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[18953]  マブラヴ+SRW α アフター (チラシの裏から移転)
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2014/03/30 23:28

 マブラヴ・オルタとスパロボαシリーズのクロスオーバー作品に
なります。
 同コンセプトの偉大な先達作品がありますが、そちらとはまったく
雰囲気が違う作品になっておりますので、よかったら読んでやって
くださいませ。

 では、こちらの板でも、よろしくお願いします。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  プロローグ
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2014/03/30 02:06
 -新西暦191年10月22日 午前6時30分 日本地区、佐渡島-

 無人の地となった佐渡島、昔金鉱山があったという山、頂に一体の神像の如き人型機動兵器が守り神のように雄雄しく立っている。
 ジャイアント=ロボ、その名で呼ばれる国際警察機構所属の、スーパーロボットである。
 そのロボットの足元に佇む少年が一人、明けつつある夜に背を向けて、日本海を、その先にある大陸を強い眼差しで見据えている。
 彼の名前は草間大作。かってバルマー戦役に参加した少年も、今は十六歳になっていた。

「少し、寒いかな」
 夜半にこの場所に来て、六時間弱。人外と言っていいレベルまで鍛えられた彼の身体にはそんなに辛い寒さではないが、ふと呟いた。
 ここが『大怪球ビック=ファイヤ』を抑える最終ラインなのは、身にしみて分かっているはずなのだが、一人でこの場で待ち続けていても、緊張も気概もない。簡単に言うとボーっとしているというのが一番近いかもしれない。
「大丈夫なのかな、僕・・・・・・」
 苦笑して、傍らにある彼の半身、ジャイアント=ロボの脚を軽く叩く。
 大怪球戦に向けて、ロボの修理大改造が終わったのが、半日前。外見的に胸部がわずかに膨らんだのと、背部のロケットブースターが変わった程度の差異しかないが、ロボの原動力であった原子炉が、この戦いの為、超小型縮退炉に変更されていた。
 一週間前、ロボは今、世界を危機に陥れている『大怪球ビック=ファイア』と戦い、無残にも敗れ去っていた。
 大怪球は、その周囲十キロにある全ての物体のエネルギーを消滅させるフィールドを発生さえていた。近接戦に持ち込む以前に、接近しただけで動けなくなってしまったロボは、大怪球の要塞並の火力に抗うことができず、その巨躯をパリの街に沈めてしまったのだ。
 それから一週間、時速百キロにみたないスピードでありながら、大怪球は東進を開始。一週間のうちにユーラシア大陸の大都市に壊滅的ダメージを与え、そして今、日本に近づいている。
 直径一キロの球体、その進行方向には、巨大な機械の瞳、それが大怪球『ビックファイア』の外見。その球体の中には、大都市を瓦礫の山に変えるのに一時間要さないほどの各種兵器が内臓されている。そして、遠距離からの光学兵器による狙撃においても、現地球圏における最大の威力を誇る、バンプレイオスのトロニウウムバスターキャノンですら防ぎきる程の防御能力を誇っていた。
 その後、バンプレイオスは限界を超えた出力での攻撃の余波で中破してしまう。
 タイミングも悪かった。今、地球圏でこの大怪球に対抗できる特機、そのパイロットが銀河各地に散っているのだ。BF団も絶妙のタイミングで作戦をしかけてきた。
 この最終作戦『超電磁ネットワイヤー作戦』に参加するのは、ジャイアント=ロボの他に、北米基地から参加の獣戦機隊、火星から援軍に駆けつけてくれたダイモス、そして・・・・・・
 上空を大型輸送機が通過していく。その輸送機から何か人型の物が離れていくのを、大作は見上げていた。
 高度千メートルくらいだろうか、その人型の物は減速もせず、人間のように膝を曲げて着地姿勢をとっている。
 そして、それはその自重からは信じられないほどの、静かな着地をロボの前で決めて見せた。二年以上稼動していなかった機体とは思えない動きだ。
 蒼い、細身の、まるで人間のようなフォルム、そして特徴的な一本角、所々に改修は入っているようだが、その全体像は大作の記憶にある四年前の物と殆ど変わっていない。それが大作には嬉しかった。
 腕時計に通信が入る。文字盤が開き、その裏にある、小さなモニターに、一人の少年の顔が映った。最後にあった時よりずっと大人びていたが、その面差し、優しげな眼差しは変わっていない。モニターの少年が笑った。
『久しぶりだね、大作君』
「はい! お久しぶりです、シンジさん!」
 こみ上げてくる熱い思いは隠しもせず、大作は笑った。涙が少しこぼれていた。
 草間大作、碇シンジ、四年ぶりの再会だった。
 そして、碇シンジが乗るエヴァンゲリオン初号機も二年ぶりに封印を解除され、この作戦に参加する。
『色々話したいことがあるけど、とりあえず、頑張ろう』
 優しいが、芯が入った声音、わずかな会話の中でシンジの成長を感じながら、大作は頷いた。
「はい!」
 状況は圧倒的不利、成功率は二割を切っている作戦だ。しかし、大作に不安はなかった。
 これ以上ないくらい、心強い仲間が、また一緒に戦ってくれるのだから。
「ロボ、いくよ」
 大作の声を受けて、ロボがその新たな命の鼓動を刻み始める。
「勝負だ、BF団!!」
 超電磁ネットワイヤー作戦が始まった。

 BF団の一大侵攻に対応できる特機が少ない理由がもう一つあった。この作戦決行の三日前、日本、早乙女研究所において、ある事件が起きていたのだ。
 真ゲッターロボの突然の暴走である。

「リョウは・・・・・・?」
 ゲッターロボG、ライガーのコックピットに座りながら、神 隼人は何百回目になるかわからない質問を、研究所オーダールームに居る早乙女博士に尋ねた。
『依然、こちらからの応答には応えない・・・・・・ なにやら呟いているようだが、それも聞き取れん・・・・・・』
 疲労と苦渋に満ちた返答も変わらない。
 三日前、大怪球対策に真ゲッターロボの起動実験を行う為に、ゲッターチームリーダー、流 竜馬が真ゲッターロボに搭乗した。その瞬間といっていいタイミングで真ゲッターロボの炉心が、突然暴走してしまったのだ。この二年、ゲッター線の照射量は減少を続けている。もう、真ゲッターロボを起動させる為のゲッター線採取は不可能と思われていた。
 今回の実験も、「動いたら儲けモノ」程度の気持ちで、竜馬が提案し、軽いノリのまま実験となったのだ。
 今、真ゲッターは格納庫の床を溶解し、そのまま僅かずつ地中に沈降を続けている。現在、地中二百メートルの位置にあった。
 観測カメラに映る真ゲッターロボは、白く鈍く輝いている。観測されているゲッター線の数値は、過去最大を記録していた。今、真ゲッターロボのエネルギー充填率は三百パーセントに達している。
 その過剰なゲッター線の中にあって、未だに流 竜馬が生きていることが、すでに奇跡と言っていいレベルの話なのだ。
 多分、ゲッター線の申し子、と言われる竜馬だから、今の状態であっても、その存在を保っていられるのだろうと隼人は考えている。ゲッター線研究者としては、すでに早乙女博士に迫る、とさえ言われる隼人だが、ゲッター線自体を一番理解しているかと言われれば、首を横に振るだろう。
 流 竜馬という男は、この世界の誰より、ゲッター線を理解している。その存在の本質を。隼人と、そしてゲッターチームの車 弁慶には、その事がよくわかっている。
 二人は口に出してはいないが、こう思っていた。
 流 竜馬は、ゲッター線に選ばれた人間なのだ、と。
『まずいな、ハヤトよ』
 隼人が作った試作ゲッターロボに乗る車 弁慶から通信が入る。彼が乗るゲッターロボは、ゲッター炉を動力源にせず、プラズマリアクターを使用した試作品だ。八割ほどの完成度だが、変形しなければ問題ないというテストパイロットの弁慶の言により、出撃していた。
「あぁ、わかっている・・・・・・」
 地球連邦政府から、今回の真ゲッターロボの暴走に対して、通告があったのが昨日。
 10月26日正午までに、暴走が収まらなかったら速やかに、真ゲッターロボを破壊せよ。それが通告の内容だった。大怪球で世界が大パニックであるにも関わらず、旧αナンバーズを過剰に恐れる現政府は、早乙女博士の意見も聞かず、臨時議会で決定してしまった。
 あと六時間程で、この状況を劇的に解決できるだろうか・・・・・・ 近づくこともままならない今の状況では、その可能性はゼロに等しい。
 早乙女研究所の周囲を囲むように、日本地区が誇る特機が配置されている。グレートマジンガー、鋼鉄ジーグ、エヴァンゲリオン零号機改、同弐号機。そして、GGGの誇る勇者ロボ、炎竜、氷竜。ビックボルフォック。
 彼らは真ゲッターを破壊する為に、待機しているのだ。皆、隼人と弁慶を信じて、時間ギリギリまで待ってくれている。本心から真ゲッターを破壊したいと思っている者は一人もいないだろう。
 しかし、彼らもまた、焦っている。
 本来なら、彼らも、もうすぐ発動する『超電磁ネットワイヤー作戦』に参加するはずだったのだ。
 作戦に参加するαナンバーズの仲間たちは、自分達がここで待機となってしまった為に、さらに少ない戦力で、作戦に望まなくてはいけなくなったのだ。
 特にエヴァのパイロットの少女二名は、今この時も焦燥感に駆られる自分を必死に自制している。
隼人にはそれが痛いほどわかった。
 本来、超電磁ネットワイヤー作戦には三機のエヴァンゲリオンを使い、大怪球を押さえ込むことが組み込まれていたのだ。
 それをエヴァンゲリオン初号機のみで行うことになった時、弐号機パイロット、惣流=アスカ=ラングレーと零号機改のパイロット、綾波レイの反抗は凄まじかった。今の二人には碇シンジ以上に大事なモノはないのだから。
 それを笑顔で勇めて、死地に向かったシンジ。その事を思うだけで隼人も歯がきしむほど、奥歯をかみ締める悔しさを感じる。
 自分の無力をこれほど感じたことはない。今までの自分の研究は何だったのだと自責する。
『隼人くん、弁慶くん、始まったぞ!!』
 早乙女博士の声で我に返る隼人。ゲッターロボGのゲッター炉の運転を完全停止、だがそれでもこの機体にも暴走寸前のエネルギーがあふれている。その増加は緩やかだが止まらない。
 浅間山を望む早乙女研究所の威容が、内部から崩れていくのがわかった。六輪バギーで研究所から退避する早乙女博士とその娘のミチル、二人とも過剰ゲッター線に備える為に、大袈裟ともいえる防護服に身を包んでいた。ギリギリまでオーダールームにいた彼らだが、もう限界だった。なぜなら・・・・・・
 崩れていく早乙女研究所から十数体の、人型のロボットが現れた。
 真ゲッターロボの暴走により、廃棄していた試作ゲッターロボの数々が、動き出したのだ。装甲もろくについていない、骨組みだけのモノから、完成間近の機体まで、操縦者もなくただ動いている、その様はロボットというより、巨大な物の怪のようだった。
 ゲッタービームの試作に使ったらしい機体が、四方八方にビームを撃ちまくる。ゲッター2の試作らしい機体がドリルを回転させ、こちらにゆっくりと近づいてくる。
 廃棄ゲッターの暴走は、昨日の時点で予想できていた。隼人が今、ゲッターGに乗っているのも、このままだと、この機体も暴走する可能性があったので、直に制御する為だったからだ。
『隼人! こいつら!!』
「お前達は、手を出すな!!」
 グレートマジンガーのパイロットである剣 鉄也からの通信。だが、その先は言わせず、隼人はゲッタードラゴンをそのままその廃棄ゲッターロボに向かわせる。
 ダブルトマホークで、まずゲッター2のアーキタイプらしいロボットを両断する。炉心停止状態でこのパワー、すでにこの機体もいつ暴走するかわからない。だが・・・・・・
「これくらい御せんで、何がゲッターチームだ!」
 いつになく熱くなる隼人。自身に対する怒りをぶつけるように廃棄ゲッターを次々と葬っていく。
 だが浅間山周辺にいる誰も気づいていなかった。
 廃棄ゲッターの暴走が起きた時間、それは『超電磁ネットワイヤー作戦』の開始時刻だった。


「これより、『超電磁ネットワイヤー作戦』を開始します」
 国際警察機構本部の置かれた、『南の梁山泊』。この作戦の総指揮を任された呉学人は緊張した面持ちで、手に持った扇子をパチンと畳む。
 その音が合図になったように、作戦司令部内の様々な計器、モニターが活動を開始する。
 正面大モニターには、黄海上空に浮かぶ大怪球が浮かんでいる。数時間前、北京を破壊した
大怪球はその進路を日本地区の東京に向けた。
 この作戦が失敗に終わったら太平洋に抜けた大怪球を止める術は無い。そうなった時は最終手段、九大天王『静かなる中条』によるビックバン・パンチを使用することになっていた。
 すべてを破壊する、とまで言われるビックバン・パンチ、それでも破壊できなかった場合は、太平洋上でのバスターマシンによる最終迎撃、となっている。ガンバスターによる迎撃、そうなった場合、地球上、とくに太平洋沿岸都市には多大な影響が出ると予想されている。最悪、地軸すらずれる、との試算すら出ていた。
 国際警察機構、いやこの最悪の襲撃におびえる人類の願いを込め、『超電磁ネットワイヤー』作戦は開始された。

『さぁ、いくぜ、一矢!』
『おぉ! ダイモスのパワー見せてやる!』
 通信機に入るこの作戦に参加する二機の特機のパイロットの声、ダイモスのパイロットの竜崎一矢とは面識はないが、ファイナル・ダンクーガのメインパイロットの藤原忍の声は相変わらずだ。
 大作は今、ロボの左目の中にいる。これからの攻撃に備えるために急造された、簡易コックピットだ。
 コックピット、と言ってもあるのは通信機と小さなモニター、それと磔をおもわせる拘束装置のみ。ロボの左目の中をくりぬいたような状態なので、完全有視界となっている。
 その拘束装置に身体を固定した大作。モニターには、現在の大怪球ビック=ファイヤの現在位置が映し出されている。朝鮮半島上空を通過中。対馬にいる獣戦機隊の乗機ファイナル・ダンクーガが行動を開始した。
『やぁぁぁぁぁってやるぜっ!!』
 藤原忍お決まりの咆哮がとどろいた。

 作戦第一段階。
 対馬北端、そこに立つファイナル・ダンクーガ。その巨人の手には、巨大な黒い筒のようなモノが握られていた。
 これこそ、この作戦の要となる、超電磁ワイヤー発生装置。南原コネクションが主導になり、世界の頭脳が一同に介し造り上げた叡智の結晶。
 ダンクーガのエネルギーを起動に使い、発生させる超磁力のビームが、ここから百キロ離れた大怪球に放たれた。
 朝鮮半島を超え、日本列島に向かう大怪球に、そのビームの奔流が衝突する。
 大怪球が、活動開始後、その移動速度に減少を見せた。国際警察機構のエージェントが、大怪球が通った後に、磁力線にだけは何の影響もなかったことに気づいたことにより、立案されたこの計画。
 第一段階、大磁力のエネルギーによって大怪球の行動を阻む、は何とか成功したようだ。
 だが、問題もあった。
 シールドにシールドを重ねたが、コンバトラーVが何機も寄って集ったような大磁力は、ファイナル・ダンクーガの機体各所に、ダメージを蓄積させていく。
 高周波治療器を数十個つけられたような痺れが、各パイロットの肉体を襲っている。本来、二機の特機でやるはずだったこの第一段階を、単機で行っているツケが、獣戦機隊の五人のパイロットに襲い掛かっていた。
「くぅぅぅ! てめえら、負けんじゃねぇぞ!」
 忍の檄に応えられたのは、アラン=イゴールと、司馬 亮の二人だけ。式部雅人と結城沙羅の二人は、操縦桿を握っているだけで精一杯という有様だった。
 磁力ビームの影響か、内臓火器が収納されている場所から火花と小爆発が置き始めている。
そして、ついに大怪球ビック=ファイヤの進路が、徐々に北にずれ始めていた。
「くっ・・・・・・ ふ、藤原、もってあと、三分ってところだ・・・・・・」
 アランの報告に、忍はともすれば消えそうになる意識を必死に抑え付けて、歯を食いしばる。
「た、たのんだぞ!! 一矢!!」

「おぉ! ダイモライト、フルパワー!!」
 竜崎一矢の絶叫が響く。
 作戦第二段階。
 能登半島北端に待機していたダイモス。その手は、ダンクーガが持っていた磁力ビーム発射装置をさらに大型にいた装置が。その装置とダイモスは一体化しており、装置自体も地面に固定されていた。
「お兄ちゃん、しっかり狙ってよ!」
 安全圏である五キロ離れた場所に控える和泉ナナの声援。一矢の親友である夕月京四郎も傍にいるはずだ。
 この作戦のために備え付けられた特別モニターに映るのは、視界のはるか先にいる、巨悪、大怪球。
 今、ダイモスの手が、この発射装置のトリガーを押そうとした時だった。
 突然ダイモスの周囲に、無数の人影が出現した。ナナと京四郎が待機する指揮車の周りにも、謎の人影が、突然、出現した。
「故人曰く・・・・・・」
 驚くナナを背後に庇い、京四郎は背中の剣を抜刀。覆面をした黒ずくめの侵入者、BF団の下級戦闘員が両断される。
「備えあれば、憂いなし、ってな。先生方、出番だぜ!!」
 京四郎の声を合図に、沸きあがる無数の影、影、影。
 国際警察機構のエキスパートたちが、BF団のエージェントを殲滅する為に動き出した。
 ダイモスに近づこうとする戦闘員たちも、周通、解珍、解宝ら国際警察機構選りすぐりのエキスパート達が次々と倒していく。
「いくぜぇ! 大怪球!!」
 一矢の咆哮と共に、放たれた磁力ビーム第二弾。
 遥か彼方、大怪球に向かい、そして命中。すでに大怪球を被っている磁力光線に合流する。
 その時、大怪球の移動速度が目に見えて急上昇した。
 いま、大怪球を被っている磁力線がプラスの属性を持つとすれば、ダイモスから放たれた磁力光線はマイナスの属性を持っていた。
 大怪球は、しごく単純な物理法則によって、能登半島に急速に引き寄せられていく。その速度はすぐに音速を突破していた。
「く、くぅ・・・・・・ は、早く来い! 大怪球!!」
 照射一分で、すでにダイモスのコックピットの中は異常を示すアラートが鳴り響いていた。
 しかも、この磁力光線発射装置は、ダンクーガが使用している物より出力が五割増しになっていた。超人的体力を持つ一矢でも、意識を保つだけで精一杯の状況だ。
 だが、ここで自分が倒れては、獣戦機隊にも、自分を信じてこの場を託してくれた仲間にも、そして自分を信じて待つシンジにも顔向けて出来ない。
「踏ん張れ、ダイモス!! ここが正念場だ!!」
 一矢の気合が能登半島に轟く。

『はじまったみたいだね・・・・・・』
 通信機に入ったシンジの声は、静かに、澄んでいた。緊張も気負いも感じられない。大作も先ほどから何度も、焦る気持ちを、彼の声によって静められていた。
 今、佐渡は戦場になっていた。
 BF団はこの場に、切り札ともいえる十傑集、『素晴らしきヒッツカラルド』『直系の怒鬼』『暮れなずむ幽鬼』の三人、そして戦闘集団『血風連』を投入してきた。
 迎え撃つ、国際警察機構も九大天王『影丸』『ディック牧』『大あばれ天童』の三人のほか、梁山泊の指南、花栄と黄信ほか、選りすぐりのエキスパートを配置し、この決戦の地の防衛に当たっている。
 二人がいる山頂は静かなままだが、その静寂を守るために、仲間が死力を尽くしていると思うと、大作は歯噛みをする思いになる。
 しかも、この作戦、成功しても命の保障がない。ロボが大怪球の破壊に成功したとしても、その破壊の余波がどこまで及ぶか、試算すら立っていないのだ。
 佐渡島だけじゃなく、日本海沿岸都市部全てに避難命令が出ているのは、その為だった。
 佐渡島消失、となったら、敵も味方も無事ではすまないはず。
 これは、まさに死戦なのだ。
『第二段階成功、第三段階、準備開始。いくよ、大作くん』
 カウントが始まった。作戦開始一分前。
『ねぇ、大作くん』
 普段通りの平静な声で、シンジが言う。
「は、はい」
『この作戦終わったら、家に遊びにこない? 今、アスカとレイと一緒に住んでるんだ』
 この場面で、この誘い。大作は驚いて、なんて返せばいいかわからなくなってしまったが、シンジは続ける。
『僕、いま紅茶淹れるのに凝ってるんだ。レイもケーキ作るの好きだし。カトル君も呼んでもいいかもね。どうかな?』
 この作戦の後のことを言われても・・・・・・ と戸惑う大作だが、すぐにシンジの好意に気づいた。彼は言外に死ぬな、と励ましてくれているのだ。自分の命の保障すらないこの時に。
「はい、お伺いします!」
 大作の中から、緊張とか恐怖とか余計な感情が完全に晴れた。
 音速を遥かに超えたスピードでこの佐渡島に接近する物体を探知、来た、諸悪の根源、大怪球ビック=ファイア!
 激突の瞬間が迫っていた。

 同時刻、浅間山山麓。
「な、なんだこのエネルギーは!?」
 隼人は目の前の光景に飲み込まれそうになるのを、必死にこらえていた。
『ゲッター線指数、999って、おい隼人!!』
 ゲッター線指数999、が意味するもの。それは真ゲッターのエネルギーによって計測が不能な領域に達したということだ。
 先ほどまで無分別に動いていた廃棄ゲッターロボをスクラップにしていた隼人操るゲッタードラゴン。
 だが、つい一分ほど前、とつぜん廃棄ゲッターロボの動きが止まったのだ。そして、ゲッタードラゴンも。
 その瞬間、早乙女研究所は突然、太陽がその場に出現したかのような眩い光に包まれた。
 光は、徐々に広がっていく。その光は廃棄ゲッターロボを飲み込み吸収し始めていた。
 光の中に陽炎のように揺らめく影、真ゲッターロボが何とか視認できる。その真ゲッターロボに、廃棄ゲッターロボが吸収されているように隼人には見えた。
「な、なにが起こっているんだ!!」
 その光の中に、ゲッタードラゴンもジリジリとだが引き寄せられている。弁慶の試作ゲッターロボが何とかそれを抑えていた。
-ゲッターは・・・・・・ ゆるさない・・・・・・-
 焦る隼人の耳に、いや心の中に響いた声。流 竜馬の声、いや、これは真ゲッターロボの声か?
-ゲッターは、その、存在をゆるさない・・・・・・ だから、いく・・・・・・-
『い、いくってどこにだよ、おい!!』
 弁慶にも同じ声が聞こえているらしい。
 隼人は、直感的に感じていた。この時、この瞬間のために、真ゲッターロボは力を貯めていたのだと。
 そこへ向かう為に。わかってきた、真ゲッターロボが、ゲッター線が何を望んでいるのか。
『隼人、弁慶! 何がどうなってるのよ!? みんな、気絶しちゃったわよ!!』
 金切り声の通信が入る。アスカにはわからないのが、今の隼人にはわからなかった。今、ゲッター線に包まれている自分には、あらゆることが全てが理解できた。
 ゲッター線の過剰摂取により、周りにいる人間は気絶してしまった。勇者ロボでさえ、ゲッター線の影響で活動不能になっている。しかしエヴァンゲリオンはATフィールドを展開し、ゲッター線を遮った。だから、この場で意識があるのは隼人と弁慶の他は、エヴァのパイロットの二人だけだろう。
「心配するな、アスカ、レイ」
『ちょっと、旅に出るだけだ』
 弁慶の声も先ほどとは違い、穏やかなものになっている。彼もわかったのだろう、ゲッターの意思が。
『旅ぃ! な、なに暢気なこと言ってるのよアンタ達!』
 アスカの声が聞こえなく、いや気にならなくなっていた。
 そうだ、行くのだ。その世界に。
 人類を救う為に。
 ゲッター線は、人類の守護者なのだから。

 作戦第二段階は最終段階を迎えていた。
 この場所に誘引されている大怪球。このままではダイモスに衝突することになる。一矢の気持ちとしては、このまま蹴り飛ばしたいところだが、大怪球が十キロ圏内に侵入したら、常時展開しているエネルギー吸収フィールドに寄って、稼動停止に陥ってしまう。だから・・・・・・
 
「エネルギーカット!!」
 藤原忍が、絶叫と共に、全機能を停止させるボタンを押した。ファイナル・ダンクーガは出来の悪いオモチャのように、五機の獣戦機がバラバラになる。
「だ、大作、シンジぃ・・・・・・ あとは、まかせたぜ・・・・・・」
 忍はそう言うと、抗いがたい闇の中に意識を沈ませていった。

 対馬からの磁力光線が途絶えた。
「いっけぇ~~~~~~!!」
 いま、大怪球はダイモスが持つ発生装置からの光線だけで引っ張られている。ダイモスは固定していた磁力光線発生装置を地面から引き剥がした。
「うぉりゃ~~~~!!」
 そのままゆっくりと横に振られる発生装置。その光線の先にある大怪球も、なんとその勢いにのって軌道を変えていた。
 今、ダイモスが持っている発生装置から発射されているビームは先ほどまで違う、吸引製のトラクタービームのような性質を付加されていた。
 ハンマー投げのハンマーのような状態の大怪球は、大雑把ながら計算された軌道を見事に取って、進路を変えた。
 最終決戦地、佐渡島へ。
「シンジ、頑張れよ・・・・・・ ジャイアント・ロボ、後は・・・・・・」
 最後の力を使い果たした竜崎一矢、そしてダイモスも崩れ落ち動かなくなる。
 
 大怪球は今、マッハ5のスピードで、佐渡島へ向かっている。作戦は最終段階に入る。

「ロボ、いくぞ!!」
 大作の声に呼応するように、ロボのエネルギー値が急上昇していく。いま、ジャイアント・ロボは白く輝いているはずだ。
 その場にあるだけで、地面が溶けて陥没していく。
 今のジャイアント・ロボのエネルギー量は、かっての十倍にまでパワーアップされていた。
 エネルギー吸収フィールドは、一瞬でエネルギーを吸収しているわけではない。その吸収能力が凄まじいので、一瞬ですべて吸い取られたようにみえるが、前回、ロボが大怪球に挑んだ時に、フィールド突入から動かなくなるまで0.8秒かかっていた。
 なら、十倍のエネルギー量なら動かなくなるまで八秒。その八秒の間に、ジャイアント・ロボの最大の一撃を叩き込む、これがこの作戦の最終段階であった。
 シンジの役目はATフィールドによって、佐渡島島内に大怪球をとどめること。エヴァ初号機のATフィールドの網にかかった瞬間が攻撃開始の合図になっている。
 ジャイアント・ロボが背中のロケットにより急上昇していく。このまま上空一万メートルまで上昇し、そして反転、最初にして最後の攻撃に入る。
 刻は迫っていた。

「フィールド全開!!!」
 二年ぶりに乗るエヴァンゲリオン。半年に一度ほど、簡単なシンクロテストは行っていたが、動かすのはあの霊帝との最終決戦以来だ。
 現連邦政府内ではエヴァンゲリオン初号機は特に危険視されており、封印指定すら受けていたのだ。シンジ自身、二度と乗れるとは思っていなかった。
 久しぶりのエントリープラグ、LCLの中、シンジは自分でも不思議なくらい、落ち着いていた。
 シンジは、この作戦に入る前、エヴァに乗り込んだとき、言葉にできない何かを感じていだ。それは母、ユイのようであり、それ以上の大きな何かのような、不思議な何か。
 それに導かれている、その思いが今の最高の状態を作っているのだろう。
 視認した次の瞬間には、大怪球は、シンジの目の前、といっていい場所まで飛来していた。
 エヴァから放たれた過去最高とも思える大出力ATフィールドが、その巨大な球を受け止めた。
あたりに凄まじい衝撃が余波として広がる、エヴァも一キロほどその勢いで地面を削り後退した。
 だが、シンジは最大の難関、大怪球の捕縛に成功した。

『うわぁぁぁぁあぁああああああぁ!!!!』
 エヴァを操るシンジに、どれくらいのダメージがあるのか、わからない。今の絶叫は悲鳴なのかもしれない。
 だけど、シンジはやってくれた。いま、自分のほぼ真下に、大怪球ビック=ファイアがいる。
 深く息を吸い込む、そして思いのたけを言葉に乗せる。
「ロボ!! あいつをやっつけるぞ!!」
 上空一万メートル、ジャイアント=ロボが非常識な大加速をかけ、降下していく。

「ちょっと、マズイわよ、これ~~!」
 今、アスカの前に広がるのは、鈍く光る白色の光の壁。動けない仲間を抱え引きずってジリジリ後退している。
 隼人も弁慶も妙なこと口走ったあと、何の連絡もよこさない。これはマズイと本能的に感じ、いつでも逃げ出せるように構えていると・・・・・・
『アスカ、何か聞こえない?』
 少し離れたところでビック・ボルフォックと鋼鉄ジーグを抱えているエヴァンゲリオン零号機改にのる綾波レイから通信。ちなみにアスカの弐号機は、グレートマジンガーと超竜神を引きずっている。
「え、アンタも何いって・・・・・・」
 と言い返そうとしたアスカだが、その時、アスカの耳にも何か届いた。言葉ではなく、思いのような、説明できない何かが。
「これ、シンジ・・・・・・?」
 何気なく、動く首。向いた方向には浅間山があるだけで、何も見えない。だけど、この先にはたしか佐渡島が。
 そして天空から空を裂くかのような勢いで降下してくる物体が。あれは多分ジャイアント=ロボだろう。作戦は最終段階に入ったみたいだ。
 あと三秒もしない間に、決着はつくはず。
 思わず、息を呑んだアスカだが、すぐにあることに気づき、再び首をめぐらした。
「え!?」
『・・・・・・な、なに?』
 レイも気づいたようだ。そう、さっきまで間際にあった白い光が消えていた。そこにあるのは、廃墟と化した早乙女研究所だけ。真ゲッターロボもゲッタードラゴンもネオ・ゲッターロボも、廃棄ゲッターロボの残骸すら残っていない。
「どういう、ことよ・・・・・・」
 その時、凄まじい光が世界を照らした。慌ててまた、その方向にむく。さっきまで見ていた場所と同じ、あれは佐渡島のある辺り・・・・・・
 光は一秒もない時間ですぐに消えた。
「シンジは、無事、なの・・・・・・?」
 アスカの心から毀れたような問いに、答えられる者はいなかった。

 大作の頭から時間の感覚が消えた。
 身体が中からバラバラになりそうなほどの加速、だが目は、意識は大怪球を捉えている。
 ロボが右腕を振りかぶる。この一撃のために今までがあったのだ。
 エネルギーは急速に減少しているが、関係ない。一撃、一撃分のエネルギーが残ればいい!
「いっけぇ~~~~~~~、ロボォォォォ!!」
 自分の中の全ての思いを乗せ、ロボが大怪球にパンチを叩き込んだ!!

 その時だった。

 白が世界を包んだ。鈍く、淡く、だけど眩しい、例えようのない光。
 それが大作の意識に残った最後の光景だった。


 1998年 12月

 横浜ハイヴが謎の消失
 ハイヴ跡に生じた巨大クレーターの中から、生存者二名が発見される。
 生存者氏名 『白銀 武』 『鑑 純夏』

 そして世界は、新たな歴史を刻み始める。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第一話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:361a872e
Date: 2014/09/14 03:31
 2001年 10月22日
 
 日本帝国 帝都城

「悠陽様、悠陽様!」
 朝食を終え、元枢府に政務に向かう前のわずかな憩いの時。
 自室で合成の紅茶を飲んでいる煌武院 悠陽のもとに慌しい少女の声が響いた。
「なんですか、鑑? 落ち着きなさい」
 その少女の慌てっぷりにわずかに苦笑しながら、悠陽は嗜めるように言う。この少女を手元に置いて二年以上たつが、城内の雰囲気に染まらない彼女の言動は、いつも悠陽を楽しませてくれる。
「こ、光神(こうじん)様が、な、なんか言ってます!!」
 少女、鑑 純夏は意味不明な身振り手振りを交えて、悠陽に言う。白い、神職の神子の装束を纏った彼女だが、その神秘性を台無しにするパニックぶりだ。
「光神様が?」
 悠陽も驚き、席を立つ。光神に近づき、何かしらの意思を感じられる彼女を、神子に据え、手元に置いておいたのはこの時の為だったのだが、やはり驚嘆は隠せない。
「こ、こんな強いお、おとこば、じゃなくてお言葉は、初めてです! 武ちゃんもそう言っています!!」
 もう一人の神子にして、悠陽付きの武官である白銀 武もそう言っているのなら、間違いはないだろう。
「誰かある!」
 凛とした声が響く。別室に控えていた侍従が、悠陽の言葉を聞き、すぐに悠陽の御前に現れ、畏まる。
「香月博士に連絡を! 私は鑑と共に横浜へ向かいます! 鑑、良いな!」
 国の威光を背負う少女の言葉に、誰も意を唱えるものはいない。
「畏まりました、悠陽様」
 純夏も役職を思い出したのか、面を正し、伏礼でそれに応える。
「悠陽様、準備は整っております」
 そして現れたのは、少し意匠をアレンジした、黒の斯衛軍の制服を着た少年、白銀 武。若干十七歳でありながら悠陽の御付武官筆頭を任ぜられ、悠陽の信任も純夏同様篤い。
「わかりました」
 厳かに応じた悠陽だが、その場を離れようとしない武を見て、咳払い一つ。
「わかりました、と言ったのですよ白銀」
「はい」
 再び咳払い。だが、武はその意味を察しているのかいないのか、一向に退室しない。多分、いつのも悪ふざけだろう。悠陽は、頬を赤らめながら、言い放つ。
「着替えるから、席を外せ、と言っているのです!」
 恭しく控えていた武だが、ひっかかったとばかりの良い笑顔を見せてきた。この笑顔に何度やられたことか、と悠陽はさらに頬を染める。
「いや、ソレガシこれでも悠陽様付き筆頭武官、悠陽様の身の安全の為、例え火の中閨の中、どこへなりとも・・・・・・」
 他の者が口にしたら、不敬罪で銃殺刑確定のセクハラ発言をする武。だが、その悪ノリtも、地の底から響くような純夏の声で中断される。これもいつもの事だ。
「た~け~る~ちゃ~ん~~!」
 メラメラと憤怒のオーラを立ち上らせ、武の背後に立つ純夏。それで武の軽口もピタっと止まる。
「馬鹿な事言ってないで、とっとと行くよ!」
 耳をつまんでつねって引っ張る純夏に、悲鳴を上げながら連行されていく武。今日は、『衝撃みるきぃ殴打』が出なかった分、ましな方だろう。
 今のような二人のやり取りも、悠陽の心を和ませてくれている。苦笑と共に着替えを始める悠陽。
 予言にあった言葉が指していたのは、今日なのだろうか?

 
 旧横浜

 全ての政務をキャンセルし、横浜、『光神の地』に悠陽が着いたのは午前十時少し前だった。
 武と純夏が乗る黒い瑞鶴改、月詠真耶率いる第一独立警備小隊の武御雷三機、それに悠陽自ら搭乗する武御雷一機のみという、平時では信じられない警護内容で、全ての反対諫言を振り切ってこの場に向かったのだ。今頃、城内省では上へ下への大騒ぎだろう。
 零式衛士強化装備に身を包んだ悠陽が、降着姿勢をとった武御雷から降りてくる。それに続いて、武操る瑞鶴改からは、桃色基調の強化装備に身を包んだ純夏が降りてくる。他の者は降りずに、この場の警戒に当たっている。
 草木生い茂る旧横浜、『光神の地』。そこにあるのは直径三キロ、最深部深度一キロのすり鉢状の巨大クレーター。
 その最深部に、白く鈍く光る光源がある。それこそが、『光神』と名づけられた物。三年前、この地に光臨し、一瞬で横浜ハイヴを消失させた、奇跡の光の源。
 『光神の地』、三年前、そこにあったのは地球人類の敵、BETAの巣とも言える横浜ハイヴ。
「どうです、鑑?」
 クレーターの縁ギリギリまで進み、そのクレーターに手を翳す純夏。『光神の地』の結界に、入れるのは、純夏と武の二人のみ、他の人間が、このクレーター内にわずかでも立ち入ると、瞬時に昏倒してしまうのだ。機械探査を行おうにも、このクレーターに入るとすぐに機械は機能不全を起こす。純夏と武が、『神子』として、帝国に篤く庇護されているのは、これが大きな理由だ。
「すごいです、一年前とは大違い、です・・・・・・」
 目を閉じ、手を翳し集中する純夏。前に反応があったのは、一年前、ソビエト連邦が米国と共同で行ったエヴァンスクハイヴ攻略作戦の時だった。
 米国がG弾をハイヴを投下した直後、光神はわずかだが反応を見せた。純夏はそれを『なんか少し不機嫌になっている』と読み取り、光神研究者の香月夕呼を苦笑させたものだ。
「あ、こ、言葉が、しっかりした言葉が聞こえます! え、何、何ですか?」
 光神は純夏の呼びかけに応えてくれたことはない。ただ、一方的に意思を示すだけだ。
「鑑、光神様はなんと?」
 興奮を隠せず、悠陽が訊ねる。それが本当なら、純夏が最初に、そして唯一聞いたという光神の言葉の続きかもしれないのだ。
「え、えっと、くる、『来る』っ言ってます。それと・・・・・・ 『はじまる』、さどがしま? あ、『佐渡島』
って!」
 来る、始まる、佐渡島。地名が出てきたことに悠陽は少し驚いた。それに佐渡島と言えば、日本最大の脅威とも言える甲二十一号目標、佐渡島ハイヴがあるとことだ。なにか関連があるのだろうか?
 膝の丈ほどまで伸びた、ススキのような植物が、一斉に風に揺れた。空を仰ぐと驚くほど近くに大型ヘリが迫っていた。消音装置があってもここまで気づかないとは、悠陽は思った以上に興奮していたらしい。
 ヘリは、護衛戦術機が駐機する横に着陸、ローターが止まる前から後部ハッチが開き、白衣に国連軍の服を身に着けた女性が、こちらも特別誂えの国連軍制服を着た小柄な少女を引き連れ、降りてきた。少女の頭についたウサギの耳のようなアクセサリーがかわいらしい。
 独自の変異を遂げた草が、この辺り一体を被っていた。これも光神の影響だろうと調べたのは、いまこちらに向かっている女性。国連軍新潟基地副司令他、様々な肩書きをもつ女傑、香月夕呼博士だった。趣味、として光神の研究も行っている。
「殿下がそのような格好でお出でとは・・・・・・ 白銀に目で犯されますわよ」
 軽く頭を下げ、苦笑まじりにそう挨拶する夕呼。新潟からにしては随分早い到着だ。彼女も面には出さないが慌ててこちらに駆けつけたのだろう。
『は、博士、何言っているんですか!?』
 集音マイクで夕呼の声を拾った武が、外部スピーカーで慌てて文句を言う。ただでさえ、悠陽に馴れ馴れしいと不評を買い捲っている状態なのだ。横に控える月詠真耶中尉の武御雷のもつ突撃砲の銃口が自分に向いているのも、背中に冷汗を滴らせる原因になっている。
「もう、慣れました」
 身体のラインを際立たせるどころじゃない強化装備、待機服を羽織ってくればと後悔するが、今はそれどころじゃないと自分に言い聞かせる。あの武が自分の後ろ姿に視線を注いでいると思うと身を捩りたくなるほどの恥ずかしさを感じるが、それも我慢しよう。
『殿下~~~!!』
 悠陽の切り替えしを聞き、さらに悲鳴をあげる武。三機の武御雷の銃口が白銀機を狙う状態になっていた。
「うるさいわよ、白銀! で、鑑は何と?」
 自分で武を窮地に追い込んでおきながら、あっさり切り捨て夕呼は悠陽の横に立つ。 夕呼の横にいた少女、社 霞は、まず武の乗る瑞鶴改にペコリと頭を下げると、無言で純夏の横に立つ。
「光神様が、言葉を発している、と言っています。鑑と白銀が助け出されたあの日、以来のことです」
 悠陽の説明に、わずかに驚きの表情を面に出す夕呼。
「来る、始まる、佐渡島、今のところそれだけですが・・・・・・」
 悠陽に告げられた三つの単語の意味を、考え始める夕呼。何が『来る』のか、何が『始まる』のかについては想像の域を出ないが、『佐渡島』という単語は興味深い。
 そこから考えると、佐渡島に何かが来る、そして何かが始まる、そう考えられる。
 夕呼の視線が、純夏の横に佇む霞に向く。霞はそれを受けて小さく頷いた。霞は、自身の持つリーディングの能力で、純夏の言葉が、純夏自身から出ているのではないことを確認する役目を担わされていた。頷く、ということは純夏が告げた言葉は紛れもなく光神が発した、ということだ。
益々興味深い。
「あ、あと、『許さない』って聞こえます! え、え~と、なに、げったー? えっと、『げったーは許さない』って、ずっと言ってます」
 純夏がまた感じ取った言葉を、告げてくる。
「げったー?」
 眉根を寄せる夕呼。聴いたことのない言葉だ。英語に当てはめると『GETTER』とでも表記すればいいのか。この出自不明の光神の名前が『GETTER』なのだろうか?
「たしかゲッターといえば、チタンの蒸着膜などに使われる物質のことですね」
 悠陽が博学のところを見せるが、そのゲッターとは違う物だろうと、夕呼は思う。
「たぶん、何がしかの名詞だと思います、そのゲッターという言葉。推測ですが」
  夕呼の言葉に、悠陽も賛意を示すように軽く頷く。だが、そのゲッターが何を意味するのか。二人は無言で純夏の言葉を待つ。
「ず~っと、許さない許さないって言って、あ、な、何? は、はやと? べんけい? しんじ、だいさく? 多分人の名前だと思うんですけど、あ、なんか唸り声みたくなっちゃいました!!」
 意味を持った単語は、それから聞こえなくなり、純夏曰く、『唸っている』ような状態が続いたので、悠陽の許可を得て純夏は手をクレーターから下ろす。さすがに疲れたのか、すこしふらつきながら戻ってくる。
「最後のハヤト、ベンケイ、シンジ、ダイサクっていうのは何なのかしらね?」
 純夏の考えを聞く夕呼。首をひねりながら純夏は、自分が感じたことを口にする。
「えっと、多分、人の名前だと思います。それと、なんかその言葉の時だけ、嬉しいとか、懐かしいとか、そんな感じがしました」
「嬉しい、ですか?」
 悠陽の言葉に頷く純夏。ここで日本人のような名前が出てきたことが夕呼には意外だった。その名前を持つ人物は実在するのだろうか? そして、その名前をもつ人物は、光神となんの繋がりがあるのだろうか。考えても答えは出ない。
「ホント、わけわからない神様ね・・・・・・」
 夕呼が溜息をついた時だった。
 白衣に入れていた通信機が音を立てる。
「何?」
『ふ、副司令、大変です! さ、佐渡島、佐渡島ハイヴが・・・・・・』
 声の主は、ヘリに残した彼女の副官兼秘書の、イリーナ=ピアティフ中尉からだった。冷静沈着な彼女がここまで慌てるのは珍しい。それに、佐渡島とは・・・・・・
「佐渡島がどうしたの?」
 夕呼の問いかけに、ピアティフ中尉は一旦息を呑んでから、ゆっくりと告げた。
『佐渡島ハイヴが、何者かに破壊されました!』
 その言葉はこの場にいた四人全てに聞こえた。皆が同じ思いで顔を見合わせる。
「佐渡島に、何かが来る、そして始まる・・・・・・」
 自身の中に湧き上がる高揚感を抑えきれないのか、悠陽の声は震えていた。
「そして、それは、許さない。たぶん、対象はBETAのこと、でしょうね」
 続けた夕呼も平静を装っていたが、やはり気持ちが高ぶっている。知りたい、今、何が起きているのか、その全てを。
 純夏は霞と手をつないでいた。力強く。そして武が乗る瑞鶴改を見つめる。武も多分、自分達を見つめている。
 純夏が思い出すのは三年前、囚われていたハイヴの深層部で武と引き離されそうになったあの瞬間の出来事。これは悠陽と夕呼、霞の三人にしか告げていないこと。
 純夏と武は、その時、巨人を見たのだ。光り輝く、だけど禍々しい鬼のようなフォルムを持った巨人を。その巨人に助けられた瞬間から、意識は跳んでしまったが、最後に聞いたのだ。巨人の言葉を。
『待っていろ。救いはくる』
 と。それは力強い、男性の言葉だった。その言葉を悠陽に告げ、彼女がそれを信じたから、自分と武は彼女のもとにいる。
 純夏は思う。
 救いは始まったのだろうか? そして、人類は、救われるのだろうか?

【後書き】
 とりあえず、ここまで投稿。細かい設定の違いは、暖かい目で見て
くださると嬉しいです。
 大まかな設定変更については、なんだコイツって感じで見てくださると
ありがたいです。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第二話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:dbec6a78
Date: 2014/03/30 02:04
 佐渡島

 シンジが最初に感じたのは、眩い光だった。白一色の世界。だが、その光はどんなにまぶしくても目を傷めることはなかった。
 そして次に感じたのは、上下左右の感覚の喪失。無重力というレベルではない、感覚すべての喪失だった。
 その戸惑いも一瞬、次の瞬間には今度は急速な落下感覚を味わったと思ったら、物凄い衝撃が来た。三人がかりで背負い投げをくらったような感覚、とシンジが他人事のように感じていると、意識がその衝撃に負けて、暗闇に落ちていった。

 そして、目を覚ますと、見えたのは雲一つない青い空。どうやら、自分、そして自分の乗るエヴァンゲリオン初号機は地面に大の字状態になっているらしい。
 どれくらい意識を失っていたのだろうか? エントリープラグに浮かぶ表示をみると、思ったより短い。多分十分と気絶していない。
 が、同時に感じる違和感。作戦開始は早朝だったはず。それにしては太陽の位置が高い。
 それとある異常を発見。今、エヴァはどのデータともリンクしていない。おかげで現在位置から何からが、不明と出ている。
 エヴァを立ち上がらせる。信じられない光景が目に飛び込んできた。
「ここ、どこ・・・・・・?」
 呆然と呟くシンジ。エヴァの立つ大地、そこは荒涼とした、殺風景な場所だった。
 唯一の目印になりそうな物といったら、二時の方向に見える、奇妙な建造物。高さは五百メートルくらいか? 人間が作った、というより動物の巣、みたいな印象の建造物。
 首をめぐらせると、エヴァの背後に奇妙なオブジェを発見。地面に突き刺さった野太いロボットの下半身。これは・・・・・・
「だ、大作くん! 大丈夫!?」
 通信してみるが、返答はない。気絶しているのか、通信機の故障か? 慌ててロボの脚を掴んでひっぱるが、さすが三千トン、無茶苦茶重い。
 シンジが引っこ抜きから、周りを掘る、に作戦を変更し五分後、周りに巨大な土山を築いて、ジャイアント=ロボの発掘に成功した。
「大作くん、大作くん!!」
 と通信で呼びかけながら、軽くロボの顔をエヴァで叩く。傍からみたら、巨大機動兵器の寸劇のようで面白いかもしれないが、やっているシンジは必死の大真面目。
『あ、あ、あれ・・・・・・? だ、大怪球は?』
 やっと、反応が。うわ言のような大作の言葉に、シンジは重大なことを思い出す。そう言えば、作戦はどうなったんだ、成功したのか、失敗したのか?
 周りを見ても、それがわかるような物、たとえば大怪球の残骸のようなものは落ちていない。
「ちょっと、僕にもよくわからないんだけど・・・・・・」
 と、大作の無事を確認し、エヴァを立ち上がらせた時だった。
 眩い光が視界を埋め尽くした、さっきと違い、今度のは目に痛いし、この輝きには覚えがある。
「レーザー攻撃!?」
 エヴァに向けられたレーザー光線による攻撃を、ATフィールドが防いでいる。そのレーザーの照射ポイントは十や二十じゃなさそうだ。もの凄くまぶしい。
「サングラスが欲しいなぁ」
 この世界の人間が聞いたら、耳を疑うような、謎の攻撃への緊張感の欠片もない感想をもらすシンジ。この程度の攻撃、あと十倍の規模でも防げる自信がある。
 レーザー攻撃は一向に止む気配がない。いったいどこの誰が自分に問答無用で攻撃しているのかとシンジが考えていると・・・・・・
「か、怪獣?」
 視界の端から、何かがウジャウジャと湧き出るように、こちらに向かってきているのが見えた。説明しがたい醜悪なフォルムのが大小たくさん。先頭にいる顔のないトリケラトプスみたいのはかなり速度が速い。このペースなら一分くらいでここにくるだろう。
「ち、地底勢力の新顔、かな? でも、これは数、多すぎだよね」
 自分の知識にこの状況を必死にすり合わせようとするシンジ。宇宙怪獣ほどではないが、千じゃすまない数の怪獣がこちらに向かってきている。
『シンジさん、あ、あの・・・・・・?』
 まだ茫洋とした大作の声、状況がつかめていないらしい。まぁ、シンジ自身も意識ははっきりしているけど、同じようなものだ。
「大作くん、話は後で! なんかヘンな生き物が回りにウジャウジャいる!!」
 レーザー攻撃は、ATフィールドで楽に防げる程度の威力だ。しかし、このフィールド展開状態であの怪獣たちに周りを囲まれた状態は想像したくない。心理的に滅入りそうだ。
「ロボ、動く、大作くん?」
『は、はい・・・・・・ ロボ、大丈夫か?』
 と、朦朧とした声のまま、大作が言うと、ロボの稼動音が聞こえてきた。
『あれ、思った以上にダメージがない・・・・・・ 僕、たしか大怪球に・・・・・・』
 大作の疑問ももっともだろう。ロボは高度一万メートルからの大降下パンチを繰り出したのだ。シンジ自身、それが炸裂するすぐ傍にいたのだから。
「立てる、ロボ?」
『えぇ、大丈夫です。しかし、まいったなぁ・・・・・・ エネルギー過多だ』
 ギシギシと音を立てて立ち上がる巨人、ジャイアント=ロボ。エヴァより一回り小さいロボを背後に庇いながら、シンジは言う。
「周り、見てご覧」
『まわり、ですか・・・・・・ ってなんですか、これ!?』
 驚きが一番の覚醒になったようだ。ピカピカ光るエヴァの前面。そして近づくグロテスクな怪獣群。
「ここ、どこなんだろうね?」
 大作の驚きが予想通りで少しおかしいシンジ。楽しげな声音で大作に訊くが、彼も軽いパニックになっている。
『どことか以前に、アレ、何とかしましょうよ、シンジさん!』
 怪獣を迎撃する気満々な大作の意見に、シンジは安心する。どうも自分だけで攻撃に出ていいのか自信がもてなかったのだ。
 しかし、アレはどうみても知的生命体の外観じゃない。それに友好的じゃない。でも、自分だけで仕掛けるのはさすがに躊躇われたので、共犯ができ、勇気百倍になるシンジ。
「とりあえず、防衛ってことで!!」
 そう言って、気合もろともエヴァの右腕を横に振るシンジ。
「アスカの、真似ぇ~~~!!」
 気合いと共に放たれるATフィールド。光線をはじきながら、その絶対障壁は、近づいてきた、顔なしトリケラトプス群を弾き飛ばしていく。圧倒的な蹂躙だった。
『ロケットバズーカを使います!! シンジさん、援護、お願いします!!』
 ジャイアント=ロボは機体内部に要塞並の火器を内臓しているのだが、今使えるのは内臓武器は、背中のロケットバズーカのみ。最終決戦に向けて、ミサイル等の武装は積載していない。
「了解!」
 エヴァの背後で、右肩にロケットバズーカをセットするジャイアント=ロボ。バズーカと銘打っているが、放たれるのは戦艦さえ一撃で破壊できる極太ビームだ。
 照準は、先ほどからしつこくレーザー光線を放っている連中がいる辺り。ロボの右目に連動した標準装置で狙いをつける。エネルギーは供給過剰な状態なので、あっという間に充填された。
『いきます!』
 その合図とともに瞬間、解除されるATフィールド。わずかに横に動いたエヴァの傍らを、物凄いエネルギーが通過していった。
 それは、レーザー光線の束を問答無用で吹き飛ばし、その照射源が居るあたりをなぎ払っていく。
「すごいね」
 シンジの記憶にあるより、数段上の威力に、呆れたような感想をもらす。
『原子炉から、縮退炉に替わっていますから。しかし、このままじゃ、ロボ、オーバーヒートですよ・・・』
 ロボのエネルギーを持て余しているらしい大作。このままここでオーバーヒートはマズイだろうと少し焦るシンジ。
「じゃあ、逃げようか? って言っても、どこいけばいいんだろう?」
 逃げるにしても、どっちにいけばいいか、わからない。
『大気はあるみたいだから、地球だと思うんですけど・・・・・・ もしかして、物凄い未来に飛ばされた、とかですか?』
 大作の言葉に、納得できるものを感じるシンジ。そういえば、シンジの仲間αナンバーズの中には何万年後かの未来に行って帰ってきた猛者がいるのだ。シンジ自身、短い時間だったけど、一万二千年後に跳ばされた経験があるし。
 でも、それは今、ここで考えてもしょうがない。
 先ほどの半分くらいの規模だが、またレーザー攻撃が再開された。方向が変わっているので、まだレーザー出せるのが残っていたのだろう。
「とりあえず、この怪獣をある程度片付けてから、東に行こう!」
 左腕の一振りで、またATフィールドを飛ばすシンジ。怪獣の第二陣がまた千単位で弾き飛ばされた。
『なんで、東に?』
 大作は必死にロボのエネルギー制御をしながら、二撃目の準備をする。今度は、あの建物を吹き飛ばすつもりでいた。
 シンジに合図して、射線に、あの建造物をいれる場所にジリジリと移動する。
「ここが地球なら、東にいけば、いつか日本にでるよ」
 昔の小心が信じられないような、大雑把なシンジの意見に、大作は思わず噴出す。たしかに、ここがもしハワイだったとしても、ずっといけば、ぐるっと回って日本につく。ここが、オーストラリアとかだったら、一周した後に北にいけばいいし。
『わかりました、それで行きましょう!』
 その大作の賛成の言葉とともに、先ほど以上の威力で、ロケットバズーカのビームが放たれた。射線にいた怪獣を余波だけで吹き飛ばし、レーザー光線発射元もなぎ払い、そのまま建造物に大穴を穿った。
 その時だった。
 今にも崩落を開始しそうな建造物が、眩い光を放ち始めた。ビームとは違う、有機的な印象を感じさせる光を。
「爆発するのか?」
 その場合に生ずる衝撃波を予想して、身構えるエヴァ初号機。ロボにも、自分の背後に回るように合図する。
 しかし、シンジには、その光に記憶を刺激されるものがあった。何かに似ているのだ、あの光は。    
 眩い光が建造物を覆い隠した。
 そして、粉微塵になり消滅していく建造物。壊していいものだったか不安になるが、考えないでおこうと思うシンジ。
 その光が収まった時に、中空に浮かぶ人型のフォルムをシンジは見た。マントをしたような、全体像、角ばった頭部、間違いない。
「・・・・・・ゲッタードラゴン、だ」
 あの光に見覚えがあったのも頷ける。あれはシャインスパークの時にゲッターロボが出していた光だ。
『ここは、どこだ・・・・・・』
 空ろな声が、通信機に。聞き覚えがある声。シンジの武の師匠を剣 鉄也とすれば、彼はシンジの知の師匠。ゲッターチームの神 隼人の声だ。
「隼人さん、隼人さんですか!?」
『隼人さんですか!?』
 大作も突然の知己の出現に驚いている。
『俺は、たしか、ゲッターの中に・・・・・・ それで、ここに・・・・・・ うまく頭が働かん・・・・・・』
 と彼らしくない、茫洋とした声で言う隼人。
『・・・・・・シンジに、大作か? どうして、お前達まで?』
 声に少し力が戻ってきた。だが、隼人もここがどこかは説明はできないみたいだ。
「とりあえず、ヘンな怪獣に襲われてるんですよ、隼人さん! 逃げたいんですけど、いいですか?」
『怪獣? こいつらか? こいつらは・・・・・・』
 すると、ゲッタードラゴンは、額からゲッタービームを乱射し始めた。辺りに残る怪獣たちを、駆逐するように攻撃していく。
『人類の敵だ・・・・・・ あぁ、俺は何を言ってるんだ、まったく?』
 自分の言葉に呆れたような隼人の声。どうやら、かなり頭が働きはじめたようだが、自分が何を言っているのかはよくわかっていない感じがする。
 攻撃を止め、こちらに向かってくるゲッタードラゴン。その機体が突然三つに分かれた。そのすぐ後に先ほどよりかなりか細い光線が、数本、通過していった。まだ、光線をだせるヤツが残っているらしい。それを神業的タイミングで分離して、攻撃をかわしたようだ。
 地面に転がる怪獣も、ゾロゾロと動き出す。その動きはシンジたちを無視して、ゲットマシンの方向に向かっている。
『チェンジライガー!!』
 隼人の掛け声とともに、三機のゲットマシンは一つに集合し、ゲッターライガーにある。本来の隼人の乗機だ。
 光線はしつこくライガーを襲うが、その残像しか捉えることは出来ない。マッハスペシャル、この状態のゲッターライガーを捉えるのは神技をもってしても無理であろう。
『とにかく逃げるぞ、二人とも!』
 こちらに向かうライガー、シンジもその進行方向を読み取り、エヴァを走らせる。
 ジャイアント=ロボもロケットを噴射し、低空飛行でエヴァの後を追う。
『シンジさん!!』
 大作の呼びかけに彼の考えを察知し、右手を伸ばす、エヴァ初号機。その手を掴み、少しバランスを崩しながらも、エヴァを掴んで低空飛行を開始するロボ。
 あっという間に海に出たことで、ここが島だったことを知る二人。波しぶき掻き分け、東を目指すロボとエヴァ初号機。ゲッターライガーが追いついてきた。怪獣たちは振り切ったようだ。どうやら連中には、空を飛べるのは居ないらしい。
『この先に、すぐ陸地がある! これは・・・・・・ 日本か!?』
 マッハを超える速度が出ているので、あっという間に目の前に陸地が見えてきた。隼人の言葉でシンジもこの陸地の形に見覚えがあるのを思い出す。
 今、高度は三百メートル。この高さでも十分わかった。この形は、能登半島の先端だ。
 そして、陸地の先端に見えるのは、灯台らしきもの。レーダードームのようなものも見える。
 ここに着地していいか悩むところなので、年長者の意見を求めるシンジ。
「隼人さん、どうします?」
『よくわからんから、とりあえず、人気のないところを目指す! そのまま飛べ!』
 隼人が即答してくる。たしかに過去だか未来だかわからないけど、いきなり三機の特機が人里に下りたら、大問題になりそうだし。
 ゲッターライガーとエヴァを抱えたジャイアント=ロボは、そのまま色んなレーダーに引っかかり、怪しさを振りまきながら、東を目指す。
 彼ら三人が、異世界に跳ばされたと確信するのは、このすぐ後、ある人物たちとの出会いによってだった。

 -続く-

 【後書き】
 とりあえず、何とか出せるのはここまでですね。後は、設定と
ちゃんとすり合わせて、内容を固めて行きたいので、しばらく
投稿できません。ちゃんと続けられそうになったら、改めて一から
投稿したいと思っています。
 んで、宣伝。
 センチ英伝のリハビリテイストの新作が、わがブログ【川口代官所・跡地】で上がっていますので、よろしかったらどうぞ。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター   第三話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:e37e8b14
Date: 2014/03/31 20:49
 マッハを超える速度で、低高度を飛行しながら、日本列島を横断中のゲッターライガーとエヴァンゲリオン初号機をぶら下げたジャイアント・ロボ。
能登半島南から、日本を横断しているはずだが、有名な日本の各都市は上空からはほとんど確認できなかったことが、シンジの胸をざわつかせる。
「日本、どうなっているんでしょうか?」
 ここが自分の日本ではないとわかっていながらも、先ほどの怪獣たちとの邂逅が、シンジに滅びを連想させてしまう。
『心配するな、シンジ。いろんな通信が飛び交っているから、この世界でも文明をもった人間は健在のようだ。しかし、GPSが使えないと、ここがどこだか、よくわからんな』
 隼人はゲッターを操縦しながら、方々飛び交っている通信を傍受しているようだ。一方、シンジといえば今はジャイアント・ロボにぶら下がっているだけの状態。何か情報を入手しようにもその手のハードをほとんど外部に頼っているエヴァでは、せいぜい味方と通信するか肉眼で地形を確認するかくらいしかできない。
手持ち無沙汰はどうも思考をネガティブに持っていくなと、他人事のように思っていると…
『マズイです、シンジさん、ハヤトさん!』
 大作の切羽詰った声が。何、と訊く前に慌てた言葉が続いた。
『ロボのエネルギーが臨界突破しそうです! 大至急、調整しないと大変なことになります!!』
「大変なことって……?」
 シンジが大作の言葉の勢いに気圧され気味に返すと、あっさりと隼人が未来予想を答えてくれた。
『バルマー戦役のエクセリヲンみたくなるだろうな』
 隼人に言われ、即座に浮かぶは冥王星での出来事。ブラックホールで億を超える宇宙怪獣を冥王星共々消滅させたっけと思い出し……
「大変じゃないか!!」
 先ほどの大作以上に声を上げるシンジ。 
『だから大変なんですよ! えっと、あと十分持たない自信があります!』
 大作が先ほどより切羽詰った声で言ってくる。いきなりわけわからなく場所に飛ばされた身だが、ブラックホールを作ってその世界を滅ぼすのはさすがにマズすぎるという焦りが、大作をまたパニック状態にしかけているようだ。
『そんな自信はいらん。まぁ、待っていろ……』
 慌てまくる少年二人に苦笑を声音にのせながら、隼人は続ける。
『俺の観測が当たっていれば、このままだいたい真っ直ぐいけば、小笠原の方にでるはずだ。どっかの無人島にでも着陸して調整しろ、調整はできるのだろう、大作?』
隼人はどうゆう手綱か、現在位置をおおよそ把握しているらしい。隼人の言葉が終わるタイミングで、三機は再び海に出た。日本列島を横断し終えたようだ。
『はい、それは大丈夫です! でも、ちょっと戻って、そこで調整すれば……』
 大作としては、一刻も早く動く縮退爆弾状態を解除したいのだが、隼人は首を横に振る。
『今の状態で、地続きの所に留まるリスクは避けたい。情報が少なすぎだ。島なら迷惑かける可能性もマシにはなるだろうしな』
 言われると納得させられるシンジと大作。シンジなど隼人が一緒に巻き込まれてくれたことに感謝してしまった。
 ロボとゲッターライガーの速度はマッハ2を超え、あっという間に陸地は見えなくなり、大海原が前方に広がるのみになった。背後で巻き起こっているソニックウエーブによる高波が被害を出しませんようにシンジが祈っていると……
『すぐ先に島があるようだ、地図があてにならんのか、俺がミスしたのかわからんが、まぁいい。手頃な大きさだ、着陸できるならしよう』
 隼人が独り言のように告げてくる。その言葉が終わるや確かに前方に島が見える。外周十キロ弱かと目算したら、もう通りこしていた。
『シンジさん、戻ります!』
 先ほどの自信をもった予想もあと五分切っている。焦りまくっている大作はシンジの返事も聞かずに、空中で急旋回をした。ぶら下がったエヴァ初号機も大きく振られて、中のシンジもエヴァの中でありながら、
かなりのGを感じた。
『離します! 着地しっかり!』
 そして返事をまたずに手を離したジャイアント・ロボ。大作の焦りがここまでくると面白く感じながらも急に来た浮遊感にも動じず、エヴァを着地させる体勢をとらせたシンジ。だが、その視界の端にある物を捉えた。
「船、だ!」
 ここに船がある理由は考えるまでもないが、着地まで一秒もない、慌ててこのまま着地地点になりそうな砂浜に目をむけるシンジ。半瞬のうちに感じた危惧が現実になっていた。
「人、人がいる!」

 国連太平洋方面第11軍新潟基地訓練分隊207B分隊の総合戦技演習がその日、名も無き島で行われることになっていた。
参加する訓練兵の名は榊 千鶴、御剣冥夜、彩峰 慧、珠瀬壬姫、鎧衣美琴の五名。彼女らは、教官である神宮寺まりも軍曹の前に整列し、本日の訓練が急遽中止順延になったことを告げられた。
 突然、訳も分からず始まる前から中止になった演習に、異議を唱えようと分隊長の千鶴が口を開こうとした時だった。
キーンという音がした、と感じた瞬間、何か巨大な物が上空と言うには低すぎる場所を通過していった。
「な、なに?」
 千鶴はそう言った自分の声が聞こえないほどの轟音と衝撃波に耳を塞ぎ、身をかがめる。水しぶきがかかり、砂が舞い散り、視界が奪われる。
「なんなのよ、もう!?」
 目に入った砂埃を払い立ち上がる。すると返す刀のような轟音&衝撃波が再び。今度は耐えることができず砂浜に身を倒してしまう。目をつぶり身を伏せ、この理不尽で理由不明な状況に再び怒りを込めて、
「なんなの、本当にぃ~~~!?」
 と金切り声を上げた時だった。
 いきなり体が砂浜でバウンドした。地震かと思ったがその大揺れは一回のみ。だがその追い討ちに先ほどとは比較にならないほどの砂と海水が身に降り注いでくる。もう、我が身を呪う言葉もでない千鶴。
徐々に回復してきた視界、だが妙に薄暗いなと思って顔を上げた彼女の瞳に飛び込んできたのは……

 一本の角をはやした、蒼い巨人だった。

「あ、あぶなかった。本当に危なかった……」
 何とか、エヴァを砂浜にいた人たちの前で着地させたシンジ、心臓がドキドキバクバクしている。
 無茶な着地を試みた為、エヴァの姿勢は四つん這い、もしくはスプリントのクラウチングスタートのような状態になっている。このまま前のめりに倒れたら、自分を呆然と見上げる、迷惑をかけた人たちにさらに迷惑をかけそうだ。
『し、シンジさん! ゴメン、お願いします! 止めてください!!』
 安堵したのも束の間、再びの方向転換でこちらに戻ってくるジャイアント・ロボ。無茶な上昇をして、ほぼ垂直に降りてくるというか、落ちてきている。
 あの質量が、あの勢いで降りてきたら、自分以上の惨事をここに引き起こすのは間違いない。大慌てで振り向くと、ロボがまるでエヴァに飛び蹴りでもしようかという勢いで降下中、背中のロケットを吹かしているが急ぎすぎた為か、満足な減速は難しそうだ。
「慌てすぎだよ、大作くん!!」
 イメージはネット、ATフィールドを展開するシンジ。フィールドが自分たちに向かって降りてくるロボを捉えた。空中に赤い八角形の障壁が発現し、ロボを空中で一瞬停止させ、次の瞬間、ロボはドスンと無骨な音をだして着地した。目の前のロボは胴体全部からシュウシュウと白い煙を上げている、たしかにヤバそうだ。
ロボの左目が開き、大作が文字通り飛び出してきた。三歩でロボの左胸部に張り付く彼の人並み外れた俊敏な動作をみて、本当にエキスパートになっているなぁと感心してしまうシンジ。
 そこで、思い出す。もう一機の仲間がいつの間にかいない。レーダーがないのでよくわからないが、エヴァから視認できる範囲に、ゲッターライガーの姿は見えない。
「隼人さん、どこいったんです?」
 キョロキョロと周囲を見回しながら、呼びかけるシンジに、応答が。
『シンジ、大作、お前たちだけでしばらく行動してくれ。俺は、状況が把握できるまで別行動する』
 決定事項だけを伝えるような淡々とした口調でしゃべる隼人。この喋り方の時は色んな要因要素を考え結論をだした時だと、長い付き合いで把握しているシンジは、何故、とか、どうして、とか無駄な質問を省く代わりにため息を一つついた。
「僕らと連絡はどうします?」
 余計なことを訊かなかったことに満足したようにニヤリと笑う隼人。
『大作の腕時計にでもする。通信コードをバルマー戦役の時に合わせておけと言ってくれ。俺もそこに合わせるから、このコードでは通信できなくなる』
 そう言って、最後に、
『じゃあな、しっかりやれよ』
 とあっさり通信を切る隼人。今のエヴァの通信コードは連邦軍極東基地使用になっているので、あとで色々と調整しないとなぁと思っているとまた自然とため息が出た。何だか、ため息が出るたびに、ここが自分の世界でないことが、実感できてくるシンジだった。
「さて、と……」
 ロボの胸からの白煙が収まってきた、ブラックホール生成は阻止できたようだ。
「まずは、あの人たちにファーストコンタクトかなぁ……」
 今のロボの乱暴な着陸で、どれだけ迷惑をかけて恐怖を与えたかは考えないようにしながら、シンジは大作に呼びかけ、エヴァを降りる準備を始める。

「な、なんなのだ、コレは……」
 そんな意味のない言葉しか出てこなかったことに、御剣冥夜は悔しさを感じ、唇を噛み締めた。
今、目の前にあるのは、一本角を生やした異形の巨人。BETA、ではなさそうだが、もしこの巨人の顎が開いた瞬間、きっと自分はなす術なく、殺されてしまうのだろう。
 自分の無力に、突然、何も出来ずに終わる命に、冥夜は悔しさから目尻に涙が浮かべてしまう。
 だが巨人がはいきなり立ち上がった。その人間のようなスムーズな動作からは、鈍重なイメージはなく、凛としたものさえ感じた。
 すると、今まで気づかなかったのが不思議なくらいの爆音が上空から。そしてまた何かが落ちて来ている。火を噴いているようにも見えるソレは、彼女たちと巨人を目指して落下してきているように冥夜には見えた。
 巨人が二歩ほど前に、そしてその両手を天に翳すように上げると……
 巨人の手を中心に、八角形の赤い何かが発現した。その大きさは冥夜からは天を覆い尽くしたかに見えた程だ。
 落下してきた何かが、その障壁に激突した。耳を覆いたくなる轟音に目をつぶってしまった冥夜、数秒して目を開けた彼女の前には……
 もう一体増えた、巨人の姿があった。
「え……」
 ドスンという音と共に、振動がきたが他の砂とか波とか先ほどのような副産物は、冥夜たちには届かなかった。彼女たちの前に立つ巨人がそれを防いでくれたことに、彼女たちは気づくこともなく、増えた巨人を呆然と見上げるだけだった。
「……こんどの、なんだかエジプトっぽい」
 普段から何を考えている読みづらい彩峰 慧がポツリとつぶやいた。たしかに、と冥夜はその巨人を見直す。前の巨人に比べて、機械的な印象が強いその巨人の顔は、エジプトのツタンカーメンとかファラオとかを連想させなくもない。
 すると、その巨人の左目の瞳部分が開いた。何事かと思う間もなく、人らしき影が飛び出したことに驚くよりあっけにとられる冥夜。
「アレ、人が乗っているの……?」
「な、なんか、ブレザーっぽい服、着てますよ、あの人……?」
 鎧衣美琴の言葉に、珠瀬壬姫が続く。あの巨人が有人、人が造った物のなのかと思うと、前に立つ巨人はどうなのかという疑問が冥夜に湧く。
「あ、胸のところで作業始めました、あの人。えっと、歳、私たちとたいして変わらないような気が……」
「いわれればそうだね」
 目が飛び抜けて良い壬姫と美琴には、エジプト巨人の胸にしがみついている人の顔まで見えるようだ。
「お、お前たち、立てるか!」
 自分たち訓練生より豪快に腰を抜かしていた神宮寺まりも軍曹が、ズボンについた砂を払いながら立ち上がる。
「と、とりあえず、船まで退避するぞ。」
 何一つ理解できない今の周囲の現状では、まりもの選択がベストであるのは冥夜にも理解できた。言われるまま砂を払いながら立ち上がる。まりもに従って進もうとしたがどうしても後ろが気になって振り返って足を止めてしまう。
 エジプト巨人から人、少年が飛び出してきたのこともあるが、冥夜にはその前に蒼い巨人が取った行動が気になっていた。
 あの巨人が発生させた謎の八角形。アレはひょっとして自分たちを護ろうとしてくれたのでは、と冥夜は感じていたのだ。そして、この異形の巨人が冥夜の中にある単語を浮かばせている。

 ―光神―

 二年ほどまえ、横浜ハイヴを消滅させた謎の存在、自らが発する光の中にあり、いまだ人が、そしてBETAが近づくことのできない、神の如き存在。
 冥夜は立場上、一般人の知りえない情報も耳にしている。その中に光神は、角を生やした鬼の如き姿をしていたという生存者の証言もあった。
 鬼の如き、異形の姿。その言葉が冥夜の中で目の前の巨人と重なってしまう。
 このまま、ここを去って良いのか、と冥夜が迷っていると……
「すいません、いかないで下さい!!!」
 人の、男性の声、しかも日本語が聞こえた。冥夜以外の訓練兵と、まりもの足も止まる。
「いま、降りますから、ちょっと、ちょっと待ってください!!」
 エジプト巨人の胸にしがみついている少年が発したらしい。正体は相変わらず不明だが、今の、少し慌てて自分たちを引き止めた声を聞いたら、恐怖やら何やらが消えて、妙な親近感と安心感が冥夜に芽生えている。
 で、降りると言った少年は、 そのまま海に飛び降りたと思ったら……
 海の上を水しぶき上げて、走ってこちらに向かってきたのだった。
 言葉を失い、そのまま固まってしまったまりもと五人の訓練兵、そのトドメとばかりの非常識に頭が追いつかないうちに、その少年が彼女らの目の前に現れた。とんでもなく早く、この少年は海の上を走ったなぁ、と冥夜は呆然と思ったりした。
 容姿は平均的な身長の日本人の少年、と言った感じだ。少し逆だってクセのありそうな髪と、強い光を放つ瞳が印象的だ。
 その少年が彼女たちの前に立って、最初にしたことは、
「どうもすいませんでした!」
 と深々と頭を下げたことだった。
「あの、緊急事態でどうしてもどこかに着地しなくてはいけなくて。驚かせてしまい、本当にすいませんでした!」
 言い訳を加えて、もう一度頭をさげる少年。来ている服はウールを仕立てたと思われるブレザーにスラックス。ワイシャツにご丁寧にネクタイもしている少年の格好は、どうしても前にある巨人二体と重ならない。
 六人から反応がないことに、不安になったのか、頭を下げたまま、わずかに顔を上げて、
「日本語、で通じていますか……?」
 と訊いてくる。
「あ、大丈夫だ、キミの言葉は理解できる……」
 六人を代表するような形でまりもが応じる。
 すると、少年は、
「よかったぁ~」
 と場違いなほど朗らかに笑うと、しっかりした声で言った。
「僕の名前は草間大作、国際警察機構のエキスパートです!」
 明らかに日本人と思しき名前と、意味不明の役職の自己紹介。それを聞いても、六人ともただ呆然と目の前の少年を見つめることしかできなかった。
 



【後書き】
 二話と三話の間は、三年以上間が空いていたりします。
 色々あったんです、うん。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター   第四話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:02a053f1
Date: 2014/03/30 02:03

「ストレートな切り込みだなぁ」
 エヴァのエントリープラグの中、シンジは足元で始まったファーストコンタクトを見学していた。
 最初、自分も降りようと思っていたシンジだが、大作にいきなり二人で姿を出すのは早急と言われ、とり
あえず待機となったのだ。
 音声は大作の通信機経由で拾っているが、大作+六人の表情まではさすがにエヴァの高さからは確認でき
ない。だけど、相手方が呆気にとられているのは、音声のみでもわかった。
「頑張ってね、大作くん」
 今のシンジに出来ることは、そんな声援を大作に送るくらいだった。

「コクサイケイサツキコウ、エキスパート…… あ、あの…… それは?」
 まりもの前に立つ少年は、理解しがたいくらい明るい笑顔で、そう言った。クサマダイサク、は理解でき
る。間違いなく人名だろう。確信はないが、漢字変換もできる。
 だけどそれに続いた言葉の意味が、今のまりもの茹だった頭では、どうにも理解できない。コクサイもケ
イサツもキコウも日本語として変換できる。まず国際警察機構で間違いないはずだ。
 国際警察に類する機関に所属していると、色々譲って譲歩したとしても、どうしても納得できない、とい
うか理解できないことがまりもにはあった。たぶん、彼女の教え子たちも同じ思いだろう。
 なんで、警察と関する名のつく機関にいる少年が、あんなロボットに乗っていた。それと、どうして海の
上を走ってこれた。この二つの疑問が脳内の九割を占めて、頭が働かないまりもだった。
 ただ、何とかコミュニケーションを取らなくては、という思いが何かを喋ろうと口を動かすが、
「えっと、その、クサマ、ダイサク君、で、いいのか……? 私は神宮寺、まりも、だ……」
 と、シドロモドロで返すだけなまりもだった。
「ちょっと、いいですか?」
 大作は、そんなまりもの反応に、ちょっと困ったように首をかしげた後、両手を軽くあげる。
「失礼します」
 そして、左手でゆっくりとジャケットのボタンを外し、ゆっくりとめくり自分の脇が見えるようにした大
作。そこには見たことのない大型拳銃がホルスターに収まってぶらさがっていた。
 そしてホルスターに収まったままの拳銃を外し、砂浜に落とす。
 その大作の一連のゆっくりとした動作をキョトンと見つめたまりもだったが、すぐに彼の行動の意味を理解した。自分に敵意がないことをまず手近な武装を放棄することで示したのだろう。
「えっと、コレなんですけど……」
 そして大作はそのまま開いたままのジャケットの内ポケットに手をいれる。そこから取り出したのは二つ折の革ケース。開くと英語で表示された写真付き身分証の下に、見たことのない意匠のバッジが貼ってある。大作はそのバッジを示して、
「わかりますか?」
 とまりもたちに訊いてきた。初見のバッチを彼女たちに大作が示した意味を考えたが、まだ加熱気味の頭ではいい答えは浮かばず、とりあえず、
「いや、わからないな……」
 とまりもは答え、彼女に大作との対応を任せ、後ろに控えている教え子たちに首を巡らせる。彼女たちも短く首を横に振るだけだ。
「はぁ、そうですか、まいったな、これは」
 まりもたちの答えに大作は、短く溜息をついた。どうも、大作という少年の土俵で話が進んでいる気がするが、ファーストコンタクトのインパクトが強すぎて、受けに回らざるおえないまりも達だ。
「すいません、妙なこと訊きますけど……」
 と大作は開き直ったような声音で、少し強めの口調で訊いてきた。
「今、何年何月何日ですか?」
 これ以上ないくらいの真摯な声音で訊いてきた質問、答えるのは簡単だが、その質問の意図がまったくわからない。わからない、が答えないのも悪い気がしたので、
「2001年10月22日だが」
 と教えると、大作が軽いショックを受けたような顔をする。今日が10月22日だと、何かマズイことでもあるのかと、勘ぐるが、大作の
「2001年って…… 西暦、ですよね?」
 と、問題だったのは年のほうだったと気づき、
「もちろん」
 と返すまりも。自分はいったい何のやりとりをしているのか、だんだんわからなくなっていく気がいてきた。
「……軽く見積もっても二百年ってトコかぁ」
 小声で何かブツブツいった後、気を取り直して、といった感じで大作がまりも達にに向き直る。
「もう一つ教えてください。ここは、ドコですか?」
 少し口調が妬け気味になっている大作。また、なんでそんなことを訊く、的な質問だが、とりあえず答えられる部分は答えるまりも。
「日本帝国領海内の……」
 島だが、と続ける前に、
「日本、帝国、ですか? 2000年代で?」
 と、なんでそんな事を訊くのかわからない質問が。
「あぁ、日本、帝国だ」
 ひっかかっているのは帝国の部分と察したまりもが強調していうと、明らかな困惑が大作の顔に浮かんだ。
 大作とのやりとりを続けていると、まりもの中で妙な違和感が膨れ上がっている。日本語は流暢だし、名前からして日本人であると勝手に思っていたまりもだが、もしかして日本語が堪能で容姿が日系なだけの異邦人ではないか、そんな風にまりもは感じ始めていた。
 困惑を軽く頭を振って表情から消す大作。そして、指を上に指し、
「ちょっと、仲間と相談したいので、待ってもらえます?」
 と言った。仲間、と指が示した先は、大作との会話で少し忘れかけていた、蒼い巨人がある。
「な、仲間って、アレは人語を解するのか?」
 冥夜が驚いた口調で割ってはいる。普段の冷静沈着の彼女からは信じられない狼狽ぶりが表に出ていた。
「あ、この中に乗っている人に相談したいってことです」
 大作は、エヴァを生物と勘違いされたと察し、誤解を解くためにあっさり言うが。そっちの方がさらに驚
かれた。
「ア、アレは有人、ひ、人が操縦しているのか?」
 冥夜の驚きの声につられるように、皆が大作の背後に立つ巨人を見上げた。戦術機の倍は軽くありそうな
巨体の為、頭頂部はよく見えないが、ここらか確認できる脚部や腰部、腹部などに機械的要素は感じられな
い。いったい、何処に人が乗っているのか、想像もつかない。
「えっと、どうしましょうか、シンジさん?」
 大作は、耳につけていた小型通信機を指し示し、横のボタンを押す。
『どうしようか、ホント。困ったね』
聞こえた声は大作と同年代と思われる、若い男性の声。苦笑混じりの声で
『とりあえず、僕らの素性を正直に話してみようよ。荒唐無稽もいいトコだけど』
 と言ってきた。荒唐無稽って今以上に何があるのかと、まりもは自分の心の強度にだんだん自信がもてな
くなってきていた。
「信じられないと思いますが…… 僕と、あのロボット二体、こことは別の世界から、この世界にやってき
たみたいです」

 …………………………

 沈黙が十秒ほど続いた。大作も告白した後、困ったような笑顔を浮かべて頭をかいている。リアクション
が欲しいが、されても困る、そんな少し複雑な思いがそんな顔をさせていた。
「えっと、ですね、まだ一時間経ってないと思うのですが、僕の乗ったロボと、彼の乗った機体が、佐渡島と思われる場所に突然、飛ばされまして……」
 沈黙に負け、言い訳のような説明を始めた大作。
「さど、がしま?」
 理解を拒否してしまうような告白をされて、呆然としていたまりもだが、大作から発せられた地名に意識が覚醒していくのを感じた。
「そこで、妙な怪獣に襲われまして、数も多くてキリがなさそうだったのと、僕のロボの調子が悪かったので、ここまで退避してきた、というのが僕らのこの世界での行動のすべて、です」
「妙な、怪獣……? BETAのことか?」
 まりもの中で、先ほど夕呼直々に連絡を受け、訓練を急遽中止することになった信じられない吉報が現実
のモノになっていく。
「BETA、って言うんですか、あの怪獣」
 大作が、そう人類の仇敵を初耳のように言い返すのを聞き、まりもの中である確信が生じた。そして訓練兵の少女たちも、
「BETAを知らないって……」
「まさか、本当に……」
「異世界、から……」
 と世迷言にしか聞こえなかった大作の説明が、急速に事実と思えるようになっていた。
「一つ、質問がある」
 まりもが、自身を落ち着けるように深い深呼吸をした後、大作を見据えて口を開いた。

「佐渡島ハイヴを破壊したのは、君たちか?」

 まりもの質問に、された大作は、
「ハイヴって、あのへんな建造物のこ……」
 と聞きかえすが、その言葉の途中で、訓練生たちに言葉を遮られてしまう。
「じ、神宮寺きょ、教官、それは、真ですか?」
「ハ、ハイヴが、破壊、って……」
「そ、それ、本当なんですか!?」
 冥夜、千鶴、壬姫が、各々興奮気味にまりもに詰め寄る。普段なら、一喝するところだが、まりも自身、自分の言葉に高揚するところがあり、興奮気味に答える。
「あぁ、先ほど香月副司令から連絡があった。それで、お前たちの演習も、急遽中止になったのだ」
 五人たちは互いに顔を見合わせ、そして……
 飛び上がって歓声を上げた。
 普段の確執など気にせず、慧や千鶴まで共に抱き合い、喜びを身体中で表現している。
 その様子をまりもは微笑ましく見守り、大作は、
「……えっと」
 皆のテンションに取り残されながら、その様子を見守っていた。
「……でも、どうしてハイヴが破壊されたのですか?」
 ふと我に返ったかのように、慧が顔を付けて抱き合っていた千鶴を引き剥がし、まりもに訊くが、
「あ、さっきの質問……」
 自分で訊いた後に、まりもが大作に尋ねていたことを思い出した慧、視線を大作に向ける。
「ハイヴって、あのヘンな建造物のことです、か? だとしたら、壊したのは僕、ですね」
 正確には自分は大穴を開けただけで、その後のトドメは次いで現れたゲッタードラゴンによるものなの
だが、とりあえず、伏せておくことにする大作。実は、完全破壊されたあの建造物を見て、壊してよかった
のか心配していたのだが、彼女たちの喜び様を見て、糾弾されることはないだろうと胸を撫で下ろす。
「そ、其方が、あのハイヴを……」
「ありがとう! 本当にありがとう!!」
 冥夜と美琴がいつの間にか大作の手を取り、抱きつき、感謝してくる。あまり同年代の女性に免疫がない
大作少年は、顔を真っ赤にして照れている。
 その様子を見て、千鶴に壬姫も続き、慧まで「よく、やったね」と頭を撫でてくる。
「あ~、お前ら、それくらいで辞めておけ。少年は困っているようだぞ」
 その茹で上がったタコのように真っ赤になった大作の様子を見て、まりもにも余裕が出てきたらしく、腰
に手を当て、訓練兵たちを諌める。
「草間大作君、君に提案がある」
 余裕が戻ると頭が働き、まず自分のすべきことは何か、とまりもは考え、ある答えに至った。
「私の上官に、この手の不可思議事項のエキスパートと言える人物がいる。その人に、君を、君たちを会わせたい」
 それは、香月夕呼に彼らを会わせる事。彼女なら、自称異世界人の彼らとの交渉事も、上手く進められる
だろう。それに、ここにいる二体の巨人を味方にできるなら、どれだけ頼もしいか、という期待もあっ
た。
 大作は、訓練兵達にチヤホヤされていた表情から一転、年不相応の鋭い顔つきになる。そして、また、
「すいません」
 と断ってから、また巨人のパイロットに話しかける。
「シンジさん?」
 短い問いだが、それだけで上のパイロットは察したようで、
『僕は、賛成かな』
 と返ってくる。姿見えない相手だが、その『賛成』の言葉は、まりもの期待を高鳴らせる。
「僕も、です。では……」
『待って、大作君。僕も降りるよ』
 そう言うや、いきなり蒼い巨人が動き出した。ゆっくりと膝を下ろし、片膝立ちのような姿勢になる巨人。
『お世話になるかもしれないんだから、一緒にお願いしよう』
 笑いながらそう言う声。
「らしいですね、シンジさん」
 仲間の行動に、こちらも笑顔で返す。二人の行動の意味を、まりもはすぐに察した。
 二人は、こちらに信頼の証を見せてくれているのだろうと。あえて巨大な機体に居るのではなく、生身を晒すことを選んだのが、彼らなりの誠意であり、信頼しようとする現れだと。
 巨人の頚椎下あたりから、何か白い円筒状のモノが飛び出した。そしてその円筒上部が開き、ワイヤーに
ぶら下がった人、少年が降りてくる。白い、体に密着した服を着ている。多分、アレはパイロットスーツな
のだろう。
 砂浜に降り立った少年が、ゆっくり歩いてくる。背は大作より少し高い。細身の身体に中性的な綺麗な顔
立ちをした少年の登場に、まりもは我知らず顔が赤くなってしまった。
「シンジさん!」
 すると、仲間の大作が飛び出し、シンジの手を握る。
「改めて、久しぶりです」
「大作君も、大きくなったね、ホント。すっかりエキスパートだ」
「シンジさんも、背、伸びましたよ、ずいぶん」
 二人の、久しぶり的なリアクションに、六人は置いてきぼりだ。大作に至っては、目尻に涙まで浮かべて
いる。
「……なんで、感動の再会になってる?」
 慧がボソっと呟くと、大作が恥ずかしそうに笑って、目尻の涙を拭っていった。
「詳しい説明は後でしますけど、シンジさんとは四年以上ぶりなんです。さっきまで通信で話しかしてなか
ったので、実際会ったら、嬉しくなってしまいまして」
「僕も嬉しかったよ。さて、皆さん」
 大作との再会を短く一段落させ、シンジと呼ばれている少年が六人に向き直った。
「僕は碇シンジ、エヴァンゲリオン初号機パイロットです」
 簡潔な自己紹介の後、綺麗な姿勢で頭を下げるシンジ、所作の整い方に冥夜は感心する。後半のエヴァナントカの意味はわからないが、あの蒼い巨人の名前だろう。
「大作君ともども、よろしくお願いします」
「お願いします」
 シンジに続いて、こちらも頭を下げる大作。
「あ、あぁ。わかった。こちらからも感謝を。君たちを歓迎する」
 低姿勢である二人の少年の前にしながら、気圧される思いのまりも。彼女の親友にして、上官である香月
夕呼でも、彼らを御せるだろうか、とそんな事を考えてしまった。


「まりも、でかした!!!!」
 ヘリのローターの轟音にも負けない大音声で、香月夕呼は雄叫びを上げた。
 隣席に座っていた霞が目を丸くしている。
「なにっ!? 二体で、二人共、少年!? 居るのは…… 烏賊頭の機体はいないのね!? 角付きとエジ
プトだけ、わかったわ!」
 先ほど見た、佐渡島ハイヴ崩壊映像に映っていた正体不明巨大物体に、夕呼は勝手に烏賊頭、角付き、エ
ジプト神像と仮称を付けていた。
 百単位の光線級のレーザー照射を受けて、揺ぎもしない防御壁を展開した角付きや、モニュメントを事実
上破壊したビーム兵器を放ったエジプト神像にも、大いに惹かれるが、夕呼としては数秒とは言え、光神現
象に酷似した現象を引き起こしたのち、三つに割れて姿が変わった烏賊頭に最も興味を惹かれていた。
 佐渡島ハイヴ崩壊の報を受け、即時に行動を起こすべく、新潟基地に帰還中の夕呼の元に、とっとと返っ
てきて手伝えと連絡した、彼女のもっとも信頼する部下の神宮寺まりもから、信じがたい一報がもたらされた。
『佐渡島ハイヴを破壊したと思われる巨人二体と、その操縦者の少年二名と接触した』
 その一報に接した夕呼は、ほんの一瞬、呆然とした後、歓喜の雄叫びを上げたのだった。
「で、二人共、私に会うことに同意してくれているのね。ホント、大手柄よ、まりも!! いい、なんとし
ても、その二人、そこに足止めしておきないさい! 色仕掛けでも何でもいいから、いいわね!」
 また連絡する、と言って、夕呼はまりもとの通信を切った。すぐにヘリのパイロットに、
「燃料、あとどれくらい持つ?」
 と訊くと、基地まで戻るので一杯だとの返答。引き返して太平洋の離れ小島に向かうのは無理のようだ。
「あと、基地までどれくらい? 最大限に飛ばしてよ!」
「三十分、です」
「わかったわ、急いで」
 夕呼は今ある時間で、どれだけの手が打てるか、激しく思考を回転させ始めた。
「まずは殿下に無理をしてもらわないと、ね」
 ここからの交渉は、荒事力技が必要な局面が増えてくる。きっと、近隣各国も、佐渡島に現れた巨人のこ
とは気づいているはず、米国なら衛星で追跡程度のことはしているだろう。どの国も、あのケタ外れの戦
力を欲しがり、手に入れようとしてくるに違いない。
「『女狐』の本領発揮と行きますか……」
 そう言いながら、湧き出てくる歓喜に、思わず舌なめずりをしてしまう夕呼だった。






[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第五話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:9e508339
Date: 2014/03/30 02:03
 今、世界中が注目している、太平洋の離れ小島では、異世界からの来訪者の少年二名と、衛士を目指す訳
有り訓練兵の五人が、場違いなほど和やかに歓談していた。
 大作がジャイアント・ロボを近場まで腕時計で呼び寄せ、そこの左足底部にあるシェルターから、耐熱シ
ートとやら食料品やらを取り出してきて皆に振る舞い、浜辺でお茶会のようなことが始まっている。
「こちらがジャイアント・ロボで、こちらがエヴァンゲリオン初号機と言うのか……」
 大作が渡してくれた缶コーヒーをチビチビと飲みながら、冥夜が自分たちのすぐ傍に並ぶ二体の巨人を見
上げる。
「で、その腕時計でジャイアントは動く、と……」
「ロボって言ってほしいですけど、そうです」
 慧が訊くと、大作はあっさりと頷き、自分のしている時計を見せる。これだけは四年前とまったく変わっ
てないなぁと、シンジは感慨深く思った。ロボと並ぶ父親の形見だから大事にしているのだろう。
「私が言っても、動く?」
「声紋とか色々ロック掛かっていますから、無理です」
「ち、残念……」
 どこまで本気なのか、慧が残念そうに指を鳴らす。
 千鶴は、訊けば何でも答えてくれる彼ら二人の対応に、少し呆気にとられていた。軍事機密とかそのあた
りがどうなっているのか、気になって他の四人のように、色々と訊けないでいる。
 かわりに千鶴は、他の四人の質問によってわかった、彼ら二人のデータを、頭の中で整理していく。
 二人の名前は、『碇シンシ』に『草間大作』。
 年齢は、シンジが自分たちと同じ十八歳で、大作が十六歳。
 乗ってきた二体の巨人の名前は、角の方が『エヴァンゲリオン初号機』、エジプト風が『ジャイアント・
ロボ』。
 二人の世界では、『新西暦』という年号が使われている。
 そして、二人の世界にはBETAはいないが、様々な宇宙規模の紛争があり、その紛争の最中、気づいた
ら、この世界の佐渡島に居た、とのことだった。
 近くに、大きすぎる証拠がなければ、世迷言と一笑していたかもしれない。それほど、この二人の少年の
語る話は、色々と荒唐無稽すぎる。
 教官である神宮寺まりもから、この二人をそれとなく監視しながら、この場に留めておくようにと厳命さ
れているが、この二人が急に気を変えて、この場を去ろうとしたら、自分たち五人で束になっても、留めて
おくことは不可能だと断言できる自信が、千鶴にはあった。
 二人が、どうか変心しませんようにと、半ば祈る気持ちで、今、この場を離れているまりもが戻ってくる
のを待つ、千鶴だった。
「あのさ、すっごく訊きたかったことがあるんだけど、いいかな?」
 美琴が、思い出したように大作に擦り寄る。先ほど背後から思いっきり抱きつかれた大作は、わずかに警
戒の色を見せながら、何ですかと返すと、
「大作くん、どうやって海の上、走ったの?」
 ! この質問はしていいものかどうか以前に、事実として認めていいのか千鶴の中で保留になっていた事
だったので、美琴の人懐っこさに、少し感謝する千鶴。
「えっと、どうやって、と言われましても…… 足を早く動かして、水の中に沈む前に進んだ、だけです。
体重のかけ方とか、足の動かし方に少しコツがありますけど、そんなに難しいことじゃないですよ」
 あっさりと言った感じで答える大作。シンジが笑いながら、
「僕には、いくら練習してもできないよ、きっと」
 と大作にツッコミを入れてくれて、なぜか千鶴は安心する思いだった。あんな事が出来る人間がわんさと
いる世界は想像したくない。
「え~、シンジさんも梁山泊に入れば、一年くらいでできるようになりますって」
 言われた大作は不満そうに返す。何でそこで水滸伝、と千鶴が思ったら、
「梁山泊とは、水滸伝のか?」
 かわりに冥夜が訊いてくれた。
「名前はそこから取っているんですけど、僕の所属している国際警察機構の総本部のことです」
 そう明快に答える大作。千鶴は、他所の世界ながら、こんなに明け透けに答えてくれていいのか、またま
た心配になってきた。どうも、苦労性のところが出てしまう。
「そう言えば、碇殿も警察機構の人間なのか?」
 冥夜も二人の異世界人に興味津々らしく、いつもよりずっと饒舌だ。
「殿って呼ばれ方、始めてだね」
 と笑って、
「僕は、学生です。第三新東京市立高校在学の三年生です」
 と予想外の返答が返ってきて、固まる五人。
何で巨大兵器のパイロットが学生なのか? 軍人とかその類の人ではなかったのか? 黙って聞いてい
た千鶴も、つい口を開いてしまった。
「あ、あの、碇、さんは、あの巨大兵器のパイロットでは、ないのですか?」
「えぇ、そうです」
 シンジは千鶴の困惑を気にした風もなく、涼しい顔で答える。
「あ、あの、それで、何故、学生を…… 予備役とか、そう言う……」
 シンジを見つめて訊いているうちに、急に顔が赤くなってしまった千鶴。訊く声もシドロモドロになって
しまう。慧が何か言いたそうな顔をしてこっちを見たので、歯をむいて威嚇して黙らせた。
「説明、難しいんですけど…… あのエヴァは僕しか動かせないんです。ですから、有事の際には、今でも
声が掛かるんですよ。そう言った意味では、予備役であっているかもしれませんね」
「はぁ、そうなのですか」
 火照る顔を俯いて隠しながら、千鶴は曖昧に頷く。
「……つまり、あの巨人達は、草間殿と碇殿しか動かせない、ということか?」
 冥夜が、そう言ったことで、千鶴は赤い顔を何とか誤魔化しながら、この事実はちゃんと教官に報告しよ
うと思い決める。きっと、自分たちはこう言った些細な情報の収集も求められているはずだ。
「そうなりますね。で、僕からの質問、いいですか?」
 すると、シンジが居住まいを正すように千鶴たち五人を見回す。考えてみれば、自分たちが訊くばかりで、
シンジは何も訊いてはこなかった。
「教えられる範囲で構いません。あの怪獣や、この日本、この世界の事を、僕たちに教えてください」
 柔らかな物腰の中に、真摯な意志が感じられる言葉。それを聞いた千鶴が感じたのは、彼、碇シンジの『強
さ』だった。
 自分たちでは及びもつかない強さが、彼の芯にはしっかり、根付いている。
 思えば、彼らの言を信じるならば、彼ら二人は、異世界からここに飛ばされた、究極の異邦人なのだ。
 それなのに、彼らは落ち着いて、自分たちの相手をしてくれている。多分、シンジが今、その質問をした
のも、自分たちが、この異常な状況に慣れるのを待ってくれていたのではないだろうか。
 歳は同じだが、千鶴は自分が戦う人として、足元にも及ばないと感じさせられた。
「えっと…… 榊さん、どうする?」
  壬姫の声に、他の四人の顔が千鶴に向く。壬姫が千鶴に意見を求めたのは、千鶴が分隊長であるからだ
ろう。千鶴はその意を受け、目を瞑り黙考する。
「皆の意見はどう?」
 自分の答えは出た。でも、他の四人の考えも聞いておきたかった。
「私は、教えてもいいと思います」と、壬姫。
「右に同じ」と、慧。
「ボクも同じ」と、美琴。
「私も、皆の意見に賛成だ」と、冥夜。
 全員一致なら、問題はない。榊はシンジに向き直った。
「私たちで、教えられる範囲で、という前提でよろしければ、お答えします。それで、よろしいですか?」
 千鶴の言葉に、シンジは嬉しそうな笑顔で、
「ありがとうございます」
 と、大作と並んで頭を下げる。どうも、笑顔のシンジと向き合うと、顔が赤くなってしまう千鶴だった。
「では、まず私から。長い話になるので、皆で交代で行きましょう」
 千鶴は、二人にまず、この世界の最悪の脅威、BETAについて語り始めた。あの悪魔の存在を、そして
それによってこの世界がどれほど蹂躙されているかを、シンジと大作に知って欲しかったからだった。
 長い話が、始まった。


 一方、新西暦の世界では。
『どきなさい、カトル! 五飛! 鉄也に宙も!!』
 連邦軍極東基地内において、アスカがエヴァンゲリオン弐号機に乗り、怒りの大音声を上げていた。
 超電磁ネット作戦及び、浅間山早乙女研究所内真ゲッターロボ暴走対応班の両チームは、状況が終了した
のち、情報を整理するため、作戦本部が置かれていた極東基地に帰還した。
 そこで、真ゲッターロボ・ゲッタードラゴン・試作ゲッターロボ消失、及び佐渡島で作戦展開中だったジ
ャイアントロボ・エヴァンゲリオン初号機、そして破壊目標である大怪球の消失、そしてパイロット全員行
方不明の報を知らされた。それを聞いたアスカは、部屋を飛び出し再びエヴァ弐号機を起動させ、
「BF団、ぶっ潰す!」
 と宣言し、強行出動しようとした。それを、プリベンターとして、基地に控えていたカトル=ラバーバ=
ウィナー操縦のガンダムサンドロック・カスタムと張五飛操縦のアルトロンガンダム・カスタム、それに昏
倒から復帰したグレートマジンガーと鋼鉄ジーグに制止されているところだった。
 ちなみに超電磁ネットワイヤー作戦に参加したダンクーガとダイモスは、作動不能。パイロットも病院送
りでこの場にいない。
『落ち着いて下さい、アスカさん!』
 カトルが必死にアスカを説得している。特機であるグレートマジンガーやジーグならともかく、エヴァと
サンドロックでは、到底相手にならない攻撃力の差がある。もしアスカが本気でこの包囲を突破したいのな
ら、自分を狙ってそこから抜ければいいし、聡明なアスカがそれに気づいていないはずがない。
 それをあえてしないのは、まだアスカに仲間を気遣う理性が残っているからだろう。シンジ達が行方不明
で、辛いのはカトルも同じだ。でも、だからこそ、悲しみに任せての暴走は阻止しなくてはと思うカトルだ
った。

「まぁ、無理もないわよね、ホント…… 呉先生からの連絡はまだ?」
 基地内司令室で、連邦軍極東基地司令である葛城ミサト大佐が、基地内滑走路において行われている騒動
を大モニターで見つめながら、憂鬱な声を出した。
 正直、弟のように可愛がってきたシンジが、生存を絶望視される状態だと聞かされた彼女も、アスカと同
じことを考えたのだ。ただ、自分の立場と、アスカが先に暴走してくれたおかげで、何とか平静を装える程
度の理性を保てている、というのが彼女の現状だ。
 気を抜くと、アスカ行きなさいと言ってしまいそうなミサトは、わずかな可能性に縋って、国際警察機構
参謀であり、今、佐渡島で現地調査を行っている、呉学人の報告を待っていた。
「いえ、まだ連絡はありません」
 と、ミサトの副官である日向マコトから言われる。
「早くしないと、私もアスカの仲間に入りたくなるからって伝えて……」
 行儀悪くデスクに座ったミサト、ふとある事に気づく。
「そう言えば、レイはどこに行ったのよ?」
 彼女の傍に先程まで控えていた、エヴァンゲリオン零号機改パイロットの綾波レイの姿が、いつの間にか
消えていた。

『待て! 俺は、BF団を潰すことに反対しているのではない! 性急に事を運ぶなと言っているんだ!』
 戦闘のプロこと、剣 鉄也がグレートマジンガーの両手を広げ、エヴァ弐号機の前に立ちはだかりながら、
諭すように言う。
『俺も剣の旦那に賛成だ! それに、奴らの本部だってわかんねぇだろう!?』
 鋼鉄ジーグの司馬 宙も、それに賛同し、アスカを制止する。だが、アスカの返答は頑なだった。
『うるさいうるさいうるさーーい! アタシはねぇ。一秒でも我慢できないの! アイツ等のせいで、シン
ジが、シンジが、シンジがぁ~~~!』
 アスカの理性を飛ばすような叫びに応えるように、エヴァ弐号機が両手を大きくひろげ 天を仰ぎ咆哮を
上げる。物凄いエネルギーが、いつも以上にエヴァ弐号機を活性化させている。カトルや鉄也は、説得を断
念し、外部からのエントリープラグ停止などの強制手段をミサトに提言しようと考え始めた。このままアス
カを放置しておくこと自体、彼女にも危険が及びかねないと思えたからだ。
『惣流アスカ=ラングレー!!』
 その時、今まで、口を挟まず、ただ静観しているだけだった五飛操る、アルトロンガンダムが、両手のド
ラゴンハングで、エヴァ弐号機の足元を攻撃した。硬い滑走路の舗装が砕け、破片が舞う。
『貴様は信じていないのか!?」
 普段静かな五飛の、恐ろしく熱い叫びに、半ば錯乱状態だったアスカですら、動きが止まったほどだ。
五飛の魂の言葉は続く。
『俺は、奴らの! 碇シンジの強さを! 草間大作の強さを! そして、ゲッターチームの強さを知ってい
る!! だから俺は信じている! 奴らが、あの程度のことで死ぬはずがないと!』
 あくまで五飛らしい、常人では到達できない理屈がアスカに向けられていく。
『貴様は信じていないのか!? 碇シンジの強さを!!』
 五飛は自身が、疑い無くシンジ達の生存を信じているからこそ、これほど言葉に力を込められるのだろう。
アスカは五飛の言葉に、気圧されている。
 呻くようにアスカが口を開いた。
『あ、アタシだって、信じたいわよ……』
 アスカの声は、涙で濡れていた。
『で、でも、跡形もなくなちゃったのよ、破片も見つからないのよ、そんな状況で……』
 エヴァ弐号機は、アスカの心を写すように、沈静化していく。
『……話、終わった?』
 カトルは五飛の強さ信奉に助けられたことにホッとしていたので、いきなり背後に巨大な機体が立ってい
たことに驚いた。サンドロックを振り向かせると、そこには、
『レイさん、っていつの間に!?』
 エヴァンゲリオン零号機改が、両手にソニックグレイヴやら、マゴロクソードやらパレットライフルやら、
挙句に弾道ミサイルらしきモノまで抱えて、立っていた。いつ近づいたのか、それにいつの間に、そんなに
ハリネズミみたく武装したのか、ツッコミどころが多くて、カトルは言葉が継げなかった。
『張五飛の言葉を聞くまで、私もアスカと同じ考えだった……』
 アスカは直情的に行動したが、レイはある程度冷静に、隙をみて行動を開始したのだろう。しかも、武器
を漁って出ていこうとした分、アスカよりタチが悪い。
『でも、もう少し、信じてみる…… シンジ君が、私達を置いて……』
 そこでレイは一拍置いて、
『私を置いて、死ぬはずないもの……』
 とわざわざ言い直す。
『……どうして、一人称になっているのよ』
 悄然としていたアスカに、何かスイッチが入った音がした気がしたカトル。
『別に。ただ事実を述べただけ』
『アンタはそうやって、いつもいつもアタシとシンジの間に割って入って!』
『その言葉、そっくりそのまま返す……』
 いつの間にか、エヴァ同士で睨み合いの口喧嘩が始まった。はぁ、と肩の荷を下ろすカトル。
『ありがとうございます、五飛』
 今回の最大の功労者とも言える五飛に、カトルが言うと、
『フン、俺は自分の考えを言っただけだ』
 と相変わらずの反応が返ってくる。
『まぁ、世界の破滅は免れたようだけど、実際、佐渡島はどうなっているんだ?』
 事の沈静化に安心したように、鋼鉄ジーグの司馬宙が言う。それはカトルも気になっていたところだ。
『それにリョウ達の事も、だ。連邦政府の一部では、真ゲッターにエヴァ初号機に大怪球まで一気に消えて
くれて、万々歳している奴らが居そうだがな』
 鉄也の言葉には、真ゲッターを危険視しすぎていた今回の政府の対応についての不満が、見て取れる。確
かに、一機で戦局を左右できる特機の中でも、真ゲッターやエヴァ初号機と言った機体は、特に危険視され
ていた。エヴァなど、何度破棄が計画されたかわからないほどだ。
『みんな、落ち着いたぁ?』
 すると、司令であるミサトから通信が入る。心なしか声が弾んでいる風にカトルには聞こえた。
『一部で険悪になっていますけど、沈静化はできました』
 いまだお互いを罵り続けているレイとアスカを見ながらのカトルの報告に、しょうがないわねと笑いなが
ら、ミサトは先ほど届いた吉報を披露する。
『聞いて驚きなさい、呉センセから朗報よ! シンちゃんや竜馬くん達、生きているかもしれないって!』
 それを聞き、安堵の溜息や、喜びの歓声が上がる中、五飛はアルトロンガンダムを下がらせながら、
『フン、当然だ』
 と満足そうに呟いたのだった。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第六話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:9e508339
Date: 2014/03/30 02:03
「まったく、夕呼ったら、自分勝手なんだから……」
 ここまで来た快速艇の乗員に、周囲のできる限りの監視と、通信の取次を頼み、神宮寺まりもはブツブツ
と旧友にして上司である香月夕呼に対して、本人も聞こえない文句を一人唱えていた。
「色仕掛けって、いったい、何をすればいいのよ、ホント……」
 まりもはふと、自分が草間大作や碇シンジの前で、胸元をはだけて迫っている情景を思い浮かべ、それを
振り払うように頭をブンブン振る。どうかしている、と自分を叱咤して、異世界の少年と自分の教え子たち
がいるはずの砂浜に向かうまりも。
 戻ってみると敷かれた耐熱シートの上で、二対五で正座で向かい合っている面々。訓練兵達が自分に背を
向けているので、少年二名の表情しかわからないが、深刻な雰囲気を醸し出している。
「……あの怪獣、BETAは、そこまで人類を追い詰めているんですか」
 シンジが重い何かを吐くように言う。そこで、戻ってきたまりもに気づいた二人が、軽く会釈をする。
千鶴たち訓練兵も、その二人の行動でまりもが戻ってきたことに気づき、慌てて立とうとするのを、
「そのままでいい」と制し、まりもも少年少女の間になるような位置に正座で腰を下ろす。
「なんの話をしていたんだ?」
 と訊くと、千鶴が、
「碇さんと草間くんに頼まれて、この世界の事を教えていました」
 と言う。シンジがすかさず、
「僕が頼んだんです、この世界の事を教えてくださいって」
 とフォローをいれる。千鶴達に責はないと伝えたいのだろうとまりもはすぐに察する。
「なに、構わん。話はどこまで行った?」
 訓練兵の五人が語れることなら、たかが知れている。それに、今のまりもは何としてでも、この二人をこ
の場に居させなければいけない使命があるので、時間が稼げることなら何でもするつもりだった。
「この世界の大まかな現状は、教わったと思います」
 と、大作が缶コーヒーをまりもに渡しながら、言った。まりもはどっから出てきた、この缶コーヒーと疑
問に思いながらも、ありがとうとそれを受け取る。
「あのBETAが、どれほど人類を蹂躙しているか、わかりました」
 続いたシンジの声が、ほんの微かだが震えているのをまりもは聞き逃さなかった。
 千鶴たちがシンジ達に語ったのは、BETA発見から、月のサクロボスコ事件、そしてカシュガル侵攻か
ら始まったBETA蹂躙の歴史だった。打ち合わせをしなくても、千鶴たち五人は、その凄惨さを流れに沿っ
て二人に語ることができた。
「碇くんは、どう、思った?」
 探るような気持ちで、まりもはシンジに訊いた。あの声のわずかな震え、それに期待しての問いだ。
 シンジは、少し考えるように、顔を伏せる。まりもがシンジに感心するのは、彼のメンタルコントロール
の高さだ。冥夜達訓練兵と大して歳は変わらないと思われるのに、表情をあまり変えず、平静に接すること
ができている。あの声の震えも、気のせいとも思えるほどわずかだった。
「簡単に言いますと、許せません」
 開いたシンジの瞳の、その思いの強さに、まりもは気圧される。間違いない、彼は自分以上に実戦を重ね
た、歴戦の戦士だ。
「BETAとやらに、どんな存在理由があるとしても、僕は奴らを許せません」
 やはり、とまりもは先ほどのシンジの声の震えの意味を確信した。彼は怒っているのだ。この世界の人類
を滅亡に向かわせているあの悪魔共に。
 そう言ったシンジの静かな迫力は、訓練兵たちも感じたらしく、緊張に顔がこわばっている。
「草間君は?」
 大作は、シンジほど感情の揺れは感じられない。
「僕の世界に帰るまででよろしければ、BETAの退治、お手伝いします」
 !?
 彼らから一番引き出したかった答えが、あっさりと大作の口から出てきた。
「あ、あの、その、いいのか?」
 あまりの驚きに、声が上手くでないまりも。
「僕のロボは……」
 と大作は背後に控える神像の如きジャイアント・ロボを指して、
「人類の平和を護る為に、父さんが僕に託したモノですから」
 と誇らしく言った。平和、久しく聞いてなかった言葉。その言葉が通じる世界が、彼らの世界なのだろう
か?
「ですから、平和を脅かす敵は、僕の敵です」
 大作の今の言葉で、彼が短絡的にその考えに至ったのではないことが、まりもに感じられた。
 平和、それを護る為に戦う、それは草間大作の存在意義に近いものなのだろう。彼も、まりもが到底及ば
ない戦士であることが、彼女にわかった。
「でも、実際問題、困ること多いよね?」
 と腕組みをして、シンジは言う。
「エヴァとロボで、あの蟻塚の親玉みたいなの破壊して歩くのって、凄く非効率的だし。それに、あの怪獣
連中を相手するのって、二機じゃキツイよねぇ」
「せめてロボが特攻仕様じゃなければ、良かったんですけど」
 この二人はいきなりハイヴの攻略方法について考え始めているようだ。
「他にも色々問題あるし、知りたいことも多いし、急いでもしょうがないかな?」
「ですね」
 二人が、じゃあ行きましょうと、ハイヴ攻略に旅立たれたらどうしようと、一瞬考えてしまったまりもだ
ったが、彼らが、腰を据えて動くつもりのようで、ホッと胸をなで下ろした。
「で、話の続き、いいですか? 横浜で奇跡が起きた、の続き、お願いします」
 するとシンジは、ケロッとした風に、先ほどまで話をしていたらしい壬姫に、続きを促す。どうやらBE
TAの日本侵攻、そして奇跡の光神出現による横浜ハイヴ消滅あたりまで、話は進んでいるようだ。
「あぁ、珠瀬の話の前に、私から君たちに伝えたいことがある」
 今のうちに口を挟んておかないと、言い出しづらくなりそうなので、まりもは二人に、香月夕呼副司令の
意向を伝えた。
「私の上司に君たちのことを伝えたら……」
 そこでまりもは、先ほどの夕呼の狂喜乱舞ぶりを思い出し、苦笑してしまう。
「一刻も早く、君たちに会うべく、全力を尽くす、との事だ。まぁ、私が言うのも何だが、常識からかなり
外れた方で、な。そのあたりは勘弁してほしい」
 この二人の少年に、夕呼をぶつけたら、何が起きるだろうかと、まりもは考えてみる。口八丁手八丁が売
りの彼女でも、この二人を御せるとは、どうも思えない自分がいることにまりもは少し驚いた。
「大丈夫です、僕の周り、そんな人ばかりですから」
「僕も、同じです」
 と快活に返してくる大作とシンジ。目の前の少年、特に年下の方は常識の枠を既にはみ出ていることにま
りもは気づき、また苦笑する。夕呼に、大作が海の上を疾走したところを、ぜひ見せてあげたいと意地悪く
思ったりもした。彼女がどんな反応をするか、想像するだけで、楽しい。
「私の話はそれだけだ。では、珠瀬か、話の続きを」
「は、はい」
 まりもに促され、壬姫がカミカミ状態で、話を始める。
 壬姫の話を聞きながら、まりもは二年以上前のあの大事件について思いを出し始めていた。
 あの事件は年が変わる間際の、1998年12月31日未明、05時01分に起きた。
 その瞬間に、横浜ハイヴを観測していた映像機器は、衛星を除き全滅してしまったので、後に光神と呼ば
れる存在の出現した状況は、肉眼による証言と、衛星からの俯瞰映像でしか残されていない。
 多摩川で、BETAの侵攻に警戒していた駐留軍の兵士たちの多くは、『突如として、目が眩むほどの光
が発生し、それが消えた時には、モニュメントは消えて、白い鈍い光が代わりにそこに存在していた』という内容の証言をしている。その光が徐々に降下していき、その場所は今、不可侵のクレーターになっている。
 残されたBETA数千が、その光に誘われるように突進していき、そして光の中に飲み込まれ、二度と姿
を表さなかった。
 この状況に喜ぶより驚いた日本政府が、軍に調査を命じて、その第一陣が現地に駆けつけるまで三時間、
そこで彼らが発見したのが、直径三キロ、深さ一キロの巨大クレーターと、その外縁に倒れていた二人の生
存者だった。
 一瞬で人類最強の脅威であるハイヴが消失し、そしてその中に囚われていた少年少女が救出された。
 このニュースに日本だけでなく、世界が湧いた。軽いパニックと言っていい状況だったとまりもは思い出
す。
 ハイヴ消失について、多くの有識者が様々な意見をぶつけ合う論争を繰り広げ、最初に行き着いたのが、
ハイヴの反応炉の暴走による自壊だった。
 生存者の二人の証言、『兵士級に連れ去られそうになった時、白い鬼のような巨人が助けてくれて、地上
まで連れて行ってくれた』や、生物、機械が如何なる方法でも近寄れない現状を無視した、常識に囚われた
結論に真っ先に、
「そんなわけないでしょう!!」
 と声高に反論をしたのが、香月夕呼だった。
 現実を見なさい、と一喝した彼女が、仮にと、前置きして提唱したのが、『光=エネルギー生命体』説だ
った。
 これまた、理由なんか想像つかないけど、と前置きしての彼女の説明では、そのエネルギー生命体は、B
ETAに敵意を抱いており、その為にどこだかわからない世界からやって来たのだと。そして、二人を助け
たのは偶々だったという、はっちゃけたこの説は、有識者からは総スカンを食らったが、一般人、特に日本
帝国国民には、感動と納得を持って迎えられた。
 夕呼は、「敵側の事故じゃ、夢も希望も何もないでしょ。誰かが助けてくれた、の方が希望を持てるじゃ
ない」とまりもにそう説明してくれた。
 そして、いつの間にか、あの光は神の化身、という風説が流れ、いまだクレーターの底で光り続ける光源
のことを『光神』、横浜ハイヴで起きた発光現象を『光神現象』と呼ぶようになった。
 そして夕呼のエネルギー生命体説に、最も共感したのが、生存者二名を保護した、政威大将軍に即位した
ばかりの煌武院悠陽その人だった。
 国連軍副司令であり、世界規模の重要プロジェクトの総責任者でもある夕呼に、外交筋も通さず、直接面
談し、協力を要請した彼女の強行姿勢は、今も新潟基地では語り草になっている。
 夕呼は、まりもにだけ後に、「殿下の迫力に気圧されたのよ」と教えてくれたのだが、時間が許す範囲で
という条件つきで悠陽の協力要請を承諾した。
 今日まで、世界を満足させる成果は出ていないが、夕呼と悠陽の協力関係は、友好関係といっていい状態、
まで成長して、今も継続している。
 悠陽の元に居る二人、特に白銀武を、夕呼はかなり気に入っているとまりもは感じている。
「光神、ですか」
「白い光、って言うのが、気になりますね」
 まりもが物思いに耽っているうちに、話し手は冥夜に移っていて、光神現象の説明が終わったようだ。
「う~~ん、僕たちがどう出現したのか、知りたいなぁ~」
「横浜に行ったほうが、いいかもしれないですね」
 とシンジと大作は、思い思いの考えを口にしている。
「その、そなた達は、今の話に何か思い当たることがあるのか?」
 冥夜が二人の反応に、身を乗り出すように訊いてきた。まりもも漠然と感じていたのだが、この二人は、
あの光神の関係者ではと、冥夜は思っているようだ。
「え~~と、状況だけ聞くと、知っている人たちの仕業なんだけど……」
 シンジが、あっさり、とんでもないことを言っている。
「でも、規模が大きすぎるし、三年近く前に来て、まだ光っているなんて、ありえないし。あぁ、専門家の
意見が聞きたいなぁ」
 内心で、何かの葛藤と戦っているように、シンジが唸っている。
「僕たち以外に……」
 と、シンジに続いて何かを言おうとした大作だが、小さく鳴った腕時計のアラームに瞬時に反応して、立
ち上がる。
「高速でこの島に接近する物体を探知! 一機、中型の機体です」
 大作の腕時計の文字盤が開き、そこに現れた小さなモニターにレーダー画面が映っている。
「ロボ、一時の方向だ!」
 大作の声に反応して、ジャイアント・ロボが指示された方向に、首を向ける。巨人の視線は一機の人型兵
器を捉えていた。
「すまない、草間くん。ちょっと見せてくれ」
 今、モニターに映っているのは、その近づいてくる機体の映像。
「……この時代に、こんな人型兵器があるんだ」
 と驚いている大作に近づき、腕時計の小さなモニターを覗き込むまりも。
「神宮寺さんの、お知り合いですか?」
 あくまで警戒を解かずに、まりもに尋ねる大作。
「なんか、白旗を持っているね」
 まりもと逆方向から腕時計を覗き込んでいるシンジが目敏く、近づいてくる機体がその機体に見合うサイ
ズの巨大な白旗を掲げていることに気づいた。
「これは、斯衛の瑞鶴だ。多分、だが、私の知り合いが乗っていると思う」
 モニターが小さいので、微妙な形状の違いがよく確認できないが、この黒い瑞鶴は、白銀武専用にカスタ
マイズされた瑞鶴だったはずだ。それに、あんな空気抵抗の塊である旗を持って、安定した匍匐飛行を見せ
る操縦技術も、この機体の操縦者が彼であることを裏付けている。
 ロボの視界ではなく、肉眼でも遠くに水しぶきが確認出来る距離になった。
「では、アレに僕たちに会わせたいという方が?」
 まりもの言葉に、少し警戒を解いて大作が尋ねる。
「いや、その御仁はまだ新潟付近のはずだから、こんなに早く来れるとは思えない。私の勝手な予想なのだ
が一刻も早く君たちに接触したいと思った御方からの特使、ではないかな、アレは」
「特使、ですか?」
 その言葉の意味を反芻するように、大作が言う。
 この世界でいうところの、戦術歩行戦闘機『瑞鶴改』は、この島に近づくにつれ減速していき、皆が居る
砂浜に近付くと、浮遊するような操縦で、シンジ達がいる場所から少し離れた砂浜の端に、綺麗な着地を決めてみせた。
 全長にも等しい旗竿と、巨大な白旗を掲げる、黒い人型兵器を見て、シンジは単純に凄いなと、感心して
いる。あの機体をこの時代に作り上げた技術と、一見しただけでわかった、操縦者の卓越した技術に対して。
 大作は、シンジの護衛を自分に課しているので、あくまで警戒は解かないが、あの機体に敵意がないのは、
漠然と感じている。ただ、あの機体から漂う、武人のオーラに体が勝手に反応してしまっていた。
 まりもは確信を持って言った。
「ふむ、間違いない。あの戦術機には帝国斯衛軍の白銀武少尉が乗っている」






[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第七話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:9e508339
Date: 2014/03/30 02:02
「島が、見えた」
「わぁ、ホント、でっかいのが居る!」
 最大望遠で、目標の島を捉えた。入り江には、異なるフォルムの巨人が二体、確認できた。
「エジプトが、こっち見てるぞ」
 目標の島が近付いている。自分たちが向こうを捉えられたのと同じで、向こうも自分たちの接近に気がつ
いている。
「しかし、緊張するなぁ……」
 エジプト風の巨人は、明らかに、この瑞鶴改をガン見している。頭部が人を模しているので、本当に巨人
に睨まれている気分だ。
「白旗持ってるから、大丈夫だって」
 前に座る相方の楽天的考えに、感心してしまう。
 話している間に、もう目標は目前だ。相変わらず、エジプト風巨人はこちらの動きに合わせて、顔を動か
している。
 網膜に砂浜に立ち、こちらを見上げる数名の人影が投影されている。ブレザーと白いツナギのような服を
着ている少年二人が、件の異世界人だろう。
 だが、操縦席の二人は、その少年より、後ろに並ぶ五人の少女のうちの一人を見て、絶叫を上げてしまう。
「「ゆ、悠陽さまぁ~~~!?」」
 そこには先程まで、帝都城にいたはずの二人の主君が、なぜかBDUなんぞ着て立っていた。
「いや、待て、ちょっと待て、落ち着け、純夏」
「タケルちゃんこそ落ち着きなって。で、何?」
「思い出せ、純夏。悠陽様が話してくれた、あの話だ」
「あの話って…… あぁ!」
 二人は再び、主君に瓜二つの少女に目をやる。彼女を見る思いは万感だ。
「あの方が、冥夜様、か……」
「悠陽様の、妹さん、だね」
 煌武院悠陽の特使として、この島に問答無用で急行させられた白銀 武と鑑 純夏。二人はここで思いが
けない出会いをすることになった。

 瑞鶴改から、純夏をぶら下げて、ワイヤーを使い降りる武。目標の二人は、少女五人と、知己である神宮
寺教官と並んで、こちらを待ってくれている。
 将軍の特使であるからには、それなりの格好をしたかったのだが、戦術機でこちらに急行を命じられては
仕方ない。零式強化装備に身を包み、なるべく毅然と歩くように心がける武と純夏。
 異世界から来たという二人の少年の姿が、形になってきた。白い強化装備並に身体にフィットした服を着
ている少年は、細身で整った顔立ちの優男風だが、挙措が凛としていて隙がない。かなり鍛えているなと武
は心の中で分析した。
 そして、問題のブレザーを着た少年だが……
「純夏……」
「なに、タケルちゃん?」
 ほとんど口を動かさずに純夏に話しかける武。
「あのブレザーの方、勝てる気がまったくしない…… 化け物だぞ、アレ……」
「!?」
 武こそ人類最強と信じている純夏は、驚きの声を必死に飲み込む。武は師事した斯衛軍武術師範、神野志
虞摩に、『人間の規格から外れた存在』とまで言わしめる位の、身体能力を持っているのだ。その武がそこ
まで言う存在のブレザーの少年をマジマジと見る純夏。精悍な顔つきではあるが、とてもそうは見えない。
「まぁ、喧嘩しにきたんじゃないから、平気だよ。ほら、武ちゃん、難しい顔しないで、スマイルスマイル」
「そうだな……」
 言われ、いつの間にか入っていた力を抜く武。純夏の方はというと、笑顔で気楽に相手方に手を振ってい
る。
 純夏には言っていないのだが、武は出発直前、香月夕呼から、相手がどんな人間かしっかり見定めてこい
という、極秘指令を受けていた。特に、二人の身体能力を武なりに分析しておけと言われたのだが、まさか、
規格外と言われた自分より、さらに規格外の人間が出てくるのは想像していなかった。
 知らず自分の力に慢心していたか…… 密かに自省を促し、武は歩く。異世界人との邂逅は、もうすぐだ。

「なんか、凄いね、こっちのパイロットスーツ」
 近づいてくる二人に男女、歳は前もってまりもに教えてもらった通りで、自分たちの同年代。シンジは初
めて見る強化装備があまりに体のラインを強調してくれているので、どうにも視線の行き先に困ってしまう。
 アスカさんやレイさんのプラグスーツで見慣れているでしょう、と大作は思うのだが、口に出さないで置
く。大作はシンジの数倍ウブな坊やなのだが、事、戦いがらみになると、坊やの部分はキチンと引っ込む。 
 武が大作のエキスパートとしての超人的能力を見抜いたのと同じく、大作も武が只者ではないことをひと
目で見抜いていた。
 素手なら自分が勝てるだろうけど、相手が武器を一つ持っただけで、どう転ぶかわからない、それほどの
身体能力を男性は持っている。知人に当てはめるなら、戦闘のプロことグレートマジンガーパイロット、剣 
鉄也タイプだろうか。
「大作くん、リラックスしていこう。あのシロガネって人、只者じゃないのは僕にもわかるけど、となりの
女の子の笑顔は、信用できると思うよ」
 大作がわずかに気負ったのを察したシンジが、柔らかい口調で言う。
 言われてみると、シンジ曰く、凄い桃色基調のパイロットスーツを着た少女が、人懐っこい笑顔で手を振
っていた。確かに、あの笑顔は人を和ませる輝きがある。
 力を抜いた途端、少女の体のラインが気になってしまい、視線が明後日を無意識に向いてしまう大作。ま
だ、修行不足のようだ。
 お互いの距離が、縮まってきた。彼らはこの日本に置いて政を司る政威大将軍という、どっかで聞いたよ
うな響きの人物の側近とも言える人物らしい。それに、この二人が先ほど話で出た横浜ハイヴの生き残りで
あると、まりもから聞かされた。
 さて、どういう意図で彼らはここに現れたのか。シンジと大作はわずかに顔を見合し、無言で気を引き締
める。

「突然の無礼、お許しください」
 シンジと大作、白銀 武と鑑 純夏の邂逅は、まず武が頭を下げたところから始まった。
 この邂逅のメインはその四人なので、まりもと訓練兵五名は、わずかに離れたところでそれを見守る形に
なっている。
 冥夜は、生まれてすぐに離された姉の下に仕える二人を見て、複雑な思いを抱いている。二人は、申し訳
程度に自分たちに向け頭を下げたが、あとは無関心を装ってくれている。悠陽の傍に仕えていて、自分に驚
かないのは、姉からある程度の事情は聞かされているのだろうか?
 冥夜はそんな事を思いながら、始まった邂逅を見守っている。
「自分は、煌武院悠陽殿下に仕える、白銀 武、こちらは、鑑 純夏、彼女も自分と同様、殿下に仕えてい
ます」
「鑑です」
 武の挨拶に合わせて、傍らに控える純夏も頭を下げる。
「僕は、碇シンジ。こちらは……」
「草間大作です」
 異世界少年側は、シンジが前に出る形らしい。
 余計な飾りのない挨拶に、冥夜は意外な思いがした。
「言伝等を頼まれているのですが、先にいいですか?」
 と武は右手を差し出す。
「佐渡島ハイヴを破壊してくださったそうで。帝国民を代表、ってわけではないですが、ありがとうござい
ます」
 そう言う武に、シンジも前に出て、その手を握る。
「僕たちに、そんな大層なことをしたって実感、ないんだけどね」
 困ったような笑顔のシンジに、武も笑顔を返す。その二人の姿を見て、冥夜は何故だか胸が熱くなるのを
感じた。
「草間さんも、ありがとうございます」
「あ、いや、その……」
 一方、純夏と握手している大作は、純夏の強化装備姿にどうにも照れてしまうらしく、目を泳がせて、顔
を赤くしている。そんな様子をみて、武とシンジは顔を見合わせ、また笑い合う。
「でも、お役に立てたなら、光栄です」
 シンジは変わらず柔らかい笑みを浮かべ、武に応じている。
「では、まず自分たちがこちらに遣わされた件から、お話させていただきます」
 武の方も、なるべく場が硬くならないように、柔和な感じで話している。目くばせで、純夏になにか伝え
ると、純夏がシンジを向き、太ももに巻きつけていたポシェットのようなモノから、一通の封筒を取り出し
た。
「殿下からの親書です。本当に急いで書かれたので、本来の様式のモノではないのですが、殿下は一分一秒
でも早く、お二人に感謝の意をお伝えしたかったので」
 そう言って、主君からの封書を、シンジに渡した純夏。シンジは、
「その為にわざわざ?」
 と、恐縮した体を見せながら、その封書を代表して受け取る。
「では、拝見させていただきます」
 封書を開ける時、軽く一礼したシンジ。大作と頷きあって、丁寧な動作で封を開ける。この世界では高級
品になりつつある和紙の便箋を使ったのは、悠陽の気遣いなのだろうか。
 書かれている内容は如何なモノなのか、傍観の冥夜にも気になるところだ。シンジは感慨深げに読み終え
た後、大作にそれを渡す。
「僕らのためにわざわざ、そこまでしてくださるのですか?」
 シンジが尋ねると、武は困ったような笑顔になって、
「本当は殿下が戦術機で直々に、ここに来られようとしまして。お諌めして宥めて妥協を引き出して、よう
やく話がそこに落ち着いたんです」
 そう説明する。武がちらっともらした、殿下直々、の言葉は、冥夜を含めた訓練兵皆に、衝撃を与えた。
冥夜など、この国の最高権力者といっても過言ではない姉が、軽率と言われても仕方ないことを実行しよう
としたことに、呆然とするばかりだ。
「……困りましたね」
 大作が便箋をシンジに返しながら言う。
「二人一緒、はムリだよね」
 と便箋を受け取り、それを封筒に戻しながら、シンジが応える。
「殿下のご好意をありがたいのですが、さすがにこの大きいのを置いて……」
「やはり、無理がありますよね」
 武はシンジの言葉を皆まで聞かずに、納得しているようだ。
「それに、僕らのために、軍艦一隻動かすというのも、大げさというか、何というか」
 軍艦を動かす? シンジの言葉に、冥夜は目を見開いて驚いた。他の訓練兵だけじゃなく教官のまりもも
驚きをあらわにしている。
「その辺りの交渉も、自分に一任されています。意見苦情等がございましたら、ご存分に」
「本当にご苦労様です。では、まず提案なのですが……」
 シンジがそこで、明らかに、今までとは違う笑顔を見せて、言った。
「他人行儀の口調、ヤメにしません? 白銀さんは、同じ年とのことですし。僕も大作くんも、堅苦しいの
は苦手だから」
 その申し出に、武は虚をつかれたように目を丸くしたが、
「それはありがたい。どうも、育ちが悪いせいか、自分も堅苦しいのは苦手なんだ」
 と、すぐにシンジの申し出を快諾した。横にいる純夏が、肘で軽く武を突っつきながら、
「悠陽様からは、くれぐれも失礼のないようにって……」
 と小声で言うが、武は、
「ここでヘンに格式張って、地金がでちゃったら、そっちの方が失礼だって。じゃあ、俺のことは武と呼ん
でくれ」
 と聞く耳もたない。純夏は、はぁ、肩を落とし、深い溜息をつく。
「だから、タケルちゃんじゃムリですって言ったのに、悠陽さまぁ」
 と小声で愚痴をこぼした純夏だが、気分を切り替えたのか、
「うん、わかった。こっちはシンジくんに大作くんって呼ぶね。よろしく!」
 とある意味、武より高い順応性を見せてきた。これには、シンジや大作からも笑い声が漏れた。
「じゃあ、僕はタケルくんにスミカさんで。呼び捨ては苦手で」
「僕も同じで」
 そして、今度はシンジと大作から右手を差し出す。
「あらためて、よろしく。タケルくんにスミカさん」
「よろしくお願いします」
 そうして差し出された手を武と純夏は、しっかりと握り返す。今度は、武と大作、純夏とシンジも握手を
交わす。
 四人の間に生まれた交流を見て、冥夜は漠然と羨ましさを感じた。四人とも、自分のような半人前ではな
く、自分の中に確固としたモノを持っている。それが、たまらなく羨ましかった。
「さて、じゃあ、当面の問題の話し合いをしようか。さっきまであそこで座って、みんなと話していたんだ。
あちらの方々は同席してもいいよね」
 シンジが、いきなり自分たちを話に混ぜようとしてきた。慌てるが、断るのも悪い気がする。どうすべき
かの判断を隣にいた千鶴を見ることで、彼女に委託してしまう冥夜。軍の規範から外れた状況下に、弱すぎ
る自分に情けなささえ覚えてしまう。
 委託された千鶴も、自身で判断できかねると、まりもに視線を送る。まりもはそれを受けて肩をすくめた。
「どうも、場に気を使うのが、碇シンジという御仁の美徳らしい。謹んで、同席させていただこう」
 まりもも短い時間で、シンジが周りに気を使うタイプのだとは察したらしい。
 姉の傍に仕える二人、二人に揺れる心情を悟られないか、冥夜は不安に思った。

「このコーヒー美味いや」
「これ、ホントの豆使ってる。缶コーヒーなのにぜいたく~」
  と、大作に挨拶がわりと供された缶コーヒーに感心する武と純夏。冥夜も飲んだのだが、異世界人を前
にしたせいか、味なぞ全然わからなかった。
「しかし、あのエジプトに、コーヒーなんて積んでたんだ」
 武は自分たちがきいてよかったのかわかりがたいことを、あっさり訊いてくれた。冥夜たちは、先ほどの
と違い、コの字型になって耐熱シートの上に直に座っている。冥夜たちは縦棒の部分だ。
「エジプトじゃなくて、ジャイアント=ロボです。ロボの左足の空きスペースに、避難用シェルターがある
んですよ。そこに色々生活用品も入っていて、缶コーヒーは、僕が好きなんで、箱で入れておいたんです」
 バイクとかベットとか、着替えもあるんですよと大作。
「実際使う日が来るとは思わなかったけど、何事も備えて置くべきですね」
 とロボを見つめる大作の目は感慨深げだ。冥夜の知らない何かに、思いを馳せているのだろう。
「さて、まず色々話を詰めちゃおう! やっぱり、二人一緒はキツイか?」
 武が本題をまず切り出した。先ほどから軍艦がどうとか言っていた件のようだ。内容が把握できていない
冥夜たちに向けてシンジが簡単に説明してくれる。
「将軍様が、僕たちを戦艦に招待したいと。そこで、正式に会談と会食をしたいって書いてありました」
「ここに来るのは以ての外。でも、帝都城に招待するのは、城内省の関係者が難色を示した。で、折衷案で、
佐渡へ急行する戦艦の中から一隻を出してもらって、そこでって流れ」
 シンジの説明を武が補足する形になった。
「僕らのために、わざわざ戦艦融通してもらうって、どうもねぇ」
 どの戦艦が来るかはわからないが、二人の人間を歓待するために、戦艦を動かすのは冥夜にも大仰に思え
る、
「でも、佐渡島ハイヴを壊してくれた大功労者なんだぜ。。帝国全軍を以てしても、可能かどうかわからな
かったことをやってくれたんだ、戦艦一隻動かすくらい、安いもんさ」
「だねぇ。悠陽様、そう言って海軍説得したんだもんね」
 続いた純夏の言葉。あの姉が損得勘定を持ち出して、海軍を説得する様が、冥夜にはどうしても浮かばな
い。自分は見えることの叶わぬ姉を、美化しすぎていたのかと思ってしまう。
「話戻して、ぜひ二人共との希望なんだが、そっちの懸念も分かるわ。確かに、こいつらは……」
 と武が、皆の背後に控える、二体の巨人に目を向ける。
「エヴァンゲリオンにジャイアント=ロボ、か…… 安易に考えてはいけないと思うけど、こんな凄いのが、
この世界にもあればなぁ」
 羨望の眼差しで、二機を目上げる武と純夏。つられて冥夜たちもまた、巨人に目を向ける。武たちに実戦
経験があるかは不明だが、戦う者として、あの二体は、羨望の対象になりうるのだろう。
「紀伊持ってきても運べないよなぁ。かと言って、置きっぱなしじゃ不安になるのもわかるし」
 武が話を戻す。つまり、悠陽に招待されたけど、この巨人を置いていけないし、戦艦でも、この二体を駐
機するのは不可能だろう。
「この国の人を信用してないわけじゃないんですが、やはり、今、エヴァやロボの傍を離れるわけにはいか
ないので」
「では、シンジさん、行ってきてください。僕が、番をしていますから」
 シンジの逡巡に、大作があっさりと解決策を出す。
 シンジの心配は、冥夜も最もだと思う。冥夜や武たちのことは信用してくれているかもしれないが、それ
でも、事情を詳しく知らない帝国軍が、いきなりこの二体を接収すると言い出さないとは言えないのだ。
 それに対応し、なお最低限の礼を失さないようにするには、どちらか一人が代表として悠陽に拝謁するの
がベストだろう。そして、その人選はシンジの方が適役だと冥夜も思う。
「それしかない、かな。じゃあタケルくん、スミカさん、その方向で調整、お願いできる?」
 シンジが少し考えて、大作の案を選択した。
「了解! ちょっと待っててください。城に連絡してくるから」
 大型の通信機を積み込んだという瑞鶴改に、純夏は走っていく。強化装備の通信機にリンクさせて、長距
離通信を行うのだろう。
「スミカさんって、タケルくんの恋人?」
 シンジがいきなり、個人的なことを訊いてきた。興味とからかいが半々と言った表情、この御仁はこんな
表情もするのかと、冥夜の目には新鮮に映った。
「あ、いや、二人でセット、って思われているから、よく言われるんだけど……」
 武はげんなりした顔を見せたが、その後、困ったように笑いながら、
「俺と純夏って、何かそんな色恋沙汰の関係じゃなくなってるんだよ。吊り橋効果、って知ってるか?」
 と二人の関係の説明をしてくる。
「危険と隣り合わせの環境では、男女の関係はより親密度を増す、みたいなことだっけ?」
「まぁ、それが二ヶ月以上も続いたせいか、色恋沙汰を突破しちゃったみたいでさ。あいつと俺は、一緒に
いるのが当たり前の、半身みたいなトコに来ちゃったんだよね」
 そういう武の笑顔が、少し寂しそうに、冥夜には見えた、二人が横浜ハイヴに捕らえられていのは知って
いる。きっと、その中で二人は死を間近に感じ続けていたのだろう。
「そっか…… 大変だったんだね」
 シンジの言葉には、慰めより共感の響きがあった。この人も、凄絶な体験をしているのだろうか? 冥夜
は、シンジの歳不相応の落ち着きは、その経験から来ているのかと察する。
「異世界に跳ばされたほどじゃない、って思うけど」
 武の返しに、大作を含めて笑いが起きる。
「しかし…… 静かだね、みんな?」
 場を気にするシンジが、首を横に向ける。自然、武や大作の顔も横に向く。
 ドキン! 冥夜は強化装備に身を包んだ武と目があった瞬間、何故だか胸の鼓動が跳ね上がるのを感じた。
思わず胸に手を当ててしまう。頬も紅潮してしまいそうだ。
「自分たちが口出ししていいレベルの問題じゃないと思って、黙っているのです、碇くん」
 答えたくても、それがいいかどうかわからず、結局口を開けない冥夜たち。その気持ちを代弁したまりも
がシンジにそう言う。
「訓練兵でも軍人だから……」
 慧が、ボソっと言う。
「少尉殿が臨席しているので、遠慮しているのもある」
 千鶴が慧に余計なことを言うなと、歯を向いて威嚇している。一番空気を読まない美琴ですら、沈黙して
いたのに、慧の度胸には、呆れを通して感嘆すらしてしまう冥夜。
「俺と純夏が少尉なのは、殿下の傍にいるのが民間人じゃ示しがつかないって理由なだけだから、そんな気
にしなくていいぞ」
 武はそんな慧に、フランクに接してくれている。
「うん、わかった。気にしないであげる……」
 慧の反応に、またも千鶴が噛み付きそうな顔になっている。
「純夏は…… まだ話し中か。まりも教官」
 まりも、と名前で呼ばれたまりもは、眉間に皺をよせ、
「神宮寺と呼んでくださいと、あれほど……」
 と苦悩に満ちた表情をみせるが、頑張って立て直し、無理な笑顔まで作って、
「なんでしょうか、白銀少尉」
 と応じてくる。
「できたら、彼女達を紹介してほしいなぁ、と」
 シンジ達との折衝は、純夏が戻ってくるまで進展はない。話を繋ぐのと、皆を退屈させないようにと、武
は配慮してくれているのだろうか。
「はぁ、構いませんが。右から榊、御剣、珠瀬、鎧衣、彩峰訓練兵になります」
 まりもの簡単な紹介に、武の眉がわずかに上がる。紹介された名字を、小声で反芻して、
「なるほどねぇ」
 と一人納得している。冥夜たちが一箇所に集まっている理由を、詮索もせず、流してくれて少しホッとす
る冥夜だ。出来うれば、一介の訓練兵として接して欲しい、そう思う冥夜だ。
「とりあえず、向こうとの連絡終わったよぉ~」
 純夏が砂浜を小走りで戻ってくる。
「シンジくん一人なのは残念だけどって。大作くんとは後日、改めてってことで納得してもらったよ。服と
かもあっちで用意するって。それと……」
 そこで純夏は、深い溜息をつく。
「香月博士も同席することに決定だって。博士も、この島に来る気満々だったみたいだけど、多忙すぎて時
間調整できないから、ついでに同席させてくれってねじ込んだみたい」
「はぁ、やっぱ出てきたか、博士……」
 武も、純夏のように深い溜息をつく。新潟の女傑、香月夕呼も臨席するとは、シンジと悠陽の会談はどの
ような展開になるのだろうか? 冥夜には想像すらできなかった。
「その博士が?」
 大作が、まりもを見ると、溜息が伝染った彼女は、はぁ、と息を吐いて、
「そうです、私が会わせたいと言っていた規格外の人です」
 と言う。
「あの人、規格外とか、そう言うレベルじゃないよね、色々と」
 純夏の追随に、武とまりもは心の底からの同意を示す、深い首肯を見せる。
「将軍様と、そんな凄い人と、僕一人で謁見しなきゃいけないのかぁ」
 荷が重いなぁと、困ったように頭をかくシンジ。冥夜などにしてみれば、執政と軍務の雲上人のセットと
会うのに、その程度の困惑しか見せないシンジの神経の太さに驚いてしまう。
「で、これは、博士にちゃんと説明しておけって言われたので……」
 純夏が、正座し、居住まいを正し、シンジと大作に向き直る。先ほどまでの人懐っこさは消え、凛とした
佇まいすら、その面からは漂っている。
 つられ、居並ぶ面々も、居住まいを正すことになる。
「光神様の御言葉を授かる者として、碇様、草間様に、お話ししたいことがございます」
 純夏の口調が一変したことで、先程までの和やかな雰囲気も、緊張したものに変わる。
「まずは、私たちが、横浜で光神、『リョウマ』様に命を救っていただいた経緯から……」

 !?

 最大級の驚愕に、冥夜の目は見開かれた。秘されていた横浜での顛末のことが語られる驚きもあったが、
それより、光神に名があったことに、衝撃を感じてしまう。
 この中で唯一驚いていないのは、目を伏せ、純夏が語るのに任せている武だけだ。シンジたちも、今まで崩さなかった柔和な表情に、驚きを貼り付けている。
「シンジさん……」
 大作が、そう言っただけで、シンジはすべてを察したように、頷いてみせる。
 口元に手をあて、半ば顔を隠すように、シンジは呟いた。
「竜馬さんが、来ている…… ということは、光神は……」
 その小さな声は、なぜか冥夜の耳にはっきりと届いた。
「真ゲッター……」






[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第八話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:9e508339
Date: 2014/03/30 02:02
絶望の日々だった。
 日付の感覚はもなく、時間の感覚もない。
 わかるのは、日に日に減っていく囚われた人間の数だけ。
 周りの大人も協力してくれたこともあり、武と純夏は、その檻のような場所の中で、最後まで生き残るこ
とができた。
 武は純夏を励まし続けていた。例え、この先に絶望しかなくても、最後の最後まで純夏を護ろうとしてい
た。
 兵士級がやってきた。純夏を連れて行こうとする。
 泣き叫ぶ純夏、必死に抗い、兵士級を純夏から引き離そうとする武。
 兵士級は、妨害する者を容赦なく殺してきた、喰らってきた。それがわかっていても、武は必死に純夏を
護ろうとした。
 兵士級は、無慈悲に武の頭を掴んだ。ミシ、骨が軋む音がした。でも、武は必死に抗い、純夏から兵士級
を引き離そうとする。
 兵士級の口が開いた。武が殺される、それがわかった純夏の口から絶叫が迸った。
「だ、誰か、助けてぇ~~~!! タケルちゃんを助けてぇ~~~!!」
 魂が溢れるような叫び、それに応えるように……

 世界は白に包まれた。

 武を今まさに食らおうとしていた兵士級が、何かに掴まれ、消滅した。
 白一色の世界だが、明暗で、そこに何かが居る、在るのがわかった。
 純夏は呆けたように、その存在を見上げる。自分の周りが消失していくのが、不思議とわかった。
いや、言葉には出来ないが、純夏は、今のこの状況を理解できていた。
『待っていろ……』
 光の中に象られた巨人が、純夏に話しかけた。その話しかけてきた声の主が、リョウマであると純夏には、
聞かずとも理解できた。この巨人と心の中で繋がっていくのがわかった。
『救いはくる……』
 巨人の手が自分と武を包んだ。優しい力だった。
 純夏の意識は、静かに閉じていった。
 そして、次に目覚めたのは、横浜ハイヴだったクレーターの外縁部ギリギリのところ。
 数カ月ぶりに触れた外気、隣にいる武、純夏は自分が助けられたことを実感した。先ほどまでのすべてを
理解できた感覚は失せていたが、リョウマの言葉は、まだ頭に響いている。
「ありがとう、リョウマさん……」
 かすれた声で、純夏はそう呟いた。

 1998年12月31日のことである。。

「以上が、リョウマ様に私たちが助けられた日に起きたことです」
 純夏が語り終えた後、目を静かに閉じる。話を聞き終えた皆は、言葉もないと言った感じだ。
 冥夜は、純夏、武、シンジ、大作へと視線を巡らせる。純夏は語り終えた余韻か、小さく息を吐いている。
武は、過去の思い出に、何かを再確認したような強い眼差しを見せていた。
 そして、シンジと大作は、深い思索に沈んだように、厳しい表情を見せている。
「やっぱり、シンジくんと大作くんの知り合いなんだ、リョウマ様」
 語り終えた純夏は、先程までの神々しさは失せ、親しみやすい少女にそれに戻っている。
「ありがとうございます、純夏さん」
 思考に沈んでいたシンジの顔が、凛としたものに戻る。礼を言われ、キョトンとする純夏だが、武は察し
たようで、
「純夏の話が、何かの役に立ったのかい?」
 と訊いてくる。シンジはそれに力強く頷く。
「僕らがこの世界に来た理由が、分かった」
 シンジの言葉に大作が驚く。
「シンジさん、本当ですか?」
「この世界に一番に来たのが、竜馬さんだった」
 大作の言葉に、シンジは頷いて、自説を語り始めた。完全に二人の世界に入られてしまった。
「僕らが、この世界に来る直前のこと、思い出してご覧」
「それは…… シンジさんは大怪球を止めて、僕は上空から隕石みたいな攻撃を仕掛けていたところで…
…」
 シンジたちは、自分たちがこの世界に来る前に、戦闘していたみたいなことは言っていたが、どんな敵と
戦っていたのだろうか。冥夜たちには想像もできない。
「多分、僕たち、あのままだと死んでいたんだよ、きっと……」
 !?
「僕はエヴァに乗っていたから、もしかしたら、があったかもしれないけど、大作くんは確実に死んでいた
んじゃないかな」
「そ、それは、そうかもしれませんね」
 シンジに言われ、大作はその時のことを思い出したのか、初めて不安そうな表情を見せた。彼の中にこん
な弱さがあるのがわかり、少し安心する冥夜。
「だから、助けてくれたんだよ、竜馬さん。ここに来る前に、自分があんな状態だったのに」
「なんで、シンジさんは、そう思うんです?」
 シンジにはわかって、大作にはわからない何かがあるのか、納得できない風に、大作がシンジに訊く。
 すると、シンジは笑った。
 人はどんな思いをすれば、こんな笑顔ができるのか。冥夜が見蕩れてしまうような笑顔だった。
「ピンチになったら、助けに行ってもいいか?」
 シンジの言葉を聞いて、大作もハッとなる。シンジの言葉に納得したように、何度も頷く。
「その言葉を、また守ってくれたんだよ、竜馬さん」
 これで三度目かな、とシンジは言う。笑顔の目尻にうっすらと涙が滲んでいる。きっと嬉し涙なのだろう。
「さすが、竜馬さんですね」
 言う大作も嬉しそうだ。助けてもらった感謝が、笑顔に出ている。
 リョウマ、先ほどから何度も名前が出ている光神の名前、らしい。どうして、その御仁が光神の正体なの
か、冥夜にはさっぱりわからないし、想像もつかない。
 だが、目の前の関係者四人が口を揃えてその名を出していることから、間違いないことなのだろう。
「あの、今更なのだが……」
 先程から自分たちの前で開陳された、光神現象について、極秘中の極秘とも言える出来事の数々。いま、
純夏が語ったことですら、しっている者はごく少数だろう。
「今の話、我々が聞いてもよいものだったのか?」
 自信なさげに、冥夜を小さく挙げて言う。上官に意見を言うのに躊躇いがあったが、惰性で聞いていてい
い話とは思えず、口を挟む形になってしまった。
 冥夜の言葉に、シンジ、大作、純夏、武は視線のキャッチボールを開始、言葉にしないで色々会話をして
いる。
「別に竜馬さんがこっちにいるのは、隠すことじゃないと思うし……」
 とシンジ。
「こっちも言うなって釘をさされていることは言ってないし……」
 と武。
「問題ないね」「ないな」
 そして二人揃って、冥夜を見て言う。この二人に顔を向けてジッと見られると、何故だか顔が赤くなる冥
夜だった。
「ところで、シンジと大作」
 武が、口を開いた。
「お前らの話、聞いていいか? なんだか、凄い世界みたいで、興味津々なんだが」
 そういえば武たちは、シンジや大作のことを、自分たちほど聞いてはいないことを思い出す。
「そうだね、まだ、出迎えまで時間かかりそうだから……」
 とシンジは大作と頷き合う。
「教官や皆には退屈かもしれないけど、話しておくよ、僕たちのことを」
 改めて、シンジと大作は自分たちのことを話始めた。先程まで冥夜たちに話した内容がより深く語られる
ことになり……
 彼らがトンデモ世界からやってきたことを、知ることとなった。


 その頃、別行動中の男は……

「ふむ、これが合成食材とは……」
 日本帝国内銚子港からほど近い大衆食堂のカウンター席にて、大盛りラーメンを啜りながら、その日発行
の旭日新聞を読んでいた。
 シンジ達と別れて半日も立たないのに、身には着古した茶色のスーツを纏い、配給制のこの世界で食券を
手に入れ、空腹を満たしている神 隼人。
 流されているラジオでは、先ほどから佐渡島佐渡島と繰り返されている。海軍が出動したとか、戦術機部
隊が上陸したとか、大騒ぎのようだ。
「時代は二百年、だがこれは俺たちの世界ではない。まったく、何をしてくれたんだアイツは……」
 ブツブツと分析を口にしながら、隼人はラーメンを啜り続ける。
「なんだい、あんちゃん。俺のラーメン文句あんのかい?」
 年の頃は六十くらいの、禿頭で小柄な店主が、ギロリとこちらを睨んでくる。頑固一徹を地で行っている
とひと目でわかる。
「いや、ダシが合成だけではないのに、感心していたんだ。わずかだが、煮干の風味があっていい」
 上陸して歩いた町並み、軍港と化し、閉鎖された銚子港、質屋の老人との会話、新聞を読んだことで、こ
の日本が帝国であり、食料事情も厳しいことも隼人は理解していた
「お、おぉ! おめぇ、わかるのか、わかってくれるのか!?」
 店主は隼人の指摘が、よほど嬉しかったのか握りこぶしで、くぅ~と唸っている。
「合成でここまで再現する技量、オヤジさん、只者じゃないな。このチャーシューも……」
 どこぞの食通みたいに、細かく味を分析していく隼人。暇つぶしにゲッターチームでラーメン食べ歩きを
した経験が役に立っている。
 隼人に褒められて、店主は感涙せんばかりに何度も頷いている。自分の隠していた努力をわかってくれた
ことが、本当に嬉しいらしい。
「よし、あんちゃん、これも食え! 俺のおごりだ!」
 と餃子をのせた皿をわたしてくる店主。それに礼を言って受け取り、一口食す。ふむ、これも悪くない。
「で、あんちゃんは軍人じゃねぇのか? こんなことがあった日にゃ、緊急招集ってーのがあるんじゃねぇ
のか?」
 めでてぇことだが、おかげで閑古鳥よ、と店主はこぼす。だが、声に喜色があるのは、やはり佐渡島の件
があったからだろうかと隼人は察する。
「俺は、研究所勤めでな。軍人じゃないんだ」
 そう言う隼人を、店主は値踏みするように見て、
「下手な軍人より、キモ座ってそうだけど、学者さまかい」
 と、納得してくれたようだ。再び読みかけの新聞に目を戻す。全部で八ページしかないのも、あの怪獣、
BETAとやらとの戦争の影響で、色々な物資が不足しているからだろう。テレビ欄よりラジオ欄の方が大
きく紙面を取っているのも、ラジオの方が安価に番組を流せるからか。
 食糧も、基本配給制を取っているくらいだから、厳しいものがあるようだ。北海道で馬鈴薯が豊作と大き
く出ている。やはり、収穫量が多い作物を優先して育てているのだろうか?
 隼人の頭の中では、このように思考が展開中。知らぬ間に、ラーメンも餃子も完食していた。できれば、
もう少し情報を仕入れたい、図書館にでも行こうか、でも図書館は、こんな日に開いているのか等、色んな
考えが脳を廻っている。
 店の横開きのドアが開いて、新たな客が入店してきた。
 ?
 隼人は横を向いて、その入店してきた容姿を見て、あからさまに眉をひそめる。
 客は壮年の男性、見事に仕立てたれたスーツ、それに合わせた帽子、磨き上げられた革靴、この店にまっ
たくそぐわない格好をしている。
 彫りの深い顔立ち、長身にして、油断ない身のこなし、読めない表情、鋭い眼差し、ここまで来ると賞賛
したくなる怪しさだ。
 男は、隼人の怪訝な眼差しを受け流し、隣にくると、
「相席、よろしいか?」
 と訊いてきた。
「相席もなにも、ここはカウンターだ。好きに座ればいい」
 カウンター席六、四人がけテーブル席四の小さな店だが、客は隼人しかいない。そこをあえて隼人の隣り
にくるのは、明らかに何がしかの意志の表明だろう。
「ふむ、親父、チャーシューメンを頼む」
「え、あぁ、はい」
 店主も明らかに異物状態の客に呆気にとられていたようだが、注文を聞き、動き出す。
 男は、無言で厨房を見ているだけで、何のリアクションも起こしてこない。
 このまま勘定払って出ていこうかとも考えた隼人だが、こんなにも早く、自分の動きを察知した者たち相
手では、またすぐ補足されるかと思い直す。
 男は出されたドンブリを受け取り、プラスチック製の箸を取り、黙って一口すする。
 そこで、初めて男の表情がわずかに動いた。
「これは……」
 短く呟き、麺を手繰る箸の動きを加速させる。ふむ、ふむと短く頷きながら、箸を進めていき、最後には
ドンブリを持ち上げ、ゴクゴクと喉を鳴らしてスープを飲む。惚れ惚れする食いっぷりだった。
 男は、満足した風に立ち上がり、
「親父、見事な味だった……」
 と賞賛を送ると、外食券をカウンターに置き、そのまま立ち去ってしまった。
「……へい、ありがとうございやした」
 閉まったドアに、店主が頭を下げる。呆気にとられた隼人も、男に続いてラーメン分の食券を置き、店を
出た。だが、男の姿はもうなかった。
 店の周りを見るが、人通りは少ない。軍の基地の方面は、慌ただしい喧騒が続いている。
「ふむ、まだ泳がせてくれるのか……」
 謎の男の接触をそう判断した隼人、は薄く笑って言った。
「面白くなってきた、かな」
 自分の転移原因の究明、元の世界への帰還の模索、はぐれたチームメンバーの捜索、この世界でのゲッタ
ー線の状況把握、やることは多い。
「しばらく退屈はしないですみそうだ」
 そう言って、隼人は歩き出した。






[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第九話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:5ee20b29
Date: 2014/03/30 02:01
 それはまさに、人類の存亡をかけた一戦だった。

『バスターマシン3号、縮退開始まであと二分!!』
 伊吹マヤの声が残り時間を伝えて来る。一分ごとに通達してくれているはずだが、だんだん時間経過が長
くなってきているように感じているシンジ。
『シンジくん、三時の方向!』
「了解!」
 シンジの操縦するエヴァンゲリオン初号機は、宙空を駆けるエターナルの艦首に立ち、無差別無分別に放
たれる宇宙怪獣の攻撃から、バスターマシン三号を護り続けていた。エターナルのバルドフェルド艦長が指
示する箇所に目をむけるや、そこから上陸艇タイプの宇宙怪獣が、バスターマシン三号のバリヤーの破損箇
所めがけて突進してきている。
「フィールド!」
 エターナルがその機動性で、上陸艇の正面位回り込んだ。その瞬間、エヴァ初号機が放ったATフィール
ドが、上陸艇の突進を食い止めた。動きを止めた宇宙怪獣が、兵士級の宇宙怪獣を放つが……
「キラくん!」
『了解!』
 エターナルに追随する、SEED覚醒状態のキラ=ヤマト操る、ミーティア装備のフリーダムが、オール・
ロックオン。ミサイルの雨を降らせ、兵士級宇宙怪獣を瞬く間に駆逐していく。
 ATフィールドで動きを止めた上陸艇宇宙怪獣を、パレットライフルの連射とエターナルの副砲ミサイル
一斉射で仕留めていく。
 こうやって、小型から中型クラスの宇宙怪獣を、シンジとキラとラクスのトリオでこの数分、ずっと狩り
続けている。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 頭がキリキリ痛む、呼吸が苦しい。シンジは体力の限界を気力で押さえつけながら、必死にエヴァを操縦
している。
 見回せば、周りは敵である宇宙怪獣だらけ。この敵で埋まった海の中を、仲間は皆、決死の思いで戦って
いる。イデオンのイデオンソードが宇宙怪獣で埋まった宇宙を斬り裂き、ガンバスターはスーパーイナズマ
キックで数百の宇宙怪獣を一気に殲滅していくのが見える。目先を変えれば、火車カッターで、ガイキング
と大空魔竜が大型宇宙怪獣に突撃し、バトル7がマクロスキャノンを放っている。そしてバサラとファイヤ
ーボンバーは、相変わらず戦場を歌いながら駆けている。
『次、でかいのが、正面! シンジくん、ここが踏ん張りどころだ!』
 言われ顔を正面に向ければ、エターナルの十倍はありそうな宇宙怪獣が、エターナル目掛けて、光弾を放

ちながら突進してきていた。
「ここで……」
 深い呼吸を一つ、絶望しない、諦めない、その思いを刻み込む。滅亡の運命なんて覆してみせる。
「負けてたまるかぁ~~!!」
 シンジの思いに応えるように、エヴァンゲリオン初号機も咆哮する。
 銀河に生きる知的生命体すべての運命を賭けた決戦は、大詰めを迎えようとしていた。


「……まぁ、こんな感じで、木星で造ったブラックホール爆弾を護る為に、宇宙怪獣っていうのと戦ったり
したんだけど…… どうしたの?」
 シンジが頼まれて、自分の世界でのことを語っていたのだが、聞いていた全員、想像力が追いつかず、置
いてきぼりをくらっていた。
「……えっと、数十億の、宇宙、怪獣?」
 純夏が確認するように言う。
「いや、凄かったよ、本当。前見ると、敵しか見えないんだ。宇宙空間なのに、敵で色が変わってるんだ」
 本当に凄かった、と繰り返すシンジの顔からは嘘や冗談を言っている風には見えない。
「神一号作戦って、そんなに凄かったんですか?」
 地球圏にあっても、カルネアデス計画の全容は、あまり知らされていないので、大作も他の皆ほどではな
いが、シンジの話のスケールの大きさに、驚いていた。
「まぁ、必死になっていたら、終わったって感じかなぁ……」
 必死、の意味を本当に知ったのはあの時だったなぁ、とシンジは感慨深い。
 シンジや大作の話は、改めて聞いても荒唐無稽としか言い様がなかった。
 彼らの日本では、地下勢力と言われる異人種や、宇宙人、旧文明の遺産等、バラエティに富んだ敵が、攻
めてきていたとのこと。
 その敵と戦い、時には殲滅し、時には和睦し、最後に知的生命体すべてを滅亡させようとしていた宇宙怪
獣と、銀河系の中央部で決戦したと言う。
 木星を爆弾にした、とか、一番大きい宇宙怪獣は数千キロあったとか熱心に語られても、やはり想像力が
追いつかない。 
「……なんか、凄い世界なんだね?」
 アハハと乾いた笑いが出る純夏。同意を求めた武は、シンジの世界での戦いの話を聞いて、考え込むよう
な顔をしていたが、
「あぁ、俺たちの世界の敵が、可愛く見えるよな」
 と、純夏に合わせるように明るく言う。その彼の様子を見て、シンジは、武はシンジがわざと、話をぼや
かした部分に気付いたと察し、彼の洞察力の鋭さに感心する。
「ん、あ、連絡入った、ちょっと外すね」
 純夏の強化装備に、通信が入ったようで、彼女は立って瑞鶴改の方に歩いていく。詳しい時間はわからな
いが、自分たちがここに来て四五時間は経っただろうとシンジは予想した。
 夜も明けきらぬうちに、アスカやレイと共にエヴァに乗った。しぶる彼女たちを説き伏せて別れて、自分
だけ佐渡島に降り立って大作と共に大怪球と戦ってから、何時間経っているのだろうか? 
そまだ半日くらいしか経っていないはずなのに、ずっと前のことに思えてしまう。
 あの神一号作戦から霊帝との最終決戦なみに、激動の時間を過ごしたような気すらする。
 そんな中、異なる世界に跳ばされながらも、武や純夏、神宮寺まりもや榊を筆頭にした訓練兵の少女たち
と、まず会えたのは、幸運だったとシンジには思える。
「えっとね、タケルちゃん、シンジくん、瑞鶴に乗せて連れてきてって」
「え? ヘリを回すって話じゃなかったか?」
 純夏の言葉に武が困惑を示す。シンジとしては、あの機動兵器に乗れるのは嬉しいのだが、武は難色を示
して純夏に代わり、通信でどこぞと話を始めた。
「……簡易固定ジャケットでって、賓客じゃなかったんですか、彼? え、ヘリが手配できなかったって…
… 博士が我慢できないだけでしょう、はい、はい……」
 どうやら、武が話しているのは件の問題人物らしい。 最初は、シンジを瑞鶴改で運ぶのに抵抗をしめし
ていた武だが、話が進むごとに、はいと答える回数が増えていき、
「……言われれば、そうですね。了解しました、碇シンジは自分たちがしっかり運びます、はい」
 と、納得させられて、話が纏まったようだ。
「シンジ、悪いけど、あの瑞鶴に乗ってもらうことになった」
 申し訳ない、と手を合わせる武。
「いや、僕もあの、戦術機だっけ、に乗ってみたかったから」
 とシンジは内心の好奇の思いを抑えられないように、うれしそうに言う。そんなにシンジに、
「後悔すんなよ」
 と武は意地悪く笑って言う。
「えっと、神宮寺教官は、訓練兵さん達と、この島で待機していてくださいと博士が。大作くんの面倒をし
っかり見るようにとのことです」
 通信を武から引き継いだ純夏が、博士からの伝言を言う。まりもは頷いて、
「了解ですと、伝えてください」
 と純夏に伝えるが、純夏はバツが悪そうに
「あ、もう切れちゃいました」
 と答える。通信相手の行動に、まりもは、まったくあの人は、とため息をつく。どうやら、件の人物とまりもは、個人的に親しい間柄なのではと、シンジは感じた。。
「じゃあ、シンジさん、しっかりと。エヴァは僕が見ておきますから」
 僕の分まで楽しんできて下さいと言う大作に、笑顔で、
「うん、まかせた、大作くん」
 と返すシンジ。
 こうして、碇シンジは、この国の最高権力者と最高頭脳に会うために、名も無き島を離れることになった。

「……女の子の上って、抵抗あるね」
 簡易固定ジャケットとやらを渡され、それを纏い固定されたのは、純夏が座る前部座席、彼女の膝上あた
り。なんだか凄く気恥ずかしい思いをシンジは味わっていた。
「タケルちゃんの上よりいいでしょ」
 と純夏はからかうように笑って言う。
 シンジは、瑞鶴改の操縦席をざっと見て、自分の世界のモビルスーツのコックピットと比較してみる。
 一番の違いは、モニターがないことだろう。どうやって、外の情報を仕入れているのかと訊くと、網膜に
直接投影するディスプレイを使っていると教えてくれた。どういう風に映るのかと、シンジがまた訊くと、
片目にかける、簡易型の投影装置を貸してもらえた。
 網膜に直接、外部の状況が直接投影され、しかも色々なデータも表示されたのに、シンジは感嘆する。
「これ、うちの世界でも使ってくれないかな……」
 と呟いてしまうほどだ。
 他の操縦装置を見てみると、左右のレバーにフットペダル、機体制御の入力キーボード等、モビルスーツ
に似た部分もかなりある。
 人型兵器を動かす技術は、どの世界でも似たものになるのだろうかと、シンジは推察した。
 エンジンに火が入ったのがわかる。
実はシンジ、カルネアデス計画後、自分を鍛える為にと様々な人に師事したおかげで、エレカやバイク、
モビルスーツやシャトル、ヘリコプターにスペースクルーザー等の免許を取り、果てはジェットパイルダ
ーやボスボロットを操縦できるようになっていた。
 そんな行動的にすっかりなってしまったシンジにとって、未知なる機体に乗れるだけでテンションが上っ
てしまう。
「シンジ、バイタル上がってるけど大丈夫か?」
 シンジの興奮が数値として示されているようで、武が声をかけてきた。
「あ、いや、ちょっと興奮しているだけだから」
 喜色を含んだ声に、武は笑い、
「ホント、後悔すんなよ」
 と、改めて言って機動準備を進めていく。機動シークエンスの長さに、シンジはこの世界では五分以内に
発進、というような、緊急出動はあまりないのかなと思った。
「はい、シンジくん、これ飲んでおいて」
 と純夏が錠剤を渡してきた。訊くと、加速病を抑制する薬だとのこと。異世界の錠剤を飲むことに、わず
かに抵抗を感じたが、今更この二人が自分に何かするとは思えないので、一気に飲み込む。
「では、お客さん、行きますよ!」
 視界はコックピット半分に外の世界半分。この島に残る大作たちが手を振っている。
 片膝を付いているエヴァ、なぜかこの機体を目で追っているジャイアント=ロボ、そしてわずかな間すご
した名も知らぬ島が、加速感と共に遠ざかっていく。
 海を切り裂くように進む瑞鶴改。目の前を吹き抜ける風さえ見えそうな気がした。
「この機体、いいね……」
 シンジのテンションは、もとの世界でも滅多にないくらいに上がっていた。


 新西暦の世界では。

 地球連邦軍極東基地 司令部内第一ブリーフィングルーム内では、佐渡島での調査を終え、こちらに向か
っている国際警察機構調査チームを、旧αナンバーズの面々が待ちかねていた。
「…………」
「ムム……」
「どうしたんです、二人共?」
 そんな中、隣に並んで座っているアスカとレイが、いきなり眉間に皺をよせて唸りだしたので、カトルが
何事かと訊いてみると、
「いや、なんかシンジが、人の気も知らないで、はしゃいでいるような気がした……」
「……不本意ながら同感」
 とアスカ、レイからの返答。
「?」
 理由を聞いて首を傾げるカトルだった。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:1770d12e
Date: 2014/03/30 02:01
 地球連邦軍極東基地、司令部内第一ブリーフィングルームには、先ほどの騒動に参加した面々の他、シン
ジやゲッターチーム消失の報を受けて、オーブからキラ=ヤマト。テスラ=ライヒ研からブルックリン=ラ
ックフィールドと、SRXチームのライディース=F=ブランシュタインが駆けつけていた。
 パイロットシートが横五列で並んでいる中、最前列に座っているのは、アスカ、レイ、カトル、五飛。そ
の次の列に座っているのが、キラ、ライ、ブリット、宙、鉄也。
キラが隣に座るライに訊く。
「リュウセイさんや、アヤ大尉は大丈夫なんですか?」
 超電磁ネットワイヤー作戦に先立って敢行された、シベリア通過中の大怪球への超高度からのハイパート
ロニウムバスターキャノンによる、遠距離攻撃作戦。その際、無理な長時間攻撃によってすべての駆動シス
テムに過負荷がかかり、T,LINK系システムも損傷、その為、ライと隊長であるヴィレッタ=バディム以
外の三人が、昏倒状態になってしまっていたのだ。
「あのバカは、もう歩けるところまで回復しているが、アヤ大尉とマイの方は、昨日、ようやく意識が戻っ
たところだ。まぁ、身体的損傷はないから、心配はいらん」
 すぐに回復するそうだ、と腕を組んで相変わらずのぶっきらぼうで、答えるライ。相棒とも言えるリュウ
セイ=ダテをバカ呼ばわりしているところ、本当に心配はなさそうだと安堵するキラ。
「キラも大変だったんだろ?」
 ライの隣に座るブリットが言う。
 実はキラと、この場にいないアスラン=ザラは、連邦軍と国際警察機構の要請を受けて、フリーダムとジ
ャスティスに乗り、その攻撃の観測を、遠距離から行っていたのだ。
 その際、大怪球の周囲を警戒していたと思われる十傑集が一人、『白昼の残月』と遭遇し、交戦をしてい
た。どういうワザか理解できないが、シベリアの針葉樹林が、矢のように放たれ、次々と二機のMSを追い
立てまくり、必死の回避行動の果て、わずかな隙をみつけて放った二機がかりの一斉掃射は、尽く躱される
という、思い出すだけで悪夢のような戦闘だった。
 それでも、残月から逃げきり、大怪球に関する貴重なデータを提示できたのは、両機のMSの規格から外
れた性能と、キラとアスランの卓越した操縦技術があったからだろう。フリーダムは片腕をもがれただけで
すんだが、ジャスティスのダメージは大きく、アスランも軽傷を負ったので、この場には大事を取ってきて
いない。
 物理攻撃には無敵とも言える耐性をもつPS装甲を、あの仮面の男は自分の十倍はある樹々を投擲しただ
けで破壊してしまった。あんな化け物みたいな人間がまだまだいるんだなぁ、と規格外には慣れたと思って
いたキラは、恐怖を通り越して、感動すらしてしまっていた。
「いい経験になったかな」
 例え人の形をしていても、一片の遠慮もいらない敵がいることを学べた、とキラは思うことにしていた。
「クスハさんとは上手くいっているの?」
 ブリットは、長年の想い人でありパートナーでもあるクスハと、婚約している。結婚は、クスハが自分の
夢を叶えてから、ということになっているので、まだまだ先になりそうだが。
「ま、まぁ、そのあたりは、上手くいっているぞ、うん」
 聞けば同棲までしているらしいが、ブリットのこの純情な反応は相変わらずで、面白くも懐かしくある。
 キラは思う。やはり自分にとってαナンバーズの仲間たちは、いつまでたっても、心の底から信頼しあえ
る仲間なのだと。ブリットに会うのは二年ぶりになるのに、会えばすぐあの頃に戻れるのだから。
 シンジとゲッターチームが『消えた』と聞いた時の喪失感、それはあの戦いの時に味わった、護りたい人
を護れなかったあの思いと同じものだった。
 何かできることがあるかと、オーブからスカイグラスパーで駆けつけてみたら、生きていいるかもしれな
いという朗報をカトルから聞かされた。安堵のあまり、膝をついてしまった。その際、そんなキラを鼻で笑
った五飛が、
「あれくらいで、奴らが死ぬわけがないだろう」
 と言ったのを聞いて、まだ『かもしれない』のはずなのに、そうに決まっていると確信できたキラ。そう
だ、あの霊帝との戦いですら生き残った彼らが、そんなにあっさり死ぬわけがなかった。 
「みんな、お待たせぇ~。あら、キラくんにライくんにブリットくん、お久しぶり」
 上機嫌なミサトが入室してきたのに続いて、ミサトの懐刀日向マコト、それに時代錯誤な中華風の服に身
を包んだ細身の男性と、これまた中華風の格好をした顔にキズがある大きな男性が入ってきて、最後に見た
目にも憔悴しきった早乙女研究所の早乙女博士と、その彼を支える娘の早乙女ミチルが入ってきた。
「初めての人もいるから、一応紹介しておくわね。こちらの二人が、国際警察機構の呉学人先生とエキスパ
ートの鉄牛くん」
 ミサトが中華風の二人組を紹介してくれた。この二人があの超人集団の、と思うと確かに只者ではないオ
ーラが感じられる。だが、鉄牛という男性は、見ただけでこちらの心が痛くなるような悲壮感を滲ませてい
た。
「では、ここからは専門家にお任せしますわ」
 そう言って、ミサトに場を譲られ、一礼をして呉が前に出る。マコトがその横に、情報投影用の中型モニ
ターを引っ張ってきた。
「では、佐渡島での調査の報告をさせていただきます」
 呉の言葉と共にモニターに現れたのは、佐渡島の俯瞰図。そのほぼ中心にXのマークが付いた。
「本日早朝に行われた、『超電磁ネットワイヤー作戦』。その作戦座標がこのXです」
 大怪球迎撃の、最終プランと言われていた作戦。この作戦が失敗したら、地球規模の災害を起こしかねな
い攻撃手段しか残されていないと言われていた。
「この作戦の概要は、縮退炉を搭載したジャイアント=ロボによる超高々度からの攻撃によって、大怪球を
破壊するという作戦と思われている方が多いでしょうが……」
 キラも、作戦に参加はできなかったが、作戦の概要は聞かされている。改めて、ヒドイ作戦だと思った。
搭乗者であった草間大作という人とは面識がないが、αナンバーズ内では、彼のことを知る人は多い。隣に
座るライやブリットは、自分以上に憤りを感じているのかもしれない。
「ですが、このロボの攻撃の真の目的は、この攻撃によって大怪球を破壊することではありませんでした」
 !?
 驚きが部屋に広がった。皆が、意味が分からず、口々に疑問を唱えて、部屋がざわついていた。前に座る
アスカなぞ、立ち上がって、じゃあ何であんな派手なことしたのよと噛み付かんばかりだ。
 持っていた扇子をわずかに拡げて、口元を隠していた呉が、パチンとその扇子を閉じて、
「お静まりください、皆さん」
 と言う。不満そうなアスカが、大きな音を立てて椅子に座り直し、他の者も口を閉じ注視する。
 モニターの映像が変わった。
 キラが目を見張る。それは、マッハを遥かに超えるスピードで襲来してくる大怪球を、数十の巨大ATフ
ィールドを発生させて受け止めているエヴァ初号機の姿が映っている。次々と破られるフィールド、だが最
後の一際巨大なフィールドが、大怪球を止めていた。エヴァも凄い勢いで後退していたが、シンジ操るエヴ
ァ初号機は見事に大怪球を塞き止めていた。その雄々しい姿に、皆が息を飲んでいる。レイが、
「さすが私のシンジくん……」
と呟いて、アスカに睨まれていたが。
 そして、上空からこのタイミングを見計らって、超高速降下による最大物理攻撃であるジャイアント=ロ
ボの豪腕が繰り出されていた。
 そこで、キラは気付いた。この大怪球の巨大な瞳が、自らを狙うロボに向いていた。そのロボと大怪球が
いままさに交錯しようとした瞬間……
 モニターは白一色になった。そして数秒後回復した映像には、何も映っていない。
「……やっぱり」
 ブリットが何か確認するように小声で言う。ライもその言葉に応じるように頷いている。
「何か?」
 キラが訊くと、後で話す、と短く答えるライ。二人の反応は気になるが、呉学人が再び扇子を閉じて、説
明を始めたので、前に向き直る。
「ロボ、エヴァ初号機、及び目標である大怪球の消失という、想定外の事態により、作戦は失敗しましたが、
目的は達成、という状況が発生しましたが……」
「ちょっと待って、ナヨ男!」
 呉の言葉を、凄い呼び方で遮ったアスカが、
「さっきの、あの作戦の真の目的なんちゃらっていうの、ちゃんと説明してよね! こっちは相方が命張っ
てんだから、聞く権利あるわよ!」
 一気にまくし立て、迫った。その剣幕にわずかに困惑を浮かべた呉だか、やむを得ないと思ったのか、
「わかりました」
 と了承する。これは、キラも訊きたかったことなので、アスカの横槍はありがたかった。
「このロボにより、超高度降下攻撃の本当の目的は、大怪球のエネルギー消滅フィールドを中和させること
にありました」
 モニターも先ほどの映像が巻き戻されて映っている。ロボと大怪球の激突少し前でまた停止した。
「大怪球が発生させていた防御フィールドは、攻撃を仕掛けるすべての存在から、そのエネルギーを消滅さ
せるという恐ろしい特性をもっていました」
 いったいどんなカラクリだよ、と宙がぼやくように言う。周りを見れば、みんな同感のようだ。無論、キ
ラ自身も同感。自身に向かって落下する爆弾の落下エネルギーですら、この大怪球は吸収し、無力化してい
た。資料として投下された爆弾が宙に浮いたまま静止していた映像を見たとき、何の冗談だとキラは思った
ほどだ。
「ですが、そのフィールドの効果も、無限ではないことが、この作戦に先立って行われた、バンプレイオス
の攻撃によって証明されていました」
 すると、モニターにキラが持ち帰った、記録映像が映し出された。上空からほぼ直角に降り注ぐ大光条が、
大怪球に届く寸前で、四方八方にはじかれていた。その光景を見ていた時は気づかなかったキラだが……
「瓦礫が大怪球に、当たっている」
 その事に気がついた。攻撃の余波によって巻き上がった様々な物体が、大怪球に当たっている。つまり、
バンプレイオスの攻撃に消滅フィールドのエネルギーが集中した為、全体の防禦が不可能になっていたのだ
ろうか。なら、あの瞬間に自分とアスランが攻撃を加えられていたら…… と、そこまで考えて、キラは気
付いた。
「ジャイアント=ロボの攻撃が、最終フェイズじゃなかった……」
 キラの呟きは、思いのほか大きく部屋に響き、皆がキラに注目する。
「あの無茶な攻撃の後に、本命の攻撃があったんですね」
 勢いで、そのまま呉に質問をぶつけるキラ。呉学人は、無言で頷くことで、それを肯定した。
 何故、そのことについて説明がなかったのか、自分は作戦参加者ではなかったが、納得できない思いがあ
る。前に座る参加者の身内の少女は当然激昂し……
「どういうことよ、ナヨ男!?」
 と、また立ち上がって掴みかからんばかりになっているアスカをカトルが必死に抑えていた。レイが「ど
うどう……」と言っているのは、落ち着かせているつもりなのだろうか。
「その件は、私が口止めしてもらったのよ」
と割って入ったミサト。
「最終フェイズを説明しちゃうと、シンちゃんや大作君が反対する可能性が大きくてね」
 ミサトは皆の注目を集めたまま、その作戦を簡潔に説明した。
「最終フェイズは、エキスパート銀鈴による、宇宙空間への大怪球の強制テレポートだったの」
 強制テレポート、銀鈴という人を知らないのでキラには判断できないが、聞いただけでは作戦に反対する
理由は浮かばない。むしろ、そんな事が可能なのかという疑問が浮かぶ。
「銀鈴って、そんな凄い能力もっていたの?」
 立ったままのアスカが訊くと、ミサトは沈痛な面持ちで頷き、一言付け加えた。
「彼女自身の命と引き換えだけどね……」
 !?
 ミサトの一言で、彼女が最終フェイズの説明を省いたのか理解できた。大作は知らないが、シンジが人の
命が確実に犠牲になるような作戦を容認するはずがない。
今まで最終フェイズと思っていたロボの特攻作戦も生還の可能性はゼロに近いが、ゼロではない。コンマ
1%でも助かる確率があるなら、それに全てをかける。きっと今回もシンジはそのつもりで作戦に臨んだ
はずだ。
「……大作を死なすわけには、いかねぇのさ」
 今まで岩のように黙っていた鉄牛が、口を開いた。
「アイツは、次代の九大天王になれるヤツなんだ…… 戴宗のアニキだって、そう思ったからこそパリで…
…」
 戴宗。国際警察機構の九大天王の一人、神行太保の戴宗と言われる人が、パリの大怪球第一次攻撃の際に
殉職していることは、情報として知っていた。が、その死の意味は、知っていなかったと今の鉄牛の言葉を
聞いてキラは思った。
「この作戦は、銀鈴の望みでもある…… そう、」
「すべては大作のためってわけか……」
 鉄牛の言葉を鉄也が継いだ。鉄牛と呉学人が、重々しく頷く。二人の瞳を見てしまうと、人道云々という
陳腐な意見を言えなくなってしまう。強い覚悟が宿った瞳だった。
 納得できないけど、口出しはできない。アスカはまた不満をありありと見せながら、大きく音を立てて、
椅子に座る。
「……本来、ジャイアント=ロボの攻撃フェイズでは、攻撃はフィールドに遮られ、拮抗状態が生じると思
われていました」
 呉の言葉を、キラは想像してみる。大気を引き裂くほどの勢いで降下したジャイアント=ロボの一撃を、
フィールドエネルギーが対消滅させる。大怪球に渾身の拳は届かず、ロボは一瞬、宙に浮いた状態になり、
隕石アタックによる自壊は免れる。そして、フィールドが消滅した一瞬の隙に、銀鈴が何がしかの手段で、
大怪球をテレポートさせる。その図式が、本当の超電磁ネットワイヤー作戦の成功だったのだろう。
 しかし、実際には……
「しかし、実際には、ジャイアント=ロボの攻撃とほぼ同時に、暴走状態だった真ゲッターロボの介入によ
り、あの場にいた全機消失、という事態になってしまいましたが」
 キラの内心を代弁するように、呉学人が言う。この真ゲッターロボの乱入という変数が、何を意味するの
か。考えてみるが、これは、という答えはキラには浮かばない。
「それで、シンジ君たちがこの状態で無事だ、というのは?」
 カトルが場を変えるように訊いてきた。キラもその言葉に思考を切り替える。この場でこの事を考え続け
ていても意味はない。今、考えるのはシンジたちの消息と安否だ。
「その件については、早乙女博士から……」
 呉が場を早乙女博士にゆずる。前に出た早乙女博士は、疲労が体を蝕んでいるとひと目でわかるほど、憔
悴している。もうすぐ四日前になる真ゲッター暴走から、ろくに休養をとっていないのだろう。
「ちょっと、大丈夫なの、博士?」
「早乙女博士、お気持ちは察しますが、無理はされないほうが……」
 アスカや鉄也が言うが、早乙女博士は重々しく首を横に振る。ここで、現状を語ることが義務だと、自ら
に課しているように、キラには見えた。
「まずは、佐渡島での……」
 モニターがブラックアウトする。ここで佐渡島でのデータがでると思っていたのだが……
『いつまで無駄なお話に興じていますの!?』
 聞いたことのない少女の声が突然、響いた。どこからだ、と探すと声の発信源はどうやらモニターのスピ
ーカーからだった。
 その声を聞いて、鉄牛は掌で顔を多い、呉学人も頭を抱える。
「やはり来ましたか……」
「大作絡みで、アイツが出てこねぇわけ、ねぇもんな……」
 よくぞ今まで出てこないでくれたな、と深い溜息をつく鉄牛。その態度には、今までとは別の疲れが出て
いた。
『大作様は生きています! 二世の契りを結んだ私には、その事がはっきり感じられています!』
 二世の契り、とは古風な言い回しだな、とキラが思っていると……
「……え?」
 よいしょ、と言う声と共に、ブラックアウトしたモニターから、赤毛の独特の結い方をした頭が、ニョキ
っと生えてきたのだ。非常識にはなれている、と自覚していたキラだが、これには言葉を失った。
 頭、そして次に白い手が生えてきてモニターの端を掴んで、そこから一気にモニターから全身を引っ張り
だした少女。こんな非常識な登場があっていいのか、とキラは呆然としながら思った。歴戦の仲間も同様で、
皆が呆然とその少女を見つめている。
 少女の歳は、自分たちより少し下、多分十代半ば位。着ているのは黒のフリル過剰のワンピースに、太も
もまで隠れるニーソックスに赤い靴。可憐で勝気な面差しをしている。
 少女は何もないところから、黒い三角帽を取り出し、頭にのせるとポーズを決め、高々と名乗りを上げた。
「大作様の愛の下僕にして、BF団十傑集が一人、サニー・ザ・マジシャン。華麗に参上ですわ!」
 愛の下僕とのあとに、すごい肩書きが出てきた。なんでBF団の、しかも最高幹部が、ここに現れたのだ
ろうか……
 予想を遥か斜め上をいく急展開に、キラの思考は、完全においてけぼりを喰らっていた。


 そして、その愛の下僕の対象の跳ばされた世界では。

 シンジと武たちが瑞鶴改で旅立ってのち、皆が空腹を感じ始めたこともあり、大作がロボのシェルターか
らカレーの缶詰とインスタント米を持ち出してきて、残された皆で遅い昼食を取っていた。
 缶詰でありながら、合成食材の入っていない異世界のカレーは、訓練兵の少女たちとその教官に無言の絶
賛と、旺盛な食欲をもって迎えられていたのだが……
「……あれ?」
 いきなり身震いを始めた大作。心なしか、顔色が青くなっている。
「……どしたの、大作?」
 無言でウマウマとカレーを食していた慧が、となりの大作の異変に気づき、声をかける。
「いや、なぜか元の世界で『最恐の敵』と対峙した時の感覚が蘇ってきて……」
 何でだろう、と自身の感じている悪寒の正体を掴めないでいる大作だった。



【ちょい後書き】
 作者、暴走モードに突入気味。皆さん、ついてきてください。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十一話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:7e5247df
Date: 2014/03/30 02:00
 網膜に投影される海原。変わらないようで変わっている景色に、シンジは飽きることなく眺めている。考
えてみると、自身が運転しない乗り物に乗ること自体が、久しぶりだ。近くに、レイやアスカ以外の女の子
の体温があることが、最初落ち着かなかったが、その気恥かしさも、彼女の姿がよく見えないお陰で、かな
り薄れている。
「体調は、大丈夫そうだな」
 シンジのバイタルを小まめにチェックしている、武が言う。
「あと、十五分くらいで、戦艦『加賀』に到着する予定だ。まぁ、代わり映えのない景色だけど、楽しんで
くれ」
「うん、ありがとう」
 武に礼を言うシンジ。彼なりの安全運転をしてくれているおかげか、加速病の兆候は感じられない。
 シンジは、この戦術機という機体が、なんとなく自分の世界の可変戦闘機、バルキリーシリーズの、ガウ
ォーク形態に似ているな、と感じていた。この機体で、あの怪獣たちと、どのように戦っているのか、その
辺りにも興味がある。
「……あのさ、シンジ。答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど」
 少し間を置いて、武が遠慮がちに訊いてくる。
「お前たちの世界って、凄い戦争が何度もあって、最後に銀河系の真ん中で大戦争やって何とか勝ったんだ
よな」
「勝ったのかどうかはよくわからないけど、生き延びたね」
 あれを勝利、と言える自信はシンジにはない。バスターマシン三号は、銀河系中心部に多大な被害を与え
た。そこまでする権利が人類にあったのか、という者もいる。
 でも、生き延びることはできた。それを勝利と言えるのなら、シンジ達は間違いなく勝利したのだろう。
「でも、お前はナントカって敵と戦って、こっちに来たんだよな」
 やはり、武はそのことに気づいていたのか、とシンジは思う。これから平和を取り戻す為に戦地に赴く訓
練兵の子たちには、その事に気づいて欲しくなく、話をぼやかしていたのだ。その心情を察して、それを彼
女たちの前で言わなかったことに、シンジは感謝した。
「そんな凄い戦争に勝っても、平和はこなかったのか?」
「……あ、そっか」
 武の問いかけに、純夏もその事実に気付いたようだ。シンジは、今の自分の生活を思い出しながら、言葉
を紡ぐ。
「恒久平和、っていうのは難しいみたいでね……」
 シンジは自分たちの世界の情勢を二人に語り始めた。
 自分たちが地球に帰り着いてしばらくの間、地球圏はたしかに平和だった。だが、すぐに争いの火種は生
まれ、昨年、南米の一部で、独立運動が激化したことによる武力闘争が起きている。BF団やバイオネット
という組織によるテロ活動も散発的に起きていたし、今はプラントと地球連邦政府との間に、再び軋轢が生
じる気配がある。
 シンジの周り、日本地区は平和と言ってもいい状況だった。だが、それは自分の周りだけ、という思いは
大きい。
 実際、今回のBF団の攻勢は、南米争乱以来、カルネアデス計画以降最大の争乱と言える。なぜ、彼らは
平和を享受できないのか、そう問いかけたい思いはある。
 でも……
「それでも、僕たちが戦ったことは無駄じゃないと思う」
 あの時、命をかけて戦ったからこそ、自分の世界は未来を勝ち取れた。争いが何度起きても、その先に平
和が来ると信じて、戦い続けなくてはいけない。
 それが、あの終焉の銀河から戻った自分達の使命だと、シンジは思っている。
「だから、戦い続けているってわけか。勝利を無駄にしない為に」
「そうだね。自分にできるかぎりって制約があるけど……」
 武の言葉に、シンジは頷く。
「シンジくんって、やっぱり強い人なんだ」
「え?」
 すぐ傍にいる純夏が言う。その言葉には、素直な賞賛があり、くすぐったい思いにかられるシンジ。
「あぁ、俺もそう思う。強さってモンには色々な種類があるけど、お前は強いよ、間違いない」
 武も続く。そんなことないよ、と謙遜したくなるが、二人からの賛辞は素直にうれしく思え、シンジは、
「ありがとう」
 と答えた。声に照れがでてしまい、それに武と純夏が笑う。
 シンジは、この二人に出会えた偶然に、改めて感謝した。仲間と言える人がほとんどいない異世界に跳ば
された身だけど、彼らとは、共に戦える仲間になれる。そうシンジは感じていた。
 話している間に、邂逅地点は間近になっていたようで、
「さて、もう少しでランデブー地点のはずだが…… お、来てる来てる」
 水平線に巨大な艦影が見えてきた。海上戦艦、シンジの世界ではトンと見なくなった歴史漂う威容が、ど
んどん近づいてきている。何サンチかわからないが、無駄に大きい無骨な艦砲が、シンジの中の男のロマン
を掻き立てていた。またテンションが上がっていくシンジ。
「戦艦『加賀』。日本が誇る大和改級の一隻、あそこで殿下たちに会ってもらうって、また興奮しているな」
 武の言葉も耳に入らないようなシンジ、バイタルも再び上昇中。エヴァやジャイアント=ロボに大いに驚
かされた自分たちだが、自分の世界の物が異世界人であるシンジを興奮させられるのは、何だかやり返せた
ようで心地よい。武はそう思った。
「シンジくんって、意外と子供っぽいトコあるよね」
 純夏の笑いを含んだ評に、武も同意する。それと、素の姿を武たちの前で出してくれていることが、シン
ジなりの信頼の証のようであり、それが嬉しく思える武たちだった。
「さて、純夏、着艦許可貰ってくれ」
「はい、了解」
 シンジと悠陽、夕呼との会談で世界はどう動くのか、武にはまったく想像ができない。だが、この世界で
シンジ達の力に、できる限りなってやりたい。武はそう思っていた。
 加賀のヘリポートに、ゆっくり丁寧に降りていく瑞鶴改。純夏の連絡を受け、艦上では受け入れの為に厳
戒態勢に入っている。
「やっぱり、まだ殿下と博士は来ていないようだな」
 島を立つ前の通信では、夕呼は新潟を出るところ、悠陽も出来うる限り早く駆けつけると言っていたが、
やはり武達が一番乗りのようだ。
 加賀に近付きながら徐々に減速、甲板上のヘリポートの指定された場所に誰もいないのを確認し、跳躍ユ
ニットをふかしながら、緩やかに降下、そして着地。幸いにも、シンジの体調にまったく問題はみられない。
「着いたぜ、お客さん」
 一仕事終えた武が、シンジに声をかけると、
「いやぁ、いい経験できたよ。ありがとう」
 と喜色を隠しせず、子供のように興奮している。こうした様子のシンジを見ていると、年齢より下の雰囲
気が見え微笑ましい。
「さて、出迎えはどうなっているのかなっと……」
 ヘリポートには誘導担当員の姿はない。代わりに赤と白の斯衛の軍服に身を包んだ四人が姿を現した。普
段は国連軍新潟基地に詰めている、月詠真那中尉率いる第19独立警護小隊の面々だ。悠陽は彼女が心から
信頼できる面子を総動員しているようだ。
 戦術機着艦時用の、簡易昇降タラップを、真耶の部下である神代 巽、巴 雪乃、戎 美凪ら三少尉がガ
ラガラ引いている。なるべくシンジに関わる人を減らしたい、という思惑が悠陽か夕呼にあるのだろう。
 瑞鶴改に片膝をつかせ、降着姿勢を取る。操縦ユニットをスライドさせると、潮を含んだ外気が流入して
きた。
「シンジ」
 前部操縦席で、純夏相手に簡易ジャケットと拘束を外す為に、ジタバタしているシンジに武は声を掛ける。
「なに?」
 振り向くシンジと目があった。その瞳は会った時と同じ自然体で緊張がかけらも感じられない。本当に、
大したタマだと感心しつつ、何と声を掛けようかと考える武。だが、掛ける言葉はこれしか浮かばなかった。
「頑張れよ」
 先ほど、夕呼から聞かされた情報が本当なら、シンジはこれからこの世界で安穏と過ごすことは、難しい
だろう。武がどれだけ力になりたくて、及ばない局面も多々あるはず。
 この世界でシンジ達が望む形の道を切り開いていくには、これからの会談が大事な一歩。
「うん、わかっている」
 シンジがそう言って、笑顔を返す。清々しいまでに、覚悟を決めているのがわかる笑顔だった。自分の思
いを全てわかった上で返されたその笑顔を見て、武はその境地に達することができるシンジに憧憬と、それ
とほんの少しの嫉妬を覚えてしまい、そんな自分に心の中で苦笑する。
「じゃあ、行こうか」
 シンジが、純夏の手を借りて瑞鶴改を出る。これから、この世界はどう動いていくのか。その試金石とも
言える会談が、始まろうとしていた。


 新西暦の世界では……

サニー・ザ・マジシャン。その少女のことを一言で評すとするなら、『地球圏でもっとも愛されている犯
罪者』であろうか?
 彼女が公の場に初めて姿をあらわしたのは、二年ほど前、カルネアデス計画成功から一段落がついた頃だ
った。地球圏すべての放送システムをジャックして、
『BF団、サニー・ザ・マジシャンと申します。以後、お見知りおきを♪』
 と今のようにポーズを決めて、いきなり『MAHARICK☆MAHARITTA~♪』と歌い始めた、この大多数
の民衆の唖然呆然とさせ、一部趣味的な民衆の心を鷲掴みにしたパフォーマンスののち、従来のBF団と一
線を画す行動を取り始めたサニー。
 彼女は破壊活動等に参加せず、地球連邦内の数多い腐敗の糾弾究明に乗り出し、証拠をこれでもかと提示
した後、勝手に『お仕置き』と称した制裁を加えて回りだしたのだ。
 この非合法活動は、連邦の腐敗体質に嫌気がさしていた民衆に喝采を持って迎えられ、その活動が続くに
つれアンダーグラウンドでの人気が、どんどん表層化していき、今では非公認のファンサイトを多数もつに
いたっている。彼女の行動の真意、思惑がBF団の新たな策謀かウケ狙いかも未だ不明。だが、サニーの人
気は今や真っ当な芸能活動をしている人以上、その影響力は計り知れない。余談ではあるが、罪人を勝手に
裁いたのちに行われる、文字通りのゲリラライブは、非公表にも関わらず、千人単位の人が集まることがあ
る程だ。
 その彼女、サニー・ザ・マジシャンが、どういう経緯で不倶戴天の敵、国際警察機構のエキスパートであ
る草間大作を慕うようになったのか、その顛末は置いておくとして、彼女は現れた。
 大作への愛の使命に燃えて。   

 サニー・ザ・マジシャンの突拍子もない登場に、度肝を抜かれていた一同。だが、『BF団』、十傑集とい
う単語を聞いて、鉄也と宙や五飛が反射的に立ち上がる。鉄也は光子銃を構え、宙はニューサイボーグにチ
ェンジし、五飛も拳銃を抜いた。
 が……
「マハリク☆マハリタ♪」
 いつの間にかサニーが手に持っていた小さなスティックを、呪文と同時に振るう。
すると、ポンッというコミカルな音と共に、光子銃と拳銃の銃口から大きな造花が生え、ニューサイボー
グの宙は、
「うわわ!」
 シャボン玉のような大きな膜に包まれ、浮かされてジタバタしている。せっかくの超人的能力も、重力の軛
から外されて、身動きできなくされている。
「皆さん、落ち着いてくださいませ。危害を加えるつもりはございませんわ」
 唄うような声で言うサニー。鉄牛が、
「あ~、お前ら、落ち着いてくれ」
 と、諦観がにじみ出た態度で間に入った。
「この嬢ちゃんは確かにBF団で、十傑集だけど、こと大作がらみで俺たちに何かするってことは、多分ねぇ」
「多分、ではなく、絶対ですわよ、鉄牛様」
 鉄牛の言葉に修正を加えるサニー。
「愛する大作様の為にすべてを捧げることこそ、このサニーの存在意義です。他の有象無象に構っている暇
はございませんの」
 そう言って、ふたたび呪文を唱えると、造花は消え、宙はドスンっと落ちる。鉄牛の保証に、訝しみなが
らも鉄也と五飛は銃を収めて、宙は腰を摩り、イテテと言いながら変身を解く。
「えっと、大作の恋人、なの、この子?」
 状況がうまく飲み込めていないアスカが、サニーを指差し、呉や鉄牛に訊く。だが、『恋人』という単語
に敏感に反応したサニーが、
「恋人、簡潔にして完璧にして完全な表現ですわ、惣流=アスカ=ラングレー様♪」
 瞬間でアスカの前に現れ、その手を握り締める。その瞳に歓喜の星の輝きをアスカは見てしまった。
 歌うように、私は大作様の恋人~♪とクルクル回っているサニー。誰かツッコミなさいよと周りを見るが、
カトルは未だ呆然としているし、その隣の五飛は腕を組んで眉間に皺を寄せているだけ。
「ちょっと、いい……?」
 すると意外なことに、レイが手を挙げて発言する。この無表情天然ボケっ子がツッコミを、と意外な思い
でレイを見るアスカだったが……
「あとで、サインを頂戴……」
 ガタンと音を立てて突っ伏すアスカ。ボケにツッコミを期待した自分が馬鹿だったと、レイをひと睨みし
たのち、サニーに向き直るアスカ。
「はい、喜んで。綾波レイ様♪」
 花咲くような笑顔でレイに応じるサニー。そこでアスカは気づく。この少女は、自分たちのことを知って
いるようだ。どこで、自分たちのことをと疑問に思うアスカに、サニーは答える。
「簡単なことです、アスカ様。私と大作様は愛のテレパシーで繋がっていますの。大作様の記憶は、全て共
有しておりますので」
 顔に考えがでたのか、読心術の類か、アスカの内心に答えを返すサニー。ヌヌヌ、と先ほどまでBF団抹
殺を誓っていたアスカは、魔法チック乙女チックな少女に明らかに気圧されていた。
「繋がってんじゃなくて、おめぇが勝手に繋げたんだろうがよ……」
 そっぽ向いて、小声でボソっと呟く鉄牛に、
「なにか、おっしゃいまして、鉄牛様」
 と静かだけど、聞くと背筋が凍る声でサニーが返す。
「いんや、何でもねぇよ」
 とぶっきらぼうに答える鉄牛。この二人のやり取りから察すると、付き合いはけっこう長そうな感じだ、
大作とあっていない四年間の間に、いったい何があったのか、アスカは興味を覚える。
「はいはい、サニーさん。そろそろ本題に入ってもらえないかしら。あなたも佐渡島の件で来たんでしょ?」
 今まで口出しせず、事の推移を見守っていたミサトが、パンパンと手を叩いて割ってはいる。
 あら、いけませんわと口元を抑えて、またクルクルと回ってモニター前に移動するサニー。何で普通に移
動できないかと思うアスカだが、開きそうな口を必死に閉じておく。ここで何か言ったら、また話が脱線し
そうだし。
「まず大作様他の生存根拠について、説明させていただく前に……」
 ポンとサニーがモニターを叩くと、大怪球ビックファイヤの線図が現れる。入れていないデータが突然現
れ、データを管理していた日向マコトが目を丸くしている。
「この度のBF団の作戦目的について、簡単に説明させていただきますわ」
!?
 敵側の組織の人間が、あっさりと内情をばらそうとしている。
「ちょ、ちょっと、アンタ!?」
 思わず口が出てしまうアスカ。言ってから、自分のツッコミ体質を呪うが、そのまま突っ走るしかない。
「いいの? その、アタシ達にそんな機密みたいなこと喋っても?」
「構いませんわ。BF団が総力を上げた大作戦でしたが、失敗してしまいたし……」
 そこで彼女はわずかに顔を背け、皆から顔を隠すようにして、
「羽扇親父の立案した作戦ですもの、いい気味ですわ」
 と、毒成分の入っていそうな声で、ボソッと呟いた。どうやら、BF団も一枚岩ではないのだな、とアス
カは感じる。
「まず、この大怪球『ビック=ファイア』について、説明させていただいきます。直径一キロを誇る、この
オディロン=ルドンの絵を彷彿させる巨大眼球モドキ、これに私たちが崇拝し、全霊を捧げるビック=ファ
イア様のお名前が冠されたのは……」
 そこで、タメを作るように間を置くサニー。
「この大怪球は、ビック=ファイア様の能力をコピーしたもの、だからです」
 ルドンって誰よって、近代美術に造詣が深くないアスカは思ったりしたものだが、能力をコピー発言に、
驚かされてしまう。
「能力とは、エネルギーを吸収してしまう、あのフィールドのことですか?」
 今まで諦観無言で、事の推移を見守っていた呉が口を挟んだ。興味が抑えられなかったようだ。ビック=
ファイアがどんな存在なのか、アスカにはわからないが、そんなトンデモ能力を個人で発現できるとは
さすがに悪の秘密結社の総領。
 と、思っていたのだが、サニーは、はぁ~と態とらしい溜息をついて、
「やはり、理解していませんでしたのね、ビック=ファイア様の能力を」
 と、呉の見解を否定する。
「で、では……」
「あの大怪球は、そのビック=ファイア様の至高の能力の一つ、『アンチ・エネルギー・フィールド』を再
現する為に作られたのです」
 吸収、ではなく、抹消もしくは相殺、それがビック=ファイアの能力。しかも一つというからには、他に
も何かあるのだろうか。やはり、トンデモ人間達の総領は、その上をいくトンデモぶりみたいだ。
 サニーの説明は続く。
「それを人工的に再現したら、あの大きさになってしまったそうです。他にも磁力線は消せないとか、自身
300メートル圏内のエネルギーは消滅させられないとか、様々な欠陥が生じて完全コピーには至らなかっ
たようですけど……」
 またそこで、顔を背けるサニー。まぁ、羽扇親父の造らせたモノですし……と、また黒く呟いている。サ
ニーはその羽扇親父とやらと、よほど合わないのだろう。
 ポンポンとサニーがモニターの端を叩くと、線図だった大怪球の画像が、3Dになり、そして、分割し、
内部の状況まで表示された。さすがに核である直径300メートルのアンチ・エネルギー・フィールド発生
装置のトコロには『SECRET』の文字があるが。
「ふむ、この核の部分を覆う鎧として、あの超絶的な内蔵火器群があったわけですか……」
「しかも、そこはアンチ・エネルギー・フィールドの影響を受けない。上手くできていますね」
 呉とカトルが感心して、大怪球の内部を分析している。今、話すところはソコじゃないでしょうとアスカ
が突っ込もうとしたら、
「サニーさん、質問いいですか?」
 後ろに座っているキラ=ヤマトが、挙手して発言を求めた。
「はい、キラ=ヤマト様」
 学校の先生のように、質問を促すサニー。この場の空気は、完全にこの魔法メルヘン少女に仕切られてし
まったようだ。アスカはふと先程まで思いつめていた早乙女博士を探す。椅子に座ってミチルに介抱されて
いる早乙女博士、張り詰めていた気が緩んだか弾けたかしたようで、完全にグロッキーモードになっている。
まぁ、無理が重なっていたようなので、あのまま休んでもらったほうがいいかな、とアスカは思った。
「あの瞳孔を模したあのブロック、そこだけ独立しているけどあれってもしかして」
 キラの言葉に、モニターの分割図を見ている。確かにあの悪趣味な瞳部分は、独立した構造をしていた。
瞳孔に見えたところは、別に球体構造になっている。
「タマの中にタマがタマタマあったのね……」
 隣でボソッと寒い事を呟いているレイは意図的に無視、この娘はいったいドコに向かっているのか、アス
カは同居人として心配を超え、不安すら覚える今日この頃だ。
「ジャイアント=ロボ捕獲用ブロックですか?」
 驚きの視線がキラに集まる。サニーは手を叩いて、賞賛でそれを肯定した。
「さすが、スーパーコーディネーターのキラ=ヤマト様♪ 国際警察機構のお二方、キラ様はこの短いやり
取りだけで、正解に辿り付きましたわ」
 キラの言葉に驚愕を隠せない呉学人と鉄牛。大怪球にロボを捕獲するためのスペースが作られていた、そ
の事実が意味することを考えると、答えは信じられないが一つしかない。
「大怪球ビック=ファイアは、ジャイアント=ロボを捕獲する為に……」
 認めたくない事実を、怖れるように口に出す呉学人。
「ロボだけではありませんわ。大作様の御身も、BF団の目的でございましたの。そして、今回の一連の作
戦は……」
 サニーの切った言葉の続きを、呟くようにアスカが繋いだ。
「ジャイアント=ロボと大作を手に入れる為にやったって事?」
 自分で口にしながら、アスカは自分で口にしたことでありながら、その事実に半信半疑になってしまう。
この一週間、世界を巻き込んだこの争乱の目的が、ロボと大作の捕獲にあったとは言われても、やはりすぐ
には信じられない。
「つまり、この一週間、世界は……」
 サニーは、そこでバンと大きくモニターを叩く。そしてそこには羽扇で顔を隠し、上等そうなスーツに身
を包んだ細身の男性が映っていた。これが先ほどから言われている羽扇親父だろうか?
「組織の都合で顔が出せないのですが、この男、策士、諸葛亮孔明の掌の上だったのです!」
 ぐぬぬ、と力強く拳を握りしめ、今までの可憐イメージを払拭せんばかりに悔しそうにするサニー。この
少女は確実にこの策士孔明とやらを嫌悪している。それだけは確信できたアスカだった。
「あら…… はしたないところをお見せしてしまいましたわ」
 コホンと咳払いして、自身を落ち着けるサニー。呉が顔を手で覆い、サニーとは対象的にシリアスに考え
を巡らせている。
「我々は前提を間違えていた、という訳ですか……」
 呉の言葉は、作戦に参加した者すべての気持ちを代弁したものと言っていいだろう。だが、ロボの捕獲が
目的というのなら、納得いかないことがある。
「あの、サニーさん」
 隣に座るカトルもアスカと同じ疑問を持ったようで、挙手してサニーに訊く。
「なら、何故、パリでジャイアント=ロボを捕獲しなかったのですか?」
 カトルの問いかけに、アスカは小さく頷く。状況を聞いた限り、パリに大怪球が出現した際、ロボは行動
不能に陥るほどの大ダメージを受けたはずだ。戴宗が命を賭けて、ロボと大作を護ったとも聞いている。だ
が、地上の大都市殲滅が目的ではなく、ロボの捕獲が前提の作戦であるなら、佐渡島での攻防戦規模の戦力
をパリで用意していれば、ロボの捕獲は容易であったはず。
 わざわざロボを強化させる時間を作り、佐渡島まで決戦を持ち越した意味がアスカにも理解できなかった。
「それは、呉先生の方が思い当たるのではありませんこと?」
 サニーがその答えを呉に促す。呉学人は、サニーの言葉に思い当たることがあったのか、慄然とした顔で、
「……我々の手で、ロボのプロテクト・コードを解除させるためですか」
 と呻くように言う。
「正解ですわ」
 サニーの言葉に、呉は膝をつき、苦悩を示す。
「……我々は、孔明の策にまんまとはまってしまったのですね」
「慰めるわけではありませんが……」
 口惜しさに落涙せんばかりの呉に、溜息まじりでサニーが声を掛ける。
「あの羽扇軍師の戦略は、ホント、何とかと紙一重クラスの精密さです。今回の作戦も、地球圏での情勢を
全て読みきった上で、発動されたものですし」
「地球圏の現状、というと、特機の不在か……」
 今まで沈黙していた鉄也が言う。サニーは頷く。
 アスカも真ゲッター暴走事件に参加して思ったのだが、今の地球圏はカルネアデス計画から帰還後、もっ
とも手薄になっていたと言える。
 兜 甲児は自身の制作した宇宙船のテスト飛行、ひびき洸はそれに随伴、獅子王凱と大空魔竜隊は地球圏
代表として、ゼ・バルマリィ帝国の遷都記念式典に参加、コンバトラーチームとボルテスチームもボアザン
星復興計画に参加中、破嵐万丈、グッドサンダーチームも各々の目的の為、銀河の深遠に旅立っていた。
 イデオン、真龍虎王はあの霊帝との戦闘を最後に、その姿を見せていない。最強特機であるガンバスター
は、大気圏内での戦闘行為を基本禁止されている。
 そして、真ゲッターはこの二年間、起動できないでいた。今挙げたメンツの中で、一機でも地球圏に残っ
ていれば、状況はだいぶ違っていたはずだ。
「ヒイロが火星に釘付けなのも、お前らの仕業か……」
 これまた今まで黙っていた五飛が、腕を組んだまま、不機嫌丸出しで言う。プリベンターに非常勤で所属
しているヒイロ=ユイは、今、連邦政府外務次官であるリリーナ=ドーリアンに随行して火星にいる。今回
の大怪球争乱にあたり、地球に帰還しようとしたのだが、リリーナの身辺に不穏な動きがあるという理由で、
火星に留まることを選んでいた。なぜ、そこであの無表情リリーナ命男の名前が出るのか、アスカには分か
らなかったが、
「そうか、ゼロ=システムがあれば、あの時……」
 と後ろのキラは納得している。キラが言うには、バンプレイオスによる攻撃の際、あの場にウイング=ゼ
ロもいれば、大怪球を護るフィールドが消失していたことに気づいていたはずだと。たしかに未来をも予測
するゼロ=システムと、MSで最大の攻撃力を誇るツインバスターライフルを搭載したウイング=ゼロが参
加していたら、状況は変わっていたかなとアスカも思った。
「さすが、歴戦のαナンバーズの方々、ほとんど正解ですわ」 
 心のから感心、という風に手を合わせるサニー。この少女が端々に見せる少し大げさなリアクションは実
に愛らしい、とアスカは思う。友人の相田ケンスケが好きそうだなとも。もしかしたら、アイツならファン
サイトでも立ち上げているんじゃないかとも訝しんだりした。
「ゼンガー=ゾンボルト様とレーツェルー=ファインシュメーカー様、グルンガストシリーズ、それにそち
らのブルックリン=ラックフィールド様達も、非常時戦力として作戦に参加せず。この羽扇野郎は、そこま
で完璧に読み切っていたのですが……」
 サニーはモニターにまだ映っている顔を羽扇で隠した男性の映像を、バンバンと叩く。よほど、孔明とや
らには腹に据え兼ねることがあるのだろう。彼女が言うとおり、バイオネットらによる便乗テロを警戒し、
参加を許可されなかった特機もある。日本でも天海護と戒道幾巳が搭乗する『覚醒人凱号』の出撃が見送ら
れていた。
「唯一、読みきれなかった誤算が生じました。それが、真ゲッターロボの暴走です」
 サニーの言葉に、アスカは事の発端を思い出させられた。そうだ、真ゲッターの暴走、これが全ての始ま
りだった。とたんに、行方のわからないシンジのことを思い出し、不安、焦燥が心に芽生えてしまうが……
「……アスカ」
 レイがアスカの手に自分の手を重ねた。その温もり、合わせた瞳で先ほど決めたことを思い出す。
 シンジは絶対に生きている、無事。帰ってくる、私達のところに。
「で、これにお前は関係しているのか?」
 五飛が不機嫌さを隠さずサニーを睨みつける。
「あら、心外ですわ。そうですわよね、鉄牛様」
 手にスティックを構え、なぜか鉄牛に同意を求めるサニー。
「あぁ、そうだな……」
答えた鉄牛、その瞳が獰猛に輝いた。
「うらぁ~~~~!!」
 鉄牛の雄叫びと共に、いきなりの轟音、そして粉塵が舞い、視界が奪われる。
 見ると、鉄牛の手にはいつの間にか鉄節につながれた手斧が握られており、それが早乙女博士とミチルが
休んでいた近くの壁に突き刺さっている。何故、いきなり壁破壊、とアスカが目を丸くしていると、
「マハリク☆マハリタ!」
 サニーが続いて呪文を唱えると、床から蔦が無数に生え、何かに絡みついた。と思ったら、その蔦は瞬時
に切断され、影のようなモノが飛び出し、フリーフィングルームの窓を突き破り、消えていった。
「え、え、え?」
 一瞬の攻防、ついて行けてないアスカが答えを求めて、キョロキョロする。だが、自分と同じように視線
を彷徨わせているのは、日向マコトに、レイ。それに騒動の至近にいた早乙女親子だけ。キラとブリットは
いつの間にか自分とアスカをかばうように前にいるし、ライとカトルもミサトの前に。鉄也や五飛は先ほど
サニーにしたように銃を抜いており、宙もニユーサイボーグになり再び戦闘態勢をとっていた。皆、反応が
早い。
「今のは?」
 ミサトが肩についた埃を払いながら訊く。
「孔明直属のコ・エンシャクですわ。やはり早乙女博士を狙ってきましたわね」
 サニーも三角帽子を外し、ついた埃を落としながら答える。
「コ・エンシャクが動いたということは、孔明が早乙女博士を狙っているということですか」
 扇子を構えていた呉学人が、早乙女博士とミチルを介抱している。アスカとレイも慌てて、それを手伝いにいく。
「どうして、父が……」
 嵐のように過ぎ去った一瞬の攻防に、呆然と流されていたミチルが呟く。
「ゲッター線…… か……」
 そう呟いて、早乙女博士が目を閉じる。無理と無茶が祟り、それに今の襲撃で気力が尽きたのか、気を失
ってしまったようだ。ミチルが慌てて脈や呼吸をチェック、そう大事ではないと判断しとりあえず、救護班
を呼んでもらう。
「お疲れの早乙女博士にはしっかり休んでいただきましょう。博士がいらっしゃらないと、大作様達の捜索
に支障がでますし」
 サニーの登場や、エンシャクとやらの襲撃で話がどっかに行っていたが、この集まりは本来、行方不明に
なってしまったシンジ達についての説明だったはず。シンジたちが生きている根拠は、サニーの繋がった魂
とやらでしか説明されていないが、実際、どうなのだろうか?
「大丈夫ですわ、アスカ様。大作様は100%生きていますし、その傍にいらした碇シンジ様もきっと無事
でいらっしゃいます」
 信じましょう、とサニーがアスカの手を両手で握り締める。内心に答えられたのは気になるが、この少女
が敵方でありながら大作のことを本気で想っているのは、同じような想いを持つ身として、本能的に信頼で
きる。
「そうね」
 握られた手に自分の手を重ねるアスカ。シンジ達の捜索、救出への道は険しそうだが、信じる心だけは持
ち続けよう、そう心に決めたアスカだった。


 話はその想い人の跳ばされた世界へ。

 加賀のヘリポートに、白銀武専用の瑞鶴改が片膝を着いて降着姿勢を取っている。
「神代、巴、戎」
「「「はっ!」」」
 月詠真那の指示で、簡易タラップを部下の三人が引いていく。
 海風が真那の髪を吹き上げるのを手で押さえる。引き出された操縦ユニット、その中に白銀鑑コンビの他
に、超重要人物が乗っていると真那は聞かされていた。その重要人物の艦内での身辺警護が、真那たちに託
された命令だった。
 詳しくは知らされていないが、件の人物は佐渡島ハイヴ消失、そしてあの光神現象の関係者であるとか。
悠陽が自分達を信頼し、託してくれた役目に身を引き締める真那だったが……
 神代に手を引かれ、タラップに降りた白いツナギのような服を着た少年を遠目に見て、なぜか胸がドキン
と大きく鼓動を刻んだのを感じた真那。
 少年は物珍しげに周囲を見渡しながら、ゆっくりと階段を降りてくる。近づいてくるにつれ、その少年の
面差しがはっきりしてくる。
 顔は中性的で、カッコイイと言うより、整っているという表現があっている。細身で身長もそれほど高く
ないが、その体幹の整い方、垣間見る挙措の隙のなさに、高度な訓練を受けているのがわかった。
 少年が近づくにつれ、鼓動はドンドン大きくなる。自身でも理解できない状況を何とか面に出さず、前に
立つ少年に敬礼をする真那。
「斯衛第19独立警護小隊の月詠真那中尉です。えっと、貴君の警備とお世話を申し使っております」
 少年の名を知らないので、貴君という時代めいた言い回しをしたことに、顔が赤らんでしまう真那。
「僕は碇シンジと言います。お世話になります」
 少年、イカリシンジは笑顔でそう名乗る。その笑顔を見たのがトドメとなり……
 月詠真那は恋に落ちた。


 【ちょい後書き】
  作者、暴走モード継続中。どこにいくんだ、このSS。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十二話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:691aec15
Date: 2014/03/30 02:00
「ふぁ~~、生き返る!」
 熱めの湯を、頭から勢いよく浴びる。声にしたとおり、生き返る思いをシンジは味わっていた。
 シンジが加賀に乗艦し、月詠真那率いる独立警護小隊に周りを囲まれて、連れてこられたのが、このトイ
レ・シャワールーム完備の個室だった。
 まず、汗をゆっくりお流しください、と言う真那のススメに従い、真っ先にこのシャワーを使っているシ
ンジ。まだ、会う予定の要人たちがこの加賀に来るまでには、時間がかかるとのこと。今は、難しいことは
頭から追い出して、色々とリフレッシュしようとシンジは決めていた。
 思えば激動の一日だ。日が変わるころに招集され、それから大怪球との戦闘、そして異世界へ跳ばされ、
そこでもBETAとやらと戦闘、そして逃避行の末、名も知らぬ島に辿りつき、そこで色々な出会いを経て、
今は海に浮かぶ巨大戦艦の一室にいる。
 こんなに変化にとんだ一日は、この先、そうあるものではないだろうし、あってたまるかとも思う。しか
も、まだ今日は終わってない、メインイベントがこれから残っている。
「まぁ、なるようになるさ」
 シンジは、白銀武や鑑純夏、それにあの島にいたまりもを筆頭にした訓練兵の面々を信じると決めていた。
彼らが示してくれた指針に乗った今、ジタバタする気はない。
 それに万が一これが罠だったとしても、大作、それに隼人が居る。いきなり殺されない限り、どうにかな
るだろう。
 極めて楽観的に、シンジはこの場に望んでいた。


「むむむ……」
 月詠真那は悩んでいた。
 シンジに持っていく服一式のチョイスで。
 帝国海軍が自由に使ってくれと通してくれた制服各種を収納している、艦内倉庫の中。眉間に皺を寄せて
悩んでいた。
 ここにあるのは、当たり前だが海軍の制服のみ。シンジの会う前はここで適当に部下の三少尉に見繕わせ
ようと思っていたが、今の真那にシンジについて、他人任せにする気は微塵もない。
 海軍の一級礼装、これが悠陽に拝謁する際には一番ふさわしいのかもしれない。でも真那は納得できない
でいた。
頭の中でシンジにこの服を着せてみる。悪くはない。白基調の制服はむしろ似合うかもしれない。だが、
堅いイメージが拭えないし、いかにも軍人めいた服はシンジにそぐわない気がする。
 いっそ、と艦内でパーティをする際、士官がダンス等を楽しむ為に着るタキシードを手に取り、また頭の
中でシミュレーション。これも似合うだろうが、場に明らかにそぐわない。
 なら、とガサゴソと部屋を漁る真那。シンジに最高に合う服を着せて、悠陽の前に立たせる。それが今の
真那にとって、至上の命題になっていた。

 シャワー室をでると、バスローブと新品の下着が畳んでおいたプラグスーツの横に置いてあった。
 ありがたくそれを身につける。さきほどまで控えていた白い独特の服を着たお姉さんがいなくなっていた。
気を利かせて出てくれたのだろう。
 バスローブを手に取り、自分には似合わないなぁとシゲシゲと眺める。が、下着姿でいるのは抵抗がある
ので、それを羽織るシンジ。こんなものを羽織ると、何だか場違いな気がして、こそばゆい思いがある。
 とりあえず、ベッドに腰をかける。やることがなくなり完全に手持ち無沙汰になってしまう。
 今後の予定を訊きたいのだが、先ほどの人たちは部屋の外に控えているのだろうか。着替えを用意してく
れるとのことだが、どんな服を用意してくれるのだろうか。
 部屋の外に声をかけ、訊いてみようかとも考えたが、急かすようで気が進まない。
 と、なると…… 腰をかけたベッドに手を置くシンジ。世界を跨ぐという体験のせいで、時間経過の感覚
が狂ってしまっているが、自分は正味二十時間くらい、活動しっぱなしではないだろうか。
 すると、今まで気にならなかった疲れが、眠気というかたちで出てくる。こうなると、抗えないし抗う気
もない。肝心の会談の時にアクビでもしようものなら、それこそ失礼。
 ということで、とシンジはそのままベッドに潜り込み、夢の世界に行くのだった。


「碇様、よろしいですか?」
 胸に熟考三十分におよんだ服を胸に抱いて、コンコンと軽くドアをノックする真那。
 …………
 だが、中から反応はない。
「碇様?」
 再びノックを三度。だが、中から反応はない。扉の横に立番よろしく控える神代巽少尉に顔を向けるが、
自分に何の心当たりもないと首を横に振る。
 もしや体調を崩されたのか?
 思えば、強化服も着ずに戦術機に乗られていたのだ。体調が急変してもおかしくない。
 無礼なのはわかっているが、いまは危急とドアのノブに手を掛ける。施錠はしていないようで、あっさり
とノブは回った。
「碇様、失礼します」
 声に焦燥をのせないように抑え、中に入ると……
 碇シンジは、ベッドに横たわり、軽い寝息を立てていた。
「うわ……」
 一緒に入ってきた神代が、シンジのあまりに豪胆な行動に驚嘆し、同意を求めるように傍らに立つ真那に
目を向けると……
 なぜか、彼女らの尊敬すべき上官は、頬を紅潮させ、口元に手をあて、完全停止していた。いや、小声で
何か呟いてはいるが、はっきり聞き取れない。
 何となく、声をかけづらい、いや、声をかけたくない状況だが、立像のように固まっている真那をこのま
まにしてはおけないと意を決し、声を掛ける神代。
「つ、月詠中尉、あ、あの……」
 神代の声に我に返ったのか、取り繕うように咳払いをする真那。
「ま、まぁ、寝ているのを邪魔するのは失礼だ。神代、下がってよい。ここは私が見ていよう」
 いつもの威厳はどこへやらの真那、神代は真那をここに置いていいのかという漠然とした不安を感じたが、
命令を反故する理由も特にないので、
「はい、では外に控えておりますので……」
 一礼し、部屋をでる神代。自分の選択は正しいはずなのに、なぜか不安を覚える彼女だった。


 そして二人きりになった部屋。真那はベッドに眠るシンジの寝顔を凝視していた。あどけない、と言って
もいい寝顔。自分が入ってきたのも気づかず、熟睡している。
 先ほどの、凛々しさは潜み、愛らしさが寝顔に出ていると、真那は感じている。このまま、ずっと寝顔を
見ていたいという願望も湧き出している。
 いやいや、と邪念を振り払うように頭を振る真那。
 この高鳴る胸の鼓動は憧れの現れなのか? 真那自身、自分が何でこのようにこの少年に惹かれているの
か自覚できていなかったりした。
 スヤスヤと規則正しい寝息をたてるシンジ。その額にかかる髪に無意識で手が伸びでしまう真那。触れる
前に躊躇いで手が止まってしまったが、変わらぬ様子のシンジに意を決しその髪に触れる。
「ん、んん……」
 真那の手が触れた瞬間、シンジは覚醒の兆しを見せる。迂闊だったと慌てて手を引っ込めるのと、シンジ
の瞼がゆっくりと開くのは同時だった。
「あ、あの……」
 何と声を掛けようかと口ごもっていると、
「……疲れていたので、寝てしまいました」
 とシンジは照れたように笑って上体を起こす。自分が触れたことには気づいているのかいないのか、不快
を訴えてこなかったことに真那はとりあえず胸を撫で下ろす。
「あの…… お召し物をお持ちしました」
 頬の紅潮を自覚しながらも、平静を装って真那はシンジに胸に抱いていた服を差し出す。
 お手数かけます、とその服を受け取ったシンジ。広げてみると……
「学生、服ですか?」
 真那がシンジの似合うと渾身のチョイスしたのは、なぜかこの艦に置かれていた国連軍新潟基地内にある
衛士訓練校の学生が着る制服だった。真那はその服を手にとった瞬間、これしかない!! と天啓を受けた
思いだった。
「えぇ、碇様にお似合いかと」
「まぁ、色違いのを、着ていますし。これなら、肩が凝らないかもしれませんね。ありがとうございます」
 シンジは然したる疑問も抱かず、真那の選択を受け止めてくれた。その事実に知らず、また頬が紅潮して
しまう真那だった。
「えっと、月詠中尉……」
 シンジは制服の上着を広げたまま、真那を見る。その視線が何かを求めているのはわかるが、何を求めて
いるのか、真那には察することができない。
「着替えたいんですが……」
 そこまで言われてシンジが何を求めているのか、真那はようやく察することができた。
 私に構わずお着替えください、と口走りそうになるのを、間一髪で押し込め、
「失礼しました! 外で控えておりますので、着替えが終わりましたら、声をかけてください!」
 まくし立てるように言って、慌てて部屋を飛び出す真那。部屋の外で、ハァハァと胸に手を当て呼吸を整
える。いかん、今日の自分はどうかしていると、動揺しまくっている自らの心を叱責する。
 そんな尊敬すべき上官の奇行を、困惑気味に見つめている神代。声をかけたほうが良いのだろうかと、迷
っていると、
「月詠中尉!」
 と、巴 雪乃少尉が早足で歩いてきたので、このまま沈黙を決め込むことにする。
「どうした?」
 応じる真那も、先ほどの様子は微塵も感じさせない、凛々しさを取り戻している。ホッと胸を撫で下ろす
神代。
「香月副司令が、到着されました」
 耳打ちするように間近で報告する巴。真那の顔に警戒の色が浮かぶ。
「……早いな」
  新潟から、ここまで軍用ヘリで四時間以上かかるはず。今の日本を取り巻く状況下において、彼女、香
月夕呼も諸事に忙殺されているはずなのに、この時間に到着するとは、真那の想定外の出来事だった。
「それが……」
 と、巴が続けて口にした内容に、真那は思わず絶句してしまった。
 夕呼は、身分にそぐわないとんでもない手段で、この加賀に訪れていたのだ。


「……もう、フラッフラよ。二度と乗りたくないわ、こんなのに」
「……同感です」
 出迎えた武、純夏の前で、愚痴をブツブツと呪いのように呟いているのは、夕呼と、随伴してきた社霞。
「そりゃ……」
 と武は呆れたように、二人が加賀にやってきた方法に目を向ける。
「ろくに訓練もしてない人が、不知火に乗ったら、強化装備を着てもそうなりますって」
 見事へたりこんだ二人の後ろには、二人をここまで運んで来た不知火二機が、片膝立ちで駐機している。
「だってぇ、これが一番早かったんだもん」
 と口を尖らせて反論する夕呼に、子供ですかと呆れ顔になる武。
「まぁまぁ、博士も霞ちゃんも無事で何よりだよ」
 純夏が両者の間を取り持つように、笑顔で言う。だが、そう言った純夏自身、夕呼と霞のとった行動に、
半ば以上呆れ返っていた。
 彼女たちが、この加賀に来る手段として選択したのは、自身が武に指示したように、戦術機『不知火』を
利用することだった。この行動によって、彼女は、考えうる最短時間での加賀到着に成功した。
 しかし、その強行軍の代償として、甲板にへたりこんだまま、動けないという今の状況だった。
「で、アンタが来ているってことは、イカリシンジっていうのも着いているのね。あっちはどうなの?」
 夕呼が白銀に訊く。
「アイツは見た目よりずいぶんタフみたいで、喜んで乗っていましたよ。体調も問題なしです」
「ふぅ~~ん……」
 言葉にはだしていないが、自分がこんな状態なのにシンジがピンピンしているのが明らかに不満な様子の
夕呼。
「まぁ、こんなところで座っていても時間の無駄ね。ほら、白銀」
 と、夕呼は武に手を伸ばしてきた。武は、苦笑しながら、その手を引っ張り、夕呼を立たせる。すると、
となりでヘアバンドのウサギ耳をまでショボンとさせた霞が、捨てられた子犬のような目つきで手を伸ばし
てきた。
 こちらも苦笑まじりで引っ張りあげる武。まだ足元が覚束無いのか、フラフラしている霞をそのまま小脇
に置いて支えた。夕呼の方は立てるくらいには回復しているようで、よいしょと何度も屈伸している。
「白銀、久しぶりだな」
 降着姿勢の不知火から、強化装備に身を包んだ二人の女性衛士が降りてきて、武たちに近づいて声を掛け
てきた。一人は白銀とも親交がある夕呼直属の特務部隊A―01、伊隅ヴァルキリーズ所属の宗像美冴中尉、
もう一人の大きめのトランクを両手で持った少女とは、武は初対面だった。
「宗像中尉、お久しぶりです」
 宗像と最後に会ったのは、ヴァルキリーズと合同演習をした半年程前。夕呼と悠陽の繋ぎ役である武と純
夏は、夕呼直属の彼女らと、演習やら共同作戦やらで交流の機会は少なくない。しかし、この半年は両者の
タイミングやら何やら都合が合わず、交流する機会がなかった。
「まったくだ。打倒白銀を目標にしている速瀬中尉が、お前に会えなくて欲求不満気味でな。早いとこ倒さ
れてやってくれ」
「あははは……」
 美冴の申し出に、乾いた笑いで応える武。美冴と同じ、A―01所属である速瀬水月中尉は、演習の度に
苦杯を舐めさせられている武のことを、「いつか倒す!」と明言し、それを目標にしている。付き合わされ
る武は、そのアプローチに「もう許してください」と何度懇願したことか。それでも、相対するとき、武は
まったく手を抜かないので、水月のテンションは上がる一方。半年も会っていない今、武にとって再会する
ことに恐怖すら感じる相手に水月はなっていた。
 そこで、武は、自分をあからさまな好奇の目で見つめる瞳に気づく。初対面の衛士の少女からだ。
「あぁ、彼女は新参の柏木晴子少尉だ。よろしくしてやってくれ」
「柏木晴子少尉です! お噂はかねがね。自分も、ご指導よろしくお願いします!」
 美冴に簡単な紹介され、闊達な声に、機敏な動作での敬礼する晴子。それに失礼にならない程度の笑顔を
浮かべ、武と純夏を見つめてくる。夕呼の部下は、精鋭部隊だけあって優秀な人が多いが、晴子もご多分に
もれず優秀で有能、しかも一癖も二癖もありそうな雰囲気が立ち姿から感じ取れた。
「白銀 武少尉です」
 無難な答礼を返す武。隣の純夏も、武と同じく「鑑 純夏少尉です」と敬礼している。どうせあんな事や
こんな事を先達から吹き込まれていることだろうから、ここは無難に済ますに限る。
「副司令、これ荷物です」
 とドスンとトランクを置く晴子。多分、この中には、夕呼と霞の服、その他モロモロが入っているのだろ
う。それと、これを運ぶのは自分の役目だろうなぁ、と武は諦観に似た思いで、そのトランクを見つめてい
た。
「よし、じゃあ、白銀、鑑、行くわよ!」
 屈伸を終え、頬をパンと叩いて、気合を入れる夕呼。だが、キョトンとする武と純夏。
「行くってドコへ?」「です?」
 怪訝な顔の二人に、
「私の控え室よ、あるんでしょ?」
 と夕呼。武と純夏は顔を見合わせ、「あるの?」とお互いに聞き合う。その辺りの段取りは、そういえば
まったく聞かされていない二人、放置され気味だったので、瑞鶴改の傍で立ち話して海を見つめて時間を潰
していたくらいだ。
「まったく、急いで来たのに、段取り悪いわねぇ。今、時間は宝石のように貴重なのよ」
 はぁ~、とわざとらしく額に手をあて、溜息をつく夕呼。加賀の乗員には、不干渉の触れでもでているよ
うで、誰も武や夕呼たちに近づいてこない。
「月詠中尉達に訊きに行くしかないか」「だねぇ」
 となると、次の問題は、その目的の人物がどこにいるのかを二人は知らない、ということだ。強化装備姿
で海軍の戦艦内をうろついての人探しは、精神的に何だかイヤだ。二人は目線だけ、純夏がいけ、武ちゃん
がいけという押し付け合いを開始した。
 不毛な争いから数秒、艦内入口から、真那と戎 美凪少尉が現れた。
「……香月副司令、ご苦労様です」
 二人は夕呼の前に立ち、見事な敬礼を決めてみせる。これは、軍隊式の儀礼が嫌いな夕呼に対する、真那
のあてつけだ。
「はい、ご苦労さん。で、あたしはどこで待っていればいいの? まだ殿下来てないんでしょ」
 手をヒラヒラと振って、先を促す夕呼。武や純夏はこういう場面に出くわすたびに思わずにはいられない。
なんで夕呼と斯衛の方たちは、こうも相性が悪いのだろうかと。真那や戎の仏頂面、もう少し何とかならな
いかと、武は心の中で嘆息する。
「了解しました。戎、案内を」
 簡潔な真那の命令に、ハッと敬礼で応える戎。どうぞ、こちらへと夕呼を促す。スタスタとトランクを置
いたまま、先に行く夕呼。霞は、これまた雨に濡れた子犬のような眼差しで、武に寄りかかっている。
 そして夕呼随伴の二人の衛士は、ここに待機する気満々に見える。
「はぁ」
 結局、これが俺の役目かと、かるく嘆息し、左脇に霞を抱え、右手にトランクを持ち、夕呼と戎に付き従
う武。当然のように、純夏もそれに付いていこうとしたのだが……
「あ、鑑、お前は残ってくれ。話がある」
 真那が幾分、遠慮気味に純夏に声を掛ける。真那の言葉に、純夏は霞とトランクを抱えて前を行く武を見
ると、武が振り返って小さく頷いた。
「はい、わかりました」
 夕呼と武が、戎に先導されて艦内に消えたのち、真那はそばにいるA―01の衛士に軽く一礼したあと、
純夏たちが乗ってきた瑞鶴改が駐機している甲板に、純夏を連れていく。
「いったい、何事が起きているんですかねぇ」
 そんな二人の様子を頭の後ろで手を組んで眺める晴子が、興味を隠さずに美冴に言う。
「そうだな……」
 美冴も、二人を眺めながら、短く同意する。今この時、彼女たち以外の伊隅ヴァルキリーズの衛士たちは、
佐渡島のハイヴ跡に、夕呼の命を受け、急行している。彼女たち二人は、佐渡島に向かう直前、この加賀へ
夕呼と霞を運ぶ特命を受け、隊と別行動を取ることになった。
 夕呼ほどの人物が、戦術機を使って、海軍の戦艦に来訪する事態。いったいこれから何がこの艦で行われ
るのか、二人はまったく聞かされていない。いないのだが……
「だが、こっちの方が面白そうだ。白銀も居ることだし、な……」
 美冴は笑みを浮かべ、彼の愛機である瑞鶴改に視線を向ける。今まで、彼女の経験から、武と純夏が絡ん
で面白くなかったことがない。きっと、今回もそうなるだろうという確信が美冴にはあった。
「『デリング』も、どっか行きましたよね?」
 晴子が、彼方の海を指して言う。
今、夕呼直属の戦術機部隊A―01には、伊隅ヴァルキリーズの他、もう一つ半個中隊規模の戦術機部隊
がある。その中隊『デリング』も、夕呼の特命で、どこぞへ飛び立っていった。
「平隊長代理はともかく、鳴海中尉は貧乏くじを引く為に生きているようなものだ。あっちはハズレだろう」
「あはは、厳しいですね」
 女性の方が圧倒的に数が多いA―01の中で、デリング隊長代理の平 慎二中尉と鳴海孝之中尉は、唯一
の男性エレメント。美冴たちの上官である伊隅みちるに次ぐ古参衛士なのだが、なぜかヴァルキリーズから
の評価は不当に低い。デリングの鳴海孝之と、ヴァルキリーズの速瀬水月中尉が、事あるごとに噛み付きあ
っているのが、大きな一因とだろう。
「まぁ、運が悪くても、貧乏くじを引いても、生き残るのがあの御仁だ。心配はいらないだろう」
 美冴も晴子も、デリング中隊が飛び去った、おおよその方向に視線を向ける。
 その方向には、大作がいる名も無き島がある。

「ところで、だな…… あの……」
 純夏をヴァルキリーズの二人から離して、何かを訊こうとしている真那だが、歯切れがものすごく悪い。
訊きたいと思われることは察することができるので、純夏から逆に訊いてみる。
「あの、私に訊きたいことって、彼のことですか?」
 図星だったのか、一瞬固まってしまう真那だが、すぐに咳払いをして、
「そ、そうだ……」
 と、取り繕うように続ける。
「あの御方は、その…… 何者、なのだ? その、殿下から口止めされているのであれば、無理に、とは言
わないが……」
 真那にしては歯切れの悪い問いかけだ。
悠陽の命なら、何の疑問も挟まず、黙々とそれを遂行するイメージがあった真那だが、シンジに関しては
あまりに疑問が大きすぎたのだろうか? と勝手に純夏は推測し、どこまで話していいかを考える。
 悠陽からは特に箝口令は出ていないが、夕呼からは極力、シンジと大作の情報は他には漏らすな、と言わ
れている。
 しかし、ここで何も教えないというのは、真那に対して義理を欠くようで心苦しい。夕呼からは、言われ
てはいるが、強制されているわけではない。純夏はそこまで考え、どこまで話していいかの、線引きを考え
てみる。
「あの、月詠中尉は、シンジくんのことを、どこまで知らされて……」
 逆に訊いてみることにした純夏。だが、真那は、
「か、鑑、き、貴様、碇さまのことを、な、名前で……」
 と、純夏がシンジを名前で呼んだだけで、顔を引きつらせてしまった。この反応は、どう解釈したものか
と困惑する純夏
「シンジくんが、そう呼んでくれと言われまして。タケルちゃんと違って、色々気がつく……」
 そこで純夏はシンジを表す端的な言葉を思いつく。
「そうですね、シンジくんは『いい人』です」
 指を一本たてて、我ながら上出来と頷く純夏。
「いい、ひと?」
 その抽象的すぎる純夏の言葉に、真那は首を傾げる。純夏は得意げに続けた。
「そうです。シンジくんは『いい人』です。あたしとタケルちゃんが全面的に保証します! 悠陽様の名に
かけて!」
 言い切った純夏に付いていけない真那。だが、純夏が悠陽の名前を出して、シンジに対してそう宣したこ
とに軽い驚きを覚える。
 真那はシンジとの短い邂逅を思い出してみる。何故、自分はあの人の事が、こんなにも気になっているの
だろうか? 自問すると、胸が高鳴り、頬が紅潮してしまう。
 だが、純夏が口を濁しても、シンジに『何か』あるのは間違いない。この加賀に政威大将軍とオルタネィ
ティヴ第四計画の総責任者が、来艦していることだけでも、常識ではありえない事だ。
 その渦中にある、彼はいったい何者なのか? それを知りたがるのはおかしくない、そう、おかしくない。
 真那は自分の中にある、得体の知れない感情をそう納得させたのだが……
「あれ、何だか騒がしくなってますね」
 純夏が、艦内入口を指差して言う。その指先を追うと、加賀の艦長と士官数名が、ドタドタと現れた。
 何事か、と思っていると、その集団の先頭にいた巴が、慌てて真那に駆け寄ってくる。
「どうした?」
 短く問うと、必死に息を落ち着かせた巴が、動揺と興奮が入り交ざった声で真那に答えた。
「ゆ、悠陽様が、加賀に到着されます! 先ほど、通信が真耶中尉から!」
 真那の従姉妹であり、同じく煌武院悠陽に仕える月詠真耶との混同を避けるため、真那に真耶のことを告
げる時は、名前で呼ぶのが通例になっている。しかし、悠陽が到着するのに、なぜこんなに慌てているのだ
と真那が考えを巡らせると……
 悪い予感しかしなかった。
「あ、戦術機の音……」
 五感が常人より遥かに優れている純夏が、呟いた。真那の耳にはまだ届いていないが、悪い予感は当たり
そうだ。
「巴、殿下は武御雷で、来られるのか?」
「は、はい! 真耶中尉の機体に乗られて、こちらに向かったそうです」
 ……
 戦術機をヘリ代わりに使おうと考えるのは、どっかの副司令くらいかと思っていたら、彼女らの敬愛すべ
き主君が、同じ方法を取るとは……
 真那は、こと光神がからむと、行動が大胆を超える悠陽の言動に、溜息をついてしまう。
 真那の耳にも、海風の音を切り裂く、跳躍ユニットの推進音が届いてきた。音は同型二種、真耶の武御雷
に随伴一機というところか。
 艦長たちも今まで、無干渉を貫いてきたが、政威大将軍の来艦には、そうもいかないと出迎えに出てきた
のだろう。予定よりかなり早い悠陽の来艦に、将校たちが、どう並んで出迎えるかというところから揉めて
いる様は、少し滑稽だ。
「鑑、真耶と通信できるか?」
 この場に強化装備を着込んだ純夏がいるのは幸いだ。
「はい、ちょっと待ってください」
 純夏が、袖口の端末や、網膜モニターでの視線操作で、瑞鶴改の通信機から、接近中の武御雷へ通信を繋
ぐ。
「はい、こちら鑑です、傍に真那中尉も。はい、お察しの通りです」
 真耶と通信が繋がったようだ。真耶もこちらがどういう状態か察しているのだろう。
「出迎えがゾロゾロ出てきていると伝えてくれ。悠陽様の指示を仰ぎたい」
 真那の指示を、そのまま伝えると、
「はい、大げさにはするな、と。悠陽様の格好を考えてみろ、だそうです」
 やはり、悠陽も強化装備を着込んでいる。身体のラインを際立たせることこの上ない強化装備姿を、忠誠
心あふれる帝国軍人とはいえ、多数の男性の目に晒すことは、やはりマズイ。
「わかった、三分くれ、艦長たちを説得してくる、と伝えてくれ」
 了解です、という純夏の言葉を背に、真那は出迎える気満々の加賀クルーのもとへ向かう。溜息と心労とともに。

 大和改級加賀の飛行甲板は、異様な光景を見せている。
 そこには、国連軍カラーの不知火二機、斯衛軍の黒い瑞鶴の改造機。そして、今、赤と白の武御雷が降り
立った。戦術機五機を駐機させ、本来のヘリ空母としての機能は発揮できない状態だ。
「無茶しますね、悠陽様」
 昇降タラップで、悠陽を出迎えた純夏が、苦笑混じりで手を伸ばす。
「これが、もっとも効率が良いと判断したのです。香月副司令も、同じ手段を取っていたのですね」
 中から、専用のコンバットウォーニングジャケットを纏った悠陽が、純夏に引っ張られ機外に姿を表す。
 悠陽が、不知火に目を向けて言う。どうやら、この強行軍は、夕呼と示し合わせたのではなく、お互い、
最速の方法を模索した結果だったようだ。
 さすがに戦術機の搭乗訓練を受けている悠陽は、夕呼のような醜態を晒すことなく、颯爽とタラップを降
りる。加賀からの出迎えは、加賀艦長と女性士官二名のみ、真那の恫喝混じりの説得で、このメンツになっ
た。
「ふぅ、こんなことは、二度とゴメンだ」
 と疲労を滲ませた声音で、悠陽に続いて月詠真耶中尉が降りてくる。熟練の操縦技術を持つ真耶でも、主
君を乗せての海上飛行は、神経をすり減らしたようだ。
「お疲れ様です」
 と言う純夏の労いに苦笑を返す真耶。武には必要以上に厳しい真耶も、純夏には優しい。
「下で、真那が睨んでいるな……」
 悠陽を出迎える艦長から一歩下がった一で、眉間にしわ寄せ、真耶を睨む真那がいた。その横では巴が困
惑に顔を曇らせている。
 ―どうして、お諌めしなかった!― と、真那が視線で糾弾してくるのを、
 ―無理だ!― と、こちらも険しい顔で返す真那。視線だけで会話を成立させられるのは、同じ月詠家に
生まれた者だからだろうか。
 艦長の挨拶も終わったようだ。隣りの武御雷から、大きめのトランク二つを抱えた真那の腹心、山城少尉
が降りてきた。あれに、悠陽の礼服だけではなく、真耶の軍服、それに武と純夏の軍服も入っている。
「さて、鑑、行こうか。悠陽様のお着替えを手伝ってくれ」
「はい」
 純夏と共に、タラップを降りる真耶。
二人を待っていた悠陽が軽く頷くと、加賀の女性士官が先導し、それに真那、悠陽、真耶、そしてトラン
クを持った巴と純夏が続き、艦内に消えていった。加賀艦長は、その行列を見送って、心底ホッとしたよう
に肩を落とすのだった。


「……悠陽殿下の登場って、面白すぎません?」
 不知火の下で、直立不動で今の顛末を見守っていた夕呼麾下の美冴と晴子。軽口を叩く晴子の声も震えて
いた。
「……副司令と、殿下が、この加賀にこられた、ということは」
 晴子の言葉が聞こえていないように、美冴は考えを巡らせている。夕呼と悠陽、この対象的な二人が手を
組んでいる理由はただ一つ、美冴はある考えに辿りついた。
「ここで、光神についての何かがあるのか……」

 加賀に、煌武院悠陽、香月夕呼、そして碇シンジが同じ艦上に揃った。この世界の行く末に大きく関わる
会談が、もうすぐ始まる。



 【ちょい、言い訳】 思いのほか、間が空いてしまい、どうもすいませんでした。オッサンは
色々あるんです、うん。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十三話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:a9e6514e
Date: 2014/03/30 01:59
 ―新西暦の世界で―

 コ・エンシャクの乱入により、サニー登場で混沌としていた現状報告会は、さらに収拾つかない状態にな
ったと判断したミサト。明朝十時に改めてこの場で、報告会を兼ねた対策会議を開くと決定。
 同時に、この件においての対策本部を、この極東基地に置くことも宣言。これについては、αナンバーズ・
ネットワークを利用し、アステロイド・イカロス基地司令のブライト=ノア准将や、新設された異星外務庁
長官である大河幸太郎等、有力者と共に、連邦政府に根回しを行い、この件を自分たちで解決する公の立場
を、早々に手に入れたのだった。
 コ・エンシャクの再襲撃を警戒し、今回の出席者は、極東基地内に宿泊することになった。そして、その
エンシャク対策をサニーに頼んだところ、
「よろしいですわ」
 と二つ返事で、この建物に、よくわからない魔法による結界を張り、エンシャクに備えるサニー・ザ・マ
ジシャン。アンタ、BF団でしょ、大丈夫なの? と、気になったアスカが訊くと、
「私、愛の使徒サニー・ザ・マジシャンは、十傑集筆頭、混世魔王・樊瑞オジサマの意を受けて、行動して
おりますので、何の問題もありません!」
 と、BF団の内部揉めていますよと喧伝することを、キッパリと言い放ったサニー。自慢気ですらあった。
 そして、私服に着替えたアスカとレイは、明日に備えてサッパリしようと、女性用大浴場に向かっていた。
なぜか、サニーも入浴セットを抱えて、鼻歌を歌いながら付いてきている。
「……アンタも来るの?」
 ミサトに割り当てられた部屋も、空きがないという理由で、一般兵士用の四人部屋にレイと一緒にサニー
と同室になってしまったアスカが、胸中の複雑な思いを隠しもせず顔に出しながら訊いた。
「当然ですわ♪ 裸の触れ合い、乙女同士のガールズトーク♪ お泊まり会の定番ではありませんか?」
 いつ、お泊まり会になったのよ、とツッコミたいのをこらえるアスカ。今日は色々ありすぎて、精神強度
に限界が来ているのを、アスカは感じていた。
「……乙女、フフッ、それはどうかしら?」
 横を歩くレイが、さも意味ありげに笑い、サニーを見る。
「え、もしかして、レイ様は、その……?」
 レイの言葉に何を想像したのか、キャーと顔を赤らめるサニー。
「内緒……」
「これは、大作様との未来の為に、是が非でもお話を……」
 そんなアスカを尻目に、意気投合しているレイとサニーは、かしましかしまし、大浴場に向かう。そんな
二人を見て、アスカは天を仰いで嘆息する。
「……シンジ、アンタを助けにいくの、前途多難っぽいわ」


「……ん?」
 神代が淹れてくれたお茶をすすっていたシンジが、何かに気づいたように辺りを見回す。
「どう、されました?」
 今まで、会話という会話もせず、ドアの傍で控えていた神代が、白基調の学生服に着替え、ベッドに座る
シンジに声を掛けた。
「いや…… 呼ばれたような気がしたんですけど…… 気のせいですね」
 そう言って笑ったシンジを見た神代、わずかに後ずさるほど、その笑顔に気圧されてしまった。顔が我知
らず、赤くなってしまう。質実剛健清廉高潔を旨とする斯衛軍人の範たる神代、そのせいで異性にまったく
といっていいほど免疫がなかったりした。
 神代は今、この少年に話しかけられたら、どうしたら良いのだ、やはり部屋の外で控えているべきではな
かったのか、早く巴でも戎でもいいから交代に来てくれ、等々、グルグルと頭の中で思考が回っている状態
になってしまっていた。
 コンコン、と救いのノックがドアから。
「どうぞ!」
 シンジの返事を待たず、神代が勝手にドアを開くと、わずかに息を弾ませた真那が立っていた。
「碇様、よろしいですか?」
 と、部屋に入り、シンジに軽く一礼する真那。席を外していた真那が再び入室してきた理由は、これしか
ないだろうと察したシンジが訊いた。
「将軍様と博士が、到着したんですか?」
 ずいぶん、早いですね? と、真那の要件を察したシンジがそう言うと、
「はい、その通りです」
 と、シンジの聡明さに、パァっと花開くように、頬を赤らめる真那が居た。やっぱり、中尉、なんかヘン
だ、と神代は再確認する。
「一時間後に、シンジ様との会談を始めたいとのことです。シンジ様はよろしいですか?」
 悠陽は、自身たちの準備ができ次第すぐに、と望んだのだが、夕呼が武からシンジたちの情報を仕入れる
時間を希望したのと、両者の到着が、予定より二時間早かったことにより、加賀の厨房から、まだ料理がで
きていないという泣きが入った為だった。
「僕は構いませんけど…… そうか、一時間か……」
 了承した後、シンジは少し考えるように視線を巡らせる。
「お願いがあるのですが、いいですか?」
 シンジが真那を見て、そう言うと、
「はい、何なりとお申し付けください!」
 と快活に迷いなく返事する真那がいた。この調子なら、シンジが『加賀を占拠したいので、手伝ってくだ
さい』と言っても、二つ返事で了承するのではないかと、神代は上機嫌の上官を見て思ったりした。


「で、どうなのよ? アンタから見て、イカリシンジは?」
 夕呼の控え室にと用意された客室に入室後、時間がもったいないという理由から、夕呼と霞は武に目隠し
をして、ベッドに座らせて、自身たちは着替えながら事情聴取を開始した。
「どう、とは?」
 質問が抽象的なのと、衣擦れの音が聞こえるのが落ち着かない武は、戸惑いを声に載せ、逆に訊く。
「容姿とか、性格とか、アンタが思いついたこと、全部よ」
 全部、と言われると、今度はどこから話せばいいか考えてしまう武。とりあえず、身体的なところから話
始めた。
「身長も全体の体つきも、俺の一回り下って感じで、顔は……」
「アンタよりいいでしょ。まりもの報告で『中性的で整った』って言ってたし。あの堅物が男をそんな風に
褒めるのって、滅多にないのよ」
 武の報告に口を挟む夕呼。根っから黙っていられない性分なのだろう、霞と足して二で割って三分の一に
薄めれば、ちょうどいいのではと武は思ってしまった。
 はい続き、と自分で止めておいて、続きを急かす夕呼。武は軽い溜息をついて、再び口を開く。
「華奢に見えるけど、只者ではないのは確かです。某かの、高度な体術の訓練を受けていると思います」
 その武の報告に、ふ~~んと相槌をうつ夕呼。
「じっさい、アンタの目から見てどのくらい? うちの連中基準でお願い」
 うちの連中、とはA―01の衛士たちの事だろう。合同で格闘訓練した時のメンツを思い出し、その時の
各々の実力と、武が予測したシンジの実力を照らし合わせてみる。
「一対一なら、シンジの方が、上、かな……」
 実際、シンジが戦うところを見た訳ではないので、確証は持てないとの注釈つきで、武が応える。武が、
シンジを見て、一番感心させられるのは、彼の姿勢、体幹の整い方と、挙措が綺麗なことだ。それは、武が
師事する武人たちにも通じるところがある。見立ては、ほぼ間違いないだろうというのが武の読みだ。
「二対一なら、ウチの連中ってコト?」
「……多分」
 シンジが逃げ回る、というなら話が違うだろうが、手合わせなら二対一でA―01の衛士たちが遅れをと
るとは思えなかった。
「じゃあ、次。イカリシンジの中身はどう。これもアンタなりでいいから。ちなみに、今、アタシと社、裸
だから」
 夕呼の関係ないアピールに、ずっこける武。見てもいないのに、思いのツボで顔を赤らめてしまった武。
「何、想像した?」
「えっと、ですね! シンジのことですよね!」
 夕呼のからかいを、大声で断絶し、武は続ける。
「俺から見て、シンジは、見た目とちがって、豪胆っていう感じですね。自分の世界で、色々な修羅場くぐ
ったせいか、肝が座っているみたいで」
 シンジの経てきた経験を、『色々』の一言で片付けていいか考えるところだが……
「ま、一人でこんなトコロ乗り込んでくるくらいだし……」
「あと、ですね」
 夕呼の言葉を遮り、武は言う。
「シンジは信頼できるヤツです。これは、俺が保証します」
 これだけはしっかり伝えておきたかった。シンジが、この艦に来てくれたのは、武と純夏を信頼した、そ
の一事につきる。だから、武もシンジの信頼に、出来うる限り応えたかった。それが、この言葉だ。
「そ、信頼、ね。ちなみに今、勝負下着を付けているトコ。目隠し外したら、銃殺よ」
「……銃殺、です」
 なぜか、今まで沈黙を続けていた霞まで、乗っかって物騒なことを言う。自分は意外と信用されてないの
か、と武はリアルにショックを感じてしまった。
「そうそう、アンタ、エジプトと一本角、じっさいに見たのよね。イカリシンジは、一本角のパイロットだ
っけ?」
「あ、はい。エヴァンゲリオン、と言うらしいです」
 武は我を取り戻して、答えた。
「エヴァンゲリオン…… アダムとイヴの創世神話あたりからとった名前かしらねぇ。ちなみに、下着、ア
タシは赤で、社は白よ」
「だからぁ、なんでイチイチ、そんな説明するんです!?」
「アンタをからかっているだけ」
 武が噛み付くと、あっさりと返され、言葉を失う。やはり、夕呼は人として大事な何かを、どっかに置い
てきている、と武は改めて再認識させられた。
「しかし、全長、五十メートル前後の人型兵器、ね。どんな世界状況なら、あんなの、開発しようとするの
かしら? 白銀、アンタ、想像できる? あの一本角、最大で重光線級九体、光線級四十九体のレーザー照
射を防いだのよ?」
「え……?」
 夕呼の説明に、絶句する武。いま、夕呼が言ったBETAの攻撃を、どうやれば防げるのか、想像ができな
い。
「なんだか、赤いバリヤーみたいのを多重展開してたけど、ホント、どう言う仕組みなのかしら。頭来るけ
ど、想像もつかないわ」
 続いた夕呼の言葉に、自然に武の脳裏には、間近で見たエヴァの姿が浮かぶ。大作のジャイアント・ロボ
とは違い、生物的なフォルムを見せるあの巨人には、武は自分でも説明できない潜在的な恐怖を感じていた。
「ま、それはイカリシンジ本人に聞けばいいかしら。さて、ストッキングも履いたし、残念ね。もう、ブラ
ウス着てしまうわよ」
「残念ではないです。早く着てください」
「なによ、つまんないわね。じゃあ、もう一体のエジプトの方はどんな感じだった?」
 夕呼のからかいをツッコミでかわし、武はジャイアント=ロボに思考を移す。あのエジプト神像を模した
巨大ロボットに睨まれたのも、ある意味、恐怖体験だ。
「エヴァに比べれば、機械的で、大きさは海神をふた周りくらい大きくした感じでした。重量感が半端じゃ
なかったです」
 それと、大作のパーソナルデータでロックされていて、彼でしか動かせないとも付け加える。
「戦艦を小さくしたみたいな迫力がある機体でしたね」
 武の言葉が終わると、夕呼は少し考えるように「ふ~ん……」と相槌をうつ。それから、おもむろにタケ
ルに訊いた。
「で、これもアンタの見立てでいいから教えて。その二体を相手にして、あたしら、勝てると思う?」


 夕呼が武からアレコレ情報を仕入れている時、悠陽も純夏からシンジについて、色々と聞いていた。
「……シンジくんは、『いい人』です♪ あたしと武ちゃんが、太鼓判押しちゃいます!」
 先ほど、真那の前で披露した自説を、悠陽の前でも言っている純夏であった。
「そうですか、鑑がそう言うのでしたら、碇シンジという御仁は、きっと好ましいお人柄なのでしょうね」
 真耶に髪を梳いてもらいながら、純夏の得意げな自説を微笑ましく聞いていた。
 悠陽の下にも、まりもが夕呼に送った第一報と同じ精度の情報が届いている。異世界から来た、という突
拍子もないシンジの出自には、驚かされたが、光神の関係者である可能性が高い彼らなら、それもあるかと
納得している。
 これから、礼を言おうとしている人物が、人柄的に好ましい人物であるのは、悠陽にとっても嬉しく思え
た。彼女の中に、光神の関係者は好人物であってほしいという幻想のようなモノがあったのだろう。
「それとですね。シンジくん、リョウマ様の知り合いだそうです。何でも……」
「……え、か、鑑」
 続いた純夏の報告に、悠陽は驚愕に、思わず言葉を挟んだ。
「こ、光神様を知っている、のですか、その碇という御仁は?」
 神様を知っている、と言われ、悠陽は混乱を言葉にだす。純夏と武を助けた巨人の名が『リョウマ』だと
ういうのは、ごく僅かな者しか知らない事実。
 佐渡島で光神現象を起こした機体がいたのだから、光神に属する者たちであるとは思っていた。だが、悠
陽が三年近く追い求めていた光神の事を、あっさり『知り合い』と言われた悠陽の戸惑いは大きい。
「えぇ、説明難しいんですけど……」
 ゲッターロボとか、自分たちもリョウマに助けられて、この世界に来たとか、シンジと大作の話を思い出
し思い出し、訥々と語る純夏。聞いている悠陽と真耶は、神格化していた光神が、シンジ達の世界の兵器で
あったことに、そしてリョウマが、人であったこと、ただ驚くばかりだ。
「……私は、考えを改めなければなりませんね」
 高鳴る鼓動を抑えるように、胸に手を当て、悠陽は呟いた。
「光神様、と私たちが呼んでいた存在は、天界から降臨された神属などという不確かなモノではなく、血肉
を持った、人であったのですね」
 夕呼と違い、悠陽は、光神に神秘性を求めていたところがあった。夕呼は徹底して現実路線から、光神を
見ていたのを思うと、改めて、夕呼の明晰な頭脳に感心させられる。
「はい、リョウマ様、『流 竜馬』さんが、本当のお名前らしいのですけど、シンジくん曰く、本当に便り
になる人らしいです」
 そこで、純夏は、自身も感動したシンジと竜馬とのエピソードを語り始めた。


「あの二体と…… なん……」
 夕呼の問いは、シンジが武達に見せてくれた信頼を疑っているとしか思えなかった武、声を荒げ、夕呼に
反発しようとしたのだが……
「別に、連中のことをどうこう思っているわけじゃないわよ。あたしの思考ロジック、いい加減理解しなさ
い」
 と、夕呼に窘められ、そうだ、と思い直す武。夕呼は、何があろうと、常に最悪を想定して物事を進めて
いく。この質問も、そのロジックに従ったモノで、特に他意はないのだろう。
 コホンと咳払いをして気持ちを落ち着け、夕呼に言われたことを考えてみる。シンジのエヴァは、想像も
出来ない防禦手段を持っていて、大作のジャイアント=ロボは大和級の主砲の一斉射でもしない限り、傷一
つ付きそうもない迫力があった。
 実際に戦闘をしているところは見ていないのだが、シンジの語った宇宙怪獣との一大決戦を参考に、勝手
に想像してみると……
「……日本帝国総軍を持ってしても、何とかなるかどうか、ですね」
 あの二体をどうにかするには、地図を変える覚悟での戦艦による一斉射撃とか、帝国中のS―11をあり
ったけ叩き込むとか、戦略核を数発叩き込むとかしか、武には浮かばない。
 武の、大仰とも言える評を聞いた夕呼の反応は、
「……そう」
 と短いものだった。と言うことは、夕呼も自分と似たりよったりの予想をしているのでは、と武は考える。
「はい、目隠しとっていいわよ。さて、どうしましょうかねぇ~~♪」
 夕呼に言われ、目隠しを外すと、いつも通りの白衣に国連軍の軍服を纏った夕呼と、オルタネィティヴ4
の特注軍服にウサ耳を揺らす霞の姿があった。思えば、先ほどの二人の強化装備姿は、レアだったなぁと武
は思い、青春の1ページとして心に刻んでおくことにした。
「で、ここからが大事なんだけど……」
 こちらを見つめる霞のジト目を、気のせい気にしないと受け流し、夕呼の言葉の続きを待つ武。夕呼の訊
きたい事は大体予想がつく。
「佐渡島で、光神現象を引き起こした第三の機体について、ですか?」
「ご明察、やるじゃない白銀」
 佐渡島へ現れた機体は三体、それは衛星画像からも確認されている。だが、武たちが今、確認できている
のはエヴァンゲリオンとジャイアント=ロボのみ。夕呼が烏賊頭、と名づけた最後の機体の所在は今持って
定かではない。
「その件については、シンジたちは何も言っていません。でも……」
「隠している、とは思えない。あえて、喋っていないだけってトコ?」
 武が続けようとした言葉を、夕呼が代わりに言った。驚きを顔にだす武をからかうように夕呼が言う。
「リスクを避ける為に、2:1に分かれたんでしょ。抜け目ないのよ、連中」
 もし二人に何かあったとしても、もう一人残っていれば、対応ができる。それを、この世界に来てすぐに
選択できるのは、たしかに抜け目ないと武も同意する。
「あの烏賊頭が、光神関係なのは、観測結果から見て間違いないのよ。一番会いたいヤツがいないのは、ち
ょっと不満よねぇ」
 夕呼はベッドに腰を下ろし、持ち込んだトランクに入っていたノートPCを広げる。起動してすぐに映し
出されたのは、消息不明の烏賊頭が、エヴァをぶら下げたロボと共に、能登半島上空を飛行していく姿。衛
星画像の他に地上から撮影された映像の中で、一番鮮明だったものだ。武が、モニターを覗き込むと、
「この烏賊頭、ハイヴから光って出てきた時、全然別の形だったのよ」
 夕呼が、そう言って、スライドパットを操作する。新たにでてきた映像は、赤い何かが、光の中から飛び
出していく姿。烏賊頭とは、色も形もたしかに違う。
「これ、ハイヴが光神現象で崩壊した直後の映像、この後……」
 その赤いのが、何か光学兵器のようなモノを数度発射して、周りにいたBETAをかなりの数、なぎ払って
いる。そして、生き残っていた光線級数体が、レーザーを発射した時だった。
「!?」
 赤い何かが三つに分かれた。的が分割したことで、光線級のレーザーは虚しく空を裂いただけだ。そして、
その三つの何か―戦闘機のように見えるが形が独創的すぎる―は、再び一つに集合して、
「烏賊頭の出来上がり、ってね。で、この後、残像だして陸上移動物体の世界記録ぶっちぎって、佐渡島か
ら逃げ出したのよねぇ」
 動画が終わった。ちなみに、この烏賊頭、最高マッハ1.3で走り抜けたのよ、佐渡島。と呆れた口調で
付け加える夕呼。そりゃ、残像もでるだろうと、武も呆れてしまう。
「しかし、赤いのが、どうやって烏賊頭になったんでしょうね?」
 武はその変身システムが想像もつかず、一緒にモニターを覗き込んでいた霞と顔を見合わせる。霞も、見
当つかないのか、首をかしげて、疑問を呈していた。
「ちょっと、近いわよ、二人とも。まぁ、推論はいくつかあるけど、考えれば考えるほど馬鹿らしい答えに
なりそうだから、考えるのを辞めたわ」
 肩ごしに覗き込んでいた二人をたしなめ、パタンとノートPCを閉じる夕呼。夕呼に答えが出ないモノを
自分が考えても出るわけないと武も考えるのをやめる。後でシンジにでも訊けばいいのだ。
「白銀、悠陽殿下が今回の話し合いでドコまで持っていくつもりか、聞いてる?」
 喉乾いたから、お茶でも淹れてと催促した後、部屋に備え付けのティーセットでお茶を淹れる武に、夕呼
が訊いてきた。訊いた本人は、髪を霞に梳かせて、身だしなみの最終調整に入っている。
「一刻も早くお礼を言いたい、は殿下の本心だと思いますよ。その先については、聞かされていません」
 夕呼が『政治モード』に入ったのを武は感じた。こうなった彼女は、一寸の油断もできないキレ者になる。
武は言葉に気をつけながら、事実のみを告げる。
「ふぅ~~ん、白銀と鑑を送ったくらいだから、やる気十分なのはわかるけど、どこまで持っていくつもり
なのかしらね、殿下は」
 武の方をみず、壁を見つめながら夕呼は呟くように言う。ここで余計なことを訊くのは危険だとわかって
いた武だが、好奇心に負けて口を開いた。
「あの、博士は、ドコまで持っていくつもりなんです?」
 武は、湯呑を渡しながら訊いた。返答はだいたい予想がつく。お茶を受け取った夕呼は、ゆっくりと武に
顔を向けた。その顔には笑顔が浮かんでいる。武は、その笑顔に潜む静かな迫力に、冷や汗が流れるのを感
じた。
「決まってるじゃない。連中丸ごと、取り込むのよ」


「……そうなのですか。リョウマ様とは、そのようにご立派な御仁なのですか」
 純夏の話を聞き終えた悠陽は感無量、と言った風に目を閉じる。シンジを助けると言った約束を、自身が
窮地に陥っている状況でも果たした、リョウマとはそんな人物だと悠陽は思ったようだ。
「鑑、月詠……」
 再び目を開いた悠陽の瞳には、強い決意の光があった。
「私は、信じてきました。鑑が受けた光神様の予言を……」
 悠陽が言う、予言。『待っていろ、救いは来る』というシンプルな言葉。
「それが叶う日が来た、私にはそう思えてなりません。ですから……」
 悠陽の言下に漂う迫力に、純夏は悠陽が『熱血モード』に入ったことを悟った。こうなった彼女はテコで
も主張を曲げない頑固者になってしまう。今日も、このモードになり島に行くと言った彼女を諌めるのに、
どれだけ苦労したことか…… 先行きの不安に純夏は溜息が出そうになるのを、必死にこらえた。
「私は、お願いしてみるつもりです。日ノ本だけでなく、世界からBETAを駆逐する為、私たちと共に、戦
っていただきたいと!」
 そう高らかに宣する悠陽。真耶が、ご立派ですと追従の拍手なんぞしている。それを見ていた純夏は、
『そんなお願いしなくても、シンジくん、既にやる気ですよ』と言いたいのを、グッとこらえるのであった。


「え、御剣さん?」
 真那に持ってきてもらった、現政威大将軍煌武院悠陽が、十四歳で即位した時の様子が載った新聞の縮刷
版を見たシンジは、デカデカと一面殆どを飾っている写真を見て、驚きの声を挙げた。
 シンジが真那に頼んだのは、これから会う二人のことを、失礼にならない程度に教えてほしい、というこ
とだった。この世界この日本の住人ではないシンジにはまったく実感できないが、これから会う人物のうち
の一人は、この日本を代表する人物であるとのこと、さすがに二人を目の前にした時、どちらがその人物か
わかるくらいの予備知識は持っていたい、そう思ったシンジが真那にそのことを頼んだら、彼女はこの艦の
図書室に直行し、この縮刷版を持ってきたのだ。
 そして、煌武院悠陽十四歳即位の姿を見たシンジが、その容姿がさきほど島で会った御剣冥夜に、似すぎ
ていることに驚いた、という訳だ。
「シンジ様は、冥夜様をご存知なのですか?」
 驚きの声を挙げたのは真那も同じ。ちなみに彼女、今はシンジと共にベッドに腰をかけて、密かな密着状
態に至福を味わっていたところだった。
「えっと、この世界に来て、最初に接触したのが、新潟基地の訓練兵の皆さんと、その教官さんだったんで
すが……」
 シンジの、ハテナマークを浮かべまくった困惑の表情に、再びトキメキながらも、真那はあるセリフが気
になった。
「この、世界、ですか?」
 その言い方だと、シンジはこの世界の住人ではない、という事になってしまう。この国、の言い間違いか
とも思ったが、困ったような笑顔になったシンジを見ると、今のであっているようだ。
「聞いてなかった、ってことは言っちゃダメだったのかな。まぁ、内緒ですよ」
 と人差し指を口の前に立てるシンジに、目眩を覚えそうなほどのトキメキを感じながら、コクコクと頷く
真那。先ほどまで控えていた神代がこの場にいたら、上司の変貌に、困惑を超え混迷を覚えたことだろう。
「……では、碇様は、その異世界から来られた方なのです、か?」
「はい。まぁ、世迷言だと思って聞いておいてください」
 詳しい説明ははぐらかされてしまったが、それは事実なのだろう、と真那は直感でそう感じていた。それ
なら、シンジについての説明を純夏に求めた際の、彼女のあやふやな反応も納得できる。
「あ、それで、なんで御剣さんが、ここに写っているのか、よければ教えていただきたいんですけど?」
 まさか、冥夜と面識があるとは思ってもいなかった真那。彼女が仕えるべきもう一人の主君である冥夜と
悠陽の関係は、城内省の中でも秘中の秘、と言ってもいいことがらなのだが……
「ここだけのお話、ということにしていただけますか?」
 と真那も口の前に人差し指を立て、シンジに言う。シンジが頷くの待って、極秘事実をあっさり漏洩して
いた。
「碇様とこれからお会いになる、悠陽様は、御剣冥夜様の双子の姉君であられます」
 真那が緊張に震える声を抑えて話した事実を、シンジは、そうですかとあっさり受け入れる。
「双子…… 似ているのも当たり前ですね。名字が違うのは、何か複雑な事情があるんですね、わかりまし
た」
 それ以上は訊かない、とシンジは暗に真那に示したのだろう。この国の民にとっては衝撃の事実を聞かさ
れも、シンジにとっては事実以上の何者でもないのだろう。心に動揺は見られない。
 秘中の秘を打ち明けても、あっさり受け入れてくれ、しかも必要以上のことを聞こうとしないシンジの心
根に、真那は頭がクラクラするほど、トキメキを覚えていた。失神するのも近いかもしれない。
 トントン、とドアがノックされる音がし、「よろしいですか?」という神代の声。
「あ、どうぞ」
 とシンジが応えると、ドアが開き、かしこまった神代が敬礼をして告げる。
「貴賓室の準備が整ったとのことです。殿下、香月副司令もそちらに向かわれました」
 時計を見ると、四十分経っていない。準備が思ったより早くできたので、予定を早めたのだろう。
「碇様はよろしいですか?」
 ベッドから立ち上がり、真那が訊くと、シンジは気負い無く、
「はい、大丈夫ですよ」
 と答えて立ち上がった。
「おかしなところ、ありませんよね?」
 自分の服装を確認しながら、そう真那に尋ねるシンジ。真那の目から見たシンジは、白基調の学生服が神
懸って似合って見えた。自分のチョイスは間違いなかった、と確信を持ちながら答えた。
「とても、凛々しゅうございますよ、碇様」
 声に喜色が載るのを隠せない真那が、そう太鼓判を押す。
「では、行きましょうか」
「はい」
 神代を先導に、シンジ、真那と続いて部屋を出て、会談の場である貴賓室に向かう三名。
 日本帝国政威大将軍、オルタネィティヴ第四計画最高責任者、そして異世界からの来訪者、三者の会談が
今、始まる。


 【ちょいと、後書き】 上の『今、始まる』を書くとき、素で『今、ようやく始まる』と書いてしまいました……  ホント、ようやくだねぇ……




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十四話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:d3db976e
Date: 2014/04/12 00:53
 加賀だけではなく、日本帝国海軍が誇る大戦艦には、いつでも国賓クラスのVIPを迎えられるだけの設備
が整っている。
 艦中央の最も安全な場所に設置されたその部屋の内装は、華美とは程遠いながら、礼を失しない程度に西
洋式に飾られていた。
「イマイチ、殺風景な部屋ねぇ」
 改が付くとは言え、同じ大和級の大和や武蔵、それに本来の御座船も兼ねている紀伊の貴賓室を知ってい
る夕呼は、そんな不満を口に載せながら、霞を引き連れ部屋に入って来た。
 部屋の中央に白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが一つ、椅子が入口側を除く三方に、四脚用意され
ている。入って右手に並べられた席に、霞と並んで着席する夕呼と霞。本来なら、案内他を担当する給仕役
の兵がいるのだが、今回はそれすら断っている。
 この会談、会食に同席するのは、悠陽側からは悠陽、真耶、それに武に純夏。夕呼側は夕呼と霞だけとな
っている。非公式とは言え、政威大将軍が臨席する場で、ここまで少人数態勢は異例中の異例と言える。
 それだけ、殿下もあの連中に興味津々ってわけよね……
 悠陽とは協力関係にあり、それなりに信頼を築けていると夕呼は思う。だが、彼女と夕呼の間では、決定
的に違う点があった。
 悠陽は、光神現象の解明追求にこそ、人類の救済があると信じていて、夕呼は自身が最高責任者である『オ
ルタネィティヴ第四計画』の完遂こそ、人類勝利の道があると思っている。
 夕呼が悠陽に力を貸しているのは、未知の現象への好奇心と、それを解明することによって自身の手札を
増やすこと、それと悠陽の迫力に気圧されたからだ。
 今、ここにどう言う天の配剤か、光神現象の当事者が、異世界からやって来た。しかも、光神現象とは無
関係の巨大兵器を持参で。
 これは、光神現象と抱き合わせで、オルタネィティヴ第五計画と何とか拮抗している状態の今を、打破す
るに十二分すぎる材料だ。
 魔女、女狐と呼ばれる自分の交渉能力、今日は全開で使う気でいる夕呼だった。

 夕呼に遅れること五分、ドアが開き、簡素であるが上品な洋装に身を包んだ悠陽が、斯衛の軍装に着替え
た真耶を引き連れ、入室してきた。
 立ち上がり、一礼をして悠陽の入室を迎える夕呼と霞。夕呼も軽く礼を返し、彼女に用意された入口正面
の上座に向かう。本来なら、入室順も彼女が最後であるべきなのだが、今回、悠陽は礼を尽くす立場にある
と言い、シンジの入室を迎える為、先に入って来たのだ。上座も譲ると最初は言っていたのだが、それは国
事代行者として許されることではない、と諫められていた。
「八時間ぶり、ですわね殿下」
「そうですね」
 互いに軽口のような挨拶をして。悠陽は真耶に引かれた椅子に腰を下ろす。
「殿下、ぶしつけですが、よろしいですか?」
 夕呼がさっそく、切り込んでいく。
「はい、なんでしょうか、副司令?」
「今回の、異世界人との交渉、殿下は何をお望みで?」
 前フリも何もなく、直球で夕呼が悠陽に訊いた。僅かに、悠陽の形の良い眉が動いた。
「何を、とは?」
「ぶっちゃけて言いますと、連中の扱いについてです」
 悠陽は、これが魔女とも言われる夕呼の政治家としての顔か、と初めて見る彼女の一面に警戒を覚えなが
らも、表情を変えることなく、
「帝国を代表して、謝意を伝えたい、それが第一です」
 悠陽にも思惑はある。だが、シンジ達に感謝の気持ちを伝えたい、これは悠陽がこの席を設けた理由の第
一であることに揺ぎはなかった。
「まぁ、帝国としては、あわや首都陥落かという事態を回避してくれたり、帝国全軍を以てしても成し得た
かどうかわからない悲願の佐渡島奪還を、勝手にやってくれたり…… 確かに、足向けて眠れないほどの恩
人ですわね」
 肘をつき、顎を手ののせ、揶揄するように言う夕呼。悠陽の背後に控える真耶が、礼を失する夕呼の態度
に口を挟もうとしたのを、悠陽は目配せで抑える。
「それと、彼らが望むのでしたら、日本帝国の庇護下に置かせていただければ、とも考えております」
「それも、妥当ですわね。早いトコ、連中の立場を確定させておかないと、色んなトコロからのやっかみ攻
勢が始まりますから」
 もう、始まっているのかもしれませんね、と意味深なことを付け加える夕呼。
 確かに、シンジ達の出現は、様々な波紋をこの短時間で世界中に広げている。衛星からの映像を提供して
いる米国が、情報の早期開示を半ば恫喝まじりに迫っている、という話が悠陽の下にも上がってきている。
 頭が痛いのは、親米派の国内勢力が、佐渡島でのシンジ達の軍事行動を主権侵害と言い、彼らの即時拘束
と武装解除を言い出していることだ。
 この世界の趨勢は、これから始まる会談に掛かっている、と悠陽は大袈裟ではなく、そう思っている。
「白銀、入ります!
「鑑、遅れました!」
 ドアが勢いよく開き、武と純夏が入ってきた。武は黒の、純夏は桃色の斯衛の軍服に着替えている。
「鑑、白銀、もう少し節度を持って行動しろ」
 真耶が眉間にシワをよせ、叱責する。それを受け恐縮する武と純夏の姿は、悠陽と夕呼の間にあった緊張
の糸を解す効果があったのようで、二人は顔を見合わせ、苦笑し合う。
「話は、白銀曰く『信頼できる』イカリシンジくんが、いらしてからですわね」
「そうですね。鑑曰く『太鼓判押しの良い人』の碇シンジ様がいらしてからです」
 二人で申し合わせたように言うのを聞いていた、武と純夏が、二人から立ち上る謎のオーラに気圧されな
がらも、控えめに手を挙げた。
「……そのシンジなんですが」
「ドアの外で待ってもらっているんで、入ってもらっていいですか?」
「「早く入ってもらいなさい!」」
 二人の見事にシンクロした声に、背筋を伸ばし、ドアを開く武と純夏。
 そして、待ち望んだ少年が姿を現した。


 時間を少し戻して。

「あれ、タケルくんとスミカさん?」
 三人連れ立って目的の部屋へと歩いていくと、反対からドタドタと早足で駆け寄る二人組があった。
「おぉ、シンジ…… って、なんだ、そのカッコ?」
「でも、なんか似合ってるね、ソレ」
 シンジを見つけ、声を掛ける二人。両者は、ちょうど貴賓室のドアの前で鉢合わせた。
「二人の軍服姿も、けっこうカッコイイよ」
 と、シンジに褒められ、満更でもないのか、照れを見せる二人。
「お前ら、ちょうど良かった」
 このまま立ち話でも始まりそうな雰囲気を察したのか、シンジの後ろに控えていた真那が割って入る。
「中に先に入って、碇様をご案内していいか聞いてきてくれ」
「あ、はい」
 そして二人は、勢いよくドアを開き貴賓室の中に入っていった。勢いがつきすぎて、真耶に窘められてい
る声が聞こえる。
「……では、私たちはここまでです」
 待っているわずかな間、真那はシンジに言葉を掛けた。
「……ご武運を、碇様」
 彼の傍を離れるのは名残惜しいが、自分がこの先に進める立場ではないことはわかっている。この先の案
内は純夏達に引き継がれ、自分たちの出番はないかもしれない。そう考えると、永の別れのような寂しさを、
真那は感じてしまっていた。
「……早く入ってもらいないさい!」
 ドア越しにも聞こえる大声の後、両開きのドアが開かれ、シンジは中に招かれる。
 シンジが中に入っていこうとする足を止め、真那と神代の方を向いた。何事、と首を傾げる二人にシンジ
は笑顔で言った。
「では、また後で」
 そのシンジの言葉に、先ほどの惜別の念など忘れ、瞬時に有頂天になってしまう真那だった。


「失礼します」
 軽く頭を下げて入って来た少年、碇シンジの姿を見た夕呼は、いきなり意表をつかれてしまった。
 ―なんで、うちの訓練兵の制服着ているのよ?―
 異世界人が着ているモノに目が奪われることはないと決め付けていた夕呼は、出鼻を挫かれた形になって
しまう。
 気を取り直し、改めて碇シンジの観察に入る夕呼。
 身長、体格等は武が申告した通り。顔つきも中性的で整っている、とまりもが称したのも分かる。周りに
も中々いない美男だということには夕呼も同意したい。だが、夕呼はシンジをザッと観察して、感じた第一
印象は、
『厄介なヤツ』
 だった。何が厄介かは分からない。だが、容易くこちらの意のまま操れるタマではないのは、ひと目で分
かってしまった。
―しかし、なんなのよ、コイツ……―
 そして、夕呼の感覚に一番引っかかっているのが、シンジの落ち着きようだ。コイツ、見た目だけ少年で、
中身五十歳とかじゃないの、ってくらい老成している気がする。
 どんな人生経験積めば、こんな落ち着いた雰囲気をこの歳で身につけられたのか、そっちの方が気にな
ってしまう。
「……で、あちらが、国連軍新潟基地副司令、香月夕呼博士と、助手の社霞だ」
 夕呼が思考を巡らせている間に、武による参加者紹介が始まっていた。夕呼は、立ち上がり、
「香月夕呼よ、よろしくね」
 と、素っ気ないともとれる挨拶ですます夕呼。すかさず、反応を見るが相手は、ごく自然な笑顔を浮かべ、
「碇シンジです」
 と短く答えた頭を下げる。やはり、感情のブレは見られない。
―これは、ホントに一番厄介なのが来たかもしれないわね……―
 純夏に先導され、用意された席に座るシンジを見ながら、夕呼は気持ちを引き締めるのだった。


 悠陽も、シンジが白学生服を着て現れたことに驚いてしまった。
 だが、夕呼と違い、観察しようとか考えてなかったおかげか、すぐに服だけでなく碇シンジという少年の
全体に視点を移し替えることができた。
 背は横に並ぶ武より少し低く、体格も一回り細い印象をうける。面差しは、中性的で猛々しさは感じられ
ない。だが、純夏が言っていたように、挙措に無駄がなく、ひ弱な印象はなかった。
「こちらが、日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
 武が彼らしい、ざっくばらんな紹介をシンジにしたのに合わせ、席を立ち、軽く頭を下げる悠陽。
「煌武院悠陽です」
 と、名のみを告げる挨拶に、シンジも軽く頭を下げ、
「碇シンジです」
 と返してきた。その彼の態度は、悠陽に新たな驚きを与えた。
 シンジは、自分と対等の位置にいる。少なくとも、彼自身は、悠陽の下にいるという意識は微塵もない。
それが、彼の自然な態度から察することができた。
 悠陽は、知らず人の上に立つことになれていた自分の考えを、慢心と戒める。
 自身と対等な相手として、シンジに向き合うことを自分に課す悠陽だった。


 武、純夏に導かれて、加賀の貴賓室に入室したシンジ。欲をいえば、親身になってくれた真那にも一緒に
入ってほしかったが、彼女にも立場があるのだろうと諦めることにする。
 シンジが入室して、まず感じたのが、部屋の中に漂う、ある種の緊張感だった。高位の身分の人が纏う独
特のオーラが、このような雰囲気を創りだす、とシンジは過去の経験上、察していた。
 部屋に入って、正面に一人、その後ろに一人。右側に二人。四人の女性が自分を見ている。ドアが純夏に
よって閉められ、武がまず正面に座る、御剣冥夜そっくりの少女を手で示して、紹介してくれた。
「こちらが、日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
 そんな紹介でいいの、とシンジが気になるほど、武がざっくばらんに悠陽を紹介してくれた。その言葉に
合わせ、悠陽が席を立ち、シンジに軽く頭を下げてきた。
「煌武院悠陽です」
 名のみを告げる挨拶。一連の流れをシンジは頭に纏めていく。この国の最高権威という悠陽が、席を立ち、
礼をしてきたということは、この場は略式であっても拝謁、という形ではない。儀式、でなく会談の形であ
ることが改めて確認できたら、自分のやる事は一つだ。
「碇シンジです」
 同じく、名のみを告げ、頭を下げるシンジ。自分は大作と自分の立場主張をしっかり告げるのみ。それに
は上でも下でもなく、対等を持って望む。
 そういう思いでシンジは悠陽を見つめる。自分を見つめ返す、悠陽の瞳の高貴な光の強さを、意識しなが
ら。
「で、後ろに控えるのが月詠真耶中尉。お前をさっきまで案内してくれた、真那中尉の従姉妹にあたる」
 武の言葉に合わせ、軽く頭を下げる真耶。同じ服を着ているし、真那に似ていると思っていたら、従姉妹
だったのかと、納得させられるシンジ。
「で、あちらが、国連軍新潟基地副司令、香月夕呼博士と助手の社霞だ」
 武に視点を右に導かれ、そこに座っていた妙齢の女性と、小柄な少女を紹介されたシンジ。女性の方が規
格外の人だというのは一見してわかってしまった。こちらを分析するように見ているあの目線、一筋縄で行
く人物ではなさそうだ。
「香月夕呼よ、よろしくね」
 軽く手を挙げただけの、素っ気ない挨拶。となりのウサ耳のヘアバンドをした小柄な少女が、
それに合わせ軽く頭を下げた。
「碇シンジです」
 先ほど、悠陽にしたのと同じ挨拶で返すシンジ。香月という女性、容姿端麗で上から目線っぽいところが
自分たちの保護者である葛城ミサトを彷彿させる。が、中身は彼女の親友だった赤木リツコ博士分が多分に
入っている気がする。
 あの二人を相手にすると思えばいいのか、と考えると、気が楽になるようであり、前途多難を感じるよう
でもある。色々複雑だ。
 隣にチョコンと座っている、助手の少女、社霞。髪や瞳の色から日本人ではないと勝手に思っていたのだ
が、日本名が出てきたのを意外に感じる。だが、彼女もこの場に臨席しているということは、某方の役割が
あるのだろう。もしかしたら、コンバトラーチームの北小介並の天才少女なのかもしれないと予想してみる。
 純夏に導かれ夕呼達と対面となる席に腰を下ろしたシンジ。武と純夏は、ドアの両サイドに、狛犬のよう
に控える形で立っている。
 さて、こう言う席では、どういう風に物事が進行していくのだろうか? 成り行きに任せていると、まず
悠陽が再び席を立ち、シンジに向き直った。
「さっそくですが、碇シンジ様」
 凛とした悠陽の声。また様がついたと内心呆れるシンジをよそに、悠陽は続ける。
「佐渡島ハイヴを破壊していただいたこと、帝国臣民を代表し、御身とそのご友人に、深く感謝致します」
 そこで言葉を切って、悠陽は深々と頭を下げる。
「本心より、お礼申し上げます。ありがとうございました」
 後ろの真耶が目を丸くしていることから察するに、悠陽がこのように振舞うのは珍しいを超えることなの
だろう。彼女の感謝の念に、打算などがないことがそれだけでわかる。
 シンジは、悠陽に会う為にこの場に来たことは間違いではなかった、と確信できた。彼女も、信頼できる人だと確信できたのだから。


 悠陽の一連の行動を、観察していた夕呼。赤心からでた真摯な悠陽の行動は、利を重んじる世界にいる夕
呼には、眩しく思える真摯さがあった。
「頭を上げていただけますか、悠陽様」
 シンジが、優しい声音で言う。シンジの言葉に従い、ゆっくり頭を上げる悠陽に、シンジは困ったような
笑顔で話しかける。
「僕も大作君も、実際あの場から逃げるのに必死で、意図的にやった行動じゃなかったんですよ。ですから、
そんなに感謝されると困ってしまう、というのが本音なんですが」
「逃げる、ってその場にいたら、やられていたとか?」
 そんなシンジの言葉を聞き、口を挟む機会と感じた、夕呼は言う。
「いや、キリがなさそうだったんで。知らない場所で戦闘行為を続けるのも、抵抗ありましたし」
 さらっと答えるシンジに、ケレンやハッタリの色はない。衛星からの記録映像から二万以上のBETAが彼らを強襲していたのだが、その攻撃を『キリがない』の一言で済ませるシンジの頭の中を覗いてみたい欲求
が、夕呼の脳裏を掠めた。
「それに、あのハイヴというのを、本格的に壊したのは、この場にいない大作君と、もう一人の仲間ですか
ら」
「もう一人…… 二人じゃないの?」
 アテが外れた思いがするが、ここは追求するところと、夕呼は続けた。
「ハヤト、とか言うの? それとも、ベンケイってヤツ?」
 今日、横浜で純夏が光神から授かった託宣には、四人の名前が出ていた。そのうち二人は確認できたので、
残り二人は、あの烏賊頭に乗っているのを期待していたのだが、一人だけのようだ。夕呼は僅かに驚きに揺
れたシンジの反応に満足しつつ、言葉を続ける。
「佐渡島では、へんな赤いのが烏賊頭になって、アンタ達と一緒にどっか飛んでいったけど、烏賊頭、ドコ
行ったの?」
 フフン、と話を自分主導に導けそうな気配を感じた夕呼。だがシンジに浮かんだ驚きは、
「赤いのが、ドラゴンで、烏賊頭がライガーですよね。それと、なんで隼人さんと、弁慶さんのこと知って
いるんですか? 僕、誰にも二人の名前を言った覚えがないんですけど?」
 素直な疑問になり、皆を見回すようにして訊いてきた。
「それに、弁慶さんも来てるんですか? 別口で跳ばされたのかなぁ」
 その口調は、本当に素朴に疑問を口にしているだけにしか見えない。拍子抜けした思いの夕呼。前に座る
シンジからは、交渉事に生まれる緊張感とかそう言った類のモノが一切感じられない。
「ベンケイ、って言うのは一緒じゃないのね?」
 カマを掛けるつもりで、訊いてみる夕呼。
「こっちに一緒には来ていないですね。まぁ、竜馬さんとも三年近くずれてますから、ずれたのかな?」
 と、これまたあっさり答えたあと、自分にもわからない疑問に首を傾げるシンジ。
 ……確信した。碇シンジは隠し事をする気が一切ない。その方が都合の良いはずなのに、夕呼はシンジの
態度に、ため息をつきたくなってしまった。。
「でも、なんで二人のことを?」
「あ、それはね……」
 と、改めてのシンジの疑問に、純夏が今日、横浜であったことを説明する。横浜でのことは、純夏と武に
絶対話すなと念押ししておいたのだが、しっかり守ってくれていたようだ。
 しかし、手札をさらさないようにとしておいた念押しも、純夏の説明に聞き入るシンジを見ていると、滑
稽に思えてしまう夕呼だった。

 夕呼と視点が違うが、悠陽もシンジを見ていて、自分でも説明できない、違和感のようなモノを感じてい
た。
 まず、気になるのが、シンジのこの落ち着きようだ。聞けば、彼は異世界からこの世界のこの日本に跳ば
されてきたとのこと。この一事だけでもパニックになってもいいと思うのだが、彼は心底落ち着いているよ
うに見える。
 夕呼が先ほどから何か仕掛けようとしたみたいだが、素直な対応を返して、彼女のペースに巻き込まれて
もいない。
「ゲッターは許さない、か。やっぱりゲッター線絡みみたいで、こっちに跳ばされたみたいだ……」
 純夏の説明に、一人納得しているシンジ。その彼を見て、悠陽はある事に気づいた。
「い、碇様は、ゲッターとは何か、わかるのですか?」
 知らず勢いこんで訊いてしまう悠陽。訊いてからはしたないと思い、顔を赤らめてしまう悠陽だが、そん
な彼女の様子を気にした風もなく、シンジはまた、あっさり教えてくれる。
「ゲッターって言うのは、ゲッター線で動くロボットの略称です。さっき香月博士が言っていた赤いのが、
ゲッタードラゴン、烏賊頭―って凄い例えですね―はゲッターライガーって言います」
 夕呼の例えに苦笑しながら、シンジが教えてくれた事実。あまりに淡々と語られた為、それが事実として
胸に染み入るまで、悠陽には間が必要だった。
 一瞬にして、人類の仇敵の巣を滅ぼした大いなる力。それが違う世界とはいえ、人の力によって造られた
ということの意味。悠陽は、朗らかに笑うシンジの笑顔の先にあるものを、考え始めていた。
「ドラゴン、ライガー、ねぇ。ところでアンタ、横浜で三年近く光っているモノのこと、聞いてる?」
「こちらの世界で、光神と呼ばれているんですよね、聞いています」
 問う夕呼の口調は、相手を卑下しているような砕けたモノになっている。だが、当のシンジに気にする様
子はないようだ。
「ひょっとして、アンタ、その光神のことも説明できるんじゃない?」
 !?
 揶揄するような響きの夕呼の問いは、悠陽にシンジを注目させる。
 問われたシンジは、初めて、答えを躊躇う素振りをみせる。やはり、人には言えない何か、秘密があるの
かとシンジの言葉を待っていると、
「その件も含めてなんですけど、先に悠陽様と香月博士に、こちらからお願いしたいことがあるんですが、
聞いていただけますか?」
 と、悠陽、夕呼双方に向けて、シンジは言う。
「……お願い?」
 妙な言葉を聞いた、と言う風に夕呼が片眉を上げる。悠陽も、シンジ側から、何か要求されることは想定
していたが、お願い、と彼から切り出されることに戸惑いを感じている。
「僕と大作君は、BETAと戦う意志があります」
 淡々と、だけど語られた短い言葉には、強い意思があった。そして、シンジの瞳には、それを強い光が宿
っている。その光に、悠陽は肌が粟立つのを感じる。
「その為に、力を貸してください。お願いします」
 頭を下げるシンジ。沈黙が貴賓室を包む。
 その沈黙を破ったのは、
「はぁ~~~……」
 と言う、夕呼の長い溜息だった。
「あのさ、訊いていい?」
 どことなく、投げやりな夕呼の言葉。シンジが頷くのを待って、夕呼は続けた。
「どうして、アンタ達はBETAと戦いたいの?」
 悠陽もその問いをシンジにしたかった。が、内なる興奮を抑えるのに必死で、言葉が出なかった。
「僕は、BETAという存在が許せません」
 短く言い切るシンジ。声音は先ほどと殆ど変わっていないのに、中にこもった感情が溢れている。この人
は怒っている、それが悠陽にも分かる。
「なんで? アンタはこう言ってはなんだけど、無関係でしょう?」
 夕呼がそのシンジの怒りに、水を差すように言う。反射的に、何かを言い返そうとしてしまった悠陽より
先に、シンジが答えた。
「例え僕の世界ではなくても、人を蹂躙する存在を、僕は許せないだけです」
「つまり、アンタのワガママってこと?」
 夕呼の言い草に、さらにカチンと来た悠陽だが、言われたシンジはその言葉に、楽しそうに笑って頷いた。
「ワガママ、そうですね。一番あっていると思います」
 人の為に戦うことを、彼はワガママと言われ、それを笑って受け入れている。
 その笑顔を見て、悠陽は思い出す。純夏は彼女に、シンジについて端的にこう言った。
『シンジくんは、いい人です』
 と。
純夏が押した太鼓判、その意味を自分は上辺でしか理解できていなかったと、悠陽は思い知る。
 この人、碇シンジは純粋に、この世界の為に戦いたいと申し出てくれている。
「そのワガママを聞けば、旅団規模以上の戦力が手に入るかも、だそうですわよ、殿下」
 夕呼が揶揄と諦観が混じりあったような、投げ遣りな口調で悠陽に話を振る。シンジの申し出は、普通な
ら話がうますぎて、かえって勘ぐってしまう提案だ。
 異世界からやって来た、という前提から怪しい人物が言うのだから、尚更、慎重に進めるべき話なのは、
理性では理解できた悠陽。
 だが、悠陽の感情は、すでに答えをだしていた。
「碇様」
 悠陽はシンジに再び向き直る。改めて自分を見つめるシンジの瞳の中の光の強さに向き合う。
 優しさだけではなく、それを支える強さを持つ光。この人はいったいどういう人生を送ってきただろうか、
そんな想いが悠陽に浮かぶ。
「貴方様の申し出、詳しくお聞かせください」
 悠陽に促され、シンジが具体的な話を短く説明していく。
「まず、今日、佐渡島で僕と大作君が無断で行ってしまった戦闘行為を容認してください」
 真っ先に、その事を持ち出してきたということは、シンジにはある程度、政治感覚が備わっていると見て
いいだろう。
「はい、わかりました」
「僕と大作君が、それと単独行動中の隼人さんの滞在許可を。あとは……」
 シンジの要求は、やはり自らの利を求めるモノではない。となると、彼があと、自分たちに要求すること
は予想できる。
「アンタ達のトンデモ兵器が戦える為の協力、それと滞在場所の提供と生活の援助、そんなトコかしら」
 黙っていられない性分なのか、シンジのセリフを横から取った夕呼。
「それに対する見返りが、アンタ達の参戦、でいいのかしら?」
 夕呼が並べたことは、シンジが言おうとしていたこととほぼ合致したようで、概ね、その通りですが、と
言った後、
「あと、こちらで光神現象と呼ばれている現象の、専門家を紹介できます。まぁ、ゲッター線絡みで僕たち、
この世界に来たようですから、その人も参戦してくれると、思うんですけどね」
 と、付け加える。これには、夕呼の目の色が変わった。
「何、ハヤトとかって言うの、ただのパイロットじゃないの?」
 身を乗り出さんばかりの夕呼。その迫力に、わずかに身をひいてシンジは答える。
「隼人さん―神 隼人って言うんですけど―、ゲッター線研究の第一人者なんですよ。横浜でのことも、興
味を持っていると思うんで」
 協力してくれると思いますよ、とシンジは言う。あの解明不能なのではないかと思っていた光神について
も、道が開けていくのを悠陽は感じていた。
 目を瞑りわずかな時間、今日この日に起きた様々な出来事を思い返す。そして、悠陽は純夏が受けた託宣
が真実であったことを確信した。
「碇様の申し出、日本帝国国事全権代行、煌武院悠陽の名に置いて、全て承りました」
 凛として言う悠陽。救いは来たのだ。なら自分は自分の為すべき事をするだけだ。その悠陽の覚悟とも言
える思いは、シンジだけでなく、その部屋にいた全ての人に伝わった。
「ありがとうございます、頼らせていただきます」
 即答とも言える間で、悠陽の想いに応えたシンジ。そんな彼を見て、夕呼はまた深い溜息をついて、こう
言った。
「わかったことがあるわ。碇シンジ、アンタ、馬鹿でしょ?」
 夕呼が悟ったように、シミジミとそう言った。言われたシンジは怒るでもなく、楽しげに笑って応える。
「よく言われます」
 あからさまな中傷と取られても仕方ない夕呼の言葉の裏に、言葉以外の意味があるのは悠陽だけでなく、
他の参加者にもわかったようだ。夕呼もシンジという人物を、ある程度、認めたのだろう。
「では、難しい話はここまでにして、食事に致しましょう。月詠、用意を」
「はい、畏まりました」
 悠陽の後ろで彫像のように控えていた真耶が、指示を受けて動き出した。


 この日、太平洋の片隅で行われた異世界人と日本帝国首脳の会談、それによって、BETAに蹂躙されてい
たこの世界の未来は、大きく変わることになっていくのだった。
 

 



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十五話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:55379863
Date: 2014/04/24 01:00

 新西暦の世界では。

「ところで、サニー?」
 基地内大浴場で、アスカは湯船に浸かりながら、レイと仲良く背中の流しあいっこをしているサニーに訊
く。
「はい、なんでございましょう?」
「ゴタゴタ騒ぎで聞きそびれたんだけど、シンジや大作たちの生存根拠って何? 早乙女博士は何か掴んで
いるみたいだけど、アンタも同じなの?」
 思い返せば、サニーは登場の時にすでに大作は生存している、という確信を持っていた。二世の契り、と
か赤い糸とか言っていた気がするが、そんな精神的なモノではなく、絶対的な確証をサニーは握っているア
スカは思っている。
「簡単なことですわ。大作様の記憶を、私が共有していると先ほどお話しましたわよね」
 コシコシとスポンジでレイを泡まみれにしているサニーが、あっさり答えてくれる。
「その記憶は、生きている大作様と繋がっているからこそ、共有できる仕組みなのです。ですから、私が知
らない、皆様のお活躍を思い出せる、ということは大作様の生存を示すことになるんですの」
 まさか、世界を超えて繋がるとは思いませんでしたわ、とサニー。どういう理屈で繋がっているのか、理
解できないが、サニーが言う事が正しければ、大作の生存は間違いないようだ。なら、傍にいたシンジも、
という期待が、高まってしまうアスカだった。
「早乙女博士は、ゲッター線関係で、何かに気づいたようですわね。佐渡島にソレがあるみたいですわよ」
「ゲッター線…… どうにも好きになれない……」
 泡ダルマ状態になったレイが、ポツリと呟く。人類を霊長へと導いた宇宙線、確かに胡散臭くあるとは思
うアスカだが、レイほどネガティブな思いはない。
「ホント、どうなるのかしらね、これから」
 楽しそうに身体の洗いっこをする二人を見ながら、アスカはどうやればシンジを助けにいけるのか、当て
もなく思い馳せるのだった。


 佐渡島、地球の命運を掛けた一戦の舞台となったこの島も、今は夜に包まれている。住民の避難は続いて
おり、無人のこの島は今朝方、一大決戦があったことが信じられない静けさに包まれていた。
「ツワモノどもの夢の跡、って感じかな?」
 山頂に立ち、エヴァンゲリオン初号機が大怪球を止めた際にできた跡を見ながら、司馬宙は呟いた。
『宙さん、季違いだし、そういう意味の俳句じゃなくてよ』
 笑いを含んだツッコミを入れてきたのは、宙のパートナーの卯月美和。彼女は、鋼鉄ジーグのサポートマ
シン、ビッグシューターに搭乗し、佐渡島上空を旋回飛行中だ。
「学がないモンでね。で、どうよ、ミッチー?」
『今のところ、佐渡島周囲に異常は検知できないわ。そっちはどうなの?』
「そっか…… こっちは、まぁ、日があるうちには、よく見えなかったんだけど……」
 と、宙は、自分が今見ているモノを、訝しげに眺めながら、言う。
「なんだ、こりゃ? って感じだな」
 宙が見ているのは、自身が見上げる数メートル上空にある、1メートルに満たない、謎の球体だった。透
明に近く殆ど透けている、実体があるのかないのかもよく分からない、気体の塊とも見えるモノ。
「これが、シンジやリョウ達の行った場所に繋がっているゲートみたいなモンなのかね?」
 この謎の球体がいつ出来たのかは、詳しくわかっていない。宙がここに来たのは、早乙女博士の意を受け
たミチルに頼まれたからだった。
 ミチル曰く、父の考えが正しければ、ジャイアント=ロボ及びエヴァンゲリオン、そして大怪球消失ポイ
ントには、何がしかの痕跡があるはずだと。それを調べてきてくれと頼まれたのだが、
「ホント、なんだこりゃ?」
 こんなに呆気なく観測できるとは思っていなかった宙は、拍子抜けする思いだ。
「お前の見立てはどうだ、ボルフォッグ?」
 宙の呼びかけに答え、何もない空間から浮かび上がる巨影が一つ。GGG所属の勇者ロボ、ボルフォッグ
だ。早乙女研究所で機能不全に陥ったボルフォッグだが、夕刻には緊急メンテナンスの甲斐あって回復し、
宙の調査に動向したのだった。
『この球体からは、多量のゲッター線の流失が確認されます。それによって、重力異常、空間異常が起きて
いるかと推察致します』
 球体は、ボルフォッグの目線の位置に浮いている。それで、だいたいの距離を目測している宙だが、ボル
フォッグの報告を聞いても、ソレがなんなのか、まったく想像つかない。
「しっかし、俺たち、浅間山ではイイトコなかったよなぁ」
 宙が思い出すのは、浅間山、早乙女研究所での出来事。真ゲッターの暴走に備える為とはいえ、大怪球相
手には何も出来ず、しかも真ゲッターが暴走した際にも、何も出来ずに意識を失ってしまった。自身の不甲
斐なさに、身を切る思いを宙は味わっていた。
『まったくです……』
 同じく、機能不全に陥ってしまったボルフォッグが言う。
 あの時のことを思い出すと、宙の記憶はバッタリ途切れてしまう。ゲッタードラゴンと廃棄ゲッターが戦
い始めたと思ったら、白い何かを知覚し、その次の瞬間、宙の意識は途切れていたからだ。鉄也も同じだと
言っていた。生身の鉄也はまだしも、サイボーグの宙や、勇者ロボのAIにさえ影響を与えたあの白い光は、
ゲッター線の産物なのだろうか。
 考えても答えがでないことに、宙は頭を巡らしていた。顔には出していないが、シンジやゲッターチーム
が行方知れずになったことに、自分でも思っている以上に、宙は責任を感じているのだろう。
「ま、とりあえず俺たちの当面の任務は、ここの確保ってところだな」
 球体に向けていた視線を下ろし、周囲を見回す宙。ここから消えた連中は、いったい今どこにいるのだろ
うかと、思いを馳せていると……
『宙さん、ボルフォッグ! エネルギー反応感知! 何かが空間転移してくるわ!』
 哨戒をしていた美和から、金切り声の報告が。
『これは、フォールド反応!? 何かがフォールドしてきます! 反応至近、注意してください!!』
 美和に続いて、ボルフォッグも異常を検知したようで、中空を見回しながら、宙に警戒を喚起させる。
「注意、って言われても、来たか!?」
 フォールドアウトの反応、バルキリーサイズの何かが視界の端に出現したのを宙は見つけ、そちらに顔を
向ける。
 赤い機体が、無理なフォールドアウトの影響からか、不安定にグラつきながら、こちらに向かって飛んで来ている。
 その赤い機体は、宙、ボルフォッグともに見覚えがある機体だった。
「あれって……」
『はい、熱気バサラ隊員が乗っていたVF―19改、ファイヤーバルキリーです』
 マクロス7船団は、先年、あっさり居住可能惑星【エデン】を見つけ、そこに入植を開始、バサラも遥か
彼方のその惑星に落ち着いていたはずだが……
 ガォーク状態だったファイヤーバルキリーは、無茶苦茶な急上昇、錐揉み飛行をし、ついに態勢を安定さ
せる。そして、佐渡島上空に、魂の叫びが響き渡った。
『てめえら、戦ってないで、俺の歌を聴けぇ!!』
 ……どうやら、エデンで大怪球争乱のことを知り、単機で地球までやってきたと思われる熱気バサラ。シ
ャウトの後、例のごとく歌を始めようとしたが、
『……なんだ、観客がいねぇじゃねぇか?』
 もうとっくに戦闘状態は終結していると知り、ふてくされ気味に歌うのをやめた。
そして宙たちがいる場所にファイヤーバルキリーがガウォーク形態で降下してきたのを見ると、宙たちが
いるのは分かっていたようだ。
「……半日、遅かったみたいだな」
『そのようですね』
 戦闘状態の軍事勢力を観客と呼ぶ、相変わらずなバサラを眺めながら、呆気にとられたように呟く宙とボ
ルフォッグだった。



 そして、シンジ達の跳ばされた世界では。

「シンジさん、今頃美味しいもの、食べているのかなぁ」
 不知火という、新手の戦術機四機を迎え、賑やかになった名も無き島。留守番役を自らに任じた草間大作
は、砂浜に設置されていく居住性の良さそうな大型テントを眺めながら、キャンプ用の簡易カマドを使って、
計十三人に増えた食い扶持のため、夕食用のご飯を炊いていた。
「戦艦で、殿下とご飯なら、きっといい物出ているよ。ボクも行きたかったなぁ」
 と隣で大作を手伝っている、鎧衣美琴が、彼女らしい呑気な感想を漏らす。彼女以外の訓練兵も手伝おう
とはしてくれたのだが、カマドでご飯を炊くスキルは無いようなので、遠慮してもらった。
 他の訓練兵は、教官である神宮寺まりもと共に、正規兵である不知火のパイロット―こちらでは衛士と言
うらしい―と共に、生活空間の拡充を手伝っている。
「しかし、いきなりだったよねぇ」
 プラスチック製の筒で、火を調節しながら、大作の思いを察するように言う美琴。美琴が言う、『いきな
り』とは、無論、不知火四機と、A―01デリング中隊の面々の来訪のことだ。
 事前、というか直前に不知火という戦術機が四機ほど、この島に向かっているとまりもに知らされ、説明
を聞く間もなく、その四機がジャイアント=ロボの哨戒範囲に接触、まりもが保証したので一応警戒しなが
らも、その四機が上陸するのを見守った大作。
 そして、先ほど武が着ていたのと微妙に意匠が違うパイロットスーツ―こちらでは強化装備と言うらしい
―を来た六人が、ワラワラと降りてきて、大作の前に整列して敬礼してきた。
 隊長代理という平慎二中尉が代表で挨拶、香月夕呼と言う今、自分側のシンジが会っている重要人物の命
令でここに来たと言った。
 目的は、大作たちがこの島である程度の期間滞在できるだけの設備の設置と、大作たちの護衛とのこと。
 断る理由も浮かばなかったので、承諾すると戦術機で持ち込んだ設備をせっせと設営し始めた彼ら、どう
も自分に対して一線を引いているのを大作は感じていた。
 そのことを美琴に漏らすと、彼女は笑って「仕方ないよ」と大作に言う。
「あのロボに睨まれたらね」
 と筒で差したのは、未だに不知火をガン見しているジャンアント=ロボの姿が。ロボのAIは、その主ほ
ど彼らを信用していないようだ。
「タケルさん達と違って、武装してきているから、ロボが警戒しているんですよ。あの銃口が動いた瞬間に、
ロボは問答無用でシラヌイを破壊しますね」
 と、大作は自分の持っている筒で、不知火四機を指した。四機のうち二機は資材運搬をメインにしたのか、
小銃タイプの武器を手に一丁持っているだけだが、他の二機は両手に小銃を装備し、背中に長刀タイプの近
接兵器を二刀ずつ装備している。人が乗っていないのは気配でわかる大作だが、遠隔操作できるかもしれな
い機体が武装して待機している状態では、ロボは警戒モードを解かないだろうと大作は言う。
 大作と話をしていて、美琴はジャイアント=ロボは大作による完全遠隔操作のロボットではなく、高度な
人工知能を搭載した、半自立型ロボットなのだと思い至る。
「何だか、ロボって心配性のお父さんみたいだね」
 何気なく言った美琴の言葉、彼女には深い考えがあって言った訳ではないだろうが、その言葉は深い意味
をもって大作の胸に染み込んでいく。
「そう、ですね」
 思い出すのは、父から託されたあの言葉。
『幸せは犠牲なしには得ることはできないのか、時代は、不幸なしに乗り越えることはできないのか』
 大作の中で、その答えはまだ出ていない。ずっと、ずっと探し続けている。
 いつか、自分が見つけた答えを、父の魂に示すために。
「……あの、いいですか?」
 不意に声を掛けられ、思いから覚める大作。見ると、あのライン際立つ強化装備とやらを着た、細身の少
女が傍に来て自分たちを覗き込んでいる。
「えっと、霧島少尉でしたっけ?」
 ザッとされた自己紹介で、この赤毛の少女が霧島愛(きりしま まな)ということは覚えていた大作、顔
が赤らむのを抑えながら訊くと、自分の十倍は緊張していると思われる愛が、
「テントの設営が終わりましたので、平隊長代理がお越し願いたいとのことです!」
 敬礼して言ってきた。ロボが威圧しているから、無理もない反応かと思いながら了解ですと返す大作。
「じゃあ、美琴さん、あとはよろしくお願いします」
「うん、任されるよ」
 こちらはフレンドリーに接してくれることをありがたく思いながら、大作は愛の先導で設営された三つの
大型テントに向かう。
 前を行く愛の緊張に苦笑しながら、平隊長代理と鳴海孝之中尉、そしてまりもの前に来た大作。二人の青
年も、愛ほどではないが、緊張の色は隠せない。その様子をまりもは楽しんでいるように大作には見えた。
「大作くん、君の事をザッとだけど二人に説明させてもらった。まぁ、ご覧のとおり、困惑中でな、君と話
をしたいとのことだ」
 君の事、と言うと異世界から本日来訪したことだろう。それは、聞かされた方が困る内容だと大作も思う。
「あ、あの、草間、大作君」
 明らかに探り探り、と言う風に慎二が話しかけてくる。まりもの言うとおり絶賛困惑中のようだ。
「その、神宮寺教官の言を疑うわけではないのだが…… 君が、異世界から来て、佐渡島ハイヴを破壊した
というのは本当なのだろうか?」
 慎二の声からは疑念が感じられないので、受け入れがたいだけだろうと大作は察する。
「はい、まぁ理解しがたいのは、わかりますけど……」
 と、大作は背後を指差す。
「アレが証拠だと思ってください」
 大作の言葉に、自然に彼の後ろに控える二体の巨像に目が行く二人。その存在感威圧感は、二人を圧倒す
る。
「ま、異世界云々はさておいて……」
 気を取り直すように、声を出した孝之。深々と、頭を下げて、
「ありがとう、ハイヴを破壊してくれて。感謝してもしきれない!」
 と礼を言ってきた。そんな孝之を見て、思い出したように慎二も、
「あぁ、まず礼が先だな、本当に、ありがとう」
 と孝之に習う。謝意を示されると、ありがたいと思う反面、こそばゆさも感じてしまう大作。先ほど、訓
練兵の少女たちにも感謝感激されたが、あの蟻塚の親玉みたいのを破壊したのはあくまで成り行きだったの
で、どうもそこまで感謝されることをしたという自覚が芽生えない。
「いえ、力に慣れて光栄です」
 無難な言葉で返す大作。差し出された二人の手を握り返すと、力強い感謝の念が伝わってきた。
「で、自分たちは、さっきも言ったように、君を警護する為にここに遣わされたのだが……」
 慎二と孝之の視線は、再び二体の巨人に移る。
「どうにも、俺たちが必要とは思えないなぁ」
 孝之が苦笑まじりに言う。その言葉につられるように苦笑した慎二が続ける。
「まぁ、俺たちは君と、香月副司令との調整役みたいなモノだと思って、ここに置かせてくれ。迷惑は掛け
ないようにするから」
 どうやら、今、自分側のシンジが会っている副司令は、幾つもの布石をうっているようだ。まりも達だけ
ではなく、護衛と称して武装した配下を送り込んできた意味は何だろうか。
 何か、政治的に厄介な事でも起こる気配でもあるのだろうか? この世界は統一政府が出来ていないそう
だし、自分たちの介入は十分、国際問題の火種になりえるだろう。それに対する示威行動だろうか。
 それとも、香月と言う人は、まだ自分たちを信用するとは決めておらず、何かあった時に、自分を拘束す
るために、この人達を送り込んだのかと邪推してみるが……
 そこまで考えては、さすがに失礼だろうと頭を切り替える。それに、言っては悪いが慎二や孝之に、自分
が拘束できるとは、大作には思えなかった。あの白銀武クラスが六人こられたら、本気で対策を考えなくて
はいけなかったが、彼レベルの身体能力を持っているは、こちらの世界でも希なのだろう。
「僕も、今は……」
 慎二の改めての申し出に了解を示そうとした時だった。
 腕時計のアラームが鳴る、これは、警戒音!
「ロボ、どうした!?」
 腕時計を開き、海に向け振り返る大作。その動作にロボも従い、海に向けてその巨体を翻した。
「大作くん、どうした!?」
 ロボが武の瑞鶴改の接近や、デリング中隊の不知火の接近を察知したことを知っているまりもは、三度、
この島に来訪する存在を、ロボが察知したと予想する。だが、前もっての夕呼からの連絡がないということ
は、この来訪は夕呼とは無関係なのだろうか。
 だとしたら、マズイことになるかもしれない、とまりもは考える
「海中から接近してくる物体が、三機。20ノットで接近中、これは?」
 そちらの関係者か? と大作は訊いているのだろう。
「私は聞いていない、中尉達は!?」
「自分たちも聞いていません! 草間君、不知火を起動させていいか?」
 状況が急変したのを、察した慎二と孝之。彼らが夕呼から託された任務は、草間大作と異世界のロボット
の絶対死守、それがどの勢力であってもと命じられている。
「構いません、水陸両用の機体まであるんですか!?」
 二十一世紀になったばかりだと言うのに、この高い技術力、大作はこの世界の人類の潜在能力に感心する
ばかりだ。
「ある! 多分、ここ来るのはA-6……」
 まりもの言葉を合図にしたように、三つの影が、海面から飛び出してきた。水柱が上がり、異形の機体が
姿を表す。
「イントルーダー、もしくは海神という機体だ!」



【ちょい、後書き】
 今更ですが、たくさんの感想ありがとうございます。皆さんが疑問に思われたことは、本編で
なるべく説明できたらと考えています。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十六話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:06a0bd21
Date: 2014/06/16 21:14
 平隊長代理から、緊急の搭乗命令が下ったのと、物凄い水柱が海面から立ち上がったのは、ほぼ同時だっ
た。霧島愛は、砂浜に足を取られながら、慌てて自分の不知火に向かっていると、背後に圧倒的な何かが目
覚めるのを感じて、足を止めて振り返ってしまう。
 そこには、凄まじい存在感を示していたあの神像のようなロボットが、ゆっくりと歩み出す姿があった。
「ジャイアント=ロボ……」
 先ほど、教えられた、その神像の名を呟く愛。その巨大な背の先には、姿を現した三機の戦術機の姿が見
えた。
「え……? 海神……?」
 水飛沫の中、姿を現した戦術機を見て、愛は信じられない思いで、その機体の名を呟く。UNブルーに塗
られたその人型とは言い難い異形の機体は、他の戦術機と見間違えるほうが難しい。
「……あ、もしかしたら、イントルーダー?」
 UNブルーに塗られた海神もあるが、同時にその同型機であるイントルーダーもUNブルーの機体が存在
するはず。
 だからどうだ、と言う話だが、愛の心情としては、これから向き合うどう見ても友好的ではない相手が、
同邦の者でないほうが気楽に思えるので、できれば出現機体は、イントルーダーであってほしかった。
「霧島少尉、早く搭乗しなさい!」
 先任である、ケイコ・リー・ストラスバーグ少尉が、すでに自分の不知火に張り付きながら、叱咤してく
る。他にCPの山岸真弓少尉と、自機が大破のため、雑用係として連れてこられた洞木瑞穂の同期二人が、
今回この島にやってきたデリング中隊のメンバーである。
 デリング中隊は、先月アラスカで起きたキリスト教恭順派による大規模テロに介入した際、隊長以下三名
が負傷により戦線離脱。戦術機も出撃した八機のうち半数の四機が大破という損失を出しており、この島に
いる隊員で稼働人員可動実機は全てになっていた。
 もう、ヴァルキリーズに吸収合併されるのを待つのみと思っていた矢先、急遽決まったこの島への派遣。
正直、状況の三割も理解できてはいない愛であったが、この身は衛士、命令には従うのみ。
 そして、与えられた命令は、どれだけ損害が出ようが完遂するのが、A-01部隊の信条。
 愛は、強き使命感を胸に、己の不知火に乗り込んだ。

 そして霧島愛は驚愕する。草間大作とジャイアント=ロボに。


「神宮寺教官、エヴァの足元に皆さんを連れて隠れてください!」
 大作は、まりもの方を向かずに、強い声音で指示を出す。
「え、あれの足元、か!?」
 目を凝らして、挨拶なしに来訪してきた戦術機の正体を見極めようとしていたまりもは、呆然と立ち尽く
している訓練兵五人の少女に、
「お前ら、あのエヴァの足元に行け!」
 と取り敢えず大作の指示をそのまま命令する。訓練兵とは言え、衛士を志す彼女たちは、各々まりもの指
示に従い、慌てて片膝立ちのまま待機し続けている蒼い巨人の足元に向かう。
 何も考えずに指示を出してしまったが、言われてみれば、この島の中であの一本角の巨人の足元が一番安
全なのかもしれないとまりもは即座に、その指示を出した大作に感心する。
 再び、大作の一助になればと目を凝らしてみるが、UNブルーに塗られたA-6は、海神かイントルーダー
か区別できない。
「神宮寺教官、アレの出処、わかりますか?」
 大作は厳しい目で、出現した三体の戦術機を見据えている。そして、ロボはゆっくりと、海原へ脚を踏み
出していた。
 ドスン! 身体全体に響く振動。千トンを超えると思われるロボの重量感に、改めて圧倒されるまりも。
「え、えっと、すまない。細かい差異はここからでは…… 平中尉達なら、判別できているはずだが」
 海神と、その元であるイントルーダーの特徴的な差異は、両腕部に装備された35ミリチェーンガンの装
備数、それをここから見極めるのは肉眼では難しかったが、戦術機に乗ったデリング中隊の不知火のセンサ
ーなら、それも判別可能だろう。
「平中尉! アレは帝国の海神か!?」
 二人の背後で、徐々に起動していく四機の戦術機に、まりもが大声で訊いた。
『アレは、海神ではありません! 米軍のイントルーダーです!?』
 慎二の報告に、胸を撫で下ろすまりも。米軍が何を血迷って、この強攻策に打って出たかはわからないが、
帝国が馬鹿な真似をしたのではないのは、一安心だ。
 だが、そうことは暢気に構えてよい状況ではない。米軍が送り込んできたのは、圧倒的な制圧火力を誇る
戦術攻撃機イントルーダー三機。出遅れた現状では、不知火四機でイントルーダー三機を相手にするのは至
難と言える。
 ドスン、ドスンとジャイアント=ロボはゆっくりと、だが確実に前に歩を進めている。
「だ、大作くん。どうするつもりだ?」
 まりもは、動揺を微塵もみせない大作に、遠慮がちに声を掛ける。
「相手が、何を要求したいのか、わかりませんが…… エヴァや皆さんに、指一本ふれさせません!」
 大作は、厳しい顔をイントルーダーに向けたまま、決然と言い放つ。まりもは、その大作の一歩も引く気
がない気迫に、呑まれそうになる。
 この少年は、対人戦闘であっても、一分の迷いも見せていない。その大作の意思を示すように、ロボは重
厚な歩みを止めず、進んでいく。
 イントルーダーは、三機とも両腕の35mmチェーンガン、両肩の120mm滑空砲をこちらに、正確に
歩み進むジャイアント=ロボに向けていた。
『草間くん、とりあえず相手の出方をみたい! ロボを止めてくれ!』
 緊張を含んだ慎二の声が、外部スピーカーから。デリング中隊四機も、起動を終え、臨戦態勢に入ってい
る。だが、未だ何の要求もしてこない米軍相手に先制攻撃を掛けるのは躊躇われるのか、大作に自制を促す。
「ダメです! 皆さんにわずかでも危険があるなら、僕は引きません!」
『だが…… あ、待ってくれ、通信が入った!』
 慎二と大作のやり取りを聞いていると、大作はエヴァや自分たちだけでなく、デリング中隊の四機も護ろ
うとしているのでは、とまりもには思えた。
『連中は、我々の即時武装解除を要求している!』
『同盟国内での、無断での武力行使を容認できないとか、なんかこじつけがついているぞ!』
 慎二の言葉に孝之が続いた。帝国政府に了承をとっているのかどうかわからないが、米軍は思ったより早
く強硬手段に訴えてきたようだ。ここで、その要求を蹴ることは、米国を敵に回すことになるのでは、とま
りもは事を大きさに気後れしてしまうのだが……
「了承できないと返して下さい! それと、怪我したくなかったら、即撤退しろと!」
 大作はきっぱりと、何の躊躇も見せずに要求を一蹴してしまった。
 ロボはすでに、膝下まで海面に沈み、イントルーダーと自分たちの中間あたりまで歩みを進めている。そ
して、止まる素振りを一切みせない。
『だ、草間くん! 停止しないと、攻撃すると言って来ている!』
「やってみろ、と言って下さい!」
 慎二の言葉に、ほぼ即答で返す大作。度胸が座らなない慎二と違い、大作は既に臨戦モードに入っている。
『だ、だが、それでは……』
『わかった! 慎二、覚悟を決めようぜ!』
 躊躇う慎二に、孝之が声を掛ける。この様子では、大作の『やってみろ!』は孝之の方から米軍に向けて
発信されるかもしれない。
 その証拠に、イントルーダー三機からは、先ほど以上の緊張が見られる。このままでは、ほどなくジャイ
アント=ロボに向けて集中砲火が始まるだろう。
 120mm滑空砲6門、35mmチェーンガン12門が一斉に火を噴いて、ロボは大丈夫なのだろうか?
 間近で見たジャイアント=ロボの重厚感は、艦砲の直撃すら跳ね返しそうな迫力があったのだが、それで
もまりもは不安を感じてしまう。
『草間くん、とりあえず君の要求はオブラートに包んで向こうに伝えた! どうする!? 相手からは熟慮
せよとか、後悔するぞとか、うるさいんだが!? ちなみに、こっちの腹は決まっている、やるなら言って
くれ!』
 慎二ではなく、孝之が言ってきた。デリング中隊の不知火も、圧倒的不利とわかっていながら、大作に加
勢する覚悟を決めたみたいだ。こういう覚悟の決め方は、慎重派の慎二と違い直情的な孝之の方が早いなと、
まりもは感心する。
「皆さんは、ここを動かないでください! ロボの実力を見せつけてやります!!」
 だが、大作はその申し出も一蹴する。
 ロボとイントルーダーの距離は、すでに300メートルを切っている。戦術機とロボの全長から考えたら
至近といっても過言ではない距離だ。
 再三、警告を放ちながら、米軍側からの発砲はまだ無い。あちらも、高圧的な態度を取ってはいるが、正
体不明のロボットと砲火を交えるのに、気後れしているのか。それとも恫喝だけが目的で、実力行使をする
つもりはないのか。
 様々な憶測がまりもの中で飛び交う。
 だが、米軍がロボにいまだ砲火を開かない理由は、実に単純なモノであった。
 イントルーダーに搭乗している米軍衛士が、ジャイアント=ロボの威容に、気圧されビビっているだけだ
った。


 米軍の急襲作戦に参加した三機のイントルーダー。そのうちの一機に搭乗していたラッセル=スミス中尉
(24歳)は、後にジャイアント=ロボとの邂逅について、簡潔にこう語った。
 あれは、悪夢だったと。
 フィリピンの国連軍基地に出向していた彼らは、母艦であるソードフィシュと共に本国に帰投中だったの
だが、突然、米軍第七艦隊と合流、そしてこの島への出撃を命じられた。
 この島に在る、大型人型兵器の接収、もしくは破壊が彼らに課せられた任務だった。大型で人型の兵器が
どのようなもので、それをどのように接収するのか、ろくな説明もない、今までにない曖昧な命令に戸惑っ
たスミス中尉だったが、すでに歴戦の域に達したベテラン衛士である彼は、命じられるままに出撃した。
 目標の島の十キロ手前で、母艦よりパージ。そのまま水中航行モードで接近、そして上陸。そこまでは、
順調だった。
 島には四機の不知火がいることもわかっていたが、それもイントルーダーの圧倒敵な火力をもってすれば、
障害にはならない。
 自分は、速やかに目的を達成するのみ。
 だが、地上に姿を現した彼らを迎えたのは……

 自分たちを睨みつける、鋼鉄の巨人の姿だった。

 スミス中尉は 網膜投影モニターに映る、自分たちを睨みつける巨人の眼差しに、射止められたかのよう
に凍りついてしまった。
 それが人を模した人工物であることを理解するまで、数秒、そしてそれが戦略目標であることに気づくま
でさらに数秒を要してしまった。
『な、なんだ、アレは……』
 僚友の呟きに、我に返るスミス中尉。改めて、その巨人に意識を向ける。
 全長は、イントルーダーより大きく三十メートル前後。だが、その機体の重厚さは、イントルーダーの比
ではない。
 神像。そんな言葉がスミス中尉の脳裏を過ぎる。その威容は、BETAと異形で醜悪の姿とは違い、厳かな
威圧感を彼に与え続けている。
イントルーダーのセンサーは、様々な情報をスミス中尉にモニターに映し出していく。その自分たち睨み
続ける巨人、その先に、その巨人よりさらに大きい、一本角の巨人が、片膝立ちで控えている。さらに、そ
の先の砂浜には、起動中の日本帝国の戦術機不知火が四機。
 だが、その情報は形となってスミス中尉の中で形をなさない。明らかに彼はその目標に呑まれていた。
 ドスン!
 その彼の硬直を解いたのは、目標である巨人、いや巨大ロボットが一歩前に脚を進めた震動だった。
 僚機に、武装の展開、安全装置の解除を指示。自身もそれを行う。
 ドスン!
 また一歩、目標が脚を踏み出した。スミス注意は逡巡する。投降と武装解除の勧告を出したほうが良いの
かと。
 ドスン!
 さらに一歩、目標が前へと進む。作戦は、この巨大ロボットと、さらに後方に控える巨大ロボットの接収、
もしくは破壊であったが、それはこの三機だけで可能なのか? スミス中尉は任官以来初めて、上層部の作
戦に疑問を覚えた。
 ドスン! 
 巨大ロボットは歩みを止めない。この状態が威嚇の意をなしてないのではと、スミス中尉は考えを巡らせ
る。攻撃等の決定は、最先任である彼に一任されている。だが、この状態で問答無用で銃口を開くことを彼
は躊躇った。
 通じるかわからないが、彼はオープンチャンネルで、武装解除と投降の勧告を行うことにした。
 通信の文言は、あらかじめ作戦司令部から出された定形の物を読み上げるだけにした。なるべく、感情を
込めず、抑揚を抑えて送った通信を受け取ったのは、目標でなく、その先にいる帝国の不知火だった。
 不知火の衛士は、自分たちは国連軍新潟基地所属であり、この島は日本帝国の領土である。貴官らは国際
条約に違反云々と、意外にも常識的な反応が返ってきた。
 慌てているのは向こうも同じなのか? その疑問がスミス中尉をある程度、冷静にさせた。
 少し高圧的に、これまた作戦部が用意した侵攻理由を述べ、武装解除を迫った彼は、あることに気づいた。
 ドスン! ドスン!
 目標である巨大ロボットは、ゆっくりと前進を続けていたのだ。そして、再び凶悪な眼差しが自分たちを
捉えていたことに、背筋が凍りつく思いがした。
 勧告を続けていると、先ほどの衛士とは違う声での返信があった。
『ヘイ、ヤンキー! 怪我したくなかったら、帰ってママのオッパイでもしゃぶってな!』
 自動翻訳機を通さない、かなり発音の怪しい英語での返信。中指突き立てている衛士の姿が想像できそう
な内容に、カチンとくるスミス中尉だが、その怒りも迫り来る巨大ロボットの眼光に萎縮してしまう。
「即時停止しないと、攻撃を加える!」
 声の震えを必死に抑え、最後の警告。だが、それも
『やってみな!』
 と即答で返されてしまった。こうなっては、攻撃を行う以外、彼らに選択肢はなくなってしまった。ここ
で何もせずに撤退するということは、米軍の威信を傷つけることになるからだ。
「全機、攻撃用意!!」
 腹を決めて、僚機に通達。網膜モニターに映る、すでに300メートルの距離に迫っていた目標に全兵装
をロックオン。あとはトリガーを押すだけで、両肩の120mm滑空砲と両腕の35mmチェーンガンが目
標に向かって火をふく。
 モニターに映る巨大ロボットは、ただ前に緩慢に脚を進めている。内蔵火器の有無は判断できないが、あ
の非常識なバランスの腕で殴られたら、イントルーダーといえど無事に済むとは思えない。
「攻撃用意!」
 未だ、スミス中尉の中には、この目標に対する攻撃を躊躇する思いがある。だが、軍人が個々の感情で行
動することはありえない。司令部の命令を至上とし、受け入れるのみ。
 自分の中の迷いを振り切るように彼は叫んだ。
「攻撃開始!!」
 三機のイントルーダーの一斉攻撃が始まった。


 三機のイントルーダーの一斉攻撃が始まったのを、霧島愛は、不知火の操縦席でただ見つめていた。
 自分たち四機の不知火が、牽制の為に動けば、この惨状は回避できたはずなのに、平、鳴海の両トップは
待機を彼女に命じていた。
 外部スピーカーでの大作とのやり取りは聞いてはいたが、やはりここは無茶だと分かっていても攻撃阻止
の行動を取るべきではなかったか。
 もっと強く上申すべきだったと、愛は唇を噛んで、着弾の爆炎に包まれているジャイアント=ロボ。いく
ら頑丈でも、あれだけの集中砲火を喰らって無事なわけが……
 そこで、愛はふと、視線を大作とまりもが居る場所に落とした。
 まりもは後ろ姿で分かるくらい困惑しているようだが、大作は、まるで動じていない。
 どうして、という疑問を抱えたまま、しつこい集中砲火が続くロボに視線を戻すとあることに気づいた。
 ジャイアント=ロボは、数十秒に渡る直撃の嵐を受けているはずなのに、いまだ壊れる様子を見せていな
かった。あの鋼の身体は身じろぎすらしていない。
 いったい、何が起こっているのだろうか?
 そして愛は、さらに驚くことになる。砲撃開始と同時に歩みを止めていたロボが前進を再開したのだ。


『な、なんだって言うんだ!?』
 僚友の呻きが、どこか遠くに聞こえる。トリガーを押し続ける指が、レバーを握る手が震えているのがわ
かった。
 網膜モニターには、減っていく残弾と、爆炎に包まれた巨大ロボットが映っている。攻撃開始から一分は
経っただろうか。だが、怒涛の攻撃を受けている巨大ロボットは、その形をわずかでも変えているようには
みえない。
 この至近距離で、これだけの砲銃弾の直撃を受けているはずなのに、だ。
 BETAが雲霞の如くあふれる中、死を覚悟しながらその攻勢を受け止めたこともある、歴戦の衛士である
スミス中尉。だが、その衛士としての矜持が、徐々に崩れていくのを、彼は感じていた。
 自分は、自分たちは、何かを間違ってしまったのではないのか?
 いまだ、崩壊の兆しすら見せない巨大ロボット。そのロボットが初めて歩く以外のリアクションをした。
 怖しい太さを持った右腕をゆっくりと上げ、その拳を開いてみせたのだ。
 鋼の掌を見せられ、自然、そこに砲弾が集中していく。が、その数メートルの掌さえ、この至近距離の攻
撃で破壊できていない事実が、さらにスミス中尉の背筋を凍らせる。
 掌が、細かいディテールがわかるほど近くに見える。何故、そんなに近くに、と焦るスミス中尉は、ある
事実に気がついた。
 掌の先に凶悪な眼差しが見えた。目標は、すぐそこまで迫っていたのだ。
 

 戦術機であったら、数秒で粉砕されているであろう、三機のイントルーダーの集中砲火を一分の間、耐え
切ったのち、大作は、
「ロボ、反撃開始。真ん中の機体を狙え」
 と、淡々とした口調で、ロボに命じたのを、まりもは至近で聞いていた。そして、攻撃開始前に、大作は
こうも命じていた。
 少し時間を戻す。
「ロボ、止まれ! オートガード、任せる! 装甲破損の危険がない限り、一分間、その場で待機!」
 その命令が、大作の口からでた時、まりもは唖然とし、呆然としてしまった。大作は、自らの下僕である
ジャイアント=ロボを轟火に晒そうとしているのだ。
 大作に、意見を言おうと口を開いたのと、イントルーダーの集中砲火が始まったのが、ほぼ同時であった
為、まりもの言葉は口を出ることはなく、そのまま飲み込まれてしまった。
 爆炎と衝撃音が耳をつんざく。まりもは最初、正視できずに顔を背けてしまったが、前に立つ大作があま
りに平静なので、気になって向き直ると……
 そこには、攻撃開始と変わらぬ姿で、その砲火を受け続けるロボの姿があった。
 あの至近距離で、あの火力の総攻撃を喰らい続けたら、大和級の戦艦でさえ轟沈は免れないだろう。だが、
それほどの砲火を喰らいながら、ジャイアント=ロボは身じろぎすらしていない。
「バリヤー稼働率レベル1、か。一般的な火砲って感じかな。これなら気にするレベルじゃないか。核でも
打たれたらマズイけど、核ミサイルとか搭載していますか、あの機体?」
 いきなり物騒なことを訊かれたまりも。慌てて首を横にふる、そんなモン、搭載されていてたまるか。
 そして、一分間、黙って攻撃を受け続けていたロボが、再び大作の命令を受け、脚を前に踏み出した。
「だ、大作君…… ロボは、いったい何で出来ているんだ……?」
 目の前で起きていながら、その出来事を信じることを理性が拒否しているまりも。自らを落ち着かせるた
め、何でもいいから大作に訊いてみることにした。
「G型特殊鋼三式です。試したことはないけど、バリヤーなしでも対艦ミサイルの直撃を跳ね返せるという
触れ込みです」
 返ってきた大作の答えが分かる訳もなく、ハハハと力ない笑うまりも。ここまで来ると笑うしかない。
「加減しろ、ロボ。センサー系と肩の武器を優先して破壊するんだ。パイロットは狙うな」
 大作の命令を受け、ロボが右腕を上げる。そして、いつの間にか、怒涛の集中砲火が終わっていた。三機
で扇陣形を組んでいたイントルーダーだが、その砲火が自機に及ぶ範囲までロボが来てしまった為、攻撃が
できなくなってしまったのだ。
 そして、ジャイアント=ロボによる、苛烈な反撃が始まった。

 結局、出番なく待機のまま、事が終わってしまった。その一部始終を眺めていた愛だが、事が終わったの
に、まだ夢を見ていたような気がしてならない。
 ジャイアント=ロボが、わざと攻撃を受けた時間が一分。だが三機のイントルーダーが沈黙するまではそ
の半分の時間しか掛からなかった。
 まず、正面のイントルーダーの、顔とも言えるセンサーを掴み、わずかに力を込めたように見えたら、そ
のセンサー部位が潰れ、イントルーダーがなす術なく、そのまま倒れてしまった。
 二機のイントルーダーが、その隙にロボに肉薄、近接戦闘装備であるスパイクアームを、同時に繰り出し
たが……
 右腕、左腹部に命中したイントルーダーのスパイクアームが、そのまま砕けてしまった。ロボには傷一つ
ついていない。
そして、軽く振ったようにしかみえない右腕の横殴りの一撃で、右に居たイントルーダーが吹っ飛ぶ。
その攻撃と同時に、ロボの腹部を攻撃し破損した腕を掴まれた最後のイントルーダーは、そのまま宙に釣り上
げられてしまった。大人と子供、そんな言葉は愛の呆然とした頭に浮かんでいた。
そして、その腕が砕かれ、イントルーダーは海原に叩きつけられる。
まだ、攻撃は可能かもしれないが、三機のイントルーダーがロボに歯向かうことはなかった。衛士の心が、
折れてしまったのだろうと愛は感じた。
『ケイコ、霧島、連中の武装解除、いくぞ!』
 副隊長格である鳴海中尉からの通信が、一喝のように愛を目覚めさせる。
「は、はい!」
『りょ、リョーカイでス!』
 完璧な日本語を話せるはずのケイコが、妙なイントネーションになってしまっているのは、きっと彼女も、
ジャイアント=ロボの桁外れ、いや常識外とも言える迫力に気圧されてしまったのだろう。
 平機を除いた三機の不知火が戦闘の行われていた場所へ向かう。愛は網膜モニターに映る、突撃砲の残弾
表示を見ながら、これが減っていくことはないだろうなと確信していた。あの場に鋼の守護神がいる限り。
 近づいていく、自分たちの不知火に気づいたようにジャイアント=ロボが首だけを動かしてこちらを向い
た。 
 自分の乗る不知火を相変わらず睨んでいるようなロボの瞳が、やっぱり怖く感じてしまう愛だった。



【ちょい、後書き】
 霧島愛、ケイコ=リー=ストラスバーグ、山岸真弓、洞木瑞穂、
どっかで聞いたことある名前ですね、うん。



[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十七話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:06a0bd21
Date: 2014/08/24 21:53
 戦艦『加賀』でシンジに饗されたのは、本格的な会席料理。先付から始まり、椀物、向付、と続いていく
料理の数々は、何気に空腹だったシンジを身も心も喜ばせていた。
 悠陽が、食材のいくつかが合成食材だと教えてくれたのも、シンジを驚かせた。刺身や、牛肉がそうだっ
たらしいのだが、言われていなければ、判別ついたかどうか。それほど見事なモノだった。
 食事中、シンジ、悠陽、夕呼、霞たちの会話は、政治的なモノを抜きにした雑談が主であり、その内容は
やはり、シンジが居た世界の話になっていた。
 悠陽は、シンジの世界はどのような政治体制が取られているのかと聞き、統合政府による統治が行われて
いることに、羨望の溜息をついた。
 夕呼は複数の異星文明との間に、銀河を股にかけた交流関係が結ばれていることを、単純に羨ましがった。
自分の知らないどんな異星由来の技術があるのかと思うだけで、興奮してしまうと言う。
 会食も、最後に出された甘味、『抹茶アイス白玉のせ』をもって終了となり、その後は出された煎茶をの
みながら、具体的な協力体制についての話し合いになった。
「……それについては、とりあえず、旧型のタンカーを改造して、彼らに進呈しましょう」
 と、様々な提案は、主に夕呼主導で示されていく。
「タンカーと言うと、対馬級みたいなモノを、と言うことですか?」
 それを悠陽が許諾の判断をし、真耶がそれを記録して後日形にする、という風に会談は進んでいく。シン
ジは自分たちの話のはずなのに、何故か聞き役に回ってしまうことが多い。
 それと言うのも、香月夕呼という女傑が、シンジ達が希望しそうなことを察して、先に言ってくれてしま
うので、自然、シンジはそれに追従する形になってしまうのだ。
「あの、エジプトや一本角、足して重量、どのくらいなの、碇?」
 エジプトはジャイアント=ロボ、一本角はエヴァンゲリオン初号機だと、夕呼には言ってあるのだが、な
ぜか彼女は、自分の付けた愛称の方で両機を呼び続けている。
「2000トンは超えているんじゃないか、と……」
 改修後のロボがどれくらいは分からないが、二機を足せばだいたいこのくらいではないか、とシンジは自
分の予想を言う。
「それに、もう一機、ゲッターとやらもいますし。スペース的にも大型タンカークラスの船舶が調度いいと
思いますわ」
 ゲッターだけは愛称ではなく、ちゃんと呼ぶ夕呼。多分、この人は字数で呼びやすいほうを選んでそうだ
なぁと、シンジは思うのだった。
 こんな感じで、その後も、話し合いは順調に進んでいった。日本帝国は、シンジ達を『独立武装法人』と
言う聞いたことのない名称の存在として容認し、帝国内に組み込むことなく、一独立組織として対等な関係
を築いていくこととなった。
この辺りの采配も、夕呼の独壇場で、この人は本当によく頭が回ると、シンジは素直に感心してしまう。
「では、こちらの準備が整うまで、碇達にはあの島に駐留してもらいましょう。我々と碇達の具体的な協力
関係については、その間に詰めるということでどうでしょうか?」
「私の方は、香月副司令の案に異存はありません、最良の判断だと思います。碇様は?」
 話は、思った以上に早く、そして上手くまとまったなとシンジが思い、同意しようと口を開きかけた時だ
った。
 コンコンコンと素早いノックが三回、そしてこちらの返事を待たず、ドアの外から
「月詠真那中尉です、火急の用件にて失礼します!」
 真那が息を切らせて、ドアを開ける。その後ろには、青いダウンジャケットのようなモノを着込んだ、見
たことがない女性が立っている。歳は自分より少し上だろうか、切れ長の瞳が印象的な、綺麗な女性だった。
「こちらの宗像中尉から、先ほど報告があったのですが……」
「デリング中隊が向かった島に、米軍籍と思われるイントルーダー三機が来襲したそうです」
 ムナカタ、と呼ばれた女性が、真那の言葉を継ぐように、口を開いた。途端、部屋の中に緊張が走った。
 夕呼は目つきが鋭くなり、悠陽は驚愕のあまり、席を立ってしまった。
「で、その状況は継続中、それとも終了?」
 わずかに空いた間、それを破ったのはやはり夕呼だった。
「は! 『じゃいあんと=ろぼ』なる機体が、三機を二分弱で撃破し、搭乗衛士三名を捕虜にしたと報告
がありました」
 ロボが二分かかった理由、そしてこの襲撃相手の意図はなんだ? 大作より、島にいた少女たちと他一名
の心配をしていたシンジは、その報告に頭を切り替える。
「こんな小手先の襲撃の理由は何かしら…… 米軍は、佐渡島ハイヴを破壊したのが連中だって知っている
はずなのに……」
 呟くような夕呼の疑問は、シンジも感じていた。だからか、自分の考えをあっさり口にしてしまった。
「やっぱり、様子見かな……」
「様子見、ありえるわね」
 シンジの独言に、夕呼は納得したように小さく頷く。
「副司令、どう言うことですか?」
 悠陽が勢いこんで訊いてきた。米軍の無断介入という事件は、彼女の中に困惑を生じさせている。
「まぁ、推測でしかないですけど……」
 と言いかけたところで、夕呼はシンジの方を向く。
「まず、アンタの考え言ってみて、碇」
 何故、夕呼が自分に話を向けたのかはわからないが、シンジは思うところを口にする。
「僕が様子見、と思ったのは、米軍か、その上の勢力かわかりませんけど、僕たちのことを実際に見たくな
ったんじゃないかな、と。本気だったら、もっと手の込んだことをしかけてくると思うんですけど」
 イントルーダーとやらが、どの程度の実力かは、想像するしかないが、仮にBF団の怪ロボットクラスの
実力と仮定しても、ロボを攻略するのに三機だけで襲撃は、数が少なすぎる。
あの島をいま、本気で攻略したければ、もっと大規模の軍勢力を動かさなければ無理だろうし、その規模
が動けば、この二人の内のどちらかには、その情報が耳に入るのでは、とシンジは考えた上で、この襲撃は、
物騒な挨拶みたいなモノだろうと仮定したのだ。
 シンジの言葉を聞いた夕呼は、フフンと満足げに笑うと、
「私の予想も、同じですわ、殿下」
 と、シンジの考えに同意を示す。今の夕呼の目つきは、何故かシンジに、今は離れている隼人のことを思
い起こさせた。この人と隼人さんは似ているんじゃないか? とシンジはそんな事を、ふと思ってしまった。
「さて、殿下、頭が痛い問題が増えてしまいましたわね」
「……はい。すいません、碇様、少し席を外します。月詠!」
 悠陽が、初めて見せる厳しい、為政者の顔つきで、立ち上がる。同じ姓を持つ二人が、同時に、
「はっ!」
 と悠陽の言葉に鋭く応えた。そして悠陽はシンジ達に軽く頭を下げると、二人を連れて、部屋を出る。
「なんか、大事だな」
「だね」
 いまだ、扉の両端に狛犬状態で立っていた武と純夏が、顔を見合わせる。この二人と、真耶を立たせて、
自分だけ食事をするのには、多少の抵抗を感じていたシンジだが、上流階級の人との交流で、侍従の人の職
務を妨げるのは、かえって失礼に当たる、と教わっていたので、悪いとは思いながらも、美味しく食事をい
ただいてしまったのだった。
 それと、何故か、ダウンジャケットらしきモノを着た女性も、この場に残っている。宗像、と言われてい
たが、夕呼の部下なのだろうか?
「宗像、アンタなんでまだ、ここに居るのよ?」
「それはもちろん……」
 夕呼に問われた彼女は、シンジに好奇心に光った瞳を向けてきた。
「この少年を、私にも紹介していただけたら、と思いましたので」
 あ、この手のタイプは要注意かも。シンジは本能的にそう感じたのだった。


 貴賓室とは別に、悠陽に用意された個室に戻ると、帝都から上がってきた報告書を携えた、戎が待ってい
た。
「報告を」
 悠陽が短く促すと、恵比寿は短く頷いて、渡された資料を読み始める。国防省から政府に上がってきた報
告書の内容が、そこには記されている。
 大作たちの居る島に、米軍が襲撃を掛ける三分前に、米国海軍第七艦隊司令部より、佐渡島に置いて無断
で武力行使を行った正体不明の機体二機を補足した報告と、同盟国の権利を護る為に、当該勢力を捕縛する
との報告が、一方的に日本政府に通達されたとの事。
 その通達を、米国政府、米国大使館等に、問い合せているうちに、第七艦隊司令部より、貴国の主権侵害
となりえると判断したので、出撃を見合わせた、という回答があった。
 そこで、戎の報告は終わる。
 だが、夕呼に上がってきた報告では、実際、米軍は武力介入を行い、あっさり退けられている。捕虜や、
鹵獲状態の機体があの島にはあるはずなのに、このような虚偽の報告を行った理由は?
 悠陽は考えを巡らせる。
 米軍、いや米国政府が、同盟国の主権を侵害するとわかっても、襲撃を強行したのは?
 そして、彼女はある考えに思い至った。
「……そういう、ことですか」
 動き始めた世界、その中心に身を置いていることを、悠陽は改めて感じていた。


「宗像美冴中尉です。香月副司令麾下の戦術機部隊に所属しています」
 静かだが、凛とした響きのある言葉と、綺麗な敬礼で、美冴はシンジに挨拶する。
「碇シンジです」
 とシンジは、相変わらず、短いがしっかりした挨拶を返す。
 社霞のこの場所での役目は、いつも通り、夕呼の為のフィルター。夕呼は彼女を通して、事の虚偽を安易
に見分けることができる。
 霞は、不思議な思いでシンジを見つめている。
 社霞、本名『トリースタ=シェスチナ』 オルタネイティヴ第三計画の落し子である彼女には、特殊な能
力がある。他者の感情と思考を独特の手段で読み取る、リーティングと言われる能力と、他者に自身の思考
をイメージとして伝えるプロジェクションと言われる能力。
 しかし、シンジほど、リーディングのしがいがない人物はいないだろう。感情が、ほとんど揺らがない。
裏表がまったくない。同世代と思われる武や純夏と比べ、シンジの落ち着きは年不相応すぎる。
 それと……
 霞は自分でも不思議なのだが、シンジをリーディングする際、言いようのない、悪寒のようなモノを感じ
ていたのだ。
 この人の中には、覗いてはいけない、何かがある。漠然とだが、そんな予感を霞は感じていた。
「はい、挨拶すんだら戻りなさい、宗像。これでも碇は、超が付くほどのVIPなんだから」
 ほら、出て行ってという風に、手首を振って邪見に美冴を追い出す夕呼。その夕呼の態度に不満も見せず、
「わかりました、失礼します!」
 と敬礼して、回れ右で部屋を出て行く美冴。彼女にしてみれば、夕呼が『超VIP』と言うほどの少年の名
前と容姿がわかっただけで、満足だったようだ。
 それにしても……
 先ほど、夕呼がシンジのことを『アンタ馬鹿でしょ?』と言った時、霞は面にこそ出さなかったが、内心、
かなり驚いていた。
 あの夕呼が、他人をそう評したのは、霞が知る限り、そこにいる白銀武だけだ。彼女は、その能力を認め
た人を『手駒』として使おうとする悪癖があるが、あの馬鹿発言は、認めたけど、『手駒』としては使えな
い人にのみ、彼女が使う最大の賛辞みたいなものだと、霞は思っている。
 たしかに、と霞はシンジに改めて視線を送る。理由は説明できないが、武とは違うタイプで彼は駒になら
ないタイプだ。
 いつの間にか、悠陽が抜けたこの時間は、夕呼や武、純夏を巻き込んでシンジについての雑談になってい
た。夕呼が好奇心にメラメラと燃えているのがわかる、こんな楽しそうな彼女は久しぶりに見た。
「……どこら辺まで、人類は行けるようになったの?」
「一応、銀河系内だったら、ほぼ全域、いけるようになっていますね」
「え、そんなトコまで行けているの? ひょっとして、恒星間移動の便利な航法で確立されたとか?」
「まぁ、フォールド航法とか、クロスゲートとか、まぁ、色々と」
「それも、異星由来の技術?」
「ですね。僕たちの世界で十五年くらい前になるんですけど……」
 と、言う感じで、シンジと夕呼達の会話は弾んでいる。霞はいつも通りの聞き役。だが、彼女もそれなり
にこの場を楽しめていた。
 碇シンジは未来の、違う世界から来た。そんな荒唐無稽な話も、真実であることがわかる。遥か先の世界、
人類はどこまで勇躍しているのか? それを想像すると、霞もわずかに、ときめきのようなモノを覚えるの
だった。
「そういえば、銀河系の真ん中で、宇宙怪獣と戦ったとか言ってたよね、シンジ君」
「宇宙怪獣!? なによ、ソレ?」
「簡単に説明すると、巨大な昆虫みたいなの、ウジャウジャと……」
 シンジが、夕呼たちに説明するために、その『宇宙怪獣』 とやら思い出したのだろう。その思考が、イ
メージとして霞に流れ込んできた。

 !?

 それを、何と形容すればいいのか、霞は自身が視ているモノを、自身でも理解できないでいた。前に数千
のBETAに囲まれながらも、生き残った衛士の記憶イメージ。アレに辛うじて近いと言えるかもしれないが、
シンジが体験したモノはその比ではなかった。
 数を数えることすら愚かしい、異形の化物の群れが雪崩の如く襲来してくる。この人は、こんな戦いの中
を生き残ったと言うのだろうか?
 こんな絶望的な状況でも、諦めなかったのだろうか?
 刹那の時間のはずなのに、その異形の襲来は霞の意識を徐々に削いでいく。
 終が見えない戦いの記憶。だが、その異形の群れの先に、何かがほんのわずかに、垣間見えたのを霞が感
じた時……。
 霞は、総毛立つのを感じた。
 例えるなら…… いや、例えようのない何か…… 邪悪、暗黒、負の形容しか出来そうのない何か……
 意識が薄れそうになるのを、ギリギリでこらえる霞。ダメだ、この思考は危険だ。
 霞がシンジに対するリーディングを中止しようとした時だった。

 !?

 イメージの流入が止まらない。シンジが何気なく思い出しただけのはずの戦いは、その記憶自体に意志が
あるように、霞へ侵食していく。
「……あ、あぁ」
 本人も気づかぬうちに、うめき声が上がる。霞の意識は、激流の飲まれるように、次第に薄れていった。


「なんだ、宇宙怪獣って言うから、三つ首で金色とかじゃないの?」
「どこの……」
 宇宙怪獣ですかそれは? とシンジが言おうとした時、
「……あ、あぁ」
 今まで、会話の外にいた少女、社霞が呻き声をあげているのに、気づいたシンジ。夕呼や純夏に武に顔を
向けると、三人は素早く霞の傍に近づいていた。
「……思考に取り込まれたの? 碇、アンタすぐに思考を切り替えて!」
 思考を切り替えろと言われても、意味が飲み込めないシンジ。そんな彼に、
「素数でも数えてなさい、早く!」
 何故、そんな勢いこんで言われなくてはいけないのか、理解できないシンジだが、夕呼の剣幕に押され、
頭の中で、2、3、5、7と素数を数え始める。
「鑑、例のアレ、お願い」
「はい!」
 11、13、17、19…… シンジは素直に素数を数えながらも、今の状況を観察している。突然、ウ
サギ耳ヘアバンドの少女が、呻き声を上げて、椅子から崩れ落ちるようにして倒れてしまった。
 それを見て慌てたのはシンジも同じだが、いきなり『思考をかえろ』と無茶な要求をされてしまった。
 だが、シンジは咄嗟に頭を巡らせ、夕呼の言葉の意味を悟っていた。
 社霞という少女には、思考を読む能力がある、そしてシンジの考えを読んでいた、そういうことだろう。
 23、29、31。だんだん咄嗟に素数が浮かばなくなってくる。
 霞がこの場に臨席した理由は、真贋のフィルター役、そんなトコだろうか。だけど、なぜその彼女が、い
きなり昏倒した。その理由は、続いた夕呼の言葉が教えてくれた。
『思考に取り込まれた』
 夕呼はそう言った。つまり、シンジの考えたこと、記憶に飲み込まれた。なんの記憶だと考えると、一
瞬だけ浮かんだ、神一号作戦から、霊帝との戦いについてとしか思えない。
 なら…… 霞は、自分の中の霊帝、ケイサル=エフェスを見たとしたら……
 マズイ! あれは、知ることですら、相手になんらかの影響を与える可能性のある、負の無限力の化身。
何の前知識もない少女が、いきなりそれを知覚することは、それだけで危険に思えるほどの存在だ。
 純夏が霞の手を握っている。彼女も何らかの精神感応能力があるのだろうか、なら彼女にこの情報をと
思った時だった。
 純夏がハミングで、あるメロディを口ずさみ始めた。
「………… え?」
 絶句、驚愕、シンジは一瞬で、頭の中が空白になっていた。。
 純夏の紡ぐメロディは続いていく。ハミングだけのそのメロディは、静かに、伸びやかに、続いていく。
 すると、霞が見る間に、落ち着いてきた。苦しげな呻き声がやみ、安らかな寝息になっている。
「ふぅ、とりあえず、一安心ってトコかしら」
 霞の額に手をあて、夕呼が安堵の溜息を漏らしている。
「純夏さん、ちょっといいですか?」
 とりあえず、霞は大丈夫のようだ。シンジは逸る気持ちを抑えながら、純夏に訊いた。今の目の前で起
きたことは、シンジにとって、ある意味、この世界に跳ばされた以上の驚愕を彼に与えていた。
「いまのメロディ、どこで覚えたんですか?」
 シンジが驚愕した理由。逸る気持ちを抑えられない理由。純夏は、シンジから感じる圧力のような迫力
に多少、気圧され気味に答える。
「え、えっと…… 光神様に助けていただいた後に、自然に覚えていたっていうか、何ていうか…… 
あたしにも、よくわからないんです。ごめんなさい」
それは、純夏が紡いだメロディが、自分たちの世界で、あの霊帝との最終決戦で流れ、自分たちを救って
くれた歌、『GONG』のメロディそのものだったからだった。



 新西暦の世界では。

「え、バサラが来たの!?」
 アスカ、レイ、サニーの三人での入浴をすませ、湯上りの一杯を求め食堂に立ち寄ったところ、席を囲ん
でいた、キラ、ライ、ブリット、カトルの四人が、その情報を教えてくれた。
「えぇ、なんでも佐渡島上空までフォールドしてきたそうです。どうやら、大怪球戦に乱入するつもりだっ
たみたいで」
 苦笑しながら説明してくれたカトル。他の三人の反応も同様だ。
 自販機で、イチゴ牛乳のパックを購入し、四人と同じテーブルの席につくアスカ。色々あって疲れた一日
だが、寝るのは彼らの話を聞いてからにすることにした。
「まぁ、熱気バサラ様がいらしたのですか?」
 と、同じく自販機でバナナミルクを購入したサニーが向かいに座る。その隣には、コーヒー牛乳を購入し
たレイが座った。サニーがいることに、だんだん違和感が生じなくなっているアスカだった。
「それは是が非にでも、お会いしたいですわ♪」
 爛漫にそう言うサニーの横で、レイも無表情ながらも同意の頷きを見せる。
この二年でレイが、ファイヤーボンバーの熱狂的なファンになっているのを知る者は少ない。内心、飛び
上がって、「ぼんば~~♪」と叫びたいんじゃないの、この子は? とアスカは思ったりする。
「まぁ、色々な手続きを吹っ飛ばして地球に来てしまったからな。葛城大佐が頭を抱えているそうだ」
 と紙コップのコーヒーを飲みながら、ライが言う。ミサトには、ご愁傷様、としか言い様がないアスカだ。
 バサラの話題で話が続くのかと思っていたアスカだが、キラがライとブリットに、違う話題を振ってきた。
「ところで、気になっていたんですけど、佐渡島で大怪球消失があった時、そちらでも何かあったんですか?」
 キラの疑問に顔を見合わせるライとブリット。そっちとは、SRXチームとブリットにクスハが席を置いて
いるテスラ=ライヒ研究所のことだろう。今、SRXチームはクロスゲートシステムの確立の為、軍籍を離れ
て研究所に出向という形になっているはずだ。
 キラの問いに、答えたのはブリット。自らの考えをまとめるようにゆっくり話し始めた。
「実は、佐渡島でアレがあった時、俺やクスハ、それにリュウセイも、正体不明の『何か』を感じたんだ…
…」
「何かって、漠然ね」
 アスカが言う。でも、直径一キロの珠と、機動兵器数体が一瞬で消えた変事だ。サイコドライバーのブリ
ット達が何かを感じていたとしても不思議ではない。
「その何かは、昏睡状態だったアヤ大尉とマイも感知したらしい。おかげで目を覚ましてくれたがね」
 と、ライが付け加えた。アスカ自身は強念の欠片も持っていないので、それがどういうモノなのか想像で
きないが、一万キロ以上離れた場所の昏睡状態の人間を覚醒させるなんて、いったいどんな電波が飛んだの
だろうか?
「ブリット様、おとぼけはいけませんわよ」
 そこで割り込んできたのは、バナナミルク片手のサニーだ。フフンと訳知り顔でブリットに言う。
「とぼけるって?」
 言われたブリットは、怒る風でもなく、サニーに聞き返す。
「ブリット様にはわかってらっしゃるのでしょ? あの咆哮の意味するモノが」
 咆哮? 何のことだとアスカは思ったが、キラは別のことをサニーに訊いた。
「つまり、キミもブリットやリュウセイさんが感じたっていう何かを」
「はい、感知しました。と、言うよりこの星に住む感応系の能力を持っていらっしゃる方、全てに届いたと
思いますわよ、あの咆哮は」
 咆哮って、獣の叫びみたいな解釈でいいのよね、とアスカ。ブリットに縁深く、咆哮しそうな存在と言え
ば、思い浮かぶのは一つだ。
「……俺は、確信が持てなかったが、十傑集の貴方が言うのなら、そうなのかもしれないな」
 つまり、その可能性は、ブリットも感じていたということか。ブリットも感じたということは、クスハも
同じだろう。アスカの考えをまとめて口に出してくれたのは、カトルだった。
「龍虎王が、目覚めたのですか?」
 ブリットとクスハ、その二人と長き大戦を共にした超機人、真龍虎王と真虎龍王は、二年前の霊帝戦を最
後に、その姿を消していた。だが、人界に災い在るとき、再び彼らは蘇る。そう、二人は信じていると、ア
スカは聞いている。
 なら、大怪球を、いや、もしかしたら真ゲッターの暴走を人界の危機と察知して、復活したのかと考えた
アスカだが、その考えを打ち消すようなことをブリットが言う。
「俺とクスハが、あの念を察知しても、確信が持てなかったのは、その一瞬だけで気配が消えてしまったか
らなんだ」
「消えちゃったの?」
 なら、サニー曰くこの星の感応系能力者全てに届いたという咆哮とやらは、どんな意味があったのか? 
アスカが考えを巡らせていると……
「……ひょっとして、龍虎王たちも行ったのかも」
 と、ポツリとレイが呟いた。いつもの習性で、
「何処へよ?」
 とツッコんでしまうアスカ。レイが、赤い瞳をアスカに向けて、答えた。
「シンジ君の行ったところに……」
 そんな事あるわけ、と口にしようとしたアスカだが、その言葉を飲み込む。レイの思いに、共感が芽生え
たからだ。
「ありえますわね、それは……」
 と、考え込む顔で、同意を示すサニー。こうやって見ると、サニーの面差しは可憐さだけでなく、知的さ
も垣間見え、同性でもドキッとさせられる。
「そう仮定したとして、なら龍虎王はどうして、シンジ君たちの元へ?」
 レイの考えは、この場にいる皆に、ある程度の共感を与えたようだ。カトルが、さらに考えを進めるよう
に言った。
「だとしたら……」
 答えたのは、その操者であったブリット。
「シンジや竜馬さん達の行った先に、いるのかもしれない。人界に仇なすモノが……」
 証拠も何もない、内輪での予想、であるはずなのに、その言葉は、事実を語られたようにアスカの胸に響
いた。
 真ゲッターは何故、シンジや大作まで異界に誘ってしまったのだろう?
 疑問は尽きない、わからないことだらけの出来事。また不安が胸に渦巻いてしまうアスカ。
「何はともあれ、全てはこれから、だ」
 そんなアスカの不安を察したのか、ライがわずかに笑顔を見せて言う。
「そうですわね、大作様は無事なのは確かですし、大作様がいらっしゃれば、他の方々もきっと無事です。
皆さま、一丸となってがんばりましょう♪」
 元凶の組織に籍を置くサニーが言うセリフではないとは思うが、もうツッこむのも疲れたアスカ。苦笑が
思わずもれた。
「αナンバーズの仲間が、皆を救う為に、動き始めてくれています。ですから、きっと」
 カトルが、最後まで言わずとも、アスカにはその先の言葉はわかった。
あの仲間が再び集まれば、不可能すら可能にできるはずだ。だって、人類滅亡の危機ですら救った、最高
の仲間たちなのだ。
だから、きっと、大丈夫。



【ちょい後書き】
 前回、ここに書いたこと、感想の方で皆さんが書いてくださった通りです。一人、合体して女性化して
いますが、深い意味はありません。そのままじゃつまらないかなぁと思っただけです、うん。




[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十八話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:06a0bd21
Date: 2014/08/24 21:56
「ゲッターの連中とシンジが消えちまった!?」
 事が落ち着くまで、しばらくそこに居て、とミサトに厳命された熱気バサラ。せっかく勇んで来たという
のに、肝心の聴衆がおらず、拍子抜けした彼だが、この佐渡島で起きた出来事を宙から聞かされ、さすがの
バサラも驚きに目を丸くしている。
「それに、国際警察機構の草間大作って言うヤツも、一緒に消えちまった」
 宙が、付け加えるが、バサラは聞いているのかいないのか、ガシガシと髪の毛を掻きむしり、苛立ちをぶ
つけるように、間近にあった石を蹴り上げる。
「だから、戦いなんて、くだらねぇんだよ……」
 戦争なんてくだらねぇ、俺の歌を聴け! が信条であるバサラ。妙な使命感すらある彼は、もしかしたら、
自分がいたら、超電磁ネットワイヤー作戦からの一連の紛争を止められたとでも思っているのでは、と宙は
思う。でも、それでシンジや竜馬たちの消失を自身の責任と感じるのは、行き過ぎだ。
「でな、上をみろ、バサラ」
「ん?」
 バサラがちょうど、謎の透明球体の下に来たので、上を見るように促す宙。今も、ボルフォッグが観測し
続けている謎の浮遊球体。
 そのデータはGGGオービットベースに送られ、獅子王雷牙博士の元に送られ、分析が進んでいる。
 バサラはその球体を、睨むように見つめはじめた。
「よくわからないんだが、それが、シンジやリョウが消えたことに、関係あるとか何とか。あ、ちなみにリ
ョウ達、生きている可能性が高いらしいぞ」
 我ながら説明下手だと思う宙だが、バサラは聴いているのかいないのか、じっと、中空に浮かぶ球体を、
見上げたままだ。。
 何が気になるんだと思いながら、バサラに釣られて、球体に目を向ける宙。ボルフォッグが言うには、大
きくも小さくもならず、宙が発見した時と同じ大きさを保っているらしい。透明なので、そこに何かあるの
が分かる感じが宙にシャボン玉を連想させたが、改めて見直すと、その質感は蒸気が固まっているようにも
見えるな、と宙は思う。
 無言の時間がしばし、いつの間にかバサラは顔を上げたまま目を閉じ、何かに集中している風に見える。
「……おい」
「なんだ?」
 バサラが、呟くように訊いてきた。
「なんか、聴こえねぇか?」
 言われ、耳を澄ましてみる宙。サイボーグの聴力をフルに使ってみるが、風の音、波の音くらいしか聞こ
えない。
「何も聞こえないが……」
「いや、聴こえるぜ、確かに!」
 何が聴こえているかはわからないが、バサラは確信したらしい。目つきが変わり、あの燃え立つオーラが
吹き上がる。
「おい、ボルフォッグ?」
『同じく、私のセンサーも、何も捉えていません』
「だよな」
 ボルフォッグに同意を得て、自分がおかしいのではないのは確認できた。なら、おかしいのは、バサラの
はずなのだが、彼は何故か、ハートに火がついてしまったようだ。こうなってしまったら、あとは見守るく
らいしか宙にできそうにない。
「そこにいるんだな、ドコの誰だか知らねぇヤツ!!」
 バサラは、担いでいたギターを構え、高らかに吠えた。見つめる先は謎の球体。そこに何かをバサラは感
じ取ったみたいだ。そして、彼にスイッチが入ってしまった。
「いいぜ! 俺の歌をきけぇ!!」
 ギターを激しくかき鳴らし、歌い始めるバサラ。曲名はファイヤーボンバーの代表曲『突撃ラブハート!』
突如はじまってしまった、単独ゲリラライブの数少ない聴衆を、苦笑混じりに引き受けた宙だったが…… バサラの絶唱が始まったと同時に、謎の球体がわずかだが収縮を始めたのだ。
「……なんだ、こりゃ」
 その収縮は、バサラの歌に合わせるように、収縮を繰り返している。これは、明らかにバサラの歌声に、
この球体が反応している。
「ボルフォッグ、マズくないか、これ!?」
 イヤな予感しかしない宙。球体は、わずかに光を発し始め、その大きさも収縮を繰り返すごとに、僅かず
つだが大きくなっている。
『バサラ隊員に、唄うのをやめていただくのが、最善と思えますが……』
 観測を続けるボルフォッグの声にも、困惑が混じるが、
「コイツが聞くタマじゃないのは、お前も知っているだろ!?」
 バサラが言ってきく素直に言う事をきいてくれる男ではないことは、断言できる宙だ。彼に唄うのをやめ
させるには、後で噛み付かれるのを覚悟で気絶でもさせるしかないが……
「本気で、その手を考えた方がいいかもな……」
 球体は、よほどバサラの歌が気に入ったのか、脈動するように収縮を繰り返すその大きさは、倍近い大き
さになっている。
 そこで、宙は根本的なことにようやく気がついた。
「なんで、このタマっころ、バサラの歌に反応してんだ!?」
 コイツには歌を聞く耳があるのか!? コイツ生命体!?
 輝きは既に月と並ぶくらいの明るさに、そしてさらに激しく脈動を増す球体。コイツの正体云々は後回し
にして、本格的に逃げる算段をした方が良さそうだ、と宙はバサラをどう気絶させようか考え始めた時だっ
た。
『この反応は……』
 ボルフォッグが声に焦りを滲ませ、警告してきた。
『ゲッター線照射量、激増しています! このままでは、早乙女研究所の二の舞になる可能性が!』
「二の舞って、また行動不能になるってか!?」
 それはマズイ、と思った瞬間、宙の世界は白に包まれていた。
 あれだけ響いていたバサラの歌が、遠くなっていく。白い光にすべてを包まれた中、宙はバサラではない
誰かが唄う声が聴こえた気がした。


「まったく、バサラ君にも困ったモンよ」
「……ご苦労様です」
 ビックシューターにミサトを乗せ、佐渡島まで戻る機中。バサラが犯した数々の法律違反を、無理矢理収
めないといけない彼女の立場を考えると、美和としても心から同情するばかりだ。
 本来、彼女が来るまでもなく、部下の日向マコトにでも命じてバサラを形ばかりの拘束をして、基地に連
れてくれば済む話なのだが、バサラのキャラを考えると、そのまま世界放浪の旅に出てしまう可能性もあり
えるので、とりあえず司令自ら説得しました的な既成事実を作っておくべく、ミサト自ら出陣を決めたのだ
った。
「で、そのタマっころ、卯月さんも見たの?」
 佐渡島で発見された、ゲッター線を発する謎の透明球体。上空で哨戒にあたっていた美和からは視認でき
なかったので、何て説明したらいいか、うまく言葉がでない。。
「宙さんの報告を聞いても、漠然としか想像できなかったですね」
「……私も映像見せてもらったけど、なんか出来損ないの心霊映像にしか見えなかったわ」
 佐渡島が見えてきた。いまだ避難勧告がでている島に、人家の灯りは見えない。漆黒の闇の中にうっすら
と浮かぶ島の影は、横たわる巨大な獣を美和に想像させた。
「ん、ちょっと、アレなに?」
 ミサトが驚きの声を上げたのと同時に、美和もその原因だと思われるモノを見つけていた。
 先ほどまで、闇に包まれていた島の一画から、白い輝きが見えたのだ。
「……あそこ、宙さん達がいた場所かもしれません」
 湧き上がる焦燥に駆られ、美和はビックシューターを増速させる。瞬く間に、機体はその光点の上空に到
達したのだが……
「あれ、消えちゃったわね……」
 ビックシューターが、光点の上空に差し掛かった途端、その発光現象が終わってしまった。
「着陸します!」
 美和は、ミサトの確認を待たず、ビックシューターを垂直降下させる。目視での確認だが、見間違いでな
ければ、ボルフォッグの姿が確認できなかったのだ。この見晴らしのいい場所で、あの巨体が見えないこと、
それだけで異常事態だ。
「わ、ちょっと卯月さん、気をつけて!」
「すいません!」
 形ばかりの謝罪をしながら、着陸。最後に機体が思いっきり跳ねて、ミサトの
「ギャフン!」
 というアナクロな悲鳴が聞こえたが、それも気にせず、ビックシューターから降りる美和。降り立った地
には、ボルフォッグどころか、そこで控えていたはずの宙とバサラの姿もない。
「宙さん、宙さん、どこ!?」
 パートナーである宙の姿を呼ぶが応える声はなく、美和の呼びかけは夜に吸い込まれていく。
 焦燥と不安に駆られ、思わず見上げた空には……
 謎の球体が変わらず、その場に浮いていた。


 熱気バサラ、司馬 宙、ボルフォッグが佐渡島で行方不明になった。
 極東基地の面々が、その報告を聞いたのは、長い一日がようやく終わろうとした時だった。
「まったく、何て一日なのよ……」
 驚き疲れたアスカのもらした一言は、きっと極東基地に待機する旧αナンバーズ共通の感想であろう。
 


 シンジ達の跳ばされた世界に話を戻す。

 純夏が、そのメロディの存在を知ったのは、横浜ハイヴから助けられた後、武と再会した時だった。
光神の力で助けられた二人だが、武は純夏と違いすぐには意識が回復せず、昏睡状態が続いていた。
 二人の身柄は、救出された数時間後には、即位間もない悠陽が全権をもって保護することを決定しており、
軍部による不当な拘束や、研究機関での人体実験などの非道な目にあうことはなかった。しかし、救出直後
には意識を取り戻していた純夏は、昏睡中の武の代わりに、悠陽との謁見や、救出前後の事情説明を一人で
引き受けることになり、武と、しっかり時間を取っての再会は、一週間経った後だった。
 病室のベッドで静かに眠り続ける武を見て、その手を取って、純夏にはわかった。何故、武が意識を取り
戻さないの、その理由が。
 武の意識、いや魂と言えるものは、あの兵士級BETAに喰われそうになった時に、殺されてしまったのだ
と。このままでは武が、目を覚ますことはない、純夏にはそれがわかってしまった。
 奇蹟とも言える力によって助けられたのに、武は目覚めることがない。その絶望に涙がこぼれそうになっ
た時だった。
 頭の中で、何かが聴こえたのだ。聴いたことがないはずなのに、深く心に染み込んでいる、そんなメロデ
ィが、純夏の中に満たされていった。
 自然に、そのメロディを口ずさむ純夏。先ほどまでの絶望は純夏にはもうない。武は助かる。目を覚ます、
そんな確信が芽生えていた。
 そして武の手を握り、そのメロディを口ずさんでいると、
「……すみか、うるさい」
 と武が、小さい寝言をもらした。程なく、目を覚ました武を迎えたのは、歓喜の涙を流す純夏の笑顔
だった。

 武を目覚めさせた、あのメロディは何なのか?
 純夏自身にも、答えが分からぬまま、その旋律の力を再び使う機会が、また訪れた。悠陽の元に引き取ら
れ、悠陽に協力することになった香月夕呼に引き合わされた時だった。
 その時も、横にチョコンと霞が座り、純夏と武の話を夕呼のフィルターとして聞いていたのだが……
 話が光神に助けられた時に差し掛かった時だった。
 霞が突然、白目を向いて倒れてしまったのだ。
 夕呼が咄嗟に、応急処置を施すが、霞の意識は戻らない。と言うか意識そのものを刈り取られたのように、
何の反応の示さない霞。霞が純夏、もしくは武のリーディングを行った際に、光神についてのイメージが霞
の意識を侵食し、肉体にまで影響を与えたと、夕呼は判断するが、このような症例、前例がない。
 どうすればと、夕呼が珍しく迷っていた時、純夏は導かれるように霞の手を握っていた。
 そして、武を目覚めさせたメロディを口ずさむ。この心の中に溢れる不思議な力を、霞に伝えるように。
 見る間に、霞の中に生命力のようなモノが蘇っていくのが、夕呼にもわかった。
 霞は程なく、「あぅ……」と言う声を上げて目を覚ます。
 夕呼は、純夏に礼を述べると共に、二人に霞の能力を告げ、記憶を勝手に霞に読み取らせていたことを
詫びた。
 霞も、自分の異能を知られたことで、怯え、夕呼の後ろに隠れるが、そんな彼女に純夏と武は、手を差し
伸べる。普通の境遇でなくなり、自分でもわからぬ異能を身につけている自覚が芽生えていた二人には、霞
が他人に思えなかったからだ。
 以来、三人は家族のような絆で結ばれている。
 そして、霞の危機を再び救った純夏は、知ることになった。
 そのメロディの正体を。


「シンジくんの世界の、歌なの? これ……」
「えぇ……」
 光神と呼ばれているゲッター以外に、見つかった新たな自分の世界との接点に、シンジは逸る気持ちを抑
えていた。
 シンジの説明を聞いた純夏や武も、思いもよらないシンジからの説明に、ただ目を丸くしている。そして、
夕呼はというと、
「そう……」
 と短く呟いて、深い考えに沈むように、顎に指をあて、顔を伏せる。
「純夏さんが知っていると言うことは、やっぱり竜馬さんから教えられたのかな?」
 シンジが聞いた純夏と竜馬と思しき人物との邂逅は、幻想的で抽象的であり、歌と言う記憶のやり取りを
どうやって行ったのか、想像がつかないが、何か神秘的な力でも働いたのだろう。そんな感じでシンジは納
得することにした。
「このメロディっていうか、歌って、アンタの世界では特別なモンだったの?」
 夕呼が訊いてくる。その鋭い眼光は、目まぐるしく彼女の脳が回っていることを知らせているようだ。
「えぇと、説明が難しいんですが……」
 あの歌、『GONG』が起こした奇蹟を説明するには、まず霊帝ケイサル=エフェスから入らないといけな
い。だが、あの最悪の存在については、αナンバーズ内では秘匿にするということで決まっており、シンジ
自身も、できれば思い出したくもない。
 ここは自分の世界ではないから構わないかもしれないが、霊帝に対しての心理的抵抗は二年以上たった今
でも、シンジの中では大きいモノなのだ。
「今は、事情や背景はいいわ。『誰が歌っても』特別なのかだけ教えて」
 シンジの中の逡巡を読み取ったように、夕呼が言う。それなら、とシンジは答える。
「誰が歌っても、ということはありません」
 GONGは名曲だし、気分を高揚させるモノがあるが、シンジが魂こめて歌っても、霊帝の負の無限力をか
き消すことは不可能だったろう。考えてみれば、歌で奇蹟を起こしたのは、曲もだが歌い手の力が重要なの
ではと、シンジが気づくと、ある事実が導きだされた。
 純夏さんには、バサラのような、特別な能力があるのかもしれない。だから光神と交信できるのか、光神
と交信できるから身に付いたのかまではわからないが。
 夕呼と目が合う。彼女が小さく頷いたことで、夕呼はシンジにその事を気づかせたかったのだと気づいた。
「あ!」
 いきなりの素っ頓狂な声。発した純夏に注目が集まると、
「た、大変です! こ、光神様が、なんか言ってます!!」
 と、彼女は寄り添っていた武の腕を、興奮からかバシバシと叩きながら言う。
「純夏、まず落ち着け。そして俺を叩くな」
 顔をしかめながら、武が純夏を落ち着かせようとなだめている。純夏が容赦なく叩いているので、けっこ
う痛いのだろうと、シンジは同情する。
 だが、シンジには、いま純夏が何故、光神の声を聴けたのかが、よく分からない。その疑問が顔に出てい
たのか、夕呼が説明してくれた。
「鑑は、場所を選ばず光神に何か反応があったら、それを感知できるのよ。光神が居る横浜にいけば、言語
かされたメッセージを聴くこともできる時もあるわ」
 精神感応系の能力が、純夏にあるということで、シンジは納得することにする。しかし、真ゲッターだか、
竜馬だかわからないが、こっちの世界に来て、ずいぶんと神懸った存在になってしまったみたいだ。
「託宣、みたいなモノですか?」
 シンジが自分なりに言葉を選んで言うと、
「まぁ、そんなモンよ」
 と、夕呼が肯定。二人の視線は、目を瞑って、ウ~~ンと唸りながら意識を集中している純夏に向かう。
額にわずかに脂汗が浮かんでいるのを見ると、光神との交信は純夏に負担を強いているようだ。
「えっと、うっすらですけど、あの、意味の分からないお言葉が、聴こえました……」
 ここから横浜にあるという光神こと真ゲッターが居るというクレーターまで、どれくらい距離があるか想
像できないが百キロ単位で離れているのは間違いないだろう。シンジと夕呼、武がそのお言葉を純夏が言う
のを待つ。
「えっと、聞き間違いじゃないと思うんですけど……」
 純夏が、躊躇いがちに、口を開いた。
「……ぼんばー、だそうです」
 夕呼、武は呆気に取られ言葉が出ないようだが、シンジはと言うと、純夏の言葉が予想の斜め上を行った
為、驚く、というより脱力してしまった。
「碇、アンタには、今の言葉の意味、わかるの?」
 夕呼が、そんなシンジに気づき、訊いてくる。が、答えたくても、頭の中で答えがまとまる状態ではなか
った。何で、ここで熱気バサラ、というより彼が所属するバンド、ファイヤーボンバーの決めセリフとも言
える『ボンバー!!』が出たのか、想像すらつかない。
「ゴメンなさい、ちょっと、頭がついていかないので、整理する時間を、ください」
 自分の座っていた椅子に戻り、すっかり冷めたお茶を一口飲んで、深い溜息をつくシンジ。
「ま、いいわ。おいおい時間を掛けて、ゆっくり解明させていただきましょう。アンタ達も、横浜に連れて
いきたいからね」
 夕呼は、これ以上、今のシンジにこの事を問い詰めても、整然とした回答を得るのは難しいと察してくれ
たようで、問題を棚上げにしてくれた。この気遣いには、救われた思いのシンジだった。
「よろしくお願いします」
 と、霞が倒れてからの騒動が、一段落したと思えたら、
「失礼します」
 の声と共に、ドアが開く。席を外していた悠陽、真那、真耶が連なって戻ってきた。そこでシンジは、大
作の居る島に米軍が強襲を掛けてきたことを思い出す。そちらは、大作が居るので、まったく心配していな
かったので、すっかり頭から抜けていたシンジだった。
 戻ってきた悠陽には、わずかに疲労の色が伺える。席に座り、いつの間にか夕呼と霞の使っていた椅子を
並べて寝かされている霞に目を向けるが、
「少しトラブルがありまして。殿下がお気になさることではありませんわ」
 と、立ったままになった夕呼の言葉に、小さく頷いて、自分が居ない間に起きた変事をさらっと流す悠陽。
けっこう光神関係で重要なことが起きまくった気がするのだが、どう切り出していいかタイミングが掴めず、
悠陽の言葉を待つことにしたシンジ。まずは大作たちの方からだ。
「少し、面倒なことになりそうです」
 と悠陽が、大作が居る島で起きたこと、そして米国の対応を簡潔に説明する。
「米国は、攻撃していない、と言ったんですか?」
 このまま継続的にちょっかい出されたら厄介だと思っていたのだが、まさか虚言で来るとは考えていなか
ったシンジ、この展開の意味を考えるが、先ほどのボンバーダメージが大きく、頭が上手く働かない。
「そう来ましたか……」
 夕呼は、悠陽の短い説明だけで、米国の出方の意味に見当をつけたようだ。ホント、頭の回転の速さが尋
常ではない人だと、シンジは感心すると共に、別行動している隼人の行動が気にかかった。夕呼並に頭が回
る人だから、心配はしていないが、そろそろ年長でありIQ300超えの彼に、色々報告し、意見を聞きたい
ところだ。
「えぇ、舵取りが難しくなります。国内からの圧力も、強くなりそうですし……」
「殿下は親米派の仇敵ですものね」
「それはお互い様です、副司令」
 お互いの意見を交換せずに、同じ結論は当然と言わんばかりに、話をする悠陽と夕呼。このまま話につい
ていけないのも癪なので、ボンバーで疲れた頭をフル回転させるシンジ。
 米国の報告が嘘なのは、大作と交戦した記録を日本帝国が開示すれば、一発でばれる。他国での武力行使
が外交上どれだけの問題になるかわからないが、諸国からの非難は免れないのでは、そこまで考えてあるこ
とに思い至るシンジ。
「……そうか、僕たちのことを公表しないと、米軍の攻撃理由を説明できないんだ」
 そして、それこそが、米国が無茶をした理由、シンジは確信を持ってそう思えた。
「あら、碇、ようやくわかったの」
 アンタにしては時間かかったわね、と揶揄するような夕呼の声。こちらは、天才である隼人の薫陶は受け
ていても、頭の基本スペックは凡人なのだから、無理を言わないでほしい。と心の中だけで不平を漏らし、
オモテでは、無難な愛想笑いでかわすシンジ。終戦後、シンジが一番成長した分野は、もしかしたら処世術
なのではないだろうか。
「いつまでも隠しておけることではありませんので、世界に向けて発信するつもりでした」
 悠陽が、自分が考えていたこれからの展開を語り始める。
 まず、夢物語としか思えない、シンジ達が異世界から来たという話を、現実の話としてこの世界に認めさ
せる。この為の根回しを国内から始めようとしていた矢先に、横槍が入り、段取りを組み直さないといけな
くなった。
 悠陽の、今後の苦労を考えると、自分が関わっているのもあって、そこはかとない罪悪感めいたモノを感
じてしまうシンジだ。
「さて、段取りは大まかではありますが、決まっています」
 悠陽の出す重い雰囲気を払うように、夕呼が言う。この人は典型的な仕切り屋気質だなぁと、シンジは思
った。
「殿下、早速動いたほうが良さそうですわ。内閣の方は?」
「榊首相は、こちらに付いていただけると思います」
「まぁ、首相への説明には、私も同席しますわ。専門的な説明もいることですし」
「はい、よろしくお願いします」
 と、言った具合に二人の間で、トントン拍子に話が進んでいく。シンジに出来ることと言えば、二人の会
話から、今後の展望を予想し、自分がどうすればいいかを考えるだけだ。これからしばらくの間は、シンジ
は、あの島での待機生活になりそうなのは、確実みたいだ。
 悠陽と夕呼、二人の間での話が終わりに差し掛かったと思えた時、
「あ、そうだ、碇」
 と、夕呼が思い出したように、シンジに話を振ってきた。
「あ、はい」
「アンタ達って、自分の世界に帰るアテ、あるの?」
 夕呼に言われ、シンジは我ながら脳天気だと呆れてしまった。自分は、あの世界に、自分の世界に帰れな
い、という心配をまったくしていなかったことに気づいたからだ。
 夕呼の問いは、この場の他の者たちに、様々な思いを抱かせたようだ。シンジに悠陽、真那、真耶、武、
純夏、そして質問者の夕呼の視線が集まる。
 この楽天的とも言える自分の考えが、また人を呆れさせるだろうと思いながらも、シンジは自分の思いを
告げた。
「その件に関しては、まってくと心配してなかったです。いつ、と断定はできませんけど、まぁ、帰れるん
じゃないかな、と……」
 やはりと言うか、予想通りと言うか、シンジを見る皆の顔が、微妙な感じになっている。夕呼だけは、や
っぱりね、とでも言いたげな苦笑を浮かべているのが、何だか悔しいシンジだ。
「その根拠は?」
 と夕呼。自分が見捨てられるとは、まったく思っていないシンジの楽天的思考を、言葉にして説明するの
は彼にも難しい。ただ、シンジがいま、言えることは一つだ。
「仲間を、信じていますから」


 こうして、戦艦『加賀』における、非公式の会談は終了となった。
 シンジは、再び真那の後ろを歩き、先ほど使っていた部屋に向かう。そこでしばらく待機したのち、大作
たちの待つあの島に帰還することになった。
 今後の連絡には通信は使わず、悠陽は武か純夏を、夕呼は島に送っている誰かを連絡係として、口答と文
書によって連絡を取り合うことになった。通信を傍受されることを、警戒してのことだ。
 他に、島の周囲二十キロを、飛行航行禁止区域にすることも決まった。その周辺地域の警戒には、大和級
を旗艦とした艦隊を編成し、それに当たるとのこと。
 大仰とも言える警戒かもしれないが、シンジ達のこの世界での価値を考えれば、これでも足りないくらい
だと悠陽と夕呼は言っていた。
 悠陽と夕呼は、やらなければいけない事がエベレスト並に山積している状態なので、即刻、『加賀』を離
れ帝都東京と新潟に戻るそうだ。
そして、シンジはと言うと……
 神代がドア前で待つ、シンジが使っていた個室に戻ると、神代が軽く目礼して迎えてくれた。神代がドア
を開けてくれ、真那に先導される形で部屋に入るシンジ。わずか一時間ほど休憩に使っただけの部屋だが、
ここに戻ってきて、ようやく肩の荷が降りた気がするシンジ。ベッドに腰をかけた時、我知らず、大きな溜
息が出てしまった。
「お疲れですか、碇様」
 そんな彼に労わりの言葉を掛ける真那。悠陽に、彼を島に送り届けるまで、加賀に乗艦することを悠陽直々
に命じられ、内心の喜びを面に出さないように自制するのに、必死だったりする。
「さすがに、色々あって、疲れました」
 苦笑気味にそう返すシンジ。確かに、彼にとっては激動とも言える一日だっただろう。彼はこの後、『加
賀』で島に向かい、限界水域ギリギリで、戦術機に乗って島に戻ることになっている。本当なら、その戦術
機も自分で操縦したい真那だが、そこまでは高望みというモノ。今は、彼と同じ部屋にいるという幸せを感
受して満足する真那であった。
「僕の居た島まで、どのくらいかかるか、わかりますか?」
 シンジが、この艦に来る際に着ていた、白いツナギのような服を手に取りながら真那に訊いてきた。
「三時間ほどかかるかと…… 碇様、お着替えになられるのですか?」
 今の服を脱がれるのは、心惜しいが、今、手にとっている服を着ている姿も捨てがたい。と言うジレンマ
に一人煩悶する真那、そんな彼女の複雑な思いに気づくわけもないシンジが、答える。
「だって、これ借り物ですから。あ、でも下着とかもそうか……」
 そう言えば、シンジは着の身着のままで、この世界に来てしまったので服も、あの白いのしかないとのこ
とだった。これからのシンジの生活に不自由が生じてしまう、そう思ったら、
「わかりました、万事この月詠にお任せ下さい」
 体が勝手に動き出す真那だった。シンジに一礼して、部屋の外に出て行く。
 使命感に燃える真那、その背中を見送る形になった神代は、肩をすくめるしかなかった。


 そして、『加賀』の飛行甲板上。武御雷二機、瑞鶴改、不知火二機が肩を並べて駐機している。
 瑞鶴改を挟んでいる為、武御雷の脚元に立つ山城少尉と、不知火の脚元に立つ宗像、柏木両名との間には
距離があり、それにお互いの立場も考え、干渉しあわないで居た。
 シンジを生で見て、そのことで盛り上がっていた美冴と晴子だが、ふと晴子が視線の先にいる山城を見て、
ある記憶の引き出しが開いた。
「あの、斯衛の衛士さん、どっかで見たことあるなぁって思ってたんですけど……」
 晴子の言葉に、美冴も彼女に顔を向ける。言われてみると、どことなく見覚えのある顔だ。
「彼女、『京都の奇蹟』の人じゃないですか?」
 『京都の奇蹟』。そのキーワードで、宗像も彼女が誰であるかを思い出す。
「ほう、あれが、山城上総少尉か……」
 横浜ハイヴの光神による消滅、と言う後に起きた大事件の為、霞んでしまったが、彼女も確かに奇蹟の名
にふさわしい、生き残り方をした人物。美冴より年上のはずだが、まだ少尉なのは、昇進には、家格も関わ
ってくる斯衛だからだろうか。
 彼女の方も二人の視線に気づいたらしく、軽く会釈をしてくる。美冴と晴子も同じく会釈だけして顔を戻
す。
「何か私達、けっこうラッキーですね。将軍様だけでなく、横浜と京都、両方の奇蹟の当事者を見れたんで
すから」
 そう言う晴子に、
「それに私は、正体不明の少年にも会えたしな」
 と自慢気に加える美冴。懐かしの母校の制服を着たあの不思議な雰囲気の少年のことを思い出す。イカリ
シンジ、あの少年の為に将軍と副司令が、わざわざ洋上まで出向いてきたのだ。そんな重要人物の顔を拝め
た事が、美冴にとって、今日一番の収穫だった。
 遠くから、ヘリのローター音が聞こえてきた。あのUNブルーはきっと夕呼の迎えの機体だろう。美冴と
晴子は、このまま彼女に随伴して、新潟に戻ることになるだろう。
 きっと、あの少年絡みで動いていると思われるデリング中隊の面々が、少し羨ましいなと思い、その考え
に苦笑する美冴。
「どうしたんです、宗像中尉?」
「いや、今回は鳴海中尉達の方が珍しく当たりだったのかなと思ってな」
 あの少年との接点が、このままデリングに取られるのも、伊隅ヴァルキリーズの一員として、何か納得い
かない。後に、鳴海孝之から、自慢気に彼のことを語られるかと思うと業腹でもある。
 そんなことを考えていると、艦橋から夕呼、霞が並んで現れた、と思ったらその後から、強化装備姿の白
銀、鑑両名、斯衛の赤服の強化装備の士官、そして最後に煌武院悠陽殿下が現れた。
 慌てて直立不動になる美冴と晴子。悠陽が武の誘導で着艦したヘリに乗り込むのを視界の端で見送りなが
ら、近づいてくる夕呼に敬礼をする美冴。
「宗像、柏木。アンタ達両名は、このまま『加賀』に搭乗。ある場所で、さっきの碇をある島まで、あっち
の武御雷が運ぶのに付いて行って、そのまま彼らに随伴して。それと、明日0800時に新潟に着くように
誰か不知火で寄こすように平に伝えて。これより、緊急時以外は無線通信の使用は禁止、わかった?」
 夕呼らしい理由の分からない命令を、内心のほくそ笑みを面に出さないように努めながら、美冴は
「了解しました」
 と返す。じゃあ、頼んだわよ、と背を向け霞と共にヘリに向かう夕呼を見送りながら、美冴は小声で呟い
た。
「面白くなるのは、これからか……」
 

「そういうわけで、山城、お前はある御仁を、この座標にある島まで運ぶ任についてくれ。そして、明日、
白銀がその島に向かうまで、その場で待機。その間、お前が乗せる少年以外に、その島にいる少年のことを
できる限りの範囲で構わないから調べて見てくれ。いいな」
 月詠真耶の命令に、敬礼して、
「了解しました」
 と短く答える山城上総帝国斯衛軍少尉。そのまま、隣りに駐機していた武御雷に搭乗する真耶を見送って
いると、中天に輝く満月が見えた。
 ふいに、その唇に微笑みが刻まれる。
「やっと、始まるのですね…… あの御方が仰っていた、救いの刻が……」
 そう呟いた彼女の声は、海風に運ばれ、そのまま消えていった。


【ちょい、後書き】
 前回、素数で恥ずかしい間違いがありました。知らなかったんじゃないよ、間違えただけだよ、と言い訳をして、こっそり修正しておきます。ちなみに、次で、長い一日が終わる予定です。



 


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