようとして、ビックリ箱がカタカタと喋っていた内容を思い出した。

『プラチナ甲殻種の行動を妨げずに、48時間護衛を行っていただきマス!』

こう言っていた。
そうか、これは想定されている苦労なのか。
ハルマサは子ガニたちの後を警戒しながらついていくのだった。



<つづく>


満腹度: 90715 → 100319
耐久力: 108497 → 130926   ……「堅骨」効果でスキルアップに加え15000up
持久力: 89338 → 98943
魔力 : 112701 → 119456
筋力 : 115226 → 161854  ……☆485561
敏捷 : 138669 → 163494  ……☆490483
器用さ: 149811 → 164541
精神力: 66803 → 69454

経験値: 96538 → 132378
金貨 : 217 → 325

○取得概念
堅骨

○スキル
PトレーナーLv14: 48981 → 90234  ……Level up!
概念食いLv12: 6048 → 24803  ……Level up!
棒術Lv12  : 7445 → 23307  ……Level up!
聞き耳Lv12 : 6283 → 20884  ……Level up!
拳闘術Lv12 : 19305 → 33892  ……Level up!
空間把握Lv13: 44882 → 58330
解体術Lv12 : 8477 → 21330  ……Level up!
鷹の目Lv12 : 11843 → 23946  ……Level up!
回避眼Lv12 : 20391 → 27730
蹴脚術Lv11 : 3784 → 10482  ……Level up!
剛力術Lv12 : 28993 → 35587
観察眼Lv12 : 26885 → 33054
突撃術Lv12 : 30001 → 35774
撹乱術Lv12 : 33254 → 38921
的中術Lv12 : 25073 → 30721
撤退術Lv12 : 22384 → 26734
魔力圧縮Lv12: 29843 → 34039
空中着地Lv12: 35801 → 39821
戦術思考Lv12: 26789 → 29440
水泳術Lv10 : 3021 → 5668  ……Level up!
魔力放出Lv13: 57890 → 60449
心眼Lv12  : 19075 → 21569  ……Level up!
土操作Lv12 : 19237 → 21114  ……Level up!


◇「堅硬なる骨」
 恐ろしく丈夫な骨。高い剛性を持つ。耐久力が上昇する。

<あとがき>
なんかツッコミがたくさん来ている!(予感がする!)

このあとがきの部分は家で書いてるんですけど、前回のはきっと突っ込まれまくってるんだろうなァ……とね!
やはり書いたものは一日か二日置くのがベスト!アラが見つけやすいです。
でもこの連続更新を止めるのもどうかと思ったので昨日はやっちまったわけですね。
今日のは昨日の内に書いた奴なのでちょっとはマシな筈ですぜ!


明日も更新!

間違い色々ありましたねー。
指摘していただいた方ありがとうございます。特に無刃さん。あれは致命的でした。

>ガル・ヴィンランド
イケメンかと思いきやイカメン騎士ww
やられたぜ!でもかっこいいなこの人!

>桃色特性には絶対、好感度の高い異種族を人化させるものがあると
桃色は同種にしか効かないんで……他にそういうスキルを作るしかないな!

>ゾンビ化は予想してなかった
苦し紛れでした。今では結果に満足しているようなしていないような。

>満腹度のシステムは正直デメリットばっかりで
ハルマサ君がますます人外へと堕ちてゆく「概念食い」発動のキーでした。

>骨が聖属性……ゾンビ化したら持ってるだけで死ぬんじゃないか
いやぁこの骨の元となっているセレーンさんも悪い方にやられてますし、そこまでの強さはないんじゃない? と思って作中のようなちょっと痛いぜ的な描写に。
でも直りにくいので彼の手はボロボロです。

>着信拒否されたのって腕輪外してるからだよね
あぁ、やべ。おやすみマンの効果は衣服だけです。と直しておかないと指輪消えちゃうジャン。と今気づきました。腕輪もちゃんとつけてますよ。
カロンは誰か分からない人からちゃん付けで呼ばれたので拒否しているだけです。

>不死体躯で耐久値は回復するん?それとも物理的外傷が直るだけ?
耐久値も回復してます。逆に手足の欠損とかは治りません。

>ttp://www.youtube.com/watch?v=hsd0QbQB8tE
仮面ライダーか! 主題歌の曲名がかっこいい!

>そのうち通背拳や雷神も使えるようになるのか
なるんじゃないかな、と作者は思ってます。捻糸棍の漢字間違ってて慌てて修正しましたけど。

>死ななくなったと思ったら制約が増える…
彼女の場合は少し特殊なのです。
あとボーナスが二つなのはあまり意味がないです。

>フルフルのほぁああああああ弾幕
心が病んでいた時間帯のことなので若干黒歴史気味です。お恥ずかしい。

>4号うざ、こういう理不尽キャラ死ねばいいのに
4号はツンツンしてるだけです。嫌いな男性にはしゃべりかけないという裏設定があったり。

>4人ぐらいいるんじゃないの
居たらいいですねぇ。一人が働き一人はギャンブルにおぼれ一人が親孝行に励み、そして残りがssを書くことになるでしょうけど。

>赤フルに火は殆ど効かないんじゃ
アウチ!
ちょっとだけ効いたという描写に直しました。サンクス。

>聖人の骨が出てきた時点でハルマサがスタンド使いになったと思ったわw
ちょっと意識しましたね。最初は「キリストの大腿骨」って名前でしたし。
スティールボールランはちょっと読めてないんですよねぇ……。

>ひまわりはひまわりなのに小さいんですかね?
最近は部屋で栽培できる小さなひまわりもあるらしいですよ。

>擬人化するんですね。わかります。
擬人化好きな人多すぎる!
おとといくらいにこのスキルで擬人化したら面白くね?って思ってたんですけど忘れたので、しばらくないですよ。多分。

>カロンちゃんってアイツか?アイツなのか?w下手するとハルマサ泣くぞww
ハルマサ君は積極的に泣かせたいんだぜ。



明日もよろしく!




[19470] 89
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/18 16:26


<89>



【第二層 火山下層】


ドロリと赤熱した溶岩が傍らを流れ、黒ずんだ岩が巨大なホールのような空間を形作っている。
足元にはゴロゴロと岩れきが溢れ、下手をすれば足を挫く。

そこでエコーズとマリオネを待ち受けていたのは、数で押してくる魔物の群れだった。
と、言っても一体一体が弱いわけではない。
ただ、数がおかしいのだ。

「広域のアレいくぞッ!」
「寧ろ何故今まで使用しなかったのかと、ワタシはおも」
「いくぞッ!」

小言を遮りつつ、エコーズは口を裂けんばかりに開き、肺を収縮させる。
マリオネは幅広の帽子のつばを折り、音を遮断する紋様の刻まれた部分を両耳へと押し付けて。
金髪の少年は喉を震わせ咆哮した。

「――――――――カッッッッッ!」

ビリリと大気を振動させて、彼らを迎え撃っていた50数体のモンスターが動きを止める。
大半のものが白目を剥いて倒れ、中には血を吐き絶命する魔物もいた。
ガラリ、と天井の岩石が落ちてくる。
ただ、中には耐え切り、動き出す魔物もいる。

「ォオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

剛強な四肢で岩盤を握って抉りつつ、金獅子と呼ばれる魔物が黄金の毛を逆立て、咆哮する。
その魔物が4体。
一体が予備動作無く雷の奔流を吐き出す。
光の速さの如き奔流を左右に跳んで分かれた二人の、その片方、エコーズに追撃の豪腕が振り下ろされる。

ブシッ! と鼻血を拭きつつ、エコーズは拳を受け止めた。
ズン、と地面が沈む。
逃げるなら簡単だったが、こいつを至近でぶち込むならこうしないとな!

「―――――――――ォアッ!」

質量すらあるような音の砲弾が発射される。
エコーズに拳を振り下ろしていた金獅子の目が爆ぜ、耳から血が噴出した。


残りの三体の攻撃をマリオネは避ける。
手に持つ杖で雷光を纏った爪を逸らし、雷の奔流もすり抜け、砲弾のような体当たりを飛び上がることで回避する。

マリオネはフワリと獣の間に着地し、トタトタタン、とステップを踏む。
彼女はこのステップを見られることを恥じており、だからこそ、足運びの見えない膨らんだロングスカートを履いていた。

「これで終わって欲しいと、ワタシは思う。………『転ずる世界』」

――――トン。

マリオネが呟いた最後の足踏みをスイッチに、言葉は世界のありようを変容させた。
暑さは寒さに。
堅さは脆さに。
強さは弱さに。

しかし、少年はそのままに。

「オラァッ!」

少年は汗を散らしながら、跳び、殴る。
殴られた巨大な金獅子の魔物はその重さなど消えてしまったかのように飛び、岩の壁へと激突する。

「君が来るのが遅れてここにいる少女はもうダメだと、ワタシは思う。」
「ピンピンしてるだろうがぁ!」

と叫びつつ、少年は残りの二匹の魔物を一人で相手取り、勝利を収めるのだった。



「……ぬ。鼻血が止まんねぇ。」
「君は今とても情けない顔していると、ワタシは思う。」
「うるせ。……ハンカチない?」
「あるけど渡したくないと、ワタシは言いたい。」
「いや、言ってるけどな。」

彼らは火山の中層へと進む。
……前に一休みをするようだった。






【第二層 樹海西部】

ハルマサの前で二匹のカニは仲良くケンカしている。
樹海に来て、一つのキノコが見つかり、それを巡ってのものだ。

「ギィイ!」
「ギィイイイイイ!」

ガキンガキンとそれなりに堅くなった甲殻を互いに叩き合っているが、二匹とも駄々っ子にしか見えない。
子ガニたちの力は既にそれなりであり、常人が挟まれたら一発でミンチだろうが、超人であるハルマサは微笑ましいなァと思っていた。

そのハルマサの「聞き耳」センサーに引っかかる大型の獣。
フゴッ!フゴッ! と鼻息荒くこちらへと向かってくるのは、すでに子ガニの芳香にやられてしまったからだろう。
大きさは10メートルを越えており、なによりとっても良いニオイがする。

何だろうねこの匂い。
とても獣臭いというか、ウ○コ臭いというか………………あれ?
ぁああああああ!? 何を思っているんだ僕はッ! 良い匂いな訳ないだろッ!
ああ、ダメだ! ウン○最高とか思っちゃうのは頭が腐っているせいだ! これは全部ゾンビになってしまったせいなんだ!

ハルマサが嘆いているうちに、大型の魔物は姿を見せる。
ミシリ、と樹を折りつつ血走った目を子ガニに向けるのは、桃色の牙獣種だった。

「ブルォォオオオオオオオオオオオ!」
(ババコンガ……だね。)

デカイ桃色のゴリラに見える牙獣である。レベルは12相当。
大きく膨らんだ腹と、長い爪、口の端から覗く強靭な歯。
驚くとオナラを吹き付けてくる大変困ったモンスターである。
今のハルマサがオナラを食らうと、「びゃぁああああ、良ぃい匂いぃいいいいいいいッ!」と全身全霊で受けとってしまいそうで怖い。
ゾンビになっても心は人間だと思っていたが、それはかなり怪しいと思い知らされて鬱になりそうである。

「とにかくッ! アナタなんかにうちの子たちはやりませんからねッ!」
「ブガァ!」

ほあたぁ! とハルマサはとび蹴りをかます。蹴られて吹き飛ばされる際、ババコンガはオナラをしていった。
肛門が緩いのだろうか。
常人なら鼻が曲がるような空間だろう。
だが、今のハルマサにはフローラルで、心地よい。しかし、そう思いたくは決してない。
危険だ、この空間は危険だ―――――――ッ!

「煩悩を断つ一撃! 覇王翔光波ぁ――――――――!」

≪ポーン! 残念だけどステータスとレベルが全然足りないから出せないよ! 要修行、だね!≫

あ、そうですか。すいませんでした。
普通に叩いて倒そうか。
てりゃー。

「ブギャー!」




うん。
肉は美味いけど内臓はダメだね。
ん? 気にしないでドンドン食べて。
そんな「ギィ」とか言って僕に差し出してこなくて良いから。
あ、臭くて食べれないのか。じゃあ僕がしっかり食べるよ。
モッチャモッチャ。
美味しいのに、味わってしまったらヒトとして終了する味がする………。


このまま終わりまで何も無ければ良いんだけど……。

ハルマサはそう思うが、どうせそうは行かないんだろうな、とも予想している。
何故なら、まだ、ガレオスキングは姿を見せてはいないからだ。






【第二層 砂砂漠】


ズザザ……、と砂漠が揺らぐ。
ゆっくりと浮かびあがってくる影は……小さな丘ほどもある、巨体であった。
完全に砂から出てきたその姿は、月光を黒い鱗で反射して、闇夜に姿を浮かばせる。
その威容、ガレオスの王を名乗るに相応しい。
闇夜の中、ガレオスキングの瞳が光る。

そろそろ夜が明ける。




<つづく>

なんかキーボードのiが最近効きにくいんですけど。「い」を打つまで時間がかかる。超連打。
パソコン変えようかな。

ステータスは微妙な変化なので割愛。


金貨 : 325 → 366

○スキル
PトレーナーLv14: 90234 → 103822
概念食いLv12: 24803 → 27031
拳闘術Lv12 : 33892 → 35781
蹴脚術Lv11 : 10482 → 11902
戦術思考Lv12: 29440 → 30112
身体制御Lv12: 40339 → 40882





[19470] 90(修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/19 16:26



<90>



あーさー!
朝だよぉー!
朝ご飯食べてぇ、モンスターを狩るぞぉ―――――――!

「ギィ!」
「ギュイ!」

昨日のケンカで絆を深めたのかプラチナザザミとプラチナギザミは寄り添いながら、同じ方向の手を挙げて反応してくれた。
微笑ましいなァ。大きさは僕の身長の2倍くらいあるけど。

まぁ狩をするにせよ何をするにせよプラチナ甲殻種次第だが、そろそろ場所を移動する必要があるだろう。
でないと、この辺が「カロンちゃん光臨跡地」みたいになっちゃうからね。
この子たち植物だろうが動物だろうが関係なく食べるんだもん。
好物は菌類のキノコみたいで、昨日のケンカは「美白キノコ」をどっちが食べるかの勝負だったらしい。
ババコンガを倒した後にまたケンカが始まってしまったけど、僕がもう一つ探して来るまでもなく、二人で分け合ったようだった。
我が子(?)の成長を見ると嬉しさがこみ上げるねッ!

その横で僕は涙ぐみつつ腹が減ったので草食ってました。
「概念食い」で何でも食べれるからとりあえず腹の足しに。

二匹のカニは、体をゴツゴツとぶつけながらも寄り添って、場所を移動するようだ。
ならば、行き先の安全を確かめねばなるまい!

「ジャンピング「暗殺術」プラス「鷹の目」プラス「聞き耳」サーチッ!」

説明しよう! この技は狙撃されないように姿を消しつつジャンプして、辺りを見渡す技なのだ!
さらに着地してから地面に耳を当てて地中からの奇襲も察知する!

そうして砂漠を上から見たのだが、黒い塊がいた。でかい。
今まで見た中で一番デカイ。
形はガレオスなんだけど、黒くて大きい。遠近感が狂っちゃいそうだ。
微動だにしないけど。

もうあれがガレオスキングだよね。
確定だよ。レベルは……16ね。ドスガレオスたちのステータスはやや遠距離よりだったので、意外といけるかも知れないけど、積極的に戦いたくはないなぁ……。

子ガニたちはアレが居る方には向かってないし、今は放って置こう。
いずれ戦わないといけないかもしれないけどね。
せめてレベル15になってからお願いしたい!



その後ハルマサ一行は樹海を東に東に樹海の植生を荒らしつつ移動していく。
芳香に狂ったコンガやケルビが引っ切り無しに襲ってくるし、さっきはモスも襲い掛かってきた。全部美味しく頂いています。
子ガニたちの芳香は、風で遮っても関係ないようだったので放置するしかなかったが、食べ物が向こうから飛び込んでくるのは喜ばしい。
既にモスやケルビはカニたちだけで倒せるようになっていた。

プラチナ甲殻種たちはドンドン成長し今や体長6メートル。
脱皮しないのに甲殻も大きくなるのは不思議だ。

樹海の形は、大陸を横断する一本の帯と言える。
それを荒らしつつ東に進んでいると、ボゥン!と目の前にビックリ箱が出現した。

『定時報告の時間デス! クエスト「うお・カニ合戦」より48時間が経過しまシタ! 現在、最も多く魚竜種を倒したプレイヤーは プレイヤーNo.54:佐藤・ハルマサ デス! 記録は 11体 デス! 残りの魚竜種は7体デス! それでは、皆様のご健闘をお祈りしマス!』

言い終わり、箱が消える。

これは……報酬のアイテム貰ったぜ!
いや、その前に誰かがボス倒しちゃうかもしれないけど。
でもボスを倒すためにはヴォルガノスを倒さないといけない可能性が高いから、それまでにここら辺の魚竜種を全部倒しておけば良いんじゃない?
ていうかエコーズさんだっけ? その人以外にプレイヤーっていないのかな。
まぁ居たら寄ってきそうなことしてるし、寄ってこないということは近くにはいないんだろうね。

というかボス倒してリセット起こってもこの子ガニたちは居なくなったりしないよね?
そういう注意なかったし大丈夫!……だといいなぁ。

「ギィ!」
「ギィィイ!」

ブシュ―――!
ブシャシャ―――!

子ガニたちは終に水を出せるようになったらしい。
ザザミは口から、ギザミは何故か宿部位から。
二人はハルマサに向かって執拗に水を吹き付けてくる。ちょっと気持ち良い。
モンスターの体液で汚れていたから丁度良いね。
………もしかして臭かったから、洗浄されているのだろうか。ちょっと凹む。
プラチナザザミに腕を持ち上げられ、脇に水を吹き付けられながらハルマサはそう思った。


しばらくすると、またビックリ箱が出現した。

『クエスト「プラチナ甲殻種の護衛」の時間も半分が過ぎまシタ! プラチナ甲殻種は成長し、ますます魔物を引き寄せるようになりマス! 大陸中から魔物が集結していマス! ご注意下サイ!』

「マジか……。」
『マジ デス!』

答えたよこの玩具!

「え、あの質問とか良いんですか?」
『ダメ デス!』

ダメなのかよッ!

『それでは、護衛時間はあと半分デス! ご健闘をお祈りしマス!』

箱は消え、辺りはカニたちが動く音だけになる。
ハルマサに水を吹き付けるのをやめた子ガニたちは辺りの草を千切ったり、木に齧り付いたりしていた。

(大陸中からモンスターを引き寄せるなら……最初はあいつだね。)

恐らく一番近くに居るモンスター。
ハルマサは、ガレオスキングと戦う覚悟を決めた。




子ガニたちはしばらくあそこを動かないだろう。
あそこらへんはキノコが豊富だ。
ハルマサは砂漠と樹海の境界へと来ていた。

(来たな!)
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

相手は、怪獣だ。
鯨が陸に上がってきたみたいな巨体を揺らしつつ砂を割って飛び出してくる。
それだけで災害のように砂が降りかかる。

(風、操作!)

ぶわ、と吹き上げる風により、子ガニたちへ行く被害を無くす。
注意をこちらに向けさせてはいけない。
危険に晒すこととなる。

そして、ガレオスキングの注意はこちらに向けさせる!

「―――――極、風弾!」

斜め前からガレオスキングへと風を飛ばす。
全ての魔法にいえることだが、放出される規模はハルマサの精神力によって変化する。
ハルマサの精神力は約7万。
それなりに大きな風の玉だったが、小山のような相手にとってはカスみたいな物だった。
だが、まだまだ!

「雷弾! 炎弾! 水弾!」

とりあえず全種類撃ってみようと思って放ってみる。
注意はこちらに向かない。

くそう!ならば……

「甘い息!」

≪残念! レベルが上の相手には効かないよ!≫

ダメでした。

ズシン!ズシン!と、ハルマサの身長の数倍はある足を動かして子ガニたちへと走って向かっていく。

「く、仕方ない!」

「袋」から聖者の骨を取り出し、地面へと深く突き刺す。
シュゥ…と、握る両手に聖属性のダメージが入る。
この手の爛れは中々治らない。
しかし、使わない方法では、あの巨体にダメージを与えるビジョンが浮かばなかった。

「土操作……」

土中の鉱石が集積し、骨に付着し、圧縮される。それを何回も何回も行い、やがて、ハルマサの体より大きな岩界を作り上げる。

「いい加減、こっちを………!」

地面から引き抜いた骨は、かなり重い。
だが、重いからこそ意味がある!

ハンマー投げの要領で、骨を掴み、回す。一回、二回。
ギャリギャリと地面が抉れる。
回すごとに骨を伸ばし。

「見ろォ!」

三回転。骨は劇的に伸びる。

ブゥ…………ン――――――――ドガァ!

ハルマサの渾身の一撃は、トラックのような大きさの頭に正面からぶつかり、顎を跳ね上げた。

「ってこれでもダメ!?」

巨大なガレオスも、しっかり芳香にやられているらしい。
こちらを一瞥もせずに走っている。
もう樹海に入りそうだ。

「やばい、「土操作」ッ!」

ズゴォ、とガレオスの足元を凹ましてバランスを崩す。
さらに横から足をハンマーで殴って、転ばせる。

ドォン! と砂が舞い上がる。

(よし!)

転ばせるだけでもほとんど全力が必要だ。
ハルマサは走りより、尻尾を掴む。
尾びれに指を突き刺すように持ち……持てない!

―――――――「剛力術」ッ!

ミシィと筋肉が膨張し、四肢に力が満ち満ちる。

「ふんぬぁああああああああああああ!」

踏ん張りながら、一気に150万近くまで上昇した筋力でガレオスキングの体を振り回し、投げる。

ドスゥ……ン!

濛々と砂が舞う。

「これで死んだりとかしないかなぁ………実は一発殴っただけで死ぬぞぉ、みたいな。」

それどころかハルマサのほうが一噛みで死んでしまうだろう。耐久力はレベル相応だし。

―――――――ギャォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

起き上がった砂竜の王は眼を怒りに染めていた。




<つづく>

ゴジラの半分くらいの大きさを想定しているけど、重さはどれくらいになるのだろうか。50tくらい?


満腹度: 100319 → 101171
耐久力: 130926 → 131778
持久力: 98943 → 99795
魔力 : 119456 → 137697
筋力 : 161854 → 173918  ……☆521753
敏捷 : 163494 → 163578  ……☆490735
器用さ: 164541 → 184286
精神力: 69454 → 74600


○スキル(変動が大きい順)
PトレーナーLv14: 103822 → 145605
魔力放出Lv13: 60449 → 71841
剛力術Lv13 : 35587 → 43391  ……Level up!
魔力圧縮Lv12: 34039 → 40888  ……Level up!
土操作Lv12 : 21114 → 26639
概念食いLv12: 27031 → 32203
戦術思考Lv12: 30112 → 34490
聞き耳Lv12 : 20884 → 24980
鷹の目Lv12 : 23946 → 27909
槌術Lv9  : 0 → 3840    ……New! Level up!
風操作Lv12 : 24438 → 27883
観察眼Lv12 : 33054 → 36309
空間把握Lv13: 58330 → 61458
身体制御Lv13: 40882 → 43780
炎操作Lv12 : 18234 → 20880  ……Level up!
水操作Lv11 : 14041 → 16672
雷操作Lv9 : 1479 → 4079   ……Level up!
拳闘術Lv12 : 35781 → 36201






[19470] 91
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/18 16:28


<91>


怒るガレオスキングは、口を開き、体内から砂を吐き出す。

「回避眼」に映る光景は、一面を嘗め尽くす攻撃範囲。

(子ガニたちのところまでッ!)

どうすれば………ハッ! そうだァ―――――!

「こっちだ―――――!」

あいつは僕を狙っている! なら、僕が違う方向に動けば良い! セルを相手に悟空もやってた!

―――――――ギャォオオオオオオオオオオオオ!

果たして試みは成功した。
咆哮だか落雷だか分からないような鳴き声と共に、大量の土砂が左の空へと飛び上がったハルマサを追って吐き出されたのだ。

土砂は鼓膜の破れたハルマサを巻き込み、後ろの樹海も塗りつぶす。
樹海の一割が砂漠となってしまったような攻撃だった。

シュゴォオオオオオ!と吐き出され続ける砂。
瞬間移動が使えないハルマサは当然巻き込まれたが、瞬間移動は使えなくても彼には頼れる人が居るのだ。

「――――――カロンちゃんッ!」

「風操作」で必死に砂を散らしつつ、地面に骨を突き刺して恐ろしい勢いの砂に耐えているハルマサに、女神が舞い降りる。その体は緑の光に包まれた。

【今度の相手はまた大きいのぅ。】
「カロンちゃんは相変わらず頼りになるね!」
【そ、そうか? あ、バリアーがもぅもたん。】
「早くない!?」
【樹がほとんど吹き飛ばされてしもうとるからのぅ。】

緑が足りないということか。
時間がない!
自分で強行突破しても良いけど……。

「カロンちゃん、何か攻撃してもらって良い?」
【……別に構わんが。】

渋々といった感じで、カロンはハルマサの体から魔力を吸い上げ、攻撃を放つ。

【響け「空鈴」。】

バキャァアアアアアアアアン!

空気が割れるような音が響き、不可視の衝撃がガレオスキングに叩きつけられる。砂が止んだ。

―――――――――――シャギャアアアアアアアアア!
「耳が―――ッ!」

ハルマサは一瞬で鼓膜を破壊され、さらに魔力がレドゾーンに突入したので意識が飛びそうになった。

【どうかしたのか? 相手はひるんでおるぞ?】
「あ、うん。ありがとう。アーアーアー……よっし、治った! ハルマサ、行ッきま――――す!」

ハルマサの鼓膜は瞬時に治り、ハルマサは走り出す。
ズズズ、と骨に土を纏わせて、作り出すのは長大な剣。
斬艦剣とでも呼ばれそうな巨大な剣を、「剛力」で身体強化したハルマサは振り上げる。

全力を開放し、「突撃」を行うハルマサ。
背から魔力を噴出して、姿勢の制御は「身体制御」で。

数々のスキルに、元々ふざけた数値だったステータスがインフレを起こし、ハルマサの敏捷は「剛力」によって半分になっているのに100万を、筋力に至っては400万を超える。

シュォオ! と剣先が空気との摩擦で燃え上がり、巨大な剣は振るわれた。

「一・刀・両・断ッ!」

ズバァ! と一刀両断は出来なかったが、ガレオスキングの黒い鱗をやすやすと砕き、ハルマサの即席斬艦剣はガレオスの体を叩き割る。

ズゥウウウウウウン!

巨体は地響きを立てて倒れ、ハルマサは骨に付いた岩を落としつつクルリと回って着地する。

「カロンちゃんが居る僕は……無敵ッ!」
【ううむ……複雑じゃ。】

カロンちゃんの反応がちょっと不思議だ。
あ、そういえばこの緑の膜の中だったら「セレーンの骨」を握って居ても痛くないね!

【我の領域は聖なる物とは真逆じゃからの。】

だ、そうで。
命吸い取ったりするもんね。

≪レベルアップしたよお兄さん! 他にも色々上がってる! おめでとう!≫

そうこうしていると、ひまわりの声が響く。
あまりに適当な説明に、脱力してしまうハルマサだった。

ちなみにカロンちゃんはすぐに帰りました。




そして、やっぱり食事タイム。カニと一緒にガレオスキングを食べる。
カニ達はハルマサがこのモンスターを倒すと同時に死体へとむしゃぶりついていた。
ちゃっかりしてるね!

それにしても、他の甲殻種を全然見ない。
一体何処にいるのか。
それとも、もう全部倒されてしまったのか?

ハルマサがそう考えながらガレオスキングの肉を食べていると、突然子ガニたちが騒ぎ出した。

「ギィイイイ!」
「ギィイイイイ!」

ブクブクと泡を吹きつつ、その場に蹲る。

(なに!? 何か悪いものでも食べた!?)

焦るハルマサだが、そうではなかった。大量の力ある肉を摂取した甲殻種は、急激に体を成長させるのだ。

ボトリ、とプラチナザザミの鋏が落ちる。と思えばそれは甲殻、外側だけだ。
さらに体中の甲殻が内側からせり上がる新たな甲殻によって割れて、剥がれ落ちる。
プラチナギザミも同様だ。
ミシリ、と体も一回り、いや二回りは大きくなる。
内側から出てきた甲殻は一層白く輝き、神々しさすら出てきている。

初めての脱皮?じゃないかな。
とりあえず宿が小さくなったので新しいのを……あれ?潜っちゃった。

二匹のカニは地面へと潜り、あちこち動いているようだ。
ハルマサは地面に「耳」をつけて聞いていた。

どこか遠くに行ってしまったら見失ってしまう。
それを危惧したハルマサだったが、直ぐに子ガニたちは出てきた。
背中には、二匹とも同じ形の新しい宿が付いている。
大きな竜の頭だ。見たことない形だが、この階層に居るのだろうか。

≪対象の情報を取得したよ!
【鎧竜の頭殻】:グラビモスの頭の骨格。非常に堅く、加工は難しい。≫

へえぇ……。
鎧竜の骨格って丸々頭の形になってるけど、あの竜は体の外側に骨格を持っている竜だったの?
初めて知ったよ。
まだ体の方が小さいからなんか可愛い。

あ、残りのガレ王の肉食べよ。
うまうま。
カニたちは自分の落とした甲殻を食べていた。リサイクル?

そうやって食事をしていると、遠くから、大勢の足音が聞こえる。
羽ばたく音も同時に聞こえてきた。

「……君も来ちゃったか。」

ハルマサは遠くの空を眺めて言う。
押し寄せてくる魔物の中には、金色の火竜の姿も混じっていた。
悲しくなるけど、倒そうか、と思うハルマサである。

だがその前に、ハルマサと子ガニたちに、地中から危機が迫っていた。

「―――――ッ!」

ハルマサの立っている地面が急激に盛り上がり、大きな口がごばぁと開く。

「ギィ!」
「ギィイ!」

慌てるカニたちも一緒に打ち上げられており、ハルマサが行動を迷っているうちに大きな口はそのまま閉じられる。
プラチナザザミがギリギリで水を噴射して逃れ、ハルマサとプラチナギザミが飲み込まれた。




<つづく>

ポケモントレーナーのスキル昇華が射程圏内に入ってきたー!
それと何時も速攻で倒しているからスキルの上昇値が小さくなっちゃうぜ。
レベル15でこれだとなぁ……。


レベル: 14 → 15     ……Lvup Bonus:40960
満腹度: 101171 → 149717
耐久力: 131778 → 180324
持久力: 99795 → 148341
魔力 : 137697 → 219000
筋力 : 173918 → 290397  ……☆871191
敏捷 : 163578 → 234495  ……☆703484
器用さ: 184286 → 283232
精神力: 74600 → 160911

経験値: 132378 → 214298  ……残り:113380
金貨 : 366 → 379



剛力術Lv13 : 43391 → 69683
身体制御Lv13: 43780 → 69934
両手剣術Lv12: 7433 → 30820  ……Level up!
戦術思考Lv13: 34490 → 57741  ……Level up!
PトレーナーLv15: 145605 → 158593
突撃術Lv13 : 35774 → 58371  ……Level up!
魔力圧縮Lv13: 40888 → 63029
概念食いLv13: 32203 → 53492  ……Level up!
回避眼Lv13 : 27730 → 47806  ……Level up!
魔力放出Lv14: 71841 → 90043  ……Level up!
聞き耳Lv13 : 24980 → 42528  ……Level up!
解体術Lv12 : 21330 → 38339
心眼Lv12  : 21569 → 36439
風操作Lv13 : 27883 → 42706  ……Level up!
棒術Lv12  : 23307 → 37849
観察眼Lv13 : 36309 → 49975  ……Level up!
空間把握Lv13: 61458 → 74893  ……Level up!
空中着地Lv13: 39821 → 50893  ……Level up!
神降ろしLv12: 6740 → 28840  ……Level up!






[19470] 92
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/18 16:50

<92>


口の中に入ってしまったが、食道に突入してやる理由はない!
伸びろ如意棒ッ!とばかりに聖者の骨を伸ばし、つっかえ棒にしてハルマサは蠢く口腔内で頑張っていた。
ハルマサが「伸びろ伸びろ」と呟き続けているお陰で、骨が舌と上の口腔を強烈に押さえており、舌が蠢くことも出来なさそうだ。
あ、舌を貫いた。痛そうだなァ。すげえ揺れてる。でももっと伸びろー!
そんなハルマサに、プラチナギザミがすがり付いている。

「ギュィイイイ!」
「とは言えどうしようかな。」
「ギィ! ギィイイ!」
「動けないって言うか?」
「ギィイイイイイイイイイイイイイイイ!」
「うん。ちょっと静かにしようね。」

ハルマサは強烈に抱きしめられていたが、ギザミを支えてやることは出来ない。
先ほどそうしようとした時、キ―――ン、と手が弾かれたのだ。
ビックリ箱が出てきて『プレイヤーからプラチナ種へと干渉することは出来マセン! 出来るのは、プラチナ種の進む道を切り開いてやることのみデス!』と言われてから、ハルマサの取れる行動は極端に制限された。
宿は作って上げられたのに。不思議だ。

口腔内は凄い勢いで上下左右に揺られていたが、魔力で支えてやることも出来ない。
何とかしてこのガレオスキングの口を開けても、放り投げるわけにも行かない。引っ張り出すことも出来ない。

(つまり、口をあけて、ギザミが出て行くまで保持しないといけないんだね。)

口の上や舌を貫くという案もあるが、外から見た時の分厚さ覚えているハルマサは、簡単に抜けられるとも思わない。それよりは歯の付近に言って上下に開かせるほうが早そうだった。

まぁ、やってみようか、とハルマサは手から魔力を出す。
何時までもこのままだと、手が聖なる骨で焼け爛れてしまいそうだ。
さらに外のザザミも心配だ。

「魔力圧縮・武器作成――槍8本!」

キキキキキキキキ!
魔力が硬質な音をたて、硬質化し、槍となる。
レベルアップで回復した魔力で作り出した槍を、一本掴んで、粘膜で濡れる口腔内に振り下ろす。

ブスリ。
口の中は思った通りそれほど堅くなく、簡単に刺す事が出来た。

――――――――ォオオオオオオオ!

大きな喉のその奥から響いてくる声。
口を開けば逃げられると分かっているのか口は開かなかった。残念。

とは言え、それは狙いの一つだ。
ハルマサは突き刺した槍を掴んで体を引っ張る。
このギザミがすがり付いている状況は動きにくいが、このまま外に出れば、干渉せずに連れ出せる。

ハルマサはザクザクと新しい槍を刺し、ドンドン体を引っ張る。
骨は最後に伸びまくれと呟いて、置いて行く事にした。
舌が動くのは厄介なので、ずっと縫い付けておいて欲しい。

いっそ砂でも出してくれれば、材料が出来て良いのにな。
口の中で出すんだからそんなに勢い出せないだろうし。
まぁ現状でも問題ない。

「さぁ、ドンドン行くよッ!」

ハルマサはもう一本槍を突き刺し、体を引き上げた。






【第二層 火山中層】




先ほどまで、溶岩の中から連続で火の光線やら溶岩の塊やらを飛ばしてくる3体の魔物に梃子摺っていたエコーズとマリオネだったが、急に魔物の意識がこちらから逸れたことを感じた。

「チャンスだと、そうワタシは思う。」
「つっても相手は溶岩の中だぜ? 潜るのか?」
「……出てきた。」
「なにぃ!?」

何故か魔物は絶対的な優位性を自ら投げ捨てた。
燃え立つ溶岩を身に纏っている魚のような魔物は地面を溶かしつつ岩の上へと歩み出てくる。

「マジか……。ありえんだろ。」
「もう一人のプレイヤーの仕業と、ワタシは思う。」
「……ああ、佐藤何とかか! ありえるな!」

喋るエコーズとマリオネに向かって、邪魔だという風に溶岩の塊を吐きつけて、魔物はノシノシと歩いてくる。
二人のことは完全にアウトオブガンチューのようで、そのまま3匹とも通り過ぎていきそうだ。

「ほっといて行かね?」
「後ろから撃たれるのは非常に怖いと、ワタシは思う。」
「……そうだな。」

エコーズは、バシ、と拳で手のひらを打つ。

「ちゃちゃっとやりますか!」
「君を信頼して全てを任せたいと、ワタシは思う。」
「てめぇがサボりたいだけだろうがぁ!」

と言いつつエコーズはきっちり一人で意識もそぞろな魔物を相手取り、倒すのだった。



「汗をかき過ぎだと、ワタシは言いたい。」
「ああ、んだな。でも水切れちまったしな……。」

エコーズが黒尽くめの少女を見ると、マリオネは白い頬をほんのり染めつつ、身を引く。

「……この少女をいやらしい眼で見るべきではないと、ワタシは思う。」
「ば、見てねぇよ! 水分けてくんねかなぁって思ってだなぁ!」
「そういうことは早く言って欲しいと、ワタシは思った。」
「過去形!?」

マリオネは懐の袋から水筒を出し、エコーズへと渡してきた。

「……あげる。」
「いいのか? 全部飲んじまうぞ?」
「この少女は汗をかく事がないと、ワタシは思う。」
「……サンキュ。」

こうして中層は攻略し終わった。
二人はこれから、この火山の頂点に挑む。
……だがその前に食事にするようだ。






【第二層 樹海中央部】

「「剛力」・「突き」ッ!」

バキィ、と4本目の巨大な牙を叩き折り、ハルマサは行く手を広げる。
ガレオスキングの頭の動きが急に収まり、動きやすくなったので堂々と特技で牙を攻撃しているのだ。
そして、十分に隙間は開いた。

(よっし! エンジン点火ぁ――――――――!)

ハルマサは足の裏から魔力を噴出し、へばり付いているプラチナギザミごと、ガレオスキングの唇(?)を突破して、スポーンと空中へと躍り出る。
そしてガレオスキングの姿を見て、途中で動かなくなった理由を知った。

「セレーンの大腿骨」が頭を上下に貫いており、ガレオスキングは倒れ付してビクビクしていたのだ。
脳みその良いところでも刺激したのだろう。眼から血を出して瀕死の体であった。
間抜けな倒し方だなァとハルマサは思い、そして現状に眼を向ける。

(あ、着地どうしよう。)

プラチナギザミを上手く庇える自信がない。
そう思っていると、プラチナギザミはハルマサに絡めていた鎌を解き、離れていった。
え、危ない、と思っていると、宿にしている鎧竜の骨格、その口の部分からブシューと水を噴出して、ゆっくりと落下していく。

そういえばザザミも水を吹いて脱出したし出来てもおかしくはないか、と思いつつ、その光景の可笑しさにハルマサは笑ってしまったのだった。

ガレオスの口の中にいた時間は2分ほどだろうか。
まだ、モンスターは近づいてきていない。
プラチナザザミは少し離れた場所に居たが、プラチナギザミが着地すると急いで近づいて行き、ガキーンと体当たりをする。
それを受けてギザミもガツンガツンと鎌で甲殻を叩いていた。
親愛の情だろうか。
よく分からないけど過激だなぁとハルマサは思った。


ガレオスキングに刺さった骨を抜いて収納し、両手を合わせる。

「いただきま」
「ギィ!」
「ギュイィイイ!」
「……そんな急がなくてもなくならないよ?」

いや、消えるかもしれないけど。

ハルマサとカニは取り合うように巨大なガレオスキングをむさぼり、カニはさらに脱皮した。
「プラチナ種」から「光り輝くプラチナ種」へジョブチェンジしたんじゃないかというくらい、光り輝いている。


二匹の強さは「観察眼」で見るとこんな感じ。

【プラチナザザミ】:非常に非力な存在。しかしその体には、大きな可能性を秘める。
耐久力:10230 持久力:550 魔力:2826500 筋力:500 敏捷:4500 器用さ:10060 精神力:443200


そしてハルマサも概念を得ることが出来た。

「砂弾く魚鱗」という概念である。

意識すれば鱗が出て、砂に強くなるらしい。
こいつの前に出て欲しかったな、とハルマサは思った。

≪あ、そうだ、お兄さん! さっきスキルが昇華したよ! 「ポケモントレーナー」が「ポケモンテイスター」になりました! おめでとう!≫


「は? テイスター?」

スキルはこんなのだった。


■「ポケモンテイスター」
 「ポケモントレーナー」の上位スキル。モンスターボールに捕獲したモンスターを服従させることに加えて、モンスターを舐めることにより好感度を測る事が出来る。好感度が高いほど、服従させやすくなる。[(スキルレベル)×(対象の好感度)-10]以下のレベルのモンスターを服従させることが出来る。上位スキルに「ポケモンイーター」が存在する。

ちなみに好感度は最低1で、最高2らしい。
今のハルマサなら最高でレベル20のモンスターを服従させられる。

でも舐めるのキモイと言うか。それよりも、

「上位スキルやばくない!?」

食べるのかよ! とハルマサは叫んでいた。




そして彼らに、モンスターの大軍勢が押し寄せる。



<つづく>




満腹度: 149717 → 151293
耐久力: 180324 → 181900
持久力: 148341 → 149917
魔力 : 219000 → 264749
筋力 : 290397 → 306024  ……☆918072
敏捷 : 234495 → 236071  ……☆708212
器用さ: 283232 → 309527
精神力: 138811 → 144299


○スキル
魔力圧縮Lv14: 63029 → 89346  ……Level up!
土操作Lv13 : 26639 → 52934  ……Level up!
概念食いLv13: 53492 → 73229
魔力放出Lv14: 90043 → 109475
PテイスターLv15: 158593 → 172301  ……New! level up!
拳闘術Lv13 : 36201 → 44081  ……Level up!
剛力術Lv13 : 69683 → 77430
戦術思考Lv13:  57741 → 63229
空間把握Lv13:  74893 → 78340


○取得概念
砂弾く魚鱗


■「ポケモンテイスター」
 「ポケモントレーナー」の上位スキル。モンスターボールに捕獲したモンスターを服従させることに加えて、モンスターを舐めることにより好感度を測る事が出来る。好感度が高いほど、服従させやすくなる。[(スキルレベル)×(対象の好感度)-10]以下のレベルのモンスターを服従させることが出来る。上位スキルに「ポケモンイーター」が存在する。

◇「砂弾く魚鱗」
 地属性の攻撃に対する耐性を持つ鱗を皮膚に顕現出来る。鱗の特性として顕現中は火属性・雷属性への耐性が25%低下する。


<あとがき>

中々遅れを巻き返せないぜ―――――!(話のストックが溜まらない!)
今日の話はぐでんぐでん。そろそろハルマサ殺そうか。汚物は消毒だ―――!

昨日は書くの忘れていたような気がしたんで今日言います。
話の投稿の仕方、読みにくいと言う意見があったので戻しました!
見やすかったという意見もあったのですが、見辛いという方を優先させていただきます。修正もしやすいですし。
すいませんヒデさん。Limoneさん。


明日も更新!

あ、誤字やっぱりたくさんありますよね。雪林檎さんにはぜひお願いしたい。
返せるものもないのですが。


>満腹度人外化の伏線だったのか、おいそれしやした
見逸れるほどではないかと。ぶっちゃけ後付(ry

>ゾンビ化して嫌われる理由が臭いなら臭い消せるからどうとでもなるんじゃ
自分が好きな臭いは消せないという罠

>かつて病気とか末期とか色々言われた人
あの人は伝説ですからねぇ……
完結って言うけど、このダンジョン10階層あるんだよ!? 7階あたりで神様登場させてぶっ殺すしかねぇな!

>風操作で芳香抑えればクエスト楽勝な気が。
そう思って作中に言い訳用意したぜ!今回分に書いたかはわからんけど。

>予想通りポケモントレーナーのスキルが上がってる。でもモンスターボールはないw
お話的にもモンスターボールほしいっすね! そのうち出ますよ多分。

>これはフルフルの霜降りをむさぼり喰うフラグ!!
正直忘れてた。袋の中で腐ってるんじゃ。ああ、それだと喜んで食べそうだ!

>陸奥圓明流とか勝ちゲーktkr
大好きです。特に門。

>陸奥圓明流キターー!
あの主人公は最後どうなるのか・・・
そういえば一度ハスタァが修羅の門のネタを口走っています。気づきました?

>手足が欠損してもニュキニョキ生えて来る様になる特性が憑くのか。
化け物過ぎるけど多分そのうちゲットしちゃいそうなんだぜ。

>概念食いあるんだから金貨食わせてみようぜ
お金大事に! でも腹が減ったら食うかも。

>概念食いあるんだからセレーンの骨食わせてみようぜ
武器なくなっちゃうよ!

>不死人から元に戻る方法あるんですよね?
割と簡単に戻りますよ。

>概念食いあるんだからプラチナ食わせようぜ!
どんな心境で!?

>まとめるの見やすくてよかったんだけど、分割することにしたんですか?
しました。申し訳ないです。

>更新楽しみにしています。
ありがとうございます! 明日も投稿するんでぜひ読んでやってください。たぶん今日よりは面白いはず。面白いといいな。

>ギザミのうざさをちょっと許せた気がする。
個人的にはG級の亜種がやばいですね。攻撃パターン見に軽い気持ちで行ったらメッタメタにされました。

>プラチナを食えば、強さが5倍になるから、クエストが終われば食べるんだろうな。
食べないよ! なんで食べさせようとするんだよ! しまいにゃほんとに食わせますよ。

>各種属性耐性や属性操作も食えないだろうか
食えますよ。人外一直線!

>不死属性が強化されるとヘルシング卿みたいになるんでしょうか?
吸血鬼とか食ってたらなるかもです。
あとプラチナは食わな(ry

>他のプレイヤーが出てきたのでパーティ組んでくれないかな~と期待。
なんかほかのプレイヤーを書くだけで満足して絡ませるのが億劫になりそうな予感が!

>ゾンビ化と普通の切り替えが出来たら最高ですね
ですね! だが、そんなハルマサ君は嫌いだぜ!調子に乗りそうだし。

>今のハルマサ君なら、ワールドイーターも目指せそうで困ります。
確かに! ……あるッ!





[19470] 93・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:03


<93>


子ガニたちの芳香は大陸中からモンスターを引き寄せる。
それは傍目にはありえない、普段は敵対する魔物たちをも、同じ行動をとらせた。
モンスターたちはゆっくりとその包囲網を狭めてくるのだった。

「……多くない?」

ハルマサは、軍勢を見てそう思った。
まず集まって来たのモンスターを羅列してみよう。

①沼地からやってくるモンスターたち。
イーオスいっぱい
ドスイーオス3匹
ランゴスタたくさん
クイーンランゴスタ5匹
ゲリョス1匹
紫ゲリョス3匹
大雷光虫が鬱陶しいくらい

②大陸南東部から来る人たち
ポポがいっぱい
アプケロスがいっぱい
イャンガルルガが10匹以上
ナルガクルガが2匹
緑ババコンガが1匹

③大陸北部から
ガブラスが空を埋め尽くすくらい
バサルモスが10匹以上
黒いグラビモスが1匹
ラージャンが1匹

④大陸中央部(湖)から
緑ガノトトス2匹

⑤大陸南西部(森丘)から
ブルファンゴがいっぱい
蒼色のリオレウス2匹
銀色のリオレウス1匹
桜色のリオレイア1匹
金色のリオレイア2匹


……………。

「アホか――――――――ッ!」

ハルマサは叫んだ。力の限り叫んだ。

「ア・ホ・かぁああああああああああああああああああああ!」

常識的に考えて多すぎるよ!
百匹楽に越えてるし!

「ちきしょう、こうなったら近づいてきたやつからぶっ飛ばしてくれるわぁあああああああああああ!」

とりあえず近づいてきた緑(翠)色のガノトトスを骨でぶっ飛ばしながら、ハルマサは咆えた。



ガノトトス亜種は湖に居たため、距離的に一番近かった。
だから一番最初に近づいてきてハルマサに速攻で倒されたのだが、その時ハルマサの前にビックリ箱が出現した。
箱から飛び出した玩具はカクカクと口を動かす。

『「うお・カニ合戦」終了デス! 参加したプレイヤーの皆さん、お疲れ様でシタ! 栄えある一位はこの方! プレイヤーNo.54:佐藤・ハルマサ デス! 記録は15匹デス! おめでとうございマス!』

ヴォルガノスは誰かが倒してくれたらしい。

「おー! やったッ!」

これでアイテムゲットかァ……と思うハルマサだったが、彼は今までの神が用意した品々を思い浮かべる。

(ママチャリとかあったからなぁ……)

いま一つ期待できないハルマサを前に玩具は言った。

『討伐数一位のプレイヤーには、報酬としてアイテムが授与されマス! どうぞ!』

ドロン、とハルマサの目の前に宝箱が出現する。小さな宝箱だった。
パカッと間髪なく開いた宝箱の中に入っていたのは……

「腕輪?」

光沢のある濃灰色の腕輪だった。装飾はない。

≪対象の情報が送られてきたよ!
【メビウスリンケージ】:時空を捻じ曲げ、使用者の体感時間を加速させる腕輪。着用者は素早さが増加し、聖属性に耐性が付く。罠のダメージを下げる。≫

「おお! なんか普通に凄い!」

どうせ「アイロンZ」とかが出てくるに決まっていると思っていたハルマサはテンションが上がる。

『おおっとぉ! この階層でそのレベルの装備が出るとは珍シイ! レアアイテムGETおめでとうございマス! それでは引き続きダンジョンをお楽しみ下サイ!』

ビックリ箱ハルマサのテンションを煽ってから消えていく。

少しハルマサの腕には大きい腕輪だったが、右手の二の腕まで通した時にキュッと縮んでハルマサの腕にピッタリと嵌った。
試しに「剛力術」を発動してみたが体にあわせて広がるようだ。
そういえば右手の人差し指の指輪も、剣を握る時に邪魔になった覚えがない。
そういうものなんだ、と納得するハルマサだった。

腕輪の効果は一発で感じ取れた。
聖属性である「セレーンの大腿骨」を持っている右手から痛みがなくなったのだ。
常にじくじくとハルマサを苛んでいた痛みがなくなり、ハルマサはテンションがさらに上がる。
さらに、≪装備品の効果で、敏捷が50%増加したよ!≫と聞かされてテンションは留まるところを知らなかった。50%て。
もう、何でもぶっ飛ばしてやるよ!と聖者の骨を振り回すハルマサ。

最初の獲物は……火竜だった。ハルマサが散々鱗を毟った金火竜も居る。
ちょっとハルマサはテンションが下がった。

「忘れてた……こうなったら、倒させてもらうよ。いや待てよ……?」

最初から、襲われれば倒すと決めていた火竜である。
だが、ハルマサは何故金火竜を倒すことに抵抗があるかを忘れていた。

「そうか………「甘い息」ッ!」

ぼぉおおおおおおおお! とハルマサの口からピンク色の気体があふれ出す。
ハルマサは風を操作し、火竜の軍団に浴びせかける。
これが上手く行けば……。

「ギャォオオオオオオオオオオオオス」×3
「グルゥ~ン。」×3

「甘い息」の効果は、子ガニたちの芳香の効力を上回ったのか、リオレウスには憤怒を、リオレイアには魅了の効果を与えていた。

(そう、倒せないなら操るのだよ明智君ッ!)

「ギャォアアアアアアアア!」
「グルォアアアアアア!」

空中では、ハルマサに攻撃しようとしたオス火竜をメス火竜が襲い、3対3の空中戦が始まっている。

(よし、これで他の奴の対処を………もう全部「甘い息」で……いやダメだ! 相手がオスばっかりだったら、プラチナ甲殻種に危険が行っちゃう! やっぱり各個撃破だ!)

例えば、遠距離攻撃タイプを怒らせれば、ハルマサの行動は極端に制限されてしまう。
今遠くから火の玉なんかが飛んでこないのは、ここに美味しそうなカニたちが居るからである。

ある程度の自由を確保するため、ハルマサは大群を正面から受け止めることにした。
でもちょっと援護が欲しかったので。

「リオレウスには退場してもらうッ!」

彼らにはなんのわだかまりも無いしね。

「ふっとべッ!」

空中に魔力噴射で急行したハルマサは、雄火竜たちを骨で殴り飛ばす。
筋力と敏捷にインフレが起こっているハルマサの一撃は、とても速く、重たい。
振るわれた骨は鱗を粉砕し、雄火竜たちは一溜まりも無く飛んで行く。

一応方向は森丘のほうにしといたけど、死んでしまったらゴメン、と思いつつ、ハルマサは擦り寄ってくる金火竜たちをあやしつつ、金火竜にまたがる。
ポケモンスキルが上昇したお陰か、少しくらいなら意志が疎通できるようになっていて、とても楽だ。

チラリと見ると、子ガニたちはガノトトスの死体に夢中のようだ。

(好都合! 次は……)

「空間把握」の範囲に入ってきている者は居ない。
「聞き耳」で探ると東からナルガクルガが凄い速度で接近し、空中を黒いイャンクックみたいなモンスター、イャンガルルガが飛んできている。

さらに北からは、大量のガブラス(黒い蛇に羽付けたぜ!みたいな小型のモンスター。別名蛇竜)とバサルモスが飛んで来ている。
それ以外はまだ遠い。

ならば最初は……!

「ガルァアアアアアアアアアア!」

ガチガチと牙をかみ鳴らし、木々を縫って向かってくるナルガクルガへと、ハルマサは金火竜の背から飛び降りる。

魔力噴射ではなく空を蹴り、空気を裂いて向かい、一撃!
「突撃術」の発動した棒の振りおろしはナルガクルガの頭を砕き、大地に深い傷を刻む。
ハルマサは、「身体制御」の衝撃吸収で反動を殺すと、直ぐ後ろを走っているナルガクルガに、横薙ぎの一撃を振るう。

基本、こちらが攻撃するまで、ハルマサの存在は無視されるので、避けられることも無く、回転半径内の樹をへし折りつつ攻撃はヒット。
ナルガクルガの牙と首を正面から叩き折った。

≪魔物を倒したことにより、経験値を取得! レベルが上がったよ!≫

そしてレベルが上がってハルマサは半端ねぇステータスとなった。


「さぁ新しいご飯だよ!」
「ギィ!」
「ギュオオオオオオオン!」

迅竜の死体を持っていったらカニたちは凄い喜びようだった。新しい鳴き方も出た。
まぁ美味しいから分かるけどね!
その場で食べてしまいたかったけど、僕が食べてたら食べていないほうは時間切れで消滅しちゃうから、ここに持ってきました。
お腹減ったけど、ゆっくり食べている暇は無いんだね。
急いで食べて次の迎撃に向かわなきゃ。


南側からはドコーンドコーンと爆発する音が聞こえる。
火竜たちに沼地や森丘勢への迎撃に出てもらったのだ。

紫ゲリョスが少し危ないと思うけど、先制で火の玉を当てられる状況だから恐らく大丈夫。
でもやばそうだったら助けに行こう。

僕は……まずイャンガルルガを倒さなきゃね。



<つづく>


ハルマサ君は強くなりすぎてるから最初は消化試合です。


レベル: 15 → 16   ……Lvup Bonus:81920
満腹度: 151293 → 234459
耐久力: 181900 → 264865
持久力: 149917 → 232882
魔力 : 264749 → 348028
筋力 : 306024 → 393644  ……☆1180932
敏捷 : 236071 → 321876  ……☆965628  ……★1448442(腕輪の効果)
器用さ: 309527 → 395161
精神力: 144299 → 227380

経験値: 214298 → 337178  残り:318182


○スキル(変動の多い順)
PテイスターLv15: 172301 → 199345
概念食いLv14: 73229 → 93881  ……Level up!
空間把握Lv14: 78340 → 84983  ……Level up!
棒術Lv13  : 37849 → 43077  ……Level up!
的中術Lv12 : 30721 → 33877
聞き耳Lv13 : 42528 → 45380
鷹の目Lv12 : 27909 → 30096
身体制御Lv13: 69934 → 72034
空中着地Lv13: 50893 → 52901
突撃術Lv13 : 58371 → 60034
風操作Lv13 : 42706 → 44320
魔力放出Lv14: 109475 → 110834
戦術思考Lv13: 63229 → 64390








[19470] 94・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:03


<94>


空を飛ぶ、イャンガルルガの大編隊。
黒く堅い甲殻と長いたてがみをもつ姿から「黒狼鳥」の異名を持つモンスターである。

ずる賢く、素早く、堅い。
レベル13相当で敏捷も10万のモンスターだったが、現在、空中を縦横無尽に飛び回る一人の人間に翻弄されて、次々と撃墜されていた。
もちろんハルマサである。

「魔法放出」のスキルレベルが14にもなっているハルマサは、空中戦でもかなり早い。
有り余る魔力をふんだんに放射し、時にはイャンガルルガを蹴り、聖者の骨で、「暴力反対」とはかけ離れたことを行っていた。

「空中戦……楽しいッ!」

そうだ! この勝負はほぼ勝てるだろうし、技の実験に付き合ってもらおう!
まずは……

骨を圧縮した魔力で包み込んで……

「炎のアチャ―――――ッ!」

ハルマサは炎のアチャーではなくて炎の剣と言おうとしたのだが、手が激しく火傷してそれ所ではなかった。

「あっつい! あっつい!」

慌てて炎を「操作」して、近づいていたイャンガルルガへの牽制にする。

そういえばこの体は炎にメチャクチャ弱かったんだ。
器用さ高くなって「炎弾」が完璧に操作できてたから忘れてたよ。
もう良いや! サクッと倒すぜ―――!

サクッと倒しました。



「さぁ、ご飯ですよー!」
「ギュィイイイイン!」
「ギュオオオオオオン!」

いっぱい持ってきたからカニたちの喜び方が凄いね!
さあ僕もいただきます!
ムシャームシャー!
子ガニたちも美味しそうに食べておるのぅ。
その子ガニたちは脱皮を繰り返して、今や成体のダイミョウザザミと同じくらいだ。
これでまだ成体じゃないの?

食事は終わり、ハルマサは迎撃を再開する。
一応、火竜たちに甘い息を再度吸ってもらってと。

次は……バサルモス! あとおまけでガブラス!




バサルモスは、岩に擬態してハンターを奇襲するモンスターである。岩に擬態できるくらいだから、その外殻は岩のように、いや岩よりも堅く、並みの武器ではダメージが通らない。

「通らない時は貫通属性ッ!」

とりゃーと突き出した如意骨は激しく伸びつつ、特技「突き」を発動。
バサルモスを貫通し、その後ろのバサルモスも貫通し、その後ろに居たガブラスをパーンと弾けさせた。
そんな感じでバサルモスを次々に落とし、残りはガブラスのみとなり、ハルマサは適当に骨を振り回し始める。

ハルマサはまさしく調子に乗っていた。
遠距離攻撃なんかないと思い込み、空をウロチョロやっていた。

だが、そんなことはない。
確かに子ガニたちの芳香は強烈で、モンスターを惑わせる。
しかし精神力が高ければ、跳ね除けることも可能なのだ。
例えば、それはレベル16相当の金獅子、ラージャンであり。

「な、回避眼が作動して!? 一体…ギャバババババババ!」

例えば、同じくレベル16相当の鎧竜、グラビモスである。
このモンスターたちは魅了されておらず、美味しそうなえさがあることを知って近づいてきているだけだった。

遠距離から飛来した雷の奔流に痺れているハルマサに、鎧竜は口を開ける。
吐き出されるのは、極太の溶岩ビームだった。

「キュォオオオオオオオオオオオオオ!」
「ちょま……」

ジュッ!

辛うじて、ブレスレットの嵌っている右手を攻撃範囲から出したところで、ゾンビハルマサは一瞬で蒸発した。





【執務室】


「お!? 戻ってきたか! ……何でまた裸なんだ?」
「え? あ……閻魔様……。」

ハルマサが気付くと、閻魔様の執務室であった。
まさかクエストの途中で脱落とは……いや、もしかしたらまだ続行中かもしれない。
それにどちらにしてもあの子ガニたちを見捨てるわけには行かない。

「閻魔様! すぐに送ってください!」
「……もう行くのか? ……最近暇でな。少し話をして行かないか?」
「う……いや、今クエスト中でして! 今度必ず!」
「クエスト? ……気にはなるが相当急いでいるようだな。仕方ない。」

そう言いつつ、閻魔様は指をくるりと回した。
ぽん、とハルマサの前に服が現れる。彼のジャージと下着だった。

「とりあえず、着ろ。」
「あ、はい。」

ハルマサが急いで服を着ると、閻魔様は手を掲げる。

「じゃあ行って来い。」

バビューン。





【ダンジョン入り口】


「………ハッ!」

ハルマサは気が付くと直ぐに動き出す。
何故かこの前倒したはずの密林が復活していたりしたが、それ所ではない。
すぐにキャシーへと指輪を押し付けた。

「さぁキャシー! お願い!」

シュン!
ハルマサの姿は消えた。





【第二層・挑戦4回目】


ハルマサは、落下が始まる前に空を蹴り加速。
さらに魔力を噴射して、樹海へと急行する。
もちろん姿は消している。

(急げ急げ急げ!)

ゾンビ化は解除されている。
喜ばしいのかどうか分からないが、筋力と敏捷の低下がこの場ではキツイ。
さらにデスペナだ。
かなりステータスが減少した。
ラージャンや、グラビモスには敵わないかも知れない。
もう一度ゾンビになれるかどうかも分からないため、死ぬわけにも行かないし。

でも、行かねば。
幸い、それほど時間は経っていないようだ。
ラージャンやグラビモスはまだたどり着いていないし、火竜たちも南から押し寄せるモンスターたちに火の玉をぶつけまくっている。
ランゴスタとかよく燃えてるぜ!
そして「鷹の目」の先、子ガニたちは緑がかった毛並みのババコンガと戦っていた。
ババコンガ亜種らしい。レベルは13相当。
しかし、子ガニたちはしっかりと戦っている。良い勝負になっていた。

もう、あんなレベルの敵と戦えるようになっていたのか……。
ハルマサは少し感慨深く思い、そして唇を噛み締めた。

(今行くよッ!)

ハルマサの足の裏を突き破り、圧縮された魔力が放射される。

シュォオオオオオオオ………オオッ!

「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!」

一筋の流星となり、ハルマサは樹海へと向かう。





【執務室】


「クエストか。気になるな。」
「そうッスね。」

閻魔が呟くと後ろから返事が返ってきた。

「……居たのか?」

閻魔がクルリと振り返ると、黒い大剣を持って立っている2号が居た。
何時もはツンツンにセットしている短髪が、何故か腰くらいまで伸びている。
鬱陶しい髪型だな、と閻魔は思った。

「ハルマサ君の波動を感じて急いで剣持って来たんスけど……もう居ないみたいッスね。」
「急いでいる様子でな。行ってしまったぞ。クエストがどうとか言っていた。」
「……面白そうッスね。」
「……だな。」

閻魔は未だ見ぬダンジョンに思いを馳せ、やがてため息を付いて、書類に判子を押す作業に戻った。




<つづく>

そして、お待ちかねのデスペナだぁ―――――!
今回はガツンと減ったなー。


レベル: 16 → 15   ……Level down Bad Bonus:81920
満腹度: 234599 → 90928
耐久力: 264865 → 113651
持久力: 232882 → 89826
魔力 : 348028 → 150698
筋力 : 393644 → 184281
敏捷 : 321876 → 142054  ……★21万(腕輪で1.5倍)
器用さ: 395161 → 184181
精神力: 227380 → 81184

経験値: 393498 → 163838 残り:163840
金貨 :(収納袋を紛失中)

拳闘術Lv12 : 44081 → 35264  ……Level down!
蹴脚術Lv10 : 11902 → 9521  ……Level down!
両手剣術Lv12: 30820 → 24656
片手剣術Lv9: 3839 → 3071
槌術Lv9  : 3840 → 3072
棒術Lv12  : 43077 → 34461  ……Level down!
鞭術Lv2  : 22 → 17
盾術Lv11  : 18332 → 14665
解体術Lv12 : 38339 → 30671
舞踏術Lv1 : 10 → 8  ……Level down!
身体制御Lv13: 72034 → 57627
暗殺術Lv11 : 21776 → 17420  ……Level down!
消息術Lv10 : 6734 → 5387  ……Level down!
突撃術Lv13 : 60034 → 48027  ……Level down!
撹乱術Lv12 : 38921 → 31136
空中着地Lv13: 52901 → 42320
走破術Lv9  : 3400 → 2720
撤退術Lv12 : 26734 → 21387
金剛術Lv10 : 7831 → 6264
防御術Lv12 : 27801 → 22240
剛力術Lv13 : 77430 → 61944
天罰招来Lv8: 2613 → 2090  ……Level down!
神降ろしLv12: 28840 → 23072
炎操作Lv11 : 20880 → 16704  ……Level down!
水操作Lv11 : 16672 → 13337
雷操作Lv9 : 4079 → 3263
風操作Lv12 : 44320 → 35456  ……Level down!
土操作Lv13 : 52934 → 42347
毒操作Lv4 : 121 → 96
魔力放出Lv14: 110834 → 88667
魔力圧縮Lv13: 89346 → 71476  ……Level down!
戦術思考Lv13: 64390 → 51512
回避眼Lv12 : 47806 → 38244  ……Level down!
観察眼Lv12 : 49975 → 39980  ……Level down!
鷹の目Lv12 : 30096 → 24076  ……Level down!
聞き耳Lv12 : 45380 → 36304  ……Level down!
的中術Lv12 : 33877 → 27101
空間把握Lv13: 84983 → 67986  ……Level down!
心眼Lv12  : 36439 → 29151
洗浄術Lv2 : 16 → 12
折紙術Lv5 : 337 → 269  ……Level down!
描画術Lv5 : 198 → 158
調理術Lv2 : 18 → 14
布加工術Lv5: 290 → 232
水泳術Lv9 : 5668 → 4534  ……Level down!
概念食いLv13: 93881 → 75104  ……Level down!
PテイスターLv14: 199345 → 159476  ……Level down!






[19470] 95
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/19 16:28


<95>


空を飛ぶハルマサの横で、ぽん、とビックリ箱が顔を出す。

『プレイヤーの皆様、お元気でしょうか! クエスト「プラチナ甲殻種の護衛」も残り12時間とあいなりまシタ! 当方、一度プレイヤーNo.54:佐藤・ハルマサの姿を見失いまシタが、定時報告の際に生存を確認! クエストを続行しマス! それでは、ご健闘をお祈りいたしておりマス!』

「ぉおおおおおおりゃああああああああああああ!」

ハルマサは、半分以上を聞き流し、さらに足裏から放出する魔力を強めた。
止め処なく血が魔力と噴出していく。
樹海はもう、眼と鼻の先だ。







【第二層 火山 最上の間】



エコーズとマリオネは長いこと時間をかけてぐねぐねとした通路を登り、時にはシェルターを張って休んだりしながら進んでいた。

「くそぅ、喉渇くな……。」
「君には計画性が欠けていると、ワタシは思う。」
「ああ、確かにそうだよ。オレが熱いからって水を飲み干しちまったんだもんな。これは罰だと思って頑張るぜ。」
「ふぁいと。ゴクゴク。」
「何飲んでんの!? ねぇ美味しそうに何飲んでんの!?」
「……水?」
「聞くなよ! お前さっき俺に渡したので全部じゃないの!?」
「袋の中にいっぱいある。あと一月は余裕でいけると、ワタシは思う。」
「こ、このヤロぉおおおおお!」

エコーズは済ました顔のマリオネを睨みつつ拳を震わせて、そしてガバッと地に頭を着けた。

「僕にお水恵んでくださぁいッ!」
「頼むにしては、頭が高い。そうワタシは思う。」
「今俺土下座しましたよね!?」
「もっとこう、シャチホコ的な誠意が欲しいと、ワタシは思いまして。」
「はーいはいはい分かったよ! これで良いんだろ、シャチホコ土下座ぁ―――――! よろしくお願いしまぁす!」
「……まさか本当にするとは……!」
「てんめェ――――――!」

ギャーギャーと(エコーズが)騒ぎつつ進んでいると、火山にそぐわない大きな両開きの扉に行き当たった。

「……開けるぞ。」
「(コクリ)」

一気に表情を引き締めて二人は扉を押し開ける。

扉を開けると、そこは下から上へと幾筋もの溶岩が遡る不思議な空間だった。
ゴォオオオオオオオオオオ! と溶岩の柱が立っているように見える。
空気が赤く染まるような、とてつもない熱さだ。
遡る溶岩流に囲まれるようにして、扁平で巨大な岩が赤い溶岩の上で浮島のように存在し、その中央に奇怪な生物が鎮座している。

―――――――ギォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!

奇妙に二つ重なったような咆哮を発する魔物は、それもそのはず、頭が二つ付いているのだ。
左に赤い首に右に青い首。
赤い首は悪魔のようなねじくれた角を持ち、青い首は気品溢れるたてがみを持つ。
体長が20メートルを越え、体を包む赤い龍鱗はそれ自体が強大な熱を放っていた。

エコーズは溢れ出る汗を拭いつつ、呟く。

「おいおいおい、キメラかよ。」
「このダンジョンでは初めてと、ワタシは思う。」

最高神の作るダンジョンにはよく登場していた自然界にはあらざる生態。
獣と獣を無理矢理合一させたような外見は賛否が分かれ、しかし最高神はその両方の意見を無視し、好きなようにダンジョンを作ってきたのだ。
だが……

「キメラが出るのはもうちょっと下なんじゃねえのかよ?」
「さっきの獣と言い、このダンジョンは難易度が高過ぎると、ワタシは思う。」
「まぁどっちにしてもやるっきゃねぇんだが、よ!」

エコーズが言葉と共に投げつけた岩塊は、しかし、キメラの体に届く前に赤熱し、ぶつかると同時に脆く砕けた。
キメラはバサリと翼を打ち、翼の間から漏れたキラキラと輝く粉塵が、赤熱した岩に触れてバンと軽く爆発した。

――――――キォオオオオオオオオオオオ!

「半端じゃねぇな……!」
「全力で行くべきと、ワタシは思う。」
「そうだな。……二層はこいつで最後だしな!」

キメラが二つの口から巨大な蛇のような炎を吐き出し、マリオネが歩法で作り出した結界で防ぐ。
その上からエコーズが飛び掛り……2本あるキメラの尻尾に弾き飛ばされる。

死闘が始まった。





【第二層 樹海中央部】

ババコンガはふと何かを感じて空を見上げる。
空に出現した黒の一点は、やがて大きさを増し、人の形を作り、猛烈な勢いで飛来する。

「その手を離せェエエエエエエエエエエッ!」

ギュドオッ!

「突撃術」の赤い光に包まれたハルマサが、参上した勢いのままプラチナザザミを襲うババコンガを殴りつけた。

デスペナがあったとは言え、彼の筋力数値は17万。
突撃術によって50万にまで上昇し、その拳はババコンガを一撃で粉砕する。

(くっさ………!)

一瞬鼻が曲がるような悪臭が辺りを覆い、直ぐに特性「臭気排除」が働いて、ニオイが消える。

「そうだ! ギザミは……平気そうだね……。」

ザザミとギザミはコンビネーションによって、ババコンガと戦っており、戦いが終わると、周りを取り囲んで様子を伺っていた草食モンスターへと襲い掛かっていた。

「ギィイイイイイ!」
「ギュイ!」

捕獲されて食べられるケルビやマンモスのようなモンスター。
ここらには、もうこのカニたちの相手となるようなモンスターは居ないはず。
居るとしたら、北からやってくる金獅子と鎧竜。
南のゲリョスも危ないか。

だが、南には頼りになる火竜がいる。
僕は、北へ。
モンスターを倒す!

それに北には多分死んだ時に落としたであろう「収納袋」と骨もあると思うし。



道具を回収したハルマサが、強敵たちとぶつかったのは砂砂漠のさらに北、岩石砂漠と呼ばれる、岩れきがゴロゴロとして足場の確保が難しいところであった。

足の裏がじくじくと痛み、本気で踏む込む事を躊躇してしまった。本当ならもっと火山側で戦いを始められたのに。

「ォオオオオオオオオオオ!」

ハルマサが骨を振り下ろそうとした時、黄金の毛並みを持つ牙獣、ラージャンが13メートルの体躯を震わせて、咆哮した。
広げればハルマサの身長くらいあるような口から飛び出るのは、震え上がるような低音と、高音の入り混じる特異な声。
相変わらずハルマサの鼓膜は簡単に破けたが、ここで新たな特性を得た。

≪チャラチャンチャンチャンチャラチャーン! 一定期間内に一定回数以上同じ部位を失ったことにより、特性「欠損再生」を取得しました! いつもいつも同じところ直しては失い、直しては失い……いい加減にしなさい! このおバカ! この特性を受け取りなさい!≫

(なんか怒られた――――――! あと今ゾンビじゃないよねッ!)

□「欠損再生」
 体の欠損部位を再生する身体機能。あなたの体はいつでも新品! もう中古とか言わせません! 直す時に持久力と魔力が減るので要チェックやで!

(口調がもうグチャグチャだ!)

最近聞かなかった桃ちゃんボイスだったけど、彼女は迷走しているのかもしれない。
何はともあれ、嬉しい特性である。
ギュン、と鼓膜が再生し音が戻る。桃色寄りではないようだ。
そのハルマサの前で、ラージャンは動いた。

「ゴァアアアアアアアアアア!」
(――――――――疾いッ!)

「回避眼」が出現してから攻撃が到達するまで瞬きほどの暇もない。
ハルマサが初見で攻撃を防御できたのは、ナルガクルガと戦った経験があるからだった。

―――――――ゴッ!

骨を斜めに構え、打ち降ろしの前足を横にずらす。
シュア―――と摩擦熱で骨の表面を火花が走り、足もとの地面が陥没する。
攻撃の衝撃が遅れてやってくる。体内に響く衝撃に、ハルマサの内臓が揺れ、微細な血管が断裂し、口に血の味が登ってくる。

「―――ォアッ!」
「―――――ふっ!」

ハルマサは「回避眼」により、次撃の横薙ぎの爪、さらにその次の雷の放射を察知し、のけぞるように後ろへ倒れこむ。
次の瞬間、ハルマサの前髪が爪に刈り取られ、さらに雷が襲い来る。

――――――バチィ!

雷光がハルマサを弾けさせ、髪が逆立ち、ジャージが一気に溶け落ちる。
しかし雷撃の大半は、骨をアースに地面へと走らせた!

「――――――――――ゴォアッ!」
「――――まだまだッ!」

即死さえ免れ、僅かにでもスキルを発動する余地さえあれば、ハルマサの敏捷は一気に引き上げられる。
ハルマサは後ろに跳ぶことで「撤退術」「撹乱術」を発動する。

ラージャンが敏捷32万を雷光で速度ブーストして96万。
対してハルマサの敏捷14万が、腕輪「メビウスリンゲージ」で約1.5倍され21万。
スキルが発動して約47万まで上昇する。
さらに着地の直後は「空中着地」の前身、「跳躍術」の効果でさらに敏捷が増加し、65万を越える。
そのような数値は知らないハルマサだったが、何となく感じ取ってはいる。

基本性能の差はかなり大きくて危ない場面ばかり。
だが、
「回避眼」「心眼」による未来予知にも似た行動選択。
決して折れない「セレーンの大腿骨」による「防御術」。
「身体制御」による衝撃吸収。
「戦術思考」による戦場の俯瞰。
さらに「魔法放出」で行動速度の上昇。
これらのに加え、防御に徹すればなんとか凌げる。
そうハルマサは感じていた。

しかし雷光を纏ったラージャンの攻撃は、防御の上からでも確実にハルマサにダメージを与える。
受け止めるたびに手は痺れ、膝が軋む。
雷光を「雷操作」で逸らす必要もある。
一時たりとも気が抜けない。

顔をしかめつつ、ハルマサは戦いを続けた。



一撃即殺の状況はスキル熟練度を引き上げる。

それだけでなく、ハルマサは自分の体の使い方を知り始めた。
これまでの経験が、死闘の中で育んだ感覚が、ようやく形になりつつあるのだ。

例えば、足の運び方。

「ゴァアアアアアアアアアア!」
「―――――ッ!」

迫る豪腕を見つつ、ハルマサはぐ、とつま先を踏み込んだ。

つま先がバネで、踵はブレーキ。
体重を乗せない動きなら、つま先で着地し、指先で跳べば良い。
素早い動きに踵はいらない。
それだけで数瞬、動きの初動が速くなる。「空中着地」の敏捷補正を、余すことなく活用できる!

ドォ!と地を蹴り、ギャギャギャ、と今までの数倍の動きでハルマサは動く。
金獅子の横薙ぎの一撃を、同じ方向に跳ぶことで避け、さらに回り込み――――――

「―――――だぁッ!」

初ヒットッ!
腰のひけた「突き」は、ラージャンの体をよろめかす事もない威力ではあったが、ついに隙を見つけ出すことが出来た。

脱力や、重心の移動。
戦闘の中で気付いたことは、ハルマサの血となり肉となり、相手を倒す矛となる。


≪……「突撃術」と「撹乱術」と「撤退術」と「空間着地」と「魔力放出」と「棒術」の熟練度が、あ、「舞踏術」もだ! あっちもこっちも熟練度が上がって上がって…ええ!? もうレベルアップ!? はわわわ! か、「撹乱術」の熟練度ぎゃッ! し、舌かんだよ――ッ!……≫

どうやらスキルもドンドン上がっているらしい。

「―――――ォォオオオオオオオオオオオッ!」
(これからだ……!)

ハルマサは轟音を立てる一撃を避けつつ、緊張で乾いた唇を舐めた。





<つづく>
シャチホコ土下座が分からない人はハマーさんのシャチホコ土下座を誰かにやってもらうと良い。感動するかも。

ステータスとスキルの成長っぷりは次回!








[19470] 96・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:04




<96>



【第二層 火山 最上の間】


キメラは酷く厄介な魔物だった。
近距離は羽根から出てくる引火性の爆発粉塵と、二本の尻尾によって隙が無い。
中・遠距離は、二つの口から交互、または同時に吐き出される炎によって、隙が無い。
というか炎が火炎放射器みたいにずっと吐き出される感じで100メートルほどの帯となり、それが振り回されるので非常にキツイ。
二つの顔が同時にそれをやった時のことは考えたくない。

また、気を抜くと空気にまぎれて忍び寄っていた粉塵が爆発する。
さらには24メートルの巨体のくせに、素早く突進、後退を繰り返す。
おまけに時間が経つほど、周りの熱で疲労する。

「チックショウ! ずるいぞコイツ!」
「今すぐ「歌」を使うべきだと、ワタシは思う。」
「分かったよ! テメェも「踊れ」よ!」
「『断固拒否する』と、この少女は叫びたがっている。叫ばせてあげますか?」
「黙ってやれ! 行くぞ!」

炎を避けつつ、エコーズは喉に魔力を通す。

――――――「「「強化」」」ッ!

三重詠唱による強化の重ねがけをして尚、この「歌」に耐え切れるかは不安が残る。
エコーズは喉を震わせる。

「ォ――――ァ――――■■■■■■――――■■■■■■―――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―ッ!」

―――――――戦場の歌!

それは歌、と言うのはあまりにもメロディーを欠いており、しかし、震えがするほど荘厳だった。
ギュオ、と大地から風が吹き上げるように、エコーズを白い光が包み込む。
マリオネもまた同様に、光を帯びて、戦士としての力を得る。

マリオネは服を破って脱ぎ捨てた。
その下は、薄い胸と痩せた体を覆う、胸当てと腰当だけだ。
針金のように筋肉は細く張り詰め、そして、体中に残るツギハギの縫い跡。

酷く歪で、しかし少女の雰囲気をこれっぽっちも損なわない肉体を、少女は操り、溶岩の上で腕を振る。
そこにはさっきまで持っていた杖は無く、代わりに大きなハンマーがあった。

「早く終わらせたいと、ワタシは思う。」

―――――静かな舞踊(サイレントステップ)

口調だけは変わらないまま、マリオネは駆け出し、いや、踏み出した次の瞬間にはキメラの頭を殴りつけていた。
脚が地面に着いた瞬間、彼女の体は、違う場所にある。
上から横から下から。次々と姿を表しては殴りつける。
特殊な歩方、それは踊りと言うには早すぎて、しかし洗練されていた。

「倒れて欲しいと、ワタシは思う。」

轟音!
怒涛の三連撃+1によって、キメラは牙折れ血を吐いた。
エコーズはそれを眺めたまま何もしていない。

「俺要らなくね?」
「君がサボっていると、この少女はそろそろ限界が来るのではないかと、ワタシは思う。」
「嘘吐け! 余力たっぷりだろうがこらァ―――――!」

エコーズは酷くガサついた声を出しつつも、しっかり攻撃へと加わった。

「音速パ――――ンチ!」

ドゴォ!

思い切り殴り、手に残る熱に顔をしかめる。

「ただのパンチを大声で叫ぶのは聞くに堪えないと、ワタシはおも」
「テンション上がるんだよ!」
「そう。」

別にいいだろうが、と叫ぶエコーズに、マリオネはあっち、と指差した。

「あ?」

そこには、ブルリと体を震わせ、大量の鱗を落とすキメラが居る。
鱗がドガドガと重い音をたてて岩盤に落ちている。
そして赤い鱗を落とし終わったキメラは、青い体になっていた。
左の首だけが赤いままである。
荘厳な雰囲気から、気品溢れる雰囲気へと変わったキメラは咆哮する。

「あれか? 重い鱗を脱いで、速力アップってか?」
「第二形態なんていやらしいと、ワタシは思う。」

――――――――キァアアアアアアアアアアアアアア!

青くなったキメラは、恐ろしい速度で二人へと突っ込んできた。





【第二層 岩石砂漠】



「ォオオオオオオオッ!」

チョロチョロと避け、効きもしない攻撃を繰り返すハルマサに、ついにラージャンは痺れを切らす。
咆哮し、金の体毛を逆立て、体に電流を纏わせた。
咆哮で鼓膜が弾けたハルマサは、直ぐに治ると自分に言い聞かせ、しかし痛みに奥歯を噛む。
金獅子はドゥと高く飛び上がり、体を丸め――――――――

「これは――――マズいッ!」

回転しつつ雷光のようにハルマサへと体当たりをしてきた。
空中からの加速。
明らかに特技に属するものであり、ハルマサの予想を十分以上に上回る威力、速度。
もう手遅れだ。逃げられない。
ハルマサは魔力を開放する。

「ぬぁあああああああああああああああああッ!」

―――――――「圧縮」「圧縮」「圧縮」――「作成」――「剛力」――「防御」ッ!

瞬間、そこに城壁が出現したかのようだった。
何度も圧縮された魔力は、陽光を照り返す鉱石へと変質し、ハルマサの前に聳え立つ。
その裏でハルマサは身を固め、骨を手に――――――

ギギギギャゴッ!

彼の魔力の半分を攫っていった土の壁は、一秒と持たず破壊され、周囲に破片を撒き散らす。
雷光を纏った巨大な回転体が、ハルマサの体に衝突し、ギャリギャリと火花を立てる。

膝が折れ、背中を地面に叩きつけられる。地が割れ、陥没する。

全力を持ってラージャンを支える腕は、肉が切れ、ところどころから血を吹いた。

骨を握る手は一瞬にして肉を抉られ、しかしハルマサは離さない。と言うか離せない。
身を焦がす電流を周囲に散らす余裕もなく、魔力は全て、押し返すことに使う。

(持つか!? あと何秒続く!? くそう、手の感覚が! カロンちゃんを呼ぶか!? ダメだ、植物が無い――――――)

メリメリメリ、と地面に押し込まれる。
周囲の岩れきが回転する金獅子へ当たり一瞬で粉々になる。
ミキサーの中に放り込まれたようだ。

(く、天罰……!)
【うむ! お主には選択権がある! まずはAコース! リーズナブルな攻撃だ! そしてBコース! 威力は高いがうんたらかんたら。】

ハキハキとした声が聞こえ、なにやらべらべらと喋りだした。

(いや、何でもいいから!)
【何!? そういうのは良くない! しっかり考えて決めるべきだ! 人生は、選択の連続なんだぞ!】
(今は何でもいいんだよぉ!)
【仕方ないな。じゃあ……Aコースでいこう! 押し流すのだ、ダイダルウェーブ(小)!】
(こ、これで!)

天から降ってきた水の塊は、回転するラージャンに当たって、その辺りに散らばった。(この間1秒)

【……うむ! 威力不足だったな! また呼んでくれ!】
(呼ぶか――――――――!)

くそう、もう持たない―――――――

その時ハルマサは悪足掻きとして魔法ではなく、膝蹴りを選んだ。

「う、らぁああああああああああッ!」

そしてその体勢での膝蹴りで、多分使うことないだろうなぁ……と2号が仕込んでいた特技が発動した。

ドクン、と心臓が一際激しく鳴動し、血流が加速する。
体の筋肉がさらに膨張し、回転体に押し付けられた膝へと筋肉の震えが収束し、弾けた。

――――――ズドォオ!

特技の補正を受けた膝蹴りの衝撃は、金獅子の剛強な皮膚を震わせ、巨体を吹き飛ばす。

≪新しい特技が出たよ! 「神威(カムイ)」って言う技で、持久力がいっぱい減る上に、膝も壊れちゃうから気をつけて!≫

やはり特技は圧倒的だと、ハルマサはそう思う。
膝は粉砕されてまともに動きそうにないとは言え、あの巨体の攻撃を弾き返すとは。

「ガルォオオオオオオオオオオオ!」

膝を代償に金獅子をおよそ50メートルは吹き飛ばし、ハルマサは陥没した穴から脱出する。
脚が一つあれば、跳躍は容易い。
しかし状況は悪くなっただけであり、膝が壊れてまともに移動できない現状、殺されるのを待つばかり……………ではない!

(脚がダメなら、手があるじゃないッ!)

ハルマサは骨を素早く袋にしまい、身を低くして地面へと両手をつく。

これはいわゆる野獣スタイルッ!

(こうなった僕は誰にも止められないぜぇ―――――――――!)

駆け出そうとしたハルマサは、次の瞬間、北方から飛来した極太溶岩ビームの直撃を受け、2キロくらい吹き飛んで行った。



<つづく>

ちなみにラージャンのステータスはこんな風。

ラージャンLv16(適当)
耐久力:38万
持久力:22万
魔力 :22万
筋力 :85万
敏捷 :32万  ……☆96万(雷での活性化によるブースト)
器用さ:23万
精神力:31万


ハルマサのステ。
満腹度: 90928 → 124534
耐久力: 113651 → 252325
持久力: 89826 → 123432
魔力 : 150698 → 209782
筋力 : 184281 → 291909
敏捷 : 142054 → 284137  ……★42万
器用さ: 184181 → 276410
精神力: 81184 → 109517
経験値: 163838 → 166398  残り:161280



金剛術Lv13 : 6265 → 76640  ……Level up!
棒術Lv13  : 34462 → 80384  ……Level up!
撤退術Lv13 : 21387 → 64382  ……Level up!
心眼Lv13  : 29151 → 70382  ……Level up!
防御術Lv13 : 22241 → 63322  ……Level up!
撹乱術Lv13 : 31137 → 69850  ……Level up!
剛力術Lv14 : 61944 → 97850  ……Level up!
回避眼Lv13 : 38245 → 73845  ……Level up!
魔力放出Lv14: 88667 → 123343
雷操作Lv12 : 3263 → 35280  ……Level up!
土操作Lv13 : 42347 → 73742
空中着地Lv13: 42321 → 73428
観察眼Lv13 : 39980 → 70473  ……Level up!
身体制御Lv14: 57627 → 86445  ……Level up!
戦術思考Lv13: 51512 → 79845
舞踏術Lv12 : 8 → 27483  ……Level up!
魔力圧縮Lv14: 71477 → 95885  ……Level up!
突撃術Lv13 : 48027 → 70392
空間把握Lv14: 67986 → 90075  ……Level up!
PテイスターLv15: 159476 → 178890  ……Level up!
盾術Lv12  : 14666 → 29774  ……Level up!
蹴脚術Lv12 : 9522 → 20483  ……Level up!
鷹の目Lv12 : 24077 → 33382
聞き耳Lv13 : 36304 → 40983  ……Level up!
拳闘術Lv12 : 35265 → 38920


<あとがき>
神威は最強の膝蹴りだぜぇ―――!(不破圓明流的に)

状況を打破する技を、これ以外に思いつかなくて。
それにしても、敏捷の上がり方を見ると、なんてチートな設定とアイテムだろうと思いますね。

2層をさっさと終わらせたいぜ!

明日も更新!



キーボード掃除したら直りました!
かものはしさん、タレさん、ホントありがとうございました。


あと間違い指摘していただいてありがたいです!
dadadaさん、無刃さんありがとう!


>ハルマサが食の虜になってるなぁ。
やっぱりゾンビは常にお腹が減っていないと。

>90でアルビノだったりするのはわざと……?
もともとアルビノ種にしてたんですけどフルフルいるじゃねえかって気づいて変更したときの名残でした。ご指摘ありがとうございます。

>らーらーらー食えるかな、ポケモンを生でー!
で、首をつかまれたピカチューが無邪気に「ピカチュー!」ってないていると。
また懐かしいですねw コロコロコミックのラモスの4コマで読んだ気が。

>これまでこんなに面白くて話の多い小説を見逃していたのか…
話だけは多いけど、更新回数はまだ25回いっていないっていう。
よろしければこれからも読んでやってください。

>ポケモンイーターwww
思った以上に受けてて反応に困るんだぜ。
そんなに食ったりは……するかも知れませんけど。

>そろそろイートマンに進化しそうだね。
イートマンは完全に忘れてたなぁ…
剣とか手から出すのか……かっこいいな。

>プラチナが脱皮したもの食ってもまったくこれっぽっちも強くならん?
彼らは自分の脱皮も食べるんで干渉できないハルマサは指をくわえているだけですね。強くなるかは別にして。

>某忍んでない忍者の漫画に出てきた骨使いの人
誰でしたっけ。思い当たらないです。ヒントヒント!

>概念食いでほかのプレイヤーを喰ったらどうなるんだろうかと
人間に近づくんではないでしょうか。多分。

>「ペロッ・・・・・・この味は好感度2の味だぜ」とかやっちゃう気ですか。
なぜそのことを……!
このネタは却下ですね。

>ハルより金髪で黒ずくめ幼女と行動してる少年?のほうが主人公体質な感じもする
多分背景も相当ごちゃごちゃしていて、それを書くだけで100話くらいかかる立派な主人公ですね。

>hawkさん
よく分かりましたね!いやマジで。あのセリフが好きなんですよ。みんなはそうでもないみたいだけど。
あと擬人化は……しない!(今は)

>亜人とかが出て来て欲しいな。言葉が通じる女の子タイプのやつ。
それで甘い息と甘い言葉と甘い鼻息をだしてメロメロにするんですね。
ありだなぁ……。でも3階もまだモンハンなんだ。5階くらいまで待ってて。書けるか知らんけど。

>根性と火事場力+2で一度は必ず生き残れてその後ステータスがとんでもないことに!
一応名前は体に発言するものにしたいので、「~のオーラ」見たいな言葉に……なるかもです。いや、ダサいな……。名前は難しい。

>モンスター食べまくってる割に、そんなに強くなってる気がしないのは何でだぜwwwってかコンガの概念を食ったらハルマサのオナラが
基本そんなに強くしたくない作者の気持ちが反映されてしまっていた。明日はスーパーサイヤ人にでもしよう。あとオナラかぁ。忘れてたな。気づいてたら絶対するのに。

>作者さんが一番楽な方法をとるのが最良ですんでバラバラでおkです。
ありがとうです!

>『EAT-MAN』も喰う主人公でしたが、彼は『創造神』でしたっけ。
そうでしたっけ。うろ覚えですね。ハルマサ君はただの人外です。

>スキル「陸奥圓明流」
対人スキルって今はなかなか出ないです。
雷とかやったら頭が吹き飛んじゃう!

>名雪印の目覚ましはお世話になりました
あれだけでよく分かりましたね静駆さん!

>ここらでいったんステータスとスキル表が欲しいです。
死亡したんでスキルは全部載りました。特性とかは明日か明後日にまとめておきますね。





[19470] 97(改定)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/28 18:13




<97>


ごんぶとビームの直撃を受けたハルマサだったが、「炎耐性」を持つ彼を炎や熱で殺すのは、割りと困難である。
でも死んでいた。
ラージャンに耐久力を削られまくっていたからである。

でもゾンビ化している。取りあえず安心した。
頭の中でナレーションが響いた。

≪ポーン! 耐久値が0となったため、死亡と判定されました。特性「不朽の魂」が発動。発動時のボーナスとして肉体が再生されます。また、不死人常態となりました。火属性、光属性のダメージが25倍となります。また「桃色トーク」が消失しました。≫

ふぅ、今回はいらない特性が消えて逆に助かったぜ……!
と、そこで気付いたのだが、ナレーションがですます調の、聞きなれた声である。

「あれ? AIサクラの声じゃない?」
≪そうですマスター。≫

思わず呟いた言葉に、返事が返ってきた。

「……会話できたの?」
≪親しみがUPしたので可能になりました。≫

親しみってそういうのなの?
まぁありがたいんだけど。
システムのナレーターと会話が出来るのって、かなり有利になるんじゃない?
今までの疑問が全部解決しそうだね。

「というかひまわりは?」
≪実は、前回セリフを噛んでしまったことにショックを受けておりまして。≫

そういえば噛んでいたね。

≪彼女が立ち直るまで、不肖わたくし、AIサクラが代わりを務めさせていただきます。≫
「へぇぇ……。じゃあ、よろしくね。」
≪は、はいッ! ……あ、いえ、失礼しました。エフンエフン。他にご質問などございますか?≫

そんな常に冷静じゃないといけないことはないと思うんだけど……。
それに質問といわれても……

「おやすみマン取り直したいんだけどできる?」
≪条件が厳しくなるので難しいかと。≫

そうかぁ……まぁそうじゃないと「桃色トーク」も取り直しちゃいそうだから良いと悪いが半々って所かな。

そして質問ではないが、聞いてみたいことはあった。

「あの、聞きたいんだけど。」
≪なんでしょうか。≫
「僕、ラージャンに勝てると思う?」
≪………≫

サクラさんはしばらく黙っていたが、コホン、と一つ空咳をしてこう言った。

≪こういう言い方はあまり好みませんが、あえてこう言いましょう。――――――――楽勝かと。≫

とても勇気の出る返答だった。

「……ありがとうサクラさん。」
≪さ、「さん」づけ!? い、いえ、どもいたあしゃって。≫

噛んでる噛んでる。一体どうしたサクラさん。





「グルォオオオオオアアアアアアアアアアア!」

ラージャンが、2キロの距離を瞬く間に詰めてきた。
だが、その速度は、先ほど感じていたよりずっと遅い。

≪敏捷の上昇は、感覚機器の精度と、知覚を上昇させます。≫

頭の中で、サクラが滔々と喋っている。
ハルマサは、ラージャンの地面を擦り上げるようなラリアットを、正面から受け止める。

≪しかし、筋力の上昇は、その反動を受け止める耐久力とは別のものです。≫

後ろでつっかえ棒にしていた脚が地面を抉って深く刺さり、受け止めた腕から血が吹き出た。

≪現在マスターの筋力と耐久力はバランスが取れていません。力比べは危険かと存じます。≫

「だったら、速さで撹乱して―――――――」

ギ、と地面を蹴り飛ばす。
上昇した敏捷を舐めていた。一気に20メートルは移動する。ピーキーな体だ。
だが、すぐさま足をつき、「空中着地」が発動。
先ほどに倍する速度で折り返し、気付けばラージャンの懐に居た。

ごわごわの剛毛にそっと拳を触れさせる。

「――――――気付かれる前に倒せばいいね。」
≪その通りですマスター。≫

――――――――無空波ッ!

インパクトの瞬間、ぶわり、と自分の拳から風が吹き出たようだった。

ドボォ!と肘まで埋まる右手。
振動が内部をかき回し、ラージャンは大きな口と大きな眼から血を溢れさせ、死んでいた。

引き抜いた手は、見事に潰れていたが、それも直ぐに復元する。

いやぁ、ゾンビ化ってチートだね!
あんなに必死こいて攻撃を防いだラージャンが、全然相手にならないよ。

(そして恒例の――――――――――ッ!)

ハルマサは、極自然な動作で手を合わす。
そして右手はナイフに! 左手はフォーク!

「いただきますッ!」

恒例の食事タイムである。
げへぇ! コイツは食いでがあるぜ!
ムシャームシャー! とコリャウメェ!

≪「概念食い」熟練度が上昇し、レベルが上昇しました。また、概念吸収が発動しました。新しい概念として「黄金の煌毛(コウモウ)」を発現します。≫


◇「黄金の煌毛」
 帯電し、黄金色に煌く髪を発現できる。発現中は、雷への親和性が増し(雷耐性100パーセント+雷操作のレベルに5の補正)、持久力の減少速度が5倍になる。


きらめく毛か……早速!

「発☆現!」

発言した瞬間、バチィ! と頭の周りを電光が舞った。
触ってみると、電流で痺れていたときみたいに、髪が逆立っている。
自分では見えないけどバチバチいっているこれは……!

≪スーパーサイヤ人みたいですマスター! しかも2ですッ!≫

アイター! ついにやってしまったんですね! ドラゴンボール来ちゃったよ! 強さの上がり方は何となく似てるような気がしてたけど!

あとサクラさんテンション高いッスね!
好きなんですか!

≪は、はい、実はそうなんです。……お恥ずかしい。≫

全然お恥ずかしくないよ!
女の子でドラゴンボールネタについて来れる子って凄く少ないって聞いたことあるし、誇って誇って!

ていうか本当にAIなのか不安になるくらい人間っぽいねサクラさん。
親しみが湧くからいいけどね!

ちなみに体毛は全て金色になるようだ。あそこの毛も電気で逆立っていて恥ずかしかった。
ていうか今全裸なんだよね。
なんか履く物ないかな。袋を持ち歩くためのポケット付きの奴。
「収納袋」を漁ってみよう。

「収納袋」の中からは色々出てきた。とりあえず美味しそうだった「フルフルの霜降り」を食べつつ探していると、ぶよぶよとした餅みたいな色の布を発見。

これは……フルフルのドロップ、「真珠色の艶皮(エンビ)」じゃないか!
これでズボンを作ったら気持ち悪そうだ……いや、すべすべして柔らかくて気持ちいいかもしれない。
というか美味しそうだなァ……あ、ダメだ! 食べちゃダメだ!
ズボンを……


ズボンを作りました。


「と、あんまり遊んでも居られないよね。」

一瞬クエストのこと本気で忘れていたよ。
危ないな……。
それもこれもこの無限に湧き上がる飢餓感がいけないんだ。
ということにしておこう。
忘れっぽいわけじゃないはずさ!


「聞き耳」で探すと、北から大きなモンスターが近づいてきていた。
ハルマサを一度消滅させ、さらにゾンビにもしてくれたあんちくしょう、グラビモスである。

「遠距離からビーム吐くだけのモンスターだといいんだけどね……。」

舐めてかかったら、一気に炎上しそうである。
炎のダメージ25倍らしいし。

彼我の距離は約200メートル。相手の大きさは約30メートル。
どうしようか。

1番。さっきと同じでいいんじゃね?
2番。こっちも遠距離攻撃だ! 適当にビームとか撃ってみようぜ!
3番。巨大化とかしてみようぜ!
4番。罠とか作って安全にいくぜ!

「巨大化してみたいな!」
≪ポーン! 特技「巨大化」を使用するには、ウルトラマンタイマーが必要です。≫

あれ、ステータスは間に合ってるんだ。ウルトラマンタイマーってどっかで売ってるの?

まぁもともと期待はしてないぜ!
次は、2番! ビームだ!
でもどうやって撃つか知らないから、あの常盤中(だっけ?)の凄い女の子の技を借りるとしよう!

そう、レールガンさ!

「となればサイヤ人になるしかない! 発現!」

バチバチバチッ!

レールガンの原理は簡単なんで覚えているよ!
確か……何とかの左手の法則……右手の……? 
ローレンツ力だっけ……?
……。
まぁ、細かいことはおいておこう。
要は、電流が流れると磁力が発生するから、それで飛ばせばいいのさ!

こう伸ばした両手に挟み持った鉱物に、右手から電流を流して、鉱物を通して左手へと循環させます。
雷は魔力で作ってルカら、科学と魔法の融合だね!

こうすると何とか力がいい感じに働いて……鉱物が凄い勢いで飛び出していくはず!


おっしゃぁあああああああ!
電力全開!

「ゆけぇ! レールガッふぅ………ッ! ゴフッ!」

凄い勢いで逆に飛び出した金属塊は、ハルマサを貫いて飛んでいった。

ちょ、メッチャ痛い……。

≪流す電流が逆方向かと……≫

そ、そうなの……?
ごめん。ちょっと痛くて……また今度頑張るよ。
もうサイヤ人も発現終了ね。また明日ー。

……なんか前にもこうして後回しにした特技があったような……。

そして思い出した。過去出来なかったあの技を!

こんなのでした。

≪特技「加速」を使うには、耐久力が159,748足りません。持久力が159,698足りません。精神力が159,447足りません。スキル「風操作」Lv15「雷操作」Lv15を習得する必要があります。≫



ちょっと精神力と持久力と「風操作」が足りないけど、レベルアップしたら結構いけそう!
足りないのは風だけ……会得は近い!
という訳で。

「風を使って……倒す!」

方針は決定した。



<つづく>



まぁゾンビ化したらラージャンは楽勝ですよね。
ハルマサ君の胸の傷はくちゅくちゅしながら治っているので心配無用です。

ハルマサのステータス
レベル: 15
満腹度: 124534 → 126316
耐久力: 252325 → 261687
持久力: 123432 → 125215
魔力 : 209782 → 209782
筋力 : 291909 → 308474  ……☆915421(ゾンビ)
敏捷 : 284137 → 300952  ……☆902855  ……★1354283(腕輪)
器用さ: 276410 → 282238
精神力: 109517 → 113062

経験値: 166398 → 248318  残り:79360  ……81920の経験値を得ました。


○スキル(上昇値の大きい順
概念食いLv14: 75105 → 89932  ……Level up!
拳闘術Lv13 : 38920 → 47832  ……Level up!
金剛術Lv14 : 76640 → 84220  ……Level up!
天罰招来Lv10: 2090 → 9450  ……Level up!前回上げるの忘れてたので。
突撃術Lv13 : 70392 → 76931
撹乱術Lv13 : 69850 → 76320
身体制御Lv14: 86445 → 92273
空中着地Lv13: 73428 → 78721
鷹の目Lv12 : 33382 → 37841
剛力術Lv14 : 97850 → 102234
観察眼Lv13 : 70473 → 74391
的中術Lv12 : 27102 → 30992
戦術思考Lv14: 79845 → 83390  ……Level up!
聞き耳Lv13 : 40983 → 42334
PテイスターLv15: 178890 → 173024

○取得概念
黄金の煌毛

◇「黄金の煌毛」
帯電し、黄金色に煌く髪を発現できる。発現中は、雷への親和性が増し(雷耐性100%、雷操作のレベルに5の補正)、持久力の減少速度が5倍になる。





[19470] 98・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:05

<98>


現在、「風操作」が最も上がるのはどういう状況だろう。
風の剣? 風の拳? それとも極・風弾?

ノン! 全てはずれ!

答えは……「風でビームを受け止める」だよ!

グラビモスが咆哮し、その巨大な口を目いっぱい開く。

「ォ゛ア゛ア゛アアアアアアアアア!」

シュキ―――――ン!

200メートル先の鎧竜グラビモスから、高い音をたてて溶岩ビームが発射される。
ハルマサはその前に立ち、腰につけていた手を翳した。

「風・球ッ!」

シュイーンと回っていた風の塊が、炎のビームを受け止める。
バァン!と音がして、均衡する風と炎。
僕は瞬時にその場から逃げ出した。直後風を打ち破り、彼方へと消えるごんぶとビーム。

いや、受け止めるけど、それは一瞬しか無理って言うかね。
精神力僕の数倍は有るようなモンスターと我慢比べするのはちょっと。

「どう!? 熟練度上がった!?」
≪はい。「風球」の維持と、光線を受け止めることで、熟練度が2万ポイントほど上昇しました。レベルも上がっています。熟練度は現在5万ポイントです。≫
「いよぉし! 次はもっと圧縮した「風球」を!」

頑張って圧縮すると「魔力圧縮」の熟練度も上がって魔力も上昇するからお得!

「ぬぉおおおおお!」

キュインキュインと魔力を回し、さっきよりも圧縮され、さっきよりも大きい「風球」を作り上げる。
ふふ、今にも弾けそうだ……!

≪来ます。≫

気化した溶岩を口腔にて圧縮し、嗜好性を持たせて開放させるグラビモス。
気体が電離しプラズマと化し、道筋を溶かしつつハルマサへと迫る。

「だりゃあ!」

バァン!

空気を震わせる衝撃があたりに響き、さっきより0.02秒くらい長持ちして風が射抜かれる。
ハルマサはとっくに熱風の範囲外だ。

「どう!?」
≪上昇値は2万5千ほどです。≫
「よッし!」


そうやって調子に乗りつつ「風操作」を上げていると、サクラさんが≪あ≫と声を出した。

「どうしたの?」
≪マスターが使役した魔物、火竜たちが他の魔物を打ち破ったので、マスターに経験値が4160ポイント入りました。≫
「おお、ナイス!」
≪同時に、魔物の一体も経験値を取得し、強さが上昇しました。≫
「ますます凄い! 多分金ちゃんだと思うけど、そのへん分かる?」

シュイーンと風球を作りながら問うハルマサに、サクラは答えた。

≪定かではありませんが、強さが上昇した魔物は、使役していた中で二番目に強かった個体です。恐らく間違いないかと。そして、さらに同時に起こった事があります。≫
「何? また良いこと?」
≪魅了が解けました。≫
「ダメじゃんッ!」

やばいよ! 子ガニが襲われちゃう!
くそう、なんで僕はこんなところで油を売っているんだ!

「悪いけど、速攻でいくよ!」

ハルマサはボゥ! と「黄金の煌毛」を発現し、髪を金色に染める。なんかテンション上がるのだ。
それだけではない。
右手に魔力の檻を作り、流し込むのは眩い電光!

ハルマサは姿勢を低くして走り出す。
魔力の檻に入りきらない電気が体を覆い、はじける雷光が断続的に空気を弾いてチッチッチと音を出す。
某忍者のアレだね!

「食らえ――――――雷切りッ!」

その瞬間「突撃術」が発動。
赤い光に染まったハルマサは爆発的に速度が高まり、ぶっちゃけ界王拳状態じゃね? と思いつつ、黒いグラビモスに「雷球」を打ち込み―――――手を挫いた。

メキャア!

「はぎゃぁああああああ!」

雷球は表面で弾かれて霧散した。雷無効な装甲だったのだろうか。

というかミラクル堅いぜこのモンスター!

ハルマサは腕がメッキャメキャに折れながら、体を回転させ、背中からぶつかる。
この時特技が発動した。

ハルマサの体が勝手に動き、ズシン、と重く震脚を踏む。
生じた衝撃は背中で爆発。

―――――――通・背・拳ッ!

ドパァン!

衝撃は内部に浸透、グラビモスの胸殻を内側から吹き飛ばす。
そして血が噴出した。

≪新しい特技「通背拳」が発動しました。一定時間全ての特技の使用が不可能になります。≫

ハルマサは、それよりも自分に向かって吹き出る血液に夢中だった。

血液うめー。
濃厚過ぎるッ!
ゴクゴクゴクゴク!

≪目的を忘れていますマスター! あ、概念を得ました。そしてレベルも上がっていました。≫

ついでのように! 結構重要だよ!
でも報告ありがとサクラさ――――ん!

一発で倒せたらしい。
凄い威力だね通背拳。
でも、特技使えないって結構キツイかも知れない。

ちなみに新概念は「濃赤の沸血(フッケツ)」。
敏捷が上がり、炎への親和性が高くなるとか。
ヒャッハー! 弱点減ったぜー!


ハルマサは喜びつつ、黒いグラビモスの死体を引っ張って、樹海へと走るのだった。



<つづく>

通背拳は、エアマスターでも使われていたような気がします。ランキング二位の人とかに。


レベル: 15 → 16   ……Lvup Bonus:81920
満腹度: 126316 → 215181
耐久力: 261687 → 344417
持久力: 125215 → 214090
魔力 : 209782 → 361700
筋力 : 308474 → 404694  ……☆121万
敏捷 : 300952 → 406490  ……☆121万  ……★182万
器用さ: 282238 → 466065
精神力: 113062 → 209024
経験値: 248318 → 330238  残り: 325122


○スキル(上昇値が大きい順)
風操作Lv14 : 35456 → 132803  ……Level up!
魔力圧縮Lv14: 95885 → 135832
魔力放出Lv14: 123343 → 153394
戦術思考Lv14: 83390 → 97432
撹乱術Lv14 : 76320 → 88930  ……Level up!
撤退術Lv13 : 64382 → 76672
鷹の目Lv13 : 37841 → 50021  ……Level up!
心眼Lv13  : 70382 → 81123
剛力術Lv14 : 102234 → 110453
概念食いLv14: 89932 → 97448
雷操作Lv12 : 35280 → 39840
突撃術Lv13 : 76931 → 80993
拳闘術Lv13 : 47832 → 51882
観察眼Lv13 : 74391 → 77849
空中着地Lv13: 78721 → 80743
回避眼Lv13 : 73845 → 75832
PテイスターLv15 : 173024 → 170043

○取得概念
濃赤の沸血


◇「濃赤の沸血」
 密度が高く、さらに沸騰するほど熱い血液。その熱は鼓動を早める。発現中は、敏捷に10%のプラス補正、炎への親和性が増し(炎耐性に40%のプラス補正、炎操作のレベルに3のプラス補正)、持久力の減少速度が3倍になる。

◆「通背拳」
 震脚と共に背中から剄を放つ技。中位の装甲を必ず貫通。使用後一定時間はすべての特技が使用不可となる。


○「沸血」かつゾンビ状態で火を受けた時の計算。
現在炎耐性は火属性のダメージを46%マイナスなので、「沸血」状態になると86%マイナス。
100のダメージが14になり、それがゾンビの効果で25倍。
14×25=350なので、火のダメージは3.5倍となります。






[19470] 99・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:06


<99>


ハルマサがグラビモスを引き摺りつつたどり着いた時、火竜はまだ子ガニたちに襲い掛かっては居なかった。
カニたちが既に平均的なダイミョウザザミ、ショウグンギザミのサイズを凌駕する巨体へと変貌しているので、慎重になっているのだろうか。
それとも子ガニたちが水を吹いて牽制しているのが効いているのだろうか。
とにかく……

「間に合ったッ!」

――――――――――――甘い息ッ!

高く飛び上がったハルマサは、上空を舞う3匹の火竜に三回目の「甘い息」を吐く。

彼女たちは、務めを果たしてくれていた。
南側のモンスターをほぼ壊滅させ、ゲリョスすらも下している。
ハルマサが金ちゃんと呼ぶ金色の火竜は、レベルアップしたらしく体が一回り大きくなっていた。
レベルは15相当。凄く強くなっている。

金ちゃんと一緒に冒険できたらなァ、とハルマサは思うが、常に「甘い息」を必要とするようでは安心して旅も出来ない。
やはり、モンスターボールだろうか。
ああ、死んだ時に2号さんに頼めばよかった。
でも急いでいたから仕方ないかな。

さて、食べようかカニたちよ!

「ギィイ!」
「ギュイイイイイイイ!」

食事の時間だった。





【第二層 火山 最上の間】


鱗を落として青色となったキメラのスピードは、2倍なんてものではなかった。
溶岩に浮かぶ岩の面積は200メートル四方だろうか。
その中を残像の残るような速度で、所狭しと駆け回るのだ。

戦場の歌によって敏捷と反応速度が上昇している二人でなければ、既に胴体を噛み千切られていただろう。
もしくは吹き飛ばされて溶岩の中にドボンだ。

―――――ガルァ!

ドガァ、と地面を蹴り砕き、キメラが走る。
直前の炎によって体勢の崩れているエコーズは逃げ遅れ、しかしその前にマリオネが間に合った。

「鉄肌の歩法。『堅』。」

ツギハギだらけの少女の体は、言葉と共に錆色に染まり、眼だけがギラギラとほの暗く光る。
そのままガキン、と巨体の突進をハンマーで受け止め、しかし少女は弾かれた。
吹き飛ぶ少女の体を受け止め、エコーズは歯を噛む。

「くそう、拉致があかねぇ! 広域のやついくぞ!」
「ぜひやって欲しいと、ワタシは思う。」

しゅるりと少女は腕の中から居なくなり、遥か後ろへと退避する。
熱気で喉がヒリつくようだ。
ガラガラの声を張り上げて、エコーズは音を飛ばす。

「――――――――――カァッッッッッッ!」

ごぉ、と一陣の衝撃波が岩盤を舐め、しかしキメラは高い高い跳躍でそれを回避していた。
それどころか。

「―――――ク!」

ドゴォ!

翼で空を叩き、地面へと突っ込むキメラを、ギリギリで回避するエコーズだったが、このキメラは触れなくても熱気で体力を奪う。
エコーズの腕が熱で爛れ、袖が燃える。
さらに今の攻撃で足元の岩盤が割れ、真っ二つになって溶岩を彷徨う。
割った勢いのまま、キメラは溶岩へと潜り、一秒と経たず飛び出してくる。
飛び散った溶岩の飛沫が空気を焼いた。

「ちくしょう、めちゃくちゃ強いじゃねぇか! 出し惜しみしてる場合じゃねえな!」
「隠してる物があるならさっさと使って欲しかったと、ワタシはおも」
「使い捨てだからもったいなかったんだよ!」

叫びつつ、エコーズは胸元のペンダントを引きちぎり魔力を込める。

「召喚! 『クロックワークス』!」

ペンダントが空間を越えて全身鎧を呼び寄せる。
握った指の間からシュパァと光が飛び出し、エコーズの体に次々と纏わり付き形を成した。
光が消えれば、そこには機械仕掛けの全身鎧を装着したエコーズがいた。

ガキガキガキガキ、と体中で歯車がかみ合う音を聞きながら、溢れる全能間にエコーズは思わず薄く笑う。

「ククク……!」
「悪役っぽいとワタシは思う。…………本物?」
「レプリカだ。すぐ壊れちまうが……あいつ程度なら、十分だッ!」

レプリカとは言え神代の鎧。
その効果は力の上昇、速度の上昇、何より嬉しい耐久力。
もう魔力で体を強化しなくても良い!

「これで好きなだけ殴れるぜぇえええええええ!」

ゴガァッと地面を踏み砕くと同時、魔力の噴出で一気に速度を引き上げ、エコーズはキメラへと殴りかかる。

――――――――ゴォアアアアアアアアアアアアア!

彼我の力の差はまた逆転し、決着が付くまでそう長い時間はかからなかった。





【第二層 樹海中央部】



雨が降り始めた。
僕が第二層に来てから何日目かは知らないが、数日振りに降る雨である。

空に溜まる雲は雷を孕み、時折、雷光を落としている。

そんな中、子ガニたちは移動を始めた。
エサがなくなったからだろうか。

ギッコギッコと鳴き声なのか間接の音なのか判別付きづらい音をさせつつ、子ガニたちは歩いていく。

だが、大陸中のモンスターが集結したということは、何処に行っても彼らの胃袋を満たすものはないのではないだろうか。
疑問に思いつつハルマサはついて行く。

子ガニたち……もう体長は20メートルを越える巨大なプラチナ甲殻種たちは、ハルマサがこれまで足を運んだことのない、湖へと行くようだ。
この大陸には二つの巨大な湖がある。
盾に長い楕円系の大陸において、丁度目の位置になるような、二つ並んだ巨大な湖である。

その湖の周り。砂漠の中でオアシスとなっている場所でも、雨が降っていた。
砂漠に降る雨としては法外な量の、豪雨だ。

降りしきる雨の中で、ハルマサはいつか助けた甲殻種の姿を見た。
宿を食われていたヤオザミに、宿と片腕を食われたガミザミ。
彼らは、しかし死んでいた。

だがその死は、新たな生命を迎えるための準備なのであった。

(全然見なかった彼らは……ココに居たんだ……。)

オアシスにそびえ立つ、巨大な塔。
その塔の材料は、無数の甲殻種であった。
小さいカニも大きなカニも宿の部位を外側に向け、脚と鋏を互いに複雑に絡ませて、彼らは一つの高き塔となっているのだった。
その中で、ぽこんと弱点部位のコブをさらしている背中が二つあった。
もう決して動かない彼らのコブを撫で、これは一体何なのか、とハルマサは自分に問うのだった。

あまりに悪趣味ではないだろうか。
プレイヤーに助けさせた甲殻種は、自ら命を捨てて、塔となる。
この意味は一体なんだ。
いや、本当に意味なんてあるのか。

そのハルマサを横目に、プラチナ甲殻種の二匹は、高い塔を上り始める。
上に上に、仲間の死骸を乗り越えて。

雲に届かんとする甲殻種の塔はプラチナ甲殻種の巨体を受けても揺れもせず、ただ、雨に濡れているようだった。

(何を……?)

ハルマサが疑問に思うのと、目の前でビックリ箱が出現するのは同時であった。

『プレイヤーの皆さん、お元気でしょうカ! 「プラチナ甲殻種の護衛」クエストも残り6時間! 最終段階に入りまシタ! 十分に栄養を蓄えたプラチナ甲殻種は、産卵を始めマス!』

産卵……? この高い塔の上で? この夥しい数の甲殻種たちはそのために命を捧げたのか?

『プレイヤーに出来ることは見守るダケ? いえいえ、違いますトモ! プレイヤーは、これから一時間に一度ポップする、クエスト専用の魔物を撃退する必要がありマス! 産卵中のプラチナ甲殻種は無防備デス! プレイヤーは見事守り抜くことが出来るでしょうカ!』

クエスト専用の敵とはいったいなんだろうか。
少なくとも弱くはないだろう。
最後に出てくるのだから。

『クエストの段階移行に際し、クエストが終了するまで、「火山 最上の間」以外の場所で魔物がリポップしなくなりマス! これはフィールドリセットの際も例外ではありまセン! プレイヤーは目の前の魔物に集中することをお勧めしマス! それではご健闘をお祈りしマス!』

どろん、と箱は消えた。

その直後、ガサリ、とオアシスの樹が揺れる。

「おお~! 今回も高いなコリャ。」
「人……?」

背に大きな灰色の剣を背負った大柄のだった。
剣と同じ灰色の鎧で体を余すことなく覆い、耳にはキラリと光るピアスを着けている。
剣と鎧の色には見覚えがあった。
第一層のボス、クシャルダオラの硬質な鱗の色だ。

「観察眼」が告げるのはレベル18相当の猛者であること。

でもなんで人が今さらこんなところに……?

≪人ではありませんマスター。≫

サクラが言う。

≪ステータスの平均が130万ポイント以上、すなわちレベル18相当の彼が、反応からして―――――ポップした魔物であると思われます。≫


「護衛」クエスト最後の敵は――――――人間だった。




<つづく>


機械仕掛けの全身鎧と聞くと、アイアンマンを思い浮かべてしまう。



ステータス、スキル変化は微妙なので割愛。




[19470] 100・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:07

<100>


【第二層 火山 最上の間】


ドォ………ォン。

「やぁっと倒れたよ。こんちくしょうめ。」

荒い息を吐きつつ、エコーズは座り込んだ。全身鎧は、一方的に殴っていたにもかかわらず、ボロボロだった。やはりレプリカ。自分の生み出す力に耐え切れていない。
エコーズはマリオネから渡された水を

「もう疲れた。しばらく戦いたくねぇ……。」
「あなたは一層でもそう言っていたと、ワタシは思う。」
「あん時よりは強くなったと思ったんだが……これは次に行く前にもちっと修行だな。」
「同意。」

その二人の前に、上からキラキラと指輪が降りてくる。
少し金色がかった銀色の指輪だ。
これを何処かしらの指に嵌めれば、ダンジョンの入り口へと戻れるわけだが……

「なぁ、戻る前によ、ちょっと他のプレイヤー見に行かないか?」
「実はこの少女も少し気になっていたと、ワタシは思う。」
「決まりだな。」

エコーズは笑い、指輪をパシ、と掴み取った。





【第二層 砂砂漠東部オアシス】


降りしきる雨の中、男はヒゲ面の顎を手で撫でながら塔を見上げていたが、こちらを見るとニカッと笑った。

「なんだ、先客がいたのか。お前さんも楽しみだろうな。この時のプラチナガニの肉の旨さと行ったらよ。おったまげるよな! 炙り焼きにして黄金芋酒で一杯やったときの味が…………クハハハッ! たまんねんだコレが! 今から楽しみでしかたねぇぜ!」

非常に嬉しそうに顔を紅潮させて喋ってくる。

(敵だ。)

ハルマサは静かに、冷たくそう思った。
人を前にして躊躇するような、そんな心は失っていた。
それを強さと言うのか、弱さと言うのか、ハルマサには分からなかった。

「ああ、別に全部持っていこうッてんじゃねぇんだぜ? そんな睨むんじゃねぇよ。ちょいと鋏のところでも貰えれば満足さ。お前さんもケチケチするなよ。あんなにでかくて美味くて……無防備なんだからよ。」

食ってやらなきゃ申し訳ねぇよ、と相好を崩しながら男は言った。
もう十分だ、とハルマサは思う。

「あなたに譲る気はない。」
「あ?」
「カニたちは僕が守る。」

ハルマサがそういうと、男はハハ、と笑い出す。

「ああ、時々いるよな! モンスターに感情移入しちまう奴。ホントバカみたいって言うかよ……、まぁなんだ。」

男は背負っていた剣を片手で持ち、フォンと振って、こう言った。

「虫唾が走るんだよ。死ね。」

どん、とハルマサのいた場所に叩き込まれた大剣は、ハルマサの敏捷に迫る速度であり、今までで最高の威力だった。
だが。

ガシャン、と大剣は砕けた。
コンクリートに豆腐で殴りかかったような、脆い崩れ方だった。

「僕が何秒ここに立っていたと思うんだよ。」
≪1分6秒ですマスター。スキル「金剛術」が発動しています。現在の皮膚硬度は常時の92倍、耐久力にして約3171万ポイントです。≫
「だってさ。」

サクラの声は聞こえていないだろうが、ハルマサはそう呟いた。

「金剛術」は、じっとしていた分だけ、硬くなるスキルである。
一分も立っていたら、人間にどうこうできる次元の固さではなくなっていたらしい。
笑っちゃうね。

「ゴメンね。僕は化け物なんだ。」

申し訳ないね。無駄な行動をさせてしまって。

――――――風球。

砕けた大剣を見て呆然とする男に、ハルマサは風の塊を叩き込む。
圧縮された風の塊を顔面に受け、男は吹き飛ばされた。

「……ぐあああああああああ!」
「………死んでないね。」
≪頑丈なようですね。加えて、特技に用いた風の密度と回転速度が足りなかったためかと。しかし今の攻撃で「風操作」のレベルが上がりました。これに伴い、特技「加速」が使用可能となりました。≫
「必要はなさそうだけどね。」

男が跳ね起きる。
鼻が曲がっていた。

「う、がぁああああああああああ! ふざけやがって! 化け物だ!? こちとら化け物食らって生きてんだよ!」

男は叫び、髪を掻き毟り、地団太を踏み、そして唐突に動きを止めた。

「だが、強い。一人じゃ勝てねぇ。武器もねぇ。仲間が来るまで待つか。」

ボソリと、小さく呟かれた言葉をハルマサの耳は聞き逃さない。

(この男を逃がせば、更なる厄介として返ってくる。)

逃がすという選択肢は消えた。

背を向けて走り出そうとする男の前にハルマサは回りこむ。

「さよなら。」
「は……!?」

それが男の最後の言葉だった。
「撹乱術」の発動したハルマサの速度は、敏捷にして320万ポイント。男に追いきれるはずもなく。

ハルマサの手刀によって、男の首はあっけなく飛んでいた。
ナイフでバターを切るような手ごたえだった。
驚愕の表情を浮かべたまま、男の首は転がり、塔の根元で止まる。

残った体からはシュゥ、と血が吹き出て、それを顔に受けたハルマサは舌で舐めとり、

「まずい。」

と一言呟いた。




「人間を殺したのに、何も感じないよ。精神力のお陰かな。」
≪いえ、それは違いますマスター。≫

サクラの返答は否定だった。

≪我らの創造主である2号様は、最後まで精神力とは何か、について悩んでおられました。≫

システムを作ったときの話だろうか。

≪精神力、すなわち心の強さとは何か。
外部からの刺激に対して揺れない事と、外部からの刺激を柔軟に受け取り糧とする事。
自らの感情を厳しく律する事と、誰にでも素直に感情を示せる事。
我慢強い事と、誰にでも頼れる事。
心とは複雑で、考えれば考えるほど深みに嵌る迷路のようだと、創造主様は悩んでおられました。
どちらも併せ持つ事が理想だと思う一方で、どちらも上昇させることは、すなわち何も変わらないということではないだろうか、とお考えになったのです。
最終的に、精神力は恐れに対する耐性の強度と、集中の深度、魔法発動の際の威力のパラメーターとして設定することになりました。
心の強さは、環境と個々人によって異なり、本人が選んだ強さを自ら勝ち取っていくものであるという結論に、達したのではないかと私は考えています。≫

よって、とサクラは続けた。

≪マスターが現在感じている違和感は「殺害精神」、すなわち死に対する感情の鈍化か、もしくはマスターが育まれた心の強さの結果であると思われます。≫

長々と失礼しました、とサクラが言うので、ハルマサは「ためになったよ。ありがとう。」と返した。

僕は死に麻痺しているだけなのか。
ちゃんと正面から受け止められているのか。

とても僕の頭では分かりそうにないな、とハルマサは思った。



豪雨の中、亡骸の塔の上。
白く輝く二匹のカニが新たな命を生み出そうとしていた。

同輩たちは命を捨てた。
自分もやがて死ぬだろう。
全ては、産まれる王のため。

「ギィ……」

降りしきる豪雨はカニの目を濡らし、まるで涙のようにも見えた。





<つづく>


レベル: 16 → 17 ……Lvup Bonus:163840
満腹度: 215181 → 385803
耐久力: 344417 → 554304
持久力: 214090 → 384701
魔力 : 361700 → 592536
筋力 : 404694 → 613642  ……☆1840925
敏捷 : 406490 → 645499  ……☆1936496  ……★2904745
器用さ: 466065 → 673731
精神力: 209024 → 393824
経験値: 330238 → 657908残り 652810

風操作Lv15 : 132803 → 176629  ……Level up!
魔力圧縮Lv15: 135832 → 178493  ……Level up!
PテイスターLv15: 170043 → 210353
金剛術Lv14 : 84220 → 123495
概念食いLv14: 97448 → 134784
撹乱術Lv14 : 88930 → 123395
拳闘術Lv14 : 51882 → 85740  ……Level up!
魔力放出Lv15: 153394 → 177729  ……Level up!
空中着地Lv14: 80743 → 103426  ……Level up!
突撃術Lv14 : 80993 → 103492  ……Level up!
戦術思考Lv14: 97432 → 118392



<あとがき>
第二層の終わり方が、分かる人には分かるだろう!(でも言っちゃダメなんだぜ)

まぁいくらレベル18といえど、速さ特化でもない限りハルマサ君のクソチートの前にはカタナシです。
レベルアップのせいでさらにおかしい事になったし。

明日も更新できるかどうかは私の元気しだいだ!


>毒を持つ概念が手に入るがゾンビなのですぐ回復して耐性を強化していつの間にか毒毒の実を食べたみたいになるのだろうかな?
……あるっ! というかすでにバクバクの実くさい能力はありそうですよね。

>これはもう《隙間風の匂い》を覚えるしかないよね!
残念だけど習得できる状況が思い浮かばないんだぜ。

>キメラと闘っているパーティ(長過ぎる)のステータスを知りたいです
この人たちが出てきたのは理由がありまして、ティッシュくらいの儚さで散る運命だったんですけど、ハルマサではない人物を書くのが結構いい気分転換になったので生き延びてしまいました。
だからろくな設定考えてないです。

>今まで同じ獲物を食してたこともあった気がしたけど、生理的なものとして別って判断でおk?
基本的に彼らの行動は邪魔できないので。
カニたちが食べようとした部位はハルマサ君は食べれていません。

>あと、朱雀は無理でも龍破だったらモンスターに利くと思うんだ
確かに。関節系は基本的にきかなそうですね。龍破っていうか衝撃波系はなんか欲しいような、正直もう何も技なんかいらないような。

>ハルマサくんなら武伎言語の前段階として自己暗示とかのスキル覚えてもいいと思うんだ
どんな作品の技ですかね。「武伎言語」って検索してもよくわからなかったです。
自己暗示はイストワールにもあったような気がするようなしないような。帰って確認しよ。

>ほらオカマ丸の部下にいた骨を操る人ですよ、病気だったくせに出てきてすぐに死んでしまった正直存在に意味があったのか謎な人。
ああ、いましたねぇ……。影薄いっすね、彼。忍者は人外が多すぎると思うんだ。

>プラチナは食べるんじゃなくて、ポケモン化もしくは擬人化希望。
残念ながら当初の予定通り死にます。生き返ったらするかもしれません。

>なんかエコーズの人数値が予想つかない
精神力高いので強化使ってたりとか、考えていました。
レベルは19前後くらい。ほんとに適当で申し訳ないですね。

>そもそも古龍を食べる機会があんまりない…。
3階にはいっぱい出てくるんで大丈夫かと。きっと光合成できるようになります。

>魔力219000 → 302279のとこおかしいです
ともさんありがとうございます。探して直しておきます。

>描写をするなら、まず主人公と遭遇して、何かしらのやりとりをおこなってからでないと。
なるほど。次ぎ出す人はそうします。でも出会ったら一発でドン引かれて終了な気しかしないですね。

>死んでも生き返れるのは閻魔勢だけですか?
その通りです。システムが組み込まれているのもそうです。あとは生身。

>体力20%で自らを中心に核爆発とかいうスキルあるし
ssで読んだだけで知らなかったんですけど、それヤバイッすね。
今のハルマサ君でも溶けちゃうような気がします。いや、特技補正があればいけるか?

>ダンジョンて自分以外のプレイヤーがクリアしてもリセットされたりするのかな?
そうですね。されまくります。

>ハルマサはヴァンガード・オーバード・ブーストを覚えた!となると思ったんだけれども、予想が外れたなぁ。
いや、すいません。そこら辺詳しくなくて。ていうか調べたら物すげえの出てきたな……

>スーパーサイヤ人・・・・・・!?ラージャン逃げてっ!!www
ばれてる……加速もばれとる……

>神威をみて「シャドウスキル」を連想する
他にもあったんですか……。まだまだ勉強不足っぽいですね。

>個人的にはジャネットさんが大好きです。
世界食うとか最高ですよね。すぐにMPなくなるとか可愛過ぎる。

>何やらカロンやハスターには元ネタがあると感想版に書かれていたので探してみました。
そんなに時間もかからないんでちょっとやってみるのをお勧めしてみたり。

>閻魔たん出してくれたらちゅっちゅしてあげるちゅっちゅ
普通に反応に困るぜ!


あと、カニの生殖は予想以上に生生しいので想像したらダメだかんね!




[19470] 101・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/08/04 22:29


<101>


雨はまだザァザァと降り続き、ハルマサはフルフルパンツの中までぐっしょりだ。
もしかしてクエスト中ずっと降るのだろうか。

さっき、ボスが倒されたらしく、ビックリ箱が出てきた。
現在はフィールドの損傷だけが直っているらしい。クエストの終了に合わせてモンスターの配置も行われるとか。



ゾンビとなっていることで汚れなんて全く気にならないハルマサは、誰憚ることなく雨で緩んだ地面に寝転んでいた。
理由は空腹である。

「……お腹減った………。」
≪マスター。何故か分かりませんが、先ほどの人型の魔物が消えていません。チャンスかと。≫
「え、人食べるの?」

なんか食人鬼にまで堕ちるのってまだ早い気がするんだよね。
こうもっと止むに止まれぬ事情とか欲しい。
お腹が減ったからってそれは………ねぇ?

≪それはさて置きましても、取りあえず、使えるものは剥ぎ取るべきです。≫
「そうだね!」

ここはモンハンらしく剥ぎ取りといこう!



人間から剥ぎ取るのに道具は要らない。
そう思っていた時期がハルマサにもありました。

「この鎧、繋ぎ目どうなってんの?」
≪……マスター。もう一度言うのでその通りに実行してください。≫
「あ、はい。」

若干サクラがイライラしつつ言ってくる。
出来の悪い生徒で申し訳ない。

≪右上の留め金を上に引きつつ回転させ、同時に左の突起を押し込み、さらにその状態で音がするまで鎧を左右から圧迫するのです。≫
「やっぱり、どう考えても手が足りないよ!?」
≪膝を使うのです! もしくは頭を使うのです!≫

よっし頭を使ってやるぜ!

「よいしょっと。」

バギャーンと鎧を壊しつつ剥がす。筋力がおかしい僕にかかれば、ざっとこんなもんよぉ!

≪ひどい……。≫

忠告を無視したことに言っているのか、僕の頭の悪さに言っているのか、微妙なところだね!

鎧の下には胸毛しかなかった。
悔しくなって毟っていた。
そして食った。
意外と美味しくて困る。

≪マスターマスター。一応全部剥いでからにしませんか? あと概念発動したらどうするおつもりですか。≫
「あ、ごめん。つい。」

汗臭さが堪らなくて。
ほらほら! 剥き剥きし……何でもない。今思ったことは永久に忘れよう。

下を剥ぎ取ると直視するに耐えがたいものが出てきた。

「極・炎弾ッ!」

思わず焼いてしまった。反省はしてない。
なんでこのおっさんは素肌に鎧着てんの?

≪収穫は微妙でしたね。壊れた鎧の上半身に、壊れた鎧の篭手に、壊れた鎧の腰当に、壊れた……。取りあえずゴミばかりですね。≫

言い切った!

「そうだ、人が食べれないならこれを食おう!」

我ながら名案である。
どうせ壊れた物だ。整備して僕が着ると言う手もあるけど、正直必要ないと思う。
それより、このクシャルダオラの鎧っぽいものを食べたら、あの何だっけ、甲殻の機動だっけ。
まぁなんとか言う格好良い名前の概念が得られそうじゃない!

「ていうかお腹が限界です! いただきます!」



あまりにお腹が空いていたハルマサは、周囲を探ることを完全に忘れており、自分を見つめる二対の瞳にも気付かなかった。





【第二層 岩石砂漠】


「見えるか? 以前は無かったあの塔の辺りで音が聞こえるんだが。」
「角度的には問題ないと、ワタシは思う。」

二人はまず、初めて会うプレイヤーを遠くから観察することにした。降りしきる雨の中、シェルターの中でエコーズが耳を澄まし、望遠鏡でマリオネが見ている。

「見えた。……人間が二人いて、一人死んでいる。」
「……どんな状況なんだ。仲間割れか?」
「分からない。……生きている方が死んでいる方から着ている物を力ずくで剥ぎ取り出した。」
「……やっぱり仲間割れじゃねえ? 何か大事なものを盗もうとしたとか。」
「そして胸毛を毟って食べ始めた。」

聞き間違いだったかと、エコーズは頭をかく。

「あぁ、悪ぃ。何を食べたって?」

「胸毛。」
「………。」


それからしばらく観察していたが、その人間は、下半身まで露出させてから死体を焼き、鎧を噛み砕き、さらには土を食いだした。
流石のマリオネもドン引きで、近づくのはよそう、ということで二人の意見は合致したのだった。

「帰るか。」
「(コクリ)」

地味にパーティフラグが折れた瞬間である。






【第二層 砂砂漠東部オアシス】

ふふ、気付いてしまったよ。
僕はどうやら間違っていたようだ。

「だいたい、人間が着けている鎧なんかでお腹が膨れるわけが無かったね。」

≪概念吸収が発動しなかったとは言え、それほどまでに落ち込まなくても。≫
「いや、土食ってるだけ。」
≪知ってましたが、現実をあまり見たくなくて。≫

そうですか。

「それにしても腹が減る。む、この辺の土は少し味が違うぞ!」

ちょっと酸っぱい! 時々混じる石のアクセントが歯ごたえを楽しく彩ってくれるぜ!

≪マスター……。≫



「……ゲフッ。」
≪……お腹はもうよろしいのですか?≫
「うん。良い感じ。」

ていうか飽きた。土もう要らん。
お腹もそれなりに満足したし。

ハルマサは、深さが3メートルくらいになっていた穴から出る。
最後の方は水がたまって泥を啜っているような状態だった。
おかげでお腹が膨れました。
あの、お米を炊いたものより、お粥にしたほうが量があってお腹が膨れるのと一緒だね。

ザァァアアアアア!

雨もまだ止まないなー。

「何か面白いこと無いかなァ……。」
≪土を食べているマスターはそれなりに笑える姿でしたが………≫

そうですか。




どうやら土を食べている間に結構な時間が経っていたようで、すぐに次の刺客が現れた。
頭の禿げ上がった老年の男だ。顔には皺が浮き上がり、耳は柔道をしている人のように擦り切れている。
しかし体は若々しい。むき出しになった腕の筋肉が頭より太いのだ。
背中には大槌を背負っていた。
赤いゴツゴツとした鎧に、ほとんど顔に張り付いているような耳には先ほどの人と同様のピアス。
レベルはまた、18相当だ。

男は傍らで消し炭になっている物を見て、眉をひそめた。

「おい、この黒焦げの死体は一体どうした?」
「……あなたもカニを狩りに来たの?」
「お前がやったのか?」
「……あの?」
「ディスをよくも……! うぉおお!」


こっちの声が聞こえてないような……。
打撃面は丸く、反対側にはシリンダーのようなものがついている大槌を回転させ、横殴りの一撃を繰り出してくる。

スピードは速い。重量武器は振り出すまでが遅くなる反面、当たる瞬間は最高速度になっている。
ハルマサは地に這うほどに姿勢を低くし、起き上がり様に拳を繰り出し……

「隙あり!」
「ハッ!」

隙なんかネェよ! とばかりに大槌の柄で迎撃される。
この男、厳つい顔して意外と器用である。

ガイン!

そして大槌は男の腕からすっぽ抜けた。

「ふ、狙ったとおりだ!」
「!?」

取りあえずそれっぽいことを言うと、男は驚いてくれた。

「ハンマーを持たないあなたなんて、もう僕の敵ではないね!」

はぁああああああああ!

ここはラーメン屋で、トッピングは何にしますかって聞かれた時に「全部で」って答えるくらい豪勢に言ってやる!

まずは概念発動!

「刃持つ腕」「砂弾く鱗」「黄金の煌毛」「濃赤の沸血」!
さらに
「剛力術」「暗殺術」発動!

おまけに行くよ!

「ふんなぁああああああああああああ!」

右手の刃に、魔力を纏わせ、超圧縮。
さらに魔力を風と雷と炎と水にして、刃の上をチェーンソーの刃のように高速で移動させて――――――――

これもおまけだ――――――――新特技・「加速」ッ!

キュン!

と周りの速度が遅くなる。
この光景の中、僕だけが速く動けるのだ!

む、ちょっと動きにくいのか!
ふぎぎぎぎぎ……!
ええい、そんなの関係な――――――い!

「食らええええええええええええい!」

ハルマサの声とともに、異様に危険そうな腕の刃が異常なスピードでもって、スキンヘッドの男の胸へ――――





<つづく>

まぁオチは分かるでしょう。

◆「加速」
 電気で体の細胞を活性化させ、反応速度と身体速度を劇的に増加させる技。上昇値は「雷操作」「風操作」によって変化。使用中は「雷操作」「風操作」を使用しなければならず、持久力の減少速度が体感時間にして普段の50倍となる。







[19470] 102・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/23 23:08


<102>




「加速」を使うとは言え、「雷操作」も「風操作」も熟練しているとは言えないハルマサである。

スキンヘッドの男はその姿を何とか見る事が出来ていた。
まぁ正直見えて居ても全く意味が分からなかったが。
スキンヘッドは目の前の白いズボンを履いた半裸の少年を、呆然と見ていた。

なぜなら、
唐突に髪が金色に染まり、
腕から血を噴出しつつ刃が飛び出し、
と思ったらその血が突然、異常に鮮烈な赤となり、水に触れるとそれを沸騰させ、
何時の間にか肌には青い鱗が浮かんでおり、
次の瞬間には筋肉が膨張し、
何故か体が消えて、
血が噴出している場所に4色の光が生まれたと思ったら、線となって高速で右腕の辺りを動き出し、
それが物凄い勢いで迫ってきたのだ。

当然だが頭が状況に追いついていない。
だから、その少年が刃で胸の辺りを切りつけようとし、そして急に崩れ落ちたことも、全然意味が分からなかった。

「ヒヘェ、フヒィ、死ぬ……!」

一瞬のことだったのに尋常ではないほど憔悴している様子である。
この隙に殴ってしまおうか、と考えていると、少年は男を見上げ、うつろな目でこう言った。

「あ、お肉だ。」

それが男の最後の記憶だった。







「で、気付いたら立派な食人鬼になっていた、と。」

目の前には何も残っていなかった。さっきまでスキンヘッドの人が居たんだけどなァ。
着ていた赤い鎧までなくなっているよ。

≪豪快かつ容赦のない食べっぷりでした。≫

そうですか。

一秒間に50ずつ持久力が減る「暗殺術」と「剛力術」。(毎秒100消費)
持久力消費速度が5倍になる「黄金の煌毛」、3倍になる「濃赤の沸血」。(毎秒1500消費)
消費速度が50倍になる「加速」。(毎秒75000消費)
さらにゾンビ状態なので消費速度は2倍。(毎秒150000消費)

ハルマサの持久力は3秒足らずで枯渇したというわけだ。
ついでに物凄い消耗だったらしく、満腹度もかなり減って残り少しだったらしい。
まぁ枯渇してたら今頃死んでいるのは僕のほうだっただろうけど。
ゾンビ補正が「×3」から「÷10」になっちゃうからね。

今はお腹も体も、動ける程度には回復している。


≪そして、おめでとうございます。新たな概念を取得しています。≫

サクラが透き通るような声で言ってくる。
いやだ。聞くの怖い。「照返す頭皮」とかじゃないよね?

サクラが言ったのは、予想したのより良いのか悪いのか。



≪「老いた聴覚」です。≫



「………なんで?」

意味が分からない。なぜ頭が丸い筋肉じいさんを食べて耳が悪くなるの?

≪あくまで良そうですが、彼は難聴気味だったのではないでしょうか。≫

思い当たることが無いでもない。

≪そしてこの概念、恐ろしいことに常時発動型概念です。やはり同属だったからでしょうか。≫
「………どうなるの?」
≪耳が少々遠くなります。「聞き耳」スキルが概念の効果により相殺されました。≫

な、なんということだ――――――――――――!

「概念食い」は諸刃の剣だと感じました。まる。





さらにハルマサが地面をもう3メートルほど堀り、岩盤に行き当たってボリボリと歯応えのある岩を齧っていると、空間把握に人の気配がした。
ハルマサが穴から飛び出すと、それを見ていたらしい人物が声を出す。

「む?」

ざぁざぁと降り続く雨の中、やってきた3人目は褐色の肌の女性だった。
耳には先の二人と同じピアスをつけている。
白くてフワフワした、胸元しか覆っていないベストを着ており、膝まであるロングブーツを履いている。
胸の谷間や、おへそ、太腿は丸出しだった。
純朴な少年ハルマサとしては凝視してしまう格好だ。
武器は背中にある、チェーンソー型の双剣である。

「君もこの上に用事があるのか? 無いのなら退けてもらおう。」

地面がおしなべて水に浸かり、浅いプールのようになった状況で、ショートの髪を額に貼り付けつつ、女性は切れる刀のような雰囲気を出していた。
雨の中にあっても些かも衰えを見せない眼光だった。

「まぁあると言えばある、かな。」
「……ハッキリしないな。」
「ええと……。」

女性はため息を吐いた。

「……もういい。どいてもらおうか。」
「あ、」

とっさに手を掴んで止めようとすると、女性は驚愕に目を開き、バッと跳びすさった。

「な、何を触ろうとしている! おおおお恐ろしい奴だ……! どうせ、貴様も『そんな格好してるんだから誘われてるのかと思った』などと世迷い事を口にするのだろう! 信じられん! 最近の若い奴はどうなっているのだ! 破廉恥だらけかッ!」

鋭い雰囲気をさらに鋭くしつつ女性は怒っているが、言ってることは結構間抜けである。

「あの……」
「言うな! 貴様の言葉など聞きたくない! 何かいらぬことを言う前に、その首切り飛ばしてくれるわッ!」
≪こういう戦闘への導入ですか……神様も凝ってますねぇ。≫

サクラが身も蓋も無いことを言ったのでハルマサも少し冷静になる。

(そうだ。この人はモンスターと一緒。一緒さ…………。っていう風に思えたらどれだけ楽かなぁ。)

なんか若干雰囲気が母さんに似てて、どうもやりにくいって言うかね。


女の人は背中の二本のチェーンソーを手に取ると、手元で操作し、ギュイーン! と作動させる。
刃に仕込んであるチェーンが高速で回転しだし、何故か電光も走っている。
雨の中で使って大丈夫なのかとハルマサがいぶかしんでいると、その武器を持ちつつ、女性は駆け出してきた。
その動きは―――――

「くたばれ!」

(早ァ!?)

疾い。
ギュン、と一瞬で目の前に居た。
とっさに仰け反って避けると、髪の毛が数本切断される。

ギュルゥーン! と眼前を通り過ぎるチェーンソーは結構スリリングだ。
ハルマサは間髪居れず横に跳ぶ。
直後、地面へと二本目のチェーンソーが刺さっていた。
チチチチチチチ! と火花が散る。

「む、避けられるとは……どうやらただの変態ではないか。正直侮っていた。無礼を詫びよう。」
「い、いえそんな。」
「よって次からは本気で行かせてもらう。貴殿も武器があるなら出すが良い!」

ブゥン! とチェーンソーを横に振り、女性は格好よく叫んだ。
騎士道精神という奴だろうか。

「観察眼」によれば、前二人と変わらないレベル18。
なのにあの速さ。恐らくハルマサより上。300万は下るまい。
ということは恐らく速さによって平均が引き上げられている速さ特化型のレベル18。
正直そういうモンスターやらこの人やらは、レベルが一つ上な気がしないでもない。

「じゃあ、僕も本気で行くよ!」

―――――――発現ッ!

ハルマサの体から漏れる熱。
じゅわっ、とハルマサに降りかかる雨が蒸発する。
体を流れる熱い血が、心臓をつついて体を燃やす。

一歩脚を踏み出せば、足からの熱で水溜りが沸騰した。

「なんだ……!?」

驚いている女性に、湯気に包まれるハルマサは苦笑する。

「体を温かくしただけだよ。少し速く動けるんだ。まぁ、長くは続かないけど。」

袋から骨を取り出しつつ、ハルマサは言った。
ハルマサの持久力は完全には回復しておらず、今もぐいぐい減っている。
しかし宣言無しに、攻撃する気は起きなかった。
この女性の生真面目さに当てられたのだろうか、とハルマサは思った。

「ふ……面白い! 私とどちらが速いか気になるところだが……今はただ」

――――純粋に戦うとしよう。

そう言って女性はチェーンソーをダラリと地面に着くくらいまで下げる。
脱力する体の中、眼光だけがなおも鋭い。
避けるように薄く唇を開き、女性は言った。

「行くぞ」
「――――――来いッ!」

ハルマサが叫び終わる前に女性は動いていた。
左右へと高速で動く。足をつき、移動した後で水がはじけ飛ぶ。

ヒュヒュ―ヒュッ――(―――、右ッ!)

それは「回避眼」が発動するのとどちらが先か。
このレベルになると「回避眼」は役に立たない。
役に立つのは、鋭い勘か――――――経験だ。

ハルマサが右手に構えた骨は、斬り上げられたチェーンソーを受け止める。
キキキ、と火花が散る一瞬。
ハルマサは右足を跳ね上げ、それを女性が跳んで避ける。
驚くほど軽い身のこなし。
しかし、手に残る重さはそれなりだ。ハルマサの耐久力で何発耐えられるか。
直撃は食らわない方が良いだろう。


意識を研いで、呼気を吐く。
漏れた熱い息は蒸気となって、豪雨へと溶ける。
敵は強く、しかし戦えている現状に、ハルマサの心は躍っていた。



<つづく>


ステータスは次回。


◇「老いた聴覚」
 長年酷使されて、機能の低下した聴覚。耳に関するスキルを合計レベル20まで無効化する。耳に関するスキルを習得していない場合、聴力が低下する。





[19470] 103・修正
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/23 23:09



<103>


女性は、ウォン、とチェーンソーについた水滴を振り払いつつ、女性は少しだけ頬を緩ませる。

「これもついてくるか。もう、私にはこれ以上はないのだがな………うん? 待てよ―――そうか。」

女性はとんとん、とつま先で地面を踏む。

「うむ。リズムを忘れていたな。大事なことだ。―――行くぞ少年」
「―――――――いつでもどうぞ。」
「では直ぐに。」

ドパァン!

女性の後ろに起こる水の波。
踏み切っただけで地面が抉れ、しかし彼女はバランスを崩さず走りくる。

上からの一撃を受ける。―――――ガギギュギ! 骨が火花を上げる。
まずい、上から抑えられて体が――――――屈んで避けろッ!

ヒュオ!

左から。頭をかする剣先。唸るチェーンソーの回転刃。その音が奇妙にゆっくりと聞こえる。
もっと集中が必要だ。
もっと―――――――もっと!

右から。下から。フェイントを挟んで、左。右。蹴り。一回転して―――体の影から突上げる剣先!
体をねじり右下へ避ける。
そして顔を背けた直後、彼女の踏み落としの足が地面に激突。水を散らす。

軽やかなリズム。
彼女の攻撃にはリズムがあった。
時には大仰に剣を振り、跳び、片足で着地し、蹴りを放つ。
緩やかに回転し、かと思ったら鋭く薙ぐ。

ハルマサはどんどん押されて後ろに下がる。
亡骸の塔はもう直ぐ後ろ。
まずい―――――落ち着けッ!
焦燥がハルマサの判断を鈍らせた。

ドゥン!

右わき腹を抉る回転刃。
抉りこまれる痛みを気合で耐えつつ、ハルマサは一歩踏み出した。
接近。超接近。
息のかかるほどの距離で、ハルマサと女性は見詰め合う。
今さらながら、彼女の瞳はひどく綺麗だ。

「―――とても楽しいな少年。」
「ええ、――――とても。」

それは一瞬であり、しかし奇妙なまでに印象に残る映像だった。

二人は同時に動き出す。
ハルマサは彼女の腹部に拳を当てて、女性は膝を跳ね上げる。

―――――「無空波」ッ!

肘を蹴られてずらされた拳は、女性の腹横をこするだけだった。
しかしそれでも血潮が舞った。

「―――カハッ!」

数メートル飛びのいた女性がごぼりと血を吐く。

拳から伝う振動が、女性の肺腑を揺さぶったのだ。
しかしハルマサもただでは済まない。

一撃必殺の大技は、決まらなければ諸刃の剣。
大幅に持久力が減り、左の拳はもうダメだ。骨が飛び出てグチャグチャだ。

「恐ろしい技だ。かなり効いた。」

ゆらり、と女性が脱力する。

「もうあまり長くは動けない。お互い全力で――――――出し惜しみせずに行こう。」
「そうですね。」

では、尋常に勝負といこうか。そう女性は言うと、皮肉げに口を歪ませる。
そしておもむろに、ハルマサへとチェーンソーを投げてきた。

「!?」

とっさに弾き飛ばせば女性の姿はすでに無く―――――

(いや、下!)

地面を這いずるような動きで、女性の剣はハルマサの足を切りつける。
反応できなければ斬り飛ばされていたが――――ついてさえ居れば踏み込めよう。

傷ついた足で女性を蹴る。蹴りを空いている腕で受けた女性は、その勢いに持ち上げられる。
筋力ならこちらが上だ。

蹴り足をおろし、だん、と踏み込んだ左足から、「沸血」が噴出し、地面へ落ちる。―――ジュッ!

「――――ハッ!」

女性が体を捻りつつ、剣を斜めに叩き込んでくる。
もう――――逃げない。

ゴギュキキキキキッ!

左鎖骨を削り砕き、肺まで抉る剣を受けつつ、ハルマサは両手を広げ――――――彼女を抱きしめた。
骨が軋むほど情熱的に。

「こいつは照れるな。」
「必死ですから。」

―――――「極・雷弾」「雷操作」ッ!


―――――――バリバリバリバリッ!

両者を包む極大の雷光の後、立っていたのはハルマサだった。
ハルマサは左肩に食い込む剣を抜き取り、血を払う。

「フゥ……。」

グゥウ、と腹がなる。
体の酷使の後にいつも来る、酷い飢餓感がハルマサを襲う。
血が足りてない。

「何か食べなきゃ……。」

フラリと頭が揺れる。
直ぐ近くに倒れる人をハルマサは見る。そして「何考えてんだか」と呟き頭を振った。






女性が眼を覚ましたのはあれから二人のハンターを倒した時だった。
一人は片手剣使いで、正面から全力で盾ごと殴ったら飛んだ。
もう一人は槍使いで、正面から全力で盾ごと殴ったら散った。
肉体と装備は埋めた。
ピアスを「観察」したら≪Lv1290必要です≫って言われたので、何かに使えると思い、それは2セット手元に残してある。

土で作った屋根の下で雨宿りしていると、女性はうめき声を上げ、眼を開く。

「む……生きているのか?」

内臓が痛むのだろう、顔を顰めて起き上がる彼女に、ハルマサは苦笑する。

「殺す理由がないので。」

まぁ嘘だ。
殺したら多分レベルが上がっていただろう。
でも殺す気にはなれなかったし、今もなれない。

「……どのくらい眠っていた?」
「二時間くらいですかね。」

倒した人数からしてそのくらい。

「そうか。この塔が崩れていないということは、まだ、誰もこの試練をクリアできていないのだな。」

亡骸の塔を見上げつつ、彼女は言った。

「………試練?」
「む、少年は知らないのか? まぁそうか。ダンジョン攻略者の中で我々を知るものは少ないしな。」

まさか。

「ダンジョンに挑んでいる人たちなの?」
「そうだ。……いや、正確にはそうだった。我々の半数が3階に挑み帰らなかった時から、クリアは諦められている。その折に最高神からダンジョンのシステムとして働いてくれと連絡が来てな。」

詳しいことは良いとして、僕はあのスキンヘッドの人を、ダンジョンのシステムではない人を食べてしまったことになる。
なんて言うこと。今さら吐いても遅いだろう。全部吸収されてるだろうし。
そもそも吐く気持ちに全くならない。

「報酬が良く、美味しいものも食べられるからと皆乗り気で請負い、これまでは問題が無かったのだが……今回はどうやら少年に突破されてしまいそうだな。」

精鋭の6人だったのだが、と彼女は複雑そうに呟いた。

彼女を除き、皆相手にもならず殺してしまっているハルマサはひたすら肩身が狭い。
もう、この女性に苦戦することも無いだろう。
レベルが上がっているし。
ていうか殺して死体が消えなかった時点で疑問に思うべきだった……。

「このピアスをしていれば好きな時にココに来れて、しかも魔物に襲われないんだ。」

彼女は耳にしているピアスを弾く。

「少年も一つ確保しておいたほうが良い。攻略に役立つかも知れんからな。どうやら下の階層では効かなかったようだが。」

この人は、仲間を殺した僕に何も思わないのだろうか。
凄く普通に話しかけてくる。

「我らは傭兵だし、任務で死ぬことはままある。あまり君が気にすることではない。襲い掛かられて、反撃したようなものだ。」

うーん。よく分からない。

ハルマサが悩んでいると、女性はずい、と身を寄せてくる。

「それよりも私は君に興味がある。正直力をつけてから負けたのは今日が初めてでな。負けたのに死んでいないし、これはもう君に一生仕えるしか……」

あれ、おかしな展開に。
桃色使ってないよね? ブレスレット確認! 装着済みです!
………なんで!?

「ふふ、まぁ突然言われても困るか。まぁ私も無理強いはしたくない。また会ったらその時は……」

言いかけて女性はハルマサへ顔を寄せ…………近い近い近い!
だが、彼女は途中で顔を止め、困ったように呟いた。

「むぅ、やり方がわからん。少年は……というか君の名前は何だ? 私はククリ・ナヤだ。好きに呼んでくれていい。」
「あ、佐藤、ハルマサです。ククリさん。」
「ふむ。ではハルマサ。君と接吻がしたいのだが。」
「あ、うん、そうですか。ところで顔近くないですか?」

めっちゃ近い。「沸血」状態かって言うくらい体が熱い! 何だこれは! スタンド攻撃的なサムシング!?

「離れていて出来るとは思えん。仕方ない、ハルマサの頭を固定して……」
「およーぉ! ネエさんじゃねぇッすか! そんな頭の悪そうな子を追い詰めて何やってるんすか? 早くカニ持って返って食べましょうよ! 雨降りまくってるじゃないッすか。」

元気な声が乱入してきて、ククリはため息を吐き、ハルマサから離れていった。
ふぅ、とハルマサも安堵する。
ていうかさっき岩食ったばっかりだし、初めてが土の味って正直どうなん? って思うよね。
いや、したくなかったといえば……もちろんしたかったけどね!
どうせ「チャンス×」の男だよ!

「あの子なんで突然地面を叩いているんすか?」
「さぁな……ふふ、ハルマサ、悔しいのは私も同じだ。まぁ機会があればまた会おう。それではな。」
「ええ!? ネエさん帰るんすか!? ちょ、カニは!?」
「アティ、私は彼に敗れたよ。完敗だ。お前も挑んでみるか?」
「ど、どうしたらいいッすかねぇ。ちょっとやってみたいなァ……って。」
「好きにすれば言いと思うが。」

アティと呼ばれた少女は、緑がかった黒髪が綺麗な元気印の少女である。
武器は弓。
どうやら戦うことにしたらしい。遠距離武器なのにこんな近くに居る時点で色々間違っていると思うが。

「じゃ、じゃあ行くッすよ! トリャ――――――ッ!」

アティは一息で弓を構え、5本の矢をつがえ、打ち出してくる。
やはり手錬なのだろう。撃つと同時にさらに矢を取り出しつつ距離をとっている。

ハルマサは、どうしようかと悩んで……取りあえず風を吹かせた。

ビョォオオオオオオ!

上から下へのダウンストリーム。
矢は全て地面へと叩きつけられ、アティが驚いている。

「ちょ、魔法使いなんすか!? ウチにスカウトしたいッす!」
「魔法も使えたのか? そういえば最後のあれ……」
「ちょ、ネエさん!? ま、まあいいッす! 魔法使いには接近戦と相場が―――――へ?」

そこまで喋った時、アティは目の前に居るハルマサに気付いた。

「―――――――アティ。私は接近戦で負けたのだが。」
「それを早く言ってほしかッたブゥ!」

ハルマサがチョップをかまして、アティは気絶した。どうやら耐久力はそれほど高くないらしい。

ククリが苦笑しつつ、「またな」と言って、アティを担意で転移していった。




喜べ! 王が無事生まれるぞ!
体を支える力もないほど憔悴したプラチナザザミは、白い卵を優しく撫でる。
すると、その硬い鋏が一瞬にして萎み、中身が卵の中に吸い込まれていく。
やがて残った甲殻も、卵の中へと吸い込まれる。

「ギィ……」

相棒の、プラチナギザミはもう死んでいた。ザザミの、つまりは王の栄養となったのだ。

足元の亡骸がドンドンと、王の卵に吸い込まれていく。
徐々に下へと降りていく光景の中、プラチナギザミは満足そうに卵の上へと倒れこむ。
最後のカニが消え、そしてこの地に王が生誕した。





どうやらこのクエストも終わるようだ、とハルマサは思った。
目の前のビックリ箱がカクカクと喋る。

『お疲れ様でシタ! クエスト「プラチナ甲殻種の護衛」及び、第二層クリア、おめでとうございマス!』
「へ? いや、まだボス倒してないよ?」
『それはいずれ分かるでショウ! それでは、報酬アイテムの贈呈デス! ダララララララ!』

ダラララと言いつつ口をカクカクさせている人形の横に、宝箱が飛び出してくる。
また小さめだった。
パカッと開くと、入っていたのは赤い布だった。

『こ、これはァ―――――! あの伝説の「おとこぎふんどし」ぃいいいッ! 毎年カウント不可能な数の漢たちがこれを夢見てソルグラントへ集うと言われる漢祭りでの、MVPへの贈呈品ッ! レア中のレアデス! おめでとうございマス!』

「そんなに凄いの?」

『売れば物凄い価格が付き、物凄い数の中傷があなたを襲うことでショウ!』

≪対象の情報が送られてきました。
【おとこぎふんどし】:あなたの体をほぼ全ての状態異常から守る、脅威の赤フンドシ。漢の証。これ以外に衣服を着用している場合、効果は消滅する。≫

ふんどし一丁で居ろって事!? 嫌がらせじゃない!?


『それでは、これからもダンジョンをお楽しみくだサイ!』

どろん、とビックリ箱が消えると同時に、後ろから、ギ、と言う音が聞こえた。
百年くらい放っておかれたつり橋のような音だった。

気付けば雨は止んでおり、辺りを水浸しにしていた雨水が後ろへと流れているようだ。
その中で、視界を埋める巨大な柱があった。青い柱だ。

おかしいな、そこにはカニの亡骸の塔があったはずなんだけど。プラチナ甲殻種どうなったの?

ギ、とその柱は軋み―――――浮いた。

(いや、そうじゃない! これってまさか……!)

ハルマサは空を見上げる。
すると柱はズーッと上まで続いており、やがてちょっと折れ曲がったりしつつ、上の何かに繋がっていた。
そう、上の方には逆行でよく見えないが大きな何かがあったのだ。
その大きな何かから、6本の柱―――いやこれは節足、つまり脚だ――――が降りており、さらに二本の細長い鋏が折りたたまれていた。
その鋏が地面に向かって伸ばされ、ズドン、と地殻を抉る。

長い鋏が60メートルほどズズズ、と地面に入ったときだろうか。
鋏はそこから、轟音とともに巨大な骨を引き抜いた。
あまりに巨大すぎてどれくらい巨大であるか認識できないが、その骨は竜の頭蓋骨のようだ。

ハルマサの前に居る巨大な何かはその大きな大きな頭蓋骨を背中に被り(この時また轟音がし、さらに頭蓋骨から堕ちてきた土で生き埋めになりそうになった)、ギギ、ゴゴ、と轟音をさせつつ、ゆっくりと旋回しだした。

もしかしたら、これがプラチナ甲殻種の生み出したものだろうか。
これってあれだ。シェンガオレンとか砦蟹とか呼ばれる奴だ。多分。
その超巨大生物はずしん、ずしんと重い体重を6本の脚で分散しつつ、大地を揺らしながらクルリと回ろうとしている。

こんな近くにいたら踏み潰されてしまう、とハルマサは思い、離脱しようと地を蹴るが、その前に長くて細くて巨大な鋏がハルマサを捕まえ、ひょい、と背中の上に乗せてしまった。
いや、「ひょい」なんてものじゃなく、「ひょ――――……い」位の間隔はあったが、恐らくとても気を使われたのだろう。背中を挟み込む巨大な鋏はソフトタッチだった。

(なんだろう。死ぬのかな。)

こっから地面に向けて叩きつけられるとか。

ハルマサが半ば覚悟を決めていると、サクラが喋りました。

≪マスター。この魔物の宿部位に高密度の魔力が、莫大な量収束しています。恐らく暴発すれば、細胞レベルで塵になります。それが今――――――発射されました。≫

世界が崩壊するんじゃないかって言う轟音とともに発射された魔力砲は、着弾と同時に世界を白一色に変えた。

カッ―――――――!

シェンガオレンが、宿部位、すなわち竜の頭蓋を向けたのは、火山だった。
宿から発射された白色の光は火山一体を襲い―――――

「た、大陸の形が変わってる……。」

山を消し飛ばしたのだった。きのこ雲が巻き上がり、それのはれた先には円形にくぼんだ大陸が残るだけである。

シェンガオレンのレベルは26相当。
そのくらいになれば、大陸を削れるらしい。
戦慄するハルマサだった。

そして頭上からキラキラと指輪が降ってくる。

(なるほど。このクエストをクリアすれば、自動的に第二層はクリアになるのか。)

納得したようなしなかったようなハルマサは、取りあえず指輪を手に取る。
その時彼の乗っているモンスターが動き始めた。ギギ、ゴゴゴ、と軋みを上げつつ、シェンガオレンは海へと入る。
ハルマサは慌てて飛び降りた。

「そうか、君にこの大陸は狭すぎるね。」

多分、何処でも狭いと思うけど。

海に向かっていくハルマサの周囲では、次々と、新たな生を受けたモンスターたちが生まれているのだった。





<つづく>


ククリさんとの戦闘書くのは楽しかった。
その楽しさが伝われば良いなぁ。

人間食ったので少し人間っぽい概念を取得しました。



レベル: 17 → 18   ……Lvup Bonus327680
満腹度: 385803 → 799319
耐久力: 554304 → 920591
持久力: 384701 → 798217
魔力 : 592536 → 1075206
筋力 : 613642 → 1186530  ……☆355万
敏捷 : 645499 → 1127386  ……☆338万  ……★507万
器用さ: 673731 → 1279876
精神力: 393824 → 76185

経験値: 657908 → 1477108  ……残り:1144330
金貨 : 582枚


○スキル
拳闘術Lv15 : 85740 → 189230  ……Level up!
心眼Lv15  : 81123 → 178202  ……Level up!
雷操作Lv14 : 39840 → 130293  ……Level up!
魔力放出Lv15: 177729 → 267322
棒術Lv15  : 80384 → 169932  ……Level up!
空間把握Lv15: 90075 → 167492  ……Level up!
観察眼Lv14 : 77849 → 149382  ……Level up!
概念食いLv15: 134784 → 200984  ……Level up!
魔力圧縮Lv15: 178493 → 243890  ……Level up!
突撃術Lv15 : 103492 → 168293  ……Level up!
水操作Lv13 : 13338 → 77281  ……Level up!
風操作Lv15 : 176629 → 239211
炎操作Lv13 : 16704 → 78190  ……Level up!
撹乱術Lv15 : 123395 → 182938  ……Level up!
PテイスターLv15: 210353 → 268473
的中術Lv14 : 30992 → 87309  ……Level up!
撤退術Lv14 : 76672 → 123984  ……Level up!
戦術思考Lv14: 118392 → 158273
暗殺術Lv13 : 17421 → 40993  ……Level up!
剛力術Lv14 : 110453 → 130223







[19470] 104(第2部終了)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9dbe4c8e
Date: 2010/07/28 18:11

<104>



新しく生まれたカニには、ハルマサと仲良くする気はサラサラ無いらしい。
ガミザミが、ハルマサをガッツンガッツン殴ってきたので、ハルマサはそう思った。

とは言え、耐久力が90万を超えているのに、レベル5相当のモンスターに攻撃されて痛いはずも無く、ハルマサはちょっとぼけーとしていた。

≪……スター。マスター。帰らないのですか?≫
「あ。うん。そうだね。」

あまりにあっけない終わり方をしたので、ボスは一体どんなモンスターだったのかとか、気になるところがたくさん残った。
だが、世の中のことを全て知れるでもないし、こういうものかな、とハルマサは思った。





【ダンジョン入り口】


ハルマサが戻ってきたことをピキーン! と察知した閻魔は、すぐさま飛んできた。
書類仕事から離れたくて仕方ないのだ。

そういう意味では、何度も死につつ、ハイペースで第二層までクリアしてしまったこの少年は、かなり閻魔の助けとなっている。

細身のままだが、筋肉の構成は随分と変化したようだ。力強さが段違いだ。あと何故か半裸だ。
そのむき出しの肩をパンパンと閻魔は叩く。

「よくやったぞハルマサ! 私は嬉しい!」
「そ、そうですか?」

照れている様子を見て、何か違うな、と閻魔は思った。

何が違うのだろう?
……眼か。
そう、瞳の光が違う。

こんなに擦り切れたような瞳をしていたか? もっと前向きな光を宿していたような気がしたのだが。

「何かあったのか?」
「まぁ、色々と。あ、話をするんでしたね。」
「………あとでいい。取りあえず執務室に行く。そこで、お前は少し休め。」

閻魔は手を振るい光を出した。






【執務室】


「カツ丼食うか?」
「あ、すいません。」

なんか閻魔様が凄く優しい。
良いことでもあったのだろうか。

でもお腹減ったな。
カツ丼はきっと美味しくないだろうし……。

「そうだ、2号さん呼んでいただけませんか?」
「む? 別に構わんが。」

閻魔様は、ハルマサの前においてある丼の二倍はあるような器から、もっきゅもっきゅとカツ丼を頬張っていたが、それを飲み下して執務机の伝声管の蓋を開く。

「にごぉ――――――! 直ぐ来い!」

「はいッス。」

間髪入れずに、執務室のドアが開いて、かなり鬱陶しい感じの髪形をした2号が入ってきた。

「ハルマサ君お疲れ様ッス。この剣直して……あれ? ハルマサ君ゾンビになってません?」

2号は驚いたようだった。

「はい、実はそうでして。折角閻魔様にいただいたこのご飯も食べられそうに無いんです。」
「む? そうなのか?」
「あ、ちょっと待って欲しいッス。確かこの辺に解除薬が……」

2号がゴソゴソと懐をあさると、薄汚い小瓶が出てきた。

「はい、ぐいっとやっちゃってください。強くはなるけど、ずっとそれじゃあキツイと思うッス。」
「あ、助かります。」
「いやぁ、あれ条件きついのに良く取得できたッスねぇ。まぁその分強く設定できたんスけど。」

正直、この飢餓感は我慢するのがイヤになるくらいキツイ。
クスリを飲むと、体の中で、何かが変わった。
目の前のカツ丼から凄く良い匂いがするし、閻魔様の甘い芳香が鼻をくすぐる。
人間最高だと、ハルマサは思った。

そして……

「トイレありません?」
「む? お前の排泄機能はもう働いていないはずだが?」
「いえ、ちょっと……」
「ふむ。2号、連れて行ってやれ。」
「………ぅいッス。」

そして軽く吐いた。
吐き気は直ぐにおさまったが、モヤモヤとした黒い煤が肺の奥に溜まっているような、そんな気分は全く晴れなかった。

「ゾンビの時はひたすら倫理観が緩くなるッスから、取り返しのつかないことをやってしまう事も多々あるッス。でも、その責任は全てオレッちにあるんスよ。ハルマサ君が気にすることはないッス。」

2号さんは何となく分かってくれているようだった。
それだけで大分救われるのだと、ハルマサは感じた。




「ほぅ、金貨は全部で712枚か。2号、足りるか?」
「借金を返すには十分過ぎるッスね。寧ろ半分くらいでいけそうッス。ハルマサ君、何か作って欲しいものあるッスか?」

欲しいものねぇ……あッ!

「モンスターボール欲しいです。」
「……まさかポケモンスキルまでゲットしてるんスか?」
「え、ええ。まぁ。」
「ハルマサ君は渋いところを突いてくるッスねぇ………。」

ポケモンは渋いらしい。

「まぁ問題ないッス。材料調達に時間かかるんで、一日くらいかかるッス。借金返済の350枚と、ボール用の金貨100枚貰っていくッスよ。それじゃ、また後で。」

パタン。
2号は執務室を出て行った。

あれ、桃色対策のアイテムは?

そう思っていると、閻魔様がシュッと後頭部にスプレーを吹きかけてきた。

「……? どうかしました?」
「………本当に全く態度が変わらないのだな……。」
「???」

閻魔様はエフン、と空咳をする。

「いや、そうではなくて……これが桃色の縛りを解くスプレーだ。名前は特に無い。」

閻魔様は小瓶を渡してきた。
頭をプッシュすると液が吹き出るようだ。
ラベルにリンゴ味、と書いてあるのはツッコミ待ちだろうか。

「それとだな。現世にお前を送る前に言っておく事がある。」
「はい。」

閻魔様がたたずまいを直したのでハルマサも直す。

「お前が現世で善行を積む必要はなくなった。」
「……は?」
「先日評議会でそう決まってな。取りあえず、人間にかけた桃色を解除すれば良いそうだ。」

なんでまた。

「何時もは来ない最高神が評議会にふらっと現れてな。『今度のダンジョンがかなり難易度高いから、あれクリアしたら許してあげる』と言って全ての議論は終了した。ハルマサを地獄に叩き落すと騒いでいた奴が最高神に心酔しているものだから、もう、鶴の一声という奴だ。」

なるほど……。

「という訳で、現世では純粋に休んで来い。」
「はい。」
「そして帰って来たら私にダンジョンの話を聞かせてくれ。」
「はい!」

閻魔様は、楽しみにしているぞ、と唇を吊り上げて、おもむろにハルマサへと指を伸ばし、前髪を攫う。

「あの……?」
「……なんでもない。取りあえず送るぞ。またな。」
「……?」

閻魔様の声を聞きつつ、ハルマサの意識は飛んだ。




<つづけー!>




これで第二部終わりです。次は現世へ。いい事しなきゃなんて考えてたら作者の頭が破裂しそうだったのでカット。さっさと第三層にいきたいのじゃ!


明日更新するかは、本当に私の気力次第ですね。




感想たくさんありがとうございます。
なんか最近PVの増え方がおかしいし……誰かF5連打したりしません?


>神威が出たのに何故虎砲が出ないしwww
無空波と同じシチュになっちゃうので難しいかと。

>レベル18とかやべえ大ピンチと思ったけど全然そんなことなかったw
ステータス的には十分レベル18ですからね。敏捷はレベル19~20位だし。

>何度かのデスペナのせいでハルマサくんは本来のLVよか弱体化していると思うのですが、それにしてはモンスターとのLV差にみあった強さになってるという気がします。もしかして死ぬ度に敵LVはハルマサのパラメータに対応したLVに割り振り直されるのでしょうか?
特にそういうことはないです。最初にハルマサ君を苛めるつもり満々で大量のモンスターとそのレベルを設定しました。
あとはハルマサ君が勝手に踊ってくれた結果です。ゾンビにならなければもう少し第二層は続いていたでしょうね。

>ハルマサ>>>>>>二層他プレイヤーくらいの実力差がありそうなんだけど実際どうなの?
からめ手には少し弱いですが、まぁそれくらいはありそうです。ゾンビ状態がチートすぎるんですよね。

>2階クリアしたらハルマサ1度1階にいって食い倒れの旅でもするかな?
下手に弱いもの食べたら地雷が爆発するようにしてやったので、食い倒れの旅は予定にないですね。

>崩拳と通背拳の間にいろいろ入れればいいコンボができそうだ
考えましたが、結構むずい。どうしても一歩のコンボが頭に浮かぶ……

>漫画「影技―シャドウスキル―」の主人公の所属する傭兵国家クルダの技で自己暗示してリミッター外して尚且つ、相手にも暗示掛けて弱くすると言う裏設定がある技……特技かな?です
ほほぉ……そのうち読んでみたいですね。リミッターはずしっていう反動がある技とか好きです。

>ポケモン食べれば特性がやばいですよねー。火炎無効とかコンプリートしたら属性攻撃状態異常全無効の化け物がwwww
夢がありますよね。だが、その幻想をうt(ry

>子が生まれるならその子(と金ちゃん)は擬人化すると信じるよ!
擬人化したほうがよかったのかな。巨人族になっちゃうけど。

>産卵が最終イベントとかいいね
完全に思い付きですけどね。MMOってぜんぜんやったことないんですけど、産卵イベントとかそれを邪魔するイベントとかないんですか?

>カロンちゃんと閻魔様はまだかのう……そろそろハルマサハーレムが見(ボソ
ハーレムは……書くのが難しい。どうネタにするかですよね。振り回される主人公は個人的にあまり好きではないですし。

>だから正しいのはテツザンコウ
なるほど。彼はかっこよすぎですよね。惚れる!

>桁が大きくなってきたんでカンマか空白入れるか端数切り捨て表示するかしないと。
ディスガイア風に、「16万」とかにするかもです。まぁシェンガオレンとか億単位ですからね。

>レベルがカンストするのは100くらいかな?その頃にはステータスは億を超えているだろうなぁ
レベル100は、とても描写出来る気がしない。3階まではまぁこのままインフレが続くのですが。

>少なくとも『恋人は不定形生物』よりは随分まともだろうし。
沙耶の唄を思い出した。
それはそれでよくない?

>プライマルアーマー
コジマ粒子はとても危ないとおばあちゃんが言っていました。

>金ちゃんレベルアップでウロコ復活
してますね。体も大きくなっています。そしてフィールドリセットでも消えてません。足りないものだけ補充するのが2層のリセットなので。

>通背拳は拳法の流派名であって技名ではないのサ(鉄拳チンミだと必殺技()笑だけど)
なるほど! 中国武術はいろいろあって難しいです。拳児読んだんですけどほとんど忘れちゃいましたし。参考資料に何か買おうかな。

>お、レベルアップしたということはもう加速も使えるステータスになったのか。
早速使ってへばりました。強いんだから代償もなくっちゃね。

>実は二層のラスボスより、このクエストの方が難しいんじゃね?とか思ったりする。
そうですね。難易度は同じくらいです。パーティで挑めばそれほどでもないって意味で。
経験値はハルマサ内のシステムなので、それがどう判断するかですね。

>ゾンビ化して食べ物の好みが反転してるはずなのに血がまずいって、普段の彼は血を飲んでも特にまずいとは感じないタイプなんだろうか?
作者はあまり感じませんね。それはさておき、きっとすげえ美味いって感じても、彼はまずいと言ったでしょう。その辺の描写が足りませんけど。

>偶然で龍破を発動するのは無理そうな上、風操作のほうが高威力で隙ができにくいんじゃないかなぁ。
実際そうでしょうね。そういうシチュが発生したら躊躇なく使わせますけど。

>この更新速度できちんと過去のネタを拾えるってすごいです 数字が細かいから適当に後付けできないのに、やってくれるぜ
実はそんなにすごくもないです。レベル何ぼでどれくらいのステータスになるかはわかるので、レベル15、6で使えるように設定していただけなんです。

>スカーレット・ニードル
セイントの技は規格外すぎますよね。あれって毒なんですかね? もはや呪いの領域では。

>サクラたん擬人化してパーティに入れてくれたらちゅっちゅちゅっちゅ 閻魔?知るか
移り気過ぎるww
.hackの移り気な夢見人っていう歌詞を思い出した。あれなんて歌だっけ。




[19470] 105
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:10


<105>


少年、夜川丈一は暗い部屋に一人、歓喜に震えていた。
血液で描いた魔法陣から、黒い靄があふれ出したのだ。

「ふふ、やったぞ! ハハハハハハッ!」

たった一冊の本から、必死に解読し、試行錯誤を繰り返し、終に成功した。
この超短期間で儀式を成功させた彼を、腐肉使いたちが知ればこぞって弟子にとろうとするだろう。
彼の精神の有り様もまた、暗き光を崇める者たちにとって見れば、歓迎すべきものである。

魔方陣から、ふわり、と闇の色をしたローブを纏う、小さな影が浮上する。
黒光りする鎌を持った、骸骨である。
採魂の鎌と呼ばれるおぞましい凶器を持った影は、奇妙に美しい声で、喋りだした。
声は夜川の脳髄に直接響く。

【……用はなんじゃ。我は忙しい。さっさと言え。】

そのおぞましい姿にガリガリと精神が磨り減るのを感じつつ、なんでこの死神はとても不機嫌そうなのだろう、と夜川は思った。






ハルマサが眼を覚ますと、自分の部屋だった。
部屋着のジャージを着ており、何故か手には「収納袋」。重さからして金貨も入っている。あ、中にスプレーが入っているからそのためかな。
閻魔様からのメモは今回は無いけど、これを使って桃色を解除してきなさいと言われているようだ。。
ステータスはまたもや制限がかかっているらしい。

レベル: 18
満腹度: 79万
耐久力: 92万
持久力: 79万
魔力 : 30
筋力 : 30
敏捷 : 112万
器用さ: 127万
精神力: 76万

こんな感じだ。


「んー……と。結構時間かかっちゃったね。」

確認すれば、今日は金曜日らしい。
前に戻ってきた時から9日間ほど経過しているようだった。

第一層に比べると多くの時間がかかった。
難易度の違いかも、とハルマサは思う。
第一層をクリアした時はステータスが1万あったかどうか。
それが今では、一部は100万を越える程のステータスとなってしまった。そしてその上にさらにチートが組み合わされなければ、クリアは出来なかっただろう。

一層と二層で難易度の差がありすぎる。
普通のRPGで考えれば、1階でスライム殺しまくってレベル上げて意気揚々と2階に行ったらラスボスが居た感じだろうか。居たのは裏ボスかもしれない。
それをクリアしてしまう2号のシステムの凄さが良く分かる。

まぁそれはさて置き、時間は午前10時。
学校が始まっている時間だ。
母さんの部屋から、人の気配がする。
今は眠っているのかな。

母さんのお陰で学校に籍は残っているはず。
取りあえず学校には行くけど……その前になんか食べよう。

小腹が空いたので、冷蔵庫を漁る。
食材がとても充実していることに驚いた。
母さんは何時の間に大食らいになったのか。
自棄食いしてるんじゃなければ良いけど。

そして台所の上においてある布の包みが目に入った。触るとほんのり温かい。
四角く、匂いでお弁当だと知れた。

メモが挟んである。

『おかえり少年!』

そう一言書いて在った。
メモには裏に続きがあって、これを持って学校に行けということだった。
恐らく毎日作ってくれていたのではないだろうか。
ハルマサは少し泣きそうになった。





ハルマサは駅まで歩くが、定期が切れていた事に気付き、走って学校に行こうとする。
そこで「ママチャリDX」を思い出した。
「収納袋」の中からママチャリを取り出し、ハルマサは学校へと向かうのだった。チリーン!



教室に着いたハルマサは、休み時間だったのでしれっと混ざることにした。

「僕の席そのままなんだね。」
「あ、佐藤君おはよう。」
「うん。おはようタケミちゃん。」

タケミちゃんである。小動物的な雰囲気は変わっていない。そばに居るだけで癒されるような雰囲気もそのままだね。

「あのね、その席は森川さんが絶対動かしちゃダメって…………ほ、ほぁああああああああああああああッ!」
「ちょ……タケミちゃん?」

タケミちゃん。ほぁああああ、って女の子の上げる声じゃないと思うんだ。

「ご、剛川さん! あ、あれ! あいつ来てますよ!?」
「マジかよ……交通事故で半死半生だって……」
「ハルマサ君!?」
「ご主人様……!」

しれっと混ざる作戦は最初から失敗のようだった。
すぐにザワザワし始めた。ご主人様って誰が言ったのか凄い気になる。
タケミちゃんは目を見開いて僕を震える指で指差している。

「ほ、ほほほ、本物ぉ?」
「本物だよ。落ち着いてタケミちゃん。」

どうどう、と震える手を抑えてあげると、落ち着いてくれた。

「ね?」
「あ……う、うん。」


で、さっき聞こえたことから大体の事情は分かった。

「あのね……佐藤君ケガしたって聞いてね……良かった……。」

母さん。半死半生の事故は少し無理があったんじゃないかな?
タケミちゃんに腕をつかまれて、動けなくなったハルマサはぼんやりそんなことを思うのだった。



「あの、もう怪我はよろしいのですか?」
「……。」

ドリルさんの質問にハルマサは口を噤んでしまった。
なんて答えればいいのだろう。また直ぐに居なくなっちゃうし……。

「まぁ大分治ってきたし、様子見かな?」

ということにした。

「む、無理しちゃダメだよ?」
「そういうあなたが何故ハルマサ君の腕にひっ付いているの!? ミドリも! 秋まで!」
「ご主人様の匂い……」
「おいおい、ミドリ、一気に嗅ぐと意識が飛んじゃうぜ? ここは袋に入れて何度も楽しむんだよ。」
「秋ちゃん頭良い!」
「あの……離れてほしいなぁ……って思ったり…」

約3人の女の子に引っ付かれて、僕は疲れていた。
ドリルさんも色々言いつつ、周りを衛星のようにクルクル回っている。
2号さん。確かに桃色は凄いけど、とてもシンドイと思うんだ。
素人には向いてない職業だよね。

ていうか申し訳ない。
という訳で、桃色解除薬~! 桃色の説明してからにするか迷ったけど、今説明したら全力で断られそうだし。

「あの、君たちにちょっと試して欲しい香水があるんだけど。」
「?」

女子たちに手首を出してもらい、シュッ(×4)とね!

「……? 何も匂いしないよ?」

と言ったのはタケミちゃんで、その他の三人は大きく反応した。

「………!? なんであたしは佐藤の息なんかを袋に詰めているんだ!?」
「わ、私は今まで……?」
「……」

ちなみに一番凄い反応は、無言でorzしている女の子である。
さっきまでご主人様とか言ってた子だ。
3人は複雑な表情をして、そそくさと離れていった。まぁ普通は戸惑うよねぇ。

(タケミちゃんはなんで何も変わらないんだろう。)
「佐藤君、やっぱり匂いしないよ?」

さっきからしきりに手首の匂いを嗅いでいるタケミちゃんは、態度が変わっているようには見えないのだった。
スプレーが効いてないのだろうか。

「佐藤君。もっとつけて見て良い?」
「あ、うん。どうぞ。」

シュッ! とかけたけどやっぱり態度は変わらなかった。
タケミちゃんが向けてくれていた優しさは、桃色のお陰じゃないのだろうか。
それは嬉しいな。

「なんで笑ってるの?」
「タケミちゃんが可愛いなって。」
「も、もう。またからかって……。」

時間はそろそろ四時間目が始まる頃である。
今日こそはお弁当を食べるんだ!
そう思っていたハルマサに最強の刺客が訪れようとは、誰も予想していなかった。




ちなみに四時間目は英語だった。

「Hellow everyone!」
「はい先生……ッ!」

隣のタケミちゃんが憧れの視線を英語の先生に向けている。
どうしてだろう。胸が大きいから? いや、タケミちゃんもそれなりだし……

「? 何か服についてるの?」
「ぽ、ポケットが。」
「そうだろうけど……」
「Shut up!」

先生が叫んだのでなんとか誤魔化せた。危ねぇ!

ちなみにタケミちゃんは席替えを挟んでいるはずなのに位置が変わっていない。
そして周りがドリルさんとその取り巻き二人に固められていた。
きっとドリルさんが強権を発動したのだろう。
まさかこんなに居辛い空間になるとは。

左隣はドリルさんだったが、彼女は座る時に、「か、勘違いしないでよね!」と言った。なんか可愛いと思ったのは秘密である。

スキル「言語理解」とか出れば良いのに、そんなことは全く起こらず、タケミちゃんの見せてくれた教科書を見て唸っている間に授業は終わっていた。
タケミちゃんがじりじりとにじり寄ってきて、集中できなかったことも大きいかもしれない。

ずっと黙っていたサクラが、≪マスター! 危険です! この女……隠れ猛禽です!≫と叫んでいたのがとても気になった。
何それ。




<つづく>



「隠れ猛禽」は「臨死!江古田ちゃん」に出てくる女の子の分類……だったっけ?(うろ覚え)
タケミちゃんとはタイプが違うけど。






[19470] 106
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:11


<106>



「佐藤! 一緒にメシ食わねぇか!?」

昼休みになると剛川君が声をかけてきた。
何時からそんな「気さくな男友達」ポジションになったのか知らないが、悪い気はしない。
でも、僕には隣でチラチラ見てくる人が居るのだ。

「ゴメン、先約があるんだ。」
「む、そうか? まぁ……いいけどよ。」

そう言うと、大きな体を萎ませて剛川君は去っていった。

「ご、剛川さん! ドンマイです!」
「細川か……。お前の顔見ながら食うのは飽きたんだがなァ……。まぁ良い。メシ行くぞ。」
「普通に酷いっす!」

彼らは特殊な関係だなァ……。
ハルマサは、暗い顔をしてため息をついている少女、タケミに声をかける。

「じゃあ行こうかタケミちゃん。」
「へ!? は、はひぃ!」

はひぃて。

「……どうかしたの? ……あ、用事があった?」

そういえば彼女の事情を聞いていない。
タケミちゃんだって用事はあるだろう。

「な、ないけど……先約があるんじゃないの?」
「あぁ……。」

なるほど。
ハルマサは納得し、鞄からお弁当を取り出した。

「この前約束したじゃない。一緒に食べようって。」
「う、うん!」

どうやら一緒に食べてくれるようだ。





そして、定番の屋上にやって来た。
しかし、そこで刺客は待っていた。

「待っていたぞ……貴様が帰ってくるのをなッ!」
【………!?】

夜川くんでした。
眼が落ち窪み、頬はこけ、目が不気味に光っている。
彼の横には明らかに人じゃ無い物がフヨフヨと浮いていた。
ツクン、とハルマサの左手の甲が疼く。

「貴様が化け物になったようだが……俺も人を捨ててやったぜ……!」

夜川君は、ば、と横を指で指す。

「見ろ! この死神を! 俺の寿命と引き換えに呼び出した死神だ!」
【………。】

あの物体からはとんでもない、オーラを感じる。
そして、それ以上の……懐かしさも。

「もしかして……カロンちゃん!?」
【ハルマサ……こんな姿で……分かるのか?】

その声を聞いて、確信に変わったよ!

「ちょっと意外だけど……良い骨格だね!」
【ハルマサ……】
「何をべらべら喋っている! さぁ行け死神よ! あい」
【少し黙っとけぃ。】

ドコォ!

カロンちゃんに鎌で殴られて、セリフの途中で夜川君は気を失った。
彼は何が言いたかったのだろうか。

いや、考えるべきはそこではない。

ついに君の姿が見えたんだね!
ちょっと肉が無いけど、全然気にならないよ!

駆け出そうとすると、タケミちゃんが隣でドサリと倒れた。

「タケミちゃん!?」
≪無理もありません。この娘では、あの神の姿を直視するには精神が弱いかと。≫

サクラの言うことは最もだ。ハルマサだって夢で会う時にカエルの姿でなければならなかったのだから。
ハルマサが手を握ると、タケミちゃんは弱々しく笑った。

「ハルマサ君と……ご飯食べたかったな……」

――――ガクッ!

「た、タケミちゃ―――――――――――――――ん!」

≪気絶しただけです。≫
「あ、そうなの?」

ハルマサは直ぐに切り替えて、フヨフヨと浮いている骸骨に向き直る。

「カロンちゃん。その姿のままだと、周りの人に優しくないよ?」
【ハルマサ…………その女はなんじゃ?】

カロンちゃんが落ち窪んだ眼窩の奥で緑色の光を揺らす。
これは………もしかして嫉妬だろうか。
なんか凄い嬉しいな。

【わ、わざわざ我との絆のある手でそのような小娘の手を握ろうとはの……】

はっ! そういえば最後に手を握って…………離れない! なんだこの力!
タケミちゃん一体何者!?

≪筋力は81ありますね……≫
「本当に何者だよッ!」

剛川君より強いじゃない!(剛川の筋力=48)


【全然呼ばれぬし……もうええわい……!………帰る。】

そう言って夜川の頭を引っつかみ、上のほうに飛んで行く。
しかし、その声に混ざる寂しさを、ハルマサはしっかりと捕らえていた。

「ま、待って! ………クッ!」

このままではいけない! ここで逃がしては、男が廃る!
ハルマサは屋上を蹴り、「空中着地」で追いかける。
魔力が少なく、「風操作」を使えないので全力を出せないのがもどかしい!

――――ドォン!

一歩、二歩……!

「カロンちゃ――――んッ!」

声を張り上げると、カロンちゃんは振り返ってくれた!

【ふ、ふん! 今さら追いかけても、もう遅…………な、なんでその女連れて来とんじゃ―――――!】

タケミちゃんを荷物のように肩に乗せての移動である。手が離れないんだもん……。

【少し信じておったのに………ふぐ……アホォ――――――!】

スピードをさらに上げて飛んで行ってしまう。
何処まで上がる気!? もう空気薄いよ!?
でも、逃がすかぁ―――――――!

伸びろ! 「セレーンの大腿骨」!

ヒュガ!と伸びて、屋上に突き刺さる骨。
反動を受け、爆発的にハルマサは加速する。

「話を聞いて!」
【ぬぁ!】

近くに行って骨を離し、カロンちゃんの衣を掴んで止める。
カロンの飛ぶ力は些かも衰えては居ないが、どうやら燃料が切れたらしい。
ガクン、とカロンのスピードが落ち、ハルマサと一緒くたになって落下していく。

「早く止まらないと、夜川君がシワシワになっちゃってるよカロンちゃん!」

カロンが何かを吸い取っているのだろう。
ヒュウヒュウと息をする夜川は既に皮と骨だけであり、生きているのが不思議なくらいである。

【いやじゃ! 寄るな! 離せぃ!】
「タケミちゃんとは友達だけど……僕は君が好きなんだよカロンちゃん! そんな寂しいことを言わないでよ!」
「ええ!?」

あ、タケミちゃん。起きてたの? というかこの異常事態で寝たフリ出来る君って凄い。

【ほ、本当か……?】
「本当なの佐藤君!? この骨の人が好きなの!?」
【うるさいわ! これはこやつの魔力が低くて……】
「骨でも構わないに決まってる! 僕が好きなのはカロンちゃんの声や、優しさなんだ!」
【!?】

もはや外見なんかどうでも良いやっていう境地に達しているんだよ。
僕も時々ゾンビだし。

落下しつつ、二人の視線を受け止める。
バタバタと服が風を孕む中、タケミちゃんは「そう……」と寂しそうに笑った。

「私ね――――――」

彼女が小声で言った言葉は聞こえなくて、「何?」と顔を寄せると、顔を挟まれ、唇が重ねられた。

「……!?」
「ゴメンね。突然。」
「…………。」

彼女は寂しそうに笑っていた。
そして、空中でハルマサの体をトン、と押す。

バカ! もう地上までほとんど時間が……!

【離せ。その娘、見捨ててやるな。】
「――――――ッ!」

カロンを掴んでいた手を離しタケミの手を掴んだ瞬間、地面が―――――――

――――――ズンッ!

ごばぁ、とアスファルトがめくれ上がり、折れ上がった二枚が、中心のハルマサを叩き潰そうとする。
それを飛び出すことで避けたハルマサは、両手に気を失ったタケミを抱えていた。

「死のうとするなんて、何を考えているんだい君は。」

地面に横たえた彼女に言う。
気を失って聞こえていないだろうけど。
さら、と額を撫でると、タケミちゃんはピクリと動く。

「せっかく生きてるのにね……。」

もったいないよ。絶対。

【……。】
「カロンちゃん。」

夜川君を持ったままのカロンちゃんがフヨフヨと頭上で漂っている。

【……またの。】
「きっと呼ぶよ。召喚も試してみるね。」
【……期待せずに待っといてやるわぃ。】

そう言って、カロンは飛んで行ってしまう。
夜川君、死なないと良いけど。寿命とか言ってたしなぁ……。
彼は何をそんなに僕にこだわっていたのだろう。


つ、とタケミちゃんの頬を撫でる。

「タケミちゃん。お弁当の約束……ゴメンね。」

君にどう接して良いか、よく分からないから。

「また今度ね。」

彼女を学校の保健室に運び、前と同じく適当な場所で弁当を食べて、ハルマサは学校を早退した。

帰る途中でさっき墜落したところに警察とか来ててかなり焦ったが、多分大丈夫だよね?
家に怒鳴り込まれたときのために、何か母さんに渡しておこう。


<つづく>

骸骨姿のヒロインもありだな……。
すげえイチャイチャさせたくなる。イチャイチャというかカタカタというか。




[19470] 107
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/23 23:11


<107>



帰る前にする事があった。

『はい? 誰? どこでこの番号知ったのよ。』
「あ、僕です。覚えてます?」

前に現世に戻った時に電車で会ったお姉さんの桃色も解かねばなるまい。

『あ、あああああッ! 覚えているわよ! 当たり前じゃない! 用事は何!? あ、別に用事がないといけないんじゃないって言うか……』
「え、えと一度会って欲しいんですけど……」
『キタァ――――――――――!』
「!?」
『あ、なんでもないです。大口の注文が入りまして少々興奮を。申し訳ありません。はい。はい。』

お姉さんは電話の向こうで怒られているようだった。ていうか職場なんだ。

『もう、坊やが待たせるから興奮しちゃったじゃない。それで何処に行けばいいの?』
「え、えと大学の図書館の……」




図書館に来た。ここにも桃色の犠牲者が居る。

「お、王子!?」
「違います。……ごめんなさいね。」

シュッとスプレーをかけると、司書さんは頭を抱えてのた打ち回った。

「ほうあ―――――! なんですかこの喪失感はぁ――――! 大事な何かが消えていくぅ……! 王子ぃ――――!」
≪尋常ではない精神力です。まさか、創造主様のアイテムに対して抵抗するなんて……≫

この人の苦しみは、桃色のせいか。
早く楽になって欲しい。
という訳でシュッ。

「ゲハッ!」

お姉さんは白目を剥いて倒れてしまった。すげえ罪悪感が……。

「ごめんなさいね。この子何時も変なの。最近は特に。悪い娘じゃないから許してあげて頂戴ねオホホ。」

そしてお姉さんは同僚の司書さんに回収されていった。
こういうのを見ると、桃色の罪深さを感じるなァ……。




外に出ると、お姉さんが擦り寄ってきた。
胸が零れ落ちそうな格好をしている。

「ふふん、私を2分も待たせるなんて放置プレイのつもり?」

何故そんな扇情的な格好を……!
ハルマサは眼を逸らしつつ話しかける。

「ええと、取りあえずお姉さん。手を。」
「舐めればいいのかしら?」
「なぜ!?」

取りあえず手首を出してもらい、桃色解除薬を吹きかける。

「……あら?」
「これで、僕の用事は終わりです。すいません。お仕事抜けてきてもらっちゃって。」
「??????」
「それじゃ。」

そんな感じで、他の連絡先を聞いていた人たちの桃色を解除して回った。
思った以上に、寂しい作業だった。







我が家のドアを開けると母さんがまた布団を干しているところであった。

「お、おお! やっと帰ってきたか少年! ソワソワして布団を干してしまったではないか!」
「うん。ただいま。……母さん。」
「おおぅ、本物だな! お弁当が無くなっていた時は、嬉しくて仕方なかったぞ。よく帰ってきたな少年。」

母さんが頭を撫でてくれたので、僕の沈んでいた心が随分と軽くなったのだった。





それからご飯の用意をした。
冷蔵庫に沢山あった食材は、僕のためのものだったらしい。

「ふふ、私が自棄食いでもしていると思ったのか? 甘い! 甘いぞ少年! 少年の自慢の母となるよう、プロポーションの管理は欠かしていないのだ!」
「確かに母さんは綺麗だよね。」

そうだろう、と母さんは胸を張る。

「あと、美人だといろいろ良い事があってだな。」
「そうなの?」
「うむ。電話するだけで今日の勤務を代わってもらえたりするのだ!」
「それは働きすぎだからじゃ……?」
「そうなのか?」
「聞かれても困るけど……」

無理しないで欲しいな。息子としては。

「む、思い出した。実は突然ハルマサが帰ってきても良いように、色々用意したものがあるのだ!」

昔から母さんの贈り物のセンスは良かった。僕が選ぶよりもよっぽどかっこいいコーディネートをしてくれたし。
期待が高まるね!

「ふふ、期待しているな少年! だがそれはご飯の後なのだ―――! よって速やかにご飯を作る! なにやら大変手際の良くなったハルマサよ! フライは君に任せるぞ!」
「了解です母さん。」
「大佐と呼べ一等兵! あ、嘘だ! やはり母と呼んで欲しい! 寧ろ鼻歌交じりに連呼してくれ!」

それはちょっと恥ずかしいかな。


食卓に料理を並べ、「いただきます」をする。
明らかに量が多いが、それでも全部食べることは出来るだろう。
満腹度が凄く上昇しそうだけど。

「ハルマサが作ったフライ……ウマい! 何だこれは! 海老が口の中でプリプリと……!」
「母さんの奴も美味しいよ?」
「当然だ! 愛情がたっぷりだからな! しこたま食べて、愛で太るのだ少年!」
「ふふ、いっぱい食べるよ。」

いくらでも入るぜ!



そしてお待ちかねの「母さんが用意してくれた物」の披露である。

「ふむ。君の趣味をあらゆる角度から分析し調達した、珠玉の一冊!」

母さんはパラパラッパラ~!と言いつつ、紙袋から本を取り出し、頭上に掲げた。

「すなわちエロ本だ――ッ!」
「何で!?」

表紙に、扇情的な姿をした女性が載っている写真集である。

「私は少年の収集していた本を頭の中で反芻するうち、ある傾向を見つけてしまってな。居ても立っても居られず、ついつい書店に走ってしまったというわけだ!」
「ついついやってしまう行為ではないよね。」
「仕事着のまま行ってしまったのは失敗だったがな。もちろん休憩中だぞ?」

何やってんの母さん……

「む? 不服そうだな。しかし、中身を見れば恐らく感動するだろう! 雑食改め、『姉萌え』の少年ハルマサよ!」
「な、何故それを……!」
「ふふふ、母の愛に不可能はないのだ! さぁ読め!」
「いや、流石に母さんの前ではきついよ?」

僕がどんだけ変態でも難しい。

「ダメか……?」
「上目遣いされても……そうだ。代わりじゃないけど、母さんの桃色を解いて置くよ。このスプレーで解けるんだ。」
「ふふ、全く変わらない母の愛を見せてやろう!」


マジで全く変わりませんでした。


「こんなに晴れているのだ! 公園に行こうではないか息子よ!」

そう母さんが言ったので、公園にやってきた。
そこにはベンチがあり、滑り台があり、ブランコがあり、つまりは児童公園だった。
なんで児童公園かは、母さんの次のセリフで解決した。

「さぁ、遊ぶぞぉ!」

遊ぶ気満々だった。
テンション高いね母さん……。遊んでた小学生が帰っちゃったよ。

「ほらハルマサ! 母はブランコに座るから背中を押して……なにぃ!? ブランコにお尻が入らないだと……!」
「まぁ子供用だから……」
「しかたない。私は我慢しよう。ハルマサ君が座りなさい。」
「ええ!?」
「何か不満か―――――!」
「そうじゃないけど……母さんテンション高くない?」

そういうと母さんは、しかられた子どものようにふて腐れる。

「全く……少しでも君との時間を盛り上げようとする母になんてことを言うのだ……。ノリが悪いぞ少年。」
「僕、母さんと一緒に居れたら満足なんだ。いつでも十分楽しいよ?」

僕がそう言うと、母さんは「はぅ」と言いつつフラリと倒れそうになる。
慌てて掴んだ手を母さんは強く握ってきた。

「……いい! 今のいいな! もう一度言ってくれないか息子よ!」
「や、やだ。恥ずかしいよ……。」
「ダメだッ! 言うまで離さ―――ん!」
「ほら、さっきの小学生たちがすげえ興味津々に見てるし、ね?」
「言わなければ、君の耳をねぶる!」


言いました。

何故か小学生たちが拍手してくれたぜ!
「感動した」「俺も母ちゃん大事にしよう」とか言ってたけど、本当に意味分かってたのかなあの子たち。



「うむ。やはり家が一番だな。」
「そうだね……。」

たった数時間で色々なところを回って、少々ハルマサは疲れていた。
でも、その数倍は楽しかった。

「しかし、あと12時間しかない……。辛いな。君とどんどん離れたくなくなるよ。」

母さんが時計を見つつ呟いたことは、その時のハルマサの気持ちを代弁しているものでもあった。

「…………。」

キュウ、と胸が締め付けられるようだ。

「む、泣きたいのか? 無理をせずとも、母の胸はいつでも開いてるぞ?」
「母さんこそ。僕の包容力は抜群の成長を見せているよ?」

僕がそう言うと、母さんはきょとんとした顔をし、しかし申し訳なさそうに笑って、そして涙を零した。

「……じゃあ、お願いしようかな。…………ふ、う…」

母さんは唸るように、悔しそうに、泣いたのだった。
きっと僕も同じだったんじゃないかな。
腕の中の母さんは、思っていた以上に小さく、そして愛しく感じた。





「そうだ、母さん。」
「む、なんだ?」
「何時まで僕の腹筋をなぞってるのか知らないけど、そろそろお風呂に入りたいなァって。」
「ふむ? 一緒に入るのは中学校で卒業だと少年は宣言したはずだが?」
「一緒に入ろうとか言ってないよ!?」
「まぁ母は問題ないがな! さぁ行くぞ!」
「いや、うん。後にしようか。」
「さぁ!」
「……聞いてる?」




「そういえば、町で少し無茶して道路壊しちゃったんだよ。賠償を求められたらこの金貨で払っておいて欲しいんだ。」
「ほう、如何にも高価そうな金貨だな!」
「純金なんだって。」
「ふふ、もう自らの失態を拭えるほどの財力を手に入れたか! もうなんだ! 超自慢の息子だな!」
「そうでもないよ。」
「筋肉も凄いしな!」
「母さん筋肉好きだよね……。」







愛しい時間は瞬く間に過ぎる。
もうあと数分。

「次は何時になるんだろうな。」

母さんは寂しそうに言う。

「なるべく早く戻ってくるよ。」
「絶対だぞ? 早く帰ってこないと泣いてしまうぞ?」
「それはやっぱりイヤだね。」

「頑張って来い。私の自慢の息子。」

ハルマサは、母に別れを言い、母はハルマサ額へ幸運を祈るキスを落とし、二人は分かれた。



<つづく>






[19470] 108(訂正誤字修正)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/10/03 19:48



<108>



2号さんは、鬱陶しい髪の毛のまま、ハルマサの前に居た。

「あの、閻魔様は?」
「痔になりそうだと言って出て行ったッス。なるわけないのに、嘘が下手な人ッス。」
「……ではそちらの綺麗な人は?」
「ツーン!」

2号の隣に居た、清楚な格好をした女性である。
眼を向けると、ツーン!と言われた。
口でツーンとか言う人初めてだよ。対応に困る。

「照れてるんスよ。綺麗とか言われたの初めてッスから。ちなみに4号って名前ッス。」
「初めてじゃありません! 外を歩けば四六時中キレイキレイと連呼されます!」
「ノイローゼになるんじゃ……」
「ツーン!」

ツーン! のポーズは顎を上げ、腕を組み、足を肩幅に開いて、ハルマサに対して斜め45度である。
もう放って置いて2号さんと話す事にした。

「ボール出来ました?」
「もちろんッス。20個作ったッスよ。」

どうぞ、と渡された球体はピンポン玉のように小さい。中心のボタンを押すとプクッと膨らんだ。

「ポケモンなんで一度に捕まえられる数は6体までッス。体力減らせば大概ゲットできるッスけど、服従させるにはスキルが必要ッス。対象は別に何でもいいッスよ。」
「私に対して試しましたものねッ! 最低ですッ!」
「見事ゲットできたッス。」
「酷いです! 閻魔様の手加減パンチ後を狙うなんて……」
「うわぁ……閻魔様のあれ痛いですもんねぇ。」
「ツーン!」

うわぁ、可愛くねぇ! いや、逆に可愛いのか?

「残念ながら服従はさせられなかったス。」

でしょうねぇ。

「そして、こちらが今回の本命ッス。」
「これは……ソウルオブキャット! 直ってる!」

十日くらい前に離れたにしては、いやに懐かしく感じる武器である。
これが帰ってきたら骨がお役御免になる気がする。

「直すついでに色々と改造してしまったッス。」
「改造ですか? どんな……?」
「まず、持つと髪が伸びるッス。」
「なんで!?」

ていうか2号さんの髪の毛はそれ?

「そのデメリットをつけた結果、自己復元能力がついたッス。魔力を送れば刃こぼれも直るッス。」
「すごい!」

それは普通に嬉しいです。

「他には……かなり丈夫にしたッス。閻魔様でようやく壊せたレベルッス。」
「それって前の能力要らないんじゃ……」
「髪が伸びるのはロマンッス。」
「そうですよねぇ……。」

二人して遠い眼をしている。ハルマサはこの心底要らない能力を外してもらうことにした。

「その能力とってください。」
「マジッスか!?」
「まぁ正直いりませんよね。」
「ええ!? 裏切られたッス!」

「とってください。」
「ク……卍解つけるッス! どうッスか!?」
「いらないです。」
「じゃあバリアジャケット!」
「いらないです。」
「先端からビーム!」
「い、らないです。」
「乗って飛べるようにするッス!」
「くぅ…………! そこまでいわれたら仕方ないですね!」

「まぁ空飛ばすくらいなら代償いらないんスけどね。」
「とってください。」

とってもらうことになった。
そして空を飛ぶ剣を手に入れた!
男の理想に近づいたぜ!

「あ、じゃあお礼と言ってはなんですけど、これ差し上げます。正直フンドシはもういらないんで。」

カロンちゃんに嫌われちゃうしね。

「こ、これは!「おとこぎふんどし」じゃないッスか! ダメッスよ! こんな軽々しく譲るような……!」
「あら、素晴らしい効果。でもフンドシしか着れないのは、見た目的に良くないですね……。」
「それが良いんじゃないッスか! 分からないんスか4号!」
「ちっとも。あの、これを縫いこんだ服を作っても良いですか? その絞り込まれた肉体なら、見た目も悪くないでしょうし。」

おお、初めてこっちに向かって話しかけてきた。
そして言ってる事がとてもナイスだ。
しかし。

「それ2号さんにあげるって言っちゃいましたし、作ってあげるんなら2号さんに作ってあげてください。」
「そ……! それなら作らないといけませんね! ああ、本当は凄くイヤですのに……ああイヤだイヤだ。サイズはMでいいですか?」
「フンドシのままでいいんスけど……」
「Mでよろしそうですね! 行きます!」

そういうと同時、4号さんは神速の裁縫術を見せてくれた。
恐ろしい速度で赤フンを切り、裁断したそれを魔力で編んだ布とともに織り込んで、針を打つ。
動きは加速していき、後半を見ることは出来なかった。

そしてわずか3秒で、赤黒いコートが完成していた。

「ふぅ、思わず時間まで操ってしまいました! 改心の出来です! これで他のものも着用できますよ!」
「あああ……フンドシ……!」
「ほら、2号さん。対価を貰ったんですから、早く剣を調整しませんと。」
「く……いいッス! やってやるッスよぉおおおお!」

二号さんが腰のアクセサリーを手に持つと、それは大振りのハンマーとなる。
それをクルリと手の中で回し、カーン! とソウルオブキャットに打ち付けた。
カーン、カーンと叩くサイクルが速くなり、やがてその腕がぶれて見えなくなり、左手で炎を出したり冷気を出したりしながら、またもや3秒くらいで仕事は終わったようだった。

「ふ、同じタイムにしてやったッス。」

負けず嫌いなのだろうか。
胸を張る二号に、4号がそっとコートを着せようとしているあたり、実は仲が良いのかもしれない、とハルマサは思った。

「髪の毛が野暮ったいですね……切りましょうか。」
「あ、切ってくれるんすか? いつも悪いッスね。カット代が浮いて助かるッス。」

やっぱり凄く仲が良いんじゃないかとハルマサは確信した。




シャクシャクと、今度は殊更ゆっくりと2号の髪が着られるのを見ていると、ぎぃ、と執務室の扉が開いた。

「戻ったぞ……む!? ハルマサか!」

閻魔様がハルマサを見て嬉しそうな顔をするもんだからハルマサも嬉しそうになる。

「一日ぶりですね。」
「そうだな! よくぞ戻ったな! 全く、無邪気な顔をしおって!」

そういいつつ頭をペシペシ叩いてくる。
閻魔様は凄い上機嫌である。そして揺れる胸を見てハルマサのテンションもうなぎ上りである。

「さぁ私に話をして欲しい! 第二層はどんなところだった?」
「どこからはなせばいいですかね……」
「あ、待て。その前に上着を着ろ。」

ハルマサの格好は、フルフルのズボンのみである。アフリカの農村の子どもみたいだ。

「……そうだな。話を聞かせてもらう対価に、これをやろう。衝撃や斬撃なんかは素通りだが、破れても直ぐにくっ付いて破壊されないという特性がある。」

閻魔様が指を鳴らすと、空中から服が現れた。
もはや癖となった「観察」をする。

≪対象の情報を取得しました。
【タキシード】:紳士の礼服。胸に赤いバラ。着用者は耐久力が6上昇。≫

6かよ。

しかし笑ってはいけない。
服は素晴らしいものである。
文明人への第一歩なのだから。










「ふむぅ……興味深いな。クエストか……」

閻魔様はハルマサの苦労話を聞くと、考えるそぶりをする。

「その、ククリとかいう戦士が持っていた転移装置、お前も持っているんだな?」
「あ、はい。これです。」

ククリさんのあとに倒した二人から、ピアスだけは確保しているのだ。

細い六角柱のクリスタルをころころと手の上で転がしていた閻魔様が、ハルマサに言った。

「着けていいか?」
「どうぞ。」

つけてみたが、どうにも転移の仕方は分からないらしい。
個別の認証とかが必要なのかもしれない。
閻魔様は残念そうにピアスを渡してくる。そんなにダンジョンに行きたかったのだろうか。

「まぁアレだな。頑張るんだぞハルマサ。そして私に話を聞かせてくれ。」
「はい!」

じきじきに労って貰えるとは。やる気百倍である。

「あの、よろしいですか?」
「どうした4号。」

さっきまで2号さんの髪を切っていた4号さんがやってきた。

「三層には、私のシステムを備えた子が居るのですけど……」
「ああ、ハチエか。あれからも全然音沙汰無いな。もう半月になるか?」
「あの子のシステムは強い反面、応用が利かないので進退きわまってしまったのかもしれません。」
「ありうるな。」
「そこで佐藤さんに彼女との共闘をお願いしたいのです。」

まぁ別に良いかな? 共闘ってことは僕にも多大なメリットがあるだろうし。
にっちもさっちもいかなくなっている彼女は、山神ハチエというらしい。
少し年上なのだとか。
年下に縁が無いなァ……。

≪私が居ますよマスター。≫

そうなの?

「お礼と言ってはなんですが、そのピアス、改良させていただけません? 恐らく転移する座標を変えることくらいはできますよ。」

それで何か良い事があるのかよく分からなかったが、相手はハルマサより何倍も賢いであろう人である。
(人じゃないかもしれない。)
だったら任せてしまおうと、二つとも渡して、ハルマサは閻魔に向き直る。

「お願いします!」
「うむ。……蝶ネクタイが曲がっているな。だらしの無い格好はするなよ。」

キュッと閻魔様が手ずから直してくれる。
幸せすぎて昇天しそうだぜ!

天にも昇る心地になっていると、4号が近づいてきて、袋を渡してきた。

「ハルマサさん、これを。2号はズボラで、きっと渡してないと思うので。」

「収納袋・小」である。食料が入っているらしい。
とても助かる。

「関西弁とかいうおかしな喋り方をする子ですが、ハチエさんをよろしくお願いしますね。」
「はい、頑張ります!」
「貴様の帰りを待っているぞ。さぁ、行け!」

バビューン!

ハルマサの体は光となって、ダンジョン入り口へと飛んで行くのだった。




<つづく>

耐久力: 920591 → 920597



<あとがき>

今回の更新に際し、いろんなところに修正が入ってるけどそんな大した変化は無く、誤字修正とか、微妙な数値の修正です。
あ、「老いた聴覚」の効果少し変えました。
耳系スキルを累計レベル20まで相殺です。

第三層は何話かかるかなァ……。


>ゾンビなのに臭がられないとは、消臭効果は発動しているのか。
雨降って臭いものは流れたんですよ。この描写どこに挟めばいいのか分からんかったもじゃ。

>そういえば地形変わってるけど直るの?そのまま?
ボスがいるとこ無くなっちゃうと、テオ・ナナキメラが溺れちゃうので復活します。

>敏捷1.5倍の腕輪ってメビウスリンケージだったのか・・・。あれ?効果が違うようなw
空間歪めて回避がまともな効果ですよね。
でもまぁそんな描写ができようはずもなく。

>第二部完お疲れ様ですー
あじゃっす。三部はもう少し待っててください。

>胸毛食ったおかげでメンズビーム発射できそうだな超兄貴そして筋肉ムキムキのビット(笑)も付いてくるんだね
なんという超兄貴w私遊んだことないんですよねぇ……

>拳児読んだことあるなら、八極拳使わせようぜ!
残念ながらもう殆ど忘れちゃったんだ。なんか頭突きが結構つええな、という印象が強く残った。

>現世では一体何をするのか。
特に何もしませんでした。夜川が萎びただけですね。

>確かに概念には祝福と呪いがありますねぇ。個人的にはこの二つは向きが違うだけの同じものだとか思ってたりしますが。
そもそも概念という言葉自体がボワッとしてますよね。

>シェンガオレンはきっと4階層位で出てきてくれる!と信じてる!
阿鼻叫喚の地獄絵図が……!
ヒトカゲ終了のお知らせ。

>久々に見てみたら、あまりの量に( Д)  ゚  ゚な状態になりましたw
実はそんなに量は多くないのです。
細かく区切ってるだけなのだ―――!

>シェンガオはいっつも歩き回って何してるんだろう。
縄張りの確保は、食肉動物なら基本らしいですよ。
エサか恋人でも探してるんじゃないかと私は思ってますが。

>これは、矢車フラグ!!
仮面ライダーにいたんですか。仮面ライダーも色々といますねぇ……。それが人気の秘訣だろうか。

>三層目ではどんなモンスターが出てくるのかわくわく
かわいいモンスター……。角が抜けなくてじたばたしているモノブロスちゃんとかじゃだめですか?
それか角が抜けなくて四苦八苦しているキリンちゃんとか。

>うっかり飢餓感に我を忘れるのがおねーさんのときに発動してたら、閻魔様が見たのは女体化したハルマサ君になってた可能性が?
なってたかもしれないですね。姉御肌とかゲットして。

>ゾンビ化してからカロンちゃんのいる意味がどんどん薄れてると思うんだ。
回復役もバリアーも要りませんもんね。でも、人の価値ってそういうのじゃないと思う!(鬱陶しい正論)

>おとこぎふんどしなんっつーモン手に入れたんだ!これで状態異常は怖くないね!…でもあれって防御力的な意味では相当よw(ry
ふんどしにはよくお世話になりましたよ。でもあれ超低速化が防げなくて健康サンダル履いたおっさんにメッタメタにやられるんですよね。左手にエロ本構えていかなきゃ!

>優しい夜明け
ああー! そういえば歌詞を思い出しましたよ! ありがとうです。

>ところで土を食いまくってたら『アーステイスター』とか習得しないかな。
出るかもしれない。しかし土はミミズが体内でロンダリングしたものといわれます。
もう言いたい事は分かりますよね?

>老いた聴覚を得た経緯がいまいちわからん。
その辺の描写をほんの少しだけ追加しました。

>沙耶の唄の沙耶みないな不定形生物の彼女ってのもある意味良いですよね!
作者的には自ら身を引いたところがハートにきました。
自己犠牲萌えなもので。
イストワールにも不定形居るから絡ませるのもいいかもですね。

>いくつかのスキル表示はもう「○○万」表記でいいと思う。
織り交ぜていこうと思います。

>あとこれからもステータスは細かくのせてってほしいです
了解です。

>HUNTER×HUNTERを思い浮かべたのは俺だけじゃ無いはず。
一番先に思い浮かべたのはこの私だぁ――――!まぁパクったから当然なんですけど。

>現世に戻ったらどんなハプニングが待ち受けているのか妄想が止まりませぬ
大したハプニングもなく申し訳ない。

>黒木氏とクラーケンは名前的に出なさそう?
黒木氏ってちょっと迷ったけどなんかいい呼び方ですねそれ。
ちなみにクラーケンロードはもう出てるんだぜ。名前出してないけど。

>しかし、モンハンなんだからスキルは無効ではなく、相殺か(少)等にするべきでは?
確かに! そうしました。

>カロンちゃんまだー?
むしろ次の話がカロンちゃん祭りなんだぜ。

>一話から全部読んだけど、これは金取っていいレベルだわ
そういわれてすごい嬉しかったんですけど、少し私には早いですね。
もっと起承転結をきちんとしないと。

>そろそろ十傑集の能力一つくらい使えるんじゃ(十傑集走りとかね)
指パッチんしか知らないんですけど、夢がありますよね。

>おい俺のサーナイト早く出せ出してください
そこまで言われたら絶対出してやらん。嘘です。

>ちょっと期間あくのかな?
開いちゃうかもです。



[19470] 山神ハチエのステとか → 没になりました
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/26 21:31

山神ハチエのステータスとか。


システム:プレイングカード/マジック・ザ・ギャザリング + ネタカード


○ルール1: 山神ハチエはプレイヤーであり、クリーチャーでもある。


【山神ハチエ】コスト:0
クリーチャー ―― 人間・プレイヤー
・山神ハチエは常にフィールドに召喚されている状態である。
・ライフを1点払う:山神ハチエを再生する。
・ライフをX点払う:あなたのマナプールに無色のマナX点を加える。
・色を問わず12点のマナを払う:山神ハチエのレベルが1つ上がる。この能力は行使から実行までに30秒のタイムラグを要する。

以上の能力に加え、Lvupに伴い以下の能力を獲得する。(パワー/タフネス)
Lv0 : 0/1  防衛(防衛を持つクリーチャーは攻撃できない。)
Lv1-3: 0/2  防衛
Lv4+: ★/★  山神ハチエのパワーとタフネスは、それぞれ山神ハチエのレベルと等しくなる。


○ルール2: 戦闘は一日ごとに区切られる。
戦闘の始まりと終わりは深夜0時である。深夜0時になると同時、以下の事が起こる。
■手札と山札とフィールドのパーマネント(クリーチャーとアーティファクトとプレインズウォーカーと特殊地形)は回収され、次の戦闘の山札となる。
■墓地に捨てられたカードは追放される。それらは二度と戻らない。
■山神ハチエのレベルは0となる。
■山神ハチエのライフは2点となる。
■マナプールのマナは全て失われる。

○ルール3: 1ターンは30分である。
■1ターンに山札からドローできるカードは、基本的に1枚である。ただし各戦闘の最初のドローに限り、7枚までドローできる。(第1ターンでドローをしていない場合、第2ターンで7枚のドローが出来る。)
■タップ型能力を使用したクリーチャーは次のターンまで攻撃行動、防御行動、タップ型能力の行使、が出来ない。
■タップ型能力を使用したエンチャントは15分後まで、タップ型能力の行使が出来ない。
■エンチャント呪文は、ターン終了と同時にエンチャントしていた物から剥がれる。その時、基本的にそれらを墓地に送る。
■カードの上のカウンターは「忠誠カウンター」「-1/-1 カウンター」を除いて、ターン終了時に全て消滅する。


○ルール4: インスタント呪文とソーサリー呪文、その他の呪文
 インスタント呪文とソーサリー呪文の違いは、詠唱から実行までのタイムラグにある。
■インスタント呪文は詠唱が終わるとすぐに実行される。実行するための対価(マナや生贄)が不足している場合、実行されずにカードは墓地に行く。
■ソーサリー呪文は詠唱が終わり、30秒経過してから実行される。実行するための対価が不足している場合、実行されずにカードは墓地に行く。
■その他の呪文(クリーチャー呪文、プレインズウォーカー呪文、エンチャント呪文、アーティファクト呪文)は、ソーサリー呪文と同じタイムラグが存在する。例外として召喚されるクリーチャーが瞬足を持っていた場合、インスタント呪文と同じように実行される。(召喚酔いはする。)


○ルール5: 対象
 呪文や能力は必中ではない。効果の対象が存在しない、または呪文や能力が当たらなかった場合、詠唱された呪文は効果を発揮しないまま、墓地に送られる。その際、マナや生贄は消費される。


○ルール6: 召喚酔い
 呪文が実行され、フィールドに召喚されたクリーチャー、エンチャント、アーティファクトは召喚に酔う。
■召喚されてから3分間、クリーチャーはタップ型能力を行使できず、攻撃できない。(防御はできる。)
■召喚されてから3分間、エンチャントとアーティファクトはタップ型能力を行使できない。
■上記二つとも、起動型能力(タップをしない能力)の行使はできる。
■例外として、クリーチャーが「速攻」能力を持っていた場合、召喚後直ぐにタップ型能力の行使や攻撃ができる。


○ルール7: マナ獲得
 あなたがそのターンに獲得するマナは、その一つ前のターンにあなたが訪れた「土地」から発生するものである。第1ターンは、基本的に土地からのマナを得ることは出来ない。
■「土地」とは一辺を10kmとする正方形で区切られた区画を指す。土地が発生させるマナはその土地の地形によって5種類に変化する。平原→白マナ、 水辺→青マナ、 沼地→黒マナ、 山→赤マナ、 森→緑マナ である。区画の中で最も比重の大きい地形のマナが発生する。
■「土地」の区画はあなたが深夜0時にいた場所を中心とし、緯度経度に沿って設定される。北または東または南または西に5km移動すれば、あなたは新しい区画にたどり着く。
■あなたはたどり着いた区画の種類と数に応じたマナを得る。(1ターンで森から東に10km移動して平野にでた ⇒ 次のターンに、緑マナ1点、白マナ1点を得る)一歩も動かなくても、一戦闘で47マナを獲得できる。
■呪文として存在する「土地」は特殊地形であり、あなたの居る区画をその地形へと変化させる。その効果は戦闘中持続する。この呪文はソーサリー呪文と同じタイムラグを持つ。
■「あなたがコントロールしている土地」とは、あなたがそのターン訪れた区画のことを指す。


○ルール8: カード効果の現実化
 各対戦相手、その手札、その墓地、その山札、そのクリーチャーなどを対象とする呪文や能力の効果は修正される。
■大まかな修正は以下の通りである。
各対戦相手 → 敵対する魔物
各対戦相手の手札 → 敵対する魔物の思考。常に7枚あると仮定し、見る枚数×1分だけ思考を覗くことが出来る。また、捨てさせた枚数×3分間思考能力を低下させる。(全て捨てさせれば相手は21分間愚鈍な動きをする。)効果が終わったとき、手札はまた七枚まで補充されたとみなす。
各対戦相手の墓地 → 戦闘中に破壊された地形、魔物。魔物はクリーチャーとしてカウントする。
各対戦相手のクリーチャー → 敵対する魔物
各対戦相手のライフを失わせる → その点数分の無色のマナをあなたは得る。
■各対戦相手にカードを引かせる効果を持つカードは、戦いになんら影響を与えない。しかし、相手に引かせた枚数が累計で60枚を越えた時、同じ区画に居る魔物を一体破壊できる。
■1ターンを追加する効果は、そのターンの残り時間を半分に短縮する効果となる。
■「1ターンの間~する」という効果は「3分の間~する」へと修正される。
■「対戦相手に~の生贄を求める」効果は、「あなたは生贄を求める枚数×3点のライフを得る」へと修正される。
■各種「ブロックされない」効果は、回避力や機動性に寄与する。逆に「畏怖」などの効果は、相手の回避力や機動性を下げる効果となる。
■「1点のダメージを与える」効果は、「相手のタフネスの90パーセント分のダメージを与える」効果となる。


○ルール9: カードの獲得方法
 魔物を倒すことで、1体につき2枚、新しいカードが山札に加えられる。加えられるカードはランダムに決定される。
あなたは加えられたカードの効果を知ることを選択しても良い。その場合、そのカードは山札の一番下へ行く。
魔物を倒す手段は問わないが、その一連の行動にあなたが関与している事が条件となる。


○ルール10: その他。
■マリガンを実行することは出来ない。(マリガン:ゲームの始めに手札7枚を全て山札に戻し、新たに手札を引くルール。ただし、実行するたびに最初の手札として引ける枚数は1枚減る。)
■手札、山札などに関して、上限は無い。
■効果が発揮されないカードが存在し、その効果は「この呪文の点数で見たマナコストの分だけ、マナプールに無色のマナを加える。カードを1枚引く。」へと修正される。
■強化はそのクリーチャーの元の数値以上に行うことは出来ない。元の数値以上に強化された場合、強化されたクリーチャーを破壊する。(例えば、パワー4のクリーチャーのパワーは8までしか強化できない。)
■強化はそのクリーチャーの筋力と、頑丈さを上昇させる。スピードや、持久力その他は変化しない。よって同じ パワー/タフネス を持つクリーチャーでも、強化されてその数値となったクリーチャーは、そうでないクリーチャーに劣る。
■クリーチャーはターンにとらわれず行動する。


○ルール11: デスペナルティ
 手持ちのカードが全てプロ野球選手カードに変わる。それは呪文ではなく、場に出すことができない。しかし手札としてはカウントされる。



○クリーチャーの(パワー/タフネス)とハルマサのステータスの相関。
■パワー3 = 10^3 = 1000 = 大人100人分
■パワーは筋力・敏捷・器用さ・精神力の平均、 タフネスは耐久力・持久力・魔力の平均。
(どの数値が強いかはカードの絵柄によって適当に決めます。)




最後まで読んでくれたあなたに乾杯。ツッコミ待ってるぜ!
いろんなことを書き忘れてるような気がするのでそれは順次追加していきたい。
「エンチャント」とか「アーティファクト」とか「プレインズウォーカー」とか全然意味分からんファック市ねッ! って言う人が居たらそれらの説明もします。

というかこれからは、下手こいてクソつまらん話になりそうだ。誰だよカードとか言い出したの。私か。



[19470] そしてハルマサのステとか。
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/08/04 22:29
☆特性
(桃色)桃色鼻息 桃色ウインク 桃色トーク 痛覚変換
(耐性)炎耐性 水耐性 雷耐性 風耐性 土耐性
(再生)不死体躯 不朽の魂 欠損再生
殺害精神
臭気排除
寂寞の歌声
お休みマン

☆概念
刃を持つ腕
堅硬なる骨
砂弾く魚鱗
黄金の煌毛
濃赤の沸血
老いた聴覚


☆特技
突き
崩拳
溜め斬り
手刀斬
炎弾・水弾・雷弾・風弾(極まで)
メラとか
炎球・雷球・風球
伝声
武器生成・防具生成
炎の陣
甘い吐息
捻糸棍・通背拳
無空波・神威
加速

☆スキル
(肉体系)拳闘術 蹴脚術 金剛術 剛力術
(武器系)両手剣術 片手剣術 槌術 棒術 鞭術 盾術
(隠密系)暗殺術 消息術
(敏捷系)突撃術 撹乱術 空中着地 撤退術
(操作系)炎操作 水操作 雷操作 風操作 土操作 毒操作
(魔力系)魔力放出 魔力圧縮
(眼系)解体術 回避眼 観察眼 鷹の目 心眼
(生活系)洗浄術 折紙術 描画術 調理術 布加工術 水泳術 舞踏術 概念食い Pテイスター

(その他)
身体制御
走破術
防御術
的中術
天罰招来
神降ろし
聞き耳
空間把握
戦術思考


以下詳しく。
抜けまくっているし順番も適当です。


☆特性

□「桃色鼻息」
 異性を魅了する魔性の特性。鼻で息をする時、あなたの体からは異性をとりこにするフェロモンが溢れ出ます。たらしと呼ばれること間違いなし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません

□「桃色ウインク」
 異性を魅了する魔性の特性。異性の目を見つめて一度ウインクすることで、異性に好感を与えます。わざとらしくても大丈夫! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「桃色トーク」
 異性を魅了する語り口。あなたが語る物語は、異性の興味を引き付けます。くだらない話でも問題なし! 異性はあなたにメッロメロだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「殺害精神」
 殺害を許容する精神構造。精神のリミッターが外れ、殺害に対する忌避感が薄れる。殺害に関して理論的に考えられるようになる。

□「臭気排除」
 周りの異臭を消し去る特性。あなたの体から発せられる素敵な波動が、周りのニオイを分子レベルで破壊します。紳士淑女のエチケット! 香水をつければ完ッ璧だぜぇー! ※良い匂いは消しません。

□「寂寞の歌声」
 寂しさがこめられた歌声。あなたの歌は同種の生物の心に染み入り同情を誘います。どんな歌でも関係ない! 聴衆は涙でベッタベタだぜぇー! ※同種の生物にしか効きません。

□「痛覚変換」
 一定段階以上の衝撃を、心地よいものとして脳に送る痛覚神経。あなたの神経は痛過ぎることを快感として受け取ります。これであなたは天然の娼婦! 彼氏の○○でベッタベタだぜぇー!

□「不死体躯」
 生命力を豊かに蓄える身体構造。あなたの体は、時間が経つごとに気持ち悪いくらい回復します。これであなたは不屈の戦士! 相手はビビッてベッチャベチャだぜぇー! ※涙でね!

□「おやすみマン」
 就寝時周囲と同化する技術。寝ている間はあなたの存在は別時空へと保存され、誰にも邪魔されず休息を得る事が可能となる。※衣服などは含まれない。

□「炎耐性」
 火からの刺激(熱)を和らげる、皮膚の機能。炎属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「雷耐性」
 雷流への絶縁性を高くする、皮膚の機能。雷属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレーヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「風耐性」
 風からの刺激を和らげる、皮膚の機能。風属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレーヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「水耐性」
 水からの刺激を和らげる、皮膚の機能。水属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]% マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「土耐性」
 土からの刺激を和らげる、皮膚の機能。地属性の攻撃に対して、被ダメージが[30+(プレイヤーのレベル)]%マイナスされる。ダメージ減少率が100%を越えた時、耐性は昇華する。

□「不朽の魂」
 死しても蘇る、朽ちぬ魂。死んでも蘇る事が可能となります。とは言っても体は朽ちる! 蘇ったあなたは正しくゾンビィ! エンガチョエンガチョ! 寄らないで……臭ぇッ! ※二回死んだら普通に死ぬので注意。

□「欠損再生」
 体の欠損部位を再生する身体機能。あなたの体はいつでも新品! もう中古とか言わせません! 直す時に持久力と魔力が減るので要チェックやで!

☆概念

◇「刃を持つ腕」
 腕からブレードが飛び出す。発現時と、ブレード収納時に前腕部にダメージを負う。

◇「堅硬なる骨」
 恐ろしく丈夫な骨。高い剛性を持つ。耐久力が上昇する。

◇「砂弾く魚鱗」
 地属性の攻撃に対する耐性を持つ鱗を皮膚に顕現出来る。鱗の特性として顕現中は火属性・雷属性への耐性が25%低下する。

◇「黄金の煌毛」
帯電し、黄金色に煌く髪を発現できる。発現中は、雷への親和性が増し(雷耐性100%、雷操作のレベルに5の補正)、持久力の減少速度が5倍になる。

◇「濃赤の沸血」
 密度が高く、さらに沸騰するほど熱い血液。その熱は鼓動を早める。発現中は、敏捷に10%のプラス補正、炎への親和性が増し(炎耐性に40%のプラス補正、炎操作のレベルに3のプラス補正)、持久力の減少速度が3倍になる。

◇「老いた聴覚」
 長年酷使されて、機能の低下した聴覚。耳に関するスキルを合計レベル20まで無効化する。耳に関するスキルを習得していない場合、聴力が低下する。



☆特技

◆「突き」
 拳または獲物を用いて、敵対する対象の体の一点に強烈な攻撃を与える。貫通属性。

◆「崩拳」
 対象の体に踏み込みと同時に拍打を打ち、体の内部に衝撃を置く。下位の装甲を必ず貫通。

◆「溜め斬り」
 大剣に力を溜め、解放しつつ切りかかる。溜めは三段階あり、一段階ごとに威力が倍増する。確率で、命中した対象を怯ませる。

◆「手刀斬」
 刀を模した手で攻撃し、対象の体に強力な斬撃を与える。切断属性。

◆「伝声」
 叫ぶことで、肉声の届かない遠く離れて居ても声を届ける事が出来る。伝えられる量は両者の精神力に依存する。二者の間に経路が開いている必要がある。

◆「炎弾」
 魔力を変質させ、低級の密度、温度の炎として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超炎弾」などがある。

◆「雷弾」
 魔力を変質させ、低級の電圧、電流の雷として放出する。精神力に従い放出規模が変化。上位特技に「超雷弾」などがある。

◆「風弾」
魔力を変質させ、低級の密度の風として放出する。上位特技に「超風弾」などがある。

◆「炎球」
  魔力を用いて炎を球状に圧縮循環させたものをぶつけることで熱による被害を与える。球に内包する炎の密度により温度は変化。一定以上の密度より、着弾時に爆発が起こる。

◆「風球」
 魔力を用いて風を球状に圧縮循環させたものをぶつけることで衝撃を与える。球に内包する風の密度により威力は変化。一定以上の密度より、切断属性が付与される。

◆「メラ」
 魔力を2消費してメラを放つ。精神力に応じて威力は変化。上位特技にメラミなどがある。

◆「炎の陣」
 炎を寄せ付けない守りの陣。魔力を用いて炎を弾き返す壁を作成できる。壁の能力は精神力によって変化する。

◆「武器生成」
 魔力を用いて鉱石を固め、武器を作成する。武器の能力は使用魔力、またスキル「土操作」「魔力圧縮」のレベルによって変化する。◆「防具生成」
 魔力を用いて鉱石を固め、防具を作成する。防具の能力は使用魔力、またスキル「土操作」「魔力圧縮」のレベルによって変化する。

◆「甘い吐息」
 一定時間、異性をメロメロにし、同性をガチでキレさせる魔性の吐息。所有する桃色特性の数によって効果は変化する。異種族にも有効。

◆「防具生成」
 魔力を用いて鉱石を固め、防具を作成する。防具の能力は使用魔力、またスキル「土操作」「魔力圧縮」のレベルによって変化する。

◆「捻糸棍」
 強烈なねじりを加えた突きの動作。突くと同時に周辺組織にもダメージを与える。持久力を60%消費。貫通属性。

◆「無空波」
 拳を相手に密着させた状態から腕を高速振動させ、衝撃波を相手にたたき込む技。持久力を50%消費し、特技に用いた拳は破壊される。

◆「神威」
 膝を相手に密着させた状態から全身の力を一気に叩き込む技。持久力を30&消費し、特技に用いた膝は破壊される。

◆「通背拳」
 震脚と共に背中から剄を放つ技。中位の装甲を必ず貫通。使用後一定時間はすべての特技が使用不可となる。

◆「加速」
 電気で体の細胞を活性化させ、反応速度と身体速度を劇的に増加させる技。使用中は「雷操作」「風操作」を使用しなければならず、持久力の減少速度が体感時間にして普段の50倍となす。


☆スキル

■「拳闘術」
 拳で攻撃する技術。拳で攻撃する際、威力が上がる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は拳で大地を割る。

■「蹴脚術」
 蹴りを繰り出し攻撃する技術。足で攻撃を放つ際、蹴りの速度が上がる。熟練に伴い敏捷またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は蹴りで衝撃波を放つ。

■「両手剣術」
 両手剣を扱う技術。両手剣で攻撃する際、力を込めやすくなる。熟練に従い、筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者はどんな固い守りも叩き割る。

■「小刀術」
 長さが一定以下の刀剣を操る技術。小刀を使っての素早い攻撃が出来るようになる。熟練に従い、敏捷その他のまたはステータスにプラスの修正。熟練者は風のように動き、相手に気づかれる前に命を刈り取る。

■「棒術」
棒を振り回す技術。棒の扱いが上手くなる。熟練に伴い筋力またはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、棒や棒に準ずる物を手足の如く扱える。

■「鞭術」
鞭を操る技術。鞭の扱いが上手くなる。熟練に伴い敏捷及びその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、相手の弱点を正確に貫く。クリティカル率にプラスの修正。

■「布闘術」
 布を用いて闘う技術。布を凶器として扱うことが出来る。熟練に伴い器用さまたはその他のステータスにプラスの修正。熟練者は、布を用いて鉄を断つ。

■「解体術」
 物品を解体する技術。対象を解体しやすい部分が分かる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は存在の繋がりすらも断つ。

■「舞踏術」
 踊りの技術。体を動かし喜怒哀楽など感情を表現できるようになる。熟練に伴い敏捷にプラスの修正。熟練者は、踊りで言葉さえも伝えることが可能である。

■「身体制御」
 「姿勢制御」の上位スキル。体の動きの制御に加え、衝撃の吸収を行える。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、一定時間に衝撃を吸収できる量が増加する。
状態異常「よろめき」に耐性が付く。

■「暗殺術」
 「穏行術」の上位スキル。持久力を消費することで移動時にも透明化を保つことが可能となる。非移動時でも持久力を消費する。熟練に伴い、持久力にプラスの修正。[持久力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた持久力が消費される。※発動継続時間は(持久力の数値)秒以上にはならない。

■「突撃術」
 「突進術」の上位スキル。敵対する対象に向かって移動する際、筋力と敏捷にプラス補正。助走を一定距離以上とった攻撃時に、さらに筋力にプラス補正。熟練に伴い筋力と敏捷にプラスの修正。[(20-(スキルレベル))×10]m以上の助走距離で二度目の筋力のプラス補正が発生。※10m以下にはならない。


■「撹乱術」
 敵を混乱させる技術。敵対する対象を基点とした効果範囲内で、素早く動けるようになる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。熟練者は残像を残す速度で動き回り、分身したように見えるという。

■「空中着地」
 「跳躍術」の上位スキル。気体に対して任意の場所を、一度踏むまで足場にする事が可能となる。熟練に伴い、敏捷にプラスの修正。レベルの数だけ空中に足場を作れる。

■「走破術」
 長い距離を走り抜く技術。一定距離以上の移動をする際、疲れにくくなる。熟練に伴い持久力にプラスの修正。熟練者は七日七晩止まらず走り続ける事が可能となる。

■「撤退術」
 逃亡する技術。敵対する対象から離れる際、素早く移動できる。熟練に伴い持久力または敏捷にプラスの修正。熟練者は目にも止まらぬ速度で消え去るように居なくなるという。

■「防御術」
 攻撃を防御する技術。攻撃を防御する際、被害を軽減する。熟練に伴い、耐久値にプラスの修正。熟練者は、魔法による攻撃を無効化する。

■「天罰招来」
 天に願い罰を落とす技術。天に願うことで、確率で対象に厄災が降りかかる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が上昇。熟練者は自在に天罰を呼び出す。

■「戦術思考」
 戦闘中において思考する技術。戦闘中、冷静になる。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。熟練者は、死の間際でさえ慌てない。

■「回避眼」
 攻撃を回避する方法を見出す思考。敵対する対象からの攻撃に対して、確率で回避に成功する道筋が視界に移る。スキルレベル上昇に伴いスキル発動確率上昇。

■「観察眼」
 対象を観察する技術。注視することにより、様々な情報を得る事が出来る。スキルレベル上昇に伴い、取得情報が増加する。

■「鷹の目」
 遠くの対象に焦点を合わせる技術。遠くのものをはっきりと見る事が可能となる。スキルレベル上昇に伴い焦点距離が延長。投擲、射撃時の命中率にプラス修正。

■「聞き耳」
 一定範囲から音を拾う技術。効果範囲内の音から様々な情報を得る事が出来る。レベル上昇に伴い、効果範囲、取得情報が増加する。音を用いた攻撃への耐性が低下する。

■「的中術」
 攻撃を命中させる技術。攻撃が当たる度、確率でクリティカルが出る。スキルレベル上昇に伴い、スキル発動確率が増加する。

■「空間把握」
 戦闘時、自分の周りの事象を把握する技術。自分を基点とした一定範囲内の事象を把握できる。スキルレベル上昇に伴い効果範囲が増加する。

■「神降ろし」
 「祈り」の上位スキル。魔力を用いることで、精霊や神を第二人格として自分の体に憑依させる事が出来る。恩恵を願うこととは別に、時間当たりで魔力を消費する。熟練に伴い、精神力にプラスの修正。[魔力/(30-(スキルレベル))]秒、スキルは持続する。発動していた時間に応じた魔力が消費される。※発動継続時間は(魔力の数値)秒以上にはならない。

■「炎操作」
 炎を制御する技術。魔力を用いて、外界の炎を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「雷操作」
 雷を制御する技術。魔力を用いて、外界の雷を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「風操作」
 風を制御する技術。魔力を用いて、外界の風を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「水操作」
 水を制御する技術。魔力を用いて、外界の水を制御する。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量(規模)が増加する。

■「魔法放出」
 魔法を体外へと送り出す技術。全ての魔術特技に通じる基礎。熟練に伴い、魔力にプラスの修正。熟練者は、手足など末端から魔力を放出することで、体の動きを加速、減速する事が可能となる。

■「折紙術」
 紙を折る技術。イメージした形を、紙の許す限り再現する事が可能となる。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、造形し終わった紙の硬度が高くなる。

■「描画術」
 絵を描く技術。イメージした形を紙や布などに精緻に描写する事が出来る。熟練度上昇に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は、自らの想像を超えた絵を描く。

■「調理術」
 食材を調理する技術。美味しく調理する手順、タイミングが分かるようになる。熟練に伴い器用さにプラスの修正。熟練者は食べれないものすら美味しく出来る(でも食べれない)。

■「金剛術」
 体の皮膚を硬化させる技術。鋼鉄のような皮膚で、敵の攻撃を跳ね返すことが出来る。熟練度に応じて耐久力にプラスの修正。動かない時間に応じて皮膚の硬度が倍加する。[(皮膚硬度)=(留まった秒数)×(スキルレベル)×(元の皮膚硬度)÷10]100倍以上にはならない。スキル発動中は持久力が一秒につき50ポイント減少する。

■「剛力術」
 筋肉を行使する技術。筋肉を隆起させ、いつもの3倍の筋力を使用する事が出来る。熟練度に応じて筋力にプラスの修正。スキル発動中は持久力が一秒につき50ポイント減少し、敏捷にマイナス50%の補正がかかる。

■「魔力圧縮」
 魔力の密度を上げる技術。圧縮した魔力は様々なことに応用できる。熟練に伴い魔力にプラスの修正。
熟練者は圧縮とは逆の工程すら行えるようになる。

■「毒操作」
 毒を制御する技術。魔力を用いて、外界と体内の毒を制御する。熟練に伴い耐久力にプラスの修正。スキルレベル上昇に伴い、制御可能量が増加する。

■「布加工術」
 布を加工し衣服などを生成する技術。用途に合わせて布を加工できる。熟練に伴い、器用さにプラスの修正。熟練者は布じゃないものからでも服を作れる。

■「心眼」
 第六感ともいえる動物的な勘。確率で、危険を察知する事が可能となる。レベルアップに伴い、スキルが発動する確率が増加する。眼を瞑っていると発動しやすい。


■「概念食い」
 「悪食」の上位スキル。食べられないものの概念を食べ、吸収消化する。稀に吸収した概念を体に発現する。スキルレベルに応じて、概念を発現する確率が上昇。

■「ポケモンテイスター」
 「ポケモントレーナー」の上位スキル。モンスターボールに捕獲したモンスターを服従させることに加えて、モンスターを舐めることにより好感度を測る事が出来る。好感度が高いほど、服従させやすくなる。[(スキルレベル)×(対象の好感度)-10]以下のレベルのモンスターを服従させることが出来る。上位スキルに「ポケモンイーター」が存在する。




[19470] 真・山神ハチエのステータス(もう私はこれで行く)
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:9d835427
Date: 2010/07/27 19:02
ハチエさんのシステムをマジックザギャザリングではなくすことにしました
色々と考察していただいて…………成る程と思うことばかりでした。
なんかすみません。
でも、彼女は主人公じゃないんですよね。サブメンバーのくせにシステム複雑すぎだとバテると思いまして。


という訳で簡略化を図り、ハチエもレベル制に変更。
4号のシステムはスキルや特性とか設定してないので、2号のに直すとこうかな? って感じで。

とりあえず武器持ったら強くなるようにしました。





山神ハチエ
レベル:17

耐久力:326675(32万)  ……端数の違いは初期ステータスの違いで、あとはレベルアップボーナスの上昇値だけです。
持久力:326477
魔力 :326470
筋力 :326474
敏捷 :326483
器用さ:326474
精神力:326490

経験値:1022933(102万)
次のレベルまで287787(28万)

□特性
武器感応

■スキル
武器削出LvMax
武器扱いLv17(ハチエさんのレベルと等しくなる)


□「武器感応」
 武器の能力を引き出す身体構造。武器を持つとステータスが大幅に上昇し、時には見た目に反映される。ステータスの上昇値や上昇する項目は武器によって変化する。自身のレベルより1つ上のレベルの武器まで、この特性は反応する。複数持った場合、強化は掛け算になる(下に例)。※「ナマクラ剣」と「武器削出」によって作られた武器にしか、この特性は反応しない。

■「武器削出」
 素材から武器を作り出す技術。魔物またはその一部を破壊することで、その強さに応じた武器を手に入れる事が出来る。まれに魔物で無い物からでも作り出せる。作り出した武器はカード化される。スキルレベルに応じて武器に出来る敵が増加する。一定の確率で祝福された武器、呪われた武器が出現。

■「武器扱い」
 複数の武器の扱いを極めたものが習得する上位スキル。いかなる武器でも、性能を引き出し戦うことが出来る。「武器削出」によって手に入った武器以外でもこのスキルは発動する。



現在の所持武器は以下の3種類。
カッコ内は「武器感応」特性が反応するレベルです。あと祝福か呪われか。
祝福はステータスアップが多めに行われ、呪われていたらステータスアップが無い上に、壊れて消えるまで手から離れません。



○「ナマクラ剣」(Lv1)  ……最初から持っていた物と、デスペナ(下記)により19本所持。投げつけたりしたので数は減っている。
耐久値:10
 切れ味はほぼない両手剣。折れても10分ほどで直る。
耐久力(+30%)、持久力(+10%)、筋力(+80%)、敏捷(+80%)

○「炎翼の飛翔弓」(Lv19)  ……第二層ボス戦でのドロップ
耐久値:1835008(183万)
 炎龍の翼を用いて作られた剛弓。矢筒とともに顕現し、矢は自動生成される(全ての弓で共通)。精神力に応じて威力の変化する火属性の矢が放てる。貫通属性の矢が放てる。
筋力(+600%)、敏捷(+1200%)、器用さ(+1000%)、精神力(+1000%)

○木づち(Lv5・呪)  ……木を折ったら出た。
耐久値:5120
 巨木から削りだされた木製の大槌。罠の破壊が出来る。
耐久力(+200%)、魔力(+100%)、筋力(+600%)、器用さ(+100%)



……複数持った場合。
両手に「ナマクラ剣」を一本ずつ持ったハチエさん(Lv1)の場合。
元のステータスを平均男性のものとすると以下のようになります。
ズルイくらい上昇して行きます。
小数点以下は本来切捨て。

耐久力: 10 → 13(右手:+30%) → 16.9(左手:+30%)
筋力 : 10 → 18(+80%) → 32.4(+80%)



……デスペナルティ
1 全ステータスからマイナス20%され、最後のレベルアップボーナスの分も引かれる。
2 武器カードがランダムで5枚、「壊れないナマクラ剣」になる。




ちなみに銃とボウガンは出ないから!
あれは銃器だと思うんだ。
ステータスアップ値の合計は[適正レベル×100×2]%
「勇気と希望の凄弓」だと、3800を振り分けました。
適正レベルはその元となったモンスターのレベルです。



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