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[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】最新第二十五話更新
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2013/02/24 04:35
第一話:境界線上に紛れ込んだ総務

緑で彩られた山岳地帯を八つの黒い点がゆっくりと進んでいる。
遠目から見る小さく見えるが、近づいてみると実は数キロもの範囲に渡る影だと確認できる。

ではその影は何処から落とされているのか?
当然、上空である。
空に浮かぶ船。
それが巨大な影を落とす正体であった。

それも唯の船ではない。
表層部に町や自然公園を乗せた航空都市艦八艦からなる準バハムート級航空都市艦・武蔵。
現在の神州の直轄領土である。


『市民の皆様、準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダスト教導院の鐘で朝八時半をお知らせ致します。本艦は現在、サガルマータ回廊を抜けて南西へと航行、午後に主港である極東代表国三河へと入港致します。生活地域上空では情報遮断ステルス航行に入りますので、御協力御願い致します。―――以上』


空に発生させた波を砕いて進む八艦の内、中央後艦 奥多摩から時報の鐘と共に艦の制御をしている艦と同じ名前を持つ自動人形 武蔵のよる市民への連絡が行われる。

そして、それの終了と同時に同じ奥多摩上に動きが生じる。
武蔵の学生達の中心地にして極東代表校、武蔵・アリアダスト教導院の校庭であった。
正確には、校庭の上を通る橋上。

そこに集まったアリアダストの中心メンバーを全員含んだ三年梅組の面子と教師のオリオトライ・真喜子。
何か騒ぎが起きるとしたらこの面子以外有り得ないと言える集団である。

極東の成り立ちの解説とこれからの注意を終えたオリオトライが今回のルールを説明する。
要約すると、武蔵の最後部から最先端まで移動する間に一撃でもオリオトライに入れれば5回朝の授業をサボれるというものだ。


「―――んじゃ」


それに皆が反応する中、先生が意表をついて先に移動し始めた事で学生と教師による体育という名の艦上破壊レースが勃発した。



     ●


左右三艦を双胴とする中央ニ艦という凹型の構成の中、右側中央に位置する右舷二番艦 多摩上に軽食屋の青雷亭(ブルーサンダー)はあった。
奥多摩から移動してくる人災に様々な店の店主達が慌てる中、開店し続けている豪の店である。

質素な作りの店内で、様々なパンの並ぶ棚を背後に立つ白い長髪の女性型人形。
自律して動く人形故に通称、自動人形。

店内には店員である彼女ーP-01sともう一人、客として黒い長髪をゴムで後ろに括っている、所謂ポニーテールの学生が居た。

学生はコーヒーを啜りながら通神を見ている。

その名も【武蔵通神】


「また、増えてやがる。トーリが如何に迷惑をかけているかが分かるな。酒井学長も学長だ。他国がこれを見たらどう思うのやら・・・いや、むしろこんなもんだろうと納得するか」


通神内のカテゴリと最近の話題に並ぶ、我らが総長 葵 トーリと学長 酒井 忠次 に関するトピックの数々。

M.H.R.R.やP.A.ODAでは考えられん事だなとふと思う。
が、直にその考えを打ち消す。
比較的仲の良かった元信公による仕打ちを忘れてはいけない。

歴史再現のための一向宗徒だと言って侍女型自動人形を百体程送りつけてこられたのは印象に残る思い出である。
歴史再現後に三河へと大半が帰った中、未だに五体が家に控えている。
何でも元信公の命令らしい。
多分困らせる気満々であろう。
全員普通の侍女型よりも幼い外見年齢であった。

それの所為も一部あって色々とゴタゴタが起きたのだからいい迷惑ではある。
その御陰でここでのんべんだらりと過ごせているのだが。


学生は顔をしかめながらコーヒーを一気にあおった。
どうでもいいような過去を思い出したのと、仕事柄、副総長の居ない間対外外交と広報を一手に引き受けている身としてはトーリ達の騒ぎが加わって頭が痛くなる。

頭痛を堪えながら、店員にコーヒーのおかわりを注文する。


「Jud。ところで、よろしいのですか顕如様。外が騒がしいようですが」


P-01sは裏方へとコーヒーポットを取りに行く前に、腕に生徒会総務の腕章を付けた客ー顕如ーにそう問う。
始業時間に触れないのは既に両者にとって暗黙の了解であった。


「ん?・・・ああ、またか。全く、今度は何処なんだ?ちょっと行ってくるわ。という訳で先程の注文は取り消し。金は此処に置いておくから」

「Jud。御利用真に有難う御座いました。またの御来店を御待ちしております」

ペコリと頭を下げる店員を背に顕如は店を飛び出した。


「よお、朝から元気だなあ、イトケンは。」

「―――おはようございます、顕如君。今日も黒髪がツヤツヤとしていて元気そうだね」


追いかけっこの脱落者の救護担当であった爽やかで淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健児に行き先を聞くのであった。



     ●



多摩先端部において、ジャージ姿の教師 オリオトライ・真喜子は追って来ていた二人の濃い生徒である航空型半竜、キヨナリ・ウルキアガ&キャップを被った忍ばない忍者 点蔵・クロスユナイトと一人の勤労少年であるノリキを退けながら、生徒達の実力に目を細める。
色々と戦闘技術を教えてきたが、教え子達はスポンジが水を吸収するが如く覚えてきている。
教師としては嬉しい限りである。
内心ではそんな事を思いつつも、オリオトライは生徒の次の行動を予測する。


「厄介な近距離型は潰したからこの距離だと残るは狙撃のできる浅間か、それとも「正解でしょうなあ」だねぇ」


家屋の屋根伝いに疾走するオリオトライに追いつき並走し始めるポニーテール。


「いやあ、先生加速符も使わずにそんな加速できるのがうらやましいわ」

「まあ、出来るものは出来ますし」

「それに、未だに君の戦闘種が近接呪術士ってのが疑問だね。だって名前からして矛盾してるし」

「仕方がないでしょう?何せ攻撃用の力の大半が封じられているんですから」


顕如は並走しながら何発も牽制の拳と蹴りを放つが尽く受け流される。


そんな密接状態の二人を遠くから見ていた射撃巫女こと浅間 智は、突然の乱入者に慌てるが既に発射態勢に入っているのを止める事など出来る筈もない。


「ど、どうしましょう!?今撃ったら顕如さんに当たるかもしれないし、でも禊ぎがあるから・・・・・・いや、あの人なら狂わせるくらい簡単ですし、ああもうっ会っちゃいましたよ。ええいっ!避けて下さい!!」

「遂に人をズドンか」

「今までズドンしてなかったのが不思議だったしな」

「通り名を変えるのはもう不可だと自分思うで御座るよ」

「うるさいですね!!」


滅茶苦茶な事を口走りながら浅間は矢を放った。
それに対して周りの生徒達は皆好き勝手にに浅間を批評する。

その間にも放たれた光の矢は快音と閃光の帯をたなびかせ、殴るような軌道で獲物へと突っ込む。

矢の目標であるオリオトライは、丁度顕如が凍らせた屋根に足をとられて体勢を崩していた。
かろうじて長剣を楯のように矢に向かって掲げるが、追尾術式の入った矢には通用しない。

誰もが当たる!と確信し、皆の期待通り矢は長剣を迂回して炸裂した。


「・・・やった!」



「んなあっ!?」

「違います!!手応えが軽すぎます!―――当たっていません!!」


顕如の驚愕と浅間の吠えるような声が歓声を上げかけた皆の耳朶を叩いた。


まさかの自分の髪の毛を囮にした追尾術式の無効化という離れ技を成し遂げたオリオトライは、長剣を肩に担ぎなおして呆然とする生徒達にニヤリと笑うと次の家屋の上へと移動を再開。


それに慌てて再び後を追いかけ始める三年梅組一同の中、顕如は自身も適当に後を追いながらぼやく。


「つーか、追尾術式の無効化と同時に鞘の一撃で俺の張った氷を割るとか相変わらず馬鹿げたスペックだ」


オリオトライに砕かれた流体へと還っていく擬似氷塊を見るとため息が出てしまう。




この氷塊は、先程の浅間の一撃の寸前に顕如が屋根一面に作り出したものだ。
当然、神奏術ではない。
神との契約を通してできる術式展開の早さではない。

言霊。

それが顕如が使用した術式である。

言霊は精霊術と似通った部分がある。
というよりも大元が同じ系統なのである。

どちらも意思を持った流体である精霊に働きかけるという点では同じだが、その過程が異なっている。
精霊術では、精霊に話しかけて力を借りるが、言霊では精霊を使役、流体そのものに干渉するのだ。

言霊が強力であり、異端の術式とされかかっている所以は後者にある。

この世界、流体は人が生きるために必要不可欠なもの、例えるならば血液同然とも言える。
そのような存在である流体に干渉できるとしたらどうなるか?

やろうと思えば、人を殺す事も可能とされている。
何故可能らしいかというと、未だに試された事が無いからだ。

何人死ぬかも分からないものを不用意にぶっ放す時の権力者はいなかったという事だ。
勿論、顕如自身もそんな事はしたくもないし、今は攻撃用の言霊が発動できないように封印が施されている。

そして、もう一つ。
精霊術を使える術者に比べて言霊を使える人数は圧倒的に少ないのである。

精霊を使役、さらには構成要素たる流体への干渉もあるのだから、相応の素質も必要となる。
具体的には、内燃拝気の多さと精霊に好かれるという二点。

あまりに微妙すぎる素質のために、ここ最近では言霊使いは顕如以外認定されていない。




何はともあれ、武蔵アリアダストも全年齢対象にして欲しいものだと今までにも何度も思ったが、また改めて思ってしまった。



結果的に今日の授業内容は、オリオトライの馬鹿げたスペックデータの更新、模擬戦兼マラソンと対魔人戦のやり方の三つと相成った。






あとがき

はじめまして、そしてお久しぶりです、プーです。
恋姫ss(主)とリリカルssを書いている者ですが、詰まった時に書き溜めていた物を投稿致します。
三巻上が出てしまうと設定が多いに矛盾する可能性があるので今しかない、と。

設定を全て書くと多すぎるので省きまくってますが、通じますかね?
読みやすくなるように努力はしたのですが・・・・・・

どのような御感想、御意見でもありましたらよろしく御願いします。







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  二話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/04 03:09
第二話:平時の教室


空に浮かぶ巨大な船、航空艦 武蔵上にある武蔵アリアダスト教導院。
その一角にある木造の教室では、三要という名札の女性が世界史の教科書片手に授業をしていた。

その内容は、聖譜(テスタメント)。
前地球時代のあらゆる分野の歴史を纏めた歴史書。

かつて天から下りて来た人々が、再び天上へと昇るための一つのアイデアとして考え出されたものである。
歴史、いや現実に対する攻略本とも言える。

ただし、歴史の先読みによる利権争いを防ぐために百年先までしか読めないようになっており、その更新は人ではなく、万物を司る地脈を通して可変的な運命に委ねられている。

運命、と聞いてもピンとこないかもしれない。
人の手による介入ができないある程度決まった聖譜記述(シナリオ)を現世の人々はなぞる事しかできない、と言えば少しは分かりやすくなるであろうか。


三要は、聖譜という話題に関連して宗教にも言及をしていった。

一通りの説明が終わると、教室は板書する音で占められる。
あちゃあ、ちょっと速過ぎましたか。

時間潰しに皆の間をまわる。

後ろに来てもまだ音が止む気配がなかったので、後ろのロッカーに寄りかかって一息をついた。
皆、三年なんですよねえ。

初めて三年を持つ身としては緊張と同時にどうしたらよいのか分からなくなる時がある。
ここではベテランで先輩と言えるオリオトライの顔を思い浮かべる。
力押しで様々な問題を解決しているとはいえ、頼りがいはある。

そういえば、隣のクラスは先輩の授業でしたか。
ボーっとしていた三要の耳に隣の教室の声と音が聞こえてくる。
これは・・・極東史ですかね。


『えー、つまり現在、京はP.A.ODAが包囲支配しててね?まあ、これの所為でそこの元坊主が此処にいるんだけど』


坊主って・・・ああ、顕如君かな。それに、正確にはP.A.ODAの明智家が自治を認めている、ですって。
微妙に間違った解説に内心でツッコミを入れながら、生徒達と仲の良い、自分からするとうらやましい形態の授業に続けて耳を傾ける。

先日は敗者バンジージャンプ授業であったが、今聞こえてくるのはオリオトライと女連中の


『脱―――げ!脱―――げ!』


予想の斜め上であった。




       ●


件のオリオトライの授業はどのようなものか?

1:授業する
2:解答者に質問する
3:答えられなかったら授業点数は引かれずに厳罰が下る。通称、《処刑》。逆に答えられたら申告していた厳罰に応じた授業点数が得られる

また、オリオトライの授業にのみ《御高説》というものがある。


「はーい、鈴―――。知ってるだけでいいから先生の代わりに御高説してー」

「あ、え?ええ?―――ってあ、いえ、は、はい、です。重奏統合争乱、です、ね?」


目を伏せたままの盲目の少女、鈴がつっかえながらも指名に応じて自分の知っている知識を語りだした。

鈴が話し始める極東史に要所、要所で質問を投げかけられながら御高説は進んでいく。


「なあ、マルゴット。どうして、あの教師は自分で授業したがらないんだろうな?」


途中でトーリの邪魔が入って五月蠅くなる授業。

顕如は前に座る背中に六枚翼を持った金髪笑い顔、第三特務 マルゴット・ナイトに話しかける。
対するナイトは、笑顔を崩さずに


「ん~、ケンちゃんの同じ質問これで何度目だっけ?ぶっちゃけいい加減疲れるんだけど」

「一日平均一回として、最低でも千回越えてるね」

「ふふ、ダメダメね」

「モテナイ男の典型で御座るな」


手元の鍵盤に色々と打ち込みながら素っ気無く伝える書記のネシンバラとそれに追従する賢姉こと葵 喜美と忍者。
その内、忍者は貧乳従士アデーレの「忍ばない忍者も・・・ねえ」という言葉に吐血した。

とにかく、これだけは抗議しておかねばなるまい。


「おい、書記!何捏造してやがる!?まだ七十七回だ」


―――それでも十分に多いよ、と皆の意見が一致する。


「ハイハイ、もう御高説終わったからね。ちなみに出すから」

「先生っ、先生!ちょっと横暴じゃね?聞いてなかった俺達点数とれねえじゃん」


拳を振り上げる動作をすると馬鹿が逃げる。


「まあ、ぶっちゃけテストも給料貰ってるからやるんだけどね~」

「うわ、もう教師って言えないくらいに酷いな!」

「そんなんだから、嫁き遅れるで御座る」

「うむ」


余計な事を口走った忍者と半竜に真っ赤な白墨が炸裂する。
そんな凶行を笑顔のまま行ったオリオトライがふとこちらを向く。


「顕如は騒ぎの原因として厳罰ね」


なん・・・だと?


「え~と、何々。厳罰は私とのガチバトル?ああ、厄介なんで却下。先生面倒なのは嫌いだし」


内容を見て獲物を変更するようだ。


「そういえばトーリ。あんた鈴の代わりに厳罰受けるって言ってたよね。こっちは・・・とりあえず脱ぐ。OK、OK。やろっか」

「不平等だ!!でも脱ぐっ!」

「脱ぐの(か)(よ)(で御座るか)」


おい、と突っ込む間もなく次の生け贄が決定。


そして、結局


『脱―――げ!脱―――げ!』


皆の掛け声にトーリが上着を脱ぐ。
歓声。
さらに脱ぐ。
歓声。
脱ぐ。
歓声。

そして、遂に最後の砦(パンツ)に手がかかる。

特に女子が固唾を呑んでいる。何かとノリノリである。


「わあ―――――?」


あられもない姿となったトーリの股間には四角い光の群。


「新しく買ったゴッドモザイクだぜ。初披露!どお?どお?」

「できれば見せないで頂きたいものです。―――以上」


クラスメイトの予想をいい意味でも悪い意味でも裏切る全裸に苦情を申し込んだのは、顕如の後ろに座っている黒髪幼女。
名札には 三笠とある。

元信公の命で顕如の下に留まっている五体の自動人形の内の一体である。

半眼で全裸を見据えながら、重力制御で近くにあるものを光る股間の前へと持っていって隠す。


「うおいっ!?それ、俺の筆箱!」

「くそっ、金にならん絵だ。せめて、馬鹿ではなく姉の方ならば価値があるものを・・・」


ふと守銭奴こと武蔵商工会若手幹部たる会計 シロジロ・ベルトーニは悪態をつく。

すると、手元に表示していた表示枠(サインフレーム)の所に小さなキツネの走狗(マウス)が走りよってくる。
○べ屋の走狗のエリマキは、器用にも汗のようなものを垂らしながらバクダンの絵とカウントを出す。
賢い走狗である。

『3、2、1、逝ってらっしゃい』

カウント通り、背後に立った誰もが認めるシロの妻、ハイディ・オーゲザヴァラーによってシロジロは床に崩れ落ちた。
笑顔のまま、


「あっれぇ~、シロ君急に倒れちゃってぇ。」


膝枕をしてあげながらいやんいやんするのを皆一様にスルーした。


色々とトラブルは起こるが、教室内に満ちるはどれも正(プラス)の感情。
他国の教導院だと、もう少しは緊張感とかがある筈だ。
それがここの良い所かなあ。


次々と起こる騒ぎに、持病のようになっている頭痛に顕如は襲われる。


「薬です。御飲み下さい。―――以上」

「すまないな。このノリでどうして次々と色んな事が決められるんだろうなあ。この雰囲気だからこそかもしれんが」

「Jud.それがこのクラスの特徴かと。―――以上」


三笠の何を今更と言わんばかりの返答に顕如は頷く。
だが、同時にこれ見よがしにつかれるため息に、この野郎と思う。


そして、今最も重要な話題を


「ところで、俺の筆箱は?」

「Jud.それなら・・・あ」


自動人形にしては珍しく呆然とする三笠の声に浅間の悲鳴が重なった。



浅間の手が、筆箱越しに全裸の股間を殴り飛ばしていた。


それが視界に入ると同時に


「俺の筆箱―――!!」


思わず加速した。


その後は、全裸と一緒にオリオトライによって隣の教室にかっ飛ばされた筆箱の回収と、廊下にいた武蔵王 ヨシナオと新しい級友の 東の対応に追われる事となった。




あとがき

続いた。
特徴的な書き方がまだまだ未熟です。
三巻発売日に更新でした。

御意見、御感想どうぞよろしく御願いします。







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  三話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/09 01:50
第三話:馬鹿の告白前日

「ハイ、それではこれから臨時の生徒会兼総長連合会議を行います」


と、少年の声が高い位置で生まれた。午後をやや過ぎた空の下にある、木の橋上だ。
武蔵中央後艦・奥多摩にあるアリアダスト教導院の正面橋架(きょうか)、正門側に降りていく階段の上に、制服姿の影が幾つかある。

トーリを中心とした梅組の面子の一部だ。
賢姉、点蔵、シロジロやハイディ、顕如といった構成である。

先程の声を発した少年、ネシンバラは、宙に表示した鳥居型の鍵盤を叩きながら、議題《葵君の告白を成功させるゾ会議》の開始を宣告する。


「んー、いきなり視聴率だけ考えると、俺がフラれた方が面白くね?」


トーリのフライングに皆が突っ込む。
その反応を受けてトーリは、ああん?とねめまわし、


「何だよオマエら!俺がフラれちゃ駄目なのかよ!?それ、せ、成果主義の押しつけってやつだな!?そんな風にモテない男を認めない社会に対してワタクシは断固抗議したい。いいですか?――誰もが結婚出来ると思うなよ!?お前も!お前もだ!!」


手当たり次第に周囲の帰宅人を指さし始めたので皆で押さえつけて止めた。

途中で二回くらい指さされた三要先生が泣きながら走っていってしまったので、手の空いていた顕如がフォローのために走った。
本来、仕事とは別な筈なのだが、広報という仕事をしていると様々な情報を手に入れるものだから、皆がその集まる情報の中に苦情も織り交ぜてきたのだ。

政治担当が決まれば、そっちに全て押し付けるつもりだが、今の所該当人物がいない。
政治家志望の本多 正純辺りが本命ではあるが、如何せん本人の承諾及び総長の指名無くしては仕事の譲渡もできない。
また、そういった苦情に一々対応、時には謝罪して回らなければならないのだ。
それが満足にできる人物が果たして正純以外に生徒会内にいるだろうか?

ネシンバラとシロジロが微妙なラインだが、面倒くさがるか金の話になりかねない。

結果的に顕如が忙しい上に更に自分で自分の仕事を増やす事になった。


「ったく、あの総長の御陰で仕事が増えるったらありゃしない」

「Jud.ですが、それは顕如様の広い御心によって許容されているのでしょう」

「で、本音は?」

「自業自得かと―――以上」


三要の後を追いかけながら愚痴をこぼすと、常に傍らに控えている自動人形が素っ気無く答える。
思わず本音の所で拳を握ってしまう。

一度こいつには教育が必要かもしれない。

そんないつも通りの遣り取りをしている内に目的の人物に追いつく。


「三要先生っ!三要先生!」




      ●



授業が終わり、お気に入りのお菓子の販売曜日だと気付いて三要は早めにアリアダストを出た。
が、鼻歌がついつい出る程明るい気分も橋の上から聞こえてきた声に一気に沈む事となる。

結婚だってもうすぐできますよ、ええできますとも。
できないと、先輩みたいにはなりたくありませんもん!

思わずうな垂れてしまったが、沈んだ気持ちを鼓舞して発言者を注意しようと視線を上げ、


「お前も」


え?


「お前も」


二度目・・・?

総長によるあまりの仕打ちに脳が機能停止を起こす。
あれ、何だか涙が・・・

頭で理解するよりも早く、体が後ろへと向いて、走り始めてしまった。
その足は左舷三番艦にある目的の店へと向いていた事は分かっていない。

しばらく無意識に走ってから、再び思考が正常に戻る。
と同時に自分を呼ぶ声も後ろから聞こえてきた。

突然の呼びかけにえっ、と足を止めて振り返るが、そこには誰もいない。
あれぇと思った瞬間、背後、今までの進行方向から声がかかる。


「先生、こちらです。追いつくために壁面を走ってきましたもので。急に止まられたために行き過ぎてしまいました」

「Jud.顕如様の突拍子も無い行動で混乱されるでしょうが、ここは御慈悲を」


三要が声の方向に向くと、ポニーテールと傍らの幼女が特徴の見知った生徒であった。
そして、顕如が言った言葉に耳を疑う。

振り返ると、多くはないがそれなりの人数が歩いている通り。
その両側に建つ少し高めの建造物というか障害物。
壁面は突起物が少ない。個々の住宅が立ち並ぶのではなくて生産工場としての同じ形の三階建て長屋のようなものが多く、精々窓と換気扇、雨樋くらいしかない。
そこを走ってきた、と?

しかし、そこで思い出す。

先輩が愚痴ってましたっけ。
何で空が飛べるんだーーーって。


「そういえば空飛べるんでしたよね」


謝罪をしに来たつもりが夫婦漫才を未だにしていた二人はこちらを向く。


「いえ、限りなく滞空を伸ばした滑空です」


どっちも変わらないような気が、と思うが口には出さない。
というか出せない。

目の前に差し出された菓子包みに視線が固定されてしまう。
こ、これは黄白堂の高級和菓子・・・大好物ですよ!?

そんな私に顕如はホッとしたような表情を浮かべ、


「総長が何時も御迷惑をおかけしております。何卒御容赦の程を。これはささやかな御詫びです」


ついつい受け取ってしまってから気付く。
これって賄賂?

しかし、軽く混乱してしまう三要を残して顕如は足早に教導院前へと戻っていってしまった。

貨物の上を跳んでいきますか、普通・・・

後姿を見送るしかなかった。



      ●



顕如が任務(後始末)を済ませて戻ってくる頃、トーリ達が集まっていた場所には一人しか残っていなかった。
茶色いウェーブヘアの少女、葵 喜美であった。

階段に座っている現在の彼女を見れば、少し戸惑うかもしれない程に静かである。
座ったまま頬杖をついている姿は、元々の優れた容姿と相まってまた一味違った魅力を醸し出しながらも何処か迂闊に近寄りがたい雰囲気をも出していた。

喜美は愚弟を心配しながら、


「怖かったら、戻ってもいいのよ、トーリ。―――愚弟なんだから」


正面向こうに見える通りの前に立つ弟を見下ろしている。

姉に見守られている当の本人は、くねくねしたり、反復横飛びし始めたり、街頭の柱で低姿勢型ポールダンスを始めたりといつも以上に奇行を連発する。


「いるのは賢姉だけか」


喜美の背後から突然声をかけてきた人物は振り返るまでも無く分かる。


「あら、女の背後に気配殺して忍び寄るのは痴漢のやることよ」

「同感です。―――以上」

「酷い言い草だなあ」


振り返ると、案の定ポニーテールが顔をしかめていた。


「皆してトーリの観察?新手の遊びなら叩き落すけど。やった方がいい?」


もう一人いたようだ。酒瓶を小脇に抱えたジャージ姿が隣に腰をおろし、


「まあ、今日は先生にとってもめでたい日だから許してもいいけどね」

「フフフ、学食で飲酒して酔っ払ってるわね、この教師。でも、偶然ね。トーリも今日がめでたい日よ。明日がもっとめでたくなるといいけど」


オリオトライは喜美の言葉に頷きつつ、視線を彼女に向けて


「優しいねえ」


己の首元にある鎖を弄びながら


「頑張れ頑張れ」


トーリへと小さな声援を送った。


「フフ、先生は愚弟の味方になってくれる?」


そして、喜美の問いかけに


「愚弟はどうだか知らないけど、葵・トーリの味方にはなるわよー。喜美や、他の誰でもね。少なくとも、先生のクラスの皆に対しては絶対に味方だから。―――あ、でも、学生間抗争に教員は直接関われないから、そこらへんの判断ある時は勘弁してね?」


答え、喜美はそう、と頷いた。


「おーい、俺は絶賛無視ですか、この野郎ども」


空気を読んで黙っていたポニーテール男子が漸く口を開くと、


「あら、まだ居たの?」

「ゴメン、ゴメン。忘れたわ」


二人共悪びれた様子もなく返す。


「扱いが相変わらず酷い。まあ、それはいいとしてどうなったの?アレ」

「ああ、アレ?色々とあったわよ。色・々・と」


賢姉の不自然な強調に不吉な予感を顕如は感じ、


「愚弟がネイトのオッパイ堪能して吹っ飛ばされたわよ」


的中した。


「またかっ!?また問題か!」

「ミトツダイラ様・・・・・・顕如様も私のを堪能して鬼畜外道に堕ちますか?―――以上」

「そんな目で見るなよっ!!先生も期待しない!」


最早お約束となっている遣り取りを交わす二人。


「あー、違う違う。酒のつまみにするだけだから」

「何処に違いがある!?」


唯我独尊な教師の相手に疲れていると、喜美が割り込む。


「フフフ、いい具合にテンション上がってるようだけど、副会長もしゃしゃり出てきたわよ?」


見てみると、確かに後悔通りに副会長の本多 正純が踏み込んでいた。


よりによってあの石碑のある場所か・・・

武蔵住民にとって、元信公にとって、何よりトーリにとって記憶に残る場所だな、と顕如は思う。

ホライゾン・A、つまりホライゾン・アリアダストという女の子の墓標である。
彼女は、元信公の娘にしてトーリの大切な人であった。

顕如がここに来る二年前、今から十年前に起こった事故によって、トーリは彼女を失い、その身に消えぬ傷を負った。
その後、加害者は自分である、と塞ぎ込んだトーリを無理矢理にでもこの現世に引き戻したのが目の前にいる賢姉であった。

自分はホライゾンを知らないし、当時の状況も聞いた程度しか知ってはいない。
だから、トーリを応援する事はできてもトーリの苦悩を本当の意味では分からない。


自分も何時か近しき人を亡くした時に初めてその気持ちが理解できるのだろうか。

心中複雑な中、ホライゾン・アリアダストの父親である元信公との八年前の授業がふと思い出される。




      ●




三河市街のこじんまりとした茶屋で、元信公達が送別会を開いてくれていた時だった。


『三河本土での最後の授業を始めようか』


周りにいた松平四天王の内、酒井 忠次を除く三人。
【東国無双】本多 忠勝、【檄文】榊原 康政、国政及び開発担当の井伊 直政の内二人が酒で沈み、一人が自動人形に物理的に黙らされた後、唐突に学帽を被った松平 元信は口を開いた。

何を、と言おうとしてその目を見て沈黙する。
普段から穏やかな性格だが、一段と優しさが増したような違和感を覚えた。


『問題だ。末世って何だと思う?』

『唐突ですね。一般的にはこの世の滅び、と言われていますね。ですが、詳細は一切不明。何が起こるのか、その後も歴史が続くのかも何もかもが』


その答えに満足したのかうんうんと頷きながら、


『そうだね。一般的な解答としては百点をあげよう。でも、今は一般的な解答から一旦離れて、別の視点から見てみようか』


不思議な授業を展開し始める。


『末世の時期は丁度君が武蔵・アリアダストで三年になる時、つまりは末世と共に卒業を迎える。これは分かるかい?』


Jud.と答える。


『でも、卒業といっても末世で何もかも無くなってしまったとしたら何の意味も未来も持たない訳だ。』


確かにそうだ、だがそれがどうしたというのだ。


『なら、今から末世までの全てが授業だと言えるよね。この貴重な時間が終わり、末世が来ればもう教導院には戻れず、友達らと話す事もできなくなる』


表情は変わらず、淡々と


『面白くないかい?末世は最高のエンターテインメントと言えはしないだろうか。残りの時間を必死に生きて、終わりを迎えたくなければ、末世を覆してその先に進まなければ駄目だ。ならば、人々は二つに分かれる』


一息つき


『この世を面白くする側と面白くしない、つまり傍観する側とに、ね』


こちらに向けていた視線を外し


『本日の授業はこれまで。続きのお楽しみは後日公開予定だ』


授業終了を宣言した。
そして、しばらくの沈黙の後再び口を開く。


『珍しく今日は先生からの質問だ』


二度目に合わせた瞳は揺れていた。


『先生はだねえ、許されない事をしてしまったのかもしれないんだよ。それはもうこの首が軽く何回も飛んじゃうくらいの。君ならそんな時にはどうする。後悔から逃げるかい?それとも、後悔を背負うかい?はたまた、後悔に押し潰されるかい?』


質問の意図を測りかねた。
だから、らしくない質問に


『背負えるなら背負う。それで押し潰されたらそれまでと考えますよ』


素直に答えた。


『それでは、無責任とも言えないかね』

『やってみなくちゃ分からん事もあるでしょう』


先生は、しわくちゃの顔を更にしわくちゃにして


『ハッハッハッ、先生も老いたかなあ。たとえ壁が立ち塞がったとしても、老骨のように立ち止まりはしない。どこまでもどこまでも足掻きぬく。無茶は若者の特権とも言える。世の中がそれ程甘くない事を差し引いて解答ならば七十点をあげる所だが、これは先生からの質問だったから点数は無しだ』


笑った。


そして、


『また、授業をしてあげよう。大きな、大きな授業だ。生徒が多いに越した事はない。次の授業は歴史に残るであろう授業になるからね』


そう意味深な言葉を残したのだった。



あとがき

三話を投稿。
金がないのでまだ三巻購入していない。
六月中に購入&読破予定。

進まないったら進まない。
原作通りの場面を出来る限り避けるような形を取っているが如何でしょうか?

また、三要先生の好みや左舷三番艦の設定は独自設定です。

御指摘、御感想がありましたら遠慮なく書き込み下さい。









[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  四話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2011/05/09 21:55
注;この作品は「小説家になろう」様にも投稿させて頂いております。



第四話:垣根越えるべき時


日が沈み、辺りが暗くなっている中、武蔵アリアダスト教導院の一室には明かりが灯っていた。
部屋の中には、伝纂器の前に座るポニーテールと傍らに直立して控えている幼女の姿。

かなりの量を打ち込んだ後、顕如は大きく伸びをした。


「~~~~っ、あーーー疲れた。」

「御疲れ様です。夜食です、御食べ下さい」


椅子を回転させて


「ありがたい。・・・うむ、塩加減が俺好みだ」


用意された握り飯を食う。
白米と塩のみだが、疲れた体には丁度良かった。

横に置いてある急須を取り、湯飲みに注ぐ。
立ち上る湯気が軽い空腹感と疲労感を思いだたせる。


「さて、臨時の仕事も後少しで終わる」


三笠に目を向けると


「既に布団は一組敷いてあります。何時でも大丈夫です。―――以上」

「完璧だ」


向こうが親指を立てたので、こちらも立て返す。
さあ、もうひとふん張り・・・。

待てよ、自動人形と言えども三笠も布団で寝るよな。
だが、敷かれた布団は一組。
やりやがったな。


「待て、今何か「わはぁ――――――」」

「・・・・・・」


話を咎めようとした瞬間、斜め後ろにある窓が割れる音がした。
そして、それとほぼ同時に何かが壊れる音もした。

画面が割れる音、画面が割れる音、画面が割れる音。
やっぱりアレだよなあ。

犯人は、今の声からしてマルゴット。

今日も厄日か・・・。

目の前の幼女は、頬に手を当ててアラアラとかやっている。

できれば振り向きたくはないが、振り向かねばなるまい。
錆び付いた玩具のように緩慢な動きで振り返る。


「あ~~、ゴメンね?久しぶりだから、ちょっとはっちゃけちゃったかな、って思ってる」

「あら、居たの?てっきり幽霊かと思ってたわ」


この事故の犯人である、双嬢。
黒嬢(シュバルツフローレン)、金髪笑い顔の第三特務、マルゴット・ナイトと白嬢(ヴァイスフローレン)、黒髪無愛想貧乳の第四特務、マルガ・ナルゼ。
二人は、それぞれ個性的過ぎる謝罪を述べる。

最早片方は謝罪ですらないが。

窓の外、空中で呑気に構えている二人の言葉をスルーして


「さて、どうしてくれる?」


部屋の中で唯一破壊された部分を指差す。

ナイトが視線をその先にやると、そこには先程自分達が打ち込んだ延べ棒とそれによって真ん中を貫かれた伝纂器の画面。
顔は笑ったまま


「あはは・・・、記録媒体(HD)は無事だからセーフだといいなあ。ねえ、ガッちゃん?」

隣の相方へと投げて

「あら、ナイトも私も大丈夫よ。きっとこの男の事だから全部経費で落とすわよ」

予想の斜め上をいく、まさかのピッチャー返し。それも球のではなく、バットの。
流石のナイトもこれには冷や汗を流し始める。

将に今のマルゴットの心情を表すならば、『あるぇ~?』、であろうか。

顕如は、さっきの暫しの遣り取りの結果、拳を握った。

それを見て、二人がギョッとした感じで慌て始める。
加速系の術式か。また増えたようだな。


「これは、全て俺の自費だ。シロジロがそんなにお人好しに見えるか?ないだろう。」


この俺から逃げようとはいい度胸だ。


「それにな、今日今まで打ち込んだ分が全て消えたんだ。分かるか?いや、分かるまいこの怒り」


いいよな?もういいよな?


「歯ぁ食いしばれよ」


視界から二人の姿が一瞬で上方へと掻き消える。


「修正してやる!!」





      ●





一気に上昇したナイトは、後ろを見て安堵の息をつく。


「ガッちゃん、今回は追って来れないみたい。よかったね」

「そうね、あの人間に喧嘩売ってるとしか言いようの無い動きで追い回されるのは辛いし」


そう。何時もであれば、逃げ切ったと思って気を緩めた瞬間に捕らわれる。
正に捕食者の動きで確実にこちらを追い回し、疲れさせて、そのためにできた隙を突いてくるのだ。

はっきり言って、一度追われたら武蔵上に降りたくないくらいに執念深い。

しかし、それが今日は無かった。
いや、できなかったというべきか。

窓を飛び出して、壁面を駆け上がろうとした総務の首に予定調和の如く縄がかかって部屋へと引きずり戻されたのだ。


「ちょっ、おまっ、グェッ、がぁ・・・」


かなり危険な声が聞こえた気がするが、まあやったのは彼女だし大丈夫かと考え、


「ねえ、ガッちゃん。口直しにひとっ飛びしない?」

「いいわね」



そして、校庭から響く武蔵王の怒声と鈴の泣き声を効果音楽(BGM)として校庭の外縁に沿って一周して異変に気付く。


「あれっ、火事?」


暗がりの中に、不意に光が生まれる。
爆発の光。
炎であった。
各務原の山の峰の上に、焔の形が一つ生まれた。



何時の間にか静まった中、皆が三河で起こった異変に気付くが誰にも詳細等分かる筈も無い。

総長、トーリの解散宣言で主要面子以外は三々五々散っていく。

空中の二人を含めたここに残った皆に共通している事があった。
何か嫌な予感がする、と。
誰もが唯単なる余興等には思えなかった。





      ●





「おいおい、さっきからだんまりだけどよ。大丈夫か?顔色悪いぜ?」


総長の声に我に返った総務は、


「三笠、状況は把握できるか?」

「Jud.見た感じだけでよろしいのでしたら」

「続けてくれ」

「Jud.三河郊外において何らかの武力衝突が起こり、その結果があの炎かと。―――以上」


その受け応えに驚く皆。


「ちょっと待ってくれ。もしそうであった場合、元信公の反逆の罪としてこの武蔵が危険にさらされる事になるぞ」


普段はヤル気の無い口調のネシンバラが、珍しく危機感を滲ませた声で問い


「Jud.これからの元信公の動きにもよるが、この責任はここに、俺達全員に降りかかる可能性がある。誰か急いで酒井学長・・・って下か。よりによって」


頭を掻き毟りながら武蔵へと連絡を取ろうとし


『ようし、じゃあ全国の皆! こんばんはあ――!』


突如空中に出現した表示枠から


『この放送!共通通神帯(ネット)で全国に放送中だからね!よい子の皆、ちゃんと先生の一挙手一投足を油断せずに見ていなければいけないよ!ではチャンネルはそのままで!』


学帽を被った如何にも先生っぽい人物が


『今日、先生は、地脈炉がいい感じに暴走しつつある三河に来ていま――す!!』


嬉しそうな、本当に嬉しそうな顔で喋り始めた。





      ●





元信公・・・?

突発過ぎて混乱するが、一つだけ確信する事ができた。
不審火の直後、あまりに狙いすましたタイミングに疑念の余地が無くなったのだ。


「元信公っ!!」


思わず、怒声をあげた。


「おや、久しぶりじゃないか。元気にしてたかな。さて、これから授業が始まるんだよ?生徒はちゃんと静聴しないとね」


対する元信公は昔と変わらない捉え所の無い返事を返し


「立花・宗茂君だね?遠路遥々課外授業にようこそ!じっくりと見学していってくれたまえ」

「課外授業・・・・・・?」


観客の一人となっていた宗茂に声をかけ


「ああ、――地脈炉の暴走による三河の消滅だよ。最高の教材だと思わないかい?」


宗茂の疑問にしれっと答えた。





      ●





世界の各地、人々は、身分などに関係なく、神肖筐体(モニタ)や神啓筐体(レディオ)から、元信の言動を見聞きしていた。
彼は光に満ち溢れた地脈統括炉を背景に笑顔を作ると、


『どうだい地脈炉暴走、さあ、三河の消滅を見てみたい人は元気良くジャンプして左手を挙げなさい』


その自分のセリフに対し、元信は一回軽くジャンプして左手を挙げ、こう叫んだ。


『・・・・・・は――い!!ぼぉく見たいで――す!』





      ●





誰もが予想外過ぎる展開についていけず、置いてけぼりをくらっている中、表示枠の中に動きが起きる。

数百体を越える侍女服姿の自動人形達だ。

彼女達は、元信の言った通りずっと右手を挙手したまま通路の左右に展開する。


そして、その間を身をシェイクさせながら宗茂達の方へと歩き出す。


さあ、と小首を振る彼の姿は逆光である。
遠めに見ている側からも表示枠からも、彼の顔の造作は解るが、表情は解らなかった。


『――さあ、さあさあ!』


そんな事はお構いなしに元信と後ろに従う侍女達は次の行動に移る。

自動人形は各々が笙、横笛、太鼓、和琴といった幾つもの楽器と加圧機(アンプ)を構え、


『――!』


尺拍子の打ち音と同時に調律を行う。

奏でられる多重の音色と音圧は、中央の元信の左手が指揮棒であるかのようにその手に沿って変化する。


『・・・・・・!』


その手が、握られ、振り下ろされる。

と、同時に


『――通りませ――』


楽器の伴奏に合わせて無手の侍女達が口を開き、奏で歌った。



通りませ 通りませ

行かば 何処が細道なれば

天神元へと 至る細道

御意見御無用 通れぬとても

この子の十の 御祝いに

両のお札を納めに参ず

行きはよいなぎ 帰りはこわき

我が中こわきの 通しかな――



通し道歌であった。

元信が新名古屋城の入り口に至るまでの間、音楽は伴奏状態で続き、声は、あ、の音(コーラス)を響かせ続ける。
地脈の鳴動すらも、今や音の一つでしかない。


『ハイいいですかあ!?この歌、これから末世を掛けた全てのテストに出ます(配点:世界の命運)。じゃあ皆さん、先生に何か質問はありますかー?』


それに真っ先に答えたのは大罪武装(ロイズモイ・オプロ)を持った若者―立花・宗茂。

手を挙げるように言われ、右手と共に“悲嘆の怠惰”を挙げ


「元信公・・・・・・!―― 一体、何のために、地脈の暴走と三河の消滅を行い、極東を危機に陥れるのです!?」


誰もが思っていた事を代弁し


『ふむ、いい質問だね。では、逆に問うてみよう』


先生は


『危機って、面白いよね?』


八年前の授業を再開した。





      ●





武蔵の上で、顕如は頭が真っ白になりかけていた。

まさか・・・まさかこんな方法を取るとは・・・

膝から力が抜けそうになるが、何とか踏ん張る。

周りを見渡してみても、皆真剣な目で見るか呆然としている。


表示枠からは、八年前に聞いた内容が今度は立花・宗茂に対して教授されている。


「顕如様」


隣から声が掛けられる。


「何だ」

「これからが本番です」

「何っ?」


はぁ?と聞き返す間もなく


『―――御褒美をあげよう。それは末世を覆せるかもしれないものだ』


何時の間にかマイク片手に立ち止まっている元信が、


『―――大罪武装』

『かつて七つの国に渡した、八つの想念をモチーフにした大罪武装を全て手に入れたならば――』


一息


『――その者は、末世を左右する力を手に入れる』


爆弾発言をした。


「七つ・・・?配られたのは六つの国。七つ目の国など・・・」


宗茂の否定に先生は笑みを持って答える。


『八つの想念にも、原盤とも言えるものがあり、――実は九大罪だったらどうする?』



それを聞いた、“栄光丸(レーニョ・ユニート)”艦橋に立つ、白の教皇衣を着た男が吠えた。
教皇総長(パパ・スコウラ)インノケンティウスであった。


七つの大罪とは別物である“嫉妬(フトーノス)”に対する元信の説明に食いつく。


『エウアグリオスが論じた八つの想念の中には“嫉妬”は含まれていなかった。だが、友人に対する書簡で九つの悪について述べているんだ』

『何故“嫉妬”が八つの想念に追加されず、また後になってから大罪に数えられる事になったのか。解るかい?知ってるかい?大罪にはそれぞれ神代の時代の魔獣が当てられているけど――』

「“嫉妬”に当てられた魔獣は、――全竜(レヴァイアサン)だ!!」


インノケンティウスは、元信の飄々とした態度に奥歯を噛み締めながら


「――全竜とは、全ての化け物の様相を持つ史上最大の竜!つまり貴様はこう言いたいのだな!?九つ目、嫉妬の大罪こそが、全ての大罪をまとめたものであり、最高の悪徳なのだと!」

『そうそう、八つの想念も何かを妬み、何かになりたいと願う思いの行き過ぎや、その反動によるものだよな。――先生が思うに、エウアグリオスは、その大罪の存在を露わにするのを恐れ、グレゴリウス一世は、嫉妬に新参のイメージを与えるように追加することで、その存在を卑小化して伝えようとした、だが、――やはり人々はそこに全竜を見たよね』

『それにね、運命って皮肉だと思わないかい。遥か昔、全竜という名の交渉、全竜交渉(レヴァイアサンロード)というものがあったそうだよ。僕も又聞きした身だから何とも言えないけれどもね』

「おいおいっ!脱線しているぞっ!!」


重要な話の最中に全く関係の無い事を口にする元信に教皇はいらつく。


『でもね、それは交渉という名前の戦争だったらしい』

「何っ?・・・では今後世界はその流れに巻き込まれていくって訳かっ!?あぁん?」


表示枠内の先生は苦笑し、


『いやいや、そこまで言ってはいないよ。生徒が口出ししていいのは全てを聞き終えてからだ。君の言いたい事は大体予想がつくよ。嫉妬の在り処だろう?』

「そうだ。噂でしか聞いた事の無い存在は一体何処にあるっ!」


漸く辿り着いた、と笑みを濃くした。


『そう、その噂。――大罪武装は、その材料として、人間を使用している。ゆえに、人間の原罪をモチーフとした能力を使用出来るのだ、と』


そして、


『それは本当だよ?実際に大罪武装は、人間の感情を部品としている』


実演を残して、最後の授業の解説を始める。


『その人間の名は、ホライゾン・アリアダストという』


アリアダストの関係者達は、その名前にシンッとなり


『ホライゾン。十年前に私が事故に遭わせ、大罪武装と化した子の名だ。そして去年、彼女の魂に嫉妬の感情を込めて九つ目の大罪武装とし、――自動人形の身を与えて武蔵に送った』


その自動人形は、


『P-01sという名を持って、武蔵の上で生活をしている』


まだ言葉は終わらない


『自動人形、P-01s、その子の魂が、――“嫉妬”の大罪武装“焦がれの全域(オロス・フノートス)”そのものだ。』


軽く両手を広げ


『これが大罪武装の正体と、九つ目の大罪武装の在処だよ』


解説を締め括った。


誰もが沈黙する中、


「・・・・・・どうしてだ?」


唯一人、武蔵上、話題に上がっていた人物であるP-01sの横に居た本多 正純が思いをこぼした。


「どうして、魂のある自動人形を、――大罪武装にした!」


それに答える声はなく、


『今日、ホライゾンを見たよ。・・・・・・手を振ってくれていた』

『ホライゾンは、元気なようで、・・・・・・何よりだ』


言葉が流れた。





      ●





その言葉に武蔵上では、トーリがある地点目掛けて走り始めた。

皆が、聞こえた事実に息を飲み、顔を合わせていた中だったために反応が遅れる。


「愚弟、アンタ、どこ行くの!?」


その問いかけを何とか姉の喜美が発するが、その間にもトーリは既に走り始めていた。

後悔通りを抜けるようにして


「追って!お願い・・・・・・!」


喜美の悲痛な叫び声に、ネシンバラ、ウルキアガとノリキが後を追った。


「・・・・・・」


周りが慌しくなっている中、何時もならば真っ先に動いている筈の顕如は、一人動けなかった。
もう、何が何だかわからなくなっていた。
いや、今起こった事は理解は出来た。

だが、元信公がこの武蔵に、極東の代表達に何を望んでいるのか。
そして、迫り来る末世に対するために一つの答えに繋がるかもしれない手がかり(ヒント)を文字通り、命を掛けて提示しようとしている。
八年前の授業の際にこぼした問いの裏。

それらは、今までに経験した事のない重圧となって圧し掛かってくる。

最早選択の余地は無くなった。
覚悟を決めなければならない時が来てしまったのだ。


「十年、・・・・・・全てを犠牲にしてまで価値があることだと思ったのですか――」


表示枠から漏れてくる宗茂の怒声。
それに対して元信は至って普段通りで返す。


『別にそれだけじゃないよ。目の前にあるものだけで人を判断しちゃいかんな。何しろ十年、世界に多くの教材を送ることが出来たんだ。あとは君ら次第だ。君ら次第では――』


一息。


『世界大戦が起きるかもしれないし、責任所在の問題で、今度こそ極東は完全支配かもな。そしてもしそうなったら、手引きは先生のせいにされるんだろうなあ』


逆光を置いて、こうマイクの声をつくった。


『だが、見てみたいよなあ。――史上初の、聖譜記述にも無い世界大戦ってのを』


宗茂が止める、と宣言し、先生はその行動を賞賛する。


「元信公!授業内容が間違っています!」


遂に生徒の一人が先生に異を唱え、


『いいのかい?この地脈暴走による三河消滅も、末世を左右するために必要なものだとしたら?』


先生の説得


「――貴方に別の教材を作らせるだけです。今の教材は不適切過ぎる」


交渉は決裂した。

衝突は、本当に避けられないものとなった。


『――そこの副長、ちょっとどうにかしなさい』

「本多・忠勝・・・・・・!!」

「おうよ」


対峙するは、自動人形を首からぶら下げた本多・忠勝と八大竜王が一人、立花・宗茂。


「止めるぜ学級崩壊!!」


三河における今夜の最終幕があがった。





      ●





「・・・っく、行かせてくれ、頼むっ」

「それは出来ません」


顕如は、元信のいる新名古屋城に行こうとするが、三笠によって羽交い絞めにされる。
それを振り払おうともがくが、ビクともしない。

今、頭の中には元信公に関する思い出が再生されていた。

ここに来るまで、何回も助言を貰い、援助を受け、そしてよくからかわれた。
幼女の自動人形がたくさん送られてきた時なんか頭を抱えたものだ。

それら全てに共通するのが、元信公の考え方、やり方。
何時でも面白おかしく、わかりやすく。
たとえ道化(ピエロ)となろうとも。
全ては悩める生徒のために。

一人苦悩していたとしても、おくびにも出さず、自分の姿勢を貫いた。
周りが《傀儡男(イエスマン)》と呼んでいたが、彼はそんな人物ではなかった。

彼らは被っていた皮に騙されていたのだ。
そして、今日、その評価が間違っていた事に各国は気付かされたであろう。


今更行っても間に合わない事は重々承知しているし、三河に降りてはいけない事も分かっていた。
それでも、最後に一目会いたかった。

膝から崩れ落ちる。


「・・・顕如様、秘匿回線にて元信公からの御伝言です。―――以上」


そんなポニーテールに三笠は、一つの通神を表示する。
文字だけの通神。


『やあ、元気そうでなによりだ。直に顔を合わせる事はできないから、これで勘弁してくれないかな。少々長くなるがね。君に伝えたい事は二つだ。一つ、三笠達についてだ。彼女達は、ホライゾンの雛形とも言うべき存在だ。大罪武装ではないがね。彼女達五体には、それぞれ大まかな感情を組み込んでみた。山城―喜、嵐山―怒、有明―哀、吹雪―楽、そして、三笠―恋愛。自動人形に感情を込めるのはどれ程可能か試したんだけど限界があった。だからこそ、ホライゾンに希望を託した。彼女達は、悪い言い方をすれば失敗作。良い言い方をすれば試作品な訳だ。色々と改造してあるから何かの役に立つだろう。そして、もう一つだ。貴重な言霊使いである君に、これが止められるかい?――以上だ。授業を楽しんでくれたら幸いだよ。達者でな』


一気に書かれた文面。
周りで顕如に構っている者は皆無であった。


「・・・これに返答は可能か?」


自動人形は答える。Jud.と。

一言だけかつての友人に贈った。


『最高の贈り物(エンターテインメント)を有難う』





      ●





新名古屋城にて杯を持って崩壊を待っていた元信の手前に一つの通神が開かれる。


「ほう、うれしいねえ」


生徒からの感謝の言葉に目を細め、満足そうに頷く。


「おうい、先生よ」


ん?と視線を上げると、


「我とこいつも中にいれてくれっか?」


何時の間にか体中が血に濡れた状態の本多が歩いてきていた。


「未成年は飲酒禁止だぞー」


通神をしまい、冗談を飛ばした。

そう、もうすぐ終わりだ。
そして、新しい幕開けでもあるだろう。


「創世、どうなるかな?末世も、どうなっていくんだろうか?各国は動いているけれども、まだ、眠っている者達だって、気づいてなかったり、意識していない者達だって多い。それがどうなるか見たい、見たいけど・・・・・・」


これだけは譲れないよねえ。


「――始めの一歩は先生とお前らだよな。傍観より参加、観察より実験、見学より実戦、それだったら一番乗りは外せない。そしていいかあ――」


マイクを握った。
さあ、最期を飾ろうか。


「――これより授業を始めます」


次の瞬間。新名古屋城が爆発消滅した。





      ●





顕如は、一言だけ先生に伝え終わると、ふと空を見上げた。

航空艦の艦影が見えた。
あれは確か・・・三河から出た警護隊の先行艦。


「・・・まずいっ!ぬかったあ!」


警護隊だけならばまだよかった。
その中に確実にK.P.A.Italiaの連中が乗っている筈だ。
あの教皇総長がこの機会を逃す理由がない。


交渉による遅延行為もこれで厳しくなってしまった。
唇を噛み締めながら、降下部隊が降りた地点へと連れと共に急いだ。



結局、辿り着いた時には、トーリが正純によって気絶させられており、ホライゾンも確保された所であった。

それでもなお、声を張り上げた。


「K.P.A.Italiaの隊長殿っ!武蔵アリアダスト教導院、総務兼広報の顕如が交渉をしたい、と教皇総長殿に伝えて頂けぬか」


隊長はこちらに気づき、暫しの思案の後、連絡を取る。
そして、


「承諾との答えを頂いた。この艦に乗られよ。案内しよう」

「Jud.感謝する」


交渉すら許されぬ状況よりはマシか、と思い


「どういうつもりだ?」


隣に寄って来ていたネシンバラに声をかけられる。


「君がいなくなれば、戦力も、いざという時の交渉も上手くいかなるかもしれないし、何よりこの武蔵に戻ってこられる確証がない」


小声で話しかけてくるが、顕如は首を振った。


「もう決まった事だ。少しでも時間は必要だろう?遅延行為を出来る限りやってみる。俺一人の穴くらい皆で埋められるだろうさ。それに、殺されたりはせんよ、多分」

「何故?」

「教皇の性格上だ。あの粘着質が早々軽々しい行動を起こしはせんよ」


そこまで言うと、そうか、と言い


「必ず戻ってこいよ」

「ああ」

「後始末とかみんなお前がやっていたのが僕達に降りかかるからね」

「あんまりだな」


乾いた笑いであった。


「?」


ふと、袖を引っ張られる。

視線を向けると、三笠がこちらを不安げに見上げていた。少なくともそう見えたのではないか。
感情が更新されているのか?と疑いたくなる奴だなあ、と思いながら


「どうした。不安か?」


Jud.と彼女は答え


「私も同行を――」

「それは駄目だ」

「しかしっ!」

「大丈夫だ」


自動人形の考えに基づくのか、それとも元信公が組み込んだ感情回路(プログラム)の所為なのか。
こんな彼女を愛しく思ってしまうのは、吊り橋効果なのであろうか。

だからこそ、言った。
三笠の頭に手を置き、


「お前が皆と留守番をしていてくれるならば、必ずその待ってくれている所へと戻ろう。お前達のいない生活なんて考えたくも無いからな」


三笠は、Jud.としぶしぶといった感じで離れた。


「よろしいかな、総務殿?」

「済まないな。世話になる」


後は頼んだぞ、と言い残し顕如は武蔵の姫と共に武蔵を離れた。









あとがき


やっと・・・更、新・・・・・・

疲れた。ここまで長くなるとは思わなかったもので。ついつい筆が進んだ。
今回は、ずっと元信公と顕如のターン。
元信公大好きなんです。ちょっとどころかかなりオリジナルの解釈が入ってしまっているのですが、如何でしょうか?

忌憚無き意見を御願いします。

さて、三巻読んでみて思った事。
人物多すぎるって事と本願寺出てきたので顕如が原作キャラに出そうだという事。

キャラ被った時にはその時考えます。

所々原作の内容を飛ばしていますが、その部分はほぼ原作通りなので皆様の頭の中で補って読んで頂ければなあ、と。
本文だけでは何かと不足気味な気がしないでもないので。

―――以上。






[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  五話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/11 03:12
シリアスな展開に我慢ができなかった。




第五話:武蔵 アリアダスト


三年松組の男子が七名、武蔵 アリアダストの一階昇降口にて円陣を組んでいた。


「――準備はいいか?」


長身でリーダーと思しき男が問い、


「「「「「「Jud.」」」」」」


その応えに満足しながら、この集団のリーダーである松原は


「そうか。諸君、遂にこの時が来た」


皆の顔を順に見ていく。

どの顔もヤル気に満ち溢れた顔ばかりである。

頼もしい奴らめ、と思いつつ


「今まで幾多の困難が待ちうけようとも、めげずによく此処までついて来てくれた」


その言葉に六名が涙を軽く浮かべ


「そんな事はないっ!今日という日が来たからにはっ。今日という日が・・・」


そんな一人の言葉に松原は頷き、


「そうだ。今日のような日が、明日まで続くかもしれない。もしかすると、もっと続くかもしれない」


だが、と拳を握り


「残念ながら、松組の会員全員での作戦が決行される日はもう無いだろう。だからこそ、だからこそ、必ず成功させようではないか!」


熱い思いがこもった返事が耳朶を打ち、


「では、行くぞ!いざ」

「最新情報ですっ」


出鼻を挫かれたので恨めしそうな視線を新たな登場人物に向けるが、


「彼女達全員が、全員がここに集まってきている模様!恐らく、もう既に来ている可能性がありますっ」


その報告に皆が目の色を変え


「あ、あの姉御肌の嵐山さんが・・・」

「金髪ロリは神・・・」

「あの憂いを帯びた表情も中々」


危ない発言が飛び始める。


「ええいっ、落ち着け!考えるんだっ。今の情報からすると、ここに彼女達が集まっている。つまりだ」


松原が一息置き、


「全員への手渡しが、好感度アップが可能という事だ!」


七名にどよめきがはしる。
それを見て、今こそと思い


「では、改めて号令をかけよう。諸君、準備はいいか?」


Jud.と新参者も加えての返答。

松原の右手が挙がり、不敵な笑みを浮かべ


「――Ahead! Ahead! Go Aheadだっ!! 今こそ栄光をその手に掴むんだっ。誰よりも自分の手でっ!!」


八名の男子が、喊声をあげて出入り口へと殺到し


「――先程から五月蠅いので」


標的である黒髪幼女によって


「御掃除の時間です。―――以上」


校庭へと全員叩き出された。





      ●





風が軽く吹いていたので、広がる髪を抑えながら視線を主である顕如がいるであろう三河方面へと向ける。

あの時、自分はここで留守番を任されたが、本当にそれでよかったのであろうか。
常に最適を見出す筈のこの頭脳が、何故か自らの選択を疑問に思っていた。

一体どうしたのだろうかと考えるが、答えは出ない。


「――Ahead! Ahead! Go Aheadだっ!!」


背後からずっと聞こえてきた男子生徒の声が、今度は足音を伴って響いてくる。
振り返ると、凄い勢いで迫ってくる猪の群れ。

先程から邪魔に思えてきていた上に、彼らの制服にボケ術式が装備されているのを見て


「御掃除の時間です。―――以上」


スカートの裾から重力制御で木製バットを二本取り出し


「本日はゴロです。後は任せます、嵐山、吹雪―――以上」


八人全員を校庭へと転がした。


「ボーリングのようによく転がりますね。―――以上」





      ●





校庭の中程には、スレンダーな体型の侍女が一人いた。


「はいはい、Jud.ったく、あいつが居なくなった瞬間来やがって」


『怒』の感情を持つ、嵐山は、所々はねている首筋までの髪を掻き毟り、


「よしっ、覚悟はできてんだろうなあ?」


足元に到着した縦回転していた一人目を足で止め、


「ぶっ飛ばす!」


校舎から見て左側へと全力で蹴り飛ばした。





      ●





一番槍を取った松原が殴られ、蹴飛ばされ、最後に見たのは


「ゴロ、ライナー、とくれば後は分かりますよね~」


金属バットを一本構えた、肩の辺りでカールした金髪と楽しそうな笑顔が印象的な幼女。
『楽』の感情を持った吹雪が笑顔で迎えてくれていた。


「本日狙うは、本塁打(ホームラン)。しっかりと味わい下さい」


振りかぶった際にこちらの風圧で少し捲れあがったスカートから、チラリと見える白い物体。


「っっっっ!!?」


松原は、転がりながらもしっかりとその姿を目に焼き付け


「かっ飛ば~す!」


ボケ術式のために派手に飛んだ。
笑顔のままで。





      ●





梅組の教室内。
何時もと違ってトーリが朝からテンションが低かったのと昨夜のショックで沈んでいたが、鈴の作文『わたしのしてほしいこと』が浅間によって朗読され、その後鈴自ら声をあげる。


「おねがいです」

「――わたしは もう 一人でも だいじょうぶです

だから わたしの てをとってくれたように――」


鈴は目が不自由にも関わらず、座席から立ち上がり、


「お願い! ホライゾンを、助けて・・・・・・!」


息を吸い、口を開き、


「トーリ君・・・・・・!!」


魂の叫びをあげる。

・・・・・・届いて・・・・・・。
自分は政治や経済の事は分からないし、さっきシロジロが言っていた悲観的な武蔵の今後も、現実なのであろう。
自分がやっているのは、唯情に訴えかけているだけだ。
しかし、
・・・・・・私は、昔、ホライゾンに救けてもらったことがあるから・・・・・・

もう一度、言葉を紡ぎ、


「御願い・・・・・・」


その思いは


「――おいおいベルさん。ナメちゃあいけねえ。もとより俺はそのつもりだぜ」


届いた。


「安心しろよ。――俺、葵・トーリはここにいるぜ」


それに涙する盲目の少女は、


「ちゃんと、私、私、お、大きくなって、る・・・・・・よ?」

「ああ、衝撃的事実だ」


自身の胸にトーリの手を誘導し、当てる。
まるで、自分が昔の自分と違い成長したのを確かめさせるように、トーリを元気づけるように。

周りが何か言っているようだが、今の鈴にはどうでもよかった。
こうしてトーリが元に戻ったのだから。

鈴は微笑んだ。





      ●





総長の復活から鈴との何とも言えない出来事を見て、アデーレも内心、従士からしてもかなりアレとしか言い様が・・・と思う。
とりあえず、総長が復活したのは喜ばしい事ですよねっ、とりあえずっ。

目の前の出来事から逃避していると、


「三笠さん・・・と山城さん?」


教室の後ろ戸が静かに開いて幼女と巨乳が入ってきた。
教室内の光景を見ても、気にした様子もない。

こうして見ると、親子のようですねえ。

ふと、そんな事を思いながら、ある一点に目がいってしまう。

それにしても、あのメロンはけしからんですよ。
私なんて、鈴さんでもあるのに・・・


「・・・・・・?」


何時の間にか近くまでやってきていた山城に吃驚し、慌てるアデーレ。
ガン見してましよっ、私。何してるんでしょうか!?
は、早く謝らないと。


「お疲れのようですね」

「へっ?」

「あらあら、これは何か面白いものでも御見せしてリラックスして頂かねば」

「えっ、ちょっ」


マイペースな自動人形は勝手に解釈して話を進めてしまい、


「っ!?」


突然、三笠の左前髪を留めていた髪留めを抜き取った。

そして、


「・・・・・・うわぁ」


思わず、アデーレが息をもらす。


「っ!っ!っ!」

「ふふふ」


どちらかと言えばクールと言える三笠の前髪から一本だけ重力に逆らうように立っている毛。

あれが、所謂アホ毛・・・総長が言ってましたけど、本当に破壊力がっ。


「っ!っ!っ!」


しかも、取り上げられた髪留めを取り戻そうとするが、背の高さで届かず、背伸びをして手を振る動作は可愛いという類のものであった。
アホ毛がその度に上下左右に揺れる揺れる。


「・・・欲しい」

「残念ながら、この子は非売品ですので。その御注文には応えかねます」


はっ、私とした事がつい本音が。
慌てて口を抑えるが、山城は軽くスルーした。


「このアイデア、貰った!」

「幼女・・・ハァハァ」


いや、第四特務。私も気持ちは分かりますが、同人誌になると碌でもない描写になる可能性が・・・。
それに浅間さん、この至近距離で何矢ぶっ放してるんですか!?

周りの生徒の反応はまちまちである。

実際、自動人形二人の戯れに気を取られていた間にシロジロは、復活したトーリとの会話を


「皆、スルーだ。今は、な。見たい者は後で私の所へ。値段を決める」


続けてなかった。





      ●





シロジロの言葉に三笠が食って掛かるが、守銭奴はスルーしてまた話し始めた。


「っと、中断したが、もう一度要点だけを言う」


皆を見渡し、


「今回、私達は臨時生徒総会で正純を呼び出し、そこでホライゾンと武蔵と極東、そして自分達がどうするかという方向を決めねばならない」


一区切り


「家族には連絡を取っておけ。何が起こるか分からんからな。そこまで責任は持てん。金ならともかくな」


金ならいいのかよ、というツッコミに耳を傾けず、


「他のクラスの代表達には連絡は取ってある。大体、『どうしたらいいか解らないから話を聞いてみたい』だ。松組だけは連絡が取れていないが、大勢には影響ない」


解るか?とためをつくり


「聖連は我々を狭めにきているぞ。このままでは手遅れになる。とりあえず、警護隊は極東唯一の戦闘部隊であり、これも二人の本多と共にこちらへと引き込むのが良策、いやそれしか道はないだろう」


緊張した面持ちの皆を見て、教壇の上に転がる馬鹿に声をかける。


「こういう時こそ、貴様の出番だろう。何時も何時も駄目で駄目で仕方のない、エロしか能のない奴に機会(チャンス)をやろう。面白くて金になるような事ならば発言を許すぞ」


カーテンで簀巻きにされた馬鹿は


「おいおい、オメエ俺の芸風越えてるじゃんか」

「やかましい。言うのか、言わないのか。どっちなんだ」


期待に


「ぎょー・・・・・・、うー・・・・・・、ざっ!」


応える前にオリオトライによって本日四度目の隣の教室送りとなった。


「ちょ、ちょっと先生、これは俺が悪いんじゃなくて単にギャグへの厳しい評価だろ絶対!!あっ、引き摺っちゃ・・・あっ――――」


トーリの悲鳴を聞きながら、アデーレは何度目になるか分からないため息をつく。

クラスの皆の雰囲気があがって来たのはいいですけど。


チラリ、と自動人形達を見やる。


普段通りに見えますが、どうなんでしょうねえ本当。
この武蔵も、皆も。


「絶対に忘れてるっていうか、というか一人、二人は記憶の片隅に留める程度にしてますよねっ、きっと。権限無くなった総務は唯の生徒だって事を」


それとも、信頼しているのか。



呟きは誰の耳にも届かない。









あとがき


急いで執筆。
次、更新できる時間があまりなさそうなので、かなり焦っています。
前話に比べると密度は落ちてるかもしれない。

閑話です。

次話から動きがあります。
でも、インノケンティウスと正純の話とかは大幅に省きます。
変えようがないので・・・。

作者の力量不足とも言う。

どんな御意見、御感想でも待っております。


まだまだ先の話ですが、早く里見と義経に顕如を会わせたい。

後、本多を本田と書いていた。修正しました。御恥かしい。

―――以上。












[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ) 六話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/13 02:25
第六話:教皇の思惑


三河の一般用陸港に停泊する一隻の巨大な艦。
白一色に染め上げられた、まるで乗る者の権威を示すが如く威圧感を醸し出す、“栄光丸(レーニョ・ユニート)”。

そして、その中に戦艦に似つかわしくない部屋があった。

華美ではなく、どちらかと言えば質素。だが、年代を経ているであろう調度品の数々によって飾られ、気品を感じる部屋である。

部屋の真ん中に置かれたテーブルと三つの椅子。
その内の二つは、既に腰掛けている者がいる。

白い教皇衣を身に纏い、ワインに舌鼓を打つ


「ほう、このワインは案外いけるなあ。お前も飲むか?」


教皇総長インノケンティウス。
旧教(カトリック)の権威にして、K.P.A.Italiaの総長、また聖連の代表格である男と


「元生徒よ。まもなく相手が来るというにも関わらず酒を飲むなど、教皇たるべく研鑽を積んでいる者らしくもないではないか」


教皇の師であり、生徒でもある巨体と頭の角が特徴の魔神、ガリレオ。

三河にいるK.P.A.Italiaの重要人物が二人揃っているのには訳がある。


「あぁ?別に構わんだろう。どうせ公式での話し合いではないだろうからなあ」


ガリレオの意見に顔を顰(しか)めながら教皇は戸へと目を向け


「あの坊主の顔がどう変化するか楽しみだなあ、そうは思わんか?ん?」

「本当にこれでよいのかね?」

「不安か?」


魔神は首を振り、


「いや、よく考えた結果なのであろう。私が口を挟むべきではないだろう」


そうではなく、


「些か極東を嘗めているのではないかと思ったのでな」


その投げ掛けに教皇は渋面をつくり、


「忘れる訳がないだろう。酒井達、極東にしてやられたあの屈辱を」


グラスに残っていたワインを一気に飲み干す。
胸の内に沸き起こる蟠りをワイン諸共飲み込むかのように。

二十年程前、酒井学長が三河の大総長(グランヘッド)であった頃に一度K.P.A.Italiaは極東とやり合った事があった。
大規模な旧教進出を目論んだが、対抗する為に起こされた島原の乱とそれに伴う禁教令の繰り上げ再現によってまんまとしてやられたのだ。


「校則法による総長同士の相対による決着と見せかけて、裏で聖連に働きかけて繰り上げ再現を認めさせる。何とも見事なものだと感心したものだ」

「俺もまだまだ未熟だったって訳だなあ」


だが、


「今回もおめおめと負ける訳にはいかんのだよ」


瞳に底知れぬ憎悪と愉悦を覗かせながら、


「酒井にも宣言したが」


口元を僅かに釣り上がらせ、


「――今度は、K.P.A.Italiaが極東を戦略で負かす」


だからこそ


「貴様も抜かるなよ、ガリレオ。期待してるんだからなあ」


それに魔神は、唯Tes.と応えた。

その時、戸がノックされる。


「入れ」


応じて開かれた戸から現れたのは、


「お久しぶりですね、教皇総長殿、ガリレオ殿」


ポニーテールを靡かせた武蔵 アリアダスト所属の生徒会総務。


「ああ、久しぶりだなあ、小僧」


顕如であった。





      ●






顕如は、最初何故私室であろうこの部屋に呼ばれたのか理解ができなかった。
しかし、何処にいたとしても交渉をする事に変わりは無い。


「どうした?そんな所に何時まで突っ立っているつもりだ、ん?」


目の前に腰掛けているインノケンティウスは、そう言いながら席につくよう促す。
その老成した表情からは何も読み取る事はできず、


「それではお言葉に甘えて」


素直に従った。

交渉の為にはまず、同じテーブルに座らねばならないので結局大人しく従う他無い。

教皇の隣のガリレオは無言で成り行きを見届けている。

交渉に口を挟むつもりは・・・無い、か。


「初めに一つお願いしたい事があるが、よろしいかな?」


では、始めようか。


「言ってみろ」


交渉を。


「有難い。この会談は、非公式にして頂けないであろうか。あくまで自分は現時点で武蔵の総意では無い。ここでの話し合いの結果を武蔵へと持ち帰り、生徒会及び総長連合にて議論したいからだ」


そう切り出した。
これは重要であり、もしこれが許されなければ何もかもが水の泡である。
何故ならば、此処に来て話し合った結果を勝手に極東の正式な判断及び返答とされた場合、最悪の筋書き(シナリオ)しか残らないからである。

下手をすれば、極東の完全支配も強行されてしまいかねない。

しかし、顕如の予想に反して


「いいだろう。ここでの会談は非公式。故に記録も残らない。これでいいな?」

「Jud.」


相手はアッサリと認めた。

あまりにアッサリとしていたので何か裏があるのか、と疑うが見当がつかない。


「では、本題に入りたいと思う。こちらからの提案は、二つだ」


それでも進めなければならない。


「一つ目は、三河消滅を無かった事にする事」


インノケンティウスは眉を顰め、


「二つ目は、それに伴う三河の姫、ホライゾン・アリアダストの自害の取り止めだ」


ガリレオが興味深いと目を向けてくる。

まず、口を開いたのは教皇であった。


「いきなり、人を悪者のような言い方とはいい度胸だなあ、おい」

「そのように取られたのであれば、それは失礼した。としかこちらは言いようが無い」


ふんっ、と鼻を鳴らし、


「大体、こちらがどうするか聞いてもいないくせによく言えたもんだ」


そうだろ、と魔神に振り


「Tes.少年、相手の先読みばかりしていては足元を掬われかねんぞ」

「Jud.忠告痛み入る。しかし、先程のガリレオ殿の発言からして私の予測が概ね当たっていると捉えてよろしいのかな」


Tes.と相手は応え、


「だがなあ、一体どうやって二つの問題を解決するつもりだ?こちらとしては聖譜に従って順当な歴史再現の道に戻したいのだがなあ」


当然の疑問を呈する。


「Jud.では、提案しよう。まず、三河の姫は元々武蔵の一般住民だ。それが、姫となるという事は略式相続をそちらで行った。相違ないであろうか?」

「Tes.」

「そうか。ならば、姫は元信公による三河消滅の責任を取る形で自害を行わなければならない、と。だが、考えてみるとこれ程おかしなものもないのではないか?」


何故ならば、


「聖連によって、三河消滅を知らなかった人物が今、自害を強要される。すなわち、自害する者は指名した者ならば誰でもいいという事になるだろう」


向こうは黙って聞いている。


「ならば、これは歴史再現を隠れ蓑とした処刑システムと言っても過言ではないと思われる」


だから、思い切って続ける。


「また、これらを全て解決する方法がある」


相手の表情は変わらない。


「三河消滅を無しにする事だ」

「どうやって?」


即座に問いかけられる。
上手く話に乗ってくれた事に感謝し、


「航空都市艦として武蔵を認定し、三河と連結する事で三河消滅は無かった事になる」


三河の果たしていた、Tsirhc(ツアーク)とムラサイの間にある中立都市としての機能は輸送艦の武蔵でも代行可能だからだ。
武蔵だからこそできる破天荒な行為であり、抜け道でもある。

自分にとって現状で思いつく最善の手段であり、非公式だからこそここまで踏み込んだ。
正に乾坤一擲の勝負。

握った掌に溜まる汗がどれ程の緊張状態に己があるかを知らせてくれる。


こちらの発言に対して相手は


「――詭弁だなあ」


嘲笑った。





      ●





インノケンティウスは、顕如の発言に笑いがこみ上げてくるのを感じた。

昔、極東にしてやられたのと同じ方法でくるか。
K.P.A.Italiaを悪として、聖連を味方につけるか!
その上、極東に実害は無く、ここに居合わせたK.P.A.Italiaと三征西班牙(トレス・エスパニア)だけが損をする。

面白い。面白いなあ、おい。
流石は酒井の教え子って訳か、あぁん。

だがなあ、一つ、いや二つだけ惜しい所がある。

一つは、


「――詭弁だなあ」


そう、顕如の発言は正論のように聞こえて、実はいくらでも穴がある。

例えば、教皇達の歴史再現の誤差修正を咎めるならば、それに付随する三河の生産力と地脈炉を頼みにしていたK.P.A.Italiaの産業の衰退を誤差として見逃すのか。
一方に極端に不利になる歴史再現、誤差修正は認められない話だ。

他にも、主張している三河の姫の自害を『殉教』、尊い犠牲として歴史再現に触れない形で“解釈”して流す事もできる。

穴だらけなのである。

ガリレオがこちらに視線を向けてくる。

どうするか、だと?

当然、やる事は既に決まっている。

表示枠(サインフレーム)を呼び出し、告げる。


『拘束せよ』


惜しい点の二つ目は、


「なっ!?」


突然突入してきた武装隊員に驚くが、抵抗する素振りを見せずに拘束される極東の生徒。


「っく、どういうつもりだ!?これが使者に対する礼儀かっ!!」


憤りを露にするその顔を見て、笑みが自然と浮かぶ。


「まさか、これ程頭が回るとは予想外だったよ。残念だ、本当に残念だなあ。そうは思わんか、ガリレオ」


ガリレオは沈黙を貫き、内心では少ない情報でよくここまで粘ったものだと感心する。

そんな魔神を一瞥して、教皇総長は


「一つ、貴様は致命的な過ちを犯していたんだよ」


それが解るか?と問い、


「武蔵 アリアダストの一般生徒がK.P.A.Italiaの旗艦である“栄光丸”に密航し、あまつさえ総長の私室に不法侵入していたんだからなあ」


権限を持たない一般生徒による不法侵入と、総長に危害を加えようとした二点が罪状としてあげられるというのだ。
前者もだが、後者は大罪である。

言葉の意味を理解し、絶望に染まる表情を見て


「昨日の夜に武蔵の暫定議会から連絡が来てなあ。総長連合及び生徒会の権限を取り上げるだとさ」


その言葉に、顕如は自分の失態を悔やんだ。

昨夜“栄光丸”に乗り込んだはいいが、教皇総長達がとても忙しいとの理由で今日の午前に会談が延期されたのだ。
待っている間に、武蔵へと連絡を取ればよかったのだが、それをすると細作(スパイ)容疑で拘束される可能性があったので敢えてしていなかったのだ。


「馬鹿だなあ、酒井と違って今回は抜けていたなあ。愉快だ、本当に愉快だ」


哂った。


「っ散!」

「悪足掻きを・・・」


顕如の首のハードポイントから黄色いネズミの走狗(マウス)が飛び出し、


『Pi!』


目で追えない程の速度で入り口から脱出しようとするが、


『dyuッ!?』


開いたままの戸にある見えない壁にぶつかり、主の下へと転がる。


「いい事を教えてやろう」


どうして?という目に答えてやる。
気分がすこぶるよかった。


「・・・な、ぜ・・・」

「旧教は、元から居た者後から入った者に関係なく身内には優しいが、外様(とざま)には容赦が無いと聞いた事はないか?」

「それが、どうしたっ!?」

「そこから、旧教の加護を受けている者とそうでない者とを区別する事もできてしまったって訳だ」


つまり、旧教の加護を受けていない顕如とその走狗は区別されたのだ。
この戸を通る事まかならん、と。


「牢にぶち込んでおけ」


その言葉に顕如が言い募ろうとしたが、インノケンティウスの命を受けた隊長に顎を蹴られて脳震盪を起こして倒れた。

あっけない幕切れ。

極東を負かす一歩目を踏み出したと手ごたえを感じながら、


「武蔵の方は今、どうなってる?」


それに、一人の生徒が通神を開き


「唯今、武蔵暫定議会側と総長連合側との相対が一対一であり、これより副会長 本多 正純と総長 葵 トーリによる三戦目が行われる模様です」


それにTes.と応え、


「武蔵の映像、臨時生徒会の状況を見せてくれ」


介入する手札も手に入れた事だしな、と唇が歪んだ。

それを見ながら、ガリレオは考える。
先を見通す事ができずとも。
只管、考え続ける。
学者として、現状を、そして今後を。





あとがき


更新・・・・・・完了。
最後のアデーレのセリフはこんな結果に。

ギャグを入れたので今回はシリアスに。
かなり自分なりの解釈が入っていますが、如何でしょうか?

走狗もネタに走ってしまった。

こうした方がいい、といった事がありましたら感想板にお願いします。

どんな御意見、御感想でも待っております。


展開が遅いですが、お付き合い頂き感謝です。


―――以上





[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  七話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/15 00:10
第七話:開戦への秒読み(カウントダウン)

三河陸港の“栄光丸”上に予め用意させておいた天幕下で、シワが多くなった顔を軽く歪ませながら通神班からの映像を待ち、


「それにしても、極東もむざむざやられるだけではないか。反骨心の塊だなあ」


ぼやきつつ、引かれた椅子に座る。
その横に立つのは、


「先程からやけに機嫌がよいな」


ガリレオ。


「何だあ?俺の決定に文句があるとでも?」


仲間割れは勘弁してくれよ、と言いつつ教皇は、


「あの小僧もそうだが、現在の極東の代表が如何に“不可能男(インポッシブル)”と言われようがその下には優秀な奴が集う。これは呪いか何かか」

「君の周りにも集まっている筈だが?」

「当然だ。だが、敵もそうであったら大変だろうが」


やってられん、と首を何度か振り


「まあ、こちらが動かずとも、結果がどちらに転ぼうとも俺達にとっては美味い話だ」


違うか?と問う。
それに魔神は、Tes.と応え


「全ては歴史の、“こうあるべき”に通ずるか」

「いや、姫の“自害”は歴史には残らない」


横目で元生徒を伺うが、当のインノケンティウスは、口に瓶を傾け


「今回の件で元信は死んだが、聖譜通りにするならば元信の名は新たな襲名者によって存続され、かつ誰かが三河消滅と大罪武装保有の罪を贖う必要がある。・・・姫自身が大罪武装であるならば、自害という形をもって責任を果たし、大罪武装を奉じればよい。現に、大罪武装を取り出す方法がそれしかないしな」

「そうやって贖ったことによって、三河と大罪武装の件を、“無かったこと”にするのか?」


Tes.


「姫が生き残れば、三河が消えたこと、そして極東が大罪武装を所有していたという事実が残るからな」


視線を山の向こうにあるであろう武蔵の方に向ける。


「今後、大罪武装を巡って争いが勃発するだろうが、もしも大罪武装の回収が末世を救うならば」


一息つき


「最終的に世界は集うだろう。それが、きっと怪異等に怯える人々にとって心の支えになる。・・・極東も同じだ。帝の京を残して完全支配されたとしても、極東が世界と等しく集う事に繋がる」

「姫の、“当然の犠牲”を経て、かね?」

「俺の、“冷徹な判断”も忘れるなよ?」


互いに暫し無言になり、


「武蔵の通神が入りましたっ。如何致しましょうか」

「そうか。出してくれ」


Tes.という声と同時に表示枠が出現し、


『――やっぱ、ホライゾン救いに行くのやめにしね?』

「・・・・・・っ!?」


武蔵総長の予想を超えすぎた発言に


「・・・・・・大丈夫かね?」


インノケンティウスの座っていた椅子の足が大きな音を立てて折れた。





      ●





急いで用意された代わりの椅子にゆったりと座り直し、


「・・・極東は冗談が好きだなあ、おい」

「元生徒よ、現実を見るがいい」


ああ、と適当に応えながら上手くいかない事に機嫌が少々悪くなる。
しかし、焦る必要はない。

介入する機会は必ず来る。

なぜならば、


「私が武蔵アリアダストの代表というのならば、今の問いかけについて答えよう。――」


武蔵の副会長が討論を進めるにつれて、まるでこちらに向かって演説するような姿勢になっているからだ。

そして、副会長が聖連の行いを悪と断じた時に


『詭弁だなあ』


介入した。


『――話をしよう』

『世界はどうあるべきかの話を、なあ?』


その後、旧教の権威と一介の政治家の卵との話し合いは平行線を辿ってゆく。

遂に、


「こちらがこれからすることに対し、平行線であろうとも理解の努力をして手を出さない。素晴らしい御判断です、聖下」


正純が“解釈”による行動を起こす。



だからこそ、


『ところでだ』


ここで手札を切った。


『そちらの生徒がK.P.A.Italiaの旗艦に乗り込んできていてなあ』


目に見える程、本多 正純の顔が強張り


「っ、まさか!?」

『あぁん?俺の私室にまで入り込んできた訳だよ』


反論を封じるように言葉を重ねる。


『どうしてくれる?まあ、俺は心が広いからなあ。許してやっても構わんのだが?』

「・・・・・・」


当然、下手な事は言えないよなあ。

正純が黙り込んだのを見て、


『それとなあ、お前が歴史再現の誤差を認めろ、と食いついてくるのは』


もう一枚の手札を切った。


『お前と父親の襲名失敗が、“解釈”で救われなかったからか?』

「・・・・・・っ!?」


その反応に内心ほくそえみ、


『俺のようなお堅い襲名者の動きに否が応でも逆らいたくなるよなあ』


正純が反論する姿勢を見せる前に


『何せ、襲名のために受けた男性化手術が中途半端な状態、その上自分の正体まで隠してまでこの場に立つ。信頼を得ねばならない筈なのにな』


障害になるであろう武蔵の若い芽を


『――嘘ばかりのお前は、唯人を動かす事に酔い、襲名の権威に逆らいたいだけなのではないか?』


摘もうか。





      ●





武蔵は静まり返っていた。

誰も何も言わない。
だが、実際に隠していたという後ろめたい気持ちのあった正純にとっては彼らの視線は白く思えた。

教皇がこちらに逃げ道を用意し、勝ちを決めにかかってくる。

どうする・・・どうすればいい?

そんな苦悩する正純を救ったのは、


「ハイ、チェック――!」


武蔵が誇る馬鹿であった。





      ●





燦々と輝く太陽の下に晒された本多 正純の下着姿。

誰もが息を飲み、


「え・・・ちょっ・・・」


男装少女と判明した


「や、・・・・・・あ!」


正純の反応を堪能していた。

そして、


「チョ――オ女あ――!」


トーリの雄叫びに


「ナイス貧乳――!」


確認の雄叫びに武蔵が震えた。





      ●





総長の乱入によって、元の調子を取り戻した武蔵副会長の返答。

それは、教皇との対決を望むものであった。
表示枠に映る武蔵の動きにインノケンティウスは決断をする。
指を鳴らし、


「ガリレオ、――やれ」


直後、表示枠内に姿を現したガリレオと武蔵の生徒達との争いが映る。

が、


『神格武装の蜻蛉切を持ち、また本多・忠勝の薫陶を受けた息女、本多・二代に勝てる者がいるかどうかで諫めに入ろうと思います』


武蔵王 ヨシナオと警護隊の介入によって争いは止まった。

画面の中で目まぐるしく変わる状況にインノケンティウスは、表情に出さずに笑った。

そうこなくてはなあ。
張り合いがなくては面白くない。

またしても、俺が悪者扱いか・・・人攫いとはよく言ったものだ。


さあ、次はどんな見世物を出してくれる?





      ●





その頃、同じ“栄光丸”にある一つの独房に転がっていた一人の極東人が目を覚ました。


「ん・・・」

『Pi!』


隣でポニーテールを引っ張ったり、頬を叩いていたギザ尻尾のネズミが明るい鳴き声をあげる。

まだ頭がボーッとするが、体の何処かを痛めている事はなさそうだ。
所持品も何も取られていなかった。

ちょいちょいと裾を引っ張られるので、走狗の方を向くと


『やっとお目覚めか、ん?先程、武蔵との相対が決まってなあ。お前も参加したいだろう?』


教皇総長の顔が表示枠に映っていた。


「・・・・・・どういうつもりです?それに、そちらが嘘をついているとも限りませんしね」

『あぁ?俺の言う事が信用ならないのか?なら自分の目で見てみろ』


そう言うと、教皇の映っている表示枠の横に新たな表示枠が現れ、そこには総長に続いて武蔵を降りていく生徒と警護隊の姿が映し出された。


『どうだ?信じる気になったか?』


顕如はその表示枠を穴が開く程凝視し、


『そういえばさあ、顕如忘れてたよなっ』

『まあ、あいつなら勝手に戻ってくるでしょ』

『そ、そんな事言ってる場合で御座るか!?』

『ああ?大丈夫だって。あのオッサンがエロい事部下にさせてるかもしんねえからさ。逃げてるって』

『いや・・・それは違うでしょ』


変な音声が流れてきたが、全力でスルーして


「俺を放して何の利点(メリット)がある」

『極東の全力を俺達の全力を持って叩き潰すために決まってるだろう』


問いかけるが、インノケンティウスはさも当然とばかりに答えた。


『それでどうするんだ、貴様は』


その態度に


「後悔するなよ?」

『当然だ』


天狗の鼻を叩き折りに動くと決めた。






      ●





表示枠を消し、インノケンティウスは水の瓶に口をつけ、


「大変ですっ!牢に入れておいた者が、逃亡してっ」


その報告に早いな、と思い


「こちらへ「その通りだ。教皇総長(パパ スコウラ)」


聞こえてきた声に唇を吊り上げる。
振り向きながら、


「仲間の下に向かうか?」

「Jud.」

「俺を倒していかないのか?」

「貴方を倒すのは私ではないよ」

「そうか」

「Jud.我らが総長に負かされるのがお似合いだ」


その言葉に笑いを抑え切れなかった。
楽しいなあ、面白いなあ。
俺に面と向かって言う奴がここには随分といたもんじゃないか。


「実に叩き潰し甲斐がある」


顕如は、そうか、と言い甲板の端に歩いていく。


「おいおい、ここから地上までどれだけあると思ってる?移動手段がないぞ?」


相手は首をすくめ、また戻ってきた。
牢に入れておいてもおかなくても、直接攻撃用の言霊が使えない貴様に何ができる。
すると、ポニーテールは甲板の中程で立ちどまり、助走をつけて


「我が身は軽く、行き着く先に咎めるもの無し」


軽い風が起こり、


「それでは、御機嫌よう教皇総長殿。また、会う日まで」


跳んだ。


唖然とする教皇の間抜け面を残して。





      ●





風を使役する事によって、体重軽減と空気抵抗を限りなくゼロに近づけた状態で空を駆けた顕如。
一旦、上空に跳んで西側と東側のどちらが通りやすく、早く武蔵に辿り着けるか考えながら見た。
皆が通ってくるであろう西側広間には三征西班牙のフリゲートが砲撃準備をしていたので、狙われかねない。
よって、地上に着地してからは東側山岳回廊を走る事にした。

そして、暫く行くと目の前に一人の人物が姿を現す。


「・・・・・・立花・宗茂」


大罪武装である“悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)”を構えた、アルカラ・デ・エナレス所属 第一特務 “神速”立花・宗茂。

こちらの接近に気付き、軽く驚き


「あなたは・・・確か、顕如さんでしたね。合っていますか?」

「Jud.覚えて頂けているとは嬉しい事だ」


普通に話しているが、宗茂は急に眉を顰め


「ですが、貴方は“栄光丸”に囚われていたのでは?」


やっぱり、そうあっさりとはいかないか。
こんな化け物級の奴とタイマンしないと突破できないとか、選択間違えたかなあ、俺。


「当然、逃げてきたのですよ。教皇総長殿が逃げられるものなら逃げてみろ、と言ったので」

「はあ・・・」


イマイチ状況が理解できないのはよくわかる。
あの教皇が意味不明なのだ。そう、全てはあいつが悪い。


「とりあえず、自分は武蔵に戻らなければならないので通してもらえませんか?」


ダメもとで聞いてみるが、


「それは認められません。ここの守りを任ぜられたので、役目を果たします」


生真面目な宗茂の返事は決まっている。

それに、


「現在、世界で一人しか認められていない言霊使い。どれ程の力なのか試してみたいという気持ちもありますしね」


アハハ、と笑ってそう続け、


「くそう、この戦闘狂(バトルジャンキー)が!」


敵へと加速した。












あとがき


何とか更新・・・・・・この速度は維持できない。
多分、一巻終わるくらいで速度が落ちる。
時間がない。

さて、前話の投稿終了後に読み直していたら時系列の説明箇所の挿入を忘れていました。
かといって、修正のみってのもどうかと思い、最新話を急いで書き下ろした。

内容で、ここが足りないとかもっとこんな描写をというのがありましたら感想板へお願いします。

速度を上げているために内容の端折り具合が上手くいっていないかもしれない。


次話で、戦争開始です。
ボケも混じると思いますが、何とかやってみます。


展開遅いですが、お付き合い頂き感謝です。

御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上





[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  八話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/07/15 00:13
上手いサブタイトルが思いつかない・・・



第八話:極東の警護隊と生徒達


熱い日照りの中、静まっていた三河の西側広場は俄(にわ)かに騒がしくなる。


「おいおい、オマエら、遅えよ、何やってんの?向こうが待ってんだぜ?」

「何で其処に居るっ!?」


なぜならば、馬鹿が敵前にひょっこりと姿を現し、


「では、私も先行させて頂きます。―――以上」


敵味方驚く中、一体の自動人形が馬鹿を追い越し、


「う、撃て―――!?」

「お前等っ、松組会員の底力を見せてやれ!!」

「上のフリゲート艦も狙ってるで御座るっ!早くっ」


それに対応して火砲とフリゲート艦の艦砲射撃が開始されたからだ。


「少々、銃撃が厄介と思われます――」


警護隊を中心とした極東勢は、守りを固めて三征西班牙(トレス・エスパニア)の西班牙方陣(テルシオ)の角、


「楔を打ち込めっ!!何としてもっ。やりたい事をやるのは、その後だ!」


銃隊と槍隊との境目を突破しようと進み、


「弾幕を張れっ!近づけるな」

「分かってる!怒鳴るなっ」


敵が防ごうとして少なくない銃弾が極東勢に降り注ぐ。
それによって一人、二人と倒れる者が出て、後方へと下がらされる。
近距離武装しか無い極東側は、接近してからが本領発揮なのでそれまでは我慢するしかない。


「くそっ、身を低くして銃撃を防げるものを構えろ!符だけで受けるなっ」


警護隊の隊長は、味方がジリジリと削られていく中冷静に指示を出しながら自身も前へと出る。


「このままじゃジリ貧ですよ」


隣の警護隊員がぼやくが、声には悲壮感がない。
案外、余裕だなと問うと隊員は敵の中央を指差し、


「忍者達が頑張っていますし」


苦笑いしながら、


「それに単騎駆けしてる女の子がいるんですよ?」


西班牙方陣の上、三征西班牙の生徒達の頭上から一方的に攻撃しながら進む人物の事を指摘する。
明らかに戦い方がおかしいのだが、その御陰で中央が乱れているので少しは楽になっているのも事実であった。

それを見て、隊長も苦笑する。
あんな戦い方があってたまるかよ。

だが、


「それも悪くない」


戦場では勝った者勝ちだ。
だから、どんな奇天烈なものであろうと敵を倒せればよいのだ。

周りを見ると生徒達も頑張ってはいるが、主戦力は当然自分達警護隊である。
戦場を知る者と知らない者との差は大きい。
それは相手にも言える。

動きを見ると、目の前の相手は恐らく新人達だ。

ならば、戦場の厳しさを教えてやらなければなるまい。
手痛い思いをさせてやらねばなるまい。
極東唯一の戦力として我々が長年培ってきたものがどれ程のものか見せ付けねばなるまい。

符を斜めに構えながら皆よりも一歩速く踏み出し、


「怯むな!我ら極東警護隊の力を見せ付けろっ!生徒に遅れるな!寧ろ前を行けっ!!」


その声に


「キツイ事言うねえ」

「戦い専門が生徒に遅れるってのは勘弁だなあ」

「大人が子供を守れないで、大きな顔できるかよ」


軽口を飛ばしながらも警護隊がさらに前へと出た。
隊員達の奮闘に隊長はニヤリと笑い、


「そうだ!前へ出ろ!俺達の経験を今活かさずして何時活かす!!」


そして、残り百メートルを切るであろう位置で皆が叫ぶ。


「行け・・・・・・!」


しかし、喊声は直に途切れる。

西班牙方陣が、ラッパに従ってゆっくりだが、しかし確実に下がった。


「何を・・・・・・!?」


突然の行動を一瞬疑問に思うも、


「!?」


下がった代わりに前へと出てきたものに驚愕し、


「くっ・・・」


誰もが回避に移る。
直後、大砲特有の轟音が鳴り響き、


「いったあ―――!」


沈黙が戦場を支配した。





      ●





集中する銃弾と砲弾を即席の土の楯によって防ぎながら一人の侍女が敵陣へと疾走する。
その速度は決して捉えられない程速くはないが、


「楯を視線に、腕を指運に」


重力制御によって作り出した、武神サイズを越える土の両巨腕と同じく土で出来た楯を射線軸上に配置されて銃撃と砲撃が当たらず、


「楯を三行三列、計九枚追加」


かといって楯を砲弾によって砕かれれば眼前に並ぶように追加発注をかけ、


「俺達が守る限りっ」


当たりそうになった弾も追従する数人によって防がれる。


「三笠さんには傷一つつけさせねえっ!!」


松原達の心の叫びを背に、


「皆様の援護を貰い、参ります。―――以上」


眼前に迫った西班牙方陣に向かって跳ぶ。


「なっ!?」


空中に出るという事は全方位から狙われるという事を意味する。
しかし、それは普通の人の場合であり、


「撃てっ――!」

「やらせねえぞっ」


前に楯、左右に松原達の壁で守られた三笠には通用しない。


「失礼します」


三笠は着地点である最前列の生徒の頭を蹴り、


「駆け抜けます」


頭の上を駆ける。
だが、その足も三歩目で止まりかける。


「密集!」


進行方向の敵がさらに密集し、


「突き出せっ」


槍衾を築く。
流石にここまでは三笠命の松原達も追いついてはこれない。

防御用の符が切れたのか、あっはぁ~ん、とか言いながらボケ術式の加護で吹っ飛ばされて左翼を攻めている極東勢に合流していた。


「隆起を視線に、腕を指運に」


幼女の一、五メートル程先の地面が三十平方センチメートル分だけ二メートル隆起して足場となる。


「邪魔です」


足場によって空中に浮かんだ生徒を片方の腕で吹き飛ばし、もう片方で槍を薙ぎ払う。
一つの足場に足をかけた瞬間、視線の先が隆起し、飛び移る。

あまりに常軌を逸する戦い方に経験の薄い新米達は硬直してしまい、


「本来ならば主の下に迎えにあがるのですが」


自動人形に自分の背後を取られるのを許してしまう。


「ネシンバラ様の御要望でもありますし、アデーレ様が可愛そうと思えますので援護致します。―――以上」


巨大な腕の連撃が三征西班牙の生徒達に叩き込まれた。





      ●





砲弾をも弾く超重装甲機動殻を持つアデーレを、メットを被ったペルソナ君が担ぎ、


「あ、ああ、後、後何発っ!何発来るんですかあっあいたあ――――!」


敵陣に向かって斬り込みに行く。


「――!?」


慌てて西班牙方陣も下がるが、


「――行けよ俺達!」


遅い。

十人ずつ二列に分かれた武蔵の部隊が次々とローテーションしながら一点突破を図り、


「おお・・・・・・!」


その刃が届く位置に来た。

だが、その瞬間動きが起きた。
西班牙方陣の中から鳴り響いたラッパと同時に地面が鳴動する。

武蔵側の誰もが見た。
西班牙方陣が、密集隊形でありながら、高速で下がったのを。

唯の西班牙方陣に見えていたものは、実は中央の三征西班牙と左右のK.P.A.Italiaの三部隊構成。
重層密集隊形(ファランクス)に近い三陣形であった。

その上、教導院ごとに分かれているために、個別の運用は確実で速かった。


「トーリ殿!側面から来るで御座るよ!!」


それを見て、一瞬で拙いと思った忍者の点蔵が大将である総長に呼びかける。

その声と同時に武蔵側をコの字型に包囲した敵は、横圧に始まる反撃が開始される。

さらには、


「!?」


銃弾が本来敵の居ない場所から飛んで来た。

まさか、という声を放って周囲の者達が振り向いた視線の先。
西の山の斜面を赤の制服が手に銃や槍を手に列を作って降りてくるのが映る。


「・・・上の航空艦から降ろして御座ったか!」


点蔵は自分の率いる陽動部隊に合図を送る。
新たな敵の動き方は、陽動部隊をトーリ達の本隊と合流させるものであった。
そのために自分達もトーリ達に合流せざるを得ない。

次の瞬間、忍者の戦場を見る目はもう一点に注がれる。

敵の増援の方向からして今、最も拙い位置にいる人物に。


「三笠殿っ!!」





      ●





「三笠殿っ!!」


前方から点蔵の声が聞こえたが、


「楯を全周囲に。重層展開」


自身を中心に楯を円陣に何層にも構える。


「流石に少々、いえかなり危機的状況です」


人間であれば、汗の粒が浮かんでいるであろう状況。
後ろから来る敵だけでなく、上の艦砲もこちらに狙いをつけているかもしれない。
三笠は判断を仰ぐ。


「如何致しましょう、ネシンバラ様。―――以上」


次の瞬間、周囲の銃口、火砲が一斉に火を噴いた。








あとがき


少し短めを投稿・・・
書く時間があまり取れないので、戦争シーンがちょいと長引きそう。

相対戦を期待していた方々、申し訳ない。
トーリ達の方が先に書きあがりました。

今回は戦闘ばっかりです。
描写がどうだろう・・・・・・原作キャラがほとんど出ていないって。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上






[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  九話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/08/02 03:16
第九話:回廊の通行人達


西側広間で行われているぶつかり合いが賑やかだとすると、東側山岳回廊で始まったぶつかり合いは静かであった。
観客も審判もいない山と山の間を制服の異なった二人が疾走する。
ぶつかり合う二人の内、赤い三征西班牙の制服と装甲を身に纏った生徒が、


「一つお聞きしたい事があります」


敵を常に自分の領域(テリトリー)に置くように、上手く加速術式を使って間合いを詰めながら問いかける。


「何故、何故貴方達はこの道を選んだのですかっ。他に道は無かったのですか!」


そして、極東の制服を着たポニーテールが接近を嫌いながら、


「唐突だなっ。今頃、何故という問いを発する事事態が可笑しいのではないか?」

「それは極東の、そして世界の人々の今後よりも重いものなのですかっ!」


宗茂ははぐらかす顕如の答えに重ねるように次の言葉を吐き出し、


「――!?っち、流石に速さでは敵わないか」

「当然です。速さを武器とする者ですからねっ!」


自分の武器の届く位置で右手の大罪武装を突き出す。
それに対して、


「このっ」


顕如は逆に相手の懐に入り込む動きで回避しようとする。
宗茂の持っている大罪武装は長刃の剣に似ているので、自然と武器の使い方も剣と同じになる。
長剣は、懐に飛び込まれると弱い。

だが、


「させません!」


宗茂は咄嗟に右足を跳ね上げ、


「・・・・・・おいおい。それは人に当てるもんじゃあないだろう」

「・・・そう簡単にはいきませんか」


顕如が後ろに下がった。
相手の武器に掠ったポニーテールの一部が散る。
額に薄っすらと汗を滲ませながら、


「その加速術式がどれ程のものかは知らないが、この身に叩き込まれるのは勘弁だ」


そのまま距離を取るために足を動かす。


「逃げるのですか!?」

「当然」





      ●





顕如は、宗茂から離れた瞬間後ろへと大きくバックステップをする。

ついさっき長剣系の弱点である懐へと飛び込んでみたが、逆に足裏による一撃を貰いかけた。

宗茂の使っている加速術式は足裏に足場を連続投射しつつ身体能力も上げるものである。
普通は投射された足場を地面と一緒に蹴る。
蹴った反動は全て平面移動の力に変える事によって足への負担を軽減するためだ。
例外として、莫大な負担がかかる足を犠牲にするならば空気を蹴る事もできるだろう。
地面という逃げ場を失った負担は足を破壊するには十分過ぎる。

それで地面を蹴るのではなく、人を蹴ったとしたらどうなるか。
恐らく蹴られた方は、衝撃によってバラバラになる。
よくても骨折、内臓破裂くらいは起こるだろう。

足への負担も地面を蹴る程とまではいかずとも空気を蹴るよりはマシになる筈である。
やろうと思えば、その場でバック転のような動きをすればよいからだ。
当たれば、リスクを抑えながらも高いリターンを得られる迎撃攻撃(カウンター)。

それを叩き込まれかけた。

咄嗟の判断でそんな事をされかけた顕如は、改めて宗茂の反応速度の速さに舌を巻く。


「それにしても、向こうはまだ元信公の言葉を引き摺っているのか」


激突してからお互いに交わす言葉は武蔵の選択に関する話題ばかりであった。
それだけ武蔵の決断が宗茂にとっては納得がいかなかったという事か。
だが、それは宗茂のみではない。
武蔵以外の皆だ。

唯、他人の納得がいかなくても武蔵の住民達は自分達の進むべき道を選んだだけなのだ。


「答えられないのですかっ!」


考えている間にも速度で勝る宗茂が追いつき、武器を振るってくる。


「俺が答えてどうするっ」


首を狙った左からの横薙ぎの一閃を左肘を刃の腹に当ててかちあげ、左足で蹴りを放つ。


「他の人達を説得してもらいます。無駄な血を流す必要はない、と」

「何だと?」


その蹴りを加速して横並びとなる事で回避し、


「今の極東では勝てませんっ!数の差があり、こちらには八大竜王に教皇総長もこの三河にいる。どうして、これ程絶望的な戦を態々仕掛けるのですっ」


話す。

宗茂にとって、主君が決めた事に従うのは当たり前ではあるものの、それが本来守るべき住民をも死地へと赴かせるかもしれない判断には恐らく反対するであろう。
ただし、いざ自分の国がそうなったとしたら自分が本当にそうできるのかは疑問ではある。
何処の国も聖譜記述に関わらず、生き残りに必死なのだ。

自分の主君である、普段は温厚な眼鏡をかけた苦労人を思い浮かべる。

できない・・・もしも、あの人が今の極東のような決定を下したら自分は背く事はできないだろう。
それに、もしも今の極東の姫の立場が誾であれば・・・・・・。
そう考えると、自分も結局も極東の人と同じだ。

自嘲の思いが沸き起こるが、戦闘中なのでそれを理性で無理矢理押さえ込む。

その間も身体は止まらない。
逃げようとする相手にピッタリとくっ付くように追尾している。
致命的な攻撃をしないのは、本当に説得しようとしているためであった。


「逆に問いたいものだっ。何の罪も無い主君が自害させられるのを黙って見ていろ、と?指をくわえていろ、と?」

「それが世界のためならばっ」


真っ直ぐな目で宗茂は答える。
その瞳は揺ぎ無い、いや固い意思の表れでもある。

たとえ状況が状況ならば同じ道を辿るかもしれないとはいえ、今は立場が違う。


「ふざけるなよ?元信公が示した一つの解決策をどうしてそこまでして否定するっ。聖譜が絶対だと考える。その聖譜自体が止まっているからこそ、今動きが起きているのだぞ!?」


武人としては優秀故に、交渉人が相手にするには荷が重過ぎた。


「我々のやろうとしている事も元信公の解決策です!」


顕如の速さに慣れてきたのか、徐々に長刃が肌を削り始める。


「姫の自害による解決策等認めぬと言っている。そちらの価値観を押し付けるなっ!」


顕如はこのままでは不味い、と感じる。
空気抵抗を極限まで減らし、反応速度も上げてはいる。
宗茂が加速によって速さを得るのに対して、顕如は初めから最高速で動いている。

つまり、最初はこちらが速いが、時間が経つと速度は向こうが勝る。
その上、一応近接呪術士とはなっているものの、近接戦闘能力は宗茂に比べれば劣っている。


「だからこその、貴方ですっ」


宗茂が怪我の為か本気を出していないからこそ、今の膠着状態がある。
現に何度か速度で勝っても仕掛けてはこなかった。


「・・・・・・!?」


何時の間にか山岳回廊の真ん中に位置する関所が目の前にあった。
柵が並べられただけの簡易のものだが、


「漸く足を止めてくれましたね」


これを越える時間さえない。
事実上の行き止まり。
鬼ごっこは終わりであった。


「足を止めさせなかったのはそちらだろう」


足を止めて仕方なく振り返る。


「そういえば、そうでしたね。ところで、返答はどちらでしょうか」

「先程から繰り返しているように、そちらの提案は論外だ」


同じく足を止めた金髪の青年は、


「ここまで言っても聞き入れて頂けませんか・・・」


一瞬眉尻を下げるが、直に元に戻り、


「では、力尽くでも従って頂きます」


全力を出す、と宣言する。
今、自分がすべき事は自分が最善手と考えた行動を実行する事だと思ったからこその決断。

だからこそ、


『創作術式:逃げ水 承認』


こちらも手札を切った。





      ●





宗茂は腰を沈め、足のバネを使って飛び出し、


「またっ・・・」


再び逃げ始める顕如を加速術式を使って追いかける。


「・・・・・・?」


先程までは簡単に追いつけていたのが、


「追いつけない」


距離が全く縮まらない。
加速しているにも関わらず、だ。
かといって距離が離される訳でもない。

完全な等距離。


違和感を確かめるために一旦足を止めると、


「・・・どうした?」


相手も止まり、


「何も」


再び動き出すと相手も動き始める。
走狗による術式承認があったからには、何かの術式効果なのであろうが見当がつかない。
昨日の戦闘の傷がまだ癒えていない状態での無理は禁物と思い、


「・・・距離を固定する術式ですか?」


足を止めて自分の推測に多大な疑問を抱きながら問いかけた。


「これだけ変な術式は見た事がないだろうな」

「本当にそのような術式が?」


ポニーテールはその疑問に頷き、


「ある意味、この術式は宗茂殿が昨日戦われた本多 忠勝の蜻蛉切りの割断に似ているのかもしれないものだ」

「割断と・・・同じ?」


理解不能な説明をする。
首を傾げると、


「如何なる手段を用いられたとしても固定された距離は維持される。つまり、たとえ瞬間移動をされたとしても距離が縮まる事はない。その場合は、敵と同じく自身も瞬間移動する。忠勝がやった方角の割断と似てはいないか?」


説明がなされる。
それを聞いて、宗茂は唇を噛みしめる。

相手の説明を信じるならば自分の速度という長所(アドバンテージ)を殺され、あまつさえ接近も許されない状態になっているのだ。
現に追いつけていない。
それは、今の宗茂の装備では物理的攻撃が一切届かないという事を意味していた。


「ですが、これならばっ」


ならば、飛び道具を使えばよい。
右手の大罪武装を通常駆動させる。

超過駆動はする必要はない、と判断し、


「それは遠慮したいな」


何時の間にか背後を取られていた。


「!?」


咄嗟に加速術式を使って体を半回転させ、


「『逆もまた然り』」


叩き込んだ“悲嘆の怠惰”による右のバックハンドは空を切る。
二度の予想外の出来事に混乱しながらも気配を探り、


「・・・・・・一体何が」


何故か元の位置にいる敵を睨む。
その視線にポニーテールは大袈裟に首を竦め、


「貴方には私を捕らえる事はできません」


芝居がかった仕草をした。
全く気配が感じられなかった動きを警戒するあまり、口を開く余裕もない。

ガリレオ殿と同じようなものだったような気がします・・・

相対戦の時に武蔵に現れたガリレオの登場の仕方を思い出しながら、嫌な汗が背筋に流れるのを感じる。

あのまま無言で背中を刺されたりしたら終わりでした。
字名は伊達ではないという事ですか。


「それはどうでしょうか?二度目は通じませんよ。これが言霊ですか・・・・・・“初見殺し”とはよく言ったものです」


その言葉に、


「全く、大層な字名をつけてくれたものだ。初見を作り出すのがどれ程難しいか」


顕如はぼやき、


「まあ、これで鬼ごっこは終了です」


宗茂の応えを待たずに


「『復唱(リピート)』」


一瞬でその場から姿を消した。


「なっ!?」


驚きながらも辺りを確認するが、顕如らしき影も形もなかった。


『宗茂様』


困惑する夫に妻から通神が入る。


「すみません、総務を討ち取れませんでした。それで、何ですか誾さん?」

『総務は出口の方にもの凄い速度で移動しているようです。人間業ではありませんね』

「そうですか」

『ええ、総務の件は大丈夫です。ええ、問題などありませんのでお気になさらず』


時々鋭い鈍感夫は何か刺々しい妻の声の理由が解らず、


「ええと、何か怒ってます?」


火を煽り、


『何も怒ってはいません。唯、宗茂様が相対戦の名乗りもあげずに戦闘を始めたので相手の相対放棄による不戦勝扱いにもできないので非常に残念な思いで一杯なだけです』

「えっ、・・・あ、確かに。・・・・・・という事は先程の戦闘は無意味?」


油を注いだ。
画面向こうの妻の顔が微笑み、


『無駄という訳ではありません。一応、敵戦力の足止めは果たしたのですから』

「あれっ。目が笑ってませんよ?」

『目が笑わないのは何時もの事です』


いや、何時もではない気が、という夫の反論をスルーし、


『それよりも、帰ってきたらお仕置きです』


義腕をワキワキとさせながら死刑宣告をした。
それを聞いた宗茂は狼狽し、


「いや、誾さん。理由も無しにそれは勘弁して欲しいのですが」

『却下です。理由ならありますが、今言いましょうか?』

「・・・いいです。覚悟していますよ」


儚い微笑みを浮かべながら肩を落とした。





      ●





何とか最大の難敵から逃げ出したポニーテールは、関所から一気に山岳回廊の武蔵側の入り口まで転移に近い移動をしていると、こちらへと歩いてくる人物を見つける。


「あれは・・・本多 二代、か。本当に交渉には成功したようだな」


本多 二代が敵ではない事は既にネシンバラとの通神で確認済みであった。
これで、後ろの厄介な敵を押し付けられると安堵し、


「そこにおられるは、本多 二代殿とお見受けしてよろしいか」


槍を持った女武士に声をかける。
対して女武士は傾げ、


「如何にも拙者は本多 二代に御座るが、誰で御座るか?」


真顔で質問をぶつける。


「あれっ?ネシンバラから顕如が来ると聞いてない?俺が顕如だ」

「それは聞いていたので御座るが、特徴を聞き忘れて御座ってなあ」


その応えに嫌な予感がし、


「それ故、そなたは拙者にとっては不審者で御座る。ここから向かうは武蔵であろうから、行かせる訳にはいかぬで御座る。それに拙者とキャラが被るので些か不愉快」


二代が槍を僅かに傾けるのが見える。


「えっ?最後のは関係ないだろう!?」

「問答無用っ!」


その先端に顕如のポニーテール姿が映し出され、


「結べ、蜻蛉切りっ!」

「ちっ、『刃は曇る』!」


割断の光が目に焼き付いた。





      ●





「・・・・・・何をしたで御座るか?」


割断の光は起こったものの、何故かそれは蜻蛉切りの先端でしか確認できなかった。
目の前には、普通に立っているポニーテール。

おかしいで御座るなあ。


「蜻蛉切り、壊れたで御座るか?」

『否定―』


相方となる蜻蛉切りに聞いてみるが、返って来たのは壊れていないという返事。
では、正常に割断できなかったので御座るか?


『割断成功―――』


心を読んだかのような答えが発せられる。
それを聞いて、さらに訳がわからなくなった。
父上が言っていたで御座るな。
こんな時は、


「とりあえず、もう一度」

「無茶言ってるよなあっ、お前!」

「結べっ、蜻蛉切り!」

「『復唱(リピート)』!」


もう一度同じ事が起こる。
だが、二代の動体視力が原因を突き止める。

槍の先端が曇った・・・?

顕如が言葉を発した瞬間、刃の部分だけが曇りを帯びたのだ。

磨かれた金属をそのままにしておくと、光沢が失われる。
その状態をもう少し酷くした感じであり、映っていた筈の敵が霞にかかったような状態になった。
そして、刃の表面に映っているその曇りを蜻蛉切りは割断した。

それは、敵を割断できない筈で御座る。


「それにしてもよくあの変なモヤモヤを割断出来たで御座るな。偉いぞ、蜻蛉切り」

『当然――』


自問自答して、自己解決してしまった二代を余所に、


「『彼我の距離(さ)はあれども、遠ざからんとする意思あらば、罷(まか)り通らん』」


宗茂の時とは逆の言霊を発動させて、顕如はさっさと武蔵へと向かった。


「この書記っ、肝心な所で何をしてやがるっ!後で覚えておけっ!」

『ああ、御免。御免』


自分の事を正確に伝え忘れていた書記への抗議を行いながら。





      ●





暫くしてから、目の前に顕如の姿が無いのを見て二代は、


「逃げられたで御座るか・・・逃げ足の速い奴め」

『違うだろ?まあ、顕如が無事にこちらへと合流出来たよ。さっき君が戦おうとしたのが顕如だからね。伝え忘れてたこちらも悪いけど』

「そうで御座ったか。武蔵に帰れたのならば、問題無しで御座ろう」


横に教示された表示枠の中でネシンバラはあまりな言い方に苦笑しながら、


『問題無いよ。本隊も大変だけど、これからそっちも大変になるよ』


何故か二代の意見に合わせた。


「そうなので御座るか?まあ、このまま進めというならば従うまでなので御座るが」

『改めて頼んだよ』


参謀役の書記の再度の念押しに、Jud.と二代は応え、


「早速で御座るよ、ホレ」


向こうから自分と同じく歩いてきていた人物に表示枠を向ける。


『早速だね、こっちも忙しいから後頼むよ。健闘を祈る』


表示枠の中からエールを送って書記からの言葉は途切れた。

見ると、向こうも何やら表示枠を出して会話をしている。

作戦会議か何かで御座ろうなあ、と二代は相手の準備が整うのを待った。





      ●





宗茂は、誾による愛溢れる死刑宣告を受けた後、


『東側回廊の出口から武蔵側の本多 二代がやって来るようなのでパパッと行って片付けてください』


という妻の要請により、出口へと歩いてゆくと、


「早速で御座るよ、ホレ」


表示枠をこちらに向ける二代の姿が。


「誾さん、とりあえず発見しましたので相対しますね」

『Tes.気難しそうなので、五分の一誾くらいで。御身体を労(いたわ)って迅速に御勝ちください』


矛盾した妻の頼みにはあ、と頷いて、


「名乗りをあげましょう。三征西班牙、アルカラ・デ・エナレス所属、第一特務、近接武術士(ストライクフォーサー)、――立花・宗茂です」


凛々しい表情で告げ、黒と白の長刃を携える。


「極東、武蔵アリアダスト教導院所属、臨時副長、近接武術士(ストライクフォーサー)、――本多・二代」


槍を携えた女が応える。


「貴方は、私に勝てると思っているのですか?」


宗茂は、そう問いかけながら足を前後に緩い幅を持って開き、


「速度では私に勝てない。解っていますね?だから・・・・・・、降伏を求めます」

「残念なことに御座るな。敵が八大竜王の一人となれば、血は熱を持つものぞ。大体――」


二代も同じく前後に足を開く。
しかし、身体を前に倒してだが。


「拙者、あのときは本気ではあり申さん」

「私も、あのときは本気ではありません」

「五割に御座った」

「30%でしたね」

「いや、二割五分」

「ええ、15%で」


子供のような張り合いをしながら、二人はそれぞれの武器を背後に、伸ばすように引き構え、


「ならば」


身をゆっくりと、前に押し出すようにしながら、


「――ここからは本気で!!」


直後、辺りが夕日に染まる中、赤と青の速度が激突した。











あとがき



更新・・・・・・完了。難産でした。

顕如は連戦でした。中途半端かな・・・?
流体、及び流体操作による直接攻撃系ができない顕如に残ってるのは防御と補助の言霊です。
それを如何に駆使していくかが、彼の弱点でもあり強みでもあります。

戦闘描写は苦手です。OTZ
上手く原作には無い雰囲気が出せればなあと思いつつ、書いています。



それから、<警護隊の年齢について>

これがよくわからないのですが、警護隊は生徒ではなく武蔵の雇った傭兵扱いではないかな、と思って18歳以上っぽい人達も入れていました。
極東唯一の戦闘専門職が18歳以下で構成されているのか?と。
まずいようでしたら、修正していきますので、御指摘下さい。



今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上






[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/08/02 03:13
修正は後日に致します。



第十話:明日へと繋がる道



 西側広間で起こった、武蔵勢の殲滅の動きと同時に空でも動きが起きる。
 空を縦横無尽に動き回る白(ヴァイス)と黒(シュヴァルツ)の魔女(テクノへクセン)に武神が持ち前の重装甲を楯に迫り、


『そこっ!』


 銃口を相手の予測移動位置に撃ちこむが、


「まだまだっ!もっと上げるわよ、速度」

「そうね、相手を置いてけぼりにするくらいね」


 武蔵一の速度を誇る二人には当たらない。
 火線を綺麗に避けていく。
 かといって魔女の攻撃も武神の装甲には歯が立たない。
 どちらも決め手を欠いている状態であった。
 だからこそ、動く。
 互いに隙を窺いつつ、速度をさらに上げ、


「・・・・・・取るわよ!!」


 先手を取ったのは黒嬢。
 手元に展開されているスピードメーター型の魔術陣(マギノフィグーア)のメーターの針が回り、黒の銅貨弾が目に見えぬ速度にまで加速されて撃ち出される。
 狙うは武神の顎の裏。可動部分の中でも軟質装甲の薄い場所であり、魔女の手持ちの銅貨弾で唯一正面からの貫通が望める部分。
 下からアッパーカットにように黒の銅貨弾が食い千切らんと襲い掛かる。
 だが、


『――!』


 武神乗りもエリートとしての力量と意地があった。
 下から来る攻撃に対して背の大翼を使い、


『っ!』


 身体にかかる重圧に歯を食いしばりながら、その場で左に一回転する事で銅貨弾を紙一重で避け、


『見えた!』


 銃口が顎の裏狙いの弾の後ろを飛んで来ていた白嬢を、


「マルゴット・・・・・・!」


 捉えた。





      ●





 被弾した乗っていた白の杖が爆発し、また急速な速度の消失によって空中へと投げ出されたマルゴットの耳に、


『――あたしから“見下し魔山(エーデルブロッケン)”のテスター権奪った根性見せてみな!』

『――この中で、一番強かった俺に勝ったのは誰だ?よく解ったら目を醒ませ“双嬢”』


 仕事仲間である武蔵内部の配達業組合の声と、 


「マルゴット!起きて!!」


 何よりも大切な相方の声に、


「あ」


 動いた。
 満足に動かない身体に鞭打ち、先端部だけになった箒を武神に向け、


「・・・・・・ガっちゃん、速筆だから、避けられなかったよ、ね」


 先程のすれ違いの一瞬で箒の先端と武神の顎の裏に繋げた白の魔術のプラスの力の線上を、


「これで終わりよ。十円銅貨千円分の棒金十本!いくよ平均日給――!」

「――Herrlich!」


 黒の魔術によってマイナスの力を与えられた貨幣砲弾が奔り、


『馬鹿なっ!?』

「Schlag(命中)!!」


 武神を貫いた。





      ●





 武蔵に着いたポニーテール男子は、通神を開き、


「空の双嬢はよく勝てたよな、書記」

『それはあの二人に言ってくれないかい?僕に言われても困るんだけど』
 
 
 朱の空を舞っていた三つの影が一つになったのを見て、息を吐き出す。
 ・・・・・・無事でよかった。
 双嬢は命を懸けた戦いに生き残った。
 武蔵への砲撃も少なくなった今、



「で、俺はどうすればいい。本隊に合流か?」

『そうだね。銀狼と直政の武神の援護で敵は突破できるだろうからね』

 
 援軍が必要なのはトーリのいる武蔵勢本隊であった。
 話している間に、武蔵のデリックから二回音が聞こえてくる。
 ・・・・・・こんなデリック活用法は思いつかない。


「とりあえず、急いで合流する」

『頼むよ。これ以降の援軍の余裕はもうないよ』


 Jud.と応え、走狗(マウス)を呼び出し、


『Pi?』

「何処から出てきている、馬鹿者が」


 ハードポイントからではなく、モゾモゾと髪の毛の中から頭を出すネズミの走狗。


「とりあえず、逃げ水の術式を」

『Pi.Pi.Pi!』

『創作術式:逃げ水  承認』


 眼前に表示された表示枠を見て、


「第一義発動」


 ポニーテールの姿が、一瞬で西側広間の破壊された入り口の残骸上に移り、


「距離の設定ができると雖(いえど)も目に見える範囲しか移動できないのは便利なようで不便なこった。『復唱(リピート)』」


 視界に武蔵の最後尾を収めつつ、二度目の術式発動によって、


「待たせたな」


 武蔵勢に追いついた。





      ●





 一方、武蔵でのんびりしているポニーテールと違い、予想外の敵の動きによって一気に追い詰められるトーリ達。
 しかし、窮地に立っても総長の笑みは崩れない。
 むしろ、


「うおお――!今!まさしく!俺様超総ウケ――!!」 


 ボケていた。


「お前は黙ってろお――!」


 そんな馬鹿を怒鳴りつけながら防御に専念する武蔵勢。 


「大丈夫だって!援軍くるからさっ!」

「来るものか!距離的にも時間的にも来れるものなどないっ」


 混成戦士団はトーリの声に口を揃えて否定する。
 予想通りの返答に、トーリは右手の親指を突き出し、
 

「なら教えてやるよ。武蔵ならではのやり方があるってな!」


 何を、と言おうとして戦士団の耳に武神の射出音が二度聞こえる。


「名付けてデリック最強伝説!――頼むぜ皆!!」





      ●





 一瞬で自分を囲むように作りあげた楯の半数近くが破壊されたのを確認し、


『難しいだろうけど、どうにかして本隊との合流はできないかい?』

「迂回をするにしても、強行突破が必要と判断致します」


 土の楯を追加発注しながら身体をトーリ達の方向に向け、


「御要望に沿えるよう微力を尽くしてみましょう。では、これより逆戻りです。―――以上」


 時折掠める弾丸を無視して西班牙方陣(テルシオ)を迂回しようとするが、


「通さないっ!」


 背後からの攻撃に対処するために引き裂かれたK.P.A.Italiaの生徒達が進路を塞ぐ。
 楯を前面に押し出してその間から槍を構えて固まっている。

 一人突出し過ぎた三笠の眉が少しだけ寄るが、
 

「非常に厄介ですので、援軍が欲しい所です。―――以上」


 その歩みは止まらず、


「本来このような使い方は不本意ですが」


 視線に従って幼女の周囲に浮かぶ土の楯が眼前の敵の隙間に滑り込み、


「――!?」

「手荒な真似も御座いますので御注意を。―――以上」


 生徒達を押しのけて一筋の道を開き、駆け抜ける。


「――どうしても通す事はできないんだっ!」


 敵の壁を抜ける寸前、右手の土の楯の隙間から槍が差し込まれるが、


「弾きます」


 自動人形の反射速度は人の何十倍以上。
 当然、突き出された槍に反応するのは造作も無い。
 走る体勢を崩したくなかったので右手で槍の刃の腹を叩こうとし、


「っ!?」

「やった!」


 目前の敵を押しのけるために薄くなった防御壁を掻い潜った一発の弾丸が、


「これはまずい事にっ・・・・・・」


 右手を貫き、着弾の反動で泳いだ三笠の身体に槍が突き刺さった。
 

「――これで」


 突き刺した相手は槍を手元へと引き寄せる。
 体格の差によって小さな三笠の足が地面から離れてしまう。

 空いた手で腰に装備してあったサーベルを握りしめ、


「終わりだっ」


 自動人形の心臓部を貫くように突き出す。 

 右の肩の付け根を貫かれたので右手が動かず、左手は左手から来る槍を防ぐのに使われている。
 足は宙ぶらりんな状態なので刃を逸らす力は発揮できないであろう。
 視線で楯を挟むのも間に合わない。
 
 視界には直政の武神とミトツダイラの到着によって敵陣が崩されるのが映る。
 ・・・・・・申し訳ありません。
 敵に心臓部を貫かれる結末しか予測できず、顔には出さずに顕如へと謝罪を心の内でして、自分に迫る白刃を見つめる。

 
「・・・・・・どうして此処に」 


 しかし、その結末は覆される。


「大丈夫で御座ったか?見た目、大丈夫ではなさそうではあるが」


 一人の忍者によって。





      ●





 点蔵は帽子の下で冷や汗をかいていた。
 ・・・・・・危なかったで御座る。危機一髪で御座った。
 トーリの依頼で三笠の退却援護をするために敵陣の薄い所を突破して来た時、目に飛び込んできたのが先程の光景。
 
 三笠が槍で肩近くを固定され、宙に吊るされた状態でサーベルに貫かれそうになっていたのだ。
 疲れている身体に鞭打って走った。
 そして、一本のクナイを放ってサーベルを弾き、槍の刃の付け根をもう一本のクナイで斬って、支えを失った幼女を所謂お姫様抱っこして後退する。
 
 忍びといえども、人一人を抱えての移動速度は遅くなる。
 当然、そんな点蔵を狙う敵もいるが、
 

「ミトツダイラ殿っ、もうちょっと周りを見て欲しいで御座るよ!」


 その度にネイトの銀鎖が忍者ごと薙ぎ払う勢いで敵を蹂躙する。
 一応、跳躍して避けているからいいものの、仲間にやられるのは勘弁である。
 点蔵の能力なら大丈夫と思ってやっているのかもしれないが。

 二回、樽を越えるように跳躍して進み、
 

「着いたで御座るよ」


 無事に味方の下まで三笠を送り届けた。
 そんな彼に、
 

「あっれ?テンゾー、お前モテナイからって人のに手を出すのはどうかと思うぜ」

「トーリ殿っ!?自分で頼んでおきながらそれは酷いで御座ろう!」


 軽く汗をかいているトーリの労いの言葉が投げ掛けられる。
 とりあえず、馬鹿の言葉をスルーして、腕の中の幼女を降ろし、
 

「立てるで御座るか?」

「大丈夫です。点蔵様、此度は真に有難う御座います」

「いやいや、礼ならばトーリ殿に。ホレ、主が向こうから来たで御座る」


 彼女の主の方向を指差す。
 それに「御謙遜を。御礼はまた今度」と言い残して幼女はパタパタと皆に弄られている顕如の下へと走り去った。
 
 
「おお、無事・・・・・・ではないな。だが、よく生き残ってくれた」

「これくらいならば行動に支障はありません。後者に対しては当然です、と答えましょう。主が亡くなるまでは生き残らねば、誰が顕如様の御世話をするのでしょうか?」

「・・・・・・それって遠まわしに俺が結婚できないって事か?」

「さあ、どうでしょう?」


 普段通りの痴話喧嘩に混じって、ちらほらと顕如の復帰を祝う声があがる。
 直政とネイトの援軍によって敵が崩れたので幾分余裕ができたのであろう。


「あれっ?顕如じゃんか。おーいっ、みんな。囚われのヒロインその一が帰って来たぞ!」

「おおっ、よく帰って来た。掘られてはいないか?」

「今頃来るとか、遅すぎるさね。さっさと働きな」

「大した乳も無い癖にヒロイン気取りってのは頂けないわよ?貧乳政治家の真似かしら」

「いやいや、顕如は男で私は女だから。とりあえず、お帰りとでも言っておこうか」

「稼がせて貰っているぞ」

「漸く帰ってきましたのね」


 マトモな発言は正純とネイトくらいしかなかった。
 ・・・・・・これで漸く何時もの面子が揃ったで御座るな。


「よ~し、それじゃあ気合入れ直して突っ走るぜっ。ホライゾンの所に!」


 トーリの鼓舞に皆がJud.と応えた。





      ●





 トーリ達の進路上に位置する“栄光丸”の艦上から、こちらへと向かってくる極東の生徒達を見つめ、


「やるなあ。だが、こちらの駒はあれだけじゃあないんだよ」


 白い教皇衣の男はフッと哂い、


「いいかぁっ?これからは俺と貴様ら、聖譜を信じる者達による愚かな武蔵の連中への懲らしめの時間だ!」


 眼下に展開するK.P.A.Italiaの精鋭達に、


「情け容赦なく、完膚なきまでに潰せっ!それこそが、未来を勝ち取るための貴重な一歩となる。そして、俺がいる限り正義は常に勝つ!貴様らは何だっ、答えろ!!」


 檄を飛ばし、


「――聖譜ある世界において、結果は全て正義に満ちている!!」


 教皇総長の下に整列した生徒達が腕を振り上げ、一斉に答える。


「――Tes.」


 次々と声が上がる。
 Tes.、Tes.、Tes.、
 

「我らは聖譜の元に行動せり!」

「我らは聖譜の元に結論せり!」

「我らは聖譜の元に規範せり!」


 気合十分の声に、インノケンティウスはようし、と口を開き、


「ならば、見せてみろ!己の信念を貫き、磨いた爪をもって敵を倒す様を。貴様らが俺に報いるならば、俺も貴様らに報いよう」


 号令をかける。
 K.P.A.Italiaの正規戦士団が槍と楯の壁をもって待ち構え、そこへ武蔵側は槍のような隊列を組み突っ込んだ。

 
「――!」


 激突に重ねるように、金属音と打撃音が瀑布の響きとして宙にわき上がる。
 一瞬の均衡の後、


「道を作れっ!」


 武蔵側が押す。押し込む。相手を突っ切ろうとする。
 相手の踵が後ろへと滑り、全体的に後ろへと押された。
  
 
「舐めるな若造が!」


 相手は崩れない。 
 崩れるどころか、


「年季と経験が違うっ!」


 武蔵側の前衛を逆に押し返し始めた。
 そこに、


「そうだよなあ。歴史が違うんだよなあ、おい」


 教皇が右手にある大罪武装“淫蕩の御身(ステイソス・ポルネイア)”を掲げ、 


「大罪武装、“淫蕩の御身”だ。戦士団、最高の援護を貰えるんだ。・・・・・・勝てよ」


 低い、太い音が、鉄槌型の大罪武装から響いた。





      ●





 音が響いた瞬間、


「――!」


 武蔵側の全武装が骨抜きにされる。
 拳も蹴りも槍も刀も何もかもが敵に効かなくなった。

 つまりは、 


「――俺達の勝ちだ」

 
 教皇の言う通り、戦う術(すべ)を失った武蔵側に残された道は唯一つ。

 狩られるのみであった。





      ●





「どうにかならんのか・・・・・・!」


 己の身体を含めた武装が役に立たず、攻撃すらできず、


「・・・・・・!」


 ひたすら防具と防御符で敵の攻撃を凌ぐ事しかできない。
 それすらも、疲労の蓄積した身体と防御符切れによってままならず人数が削れていく。


「――どうにかしたいと、思ってくれてんのか?ホライゾンを救いたいと、思ってくれてんのか?」


 悲痛な声にトーリが汗の浮いた笑みの顔で問いかける。


「当たり前だ!」


 即座に返ってくる言葉。
 誰が言ったのかも分からないが、それは皆の共通の思いであった。

 極東の住人は理不尽な死をかざされた者を見捨てる事などできない。


「そっか。――顕如」

「何だ」


 今からやる事に最も適任であろうポニーテールを呼び、


「あれの足止めしてくんない?」

「どれくらいだ」

「とりあえず、一分。頼むわ」


 無茶を承知で頼み、


「Jud.総長の期待に応えよう」

「OK。じゃあ、浅間、・・・・・・やっぱ頼むわ!!――俺の契約を認可してくれ!!」


 最後の手段を取る。





      ●





 顕如はトーリの要請を受けて、


「大掛かりになる。シロジロ、金はあるから融通できる外燃排気の在庫を切らすなよ」

『無論だ。客の需要(ニーズ)にしっかりと応えるのが商人だ。任せろ』


 武蔵の皆と敵との間に足を進め、


『創作術式:逃げ水  承認対象;限定区域内における極東所属者   是/否』


 現れた表示枠の是を思いっきり叩いた。 





      ●





 一瞬で顕如を除く武蔵勢がK.P.A.Italia勢と十メートル程の距離をあけて後退し、それに驚いた相手の足が一時止まりかける。


「『母なるものの一つと数えられる大地よ、それが真である事を示し、我らをその手で包みたまえ』」


 その隙に一つの言霊を成立させ、


「『術式命名、天の岩屋戸(あまのいわやと)』」

『創作術式:天の岩屋戸   登録完了』
 

 頭の上の走狗が表示枠で新術式の登録完了を知らせる。
 これで次からは詠唱無しで術式発動が可能となる。
 
 言葉を言い終えた次の瞬間、顕如の背後、武蔵側との間に、


「少しばかり、俺に付き合ってもらいましょうかね?」


 武蔵勢を守るように、厚さ一メートル、高さ五メートルの土の壁が地面から出現した。
 何ものにも破られぬ、という強い思いを込めたその硬さは一瞬だけならば、艦砲射撃をも防ぐ程になっていた。
 遠目に教皇の驚愕する顔を見て、ニヤリと笑みが浮かぶが、


「・・・・・・っ!」


 その場に片膝をついてしまう。
 言霊を成立させるためには出来る限り正確なイメージが必要であり、言霊の発動中はそのイメージを保たなくてはならない。
 そのために、集中力が常に必要であるために溜まる疲労も著しい。
 立花・宗茂、本多・二代、今の三連戦は確実に顕如から体力を削り取っていた。


「――全く、私がついていなければやはり顕如様は駄目ですね」


 そんなポニーテールの横に、壁を乗り越えて降り立った一人の侍女は、


「・・・・・・お前」

「自動人形、三笠。何処までも主に付き従うのが使命ですので。―――以上」


 主の言葉に何時も通り素っ気無く答えた。





      ●





 指揮下の生徒達と武蔵勢とを分け隔てる壁は戦士団の攻撃にビクともしない上に、戦士団はそれを作り出している顕如に近づけていない。 
 何故か、顕如の周囲のある一定の範囲に踏み込むと、味方の武装が骨抜きとなり、自動人形の操る土の巨大な隻腕に吹き飛ばされているのだ。

 教皇の顔が険しくなる。
 右手の大罪武装を見てみるが、正常に稼動していた。
 
 不可思議な現象が起こっているが、大局には影響は然程無い筈だ。
 そう考え、冷静になろうとする。

 すると、足止めの目的が戦場から聞こえてくる。
 指揮下の生徒達の声だ。


「“不可能男(インポッシブル)”の全てを伝播されたところで、不可能が得られるだけだろうが!それが、どうした!」


 ・・・・・・不可能男の全ての伝播だと?確か、あの小僧は副王であったか。
 そこでハッと気付く。

 副王の権限だと流体の分け与えも可能であった。
 その考えが正しいという事を裏付けるように、眼下の武蔵勢の身体には流体の光が微かに見える。

 
「そのための時間稼ぎかっ!しかも、王が命をかけるだと!?」


 思わず、叫んだ。





      ●





 
 顕如は、身体を通る流体の多さに肉体が悲鳴を上げているのを感じる。
 限界近くまで流体を垂れ流しにして、反転術式及び言霊用の流体を確保しているのだ。
 だが、テンションが高まり過ぎて、感覚が鈍っているのが救いか。

 約束の一分前に上方から声が聞こえてくる。
 インノケンティウスの叫びに笑みを濃くし、


「・・・・・・総長、そろそろ限界、だ。後、は頼ん、だぞ」


 その場に崩れ落ちた。
 それと同時に背後の壁も崩れ、一定の範囲で展開していた術式も消える。


「おう!よくやってくれたな。後は任せろよ」


 三笠が顕如を抱えて下がると、壁の消えた向こうからトーリが笑顔で親指を突き出す。


「後はお任せします。必ず、成功させて下さい。―――以上」


 それに頼れる総長は頷き、


「構えろよ俺達!安心しろ!――俺、葵・トーリは不可能の力と共にここにいるぜ!」


 号令をかけ、


「潰れろ極東!!」


 何が武蔵側に起こっていたのか知らない、地上の敵がぶつかり、


「終われないんだよっ!」


 敵を弾き飛ばした。





      ●





「俺がオマエらの不可能を受け止めてやる!だからオマエらは可能の力を持っていけ!」


 敵を防御術で弾き返した極東の者達に葵・トーリが宣言する。


「――Jud.」


 それに皆が一斉に応えた。


「Judgement!――ああ、我ら聖罰を受ける者なり!」

「王の可能性を食らいて行く被罰者なり!!」

「されど我ら、――王に哀しみを与えぬ者達なり!!」


 使用制限の無くなった防護術式をフル活用して、敵を押し返す。


「行けよ総長!」

「俺達は王の可能性を貰った!その分はここで働いて返す。だから――」


 ホライゾンの元へと行け、と皆が後押しする。
 崖っぷちに立たされた極東の反撃の狼煙が上がる瞬間であった。





      ●





「・・・・・・むっ?」


 頭の下にある何か柔らかい感触に疑問を浮かべながら、ゆっくりと顕如の意識が覚醒する。
 ・・・・・・俺はあの後気を失ったのか。

 目が一気に覚める。
 一体、戦いはどうなったのか。


「気付かれましたか」

「?」


 動こうとすると真上、顔の正面から声がかけられる。
 数秒で目の焦点が合い、


「・・・・・・三笠?」


 自動人形の幼女である事を確認する。


「はい。今の状態は膝枕です。―――以上」

「そうか、膝枕か。そう、かって、何!?」
 

 慌てて飛び起きようとするが、額を手で押さえられる。
 身を起こせない。
 暫く動いていたが、結局無駄だと解ったので素直に膝枕を受け入れる。
 元々、身体が所々痛んでいるので無理は出来ない。


「最初からそうしていればいいのです」


 ため息をつく三笠に呆れていると、地面が揺れているのに気付く。


「此処は?」

「輸送艦です。私が此処まで運んで来ました。あちらにホライゾン様とトーリ様が」


 視線の先に首だけ動かすと、


「って、“栄光丸”!?何で此処に!?」


 目に飛び込んでくる光景に仰天してしまい、反射的に身を起こそうとしてしまうが、


『身体は大事にせねばならんぞ』

 
 いつの間にか側にいたスライムのネンジがそう忠告し、


「やあ、ネンジ君。こんな所に・・・・・・またなのかい?大変じゃあないか」


 飛んで来た破片に潰される。
 遅れてやって来たインキュバスのイトケンが、それを見て慌てて慣れた手つきで何処かへと運んでいった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 主従は顔を見合わせ、一つ頷き、スルーする事に決めた。


「御身体に障りますので、安静になさって下さい」

 

 三笠に押さえられる。
 そうこうしている間にも、極東の姫達と“栄光丸”の間で二つの異なる攻撃がぶつかり合う。
 黒の掻き毟りと白い流体の帯。

 余波が輸送艦にまで届いている。


「よくそんなに冷静でいられるなあ、羨ましいくらいだ」

「信じていますので。顕如様は、我らの姫君と王を信じておられないのですか?」


 皮肉に意地の悪い質問で返されてしまい、苦笑する。
 何処かで安心していたのだ、先程の光景を見ても。
 何故か。

 三笠の問いこそが、答えであった。

 風と砲撃の衝突による騒音の中、耳に飛び込んでくる声。
 小さいが、しっかりと聞こえた。
 

 通りませ 通りませ

 行かば 何処が細道なれば

 天神元へと 至る細道

 御意見御無用 通れぬとても

 この子の十の 御祝いに

 両のお札を納めに参ず

 行きはよいなぎ 帰りはこわき

 我が中こわきの 通しかな――



 聞き覚えのとてもある歌が風に乗ってやってくる。
 短い歌が終わると、


「圧倒的だな」

「そうですね」


 黒の掻き毟りが“栄光丸”の流体砲の威力を上回り、白の巨艦を破砕する。
 落ちていく艦を見て、


「疲れたなあ、今日は」


 やっと長い一日が終わったという実感が沸き起こり、


「・・・・・・眠い」


 疲れていた身体は睡眠を求めていた。
 だから、


「少し、寝るわ」

「Jud.安心して御眠り下さい。―――以上」


 それを聞いてポニーテールは目を閉じた。

 少しして寝息を立て始めたのと、誰も見ていないのを確認した三笠は、


「――今だけです」


 膝の上の主の髪を動く左手で梳きながら、その額に軽く、本当に軽く口付けをした。
 主への忠誠の証と同時に胸の内に沸き起こる温かい感情をきっと自分のものにしてみせるという決意と共に。
 






あとがき


なんとか、なんとか更新・・・・・・
疲れました。本当に疲れました。
どうやって最後を迎えるか、悩みましたよ。

如何でしたでしょうか?
ザックリと最後らへんを削ってしまいましたが、問題無いでしょうか?

漸く一巻終了まで辿り着けました。
これも皆様の温かい支えあっての事です。
感謝の思いで一杯です。


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上











[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十一話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/08/02 03:27
注)言霊の部分を『 』で囲むようにしました。



第十一話:消えぬ思い出




 暗くなってきた空を、月と星の明かりが彩る中、


「やあ、元気だったかな?」


 長椅子に座る学帽を被った老人が柔らかく笑い、


「ほらほら、そんなに固くならずに。――そうそう、それでいい」


 隣に座っている少年に話しかける。
 オドオドしながらも、何処か感情の抜けた感じのする、ポニーテールの少年であった。
 優しく、優しく、少年の緊張を解きほぐすように、


「で、ですが、役職を持たない唯の襲名者である自分が、三河のトップである学長殿とこれ程気軽に、は、話しをしてもよろしいのでしょうか?」


 学長は一瞬困ったような顔をして、


「それは誰かに言われたのかい?」


 少し俯いて無言で首を縦に振る。
 それを見て、ちょっとだけ悲しそうな目をし、


「鳥が羨ましいと思った事はないかい?」

「!」


 弾かれたかのように顔を上げる少年。
 その目はこう語っていた。
 どうして解ったのか、と。

 老人からしてみれば、逆にこの一言で込められた意味を推察した少年に驚きを禁じえない。
 今の現状から逃げ出したいと願った事はないか、と暗に聞いたのだ。
 
 素直に賢いのだろう、と思う。

 驚く少年の頭に手をのせ、 


「今は我慢の時だ。決して折れない心が必要とされる時だ」


 淡々と口を開き、


「同時に、たとえ君がどんなに辛い事が起ころうとも、それを乗り越える力をつけるべき時でもある」

「我慢・・・・・・ですか?」
 
「そう、我慢だ。まだまだ遊びたい子供には辛いかもしれないが、必要な事だ。そして、後々役に立つものになる」


 “我慢”という言葉に、少年はさらに俯く。
 ・・・・・・それは何時も周りから言われている。

 前例の無い、言霊使いとしての貴重な例(サンプル)であった少年の日々は実験続きであった。
 只管、用意された言葉を言霊として発動させる毎日。
 実験中の言霊の被害にあった人々から送られる憎悪の視線。
 それに怯えていると、実験を記録する者達は同じ言葉を繰り返した。
  
 我慢しろ、と。
 
 後々、人々の助けとなるから。
 あのような視線はいずれ無くなるから。
 
 そのような耳触りの良い言葉を投げ掛けてきた。
 だが、人の悪意に敏感な幼い子供にはきつ過ぎるものがあった。
 
 そして、次第に心を開かないようになる。
 恐縮して、オドオドしているのは、自分を守るため。
 周りに自分が子供である事を印象付けて、あまり負の感情を受けないようにするために。

 それでも、憎悪の感情等を向けられる時はあるが、その時は泣いたりして逃避をし続けた。
 それも長くは続かない。
 少し前から涙も流れなくなっていた。
 泣く事さえ、出来なくなっていた。
 オドオドする癖は直らないものの、感情が死にかけていたのだ。
 
 感情を捨て、機械的に言う事を聞くように、人形にしたかったのかもしれない。

 ボロボロになっていた心は、目の前の優しそうな男もそういった人なのか、と諦めを覚えかけたが、
 

「でも、それだけでは人は生きていけない」


 何を、と暗い目を向けようとし、


「先生と友達になろうか」


 笑みを目にする。
 ツクリモノの笑顔ではなく、心の底からそう思ってくれている笑顔。 

 受けた衝撃は計り知れず、少年の仮面が剥がれ落ちる。
 

「・・・・・・っえ?」


 頬を熱いものが流れる。
 それに手を当ててみると、


「・・・・・・まだ、流れるんだ」

「君が辛いと思うのならば、先生が少しだけ力になってあげよう。楽しい授業をしてあげよう」


 だから、今は存分に泣きなさい、と。

 それを聞いた瞬間、心を覆っていた殻が割れるのを感じた。
 

「・・・・・・っ!・・・・・・っ!」


 涙が止まらなかった。
 老人に抱きつき、声をあげて啼いた。 

 学長は、少年の背中を軽く叩きながら泣き止むのを待った。





      ●





 少年は泣き止み、まともな会話が可能になると、


「先程は無礼を働いてしまい、真に申し訳ありません」


 謝った。
 相手の言葉が切っ掛けとなったとはいえ、突然一国のトップにしがみついて泣き喚いたのは失礼にあたる行為である。 

 それに対して学長は苦笑し、


「気にしなくてもいい。先生が泣かしちゃったようなものだからね」


 手元に表示枠を出現させ、


「そっちはどうだい?副長」

『こっちは準備できたぞ、殿先生!点火していいよなっ、もう点火しちまうぞ?』

『おいおい、ダッちゃん。これは働いた俺の役割だろう?』

『お前寝てただけじゃねえか、ってオイッ!何勝手に火をつけようとしてやがるっ。俺にやらせろ!』

『いやいや、監督してたじゃん。――寝ながら。だから頑張った御褒美くらい貰ってもいいだろう?』


 副長の本多・忠勝と大総長の酒井・忠次が恒例のじゃれ合いを始めたので通神を切る。 

 横を見ると、少年が表示枠内での遣り取りに首を傾げていた。


「・・・・・・何をするのですか?」


 学長は子供っぽく笑い、


「君のための第一回目の授業を始めよう」


 直後、二人のいる場所からそう離れていない所から幾筋もの明るい線が空へと上がり、


「・・・・・・うわぁ・・・・・・」 


 夜空に色とりどりの華が咲いた。
 連続して打ち上げ花火が発射され、


『たーまやー!』


 何時の間にか開いていた通神から先程の二人の声が重なって聞こえる。
 ・・・・・・楽しそうな声。それに綺麗だなあ。

 それまでの感情が消えかけていた少年の姿は無く、年相応の子供がいた。


「どうだい?楽しい授業を受けてみたかい?」


 問いかけられた質問に、


「はいっ!・・・・・・元信公、いえ先生!」


 自然と口が動いた。
 それに満足そうに頷いた元信は、


「それでいい。顕如君、子供はもっと感情を豊かにしなければならない年頃だ」


 ポケットから出したマイクを片手に、


「よーし、皆!新しい留学生が入る事になった。する事は解っているかな?」


 喋り、


『宴だろ?』


 酒井が


『酒だよ、酒!』


 忠勝が


『ようこそ、三河へ。歓迎致します、顕如様』


 鹿角が


『拙者も歓迎するで御座るよ』


 二代が


『大歓迎だっ!』


 警護隊の連中が。

 顕如の噂は、それ程良いものは流れていなかった。
 それ故に、避けられる事も多かったが、


「いい奴らばかりだろう?」


 元信の言葉に、ぎこちないながらも精一杯の笑みで頷いた。


 


      ●





 その後、元信公の計らいによって言霊の実験は元信公に引き継がれ、三河で行われる事になった。
 元々、嫌々させていた事もあって効率が悪かったのだが、三河でやり始めて一気に実験の速度が上がる。
 実験の消化が早く済むのであれば、と文句は言われなかった。
 
 そのために、本来三年かかると言われていた実験が、一年で終わってしまった。
  

 しかし、その一年は密度の濃い時間であった。

 たとえば、言霊の威力を計る実験では、


「うおいっ、今のは俺を殺す勢いでやっただろ!しかも、鹿角!お前、俺を守る気ゼロだろっ」

「いえ、あの程度で死ぬような御人ではありませんし」

「そうそう、ダッちゃん。あれくらいで動揺したんだから、このおはぎは俺のだな」


 忠勝の割断によって言霊の被害を食い留めてもらい、


「う~ん、これくらいになるのかな」

  
 学者である元信公に予測を立ててもらうやり方をしたりした。

 誰も顕如に対して偏見を持たず、一人の子供として見てくれた。接してくれた。
 これは何よりも大切な思い出の一つとなるのであった。





      ●





 「っ!?」


 声を上げかけて、止まる。
 部屋の感じからして此処が顕如が総務の仕事をする際に使っている部屋である事に気付く。
 寝ていた布団から上半身だけを起こす。

 ・・・・・・夢、だよな?
 あまりにも懐かしい夢であった。
 自分が救われ、此処に居られる切っ掛けとなった出来事。
 今は亡き恩人との懐かしい思い出に、改めて元信公が亡くなった事を実感した。


「御目覚めでしたか」


 そんなポニーテールの耳にいつも通りの可愛らしさの一片も無い声が聞こえ、


「寝すぎだよ、寝すぎ」


 その隣には嵐山がイライラした表情で立っており、


「寝る子は育つと言いますし、いいではありませんか」

「いやいや、それ違うでしょ・・・・・・」


 さらには天然の山城に小悪魔みたいな吹雪が、


「心配しておりました。御無事で何よりです」


 顔を軽く伏せた、細身の有明も部屋の中に居た。
 言い方は皆別だが、心配していたという雰囲気が共通していた。


「ああ、ただいま」


 だから、顕如は先程までの夢を一旦胸の内へと仕舞い込み、 自分の帰りを待ってくれていた五人の侍女達に約束の言葉を述べた。
 




      ●





 扉の外では何人かの生徒達が隙間から中を見ようと躍起になっていた。


「ウッキー殿、体が邪魔で御座るよ」

「押すな、押すな」

「ハーレムよね、これ。同人のネタにしたいわねえ」

「な、何で私まで覗きをしないといけないんだよ!注意しに来たのに、何で・・・・・・」

「フフフ、いい感じに女誑しね。あの坊主」


 部屋の中では、金髪幼女に髪を引っ張られ、黒髪幼女に頬を抓られ、残りの三人の侍女に見守られているポニーテール。
 とりあえず、こういったネタには敏感な武蔵面子が集まり、悔しがったり堪能したりして、解散しようとしたその時、


「おいおい、皆で何やってんの?俺も混ぜてくれよ。むしろ、俺様特攻?」


 大混乱が起こりそうな場所に湧いて出てくる馬鹿が現れ、


「よおっ、元気か?ゴッドモザイク改、公開!!」


 総務のいる部屋へと突入した。





      ●





「・・・・・・」


 突然乱入してきた全裸に、六人が顔を向ける。


「元気そうでよかったぜ!これも俺のゴッドモザイクの御陰だな!」


 全裸で馬鹿な葵・トーリが笑顔でそうのたまうが、


「んっ?おいおい、ホライゾン。何、手をかけて・・・・・・」

「チッチッチ」


 ホライゾンの一撃で窓から外へとダイブする。
 それを放っておいて、顕如の目は扉へと向けられる。


「そ、そういえば、自分仕事が御座ったので」

「拙僧も道具の点検を」

「アラアラ、アンタ達ってば覗きしたくらいで何はしゃいでんのよ」


 トーリが勢いよく開けた扉から重なるようにして部屋に転がり込む者達数名。
 顕如が口を開くよりも前に、


「覗きとは感心いたしませんね。相応の報いを受けてもらいましょうか。若干名に」


 三笠が発言し、忍者や半竜、魔女達が逃げ、


「各自行動を開始。捕縛します。顕如様、続きは夜にでも」


 侍女五人との追いかけっこが始まる。
 風のように去っていった十名の後に残された副会長は、ゆっくりと立ち上がり、


「・・・・・・とりあえず、すまなかった。自分は注意しにきたんだがな」

「まあ、いいだろう。副会長はそんな人柄ではない事くらい解ってるし」


 武蔵の日常が戻ってきたのが実感できる。
 束の間の日常だが、貴重な時間である事を二人共理解していた。
 いや、皆が解っていた。

 だからこそ、いつも通りに振舞った。
 それに感謝しながら、窓の外を見る。

 青く、晴れ渡った空が広がっていた。


「おやおや、そんなに見つめられては。ホライゾンに惚れられても困るのですが」

「姫よ、少しは空気読もうぜ」

「いえいえ、ホライゾンのエアリーディングは完璧なので敢えて突っ込みました。どうでしょう、この高性能な反応」


 窓際に立っていたホライゾンの言葉に、はあ、とため息を顕如はついた。












あとがき


束の間の日常を・・・・・・更新。
実は日常が半分以下っていう罠。

とりあえず、過去話が少しはできたかな?
先生のターン。

如何でしたでしょうか。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上








[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十二話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/08/09 01:24


第十二話:平穏の破壊者達


 朝独特の澄み切った空気に僅(わず)かな酒気を撒き散らしながら、胸にオリオトライという名札を付けた教師が御機嫌な顔で武蔵アリアダストへと向かっていた。
 整った顔は軽く赤らみ、足取りは軽い。

 
「~~~♪」


 さらには暴力教師の名に似合わぬ鼻歌まで歌っている。
 ・・・・・・ん~、ちょっと飲みすぎたかなあ。
 
 何の事は無い。教え子達の初戦の勝利が嬉しく、ついつい飲みすぎてしまったので酔っているだけである。
 勝利の翌日くらいならば、少々羽目を外しても堅物の武蔵王も許してくれるだろうとオリオトライは勝手に思い込み、


「――少しくらいは褒めてあげないとねえ」


 それに、


「それに、弛み過ぎてるんだったら軽く絞めとかなきゃ」


 頼りない足取りでンフフと笑う姿はかなり危険な人に見える。
 周りでは、


「お姉ちゃん、お姉ちゃん。あの人黒いよ?」

「めっ、見ちゃいけないものなのよ」

「そうだぞ、弟よ。純真なまま育つには不要のものなのだ」


 子供達が邪神でも見るかのような態度を取っていたが、御機嫌のオリオトライは無視する。
 今ならば、面倒くさいポニーテールも三枚おろしは容易いかもしれない等と物騒な思考をしていると、聞きなれた鐘の音が聞こえてくる。
 始業時間を知らせる鐘である。

 
 朝の授業が始まる鐘が鳴り、座席に座る者、寝る者、堂々とサボる者、遅刻する者、様々な行動をとる生徒達。
 三河でのホライゾン奪還以前と何ら変わり無い光景。
 それでいて、もうこれからは中々お目にかかれないかもしれない動き。

 素直に微笑ましいと思う。


「ん?」


 オリオトライは、ふと足を止めた。
 
 当然、大半の生徒は授業を受ける真面目な生徒なのだが、


「おぉっ!真喜子だっ」


 時にはこんな生徒もいるわけで、


「・・・・・・とりあえず、私の名前を呼び捨てとはいい度胸じゃない?」


 ・・・・・・相変わらず変態が多いわね、此処。
 進路方向、武蔵アリアダストへの二階へ伸びる石橋の上で突然自分の名前を口にした生徒を半眼で見ながら、


「何度も何度もうざいんだけど、授業はどうしたのって一応は聞いておいてあげる。さあ、遺言は?」


 額に青筋を浮かべ、


「授業よりも真喜子の方が大事に決まってるだろ!」


 茶色の短髪の生徒は教師の反応を気にせず、顎に手を当てて歯を光らせる。
 実にマイペース。
 
 この二年間、一週間に一回はオリオトライに露骨に求愛してはボコボコにされるので有名な二年の斉藤。
 巷で、『キチガイ』『ネジが付いていない男』『マゾの帝王』『春をもたらす男』といった異名が付けられている程にバカな行動をしている男である。

 バカといってもトーリとは違って、オリオトライに求愛するのがバカと呼ばれる所以だ。
 恋人もできないまま一生を過ごすであろうと予測されている教師にコクリ続ける。
 しかも、その手法が戦闘。

 屈服させたら嫁になれとか言っているから何時までも成功しない。救われない。
 周りも初めの内は止めようとしていたが、何度も続くと、


「おいっ、今日こそ勝て!お前に何時も賭けてるんだぞ」

「あの教師を泣かせてやれっ」

「とりあえず、死なない程度に・・・・・・仕事を増やしてくれるなよ?」

「みんなっ、賭けだ!賭けだ!胴元はシロによろしくっ」

「馬鹿者っ!私の存在は教師には秘密と言っただろうが!!」


 日常の一場面になってしまう。
 校舎の窓から様々な学年の生徒達が顔を覗かせる。
 梅組のトーリの発言をシロジロが問い詰めているのが目立つ。


 実の所、オリオトライ自体の人気は高い。
 暴力教師ではあるが、強く、美人であり、問題解決能力も高いために男子より女子からの人気がある。
 オリオトライは百合ではないが、如何(いかん)せん男性にとってマイナス面が大き過ぎた為に未だに恋人ができていない。
 本人も選考基準は結構厳しいらしい。 

 そんな彼女一筋な斉藤が片手に棒を持って進路を塞ぐ。
 身体の重心を低くして何時でも動けるようにしているのが解る。


「昆なんか構えちゃって、ヤル気満々みたいだけど・・・・・・ならコッチも手加減無しでいくわよ。気分を害した生徒にはお灸を据えるために」


 手持ちの大剣を鞘に納めたまま構え、視線を梅組へと移し、


「へぇ、この騒ぎの元凶として二人がずっと関わってたんだ。――トーリとシロジロは処刑決定ね」


 笑顔でのたまい、


「くそっ!アレは金で解決できん類だっ。どうしてくれる!!」

「おいおい、落ち着けよシロ。もうとっくの昔にバレてるって。だから・・・・・・あん?ホライゾン、庇ってくれんのか?それなら、俺超嬉しくて脱ぐぜ!」

「Jud.シロジロ様、御怒りを御静め下さい。シロジロ様の代わりにホライゾンが鉄拳制裁を下しますので。ええ、お任せ下さい」

「あっれ?あっれ?俺の味方いなくね?」


 小さくない破砕音と共に制服を着たトーリがホライゾンによって窓の外へと吹っ飛ばされ、


「捕まえました。ホライゾン様、手綱をどうぞ」


 それを追いかけるように三笠が投げた縄によって首を絡め取られる。
 そして、そのままホライゾンがクイッと引く手に合わせてバカが外壁に身を打ちつけながら蓑虫のように回収された。


「拘束プレイでもっ、首は駄目ぇ―――」


 十五秒間の出来事を見届けると、オリオトライは 何処か黒い笑顔のまま正面を向き、


「昨日の戦闘見てて鬱憤が溜まってたから、丁度よかったわ」


 足を屈伸させ、相手の武器を構える反応を越える速度で、


「簡単に潰れないでよね」


 相手の懐へと踏み込む。


「――!」


 しかし、相手は見事に反応して左からの逆袈裟を昆を斜めに構える事で流し、


「貴方の為なら何処までも!」

「気色悪いって」


 続く右からの横薙ぎとその反動を利用した回し蹴りも捌かれ、避けられる。
 技量が以前にもまして上がっている事に眉を顰める。


「しつこい男は嫌いなのよね」

「勝てばいいだけの話!」


 聞く耳持たない相手にため息をついて一旦距離を取った。
 その行動をどう解釈したのか目を見開き、


「おおっ、遂に俺の告白を受け取ってくれるのか」

「違うからねっ、と」


 居合いに構えて目にも止まらぬ速度で振りぬき、 


「!?」


 斉藤の持っていた昆が輪切りにされる。
 反応できなかった事に驚愕しながらも、


「くっ、今の愛情ではまだ足りないのか!?だが、諦めない。諦めないぞ。斉藤の名にかけて誓って!」


 後ろに跳ぼうとするが、既にオリオトライが間合いに入っており、


「死・ね」


 


      ●





 中央前艦“武蔵野”にて、王様の格好をした武蔵王 ヨシナオは軽い振動と空に打ち上げられた何かを見上げ、


「あれ程の事があっても猶、武蔵は変わらず・・・・・・か」


 羨ましいと内心で思いつつ、問題を起こしている馬鹿共を叱り飛ばすためにゆっくりと足を武蔵アリアダストへと向けた。





      ●




 
「おいおい、縄投げの技量どれだけ上がってるんだよ」


 梅組の中、顕如が窓に集まった級友を見つめ、


「ふふっ、嫉妬ですか?」


 隣に控えるおっとり巨乳の山城の発言に呆れる。
 ため息をつきながら反論を口にしようとし、


「御呼びでしょうか?御主人様」


 目の前に幼女の自動人形が足音も無く寄って来る。
 顕如の右眉が少し跳ね上がり、


「ほう、何時、誰がお前を呼んだと?」


 小さな顔を右手で鷲掴みし、


「その上、その呼称はな・ん・だ?」


 アイアンクローをかけるが、自動人形に効く筈もなく、


「・・・・・・面白くないですね。ナルゼ様曰く、これが男を堕とす技術(テクニック)の一つだそうですが・・・・・・」


 無表情に小さく舌打ちをしながら言葉を返してきた。


「ナ~ル~ゼ~~~?」

 
 要らん知識を東以外にも教えていた真っ黒な魔女に鋭い視線を向けるが、
 当の本人はシレッと、


「何よ、嫁に言われて嬉しくないの?もしかして、そっち系だったの?」

「どのジャンルだよ!?特定して言え!!」

「嫌」

「また碌でもない同人のネタにする気かっ!」

「ケンちゃん、もう諦めなよ。ガッちゃんの妄想は止まらないから。それに嫁発言は否定しないんだ」


 魔女達に対して沸き起こる怒りをどうしようかと拳を握るが、


「け、けん、かは、だ、だめ」


 鈴の仲裁に矛を収める。
 すると、おとなしくなった総務に


「あっ、結婚するならうちで式をして下さいね。出来る限りのサービスはしますから」

「嫁である事は周知の事実で御座るよ」

「まあ、式の時は呼んでくれ」

「粗品とかお返しには○べ屋を利用してね」


 皆の言葉に、外堀どころか内堀まで埋められてる? と嫌な汗が一筋額から流れる。


「?」 


 肩に手を置かれる。
 振り向くと、相変わらず色気を撒き散らしている賢姉が、


「これで愚弟に続いて二人目ねっ。愚弟が馬鹿なら、こっちは鈍感、いやツンデレね!でも、男のツンデレなんて気持ち悪いだけだから、さっきの発言はナシッ」


 片手で自分の胸を強調するような格好に数名の視線が突き刺さる中、三笠へと近づき、


「胸ばっかり見てないで、少しは自分の魅力を磨きなさい。アンタ結構いい素質持ってんだから」

「Jud.御言葉は嬉しいのですが、自動人形の身では何を磨けばよいのか解りませんので」

「フフフ、このポニテ。嫁に化粧さえ教えてなかったのね。いいわ、この賢姉が教えてあげる!こんな事は滅多にないんだから感謝しなさいよねっ」


 喜美の言葉にJud.と幼女が応える様(さま)に山城が頬に手を当て、


「化粧でしたら私もできますのに」

「えっ!?できるのか?」

「Jud.製作者がそういうのに精通した方でしたので」





      ●





 確かによく目を凝らせば薄化粧がしてあるのがわかる。
 それに感嘆の声をあげるアデーレ。
 ・・・・・・自動人形だから汗かかないって事はメイクが崩れないんですよね。

 何か色々と負けてる、と凹むアデーレの耳に窓側から悲鳴が届き、


「!?!?!?」


 顔を上げたまま硬直し、


「・・・・・・何ですの、コレ?」 


 隣のミトツダイラがアデーレの気持ちを代弁する。
 窓側を見ていなかった生徒全員が同じ思いをしている筈だと思う。
 目の前にモザイクがいた。





      ●





 教室内に突如現れた人型のモザイクはシャカシャカと動き、ポニーテールの前で止まると、


「モザイクα!俺の魅力の余り、遂に全身放送禁止だぜ!凄くない?俺が作ったんだぜ」


 しなをつくってポーズを決めるが、モザイクが動くだけで気持ち悪い事この上ないものにしか見えない。
 ミトツダイラがクンクンと匂いを嗅いで総長だとこちらに告げてくるが、言われなくとも声と首辺りから伸びる縄、行動から判断して総長だと見当はつくと思う。


「――怪しい」


 怪しかった。
 変態というのは既に解っているので言わない。
 そこで一つ疑問が沸き起こる。

 これだけ五月蠅くなっている時には必ずといっていい程、苦情を言うシロジロが発言していない。
 トーリからシロジロへと目を向けると、


「・・・・・・」

「あ~もうシロ君のそんな所も可愛い~」


 無言で目を瞑り腕組みしているシロとそんなシロを撮影しているハイディ。
 ハイディは撮影しながらもエリマキが次々と表示する表示枠を捌いている。
 通常ならば表示枠を開いて商売をしている筈のシロが何もしていないのに驚くが、その足元を見て納得がいった。

 机の下ではシロの右足が高速で地団駄を踏んでおり、一種の禁断症状だと理解したのだ。
 見ていると、次の瞬間シロは左手を懐へと突っ込み、


「――ああ、この感触。この音色。他のものでは到底敵わぬ偉大なる存在、正しく金だ」


 取り出した貨幣の詰まった袋をニギニギしながら脳内麻薬を大量に分泌し始める。
 即座に目を逸らした。

 見てはいけないものを見てしまった気分だ。
 クラス内の荒れ様に鬱になりそうになる。
 と、教室の戸が開かれ、オリオトライが姿を現した。


「おはよーー、元気にしてる?へばってない?」

「ちょっ、この現状はスルー!?」
 

 教室内を見ても混沌(カオス)を収めようともしない教師に待ったをかける。


「いやあ、処刑は既に執行されてるし。この時間中、トーリは放送禁止になって、シロジロは商売の禁止をちゃんとしてるわよ」


 教師の返答に納得しかけるが、何も解決していない事に気付き、


「それは解ったが、この状態で授業はできないだろう?」

「ああ、それなら大丈夫。この時間はホライゾンの転入を祝うなり何なりと好きなようにしていいから」


 それでいいのか? と問いただす間もなく教卓で眠り始めるオリオトライ。
 激しい運動をしたので酒が一気に回ったのだろう。

 駄目教師の駄目っぷりに頭を抱えてしまう。
 オリオトライの許しが出たからと言ってトーリという全身モザイクが騒ぎ始める。


「よーし、先生の許可が出たからさっ。王様ゲームしようぜ!勿論、王様は俺とホライゾンな」

「トーリ様、ホライゾンは姫なのですが。性別を間違われるとは遺憾ですね」

「ホライゾン、これは言葉の綾ってもんでな」

「何処が綾なのでしょうか?詳しくお願いします」

「説明しないと、ダメ?」

「Jud.解りやすく、手短に」


 
 ホライゾンの言葉にう~むと身体を変な形に捻るモザイクに


「いい加減にしろぉ―――!!」


 正純と顕如の蹴りが同時に入った。













あとがき


続きを・・・・・・短めを更新。
夏だってのに時間が無いったら無い。

とりあえず日常。
如何でしょうか。

日常編続けた方がいいかな?


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上




[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十三話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2011/12/17 19:28
第十三話:影の取引者


 馬鹿な事をしつつも平穏な日々の中、白い空を見上げながら男物の制服を着込んだ少女はため息をつき、


「あら、ため息をつくなんて何かありましたの?」

「ああ、いや。これからの事を考えると、ちょっとな・・・・・・」
 

 正純の返答にミトツダイラはああ、と頷き、


「それなら総務に聞いてみては?ああ見えて、結構各国について知っていますわよ」

「へぇ、っていうか顕如がどう見えてるんだ?私からしたら真面目で頼りがいがあるように見えるんだが」

「え、ええと、その、何と言うか・・・・・・最近、側周り(そばまわり)の自動人形に御主人様と呼ばせているので」
 
「あれは三笠達がナルゼに言いくるめられただけだぞ」


 ミトツダイラがえっ、という顔をし、 


「てっきり、遂にロリコンとかの特殊な性癖を発露したものと」


 何て評価なんだ、と思わず天を見上げてしまう。
 だが、よく考えてみると寝る時に三笠と隣り合わせになっていたような。
 暫く考え、トーリが“突撃隣の朝事情”をやった時に武蔵中に映像付き通神が流れたのを思い出し、
 

「うん、私も否定できないな」


 だが、


「三笠と吹雪以外はどうなんだ?ロリではないぞ」

「まあ、今の所は三笠だけがベタベタしてますし」


 それでいいのか? と思うが、これ以上の議論は意味が無いので止める。
 

「そうか、で、何処行ったらいいんだろう?」


 教導院が午後から授業が無いので出てきたのだが、偶然遭遇したミトツダイラを道連れにしながら当ても無く歩いていたのだ。
 

「それなら、浅間神社に行きません?あそこは結構暇な人が多いのでいるかもしれませんわよ」


 


      ●





 浅間神社の境内に腰掛けて茶を啜りながら通神を見ている顕如。
 その横には、


「御代わりを入れます」

「ああ」
 

 痩身の自動人形、有明が立っており、


「とりあえず、三笠達には伝えておいてくれ」


 Jud.と応えて通神を開き、連絡を取る。
 通常、自動人形は共通記憶という自動人形独自のネットワークを駆使するのだが、三笠以下五体はそれを必要なとき以外は使わない。
 何故ならば、顕如個人を守る事を使命とする五体はあらゆる妨害下においても使命を遂行するために、共通記憶に頼りすぎるのは危険と判断していたためである。

 通神をしている姿を横目に残った茶を一気に飲み、


「・・・・・・どうやって伝えようかねえ」


 膝に肘を付いて手を組み顎を乗せる。


『Pi!Pi!』


 腕を滑り台だと思ったのかネズミの走狗がキャッキャッと滑り降りては上るのを繰り返す。
 それを何回か繰り返した後、飽きたのか疲れたのか、頭の上でうつ伏せになってタレる。

 
『Pi~~~』

 
 何時もはピンと立った耳と尻尾もぺタリとタレている。


「あら、可愛い顔で寝ているのですわね」

『Pi~~~?』


 暫くして気持ちよさそうに日向ぼっこしていた走狗は自分の尻尾が摘まれるのを感じるが、昼寝を続行し、


「食うなよ?」

「だ、誰が食べますかっ!確かに肉は食べますけど、走狗は食べませんわよ!」


 ミトツダイラからしてみれば、可愛いと思って試しに尻尾を摘んでみただけなのだ。
 顔を瞬時に真っ赤にして慌てる銀狼を正純が宥め、


「隣いいか?」

「Jud.」


 顕如の隣の縁側に腰を下ろし、


「正純様、ミトツダイラ様、冷たいお茶です」


 控えていた有明が竹容器に入れたお茶を二人に渡す。
 正純は渡された茶に口をつけ、


「あっ、冷たい」

「本当ですわ。でも、何処で冷やしていましたの?侍女服の裾から出てきたように思えたのですが・・・・・・」

「企業秘密です」


 気にしたら負けだと考えて顕如へと視線を移し、


「何の用なんだ?」

「これから向かう英国についてだ」


 英国という単語に反応してポニーテールが表示枠を出し、


「それなら、面白い情報が入った。英国ではないがな。三征西班牙についてだ」

「三征西班牙?確かに進路的に三征西班牙の国境を通るが・・・・・・攻めてくるとでも?」

「それも視野に入れておくべきだという事だ。何せ、アルマダ海戦と立花・宗茂の件があるからな」


 ミトツダイラが顕如の頭で寝ている走狗を掌に乗せて撫でながら、


「それで結局何が解りましたの?」


 そう急かすなと言って顕如は走狗を叩き、


「三征西班牙の書記、ディエゴ・ベラスケスの通神で見つけた宣伝映像(PV)だ。起きろ。さっきの映像を表示してくれ」

『Pi~.』


 


      ●





『さあ、本日の試合。野球部主将 弘中・隆包率いる野球部ナインVSチームベラスケスの描いたマッチョ軍団の試合をお送り致します!』


 野球部のユニフォームを着込んだ生徒達と始まりの挨拶を交わすのは、


『――ッ!』


 ペルソナ君の身体にイトケンの笑顔を貼り付けたようなマッチョ集団。
 主将同士の握手にてガンを飛ばしまくる隆包と爽やかな笑顔を崩さないマッチョ。


『プレイボールッ!』


 遂に始まる試合。
 マッチョ集団を率いるくたびれた感じの眼鏡をかけた中年が汗を拭きながら指示を出し、



『くそっ、210キロなんてどうやって出すんだよ!』

『何を言ってる。野球部の意地を見せろっ!』

『主将はしっかりと転がしただろうがっ』


 相手の監督の的確な指示と選手の力にジワジワと追い詰められるナイン。
 出塁すらできず、すぐに攻守が入れ替わるが、


『何として捕る!』

『フェンスを踏み台にしてでもっ!』


 ナインの奮闘によって相手にも点数は入らない。
 一進一退の手に汗握る試合展開・・・・・・ではないが、ナインのファインプレーが連発する。
 そして、早々に迎える九回裏。


『ピッチャーの交代です。魔球の使い手、ぺデロ・バルデス選手です』


 いかにもエースといった自信を漲らせて登場するバルデス兄。
 

『エースは調整等せずともいいからエースなのだ』

 
 練習投球なんてものは兄の考えに無い。
 マウンドに立ち、鋭い視線を捕手に送る。
 捕手もその視線を受けてミットを構えた。
 構えた位置はど真ん中。

 
『フッ、魔球を受けてみるがいい』


 バルデス兄が投球モーションに入り、


『――ッ!』


 ど真ん中に球が来るのを見てマッチョが歯を光らせながらバットを引き、


『――ッ!?!?』


 その身をくの字に折った。
 バットを手放し、その場に蹲(うずくま)る。


『デ、デ、死球(デッドボール)!』


 内股になりながら一塁へと移動するマッチョ。
 捕手が頭を抱えるが、バルデス兄はヤレヤレとため息をつき、


『死球!』

『死球!』   


 続く二人も仕留めた。
 これにはベンチも動き、


『ここでピッチャーの交代です。ぺデロ・バルデス選手に代わりまして、フローレス・バルデス選手』


 元気なのが取柄といった感じの妹のフローレス・バルデスが登板する。
 妹は兄を笑い飛ばし、


『やーい、兄貴の馬~鹿。アタシの華麗な投球を見て土下座すればいいと思うよ』

『妹よ、兄は狙ったのだ。ツンデレのお前にそれができるかな?』


 これで死球もしくは四球を出せば負ける場面で、


『死球!』


 見事に決めて見せた。
 しかし、当てられたマッチョは、 監督の中年に親指を立ててみせ、その後弱々しくベラスケスの方を向いて満面の笑みで、


『消えたあぁぁ―――っ!?お前っ、お前どんな威力で危ない所に投げたんだよ!?』


 流体へと返った。
 その後、マッチョ達に胴上げされる中年と、バルデス兄を蹴りまくる、バルデス妹を含めた野球部員の祝福で映像は終わった。




      ●





「・・・・・・大丈夫か?二人共」


 顕如は映像が終わると隣で縁側に倒れこんでいる正純とミトツダイラを横目に茶を口に含む。
 有明が咽(むせ)ている二人を介抱し、


「・・・・・・ゲホッ、ンッ、んん!・・・・・・はあ、はぁ。よう、やく落ち着いてきた」


 映像を見た瞬間、飲んでいた茶が気管に入りかけたために咽てしまい、治まった時に目に飛び込んできた死球によって消えていくマッチョの笑みによって再び吹き出したのだ。
 先に回復した正純が目尻に涙を浮かべながら怨(うら)めしそうな視線を送り、 


「よくもあんなモノを見せてくれたな」

「何を言う。貴重な情報が手に入っただろう。これでバルデス兄妹への対抗策が一つ出来る」


 ・・・・・・武蔵の生徒って絶対に何処かずれてるよな。
 最早解りきった事だが、とため息をつき、


「とりあえず、その情報源を聞いても?」


 入れなおされた茶を口に含み、


「Jud.妖精女王だ」





      ●





 顕如は本日二度目の吹き出しを行った正純を見て、


「・・・・・・落ち着け」

「ゲホッ、い、一体、誰の、せいだと、思ってる!」

「・・・・・・」


 無視して茶を啜(すす)る顕如を正純は本気でウザイと感じるが、ここで怒っても仕方が無いと怒りを無理矢理鎮め、


「真面目な話だ」

「真面目だが?」


 ・・・・・・くそっ、天然なのか?そうなんだな!?
 挫けずに続ける。
 

「妖精女王と何故知り合いなのか聞きたいが、此処に来る以前の話か?」

「Jud.俺が三河に留学していた時だ。偶然、英国に行く機会があってな」

「それは詳しくは言えない事なのか?」

「Jud.少なくとも妖精女王の許可無しには言えないな」


 そうか、と正純は頷き立ち上がる。

 
「情報提供に感謝する。他に何かあるか」

「ああ、この情報の出処(でどころ)を教えてくれた事と英国での便宜を少し図ってくれる代りに、俺が英国内での争いに積極的に関与しないように言われたよ」


 なんて事はないという風に告げられる重要な情報。
 英国が何かしらの動きを武蔵に対して見せる可能性の示唆。
 それも顕如、つまりは言霊に邪魔されたくない事だろう。 

 
「厄介だな」

「そうだが、向こうに着けば解る事だ。それに俺からは言えない事も知ることになるだろう」

「英国の内情を知っているのか?」

「少しならば・・・・・・だが、俺に聞かれても答えられない。女王との約束だからな。自分で確かめることだ」


 顕如の態度と言葉から、今は聞いても答えてくれないと分かり、


「分かった。顕如の事も含めて皆に伝えておこう」


 話を切り上げた。
 残る問題は、


「――で、何を戯れているんだ?ミトツダイラ」


 正純と同じように咽て倒れていた筈の銀狼は、


「うふふ、可愛いですわね・・・・・・っは!?」


 縦ロールの髪の毛に潜り込んだネズミの走狗を指先で突付いて遊んでおり、


「え、あ、いや、そのこれは・・・・・・」


 身を起こした銀狼の顔は真っ赤であり、内心でしまったと思う。
 外道どもに見られていないのは幸いだが、噂は確実に広まってしまう。
 ・・・・・・対応策が全く思いつきませんわ!!

 羞恥心で一杯の銀狼の肩に正純が手を置き、


「大丈夫だ。女の子だったって事だよな」


 こんな時に限って滑る副会長からマトモな発言が出ましたわね、と失礼な事を考えていると、
 

「Jud.Jud.今さっきの事について俺と副会長は喋らない。それでOKだろ」


 総務も頷きながら確約したのでホッと安心し、


「まあ、何だ。これに関しては俺は責任を取らない」


 続く言葉に耳を疑い、


「――ッ」


 総務がいきなり開いた襖の奥、神社の中では、


十ZO:『ミトツダイラ殿がこんな趣味を持っていたとは意外で御座った』

貧従士:『何言ってるんですか、ミトツダイラさんも年頃の女の子なんですから』

●画: 『あ~あ、同人のネタにしにくいの来たわね、コレ』

粘着王:『フフフ、我輩の可愛さに比べれば走狗など』

いんぴ:『ははは、スライムの特権だよね』

金○: 『ナイちゃん思うに、スライムと走狗を比べる事自体が間違いだと思うな~』

俺: 『おいおい、みんな言いすぎだぜ。あれはな、オッパイが寂しいから埋め合わせてるんだよっ』

賢姉様:『フフフ、愚弟。何でもオパーイに結びつけるなんて、ナイスッ。着眼点は合格ね』

未熟者:『もう、そこらへんでやめたら?』

○べ屋:『あ、この映像ありがとねっ。高く売れそうだから。これでシロ君と・・・・・・イヤンッ』


 何故か実況通神(チャット)で大盛り上がりの梅組の連中が居り、


「――何してますの?」

「何言ってんのよ。面白そうな感じがしたから来たってのに、ネタにならない場面しか無かったからガッカリしてるの」


 見て分からない? と平然と言ってくるナルゼにムカついたのは自然な流れだと思いたい。
 青筋を浮かべるミトツダイラに気付いているのかいないのか、
 

「後、今さっきの映像記録してハイディに送ってやったわ。余りにも期待外れでムシャクシャしたから」


 ・・・・・・さ、最低ですわねこの白魔女っ。
 既に情報規制できる範疇を越えている。
 無意識の内に手には銀鎖が握られており、


「捕らえなさい、銀鎖(アルジョントシェイナ)」


 わぁと集まっていた馬鹿達が逃げ出すが、


「喰らい尽くしなさいっ!!」


 その後を正確に追尾する銀鎖。
 浅間神社内を駆け抜ける馬鹿。
 どちらも器用にも神社の設備を破壊しないように動いているのはズドン巫女が怖いためか。
 
 とりあえず、


「外に出ろや、お前ら」


 茶をまた啜りながら顕如は目で行けと伝えると正純は頷き、


「後始末はちゃんとしろよ?」

「心配は要らない。どうせ、もうすぐ浅間に鎮圧される」


 足早に去っていった。





      ●





 正純を見送って視線を戻し、


「さて、とりあえず何か茶菓子でも食うか」

「なんで止めないんですかっ!!」


 のんびりしようとしたポニーテールの頬に浅間の拳が突き刺さった。








あとがき


日常編続いた・・・・・・
今回はⅡ巻へ向けての内容になりました。

梅組が余りはっちゃけていないかな。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 十四話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2011/03/04 02:21
第十四話:途切れぬ不幸事


 総務の作業部屋にて夥(おびただ)しい数の通神を表示させ、かつそれらを次々と片付けていくポニーテール。
 通神の半分は流し読みした後に直に消している。

 消している内容をあげると、


『ウチの娘の手作り料理を最新式便座と交換とか言い出しおったのだが、どうにかならんかね?』

『最近、娘の人気が上がってきたのに浮かれて調子に乗ってきている奴を陥れる方法を知りたい』

『コニたんにめっちゃレアなもの貰ったぜ!後で送るから、保管しておいてくれ!』


 最後のは後でぶっ飛ばすとして、本当にクレームでも何でも無いものばかりである。
 こんなものばかりならば簡単に流せるのだが、時々紛れ込むようにしてマトモな意見があるから疎(おろそ)かにはできない。

 また、一つの通神の中で最後の方に用件が書いてある場合もあるので、結局全てに目を通さなければならない。
 次の通神を開くと、差出人は小西。 

 商業関連の重大事かと思い、注意して目を通すと、


『驕り高ぶる本多氏をどげんかせんといかん』


 目頭を揉み解して、もう一度見る。
 

『驕り高ぶる本多氏をどげんかせんといかん』


 結果は変わらない。
 見間違いでは無かったようだ。

 ・・・・・・武蔵はもうダメかもしれない。 
 疲れがドッと押し寄せた感じがするのはおかしくないと思いたい。 

 気持ちを切り替えて新しい通神を開くと、


『生徒会会計をどげんかせんといかん』


 また、小西だった。





      ●
 




「またか・・・・・・三笠、他のマトモな通神の整理を頼む」

「既にやっております」

「ん、そうか」


 どこか不満気な幼女の視線。
 しかし、手元が忙しいのを理由に顕如は無視を決め込む。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 どちらも作業は止めない。
 沈黙が部屋の中を支配する。
 

「・・・・・・」

「・・・・・・分かった。よくやってくれている。偉いぞ」


 自動人形より先に人間が折れた。
 頭を撫でてやると若干目を細めて気持ちよさそうにしているのは目の錯覚だろう。
 
 梅組の連中が居たならば、暑い、熱いと扇ぎ始める空気が漂(ただよ)い始め、


「総務、邪魔するぞ」


 突然戸を開けて現れる空気を読まない、いやこの場合戸が邪魔で読めなかった男が入室する。
 ノリキ。
 空気を読む筈の勤労少年の乱入に訝(いぶか)しく思い、


「何の用だ?」

「見て解らないか?」
 

 差し出された手のひら。
 ・・・・・・まさかなぁ。いや、ノリキに限ってそれは・・・・・・
 希望的な予想は、


「金を寄越せ、それが出来ないなら仕事を寄越せ」


 砕かれた。
 明らかに普段のノリキではない。
 いや、ここまでくるとノリキかすら怪しい。
 とりあえず、


「まあ、座りたまえ。話を聞こうじゃないか」


 空いている椅子を前に置いて勧め、


「そらよっ」


 蹴り飛ばす。
 直撃コースだが、


「それが答えか」


 運動神経の良いノリキは片手を背もたれに付いて飛び越え、


「何っ!?」


 音もなく天井の一部が回転し、


「援護いたします」


 上から降ってきた有明の手刀を首に叩き込まれた。
 気絶したノリキを黒髪幼女の神速の縄捌きでグルグル巻きにする。
 
 
「また、縄捌きの腕が上がってるな・・・・・・」

「お褒めに預かり光栄です」


 褒めてはいないのだが、とりあえず


「とりあえず、有明。この校舎を改造するなよ」


 天井、つまりは上の階から落ちてきたのは流石に見過ごせない。
 何食わぬ顔で立っている有明を問い詰めるが、


「仕掛けを理解していないと作動しませんし。それに、私達の使命は御主人様の護衛なので」


 のらりくらりと避けられ、


「嵐山、このエセくの一に何とか言ってくれないか?」

『甘味処めぐりに付き合うならいいけど?』

「吹雪――」

『デート、デートっ!』
 

 頭を抱えた。





      ●





 授業の後、休み時間にトーリが脱ぎ始めて騒がしくなった時、


「注~目、注目だっ!」


 二時限目を仕事で休んでいた総務が自動人形を連れて教室に入ってくる。
 それに馬鹿は、


「おおっ、俺が脱いだ時に現れるなんて・・・・・・俺困っちまうぜ」





      ●





 “武蔵”は中央前艦武蔵野にて奇妙な振動を感知したが、


「――」

「武蔵さん、今更驚く事かい?まあ、珍しい表情が見れたからいいけどね」


 茶を啜りながら酒井が言うが、“武蔵”は前方を見たまま、


「偶(たま)には驚く人がいないと寂しいでしょうから。それと、酒井様。これが所謂セクハラですね。――以上」

「何時も思うんだけどさ、俺にだけ厳しくない?武蔵さん」
 

 気のせいですと言いながら艦長でもある自動人形は空の湯飲みに茶を注いだ。





      ●





 場を乱す馬鹿をホライゾンが吹っ飛ばしたのを確認して、肩に背負ったものを降ろす。


「皆の前に出してどうする?解っているだろうが、何度でも言う。金か仕事を寄越せ」


 梅組の連中が、発言者と発言の内容の違いに一瞬唖然とし、


「で、一体誰なんだ?ノリキに見えるんだが」


 トーリのおかげで比較的変なものに対する免疫が付きつつある正純が口を開き、


「そう、多分ノリキだ。多分な。断言は出来ないが」


 顕如が肯定する。
 

「昨日の夕方までは大丈夫だった筈だ。俺が一緒に居たからな」

「そして、坊主は縛り上げた友を見下ろしながら言う。・・・・・・“俺が一緒に居たからな”よしっ、SMも追加した禁断の扉がひらッ」

「黙れ」


 相変わらずの白嬢に白墨(チョーク)を炸裂させて続ける。


「それ以降でノリキに何かあったと思うんだが、心当たりのある奴はいないか?」

「小生、昨夜カレーを食べていたのを見かけました」


 すると、ポッチャリの御広敷が目撃情報をもたらし、その中に気になる単語(ワード)があるのに気付く。
 ・・・・・・カレーだと!?


「おい、ハッサン」

「疲れていたようなので、特性スタミナカレーですねー」

「スパイスが原因じゃないのか?」

「カレーのみぞが知るですねー」


 自分がノリキに作ったのは認め、あくまで自分の作ったカレーの所為ではないと言い張るハッサン。
 証言による犯人の断定はできない。
 ならば、


「ハッサン、ノリキに作ったやつを一つ頼む」

「これですねー」


 言った直後に出てきた。
 盛られた皿とスプーンを持ち、


「えっ、ちょっ、しょ、小生はまだ。まだ・・・・・・」

「大丈夫だ。誰も気にしない」


 御広敷に食わせた。
 スプーン一杯のスタミナカレーを食った後、一瞬電撃が走ったように痙攣し、


「――ふう、全く小生の熟女信仰が揺らいだらどうするんですか」


 梅組内がどよめいた。
 

「あ、あの幼女趣味の変態が・・・・・・」

「これで決定さね」

「気色悪っ」

「何がおかしいので御座るか?」


 御広敷の揺るがぬ幼女信仰が無くなっていたのだ。
 いや、信仰はなくなっていないが方向性が違う。
 これにはハッサンも驚いてカレー皿を頭上に掲げ、


「カレーの奇跡ですねー」

「一食カレー抜きの刑な」
 

 涙に濡れた顔で窓から飛び出した。 
 カレー皿と共に。
 だが、


「ハッサン君を見殺しには出来ないよねっ!」

『我輩の愛で包み込んでくれよう』


 ネンジに包まれた状態でイトケンによって教室へと帰還する。
 

「ナイスだ。そのまま介抱を頼む」


 変な行動には慣れている梅組面子は騒がず、


「えっ、て、あれ?あっれ?何ですか、この状況。また、変な事になってません?」


 手洗いから帰って来た武蔵が誇る巨乳巫女も例外にあらず。
 驚きの声を上げはするものの一般人である三要先生のように硬直はしない。


「丁度よかった。浅間、この御広敷を見てどう思う」


 浅間がポッチャリに目を向けると、


「ああ、浅間さんか。うん、その溢れんばかりの母性は後々良い母親となり、小生の好みである立派な熟女にッ」


 問答無用で弓を構えてぶち込んだ。


「え~と、思わず禊(うっちゃ)いましたけど。コレ、本当に御広敷君ですか?」

「ああ・・・・・・御広敷、お前の信仰は熟女だろう」


 浅間の禊ぎによる効果を確かめると、 


「なっ!?勘違いしてもらっては困ります。小生は幼女一辺倒!」


 元に戻っていた。





      ●





「カレーの奇跡が・・・・・・」


 ハッサンは、禊ぎにカレーが負けたのを見て嘆くが、


『ウム、今は泣くがよい』

「そうだよっ、今度は負けないカレーを作ればいいんだからね!」


 級友の励ましに、自分を包んでいるスライムを突き破って頭上へと両手を伸ばし、


『ぬうっ!?!?我輩の体の構成があぁあぁぁ!』

「ネ、ネンジ君っ!?」


 その暴挙に慌てる二人を気にせず、


「がべえー (カレー)」


 そんな事をすれば当然、空気ではなくネンジの一部を飲み込んでしまい、


「・・・・・・」

「――これは・・・・・・もう・・・・・・」


 気絶したハッサンの腕から零れ落ちたカレー皿がスライムを押し潰した。





      ●





 教室の隅ではエライ事が起こっているが、誰も見向きもしない。しようとしない。
 総務はズドン巫女の禊ぎの効果にウンウンと頷き、


「で、浅間。これも頼む」


 足元のノリキを示し、


「どうして縄で?」


 事情を知らない浅間は疑問に思うが、


「浅間か、この際浅間でもいい。金か仕事をくれ」


 ノリキの発言のおかしさを理解し、


「何があったんですか?」

「ハッサンのカレーが原因っぽい。さっきの御広敷もノリキと同じ状況だったんだが、浅間のズドンで正気に戻った」

「ズ、ズドンって、酷いです!それに巫女は人を撃っちゃいけないんですってば」
 

 巫女として既に踏み外していると皆が思うが、浅間にとっては違うらしい。
 必死に他の方法を取るように進言するが、


「浅間、横を見てみるんだ」


 言われて横を見ると浅間の走狗であるハナミが、


『は、拍手。拍手だよ~~~』


 そこまで用意されて尚(なお)、心の中で葛藤する。
 ・・・・・・う、撃ちたいけど、ノリキ君は人だし・・・・・・ 

 悩む浅間の肩に手を置くと、ビクッと反応し、


「考えるんだ。どうして御広敷を撃った?トーリを撃った?思い出すんだ」


 顕如の声に蒙を啓かれた感じを覚え、


「って、ち、違います!違います!」


 助けを求めるように周りを見るが、皆生温かい視線を向けるのみ。
 ・・・・・・何でこういう時に限ってクラス中が敵にまわるんですか!? 

 少し涙目になっている浅間の耳に悪魔の囁きが届く。


「見てみるんだ。このノリキを」


 言われた通りに縛られたノリキを見る。


「穢れに侵食されている級友を放っておくのか?巫女の役割を思い出すんだ。そして、友を助ける最高にして確実な方法を浅間は持っているじゃないか。その左手に」


 何時の間にか握っていた弓とハナミ、顕如の間を視線が行ったり来たりを繰り返す。
 ・・・・・・これも巫女のお勤めだから仕方ないですよねっ。


「わ、分っかりましたあ―――♪」


 欲望に忠実となった。





      ●





 一つ誤算だったのは、


「ぐっ・・・・・・浅間、何故俺まで撃った!?」


 浅間が禊いだ対象がノリキと顕如であったという点。
 カレーの呪いが掛かったノリキはともかく、禊ぐ対象の無い顕如にとって浅間の放った一撃は唯の物理的攻撃でしかない。
 つまり、至近距離で矢をぶっ放されただけであった。


「いやぁ~、だって穢れ無き巫女を悪魔の囁きで誑かそうとしたんですから」


 お前が穢れ無いと言えるのか、という皆の視線を浅間は見事にスルーする。
 顕如はくらった腹を押さえながら、


「こ、この恨み決して忘れぬぞ!」

「だ、大丈夫ですって。ほら、い、痛いの痛いの飛んで行け――」


 化け物退治も出来るズドン巫女でも、化け物総務は怖いらしかった。





      ●





 教室の前後でエライ事になっているが、正純にはそれを止める気力は無かった。
 あったとしても止めるかどうかは微妙ではあるが。
 

「あら、正純ったらこんな所で浅間の真似?フフッ、でも残念ね!胸が足りないわっ。圧倒的に!」

「いやいや、浅間の場合は突っ伏してないだろう?」
 

 本当にだるいので喜美に対するツッコミもキレがいつも程無い。
 ・・・・・・浅間のは大きいからできるんだよなあ。
 机に張り付いたまま、体力を回復させようとするが、


「そんな正純にはプレゼントよっ!」

「・・・・・・何だ?その白い液体」
 

 喜美が妖しい笑顔で小瓶を目の前で振っており、


「あ、それってハッサンの持ってた微薬だよね。何処で手に入れたの?」

「そう言えば、ハイディはもう知ってたわね。これは愚弟が手に入れたものよ。そこのオパーイだけじゃなくて生活も貧しい女のためにね」


 喜美の言う事には腹が立つが、ハイディの言葉の方が聞き捨てならなかった。
 如何にダレていようとも体が反応してしまい、


「び、媚薬ぅっ!?」


 何てものを!?、と突っ込むが二人とも妖しく微笑むのみ。 
 咄嗟に跳ね起きたものの、体がだるいのは変わらないために再び突っ伏してしまう。


「フフフッ、疲れてるんだから素直に受け取りなさい。珍しく愚弟からのプレゼントなんだから」


 そんなものを受け取れるか!、という抗議をするも、弱った正純では効果は薄く


「そんなにガン見しちゃって、せっかちなのは減点対象よ。覚えておきなさい」


 それっ、と掛け声と共に口に小瓶を突っ込もうとしてきた喜美から逃れようとするが、


「うんうん、いい飲みっぷりだね。これなら大丈夫だよ。うん」


 満足に体が動かせない正純に逃げられる訳もなく、


「お、お前ら・・・・・・」

「今回は当たりのようね」

「元気になってめでたし、めでたしって事で」


 全部飲まされた。
 正純は飲み終わった後、徐(おもむろ)に立ち上がると、白魔女と○べ屋に
 

「いい加減にしろぉ―――!!!」


 流石の温厚な副会長もキレた。





      ●





 教室内であるにも関わらず、ティーセットを用意して紅茶を口にするミトツダイラは、
 

「で、マルゴット。ハイディが言っていたびやくとは一体何ですの?」


 問われたナイトは笑顔のまま、


「あれっ?てっきり、ミトっつあんはこういうのを聞いたら動揺すると思ってたんだけどなぁ~」


 どういう意味ですの、とジト目で見るが直にため息をついて


「普段はアレですけれども、総長も喜美もそこまで底なしの馬鹿ではないのは解りきっているのですから、慌てる必要も無いのでは?」

「お~、愛されてるねえ」


 紅茶を吹きかけるがなんとか堪(こら)えて


「な、なんでそういう話に持って行くんですの!?」

「だって、面白いんだもん」


 はあ、とまたため息をつく。
 ため息をつく回数が多いのは仕方ないと思いたい。


「話を戻しますけれど、アレの正体は?」

「あっ、うん。アレね。アレはね、ハッサンの作った滋養強壮剤」


 作ったのがハッサンという時点で胡散臭い。


「また、微妙そうですわね」

「実際、微妙だよ?だから名前は微妙薬。略して微薬。即効で回復はするんだけど、副作用がねぇ」 

「副作用?」

「ちょっと前に、熱を出して寝込んじゃった時にガッちゃんが持ってきてくれたんだけどね」


 マルゴットは一瞬タメを作り、


「ムラムラきちゃうんだ」


 アハッ、と楽しげにぶっちゃけ、今度こそミトツダイラは紅茶を噴出した。


「本当にそれっぽい効果があって、体が火照った感じになってそのままベッドインみたいな?」

「ゲホッ、く、それは、流石にマズイのでは!?まるっきり媚薬そのものではありませんか!!」


 ミトツダイラは咽(むせ)ながらも言葉を搾り出し、


「まあ、あの状態になったらあんまり動けないし、大丈夫でしょ。ホラ」


 一緒に正純の方を向くと、


「あ―――、あれはちょっと拙(つたな)いかな」





      ●





 痛みで力が入らない状態の顕如の斜め前で突然正純が立ち上がり、


「いい加減にしろぉ―――!!!」


 怒鳴る。
 今までタレていたのが嘘のような様子。


「えっ・・・・・・って、あれっ?」


 自分でも不思議に思いながら、何故か内股へとなり、


「・・・・・・ふぇ?」


 ・・・・・・熱い?
 熱の篭(こも)った息を吐き、立ち上がったものの急に全身から力が抜けた感じになってしまった正純はその場に倒れそうになり、


「えいっ」


 ナルゼが出した足に引っ掛けられ、


「えっ!?」

「ちょっ!?」


 腹を押さえてかがみがちであった総務へと


「痛えぇぇ~~~~~~~~~っ」


 圧し掛かった。





      ●





 不運にも圧し掛かってしまった正純は済まないと思いながらも、


「ぐっ、早く、早く退くんだ」


 下で顕如がもがくが、脱力してしまっている正純は指一本動かせず、


「うあっ・・・・・・」


 動かれる事で伝わってくる振動で体が何故か火照ってくる感じがし、その上今の体勢を考えると、


「うおおおぉぉぉぉ!?」


 梅組の連中のどよめきが五月蠅い。
 正に真正面から抱きついている感じ、いや押し倒していると言った方がしっくりとくる二人の現状。
 
 さらには微薬の副作用によって鋭敏になった全身。
 経験した事のない、未知の感覚に多大な戸惑いを覚えながらも、何処かで気持ちいいとも感じているのを自覚してしまう。

 心中は羞恥心で一杯であり、顔が熱いと感じる。
 ・・・・・・何が何だか解らないが、流石にマズイよなぁ。
 頭がボーッとして上手く思考できないが、とりあえず誰かに手伝ってもらって立とうと思って首を巡らし、 


「~~っ、何で顔が真っ赤なの!?誰かヘルプ!ヘルプだよ!!」


 触れ合いそうな位置にくる顕如の顔。
 熱い吐息が掛かる。
 と、両脇を支えられて引っ張り上げられた。


「しっかりなさって下さい、正純様」

「あっ・・・・・・」


 有明によって引き離された瞬間反射的に出た吐息。
 曲解するなら、離れるのを名残惜しく思うように捉えられる。
 実際に、


「よっし、ここで後もう一声っ!!」


 ナルゼはネタにしようとしていた。





      ●





 漸く上の圧力から解放された顕如は腹部を庇いながらゆっくりと立ち上がり、


「ふぅ、まさか副会長があんな状態になるとは」


 一息ついてから元凶を睨みつけ、


「賢姉にナルゼ、俺に何か恨みでもあるのか?ん?」

「ちょっと元気をつけてあげただけよ?」

「あるわね」


 白嬢を後で絞めると決め、


「ん?どうした、三笠。肩が痛いぞ」


 肩をもの凄い握力で握られる。
 骨が悲鳴をあげるが力は緩まず、


「さあ、正純様との関係を吐いてもらいましょうか?」

「えっ?今それ?五人とも集まって何を!?」

「尋問、拷問♪」

「キリキリ吐いてもらうからなあ」


 五体の自動人形に包囲された顕如は、冷や汗を流し、


「副会長っ!副会長から弁護をっ」

「えっ・・・・・・」


 依然として顔を上気させ、トローンとした目は焦点が合っていない。
 まだ復活していなかった。

 級友は皆煽るか静観しかしておらず、唯一この状況を打開できるであろう正純がこの有り様。
 むしろ、正純の有り様は余計に煽る結果にしか繋がらない。

 それを確認し、五体の自動人形は主を売られる子牛のように縄で縛って教室から連れ出し、


「正純っ(ブルータス)、お前もか!」


 武蔵アリアダストに悲痛な声が響き、 


「顕如は、蕩け切った状態で迫ってきた正純に言った。・・・・・・“正純っ、お前もか!”これで正純を男の状態(バージョン)でやれば完成!!入稿できる!」


 ナルゼが歓喜した。












あとがき

更新できた、よ・・・・・・。
最早、最後の辺りはグダグダ感が否めないか?
こんなんでいいのかな?と最近思ってしまう。

とりあえず、今回で日常編終了かな。多分。
顕如の不幸な日でした。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上



P.S)正純に関して御指摘ありがとう御座います。
色々と追加してみましたので、楽しめたなら幸いです。




[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十五話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2010/10/22 03:28

第十五話:迫りくる抑圧者達


 瀬戸内海に浮かぶ浮遊島。
 要塞化された島には、外周に沿って巨大な鳥居が途切れる事なく建っている。

 厳島(いつくしま)。
 K.P.A.Italiaの本拠地であり、教皇総長の自慢の要塞都市。
 陸路による侵攻が出来ない天然の要害であり、K.P.A.Italia所属の村上水軍と相まって申し分のない防衛力を有している。
 その上、今の所はまだ使われた事のない奥の手が存在する。 
 
 新型対艦砲撃術。
 圧縮した防御符を、島を一周する鳥居を通過する事で加速させて撃ち出すというものであり、その威力は折り紙付きである。
 これらを合わせると、並大抵の戦力では逆に壊滅させられてしまうだろう。
 
 他国はどうかは分からないが、本拠地としては少なくとも見劣りはしないと胸を張って言う事が出来る。
 教皇総長の努力と汗の結晶である。
 
 そんな都市の中にある医務室の一つに、重厚な教皇衣を脱いだ薄着の状態のインノケンティウスは居た。
 いや、寝かされていたと表現した方が的確だろう。
 なぜならば、


「ふ~む。なぁ、ガリレオ。何で俺はこんな所で寝かされてるんだろうなぁ?」

「・・・・・・元生徒よ。まさかとは思うが、自分の状態さえ把握出来ていないのか?」


 冗談のつもりが心配されてしまった事に眉を顰(ひそ)めながらも、手元では表示枠が次々と現れては消えている。
 寝る為の筈のベッドの上で上半身を起こして作業をしながら、

 
「おいおい、まだ俺は倒れてないぞ?まあ、倒れたら倒れたでいかんのだがな」

「Tes.体調を気にし過ぎても損は無い。今回ばかりは強制的に休みを取って貰いたいものだ。トップが倒れた等と聞けば、各国がどう動くかは解っているのだろう?」


 余りにも根を詰め過ぎているとの魔人にTes.と応え、


「だがなぁ、おちおち休んでもいられない状況になりつつあるのはお前も理解しているだろう。ガリレオ」


 魔人は無言で肯定する。


「武蔵の連中が動くとなると、各国への根回しや歴史再現の解釈に対する対策。やる事は増えても減らんよ」


 心底面倒くさいとアリアリと解る表情を浮かべ、


「だがなあ・・・・・・俺は旧教(カトリック)の最高権力者であり、またこのK.P.A.Italiaの長でもあるんだよなぁ」


 この意味が解らないお前ではないだろう、と視線を向ける。
 ガリレオは、解っていたからこそ口を開かない。
 そこで、双方共に口を開かないまま時が過ぎる。
 部屋ではインノケンティウスが表示枠を操作する際に起こる衣擦れの音のみがやけに響いた。

 そして、


「・・・・・・これで一旦終わりだ。ガリレオ、もう帰っていいぞ。どうせ、俺が寝ているかを確認しに来たんだろう?」

「Tes.こうでもしなければ、休まぬと思ったからな」


 一仕事終えたインノケンティウスは、凝り固まった首と肩をほぐしながら純白のベッドに横になり、


「余計なお世話だろうが、しっかりと休んで出てくるといい」

「ハッ、これじゃあ立場が逆だな」

「昔を思い出すかね?」

「あ?・・・・・・そんな事あったか?さっさと行け」


 壁の方を向いて、不機嫌そうに追い払うように手を振る。
 それに魔人は苦笑して部屋を出た。

 ガリレオが戸を閉めた音を聞いて、インノケンティウスは改めて仰向けになり、天井を見つめる。
 その目は天井を見てはいない。
 

「武蔵の連中は、俺に災厄ばかり押し付けてくるよなぁ、おい。世界を巻き込んだ大罪武装の回収・・・・・・元信もやってくれたもんだ」


 自然と口から言葉が漏れる。


「それが唯一の解決策ではないよなあ。各国も取り組んでいる事だ。何やら、P.A.Odaもきな臭い動きをしている・・・・・・」


 眉間にシワが寄り、


「打てる手は尽くしている・・・・・・だが、まだまだ動かんといかんよなぁ」


 頭の痛い事であった。
 思わず、ため息が出てしまう。

 大罪武装、歴史再現、K.P.A.Italiaの今後。
 問題はそれだけではない。

 
「あのクソ坊主も厄介な事に首を突っ込んだもんだ」


 よりによっても言霊を使える奴が向こうにいる。
 この世の理(ことわり)を根こそぎ覆すやも知れぬ存在。
 各国は聖譜に影響を及ぼさないかどうか、相当警戒している。
 封印がなされているとは聞くが、戦争を始めた武蔵にいて果たしてどれ程の信憑性があるものか。
 過ぎた力は疎まれ、時にはその所有者に牙を剥く。

 
「望まれぬ者であった奴が、異端である奴が、聖譜に影響を与えるやも知れぬ舞台に上がる・・・・・・」


 ・・・・・・いや、聖譜記述に無き道を歩み始めるといった方がいいか。

 とにもかくにも、


「儘ならぬ世だなぁ、おい」





      ●





 一方、件(くだん)の顕如はというと、


「おおっ、ペルソナ君じゃないか。隣いいか?」


 午前中の、オリオトライとの追いかけっこを終えて武蔵・アリアダストへと帰る途中で見つけたペルソナ君に近づいていた。
 メットを被った、岩のような身体を持った巨漢は頷く事で了承の意を示す。
 

「よっ、と」


 顕如が腰を下ろすとペルソナ君は再び青い空を見上げる。
 ステルス航行中ならば真っ白の筈の空も、航路マーカーのポイント作業中の今は解除されているので本来の空が見えている。

 見た目はアレだが、優しい心の持ち主である事を理解しているのか鳥が数羽・・・・・・ではなく、鳥形の下級精霊がとまっている。
 ペルソナ君は気にしていないようなので問題は無いのだろうが、端から見ると奇妙なようで絵になっていた。

 
「紅茶です。ペルソナ様も如何ですか?」


 そんな事を考えていると、側に付いていた痩身の有明が紅茶の入った竹筒を二人に差出し、


「おっ!有難く頂くぜ!」


 顕如の分が、突然伸びてきた手にふんだくられた。


「・・・・・・総長よ。偶には穿(は)け」


 有明が対応しない所からして級友と見当がつき、かつこんな事をする全裸は一人しかいない。


「おいおい、それだと常に俺が脱いでるみたいじゃねえか」

「正しくその通りだよ」
 

 最早、武蔵名物、いや武蔵恒例になっているゴッドモザイクを装備した馬鹿は、その場で微妙に腰を突き出しながらポーズを取り、


「だってよぉ、さっきからずっと俺の股間センサーがかなり反応してるんだぜ?これはもう、着てる場合じゃねえって感じたんだよ」


 即座にヤクザキックを叩き込んだ。
 下ネタにはついついツッコミを入れてしまう。
 ・・・・・・ウチの自動人形達の情操教育に悪影響が出るからなぁ。最早手遅れかもしれんが。
 

「回りますね」

「ああ、何時もよりも回転数が多い」


 通常のボケ術式の1,5倍は回転しながら吹っ飛んだ馬鹿について二人で述べていると、


「これキツイわ。術式を強めに設定したから、流石に目が回る、回る」


 無言でもう一度蹴り飛ばす。
 馬鹿は遠くまで転がるが、また直に戻ってきて、


「くっ、男に過剰なスキンシップを求められてもちっとも嬉しくないぞ!」


 三度目の正直で半ば本気の蹴りを放つが、


「同じ手はそうそうくらわないぜっ」


 全裸は上半身をのけ反らせる事で回避し、


「甘いな」


 反らされたために晒された無防備な下半身に、


「お空の旅をどうぞ」


 有明の蹴りが叩き込まれた。
 丁度ゴッドモザイクの場所をジャストミートしたので、縦に後ろ回転をしながら全裸は空へと消えていく。
 逃げたのではなく、消えたのだ。


「消えましたね」

「何て逃げ方だ。断定はできないが、隠行と浮遊の符だろう・・・・・・あんな場面で使うか、普通」

「総長ですし」

「御もっとも」


 納得したところで、とりあえず、そのまま空中で姿を消したトーリについては放置して、置いてけぼりのペルソナ君の方を向くと、


「・・・・・・」


 こちらを全く見ていなかった。
 トーリとの一瞬の騒ぎに見向きもしていなかったようだ。
 その上、
 

「増えてる・・・・・・」


 巨漢の身体にとまっていた下級精霊の数が増加していた。
 謎である。
 どう見てもペルソナ君に懐いているようにしか見えない。
 
 と、不意にペルソナ君が立ち上がり、それに伴って乗っていた精霊が皆降りる。
 そして、手を振って彼らの帰りを見送ってから、こちらにも会釈をして去っていった。 
 どうやら、彼なりに用事があったようだ。
 成り行きのままに手を振って別れる。

 ペルソナ君についての謎は深まるばかりだが、まずは


「昼飯にしようか」

「Jud.外ですか、それとも家ですか?」

「ん?家以外で食べる準備なんてしていないだろう?」

「今日は、三笠が中等部で家庭科の実習に呼ばれているので」


 ・・・・・・そういえば、そうだった。
 ここ最近、穏やかな日常的イベントが皆無だったのですっかり忘れていた。
 昼飯を確保出来るのはいい事ではある。
 あるのだが、


「しかし、中等部か」

「何か問題でも?」


 分かってて言っているな、と軽く睨むが、自動人形は何処吹く風といった感じで


「ロリコン一直線ですね」

「ぐっ、分かっているがそれを言うな」

「それは大丈夫です」


 やけに自信有り気な様子なのが気になり、


「ほぅ、それはまたどうして?」


 有明は満面の笑みで、


「御主人様はもう三笠の件を含めて色々と終わってますから」


  


      ●





「どうされたのですか?このような平坦な所で崩れ落ちるとは」


 まさかの侍女からの不意討ちに、不覚にも膝が折れてしまう。
 系統としては、暗殺。忍びに近い戦種なだけはあるのかもしれない。
 目に見えない、見事に臓腑(ぞうふ)を抉るような一撃が主(あるじ)には叩き込まれていた。

 何とかそのまま完全に崩れ落ちるのだけは阻止出来たが、直には立ち直れそうにない。
 それを見た有明は顕如の真横へと移動すると、


「・・・・・・」

「ちょっ、やめっ、何をっ」


 ゲシゲシと起き上がらない身体を容赦無くつま先で捉え、


「最近は三笠ばかり。御声が掛かったとしても、色恋沙汰など皆無ですし」

「いや、そりゃそうだろってか、痛い。痛いってば」

「三笠以外も待っているんですから。今後はしっかりと御相手して頂かないと」
 

 蹴った。
 何度も。





      ●





 『哀』という文字には、かなしいという意味がある。
 そして、顕如の元にいる五体の自動人形は、それぞれ一応感情を持っている。
 つまり、主の関心が向かないので『かなしい』という感情から、『寂しい』や『嫉妬』といった感情が生み出されていたのだが、


「一体、何故なのでしょうか?こうするのがよいだろうという結果がはじき出されたのでこうしたのですが」


 人間ではない有明にとっては未知のものでしかなく、


「先程、武蔵様にうかがってみた所、これが嫉妬という感情なのですね」


 新たな感情とはならずに情報として処理されてしまう。
 長年、側で仕えてくれているのでついつい忘れがちになるが、


「どう致しましたか?」


 まさか、蹴った場所が悪かったのだろうかとこちらの状態を確認しようとしてくる有明の頭に手を置き、


「いやあ、なぁ。お前達にもホライゾンのように感情が育つのかなってな」

「御言葉ですが、ホライゾン様は感情を取り戻しているだけです」

「言葉の綾だよ。もっと感情がお前達にもあれば、面白いだろうにと思っただけだ」


 すると、


「・・・・・・今の私達では不足なのでしょうか?」


 じっ、と見つめてくる。
 その瞳は不安げに揺れ、まるで捨て犬のような、こちらの目を惹きつけて放さない力を持っているかのようだ。

 本当に反則だと顕如は思う。
 普段、感情を見せない自動人形がこんな顔をしていたら、それも自分に非常に近しい者であれば尚更、


「そんな事はない。現状でも十分に満足している」


 こう答えてしまう。
 自動人形でも女という事だろうか。

 手加減されていたので、身体に支障はなかった。
 頭をクシャクシャと撫で付けて立ち上がり、


「それでは、残りの三人も呼んで三笠の所へと行きますか」


 平穏な日常を謳歌するために行動を起こす。
 だが、


「・・・・・・どうやら、予定変更のようだ」


 唐突に日常は終わりを告げた。
 Jud.という返事が返ってくる前に、空から邪魔が入る。


「三征西班牙(トレス・エスパニア)でしょうか?」

「恐らくな。で、書記。注文はいつも通りでいいんだな?」

『Jud.まずは、こちらが迎撃準備をする時間を稼いでくれ』


 案の定現れた表示枠に映る不景気そうな面のネシンバラが頷く。
 問題事が起きれば、必ずといっていい程書記の顔は現れる。
 武蔵の軍師的な立ち位置(ポジション)なので、当然と言えば当然である。


「了解した。というわけで、戦場まで護送(エスコート)しようか、お嬢さん?」


 顕如は徐(おもむろ)に慣れない事をしてみるが、


「気でも触れましたか?」
 
「ノリが悪いぞ」

「事実でしたので」


 そう言う割に、ちゃっかりと手を差し出している有明に苦笑し、


「冗談はここまでにして、一家揃っての団欒を邪魔する奴らを叱りに行きますか」

 
 その細い手を取って、


「Jud.仰せのままに」


 術式:逃げ水を発動して、頭上の体育会系夫婦の旗艦へと跳んだ。










あとがき



二巻へ突入の巻。
短い。通常の半分くらいしか書けてない。
次の更新が何時出来るか分からなかったので、現状ではこれが精一杯。

さあ、顕如無双が始まる・・・・・・のか?
甚だ疑問である。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。




ところで、一つ書いている時の作業用BGMをあげて見ます。


マルゴット・ナイト&マルガ・ナルゼ
―――fripSideのhurting heart(黒ポリフォニカ)

ミトツダイラ
―――宇多田ヒカルのBeautiful World

アルマダ海戦
―――マクロスF  Battle Frontier


異論も反論も自由。
何かオススメのがありましたら教えていただけたらなぁと。




―――以上







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  十六話
Name: プー◆7975d3dc ID:1110cbfa
Date: 2011/03/06 12:08
注:後半部分を変更致しました



第十六話:境界線上の歪者(いびつもの)


 武蔵の上に現れた艦上では、バットを肩に担いだ野球人が何をするでもなく立っていた。
 三征西班牙の副長、弘中・隆包(ひろなか・たかかね)。
 野球部の主将であり、バントの名手でもある。
 ガッシリとした体格と、あらゆるボールを見逃さない目、そして何よりも特徴的なのは彼の足元。
 霞んでいた。

 ――幽霊
 夫婦そろって幽霊という珍しいコンビの片割れであった。

 だが、今はそんな事は問題ではない。
 では、一体何が問題なのか。

 隆包は副長である。
 副長は各国の軍人のトップだ。
 所謂、軍の司令官に近いものと言え、強いという言葉の解釈にもよるがその者はその国で最も強い。
 当然、単独行動といった事は滅多に無く、ある程度の戦力を伴って行動する。

 それを証明するかのように次々と後続の艦がステルス航行を解いてその姿を現している。

 今回の武蔵襲撃は、総長のフェリペ・セグントと第一特務の立花・宗茂以外総出だ。
 その上、国境線上という事を利用して、本来ならば自国内でしか使用出来ない聖譜顕装(テスタメンタ・アルマ)まで持ち出している。
 単なる襲撃にしては度が過ぎる陣容である。
 それもその筈。
 今回の襲撃の結果は、三征西班牙の今後を占う上で重要な出来事の一つ目なのである。 

 ここで武蔵、いや極東に勝っておけば後々他国よりも優位に立つ事ができ、衰退しか残されていない三征西班牙の未来を若干でも上方修正可能にできるかもしれないのだ。
 だからこそのこの布陣。
 
 ・・・・・・だが、これでもまだ絶対に勝てるという確証は無い。 
 
 この襲撃を計画したのは妻の房栄であり、彼女はかなりの自信を持っていた。
 これだけの戦力があればそう思うのも当然ではあるが、隆包は戦争の怖さを理解している。
 レパントの海戦での悲劇を知っているからこそ、あの時の二の舞にはならないように考える。
 それは、隆包だけではなく、同じ戦場に居た房栄もそう思って行動している筈だ。

 では、何故確信が持てないのか。
 妻を信頼していない訳がない。
 作戦が成功するのを疑う訳がない。
 むしろ、成功させるためにこうして自ら前線に立っている。
 準備の監督をすると同時に、作戦の粗探しも並行して行うためだ。
 実際にこの目で見て、小さな穴もなくそうとするのは前線で働く隆包の

 それら全てはこの一言に集約される。


「戦争に絶対は無いってか・・・・・・」


 確かに言いえて妙だと思う。
 考えていないようで結構考えている隆包であったが、


「ったく、柄じゃねえ」


 奇襲開始まで後僅かに迫る中、余計な事を考えている暇はもうない。
 ヘルメットを改めて被り直して、気を引き締めなおす。
 ステルス航行から抜けた事で本来の色を取り戻した空から、目の前で降下準備を始めている陸上部の連中に視線を移し、


「房栄(フサエ)」

『何かな?タカさん』
 

 呼ばれて隣に現れた表示枠を見ずに、


「準備はいいな?」

『当然。ちゃんとフーさんもスタンバイしてるよ』
 

 表示枠内に映る長寿族特有の長い耳の女性が笑顔で応え、


「何だ?随分と御機嫌だな」

『ん~、そうかもね。タカさんとこうして一緒に動くのも久しぶりかな、と』

「あ?・・・・・・そういえばそうか。ま、昔のようなヘマはせんさ」

『私も後でタカさんのバックアップに回るから、安心してね、と』


 ちょっとした遣り取りにこそばゆさを感じ、ぶっきらぼうに


「なぁに言ってんだ。お前が来る頃には本塁を踏んでやるよ」
 

 そんな夫の照れ隠しに、素直じゃないなあと房栄は溢(こぼ)しながら、 


「ほら、タカさん。お客さんよ」


 緊張感の欠片もない声で告げ、


「全く、タイミングが悪いぜ。ちったあ空気読めってんだ」

『まあまあ、そう言わずに。アレの相手は頼むね。という訳で、陸上部の皆はそのまま降下準備を続けて。野球部のベンチ面子は、陸上部の護衛に付いて下さい』


 房栄の指示を背後に主将は気負った様子もなくバットを肩から下ろしてバントの構えを取る。 
 その視線の先、隆包達の旗艦の甲板上に姿を突然現した男女がゆっくりと進み出て、


「武蔵・アリアダスト教導院所属 生徒会総務 顕如だ。先程の言葉、そっくりそのままお返しする。そっちこそ空気を読め、とな」


 


      ●





 旗艦へと降り立った顕如は、三征西班牙の副長を前にして、とりあえず言いたかった事を発言し


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 対峙する。
 が、


「どうした?折角こちらから来たというのにお茶の一つでも出そうという気は起きんのかね?」

「てめぇに出すもんなんざ何一つねえよ」


 ・・・・・・さぁて、来たはいいが何しようか。
 口は動かしながらも、実のところ何も考えていなかった。
 字名(アーバンネーム)からすると、このままでは少々示しがつかない気がしないでもない。

 ネシンバラが表示枠を通して伝えてきた相手の目的を考えると、何か派手な事の一つでもやってやらなければならないだろう。
 敵が本気で威力偵察を敢行してきたのだから、こちらも相手の戦力把握のためにも底力をある程度引き出すように手札を切るべきなのだが、


「まあ、まずは妨害工作だ。有明」


 当初の目的である時間稼ぎも必要。
 切る手札は、


「駆けろ」


 いつもとは違うものとなる。


 


      ●





 自動人形が近くの陸上部員目掛けて走り始めると同時に隆包は動き、


「副長殿の御相手は私が」


 その進路にポニーテールが強引に割り込む。
 バットと腕が交錯する。


「ちっ、退きやがれ!邪魔はさせねえっ」


 ・・・・・・防御符がかなり削られたな。
 予想以上の威力に内心で驚きつつも、顕如は表面上余裕綽々といった風に演じ、


「こちらも全く同じ思いだ」

 
 真正面に立ち塞がった。
 それを見てバットを握る手に力が篭り、


「退かねぇなら、弾き飛ばしてでも通る!」

「そうか。『鉄の如く』」


 相手の防御する腕にバットが当たり、その手応えに隆包は眉を顰(ひそ)める。
 それでも止まらずに上からの唐竹に始まり、左右の連撃、そして最後に頭目掛けてのプッシュバントを一息に叩き込んだ。 
 日々の鍛錬で鍛え上げた腕力と並大抵でないスイングスピードの乗った四連撃。
 強力な武器、防具、もしくは相当の技量が無ければ凌げない、一般人には耐えられない攻撃を相手はモロにくらった。


「どうした。それだけか?」


 結果は見ての通り、無傷。   
 頭部を含めて全力で殴打したにも関わらずだ。
 痛みを感じた様子は微塵もない。
 一体どんなカラクリを使ったのか隆包には見当がつかず、


「噂に違(たが)わず変態野郎だ」


 かといって悲壮感も無ければ思考停止もしない。
 何故ならば、彼は三征西班牙の副長であり、野球部の頼れる主将なのだから。

 隆包は考える。

 顕如は人狼や鬼ではなく、人間。
 ならば、打たれ強さは当然人を超えない筈である。
 人外になったという話は聞いていない。

 そうすると、防御符か術式か、それとも


「言霊か?・・・・・・だとしたらなんつー面倒くさい」

「お褒めに与(あずか)り光栄だな」


 ・・・・・・褒めてねえ。こりゃあ、第一特務が翻弄されるのも頷けるか。 
 先程の打撃が通じないのなら、その防御を貫くまでバットでボコボコにするのも一手ではある。
 次の攻撃を出せるように準備をしながらガンを飛ばすと、顕如はニヤリと哂って


「さあ、さあ。この間にも被害は増える一方だぞ?」


 野球部員が頑張ってくれているが、三人目の陸上部員が首筋にナイフの柄による打撃を受けて倒れる。
 これ以上の被害は奇襲の成立を危うくしてしまう。

 正直に言って、ウザイと感じる。
 実は、この時顕如が『体を鉄のようにしたはいいが、体を動かせるように文言を入れなかったから一瞬動けなかった』などと冷や汗を密かに流していた事は知る由もない。

 強行突破以外には咄嗟に案が浮かばず、時間も切羽詰っていた。
 すると、追い込まれていた隆包の横に突如、表示枠が現れ、


「房栄!?」

『タカさん、タイミング合わせてっ!』


 映る房栄の顔も焦っている。 
 ・・・・・・何がくる?

 言葉足らずもいい所ではあるものの、今の一言だけから意味を推測しようと試みる。

 道行白虎―――あり得ない。アレでこいつの相手は難しい上に準備時間が足りてない。
 バルデス―――これもハズレだ。あいつらとの距離が離れすぎている。
 立花嫁 ―――現状ではこれが一番可能性が高い。近距離、遠距離どちらも考えられる。

 では、タイミングとは一体どういう事だろうか。
 立花嫁ならば、技量的に双方がタイミングを計らずとも咄嗟に乱入する事も可能な筈だ。

 ならば、残る選択肢は少ない。
 一つの選択に辿り着いた隆包は一瞬絶句し、しかし直に我に返って


「賭けだな―――」

 
 目の前の相手へと猛然とラッシュをかけた。





      ●





 こちらにどのように対処すればよいのか分からず、戸惑っていた様子から一変、


「効かんぞ?」

「なら通すまでだ!」


 防御を考えない完全な攻勢にシフトした。
 いや、この場合、圧倒的な攻撃によって防御しかさせない。
 正に攻撃は最大の防御と表現した方がよいだろうか。

 上下左右正面あらゆる方向からの打撃の嵐。
 一つ一つの動きが速過ぎて、まるで自分の前に幾人ものバッターがいるかのようだ。 

 そんなバットの洗礼を、先程新しく作った術式、『鉄塊』で受け止める。
 鋼鉄の硬さを得た体にダメージは無いので、このままなら時間稼ぎは成功する。

 ―――何か引っかかる。

 隆包の行動は、確かに一つの方法ではある。
 硬い防御を貫くまで攻撃するのは可笑しい訳ではない。 

 ないのだが、


「何故今・・・・・・」


 有明による陸上部と野球部の被害を度外視した戦い方は、今取るべきではないのは明らかなのだ。
 それを先程の通神の直後にし始めた。
 これを疑わない筈がなかった。

 顕如の呟きはバットの打撃音に揉み消されてしまい、相手には届かない。





      ●





 顕如が持っている頃、主の命令を淡々と実行していた自動人形は、


「このっ!!」


 自動人形の持つ優れた反応速度を以って四方からの打撃、スライディング、牽制球を避ける。
 人間ではないので気配の察知によって避けているのではなく、


「連携が綺麗過ぎます―――以上」


 自分の目で見た情報と相手の攻撃パターンの蓄積による未来予測。
 蓄積量は少ないものの、相手は二軍。
 しかも、連携をきっちりと取っている。
 行動予測をするのはそう難しくはなかった。

 それ故に、


「新たな敵・・・・・・」


 周りを確認する余裕があった。
 ふと、主である顕如の方を窺うと丁度彼には見えにくい位置。
 遮蔽物の陰に新たな人影を見る。
 その手に持たれたものと顔が露(あら)わになる。

 艶のある長髪に長寿族特有の耳、キツそうな女教師系の顔立ち、ボンキュッボンな体型。
 三征西班牙の副会長、フアナ。
 そして、何よりも彼女の武装。

 大罪武装―――

 能力は不明だが、危険なのは間違いない。
 ここは敵のホーム。
 不利な状況が更に不利になってしまう。


「チェンジッ!」


 その時、フアナの横に立った身の丈程もある筆を抱えた長寿族のオヤジが声を張り上げ、


「お気をつけ下さいっ!!」

 
 重なるようにして有明も警告の声を上げた。





      ●





 主将は書記のオッサンことベラスケスの交代を告げる声に従って、攻撃をピタリと止めて下がった。


「なっ・・・・・・ここで奥の手を使うのか!?」


 顕如が攻撃が途絶えた所で状況を確認すると、本来出てくるとは予想していなかった人物が目に入る。
 ・・・・・・こんな所で副会長。しかも、御丁寧に大罪武装まで。不利すぎるっ。


「っく―――」


 白と黒の、骨にも似た表装を持つ二メートル程の長剣が掲げられているのを見て止めようとするも、足元を何かに拘束される。


「蔦(つた)?」


 即座に引き千切り元を辿っていけば、フアナの隣に居るベラスケスの足元から伸びていた。
 援護として密かに絵を描いていたのだ。

 その事に一瞬気を取られた隙は決して大きくはないが、既に展開されている大罪武装を駆動させるには十分な時間。
 眼鏡の奥から冷たい視線を眼下の邪魔者達に向け、
 

「予定が大幅に狂わされましたが、仕方ありませんね。報いは受けてもらいましょう」


 三征西班牙の誇る巨乳は死刑を宣告する。
 これで予定は元通りとまではいかずとも、大幅な変更はないと確信しての事であった。 





      ●





 フアナの口が一つの単語を紡ごうとしている。
 最初の文字は『ち』。

 つまり、今から紡ぐのは『超過駆動』。
 どのような攻撃なのか詳細が分からないが、これだけは理解出来る。

 ・・・・・・間に合わないっ!! 

 内心で焦りが最高潮に達したその時、何処からか聞き覚えのある音楽が聞こえた。

 ・・・・・・確か、子連れの狼さんがハリセン振り回して、悪党役の狐さんをボッコボコにしてたなぁ。

 極東で一時期流行った時代劇の登場シーンの再現である。
 その上、何故か漂うスパイスの香り。 
 焦っている筈にも関わらず、顕如は微妙な表情が顔に出てしまう。
 それは、三征西班牙側も同じであった。

 フアナも言葉を紡ぐのを止めて、音の発生源に目をやっている。
 イレギュラーに続く、イレギュラー。
 音楽だけならまだしも、この咽返るような独特の香りだけは無視出来なかったようである。
 顕如もこの場の皆と同じようにこの現象の原因である場所を注視する。

 匂いの発生源は簡単に特定出来る。
 顕如達とフアナ達の間であった。

 
 顕如達とフアナ達の間の風景がグニャリと歪み、一人の人物と屋台が現れる。


 ・・・・・・・正直、助かった。助かったんだが、一言言いたい。


「ないわー」


 全員が思っているであろう言葉を顕如が代弁したのだが、当の本人は全く気にした風もなく、


「窮地の友にはとりあえずカレーをオススメしますねー」


 己の信念の塊、すなわちカレーを両手で頭上に掲げた。






あとがき


更新完了・・・・・・ヤバイ。非常にヤバイ。
話の筋がおかしくなってきたの巻。
戦闘描写が足りないかな?どうなんだろう。

難産でした。
駆け足過ぎたやもしれん。

そうであった場合は御指摘下さい。


三征西班牙の連中って意外と書きにくかった。
武蔵面子が一番書きやすいかなあ、と。


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上


======================

一部改定後のあとがき


流石に前の内容での続きとなると、「この中二野郎がっ!!」という展開になる事に書いた後で気付いたもので。
勿論、既に中二か!?という内容になっている可能性はある(自分では判断がつかない)のですが、これ以上ヤバイ展開はまずいと思い、最後の部分を変更致しました。

もしもあの展開の後が気になるという方が居られましたら、感想板にお願いします。
おまけで付け加えるかもしれない。


数日以内に多分最新話を更新出来ると思います、多分。









[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ) 十七話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/04/27 00:07
注:十六話の後半部分の内容を変更しました。






第十七話:艦上の踊り手達


 カルピスマーク系インド人でカレー一筋のハッサンの登場で多少の困惑が広がる中、顕如は態勢を立て直す間を得る。
 武蔵の連中の突飛な行動に慣れているか慣れていないかの差が出たためであった。
 三征西班牙にもバルデス兄妹やベラスケス、幽霊夫婦といったある意味濃い連中が揃っていたのだが、どうやら武蔵の連中の方が上であったようである。

 何時もの馬鹿騒動を見ているせいか、変な同級生達の変な行動で救われる事に納得がいかない感じがしながらも、


「『案内するは急ぐ兎』、戻るぞハッサン!!」


 素早く言霊を発動させ、ハッサンへと呼びかける。
 顕如、有明、ハッサンの足元に時計を持った兎が現れ、同時に三人の直下に扉のようなものが出現する。
 
 登場早々に一緒に退場するのは、カレーを振舞おうとするハッサンにとって心外であろうが、危険なのにかわりはない。
 というよりは、屋台まで用意して何しに来たのか意味が分からなかった。

 ・・・・・・俺達を助けるためだと思いたい。

 実際には、顕如を咄嗟に助ける事でカレー神の加護の実力を訴えたかっただけの行動であったのを顕如が知る術は無い。
 
 三征西班牙側も顕如の動きに対応しようとするが、


「『落ちる先は武蔵』」


 距離が遠いために誰も手が出せなかった。
 艦上にいるのが近距離専門と攻撃にタメの必要な者ばかりだったのが幸いであった。
 中遠距離戦闘が出来る立花誾は、隆包達とは違う別働隊として用意していたために艦上には出ていなかったのだ。
 バルデス兄妹は別の艦なので論外である。

 言霊の完成に合わせて三匹の兎が扉を下側へと蹴り抜く。
 扉の先に広がる闇に吸い込まれるようにして三人と屋台は姿を消した。


「・・・・・・ちっ。逃がしたか」


 散々掻き回された挙句、まんまと逃げられた事に隆包は思わず舌打ちする。
 その横に表示枠が現れる。
 

「房江。出せるな?」

「大丈夫だよ、タカさん。遅れた分も取り返すくらいの勢いでいくから」

「――急ぎすぎるなよ」

「Tes.」


 消える表示枠から野球部員へと目を移しながら、隆包はヘルメットを一度深く被りなおす。

 ・・・・・・あの野郎、とことんこっちを舐めてやがる。

 影がかかって周りからは見えない隆包の目には怒りがちらつく。
 被害状況を確認すると、その理由が分かる。
 襲撃された者達全員が思っている。
 
 被害が見た目よりも少ない、と。

 顕如、というよりは自動人形の有明がもたらした被害は、陸上部員と野球部員の内数名が打撲もしくは気絶のみ。
 陸上部員の使うレーン等の物的被害は無しときた。

 本当に邪魔をするならば、陸上部員の使用するレーンを壊したり、部員達に怪我をさせるなりして行動不能にするくらいはすればいいのだ。
 しかし、顕如達はしなかった。

 こっちの手札を全てではないが切らせるだけ切らせて、無傷で帰ったのだ。
 顕如の行動目的が、こちらの戦力低下ではなく、足止めであったとは言え一方的過ぎた。
 最後の屋台は向こうにとっても予想外だったようなので仕方がないと思えないでもないが、アレはアレでむかつくものではある。

 ・・・・・・自分が付いていながらこの様(ざま)とは情けねぇ。

 
「・・・・・・ん?」


 軽く自嘲する隆包の肩をベラスケスがポンポンと叩く。


「次は聖譜顕装(テスタメント・アルマ)でボコボコにしてやればいいじゃねえか。手の内を明かさないためにさっきはこれを使用しなかったんだからよ」


 ベラスケスの言う通り先程の前哨戦では全ての手札を切ってはいない。
 しかし、向こうの人数も考慮に入れると話は変わってくる。
 大罪武装、フアナ、ベラスケスの存在、現在の襲撃部隊の練度。
 ざっと挙げるだけでこれだけ出てくる。
 練度に関して言えば、陸上部は野球部員に護衛されていたので直接戦闘には参加しておらず、また、その野球部員も一軍の連中ではないのでそれ程深刻になる必要はないものの、知られていい事ではない。

 だというのに、三征西班牙の誇るエロオヤジは漂々としている。 

 ・・・・・・食えねえオヤジだ。

 あたかも先程の襲撃等何という事はないと言わんが如き態度。
 周りの生徒達の士気を考えての行動。
 隆包も見た目はヘルメットを目深に被って仁王立ちしているようにしか見えないように振舞っている。
 
 元々ウジウジとするのは苦手な隆包は、バットを肩に担ぎなおして、


「べラのオッサン、一発ブチかますか」

「ま、俺ぁ後方待機だけどな」

「気楽だな」

「馬鹿ヤロ、書記ナメんなよ?」


 ベラスケスに軽口を叩きながら持ち場へと戻った。





      ●





 顕如の言霊によって武蔵上、アリアダスト教導院前に帰還した三人は、早速ネシンバラに連絡を取る。
 とはいっても、顕如以外は連絡を取る必要はない。
 有明は顕如に従うし、ハッサンは本来こんな事はしない筈だったのだ。
 当然、映し出された書記の表情は一瞬困惑に彩られるものの、日々武蔵の連中に鍛えられているので直に元に戻り、


「やあ、君達の御陰で少しは準備が出来たよ。礼を言っておくよ」

「ネシンバラが礼を言うなんて・・・・・・今日は槍でも降るか」

「全くもってその通りだよ。槍じゃなくて爆弾だけどね」

 
 顕如の失礼な発言をスルーし、逆に微妙な違いを修正するネシンバラ。
 既に交戦が開始されているので、それ程余裕はない。


「顕如は今から艦首側に行ってくれ。君の走狗が送ってくれた動画で敵の戦力把握が少しは出来てるから、こちらは心配ないだろう」

「対英戦か?」


 表示枠内の書記はJud.と答え、
 

「現在、武蔵は重力航行の準備中だ。何かあってからでは遅いから先に君を配置しておきたいんだ」

「お前、英国での俺の制約を知ってるだろう?」

「それは英国内での話だ。今は外だからね」

「まぁ、な」


 頼むよ、と残して通神が切れる。
 三征西班牙からの攻撃も激しくなっているのが見ずとも音で分かるので、


「有明、艦首までの道程で直に合流出来るのは?」

「無論、全員です」

「――そうか。なら、吹雪と交代だ。敵さんは野球が好きだからな」


 手早く行動に移す。
 武蔵に戻ってから有明は共通記憶を使用していたので、既に他の四体の自動人形にも情報は伝わっているので通神の必要はない。
 Jud.と応える有明を見て、こういう訓練されている所は元信公に感謝だよなと顕如は思いつつ、吹雪の待つ場所へと飛ぼうとし、


「カレーッ!!」


 ハッサンの意味不明な叫びに動きを止めて振り向く。
 カレー皿を掲げてカレーを強調するインド人。


「ああ、そうだった。ハッサン、さっきは助かった。ありがとな。今度、カレーでも食いにいくわ」

「顕如様を救って頂き有難う御座います」


 主従は言い忘れていた礼をする。
 そして、


「・・・・・・カレー・・・・・・」


 カレー神の加護の凄さ、カレー神の偉大さを説こうとしたハッサンを残して次の仕事へと駆け出した。
 その後ろでは、ハッサンが皿を掲げながら膝をつくという器用な技を披露し、


「ハッサン君ッ、大丈夫・・・・・・じゃないようだね」

『泣いておるのか?』


 インキュバスのイトケンとスライムのネンジが級友を心配して駆けつける。

 ちなみに、カレー、全裸のマッチョ、スライムという異色の組み合わせを見て、三征西班牙の生徒達は決して彼らを襲撃しないようにしようと密かに思うのであった。





      ●





 後に残したハッサンの事を綺麗に忘れて戦場を駆け抜ける顕如と有明。
 艦首に行くにはまず、アリアダスト教導院のある奥多摩から出る必要がある。
 しかし、その進路が戦場になっているから大変である。

 三征西班牙の先陣である陸上部員は、武蔵内に回収されていない輸送の大型貨物上から攻撃を加えてきていた。
 位置的には、武蔵よりも若干上なので向こうからは狙い放題なのである。

 放火紛いの事をやってくれる御陰で消火活動にまわらなければならない状況に追い込まれかけるが、


『弾頭に迎撃を開始――!!』


 軍師であるネシンバラの的確な判断で対応がなされる。
 だからといって安堵するには早い。


「横を忘れるなよ・・・・・・!!」


 敵は上だけではなく、横にもいるのである。
 武蔵と並走する敵艦からの砲撃が重なる。


「ストラ――イク」


 それと同時に、極東の生徒達を間に挟んで移動していた顕如にいきなりボールが突っ込んでくる。
 足元スレスレから飛び跳ねるように上方へと軌道修正するという、何らかの術式がかかっている変化球。
 着弾時に巻き起こる衝撃と粉塵、喧騒の所為でボールの存在に気付かない顕如に、明らかな下半身狙いの一球が迫り、


「――狙うはピッチャー返しッ!!」


 ボールと顕如の間に割り込んだ小柄な自動人形のバットによって当たる寸前で打ち返された。
 

「吹雪っ!?・・・・・・驚いたな。どこからだ?」

「あっち」


 突然横に現れてバットを振るったのには驚いたが、直に自分が襲撃されたのだと気付いた顕如は敵の場所を尋ねる。
 それに答えて指さす金髪幼女。
 足を一切止めずに走り続ける二人。
 有明は、吹雪が来るタイミングを共通記憶によって分かっていたので、吹雪の到着と同時に三笠達と合流に行っている。
 
 幼女の示す方向に目を凝らすと、


「よりのよって四死球か」


 並走する三隻のワイバーン級の中央に二人の野球部員が立っているのが辛うじて見えた。
 

「お前、よくあいつらの球を打ち返せたな」

「軌道修正のための術式しか使ってなかったから、このバットで普通に捉えられたっ!」


 何時も通りのハイテンションで告げる吹雪に顕如は苦笑し、
 

「自動人形だから出来る速度だったような気がするぞ」

「どっちにしても防いだのは防いだし。結果オーライって事で」


 うむ、と頷きながら顕如は次の攻撃が来ない事を不振に思いつつも現在の主戦場を走り抜けた。





      ●





 顕如に危険球を放ったバルデス兄は、甲板上で妹に罵倒されていた。


「馬ッ鹿じゃないの、兄貴!?あれ程狙うのは貨物だって言ったのに!!」

「フッ、妹よ。どうしても狙わなければならない時というものがあるのだ」

「いや、だからって勝手に投げるなよ。頭おかしいよね?」


 これだけ罵倒されているにも関わらず、兄は先程ピッチャー返しが来た方向、すなわち自分がボールを投げた方向を厳しい顔で見やる。

 消える魔球のような特別な術式を付加していなかったが、タイミングも威力も絶妙であった筈の死球が自動人形に防がれた。
 闇討ちではあるが、顕如のみならば当たっていた可能性があったので素直に悔しいのである。
 

「せめてやるなら、魔球すればよかったじゃん」

「なん・・・・・・だと?」


 ・・・・・・それならそうと言ってくれ、妹。
 妹が顕如を狙う気配が全くなかったために兄が独断で牽制したのだ。


「狙う気があったのか」

「そりゃ、いきなり私達の姿見るなり股間キラーって呼ばれたら、誰でも噂広めた奴に殺気が沸くって。それより先に役割果たしてからだと思ったんだけどね」


 最初に言われた瞬間、妹が「誰が言った」と思わず怒鳴り、極東勢の視線が一斉に後ろを走る顕如へと固定されたために顕如が犯人だと判明したのである。
 微妙にボタンの掛け違いがあったが、兄は妹がまともな精神の持ち主である事に安心しながら、
 

「さて、憎むべき僧には逃げられたが、その分も含めて味わってもらおう。この魔球をっ!!」


 射程外へと逃れた顕如に必ず一球入れてやると心に誓うバルデス兄妹であった。















あとがき



お久しぶりです、プーです。

今回は短めです。
順調にフラグを立てている顕如。
いつか大変な事になりそうだ。

そして、ハッサンがどんどんネタキャラに・・・・・・。

更新を待っていて下さる方がいらっしゃるのは本当に有難い事です。
構成に悩みながらも久しぶりに書いたので、こんな感じでいいのかな?
勘が取り戻せてたらいいなぁ、と。


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上







十六話にも同じ事を書きましたが、内容を変更した理由等を一応以下に書いておきます。



流石に前の内容での続きとなると、「この中二野郎がっ!!」という展開になる事に書いた後で気付いたもので。
勿論、既に中二か!?という内容になっている可能性はある(自分では判断がつかない)のですが、これ以上ヤバイ展開はまずいと思い、最後の部分を変更致しました。

もしもあの展開の後が気になるという方が居られましたら、感想板にお願いします。
おまけで付け加えるかもしれない。



[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ) 十八話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/09/03 18:54
 第十八話:甲板上の邂逅者


 

 バルデス兄の脅威から逃れた顕如は小さな自動人形と共に艦首へと辿り着いて一息つく。
 新たな戦闘が始まるかもしれないので、出来る限り流体の消費を抑えるために術式に頼らず、己の足で駆けつけたために少しばかり息があがっているのであった。
 重力航行の時は流石に立ち止まったものの、それ以外では走り続けていたのである。
 言霊使いにとって声は生命線であり、このままでは戦闘に入れないので休憩を入れなければならなかった。
 
 惰性航行に移ったのを足下の振動で感じながら息を整え、腰に差していた竹筒から水分を補給する。

 ・・・・・・ぬるい。

 ポニーテール男子は隣の幼女をチラッと見て、


「・・・・・・何かな?」


 汗一つかいていないとてもいい笑顔からすぐさま顔を背けた。
 『喜』の感情を持っているので常に笑顔なのだが、長年の付き合い上危険そうな笑顔だと確信が持てたのだ。


「こんな時でも冷たい飲み物の用意とかしてるのは、有明や三笠だけだからね?少なくとも私は、出来るようには改造(カスタマイズ)されてないの知ってるでしょ」

「解った!解ったからッ!だからその笑顔で迫るのはやめろ」


 正面に回りこんで襟首を掴み、ドサクサに紛れて顔を至近距離まで近づける自動人形に頭突きをかますものの、


「ばれたかっ」


 幼女は襟から手を離してスウェーバックで軽くかわし、顕如からちょっと飛びのく。
 この時ばかりは自動人形の反応速度を呪いたくなる。
 かといって、たとえ当たったとしても材質の違いから痛い目にあうのは顕如であるので、当てたくはないのが本心。
 昔は容赦の無さに驚いたものだが、最近ではこれくらいもスキンシップの内に入るようになっているから慣れとは恐ろしい。

 慣れの他に、自動人形達に特別な感情を抱いている訳ではないと思いたい。
 最近分からなくなってきた自分の気持ちから目を逸らしながら、気を紛らわすために次の仕事を探す。


「さっきのバルデス兄妹のような襲撃が無いとも限らんから保険でもかけとくか」


 ネズミの走狗を呼び出して、商人のシロジロに連絡を取る。
 三征西班牙の所為で向こうも忙しいだろうが、こちらも英国の所為で忙しくなるかもしれない以上、備えをしなければならない。
 通神が繋がり、商人が口を開く。


『どうした、ロリコン?取引か?』

「取引よりも先にあの世に送ってやろうか、守銭奴?」


 初球からの暴投であった。
 思わず表示枠を叩き割りそうになったが何とか堪えて言い返すと、商人はフンと鼻を鳴らし、
 

『金に執着心を持たぬ商人等、私からすれば珍獣でしかない。故に私は正常だ』

「つまり、それは俺が異常だと?」


 普通にJud.と返された事に怒りを感じるのは正常な筈である。
 顕如は手元の表示枠を操作し、


『む、何だコレは?』


 一つの情報を送る。
 向こうの周囲には誰もいないようなので多分シロジロにしか見えていないが、そこにはシロジロと、商工会の幹部の一人娘が写っていた。
 一人娘は酔っているのか酒瓶を持ちながら、金の勘定に勤(いそ)しんでいるシロジロにしなだれかかっている。
 どう見ても絡まれているとしかとれない。


「この前の商工会の会議後に行われた宴会の一場面だ。コレをハイディに送ろうと思うんだ」

『私の身の潔白は明白だ。何も恐れる必要が無いのはお前が分かっている筈だろう?』


 まずは、写真の出処を考えるものだが、足を引っ張ってくる敵が多いシロジロからすればこのような事は日常茶飯事なので、今更驚きはしない。
 表示されたものを見ても顔色一つ変えない商人であったが、


『――シ~ロ君?』

『ん?おお、これガッ!?』

『・・・・・・』


 突然鈍い音と共に画面からシロジロの姿が消えて、○べ屋のハイディが映った。
 叩かれたにしても息の仕方がおかしいかもしれないが、顕如とシロジロの背後から現れた女性はスルーする。  
 彼女の右手にある金槌を気にしてはいけない。

 ・・・・・・シロジロ、嫁って怖いんだぞ?ダッちゃん然り。立花然り。

 自分の事を棚に上げながら、嫁って怖いよなと後ろを振り返ると、近辺の生徒達からブーイングがきた。
 しかし、顕如はそれを自分に向けられたものとは気付かず、シロジロへと向けられた嫉妬だと思って再びスルーし、


「有難う、ハイディ」

『いやいや、愛しのシロ君に悪い虫がついてるかもしれないのが分かっただけでも十分だよ』

「そう言ってくれると助かる。では、シロジロの代わりにハイディ経由で用件を通していいか?」

『Jud.排気?』

「そうだ。一応俺が登録した術式を連続で使うと思うからその分を融通してもらおうと思っているんだ」

『OK。で、どれを使うの』

「『鉄塊』だ。何が起こるか分からんからな」


 ハイディと取引を続ける。
 お互いに走狗の助けを得ながら表示枠を出しては消すを繰り返し、


『う~ん。それじゃあ、これくらいでどう?値段と量』

「商談成立だ。それで頼む」


 不運にも倒れた商人の代わりに誰もが認める妻ことハイディと排気の売買を済ませた顕如は少しばかりリップサービスをした。


「ありがとう。流石、シロジロの妻なだけはある」

『んっ、もう!褒めたって何にも出ないんだからね』
 

 Jud.Jud.と適当に返すも、消えていく表示枠内のハイディは赤く染まった頬を両手で押さえながらいやんいやんしており、聞いていないようであった。
 事実、何も出ないので正真正銘のサービスである。





      ●




 表示枠を消すと、顕如は左の手首をつかまれた。
 ・・・・・・つかまれた?

 つながれた手の先には金髪幼女。
 そして、嫌な音が伝わってきている。


「ん?どうした。骨が軋んでいるじゃあないか」

「さっきの【嫁って怖い】発言は実行してもいいって事ととるけどいいよね?」

「まあ、待て。誰が何時お前を嫁と認めた?それに怖いの意味が違う気がするのだが・・・・・・」


 手首にかかる力が飛躍的に上がった気がするが、侍女の行動を見越して『鉄塊』を早速発動させて手首の破壊から逃れる。
 当然、先程の三征西班牙艦上での失敗から学んで、術式をかけても動けるように設定はしてある。
 その代わりに、排気を多めに消費しなければならなくなっているので、反応速度に優れている自動人形には術式を付与していない。

 無限に排気がある訳でもなく、金に十分な余裕がある訳でもないのも理由の一つではあった。


「・・・・・・おい」

「何よ?」


 そうこうしている内に艦首側の守りについていた生徒の下へ辿り着き、言葉が漏れた。
 こちら側を見た瞬間に手で己を扇ぎ始めたのは、彼女なだけに仕方がないと思わないでもないが、これはいただけない。
 何故ここの連中はこうもツッコミを入れるのを休む間を与えてくれないんだろう、と顕如は真剣に考えてしまう。


「こんな時にまで描くのかよ・・・・・・」


 顕如が最近張り合うのが疲れてきた彼女ことマルガ・ナルゼは、描いていたのだ。
 顕如と自動人形の絡みで描いている時が偶にあるのでナルゼが相手の時は警戒してしまう。
 生徒会所属の男子生徒とのカップリングもあるのでなおさらである。 
 
 今回の題材は知らないが、今描いているという事実が顕如からすれば文句を言いたくなるのである。
 このような意見を持つのは顕如だけに限らないであろう。

 しかし、ちゃんと理由はある。
 戦闘勃発区域ではないものの、次に敵が来る可能性が高い場所の守りを担うという事は、今の行為の目的は誰が見ても一つ。 


「排気、いやATELL確保か」

「違うわよ」


 即答された返事が予想の斜め上をいっていたために、少しばかり固まってしまうが、


「・・・・・・アホ?」


 一言何とか搾り出す。
 すると、白魔女は手を止めてこちらを睨み、


「何よ。マルゴットに美味しいものを買ってあげようと思ったんだけど、今月はお金の消費が激しかったからこうして頑張ってるんじゃない。アンタだって嫁のためなら多少はスケジュールを過密にして稼ごうとするでしょう?」


 額に手をやり、天を仰ぐ。

 ・・・・・・こいつの愛がここまでとは思わなかったな。

 変な感心の仕方をした顕如は、ため息を吐きつつもナルゼの行動を黙認する。
 このような思考回路を持つ顕如も十分にツッコミが入るものであるのを本人は分かっていない。
 金を全肯定するシロジロと同じレベルである。





      ●





 お互いの声の届く距離に生徒は居らず、顕如だけがナルゼの行動の意味を正確に知ったが、周りからするとナルゼは排気のために奉納するものを描いているようにしか見えない。
 ここで下手にこんな行為をばらせば、ナルゼへの批判は必至であり、可能性の段階ではあるものの対英戦を控えた今はいたずらに混乱を招く事は避けねばならなかった。

 それに、何といってもナルゼは第四特務。
 特務に選ばれるだけの実力と経験を保有しているのは事実である。

 ・・・・・・敵を油断させるためだろう。

 実は、顕如を含めて皆があまり知らない事だが、三河での戦闘でナルゼの箒のみが壊されたためにパートナーのマルゴットにかかる負担を気にして、色々と裏でしているのであった。


「まあ、お前がヘマをするとも思えんしな」

「誰がヘマをするですって?」

「おっと、これは失礼。本音が声に出ていたようだ」

「アンタこそ足引っ張らないでよね」

「jud.気をつけろよ?」

「jud.余計なお世話よ」


 いつもは追う側と追われる側という敵対する立場でありながら、お互いの実力を認め合っている仲でもある。
 だからこそ軽口も飛び出す。

 ここに自動人形が加われば日常の風景となるのだが、


「艦隊が見えたよ」


 皆の関心は英国からこちらへと向かってくる艦影に集中する。
 英国側での先導を行う水先案内の船と、護衛艦であった。

 武蔵は英国側の案内に従うつもりであるが、


「そう上手く事が運ぶかねぇ?」


 今の英国内の複雑な情勢を少しばかり知っている顕如は不安を抱いていた。


「不吉ね。アンタがそう言うって事は相応の理由があるんでしょう?」


 ナルゼの問いにJud.と答えるものの、妖精女王との約束で口外が出来ないため、黙り込む。


「ま、いいわ。何だか複雑そうだしね」

「そう言ってもらえると助かる」


 三人の視線の先にある英国側の艦影は、顕如の不安と同様に徐々に大きくなる。






      ●





 そして、


『極東、武蔵アリアダスト学院所属艦、武蔵に通達・・・・・・!』


 突如武蔵の各所に現れた表示枠から流れる低い色をもった女性の声が響いた。
 改派(プロテスタント)である事を示す方枠付きの十字架を組んだ表示枠、ここに現れる勢力では英国しか有り得ない。

 そして、その言葉が終わらぬ内に武蔵の右舷に並走をするつもりで回頭を開始する高速型クレイヤー。
 幾つもの砲を両舷に積んだクレイヤーは正に海賊船。
 時代的に仕方がないのかもしれないが、海賊船が出てくると碌な事がないと顕如は思ってしまう。


『こちら英国オクスフォード学院所属、護衛艦”グラニュエール”。艦長は同学院所属グレイス・オマリ。――妖精女王の楯符(トランプ)として警告する!』


 予想通り武蔵にとって良くない内容であろう事は確定する。


『当艦は貴艦の即座停止を命令する!貴艦は既に英国領域に侵入しているが、戦闘状態であり、三征西班牙、及び聖連との関係が不透明であり、更には英国、極東間での協調を得ていない!即座の停止を行わないならば――』


 一息おいて、


『英国は、貴艦の停止を実力行使する!!』





      ●





 ・・・・・・案の定か。

 舌打ちが自然と出た。
 自分達のいる場所へと向かってくる四つの人影と、それらを先導するようにグレイスの艦から走った四本の蔦が迫り、
 

「こりゃあ、豪華な面子が揃いそうだ。こっちからすると、歓迎の度合いが素晴らしすぎて涙が出そうだ」

『全くだよ。負傷者や破壊された町・・・・・・正直言ってすまない』


 蔦が甲板に突き刺さる衝撃の中、表示枠が開いてネシンバラが現れる。
 

「・・・・・・頑張れば何とかなるさ」

『そう言える君には感心するよ』

「Jud.こうでもしてなきゃやってられん」


 仕事柄、苦情の窓口になってしまっている顕如も、軍師であるネシンバラと同様に非難の嵐に見舞われるのだ。
 ネシンバラは相槌をうち、用件を伝達する。


『英国の至近距離到達まで後三分。僕もそっちに行くけど、何とかもたせるしか道はない』

「Jud.もっと俺達を信用しろ。俺と白魔女がいるし、お前も来る。少なくとも戦力差が酷くはならないさ」

『Jud.期待しないでおくよ』

「Jud.予想を覆してみせよう」


 書記からの通神が途絶えると、


「この見栄っ張り」

「お前なぁ・・・・・・」


 格好よくしめるつもりが、ナルゼにきっちりと落とされた。





      ●





 白い、広い聖堂の中に、表示枠の光が灯っている。
 奥の祭壇の前、絨毯を敷いた階段に座っているのは、
 

「どうしたのであるかなインノケンティウス、折角、大小鉄球を持ってきたというのに」


 黒い制服を着込んだ魔神族の老体が見るのは、やはり制服姿の教皇総長(パパ・スコウラ)だ。


「寒い滑りに呆れていたら、今度はもっとお寒い事態が生じてなあ。ガリレオも聞いたろう?さっき役職持ちには臨時放送が入ったんだから」

「英国が武蔵に迎撃を仕掛けたそうであるな。ついさっきとのことだが。優秀な生徒としては、英国の行動をどう見るかね?」

「英国が建前として保守的にシフトしたってことだろう?」


 とインノケンティウスは告げる。
 彼の視線の先にある表示枠では、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)の男子生徒によるとてつもなく内容の浅い現状説明がなされている。

 撮影場所と戦場が遠すぎるためにハッキリと映らない映像と解説の適当さに、自分達で乗り込まないと分からない、と内心で舌打ちしつつ、


「英国には二つの選択肢があった。一つは、武蔵を受け入れる事で聖連を牽制し、アルマダ海戦を”解釈”上で切り抜けつつ、武蔵と共に末世解決に向かう事。そして、もう一つは、武蔵を聖連に敵対するものとして扱い、受け入れを拒否する事で堅実な歴史再現を行う事。英国は後者を選んだな」


 前者であれば、アルマダ海戦で疲弊や戦時費を割く事なく、更に末世解決によってヴェストファーレン会議を有利に進めたり出来る。
 つまり、今後、聖連内部での発言力を著しく高くし、盟主となる事も可能であるという事である。

 しかし、逆に言えば、多大な利益を英国が手にする代わりに各国からの妨害が多くなるのも事実。
 後者のように、聖連に逆らう事をしなければ、ヴェストファーレン会議における各国からの歴史再現に対する横槍はなく、逆にフォローを受けられる。

 一見、利益の差が大きそうではあるが、英国は無理に過剰な得を取るよりも堅実をとったのだ。


「英国の大罪武装(ロイズモイ・オプロ)は”強欲(フィラルジア)”だったか。上手く自制したものだなあ、今回は」


 大罪武装は、保有国の国民性、気質を表している。
 故に、英国の特徴の一つは強欲であった筈なのだが、


「流石に聖連を敵に回してまでやるのは厄介だと思ったのか。それとも、三征西班牙の催促に後押しされる形で決めたのか」


 どちらにしろ、結果が出た今となっては関係ない、とインノケンティウスは思う。
 それよりももっと厄介な事がある。


「ふむ、優秀な生徒はあの少年に少しばかり注視しすぎているのではないかね?」

「―――馬鹿を言うな。英国にはアレがある。今の奴にどうこう出来るとは考えてはいないが、出来る限り下手な事が起こる可能性は潰しておきたい」


 表示枠から視線を外してガリレオへと向き直り、


「それに、あそこは精霊が多い。何が起きてもおかしくはないんだ。分かるだろう、ガリレオ?」


 もっと言葉を続けたいが、抑えているインノケンティウスにガリレオは頷き、


「Tes.しかし、分かってはいても忠告せずにはいられないものだ。あの能力は、一種の傾国と言ってもよいものだからだ」


 所有している者を例外なく厄介事に巻き込む、いや、それだけならまだしも、所有者の周りをも巻き込み、時に滅ぼす。

 完全に掌握出来た暁には、この世界自体の変革さえも可能、つまりは神にさえなれる可能性を秘めていた。
 今までにも似たようなケースはあった。
 人というよりは生命を超越する存在への昇華。
 不老不死もその一つと言えよう。
 人は、生命ある者達はそんな夢物語を追い求めてしまう。

 しかし、良い結末を迎えた事など一度もなかった。
 必ず、皆に不幸をばら撒いただけに過ぎなかったのだ。

 傾国という言葉は、傾国の美女で有名だろう。
 唯、その存在が美女であるか、能力であるかの違いしかない。

 今話題に上がっている彼もそういう存在に違いはなかった。


「本来、膨大な知識と経験を元にドデンと構えているのが教皇総長としての役割の一つではあるんだろうが」

「Tes.だが、元少年は近年稀に見る行動派だ」


 インノケンティウスは顎に片手を添えて、


「茶化す場面じゃあないだろう」

「別に茶化した訳ではない。事実を言ったまでの事」

「・・・・・・まあ、それはいいとしても、だ」


 顎から離した手の平を暫し見つめ、


「蓄えてきた知識や経験を外部から粉微塵に砕くのはいかんよなあ」


 はあ、とため息をついて、


「俺は、真っ直ぐな馬鹿共がそれ程嫌いじゃあないんだが―――」


 拳をゆっくりと握りこんだ。


「―――潰す決断をせねばならんかもしれんなあ、ガリレオ?」


 返ってきたのは、一言。

 Tes.と。
















あとがき


お久しぶりです、プーです。
何とか続きを投稿出来ました!

工事の関係上、数ヶ月後の更新を覚悟していたのですが、友人の「W○MAXにしたら?」との一言で、こうして予定よりも早く更新出来ました。

原作そのままの部分を出来る限りなくそうと必死にやってみたけど、正直言って無理。
原作そのままではないけど、限りなく原作に近い作品を目指してみようかな、と。(←誰もがやっているとは思うが)


さて、今回は、女王の楯符(トランプ)との相対直前までです。
如何でしたでしょうか?


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ) 十九話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/09/25 15:25
 第十九話:戦場の作り手達




 戦場となる右舷一番艦・品川前部、大型機箱(コンテナ)が並ぶ事で床面となっている倉庫区画で、爆発音が響き渡る。


「やった!?」


 音の発生源は、”グラニュエール”から伸びた蔦の先。
 つまり、英国側からの襲撃者達が降り立った場所であった。


「――やるねぇ」


 顕如は、素直に魔女の技量に感心する。

 爆発した原因は、水の入った瓶。
 それを爆発物にして相手にぶつけたのである。
 勿論、ただ水が入っているだけではこれ程の爆発が起こる訳もない。
 一リットルのボトルの表面には、水温メーターが描かれている。

 そう、書くではなく、描く。
 描くという事は作るという事。
 ものに命を与える事も、失わせる事も可能にする行為である。

 第四特務、黒の六枚翼は水の入った新たなボトルを構える。
 爆発の正体は、


「加熱による水蒸気爆発弾!」


 加熱や加速は白魔術(ヴァイステクノ)の得意分野であり、威力は折り紙付きだ。
 しかし、正面の蒸気、先の一発の効果が薄れつつある中、その向こう側には動く影が見える。
 それも、確実に近づいてきていた。

 ナルゼは、二発目として、ペンで瓶に描いた水温計に赤のメーターを彩色し、
 

「ちょっと待ってくれないか?話がしたい」

「敵に動きがあるのよ?邪魔よ、退きなさい」

「大丈夫。気にするな」


 双方の間に顕如が無防備に歩を進め、Jud.という返答と共に水蒸気と爆風に敵諸共飲み込まれた。





      ●




 
 爆発的に体積を拡大した水蒸気は、爆散の後、武蔵の進行方向故、ナルゼ達の方へと固まってやってくる。
 が、既に荒熱のとれた大気を、ナルゼは肌よりも翼で受け、
 

「どう!?」


 問うた声に答えたのは、正面で荒れた霧風よりも背後の仲間達だった。
 

「ここは我ら武蔵アリアダスト学院の至宝、小柄な吹雪さんを愛でよう会があぁッ――」


 逸ったバカな連中の内の一部が速攻で吹っ飛ばされたようだが、幾らかは前で出ようとする。

 やかましい全員白魔術(ヴァイステクノ)死ね。と、ナルゼが思わず半目になって次の術式を構えた時だ。
 正面の霧が割れるように晴れ、その中から声が聞こえた。


「あああああら、――相手になるのは一人だけのかしらね」


 見れば、距離約十五メートルの位置に、人影が出てきた。

 数は五つ。
 それも、

 ・・・・・・無傷!?


 爆発は熱気で、破片も飛んだ筈だ。
 距離的に見て回避不能の筈だが、立つ影は無傷で、更に


「変態!?」





      ●





 ナルゼの正面、まず近い位置に立つのは、足に巨大な鉄球をつけた痩せ細りの女だった。
 英国の女性制服を締めるように着込み、右の手を平手の形で軽く掲げている。
 彼女は、がくがく震えながら、派手な化粧のついた肉のそげ落ちた顔を歪めるようにして笑みの形にすると、


「”女王の楯符(トランプ)”10の一人、オクスフォード教導院・副長、――ロバート・ダッドリーよ」


 妖精女王エリザベスの周囲のみならず、英国までをも守る集団は、それぞれ”女王の楯符”を名乗り、通神帯にサイトも持っている。
 ロバート・ダッドリーは本来エリザベスの愛人とも言われた男性であり、殺人事件の疑惑等で政界を去る筈だったのだが、女性に就任させる事で混乱は生じていない。

 そして、その後ろにいた人物が前へと出てくる。
 ダッドリーの背後から出てきたのは、長身の彼女よりも頭一つ分大きく、更には、

 ・・・・・・丸・・・・・・っ。

 卵のような形の女であった。

 
『10のひとりー。ふくかいちょー。ういりあむ・せしる――」


 一言一言、息が詰まるようにゆっくりと名乗った。

 続く動きでセシルの前に出たのは、黒い肌の男だ。
 細身だが鍛えた体は、上半身を白のタンクトップに包み、更には腰に細長いケースを二つ下げている。

 この時代に生きる文化系ならば誰もが知っている、


「まさか英国文化系部活の盟主、アスリート詩人のベン・ジョンソンが来るなんて、思いもしなかったわね・・・・・・」

「You、――”女王の楯符”は私の発案でね。なるべく関わっていたいのさ。だから今日は、私の秘蔵っ子でもある――」


 Jud.とナルゼは頷いた。
 ジョンソンの背後に立っているのは一人の少女だ。

 耳の長い長寿族であろうが、後ろで無造作に結った髪、伸びた前髪と顔を隠すメガネ、白衣の下はスカートを着けていない制服のスーツ、サンダル、背負ったザックと下げた紙袋も何もかもを総合すると


 ・・・・・・オタク、にしか見えないわね。


「・・・・・・英国で今最も人気ある作家、シェイクスピアとは思えないわね」

「You、本物の魅力に驚いたかい?――宝石とは正に箱の中にあるものだ。違うかい?」


 紹介されている間、シェイクスピアは手にした文庫本にうつむき、時折何かをつぶやいているだけだ。
 どうにも、緊張感の持ちにくい連中ではあるが、


「下がりなさい」


 ナルゼは背後に手を振って、前に出ようとしていた役職無しの連中を下がらせる。


「英国の聖譜顕装(テスタメント・アルマ)の使い手と、大罪武装(ロイズモイ・オプロ)の使い手が来てるのよ」


 狙いは、恐らく三征西班牙(トレス・エスパニア)と同じく、自分達の戦力を武蔵を舞台にアピールしようという狙いであろう。
 だとすれば、


「噛ませ犬、・・・・・・にはならないようにしないとね。噛ませ犬っていうのは、闘犬に自信をつけさせるために一方的に噛まれるだけの犬のことだもの。相手に対してしっかり噛み合う犬は何て言うのかしらね」

「あ、あら?負ければ負け犬って言うんじゃないの?ねえ?」


 ダッドリーが右の平手を構え、前に出ようとするが、その前に


「いくのー」


 セシルが動いた。
 いや、この場合浮いたと表現した方がよいだろう。
 巨躯にも関わらず、軽く、音もなく足を踏み出し、


「――!?」


 品川が激震し、前部側にいた者達が一瞬で床へと叩き潰された。





      ●





 ナルゼは突然の事態に疑問を持ち、己の術具”白嬢(ヴァイスフローレン)”の召還器であり、自分の術式焦点具でもあるペンの先が赤の光に染まっているのに気付く。
 ペンに仕込んである流体分解式の対術防御式が自動機動している証だ。

 更には、周囲の者達の倒れ具合と自分にかかる力を合わせて思考する。
 上からの圧力に加え、周囲の皆は腰を落とし、膝をつくように倒れていっていた。

 
「重量を増やすのではなく、天に向いた面への垂直型”押し潰し”ね!?」


 頷くように五人の内、シェイクスピア以外が動いた。
 対するナルゼは、自身の翼を左右に折り、周囲に


「全員、可能ならば直立姿勢を取りなさい!それが駄目なら両膝ついて背筋を伸ばすのよ!術式は詠唱系を優先!飛び道具は首より上を狙うこと!」


 そう言っている間にも増してくる重圧に耐えながらナルゼは相手を観察する。
 セシル以外の4人には全く影響がないようであり、またセシルが浮かんでいる。
 セシルの浮かぶ様子は、重さを感じさせず、風に揺れるところからして、


「――まさか。その女、自分の全重量を”分け与える”のね!?」


 ナルゼの指摘にダッドリーがTes.と答え、


「ウ、ウイリアム・セシルは、歴史再現では女王の秘書官であり、良き友人で、しかし妬まれたストレスや激務から過食症になって”英国における肥満の代名詞”とまで揶揄されたのね。め、名誉な身分でありつつ不名誉な扱いを受ける存在に、男達は腰が引けちゃって。そこで推薦されたのが英国一番のフードファイターである彼女。その能力は――」

「とめるものはまずしいものにほどこしをー」

「いらんわあ――!」


 ナルゼが叫ぶと、ダッドリーが前に出ながら右の平手の先端でこちらを指さしてきた。
 彼女は、足音も高く距離を詰めると、


「あああらまあこの堕天、そんなこと言って。ままま貧しいのにね。――胸が。ほ、本来あるべき分くらいの荷重を受けてもいいんじゃないの?それともその程度でフラフラ?」

「く・・・・・・!い、いいのよ別に!」


 ナルゼは重圧に全身を震わせながら声を上げた。


「マルゴットに抱きついて胸に顔埋めるなら、こっちがヒケてた方が都合がいいんだから!」





      ●





 白魔女の背後で聞いていた金髪の小さな自動人形は、


「・・・・・・」


 自分の胸を見て、二回程頷き


「これだとクッションにはならないなぁ~」


 笑顔で呟いた次の瞬間、ルパンダイブを敢行してきた一部のマニアどもを叩き伏せようとするが、


「――役得でした!!」


 敵のかけてくる荷重の御陰で双方共に動きづらく、吹雪は直立、マニアどもは這いつくばっていたので、


「よ、い、しょっ、と」


 スカートから重力制御で取り出した鉄バットでパンチラどもをモグラ叩きにした。





      ● 





 輸送艦上では、表示枠と資格で品川を注視していた皆が、ナイトを静かに見た。
 ナイトは、いやはや、と頭を掻いた。
 そして、彼女はいつもの微笑顔で、


「流石にナイちゃん、抱きつけても顔埋らないから、やんないけどねそんなこと」

「そ、そうですわよね?え、ええ、そんなこと、しないですわよね?」


 どうフォローすべきか迷っているミトツダイラの言葉に、ナイトはうんうんと頷き、


「うん。――服着てるときは流石に無理だからしないかな」

「裸ならやってんのかよ!?」


 いやまあ、とナイトは皆のツッコミを笑いでいなすと箒を浅く抱いて前を見た。
 未だ霧が掛かる品川に対し、彼女は目を細めて眺め、


「ガっちゃん、かなりカリカリ来てるみたいだから、無茶しなければいいんだけど。ガっちゃん、無茶するとホントに無茶するから」


 白魔女とその先を見つめた。





      ●





 ナイトの見つめる先では、ナルゼが


「・・・・・・”打ち払い”の聖術!?」


 ダッドリーに水蒸気爆発による攻撃を仕掛けるものの、


「な、ななんどやっても同じ事よ」


 水の入った瓶は愚か爆発そのものさえもダッドリーの振るった右手によって弾かれる。
 ダッドリーの使う聖術の特性を瞬時に見極めたナルゼは次の手を考えようとするが、


「じじじ時間もないし手短にいきましょうか」


 英国側はその時間すら与えようとせず、


「――え、英国の聖譜顕装(テスタメント・アルマ)が一つ、大手甲”巨きなる正義・旧代(ブラキウム・ジャスティア・ウエトゥス)”」

「――この”巨きなる正義・旧代”、振り下ろす力は、戦場の武器を遠隔操作する。聖譜顕装なので大罪武装ほど効果範囲は広くないけど、数十メートル範囲であるならば・・・・・・」
 

 ダッドリーの声以外の無数の音をナルゼは聞く。
 見れば、周囲にて重圧に潰されかけながらも弓を構えていた射撃手の手にあった弓と矢が、


 ・・・・・・こちらを向く音!?


「解るでしょう?いいい今、貴女、――人質なのね」


 自分の置かれた状況を理解すると、ナルゼには屈辱という感情が渦巻くが、


「手が・・・・・・」


 周囲の射撃手の持つ弓がナルゼに狙いを定めたまま、引き絞られていく。
 このままで終わっていいのか、という思いがあっても何も打つ手がないというのは非常に苦痛である。
 しかし、


「――フッ」

「ななな何が可笑しいのかし――」
 

 白魔女の唇が笑みの形に微かに歪んだのを見て、疑問を呈したダッドリーに一陣の風が迫るが、


「・・・・・・You.女王陛下の言葉を忘れたのか?」

「勘違いをしてもらっては困るが――」


 間に入ったベン・ジョンソンによって襲撃者の蹴りは防がれる。
 襲撃に失敗した人影は、反動を利用してナルゼの隣にゆっくりと降り立つ。


「この航行領域が英国領内であったとしても、今、ここで立っている場所は・・・・・・」


 甲板を指差し、


「武蔵、つまりは極東の領域に他ならない」





      ●





「さて、とりあえずこの場からお前を救い出すために来たわけだが」


 水蒸気爆発に巻き込まれる前と変わらない姿で立っている顕如をナルゼは見上げ、


「何でもっと早く対応しないのよ!?アンタ、馬鹿ね!?」

「・・・・・・背後から無言で爆発に敵諸共巻き込んだ奴の台詞とは思えんな」

「気にするなって言ったでしょ!」

「普通はそう解釈はしねぇ!!」


 いつも通りの遣り取りが交わされるが、


「ちちちちょっといいかしら?」


 この場には英国側もいる。


「む、これは失礼した。何か?」

「You.その反応、相変わらずのようだが、そちら側の戦力としてこの場で戦う、と言うのかい?」


 ジョンソンの問いにJud.と答え、


「何が可笑しい?」


 先程のナルゼとダッドリーの受け応えと同じような事が起こる。
 ジョンソンの笑みと同時に、肩のハードポイントから飛び出したネズミの走狗が顕如に一通の通神を表示し、


「・・・・・・おいおい」


 顕如は思わず天を仰いだ。


「You.女王陛下はサプライズがお好きだ」

「一体どんな内容だったのよ?」
 

 ナルゼが顕如に問うと、表示枠をナルゼの方に向け、


「・・・・・・取り引きってこの事だったの?」


 疑いの眼差しを向ける事はないものの、声に棘が混じってしまう。


「いや、――とは言ってもこうなる事も考えておかなくてはならなかった・・・・・・とでも言うべきかな」


 示されたのは、副会長 本多・正純からの通神。
 内容は、英国女王からの顕如に対する個人的な招待状。

 本来、個人的な事であるならば、断わるべき時なのだが、


「まさか、裏目に出るとはねぇ。仕事が早いというか、手を回すのが早いというか」

「意味はあまり変わらないとは思うがね。――さて、返事を聞こうか?」
 

 ジョンソンに再び、Jud.と返した。


「Tes.非常に光栄な事だ。楽しんでくるといい」












あとがき


本当に久しぶりです、プーです。
アニメがもうすぐだというのに更新が停止してしまっていた・・・・・・。
というか、アニメが凄すぎてこっちを書くのが怖くなったというのがちょいと本音でした。
ぼちぼち進めていきたいとは考えております!!

いつもに比べると短めですが、武蔵攻防戦、英国編終了です。
次回は、妖精女王との遣り取りかなぁ。
十九話のタイトルは原作そのままです。これ以外考えられませんでした。


今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  二十話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/10/11 04:14
第二十話:英国上の旧友

 とある罪人が収監されている塔の上に一人佇む女性。
 何をするでもなく、ある方向のみを見ているに過ぎなかったのだが、


「・・・・・・招待に応じて来たのだが、従者を連れていても良かったのかな?」

「Tes.無論だ」
 

 威厳を示す為の装備を外し、一般の英国学生と変わらぬ白と青を基調とした制服を着た女性は、


「――極東の選択が正しいかそうでないのか。まだ解らぬというのに」

「だからこそ、こうしてもがいている」


 ポニーテールの即答に若干苦笑しつつ、 


「そして、今英国はそのもがいている者達に足をつかまれそうになっている」


 何か反論を口にしようとするのに、更に言葉を重ねて封じる。


「末世が来た時、誰が笑い、誰が泣くのか。はたまた、そうする者すらいなくなるのか」


 ゆったりとした動作で目の前に刺さる一メートル弱の白剣、王賜剣二型(Ex.カリバーン)に手を重ね、


「何も知らぬのは幸福であると同時に罪ともなる」


 あの者達はどちらなのだろうな、と問う間にも王賜剣二型の輝きは増していく。
 背後を振り返らずとも相手の言いたい事が解っているかのように、


「――心配せずとも、約束を違えるような愚かな真似はせぬから安心するがいい」


 溜めた力を解放する寸前に続けて、


「少しばかり現実を思い知らせてやろう」


 


      ●





 顕如は膨大な光の奔流に腕で目を覆うものの、光は直に消え、


「・・・・・・極東の実力を計る、いやむしろ助力をしてくれるのか?」


 王賜剣二型を使用した妖精女王は漸く体の向きを反転させ、


「ほぅ、何故妖精の国が人間、そして近しい異族による身軽の民を助けねばならん?」


 既に、撃沈とまではいかずとも相当なダメージを武蔵に対して与えた者に対する意見とは思えない言葉に少しばかり興味を持つ。
 妖精女王の持つ光り輝く光翼は出していないものの、底知れぬ威圧感を出しながら、


「どうなんだ。答えてはくれないのか?」


 しかし、その目には隠しきれない笑いが含まれていた。
 一般人はおろか役職持ちでも気圧される程の威圧感を感じる中、顕如は顎に手を当てて少しばかり考え込む。
 その様子は女王に気圧されている訳でも、おもねる訳でもなく、


「――全く、面白みの欠片もないのは相変わらずだな」

「生憎、こちらは何時こちらの発言が外交問題に発展するのかヒヤヒヤしてるものでね」
 
「そのような小細工をする筈がなかろう、馬鹿者が」

 
 顕如は肩をすくめ、


「今日の妖精女王は、やけに多弁なようだ」
 
「これは特別サービスだ」


 女王はフッ、と笑い、


「そうだろう?――Long time my friend」

 
 続けて、


「近しき存在でありながら、最も遠い存在になってしまった古き友よ」





      ●





 顕如は女王の言葉に一つため息をつくと、


「それは言わない約束だった筈だ」

「だからこうしてプライベートの時間と場所を用意したではないか」


 武蔵に王賜剣二型をぶっ放すのをプライベートとは言わない、と内心でツッコミを入れながらも、


「それには非常に感謝している」


 素直に感謝を述べる。 
 そこでお互いの言葉が途切れ、間が空く。
 そのため、自然と手持ち無沙汰な両者の視線は英国に落ちようとしている武蔵の輸送艦に向き、


「派手に落ちたなぁ・・・・・・」


 倫敦塔の屋上の端から顕如は武蔵の落下先を見下ろし、


「さて、用事も済んだことだ。部屋に行くとしよう。歓迎するぞ?」

「おお、妖精女王の私室ともなれば、これは一目見ておかねばなるまい」

「馬鹿者、誰が私の部屋と言った。部屋を用意してある」


 軽くあしらわれた顕如は、肩をすくめて既に歩き出している女王の後を追い、


「・・・・・・・」

「そんな所で寝るな。風邪をひくぞ?」
 
「この塔の床が気に入ったのですか?御主人様」


 自動人形に足を刈られて顔面から倫敦塔にキスをした。





      ●





「まだ拗ねているのですか?公式の場ではその顔を止めて下さいね、御主人様?」 

「全く、誰がやったせいだと思ってる――」

「私です」


 案内された部屋、といっても女王の私室ではなく普通の部屋の中、


「・・・・・・こんな事になるなら全員連れてきた方がよかったか?」

「御主人様なら可能でしょうに」

「出来ないから言ってるんだろうに」
 

 巨乳おっとり系の自動人形、山城が見た目ほんわかとした笑みを浮かべながらベッドメイキングをし、


「外交特使に鈴とは副会長も考えたものだなぁ。護衛も本多 二代とアデーレとくれば申し分ない」


 テーブルに置かれた紅茶の入ったカップを顕如は傾けながら、


「同じく特使にされてしまったとはいえ、問題は俺の扱いといったところか・・・・・・」


 妖精女王の招いたゲストにして英国への特使。


 ・・・・・・面倒くさい状況になってきた。


 天井を見上げる。
 いつもと違い、顕如の考えている問題が口で言っているだけに留まらない、そしてそれが解決しにくい難事である事が様子から察した山城は、


「・・・・・・何のつもりだ?」

「貴方には喜んでいて欲しい。ささやかな願いですが、その為ならば何でも致します――」
 

 後ろから顕如の首に手を回し、抱きしめた。
 そんな事をすれば、顕如の頭はたわわな二つの果実に当たる。
 その上、元信公の改造によって人と変わらぬ、むしろそれ以上かもしれない感触を得ているそれらを押し付けられ、


「・・・・・・大胆なのは三笠の影響か、それとも元信公の悪戯か」

「何年共に暮らしていると思っているのですか?」


 顕如は確かに、と苦笑し、


「もう、随分と経つんだなぁ」

「せめて貴方の心に空いた穴を少しでも埋める事が出来れば――」


 小声で、貴方の唯一の家族になった意味があります、と続けた。


「いや、それは違う」


 顕如は首に回された手に自分の手を重ね、


「――お前達は既に掛け替えのないものになっている」


 だから、少しの間だけこのままで、と。





      ●





 一方、英国内とはいえ、主人と離された自動人形達は、


黒ロリ『先程の山城からの情報、何故かムカッとするのですが?』

金ロリ『今度ボッコボコにしてみたら?』

あらし『やるなら手伝うぜ?』

悲哀 『では、いっそ監禁でもしてみますか?』

黒ロリ『縄はお任せを』

金ロリ『鞭ならあるよ?』

あらし『バットでもいいんじゃね?』

乳人形『では、それの後で慰めるのは私の役目ですね』

黒ロリ『え?』

金ロリ『え?』

あらし『は?』

悲哀 『あら?』

黒ロリ『・・・・・・それは皆でやりましょう』


 大盛況であった。










あとがき


皆様、お久しぶりです。プーです。
今回はまたまた短いお話、妖精女王とのやりとり&痴話でした。
にしても進まない・・・・・・。

妖精女王が上手く書けてたらいいなぁ、と。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。
感想が書く力の源となっております。


御意見、ご感想心よりお待ちしております。


―――以上



[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】 (オリキャラ)  二十一話
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/10/21 04:16
第二十一話:忘れな場所の忘れず者



 英国に降り立って数日、最早見慣れた光景を見ながら顕如は倫敦塔から伸びる道を歩き、


「・・・・・・はぁ」


 一人ため息をつく。
 鈴と同じく外交特使として正純に指名されたものの、英国内での騒動に干渉出来ず、妖精女王のゲストでもある身では、特使というのは名ばかりのものである。
 鈴達も何も出来ないが、顕如も何も出来ない。
 しかし、ゲストである身として観光くらいさせて欲しいと頼んだところ、周辺なら散策してもよいとの女王の許しを得たので歩きに出たはいいものの、


「こっちはあんまり何もないなぁ」

 
 英国は、オクスフォード教導院を中心に外縁へと向かって第一から第四階層に分けられている。
 つまり、基本的に内陸の方が数値の小さい階層なのである。
 街のある第二階層は様々な店があり、教会があったのでそれなりに楽しめたのだが、


「釣りでもなさればよろしいのでは?」

「道具がない」

「では、貝でも拾いましょう」

「どうしても海まで行くのか?」

「Jud.やる事がないのでしたら、体を動かしておいた方がいいのでは?」

「まぁ、な」


 何時も通りの会話をする筈なのだが、


「――何か調子が狂う」


 ツッコミを入れたり、入れられたりするのが日常の風景の一つに組み込まれているために、


「総長はともかく、他の面子はどうしてるんだろうな」

「柄にもなく、他人の心配ですか?」

「ん?――Jud.そうだな」
 

 山城の問いに普通に返し、


「・・・・・・ちょっと待て。俺、そんなに冷たいか?というかどういう評価されてるんだよ、おい」


 間違いに気付いて言い返すが、


「Jud.風紀として取り締まりをする時は、それはもう」
 
「具体的には?」


 山城は首を少し傾げながら、


「風紀委員長の加納様の御意見では、鬼、変態、鬼畜の三拍子揃っているとの事です―――以上」

「・・・・・・もうどうにでもなれと思える評価だな、おい」


 そんなに酷い行為はしていないと自分では思い込んでいる顕如は、頭をかき、


「申し遅れましたが、もう一つ評価があります」


 頷く事で先を促すと、


「点蔵様曰く、へタレとの事です」





      ●





 輸送艦の落ちた場所からそう遠くない入り江にある、剣が無数に突き立つ場所。
 ある意味、突き立つ剣を墓標に見立てれば墓所とも言える場所で、


「―――ッ!?」


 トーリに言われて”傷有り”と共に墓所に手を加えていた点蔵は、股間への一撃を受けるのとはまた違った、背筋に冷たいものが一瞬走った気がし、
 

「さ、先程の一撃とはまた違った意味で冷や汗が流れたで御座る・・・・・・何なので御座ろうか?」


 何か途轍もなく不吉な予感がしたのだが、何か解らず、


『どうしたど?』

「ああ、いや。なに、ちょっと不吉な予感がしたもので御座ってな」

『ふきつだど?』

「今のは忘れて欲しいで御座る。貴殿らには理解しづらい事で御座ったな」

『おこったど』


 作業をさせていた身長十五センチほどの、三頭身の犬鬼(コボルト)が忍者の股間に向けて近くの石をぶつけた。


「ふぐぉ・・・・・・」


 三度目の衝撃に思わず地面を叩きそうになるが、グッと堪え、


「・・・・・・本当に大丈夫か?」

『なにもないど』

『しごと するど』

「そうか」


 長衣で頭から全身をスッポリと包んでいる”傷有り”が心配して声をかけるが、犬鬼の即答に何の疑問を持つこともなく頷き、


「体調が悪いのなら、無理はしない方がいいだろう」

「Jud.し、しかし、”傷有り”殿、自分は大丈夫で御座る。ちょっと剣の刺さっている所を見てただけで御座るよ」


 


      ●





 痛みを堪える忍者と長衣の人物が作業をしながら、時折会話を交わしているのを、


「よりによって点蔵ときたか」

「Jud.金髪巨乳好きの変態ですね―――以上」


 うむ、と頷くポニーテールは木陰から顔を出したまま、


「共にいる時間が長ければ長い程ばれる可能性は高くなるぞ」


 同じく木陰から顕如の頭の下に顔を出している山城がJud.と応え、


「つまり、このままカップル誕生という訳ですね―――以上」


 顕如は、最近、魔女達の悪影響が顕著だなぁと思いつつ、


「Jud.それはそれで不味いんだが、このまま見ているしかない自分がもどかしい」

「はいはい、Jud.Jud.つまり、楽しくて楽しくてたまらないのですね―――以上」


 妖精女王の手でボロボロになる点蔵様を見るのが、と続けようとするので、そのような趣向を持ち合わせていない顕如は山城をジト目で見下ろすが、


「御主人様の趣向は解っておりますので」


 ニコニコ顔の自動人形が見上げるばかりであり、


「その言葉、信用しよう。この情報は武蔵の連中に漏らしてはいけないぞ?」

「基本的に武蔵との遣り取り自体が禁止されている状況なのでは?」


 相方の返事にニヤリと笑い、


「では、もう少しの間監視を続けよう」

『忍ぶ者にはわからずとも見ている者はいるものである』


 新たに言霊によって気配遮断と特定の相手から姿を眩ますのを強化し、


「あら、バレてしまいましたね」

「え、早ッ!?」


 次の瞬間、何かに足を取られたのか体勢を崩した”傷有り”を忍者が持ち前の要人警護のための技能を駆使して助けた。





      ●





 ・・・・・・金髪巨乳・・・・・・!?


 点蔵は、墓所に無数にある穴の一つに足を取られた”傷有り”が転倒する先にあった剣とぶつかり怪我をするのを防ぐ為に”傷有り”を庇い、


「あ、あの」


 何故か英国の女性用制服を纏った人物を組み敷いていた。
 長衣が完全に肌蹴てしまった部分には、綺麗な金の髪と共に、男性であると思っていた”傷有り”にある筈の無いものが二つ。
 それも、今現在、自分と件の人物との間で軽く圧迫されて押し膨らんだ状態であり、


「ど、どうも、有難う・・・・・・、御座います」


 目の前の光景に頭が真っ白になっている点蔵は、下から聞こえてくる女性の小さな声に、


「・・・・・・”傷有り”、・・・・・・殿?」


 問いかけると、傷有りはわずかに息を詰めた。
 そして、彼女は観念したように、


「Jud.・・・・・・」
 

 眉尻を下げ、 


「あ、あの、その、ええと」


 迷いと戸惑いを隠しもしない声と視線を向けられ、点蔵も彼女同様に、


 ・・・・・・あの、その、ええと、あ―――!!


 想定外の状況にそこそこのパニックとなりながら、しかし一つの感想を得る。


 ・・・・・・随分とキャラが違うで御座るなあ。


 今の”傷有り”には、今までの堅い口調や思い切りのある動作がどこにも見られない。
 ともあれ、女人に覆いかぶさっているのは失礼なので未練はあれど彼女を剥がそうとすると、


「あの」


 ”傷有り”が点蔵の腕を力無い手指で掴んで引き止めた。
 思いもしない事にバランスを崩し、先程以上に身を寄せる事になった点蔵は、頬に彼女の熱ある息すら感じ、


 ・・・・・・あー!コンティニューのコイン入ったあー!しかもコレ連投入ったで御座るー!


 思わずハイテンションになってしまう点蔵に、


「あ、あの、本・・・・・・、お、落ちてないですか?」


 言われた本は、彼女の頭上とも言える、剣と剣の間に落ちており、渡す際に題名を見ると、


 ・・・・・・極東語スラング辞典・・・・・・?

 
「良かった・・・・・・、あの、ミルトンが、”女性だとバレるとナメられるので”って、これを参考にするようにと」 


 呟かれる言葉に、点蔵は反射的に声を上げていた。


「ナ、ナメるとか、そんなこと無いで御座るよ!」

『ナメたらぶちこむど?』


 犬鬼がやかましいのを無視し、


「安心めされい。極東の者達は、貴殿のような御仁を侮ったりはせんで御座る」


 彼女が今いるこの第四階層の代表であると見当をつけた点蔵は、言葉が不慣れだが責任を持ってこの第四階層を守る者として、輸送艦が落ちてからの緊張はいかほどのものであろうかを思い、


「・・・・・・大変で御座ったな。自分と喋るのも、苦労したで御座ろう。それでも言葉を交わしてくれたことに、この点蔵、有り難く思う出御座る」


 すると、不意に、淡く目を見開いた”傷有り”の両の目尻から、涙がこぼれた。





      ●





 ・・・・・・え?


 武蔵での生活がそうさせるのか、反射的にしもうたあー!泣かしたあー!という思いが点蔵の脳に生じた。


「す、すまんで御座る。自分、何か気傷つくようなことを――」

「――あ、いえ、こちらこそ、す、すいません・・・・・・」


 目尻を両の手で拭う”傷有り”の頬の上を、涙が傷跡に沿って流れていく。
 手指にもある傷跡や、節くれに、涙が伝うと言うよりも染みていくのが見え、点蔵は、自分の中の冷静さを取り戻していく。

 心の中に思う事は、


 ・・・・・・よーしよしよし、自分スタートボタンは保持!保持で御座るよ!


 既にダメ人間丸出しの思考であるが、本人は気付かないまま、ゆっくりと身体を彼女から引きはがそうとすると、


「あの」

「は?」


 身体を起こしかけて見えるのは、涙に浅く濡れ、頬を赤く染めた”傷有り”だ。
 彼女は乱れた制服の胸を、まだ戸惑いの残る呼吸で上下させながら、


「私が女だというの、黙っていて頂けませんでしょうか・・・・・・」

「それは・・・・・・、何故?」

「ミルトンや他の者に怒られますし、・・・・・・怖いので」


 ミルトンというのが誰か解らないが、後ろの方が本音で御座ろうな、と点蔵は思う。
 しかし、自分も顔を隠して生きている身分であり、人それぞれ 役目や理由を抱えており、人柄も様々だ。
 何もかも真実が正しかろうと、それによる苦しさはまら別だ。
 だから、
 

「Jud.よう御座る。忍者は秘匿義務を守る職業ゆえ」

「良かったです・・・・・・」


 ほ、と一息ついて目を伏せた表情は、力の抜けた笑みとなる。
 その顔と安堵の呼吸で大きく上がってきた胸に押され、更に、


「ええと、あの、・・・・・・点蔵様で、宜しいのですよね?」


 確認するように問われた点蔵は、


 ・・・・・・”様”づけスタートボタン入ったあ――!


 慌てて身を起こそうとする。
 同時、輸送艦の方から声がした。
 それはトーリのもので、


「おーい、テンゾー!ちょっと頼まれてくれね!?」





      ●





 ”傷有り”は飛んできた声に対し、剣に掛かったフードへと手を伸ばす。
 が、先に点蔵がそれを剣の引っかかりから外して彼女へと送ってきた。


 ・・・・・・あ。


「すいません・・・・・・」


 いや、と点蔵が手で制し、身を剥がす。
 その上で彼は、輸送艦の方に向かって、


「なななな何で御座るか一体!?」





      ●





 点蔵が慌てて全裸の対応にまわった瞬間、長衣のフードの下から”傷有り”は、


「―――?」


 違和感を感じた方へと目をやると、


「―――ぁ」


 小さく声を出すと同時に俯き、フードに隠れるように視線を逸らした。


「見られてしまいました・・・・・・」


 フードの下で、ほんのりと赤く染まった頬を”傷有り”は両手で押さえた。





      ●





 ”傷有り”の視線の先、ちょっとした林の一角、ある一本の木陰から静かに去る影が二つ。


「気付かれたようですが、宜しかったのですか?」

「Jud.向こうは精霊と近しい。忍者は気付かずとも、この周辺だけ流体の動きが止まっている事を違和感として捉える事くらい出来る可能性は考慮済みだ」


 顕如は、それに、と続けて、


「既に正体を知っている身だ。見られたからといって困るものではない」


 追従する自動人形は、頬に手を当て、


「Jud.ですが、女子としては恥かしい思いで一杯でしょうに」

「Jud.確かにそれはあるだろうが、これが何処まで行くのかは解らんからな・・・・・・」
 

 暫く歩いてから後ろを振り返り、


「まあ、面白そうな事が一つ増えた。という事でいいじゃないか」


 顕如の言葉に山城はJud.と返し、


「お楽しみが増えて嬉しく思います」


 では、と顕如の手を取ると、


「次は何処に行きましょうか?」

「はぁ?まだ何処かに行くのか?」

「点蔵様達の観察だけではありませんでしたか。それに態々読唇までやらせたのですからご褒美くらい頂きませんと」


 当然です、と主張する自動人形に、


「・・・・・・仕方ない。行きますか」


 行く当ては無いままに、倫敦塔への道を二人で歩いていくのであった。




















あとがき


お久しぶりです、プーです。
遂にホライゾンのアニメがスタート!!
もう、胸が高まって高まって。

今回は、テンゾーと”傷有り”のポロリ、そして覗き魔の巻でした。
色んなところに突っ込んじゃう顕如君でした。
如何だったでしょうか?

話がドンドン変な方向に行きそうで怖い・・・・・・
アニメが放送されているので、更新ペースを上げていけたらいいなと思っております。


今回もお付き合い頂き有難う御座います。


御意見、御感想、心よりお待ちしております。



―――以上




[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】  第二十二話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2011/12/17 14:36
第二十二話:とある部屋の主従




 気が付くと周りから輝きが失われていた。
 否、正確には輝きではなく、


「暗い」


 唐突に部屋の明かりが消えた時のような感覚であった。
 暗さに慣れていない目では上手く周囲を見る事は出来ず、
 

「風・・・・・・?」


 明確に感じる訳ではないのだが、自分の体を風が撫でている感じがしていた。
 しかし、徐々に目が暗さに慣れてきたのか周囲がぼんやりと見え始め、


「これは・・・・・・跳んでいるのか?」


 地に足がついている感触がせず、浮遊感が付きまとう。
 普通に寝た所までは記憶にあるものの、その後何かしら今の状況に繋がる行動を起こした記憶はない。
 すると、これは夢ではないか、と考えられる。
 普段と違い、冷静な思考が出来ない。
 その原因は、変な状況だけではなく、


 ・・・・・・変な光景にこの嫌な感じは一体何だ?


 先程から何か解らないが、脳が、身体が警鐘を鳴らしているのを感じてはいるものの、


「動かない、だと」


 身体は言う事を聞かず、目を閉じる事すら出来ない。
 出来る事は、唯見て、感じるだけ。
 なす術も無く流されるままに、術式によって緩和されたと思わしき風を受けながら、今見えているものに注意を払い始める。
 前から後ろへと流れていく様々なシルエットは、


「船、いや、戦艦か。だが、それにしては――」


 まるで影絵の世界に迷い込んだかのような感覚にとらわれつつも、目の前に現れたシルエットは戦艦にしてもひと際大きい。
 そして、そこへと向かっているのか、徐々に戦艦は視界の中で大きくなり、


「誰だ」


 そこに立っている人物の影が見えた。
 近づいても未だに輪郭だけしか知覚出来ず、そのまま至近距離にまで達し、


「――ッ!?」


 影に触れる寸前に胸に強い衝撃がきた。
 撃たれたのかもしれない、と気付いたのは、衝撃によって放物線を描きながら影から遠ざかる最中であり、そして、何故かその瞬間


「――これは悪夢か?」


 見えていない筈なのだが、


「は、ハハッ・・・・・・何て、笑えない――」


 一箇所だけ、


「ここで閉幕なのか」


 鮮明な映像が目に焼きつく。
 それは、


「なあ?」


 面。


「――猿」







      ●





 柔らかい布団を押しのけ、顕如は目が覚ました。


「――はぁ、はぁ、はぁ、ぅ・・・・・・・ぅ、ぁあ」


 ・・・・・・何を、見たんだ


 焦点が合わず、フラフラと視線が泳ぎ、口からは声にもならない呻きが漏れる。
 何より、


 ・・・・・・寒い


 悪夢というものは、起きた瞬間には内容を忘れるものであり、顕如も例外ではなく何も詳細は覚えていない。
 唯、刻み込まれた感覚のようなものは残っているようで、血の気が引いていた。
 本能的に己を抱きしめるようにして体温を上げようとするが、全く治まらず、


「御主人様」


 暗闇に飲み込まる寸前で顕如を止めたのは、自動人形であった。






      ●





 無意識でなのか小刻みに震える身体を後ろからそっと山城は抱きしめ、


「御安心下さい」


 一人は作り物、一人は完全に血の気が引いている。
 触れ合う肌は、お互いに冷たく、


「ここに私達はおります」


 しかし、まるで温もりを与えるかの如く包み込む。


「そして、貴方様も」


 かけた言葉の御陰か、震えが治まり、身体の硬直も解ける。


「これからもずっと、です」


 まだ本調子ではないが、幾分正気に戻った顕如の様子を見て、


「風邪をひいてしまいますよ」


 手早く寝巻きを剥ぎ取って、酷い寝汗を拭き、


「何も言わないのですね」


 再び抱きしめる。
 いつもならば、抵抗したり、小言を言うのだが、


「・・・・・・そんな気分、ではない」


 酷く調子が悪い。
 非常に汗をかいたためか、身体は冷え切っており、頭痛も酷く、


「では、今日の正純様達と英国との交渉には不参加と伝えておきましょうか?」


 主の体調を慮る意見に、否と顕如は答え、


「念のため、だ。用意をしておかないとな」


 ふう、とため息を一つつき、身体に鞭打つが、


「動けないんだが?」

「時間はありますので、もうしばらくの間お休み下さい」
 

 しっかりとホールドされている状態では身動きがとれず、


 ・・・・・・この状態は拙い!!


 何よりも問題なのは、今の二人の状況。
 一人は上半身全裸、一人は全裸に後ろから抱き付いている。
 そして、場所はベッド。


「・・・・・・ところで」


 顕如は後ろを振り返らないようにしながら、


「お前、何故着てない?」


 すぐ横にある顔は笑顔のまま、


「暖めるには直に肌を合わせるのが一番と教わりましたので」


 こんな情報を入れるのは魔女辺りと見当をつけ、戻ったら必ずしめようと考えるが、


「ちなみにこれは総長から教わりました」

「Jud.Jud.総長かあ。そっか、そっか」


 いつものように軽口を叩きあいながらも、顕如はどうしても意識してしまう。


 ・・・・・・恨むぞ、元信公


 何処までも手を抜かない、今は亡きエンターテイナーを心の中で非難する。
 何が気になるかというと、


「もう、大丈夫だ。大分マシになったから、休むから。だから、離れてくれ。そして、着てくれ。お願いだから」


 背中に当たるたわわな果実がもろに当たっているのである。
 元信公の改造によって、本物そっくりの質感をもつそれは、あまりがっつく方ではない顕如でさえも刺激されるものがあり、


「何を今更。見てもいいのですよ?もしでしたら、お好きになさっても――」
 
「少なくとも、今ではない!!」
 
「では、後日お情けを頂けるのですね?言質は取りました――以上」

「・・・・・・言葉を選び間違えた」


 しかし、自動人形と人という根本的な部分での壁があるために、非常に困る状況なのであった。
 言い直そうとするも、更にぎゅっと密着してくる山城によって次の言葉を発するタイミングを潰され、


「済まないが、勝手に入らせてもらうぞ。今日の会談で、のこ――」


 何故か唐突に入ってきた武蔵の副会長に目撃された。





      ●





 妖精女王との会談の前に念のために話をしておこうと思って、英国側の許可を得て顕如の部屋へと向かった正純であったが、


「ノックをしても返事がないなんて、まさかまだ寝てるのか?」


 忍者のような特殊な技能を持っている訳でもない正純にとって、部屋の中の会話を聞く事など出来る筈もなく、


「仕方ない。ノックしても反応しなかった向こうが悪いんだから、勝手に入ってもこっちが悪い訳じゃないよな」


 まさか朝っぱらからお盛んという訳でもないだろう、と思い、


「入るぞー」


 ごく普通に部屋に入った正純の目に、


「・・・・・・うむ、何だ、その。誤解するな」


 ・・・・・・変態ってトーリ以外にもいたんだなぁ


 思わず逃避してしまったが、とりあえず、


「ごゆっくり?」

「おいおい、冷静になれ、副会長!!」
 

 上半身裸の男に、その後ろから抱きしめる半裸の自動人形。
 中々に見られる光景ではない。

 故に、


「うん、お前がどんな趣味を持っていたとしても武蔵の一員だよ。多分」

「いや、武蔵の一員って・・・・・・」


 後で通神で送っておこうと考え、少しばかり火照っている頬をそのままに足早に部屋から出るのであった。






      ●





 閉まる扉を見て、


「・・・・・・とりあえず寝よう。色んな意味で疲れた」

「Jud.では、替えの寝巻きを用意致しますのでお待ちを」


 漸く解放された顕如は深いため息をついてベッドに再び倒れこんだ。



















あとがき


お久しぶりです、プーです。
色んな意味で今回は短めでカオスな話となりました。
如何でしたでしょうか。

技量が足りないために自分のイメージが皆様に届くかどうか・・・・・・・
届いたらいいな、と思っております。

悩みどころは、次の会談シーン。
何処まで省けるかなー、と試行錯誤中。


今回もお付き合いいただき有難う御座います。



御意見、御感想、心よりお待ちしております。



―――以上




[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】  第二十三話
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2012/02/27 22:25
第二十三話:英国に集いし者達






「これより、英国、極東の、――教導院間会議を執り行おう」

 オクスフォード教導院の中、静まった広間に妖精女王、エリザベスと武蔵の副会長、本多・正純の言葉が重なる。
 宴の終了と同時に余興はこれまでであると雰囲気が告げる。

 誤解されるような出来事もあったものの、武蔵にいる時に比べれば比較的何事も無く英国で過ごした顕如は、


「厄介な状況だな」



 武蔵は今英国に滞在している。
 いや、滞在しているという言葉は正確ではなく、


「ねぇねぇ、ケンちゃん。この状況って微妙に詰んでない?」


 マルゴットが問いかけてきている通りに、会議の状況は進んでいる。


「Jud.確かにその通りかもしれないな。武蔵は航行のために必要な物資の支援を受けられなければ、動けない鉄屑同然だ」


 英国での補給を済ませて大罪武装の回収に向かいたい極東側からすると、英国から出航許可を貰わない限り動く事が出来ない状況は非常に好ましくない。
 武蔵を動かす事は可能であっても、安全な寄港地としては一番近いであろうIZUMOへ辿り着くまでの流体貯蓄すらないのが現状であった。 


「英国は、武蔵の喉下に刃を当てている状態だから脅し放題と言ってもいいかな?」

「またまたぁ、ケンちゃんちっともそんな事思ってない癖に~」


 ナルゼと軽くイチャイチャしながら顕如に話題を振るマルゴットに顕如は半眼で、 


「・・・・・・で、何故ここにいる?」

「え~、だって~」

「だって、ではないだろう」

「そうよ」


 マルゴットの胸に軽く顔を埋めながらナルゼがきっぱりと、


「そっちが出て行くべきなのよ。それくらい空気読みなさい」


 Jud.Jud.と顕如は頷き、


「――帰れ」


 顕如は自分の斜め前に座る白魔女を呆れた眼で見つめるが、当の本人は相方の胸にご執心でまるでこたえていない。
 本来、副会長と妖精女王が話している最中に声を出して喋る事は出来ないのだが、


「まあまあ、ケンちゃん。抑えて抑えて。いつもの事じゃない」

「全く。連絡係としているからこの部屋に入れるものを」


 顕如は英国内での争いにはあまり関与してはならない、との事で別室が用意されていた。
 そこで、副会長が会議の進行状況を知らせ、何かの時の手助けとなるためにマルゴットを連絡役に寄越したのであった。
 マルゴットが行くなら、とナルゼも当然のように付いてきて、今の状態となっている。
 英国側も、直接的な関与がないのであれば、と黙認している。


「賑やかでよろしいのではないでしょうか?」


 マルゴットと同じく微笑みを絶やさず侍女として動いている山城が意見すると、


「それはまた別だと思うのだがなぁ」


 しかめっ面ではあるものの、何処か折れる気配が漂い、


「ねぇ、マルゴット。最近更に関係がヤバイ方向にいってる気がしない?」

「Jud.ナイちゃん思うに、あれはもできてる可能性もあるかも。英国に来てから変わった感じ?」

「聞こえてるぞ」
 

 生憎、二人で納得しあう百合嬢達の会話は狭い部屋の中では案外聞こえていたりする。
 二人は、こっちが聞いていると分かった瞬間、お互いを守るようにギュッと抱きしめ合い、


「ケンちゃん、ステイ、ステイ」

「駄犬は黙ってなさい」

「どっちにしても俺は犬扱いかっ!!」


 まさかの点蔵やミトツダイラと同じく犬扱いを受けようとは夢にも思わなかったため、


「この腐女子どもめ、今度こそ覚悟しろ。・・・・・・武蔵に帰ったらな」


 脅しのつもりで言ったのだが、


「Jud.何時もの事だしね~」

「Jud.そうね。あの追いかけっこが訓練になるなんて夢にも思わなかったけど」


 自分達のスキルアップのための手段とされてしまっていた。
 その対応に、顕如は何も言葉が続かず、


「あれ~、もしかしてケンちゃんビックリしてる?」

「これで一泡吹かせたってのは納得がいかないわね」


 ・・・・・・極東の連中は着実に前に進み、成長もしているのか。


 双嬢の戸惑いを余所に、独りずれた感想を抱き、


 ・・・・・・全く、身も心も極東と共にあるとは未だ思えず、か。


 悪い癖だ、と思い直し、話を合わせるために、


「――ま、まあ、コレまで以上に啼かせてやろう」

「変なケンちゃん」

「怪しいわね」


 思わず変態的な言葉を口走ってしまう。
 梅組の面子ならば、必ず食いついてきそうな言葉を発してしまったが故に、 


「キョロキョロしても、ここには誰も入ってきていませんよ?御主人様」


 ついつい誰か双嬢以外にやばい面子が聞いていないか確認してしまい、侍女につっこまれた。


「――嫌な癖がついてるな」


 流石は武蔵、いや梅組、と口にする顕如に、


「あ~、ケンちゃん。ここで残念なお知らせが一つ」

「・・・・・・そういえば、梅組面子がここにもいたな」


 マルゴットが手元の表示枠をこちらに向け、


金○:『あれ~、もしかしてケンちゃんビックリしてる?』

●画:『これで一泡吹かせたってのは納得がいかないわね』

金○:『破戒僧:――ま、まあ、コレまで以上に泣かせてやろう』

貧従士:『うわっ、流石は風紀』

あさま:『あ、あの、今はそれどころじゃなくて、ええと、その』

俺:『おいおい、別室でイチャイチャってか』

銀狼:『あの面子でそれはないとは思いますけど』

●画:『組み合わせは固定だけど、イチャイチャならあるわよ』

あさま:『副会長:顕如の発言が微妙に邪魔なんだが・・・・・・』

俺:『あっれ、セージュン。もしかして、そういうのに興味のあるお年――』

俺様が退出されました。

あさま:『ふぅ』


「――俺はどう反応すればいいんだ?」

「Jud.とりあえず、みんなに謝ればいいと思うな」


 変な部分だけ抜粋している黒嬢が悪いと思い、デコピンでもしてやろうとするが、


「何もお前の伴侶を取ろうなんて思っちゃいないから、そう睨むな」

「ジーッ」

「口に出さんでいい」

「もっと面白い反応を期待したのに・・・・・・期待はずれね」

「とことん舐めてるな、お前」


 ここで何の事か分からないといった風に、ちょっと首を傾げるのが白嬢クオリティ。
 拳を握ろうとすると、


「何故ここでナイフを?」

「このケーキを八等分に切る事でストレスを発散させて下さい」

「・・・・・・頭が痛い」


 最近、皆のおもちゃにされている気がしてならない顕如は、結局ナイフでケーキを切り分け、


「有難う、ケンちゃん」

「駄犬にしては上出来ね」

「お前は口が過ぎるんだよっ、いつも!!」

「では、次はこのパイを――」

「何で侍女が侍女の仕事をしないっ!?」

「それは、主にお情けを頂くのは侍女にとって最高のご褒美ですので――以上」


 変なタイミングで自動人形としての本来の口調に山城は戻り、


「くっ、英国に来てから調子が狂いっぱなしだ!!」


 いじる側にはなっても、いじられる側にはあまり立たなかったために、


「ケンちゃんいじるの楽しい~」


 また、顕如をいじっていたのは従者である五体の自動人形が主であったので、梅組面子からの攻勢に対する耐性はついていなかった。
 ぐぐぐ、と歯噛みをしていると、マルゴットはケーキを口に入れ、


「と、まあ、いじるのはこれくらいにして。状況が動いたみたいだから報告するよ」

「Jud.漸くか――」


 はぁ、とため息をついて疲れた表情を見せる顕如に、


「う~ん、今、三征西班牙が乱入してきたね~」

「いくらなんでも端折りすぎだろう」


 あまりの適当さ加減にツッコミを入れてしまうが、


「Jud.でも、ケンちゃんなら大体流れは予想できるでしょう?」


 こちらの実力を把握している返され方をされると、


「Jud.副会長の事だ、得意の弁論で強気に出たんだろう?」

「そうそう、それで武蔵撃沈するぞって脅されて」

「だが、英国はアルマダ海戦を控えているが故に、武蔵に手を出せない、と」


 Jud.とマルゴットが答え、


「で、英国を、武蔵の貿易拠点にするって流れ」


 なるほど、と顕如は思う。
 何故ならば、英国と各国を結ぶ交易ルートが新たに設けられ、英国と極東の二国が短期ではあるが莫大な富を得る事ができる。
 そして、その冨を英国がどのように使うのかというと、


「外界への開拓、か」

「Jud.流石は情報通。話が早い」


 大罪武装保有国は強国であるが、経済事情や戦争により、外界への開拓に対して資金を回せていないのが現状である。
 また、外界への進出が不能であるが故に、極東の暫定支配が起こっているため、


「外界への開拓のための資金を稼がせ、外界への開拓を可能とし、最終的には極東の暫定支配自体をなくすのが目的、となるか」

「Jud.その流れはまずいものだから、三征西班牙が出張ってきたってわけ」
 





      ●





 英国と極東の会議に乱入した三征西班牙の面子は、


「誾ちゃん、荒事は頼んだぜ」

「Tes.ですから、書記は交渉に専念してください」


 Tes.と答える書記ことディエゴ・ベラスケスと立花・誾。
 交渉なんて面倒事はあまり得意ではないのだが、三征西班牙の未来がかかっているため、

 
「武蔵側に言いたいんだけどよ?――お前達さ、どうして英国と戦争しねえんだよ?」





      ●





 別室で、腰を上げた顕如は、


「これ以上は面倒になる。俺も行った方がいいだろう」

「ん~、でも、ケンちゃんは不干渉の立場じゃないの?」

「Jud.その通りだが、これは最早英国の事情だけではなく、極東の事情にまで波及している」


 ならば、介入の余地はある、と。





      ●





「一つ聞きたい。これは恐らく、君達へのヒントになるかもしれないんだけど」

「”花園”(アヴァロン)に行った事はあるかい?」

「え・・・・・・?」

「知っていても見た事がない、・・・・・・というところだね?Tes.、じゃあ――」

「まだその程度だという事だよ」


 しかし、顕如が会議の場所へと辿り着いた時、意外な訪問者が更に場をかき乱していた。
 扉を開けた顕如主従コンビと双嬢に皆の視線が集まる中、一人だけ、いや二人だけ、


「・・・・・・ああ、そういえばいたね」


 歩みを進める足音のみが響き、


「どういうつもりだ?貴様はここにはこれない筈だが?」

「Jud.この会議の冒頭ではそうであっただろうが、今は既に極東の事情が大いに混ざっている」
 

 故に失礼するよ、と顕如は妖精女王に返し、


「まさか、傭兵王まで来ているとはな。予想外だ」

「そうだね――」


 ゆっくりと振り向くのは、


「まだ生きてたんだ」

「Jud.生憎な、前田・利家」


 M.H.R.R.(神聖ローマ帝国)に補助に入っている、P.A.ODA所属の六天魔軍その人であった。





      ●





 振り向いた利家は、笑みを浮かべながらも、


「もうすぐ、決着をつけよう。いや、つけるよ」

「そうか」


 その瞳には笑いの欠片もなく、


「ああ、そうだ」


 今思い出したかのように付け加えた。


「君達はまだ、コレの正体を知らないようだね。――武蔵副会長?」

「――」


 妖精女王の眉が跳ね上がるが、背後のために見えない正純は何の事か分からず、


「どういう事だ?」


 利家は、その反応を見て、満足したように頷き、


「有益な情報を有難う。まだまだ君達は、この極東の全てを知らない。ぐるぐるぐるぐる極東の上を回っていても、ただ回っていただけだ。ヴェストファーレンはさぞ遠くにあるだろう」


 そう言って、利家が硬貨を落とそうとした時、


「前田・利家」





      ●





 その呼びかけに、動作が止まり、


「何の用だい?君とはこれ以上話す事なんてない筈だよ」

「Jud.故に、これはこちらからの一方的な宣言だ」

「へえ」


 興味深いモノを見る目で、顕如を見ると、


「これは武蔵の皆への宣言でもある」

「望まれぬモノが何を――」

「故に、だ」


 望まれぬ存在であったが故に、今までのように


「ここにいていいだろうか、とは尋ねない」


 周囲を、今までに繋がりができた人々を見回し、


「ここにいようと、そう決めた」


 この繋がりを失いたくはないが故に。


「そして、今こそ言おう」


 生きる喜びを知らなかった自分が、今では生きる喜びを知った。


「この命、極東のために燃やし尽くす、と」

 
 生きる目的を見つけ、守るべきものを手に入れた。


「・・・・・・それは、世界のため、ではないのかい?」

「今の極東は、末世を救うために動いている」


 そうか、と利家は静かに哂い、


「では、精々足掻くがいいよ」


 言い放った直後に全裸に後ろから抱きつかれて頭をぐりぐりされている顕如を尻目に、改めて硬貨を落とし、


「さよなら。妖精女王、募兵の支度金は、キャンセル料として貰っておくよ。あとは・・・・・・」


 利家の背後に現れた二境紋に驚く武蔵の面々に、


「良い戦争を、――まだ何も知らぬ者達よ」


 その言葉と共に、利家の姿がかき消えた。














あとがき


やっと復活~。
お久しぶりです、プーです。
アニメも随分と進んでしまいましたが、こちらも負けじと遅ればせながらも何とか更新。

さて、今回は顕如と双嬢、顕如と利家、の巻でした。
にしても、顕如は現在、双嬢が一番絡ませやすいと再認識^^;

ホライゾンのssが増えてきたのは非常に喜ばしい事。
こっちも更新頑張りますよ~!!


今回もお付き合い頂き有難う御座います。

御意見、御感想、心よりお待ちしております。




―――以上







[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】  第二十四話 
Name: プー◆7975d3dc ID:b1855b80
Date: 2013/02/24 04:35
第二十四話;夜月下に踊る影


 
 二境紋の出現で一時はざわついたが、場の流れは徐々に元へと戻り、


「さて、こちらの出番は終わりのようだ。邪魔者は早々に去る事としよう」


 失礼する、と言って顕如は退出しようとするが、


「どうした?副会長」


 顕如の肩に手を置いて正純が止める。
 正純の言いたい事は凡そ見当がついたが、敢えて惚ける。
 すると、二人して妖精女王に背を向けたままで、正純が顕如の耳元に寄り、


「お前には聞きたい事がいくつも出来たが、今は勘弁してやる」
 

 だから後で絶対に話せ、と肩に手を置いた正純の目が語っていた。
 しかし、顕如にも話しづらい理由があった。
 故に、


「Jud.その時が来れば」


 誤魔化した答え方になり、 


「そして、その時は近い」


 そのまま逃げるようにその場から忽然と姿を消した。 





       ●





「あいつ・・・・・・」


 支えていたものがなくなって空を切った手が泳ぐ。
 先程の顕如の行動は、極東の仲間への説明責任放棄であるが、それと同時に自分達、いや己自身が如何に仲間の事を知っていないかを考えさせられる出来事でもあった。
 そして、何よりも、


 ・・・・・・もっと精進しないといけないんだなあ


 政治家として、副会長として、知らない事が多すぎて顕如の抱える問題を考えるための土俵にすら立てていない事を思い知らされる。
 P.A.ODAについてもっと情報を知っておけば、何かしらの糸口をつかめたかもしれない。
 前田・利家の言っていた花園(アヴァロン)一つをとっても顕如と自分とでは情報量が違いすぎる。
 だから、そのためにも


「まずは目の前の事から一歩一歩だ」


 頬を軽く両手でパンッと叩いて気合を入れ、妖精女王の方に向き直り、


「さて、再開の準備は出来たか?武蔵の副会長」

「Jud.続きを始めようか、妖精女王」


 会議に臨みつつ、正純は思う。


 ・・・・・・似合わない台詞だったなぁ




      
      ●





 会議の場から抜け出した顕如は、大広間からそう遠くない通路に背を預けて一息つく。


「やれやれ、流石にあそこで宣言したのは少しばかり早計だったかな?」


 自問するように口から出た言葉に答える声はない。
 側には侍女が控えているが、侍女は主の問いに答える事は出来ない。


「唯、主の御心のままに――以上」


 口論をする事もあるが、主の選択を曲げる事はしない。
 主の選択した道で最大限のサポートをする事が彼女達に与えられた使命だからである。
 如何に感情を部分的に持ちえているとはいえ、所詮は自動人形。
 ホライゾンのように壁を乗り越える事が出来なかったが故の失敗作であった。
 自分との生活で影響を与えられたのであろうか、与えられなかったのであろうか。


「いかんな」


 悪い方向に考えそうになったので、一旦それを頭から振り払い、


「山城、先程の行動で武蔵の住民からの評価は下がるか?」

「Jud.感情を数値化は出来ませんので正確な事までは推測不可能ですが、少なくとも上がる事もなければ、下がる事もないでしょう」

「ふむ、これまでの行いが良かった御陰、いやその所為と言うべきかな」
 
「Jud.Jud.面白くもない冗談はそこまでにしましょう」


 微笑みのまま言われる事のダメージを顕如は噛み締めつつ、


「既に先の対三征西班牙戦から評価が下がり続けているため、か」


 Jud.と山城が答える。
 英国上陸前に行われた対三征西班牙戦では、何とか負けなかったが得るものもなかった。
 三河での一戦では、三河の姫であるホライゾンを取り戻した。
 しかし、前回の戦いでは得るものがない上に、一方的な損害だけを受けた。

 実際には、向こうの人員に被害が及んでいるので一概にそうとは言えないのだが、一般住民の見方は違う。
 自分達の町が破壊されただけの戦果に対して満足する筈もなく、不満が噴出した。

 時期も悪かった。
 丁度、総長であるトーリが成した大罪武装回収宣言、別名世界制服宣言に乗り出した直後でもあり、極東の住民一人一人まで覚悟が行き渡っていなかった時期であったのだ。
 ホライゾン奪還の時には高まっていた感情も、少し時間を置いてクールダウンし始めると、やってしまったと思う者も多くはないだろうが少なくもない筈である。

 そして、負の感情が相まって向けられる矛先には、作戦立案兼指揮官であったネシンバラがいた。
 自分の不安等をぶつける場所に、ネシンバラは丁度よい立場であったのだ。

 あの時、このようにしていれば・・・・・・。
 自分ならばこうしていた・・・・・・。
 何故、このように無様な結果になったのか・・・・・・。

 勝手な評価や批判が飛び回る結果となる。
 前線にいたナルゼや顕如にも矛先は向けられたが、一兵士と指揮官という立場上、叩かれる度合いが違う。
 当然、上の立場となる指揮官の方が圧倒的に叩かれやすい。
 その上、

 
「シェイクスピアによる呪い・・・・・・か」


 シェイクスピアによってかけられた、マクベスの呪い。
 シェイクスピアの代表作の一つであるマクベスでは、登場人物のマクベスは王を殺して王位簒奪をする。
 そのマクベス役をネシンバラが演じるように呪いをかけたのだ。

 つまり、ネシンバラが王であるトーリをあらゆる手段をもって攻撃し、最終的には死に至らしめる。


「成る程、こちらの介入を嫌がる訳だ」


 浅間による祓いも呪いが穢れと認識されないために無効化されている中、唯一対処法を持つのが顕如である。
 シェイクスピアが仕掛けたといえど、呪いも元をただせば流体からできた産物。
 流体そのものに働きかける言霊が有効でない筈がない。
 完全に呪いを無効化は出来なくとも、少しの間抑える事くらいは可能であろう。

 極東が本当に自らの意思を貫けるのかどうかを試している可能性も無きにしも非ず。
 その延長上にある、英国の利益になるかどうかという問題の天秤にかけられている。
 遊び好きの妖精が好みそうな状況という訳である。

 その半面では、生まれたての小鹿のように未熟な極東をある程度の水準にまで引き上げる起爆剤とも成り得るのである。
 確かに少しでも力や経験を得たい極東からすると有難い事ではあるが、有り難味が微塵も感じられない。
 
 嫌な予感はしていたが、予想以上にまずい展開に舌打ちしたくなる。


「とりあえず、行くか」

「Jud.当てはあるのですか?」


 侍女の問いに無論だと顕如は返し、


『発条を巻く時間は終わった』


 先程までピクリともしなかった衛兵が動き始めるのを背に姿を眩ませた。





      ●





 眼を凝らせば、何とか英国が視認できるくらいの場所に位置する小島に停泊する数隻の船。
 明かりもエンジンもつけずに暗闇の中、ひっそりと寄り添っているのはどう見ても怪しい筈なのだが、


「単なる漁船にしか見えんな」


 パッと見ただけでは、これが何のためにここに集まっているのか判断できない。
 アルマダ海戦を控えているので戦闘が起こる可能性が高い中、漁をする者なのかもしれない。
 しかし、


「これが他にも無数にあるとなると話は別だ」


 木陰から船を見下ろしていた顕如がそう呟いた瞬間、


「おっと――」


 左手を斜めに軽く上げる事で、山城の行動を制止する。
 何かに反応しかけた山城は、一旦構えを解き、


「お会いできて光栄ですよ」


 顕如はゆっくりと振り向いた。
 その先には、


「全く、敵わないなぁ」


 三征西班牙特有の赤い制服を身に纏った、眼鏡の中年。


「――フェリペ・セグントさん」

「――顕如君」






      ●





 顕如と山城が向き合うのは、 


「来るとしたら君だろうとは思っていたよ」


 三征西班牙の総長、フェリペ・セグント。
 見た目はくたびれた中年であるが、


「読まれていましたか。これはとんだ失態だ」

「いやいや、僕みたいに無駄に年ばかりくうと疑り深くなるんだよ」

「何を仰いますか。豊富な経験の間違いでしょう」

「こんな僕よりも経験豊富で有能な人は一杯いるさ」


 お互いに上辺だけの会話をしながらも場の空気は張り詰めたままであり、


「ところで、セグントさん。一つ提案があるのですが」

「Tes.そうだね。このままというのはしんどいからね」


 セグントは顕如の言葉に一つ頷き、


「とりあえず、僕の後ろから狙っている自動人形をどうにかしてくれないかな」

「Jud.では、こちらを遠巻きに囲んでいる狙撃手の皆さんをどうにかしてくれませんか」


 セグントと顕如は、お互いの言葉に応じて、


「Tes.みんな、武器を下ろすんだ」

「Jud.有明、武器を仕舞って出てくるんだ」


 周囲からの重圧が消え、そしてセグントの背後から足音をたてずに自動人形が現れる。


「どうやら、考える事は一緒のようでしたね」

「みたいだね。でも、よく気が付いたね」


 お互いに苦笑をしつつ、


「Jud,予想ですよ、予想。ここが本丸だとすると、守りが堅くない筈がない。そちらこそ、よく気付きましたね」


 予想外だと顕如が感心すると、セグントはハハハと力なく笑い、


「Tes.君と同じさ。これも予想だよ。君が単純な行動をする訳がない」

「これは手厳しい。忠告と受け取っておきますよ」
 
「そんなに大層なものでもないよ」


 他愛無い会話をしながらも、両者は緊張感を緩めず、


「このままではいつまで経っても本題に入る事が出来そうにないようなので、ここに来た目的をお話ししましょう」


 先手を打ったのは顕如であった。
 肩から力を抜いて、警戒を解いて純粋な話し合いである事をアピールしつつ、


「これからどのような戦を仕掛けるのかは分かりませんが、その戦をセグントさんの側で見せて頂きたい」

「僕の側で見る・・・・・・?」

「Jud.そう、貴方の采配を、貴方の後姿、如何ほどの覚悟なのかを見せて頂きたい」
 

 無意識の内に声のトーンが高くなり、理性的な口調が崩れているのに顕如は気付かず、


「可笑しな話ではあるのは重々承知の上。敵の、しかも大将に向かってこのような冗談とさえ言えない発言をしてでも、私にとっては必要なんです」


 いつしか手振りも加わり、


「今後の為にも、私には必要なのです」


 前のめりになり、


「だから、捕虜でも何でもいい。何も出来ないように拘束したままでもいい!武蔵に不利になってもいい!!」


 遂には、


「お願いします」





      ●





「僕と君とでは、状況が異なるかもしれない――」


 落とした膝は地に付くことなく、


「――でも、僕みたいな者でも役に立てるのなら」


 反応出来なかった事に混乱する自動人形を余所に、


「少しくらいなら手助けは出来るかもしれないね」


 レパントの英雄は少年を立ち上がらせた。





      ●





 しかし、セグントは掴んでいた肩から慌てて手を離し、 


「おっと、失礼な事をしてしまったようだね」


 ハハハと照れを隠すように弱く笑い、


「それにしても、君達はさっき僕を払いのけなかったね」

「・・・・・・Jud.視覚では認識していたものの、主の身を守る為に行動が取れませんでした」


 何故か分からないといった様子の自動人形に、


「良い環境と主人を持ったようだ」


 学習する事で、人間と同様とまではいかずとも感情のようなものが自動人形に宿るのかどうかは聞いた事がなかったが、


「松平元信は何処まで手を伸ばしていたんだろう」


 少なくとも、先程のセグントの顕如を抱きとめる行動を止めるかどうかで見せた躊躇いのような動作は人間くさかった。


「ほら、顕如君。こっちに来るといい。こちら側の不利になるような行動をした場合は容赦なくその命を絶たせてもらうけど、いいかな?」


 Jud.と答える顕如に一つ頷くと、セグントは船に向かう。
 向かう途中で、周囲で狙っていた内の一人が近づいてきて、


「大将、本当にあんな奴を側に置いとくのかい?」


 誰もが持ったであろう疑問をぶつけるが、セグントはため息を一つつき、


「あの目を見ただろう・・・・・・」


 Tes.という答えに続けて、


「死を恐れないんじゃない、死を望んでいるかのような。もしかすると、死に場所を見つけたかのような――」


 一度言葉を区切り、一息置いて、


「――何かしら覚悟を決めていたようだ」


 ・・・・・・僕には断れないよ
 

 分かってくれという雰囲気が伝わったのか、彼はそれ以上何も言わずに船へと戻った。
 
 仲間の一人の後姿を見送りながら、セグントは先程は出さなかった言葉を漏らした。
 僅かな、本当に僅かな大きさで、


「言えないよね・・・・・・」








 あの目が僕と似ていただなんて。






















あとがき


お久しぶりです、プーです。
皆様、元気で御過ごしでしょうか?私は元気でした!
長らくお待たせいたしました。
去年の内に投稿したいなぁと思っておりましたが、納得のいく感じに仕上がらず、書いては気に入らず書いては気に入らずの繰り返しになっていました。
これが良いのかと言われると自分では判断のしようがありませんが、何とかプロットに沿う形になったかな~と。

原作のシーンを出来る限り避けていくとこんなルートに迷い込んでいる・・・・・・。

さて、今回は三征西班牙の総長、出来る男でカッコイイオッサンの登場の巻。
相変わらず何処にでも突っ込んではフラグたてまくる顕如。

ちなみに、顕如がセグント発見に至る経緯は次に持ち越しの予定です・・・・・・。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。

御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上



[19306] 【ネタ】【習作】境界線上の総務 【境界線上のホライゾン】  第二十五話  最新話
Name: プー◆7975d3dc ID:b75e8c33
Date: 2013/02/24 04:45
第二十五話:月下の孤立者



 月明りの下、ひっそりと息を潜める三百メートル級の艦上に降り立ったセグントは一息つくと、


「さて、多少歩きにくいかもしれないけど少しばかりの辛抱だ」

「Jud.このまま空へと放り出されるのでなければ構いませんよ」

「Tes.流石に今それをすると後始末が面倒くさそうだ」

「Jud.それは確かにそうかもしれませんね」
 

 軽口で答えるのは、目隠しと手枷をされた顕如。
 その後ろには、同じように拘束されている自動人形の姿があった。
 

「今の内に条件の確認をしておこうか」

「Jud.こちらは貴方の戦い方の見物をし、その間は見物以外の行動を起こさない。これでよかったでしょうか?」


 Tes.とセグントは頷き、


「簡単には、ね。見物は申し訳ないがこちらからの一方的な通神越しで頼むよ。流石に、君を僕の側に置いておく訳にはいかないからね」

「Jud.残念ではありますが、それは仕方ないと諦めますよ」


 映像が見れるというだけでも収穫は非常に大きい。
 最悪、音声のみでも情報としては十分な価値がある。
 優秀な指揮官の指揮、それも三征西班牙の最高指導者であるフェリペ・セグントのものとなれば貴重どころではない。
 機密情報そのものである。


「しかし、何度も確認してしまうのですが、本当に貴方の指揮を私が見てもよろしいのでしょうか?」

「ははッ、本当はダメなんだろうねぇ。いや、ダメに決まっているさ」


 普通ならば、拘束して人質として交渉に使うくらいはしても可笑しくはない筈なのだが、どうしてかセグントは顕如の要望を受け入れた。
 いくら条件として顕如が一切アルマダ海戦中に行動を起こさないとしても、この対応は理解できなかった。
 顕如が言い出した事とはいえ、随分とあっさり過ぎる。
 頭に疑問符が浮かんでいるのが想像できたのか、セグントは苦笑いしつつ、


「君を見ていたら、共感というか何というか・・・・・・そんなものがあった、と言っても分からないだろうねぇ」


 Jud.と答えつつも困惑を隠せない顕如を見て、一つ小さなため息をついて、


「さて、この話はここまでだ。君達の待機場所に着いたから、目隠しと拘束を解くよ」





      ●





 目隠しを外されて目に飛び込んできたのは、通神の明りであった。
 少しずつ目を慣らして、何とか普通に見る事ができるようになった顕如を待っていたセグントが口を開く。


「ここは、生憎客室じゃないんだけど勘弁してもらえるかな?誰にも見つからない場所というと限られてくるからね」

「Jud.こちらは大人しく従いますよ」

「Tes.なら、もうすぐ戦争が始まるから僕はいくよ。通神はアルマダ海戦が始まってから流すからね」


 Jud.と答えると、セグントは一つ頷いて部屋から出て行った。
 窓一つさえないために、通神が消えると暗闇のみとなる。

 約束した手前、顕如は行動を起こせない。
 侍女も同じくである。


「有明、ここが何処か分かるか?」

「ご主人様、分かって聞いているのでしょうか?」

「何をだ?」


 顕如の返答に、自動人形はため息一つ、


「そうでした、馬鹿でしたね。ご主人様は馬鹿でしたね」

「重要な事なので、二度言いました」

「もしかすると、と思って聞いただけなのに酷い言い草だな」


 有明の言動に便乗する山城にそう返しながら顕如は床に寝転がる。
 板の上のため、背中が少々痛いが気になる程ではなかった。


「さて、これからどうするか・・・・・・」

「言い訳を考えなくてはなりませんね」

「Jud.それが今のところ最重要案件だ」

「毎回、敵陣で捕らわれていますので、いい加減頭が可笑しいと言われても仕方がありませんね」


 山城の包み隠さぬ言葉に全く反論できないが、


「す、少しはオブラートに包んでくれないか?山城」

「Jud.Jud.これはもっと欲しいというフラグですね?」

「お前らは一体何処で道を踏み外したんだ・・・・・・」


 雑談で時間を潰していると、


「・・・・・・いきなり顔にへばりつくな」

『Pi?』


 頭の上でもぞもぞしていた走狗が足を滑らせたのか顔にへばりついた。
 暗闇とはいえ、自分の顔の位置くらいは分かるので起き上がって走狗を引っぺがすと、


「ん?遂にきたか」

「Jud.これで光源確保ですね」


 走狗が通神を開いた。
 今は流されている通神の方が重要なので侍女の一言をスルーし、


「これは・・・・・・”超祝福艦隊(グランデ・フェリシジマ・アルマダ)”の映像か?」


 届いた映像から分かったのは、比較的大型の戦艦の後ろ姿が多数。
 セグントの側から送られている筈なので、旗艦は後方にいるのかと推測していると、


「あら?これは武蔵ですね」

「Jud.・・・・・・武蔵が三征西班牙艦群の間にいる?――いや、違う」


 後姿の三征西班牙艦隊が武蔵の向こう側にいるという事が示すのは、


「・・・・・・艦隊を二つに分けたのか?」


 咄嗟に考えついたパターンは二つ。
 武蔵を挟撃しようとしている場合と、武蔵というよりはアルマダ海戦からの艦隊の一部離脱という場合。

 思考の出鼻を挫かれた顕如は、困惑しつつ通神に映し出されたセグントの言葉を聞いた。


『ええと、聞こえるかな?』





      ●





 セグントの言っている事が顕如は暫らく理解できなかった。


 ・・・・・・旧式艦と、これから集まる艦隊が、本当の”超祝福艦隊”、だと?


 嫌な予感がするが、冷静に判断すれば分かる筈が、その嫌な思考をしたくないと打ち消していく。

 ここに来る前、セグントと会った時に見ていた漁船。
 不思議なくらい数があったように思えた。
 そして、現在の不自然な新造艦隊の撤退。

 
『きたぞ』『きたぞ大将』『約束通り、救いに来たぞ。――我らが”隊長”』


 見かけた漁船は妙に古い型が多くはなかったか。
 徐々に記憶に残っている情報がつなぎ合わされていき、


『ええと、これより、アルマダ海戦を始めよう。英国艦隊・武蔵対”超祝福艦隊”もしくは武蔵対レパントと厳島の残党でもいい』


 遅すぎたが、セグントのやった事が漸く分かる。
 情報だけは伝えられていた、英国が武蔵を使ったのと同じ方法をとっていたのだ。

 
「レパントで敗残した艦隊を”超祝福艦隊”の代わりにしたのか」


 これが意味するのは、


「歴史再現としてアルマダ海戦を機に衰退の一途を辿る筈の三征西班牙は、解釈上だけのものとなる。ですね?」

「Jud.兵士は失われるかもしれないが、艦隊を含む三征西班牙の保有戦力は殆ど無傷で残るという訳か」


 衰退の一途を辿る国の運命を少しでも覆そうと抗った一人の男の成そうとする事はそれだけにとどまらない。


「自らの命を代償に、衰退の時代すらも取り除くつもりなのか――」


 全ては、三征西班牙の未来や彼の愛したモノのために。
  
 と、通神がそこで急に途切れる。
 普通は約束が破られたのかと危惧するものだが、顕如は大きく息を吐き出して壁に背を預けた。


「・・・・・・あんな真似、誰ができるかよ」


 極東勢が武蔵で本格的に正面切って戦争をするのは今回が初めてである。
 レパント等の戦の映像でも見れればよかったのだが、生憎記録が残っていても各国の機密事項であった。

 なので、今回は戦争における敵の動き方を少しでも知る数少ない機会であったのだ。
 通常の戦争における指揮とはどんなものなのかを見る程度だと思っていたのが、


「まさか・・・・・・重すぎだろう、これは」


 思わず頭を抱えそうになる。
 ため息を何度ついてもつき足りないくらいであった。


「それに、あの言葉の意味も気になる」


 セグントの言った一言。
 それは、


「共感・・・・・・まさかな」


 自分の無意識下で望んでいる事が、今セグントがやっているような事だとでも言うのだろうか。
 危ない橋は渡るかもしれないが、自らの命を代償にしてまで己が何かをしようとは思えない。

 もし、仮に自らの命を代償にするにしても、少なくとも今ではない。 

 あまり考えたくない部分に思考が流れかけた時、暗闇の中に光が戻る。


「通神が復帰しましたね」

「Jud.何かあったのかもしれないな」

「いつもでしたら、何かおかしいとか怪しい言い出しますのに――」
  
「――こんな時もあるだろうさ」


 先程までの思考を振り払うかのようにゆっくりと首を二、三回振って顕如は通神へと意識を集中させた。





      ●





「アデーレもよく対応しているなぁ」 


 暫らく無言で戦争を見物していた顕如は、三征西班牙側の車輪陣による攻撃と武蔵側の対応を見ていてアデーレの意外な才能に感心する。


「Jud.お互いに微妙な損害のまま進行していますね」

「Jud.そこが逆に引っかかるがな」

「引っかかる?」
 

 侍女の疑問にJud.と顕如は答えつつ、何か違和感を感じていた。
 どのような違和感なのかと問われると明確には答えられないが、何か引っかかるものがあった。


「そろそろカレー沖への戦闘に移るようですね」

「Jud.そうだっなぁッ――!?」


 通神での映像が、武蔵に追われる形になり、武蔵側から八隻の火船が出されるのを映したと同時に足元が大きく揺れた。
 足元、すなわち顕如達の乗っている艦自体が制御を失ったかのように動いたのであった。


「――おぃおぃ、これは洒落になってないんじゃないの!?」

「Jud.これはかなり危険な状態かと」

「Jud.はめられたのでは?」


 床を転がりかけた顕如を有明が後ろから抱きしめるようにして支える。
 徐々に傾いていく床に対して、顕如を守るため自動人形達は彼を前後から挟むようにしてお互いを抱きしめた。
 暗闇で視覚が鈍り、他の感覚が少々敏感になっている状態なので、押し当てられている感触が普段以上に顕如には感じられる。


「お前らっ、――ん?」


 侍女に一言言おうとすると、艦が揺れた時に消えていた通神が復活してセグントの顔が映し出される。


『やあ、少しは参考になったかな?』


 何を悠長に、と噛み付こうにも足元が不安定なためにそれどころではない顕如に、


『君は最初、言ってたよね。こんな条件で取引が成立するのか、と』


 先程感じた違和感が二つの確信に変わる。

 このような覚悟を決めた者が生温い手を使う筈がない事に。


『僕の采配とかを見たいって、言ってたよね』


 そして、そのような者の手のひらで動いた自分がどうなるか、も。


『それなら、全ては見るよりも体験してもらった方が早いよね』


 武蔵側の火船とぶつかった影響で宙に浮いた顕如達に一方的に流される通神から最期の宣告が告げられる。
 

 ・・・・・・元信公にしてもセグントにしてもやり方が過激過ぎるだろ!!


 口に出したとしても、一方的な通神なので意味はない。
 それよりも、今は現状を打開しなくてはならず、沸々と沸いてくる怒りに歯噛みをし、


『それじゃあ、サヨナラだ』


 次の瞬間、顕如達は爆発に飲み込まれた。
























あとがき




お久しぶりです、プーです。
更新が久しぶり過ぎて前までの書き方とは違ってきているかもしれません。
その上、前と比べて短めです。

ホライゾンのアニメ2期も終わってしまい、どうしようどうしようと思いつつも結局書けないままでした。
オンボロPCのデータが吹っ飛んで最新話が消えた時はモチベーション的に書けなくなっちゃいまして・・・・・・OTZ


今回は、顕如君、セグントに弄ばれるの巻です。
相変わらず、細々した描写はカットです・・・・・・。

今回もお付き合い頂き有難う御座います。

御意見、御感想心よりお待ちしております。


―――以上




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