チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18968] 【イチゴ味絶賛発売中】天空の鳳凰(北斗の拳xなのはx中野TRF)
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2014/09/16 13:51
ヒャッハー!汚物は消毒だぁ~!

北斗外伝で、ジャギ様が終わったら次は聖帝様とお師さんの
温もり溢れる外伝だろうと思ってら、ジュウザだったのでやった。
今は反省している。

以下注意点
・クロス比率は多い順に北斗5(原作4・イチゴ味3・AC北斗3)・なのは3・中野TRF2。
・作者がTRFネタ入れないと死んじゃう病。
・Not世紀末。
・捏造があるかもしれない。
・聖帝様が、鳳凰拳を継承する前の十五歳。
・当然、愛や情けを捨ててないし、超お師さんっ子。
・したがって、ふははは!や皆殺しだ!とか言ってる世紀末とは大分違うので違和感大。
・ジュエルシード関連はあまり出ないかもしれない。
・デバイスの英語は、僕らの味方エキサイト翻訳先生の提供でお送りしております。
・この作品は、超!エキサイティン!世紀末アイドルプロダクション中野TRFプロ所属、アイドル修羅の皆様を応援しています。
・(*´ω`*)<ハヤル!!
・(*M*)<ニゲラレンゾ~
・┌┤´д`├┐<クソネミィ

ダイヤの棒術ぐらいスローなペースになるかもしれないけど、何とか継承の儀のとこまでは進めたいと思う。

北斗七星の数と同じまで進んだ事だし、板移動してもいいかと思えてきたけど
北斗寄りなのにとらハ板でいいのだろうかと思ったり。

6/29
技の部分を北斗っぽいテロップ化にしてみた。

9/25
残業よォォーーーッ!もっと多くッ!残業してッ!SSを書く時間が無くなるぐらいッ!
残業祭りよッ!

ちにゃったわけではないですが、祭りのために中々進みません。
近い内には投稿できるとは思いますが、お師さん……もういちどぬくもりを……

11/13
南斗残業拳の修行の方は若干落ち着いてきましたが、PCの方があべしってしまったので、二~三週はネカフェぐらいからしか作業できません。
修理費用によっては新しい木人形の投入も検討する次第……。

12/2
PCの輸送車がモヒカンの群れに襲われたらしく、全て奪いつくされた模様……!
許さねぇ……!てめぇらの血は何色だぁーーーーーー!!
嘘です。(AAry)
しかしまぁ、佐川で輸送中に梱包ミスか輸送ミスか何かでひでぶったのは事実。
修理費が無償になるっぽいですが、まだまだネカフェ通いだぜ、ヒャッハー!

1/19
PCが、ん?間違ったかな?とばかりに使い物にならなくされてしまったので
ソフマから新しい木人形が届きました。
しかし、南斗残業拳は続く……
いつまでこんな戦いを続ければいいの……!



[18968] 第一話:若き鳳凰と黒の少女
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/20 21:34
夜は暗い。
当たり前の事ではあるが、それが街灯も無い山道ともなれば、月明かりすら明かりとしての役目を果たさない。
そんな山奥の道とも呼べない道を一つの影が疾駆している。
獣であればそれも可能だろうが、木陰から僅かに差し込む僅かな光に晒された影は紛れも無く人間のものだった。

「……ふっ!」
軽く息を吐くと、目の前の倒木を一足飛びに飛び越える。
獣道でも走る速度が変わらないのという事だけでも驚くべき事なのに、その背中には大きな荷物を一つ抱えていた。

「拙いな。雨が降る」
長年、この山に住んでいるだけに、雨が降りそうな時はなんとなくだが分かる。
さすがに雨まで降られてしまっては足場が悪くなるし、荷物が濡れてしまう。
山の天気は変わりやすいというが、何もこんな時に降らなくてもいいだろうにと、吐き捨て、舌打ちをすると前を見据えた。
水が流れる音が聞こえてきたなら、目的の場所は近い。
茂みから飛ぶように飛び出すと、開けた場所に出た。

「ふぅ……なんとか間に合ったか」
思ったより天気が持ってくれた事に安堵しつつ、ようやく一息付いた。
月明かりに晒された四肢は鍛え込まれ、鋼のような印象を受けるが、それに反してその顔は、まだどこか子供らしさを残している。
事実、先日十五歳になったばかりなのだから少年である。

この国では珍しい短めの金髪は、後ろに流すようにして揃えられ、僅かに額に前髪が降りている。
目を引くのは額に出来た一つの出来物だが、少年が気にした事は無い。
というよりは、人の目など気にする必要が無いと言った方が正しいだろうか。
彼が山を降りるのは年に数える程。
学校にも通わず、拳の修行をしながら暮らしている。
ガスも水道も通わぬ山の中での生活を不便に思ったことは幾度かあるが、辛いと感じた事は一度も無い。
そんな物より、もっと大事な物を与えてくれる人物と一緒に暮らしているのだ。

修める拳の名は、二千年近い歴史を持つ南斗聖拳百八派の一つ。
その南斗聖拳最強という肩書きを持つ南斗鳳凰拳。
天に輝く南斗六星のうち、主星である将星を継ぐ者。
少年の名はサウザー。
世紀末という世で、聖帝と呼ばれるようになった帝王の若き日の姿であった。


「お師さん。ただ今戻りました」
山の中に佇む寺社のような造りの扉を開けたが、返事は無い。
一通り中を見渡しても人の気配が感じられないのだから、出かけているのだろう。
頭をかいていると、今朝方伝えられていた事を思い出した。

「そうか……お師さんは道場の方に行ってるんだった。……参ったな」
本来、六聖拳の師弟ともなれば、その住む場所には必ずと言っていい程に道場もあるのだが、鳳凰拳だけは例外なのだ。
南斗聖拳は陽拳ゆえに、印可を得ることができれば、一つの流派に伝承者が複数存在しても構わない事になっている。
そのため、派生した分派や門弟のために道場が必要になってくる。

だが、南斗鳳凰拳は北斗神拳と同じく一子相伝。
北斗神拳は分派が存在せず、複数の伝承者候補や門弟を取ったりしているので道場は存在する。
しかし、南斗鳳凰拳は伝承者候補すら一人に絞っているため、道場なんて物は必要が無いのである。
組み手をやりたいなら、こっちから一番近くの南斗の道場に出向くといった具合だ。
師父であるオウガイも南斗の交流を欠かさないために、こうして丸一日ぐらい離れる事がたまにある。

慣れた手付きで明かり灯すと、割れ物でも扱うかのようにゆっくりと寝床に荷物を降ろし眺めた。

「それにしても……子供がどうやってこんな所に」
サウザーが寝床に寝かせたのは、十にも満たぬぐらいの少女。
何時もの修行をこなし戻ろうとした時に、耳をつんざくような鳴き声がしたので急いで向かってみれば
傷だらけで倒れる少女を襲おうと、見たことも無い怪鳥が地面スレスレを滑空するように飛んでいたところだった。
見つけるのが後五秒遅ければ、少女の体は怪鳥の鍵爪に掴まれるかして手の届かない場所に連れ去られてしまうところだったのだから、まさしく間一髪。
南斗鳳凰拳の真髄とも言える踏み込みで、怪鳥と少女の間に割って入り、すれ違い様に南斗聖拳の斬撃を叩き込んだ。
不思議だったのは、確かに手応えはあったはずなのに、残っていたのは四つに分かれた大鷲の死体と、真っ二つに切れた青い宝石のみ。
一体、なんだったのだろうかと、悩んだのだが、怪我している子供をこんな山中に放置しておくほど非情ではない。
修行をするだけあって生傷は耐えないし、その為の薬や包帯は常備してある、という事で連れて帰る事に決めたのだった。

「でも、お師さんが居ないんじゃな……」
もう一度頭をかいて少女を眺める。
同じ金髪だが、絹糸を束ねたような印象を受けるのは、単に髪の細さと長さのせいだろう。
サウザーから見れば、かすり傷かもしれないが、幼い少女の全身に切り傷擦り傷打ち身が出来ているのは痛々しい。
骨が折れてないのは幸いだが、あのまま放っておいたら謎の白骨死体が一つ出来上がるところだった。

「……ぅぬ」
そこまで分かっていながら手当てに踏み切れないのは、全身というだけあって、傷が服の中にまで及んでいるせいだ。
ただでさえ山の中で暮らし、普段目にするのはお師さんと南斗の同門ぐらいで、見事に異性に対する抵抗が無い。
手当てはお師さんにやってもらうつもりだったので、まさか自分がやるハメになるとは思っていなかったのだ。

こんな子供に欲情するような趣味や性癖は持ち合わせていないものの、たまに街に下りた時にその手の事件がよく話題になっている事ぐらいは知っている。
人に見られて妙な誤解を産むような場所ではないが、やはり何だか気まずい物がある。
軽く十分ばかり部屋を行ったり来たりしながら悩んだが、不意に少女が苦しそうに呻いた。

「ちぃ……」
そんな声を聞いて、サウザーも声にならない声を出した。
放っておけば、傷口から菌が入り破傷風を起こす事だって十分にありえる。
そんな事になったら、ここでは手に負えない。
一番近い海鳴市の病院でも、山を下りるには軽く一日はかかるのだ。
仕方ないと思い黒い服に手をかけたが、すぐに疑問符が浮かんだ。

「この服……、どうなってる」
一通り見てみたが、継ぎ目のような部分が無い。
背中を見ても、ファスナーなんて物は無く、どう脱がしていいものかさっぱり分からん。
十五秒程悩んだ末に、腰の辺りの部分から切り取る事にした。
さすがに、そんな事に南斗聖拳を使うのも憚られたので、鋏を使おうとしたのだが、薄手の生地とは思えぬ程に硬かった。

何度やっても、刃がなかなか通らない。
刃毀れや錆付いているわけでもなく、至って普通の鋏である。
終いには力を入れすぎて、柄を南斗聖拳で使い物にならなくしてしまったのだから、結局は南斗聖拳を使わざるを得なくなってしまった。

「くそ……、お師さんにも言えんな……、これは」
修行の成果を少女の服を切るというだけに使うというのは何とも情けない。
仕方がないとはいえ、同門連中に知れたりでもしたらと考えただけで背筋が寒くなるし
なにより、北斗の長兄であるラオウにだけは絶対に知られたくない。
あの野郎は、組み手に出向く度に馬鹿力が増してきている。
拳速やスピードではこっちが勝っているので、五分というところだが、こんな事が知れたら組み手どころか本気の殺し合いに発展しそうだ。

これ以上の傷を付けない様に力加減をし、腰周りの部分の生地を切り取り服をめくる。
なるべく変な所は見ないようにと思ったが、新しい切り傷や擦り傷の他に、痣の後がいくつもあるのを見て、そんな考えは一気に吹き飛んでしまった。

「この痕は……鞭か?」
変色した傷跡の形や大きさで、何を使ってどのぐらいの強さで叩いたのかは、肉体を外から破壊するという拳法を修めているだけあって判断は付いた。
上半身に汲まなく付けられた傷跡を見て、これが何を意味するのかは一つしか無い。

そう考えると、少女が一人この山奥に倒れていた事も納得が付く。
暴力に耐え切れずに逃げ出したか、置き去りにされたか。
どちらにしろ、少女には辛い事には違い無い。
自らも孤児という過去を持つだけに、何か思うところがあったのか、数秒目を閉じると傷の手当を始めた。





「お……終わった……」
最後の傷の手当てが済んだのは、空が白くなり始めた頃。
肉体的な疲れは一切無いが、精神的にかなり磨耗した気がする。
南斗十人組み手でも、ここまで疲弊しなかったのにえらい違いだ。

軽く体を伸ばすと、体中の骨が鳴る音が聞こえてくる。
水でも飲もうかと水瓶の蓋を開けたが殆ど残っていなかった。
そう言えば、体を拭くのに随分使ったような気がする。
雨も止んでいたので丁度いいか、と考えると片手で軽く水瓶を持ち上げ、もう片方の手で槍を掴むと外に出て行った。



サウザーが出て行ってから十分程経った頃、静まり返った部屋の中で影が一つ起き上がった。

「……ぁぅ!」
急に起き上がったせいで体を支えていた腕に痛みが奔ったのか、小さく悲鳴をあげると布団の中に倒れる。
今度は、負担をかけないように、ゆっくりと上半身だけ起こすと、今度は痛くなかった事に小さく息を吐いた。

きょろきょろと辺りを見回すと、まず目に入ったのは、壁に立てかけられた何本もの槍。
朝日の光を受けて、剥き出しの穂先が光っているのだから嫌でも目に入る。
光が目に入ったのか、反射的に腕で光を遮ろうとすると、自分の腕に包帯が巻き付けられている事に気付いた。

改めて全身を見回すと、そこらかしこに傷の手当がされている。
誰が、と思うより先に、昨日の最後の記憶を思い出して悲しくなった。
覚えているのは、飛んで逃げる暴走体を追って山の深いところに入ったら、暴走体に急旋回を決められ正面からぶつかった事。
意図せずカウンターの形になり、勢いよく弾き飛ばされ、山の斜面を転がったところからの記憶が無かった。

「ジュエルシード……もう少しだったのに……」
こうして無様に傷だらけでいるという事は、目的を果たせず逃げられたという事になる。
傷を負った事よりも、そっちの方が遥かに辛い。

「追わなきゃ……、母さんのためにも……」
全身の痛みに耐え、寝床から這い出て、壁にもたれ掛かるようにして立ち上がると、伝うようにして歩き始める。
「魔力が感じられない……、そんなに遠くには行ってないと思うけど……」
呟きながら、焦るようにして進むが、半ばまで進んだところで不意に足を襲った痛みに耐え切れずに、体勢を崩し倒れてしまった。

それだけなら、また立ち上がればいいだけの話。
だが、壁には剥き身の槍が立てかけられており、転ぶと同時に手が槍の柄に当たり
運の悪い事にその穂先が自分目掛けて落ちてくるのを少女は見た。

避けようにも、全身が痛くて動けないし、障壁を張ろうにも時間が足りない。
短い時間の中で、色んな事が頭に浮かぶと、心の中で謝りながら目を閉じると、風を切るような音が聞こえた。




「こんなものか」
銛一本で魚を仕留めるなんて事は、もう慣れた物で、今では百発百中と言える程になっていた。
いつもと違うのは、仕留めた魚が一匹多い事。
いつ目が覚めるかは分からないにしろ、どの道必要になるのだから、多めに捕っておいて損はないだろう。

たっぷりと水に入った水瓶を片腕で持ち上げ、肩に担ぐようにして背負う。
これも日課で、最初の頃はもっと小さかったのだが、繰り返すうちにこの大きさでも全く気にしないようになる事ができた。
常人が見たらドッキリか何かだと思うかもしれないが、サウザーにしてみれば至って普通の事である。

地面がめり込むような重い足音を立てながら、水が漏れないように水瓶を置くと顔を洗う。
水道水なんかとは比べ物にならない、鋭いともいえる冷たさは、さながら泰山天狼拳の如し。
おかげで、眠気が完全に吹っ飛んだ。
やろうと思ったら、一週間ぐらいは寝ずにすむ体なのだが、昨夜は色々あったせいで精神的に少し疲れた。
とりあえず水を一杯飲み干すと、様子を見に軽い気持ちで部屋に入ったのだが、その先に映る光景に思わず変な声が出た。

「うわ」
寝床に少女の姿は無く、壁際で仰向けになって倒れてきたところだった。
それだけならまだいいが、壁にかけてあった槍を巻き込んで、その槍の穂先が胸目掛けて落ちそうになっているのだから声も出るってものだろう。
突き刺さる前に間合いに踏み込み、槍の穂先を手刀で切り払ったが、また間一髪だ。
南斗聖拳百八派広しと言えど、神速の踏み込みを持つ南斗鳳凰拳でなければ、二回死んでいる。
鳳凰拳の使い手が近くに居て運が良いのか、それともこの短い時間の中で二回も死にかけ運が悪いのかと考え物だ。
少女の顔を覗き込むと、唇を固く結んで、閉じた目を小刻みに震えさせながら小さく涙を浮かべていた。
じきに目を開けるだろうと思っていたが、それが二十秒ぐらい続いていたので、サウザーも思わず噴出してしまった。

「くっ……はははは!もう、大丈……くく、夫だ、……ふふ……ははははは!」
余程、ツボに嵌ったのか、それはもう盛大に笑う。
薄っすらと目を明けた少女が、自分の胸に槍が刺さってないことを確認し
安心したかのような息を吐くと笑われている事に気付いたのか、顔を赤くした。

「ああ、悪い。だが、目が覚めたのはいいが、その傷では、歩くのがやっとのはず……だ、と」
確かに、こんな目に合ってしまった原因は少なからずある。
普段、ここにはお師さんと自分の二人しか居ないので、そういった物に対する扱いが雑になっていたのは事実だ。
刃物の類の処理は後で考えるとして、一先ず、体を抱えあげると寝床に連れ戻した。

「あ、あの……」
「何だ?槍の事なら気にしなくても構わん。どうせ使い捨てだ」
「いえ、ここは……」
当たり前の事を訊かれてサウザーも少し戸惑った。
陽拳とは言え、南斗聖拳は伝説とも呼ばれる北斗神拳に匹敵する程の暗殺拳。
その名前を、こんな子供に伝えていいものかと迷ったのだが、南斗だけならなんの事か分からないだろうし
あまり使いたく無いが秘孔を突いて忘れてもらうという手もある。

「南斗の修練場だ。昨日、山の中で倒れているのを見つけた」
「なん……と……?」
聞いた事の無い名前に小首を傾げる姿は何とも可愛らしい。
この様子なら、捨て置いても問題は無いはずである。

「そう言えば、まだ、名を聞いていなかったな」
床に刺さった槍を引き抜き、今更のように聞く。
まだ眠っている物だと思っていたところに、あんな事が起これば忘れてしまうのも無理は無い。

名前を聞いても、何やら言いにくそうに俯いているので、これは、さっき笑ったのが拙かったか?と思い、頬を掻いた。
南斗の門弟にも女は居るが、そういうのは決まって男顔負けの気が強い連中である。
なので、さっきもそんな調子で笑ってしまったのだが、この少女はどう見ても拳法やってるようなタイプには見えない。
今までサウザーが見た中で誰が一番近いかと言うと、南斗正統血統を持つユリアあたりだろうが
あれはもっと年下だし、見るのは南斗の里に行った時ぐらいであまり接点は無いのだ。
こんな状況になっても、お師さんや南斗白鷺拳のシュウあたりなら上手い事やるんだろうなと考えると小さく息を吐いた。

「はぁ……まぁ言いたくないなら、それでもいいがな。とにかく、今は休んでおけ。どこへ行こうとしたのかは知らんが、そんな体で山を歩けば死ぬぞ」
呼ぶときに不便だが、別に無理に聞き出す程の物ではない。
それより、あんな体で抜け出されてしまう方が困る。
日も昇ってきた事だし、少し早いが朝餉の準備でもしようかと、背を向けた。
他のとこなら、門弟や従者がそういう事をしてくれるのだが、ここでは二人しか居ないため交代でやっている。
特にお師さんの漬けた漬物なんかは絶品なのだが、それは関係の無い話。

とても、南斗聖拳百八派の頂点に立つ流派の暮らしとは思えないが、当人達は気にしていないので問題は無い。
ただ、お師さんも自分も病気とかになった事が無いので、何を作ったらいいものかと頭を悩ませていると、後ろから声がかかった。

「フェイト・テスタロッサ……」
「フェイトか。準備が出来たら起こすから、もう少し寝ていろ」
どうやら、笑い飛ばしたことに怒ってはいなかったようで安心した。
機嫌を損ねられでもしたら、本当にお師さんに任せるしかなくなってしまっていたところだ。
他にも何か言いたそうではあったが、やはり疲れていたのか、ゆっくり瞼が落ちると寝息をたて始めた。



[18968] 第二話:魔と拳の邂逅
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/22 18:36
人里離れた山の中。
まるで忍者の隠し里か何かのような雰囲気をかもし出す建物が一軒。
そのままでも飲めそうな清流が流れる河と、澄んだ空気が都会の喧騒で汚れた肺の中まで綺麗にしてくれる。
こう書くと、保養地とか別荘地の類いのようだが、その実態は二千年の歴史を持つ北斗神拳に匹敵する拳法。その名も南斗聖拳の修練場。
正確には、南斗六聖拳が一つ。南斗鳳凰拳の師弟が修練を行う地である。
その、神社のような造りの日本家屋丸出しの建物の一室では、それに似合わぬ二つの金色があった。

「…………」
一つは長く細い金髪を二つに結んだフェイトと名乗った少女。
黒一色の服を着込み、その服装も申し訳程度に付いたスカートと、水着のような薄手の服。
後は色々ベルトのような物が付いているが、ハッキリ言って、このぐらいの歳で着るような代物ではない。
世間一般で美少女と呼ばれる容姿もあってか、そっち方面のご趣味を持つ紳士な方々が見たら道を踏み外しかねないぐらいである。

「ふむ、口に合わないか?」
もう一つは、短い金髪を、いわゆるオールバックで纏めたサウザーと言う名の少年。
少年と呼ぶには憚られる程に鍛え込まれた体と、それに反するような子供の面影を残しながらも精悍な顔つきが実に印象的。
アクション俳優にでもスカウトされれば、銀幕世界の向こうで大活躍出来るぐらいの身体能力を持っているのだが、彼が目指す物は南斗鳳凰拳伝承者ただ一つ。
現南斗鳳凰拳伝承者オウガイが誇る愛弟子である。

一目で外国人と分かる二人が、畳作りの部屋で机の上に乗せられた和食を食べている姿は何ともギャップを感じさせる物がある。
とはいえ、食を進めているのはサウザーだけで、フェイトの方は少しも進んでいない。

サウザーは産まれた時からこれだったから、味覚は完全に日本に馴染んでいるが、フェイトも同じだとは限らないという事を失念していた。
日本語を喋っていたので、特に問題無いだろうと思ったのが裏目に出たかもしれない。

ちなみに、サウザーは日本語の他に、英語、中国語、ラテン語をある程度は習得している。
一般人が見たら地獄の責め苦かと言いそうな荒行をこなせるだけの体力と集中力を持っているのだから、たかが言語の勉強ぐらいなんだって話である。
それに、南斗聖拳の流派は欧米や米国にもいくつか散らばっている。
拳法だからと言って、アジア地方だけに納まるような時代ではない。
将来的に、南斗聖拳百八派の頂点に立つのだから、覚えておいて損は無いのだ。
通訳を介して会話する南斗聖拳最強の使い手。こう考えると非常に情けないしそれは嫌だったのが一番の理由だったが。

それはさておき、ちっとも箸を付けようとしないフェイトを見て、サウザーはどうしたものかと頬をかいた。
あれだけの怪我をしたのだから、少しは食わないと体が持たないし治りも遅くなる。
あのぐらいの歳ならなおさらなのだが、まさか無理にというわけにもいかない。
手を付けなくても、それはこっちで引き受けるから残飯が出る心配は無いのだが、ここにある食材は基本山で採れる物。
米や調味料の類は、南斗の他の道場から定期的に届き、どうしても足りなくなった物が出た場合は、海鳴市まで買出しに向かう。
もちろん、重りを付けて山道を全力で疾走しながら。
重りを外して走って行けば、買出し含めて一日で戻ってこれるのにしろ、怪我人の子供を置いていくのもちょっと問題がある。
お師さんも何時頃帰ってくるのかが分からないので、正直手詰まりになっていたが、ふと、どこか遠いところで雷がなったような音がした気がした。

「む……」
窓の外を眺めてみたが、山一つ先にも雷雲はかかっておらず、雷が鳴るような気配は微塵も無い。
今度は注意深く目を閉じ、音の方向を探ると、それは目の前から聞こえてくるようだった。

思わず噴出しそうになったのを堪え、フェイトを見ると俯きながらも、時折塩焼きにした魚やらを見ている。
さっきの雷の音の正体は、フェイト自身が出した音で、様子を見る限りは口に合わないんじゃなくて、単に遠慮しているだけだと判明した。
常人の何倍も優れた聴覚を以ってして、やっと聞こえたぐらいなのだから、フェイトもまさか聞こえたとは思ってはいない。
わざわざ言うのも後が厄介だとし、ここは何も聞こえなかったという事で通す事にした。

「ああ、遠慮ならいらん。魚はそこの河で獲ってきたし
  他の物もここで採れた物だ。他のも大抵は南斗の道場から送ってくる。それに、食わねば治る物も治らん」
これでまだ意地を張るようなら、雷が鳴ってる事をそれとなく言うつもりで
その反応を見るのもそれはそれで面白いかもしれんと人の悪い考えが浮かんだが
フェイトが小さく唾を飲み込み、若干恥ずかしそうにしながら、これまた小さく呟くように言った。

「……ぃ、いただきます」
「うむ、欲望に忠実でよろしい」
なおも続く雷の音を適当に聞き流しながら、その様子を頬杖付いて眺める。
少女らしく、小さく食べ進む様は、何かを連想させる。
少し考えたが、思い付く物があったのか妙に納得した。
秋口に山の中でよく見かける、木の実を必死になって頬袋に詰め込んでるげっ歯類と同じだ。
そんな見も蓋も無いイメージが浮かんだので、昼は手で掴んで食えるやつだな、と安直に決めているうちに食べ終わったのかフェイトが箸を置いた。

「あの……、ごちそうさまでした」
どうやら、雷雲はどこかに行ったようで、一息ついた顔をしている。
それを見てサウザーは、手早く食器の類を端に寄せると、本題を切り出した。

「さて……、先ほども言ったが、ここは南斗の修練場だ。……どうやってあんな場所まで入り込んだ?」
山全体という程ではないにしろ、多少奥まった所は表向きにはそうなってはいないだけで、一応南斗が管理する土地という事になっている。
鳳凰拳の特性上、そこまで数が多くはないが、街の人間が見たら間違いなくドン引きするような物が沢山置いてある。
火の入った釜の中に、赤熱するまで熱された砂利や石が詰め込まれてるなんてのはまだ可愛い方で、一本の棒の周りに無数の鋭い棘があるなんて物もある。
他のところではこれを集団でやってるのだから、シュールを通り越して、最早ギャグの領域だろう。

昨日は、逃げ出してきたか、置き去りにされたかと考えていたのだが
一晩明けてよくよく考えてみれば、子供が一人でたどり着けるような場所ではないし
置き去りにするにしても、置いたはいいが、自分諸共迷う確立が非常に高い。
どこでもそうだが、人の手が入っていない場所と言うのは、人の目で分かる景色の違いが少なく迷いやすい。
まっすぐ進んでいるつもりでも、いつの間にか曲がってしまって元の場所に戻ってきたというアレだ。
歩いてここまでこよう物なら、それ相応の装備か訓練が必要になる場所である。

「……昨日、妙な鳥を見かけたんだがな。それが関係あるのか?」
陸が無理なら、空からか。
現実として、あんな鳥が居たのだから、どこかでかっ攫われたという事もあり得る。
その言葉に反応したのか、さっきまで縮こまっていたフェイトが身を乗り出すようにして言った。

「そ、それ!どっちに行ったか分かりますか!?早く追わな、きゃあ!」
さっきまで借りてきた猫のように大人しかったフェイトが急に大声を上げたので
何事かと思ったが、急に動いたせいで痛んだのか、バランスを崩し、頭から勢いよく机の上に突っ伏した。

数秒してから顔を上げると、額と鼻を打ったのか痛そうに押さえ、目尻には涙を浮かべている。
結構痛かったらしい。

「……人の話を聞かんヤツだな。その体でどうするつもりだ」
歩くだけでやっとのザマなのに、放っておいたら今にも飛び出していきそうな様子に、さすがのサウザーも呆れ気味だ。
そんなに急いでるならいっそ秘孔でも突いてやろうかと考えたが、南斗聖拳の身では自在に秘孔を操れるわけでもないので考え直した。
押しが強すぎれば肉体は砕け散るし、優しく押せば肉体の持つ治癒力を高めるだけに力加減は紙一重。
下手しても、ん?間違ったかな。では済まないのである。

「ラオウでは話にならんな。となれば……、トキぐらいか」
あまり知られたくないというものあるが、あの筋肉達磨に治癒の秘孔が使えると考えるには無理がありすぎる。
対して、次兄のトキはラオウと血が繋がっているとは思えぬ程に人当たりが良く、性格も良い。
全てを砕く激流のようなラオウの剛拳と、全てを飲み込み流す清水のようなトキの柔拳。
拳才も甲乙付け難く、どちらが優れているかとは言えないが、よくもまぁ実の兄弟で拳質も性格も対極になったものだと感心する。
他にも血の繋がってないジャギと末弟が居るが、ジャギは性格が捻くれてるのと単純に実力が足りず
末弟は幼すぎて実力が未知数のため、今はどうでもいい。
……そう言えば、その真ん中ぐらいにキムってのが居た事を思い出したが、余計どうでもよかった。

ただ、歩いて行ける距離ではないし、山を下りてから電車か何か使って、一番近いとこから北斗の寺院に向かう事になり、今のフェイトには厳しい。
まさか伝承者候補の身で呼びつけるわけにもいかないので、北斗に頼る考えは早々に見切りを付けた。



頬杖を付きながら思案に暮れるサウザーを見て、フェイトも落ち着いたのか小さく座りなおした。
もう、どこにも魔力は感じられないし、あまり動けない事は身を以って味わったので
とりあえず大人しくしておく事にしたのだが、そこでふと、違和感を感じた。
自分の感じ取れる範囲では、魔力の気配は一切感じられなかった。
それなのに、さっきの槍は刃先の真ん中ぐらいから真っ二つに切り裂かれていたのだ。
もう一度サウザーをまじまじと見たが、やっぱり魔力なんて感じられない。
そうこうしている内に二人の目が合った。

「ん、何か言いたそうな顔だな」
「え?い、いえ……ごめんなさい……」
特に責めているわけでもないのに、小さく謝りながら空気の抜けた風船のようにしぼんでいった。
言い方は悪いが、粗相をして叱られる子犬のような印象を受ける。

「……あいつらと一緒にしないでもらいたいものだな」
そんな様子を見て、よもや鬼のフドウやラオウのように思われているのではないかと考えてしまったので思わず口に出た。
道場破り紛いの事をして、色んな物をかっさらっていくようなデカブツと
鳥の卵一個採るために木を丸々一本ぶち倒して、他の卵を潰すような脳筋と同じにされたかと思うと、なんだか腹が立つ。
一瞬、不機嫌そうな表情が表に出たのか、ますますフェイトが縮こまってしまった。
そんな様子に気付いたのか、サウザーも話題を変える。サウザー自身、あの怪鳥には興味があったのだ。

「ああ、こっちの事だ。気にしなくていい。……まぁそれで、あの鳥だが、手応えはあったんだが、消えた」
「……どういう事ですか?」
「そのままの意味だ。すれ違い様に斬ったはずなんだが、鷲の死体しか……、いや、妙な青い宝石も転がっていたな」
水を飲みながら事も無げに言う様子に、フェイトが少し戸惑った。
魔力を持たない人間が暴走体を倒すなんて事は絶対に出来ない。
自分でさえ、遅れを取ったのだから余計に信じられないのだが、まるで出来て当然と言わんばかりに語るサウザーが嘘ついているようにも見えない。
それに、妙な青い宝石は間違いなく捜し求めている宝石なのだ。
半信半疑ではあるが、知っているのなら聞いてみる価値はあると思い、口を開いた。

「その青い宝石は今どこにありますか?」
「……その言い方では、そこまで無理をさせる理由は、鳥ではなく宝石の方か?」
間髪入れずにこくこくと首を縦に振る姿を見て、サウザーの表情に少し雲がかかった。
「……命をかけても必要な物なのか?それは」
やけに歯切れが悪い言葉に、フェイトが少し首をかしげたが、何の迷いも無く「はい」と答えた。

それを見たサウザーは、溜息を吐いた後にポケットに手を突っ込み
意を決したかのように中の物を握ると、拳を握ったまま机の上に置いて、ただ一言「すまん」と言うと、拳を開く。
ことり、という音が二つ聞こえると、机の上には二つに分かれた青い宝石が転がっていた。

「……………え、えぇ~~~~~~~~~~!!」
二つに分かれた宝石が眺め、目の前の現実を受け入れる事に時間がかかったのか
五秒ほど間をおいてフェイトが大声をあげた。
次いで手に取り、見つめ、泣きそうな顔で切断面をくっつけるようとしているのは、見ていて実に痛々しい。
これにはサウザーも、バツが悪そうに視線を外しながら頭をかいた。

確かに、額に青い石みたいなのが埋まってるのは見たのだが、すれ違い様の一瞬だったし、そこを意図して狙ったわけではない。
偶然、指先が掠めたんだとは思うが、少女が今にも崩れ落ちて泣き出しそうな様子を見ると、無条件で悪いような気がしてきた。

「いや、まさか、そこまで大事な物とは……な」
「……いえ、いいんです。わたしが封印できなかったのが悪いんですから……」
この雰囲気は、非常に気まずい。
年下の、しかも少女の扱いに全く慣れていないサウザーにとってみれば、今にも助けてお師さん!と叫んでしまいそうな程に空気が重い。
これなら、まだラオウと正面から全力でやり合った方が気が楽というものである。
今すぐにでも北斗神拳究極奥義を修得できそうなぐらいに哀しみを背負った目をしているフェイトを見て心底仕方ないという具合にサウザーが言った

「そう言えば、さっき他に聞きたそうな顔をしていたな。不足かもしれんが、俺が答えられる範囲でなら答えよう」
これでどうにかならないならお師さんが帰ってくるまで、この気まずい雰囲気に耐えねばならない。
それを聞いてまだ諦めが付かないのか、フェイトは二つに割れたジュエルシードを見つめながら呟くように言った。

「……どうやってジュエルシードを壊したんですか?」
「それを聞くか……、こちらにも相応の事情はある。話すにはいくつか条件は付くがそれでも構わんのだな」
率直にぶつけてきたが、もっともな疑問だ。
だが、南斗聖拳、特に南斗六聖拳は、かつて皇帝の居城を守る六つの門の衛将と呼ばれていたのだ。
いわば、歴史の裏舞台で活躍していた拳だけに、そうそう他人に存在を明かしていいような代物ではない。
フェイトも言葉尻から、言わんとしている事を察したのか、少し考えた後に小さく頷いた。

「ここは南斗の修練場と言ったが南斗聖拳は、外部からの破壊を真髄とした拳法で
  その南斗聖拳総派百八派の中でも最強と呼ばれているのが、俺が使う南斗鳳凰拳だ」
ありのまま、南斗聖拳の事を言ったのだが、どうにも理解できていないのか、フェイトはあっけにとられたような顔をしている。
「信じられん……といった顔だな」
言葉だけで信じろと言っても土台無理な話。
ならば、実際に見せた方が早いと、ジュエルシードとやらの片割れを摘むと指で弾き飛ばす。
ジュエルシードが頂点に達し、サウザーの目線の先まで落ちてくると、あらかじめ構えていた突きを繰り出した。

神速とも呼べる手刀は回りに真空の刃を生み出し、対象を容易に切り裂き貫く。
言葉では言い現せないような音が部屋に響びき、一拍遅れてジュエルシードが床に落ちると同時にさらに二つに分かれ転がった。

「さて、南斗聖拳が理解できたところで、今度は俺の番だ。このジュエルシードとやらがどういう代物で、それを追う理由も聞かせて貰おうか」
相手が少女とは言え、南斗の拳士が手の内を明かしたのだ。
どんな理由があるにしろ、全てを話して貰わねば釣り合いが取れない。
しかし、フェイトの口から話される事は、南斗に身を置くサウザーでさえ想像すらした事の無いような話ばかりだった。





「……あの鳥からして変だとは思ってたけど、まさか魔法か。目の前で見ても信じられないぐらいだ」
想像だにしていなかった突拍子の無い言葉に、思わず地が出た。
将来は南斗の頂点に立つ身なので、お師さん以外には、なるべく意識して硬めの口調を取っているのだが
いきなり魔法とか言われて、平静を保っていられるほど人生経験長くはない。
まだ、元斗皇拳の使い手だと言われた方が衝撃は少なかったはずである。

それでも、魔法という一種の伝説的の存在を、比較的早く受け入れられたのは
自らも歴史に名を刻み、伝説と呼ばれるようになった南斗聖拳の使い手だからか。
魔力を使うのが魔法で、闘気を使うのが拳法と考えれば、ある意味近い存在なのかもしれない。

「わたしだって、素手で物を斬る人なんて見たこと無いんだからお互い様です」
相対するフェイトは、いつの間にか服装が変わっている。
さっきまでのはバリアジャケットという、魔力で出来た戦闘服みたいなものらしい。
衝撃、耐久性に優れ、劣悪な環境でも活動できる優れ物。おまけにデザインは本人の想像力次第。
随分便利な物だと思ったのだが、鋏が入らなかったわけだと、これで納得した。

「つまり、お互いに何も知らなかったわけだ」
そこまで言って、地が出ている事に気付いたのか、サウザーが軽く咳払いすると改めて名乗った。

「南斗六聖拳が一つ、南斗鳳凰拳伝承者オウガイの直弟子のサウザー。一応言っておくが、これでも十五だ」
「あ、えっと、フェイト・テスタロッサ、九歳です」
少し戸惑いながらフェイトも同じように答えたが、思いのほか歳が近かった事にかなり驚いている。
見た目や言葉遣いの雰囲気から、フェイトはサウザーを二十ぐらいと見ていたのだ。

サウザーも、九歳の少女がジュエルシードとか言う厄介な物を追っている事に少し驚いた。
見た目にそぐわず、戦闘訓練も受けているようで、よく分からないが魔力の方もかなり高いらしい。
まぁ、九歳と言えばサウザーも石灯篭を素手で切り裂けるようになっていたので、あまり人の事は言えない。
天武の才を持つ人間は、北斗南斗魔法の種類を問わずどこにでも居るという事か。

それにしても、面倒な事になった物だと思う。
そのジュエルシードとやらは、あの一つだけでは無く二十一個。
叩き斬った物を除いてもまだ二十個もある。
昨日の相手は簡単に倒したように見えるが、並の南斗聖拳の使い手では手に余る程かもしれない代物だった。
いかに、地上のどんな物質をも力で打ち砕く南斗聖拳であっても、百八派もあるのだから使い手によって力量はかなり違うのである。

問題は、強い願いに比例して、暴走体とやらの力が増すようで、つまり欲望や執念が強い人間が持てばどんな事が起こるか分からないという事になる。
無力化するには、物理的な力によるジュエルシードの直接破壊か、フェイトが使う魔法での封印。
直接破壊については、南斗六聖拳レベルの実力が無いと難しいのは手応えで分かった。

幸いなのは、散らばっているのが海鳴市周辺だけという事だろう。
万が一ラオウあたりが手にしたら、世紀末モードに突入しかねない代物が出てきそうだ。

まぁ、それはそれ。
とりあえず、今は見当たらない物の行方を心配するより先にすべき事がある。
おもむろに立ち上がると、有無を言わさずフェイトを抱えあげた。

「ひゃ!な、な、何を……」
抱えあがるというよりは、いわゆるお姫様だっこだったので、フェイトも思わず変な声を出した。
サウザーは特に他意は無く、体に一番負担をかけないようにしただけで、文句を言うなと言わんばかりに続けた。

「さっきも言ったが、お前の体は戦える状態ではないのだからな。少なくとも二、三日はここに居ろ」
「でもジュエルシードを集めないと……」
「返り討ちに合うと分かって、誰が行かせられるものか。いいから寝ていろ」
見た目は大人しそうなのに、こんな状態ですぐにでも出て行きそうなのだから、まったく手がかかる。
だが、悪い気はしない。
伝承者候補すら一人の南斗鳳凰拳。
弟弟子が居ないサウザーには、フェイトの面倒を見るというのは、今まで味わったことの無い新鮮な感覚だった。




ヒャッハー!あとがきだぁーーー!

ラオウ、ジャギ様がリュウケンを親父、トキ、ケンシロウが師父、父と呼んでいるのに対して聖帝様はお師さん。
そんな、いい子が普段から世紀末口調なわけない!という事でそういう設定にした、今ではうわらばしている。

次あたりででアルフとお師さん出したいと思う。

しかし、クロノが十四でアレなのに、聖帝様が十五でアレってどういう事なの……。



[18968] 第三話:ぬくもり
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/05/27 21:56
「……なに、してるんですか?」
そう言って眺める先にあるのは、片腕の親指一本で逆立ちをしながら本を読んでいるサウザー。
かれこれ三十分ばかり、殆ど動かずに同じ姿勢を保っているのだから、遂に聞いてしまった。
もっともな質問に対して、サウザーは『作業』と言わんばかりに簡単に言った。

「何と言われてもな。修行としか言えん」
とは言っても、南斗聖拳の中では基礎中の基礎で、鳳凰拳の大半を修めたサウザーがやるようなものではないのだが
目を離したら何をするか分かった物ではないので、こうしてここでやれる物をやっている。
フェイトからしたら、かなり無茶な姿勢で平然と答える様に、どこか気のない返事をすると、それ以上言う事が無いのか黙った。

そして考える。
魔力値が低く、魔法技術が発達していないと思われていた世界で、それに反比例するかのように強力な拳法と呼ばれる力。
南斗鳳凰拳。
南斗六聖拳の一つと言っていた事から、同じような力を持つ物が少なくとも五つもある。

フェイトにとっては、魔力があるのが当たり前で、魔力を持たない人間がここまで強い力を持てるという事が信じられない事なのだ。
しかも、自分でも不覚を取った暴走体をジュエルシード諸共切り裂いた人は、まだ弟子の身であると言う。
ジェエルシードを真っ二つに出来るのなら、人間なんて容易く切り裂く事が出来る。
非殺傷設定も何も無い、そういう力を持った人間が沢山居るかもしれない世界。
……なんだか少しだけこの世界が怖くなった。


『……イ…』
ふと、どこからか声が聞こえてきたような気がして、フェイトが辺りを見回したが
サウザーは已然として本に目を通しながら指一本で体を支えている。
はっとなって、意識を集中させると、今度は、はっきりとした声が聞こえてきた。
『…ェイ……フェイト!聞こえたら返事してよ!』
「ア……『アルフ!』」
咄嗟の事で、少し声に出てしまったのか、ちらりとサウザーの方を見る。
声が小さすぎて聞こえていなかったのか、あるいは恐ろしいほど集中しているのかは分からないが
器用に片腕で本のページをめくっていて、気付いた様子は無かった。

『ああ、よかった。一人で突っ走るもんだから、どうなったのかと心配してたんだよ』
フェイトの頭の中だけで交わされるこの会話。
別に、二重人格とか、木人形にされて気が触れたとかいう類の物では無い。
「念話」と呼ばれる、魔力を持った人間同士で交わされる、一種の通信手段である。

『それで、ジュエルシードはどうだったんだい?』
『……駄目だった』
まさか、真っ二つにされたと言うわけにもいかず、手に入らなかった事だけを伝える。
気落ちしている様子を察したのか努めて明るく、励ますように冗談混じりに続けた。

『そっか……、でも、まだ始まったばかりさ。気長に行こう。ね?
  けど、無事でホントよかったよ。念話も通じないから、やられちゃんじゃないかと思って、泣きそうだったんだからね』
『あはは、ごめんね、アルフ。でも、やられちゃったのは本当だよ』
やられたという言葉に、笑い声がピタリと止まった。
直後、慌てふためいているのだから、普段からフェイトの身を案じている事が容易に見て取れる。

『……えぇ!?け、怪我は?体は大丈夫なのかい!?』
『封印だけならできるけど、今すぐには動けそうにないし、暴走体と戦うのは難しいかな』

『……ちょっと待ってな。すぐそっち行くから』
『ア、アルフ?』
言った瞬間、アルフがやたらとドスの利いた声になったので焦ったのだが、何度やっても念話が繋がらない。
しばらくして、ドドドドドド、と遠くの方から近付いてくる音に、フェイトがまさか、と冷や汗を垂らすと
サウザーが片腕一本で跳躍し、空中で体勢を整え身構えた。

「……来るか」
誰に対してでも無く言った瞬間、部屋の中へと踏み込んできたのは、オレンジ色の毛並みを持った巨大な狼。
口から覗く二本の犬歯を剥き出しにしながら、威嚇行動を取っている。
サウザーもまさか狼だとは思っていなかったらしく、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに南斗の拳士の顔付きになった。


サウザーが放つ気に当てられたのか、狼が一層威嚇を強めると、体の重心を前にずらし始める。
対してサウザーの取った構えは無形。
両腕を下げた自然体が南斗鳳凰拳の構え無き構えなのである。
一、二秒睨み合ったかと思うと、先に仕掛けたのは狼の方だった。

先手を取られた、と思うより先に目の前に獣の爪が迫る。
即座にバックステップで間合いを取ると、掠めるようにして爪先が通り過ぎ
一瞬の隙が見えた瞬間、サウザーが鳳凰の爪撃を繰り出すべく間合いへと踏む込む。
だが、獣の爪先をも凌駕した拳は、何も無い空を切り裂くに止まっていた。

「俺の拳をかわすとは、ただの獣ではないな」
視線の先には、狼にしては異様なまでの跳躍力で中空を舞う姿。
忌々しげに言った瞬間、サウザーの胸から斜めに裂け目が三本奔り、薄く血が滲み出した。
この攻防は時間にして僅か三秒足らず。
介入する暇も無く始まってしまった戦いを見るだけだったフェイトも、互いに第二撃を繰り出そうと構えている姿を見てようやく声をあげた。

「ま、待ってください!ほら、アルフも止まって!」
サウザーも狼も、今にも必殺の間合いに踏み込もうとしていたのだが、フェイトが心底慌てた声で叫んだので動きを止めた。
「アルフ?まさかこいつの名か?」
アルフと聞いて、何故か砂時計を思い浮かべてしまったが、まぁそれは関係無い。
一旦間合いから離れ、その狼を眺めると、何やら額に赤い宝石のような物が埋まっている。
色こそ違うが、最近、似たような物を相手にしただけに、何となくだがどういう関連なのか分かった気がした。

「随分、派手にやってくれたな。……どういう事だ?」
血を指でなぞりながら、いくばくか語気を強めるサウザーを見て、フェイトが小さくなった。
暗に、まだ隠している事があるなら今の内に話せ、と言われたというのもあるが、サウザーが怪我したというのが原因だろう。
アルフと呼ばれた狼は、威嚇こそしなくなったものの、警戒している事は一目で分かる。
よく見ると、首筋辺りから血を流しており、その傷はサウザーが負った物より少し深い。
両者共に、攻撃を紙一重でかわしたと思っていたのだから、痛み分けというところか。

「この子は、アルフと言ってわたしの使い魔なんです。……いいよ、アルフ」
すると、狼の姿が変わり、人の姿を取るようになる。
五秒も経たないうちに、狼の毛並みと同じ色の長い髪の女がそこに立っていた。

ここまで現実離れさせられた光景を見せられては、これ以上の説明を求める気も失せるという物だ。
まぁ、考えるだけ無駄だと、思考を『あ、新記録……』とばかりに投げ飛ばしたわけで、納得したわけではない。
それは向こうも同じだったようで、狼だった女は首筋を押さえながらサウザーを睨み付けていた。

「……あんた、一体何者なんだい。魔力を持ってない人間が、あたしにこんな傷を付けるなんて」
話す言葉こそ強気だが、その目には、ほんの少しだけ怯えの色がある事が見て取れる。
ただの人間の手刀と思い、避けようともしなかったのだが、突如として凄まじいまでの悪寒が奔り、反射的に中に逃げてしまった。
その選択が正解だったと気付いたのは地面に着地し、フェイトが声を出して止めた瞬間、首筋が浅く裂けた時。
あのまま手刀を受けていれば、間違い無く首が落ちていたのだから、警戒するのも無理は無い。
そんなアルフを抑えるかのように、フェイトが今まであった事の全てを話し始めた。





「へぇ、南斗聖拳ねぇ。そんなモンがあるなんて、全然知らなかったよ」
一通りの事はフェイトが説明したのか、なにかもう自分の家のように馴染んでいるアルフが首を縦に振る。
当たり前のようにフェイトの横にあぐらかいて座っているのは、図々しいを通り越していっそ清々しい物があった。

「いや~、フェイトが動けないって言うから、てっきり早トチリしちゃってさ
  怪我してるみたいだったし、あんたみたいなのが居たら勘違いもするってもんさ。あはははは」
軽く笑い飛ばしているが、この犬畜生様は勘違いという言葉だけで済まそうとしている。
南斗の使い手だから避けられたものの、そうじゃなかったらどうするつもりだと思ったのだが、まぁこの際はいい。

「それで、どうするつもりだ。俺の見立てでは、それなりに動けるようになるまでは二、三日はかかるはずだが」
連れて帰るにしろ、戦えるようになるまではそのぐらいはかかる。
そもそも、一般人なら全身の骨を砕かれ即死してもおかしくないような衝撃を受け
山の斜面に体を激しく打ちつけながら転がり、この程度の傷で済んだのだからバリアジャケット様々である。
それに戦えると言っても、無理を押して何とか戦えるという意味であり、全快には程遠い。
魔法が影響を受けるかどうかは知らないが、肉体的な力は五分も出せれば良い方だろう。
少なくとも、全く体を動かさないというわけではないのだから、どこかに隙は出来る。
昨日のようなのと戦り合うつもりでいるのなら、その一瞬の隙は今度こそ致命的な物になりかねないのだ。

とはいえ、そう忠告してやるだけで、そこから先はサウザーの与り知る所ではない。
相手の力量を見誤り、己の力を過信して、無様に敗れていった拳法家の話なんてのは、拳法に関わる者であれば知っていて当然の事だ。
特に北斗南斗との戦いにおいては、二度目があるという事は限りなく少ない。
病や傷を負っているのなら、それも含めてが今の己の力量。
傷を癒し万全の状態で望むか、傷を押して分の悪い賭けに出るかは当人次第である。


「それなんだよねぇ。あたしは回復魔法なんて使えないし
  時間をかけるしか無いんだけど、フェイトは無茶するからね。ま、そこが可愛いんだけど」
その辺りの事は、アルフも理解しているらしく、何度も首を縦に振りながらフェイトを眺めている。
そして、サウザーの方へと向き直ると、頭を下げて言った。

「だからさ、無理にとは言わないけど、しばらくフェイトをここで預かってくれないかい?」
「アルフ!何……っで!」
予期しなかった申し出に、フェイトが声を荒げ立ち上がろうとしたが、傷が痛んだのかすぐに膝を着く。
サウザーも、さっきまで互いに殺し合う一歩手前だった相手にそんな事を言い出す真意が掴めないのか、いぶかしむ様にして訊いた。

「……本気か?」
「ああ、本気も本気。ジュエルシードはあたし一人で探せないこともないけど
  そうするとフェイトが付いてきそうだし、そんなんじゃ何時まで経っても怪我なんて治りそうにないしね」
フェイトが何か不服そうにしているが、こればかりは聞けないとアルフは断固拒否の構えだ。
「あたしはフェイトの使い魔。フェイトの言うことなら何でも聞くつもりだけど、今はそれ以上にフェイトの体が心配なんだ。……頼むよ」
言うや否や、アルフが床に額を擦り付けんばかりに頭を下げた。
そんな姿を見て少し考えたが、フェイトが心配というのは嘘偽り無いようだし
助け出した時点ではそうするつもりだったので承諾する事に決めたのだった。

「ふぅ……、まぁ、いいだろう」
サウザーがそう言うと、アルフの体がたちまち狼の姿へと変わり人の言葉を吐いた。
どうやら狼の姿でも口は利けるらしい。
「助かったよ。……フェイト、ジュエルシードが見つかったら、すぐ戻ってくるからね」
「うん……。アルフもあんまり無茶しちゃ駄目だよ」
「……念のために言っておくけどフェイトに手を出したらガブっといくよ」
今は動くのは無理だとフェイトも自分で動くのは諦め、別れの挨拶を済ますと、アルフが弾丸のようなスピードで飛び出し山の中へ入っていった。




「……どうも、昨日から信じられぬ事ばかり起こるな」
狼を見送りながら、頭をかいてそう呟く。
願いを叶える謎の宝石に、魔法に、人狼ときた。
ここまでされれば、次に喋るマスコットが現れても驚かない自信はある。
もっとも、大抵の物は素手で引き裂いたり出来るのだから、逆に驚かれそうではあるが。

そんな風にしていると、どこか遠くの方から車が走って来る音が聞こえてきた。
山の中の荒れ道だが、南斗の道場を経由できるぐらいの道は通っている。
それに急時の場合はヘリだって飛ばす事もある。
北斗神拳、南斗聖拳、元斗皇拳。
いわゆる三斗の中では、各拳士の実力の高さはともかく、最も組織力が高いのは南斗である。
南斗列車砲なんていう、頭のネジが軽く二、三本は抜け落ちたような馬鹿げた代物まであるのだから、そのぐらいの装備はあって何の不思議でもない。

とにかく、ここに車で来れるのは南斗の関係者しか居ない。
車のエンジン音が止まって少しすると、また遠ざかっていく。
当代の南斗聖拳において、最強との呼び名の高いオウガイが戻ってきたのだった。

「戻ったぞ。サウザー」
サウザーにとっては聞き慣れた、フェイトにとっては始めての声が響く。
その瞬間、フェイトは少し、いや、かなり驚いた。

「お師さん!」
半ば飛 び出すように表に出て行ったサウザーの顔からは
さっきアルフと対峙した時のような剣呑な表情はなりを潜め、年相応の少年らしい顔付きと口調に変わっていたからだ。

「どうでした?道場の方は」
「それについて後で話がある。わしの留守中に何か変わった事はあるか?」
「それが……少し、思いもしなかった拾い物が」
そんな会話が壁の向こうから少しずつ大きくなってくるのを聴いて、フェイトが顔を強張らせた。
全てを外から破壊する南斗聖拳の使い手。
実際にその力を目の当たりにしただけに、怖いという思いは少なからずある。
サウザーに対しては、助けられたりした経緯から、そういった感情を抱いてはいないものの、その師まで同じかというわけにはいかない。
そんな風にしていると、サウザーに続いて部屋の中に入ってきたのは、長い髪を後ろに結び、同じ色の長い髭を蓄えた、少し厳しそうな人物だった。

「お師さん。この子です」
「うむ……」
値踏みするかのように眺められて、フェイトがまた小さくなった。
元々、人見知りしやすいというのもあるが、オウガイの年齢に似合わぬ体付きや、厳格そうな顔付きに少々萎縮してしまっている。
その丸太のように太い腕が自分の方に向けられたのを見た瞬間、体が小さく跳ね、思わず目を瞑ってしまった。

そして、ポンと置かれるあったかい物。
薄っすらと目を開けると、大きな暖かい手がフェイトの頭の上乗せられていた。

「あ……」
気恥ずかしさから、声が出そうになったが、すぐに止まった。
「大した物は無いが、怪我が治るまではここに居なさい」
フェイトの頭を撫でるオウガイの表情は、今までフェイトが見た誰の物よりも優しく、どこまでも深く大きい。
記憶の中でしか与えられていなかった、親が子に与えるような『ぬくもり』が何とも心地良く感じられる。
そうしている内に、フェイトの頭の中からは、この世界が怖いという感情はどこかへ消え去ってしまっていた。




ヒャッハー!あとがきだーー!
闘気とは非情の血によってのみ生まれる物!
よって聖帝様もラオウも、現時点では闘気を身につけていないため、落鳳破等の闘気技は使えません。
威力的には殺傷設定の場合、無印のSLB=剛掌波ぐらいかと思ってるんですがね。


北斗において、ぬくもり全一のお師さんと、母からのぬくもりに飢えているフェイト。
需要と供給が見事に一致した結果こうなった、今では「たわば」している。



[18968] 第四話:北斗現れる所、乱あり
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/29 14:58
天空に輝く二つの極星。
即ち、北斗七星と南斗六星。
その極星の名を冠する二つの暗殺拳が存在する。

陰と陽。裏と表。男と女。
表裏一体とも言える拳法の名は、北斗神拳と南斗聖拳。

陰の拳である北斗神拳は一子相伝。
肉体の経絡秘孔に気を叩き込み、表面の破壊よりも内部からの破壊を極意とした一撃必殺の拳法。
時の皇帝を陰から守護する伝説の暗殺拳である。

それに対して、陽の拳である南斗聖拳は外部からの破壊を真髄とし、百八派もの流派を数える。
その南斗百八派の中で頂点に立つ六つの流派を、人はいつしか南斗六聖拳と呼んだ。
南斗六聖拳は、皇帝の居城を守る六つの門の衛将とも呼ばれ、各々が六星に対応した宿命を持つ。
南斗六聖拳が司る星は、その名が示すように六つ。

狐鷲拳の殉星、愛に生き、愛に殉ずる星。
水鳥拳の義星、人のために生き、命を懸ける星。
紅鶴拳の妖星、美と知略の星。又の名を裏切りの星。
白鷺拳の仁星、未来への希望に生きる星。
南斗正統血統が持つ慈母星、母性の星。
そして、南斗六星の主星にして極星・南十字星が鳳凰拳の将星である。

将星の別名は『独裁の星』。
肉親も友も持たぬ、あるのは己ただ一人という生まれながらの帝王の星。
その数多の歴代伝承者の中でも、最も異質な使い手がオウガイだった。




「夜の一族、ですか?」
「うむ。知っておるな、サウザー」
「はい、確か、吸血鬼のような物と聞き及んでいます」
日が沈み、暗くなった家屋の一室では、師と弟子が明かりを挟んで、そんな会話をしていた。
サウザーは吸血鬼のような物と言ったが、夜の一族は紛れも無く吸血鬼。
人より長く生き、血を吸い、驚異的なまでの再生力を誇る。
古来より、世界の影で生き、政治や軍事などを動かしてきた集団である。
それだけに、南斗聖拳との関わりは深い。
時に争い、時に協力し同じ敵を討つという事が、過去幾度もあったし、南斗聖拳の流れを汲む蝙蝠拳などは代々使い手が夜の一族に連なる者達だ。

「その夜の一族がどうかしたのですか?」
「聖司教が動いた」
オウガイのその言葉に、サウザーも幾分か目を細めた。
南斗聖司教は、南斗聖拳百七派の門弟に印可を与える事ができる、いわば南斗の最高権力者。
鳳凰拳は一子相伝のため、その範疇ではないが、それでも南斗全体における権勢は一目置かざるを得ない。
その聖司教が直々に動いたというのはただ事では無いという事である。

聞けば、海鳴市に、純血の血を保った一族がおり、最近その周りで不穏当な動きがある。
そこで、比較的場所が近く、実力の確かな鳳凰拳に声がかかったという事らしい。

南斗聖拳とて、暗殺のみを生業としているわけではない。
中国が共産化され、皇帝たる天帝の血筋は元斗皇拳が直接守護している以上、要人のボディガードのような任を受ける事もある。
鳳凰拳が安く見られているようで、サウザーは気に入らなかったが、聖司教直々となれば、蹴る事はできない。

「では、しばらく家を空ける事になりますね」
サウザーは当然、南斗鳳凰拳伝承者のオウガイが出向く物と思い、そのための準備をしようとしたのだがオウガイはそれを遮るようにして言った。

「いや、これは、お前に行ってもらうつもりだ」
「私が、ですか?お師さん、理由を教えてください」
本来、修行中の身である者が、外で拳を使う事は許されないはずである。
南斗聖拳を封印しても、並の相手なら歯牙にもかけない自信はあるが、それでは万が一があった場合に役に立たない。
それをオウガイが知らないはずはないので、理由を尋ねるとオウガイが続けた。

「サウザー。今年で幾つになる」
「はっ、十五です」
「そうだ。わしが南斗鳳凰拳を継承したのもそれぐらいだ。意味は分かるな、サウザー」
他の流派に比べ、鳳凰拳の継承は比較的早く行われる。
常に師弟が一つとなり修行を行うのだから、その習熟速度は他の五星の及ぶところではない。
サウザーも、遂に鳳凰拳を継承する時が来たという事である。

「南斗鳳凰拳の継承は、目隠しをしての真剣勝負。敗れれば、お前は死ぬ事になろう」
今までに無い表情で話すオウガイを見て、サウザーも本気だと確信した。
今回、出向く事になった理由は、真剣勝負の空気に慣れておくという意味合いが強いという事だろう。
一応の確認の意味も込めて、サウザーがオウガイに尋ねた。

「では、南斗聖拳は」
その言葉にオウガイが首を縦に振る。
「分かりました。お師さん、その間、あの子の事はよろしくお願いします」
一礼して、サウザーが部屋から退室すると、一人残されたオウガイが窓際に移り空を眺めた。


「……弟子に強く慕われるか。ふふっ……、わしは、鳳凰拳伝承者としては幸せ者だな」
オウガイは一つ嘘をついた。
本来の南斗鳳凰拳の継承では、目隠しなどはしない。
目隠しなどせず、正面から師と闘い、殺さねばならぬ。
師を殺すという事で、非情の血を得て闘気を身に纏う事ができるようになる。
真の継承者への道に情けは無いのである。

だが、それではサウザーが南斗鳳凰拳を継承できない事は、誰よりも知っている。
実力的な問題ではない。
この十五年間、厳しくも優しく、ぬくもりを持ってサウザーに鳳凰拳の全てを教えてきた。
サウザーもそれに応え、技の面では教える所は何も無いところまで強くなった。
しかし、鳳凰拳の継承が師を殺す事と知れば、サウザーは鳳凰拳を継がないという道を選ぶ事は目に見えている。
それは、父としては嬉しい事ではあるが、同時に師父としては哀しい事である。

「この命。捨てねばなるまいな」
南斗六星を眺めながら、そう呟く。
師を越えるだけの器量を持った弟子の未来を潰さぬ為に、喜んで捨石となろう。
その悲壮な決意を知っているのは、オウガイと天に輝く将星だけだった。






海鳴市。
人口はそれ程多くない小都市だが、山や海の自然が美しい街である。
最近、野犬騒ぎがあったが、基本的には平和な所だ。
そこに、物騒の塊とも言える南斗聖拳のサウザーが歩いていた。

「月村……か。すぐ分かると言っていたが、どこにあるものか」
その夜の一族の名は『月村』。
この国でも有数の富豪であるだけに、その屋敷も相当な物なのだが、街全体からすれば小さい。
散策がてら適当に歩いていると、ふと一軒の喫茶店が目に入った。

『翠屋』という名前は街に来るたび何度か聴いた事がある。
中々評判の店のようだが、特に用があるわけではないので通り過ぎようとすると、後ろから一台のバイクがサウザーを追い抜き店の前に止まった。

「あー、ここだ!この店のケーキがすっごく美味しいって評判なんだよ!」
ヘルメットとゴーグルを付けた金髪の少女が、その体に似合わぬバイクに跨りながら言う。
言った相手は後ろに跨る少年。
どうも、その少年に見覚えがあったのか、サウザーが話しかけた。

「貴様、ジャ……ジャッキーだったか。こんな北斗の寺院から離れた所で何をしている」
「ああ!?誰がジャッキーだコラァ!って、南斗のサウザーじゃねぇか。てめぇこそ何してんだ」
ヘルメットとゴーグルを外しながら、ジャッキー改めジャギが喚いたが、「冗談だ」と言うと軽く流す。
そうしていると、ヘルメットを外しバンダナを巻いた少女が割り込んできた。

「なになに?ジャギの知り合い?」
「あー、アンナ。まぁ知り合いっちゃあ知り合いだな。滅多に会わねぇけどよ」
その掛け合いを眺めながら、なんとなくだが、ジャギはアンナと呼ばれた少女に頭が上がらないように見える。
「なるほど、そういう事か。兄達に比べて手が早い事だな」
まぁ、そういう関係なのだろうと納得しておくと、幾分か顔を赤くしたジャギが掴みかかってきた。

「ばっ!違ぇよ!俺とアンナはそんなんじゃ」
ジャギが必死になって否定していると、今度はアンナがジャギの顔を覗き込みながら言う。
「ん~?ジャギはあたしの事、嫌いなんだ。そうなんだー」
「いや、そうは言ってねぇけどよ……」
バツが悪そうにアンナから顔を反らす様はどう見てもベタ惚れです。本当にありがとうございました。

「そ、それで、てめぇは何してんのかって聞いてんだよ!」
どもりながら話題を変えようとするあたり、図星なのだが、ここでジャギの相手をしても仕方ないので手短に話した。

「この街にある『月村』という家を探している。知らぬか?」
「あたしは、この店の噂を聞いて来ただけだからねー。ジャギは?」
「俺が知るわきゃねぇだろ」
まぁそれもそうか、と立ち去ろうとすると、後ろから腕を掴まれる。
ジャギかと思い振り向くと、アンナが楽しくて仕方ないというような顔をこちらに向けていた。

「まだ、何かあるのか?」
「いやー、当てずっぽうに探しても時間の無駄でしょ。だったら、聞くついでに、この店に寄ってかない?」
「ア、アンナ!なんでこんな奴!!」
「だって、ジャギは昔のこと話してくれないしー、お寺には入れないから、小さい頃のジャギの話とか知ってたら聞いてみたいんだよねー」
にしし、と愉快そうに笑う辺り、からかうネタが欲しいというところか。
北斗と南斗の男を前に、随分と良い性格をしているようだ。
ジャギはというと、心底嫌そうな顔をしている。
話されるのが嫌なのか、折角二人のところに水を刺されるのが嫌なのか分からないが、こちらとて都合はあるのだから、無視する事に決めた。

「ふむ……、俺も北斗の寺院に行ったのは数年前だしな。色々聞きたい事もある」
本来、北斗神拳は他流試合が禁じられているため、南斗鳳凰拳とて出向く機会は少ない。
たまたま、サウザーとラオウの年と実力が近かったという理由が無ければ、馴染みなどになっていないはずである。
それだけに、今のラオウの実力がどの程度になっているのかというのは、サウザーとしても聞いておきたい事だった。

「ふふん、決まりね。ほら、ジャギ。拗ねてないで行くよー」
「ま、待てよアンナ!……おい、余計な事喋るんじゃねぇぞ!」
ジャギが扉に手を掛けながら、サウザーに指を向け釘を刺す。
来るなと言わない辺り、やはり頭が上がらないという事だろう。
面白い物を見たというような顔をすると、サウザーも店の中へ入っていった。





「くっははは、泣き虫ジャギか。お前にもそんな時代があったとはな」
「そーだよー、この前会った時も泣いてたしね」
「そんな昔の事を、こいつに言わなくてもいいだろうがよぉ」
翠屋の一つのテーブルでは、アンナとジャギが横並びに、サウザーが対面に座って話を続けている。
男二人は店構えとはかなり異なる雰囲気なのだが、そんな事を気にするやつ等ではない。
サウザーは、アンナを北斗の従者か何かと思っていたのだが、実際はジャギが昔、家出した時に世話になって、つい最近再会したと聞いた。
なので、北斗と南斗の話をするわけにもいかず、当たり障りの無い内容になっていたのだが、これが意外と面白い内容だった。

それにしてもと、頬杖を付き、コーヒーを口に運びながらジャギを眺める。
力を付けては来ているようだが、上二人に比べるとどうしても見劣りする部分がある。
劣っているというよりは、ラオウとトキの実力が高いせいで目立っていないと言うべきか。
北斗神拳は一子相伝。
伝承者争いに敗れた者は、自ら拳を封じなければ、拳を潰されるか、記憶を消される。
それだけに必死なのだろうが、こればかりは才能が関わってくるのでどうしようも無い。

案外、南斗聖拳を学んでいればかなりの使い手になるかもしれん、とか考えた。
元々、南斗聖拳は北斗宗家の伝承者争いに敗れた者や、高名な拳法家が集まって南斗を名乗ったと伝えられている。
なので、ジャギが南斗に転向しても何ら問題は無いのだが、そこは本人次第である。


「あー、ごめん。ちょっと席外すね」
席を立ったアンナにジャギが何処へ行くのかと、しつこく聞いたが遂に殴られた。
その際、バカジャギとか言われていたが、まぁ当然だろう。
何で殴られたか分からないような顔をしているジャギは放っておいて
周りに他の客も居ない事だし、これ幸いと本命の話を切り出した。

「ジャギ、そっちの伝承者争いはどうなっている」
純粋な力ではラオウが勝り、技という点ではトキが勝る。
目下のところ、この二人が最有力候補で、これに割って入るのは並大抵の事ではない。
その辺りの事は、痛いほどよく分かっているのか、ジャギも吐き捨てるかのように言った。

「今のままじゃラオウかトキで決まりだろうよ。だが、見てやがれ!ラオウもトキも俺が超えてやる!」」
そう意気込むジャギだったが、サウザーは黙ってそれを眺め考えていた。
確かにジャギには拳才はあるが、他の兄弟のそれは大きく上回っている。
ジャギが一歩進めば二歩も三歩も先へ行くような連中である。
そうであればこそ、先は見えている。
だから、極めて冷徹に告げたのだった。

「貴様、南斗聖拳を学ぶ気は無いか?」
「……どういう意味だよそりゃあ」
真意を掴みきれないのか、聞き返してきたが、その声で店の中の空気が下がった。
だが、サウザーは意に介せず平然としながら続けた。

「北斗の掟は知っていよう。争いに敗れた者は拳を封じなければならん」
「てめぇ……!俺に降りろって言ってんのか!?俺じゃあいつらを超えられねぇって事か!?」
「お前に北斗は向かん」
「ふざけんなぁ!!」
サウザーがそう言った瞬間、乾いた音が店に響く。
テーブル越しに身を乗り出したジャギが拳を放ったのだが
常人では捕らえ切れない程の速さを持った拳は、あっさりとサウザーに受け止められてしまっていた。

「は、離せ!」
振りほどこうとジャギがいくら力を込めても、拳はがっちりと押さえられている。
かれこれ十秒ばかり経ってから、ようやく拳を離したのだが、その間ジャギの拳は全くと言っていい程に動かなかった。

「見ろ。これが今のお前とラオウとの力の差だ」
ラオウとトキは間違いなく天武の才を持っている。
ジャギの才は中の上というところで、仮に強さの上限が同じとしても、伝承者争いという限られた時間の中では差は大きくなる。
ならば、いっその事、時間をかけ南斗聖拳を学んだ方が後々禍根を残さないのではないかと思ったのだが、どうも余計な世話だったらしい。

「……しょう、……ちくしょう!ちくしょおお!」
「あ、ジャギ!どこ行くのよー!」
丁度、トイレから出てきたアンナの静止を振り切ると、ジャギが叫びながら飛び出していった。

男二人に女一人という事もあって、どうもさっきからそっちの方の修羅場的な感じに周りから見られているような気がするが、まぁ気にはしない。
ジャギが飛び出した事情を知らないアンナが、不思議そうに聞いてきた。

「ジャギ、なんか泣いてたけど、何かあったの?」
「こっちの話だ。……だが、放っておくわけにもいかんか」
本音を言えば、放っておいてもいいのだが、自分が原因でヤケになられて、こんな街中で北斗神拳を使われたりでもしたら非常に困る。
巡り巡って、オウガイに迷惑が掛かるのはサウザーとしては何としても避けたい事なのだ。
そう遠くには行ってないだろうと、追う事にしたのだが、その前にアンナに伝票を渡された。

「ジャギの話を聞かせて貰うつもりだったんだけど、話したのはあたしばっかりだったし、まぁ情報料ってとこかな」
同じ金髪でもフェイトとはえらい違いだと思ったのだが、こういうしたたかな性格は嫌いではない。
千円札を三枚程取り出すと、伝票の上に乗せ、返した。

「オッケー。ジャギが戻ってくるまで待ってろって事ね」
伝票の値段の倍の額だったので、その意味を察したのか、嬉々としてメニューに目を通しているあたり、本当に良い性格をしている。
店の中から向けられる異質な視線が少し気になるものの、今はそれどころではないので、ジャギを探すべくサウザーも店を後にした。





「ちくしょう!」
夕暮れの人気の無い公園に、ジャギの叫びと大きな打撃音が響く。
力任せに殴られた木からは、無数の葉っぱと、妙な青い石が落ちてきた。

「何だ?ただの石じゃねぇな。宝石なら、アンナに渡せば喜ぶかな」
青く輝く宝石を手に取り、じっくりと眺める。
その様子を想像して、ほんの一瞬顔がほころんだジャギだったが、すぐに表情が屈辱の色に染まった。

ラオウには見下され、トキに軽くあしらわれ、弟のケンシロウにも追い抜かれかねない。
あまつさえ、部外者である南斗聖拳のサウザーに北斗神拳を諦めろと言われる始末。

「強くなりてぇ……!」
手にした宝石を強く握り締めながら、心底そう願う。

父リュウケンとの関係を家族ごっとと言い、馬鹿にしたラオウを捻じ伏せるような力が欲しい。
すました顔で、俺を見ようともしないトキを屈服させられる力が欲しい。
後から入ってきたくせに、先に北斗神拳を学んだケンシロウに泥を舐めさせるような力が欲しい。
師父リュウケンに伝承者として認めて貰えるだけの力が欲しい。
誰も文句を付けれないような、俺が北斗神拳伝承者であると認めさせるだけの強大な力が欲しい。

「ラオウよりも!トキよりも!ケンシロウよりも強くなりてぇ!!」
ジャギがそう叫んだ瞬間、拳の中の青い宝石が、激しく光りだした。




「あの光……まさか!」
天を貫くような青い光を見て、その方向に駆け出したのだが、近付く事に肌がひり付く様な感覚が強くなってくる。
この感覚は、紛れもなく闘気を前にした時と同じだ。
人気も無い夕暮れ時という事もあって、一足飛びに屋根に飛び移ると光の場所へと向かったのだったが、その先の光景は異様としか言いようが無かった。

「なんと……!あのジャギが闘気を!」
その身から漏れ出すように発せられているのは、まさしく闘気。
真の奥義を極め、その真髄を極めた者のみが身に纏う、拳法を使う者にとっての一つの到達点。
それを、北斗四兄弟の中で最も実力が劣ると評されてきた男が発している。
ジャギの体から噴き出す凄まじいまでの闘気に、思わず生唾を飲んだが
この緊迫した光景に似合わぬ幼い声が聞こえてくると、無数の桃色の帯のような物がジャギの体の自由を奪った。

「リリカル マジカル ジュエルシードシリアルⅩ封印!」
対面の方で、妙な杖を持った子供がそんな事を言っている。
驚くのには慣れたが、まさか似たようなのがもう一組出てくるとは想定外だ。
ただ、これで終われば楽でいいのだが、そうはいかない。

「こんなもんで……、どいつもこいつもバカにしやがって……!この俺様をナメんなぁぁぁぁぁ!!」
苦も無く、桃色の帯を破ったのだから、足止めにもならない。
破られると思っていなかったのか、少女と鼠のような生物が慌てふためいている。
そして、誰に向けて言うでもなくジャギが叫んだ。

「お前ら……俺の名を言ってみろぉぉぉぉ!!!」
「ぐぅ!?」
「きゃあ!」
ジャギから発せられる闘気が暴風となり辺り一面を襲う。
闘いの気迫が無数に繰り出される拳となって、二人と一匹の目に映る。
サウザーは踏み止まったが、少女は吹き飛ばされてしまった。

「くっ……、これ程までに変わるというのか!」
ジャギの手の中に埋まっているのは、間違い無くジュエルシード。
恐らくは、あの暴走体と同じ。
ジャギが北斗神拳の伝承者争いに加わったのは、末弟のケンシロウよりも後と聞く。
他の三人が北斗の伝承者となるために養子に貰われてきたのに対して、ただ一人ジャギはリュウケンの息子として育てられた。

ジュエルシードは願いが強ければ強い程、その強さを増す。
ラオウに見下され、トキに置いていかれ、ケンシロウにも追い抜かれた男が、強くなりたいと願わぬはずがない。
ただの動物であの変貌を遂げるのだから、人一倍執念の強いジャギがこの凄まじいまでの闘気を纏うのも納得がいく。

「俺は……俺は、北斗神拳伝承者……ジャギ様だぁぁぁ!!」
闘気を撒き散らしながらジャギが叫ぶ。
その顔は、目は血走り、顔中に血管が浮き出ており、魔人か悪鬼羅刹の如し。
人と思えぬ程に変貌した様に、サウザーは思い当たる事があった。

「貴様……、まさか魔界に足を踏み入れたとでもいうのか!?」
北斗神拳は一子相伝。
しかし、千八百年前。魏、蜀、呉が割拠する三国志の時代に分裂したと、オウガイから聞く。
魏に付いた北斗曹家拳。呉に付いた北斗孫家拳。蜀に付いた北斗劉家拳。
その中でも北斗劉家拳は北斗琉拳とも呼ばれ、経絡秘孔とは違う経絡破孔を使う。

北斗琉拳を極めし者は、魔界へ至り己を見失う。
事実、北斗琉拳伝承者ジュウケイが魔界へと踏み込み、若き日のリュウケンが引き戻したという。

「ならば、あれが魔闘気か。魔法の力を得て魔闘気を身に付けるとは、笑えん冗談だな……!」
魔闘気とは、魔界へと至った者が身に纏う闘気。
その禍々しさは普通の闘気の及ぶところではない。

げに恐るべきは、ジュエルシード。
あのジャギをここまで変貌させるとは、まさに魔道の力と言うべきか。

横目で少女を見たが、バリアジャケットのおかげか怪我は無い。
だが、体は小刻みに震え、戦意を喪失しているようにも見える。

「なのは、しっかりして!立って!立たないと!」
「ユ、ユーノ君……、た、立てないよ。どうしてかな、にゃははは……」
鼠が何か言っているが、魔法を使うとは言え、子供が魔闘気を前にして立てるという方がおかしい事である。

「失せろ!」
ジャギの掌から血のような赤黒い色の魔闘気が放たれると、無防備な少女に向かう。

“Protection"
それを防ぐべく何やら障壁のような物が張られる
だが、まるで紙のように障壁を突き破ると魔闘気が進んだ。

「ちっ!」
舌打ちをしながら、咄嗟に、一人と一匹を纏めて掴むと、空へと跳ぶ。
その直後、跳んだ場所の地面が激しく砕けたのだから、その威力の程が見て取れるだろう。
子供の未成熟な肉体なら、細胞一つ残さず消滅していたかもしれない程だ。

「あれを受けては、俺とて無事では済まんな……!」
防御魔法やバリアジャケットなどは意味を成さぬ程の闘気量。
闘気を防げるのは闘気のみ。まだ闘気を纏えぬこの身では下手に正面から受ける事はできない。
とにかく、このままのでは拙い。
地面に着地すると、少女の肩に乗っている鼠に話しかけた。

「おい、そこの鼠。奴の魔闘気はジュエルシードとやらが原因だ。どうにかならんのか?」
「あ、あなたはジュエルシードの事を知っているんですか!?」
「なるのか、ならないのか、どっちなんだ」
知っていようが、知らなかろうが、今はどうでもいい。
アルフの例があるし、まぁ同類だろうと思って、封印できるならさっさとしろ、という意を混ぜたのだが、帰ってきたのは頼りない返事だった。

「ぼ、僕は攻撃魔法得意じゃないし、肝心のなのはが……」
なのはという少女の顔に目を向けたが、顔色は蒼白で息も荒い。
妙な杖を持つては小刻みに震えており、ジャギの放つ魔闘気と殺気をモロに受けたと見える。

「だ、大丈夫だよ。ユ、ユーノ君。わたしは、まだ大丈夫だよ。ディバインバスターなら……」
それでも、まだ完全に心は折れていないようで、一人で立ち上がった。
並みの人間なら、肋骨が折れたり、奥歯が取れたりしてもおかしくないのに、大した物だ。

「でも、あの魔力光は異常だよ!近付いただけでも危ないなんて……!それに、砲撃魔法は発動に時間がかかるんだよ!」
ジャギが一歩進むたびに、地面にひびが入り、魔闘気に晒された植物が枯れ果てる。
その様は、まさに魔人とでも言うべきか。
たじろぐ一人と一匹を目にして、サウザーが魔闘気を遮る様に立ちはだかった。

「北斗南斗争えば、大きな災いを呼ぶ……か。だが、こうなっては致し方あるまい。ジャギの動きは俺が止める、その間にどうにかしろ」
あるいは、この状況が大きな災いとも言えなくもない。
人気が無かったから良かったものの、そうでない場所なら魔闘気の影響で人死にが出かねないところだ。

「無茶です!なのはでも危ないのに、魔力を持ってない人が……?」
止めようとしたユーノの目に、サウザーの体で練られた気が全身から外に漏れ出るのが映る。
その色はは薄っすらと輝き、金色の魔力光のようにも見えた。

「わ、わかりました。結界を作ります。無理しないでください」
その間にも、ジャギは魔闘気を放ち続けている。
サウザーも隙をみて、衝撃波を飛ばし応戦しているが埒が明かない。
やはり、この手の事は拳速に優れる南斗紅鶴拳が最も適しているようだ。

突然、目に映る色がモノクロになった。どうやら、これが結界らしい。
放たれる魔闘気を紙一重で見切りながらサウザーがジャギの間合いへと踏み込む。
南斗聖拳は、他の拳法に比べ空中戦に強い。
普通の拳法の場合、空中へ跳ぶという行為は、次の動きが決まってしまうため禁じ手とされているのだが、南斗聖拳程になると話は違ってくる。
特に、南斗六聖拳の一つである南斗水鳥拳は、空中で敵がその動きに見惚れてしまう程の華麗な動きを見せる。
当然、鳳凰拳も例外ではなく、持ち前の踏み込みの速さと跳躍力を生かし、どうにか無傷で間合いへと踏み込んだ。

「やるじゃねぇか。伊達に南斗最強は名乗ってねぇなぁ」
「ふん。仮初の力に酔う愚か者が。今の貴様では、末弟にも遠く及ばん」
サウザーの挑発めいた言葉に、ギリィ、という音が響く。
奥歯が砕けんばかりに力を込めたジャギが、全ての憎しみを吐き出すかのように叫んだ。

「兄より……!兄より優れた弟なんざ存在しねぇんだよ!!」
魔闘気を膨張させたジャギが膝を落とし、両掌をサウザーへと向ける。
その技は、ジャギが唯一リュウケンから直接教わった技。
他者への憎しみ、恨み、妬み等の負の感情の全てを捨て去った者のみが真の力を発揮する事が出来る奥義。

「死ねぇ!」

                    北斗神拳奥義ほくとしんけんおうぎ
                ほく  と   ら   かん げき
               北 斗 羅 漢 撃

そこから繰り出されるのは無数の突き。
ジュエルシードの力によって底上げされた変幻自在の連撃は、サウザーを以ってしても完全には見切れない。

「しぇらぁぁぁ!」

                     南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                なん  と  ほう  ざん  げき
               南 斗 鳳 斬 撃

負けじと打ち返すが、数十発の打ち合いを経てジャギの拳が掻い潜り、たちまち無数の拳がサウザーの経絡秘孔に打ち込まれた。

「ぬぁ!腐っても北斗の兄弟……!甘く見すぎたか……!」
「うるせぇ!俺はぁ!北斗神拳伝承者だ!どうだ、悔しいかぁ!ひゃはははははは!」
サウザーの口から血が毀れ、ジャギが嘲るかのように笑う。
例え南斗聖拳の使い手といえど、秘孔を突かれれば、死の運命から逃れる術は無い。
だが、血を流しながら、サウザーも笑った。

「ぐ……、はははは!この体に北斗神拳は効かん!!」
内臓の位置が逆。経絡秘孔の位置も逆。
経絡秘孔への突きが正確であればあるほど、サウザーに北斗神拳は通用しない。
十万人に一人が持つと言われる体がサウザーの秘密なのである。

伸びきったジャギの腕を掴むと地面へ組み伏せる。
魔闘気こそ凄まじいが、その体は年相応。
サウザーが全力を尽くせば、少しの時間だが動きは封じる事はできるのだ。

「やれ!!」
本来なら、肉ごとジュエルシードを抉り取ってやるのだが、少しでも他の事に力を割けば魔闘気に吹き飛ばされる。
フェイトとアルフから、魔法には魔力にのみ直接ダメージを与える非殺傷設定があると聞いた。
それであれば、魔力などという物を持たぬこの身には大した影響は無い。(していなくても、耐え切る自信はあるが)
だが、魔力の塊とも言えるジュエルシードと、その影響を受けているジャギにはダメージはあるはず。
問題は、魔闘気を打ち抜けるだけの力があるかどうかだ。
もし駄目なら、抑えている手をそのまま突き刺すしか無い。

離れた場所では、白い少女がこちらに向けて立っている。
諸共撃つという事に、少しは抵抗があるのか、申し訳無さそうにしていたが、そんな事考えている場合ではないと考え直したのか杖を向けた。

「いけるね、レイジングハート!」
“Shooting mode set up"
手にする杖が、何やら妙な変形をしたのだが、今のサウザーはジャギを抑えておくだけで精一杯で気にする余裕は無い。
「ごめんなさい、後でお店で一杯ごちそうしますから!」
“Stand by.Ready"
「ディバインバスターーーー!!」
その瞬間、ビームのような閃光が放たれジャギとサウザーに向かった。
「跋折羅!」
「こ、こいつ!まだ!?」
サンスクリット語を叫びながら、ジャギが辛うじて動く右手で魔闘気の塊を打ち出す。
片手だけとは言え、その太さはなのはが放った物に匹敵する。
桃色の魔力と、赤黒い魔闘気がぶつかり合い押し合った。

「う、おおおおおおおおお!」
「頑張って!レイジングハート!!」
どちらかが一瞬でも力を抜けば一気に天秤が傾くこの状況。
魔法を使うとは言え、見た目普通の子供と、仮にも北斗の伝承者争いに加わっている男。
体力面では比較にならず、このまま続けば押し負けると判断したサウザーが手先に力を込め
心臓を貫こうとした瞬間、別の予期せぬ方向から光の弾がジャギにぶつかる。
大したダメージは無いが、ほんの一瞬だけ放つ魔闘気の力が弱まった。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
その機を逃すまいと、なのはが力を強める。
少しづつ、魔力が魔闘気を押していき、遂にはジャギの眼前まで迫り、それを目にしたジャギが大声で喚いた。
「くそ!くそ!くそぉぉ!俺は北斗神拳伝承者ジャギ、ジャギギギギ!ばわ!!」
完全に押し負けた魔闘気が四散し、光がジャギとサウザーを包むには、そう時間はかからなかった。





ようやく魔闘気が消え去ったジャギの上で、サウザーが一息吐き、手の中のジュエルシードを奪い取った。
ジャギですらこの有様なのだから、ラオウにでも渡れば本当に世紀末モードになりそうだ。
今回改めて分かった事だが、このジュエルシードはロクな代物ではない。
あの時の技が、経絡秘孔を突く北斗羅漢撃だったから良かったものの、あれが南斗聖拳の技だったら、倒れていたのは逆だったはずだ。
いっその事、壊した方がいいかとも思ったが、助けられた手前、先に聞いておく事にした。

「それで、いつまで隠れているつもりだ」
サウザーがそう言うと、木の陰から一人の女が姿を現す。
もちろん、アルフだ。
「バレちゃったか。それにしても、また凄いの相手にしたもんだねぇ。何あれ、魔闘気だっけ?」
「……お前、何時から見ていた」
「ん、最初からかな」
悪びれる様子も無く、軽口を叩く様子にさすがのサウザーも少しイラっときた。
この駄犬は人が必死になってるとこを高みの見物と洒落込んでいたわけだ。
割と本気で南斗殺指葬で、胸にいくつか傷を付けてやろうかと思ったのだが、殺気を感じ取ったのか、慌てて話題を反らしにかかった。

「い、いや、助けてあげたんだから、そのぐらい多目に見てよ」
確かに、アルフが打ち込まなければ、ジャギを殺すしかなかった。
下手すれば、北斗と南斗で戦争である。
理由が魔法では言い訳にもならないので、色んな意味でアルフには助けられたと言うべきか。
そう言った理由から、ジュエルシードをアルフに投げ渡そうとすると、その間にユーノが割り込んできた。

「そのジュエルシードをこっちに渡してください!それは危険な物なんです!」
「なに寝ぼけた事言ってるのさ、この鼠は。あんまりふざけた事言ってるとガブッといくよ」
「鼠じゃない!ユーノ・スクライアだ!」
ユーノとアルフが言い争っているが、危険なんて事は、言われなくても十分体験済みである。
こんな物騒なもの封印するにこした事は無いのだが、どっちに渡せばいいかまではサウザーには分からない。

「どっちでもいいから、早く決めてくれ。三秒数える間に決まらなかったら、壊すからな」
珍しく疲れたのか、硬い口調を維持する気も無く、二匹に向け適当に言う。
その辺りの事情を知っているアルフは、ジュエルシードを壊されては元も子もないと、真剣な表情になってユーノと対峙した。

「一回っきりの真剣勝負。これで文句無いね」
「何だかよく分からないけど、いいよ」
なんだか一対一の闘いが始まりそうなシリアスな雰囲気だが、小動物と女という構図では間抜けにしかならない。
おまけに、どうでもよさ気に「ひとーつ」なんて聞こえてくるのだから、さらに拍車がかかる。
「ふたーつ」と、サウザーが言った瞬間、二匹が同時に拳を繰り出した。


「「じゃんけんぽん!」」
勢い良く振り出された拳の形はユーノはグーで、アルフはパー。
「いっよっしゃああ!」
その結果に、我が生涯に一片の悔い無し!とばかりに、アルフが天に向けて腕を突き上げたが
小動物に勝って本気で喜ぶという光景は、なんだか見ていて痛々しい。
とはいえ、姿が違うだけの同類なので、何も言わずにアルフに向けジュエルシードを投げ渡す。
「これで、フェイトも喜ぶよ。持って行くから、もう行くね。ああ、あんたの事はちゃんと言っとくよ」
喜色満面といった具合に、アルフが飛び去っていくと、後に残された少女と使い魔(らしき物)は酷く落ち込んでいる。
手が届く場所にあったジュエルシードが持っていかれたのだから、分からないでもない。
サウザーも、ジャギを掴むとさっさと立ち去ろうとしたのだが、体の至るところで異変が起きた。

「ごはっ……!な、なに!?」
口からはさっきとは比較にならぬ程の血が溢れ、足元を塗らす。
経絡秘孔が効かぬとは言え、魔闘気の拳を何発も受けたのだ。
その影響が今になってやってきたのだが、これ程までに重たいとは思わなかった。

「だ、大丈夫ですか!?」
「ぐ……心配いら……がっ!……ん」
息を荒くし、中を確かめたが骨は折れていないのは幸いか。
血反吐を吐きながら、今更ながら北斗と南斗が争えば互いに無事では済まないという意味を痛感した。
が、同時に貴重な経験をしたとも思う。
百年ぐらい前ならともかく、このご時勢では表立って死合うなんて事は滅多にできない。
仮初とは言え、あのジャギの強さは北斗最強たるに相応しい強さだったのだから、今後、ラオウとやり合う事になった時に役に立つかもしれない。

手の甲で血を拭うと、やっと落ち着いた。
というより、さっきからユーノとかいう鼠が、肩に乗って何かやっている。

「回復魔法をかけました。本当は時間をかけないといけないんですが、今はこれで我慢してください」
大分楽になった様子に、アルフが言っていた回復魔法がこれか、と内心結構驚いている。
そうしていると、小首をかしげながら、いぶかしむような声でユーノが聞いてきた。

「話して下さい。あなたからは魔力が感じられません。なのに、なぜジュエルシードの事を知っていたんですか?」
その質問ももっともだが、気を失っているジャギが目覚めてしまうかもしれない。
こいつの性格からして、知ったり覚えていたりすれば、またジュエルシードに手をだしかねないのだ。
ジャギを背負うと、とりあえずアンナに引き渡すべく歩を進める。
翠屋が、なのはと呼ばれた少女の家族が経営する店だと知ったのは、それから十分ばかり歩いた先での事だった。


ヒャッハーあとがきだーー!
ジャギ様は南斗に行けば大成したかもしれないというのを、どこかで見た気がするのでこうなった。今では『ばわ!』している。

現在、北斗四兄弟の年齢は、聖帝様15に対してラオウ18~16 トキィ15~14 ジャギ様14~13 ケンシロウ9~7ぐらいと思ってるんだけど、どうも極悪とか見てたら、合わないような気がしてならんけど、まぁそこは次元世界って事でさ……こらえてくれ。



[18968] 第五話:二つの神速
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/29 03:16
「何で俺が、てめぇに背負われてんだよ」
「貴様が気を失ったからだろうが。まったく、余計な手間をかけさせてくれる」
まるで荷物のように肩に背負われたジャギが、目を覚ますと同時にそう漏らした。
ここまで運んでやったのに、開口一番に悪態とは、師の教育がなってないと見える。
とにかく、動けるようになったのなら、何時までも背負っておく理由は無い。
まだよく状況が掴めてないジャギを片手で掴み持ち上げると、おもむろに手を放した。

「ぶべ!痛ぇな、クソ!」
潰れた蛙のような声を出しながら文句を垂れてきたが、そんな柔な体してないだろうと無視。
その姿は、とても、さっきまで魔闘気撒き散らしながら暴れまわってたやつと同じとは思えない。否、思いたくない。
そんなサウザーの心の内を知ってか知らずか、今更のようにジャギが言った。

「そもそも、なんで俺が気絶してんだ」
あれだけ暴れて何も覚えていないというのも何だか癪に障る物があるが、覚えられていても厄介な事にしかならないので好都合だ。
まぁ、覚えてたら覚えてたで、頭顳を突いて無理矢理にでも忘れて貰うつもりだったが。

問題は、気絶した理由をどう付けるかだが、一般人が束になっても敵わないジャギ相手に
階段から落ちただとか、滑って頭打ったとか、そういうベタな理由は一切通用しない。
少し離れた所を歩く、なのはとユーノを見たが、極星十字拳の如く腕を交差させて首を横に振っている。
言われるまでも無く、魔法の事など話す気も無いし、言ったところでムカつく事を言われるだけだ。
なので、さっきの出来事から魔法を抜いた上で、ある程度捏造しながら話す事にした。

「外で北斗を使っておきながら、覚えていないとは大した頭だな。相手が俺でなかったら、貴様、破門どころの話ではないぞ」
淡々と告げるサウザーを見て、ジャギが思いっきり目を見開いた。
「マ、マジかよ!俺がそんな事したってのか!?」
慌てた様子で声を出しているが、無理も無い。
修行中の身の者が寺院外で北斗神拳の使用、さらに禁じられている他流試合までしたとなれば、これは非常にヤバい。
リュウケンの耳に入れば、キムのように寺院を出る事になってしまう。
息子という立場なら、北斗神拳を学べなくなるだけかもしれないが、どちらにしろジャギにとっては最悪である。
そんな夢の無い未来図を想像してか、とうとうジャギが頭を押さえて座り込んでしまった。
その様子を見て、幾らか溜飲が下がったのか、サウザーが笑いながら言った。

「くっはは。まぁ、貴様の北斗羅漢撃に免じて、リュウケン殿には言わんでおいてやる」
滅多に見る事のできない、北斗神拳の奥義を一つ見れたのだ。
その事を思えば、ジャギが北斗神拳を使った事など取るに足らない小さな事である。
そんな事を言うと、何故かジャギが呆けたような顔をしながら聞き返してきた。

「……今、なんて言った?」
「リュウケン殿には言わんでおいてやる、だ。」
「違う!その前だ!前!!」
「ああ、北斗羅漢撃か。自分で放った奥義も覚えていないとは、余程当たり所が悪かったようだな」
サウザーがそう言うと、ジャギは自分の拳を開いたり閉じたりしながらじっと見つめている。
そして、小さく声を震わしながら訊いてきた。

「お、俺の羅漢撃はどうだったんだ?あ、頭は覚えてねぇけど、体は覚えてるような気がするんだよ」
「どう、と言われてもな……。この俺と五分に打ち合えたのだから、一応、見事だったと言っておいてやる」
正確に言えば、打ち負けたのだが、石の力を差し引いて
さらにジャギの持つ力が最大限に発揮されたという事にして五分というところだろうか。
というより、この様子を見る限り、こいつ北斗羅漢撃を完全に習得してなかったのか、と思うと逆に呆れてきた。
記憶を失っていても、体が覚えているというあたりは、さすが北斗の兄弟というところだが
闘気の事まで覚えていたとしたら、今後、伝承者争いに一波乱起こりそうだ。
とんだ厄介事を起こしてくれたジュエルシードだが、ジャギの願いを叶えたのかもしれない。
あくまで可能性だが、そうなるようであれば、あのラオウの顔が屈辱に歪む顔は是非とも拝みたいものである。
肝心のジャギはというと、南斗最強を謳う南斗鳳凰拳を相手に五分に打ち合ったと言われ、感極まったのか少し泣いていた。

「ふっ……、泣き虫ジャギとはよく言ったものだな」
「う、うるせぇ!」
よくもまぁ、この短時間で表情が変わるものだと感心する。
あの四兄弟の中で一番人間臭いのはジャギだろうが、一昔ならここまではならなかったはずである。
翠屋の前まで歩くと、少し頬を膨らませたアンナがバイクのシートに肘を付いているところだった。

「もう、ジャギ遅いよー」
「ああ、悪ぃ!」
走りながら駆け寄るジャギを見て、変わったのはアンナと出会ったせいかと納得がいった。
長兄は純粋な強さのみを求め、次兄はどこか達観しており、末弟は幼さ故に不明。
人の事言えた立場ではないが、どいつもこいつも仙人みたいだ。
そんな事を考えていると、バイクのエンジン音が聞こえてきた。

「じゃあな。次に寺に来た時はてめぇも倒してやるから首洗ってやがれ」
「ふん……。一度のまぐれで何を調子付いている。寺を抜け出すような未熟者に俺が遅れを取ると思うか」
互いに減らず口を叩くと、バイクが動き出し、あっという間に二人の姿が小さくなる。
その時のジャギは本当に良い顔をしていた。





さて、面倒事の一つは片付いたが、次はこっちだ。
ジュエルシードを知っている理由だけでも話す量が多いのに、魔闘気に北斗神拳と南斗聖拳ときた。
なのはだけなら、秘孔を突いて忘れて貰うのも手だが、あいにく小動物の秘孔なんて知らない。
どうした物かと少し悩んだが、店の中から一人の男が出てきた。

「ああ、少し中で話したい事があるんだけど構わないかな」
そう言って話しかけてきたのは、翠屋の主人だ。
アンナの性格なら、人にツケ残したまま帰ったという事も十分考えられたので
渡した額では足りなかったかと思い、言われるままに店に入ると、どこからか向けられる二つの視線に気付いて目を細めた。
ほんの僅かに敵意と殺気が混じっているように感じられるのだから、少なくとも歓迎はされていないようだ。
遅れて、なのはとユーノも入ってきたが、奥に行くように言われて、渋々と言った具合に消えると、思いもしなかった事を言った。

「悪いと思ったけど、さっきの話は聞かせて貰ったよ。さっきの彼は北斗神拳、君は南斗聖拳を使うんだろう?」
確かに、南斗聖拳とは一度言ったが、北斗神拳は北斗としか言っていない。
どちらにしろ、常人には聞こえないように話したつもりだったので、サウザーもほんの少しだけ手に気を込めながら問い返した。

「……ただの人間ではないと思っていたが、何者だ」
「御神真刀流小太刀二刀術、と言えば分かってくれるかな」
「御神……!あの御神か!」
出した名を聞いてサウザーが大きく声をあげた。
分かるもなにも、御神と言えば南斗聖拳でも、その高名は伝わっている。
北斗南斗が古来中国より伝わる暗殺拳なら、御神は日本に代々伝わる暗殺剣。
表の御神家、裏の不破家と呼ばれる関係は、まさに北斗南斗そのものである。
その実力は、並の南斗の使い手では相手にならず、当代の使い手は南斗十人組み手を無傷で勝ち抜いたと聞く。
犯罪組織「龍」の手によって、その両家の血筋は途絶えた聞いていたのだが、その生き残りがこんな所で喫茶店をやっているなどとは思いもしなかった。

「お互いに立場が分かったところで、改めて自己紹介といこうか。永全不動八門一派、御神真刀流小太刀二刀術師範、高町士郎だ」
人の良さそうな顔をしているが目の奥は笑ってはいない。
サウザーは、その体の一挙一動を見逃さぬように眺めている。
踏み込める間合い、相手の手の位置、それら全てを判断し、今の所は害が無いとしたところで、サウザーも短く名乗った。

「南斗聖拳百八派が一つ、南斗鳳凰拳のサウザー」
何時でも対処できるようにしていたのだが、鳳凰拳と言うと、士郎が本当の笑みを浮かべて言った。

「そうか!君がオウガイ先生のお弟子さんか」
「お師……いえ、師父の事を?」
これまた、思いもよらぬところで師の名が出てきたので、サウザーも幾分か警戒を解く。
少なくとも、オウガイ先生と敬称を付けて呼んでいる以上は、悪い意味での知り合いでは無いはずだ。
そんな様子を察したのか、士郎が昔を思い出すかのように語り始めた。

「オウガイ先生とは、何度かご一緒させて頂いた事があってね。
  昔、爆弾テロに巻き込まれた時、オウガイ先生が止血の秘孔を突いてくれなかったら、こうして喫茶店なんかやってないはずさ」
その瞬間、向けられていた二つの殺気が消えた。

「はぁ……、店の中で北斗だ南斗だの言うから、龍の刺客かと思ったぞ」
息を吐きながら、両手に小太刀の木刀を持っているのは、士郎と似た容姿の若い男。
恐らく、息子というところだろうが、中々に腕は良いという事は動きから見て取れる。

「な、南斗聖拳って暗殺拳なんだよね。怖かったぁ~」
次いでカウンターの下から姿を見せたのは、眼鏡をかけた髪の長い若い女。
こちらもそれなりにやるようだが、まだまだ動きに甘さが見える辺り、修行中というところか。
とにかく、龍のような組織の使い走りと一緒にされてはかなわんとばかりに、サウザーが知っている範囲の事を告げた。

「龍は、南斗水鳥拳のロフウ様と、その奥方のリンレイ様が相手をしている。今は、こちらまで手を出す余裕は無いはずだが」
南斗水鳥拳の道場がある鳥影山は中国にあり、龍も中国を根拠地としている。
南斗聖拳と龍も、その関係から小競り合いが絶えないのだが、最近になって龍の行動が眼にあまるので、遂に六聖拳が動いた。
水鳥拳伝承者であるロフウは、従来の水鳥拳の柔の部分を廃し、鋭く力強い剛拳に組み直した。
対して、リンレイは従来どおりの水鳥拳を使う。
本来はリンレイが伝承者となるはずだったのだが、ロフウを愛していたが故に伝承者の座を譲ったという経緯がある。
その拳は、歴代伝承者の中でも最も優雅で華麗と評され、拳の実力はロフウをも凌ぐと噂されている。
この二人だけでも一拠点を軽々と落とせるだけの力を持っているというのに
南斗水鳥拳直属の十七派までもが動いているのだから、いかに龍とはいえ、たまったもんではないだろう。

「南斗六聖拳が動いたのか。それなら安心してよさそうだ。いや、済まなかったね」
その言葉に裏は無いようで、言い返せば南斗水鳥拳がそうするだけの力を持っていると知っているという事だ。
すると、話の中で分からないところがあったのか、息子の方が士郎に聞いた。

「父さん、南斗六聖拳っていうのは?」
「ああ、南斗聖拳百八派の中でも、特に優れた六つの流派の事だな。優雅で華麗にして残虐非道の水鳥拳
  南斗聖拳でも珍しい脚技を主体とした白鷺拳、拳速では他の追随を許さない紅鶴拳、南斗宗家に最も近い拳と呼ばれる狐鷲拳
 そして、その六聖拳の中でも頂点に立つ南斗聖拳最強の流派がサウザー君の鳳凰拳だ。……後一つあるんだが、それは俺も聞いた事が無いな」
一応の説明を終えると、士郎が目配せを送ってきた。
慈母星については、南斗聖拳の中でも知っているのは限られた一部の者なので、六聖拳への認識は概ね間違ってはない。
肯定の意を送っておくと、納得したのか息子の方が前に出てきた。

「御神真刀流小太刀二刀術師範代、御神の剣士、高町恭也」
「高町美由希です。さっきはごめんなさい。ほ、ほら、恭ちゃんも謝った方がいいんじゃない?」
無愛想な恭也に比べて美由希の方は随分と腰が引けた様子をしている。
南斗聖拳最強の流派の使い手というのもあるだろうが、恐らく、いや、絶対に勘違いをしているので訂正しておく事にした。

「いや、要らぬ世話をかけた。が……一応言っておく。俺は十五だ」
「嘘!わたしより二つも年下なの!?……恭ちゃんより上かと思ってたのに」
どこぞのリアクション芸人顔負けの驚き方をする美由紀だったが、普通はそうだろう。
日本人男性の平均を遥かに上回るガタイといい、少々古風で硬めな話し方といい、これで十代半ばに見えるなら、言い当てた者の眼力は相当に高い。
一見ポーカーフェイスを保っている恭也も内心ではかなり驚いており、この場で平静を保っているのは士郎ぐらいのものだった。

「それで、サウザー君は何をしに海鳴市へ?南斗の使い手が、ただ観光ってわけじゃないだろう?」
「この街にある、月村という家をご存知であれば教えていただきたい。見れば分かる程の屋敷だと聞いていたのだが」
いつの間にか喫茶店の店主らしい雰囲気に変わった士郎が聞いてきたが、もちろん全てを答えるわけにはいかない。
最低限の事だけ伝えると、恭也が一度収めたはずの敵意をまたサウザーに向けてきた。

「……何のつもりだ」
何が気に食わないのかは知らないが、ここまでの敵意を向けられて放置しておける程、甘い人間ではない。
しかも、その相手が御神ならなおさらである。
とはいえ、オウガイの知り合いである、士郎ならもう少し対応が違ってくるのだが。
牽制代わりに視線を送っておくと、恭也が手にした小太刀の木刀を突きつけてきた。

「言え!月村に何をしに行くつもりだ!」
結構な剣幕に、内心で舌打ちをした。
はっきり言って説明するのも手間がかかるし、事は南斗聖拳が関わる事なので、話すなんて事は問題外だ。
「貴様に話す義理など、どこを見渡しても存在せんな」
突き付けられた木刀を手で払うと同時に言い捨てる。
その言い草に、さらに火が付いた恭也が逸らされた切っ先をサウザーに向けると、木刀の刀身に四本の切れ目が奔り、音を立てて床へと落ちていった。

「な……!いつの間に!」
これが南斗聖拳の恐ろしいところだ。
その手足は、如何なる名刀よりも切れ味鋭く、あらゆる物を切り裂き貫く。
おまけに、武器を持ち構える必要すら無いので、剣術などに比べて攻撃への動作にかかる初速が段違いに速い。
もちろん、その辺りの技量は使い手次第なのだが、ここに居るのは南斗聖拳最強と名高いオウガイが手塩にかけて育てた男である。
もう片方の木刀を構えるより先に、サウザーが指先を恭也に突き付けようとした。

「……鋼糸か。御神は暗器も使うというのは知らなかったな」
いつの間にか幾本もの鋼糸がサウザーの腕に巻きつけられている。
そこまで細い鋼糸ではないので、切り刻むような鋭さを持ってはいないが、拘束するには十分な力を持っているようだ。
鋼糸の先に目をやると、相変わらず食えない表情をした士郎がやれやれ、という感じで立っていた。

「うちの恭也が無礼をしたね。サウザー君も拳を納めてくれると有難いのだが」
そう言われ恭也の方を見ると、さすがに父親に言われたのではと、不承不承の体で引き下がっている。
サウザーとて、ここに喧嘩を売りに来たのではないのだから、向こうにその気が無いのなら手を出す気は無い。
巻き付いている鋼糸を切り裂くとサウザーも拳を下ろした。

「いやはや、鋼糸がただの糸くず同然とは、さすが南斗鳳凰拳」
特に驚いた様子も無く鋼糸を仕舞っている事から、切られる事は承知の上という事か。
やはり油断ならんな、と考えていると説明するように士郎が続けた。

「恭也は、月村さんのところの娘さんとは付き合いが深くてね。まぁ、その、何だ、そういう事だから許してやってくれないか」
それを聞いてサウザーも、そういう事かと納得はした。
この様子なら、身内同然の仲なのだろう。
それならば、と要らぬ争いを起こさないために、もう少し踏み込んだところまで話す事にした。

「その月村から、聖司教に働きかけがあった、とだけ言っておく」
聖司教がどういう意味を知っている士郎は納得いったようだが、恭也はまだ何か不服そうな顔をしている。
何を考えているかは大方察しは付いてはいるが、やはり気分の良い物ではない。
少しばかりの苛立ちを隠そうともぜずに恭也に向け言い放った。

「ふん……、俺の力量をまだ疑っているというところか」
「そうだ。実力も分からないやつに、忍の身を任せられるか!俺と立ち会え!」
どうやら、南斗六聖拳の名と、木刀、鋼糸を切り裂くだけでは、物足りないらしい。
サウザーが指先をゴキリ、と鳴らすと互いの視線が空中でぶつかり合う。
一触即発のガンの付け合いに美由希などは、あたふたするばかりだ。
五秒ほど睨み合いが続くと、サウザーが短く簡単に言った。

「断る」
「よし、道場まで……な、なに!?」
まさかこの流れ、この雰囲気であっさりと断られると思っていなかったのか、恭也が間の抜けた声をあげた。
しかし、そんなのは向こうの都合であり、サウザーには全く関係の無いことである。
本音を言えば、やっても良かったが、彼にとってオウガイの命は全てにおいて優先される。
今回、外で南斗聖拳を使う許可は下りてはいるものの、それでも関係無い所でおいそれと使っていいものではない。
さっき二回使ったのも、相手が御神だったからこそだ。
これ以上、手の内を晒すのも憚られたので、適当な理由を話し始めた。

「我が南斗聖拳では、他流試合は禁じられてはいない。が……、敗者がどうなるのかは、士郎殿が一番よく知っているのではないか?」
南斗聖拳に他流の者が挑み敗れた場合は、南斗の掟に則って処刑が行われる。
南斗十人組み手に挑んだ士郎がそれを知らないはずがなく話を振ったのだが、当の本人はコーヒーを淹れているところだった。

「はは、南斗十人組み手か、懐かしいけど昔の事だよ」
軽く肯定しているが、どう見ても気の良い喫茶店のマスターにしか見えないのだから、人は見かけによらないというのはこの事だ。
のんびりした様子に少しだけ場の空気が緩んだが、サウザーの言葉の含むところに気付いたのか恭也が声を出した。

「ちょっと待て。それじゃあ、俺に勝ち目が無いみたいじゃないか」
処刑、という直接的な表現こそ使わなかったものの、よろしくない事が起こるという事ぐらいは理解できる。
だが、他流の敗者は処刑されるという南斗の掟だが、士郎のように勝てば何も問題は無い。
その上で、立会いを断られるという事は、お前では俺に勝てないと言われているようだった。

「ほう、南斗六聖拳を相手に勝つつもりでいたのか」
まぁ実際そう言ったつもりだったのだが。
はっきり言って、北斗南斗の修行メニューは過酷を通り越して、地獄と言ってもいい。
赤熱した石砂利の中に手刀を繰り返し突っ込むなんてのは序の口で
六聖拳ともなると、針の山に囲まれた棒の上で、飲まず食わずで三日間、同じ姿勢で立ちっ放しとかいうのもある。
なんにしろ、どれもこれも、一歩間違えれば命を落とすようなのばかりである。
実際、水鳥拳の伝承者は、正統伝承者になるための試練で半数が命を落としたと聞く。
サウザーも伝承者にこそなってはいないが、ここまで南斗鳳凰拳の修行を成し遂げ、いよいよ継承への試練が行える所まで来たという自負があった。
とはいえ、そんな事を知らない恭也は自分の実力が馬鹿にされているように感じ、自然と口が挑発染みた物になるのも無理からぬ事だった。

「口だけなら、何とでも言えるからな。それとも、南斗鳳凰拳は逃げ回るだけしか能が無いのか?」
お互い言っている事は似たり寄ったりで大差は無いのだが、その中にはサウザーにあって、恭也には無い物があった。
今風に言うなら、地雷を踏み抜いたとでも言うべきだろうか。
何故なら、サウザーは自分の事よりも、お師さんや、お師さんが使う鳳凰拳が貶された事を怒るタイプ!

「いいだろう、それ程までに言うのであれば相手をしてやる。我が師より託された、この拳を受けても、同じ事が言えるか!」
予想以上に感情を顕にした様子に恭也も一瞬怯んだが、すぐに立て直した。
恭也自身も、御神流を身に付けるために修練を重ねてきた。
漫画に出てくるようなバトルマニアのような趣向は持ち合わせていないが、伝説とも言われる一子相伝の北斗神拳に唯一匹敵するとされる南斗聖拳。
しかも南斗六聖拳筆頭の使い手となれば、闘ってみたいと思うのが剣士の性というやつだ。
美由希は二人を止められそうにないので文字どおり右往左往し、士郎は若い二人が熱くなっている様を見て苦笑いを浮かべていた。

「お、お父さん、止めなくていいの?」
「これは組み手だからね。恭也も使うのは木刀、サウザー君も南斗聖拳の斬撃は控えてくれ
  もちろん、どちらが勝っても負けても、そこで終わりにする事。それで構わないのなら、喜んでうちの道場を貸そう」
南斗聖拳に他流の者が挑み、敗れた場合、処刑されるのが南斗の掟なら、御神流に南斗が挑むという形にすれば、どちらが敗れても何の問題も無い。
屁理屈と言えば屁理屈だが、実際に組み手をするのは御神の道場なのだから、自然とそういう形になる。
今更ながら、恭也の安い挑発に乗せられたと、気付いてももう遅い。
オウガイの事になれば、後先考えないのは悪い癖である。
だが、ここまで来れば退く気は無い。
南斗鳳凰拳に後退は無く、あるのはただ制圧前進のみ。
だから、短く了承の意を送った。





御神の道場で向かい合う拳士と剣士。
言葉の響きこそ同じだが、対峙するその姿は実に対照的だ。
小太刀の木刀を両手に携えた御神の若き剣士は構えを取り、何も手に持たぬ南斗の若き拳士は構えを取らない。
何時まで経っても構えを取らないサウザーの姿を不審に思ったのか、恭也が短く聞いた。

「なぜ構えない」
その問いに答えたのは、立会人を務める高町士郎その人。
手には木刀に鋼糸という、万が一を想定し、いつでも止めに入れる格好のまま恭也の疑問に答えた。

「南斗鳳凰拳に構えは無い。防御を捨て、攻撃のみに特化したのが鳳凰拳だ。
  だが、見た目に騙されて迂闊に仕掛けると手痛い目に合うぞ、恭也。剣術で言えば、柳生新陰流の『直立たる身の位』と同じ事だからな」
拳法の事は知らない恭也でも、柳生新陰流と言われれば、どういう意味を持つのかぐらいは用意に理解できた。
『直立たる身の位』とは、尾張柳生の開祖とも言われる柳生兵庫助が編み出した奥義である。
構えを取らず、相手の攻撃に対して無念無想の裡に斬りつける、言わば極まった後の先。
迂闊に仕掛ければ手痛い反撃を食らう事になるし、かと言って仕掛けなければ防戦一方になる。
改めて、無防備に佇むサウザーを見て恭也が息を飲んだ。

「(隙が全く無い……)」
中途半端な実力な者なら、隙だらけに見えるかもしれないが、日々修練を重ね御神真刀流の奥義を体得した身だからこそ分かる。
組み手とは言え、実践であの構えを取るという事は、何も考えてない馬鹿か、相応の実力者しかいない。
なにしろ、一歩間違えれば致命傷に繋がりかねないだけに、諸刃の剣でしかないのだ。
いつ仕掛けるかタイミングを計り損ねていると、唐突にサウザーが、一歩前に踏み出して言った。

「来ないなら、こちらから行くぞ」
二歩、三歩と、ごく自然に歩いて間合いを詰める。
間合いまで、残り三歩の所まで歩くと、サウザーが跳んだ。

そこから放ったのは回し蹴りのただ一発。
その動作にかかるまでの速度が恐ろしく速い。
受けてから反撃しようかとも思ったが、相手が南斗聖拳の使い手という事を思い出して上体を反らす。
すると、目の前をサウザーの脚が通り過ぎ、突風のような風を感じた。

「いい判断だな」
蹴りをかわされ、床に着地したサウザーがそう褒めた。
南斗聖拳を相手に受け技は通用しない。
普通に受けたところで、防御の上から切り裂かれ、砕き散らされる。
防ぐには避けるか、反らすか、さらに間合いへと踏み込んで内側を受けるぐらいしか無い。
もちろん、今のは当たったところで切れはしないが、それでも恭也が腕で受けても、楽にヘシ折るぐらいの威力は持っている。
今のを受けるようなら、大した相手ではないと試したのだが、やはり、中々出来るようだった。

間合いを取ると、サウザーが再び腕を下ろす。
だが、それだけで動こうとはしない。
一目で分かるような挑発的な笑みを浮かべている事から、それがどういう事か恭也も理解した。

「かかって来いって事か……。なら、見せてやる、御神の技を!」
南斗六聖拳を相手に下手な小細工は不要。
出し惜しみはせず、自身の持つ最速最強の技で一気に決める。
二刀の小太刀を納めると、恭也の姿は掻き消えるように消えていた。

――御神流 奥義之歩法 神速

御神の剣士が使う奥義の一つ。
集中力を極限まで高め、自らの時間間隔を引き伸ばし、その内を移動する。
その名が示すように、その動きはまさに神速。
常人では知覚できないモノクロの世界を移動し、相手を一方的に仕留める、恭也が持つ切り札である。

そのモノクロの世界の中を、スローな動きで恭也が突き進んでいる。
今の感覚に運動能力が付いていけないために起こる現象だ。
このまま後ろを取り、得意技で決めるつもりだったのだが、不意に何とも言えぬ悪寒が背中を奔った。
この世界の中で動けるのは、神速に達した人間のみ。
しかし、サウザーは鳳凰が翼を広げるかのように両手を広げ始め、移動する恭也の動きを目で追っていた。

「(まさか、神速に追いつけるのか!?)」
神速の世界故に、声には出ないが、サウザーの動きは確実に恭也を捉えている。
御神が極限まで高めた集中力によって神速の世界へと入るのなら、南斗鳳凰拳は、その超人的なまでの踏み込みによって神速の世界へと達する。
ただ純粋に、動体視力、運動能力の高さだけで神速へと至るのは、ある意味では御神流の物と対極的な存在と言えよう。
鳳凰の翼が広がりきった時、二つの神速が交差した。

「御神流奥技之六――」
「南斗鳳凰拳奥義――」

                              極
   薙                         星
                              十
                              字
                              衝
   旋                         破
                              風


恭也が放った奥義は、抜刀術の剣速と、突進術の威力を併せ持った高速の四連撃。
今回は神速を重ねており、いかな達人でも、神速に達しない限り、その剣を見切るのは不可能とされている。

対するサウザーが放った物は、神速の踏み込みと鳳凰拳の斬撃により、敵をすれ違い様に十字に切り裂く必殺の奥義。
その拳の鋭さは、斬られた相手の傷が浮かび上がるまで数秒を要する程。
背中合わせだった二人が同時に向き直ると、サウザーの両頬と両腕に傷が一本づつ付き、恭也の服は、大きく十字に切り裂かれていた。

「速さだけなら、俺と互角か」
頬から流れる血を親指で拭いながら、サウザーが言う。
息一つ乱していない様子を見て、恭也は四つも年が下の男を始めて化物だと認識した。

互角と言っていたが、恭也はそうは思っていない。
互いに付いた傷がその証拠だろう。
サウザーは、かすり傷が四つ付いただけなのに対して、恭也は服を大きく切られた。
これが真剣勝負なら、今頃は血溜まりの中で倒れ付している事ぐらい嫌でも想像が付く。
それに、剣術三倍段という言葉が示すように、素手の拳法家が武器を持った剣術家と互角に戦えるという事は、単純な技量は拳法家の方が高いという事である。
まぁ、手足が刃物同然の南斗聖拳にそれが当てはまるかどうか分からないが、恭也は潔く負けを認めた。

「俺の負け……だな。さっきの非礼は詫びよう。南斗鳳凰拳、俺の想像以上だった」
小太刀を仕舞い、頭を下げる恭也を見て、サウザーも拳を収めたが少し意外だった。
まだ余力を残してそうだったので続けると思っていたのだが、この潔さと素直さはジャギは少しは見習えと思ったぐらいだ。
そうしていると、士郎が手を叩きながら近付いてきた。

「見事な試合だったよ。オウガイ先生は、良いお弟子さんに恵まれたようだね」
「いや、俺に奥義を使わせるとは、さすが御神の使い手」
実際、極星十字衝破風を使う事になるとは思ってもいなかった。
はっきり言って、恭也は並みの南斗の使い手よりも十分に強い。
特に、あの動きは、極めれば鳳凰拳を除いた六聖拳とも良い勝負が出来るようになるかもしれない。
そこまで考えて、もしやと思い、サウザーが士郎に聞いた。

「士郎殿は、南斗六聖拳と手合わせをした事があるのでは?」
「十人組み手をした後にね。恥ずかしい話だが、静馬と二人がかりでもオウガイ先生には敵わなかったんだよ」
聞けば、静馬というのは御神家の最後の伝承者にして、歴代最強の使い手で、当時、不破を名乗っていた士郎と十人組み手に挑んだ後、六聖拳に挑戦したそうだ。
丁度、道場でそれを見ていたオウガイが、その意気や良し、と挑戦を受けて立った。
結果は、同じように神速を破られ、十字傷を付けられたらしい。
十人組み手を勝ち抜いたのだからと、オウガイの口添えで命は取られなかったようだが
その時から二人にとってオウガイは越えるべき壁であり目標のような存在になっていたという。

オウガイに拾われる前の話を聞いて、サウザーは少し複雑な気分だった。
御神と不破の最強の使い手を同時に相手にして破ったというのは、さすがお師さんだと、誇らしく思ったものだが
まさか、自分の他にオウガイを目標としている人物が居たなどとは考えたことも無かったのである。
とはいえ、それ程、昔からオウガイと縁があるなら、聞きたい事は山ほどある。
なにせ、サウザーは拾われる前の事を聞いた事が無い。
南斗千手龍撃の手刀のように繰り出される質問が終わったのは、日がすっかり沈んだ頃だった。


ヒャッハー!あとがきだぁーー!
極星十字衝破風は無双版を取ってみた。
しかし、全くリリカルしてないってどういう事なの……。
聖帝様が、ロフウやリンレイを様付けで呼んでるのは
外伝で、あのユダもそう呼んでたから、愛を捨てる前の聖帝様なら、付けてもいいかなと思った次第。



[18968] 第六話:天空の鳳凰
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/11 09:51
「はぁ……、今日は大変だったね、ユーノ君」
実に子供らしい部屋の中でそう漏らすのは、高町家の末娘、なのは嬢、御歳とって満九歳。
私立聖祥大学付属小学校に通う、一見どこにでも居そうな小学三年生である。

「そうだね……、まさかジュエルシードが、あんな危険な物だったなんて……」
もの凄い落ち込んだ声で、それに答えるのは人間ではなく、小動物。
その姿形はフェレットによく似ており、その名をユーノ・スクライア。
もちろん、ただのフェレットもどきが人の言葉を解せるわけはないので、普通ではない。
本人?曰く、魔法が使える別の世界から、事故によってバラ撒かれた件のジュエルシードを追って、地球までやってきた。
暴走体との交戦により、身動きが取れなくなったところ、魔力素質を持つ物に念話を送り助けを求め、それに応えたのがなのはだったのである。
海鳴市でちょっとした騒ぎになった野犬事件というのは、この暴走体の事で、それをなのはは高い魔法資質を以ってして見事に封印する事に成功したのだった。

この二人が落ち込んでいる原因は、今日の夕方での出来事。
ジュエルシードが発動した事を感じ、現場へ向かってみれば、鬼のような形相をした少年が赤黒い魔力光のような物を辺りに撒き散らしている所。
躊躇わずに封印をしようと、拘束魔法であるバインドをかけたのだったが、あっさりと破られ吹き飛ばされてしまった。

その時の事を思い出したのか、なのはが小さく震えると自分の膝を抱き抱え俯いた。
そんな姿を見て、ユーノは何とも言えない、いわゆる針のムシロに座るような気分だった。
ジュエルシードを封印するために、なのはに協力を求めたのは他ならぬ自分。
なまじ、なのはの魔力資質がずば抜けて高かっただけに、どこかで命の危険なんて無いと思っていたのかもしれない。
それが今日、根底から覆された。
放たれる血のように赤黒い光の塊。
紙のように破れた防御魔法。
バリアジャケットなんて無いに等しい程の威力を持った光が視界を覆った時は、思わずなのは共々目を瞑った。
あの人に空に連れて行かなければ、どうなっていたかなんて考えたくも無い。
だから、ほんの少し考えると、ユーノはなのはに向けて言った。

「ごめんね、なのは。こんな大変な事に巻き込んじゃって……、やっぱりここから先は僕一人で……」
漫画だったら額に幾本もの黒い縦線が入ってるぐらい暗い調子でユーノが話す。
多分、今のユーノに最も合うバックBGMは『ぼくたちの失敗』。
足手纏いになったとか、そう言う意味ではなく、ユーノなりに責任を感じ
これ以上なのはを危ない目に遭わせたくないと思ったからこそ、そう言ったのだった。

まるで最弱キャラに、逆に7:3付けられた時のような表情と声で話すユーノの言葉を聞いてなのはも顔をあげる。
すると、籠の中で小さく収まっているユーノを抱きかかえると、自分に言い聞かせるかのように話し始めた。

「違うよ。ユーノ君のせいじゃないよ。最初は、ユーノ君のお手伝いが出来ればいいって思ってたかもしれない。
  ……けど、今は少し違うよ、またあんな事が起きた時に誰も居なかったら、もっと酷い事になっちゃうんだよ?だから、二人で頑張ろう」
「なのは……、ありがとう……」
しばらくの間、お互いに何か思うところがあったのか沈黙が続いたが、二人は同時に声を出した。

「「あの人は……」」
同じ声が重なったので、可笑しくなったのか、沈んでいた顔にほんの少し笑みが戻ると、改めてユーノが続けた。
「あの人、サウザーさんは、南斗鳳凰拳っていう拳法を使うんだったよね。
  ……魔力を持ってない人が身体強化魔法を使わずにあそこまで強くなれるのは、正直驚きだよ」
感慨深げに話すユーノが何故に名乗ってもいないサウザーと南斗鳳凰拳の名を知っていたのかというと、単純に、聞いていたからである。
あくまで奥に行くように言われたのは、なのはだけであって、高町家からペットとして認識されているユーノが留まろうと咎められる事は無い。
なのはの肩から美由希の肩に飛び移り、一部始終をしっかり見届けていた。
突き付けられた木刀、腕に巻きついた鋼糸を素手で切り払い、道場では、恭也の姿が消えたと思ったら、何かもう勝負が決まっていた。
その時の様子は、念話を通してユーノが実況していたので、なのはも知っている。
兄の強さをよく知っているだけに、その結果は驚いた物だ。

「うん、お兄ちゃんに勝てる人なんて、お父さんぐらいしか居ないと思ってたんだけどね」
そう言うと、公園での出来事がありありと浮かんでくる。
魔力光とは違う、金色の薄い光を纏いながら、放たれる死の光を全て紙一重で見切り
まるで腕が何本もあるかのように錯覚してしまうような打ち合いは、正直凄いとしか言いようが無かった。
そう言えば、あのジュエルシードに取り込まれていた少年も、北斗神拳とかいう物を使うと言っていた思い出した。
お互い知っている風だったし、世の中凄い人が沢山居るんだなぁ、と思ったりしたのだが、自分や、その家族も十分凄い範疇に入るという事はあまり考えていない。

「でも、やっぱり一番驚いたのは」
なのはのその言葉に、一人と一匹が同時に頷くと同じ声を出した。
「「サウザーさんが十五才っていうのが一番の驚きだよね」」
やっぱり同じ事を思っていて、にゃはは、と生来の明るさでなのはが笑うと、ユーノも釣られて笑う。
もちろん、なのはは、老けているとか、そう言った悪い意味ではなく、単純に凄いと思っただけ。
ユーノに至っては、自分の本来の容姿を思い出してか、カッコいいし、ちょっと羨ましい、なんて思ってたりする。
サウザーをダシにして、二人に生来の明るさが戻ると、ユーノが一つ気になった事を言った。

「そう言えば、あの後、ジュエルシードを持っていった人が居たよね?」
「うん」
「あれは、使い魔だよ。どうやら、僕達の他にジュエルシードを集めている魔導師が居るみたいだね」
話の本筋がジュエルシードに戻ると、なのはの表情が真剣な物に変わった。
双方がジュエルシードを求めれば、何時かぶつかるのは必定。
身をもって体験したように、ジュエルシードは危険な代物。
動物でちょっとした騒ぎになり、人で危うく命を落としかけた。
万が一、悪意を持った人間がジュエルシードを複数手にしたら、それこそ、世界は次元振の衝撃に包まれた!なんて事になってしまう。
去り際に言った、フェイトというのが主の名前で、サウザーとも顔見知りのようだ。
そのサウザーは特にジュエルシードには興味は示さず、真剣勝負……と言えば聞こえは良いが、じゃんけんに勝てば渡すのはどっちでも良いようだった。

出来るなら、その話を聞いてみたいのだが、サウザーには魔力資質が皆無で念話で話す事は不可能。
しかも、家族の皆には、魔法少女やってます、なんて事は内緒のため、直接会って話すのも難しい。
まさか、部屋に来て欲しいなんて言うと、有らぬ誤解を(主に母)招きそうだったので出来ない。
ユーノと顔を見合わせ、どうしようか?なんて話していると、部屋のガラスが小さく鳴った。

「にゃ?なんだろ」
一度なら気のせいだと聞き逃したかもしれないが、それが二度三度と続けば、いくら運動神経が年中ストライキを起こしているような、なのはでも気付く。
カーテンと窓を開けて外を見渡しても何も無い。
ん~、と少呻りながら窓を閉めようとすると、窓枠に手がかかり、いきなりの事で大きく仰け反った勢いでそのまま倒れてしまった。

「ふにゃ!あいたたた……」
幸い、頭からは落ちなかったものの、しりもちを付いてしまい痛い物は痛い。
ほんのちょっと涙目になりながら、窓に目をやると手が掛かった所からは
なのはが今、一番会いたいと思っていた人物が、勢いよく前転するかのようにダイナミックに入室してきた所だった。

なんだかよく分からないけど、体操選手も顔負けの動きに思わず拍手。
唐突に「いいから、直せ」と言われ、不思議に思ってユーノを見ると、顔を赤くし慌てながら首を捻るようにして別の方向に向けていた。

端的に言うと、拙いのは今の姿勢。
現在のなのは嬢は、上から、黄色の長袖、オレンジ色の少々短めのスカート、黒のニーソックスという出で立ち。
盛大にしりもちを付いたせいで、世間様一般で言うところのM字開脚状態。
身長が高く、至近距離から見下ろす形のサウザーはともかく、ユーノの位置からは、スカートの中の布地が盛大に見えてしまった次第。

いい加減、今の姿に気付いたのか、慌てて姿勢を戻したが、みっともない所を見られたので少し顔が赤い。
ユーノに見られたのは、半分ぐらいペット扱いしている所があるので、あまり気にしてはいないようだ。
ようやく、見れる姿になったので、サウザーがなのはに目を向けると口を開いた。

「それで、何が聞きたい。俺の事は、そこの……、確かユーノが聞いていたはずだが」
一目見て、ここの家の末娘は、剣術をやってはいないという事は見て取れた。
士郎が一人、奥に行くように言ったのは、裏の世界に関わらせたくないという配慮からか。
おまけに、このフェレットもどきも単にペットとして飼われているようで
魔法の事は秘密にしているな、と判断し、恭也が月村に連絡をして、迎えが来るまでの時間、どうせやる事無いので、こうして来たのだった。

「貴方はジュエルシードの事をどこで知ったんですか?あの使い魔の魔導師とは、どんな関係があるんですか?」
矢継ぎ早に質問をぶつけてきたのは、籠の中のユーノだ。
もう南斗聖拳の事は伝わっているようなので、言う手間が省けるのは好都合。
……こうも軽々しく南斗聖拳の事が伝わっていいものかと、少し思わないではないが、一応は御神の血統なので良しとする事に決めた。

「南斗鳳凰拳の修行地で、手酷くやられたそいつを拾った。集めている理由までは言わなかったがな」
フェイトがジュエルシードを集めている理由。
これだけは、どうしても話してはくれなかった。
ただ、必要だからと、どことなく沈んだ感じで言うので、無理に追求してもどうなる物でもなしと、それ以上はしなかったが
あのジャギの変貌っぷりを目の当たりにした以上、無理にでも聞いておけばよかったかと、今は思う。

北斗神拳伝承者争い参加者の中で、ブッチギリの最下位を走っていたあのジャギが、南斗聖拳最強の南斗鳳凰拳次期継承者を相手に五分以上に闘えるようになるなど
北斗南斗に名を連ねる者なら、性質の悪い冗談として頭の中のゴミ箱にスラム断己し、次の瞬間には無かった事にされてしまうような話が現実に起こったのだ。
フェイト自身は封印とやらを出来るらしいし、見たところ、世紀末制覇のような野望を持っているように見えなかったが、その背後に何があるかが問題だ。
はっきり言って、ジュエルシードは個人が扱いきれる代物では無い。

しかし、裏に何らかの組織が居た場合、場所が場所だけに南斗聖拳と全面衝突するかもしれないと、一瞬でもそんな考えてしまった事を少し後悔した。
魔導師の集団と南斗聖拳百八派の対決。
考えるだけで馬鹿馬鹿しい。
が、フェイトの後ろに何かあるのは確実なので、その点については留意しておくか、と考えておくと、次になのはが聞いてきた。

「その魔導師はどんな人なんですか?」
「名は、フェイト・テスタロッサ。歳は、お前とそう変わらん少女。特徴は、黒い服と二つに結んだ長い金髪。性格は、己の身を省みんやつだ」
手短にフェイトの事を説明する。
あの怪我で何度もジュエルシードを探しに出ようとしたのだから、サウザーに省みないと言われても反論はできまい。
なのはの方はというと、自分に近い歳の女の子がジュエルシードを集めていると知って興味を持ったようだった。

「……一度、会ってお話してみたいな。フェイトちゃんはどこに居るんですか?」
「山の中だ。住所や看板があるわけではないからな。俺の脚でも半日、常人なら迷わずに歩き通しで二日かかる場所としか言えん」
まだ会ってもいない人間に、ちゃん付けとは随分とフレンドリーな性格をしている。
色といい、性格といい、表裏一体、これまた北斗と南斗みたいだな、とか思ったのは凄くどうでもいい。
そのままの事を話しておいたが、出来ればあの場所には近寄らないで欲しいというのが本心だ。
前にも説明したと思うが、南斗聖拳の修行地という関係上、危ない物がごろごろ転がっている。
どちらにしろ、正確な場所が分からなくてはどうしようも無いし、わざわざ案内する気なんてのは毛頭無い。
その意味を察したのか、一瞬、沈んだ表情を見せたが、すぐに花の咲いたような顔になって言った。

「そうですか……、でも何時か会えますよね」
前向き思考の極致というやつだろうが、何時までも引き摺られるよりは余程いい。
なのは達が聞きたい事はそのぐらいだったようなので、今度はこちらの番だ。
フェイトに見せた時と同じように、割れたジュエルシードを懐から取り出すと机の上に置いた。

「率直に聞くが、これはどういう代物だ?あのジャギに魔闘気を纏わせ、俺ですら、正面からでは打ち負ける程だ。凡百の物ではあるまい」
割れたジュエルシードを見て、二人が目を白黒させると、顔を付き合わせた。
頭の中では、念話による状況把握という名の慌てふためいたやり取り行われているに違いない。
声には出さなくても、動作や表情には思いっきり出ているので、何を言いたいのかは大体分かる。
三十秒ほど経つと、壊すって、そういう意味だったんだ、という結論に達したのか、少し落ち着いたようだった。

「こここ、これは、僕らの世界の古代遺産で、暴走体というのは、たまたま手にした人や動物が間違って使用してしまって、ジュエルシードに取り込まれてしまった結果なんです」
あくまで少しなので、どこか言葉がおぼつかないが、ここまではサウザーも大体は知っている。
僕らの世界という件については、考えるだけ無駄だと判断し、黙って聞いているとユーノが続けた。
「こうなったのは、僕のせいなんです……。失われた古代文明の遺産。僕の一族は故郷でそんな遺産が眠っているような場所の発掘をする仕事をしていました。
  そしてある日、古い遺跡の中で僕がジュエルシードを発見して、調査団に依頼して保管してもらうつもりが、運んでいた時空間船が事故か、何らかの人為的災害に遭ってしまって……」
「……ボン!というわけか」
握った手を開きながら言うと、ユーノが首を縦に振る。
つまり、ジュエルシードが地球に落ちてきたのは、偶然に偶然が重なった結果か、人為的な工作による第三者の手による物というわけで、ユーノのせいというわけでもない。
それを、あたかも自分の責任であるかのように話すのは、生真面目というか、馬鹿正直というか。
髭と尻尾が力なく垂れ下がる姿を見て、この姿で発掘もあるまいと、少し気になったので聞いてみた。

「やつは狼だったが、貴様は人の姿を取れんのか?」
「あ、違います。僕は、彼女みたいな使い魔なんじゃなくて、変身魔法を使ってこの姿になっているんです」
変身魔法などという事を聞かされても、ああ、そうか、ぐらいにしか思えないのは、どうやら今までの常識は『あべし!』してしまったらしい。
もういっその事、シュウ辺りを巻き込みたいのだが、その現南斗白鷺拳伝承者は妻が妊娠したからと、現在行方知れずで、道場の方にも顔を見せていない。
燻ってはいても仁星は仁星。
自分の妻と子の未来は何を置いても大事なようだ。

その横では、さっきまでフェレットだったユーノが民族衣装っぽい服を着た少年の姿に変わっている。
二人して騒いでいるのは、見解の相違があったらしく
ユーノ・スクライアは、フェレットじゃなくて、れっきとした人間だったという答えに達すると、なのはの顔はどんどん赤く染まっていった。

「うう……、ユーノ君に見られちゃったよぅ……」
「ご、ごめん、なのは……」
体は幼くても、心は立派な乙女。
同世代の男の子に、あんなあられもない姿を見られたのだから、そうなるのも至極道理か。
対するユーノはただ平謝りあるのみ。
そして、その原因を作ったと言えるサウザーは、我に余剰戦力無し、そこで戦死せよ!とでも言わんばかりに
あっさりとユーノを見捨てると、壁に背を預けてその様子を眺めている。
南斗鳳凰拳は帝王の拳。
帝王に愛や情けは不要。
とはいえ、当代の師弟に関して言えば、独裁の星は何処に行ったのかと思えるぐらい、ぬくもりに溢れているのだが。
一頻り誤り倒すと、助け舟を求めるかのような締まらない顔でユーノが話しかけてきた。

「ま、前も聞いたんですが、魔闘気って何なんですか?」
魔導師が放つ魔力光と似ているが違う物。
禍々しく、空間すら歪めそうな赤黒い光は、見ているだけで生命が削られるような感覚を味わった。
魔闘気について聞かれる事は予想の範疇だったのか、すぐにサウザーが答えた。

「闘気とは、真の奥義を極め、その真髄を極めた者のみが身に纏う、言わば闘いの気迫。
  魔闘気は、北斗琉拳を極めた者が魔界に入る事で纏う闘気。本来、北斗神拳を使うジャギが纏う物ではないが……原因は言うまでもないだろう」
「ジュエルシード……、ですね……。そう言えば、サウザーさんも、金色の闘気を纏ってたじゃないですか」
「俺のは、ただの外気功だ。あれでは闘気とは言えん」
通常用いる気なら、ある程度の南斗の拳士なら程度の違いこそあれ習得している。
外気功によってさらに鋭さを増した手刀は、それ自体の破壊力に真空の刃の切れ味が上乗せされる。
南斗聖拳でも武器を使わない素手の流派は、この外気功が基本なのだ。
ただ、闘気を纏えるようになる流派となると、個人の資質を別にしても六聖拳を除けば無いに等しい。
それだけ南斗六聖拳の力は突出しているのだが、それは今関係ある事ではなく、気の事なんか知らないのでなのは達も一応それで納得したようだった。

さて、話す事は粗方無くなったが、一つ試しておきたい事がある。
音が出ては元も子も無かろうと、ユーノに結界を張らすとサウザーがパキり、と拳を二回鳴らした。

「魔闘気相手には役に立たなかったようだが、どれ程の物か試してやろう」
試したいのは、あの障壁の強度。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳で破壊が可能かどうかを試してみたくなるのは人情という物だろう。
ちなみにこの結界。今は、ユーノ自身が意識してサウザーも入れるように張っているが
そうでなければ、魔力資質皆無のサウザーには結界に入り込む事はもちろん、張られた事を感知するのも難しいらしい。
あって、ほんの少し違和感を感じるぐらいか。
空間のベクトルそのものが違うらしく、一方的に攻撃を受けることは無いが、存在を認識できないというのは結構厄介かもしれない。
肝心要のなのはの方は、試すと言われたので、ちょっと緊張した面持ちで杖を手にしていた。

「お願い、レイジングハート」
“Yes my master Protection"
機械的な音声で杖が答えると、サウザーの目には見えないが、なのはを囲むように壁のような物が張られたと感じられる。
手をかざしてそれに触れてみたが、見えない物に弾かれるのは妙に気色悪い。
そのまま手刀を払うように振ると、障壁が音を立てて手刀を弾こうとするが、関係無いかのように切り払った。

「脆いな。これでは魔闘気など防げぬも道理か」
少しは硬かったが、ただそれだけだ。
これなら、華山角抵戯や泰山寺流拳法の例があるように、肉体を鋼鉄並に硬化させた方が、まだ純粋に強度がある。
あっさりとバリアを破られ、ユーノなどは少しは防御魔法に精通しているだけに、その価値観が崩れかけていた。

「なのはのプロテクションを単純な物理攻撃だけで壊すなんて、どういう力をしているんですか、貴方は!」
思わず声をあげ、人間かどうか疑わしいなんて思ったのは内緒だ。
犬を取り込んだ暴走体の攻撃を完全に防げるなのはのバリアを、いとも簡単に力で押し破るなんて、正直言って同じ人類と思いたくない。
単純な力の問題ではなく、一点にかかる切れ味の問題で、破るだけなら斬るより突く方が適しているが、ユーノ視点では単純に力で壊したとしか見えないのだろう。
もっとも、地上のどんな物質をも力で打ち砕くのが南斗聖拳なのだから、間違ってはいない。
やろうと思えば、ダイヤモンドだって二本の指で砕くことが出来る。無論、勿体無いのでやろうとは思わないが。

しかし、よく考えれば、対北斗神拳のみで考えるなら、案外有効かもしれない。
ラオウ並の剛拳を別にして、基本的に北斗神拳は経絡秘孔に気を送り込む事を重視しているため
秘孔を突かれるという事を無視すれば、一撃一撃の威力は南斗聖拳程高くない。
まぁ、北斗神拳を相手にするという事が無いので、どうなるかなど分かるはずもないし、ジャギがジュエルシードを手にしたのだって事故みたいな物だ。
色んな意味で諦めたユーノがフェレットの姿に戻ると、結界が消えた。

「俺からすれば、魔法の方が余程、どういう力だと言いたいのだがな」
この結界や変身魔法にしろ随分と世の理を無視している気がする。
単純な接近戦での破壊力だけなら、南斗聖拳の足元にも及ばないだろうが、逆に言えば南斗聖拳はそれしかできない。
その内、瞬間移動されたり、空とかを飛ばれそうだ。
互いに、魔法と拳法についての認識が想定以上だったという事か。
もう少しばかり、手の内を見せて貰いたい所だったが、個人的な都合で時間があまりない。
その思考を手早く打ち切ると、短く言った。

「俺は暴走体を見つけても、封印などは出来ん。少しぐらいは待ってやるが、来ないようであれば、破壊させて貰う」
ジュエルシードの場所なんざ感知できるはずもないのだが、今まで二度も遭遇しているだけに三度目が無いとは言い切れない。
そうなった場合、残ったジュエルシードの処理は、先に来た方に渡して、どっちも来ないなら、その場で砕く。
下手に持ち歩いて発動でもしたら、今度こそ世紀末モード突入である。
その辺りの事は分かっているのか、なのはが小さく頭を下げた。

「今日は、サウザーさんが居たから、ジュエルシードが封印できたんです。だから、言います。ありがとうございました」
「気にするな。あれはジャギが特別だっただけだ。あいつのような者が、そうそう居るものではないしな」
北斗の兄弟では、実力は一番下かもしれないジャギだが、北斗神拳を使えるというだけで、凡百の拳法家より数倍強い。
まして、海鳴市に限定すれば、ジャギを上回る使い手は士郎、恭也、それに自分ぐらいの物だ。
居合わせれば手伝ってやる、ぐらいの気持ちで言うと窓枠に足をかけた。

ユーノが後ろで、ここ二階とか言っているが、そういう突っ込みは一切受け付けない。
ぐっ、と力を入れるとサウザーが跳んだ。

魔法という力で空を自由に飛ぶ事ができるなのはにとっては、一瞬の間の飛翔かもしれない。
だが、それでも、両手を翼のように広げて飛ぶ姿は、まるで鳳凰が空を舞っているかのようにも見える。

「本当に凄いね……」
「うん……」
サウザーが地面に降り立っても、まだ空を飛んでいるような気がしていて、なのはとユーノはしばらく窓の外を眺め続けていた。
いつの時代でもそうだ。
今も昔も。そして、これから先も、天空の鳳凰が墜ちる事は無いのだから。




ヒャッハー!あとがきだぁーー!!
(*´ω`*)さんは好きです、でも魔法戦士さんはもっと好きです。

ユリアって、回復能力持ちで、外伝で予知能力も付いたから、魔力資質高そうだとか思ったり。



[18968] 第七話:死兆星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/17 00:31
『輔星』

北斗七星の横に寄り添うように光る星。
そのまたの名を死兆星。
その星が見えた者は、その年の内に死が訪れると伝えられている不吉な星。
死を司る北斗に相応しい星とも言えた。


「ここでは星なんか、そう見えないか」
周りに誰も居ないので、肩肘張った力と気を抜いて首を鳴らしながらサウザーが誰に向けてでも無く言う。
大分慣れてきたが、やはりあの口調を続けるのは疲れる物がある。
常時、お師さんの前のような自然体で居られれば、楽なことこの上ないのだが今更である。

小都市とは言え、仮にも技術大国日本。
町の中では、死兆星どころか北斗七星や南斗六星も薄く輝くのみ。
死兆星なんぞ、見えないにこした事はないので、文明の光というやつはまさに平和の象徴とでも言うべきか。

しかし、日本から一歩出れば、世界の情勢は不安定極まりない。
龍を筆頭に各地でテロが横行し、一部の国では軍事化が進められている。
特に偉大な将軍様が治める隣の国では、なにやら怪しげな実験も進めているらしいが、南斗聖拳の情報網を以ってしても、それ以上の事は不明。
海という防壁が無ければ、日本もそんな流れに少なからず巻き込まれているのだから、誰かが言った神の国というのもあながち間違いでは無いのかもしれない。
少し風が吹くと、サウザーがゴキリと指を鳴らした。

塀の向こうから飛び越えるように影が迫ると同時に腕を振るう。
さすがに、高町家に迷惑がかかるので、極力斬れないように手加減したが、なぜか妙な金属音がした。

「は?」
まったく予想外な音に、割と間抜けな声が出る。
聞こえてきたのはボコォ!とか、ドカ!とかいう音じゃなくて、なんだかとっても無骨で金属的な音。
下に鎖帷子とか仕込んだとしても、そんな音はしない。
手加減したとはいえ、一体どういう事なのかと目の前の襲撃者の姿を眺めた。

右腕に付いた鋭い刃を持つ剣はともかくとして、表情は全くの無機質。
人間より、どこか機械に近いような印象を受ける女だったのだが
どこからか、シネェーイシネェーイシネェーイシネェーイシネェーイドコヲミテイルシャオトベウリャドコヲミテイカクゴキリサケ、とかいう実に作業的な声が聞こえてきたので考えるのを止めた。

気をとりなおして腕を下げると、右手を振りかぶるようにして突っ込んできた。
かなり人間離れした勢いだったが、恭也に比べれば止まっているような物だ。
薙ぎ払われるブレードを上体を思いっきり反らし避ける。
そのままの勢いで刃を脚で切り飛ばすと、逆立ちした状態でサウザーが止まった。

今見せた物は、南斗鳳凰拳の技ではない。
脚技を主体として戦う、南斗白鷺拳の基本の技の一つ。
相手の攻撃をかわしながら斬撃を放つ事ができ、極めればそこから変幻自在の蹴り技を繰り出す事が出来る。
見よう見真似なので、サウザーはそこまでだったが、シュウが放つ烈脚空舞は、かわした者が一人も居ない。
体勢を戻し前を見ると、女はもう片方の拳だけを向け、小さく呟いた。

「ファイエル」
なんでドイツ語と考える余裕はあったが、次に見せたあまりの光景に今度は声すら出ない。
弾けるような音がすると、向けられていた拳が文字どおり飛びながらサウザーに向かってきている。
咄嗟に掴むようにして受け止めたのだが、並の人間なら間違い無く昏倒コースだ。
離れ離れになった腕には、細いワイヤーが繋がっており、捕まえられた腕を引き戻そうと機械的な音を立てている。
そうはさせんとばかりに、ワイヤーを切り落そうとすると、高町家の庭の入り口の方から、かなり慌てた様子で髪の長い女が走りこんできた。

「ストップ!ストップ!直すのにも時間かかるんだから、それ以上は止めて!!」
さっきから見てたのはこいつの視線かと、気付いてはいたのだがビックリ人間ショーのおかげですっかり忘れていた。
こちらも、やけに人間離れした動きだったので、普通の人間ではないと考えていると向こうから正体を明かしてきた。

「まさかノエルのロケットパンチを受け止められるなんてね。さすが南斗聖司教が推すだけの事はあるわ」
「……なるほど、月村の手の者というわけか。出迎えにしてはいささか歓迎が過ぎるようだが」
聖司教の名が出たので、受け止めた拳を開くとあっという間に手が腕と合体を果たし一つに繋がる。
目の前の女は、それを実に満足そうに眺めているのだから正直手に負えない。
というより、ロケットパンチとか聞こえたのは気のせいだろうか。
そのノエルとかいう女を指差してサウザーが聞いた。

「で、あれは何だ」
「何って……、科学者のロマンじゃない!」
腕を天に突き上げて、なにやら熱く語りだしたが、ついていけんというのが本音だ。
目からビームがどうとか、自爆装置は積むべきだとか言っているが、分からん物は分からん。
そろそろ怪しいオーラが沸きでてきそうだったので、どうしたものかと天を見上げると、そこには薄く輝く北斗七星の脇に光る小さな星が――

「……なにやってるんだ忍。それにノエルも」
脇で輝く小さな星が見えるより先に、呆れた声で恭也がやってきた。
物音一つ立てずに戦えるのが北斗南斗が暗殺拳と呼ばれている所以なのだが、さすがにロケットパンチの音は大きかったらしい。
忍と言っているので、さっき言っていた月村の娘はこいつかと思い、サウザーが前に出た。

「月村の手の者ではなく、月村の者だったか。ならば、あの動きも納得がいく。吸血鬼を見るのは初めてだが」
「あら、奇遇ね。南斗聖拳を使う人間を生で見るのは、お姉さんも初めてよ」
傍目では二人の視線の重なる場所に何か火花のような物が飛び散っている気がするが、きっと気のせい。
実際、サウザーからすれば、吸血鬼と言われても血を吸うだけで、常人よりちょっと力が強くて、治りが早い人間ぐらいにしか思っておらず他意は無い。
人間離れしたとあったが、あくまで常人からというだけで、南斗聖拳全体からすれば平均的なレベルであったし、そう戦い慣れているという具合でもない。

忍はというと、こちらも南斗聖拳に付いては伝え聞いていただけで、実際に目にした機会は無い。
が、曰く「素手で鋼鉄の塊を切り裂く」、曰く「ダイヤモンドを指の力だけで粉に出来る」などと夜の一族の間でも恐れられていたため
どんな仙人が来るかと期待していたのに、来たのは若い男だったので拍子抜けしたものだ。
電話口で容姿などは聞いていたため、南斗聖拳がどれ程の物かと試したのだが、GOLANの有様である。

一人取り残されて、ぼっち勢となった恭也は何とも言えない微妙な表情をしている。
例えて言うなら、自分だけが知っている意中の人の秘密を、他の男があっさり口にしたというところ。
事実、夜の一族である事を知った人間は、一族の存在を忘却するか、一族と共に生きるかの選択を迫られる。
恭也は後者を選び、将来的には月村家に婿養子になる予定だ。
そんな様子に気付いたのか、忍が恭也の顔を覗き込みながら軽く言った。

「南斗聖拳の歴史は二千年。それだけ長く続いている組織が夜の一族とも関わってないわけないんだし、知ってて当然じゃない」
付け加えるなら、その事を知っているのは高位の使い手のみ。
南斗六聖拳を除けば、今代で知っていそうなのは南斗聖司教とその側近。後は南斗五車星の軍師、海のリハク。南斗の智将と呼ばれる南斗流鴎拳のリュウロウぐらいか。

「実は、昔に返り討ちに遭ってから手が出せなくなったのが本当のところらしいんだけど……」
「ああ、大体の事は分かった」
多少の傷は意味を成さないのなら、一瞬で細切れにすればいい。
そもそも、北斗南斗元斗の前では多少の再生能力などあって無いような物だ。

中国に勢力を広げようとした時の抗争で、一族の血筋が随分と磨り減ったと、老人が酒と涙の混合物に濡れながら語ったのは昔の事。
経絡秘孔に無数の拳を叩き込まれ、死んだ方がマシと思える程の激痛を死ぬまで味わった者や、その頑丈さから捕らえられ新秘孔の実験台にされた者。
一瞬で全身をバラバラにされたり、一撃で心臓を貫かれた者。
果ては細胞一つ残さず地上から消滅した者と、無残に死んでいった者は数知れず。
そんな事があってから、一族の間で何時しか中国は修羅の国と呼ばれるようになり、三斗に手を出す事は禁忌とされているのだ。

北斗は門外不出にして一子相伝の拳。
元斗は天帝の血筋を守護する拳。
必然的に、陽拳である南斗との付き合いが深くなり、昔の轍を踏むまいと、共存路線を取っている。
夜の一族は権力や財力を南斗に提供し、南斗は見返りとして暗殺や護衛といった形で拳を貸す。
今も尚、南斗聖拳が高い組織力を維持できているのもこうした背景があったからである。


「それじゃあ自己紹介ね。名乗るまでもないと思うけど、わたしが月村忍。月村家の現当主で、恭也の花嫁になる女よ」
前半部分は適当に、そして後半部分をやけに力強く言う。
大事な事なので、二回言いそうなぐらいだ。
さすがに人前で面と向かって宣言されては気恥ずかしいのか、恭也は仏頂面を横に背けている。
惚気話なんざ、豚も食わないのでどうでもいい。
軽く聞き流すとサウザーも手早く名乗った。

「南斗鳳凰拳のサウザーだ。聖司教の命で赴いたが……、もう一度聞くがアレは何だ」
「うちのメイドのノエルよ」
「先程は失礼いたしました、サウザー様。ノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申します」
丁寧に頭を下げてきたが、聞きたいのはそういう事じゃない。
ロケットパンチとかロケットパンチの事とか主にロケットパンチとか。
もの凄く分かりやすい顔をしていたのか、忍がその事についての説明を始めた。

「ノエルは遺失工学。分かりやすく言えばオーパーツで造られたロボットなのよ。もちろん、ロケットパンチはわたしの趣味だけどね!」
遺失と聞いてサウザーが少しばかり目を細める。
科学と魔法の方向性は違うが、ジュエルシードと同じ類の物かと判断したが、普通にしていれば人間にしか見えない。
正直、崋山や泰山辺りには人間に見えないような人間が沢山居るし。

「まぁいい……。詳しい内容は移動しながら聞かせてもらう」
吸血鬼が居るのだし、魔法なんて物もあるのだから特に気にしない方向で行くことに決めた。
段々、色が染まってきているのだろうかと思わないでもないが、それを言ってしまえば北斗神拳や南斗聖拳だって大概なのである。

「分かったわ。車があるからそれで。ノエル、運転をお願い。恭也も来る?」
「ああ」
家を空ける事を言いに恭也が一度家の中に戻る。
三人は先に車に乗り込んで、少しすると恭也が忍の隣に入ると車が走り出したが
その中は、夜の一族一名、南斗の拳士一名、御神の剣士一名、自動人形一名という非常に濃い面子であった。




「今日は北斗七星がよく見える。……その脇に輝く死兆星も」
街中とは違い、山の中であれば天に輝く星はよく見える。
だが、オウガイが眺める先にある北斗七星の脇には、普段見る事のできない星が小さく輝いていた。

とうとう死兆星が見えるようになったが、微塵の恐怖も無い。
むしろ、その死期や死を与える相手は分かりきっている。
死兆星が消えるとすれば、それはサウザーが命を落とす事ぐらいだが、それは無いと断言して言える。
問題は、その後だが……

そんな事を考えていると、襖の向こうで物音が一つ。
いつもは、物音一つ立てぬ二人が暮らす場所だが、今は違う。
襖を開け、暗い廊下に火を灯していると奥の部屋からゆっくりフェイトが現れた。

「まだ無理をしてはいかん。経絡秘孔を突いたとて、安静にするのが一番良い」
専門ではないにしろ、長い経験からオウガイも秘孔の技は使える。
あくまで肉体の治癒力を高める物なので、魔法のようにはいかない。
治りが一日か二日早くなるぐらいだし、安静にしておくにこしたことはないのである。

勝手に抜け出した事にフェイトが少し俯いて恐る恐る顔を上げたが
その先にあったのは、少々人見知りの気があるフェイトでも気を許す菩薩の如き微笑。
念のために言うが、司る星は独裁の星こと将星。
見た目だけなら、仁星や義星と言っても誰も疑わない。
もちろん、フェイトは南斗六星の宿命の事など何も知らないので、ちょっとばかり恥ずかしそうに言った。

「ごめんなさい……、でも、その……」
また俯いて、もじもじしながら小さく言う。
その様子を見て、オウガイも理由を察した。
サウザーを赤子の時から育ててきた経験値は伊達ではなく、あのシュウが話を聞きに来た程だ。
ほんの少しだけ笑い声を漏らしながらフェイトに近付くと、そのまま抱き上げた。

これがもし、年が近かったりすれば、理由が理由だけにフェイトの顔は茹で上がったタコのようになっているのだが
さすがに自分より軽く六倍以上は長く生きている人生の先達に対しては、あまりそういう気持ちが沸かない。
音も立てずに歩きながら目的の場所に着くと、割れ物を扱うかのようにフェイトを降ろす。
すると、フェイトが扉を開けて中へ入っていった。


「……ふむ」
未だ輝く八つの星を眺めながら、こんな事をするのもいつ振りかと、少し昔を思い出した。
お師さんと呼びながら後ろから付いてくるのは今でも変わらないが、十年ぐらい前は寝床を抜け出して、いつの間にか部屋に入ってきたものである。
それでも、男と女という違いがあるので、ダーマやリハクがユリアを目に入れても痛くない程に溺愛しているのも、今なら少し分かる。
古い傷跡の事は聞いているので、やはり南斗の里に連れて行った方がいいだろうか、とか考えていると扉が開いた。

「あ、ありがとうございます」
「子供がそんな事を気にするでない」
あらかじめ用意していたのか、水の入った手桶で手を洗わせるとタオルでフェイトの小さな手を拭く。
場所が場所だけに、衛生観念に割と厳しいのである。
ほとんどなすがままにされていると、また抱えあげられる。
数歩歩いたところで、フェイトが口を開いた。

「一つ、聞いてもいいですか?」
「はは、一つと言わず幾らでも聞いてくれて構わんよ」
「サウザーさんも、オウガイさんも、どうしてわたしみたいな他人に優しくしてくれるんですか?」
「そうだな、……わしもサウザーも、産まれた時から、血の繋がった家族という物を持たぬからかな」
将星は、肉親も友も持たぬ孤高の星。
宿命を背負う伝承者も天涯孤独の非情が常。
これだけなら、歴代伝承者が繰り返してきた事とそう大差は無いが一つだけ違う事がある。
オウガイが、サウザーを拾い弟子として育て始めたのは歴代伝承者の中でも遅い方だ。

本来、南斗鳳凰拳の修練にはぬくもりが入る余地は無く、鳳凰拳の強さは他の五星の及ぶところではない。
だが、伝承者に求められる資質も高く、選べるのも一人のみ。
継承者候補が中々見つからず、老齢と呼べる年になってもオウガイは一人だった。
その反動のせいか、オウガイはサウザーに惜しみないぬくもりを与える事になり
それが良かったのか、サウザーの才能が頭抜けていたのか、あるいは両方なのか、とにかくサウザーは歴代伝承者の中でも随一の使い手になれるだけの素質と才能を見せた。
だが、愛深き故に、継承者への試練を目隠しという方法で行わなければならないのは皮肉というしか無いだろうが。

優しく頭を撫でられながら、フェイトは羨ましいと思った。
血が繋がっていないにも関わらず、この二人は、お互いが強い絆と信頼で結ばれている。
それなのに自分と血の繋がった母の間には、それが無い。
思い出の中には、優しかった母の事を覚えているが、ある時を境にぷっつりと糸が切れるかのように無くなってしまった。
一方通行の思いをぶつけても何も帰ってこない。
ジュエルシードを集めれば、昔のようにぬくもりを与えてくれる。
そう信じているからこそ、フェイトは幼い身でありながら戦いの場に飛び込む。
だから、サウザーが羨ましかった。




「これじゃあ出ていけないねぇ」
何時もとは違う、仔犬サイズにまでなったアルフがその様子を遠くから眺めながら呟く。
本当は一刻も早くジュエルシードを届けたいのだが、今は無理だ。
魔法の事はなるべく知る者を少なくしておきたいというのが二番目で、一番はオウガイに抱えられるフェイトの顔が、年相応の物になっていたのがその理由。
九歳と言えば、両親に甘えて、友達と遊んでと楽しい盛りで、戦闘訓練を受けたりジュエルシードなんて危険な物を集めるような年頃ではない。

「あの鬼婆……」
いけしゃあしゃあと、フェイトにジュエルシードを集めて来いと言った時は、本気で殺してやろうかと思った。
それでも行動に移さなかったのは、フェイトがそれを望んだからに他ならない。
思い出してムカついてきたのか、普通の獣には出せない殺気が溢れ、辺りの茂みや木の葉がざわめく。

突然ゾクりと、背筋に寒いものが奔り、もう一度前を見るとオウガイが鋭い目を向けながらこっちを見ていて、目が合ってしまった。
慌てず騒がず、獣っぽく座り後ろ足で首筋を掻いていると、オウガイは視線を外して歩き出した。

「……弟子も師匠も化物だね。こりゃあ」
フェイトを見る優しげな表情からは想像も付かないが、自分では勝てない相手だと素体となった狼の本能が警告を放っている。
何というか、ヤバい。
どのぐらいヤバいかって言うと、修羅の国最深部で屠殺場と呼ばれ恐れられている、『慶・阿夷道場』に挑むぐらいヤバい。(参考文献:精密機械工学Ⅲ【民明書房刊】)
圧力だけで、腹ばいになって服従のポーズを取ってしまいそうだ。

「ま……、いいか。フェイトにはよくしてくれてるみたいだし」
どうであれ、フェイトに危害が及ばないなら、それでいい。
二人の姿は、どう見ても優しい爺ちゃんと可愛い孫娘だ。
あいつがこれ以上フェイトに酷い事をするなら、二人で逃げ出して、ここで匿ってもらうのも悪くない。
そう思いながら、アルフは少しの間だけ眠ろうと小さく丸まった。



ヒャッハー!あとがきだぁーーー!
ほんと、牙大王とか獄長様とか何食ったらあんなにデカくなれるんだろうねぇ?
ラオウが虎に死を恐怖をさせ、ケンシロウが死を覚悟させ、相手に死を覚悟させる事こそが暗殺拳の極意とリュウケンが言っていた気がするので
帝王の拳である南斗鳳凰拳は、戦わずして敵を跪かせるのが極意ではないかと、考えたり。



[18968] 第八話:夜天に輝く仁の星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/25 19:16
「……なるほど。狙われているのは月村と財産と、自動人形と呼ばれる技術か」
パラパラと、出された資料を流し読みしながら、サウザーがそう結論付けた。
機械や工学に、大して専門知識を持たなくても、ノエルの性能の高さぐらい理解できる。
人と全く変わらぬ外見、感情を持った人工知能、精密さを兼ね備えた怪力にetc……。
四次元なポケットと愉快な道具を抜きにすれば、未来からやってきたネコ型ロボットよりも高性能だ。
製造方法は失われており、それ故に金銭的な付加価値は兆を超える。

「そのとおり。でも、わたしやノエルだけなら、昔から慣れてるしどうにかなる。でも、すずかには、そうもいかないのよ」
「……すずか?」
「忍様の妹のすずかお嬢様の事です」
新しく出た名前に疑問符を付けて返すと、間髪入れずに隣のノエルが答えた。
精密KI械だけあっていい反応をしている。
きっと、ガーキャン狩り虎破龍だって完璧だろう。

それはともかくとして、継承者問題に、遺産争い。
夜の一族だの大層な名前が付いているが、皮一枚剥けば人間となんら変わらない。
なまじ人より力、権力、財力を持っているだけに、性質が悪いのは間違いないだろうが。
半分、呆れたような声でサウザーが続けた。

「それで、南斗聖拳……というわけか」
夜の一族の間で、三斗に手を出すことは禁忌。
北斗は南北争ってはならぬの姿勢を貫いているし、元斗は天帝の命でしか動くことは無い。
その中で南斗がどちらかに付けば、攻めるにしろ守るにしろ必然的に片方は容易には手が出せなくなる。
要は、一族の中で誰が先に南斗の看板を手に入れるかで競争していたようなものだ。
思わず溜息が出そうな様子を察したのか、忍が苦笑しながら言った。

「そういう事。まぁ、実際に目にするまで半信半疑だったんだけどね」
ブレードを装備したノエルの戦闘力は、並の一族を一蹴するだけの力を持つ。
本来、自動人形という物の役割が、主人の護衛、又は主人のために狩りを行うために作られた物。
ノエルはその中でもエーデリッヒ後期形という一級品である。
それと同等に戦える、いや、放っておけば確実に壊されていたのだから、南斗聖拳が禁忌扱いされているのもよく分かった。

話しているうちに月村邸へと到着したのだが、デカい。
敷地面積だけで南斗の道場が丸々一つ入ってしまうぐらいだ。
車から降りると、まずサウザーが聞いた。

「で、俺は何をすればいい」
どうやら、やる事はあまりなさそうだ。
月村が欲しいのは南斗聖拳の力ではなく、南斗聖拳の看板なのだから、極端な話、屋敷の中に居てもらえれば良いって事である。
さすがに無為徒食というわけにもいかないので聞いたのだが、上から下へと嘗め回すように見られた後、音が出んばかりに指差されて言われた。

「そうね、まずはその格好からどうにかしないと」
「ん?」
いきなりそんな事を言われて、サウザーが頭に疑問符を浮かべる。
格好をどうにかしろと言われても、別段おかしなところは無い。
この季節なら袖無しの動きやすい物を着ている。
朝起きて着替え、飯食って修行して、修行終わったら汗流して着替えて本読んで寝るのがサウザー君の超健康優良児な日常。
見て分かるように胴着と私服がほぼ一緒。
胴着と言っても柔道着のような物ではないが、そのまま街へ降りれば結構目立つ。
何の疑問も持たずに、そのまま海鳴市へご訪問と相成ったわけで、忍ちゃんの辛口ファッションチェックに見事に引っかかったご様子。
もの凄く何か企んでいる顔で忍がノエルに告げると、何かを承った様子で近付いてきた。

「お部屋へ案内致します、どうぞこちらへ」
客室に通されるが、どうも気になる。
顔を向けたが、「明日を楽しみにしてなさい」と言われ消えていった。
気にしても仕方ないので、特に考えない事にしたのだが、まさか省みる事になろうとはこの時は想像すらしていなかった。





翌日、月村邸の応接間。
その中からは、なにやら擦るような音が聞こえてならない。
今、その部屋には、なんとも言えない微妙な表情をした忍と恭也。
そして、もの凄い不機嫌なサウザーが居た。

さっきからギリギリと音を立てているのは、サウザーが歯を食いしばっている音。
メイドが二人も居るのだから、アレでいこうという忍の提案により
昨夜ノエルが十秒足らずで寸法を取り、一晩で完成させたのが、この衣装。

その名も執事服。
ノエルが着るメイド服とは、森羅万象二対一体の存在。

せっかく作ったんだからと言うから、上だけ着てやったが結果は玉砕。
お前のような執事がいるか!と海鳴市の全住民から突っ込まれそうな勢いである。

自分で言うのもなんだが、妙な事この上ない。
サイズは一寸の狂いも無いのだが、デザインがガタイと合ってないのだ。
もう少しラフに着崩せば似合うかもしれないが、そんなファッションセンスなんざ微塵も持っちゃいねぇ。

一体、何を元にして、これにしたのかと問い詰めると、一冊の書籍。
砕けて言うと、漫画本を出された。
表紙だけで、元になった人物とサウザーの間に明確なまでの体格差がある。

「うーん。恭也は似合ってたから、いけると思ったんだけどな。失敗!」
テヘ☆と舌を出して可愛く誤魔化そうとしているが、さり気なく不穏当な発言をした事に気付き、恭也に視線を向けた。

「着たのか、これと同じ物を」
「……どうしてもって拝み倒されてな」
この様子だと、漫画に書かれているような内容もやったのだろう。
額に黒歴史と書いてあるのが容易に見て取れる。
普通なら、ちょっと痛い娘で済むのだが、本物のお嬢様なのだから余計に性質が悪い。
婿に入ったら相当気苦労を背負い込む事になるなと思い、今のうちに手を合わせておいた。

「じゃあ、次いってみよう」
そして、当然のように忍が言う。
最善の手が駄目になれば次善の手を打つ準備は出来ていたようで、ノエルが何か手に持っている。

恋人なんだから、なんとかしろと恭也を見たが、生暖かくも悟ったような目を向けていた。
三文字で表すなら、N(ねぇ)D(どんな)K(気持ち)、だろう。

そして出来上がったのがこちら。

「うわぁ……」
「これは、な」
さっきと比べて遥かに似合う。
似合うからこそ、そんな声が出て、平静を保っているのはノエルただ一人。
上から下まで黒尽くめのスーツに身を包み、残っていた少年の面影はサングラスによって完全シャットアウト。
いわゆるゴッドな父親な方々と同じファッションでございます。

「動き辛い」
どうにも釈然としねぇ声でサウザーが漏らす。
まず第一に、体の、特に間接部の稼動域が相当に限定される。
第二に、こんなモン着るのは生れ落ちてこの方初めてって事で窮屈この上ない。
第三に、遊ばれているような気がしてならない。
あれか。そんなに、俗世間から離れた所で生きる人間が珍しいか。

これ以上言っても下がる一方かと妥協し、溜息吐きながら高そうなソファーに座って脚を組むと、猫が一匹飛び乗ってきた。
何故だか知らないが、この家やたらと猫が多い。
別に邪魔にはならないので、一撫でするとごろごろ音を出しながら大きくあくびをした。


「悪の組織の親玉って、こんな感じよねー」
グラスでも傾けながら、モニター越しに部下に命令する姿を想像したが、異様なまでに似合っている。
それで、部下が失敗するとグラスを叩き割って、膝の上の白ペルシャがフシャー!と鳴声をあげて逃げていくのはお約束。
まぁ、今サウザーが手にしているのは牛乳の瓶だが。

勝手に親玉にされている事に返す言葉も無いのか、少しだけ忍に目をやると諦めたかのように牛乳を一気に飲み干す。
すると部屋のドアが開いて、女の子が入ってきた。

「おはよう、おねえ……」
途中まで言いかけて、凍り付いたかのように動きが止まる。
サウザーの視線の先にあるのは、忍と同じ色の髪をした少女が目をパチクリさせて突っ立っている所。
そして、ちょっと泣きそうな顔に変わると、小さく言った。

「こ、殺し屋さんだ……!」
そう言い残すと扉が閉まる。
扉の向こうでパタパタとどこかへ走り去る音が聞こえると、なんとも言えない微妙な沈黙が部屋の中に流れた。

「……ぷっ!あははははは!」
堪え切れなくなったのか、終に忍が噴出し盛大に笑う。
恭也も隠してはいるが、口元が小刻みに動いている。
ノエルは……、何時もと同じだ。
殺し屋さんって俺の事か、と認識した時には、手の中の瓶は握り潰され、音に驚いた猫はサウザーの上から逃げ出していた。





「ごめんなさい!」
お約束をしっかり消化した後、事情を説明しに行ったノエルが、もう一人のメイドと、逃げた少女を連れてやってきたのだが
出会い頭に随分と失礼な事を言ったと自覚しているのか、顔を真っ赤にしながら謝られた。

「もういいから、頭を上げろ」
サングラスを外したサウザーが頭を下げ続ける少女に言う。
これだけ謝っているのに、許さないのも大人気ないし、絵面的にとっても拙い。

「すずかは悪くないわよ。殺し屋さんどころか、ボスって呼ばれても違和感無い姿だったんだし」
それよりなにより気に入らないのは、爆笑した挙句、謝る気ゼロの忍の方だ。
誰のせいでこうなったと思っている。

「南斗聖拳を使うのなら、間違ってはないだろうしな」
裏の不破家の出のやつが何を言うか。
「よし、表出ろ」
「南斗に他流の者が挑んで敗れたら処刑されるんじゃなかったのか」
親指を立てて言うと、南斗の掟を盾にして流された。
矛先が無くなると、露骨に舌打ちをする。
重なる物が重なって、なんだかんだで結構ビキビキきているようだ。
例えるなら、コンボの練習をしようと思った所に、1ステージ目でジョインジョイントキィされた時のように。

「あ、あの……」
今にも台パン始めそうな様子に、すずかがビクつきながら声を出した。
ちなみに、高まりすぎた時にする台パンはレバーの左側を叩くのが正しいマナーとなっております。

「ああ、何だ」
そう返す姿は、うって変わって平静そのもの。
殺気は気配となり、敵に容易に己の位置を掴ませてしまう。
感情のコントロールを出来ないようでは、南斗聖拳の使い手としては未熟もいいところだ。
それでも、恐る恐るといった具合にすずかが続けた。

「知ってるんですよね……。わたしとお姉ちゃんの事」
「夜の一族の事か?そこまで詳しく知っているわけではないが、一応はな」
「怖く……ないんですか?人の血を吸う化物なのに……」
見るからに落ち込んだ風に話すすずかを一瞥すると、厚いテーブルの端を二本の指で掴む。
ほんの少しだけ力を込めた次の瞬間、その部分が音を立てて凹み、綺麗に抉り取られていた。

「化物など、これぐらいの事が出来るようになってから言うんだな」
言いながら、弾き飛ばされたそれを受け取り眺めると、抉り取られた部分がプレス機にでもかけられたように小さくなっている。
凄まじいまでの圧力がかかったのは明白で、すずかは目の前で行われた行為に目を丸くしていた。
出来るか出来ないかで問われれば、間違いなく出来ない事なのだ。

「そうそう。世の中、夜の一族なんかよりもっと化物染みた人間はたくさん居るんだから、気にしちゃ駄目よ」
三斗の流派において、時代の最強の使い手達は、圧倒的なまでの力から死神だの悪鬼羅刹だの言われてきたのである。
そして、忍はサウザーに向けて爽やかに続けた。

「それで、うちの家具を抉ってくれた人は、なにをしてくれるのかしら?」
「む……」
嫌な笑みを浮かべながら言うので、サウザーも言葉に詰まった。
自分の家のような感覚でやってしまったが、この立派な屋敷に置いてあるだけあって、テーブルも相応に立派。
つまり、もの凄い高級品の可能性が高いわけで、それを傷物にしてしまったわけだ。

払えるだけの持ち合わせは無いし、南斗の里に回すにしても理由が理由だけに不問にはならない。
お師さんに迷惑がかかるかもしれないと考えると、自然に口が動いた。

「……何が望みだ」
金がケツを拭く紙にもなりゃしねぇ時代ならともかく、力に直結している今現在。
口振りから見返りを求めているのは明白で、清算できるならしておいた方が得策だろう。
それを受けて忍は、我が意を得たりとばかりに言った。

「簡単な事よ。南斗聖拳がどれだけ人間離れした集団か、ちょっと見せて欲しいの」
つまり、技一つ見せろという事か。
自分にではなく、まだ色々引き摺っているすずかにだろうが。
見世物ではないのだがな、と思ったのだが、そろそろ十年に一度行われる南斗相演会が近い事を思い出して考え直した。

南斗相演会。
それは十年に一度、南斗聖拳百八派が一堂に会す演舞会。
勝負事ではないので勝ち負けは無いが、磨きあった技の数々を披露し合うのは荘厳の一言だろう。
相演会において注目を浴びるのは、南斗聖拳史上最も優雅華麗と呼ばれる南斗水鳥拳だ。
この日だけは、天空を支配する鳳凰がその座を水鳥に明け渡すのだった。

南斗鳳凰拳を伝承するのならば、次回は自分が出ねばならない。
百七派を前に無様な真似は出来ず、それこそ水鳥を落とす気で挑まねば。
少々難度が高いが、そのために暖めてきた技が一つある。
練習がてらやっておくのも悪くはないだろうと考えると、見たいのなら外に出るように促した。





表に出たサウザーの手には一体の人形。
恭也などは、南斗鳳凰拳の技の一挙一動を逃すまいと食い入るように注視している。

片手で持った木人形を天高く放り投げる。
投げられた木人形が頂点に達すると、サウザーも跳んだ。

「高いっ……!」
棒高跳びの世界記録を棒無しであっさり飛び越えたのだから、そんな声も出るってもんだろう。
地上へ落下する木人形を捉えると、まず全力で膝蹴りを叩き込む。
ぐしゃりと砕ける嫌な音が辺りに響くと、勢いそのままに回転するかのように蹴りを繰り出した。

常人では到底到達不可能な跳躍力と、空中という足場が利かない場所での身のこなし。
これが南斗聖拳全体の特徴なのだが、その中でも鳳凰拳と水鳥拳は群を抜いている。
両腕を翼のように広げたサウザーも体勢を戻し地面に着地した。

「くそ、まだ届かんか……」
南斗鳳凰拳、天翔群星脚。
一度だけリンレイの飛燕流舞を見た事あるのだが、幼いながらもあまりの華麗さに目を奪われてしまった事がある。
拳に対する純粋さから、それを不覚と思った事は無いが、いずれ超えてみせると密かに決意したのは昔の話。
威力を無視した演舞という観点からすれば、こちらはせいぜい妙技止まりで、向こうは神技の域。
手応えはあったが、まだ記憶の中の飛燕流舞には及ばない。
幾分か声の調子を落として言うと、二つに割れた木人形が落ちてきて転がった。

「君、本当に人間なのかな?」
どこか引きつったような顔をしながら忍がサウザーに話しかける。
百歩譲って、あそこまで高く飛ぶのはいいとしよう。
でも、空中でいろいろ動いたり、人形が切れたりするのは訳が分からない。
人外と疑うのも無理は無いが、残念ながら正真正銘、純度百パーセントの人間でございます。

「何やったら、そこまで出来るようになるんだ」
恭也は恭也で、御神の剣に役立てたいのか、そう聞いてきた。
そんなモン幼少の頃から『作業ッショ』と言わんばかりの繰り返しの修練の賜物で
片足立ちで同じ姿勢を保ったまま針の山の上に三日間立ち続けれるようになれば出来る。
と、事も無げに言われ、痛めかけた膝を思わず押さえたのは言うまでもないが。

「お前ら俺を何だと思っている」
「少なくとも同じ人間と思いたくないな」
「少なくとも人間と思いたくないわね」
口を揃えて同時に同じ事を抜かしやがった。
南斗聖拳の常識は、一般社会の非常識という事は理解していたが、ここまで人外扱いされる物だとは思っていなかった。
それも、文字通りの人外である忍と、限定されるとはいえ、南斗鳳凰拳に迫れるだけの速度を出せる恭也に。
貴様らには言われたく無い、と言おうとしたが忍に先をこされた。

「それじゃあ、すずかの事はよろしくね」
「……俺がか?理由は」
「夜の一族も黙る南斗聖拳の使い手。傍に居るだけで手が出せなくなるんだから打って付けよ。わたしの事は恭也が守ってくれるんだしね」
「お、おい、俺はそんな事……」
言葉途中で詰まる。
どうやら上目遣いで、少し涙を浮かべた忍にテーレッテーされた模様。
女の涙が武器なのは昔から決まっている事かも知れないが、これでは御神の剣士も形無しだ。
というか、こんな面前で砂糖漬け空間を作らないで欲しい。

「はぁ……、そういうわけだ。しばらくの間は、少し窮屈かもしれんがな」
「は、はい。よろしくお願いします」
思わず唾を吐きたくなるのを我慢してすずかに話しかけると、凄い物見て多少は吹っ切れたようだ。
護衛するなら、対象が暗いよりは明るい方がいい。
こうして月村での生活が始まったのだった。





サウザーが海鳴市に入って三日目。
何も起こらないので退屈極まりない。
どうも動いているのは夜の一族絡みだけではないようなのだが、詳しい事は南斗の里待ちだ。
それなりに気に入っているのか、サングラスを手で回していると後ろから声をかけられた。

「だからって、南斗の拳士がうちで時間を潰すのもどうかと思うけどね」
苦笑いを浮かべながら、翠屋の店主である士郎がサウザーに向けて言う。
そんな事ぐらい分かっているが、仕方ないのだ。

「……俺が小学校などに入れるわけがないでしょうに」
やたらガタイの良い金髪外人黒スーツの人間を迎え入れる学校があれば、そこは相当治安が悪い場所か何かだろう。
そうでなくとも、このご時勢だ。何時もの服を着ていても入れる事は無い。
実際、それとなく小学校の周りの地形を頭に入れていたら、桜の大門の方に引き止められた。
そこの組織のトップの人間なら、南斗の名を出せば済むのだが、自転車乗って地域を見回るような下っ端が知るわけもない。
幸い、周りに誰も居なかったので、頭顳を突いて無かった事にして、事情を知る翠屋にシケ込んだというわけである。
もちろん、この姿で店内に居座るのは営業妨害に近いものがあるので、奥に控えて、力仕事を手伝ったりしてるが。
職質された事を苦々しげ言うと、士郎が思い出したかのように言った。

「そう言えば、サウザー君は学校には通っていなかったんだっけな」
「必要な事は師父が全部教えてくれたので、その必要が無かっただけですが」
十五と言えば、中学三年か、高校一年。
例え外面が、ざわ…ざわ…しそうな姿でも、それは変わらない。
まぁ、それは北斗も南斗も、多分元斗も同じなので気にした事はなく、むしろ拳を学ぶなら邪魔でしかないと思っている。
その辺りの事情は士郎も知っているので深くは追求せず、一つ提案をした。

「それなら、図書館に行ってみるといい。少なくともここに居るよりは暇じゃないはずだ」
それを聞いて少し考えたが、そうした方がいいかもしれない。
昨日で翠屋の力仕事を片付けたため、これ以上サウザーがする事は特に無い。
他にあるとしたら、翠屋全体を物理的に片付ける事ぐらいだろう。
場所を聞くと、それ程離れていないし時間もある。
軽く礼を言うと、サウザーは店を後にした。






よく晴れた天気、湿度も低く絶好の読書日和である事は間違い。
平日の昼間にしては、それなりに人が集っている海鳴市風芽丘図書館。
年中平和そのものと言ってもいい場所なのだが、今日だけは違った雰囲気が支配していた。

「マ、マフィアや……、マフィアが日本の図書館におる……!」
車椅子に乗った一人の少女が、図書館の異様な雰囲気の原因に気付いてそう漏らす。
いつもより人が少ないと思って不思議に思ってみれば、そこを歩いていたのは
短い金髪をオールバックで固め、上から下まで真っ黒の、いわゆるマフィアスーツを着込んだサングラスの男。

どう見てもそこら辺に居るような、妙な因縁を付けて善良な一般市民から小銭をせびるようなチンピラには見えない。
漫画や映画からの断片的な情報を繋げた結果、あの男は少女の中で
あれは、ブッ殺すと心の中で思ったなら、その時スデに行動は終わっているような本物、という事になった。

「ぶつかったりしたら、ハジかれへんやろか……」
銃規制が激しい日本だからといって、懐の中に銃が入っていないとは言い切れない。
その筋の世界に関係無い一般人が、いきなり殺されるのはよくある事だ。主に漫画の中では。

ちょっとビクビクしながら、目的の本がある本棚に向かう。
最近、頼もしい同居人が出来たとはいえ、今日は大事な用があるので一人で来た。
車椅子ゆえに、自宅からここまで来るのに結構な労力を使うのだ。
せめて、本だけでも借りて帰らねば割りに合わない。

「右良し、左良し……。行くなら今やな」
歩道を渡るときよりも慎重に指差し確認をする。
ただし確認しているのは、どれだけ逃げても追いかけてくる無人のトラックとかではなく、鉛弾を懐に忍ばせているかもしれないマフィアだ。
どこぞの潜入工作員のような気分で本棚の間を縫って進むと、ようやく目的地へたどり着いた。
結構な遠回りをした気がする。

「う~ん、もうちょっとのとこで届かへんな……」
苦労して本棚にたどり着いたはいいが、あと少しの所で手が届かない。
司書さんに取ってもらうのが一番いいのだが、生憎と死角。
なら、見える場所まで出ようとは考えたものの、マフィアと鉢合わせしてしまうかもしれないし、もうちょっと頑張れば取れるかと思い断念。
右手を支えにして上半身を必死に伸ばすと、なんとか指先が触れる。
だが、突然車椅子が後ろに下がり始めた。

「うわ!?しもた……!レバーが……」
どうやら、支えにしていた右腕が車椅子のレバーに当たったらしい。
そこまで速度が出る物ではないが、突然の事にちょっとテンパってしまう。

「やば……!本棚のドミノ倒しとか洒落にならへんで!」
冷静に考えれば、少女一人乗った車椅子がぶつかったところで、どうにかなるような作りではないのだが想像はどんどん膨らんでいく。
『風芽丘図書館で大惨事!原因は車椅子か?』
なんていう文字が明日の新聞の一面を飾るかもしれないとか思っていると、唐突に体験した事のない浮遊感を味わった。

キュラキュラと空回りする車椅子の車輪。
誰かに車椅子ごと持ち上げられたと気付く。
一体誰がと思い横を向くと、左手にいくつか本を持ち、右手一本で自分と車椅子を苦も無く持ち上げる金髪の男の姿があった。

「(あ、あかん!マフィアやのうてター〇ネーターやったか……!!)」
三十キロはある電動車椅子を、自分ごと楽々と片手で持ち上げるこのパワー。
きっと皮膚の一枚下はメタリックな金属で覆われていて、サングラスの下の眼も何かあれば赤く光るに違いない。
そんなアホな事を考えていると、遂に男が口を開いた。

「……いい加減、止めたらどうだ」
「あ、はい」
少女の予想に反して出てきたのは流暢な日本語で、想像していたよりも声が若い。
てっきり渋めの声で「You Die!」とか言われ、ハジかれるものと覚悟していたのだが。
言われるまま後進に入ったレバーをニュートラルに戻すと、ゆっくり地面に降ろされる。
とりあえず、ハジかれなかった事に安堵していると、本を一冊差し出された。

「これで構わんのだな」
「あ、ありがとうございます」
それは紛れも無く、手を伸ばそうとして届かなかった本。
一瞬、本の下に銃でも忍ばせているんじゃないかと疑ってしまったが、別にそんな事は無く普通に本を受け渡すと立ち去ってしまった。


「本物はカタギに手ぇ出さへんのは、ほんまやったんやなぁ……」
後姿を見送りながら、どこか感慨深げにそう呟く。
白〇しかり、静か〇るド〇しかり、その筋の道を歩く本物の人間は決してカタギには手を出さない。
架空の産物でしか無いと思っていた任侠の世界を見てしまったのだから、興奮冷めやらぬといった具合である。
そんな気持ちのままどんどん本を読み進めていると、あっという間に時間が過ぎ、いつの間にか日は傾いていた。

「そろそろ帰ろかな。マフィアさんもいつの間にかおらんみたいやし」
車椅子の身で夜道を歩くのは結構危ない。
この前もそれでえらい目に遭いかけた。
その時は偶然によってかすり傷ぐらいで済んだのだが、そんな偶然が二度あるとは限らない。
貸し出しの手続きを済まし出口に向かうと、一人の男が立っている事に気付き、少女の顔が綻んだ。

「シュウさん!迎えにきてくれたんですか」
「ああ、はやて。私は君の世話になっているのだから、このぐらいは当然だろう」
お互いに笑顔を浮かべながら近づく。
男の鍛えられた体付きと、優しさの中に潜む眼光の鋭さは、見るものが見ればただ者ではないと分かるはずだ。
それもそのはず。
彼は南斗聖拳百八派の頂点に立つ南斗六聖拳が一つ。
南斗白鷺拳現伝承者なのだから。

後、一時間ばかり来るのが早ければ、劇的な再会があったのだが、そうはうまくいかないのが世の常である。

夕暮れの町を車椅子の少女と、車椅子を押すシュウが進む。
和やかに会話する様子は、一見して親子かと思わせるような雰囲気もあったが、そう年は離れてはいない。
シュウは二十を過ぎたばかりだし、はやては八歳だ。
しかし、しばらくするとシュウは正真正銘の父親になるので、今からそう呼ばれても本人は怒らないだろう。
もっとも、この男が怒る事など、そう滅多に無いのだが。

「それで、シュウさん。どうでした?」
「三ヶ月。順調だそうだ」
「もう名前は決めたんですか?」
「はは、気が早いな。残念ながらまだ決まっていないんだ」
興味津々といった具合ではやてが聞くと、シュウも嬉しさを隠そうとせず答えた。
シュウが南斗の道場に戻らず海鳴市に留まっているのは、妊娠した妻の身はもちろんの事、この車椅子の少女の身も案じているからだ。

道場の方は先代伝承者に預け、海山の自然や温泉地があり、さらに海鳴大学病院という結構名の通った病院があり
子育て全一のオウガイが近くに居る事もあって、この地で来るべき日を迎えようと海鳴市を訪れたのだった。

そこで八神はやてという少女と出会った。
その縁は、溝に車輪を取られ身動きが出来なくなったのをシュウが助け起こしたというのが始まりである。
八歳の、しかも車椅子の少女が一人暮らしをしていると聞いた時は、驚いたものだ。
はやてもシュウが奥さんのために、そこまで出来るものかと感心していたのでお互い様だろう。

お互いの事を話し合っているうちに、はやてがその間だけでも自分の家に来て欲しいと言い出した。
突然の申し出に少し戸惑いはしたが、そこは未来への希望を司る仁の星。
幼い少女を一人にするなんて事はできないわけで、妻とも話し合った結果、今に至る。

後に、夜天の王と呼ばれ次元世界にその名を知らしめた少女と
世紀末という世で、盲目の闘将と呼ばれ、レジスタンスを率い、最期まで聖帝軍に抗い続け
仁星の宿命に殉じた男が魔法に関わるのはもう少し先の事になるのだった。




ヒャッハー!あとがきだぁーーー!!
北斗勢って大戦前からでも世紀末ファッションなんよねぇ。
聖帝様は、ケンシロウの十人組み手の時、オサレっぽい黒コートを着てたけど。

はやては北斗勢の誰と絡まそうかと思ったけど、やっぱりシュウしか居なかった。

次回は全くリリカル分無しのガチ拳法バトルになるかもしれない……



[18968] 第九話:南斗の追放者
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2010/06/30 15:59
時間は放課後。
学業から開放された生徒が巣穴から這い出る蟻のように湧き出てくる。
そんな中、三人組の少女の中の一人が言った。

「もう慣れたからいいけど、あれはどう見てもイタリアンマフィアかター○ネーターよね」
「あはは……、聞こえちゃうよ、アリサちゃん」
八神はやてが頑張って言わなかった事をあっさり口にするのは、私立聖祥大学付属小学校に通うアリサ・バニングス嬢。
その視線の先にあるのは、ヤの付く自由業の方々のさらに一歩上を行く風体の男。
横に止まっているリムジンがとっても似合う姿のサウザーである。

もちろん、免許など無いのでリムジンなど運転できるわけもなく、運転席に座っているのはバニングス家の執事である鮫島さん。
そのリムジンの中では、眼鏡をかけた執事の鑑のような男が頭を下げていた。

「も、もうしわけありません、サウザー様。何分アリサお嬢様は、ああいったご気性ですので……」
「気にするな。……もう、慣れた」
一般人には聞こえなくても、この二人にはアリサが言った事はしっかり届いている。
親子以上に年が離れた二人のやり取りをアリサが聞けば違和感を覚えるが、何のことは無い。
鮫島も南斗聖拳を使えるからだ。

バニングス家と言えば、日米に股を掛ける大企業。
当然敵も多いわけで、その執事ともなれば、凡百の人間がなれるわけではない。
流派の伝承者というわけではないが、それでも素人相手なら何人同時に掛かられても倒せるぐらいの力量はある。
実際、過去にアリサが金銭目的で誘拐された時、一人で乗り込んで誘拐犯達を殲滅した事があるらしい。

使う流派は、鞭を生きた蛇のように使う南斗蛇鞭拳。
武器を使う流派は南斗聖拳百八派の中でも下位に属するのだが、武器を使うだけ使わない流派に比べて習得速度は速いし、これだって極めれば人を切り裂く威力を持つ。

しかし、南斗蛇鞭拳からすれば南斗鳳凰拳はまさに雲の上の存在。
基本的に南斗六聖拳は、他の流派の南斗の使い手から様付けされるぐらい偉いのである。

「それで、連中の正体は掴めたのか?」
「いえ、残念ながら。しかし、かなりの数の者が雇われ海鳴市に入っているかと」
南斗聖拳が月村の守りに入った事は、夜の一族なら知っている。
忍がそういう風に故意に流したからだ。
それを知って、こうも動いてくるとは、自殺志願者か夜の一族とは関係の無い第三の者のどちらかだろう。
あるいは、その二つが手を組んだか。
どちらにしろ、何の情報も無しに動けるものではない。

「日が浅いからな……、仕方あるまい。他に何か分かれば、委細無く知らせろ」
「かしこまりました」
使う拳が防御を捨てているだけに、サウザー自身も守り一辺倒は好むところではない。
南斗の里に頼んでいた事と並行して、鮫島を通してバニングス家の情報網も使ってはいるが、成果は今一つだ。

いくら下っ端を潰した所で大元には大したダメージは無い。
末端を切り捨ててでも頭を生かすというのが、組織というものの厄介なところである。
頭を誘き寄せるには、やはりそれ相応の餌という物が必要だろう。
そんな事を考えていると、いつの間にかアリサが車のドアの前に立っている。
そのまま五秒ぐらい経つと、サウザーを見て言った。

「ねぇ。こうして、わたしみたいな可愛いレディがドアの前に立ってたらする事があるんじゃない?」
何の遠慮も無しにアリサがそう言った瞬間、掛け値なしに周りの温度が一℃程下がった。
サウザーの顔が少し引きつったような物になり、それを見た鮫島が何度も必死に頭を下げる。
南斗鳳凰拳と、それを使うサウザーの力を見たなのはとすずかはあたふたするばかりだ。
知らない方が幸せなこともあるとはよく言ったものである。

サウザーがゆっくりアリサに向け手を伸ばす。
鋼鉄をも切り裂くその手は、アリサを通り越してリムジンのドアにかかった。

「ん、ありがと」
当然のようにアリサが乗り込むと、次いでなのはとすずかは同じように困った顔を突き合わせると、同時にサウザーの顔を見た。
表情こそ平静を保っているが、その手からは薄く金色の煙のような物が立ち昇っており、どう見ても怒っていらっしゃる。
このままドアを引き千切るんじゃないかと思って不安そうな二人が顔を覗き込むと、力を抜いた。

「……早く乗れ」
二桁にも満たぬ子供相手に本気になってどうする。
雰囲気だけでも大分穏やかになったのか、二人も車に乗り込む。
ここで不用意に「頑張ってください」とでも言おうものなら、時価ウン千万のリムジンに穴が空く事になっただろうが。
力を入れすぎないように閉めると、サウザーも助手席に深く座る。
そして、後ろには聞こえないように小さく言った。

「鮫島」
「はい、サウザー様」
「二度はやらん……が、俺にこのような事をさせるなど、あれは大物になるな」
「それは我らバニングス家に仕える者なら誰もがそう思っている事でございます」
幾分か疲れた様子でサウザーが言うと、どこか嬉しそうに鮫島が返した。
自分を偽ることなく突き通せるというのは、稀有な資質だ。
知らぬとはいえ、南斗鳳凰拳を前にしてそれをやったのだから大した物なのだろう。

しかし、どうもフェイトやなのはといい、周りにそのぐらいの年で才能豊かな人間が増えた気がする。
そう言えば、水鳥拳、狐鷲拳、紅鶴拳共に、なのは達と同じぐらいで、中々筋の良い伝承者候補が揃っているようだ。
自分も含めて六聖拳がこうも近い年に代替わりを迎える事は滅多に無いのだが、どうやら、当たり年というやつらしい。
全部片付いたら帰る前に、ラオウ殴りに行くついでに、北斗の末弟がどんなものか見に行こうかと、通常の約三割り増しでそう思ったのだった。




相手のゴールにボールをシュゥゥゥーッ!!
超!エキサイティン!!

今時、バト○ドームでそこまで興奮できる人が居るかどうか疑わしい。
しかし、ここは屋外、河川敷に面したサッカー場。
本日は日曜、晴天。
高町士郎が監督兼オーナーを務める翠屋JFCが試合を行っている所。

なのは、アリサ、すずかの三人も応援にかけつけ、応援席はいい感じに盛り上がっているのだが
すずかに付いているサウザーは、ただ一人退屈そうにそれを眺めていた。

何分、南斗聖拳の動きに慣れきってしまっているため、どこをどう動けば穴を付けて
どこからシュートを打てばゴールに入るかという事が丸分かりなのだ。
頬杖付きながら眺めているとジャージ着た士郎が話しかけてきた。

「サウザー君も応援してくれると嬉しいんだけどな」
「南斗の道場でやってる事を見慣れているもので、どうも今一つする気に」
サッカーそのものをつまらないとは考えないが、選手が普通の小学生のため、どうしても動きに遅さを感じてしまう。

いっそ選手を南斗の拳士で揃えてしまえばいい。
その名も南斗サッカー。
シュートの余波で地を裂く衝撃波が飛び、ボールを奪うために空中戦が行われ蹴り技がぶつかり合う。
……どう頑張ってもスポーツにはなりそうにないので、それ以上は考えるのを止めた。

ちなみに今日はマフィアスタイルではなく、普通のジャケット姿。
やっぱり気に入っているのかサングラスをしているので、アメリカの裏通りでバスケしているのが似合いそうだ。
なんでバスケかというと、彼は世紀末高校バスケットボール部の部員なのである。

「お……」
そんな風にしていると、翠屋JFCが二点目を入れさらに盛り上がる。
その後も、崩れない硬い守りでゴールを守り通した翠屋JFCが2-0で勝利を収めていた。

「おーし。みんなよく頑張った。良い出来だったぞ、練習どおりだ」
「はい!」
試合終了後、選手を並べて試合の内容の反省会を行っているが、特に悪いところは無かったようで、全員嬉しそうにしている。
そして士郎がなにかを企んでいるような笑みをサウザーに見せる。
どうせろくな事言わないんだろうと思っていると、とんでもない事を言い出した。

「勝ったお祝いに、うちで飯を食うか!……と言いたいところだが、その前に、このサウザー君が海外仕込のテクニックを見せてくれるから、よーく見ておけよ!」
一体何を言い出すのかと思えば、この親父は本当にろくでもない事を言い出しやがった。
ACミランがどうとか、ジュニアキャンプがどうとか、全く与り知らない話がどんどん捏造されていく。
士郎が一つ捏造するたびに、純粋なサッカー少年達が星のように光る目を向けてくるのだから、居辛いことこの上ない。
士郎の肩に腕を回すと、あくまで自然に、それでいて少年達に聞こえないように話し始めた。

「一体、俺にどうしろと?」
「南斗聖拳の動きに比べたら、サッカーボールの動きなんてスローすぎてあくびが出るようなものなんだから、そう難しい事じゃないだろう?」
それは、さっき南斗の道場でやっている事を見慣れていると言った事に対する皮肉か何かだろうか。
やはり、御神は油断ならんと考えながら、ちらりと横を見たが、全員が全員トランペットをショーウィンドー越しに眺めるような素敵な目を向けている。
この国では、外人ってだけで嘘くさい話が真実味を帯びてしまうのだから度し難い。子供ならなおさらか。

確かに出来ない事は無いが、力加減が逆に難しい。
こんな所でボールを破裂でもさせたら、言い訳が立たなくなる。
どうにも難題を押し付けてくれたが、一人応援しなかったツケが回ってきたようだ。
大勢からあんな目を向けられては、もはや断れる雰囲気ではない。
本当にこの一族は人を退けない立場に追い込むのが巧い。褒めていいのか貶せばいいのか分からないが。

「ちっ……、ボールをよこせ。一度しかやらんぞ」
サッカーの事は知らないが、要は手を使わずにボールを運んでゴールに叩き込めばいい。
どちらかというと、これは南斗白鷺拳の領分だろう。
シュウなら、嫌な顔一つせずやりそうなところが目に浮かぶ。
ほんと、何処行ったんだか。

ボールを受け取ると、さっきまで試合の行われていた場所へ行きゴールラインに陣取る。
二、三度ボールを蹴り上げ感触を確かめると、ボールを宙に大きく前に蹴り上げると走り始めた。
素早く落下地点に入ると、足のみで勢いを殺し、今度は南斗聖拳の脚技を交える。
結構無茶な体勢を人並み外れたボディバランスで支えながら、ボールを一度も落とさず蹴り上げ進むが、このぐらいで手間取るようなら南斗聖拳は習得できない。
バランス感覚と言えば、南斗聖拳では手刀の切れ味に勝るとも劣らない程に重要な物である。
両肩に巨大な水瓶背負って、下は針地獄の一本橋を走って渡るとかやってるんだから、身に付かなけりゃあの世に行ってるって話なだけだが。

センターラインを超え、対面のゴールまで十五メートルぐらいになると、一度ボールを垂直に蹴り上げる。
打ち上げられたボールが腰のあたりまで落ちてくると、回し蹴りの要領で蹴り込む。
弾丸のように飛んだボールはゴールの隅ギリギリへと突き刺さり、ゴールネットを大きく揺らした。

切れたり破裂したりしたらどうしたものかと思っていたが、巧く手加減できたらしい。
運動神経の塊でも、初めてやる事には失敗の不安が多少なりとも付きまとうものだ。
軽く息を吐き後ろを向くと、拙い物でも見たかのようにサウザーの顔が引きつった。
何か知らないが、超!エキサイティン!!している少年達が凄まじい勢いで駆け寄ってきた。
そしてサウザーを囲むようにして始まる、質問という名のハイパー起き攻めタイム。
曰く「自分にもできるようになるか」曰く「将来はどのクラブでプレーするのか」と数え上げたらきりがない。
パンチやキックならガーキャンできるが、こんな悪意の無い言葉の数々をキャンセルする術は持ち合わせていない。

いい加減ガードゲージが光りそうだったので、無理やり退路を開くとこの騒ぎの元凶の元に辿り着く。
すると、その元凶は人の悪い笑みを浮かべ、手を叩きながら纏めにかかった。

「ちゃんと練習すれば、みんなも出来るようになる。いいもの見せて貰ったんだから、きちんとお礼を言うように」
「ありがとうございました!」
一糸乱れぬといった具合に、サッカー少年達が頭を下げる姿は凄い爽やかだ。
まぁ、南斗の門弟に稽古付けたとでも考えておけば、腹も立つまい。
あくまで、少年達だけなので、さり気なく裏拳を一発士郎に叩き込んだが、綺麗にかわされた。

「避けないでいただきたい」
「南斗聖拳の一撃は、避けなきゃ痛いじゃ済まないと思うんだが」
手加減している事ぐらい知っているだろうに、抜け抜けと言って返す様は古狸と言っていい程だ。
御神最強の使い手。過去は南斗最強のオウガイには及ばなかったようだが、今どれだけやれるのかは興味がある。
次は本気の一撃を見舞ってみるかと考えると無意識に力が入り、それに気付いた士郎の顔からは笑みが消えた。

「もー!お父さんもサウザーさんも、置いてっちゃうよー!」
先を進む集団から遅れている二人に声がかかる。
頬を膨らませて近付いてくるなのはの姿を見ると、完全に毒気を抜かれたのか二人とも力を抜く。
そして、士郎はサウザーに向けて語りかけるかのように言った。

「君はまだ若いし、強さを求めるのは南斗の拳士としては当然だと思う。でも、俺みたいに年をとって、守る物が出来ると、そういう生き方は出来なくなる」
「……もう一線からは退いたと?」
「ああ。けど、守りたいと思う大切な物があるから、強くなれる事だってある。それを覚えておいてくれ」
その語り口はやけに実感が篭っている。
見た目はまだまだ若そうだが、恭也の年齢を考えると、見た目よりは長く生きている。
その長い経験が物語っているのだろう。
無論、サウザーにも守るべきものは、たった一つだけだがある。
師でもあり、父とも慕うオウガイがそれだ。
技を一つ体得するたびに、あの大きな手のぬくもりに包まれたいがために、ここまで強くなった。

だから、南斗鳳凰拳継承の試練も何の疑いも無く挑む。
このまま、己の手で師を倒してしまえば、この誰よりも愛深き少年の心は、どうしようもないところまで壊れてしまう事は目に見えている。
だが、それを知る術を持つ者は居ない。
この師弟での間でも、師は弟子がこの試練を乗り越えてくれると信じ、弟子は試練の相手が師である事など思いもしていない。
まして、第三者にその結末など分かるはずは無い。
それこそ、予知のような力を持っていない限りは。


少し考え事をしながら歩くと、いつの間にか翠屋に着いてしまった。
店の中では、サッカー少年達が料理が出てくるのを待ち望んでいるところだ。
表では、三人娘がユーノをイジって遊んでいる。
助けて欲しそうな目をしていたが、NDK?と無視。
とりあえず暇そうにしていると、商店街の向こうから結構な速度で走ってくる恭也を捉えた。

それだけなら別段珍しい事ではないが、あの鉄面皮がやけに慌てた顔をしている。
もしや、と思い路地に引き込むと何があったのか問い質した。

「どうした」
「忍が……、忍が攫われた!俺が少し目を離した隙に……!」
「少しは落ち着け。聞こえたらどうする。それで、手掛かりはあるのか?」
「残っていたのはこれだけだ……!俺がついていながら!」
そう言って差し出されたのは一枚の鳥の羽。
よく見ると、それが燕の物である事が分かる。
燕は渡り鳥。
ちょうど今の季節なら巣作りを始める頃合なので、そう珍しい物ではない。
サウザーはそれを目にすると、何か分かりきったような笑みを浮かべた。

「やつらか……、思ったより早かったな」
「心当たりがあるのか!?」
今にも胸倉掴まんばかりだが、軽くいなすと恭也に向けて言った。

「車を用意しておけ。俺は先に行く。詳しい事はノエルにでも聞くんだな」
言うな否や、世界記録を更新しそうな速度でサウザーが走り出す。
急に言われたので、どういう事かと恭也が引き止めようとした時には、サウザーの姿はもう見えなくなっていた。





海に程近い見捨てられた廃倉庫。
明かりは外から差し込んでくる光しか無く、日は高いというのにどこか薄暗い。
普段人など滅多に寄り付かぬであろう、この建物の中には三人の人間が居座っていた。

その内二人は大柄とも言える男。
一人は中年といっていいぐらいの顔付きで、もう一人はかなり若い印象を受ける。
どちらにも共通して言える事は、眼光鋭く只者ではないという事だ。
その足元には、手足を縛られた忍が座らされていた。

「とてもではないが、人の血を吸う様には見えん」
「まったくだ。しかし、連中遅いな」
対象を確保すれば、秘匿回線を使い、人気の無い場所で金と交換に引き渡す。
恐らく、警察権力が介入していないか、何らかの罠が仕掛けられていないか調べているのだろうが
こうも慎重になるとは相手も只者ではないのだろう。
三十分程待っていると、ようやくお待ちかねの一団が入り口から入ってきた。

「これはこれは、遅れてしまったようで申し訳ない」
眼鏡をかけ、くたびれた白衣のような上着に身を包んだ痩せぎすの男が、後ろから何人もの屈強な男達を引き連れ現れた。
手にしているのは、サブマシンガンから銃身の長いアサルトライフルまで。
あって拳銃程度のこの国では、オーバーキルもいいところの装備ばかりだ。
生半な組織が持てる火力ではない。


「こいつが、吸血鬼というやつか。では、その証拠を見せてもらおう」
からん、と投げ渡されたのは鋭いナイフ。
片方の男がそれを手に取り、忍の手の甲に押し当てる。

「ん……っ!」
ナイフの刃が忍の手の甲を軽く切り裂く。
傷口からは少なくない血が流れ出たが、五秒もすると傷口は完全に塞がっていた。

「素晴らしい。これこそ本物の異形だ!これで我が国のフェノメーノ計画も一気に完成に近付く!」

フェノメーノ計画。
遺伝子操作や、違法な薬物投与によって人間兵器を作り出す計画である。
異常とも言える回復力と、獣以上の身体能力を人に与え、人為的に怪物を作り出す。
まさに人が行う悪魔の所業だ。
夜の一族の中でも稀有な純血を保った月村の遺伝子。
人為的に作られた物ではなく、オリジナルのサンプルなら、喉から手が出るほど欲しいのだろう。
その辺りの事で利害が一致し手を組んだというところだろうか。

「怪物計画?捻りの無いネーミングセンスね。一体、どこでわたしの事を知ったのかしら」
「君の叔父だよ。月村安次郎。我々は、君の体を手に入れ、彼は月村家の資産を手に入れる。そういう事だ」
男の答えに、やっぱりか、という思いを乗せて忍がため息を吐く。
自動人形の事は伝わっていないのは幸いだが、もしそうなら安次郎自身が捕らえられて、土の下か、実験動物のような扱いを受けている所だ。
人間と変わらず、人間を遥かに越える性能を持つ死を恐れない兵士。
軍事国家には夢の玩具だろう。
夜の一族だけではないとは聞かされていたが、まさか国家が絡んでいたとは厄介な話である。

「さて、お話はここまでだ。――その前に」
どうやら最初から口封じをするつもりだったらしい。
向こうに居る男達が、忍を攫った二人の男に銃を向ける。
やはり、金で雇われていただけのようだ。
だが、動じない。
慌てもせず、騒ぎもせず。
まるで、最初からそれを想定していたかのように不敵に佇んでいる。

「そう。今は、それだけ聞ければ十分だわ」
いつの間にか忍を縛る縄が解かれると、二人の姿が消えた。
上に跳んだと気付いた時にはもう遅い。
別々の方向に跳んだ二人の手刀が振るわれると、銃は真っ二つに切り裂かれ、急所をしたたかに殴られた兵達は、一瞬で意識を飛ばしてしまった。

「な、なんだ!?お前達は!」
一瞬で崩れ落ちる部下達を見て、男が狼狽し、聞く。
ただの一発も銃を撃たせる事なく残りを片付けると、人間離れした跳躍力で二人が忍の傍に立ち、よく分かるように名乗った。

「南斗聖拳百八派が一つ。南斗飛燕拳のハッカ」
「同じくリロン」
南斗飛燕拳は、南斗鳳凰拳直下の二十九派の一つ。
その使い手は、代々南斗鳳凰拳の伝承者に仕え、拳の実力は南斗六聖拳に次ぐと言われている由緒ある流派である。
南斗双鷹拳のように、個々でも相応の実力を持つが、二人一組となって闘えば、より強さを増す流派で、中年の方がハッカ、若い方がリロンだ。

誰にも気付かれる事無く、海鳴市に入った金で雇われたであろう連中を排除する事ができ、それに成り代わる事が出来る実力者。
サウザーが南斗の里に頼んだ事は、この二人を海鳴市に呼び寄せる事だ。
盗聴されている事も考え、この事は当事者である忍と、言った事は必ず厳守するノエルにしか知らせていない。
もう一人のメイドであるファリンは、一目見て駄目だと判断した。
あれだけベタなドジ踏むとか本当に機械か、あれ。
当家は甘え禁止となっております。という家訓を新設した方がいいと思う。


「さて、形勢逆転。随分、夜の一族に興味があるみたいだけど、そこまで言うならその力、見せてあげなくちゃね」
忍の声質がどこか妖艶さを含んだ物になり、目が赤く染まる。
自分達が作り出し、管理している試作品とは違う、本物の怪物。
慌てて懐から拳銃を取り出そうとしたが、いつの間にか脇に回ったハッカとリロンに腕を押さえられてしまった。

「これが夜の一族の処刑よ。あなたは、どのぐらい血を吸われれば死ぬのかしらね」
くすくすと嗤いながらゆっくり近付く。
いくら抵抗しようにも、南斗の男二人に押さえられていては動くことはかなわず、身動きが取れないまま、艶かしい指先が男の首筋に触れる。
犬歯というより、牙に近い物を見せ付けられた時、男の体は力を失った。

「……肝っ玉の小さい男ね。気絶しちゃった」
つまらなそうに言うと、忍の目の色が元に戻る。
二人が手を離すと、潰れた音を立てながら崩れ落ちていった。

「見たところ、軍人というよりは研究者だな。しかし、真に迫っていたが、本当に血を吸うつもりだったのか?」
気絶した連中を縛りながら、どこか半信半疑でハッカが聞く。
あの様子からして、ただの人間ではない事は分かるのだが、こうしてみるとただの女にしか見えない。
その忍は、二人に向き直って、握り拳を作りながら力強く言った。

「まさか。わたしに吸われていいのは恭也だけなのよ!」
こんな時まで、ごちそうさまです。
しかし、今代の夜の一族が人から直接吸血を行う事はあまり無い。
大抵、輸血パックで済ませられるようになったのだから、良い時代になったものである。
だから、直接吸血するのは、本人がこれと心に決めた人間ぐらいなのだから、間違ってはいない。
軽く惚気ている忍を余所に、ハッカとリロンが同時に目を細めた。

「……リロン。気付いているな」
「ああ」
唐突に二人が背中を合わせるようにして身構える。
今まで感じなかった気配が一つ、沸いて現れたのだ。
南斗飛燕拳の二人に居た事を感じさせないような者。
紛れも無く強敵だろう。

どこからか響いてくる笑い声。
狂人ともとれるそれが鳴り止むと、文字通り男が上から降ってきた。

「上か!」
男が振るう拳をリロンがすんでのところでかわすと、その余波で壁が切り裂かれる。
その拳を見てハッカが信じられぬ物でも見たといった感じに声をあげた。

「こ、この切り口……南斗聖拳!」
面の鋭さ、切れ味。
この男が使った技は紛れも無く南斗聖拳。

「御免!」
状況が掴めていない忍をハッカが担ぎ上げると、一度外へ向かう。
相手が南斗聖拳を使う以上、巻き込まれるかもしれないのだ。
リロンはその場から跳躍し男から距離を取ると、戻ってきたハッカと共に鋭い目で睨み付けた。

「貴様、南斗の拳を使う者であるのなら、流派を名乗れ!!」
南斗聖拳百八派の者なら、南斗鳳凰拳直下の南斗飛燕拳を相手にするという事が、どういう事かぐらい分かっているはず。
すると男は、追求に怯むことなく怪しく笑いながら名乗った。

「くくくく……、よかろう。我が拳の名は、南斗白鷲拳。百年もの前に、南斗百八派から追放されし流派よ」
金髪白皙の端麗な容姿は、拳法使いというより、どこか手品師のような印象を受ける。
だが、男の口からもたらされた拳の名は、二人が知っている物だった。

「なんだと……!幻の拳と呼ばれた、あの白鷲拳か!」

『南斗白鷲拳』
数ある南斗聖拳の中でも南斗鳳凰拳と同じ一子相伝の拳。
しかし、南斗鳳凰拳とは違い、外道の拳、南斗の恥と呼ばれ、遂には同じ南斗の手の者によって滅ぼされた拳である。
今ではどのような拳かは知る術もなく、その存在があったとだけ残されたのみ。
ハッカとリロンが同時に声を上げたのも無理からぬ事で、予想どおりの反応を示したのか、面白そうに続けた。

「死ななかったのだよ。南斗の者共から、嬲り者にされた瀕死の伝承者は
 その後、南斗に復讐を誓った。その末裔でもある伝承者が、この俺ダルダよ。
羅漢仁王拳の伝承者を捕まえた時に比べれば、つまらぬ仕事だと思っていたが、南斗聖拳絡みだったとはな。こいつらもたまには役に立つ」
「ら、羅漢仁王拳だと!?」
羅漢仁王拳の歴史は、北斗南斗よりも古く、古来インドで五千年前に興った殺人拳である。
あまりの残虐さに、時の皇帝より使用を封じられ、今では継承する者は誰も居ないと思われていた拳の使い手を捕らえたという。
百八派から外れたとはいえ、その拳は健在と見える。
一片の油断も無く、二人はダルダを見据え構えた。

「相手が、白鷲拳の使い手であれば是非も無い!」
独特の緊張感が辺りを包み、じりじりと間合いが詰まる。
「我ら二人、同時に仕掛けさせてもらう!」
言うなり、二羽の燕が天へと高く飛び上がった。

                    南斗飛燕拳奥義なんとひえんけんおうぎ
                   そう  えん らん  ぶ
                  双 燕 乱 舞

二人同時に叫ぶと、ダルダの視界から二羽の燕が消える。
南斗飛燕拳の名が示すように、空中での燕のような身のこなしが、この拳の極意だ。
二人が左右二つに別れダルダの頭上を攻めたが、その拳は寸前の所でかわされ空を切り裂いたのみであった。

「ちぃ!よくぞかわした!」
忌々しげにハッカが言うと、ダルダが立っていた場所の地面と周辺に深い亀裂が奔った。
恐ろしいまでの威力を伴った必殺の拳は、頭髪と腕を少し切り裂いたのみで、届いてはいない。
流れる血を舐めながら、ダルダが言った。

「くっくっくく、この俺に手傷を負わせるとは、さすが南斗聖拳百八派。空中での身のこなしは見事なものだ。だが、その程度では白鷲拳には及ばん」
自信満々に言い放つダルダを見て、ハッカとリロンが目を合わせ頷く。
もう一度仕掛ける気だ。
だが、再び舞い上がろうとした時、二人の体を異変が襲った。

「な、なに!?」
唐突にリロンの視界が少しゆらぎ、足元がおぼつかなくなる。
その目でハッカを見たが、同じようにしている。
そんな二人を見て嘲るようにダルダが言った。

「我が拳によって少しでも傷を負った以上、お前たちに生は無い」
「なん……だと……!」
「俺は幼い頃より、毒を飲み続けていてな……、今や俺の体には猛毒が仕込まれているのよ。かすり傷とはいえ、体を麻痺させるには十分の毒がな」
これこそが、南斗白鷲拳が外道邪道と呼ばれ、南斗から追放された理由だった。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳にあって、それは異端以外の何物でもない。
毒を以って敵を斃す拳など、百八派から追放されて当然ではないか。
二人は自分の脚に付いた一筋の傷跡を見ると、手刀で大きく切り裂き、ダルダを睨み付けた。

「まさか、幻とまで呼ばれた白鷲拳が、このような邪拳だったとはな」
「我が南斗聖拳の名にかけて、貴様を生かしておくわけにはいかん」
南斗飛燕拳は、古来六聖拳から分派した正道の拳。
それが、毒を用いるような邪拳に敗れたとあっては、南斗の先人に合わす顔が無いという物。
動きの鈍くなった体を動かすと、同じように構えた。

「自ら傷口を開き、血と共に毒を出そうというわけか。だが、もう遅い。すでに貴様達の体には十分な毒が回っている。その体で、俺の拳を避けられると思っているのか?」
勝利を確信したような口ぶりだが、二人にも打つべき手は一つある。
南斗聖拳でも、高位の流派のみにしか伝わらぬ技。
己の身を犠牲にしながらも、相手を仕留めきる南斗究極奥義が。
最早、拳をかわす事は考えず、全身の気を高めに高め、迫り来る白鷲を待ち構えた。

「南斗飛燕拳の使い手、ハッカにリロン。今こそ、己が南斗の伝承者である事を悔やみながら死ぬがいい!」
白鷲の毒の爪が燕に振り下ろされ、燕が死を賭して白鷲に襲い掛かろうとした、まさにその時。
空気を切り裂きながら、銃弾の如き勢いで飛来する鉄パイプがダルダを襲い、反射的に後ろに飛び下がる。
怒りに燃えた目で鉄パイプが飛んできた先を見ると、そこには男が一人悠然と歩き、その姿を見たハッカとリロンは跪いていた。

「まさか、お前達程の使い手が梃子摺る相手が居たとはな」
「申し訳ありません。我ら両名ともに不覚を取りました」
結構意外そうな声でサウザーが二人に声をかける、
南斗聖拳でも高位に位置する南斗飛燕拳の使い手が、よもや二人がかりで苦戦するような相手が居るとは思っていなかったのだ。
目の前のダルダを見据えながら、サウザーが聞いた。

「ハッカとリロンをここまで追い込むとは、何者だ」
「お前も南斗の者か。くふふ……、我が名は南斗白鷲拳のダルダ。丁度よい、三人まとめて冥土に送ってやろう」
白鷲拳と聞いて少し驚くも、今回は先に御神と遭遇しているので、その手の免疫はできている。
そうでなければ、もう少し反応が違っていたかもしれない。

「ほう、あの白鷲拳の使い手か。とうに滅んだ物と思っていたがな」
「お気をつけ下さい、サウザー様。あやつの拳は毒手。我らも一傷受けただけで、この有様」
受けた傷に比べて、二人の動きが鈍いのはそういう事かと納得した。
ついでに、白鷲拳が百年もの昔に南斗の先人の手によって滅ぼされた原因もだ。
サウザーは見下したような獰猛な笑みを隠そうともせずダルダに向けて言い放った。

「ふっ、毒などに頼るような未熟な拳と、その使い手に、この俺が遅れを取るはずなかろう」
「……ははっ!」
敵前にも関わらず、平然と言い放つ姿に二人が同時に頭を下げた。
若輩の身でありながら、この風格、この威容。
その姿に、南斗の頂点に君臨する帝王の片鱗を垣間見たのだ。

ならば、何も言うまい。
南斗鳳凰拳は南斗最強にして帝王の拳。そこに後退や敗北の二文字は無い。
まして、南斗聖拳から追放された拳になどに遅れを取って貰っては、代々鳳凰拳に仕えてきた飛燕拳の者としては興醒めも甚だしい。
二人が立ち上がると、それぞれがサウザーの脇に立つ。
さっきまで、足元もおぼつかなかった相手の目に、再び力強さが戻った事がダルダは気に入らなかった。

「我が拳を未熟と言ったか若造。貴様の流派を名乗るがいい」
ハッカのリロンの態度から、六聖拳のどれかだろうと考えダルダが問う。
その問いには、両脇に控えていた二人が答えた。

「貴様如きが、知っていい名ではないが、あえて答えてやろう」
「このお方の拳は、南斗六聖拳筆頭である南斗鳳凰拳。その次期継承者サウザー様」
南斗鳳凰拳。
そう聞いた瞬間、ダルダの整った顔があまりの愉悦によって醜く崩れ、仰け反るようにして笑い始めた。

「ひゃははははは!そうか、この若造が鳳凰拳の次期継承者か!俺にも運が向いてきたようだ。貴様を殺せば、白鷲拳こそが南斗最強という事だからな!!」
気が狂ったかのような笑い声は、まさに狂気の一言。
幼き頃より、毎日のように毒を飲まされ、苦しいのみの修行を強制される日々。
実父である師父から、南斗の者どもに恨みを晴らせ。どんな手を使ってでも、白鷲拳こそが最強である事を思い知らせてやれと言われ続けてきた。
同じ一子相伝でありながら、一つは名実共に南斗最強の名を欲しいままにし、もう一つは外道拳、南斗の恥よと蔑み続けられた二つの拳。
恨み、妬み、憎しみの全て混ざり合ったような百年越しの狂気がダルダを包んでいた。

「ふん……」
嫌な雰囲気が辺りを包むが、サウザーは平然とそれを受け流している。
あのジャギに比べれば、随分とマシな方だ。
それでも、かすり傷一つ貰えば毒も貰ってしまうのは厄介極まりなかったが。

やや遅れて、ノエルが運伝する車が到着した。
途中で拾ったのか忍も乗っている。
いいタイミングで来たものだ。
二本の真剣を持った恭也とノエルが駆けつけて来た。

「ハッカとリロンが毒を食らった。連れて行け」
「分かりました。どうぞ、こちらへ」
コンマ一秒の遅れも無く、肩を貸すように二人を支える。
隠してはいるが、やはり満足に闘える状態ではないようだ。
下手に動けば毒の回りが早くなるし、端的に言えば足手まといでしかない。

「巻き添えで死にたいというのなら構わん。それに、これは南斗の手で片付けねばならん事だ」
それと、加勢しようとする恭也にも釘を刺しておいた。
これからやるのは、正真正銘の殺し合いで
そんな南斗聖拳同士の闘いを興味本位で見ようものなら、巻き込まれて死んでも文句は言えない。
それに、万が一他に敵が居た場合、動けるのは恭也だけなのだ。

「分かった。……そっちは頼むぞ」
もちろん、今の言葉は、ハッカとリロンにも向けたのだが、そちらは今の自分達が満足に闘えるような状態でない事を弁えているのか早々に引き下がっている。
鳳凰の前では、手負いの燕など小さな存在にしか過ぎぬし
南斗聖拳では、決して南斗鳳凰拳を倒す事は出来ないというのは、昔から言われている事だ。

「サウザー様。あまり遊びが過ぎませぬように。万が一の事があれば、我らオウガイ様に合わせる顔がありませぬ」
「無論だ。行け」
それでも、相手の拳の威力を身を以って知ったハッカが言う。
そんな事、言われるまでもない。
促すと、音を立てて車が走り去り、残された者は少し離れて対峙していた。

「くははは、では始めるか。鳳凰拳と白鷲拳、どちらが最強の一子相伝の拳かをな」
「貴様のような者が使う邪拳と、我が南斗鳳凰拳を同じにしないで欲しいものだがな」
「ぬかせ!受けてみろ!」

                    南斗白鷲拳奥義なんとはくしゅうけんおうぎ
                 せん しゅ  げん さつ  そう
                千 手 幻 殺 爪

両腕を広げたダルダが翼を羽ばたかせるように動きを見せる。
そのゆるやかな動きを見るサウザーの眼にはダルダの腕が千もあるように見えた。

「これは……!」
拙いと思った時にはダルダの眼が怪しく光り、サウザーの体の動きが一瞬だけ止まる。
拳法の達人同士の闘いでは、その一瞬の隙が命取りになるのだ。
それを逃すダルダではなく、千本の腕が同時にサウザー向け放たれる。
大気を切り裂く無数の音が辺りに鳴り響びいたが、白鷲の爪は鳳凰を捉える事はできなかった。

「幻術か。姑息な手を使う!」
間一髪、間合いを離したサウザーがダルダを見ながら漏らす。
しかし、効果は絶大だ。
南斗六聖拳の一つ、南斗白鷺拳の技の一つに独特な手の構えによって相手を幻惑させ、完全に気配を消し敵を討つ誘幻掌という奥義がある。
それを知っていたからこそ、避けられたようなものだ。
もっとも、腕の動きだけで動きを止めるなんて事はできない。
重ねて催眠術のような類の物も、使っていると気付いた時には拳が迫っている所だった。

「どうした、南斗鳳凰拳。我が白鷲拳の前では逃げるだけか」
「ほざけ。もはや南斗聖拳の真髄すら忘れ去ったか」
毒を用い、催眠術まで使う。
この拳は断じて南斗聖拳ではない。
サウザーがダルダに向けて言うが、ダルダは意に介した風もなく返した。

「馬鹿め!勝てばいいのよ、何を使おうが」
ダルダの言う事は、ある意味では正しく、ある意味では間違っている。
火器の発明から始まり、戦車、航空機、ミサイル。
近代戦では、個人の能力は付加価値にすぎず、装備の質や数が物を言うようになった。
そんな中、生き残るために足掻き、使える物を使うという考え方は間違ってはいない。

だが、古来より続く南斗聖拳の、それも南斗鳳凰拳の使い手としての立場からすればどうか。
南斗聖拳は北斗神拳と共に伝説と呼ばれてきた拳である。
その長い歴史においても、南斗六聖拳は眼前に立ちはだかる敵を全て力で打ち砕いてきた。
南斗の先人が積み重ねてきた、歴史と誇り。
そして、なにより敬愛するオウガイから学んだ南斗鳳凰拳には、泥一つ付けてなる物かという意地がサウザーにはある。
南斗への憎悪を糧にひたすらに拳を学んだ者と、師のぬくもりを得る為にただひたすら純粋に拳を学んだ者。
これが二人の決定的な違いだった。

「はぁっ!」
「甘いわぁ!」
じりじりと間合いを詰めた二人が同時に空中に飛び、鳳凰と白鷲が交差する。
南斗聖拳ならではの、華麗とも言える空中戦は互いに傷を付ける事なく終わったが、休む暇も無く地上で無数の拳の打ち合いが始まった。

ダルダが一撃を加えようとすれば、サウザーはそれよりも早く間合いへと踏み込む。
サウザーが一撃を加えようとすれば、ダルダは文字どおり一撃必殺の毒爪を振るう。
その繰り返しだ。
何十回か行われた打ち合いはダルダが間合いを取る事で終わりを迎えた。

「はっ……はっ……!おのれ……!」
珍しく息を乱したサウザーがダルダを見据える。
確かに、一子相伝というだけあって南斗白鷲拳とそれを使うダルダは強い。
だが、それでも南斗鳳凰拳には及ばない。
それが何故、こうも苦戦しているかというと、ダルダが使う催眠術にある。

闘う以上は相手を見なければならず、ダルダの使う催眠術は眼を合わすことで効果が現れる。
眼を見てしまえば、致命的な隙が出来る。
至近距離でそうなれば、今度こそ毒を受けてしまい形勢が一気に傾く。
催眠術と毒手。
この二つの存在が、サウザーの踏み込みを少しだけ浅くさせていた。


「ぐっ……!若造が……!」
そして、ダルダも息を乱しサウザーを睨んでいた。
致命傷になる拳は確実にかわしているが、服は至る所が破れ、細かい傷がいくつも付いている。
それに対して相手は全くの無傷。
これが南斗聖拳最強と呼ばれる南斗鳳凰拳の実力かと、今までに無い焦りが生まれていた。

『苦しめ……、もっと苦しむのだ。そして、その恨みを南斗の者どもに、いつの日か叩き付けてやるのだ』
ダルダの脳裏に、過去幾度となく聞かされてきた言葉が浮かぶ。
南斗に復讐するだけのために、幼少の頃から毒を飲ませ、命を落とすような修行を課した父親に親子の情を感じた事は一度も無い。
だから、南斗白鷲拳を伝承したその日に師父を、実の父親を殺しても何の感情も沸かなかった。


「いいだろう……!貴様は白鷲拳最後の秘拳で葬ってやる!」
突如、ダルダが言うと、異様な構えを取り出す。
実父を躊躇いも無く殺した非情によって生まれた闘気がダルダを包んでいた。

「ゆくぞ!」
両手を大きく広げたダルダは、サウザーに覆い被さろうとする。
ダルダが放つ気迫ゆえか、サウザーの眼にはダルダの体は数倍もの大きさになったかのように見えた。

                    南斗白鷲拳秘奥義なんとはくしゅうけんひおうぎ
                 はく  し   げん せつ しょう
                白 翅 幻 截 翔


叫びながらダルダが天高く飛翔し、そこか放たれた数百枚とも知れぬ無数の羽根がサウザーに襲い掛かる
人を惑わすような羽根の動きは、生半可な人間では見る事すら敵わぬような動きだった。

「またかっ……!」
いくらなんでも、数百の拳というのは数が多すぎる。
大方、これも幻術が含まれているのだろうが、サウザーにはそれを破る術が無い。
普通の拳であれば肉を切らせて骨を断つ事も可能かもしれないが、あいにくと相手の拳は普通ではなかった。
一撃目はなんとかかわしきったが、このままではいずれ毒を受けてしまうかもしれない。

「死ねい、鳳凰拳!」
再び白鷲が舞い上がる。
ダルダを見上げながらサウザーは静かに目を閉じた。

「ひゃっははは!遂に覚悟を決めたか!」
その耳障りな声はサウザーには届いてはいない。
継承者への試練は、目隠しをしての真剣勝負というオウガイの言葉を思い出したのだ。
南斗鳳凰拳は防御を捨てた攻めの拳。
このまま消耗するより、前進し、生を拾う方が遥かに南斗鳳凰拳らしい。

全身の感覚を研ぎ澄まし、空気の流れがとダルダが動く気配のみを探る。
すると、閉じた瞼の下に空を羽ばたく白鷲の姿を確かに感じ取った。

「とったぁ!!」
奇声のような叫び声をあげながら、ダルダがサウザーに向けて拳を放つ。
その拳は、ダルダが放った中でも最高の威力と速度を持った、渾身の突きだった。

拳が直前まで迫ってもサウザーは微動だにしない。
これで南斗白鷲拳こそが最強だと、南斗の者どもに思い知らせる事ができる。
南斗百八派の頂点に立つ己の姿を思い浮かべたのか、ダルダの精神は異様なまでに高揚していた。

――勝った!

白鷲の爪が鳳凰の胸元を貫く。
そんな光景を思い浮かべながら拳を突き入れたが、そこにダルダが求めたような手ごたえは存在しなかった。

「消えた!?ど、どこだ!」
ダルダの視線の先にはサウザーの姿は無い。
後一歩で手に入れる事ができた南斗聖拳最強の座が突然掻き消えたのだ。
獲物を見失った白鷲は狼狽し、その動きが止まる。
そして、頭上から巨大な影が迫っている事に気付いた時は、狩る者から狩られる者へと変わった瞬間だった。

「喰らえ!南斗鳳凰拳――」
「し、しま……!」
背後頭上はあらゆる拳法において死角。
目を閉じ、腕を交差させたサウザーが空中から迫る。
辛うじて振り向き、防御の型を取ろうとしたが、ほんの一瞬の差で鳳凰が翼を広げきる方が早かった。

             きょく  せい じゅう  じ  けん
             極 星 十 字 拳


「げふあ!」
十字の型に放たれた手刀がダルダの体を切り裂く。
構え無き構えから放たれる無為夢想の必殺拳。
南斗鳳凰拳の基本でもあり、その場の状況により千変万化するのが、この極星十字拳であった。

「お……のれぇ……!」
夥しい量の血を流し、ダルダがサウザーを憎悪の目で睨みつける。
極星十字拳を正面から受けたというのに、致命の傷に至らなかったのはダルダの底知れぬ執念と言えよう。
傷口を押さえるようにして立つダルダの前にサウザーが立ちはだかった。

「浅かったか。だが、次は逃がさん」
サウザーが再び両腕を下げ構える。
神速の踏み込みからの極星十字拳。
確実に止めを刺す為にサウザーが間合いへと踏み込んだ。

「お、俺は……、まだ死なん。憎っき南斗の者どもに恨みを晴らすまでは……!」
かッと目を見開くと、ダルダが傷口をサウザーに向け胸を突き出す。
開いた傷口から霧のような血が噴出し、サウザーを襲った。

「ぬぐ!味な真似を!」
爪先ですら毒に侵されている身なら、その血液はそれ以上。
一体、どれ程の猛毒か含まれているか分からないが、咄嗟に目を閉じ腕で防ぐ。
すると、ダルダは息を荒くしながらサウザーに向けて言った。

「……俺の拳を破ったのは貴様が始めてだ!南斗鳳凰拳の……サウザー、その名前……覚えておくぞ……!」
そう言った瞬間、ダルダの気配が遠ざかる。
毒の霧が失せた頃には、ダルダの姿は何処にも見当たらず、ただ血の跡が点々と残されていた。


「取り逃がしたか……」
返り血を浴びたサウザーが、ぽつりと呟く。
あの傷ならば、助かる確率は満足な手当てをして五分五分といったところか。
拳の実力はともかく、その執念は大した物だ。

今一歩の所で逃がしたという悔いはあるが、得た物の方が大きい。
目を閉じた時、ダルダの動きが手に取るように分かった。
これならば、継承の試練も成す事ができるという手応えは、ダルダの存在など取るに足らないと思える程の物だ。
無論、追跡しない理由はそれではなく、ちゃんとした理由がある。

「……とんだ置き土産だ。参ったな」
ただ一つ問題があるとすれば、全身が痺れたような感覚を味わっている事だろう。
どうやら、少し毒を吸ってしまったらしい。
よく見ると鼠や虫やらがそこら中に転がっている。
少し歩き、しばらく動かない方がいいと判断したのか、壁を背にして座り込んだ。

「ったく……。疲れた」
サウザーにとってみれば、これは始めての真剣勝負で、肉体はもちろん精神的にも本人が想像していたより遥かに疲弊していた。
ブーストゲージもオーラゲージも全部吐き出したというやつだ。
いくら強いとはいっても、たかだか十五の若造なのである。

ちなみに、北斗神拳が効かない体なのでジャギとの闘いはカウントに入っていない。
ノエルだけでも残しておくんだったな、と考えたが無い物強請りだ。
まぁ、死ぬほど毒を受けたわけでもなし、他の敵は全部縛っている。
待ってればそのうち迎えが来るだろうと思い、とりあえず今は自由の効かない体の回復に努める事に決めた。





イヤッハァー!あとがきだぁーーー!!
南斗飛燕拳のハッカとリロンは、北斗の拳ラオウ外伝天の覇王に出てきた聖帝様の配下の二人。地味だけど、代々鳳凰拳に仕えているらしいので、ご出演。

フェノメーノ計画は、北斗の拳レイ外伝蒼黒の飢狼の中で出てきた、B・Bの二人。リマ&フリーダが居たとこの研究施設でやってた事。
その中で、デビルリバースっぽいやつが居たから、遺伝子操作や薬物投与のせいであんなに大きく育ち、その後脱走して700人殺したと設定させて頂ました。

そして、南斗白鷲拳のダルダさん。
白鷺拳と紛らわしいが、オリキャラというわけではなく、携帯サイト。
『公式!北斗の拳DX』にて連載中の小説『ケンシロウ外伝』に出てくる南斗の使い手でございます。
サザンクロス前とはいえ、毒と催眠術で、ある人物の助けが無ければケンシロウを倒していたという強敵。
『公式!北斗の拳DX』は、月額たったの315円でコミックやSS、その他特典がたくさん付く優良サイト。
月たったの315円。大事なことだから二度宣伝しました。

それはそうと、鮫島さんってダンディだし、鞭とか似合いそうだよね。



[18968] 第十話:Southern Cross
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:65a0eac0
Date: 2011/05/06 21:55
海鳴市から遥か離れた空の上。
何も空を飛ぶのは魔導師の専売特許ではない。
機械音を撒き散らしながら空を突き進む一機のヘリコプター。
その中では、パイロットの他に窓から風景を物珍しそうに眺めているフェイトと、それをブッダ顔負けのスマイルを浮かべて眺めるオウガイの姿があった。

フェイトの体の方は経絡秘孔の効果も相俟って怪我はもうすっかり良くなった。
自分で飛んだ事はあっても、空を飛ぶ乗り物には乗った事は無いのか、興味深々といった様子だ。
フェイトぐらいの年なら、それが普通なので特に誰も気にしてはいない。
そんな風に外を眺めているフェイトの目には、ぽつんと山間に建つ建物の群れを見つけた。
この場所こそ、南斗聖拳百八派の総本山である南斗の里である。

もう少し正確に言うなら、当代の南斗聖司教と、南斗正統血統の者が居る里と言うべきだろう。
山奥のド田舎ながらその性質のためか、世界中から南斗の門弟が印可の儀式を受けにやってくる場所だ。
ヘリが着陸すると、ドアが開く。
すると、そこには一人の男が出迎えに出てきていた。

「珍しいですな。オウガイ様がここにいらっしゃるなど」
「リハクか。久しいな」
この男こそが、世が世なら百万の軍勢を率いさせてみたいと人に言わしめている、海のリハクである。
南斗六聖拳の一つである慈母星を司る将を守護するために存在する五車の星の一つだ。
旧知の仲なのか一つ二つ会話を交わすと、リハクがフェイトに目を向けた。

「その子ですか?」
「うむ。その事で話があってな」
「分かりました。それと、聖司教様にもお会いした方がよろしいかと。月村に向かったサウザー様から、南斗白鷲拳の伝承者と相対したという連絡が入りましたので」
「南斗白鷲拳か……、使い手が生き残っていたとはな。……それで、どうなった」
「飛燕拳のハッカとリロンが毒を受けましたが大事には至らず。白鷲拳の使い手にはサウザー様が深手を負わせたようですが、今一歩のところで取り逃がしたようです」
それだけ聞くと、そうか、とだけ短く返した。
南斗から追放し滅ぼしたはずの流派が生き延び、その使い手が今も生きている。
事は最早、月村だけの問題ではなく、南斗聖拳の問題になった。
場合によっては、南斗六聖拳を集める事になるかもしれない。
その事も含めて聖司教と話をした方がよさそうだ。

「来なさい」
オウガイが促すとフェイトがやっとヘリから降りてきた。
リハクも年食ってるとはいえ、五車波砕拳という拳法を使うので結構な体付なのだ。
というか、この里に居る男の大部分は南斗の拳士なので、デカイのも多いし強面なのもたくさん居る。
きょろきょろと辺りを見回しながらオウガイの後を必死に付いて歩くのは、なんだか小動物的な可愛らしさがあった。
しばらく歩き、一際大きな建物に近付くと、どこからか軽そうな声が三人に向けられた。

「ん。誰が来たのかと思えばオウガイの爺様じゃねーか。サウザーが一緒じゃないとは、珍しい事もあったもんだな」
知っている声なのか、リハクがまたかとばかりにため息を吐いた。
この里で南斗六聖拳の頂点に立つ男に、こんなナメた口を利くやつは一人しか居ないのだ。
リハクが上に視線を向けると、木の枝の上には、一人少年が小器用に座っている。
それを観ると、まるで子供を叱り付けるような声を出した。

「降りて来い、ジュウザ!まったく……、雲を継ぐお前がそれでは先が思いやられる」
「俺は五車の宿命なんぞに縛られる気はねぇよ。そんなモンはやりたいやつがやりゃあいいんだよ……っと!」
そう言うと、手に林檎を持った少年が木の上から降ってきた。
その名はジュウザ。
拳の才は北斗神拳現伝承者リュウケンをして、ラオウ、トキに並ぶと言わしめた程。
無論、サウザーとも馴染みで里を訪れた時には嫌でも顔を合わせている。
北斗南斗を通じて、サウザーと同世代で互角に渡り合えるだけの実力を持った数少ない拳の使い手の一人である。
それだけなら何の問題も無いが、その性格が良く言えば自由奔放、悪く言えば自分勝手で、このリハクが手を焼くほどの問題児なのだった。

「はぁ……、あのフドウですら丸くなったというのに……」
「あいつはあいつ、俺は俺さ。んで、そこに居る可愛い娘は、爺様の隠し子か何かか?」
ジュウザが指差す先には、オウガイの後ろに隠れるようにしているフェイトが居る。
ただでさえ人見知りの気があるのに、初対面の相手にいきなり可愛いとか言われては隠れたくなるのだろう。
そんなフェイトをよそにして、リハクはもう何回目になるか分からない怒鳴り声をあげた。

「ジュウザ!オウガイ様に向かってなんという口の利き方だ!」
「うるせぇな、悪かったよ」
どう聞いても、悪いとは思っているような言い草ではなく
そろそろ肉体言語で教え込んだ方が良いかとリハクが構えたが、それよりも先にオウガイが間に入ってきた。

「よい、リハク。わしも今更かしこまられても、ジュウザらしくないと思うだけでな」
「うむむ……。オウガイ様がそうおっしゃるのであれば……」
「さっすが、六聖拳最強だけあって器がでかい。誰かと違ってな」
渋々といった具合に引き下がるリハクとは対照的に、ジュウザは口笛を吹きながらそんな事をのたまっている。
そんなジュウザを見ながら、オウガイが続けた。

「代わりに」
「げ……、食えねぇ爺様だな。やっぱなんかあんのかよ」
言った瞬間、ジュウザが物凄く嫌そうな顔を見せた。
フリーダムにも程があるが、良くも悪くも、これがジュウザという人間なのだ。
何者にも縛られる事なく、己の意思のみで気ままに動く。
おかげで誰にも師事する事は無く、使う拳は己で編み出した我流拳。
我流ゆえに無形。無形ゆえに誰にも読めぬのがジュウザの拳の最大の武器。
無形という点では南斗鳳凰拳と通じるところがあり、オウガイもジュウザの持ち味がどの辺りにあるのかはよく知っているので、苦笑しながら言った。

「そう身構えんでもいい。わしは少しリハクやダーマと話がある。その間、この子に里を案内してやってくれんか」
「そんな事か。いいぜ、引き受けた」
日頃の行いを改めろとかだったら、誰であろうとも聞く気はなかったが、そういう事ならどうせ暇していたところなので、何の問題も無い。
年頃が下過ぎるのが残念だが、それでも暑苦しい野郎どもの相手をするよりは余程良いのである。

「ほら、来なよ」
ジュウザが人好きのする笑みを向けながら言うと、フェイトは二、三度程視線を往復させるとようやくオウガイの元から離れた。
オウガイが言うならと思ったのと、ジュウザの邪心の無い笑顔を見て大丈夫だと判断したらしい。
歩いていく二人を眺めながら、リハクは感慨深そうに言った。

「十年前を思い出しますな」
「十年か。うむ……、早いものだ」
今では想像も付かないが、十年前のサウザーも概ねあんな感じである。
常にオウガイの後ろを歩き、師の言うことをよく聞いていた子が強くなったものだ。
さて、自分の頃はどうだったかと思い出そうとしたが、年のせいかどうにも思い出せない。
静かに息を吐くと、少し疲れたように続けた。

「昔を懐かしむとは、互いに年をとりすぎたな」
「ですが、我らが老いたという事は、それだけ次代の芽が育ったという事でしょう」
いかに南斗聖拳を極めようとも、老いには誰も勝つ事は出来ない。
技や経験はいくらでも高める事はできるが、闘気を満たしても肉体は何時か衰えを見せる。
そして、そうなった者の勤めは、後に続く者に技と南斗の真髄を全て継承させ、より高めてくれる事を見守るのみ。
こうやって南斗聖拳は二千年もの長きに渡って脈々と受け継がれてきたのだ。
取り逃がしたとはいえ、南斗白鷲拳の使い手を倒した弟子の事を心の中で褒めながら、オウガイは前へと歩き出した。





「しっかし、爺様とはどういう関係なんだ?爺様に娘や孫が居たなんて話は聞いた事ないぜ?」
両手を頭の後ろに回しながらジュウザが突然そんな事を聞いた。
なにせこの男。面白そうな事には必ず首を突っ込む性質だ。
前にあった、ラオウが鳥の卵取るために大木を一本破壊したというのはジュウザが情報源である。
それで卵を掠め取り、一個を自分が食い、残りをあのラオウの顔にぶつけてビキビキさせたまま帰ってきたのだから、リハクの心労がストレスでマッハというやつだろう。
そんなわけであわよくば何か面白い事を聞きだせるかぐらいの気持ちで聞いたのだが、フェイトは何やら言いにくそうにしている。

拳力は非常に高いが、魔力が非常に低いこの世界。
この事を知っているのは、直接暴走体と関わったサウザーだけで、オウガイも知らない。
別の世界から来た魔法少女ですなんて事は話すわけにもいかず、どう話したらいいか困ってしまっているのだ。

ジュウザにしてみれば、自身も含めてワケアリの子供なんて腐るほど見てきたのだから言いたくないのなら特に無理して聞き出す事の程ではない。
俯いたまま厩舎の中に入ろうとするフェイトに向けて極めて軽い感じで言った。

「ま、いいけどな。それと、そこ臭いし危ねぇぞ」
「あぅ……、ごめんなさい……」
始めて生で見る馬の群を見て驚いたのか、小さく謝りながら戻ってきた。
慣れてない者には本当に臭いがキツいだろうし、馬は馬で結構凶暴な側面があるので迂闊に近付くと蹴られかねない。
その後も適当に案内され歩いていると、フェイトの目は一体の像に一瞬釘付けになった。
染み一つないような真っ白い像が、まるで里全体を見渡すように佇んでいる様は何故か惹かれる物がある。
それが何かはまだ分からないが、ジッと見つめているとジュウザが説明するかのように言った。

「ああ、あれは、うちの里の女神像さ。そこに付いてる宝石は女神の涙っていうんだ。
  誰が言ったか知らねぇけど、祈れば願いが叶うって言われてるんだとさ。なんかあるなら祈っといた方がいいかもな」
そう言われもう一度女神像の顔を見ると、左目の下に大きくて綺麗な青い宝石が確かに輝いている。
一瞬ジュエルシードかと思ったがどうやら違うらしい。
ふと見ると、女神像の下で一人の少女が祈りを捧げていた。

年頃はフェイトと同じぐらい。
黒髪を長く伸ばした、フェイトにも勝るとも劣らぬ程の美少女が祈っている姿は絵になるものがある。
強いて違うところを言うなら、どこか高貴さを感じさせているので近寄りがたい雰囲気があった。
もっとも、フェイトは別の事で驚いていたが。

「(この子、魔力を持ってる)」
こういった魔法が伝わっていない世界では、魔力資質も持つ人間が現れる事自体が稀である。
普通、デバイスを起動させていない人間からは魔力を感じる事は無いのだが、ユリアからは僅かにその力が感じられる。
魔力資質が桁外れに高いのか、突然変異みたいな物かは分からないがとにかく珍しい。
そんなフェイトをよそにジュウザは構わず気軽に話しかけた。

「お、居たのかユリア。お前ホントよくここに居るよな」
この少女こそが南斗正統血統の血を引く、南斗六星慈母の星のユリアである。
慈母星とは代々その宿命と、ある特殊な力を南斗宗家の女が背負うがゆえに、拳を持たず南斗五車星に守護され、生を司る南斗六星の象徴とも言える星だ。
噛み砕いて言えば、日本で言う天皇のような存在にあたり、政治的な重要度は主星である将星すら凌ぐ。
とはいえ、慈母星の正体については南斗聖拳でも南斗聖司教を初めとする南斗宗家に名を連ねる者達。
拳の使い手では南斗五車星、山のフドウと海のリハク。他には南斗六聖拳ぐらいしか知らない。
何分、南斗聖拳にはその手の敵が多いのだ。
そんな中、南斗正統血統の者の正体が拳を使えない女とでも知れれば、それはもうよろしくない事態が起こる事は目に見えている。
南斗六聖拳ですら、伝承者が若いうちはその正体を知る事は無いし、何より本人も南斗正統血統だという事を知らないのだから徹底ぶりが分かるだろう。
声で誰か分かったのか、ユリアは膝を付いたまま振り向くと笑みを浮かべた。

「女神様はこの里の守り神なのよ。ジュウザもたまには祈ったらどう?」
「はぁ……、お前までリハクみたいな事を言うのかよ。性に合わねぇから勘弁してくれ」
花でも供えて膝を付き手を合わせて女神様に祈る。
そんな自分の姿を想像して、似合わねぇと言わんばかりに肩をすくめ、そう言うと分かっていたのかユリアも小さく笑う。
すると、そのジュウザの後ろから見慣れない金色が見えたので、なにかと思って小首を傾げているとジュウザが少し離れているフェイトを手で招くとユリア紹介した。


「こいつは、オウガイの爺様が連れてきたやつで……。あー……悪ぃ。そういや、俺も名前まだ聞いてなかったな」
「……ジュウザったらいつもそうなんだから」
こまけぇこたぁいいんだよを地でいくジュウザの事だから、そんなのはいつもの事。
頬を掻きながらそんな事を言うジュウザを見てユリアが呆れるように言う。
言葉だけなら、どっちが年上なのか分かったものではない。
それがおかしかったのか、フェイトもほんの少しだけ笑うと名前を言った。

「フェイト・テスタロッサ」
「フェイトか。散々聞いたと思うけど、俺はジュウザ。こっちは――」
「ユリアよ。よろしくね、フェイト」
自己紹介を済ませると、フェイトは改めて女神像を間近で見た。
両眼から流れる涙を象った大小の合わせた宝石が四つ。
涙を流していても悲しそうな印象は受けなかったが、見ていると少し不思議な気持ちになった。
何というか、この女神像を見ていると懐かしいような気がするのである。
そう感じる事に思い当たる事があったのか、それは何かはすぐに分かった。

「……母さんだ」
二人には聞こえないように小さく呟く。
慈母星のまたの名は、万人に慈しみを与える母性の星。
その象徴たるこの女神像は、時が移り変わり、場所を変えながらも長きに亘って数多の南斗の拳士達を母のように見守ってきた。
そして、今も里の人々の心の支えとして崇められている。
だからこそ、この女神像にフェイトは優しかった頃の母の姿を見たのだ。
これが像ではなく、本当の母の姿だったらどれ程いいかと思ったが、本物は遠く離れた所で帰りを、正確にはフェイトがジュエルシードを持って帰るのを待っている。

ジュエルシードを探し始めてからもう一週間程経つ。
そんな中でフェイト達が見つけたのは二つ。
一つは言うまでも無くサウザーが叩き斬ったので実質一つのみ。
おまけに自分達の他にもジュエルシードを集めている魔導師が一組居るのだから、なおさら急がねばならない。
それが何でまた南斗の里を訪れる事になったのかと言うと、オウガイの意向によるところが大きい。
怪我の方は思ったより早く治ったが、問題は負った怪我よりも前に付いていた傷の跡。
経絡秘孔の効果もあってかそっちの方の跡もすっかり消えたのだが、その跡を見たオウガイはフェイトが望むなら南斗の里で引き取ってもらえるように取り計らうと言ってきた。
もちろん、フェイトは断った。……のだが、年の差のせいもあったし、どこか遠慮めいたものになってしまったため、実際に南斗の里を見てからどうするかという事になった。
体は治ったのだから一刻も早くジュエルシードを探しに行きたいとは思ったが、黙って居なくなるのも助けてくれた人に対して悪いと思ったからだ。

実際に里を見てもフェイトの決意は変わらない。
でも、この昔の母の姿を見せてくれた女神像を見れたのは本当に嬉しかった。

「わ、わたしもお祈りさせてもらってもいい……かな?」
気休めかもしれないが、祈れば本当に願いが叶うかもしれない。
人にそう思わせるだけの不思議な雰囲気が女神像にはある。
何かに祈るなんて事は初めてなのか気恥ずかしそうに言うと、ユリアは満面の笑みを見せて答えた。

「ええ、もちろん。ほら、ジュウザも」
「あ、おい!ったく、分かった、分かったから引っ張んな」
散々嫌がってはいたが、服を引っ張られてジュウザも遂には両手を挙げて降参した。
ジュウザはユリアの事を妹のような幼馴染と思い、ユリアも頼れる兄のように思っている。
そんな関係もあってか、ジュウザはユリアに対しては滅法弱いのだ。

しかしながら、実はこの二人は血の繋がった兄妹である。
兄妹と言っても腹違いで母が違うし、もう一人リュウガという兄が居る。
こちらはユリアと同じ母から産まれ、男ゆえに慈母星を継ぐ事ができず
今は泰山流最強と呼び名の高い泰山天狼拳を伝承するための修行を行っているので滅多にこの里には戻ってはこない。
南斗紅鶴拳にも匹敵するその拳速は、切り裂くというよりは削り取りと言った方が近く、受けた者は凍気すら感じ死に至る。
なぜ兄妹である事が知らされていないのかは謎だが、それが後にジュウザが己の事を雲と名乗るようになる一因である事は間違いは無い。
とはいえ、今はそんな事など想像すらしていないので、言われるままジュウザも仕方なさそうに膝を付いた。

「(ジュエルシードが……、違う。昔のように、母さんと暮らせますように……)」
フェイトにとって、ジュエルシードはあくまで母が必要としている物にすぎない。
願いを叶えるジュエルシードを必要としている母のためにジュエルシードを集め
母がジュエルシードを使い願いを叶えれば、きっと昔のような笑顔をまた見せてくれる。
その純粋な想いがフェイトを支えている。
だから二人と同じようにしてフェイトも女神像に祈った。




「あー……やっぱ慣れない事はするもんじゃねぇな」
ほんの短い間だったにも関わらず、まるで一生分の事をしたかのように言うとジュウザが思いっきり体を伸ばした。
年下の少女二人がまだ祈っているのに堪え性の無い男だ。
これで、ラオウ、サウザーに匹敵する実力を持っているのだから人間分からないものである。

「もう……、そんなだからいつも聖司教様にも怒られるのよ」
「勘弁してくれよ。これでも頑張った方だぜ」
これならシュレンあたりと組み手してた方がまだ気が楽だったかもしれねぇ。
本気でそんな事を思い始めたが、ユリアが悪戯っぽく笑いながら続けた。

「そうね。ジュウザが何を祈ったか教えてくれるのなら許してあげる」
「……そんなもん人に言えるか」
何を祈ったのかを知るのは本人だけ。
こればかりは、経絡秘孔『新一』、場合によっては『解唖門天聴』を突かれたとしても言えないし言いたくない。
絶対言わねぇ、と頭を掻きながら言うと後ろから興味深そうな声がかけられた。

「ふむ。それはわしも聞いてみたいものだな」
「げ……、爺様居たのか。盗み聞きは趣味が悪いぜ?」
突然聞こえてきたその声の主は、オウガイその人。
気が他の事に向いていたとはいえ、ジュウザが気配を感じる事無く背後をとられたのだから、老いたりとはいえ南斗聖拳最強の座が揺らぐ事は無い。
その身は未だに負けを知らず、若い頃は北斗神拳のリュウケンと並ぶ程の使い手と称され、南斗宗家から一目も二目も置かれてきた。
そんな男をユリアが知らないはずも無く、小さく駆け寄るとぺこりと頭を下げた。

「オウガイ様、お久しぶりです」
「うむ。しばらく見ぬ間に大きくなったな」
オウガイが前に里を訪れてからそろそろ一年が経つ。
近年はほとんどをサウザーとの修行に費やしているため、オウガイが里を訪れるのは本当に数少ない。
それでも、将星とは思えぬ程の温厚な人柄を慕う者は数多く、ユリアもその内の一人でオウガイの傍を見回すと少し不思議そうに言った。

「今日はサウザー様はご一緒ではないのですね」
「あやつは、少し用があってな」
どうやらこの里でもオウガイの傍には、常にサウザーが控えているという認識のようだ。
そうなった理由は、過去何度かオウガイの事を平然と爺様呼ばわりするジュウザ相手に大立回りを演じたのが原因ではあるが。

互いに無形の拳を使い、戦い方も攻める事を得意としているのだが、いかんせん性格の根の部分が致命的に違う。
大体、それに乗っかったジュウザがわざと怒らすような事を言って、それを真に受けたサウザーがビキビキするというパターンである。
南斗聖拳最強の拳を使うサウザーと、この里で一番の腕を誇る我流の天才ジュウザがやり合えば止められる者はそうは居ない。
結局、ある程度闘ったところでリハクかオウガイ、場合によっては南斗聖司教が割って入り引き分けという形になっている。
もっとも、ジュウザの方は楽しんでやっている感があり、最近はサウザーもジュウザのペースには乗るまいとしているので、犬猿と言う程ではなくラオウ含めて腐れ縁的な感じだ。
まぁこれは南斗の身内の事なので、フェイトには今は関係は無い。
それをどうするかをフェイト本人の口から聞きに来たのだ。
女神像の傍に立つフェイトを見つけると、最初に会った時のような表情を見せながら言った。

「わしは強要はせぬ。自分がどうしたいか、よく考えて決めなさい」
この里には、同じ年頃のユリアや、ああ見えて年下の面倒見はいいジュウザも居る。
リハクやダーマが後見人となるなら、万に一つの間違いも起こさない。
もちろんその言葉に裏は無く、どうするかはフェイトが決める事だ。

そして、その答えはもう決めている。
少し申し訳なさそうに、それでもオウガイから目を逸らさずに言い切った。

「ありがとうございます。でも、わたしにはやらなくちゃいけない事があるんです。だから……、ごめんなさい」
オウガイが真剣な表情でフェイトの目を少し見つめると、すぐにやさしい物に戻り頭を撫でた。
南斗孤鷲拳のフウゲンと並んで、南斗六聖拳最年長であるオウガイの人を見る目は確かだ。
幼いながら、力のある良い目をしている。
なにせ、この十五年ばかりはそういう目をした者と暮らしてきたのだ。分からないはずがない。
古い傷の方も何か訳あっての事だろう。
ならば、他に何も言う事はあるまい。
いつの間にか後ろに控えていたリハクの方へと向き直ると短く言った。

「すまんな、リハク。要らぬ手間をかけさせた」
「いえ。しかし、わざわざオウガイ様にご足労頂いたのに、蜻蛉帰りというのはあまりに味気無い。
  聖司教様とも話さねばならぬ事もあるでしょうし、オウガイ様さえよろしければ夕餉の用意をさせますが。それに、この里にはユリア様に近い者があまり居りませぬので」
言いながらリハクがユリアを見る。
勿論、この里にもユリアと同じぐらいの年頃の子供は沢山いるが、幼い頃は感情を出すことが無かったためどこか一線を引いた物になってしまっている。
昔、ダーマが北斗の寺院にユリアを連れて行ってからは、幼馴染とも言えるような存在が出来たが
慈母星を支える五車星の長としては、同姓の友も持って欲しいというのが本音である。
フェイトはここに留まらないという選択を取ったので、友というわけにはいかずとも何かのきっかけにはなって欲しい。
その辺りの事情を汲み取ったのか、オウガイがフェイトを見ると、それは嫌ではないのか小さく頷いた。

「では、オウガイ様と私は先に行っております。ジュウザが付いていますが、お早めに戻られますよう」
山奥だけあって、日が沈むのも早いし温度も下がるのも早い。
リハクは幼い身を気遣って言ったのだが、さっきからのユリアの目にはこことは全く違う別の風景が広がっていた。




山中の薄暗い闇を切り裂くような雷のような十字の閃光が光る。
辺りを包む雷雲から雨が振り出すと、目隠しを外した少年が己が今切り裂いた者が誰なのかを知って驚愕の表情を浮かべていた。

『お、お師さん!!』
『み…見事だ、サウザー!!』
サウザーの視線の先にあるのは、己の放った極星十字拳により深い傷を胸に受けたオウガイの姿。
口元から血を流すオウガイの表情は、サウザーが今まで見たどれよりも穏やかだった。

『な、なぜ!身を引けたはず!そうすれば俺の拳をかわせたものを!!』
『いや、お前の拳の鋭さにかわすにかわせなかったのだ……!』
それは違う。
南斗鳳凰拳の拳の性質は、拳速では南斗紅鶴拳、純粋な力なら南斗孤鷲拳
技の切れ・華麗さにかけては南斗水鳥拳、脚技の多彩さなら南斗白鷺拳にと、それぞれ他の四星が得意とする分野では及ばない。
全体的に高い水準を保っているので、地力が高い者が使えば万能と言えるかもしれないが
使い手によっては器用貧乏の謗りを受けてしまう事があるだけに、それだけでは長い歴史の中で南斗最強と呼ばれる事は無い。

南斗鳳凰拳が他の南斗百七派を大きく凌駕しているのは、神速を超える踏み込みともう一つ。
どのような状況に陥っても、相手の体の流れを見切る事が出来る力の高さにある。
相手の動きを寸分たがわず見切る事によって一瞬の隙を付き、攻撃すらさせる事なく神速の踏み込みによって間合いに入り敵を仕留めきる。
一つ誤れば己の体が砕け散るような事を常に繰り返してきたのだ。
南斗鳳凰拳に防御は無く、あるのはただ制圧前進のみと言われている所以である。
老いたりとはいえ、南斗鳳凰拳の伝承者があのぐらいの攻撃をかわせないはずはない。
だから、オウガイの言葉が嘘だという事は、サウザーには分かっていた。

『もうお前に教える事は何も無い……』
継承の儀に師に挑む。
その可能性は予見できたはずである。
こうなってしまったのは、誰のせいでもない。
お師さんだと気付けなかった自分のせいだ。

サウザーの両眼からは涙が流れだし、オウガイは震える手で昔のように頭を撫でる。
その手に昔の力は無く、やさしくも寿命を迎えた蜻蛉のような儚い力で。
その事が、オウガイが息絶える事が近いという現実を嫌でもサウザーに突き付け、流す涙が途絶える事は無かった。

『な、泣くでない……。南斗極星の拳、南斗鳳凰拳もまた北斗神拳と同じく一子相伝の拳法。伝承者が新たなる伝承者に倒されていくのも我らが宿命……!」
『お…お師さん……』
『悔いは無い……。わしは…、お前の瞳の中に極星、南斗十字星を見ていたのだ……』
自分のために涙を流す弟子に、最期に言い聞かせるように言い残すと、オウガイの体から力が消え失せる。
それは年老いた鳳凰が全ての想いを子に託し、地に落ちていった瞬間だった。

『おっ…お師……お師さん!!』
その声に応えてくれる者は、もうどこにも居ない。
自らが最も愛した父を、自分の手で殺してしまった。
その後悔の念と、深すぎる哀しみが耐え難いまでの喪失感となってサウザーを襲う。
天を見上げ、ぬくもりを失っていく手を抱き締めながら、血の涙を流さんばかりに叫んだ。

『な、なぜ……、なぜ……!う、あ゛あ゛ああああああ!!』
人は何か大切な物を失った時、二つの道のどちらかを選ぶ。
例えば、ある救世主のように、失った物の哀しみを背負い前を見据え未来へ進む道。
または、一人娘を失った母のように、失った物を取り戻そうと後ろを振り向き過去に固執する道。
だが、少年が選んだ道はそのどちらでもなかった。

『こんなに哀しいのなら、苦しいのなら……、愛など……』
失う事が辛く苦しいのならば、最初から失う物を持たなければ、こんな苦しみや哀しみを味わう事は無い。
将星の宿命は肉親も友も持たぬ、あるのはただ己一人。
ならば……、その定めに従うのみ!

『愛などいらぬ!!』
選んだのは、愛と情けを全て捨て去るという最も哀しい道。
一際大きな雷光が辺りを包んだ時、誰よりも愛深かった少年の姿はそこになく、非情の血に目覚めた帝王がこの世に生れ落ちていた。



「おい、ボーっとしちまってるけど、大丈夫か?ユリア」
「え、ええ。大丈夫よ、ジュウザ」
少々心配そうなジュウザの声を聞いて、ユリアもようやく我に返った。
きょろきょろと周りを見渡すと、そこはやっぱり女神像の前で、オウガイとリハクの後ろ姿はまだ見える。
白昼夢にしては生々しく、はっきりとしすぎていたそれは、ユリアにとってはもう慣れた事だった。

「(あれは……、オウガイ様とサウザー様……。なんて哀しい……)」
天の声。
物心付いた頃から、ユリアは天の声を聞く事ができる。
本来、誰も見る事のできない未来の運命がビジョンとなって浮かび見える。
それは大抵が人の死などに関する物だ。
そして、その結末が外れた事は無い。
他人の運命を見る事ができても、それを変える事はできず見守るだけ。
この予知とも言える力がユリアは嫌いだった。


――オウガイ様は……

どうして、死を選ぶのかと聞こうとしたが、声が出なかった。
予知の中では、オウガイは自ら望んでサウザーに斃されたのだ。
この老人は、もう既に死ぬ事を覚悟している。
それも、誰よりもぬくもりを与え続けた弟子のために。
恐らく、言ったところで何も変わらない。
一子相伝の宿命を背負った南斗鳳凰拳。
その長い歴史の中で繰り返されてきた事は、他の南斗の者が思うより遥かに崇高で重い。
自分のような子供が口を出してはいけないのかもしれない。
けれど、あのサウザーの姿を見ては、黙っていられないと思ったのも事実だった。

サウザーとは親しいわけではないが、南斗の里を訪れた時に何度か顔を合わせた事はある。
始めて会った時は、ケンシロウやトキのように、他人の事を想えるやさしい心を持った人だと思った。
もちろん、二人とは性格も大分違うし、ラオウと互角に組み手をしている時の姿からは想像も付かない。
それでも、人の本質を見抜く力を持ったユリアだからこそ、そうだと感じたのだ。
しかし、あの押し潰されんばかりの哀しみを振り切るかのような慟哭をあげたサウザーは、まるで人が変わったような顔をしていた。

愛と情けを捨てた先にあるのは、他人を想う心など存在しない修羅の道。
さらにその先にある物はユリアでもまだ観る事は叶わないが、なんとなく。
本当になんとなくではあるが、北斗南斗に。ひいては大勢の人にとっての大きな災いを呼ぶ気がしてならない。
そう感じていながら、運命を変えることのできる力を持たない自分が無力だと思い知らされる。

いつもそうする事しかできなかった。
飛行機が墜落し、大勢の人が死ぬ所。
元気そうな人が、突然の事故で死んでいく姿。
数え切れない程の人の死をユリアは見ているだけだった。
そのせいか、一時期心を閉ざしていた事がある。
今、こうしていられるのは北斗の末弟であるケンシロウと知り合えたおかげだ。

それでも、やはり人の死や悲しい未来を見るのは辛い。
どこか虚ろな目で赤くなりかけている空を見上げると、まだ日が出ているにも関わらず、南斗と鳳凰拳の象徴でもある極星、南十字星が薄く儚げに輝いているのが見えた。


ヒャッハー!あとがきだぁーー!
フェイトin南斗の里の巻。
南斗の里や女神像の件は漫画版のユリア外伝から取らせていただきました。
魔力資質ったーで調べてみたところ、ユリアは空戦S+の幻術型との事。



[18968] 第十一話:堕ちゆく将星
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:084b4b14
Date: 2010/10/25 07:32
北斗七星と南斗六星。
古来より北斗は死を司り、南斗は生を司ると言われてきた。
同じ名を冠する拳法もしかり。
歴史の影に潜み、伝説の暗殺拳とまで呼ばれるようになった一子相伝の北斗神拳。
対する南斗聖拳は陽拳として表の世界へと広がり、主な流派だけでも百八派を数えるようになった。
その中でも南斗六聖拳は暗殺拳というよりは活人拳的な要素を持つ。
ただ単純に切り裂き破壊するだけではなく、その力によって天帝をあらゆる外敵から守護してきたのだ。
南斗六星が乱れぬ限り世は平穏を保ち続ける。
だが、一星乱れた時、残る五星も乱れ、世に大きな悲劇を生む。
そして今、その内の一つが大きく変わろうとしている。

その星は将星。
南斗六星の主星にして、南斗鳳凰拳の伝承者が背負う星。
本来、南斗の拳士を率い、六つの門の一つを守る衛将に過ぎなかった拳は、他の五星を圧倒する力を持つようになり
いつしか天帝を差し置いて帝王の拳とまで呼ばれるようにまでになった。
南斗最強を謳い、南斗聖拳百七派ではどう足掻こうと勝ち得ぬとさえ言われている拳が堕ちたとなれば、必然的に他の五星も崩れる事になる。
そして、その悲劇を未然に防ぐ事ができるのは南斗の慈母星ただ一つ。
しかし、慈母の星を継ぐべき者は未だその宿命に目覚めることは無く、ただ空を見上げていた。

「…………はぁ」
あれからそれなりの時間が経ったが、ユリアから出てくるのはため息ばかり。
いっそ、天の声の事を知っているリハクやダーマに言ってしまおうかとも考えたが、それもすぐに考え直した。
リハクもダーマも南斗の流れを汲む拳を使う。
立場的にも六聖拳筆頭であるオウガイよりも下のため、南斗鳳凰拳の継承のやり方に口を挟む事なんてできないかもしれない。
なにせ相手は聖司教ですら一目も二目も置かねばならない南斗の最重鎮だ。
そういう意味で、唯一力になってくれそうな人物はユリアの知る限りはたった一人。
第六三代北斗神拳伝承者リュウケン。
オウガイと若き頃から拳を競い合った強敵とも呼び合った人物ならきっと力になってくれるのだが、あいにく北斗の寺院とこの里では場所が離れすぎている。
せめて兄であるリュウガが居れば、相談ぐらいはできたかもしれないと思っても詮無きこと。
一体どうしたらいいのだろうかと長い渡り廊下を歩きながら考えていると、ふと一人の少女の顔が浮かんだ。

「あの子ならどうするのかな……」
フェイトがそう感じたように、ユリアもまた北斗南斗などの拳法とはまた違った感じの強い力をフェイトから感じた。
ただ観る事しかできない自分とは違って、何をするべきなのかを自覚し、それをやろうとしている。

ほんの少し、流れに触れられるだけでいい。
そうすれば何かが変わるかもしれない。
どれだけ先の悲劇を観る事ができても、力が無ければ何も出来ない、何も変わらない。
だけど自分には、ケンシロウやジュウザのような力は無い。
そんな事を考えていると、同じように空を眺めるフェイトの姿が目に入った。

「隣、いいかしら」
ユリアがそう言うと、フェイトもユリアを見て小さく頷く。
二人ともそのまま無言で空を見つめていたが、しばらくしてフェイトが呟くようにして言った。

「星がこんなにたくさん……」
街中とは違って、この里からは星がよく見える。
大きな星から小さな屑星までが夜空を埋めんばかりに輝いているのは、一般的な価値観から言えば美しいと言って間違いは無い。
ユリアの方は、この光景が当たり前なのか少し不思議そうに聞いた。

「星空を見るのは初めて?」
「そうじゃないけど、こうやってじっと眺めるのは久しぶりだから」
フェイトにとって、満天の星空なんて物はもう過去の物だ。
昔は、まだ母が優しかった頃は、一緒に空を眺めて流れ星なんかを探した事もあったが
ここ数年は魔法の訓練なんかでそんな事を気にかける余裕すらなかった。

昔みたいに戻れれば、母と一緒にこの里に来て、この星空を眺めてみたい。
そう思うとフェイトの顔に自然と笑みが浮かぶ。
すると、ユリアが少し南の空を指差して言った。

「あそこに見える六つの星が南斗六聖拳の南斗六星。その南斗六星の中でも一番強く輝いている星が、オウガイ様とサウザー様が持つ将星」
ユリアが指差した方角を見ると、その先には六つの星の中心で一際強く輝いている星が見えた。
あたかも十字に光を放っているように見える事から別名を極星・南斗十字星。
南斗鳳凰拳の宿星にして、南斗聖拳の象徴とも言える星。
そのまま眺めていると、自然と将星と重なるように二人の姿が浮かんだ。

基本、堅苦しい話し方をするけど、どこか背伸びをしているような感じがするサウザーと、厳格そうに見えるけど、とても優しいオウガイ。
二人とも、並の魔導師なんか歯牙にもかけないぐらい強いのに、見ず知らずの自分に良くしてくれた。
明日からまたジュエルシードを探しに行かなければならないと思うと、ほんの少しだけ名残惜しい。
そんな事を考えていると、その内心を見透かしたかのようにユリアが問いかけてきた。

「オウガイ様の事は好き?」
いきなりだったので、フェイトも思わず戸惑う。
正直なところ、母以外にそういう感情を向ける相手が居るとも思っていなかったのだ。
何かの研究に没頭している母に代わっての教育係も居たが、もう居なくなってしまった。
どう答えようかと迷っていると、フェイトが言うよりも先にユリアが答えた。

「わたしは好き。温ったかくて大きいオウガイ様の事が大好き」
拳法を使う者は、その性質から自然と他者に対して攻撃的になりやすい傾向にある。
しかし、その中にあってもオウガイは全くの異質の存在とも言ってもいい。

サウザーに南斗鳳凰拳の過酷な修練を課しながらも、それ以外では惜しむことなくぬくもりを与え、サウザーもそれをよく理解し慕っている。
拳だけに限らず、師と弟子という間柄において、この二人のような関係は本当に稀だ。
幼い頃のラオウとトキを、言葉そのままの意味で千尋の谷に突き落として放置しかけた北斗と比べようものなら正直、天と地程の差がある。
どっちが拳を修める者にとって良いか悪いかは分からないが、少なくともユリアはこっちの方が好きだ。
だからこそ、あんな光景を実際に起こさせたくないと思っているのだが、どうにも自分の力だけでは手の打ちようが無い。

なんとなくフェイトの方を見るととユリアの体が少し跳ねた。
そして、少し空を見上げたまま目を瞑る。
天の声が聞こえてきたのだ。

またぞろ不吉な未来が見えるのかと思って体を硬直させてしまったのだが、今回はいつも見ているようなのとは何か違う。
桃色と金色の二つの光。
最初はぶつかり合うかもしれないが、いつか二つは繋がり合う。
その光の一つは目の前のフェイト。
そして、もう一つは白い服を身に纏った少女。
まだ漠然としたものだが、二人とも北斗の兄弟や南斗の六聖達と同じような、天から託された使命のような物を持っていると感じる。
観る事しかできない自分とは違って、それがほんの少しだけ羨ましい。
ほんの少し笑みを浮かべると、優しく言った。

「この先、あなたにとって大切な出会いがあるわ。今のあなたには必要無いかもしれないけど、それを忘れないで」
半ば唐突にそんな事を言ったので、フェイトもどういう事だろうかと疑問符を浮かべると、少し言いにくそうにユリアが続けた。

「信じられないかもしれないけど、わたしは人の運命を観る事ができるの」
そんな突拍子もない事を聞いてフェイトも驚きはしたが、その話を真っ向から否定はしなかった。
稀少技能。
魔導師が持つ先天的な固有の技能で、フェイト自身も魔力を雷に直接変換する事ができる魔力変換資質という近い物を持っている。
とはいえ、予知なんて力は次元世界を通しても滅多にお目にかかる事はできず、あったとしても解釈の仕方によって意味が変わってしまう文章ぐらいだ。
映像として明確に運命を観る事が出来るのは、後にも先にもユリアぐらいのものである。

厳密に言えば、デバイスそのものは魔法を使いやすくするための補助装置のようなもので、無ければ使えないというものではない。
才能によるところが大きい稀少技能なら、無意識無自覚に魔力を使っている事もある。
デバイスを持ってもいないユリアから魔力を感じた理由もこれで納得がいった。

驚きながらもこくりと首を縦に振ると、ユリアの表情が少し安心した物になる。
これでこの事を知っているのは、南斗宗家の者、ダーマにリハクと兄のリュウガを除けば、ケンシロウとトキに次いでの三人目である。
そりゃ、その辺の人に自分は運命が見えるなんて言った日には、少し頭の可哀想な子という評価をされかねないのだ。
そういう意味では、ユリアにとっては勇気の要る告白だったのだが、フェイトは信じてくれたようで安心した。

また少し無言が続いたが、冷たい山風が二人の間を駆け抜ける。
ユリアは慣れているのか特に何も感じないが、フェイトの方は身体を小刻みに震わすと小さくくしゃみをした。
その姿がなんだかとても可愛らしい。もちろん、小動物的なという意味でだ。
ユリアですらそう思ってしまったのだから、その破壊力たるや南斗獄屠拳級の代物だろう。

まぁそれは別として、もう一つの事を話すべきかどうかはユリアも迷った。
オウガイが連れてきたとは言え、フェイトが南斗聖拳の事を今一つよく分かっていない事ぐらいは分かる。
しかし、予知の中で見たあの光は、決められた運命さえも変えてしまうかのような強い力を感じた。

話してみよう。
それで、誰も苦しむ事が無くなるのなら話してみるだけの価値はある。
そう決めると、空の将星に向けるかのように小さく語り始めた。

「……極星は一つ。南斗鳳凰拳の伝承者は世に一人だけ」
南斗鳳凰拳の継承の試練は、弟子が師を斃す事。
そこに一切の情けは無く、将星が肉親も友も持たぬ独裁の星と呼ばれている所以である。
無論、それは誰よりもオウガイの事を慕っているサウザーとて例外ではない。
それを知っているからこそ、ユリアは辛そうに続けた。

「雷が落ちる雨の日。サウザー様は、相手がオウガイ様だと知らずに闘ってしまう」
故に、サウザーは相手が誰であるかを知らず、目隠しをしたままで試練に挑む。
その結果、想像を絶するような哀しみがサウザーを襲う。
愛深き故に、その哀しみに耐え切れず、愛と情けを捨て去る。
そうなってしまえば、もう誰にも止められはしない。
自分には二人が闘う事を止めるだけの力は無いが、フェイトにならできるかもしれない。


「こんな事を言うのは筋違いかもしれないけれど……
  オウガイ様とサウザー様を止める事が出来るのは、不思議な力を持っているあなただけかもしれない」
全てを言い切るとファイトに向けてユリアが小さく頭を下げる。
ユリアもフェイトが何かやるべきことをやろうとしている事ぐらいは理解している。
それでも、未来を変える事のできる可能性が少しでもあるのなら頼んでみる価値はある。
その時の言葉と、どこか辛そうなユリアの姿がフェイトの頭の中から消えることはなかった。






『フェイト……?フェイト。どうしたのさ』
ジュエルシードの力によって、そのままの意味で巨大化した仔猫を見ながらアルフが念話を送る。
ジュエルシードの手に入れる為ならどんな事でもすると心に決めているはずのご主人様が、どうにも心ここにあらずと言った様子で集中できていない。
何か迷っている様子だった。
その理由は大方検討は付くが、どうするかはフェイトが決める事で、使い魔である自分が口を出す事はできない。

『ううん、なんでもないよ。起きてバルディッシュ』
“Yes sir”
かぶりを振ると、フェイトが自分のデバイスを起動させる。
母が必要としているジュエルシードが目の前にある。
今はそれを手に入れる事だけを考えればいい。

そう自分に言い聞かせると斧のような形になったバルディッシュを巨大猫に向ける。
だが、ふとあの言葉を思い出すとフェイトの体を違和感が包んだ。
暴走体を攻撃する事は何の罪悪感は沸かない。
非殺傷設定だ。少しは痛いかもしれないが怪我すらしない。
じゃあ、このトゲが引っかかったような違和感は何だろうか。

遠くの山の方では、雷雲がかかっていて雷の音が聞こえてくる。
ユリアの予知が正しければ、今日がその日でその雲の下にはあの二人が居るのだ。
少し前のフェイトなら気にする事は無かっただろうが、今は少し違う。

母さんがジュエルシードを欲しているから、ジュエルシードを集める。
それがフェイト・テスタロッサの価値観の全てでもあり、存在する理由でもある。
今までは、他の事に感情を挟む事は無かった。

『フェイト!』
慌てた具合のアルフに反応してフェイトが前を見ると、辺りにはいつの間にか結界が張られていた。
そして、そこには白いバリアジャケットを纏った少女がこっちに飛んでくる所で、その姿はアルフから聞いていた物と一致する。

『アルフ、あの子が?』
『そうだよ。この前のジュエルシードの時に居合わせた魔導師さ。フェイトの敵じゃないと思うけど、魔力量は大したもんだから注意しておくれよ』
魔法を扱う技術では、訓練を受けたフェイトに敵うはずはないが、内に秘めた魔力資質はフェイトに匹敵する。
押さえ込まれていたとはいえ、世紀末モードに突入したジャギのジュエルシードを封印できたのだから、侮る事はできない。
ほぼ反射的にバルディッシュの矛先を向けると、白い少女が大きな声で話しかけてきた。


「わたし、高町なのは!フェイトちゃんだよね?ジュエルシードを集めてるって事は聞いてるよ。どうしてジュエルシードを集めてるのか、おはなししてくれないかな?」
初めて会うのに名前を知っている理由をを聞こうとしたが、すぐに思い直した。
この世界で自分の名前を知っているのは数少ない。
その内の一人は、目の前のなのはと一緒に居たとアルフから聞いている。
ジュエルシードをくれたのだから、どちらの味方でも無いのだろうけど、ちょっと複雑な気分だ。
サウザーの事が頭をよぎると、またフェイトの心に痛い物が奔った。


南斗鳳凰拳の地。
そこでフェイトは記憶の中以外で、初めて人のぬくもりを与えられた。
少し堅苦しいけど、暴走体から助けてくれたサウザー。
この世界の住人ですらない自分に無償のやさしさを注いでくれたオウガイ。
ユリアの予知を信じるなら、その二人が闘い、殺し合う。
しかも、サウザーは相手が誰であるかを知らないままにオウガイを手にかける。

――嫌だ。

漠然とした思いが時間が経つにつれ、段々大きくなってくる。
オウガイはフェイトにぬくもりを与えてくれたし、それはフェイトにとっても心地よかった。
ジュエルシードの事も大切だし、母の事が一番大事な事に変わりは無い
でも、誰かが止めなければ、どちらとも二度と会えなくなってしまう。
そんなのは嫌だ。
ゆっくりバルディッシュを下げると、なのはに背を向けた。

「ごめん、アルフ。一つだけわたしのわがまま聞いてくれる?」
「分かってるよ、フェイト。こっちは大丈夫だから行ってきなよ」
ずっと張り詰めていたようなフェイトの表情が、あれだけ緩んでいたのはアルフの記憶には無い。
無茶なお使いを命じられる事も無く、年相応で居られる場所。
あんなハリボテの庭園なんかよりは、ずっと居るべき場所だ。
少なくともアルフは、今までジュエルシードの事しか考えてなかったフェイトが、迷い悩んだ末にこういう選択を取ってくれた事を嬉しく思う。
飛び立とうとしているフェイトの背中を合わせるようにアルフがなのはの前に立ちはだかった。

「待って!」
「悪いね。うちのご主人様はちょ~っとヤボ用が出来たのさ。だけど、ジュエルシードは渡さないからね」
追い縋ろうとするなのはを遮るように人型のままアルフが拳を鳴らすと、なぜか両腕を下げてニヤりと笑った。
言うまでも無く南斗鳳凰拳の型である。
もちろん、一度見ただけなので技なんて使えはしないが、そこは魔力ランクAAAと評されるフェイトの使い魔。
力や俊敏さだけでも普通の人間を遥かに凌駕している。
防御を捨てての制圧前進。
性にあっているし、なんだか見た目がカッコいいので凄く気に入ったのだ。
目の前の小さな白い魔導師を見据えると、威嚇するかのように言った。

「来ないなら、こっちから先に行くよ」
「あ……!」
言った瞬間アルフの体が加速すると、身構えて硬くなっているなのはの脇をすり抜けて猫に向かった。
目的はジュエルシードだけで、馬鹿力ならぬ馬鹿魔力を持った砲撃タイプの魔導師と正面からドンパチやる程、自分の実力を知らないわけではない。
戦い慣れてないのなら、スピードで翻弄しまくってジュエルシードを掠め取って逃げる。
背を晒しているのに射撃魔法が一発も飛んでこないのは、猫に当たるかもしれなと思っているからだろう。
思ったとおりの甘い性格だが、アルフにとっては好都合だ。

なら、せいぜい利用させてもらうさ。
そう決めると、猫に向けて最初の一撃を繰り出したのだった。






僅かに覗く月明かりで照らされた山の中を幾つもの雷が照らす。
その光の下では、目隠しをしたサウザーが闇の中で佇んでいた。

「………」
目隠しの下でも目を閉じながら、サウザーはここ最近起こった事を思い返していた。
思えば、この数日は動乱とも言っていいほどに色んな事がありすぎた。
知らなかった他の世界。その力で強くなったジャギ。
そのジャギ相手に退かなかった高町なのは。責任感は強いがどこか抜けている感のあるユーノ・スクライア。
とうの昔に潰えたと思っていた御神流の使い手達。裏の世界で生きる夜の一族。
南斗から追放された白鷲拳を使うダルダ。
そして、その始まりだったフェイト・テスタロッサ。

滅多に山を降りないが、良い経験になったと思う。
もし、フェイトを拾わなければ、魔法の事など知る由も無かっただろうし、月村にはオウガイが行ったかもしれない。
真剣勝負への不安は無く、落ち着いた気持ちで挑む事が出来ているのは、ある意味フェイトのおかげだ。
そんな事を考えているぐらい余裕を持っていたのだが、雷に混じって近付く僅かな気配を察したのか、一瞬で全ての思考を切り替えた。

「(……どこから来る)」
気配の消し方は巧緻を極めていると見た。
ダルダは殺気や闘気を隠そうともしなかったため、一挙一動まで動きが掴む事ができた。
だが、陽拳とはいえ南斗聖拳の本質も北斗と同じ暗殺拳の部分を持つ。
殺気を表に出すなど愚の骨頂。
そういう物を内に秘めてこそ、南斗の拳士。
相手がかなりの使い手と分かると、自然に頬を汗が伝う。

敵の位置が分からないという事ほど危険な物は無い。
いかに優れていようとも、攻撃が来る方向が分からなければかわしようが無いからだ。

僅かに早くなった鼓動を落ち着かせようと、サウザーが深く息を吐く。
これまでずっと、オウガイと共に行ってきた厳しい修行を乗り越えてきたのだ。
南斗鳳凰拳は誇り高き不敗の拳。

いびつながらも北斗と闘い、御神を退け、白鷲を倒した。
過信を持たぬ自信は強さに繋がる。
己を信じられぬ者がどうして強くなれようか。
今までの全てがサウザーを支えている。
それは、嵐で揺るぐ事はあっても、倒れる事は決してない巨木のように。

もう一度小さく息を吐くと力の篭りすぎていた体から程よく力が抜けた。
来たければ来ればいい。
特に力を篭めない自然体とも言える姿が南斗鳳凰拳だ。
本来の構えを取ると、後ろから飛来する一つの気配を確かに捉えた。

「(……来たか!)」
後ろから振るわれる拳を皮一枚のところで、跳躍してかわしきる。
相当な使い手のようだが、最後の最後で気配を現し詰めを誤った。
後は、空中から極星十字拳を見舞えいい。

「はぁーーー!!」
大きく声を上げると、相手が誰であるかも考えずに交差させた腕を解き放つ。
これは、真剣勝負。
情けをかければ自分が死ぬ。
何の迷いも無く拳を振るった。



「だめぇーーーー!!」
「……ぬ!?」
突如として、あらぬ方向からの叫び。
今にも振り抜こうとしていた拳を反射的に止めるとサウザーが地面に着地した。

「く……、誰だ!いや、……考えるまでもないが」
継承者への儀は、一対一の真剣勝負のはず。
他の物が横槍を入れるなどありえない。
その叫びは覚えのあるものだったのか、少し慌てながら目隠しを外した。

「やはりか……、こんな所で何をしている!」
サウザーの傍に立っていたのは、あの黒いバリアジャケットを着て、杖のような物を持ったフェイトに間違いは無い。
どうして戻ってきたのかは分からないが、相手がただの子供ではない事を知っている。
何の真似かと声を出したが、その人形のように整った顔を振り向けると小さく呟くように言った。

「だめだよ……」
「なに……?」
今まで見せたどの物よりも悲しそうな目を見て、サウザーも次第に平静を取り戻すと、今になって次々と疑問が湧き出してきた。
相手も南斗の使い手なら、拳の威力はその身が一番良く知っているはず。
未熟な者ならともかく、あれだけの使い手が何故あの場面で見せ付けるように気配を晒したのか?
それに一体、誰と闘っていた?
南斗鳳凰拳は、文字通りの一子相伝。
師弟を合わせても、一世代での使い手はたったの二人。
あれ程の使い手であれば、他の流派の高位の伝承者だと考えていたが、いかに南斗鳳凰拳とはいえ、敗れれば命を落とす真剣勝負に他の流派の伝承者を使う事は出来はしない。
まさか、と思うと嫌な汗が全身を包む。
震えながら前を見ると、そこに居たのは一つの影。
雨が降り出し、一際大きな雷光が辺りを包む。
その先にあった影は、誰よりもサウザーが知る男だった。

「お……、お師さん……!」
能面のように無表情で佇むオウガイの姿を見ると、支えを失ったかのように膝から崩れ落ちた。
無数の雨粒が身を叩き容赦無く体温を奪っていくが、サウザーの頭の中はかき混ぜられた鍋のように錯綜している。
目隠しをしての試練。
オウガイならば、あの場面でも相手に気配を悟らせるような真似はしない。
無論、気配が無くとも空気が動く僅かな流れを掴めばサウザーならかわす事も十分にできる。
だが、手傷を負う可能性もある。
そうなれば、放つ拳が浅くなっていたかもしれない。
オウガイは最初から死ぬ気だったという結論に達すると、俯いたまま搾り出すかのように声を出した。

「な、なぜ……!どうしてですか!」
フェイトが間に入らなければ、今頃は師を手にかけていた。
知らなかったとはいえ、オウガイを殺そうとした。
他人がやったとしたら万死に値する行為を他でもない自分がやろうとしたのだから、許せる行為ではない。
冗談でもいいから嘘だと言って欲しかったが、返ってきたのは何の感情も篭っていないような冷たい言葉だった。

「……南斗極星の拳、南斗鳳凰拳もまた北斗神拳と同じく一子相伝の拳法。伝承者が新たなる伝承者に倒されていくのも我らが宿命なのだ」
「ならば、なぜその事を俺に隠していたのですか!?」
「お前は、南斗鳳凰拳を継承できるまでに力を付けた。だが……、継承への試練が、継承者を斃さねばならぬ事を知って試練に挑めたのか?」
「そ、それは……」
十五年もの間、オウガイを師と呼んできた。
その存在は、サウザーを構成している若木の幹と言っても間違いは無い。
それを切り崩すという事は、今までの全てを破壊する事に等しい。
まして、サウザーは父のようにオウガイを慕っているのだ。
できるわけがない。

その事を見越しての目隠しだ。
思わぬ横槍はあったが、オウガイはフェイトを責めはしない。
これも南斗鳳凰拳の宿命。
こうなれば、本来のやり方で伝承者への試練を行うまでだ。
そう心を決めると短く告げた。

「こうなっては、致し方あるまい。立てサウザー」
「お、お師さん……」
「師を斃し、その屍を超えてみせよ!わしは、お前の瞳の中に極星、南斗十字星を見ているのだ!お前には鳳凰拳歴代最強の使い手になる資格がある!」
半ば説得するかのように語りかけるとようやくサウザーが立ち上がったが、その心にあるのは迷いの一色。
両眼からは雨に混ざる様に涙を流し、口は奥歯も砕けんばかりに強く噛み締められ、唇を噛み切ったのか血が流れ出ている。

改めて二人が対峙する姿は対極的な物で、サウザーは師を失う事になる悲しみと、師を殺さねばならない自分への怒りが混ざったような壮絶な表情。
対してオウガイは、依然として仮面のように変わらぬ表情を保っている。
これがあのオウガイかと、知っている者が見れば驚くかもしれないが、理由は一つ。
顔を仮面に変えねば、オウガイとて今のサウザーを直視する事は出来ないのだ。
ほんの少し目を閉じた後、オウガイが静かに言った。

「構えよ」
「…っ…ぐ……!お師……!」
その言葉が何を意味するのかは当然知っている。
通常、構えを持たぬ南斗鳳凰拳でも二つだけ例外が存在するのだ。
一つは、北斗龍撃虎に対応する南斗虎破龍の構え。
この構えは南斗聖拳高位の流派では共通の構えであるのでこれの事ではない。

もう一つ。
南斗鳳凰拳奥義、天翔十字鳳。
他の五聖拳を遥かに凌ぐ南斗鳳凰拳の使い手が、対等と認めた相手のみに対して使う不敗の拳。
不敗の拳がぶつかり合えば、どちらかが斃れるのは必定。
サウザーが声にならない声を出しながら、二人同時に構えを取り始める。
老いた鳳凰と若き鳳凰が翼を広げようとした瞬間、その間に割って入る影があった。

構えが完成するより先に、大きく両手を広げてフェイトが立ちはだかる。
そして、対峙する二人を見ると、兎を連想させるような赤い瞳からボロボロと涙を流し出した。

「嫌だよ……、オウガイさんもサウザーさんも、あんなに仲が良かったのに、そんな理由でどっちかが死んじゃうなんて嫌だ……」
優しくしてくれた母さんが、急に愛情を受け入れなくなった。
もう一度、優しかった頃の笑顔を向けてもらいたい。
もう一度、優しく抱きしめられたい。
だから、どんな危険を冒そうとしてもジュエルシードを集めている。

そんな中、出会った二人の父子は、一人は己を殺せと言い、もう一人は血の涙を流しながらそれをしようとしている。
無意識に母と自分を重ねてしまった。
もしそんな事になれば、自分には耐えられない。

それが切欠になったのか、本格的に泣き始めた。
大人びているとは言え、フェイトは九歳の子供。
少しの間でも、自分を家族みたいに優しくしてくれたオウガイの事は好きだし、サウザーだってそうだ。
その二人が闘うのだって嫌なのに、一人が死んでしまうなんて絶対に嫌なのだ。
後は、「フェイト様は本当に頭の良いお方」とダムをダイナマイトで爆破するような物で、あっという間に決壊し、一度流れたら止めようの無い水が流れ出るのだった。


一子相伝、南斗鳳凰拳の宿命。
それは南斗の者なら、侵すことの出来ない崇高な物である。
しかし、深い愛情を分かち合った親と子が殺し合う事には変わりない。
フェイトからすれば、まさしく『そんな理由』なのだろう。
無論、それはサウザーにも言える事だった。

「そんな事は……、分かっている!分かって……いる……」
フェイトに言われるまでもない。
誰が好き好んでこんな事を続けたいと思うものか。
構えを取った腕を下ろすとサウザーの目から光が消えた。

「(わしらの負け……か)」
サウザーが闘える状態でなくなった事を見るとオウガイも構えを解いた。
少なくとも、今は誰にもどうする事もできはしない。

だが、サウザーにとって真に厳しくなるのはこれからだ。
いずれにしろ継承への試練は行わなければならないし、それをしないというのであれば南斗鳳凰拳を継ぐことはできない。
南斗鳳凰拳も北斗神拳と同じく一子相伝だが、伝承者候補はただ一人というのが常だ。

技と体は全てを伝えた。
後は心の問題だが、こればかりは教えられる事ではなく己で掴まねばならない。

少し事を急ぎすぎたと言えば否定は出来ない。
一五という年齢で一つの流派を伝承するという事は、北斗南斗を含めても早過ぎる事なのだ。
少なくとも二、三年は待つべきだったかもしれないのだが、それを前倒しさせたのはオウガイ自身の衰えにある。
肉体の衰えを技で補ってきたが、それも今年で限界を迎える。
そうなってしまえば天を駆ける鳳凰と言えど地に向かって落ちるだけだ。
そうなる前にと思った末だったのだが、裏目に出たのかもしれない。


それにしても不思議な子だと、フェイトを見ながらそう思う。
南斗最強を誇る師弟がたった一人の少女に手も足もでなかったのだ。
それに、送り届けた海鳴市からここまでは、子供一人が来れるような場所では無いはずだが……。

小さく息を吐くと、その事については考える事を止めた。
過ぎた事をいくら考えても、事態が何一つ変わるわけではない。
むしろ、これから先の事について山ほど考えばならないのだ。
とにかく、フェイトが雨に打たれたままというのは良くない
泣くフェイトを抱え上げると、少しサウザーを見た。

「お、お師さん……」
「言うでない。とにかく、一度戻るぞ」
事此処に至っては語るべき事は何も無い。
それを分かっているからこそ、サウザーも何も言えない。
この先がどうなるかなど、誰にも分からないのだ。

ただ一つ確かな事は、雷雲の向こう側では死兆星がまだ輝いているという事だけだった。




ヒャッハー!あとが、あとが、あとがががが……がさのば!!
毎日毎日南斗残業拳……どういう事なの……。

ユリアの幼少時代とか外伝探しても殆ど描写無いから全く分からん……。
とりあえず、ジャギ様にも様付けするようないい子ではあるみたいだけど。

そして、ユリアとフェイトの部分をどうするか悩んでいる間に、次の話のバトル部分が八割完成してたってのはもっとどういう事なの……。

次はもう少し早く投稿したい。



[18968] 第十二話:強敵
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:b58691f1
Date: 2010/12/04 00:33
小都市とは言え、それなりの人口を備えるからには相応の娯楽もある。
夜の繁華街ともなれば結構な人通りだが、少し外れた裏通りのような場所では数人の人影が蠢いていた。

「いい加減……くたばりやがれッ!」
半ば絶叫にも似た叫びと共に鳴り響くのは紛れも無く殴打音。
見たまんまチンピラ丸出しの人相の悪い男達が一人を袋叩きにしているのだが、どれだけ蹴られ殴られようともその男が地に伏せる事は無かった。

「……気は済んだか?」
いい加減、飽きたのか仁王立ちのままサウザーが囲んでいる男達に向けて言う。
しかし、何時もとは様子が違う。
その目に光は無く、声もどことなく抑制を失っているように見える。
まるで夢遊病者か、精神を病んでいる人間のそれだ。

殴られている理由はただ単純。
半ば彷徨うように歩いていた所、肩がぶつかったとかで因縁をつけられた。
心底どうでもよかったのでそのまま無視しようとしたのだが、一人が二人、二人が五人と数が増え今に至る。
いくら数が多くても所詮は素人。
どれだけ袋叩きにしようが、南斗聖拳の修練を積んだサウザーにさしたるダメージも与える事はできない。
蚊が刺した程にも気にも留めないサウザーの態度に業を煮やしたのか、男達が得物を手に取り始めた。

そこら辺に散乱していた廃材からバタフライナイフまで様々だが、それを見てもサウザーが動じる事は一切無い。
背後から鉄パイプを振りかざした男が迫る。
だが、頭めがけて振り下ろそうとした瞬間、いつの間にかサウザーの指先が額に突きつけられていた。

「……死ぬぞ」
どこまでも底冷えするかのような声でサウザーが呟くと、男が握っている鉄パイプに切れ目が奔りあっという間に鉄屑へと化した。
南斗聖拳の、まして南斗最強を誇る南斗鳳凰拳の動きをただの人間が見切る事は不可能に近い。
腕を振るう動作すら見えなかったはずである。
その気になれば、ここに居る全員を皆殺しにするまで三秒とかかるまい。

「ひっ……こいつ、ば、化物だ……!」
その光景を目にし、誰か一人が叫ぶと得物を手放し後ずさる。
今更ながら、目の前の男がただ殴られているだけの木人形ではないと理解したのだ。
そうなれば、後は蜘蛛の子を散らすかの如し。
十秒も経たないうちに、路地裏には一人サウザーが取り残されていた。

「くっく……はははは、化物か」
逃げ惑う男達を眺めながら、どこか自虐的な笑いを込めながらサウザーが呟く。
素手で鋼鉄を容易く切り裂き、ダイヤモンドすら二本の指で砕くなど、確かに化物だろう。
とはいえ、それが南斗聖拳だ。
外部からの破壊を極意とする一撃必殺の拳。
物心ついた時から南斗鳳凰拳を学んでいた。
今までも、そしてこれから先もそれは変わる事は無いと信じていた。
それが甘い考えだったと分かった時には、危うく取り返しのつかない事をしてしまうところだった。
ギリギリのところで踏みとどまれたのはフェイトのおかげだ。
それについては返しきれぬ借りが出来たが、同時に大きな悩みも生んだ。

「……何をやっているんだろうな」
今まで何の為に南斗鳳凰拳を学んできたか。
……それは考えるまでもなくオウガイのためだ。
技を一つ体得するたびに我が事のように喜び、ぬくもりを与えてくれた師の為である。

サウザーに与えられた猶予はあれから一月。
師を斃し南斗鳳凰拳を継承するか、継承を諦めるか決るようにと言われた。
それだけなら、サウザーがこうも思い悩む事は無い。
例え、拳を潰されても、恨みはしないしオウガイを手にかけてまで南斗鳳凰拳を継承しようとまでは思っていないからだ。
それがこうなっているのは、サウザーが南斗鳳凰拳を継承しなければ、南斗鳳凰拳が今代で潰えてしまうという点にある。
すでに老齢のオウガイには、また新たに伝承者を育てる時間は残されてはいないし、なによりその気が無い。
オウガイにとって、サウザーは己が持てる全てを注ぎ込んだ愛弟子なのだ。
師の期待に応えるには、その師を斃さなくてはならない。
サウザーにとっては、バグ昇竜とムテKING……もとい矛盾もいいところだ。
もう一週間ばかり経つが、明確な答えがあるわけでもなくただ虚ろに時間だけが過ぎていっている。
どうしようもないまま一歩踏み出すと、不意にサウザーの体から力が抜けた。

「ぬぁ!?」
急な事に受身も取れぬまま、地面へと倒れ付す。
南斗聖拳の使い手にしては無様としか言いようが無いが、今のサウザーは常人からすれば意識を保っている事すら不思議なぐらいに酷い有様である。
なにせこの一週間は、ろくに寝てもいないし、食事どころか水すらもまともに摂っていないのだ。

どうにか体を仰向けに起こすと、建物に囲まれた先の空をなんともなしに眺める。
この空には星も何も無い。
普段見慣れた空とは違って、それがなんとも言えず空虚だった。

「南斗六星の宿命……か。くだらんな……」
将星の宿命がただ肉親も友も持たぬだけの事であるのであれば、なんとも虚しい星だ。
そんな物を背負うぐらいなら、このままここで野垂れ死んだ方がいいのかもしれない。
全てがどうでもいい。そう考えると視界すら歪む。
死のうが生きようが知った事ではないと自棄気味に意識を手放そうとすると、何だか見覚えのあるような物が見えた気がした。






「……ここは」
気分の悪さを感じながら目を開ける。
どうやらまだ死んではいなかったようだが、視線の先には天井がある。
天井があるという事は部屋の中だろうかと当たりを付け、上体を起こすと見知った顔があった。

「あ、起きた」
「う……アルフ……か?貴様、こんなところで何をしている」
まだ頭が重いし思考がはっきりとしないが、それでも辛うじて相手がアルフだという事ぐらいは理解できる。
頭を押さえながら言うと、何でか知らないが物凄く呆れたような声で返された。

「こんなところって……。はぁ……ここはフェイトの家だよ。ジュエルシードを探してたら、あんたがぶっ倒れてたのを見つけてわざわざ運んでやったんだ。感謝ぐらいしたらどうなんだい」
フェイトの家、と言われ辺りを見回すと、えらく殺風景だがそれなりの家具がおいてある。
窓から見える景色が高いので、マンションか何かの一室だろうかと思っていると、水の入ったペットボトルを投げ渡された。

「む……」
とりあえず、一口飲むと残りは砂漠に落とした水滴のように無くなっていく。
ほぼ一週間ぶりにまともな水を口にするだけあって、どれだけ乾いていたかを嫌でも自覚させられるというものだ。
中身を全て飲み干すと短く聞いた。

「どのぐらいだ」
「三四時間ってとこかな。一体何やってたのさ」
「くそ……、どうりでな……」
体力的というよりはむしろ精神的に大きく疲弊していたというのもあるが、それにしても一日半というのは長い。
それだけ寝続けていれば、この体の重さも納得がいくというものだ。
とにかく、ここでこうしているわけにもいかない。
特に目的があるわけではないが、じっとしている気にはなれないのである。
だが、起き上がろうとすると、アルフに肩を押され倒されてしまった。

「まだ無理しない方がいいよ。あたしに力負けするようじゃ本調子じゃないんだろうしさ」
「……俺の事など放っておいてもよかろう。何故助けた」
どちらかというと本調子ではないのは体より精神の方。
普段の強気がどこへサラダバーしたのか、目に生気という物が感じられない。
事の経緯に関してはアルフも大まかな事はフェイトから聞いているため、少し考えるような仕草をとると言った。

「んー、強いて言うなら目だね。今のあんたが少し前のフェイトみたいな目をしてるからさ」
フェイト、と言われてサウザーの体が少し動いた。
拾って話をした時からだが、常に何か重たい物を背負っているような目をしていたのは感付いてはいた。
フェイトが必死になってジュエルシードを集めている理由もその辺りにあるのだろう。
今やサウザーも南斗鳳凰拳の歴史と師の命を天秤にかけているのだ。
それを一人で背負い込まねばならないのだから、あれと同じと言われれば確かにそうかもしれない。
そう言えばフェイトの家と言っていたが、肝心の主の姿が見当たらない。

「あいつは……」
改めて上体を起こしながら、どうしている、と言い終えるより先に部屋の床が光る。
俗に言う魔法陣のような物が現れると、話そうと思っていたフェイトが姿を見せた。
ただし、経絡秘孔によって癒えたはずの体は再び傷だらけになっていたが。

「フェイト!」
アルフが駆け寄ると、フェイトの体が揺れアルフにもたれ掛かる。
この傷跡は、以前サウザーが見た物とほぼ同じだ。
さすがにこれを見ては言うべき言葉が出ない。
頭の重さを振り切り立ちあがった先では、何を思ったか外に出ようとしているフェイトをアルフが必死になって止めようとしているところだった。

「もう止めようよ!どうしてそんなに傷だらけになってまで、あいつのためにジュエルシードなんか集めなきゃなんないのさ!」
「それがわたしの望みだからだよ。さ、行こう。早しないと、あの子に先をこされちゃう」
「フェイトぉ……お願いだから無理しないでよぅ」
力の無い笑顔でフェイトが言うとアルフが泣きそうな顔になったが、それでもフェイトは歩みを止めない。

「大丈夫だよ……、わたしは強いから……」
アルフの制止を振り切り、フェイトが外に出て行こうとするより先にサウザーがその前に立つ。
フェイトはサウザーを見ると何か言おうとしていたみたいだったが、それよりも早くサウザーの指がフェイトの鼻の下辺りに突き付けられる。
すると、フェイトがピクリと体を震わせると力を失い床に崩れ落ちた。

「あ、あんたフェイトに何したんだい!」
慌てたアルフがフェイトの元に駆け寄るとサウザーを睨み付けた。
今にも掴み掛かってきそうな勢いだったが、傷を負っている所にいきなり何かやったのだから無理も無いのだろう。
なので、今やった事を説明する事にした。

「貴様が騒ぎ立ててどうする。経絡秘孔の一つ『定神』を突いた。しばらくは目を覚まさん」
厳密に言うなら経絡秘孔を突く事を北斗神拳とは言わない。
経絡とは血の流れ。
外部からの破壊を真髄とする南斗聖拳でも人体の経絡の流れを知ることは基本の一つ。
経絡秘孔を突き人体を内部から破壊するのも、経絡の流れを断ち切り外部から破壊するのもそう大差は無いのだ。
極端な話になるが、秘孔の位置を把握し、気を使う事が出来るのであれば誰にでも出来る。
ただ、それを戦いの中で正確に使いこなすとなると話が違ってくるというわけである。

「そ、そうかい。よく分かんないけど、フェイトは大丈夫なんだね」
経絡秘孔の事は理解できていないようだが、フェイトに危害を加えてないのならそれでいいらしい。
安堵したかのように息を吐くとフェイトを抱え上げ寝床へと運ぶ。
動かないフェイトを見つめていると後ろからやけに威圧感の篭った声が聞こえてきた。

「話せ。お前達が、こうまでしてジュエルシードとやらを手に入れようとする理由をな」
傷跡から鞭か何かの類だとは当りを付けてはいたが、さすがにこれは尋常ではない。
拳を学んでいるならともかく、その対極的立場にいるやつがこんな傷を負うなど普通はありえない事だ。

「それは……」
それでも、アルフは話すことを躊躇った。
本来、サウザーはこちら側の世界とは無縁の人間である。
だが、フェイトを助けてくれた事には変わりは無いし、近接戦闘にかけては無類の強さを誇る。
それに今のところ南斗聖拳の人間で魔法やジュエルシードの事を知っているのはサウザーだけなのだ。
最悪の場合、身を隠す為に手を借りる事になるかもしれない。
だから、少し悩んだ末に話す事に決めた。

「フェイトをこんな目にあわせたやつの名前はプレシア・テスタロッサ」
「プレシア……、いや、待て。確かこいつも」
「そうさ。フェイトの母親だよ……」
手を握り締めながら辛そうに言うアルフを見て、やはりかと内心で舌打ちをした。
薄々は予測していた事だが、実際にそうだと知ると改めて気に入らない。

「これ、さ。フェイトとあいつの昔の写真なんだけど」
そう言って渡された写真を手に取り眺める。
写っていたのは、今よりもさらに幼い頃のフェイトと、髪の長い女、恐らくプレシアの姿。
それを見るとまずサウザーは驚いた。

「こいつ、こんな風に笑えたのか」
拾ってからすぐに月村に行ったというのもあるが、サウザーはフェイトが笑っている姿など一度も見た事が無い。
しかし、この写真の中の二人は本当に幸せそうに笑っているのだ。
だからこそ、今が解せない。
この写真のプレシアからは、どう捉えてもフェイトにこんな真似をするようには見えない。
一体、どういう事かとアルフを見ると言いにくそうに答えた。

「あたしがフェイトの使い魔になった時には、もうこんなだったからね。リニスなら何か知ってたかもしれないけど」
リニスというのは、プレシアの使い魔でフェイトの教育係をしており、今はプレシアからの魔力供給を切られ文字通り存在していない。
つまり、何があったかを知る術は無いという事だ。

「たぶんだけど、あいつはジュエルシードをたくさん欲しがってるからね。フェイトが持っていった数だけじゃ足りなかったんだよ。それで……」
言いながらアルフが悔しそうに壁を叩く。
今まで集めた数は五個。
そのうちの三つは、フェイトがなのはと戦って手に入れた物だ。
一つ手に入れるだけでも大変な物を五つも持っていけば喜んでくれるかなと言って、サウザーの事をアルフに任せ届けに行ったのだがGOLANの有様である。

「あんたのとこで世話になってから、フェイトがよく笑うようになったんだ。それなのにこれじゃああんまりだよ……」
オウガイに連れられて南斗の里に行った事。
そこで女神像に祈った事やユリアやジュウザと出会った時の事を楽しそうに話してくれた時は本当に嬉しかった。
それだけに、この仕打ちが我慢ならないし、何よりフェイトを守れなかった自分自身が歯痒い。
奥歯を噛締めながらフェイトに回復魔法をかける。
苦手だがやらないよりは遥かにマシだ。
そのアルフの反対側ではサウザーが血の流れからフェイトの秘孔の場所を探り始めた。
比較的分かりやすい定神はともかく、治癒の秘孔は場所も力加減も紙一重なだけに慎重にならざるを得ない。
壊す事は得意だが、治す事は不得手な二人がフェイトの手当てを終えたのは一時間程後になるのだった。







とっくの昔に日は落ちて、今や深夜一歩手前の海鳴の町をサウザーが歩く。
結局、あの後、気が付いたフェイトは心配するアルフを連れてジュエルシードを探しに出て行った。
傷は完全に癒えていないだろうに無理をするものだ。
気にはなったが、魔力なぞ感じ取れぬこの身。
付いていったところで足手まといにしかならない。

何が、あれほどまでにフェイトを突き動かすのか。
少し考えたが、そんな事は決まっている。もう一度、母からの愛情を受け取りたいという想いだけだろう。
なんにせよ、フェイトは答えを見つけようと前に進もうとしている。
それすら出来ずにこんな所で燻っている自分なんかより遥かに強い。
南斗最強の名が聞いて呆れる。

特にあてもなく歩いていると、潮の匂いが鼻に入ってきた。
辺りを見回してみると海鳴市臨海公園とある。
知らない間に海沿いまできてしまったようだ。
夜のためか人気は無く、人の気配も特に感じられない。
なんとなしに公園に入るとほんの少し違和感を感じた。

「ん……?」
肌がヒリ付くようなこの感覚。
姿は見えないが誰かがどこかで気を放っている。
しかし、この強さ。並どころの話では無い。
自分と互角か、下手をすればそれ以上。
わざわざ見せ付けるように気を放っているという事は、暗殺や闇討ちが目的ではないという事になる。
徐々に気配が大きくなると、公園の反対側から大きな影が姿を現した。

「……!」
あの姿。
記憶にある物より一回り程巨大になったが、幾度も拳を交えた相手だ。
見誤うはずが無い。
北斗の長兄にして、今現在において最も次代北斗神拳伝承者に近い男。
思わぬ伏兵の登場にさすがに今のサウザーも声を大きく張り上げた。

「な……!?ラオウ!なぜ貴様がここに!」
素行不良が目立つジャギならばともかく、ラオウが北斗の寺院から出てくる事など考えられない。
しかも、わざわざ気を放ってきたという事は、自分がここに居ると知っての事だ。
どういうつもりなのかという意味を込めて言うと、ラオウはサウザーを一瞥すると淡々と言った。

「うちの愚弟が、ゴミ共に良い様にやられている貴様を見たと言うのでな。それを確かめにきてやったまでだが……ようやく俺に気付いたようでは、どうやら本当のようだな」
口振りから察するに、ラオウはサウザーをかなり前から見つけていたらしい。
普段なら気付けたはずだが、今日に限ってラオウの気配を掴めなかった。
海が近いだけに、一生の不覚というやつだ。
まぁ、何度不覚を取るか分かったものではないが。

愚弟というからには、また寺院を抜け出したジャギあたりにでも見られたのだろうが、よりにもよって一番余計なやつに余計な事を言ってくれたものだ。
それはそうとしても今はラオウなんぞに関わっている暇は無い。
軽く舌打ちをすると露骨なまでの不機嫌さを隠さずに言った。

「わざわざ俺を探し当てた努力は買うが、俺は貴様などに用は無いんでな。貴様が何をしに来たかは知らんが……!?」
端的にさっさと帰れ、と言おうとしたのだが、ラオウの拳が迫っている事に気付き中断させざるを得なくなった。
炸薬が炸裂したかのような音が響くとサウザーの身体が意思とは別に宙に上がる。
無論、正面から拳を受け吹き飛ばされたわけではなく、咄嗟に両掌を突き出して受け止めたのだが、その威力が半端では無かった。
受ける直前に、自ら後ろに跳んで威力を殺したにも関わらずこの衝撃。相変わらずの馬鹿力だ。
痺れの残る腕を気にしながらも空中で体勢を立て直し着地すると、不敵に佇むラオウを見据えた。

「……どういうつもりだ。よもや、北斗南斗は争ってはならぬという戒めを忘れたわけではあるまい」
今の一撃。
受け損なえば、良くて重症、悪ければ死に繋がる物だった。
いくらこいつでも北斗南斗の掟ぐらいは知っているはずだというのに、それを無視した振る舞い。
下手をすれば北斗神拳伝承者の道を失うかもしれないのだ。
だが、ラオウは動じず手を前にかざしながら見下すように言い放った。

「無論だ。だが、それが何の意味を持つ」
「……貴様、何が言いたい」
「陽拳などと言いながら、南斗など北斗の影に隠れているだけにすぎん。現に、南斗は北斗を恐れ何一つ事を起こせてはおらぬ。
  腑抜けた貴様程度が使う鳳凰拳も含めて北斗の足元にも及ばぬ二流の拳よ。精々口実を作り北斗から逃げ続けるがいいわ」
確かにラオウが言うように北斗神拳と南斗聖拳は互角とは言い難いところがある。

南斗乱るる時、北斗現われり。

古来より言い伝えられるこの言葉は、誇張でも何でもなく事実に則している。
南斗聖拳は陽拳。
表の世界に広がりはしたが、数多くの分派を産み薄まった拳では一子相伝の北斗神拳に勝つ事はできず、分裂した南斗は北斗に征される。
故に南斗の先人達は常に北斗の影に脅え、沈黙を強いられてきた。

そんな中、一つの流派が誕生し力関係が大きく変わった。
北斗に対抗する為に編み出されたと言ってもいい拳の名は南斗鳳凰拳。
南斗鳳凰拳は南斗の頂点のみにあらず。
北斗を越えてこそ初めて意味があるのだ。
まして、こうまで好きに言われて誰が黙っていられるものか。
抜け殻のようだった目に光が戻ると同時に、その場からサウザーの姿が魔法のように掻き消える。
一度の瞬きすら終わらぬ僅かな時間。
その一瞬の間にサウザーが一気に踏み込む。
間合いに入られたとラオウが気付いた時には、喉元に向けて突きが伸びている所だった。

「ぬぅ……!」
「くっ……!」
必殺の威力を持つ手刀はラオウの喉を貫く皮半枚の所でピタりと止まった。
無論サウザーが止めたわけではなく、すんでの所でラオウが腕を掴み止めたのだ。
互いに渾身の力を込めながら睨み合うが、二人ともほとんど同じ事を考えていた。

――こいつ、前よりも力(速さ)が上がってやがる!

ラオウはサウザーの姿を一瞬とはいえ完全に見失い、サウザーはこれ以上無いタイミングで突きを見舞ったというのに手刀が完全に止められている。
以前のままなら、これで完全に決まっていたはずだし、ラオウもサウザーを見失う事などなかった。

とにかく、このままラオウに腕を捕まれたままというのは拙い。
現に今も腕の骨が軋みをあげているのだ。
その体勢からの蹴りで力が弱まった隙に力任せに振りほどくと間合いを取る。
捕まれた腕を見ると、そこにはラオウの手の跡がくっきりと残されていた。

「ちっ……!馬鹿力だけは相変わらずゴリラ以上か」
「貴様こそ、ちょこまかと鼠のようによく動きよるわ」
悪態を付き合うが、それでも二人とも内心では相手のことは認めざるを得ない。
技の技量はほぼ五分。
力と肉体の頑強さではラオウが勝り、拳速と身のこなしではサウザーが勝る。
しかも、二人とも達人級の腕前を持つというのが拙い。
肉を切らそうとしても、下手をすればそのまま骨ごと断ち切られてしまう。
元より長期戦は望むところではないし、長引けば不利になる。
同時にそう考え、次に先に動いたのはラオウだった。

「この俺の剛拳、いつまでも避けきれると思うな!」
ラオウが一歩踏み出す毎に空気が震え揺れる。
凄まじいまでの圧だ。
見るもの全てに恐怖を与えるような姿は、北斗の長兄というだけのことはある。

しかし、南斗鳳凰拳にあるのはただ制圧前進のみ。
ラオウを相手にしても後退などという選択肢は一切無い。
間合いを詰めてくるラオウを見据えながらサウザーも動いた。

「ほざけ!鳳凰拳の真髄、貴様の体に刻み込んでくれるわ!」
確かにラオウの放つ気は凄まじいが、以前闘ったジャギ程ではない。
もう既に極星十字拳の間合いに入った。
攻撃を繰り出す暇など与えるつもりは無い。
だが、不意に嫌な気配を感じ、反射的に後ろに飛びのくと、次の瞬間目の前をラオウの脚が通り過ぎ僅かに額を掠った。

「ぐ……馬鹿な!」
直撃こそかわしたものの、少なくない量の血が額から流れ出す。
そこまで深くは無いが目に入りでもしたら厄介だ。
額を押さえながらラオウを見やったが、その姿に目を見開いた。

「っ!……貴様!」
見ていないのだ。
ラオウはサウザーの姿を見もせずに的確に蹴りを放っている。
神速と評される南斗鳳凰拳の踏み込みを、見もせずに見切るなど不可能だ。
……いや、聞いた事がある。
殺気のみを感じ取り、間合いに入ってきた者へ拳を繰り出す北斗神拳の奥義を。

「こ、これが北斗神拳奥義、無想陰殺か!」


                    北斗神拳奥義ほくとしんけんおうぎ
                   む  そう  いん さつ
                 無 想 陰 殺


「そういう事だ。いくら速く間合いに入ったとしても殺気は消せぬ
  例え殺気を消したとしても、動きは流れる空気が教えてくれる。貴様がどう足掻こうが北斗神拳を倒す事はできんのだ」

殺気を消す事は出来ないわけではない。
しかし、それでは拳の打ち込みが甘くなるし隙も生む。
力量に差がある相手ならそれでも構わないが、ラオウ相手にそれをやるなどナギッが暴発したら挑発で返済する行為に等しい。

潜在能力を全て引き出す天龍呼吸法。
空気の流れを感じ、例え暗闇の中の全方位からの攻撃をも見切る空極流蕪。
そして、相手の殺気を読み、間合いに踏み込まれれば無意識無想に繰り出される無想陰殺。
どれもこれも隙の無い奥義ばかりだ。
一つだけでも並の流派の力を軽く上回っている。
北斗神拳の奥義を極めつつある男からすれば、あのジャギなど闘気だけの小手先の相手にすぎないという事だろう。
最強の暗殺拳と呼ばれているのも頷ける。
だが、南斗鳳凰拳とて伊達で南斗聖拳最強を名乗っているわけではない。

「……その程度でいい気になるなよ」
ならば、南斗極星の拳の使い手として打つ手は一つ。
ラオウが殺気を捉え、反撃してくるよりも先に攻撃を仕掛ける。
肉体の持つ潜在能力を100%出すことが出来るのが北斗神拳が南斗諸派を上回る理由の一つだが、南斗鳳凰拳に関してだけは違う。
あくまでも北斗と南斗は表裏一体。
南斗鳳凰拳にも同じような奥義は存在するのだ。

静寂の中僅かに響く呼吸の音。
サウザーの纏う気の質が変わった事に気付いたのかラオウが僅かに身構える。
瞬間、ラオウが放つ物にも勝るとも劣らない程の圧が辺りを包んだ。


                        南斗鳳凰拳奥義なんとほうおうけんおうぎ
                   ほう  おう  こ  とう  かい  てん
                  鳳 凰 呼 闘 塊 天


南斗鳳凰拳は受けを考えない攻めの拳。
故にその使い手は必然的に剛拳を得ることになる。
二人の拳の質は共に同質。
僅かな油断が、一分の隙すらも致命となり得る。
しかも、北斗と南斗の次代最強を担う使い手同士となれば、どちらかが勝利したとしても相打ちになる公算が大きい。
だが、例えそうであろうとラオウ相手には退けぬ。
深く息を吐くと全身に気を漲らせたサウザーが顔を上げた。

「貴様が望んだ事だ。もう加減はできんぞ!」
「ふっはははは、ようやくその気になりおったか」
いかに拳に優れていようと、敵が居なければそれは無用の長物。
はっきり言ってしまえば、ラオウは敵に餓えていた。
今のラオウの前に立てる者など、同じ程の拳の使い手か、己の実力を知らぬ阿呆のどちらかしか居ない。
その数少ない使い手の一人がさっきまで腑抜けていた男だったのだが、ようやく本気を出した。
そういう相手を打ち倒してこそ己の拳がより高みへと達する事が出来るのだ。
高ぶるなと言う方が無理って話である。

ラオウが構えると同時にまたしてもサウザーの姿がその場から消える。
肉体の持つ全ての力を引き出しての神速をも超えた踏み込み。
ただの人間が目で捉える事など決してできはしない。
まして、そこから放たれる連弾を全て凌ぎきるなど、中野の世紀末覇者か、アストロンがかかった魔法戦士ぐらいってもんだろう。

「ぬりゃあ!」
間合いに入ると同時に殺気に反応したラオウがカウンター気味に仕掛けたが、そう来ると分かっていれば打つ手はいくらでもある。
退くことは考えずに、ただ前へと突き進む。
頬を掠めるようにラオウの拳とすれ違ったが、それだけで十分すぎる程の隙が生まれた。

初撃は踏み込みからの間合いを詰めた十字切り。
本来の用途は崩し技だが、並程度の相手ならこれだけでも十分に必殺の威力を持つ。
その並ではない相手は、そう来ると待っていたとばかりに二の矢を繰り出した。

今までの経験から、一撃目がかわされるなどラオウも承知の上。
腕が立てば立つほど、正確無比にその隙を狙ってくるという事を見越しての誘いである。
これだけ逼迫した状況の中で平然とそれをやるのだから、ラオウの神経の太巻き具合が分かるというものだ。

もっとも、それにかけてはサウザーも負けてはいない。
力で勝るラオウ相手に正面からぶつかった所で不利になるのは目に見えている。
力で及ばぬのなら、力が及ばぬ程の速さで征すればいい。
当たらなければどうという事は無い!と言ったのは元祖三倍早くて赤い人である。
あれが誘いなど見え透いてはいたが、あえて乗った。
乗った上で、罠の存在ごと食い破る。

「ふっ!」
短く息を吐くと姿勢を低くし、低空姿勢のまま至近距離からさらに踏み込む。
ラオウの拳をかわした上で、脚を潰し一気に主導権を握るつもりだ。
しかし、ラオウもさるもの。
体の流れから攻撃の軌道を予測し、必要最小限の動きだけでサウザーの攻撃をかわしきる。
立場が入れ替わったところで反撃するかと思いきや、何を思ったかラオウが上体を沈み込ませた。

「けぇいっ!」
次の瞬間にはラオウの頭があった場所をサウザーの回し蹴りが通っているのだから、下手に反撃しようと思っていればマトモに受けていたところだ。
無論、ただの蹴りではなく南斗聖拳の脚技である。
ラオウのすぐ後ろにあった木がスッパリ両断されたのだから正面から当たれば即死は免れない。
蹴りをかわすと姿勢を戻し前を見たが、呆れた事にサウザーは蹴りを放った勢いのまま、空中で攻撃を仕掛けようとしている。
小賢しいとばかりにラオウが拳を振るうと、その拳の反動を利用しサウザーが間合いから離れた。

流れるような連続攻撃だが、これも極星十字拳という技の一つの形だ。
南斗鳳凰拳は構えの無い無形の拳。
そこから放たれる極星十字拳もまた同じ。
場の状況、相手、そして己の状態によって千変万化する技なのだ。
まぁ身も蓋も無い言い方をすれば、踏み込んでから最終的に十字に斬れればいいって事だが。

それはさておき、極星十字拳を見事にかわしきったラオウだったが、今のところ反撃する暇を与えられないで防戦一方を強いられている。
だが、手数が半端ではない上に、あの身のこなしの軽さは己の及ぶところではないのは昔から分かっている事なので想定の範囲内である。
ラオウとて何もサウザーの攻撃をただ受けていたわけではなく、虎視眈々と反撃の糸口を探っているのだ。
狙う先は間合いを離したサウザーの着地点。

「喰らえぃ!」
間合いを離したサウザーに向けて右腕を突き出す。
まだ闘気には至らぬが、ラオウの身体で練られた気が経絡を伝わり一つに集まり、赤い気の塊がサウザー目掛け打ち出された。


                         北斗神拳ほくとしんけん
                   ほく  と   ごう しょう  は
                  北 斗 剛 掌 波


右の掌から放たれた膨大な量の気の塊。
仮初とはいえジャギにも出来た事が北斗神拳歴代の使い手の中でもトップクラスの才を持つラオウに出来ないはずが無い。
ただ単に気の塊を放つという単純な技。それ故に破壊力は絶大だ。
しかし、それを放ったラオウにはサウザーを仕留めたという手応えは無かった。

「ちぃ!避けたか!」
ラオウが見据える先にはサウザーの姿は無い。
動いた先が左右どちらかならすぐにでも追撃に向かうつもりだったが、そのどちらでもなく姿が消え去っている。
ならば上かとラオウが空を見上げると、予想通り月明かりを背にサウザーが天を舞っていた。

「愚かな。空の不利を知るがいい!」
サウザーの姿を捉えるとラオウが迎撃の姿勢を取る。
いくら南斗聖拳が空中戦を得意としていても、足場が無い以上は地上から迎え撃たれては不利にならざるを得ない。
まして相手が北斗神拳なら、そのダイヤは7:3の値が付く程。
だが、サウザーが技の姿勢に入ったのはラオウの遥か手前。
遠距離への攻撃は、本来、北斗神拳より南斗聖拳の方が得意としている。
鋭い手刀が真空を生み出し、その真空が鉄をも切り裂く衝撃波を飛ばす事が出来る。
当然、その技の系譜は南斗鳳凰拳にも伝えられているのだ。
交差させた腕を解き放つと、大気すら寸断するかのような音がラオウの耳にも届く。
見る事は適わないが、ラオウになら空気の流れから感じる事が出来る。
これこそが南斗鳳凰拳に伝わる秘技が一つ。


                        南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   なん  と  ばく  せい  は
                  南 斗 爆 星 波


音速を軽く超えた拳速から放たれるのは、十字に重なった衝撃波の刃。
南斗紅鶴拳奥義『伝衝裂波』のように無数に放つというわけにはいかないが、殺傷力に関しては伝衝裂波を大きく上回る。

不可視の刃が近づいて来る事を肌で感じ取ったのか、さすがのラオウも一瞬判断に迷った。
ただの衝撃波なら、鋼とも言える肉体を持つラオウにとってはかわすまでもない。
受けきった上で相手をその上から粉砕すればいいだけのこと。
だが、あれを放ったのは自分に近いか同等とも言えるだけの実力を持った男である。
不意にラオウの頭の中に胸から大きく血を吹き出す己の姿が写ると、瞬時に後ろに飛ぶ。
次いで軽くない衝撃と四散した土や石がラオウを襲ったが、これはダメージにはならない。
土煙が晴れた先を見ると、さっきまでラオウが立っていたはずの地面が大きく抉れ、その跡には深く鋭い巨大な十字の傷跡が残されていた。

「さすがだなラオウ。この技の威力をその身で受ける前に察したか」
地面に降り立ったサウザーがラオウに向けてそう言い放つ。
拳を使う者にとって想像力も重要な要素の一つだ。
相手の動きや流れなどを見切りその先を読む。
初めて見る南斗爆星波の威力を見切ったあたり、嫌でもラオウの実力の高さを認めざるを得ない。
もっとも、それはラオウにとっても同じ事が言える事だったが。

「貴様にはこの手の技は見せた事は無かったが、よくかわせたものだ」
どこか感心したかのようにラオウが言う。
基本的に気を飛ばして相手を攻撃する技は元斗皇拳が得意としている事で、北斗神拳にも同じような技があるという事は秘伝である。
まさか似たような技をジャギが放っていたなどとは夢にも思うまい。
瞬時に北斗剛掌波を見切り、かわしきった上での反撃。
既に北斗神拳の奥義を極めつつあるこの身を以ってしても、あの技を避ける事を余儀なくされた。

不動のまま睨み合う二人の間に時折火花のような物が発生しているように見えるが、幻覚でも錯覚でもない。
二人の剛の気が触れ合う事によって本当に火花が散っているのだ。
そして両者ともに動こうとはしない。

実力はほぼ互角。
しかも、まだ互いに切り札とも言える奥義を何枚も隠し持っている。
それでもどちらかと言えば、北斗神拳が効かぬ体と、天翔十字鳳を持つサウザーの方が有利と言えば有利だろう。
しかし、それを差し引いてもラオウの力と北斗神拳の奥深さは警戒に値する。
下手に仕掛ければ痛手を被る事になりかねない。
そこまで考えてサウザーが頭を振ると小さく笑みを浮かべた。

「次でケリを付けるか」
元より相打ち上等で臨んだ闘いのはず。
それになんと言っても、制圧前進を旨とする南斗鳳凰拳が膠着するなど性に合わないにも程がある。
こいつ程の使い手なら命を賭けるのもそう悪く無い。
サウザーの気が一段と高まった事を見て、ラオウもまた笑みを浮かべた。

「ふはは……、よかろう。小細工は抜きだ」
この北斗の長兄をして全力を尽くすに値する相手だと認めよう。
名を上げるためだけにやってくる道場破りのような連中は一山いくらの雑魚ばかり。
トキを相手にするにしても、組み手という性質上ここまで本気になれる事は無く、日々鬱憤が溜まっていく一方だったが、それが全て解放された気分だ。
やはり闘いとはこうでなくては面白くない。
腕に力が入ると自然にラオウの気も最高潮に達する。

ラオウが手にし得たのは、無類無敵の神の拳。
対するサウザーが身に付けるは、人が神を超える為に練り上げた聖なる拳。
北斗神拳と南斗聖拳。
どちらが上か、相反する二千年の歴史に決着を付ける時がきた。
だが、二人が動き出す僅かに前。
青い光が辺りを包み地面が激しく揺れる。
すると、どこからともなく伸びてきた枝や根がサウザーとラオウの体をきつく縛り上げると巨大な人面樹が雄叫びをあげながら姿を現した。






ジュエルシードが発動するより少し前。
臨海公園から少し離れた所には、二組の魔導士が対峙していた。
すでに封時結界は展開済み。
誰にも気付かれる心配は無く、普段どおりならジュエルシードをかけた少女二人の戦いが始まっているのだが……。

「ジュエルシードには衝撃を与えてはいけないみたいなんだけど……」
「……先、こされちゃったね」
ちらりと公園の方を見てから困ったような顔をしたフェイトがそう言うと、同じようになのも目を向けてから小さく返す。
肝心のジュエルシードは、かなり不安定な状態でいつ完全に発動してもおかしくはないのだが、二人ともその場所には近付けなかった。

「ぬりゃあ!」
「けぇいっ!」
それも仕方ないと言うべきか。
ジュエルシードが反応している場所ではラオウとサウザーが殺り合っている真っ最中だ。
ジュエルシードの影響下にあるだけあって、ユーノの意思とは別に結界の中に入ってしまう形になったのだが、ぶっちゃけ二人とも気付いた様子は一切無い。
巻き添えで公園の備品や木やらが何の遠慮も無くブチ壊されているのだから、結界が張られていなければ色んな意味で騒ぎになっていたはずである。
なにせ、パンチ一発でアスファルトが砕けたり、手刀の一振りで木が根元からスッパリと切れる。
二人と二匹の元に届いてくる音の数々は、とても生身の人間が素手で闘っているような音ではなく、さながら重機集まる工事現場のよう。
普段静かな海鳴市臨海公園は、このイカれた時代へようこそ!と言わんばかりに世紀末と化しているのだった。



「ねぇ」
「……なに?」
そんな光景を並んでぼーぜんと眺めるケモノ二匹。
今日も今日とてジュエルシードを賭けた勝負になると思ってはいたのだが、あんなもん見せられては争う気なんて起きやしない。
目の前で起こっている世紀末スポーツアクションに頭の処理が追いついていかないのだ。
ようやく半分ぐらい我に返ると、まずアルフがユーノに小さく話しかけた。

「ちょっと、あそこ行ってジュエルシードが壊れる前に取ってきなよ」
「何で僕が!?」
「ほら、この中で一番小さいんだから大丈夫だって。…………たぶん」
「たぶんって言った?すっごく小さくたぶんって言ったよね!?無理だよ無理!非殺傷設定とか無いんだよあれ!バリアとか張っても絶対割れちゃうから!」
なにせ、あそこでドンパチやっているのは、なのはクラスの魔導師のバリアを軽く破り、ジュエルシードを真っ二つにする人物。
そのサウザーと互角に闘っているのだから、相手の実力も概ね同じぐらいだろう。
そんな化物同士が闘っている中に飛び込むなど、罰ゲームを通り越して処刑宣告に等しい。
焦燥やらなんやらで良い感じに肋骨が脆くなってきたユーノをよそに、眼前で繰り広げられる世紀末はまだまだ加速していくのであった。



「北斗剛掌波!!」
「南斗爆星波!!」
ラオウの掌からは、なのはが放つディバインバスターよりもぶっとい光が飛んでいき
サウザーはサウザーで、スピードに定評のあるフェイトを上回る速度で空に舞い上がった後、衝撃波を作り出す。
当然、魔法など一切合財使わず全て生身でである。

いつ暴走してもおかしくないジュエルシードのすぐそばでそんな世紀末バトルが行われているのだ。
封印していないジュエルシードの近くで下手に戦えば次元震が起きかねないのは先日の衝突で実証済み。
魔力を使ってないとはいえ、そんな爆弾の横で戦争おっぱじめてるのだから、二組ともドキドキが止まらない。
それが分かっていても止めに入れないのは、ラオウもサウザーもやる気っていうか殺る気全力全開で拳を振るっているから。


「凄いね……」
「うん、凄い……」
ぽつりとなのはが呟くと、オウム返しにフェイトも呟く。
何が凄いかって、非殺傷設定など無いにも関わらず互いに紙一重で攻撃を見切っている事。
防御魔法も、バリアジャケットも無いのにそれをやっているのだから、凄いとしかいいようが無い。
お互いジュエルシードを巡って何度が魔法で戦った事はあるが、あれに比べたら子供の遊びと思えてしまいそうだ。
始まる前ならともかく、世紀末バトル真っ最中の場に飛び込む程の勇気は無鉄砲気味ななのはやフェイトでも無く、今はただ決着が付くのを見守るだけ。
とりあえず、この前出来なかった事をしようとなのはがフェイトの方を向いた。

「この間は聞きそびれちゃったけど、ジュエルシードを集めてるわけを聞かせてくれないかな」
最初の出会いでは、フェイトがすぐに飛んで行ってしまったために聞くことができなかった。
二度目も三度目もジュエルシードを目的としていた事もありフェイトが答える事は無く
四度目は幸か不幸かサウザーともう一人のおかげでこうして話す機会が与えられている。
肝心のフェイトは俯き加減に目を閉じ少し考えた後、なのはに向けて小さく言った。

「母さんのためだ。……それ以上は言えない」
それだけ言うと、フェイトがまた公園の方を眺めた。
その先ではラオウとサウザーが睨み合ったまま対峙している。
止めに入るなら今かと思ったが、誰も踏み込めなかった。

あれだけ激しく闘っていたにも関わらず二人とも笑みを浮かべているのだ。
そこに敵意や憎しみは無く、あるには純粋な感情のみ。
なのはなんかは、普段触れない少年漫画さながらの男の子の世界を見てしまっただけにちょっと感動していたりする。
そりゃあ努力・友情・勝利が基本フレーズの世界の黄金時代を支えていたのは伊達ではないのである。

「なのは、ジュエルシードが!」
目の前の光景に一瞬ジュエルシードの事を忘れ、ユーノの叫び声で気付いたがトキィ既に遅し。
青い光が辺りを包むと地面が激しく揺れる。
次になのはとフェイトが目にしたのは、木を取り込んだ暴走体から伸びる枝や根に捕らえられた二人の姿だった。

「レイジングハート、バスターモード!」
「行くよバルディッシュ!」
二人が同時に杖を構えデバイスを現れた暴走体に向ける。
今は、どちらがジュエルシードを手にするかより二人を助ける方が先だ。
なのはのディバインバスターとフェイトのサンダースマッシャーでの同時砲撃。
言葉は交わさないが呼吸は完璧。
ほぼ同時にチャージを終えるとジュエルシードを封印するべく狙いを定める。
二人が砲撃魔法を放とうとした直前、レイジングハートが光ると機械的な音声で告げた。

"Please wait. The enemy movement is strange”(待ってください。対象の動きが妙です)
言われて二人が暴走体を見ると、確かに少し動きがおかしかった。
魔力反応を感じただろうに、こちらを見ようともせずその場に留まっているのは妙だ。
不思議に思っていると次はバルディッシュが光った。

”This sound ……”(この音は……)
ほんの僅かだが、ミシミシと軋むような音が少しづつ大きくなると、なのは達にも聞こえるようになる。
音の出所は拘束されているラオウとサウザーの場所から。
締め付けられた身体が軋む音かと、なのはもフェイトも焦ったのだが……それは間違いである事がすぐに分かる。
暴走体に締め上げられているにも関わらず、ラオウとサウザーは苦痛の表情など浮かべておらず仮面の如き無表情を保っている。
しかし、ラオウからは赤、サウザーからは金色の光が流れ出ており、その光が一層強まると拘束にひびが入った。

「なんだぁ!?貴様ぁ!!邪魔をするな!!」
二人から凄まじいまでの怒気が人面樹に向けられると、大気が震え辺りを揺らす。
基本的に気というものは感情によって大きく左右される。
つまり、あれだけの気を発揮しているという事は、それだけこの無粋な邪魔者に対する怒りが強いという事だ。
なにせ、互いに全力を尽くしている最中の真剣勝負に水を刺されたのだ。
その迫力たるや闘神の化身と言っても全く差し支えない。
木が動いているという事実すら二人の頭には無く、あるのは目の前の障害物を排除し、サウザーはラオウを、ラオウはサウザーを倒すという事のみ。
両者同時に拘束を力だけで引き千切ると、まずラオウが拳を繰り出した。

「北斗輯連打!!」

                        北斗神拳ほくとしんけん
                   ほく  と  しゅう れん  だ
                  北 斗 輯 連 打

ラオウが放ったのは無数の拳。
並の使い手が受ければ、経絡秘孔など関係無く一発一発が致命傷になるだけの威力を持った拳がジュエルシードを取り込んだ大樹に打ち込まれている。
それだけでも容易に粉砕できそうなものだが、丁度その反対側では同じようにサウザーも手刀を放っていた。

「南斗鳳凰拳!悠翔嶽!!」


                      南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   ゆう   しょう   がく
                  悠  翔  嶽


ラオウの連撃とほぼ同じだけの手刀が暴走体を襲う。
サウザーが削り取るかのように暴走体を切り刻めば、その向こうではラオウが力で粉砕する。
北斗南斗の違いこそあれど、共通しているのは一撃一撃が洒落にならない程の威力を持っているという事。
そんな二つの拳を同時に受けている方はたまったもんではない。
苦し紛れに根と枝を二人に向けてきたが、どちらも目にも映らぬ程の拳撃によって打ち払われていた。

「ぬぅぅあああぁぁぁ!」
「しぇぇらぁぁぁぁ!!」
一段と繰り出す拳の速さ上げると、ジュエルシードの力によって強化されているはずの巨木があっという間に砕けていく。
北斗と南斗が争えば大きな災いを呼ぶと言うが、その逆。
北斗南斗が一致協力すれば、二つの拳の前に立つ敵は存在しない。
例え、決着を付けるために邪魔だという理由でも共通の敵を討ち滅ぼすという事実には変わりないのだ。
最後の一撃。
互いに渾身の力が込を込めた突きが表裏逆の同じ場所に突き刺さると暴走体は殆ど跡形も無く消し飛んでしまっていた。

サウザーの手刀とラオウの拳がぶつかった衝撃で巻き上げられた木の破片と散った葉がパラパラと雨のように辺りに降り注ぐ。
拳を付き合わせた先からは血が流れ落ちているが、二人にとってはかすり傷だ。
邪魔者は消え去りカタを付けるのはこれからだとサウザーは手刀を引いたが、驚いた事にあのラオウが先に構えを解いていた。


「ふん……、どうやら完全に腑抜けていたわけではなかったようだな」
「……どういう事だ」
傷口を確かめるかのように眺めながら言うラオウを見ても、どういうつもりなのかサウザーにはいま一つ理解し難い。
少なくともサウザーの知るラオウは向けた拳を先に収めるようなタマではなかったはずである。
油断こそしていないが、幾分かいぶかしむような顔をしているとラオウが続けて言った。

「貴様に腑抜けられたままでは、俺の拳を試す相手が居らんのだ。そこらの雑魚では稽古台にもならぬ」
「……トキかジュウザが居るだろうが」
「トキの拳は受けの拳。俺の拳を受け流してこそ真価を発揮する。ジュウザは……、あやつは拳法の極意は逃げる事だ、などとほざきおったわ!」
思いっきり吐き捨てるあたり、またジュウザに逃げられたという事だろう。
トキのように流すわけでもなく、ジュウザのように煙に撒くわけでもない。
ラオウの剛の拳と正面から打ち合える相手。良く言えば敵手、悪く言えば稽古台に潰れて貰っては困るという事か。
随分、自分勝手な理由だがこいつらしいと言えばらしい。
それに、思いっきり打ち合ったおかげかいい気晴らしにもなった。
無論、礼など言うつもりは無いが。
ふと、こいつならどうするかと思ったので代わりにそれを聞いておく事にした。

「ラオウ。お前が伝承者争いに破れ、北斗神拳を捨てるように言われたのならばどうする?」
「知れた事。その時は北斗の名を捨てるのみだ。俺はこの拳さえあれば十分」
ラオウが拳を握り締めると同時に言った言葉には何の迷いも無い。
名は捨てるが、北斗神拳だけは利用すると北斗の掟に真っ向から挑む気でいる。
あまりにもはっきりと言うので数秒間、言う言葉も出なかったが、妙に納得してしまった。

「ふっ……ははははは!貴様らしいわ」
こいつらしい単純明快な生き方だと思いはしたが、それもいいかもしれない。
サウザーは南斗鳳凰拳の名すらも捨てる気は無いが、俺も南斗の宿命と掟に挑んでみるかとすら思えてきた。
それで斃れる事になるなら、そこまでの力量だっただけの事。どの道、南斗最強の拳は継げぬ。
要は吹っ切れたわけで、ようやく何をやればいいかがおぼろげに見えてきたのかもしれない。
ようやく本来の調子が戻ってきたのか表情に余裕めいた物が戻ってきた。
それを見るとラオウが歩き出した。本当に用はそれだけだったのか、俺はもう帰るとでも言わんばかりだ。

ラオウ様お帰りになられます。皆様拍手でお送りくださいませ!

そんな声が聞こえてきた気がしたが、きっと気のせい。
南斗聖拳百八派に南斗実況拳や南斗編集拳なんて物は無いのである。
そのまま近付いてくるのを見ていると、横に並んだ所でラオウが止まった。

「サウザー。いずれ南斗聖拳最強を名乗るつもりなら、その甘さは捨てる事だ。トキもそうだが要らぬ情けは己が身を滅ぼすと知るがいい」
「ふっ……、俺もそう思わない時もないがな。……だがな、これもそう悪い事ばかりではない」
ラオウの言う事にも一理はある。
命をかけたやり取りの中で不用意に甘さを見せれば待っているのは身の破滅だ。
それでも、それが無ければフェイトを拾うことも、それ以上関わる事もしなかっただろう。
そして、そうでなければ、今頃は手を血に染めていたのだから、何が転機になるのか分からないものである。
もっとも、そんな細部の事情までラオウに話す義務も無ければ義理も無い。
ただ、同じようにラオウに向けて一つだけ言っておいた。

「それより、お前も足元を疎かにしない事だ。届かぬ所ばかりを見ていると思わぬ所から足を掬われる事になるぞ」
「そんな事、貴様に言われるまでもないわ」
憮然とした表情で歩き去っていくラオウを後ろ目で一瞥するとサウザーも歩き出した。
ラオウはトキの事を言っていると思っているのだろうが、少し違う。
ジュエルシードによってどこまで伸びるか分からなくなったジャギに、実力が未知数の四男坊。
この二人がどうなってくるかで伝承者争いが荒れる事になるかもしれない。
誰が勝ち残るにしろ面白くなりそうだ。
そんな事を考えていると、木片に隠れるようにして光る青い石が目に入った。

「さて……やはりな」
さっきは気にもとめていなかったが、やはりこいつの仕業だった。
随分と間の悪い所に出てきたようだが、大して邪魔にはならなかったので良しとしよう。
それより問題なのは、ジュエルシードによって起こった被害よりも、ラオウと全力で闘った事で起きた事に対する被害の方が遥かに大きいという事だ。
木々は無残に倒れ、地面は無数にえぐれた跡が残っているというのは、公園と言うよりもちょっとした戦場跡である。
後の始末をどうしたものかと天を仰ぐと、いつの間にか空の景色が少しばかり変わっている。
とりあえずジュエルシードを拾い上げ、動作のみで促すと二組とも出てきた。

「一応聞いておくが、何時からだ?」
どちらともなしにサウザーが言うと、なのはの肩に乗っていたユーノが真っ先に飛び降り、そのまま綺麗に五体倒地の体勢に入った。

「ご、ごごごめんなさい!!ほとんど最初からです」
別に問い詰めているつもりは無いが、完全にビビりきっていて呂律が回っていない。
そりゃ北斗南斗の男が本気で闘い、邪魔をした暴走体が消し飛んでしまった所を見たのだ。
それも、魔力障壁?バリア?なにそれ、おいしいの?みたいな具合に。
下手に邪魔してたりしたら、ああなっていたのは自分達かもしれないのだからユーノがそうなるのも仕方ない事かもしれない。
ある意味では南斗鳳凰拳の使い手を前にした者の正しい姿なのだが、埒が明かない。

「ユ、ユーノ君どこでそんな事覚えたの……」
日本人でも滅多にやらない見事なまでのジャパニーズDO☆GE☆ZA
それも、高所からジャンプしてという高等技術。
これより難度が高いやつは焼き土下座ぐらいしか無い。
いい加減話が進まないので、今度はアルフが前に出てきた。

「それにしても、あんたたちどっちも人間じゃないね」
どこの次元世界に魔法も使わず生身で地面に大穴ブチ空ける程の衝撃波作ったり、暴走体を文字どおり粉砕する人間がいるのかとアルフがまず突っ込んだ。
無茶苦茶なのは知っていたが、今回ばかりはこいつらの方が暴走体なんじゃないかと疑ったぐらいだ。
というか、さっきまで死んだ目をしてたやつはどこ行った。
そういう意味合いから皮肉を込めて言ったのだが、サウザーはラオウと一緒にされたのが気に入らないらしく、若干声の調子を落としながら言った。

「あんな単細胞と一緒にしてくれるな。まったく……、どいつもこいつも」
随分と酷い言い草だが、言葉に反して口調の方はそれ程嫌そうには聞こえない。
なんだかんだで昔から互いに北斗南斗を背負う者として周囲から見られ、口には出さないが自身らも強敵だとは認めているのだ。
そうでなければ、わざわざラオウが北斗の寺院を抜け出してまでここに来るはずが無い。
最近、どうも他人に借りを作りっぱなしだ。
ラオウの方は近い内にに叩き返すとして、フェイトに関しては返せる物が手元にある。

「まぁ、いい。持っていけ」
軽く弾き飛ばすようにして投げるとジュエルシードが寸分違わずフェイトの手の中に納まった。
突然の事だったので、なのはもユーノも、そして投げ渡されたはずのフェイトですらきょとんと目を丸くしている。
欲しいとは思っていたが、まさかいきなり渡されるとは思ってもいなかったのだ。
事の重大さを理解すると、ちょっと土臭くなったユーノが叫んだ。

「ど、どうしてですか!」
「お前達の邪魔をする気は無かったが、そいつをくれてやるだけの理由が俺には出来た。というわけだ」
どちらかに肩入れするつもりは無かったが、今ではこんな物一つでは足りぬ程の借りがフェイトにはある。
だから、フェイトが望むならそれを叶えてやろうという気になっただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
何の躊躇無く言うので、ユーノもそれ以上は何も言えなかった。

「なら!」
と、なのはが声を出してサウザーに歩み寄る。
デバイスを握り締めているのでなんだか悪い予感しかしない。
まさかと思っていると、予想していたとおりの事を言った。

「わたしと勝負して、それで、わたしが勝ったら、サウザーさんの事もフェイトちゃんの事も全部話してください!」
そんな事を言うのでサウザーは物凄く嫌そうな顔を見せた。
何が嫌かって南斗聖拳の使い手が九歳の女の子相手に勝負するってのが嫌だ。
それも、いかにも可愛い魔法少女してますって格好してるのに。
さっきまで、あのゴツいラオウと闘ってたのだからなおさらである。

第一、年はそう離れていなくても体格差があるだけに、そんな事をすれば傍から見た場合、もの凄い犯罪臭がする。
それこそ、唯一の紅一点キャラを飛翔白麗でテーレッテーした時以上に。
結界張ってても嫌なもんは嫌なのだ。
そんな複雑な心境とは裏腹に、なのははかなり真剣な表情でこっちを見ているのでどうしたものかと思ったが
どこからともなく気配が一つ増えた事に気付くと目を細める。
隠していたわけでもなく本当に沸いて現れたのだ。

気配が現れたのは直上方向。
二度ある事は三度あると言うが、魔力なぞ持たぬ身でありながらこの手の人間とはよくよく縁があるらしい。
いち早く空を見上げると、黒いバリアジャケットに身を包んだ少年がこちらを見下ろしていた。



ヒャッハー!あとがきだぁーーーー!
リリカル勢、初めての世紀末の巻。

バトルは前回投稿時にほとんど完成してたから、ネカフェからでもどうにか完成させる事ができました。

やっぱ、落ち込んでる時にライバルキャラが勝負がてら叱咤激励に来るってのは少年漫画の王道ですよねー。

この話の最初の方の聖帝様は、シーマ様にフルボッコにされてフォン・ブラウンを彷徨うウラキ少尉のような感じだと思っていただけると幸い(cv的に考えても

このネカフェ、なぜかエラーでプレビューが出ないので技テロップの振り仮名がズレてるかもしれないけど
トキのような有情の心で許して欲しい。



[18968] 第十三話:世界を支える大木
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2011/01/20 23:25
次元空間。
それは様々な次元世界を繋ぐ細い回廊。
その中を一隻の船が突き進んでいる。
様々な次元世界を管理する組織である次元管理局が持つ船の一つだ。
向かう先は第九十七管理外世界。
本来、干渉すべきではない世界へ進路を向けているのにはもちろん訳がある。
その船の中では少なくない人間が慌しく働いていた。

「ロストロギアの魔力反応出ました。対象のクラスはA+。動作不安定で無差別攻撃の特性を見せています」
「……次元干渉型の禁忌物品。事態は思ったより深刻そうね。先行したクロノ執務官に続いて武装局員も各自出撃の準備を」
一際高いところから一人の女性がテキパキと指示を飛ばす。
どうやらこの船を仕切っているのはこの女性らしい。

「サーチャーからの映像出ます」
一瞬、メインモニターが揺らぐと鮮明な映像が映る。
そして、そこに映っていたのは紛れもない世紀末だった。

「……どういうことなの」
モニター一杯に映った光景に、思わず誰かがそう呟く。
樹木を取り込んだと思われるロストロギア体が両面から恐っろしい速度で削られているのだ。
そして、それを行っているのは鬼かと見紛う程の迫力を持った男二人。
時折光っているのは張ったバリアが一瞬で破られているからか。
成す術も無く両サイドからフルボッコにされているのは見ていて凄く痛々しい。
ロストロギア体が消し飛ぶと二人の男が手刀と拳を突き合わせている姿が映る。
すると、魔力反応を測っていたオペレーターが信じられないといった感じの声で言った。

「か、艦長……。あの二人からは魔力反応が確認できませんが……」
そのあまりの言葉にブリッジクルー全員の動きが止まる。
魔力反応が無いという事は、完全に力だけでバリアごと本体を木っ端微塵にしたという事だ。
あんな真似、近接戦に特化した近代ベルカ式の騎士でも容易に出来るもんじゃない。
まして、デバイスも質量兵器すらも使わずに素手でとなると想像の範囲外である。
だが、さすが艦長ともなると落ち着いている。
一度モニターを眺めてから深く息を吐くと短く言った。

「モニター消して見なかった事にしましょうか」
「艦長!」
「冗談よ。まだ敵と決まったわけじゃないけど、万が一に備えてクロノ執務官の緊急転送の準備だけは怠らないようにね」
言いながらふと思い出したが、ギル・グレアム提督が冗談交じりにこの世界には人外染みた体術を使う人間が存在すると言っていたような気がする。
確か、北斗聖剣だとか、南斗真拳だったような……。
そんな事を考えながら椅子に座り直すとモニターの先の映像を眺めた。

「……鬼が出るか蛇が出るかってとこかしらね」
一人は去り、残ったのは拾い上げたロストロギアを片方の魔導師に投げ渡す金髪の男の姿。
素手でA+級ロストロギアのバリアを楽々と打ち抜けるのなら、間合いの中ではSランクの魔導士に匹敵する実力を持っていると見た。
向かったのが史上最年少で執務官になった優秀な魔導師とはいえ、AAAでは分が悪い。
願わくば話の通じる相手であって欲しい。
向かう場所は第九七管理外世界。
次元犯罪程ともなると話は別だが、通常魔力を持っていない現地民に管理局法は一切適用されないのだ。
それが局員の殉職という結果を生んだとしても。
映像の中に執務官の姿が映ると、彼女――リンディ・ハラオウンはこの時ばかりは艦長としてではなく、一人の母親として大きく溜息を吐いた。






「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。まずは全員速やかにデバイスを降ろし、そのロストロギアをこちらに引き渡してくれ」
「……あれもお前達の同類か何かか?」
最早、様式美とでも言うべきか。
三人目の登場には特に驚くような感情が沸いてこない。
だが、心底どうでもよさげに言ったサウザーとは対照的にフェイトとアルフは強張った顔をしている。
ロストロギアというのがジュエルシードだという考えに至ると、そういう事かと納得した。
ようやく出てくるべき組織が出張ってきたという事だろう。
とはいえ、なのはやフェイトぐらいの子供が出てくるとは考えていなかったが。

頭をかきながら降りてくるのを眺めていると、目の前を光弾が何発も通り過ぎる。
鼻先を掠めそうなぐらいの至近距離だったが、さっきラオウの拳を似た距離でかわしたばかりなので大して驚きもせずに光弾が放たれた方を見た。
なのははデバイスを下げているが、フェイトと特にアルフは従う気ゼロのようで、今のはアルフが撃ったらしい。
やや不意打ち気味に放たれたそれは管理局の執務官とやらに向かっていた。


「くっ……従う気は無いという事か」
咄嗟にバリアを張って魔力弾を防ぐとデバイスをフェイトに向ける。
だが、そこで動きが止まった。
封印処理をしていないロストロギア目掛けて魔法を放つなど自殺行為である。
少なくともフェイトに向けて射撃魔法は使えない。
選ぶ選択はバインドによる拘束か、増援が到着するまで時間を稼ぐか。
どちらにしろ、あの使い魔を放置していては邪魔になる。
デバイスの先をアルフに移すと射撃魔法を放った。

「アルフ!」
「ああ、もう!分かってるよ!」
フェイトに言われるまでもなくアルフは回避行動に入っており空中へと逃れている。
ジュエルシードを持っているせいか向こうがフェイトを狙ってこないのは幸いだが、転移先を追跡されては元も子も無い。
それに管理局の執務官が一人のはずもなく、このままでは向こうに増援がきて退路が完全に断たれてしまう事になりかねないのだ。
怪我が事を考えるならば、最悪の場合は盾になってでもフェイトを逃がすための時間を作る。
そんな心持のアルフを一目見るとサウザーが小さく呟いた。


「ったく……問題児共ばかりだ」
人を完全に無視して撃ち合っているのだから、『勝手に野試合をする』『他人の組み手の最中に煽りを入れる』『修行中に寝る』
などといったフリーダム行為で世紀末幼稚園と揶揄される南斗聖拳関東方面道場の年少組みと同じぐらい手がかかる。
逃げる方、追う方、そして止めよう間に割り込もうとする方と様々だが、揃いも揃って南斗鳳凰拳の使い手を前にいい度胸をしている。
なんにせよ、そのジュエルシードは突然沸いて出てきた誰かにくれてやったつもりは無い。
軽くため息を吐くと、地面に向け全力で足を踏み込んだ。

「う、うわぁ!」
振動と共に踏み込んだ先の地面が割れると、その衝撃と反動で辺り一面に積もっていた木片や木の葉が土煙と共に煙幕となって舞い上げられる。
一体どれだけの速度と力で地面を踏めばこんな芸当が出来るのかと、唯一地に足を付けていたユーノは気が気ではない。
もしかしてここが管理外世界なのは、管理局でも手に負えないからじゃないだろうか。
人間質量兵器という考えが浮かび上がってきたユーノをよそに、巻き上げられた煙幕は辺り一帯を包み込んでしまっていた。


「な、何だ!前が……!」
「フェイト、今だ!逃げるよ!!」
突如として降って沸いた好機を逃すまいとアルフが叫んだ。
この目くらましに紛れてなんとか結界の外に出てしまえば、少なくとも向こうは派手な魔法を使って追ってくる事は無い。
管理外世界の人間に魔法の存在を知られる事は、管理局の人間にとって都合が良くない事だからだ。
少し躊躇っていたフェイトもアルフに促されると前を向く。
辺りが見渡せるようになった頃には、フェイトとアルフはどこかに姿を眩ませていた後だった。

「逃がしたか……なんだったんだ急に」
ジュエルシードを持っているフェイトに集中していたというのもあるが、まさか生身の人間が地面割ったせいだとは思いもしていないようだ。
どうにも納得がいかない様子で地面に降りてくると、何やら妙な画面がいきなり現れた。

「クロノ、お疲れさま」
「すみません艦長。ロストロギアを持った魔導師には逃げられてしまいました」
「仕方ないわね。全てが上手くいけば苦労なんて言葉は必要無いんだし。
  でね、ちょっとお話を聞きたいから、そっちの子達をアースラに案内してあげてくれるかしら。そちらの方も是非ね」
画面の向こうに映った女性と目が合ったが、どうやらなのは達と同じように招かれたらしい。
物言いは柔らかだが、拒否権はあまりなさそうな感じだ。
ふん、と手を当て数秒間考え込んだが顔を上げると短く答えた。

「いいだろう。俺も聞きたい事がある」
「え!?」
サウザーがそう言うと、なのはとユーノが同時に驚いたような顔をして見ている。
何故か知らないが凄く不快だ。
「……何だ、その目は」
「い、いえ、ただちょっと意外だなって」
「う、うん。てっきりさっきみたいになるかと思ってたの」
「…………貴様らが俺の事をどう見ていたかというのがよく分かった」
サウザーとて南斗聖拳という組織の最上位に立つ人間である。
国ですら根幹を支える大木が無ければ形を保つ事はできない事は歴史が証明している。
まして次元世界などという途方もない規模のレベルなら、そういった組織は必ず必要になる。
程度問題にしろ、管理する者が居なければ理性のタガが簡単に外れ、どこまでも汚くなれるのが人間ってものだ。
どのぐらい汚いかというと、画面見ずに当たる雷震ぱなしたり、ブッパッコーもすり抜ける命中率75%の5クトを繰り出すカラーぐらい汚い。

その辺りの事は承知しているし、こちらとしても聞きたい事があるので応じたまでだ。
人の事を『暴力はいいぞ!』とでも言うような人間か何かだと思っていたようだが、ラオウや昔のフドウよりは常識的な思考をしているという自負はある。

もちろん、一般的な意味での常識があるのなら公園がこんな惨状になっていたりはしない。
世紀末高校バスケットボール部の名は伊達ではなく、なのは達から見れば十二分にぶっ飛んでいるのである。


「艦長を待たせているんだ。できればその話は後にしてもらえないか」
「そうですね、早く行きましょう!」
いい加減、収集が付かないと判断したのか多少苛立ちを混ぜながらクロノが割り込んできたが、ユーノにとっては渡りに船。
何故かと言うと、サウザーの呼び方がお前から貴様に変わってしまっているのだ。
これ以上心象を下げると『汚物』と呼ばれかねないので、できれば終わった後もこの話は一切したくない。
少々ぎこちない動きでクロノの近くまで駆け寄るとその影に隠れた。

どうにも釈然としないが、この場で文句垂れたところで仕方ない。
これがジュウザあたりなら突きか蹴りの一発や二発でも見舞っているところだが、まさか同じように扱うわけにもいかないだろう。
まぁなんにせよ時間も押している事だし、もういいと動作でクロノを促した。




……転送だの何だの聞こえて、何やら妙な所に居たのだが、もう驚きはしない。
今一つ規模が把握しきれなくはあったが、どうやら船の中らしい。
言われるままに付いて行ったが、途中からやたら見られている気がするのが気になる。

「……気に入らんな」
翠屋で恭也から向けられていた時のような物ではなく、興味本位的な感じだったので放っておく事にしたのだが物事には限度がある。
そう言えば別の世界とか言ってたから、なにかこうロズウェル事件的な物として見られているのだろうかと思うと些か機嫌が悪くなってきた。
自然と眉間に皺が寄って少々険しい表情になってしまうのも仕方ない事である。

「何も見てない、僕は何も見てない、何も見てない……」
そして、それを偶然見てしまったユーノが繰り返し小さく呟きながらカタカタと震える。
念話なんざあるわきゃねぇのでサウザーの心境なんか伝わるはずなく、さっきのせいでああなっていると思ってしまったようだ。
今のユーノの頭に浮かぶのは『消毒』と言う名の処刑の二文字。
なにせ本当の姿を見せるまでは本気で鼠扱いだったのだ。
丸焼きかノコかと、そんな物騒な事を考えながら小さく丸まっていると、その体を突然持ち上げられた。

「えひゃい!」
自分でも何を言っているか分からない妙な声が出たが、生死に関わる事なのでそんな事は気にしていられない。
なにせ『汚物は消毒せねばならんな』とか聞こえてきたら、次の瞬間には握り潰されて『あわびゅ!』や『ちにゃ!』とかいう素敵で愉快な叫び声をあげる事になる。
首根っこを引っ掴まれたままじたばたと手足を動かし、必死の抵抗を試みていると凄く呆れたような声が届いた。

「さっきから人の肩の上で何をやっているんだ君は……」
幸いな事にユーノを持ち上げたのはサウザーではなくクロノ。
苦言を言いながらも怪我しないように地面に降ろすあたりがクロノの生真面目さの表れだろうか。
「ここは管理局の船なんだし、元の姿に戻っても大丈夫だよ」
「あ……、そういえばそうですね!」
世紀末が間近に迫っていた(と思い込んでいた)せいか、元の姿に戻るという事をクロノに言われるまですっかり忘れていた。
人の姿に戻れば消毒される事はなくなるのだ。
少なくともそう思いたい。思わないと心が折れてしまう。
急いで変身魔法を解除すると、ユーノの姿は前に見せた少年の物に戻っていた。

「ふぅ……この姿を見せるのは久しぶり……ですよね?」
少しだけ視線を反らしながらちらりとサウザーを見て言う。
これで駄目なら消毒されないように速やかに土下座するつもりである。
もちろん、サウザーはユーノを消毒する気なんざ最初から無いので一目見ると表情を元に戻した。

「相変わらず原理が理解できん」
そしてそのまま怪訝な顔付きになって言う。
あの鼠の姿から小さいとはいえ少年の姿になるのだから、質量保存の法則を発見した科学者が見たら『っざけんな!いいピエロじゃねーかよ!』とでも叫んで台パン始めるところだ。
まぁそういう常識では及びもつかない事が出来るから魔法って言うのだろう。
それにベクトルの向きが違うだけで、南斗聖拳だって魔法の領域に片足どころか両足突っ込んで、そこから派手に底を踏み抜いてしまっている。
素手で岩を砕き鋼鉄をも軽く引き裂けるけど立派な人間ですとか言った日にゃあ、おまえのような人間がいるか!と総突っ込みが入る事間違いないわけで。
とりあえず消毒される事はないと安心したのかユーノが小さく息を吐くと、取り残された感があるなのはの方に顔を向けた。

「なのはもバリアジャケットとレイジングハートを戻してもいいんじゃないかな」
「うん、そうだね」
一連のやり取りを見ていたのか、微妙な笑みを浮かべたなのはの装いがバリアジャケットから、前に見た私服の物へと戻る。
持っていた杖も赤い珠になったのだが、分からない事の理屈をいくら考えたところで分かるはずが無い。
そんな無駄な思考に費やす時間など、大インフレ起こしてケツを拭く紙にもならなくなった紙幣程にも価値が無いのだ。
その辺りの事を聞き出す事を含めての同行である。
手早く思考を切り替えると、何故かクロノがこっちをじっと見ていた。

「何だ」
「いや、君もその服をどうにかした方がいい」
「ちっ……、あの馬鹿力め」
言われて気付いたが、服の至る所に破れてしまっている箇所がある。
あの筋肉馬鹿の攻撃は全てかわしたつもりだったのだが、やはりラオウ相手に無傷とはいかない。
とはいえ同じぐらいの傷は与えているはずなのでどっちもどっちだが。
こちとらバリアジャケットなんていう便利な物ではないので後でどうにかするしか無い。
ちなみに、糸と針さえあればこのぐらいは直せる。
最近はそうでもないが、昔は修行中によく服が破れていた事が多かったので裁縫スキルは必須だ。
無駄なスキルかもしれないが、どこぞのドSな世紀末救世主様だってシャツを自分で破った後には自前で直しているのだからなんの問題も無いのである。
もうしばらく歩くとどうやら目的の場所に着いたようで、扉が開いた先はなんと言うかこう、魔界だった。


「わぁ」
「……解せぬ」
部屋を一目見ただけでクロノを除いた全員からそんな声が漏れ出た。
扉の先でまず目に入ったのは、今までの無機質な感じから一変して和室。
何故か盆栽やら鹿威しまである。
印象としては間違った日本文化にかぶれてしまった外人の部屋という言葉が的確だろうか。
なんだか頭が痛くなってきたが、眼前に写る異界をなるべく視界に入れないようにしていると、部屋の中ではさっき写っていた女性が正座していた。

「艦長、来てもらいました」
「お疲れ様。まぁ皆さん、どうぞどうぞ楽にして」
……なにこの茶番。
そんな事を思ってしまったが、艦長と呼ばれた女性は凄い笑顔なので、きっと本気と書いてマジと読むぐらい大真面目なのだろう。
傍から見れば空回りしているように見えるが、文化の違いというやつで納得しておく事にする。
例えダムがレッパに化けた時ぐらい空回りしていたとしてもだ。
ただでさえ魔法に管理局とかわけわからん事になってるのに、そうでも思わなけりゃこの先やっていけない。

「ようこそ、時空管理局巡航L級八番艦アースラへ。私がこの船の艦長のリンディ・ハラオウンです」
「えっと高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」
「……サウザーだ」
そして、なのはとユーノは、もうこの空間に馴染んで正座しながら挨拶をかわしている。
若干引きつった顔を正すとサウザーも短く名乗ったが、あそこまで早く順応する気にはなれない。
順応力が高いのは子供の特権なので、年とったかなぁなんて考えたりしながら場に座ると、今まであった事の顛末をユーノが話し始めた。



「なるほど、そうですか。あのロストロギア『ジュエルシード』を発掘したのはあなただったのね」
「はい……、それで僕が回収しようと」
「立派だわ」
リンディが言うように責任感が強いのは立派かもしれないが、それを額面どおりに受け取れない者が二人居る。
「だけど同時に無謀でもある」
「同感だな。死ににでもいくつもりだったのか?」
クロノが咎めるように言うと、それに同調したかのようにサウザーも言葉を繋ぐ。
ジュエルシードを発掘した事は聞いていたが、最初は一人で回収しようとしていたなどとは聞いてはいない。
案の定やられてしまい、念話を聞いたなのはが来なければ野垂れ死んでいたのだから、そんな感想も出る。
肝心のユーノはジャギの一件のせいで自分だけではなく、なのはの身も危険に晒したという負い目もあるのか項垂れてしまった。

ユーノが置かれた状況を考えれば厳しい事を言っているかもしれないが
見知らぬ土地での単独行動という見通しの甘さと、ジュエルシードの力を過小評価していたような部分は頂けない。
無謀と勇気を履き違えれば待っているのは確実な死なだけに、これでもまだサウザーなりに気をつかっている。
本気でボロクソに扱下ろす気があるなら、ルール無用の残虐ファイトと名高い口プレイデスマッチだ。

「あの……、ロストロギアってなんなんですか?」
重くなった空気に耐えかねたのかなのはが小さく聞く。
するとリンディは何を思ったか、出されていた緑茶に角砂糖を入れると質問に答えた。

「ああ、ロストロギアっていうのは、遺失世界の遺産……って言っても分からないわよね」
「お前にも分かるように言えば、消えた古代文明のオーパーツというやつだな」
なおももう一つ角砂糖をスラム断固させながら言うリンディの説明を補足する形でサウザーが付け加える。
規模は大分違うだろうが、方向性は概ね間違ってはいないはずだ。
後、砂糖については何も言わないし突っ込まない。
そういう飲み方をする地域は実際にある。
さすがにこれ以上ぶっ込むようなら味覚障害と判断して、北斗でも紹介してやった方がいいかと考えているとリンディが頷いた。

「そうね。次元空間の中にある様々な世界の中でも、進化しすぎて自らの力で世界を滅ぼしてしまった技術の遺産」
「それらを総称してロストロギアと呼ぶ。使用法は不明だが使い方によっては世界どころか、次元空間すら滅ぼす程の力を持つ危険な技術」
「あなたが、あの黒衣の魔導師に渡したジュエルシードは次元干渉型のエネルギーの結晶体。
 一つだけならまだしも、いくつか集めて特定の方法で起動させれば、空間に次元震を引き起こし最悪の場合次元断層を起こす危険物」
そこまで言ってリンディが角砂糖を入れた緑茶に口を付けたが、淡々と洒落にならない事を言うので、さすがのサウザーも少し冷や汗を流す。
次元震や次元断層がどういう物かは想像が付かないにしろ、口振りからヤバそうな臭いがプンプンする。
渡した事はどうでもいいが、核爆弾以上の代物を一つ一刀両断にしたのだ。
さっきはさっきで、勝負邪魔されたという勢いだけでラオウとタンデムコンボ決めてぶっ飛ばしたばかり。
自分が原因で世紀末モードに突入するなど、笑い話にもならないし正直御免被る。
よく何も起こらなかったものだと、やってしまった事を思い返しながら肝を冷やしていると勢いよくクロノが立ち上がった。

「それは本当ですか艦長!それなら、今すぐ彼を拘束し取調べを行うべきです!」
そんな物を正体不明の相手に渡したとなればクロノがそう言うのも無理からぬ事であるが、気に入らない。
「……人から話を聞きだそうという態度ではないな、小僧」
座ったまま、目を細めつつ威圧感たっぷりにサウザーが言う。
ジャギやラオウみたいなのに丁寧な喋り方されても気色悪いだけだが、あれだって一応は馴染みで交流もそれなりにある。
管理局の執務官がどれ程の権限を持っているかは知らないが、それ以前に初対面の子供にこんな態度を取られるのが気に入らないのだ。

凄く偉そうに言うものだから、クロノも言い返す事ができずに黙ってしまった。
なにせ、言った相手が相手だ。
雰囲気や言葉遣いから偉いんですオーラが嫌という程滲み出ている。
もっとも、南斗六聖拳筆頭である南斗鳳凰拳の次期継承者だから偉い事には違い無いのだが。

「……分かりました。ですが小僧というのは止めてくれませんか。僕は十四です」
管理外世界という事もあって言葉を正したのだが、続けて言った言葉にサウザーが少し目を開く。
そして、クロノを上から下までまじまじと眺めると残酷な事実を告げた。

「……なんだ。貴様、俺の一つ下か。こいつらと同じぐらいだと思っていたのだがな」
「ぶっ!」
ちょっと驚いたようにサウザーがそんな事を言うもんだから、今度は緑茶を口に含んでいたリンディが中身を少し外に出した。

「ほ、ほ、本当に……!?」
咽ながらリンディがなのはとユーノを見ると苦笑いを浮かべながら首を縦に振られた。
YouはShock!とでも言いたそうに思わず身を乗り出すようにしてサウザーとクロノを何回も見比べる。
相変わらずの初見殺しっぷりだが、サウザーに言わせてみればおかしいのはクロノの方だ。
言っちゃあなんだが、クロノの身長はかなり小さい。
それはもう、なのはやユーノと同じぐらいの年齢かと思う程に。
まして、既に175cmの壁を突破しているサウザーと年が一個しか違わないというなら、なんというか色んな意味で悲惨。
そしてサウザー以外からクロノに向けられる暖かい目。
それはまるで、春の木漏れ日の中に居るかのような優しさだった。

「か、艦長!今はそんな話をしている場合では!」
それでもクロノは、その優しさに埋もれてしまわないように大きく声をあげる。
だってそうしなければ、泣いてしまいそうだったから。
そんなクロノを見てリンディは優しい笑みを浮かべた。

「大丈夫よ、クロノ。あなたの成長期はまだあるはずだから諦めないで」
親指を立てて諭すようにリンディが言うが、その優しさが一周して逆に痛い。
何が痛いかって主に心が。
まだとか、あるはずとか何気に期待値が低いと見做されているのだから余計だ。
こんなに痛いのは、一部の心無い局員の間で『クロノは執務官の中では下の方』と囁かれていたと知った時以来である。
何かにひびが入るような音がすると、クロノは部屋の隅の方で脚を抱えて座り込んでしまった。
しっかりしているように見えて案外精神的には脆いところがあるようだ。
なお、達人が行う口プレイデスマッチからすれば、この程度の口プレイはまだまだ小手先だということを説明しておく。


「とにかく、これより先はジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
そのクロノに止めを刺した張本人はというと、こほん、と咳払いをすると場をまとめにかかっている。
放っておいていいのかと思わないでもないが、身内なので特に構わないのだろう。
修羅の国でも煽り合いは身内同士で、という掟がある事だし。
それはいいとして、突然ジュエルシードの探索から手を引けと言われたので、元から探していないサウザーはともかく、なのはは納得できていないようだった。

「でも……それじゃあ……」
「まあ、急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてお話をしましょう」
聞く限りではリンディの言は極めて正論である。
正論だからこそ、何か言いたそうななのはも何も言えず黙ってしまった。

「あまり回りくどい言い方は止めておけ。下手に隠し立てしているようでは、後々禍根を残しかねん」
と、今まで黙っていたサウザーが口を挟んだ。
さっきユーノに言った事もあるので、なのはは少し不安そうにしている。
軽く一瞥すると短く言った。

「まぁ任せておけ。これでもお前達よりはこの手の事には慣れているつもりだ」
南斗聖拳百八派と言っても、全部が全部一枚岩ってわけでもなく結構ドロドロしている部分もある。
個人から流派間といったとこまで相容れない連中はとことん相性が悪い。
そんな一癖も二癖もあるやつらを纏めているのが、南斗六聖拳や海のリハクと言った実力者達だ。
海千山千が形となったようなリハクやリュウロウを相手にすると思えば可愛いもんである。
なんにせよ、こういう場での話は受けに回るとあまりいい結果にならないというのが世の常というもの。
攻めに徹して押し切るか、受け流してのらりくらりとかわしていくかだ。
もちろん、日本国究極奥義『遺憾の意』を使う気は無いので、少し高圧的に話を切り出した。

「組織としての人手不足もそうだが、それ以前に使える者が少ないと言ったところか」
「……どうしてそう思うのかしら?」
ジュエルシードが世界が滅ぶような代物であるのならば、アースラ単艦というのは対応するのに十分な戦力とは言えない。
それに、クロノが一人であの場所に先行してきたのがいい証拠だ。
何事も不測の事態に備えておくのがこの手の組織のやり方だけに、一人というのは普通はありえない。
少し手伝ったにしろ、現にフェイト達は逃げおおせた。
それも、ジュエルシードを持ったままなのだから、回収を目的としているアースラからすれば敗北に等しい。
一人で来た理由を、功名心で突っ走った馬鹿か、単に人手と質の不足のどちらかだろうと考え
クロノが功を焦るようなやつではないと判断した上でそれを纏めて簡単に言うと、リンディは少し残念そうな口調で答えた。

「確かに、管理局では慢性的な人員不足だし、魔力ランクAAA以上の魔導師は全体でも5%に過ぎないのも事実。
  私個人としては、なのはさんみたいな子に危ない目に遭って欲しくはないんだけれど、管理局の人間としては猫の手も借りたいような状況なの。
 でも、変な風に聞こえたかもしれないけど、それを強要する気は無い事だけは分かって欲しいわ」
「……成る程な」
答えを聞いて少し考えたが、それもそうだ。
いくら資質が高いと言っても、なのはは訓練らしい訓練も受けていない正真正銘の民間人。
拳の世界も才能だけで生きていける程甘い代物ではない。
自身も含めて天武の才を持つと周りから言われている者でも、それ相応の地獄を味わってきてこうなったのだ。
それこそ、修行中に死んだと思ったのは十や二十では済まない。
どんな世界でも、俺は天才だ!とか媚びろ凡人が!とか言ってるようなやつはロクなのがいないのである。

ともあれ、物が物だけに怪我どころか最悪、命を失う可能性だってあるのだから、一晩どころか一週間ぐらい時間かけたっておかしくはない。
何か隠しているようなら経絡秘孔『新一』を突いてやろうと思っていたのだが、どうやらその必要は無いらしい。
あんな言い方になったのも組織の上に立つ人間故のジレンマからだろう。
少なくともリンディ個人は悪意のある人間ではなさそうだ。
どうもこういう話になると必要以上に何か裏があると感じてしまうのだが、全部リハクのせいだという事にして納得しておく事にした。

「そちらの立場は分かった。この場で結論を出す必要は無いが、お前達の事はお前達で考えて決めろ」
「え、いいんですか?」
「いいも何も、元から二人で出来ていた事なら特に問題は無いだろう。……あいつらの事もあるしな」
常識的に考えれば、こんな年の子供に戦わすというのも妙な話だが、物心付いた時から南斗聖拳なんていう殺人拳を修めている人間が言えた義理ではないのだ。
どうするかは知らないが、決めた事に口を出すつもりは無い。
魔闘気を前にしても心が折れなかったこいつらの事だ。
関わるなと言っても勝手に横から関わるに決まっている。
それなら、まだバックアップがあった方が不測の事態にも対応できるし、何より集まってくる情報の量と質が違う。
組織力を甘く見ている奴が居たのならこれだけは言ってやる。馬鹿め、と。


「あ、ありがとうございます!」
てっきりサウザーも探索から手を引けと言われると思っていたのでユーノは深々と頭を下げた。
恐らく、この場で最も戦い慣れているであろう人物からのお墨付きが出たのだ。
なのはもそれが嬉しかったのか、いつもの笑顔になった。
そんな二人の様子を見てふと思い出す。
そんなに時間は経っていないが、ラオウと闘っていた時はもう既に深夜一歩手前だったはず。

「ところで……、結構な時間のはずだが、お前は帰らなくても問題無いのか?」
二人して喜んでいるところへ、何気無しにサウザーが言うとピシりとなのはが固まる。
未だ家族に魔法の事なんて話しておらず、今回もジュエルシードの発動を感じたから家を抜け出してきたわけである。
当然無断外出なわけで、時間が時間だけに居ないなんて事が発覚してしまうと凄く拙い。
良くて警察沙汰、悪ければ本気で動く御神の剣士の姿が拝めるかもしれない。
なんにせよ協力するしない以前の問題が起こってしまうわけで、再起動したなのはは、もの凄く慌て始めた。

「リンディさん!今日は帰らせてください!それと……」
「分かってるわ。お家の側に転送してあげるから、また明日ね」
あたふたしながら涙目になっているが、高町家における最大権力者は御神の使い手では無く、ケーキ職人高町桃子その人。
普段は超が付く程に温厚な彼女だが、一度怒らすと嫌でも頭が冷えるぐらい怖いのだ。
その辺りの事は娘であるなのはにもしっかり受け継がれているのだが、今のところ本人にはその自覚が無いようである。
兎にも角にも母親という視点から、その辺りの事情はリンディも察していたようで転送の準備は整っていたらしい。
案内の人間が部屋に入ってくると、小さく頭を下げながらなのはとユーノは部屋から出て行った。


「それで、サウザー……君?はどうするのかしら。私としては協力してくれると助かるのだけど」
言葉の一部が疑問系になっていたが、特に気にはしない。
そんな扱いはもう慣れた。

「今日遭ったばかりの組織の人間を全面的に信用する程、楽観的ではないんでな。正直なところまだ決めかねている」
本来ならあんな物さっさと引き取ってもらうに越したことはないのだが、フェイトの一件がある。
フェイト自身というより、その後ろのプレシアの存在が問題と言うべきか。

あんな真似をするようでは、いつフェイトを切捨てにかかるか分かったもんではないのだ。
それにジュエルシードを集めて何をするかがまだはっきりとしていない。
関係ない所で世界を滅ぼされるような真似をされてはいい気分はしないので、そういう意味では表向きにしろ協力しておいた方が即応出来るかもしれない。
幸い時間はまだ余っているし、どうするかと考えていると、ようやく立ち直ったクロノが割り込んできた。

「艦長、彼はロストロギア不法所持、及び次元犯罪に関わっている可能性があります。それに魔力も持っていないような民間人に介入してもらう必要はありません」
「む……」
どうもこいつどこかで見た事があるなと思っていたが、あれかと思い出した。
言わんとしている事は分からんでもないが、妙に気に障る言い回しをするところとかが南斗孤鷲拳のシンによく似ている。
小僧のくせになまじ実力が高いだけに、兄弟子のジュガイも手を焼いているそうだが、こいつもきっとその手のやつなのだろう。

そんなに魔法の有る無しが大事なら、いっその事このまま壁際に押し込んで
椅子に座らせてから無理矢理浮かせて、マジカルナンバー27をブチ込んで永久的にダムダムしてやろうか。
まぁその大魔法を使えるのは、数多の修羅の返り血で赤く染まった魔法戦士である。

それはそれとしておくにしろ、南斗鳳凰拳の使い手に対してこんなナメた態度を取るやつはジュウザ以来久しぶりだ。
無論、価値観の相違と情報の共有がされていないのだから仕方の無い事ではある。

なにせ現在勤務中のアースラクルーの中で、サーチャーが写し取った世紀末映像を見ていないのは、外に出ていたクロノを含めても極一部。
サウザー自身も魔法とかいう物を知らなかったら、クロノの事をただのクソ生意気なガキとしか思っていなかったので人の事は言えない。
魔法と拳法、水と油の存在が言葉だけで理解し合える物では無い。
手っ取り早くお互いの認識を深め合う為には何をするべきか。
というわけで、アースラの中で





実際に闘ってみた。





ヒャッハー!あとがきだァーーー!!
今回のサブタイトル=クロノ・ハラオウンのガチ撮り百番勝負~序~
というわけで、次は無印編お約束のクロスケとの戦闘ですが
流れとしても分かるように、内容は思いっきり飛ばすつもりです。
室内という限られた空間と接近戦の戦闘力を考慮した結果、どう考えても金払ってコンボを見せてもらうゲームにしかならなさそうっぽいので。
画像や実況があればまた違うんでしょうがね。

そして復ッッ活ッッ!コミックバンチ復ッッ活ッッ!
雑誌名こそ変わったものの、これで聖帝様の外伝が出ると信じたい……



[18968] 第十四話:嵐の前
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2014/09/17 08:11
そして、一時間後……






どこか悲しげな、地下のジャズ喫茶で聞けそうな音楽が流れんばかりの雰囲気の中、一つの影が左右によろめく。
その影の持ち主は、まるで水も食料も無い荒野を何日もさ迷ったかのようによろよろと歩くと、音を立てて地面に倒れる。
しばらくはピクりとも動かなかったが、やがて手にしている杖を支えに立ち上がると息を乱しながら前を見た。
その視線の先には、『ん?やりすぎたかな?』と言わんばかりに顎に手を当てているサウザーが全くの無傷で立っており、その余裕っぷりが悔しさを一段と加速させる。
㌧㌧されながら『ねぇ、どんな気持ち?産まれ立ての仔馬の気分ってどんな気持ち?』とか言われたりするより余程マシってもんではあるが。

クロノvsサウザー
  1勝17敗

1:9が付かんばかりのダイヤは紛れも無く完敗という二文字がよく似合う。
ちなみに17敗というのは、サウザーがその気だったら十七回死んだという意味。
クロノがマトモに攻撃出来たのは先制の一度ぐらい。
後は、防戦一方で何もできなかった。
どのぐらい防戦一方だったかと分かりやすく言えば、金払って一時間レバーを全力で後ろに倒すゲーム。
はっきり言ってクソゲーである。
最後の最後、攻撃に耐えかねてバリアジャケットを構成する魔力を全方位に放出するジャケットパージを使ったのだが
完全に読まれた挙句、見事に無防備なところを狩られ魔力切れとなり終了と相成った。
クロノにしてみれば奥の手とも言えるジャケットバージを簡単に凌がれたのにはもちろん訳がある。


ある時、覇者が一人の修羅に向けてこう言った……


――甘えてんじゃねえよ!


ガーキャンは甘え!とはよく言ったもの。
返し技は決まれば絶大な威力を誇るが、外したり読まれたりすればこれ以上の無い程の隙を生む。
安易にぱなすだけでは狩られて十割献上するのが修羅の世界だ。
まして、至近距離から放たれる超高速の拳すら見切る南斗鳳凰拳。
離れた場所から放つ上に、あんな分かりやすい色の付いた弾を避ける事など造作も無い。
それでも0:10にならなかったのは、避けたと思った弾が後ろから追いかけてきたせい。
まさか追尾してくるとは思っていなかったので一発貰ってしまった。
当たったところで大したダメージは無かったのだが、こういう物はSTGよろしく当たったら負けた気がするのだ。

しかし、これではっきりした事がある。
魔導師との戦いは元斗皇拳を相手にする事とよく似ている。
間合いに踏み込むのが先か、間合いに踏み込んでくるより先に倒しきるか。
それが分かっただけでも収穫はあった。
もっとも、相手をした方の心はすっかり砕けてしまったようだが。


――あの日以来クロノ君は………ブレイズキャノンが出なくなったのです


「……変な煽りを入れないで……くれないか、エイミィ……」
今のクロノの姿はバリアジャケットを復元する魔力すら足りずボロ雑巾もいいところ。
破けて見える背中には紋章でも焼き入れられかねない体たらくだ。
なのに、幼馴染兼オペレーターは追い討ちをかけてくるのだから、ぬくもりなんざ一片もありゃしねぇ。
それどころか、さっきから『ダッサ!うわダッサ!』とか『これがお前の生き様だよ!』とか『台車通るよー』なんて言葉が次々聞こえている。
それは気のせいであって、断じて煽りという名の念話なんかじゃないはずだ。
そう自分を無理矢理納得させたクロノが息も絶え絶えに何とか声のした方向へ顔を向けると、さっきなのはを送っていった局員を連れてリンディが訓練室に入ってくるところだった。


「お疲れ様です。クロノ君が何もできないなんて凄いですね」
「当たり前だ。格闘戦で俺が遅れをとるものか」
そのもう一人から差し出された飲み物を受け取りながらサウザーが当然のように言うが
近接戦闘超一点特化の南斗聖拳が魔導師なんぞに遅れを取ったりしたらそれはそれで非常に洒落にならない。
それこそ、南斗残念拳とでも改名しなければならなくなる。

それにしても非殺傷設定とやらは便利なものだと本気で思った。
普通、本気で殺しにくる敵を殺さないように相手するという行為には絶大なまでの労力が必要になるってくるが、そんな事気にしなくてもいいのだ。
真剣勝負の場において、殺せという命令程楽な物は無いし、逆に殺すなという命令程厄介な物は無い。
クロノは全力を出せるのに、手加減せねばならないというのは体のいいハンデ戦である。
南斗聖拳を使えばもう少し楽できたのだが、あくまで修行中の身なので、外では必要に迫られない限りは使いたくない。
それでもGOLANの有様なのは、単純に近接戦における実力差の表れだろう。
修羅勢とモヒカン勢ぐらいの。
まぁ、おまモヒと言った修羅を喰らう羅刹が稀によく存在するのが、修羅の国が聖地、もしくは魔窟と呼ばれている所以ではあるが。


「魔力も……使わずにシールドを無理矢理打ち破るなんて、君は一体……何者なんだ・・・・・・」
夏の終わりの虫のように息を切らしてるクロノに対して、サウザーは息一つ乱していない。
それに魔力無しであの力と速さは異常にも程がありすぎる。
繰り出す拳の一発が並の射撃魔法を遥かに上回る威力を持っていて、その動きを捉える事ができなかった。。
攻撃自体はシールドで防げない程ではないが、それが絶えず繰り出されるのだから反撃をする暇なんてどこにも見当たらない。
間合いを放そうにも、退がればそれ以上の速度で間合いを詰められるし、飛行魔法で逃れようとすればそれよりも先に頭を押さえられる。
気が付いたら壁際で作業され、延々と固め削られた挙句にバリアブレイクである。
それだけならまだしも、直後に指先を首筋に突きつけられ、しばらく身動きが取れないでいると腕を引かれた。
やたら挑発的な笑みを浮かべているのでムキになって繰り返すこと数えて十七回。
最後のジャケットパージも軽くいなされ、精も根も魔力も肋骨さえも残っていない。
今なら言える。
自分が相手をしていたのは人の形をした『何か』だと。
対するサウザーは何か扱いされたのが気に食わないのか、憮然とした表情で答えた。

「化物とはよく言われるが、これでも真っ当な人間だ。強いて違うと言うなら、貴様らと俺とではやっている修練の質と量が違うという事だけだがな」
クロノの動きは訓練されているだけあって悪くは無い。
悪くは無いのだが、一日二十四時間感謝の作業と言わんばかりに、冗談抜きで一週間休み無しで修行しているような人間から見れば、そこ止まりだ。

人間かどうかと問われれば、出生が孤児だっただけに疑問符が付きかねないが、人間で間違いは無いだろう。
ラオウやフドウだって人類なのだから、あの二人を差し置いて人外にはならないはずである。

……考えれば考えるほど、あいつらが本当に純粋な人類なのか怪しく思えてきた。
ラオウはまだともかく、フドウに至っては人間というより巨人という言葉の方がしっくりくる。
思えば、泰山とか崋山の使い手は本当に人間かという連中が多い。
確か、華山角抵戯の使い手もフドウ並みにデカいと聞いた事がある。
夜の一族とかいう吸血鬼が実在するだけに、本気で巨人っていう種族も存在するんじゃないかと思ったりしたが、考えすぎだという事にしておきたい。
水分補給している横では、クロノに向けてリンディが何か話を始めていた。


「あなたの敗因は二つ。一つは、相手の事をよく知らずに戦った事。サーチャーの映像を見た限りだけど
 彼と映っていたもう一人は、至近距離に限ってだけど魔導師ランクS以上。しかも、今のを見ると格闘戦そのもののスキルも超一流といったところね」
魔導師ランクSとやらがどの程度の事を指すのかは知らないが、少なくともリンディはサウザーの実力を高く評価している事は見て取れる。
映像に映っていたのがほんの一部分だったとしても、あれだけの事をしでかした者の実力が低いはずは無い。
そんな相手に接近戦を仕掛けられれば、こんな結果になるのは織り込み済みだったのか予想的中といった感じの声だ。

「そしてもう一つは、戦闘場所の選択ミス。訓練室みたいな限られた空間では空戦魔導師のメリットが生かせないんだから、ある意味当然の結果よ」
この訓練室ぐらいの広さなら、人外極まりない身体能力と神速の踏み込みを持つサウザーにとっては、ほぼ全領域が間合いになる。
好きな時、好きな場所で攻撃を仕掛ける事ができるのだから
そらバリアより高い強度を持つラウンドシールドでも、蓄積が溜まってあっという間にガークラする。
これがもし外だったとしたら、ここまでひどい結果にはなっていないはずである。
なにせ、最初から空に飛ばれて一方的に攻撃されては手の出しようが無いのだ。
それでも十三メートルぐらいなら何とかならないこともないし、相手が非殺傷設定を使っている限りは、勝てもしないが敗れもしない。
非殺傷と言えど当たれば衝撃はかなりの物だし、普通なら気絶なりで戦う事はできなくなる。
何が駄目って、あくまで普通ならであって、南斗聖拳を極めているような方々は、どう見繕っても普通ではない。
もちろんサウザーも例外ではなく、小パン一発で常人があべしるようなラオウの拳を普通に受けられる身体をしているのだ。
あれに比べたら、さっき貰った攻撃など蚊に刺されたようなもので、その辺りの事を確かめる為に闘ってみたまで。

「安い挑発に乗って相手の術中に嵌るなんて愚の骨頂。あなた個人の立場ならそれもまだいいけれど、これから先も上を目指すのなら、今日の事を忘れちゃ駄目よ」
「はい……、艦長」
指を立てて淡々と述べていくリンディと、頭を下に向けて項垂れているクロノという様は、どことなく教師と生徒という関係を思い浮かばせる。
そもそも、何故こんな事になったかと言うと、一度でも膝を付かす事が出来れば、この事件の裏の全てまで話してやるとサウザーが言った事が原因である。
無論、裏どころか表すら詳しく知りはしないのだが、膝を付かなければ何も問題が無いのだ。
ついでに「出来ればの話だがな」とわざとらしく言っておくと、思った以上に効果があったのでジュウザがラオウを相手にしている気分が少し分かった気がする。
それで、リンディが訓練室か外で結界張って手合わせをするという提案を出した。
クロノが場所を選んだ後にリンディが何回か目配せを送ってきていたので、やけにあっさり手合わせの許可を出した事に納得がいった。
サウザーの思惑も全て理解した上で、どうせやるならとクロノの成長に役立てようと利用したようだ。
やはり、あの若さで艦長に上り詰めたような人物ともなると相応のやり手という事か。

そんな相手にどの辺りの事まで話していいものかと考えたが、どうでもいい事かと思い直した。
話から推察するに、ラオウとの闘いを見られてしまっているようだし、南斗聖拳に限って言えば特に門外不出というわけでもない。
映像とか言っていたのは少々問題だが、それぐらいで見切られるような温い拳はしていないという自負もある。
とにかく、聞く事、聞かれる事は山程あるはずである。
ラオウとの邂逅から始まった一日はまだ終わりそうになかった。



翌朝。
まだ目覚めきっていない海鳴の町を、大きめなリュックサックを背負ったなのはが走る。
何時ものツインテールを揺らしながら向かう先は、待ち合わせに指定された公園。
以前、ジャギが暴れまわった場所だ。
避けた地面の跡などは補修されて元通りになってはいるものの、ただ一つ。
魔闘気に晒され、枯れてしまった植物が寂しげに風に吹かれているのがジュエルシードが作った傷跡だという事を証明している。
公園のブランコに腰掛けると、少し揺らしながら前を眺めた。

偶然、魔法の力を手にしなければ知らなかったであろう、北斗神拳と南斗聖拳。
昨日もそうだったが、あまりにも現実離れし過ぎていてなんだか夢みたいだ。
魔法の事を思いっきり棚に上げ、少しの間ぼーっとしていると、どこからともなくクロノが姿を見せた。

「本当に来たのか……。昨日も艦長が言っていたけど、こちらの指示には従う事が条件だ」
仕方なさそうに言うクロノを見たなのはだったが、少し違和感を感じた。
クロノの雰囲気が初めて会った時とは違って、何だか悲壮感に包まれているような感じがする。
もちろん、サウザー道場の結果である事は言うまでもなく、精神的にも体力的にも少し参っているのだ
今ならどんな敵が相手でも、まず開幕バックステップで距離を取ろうとするはずである。
何が起こったかなど知る由も無いので頷いておくと、昨日と同じように転送が始まった。



「というわけで、本日7時を以って本艦全クルーの任務は、ロストロギア『ジュエルシード』の探索と回収に変更されます」
場所を移してアースラの作戦室。
リンディが円卓に座る局員を見渡しながら言うと、対面で小さく座るユーノに目を向けた。

「また本件においては特例として、問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導師でもあるこちら」
「はい、ユーノ・スクライアです!」
「それから、彼の協力者でもある現地の魔導師さん」
「高町なのはです」
「そしてもう一人。もう皆も知っていると思うけど……」
二人の紹介を終え、不在の三人目の説明をしようとすると、さっきから何らかのやり取りをしていた局員がリンディに近付いた。

「F班からの応答が途絶えました。防衛ライン全て突破された模様」
「もうやられちゃったの?うーん、やっぱり武装局員だけじゃ無理があったのかも」
アースラのクルーは主に調査、観測など艦の運用を行う局員と、戦闘が主任務も武装局員の二つに分けられる。
その武装局員の応答が無い以上、ここに集まっている局員ではクロノとリンディを除いて戦闘行動を取る事は皆無に等しい。
とにかく、指示を出そうとリンディが立ち上がると、不意に扉の向こう側から足音が聞こえてきた。

足音が大きくなるにつれ自然と緊張が高まり、なのはとユーノも何が起こっているのかと視線を扉に向ける。
音を立てて扉が開くと同時に影が飛び込んできたが、その動きは誰も捉えきれないぐらい俊敏で無駄が無い。
その勢いのまま、ほんの僅かに音を立てて跳躍し、空中で片手に持っていた物を無造作にクロノに投げつける。
それが武装局員の一人だと気付いた時には辛うじて受け止めるだけで精一杯で、なんとかクロノが体勢を整えた時には、サウザーがリンディの後ろに立っているところだった。

「ここまでだ」
首筋に二本の指を添えながら告げる。
誰かが妙な動きをすれば、動脈はおろか、いつでも首を刎ねる事の出来る位置だ。
完全に詰んだと理解したのか、リンディは諦めたように両手を挙げた。

「エイミィ。最下層部から艦長拘束までにかかった時間は?」
「えっと、二十八分四八秒です。そのうち武装班との交戦時間は十五分程ですね」
報告を聞いてため息が出そうになるが、部下の前のため我慢。
アースラの武装局員の質は管理局でもそれなりに高い方である。
防衛者という有利がありながら、一人を相手に僅か十五分で全滅してしまった。
これがもし正規の事であるのならば、始末書と報告書が束で必要になってくる。
そんな嬉しくない予想図を思い浮かべているリンディからサウザーが指を離すと、あっけに取られている二人に気付いたのか目を向けた。

「早いな。来るのは夕方ぐらいになると思っていたが」
今更のように言うサウザーの姿は昨日の物とは違って見える。
一体何が違うのかと、昨日までの姿を思い出してみれば、着ている物が違う事に気が付いた。
昨日、クロノが指摘したように傷だらけだった服の変わりに管理局の制服に身を包んでいるのだが、何故か違和感があまり無い。
制服とかいった物には縁遠い生活をしていても、鍛えられているだけあって本人の意思とは別に似合ってしまっている。
当人にしてみれば堅っ苦しい事この上ないが、月村で用意されたマフィアスーツよりはマシとのこと。

「それで、うちの武装局員はどうだったかしら?」
「集団での射撃戦はそれなりの働きを見せるが、分断されたり懐に潜り込まれると途端に脆さが露呈する。
  解決策としては徹底して集団戦法を叩き込むか、個人の白兵戦技の強化だろうが……、どちらにしろ付け焼刃では話にならん」
実際に闘ってみて感じた事は、奇襲や急襲といった想定外の事態に対処しきれていない事と、接近戦の練度が低い事の二つ。
とはいえ、サウザーからすれば大抵の者の技量は低いと見做されてしまうので、使い物にならないと決め付けるのは酷というものだろう。

「なるほど……。立場が違うと見えない所が見えるものね。貴重な意見だわ。当面は不測の事態に陥っても、お互いがカバーできるように訓練を行いましょう」
管理局で主に使われている魔法はミッド式という物で、射撃魔法に重きを置いているところがある。
接近戦にも対応している事はしているが、接近戦という行為その物が被弾のリスクを背負う事であるため、主体として使う者は極稀と言っていい。
武装局員も例に漏れず、中~長距離の魔力運用を得意とする者がほとんどであるため、低い適正を無理に上げるより、複数人揃える事で穴を埋める方法を取る事にしたようだ。

戦いは数だよ、と偉い人が言ったが、それも連携が取れていてこそ。
中国拳法象形拳の流れを汲む崋山群狼拳は、統率された狼の如く集団で敵を襲うと知られている。
南斗聖拳にしても、南斗双鷹拳や南斗飛燕拳のように、二人一体となれば一人で闘うよりも数倍の力を発揮する流派があるのだから、連携力という物を侮ることはできない。
特に間違った事は言っていないので肯定の意味も含めて頷いておくと、まだよく状況を掴めていないユーノがおずおずと手を挙げた。

「あのー……、そろそろ僕達にもどういう事か説明してもらえると嬉しいんですが」
「俺が下から攻めて、こいつらがそれを防ぐ。戦力確認も兼ねた演習だ」
「(つまり、この人はやろうと思えば一人でアースラを制圧できるという事か……)」
一人で武装局員全員を伸したという事実がそれも可能だという事を示している。
それになんといっても死角の多い閉鎖空間での交戦は、暗殺拳たる北斗南斗が最も得意とするところ。
物音一つ立てず、僅かな気配すら起こさずに獲物に迫り仕留める事ができるだけに
武装局員側にしてみれば、完璧な布陣で待ち構えていても、いつの間にか仲間の数が減り始めていたのだから、一種のホラーである。
気付かれないまま全滅させても良かったが、それでは問題点の発掘しようが無いので、ある程度数を討ち減らした所で姿を見せたがこの体たらくだ。
恐らく、リンディやクロノもその事に気付いているのだが、サウザー自身がその気になっていない以上は
下手に言えば薮蛇になってしまうかもしれないので表には出さないようにしているのだろう。
色んな意味で冷や汗が出ているユーノを放置してサウザーがその隣に座ると、今後の回収プランを決めるため改めてリンディが説明を始めた。




それから一週間程が経ち……
特にジュエルシードの反応も無く、平常運転のブリッジに僅かな電子音とパネルを操作する音が響く。

姓名――サウザー
出身世界――第九十七管理外世界
魔力資質――None
推定魔導師ランク――陸戦S相当
希少技能――南斗鳳凰拳
適正ポジション――フロントアタッカー

      第九十七管理外世界に存在する戦闘集団『南斗聖拳』の一派『南斗鳳凰拳』の使い手。
      魔力を用いずに行使される戦闘スタイルは、ほぼ近接格闘戦に限定されるが、特筆すべきはその攻撃能力の高さである。
総評――研ぎ澄まされた手刀は真空を生み出し、触れる物全てを切り裂き、貫く。
      防御魔法も例外ではなく、並大抵の魔導師では攻撃を防ぐ事は不可能に近い。
      当該事件においても、A+級ロストロギア『ジュエルシード』の暴走体を撃破している事が確認されている。
      また、身体能力も極めて高く、十数メートルの跳躍力を持つため、対空迎撃能力もある程度備えており

そこまで入力し終えてパネルを打つ手が止まる。
そして、改めて入力した文章を見直してみるとエイミィが盛大にため息を吐いた。

「艦長~。これ、このまま本局に提出したら、どうなります?」
「そうねぇ……、減俸か病気療養のどっちかだと思うけど」
「ですよねー」
ジュエルシード探索を始めてから、三つ程回収する事に成功したがそこから先が見つからない。
海上方面の探索を続けている間、今までの戦闘記録を元に、なのは、ユーノ、サウザーのデータを纏めた報告書を作ってみたのだが、三番目の異質っぷりが凄まじい事になってしまっている。
自分で作ったエイミィですら胡散臭く感じてしまうのだから、他人が見ればどう見るかは推して察するべきか。
もちろん、嘘や誇張はどこにも含まれておらず、これでもまだ半分も入力できていない。
別のモニターでは、先日の戦闘映像が流れており、投げつけられた岩をサウザーが四つに切り砕いているところだった。

「三人とも優秀だけど、戦闘が専門だけあってサウザー君が頭一つ抜けてる感じね。見識や判断力も確かだし、このままうちの戦技教導官になってくれないかしら」
サウザーが直接交戦しながら頭を抑えている間に、ユーノがチェーンバインドで捕らえ、安全が確保された後方から、なのはが封印処理を行う。
敵を行動不能にするという意味で言えばサウザーだけで十分なのだが、生物系の敵にそんな事をすれば、一生物のトラウマを植えつけかねないので自重している。
強力なフロントアタッカーが居るチームは総じて優秀というが、ここにクロノが入ればチームとしては理想の形になるかもしれない。
なので、割と本気で勧誘する事を考えていると、凄くいい顔でエイミィが答えた。

「そうなったら、余計どっちが艦長か分からなくなりますよね」
「言わないでよ……気にしてるんだから……」
三十超えても二十代前半のように見えるのは女としては嬉しい事だが、改めて言われると艦長としてはがっくりくるものがある。
まぁなんというか、サウザーの纏っている風格というか、普段の立ち振舞いのせいか、提督とか将軍とか呼ばれても全く違和感が無いのだ。
それに、背景にクラシック流しながら『ファイエル!』とか言わせたら凄い似合う気がする。(声的な意味で)
おかげさまで昨日なんか、艦内案内していると食堂に行った時、何か集まっていた局員に
『リンディ艦長ご退艦なされます。皆様拍手でお送りくださいませ!』とか言われて、どこで調達したのか花束まで手渡された。
あっけに取られている横で、『新艦長に敬礼!』とかやられて、慌てて説明すると平然とした顔で『知ってます』とか言われたのだから、本気で配置転換を考えた程だ。
こう自然に部下から口プレイを受けるのは、やっぱり威厳という物が足りないのだろうかという考えに至ると、ジュエルシードの反応の探っていた局員が大きく声をあげた。

「海上にてジュエルシード……、これは!?」
「どうしたの?」
「艦長!当該区域で結界の発動と同時に、複数のジュエルシードの反応を確認しました。どうやら残りの六個を纏めて発動させた模様!」
「何て無茶を……。とにかく、サーチャーを飛ばして状況の確認を。回収チームにもブリッジに来るよう命じて」
「了解」
しばらくして、なのはとユーノ。少し遅れて、武装局員の訓練を行っていたクロノ。最後にサウザーが入ってきたが、モニターに映る映像を見て顔をしかめた。

「……何があった」
「海流によって一箇所に集まっていたジュエルシードを纏めて発動させたみたいです。……信じられませんが、六個同時に」
一個だけでも膨大なエネルギーを持つジュエルシードを同時に平行励起させる。
必要とする労力は単純に倍すればいいというものではなく、消耗などを考慮に入れれば加速度的に大きくなるものだ。
南斗十人組み手に挑戦した者が、大抵の場合七人目、八人目で脱落していくような物だと思えば、どれだけ無謀な事をしているかぐらいはサウザーにも分かる。
十人組み手でも六聖拳のように桁外れた力量差があるならともかく、一つも封印出来ていないのに明らかにフェイトは苦戦している。
アルフも身動きが取れないようで、このままでは力尽きるのも時間の問題だろう。

「あの!わたし急いで現場に!」
居ても立っても居られなくなったのか、なのはが転送ゲートに走り出すと、それをクロノの声が止めた。
「その必要は無いよ。放っておけばあの子は自滅する。仮にそうでなくても、力を使い果たした所を捕らえればいい」
「でも……」
「今はなのはさんに出撃の許可は出せません。少なくとも彼女の身柄の確保と、ジュエルシードの封印。この二つが同時に行えるまでは」
ジュエルシードの回収と、フェイトの後ろに居る黒幕を捕らえる為にも、管理局としてはこの二点は絶対に譲歩できない。
淡々と言うクロノとリンディを見て、そうだと思い期待の篭った目でサウザーを見たが、返ってきたのは同じ温度の無い言葉だった。

「先に言っておくが、俺があの立場でも同じ手段を取る」
「そんな……!」
その状況下で最も効率の良い手段を選び、味方の消耗を限りなく少なくするという事は、人を率いる立場の人間として当然の事である。
兵を率いる将に情けは要らぬ。
少を殺す事になっても、それが大を生かすという事であれば、非情な選択をしなければならない。
まさか、サウザーにまでそんな事を言われるとは思わなかったので、がっくりと項垂れていると、どこからか水が落ちるような音を聞いた。

水の音だと思っていたのは、硬く握られた拳から血が滴り落ちる音。
それでよく見てみれば、平静を保っているように見えても、サウザーの視線は苦戦しているフェイトから離れようとはしない。
やがて、見られている事に気付いたのか力を抜くと、なのはにだけ聞こえるように言った。

「……さすがに海の上ではどうしようもないからな」
「あ……」
やっている事のインパクトが強いので、なのははすっかり忘れていたが、サウザーは跳ぶ事は出来ても飛ぶ事は出来ない。
人外染みた跳躍力で擬似的な空中戦を行うことはあっても、それも全て足場があってこそ。
助けないのではなく、助けられない。
その感情を外に出すわけにもいかず、少しでも最善の方法を取ろうとしているのだ。
それが分からないなのはではなく、何かを考えるように目を閉ると、その様子を見たサウザーが問いかけてきた。

「お前はどうしたい」
「わたし……わたしは……、フェイトちゃん、いつも悲しそうな目をしてて、一人ぼっちで寂しそうって思ったから……、だから友達になりたい」
フェイトが受けている仕打ちは、衝撃が強いだろうと話してはいなかったが、背負っている物を見抜いた事には少々驚いた。
そして、友達になりたいという純粋な想い。
南斗聖拳最強という看板を背負い、常に他人に弱みを見せまいとしてきた自分に到底真似できる物ではない。

「なら、何を迷う事がある」
真似が出来ないのなら、後押しをしてやるまで。
なのはもユーノも自分には無い力を持っている。
元々、見ているだけなんてのは性に合わないだけに、これがサウザーの選んだ最善の道だ。

顔を上げ、見上げたサウザーの視線の先にあるのは、転送ゲート。
その近くでは、悟られないようにユーノがゲートを開く準備をしている。
言葉や念話を繋げなくても伝わる物はある。

「(そっか……、そうだよね)」
ユーノから受け取ったレイジングハートと共に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸にある。
そして、進む道も拓けている。
迷う必要なんて無い。
そう……、だって今は


――今は悪魔が微笑む時代なんだ!


「待つんだ!勝手な行動は……!」
転送ゲートに向かうなのはをクロノが止めようとするが、その足先に大きな亀裂が入り止る事を余儀なくされた。
何も使わずに床を布切れのように切り裂く。
こんな真似が出来るのは一人しか居ない。
睨むように前を見ると、両腕を下げた姿のサウザーが立ちはだかっていた。

「邪魔はさせん。こいつらの行く手を阻むというのであれば……、この俺が相手だ」
南斗六聖拳は、かつて皇帝が住まう居城の六つの門を守ってきた。
その中でも将星が担う門は、常勝と不敗の名の元に、一度たりとも破られた事は無い。
南斗鳳凰拳の名にかけて、これより先は塵芥一つ通しはしない。
そのサウザーの後ろでは、転送ゲートに入ったなのはが小さく頭を下げているところだった。

「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります!」
「同じくユーノ・スクライアも勝手な行動を取らせてもらいます。あの子の結界内へ、転送!」
二人の姿が消えた事を後ろ目で確認すると、改めて身構えるクロノに正対する。
サウザーに非殺傷設定の魔法は一切通用しない。
敵になるなら殺傷設定で攻撃するしか無いが、デバイスを手にするようになってから殺傷設定は一度も使った事が無く、クロノには使う事が躊躇われる。
第一、それが通用するかどうか保証の限りでは無く、先の演習のように艦長を人質に取られる危険だってある。
それに、南斗聖拳は紛れも無く殺人拳。
人を殺す事で積み重ねられてきた技など、クロノが知っている常識からは大きくかけ離れている。
一歩、サウザーが近付くと、動くに動けないクロノが大きく叫んだ。

「君は一体……、誰の味方なんだ!」
「気が変わった、とでも言えば納得できるのか?」
「そんな言葉一つで……!」
納得できるはずがない。
だが、納得できるはずがないからどうだというのだ。
時空管理局が掲げる正義も理念も、管理世界の住人が定めた物であってサウザーが知るところではない。
非殺傷設定など無く、拳を振るうだけで真空の刃を生み出し、眼前の物を全て切り裂く。
クロノがデバイスを殺傷設定に切り替えようとした時、リンディの声がブリッジに響いた。

「そこまでよ二人とも。味方同士で争って何の意味があるの。今はそんな場合じゃないでしょう」
「ですが、艦長!」
「落ち着きなさいクロノ。その気ならとっくに行動に移しているはずよ。そうじゃなくて?」
この状況下にあっても、さすがにリンディはよく見ている。
サウザーは最初から間合いに入っているにも関わらず、クロノに直接危害は加えなかった。
となれば、まだ管理局との協力体制を解消する気は無いという事は明らか。
その言葉に間違いは無く、サウザーはクロノから視線を外すと軽く跳躍しリンディの傍に立った。

「この俺が何一つ手出し出来んとは。まったく……、無様なものだな」
南斗聖拳を極めた者が何も出来ずに、ただ傍観者になる事を余儀なくされている。
まして、苛立ちをクロノにぶつける形になってしまったのだから、無様を通り越してなんとも間の抜けた話だ。
半ば吐き捨てるかのように言ったが、どんな感情で言ったかという事はクロノやリンディにも理解はできる。
というより、管理局に所属する陸戦魔導師なら誰でも思う事である。
そして、その辺りの事が積もりに積もった結果、地上本部と本局という内部対立に発展してしまっているのがリンディにとっても頭の痛い所。
まぁそれは今は関係無い話なので置いておくと、戦闘空域に飛び込んだなのはの姿を見ながら聞いた。

「それで、どんな考えがあるのか先に聞いておくわね。ただ感情に任せただけであんな真似はしないでしょう?」
「どんな獣でも獲物を捕らえる瞬間は無防備になる。こっちが考えていた事を向こうが考えていないと思うか?」
「まさか……最初から私達が介入してくるのを見越しているとでも?」
「実の娘を駒のように使う手合いだ。そのぐらいは考えていると思っておいた方がいい」
フェイト一人で封印できれば良し。
出来なければ管理局が介入してきた所で横合いから掻っ攫う。
元々六つのジュエルシードを一人で封印しようなんてのが無茶な話なのだ。
確かにあり得ない話では無い。

「大魔導師、プレシア・テスタロッサ……。偉大な魔導師でありながら違法な研究と事故によって放逐された人物」
「あの子がプレシア女史の娘さんなら、あの魔力の高さも納得がいくわ。とにかく、攻撃があるとしたら二人がジュエルシードを抑えた直後が危なそうね」
サウザーがもたらした情報により、プレシアの正体は割れている。
クロノが言ったように、何らかの事故を起こし、辺境に追放されて姿を晦ました女。
以後の消息はリンディが管理局に調査を出しており、近日中には詳しい事が分かる。
モニターの向こうでは共闘した二人によって無事に封印をする事が出来ていたが、同時に攻撃を告げる警報が鳴り響いた。

「来ました!別次元からの魔力攻撃です!推定目標、当艦及び戦闘空域!着弾まで……五秒ありません!」
「対ショック姿勢!衝撃に備えて!」
想定していたとはいえ、攻撃感知から五秒足らずの時間では回避は不可能。
着弾の衝撃で船体が大きく揺れ悲鳴が飛ぶ。
そんな中でも微動だにしないサウザーのバランス感覚はやはり突き抜けているが、万が一沈まれでもしたら洒落にもならない。
モニターの向こうでは、全員を巻き込んだ攻撃によって六個のジュエルシードが無防備に晒されている。
全てプレシアの手に渡っては拙い事になると判断すると、目に入ったクロノを掴み転送ゲートに向けて投げた。
かなり乱暴な方法だが、緊急事態だ。
無理矢理とは言え、ジュエルシードに関してはクロノも同じ考えだったようで、壁に直撃する前に転送を行う。
中々の反応だったのでクロノの評価を改めつつ、自らは魔力探知を行っている局員の元に跳んだ。

「魔力攻撃と言ったが、攻撃先の特定は出来るのか?」
「雷撃によってサーチャーが機能停止!現時点での捕捉は……不可能です!」
「ちっ……、これが狙いか」
目を潰し追跡を封じつつ、もう片方で獲物を奪い去る。
やれるかどうかは別として、効果的なやり方である事には違いない。
備えていなければ、六個全て持っていかれているところだった。
僅かにジュエルシードに飛び込むのが早かったクロノが四つ確保すると、怒りに任せたアルフが海面に魔力弾を放ち水柱を作る。
気絶したフェイトと、残ったジュエルシードを掴んだアルフが転移魔法を使い姿を消すと、船に向かって放たれた雷撃も次第に収まっていた。


「やられたわね……。まさか、こっちの索敵システムを停止させる程だなんて」
巡航艦とは言え、船の機能の一部を停止させる程の攻撃。
大魔導師の名は伊達では無いという事だろうか。
やや緊張した面持ちで座りなおすと、正面を向いたまま呟くように言った。

「この後、プレシア女史はどう出てくるかしら」
「不完全とは言え、目的を達した後だ。追跡を振り切った以上は足が付くような真似はしないと思うが」
これ以上、攻撃を続けてもプレシアにとって得る物は何も無い。
マトモな思考を持っているのであれば、ここが潮時と考えるはずである。
あくまで意見が欲しかっただけのようで、元からリンディもその考えだったようで指示を出した。

「そうね。次弾は無いと思うけれど対魔力防御を。それから、各部署は損害と負傷者の確認を急いで。……そして、あなた達三人には私から話しておく事があります」
「分かっている」
過半数は抑えたのだからそれで良しとしたい所ではあるが、艦長という立場上そういうわけにもいかない。
当然のように答えるサウザーの声を聞いて、さてどう落し所を付けたものかと再び頭を悩ませるのであった。






「指示や命令を守るのは個人のみならず集団を守るためのルールです」
アースラに戻ったなのはとユーノを待っていたのは、リンディによるお叱りタイムであった。
もちろん、二人とも指示を無視したという自覚はあるので立ったまま神妙にしている。

「勝手な判断や行動があなた達だけではなく、周囲の人達をも危険に巻き込んだかもしれないという事。それは分かりますね?」
「はい……」
「本来なら厳罰に処すところですが、今回は結果として幾つか得る所がありました。よって、あなた達二人については不問とします」
不問、と聞いて顔を見合わせるなのはとユーノだったが、その対象が二人だけという事に気付いて顔色を変えた。
よくよく考えれば、今回の命令違反者はもう一人居たはずなのに、その姿が見えないのだ。
「あ、あの、それじゃサウザーさんは……」
「彼には三日間の営倉入りを命じました。命令違反だけではなく、局員への武力行使未遂という事を考えれば、この処分はまだ軽い方です」
あの時、クロノの足元に放たれた一撃。
そうなるように狙った物だったとしても、一歩間違えれば致命傷になる程の威力だっただけに見過ごす事は出来ない。
最前線における戦闘能力の高さを考慮すれば、あまり長期間の罰則を与えては何かあった時に戦力が低下しすぎる。
したがって三日というのがリンディの出した最大の譲歩である。

「あなた達も二度目は無いという事を肝に銘じておくように。私の方からは以上です」
抗議の声をなのはがあげようとする前に、リンディが厳しい声で遮る。
この事に関してはこれ以上話す事は無いのか、少しの間考えると二人に向けて告げた。

「あれだけの魔力を放出すれば、プレシア女史もフェイトちゃんもしばらく動きがとれないでしょうし、一時帰宅する事を許可します」
「でも、それじゃ……!」
「一週間も学校を休みっぱなしというのもよくないでしょう。ご家族と学校に少し顔を見せておいた方がいいわ」
サウザーの事が引っかかっているのか戸惑っていると、「これは命令です」と言われようやく一時帰宅する事を決めたなのはだったが、その足取りは重い。
まるで、修羅の国最深部にある伝説の屠殺場に向かう種籾勢のようだ。
交わす言葉も無く、二人揃って下を向いて通路を歩いていると、その後ろから声がかかった。

「待ってくれ!」
立ち止まり振り向くと、走りながらクロノが追いかけてきている。
何か忘れ物でもあったのだろうかと思っていると、クロノは少し言いにくそうに答えた。

「君達は、自分達が命令違反をしたせいだと思っているかもしれないけど、これは彼自身が決めた事なんだ」
「サウザーさんが?」
「艦長も最初は君達と同じように不問にするつもりだった。でも、彼はそれを拒んだ」
時空管理局に法律があるように、南斗聖拳にも鉄の掟が存在する。
そして、南斗の掟を破った者には厳罰が下され、最悪の場合処刑される事だって珍しい事では無い。
上に立つ者が範を正してこそ、下の者もそれに従い組織が成り立つ。
枝が腐っても払えば済むが、幹が腐ってしまえば、それは組織全体の崩壊を意味するのだ。
自らの意思で協力している以上は、己の行動に対しての結果は全て受け入れる。
それが南斗の頂点に向かって走るサウザーの矜持と誇り。
少なくとも、オウガイからはそう教わってきたし、それを曲げるつもりは一切無い。

「だから、君達がそんなに落ち込む必要は無いんだ」
「でも……」
サウザーが言った大まかな事を聞かされても、なのはの顔は暗い。
理屈では分かるが、このまま船を離れるというのはどうにも後味が悪いのである。
そんななのはを見て、クロノが短く言った。

「十五分だ」
「……?」
「時空管理局クロノ・ハラオウン執務官として、君達が彼と面会する事を許可する。だから……って、うわぁ!」
形式ばった口調でつらつらと述べていると、最後の最後で言葉が乱れた。

「ありがとう、クロノ君!」
さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、満面の笑みになったなのはがクロノの顔の至近にまで迫ったからだ。
特に深い意味は無く、単純に嬉しかったからそうしただけなのだが、それが子供という物の恐ろしいところである。
クロノ君の好みっぽいかわいい子とは、エイミィの言。
その事で散々からかわれたのだが、顔を赤くして慌てているので間違ってはいないらしい。
そして、そんなクロノを何だかアレなジト目でユーノが眺める。
そんな三人を通路の影からほっとしたような表情のリンディが見守っていた。






「よもやジュウザじゃあるまいしな」
後ろで鍵がかけられる音がすると、まず一番に浮かんだのはあの馬鹿の顔だった。
リンディからは無茶をしないようにと、半ば懇願されるように言われたが、外との間を隔てるのは扉一枚。
南斗聖拳の破壊力を以ってすれば、出ようと思えば何時でも出られるのだからそれも当然か。
無論、決められた時刻までは外に出る気は無いので、確認のため営倉の中を見渡す。
こういった物は、世界が違っても基本的な造りは大して変わらないらしい。
南斗聖拳でも世紀末幼稚園児なら一度や二度は入った事があるだろうが、サウザーはこれが初体験だ。
もっとも、ジュウザに関しては気付いたら勝手にどっかに行ってしまっているので、捕まった事が無いらしいが。
そんな事を考えていると、気配が二つ近付いて来る事に気付く。
足音の軽さから、なのはとユーノの二人かと当たりを付けた。

「何の用だ」
「あの、クロノ君から全部聞きました。サウザーさんが自分で決めた事だって」
「話すなと言っておいたはずだが。……まぁいい、話はそれだけか?」
もう少し念を押しておくべきかと思ったが、話してしまったものは仕方ない。
もし身代わりにでもなったとか、そういう負い目を感じているようであるなら、きっちり話をしておく必要がある。
少々無愛想に言ったせいか反応が無かったが、少しすると扉の向こうからなのはの声が聞こえてきた。

「聞かせて欲しいんです。サウザーさんがどうしてフェイトちゃんの力になろうと思ったのか」
それを聞いて今度はサウザーが黙った。
あの時の事をなのはに話していいものかと迷ったのだが、少なくとも友達になりたいという言葉に偽りは無い。
「……そうだな。お前達には話しておいた方がいいかもしれん」
なら、話してもいいかと扉に背を預けると、今までの全てを思い出しながら話し始めた。

「十五年前……。俺は南斗鳳凰拳伝承者オウガイに拾われた」
全てと言うのであれば、まずここから話す事になる。
十五年という時間を短いと感じる人も居れば長いと言う人も居る。
大事なのは何をしたか。
そういう意味では、サウザーの十五年という時間は常人の十数倍にも匹敵する。

「厳しい修行の日々ではあったが……、それを辛いと思った事は一度も無かった」
その時間の中、南斗鳳凰拳の全てを学び教わってきた。
修行の日々も、たった一つの物さえあれば克服出来る。
今まではそう思っていたのだ。

「……二週間程前の事だ。俺は鳳凰拳を継承する為の試練に挑んだ。……一子相伝という南斗鳳凰拳が持つ意味も理解せず、相手が誰であるかも知らずに」
あの時の事を思い出すだけで心の底で憤りが渦巻き、自然と語気も強くなる。
「分かるか?その意味が。俺は何も知らないまま、師を……この手で殺そうとしていたんだぞ!」
もちろん、それは自分自身に対しての憤りである事は言うまでも無い。
常にぬくもりを与えてくれるオウガイが好きだった。
オウガイが使う南斗鳳凰拳を自分も使いたかった。
あの日、南斗鳳凰拳の修行を始めたいと言ったのはそれが理由だ。
相手が誰かという事ぐらいは想像は出来たはずなのに、継承の儀に舞い上がり、目を塞いで師に向けて拳を振るう。
傍から見れば哀れな道化だ。でなければ、ただの阿呆だ。

「……フェイトが止めてくれなければ、こうしている事もなかっただろうな。だから、俺は少しでもあいつに借りを返してやりたいんだよ」
一通り吐き出すと、落ち着いたのか口調を元に戻す。
戻しすぎて地が出ているのだが、その方がいいかもしれないと思った。
なのはが友達になりたいと言ったように、サウザーの言葉も本物である。
なら、一々形を作って話すのも馬鹿らしい。

だが、そこで矛盾が生じる。
フェイトが望んでいる事が母親であっても、肝心のプレシアは別の物を見ている。
このままジュエルシードを集めても、フェイトの願いが叶えられる事は永久に無い。
そうでなくとも、プレシアは犯罪者として捕らえられる。
そうなってしまえば、辛うじて救われた自分とは違った結果になってしまう。
失いかけただけでも醜態を晒してしまっただけに、どうなるかなど嫌でも想像が付く。

「もし、あいつが一人になった時、傍に居てやれるのはお前達だ。助けが必要なら遠慮なく言え。その為に俺はここに居るんだからな」
一つの支えを失っても、また新たに支えてくれる物があれば倒れる事は無い。
同じ力を持ち、同じ道を歩める希少な存在。
進む道が違うため直接の支えにはなれないが、支えになれるやつに手をかしてやる事ぐらいは出来る。
言い終えると、あの男なら自分でやれるんだろうがな。と南斗六星、仁の星の男の顔を浮かべ、少し疲れたように息を吐いた。
将星と仁星。
本来は相容れぬ性質の星ではあるが、シュウの人の良さのせいもあって、昔からの付き合いだ。
自らを犠牲にしてでも、他者の光を守る。
迷いも、躊躇いも一切無くその手段を取れる自己犠牲の塊みたいな男なのだ。

しばらく考え事をしていると、いつの間にか扉の向こうの気配が消えている事に気付いた。
何か言っているような気がしていたが、思考に集中するあまり聞き逃してしまったらしい。
大事な事ならまた後で聞けばいいし、なにより今はする事がある。

「さて……始めるとするか」
一度身体を伸ばすと、呼吸を整え構えを取った。
常に一定の呼吸法を保ち、同じ型を取り続ける事で自らの気を高める練気の行である。
双方の陣営にあるジュエルシードは合わせて二十個。
壊した物を含めると全てが出揃った。
フェイト諸共攻撃してきた事から、今後プレシアが何らかの行動に出る可能性が高い。
その時に備えて、少しでも拳を高めねばならない。
営倉に入ったのだって、半分は修行の邪魔を誰にもされたくなかったからだ。
黙想するように目を閉じると一切の雑念を消し去る。
しかし、プレシアがフェイトを使い捨てにするのではないかという疑念だけは何時までも消えることが無かった。



ヒャッハー!あとがきだー!
もうね、聖帝様の愛が深すぎて生きてるのが辛い。
北斗無双で、義妖殉が叛乱起こして、モ武将にも全員裏切られて
最後の最後で現れた味方がシュウとか俺得でしかないので、現状で聖帝様とシュウの関係は良好です。
世紀末でも、かつての親友だったからこそ、その所業がなおさら許せないっていうジャンプ的な感じだったんじゃないかと思ってます。

次は、プレシアさんの予定ですが、あの人の病状ってどれぐらい悪いんでしょうかね。
ごほごぼしながら血を吐いてるのを見ると末期に見えますが、直後にアルフを吹き飛ばしているので
剛の拳よりストロングな柔の拳を使う、あの病人と重なって仕方ない。
おかげで全盛期にはナギッ!とか言いながらフラッシュムーブしたり
両手にデバイス持って両方から砲撃魔法ぱなして、ローリングバスターライフルやってる姿しか思い浮かばねっすよ。

後、魔法戦士が実戦で新しいバスケルートを決めたの見て鼻血が出そうになった。
今年の闘劇に北斗入らないものか……。
ではまた次回。



[18968] 第十五話:駆け抜ける嵐
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2011/05/06 20:42
ないわー。
頭の中で割と間の抜けた声が聞こえる気がする。
ぶっ飛んだ光景を見たせいだと思い、一度目頭を指で押さえてからもう一度前を見た。

これはないわー。
やっぱりそんな感想しか浮かばない。
多分、横の獣二匹も似た様な思いで見ているのだろう。
なまじ常人より遥かに高い視力と聴力を持っているせいで、あの光景がはっきりと見えるし聞こえてしまっていた。

「これがわたしの全力全開!スターライト……ブレイカー!!」
デバイスから放たれるぶっとい光芒。
まさか、この短期間で北斗剛掌波を超えるもんを見る日が来る事になるとは夢にも思っていなかった。
それが拘束魔法かなにかで身動き取れなくなったフェイトに向けてぱなされている。
非殺傷設定と知っているから見物勢でいられるが、あれを殺傷設定で食らったら俺もただでは済まんなと冷や汗が出そうだ。

バインドでガチガチに固めてからのガー不十割攻撃。
やり方としては単純だが、こんなもん馬鹿魔力と評されるなのはぐらいにしか出来ない。
なのはスペシャルとでも名付けるべきか。
随分と容赦の無い戦い方だが、そうさせた原因の一端は他でも無いサウザーにある。
光の塊がフェイトを飲み込むと、サウザーは昨日の事を思い出していた。



「駄目だな」
起き攻めを超ガソで拒否る時と同じぐらいの勢いでサウザーがそんな事を言う。
言った先では、モニターの向こう側のなのはが頬を膨らませつつ抗議の目を向けてきおり、納得されていないご様子。
渾身のお願いを、甘えんなと言わんばかりにガードされたのだから、それも仕方ない事だろうが。

「この間、助けになってくれるって言ったばかりじゃないですかー」
「……言い方が悪かったな。無理だという事だ」
何が駄目で何が無理なのか。
何があったか知らないが、なのはに近距離での戦い方を教えて欲しいと頼まれた。
サウザーの見立てでは、素の身体能力は同年齢と比較しても下の方。(修羅の国的な意味ではなく)
アースラの中で限定すれば、間違いなくドベだ。
身体強化魔法なんてのもあるが、サウザーに言わせてみれば技量が上がるわけではないので、そんなもんクソの役にも立たない。
ただ、反応速度は悪くないので、鍛えればそこそこ使えるようになるかもしれないが、それだって時間が掛かる。
現状では近接戦闘には向いていないし、今までの戦い方だって遠距離砲撃主体だ。
魔砲少女とは言い得て妙である。

何でまた急にそんな事をと聞いてみれば、持っているジュエルシード全てを賭けてフェイトと勝負すると言われた。
なんでもプレシアに痛めつけられ、プレシアの元から逃げ出したアルフがバニングス家で保護されていたらしい。
フェイトは中~近距離を間合いとし、デバイスを使った高速機動戦闘を得意とする。
間合いが完全に違うだけに、対応しきれていないなのはがそこでと思いついたのが南斗鳳凰拳のようだ。
何とかしようという意気込みは買うが、そんなもんが一朝一夕で身に付けば修行なんて言葉は必要なくなる。
それに、自分の武器なら既に持っているはずである。

「俺の模倣は誰にも出来ん。下手に真似ようとすればかえって害になる。それにお前の戦い方は……」
そこまで言ったが、その後の言葉が出てこない。
不思議に思ったなのはがサウザーを見てみると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
見るからに不機嫌そうな面なのだが、別になのはのせいでこうなったというわけではない。

『それにお前の戦い方は、俺よりラオウに近い』と言おうとしたのだが
あろうことか、なのはのバリアジャケットを装着したラオウの姿を思い浮かべてしまった。
それで、『受けてみよ我が全霊の拳!天に滅っせい!!』とか言ってるんだから、自分で想像したとはいえ、これはかなりキツい。
実際に目にしたら、見た瞬間にブー小足突っ込んでからグレで打ち上げて、JC爆星JAJDブー爆バニブー裏周り一撃必殺で殺しきる自信がある。
……そんな事は未来永劫無いと信じておきたいが。

「……とにかく、だ。お前の場合は相手に合わせる必要など無いんだがな」
生み出してしまったモンスターの事は置いておくとして、戦い方がラオウに近いと感じたのは事実である。
なのはのバリアはサウザーも手刀で簡単に切り払えるが、シールドはそう簡単にはいかない。
南斗鳳凰拳の斬撃が一度では破る事が出来なかったのだから、単純な防御力だけならラオウを上回る。
その上で相手の攻撃を全て受けきり、高火力の一撃を叩き込む。
言葉だけならラオウの戦い方そのものだ。
こんな小さな娘と、あのデカブツの戦い方が同じというのも違和感しか覚えないが、魔法だから仕方ない。
もちろん、こと戦闘そのものに関する経験値などは1と100ぐらい違うので、一つだけアドバイスをしておく事にした。

「まぁ、そうだな。俺から言える事となると、目を閉じるな。ぐらいしか無い」
「目をですか?」
「恐怖にかられて目を閉じれば、攻撃を受ける事すら出来なくなる。それが一瞬であっても、戦いの中では致命的な物になるものだ」
南斗六聖拳クラスになると目を閉じても気配で分かるものだが、この際それは無視していい。
先日、ラオウと闘り合った時でも、互いに一撃を紙一重で避けつつ攻撃を放っている。
あのぐらいの極限状況だと、瞬きすら致命的な隙になりかねないのだ。

こっちでやった訓練を何回か見たのだが、なのはが攻撃を受けた時、防ぎながらも時折目を閉じている時があるのはよろしくないとは感じていた。
世紀末の合言葉は『死ななきゃ安い』と『ワンチャンアレバカテルゥー』。
例えダムダムされてボールになったとしても、1ドットが残っている限り勝機は存在する。
羅漢の確反を取れ、とまでは言わないが、筐体前で頭抱えてレバーを離すような真似はしないで欲しい。

「お前の強みを生かして戦えはそうそう遅れは取らん。それは俺が保証してやろう」
折れない心と桁外れの魔力。
特に前者は魔力などより遥かに貴重な資質と言える。
例え、肋骨が折れ、奥歯が取れたとしても、心さえ折れなければ前に進む事が出来る。
進む事を止めた者に勝利など無いのだ。
別に殺し合いをするわけじゃなし、非殺傷設定があるのだから滅多な事で怪我を負う事も無い。
なら、悔いの残らないように全力を出してぶつかってやれと付け加えたのだが、その結果がGOLANの有り様である。



ごんぶとビームが海面に突き刺さると同時に現実に引き戻されたが、正直どう反応していいのか分からない。
天衣無縫でファンタジスタなムーンサルトを見てしまった実況者の心境に近いものがある。
フェイタルケーオーウィーンナノハァ(パーフェクト)とか聞こえてきた気がするが多分気のせい。
テーレッテーとかいう音楽も流れたりしていない。

「……いつまでも呆けている場合では無いな」
なんにしろ、あれを食らっては勝敗は確定的に明らか。
下は海だが、落ちていくのを眺めているだけというのも少々気分が悪い。
この前から何も出来ていなかっただけになおさらである。
フェイトが落ち始めた時には、既にサウザーは宙へと身を移していた。

「受け取れ!」
墜落するフェイトの腕を右手で掴むと同時に、抱えた左手を持ち上げるようにしてなのはに投げ渡す。
受け損なうかもしれないとは一瞬思ったが、そこは優秀なデバイスが付いているらしく、無事受け取ったのを確認すると海面を見たが、着水地点に浮かぶ板切れを見つけた。
これなら濡れずに済みそうだ。
落下しながら体勢と呼吸を整える。
片足を付けると僅かに足先を濡らしたのみで、板は何事も無かったかのように波間を漂う。
人一人が乗るにはあまりにも小さすぎるが、サウザーは両腕を広げ平然としている。
その姿勢のまま片足だけで軽く跳ぶと、アルフとユーノの傍に片膝を付いて降り立った。
無論、二匹ともスターライトブレイカーを見た時と同じぐらい引いていたのは言うまでも無いが。

「……もう驚く事は無いと思ってたアタシが馬鹿だったよ」
完全に何かを諦めた口調でアルフがそんな事を言う。
南斗鳳凰拳の拳技を支えているのは、単に身体能力の高さだけではなく
軽功術によって極限まで負荷を減らす事であの動きを可能にしているのだ。
拳法において軽功術は基礎的な技術でもあるが、南斗鳳凰拳を極めた使い手が用いる物は文字通り桁が違う。

南斗の先人曰く『その身は天空を舞う一枚の羽の如し』。
即ち、南斗鳳凰拳奥義『天翔十字鳳』である。
今回は急だったので完全では無いにしろ、こればかりは口だけで説明できるものでは無い。
よく分からん力で空を飛ぶよりはマシだろうと思っていると、上の方から二人が降りてきた。

「フェイト!」
「ごめん、アルフ……。負けちゃったよ……」
「いいんだよ、そんな事は。フェイトが無事ならさ」
人型に戻ったアルフが泣きそうな顔で縋り付いているが、さすがにアレ食らって五体満足でいられたのだからそうなるのだろう。
負けを認めた事でバルディッシュが複数の青い石を吐き出す。
その数九個。
安定しているとはいえ、数は前回を上回る。

それと同時に辺りを満たしつつある強大な気配をサウザーは感じた。
魔力は感じ取れなくても、研ぎ澄まされた感覚が危機を告げている。
むき出しにされた九個のジュエルシード。
プレシアが見逃すはずが無い。
というより、さっき二人がジュエルシードを見せあった時に仕掛けてこなかったのが不思議なぐらいだ。
ここまでは予定の行動だが問題はどこから攻撃が来るか。
次に空気が変わった事に気付いたのはフェイトだった。

「……母さん?」
その魔力波動に覚えのあるフェイトが空に目を向けると、紫の魔力光を放つ雷が迫ってきている。
自然発生した物とは違う、魔力によって作られた紫雷。
ジュエルシードを全て失った自分への罰だと思いながら目を瞑ると、バルディッシュが光った。

“No problem”
真空と衝撃波が大気を切り裂く音。
それが紫雷の先端とぶつかると、激しい光によって僅かにその形が見えた。

大気と紫雷の境目に浮かぶ十字の塊が雷撃を押し止めている。
それはいつか見た南斗十字星と同じ形。
極星十字衝波風の拳速が生んだ衝撃波だ。

見てからでは間に合うはずもなく、先を読んでの行動。
どこから来るという確証など無かったが、紫雷が現れる前に血の一滴、細胞一つに至るまでがそこだと感じたのだ。
だが、元から遠距離への攻撃を目的とした雷撃と、あくまで拳撃の副産物でしかない衝波とでは持続力に差がありすぎた。
衝波が音を立てて消え去ると、再び雷撃がフェイトに向けて進む。

もっとも、元よりサウザーはそれだけで止められるとは思っていない。
なにしろ攻撃が最大の防御を地でいく南斗鳳凰拳である。
衝波を放ったのは、あくまで体勢を整える時間を稼ぐ為。
防御なんて事は、出来るやつに任せれば事足りる。
紫雷を再び防いだのは、羽の付いた大きな盾だった。

「フェイトちゃん、大丈夫!?」
フェイトを庇う形で、デバイスを持ったなのはが立ちはだかっている。
あれだけの事をしておきながら、プレシアの雷撃を防ぐ余力を残していたのだから、魔力に関しては底が見えない。
ぼっ立ちのままであれば踏み込むつもりだったが、その心配は無用だったようだ。
やがて、暗雲が消えると紫雷も消える。
立て続けに魔力を大きく消費し堪えたのか、小さく安堵のため息を吐いているとサウザーから声がかかった。

「よくやった」
見たところ、なのはとフェイトにも怪我は見られない。
魔力で作られたとはいえ雷撃を防いだのだから、この男なりの最大級の賛辞である。
そしてそれを聞いたなのはが手を掲げながら、何かを期待したような目で近付いてきた。
その意図を察すると、僅かに表情を緩め右手をなのはの手の高さに合わせ軽く叩く。
防御の為とはいえ、魔法と拳法の連携が決まった事への小さなハイタッチだ。
ジュエルシードの封印の際に何度か共闘した事はあれど、ほとんどサウザーが一方的に敵を抑えていたのだから、連携もクソも無かった。
決着が完全に付いたところの処理をしていただけなので、マスコット勢と言ってもいい。
だから、なのはとしては、一度ぐらいこういう事をやってみたかったのである。
凄く嬉しそうななのはをよそに、ジュエルシードがあった場所を見ると、やはりと言うべきか九個全てが消失していた。

「大変だ!ジュエルシードが!」
「焦るな。想定の範囲内だ」
ユーノが声を出したが、プレシアがこう出てくる事は、昨日の段階で予想が付いていた。
今頃は、エイミィが逆探を仕掛けている頃合で、知らぬは戦っていた当人達ばかり。
先日のようにアースラにも攻撃があったとしても、今回は備えが出来ているので抜かりは無い。
そのタイミングを見計らったようにモニターが現れると、サウザーが短く聞いた。

「首尾はどうだ」
「バッチリです!不用意な物質転送のおかげで座標の特定も出来ました。今、武装隊がプレシア・テスタロッサの身柄確保に向かっているので、もう少し待っていてください」
「なに?おい、待……!くそ……早まった真似を」
待て、と言い切る前にモニターは消失。
迅速なのはいい事だが、この場合はアースラ勢の優秀さが裏目に出てしまった形と言える。
どういう事かよく掴めていないのか、顔色を伺うようにしてユーノが聞いてきた。

「ど、どうしたんですか?アースラの武装隊が向かったのならそれでいいんじゃ」
「……よく考えてみろ。これだけの事を仕出かしたヤツが大人しく投降するという保障がどこにある」
「アタシもそう思うよ。でなきゃ、フェイトにあんな真似できるもんか」
ユーノの疑問に幾分か厳しい口調で答えるとアルフが続く。
さすがにそこまで言われると状況が理解出来たようだ。
専用の機器がある向こうから繋げているならともかく、地上からでは次元空間の中に入っているアースラには念話も届かない。
正確には、座標の特定と次元干渉さえ出来れば個人でもやれない事は無いが、今のところなのはとユーノでは無理だ。
今はただ待つしか無いという事になる。

「(死人が出なければいいがな……)」
ジュエルシードが渡った以上、一刻も早くプレシアを捕らえなければならないというのも理解できなくはないが
敵の戦力が不明の場合は、持てる最大戦力を投入するというのが戦術の定石。
ましてプレシアの魔力ランクはSS。
あれ以来、武装隊も格上の相手に対する訓練を積んではいるが、サウザーから見ればまだまだ甘い。
プレシアと交戦状態に入った場合、良くて数分持つかどうかというところだろう。
キャラ対も出来ていないのに弱キャラで強キャラに挑むようなものだ。
その為に自ら最前線に立つつもりだったが……。
まぁ、いつまでも過ぎた事を省みていても仕方が無い。
どうするにしろ、現状確認も含めて一度アースラに戻る必要がある。
しばらくすると転送が始まったのだが、予想したように状況は良い物ではなかった。



転送が終わると同時に走りだしブリッジに入ると、そこには狂気と執念に満ちた目をした女が映っていた。
その目には見覚えがある。
南斗白鷲拳のダルダと同じだ。
あの写真に写っていた人物と同一人物かと思った程だが、残る面影から見て間違いなく本人だろう。
その女が巨大なシリンダーのような入れ物の前に立ちはだかっていたが、それよりも中に入っている物に目を奪われた。

「あれは……!」
五体があり、人の形をしている。
それだけなら、これ程の衝撃は受けなかったかもしれない。
姿形がフェイトと同じでなければ。
言葉も出ずにいると、プレシアは入れ物に触れ、視線だけをこちらに向けながら話し始めた。

『時間が無いわ……。たった九個のジュエルシードでは、アルハザードに辿り着けるかわからないけど……
  でも、もういいわ……、終わりにする。この子を亡くしてからの暗鬱な時間を………アリシアの身代りの人形に記憶を与えて娘扱いするのも………』
あの中に入っているフェイトと瓜二つの少女の遺体。
そして人形と記憶という言葉。
それだけでどういう事かは想像が付いた。
技術的に劣るとはいえ、この世界でも理論上クローン技術は確立されている。
この女は理論を実践したという事だろう。

『聞いていて、貴方のことよ、フェイト』
はっとなって後ろを振り向くと、そこには、焦点の合っていない目でプレシアを見つめるフェイトが立ちすくんでいた。
「……っ!」
反射的に『定神』を突きそうになったが、すんでのところで思い止まった。
もう知ってしまった以上は無駄な事だし、知らなければ前に進めない事もあるという事は承知している。
だが、そうと知りながらも指先は秘孔を突く形を取ってしまっていた。
『頭顳』なら、まだ忘れる事も出来るからだ。
どうすべきかと迷っている間にも、プレシアはフェイトに向けて話しを続けた。

『せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない……。私のお人形』
「最初の事故の時にプレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているんです。彼女が最後に行っていた研究は、使い魔をとは異なる人造生命の精製……。その開発コードが……」
「……フェイト。という事か?」
画面に目を向けたまま聞き返すと、エイミィが小さく肯定の声を出す。
これでプレシアが変わった理由も、フェイトに辛く当たっていた訳も、全ての事に納得がいった。
娘以前に、そもそも人として見ていなかったのだ。

『そうよ、その通り。だけど駄目ね……。ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は所詮作り物……
  失った物の代わりにはならないわ……。アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。アリシアは時々我侭も言ったけど、私の言う事をとてもよく聞いてくれた……』
「やめて……もう、やめてよ!」
『フェイト、あなたはやっぱりアリシアの偽者よ。せっかくあげたアリシアの記憶もあなたじゃ駄目だった。
  アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。だけどもう要らないわ……どこへなりとも消えなさい!」
プレシアの言葉には、最早憎悪しか含まれていなかった。
アルフは、今にも飛び掛らんばかりだし、なのはに至っては涙を浮かべている。
ただ聞いているだけでもそれが伝わってくるのだから、フェイトの絶望は他人が推し測る事など出来ない。
呆然と立ちすくむフェイトに向けて、プレシアは止めの言葉を放った。

『いいことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してからずっとね、私はあなたが……大嫌いだったのよ!』
「あ……」
フェイトの手からバルディッシュが零れ落ち、目から光が消える。
今まで生きてきた全てを否定され、信じようとしていた者から完全に拒絶されたのだから無理も無い。
そのまま床に座り込んだが、駆け寄ったアルフとなのはが声をかけても返事は無かった。

「精神的な物だろうが、立ち直れるかどうかは本人次第だな」
唯一、平静を保っているサウザーが観察するようにフェイトを見ると、力の抜けた身体を抱え上げる。
その際に、落ちたバルディッシュを拾うのも忘れない。
そして、フェイトをアルフに預けると、外に連れて休ませるように言い、再び前を見る。
さて次はどう出るか、とモニターを眺めていると、視界の隅に栗色の髪の毛が映った。

「お前もだ。あれだけの事をしておきながら疲労が無いとは言わさん」
素っ気なく医務室行きを促すと、なのはは首を横に振って答えた。
この頑固さは間違いなく、御神の血筋と言える。
あの親あってこの娘か、と納得しそうになったが、そういう訳にもいかない。
魔力がどうか知らないが、少なくとも肉体的な疲労はすぐには回復しない。
まして、なのはの体力の容量を考えれば休息は必須である。
肩に手を置くと有無を言わさない口調で言った。

「何があっても道ぐらいは作っておいてやる。しばらくは傍に居てやれ」
「は、はい!」
自分よりも六年長く生き、生死の境を幾度と無く潜り抜けた男にそう言われては、さすがのなのはもそう返事をするしか無かった。
実際に疲れを感じていた事もあるし、何よりフェイトの事が気にかかっていたというのが大きい。
尤も、これで言う事聞かないようだったら『定神』を突くつもりだったので、どちらにしろ医務室送りは決定していたのだが。
なのはが外に出て行くと同時に警報が鳴った。

「庭園敷地内に魔力反応多数!いずれもAクラス!総数六十……八十……ま、まだ増えています!」
プレシアが映っていたサーチャーからの映像は既に途絶していたが、他のいくつかは地面から湧き出てくる、無数の人形の姿を捉えている。
総数が百二十を越えた辺りで、プレシアの狂気染みた声がアースラの中に響いた。

『私達は旅立つ……忘れられた都『アルハザード』へ!そこで取り戻すのよ。失った物の全てを!!』
アルハザードが何処にあるかは知らないが、ロクでも無い方法を取ろうとしている事だけは確かである。
その証拠に、艦体が激しく揺れ始めていた。

「ちゅ、中規模以上の次元震です!」
「震動防御!ディストーションフィールドを!転送可能な距離を維持しつつ、影響の薄い座標を維持!」
「全てのジュエルシードの発動を確認。このままでは次元断層が発生します!」
半ば悲鳴のような報告が飛び交い、リンディが的確な指示を出しているが、それだけに事態の深刻さがよく分かる。
次元震に次元断層。
最悪に近いレベルの災害が起きようとしているのだ。

「やってくれるな……!」
ただ単に、ジュエルシードを使って願いを叶えようとするだけなら、個人的には捨て置いてもよかった。
だが、ここまでされては事情が異なる。
踵を返しリンディに近付くと、クロノがブリッジに飛び込んできた。

「待て。何処に行くつもりだ」
その勢いのまま転送ポッドに入ろうとするクロノを言葉で制止する。
するとクロノは、デバイスを握ったまま叫ぶようにして言った。

「もうこんな事は終わりにしなくちゃいけないんだ。その為にも僕がプレシアを止める!」
「ほう、あの数を相手に一人で立ち向かう気か。よしんば突破したとして、その後はどうする」
「だからと言って、みすみすこのまま……!」
あの木人形は、時間稼ぎと消耗を目的とした使い捨て。
そこを抜けた先に待ち受けるのは、大魔導師プレシア・テスタロッサ。
おまけに、九個のジュエルシードを所有している。
どちらを相手にするにしろ、消耗した状態で抑えきれるものではない。
そんな事ぐらいは分かっているはずなのに、一人で突っ走ろうとしているのだから、クロノも他人の事は言えない性格をしている。
まぁ、そういうやつは嫌いではないが。
クロノを押し退けると二度指を鳴らした。

「俺が先に行く。お前らは雑魚が片付いた頃を見計らって来ればいい」
「サーチャーがまた乗っ取られると、こちらからの支援や緊急転送が受けれなくなる可能性があるけど、それでも構わないの?」
「問題は無い。いつもやっている事だ」
一撃でも食らえば致命傷。
そんな事、南斗聖拳を少しでも知っている人間なら嫌でも理解している。
転送に関しては、元から無かった物と思えば特に必要は無い。
そう返しておくと、今度は逆にクロノが口を挟んできた。

「艦長、それは危険すぎます!せめて二人でやらせるべきです!」
「甘く見るなよ。あの程度の木人形が千匹束になろうと、南斗聖拳の前では敵ではない」
身を案じてくれているのだろうが、要らぬ気遣いだ。
戦場において、南斗聖拳を極めた者は千の精兵をも圧倒する力を持つと言われている。
実際に戦ったからこそ、その言葉が誇張では無いという事はクロノにも分かる。
少しだけ考え込むと、リンディはサウザーに向けて頭を下げた。

「……分かりました。この場は、その言葉に甘えさせてもらいます」
リンディとて行くと言ったから行けと言っているわけではない。
九個のジュエルシードが暴走を始めた時に備えて、魔力の浪費は一片たりとも出来ないこの状況。
武装隊は全滅し、魔力を大きく消費した直後のなのははすぐ動ける状態ではなく、使える手札は限られている。
それに力を持つといっても、あくまで南斗聖拳は戦闘特化。
他の事には適さず、あの数の傀儡兵の中に飛び込み、楔を打ち込めるだけの力を持つなら、使いどころはここしか無いのだ。
モニターに庭園と屋敷内部の図面が映ると、作戦の説明が始まった。

「作戦目標は二つ。一つは駆動炉の停止。そしてもう一つはプレシア・テスタロッサの身柄の確保です」
浮かび上がる二つの大きな光点。
上層部に位置する駆動炉と下層部のプレシア。
途中から二手に分かれなければならないが、そこまでの道中には無数の小さな光点が光っている。
ざっと見で百数十個。
これら全てが傀儡兵という事になる。

「駆動炉の停止には高い魔力が必要のため、なのはさんが停止、ユーノ君がそのサポートを。
  プレシア女史の身柄確保はクロノ執務官が行います。また、先行するサウザー君は傀儡兵の排除と、可能であればプレシア女史の足止めをお願いします」
「別に、足止めと言わず捕らえてやってもいいんだがな。まぁいい、他に無ければ出るぞ」
大まかな地形さえ掴めれば、後の情報は現地で調達すればいい。
やる事は『制圧前進』ただ一つ。
転送ポッドに入り待機していると、クロノがやたら済まなさそうな顔をしている事に気付いた。

「勘違いしているようだから言っておくが……、俺は何も善意や義務感だけでやっているわけではないからな」
「なら、君は一体、何のためにこんな事を」
「ふん……。人の庭先で暴れられて良い顔をするやつがどこに居る」
次元震が起これば、付近の次元世界、つまり地球の崩壊は免れない。
核戦争が起こる以上の災害なのだから、地球人類全ての命運に関わる。
つまり、オウガイの身も危険に晒されるという事であって、サウザーにとって放っておける問題ではないのだ。
もちろん、その辺りの事を他人に言うつもりはないので、『分からせてやる』みたいな言い方になってしまった。
これで、普段はお師さんとか言っている事が知れればカリスマブレイクもいいところである。
そうこうしているうちに、オペレーターが転送の準備が整った事を告げた。

「転送座標付近にも多数の魔力反応を確認しています、注意してください。……転送オペレーションスタンバイ!幸運を!」
「ふっ……貴様らもな」
周りを一瞥すると僅かに笑みを浮かべた。
転送の直前に、リンディとクロノを含めたブリッジークルー全てが敬礼を向けてきたからだ。
返礼はしない。
南斗聖拳の流儀を以ってして応えてやるのが筋というものだろう。
次の瞬間には、サウザーの身体は次元を越えた庭園へと移っていた。




「それにしても……一体何だ。この感じは」
着いて早々に感じた不快感。
アースラの中では平静を保っていたが、画面越しにあの女を見た時から無性に苛立っている。
フェイトが造られたクローンなどというのは、サウザーにとって大した問題ではない。
むしろ、そうしてくれていなければ大事になっていただけに感謝すらしてもいい。
無論、ああも面と向かってフェイトを捨てた事は気に入らなくはある。
だが、それとは別に、もっと深いところでよく分からない感情が渦巻いている。
それが何か分からないのが余計に腹立たしい。
とにかく、あの女に会わねばならないような気がしているのは確かである。
その為には、と徐に指を二本突き出す。
傀儡兵が手にする大剣は一直線にサウザーの頭目掛けて振り下ろされたが、切っ先が届く事は決して無かった。

二本の指によって、人の身体程もある大剣がそれ以上進む事が出来ずにいる。
この傀儡兵。
パワーはそこそこあるが、全体的な動きは総じて鈍い。
何より致命的なのが、機械故に行動が全て直線的すぎる事。
そんな単調な攻撃を止める事など、南斗六聖拳になら目を閉じていても出来る。

「木人形如きが……!!」
切っ先を指で挟んだまま、傀儡兵を射殺さんばかりの眼光で睨みつける。
命を持たぬ人形であるなら、今までのように手加減する必要は一切無い。
持ち上げた左手を振り下ろすと、僅かばかり遅れて傀儡兵が左右二つに倒れた。

その切り口に一切の澱み無し。
これが人間相手であるなら怯みもするのだろうが、傀儡の名が示すようにそんな様子は見られず向かってきている。
全てを相手にしていてはきりがない。
が、南斗鳳凰拳に後退は無い。
躊躇うこと無く敵中に飛び込み、たった一人で嵐のように駆け抜ける。

「しゃ!」
傀儡兵を貫き、振り下ろされる武器ごと斬り払う。
ある程度種類に違いはあるようだが、傀儡兵は全て剣や斧などの近距離用の武装をしている。
その間合いの中で南斗六聖拳と互角に戦えるのは、北斗元斗ぐらいのものだろう。
あらかたを斬り捨て、細い回廊のような通路の先に続く扉を蹴破り先を進む。
雑魚を切り裂いて進んだ先には、螺旋階段を守るように多数の傀儡兵が待ち構えていた。

数は多いが、わざわざ固まってくれているのなら好都合。
縮地法を組み込んだ踏み込みで一気に距離を詰める。
傀儡兵が行く手を阻むように動き始めたが、もう遅い。

「失せろ!!」
左腕に力と気を込めると、僅かな音と共に光に包まれる。
身体を捻るように跳躍すると同時に、その勢いのまま左腕を振るった。


                        南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   なん  と  こう  ざん しょう
                  南 斗 恒 斬 衝


本来は闘気を刃と化し、眼前の物全てを切り裂く技だが、木人形相手ならこれで十分。
斬撃と、それに伴う衝撃波によって真っ二つに寸断された傀儡兵が吹き飛ぶと、間髪入れずに残敵の掃討にかかる。
飛行型の傀儡兵が少し厄介ではあるが、向こうも近付かなければ攻撃が届かないので然程の脅威ではない。
地上に残る最後の一体を寸断すると、違和感を感じたのか壁に視線を向けた。

「……!」
壁にひびが入った事を視認するとすぐさま後ろに跳ぶ。
そうしなければ、残骸と破片の雨に襲われていたのだから、間一髪というところだ。
それが致命傷に繋がったかどうかは別としても、残骸に埋もれるというのは遠慮願いたいところである。
ぽっかりと空いた穴の先を見ると、土煙の向こう側から現れたのは、巨大な人型だった。

全長は優に十メートルは超え、背中には一対の砲を備えている。
その先には光が集まっており、今までの物と違って砲撃を仕掛けてくるタイプのようだ。
だが、攻撃に溜めの時間を要するなど、攻撃してくれと言っているようなもの。
そもそも、南斗聖拳の前に形の大小など大した問題では無い。

「遅いわぁ!」
瞬時に懐深く踏み込み、跳びながら傀儡兵に向け斬撃を見舞う。
頭頂を取ると、そのまま頭を踏み台にして上へと跳んだ。

傀儡兵は何事も無かったかのように砲を向けると、砲撃体勢に入る。
人一人消し飛ばして余りある威力を持つが、発射の直前になって傀儡兵の全身に無数の亀裂が奔った。
亀裂は広がりを見せ、表面だけではなく内部装甲を切り裂き、それが背面にまで届くと傀儡兵の動きが鈍る。
そして、動きを完全に止めると、一拍の時を置いて構成する部品を撒き散らしながら崩れ落ちた。

次いで起こる爆発。
チャージ中だったエネルギーが暴走したか、本体のコアが爆発したのかのどちらかだろうが、さして興味は無い。
それより、今までに無かった規模の敵を出してきたからには中枢が近いという事になる。
向かってくる敵を空中で切り伏せながら、下層に続きそうな場所を探したが見当たらない。

「ちっ……、行き過ぎたか?」
迷路のような屋敷だけに、途中で見落とした場所があったかと思ったが、態々戻るのも時間がかかるし、やり様はある。
右腕を振り上げると、落下する勢いのまま床目掛け叩き付けた。


                        南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                   なん  と  ひょう ざん  こう
                  南 斗 剽 斬 功



叩き付けられた衝撃波が拡散し周囲を襲う。
敵は片付けているので、床のみを切り裂いたのみに止まったのだが、爆発で脆くなっていたせいもあってか、拳を叩き付けた場所の床が崩れた。
さっき見た怪しげな空間が広がっていなければいいが、と思いながら穴を覗き込むと、何体か傀儡兵が浮いているのが見える。
限られた兵力を配置しているのなら、この道で間違いなさそうだ。
飛行型を足場代わりにし、残骸に変えながら降りていくと、一際大きな扉が見えた。

「この先……か」
そして、その向こうから感じる一つの気配。
機械などではない。
紛れも無く人間の物だ。
背後から迫った傀儡兵を無造作に殴り飛ばすと、扉に手を当てた。



ヒャッハー!あとがきだぁーーー!
リリカル勢の中で聖帝様に一番近いのって、やっぱりプレシアさんだと思います。
両者とも、誰よりも愛深き人なので。
というわけで、次回サシで闘ってみようという事での単独出撃。
北斗と言えば、死合いの果てでの強敵だと思うので、フェイト連れてきて虚数空間への落下じゃ収まりが付きません。
ダイヤ的には、闘気未覚醒なのと病気という事から5:5を予定しております。

ちなみに、現状で聖帝様がなのはさんのSLBを殺傷設定で直撃受けた場合、オラガ出来ないので、ガークラして七割持っていかれます。

そして、ついにジャギ様がノーブースト始動バスケを慣行。
画面中央からのグレイヴ始動の新魔法『クロススパイダー』も開発され、赤いジャギ様は一体どこまで行くのか……。



[18968] 第十六話:愛憎の果てに
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2011/08/15 23:14
「ふぅー……」
扉に手を当てたサウザーが深く息を吐きながら押す力を徐々に強める。
鍵でも掛かっていようものなら、ブチ抜いてやるつもりだったのだが、少し強く押した程度で簡単に開いた。
ここまでの妨害に反して拍子抜けした感はあるが、改めて見た魔砲の威力を察するに、あっても無くても同じ事かと思う事で納得しておく事にする。
扉を押し開くと中に足を踏み入れたが、少々薄暗くはあったものの想像していたよりは広い。
特に身構えもせず歩みを進めると、生体ポッドの傍らに立つ女の姿を見つけた。
視線が交錯するも互いに無言。
この空間の中で音を立てているのは、僅かな足音のみ。

そのまま進んでいると、サウザーが唐突に半身を捻った。
直後、その場所を鋭い切先が貫く。
飛行型の傀儡兵が背後上空から切りかかってきたのだ。
狙いは悪くないが、相手は一級品の達人である。
死角なればこそ常に警戒し、それに備えてこそ北斗南斗の使い手というものだ。
勢いを付けて突っ込んできた傀儡兵の腕を掴むと、力に逆らわずに同じ方向に流す。
予期せぬ力を加えられた事で、制御不能に陥った傀儡兵が頭から地面へ突っ込むと、派手な音を立て、部品やら何やらを辺りに撒き散らしながら転がっていった。

「例え物音一つ立てずとも、俺の不意を付く事は出来ん。もっとも……、言ったところで木人形に分かるはずもないがな」
相手の力を受け流し利用するのは、知る中ではトキが最も得意とする技だ。
南斗鳳凰拳の拳質は剛拳寄りではあるが、その制圧前進ノーガードを支えているのは柔拳の部分である。
無論、比率としては剛が柔を上回っているわけだが、それでも使えないわけではない。
そういった意味で、六聖拳の中において剛柔のバランスが一番いいのは南斗水鳥拳と言える。
残骸と化した傀儡兵を軽く一瞥すると、プレシアへと向き直り淡々と告げた。

「あまり時間をかけたくはないからな。悪いが……、貴様の戯言に耳を貸す気は無い」
この期に及んで投降しろ、などとは言うつもりは無ければ、足止めで済ますつもりも無い。
全力を以ってしてプレシアの行動を阻止する。
狙うべきは魔導師の武器にして弱点であるデバイス。
これを潰せば、無力化とまではいかなくても、戦力の大半を奪う事が出来る。

魔導師との戦い方は、クロノとの手合わせで大体の事は理解した。
射撃魔法については大まかに分けて三種類。
弾幕を張る通常型と、それに追尾性能を持たせた誘導型に、大火力を持つ砲撃型。
どれも共通しているのは、放つ前に必ず隙が出来る事だ。
一瞬の隙さえあれば、即座に必殺の間合いに入り込めるのが南斗鳳凰拳である。
プレシアが攻撃を行おうとした時には、立っていた場所から消え去っていた。


「消えた……?」
庭園を揺らすような震動がした時から、まもなく管理局の新手が自分を捕らえにくる事は予期してはいたが
何重にも張った陣を突き破ってここに来たのは、魔導師などではなかった。
下げた両手にはデバイスはおろか武器すら持たず、魔力も感じ取れ無い。
だが、魔力は感じないが、相手が只者でないという事だけは肌で感じていた。
現に、今も傀儡兵が一太刀も浴びせる事が出来ずに墜とされてしまったのを見たのだ。
消えた場所に残された跡が足跡だと思うよりも早くに周囲にバリアを張る。
そして、その判断が間違いで無かったと気付いたのは、直後に重い衝撃を受けてデバイスを取り落としそうになった時。
バリア越しに受けたそれは、先の武装局員が放った攻撃とは比べ物にならないぐらい強い。
ほんの一秒でも障壁を纏うのが遅れていれば、どうなっていたかなど考えるまでもない。
息を呑みながら後ろを振り返ると、その男と再び目が合った。

先程とは違い、視線が交差したのは一瞬。
獲物を狙う猛禽のような青い目の光が僅かに揺らぐ。
デバイスを通してさっきよりも強い魔力を込めた時には、目の前に迫ったサウザーが両腕を振り抜いているところだった。


「(この俺が仕損じた?馬鹿な……)」
あの時、恭也に向けた物とは違い手加減など一切しておらず、踏み込む速度も一段程高い。
何千と数を積み重ねてきた技だけにしくじったとは思いたくないが、万に一つの一つが来てしまったのかもしれない。
引き摺っていても仕方ないので思考を切り替えると、第二撃を繰り出す。

間合いを詰めてからの零距離極星十字拳。
拳法の達人とてかわす事は容易ではなく、まして魔法に頼っている者なら防ぐ事は不可能と言える。
だが、デバイスを斬り飛ばす直前に、手刀は音を立てて見えない壁によって弾かれてしまった。

「なんだと!?」
全く予想外の事に、思わず声が出てしまう。
防御を一点に集中させるシールドと違って、全方位に障壁を張るバリアの強度は低い。はずだった。
実際、なのはやクロノが使う物は、簡単に破る事が出来ていたのだが、これは違う。
鋼鉄すら軽く引き裂く威力を持った斬撃が、プレシアの張ったバリアに阻まれ、それ以上進まないでいる。
無論、ただ面食らってばかりもいられない。
腕を振り抜くと、間合いを取り即座に次の技の姿勢に入る。

無数の突きの連撃を見舞う『悠翔嶽』だ。
斬撃が通じないのなら、貫くまで。
たかが障壁一つ破れずして、何が南斗六聖拳か。
一瞬のうちに十発もの貫手が突き入れられると、プレシアが纏う魔力障壁にも揺らぎが見え始める。
いかに堅牢な防御と言えど、一度攻撃を受けた場所は脆くなるのが道理。
このまま押し切れば、ものの数秒もせずに打ち破れる。
そして、そうはならなかったのは、相手が木人形ではなくプレシア・テスタロッサだったという事。
その数秒の間にプレシアは行動を起こしていた。

「邪魔よ!」
手を持ち上げて前に向ける。
ただそれだけの行動ではあったが、サウザーは両掌を突き出し受けの体勢を取った。
確証があったわけではないが、本能だか勘だかが拙いと感じたのだ。
そして、その勘働きは間違っておらず、動きからは想像も付かないような衝撃に襲われ、大きく吹き飛ばされてしまった。

「っ……!だが!」
触れもせずにこの威力とは恐れ入るが、ラオウの一撃程の重さは無い。
だが、強い。
魔導師など、懐に入れば敵ではないと考えていたが、この女は全力を尽くさねば勝てぬ相手だと悟った。
何発か光弾が追ってきたが、空中で体勢を建て直しつつ、壁を蹴って速やかに回避。
その勢いのまま間合いを詰めたいのだが、そう簡単に進ませてくれそうにない。
非殺傷設定などという甘い考えは持たず、全てを南斗聖拳の一撃と同等の威力を持つと想定しながら避け続ける。
時折、誘導弾を放ち、踏み込む隙を与えようとしないのが実に嫌らしい。
他にも、宙に浮いた水晶のような物体から断続的に光線が放たれているのが攻め手を少なくさせている。
遮蔽物にはそう困らないが、時間をかければそれも無くなるし、手数は圧倒的にプレシアが上だ。
今のところ紙一重で避け続けていられても、その今のところというやつが何時までも続く保障はどこにも無い。
常に敵の先手を取る南斗鳳凰拳が後手に回っている。
先を読まれ続けている事に焦りを感じた所で仕方の無い事だが、サウザーにとってこれ程までにやり辛い相手は初めてだった。


「始まった……。聞こえてるわね、クロノ執務官」
『こっちは何時でも出れます。状況を説明してください』
「下層部でプレシア女史の魔力反応を探知したわ。下手にサーチャーを送れないから断言は出来ないけれど、交戦中と見ていいはずよ。
  次元震は私が抑えているけど、時間をかければ、また道を塞がれてしまう事になる。それに、状況がどう変化するか予測が付かないの。すぐに現場に向かってちょうだい」
絶えず送られてくる報告で、傀儡兵の半数以上の撃滅と、中枢部での高魔力反応の発生を確認した。
プレシアの本質は研究者であるとはいえ、魔力資質SSという数値は、戦略兵器と同等の意味を持つ。
対するサウザーは、純粋な戦闘者であり、対人戦における力はプレシアを上回っているかもしれない。
しかし、あくまで戦術レベルの技能に過ぎず、状況次第では無力化されてしまう事さえありえるのだ。
行使する能力と運用法に根本的な違いがあるだけに、楽観視出来るような状況でもない。

正直なところ、クロノが間に合ったとしても、まだ不安が残る。
自分が行くのが一番いいのだが、それでは次元震を抑える事が出来なくなるので取れる選択ではない。
だから、少し心に重さを残しながらも念話を繋いだ。

「フェイトさん。あなたには辛い思いをさせてしまうかもしれません。それでも、私達に力を貸してくれますか?」
ここでプレシアの元に向かっても、一度拒絶された以上、フェイトが望んでいたような変化が起きる可能性は低い。
無論、強制したわけでも、司法取引を持ちかけたわけでもない。
全ては、フェイトが決めた事だ。
猫の手さえ借りたい状況ではその申し出を断る理由は無いのだが、最悪のパターンを考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。
半分、念を押すような形で問うと、返ってきた言葉には迷いの色は含まれていなかった。

『それでも……、わたしはあの人に育てて貰った娘だから、どうしても母さんに伝えたい事があるんです』
「……分かりました。でも一つだけ約束して下さい。何があっても無事に戻ってくる事。これが守れないようなら出撃は許可出来ません」
『はい、必ず』
ここまで心を決めているのなら、引き止めるだけの理由は無い。
そもそも、手元にフェイトを止められる戦力は実質クロノのみ。
なのはとユーノに至っては、前回と同じ轍を踏む可能性すらある。
こちらに協力的であるのなら無理に敵対する必要は無く、出来るだけ制御下に置いておきたい。
職業柄、無意識に打算の考えが混じってしまう事に自己嫌悪すら覚えそうになったが、そこまで割り切れるような性格はしていないのだ。

拒絶されても、フェイトはまだプレシアの事を母と呼ぶ。
現実から目を背けず、受け入れた事の証。
こうまで早く立ち直れたのは、フェイト自身の心の強さもあるだろうが、やはりなのはの存在が大きい
友達になりたい。
ただそれだけの理由で、二桁にも満たぬ少女がデバイスを手に死地に飛び込もうとしている。
一点の迷いも無い純粋な気持ちだからこそ、フェイトもそれに応え立ち上がったのだ。
もし、この二人が共に同じ魔導師の道を選ぶのであれば強くなるだろうし、その十年先を見てみたい。
そんな事を思っていると、クロノ達が転送を始めたという報を受けた。

「(本当に無事に戻ってきて欲しいものね……)」
万が一にでも次元断層が起こるような事態になってしまえば、アースラその物が危険に晒される為に、突入メンバーの脱出と回収は困難を極める。
特に、最深部でプレシアを相手にしているサウザーの回収は不可能と言っていい。
このまま何も起こらず、出来るなら七人目を連れて戻って来て欲しい。
その為にはと、再び次元震の抑えに力を向ける。
ジュエルシードは今のところ小康状態を保っているが、一度火が付けば誰も止められないのだ。
集中しながらも、リンディは全員の無事を祈らずにはいられなかった。


魔導師が持つ基本技能としてマルチタスクという物がある。
同時に複数の思考を行うという魔導師にとって必須の技能で、これを使う使わないでは魔力行使の高速化や実戦運用といった面で大きく差が出る。
大魔導師プレシア・テスタロッサともなれば、精密機械さながらの複雑なベクトル処理が瞬時に行われているのだろう。
それ故にプレシアは、サウザーの先手を取る事が出来ているのだ。
だが同時に、平静を装いながらプレシアも思考の片隅で焦りを覚え始めていた。

「(これだけやってまだ無傷とはね……。デタラメもいいとこじゃない)」
自身が放つ雷撃と誘導弾。
そして、浮かべたフォトンスフィアからの同時多角攻撃。
その全てが体捌きだけで、尽く避けられてしまっている。
何より厄介だと感じたのが、残像すら残る程の踏み込みである。
フェイトが使う高速移動魔法『ブリッツアクション』にも似ているが、瞬間的な速さはそれ以上。
おまけに、予備動作無しで行われる上に、魔力を用いていないため感知する事が出来ない。
あれだけ縦横無尽に動いていながら動作が鈍る素振りすら見せておらず、底無し沼を掘るような徒労感すら感じ始めてきた。
魔力とて無限にあるわけではなく、目的の為には長期戦と消耗戦は避けなければならない。
それでも手を止めれば、即座に攻撃を仕掛けてくるのは目に見えている。
初撃と第二撃は防いだとはいえ、三撃目の連弾は放置していれば間違いなく破られていた。
時間も残されておらず、いつ管理局の増援が来るかも知れたものではない。
次の行動を起こそうとした時、息苦しさを感じ、たまらず咳き込むと、僅かに攻撃の手が緩んだ。


――勝機!

既に鳳凰呼闘塊天によって持てる力全てを引き出してはいるが、それではまだ足りない。
この女のように、この身に魔法の力は無い。
あるのは日々磨ぎ続けてきた南斗の技。
よもや、北斗、元斗以外に南斗聖拳と渡り合える力があるなど、誰が想像したか。
今の百%で足りないのなら、その壁を越えるまで。
あらゆる方向から魔力弾が飛んでくるが、さらに強く踏み込んだ。

「ぐ……!」
今まで感じた事の無い鈍い衝撃が全身を包み、膝が軋むような音を立てているが構わず突き進む。
いくら南斗聖拳を体得した身でも、無理に限界を越えた力を出せば相応の反動を受けてしまう。
そうそう何度も使える代物ではないが、リスクは承知の上。
膠着の中でようやく見出した勝機である。
ほんの僅かの差で抜け出ると、その先に遮る物は何も無い。

神速から放たれる槍の如き手刀。
それは、言うなれば神槍の一撃。
その力は、地上に存在するどんな物質をも打ち砕く。
しかし、失われた世界の遺産がもたらす力もまた強大。
ただの障壁一つが、あらゆる物から身を護る盾となり得る。
最強の矛と最強の盾がぶつかればどちらが勝つか。
答えは至極簡単。
そんなもんバグ昇竜とムテキングのように、やってみなけりゃどっちに有利付くかなんざ分かりゃしないのである。

「貰ったぁぁぁ!!」
踏み込みの速度を最大限に利用した刺突の一撃。
速度は重さ。
凌がれた時の隙は大きいが、貫通力という点に限れば南斗孤鷲拳をも遥かに凌駕する。
最早、二の矢は不要。
これで決着を付けるという明確な意思の表れ。
叫びと共に矛と盾がぶつかったが、この場合は矛が盾の強度を上回る結果となった。

手刀を跳ね返そうと、障壁が反発を強めるが止まらない。
南斗聖拳の真髄その物が、たかが障壁一つで止まるはずがない。
力が拮抗したのは、ほんの一瞬。
炸薬が弾けたような音を立てると、プレシアを守っていた障壁は完全に消失してしまっていた。

「終わりだ」
新たに防御魔法を展開させる時間など無く、先程のような攻撃はもう通じない。
勝ちは見えたと判断しても無理の無い事ではあるが、同時に僅かな疑問が浮かび上がった。
デバイスを斬り落すにしろ、プレシア本人を昏倒させるにしろ、まずバリアを破る事が前提条件である。
スピード、破壊力共に申し分無い一撃だが、直線的な動きしかしていない。
無論、いかな達人でも簡単に見切れる物ではないと自負している。
だが、仮にそうせざるを得ないように誘導されていたとしたら。
視線をデバイスからプレシアの顔に向けると、その答えにようやく気付いた。

「(やられた!)」
何も出来なかっただけというのなら、笑みなど浮かべはしない。
あれは勝利を確信した者の笑みだ。
それでも、退く事はせずに手刀を進めたが、デバイスに届くより先に、右腕に紫色に光る輪が纏わりつき勢いが止まる。
続いて、右脚、左腕、左脚と四肢の全てに同じ物が現れ、数秒も経たない内に完全に動きを封じられてしまった。
これは、先程の戦いでフェイトがなのはに使った拘束魔法『ライトニングバインド』だ。
南斗鳳凰拳の神速を以ってすれば、そんな罠に足を踏み入れても、発動するより早く抜ける事が出来る。
が、今回に限って言えば、差し出された餌に、即ちプレシアに釣られる形となってしまった。

「……俺とした事が、こんな小細工に引っかかるとはな」
プレシアにしてみればバリアが破られたところで何の問題も無く、罠の上に乗るのを待っていればよかったのだろう。
罠の存在は予期していた。
それでもなお突撃を敢行したのは、大抵の罠など突き破れるという自信。
いや、この場合過信か。
忌々しげに吐き捨てるサウザーとは対照的に、プレシアは笑みを浮かべながらデバイスを向けた。

「覚えておきなさい。小細工でもやり方によっては罠にかける事は出来るのよ。今のあなたみたいにね」
プレシアが言い終えると同時に、紫色の閃光がサウザーを貫く。
魔力で作られたとはいえ、プレシアの持つ魔力変換資質も相俟ってか、その威力と衝撃は実物と変わりなく、一瞬で意識を刈り取られそうになった。
二度、三度と雷撃が撃ち込まれる度に身体が大きく撥ねるが、威力のせいか声にすらならない。
四発目でようやくプレシアが攻撃の手を止めると、肉の焼ける嫌な臭いが辺りを包んだ。
手は抜いておらず、一撃だけでも致命傷になり得るだけの威力も持った雷撃が四発も撃ち込まれたのだ。
常人なら生きてはいまい。
そう、常人ならだ。

「…っく……、効かん…な」
少し咳き込みながらもサウザーが顔を上げたが、眼光は力を失ってはいない。
一般的に人間の身体は動物などと比べると脆弱と言われているが、適応力などの事を考えれば馬鹿にできたものではない。
南斗白鷲拳のダルダが毒手を得たように、サウザーも、というか南斗六聖拳クラスの使い手は、どんな状況下でも生き残れるよう修練を重ねている。
暑さ、寒さ、乾き、餓え。
電撃も例外ではなく、今ではスタンガン程度では何とも無いし、内功を用いれば短時間だが高圧電流だって耐え切る事も出来る。
それでも、無防備な状態で何発も攻撃を貰っただけに、言葉よりは平気ではなかったが、要は死ななきゃ安いのである。

「呆れる程頑丈ね。……もういいわ。私には時間が無いの。繋がれたまま大人しくしていなさい」
「……一つ聞かせろ。全ての物と引き換えにしてまで行こうとする場所には何がある」
「全てよ!失った物の全てがアルハザードにはある!」
叫ぶプレシアを見て、押さえ込んでいた苛立ちがまた鎌首を持ち上げた。
裏の世界を知るだけあって、過去に執着し、それに囚われている人間など幾人も見ている。
プレシアもそういった者の一人に過ぎないと考えていたが、何か違う。

「そうか……。だが、それもここまでだ」
もっとも、分からない事をいくら考えた所で無駄な事だし、時間的な余裕も無い。
産まれた苛立ちを隠し、平静を取り戻すと、深く呼吸をしながら力を込める。
「無駄よ。力づくで破れる代物じゃないわ。そこで見ているのね。私とアリシアがアルハザードに旅立つ姿を」
何をするつもりかと思えば、四肢の拘束をバインドブレイクを使わずに破ろうとしている。
一瞬だけそれを見ると、至極つまらなさそうに言ったプレシアが、再びポッドに目を向けて表面を撫でた。
脅威になり得る敵の封じ込めは成功し、管理局が新手を送り込んでくる頃には全てが終わっている。
次元震もよく抑え込んでいるようだが、ほんの少しジュエルシードに魔力を加えてやるだけでいい。
それでアルハザードへの道が開く。
陶酔しきった目でアリシアを見つめていると、何か耳障りな音を聞いた。
最初は気にも止まらないかすかな音だったが、少しずつ大きくなっている。
薄い氷を踏むような、何かがひび割れる音。
不意に嫌な感覚に襲われ、まさか、と思い後ろを振り向くと、サウザーを拘束するバインドの一つが砕けている所だった。

「ぬっ……く、あぁぁぁぁ!」
「じょ、冗談じゃないわ、あなた……?何なの一体……」
表面上だけとはいえ、ここまで平静を保ち続けていたプレシアの表情が崩れ、驚愕の色に染まる。
高密度の魔力で組まれたバインドを、単純な膂力だけで破るなど人間に出来るはずが無い。
この光景が性質の悪い冗談などでなければ、悪い夢だ。
いっそ、今までの全てが悪夢であって欲しいとさえ思ってしまった。

――やっとここまで来て、アルハザードまで後一歩なのに!

無数に配置した傀儡兵。
どんな魔導師が相手でも、自分の所に辿り着くのには時間がかかるだろうし、魔力も消耗するようにしていたはずだった。
その目論見がたった一人の、それも魔導師ですら無い男にブチ壊されようとしている。
そう考えている内に二つ目のバインドが砕ける。
これで上半身が自由になった。

「……っ!」
こんなはずじゃなかった。
あの忌まわしい事故が起こった日から全ての歯車が狂った。
アリシアを失った時も、僅かな可能性だけを信じてクローン技術に手を出し、それが失敗だったと気付いた時も。
そして、今また失った時を取り戻そうとしている時でさえ、この世界は、期待を尽く裏切り絶望を与えにくる。
何処で間違えた。何が悪い。
そう自問しても、明確な答えなどありはしないが、ただ一つだけ分かる事がある。

――全て、お前が!!

無念の思いの全てを憎悪に変えてサウザーを睨みつける。
完全な逆恨みだ。
だが、今のプレシアにとって、逆恨みだろうがそうでなかろうが最早関係は無い。
こいつさえ消えてしまえば、アルハザードに。失った時間の全てを取り戻せる。

「化……物め!」
焦燥と怒りを混ぜながら、デバイスの矛先を再びサウザーに向ける。
残るバインドは二枚。
生半可な威力では通じない事は身を以って味わった。
ならば、自身の持てる最大戦力で消し飛ばす。
プレシアの足元に魔法陣が浮かぶと、辺りの空気が変わった。

詠唱と共に耳障りなスパーク音がサウザーにも届く。
プレシアの周りには無数の閃光が飛び散っており、威力の高さが見て取れる。
直射砲撃魔法『プラズマスマッシャー』。
最大射程を引き換えに、威力と発射速度を高めた高密度魔力砲撃だ。

「予想はしていたが……、これ程とはな」
あれを正面から受けては、細胞一つ残さず地上から消滅する。
そう思わせるだけの威圧感がプレシアから放たれているのだ。
あのリュウケンや、南斗の六聖達にも匹敵する程の重圧。
いかにサウザーと言えど、これ程の重圧を受けた事は数える程しか無く、対峙するだけで凄まじいエネルギーを消費してしまう。
魔力の余波を受けていると、案外魔力も闘気も似たような物かもしれないとも考えてしまった。
元斗皇拳に至っては、物質の蒸発、又は凍結まで行えるのだから、割と本気の考えである。
なんにせよ、今は余計な事を考えている場合ではなく、思考から外し拘束を破る作業を続ける。
すると、左脚を封じていた光が音を立てて消え去った。

これで残ったバインドは一枚。
最後の一枚を破りにかかったが、間に合うかどうかは良くて三分というところだ。
それでも諦める事などせずに力を込め続けているが、思う事があった。

「(……妙なものだな)」
ついこの間まで、何処でのたれ死のうが構わないとまで思っていたはずだが、今となっては、この程度の事で死ねるかという思いの方が強い。
そう思わせているのは他でも無いプレシアである。
女の身でありながら、これ程の力を持つなど、尊敬にすら値する。
強敵と認めたからこそ、不敗の拳を身に付けた者として勝たねばならないのだ。

鳳凰は、敵の全てを喰らい尽くし、己の力を高める。
その拳の使い手もまた同じ。
この敵を打ち倒してこそ、さらなる高みへと辿り着く事が出来るという確信めいた予感。
右脚を封じているバインドへ目を向けると、短く息を吐きながら目を閉じる。
恐らく、これを破るよりも、プレシアの砲撃の方が早い。
さすがに、あれをマトモに喰らっては、敗北は必至。
進むべき道が塞がれているのなら、打つ手は一つしか無い。
僅かな思考の後に目を見開くと、脚ではなく腕に力を込める。
次の瞬間、サウザーの身体は呪縛から解き放たれ、プレシアへ向かっていた。


「まさか…ね。そんな手段で逃れるなんて……、だけど、これまでよ」
近接戦闘は専門外といえ、プレシアも大魔導師の名を持つ者である。
サウザーが何をしたか、そして、どこから仕掛けてくるかを完全に捉えた。
ほぼ真正面から、超低空姿勢を維持しながらの跳躍。
見ようによっては、地面スレスレを飛行しているようにも見えなくはない。
恐ろしいまでの脚力と瞬発力が成せる技だ。
万全の状態であれば、捉え切る事など出来はしなかっただろう。

プレシアが見るサウザーの足元に点々と続く赤い飛沫の跡。
それを辿った先にあるのは、中空に浮かぶ紫色の光。
全てのバインドを破らずに抜け出るなど通常では不可能である。
その不可能を可能にしたのは、迷いも躊躇いも無い一撃。
プレシアに迫るサウザーの右脚は、膝から下が完全に欠落していた。

「ちぃ!」
本来なら、間合いを離す事すらかなわないのだろうが、さっきまでと違い速度は半減。
攻撃姿勢を保ったまま後退するプレシアを捉えるには至らず、目標を失った事により体勢が大きく崩れる。
元より、速さ以上に精密さが求められる動きだけに、片脚での制御は至難を極めるのだ。
辛うじて手を突き出し、地に伏せる事だけは避けたものの、動きが完全に止まった。

「消えなさい!」
そして、間合いを離したプレシアから砲撃が放たれ、光芒がサウザーに向かう。
絶妙のタイミングで着地点への予測射撃。
ラオウが北斗剛掌波を放った時と似ているが、あの時とは状況が違う。
五体満足であるならともかく、今の状態では、砲撃を避ける事も防ぐ事も不可能。
せめて、落としたのが軸足で無ければ、避け切れる可能性は十分あった。
もっとも、そうしていなければ、身動きが取れないまま砲撃を受けていたのだから、痛し痒しというところだ。
どちらにしろ、目前に死が迫っているという事実には変わりは無い。
退く事が叶わぬのなら、一歩でも前に踏み出し生を掴み取るまで。

「まだだ!」
地に着いた両掌をそのままに左脚を蹴り上げると、倒立姿勢を取りながら持てる全ての力を込めて跳躍。
およそ常人には不可能な動きだが、南斗聖拳を極めた者にならそれが出来る。
砲撃が指先を掠めそうになったが、なんとか皮一枚の所でかわしきった。

眼下を貫く閃光を眺めながら、さすがのサウザーも短く息を吐いたが、まだ終わってはいない。
上下が反転した視界の中でプレシアの姿を捉えた。
かわせるはずの無い一撃をかわされたというのに、その表情はさっきよりも落ち着いているようにも見える。
サウザーに向けられているのは、猟師が獲物に銃口を向けるが如き視線。
身動きが取れない空中なら、撃ち落す事は容易という事なのだろう。
だが、それは正しくもあるが、同時に間違いでもある。
孤鷲は遥か高みから人を見下し、水鳥は美しき舞で全てを魅了し、紅鶴は返り血で身を赤く染め上げ、白鷺は洗練された妙技によって獲物を仕留める。
そして、鳳凰はその全てを統べる存在。
長い歴史の中で、南斗鳳凰拳がいかにして最強の座に君臨し続けているかをプレシアは知らない。

先程の一撃。
火力とすれば、南斗聖拳はおろか、北斗神拳、元斗皇拳でさえ遠く及ばない。
まさに奥義と呼ぶに相応しい技だった。
それならば、こちらも南斗極星の拳の使い手として奥義を尽くさねばなるまい。
跳躍の限界点に達すると身体を反転。
同時に両腕を広げると、その全身を光が包んだ。


                        南斗鳳凰拳奥義なんとほうおうけんおうぎ
                      ほう  しょう じゅう  じ  ほう
                    彷 翔 十 字 鳳


片翼だけでは天翔十字鳳が持つ本来の動きは出来ず、技と言える物ではないかもしれない。
しかし、纏う光は紛れも無く闘気による物。
退かぬ、媚ぬ、省みぬ。
どのような状況に陥ろうとも、諦めを知らず、何人にも屈しない不退転の決意こそが、その拳技を頂点という高みへと昇らせたのだ。

「おお!」
闘気によって形作られた光り輝く鳳。
神話で語られるような鳳凰の姿に、プレシアでさえ感嘆の息を漏らし、一瞬ではあるが無防備を晒す。
そして、その遅れが避けられるはずの攻撃を避けられなくしていた。

「はっ……!?」
闘気を纏ったサウザーがプレシアへと肉薄すると、我に返ったプレシアが再び魔力壁を展開させる。
選んだのはバリアではなくシールド。
正面から向かってくるだけならこれで凌ぎきれる。

そう考えた矢先、そのシールドが十字に切り裂かれた。
魔力が弱まったわけでもない。
攻撃が見えないだけではなく、威力や質が明らかに違う。
何故、と答えを求めるには時間が少なすぎた。

翼を広げた鳳凰は目前にまで迫っている。
自身が持てる最高の防御をいとも容易く破ったのだ。
バリアジャケットなど、あっても無くても変わらない。
まして、その下にある肉体など紙切れにも等しい。
放たれた手刀の動きがやけに緩慢に見えるのは、死を目前にして、極限まで集中力が高まった為だ。
いっそ、一瞬で終わらせてくれた方がどれだけ楽だったか。
並列する思考の中で思う事は、憎悪や無念と言った負の感情。
そして僅かばかりの自責の念。
一体、何に対してそう感じたのかは分からなかったが、その答えを得るよりも先に、サウザー手刀が胸元に突き刺さっていた。



やたら、間が開いてしまった為に、今回はヒャッハーのし様がありません。
本当は、この話で無印終わらせて、継承の儀SP前までいくつもりだったんですが、予想以上に長くなった為、ここで一度投降しておきます。

雷撃耐えたのは、ケンシロウが二部で高圧電流フェンスをガン掴みしてたから、大体こいつのせいです。
プレシアさんは死んでないですし、聖帝様の脚はファルコみたいにはせず魔法パワーで治す方向でいきます。
じゃあなんで、脚落としたかっていうと、両脚健在だと彷翔になんないじゃないですか、やだー!ってのが理由です。
尚、次もプレシアさんのターンなんで、相変わらずなのフェイは出ません。
プレシアさんの哀しみが無想転生習得出来るぐらい表せればいいなぁ……
それではサラダバー



[18968] 第十七話:愛を取り戻せ!!
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2012/02/01 04:00
『南斗聖拳』
その拳撃は、地上に存在するどんな物質をも力で打ち砕く。
それを少しでも知っている者が居れば、まず間違いなくプレシア・テスタロッサの死を確信しただろう。
だが、手刀はバリアジャケットの僅か手前で止まっている。
届かなかったというわけではない。
現に、ほんの少しでも指先を進めれば、止めを刺す事が出来る。
無論、プレシアを殺す事が目的ではないが、手加減出来るような状況とは言い難い。
にもかかわらず、そうしなかったのは、直前になって一つの事に気が付いたからだ。
伸ばした指先を曲げると、胸元を掴む。
数秒の間、沈黙が流れていたが、身を凍らせるような、殺意すらはらんだ声がプレシアに向けられていた。

「……ふざけているのか」
怒りに燃えた目でプレシアを引き寄せる。
この世に生を受けてから、これ程までにコケにされた事は一度たりとも無い。
屈辱と言ってもいい。

「貴様……!」
奥歯を噛み締めながら、もう一度プレシアの顔を睨みつけるように見る。
そして、突き放すように手を離したが、間違い無い。
こいつは、この女はもう。

「貴様……、もう死んでいるな」
化粧で隠してはいるが、プレシアの顔色は死人のそれと大差が無い。
呼吸も乱れており、恐らくは肺に致命的な病を抱えている。
脚を捨て、闘気まで体得し、相打ち覚悟で迫った相手が半死人だったなどと、誰が認められるものか。
無論、意図して手を抜かれたのではない、という事ぐらいは分かっている。
プレシアの行動を阻止したのだから、勝利は揺ぎ無い。
だが、一人の拳士としてなら、このような決着など到底納得がいくものではないのだ。
例え様のない不快感を感じていると、その目に信じ難い物が映っていた。

「ばっ、馬鹿な……。何故その身体で戦える……。何故まだ立てる!既に貴様の身体は朽ちているはず!!」
その目に映ったのは、デバイスを杖代わりに立ち上るプレシアの姿。
病に全身を犯され、体力的、精神的にも、とうに限界を超えている。
そのはずだ。
なら、あれは一体何だ。

――修羅

己を捨て、闘いのみに生き、そして闘いによって死んでいく者の名。
平穏な世が続いてからは、その名は失われて久しいが、今の幽鬼のようなプレシアは、まさに修羅という名が相応しい。

「何が、貴様をここまで……」
既に死体同然のプレシアを突き動かす程の力の源。
今まで闘った、ジャギや南斗白鷲拳のダルダ、そして北斗の長兄ラオウすら凌ぐ執念。
その恐ろしいまでの執念がプレシアを立ち上がらせ、南斗聖拳を極めたこの身が、死にかけの病人に畏れを抱いている。
気圧され、生唾を飲み込みながら、半ば硬直したようにプレシアを見やる。
そんなサウザーを見て、プレシアは口元から流れる血を拭おうともせずにぽつりと呟いた。

「あの絶望を味わった事の無い者に、何が分かるというの……」
「何を……」
「私にとってアリシアは全てだった……
  この子さえ傍に居てくれれば、私には他の何も要らなかった……。あの日以来、私は失った過去と未来を取り戻す事だけを考えて生きてきたのよ……」
言葉内に含まれていたのは、プレシアの生き様その物。そして、敵意を上回る哀しみ。
それは、今まで見てきた誰の物よりも深い。
それと同時に、今まで感じていた苛立ちが何なのか、ようやく理解できた。

「そうか……、そういう事か」
……同じだったからだ。
プレシアとサウザーも、たった一つの存在を支えとし生きてきた。
ただ一つ違うのは、失ったかそうでないか。

偶然によって、歪であろうと願いを叶える可能性があるジュエルシードという存在を知った。
もし道を違えていたら、他の全てを踏み付け、犠牲にしてでも失った物を取り戻そうとしていたかもしれない。
いや、必ずそうしている。
だから、プレシアの狂気染みた言動が、まるで鏡に映った自分を見ているようで気に入らなかったのだ。

「なら、何故、……それを少しでも伝えようとしなかった」
愛とは奪う物ではなく与える物。
打たねば鐘が響かぬように、愛も与えなければ返ってこない。
偉大な師、オウガイがそうしてくれたから、今の自分がここにある。
そうする事を忘れ、過去の妄執に取り付かれてしまえば、仮にアリシアが蘇ったとしても同じ事の繰り返しだ。
それでも、同じ立場になれば、同じような事をしているんだろうなと考えてしまう自分が居る。

己にとって唯一無二の大切な者を失い、それを取り戻そうとただ一人前だけを見て走り続けた女。
一体誰が責められる。
まして、失った事すらない者になど。

「伝える?……あの人形に伝える事なんて何も無いわ」
「……そうかもしれん。だが!」
それが、プレシアの紛れも無い本心だという事は分かる。
プレシアのアリシアへの愛が深けれ深い程、違いを認められず拒絶し、果ては憎むまでになった。
理屈ではない。
感情の問題である。
だが、今のままでは誰も救われない。
自分がそうなりかけたように、気付いてからでは遅いのだ。
救ってくれた者のためにも、これ以上の暴走をここで食い止めねばならない。
とは言うものの、どうすればいいかなど答えがあるわけではなく、ただ声を出すしか術がない。
目の前の人物は、鏡に映った映し身。
歪みを正すことが出来るとしたら、恐らくフェイトだけだろう。
それも場合によっては、最悪の結果を生むという危険も孕んでいる。
そうさせないための下準備ぐらいは整えておきたいものだが、返ってきた答えは先程と同じ物だった。

「くだらないわね。私が望む物、私が欲しい物はたった一つよ」
「……っ!」
埒が明かない事に歯噛みはしたが、だからと言って引き下がるわけにもいかない。
どうすればこの女に憑いた物を落せるのかと思考を巡らせていると、プレシアの表情が強張っている事に気付いた。
一体何がと、その視線の先を追ってみると物言わぬアリシアがある。
僅かに目を細めて注視してみると、プレシアはアリシアを見ていない。
ポッドの表面に映った一つの像に目を奪われていた。

「誰よ……これ……」
息が詰まりそうになりながらも、やっとの思いで言葉を吐き出す。
その問い掛けに答えてくれる者はここには居ない。
目に映ったのは、疲れ果て顔をした女の姿。
病と年月によって刻まれたのか、口元に、目尻に無数の小皺が浮かんでいる。
そして、何よりもその女の顔は醜く歪んでいた。

「誰よこれ!」
同じ言葉をもう一度繰り返す。
それが誰なのかは分かっている。
己の身すら省みずに、ただ一つの目的の為に遮二無二突き進んだ女の成れの果て。
紛れも無い自分自身の姿だ。
最後に鏡を見た日など、覚えてすらいない。

――違う

頭を振りながら、視線を上げる。
ポッドの中で眠り続けるアリシアは何も変わっていない。
あの日あの時の姿のままだ。
それと同時に脳裏に浮かんだのは、憎み嫌っていたはずのフェイトの姿。
あの像に、即ち自分自身に向けている感情は、フェイトに向けていた物と同じ物だ。

「そんな……まさか……」
それを認めたくはない。
認めてしまえば、今までしてきた事を否定する事になる。
だが、あそこに映っていた、あの顔が脳裏に焼き付いて離れないのだ。

きっかけは小さな違いからだった。
利き腕が違う。
それだけで、これがアリシアだと認める事など出来なかった。
やがて、綻びは大きくなり、一切を拒絶するようになった。
全ての世話を使い魔に任せ、再び研究に没頭した日々。
笑えなくしたのは、そう強制させたのは誰か。
そして、何時から自分は本当の笑みを浮かべなくなったか。

「……変わっていたのは私の方」
焦点の合わぬ虚ろな目で答えを吐き出す。
走り続けて、走り続けて最後になってその事に気付いてしまった。
無論、気付かないでくれているよりは遥かにいいのだが、目的を見失った人間が行き着く先は二つしか無い。
叶わぬと知りつつも走り続けるか、自らの手で幕を下ろすかの二つに一つ。
どちらにしろ、ろくでもない結果になるのは確かだ。
その行動を起こすよりも早く、プレシアの腕をサウザーが掴んでいた。

「……離しなさい。それとも、あなたが終わらせてくれるのかしら」
「死ぬ気か」
「ずっとアリシアの幻影を追っていて、それが幻だったと気付いた今となっては生きる意味も無いわ」
「怖いのか」
その一言に反応したのか、プレシアの身体が小さく震える。
振り解こうと腕を動かそうとしたが、構わずに続けた。

「貴様がそうしてきたように、拒絶されるかもしれないという事がそれ程までに怖いか」
「違う……!アリシアは優しい子よ!アリシアは、アリシアは……」
否定しながらも、その言葉を言い切る事はプレシアには出来ない。
あの笑顔も、あの優しさも、過去の自分に向けられていた物だ。
優しい子だと誰よりも知っているからこそ、今の自分を許してはくれないという事が容易く理解出来る。
フェイトに向けてそうしたように、アリシアから否定され拒絶される。
因果応報と言えばそれまでだが、それがたまらなく怖い。

「……どうしてよ」
最初からその不安は感じていたかもしれないにしろ、決して表に出すことは無かった。
それをこの男は言い当てたのだ。
俯いたまま言葉を吐き出すと、ほんの少しの間を置いてサウザーが答えた。

「多分、俺もお前も、他人が思っているより強くは無いからだろうな」
南斗鳳凰拳は一子相伝。
その強さは他の五聖拳であっても及ぶところではない。
あまりにも強く気高い拳の使い手は、常に敬われ、そして恐れられてきた。
サウザーもそれに習い、他者に対しては孤高を保つような態度を取っているが、本質は歳相応の少年の物である。
だからこそ、師を斃し一人で生きていくか、師の期待に応えず拳の道を捨てるかの選択を迫られた時には、悩み苦しんだ末に虚ろを彷徨っていた。
大魔導師や南斗鳳凰拳の使い手であっても、まず一人の人間なのである。

「なら……、なおの事放っておいて欲しいものね。やり直す事が出来ないのなら、もう終わらせる事しか……」
その言葉が途切れると同時に乾いた音が鳴る。
プレシアの頬をサウザーが叩いたからだ。
もちろん、全力を出していれば「ちにゃ!」る事になっていたので手加減はしているが。

「ここまで好き放題やって、ただで終われると思うなよ。それに、残される者の事はどうするつもりだ」
「……それは、フェイトの事かしら?」
「それもある。だが、俺が言っているのはもう一人の方だ。あの娘をもう一度、今度は自分の手で殺すのか?」
「……馬鹿な事を言わないで!」
「なら逃げるな。生きて、全てをあいつに伝えろ!ここで一人死んだら、お前と、お前の娘が生きた証を誰が伝えられる!……それが出来るのは貴様しか居ないんだぞ!」
死しても受け継がれる事で人の想いは残る。
受け継がれる事が無ければ、その記憶も想いも全てが消えてしまう。
これは何もプレシアにだけに向けて言った言葉ではない。
オウガイも、かつて自身がそうしたように、南斗の歴史も技も心も全て託そうとしていた。
試練から目を背けずに、全てを背負いきる覚悟と決意。
そして、それこそが南斗鳳凰拳真の伝承者へと至る道。
伝える者、受け継ぐ者。
立場こそ逆だが、どちらも他の誰かに任せるなんて事は出来ないのだ。



プレシアからの返事は無く俯いているだけだったが、一先ずはこれでいい。
やるだけの事はやったし、言う事も全部言った。
一度出来た亀裂はそう簡単には埋まらず修復には時間がかかる。
問題があるとすれば、プレシアに残された時間が限りなく少ないという事だろうが、それでも手が無いわけではない。
南斗聖拳には出来なくとも、北斗神拳なら命を延ばす事も可能だろう。
無論、プレシアが望めばの話になるが、是非ともそうなって欲しいものだ。
後はと、切り落とした足に目を向けようとした時、背後に強大な気配が現れ息が止まった。

「なん……だ……!?」
おぞましいと言っていい程のそれが何なのかはすぐに分かった。
ただでさえ不安定な複数のロストロギア、SSという高い魔力資質、そして繰り広げられていた激闘。
ジュエルシードの暴走を加速させ、次元断層を引き起こすには十分すぎる程の条件が整っている。
そうならない為に魔力を使わせずに終わらせるつもりだったが、プレシアの力が予想以上に高かった事が裏目に出てしまった。

「こ、こんな物を相手にしていたというのか!」
見たところ力を放出しているのは、あの中の内の三か四個程度。
魔力の放出によって庭園が揺れ始めると、間髪入れずにサウザーが跳んだ。
向かうは当然ジュエルシ-ド。
完全覚醒する前に叩き切るつもりだ。
確かに南斗聖拳の斬撃なら、ジュエルシード本体を破壊する事は出来る。
だが、あの時は生物を取り込み力を外に向けて放出していない『安定』した状態であったという事を失念していた。

「なっ……!」
現状出来うる最大最速の一撃を向けたというのに、手刀はジュエルシードの手前で止まってしまっている。
腕だけではない。
身体全体が何かに鷲掴みにされているように一寸たりとも動かないのだ。
これは人の手に負える代物ではない。
そう感じた瞬間、その身体が弾けたように飛んだ。


「かはっ!」
一瞬で壁に叩きつけられたが、この衝撃はラオウの一撃以上だ。
床に転げ落ち、しばらくしてから、ようやく呼吸が出来るようになったが小さくない傷を負ってしまった。
内臓を数箇所痛め、骨も折れてはいないがひびが入っている箇所がある。

「甘く……、見ていた。よもや、これ程の物だったとは……!」
たかが数個でこのザマである。
あれら全ての力が開放してしまえば、誰も止める事など出来はしない。
息を荒くしながら身を起こすと、ノイズ混じりではあるがリンディの声が聞こえてきた。

『聞……ま…か。これ以…は次元震…抑え…れ……ん。じ…に次元…層が発生……は…です。すぐ……出を!…こえ……』
暴走の影響か、通信はすぐに途絶してしまったが二つの言葉だけははっきり聞こえた。
次元震に次元断層。
想定され得る状況の中で最悪の事態という事だ。

「認められるか……、こんな終わり方が!!」
このまま放置して逃げるなど、到底出来る事ではない。
第一、この脚では脱出など到底おぼつかないのは確定的に明らか。
だからこそ、ここで勝負を付けなければならないのだ。

正面から突っ込めば、結果はさっきと同じ。
それでも、ジュエルシード全てが完全覚醒する前に、少なくとも力を放出している物はどうにかせねばならない。
砕くか、この下に広がっているであろう虚数空間に叩き落すか。
万全の状態ならともかく、片脚だけでそれが出来るかと問われれば、難しいと言わざるを得ない。

だが、満身創痍とはいえ、それでもまだ残っている物もある。
闘気とは一種の生命エネルギー。
持てる命火の全てを注ぎ込み、自らの肉と骨を断たせ、相手の全てを切り裂く、南斗聖拳究極奥義『断己相殺拳』。

その名が示すように、相打ち狙いの片道特攻。
そうであろうとも、このまま座して破滅を待つよりは遥かにマシというものだ。
半ば這うようにして間合いに入ろうとしたが、後ろから矛先を向けられている事に気付いた。


「貴様……まだ……!」
もう行動を起こす事は無いと思い、意識をプレシアから外していたのが仇になった。
本来のプレシアが望んでいた事態が起こったのだ。
この機に乗じる行動を取る可能性がある事ぐらいは考えておくべきだった。
もっともガン不利な体勢とはいえ、ここから状況を覆す事など造作も無い。
無論、手加減など加えず、一瞬で斬り殺すという事をすればの話であるが。
状況が状況なだけに、その選択を取ったとしても責められはしない。
それが出来なかったのは、ラオウの言うところの甘さのせいか。
思案と躊躇いは一瞬。
サウザーが決断を下すよりも早くに矛先は引かれ、正面へと、即ちジュエルシードへと向けられていた。

「怪我人は黙って見ていなさい。これは、あなたには荷が重いわよ」
「何をするつもりだ……。死にぞこ無いに何が出来る!」
言葉に含まれていた感情は、狂気や憎悪といったものではなく、命を懸けた闘いに赴く拳士のそれと同等。
それで、プレシアが何をしようとしているのかを悟った。

制止の声も待たずに放たれる閃光。
その力は先程と同じかそれ以上。
あれら全てを一人で抑え込むつもりだ。
確かにプレシアの魔力と技量の高さなら可能かもしれない。
しかし、既に限界を超えているプレシアがそんな力を使えばどうなるか。

「ごほっ…!がっ……!まだよ……まだ!」
「もう下がれ!死ぬぞ!」
プレシアの体内から溢れ出す夥しい量の鮮血。
今にも膝を地に付かんばかりだったが、プレシアは逆にデバイスを強く握り締め血飛沫を撒き散らしながら叫んだ。

「この私を……大魔導師プレシア・テスタロッサを……なめるなッ!!」
それは、燃え尽きる蝋燭の最後の輝き。
サウザーがそうしようとしたように、プレシアも残る命火を全て燃やしているのだ。
一度は世界全てを憎んだ女が、残された者の為に命を張っている。
見殺しにしていいはずがない。
だが、ジュエルシードに向けられたものは、全てを切り裂く拳技ではなく、悔しさを含んだ声だけだった。

「くそ……!」
限界を超えているのはサウザーとて同じ事。
特に左脚への負担を掛けすぎたせいか、この嵐の中では前に進むどころか立つ事すらままならない。
またしても見る事しか出来ないのかと奥歯を噛んだが、光の中でプレシアの傍らに立つ影を見つけた。

「あれは……」
生体ポッドの中で眠りについているはずのアリシアが、今にも倒れそうなプレシアを支えているのだ。
幻覚かと目を疑ったが一つだけ思い至る事がある。

南斗の頂点を駆けた鳳凰拳の先人達。
その中でも特に優れた使い手は、打ち倒した強敵の魂を己の中に宿していたという。

それと同じようにプレシアの中にもアリシアの魂が生きていたという事だろう。
無論、ただの思い違いであるかもしれないが、この際はそう信じたいのである。
そして視界全てが白く染まると、世界は魔力の光に包まれた。





「……まだ生きているのか」
呻きながら指先を動かしたが、全身が重い。
意識を落していたせいか失血によるものかだろうが、そう長い時間は経ってはいない事は確かだ。
「っ……一体どうなった……?」
右脚に痛みが奔ったが、無視して身体を起こす。
次元断層が起こっていれば、空間ごと消滅していたのだから、それは防がれたと見ていい。
痛みに耐えつつ顔を上げたが、目の前に広がる光景を見て言葉を失ってしまった。

「お……、お前……」
床に散らばる九個のジュエルシード。
そして、鼻や口から血を流しながらも、デバイスをジュエルシードに向け続けるプレシアの姿。
バリアジャケットを修復する魔力すらないのか、ところどころが破れたまま。
だが、満身創痍とも言えるその姿は、今まで見た何よりも気高く、そして美しく見えた。

「ふっふふ……どうやら、ここまでのようね……」
呟きと共に、手にするデバイスのコアに亀裂が奔ると、プレシアの身体が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。
それが地面へと落ちる前に辛うじて受け止めるが、その身体は朽ち果てた枯れ木のように軽かった。

「馬鹿な……。貴様の身体であんな真似をすれば、こうなる事ぐらいは分かっていたはず!」
何がプレシアをそうさせたのかは分からないが、誰が見ても手遅れだ。
最早、秘孔の術を以ってしても、プレシアの命を救う事は出来ないだろうし、その時間も無い。
こうならない為に何か別の手段があったはずだと悔いても、もう遅い。
そんなサウザーを見て、プレシアは僅かに笑みを浮かべた。

「……アリシアの声が聞こえたわ」
か細く、今にも消えてしまいそうな声ではあったが
恐らくこれが本来のプレシア・テスタロッサなのだろう。

「ずっとそうだったのかしれないわね……。今までアリシアの声さえ忘れていて、耳を傾けようとも…しなかった……」
同時に吐き出されるドス黒い血の塊。
息をするだけでも耐え難い苦痛を味わっているだろうに、それでもプレシアは言葉を噤むのを止めようとしない。

「最期に…一つだけ頼まれてくれないかしら。……あの子に私が……謝っていたと伝えておいて」
「冗談はよせ……。俺は嫌だぞ!お前が自分で言うんだ!」
最後の言葉すら残せず、あまつさえそれを代わりに伝えろという。
そんな役割は御免だと声を荒げたが、プレシアの瞼は落ち、何かをうわ言のように呟いていた。

「私は……いつも気付くのが遅すぎる……」
「まだだ!まだ間に合う!」
それを最後に物言わぬ屍と化したかのように見えたが、まだ辛うじて息はある。
しかし、それも時間の問題でしかない。
この状態から持ち直させるなど奇跡でも起きない限りは不可能だろう。
神頼みに近い奇跡が都合よく起きない事は承知している。
起きないのであれば、人の手で奇跡を起こすしかないのだ。


力を無くしたプレシアを床に置くと、両脚の内腿へ指を当てがい目を閉じる。
最強の暗殺拳でありながら、同時に奇跡の拳と呼ばれる北斗神拳。
この秘孔はサウザーも存在するという事だけしか知らない。
効果は絶大だが、その副作用は北斗神拳を極めた者でさえ使う事を躊躇う。

成功した所で、今のプレシアに効果があるか保証の限りではなく、失敗すれば確実な死が待ち受けている。
それにこれは、北斗神拳を学んでいない者が使うにはリスクが高すぎる。
だが、それでも何も行動を起こさずに居るよりは遥かにマシだ。
感覚を指先に集中させ、今にも止まってしまいそうな経絡の流れを探っていると、全ての箇所の秘孔を捉えた。
後は全てを天に任せるのみ。

「(僅かでもいい……!頼む!)」
女神像が母性の星である慈母星の象徴なら、この願いを聞き届けて欲しい。

左右対極、六つの秘孔を同じ力、同じ瞬間に突く。
刹那の生を呼び覚ます変わりに、命を削る非情の秘孔。
その経絡秘孔の名は一つ。


――刹活孔




う わ ら ば!
前回、早くできればいいと書いたのにGOLANの有様だよ……
シリアルとか書けない上にTRF成分は挟めないし、どうしようかもう。
聖帝様が見たアリシアは、リハクがケンシロウの中に見た強敵達の姿と同じやつです。
相変わらず、なのフェイの出番ありませんが、当作品はプレシアさん一押しとなっております(強敵的な意味で
あのユダ様だって死ぬ瞬間は、レイに本心語ったんだから、プレシアさんもそういう風に出来ればいいなと思ってのセッカツでございます。
聖帝様視点メインなんで、そのあたりのやり取りはASあたりで回想の形でやれればなんとかと。
……まぁ永久に来ないかもしれませんが、そうなったら「せめてその胸の中で」的なフィニッシュだったと補完しといてくださいませ。
それでは次回、継承の儀SPまでサラダバー

P.S:切符持ちトキをジャギで作業するゲーセンってどういう事なの……



[18968] 第十八話:二つの道―なまえをよんで―
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2012/05/22 05:51
庭園の再下層部にある広大な空間。
先程までの喧騒はなりを潜め、聞こえるのは僅かな呼吸の音のみ。
それは、南斗鳳凰拳の使い手たるサウザーの物であり、珍しく呼吸が乱れているのが分かる。
一つの秘孔を突くのでも、絶妙な力加減と正確さが求められるというのに、それを六ヶ所同時にやったのだ。
不慣れという事を考えれば、精神的に疲弊しない方がどうかしている。
肝心の結果の方といえば、成功したと言っていいだろう。
少しばかり放心気味に自分の掌を眺めているプレシアに向けて事実のみを告げた。

「経絡秘孔の一つ、刹活孔を突いた。悪いが、どれだけ生きられるかは俺にも分からん」
正直に言うなら、成功した事自体が奇跡のような物。
専門外の事であるだけに、効果がどれだけ続くかすら定かではないのだ。
どちらにしろ、重要なのは執念や気力。
生きようとする意志が無ければ、数分と持つまい。
プレシアの目に生気が戻っている事を確認すると仰向けになった。

「ちっ……。やはり俺には向いていない。ったく……、よくもああ平然と秘孔が突けるものだな……」
息を荒くしながらのたまうが、そう漏らしたくもなる。
北斗の兄弟、特にトキに至っては、一瞬で秘孔を見抜き正確に突く。
こっちは秘孔一つ突くにしても、この有様である。
もっとも、ワンミスが即死コンに繋がっていたような状況を考えれば仕方のない事だが。

それにしてもと、右脚を見ながらサウザーがため息を吐いた。
のっぴきならない状況だったとはいえ、我ながら大胆な行動に出た物だと今更ながらにそう思う。
個人的なリミットまで一週間程しか無いとはいえ、やってしまったもんはどうしようもない。
『後悔先に立たず』『覆水盆に返らず』『甘えたトウケイぱなしたら死んだ』とも言うし。
まぁ、中途半端に残っているよりは諦めも付くというもので、なるようになるかという結論に至ると多少は気が楽になった。
何か動く音がしたので、まだ死んでいないなと横になったままプレシアの姿を探すと、少し離れた所で片膝を付いて何かしている。
少しすると立ち上がり、左手に持っていた物――斬り落としたサウザーの右脚を眺めながら言った。

「綺麗な切断面ね。どんな刃物を使ってもここうはならないでしょうに。一体、何をしたのかしらね?」
「……なに、特に変わった事はしていない。こうやって切り取っただけだ」
プレシアのような女が血塗れの、それも自分の右脚の切り口を見ながら平然と言うもんだから反応が多少遅れた。
何というか、右手にデバイス、左手に人の足という姿形はシュール極まる。
それでも、半身を起こすと軽く右腕を振って答えた。

「なるほど……、ほんの軽くでその威力。防げないはずね」
プレシアの視線の先にあるのは、腕がある場所から伸びる亀裂。
亀裂の長さは一メートル程で、手を抜いているにも関わらずこの威力。
拳撃の余波でそれなのだから、その手刀の威力足るや推して察するべきか。
無論、それだけであの防御を破れるないだろうとも思うが、その答えは聞かない事にした。
大して重要な事ではないし、試すような機会は二度と巡って来ないと自覚しているからだ。
それよりも今はやるべき事がある。

「っ……!何を!」
「じっとしていなさい」
さすがに剥き出しの傷口を刺激されるのはサウザーでも堪えるのか僅かに呻くような声をあげた。
何をしているのかといえば、プレシアは手に取った右脚の切断面を付着させている。
当然というか、そんな事でくっつく程、人間の身体は簡単に出来てはいない。
骨と筋肉、果ては血管や神経の一本まで断ち切っているのだ。
このような場合、往々にして取る手段は一つ。
外的手法によってそれらを繋ぎ、時間をかけて元に戻す事。
だが、それでは完全とは言えない。
日常生活程度には支障は無くとも、上位クラスの拳技となるとどこかで致命的な歪みが生じる。
しかし、プレシアが取った行動は違う。
第九十七管理外世界ならそれしか手が無いのだろうが、プレシアはその理の外に位置する人間である。

「先に言っておくけど、痛みにまで気を回す余裕は無いわよ」
「おい……」
魔法の事に疎いサウザーでも何をしようとしているのかは分かる。
分かるからこそ、そんな事が出来るのかという感じの声が出た。
刹活孔によって生かされていると知っているから出た疑念ではあるが、プレシアがこの行動に出れたのは二つ程理由がある。

一つは、元来のプレシアが求める結果までは至らずとも、アリシアからフェイトを創り上げたクローン技術の高さ。
即ち、人体の構造を知るという事に他ならない。
そういった意味で言うのなら、プレシアが持つ知識は下手な医者より遥かに高い。
そして、もう一つ。
どちらかと言えばこちらの方が重要な事で、プレシアが言ったように切断面が異常なまでに綺麗な事だ。
仮に刀で肉を切ったとして、刀身がなまくらであれば切り口は荒くなるし、余程の名刀でも技量が伴わなければ切断面が潰れたりする。
切れ味の鋭さと技量の高さ。
この二つが両立しているからこその南斗聖拳なのだ。
それこそ、全身を細切れにされるような斬撃を受けても、数秒間動かなければ癒着する残鳥斬という技が南斗水鳥拳にはある。
そこまで考えていたわけではないにしても、鳳凰拳の一撃なら条件は達している。
最終的に、魔法だから何とかなるんだろうという結論に達し任せる事にすると、ものっそい痛かった。

具体的に言うと、頚中から下扶突を突かれたぐらい。
斬り落とした時も相当だったが、これは洒落になってない。
まぁ、本当にその秘孔を突かれたら、対応する秘孔を突くか死ぬまで死にたくなる程の激痛が続くので、それに比べたらマシと言えるのだが。

「治してもらう、身で……あまり言いたくはないんだがな……。そういう事はもう少し早く、言え……!」
若干声が震えてるのは、痛みに耐えているのと、不意打ち気味に食らったせいでキレ気味になっているから。
呼吸法なんかである程度痛みは抑えられるのに、何の前準備も無しに『超いてぇよ~!!』状態にさせられたのだから、少しぐらい怒っても罰は当たらない。
むしろ、即死ビンタを叩き付けなかっただけ理性は保たれている方か。
肝心のプレシアはというと、ビキビキきているサウザーの物言いなど聞こえんなぁ?といった具合に聞き流している。
『作業の目』をしているあたり、聞こえていないといった方が正しいのだろう。
もう少し長く続いてたりしたらワンチャン十割の可能性もあったが、幸いな事に痛みはすぐに治まってきた。

「あなたからしたら物足りないでしょうけど、一応これで借りを返した事にしてもらうわ」
やや疲れたような声を出しながらプレシアが手を離すと、繋がった先を動かしてから、勢いを付けて一気に起き上がってみる。
立ち上がった限りでは、痛みはおろか違和感すら無い。
これなら、と壁に向かって走り出し、距離が縮まった所で跳躍。
最高点に達する直前、交差させた両腕を水平に薙ぐ。
そして、反動を存分に利用した蹴りを縦に放った。



                            南斗鳳凰拳なんとほうおうけん
                      てん  しょう ぐん せい きゃく
                    天 翔 群 星 脚



音も立てずに地面に降り立ったサウザーの視線の先にあるのは、天翔群星脚によって壁に刻まれた十字の傷跡。
驚くべきは、これ程の威力でありながら無音であったという事。
この辺りは暗殺拳の面目躍如という所だろう。
兎にも角にも、技は失敗しておらず不都合な点も見当たらない。
なら、言う事は一つだ。

「いや、十分だ。礼を言う」
「まったく、大した物ね。そう言えば少し気になったけど、あなた……」
血管や内臓の位置が真逆、と言おうとして言い切れなかった。
地面が、いや庭園その物が揺れ、遠くの方から爆音らしき音が聞こえてきたからだ。
それが少しずつ近付いてくる。

「間に合うかな」
「間に合うわ」
それが誰であるかなど分かるはずは無い。
しかし、それがフェイトだという確信はある。
ただ一つ問題があるとすれば、刹活孔の効果が切れる前に辿り着けるかどうか。
何気なしに呟いた一言だったが、プレシアは磐石の自信を込めて答えた。

「あの子は……、フェイトはこの大魔導師プレシア・テスタロッサの娘なのよ」
「ふっ、ははは。そうだな、そうだった」
その物言いは、つい先刻まで木人形呼ばわりしていた人物とは同じとは思えない。
あの写真の中で見たプレシア・テスタロッサと同じ姿だ。
それが可笑しかったのか、つい笑ってしまった。

「名前を、まだ聞いていなかったわね」
「……サウザーだ」
一瞬、何時ものように南斗鳳凰拳のと言いそうになったが、それは止めた。
対等か、それ以上と認めた相手であるなら、そっちの方がいいと思った為である。

「送るわ。最後の最後に罠なんて仕掛けないから安心なさい」
「そうか、なら頼む」
もうやる事は無いし、最期の時を邪魔するような趣味の悪さは持ち合わせてはいない。
何より、自分がやり残した事をやる為には是が非でも戻らなければならないのだ。
力と技は満たした。
後は、心の問題だけだったのだが、その覚悟も決まった。
短く伝えた転送先は、あの臨海公園。
プレシアが最後に次元跳躍魔法を放った場所だ。
管理局の船でなくていいのかと聞かれたが、寄り道をしている暇は無い。
勝手に消えるのは問題かもしれないが、事後処理はアースラの方でやってくれるだろうし、なのはやユーノも居るから大丈夫だろう。
もっとも、その点に関しては、それが建前である事に気付ける人間は殆ど居ないのだが。

「今更言っても仕方の無い事だけど、もう少し早くあなたに会いたかったわ。そうすれば、もう少し違った結果になったでしょうに」
「ああ、まったく思うようにはいかんな」
事が全て思うよう運んでいれば、こんな所に立ってはいない。
無論、ただの結果論であり、過程を論じる事の無意味さぐらいは二人とも理解している。
それでも、一年、いや一月会うのが早ければと思わざるを得ないのである。
そんな感情を抱いたからこそ、滅多に他人に見せる事の無い微笑をうかべ、同時に言ったのだった。

「会えて良かったわ、ありがとう」
「さらばだ、我が強敵」
それは二度と会う事の無い者への手向けの言葉だった。




「ふぅ……」
静まり返った空間の中、プレシアの漏らした溜息が響いた。
その表情は先程までの余裕は無く、額には汗が幾つも浮かんでいるのが見て取れる。
魔力はさっきの回復魔法と転送で全て使い果たした。
その証拠に、バリアジャケットも消えてしまっている。
おまけに無理に無理を重ねてきたのが祟ったのか、デバイスのコアは砕け、その機能は完全に停止している始末。
残っている物は無いに等しく、あるのは与えられた僅かな命火のみ。
何も持たずに重い足取りで生体ポッドの傍へ歩み寄ると、腰を下ろし肩を預けた。

「もう少しだけ待っていてね。すぐにアリシアの所に行くから。……でもその前にやらなくちゃならない事があるの」
ポッドの中ではなく、虚空に向かってプレシアが呟いたが独り言ではない。
その両の眼には、寄り添うようにして座るアリシアの姿がはっきりと映っている。
後は、待つだけだ。
目を閉じれば楽になれる、アリシアの所に行けるという誘惑を執念で跳ね除けながらただひたすら待ち続ける。
もうそれぐらいしか出来ないのだから。


――アリシア、お誕生日のプレゼント、何か欲しいものある?

そう言ったのは一体何年前だったか。
仕事のせいで家を空ける事が多く、寂しい思いをさせてきたアリシアの為に望む物なら何でも手に入れるつもりだった。

――うーんとね~あっ、私、妹が欲しい!だって妹がいればお留守番も寂しくないし、お手伝いいっぱい出来るよ!

まさか、そう言われるとは思っておらず心底狼狽したものだ。

――妹がいい!約束だよ!

とびっきりの笑顔を向けられ、指きりをしたあの日。
それを今の今まで、ずっと忘れていた。忘れようとしていた。
フェイトに憎悪を向けたのも、過去を捨てようとしていたのも、思い出してしまえば辛くて前に進む事が出来なくなってしまうと、心のどこかで理解していたからだ。


「遅いわよ、フェイト……。あなたが来るまで生きているつもりだったのに、間に合わないじゃない……」
一体どれ程の時が経っただろうか。
一時間か、数十分か、あるいはまだ数分しか経っていないのかもしれない。
もう時間の流れすら掴めないが、俯きながら漏らした言葉が示すように、未だフェイトは姿を見せておらず、プレシアにとっては無限の時ように感じられる。
仮に間に合ったとしても、自分がしてきたように憎悪の目を向け、拒絶されるだけかもしれない。
僅かにそんな考えが浮かぶと、いっそこのままの方がいいのかもしれないと思ってしまった。
けど、まだ自分の事を『母さん』と呼んでくれるのなら、という希望が崩壊しかけたプレシアの肉体を支えている。
再び顔を上げ、闇に染まりかけた視界で正面を見据えた。
既に手足の感覚は無く、音も満足に聞こえてない。
何時事切れてもおかしくない状態だが、その闇を切り裂くような雷光が映った。
クロノの制止も聞かず、道を阻む傀儡兵を全て切り倒してきたフェイトが間一髪という所で間に合ったのだ。

余程急いで駆け付けたのか息が上がっている。
地面に降り立つと、何時もと違う様子に気付いたのか不安そうな目でプレシアを見つめていた。
しかし、それはプレシアとて同じ事。
普段であれば難なく隠しとおせるというのに、そんな余力も無いのか僅かに視線を逸らしている。
二人の間に流れる無言の時間。
やがて、友達から貰った言葉に勇気付けられたのか、フェイトが真剣な眼差しを向けて言った。

「……母さん。あなたに言いたい事があって来ました」
その一つの言葉だけで十分だった。
そして、その言葉が、プレシアに力を取り戻させ、麻痺した四肢を突き動かす事になった。
ポッドを支えにゆっくりと立ち上がると、眼前のフェイトを凝視すると何かを思い出すかのように目を閉じた。

「(こんな大事な事を忘れていたなんて、愚かね……)」
姿形は同じでも、アリシアとは違う。
プレシア・テスタロッサの娘であり、アリシア・テスタロッサの妹、フェイト・テスタロッサ。
自分の事を強敵と呼んだ男に言われるまで、それを忘れようとしていた。

僅かな時間すら残されていないこの身。
ならば出来る事はただ一つ。
明日へ歩みを進ませられる者に、その想いの全てを託す事。
今からでも遅くは無い。
本当の自分を取り戻す為に。
そして、フェイトに明日を与える為に。

「待っていたわ、フェイト」
大魔導師プレシア・テスタロッサとしてではなく、初めて一人のプレシア・テスタロッサとしてフェイトに言葉を向けた。






今日より明日……今日より明日なんじゃ!!
前回後書きで次回継承の儀と言ったが……すまん、ありゃ嘘だった。
でもまぁ、この話書くより先に戦闘シーンほとんど仕上がってるっていう意味不明っぷりだからさ……こらえてくれ。
というわけで、無印最終話はプレシアさんと聖帝様パートで分ける事にしました。
タイトルを『おれのなをいってみろ』にしようかと思ったけど、ギリギリの所で踏みとどまった。

最後までフェイトを突き放して、落ちてくプレシアさんを、カサンドラでケンを待つトキィ仕様にしてみた次第。
まぁ、あのストロング病人と違って後がありませんが。
書いてて思ったのは、聖帝様やプレシアさんの愛の深さは、種籾勢が表しきれるもんじゃないって事ですねー。
万分の一でも伝われば幸い。
次こそ、継承の儀に突入いたしますので、もうしばらくお待ちくださいませ。



[18968]        二つの道―南斗の帝王―
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:a2084d01
Date: 2014/02/10 16:13
山の中の朝霧を掻き分けるように一つの影が進む。
その足取りに迷いは無く、ただ一つの場所のみを見て歩みを進めている。
獣道をしばらく進むと足が止まった。
その目に映るのは視界を覆う程の巨大な倒木。

「ふん……」
僅かに声を出すと腕を持ち上げ、力のまま振り下ろす。
再び歩を進め、その背中越しに見えるのはかつて倒木だった物。
行く手を阻む物は無く、山の住人達ですら本能的に道を譲ってしまっていた。
南斗鳳凰拳は帝王の拳。
敵は戦わずして膝を屈し頭を垂れる。
立ち塞がる者はただ一人。
長い間待たせてしまったが、全てを終わらせる時が来たのだ。

走って、走って、走り続けて、ようやくここまで辿り着いた。
だが、頂点が見えたとはいえ、まだ手が届くには至らない。
むしろ、ここからが最難関と言える。
重い扉を開けた先に座するは、南斗の頂点。
南斗鳳凰拳正統伝承者オウガイは、静かに振り向くと冷たい声で言った。

「覚悟は出来たようだな」
「南斗聖拳最強の座、今日ここで明け渡して頂く」
オウガイは、この一ヶ月の間に何があったのかは聞かない。
ただ一つ重要な事は、こうして自らの前に立ち、越えようとしている事。
目の前に居る男は、弟子ではなく最強の挑戦者。
ならば、持てる最大限の技と力で相対するのが礼儀という物。

「ついて参れ」
ここは鳳凰が舞うにはいささか狭い。
決戦を行うに相応しい舞台は用意してある。
言葉で促すと外に出たオウガイが歩き始め、サウザーもそれに続く。
十数分歩くと開けた場所に辿り着いた。

ここが何処かなど聞くまでも無い。
南斗鳳凰拳の修練を始めて行った場所。
ここで技を体得する毎に、あの大きなぬくもりに包まれて育ってきた。
言うなれば、始まりの地だ。
確かに、決着を付けるという意味では、これ以上の舞台は他に無いだろう。

「……行くか」
南斗鳳凰拳に後退は無く、あるのはただ制圧前進のみ。
それは誰であろうと変わらない。
まして相手がオウガイというのであれば、様子見などせず最初から最後まで全力で行く。
深く息を吐き両腕を翼のように広げると、身体の輪郭を闘気の光が包み始める。
その流れるような一連の動作には一分の無駄も無く、神技の域にまで達した技は見るものに神々しさすら与える。
当然、それは対面に立つオウガイとて同じ事。
本来なら存在しない一対の鳳凰が、天に輝く極星の座を賭けて争いを始めようとしているのだ。
両者同時に翼を広げきると、二本の光の柱が天を貫いた。



                        南斗鳳凰拳奥義なんとほうおうけんおうぎ
                      てん  しょう じゅう  じ  ほう
                    天 翔 十 字 鳳



オウガイは己の持てる技と力と技の全てを、対するサウザーは師より受け継いだ物の全てを。
帝王の拳としての誇りを賭けた不敗の拳。
これこそが南斗鳳凰拳が誇る唯一にして最強の構えである。

「(初めてだな……)」
構えを維持しながら正面を見据え、ふとそんな事を考えた。
間合いを離した距離からでも感じる強烈な存在感。
並大抵の者なら、戦わずして平伏してしまいそうだ。
初めて見る師の本気の姿。
これ程の威圧感はサウザーと言えど過去一度しか味わった事がない。
あの女。プレシアと同じようにオウガイも命を賭して全てを伝えようとしている。
ならば、言葉は不要。
己の拳によって応えるまで。
次の瞬間、示し合わせたように二人の姿がその場から消えた。

鳳凰の戦場は地上ではなく空中を駆ける。
と言っても、魔導師のように自在ではない為、攻撃が届くのは交差する一瞬。
翼のように広げた腕から同時に拳撃が二発撃ち込まれる。
だが、当たらない。
互いの拳は互いの残像を貫いただけに止まっていた。

天翔十字鳳を体得した者にとっては、激しく鋭い攻撃程見切りかわす事は容易い。
南斗聖拳随一を誇る見切りの力と、天空を舞う羽根と称される程の軽功術による絶対回避。
故に、南斗聖拳では南斗鳳凰拳ただ一つに勝てぬと言われているのだ。

では、この技を体得した者同士が戦えばどうなるか。
答えとしては極めて単純な物になる。
両者とも致命の攻撃をギリギリの所で避け、決定打となる一撃を加え合う。
この繰り返しである。
ついでに言ってしまえば、先に避けた方が不利。
さらに砕けた言い方をすれば、崖っぷちチキンレース。
無論、やっている事は暴走族が泣いて土下座をするレベルではあるが。

そのチキンレース参加者の片割れ。
風を受けながら地面へと迫るサウザーが確かめるかのように拳を握った。
この天地が一体となったような感覚。
心技体全てが最高の状態である事は間違い無く、天翔十字鳳の力を十分に引き出せている。
そして、まだ余力は十分。
これならいける、と思った瞬間、両肩が裂けた。

「……やはり、そう簡単には!」
動揺から姿勢が崩れそうになるも、辛うじて着地には成功。
肩を抑えながら後ろを振り向いたが、そこに立っていたオウガイには衣服にすら傷一つ付いていなかった。
傷その物は深い物では無く、戦闘続行には何の支障も無い。
問題があるとすれば、攻撃を受けた事その物に対してだろうか。
致命とは言い難いものの、天翔十字鳳の絶対回避を真正面から破ってきたのだ。

「頭では分かっていたつもりだったんだがな……」
天翔十字鳳という絶対の奥義を以ってしても、届くことの無い高みに立つ男。
平素の姿からは考えも出来ないが、これがオウガイという男の真の姿だ。
全力を出して闘うに値する相手と認められただけで、相手は南斗鳳凰拳正統伝承者である。

プレシアも総合力という点ではサウザーを上回る力を持っていたが、こと近距離での戦闘に関しては事情が異なる。
あのラオウにしても同格の存在であり、拳士として格上の相手とガチで闘うのは初めてなのだ。
だが、それでも、この闘いを退く事など出来はしない。
手に付いた血を払うと、再び構えを取り空へと跳んだ。




無数の飛沫が辺りの草木に降りかかる。
その飛沫は赤く、それが雨でないという事が分かるだろう。
文字通りの血の雨を降らせているのは、天空を舞う二羽の鳳凰。
表現を正確に表すのなら、血を流しているのは一羽だけであるが。
十数度の交錯を経ても、南斗聖拳最強の壁は崩れる気配すら見せず、逆に手痛い反撃を受ける始末。
拳が見えないのではなく、拳の軌道は読めているのにかわし切れない。
どれだけの研鑽を積めばこの域に達せられるのか及びも付かないが、そんな事を考えている余裕はサウザーには無い。

闘気によって辛うじて致命傷は防いでいるものの、後が無い事は容易に見て取れる。
同じ拳、同じ奥義を用いても浮き出る明確な違い。
技量の差とでも言うべきだろうか。
ただし、天翔十字鳳という奥義その物は、あくまで構えであって技の優劣は存在しない。
どのタイミングで攻撃し回避に転じればいいかなどは、経験則が物を言う。
そう言った意味では、サウザーの天翔十字鳳は未だ未完成と言っていい。
さらに達人同士の闘いでは場数の多さも勝敗に大きく関わる。
自らの恐怖を克服し、眼前の敵の心理を掴んだ方に軍配が上がるのだ。
分かりやすく言えば『ヤリコミヨー』って事である。
経験と場数の多さでは、南斗鳳凰拳伝承者であるオウガイに勝てるはずはない。
そうと理解していながらも、身体の奥底ではふつふつと湧き上がる高揚感を抑えきれずにいた。

「ふっ……ふ、ははは」
血と汗を流しながらサウザーが笑った。
傷の痛みなど問題にもならない。
自分が慕い、追い続けた背中。
南斗鳳凰拳歴代伝承者においても並ぶ者無しと評された男は、紛れも無く本物だった。
その事がどうしようもなく嬉しい。
これが笑わずにいられようものか。
ひとしきり笑うと改めて正面を見据えた。

その目に映るのは南斗聖拳最強の男。
何時の日か師を越え、南斗鳳凰拳を継承する。
あの日、この場所で言った誓いを果たす為に、今ここに立っているのだ。
さりとて、状況は最悪の一歩手前。
天翔十字鳳を打ち破る手立ては無く、満身創痍の身体は後一度闘えればいいところ。
まぁ、『お師さんハウスから出られない!』と叫んだりする程テンパっているわけではないが、攻め手も無く、王手が掛かっているのは確かだ。
一つだけ活路が無いわけではないが、と肩で息をしながら思考を巡らせていると、背筋に冷たい物が奔った。

「さすが……」
まるで、あの時のようだと、時の庭園でジュエルシードが暴走した事を思い出したが、感傷に浸っている場合ではない。
あの時はプレシアが居たが、既にこの世の人ではないし、第一こればかりは自分で乗り越えねばならない事であって、他の誰にも譲るつもりはない。
ここで終わるか、歩みを進める為に終わらせるか。
身を切り裂くような闘気が、次の一撃が互いにとっての最後の別れとなるという事を物語っているのだ。

それを理解した瞬間、オウガイの姿が地上から天空へと移る。
闘気の翼が大気を震わせ、鳳凰が咆哮をあげている。
現状からして取れる行動は三つ程あるが、内二つは取れる選択ではない。
一つは、このまま天翔十字鳳での真っ向勝負。
二つは、射程圏内からの速やかな離脱。
仮に正面から向かっていったとしても、結果は先程までの焼き直し。
かと言って、師が自らの命を賭しているというのに退く事など出来るはずがない。
ならば、残された道に全てを賭けるのみ。

空を見上げながらサウザーが腕を下げ、天翔十字鳳の構えを解く。
それどころか、目を閉じ自らの闘気を抑えた。
その姿は一見無防備とも言える南斗鳳凰拳の基本姿勢だ。
だが、天翔十字鳳を前に極星十字拳といった技は通用しない。
当然、その程度の事は百も承知。
マトモにやり合っての勝機など最初からあるはずなど無かったのだ。
正面決戦で勝機が無いのなら、やり方を変えるまで。

選んだ選択は『何もしない』事。
自らは仕掛けず、身を守る事もしない。
かと言って、諦めた訳でもない。
視線だけは決して逸らさずに、ただ一点に意識を集中させる。
そして、視界が揺れ、目の前が血で赤く染まった。

額に手刀が突き刺さり、そこから流れ落ちた目に入ったのだ。
ほんの僅かでも手刀が前に進めば頭骨を貫く。
だが、貫ぬかれたのは皮と肉まで。
本来、頭を貫くはずだった手刀は受ける直前、一瞬早く突き出した左手に阻まれていた。

闘気を左手のみに集中させた一点防御。
要領としては南斗恒斬衝をそのまま防御に使ったと思えばいい。
それでも左手に風穴を開けられてしまったのだから、下手に迎撃しようものなら、命は無かったであろう事は容易に想像が付く。
それ程の一撃を凌ぎきったのには多少の説明を要する事になるが。

『天空を舞う羽根』

どんな達人にも砕く事は出来ないという天翔十字鳳に相応しい表現ではあるが、実はここにこそ活路が存在する。
羽根は羽根であって、決して翼ではない。
羽根だけで羽ばたく事は出来ず、ただ舞い落ちるのみ。
この技の本質は、敵の攻撃を最大限に利用した、言うなれば極まったカウンター。
つまり、攻撃を仕掛けてこない相手には技の威力・速度は半減すると言っていい。
無論、話はそう単純なものではなく、南斗聖拳最高峰とも呼べる拳撃に対して真正面から相対する事になる。
体の流れを見切り、攻撃の軌道予測を行い、紙一重の所で拳を受けねばならない。
どれか一つでも狂えば無防備なまま致命の一撃を貰う事になってしまう。

それを可能にさせたのは、捨て身の覚悟と、揺るぐことの無い決意。
これは最大の強敵と呼ぶに相応しいプレシアとの激闘から得た境地だ。

風穴の空いた左手に力を入れて手刀を掴むと同時に、中空にあったオウガイの足先が地面へと着く。
それは、天空を舞う羽根が地に墜ちた瞬間だった。


「見事」
闘い始めてから一度も言葉を発しなかったオウガイが短く言う。
実際のところ、南斗鳳凰拳の継承は天翔十字鳳同士で闘ったのでは不可能である。
それこそ、新年早々に覇者が手持ちキャラ三つ残して討伐の為に集った修羅、総勢二六名を情け容赦無く屠殺した時ぐらい無理ゲー。

一応、真正面からでも破れない事は無いが、膨大なまでの魔闘気で無重力を生み出すとかいう、かなりブッ飛んだレベルになる。
南斗鳳凰拳で言えば、天翔十字鳳という構えの先にある秘奥義と究極奥義ぐらいだろう。
当たり前の事だが、これは天翔十字鳳を完成させねば体得する事は出来ず、究極奥義に至っては数ある歴代伝承者でも会得した者は一人しか居ない。
それ無しで攻略するには、天翔十字鳳が持つ最大の弱点に気付けるかどうかだ。
ただ、気付いたとしても全力で命を取りに来る相手に対して無防備でいるなど尋常の胆力では成しえない。
まして相手が南斗聖拳最強であればなおさらと言えよう。
力を持たぬ者であれば背を見せて逃げ出すし、逆に力を持つ者であれば敵を倒す為に力を振るう。
どちらも共通して言える事は、生き延びる為の行動である事。有体に言えば本能だ。
生物として最も原始的な欲求を乗り越える事で、初めて南斗鳳凰拳伝承者として立つ事が出来る。
常人であれば一生涯を費やしても届くはずの無い場所に、サウザーは一五年という、恐らくは歴代伝承者中最速で足を踏み入れたのだ。

悔いは無い。
手塩にかけて育てた男は、北斗神拳すら越える可能性を秘めている。
北斗を越える事こそ、南斗の先人達の悲願。
己の代では叶わずとも、その願いは次代に引き継がれる。
後悔など微塵も無く、満足気な笑みを浮かべると手刀を引き抜き、両腕を広げ目を閉じた。

続く言葉は無いが、次にすべき事は何かというぐらいはサウザーも理解している。
理解しているからこそ、一瞬の躊躇が生まれた。
その僅かな迷いを振り切ったのは、プレシアが最後に見せた表情と重なったから。

迷う必要など無い。
何をすればいいかなど、ラオウとやり合った時に決めていた。
選んだのはオウガイから最初に教わり、そして自身が最も得意とする技。

――極星十字拳

閃光一閃。
師への最後の手向けか、その一撃は今まで見せたどの技よりも鋭かった。




「……何故、急所を外した」
地面に倒れ付したオウガイが僅かに息を乱しながら呟く。
語気に非難めいた物は無く、純粋な疑問から出た言葉だ。
受けた傷は両脚にある二つの裂傷。
正面からの極星十字拳なら、胴を十字に切り裂くのが常。
拳を受ける直前に見た覚悟は本物だと感じたし、技にも迷いは無かった。
最初からそのつもりだったという結論に至ったからこその『何故』である。

「脚の筋を斬りました。……これで二度と鳳凰拳は使えないでしょう」
脚技を主体とする白鷺拳や、華麗な脚捌きを真髄とする水鳥拳と同じように、鳳凰拳も一瞬で間合いを詰める踏み込みからの連撃が基本となる。
そして何より、脚を封じるという事は南斗鳳凰拳を不敗たらしめている天翔十字鳳をも封じる事に繋がる。
命を奪わずに拳のみを封じ、拳士としての生命を絶つ。
他に手が無かったと言えば嘘になるが、南斗鳳凰拳の継承という事を考えれば、これしか方法が無かった。

「甘い……な。それで南斗の頂点に立つつもりか」
南斗鳳凰拳の伝承。
南斗聖拳という組織の頂点に立つという事は、相応の権力を得ると同時に、策謀の渦の中に身を投じなければならなくなる事である。
敵だけならまだしも、平時の場合は身内である南斗聖拳からその座を狙われる事の方が多い。
特に、鳳凰拳の突出した力を抑えておきたいと考えている聖司教や、裏切りの星という別名を持つ紅鶴拳には、一瞬たりとも隙を見せてはならない。
圧倒的な力によって他者の上に立ち、非情によって頂点に立ち続ける。
故に、信じられる者は己ただ一人。
将星が独裁の星と呼ばれる由縁である。
長所でもあり欠点でもあるこの甘さが、何時の日か命取りになるのではないかとの不安が頭をよぎったのだ。
だが、サウザーはそんな不安を一蹴するかのように応じた。

「そこで足元を掬われるようなら、俺もその程度の器だったという事。そうなれば向ってくる者の全てを俺の手で打ち倒し、須らく従わせるまで!!」
例え南斗百七派全てが敵に回ったとしても、正面から全て叩きのめす。
障壁あらば打ち砕くのみ。反逆あらば力で従わせるのみ。
帝王の戦に小細工など一切不要。
それが天を支配する鳳凰のあり方であり、それこそが南斗鳳凰拳の闘い方。
どれ程、困難な道であろうと、今ここで手を血に染めるよりは遥かに良い。
叫ぶように吐き出した決意を前にしては、オウガイも言うべき言葉が見つからなかった。

「(なんと……)」
全身に伝わる覇気が、一度は死ぬ事を決意させたオウガイの心を熱く震わせている。
南斗聖拳という一大組織を敵に回しても、己の選んだ道を貫くという選択。
数多の鳳凰拳伝承者も、そして鳳凰拳歴代最強と呼ばれた自分ですら、掟や宿命に逆らうという選択は無かった。
いや、考えた事すら無かったと言っていい。
無謀な事だと思わないでもないが、同時に不可能ではないという考えもある。
己の道を貫き通した時こそ、北斗神拳を越える時。
ならば、生きてその時を見てみたい。
久方ぶりに産まれた高揚感をひた隠くしながらサウザーに向けて告げた。

「今、この時より、お前が南斗鳳凰拳伝承者だ。その意味は理解していよう」
この言葉が持つ意味は、サウザーが誰よりも理解している。
南斗鳳凰拳伝承者は肉親も友も持たぬというのが常。
つまり、この瞬間から師弟という繋がりは断たれ一人で生きていかねばならぬという事である。
それでも、生きていてくれさえすれば繋がりを感じる事が出来る。思い出す事が出来る。
だから、あの時のような無様は二度と晒さない。
二度と涙は流さない。
その覚悟が無ければ、この場所に立っていないのだ。
しかし、その覚悟は次のオウガイの言葉によって全て打ち砕かれる事となった。

「……これからは、昔のように父と呼ぶがいい」
「……ぁ!」
「これでは立てそうにないな。すまんが肩を貸してくれんか、サウザー」
南斗鳳凰拳の修練を始めてからの間、ずっとそう言うまいと心に誓ってきた。
それも、今ここで終わる。
十年間待った。十年間待たせてしまった。
万感の想いを乗せて言おう。

「はい、父さん……!」
古来より、北斗七星は死を、南斗六星は生を司ると伝えられてきた。
死兆星を見た人間が死の運命を悟るように、南斗六星が強く輝けば死の運命すら変える事が出来る。
その証拠に、役目を終えた鳳凰の目には死兆星は映っていなかった。




ヒャッハー!あとがきだぁーーー!
極悪でジャギ様がリュウケンの事を師と呼びたかったのに対して、聖帝様はお師さんの事を
こう呼びたかったんじゃないかって事で、こういうフィニッシュになりました。
そら、そう呼べるようになると思ってた所にあれですから、グレても仕方ないって事で。
天翔については完全に脳内設定です。
映像系の作品見る限り、必ず先に攻撃させてるんでカウンター系の技ではないかと。
それだけだと、残像がすり抜けてく事に繋がらないので、As行けばさらに踏み込んだ解説をする予定です。

聖帝様とお師さんをどうにか出来んもんかと考えた末が、なのはクロスってのもどうかって話なんですが
ぶっちゃけた話、継承の儀SPがヤリタカッタダケーです。
いつ偽サウザーとか言われるかとビクンビクンしてますよ、ほんとに。
待たせてしまった分のAs予告やって無印編を終わらせて頂きたいと思います。




「はぁ……はぁ……」
むせるような熱気の中、自分が息を乱している事に気付いた。
八神はやてを守護する四人の守護騎士の一人。
烈火の将の二つ名を持つこの身が、目の前の男にいいように手玉に取られている。

「おい、シグナム!なにやってんだよ!!」
その後ろから、罵声交じりの叱咤が飛んだ。
しかし、それに答える余力など、とうに失われている。

一対一ならベルカの騎士に負けは無い。
その格言を成すだけの強さがありながら、この男は遥か上を行く。
でなければ、これ程の苦戦を強いられている筈が無い。
それが分からないわけではあるまい、と心の中で毒を吐き、僅かに集中が削がれた瞬間、戦局が動いた。

「おい、そこに座れ」
その言葉を聞くや否や、凄まじい程の重圧が彼女に圧し掛かった。
突き付けられている銃口からではなく、その身から発せられる赤いオーラがそうさせるのか。

「……なんだ、その目はぁ!?」
銃身が力任せに振るわれ、避ける事も出来ずに打ち付けられる。
後ろで戦いを見守っていた仲間が悲鳴をあげても、もう何もする事は出来ない。
そして、彼女は敗北を悟り、そっとレバーを離したのだった。
後は、ボールになるのを黙って眺めるだけである。

『おい、そこに座れから~てや、てや、てやっと入ってぇ!羅漢撃で、魔法の数字27ー!!!』
『さぁ~入ってしまった!刻んでいってぇ、落さない!この男落さない!グレ!JB!JB!千手殺!』
『これ、やってる(*M*)さんもですけど、海鳴から来ました記念参加勢さんも気持ち良くなっちゃってますねー』
『後はリアルなバスケット!そして最後は小パン!勝ったのは(*M*)ジャギです、おめでとうございまーす。次のしあーい!』
容赦なく浴びせられる修羅の洗礼。
炸裂する大魔法。
聖地にして魔窟という、混沌が生み出す異常な熱気の空間。
そして彼女達は神話の目撃者となる。

『準決勝第二しあーい!店長ユダ対(*M*)ジャギ!誰もが見たかったであろうこの組み合わせ!』
後に『魔法vs科学』と呼ばれる伝説の一戦の始まりであった。

次回リリカルなのはAs『ここは修羅の国、中野TRFなの』



     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *

以下、世紀末と違う北斗勢の基礎設定。

聖帝様

北斗となのは、そして中野TRFクロスという正気の沙汰とは思えない本作品の主役。
ジャギ様と並んで、世紀末とは性格が違いきって誰これ状態な人。
性格設定をどうしようかと悩んだ末に、『他人とは一線を置いた硬い口調で話すが、それは南斗鳳凰拳の立場を理解している為で、お師さんの前では一切がブレイクする』となった。
早い話、極端なツンデレ。


オウガイ先生

愛も情けも持たない独裁の星の割りに愛背負いすぎじゃね?って事で
北斗が哀しみ背負う事で無想転生身に付けて最強になるなら、鳳凰拳は愛を背負って究極奥義に至る(キリッ、という考えから
歴代伝承者中最強という設定になった俺たちのお師さん。
北斗パパにしたい人物ランクTOP3の内の一人である。
他はアインとフドウの父さん。


ジャギ様

極悪仕様のジャギ様
まだそんなにひねくれていない子。
ジュエルシードでドーピングしたせいか、気の扱いが巧くなったかもしれない。
次に出てくるとしたら、多分STS。
絡むのはティアナを予定。
理由は、優秀な兄を持ち、上官もペア仲間も隊の年下二人もチート仕様で、自分一人強くなった気がしない挙句に無茶をするとか、これなんてジャギ様?って思ったから。
後、色も赤い。


シュウ

Asから登場予定の超人格者。
世紀末と性格が違わない人。
Asでの立ち位置は、八神家の父親役的存在にして南斗のオカン。
世紀末幼稚園修羅組担任。


ジュウザ

Asから本格的に絡んでくる、性格的な意味での聖帝様の天敵。
こいつも世紀末と何ら変わらない。
自分のやりたい事だけやる全一口プレイヤー。


店長

覇者。
必殺技は作業。
多分、自動人形とか戦闘機人の仲間。
ゆりかわ先生!お許しください!

(*M*)

魔法戦士の名を持つ偉大な漢。
格ゲーに必要なのは強キャラではなく
やり込みだという事を体現した弱キャラ使いの救世主。
魔力資質CかBぐらいだけど、魔導師ランクはSSまでいける人。

サラダバー



[18968] 八神家のある夏の一日
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:eabd9742
Date: 2012/06/08 19:39
*本話は作者の願望と欲望、ガチ撮り及び闘劇ネタが120%含まれており、クレーム等が付いた暁には修正ないし削除させて頂きます。





うだるような暑さの町の中を小さな影が走っている。
夏場なのだから汗をかいて当然なのだが、そんな事はお構いなしといった具合だ。

「高まれあたしの小宇宙ーーー!!」
なんだかよく分からないテンションで住宅街を駆け抜ける。
すれ違う人々も、珍しい光景ではないのか『八神さんのとこのヴィータちゃんは何時も元気ねぇ』程度にしか思っていないようだ。
そのままの勢いで一軒の家の前まで走りこみ、やや乱暴に門を開けると勢いよく家の中に飛び込んだ。

「ただいまっ!!」
「あ、ヴィータちゃんおかえりなさい」
「んー、はやて達はまだ帰ってきてないのか」
「はやてちゃんの定期健診が先に終わったって電話があったから、もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら」
「そっか」
『ただいま』と言えば『おかえり』と帰ってくる日常の光景。
それがつい最近になって、やっとこの家で見られるようになった。
多少イレギュラーではあるが、大事な家族である事には違いない。
靴を脱ぎ捨てながら会話を済ませ、空調の効いた空気を吸い込みながら玄関を後にする。
もちろん、手を洗ったりうがいをしたりするという事は一切頭に入っていない。
リビングに駆け込むと、テレビのリモコンを手に取りボタンを押す。
すると画面には、何故かビキニパンツ一枚にネクタイという紳士スタイルのガチムチ男が映っていた。

『マーッスル!マッスル!すっげぇやつが現れたァ!拳法殺しの肉体を持つ男!その名も……』
マッスル千葉のハイテンション・ニュース。
暑苦しいという言葉を三週させてもまだ物足りないが、突き抜けたテンションの高さと声の良さで、妙に高い視聴率を叩き出している人気番組だ。
もっとも、ヴィータの目的はそれではなく、即座にチャンネルを切り替える。
普段見ないニュースでも、これに限っては例外だが今日だけは優先順位が異なるのだ。

その後も『釣り覇者日誌』や『魔法戦士たもつ☆マギカ』等といった番組が流れるも、リモコンを操る手が止まったのは無数の人が映った会場がテレビに映った時。
女の子という事を考えれば、人気アイドルユニット『ジャギーズ』のライブコンサートか何かと思うだろう。
だが、違う。
映っているのは黄色い声援を出す女性達などではなく、モヒカン頭の野郎共一色。
彼らはたった一つの目的の為に集まり、始まりの合図を今か今かと待っているのだ。
ステージにマイクを持った男が現れると、モヒカン共を眺め回しよく通った声で叫んだ。

『世紀末覇者を見たいかーーーーッ!』
それは祭りの開幕を告げる号令。
ばらばらだった人の心はその瞬間一つとなり、大きな地鳴りを呼んだ。

『ヒャッハー!!』
「ヒャッハー!」
一矢乱れぬ歓喜の叫びが一帯を揺らす。
今にも略奪が始まらんばかりの様子に、暴徒か何かだと思う人が居るかもしれないが、ちょっと高まっているだけである。
そのあまりの高まりっぷりにつられたのか、画面の前のヴィータも片手を挙げ、同じように声を揃えていた。

『俺もだ!俺もだ、みんな!!』
喚声というか怒号の嵐に負けまいと壇上の男も声を張り上げると、会場のボルテージはさらに上昇。
収集が付かなくなる一歩手前の所で、この集団が何なのかを説明しなければなるまい。

全国から予選を勝ち抜いた猛者が集う格闘ゲームの祭典である闘劇本選。
その中でもメインタイトルと呼ぶに相応しい盛り上りを見せているのは、世紀末スポーツアクションゲームの異名を持つ『北東の拳』である。
格闘ゲームなのにスポーツアクションという異質なジャンルに対して首をかしげるお友達が居るかもしれないが、それには歴然とした理由が存在する。

かつては、ただ一人の絶対的な強キャラによりクソゲーの名を欲しいままにしていた本作。
二年前に起こった決勝戦の惨劇は、まだ人々の記憶に新しい。
インカムは消え、稼動店も減り、ありきたりなキャラゲーの一つとして歴史の闇に消えるかに見えた……。
だが、プレイヤーは絶滅していなかった!

――新しい仕様の究明だ!!

修羅と呼ばれる男達の手により研究・開発された結果、全キャラ永久コンボを実戦投入可能という驚愕の事実が判明。
通称『バスケ』と呼ばれる永久コンボの存在が、本作をスポーツアクションゲームとしている所以あり真髄と言える。
これにより一強体制が崩壊し、やり方次第では全キャラが頂点を狙えるという世紀末状態へと突入したのだった。

本来ゲームとしては致命的な数多くのバグ。
しかし、そのバグによって酷い所でバランスが取れている一周したゲームバランス。
実用的かつ浪漫要素の高い一撃必殺技のおかげで、どんな状況でもワンチャンが存在し逆転可能という、一瞬たりとも気の抜けないスリリングな試合展開。
極めれば何か刺さったら十割持っていけるというのは、キャッチフレーズ『開幕一秒で試合終了だよ』で察して頂けるだろうか。

やる分には敷居が高いものの、見るだけなら一般人にも楽しめるという事もあり、その対戦動画の人気は同ジャンルの中でも群を抜く。
特に一流のプレイヤーが集う修羅の国と呼ばれるゲーセンの人気は凄まじく、そこで繰り広げられる名勝負の数々はベストバウンドとして特集が組まれる程だ。
ちなみに、八神家にも『ベストバウンド集』と書かれたDVDケースがテレビの下に並べられていたりする。
繰り返すがベストバウンドである。
決してベストバウトの間違いではない。

当然、予選を突破した者は修羅の国出身者が多数居るが、それ以外の者も十二分な猛者である。
激しい混戦が予想されており、その中でも注目されているのは、やはり下位キャラ勢の存在だろう。
良くて6:4、悪ければ9:1という絶望的な組み合わせが存在しているにも関わらず、全キャラが予選を突破。
最後に物を言うのはキャラ差では無く、『やり込み』であるという事を見事証明したのだ。
強キャラ勢が意地を見せるか。それとも下位キャラ勢が夢と浪漫を見せるか。
どちらにしろ、常人では理解出来ない程のハイレベルな攻防が繰り広げられる事は間違いなく、その期待が嵐となって会場を包んでいた。

『全選手入場!!』
その号令と共に、モヒカン共の視線が一点に注がれる。
各地より集められた修羅達が遂に姿を現すのだった。


強キャラ殺しは生きていた!!更なるキャラ対を積み黒カラーチョコ味が蘇った!!
S・H・T!地獄の皇太子だァーーーーー!!

星3一撃はすでに俺が完成させている!!
う、美しい……はッ!綺麗なカラーだァ!!

ゲージが溜まりしだい投げまくってやる!!
何いきなり乱入して来てるわけ?俺の名全一だァ!!

(*M*)先生と組んだのならマスコットだが、選手宣誓ならオレのものだ!!
世紀末バスケ部顧問!モヒカンリーダーだ!!

店長対策は完璧だ!!南東実況拳正統伝承者!!

全バグ技のベストディフェンスは俺の中にある!!
ムテキング三段が来たッ!

対戦相手が欲しいから東京に引っ越したのだ!!
出社キャンセルを見せてやる!!

十割合戦なら絶対に敗けん!!
タイフーンループ見せたる!肉のアルカナっ!!

開幕一秒(持続的な意味で)ならこいつが怖い!!
中野のモラリストだ!!

雪に閉ざされた鬼の哭く街(秋田)から炎の修羅が上陸だ!!

魔法の数字『27』とはよく言ったもの!!
魔法戦士の大魔法が今、闘劇でバクハツする!!松戸が産んだ赤い悪魔!(*M*)先生だーーーー!!

強ォォォォォいッ!!説明不要!!精密機械!!ラスボス!!
店長だ!!!

特に理由はないッ!強キャラが強いのは当たりまえ!!
KBAのタイミングはないしょだ!!!
前大会覇者がきてくれたーーー!!

那戯無闘鬼四千年のやり込みが今ベールを脱ぐ!ナギ無とかやってねぇで早く金返せ!!

解説の仕事はどーしたッ!修羅の心いまだ消えず!!
煽りも解説も思いのまま!!お師さん!!

煽りだったらこの人を外せない!!超A級口プレイヤーだ!!

百烈はこの男が完成させた!!
弱キャラ使いの切り札!!

若き(16進数的な意味で)編集王が帰ってきたッ!!
何をやっていたンだッ!Mr.NDK!!
俺達は君を待っていたッッッ!!(*´ω`*)の登場だ――――――――ッ!!

『皆様、奥歯コールでお迎え下さいッッ!!』
『お・く・ば!お・く・ば!お・く・ば!お・く・ば!!』
「お・く・ば!お・く・ば!お・く・ば!お・く・ば!!」
満場一致で、そして恐らくはヴィータを含むテレビの前の視聴者様から送られる奥歯コール。
全世界からNDKされているような状況だが、決して虐げられているわけではない。
何だかんだで人気者なのだ。
時たま『流行らねーよ!』とかいう煽りも混じっている気がするが、世の女子高生の皆様方の間では、もっぱら可愛いと流行っているのである。

兎にも角にも、残る修羅は後一人。
しかし、何時まで経っても出てこない。
そして、その理由はすぐに明らかになった。

『……ッッ!どーやら┌┤´д`├┐は寝てて不参加のようですッッ!
  本日の┌┤´д`├┐全て終了致しました!またのご来場をお待ちしておりますッッ!!』
まさかのアイドル不参加にざわめいたが、理由が理由なので仕方ないと言える。
事故や病気等と言ったどうしようもない理由でなく、ただ単に寝ててすっぽかしただけ。
まぁ、普段から大会中の野試合が横行する修羅の国の中でも、天衣無縫でファンタスティックと呼ばれる男に対して今更という気もするが。

「なんだよ、┌┤´д`├┐出ないのか。つまんねーな」
そうぼやきながらもヴィータの視線はテレビから離れていない。
┌┤´д`├┐の不参加を別にしても、世紀末アイドルプロダクションの異名を持つ修羅の国だけで
(*´ω`*)と(*M*)先生の再戦の可能性。最も覇者に近いとされる店長など見所は山程ある。
モヒカンリーダーによる選手宣誓が執り行われ、組み合わせが発表される直前になって、咽る様に咳をしてしまった。
このクソ暑い中ゲートボールに興じた後、家まで走って帰ったのだから当然喉が乾く。
今の状態のまま完全に高まってしまえば、明日の朝頃には喉が世紀末になってしまうであろう事は確定的に明らか。
何時もなら真っ先に冷蔵庫の扉を空けるところだが、その時間すら惜しい。
スピーディな決着に定評があるだけに、取りに行っている間に一試合終わってしまう可能性もワンチャン存在するのだ。
録画はしてあるけど生で見たいという葛藤から、試合を取るか喉を取るか迷ったところで、いつの間にかテーブルの上にジュースが置かれている事に気付いた。

「ヒャッハー!水だー!」
奪うように手に取ると、天高く掲げ一気に飲み干した。
別に水ではないのだが、高まっているせいか思考が少しモヒカン気味になってしまっているようである。
何時置いたか気付かなかったのも見入っていたせいだとして、細かいことは一切気にしない。
重要なのはそこに水があるかどうかだ。
『それをよこせ……。それも一台や二台ではない……。全部だ!!』と誰かが言った。
ただ、人間一つの欲求を満たしてしまえば次の欲求が出てきてしまうわけで。
水の次は食料だー!と言わんばかりにヴィータの腹の虫が抗議の声を上げた。
もちろん、見た目相応の可愛らしいものであるし、家を飛び出してから何も食べていない事を考えれば当たり前の事と言える。

「……まぁいいか」
とりあえず、それは無視する事に決めた。
喉さえ潤してしまえば、多少の空腹など高まっているうちに気にも無くなる。
何も無いよりマシかと、一緒に置いてあったクッキーを摘んで、口に運び一齧りした所で慌てた感じの叫び声が耳に入った。

「それを食べたらアカン!毒が入っとる!!」
「え……?」
毒=生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称。
つまり、食べたらヤバい物。
という認識をヴィータがした時には、噛み砕かれたそれは口内を通り喉を通過中。
端的に言えば飲み込んでしまったわけで、震えながら声がした方向へ不安そうな目を向けた。

「は、はやて、シグナム……」
「吐け!吐くんやヴィータ!!」
「く、苦しいよ……はやて……」
車椅子のまま、はやてがヴィータの傍に駆け寄り身体を揺さ振ったが
ヴィータは苦しそうに呟くと、はやてに触れようとした手を落とし、静かに目を閉じた。

「ヴィータぁぁ!!」
「すまん……私がもっと早く戻って来ていれば……!先に調べる事さえ出来ていたら……!」
力の抜けた小さな身体をはやてが抱きしめ、シグナムが自責の念に囚われ拳を握り締める。
こんな悪魔の所業をしでかしたやつを断じて許すわけにはいかない。
『当身見てから小足余裕でした』という刺繍が入ったエプロンを身に付けた悪魔。
湖の騎士は、両腕を小さく振りながら抗議の声をあげた。

「ちょ、ちょっとー!何ですか毒って!そんな変な物なんて入れてません!」
小芝居だと分かっていても、一方的に悪役にされてしまったのではたまったもんではない。
しかし、そんな怒りの声も、胡散臭い物でも見るかのような三つの視線と声に封殺されてしまっていた。

「黙れ。洗剤で米を研ぎ、あまつさえそれを食卓に並べ、主や我々を毒殺しかけたやつが言えた台詞か」
「任せて、なんて言うから試しに任せてみたらアレだからな……」
「料理下手っていうんも一つのドジっ娘属性やとは思うけど、シャマルのはそれを一周しとるからなー」
容赦無く突き刺さる言葉攻めに言い返せ無いのか、半泣きになるシャマル。
唯一口プレイに加わってなかったザフィーラは、茶番劇に関わりたく無いとばかりにテーブルの下で丸くなっている。
この場に味方してくれる者は一人も無く、耐え切れなくなったのか涙を浮かべたままキッチンに走り込み、しばらくしてから一人の男の身体に隠れるようにして出てきた。

「うう……、みんな酷いんですよ。今回はちゃんと味見だってしたのに……」
ぐすんぐすんと泣きながら説明する姿に、思わず『お前は親に叱られて祖母の所に駆け込んだ子供か』とシグナムが突っ込みを入れかけたが辛うじて堪える。
多少言い過ぎたと思っているのもあるが、一番の理由は壁にされ、困ったものでも見るかのような感じの微笑を浮かべた男の存在だろう。
両手に鍋掴みを嵌め、『すかし下段対策は投げ』という刺繍の入ったエプロンを身に付けた南斗白鷺拳伝承者がそこに居た。

「作り方は私が一から教えたし、変な物は入っていないよ。味の方も私が保障しよう」
南斗六聖拳の一人が完璧な家庭戦士と化してキッチンに立っていたのだから世も末である。
将星の人が見たら思わず『何やってんの!何やってんの!』と取り乱す事は想像に難しくない。
だが、これが八神家の日常であり、普段どうりの光景と言える。
何故にこげな事になっているかと説明すれば、家事全般が得意とは言え、車椅子のはやてに無理をさせるのは良くないと第一回八神家会議で決定した為だ。
そこで持ち上がった問題が誰がやるか。
今まで戦う事ばかりで家事技能を全く持たないヴォルケンリッターは、家事見習いという事で主戦力にはならない。
はやてと同じ理由で、妊婦に無理させるのも問題があるのでこれも却下。
となれば必然的に、シュウに白羽の矢が立ち、本人も快諾し今に至る。
家事の分配比率としては、7:3でシュウ有利というところだろう。
世紀末幼稚園修羅組担任の肩書きは伊達ではないという事か。
それは置いておいて、シュウが言うならばとシグナムが手を伸ばしクッキーを一枚摘んだ。

「ふむ……匂いは大丈夫か。問題は……」
味が良いかどうか。
何だかんだで口に入れるのが躊躇われるのは、前回の事があるからか。
それでも、シュウの背中越しから捨てられた子犬のような視線を送るシャマルに押され、覚悟を決めて丸っと一枚口の中に放り込んだ。

「……ど、どう?」
おっかなびっくりという体でシャマルが身を乗り出しながら聞く。
これで不味いとか言われたら、三日は立ち直れない。
シュウの保障があるとはいえ、人となりからして十割増しぐらいの評価かもしれないのだ。
ごくり、とクッキーを飲み込んだシグナムの裁定を限りなく不安そうな目で見つめた。

「……旨い」
心底意外そうな声でぽつりとそう漏らす。
最悪、食える物であればいいと思っていただけに、良い意味で予想を裏切られた。

「うめぇなこれ」
「これ下手すると、わたしが作るより美味しいかもしれん」
「む……、悪くない」
試食という名の毒見を済ませ、結果が良好と見るや見に回っていたはやてとヴィータ。
さらにはいつの間にか人間形態に戻ったザフィーラも後に続いて実食し各々の感想を言う。
概ね高評価だった事にシャマルがどうだと言わんばかりに胸を反らしたが、続いた言葉はやっぱり残念な物だった。

「シュウの教え方が良かったんだな」
「流石は、南斗白鷺拳伝承者と言ったところか」
「ほんまシュウさんの優しさと忍耐強さは三国一やでぇ」
「うむ……」
常人なら愛想付かして放り出すような事もあっただろうに、ここまで上達させるなど相当な苦労があったはず。
シャマルを除いた全員が、まるで聖人でも見るかのような眼差しをシュウに送った。
もちろん、スルーされたシャマルは隅の方でいじけていたのは言うまでも無い事だが。

「分かってますよー。全部シュウさんのおかげだって事ぐらいは」
実際、何回も手順を間違え、その度にやり直すハメになった。
何とか完成にこぎ付けたのは、文句の一つも言わず、嫌な顔一つ見せずに教えてくれたシュウが居てくれたからだ。
ただ、少しぐらいは皆に褒めて貰えると思っていたのか、GOLANの有様である。
まぁ、捨てる神あれば拾う神ありという諺があるように、軽く心が折れかけているシャマルにも救い主は存在する。

「誰でも最初から上手な者は居ないさ。私も白鷺拳を学び始めた頃は師に随分と手間をかけさせたものだ」
だから、遠慮せず頼ってくれていい、と言うとシュウが手を差し伸べる。
鍋掴みしてるので今一締まらないが、シャマルにしてみればその姿は救世主にも見えた。

「シュウさん……!お料理が、したいです……!」
どっかの元バスケ部員みたいな台詞をのたまいながら、感極まった表情でシュウの手を掴む。
きっとシャマルが見るシュウの背中には後光が刺しているに違いない。
何か色々な旗が立ったりしそうな状況ではあるが、この優良物件は売却済みとなっております。

「あかんよシャマル。寝取ったりしたら後が怖いでー」
茶化しながら煽っても、そんな事があると思っている者は八神家には存在しない。
そりゃもう、日常においてでも、見ていて羨ましくなるというか、お腹一杯になるような光景を常に見せられているからだ。
そういった意味で、八神家で甘えが許されているのは、はやてとヴィータの二人だけである。

「そういや、何か忘れてるような……」
追加のクッキーを作りに再びキッチンに引き篭もるシャマルと、迎えと帰りついでの買出しに出かけるシュウを見送りながら、ヴィータが何と無しに呟く。
つい小芝居に乗ってしまったが、こんな事してる場合じゃない。
何だったかなー、とクッキーを食べながら考えている所に、大歓声が耳に飛び込んできた。

『空対空引っ掛けて!アドリブスパイダー!?』
『デキルゥー!』
「うぉぉぉ!ギガかっけぇぇぇ!!」
「おー、うちの赤い子が赤い悪魔に魅了されとる」
1R先取され、体力がドット残りという絶望的な状況の中で繰り出された逆転の一手。
画面に刻むは∞の軌跡。
マダンテと畏れられる大魔法をも越えた神の技。
常人をして成功率1%とされる最難度コンボを、この大舞台で、対空からのアドリブで決めてきたのだ。
通常大会でも滅多にお目にかかることの出来ない大技を目にして、モヒカン共とヴィータのテンションは天井知らずへと突入。
落したら終わりという重圧の中、目押しミスらずコンボを刻んでいく様は見る物に感動すら与える。
そしてヒット数は80を越え、超!エキサイティン!!フィニッシュを迎えた。

『超ガソでフィニッシュ死んだぁぁあああああ!!』
『Fooo!!』
『ラウンド取り返すは(*M*)!』
世界が絶望に包まれた時、人々は救世主を求める。
選ぶ事が舐めプとまで貶された最弱キャラを使い続け、キャラ愛と不屈の闘志によって勝ち上がってきた男が繰り出す奇跡の魔法『クロススパイダー』。
全世界の弱キャラ使い勢に希望を与え続けた男は、魔法戦士を経て魔法救世主(マジカルメシア)へと至る。

――奇跡も魔法もあるんだよ

それは、人類羅漢計画の始まりであった。

『最終ラウンド!さあ、お互いゲージが世紀末だ!これは分からないぞ!?』
八神家と修羅達が繰り広げる熱い夏はまだ始まったばかりである。





選手入場ネタが全部思い付かず、とりあえずレジェンド勢だけでもと勢いだけでやった。今では反省している。
マッスル千葉氏は、アニメ版DD北斗の拳で見る事が出来るので、是非ともご視聴くださいませ。
シャマル先生はイジられ役。料理が暴発するのも、シュウなら……それでもシュウならきっとなんとかしてくれる(AA略
はやてとヴィータはやり込み勢。
そしてシュウの嫁のイメージが出てこねぇ、というか原作出てきてねぇ。どうしよう。
この間、ゲーセン行ったらP4の闘劇予選やってたけど、北斗もう一回やって欲しいなぁ……。
やっぱ大人の事情(版権的な意味で)か……!

次As突入すると思う。
では、次回までサラダバー



[18968] As編第一話:始まりは南から
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:eabd9742
Date: 2012/08/08 18:57
「ほう……、これは」
空に輝くは満天の星空。
都会であれば決して見れぬだろう光景に、一人の女が思わず感嘆の息を吐いた。
それだけならまだ不思議な事は無いが、その姿を見た者が居たとしたら間違いなく己の目を疑う。
中空に浮かぶその姿は赤く凛々しい。
彼女に最も相応しい言葉があるとすれば、『騎士』以外には存在しないだろう。
やがて本来の目的を思い出したのか、頭を振ると視線を正面に向けた。

「まだだ、これでは間に合わん……」
何時の間に手にしたのか、分厚い本のページを開く。
妙な事に、その半数以上が白一色。
数にして666ページを持つ本は、第1級捜索指定ロストロギアロストロギアであり、名を『闇の書』という。
その本の主には常に四人の騎士が付き従い、魔力の蒐集を行う事で闇の書のページを埋める。
そして、闇の書が完成した時には、主に絶大な力を与えるという曰く付きの代物である。

彼女は闇の書を守護するヴォルケンリッターの一人。
烈火の将の二つ名を持ち、主に絶対の忠誠を誓う姿はまさしく騎士だ。
そんな彼女が単独行動しているのには理由がある。

主が変わる度に蒐集を行っていたヴォルケンリッターだったが、今回の主は今までとは全てが違っていた。
歴代の主が道具として使役したのに対して、家族として向かい入れてくれた。
その恩義に報いるために、主の命を救うために、あえて禁じられた魔力の蒐集を行っているのだ。

その為には、一刻も早く蒐集を行わなければならないのだが、闇の書は管理局が血眼になって行方を捜している危険物。
目立った動きをすれば、主の身に危険が及ぶという考えから今のところは無人世界で蒐集を行っている。
当然、大した成果は得られず焦りだけが募っている所に、高い魔力反応を見つけた。
管理外世界でこれ程の素質を持った者が居るという事が驚きに値する。
山間部だけあって人目を気にすることなく飛んだおかげで、目的地に着くにはそう時間はかからなかった。

「なんだ、ここは……」
山間の集落を目にしてまず浮かんだのは違和感に他ならない。
地上からでは険しい一本道を通るしかなく、他所からの侵入者を拒んでいるような雰囲気すら感じる。
まるで砦だな。と、どことなしに思う。

――嫌な予感がする

不意に背中に冷たい物が奔った。
主を変えても、戦いの経験はそのまま残る。
その経験が警告を発しているのだ。
その正体が何なのかは分からない。
もし、その里が南斗聖拳の総本山であると知っていたのなら、己の直感に従っただろう。
だが、その事を知る術を持たない彼女は、僅かな躊躇を振り切って進む。
向かう先は南の極星が輝く星の下。
その中で一際目立つ城のような建物の中。
巨大な仁王像が幾つも立ち並ぶ前では、鳳凰と孤鷲が互いの爪をぶつけ合っていた。




「むう……強い」
「これが六聖拳筆頭の力か……」
久しぶりに行われている南斗十人組手を見守る拳士達が各々の感想を口に出し始める。
挑戦するのは南斗孤鷲拳のジュガイ。
そして、最後に立ち塞がるのは、南斗鳳凰拳伝承者サウザー。

当人の実力からすれば、達成できるであろうと評されていたが、十人目になってサウザー様ご乱入である。
確かに九人目までは傷らしい傷も負わずに倒す事が出来た。
それが今や立場が全くの逆。
ジュガイにとってただ一つの誤算があったとすれば、最後の相手がサウザーであった事に他ならない。
南斗孤鷲拳も南斗の頂点に立つ六聖拳の一つ。
それが、いいようにしてやられている。

「(くそ……くそ……っ!)」
ジュガイとて、鳳凰拳が南斗聖拳最強であるという事ぐらいは承知していた。
さすがに、正統伝承者とそうでない者に差がありすぎるというのは聖司教も承知の上で
一撃でも入れる事が出来ればという事だったが、その一撃を入れる事が恐ろしく困難である。
一年前に手合わせをした時には、ここまでの力の差は感じていなかった。
だが、今は違う。
たった一年でここまでの差が付いてしまった。
いくら苛立ちを覚えても状況は変わる事無く、むしろ悪化してしまっている。

「今の貴様では俺にかすり傷を負わせる事も出来ん。止めておけ」
「っ……この俺を見下したような目で見るなぁ!!」
挑発か、それとも本気でそう言っているのかは分からないが、相手にされていないという事だけはジュガイにも分かる。
本気で殺す気でなければ倒せないと悟ったか、ジュガイが異様な構えを取り出した。
その構えから繰り出されるのは、変幻自在の無数の突き。
刺突を得意とする孤鷲拳ならではの奥義だ。


                        南斗孤鷲拳奥義なんとこしゅうけんおうぎ
                    なん  と  せん しゅ りゅう げき
                   南 斗 千 首 龍 撃


ただし、千の首を持つ龍の如き突きは、殆どが偽者。
相手が無数の突きに惑わされた間隙を縫って、本命の一撃を叩き込むのがこの技の本質である。
もちろん、並の者であればフェイントすら命を奪う一撃になるのは言うまでもないが。
しかし、ジュガイが放った逆転の為の必殺技は、その必殺の一撃をサウザーに掴まれる事で不発に終わった。

「踏み込みが足りんな。それに呼吸も整っていない。……とはいえ、前よりは大分マシになったか」
焦りと本人が考えている以上の疲労のせいか、本来の南斗千首龍撃には程遠い。
それ以前に、実力が上回っている相手に、こんな大技をいきなり使っても凌がれる可能性の方が遥かに高いのだ。
まぁ、予想外のとこで予想外の技を繰り出すというのも、確かに一種のフェイントではあるのだが。
『当りゃ先読み、外れりゃぶっぱ』と誰か偉い人が言った。

「ま、今回は運が悪かったと諦めるんだな」
十人組み手に敗れても、南斗の者であれば次がある。
掴んだ腕を引き寄せると、ガラ空きとなった胴に掌打を叩き込んだ。

「かっ……!」
それなりに手加減したとはいえ、急所へのカウンター気味に入った一撃。
肺の中の空気を全て吐き出し、ジュガイの身体は衝撃に耐え切れず吹き飛ばされる。
十メートル程飛ばされた所で見物勢に受け止められると、膝を付き息を乱しながらサウザーを睨み付けた。

「ここまでだ。これ以上は無駄だという事は、貴様の身体が一番知っていよう」
「ま……待て!まだ、や……れる」
背を向け立ち去ろうとするサウザーに、息も絶え絶えになりながらジュガイが待ったをかける。
手を伸ばし、何とかして立ち上がろうとしているが、立ち上がれない。
それに、今のが南斗聖拳の一撃であるのなら、腹に大穴が開いているのだ。
心はともかく、身体の方は完全に折れている。
当のサウザーは軽く振り向くと、ジュガイに止めの一撃をくれてやった。

「貴様が勝てると思ったのなら何時でも相手をしてやる。それまで腕を磨いておけ」
無論、その度に叩きのめしてやるがな、と付け加えると、今度こそ一瞥もくれずに歩き出した。






「……何の用だ」
何度聞いたか分からない社交辞令に辟易しつつ外に出た所で、サウザーが立ち止まった。
またお前かと言わんばかりの声だったが、相手の方は特に気にしていないらしい。

「よう。あのジュガイ相手に何もさせねぇとか、流石は南斗鳳凰拳伝承者様ってとこか?」
「世辞はいい。ヤツは孤鷲拳を背負うにはまだ早いとフウゲンに頼まれただけだ」
どこからか飛んできた軽口を軽く一蹴すると、サウザーが半歩下がった。
直後、その場所を拳が通り過ぎる。
この里で、南斗鳳凰拳伝承者に奇襲を仕掛ける男など一人しか居ない。

「ヒューッ。やるじゃねぇか」
奇襲とは言っても、気配は曝け出したままだったし、攻撃自体が甘い物だった。
口笛を吹きながら、何時のように気楽そうなジュウザを見ると吐き捨てるように言った。

「ふん。よくも言う。で、まさか今の為だけに絡んできたわけではあるまい」
いやまぁ、こいつの事だからワンチャン通り越して十二分にありえるかと、言ってから考え直した。
思い出すのは、過去幾度となくどうでもいい事で人をビキビキさせて来た事。
リアルサイクバーストを発動させた回数など、もう覚えてすらいない。
暇だからちょっかい出しにきたがデフォルトのやつに理由とか聞くほうが無駄ってもんである。

「ああ、半年ぐらい前に爺様がフェイトって娘を連れてきたんだけど、お前知ってたか?」
「いや、ここに来たという事は聞かなかったが。そうか、あいつがな……」
ただ、意外な事に用件はあったようで、これまたサウザーにとって意外な名前を出してきた。
あれからもう半年も経つ。
特に忘れていたわけではなかったが、この半年の間、ロフウの所にカチ込みに行ったり
南斗鳳凰拳正統伝承者として企業のトップや各国首脳級の要人と顔を合わせたりで殺人的な忙しさだった。
そんなわけで久しぶりにおちょくってやろうとジュウザが絡んだのだが、フェイトの事を聞かされたサウザーの表情が僅かに緩んだのを見て毒気を抜かれた。

「お前……、何か変わったな」
「む、そうか?」
「ああ。前は余裕が無いっつーか、誰に対してもキツかったろ」
少なくとも、南斗聖拳に関わる人間に対しては弱みを見せまいとしていたが、今では棘々しかった雰囲気が幾らか和らいでいる。
さっきの十人組み手にしても、以前のままなら向こうが言い出さない限り中断は無いはずだった。
当のサウザーの方は言われるまで思ってもいなかったのか、素面で聞き返すと少し考えてから納得した感じの声を返した。

「そうだな。そうかもしれん」
変わったと言われれば確かにそうだろう。
今までは他人に弱みを見せまいと、常に帝王然とした振る舞いを取ってきたのだが、今では多少は余裕を持った態度でいられる。
それが例え、史上最悪の相性であるはずのジュウザの前であろうともだ。

「へー」
まさか、こうも簡単に認めるとは思っていなかったのか、ジュウザも思わず呆れた感じで生返事を返した。
まぁなんっつーか男のツンデレとか誰も得しねぇって話である。
一体、誰が何やったらこの0か100しかなかった堅物を変える事が出来るのかと不思議に思ったが、フェイトの容姿を思い出してしまった事で最悪な予想をしてしまった。

「はッ……!お前、まさかロリコ」
「死ね!」
実に不名誉かつ社会的死亡率が高い単語をジュウザが言い切る前に、頭のあった場所を手刀が通り過ぎた。
拳速、パワー共に申し分の無い最高の一撃だ。
向こうにあった木が拳圧でヘシ折れたのだから、当たっていれば貫通を通り越して頭が消し飛んでいたであろう事は容易に想像が付く。
咄嗟に首を曲げる事で避けたものの、いきなり即死攻撃を出されるとは思っていなかったのか、ジュウザも珍しく焦った様子で問い質した。

「て、てめぇ、殺す気か!?」
「ほう……?その無駄口を叩けなくしてやったつもりだったんだがな」
「(あー、メンドクセェ。こいつマジで殺る気だ)」
サウザーの全身から立ち上る闘気。
まず間違いなく殺りにきてるのは明らかで、相当ビキビキきていらっしゃるのはすぐに分かる。
さすがに、南斗鳳凰拳を相手に正面から相手にするのは分が悪いと察したのかジュウザが間合いを離す。
そして、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべると先に仕掛けた。

「そうマジになんなよ。それとも、そこまでムキになるってこたぁ図星か?うっわー、南斗六聖拳がペド野郎だったとか死ねばいいんじゃないですかねー」
「貴様こそ、自分の心配をした方がいいだろう。いきなりそんな訳の分からん妄想が浮かぶあたり
  貴様の頭の中には蜘蛛の巣が張っていると見える。いや、馬鹿は死なねば治らんというから、一度死んでみたらどうだ。何なら手伝ってやろう」
始まったのは互いに貶り合い煽り合うという、身体ではなく相手の心を折りに行く闘い。
そこに武道家としての誇りは微塵も無く、あるのは熾烈を極める口撃のみ。
南斗の里名物、サウザー様対ジュウザ様の口プレイデスマッチでございます。
そして、実に不毛な罵り合いが続く事十数分後。

「はっ……はぁ……。止めだ止め。ったく……、何でこんな無駄な事しなきゃいけねぇんだ」
「貴様が始めた事だろうと言いたいところだが、今回ばかりはその意見に賛同しておいてやる……」
数十回に及ぶ『死ね』と『馬鹿』が混じった罵倒の応酬。
互いに満身創痍(精神的な意味で)で、煽りのストックが切れたところで第一ラウンド終了。
口プレイデスマッチ的には引き分けではあるが、殺る気満々だったサウザーの気が逸れているという点ではジュウザの勝利と言える。
もちろん、その事を言ってしまえば、即座にバトートゥーデッサイダデステニーとラウンド二というリアルファイト開始となってしまうので、決して口には出さない。
ちなみに、ここで誰か下手に止めようとした場合、二人のターゲットがそいつに向かってしまい敗者が確定してしまうのも見慣れた光景。
即興でWマイク口プレイデスマッチにしてしまうあたり、この点に関しては名コンビなのかもしれない。
それはさておいて、息を整えたサウザーが少し怪訝な顔をしている事に気付いた。

「どうした?」
「いや、あそこに居るのは、確かシンだったか?」
言いながらサウザーが指差す方向を見てみると、遠目だが長い金髪の少年の姿が見える。
ジュガイの弟弟子でもある南斗孤鷲拳のシンだ。
師であるフウゲンも里に来ているのだから、居ても不思議な事ではない。
ただ、何かこう、余所余所しいというか、態度が少し不自然な所が気になったのだ。
その事を言うとジュウザはHAHAHAHAHAと、アメリカ人テイストに笑いながらその訳を話した。

「あー、あいつな。ユリアに惚れてんだよ。こっち来たのもユリア目当てじゃねぇか?」
「それは将来ライバルが多くなりそうで、どちらにとっても難儀な事だ」
「まったくだ。ま、半端なやつが手を出しにいったら、あの怖いお兄様が黙ってねぇと思うけどな」
人の秘密を暴露しといて爆笑かますというのも大概だが、まぁ本人に聞こえてなければ問題無い。
最大の関門は、少しばかりシスコン気味のリュウガであるが、それを差し引いてもお釣りが来る事になるだろう。
無数の挑戦者の屍の上に立つ魔狼の姿を想像してジュウザは肩をすくめたが、サウザーは『お前は何を言っているんだ』と言わんばかりに返した。

「何を言っている。貴様も似たようなものだろう」
「おい、どういう意味だよ」
「さて?どういう意味だろうな」
「……やっぱお前変わったわ」
恐らく二つの意味が含まれているのだろうが、どちらかとまでははぐらかして明確にはしない。
今までなら、こんなムカつくドヤ顔で意趣返ししてくるなど無かったのに、見事に痛いところを突かれた。
ユリアを泣かしかけたジャギをボコりかけ、ユリアに止められたのも昔の話。
そんな事もあってか、少なくとも片方は否定する気にはなれない。
降参の意味も含めて両手を挙げると、嫌味の無い笑みを浮かべて言った。

「まー、何だ。前よりはそっちの方がずっといいぜ」
「……ふん」
普段の立ち振る舞いのせいで他人からは完璧超人ように思われているが、オウガイの前では正義超人通り越してアイドル超人である。
ユリアがそうであるように、ジュウザも長い付き合いからサウザーの素を知る人間の一人だ。
こいつ結構無理してんなー、と思う事が度々あったので、多少なりとも自然体で居る方が余程良い。
憮然とした表情で短く返すサウザーを見て、改めて面白くなってきたなと感じたのだった。






里が一望出来るバルコニー。
そこから眺める星空を眺めているユリアは、ここ最近珍しく上機嫌だった。

その理由は、オウガイが生きて再び里を訪れた事だ。
南斗鳳凰拳こそ使えなくなったものの、南斗の重鎮としての威厳は健在である。
直接的にではないにしろ、自分の力が初めて人の役に立ったのだから当然だろう。

そして、そんなユリアを影から見つめる一つの視線。
一歩間違えればストーカーなのはシンである。
順調に行けば俺様要素たっぷりに育つ子もまだまだ九歳の子供。
いきなり、『ユリアは俺が貰うぞ』みたいな俺の嫁宣言が言えるはずもなく、現在に至る。
そんな感じで、話しかけようかどうかと不審者全快で悩んでいるわけである。

「よし……!」
五分ほど脳内トレモを行った後、ようやく意を決して一歩前に踏み出したが、非常に動きがぎこちない。
魔法救世主に憧れていきなり最弱キャラを使ってアーケードデビューした種籾勢のようだ。
ムーンサルトが暴発しないだけマシという体で前を見てみると、何かの違和感に気付いた。
テラスの欄干に赤く長い髪をした女が立っている。
この里の場合それだけならよくある事ではあるが、違っていたのは手に剣らしき得物を持っていた事。
それを見た時には、動きの堅さは雲散し全力で駆け出していた。


「あなたは?」
「……お前に恨みは無いが、我が主の為にその魔力貰い受ける」
いきなり現れた人間に剣先を向けられては狼狽もしようものだが、今のユリアにはそれがない。
理由は簡単。
ユリアの人の本質を見抜く力は年齢に似合わず高く、敵意よりも強い哀しみを感じたからだ。
現に彼女の表情は今にも謝らんばかりでどこか痛々しい。
まぁ、そんな事知ったこっちゃないとばかりにシンが切り掛かってきたので真意の方は測れなかったが。

「離れていろ、ユリア!」
「シン!」
間に割り込むと同時に、下段から腕を振り上げる。
孤鷲拳の爪と称される南斗迫破斬だ。
しかし、爪撃は空を切り裂くのみですぐさま跳んだ方向へ向き直る。
初撃で傷を負わすことが出来れば有利になれたのだが、目論見が外れた事で一気に緊張感が増す。

「(こいつ……強い!)」
鳳凰拳は別格として、少なくとも六聖拳に近い実力者だという事は認めざるを得ない。
勝算は少なかったが、それでも逃げるという考えは無かった。
なんというか、生来のプライドの高さと、好きな子の前でいいとこ見せようという欲望が働いた為である。
飛竜拳や千首龍撃を叩き込むには隙が無いし、完全に極めたわけではおらず、飛燕斬はユリアを巻き込む危険性がある為に使うわけにはいかない。
手持ちの技の中で、一撃で敵を行動不能にさせる技は一つ。

相手の間合いと踏み込める距離をじりじりと詰める。
勝つ事は難しくても、ユリアが逃げる時間さえ作る事が出来ればいい。
そんな捨て身の気迫が届いたのか、技の始動が早かったのはシンの方だった。

「オワタァ!」
防御は考えず、真正面から飛び蹴りを放つ。
普通に考えればそんな大技が当たるはずはない。
現に、相手は最小限の動きで蹴りを避けている。
だが、これをただの飛び蹴りと思っているのなら、それは大きな間違いだ。
これこそが南斗孤鷲拳の代名詞とも言える技の一つ。


                        南斗孤鷲拳なんとこしゅうけん
                     なん  と   ごく  と   けん
                   南 斗 獄 屠 拳


確かに蹴りその物も必殺の威力を持っている。
しかし、実際の所は単なる崩しに過ぎない。
この技が真に恐ろしいのは交錯時に放たれる四連撃。

初見であれば蹴りにのみ注意が向き回避不能。
決まれば四肢を切断する程の威力を持った技である。
技の手応えから決まった事を確信したが、結果は本人が思った事と逆になってしまった。

「どうだ!……なにっ!?」
振り抜かれた剣の柄が綺麗に顎先を打ち抜いたのだ。
急所に喰らったせいでシンの意識は半分飛んでしまっている。
そして、そこで双方にとって拙い事が起こった。

「しまった……!」
想像以上の殺気を感じ、反射的に取ってしまった行動が裏目に出てしまったのか
空中という場でカウンターを食らった形になり、吹っ飛ばされたシンが向かう先は何も無い。
咄嗟に手を伸ばしたのだが、紙一重のころで届かず落ちていった。

「っ……!」
生身の人間がこの高さから落ちたのなら、余程の幸運が無い限りは即死。
人一人の命を奪ってしまったという事に歯噛みをしても失った物は帰ってはこない。
ならばせめて、蒐集が終わった後に遺体だけでも手厚く葬るべきかと思い巡らした所に、下から影が跳び上がって来た。


「どうやら、間に合ったようだな」
猫の子でも持つかのようにシンの首筋を掴んだサウザーが欄干に立つ。
さすがに一足飛びにというわけではないが、僅かな足場さえあればこんな崖なぞ階段を上るようなものである。
表情こそ普段と変わりないが、オウガイからユリアが南斗慈母星を継ぐ者だと聞かされていただけに、これでも結構焦った方だ。
というか、あの馬鹿がシンを煽りに行くとかアホな事を言い出さなければ多分気付けなかった。

「サウザー様!シンは!?」
「ああ、こいつなら生きている。ジュウザもすぐに来るはずだ。それにしても……」
回り道する時間が無さそうだったので、下から跳んで行くかと思ったところにシンが落ちてきた。
とりあえず、多少乱雑にシンを降ろすと、表情を戻して相手の方へ向き直った。
これでもシンは南斗孤鷲拳の他にいくつかの南斗聖拳を体得している。
身体が出来上がっていないとは言え、それ程の才の持ち主相手に傷一つ負っていない事からも、かなりの手練である事が見てとれる。
さて、どうやって捕らえたものかと少し考えた所で異変が起こった。

「ふっ、こいつの行動も全くの無駄ではなかった……というところか」
四肢に浮き上がった、滲むような四つの赤い線。
紛れも無い孤鷲拳の爪の跡だ。
しかし、その傷を見たサウザーの表情は依然として険しい物だった。

「だが……、南斗獄屠拳を受けてその程度の傷で済むとはな」
本来なら、一撃にて相手の四肢を切断する南斗獄屠拳。
シンの未熟さを抜きにしても、必殺の威力を持つ孤鷲拳の奥義である。
それを避けるのではなく、正面から受けた上でとなると、サウザーにとって考えられる結論は二つしかない。

一つは身に纏った気や呼吸法などで、受ける傷をを押さえ込む事。
そして二つは、バリアジャケットによってダメージを軽減させたという事。
手にする得物や、身に付けている防具もどことなく後者っぽさを感じさせる。
もし相手が手練の魔導師であるというのなら、今のシンには荷が重かったいう事なのだろう。
肝心の女の方はと言えば、サウザーが口にした技の名を聞いて、気付いたような声を出した。

「南斗獄屠拳……、まさか南斗聖拳!?」
「……どうやらその口振りではここが南斗の里だという事を知らなかったようだな」
南斗聖拳を知っているなら、この里に襲撃を仕掛ける事がどれ程の悪手かという事も理解しなければならない。
即座に命を奪われるか、例え逃げ延びたとしても四六時中命の危険を感じて生きていかねばならなくなる。
その危険を冒してまでカチ込みを仕掛けるなど、余程の強者か、余程の馬鹿か、何も知らない人間のどれかだろう。
そして、知らなかったという事が、この女が魔導師であるという確信をサウザーに持たせていた。


「ユリア!大丈夫か!?」
「遅かったな。何をやっていた」
「仕方ねぇだろ。おっさん達が五月蝿かったんだからよ」
ジュウザにしては珍しく息を切らせた風に走ってきたが、おっさん呼ばわりする人間は限られてくる。
この場合、リハクとダーマの二人だ。
バルコニーから見下した先では、いくつものかがり火が動き始めている。
慈母星を守る守護者と影。
この二人が本気で動いたのなら総力戦という事だろう。

「さて……」
リハクがいくら周りを固めたとしても、本当に魔導師であるのなら空を飛ばれてしまえば手が出せなくなる。
南斗列車砲でもあれば話は別だが、そういうわけにもいかない。
やはり、間合いに踏み込んで一撃で決めるのが最善の策。
相手も敵を正面にしての撤退は至難と判断したのか剣を構えた。

「まぁいい。貴様が何者か興味はあるが、どうせ聞いた所で答えはすまい。貴様の身体に聞かせてもらう事にしよう」
指を曲げながら物騒な事を言う姿に、何かエロい事をして吐かせようとしているのではないかと思った大きなお友達が居るかもしれないが、何のことは無い。
秘孔『新一』を突いて綺麗さっぱり話して貰おうとしているだけである。
既に踏み込める間合いの中ではあるが、背後関係を吐かせる為に生かしたまま確実に捕らえておきたい。
そう決めると、サウザーの姿が消えた。

神速の踏み込みからの極星十字拳。
速さその物は半年前とそう変わっていないが、無駄な動きが無くなった事でより洗練された物に仕上がっている。
だが、相手も木人形ではなく、サウザーの姿が消えた瞬間に魔力障壁を展開。
同時に後ろに下がる事で初撃をなんとか凌ぎきった。

「な、なんという踏み込みの速さだ!」
一瞬で間合いを詰められた事に驚いた声をあげているが、構わずに続けて突きを二発繰り出す。
この手の手合いに反撃の隙を与える気は無い。
女の方も障壁で防ぐ事は無駄だと判断したのか、左の突きは剣で反らし、右の突きは肩を捻る事で避ける。
その代償に刀身を削られ、右肩に浅い傷を負ったが、極星十字拳を受けてこの程度で済むのなら安い物だ。
もちろん、これで攻撃が終わったわけではない。
というか、殺す気でいくなら塊天入った上で、爆星重ねからの意味不明な択が延々と続く事になる。
今回に関しては回し蹴りでフィニッシュして、相手の出方次第でどうするかを決めるつもりだった。

「前に!?」
「くぅ……!」
受ける事は不可能。
ならば、避けるかと思っていたところに、あえて前に出てきた。
呻き声と骨が砕ける音がしたのはほぼ同時。
斬撃ではないとはいえ、南斗鳳凰拳伝承者の蹴りを腕で受けたのだ。
折れただけなら最善の結果と言えるだろう。
もし仮に、蹴りを剣で受けようとしていたり、ただ単に避けようとしていただけなら、今頃は斬撃を受けて地面に倒れ伏している。
本来なら、それでも勝負は決まっていたのだろうが、手応えの無さを感じた。

「ちっ!」
極星十字拳を凌ぎ切っただけならともかく、これは南斗聖拳の特性を熟知している受け方だ。
知っているだけではなく、闘い慣れているという事すら感じられる。
舌打ちをしたのは、利用されたと気付いたから。
蹴りに負けて吹っ飛ばされたのではなく、自ら後ろに『飛んで』威力を殺した事を悟った時には全てが手遅れだった。

「あ、あのねーちゃん、なんで飛んでんだよ!」
バルコニーから身を乗り出し喚くジュウザが見ているのは、折れた腕を押さえながら飛び去る女の姿。
飛行魔法を使い、蹴りの衝撃を利用して一気に離脱を行う。
あの状況で最小最善の手で逃げる事をやってのけたのだ。

「いい退き方だ。それにしても……」
引き際の良さを褒めつつ、辺りを見渡す。
里に侵入を許しただけではなく、南斗正統血統であるユリアが襲われ、シンも傷を負った。
まず間違いなく他の六聖拳も動く事になる。
ただ、動いたとしても正体を掴む事など出来はしない。
文字通り次元が違うからだ。
そこに繋がる道を知るのはサウザー一人。
血相を変えて走ってきたリハクとダーマを見ると、この後に起こるであろう質問という名のハイパー起き攻めタイムに頭を悩ませつつ「……あいつら絡みかな」と小さく呟いたのだった。


ヒャッハー!あとがきだー!
As始まりましたが、終わりまでいくんですかねこれ。
子ユリアの性格とか今一掴めてない……。
まぁ、聖帝様も基本的に原作と違いすぎてるんで掴みきれてないんですけど。
シグナムさんと聖帝様のダイヤについては、接近戦は0:10って事で。
区切りが荒いのは何時もの事なんで、トキのような心で受け流して欲しい。
次回で、海鳴ご訪問からなのフェイのヴォルケンズ緒戦あたりまでいければいいなぁ。
それでは、サラダバー

(*M*)<トキがいてもこんなもんよ!
ほんま(*M*)先生と覇者の強さは揺ぎ無いでぇ……



[18968] 第二話:Welcome to this crazy City~このイカれた町へようこそ!~
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:eabd9742
Date: 2012/10/30 00:36
『僕と契約して魔法戦士になってよ!!』
(*M*)みたいな顔をしたマスコットがテレビの中でそんな台詞をのたまう。
TVアニメ『魔法戦士☆たもつマギカ』だ。
一見すれば、どこにでも居るようなマスコットキャラだが、悪徳業者顔負けのやり口のせいで
営業だの、淫獣だの、吐き気を催す邪悪だの、そのグラフィック見せんな!だの散々な言われ様である。

内容の方は子供向けとは思えない程のハードさはあるが、これはこれで一周しているものがあってか何気に人気は高い。
現役魔法少女である高町なのはも、通じる部分があるのかついつい見てしまっていたりする。
まぁ、今回は今朝に遠くから届いたビデオメールを見るためにTVを付けたまでだが。

差出先は海外から。
そして差出人はフェイト・テスタロッサ。
内容は、フェイトの裁判が近々行われ、クロノやリンディが尽力した結果、極めて軽い処分になり保護観察で済みそうな事。
そして、裁判が済み次第、地球へ、海鳴へやってくるという事。
もちろん、なのはもフェイト宛にビデオメールを送っている。
距離が離れていてもこうして通じる事が出来るのだから、いい時代になったものである。

フェイトやユーノにまた会える。
もちろん、その事は凄く嬉しい。
少し心に陰を残しているのは、あの日、あの場所から何も言わずに消えてしまった人が居たから。

アースラの観測記録では、一つの次元物質転送を確認した。
転送先は第九十七管理外世界日本海鳴市。
それがサウザーであるという確証は無いし、大量に残された血痕やジュエルシードの暴走もあったせいか、リンディからも生存の可能性は低いと言われていた。

生きていると確信したのは、フェイトとの別れの日。
リボンの交換をして、フェイト達の転送が始まる直前になって、まるで見送るかのように二本の光の柱が天を貫いたのだ。
いきなり現れたエネルギー反応にアースラの方では騒ぎになっていたようだが、フェイトだけは誰が何をしようとしているのか知っていた。
南斗鳳凰拳の継承の儀式。
あの時とは違う、一対一での正面からのぶつかり合い。
それを聞かされた時、止める為に文字通り飛んで行こうとしたら、どちらかが死ぬような事にはならないとフェイトに言われた。
理由を聞くと、ただ一言『母さんの友達』だからと言うだけ。
プレシアとサウザーの間に何があったのかは誰も知らない。
あれ程、この世界を憎んでいたプレシアが、望んでいた筈の次元断層を自らの手で封じ、最期の最期にフェイトを娘と呼んで死んでいった。
その答えは、もうサウザーに聞くしか無いのだが、連絡先なんて分かるはずもない。
ただ、アリサ経由で鮫島から南斗鳳凰拳伝承者を襲名した事と、それによって世界中を飛び回って偉い人と会っている事は聞いた。
届くかどうか分からないけど、手紙でも書いて送ってみようかと考えた所でインターホンが鳴った。

「お母さん、今ちょっと手が離せないから、なのはお願いね」
「はーい」
時間は午後八時を越える所で丁度夕食時。
士郎、恭也、美由希は道場で稽古をしており、手が空いているのはなのは一人。
そんなわけでモニターの前に立つと、そこには凄く覚えのある顔が写っていた。

「夜分恐れ入る。高町士郎殿はご在宅だろうか」
「は、はい」
相変わらずの雰囲気の口調に、なのはも思わず返事を返すと玄関へと駆け出す。
ドアを開けた門の先では、サウザーと見た事の無い少女が立っていた。


「む」
何か知らないが随分と勢いよく開いたドアと、飛び出してきたなのはを見てサウザーも僅かに声を漏らす。
そして、そのまま眉間に皺を寄せると、呆れた感じの声を出した。

「……分かっているだろうが、妙な真似だけはしてくれるなよ」
「?」
今にも溜息を付かんばかりの口調に、なのはも小首を傾げる。
妙な真似と言われても、全く以って心当たりが無い。
魔法の事だろうかと考えたところで、サウザーとは違う別の声が庭の方から聞こえてきた。

「妙な真似って、お前、俺を何だと思ってんだよ」
「尻拭いは常に他人任せな上に、今自分が不法侵入をしている事の自覚が無い性質の悪い馬鹿の事に決まっているだろう」
「相変わらず頭がカテーな。今からそれじゃ、将来ハゲんぞ?このデコボッチが」
「え?あの、その」
なのはの眼前で飛び交う罵詈雑言。
今にも互いに相手を殴り飛ばさんばかりの雰囲気に、どうしようかと慌ててみても止まりそうな気配はしない。
困り果てた顔でいると、今度は凄く申し訳なさ気なユリアに声をかけられた。

「大丈夫。……いつもの事だから」
「そうなんだ……」
ただ、大丈夫と言ったユリアにも、ここから口プレイデスマッチに発展しないとは言い切れないのが悩みの種。
サウザーは他人ん家の前で口プレイデスマッチをしないと信じてはいるが、ジュウザがどう出るかは分からない。
少なくとも、ジュウザが仕掛けなければ、今まで何も起きなかったのである。
とはいえ、ユリアと同じぐらいの少女の前で醜態成を見せるような無節操さは持っていなかったのか、ジュウザもここで引き下がった。

「まぁいいや。俺はジュウザ。んで、こっちのがユリアってんだ。仲良くしてやってくれな」
自分の名前だけ短く言うと、ユリアの背中を軽く押してなのはの前に出した。
サウザーからはボロカスに言われてはいるが、切り替えの早さと、面倒見は結構良いので年下からは兄貴分として慕われていたりする。
まぁ、そうでなけりゃあんだけ好き放題やらかしてるジュウザが里に居られるわけないという事だ。
ちなみに、今現在の南斗勢の出で立ちは、ユリアは見た目そのままの良いとこのお嬢様、ジュウザがゲーセンにでも居そうな気の良い兄ちゃん。
そしてサウザーが国の偉いさんとかと会う時の姿。
と言ってもきっちりした正装ではなく、特に気を使っているわけではない。
むしろ、気を使われている方なのでなんだっていいのだ。
それはさて置いて、人と友達になる事にかけては右に出る者が無いなのはが、そんな『仲良くしてやってくれ』とか言われて行動を起こさないはずがない。
眩しいぐらいのすっげぇ笑顔でユリアの前に出ると

「わたし、高町なのは。よろしくね、ユリアちゃん!」
「う、うん」
ぶっちゃけた話、ユリアは友達いない勢である。
もちろん、ただのぼっち勢というわけではなく、あの里の中であんだけリハクとダーマが張り付いていれば
余程のKY野郎でも無い限りユリアが南斗聖拳中枢に繋がりを持っているかぐらい理解出来る。
だから、本人が望んでいないにしろ、どこか一線を引いた扱いをになってしまっている。
そんなわけで、初めて同じ年代の女の子からそんな事を言われたので戸惑ってしまったのだ。
そんな二人を見ながら、こっちは任せておけば大丈夫だろうと思いながら、半年振りに高町家へ足を踏み入れたのだった。


「まずは、南斗鳳凰拳の伝承者となった事へ、おめでとうと言うべきかな。その若さで南斗の頂点とは大したものだ」
「いえ、父に比べればまだまだ未熟。あの時、構えの先を出されていたのなら敵わなかったでしょう」
テーブル一つ挟んで行われる、御神真刀流小太刀二刀術伝承者と南斗鳳凰拳伝承者の会談。
二人の立場的な事を考えれば、もっと場所が良くてもいい気がしないでもないが、アポ無しで来た為に自宅である。
別に隠して困るわけでもないし、天翔十字鳳の先にある二つの奥義の事は話の流れで説明はしておいた。

「それにしても、先生もお人が悪い。あの天翔十字鳳がただの構えにすぎなかったとは」
今の今まで南斗鳳凰拳最後の切り札と思っていた奥義が、実は繋ぎの構えだと知ってか士郎も言いながら苦笑いを漏らしている。
あの継承の儀は、あくまで先代伝承者が使う天翔十字鳳のみを破ったという事であって、その先にある構えを使われていたのなら間違いなく敗れていた。
まして、オウガイは歴代伝承者の中でただ一人、南斗鳳凰拳究極奥義『落鳳破』を体得している。
そこまでいって初めて並んだと言えるのだ。

ちなみに、サウザーが士郎に対して敬語を使っているのには当然理由がある。
南斗鳳凰拳伝承者になったとはいえ、士郎も御神の使い手だし、昔の事とはいえオウガイも賓客として迎えた事のある男。
どっかの筋肉馬鹿や、後先考えずに行動する性質の悪い馬鹿と違って、その辺りの事は弁えているのだ。
まぁ、その片割れは今の所は大人しくしているが。

ちなみに、ここまで来るヘリの中で、この辺り一帯の主要な場所は全て二人にも説明しておいた。
一つが、バニングス家。二つが、月村家。そして三つ目の高町家である。
バニングス家は南斗蛇鞭拳の鮫島が執事兼警護をやっている事と、月村家は南斗白鷲拳のダルダが関わっていた事実から、しばらくの間リロンとハッカが護衛に付いていた事。
そして高町家は、オウガイも認めるだけの力を持った剣の使い手だという事を簡単に伝えた。
最終的な目的は、なのはと話を付けリンディの協力を仰ぐ事だが、目下の目的はオウガイから預かった物を士郎に届ける事にある。
南斗鳳凰拳伝承者が直々に、それも先代伝承者の言付を預かってきたのだから、雰囲気も相応の物になる。
互いに歴史ある剣と拳の使い手として、それなりの礼儀を持った話し方をしていたのだが、横合いから邪魔が入った。

「うわー、こいつが爺様以外に敬語使ってんの久しぶりに見たな」
「貴様は大人しく黙って茶菓子でも食ってろ」
さっきまでの丁寧な言葉使いはどこへ吹っ飛んだのか、ジュウザに向けて死ねと言わんばかりに吐き捨てる。
当のジュウザはというと、とっくの昔に空になった皿を指差して平然としている。
黙って自分に出された茶菓子をスライドさせると、ジュウザのペースに乗せられている事に気付いたのか一度咳払いをして場を改めた。

「……こちらが父よりの書状と、もう一つ」
やっぱこいつ連れてくるんじゃなかったかと思いながらも平静を取り戻し、懐から封の施された書状と、南斗の紋章が刻まれた二振りの小太刀を置く。

「これは?」
「里の鍛冶に打たせた物で、無銘なれど業物に匹敵する一品だとか」
「……なるほど、先生らしい。息子が世話になった礼にと書いてあるよ。本当ならこちらからあの時のお礼に出向くべきなんだろうけど」
士郎とオウガイが最後に顔を合わせたのは、あの爆破テロ事件以来でそれっきり。
止血の秘孔で命は繋いだものの、意識不明の重傷で一時は本当に危なかった。
峠を越えたのは、ある日突然病室に現れた男が士郎の身体に触れた時から。
三日程で話せるまでになった回復振りに医者は奇跡と言っていたが、その正体は言うまでも無く北斗神拳だ。
その時のリュウケンの『礼なら私にではなく、我が強敵オウガイに言うといい』という言葉は今でも忘れられない。
南斗聖拳では手に余ると、門外不出が常の北斗神拳伝承者であるリュウケンを動かしてくれたのだ。
その時の事を思い返しながら士郎は恭也と美由希を呼んだ。

「恭也、美由希、こっちに来なさい」
言葉の重さから、重要な話かとやや神妙な面持ちで
二人が揃ったのを見ると士郎は両手に小太刀を持ち、それぞれを二人の前に差し出した。

「これ、父さんの恩人から送られた物なんじゃ」
「俺には『八景』があるからな。それに先生もその事は承知の上で送ってくださったんだ」
その事について特に異論は無いのかサウザーも頷く。
一度渡したものなら士郎がどう扱おうが勝手だし、オウガイにも御神の現状を伝えてあるのでそうなのだろう。

「南斗聖拳が人を活かす為の活人拳であるように、御神もまた人を活かす活人剣。それを忘れるなよ」
今では暗殺拳として認知されている南斗聖拳だが、少なくとも六聖拳の本質は活人拳だ。
紅鶴拳は少しばかり危ういところがあるものの、それでも代々皇帝の居城を守護していた事に変わりは無い。
むしろ、妖星を御しきるのが将星の役割の一つと言える。

そんな師弟のやり取りを眺めながら、サウザーは出されたコーヒーを飲みつつ今後の事を考えていたりする。
相変わらず魔法の事は話していないと見え、ユーノの姿も無い。
事が事なので出来れば、リンディにも話を付けて協力を仰ぎたいところで、出来るかどうかは別にして、なのはと話を通す必要がある。
歳の近いユリアも居る事だし、まぁどうにでもなるだろうと思っていると、話は終わったのか士郎が妙な事を聞いてきた。

「そう言えば、サウザー君は十五だったんだっけか」
「ええ、まぁ一応は」
「……うちの美由希は十七なんだけど、どうだろうか」
唐突にそんな事を言うもんで、さすがのサウザーも、このオッサンは一体何を言っているのだろうかという顔付きになった。
どうと言われても何がって話である。
そんな表情に気付いたのか、士郎はやや俯きながら美由希の方を見ながら答えた。

「いや、この歳になっても浮いた話しの一つも浮かんでこないものだから、少し心配になってね……」
「ちょっとお父さん!?恭ちゃんも黙ってないで何とか言ってよ!」
「まぁ、俺もそれは薄々感じていた事だが……」
「酷いよ!?」
まぁ確かに年頃の娘が毎日毎日剣の稽古では、父親としては心配にもなるのだろう。
恭也も同じだが、こっちはリア充なので特に問題になっていないというか、自分の稽古に付き合わせてきたという自責もあるので逆に心配になってきたらしい。
ただ、三つ編み眼鏡属性持ちの彼女が顔を赤くしてあわあわしている姿は、見る人が見たら一発ノックアウトなのだけども。
プチ親子兄妹喧嘩勃発でさっきまでの厳粛な雰囲気はどこへ行ったのかという体たらくだが、残念な事にもっと騒がしいのは南斗勢の方である。


「おい、良かったじゃねーか。今なら可愛い妹も出来て、お兄ちゃんって呼んでもらえるぞ」
「……どうやら貴様とは本気で決着を付けた方がいいらしいな」
「止めて!お兄ちゃん止めて!ぶぁっはっははは……!HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!」
もう待ってましたと、この期に乗じてジュウザが煽りに煽る。
今にも殴り飛ばさんばかりのサウザーが迫ってもジュウザの煽りは止まらない。
裏声まで出して自分で言った事が余程ツボにハマったのか、ジュウザ爆笑集というタグが付かんばかりに笑い続けている。
普段であれば、即刻世紀末バトル開始であるが、生憎とサウザーは他人様の、それもオウガイが手土産持たす程の男の家でんな事やる程、自重出来ない訳ではない。
それを分かっているから、この馬鹿はギリギリのラインを見極めて煽ってきているのである。
ただし、人を怒らせる事にかけては右に出る者が居ない男にも、もちろん弱点は存在する。

「HAHAHAHA……あいて!」
ジュウザの笑いを止めたのは、北斗でも無ければ南斗でもない一発。
珍しく怒った感じのユリアがジュウザの手を力一杯つねっていた。

「い、いや、ユリア。これはそのあれだ」
「謝って」
普段の飄々とした姿はどこに行ったのか、まるで母親に悪戯が見つかった子供のよう。
これがリハクなら煙に撒いてとっとと逃げ出すところだが、今のユリアにそんな事すれば、向こう一ヶ月は口を聞いてくれないとかいう事になるし実際なった事もある。
何とかして言い訳にようとするも、きちんと謝るまで許す気は無いのか手を離してくれない。
世紀末幼稚園修羅組学級委員長もユリアの前では形無しである。
凄くしょんぼりした顔でジュウザが項垂れていると、サウザーが溜息を吐きながら言った。

「この俺に対してああいう物言いが出来るのは貴様ぐらいのものだが……。まぁいい、今回は珍しい物が見れたという事にしておいてやる」
ぶっちゃけた話、サウザーとジュウザでは大きく差がある。
天翔十字鳳を抜きにした単純な拳の実力では6:4といったところでほぼ五分というところだろう。
だが、鳳凰拳を伝承する前ならともかく、正統伝承者となり名実共に南斗の頂点に立った今では立場が違う。
その差がどれ程の物かというのは、リハク辺りが普段どういった形でサウザーと接しているかで理解出来るはずだ。
とはいえ、サウザーもこんなジュウザを見た事が無かったし、一緒に頭を下げるユリアを見て怒る気も失せたらしい。
ただまぁ、呆れ顔でこのド阿呆がと言いたそうにしていたのは言うまでもないが。

「……お見苦しい所をお見せした。今日はこれで失礼させて頂く」
「もう帰るのかい?先生の近況も聞きたいし、泊まってくれていっても構わないけど」
「俺一人だけならともかく、三人ともなればご迷惑が。それに、しばらくはこの街に滞在する予定なので、その話はまた後日という事で」
もう場所の手配は済ませてあるし、何より連絡も入れずにいきなり訪れたという事もある。
それに真の目的は達成したわけで今の所は急ぐ必要も無い。
まぁ、これ以上は醜態成を見せるわけにいかないという考えのが大きかったが。
とにかく改めてその話をするなら、手土産に美味い酒でも持ってくるかと考えながら高町家を後にしたのだった。



「さて、アレは渡してくれただろうな?」
前もって手配させたホテルへと向かう道で、サウザーがユリアに向けてそんな事を言う。
今回、高町家に持ってきた物は三つ。
オウガイから士郎への書状と対の小太刀の他にもう一つ。
ユリアに持たせたなのはへの手紙である。
手紙と言ってもそこまで大した事は書いていない。
里であった事のあらましと共に、魔力を狙うという事から身辺の注意を促す事と、明日の指定した時刻と場所に来るようにという内容である。
前のような形で話をしてもよかったが、内容が内容なだけに少し時間をかけたいので、一応持ってこさせた物が役に立った。
そのユリアはというと、ジュウザの背中の上で物凄く眠そうにしながら小さく頷いている。
何だかんだで、里から出る事が少ないので、滅多にない遠出を結構楽しみにしていて朝早くから起きていたらしい。
それだけ見ると、ならいい、と短く言うと、今度はジュウザが質問をぶつけてきた。

「おい。いい加減、どういう事なのか教えろよ。お前がオッサン達にも何も言わずに動くからには、何かアテがあるって事だろ」
「……まぁいいだろう。貴様もあの女が空を飛んでいたのは覚えているな」
「ああ。舞空術があるなんざ聞いた事ねぇけど何なんだありゃあ」
「原理はよく知らんが、ここと違う次元の世界には魔法という物がある。ヤツが使っていたのはそれだ」
「何言ってんだバーカ!……って言いたいとこだけどよ、俺も実際見ちまったからなー」
本当はジュウザを連れてくるつもりなど毛頭なかったが、一応これでも南斗六聖クラスの使い手である。
言葉で説明するのも面倒だったし、ユリアも懐いているので渋々といったところだ。
割とあっさり魔法の事を受け入れると、大体の予想は付いたのかジュウザも当たりを付けてきた。

「で、まさかとは思うけど、あの娘もそうなのか?」
「察しがいいな。それと、お前達も知っているフェイト・テスタロッサも、ああ見えてかなりの使い手だ」
「まぁじでぇ?」
「冗談でこんな事を言うものか。一度距離を取られれば、この俺でさえ一筋縄ではいかん」
「……って事はお前、前からそんな面白そうなモンがあるって事を知ってて黙ってやがったな?」
「まぁ、特に言う必要がなかったからな」
「汚ねぇ、こいつマジ汚ねぇ」
言えば言ったでロクな事を言わんだろうが、と思いながらジュウザの文句を軽く受け流す。
経験から、真面目に相手するだけ時間の無駄だと悟りきってしまっているのだ。
歩きながら明日以降の予定を組み立てていると、物凄く久しぶりの感覚に襲われる事になった。

「これは……」
辺り一帯から人の気配が消え、景色の色が変わる。
何者かが結界を張ったという事だ。
すぐに後ろを振り向くと、何が起こったのかいま一つ掴めていないジュウザも異変に気付いたのか目を細めている。
魔力反応型の隔離結界であるのなら、ユリアを背負っていたジュウザはともかく、魔力もクソも何も持っていないはずの自分が入っているのは解せない事である。
まぁ、分からない事をいくら考えていても仕方ない。
今すべき事は一つしか無い。

「跳べッ!!」
その言葉と共に、サウザーとジュウザの立っていた場所の地面が炸裂音をあげると同時に土煙を辺りに舞い上げる。
グレをぱなしたわけではなく、上空から何発か弾が降り注いできたせいだ。
ただし、土煙が晴れた先には何も残っていなかったが。

「あっぶねぇー!どこのどいつだ!」
「気を付けろよ。さっきも言ったが距離を取られ続ければ勝ち目など無いに等しいのだからな。とにかくお前は守りを固めていろ」
「性に合わねぇが今は仕方ねぇ。頼んだぞ!」
すんでのところで避けたジュウザが毒を吐き、サウザーが注意を促す。
攻撃を仕掛けてきたからには敵であり、敵であるのなら迎え撃つまで。
ただ、ユリアが狙われている事を考えるのなら、攻めと守りは分けた方がいい。
手の内を少しでも知っている方が攻めに回った方がいいと判断を下すと、邪魔な上着を脱ぎ捨て空を見上げた。



サウザー達が臨戦態勢に入る一分程前。

「大物が二つに小さいのが一つ。……近い方からやる!!」
海鳴市の遥か上空で赤いコスチュームに身を包んだ少女が封鎖結界を張った。
手にする得物は、小さな身体には似つかわしくない金属質な鎚。
こんなナリでも、ヴォルケンリッターの一人で鉄槌の騎士の異名を取る歴戦の兵である。
結界に反応した魔力反応は言葉のとおり三つ。
さっそく蒐集を始めようと、近い方の一組に上空から攻撃を放った。
大物は仕留められなくても、邪魔なヤツを先に片付けられればいいというぐらいの気持ちでぱなしたのだが、着弾地点には何も残っていない。
上手く避けられたと思い視線を別の場所へ移すと、凄く露骨に嫌そうな目を向ける二人組みが空を見上げながら言い争っていた。


「おい、マジでどうなってんだよ。それとも、あれか?お前の周りには、魔法少女が集まるってか?死ねばいいのに、このペド野郎が」
「誰が好き好んであんなのを相手にしたいと思うものか。なんなら、あれより先に貴様との決着を付けてやってもいいんだぞ?」
「上等だ。お前の鳳凰拳と俺の我流拳、どっちが上か白黒付けようじゃねぇか」
まさか、こんなチビっ娘が相手とは思っていなかったのか、二人とも物凄くやる気を無くしてしまっている。
さらに性質の悪い事に、ジュウザが口プレイをぱなすと、さっきの事もあってかサウザーも売られた喧嘩を買う。
ビキビキと、今にも殺し合いが始まりそうだったが、無視されている事に苛立ちを隠せなかったのか、少女が二人に向けて怒気を孕ませた言葉を向けた。

「あたしを無視するとはいい度胸してんじゃねーか」
鉄槌の騎士と呼ばれた自分を前にして、余裕ぶっこいた態度というか、完全にシカト決め込まれているのが相当気に食わなかったらしい。
ただ、一つだけ誤算があったとするのなら、サウザーもジュウザもいい具合に高まっていて、それどころじゃねぇっていう事。

「やかましい!!子供は牛乳でも飲んでさっさと寝ろ!」
「ルセェ!!チビは家帰ってアニメでも見てろ!!」
互いに向けていたマジ切れ寸前のベクトルを少女へと向ける。
高まっている人間に何言っても無駄という典型例である。
言葉は違っていても言ってるニュアンスはほぼ同じ。
言葉の意味を理解すると、今度は少女が顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「あたしはガキじゃねぇーーー!!」
とは言うものの、身長、容姿、ファッション及び趣向。
その全てから判断すれば、立派なお子様である事は誰の目にも明らかで、全くもって説得力という物が無い。
そんな、いつ口プレイがリアルファイトに発展するか分からない世紀末と化した戦場に新しく現れたのは、白い魔導師だった。

「こんな街中で結界を張るなんて、一体どういう……」
白いバリアジャケットを身に付けたなのはが文字どおり飛んできたのだが、そこに映っていた一触即発の光景に言葉が止まる。
メンチを切り合うサウザーとジュウザ。
そしてその二人に向けて罵詈雑言を放つ赤い女の子。
でも、全く相手にされていないというか、時折的確な罵倒が二つ帰ってくる。
そのうち『ウルセー肋骨折れろ!』だとか『流行んねーよ!』とかいう意味不明な煽りになってしまっていた。
どうしてこうなったかというのはなんとなく想像が付くので、何だか少し可哀想になってきた。
そうこうしていると気が付いたのか、少女が凄い剣幕でなのはに詰め寄った。

「んだよあいつらは!こっちの話全然聞かねぇし、勝手に喧嘩始めるしよ!」
「え、えっと、とりあえず、お話を聞かせてもらえるかな」
眼下でなおも睨み合いを続けるサウザーとジュウザを指差しながら少女が喚きたてた。
ガン無視された挙句、口プレイの巻き添えを食らったせいか少し涙目である。
そんな少女を見て、なのはも戸惑いながらも話を聞こうとすると、いきなり殴りかかられた。

「いきなりなにするの!?」
「うっせぇ!てめぇの魔力をよこしやがれ!」
開幕ブー下段小足の如き速攻をギリギリのところで避けるも少女の勢いは止まらない。
本来の目的である蒐集の対象の片割れがノコノコと姿を現したのだから攻撃を仕掛けない理由は無い。
もっとも、それは3割真実で7割が建前。
とりあえず誰でもいいからブン殴りたかった。
早い話が八つ当たりである。

「グラーフアイゼン!カードリッジロード!!」
"Explosion"
少女のデバイスが重厚な金属音を立てると共に蒸気の煙を辺りへと撒き散らす。
それだけで相手の雰囲気が変わった事を理解したのか、

"Ruhring Form"
年頃の少年なら目を輝かせる事間違いなしの変形機能。
とはいえ、なのはにとってはそれを悠長に眺めている暇など無い。
あのデバイスが、まるで戦闘機のエンジンのように火を噴いているからだ。

「ラケーテン・ハンマー!!」
爆発的な推力から生み出される一撃とスピードはかなりのもの。
初撃は上に飛ぶ事でかわしきったものの、第二撃は防ぐ事しか出来ない。
咄嗟にシールドを展開させると、頬を汗が伝った。

鎚の切先とシールドが火花を散らすと、手応えの重さから押し切られると感じ取ったなのはの脳裏に半年前の光景が浮かぶ。
恐らく、初めての状況であれば、攻撃に負けまいとして競り合っていただろうが、幸いな事にこの手の対処法は嫌と言う程に学んでいる。
まぁ、学んだというよりは、アースラでやった訓練の時にサウザーに何十回とシールドをブチ割られて身体で覚えたと言った方が正しいだろうが。
その時に教えて貰ったのは、相手の力に逆らうのではなく、相手の攻撃を受け流す事。
もちろん、サウザーのような技量があるわけではないので完璧というわけではないが、なのはには空戦魔導師ならではの強みがある。
シールドが砕けて、少女が振るう鎚とレイジングハートが激突すると、迷う事無く後ろへと飛んだ。

「あぅ……!」
それでも衝撃を完全に殺しきれなかったのか、レイジングハートにも亀裂が入り、なのはも地面に向けて吹き飛ばされる。
だが、直撃よりは遥かにマシというもので、ダメージその物は大した事は無い。
問題は、地面に激突した後の追撃を受けられるかどうか。
攻撃その物は非殺傷であっても、何かに激突した時に受ける衝撃までは話は別。
バリアジャケットがあるとはいえ、吹き飛ばされて激突するというのは小学三年生の女の子にとっては怖い物以外の何物でもない。
もちろん、それを黙って見ているような南斗勢ではないが。

「……っと!物騒なチビだな」
あんだけ派手にドンパチやられては冷戦を中断せざるを得ないのか、激突する手前ででジュウザがなのはを受け止めた。
子供とはいえ、人一人があの勢いで落ちてきたというのに、完全に勢いを殺しているというのはさすがと言える。
衝撃一つ感じなかった事に、やっぱりこの人も凄い人だったんだなぁと改めて思い、お礼を言おうとすると背後から迫る鉄球を見た。

「あ、危ない!」
「あー、気にすんな。それより怪我はねぇか?」
なのはが声をあげても、ジュウザは慌てるどころか笑顔さえ浮かべてなのはの無事を確かめる。
気付いているにも関わらず何もしない。
だが、ジュウザがそう言って何もしない理由がなのはにも分かった

「まったく……。貴様だけなら放っておくんだが、まぁそうもいくまい」
いつの間にか、ジュウザと背中合わせに立っていたサウザーが右手を一度鳴らす。
次の瞬間、迫っていた四つの鉄球は、ほぼ同時に消え去ってしまっていた。

「相変わらず速えーな。お前、裂波とか使えんじゃねぇか?」
「試した事が無いから知らん。まぁあの技は一発放つだけなら、そう難しくは無いと聞くが」
この場で何が起こったのか知覚出来たのは二人のみ。
ちなみに、サウザーが言うように伝衝裂波はコツさえ覚えれば放つ事は容易な部類に入る。
ただ、何が奥義たらしめているのかと言うと、南斗最速を誇る拳速から放たれる射程と連射速度である。
極めれば十分な殺傷力を持たせたまま、地面を滑らす衝撃波を何十メートルも無数に飛ばせるのだ。
無論、攻撃を消された方は話の意味を理解出来ないようだったが。

「おい……、今なにしやがった」
デバイスの形を最初の物に戻した状態で、少女が最大級の警戒心を込めて言う。
少女の持つデバイス『グラーフアイゼン』から撃ち込まれたのはただの鉄球ではない。
誘導弾としての特性を持ち合わせた中距離用魔法。
その放った四発全てが命中する直前に消えてしまったのだ。
避けたのなら、鉄球は相手を追い続けるし、防御魔法で防ごうとしたのなら貫こうとする。
かといって、相殺されたわけでもなく、消え去るという不可解な光景に警戒心を覚えたのか、やや距離を置いた状態でサウザーを睨みつける。
対するサウザーは特に気にするわけでもなく、両手を開く事でヴィータの疑問に答えた。

「あたしのシュワルベフリーゲンを握り潰したってのかよ!……てめぇ、バケモンか!!」
幼く見えるが百戦錬磨のベルカの騎士。
その中で、防いだり相殺した敵は何人も見てきた。
だが、高速で飛来する四つの鉄球を、空中で掴み握り潰したやつはただの一人として居やしない。
化物と言うのも無理からぬ事ではあろうが、サウザーは平然とした口調で短く言った。

「ああ、よく言われる」
「アイゼンッ!もう一発だ!」
"Explosion"
サウザーからして見れば、別に大した事はしていない。
人間止めたレベルの動体視力と反応速度は、例え至近距離からショットガンぱなされても、撃ったの見てから回避余裕である。
着弾の衝撃に関しては、闘気で押さえ込んでいたし、何より非殺傷設定のようだった為に傷を付けるには至らない。
射撃戦では勝負が付かないと判断した少女が、再び形を変形させたデバイスを手にサウザーに迫る。

だが、南斗鳳凰拳伝承者に対してそれは限りなく無謀。
怒りに任せた攻撃は、直線的で極めて読みやすい。
わざわざ間合いに入ってきてくれるのなら討ち取るのは容易だが、あれ相手にそこまでしたくないので、狙うのはカウンターでの武器破壊。
しかし、そこで邪魔が入った。

頭上後方から飛来する鞭のような形の刃がサウザーを襲う。
死角からの不意を付いた攻撃だが、それに反応出来ないようでは南斗六聖拳筆頭はやっていられない。
相変わらずの超反応で背を向けたまま刃を掴むと、その先にある主の姿を軽く一瞥する。
まさか、素手で掴んでくるとは思ってもいかなかったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしているのがよく見える。

「甘く見られたものだな。この程度の攻撃がこの俺に通じると思ったか」
いかに魔力で身体強化をしていようが、南斗鳳凰拳を極めたサウザーとは膂力の差が違いすぎる。
さらに悪い事に、刀身そのものはちょっとやそっとで千切れるような作りはしていないらしい。
得物を手放すなら良し。
離さないのなら、このまま引っ張って地面に叩き付けるまでだとしたところで、背後から迫る気配に気付いた。

「何っ……!」
突如現れた大柄な男の蹴りがサウザーの右側頭部を狙う。
掴んでいた刃を持ったまま腕で防いだが、不意を突かれたという事と結構な威力という事もあって、さすがのサウザーも体勢を崩して刃を離してしまう。
並みの人間ならガークラしてビクンビクンしていただろうが、この程度の蹴り南斗白鷺拳の足元にも及ばない。
それも承知の上で、ジュウザからは煽りが飛んできた。

「あれぇ!サウザー様ともあろうお方が今の見えないんすかー!?」
恐らく転送か何かで背後に現れたのだろうが、それだけで南斗鳳凰拳伝承者の不意を付ける物ではない。
投げがねぇ!とは言わないが、一発食らったのは紛れも無い事実。
それならば最大限に利用してやるかと、ことさら隙を見せてみたのだがどうやら一筋縄ではいかないらしい。

「ザフィーラ!邪魔すんな!」
「退け、ヴィータ!シグナムをやったのはそいつだ!」
「……っ!マジかよ、こいつが!」
可能性は高いと思っていたが、やはりあの女の仲間だったようだ。
ヴィータと呼ばれた少女も南斗聖拳の事を知っているのか、距離を離してしまった。
男の方も攻撃が目的ではなかったのか、サウザーの姿勢が崩れた事で空へと身を移している。
椅子を外される形となってしまったサウザーは、力を込めていた右腕を下ろしながら毒付いた。

「三人か。……思っていたより出てくるのが早かったな」
後一歩分踏み込んできてくれれば、カウンターの一撃を叩き込む事が出来ただけに、相当場数を踏んでいるという事が理解出来る。
仲間が出てくる前に捕らえたかったが、そう上手く事が運べば苦労はしない。
さっきの事から、なのはとヴィータとでは7:3で不利であるし、戦場を空に移されてしまっては集中攻撃の的になってしまう。
ユリアに至っては種籾勢であり、何より敵の目的が魔力を狙っているというのなら、必然的に狙いはこの二人になる。
伏兵の可能性も考えると下手に攻めに出れば、その隙を付かれるのは必定。
守りながら攻撃を仕掛けてきたところを、一撃で切り伏せるのが手だが、南斗聖拳を知っている連中が迂闊に仕掛けて来る可能性は極めて低い。
むしろ、制空権を掌握したまま空からの攻撃に徹して、疲労の蓄積と戦力分断を図ろうとするはずである。

「で、どうすんだよ。俺らだけならいいけど、結構ヤベェぞこれ」
「喚くな。打つ手は考えてある」
ジュウザもそれを理解しているのか、珍しく真剣な顔付きで身構えている。
拙い状況というのはジュウザに言われるまでも無く、その状況を甘んじて受けれるほど呑気な性格はしていない。
敵の攻撃をサウザーとジュウザで防ぎ、なのはが地上から固定砲台として攻撃に専念する。
幸いな事に、連中は近接戦闘主体で遠距離戦はそう強くないと見た。
とにかく、作戦だけは伝えておこうとした時、空から金色の光が降り注いだ。

「新手か!」
そう叫んだのは、空の騎士達。
牽制が目的だったか、一発も当たる事は無かったが、その光はなのはにとっては、幾度と無く見た物。

「これって……」
最初は話も出来ないまま敵として出会い、途中から手を取り合って、今ではかけがいの無い友達。
フェイト・テスタロッサが応援として駆けつけたのだった。




ヒャッハー!あとがきだーー!
聖帝様が結界に入れた理由は、雷霆フラグって事でさ。
アニメ系の聖帝様の闘気は金色。
聖帝様の魔力光が紫だったら、北斗無双仕様の紫金色の闘気になる(キリッ
ジュウザはまぁ、ユリア背負ってたからって事にしといてくだしあ。

聖帝様がヴォルケンズ三タテしかけたのは非殺傷って事を考えれば、こんな感じになるんじゃないでしょうか。
次回はラウンド2とシュウの出番のはずです。

そして修羅の国ではジャギ様が対トキ1.7バスケを開発
いつまで新しい仕様が究明されるのこのゲーム……
では次回までサラダバー!




        ∩___∩                     ∩___∩
    ♪   | ノ ⌒雲⌒ヽハッ    __ _,, -ー ,,    ハッ   / ⌒聖⌒ 丶|
        /  (●)  (●)  ハッ   (/ 赤"つ`..,:  ハッ (●)  (●) 丶    
       |     ( _●_) ミ    :/       :::::i:.   ミ (_●_ )    |       
 ___ 彡     |∪| ミ    :i        ─::!,,    ミ、 |∪|    、彡____
 ヽ___       ヽノ、`\     ヽ.....:::::::::  ::::ij(_::●   / ヽノ     ___/
       /       /ヽ <   r "     .r ミノ~.    〉 /\    丶
      /      /    ̄   :|::|    ::::| :::i ゚。     ̄♪   \    丶
     /     /    ♪    :|::|    ::::| :::|:            \   丶
     (_ ⌒丶...        :` |    ::::| :::|_:           /⌒_)
      | /ヽ }.          :.,'    ::(  :::}            } ヘ /
        し  )).         ::i      `.-‐"             J´((
          ソ  トントン                             ソ  トントン

P.S↑口プレイに敗北したヴィータちゃんと、的確に煽る聖帝様とジュウザのイメージ図



[18968] 第三話:TOUGH BOYS & TOUGH GIRLS
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:bb2b7f14
Date: 2014/02/24 03:03
『まだドラム缶!倍プッシュ!反射してもダメ!カンチョーもダメ!受け身取ってもダメ!何やっても抜けられない!これが(*M*)ハウス!!』
TV画面に映る映像はまさに世紀末。
全国の修羅の中でも手練れの、それも青切符を手にし闘劇本戦の舞台に上がった男が、下位キャラに完全に固められているからだ。
ちなみに(*M*)が使うキャラは不動の最弱キャラの名を欲しいままにしていたが、今年に入ってから研究が進みすぎた結果順位を一つ上げている。
稼働から五年以上経っているというのに、今だ研究の余地が残っているゲームもそう多くは無いだろう。

切っ掛けは甘えたトウケイをぱなした事から。
そのたった一つの甘えを見逃さずに差し込み入れて、僅かな反撃をも許さない立ち回りはまさに魔法。
それはもう1541さんも納得の差し込みである。
故にその二つ名は魔法救世主(マジカルメシア)。

『ブーストもダメ!カウンター!?死んだぁぁぁ!!』
「やっぱり、修羅の国でも魔法と機械は別格やなぁ……」
最新のベストバウンド集を見ながら八神はやてが感慨深げにそう呟く。
魔法と機械。
魔法救世主の異名を持つ(*M*)と、本年度の闘劇を征した覇者の事だ。
修羅の国が誇る双璧にして、対極の存在。
共通しているのは、数多の修羅の返り血で身を染めている事だろうか。
ちなみに、今はやてが楽しみにしている事は、年末に行われる『(*´ω`*)のガチ撮り百番勝負(*M*)リターンズスペシャル』を生で見に行く事。
差し入れとして手作りのドーナッツを持っていこうかと考えているぐらいだ。

最近まではCPU、トレモ専門だったが、シグナム達が家に来てからは対人戦の相手には困らなくなった。
今でははやてもヴォルケンリッターも結構なやり込み勢である。
なお、八神家ランキングバトルで現在トップを張っているのはシャマルであり、その次にはやて、ヴィータ、シグナムと続き最後をザフィーラの順位となっている。
シャマルはキャラ性能もさることながら、崩れないガードとワンチャンを確実に拾う立ち回りで勝率は7割を超えている。
あまりの反応速度の高さから、デバイスを端子に繋いでいるんじゃないかともっぱらの噂で
本人は否定しながらも『こんなの作業じゃないですか』と覇者をリスペクトしているまんざらでもないらしい。
二番手は、はやてで理論上最強の呼び名の高いキャラを使うが、まだその性能を出し切れてはおらず、よくダムがレッパに化けて勝ちを逃している姿が見られる。
一番やり込んでいるはずのヴィータの戦績があまりよろしくないのは、『攻めている間は強キャラ』『先に触れたら勝ち、触られたら負け』
と評される程の攻めに特化したキャラを愛用しているが故の不安定さと、シャマルとはやてが使うキャラと恐ろしく相性が悪い為だ。
ヴォルケンリッターのリーダーを務めるシグナムは、扱い易いスタンダートなキャラを好み、その点ではヴィータといい勝負をしている。
ザフィーラに至っては、主の命だからという具合で強制参加させられており、やり込み不足が露呈してこの結果。

テーレッテーテーレッテーテレッテーデーンデーンデーンデーンテーレッテーテーレッテーテーレッテー

そんな世紀末な音楽が流れたのは携帯電話から。
『北東の拳』の一撃必殺BGMにして、最も有名なBGMだ。
リモコンを操作して一時停止ボタンを押し番号を確認してから電話に出ると、聞きなれた声が聞こえてきた。

『もしもし、はやてちゃん?』
「ん~?どないしたんシャマル」
『買い物帰りに皆を迎えにいこうかと思いますので、帰るのは少し遅くなりそうですとシュウさんに伝えておいてください』
「分かったけど、あまり遅うならんようにな。ご飯は皆で食べるのが当家のルールやから破ったら出禁やでー」
『ええ、なるべく早く帰るようにしますね』
ほんの少しの冗談を交えながら話すと通話が途切れた。
時刻は夕方八時を超える頃合い。
本当ならはやてがリビングでベストバウンド集をゆっくり見ている暇など無いのだが、家事全般の大半はシュウとシャマルがやってくれている。
特にシャマルなどはやてに『読めんかった……、シャマルの料理がこれ程やとは……!この八神はやて一生の不覚!』と言わせた程の上達っぷりだ。
なので、この時間帯は本を読んだりして実に子供らしい時間を過ごしているのである。

「シュウさん、シャマル達の帰りが少し遅くなるって電話があったんですけど……」
早速電話の内容を伝えようとキッチンを覗いたのだが、シュウの姿はそこに無かった。
さっきまで野菜を斬っていたのを見たし、シュウの性格からして黙って出ていくなんて事は今までに一度も無い。

「……シュウさんまでおらんようになるやなんて、なんかあったんかなぁ」
そう考えると、さっきの電話も少し急いでいたそうに感じ少し不安になる。
とにかく、今の自分に出来る事をしようと、皆が帰ってきた時の為に料理の続きを作り始めるのだった。






「フェイトちゃん!」
「ごめん、なのは。遅くなった」
「ユーノ君も!」
フェイトと元の少年の姿のユーノがなのはの傍に駆け寄る。
しかしまぁ、これでシンと同い年である。
やはり、飲む水が違うと育ち方も違うという事だろうか。
久しぶりの友達のと再会に高まってきたなのはとは対照的に、サウザーは極めて冷静に声をかけた。

「お前達だけか?他はどうした」
「すみません。通信が繋がらなかった上に広域結界が張られていたので、僕達だけが転送で先に来ました」
「構わん。十分だ」
本音を言えば、クロノも居れば良かったのだが、これでかなり楽になった。
守りと回復に長けたユーノ。高速機動戦闘を得意とするフェイト。攻守両面で均衡の取れたアルフ。
これだけ揃っていれば、状況の打開は十分に可能。
相変わらずのユーノを軽く見ると、今度は相変わらず気楽そうなアルフが話しかけてきた。

「それにしても、アンタが居てくれて助かったよ。こっちがこんなだから大慌てさ」
「いや、ヤツらはこちらの手の内を熟知しているようでな。どうにもやり辛い」
南斗聖拳を相手に近接戦を仕掛けるつもりは無いという事か、距離を保ったまま決して近付こうとはしてこない。
今後の事を考えておくと逃がすのは得策ではないし、ここで倒しておくか、可能であれば捕らえておきたい。
その為には足りない部分を補う必要がある。

「首領格の女と、デカいのは俺とあいつでやる。ただ、引き摺り下ろす為にお前達の力を借りたい」
「アタシを誰の使い魔だと思ってるのさ。あんな犬っころに負けるもんかい」
アルフは自信たっぷりに言い、フェイトはやや控えめながらも頷くも、何か言いたそうにしている。
大方、何も言わずに消えた理由だろうと予想を付けたが、今は悠長に話をしている場合ではない。

「言いたい事は色々あるだろうが、その話はこれが終わってからだ。ジュウザ、貴様もだ。呆けている暇など無いぞ」
「あーもう、何がどうなってんのか訳分かんねーよ。まぁ、いつまでも上から見下されんのはあまり好きじゃねぇ」
「やり方は貴様に任せる。好きにやれ」
どうせ、こうやれ、ああやれと言っても言う事聞かないのだから、最初から好きにやらせた方が幾らかマシ。
そして、その方が大抵はいい結果になる事もよく知っている。
さて俺も行くかと、空に目を向けた所で一人ハブられていたなのはが割り込んできた。

「わ、わたしもまだ大丈夫です!」
「残ったやつを抑えておいてくれればそれでいい。敵の狙いが魔力とやらである以上狙われるのはお前達だからな」
「でも……」
「言っておくが、お前達の役割が一番大事だ。あいつの事を頼むのだからな」
「はい!」
この場において最も狙われ易いのは、高い魔力を持ちながらも無防備なユリアである事は必定。
将棋やチェスで例えるなら、ユリアは王と言ったところだ。
いかに他の駒が強力であろうと、王が取られてしまってはこの戦いは負け確定。
南斗正統血統である事を考えれば、何が何でも守り通さねばならないのだ。
その守りを任せるのだから、余程信用していないと言える台詞ではない。
戦力として見られていた事に元気よく返事をするなのはとは裏腹に、凄くダルそうな声が聞こえてきた。

「ないわー。犬耳マッチョ男とかこれはないわー」
「……分からんでもないが、真面目にやれ。終わったらあいつのを好きなだけ触らせてやる」
「ok。今から本気出す」
「勝手にアタシを餌にしないでくれるかい……」
年端もいかない少年少女達がやる気を見せているというのに、ジュウザだけはものっそいテンションが低い。
確かに、慣れてきたと思い始めてきたサウザーでもキツいもんがある事は否定しないが、こいつが動かないと話が進まない。
なので、アルフをモフらせてやるという意味で言うと、ジュウザもそれに乗っかってきた。
万が一、性的な意味で触ろうとしたのなら拳で黙らせればいいだけなのでアルフの苦情は一切受け付けない。

「んで、どうやって地面に下ろすんだよ。何か方法でも考えてんのか?」
「まぁ飛んで近付くしかないだろうな」
「どうやってだよ」
予想通りというか、ジュウザは何も考えていなかったらしく手段については丸投げを決め込んでいるようだ。
問われた方のサウザーと言えば、平然とした顔で『飛ぶ』という答えを出している。
『跳ぶ』にしても距離が足りないし、『飛ぶ』に至ってはトンチキな考え方なので半分馬鹿にしたような返しをすると、サウザーはあくまで真面目な声で答えた。

「決まっているだろう」
「あ?」
「貴様が飛ぶんだ」
「ちょ……おまっ!」
その意味を察したジュウザが慌てて声を上げたがもう遅い。
空に浮かぶヴォルケンリッター目掛けて、有無を言わさずジュウザをボールのように蹴り飛ばす。
次の瞬間には、地上にジュウザの姿は無く見事に『新記録』を叩き出していた。

「あのやろ、マジでやりやがった!」
悪態を付くジュウザだが、ただボールにされたわけではなく、サウザーの蹴りを受ける直前に両足で受けて反動を存分に利用している。
まぁ、そうしなければ相当悲惨な結果になっていたという自己防衛から取った行動である事は言うまでも無い。
それでも最低限の連携が取れているので、技の形にはなっているのだから南斗人間砲弾とでも名付けるべきだろうか。
そして、そのトンデモ行動は結果的にはヴォルケンリッターの度肝を抜く結果になっていた。

「来るぞ!」
その急襲に最初に反応したシグナムが叫ぶ。
ある意味暴挙とも言えるやり口に面食らったものの、冷静に判断を下せているのはさすがと言える。
だが、反応は出来ても即座に行動に移すという事は出来ていなかった。
そりゃ味方を蹴り飛ばして打ち上げるなんていう世紀末な発想が浮かぶ方がどうかしているのだ。
ジュウザ自身ですら予測していなかったのだから、これを読めるヤツは相当の変人に値する。
他の二人も同様で、迎撃態勢を取ったのはジュウザが目の前にまで迫ってからだった。

「あらよっと!」
ジュウザがまず狙ったのは正面に立ちはだかる犬耳マッチョ男ことザフィーラ。
狙ったというよりは、そこに蹴りこまれたというのが正しいのでそれしか選択肢が無かったのだが細けぇこたぁどうでもいい。
ザフィーラが迎撃体勢に入る前に腕を掴み取ると同時にその首に足をかけた。

「ザフィーラ!」
「おっと、動くなよ。妙な真似をすりゃあ、こいつの腕だけじゃなく首までヘシ折る準備は出来ている」
ジュウザの拳は打撃技に限ったものだけではない。
我流拳だけあって使える物は全て使うというスタイルで、関節技も得意としている。
サウザーに言わせてみれば節操が無いというところだろうが、相手をしてみれば厄介さに嫌でも気付かされるだろう。
実際に技をかけられているザフィーラだけではなく、他の二人もその言葉だけで動きを止められてしまっていた。

「人質かよ……。てめー卑怯だぞ!」
「おいおい、先に襲ってきたのはそっちだろ。それに、ユリアに手ぇ出してただで済むと思ってんのかよ」
ジュウザは表面上は飄々としてても、内心ではかなりビキビキきている。
ユリアが南斗正統血統だという事など知らないし、もし仮に知っていたとしてもそんな事は大した影響ではない。
大事なのは、昔から面倒見てきた妹分が訳の分からないまま襲われたという事実のみ。
それだけで空を流れる雲は自由自在に動く事が出来るのだ。

もちろん、雲に動く理由があれば、ヴォルケンリッターにも動く理由はある。
全ては主を救うという曇り無き忠誠心の行動。
その為には、管理局や南斗聖拳をも敵に回す覚悟は既に出来ている。
力で振り解けないと見るやザフィーラは他の二人に僅かな目配せを送る。
念話など知った事のないジュウザにとって、それで十二分な意思疎通が出来ているとは思わず反応が遅れてしまった。
次に感じたのは、ジェットコースター以上の落下感と急加速による負荷。
もちろん、その程度で手の力を緩めるジュウザではないが、地面が迫ってきているというのであれば話は別だ。

「こいつ、マジか!」
これが拳法家相手であれば勝負は決まっていたが、生憎と相手は普通ではない。
振り解けないのなら、あえてそのままにさせる。
後は持てる力を全て使い、この身諸共突っ込むだけである。
結構呑気にしていたジュウザもこの捨て身の行動にはビビったッ!!

「くそッ!後は任せたぜ!」
この速度のまま地面にぶつかってはヤバいと感じたのか、さすがのジュウザも腕を離してザフィーラから離れた。
高さ的な意味で言うならこの行動も完璧に自殺行為ではあるが躊躇はしない。
自分がどう思っているかは別として、サウザーはこんな緊急時に後先考えない事をしないヤツだと知っているからだ。
散々『死ね』とか『馬鹿』が混じった口プレイをしていても、その辺りのことは信用しているのである。
事実、ジュウザが落下を始めるよりも先に狼形態になったアルフが落下点に割り込んできてた。

「アンタら見てると考えるのが馬鹿らしくなってくるよ、ったく……」
「その声、もしかしてあのねーちゃんか?マジ、映画かなんかみてーだな」
「そりゃこっちの台詞だよ。どこの世界に人間をあそこまで蹴り上げるやつが居て、空中で関節技決めるヤツが居るんだい」
「あれで終わってりゃ楽だったんだけどなー」
アルフの背中に乗ったまま互いの相違点について軽く話を交える。
両方とも『こいつ、またやりやがった』的な反応を見せているのは、魔法と南斗の片鱗を見ているからだろう。
ジュウザに至っては、白い狼の背中に乗って山中を駆け回る某映画の主人公の気分である。

「で、あいつくたばったかな」
「いや、無理だね。生身ならそうだろうけど、あれだけでくたばるような連中じゃないよ」
少なくともバリアジャケットを纏っているだろうし、ぶつかる直前に防御魔法を張っていたとすれば大したダメージは無い。
もちろん、それを見越した上で地上に引き摺り下ろす事が可能となったのだから結果としては悪くは無いだろう。

「ま、いいさ。予定とは少し違うけど、後はサウザーに任せりゃあっちは片付くな」
「おや、アンタが相手するんじゃないのかい?」
「それでも良かったんだけど、俺の闘い方じゃ手間取りそうだからな。俺はあっちを相手にする事にするよ」
そう言いながら、親指で後ろを指差す。
他の面子もそれぞれが残った二人と交戦状態に入ったようだが、どうやら一人で相手をしているフェイトの状況は良くないらしい。

「少し手古摺ってるようだしな。お姫様方に怪我でもさせたら事だぜ?」
「そうだね。落とされないようしっかりつかまってな!」
「行っくぜぇーー!イヤッハァー!!」
バイクに乗ったモヒカンのような声をあげてジュウザがかっとんで行く。
当然、ザフィーラは追撃を仕掛けようとしたのだが出来なかった。

立ち塞がるのは南斗聖拳最強の壁。
それを無視して通り過ぎる事が出来る者など、この世界の何処にも存在はしない。

「ふむ、今ので傷も負っていないとは大した物だな」
どこか感心したような声がザフィーラに向けられる。
無論、全くの無音でサウザーが声を出すまでザフィーラが気付かなかった程だ。
そんなザフィーラを見て、サウザーは笑みを浮かべながら名乗った。

「一応、名乗っておくか。南斗六聖拳筆頭、南斗鳳凰拳のサウザーだ」
「……六聖拳筆頭だと!?」
「それがどういう意味を持つか分かっているようだな。なら話は早い」
あからさまに動揺するザフィーラに向けてサウザーが言うと同時に姿が消える。
ある程度の明かりがあるとはいえ市街地での夜間戦闘。
やろうと思えば不意を付いて暗殺する事も出来る。
もちろん、やろうと思えばであり南斗鳳凰拳にあるのは純粋な制圧前進のみ。
あくまで正面から力で捻じ伏せる。

「ふっ!」
すれ違い様に拳を叩き込むと、サウザーの進路上にあった街灯やビルの窓ガラスが砕けるように弾け飛んだ。
拳撃の副産物である衝撃波によるものだ。
それ程の速さと威力でありながら、仕留めたという手応えは無い。
並の相手であれば障壁ごと切り裂けたはずだったが、少なくとも防御に関しては並ではなかったらしい。
多少は想定外だが、そんな事で動揺するようなタマではない。
逆に賞賛交じりの言葉を相手に向けた。

「ほぅ、極星十字衝破風を防ぐとはな。この拳を防いだのは貴様で二人目だ」
凌いだヤツなら何人か知っているが、正面から受けた上で防ぐ事はあのラオウですら難しい。
見た所、武器の類を持たず徒手空拳で闘うタイプで、格闘戦においてもそれなりの技量を有している。
魔力だけで闘うヤツなら、動けなくなる程度の傷を負わすつもりでいたのだから、これでも一応は最大級の賛辞だ。
もっとも、相手の方は舐めプされた事に気付いた様子だったが。

「……なぜ、手加減をした。あの南斗鳳凰拳なら今の一撃で仕留めきれただろう」
「なに、あいつらの近くで俺が本気を出すわけにもいかんからな」
確かにザフィーラの言うように、今のサウザーが全力で闘えばシールドなどあって無いような物。
しかし、その先にあるのは分割された肉片であり、そんなもんを小学生に見せるのは教育的以前に人として失格である。
やれるなら無傷で捕らえたいのだが、南斗聖拳は甘え禁止(非殺傷設定的な意味で)の為、手加減せざるを得ない。

「それに、それを言うなら貴様達の攻撃には殺気が感じられん。少なくとも命までは取ろうとはしてはおるまい」
非殺傷設定があるからには手加減はしていないのだろうが、やはり殺気は感じられない。
普通の人間なら同じように感じられても、南斗聖拳を極めたような人間なら微細な違いも感じ取れる。
思惑がどうであれ、そんな相手に本気を出す気にはなれないのだ。
ただ、相手がやる気できていたのなら話は別である。

「まぁ、そうでなかったのなら貴様は今の一撃で倒れていただろうがな」
言葉と同時にザフィーラに向けられたのは、苛烈と言っていい程の闘気。
並々ならぬ実力者であるザフィーラだからこそ、目の前の男が嘘を言っていない事が分かる。

――サウザーの南斗鳳凰拳は一子相伝。その強さは我々他の五星の及ぶところではない。

南斗六聖拳ナンバー2とも呼べる実力者は何の迷いも無くそう述べた。
ナンバー1とナンバー2を隔てる大きな壁がある。
死地に足を踏み入れて尚それを越える事が出来る者とそうでない者の差。
即ち南斗聖拳最強の構え、天翔十字鳳を越えられたかどうか。
だからこそ、南斗聖拳百七派は南斗鳳凰拳唯一つに及ぶことは無いと言われているのだ。

「そら、余計な考え事などをしている暇など無いぞ」
その忠告が聞こえてきたのは至近。
南斗鳳凰拳伝承者を前に一瞬でも意識を逸らすなど無謀の極み。
先ほどのお返しだと言わんばかりの蹴りがザフィーラを襲う。

「ぐぅ…!」
しかし、そこは盾の守護獣の意地か咄嗟に腕で防ぐ。
それでも、その威力は倍返しというには生温い程の一撃。
南斗聖拳の斬撃ではなくただの蹴りではあるが受けたザフィーラにとっては関係が無い程に重い。
黙ってればいいのにわざわざ声をかけるあたり、お前もうどうせガード出来ないんだろと言わんばかりの溜めバニである。
受けきれないと悟ったかザフィーラもシグナムにならい後ろに飛ぶ。

「遅い!」
しかし、それは一度見た行動。
後退するより速く追えばいいだけの事。
ザフィーラが飛び立とうとするより先に追撃の蹴りを見舞う。
今度こそ手応えがあったそれは決して一撃漏れバニなんかではない。
ガード不能の蹴撃は今度こそ間違いなくザフィーラの鳩尾を捉えていた。






「やるな、テスタロッサ」
「そっちこそ」
幾度か刃を交えあい互いの技量を認め合う。
魔導師ならずとも戦いに身を投じる者なら少なからずとも理想的な状況と言えるのだが、そこに第三者が介入しているのなら話は別である。

『ほら、二人とも動き止ってんぞー!』
『ぶっ殺せー!ぶっ殺せー!』
『フェイトちゃん頑張れー!』
「(……何だこの状況)」
飛んでくる声援と煽りを耳にして二人とも同時にそんな事を思った。
割合として声援を送っているのは、なのはでその隣で煽っているのがヴィータとアルフ。
煽りながらも繰り出される攻防の実況をするジュウザ。

「ふむ、筋はいいんだろうが、あそこで一歩踏み込めないというのが実戦慣れしてない証拠だな」
その傍には腕を組んだ直立不動の姿勢、通称『ベガ立ち』で両者の動きや癖を解説しているサウザー。

「魔力はあるみたいだけど、ミッド式の魔法を使ってるわけじゃないし希少技能かな。なんにしても凄い才能だよこれは」
「ほんとね。身体の中まで残るようなダメージだったのにもう治ってるなんて。ほら、ザフィーラも黙ってないの」
「……すまない」
「あ、ありがとうございます」
少し離れた所では、ユリアがザフィーラの全損した肋骨を治しているところ。
やってるユリアも初対面の人からベタ褒めされた上に、こうも深々と頭を下げられては逆に恐縮してしまう。
そもそも、こうやって人前で治癒の力を使ったりするのだって初めてだ。
ただ、怪我人を放っておくなんて事が出来る性分でもないので、GOLANの有様である。

そして色んな意味で不測の事態に備えている世紀末幼稚園担任ことシュウ。
言うまでも無くカオスな状況であり、煽りやら実況やら解説やらが飛び交う様は目を閉じて見ればそこは修羅の国。

非殺傷設定とはいえ、やっているのは真剣勝負で二人とも本気で戦っている。
……はずなのだが、頼んでもいない煽りと南東実況拳と南東解説拳のせいでどうにも集中が削がれてしまう。
そのせいでお互い肝心な所でミスが出てしまっているのだ。
さらに性質が悪いのは、その指摘が的確であり反論の余地が無く心を折りに来る点。
もちろん、戦っている当人達からすれば理不尽極まりないものであるのだが、こんな世紀末な状況になったのには少し時間を遡る必要がある。




「くそ!こいつら強ぇ!」
やや息を乱しながらヴィータが相手に向けて言う。
個々に相対すれば大した相手ではないが、互いに足りない部分を補っていている。
射撃魔法はユーノの防御魔法に阻まれ、迂闊に近接攻撃を仕掛けようものならその足を止めるかのようになのはの砲撃が飛んでくるのだ。
強行突破という選択をしなかったのは、精度と連射速度を併せ持った砲撃のせい。
下手に動きを止めれば、あの威力の砲撃を立て続けに受ける事になりガークラ確定で十割コースである。

「ユーノ君、大丈夫?」
「まだ大丈夫だよ。このまま時間を稼げれば……」
とはいえ、決め手が無いのはなのは達も同じ事。
相手の射撃魔法は防ぐ事は出来るが、こちらから迂闊に攻める事が出来ない。
ディバインバスターを撃ち込む事で接近を防いでいるものの、牽制目的のぶっぱに当たってくれるような相手ではない。
それに、相手の一撃の威力の高さは受けたなのはが一番良く知っている。
互いに決定打に欠け時間と魔力だけが削られていくこの状況。
それを望む者と望まない者に分かれるとは言え
良く言えば持久戦、悪く言えばジリ貧のしょっぱい泥試合ではギャラリーが居たなら煽られる事間違い無しだ。

「(ザフィーラからの返事が無いし時間もねぇ……、早く片付けないと。三発目いけるか?)」
普段なら無理矢理にでもアイゼンを叩き込んで活路を得ようとするヴィータでも、事此処に至っては相手が露骨な時間稼ぎをしているのは理解出来る。
既に管理局から増援が到着しており、この状況から戦局を覆す事は最早不可能。
おまけに南斗鳳凰拳まで敵に回ってしまっては最悪の事態すら招きかねない。
返事をしている余裕が無いのか、それとも既に倒されてしまったか。
どちらにしろ救援は見込めないと本日三発目のカードリッジの使用を考えた時、遠くからザフィーラを担いだサウザーが歩いてくるのが見えた。

「ザフィーラ!お前……!」
南斗聖拳が相手なら、敗北は死と同等の意味を持つ。
身動き一つしないザフィーラを見てまさかと思って駆け寄ろうとしたが、それをサウザーが言葉で止めた。

「まぁ安心しろ、手加減してある。とはいえ、大人しくさせるのには苦労したが」
止慟血でも突いてやればよかったのだが、秘孔が効かなかった。
見た目からしてあまり期待はしていなかったとはいえ、厄介な事に変わりは無い。
口で言っても大人しくなるような手合いでもなかったし、結局のところ説得(物理)で大人しくなって頂くしかなく、最終的に動脈を締め上げて落ちてもらったというわけである。
担いでいるザフィーラを降ろすと空を見上げて再度同じ事聞いた。

「随分と南斗の戦い方に詳しいようだが……、どこで、いや、誰から知った?」
「……それは、お前には関係無いだろ」
「大有りだ。貴様らが何をやったかを考えればな。この俺が直々に出向いた理由が分からぬ貴様らではあるまい」
咄嗟の動きにしては適切な対処法。
一度や二度戦っただけではあの動きは出来ない。
それに南斗の使い手がこんな目立つ連中と戦ったというのならすぐにサウザーの耳に入る。
問題は、南斗正統血統のユリアを襲ったという事実であり、南斗の者が絡んでいるなら六聖拳筆頭としてそれ相応の処理をせねばならない。
この場合、襲撃者は元よりそれを命じた者も同様である。
言葉の鋭さに潜む意味を理解したのかヴィータも口ごもる。
元より主の命に反しての行動なだけに、主や第三者に類が及ぶような真似は絶対に出来ないからだ。
結果的に何も答える事が出来なかったのだが、サウザーにとっては十分すぎる回答だった。

「まぁいい。貴様らの態度で大体の目星は付いた」
この状況下にあっても、名前を出す事が無いという事はかなりの信頼を置かれている事が分かる。
最悪のケースである南斗白鷲拳のダルダという線は消していい。
南斗聖拳上位の実力者で現在連絡が取れておらず、この騎士達に信頼を置かれるようなやつ。
それら全てに該当するのはあの超絶お人好しぐらいしか居ない。
なら、何故南斗の里を襲ったという事に疑問が残るが、まぁ単純に隠していたから知らなかったというぐらいの程度の物だろう。
どちらにしろ、本人から話を聞いた方が確実であるため、何処に居るかと問いただそうとした時、何かを裂くような音が聞こえると同時に目の前の地面が裂けた。

「な、なんだよこれ!」
「敵!?でもどこから!」
「これって、もしかして……」
突然の事に三者三様の声をあげつつも、その正体には心当たりはある。
魔力を感じさせない必殺の真空の刃。
ただ、それが出来る人間はこの場に一人しか居ないが。

「(伝衝裂波にしては切り口が深い、となるとこれは……)」
裂けた地面を見ながらサウザーも検討を付ける。
南斗聖拳でも地を這う衝撃波を飛ばす技はそう多くは無い。
サウザーの知る限りでは南斗紅鶴拳奥義『伝衝裂波』ともう一つ。

「確か、南斗翡翠拳奥義『南斗雷脚斬風陣』だったか。白鷺拳から分派した流派の奥義なら使えて当然というわけだ」
サウザーが視線を向けた先。
その先には人影が二つあり、サウザーもよく知っている人物が悠然と立っていた。

「やはり貴様か。この俺にとって満足のいく回答を貰いたいものだな、シュウ」
「まぁ、私にも色々あってな。訳あって彼女達とは縁を持たせてもらっている」
やや厳しめの口調で話すサウザーを前にしてもシュウに動揺は見られない。
こう見えても現南斗六聖拳では南斗鳳凰拳伝承者に次ぐとまで言われている程の実力者だ。
答えによっては闘うという選択も取らざるを得ないのだが、答えを得るよりも先にヴィータがシュウの横に立っていた女へ向かっていった。

「シャマル!お前、シュウに話ちまったのかよ!」
「違うのよ。シュウさん、わたし達が何をやっているか全部知ってて……」
「気付いたのはつい最近だ。シグナムが怪我をして帰ってきた時に何をやっているかを察したよ。まったく、蒐集は行ってはならないと言われていただろう」
「け、けどよ……」
「まぁ、その話は家に帰ってからだ。私も料理の途中で出てきてしまったからな。早く帰らないと心配させてしまう」
「貴様は一体何をやっている……、と言いたいところだが大まかな事情は飲み込めた。……が、一応確認しておく事がある」
基本的にシュウは自分のやった事に関しては嘘は言わない事はサウザーも良く知っている。
良くも悪くも公明正大であり融通が利かないのがシュウの長所でもあり短所だ。
なんか所帯染みた言葉もちらほら出てきてはいたが、あのやり取りの中でもそれは現れている。
身内からは裏切り者は出ていないという事だが、そう言った瞬間にサウザーの姿が消えた。

踏み込みの勢いを存分に利用した突きの二連撃。
そんな開幕ブー媚びぬに反応出来たのはただ一人。
受ける事は不可能で、例えかわしたとしても終わらない攻めが延々と続くのだが、シュウが取った行動はどれとも違っていた。

後ろに身を反らす事で手刀を紙一重で避けると同時に倒立姿勢に移りながらサウザーに向け脚で斬撃を放つ。
しかし、その行動はサウザーにとっては予定の範囲内。
一歩後ろに下がりながら体の軸を捻る事でシュウの斬撃をかわす。

今の攻防で互いにダメージは無く僅かに服を斬らせたのみ。
手の内は知り尽くしており、その動きが回避と攻撃の為だけに行った事ではないという事は誰よりもよく知っている。
とすれば、次に何が来るのかは当然予測が付く。

シュウが見せた技は相手の攻撃を避けつつ、蹴り技を繰り出す白鷺拳の基本技の一つ。
だが真に恐ろしいのは、その先にある。
倒立という無茶な姿勢から繰り出される嵐の如き変幻自在の無数の蹴り技。
これぞ、南斗六聖拳白鷺拳の真髄。


                        南斗白鷺拳奥義なんとはくろけんおうぎ
                       れつ きゃく  くう  ぶ
                       烈 脚 空 舞


迂闊に近付けば一瞬で切り刻まれるであろう蹴りの嵐をサウザーは紙一重で避け続ける。
避けると言っても白鷺拳の脚技は無数の衝撃波を生む。
しかもその威力は拳とは比較にならない。
その証拠に周囲のアスファルトや街路樹が余波によって無数に切り刻まれている
一度間合いの中に入った以上はこの技を止めるには一つしか無い。

「ほやーっ!」
「けぇいっ!」
声と同時に蹴りを繰り出す。
変幻自在の白鷺拳の蹴りを見切り、相手が仕掛けて来ると同時に一撃を叩き込む。
タイミングを少しでも間違えれば命取りになる事は言うまでも無い。
しかし、南斗鳳凰拳伝承者としての試練を乗り越えた今なら見切る事は十分に可能。
互いに放った蹴りが激突すると、轟音と衝撃によって巻き起こった風が辺りを包んだ。

「南斗白鷺拳『烈脚空舞』。この技のキレ……、どうやら偽者の類では無いようだな」
「この拳を完全に防ぐとは腕を上げたな、サウザー」
蹴り足を戻して正対した二人が、まるで確認し合うかのように言い合う。
基本、何でもアリの魔法を目の当たりにしているだけあって、姿形が同じだけでは本物かそうか判断し辛い。
なら、手っ取り早く闘ってみれば間違い無いだろうという事である。
少しの間睨み合いが続いたが、横合いから気の抜けた声が飛んできた。

「なんだ、シュウもこっち着てたのか。会っていきなり闘り合うとか、お前らほんと仲良しさんだな」
「……あたしには相手を殺す気満々に見えてたんだけどさ」
「いやいや、いつも大体あんなだぜ?」
「……もう少し言い方を考えろ。次、同じ事を言ったら殺すぞ」
「はは、まぁ十年近くの付き合いだから間違ってもいないだろう」
「だから、貴様も言い方を考えろと言っている」
何故かアルフに乗ったままのジュウザが呑気そーな声でそうのたまう。
さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへ吹っ飛んだのか、サウザーが死ねと言わんばかりに吐き捨てるとシュウは軽く笑いながらそんな事を言う。
裏なんぞ無く本心で言っている事は誰の目にも明らかでシュウの人となりが見て取れるだろう。
シュウとは南斗聖拳を学び始めた頃からの付き合いだし、実際公然と人の事を『親友』呼ばわりしているのだからあながち間違ってもいない。
ただ、南斗聖拳のトップを張る人間に対しての言い方じゃないだろうと文句の一つも言いたくなっているのだ。

「まぁいい。それで、何故貴様がここに居る」
そう言った先はシュウではなく、世紀末幼稚園学級委員長ことジュウザ。
サウザーの見立てでは、あの女がリーダー格であり司令塔。
性格は武人気質で正々堂々の戦い方を好むタイプと見た。
実力云々はともかくとして、性格的な意味で言うならジュウザのカモだ。
何せこの男。相手を怒らせる事にかけては天才的で、それを最大限利用する戦い方と得意としている。
一度嵌ってしまえば後はドロ沼。
どんなヤツが相手でも戦いをgdgdにしてしまって、その混戦の中で勝ちを拾いに行き、それでも勝てないと分かれば煙に撒いてさっさと逃げ出す。
例を挙げるなら┌┤´д`├┐ワールドって事である。
正統的な戦い方をするヤツ程、ジュウザのペースに飲まれやすい。
サウザーがジュウザにシグナムの相手を任せたのもそれを見越しての事。
それがこんな所で油を売っているとなれば、ぶち殺すぞと言いたくなってくるのだ。

「いやー、俺もそう思ったんだけどよ、ありゃ無理だろ。常識的に考えて」
「よもや貴様の口から常識などという言葉が出るとはな……。それで、どういう事だ」
「まぁ実際に見た方が早ぇって」
そう言いながら親指を立てて後ろを指差す。
いぶかしげにその方角を見上げたが一瞬で納得してしまった。

「……なるほど。確かにな」
「だろー」
闇夜に映る金と赤の攻防。
常人なら捉える事が出来ない程の速度でそれが繰り広げられているのだ。
もちろん、南斗六聖拳やそれに近い実力を持つ者なら見切る事も可能だが戦っている場所が常識外。
ジュウザと言えど、ああまで空中で動き回られては対処のし様が無いというところだろう。

「よっと。こっちは片付いたみたいだけど、あれどーするよ?」
「まぁ、一対一の戦いに水を差す事もあるまい。放っておいても大過なかろう」
「え、止めなくてもいいんですか?」
「なに、こうなった以上は死ぬ事は元より魔力とやらを奪う事も出来ん。直に決着も付くだろうしな」
相手が非殺傷で仕掛けてきているのは身を以って証明済み。
魔力の蒐集を行おうにも、話を聞いた限りでは主の命に反した行動であるようだし、シュウが出てきた以上は強行するような事も無い。
第一、誰が止めるのかって話になる。

「で、お前はどっちが勝つと思ってるんだ?」
「そうだな……。シグナムだったか?十中八九そいつだろう。シュウ、貴様はどう見る」
「私もサウザーと同意見だな」
「あーダメだこりゃ。賭けになんね」
サウザーの見立てでは、純粋な速度と手数ではフェイトが上回っているが、技量と経験ではシグナムが勝っていると見た。
そんな相手に対して単純な力と速さで挑んでいてもいずれは動きを読まれ手痛い一撃を貰ってしまう。
激流を制するは制水とはよく言ったものである。
まぁ剛の拳よりストロングな柔の拳という言葉も何処かにあるのだが。
そんな訳で南斗勢は満場一致でシグナム有利と見ているのだが、その意見に納得いかないのはアルフだ。

「何言ってるのさ!フェイトがあんなやつに負けるもんかい!」
「あ?あたしらの大将があんなガキんちょに負けるわけねーだろ!!」
「あんたの方がお子様じゃないか!チビが調子乗ってるとガブっといくよ!!」
「んだとぉ!?使い魔程度が調子のんなよ!」
そんでもって、今度はヴィータがアルフに食って掛かる。
そして始まる口プレイの応酬。
と言ってもほとんど子供の悪口レベルのようなものでそこまで心を抉るようなものではない。
しかし、それ故にどんどんヒートアップしていき、ゲージ二本溜まってリアルファイトの準備は完了。

「いいぜ、アイゼンの錆にしてやんよ!」
「上等!分からせてやるからかかってきな!」
「ア、アルフさん落ち着いて!」
「駄目よヴィータちゃん!」
今にも相手を殴りかからんばかりの勢いに、なのはとシャマルが止めに入ったがどうにも止まらない。
だが、開戦三秒前というところでみしりという音がした事で動きが止まった。

「げ……」
そう声を漏らしたアルフの視線の先には、なんとも言えない雰囲気をかもし出しているサウザーが背を向けたまま立っている。
ただ、その右足の先にある地面はひび割れており今にも『当店台パン禁止トナッテオリマス』言わんばかりである。
さすがに拙いと思ったのかアルフも全力で目を逸らす。
ユーノに至っては反射的に物陰に隠れてしまっているぐらいだ。
相当気まずい雰囲気になってしまっているが、こんな状況でも救い主は存在する。

「サウザー。心配なのは分かるが少し落ち着いたらどうだ」
「別に心配などしていない。まぁ実力が上の相手に対してどう立ち回るかという所で興味はあるがな」
「そうか。なら、そういう事にしておこう」
「……ふん」
超仏頂面のサウザーとは対照的に菩薩の笑みを浮かべながらシュウがそう言う。
サウザーが本当に気にもかけていないような相手なら、大抵は適当にあしらわれそのまま放置されている。
とはいえ、サウザーがオウガイ以外で良いにしろ悪いにしろ他人にこういう感情を向けられる相手というのは、シュウですら両手で数える程しか知っていない。
少し萎縮してしまっているアルフとユーノを手で呼び寄せると小声で話し始めた。

「あまり気にしなくていい。ただ、昔からなんだが、人前で本心を見せるのが苦手なやつなんだ」
「ああ、なるほどねぇ。確かにそんな感じはするよ」
「言われてみれば、どことなくクロノに似てますよね」
「ったく。男のツンデレとか誰得だよ。爺様の前では猫被ってるくせによー」
「やかましい。貴様ら聞こえているぞ」
言われてみて凄く納得したのか二人とも首を縦に振りながら相槌を打った。
そして、すかさずジュウザがわざと皆に聞こえるような声で追撃を加える。
さすがに、変なキャラ付けをされてはたまらんとばかりに声を出したが、一度暴落したカリスマはストップ安継続中である。
ジュウザだけなら何とでもなるが、シュウが居る場合は墓穴を掘る事になる事は経験からよく知っている。
この男の場合、ジュウザのように煽っているのではなく本心から言っているのが余計に性質が悪い。
これ以上言った所で余計な被害を被るだけかと諦めた所でザフィーラが意識を取り戻した事に気付いた。

「ぐ……」
「ザフィーラ!大丈夫かよ!」
「平気とはあまり言えんが……、何とかしてみせる……」
次いでヴィータが気付きザフィーラの傍に駆け寄ったが、その異質さに目を見開いた。
見た目だけなら無傷に近いのに、盾の守護獣とまで言われたザフィーラがここまでのダメージを負っている。

「言っておくが無理に起き上がろうとはするな。加減はしてやったがあれだけ俺の拳を受けたのだからな」
外部からの破壊に特化した南斗聖拳とはいえ、外側を傷付けずに内側にダメージを残すなんて芸当も当然出来るのだ。
その最たる技は南斗孤鷲拳の『南斗飛竜拳』だろう。

「シャマル!」
「ええ、分かってる」
「お前も手伝ってやれ。一人より二人の方が仕事が速い」
「わ、分かりました」
ヴィータに言われるまでもなくシャマルもザフィーラの治療を行う為に駆け寄った。
それを横目で見ていたサウザーは、ユーノも回復魔法を使うように促す。
回復魔法の効果は身を以って経験した事もあり、どうせ治るのならついでに貸しを一つ作っておこうという魂胆である。


「おっと、ここでフェイトが上段からの攻撃をバクステ回避!一旦距離を取ってそこから再度仕掛けていく!えーと、あれ、なんて名前の技」
「フォトンランサーだよ」
「ランサーばら撒いて牽制牽制!さぁ、対するシグナムは!オーラで弾いてしっかりガード!ブーストで突っ込んでいって中段……見えなぁーーーい!」
「黙って見れんのか、貴様は……」
「いや、だってそっちの方が面白いし、見てる方も退屈だろ。あ、これってあの二人にも聞こえるようにとか出来るか?」
ジュウザが唐突に実況を始めたと思ったら、さらにアホな事を言い出した。
この男が他人の組み手に対して横から茶々を入れるのは今に始まった話では無いが、時と場所と状況を弁えろと言いたい。

「これは、南東実況拳……!」
「知ってるの?ヴィータちゃん」
「ああ……」
そして、こちらはこちらでヴィータが妙な解説モードになってしまっている。
額に大往生とかいう文字が見えたのはきっと気のせいだろう。

『南東実況拳』
中国拳法三千年の歴史において、最も美しいとされる拳法。
互いの優劣を拳技だけではなく、相手の拳を見切り、一挙一動を闘いながら周りに伝えるという闘法を得意とする流派である。
この拳法の特性上、一度闘った相手の流派の情報が全て流出してしまうため、現在の中国当局では禁忌とされている。
なお『実況』の語源は拳法の創始者である『ダイ・チー』が『儒教』を深く学んでいた事から来ているのは言うまでもない。

参考文献
『修羅の国 拳法列伝』(民明書房刊)

「……好きにしろ」
やたら嘘くさい設定をドヤ顔で話すヴィータ。
そして、思いっきり信じ込んでしまっているなのはを見て、どうでもよくなってきた。
まぁ、さっきまで戦っていた割に仲良さそうにしているのだから悪い事ではないのだろう。
これを考えての事なら、やはり食えない男である。

『起き攻めからのコンボはミスらない……はず!ないわー!』
『両者とも実力的にかなり仕上がってるのは分かりますけど、絵面だけで見たら軽く犯罪ですねー』
等々、しっかり煽りを入れているあたり、単に自分が暇だったからという事だけかもしれなかったが。






「……ここまでだな」
「……?」
やや疲れたような感じでシグナムがフェイトに向けていた剣を納めた。
戦況的に押されているのは明らかで向こうから停戦を申し出るような事は無いはず。
それを不思議に思っていると答えが返ってきた。

「我らの目的は魔力の蒐集。だが、それが出来なくなったとなれば戦う意味が無いという事だ」
視線をなのは達が居る方に向けてそう言う。
もっとも、戦闘を途中で止めた事に対して、煽り勢からは盛大な金返せコールが巻き起こってはいたが。

「あいつは一体何をやっているんだ……」
「もう、アルフまで……」
さっきまで敵対していたはずなのに、いつの間にか仲良く煽り実況に加わっているのだからそう漏らしたくもなるのだろう。
とはいえ、シュウが出てきた以上、茶番はここまでにしなくてはならない。
地上に降り立った二人を待ち構えていたのは、綺麗に整列したヴォルケンリッターとその前に立つシュウの姿だった。

「さて、何か言う事はあるか?」
四人を前にしての仁王立ち。
表情こそ普段とそう変わりないが、付き合いが長い者が見れば何時もと様子が違う事ぐらい容易に判断が付くだろう。

「うっわ。シュウのやつマジだな。怖ぇー」
「あの男がか?珍しい事もある」
少し離れた所で様子を見ていたジュウザとサウザーはそれに気付いた。
普段温厚な人間程怒らせた時が怖いというが、シュウはその最たる例。
これは本人が知らない事であるが、シュウが本気になった姿はあの鬼のフドウすらも凌駕すると噂されているぐらいだ。
そんな阿修羅を前にして先陣を切ったのはヴィータだった。

「ごめんなさい……」
「私より先に謝る相手が居るだろう」
「う、悪かったよ。急に襲ったりして」
シュウに促されて少し言葉に詰まりながらなのはとユリアに向けて気まずそうに頭を下げる。
さながら母親に叱られた腕白坊主というところだろうか。
対するなのはといえば、別段大事になっていなかったという事もあるし、何よりさっきまで話も聞いてくれなかったヴィータが素直になってくれた事が嬉しかったらしい。
次に一歩前に進んだのはシグナムだが、こちらも少々バツが悪そうである。

「命に背いて蒐集を行っていた事については申し開きはありません。ですが……」
「私が怒っているのは、何故、最初から私に相談をしなかったかという事だ。そうしていれば、少なくともこんな事にはなっていなかったはずだ」
「確かに……、そのとおりです。申し訳ありません」
シグナムが深々と頭を下げると残る二人もそれに続いた。
それだけ見るとシュウは肩の力を抜きサウザーに向き直った。

「というわけだ。彼女たちも本意ではなくてな。止むに止まれぬ事情があっての事なんだ」
「貴様はそれでよくとも上層部の連中はそれで納得はすまい。首謀者の首とまでは言わぬが生死は問わんと各所に通達が届いているはずだ」
南斗六聖拳を中心に少なくとも上位半数の流派には聖司教から命が出ている。
南斗の中枢部に単独で襲撃を仕掛け、秘匿されている南斗正統血統慈母星の者を襲ったとあれば当然の処置だろう。
手違いだったと言われても、あの老人共が矛を収めるはずがない。
その意味が分からぬ貴様ではあるまいと言うと、シュウは続けた。

「だから、お前に頼んでいるんだ。まだ詳細を話していないからこそ、ここに出てきているんだろう?」
「上の連中にこんな事を言った所で信じはしないだろうからな。だが、俺が断ると言ったらどうする」
「ならば、私が相手になるまで。時間稼ぎぐらいはしてみせるさ」
「南斗の掟に背くつもりか」
その問い掛けにシュウは答えない。
いや、言葉ではなく一つの構えによって答えた。

「……っ!この構えは。貴様、本気で南斗百七派を敵に回す気か!」
南斗虎破龍の構えは『聖極輪』の合図によって相手と秘孔を突き合い仮死状態になる為の他にもう一つの意味合いを持つ。
例え何者が相手であろうとも不退転の決意を持って相対するという構えである。
見れば、構えを取るシュウの後ろではシグナムを筆頭にいつでも動けるように臨戦態勢を組んでいる所だ。
ほんの一瞬だけ思考を巡らすと、やや苦々しげに言った。

「……いいだろう。今日のところは貴様の顔に免じてな。だが、二度は無いと思え」
「礼を言う。さぁ、ほら寄り道しないで家に帰るぞ」
「ちょっと、うちのフェイトを傷物にしようとしたやつらなんだよ?このまま黙って……」
サウザーの言葉を受けてシュウが纏めに入ると四人の身体が光り始める。
転送魔法と感付いたアルフがシュウに食って掛かろうとしたがサウザーの腕によって止められてしまった。

「南斗六聖拳白鷺拳のシュウ。この場でヤツと互角に闘えるのは俺一人、と言えば意味が分かるか?」
「俺もシュウだけは相手したくねーからな。やり辛いのなんのって。ああ、どの道、逃げられちまうって事か」
「そういう事だ。手負いが出なかっただけ良しとするべきだろう」
そう言いながら首だけを動かして後ろを眺める。
こちらの人的被害は無し。
二人のデバイスに多少の損傷が見られるが、特に問題無い範囲だろう。
これで下手に追撃を仕掛けるのは、欲望丸出しの起き攻め生ヘヴィをぱなす事と同じ行為である。
最後まで残っていたシュウの背中が夜の闇に溶け込むと同時にサウザーが小さく呟いた。

「それにしても、燻っていた仁星を目覚めさせる程の者が居たとはな……」
いくら未来の希望の為に生きる宿命を持つ仁星を持つシュウとはいえ、ああも簡単に自らの命を捨てるような行動を取るとは考えられなかった事だ。
あの騎士達、あるいはその主がそうなのかと思うと少し興味が沸いてきた。
だが、今は戦後処理を優先させるべきだと踵を返した。
事が事だけに、今回も管理局の手を借りなければ事態の解決に繋がりそうにない。
主とやらに会うのもそう遠くの事では無いと思いながらも増援の到着を待つのだった。




同時刻別次元。
アースラの艦内では離脱を果たした騎士達の追跡を行うべく慌しく指示が飛び交っている。
しかし、敵の方が一枚上手だったのか追跡を振り切られてしまい、情報主任のエイミィはコンソロールを叩く結果となってしまっていた。

「クロノ君……。ごめん追跡しくじった……」
「第一級捜索指定遺失物ロストロギア『闇の書』……!」
「あ、クロノ君、どこに!」
エイミィの制止も聞かず、クロノは部屋の外へ走り出す。
そして廊下を駆けながら一人思い覚悟を決める。

「(ついに尻尾を掴んだんだ……!)」
クロノの脳裏に移るのは、守護騎士達の記録映像。
炎とその剣技によってクロスレンジにおいては随一の実力の『烈火の将』。
小柄な体躯に似合わず、巨大な鎚を得物としながら、射撃戦、範囲攻撃も得意とする『鉄槌の騎士』。
特筆した攻撃力こそは見られないが、格闘戦と結界、防御という面で鉄壁を誇る『盾の守護獣』。
空間干渉による転移、回復等で後方支援に徹している『湖の騎士』。
そして、その手の中には確かに闇の書が握られていた。

一人一人が並の魔導師を凌駕する実力を持っているが、その本領は騎士達の間で連携が取れている時に発揮される。

接近戦を得意とするベルカの騎士。
迂闊に間合いに入ってしまえば勝つ事は難しい。
何より、過去幾度と無く転生を繰り返してきただけに、管理局側の手の内は知られていると考えた方がいい。

そうであるのならば、最高のクロスレンジ対策を行わなければならない!

クロノは意を決し、第九十七管理外世界最深部『ヤツ』の元へと向かう。


                                                 『サウザー道場』



「来い!サウザァァァァ!!」











                              Free Play                                                            23WIN


                                                  FIST OF THE NORTH STAR 



                                                       2P WINS                      


                   THE WORLD WAS ONCE AGAIN RULED BY VIOLENCE      



                                                『艦長助けて!クロノ君が息をしてないの!!』




ヒャッハー!あ、あ、あ~、あべし!
一年以上更新が滞ってました。
南斗サービス残業拳と南斗サービス出勤拳の二つを極めていた為、こっちやる余裕が全く無かったという有様。
先月ヒャッハー!してきたので、ある程度はこっちの方の時間も取れるとは思います。

さて、今回ようやっとシュウが出てきましたが
実力的には世紀末モードの聖帝様がラオウ相手に『互角』とか言っていたのでかなり仕上がってます。
はやての中に強い光を感じたって事で仁星覚醒モードに突入みたいな感じで。
ただし、シュウが絡もうがヴォルケンズが絡もうがジュウザが居る時点でそこは世紀末幼稚園です。

次回は、猫姉妹とか、前書いた天翔十字鳳の仕組みの描写とかを入れたい。後、クロノのガチ撮りリターンズSPとかも。



[18968] 第四話:YouはShock!!
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:eabd9742
Date: 2014/02/13 19:45
次元航行艦アースラ。
そこに存在する大部分の者にとっては日常であり、一部の者にとっては懐かしく、約二名にとってはほぼ理解不能な域の船。

「っべー。宇宙船とかマジべーわー」
「黙って歩け。南斗の恥さらしが」
アースラ勢との合流後、作戦室に呼び出された一同だったが少しでも目を離すとどこか行こうとするジュウザにサウザーがついにキレた。
その結果がバインドで簀巻きになっているジュウザである。
どう見ても連行されている犯人にしか見えないのだが、当の本人は気にした素振りも見せずアースラを見回している。
その様相はさながら上京したてのおのぼりさんだ。
もしくは、修羅の国を始めて訪れた地方勢か。

「……あの二人って普段からああなのかな」
「……うん」
バインドをかけた張本人であるユーノが一歩離れた所でユリアに改めて聞く。
自分達に見せるカリスマというか威厳溢れる姿が、ジュウザの前では問題児に手を焼くツンデレ属性持ちの委員長ぐらいまでに暴落している。
どちらかと言えば今の方が素に近い状態であり、それを知るユリアは目の前で起こりつつある醜態成に少し顔を下に向けながら小さく頷いた。

「仲が良いんだね」
「そうなのかな?」
「そうだよ」
そして、それに釣られてなのはが危ない事を言う。
きっと熱血少年漫画によく見られるような殴り合った末に生まれる友情のような意味合いで。
ユーノにも一応の知識はあるのか曖昧に返事を返すと間髪入れずに断言された。
直後、前の方からビキィ!というような音が聞こえたような気がしたけどユーノは無視する事に決める。
正面から見たら眉間の皺が凄いことになっているのだろうと思ったが、それを直視出来る程神経は太くない。
言ったのがなのはでなければ実力行使に出られていたかもしれないので、なのはちゃんマジ天使である。

「あれぇ~? そんな怖い顔してどうしたんすかー?」
まぁ、それもこの口プレイ全一男にとっては煽る材料でしかない。
なのは達が居るせいか煽った時のサウザーの反応が普段とかなり違うのでむしろ絶口調だ。
火薬庫の上で火遊びをするような如きギリギリのウザさの煽りはクロノが出てくるまで続き、ユーノは別の意味でこの人もタダ者じゃないと改めて思うのだった。







「まったく、相変わらず大した物ね」
時空監理局の本局。
その一室ではリンディがエイミィが纏めた報告書に目を通しながら何気なしに呟いていた。

破壊と転生を繰り返す最悪のロストロギア。
その本のページを埋めた者には莫大な力が手に入るというが、その先にあるのは破滅のみ。
歴代の使い手は欲望を満たすために蒐集を繰り返し、そして例外なく闇に飲まれていった。
管理局にとってもリンディにとっても因縁深い相手である。
今までと違う点があるのなら、それは、今回の使い手は蒐集を望んでおらず襲撃事件も騎士達の独断である事。
サウザーが言うには闇の書の主は少なくとも悪意を持った人間ではないらしい。
その理由の答えが南斗白鷺拳のシュウと呼ばれる男の存在。
悪党と呼ばれるような存在なら騎士達を庇うような真似はしないと断言された。
これについては同行していたジュウザやユリアからも同じ意見が出ている。
今までと違うのなら、今回で決着を付ける事が出来るかもしれない。

「でも、良かったですよ。なのはちゃん達に怪我が無くて。レイジングハートとバルディッシュが少しメンテの必要がありますけど問題無いそうです」
「そうね。それが一番大事だわ」
とはいえ既に各地で被害が出てしまっているのも事実。
今までと状況が違うからといって捜査に手を抜く事はしない。
ただ悩みどころがあるとすれば、たった一つ。

「ただねぇ……、どうしましょうかこれ」
「ですよねー」
さっきから二人して悩んでいる理由。
言うまでも無く、人間一人を蹴り飛ばして空に打ち上げるわ、打ち上げられた方も空中で間接技決めるわ
騎士の一人を相手に完封勝利収めた挙句、もう一人出てきて挨拶代わりに殺し合い始めた南斗勢の事である。
ただし、今回二人が問題にしているのは世紀末な戦闘内容ではなく、南斗聖拳という組織その物について。

アースラの中でサウザーから事の経緯は聞いていたが、改めて聞くとこの組織はロクなモンではない。
現在でこそ要人警護や諜報活動が主になっているとはいえ、やはりその本質は暗殺拳。
特に頭を痛めているのが騎士の一人がその中枢に襲撃を仕掛けた事により、南斗上層部から各流派に対して捜索及び捕縛命令が出ている事。
それだけなら、闇の主の持ち主を探し逮捕、そして書の回収を目的とする時空監理局とほぼ同じなのだが、南斗聖拳はそこから先が違う。
もし仮に、闇の書の持ち主や騎士達が捕まってしまえば、行われるのは背後関係を洗い出す為の容赦の無い拷問と、その果てにある『南斗虐指葬』と呼ばれる処刑である。
さすがにその話は、なのは達が検査の為に医務室に行った時に行われたのだが、指を一本づつ相手の身体に突き刺していくという内容にブリッジクルー一同例外無く顔を蒼ざめさせた程だ。

「幸い、サウザー君は事を荒立てるつもりは無いようだけど、どこの組織も一枚岩じゃないというのがね」
唯一リンディを安堵させたのは南斗上層部に次元世界や魔法の事は伝わっておらず、それを知っているのは極限られた人物になるという事。
その一人であるサウザーが実働部隊の長となり実権を握っている事は、何かしらの問題が起こった際の交渉で役に立ってくれそうだ。
それでも万が一には事前に備えておかなければならない。
そんな事を考えていると、エイミィが何か考え込んでいる事に気付いた。

「どうしたの?」
「いえ、大した事じゃないんですけど、組織の一番上の立場の人にサウザー君ってのもどうかと思いまして」
「……それもそうね。やっぱり、サウザーさんって呼んだ方がいいかしら。でも今一しっくりこないのよねぇ。何か良い呼び方とか無いかしら」
確かにエイミィの言うように南斗聖拳という組織のトップを張っている人間に君付けするのは非礼に当たるかもしれない。
かといって、さん付けで呼ぶにしても立ち振る舞いや言動、何より半年前と比べて明らかに増している風格のせいでそれも似合わない気がする。
少しの間考えていると思い付いたかのような顔でエイミィが答えた。

「やっぱり様とかじゃないですか?」
「……ああ、うん。分かる。すごい納得出来るそれ」
病院の総回診の如く屈強な漢達を引き連れ従えさせ、サウザー様と呼ばれている光景が容易に想像出来た。
なんというか、玉座とかに頬杖付いて脚組んで座ってそうである。

「ま、一先ずその話は置いておきましょうか。それにしても、このユリアさんも凄い力を持ってるわね」
「詳しく検査してみないと分かりませんけど、魔力量は相当なものらしいですよ。それに、希少技能も」
「治癒能力ね。無自覚に使ってたみたいだけど、きちんと魔法の使い方を学べばきっと一流の魔導師になれるわよ」
ただ、言ったリンディもその可能性は薄いかなとは思っている。
本人の意思は別にしても、その背後に居る者が絶対に首を縦に振りそうに無い事を薄々ではあるが感じているからだ。

「(ほんと、どこの組織もあまり変わらないわねー)」
惜しいとは思いながらも、こればかりは自分がどうにか出来る問題ではないので、とりあえず今は自分の所の組織の問題を解決する為に職務に精励するのであった。




副題:時空管理局2on1大会 土曜拳 大改造デバイスビフォーアフターSP




バックBGM:クロノ・ハラオウン執務官メインテーマソング

クロノvsサウザー

  全23戦

   23敗


「そろそろ理由の一つでも話して貰いたいものだな」
「なに……が……」
相変わらず息一つ乱していないサウザーが大の字になって床にへばりついたまま動かないクロノに向けて言った。
対するクロノは辛うじて返事をするのがやっとの有様で限界近くまで体力を消費した結果である。
ここまでやって以前より戦績が悪化しているというのも残念な結果だが、それには少しばかり事情があった。

「この俺を相手にわざわざ格闘戦を挑んでくるなどどういうつもりかと聞いている。よもや勝算があったなどと言うつもりではあるまい」
クロノは今回射撃魔法を使わずに純粋なクロスレンジでのみ戦うという戦法を取ってきている。
言うまでも無く南斗鳳凰拳の間合いであり、実戦なら文字どおりの必殺技が飛んでくる距離だ。
そういうわけで僅か30分足らずで死亡判定23回という悲惨な結果になったわけではあるが、今回は前回と違いサウザーが南斗聖拳を解禁している事を思えば善戦した方だろう。
もちろん、自殺行為に付き合う程、暇でも酔狂でもないのでどういう事かと問いただすと、別の所から返事が返ってきた。

「小学生相手に本気出すとか、お前恥ずかしいやつだなー」
「何を勘違いしているかは知らんが、こいつは貴様とタメだ」
「ねーよ、バーカ」
お前のような14歳がいるか、とでも言わんばかりにジュウザが煽ってきたが、今回に限ってはその煽りは検討外れである。

「……くっ」
「……え、マジで?」
当事者のクロノから返ってきたのは肯定とも取れる呻き声。
さすがのジュウザも察したのかすっごく気まずい。
思わず周りを見渡しても人が誰も助け舟を出してくれない。
サウザーに至っては首を掻っ切るようなジェスチャーをしている。

「あー、その、なんだ。……悪ぃ。ほら、ネイチャーメイドやるから泣くなって」
「泣いてない!」
ジュウザ本人にしてみれば、サウザーを煽ったつもりなのに関係ないクロノを煽ってしまった。
それも言動とかではなく、本人がコンプレックスを感じている部分をモロにである。
しかし、クロノにとってはその優しさが一周してもの凄く痛い。
普段の言動が適当なやつが本気で言っているのだからなおさらだった。

「おい、なんかこう、都合よく背が伸びるって感じの秘孔とかねーのかよ」
「知るか。ラオウかトキにでも聞いてこい。それとも貴様の身体で実験してやろうか?『命門』でいいなら突いてやるぞ」
「……それ確か死ぬやつだろ」
「ふむ。間違ったか?」
「知ってて言ってんだろ、てめー」
当然、サウザーは命門の効果を知っており、約四割程本気だ。
ちなみに命門は、背骨が背筋の張力によってヘシ折れるというえげつない秘孔であり、言うまでも無く即死である。
何の脈絡も無く始まった口プレイという漫才をしばらく眺めていたクロノだったが、少しすると落ち着いたのか口を開いた。

「君の視点からで答えて欲しいんだが、僕は闇の書の騎士達を相手にして勝てると思うかい?」
「今の戦い方なら万に一つも勝機は無い。まぁ、他のやり方なら分からんがな」
本来クロノは万能型の魔導師であって、こういった距離を詰めての白兵戦は騎士達に比べると見劣りする部分が多い。
そもそも相手の土俵に合わせる必要など無く、常に自分の有利な条件で戦えば勝率はより高くなる。
そして、クロノにならそれが出来る。

「この半年の間、訓練はしてきたつもりだったんだけどな。悪いけど、もう少し付き合ってもらうよ」
「なら次からは本気で来ることだ。以前のようなマグレ当たりなど期待するなよ」
ようやく一息付けたのかクロノが立ち上がると再びサウザーに向かって構えた。
あれだけ一方的にやられてまだやる気があるというのも大したものだが、サウザーとしても土を付けるつもりは無い。
次に騎士達と戦うような事になればクロノが主軸とならなければならないのだから、その時が来るまでに仕上げておく必要がある。
だが、24戦目を始めようかというところで横合いから邪魔が入った。

「熱くなんのはいいんだけどよ、あっちからもーっと熱い視線が二つ届いてるぞ」
「見るな。目を合わせてもロクな事にならん」
ジュウザが指差した方角に居るのは、壁際で待ち構えるかのようにアップを始めているなのはとフェイト。
準備体操までしてやる気満々といった具合で、チラッチラッとばかりに露骨に存在をアッピルしてきている。
まるで筐体後ろに立って連コに対してプレッシャーをかけているかのようだ。
問題は誰と闘る気なのかという事だが嫌な予感しかしない。

「さっきから待ってるのに何で無視するんですかー」
「そうだよ。クロノばっかりずるいよ」
そうこうしている内にしびれを切らしたのか、二人揃って直談判にやってきた。
どうやら、サウザーが意図的に視界に入れないようにしていた事に気付いたらしい。
二人からすればクロノには道場までしてくれているのに、自分達は避けられているのだから無理も無いのだろう。
もちろん、サウザーも何の理由も無くガン逃げしていたわけではないのだが。

「前にも言ったと思うが、俺が教えられる事など無いんだがな。手が空いたらこいつにでも教えてもらえばよかろう」
なのフェイハウスから出られないと観念したのか、サウザーもようやく二人へと向き直った。
少なくとも魔法を使った戦闘技術に関しては種籾勢といったところで、人に教えるような知識は持ち合わせていない。
魔力ではなのはやフェイトが上でも、戦いの組み立て方や実戦での総合力は今の所クロノが上なのだから、そっちに付き合って貰った方が余程身の為になる。
まぁ、それは約七割ほど建前であって、模擬戦とはいえ小学生ぐらいの女の子と闘りたくねぇというのが大まかな本音である。
剛掌波よりぶっといビームをぱなしたり、アホみたいな速度で鎌ブン回す姿を知ってはいても見た目と言うのは大事だ。
それに万が一にでも傷物(物理的な意味で)にした日には、そこの馬鹿に執拗に煽られるに決まっている。
なので、適当な理由を付けてクロノに丸投げしようとしたのだが、生憎とそれで退くようなタマでは無いらしい。

「教えてもらいたいんじゃなくて、戦ってもらいたいんです」
「シグナムは全然本気じゃなかった。次は今のままじゃ勝てないから」
「ふむ……」
将来的な脅威に対して、キャラ対を積もうというのは立派な心がけだが、間合いが近いだけで戦い方その物は全くの別物。
まして、ヴィータが遠距離もこなすようにシグナムだってどんな奥の手を持っているのかは分からない。
下手に南斗聖拳に慣れさせて不意を突かれでもしたら、それこそ薮蛇というやつだ。
クロノのようにその辺りの事が分かっていて対策も立てているのならやり様はあるのだが。
いま一つ、乗り気になれずどーしたもんかと突っ立ているとレイジングハートとバルディッシュが訴えかけるように光った。

"We need your help also from me. Master Thouther""
「貴様らまでが頼み込んで来るとはな。どういう事だ」
声に対して視線だけを向けて、やや冷ややかな声で返す。
嫌っているとかではなく、機械相手に話をするというのは未だに慣れないだけだ。
通信機ならまだしも、客観的に見てアホ晒しているような気になるからである。

「ここから先はわたしが説明しますね」
サウザーの疑問に答えるかのようにエイミィが割り込んできた。
二つの携帯飲料を手にしているのでどうやら休憩を兼ねてという事らしい。

「実はさっきレイジングハートとバルディッシュのメンテを行っていたんですが、二機同時にエラーを起こしたんです」
「ほう。大して傷付いているようには見えなかったが」
「ええ。そのエラーというのが、あるパーツが不足しているというものでして、それはカートリッジシステムという物なんです」
「カートリッジ……弾倉か。そういえば、連中がそれらしいのを使っているのを見たな」
ヴィータがそれらしき物を使った時、瞬間的に速さが上がったのはサウザーも確認している。
排出されていた薬莢らしき物からしてほぼ間違い無いだろう。

「はい。彼女達が使っていた者と同じ物で使用者の魔力を高める効果があります。ただ、少し問題があって……」
「使った者への負担が相応にあるといったところか」
「その通りです。よく分かりましたね」
その問題点を間髪入れずに言い当てた事に少し驚いているようだが、サウザーも似たような事をやっている。
もちろん魔法的な意味では無く肉体的な意味であるが。
天龍呼吸法や鳳凰呼闘塊天も普段30%程度しか使っていない力を100%まで引き出す奥義だ。
あれの効果を思えば問題点なんぞ大体の予想が付く。
普通の人間が下手に100%の力を出した日には肉離れや骨折などの後遺症と付き合うハメになってしまう。
サウザーは平然と使いこなしているように見えるが、それは南斗鳳凰拳の修練を10年もの間続けていたからであって、そこらのモヒカン勢とはやり込みヤリコミミセターが違うのである。

「前置きはいい。本題を早く言え」
「騎士達の使うベルカ式の魔法はその扱いの難しさから衰退していったんです。ミッド式と組み合わせた近代ベルカ式なんてのもありますけど
  なのはちゃんやフェイトちゃんが使うのはミッド式でしかも繊細なインテリジェンスデバイス。そんな物をいきなり積んだとしたらどんな不具合が起こるか分からないんですよ」
「俺に実験台になれという事か?」
「正確に言うなら、対騎士を想定した上でのカートリッジシステム搭載の為に必要な実戦データの収集に協力して貰いたいという事です」
話を纏めると、そんな使えるかどうかも分からない物をデバイス自ら積もうとした上に、当事者達もそれを望んでいる。
管理局としてはリスクのある行為だが、戦力の底上げをしたいというのも事実。
データを取るにしても対騎士を想定するとなると管理局の局員とでは役者が違う。
それに、この二人の性格からして反対されたもゴリ押しして積む事になるなと考えた所でサウザーも折れた。

「……放っておいても勝手をするだけだからな。いいだろう。二人纏めて面倒を見てやる」
勝てないのなら戦わなければ負けはしない。
あれだけの実力者達が相手なら同じ奇策、搦め手が通用する事はなく、戦場を空中や海上に設定してしまえば割り込む余地など最初から無いのだ。
そうなれば主戦力はどうしてもこの三人になってしまう。
事態がどう転ぶにしろ戦力の底上げは不可欠。
現状で勝機が薄いのなら多少の無茶はしておかねばならない。

""Thank you. Master Thouther""
「礼を言うのなら終わってからにする事だ。まぁ、言えるだけの気力が残っていればの話だがな」
""oh……""
やるからには、メインテーマコースへ案内するつもりであり、ガチバトル不回避の予感にさすがのレイジングハートも何とも言えない微妙な感じの声を漏らした。
何せこの男、反応速度と瞬発力、そして何より実戦での状況判断力がケタ外れである。
少しでも甘えを見せるようならすぐさまそれを狩って処理しに来る。
おかげで、クロノの肋骨や奥歯は全損しているだの、その時のショックでブレイズキャノンが出なくなっただのと未だに煽られ続けているのだ。
少しばかり不安になってきた二機だったが、肝心のご主人様達は超やる気満々なのだった。




そして数十分後。




『それでは、ただ今より! なのはちゃん&フェイトちゃんとサウザーさんの模擬戦を始めまーす!』
『イェーー!』
あえて口には出さない。
出さないが、今の心境を表すのならハメられたという言葉につきるだろう。
実戦データを取る為の技術班はともかくとして、それ以外に大勢ギャラリーが出来てしまっている。

『実況はわたくし! 声が可愛らしい、実況になっていないでお馴染みのエイミィ・リミエッタと、解説として南斗聖拳からジュウザさんを招いてのWマイクスペシャルという事でお送りいたします』
『ガンガン煽っていきますんで(主にサウザーを)、よろしくお願いします』
『突如始まったなのはちゃんとフェイトちゃんのタッグとサウザーさんの変則マッチですが、どういったところが見所になるでしょうか?』
『そうですねー。サウザーの踏み込みと反応速度は人間止めてるってレベルなんで、いかに距離を詰められないようにするかの駆け引きといったところですかね』
『という事は、距離さえ詰められないようにすればなのはちゃん達にもチャンスはあると』
『一発食らったらアウトのルールだとワンチャンあるとは思いますね。ただ、あのデコ助も大概負けず嫌いなとこありますからヤバくなったら奥義ぱなしてくる可能性もあります』
『なるほど』
そして始まっている実況にはもはや突っ込むまいと心に決めた。
実戦データの収集程度の事をここまで大事にする必要があると小一時間問い詰めたい。
もっとも、監理局の本局で将来有望な執務官相手に23連勝かましたとなれば、立ち見勢も出来て当然という事をこの男は理解していない。
地方のゲーセンの大会に覇者が出て荒らしに来たようなもんである。


『それでは第一訓練室の準備が整ったようです。……ザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニー』


「行こう、フェイトちゃん」
「うん、なのは」
二人にとっては、久しぶりの共闘で目指す所は全く同じ。
何時ものように言葉と視線を交えての軽い確認。
しかし、サウザーから視線を外したその一瞬が致命的な物になった。

""Enemy Engage""
レイジングハートとバルディッシュが同時に警告を出した時には既にサウザーの間合いの内。
交差させた両腕を解き放つと、手刀を二つのデバイスのコアを切り裂く寸前で止める。
サウザーの十八番、縮地からの極星十字拳である。

「状況予測が甘い」
言いながら両手を下ろすと二人の顔を見る。
二人とも鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしているが実況はおかまいなしといった具合だ。

『な、なんと! 開幕一秒で決着ーっ! 二人が僅かに視線を逸らした隙を逃さなかったー!』
『余所見してたの見てから『極星十字拳』余裕でした! それにしても、不意打ちとか汚いな……、さすがサウザー汚い!』
『残念ながら勝負の世界は非情でございます』
言われて置かれている状況にようやく気付いたのか、二人同時に小刻みに震えだす。
そして、まず先にフェイトが似つかわしくないぐらいの大きな声をあげた。

「ず、ずるい、ずるいよ!」
しかし、当のサウザーはそんな抗議も何処吹く風。
今にも『何ぃ~? 聞こえんなぁ!!』とでも言い出しそうだ。
なのはに至っては言う言葉も無いのか、頬を膨らませながらサウザーの腰の辺りをポカポカという感じに何度も叩いている。
別に『勝てばいい! 何を使おうが!』とか言うつもりは無いしド汚い手を使ってまで勝とうとは思わない。
あくまで正々堂々と真正面から不意を突いたまでだ。
不用意に隙を見せた方が悪いのであって、その点に関しての苦情は一切受け付けない。
勝負事に関してはこの男シビアである。

「今のが俺だったから良かったが、連中が相手だったらどうしているつもりだ」
「それは……」
「この俺を誰だと思っている。二千年の歴史を持つ南斗聖拳の中でも最強と称される南斗鳳凰拳の正統伝承者だぞ」
本来であれば、勝敗の付いた闘いの結末に二度は無い。
それがあるとすれば、圧倒的な強者による気まぐれである。
まして相手は魔導師の生命線である魔力を奪いに来ているのだ。
やるからには背水の陣ぐらいの気概を見せて貰わねば困る。

『偉そうな事言ってますけど、傍から見たら幼女相手に大人気ない事してる恥知らずなやつなんですけどねー』
『でも、あの二人が戦ってるところ一度観たらそんな事も言えないと思いますよ。特になのはちゃんの必殺コンボのなのはスペシャルなんか
  ……おっと、ここで技術班を代表してマリーさんから『データにならないので、もう一回お願いします』と泣きが入りました』
ジュウザの不名誉な煽りにフォロー入れてくれたエイミィには感謝を。
そして、あのクソバカヤロウは殴り飛ばすと今ここで決めた。
まぁ、その事は後で回すにして今回の模擬戦の主目的はあくまでカートリッジシステム搭載の為に使う実戦データである。
その為には、ある程度戦り合う必要があるわけで、開幕一秒でのP勝ちとか問題外もいいところだ。

「と、言っているようだが、どうする。続けるか?」
もちろん、続ける続けないはなのは達の自由。
結果は全て自己責任であり、勝つまで続けるのも良し。
今は勝ち目が無いと考えて引き下がるのも良し。
連コし過ぎて終電逃した挙句の果てに、三ツ星ホテル『えふでじ』を利用するという選択も修羅の国では稀によくある光景。
さて、どう出るかと見ていたが、やはり一度ぐらいやられたからって引き下がるような根性はしていないようだ。

「もちろん、やります!」
気合は十分。
なら、言葉より行動で見せてみろと言おうとして、なのはの隣に居たはずのフェイトの姿が無い事に気付いた。
視界に入っていないという事は考えられる行動は二つか一つ。
そして、その対応は瞬時に行われる。

背後からのフェイトの攻撃に合わせて跳躍。
バルディッシュの刃を紙一重で避ける。
急所を狙った正確な攻撃だが、だからこそ読みやすい。
そしてそのまま背後頭上を取りつつ、空振りした事で体勢が崩れたフェイトに極星十字拳を向ける。
だが、視界の端に桃色の光を捉えると即座に身体を捻った。
直後にその場所を閃光が通り過ぎる。
これは、なのはのディバインバスターだ。

『今のはなのはちゃんのナイスフォローといったところですが、フェイトちゃんの攻撃に何かミスがあったんでしょうか?』
『目ぇ閉じてても気配だけで相手の位置が掴めるやつの背後取って下手に仕掛けても今みたいにカウンター食らう事がありますからねー。ただ即席にしては良い連携が取れてると思いますよ』
甘い攻撃は防ぐのではなく狩る為にある。
敵の攻撃さえ攻めに利用するのが南斗鳳凰拳の本領。
とはいえ、あそこでもう少し欲をかいていたら綺麗に撃ち落される所だった。

「やはり空中戦を挑んだところでいらぬ隙を生むだけか」
空を自由に飛べる相手に張り合っても鴨撃ちにされるだけ。
模擬戦とか関係ないならゴリ押ししてもいいが、実戦を想定するならガードの上からでも一発食らったら負けが付く。
ただのハンデ戦に見えるが、向こうは向こうで飛行高度制限が付いているので案外そうでもない。
一対一ならともかく、複数人相手に迂闊に跳んで当てられた日には『羽ばたき勢』とか言われて煽られる事は確実だろう。

『おっと、これは一体どういうつもりでしょうか。両腕を下げて歩いています! その姿はさながら『ちょっとコンビニ行って来る』とでも言わんばかり!』
『あれは完全に攻撃を誘ってます。ただ、このままだといずれ踏み込まれてしまうので、二人がどう対処するのかが見ものですねー』
ならば地を進んで近付くのみか。
傍から見れば普通に歩いているようにしか見えないが、その圧力は尋常な物ではない。
特に一度ラオウと闘り合っている所を見ている二人からすれば余計に大きく感じられてしまう。

<<どうしよう、なのは……>>
<<近付いちゃダメだよね……>>
今回の模擬戦はあくまで対騎士を想定した物。
空中から射撃魔法ぶっぱするだけの簡単なお仕事では実況席からクレームや煽りが飛んでくるのだ。
それにそんな事をした日には、折角その気になって貰えたのに俺はもう帰るとか言われてしまう。
したがって取れる選択は距離を取りながら弾幕を張るか、高速機動戦闘で一撃離脱を計るか、その二つを同時に仕掛けるか。
それを決めるよりも先にサウザーが動いた。

「どうした。来ないならこちらから行くぞ」
その予告どおりにサウザーが再び間合いを詰める。
先に狙いを付けたのはなのはの方だ。
ただでさえ勝ったらヒール、負けたらアホ。というデメリットしかない試合なのに、速い方を追い回して後ろから撃たれるなど目も当てられない。
だが、間合いまで半分程の所でその足が止まる。
バルディッシュを構えたフェイトが正面に割り込んできたからだ。

「ほう、速さは十分。だが、太刀筋はどうかな?」
いくら速くても当たらなければ意味がない。
突き出した指先を二度曲げると両腕を下げた。

『ブルース・リーの真似とか超絶キャラに合ってませんね。死ねばいいのに』
伝説的映画俳優の挑発ポーズを見て、すかさずジュウザも煽る。
あれが似合うのは、黒髪短髪で眉毛がゴン太の男であると天が言っている気がする。
普段であればサウザーも煽り返して口プレイデスマッチ開幕という流れであるが、生憎と無駄口を挟めるような展開ではない。
向かってくる魔力刃の軌道を瞬時に見切り必要最小限の動きで避け続けているからだ。

『一般的にクロスレンジの防御といえば受けて防ぐというイメージがあるんですが、そこのところから見てどうなんでしょうか』
『南斗聖拳は敵の攻撃を受ける事はあんま無いっすね。強いやつが相手だと下手に受けたら腕ごと持ってかれたりするので、ああやって捌くのが基本になります』
攻撃を避けるのに大きいも小さいも無い。
当たらなければ0は0。
ならば、常に切り替えしを取り易い状況を保ち続けるのが勝利への近道だ。
それに、幸いな事にフェイトの攻めは非常に読みやすい。
遅い速いとかではなく、動作や攻撃の軌道が素直すぎる。
いくら速くてもこれではすぐに対応されてしまう。
その証拠に数回繰り返した後にサウザーの左手にはバルディッシュが掴まれてしまっていた。

『物騒な言葉が聞こえてきましたが聞かなかった事にしましょう。おっとフェイトちゃんの動きが止まってしまいました! 防戦一方と思いきや、バルディッシュ本体を掴んでいたー!?』
『得物の形が裏目に出ました。リーチが長いってのはそれだけで有利になりますが、今みたいに柄を掴まれると完全に動きが止まってしまいますからねー。こうなってくると完全に力勝負ですよ』
一見して膠着しているように見えるが二人の顔は実に対照的だ。
額に汗流しながら一生懸命バルディッシュを引っ張っているフェイトと、普段と変わらず観察でもするかのように見下ろすサウザー。
どちらが優位かなど語るまでも無いだろう。
こうなってくるとフェイトが取れる行動は大きく制限されてしまう。
このまま続けるか、バルディッシュを手放すか。
しかし、先に手を放したのはサウザーだった。

『ここでジャケットパージ! しかし、これを読んでいた!』
『闘いながらの駆け引きは経験が物を言いますからね。十年近くぶっ続けで修行しかしてなかったようなやつと比べるのが間違いってもんですが』
フェイトを中心に発生した閃光と衝撃。
それがサウザーが立っていた場所に届いた時には、既にその場からは離れている。
あのままバルディッシュを握り続けた場合空いた右手で決着が付くし、手放せば手放したで戦闘継続が難しくなり詰んでしまう。
つまるところジャケットパージを使わざるを得ない状況に追い込んだわけでそこまで深い読みをしたわけではない。
本当の読みというのはガーキャンを超ガソや弟でスカして狩るような事である。
というか、技出すときに出すよりも先に技名を言うのは何とかならんものかとも思う。
デバイスが反応している辺り音声認識か何かなのかもしれないが、言ったの聞いてから回避余裕な人間も世の中には居るのだ。

「(まぁ、俺がどうにか出来る事では無いか)」
その対応策を考えるのは魔導師であって拳法家ではない。
バリアジャケットを再構築しているフェイトの脇を駆け抜け、今度こそ正面からなのはへ肉薄する。
無論、すれ違い様に手刀を寸止めで撃ち込んでおく事も忘れない。

「なのは! 前!」
なのはがそれに対応出来たのは、間一髪の所で手刀を避けたフェイトの声のおかげ。
砲撃魔導師が距離を詰められてはどうしようも無いのか飛行魔法で距離を取ろうとしているが、逃げようとする獲物を黙って逃がすような性格はしていない。

「な、何で前に居るんですかー!?」
「無駄な動きが多すぎる」
「そんな事言われたって!」
「無駄口もだ!」
飛んで行ったその先にいらっしゃるのは筋肉の壁。
人である以上はある程度の軌道予測は付くし、何より焦りが全面に出ているせいで本来の速度を殺してしまっている。
そんな相手の動きを先読みし最短のルートを選び先回りをする事はサウザーにとっては容易い。
これがフェイトならまた話は違っているのだろうが、あくまで純粋な速度差によるもので、まだまだその辺りの事はなのはとどっこいというところだ。
ブーストが無限に使えても使い所が間違ってたり、移動ブーストミスってたらバスケ出来ないのと一緒である。
数度同じ事を繰り返していたら、いつの間にか画面端……もとい壁際に追い込まれてしまっていた。


上へ逃げたくなる誘惑に耐えつつ打開策を必死になって考える。
防御魔法は割られるから駄目。砲撃魔法は足が止まるから駄目。白兵戦を挑む考えに至っては問題外。
置かれている状況はヴィータと戦った時と似てはいるが、まだ手刀の一発も飛んできていない事から試されている事ぐらいは分かる。
サウザーがクロノと戦っていた時は、散々手の内を吐き出させ、それを尽くかわしてから初めて反撃に出ていた。

――まだ、出来る事がある。

単純な力押しでは軽くあしらわれてしまうのは明白。
自分に出来る事を工夫して、組み合わせて隙を作るしか無い。

「レイジングハート。ジャケットッパージ!」
先程と同じようになのはの魔力光と同じ色の閃光と衝撃が辺りを包む。
さすがにいきなりジャケットパージをしてくるとは思っていなかったのか、サウザーも多少は面食らったが少し跳び下がって衝撃波の射程から離脱をする。
そして、閃光が収まった時にはなのはの姿もサウザーの姿もそこには無かった。
フラッシュムーブを使って壁際から脱し逃げるなのはと、縮地で追うサウザーというリアル鬼ごっこの開始である。

「これでぇー!」
追ってくるサウザーに向けてディバインシューターをバラ撒くと、計五発の弾道がそれぞれ違う軌跡を描いて飛んでいった。
その複雑な思念制御は、あの事件以降毎日欠かさず行ってきた訓練の賜物だ。

「ふっ!」
それでもサウザーの動きが鈍る事は無い。
このぐらいの数なら回避は不要。
向かってくる魔力弾をギリギリまで引き付けて手刀を放つ。
手加減のされていない斬撃から放たれる衝撃波が魔力弾を撃ち落し爆発を巻き起こした。

「やった!?」
立て続けに起こった爆発でサウザーの姿が見えなくなったが後退の速度は決して落さない。
少しでも速度を緩めたりすればいつの間にか背後に居たりするから油断ならないのだ。
そう、例えば今のように。

""Shit!!""
「やっぱりー!」
爆煙を割るというか吹き飛ばす勢いでサウザーが迫る。
ヴィータのシュワルベフリーゲンを握り潰した事から予想はしていたが、実際にやられるとのっぴきならないものがある。
後方確認をしていたレイジングハートが思わずスラングを吐いた程だ。

<<そこから二十メートル先!>>
<<うん!>>
全力で逃げながら辛うじてフェイトの念話に返事を返すと訓練室中央の何も無いポイントを見つめる。
その場所まで残り十メートル、五メートルと距離を縮めその場所に到達する寸前にレイジングハートが光った。

""Let's go! Master!""
「了解!」
前方宙返りの要領で背面を向くとロクに狙いも付けずにディバインシューターをぶっ離した。
なのはにしては珍しく誘導制御を行っていない直射弾だ。
半分が地面に、もう半分がサウザーに向かったが先程と同じように切り払われ爆発を起こす。
それを確認するよりも早く急停止し全魔力を込めてラウンドシールドを張った。

直後に風を切るような音がし、煙を割ってなのはの目の前に爪先が迫る。
同じ場所へ突きを三発叩き込まねばシールドを割れなかったのだから、その成長振りが伺えるというものだ。
だが追撃は無い。
くるりと身を翻し、レイジングハートを構えるなのはを見てもサウザーは動かない。

「……俺の動きを止める策に出たか。戦法としては間違ってはいないが」
いや、四肢に纏わり付いたバインドのせいで動けないのだ。
恐らく、なのはが気を引いている間にフェイトがバインドを仕掛けておいて、設置場所に念話で誘導したのだろう。
反転して攻撃したのは煙で視界を封じバインドに気付かせないようにする為。
全力ではないとはいえ、サウザーを相手にしてこんなやっつけ本番の作戦が出来たのだから、相変わらずの豪胆っぷりである。
小学三年生の女の子に使っていい言葉かどうかは分からないが。

『これはー!? フェイトちゃんのライトニングバインドだ! なのはちゃんが逃げた先に置いてあったーっ!』
『いやー、声や動きに出さなくても思ったとおりに連携が取れるってのはマジ便利ですねー。
  普通なら、アイコンタクトなり僅かな動作なりがあっても、そこからある程度は何狙ってるか読めるもんなんですが、今のは俺も見えませんでしたねー』
『それも普通の人は出来ないんじゃと思ったのはわたしだけでしょーか。っと、話が逸れましたが現場は凄い事になっています!
  皆様ご覧ください。バインドからのスターライトブレイカー! これが『なのはスペシャル』だーっ!!』
バインドで固めてからのガー不砲撃は受けた者にとってトラウマ必死。
あのフェイトをして二度と受けたくない魔法と言わしめた収束砲撃だ。
もちろん、殺傷設定ならサウザーでも受けたくない物であり、多分ガードしても色んな物が割れる未来しか見えない。

「これが、今のわたし達の全力全開です!」
詰めが甘い。という言葉はあえて出さない。
バインドが破られない技だと思っているのならそれは大きな間違いだ。
動きを止めただけでスターライトブレイカーのような大技が常に決まると思っているのなら、これから先いつか痛い目を見る事になる。
なら、今のうちにそれを分からせてやるべきだろう。
バインドを力任せに引きちぎると砲撃姿勢を取っているなのはの後ろに回りこみダメを出した。

「言ったはずだ。状況予測が甘いと」
難なく破ったように見えるが実は全力を出しており、その復帰速度たるや『神速のレバガチャ』と評される程である。
戦利品代わりにリボンの一つでも貰っておくかと手刀を伸ばそうとした所で背後に無数の気配を感じた。

「何!?」
言葉よりも早く身体が動いた。
一回、二回、三回と立て続けに回避行動を取ったが、その後には機銃弾のような勢いで光弾が降り注いでいる。
内心で少し冷や汗を流しながらその先を見ると、フェイトの周りに浮いている三十前後の光球を見た。
何というか凄まじく見覚えがあるし、あれには手を焼かされた記憶しか無い。

「やってくれるな……。俺に背後を取られるのは織り込み済みだったというわけか」
「前にも同じような事がありましたから、一応念のために考えてはいました」
裏を取ったつもりで裏をかかれたサウザーとは対照的に、どこか得意気になのはが返した。
前にもというのはジャギとの一件の事だろう。
バインドが破れなければスターライトブレイカーで、破られればなのはに注意が行っている間にフェイトがカバーに入る。
半年前には敵として戦っていたなどと言って誰が信じるだろうかというぐらいのコンビネーションだ。

『なんということでしょう!なのはスペシャルを囮にして本当の狙いはフェイトちゃんのファランクスシフトでした!一基最大秒間7発の速射魔法からサウザーさんは逃げ切れるのでしょうか!?』
『あー、終わったくせー』
瀕死一歩手前とはいえ、プレシアでさえそこまで派手なぶっぱは見せていなかった。
サウザーが半年前にこれを見せた時も抱いた感想は今のジュウザと大体同じ。
まぁ、それをほとんど無傷で防ぎきったなのはも大概なのだが。

「ファイア!」
「ちっ!」
号令と共に吐き出される弾幕を前に舌打ちをしながら駆け抜ける。
さっきまでと違い攻勢に転じる余裕など無く本気で回避に徹している。
いっその事、瞬間的に斉射してくれた方がまだ避けようもあるのだが、速射速度を落として間断なく撃ち込んで来ているので付け入る隙が無い。
それでもサウザーの顔に焦りが浮かぶことは無く、むしろ笑みさえ浮かんでいた。
それは、今のフェイトの姿が、南斗鳳凰拳伝承者に対してまんまと勝ち逃げを決めてくれた女と重なったからだ。

「ディバインシューター・フルパワー!シュート!!」
背後から8発のディバインシューター。
放置していたわけではないが、フェイトに気を取られた隙を見事に突かれてしまった。
前方、後背同時に凌ぐことは不可能。
逃げ場は上しか無い。

『ここで跳んで逃げるが、ディバインシューターは追う!それを何やったか分かりませんが防いだ所にフェイトちゃんがいったーっ!!』
『跳ばざるを得ない状況を作り出して上手いこと逃げ場が無いとこに誘導しましたねー。ディバインシューターは爆星で防いだようですが、はいこれ詰みました』
誘導弾の追撃は爆星波で全て止めたが、フェイトに技の終わりを狙われた。
足場が無い以上、今のままでは墜とされる事は確定。
これを凌ぐには全力を以って当たるしか無い。

「かぁ!!」
吸い込んだ息を吐き出すと同時に闘気を全て外に向ける。
それは真に拳を極めた者のみが纏う事が出来る戦いの気迫。
並の相手なら近付く事すらままならない程の圧力がサウザーを中心に現れ、殺到していたはずの光弾が四散していった。

<<これって、シグナムさんのと同じ!>>
<<違う……、でも……>>
防がれたのではなく攻撃を消された事に二人の脳裏に先日の戦いの記憶が蘇る。
あの時もフォトンランサーが通じずに接近戦を強いられる事になってしまっていたのだ。
あのまま続けていれば相手がカートリッジを温存していただけにどうなっていたか分からなかった。

『おや、フェイトちゃんの放った攻撃がサウザーさんに当たる直前で消えてしまいました。
   今のは……、先日の戦いでヴォルケンリッターが見せた防御魔法にも似ていますが、解説のジュウザさんこれはどういう事でしょうか?』
『あれはサウザーが身に纏った闘気が原因です』
『えーっと、つまり?』
『分かりやすく言うと、気合で全部吹っ飛ばしたって事』
『なんと気合です! 気合で魔法をかき消しましたー!』
『自分からハンデ付けといて負けそうになると本気出すのは昔から変わってませんねー。メンドクセーやつですよ』
実況席の方が盛り上がっているようだが、正直なところこの二人の実力は予想の上をいっている。

「……いや、甘く見ていただけか」
互いに信頼し高みを目指す姿。
子供と侮っていたのは自らの不覚。
実力、心構え共に一流の戦士だ。
その二人が全力を出しているからには、その礼に応えねばなるまい。

「よかろう!」
言うと同時に跳躍すると手近な高台へと着地をする。
そして、今まで下げていた両腕を左右へと広げ構えを取り始めた。

『鳳凰拳に構え?あいつが構え取るなんざ見た事ねぇが……』
「俺の拳、南斗鳳凰拳に構えは無い。敵は自ずから跪く。だが、対等の敵が現れた時、虚を捨て立ち向かわねばならん。
  帝王の誇りを賭けた不敗の拳。即ち、南斗鳳凰拳奥義『天翔十字鳳』。その意味を知りたければ……、かかってくるがいい!』
ジュウザですら見た事が無い南斗鳳凰拳の構え。
本来、対等の敵が現れなければ見る事の出来ない秘奥義。
それを出すからには全力で向かって来いと言っているのだ。

「ごめん、なのは。先に行くよ」
""Scythe form""
その声に応じるかのようにフェイトが先に一歩踏み出し、バルディッシュを変形させ高台に陣取るサウザーを見つめた。
自分の魔力光と同じ色の闘気がサウザーを包み大きな鳥のような光を放っている。
その姿には見覚えがある。
回収され、機能を停止していたプレシアのデバイスの残骸から、辛うじて復元出来た映像の一つ。
大魔導師プレシア・テストロッサ相手に一歩も退かなかった男。
だからこそ小細工無しで正面から挑みたい。

「フェイト・テスタロッサ。 いきます!」
それを合図にして二人同時に飛んだ。
違いがあるとすればそれは速度の差。
魔力で空を突き進むフェイトに比べ、サウザーのそれは直線的で慣性の範囲内。
高速機動戦闘に慣れたフェイトからすれば十分に遅いと言えるような物だ。

勢いのままに刃を振るう。
魔力によって強化された刃は鋼鉄すら容易く切り刻む。
だが、閃光の一撃がサウザーを捉える事は無かった。

「……っ!?」
手応えがまるで無い。
それに気付いたのは刃を半分程食い込ませた時。
その証拠にサウザーは表情一つかえないまま真っ直ぐに突っ込んでくる。

ぶつかる。と思い止まろうとしたがその心配は杞憂に終わった。
変わりに訪れたのは身体の中を何かが通り過ぎていくような異様な感覚。
例えるなら得体の知れない靄に身体全体で突っ込んだ感じだ。
すぐさま後ろを振り向きサウザーがどうなったかを確認しようとすると、髪を結んでいたリボンが二つ同時に切れた。

『やろー、あんな隠し玉持ってやがったのか』
『えっと、わたしの目にはフェイトちゃんとサウザーさんが空中で交差したようにしか見えませんでしたが、ジュウザさん解説をお願いします』
『多分ありゃ空中を蹴ってカウンター決めたって事だ。もう完全にバケモンですねー』
『うっわー』
天翔十字鳳の正体は身体を羽根と化す程の軽功術だが、もう一つ必要になってくるものがある。
それは南斗鳳凰拳の基本とも言える神速の踏み込みである。
軽功術によって極限まで負荷を減らし、その強靭な脚力で文字通り空を踏んだのだ。

空中という一見不利な状態で相手の攻撃を誘い、その攻撃によって生じた死角を最短最速で一気に駆け抜け斬撃を浴びせる。
その一分の無駄の無い精密極まる動き故に、相手にはまるで残像が自分の身体を通り過ぎていくような錯覚を覚える。
初速から最高速度を叩き出せる踏み込みと、相手の体の流れを完全に見切る南斗鳳凰拳の集大成とも言えるべき奥義だろう。

「も、もう一回お願いします!」
そして、先程のフェイトと同じようにされたなのはが泣きの一回を入れる。
多分勝つまで止めないつもりだ。
体力が尽きるのが先か魔力が尽きるのが先か。
なのはとフェイトにとって、ここからが本当の戦い(地獄)の始まりだった。

なのフェイvsサウザー
   
     2敗



ヒャッハー!あとがきだぁー!!
飛べない以上、ヴォルケンズは聖帝様に近付く愚は犯さ無いので北斗勢は今後はマスコットになる。
じゃあ、何しようって事でサウザー道場回になりました。
大会ルールは『一発食らった負け』と『飛行高度制限』以外は何でもありの準リリカル仕様となっております。
なお、優勝商品はスポンサー提供のリンディ茶一週間分です。
次回あたり、八神家に突撃したり、フェイトとプレシアの事で話したりするかも。

天翔十字鳳がえらくぶっ飛んだ設定になってますが、ケンに脚を封じられた際に聖帝様が脚を翼と例えていた事。
身体を羽とし拳圧を利用して回避をするタイプなら脚が無くても回避可能なはずという疑問。
外伝でレイの飛翔白麗が空中を叩いていた事から十分可能と判断してこうなりました。(異論は認める)
技のビジュアル的には八木教広先生のCLAYMORE21巻に出てくる流麗のヒステリアが使う流麗を空中でやったと思って頂けるのがいいと思います。
興味がある人は本屋さんへレッツゴージャスティーン!(世紀末マーケティング

PS.クレイモアの中ではイレーネさんが一番好きです。



[18968] 第五話:トキはまさに世紀末
Name: 消毒モヒカン◆2e0a45ad ID:eabd9742
Date: 2014/09/18 23:27
『ボロ』
意味:修羅の国に存在する伝説の修行場『慶・阿夷』道場に挑み、敗れた末に死に切れなかった者達の事。

                                        引用元:フリー百科事典higepediaより抜粋

そしてここ海鳴市のあるマンションの一室では、サウザー道場に挑み、そして無残に敗れていった者達が集まっていた。

「うー……まさか、一回も当たらなかったなんて……」
テーブルの上に突っ伏したなのはが呻くように言葉を吐き出す。
まさかと言っているのは、あの時の記憶が半分ぐらい飛んでいるからだ。

約一時間ぶっ続けのデスレース。
魔力で補助しているとはいえ、南斗鳳凰拳伝承者の動きに合わせようとして動き続ければ疲労も溜まる。
というか、魔力で補助しているせいで体力が限界が来た事に気付かず気を失ってしまったのだ。
せめてもの救いは戦闘データが取れたことにより、レイジングハートとバルディッシュが現在改造中という事ぐらいか。

「そう落ち込む事は無いと思うよ。僕だって似たようなものだからさ」
そんななのはを慰めるようにクロノが声をかけたが、ボロは一人だけではない。

「……クロノはいいよね。一人で戦ってスティンガースナイプ当てたって聞いたよ」
そんな呪詛の言葉が聞こえてきた先には、なのはと同じように突っ伏して顔だけをクロノに向けるフェイトが居た。
二人掛りで挑んだにも関わらず、命中弾は見事に無し。
いや、射撃魔法は当たる事は当たっていたのだが、オーラバリアで全部弾き飛ばされた。
そして被弾数は二人合わせて脅威の42回。それも全て死亡判定というオマケ付きだ。

「君達と同じ条件で戦ったら、どの局員でも無理だと思うんだけど」
当てたといっても誘導弾を知らない相手に後ろからの一撃。
それも大してダメージになっておらず、後は延々と作業されてしまったのだから買いかぶりだ。
というか現状を見るに、バインドは無理矢理引き千切るわ、射撃魔法はオーラバリアで消し飛ばすわ、格闘戦は無敵だわで手の施しようが無くなっている。
あれに対する手立てなど広域攻撃魔法で辺り一帯を殲滅ぐらいしか手が無いんじゃないか。
そんな事を考えていると冷蔵庫を漁っていたジュウザがやってきた。

「いや、ありゃ核ブチ込んでも直撃しない限り死なねぇと思うぞ」
「核兵器……、確かこっちの世界の戦略兵器だったな」
やや遅めの朝飯をかじりながらジュウザがそんな物騒な事を言う。
クロノも地球の事は一通り勉強していたのか、それを聞いて僅かに顔をしかめた。

地球人類が産み出した最強にして最悪の兵器。
過去の戦史において実戦で使用されたのは僅かに二回。
たった二回の使用で二つの都市を壊滅させ、死者は五万を超えた。
戦後も抑止という名の元に開発が進められ、今では世界を四十回は滅ぼせるだけの核兵器が眠っているという。
さらに悪い事に、誰かが赤いボタンを押しただけで連鎖爆発が起きるような世界情勢とくれば、クロノが渋い顔をするのも無理は無いだろう。

そんな様子のクロノを見て、こいつもサウザーと同じで肩肘張った糞真面目君だと判断した。
ジュウザにとっては実に煽り甲斐がある相手なのだが、今はまだそんな事はしない。
煽っていいのは身内だけという鉄の掟が修羅の国にはあるからだ。
まぁ、世紀末幼稚園児の前には破られる事もしばしばあるのだけども。

「その辺にしとけよ。あんまし考え込むとドツボに嵌んぜ。ほらよ」
「ああ、ありがとう」
そう言いながら一緒に出してきた紙パックの牛乳を手渡す。
クロノが基本、管理外世界の事に手出し出来ないように、ジュウザもそんな面倒な事に首を突っ込む気にならない。
そんな面倒な事は、昨日からなにやら忙しそうにしているツンデレ糞野郎に任せればいいのだ。
それよりも今はこの真っ白に燃え尽きた灰をどうにかして復活させなくてはならない。

「よう。昨日はこっぴどくやられたけど生きてるかー?」
「……死んでます」
「……なのはと同じ」
軽い問い掛けに対しても二人が顔を上げる事は無い。
やる事成す事全て淡々と処理された経験は相当傷が深いらしい。

「あいつに本気出させたんだろ?それだけでも大したもんだっての」
正直なところ、ジュウザ自身あそこまでやれるとは思ってはいなかった。
実際、フェイトのファランクスシフトを見た時は終わったと思っていたのだ。
惜しいと言うのなら、本気を出される前にケリを付けれなかった事だろうか。
何せ、本気になったサウザーに一発入れられる者など、南斗聖拳でも居るかどうかというぐらいだ。
特に天翔十字鳳はジュウザですら真正面からの攻略は難しいと感じた程である。
まぁ、ジュウザ本人は煽っていくスタイルだから関係ないっちゃあ関係ないのだが。

「何で自分達の行動が全部読まれたのが分からないって感じだな。しゃーねぇ、教えてやっから顔上げな」
ジュウザが言った言葉に即座に反応し、同時になのはとフェイトが顔を上げる。
いくら考えても出なかった答えを持っていて教えてくれるというのだから期待も高まるのだろう。
南斗の道場でも同じような反応を見ていたジュウザが笑いを噛み殺しながら手を掲げた。

「今からこれ投げるから、ちゃんと取れよー」
そう宣言すると、どこから調達したのか分からないビー玉をフェイトに向かって投げる。
そんなもんどこから調達したのかという突っ込みはこの男には不要だろう。
普段から面白そうな事があれば首を突っ込んでもいいように色々と仕込んでいるのだ。

「うし、取れたな。じゃあ次行くぞ」
無事に受け取れた事を確認すると、今度はなのはへと向き直った。
そしてさっきと同じように合図をして、さっきと同じように軽めに投げる。
運動神経が下の方のなのはとはいえ、反射神経に関しては中々良い物を持っている。

だが、無事に取ったと安心したのも束の間。
同じ軌道を描くもう一つの玉がなのはの眼に映る。
まったく想定していなかった伏兵になのはが反応できるはずもなく、青い色の玉はなのはの額に吸い込まれるように直撃を果たした。

「うにゃ!?」
驚いて声をあげてしまったが、実際の所なのはに痛みは無い。
これがビー玉だったら多少は痛かったろうが、その玉は床をボヨンボヨンといった体で跳ね回っている。
俗に言うスーパーボールだ。
若干涙目になって抗議の視線を向けるなのはを見ると、思ったとおりの反応だったのかジュウザが笑いながら解説を始めた。

「そりゃ、意識がそっちに行ってたり予想してなけりゃ急には取れねーよな。昨日のもそれと同じ事だって」
来ると分かっていれば対応は出来るが、選択肢があるから迷う。
そして迷いは隙を生み、攻め手にとっての好機となる。

対して守る側は相手の手の内を把握し、その場の状況や地形などから選択肢を一つづつ消した上で次の行動を読む。
その読みさえ間違いが無ければ、攻勢に転じる絶好の機会となり勝機を見出す事が出来る。
言ってしまえば格闘戦はその読み合いの繰り返しで、どれだけ読み勝てるかの勝負だ。

「それなりの場数は踏んでりゃ戦ってる最中でも相手が何考えてるかってのはある程度は読めるけどな。今のだってもう一発が来るって考えが少しでもありゃあ避けるか受けれたはずだぜ?」
簡単に言っているように見えるが、一瞬でも油断すれば命に関わるような状況でそれを行うのがどれだけ難しい事かぐらいは誰にでも分かる。
サウザーやジュウザはそんな複雑な読み合いを一瞬の間で、それも無意識に行っているのだ。
これは戦う事に特化した思考からくる反射のような物で、特に間合いを詰めての格闘戦はどれだけ戦いの場を潜り抜けたかが物を言う。
勿論、ヴォルケンリッター達も長い転生の記憶と経験からこれを備えており、一対一の戦いにおいてミッドチルダの魔導師よりも優れている点だろう。

この実力差を埋める方法は大きく分けて二つある。
一つは物量と火力で敵が降伏するか死ぬまでひたすらボコる。
夢も浪漫もありゃしないが、包囲殲滅戦という人類史においても数多の軍略家が取ってきた由緒正しい戦法である。

もう一つはジュウザが得意としている事で、相手をハメて冷静な判断が出来なくするように仕向け
徹底的に自分に有利な状況を作り出して勝負を挑むというやり方。
普段やってる口プレイも、精神的有利を取り相手の隙を生み出すための高度な心理戦なのだ。

口汚い言い争いも物は言い様である。

「さすがにそれは教えてすぐに出来るってもんじゃあねーからな。ま、一人でやり合うわけじゃないんだからやり様はあんだろ」
簡単に言うと数の暴力で潰すか、餌で釣って自分達の有利な場所に誘い出すか。
大まかな事だけ言っても細かい事を教える気はさらさらないのかクロノに視線を送ると
後は任せたと言わんばかりに空いてるソファに腰を下ろして持ち込んだ漫画を読み始めた。

「ふざけたように言っているけど、彼の言う事は正しいよ。実際、僕も彼らを孤立させた状況でどうやって素早く捕まえられるかって事を考えているしね」
同じ戦力で事に当たっても味方の被害が増えるだけ。
正々堂々なんて物を貫いて死人が出たのでは目も当てられない。
反面世の中、部下に無茶を押し付けて手柄だけ掻っ攫う輩も多いが、幸いな事にクロノは優秀な部隊指揮官だ。
部下を守るためなら相手を策に嵌める事も辞さないし、最悪の場合は盾になる事だって考えている。
だから、さっそく単独行動始めているパツキンデコボッチの存在に頭を悩ませているのだけども。

「ところで、彼はまだ戻ってこないのか?」
「ん、ああ。あいつなら確かシュウと話し付けにいくとか言ってたぜ」
「……は?」
朝早くからどっかいってまだ戻らない男の行方を半ば諦め気味に尋ねたのだが、あっさり返ってきた答えにさすがのクロノも一瞬固まってしまった。
シュウと話をするという事は、その後ろに居る騎士達や闇の書の主も関わってくるという事。
思わず高まって台パンしてしまうのも無理のない事である。

「どうしてそういう事を黙っているんだ君は!」
「……南斗鳳凰拳伝承者と南斗白鷺拳伝承者の会談だぜ?口挟まねぇ方が身の為だと思うけどな」
万が一決裂すればその場でバトル勃発。
それだけなら南斗聖拳の中での揉め事で済むが、ここに管理局が関わってくると全面対決に発展してしまう恐れがある。
そうならない為に、まずはシュウとサシで話をして探りを入れてみようという魂胆である。
半分あしらうようにそう説明したが、理由についてはもっともらしい事を適当にでっちあげただけで
聞かれるまでジュウザが完全に忘れていたというのが言わなかった理由の九割を占めているのだが。

「あいつだって南斗聖拳の看板背負ってる立場なんだから、いきなり殺し合ったりはしねぇよ」
「確かにそうかもしれないけど、でも」
「大丈夫大丈夫、心配すんなっての」
だがそこは人をペテンにかける事に対して天才的な手腕を持つジュウザである。
今にも掴みかかってきそうなクロノを言いくるめ、五分も立つ頃には完全に有耶無耶にしてしまった。
なお、それを見ていた子供二人が大人ってズルい、という感想を得ていたのは言うまでもない。





「クソが……。それにしてもヤツめ……。一体何を考えている」
舌打しながら明らかに不機嫌であるという雰囲気を撒き散らしながらサウザーが夕暮れ時の住宅街を歩いている。
その肩にはかなり大きめの発泡スチロールの箱が担がれており遠目で見ると宅配の兄ちゃんにも見えなくもない。
近付けば、お前のような宅配業者がいるか!と突込みが入るのは間違いないのだろうが。

「あれか……」
電柱に表示されている住所や表札を手にしたメモと照らし合わせて確認を取る。
そしてゆっくりとインターホンを押した。

「はーい」
「シュウを出せ」
「はい?」
「……南斗白鷺拳のシュウはここに居るかと聞いている」
少しすると、まるっきり警戒心0の返事が機械を通して返ってきたが、それに対する回答は無遠慮そのもの。
およそ初訪問のお宅に対してのアプローチではないが、この男もラオウやジュウザよりマシという程度で常識という物を持っていない事は周知の事実。
だが、これでも本人からすれば譲歩している方であり、本来であればドアを蹴破るかドアノブを捩じ切って強襲をかけているところである。

しかし、ここは閑静な住宅街であり法治国家。
そんな狼藉を働けば十分と経たずにポリスが大勢やってきてしまう。
南斗聖拳の持つ権力を全力で使って黙らせてやってもいいが、時間もかかるし人の口に戸は立てられない。
相当面倒な事になってしまうのは確定的に明らかであるので妥協している。
文明社会において世間体という物は非常に大切な物なのだ。
ワンチャン通報もあったかもしれなかったが、声の主はそこまでスレた感性を持っていなかったらしい。

「あ、シュウさんのお知り合いですか?すぐ出ますから少し待っててください」
言葉通りしばらく待っていると、車椅子に乗った少女が姿を見せ、視線が合った途端一度首をかしげてから俯いてしまった。
数秒何かを考えていたようだったが、思い当たる節があったのか顔を上げると、納得したような顔になって言葉を発した。

「あ、もしかしてあの時のマフィアさん?」
若干ビキビキきているサウザーに対して遠慮ないというか天然入った物言い。
誰がマフィアか、とは思いもしたが、車椅子という特徴とテンパっていた様は早々記憶から消える物では無い。

「ああ、図書館で一度会ったか」
だからといって煽るような真似をするような男ではなく、記憶の片隅から目の前の少女の容姿を引き出すと同時に会った場所も思い出した。
こんな少女が闇の書の主というのも想定外ではあったが、通算で四例目なので特に驚いたりはしない。
むしろ、あのお人好しが味方するわけだと納得してしまったぐらいだ。

「まぁいい。貴様らの思惑がなんであれ、俺が用があるのは今の所シュウだけだからな。居ないようなら中で待たせてもらう」
もっとも、そう確信したのは今にも飛び掛ってこんばかりのヴィータや、警戒心丸出しのザフィーラ等が傍に居たからだが。
そんな面々を聞こえんなぁ!とばかりにシカト決め込むとズカズカと上がりこむ。
荷物を床に降ろすと適当な所に座り込んでシュウが来るのを待つのだった。



「てめー、何しにきやがった」
「こらヴィータ!お客さんにそんな口の聞き方したらあかんやろ」
どこかイラついた感じの視線が交錯する中、はやてがヴィータを諌める。
だが、今のヴィータの姿は一片たりとも凄みなんて無かった。

「それになぁ……その姿で凄んでも説得力はあらへんで」
「いや、ちげーって。このアタシがこんなエサで釣られるわけないから」
だが、左手にのろいうさぎの縫ぐるみを抱きしめ、右手でアイス、それもデパートとかで売ってる高いやつをせっせと口に運んでいては説得力なんてもんはありゃしない。
季節としてはシーズンオフもいいとこだが、冬に暖を取りつつ冷物を食すというのはある意味夏場よりも魔力を秘めているのだ。
もちろんこの男がピンポイントでヴィータの好物や趣味が把握できているはずもなく、懐柔する為のエサはシュウの指示。
ただ、そのついでに今日使う食材も買ってきてくれと書いてあったのが今のサウザーの不機嫌の原因である。
肉、蟹、豆腐に野菜というラインナップからして鍋という予想は付いたが、南斗のトップをパシリに使えるのはシュウぐらいのものだろう。
それも悪意など全く無く、普通にお使いを頼んでいるような扱いだから余計に始末が悪い。
まぁ、だからといって手を抜く事は一切せず、よそ様の御宅を訪問する以上は鮮度・質共に最高の物を用意してきたつもりだ。
そんなわけで、冬場に贅沢な食材をふんだんに使った鍋という最強クラスのエサに釣られなかった者が八神家にはいなかったのは言うまでもない。
そして、そのエサの仕込みをした張本人は、台所から半分身を出すとサウザーを呼んだ。

「ああ、サウザー。少し手伝ってくれるか」
「貴様……。自分がその姿をしている事に何か疑問は沸かんのか?」
「何がだ?」
三角巾被って、右手にお玉、左手に味見用の小皿を持って、『(*M*)決勝三タテ』なんて刺繍が入ったエプロンしてる南斗六聖拳なんて見たくなかった。
さらに恐ろしい事に、台所に入るのなら手を洗ってから付けろと言わんばかりに『バイキンは消毒だー』のキャッチフレーズで有名な石鹸と
同じような三角巾に『世界のトレンド(*M*)』という刺繍の入ったエプロンが用意してある。
確かにサウザーもつい半年前までは自炊していた方だが、あそこまで徹底していない。
文句を言ったところでこの男には通じず、半分妥協して手を洗った後、エプロンだけつけると後ろの方で盛大な笑い声が聞こえてきた。

「あはははは!に、にあわねー!」
「ヴィータちゃん。あまり思った事をそのまま口にしない方がいいわ……」
「でもよーシャマル。あれ見てみろよ。笑うしかねーって」
「(ここで笑ったらあかん……!堪えるんや……!)」
爆笑するヴィータを小声でシャマルが諫めるが、それでもヴィータは半分涙目でサウザーを指差している。
まぁ、リビングに残っている全員が似合わないとは思っているのだが、あえてそれを口に出す者はヴィータしか居ない。
はやてやシャマルは作る側に回った事があるという経験から。
シグナムとザフィーラは自重という我慢を知っている為。
ヴィータは見た目どうりの子供らしい率直な感想を吐き出したまでだったのだが、今回ばかりはそれが仇になった。

「……どうやら一人だけ野菜鍋にして欲しいやつが居るようだな」
「ごめんなさい!」
「なら、黙っていろ」
台所に入りながら、サウザーがややドスの聞いた声で小さく言い残した瞬間、泣きになりそうな顔になってヴィータが泣きを入れた。
野菜鍋も美味い事は美味いのだが、他の面子が美味しく肉や蟹を頂いているのに、自分一人だけ野菜オンリーとか洒落にもなっていない。
結局のところ、ご家庭では胃袋掴んでる人間が一番強くて偉いのである。
そしてサウザーは無造作に蟹を一匹掴むと本題を切り出した。

「それで、連中の言う主というのは、八神はやてで間違い無いんだな」
「ああ。とはいえ、はやてが自分から望んで主になったわけではないんだよ」
「ほう。……俺が掴んだ情報では、歴代の主とやらは例外無く自ら進んで手を出したと聞いたが」
「なにせ、本人も闇の書が勝手に起動するまで知らなかったぐらいだからな。それに、その後、彼女らに向かって『人の力を奪ってまで力は欲しくない』『変わりに家族になってくれ』って言っていたよ」
「なるほど……。貴様も中々面白い経験をしていたらしい。なら聞くが、この家、他に人は居らんのか?」
ここまで話を聞いた限りでは、シュウとはやてが出合ったのは闇の書が起動するよりも前。
シュウの嫁は出産間近という事もあって海鳴総合病院に入院中。
だとしても、この家には他に居るべきはずの者が居るはずなのだ。

「話せば長くなるが、はやての両親は数年前に亡くなったそうだ。それ以来、私達と出会うまで一人で暮らしてきたらしい」
「……色々問い質したい事はあるが、見たところ十にも満たんガキがこの家で一人暮らしをしていただと?国の世話になっているか、さもなくば野垂れ死んでいるかだぞ」
「私もそう思っていたんだが、はやての両親の知人が援助をしてくれているそうだ」
「援助というのがどういう物かは知らんが。……何者だ?」
「私も名前だけしか知らないが、ギル・グレアムというらしい」
「……解せんな」
「具体的に言うとどの辺りがだ?」
「考えてもみろ。仮にそやつの両親に大恩があって援助がしたいというのなら、他に身寄りの無い、
  それも下半身不随のガキの面倒を直接見ずに金だけ送る事などせん。引き取るか、施設に預けてその施設自体を援助するのが道理だ。ならば何か裏があると考えるのが当然だろうよ」
「それは私も思わないでもないが、今のところは確証が無い。それにはやてもグレアムを慕っているようだからな」
「ふむ……。何にしろ一度洗ってみた方がよさそうだな」
両親を失った身寄りの無い少女を援助する謎の紳士。
こう書けば『あしながおじさん』のような美談に見えるが、生憎と表面だけを捉えて納得するような男ではない。
南斗が持つ権力と腕力を全力で使い、送られてくる金の流れを辿っていけば、正体を特定する事もそう難しくはないだろう。
裏が無ければそれでよし。裏があれば、思惑、背後関係を全て吐かせてから相応の対処を取る。

真面目で重い話のように聞こえるが、ご存知のとおり場所は台所で鍋の仕込み中である。
話している最中も手だけはしっかり動いており、食材が南斗聖拳によってもの凄い速さで綺麗に切り分けられていっているのだ。
サウザーが聞けば一緒にするなと言うだろうが、今の所はやてが南斗聖拳に抱いているイメージは便利の二文字なのだった。


そして一時間後。


「ごちそうさまでした」
「くやしい……!でも美味かった」
ほぼ空になった鍋を前にして、手を合わせる者五名。
敵に奢って貰ったという葛藤からビクンビクンしてる者一名。
早々に切り上げて来客用のソファーに座って脚組んで頬杖付いている者一名。

明らかに高そうな具材を目にしてはやてやシャマルなど躊躇していた程だったが、限度額無制限の黒い魔法のカードを見せる事で安心してもらった。
南斗聖拳のトップという立場だけに各国首脳クラスや大企業がバックに付いているため入ってくる金は個人としては莫大な物である。
さらに言うなら必要な事以外は金を使わないので無駄に溜め込んでいるのだ。
もっとも、それはシュウとて同じ事だが、現在ではその用途はもっぱら八神家の生計の維持に使われている。
その稼ぎ頭は鍋を無造作に掴むと明日の献立を確定させているのであった。

「さて、明日は卵を入れて雑炊を作るから鍋は私が片付けておこう」
「貴様、この半年で一体何があった……」
すっかり専業主夫と貸した南斗白鷺拳伝承者を見て流石のサウザー様も少し引き気味である。
確かに鍋やった翌日の雑炊が正義というのは理解出来るのだけども。
付き合いきれんとばかりに溜息を吐くと脚を組み直した。

「何だあいつ、人ん家でえらそーにしやがって」
そりゃ先の交戦で甘えたところ狩られそうになったり、ザフィーラに溜めバニかましてバニコン仕掛けてきた相手がふんぞり返っていればヴィータでなくてもそう思うだろう。
だが、それを知らないはやてにしてみればヴィータが突っかかっているようにしか見えない。
家主としては何とかしなければならないわけだが、ある事に気付いた。

「そういえば、声がどことなく王子に似とるな……」
ヴィータも見ているあのインフレバトル漫画のキャラに声が似ているのだ。
普段意識せずに出す声があそこまで似ているのなら、本気出してもらえれば同じに聞こえるかもしれない。
棚の奥の方から単行本を一冊引っ張り出すとボス座りをしているサウザーの傍に近付いた。

「少しやってもらいたい事があるんですけど」
「何だ」
「このキャラの台詞を言ってもらいたいんです」
「……意味が分からん。どういう意味がある」
「ヴィータがよく見てるアニメなんですけど、このキャラクターにサウザーさんの声が凄く似てるんですよ。なんで言って貰えるとヴィータの機嫌も良くなるかなと」
後、お茶の間もどっかんどっかん言わせられるかもしれませんし、とはやてが付け加えたがある意味怖いもの知らずである。
南斗聖拳のトップに一発芸をやれと言ってるのに等しく、世紀末なら『矢を放て!』と言われているかもしれない状況である。
しかし、世紀末でないサウザーは軽く流し読みをする程度でページをめくっていると、何か思うところがあったのか他があるならもってこいとばかりに指を動かした。

――それも一冊や二冊ではない……全部だ!!

世界で一億部以上売れている作品だけあって中々興味深い。
現金の束でも数えるかのような速さで読み進めキャラクターを把握すると、一回だけならなとokサインを出した。

「ヴィータこっちきてみー。面白いもんが見れるで」
「あたし、これから新しく開発された即死ルートの練習したいんだけどー」
満面の笑みを浮かべたはやてがジョイスティックを出しているヴィータを呼んだが、やや不満そうである。
その理由は北東の拳八神家ランキングバトルでシャマル、はやてにポイント差を付けられている為であり
全キャラ対応の12割ルートが開発されたとなれば練習せざるを得ないからである。
もちろん難度は高いが、『やり込みは裏切らない』という格言があるように世の中成功率5%を難なく成功させる魔法戦士が存在するのだ。
まぁ、そのやり込みといううのも車一台買えるぐらい注込まないとその域に達せられないというのがアレだが。

ええから、ええからと連れて来られた先には感情を無くしたような表情で仁王立ちをしているサウザー。
何が始まるのかとヴィータが身構えると、サウザーが闘気を纏って叫んだ。

「ヤサイ人は戦闘種族だ!なぁぁめるなよ!!」
プライドの高い戦闘民族の王子。
その男が己の種族を見下してきた敵に叛旗を翻しての叫び。
やるからには全力であり、感情の篭った叫びは本人その物である。(中の人的な意味で)

「すげー!ヤサイ人の王子だ!しかもスーパーヤサイ人だ!!」
これでスベってたらその場全員の記憶を消すところだったが、ヴィータの食い付きは上々の模様。
ただ一つ誤算があったとすれば、はやてとヴィータのテンションが上がってしまった事。
さらに悪い事にシュウまでが乗っかってきてしまい、この騒ぎははやてが寝るまで続くのだった。






「はははは。陛下も中々付き合いの良いお方ですな」
「卿に……、貴様にだけは言われたくないわ」
第一回八神家声真似大会終了後、まだそれを引っ張っているのかシュウが笑いながらサウザーに声をかけたが、返ってきた声は実に不機嫌極まりない。
そもそも、この家に来たのはこんな馬鹿騒ぎをしにきたのではなく探りを入れる為だ。
手土産に持ってきた酒(スピリタス98°)をショットグラスに注ぐと、話せと言わんばかりにシュウの前に差し出した。

なお、陛下というのは銀河帝国の皇帝の事であり、卿というのはその銀河帝国の宇宙艦隊司令長官の事である。

「それで、彼女達を見てどう思った」
「まぁ、小生意気なのが一人居るが、力を得て何かをしようという連中ではない事ぐらいはな」
「お前がそう感じてくれたのなら何よりだ」
「なら何の意図があっての事ぐらいかは話してくれるんだろうな」
力を求めていないのなら行動を起こす理由が無く、今回のような騒動は起こっていない。
先日も言っていた止むに止まれぬ事情。
それがあるから、はやてが寝るまで誰もこの話を切り出さなかったのだ。

「それについては、私より彼女達から聞いた方がいい」
「先に言っておくが前置きは不要だ。いくら謝辞を数え述べた所であの老人共には届かんからな」
シュウに促されるとシグナムがやってきたが、結論だけ話せとサウザーは先手を打った。

「では、率直に言う。……我が主の命は持って後一ヶ月。それも短くなる事はあっても長くなる事は無い」
「ほう……。見た所ではそうは見えんかったがな」
余命一ヶ月ともなれば、食事すらままならない末期の状況。
表面上は平常を装っていたプレシアでさえ、あのザマだったのだ。
ごはんおかわりまで要求していたようなのがそうなのなら、随分と健康的な病人である。
胡散臭そうな物を見るかのような表情に気付いたのか、今度は分厚い本を持ったシャマルが前に出てきた。

「これが貴方達が探している闇の書。そしてこの魔導書がはやてちゃんの命を蝕んでいる原因です」
「別に俺が探しているわけではないが……、まぁこの際はいい。所有物が主に害を成しているわけか。それには当然何らかの理由があるはずだな?」
「そもそもはやてちゃんの足が動かないのは産まれた時から存在していた闇の書が、はやてちゃんのリンカーコアを侵食していたからなんです」
「確か、貴様ら魔導師が持つもう一つの心臓のような物だったな」
「はい。本来であれば一般的な成人の魔導師を主とし魔力の蒐集を行うのですが、はやてちゃんのような子供が主になり蒐集も行わないのであれば……」
「より一層の負荷が身体にかかり死に至る……というわけか。真綿で首を絞められているようなものだな」
その回答には誰も答えない。
答えないがそれが正解だという事は沈痛な面持ちの一同を見ればすぐに分かる。
ヴィータなど顔を下に向けて小刻みに震えているぐらいだ。
他人からはっきりと死ぬと言われて改めて再認識させられたらしい。

「なるほど。これで納得がいった。魔力の蒐集とやらを行い本を完成させれば助けられると思ったわけか。それで里を襲ったのであれば高い代償だったな」
「分かってるよ、そんな事は。でもはやての足を治すにはこれしかねぇんだよ!」
闇の書の性質は本局に向かう際にリンディから受けた。
総数666頁の白紙本。
他人のリンカーコアから魔力を吸い上げる事で白紙の頁が埋まっていき、666頁全てが揃った時に凄まじいまでの破壊の力が開放される。
その後には何も残らない。
建造物も生物も、術者自身すらも。
そして、残る闇の書は新たな主を求めて転生するいうのだから始末が悪い。
だが、話を聞く限りではヴォルケンリッターはそうは思っては居ないようだ。
どうやら管理局とヴォルケンリッターの間で認識のズレがあるらしい。

「そういう事だ。だが、お前が言ったようにリンカーコアという物は魔導師にとっての心臓に近い器官で
  それを奪われると死に至る事もある。これ以上彼女達にそんな事をさせない為にもお前の力を借りたい」
「俺にだと?」
さすがのサウザーもシュウの言葉の真意を測りかねた。
この男が利益の為に他人の命に奪いかねない事に手を貸せなどと言うはずは無い。
かといって治療という点に限れば南斗聖拳で出来る事などたかが知れている。
その点に関して言えば南斗鳳凰拳も南斗白鷺拳も変わりはしないのだ。

「貴様の事だ。既にいくつかの事は試しているな?」
「その通りだ。だが、私では力不足だったようでな。だからお前に、南斗鳳凰拳正当伝承者に頼んでいるんだ」
「……北斗神拳か」
西洋医学が通じないのなら東洋医学。
それも最高峰とも言える北斗神拳の力を以ってすれば、歩けない者を立ち上がらせる事も十分可能だろう。
シュウがそれをしなかったのは、北斗は門外不出の拳であり他流とは付き合いが無くツテを持っていなかった為。
その点、サウザーなら交流もあるし、前伝承者オウガイとリュウケンは強敵と呼ぶ程の仲だ。

「だが、原因が魔力とかいう物にあるのなら北斗神拳でも通じるかどうかというところだな」
サウザー自身、魔力がどういう物かを理解しているわけでもなく、経絡秘孔は血の流れを司るが魔力の流れに影響を及ぼすかなんぞ分かったものではない。
ぶっつけ本番でやってみて失敗しましたでは、北斗神拳の看板に泥を塗る事になりかねない。
それはまぁいいのだが、魔法とかの話なんざした日には北斗と南斗の間で口プレイデスマッチが開催されてしまう。
やはりその辺りの事は隠したままでいくべきかと、なんて事を考えていると、ちょっとその辺りの事を読みきれないシグナムが続けた。

「北斗神拳とやらで主のリンカーコアが成長しきるまで延命させる事が最善だが、それが出来ない場合は……経絡秘孔で主の命を絶って欲しい。それで全てを終わらす事が出来る」
「……確かにあの秘孔を突けば上手くいくかもしれんがな」
治す手段が無いのなら息の根を止めてしまえばいい。
もちろん、完全に殺すというわけではなく仮死状態にさせる秘孔を突くだけだ。
南斗聖拳でも使えない事は無いが、一時的な物であって確実とは言い難い。
完璧を期すなら、やはり北斗神拳の力が必要になってくる。

闇の書の主が死んだと判断されれば、自動転生プログラムが働きはやては開放される。
しかしそれはプログラムの消失を意味し、シグナム達にとっては死と同じ事である。
それでもいいのか、と聞こうとしてサウザーは言うのを止めた。

「よかろう。リュウケンには俺から話を通しておく」
主の為なら死をも厭わないのが騎士の本分。
死ぬ覚悟などとうの昔に出来ているのだろう。
だが、これ程の者達を無為に死なせるには惜しいと思ったのも事実。
紙とペンを取るとある住所を書くとヴォルケンリッターの前に差し出した。

「後日の都合が無いなら、この場所まで顔を出してみろ」
「なんだよこれ」
「管理局の連中が間借りしている部屋の場所だ。少なくともそこに居るのは話の分からんやつらではない」
「ざけんな!なんであたしたちが!」
管理局の上層部はどう思っているかは分からないが、リンディとクロノは物事を柔軟に判断出来るとサウザーは見ている。
この二人の奔走が無ければ、フェイトが保護観察程度で収まっているはずがないのだ。
前にもあったが、調査や解析にかけては個人より組織で行った方が遥かに効率が良い。
それも魔力やロストロギアにかけては専門なのだから、北斗神拳を頼るよりは生存の道が開ける可能性は高いといえる。

「この俺がわざわざ貴様らを見定めに来てやったのだ。次は貴様達の目で見極めてみたらどうだ」
「管理局のやつらなんか信用できるかよ!」
そこまで頑なに拒むのは幾度と無く行われてきた戦いの記憶から。
闇の書の力を得ようと、闇の書を封印しようと両者共に策謀を巡らせてきたのだ。
もちろん、そんな事情などサウザー様は知ったこっちゃ無いのだけども。

「なら止めるか?」
「!?」
「お前が決めてやってもいいんだぞ……。えぇ、ヴィータとやら?」
来ないのなら今までの話は全て無し。
止めた所でサウザーに不都合は全く無く、困るのははやてを生かす為の手段を一つ失うヴォルケンリッターである。
どうするかを今決めろと、もの凄い圧力のある話し方で迫っているもんだからさすがのヴィータも固まってしまった。

「分かった分かった。まずは私が会ってこよう。それなら文句は無いだろう?」
「貴様なら見る目も確かか。ならば、分かっているだろうな?」
見かねたシュウが仲介役を買って出たが、このお人好しを引っ張り出すのは織り込み済みの事。
その上で、ヴォルケンリッターの手綱をしっかり握っていろと言っているのだ。
それだけ言い残すと、八神家を後にするのだった。




すっかり暗くなってしまった夜道を歩いていると、ふとその足が止まる。
このまま帰ったら少し五月蝿い事になると思っていたのも事実だが、遠くから見られているような気配を感じたからだ。

「……この俺を監視しているつもりか?ナメられたものだ」
距離にしておよそ500メートル先の建物の屋上。
撒いてやってもいいが、捕らえて情報を吐かすのも手。
さて、どうするかと考えていると半歩身体を横に動かした。
直後、頭のあった場所を鋭い拳が通り過ぎる。

「前に意識を集中させておいて背後を狙う。有効な手段だが俺には通じん」
背後から伸びてきた拳を掴むと背負い投げの要領で投げ飛ばす。
普通なら地面に叩き付けられて決着といったところだが、襲撃者はありえない軌道を描いてそれを回避する。
生かして捕らえる為に手加減して直接叩き付けなかったのが仇になった。
だが、それでも分かった事はある。
この仮面付けたあからさまに敵だと自己主張しているやつは、間違い無く向こう側の人間だ。
問題は、誰がこいつの後ろに居るかという事になる。
八神家に向かう時ではなく出たところを襲ってきた事から考えると、一人名前が挙がってくる。

「ギル・グレアムの手の者か。誰かは知らぬが、この俺を敵に回すという意味を知らんらしい」
その問い掛けに男は答えない。
しかし、仮面の中にある視線の揺らぎ、ほんの僅かな動揺。
カマをかけたからには、それを見逃すサウザーではない。
ぶっちゃけた話、ブチのめして吐かせればいいのだから違っていたとしても大した問題ではないがどうやら引っかかってくれたようだ。
沈黙を肯定と見做すと推測を交えた上で続けた。

「なるほど。このタイミングで仕掛けてきたという事は俺に戻られては拙いという事か。ギル・グレアム。どうやらクロノやリンディが知っているやつのようだな」
それならば、グレアムがはやてを援助している理由もある程度は納得が出来る物になる。
少なくとも現時点までではやてに死なれては困る何かがあるという事だろう。
そして、魔法的には機械的にかは分からないが、あの家は中での会話の内容が筒抜けになるぐらいには監視されている。
推測を確証に変えると、今まで黙っていた男が初めて言葉を発した。

「我らの邪魔はさせん。お前にはここで消えてもらう」
「出来るのか?貴様如きが」
まずは牽制の探り合いから。
相手もそれなりの力量を持っている事から、双方共に出方を伺っている状態である。
ここで結界を張ってしまえば管理局かヴォルケンリッターに感付かれてしまうからか使ってはきていない。
時間は深夜手前で人通りの無い住宅地。
何か騒ぎが起これば容易に人が集まってくるような場所だけに、そうそう簡単に音は出せない。
地形、時間、場の状況から判断して南斗聖拳にとっては圧倒的な有利。
そう判断するとサウザーが先に仕掛けた。

初撃は踏み込みからの十字斬り。
だが、両腕を振り切った先に男の姿は無い。
回避先を目で追うとブロック塀の上に立つ仮面の男。
そして、その場所から予想以上の速度で飛び掛ってきた。

「ぬぅ!?」
それでもサウザーにとっては見切る事は十分可能。
身体の軸を傾けると右腕で相手の拳を逸らす事でやり過ごす。
傷を付けられた事自体が久しぶりだが、それよりも驚くべきは腕につけられた爪のような傷跡。
そして正対する男の構え。

「これは……、鉱支猫牙拳!」
鉱支猫牙拳!
中国拳法象形拳の流れを汲む拳法!
山猫の如き身軽さで敵を翻弄し切り刻む恐るべき殺人拳である!!

まぁだからといってやる事に変わりは無い。
南斗鳳凰拳の前においては全ての敵が下郎。
二撃目を同じように腕で逸らすと同時に十発の突きを叩き込んだ。

「どっ!ぷぁああ!」
「鉱支猫牙拳。高所や足場の不安定な場所でこそ真価を発揮する拳と聞くが、相手が悪かったな」
場所は平地。そして相手は南斗鳳凰拳伝承者。
地形の有利があったとしても、拳を交える相手としては最悪の相手である。

「ぐ、が……南斗鳳凰拳、これ程とは……!」
理想は一時間ぐらい気絶しておいてくれれば良かったのだが、どうやら少し浅かったらしくまだ意識はあるらしい。
正直なところバリアジャケット持に対しては加減が難しいというのが本音だ。
バリアジャケットの強度は術者の資質次第。
何度か相手をすればその辺りの事も見極められなくもないが初対面の相手にそんな器用な事はできない。
身を起こそうとしている男に近付くと喉元を掴み押さえ込んだ。

「動くな。少しでも妙な真似をしようとすれば、即座に首を握り潰す」
魔法を使おうとしても、これならすぐに対応する事が出来る。
無詠唱だろうが何だろうが、声を出そうとしたり妙な動きをしようとすればキュッとしてしまえばいいのだ。
こいつを生かして連れ帰ればいい土産になると考えていると、ブロック塀の上に立つ猫と目があった。

「こいつ……」
深夜近くの住宅街に猫の一匹や二匹が居ても何ら不思議ではない。
だが、それは通常の状態ならであって、殺し合いやってるような場所に近付く猫が居るだろうか。
まさかと思った瞬間に男の背中越しに現れる魔法陣。
掴んでいる男は僅かな動きも声帯すらも動かしていない。
ならば、この魔法陣を作ったのはこの猫。
それも表現を正確に表すなら使い魔という事になる。
ほんの僅かの間、どちらから先に対処すべきかと考えを巡らせていると、倒れているはずの男が右腕を掴んできた。

「言ったはずだ……。お前には『消えて』もらうと」
「貴様ら、最初からこれが狙いか!」
魔力で強化しているのか見た目よりも遥かに力が強い。
無論、それだけでは南斗聖拳を極めたサウザーに敵うはずもないが体勢が悪かった。
サウザーは倒れている男の首を中腰の状態で掴み、男は地面を背にサウザーの右腕を掴んでいる。
不安定極まりない姿勢で、方や大地という強固な壁を背にしての力比べだ。
本気を出せばまた違うだろうが、一瞬の隙を付いて振りほどくなんて事はそう難しい事では無い。
残った左腕で手刀を繰り出そうとした時には転送魔法陣が発動し、サウザーの姿は仮面の男諸共消えてしまっていた。





ヒャッハー!あとがきだぁーーー!
前の超絶ブラック企業拳を引退してから新しい職場の究明をしておりました。
まぁ、それは6月に発見できたので、単に文字が進まなかったってのが理由の7割を占めていたんですが……。

今回は八神家に突撃して「サウザー様のお料理地獄!『お鍋』の巻き」でございます。

で、なのは勢より先に猫姉妹と接触させた理由は本文で書いたとおりですが、聖帝様をグレアム提督に合わせたら、問答無用で新一突くだろうというssとしてはどうすんだよこれ的な流れになるのが一番の理由です。

聖帝様が物理的に退場になった理由は、戦術レベルで手に負えない人物を戦略的に無力化するにはどうしたらいいかって事で、なのは勢的に考えるんだったら転送魔法に巻き込んでどっかの無人世界に送るのが一番確実かという事で。
多分、シュウは人質かなんかで同じようにボッシュートされます。

次はクロノとなのふぇいと一緒にジュウザとユリアも提督んとこ行くわけだけど、この先の流れどうしようかねぇ……

次にネタが出てくるまでサラダバー

P.S:イチゴ味三巻が今月発売されるとの噂で、wktkが止まりません。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.41858601570129