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[18636] 【習作】このMMOは荒れている
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5
Date: 2010/05/24 01:01
修正しました。







0.始まりの大乱闘





「・・・なんでこうなった?」

半ば現実逃避にも似た困惑の声が思わず口から飛び出てしまったほど、眼前の光景は常軌を逸していた。






ここは大き目の体育館を縦に4つほど並べた程度の広さのある洞窟のような空間だった。

天井もそれなりに高い。ただし、壁といわず天井といわず、赤と黒を基調とした不規則で乱雑かつ意味を持たない落書きのような、不気味な文様が刻み込まれている。おまけにところどころ生き物の血管のように脈動していて気持ち悪い。

そして、その空間を無数に埋め尽くす奇怪な生き物の群れ。

原色のグロテスクな肌に、肉体のバランスを無視して不自然に膨れ上がった筋肉。見た目は極悪なほどに醜悪で、しかも爪や牙は実用性があるのかどうか疑わしくなるほどに長く伸び、口からはダラダラと生理的腱を催す大量のよだれをたらしている。おまけに手に手に血まみれ且つ錆まみれの鈍器を持っているので、なおさら絵面が酷い。



彼らは周囲に群がる人間に無差別に攻撃を仕掛けているのだが、・・・まあ、そんなものはこの際どうでもいい。

何より唖然とさせられるのは、その怪物どもをガン無視して、ド派手な殺し合いをし続けている無数のプレイヤーの群れだった。



一様に耳が長かったり、獣のような顔つきをしていたり、背丈が常人の半分ほどしかなかったりと、様々な種族が入り乱れている。共通する特徴は、そろえたように美形ぞろい(ただし、どこか画一的で、企画化された印象を受ける)であること。そして、その頭上に燦然と輝く文字が浮かんでいること。それは、彼らの名前である。

大半は、やたらとキンキラに派手だったり、逆に不気味だったりとデザインの方向性に差異はあるものの、いずれ実用性皆無の装飾過多な甲冑を着込んでいる。そして、もう半分はTシャツ、浴衣、メイド服にゴスロリドレス等といったコスプレ衣装を着込みながら殺し合いに精を出していた。酷いのになるとセーラー服や学生服、バニーにナース。極め付きはブルマに体操服だろうか。

さらにいえば、彼らが身に着けているアクセサリーの類も鼻眼鏡、うさ耳、眼帯、チェーンピアス等々、あまりに雑多で規則性がない。

顔だけは美形極まりない色物集団が、手に手にイカツイ武器を構えて全力で殺し合いをしている光景というのは、なかなかシュールだった。



そして、この大乱戦のさなか、その他大勢のご他聞にもれず、嬉々としてPKに走る馬鹿野郎三名。



一人は、やたらとキンキラと派手な鎧と片手剣に大型盾を装備した男性キャラ。

「なかなかやるな!」「俺の本当の力を見せてやる!」「俺をここまで追い詰めたのは、お前が初めてだぜ!」等等、痛すぎる言動を乱発しつつ、大剣と盾を振りまわし(この盾にも一応攻撃判定があるのだ)、攻撃スキルを連発している。

だが、相手に与えるダメージは微々たるものでしかない。逆に、周囲からタコ殴りに殴られている(まあ、気持ちは分かる)のだが、どれだけ攻撃されても頭上のHPバーはほとんど減らず、少したてば元に戻ってしまう。

体力が高めに設定されたヒューマンという種族の中でも、さらに防御スキルに特化してパーティを守る盾となる職種、”肉団子”の愛称で知られる上位二次職『ディフェンダー』。ステ振り次第では、常軌を逸した物理防御力を持ち、どんだけ殴られようが生き残ることができる。そのため、最後には気絶や睡眠、スタン等の妨害スキルをかけられて放置されている始末だ。



もう一人は、真っ赤なタキシードのような服装に身を包み、同じく真っ赤なシルクハットを被った、狼のような顔つきの男性キャラ。

収支無言で、ふっとプレイヤー達の手前に出現しては、両手に装備した鉤爪状の武器を使った連続攻撃を叩き込んでいる。

対人戦闘に特化した種族、コボルトの上位二次職『プレデター』。その基本戦法は、ハイド(自身のレベル+5以下の相手に姿が見えなくなるスキル)で密かに忍び寄り、妨害スキルの嵐で反撃を封じ、その隙に高速の連打を叩き込むというものだ。一撃の威力は非常に小さいのだが、高確率で発生する強力なクリティカルによって、瞬く間に相手のHPを削りきってしまう。

このような乱戦において『戦っていたと思っていたら、気がついたら死んでいた。なにを言っているのかわからねぇかもしれないが(ry』な状態になったら、間違いなくこいつの仕業だ。



最後の一人は、片手に自分の身長の倍程もある巨大な石弓を携えた、笹穂状の長い耳が特徴的な女性キャラ。

戦場をすさまじいスピードで移動しつつ、ケタケタと謎の嬌声を上げては無差別にプレイヤーを狙撃している。

弓による遠距離攻撃を得意とする種族、エルフの上位二次職『レンジャー』。攻撃射程距離は全職中随一、しかも威力の高い単体攻撃スキルが豊富で、広いフィールドでの対人戦では最も恐れられている。何より、自身の移動速度と攻撃速度を倍以上に引き上げる特殊なバフスキルを持っているため、他職が攻撃できる距離に到達した頃には(大抵は近づく前に殺されてしまうのだが)、はるか遠くに逃げられてしまう。




・・・とまあ、ここまでくれば察しのつく方もおられるだろうが、これは、とどのつまり、とあるオンラインゲームの中の光景なのである。

友人たちと気楽な気持ち出始めた某大作MMORPG。広いフィールドに多種多様なモブやクエストを用意してあるため、あらゆるレベル帯のプレイヤーをあきさせず、また、生産や築城、商売クエスト等も完備していて、戦いを忘れてまったりしたい都市型プレイヤーにも配慮している。その他にも遊び的なコンテンツが充実し、あらゆるプレイヤーのニーズに答えている。

PVP要素にも重点を置いていて、ギルド戦、タウン戦、攻城戦等の大規模戦闘もあれば、街中や安全地帯を除くすべてのフィールドでプレイヤー同士の戦闘、つまりPK行為も可能である。



そして、上記の三名こそ、俺とともに一緒にこのゲームを始めた友人たちだ。

それが、どうしてこうなってしまったかというと、とにかくすべての始まりは、今をさかのぼること半年前。春の盛りも過ぎた頃のことだった。






1.麻雀なんて所詮は運だけのゲームさ!






「ロ~ン!リータンピンドラ1!」

俺の差し出したサンゾーに、耳障りなほど高い声でそう言ったのは、対面に座る白木だった。こいつはかなりの童顔+女顔で、声まで並の女より高いものだから、見た目殆ど女にしか見えない。だが、麻雀の腕はお粗末だ。

その場のノリと自らの手役だけを追いかけるので、手が読みやすく、下席に座った奴は好きなだけ鳴くことができる。だが、それだけに一度調子に乗らせると爆発力がある。事実、今日はこいつの連勝だった。

「裏ドラは・・・キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !!ドラ3で跳ねた!」

ガッデム!

両サイドの怪しい動きを警戒して思わずションパイを切ってしまったのが不味かった(ドラ含みのイーシャンテンに目がくらんだというのもある)。よりによって白木ごときに高目を振り込んでしまうとは、俺様一生の不覚。

右席に座っていたロンゲ眼鏡こと青崎が、さも面白そうに自らの手牌を公開した。

「あひゃ♪赤羽ちゃん、油断したねえ」

ノーテンかよ!

しかも殆ど手になってねえよ!そのくせサンゾーとロッソーだけはちゃっかり抑えてやがるよコイツ!

人の河をちょくちょく気にしていたあの態度はブラフか (゚Д゚)ゴルア!罰符もんじゃあ!

常に人の手を読み、心理戦をしかけ、油断したところをダマで高目を食らわすこの男の麻雀は本当にいやらしいことこの上ない。いつか後ろから刺されんぞ。

「・・・な、なあ、もしかしてだけどさ、俺も上がってないか、これ」

左席の黒澤は黙って俺の切ったサンゾーと自分の手牌に視線を行き来させていたのだが、そう言うと牌をオープンした。

まさかダブロンじゃあるまいな(俺たちルールではダブロンは有りなのだ)、と思いつつ役を確認したのだが、

「馬鹿野郎!手になってねえじゃねえか!」

「え?なんで?ちゃんとテンパイしてるだろ?」

確かにテンパイはしているのだが、そもそも麻雀は役がないと上がれないということすら分かっていないらしい。誰だ、コイツを卓に誘おうなんていいだしたのは。

と、考えたところで思い出した。誘ったのは俺だ。今日はいつも麻雀を打つ面子がそろわなかったので、人数あわせに呼んだのだが、ここまでつかえないとは思わなかった。

「飲み物もって来るですよ~♪」

やたらと機嫌のよさそうな白木の声がまたムカつく。いつもは3着と4着の間を行き来してるくせに生意気な。

ちなみに、ここは白木の部屋だ。先ほどまで麻雀を打っていたコタツと、勉強用の机、そして机の上におかれたノートパソコン以外には特に何もない。俺も含めて他の面子の部屋は、その、なんだ。ほぼゴミで埋め尽くされているため、自然と麻雀を打つときは白木の部屋に集まるのが通例だった。

「あ~も~負け負け。ケツの毛までむしられて鼻血もでねえ」

『"ドラドラの実"の能力者』の異名をほしいままにする俺様だが、今日はとことんドラに嫌われているらしい。

ため息をつくと、白木の差し出した水割りを受け取った。薄めに割った『いいちご』が渇いた喉に心地いい。

「でも麻雀も飽きたな。金賭ければ違うのかもしれないけど、俺たち賭けられるほどの金ないしな」

「確かに、ちょっと食傷気味かな」

もともとこの面子は、アニメで火がついた某カードゲームの元ネタとなったTCG(トレーディングカードゲーム)をするための集まりだった。

ところが、カードゲームというのは次々に新しいカードが出てルールも変わっていくために、とにかく金がかかる。バイト三昧でも万年金欠の貧乏学生が続けるのは難しい。そこで、いつしかその他のゲームに手を伸ばし、ここ数ヶ月ほど麻雀にはまっていたのだが、それも徐々に飽きていた。俺たちはギャンブルよりも、純粋にゲームそのものが好きなのだ。

そのつぶやきに反応したのか、


「じゃあ、ネトゲとかどうですか」


焼酎の紙パックを片手に、全員分の水割りを作っていた白木の一言が、すべての始まりだった。

「ネトゲ?ギャザの新しいパックか何か?」

「違うですよ、バネポン。パソコンのゲームですよ。インターネットに繋いで、みんなでパーティとかして遊ぶです」

どうでもいいが、こいつの話はいつも要領を得ているようで分かりにくい。

「知ってる、女の子拉致監禁して、ひやっほう!するんだぜ。俺、もう200本くらい持ってるYO!」

急に目を爛々と光らせて会話に参加してきた黒澤。つか、鼻息が荒いぞコイツ。うぜえ。

「違うですよ。普通のRPGです」

オナニーマスターでもやっとれ馬鹿チンが、と白木がぼそっと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。一見、人畜無害そうな男だが、こいつの腹の中が真っ黒であることはすでにこの場の(黒澤を除く)全員が気づいている。

「ん~~、ドラクエとかFFのキャラを、一人が一人づつ受け持ってパーティプレイする、と言えば分かりやすいですか?」

「俺は分かるよ。リネとかラグナロクとかだろ。実は前からやりたいと思ってたけど、種類が多いから、どれをやるか踏ん切りがつかなかったんだよね」

青崎が水割りのグラスを受け取りながらうなずいた。そういや、こいつもRPGとか好きだったな。

「バネポン、インターネットは部屋にあるですか。あとパソコン」

いまどきの学生だ。インターネットとパソコンくらいは普通に持っている。いずれ就職活動で必要になるからな。

俺がうなずくのを見ると、白木は机の上においてあったノートパソコンを起動させた。

「実は、僕も一昨日始めたばっかりなんです。ちょうど面白そうなゲームが、最近オープンテストを始めたんですよ~」

白木は慣れた手つきでブラウザを開くと、とあるホームページを表示させた。

「カース、オンライン・・・?」

『Curse Online』。やたら派手な装飾文字で画面には、そう表示されていた。

呪われたオンライン・・?デスゲームでも始まりそうなタイトルである。

「ああ、これなら知ってる。確か、一昔前に流行った洋ゲーが元ネタだろ。最近になってまた人気が出てきてた。そうか、ネトゲになったのか・・・」

青崎が感慨深げに画面を覗き込んだ。

「このページからアカウントの登録を行って、後はこのボタンをクリックするとゲーム本体をダウンロードできるです。テスト期間中は無料でプレイできますから、かなり遊べると思いますよ。まだ、妙な課金アイテムも出てないですし」

その分、ステ振りもスキル振りも失敗できないですけど~、などと妙にしたり顔でうなずく白木。

・・・まあ、どうせ暇だし、タダだというなら試しにやってやるのもいいだろう。

俺たちは今日の夕方(一晩中打ち続けたので、すでに日が昇っている)頃に、時間を合わせてゲームを始めると約束し、白木の家を後にしたのだった。






2.俺もエロフにすりゃよかったよ!






夕刻。

「この『信仰』ってところは埋めなくていいのか」

『そこはまだ選択できないですよ。ゲームを進めてレベルが20を超えないと選択できない仕様です』

「ん、じゃあこれでOKか・・・案外難しくなかったな」

件のホームページにアクセスしてゲームをインストールし、俺はなんとかキャラクターを作り終えていた(途中分からないところは電話で白木に聞いた)。

テレビゲームはドカポンや桃鉄、人生ゲームみたいなボードゲーム系が好きな俺だが、ドラクエくらいはやったことがある。特に、自分で好きなキャラを作れるⅢは大好きだったので、キャラの種族や職業、外見まで設定できるというのは新鮮な感動だった。

「バ、ネ、ポ、ンっと。おし、できた」

最後にキャラネームを入力し、俺は決定ボタンを押す。

『カースオンラインへようこそ!選ばれし勇者よ、これまでにない冒険の日々が、あなたを待っています!』

テンプレっぽい説明文とともに、俺の作成したキャラクターが、画面の中に登場した。

茶色っぽい皮製の鎧に身を包んだヒューマンの男性型キャラクター『BANEPON』。黒髪黒目の典型的な日本人の容姿だが、顔はもちろん超絶美形だ。しっくりとくる目と鼻と口、そして髪型の組み合わせを試して30分以上もかけただけのことはある。

俺がマウスを操作すると、画面の中のバネポンも動き出す。

「おお、できてる。動くじゃないか!」

さらにマウスを動かすと、我がキャラ・バネポンが画面の中を縦横無尽に走り回った。オラなんだかワクワクしてきたぞ!

俺は思わずガッツポーズのモーションをさせた。このゲームはとにかく無駄なほどモーションが豊富で、それだけでスキルスロットル(最大100個登録可能)が限界まで埋め尽くせるそうなのだ。

モーションを一通り試してみようと、屁をこいたり、土下座したり、インリンオブジョイトイ座りをしていると、別のキャラクターが走りよってきた。

それは、笹穂状の長い耳と、金髪の巻き毛(しかも縦ロール!)の女性キャラだった。確か、弓を使うのが得意な種族『エルフ』だ。

着ているのはバネポンと同じ初期装備の皮鎧なのだが、その上からでもムチムチバインなけしからん体形をしているのが分かる。しかも唇はピンクでぷっくりとしている上に青い目が扇情的で、まるで洋物AVの女優だ。その容姿といい、見事なオパーイといい、最近俺がハマッている某黒魔術エロアニメの登場人物を思わせる。

まったくけしからん。作ったやつ出て来い(注:褒め言葉)!

そのけしからんエロフの頭上には、もちろんキャラクターネームが表示されている。

『PAICAL』

パイカル・・・?白乾児(パイカル)か?。俺は一発で誰だかわかってしまった。

『しらきか?』

「やっほ、バネポン。ようやくログインできたですね。アオッチもクロスケも、先にチュートリアルゾーンでレベル上げしてるですよ」

ぴょこりと片手をあげるモーションをするエロフ。同時に聞こえてきたのは、やはり白木の声だった。この男は無類の酒好きなのだ。

『しらき、だよな。こえとかでてるけど、それって、どうやれば、いいんだ』

俺はどうにか指一本で、それだけを入力した。

キーボードとかは苦手だ。声で会話できるならその方がいい。

「ボイスチャットをオンにするですよ。マイクはパソコンに内蔵されてるはずですから、コンフィグ画面からサウンドタブを選んで、『ボイスチャット機能を使用する』をクリックするです」

『ふんふん、これで・・・テステス、マイクのテスト中、本日は晴天なり。・・・よし。それにしても、お前のそのキャラ、ナイスすぎ。勇者だなあ、おい」

白木め、おとなしそうな顔してとんだムッツリスケベだぜ(注:超褒め言葉)。

「かわいいですよ♪」

どうせやるならムサイ野郎より女に決まってんだろボケ、と呟くの白木の声を俺は聞かなかったことにした。それにしても、こいつはこの声で女キャラなんぞ使うと、まるで中身まで女に思えてくるのが笑える。(後にこれがある悲劇を生むことになるだが、この時は俺にも白木にも想像することすらできなかった)

「それより、バネポンがヒーラーを選んだのが僕的に驚きです。この手のネトゲで支援職は茨の道ですよ」

白木は妙にあきれたようにそういった。

確かに、俺が選んだ職種はヒーラーだ。

事前にこのゲームの紹介サイトを軽く読んでみたのだが、回復系の魔法を使えるのは今のところこのヒーラーという職だけらしい。さらにレベルを上げて上位職に転職すると、ベホマズンみたいな全体回復呪文とか、フバーハとかマジックバリアのような防御呪文も使えるようになるという。それが楽しみでたまらない。

「馬鹿。どんなゲームだって、回復魔法使える奴が一番強いんだぞ」

そう、どんなRPGだって回復魔法さえあれば格上のモンスターとだって戦える。体力多過ぎのラスボスだって、ベホマを掛け回してればいつかは倒せるのだ。そこに気がついた俺様はやっぱりすげえ。(実際のところ、俺はこの大雑把な判断を、後になって猛烈に後悔する羽目になる)

「まあ、パーティには誘われやすいですし、バネポンの勝手ですけどね。・・・さて、とりあえずみんなと合流しましょう。この先のゾーンでクエストしながらモブ狩れば、すぐにレベルあがるですよ~」

こっちです~、っとやたら陽気な声で白木のエロフが走り出した。そのたわわにゆれるお尻を目掛け、俺もまた我がキャラ『バネポン』を走り出させたのだった。






3.レベル上げとか超うぜえ






ゲームを始めて最初にキャラクターが表示されたのは、四方を塀に囲まれた建物の中庭のような場所だったのだが、その塀に丸く空けられた穴を通ってしばらく進むと、開けた場所に出た。

むちむちエロフのお尻に着いていった先は、やわらかい芝生の生えた野原だった。背の低い木々がまばらに生えていて、そこら中に小型の犬や、それと同じくらいの大きさの蜘蛛、あるいは蠍が這い回っている。おそらくこれが最初のモンスターなのだろう。

正直キショイ。犬はともかく蜘蛛やサソリは生理的嫌悪感を催すほど画像が作りこまれている。大きな足や鋏をウゾウゾと蠢かせているところなど鳥肌ものである。

この場所には俺達のほかにも、何人もの先客がいた。おそらく、俺たちのようにゲームを始めたばかりのプレイヤー達だ。

みんな、足元を這い回る生物を各々の武器で叩いて潰し、緑色の花を咲かせている。ちなみにこのモンスターがつぶれる時のモーションがまたキショイ。グエって感じの悲鳴を上げながら、全身から緑色の液体を撒き散らして消えていくのだ。頭蓋骨から目玉とか舌とか飛びでるモーションはとてもリアルで恐ろしくグロイ。ここの開発スタッフは妙なところに気合を入れているらしい(エロフの尻とかな!)。

「バ~ネ~、ようやくかよ。お前キャラ作り遅すぎ」

「BANEPONって、そのまんまじゃんw」

いきなりやってきて口々に文句を言い出す馬鹿二名。考えるまでもなくアホ崎とグロ澤だ。

二人のキャラも初期装備の皮鎧を装備しているが、手に持った武器と、鎧からはみ出た顔や手足に違いが伺える。

どうやら青崎は獣人種族のコボルトを選択したらしい。職業は盗賊(シーフ)だろう。両手に小型のナイフを持っていて、ザクザクと犬を刺し殺している。キャラクターネームは『青汁』。なにやら健康になれそうだ。

黒澤の方は俺と同じヒューマンなのだが、こいつは物理攻撃オンリーの職種、戦士(ファイター)を選んだようだ。小型の片手剣に皮の盾を装備していて、防御力が高そうだ。キャラネームは・・・・・・『ブラックナイト3世』。厨二病全開なのがこいつらしいとえばらしいが、本気で残念な子だなあ。

「とりあえず全員そろったところだし、レベルあげ続けるですよ」

白木はのんきそうにそういうと、自分の二の腕くらいの大きさの弓を取り出して、手近なモブを殴りだした。

・・・あれ?

「ちょ、おま、弓って殴る武器じゃねえだろ!」

そう、このエロフは弓を鈍器代わりにザクザクとモブを殴りだしたのだ。

「弓は近接武器にもなるですよ。初期のうちは下手な近接武器よりずっと役立つです。それに矢は消耗品ですから、ここでドロップ品をいちいちひろうのも面倒です」

そういいつつ、笑顔でモブをザグザグするエロフ。緑の返り血が顔に付着して(すぐに消えるのだが)、すっげえいい笑顔である。

「いいからバネポンも殴るです。2~3レベルくらいはこうやって殴ってればすぐ上がるですから」

俺が手に持っている武器も、青い水晶玉が先端についた短杖(ワンド)だ。明らかに近接武器ではないが、まだ魔法スキルも覚えていないので、現状では鈍器代わりにしか使えない。

俺は覚悟を決めて杖を振り上げると、手近な蠍に振り下ろした。

グチャっ!!

やたら不気味なな効果音が鳴り響く。

リアルなエフェクトに、肉を潰す感触すら伝わってきそうだった。

続けて攻撃すると、やがて蠍はつぶれて地面に解け消えるようにいなくなり、代わりに画面に表示されていた経験値バーがぐいっと上がった。なるほど、レベル1だけあってすぐに経験値が上がるようだ。

さらに続けて手近なモブを殴っていると、

チャーチャチャチャチャチョリ~~ン!!

やたらと派手な効果音とともにバネポンの体が一瞬だけ光り、頭上のレベル表示が1から2に上がった。

と、同時に

「おめ~」

「おめでとうございます」

「おめめw」

「おめっとさん」

あたりで狩りにいそしんでいたプレイヤーから「おめ」の嵐。

・・・なんだろう。すっげえうれしい。

「あ、あっざーす!!」

思わず最敬礼のモーションを発動してしまった。

そうか。これは確かにネットゲームならではの楽しみだ。普通のテレビゲームじゃ、レベルが上がってもだれも祝ってくれないもんな。

「ね、簡単にレベル上がるでしょう」

妙にニコニコとしているエロフ。

「この調子でサクサクやるです。ここでレベル5くらいまでは余裕ですから」

「お、おう!」

俺は改めて初めての狩りにいそしんだのだが、ふと周囲を見回せば他の二人も各々の武器を手にして、先ほどから甲殻類をザクザク狩っている。

「シネシネシネシネ、物理Ⅱの田村シネ!」

両手に武器を持って、どこぞの単位くれない教授を刺し殺す勢いの青崎に、

「俺の伝説はここからはじまるんじゃぁぁ!!!」

勇者様ゴッコで悦に入る黒澤。

・・・明らかに他のプレイヤーからもひかれている。

コソコソと他人の振りをしながら、俺は蠍退治を続けたのだった。



[18636] 【習作】このMMOは荒れている2
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5
Date: 2010/05/24 01:03
修正しました。





4.初めての×××





そろそろ狩場を移ろうかと白木が提案したのは、がっつんがっつんと犬と蜘蛛と蠍を殴り続け、レベルがもう三つほど上がった頃のことだった。

「ここじゃそろそろ不味くなってきましたから、外で狩るですよ~」

緑の返り血に染まったエロフ。この色が白かったらと妄想すると、俺様の○○○が少しヤバイことになっちまう。何せ、このゲームはマウスとキーボードと両方使うから、両手がふさがってしまうのだ。

「・・・そ、そうだな、そろそろ、緑以外の血が見てえ」

先ほどまで夢中になって甲殻類を刺し殺していた青崎も、我に返ったようにうなずいた。クケケケケと不気味な笑いも漏れ聞こえてくるが恐ろしい。ハアハアと息切れの音までマイクに拾われて響いてくる。・・・どんだけ興奮してるんだ。

こいつは途中から教授連中の名前だけでは飽き足らず、女の名前を(彼女か?ふられたのか?いい気味じゃあw)連呼してザクザクザクザクと何度も何度も刺突を繰り返していた。

ちなみに、青崎の選んだコボルトという種族は、平たく言えば狼人間で、灰色の毛に覆われた人間の体に、狼の頭が乗っかっているという外見をしている。

ギョロギョロと蠢く黄色い目玉や、びっしり生えそろった牙、そして真赤な舌が牙の合間から出たり引っ込んだりというモーションのオマケつきである。これがボイスチャットを通して聞こえてくる吐息と相まって、ただひたすら怖かった。

つか、青崎、思ってたよりあぶねえ奴だったようだ。

俺が友人のひそかな一面を見てドン引きし、関係を見直そうかと思案しているうちに、話はまとまったようだった。

「チュートリアルを抜けると各種族の街に飛ばされるです。みんな、街に飛んだら雑貨屋で『イタボン』行きのワープ石を買うですよ。イタボンは今オープンになってる都市の中では唯一種族に関係ない中立都市ですから、どこでもイタボン行きのワープ石が売ってるです」

「ちょい待ち、俺達ほとんど金ないぞ。そのワープ石はいくらするんだ?」

「だいじょぶですよ。100バカラもしないですから、さっきのドロップで十分買えるです」

バカラというのがこのゲームの通貨らしい。俺も蜘蛛や蠍を叩きながらドロップアウトした金貨なんかを拾っていたのだが、いつの間にか200バカラほどたまっていた。ついでにドロップアイテムをNPCあたりに売れば、もう少し金が手に入るだろう。

「この時間なら大丈夫だと思いますが、ラグったり落ちたりしたときは携帯で連絡するですよ。何せ、オープンテスト始まって日が浅いから、すっごい数のご新規さんいらっしゃい状態で、大きな町はラグりまくりです」

運営め、値踏みしてねーでとっとと鯖増やせやカス、という白木のボヤキを華麗にスルーしつつ、俺はマップボタンを押して町の場所を確認した。

ヒューマンの町は、マップの西側に位置する海に面した場所にあった。名前は、『ベルロンド』。どうやらこのゲームのフィールドは、西側を海に面した巨大な大陸の形をしているらしい。どことなくヨーロッパによく似ている。そういう意味で言えば、ベルロンドはスペインのあたりに位置していることになる。集合場所のイタボンは、ちょうどマップの真ん中、ドイツがある辺りだ。

・・・そういや、ラグって何だろう?

「特にバネポンは気をつけてくださいね。ヒューマンは一番人口が多いですから、街も混雑してるですよ。どの種族のどの職が強いか分かっていない現状では、HPにプラス補正のあるヒューマンは安牌なんで人気高いです」

なるほど。確かに俺もHPが多めって聞いて種族をヒューマンにしたからな。

で、ラグって何よ?

「え?じゃあ俺も気をつけなきゃジャン!!」

「・・・僕とアオッチは不人気種族ですから、町にもあんまり人いないですよね」

「だな。むしろイタボンの方が危なくないか?中立地帯の方がジョブ関係なく人集められるから、野良パーティの募集とかで人多そうだろ」

同じヒューマンだが、黒澤のことはすでにアウトオブ眼中らしい。いや、気持ちはわかる。

そして、どうやら言動から察するに、黒澤にも『ラグ』なる現象がどういうものなのか、わかっているようだ。

畜生、黒澤ごときでさえ知っていることを、聞き返すのも恥ずかしい。

まあ、ラグというのが何かは知らんが、とりあえず落ち合う場所さえ知っていればどうとでもなるだろう。

俺は気楽に考えると、再びエロフの尻を追いかけて走り出した。

目指すは、だだっぴろい平原に、一つだけデデンと聳え立つ人工物。まるでフランスの凱旋門のような、大理石でできた白亜の門だ。その出口らしき部分には淡い光が満ちていて、その向こうの様子をうかがい知ることはできない。おそらくこれが出口だ。

その光の中に、俺の仲間たちは次々に飛び込んでいった。

「じゃ、向こうでな」

「何か分からないことあったら、直通チャットか携帯で教えるですよ~♪」

「いざ去らば!旅立ちの野よ!!」

俺も奴らの後を追い、光の扉をくぐった先は、

「おおおおお!こりゃ、マジですげーな!」

半分ほど海に突き出している巨大な円形状の広場だった。

思わずキャラの視点を変えて、辺りを見回すと、真っ青な青空にまぶしい太陽が輝いている。柵に囲われた広場から海を見渡せば、美しいコバルトブルー海原がどこまでも広がっていた。

よく見てみると、水は透明度が高く、リアルに描写されたイルカや魚介類が群れを成して泳ぎ回っている。海の中は美しい原色の珊瑚や海草が生い茂り、深い底のほうには鯨らしき巨大な魚影まであった。

一方、反対側の町並みを見渡せば、そこはかなりの幅があるメインストリート沿いに、ギリシャやローマ時代を思わせる白い漆喰の家々が建ち並び、その合間を大勢の人間が行き交っていた。多くは様々な意匠の鎧やローブに身を包んだプレイヤーキャラだ。

残念ながら、俺には海外旅行の経験はないが、地中海のあたりではこれと大差ない光景が広がっているのではないだろうか。ちょっとした観光旅行に来た気分である。

そして、


[全体]被殻は格:変態狩りPT、レベル20~30のヒラさん募集@1。送迎アチャ出ます。直チャよろ^^v

[全体]たぴるす:小型片手剣+移動速度10%↑を3Mで買います。直チャおね

[全体]煙:毒抵抗78%イヤリング売ります。神殿前で露天してますので見てください

[全体]HOAOH:配達クエストPT募集中@3。スピーディフット使えるアチャさん歓迎!

[全体]mei:ギルド『猫猫団』新規ギルメン募集中。中央噴水前で説明会やってます。興味ある方は話だけでも聞いてください

[全体]taku:hPと力うpのバフをお願いします。鍛冶屋前にいます。


物の売り買い、パーティへの誘い等等、さまざまな声がひっきりなしに飛び交い、町は活気に満ちていた。ボイスチャットだけでなく、通常のチャット画面にも大量の書き込みが現れては消えていき、ログが雪崩のように消えていく。

この活気ってやつは、コンシューマーじゃ味わえない。多くの人間がネットを介してその場に存在するからこそ生まれるものだと思う。


・・・なんだか、少し興奮してきた。


「うし!とりあえずワープ石ってやつを買うとするか」

適当に町をうろついてNPCショップを探そうとした、そのときだった。


ぴんぽんぱんぽ~ん♪


と、どこかで聞いたようなチャイムが流れた。

ん?迷子のお知らせか?ま、黒澤あたりならやりそうだよなwww

などと、考えたていた次の瞬間に、悲劇は起こったのだ。


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カースオンラインをお楽しみの皆様、

平素はカースオンラインをご愛顧賜り誠にありがとう御座います。

20××年○月△日19:30より、ネットワーク機器メンテナンスの為、
緊急メンテナンスを実施する事をお知らせ申し上げます。

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( ゚д゚)    はい?



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メンテナンス作業中、カースオンラインをご利用いただくことができません。

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(;゚ Д゚) え? 何? だから何なのよコレ?


すっかりわけわかめな俺をさしおいて、辺りに屯するプレイヤー達から、一斉に叫び声が上がった。

「何だよ、これ!」

「バカヤロー!」

「またかよ!」

「運営もう少し考えて仕事しろ!」

「このドロップ消えねえだろうな!せっかく攻撃力+10%の神品ひろったのに!!!」

などなど、野次と怒号と悲痛な悲鳴をあげつつ、次々に消えていくプレイヤーキャラ。


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突然のお知らせとなり、お客様にはご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解ご協力の程お願い申し上げます。

カースオンライン運営チーム

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そしてゲームウィンドウが強制的に閉じられる瞬間、俺には天から神の声が聞こえたのだった。

ググレカス、と。



(×××=鯖落ち。。。。\(^o^)/ )








[18636] 【習作】このMMOは荒れている3
Name: banepon◆67c327ea ID:a5735ce5
Date: 2012/10/22 00:58



5.閑話  最近の学食のレベルは侮れねえ








次の日、午前の授業を終えた俺たちは食堂に集結していた。

「っざっけんなよ!普通、あそこでサーバーダウンとかマジありえねえ!」

ちくわの磯辺揚げ(一本40円)を親の敵のごとく盛り付けた、かけうどん(一杯230円)・赤羽スペシャルを喰らいながら、俺は昨日の珍事に気炎を上げていた。結局、昨日はメンテ後も、ログインした途端に落ちるというエラーが続出し、再び緊急メンテに突入して狩にならなかったのだ。

(ちなみに、あの後必死こいて『鯖落ち』や『ラグ』という単語をググッたのは俺だけの秘密だ。そして、"ラグ"すら知らなかったことを隠すために、わざと怒ったふりをしているわけでは、決してないのだ)

「まあまあ、出来立てほやほやのMMOなんて、そんなもんですよ。まあ、オープンテストってそれでどれだけ客を呼べるかって勝負どころですので、やる気ねーなーここの運営は、って気もするですが」

スパゲティナポリタンにおぞましいほどのタバスコを振りかけ、顔色一つ変えずに食う白木。オレンジ色から深紅に変わった麺がフォークに巻かれ、くるくるパクリ、くるくるパクリと面白いように小柄な男の口に消えていく。

「結局、復旧したの朝の4時だったもんな。やる気なくすわ」

早くも、日替わり定食Aランチ(今日は白身魚のフライ)を残さず平らげ、デザートのプリンに取り掛かっている青崎。つか、わずか三口でごちそうさま。ちなみに俺はまだ竹輪しか食ってねえ。

「・・・・・・・・・。ちゅるり」

黒澤は一人話に加わらず、ちゅるちゅるとラーメンをすすり続けている。口を開けば痛い発言を連発するやつだが、不思議と食事中は静かなのだ。

親の躾が厳しかったらしいが、それなら行儀だけでなく中身も躾けてほしかったものである。

「今日もインするですよね?」

「もち。さっさとレベル上げて、稼げる狩場に移ろうや」

青崎は昨日の鯖落ちの後、復帰待ちの間に攻略サイトやらテストプレイヤーのブログ、プレイ日記なんかを片っ端から読み漁っていたという。この男、一度やり始めると凝り性なのだ。

「バネポンも、大丈夫ですか?」

白木は赤いスパゲティ的な何かを平然と平らげ、淡いピンクのハンカチで口をふきふきしながら問いかけた。ちなみに、お冷も一滴も飲んでいない。

「おう、今日は午後一で太田の微積があるだけだけど、その後バイトあっから9時ごろになるぞ」

バイトは平日だけにして、土日は心行くまで遊び倒すのが俺のジャスティス。

「了解。僕も教養の哲学がラストにあるですから、帰りは7時過ぎるですよ。ご飯食べてお風呂入って、ワクテカお待ちしております」

「そういや、俺も今日は5コマ目まであったな。しかも楠の英語Ⅱだ、やる気でねえ」

青崎が不機嫌そうに鼻を鳴らした。

こいつは去年の後期に、中年ハゲの万年講師に単位を落とされている。成績はこの面子の中では抜群なのだが、サボり癖があるので出席が頻繁に足りなくなるのだ。おそらく、今宵もモブの血が盛大に流されることだろう。

「じゃあ、今度こそイタボンに集合ってことでいいか?」

「ん、迷ったら適当に電話するわ」

「近場で適当に狩りして、レベル10超えたらジャイアン狩りですよ~♪」

じゃいあん?

お前の尻は俺のものか?

「ジャイアントオーガの略ですよ。モブレベル18で、イタボン近くの『廃人遺跡』B2に沸くです。一応ネームド扱いで攻撃力は高めなんですけど、デカイ図体の割にHP低くて美味しいモブですよ。人気がある分、混雑しまくりですけどね。横も多いし」

狩り場占拠の廃人ウゼエ、と呟く腹黒王子。

「狩り場空いてなかったら、キノコ狩りか?」

「あそこは毒抵抗ないときついですよ。まあ、バネポンが『キュアポイズン』覚えてくれるなら話は別ですが」

キュアポイズン、だと?

「え!?あのアニメ、新キャラ追加されたの!!?(注:美少女がフリフリのドレスを着て怪人と戦うアニメの大ファンらしい)」

唐突に空気読めない発言をする黒澤。周囲の視線が激しく痛い。

ちなみに、同じような台詞を口走りそうになったのは、俺だけの秘密だ。

「違うですよ。毒属性攻撃の抵抗値を上げて、被ダメを軽減するヒラのスキルです。スキルレベル上がると石化や麻痺も解除できるので、どっちかっていうと対人スキルですね」

アニヲタ死ね、という白木の呟きも聞こえていないのか、黒澤は「名前からしてライバル系?いや、悪堕ちという可能性も」などと妄想の海に沈んでいる。

そして人の多い学食でも声を落とさず自重しない、これが黒澤クオリティ。

「毒系のモブって何気に多いし、スキルレベル1でも取っとくと狩りが楽になる。でも、ヒラはパーティヒール取るのが優先だから、今は無視していいと思うぞ。スキル取りのルートから外れてっからな」

いつのまにか青崎は、先行してた白木並みにゲーム詳しくなっているようだ。

などと話しているうちに、

「あ、もうこんな時間だ」

「ですね。遅れないうちに教室行くです」

「おう、また後でな」

ブツブツと呟きつつ妄想から帰ってこない黒澤をその場に放置して、俺たちはそれぞれの教室に向かったのだった。






6.はぢめてのパーティ






イタボンの町は地中海風味なベルロンドとはうって変わって、赤いレンガの屋根を持つ石造りの家が立ち並んでいた。

街中に配置されたNPCの服装も、長袖やロングスカートの類で、東ヨーロッパの田舎町を思わせる(いや、もちろん行ったことはないがな)。ビールやソーセージの看板があるのはご愛嬌だろう。

どことなくドイツちっくな趣の町中を抜け、安全地帯から一歩郊外のフィールドに足を踏み出すと、そこは金色の穂波が揺れる麦畑が延々と広がっていた。

その麦畑の合間には、無数のモブが溢れている。

「ギィ!」

「ギャース!」

薄汚れた麻の服に、籾殻を落とすための棍棒を手にしたモブ『ゴブリンの農夫』。

麦刈り用の大鎌を手にした案山子型モブ『スケアクロウ』もちらほらと沸いている。

背丈はバネポンの半分ほどしかないが、緑色の肌は皺くちゃで、オマケに体格に比して頭部が異常にでかい。しかも顔面の半分をしめる目玉は収支ギョロギョロと蠢いている。おまけに、手にした農具には妙にリアルな血痕があって、ビジュアル的にはなかなかエグイ。

この独特のデザインセンスは、元が洋ゲーらしいというべきか。まあ、国産ゲームに多い媚びた萌絵に比べれば、この方がマシだろう(俺はTCGも国産より、油絵チックな絵柄の外国産の方が好きだ)。

ゴブリンのモブレベルは8。今の『バネポン(ヒーラー、5さい)』のレベルより3つほど高いが、このくらいのレベル差があったほうが経験値がうまいらしい。

ただし、格上のモブであることには変わりないので、装備も適当にそろえておかないとキツイそうだ。そのため、昨日の狩りでドロップ獲得した『木の帽子』に『木の鎧』、『木の靴』に『木の篭手』を装備している。見た目には木目が鮮やかな、胸や足を覆うタイプの部分鎧だ。

「3時間もゴブリン狩れば、今日中にはレベル10いくですかね?」

「余裕だろ。とりあえず10目標で上がりにしようぜ。土日の前に若葉は卒業しとこう」

白木の操るエロフも青崎のコボルトも同じく『木の鎧』を装備している。

特にエロフさんはビキニタイプだった『革の鎧』に比べて露出そのものは減っているのだが、今度の鎧は股間のV字カットが目にまぶしい。

@ω@ やるな、運営w(注:もちろん褒め言葉)

「(・・・何か妙な気配を感じるです)バネポン、ちゃんとクエスト受けてます?」

「・・・・・・・お?・・おう!あのキモデブNPCから受けられるやつだろ!」

設定上、イタボンの町は農業がさかんらしい。ところが奴隷としてこき使っていたゴブリン達が「飯喰わせろ!」「俺たちにも自由を!」「革☆命☆万☆歳!」と反乱を起こしたせいで、大事な麦の収穫ができなくなっているという。

そこで、イタボンの町長(NPC)からゴブリンを100匹ほどボコッてくるというクエストを受けたのだ。報酬は経験値30%に、初心者のHPポーション10個。狩りをしながら適当にクリアできる楽なクエストだ。

ちなみにクエスト名は『赤化したゴブリン共を再教育せよ!』。・・・どうでもいいが、このゲーム作った奴は絶対にセンスがおかしい。

「そういえば、クロスケは今日はインしないですか?」

「ああ、なんか用事があってインが遅れるんだとさ」

優しい俺様はあんなやつにもメールをいれてやったのだが、なにやらリアルに取り込み中らしい(ヲタのくせにリアルで忙しいとは生意気な)。よほど他人からメールをもらったのがうれしかったのか、無駄に長くて丁寧な返信が返ってきた。

「まあ、あれはいてもいなくても変わらないですよ。人数あわせに野良募集しましょ」

何気に酷いことを言う腹黒エロフ。だが俺も全面的に同意である。

そして、野良とはなんぞや?

「僕は町で叫んできますから、アオッチ、全チャとリダおねです」

「あいよ。2人でいいか?それとも3人呼んでフルに埋めるか?」

「あれが来てから騒がれるのもウザイですし、一応一つ空けときましょう」

カースオンラインでは、6人までパーティを組むことができる。

パーティを組むと、経験値の獲得を共有したり、ドロップアイテムの取得を平等に振り分けることができるそうだ。人数を集めて集団で戦ったほうが、モブの殲滅効率も高いという。また、パーティチャット専用画面に書き込みを行うことができたり、ヴォイスチャットの音声をパーティの人間だけに聞かせることもできるらしい。

ちなみに俺様はぢめてのパーティである。ちょっぴり楽しみなお年頃♪

「じゃあ、行ってきます~」

エロフがお尻をフリフリしつつ町の中に消えると同時に、青崎が全体チャットに書き込みを行った。


[全体]青汁:イタボン西門前でゴブリンPT募集中@2。職は問いません。現地よろ


なるほど、パーティを組むのに足りない人数を、こうやって募集するわけか。

反応はすぐにあった。

『(0゚・∀・) ドキドキ  すみません、PTお願いできますか?』

『PTよろです!』

一人は、浅黒い肌と長い耳が特徴的な女性キャラ。魔法攻撃に特化した種族、ダークエルフだ。

赤いローブを着込んでいて、手には身長よりも長い杖(ロッド)を握っている。キャラネームは『ローズヒップ』。

これがまた、白木の白エルフとは対照的なスレンダーボディの美人さんなのである。キュッとくびれた細い腰に、ボリューム感は薄いもののお碗型に整った美乳。やや釣り目な赤い瞳といい、綺麗なさらさらの銀髪といい、優美なカーブを描く細い眉毛も俺の好みにドストライクだ。ポニテにした銀髪の付け根から覗く、細いうなじがたまらねえ。まるで、我が青春のアルカディアたるピロテース(知らねえ奴は吊って来い)である。

もう一人、『やわらかタンク』という微妙な名前の女性キャラは、他種族の半分くらいの背丈しかない小人種族のハーフリング。

通常より身体比率が小さく設定されているため、小学生低学年としか思えない程度の背丈なのだが、妙にスタイルがいい。その手の趣味の人間なら、思わずグビッと来てしまうだろう。まあ、ぶっちゃけただのロリだ。ちなみに得物は刺付の木の棍棒(見た目は完璧に釘バット)である。

二人ともヴォイスチャットは苦手なのか、会話は通常チャットを使っているようだ。

募集した人数が瞬く間に埋まってしまったので、すぐさま狩りを開始することになった。

『(´∀`)ノ ヨロシクッ☆』

『よろです』

「あい、お願いします」

青崎がパーティに誘うと、早速、全員が手近なゴブリンを目指して駆け出した。

「往生せえや!!」

俺は掛け声とともに愛用の『初心者の短杖(ワンド)』を振りかぶり、勢いよくゴブリンの脳天に炸裂させる。傷口から脳みそがはみ出るエフェクトとともに、ゴブリンの頭上のHPバーが1/4ほど削られた。

調子にのって二度三度と殴り続けると、ゴブリンはばったりと倒れ、地面に血反吐を撒き散らしながら消えていく。う~ん、相変わらずキモい。

だが、そこで俺の武器にも変化が起きた。

こんなアイコンが表示されたのだ。


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【注意!】
 装備している武器の耐久力がゼロになりました。
 武器攻撃力にマイナス補正が加算されます。
 耐久力がマイナス50%に達すると、該当武器は自動的に消滅します。
 『修繕』を行ってください。

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「・・? 白木~、武器の耐久力が下がったって表示が出たけど、なんだこれ?」

「・・・武器は耐久力が決まってて、攻撃するたびに減っていくです。限界を超えて使うと武器攻撃力がさがって弱くなるですよ。生産職に頼んで『修繕』してもらうと耐久力が回復するです。手入れ頼むのが面倒臭ければ、使い捨てにして新しいドロップ品を装備するですよ」

あと本名呼ぶな馬鹿バネ!という白木の突っ込みを無視し、俺はどことなく色あせたように見える『初心者の短杖(ワンド)』を眺めた。

思えば、ゲームを始めてからずっと使い続けてきた武器だ。

ひたすら犬と蠍と蜘蛛を殺し続け、経験値稼ぎをしたのもいい思い出である。きっとこの杖にはやつらの緑の血がしみこんでいるに違いない。そう考えるとなかなか思い出深くもあり、愛着すら沸いてくるようだ。

だからもちろん、

「エ~ンガチョ」  ポイ  ( ゚д゚)、ペッ  

俺は名残惜しくも名刀・蜘蛛切り丸に別れを告げ、新たに拾った『樫の木の杖』を装備すると、長いリーチを生かした強烈な一撃をゴブリンの脳天に叩き込むのだった。

ちなみに、青崎のコボルトも昨日の諸刃の短剣とは違う得物を使っている。

今使っているのは凶悪なエッジが禍々しい片刃の短剣だ。ギザギザの刃には肉をえぐる為の"返し"もついていて、見るからに痛そうだ。

この武器を両手に構え、『クタバレ、楠ィ!!』と叫びながらゴブリンを切り刻んでいるので、ぶっちゃけただの危ない人である。ダークエルフさんも、ハーフリングさんも明らかに引いている。

『うわあ・・・』

『・・・・・・。』

「か、彼は少しストレスがたまっているだけなんです。生暖かい目で見守ってあげてください」

ちゃんとフォローしてやる俺様。なんて優しいのだろう。

しばしの間、肉をえぐる音だけが辺りに響き渡った。

う~ん、さすがにこれだけ人数がいると火力も半端ない。あっという間にゴブリンたちを食い尽くしてしまった。オカワリもう一杯。

そして、次の獲物に襲い掛かろうとしたところで、

「釣ってきたですよ~♪」

いつのまにか姿を消していた白木のエルフが、麦畑の向こうから走ってきた。

その後ろには、よだれを垂れ流しつつエロフめがけて殺到するゴブリンの群れ。

よほど遠くから走ってきたのか、モブ共はハアハアと鼻息も荒く、エロフが捕まったら間違いなく18禁的な展開になりそうなひどい状況である。

「ナイス!」

ゴブリンに負けず劣らず息の荒い青崎のコボルトを筆頭に、それ食え!とばかりに全員がゴブリンに襲い掛かった。

俺達が新たなモブを処理する間にもエルフはフィールドを駆け回り、シュピシュピと矢を射っている。おお、今日はちゃんと弓と矢を(笑)使っているじゃないかw

ゴブリンたちは大抵2、3匹のグループを作って麦畑に散在しており、攻撃するには自分から近くに行かなければならない。

だが、エルフは射程の長い弓矢で離れたモブを攻撃してタゲを取り、リンクしている敵をまとめて引き寄せてくるのだ。

まるで美人局である。誘って、釣って、ゴチソウ様とはこのエロフ侮れない。

『(`・ω・´)カックイイ やっぱり弓さんいると移動狩りしなくていいから楽ですね』

にこやかに微笑むダークエルフたん萌え。

なんだか、みなぎってきたぜーーーー!

当のローズヒップ女史は、バネポンと同じ『樫の杖』を振り上げると目を瞑り、呪文を唱えるようなモーションをすると、

『とんでけ~~!!』

呪文の最後の一節が高らかに響き、杖の先端からバレーボール大の炎の塊が、ゴブリンの密集したあたりに向かって飛んでいく。

勢い良く放たれた炎の塊は、狙いたがわず一匹のゴブリンに命中すると、その周囲に群がっていたスケアクロウ二体を巻き込み、大爆発を起こした。

後で聞いてみたところによると、ダークエルフの一次職『魔法使い(メイジ)』のスキルで、『フレイムシュート』というらしい

モブ共は炎に巻かれ、アッチャアッチャと慌てふためくリアクションをすると、そのまま灰になって崩れ落ちた。

同時に響き渡る効果音。

チャーチャチャチャチャチョリ~~ン!! ×5

なんと、全員のレベルがアップしたのだ。

「おめ~」

「おめでと~」

「めめんw」

『 (*≧∀≦)ノシ オメデトォ♪』

「ありがとうございます!」

「ありん」

『サンキュゥ♪(o ̄∇ ̄)/』

等等、繰り返される「おめ」と「あり」。

なんていうか、すっげえおもしろい。これがネットゲームって奴の醍醐味なんだな!

気をよくした俺達は、夢中になって狩を続けたのだった。





そう、この時はまだ、後にあんな悲劇が起こるなどとは、夢にも思わなかったのである。



[18636] 【習作】このMMOは荒れている4
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5
Date: 2012/10/22 22:55
少し短いけど投下します。
レス返しはまた今度に。





7.中の人なんぞいない!!





白木の操るエルフの釣りによって、モブの殲滅力は一気にアップした。

俺のバネポンはもとより、殴殺は一瞬にして完了だ!とばかりに殺戮を続けるコボルトの『青汁』。

ハーフリングのやわらかタンク氏も、棍棒を手にすばやいフットワークでゴブリンをKOし続けている。

このパーティ、殲滅力が半端ねえ。

そして、何よりダークエルフたんの火力がすげえ。その魔法スキルは強力で、一撃で複数のモブをまとめて葬り去ってしまう。

だが、エルフがフィールドを縦横無尽に走り回り、絶えず新たなモブを供給し続けるので狩場が枯れることがない。

全員がひたすらモブを狩り続けるのに夢中で、地面に落ちたアイテムを拾う間も惜しかった。

それを察したのか、

『ペットだしますね^^』

ハーフリングが突如その場で軽くジャンプした。クルクルと回りながら、金色の星を降らせている。

マハリクマハリタヤンバラヤン・・・まるで魔法の言葉が聞こえそうである。おしい、手に持っているのが釘バットでなければ、もう少し絵になっただろう。

やがてキラキラが収まると、その場に不思議な生き物が現れた。

短い手足をプラプラさせながら、ケタケタと邪悪な笑いを浮かべたそれは、真っ赤な衣服に身を包んでいる。背丈はおよそバネポンの膝くらいだろうか。

顔立ちはほっそりとした女の子なのだが、その目には白目も黒目もなく、血の塊のような深紅で覆われている。

エラク不気味な生き物だが、これは、まさか妖精?

「ハーフリングの一次職『農夫(ハーベスト)』のスキルで、特定のモブを捕まえて家畜にできるです。プレイヤーをサポートしてくれる便利キャラですよ」

『か、家畜って言わなくても・・・・・・こ、この『レッドキャップス』は一緒にいると、飼い主の代わりに地面に落ちたアイテムを拾ってくれたり、モンスターの足を止めたりしてくれるんです』

なるほど、モブを洗脳調教するわけか。

なかなか便利なスキルじゃないか、やるなチミっ子w。

アイテムを拾わなくて良くなると、モブを殴るのに集中できる。

「バネ、そろそろお前も殴るだけじゃなくてスキル使えよ」

哀れなゴブリンどもを思う存分サンドバックにしたことで、多少は野生から戻ってきたのか、青崎のワンコ(ゲーム内では、コボルトは通称”ワンコ”と呼ばれるらしい)が話しかけてきた。

「パーティヒール取るために、スキル系統樹埋めてるから、どのスキルもレベル1だぞ。ステも初期値のまま振ってないしな」

このゲームでは、レベルが上がるごとにステータスポイントを4ポイント、そしてスキルポイントが2ポイント与えられることになる。

ステータスポイントを各種ステータス(力、敏捷、体力、精神、知能、運の6つだ)に割り振ってHPやMP、攻撃力、防御力なんかをあげたり、スキルポイントを使って新たなスキルを覚えたり、スキルレベルを上げたりするわけだ。

「1でもいいんだよ。使っとけばゲームそのものに慣れるだろ。若葉の内は何も考えずに殴るだけでいいけど、レベル10超えたらとたんにシビアになるぞ」

今の俺のレベルは6。ステは24ポイント分、スキルは12ポイント分たまっているのだが、今のところ使用しているのはスキルポイントだけだった。

スキルは白木や青崎から、「いいからパーティヒールだけ最優先でマックス!」と言われているので、進化の系統樹のようなスキルマップにスキルポイントを割り振り、パーティヒール(習得レベル10:パーティを組んでいる全員のHPを回復。回復量はスキルレベルおよびステータス精神に依存)の習得を目指している。

だが、ステはどのように振り分けていいのか分からなかったので、結局そのまま残していたのだ。

「ステは迷ったら体力に振っとけば、まず失敗しないよ。ヒラなら精神極ってのもありっちゃありだが、ヒラ死亡=全滅フラグだからな。ある程度は体力必須」

「ほほう、何をするにもまず体力と精神の力が必須というわけか。教育的だなあ」

そんな会話をしながらも、モブ共を千切っては投げ、千切っては投げ、たまに耐久力下がった武器なんかも投げ捨てて、俺達は狩りに熱中した。

夢中になって手を動かしていると喉が渇く。

俺は傍らに置いていたペットボトルの口を開け、コップに注ぎなおす面倒だったので、そのままラッパのみをした。中身は普通の紅茶(ノンシュガー、ストレート)である。

と、その時、不意にチャットウィンドウに白木からの直通チャット(任意の相手と1対1で会話ができるチャットシステム。ただしこれを使ったヴォイスチャットはまだ未実装)が表示された。

『PAICALさんから:ちょっとバネポン、この『ローズヒップ』ってキャラ要注意ですよ。たぶんネカマです。しかも廃っぽい』

ぶふう!!

俺は思わず、口に含みかけていたお茶を噴出した。

『PAICALさんから:言動がいちいち狙ってる感じがするし、AA多いし、ボイスチャットつかってないのが決定的です』

確かに、ダークエルフたんもハーフリングたんも会話するときは通常チャットだ。

だが、よりによってお前がそれを言うか?

『PAICALさんから:それに、このレベルにしては火力が尋常じゃないですよ。間違いなく魔法攻撃UP系装備で固めてるです。たぶん、他にもキャラ持ってて、稼いだバカラをこっちのキャラにつぎ込んでるんです』

なん、だと?

『PAICALさんから:結構多いんですよ。オープン初日から参加して、試行錯誤しながらキャラ育てたけど、ステ振りとスキル振り失敗しましたって人。それで、元から持ってたキャラをバカラ稼ぎ専用キャラにして、一から別のキャラを育成し直す廃人様が爆誕する、と』

・・・・・・。

『PAICALさんから:まあ、このゲームもオープンしてから日が浅いので、攻略サイトやBBSの情報も日進月歩で変わってるし、ステ振りやスキル振りをミスリードする人も多いですよ。廃人乙って感じw』

やられた。

こいつ俺の夢と希望をぶち壊しにしやがった!

そんなを指摘をされたら俺にはそれが真実にしか思えなくなってしまう。

俺はもう以前のように盲目的に黒エルフたんを愛せない。どうしてくれるんだ(゚Д゚)ゴルァ!

これじゃあ、ハーフリングたんのロリロリボディに走るしかないじゃないか!

俺はヤケクソのように茶を一気飲みした。

『PAICALさんから:あ、それとこっちのハーフリングも要注意ですよ』

ぶふう!

俺は再び茶を噴出した。

『PAICALさんから:ハーフリングは攻撃系スキル皆無のほぼ生産オンリーの種族です。ペットやPOT、素材系、あと上位職に転職すると強力な武器防具やアクセなんかも作れるのです。なので人気はあるですが、ソロはできないし、パーティでも敬遠されるので、普通はクエストや生産だけでレベル上げするですよ。かな~りマゾいらしいです』

・・・・・・・・・・・・・。

『PAICALさんから:ところが、時たま手っ取り早くパーティに混じって、レベル上げしようという猛者が現れるですよ。まだゲームに慣れてない初心者のうちにパーティに混じってフレを増やして経験値稼いで、それで味を占めるです』

・・・この世には、夢も希望もないというのか。

『PAICALさんから:フレンドリストに登録を求められたら注意してください。後々になっても寄生できるパーティの面子を確保しようとしている可能性があるです。ヒラは特に貴重ですから』

絶望したああああ!!!!

もはや我が気力はつきかけている。

『PAICALさんから:まあ、気付かない振りして話し合わせて付き合っておくのも手ですよ。何せ廃人様ってのは、装備自慢に合わせて適当に煽ててやれば、いい気になってアイテムとかポイポイくれるお調子者ばかりです。ハーフリングにしても、たまにパーティに入れてやって恩を売っておいて、生産代行なんかを頼むというのもありですよ。何せ生産系はマジでマゾ過ぎて、超貴重ですから』

この腹黒エロフは最後まで容赦することなく、俺のハートにトドメを刺した。

にしても、白木、ここまで悪辣に深読みできるこいつの腹黒さはマジで異常。このエロフのお尻には悪魔の尻尾でも生えているのか。

俺は少しばかりヤル気をそがれながらも、手を止めることなく狩りを続けるのだった。


「このっこのっ!!俺の青春をか~え~せ~!!」


ゴスッ、ゴスッ、グチャ!!  「グェエ!!」


ゴブリンの断末魔の悲鳴だけが俺の心を癒してくれる。

『Σ(゜Д゜ノ)ノ バネポンさん、ずいぶん気合が入ってますね』

「ふふふ、彼、ネットゲームってこれが初めてらしくて、かなり楽しんじゃってるんですよ。それより、フレンド登録お願いしてもいいですか?これも何かの縁ですし♪」

『ヽ(´▽`)ノ♪ もちろん!よろしくお願いします!』

和やかにお喋りする黒エルフと白エルフ。

先ほどまでのやり取りがなければ、それは心和む光景だったろうに。内心、ちょれえwと喝采している白木の呟きが聞こえてきそうだ。

その時、

『すみません、パーティあいてませんか?』

通常チャットで話しかけてきたのは、ローズヒップ氏と同じく『樫の杖』を持ったダークエルフの男性型キャラだった。




これが、波乱の幕開けだったのである。






作者注:「廃」「廃人」
MMORPGにおいて、キャラクターに経験値を稼がせてレベルアップを繰り返したり、装備を整えたりするためには、膨大な時間と労力を消費しなければならない。ゲームに重度にのめり込み、日常生活を犠牲にしてでも熱中するプレイヤーのことを、愛と羨望と畏怖と嘲笑をこめて、一般プレイヤーはこう呼ぶ。



[18636] 【習作】このMMOは荒れている5
Name: banepon◆d04640fa ID:cc4a8514
Date: 2012/10/22 22:56
8.お前のドロップも俺のもの






金髪の長い髪をオールバックにした男性キャラ。色黒の肌と長い耳は魔法攻撃を得意とする種族、ダークエルフの証だ。キャラ名は『桃缶』。

身に着けているのはローズヒップ氏とは色違いの『布のローブ』に、『樫の杖』。低レベルのメイジが装備するアイテムだ。(実際、同じアイテムが先ほどからちらほらとドロップしている)。

おそらくレベルは俺たちとそう変わらないだろう。

『見たところ5人ですし、一つパーティ余ってますよね^^』

と、言われた所で困ってしまった。

このゲームでは最大6人までパーティを組むことができる。パーティメンバーのレベル差が10以内に収まっていれば、経験値は均等に割り振られるため(そうでないと、高レベルプレイヤーとパーティを組むことで手っ取り早くレベルが上がってしまうからだ)、このダークエルフをメンバーに入れることには特に問題がないだろう。

とりあえずパーティチャット(パーティに所属しているプレイヤーにのみ表示されるチャット画面)を開いて作戦タイム。

『BANEPON:どうする?』

『PAICAL:どうしましょうね?』

『やわらかタンク:枠は余ってますし、枯れてるわけでもないですし、ここの沸き具合なら火力さん増えても問題ないと思いますが?』

事情を知らない人間には奇異に見えるだろう。

確かに枠は一つ空いているのだが、それは"一応"ログインする"予定"の奴のために、空けておいたものだ。

『PAICAL:実は@1は、ログイン待ちの友人のためにわざと空けてるんです』

『ローズヒップ:ああ、そうだったんですかw』

『やわらかタンク:fmfm』

『青汁:この時間だし、あいつもインするか微妙だな。俺、電話してみる』

ボイスチャット越しにガチャガチャと形態をいじる音が聞こえてきた。

おのれ黒澤、いても五月蝿い奴だがいなくても面倒を起こしやがる。

『PAICAL:最悪、予約済みって、断わってもいいですか?5人のままだと狩り効率落ちるかもしれませんが(汗)』

『ローズヒップ: Σb( `・ω・´)グッ 今のままでも結構おいしいですし、お友達を待っているということなら、私は5人のままでもかまいませんよ』

『やわらかタンク:私もです。経験値うまうまです^^』

『青汁:・・・連絡付いたぞ。あと1時間くらいかかるとよ』

1時間か、微妙だな。なら、その間はこのキャラに入ってもらうのも有りか?1時間くらいって、最初から決め打ちおけばトラブルもないだろうし。

俺がその考えを伝えると、すぐに全員の賛成が得られた。

『青汁:いいんじゃね。ちょうどキリのいい時間だし』

『PAICAL:1時間後にいったんパーティ解散して、続けたい人は残って新しいパーティ募集する、と』

『ローズヒップ:(・∀・)賛成です。私もそのくらいには落ちようとおもってましたので♪』

『やわらかタンク:あい~』

全員が同意するのを確認すると、すぐにリーダーの青崎が、件のダークエルフをパーティに誘った。

・・・しかし、黒エルフたんとハーフリングたんの反応がカワユス(;´Д`)ハァハァ 

やはり白木の言った通りのネカマ野郎だなんて思えねえ。大体ネカマ云々なら、それこそ奴本人が一番タチの悪いネカマじゃねえか(それも確信犯)。

よし、パーティが終わった後にでも、それとなくフレンド登録をお願いしてみよう。

『桃缶:よろしくおねがいします』

そんなこんなでPT再開。

俺たちは哀れなゴブリン共の再教育を開始した。

「んでは、アイテム獲得は引き続きランダム、バカラは均等分配にしておくので、1時間よろ」

「了解です~♪」

『よろろです』

各々の獲物を手にして、ひたすらエルフの釣ってくるモブをひたすらしばき倒す。

つか、経験値がパカパカ入るので楽しいと言えば楽しいが、ようは狙いたいモブをひたすらクリックするだけの単純作業なので飽きが来る。常に画面を移動する必要のある白木のエルフ以外は、恐らくどのキャラも大差のないだろう。

そんなわけで、自然と俺の注意は他のキャラに向いていた。

哀れな悲鳴を上げるゴブリンどもをボコりつつ、横目でチラチラ観察(エロイ意味ではない!)する。

青崎は相変わらず逆手に構えた双剣で、モブをザクザク血祭りにあげている。

モブを倒す、というよりブチ殺すというのが適切な表現だろう。時折『雌豚は下半身さえあればいい!』等と叫び声をあげているところを見ると、脳内に魔界から帰還されたク○ウザーさんが憑依なされているらしい。そのおかげかどうかはともかく、一体あたりのモブの処理速度は一番速い。

そこから少し離れたところで(というか、みんな青崎からは微妙な距離をとっているのだが)、周囲に炎の塊を降り注がせるダークエルフ二人。新たに現れた男エルフが、ローズヒップたんに寄り添っているようで少しムカつく絵面である。

ダークエルフは基本、すべての攻撃手段が魔法属性攻撃に限られるらしい。BANEPONと同じように杖を装備していても、それでモブを殴るというアクションはできないそうだ。レベルが上がってくると自分の周囲の敵をなぎ払う範囲攻撃スキルをいくつも習得できる狩場の主役で、人気が高くプレイ人口もヒューマンと一、二を争うという。

だが、俺の見たところ、恐らくダークエルフが人気だという理由は他にもある。そして、ダークエルフの人口の過半数が女性キャラであることもまた、疑いようがない。

何故なら、ダークエルフたんは杖を掲げる度に、その乳が揺れまくるのだ!

エルフは尻でダークエルフは乳だと!

ここの運営はどこまで男心を惑わせれば気が済むんだ!まったくけしからん、責任者出て来い!(注:もちろん褒め(ry)

俺は純粋な気持ちから(たわわにゆれる二つの果実をガン見しつつ)、『魔法職は今供給過多で、野良パーティに参加するのも結構大変なんです。競争が激しくて(;・∀・)』というローズヒップたんの相談に乗るのだった。

まあ、野郎の方はぶっちゃけどうでもいい。野郎なんぞ見てもツマラン。

と、

「おめ~♪」

「お、ラッキーじゃん」

『神品キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『おめでとうございます^^』

『いいなあ^^;』

ぬ?

誰かのレベルがあがったわけでもないようだが?

脳内テンション爆超のまま、無我の境地でオパーイに意識を奪われていたので、正直、何がめでたいのかよく分からん。だが、雰囲気から察するに「おめでとう」を言われているのは俺らしい。

「おお!攻撃力Lv10って、オプションとしては最高です。超良品ですよ。おめ~♪」

その言葉に、思わずアイテム獲得欄のログを確認したのだが・・・・・・・・もしかして、これか?

『獲得者:バネポン,習得物:皮の指サック[攻撃力Lv.10]』

指サック?

どうやら武器や防具ではなく、アクセサリーの類らしいが、何やら強力そうなオプション効果がついている。装備制限は、特になし。

周囲の反応からして、かなりのレア物のようだ。

ちなみにパーティ中に獲得したドロップアイテムは、ランダムにメンバーのインベントリに振り分けられることになる。もちろん、拾った人がそのまま獲得できるスタイルも選べるのだが、この方がアイテムの取り合いに集中するあまりパーティが瓦解したり、ドロップをめぐったトラブルがおき難いという(後で白木に聞いた受け売りだが)。

なので、この獲得は俺の日ごろの行いの賜物なわけだが、


『それ、誰が貰うか公平に決めませんか^^;』


と、言い出したのは例の途中参加の黒エルフ野郎だった。

『いや、私はいいんですけど、パーティの獲得で得たものなんですから、偶然手に入れた人の物っては、どうかなあって^^;』

とか、

『やっぱり高価なものがドロップしたら、公平に分配するのがエチケットでしょう^^;』

等と、狩の手を止めてしつこくチャットしてくる。

やたらと顔文字を多用するのも内心の必死さを表しているようだ。

「んなこと言ってもランダム獲得なんだから、しょうがないだろう」

と、言い返しても、

『だれが決めたんですか、拾った人勝ちって^^;』

と返す始末。

いい加減うざったい。

「最初にランダム獲得にしようって、決めましたよね」

ニコニコと笑顔を浮かべるエロフ。

何故だろう、ただの3D画像のモーションなのに目が笑っていないように感じるのは。

「だな。獲得できる確立は平等なんだし、だったら拾った奴のもんだろう」

青崎はあきれたような(というか蔑んでいるかのような)口調を隠しもしていない。

『ランダム獲得になっている時点で、十分、公平に分配されていると思いますが(;・∀・)』

『私もそう思います』

他の二人も特に不満はないようだ。

『・・・・・そうですか^^;』

さすがに旗色が悪いと悟ったのだろう。

『ヒラさんに攻撃力系装備って必要ないでしょうし、なんだったら私の拾った精神力+10のイヤリングと交換しませんか^^』

今度は物々交換を申し込んできた。

なんというか、傍目にも必死である。

『PAICALさんへ:おい、こいつ、なんでこんなにひっしなんだ?』

このゲームを始めたばかりの俺には、たかがアイテムひとつでどうしてここまで必死になるのか分からない。

思わず、白木に聞いてみた。

『PAICALさんから:攻撃力オプションがついたアイテムは、とにかく高値がつくですよ。攻撃力がオプションレベル分の%比率で上昇するですが、効果が単純で強いです。おまけに滅多にドロップしないので、恐ろしく人気があるんです』

ネットゲーマーなんざどいつもこいつも俺TUEEEEEしたい馬鹿ばっか、と呟く腹黒エロフ。

『PAICALさんから:特に攻撃力オプションの付いたアクセサリーは、べらぼうなバカラで取引されるですよ。職を問わずに装備できますから』

なるほど。

『PAICAL:ついでに言っとくと、精神力+10のイヤリングとか超ゴミですよ。ステ依存スキルとかも結構あるので需要はそこそこあるですが、人気は圧倒的に「攻撃力>>>ステ」です。ステ+系は、せめて上昇値が20以上ないとお話にならないですよ』

つまり、この野郎はよりによって俺様をシャーク(価値や有用性に関して疎い人間を対象にして、不当な交換条件を丸呑みさせて自らが得をする行為)しようとしたわけだ。こういう時だけはコイツの黒さが頼もしい。

カードゲーム暦の長い俺には、その辺の機微がよく分かる。かつて『甲鱗のワーム』(初心者に、コストが大きく重いだけのクリーチャーは弱い、と教えるためだけにあるカード)と『極楽鳥』(一見弱そうで強いカードの代表格)をトレードしてしまったのは、今でも思い出す度にはらわたの煮えくり返る思い出だ。

『じゃあ、この体力+12のゴム長靴とならどうでしょうか^^b』

「しつこい!いい加減にしてくれ!」

思わずぶち切れてしまった。

ボイスチャットを通して、かなり大きな声が伝わったようで、気が付くとその場の全員が狩りの手を止めてこちらを伺っている。

そして、

『・・・・・・』


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 【桃缶】さんがパーティを脱退しました。


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ダークエルフは唐突にパーティを脱退すると、ふっとその場から消えてしまった。

「・・・ちょっと言い過ぎたかな」

何とも言えない後味の悪さだ。先ほどのまでの和気藹々とした雰囲気がうせてしまっている。

怒鳴ってしまったのは、俺の短慮だった。

せっかくパーティに参加してくれたローズヒップ氏ややわらかタンク氏に、こんな気分を味あわせてしまったかと思うと、正直後ろめたい気持ちになる。

「まあ、ネトゲには時々あることだ。気にすんなよ」

・・・青崎。

「ですよ。気にしない気にしない。狩り続けましょ~♪」

普段黒い分、白木にこう言われると思わずホッとしてしまう。

『(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン 気にせず続けましょう~♪』

ダークエルフたん (´;ω;`)ウッ

『あれは明らかにあの人が悪かったですから』

ロリングたんも、ありがとうよ~!

ネカマかと疑ったりしてごめんよ~!

うし、気を取り直してやってやるぜ!

新たに気合を入れなおし、ゴブリン叩きに意欲を燃やす俺様。

人の情けが身にしみるぜ。

『PAICALさんから:バネポン、さっき拾った指サック、すぐ装備しといたほうがいいですよ。一応、念のために』

ん?

それはどういうことかと聞きなおそうとした、その時だった。

「おい、あれ!?」

『あれは、まさか・・・』

不意に、俺たちが狩をしていた場所のすぐ近くに、見慣れないモブが出現した。

名前は、『ゴブリン・ジェネラル』。

ゴブリンという名前にふさわしく、口元から除いた不ぞろいの牙や緑色の肌など、あたりに屯する農夫と同じ特徴を有している。だが、大きさは他のゴブリンの三倍ほどもある。

着ているのは真赤なスラックスとジャンパー。髪はもしゃもしゃした天パで、サングラスをつけている。

なんというか、見た目はただのしょぼくれたおっさんだ。

そして、モブレベルは・・・見えねえ?

通常、モブのレベルは自分のレベル+10以下ならばモブの名前の横に表示されるのだが、ということは、少なくともこのモブのレベルは・・・・


俺を除く全員が叫んだ。


『『「「鍵テロだ(ですぅ)!!!」」』』


かぎ、てろ?

「特殊なボス召還アイテムを使った、一種のMPKです!!」

「『黄昏の鍵』って言ってな!呼び出せるのはレベル30以下の弱いボスだけなんだが、タチの悪いことに安全地帯以外ならどこにでも呼び出せるんだ!!」

『おいしい狩場を占拠させたり、タウンの出入り口に設置して往来を邪魔したり、とにかく運営公認の悪質な嫌がらせです!!』

『あれは『悪魔の宮殿』B3のボスです!攻撃力はたいしたことないけど、腐ってもボスだからHPが嫌になるくらい高いです。若葉じゃ逆立ちしても勝てません!!』

みんな詳しいな、おい。つか、テンションたけえ。

プチ廃人に片足突っ込んでる白木や青崎はともかく、・・・黒エルフたん・・・ロリングたん・・・orz

「つまり?」

赤いゴブリンは両手を上に掲げると、なにやら不気味な踊りを踊りだした。

それに誘われたように、モクモクと不気味な雲が頭上を覆う。

なんだかやばそうな気配だぞ (゚A゚;)ゴクリ



そして、頭上に召還された黒い雲から、無数の雷が放たれた。


ドカン!!



「・・・こういうことです」

気が付くと、BANEPONは白目をむき、口から舌をはみ出した間抜けな顔で地面に伏せていた。

周りには、同じように死体となったパーティメンバーが倒れている。

「レベル10に満たないキャラはPKできないので、強いモブを呼び出して代わりに殺させたんです。このゲームではPKされてもデスペナルティは発生しないんですが、モブに殺された場合は経験値が1%下がった上に、インベントリのアイテムをランダムに一つ落とすです」

・・・アウチ。

余りといえば、余りの出来事に俺の脳みそはフリーズした。






[18636] 【習作】このMMOは荒れている6 おまけ追加
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5
Date: 2010/05/24 01:30
続き投下します。
レス返しはまた後で。



9.助けて××様!





邪魔者共を粛清し、麦の畑を歩きまわる赤い将軍様。

その周りを我が物顔でうろつく農夫達は、偉大な将軍様をたたえているかのようだ。

そして、哀れ、将軍様に地べたにブチマケラレタ変死体(つまり俺)。

どうやらあれはかなり強力な範囲魔法攻撃だったようで、一撃でその場にいた全員が死亡してしまった。

しかし、複数のキャラが白目をむいて地面に倒れているというのは、ある意味シュールだ。倒れたエルフの股下に頭を突っ込む形で倒れている我がキャラBANEPONが憎い。

「・・・たぶん、あのDEの仕業でしょうね」

『ですね。しかし、いきなり無言でパーティ脱退して鍵テロとは、ずいぶん香ばしいことで(#゚Д゚)』

『うぃうぃ』

さすがに他の面子も腹に据えかねているようだ。

「でも、いつまでもここで返事のある死体ゴッコしてても埒があかない。とりあえず、『死に戻り』して町の入り口集合でいいか?」

このゲームでは、死ぬと一定時間の待機時間が発生する。その間に他者に蘇生スペルをかけてもらったり復活アイテムを使用すると経験値デスペナルティが発生しないという(アイテムは落とすらしい)。

だが、待機時間を過ぎるとデスペナルティの効果を受け、最後に出入りした町の中に飛ばされる。もしくは、死亡通知アイコンに表示される『待ちに戻りますか?』という選択で[YES]を選んでも町に転送されることになる。

これが通称、死に戻りだ。

『それが無難でしょうけど、アレはどうします?狩場の中央占拠されてては、狩りは続行できませんよ』

そのとおりだ。いったん戻ろうにも、あの将軍様にお引取り願わねば、おちおち狩にも集中できない。

何よりノッシノッシとメタボ腹を揺らしながら歩いているあの面がむかつく。

「何とか倒せないのか?こっちは5人いるんだし、俺がヒール(ヒーラーの基礎、単体回復スキル)に今もってるスキルポイント全部突っ込めば、回復だって・・」

「無理だな。レベル30台のボスでも、平均50台のパーティが三つくらいいないと狩れないくらい強いらしい」

俺の意見をばっさり切って捨てる青崎。つか、そんなに強いのか、見た目は少し大きめのゴブリンなのに。

「鍵で呼び出せるボスっていくつかいるですけど、どのボスが呼ばれるかは完全にランダムなんです。でも、大抵は範囲の広い魔法攻撃を持ってるので、危なくて他所に誘導することもできません。しかも、おそらく運営の意図的な制限なんでしょうけど、どれも経験値もドロップも激マズなんで放置されているようなのばっかなんですよ」

運営マジ規制シヤガレ禿、というつぶやきはさておき、つまりそのボス召還アイテム自体、こういう嫌がらせか何かのイベントくらいにしか使い道がないわけか。

ここの運営、本当に何考えてるんだ?

「上記を踏まえて、どうする?」

・・・・・・・・・・・。

沈黙。

誰も解決策を思いつかないようだ。かく言う俺もさっぱり何も思いつかん。

ややあって、

『今日のところは、解散ですかね^^;』

ハーフリング氏のその書込みが、妙にしょんぼりと感じられたのは気のせいではないだろう。

悔しいなあ、おい。

馬鹿一匹のせいで、せっかくのパーティなのに・・・

あきらめムードが漂い始めた、そのときだった。

「あ!待ってください、こういうときは!」

白木のやつが何かを思いついたようだ。

ボイスチャット越しに、カチャカチャと恐ろしい勢いでキーボードを叩く音だけが響いてきた。

さすがこのゲームをやりこんでいるだけのことはある。白木、やればできる子じゃないか。だてにおなかの中が真っ黒けなわけじゃないな。

チャットウィンドウに新規の書込みが表示された。


[全体]PAICAL:イタボン西門前236,119で鍵テロ発生!将軍様沸いてます!助けて勇者様!!!


(・_・?)  はい?


「その手があったか!」

青崎は即座に白木の意図を理解したようで、やつのボイスチャットからもえらい勢いでキーボードをたたく音が鳴り始めた。


[全体]青汁:追伸・若葉が狩場占拠されて困ってます。手の空いている暇人どもは、ふるって討伐にご参加ください。


『なるほどwww』

『りょりょ~♪』

またもや状況が理解できていないのは俺だけらしい。なぜだ?やはり童貞じゃ駄目だというのか?

ややあって、街の入り口が急に騒がしくなった。

先ほどまで数人のプレイヤー(装備も俺らと大差ないので、おそらく若葉)が屯しているだけだったのだが、一度に数十名のプレイヤーが現れ、お互いにバフスキルを掛け合っている。

なるほど、こういうことか。

職種も種族もさまざまな雑多なプレイヤーたちが、即席ながら徒党を組んでボスを倒そうとしている光景は心躍るものである。この暇人どもめw(注:たぶん褒め言葉)

棍棒を両手でささげ持ち、その場に跪いて祈りをささげてMP回復を図るヒーラーらしきキャラがいれば、盾を突き上げて防御力上昇のバフを配る戦士の姿があり、エルフたちが移動速度上昇バフをかけ回せば、こちらではワンコが遠吠えをあげながらクリティカル率上昇のバフを自らにかけている。

中には景気付けのためか、空から巨大隕石を召喚して地面にたたきつけるスキルを空撃ちし、ドンドンと地面を揺らせて周りの顰蹙をかっているメイジの姿もあった。なんつーか、徐々にお祭り騒ぎに変わりつつある。


[全体]taku:イタボン西門前将軍狩り祭り参加します。バフください!

[全体]コルネリ:ばふぁりん♪

[全体]シンヤ:^^

[全体]やわらかいガム:ボス狩りパーティよろ。L54精神BIS、メンバリ張れます!


集ったプレイヤーたちがバフを求めて全体チャットに書き込みを始めたので、ものすごい速さでレスが流れはじめている。


[全体]名無しさん@303:便乗カキコしますwギルド『ニュー速からキマスタ』では新規加入者募集中。本板の書込み番号を直チャしてください。追伸:冷やかしに来たvipperは問答無用で粘着カマスので、ヨロシク!

[全体]w植え職人:ギルド『vipからキマスタ』新規ギルメン募集中、加入希望者は直チャおね。一緒にニュー速の馬鹿共を板に返しましょうw


一部、わけのわからない叫びも聞こえるが、まあ、なんというか、ネットゲーマーという人種は基本的にノリがいいものだ。

どうでもいいが、ものすごい数のプレイヤーが集まりだして一斉にスキルを発動したためか、なにやらグラフィックが重く感じる。

大丈夫だろうなあ、鯖。(;´Д`)

やがて、一通りバフをかけ終わったのか、準備のできたキャラから赤いゴブリンに攻撃を仕掛けていった。

「いっちばんw」

「北へ帰れ!」

勇ましい声を張り上げ、わが身を省みることなく赤い魔物に挑む勇者たち。伝説に残されるべき感動的な光景だ。

対する赤いゴブリンは、再び両手を上に掲げ、怪しげな神通力を行使しようとしている。改めて観察すると、不気味な腹踊りに似ている。

先ほどと同様に、モクモクと湧き出した黒い雲から無数の稲光が轟いた。

「ボスモンスターの定番スキル、カースショックです。一定時間スタンの効果があって、解除されるまではPOT使用以外、一切の行動がとれません」

なるほど、攻撃を受けたプレイヤーの頭上にはピコピコと黄色いヒヨコが飛んでいる。だが、彼らのHPバーは半分も減っていない。全員がそれなりにレベルの高い猛者なのだろう。

行動不能状態になったプレイヤーたちに追い討ちをかけるように群がるゴブリンの農夫ども。だが、レベル差がかなりあるためだろう、攻撃ミスで空振りばかりをしている。ちなみに一部のモブが、先ほどのボスの攻撃に巻き込まれて黒焦げにローストされているのは仕様なのだろうか?

ほとんどのPCがボスを殴りに向かう中、

「大丈夫ですか?」

寝転ぶ俺たちに声をかけてきてくれたのは、ヒューマンの女性キャラだった。

キャラの外見は、ちょっとたれ目なお姉さんタイプ。ゆるくウェーブのかかったピンクの髪が白いコイフからのぞいている。身に着けているのは青い修道服のようなコスチュームで、先端にトゲトゲ鉄球のついた鉄の杖と十字架の描かれたデカイ盾を持っているのだが、それすらも彼女が持っていると神々しい。

キャラネームは、『あみりあ』。

清楚な修道女、いや女神だ。俺の前に神が舞い降りたのだ。

何より、ボイスチャットを通して聞こえてくる声は、明らかにモノホンの女性のそれ(白木のように声高すぎの男である可能性など考えてはイケナイのである)。

あみりあ様は杖の先端から、柔らかな青い光を発せられた。

その光がBANEPONに触れた瞬間、ゲーム画面に新なアイコンが表示される。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 【あみりあ】さんが【BANEPON】に対してリザレクションを使用しました。

 復活を試みますか?
  
 【Yes or No】 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


行動不能になったキャラクターをよみがえらせるヒーラーのスキル、リザレクションだ。

もちろんYESを選択すると、とたんに全身から青い光を放ってBANEPONが立ち上がった。

「あ、あっざーす!!」

もちろん速攻で最敬礼。

「いや~助かりました。僕がふがいないばかりに、仲間たちを殺してしまいまして」

「いえいえ、ジェネラルは50代でもきついですから仕方ないですよ」

笑顔がまぶしいぜ。

次々にリザレクションを使用し、倒れた仲間たちを蘇らせるあみたん。

天使だ(*´Д`)ハアハア

「ありがとうございます」

『辻起こし多謝(人・)』

「いえいえ♪」

続けて杖の先から黄色い光が降り注ぎ、HPがマックスまで回復する。

・*:.。..。.:*・゜ヽ( ´∀`)人(´∀` )ノ・゜゚・*:.。..。.:*

さっきまでささくれ立っていた心まで癒えていくようだ。

この出会いを用意してくれたというのなら、あの黒エルフ野郎に感謝してやったっていい。

「ヒラはパーティで大変ですけど、一緒にがんばりましょうね」

おおう、笑顔がまぶしいぜ。このまま、あわよくばフレ登録をw

超テンション上がりまくりの俺様。

そのとき、

「そこまでだ!」

ボイスチャットを使用して登場したのは、三人のプレヤーキャラだった。

「話は聞かせてもらった!」

「若葉の皆さん、ご安心を!」

どうやらボス狩り祭り参加者らしい。

ちなみに、このゲームでは一見したところでキャラクターのレベルは判別できないようになっている。なので初対面のキャラの強さを測るには、外見、つまり装備品の類で判断せざるを得ないのだが・・・・

うん、見るからに高レベルプレイヤーっぽい。ゲーム初めて2日とたっていない俺にもわかる、これなら。

まず、両手に腰を当てて高笑いのモーションをさせながら、妙にカンに障る笑いをしているのは、小柄なヒューマンの女性キャラ。名前は『†闇のプリースト†』。声は超低いので中身は男だろう。

片手にテニスラケットを10倍くらい大きくしてトゲトゲをびっしりとはやした凶悪な鈍器を装備している。いかにも攻撃力が高そうだ。

そして、黒い揃いの全身鎧に身を包み、自分の身長ほどもある巨大な盾を持っている戦士二人、『難波の轟丸』に『Mr.バーボン』。顔から何からすべて鎧に包まれているので、名前以外に見分けるすべはない。

なぜだろう、彼らからは黒澤と同じベクトルのオーラを感じる。

†闇のプリースト†という名前のヒューマンは、不気味に微笑みながら(としか見えなかった)、両脇に控える二人とともにバフをかけまわしている。どんな効果があるのかは不明だが、よろいや武器がキラキラ光りだしだ。

「ククククク、バーボンさん、轟さん、やっておしまいなさい」

やってることは正義の味方っぽいのだが、痛い言動が全てをぶち壊しにしている。まるでどこぞの極悪宇宙人か水戸○門である。

なんだコヤツラ?

俺の疑問に答えるかのようにタイミングよく入る直通チャット。もちろん、解説役の白木だ。

『PAICALさんから:痛いって有名な廃人様ですw狩り中も装備自慢ばっかりしてて、一人でモブに向かっていってメンバーおいてきぼりにするわ、バフ切れても気付かないわ、ヒールのタイミング遅くて火力職殺すわ、パーティ全滅させたのも一度や二度じゃきかないそうですよ。どこぞの大型掲示板でもすげえ叩かれまくってる超有名人です』

うん、見た目からしてなんとなくそう思った。

『PAICALさんから:オープンβ開始から昼夜を問わずインし続けて、10日でレベル50台に達したというツワモノの殴り天らしいです。それ自慢しているSS(スクリーンショット)が『しらたき』の画像BBSにupられてたので間違いないかとw』

ある意味レアなポケモンに出くわした気分である。

ちなみに、殴り天って何だ?

『PAICALさんから:ああ、ヒーラーの二次職、テンプラーのことですよ。範囲攻撃こそ乏しいんですが、単純なダメージレースなら他職を引き剥がしてぶっちぎりに強いです。強力な対人スキルもあるので、全種族最強との呼び声も高いですよ』

いわゆる最強職ってやつか?

少し興味が出てきた。

『PAICALさんから:基本は知能に極振りして、"魔法攻撃力の上昇分、近接攻撃力を上げる"っていうバフがあるんですが、これを使って徹底的に攻撃力を上げて、後は鈍器でガツガツ殴るだけです。ヒューマンなので盾を装備できるし、知能依存の防御スキルもあるので、攻守ともにバランスが取れたアタッカーなんですが、欠点がひとつ。何せ、近接攻撃力UP装備と魔法攻撃力UP装備の二大人気装備を両方そろえなければならないんで、ものすごくお金がかかるですよ』

なんつーか、いかにも廃人好みの職だなあ。

「ほーっほっほっほっほ!!」

ドコドコドコドコドコドコドコ!!   「ピギャア!!」

視界の隅では、当の本人が例のゴツイ鈍器で赤い将軍様をタコ殴りにしている。

トゲトゲがゴブリンの顔面に突き刺さるたびにグチャリ、ヌチャリと生理的嫌悪感を呼び覚ます音を立て、見る見るうちにゴブリンのHPが減っていく。最強という呼び名は伊達ではないらしい。

しかし、黙ってさえいれば美しいといっても問題ない顔が、嗜虐的な笑みを浮かべているように見えるのが恐ろしや。あ、返り血が・・・

その両脇には全身鎧の戦士が控えていて、盾でゴブリンの物理攻撃を捌いている。ゴブリンの攻撃は片手剣と盾のガードによって完璧に防がれていて、まったく効果を上げていない。

例の魔法攻撃ですら、

「ぬるいわ!」

の一言で、即座に反撃を返す始末。HPにもほとんど変化がない。

『PAICALさんから:妨害スキルを一度に解除できる天ぷらのスキルですよ。気絶効果とか一部のスキルを除けば、パーティメンバー全員にかかったスキルを一度に解除できるです』

中の人はともかく、強いことは強いらしい。

同じヒーラーとしては少々心惹かれるのだが、なぜだろう、現物を見ても少しもうらやましいと思えないのは?

俺は生暖かい視線を注いでいたのだが、

『ローズヒップ:うっわ、プリーザ様沸いているよw俺初めて見たわwちょっとイタボン来てみ、マジうけるwww』

はい?

『ローズヒップ:あ、誤爆です>ω<;』

ちょ、今の何?!

『PAICALさんから:wwwwwwwwwwww。チャット画面の操作ミスで、パーティチャットの方に書き込んじゃったんですよ。たぶん、フレかギルメンあたりと話してたんでしょうねw』

ボイスチャットからは悲鳴のような白木の笑い声が聞こえてきた。

なん、だと。

・・・真実は時に大いなる痛みを伴うものだ。

結局、この手につかんだのはまたしてもフェイク。何もかも奴の思うがままだと言うのか。

ヂックショーーー、草生やし過ぎなんじゃあ(゚Д゚)ゴルァ!!!

そして、

「みんな、待たせたな!」

ビシッと格好をつけてポージングする、革の鎧に身を包んだ戦士(ファイター)。

黒澤登場。

「ここは俺に任せろ!」

みなまで言うなとばかりにボス殴りに参戦していく馬鹿一匹。

もはや俺には止める気力もない。

「食らえっ!!」

黒澤のファイターは、勇ましく手にした初心者の片手剣をモブにたたきつけた。

やつの攻撃力なぞ俺らとそう変わらないので、とてもダメージを与えているようには見えないが、それでも例のプリ様の活躍もあり、やがて顔中を青あざだらけにした将軍様は泣きながら消えていったのだった。

「おつ~」

「おつw」

「お疲れ様^^」

「おつでした」

一仕事終えたプレイヤーたちが互いの健闘をたたえつつ、表示される「おつ」の嵐。

そして、

「テメエ!ドサクサ紛れに俺殴ったろ!!」

「知るかボケ、んなところにいるほうが悪いんじゃ!」

『逝ってよし』

「板に帰れ!!」

その一方で、いきなり始まったPK合戦。

いたるところで剣を突きつけあい、鈍器をたたき付け合っているプレイヤー達。

プレイヤーキャラに攻撃を行ったことで、キャラネームが紫色になってしまったキャラ多数。さらに、PK行為によって、すでに真っ赤に変化しているキャラもいる。

乱れ飛ぶ隕石、飛び交う稲妻、戦士が膝をつき、ヒラが倒れ、ワンコがあさってのほうにぶっ飛んでいく。

もう滅茶苦茶である。

先ほどまでの一致団結した奮闘は、ありゃなんだったんだ?

あらゆる意味で眼前の光景に意識を奪われている俺の背後で、

「ほう、あのコボルト、攻撃するたびにクリティカルが発生しているようだが?」

『あれは敏捷ワンコって呼ばれてるタイプです。敏捷に極振りすることで、回避率と攻撃速度上げてクリティカル攻撃で削る対人特化のスタイルですね』

等と、PK合戦の様子を観察しつつ意見を交換している、青崎とやわらかタンク氏。

「どうもありがとうございました。助かりましたです」

『本当に助かりました>ω<b』

「いえいえ~困ったときはお互い様ですよ」

「あ、記念にフレンド登録させてもらってもいいですか」

『私も~』

「こちらこそ♪」

和やかに会話しつつ、フレンド登録等を行う白木とローズヒップ氏、あみりあさん。





そして、

「やあ、ブラックナイト君といったかな。君、すごく見所があるね」

「マジッすか!」

「うん、いいねえ。どうだい、僕らのギルドに入らないかな」

「お願いしまッす!!しまっす!!」

なんて、会話が黒澤と†闇のプリースト†様の間で交わされていたのだった。



・・・・・orz




一章「ゲーム開始」編終

次回、「レベル上げは地獄だぜ!」編に続く








おまけ:


ex1.赤羽の職業メモ

以下は主人公の赤羽剛(仮名)がゲームをはじめるにあたり、キャラ作りのために三時間ほどかけて調べたメモです。

内容は作者の独断と偏見と話の都合とその場のノリで適当に変更されます。


(ステータスの種類)
力(物理攻撃力)
敏捷(攻撃速度、命中率、回避率)
体力(HP量、物理防御力)
知能(魔法攻撃力)
精神(MP量、魔法防御力)
運(クリティカル率、アイテムドロップ率、製作成功率)


(種族と職種)
種族:コボルト
通称ワンコ。狼人間的な外見の種族。回避率に補正がある。
装備可能武器:短剣、片手剣、双剣、鞭、パチンコ、クロー(拳につける爪状の武器)

一次職:盗賊(シーフ)
鍵開けスキルや、一対一の戦闘をサポートするスキルが得意。
→プレデター:対人特化の暗殺者
→トレジャーハンター:ダンジョン攻略のプロ

赤羽メモ:対人特化の殺し屋か、宝探しの達人か、いずれにしろ高レベルになるとソロが多くなるらしい。つかパーティ需要がほとんどない。ハイドで隠れながら宝箱を探してダンジョンうろつくことで、レアアイテムが手に入る確立が一番高いそうな。なお、PKが一番多いらしい。
俺的評価:△(地味すぎる)→×(赤犬死ネ!!)



種族:エルフ
ご存知エロフ。攻撃命中率に補正がある。
装備可能武器:短剣、片手剣、弓、石弓、楽器

一次職:弓使い(アーチャー)
遠距離物理攻撃を得意とする唯一の職。
→レンジャー:最大射程を有する遠距離攻撃のプロ。
→スカウト:弓を使用する魔法使い。DEより射程は長いが火力少なめ。多対多の対人でこそ真価を発揮するらしい

赤羽メモ:狩場の『足』としてパーティをサポートする有力スキル、スピーディフット(移動速度を上昇させるバフ)が使えるため、パーティ需要は多い。ただし、リアルに体力が必要な職ナンバーワン(?)だとか。意味はよくわからん。ソロもそこそこできるらしい。
俺的評価:△(いまいちぱっとしない)→◎(あの尻は侮れねえ)

一次職:詩人(バード)
楽器による特殊スキルを持つクラス
→モンスターテイマー:動物系モブをテイムできる特殊クラス
→エレメンタラー:自然の精霊の力を借りた魔法を行使できる魔法使い

赤羽メモ:歌でモンスターを踊らせたり、引き寄せたり、パーティのHP自動回復量を増やす等ができるらしい。日本鯖では未実装。韓国でも実装されたばかりのようだ。
俺的評価:?



種族:ヒューマン
HPの量に補正がある。人気種族ナンバーワン。
装備可能武器:短剣、片手剣、両手剣、盾、ポールアーム、鈍器、杖、短杖

一次職:戦士(ファイター)
狩場ではモブのタゲ取りが主な仕事
→ディフェンダー:防御の鬼。通称『肉団子』)
→グラディエーター:武器攻撃スキルが豊富な物理攻撃職

赤羽メモ:一に体力、二に体力、三四がなくて、五に力。肉団子の愛称で親しまれる狩場の盾。育つとボス並みに硬くなるので、対人でもこいつのHPを削りきれる職はまずないらしい。力、体力、HP、物理防御力等を強化できるバフを持っているので、支援職としても人気。
俺的評価:○(良くも悪くもオーソドックス)


一次職:治療師(ヒーラー)
範囲回復魔法や毒治療等ができる支援職。だが育つと無敵らしい。
→ビショップ:究極の支援職
→テンプラー:ダメージレースを制する最強アタッカー(これだ!)

赤羽メモ:唯一、回復スキルを持つ職種。育ってくると攻撃魔法も覚えられるらしいのでたぶん最強w
俺的評価:◎(ベホマは最強魔法)→△(パーティじゃリアル精神が必要すぎるだろ!!)



種族:ハーフリング
小人族。運のよさ(製造等の成功率?)に補正がある。
武器:短剣、双剣、鈍器、盾、鞭、農具(クワ、スコップなど)

一次職:農夫(ハーベスト)
ポーションやスクロール等の消耗品作成や、ペットの育成ができる生産職。
→メタルワーカー:アクセサリー系を作成したり強化できる生産職
→ブラックスミス:武器防具を作成したり強化できる生産職

赤羽メモ:生産特化の珍しい種族。生産を睨んでステは大体「運」極振りになるそうのでパーティに入ると嫌がられるが、意外にも人気は高い。二次職になると攻城戦用大型武器も作れるらしいが、攻城戦自体が未実装なので評価不能。これだけは選ぶまい。
俺的評価:×(生産とか超メンドイ)



種族:ダークエルフ
魔法の扱いに秀でた亜人族。MP量に補正がある
装備武器:短剣、片手剣、短杖、杖、長杖、鞭、楽器

魔法使い(メイジ)
魔法攻撃職。狩場の花。
→ウィザード:範囲の鬼。1PTに1人は欲しい人気職
→ネクロマンサー:悪魔系、悪霊系モブをテイムできる特殊職。対人で化けるそうだが、不人気。

赤羽メモ:範囲魔法を数多く有する狩場の主力。1パーティに一人はいないとマズイらしい。人気はヒューマンと1、2を争う。だが、育っても対人能力はあまりないらしい。他にも二次職があるらしいが未実装。
俺的評価:○(回復魔法さえあれば文句なし)→◎(おっぱいおっぱい)




[18636] 【習作】このMMOは荒れている7
Name: banepon◆67c327ea ID:59c4b37c
Date: 2010/05/28 23:42
第二章投下します。二章まとまった時点で、一章も1板にまとめようと思っています。


0.海は広いな大きいな




オッス、オラ、バネポン。

この間の騒動以来、すっかり人間不信になってます。

父上様、母上様、オンラインゲームは怖いところです。

今はこのココロの傷を癒すべく、ベルロンドの人気のない岬で渚の音に耳を傾けているのさ。


ドッバーン、ザザー
      ドッバーン、ザザー 
            ドッバーン、ザザー

アホー アホー!




[全体]益田四郎時貞:廃人PT交代戦士様募集。直チャおね^^b

[全体]ぬこ無双:買)レッドハット(クリティカル率9%↑) 出)40M 直チャよろ

[全体]通りがかり:ラージシールド防御力10%等、噴水横で露天中。お気軽にどうぞ^^

[全体]カニ侍:レッドキャップス、ペットレベル3売ります。希望額を直チャよろ。22時〆

[全体]みなわの雪:神殿横でオークション開催中。参加者募集

[全体]mei:L51精神ビショ、裸族狩りPTありませんか?

[全体]わんちゃん:無差別PKギルド『OK牧場』ギルメン募集。プレデターとレンジャイ歓迎!PKという名の新たな刺激をみんなにプレゼントしましょうw

[全体]コロ助:↑の馬鹿どもはスルーの方向で^^




波の音にカモメ達の鳴き声、ひっきりなしに入ってくる全体チャットのカヲスぶり。

そして、浜辺で膝を抱えて蹲るBANEPON。現実の俺はクッションを抱えてあごを乗せ、コンビニで買ってきたワラビもちをうまうましている。

この海岸というフィールドは、ベルロンドの町から少し海側にいったところにあるのだが、見事に人気がない。

照りつける太陽と、青い海、白い砂浜がずっと続いているだけで、モブもいなければNPCもいない。カニや小魚が気ままに泳ぎ、海草が揺れ動くのみ。波打ち際では砂が波にさらわれていく。妙にリアルな風景だ。

その波音に誘われたのか、今の俺みたいに癒しを求めているPCらしきキャラが数名、互いに孤独を保てる微妙な距離をとって点在している。そして、時折、突発的に入水しようと海に向かい、やがて波に押し戻されて海岸に打ち上げられたりしているわけで。・・・同士よ、茅ヶ崎あたりに行くがよい。

この間の鍵テロでは、幸いにも手に入れたレアアイテムを落とすことはなかった。

だが、代わりに大変なものを奪われてしまった。そんな俺の心象を一言で表すならこうなる。

奴は大変なものを奪っていきました。俺の心です。

ほふう。

悩ましげなため息をつくBANEPON。こんなモーションまで用意した運営乙。

「・・・おまえ、何やってんの?」

「思春期かしら?」

そんな俺様を見つめる馬鹿二人。言わずと知れた青崎と白木である。

ジト目モーションを発動させているあたり芸が細かい。

二人の後ろには金魚のウンチのように黒澤が引っ付いているのだが、ボイスチャットからガチャガチャとキーボードをたたく音しかしないので、誰かと直通チャットでもしているのかもしれない。

「ローズヒップ氏が先に狩場確保してるですよ。あんまり時間空けるとソロだと思われて横殴りとか怖いです。さっさと合流しましょ」

「とりあえずPOT確保、と。あと火力が1人集まったら狩り行くぜ」

BANEPONの襟首をむんずと引っつかんで引きずるワンコ。渚には、引きずられていくわが尻のあとだけが続いていく。ドナドナドナ~ドナ~♪

どうやら俺には落ち込む権利すらないらしい。

つか、このゲームってこんな行動もできたっけ?

「ハングってスキル覚えたんだよ。本来は大型モブなんかの首を絞めて拘束するスキルだが、バグがあってな。こんな風に嫌がらせにも使えるんだ」

説明をありがとう、マイフレンド。そして、てめえの血は何色だ?

「タンクさんもインしてるようですが、誘わなくていいですか?まあ、役立たずなのは毎度のことですけど」

相も変らぬナチュラルブラック白木。

俺様のささやかな抗議も完璧にスルーしている。

「タンクは生産クエやるから、今日はソロでいくとよ。お前らにもよろしく伝えてくれって、連絡あった」

あれ以来、妙にやわらかタンク氏と仲のいい青崎。

何気にフラグ立ててるとか、こいつのスキルも侮れねえ。

「あいあい、じゃあ火力募集かけときますね。ハズレじゃないことを祈りましょ」



[全体]PAICAl:ジャイアン狩PT、火力さん募集@1狩場確保済み、直チャおね^^v



手際よく全体チャットにメンバー募集の通知を書き込む白木。

しかし、野良PTは当たりハズレが大きすぎることを身をもって知ったばかりである。もう少し面子探しには気を使いたい。

できれば誰か信頼できる人を探して、なるべく固定PTを組みたいものだ。

「そういや、この間の『桃缶』とかってキャラ、2chと『しらたき』にさらされて炎上してたな。しかも、SS付で」

今思い出したとばかりに、さりげなく話題を振る青崎。

意味深な口調で、如実に貴様の仕業かと問うている。

「ですね~♪よそ様でも色々やらかしてたみたいですし、自業自得でしょう。もう、あのキャラじゃ野良PTには誘われませんよ。デリートして作り直したんじゃないですかねえ♪」

ケラケラと本当に楽しそうに笑う白木。

何のことでしょう、とあからさまに惚けている。

声とキャラの外見からは(リアルの見た目も、だが)可愛らしく微笑む女子そのものだ。それ故に正体を知っている身としては恐ろしい。

「・・・あいも変わらず敵に回すと恐ろしい男よ」

「人間って、普段の行動が大切ですよね~♪」

ですよね~♪

・・・確かにこの男だけは敵に回したくないものである。

「バネポン、なんか調子悪いなら今日はパーティ止めときます?」

天使のような透き通る声で問いかけるエルフ。

だが、ニコニした顔が妙に怖い。

目は笑っているのに、微妙に顔に影が射しているような気がするのは、PCに搭載した安物グラボのせいだけだろうか。

「い、いや、気が変わった。うん、今変わった。狩行くじぇ!」

俺のやる気は、たった今唐突に湧き上がった気がする。

「あら、そうですか。じゃあ、行きましょう♪」

そう言うと、エルフは片手をBANEPONに掲げた。

瞬間、青く透き通るような風が吹き、白い羽の舞うエフェクトがBANEPONを包み込んだ。『羽の生えた足』をデフォルメしたエフェクトが一瞬だけ出現し、ステータスウィンドウの移動速度が倍加する。

これは、弓使い(アーチャー)のバフスキル、スピーディフットだ。

一定時間の間、対象の移動速度を向上させる。上昇度合いと持続時間はスキルレベルに依存するため、躊躇することなくマックスまであげられる定番スキルらしい。

カースオンラインでは各種族の拠点となる大都市へはワープ石が完備していて、楽に移動することができる。だが、それ以外の小型都市や狩場へは普通に歩いて移動するしか術がない。しかもフィールドは狙ったように無駄に広い。

マップ上の一つのフィールドを直線移動するのに、通常の移動速度で走ると最短でも15分はかかるらしい。そのため、移動速度を上昇させるアイテムやスキルは重宝がられるのである。特にスピーディフットは効果が大きく、このためだけにサブキャラとしてエルフを選択する人も少なくないそうだ。

順番にバフをかけまわし、準備が整ったところで出発だ。

「じゃあ、先頭走るので、追尾よろ」

俺は即座にエロフの尻にマウスポインタを合わせて右クリックすると、『追尾』を選択した。

これで俺はなんの操作をしなくても、BANEPONはエロフの尻を追って「うおおー!!エロフ!うおおー!!」と駆け出すことになる。リアルでやったら通報されること請け合いの機能である。

「出発~♪」

ふりふり揺れる尻を追いかけながら(その後ろから、BANEPONの尻を追尾するワンコのことはもちろんアウトオブ眼中)、俺は志も新たに狩に赴くのだった。



結論:エロスはいいね。人類の生み出した文化の極みだよ。




そして、

「あ、待って!置いてかないで~~!!」

黒澤の間の抜けた声が、ベルロンドの郊外に響き渡るのだった。







第二章  「レベル上げは地獄だぜ!」編


1.キャラの育て方?・・・orz




GAOOOOO!!!



おぞましい雄たけびを上げたのは、紫の肌に茶色の毛皮を袈裟懸けに来たモンスターだ。

片手には黒い鉄の棍棒を持ち、ぶよぶよと脂肪の詰まった腹を揺らしてこちらを目指して駆けてくる。見事に禿げ上がった頭部には小ぶりの二本の角があり、黄色くにごった目には知性のかけらも感じられない。

イタボンから程近い『廃人遺跡』、その地下二階に生息する人型モンスター、ジャイアントオーガである。

通常のモンスターよりも強めに設定されたネームドモンスターという種類のモブで、ボス、セミボスに次ぐ強さを持つが、沸きは通常通り。倒してから数時間、もしくは数日の時間を必要とするボスクラスとは違い、倒せば数分で新たなモブが沸いてくる上に、手に入る経験値が多く、しかもレアアイテムをドロップする確立が高いという人気者だ(実際に、いくつかのパーティが他の沸きポイントでジャイアンを殴り殺している)。

ジャイアントの名前にふさわしく、外見は通常のPCの3倍ほどの巨体だ。見た目は日本昔話に出てくる鬼のイメージに近い。もしくは、ずんぐりむっくりとした体系から相撲取りを連想させる。

移動速度はのろいのだが、巨体が地響きを立てて迫ってくる光景というのは恐怖心を芽生えさせるものだ。実際、最初にこのモブを目にしたときは、軽く鳥肌が立ったものである。

「沸いたぞ!」

犬のような顔つきのキャラクターは、ボイスチャットで警告を発するやいなや、突如として出現した大型モンスターに取り付き、その首元に片手を差し込んだ。

コボルトの一次職『盗賊(シーフ)』のスキル、『ハング』である。対象モブの首を絞めている間、移動を不可能にし、攻撃速度を半減させる効果があるという。大型モブを倒す際には定番の拘束スキルだそうだ。

ぶっとい首をつかむには、ワンコのその手はあまりに小さいのだが、首をつかまれたオーガは苦しげに身をよじり、その場にひざを着く。だが、その姿勢のまま、棍棒を振り回してくるので危険である。

「グロ澤!」

「任せろ!!」

青緑色をした『青銅の鎧』に身を包んだ一人の戦士が、拘束されたモブの前に躍り出ると、中指をおったてた。

これは単なる挑発行為ではなく(他の職種でも、同様のモーションをすることはできる)、『タウント』というヒューマンの一次職『戦士(ファイター)』の基本スキルだ。モブの敵対心を煽り、使用者にターゲットを向けさせる効果がある。ボス、セミボスクラスには効果がないが、幸いジャイアントオーガには通じるのだ。

その場に拘束されたまま、戦士に向かって届きもしない棍棒をむちゃくちゃに振り回すジャイアン。なかなか愛嬌のある動作である。

「固定完了、殴れ!」

その掛け声に、周りを囲んでいた俺たちは、いっせいにジャイアンへの攻撃を開始した。

「あい~」

白木のエルフが弓を射掛け、

『私、ワンクリ放置してトイレいてきます~>ω<』

ローズヒップ氏が魔法の炎を降り注がせる。

「いてら~」

『侍』

俺たちのパーティの平均レベルは12を超えた程度。比してジャイアントオーガのモブレベルは18になる。

明らかに格上の相手を前に、全員が緊張感をみなぎらせつつ、ジャイアンへの攻撃を続けている。

「ローズさん、戻ったらバフ更新よろ~♪」

『了解^^b』

ちなみに、白木の操るエルフはまだ攻撃スキルを覚えていないとのことで、通常攻撃(つまり、マウスでワンクリ放置)のみである。

広いフィールドで複数のモブを倒すような狩りでは、射程の長さを生かしてモブを集める『釣り』役をするのだが、このように1匹の大型モブを小突く際には、ただの火力である。常に走り回る『釣り』よりも動かず狩れるジャイアンの方が楽らしく、レベル10を超えてからは常にジャイアン狩りを推進する急先鋒だ。

「ケッ、絞め殺すだけじゃイマイチおもしろくねえなあ」

逆に、この狩では黒澤と共にモブの足止めに終始する青崎は、直接モブを殴りにいけないためにフラストレーションが溜まるらしい(まあ、俺的にはこのほうがおとなしくていいのだが)。

「Fuck You!!」

どんなときでもテンション高過ぎの黒澤。

何気に帰国子女らしく、発音も完璧な本場の煽りを見せてくれる。

そして、

「ヂックショー!!」

渚に捨て切れなかった、行き場所のない怒りをモブにぶつける俺様。

新たに手に入れた『珊瑚の棍棒』(装備レベル:12)を手に、勇ましくジャイアンに殴りかかっていく。

「バネ!お前は殴りに参加しなくていいから、祈ってパーティヒールだけかけてろよ」

ちなみに、『プレイ(祈り)』とはMPを回復させるヒーラーのスキルのことだ。

「やかましい!!何かしてないと眠気に襲われるんじゃあ!!」

基本、ジャイアンはワンコとファイターにサンドイッチにされたまま完璧に拘束されるので、誰かがダメージを受けることもない。ぶっちゃけ暇だ。

時折、ジャイアンの敵対心が高まりすぎて拘束が解けたり、タゲが火力の強いローズヒップ氏や白木のエロフに向くこともあり、そうなると彼らがHPを削られることになる。腐ってもネームドボスであるジャイアンの一撃は強力で、ただでさえ紙装甲のダークエルフやエルフでは2、3発も殴られるとチンでしまうのである。

そして、もし死んでしまったら、非常に面倒なことになる。デスペナルティが発生するのはもちろん、その場でキャラ復活をさせられるレザレクションというスキルをヒラが覚えられるのはレベル28以降であり(復活アイテムもあるにはあるが、非常に高価なので使う奴は、まずいない)、つまり死んだら町まで『死に戻り』するしかない。エルフはスピーディフットを死亡したキャラにかけに町まで戻らなくてはならないし、万が一、拘束役のワンコか戦士が戦死したらパーティ崩壊の危機にもつながる。

青崎はそういう事態に備えて、待機しろといっているわけだ。

「ヒラが死んだら、誰が回復するんだ!」

まさに正論。

どこぞの婆忍者様のようである。ワンコの癖にぃ。

だが、モブのタゲが外れるような事態というのは滅多にあることではなく、本当に退屈な狩なのだ。ジャイアン狩りはヒラと火力職の『寝落ち』を誘うと有名である。

「くそう、ヒラはただのポットだとでもいうのか」

「何をいまさら。このゲームじゃヒラは"ポット"でエルフは"足"扱いですよ。支援職はいつの世も茨の道なのです」

ケッ、効率厨共め、と吐き捨てるエロフ。狩りに夢中になっているのか、幸い他の面子には聞こえなかったようだ。

『ただいま (*゚∀゚)ゞ 』

「おかえりなさい」

「おか」

トイレから帰ってきたローズヒップ氏を迎えた後は、会話らしい会話もなく無言でジャイアンを殴るのみ。本当に暇な狩である。

『ローズさんて、火力がすごそうですが、知能型ですか?』

よほど暇をもてあましたのか、そう通常チャットに書き込んだのは、野良で参加のダークエルフ『ハバネロ』氏だ。名前はアレだが、中身は普通の人だ。いつぞやのこともあって、ダークエルフには偏見のある俺だが、この狩では特にトラブルが起きることもなかった(退屈な狩だからというのもあるだろうが)。

『いえ、実はまだ体力にしか振ってないんです。転職後を睨んで精神に極振りしようかと思ってますが』

それでその火力とは、いったいどんだけ良装備で身を固めているというのだろうか。

『あらwじゃあ、もしかしてメテオ目指してます?』

『ですです。転職したらメテオストライク覚えてガンガンいきたいですね(*`・ω´・)b』

メテオストライク。通称、マダンテ。

すべてのMPを一気に消費し、消費したMPに応じたダメージを与えることのできる範囲攻撃魔法。ダークエルフの二次職『ウィザード』のスキルだ。きわめて効果範囲が広い上に、魔法攻撃スキルとしては最強クラスのダメージを叩き込むことができる。その特性から、ついたあだ名が『マダンテ』。

通常、魔法スキルによるダメージは知能のステータスによって上昇するのだが、このスキルだけは消費MP量に依存する。そこでMP量を上昇させるためにステータスを精神に極振りしつつ、MP上昇系装備を揃え、メテオストライクのみを連発するメテオWIZというスタイルが成立するのである。

もちろん、一発打ったらMPは空になるので、使用後はMPポットをガブ飲みしつつ逃げ回ることになる。ステは精神に極振りするので他のスキルの威力が雀の涙になるそうで、次弾装填までの間はほぼ無防備になってしまうからだ。

だが、それでもMP量を上げることにこだわり、一撃の威力にすべてをかけてこそのメテオWIZ。

ある意味もっとも漢らしい戦い方である。

「豪快ですね。そうか、ローズちゃんはメテオWIZかあ」

『パイちゃんは、レンジャイ志望でしたっけ?』

「ですよ。対人も楽しみたいので♪」

中の人さえ気にしなければ、和やかな光景なのだろうが・・・まあ、プレイ方法は人それぞれだ。俺も丸くなったものである。

「レンジャイか。対人職とはお前らしい。俺もプレデターになるつもりだから、育ったら勝負な」

青崎も会話に参加してきた。ハングしているだけというのも暇なのだろう。

ちなみに、レンジャイとはエルフの上位二次職で、全職中最大射程距離を持つ物理攻撃ができる。また、プレデターとはコボルトの上位二次職で、一対一戦闘を補助するスキルを豊富に持っている。

この二つは、カースオンラインの中でも1,2を争う対人職らしい。まったく、こいつらにはふさわしいとしか言いようがない。

「あいあい、お手柔らかにお願いします」

犬コロ風情が生意気な、と呟くエロフ。両者の間で見えない光線が飛び交うのが目に見えるようである。

それにしても、育成か。

どの職にもいえることだが、このゲームではレベル50代を超えると転職クエストを行って、上位二次職にジョブチェンジすることができる。

そして、我がキャラBANEPONは、治療師(ヒーラー)である。回復スキルを使用できる唯一の職だが、ヒラが上位二次職になるにあたっては、二つの選択肢が存在する。すなわち、『ビショップ』と『テンプラー』だ。

ヒーラーの上位二次職である『ビショップ』は、まさに究極の支援職ともいうべき職だそうだ。

他者に使用できるバフスキルの数は随一、その大半は防御系スキルとのことで、モブの強さが増すレベルの高い狩場へ行くほど需要が増すらしい。ダークエルフの二次職『ウィザード』と並んで、狩場の人気職だそうだ。だが、攻撃力はほぼ皆無。ソロはできず、パーティでは忙しい。必然的にお金がたまらない不遇職でもあるらしい。

もう一方のテンプラーは、方向性がビショップとは180度異なる。

言ってしまえば、最強アタッカー。鈍器を使用した一撃の威力は他職を圧倒し、盾を装備できるために防御力も高い。回復手段も持っている。

だが、ボス狩りや対人戦で大活躍できる反面、装備に非常にお金がかかるらしい。また、知能に振る必要があるために回復スキルの効果は低く、パーティでは"似非ヒラ"、”偽者”と呼ばれて嫌がられるそうだ。白木によれば「天ぷら育成に必要なのは、何を言われても気にしない"面の皮"です」とのこと。

ゲーム開始直後の俺なら、迷わず『テンプラー』を選択しただろう。

だが、つい最近、実際にこの二つの職についている人物を目の当たりにする機会があったのだが、そのときの経験が俺に"待った"をかける。

一人は、この間の鍵テロで知り合ったビショップの『あみりあ』さん。自愛あふれる天使。心まで癒してくれる。

もう一人はテンプラーの『†闇のプリースト†』。廃装備に身を包んだ、痛いと評判の有名人だ。ああは、なりたくない。

今のところ、俺は獲得したステータスポイントを体力にのみ振っている。どちらの職を選ぶにしろ、ある程度は体力が必要だからだ。

果たして、俺はどちらを選ぶのか。



GAOOOOO!!!



と、そんなことを考えているうちにも、新たに沸き出したジャイアンを殴り殺すのであった。




[18636] 【ネタ】このMMOは荒れている8
Name: banepon◆67c327ea ID:ca9257c5
Date: 2010/06/07 22:14
作者注:このSSの8割位は、作者自身の経験したノンフィクションでできているかもしれません



2.狩の最大の敵、だと?





あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。

いつの間にか目の前に尻と胸の大群が現れたんだ。ここは天国かと思ったら、気が付いたらキーボードに額を押し付けて突っ伏して、なぜかパーティが全滅していた。

な、何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも何が起こったのかわからねえ。



「アホかぁ!!!!」

ボイスチャットの音量を下げないと鼓膜をやられそうな大音量で怒鳴る青崎、

「チネ、バカバネ!」

真っ黒なおなかをさらしたまま叫びだす白木に、

『・・・・。』

ローズヒップ氏は、わざわざ『・・・』をタイプしてまで無言の抗議を向けている。

まったく、元気のよすぎる死体共である。

そして、メタボ腹をゆさゆさゆらして周囲を我が物顔に歩き回る”二体”のモブ、ジャイアントオーガ。ときおりあくびをしながら腹をかく動作が憎らしい。




事の起こりはあまりにも不可解且つ不可思議であり、超自然的な力が働いているのは疑いようがない。

俺達は引き続き、いつ終わるとも知れないジャイアン狩りを続けていた。と言っても、基本ワンクリ放置の緊張感のなさ過ぎる狩だ。自然と俺の興味が他の者に向いてしまうのも仕方のないことだろう。

ごく自然に、俺の視線は共に戦う戦友達の方に向けられる。支援職であるヒラとしては、他の職がどのような動きをしているのかを見るだけでも勉強になるのだ。

そう、矢を射るごとにプリプリと揺れる尻。

スタッフを掲げるごとにやわらかく撓む胸。

ここは何処のパライソか、それとも時代がかったブラウン管式ディスプレイの見せる幻影か。

まさに、老いも病もない国である。

だが、ここで信じられないことが起こった。

なんと、尻と胸が徐々に数を増し、わが視界を占有しだしたのである!



お尻がひとつ、お尻がふたつ、

おっぱいがみっつ、おっぱいがよっつ

おしりがいつつ、おっぱいがいっぱい・・・・・・・・・・・



果たしてこれは、何かの心霊現象なのか?

それとも、電子の海が作り出す特異空間に影響されての幻覚か?

はたまた、尻と胸が人類に反旗を翻し、尻胸王国の建国を目指してDG細胞を取り込み、自己進化と自己増殖を開始したのか?

それとも、カースオンラインの秘められた機能がついに始動し、プレイヤーを取り込んだデスゲームの始まりだとでもいうのか!!

わが思考は増え続ける尻と胸に費やされ、脳は桃源郷を駆け巡る。

現代の科学では解明しきれなくなってきたジャイアン狩りパーティ。

この大宇宙の神秘を解明すべく全身全霊を傾ける俺の耳に、やがて遠くはるかな向こうから、なにやら別の音が聞こえてきたのである。



「おきやがれですぅ!!」

「ヒラがねるなぁ!!」

『バネさん━━━━(゚д゚;)━━━━起きて、みんな死んじゃうぅ~~~!!』



それは、ひっきりなしに響いてくる悲鳴と、画面を占領する巨大な二体のモブ。

すなわち、足元で騒ぐ憎いコンチクショウに自慢の金棒を振り回して、ゴミのように叩き潰すジャイアン達。ちなみに、今にもリサイタルを開きそうなくらい上機嫌なお顔である。

そして逃げ惑う、尻、胸、その他3名。

悲鳴、怒号、野次、騒音。

何事か、と俺が固唾を呑んで意識を切り替えた瞬間、前述の光景が展開されていたのである。

これだけをとってみても、この俺に責任がないのは確定的に明らかである。

「100%お前のせいだ!!」

「寝落ちとかありえません!!」

『30分に一回はジャイアン二体同時沸きがあるって、言ったじゃないですかぁ!!(#゚Д゚)』

30分に一回とか、その微妙すぐる沸き時間も俺が眠気の大攻勢を防ぐことのできなかった理由のひとつであろう。

「やかましい!尻と胸がいけなんだ!!俺をパライソへいざなうから!!」

「わけわかんねえよ!!」×5

チッ、心の狭い連中である。

続いて噴出す非難の嵐。誰か俺様にもヒールしてくれ。

だが、延々と続くかと思われた云われなき非難も、やがて死亡時の待機時間が差し迫ってくると、ピタリとやんだ。

このままでは町に戻されてしまう。それが何を意味するのか、わからないものはこの場には一人もいなかった。

「誰か、ヒラのフレいないか?死に戻りすると、その間に狩場とられるぜ」

現在、カースオンラインでは狩場が慢性的に枯渇している状態にある。

ゲームにログインしてくるプレイヤーに対して、経験地獲得効率のよい狩場の数が圧倒的に不足しているのだ。そのため、狩場待ちの長蛇の列ができたり、一度狩場を確保したら欲張って延々と狩をし続けて、寝落ち全滅フラグを打ち立てる勇者が後を絶たないという。俺達のパーティに怒った悲劇も、そんな氷山の一角なのである。

特にジャイアン狩りは、低レベルパーティの超人気スポットなので、ゲームにインしたものの狩場の空き待ちだけで時間がすぎていくのもザラなのである。

今でさえ、俺達の様子を伺っているらしきキャラが視界の隅で右往左往している。

「とりあえず、僕が暇してそうなヒラのフレを当たってみます。誰か来てくれるかなあ・・・」

狩場で寝るヒラはただの豚!と、いつもにもまして内心の発露を抑え切れていないらしい白木。ボイスチャットを通じて流れた腹黒ボイスに、慣れていないローズヒップ氏やハバネロ氏がビビリまくっているのが手に取るように伝わってくる。

それにしても、なるほどやつが積極的にフレンドリストを埋めていたのはこのためか。さすが白木、抜け目ねえ。

そして、



「助かりました。本当にありがとうございますです、あみりあさん」

「ありがとうございます」

『あ(・∀・)り(・∀・)が(・∀・)と(・∀・)う!』

『ありです><』

あみりあ様光臨。

先日の白木のフレンド登録がいきなり役に立ったようだ。

慈愛の光を降り注がせ、次々と倒れた冒険者達を復活させていくあみりあ様。なにやら後光がさしている気がするのは気のせいだろうか。

ちなみに、ジャイアン共はあみりあ様に適度にボコボコにされた後で結界によって拘束されている。ビショップの持つ拘束スキルだというが、なるほど、こういう戦い方もあるのか。勉強になるものである。

「寝る直前だったんでしょう?ずっとパーティしてて疲れてるところを本当にありがとうございますです」

「いえいえ~♪」

借りてきた猫のようにしおらしい白木。腹の中は真っ黒でも、大抵の人間はこれにだまされるのである。

「BANEPONさん」

ふと、あみりあさんは人差し指をBANEPONの額に突きつけた。

「めッ!」

続いてプンプンと「私怒ってます!」的モーションを発動させるあみたん

(´Д`;)テラカワユス。

こんな動作もあるとは・・・これだからカースオンラインは侮れねえ。

「このくらいのレベルだとヒラの動きって単調ですから、眠くなるのはわかります。私もかつてはそうでした」

超いい笑顔のあみ様。

「眠さを堪えて、祈りとパーティヒールの繰り返し。時たまモブに突っ込んでは玉砕される前衛職の方々に罵倒され、あげくは単なるポット扱いされるのがヒラの道」

なにやら、遠い目をしているような気がするが、それも現代の3D技術が生み出した幻影なのだろうか。

「やがて襲って来る眠気、眠気、眠気。常に自分との戦いです。そう、ヒラの最大の天敵は、眠気」

芝居がかった調子でそう断言するあみりあさん。

なんだろう、すごい既視感を覚える。

「眠くて、そろそろ落ちようかと思っても容易には寝かせてくれない、元気よすぎるニート達。あの手この手でパーティに引きとめようとします。『ポット』がなくては狩はできませんから。しかも、深夜のパーティです。ヒラの交代要員もなかなか見つかりません。叫べども、叫べども、直チャは一向に帰ってこない。でも、私が寝たらみんな死んじゃう!」

最後の一言に、力をこめてあみりあさんは、そう力説した。

俺は、ゴクリ、と自分の喉が動く音を聞いた。

「そして、ある時、気がついたんです。そんなヒラの必須装備を!」

そんな役立つ装備があるのだろうか。同じくヒラの道を歩むものとして、ぜひとも拝聴したいものである。

「ゲーム画面を全画面からウィンドウ表示に切り替えて、コーヒー片手にニ○ニコ動画。ヒラの最良装備です!」

ぶふう!!

「あ、ニコ○コ組曲とかいいですよ。あの大合唱聞いていると、無闇にテンション上がるから。ふふふ」

ヤンデレ風な目つきで語るあみりあさん・・・・orz

どうやら、眠気が突き抜けて、いい具合にラリっていただけのようだ。ちなみに今現在の時刻は午前の2時である。

「ニートがいいっぱあい、ニコ○コ動画~♪」

きし麺!と叫びだすあみりあさん。

妙なスイッチが入ったようで、そのまま歌いだす始末である。きっとこの人、カラオケでマイク手放さないタイプだ。

しばらくあみりあさんが落ち着くまで待とうと思ったそのとき、もう一人、釣られて歌いだす馬鹿がいた。

「ヤンマーニ ヤンマーニ ヤンマーニ ヤイーヤ」

白木である。

幼い時に戦火の中を彷徨っている所をSSSに拾われ、雇われの凄腕エージェントとなった女性のように、いきなり意味不明の造語を連呼し始めた。

「・・・あ、おい、バネ。まずいぞ」

心なしか青崎の声が上ずっているが、俺も全力で同意である。

声だけ聞けば完璧な女性ボイス且つアニメ声の白木。

たまにカラオケに行けば、延々と持ち歌のすべてを歌いつくすまで決してマイクを手放さず、俺と青崎は背景と化す。レパートリーがどれだけあるのか本人もいまいち覚えてないらしいが、一昔前のアイドルから、流行の女性アーティストまで、完璧に歌いこなす白木を止められる者は誰もいない。

全力全快でアニソンオンリーの黒澤と並ぶ鬼門なのである。

「速攻魔法発動!バーサーカーソウル!」

そして、音程をはずしながらも、いきなりどこぞのアニメの名台詞を叫びだした黒澤。どうやら○コ厨としての対抗心が刺激されたらしい。

ちなみに、この男は20年以上の歴史ある元祖TCGを裏切って、漫画とアニメで火がついたお子様向けカードゲームもどきに走った裏切り者なのである(異論は認める)。リチャード・ガーフィールドに全力で謝れ!!

とにかく、こうなってはもはや黙って見守るしかない。青崎もどう対処していいのかわからずに途方にくれている。

ところが、


[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!! 
                    
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!!  
      
[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!! 

[全体]ローズヒップ:愛してる~~~!! 


結構ノリがいいのか全体チャットに連続で書き込み続け、弾幕支援し始めるローズヒップ氏。一万年と二千年前から続く俺への愛の告白だろうか。”彼”の正体を知る前の俺なら狂喜乱舞しただろうが・・・・orz

つか、なんで全チャ?!

と、思ったら、これが意外な効果を生み出した。


[全体]netz:愛してる~~~!!

[全体]なのねん:愛してる~~~!!

[全体]K’:愛してる~~~!!

[全体]しゃどむん:愛してる~~~!!

[全体]ジキル:愛してる~~~!!


次々に連投される『愛してる』の嵐に( ゚д゚)ポカーンな俺様。

周囲でパーティをしていた連中や、狩場待ちをしていた連中が一緒になって歌いだしたのだ。

眠気と単調な狩りの繰り返しで、みんな脳がいい具合にラリってるんじゃあるまいな。

「なんて友愛と献身・・・・狩場の大気から、眠気が消えていく・・・・・!! 」

混乱して大好きな名作アニメのセリフを呟いてみたりする俺様。

どうやら俺の脳もすでにこの異様な空気に犯されているようだ。

『このパーティ、マジカヲスwwww』

初参加のハバネロ氏に至っては、超ご機嫌ではやし立ててる。

次々に歌いだすパーティメンバー達に、俺様もうヤケクソである。

「億千万!!!億千万!!!」

最後に、ああ、これで今日のパーティも終わりだなぁと、青崎が悟りきった調子で歌いだしたのだった。



『『「「「「「直ぐに呼びましょ陰陽師 Let's Go!!!!」」」」」』』



・・・・orz








(作者注:時折、いろいろと何かが前後しているかもしれませんが、作者の悪ノリということでひとつご勘弁を(汗汗汗))



[18636] 【習作】このMMOは荒れている9
Name: banepon◆67c327ea ID:59c4b37c
Date: 2010/06/08 01:26
短めの閑話ですが、投稿させて頂きます。



3.閑話2 精神状態を整えておくのも、ネトゲするには重要だと思うんだ






翌日、俺は痛む頭を抱えながら、白木のアパートに向かっていた。

昨日はあの後、どこからともなく集結したニ○厨の一個大隊に取り囲まれ、延々と大合唱を聞かされ続ける羽目になったのである。早々に不貞寝してしまった青崎はともかく、俺は黒澤と白木&あみりあさんとともに、明け方までつき合わされたのだ。奴らのバイタリティはマジで異常。

朝一の授業に寝坊しなかったのが奇跡のようなものだが、お陰で今日の授業は睡眠タイムと化してしまった。思うに、明かりを落としてプロジェクターを使用した授業は、ただでさえ眠気を誘う授業を、破滅的なまでに眠くさせる効果がある。来週からテスト期間なのに・・・orz

時刻はすでに夕刻だが、そんなわけで未だに頭痛と眩暈がひどかった。ちなみに黒澤も白木も青崎も、今日は授業をサボって寝ていたらしい。

そんなこんなで足取りも重く、俺は白木のアパートを訪ねた。

「白木~いるか~?」

ドンドン!

「ん?何だ、あいてるじゃねえか」

鍵さえ開いていれば勝手知ったる他人の家である。俺は玄関のドアノブをひねると室内に侵入した、

「うちゅ?」

・・・ところで俺を出迎えたのは、ちっこい幼児だった。

ピンクのハート型玄関マットにちょこんと腰を下ろし、こちらを不思議そうな目で見ている。

年は、三つか四つくらいだろう。"菓子パンでできた自らの頭部を差し出す某ヒーロー"のパジャマを着ていて、真っ白のほっぺをプルプル揺らしている。黒くてクリクリした目といい、つぶらなほっぺといい、癖のない黒髪といい白木の面影がうかがえる。

つーことは、つまり、この子供は・・・?!

俺は自らの妄想力に恐れ戦いた。

これも寝不足の引き起こす幻想なのだろうか。

「落ち着けえ!こういうときはあの呪文を唱えて落ち着くんだ!」

と、いっても、別に素数を数えるわけではない。

「アンタップ、アップキーブ、ドロー、アンタップ、アップキーブ、ドロー、アンタップ・・」

覚悟完了。

「あ、バネポン、いらっしゃ・・」

そこにタイミングよく現れたのは、ピンクと白のストライプのエプロンをして、片手にお玉なんてベタな格好の白木。

ちなみにこの腹黒男の娘の家事スキルはちょっとしたもので、掃除洗濯はもとより料理も激ウマなのである。これで股間のブツさえ気にしなければ立派なお嫁さんになれるだろう。

だが、今はぶっちゃけどうでもいい。

「白木!ちょ、おま、これ、いつ産んだんだ?!!!」

俺は片手につまんだものを白木の目の前に掲げて見せた。

「ひんっひんっひんっ」

首根っこをつかまれたのが痛いのか、ひんひんと世にも切ねえ泣き声をあげる幼児。つぶらな瞳いっぱいに涙を浮かべ、ほっぺをふるふる揺らしている。

「きゃあ!とっしー!」

それを見たとたん、万歳して恐れ戦く白木。どうやらこの男の関係者なのは間違いないらしい。

「何するデスか?!」

慌ててお玉を放り出すと、俺の腕からちんまりとした生き物を奪った。抱っこして頬ずりをすりすり、ぐずる幼児をなだめている。ぶっちゃけ、どこぞの若くて綺麗なお○さんと言われても違和感がない。

すりすりすべすべぷにんぷにん

「・・・お前、人生設計はもっとちゃんと練ったほうがいいぞ」

「何ふざけたこと抜かしやがりますかっ!この子はお姉ちゃんの子供です!都合でしばらく預かることになったんですよ!!」

死ねばいいのに!と呟く白木。心なしか腕に抱かれた幼児も、こちらを恨みがましそうな目で見つめている。

この幼児は、緑川としあき君(3歳)。白木が産んだわけでも、産ませたわけでもなく、白木のお姉さん(2×才、既婚者)のお子さんらしい。お母さんが二人目の出産のために入院したそうで、単身赴任の父親に代わってしばらく面倒を頼まれたのだそうだ。

白木の親戚の間では、久々に現れた小さな子供というのもあって、アイドル扱いだそうな。

「・・・んで、なーにしに来やがったデス?」

抱きしめた幼子の頭をいい子いい子しながら、こちらに悪鬼もかくやというおっそろしい顔を向ける白木。可愛いものに目がないこの男にとって、この小さな甥っ子は相当お気に入りらしい。

やべえ、特大の地雷を踏んだようだ。

「あ、いや、その、ほら、今日はお前んちで、パソ持ち寄ってパーティしようかって、話してただろ」

そう、今日は金曜日。夜更かし最高、明日は授業もナッシングなナイトフィーバーである。

以前は、この日は白木のアパートに集って、白木の料理を肴に酒を飲みつつ、麻雀を打つのが習慣だった。

だが、今日は青崎と黒澤が用意したノートパソコンを持ち寄って、リアルで集まりながらプレイしようと決めたのだ。気分は、正月等にPS○を持ち寄って、親戚の家に集まってプレイするモンスター○ンターに近い。ちなみに、ブロードバンドを引いているが白木の家だけだったというのも重要な理由の一つだ。

「・・・もうアオッチもクロスケも来ているデスよ。もうすぐポトフが煮えますから、入るです」

その声を聞いたとき、なぜか背筋に冷たい汗が伝った。







大皿にいっぱいのポトフをむさぼりつくし、デザートのコケモモジャム(白木の手製らしい)付きヨーグルトも完食して、俺たちはしばしまたーりとした時間をすごしていた。

・・・ところで、人生には”心の余裕”を充填できる時間が必須なのだと思う。いや、マジで。

『エイ、エイ、この!!所詮、あなたはカモなのにゃ♪』

ゲーム機を繋がれたテレビ画面には、ナイスバディだけど頭軽そうな薄着の姉ちゃんが、鉢巻に学ラン姿で手から炎を出す万年留年高校生をボコボコにしている。

画面の前に正座して対戦しているのは、青崎と黒澤だ。

アンチェインとも呼ばれる無限コンボを容赦なく使いこなす青崎は、むちゃくちゃにボタンを押し捲るだけの黒澤には荷が重い。時折、溜まったゲージを利用して超必を仕掛けようとしては、悉く出始めを潰されている。もはやコマンド入力ゲーと化した感のあるこの手のゲームで、青崎に勝つことは不可能に近い。

「ケケケケケケケケケッ!」

憎らしい高笑いする青崎に、

「喰らいやがれ!!」

顔面を珍妙に歪ませて我武者羅にコマンドを試す黒澤。

むやみにコントローラーをガチャガチャしていて、今にも壊しそうである。この男には発売当初の某W○iのコントローラーをすっぽ抜けさせて、テレビ画面にダイレクトアタックをかました前科がある。

むやみやたらと熱い二人はさておいて、俺はというと、食器の片付けられたちゃぶ台の上に自前のカードを並べ、久々のデュエルに精を出していた。いや、白木を相手に連敗記録を更新し続けている、というのが正確だ。

先ほどから、俺の”心の余裕”はガリガリと音を立てて削られ続けている。

「・・・で63マナ出して、"天才のひらめき"をキャスト。デッキから60枚引いてください」

超ニコニコ顔でご機嫌な白木。

先手第一ターン、数分にわたるソリティア(カードゲームで、デッキの動きを確認するため、1人でゲームを行うことを指すゲーム用語。「一人遊び用ゲーム」の総称。 転じて、自分のターンを延々と続けたり、相手に行動の機会をろくに与えない、1人で行動し続けるようなタイプのデッキも指す。もちろん、これは強烈な皮肉だ)の後、容赦なく1ターンキルを宣言した。

「一応聞きますけど、カウンターか何かありやがるデス?ないデスか。ないデスね」

DEATH、DEATHと響く悪魔の声。

恐らく、これは獲物を見つけた殺人鬼だけが浮かべることのできる凄惨な笑顔という奴だ。唇に一本加えられた髪の毛が男とは思えない艶と共に、心中の煮えくり具合を示している。

額には極太の青筋が浮かび、その背の後ろには、件のとしあき君が白木の白いセーターの裾をきゅっと握りながら、こちらを恐々伺っている。俺様、完璧悪者扱いである。幼子の怯えきった瞳が心に痛い。先ほどから俺の胃はキュッと奇妙な痛みを訴えている。

つか、俺も正直ガクブルがとまりません((((゜Д゜;)))))

「じゃあ、次はひっさびさにネクロドネイトでも使いましょか。ああ、メグリムジャーか、ロングデック、親和にTinkerも捨てがたい」

相変わらずの超いい笑顔で「さっさと次のデュエル始めんぞ、コラ」と視線で命令する白木。俺様に拒否権はないらしい。

つか、そりゃ身内だけのデュエルだから堅いことはいわないけど、それでも禁止カードを惜しげもなく搭載した極悪なコンボデッキばかり好んで使いたがるこの男は、本当に鬼畜すぐる。

だれか何とかしてくれ。

ウィニーやバーン、ステロイド、スライ系統のひたすら攻撃的なデッキを好む俺様だが、この大魔王の群のようなデッキ軍団には完敗である。(ちなみにポンザも大好物)。

ぶっちゃけイジメである。カッコ悪い!と己の意思を表に出せないチキンな自分が恨めしい。

俺はこちらに背を向けてPS2で格ゲーに精を出す青崎と黒澤に、アイコンタクトを試みた。友情とは、こういうピンチのときにこそ試されるのではあるまいか。


ザ・懇願!いい加減、助けに入ってくれてもいいじゃまいか!!


白木から見えないように、顔面からありとあらゆる体液を垂れ流しつつ、全身全霊で己の意思を表現する俺様。

だが、

『泣け、叫べ、そして死ね!』

「・・・なあ、青崎、八酒杯から八稚女につなげるのナシにしねえか?」

「気にするな、俺は気にしない」

決してこちらを振り向かないように、顔を画面に固定しつつ、さり気なく格ゲー談義に興じる裏切り者二名。友情とは無情の同義語であるらしい。



そして、悪夢の二時間後、

「とっしーも寝たことだし、そろそろゲーム始めましょ」

超いい笑顔の白木。

つやつやと顔が輝いている。逆に俺は枯れ木のように青ざめた顔をしているのが自分でも分かる。

その膝の上には、安心しきった顔で眠りの世界に旅立つ幼児。天使のような寝顔だが、この餓鬼は俺がコテンパンにノサれる姿を見ると、泣き顔を一変させてキャッキャと歓声を上げていたのである。そのうち立派な白木二世になるに違いない。このお年からお腹の中が黒いとか、白木一族は化け物か。

「・・・おお、終わったか」

延長戦に突入したプロ野球中継が終わるのを待っていた、とでもいうような気楽な口調の青崎。この冷血漢に対して、俺は言うべき言葉を一つしか持たない。

「裏切りもの!」

ハンケチの端をかみながら、ムキー!と涙を流す俺様。

「勝てない勝負はしない主義だ」

飄々とした、このロンゲ眼鏡も相当黒い。俺様はなんて友人に恵まれないのだろう。

ちなみに、黒澤は自前のノートパソコンをネットにつなぎ、先ほどから某大型掲示板になにやら書き込みをしているらしい。一体何があったというのか、顔を真っ赤にしながら「クソがッ!!!」とか「工作員自演乙!!!!」、「だっておwwwwwじゃねえ!!!!! 」等等と奇妙な独り言を漏らしている。血管がブチ切れそうな勢いである。無駄にテンションが高いのはいつものことだが。まったく使えない野郎である。




戦いに赴く前から相当なMPを消費してしまった感じの俺様。

だが、これがきっかけというわけでもないが、今日はゲームを始める前から、妙に嫌な予感がしていたのも事実であった。

そして、不幸にもその予感はドンピシャで的中してしまうのである。





続く?

(作者注:今回、やたらと某TCGネタが多く出ましたが、ついノリでやってしまいました。ゲーヲタ乙と笑ってくださいませ・・・orz)



[18636] 【習作】このMMOは荒れている10
Name: banepon◆dc9bdb52 ID:a5735ce5
Date: 2012/10/22 20:02
正直放置で済みませんでしたと懐かしささえにじませて更新。

4.エロフの○○様



いつもどおり、カース・オンラインは多くの人でごった返していた。

時間は午後7時。社会人が顔を見せるにはまだ時間があり、廃人が起き出すには少し速いという微妙な時間帯。自然とインしているのは学生層が主体だろう。

つまり、基本的に俺TUEEE以外に興味がなく、マナーもクソもない厨二体質のプレイヤーが比率的に多くなるわけで。

ついでに言うと、奴らにとって支援職という地味めな職種は、自キャラの選択肢としてはアウトオブ眼中。もとより奴らにはヒラとは便利なアイテム以外の何者でもない。

故に、

『ぬこっとさんから:すみません、直チャ失礼します。キノコ狩りPTでヒラさん足りないのですお願いできませんか?><』

・・・まあ、こんな風に、誘われるならいざ知らず、

『アバランチさんから:ども、廃人狩りとかどうすかw』

とか。さもなくば、



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


アルテマさんからパーティに誘われました。

パーティに加入しますか?

[Yes or No]


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



・・・とまあ、このようにいきなり一言もなくパーティに誘われたりする。

無論のこと、全て断っているのだが、懲りずに何度もパーティを申込み、挙げ句の果てに、

『カール大帝さんから:ちょっと、さっきからパーティ誘ってるんだけど。さっさと入れよ』

とか言い出す馬鹿も出る始末。リアル厨房かも知れん。

人口多いメイジはともかく「マゾい上に金が貯まらん!おまけに装備が高すぎるんじゃゴルア!」と評判のヒラは、最近人気が低迷しており、おかげでパーティへの獲得競争が激化しているそうな。何それ怖い。

まあ、それはともかくとしても、今日は狩場に着くまでに強引な勧誘が多かった。

因みにこの混雑具合にも理由が在る。

世間様では、夏休み入り目前のこの日、カースオンラインでは初の大型アップデートが行われた。これまで立ち入りできなかったレベル60台以降の高難易度の狩場が開放されたらしい。

そうすると、今まで多少レベルの低い狩場での狩りを余儀なくされていた高レベル層が順繰りに適正狩場へ移動する。

そこで、低レベル狩場は逆に空くだろうと読んだ俺たちは、今まで人気が高すぎて近寄りもしなかった狩場に行くことにしたのだ。

フィールドの名前は『ピアーチェの町』。町と名の付くとおり、幾つ物建物が立ち並ぶ、タウンとして設定された場所である。

ただし、町の中にいても、非攻撃設定は適用されず、やろうと思えばPK行為すら可能な無法地帯、らしい。つか、それタウンとして設定しとく意味在るのか?運営、マジで(ry

一応、ゲーム内設定によれば、かつてこの町の中心部には膨大な魔力を生み出す魔力炉が建設されていたそうな。しかし炉心の暴走によって周辺が汚染され、元住民が突然変異してモンスターになったとか。ピザ食う亀でも沸いて出てきそうな設定である。

ちなみにこのモンスター、放射能漏れによって生まれたミュータントで、名前は『スープーキー』。モブレベルは30で、見た目はどこぞの世紀末救世主様に「あべし!!」状態にされた筋肉達磨である。頭髪が一本残らず抜け落ち、ボコボコと全身の筋肉と血管が醜く膨れ、左右非対称に肥大化した肉の塊・・・ココの運営は相変わらず斜め上に暗い情熱を注ぎ込んでいるらしい。

あれだ。どこぞの無限ゾンビ殺戮ゲームよりグロい!こいつらが廃墟と化したコンクリートジャングルのそこかしこからあふれ出てくる様は、ゲームを街が手いるとしか思えない。

この廃人ども、HPの量は少ないので、さくさく狩ることができるのだが、反面、攻撃力がやたらと高い。何より沸きが速くて量が多すぎる。ドロップも経験値効率も高い人気の狩り場なのだが、ヒラ(POT)とメイジ(火力)が必須だろう。

もともと数を狩るタイプの狩りでは、経験値効率はパーティメンバーがどれだけ働くかによって決まる。一匹だけのモブをひたすら殴るのと違い、モブがほぼ無数に湧き出すからだ。そして、廃人どもの攻撃力はやたらと高いので、気を抜くとすぐに全員の体力がレッドゾーンに近づく。

・・・つまり、わかるな?

「バネ、ヒラくれ!」

「おま、今パーティヒールかけたばっかやん!」

「油断したじぇ!」

歯を白く光らせ、ムカつく笑顔の黒澤。ボイスチャットだけのいつもと違い、コタツに座った本人の顔を眺めながらの狩りだと余計にイラつくのが不思議である。

これこそが通称・ヒラ殺しとも呼ばれる、廃人狩りパーティの恐怖。

前回の悲劇を回避するため、白木、青崎あたりが一計を謀ったのはいうまでもないことである。

ぶっちゃけ忙しすぐる。眠気が襲う間もないわ!

数多の強引な勧誘に辟易しつつ町を抜け、狩り場までの長い道のりをひた走り、やっと狩り場についたところで、待っていたのがこの扱いである。

どうやらカオスに終わった前回の狩りの後、白木、青崎、ローズヒップ氏による悪のヤルタ会談が開かれたようなのだ。

その場に居合わせたものの、適当に騒いでいただけの黒澤を適当に煽ててゲロらせたところによると、『バネは暇な狩り場に置くと寝落ちするから、忙しい狩り場で死ぬような思いをさせるくらいでちょうど良い』ということらしい。所詮ネットゲーマーに真の友情など生まれないとでもいうのだろうか。

この世の無常に嘆きつつ、顔面から汗とか涙とか青春の幻影とかいろんなものを垂れ流しつつ、全自動回復ポットと化す俺様。

「ハバネロは例の範囲魔法で、足止め重視頼むな~」

『了解でーす。オンバシラーー!!!!』

絶妙のタイミングで、ハバネロ氏が新たに覚えた範囲魔法「ライトニングボルト」を唱える声が響き渡った。

独特の掛け声と共に、真っ白い巨大な杭の形をした稲妻が、地べたに突き刺ささりながら広範囲に雷撃をばら撒いた。周囲のモブどもに大ダメージを与えつつ、一定時間の間、スタン状態にする。ダメージ量もそこそこあるが、この追加効果のおかげでモブが数秒足止めされるのが地味に強い。

この一撃で、モブどもの体力は見た目半分くらいに減っている。

そこに群がって暴行を加え、止めを刺す物理職。

「ほれ、今じゃ、ぬっ殺せ!!」

『「「Kill them ALL!!!」』

・・・なんでこいつら、今日はこんなにテンション高いのよ?

例によって例のごとくアレな感じのアホ崎はともかくとして、今日は何故か白木がヤバイ方向にノリノリなのだ。対面に座る奴の顔があまりに恐ろしすぎて直視できません!

なんていうか、顔は紅潮し、目は大きく見開いているが瞳は虚空しか見ておらず、ほぼ白目の状態。笑み含んで大きくゆるんだ口元には舌が覗き、既にろれつの回らない状態で更なる快楽を求めて嬌声を上げている。

そげなお顔で殺意のオーラを放っているので、ぶっちゃけただの快楽殺人鬼である。

ちなみに、上家と下家に座る青崎と黒澤も、先ほどからディスプレイに顔を固定したまま、少しも微動だにもしていなかったりする。・・・うん、気持ちは分かる。

「・・・おい、赤羽根ェ。手、止まってんぞ」

あひぃい!!

・・・リアルで失禁しかけたのは、初めての経験です・・・・orz

「すみません、皆さん、パーティヒールが届かないのでもう少し固まってください、ごめんなさい。不出来な俺でごめんなさい!!回復するので殺さないで!」

『き、今日はみなさん、いつもよりハイテンションなんですね(・ω・;)』

「アレはただのポットですから、気にしないでください。それより、ローズちゃんは今29だから、次レベル上がったらギルド作成クエ受けられますよね?今日中にいけそうですか?」

『はい!この調子なら@1時間くらいでいけると思います!』

「ですよね~~!私も後2レベルです。ポットを寝かす気ありませんので、時間の許す限りがんばりましょ♪」

声音だけは天使のようなそれで会話する白木とローズヒップ氏。俺の人権かむばーーっく!!

白木はともかく、ローズヒップ氏が真っ黒なおなかをさらけ出す白木のあしらいに手馴れてきたような気がするのは気のせいであろうか?これが噂の確信犯?

・・・狂気だ、MMOの世界はまだまだ狂気に満ちている。

「くそう、くそう。マウスの動かしすぎで手が痛くなってきたわ!」

「バネ、あきらめろ。人生諦めが肝心だぞ」

「諦めたら それまでだ!奇跡も魔法もあるはずだじぇ!」

「・・・おま、リアルに泣くなよ」

くそう、目から汗が吹き出てくるわい。

というか、心の傷に塩を塗りこむ白木の仕打ちは別にしても、忙しすぎる。

元々、数を狩るタイプの狩りである。右往左往してモブを追わないといけないから、沸き待ちの狩りと違って全員が多かれ少なかれ忙しい。

しかも、モブの攻撃力がとにかくやたら高いので、油断して突っ込みすぎるとすぐ死ねる。経験値は確かにおいしくて、さっきから目に見えて経験値バーがぐいぐい上がっているのだが、これ狩場維持がシビアすぎじゃね?

額に浮き出た汗をぬぐう暇もない。つか、ちょっとMP回復とヒール連打のタイミングがずれたら、たぶん全滅する。

さすがの黒沢も、何十回目かの突撃→ご臨終を経験し、経験値バーの減少(デスペナ)に恐れおののいたあとは、控えめにちくちくと地味な攻撃を繰り返している。馬鹿に物を覚えさせるには、厳しい鞭が有効だという証であろう。

まあ、黒澤がアホなのはいつものことなのだが、何よりも今回のパーティで障害となるのは・・・

「ひんっひんっひんっ」

つぶらなお目目に涙をためて、ふるふるとほっぺを揺らして泣く幼児であろう。

あろうことか、俺様の服のすそをくいくい引っ張りつつ、めそめそと泣いておる。ちょ、今、腕引かれてヒール空振りした!!

なぜにこっちくるのよ!あっちいけ、クソジャリめえ!ただでさえこっちは修羅場モードなんじゃあ!!

俺様としてはリアルに狩りの邪魔するチミっこをつまみ出したいところなのだが、

「アぁん?」

ジロ~リと、そこに突き刺さるのは、地獄の白木の殺意の視線。

微妙に前髪に隠された黒いお目目が、じと~っとした陰湿な殺意を向けてくるわけで・・・いあ、そんな呪ま~すされても困る!

ちょっ、今回俺はは何にもしてねえですよ!だから、親の敵を殺そうとするのはやめれ!

当の餓鬼は白木の視線についてはアウトオブ眼中らしく、なおも俺様のすそを引っ張っている。

「ひぐっ、ぐしゅ」

そこで白木が夜叉のような顔を一転。

「おーいーでー♪」

ほっこり、と(ぺ)天使も騙されるこの笑顔である。

カモン・ベイビイとばかりに広げられた両腕に、てててっと走ってその胸にぽふっと飛び込むクソジャリ。

よちよち、いい子とばかりに幼児を慰める白木。母性本能全開な笑顔であるが、それは夜叉を隠し持つが故の慈愛であろう。

「おなかへっちゃの・・・」

へみへみ、ぐしゅぐしゅと涙目で上目遣いに白木を見つめるジャリ。

「何食べたいですか~?」

「・・・ちゃまご」

卵のことらしい。そして、このクソ餓鬼は、あま~いオムレツが大好物らしい。

「すぐおいしいの作ってくるから、いい子にしてるですよ~」

そのとたん、ほこっと笑って泣き止む幼児。

がきんちょが、計算通り!的な笑顔をしている気がするのは、俺様の心が穢れているからなのだろうか?

「すみません、ちょっと離籍しますです」

『イ寺』

『てらり~>ω<b』 

「あいあい」

あまりに沸きが酷いので、釣りもそこそこに半ば火力と化していたムチムチエロフこと白木の『PAICAL』。

だが、一人火力が抜けると、その分殲滅時間がかかる上に一人当たりに割り振られる被攻撃確立もあがる。つまり、俺様の負担がさらに増えるということで・・・orz

「ん~、地味に火力高いアチャが抜けるとなると・・・いけるか、バネ?」

「うぃ、ちとキツいわ。一旦、下がれないか?」

「廃人はヘイトがすぐ溜まるから、逃げずらいんだ。おまけに足もそこそこ速いから逃げる間にディスられる」

「了解、少し固まってくれ。パーティヒールの取りこぼしが在るとまずい」

「あいあい、みなの衆、そういうことでヨロ!」

『了解です!』

『あい~~』

さて、上記のやり取りは一部始終がボイスチャットを通じてパーティメンバーに流れていたりする。リアルタイムに目の前で何が起きているのか"見て"いた俺たちはともかく、問題はボイスチャットで会話のみ聞いていた他のパーティメンバーだった。

故に、

『ハバネロさんから:BANEPONさん』

ん?

この忙しいのにわざわざ直チャするんじゃねええ!キータッチする暇なぞないわい!

これは、あれか?嫌がらせか?嫌がらせなのか?嫌がらせだな?死ねェ!!

『ハバネロさんから:ちょっとお聞きしたいことがあるのですが』

俺様の内心の呟きを意に介さないハバネロ氏。

もちろん、画面の中でキャラも手を止めて棒立ち状態に成っている。

おま、メイン火力の癖に手ェ止めんじゃねえ!!

『ハバネロさんから:PAICALさんって、もしかして、リアル人妻っすか?ワクワク (0゚・∀・) テカテカ』

ぶふうぅ!!

思わず俺がマウスを握りつぶしてしまったのも仕方のないわけで。

『ハバネロさんから:エルフの若奥様キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━ !』

そう、例のとしあき君と、声だけ聞けば完璧な女性ヴォイスな白木の会話。それはパソコンに装備されたマイクに拾われ、パーティチャットを通して他の面子にもまるっと聞こえていたのである。

・・・ああ、そうか、そうだよな、声だけ聞いてりゃそういう結論にもなるわな・・・・・orz

もはや突っ込む気力もない。

「おい、バネ!ヒール止めるな!!」

「ごめん、マウスが死んだんだ、アハハハハh、ウフフフフ」

「え、ちょ!!それ、なんて全滅フラグ?!」

『バネさんが壊れた~~~!!!@Д@;』

さすがは高校時代に卓球部で鍛えに鍛えた俺様の握力!

クリックボタンがパカラっと馬鹿になって用を果たさなくなったマウスが憎い!

「みんな、ココは俺に任せろ!」

あ、黒澤が突っ込んだ。

また町まで死に戻りでもする気だろうか。いい気味じゃあ~~wwww等と現実逃避をしている間に、

「おいおい、バネ!あとハバネロも手止めてんじゃねえ!!」

『叩いて~~死んじゃう、死んじゃうよ~~~叩いて~~>ω<;;』

「この俺の本当の力を見せてやる!!」

多くのMMOおいてそうであるように、このカースオンラインでもまた悲劇が繰り返されたのであった。

「チッ!」

『うにゃあぁぁ(TωT)ノ』

「このままでは終わらんぞ~~!」

赤黒い肉の塊どもに、全員ごゆるりともぐもぐ頂かれててしまいましたとさ。

『ハバネロさんから:彼女は最高よ!』

合掌。





○○=若奥
世代的に分からん人にはわからんよなあ・・・orz
致命的なコピペミスを修正・・・orz



[18636] 【習作】このMMOは荒れている11
Name: banepon◆67c327ea ID:a5735ce5
Date: 2012/11/08 10:12
ゲーム内の話が進まない・・・orz
今回もどっちかというと閑話になります><


5.○プレイだけは勘弁な!!




「はい、あ~~ん」

「あ~~ん」

白木の手にしたお子様用フォークに刺さった黄色い塊。親鳥に餌をねだる雛のように、口を開けてあむあむ租借する幼児こと緑川としあき君(三才)。

「おいちいね~~」

「ね~~」

ものの10分ほどでチャッチャとこしらえられたオムレツは、確かにうまそうだった。

掌くらいの黄色いアーモンド形のオムレツの切れ目からはトロリと半熟の中身が漏れ出ているし、中には軽く塩コショウで炒めたエリンギやマッシュルームといったキノコ類に輪切りにしたウィンナー。そして、赤いケチャップでアン○ンマンが描かれている。皿には栄養のバランスを考えてのことだろう、プチトマトやブロッコリー、ニンジンのグラッセがさりげなく添えてあった。

それをコタツに座った白木が、自らの膝の上に乗っけた幼児に手ずから食べさせているのである。

雛に餌をやる親鳥のような献身さ。この男にも愛情とか優しさとかいうものが在るという発見は、ちょっと新鮮な感動だろう。

まあ、ほんわかと和やかな光景だといっても良いかもしれない。

一方、

「やっぱ遠いな、狩場・・・」

『ピアーチェはなまじタウンとして設定されてあるのに、直通のワープ石がないですからね(TдT) ウゥ』

「あとは狩場取られてないのを祈るだけか・・・」

『orz』

パーティ全滅→狩場死に戻り途中にある他の面子は、半ばお通夜状態だった。

「みんな俺について来い!!」

ただ一人、先頭で引率(先頭を走っている。他の人間は全員一列に並んで追尾機能を使っているので、マウスから手を離して休憩タイム)をさせられているのにやたらハイテンションな黒澤。この男が始めて人様の役に立っているのを見るというのも中々貴重な体験であろう。

それ以外は全員狩場に着くまで各々の時間をすごしていた。

不毛な電車ゴッコ(近場のタウンから開始5分経過。@10分くらい)は続くよどこまでも~。

「バネ、やっぱり予備はボールマウスしかないわ」

「仕方ない。ないよりましか」

マウスの裏面を開けて、干からびた尺取虫のようなゴミを取り除く俺様。

そして、

『ハァハァ (*´д`*)ハァハァ 』

先ほどから白木ととしあき君の会話に触発されてか、徐々にディスプレイの向こうから何かが漏れ出し始めているハバネロ氏。もはや俺様は彼に対して言うべき言葉を持たない。

人は常にその手にフェイクを掴むもの。人は大いなる悲しみを背負ってこそ、成長できるのだ。それが青春!だから、彼が自ら気付くまで生暖かく見守ろうではないか!

大丈夫、俺様もかつて通った道だ(1章9.助けて××様!参照)。

『パイカルさん、いえパイ様、としあき君に話しかけても良いですか?』

・・・なんすか、そのどこぞの三只眼吽迦羅様は。

「(・・・なんで"様"付け?)いいですよ~?」

上機嫌を絵に書いたような顔のまま、軽く頷く腹黒王子。

この悪魔の皮をかぶった悪魔も、可愛い甥っ子のこととなると色々緩むようである。

『としあき君、お母さんは好きですか?』

う~~?っとディスプレイをつぶらな瞳で眺める幼児の耳元に、白木が囁く。「お母さんのことは好きですかって、とっしー」

「あい!」

白木によくにた笑顔で頷く幼児。

この餓鬼はお母さん子なので、父親と二人きりだと夜泣きするらしい。それもあって、白木のところに預けられたそうな。こいつが添い寝すると泣き出さないらしいのだ。まあ、雰囲気が良く似た姉弟なのかもしれないが・・・白木(リアル女の)がもう一人とか、何それ怖い。

『お母さんは、綺麗ですか?』

「あい!」

『お、お母さんは、おいくつですか?!!』

何やら興奮しているのが激しくキモい。

「・・・えっとお、にじゅうごしゃい?」

小さな手の指をおりながら(白木が鼻血を出しそうな勢いで、その指に手を添えて正解に誘導している)答える幼児。・・・つか、ハバネロ、何聞いてんのよ?

『゚・*:.。..。.:*・゜ヽ( ´∀`)人(´∀` )ノ・゜゚・*:.。..。.:*』

キャラに高笑いモーションを発動させ、テンション爆超のハバネロ。狂喜乱舞するさまが伝わってくるようである。

彼が何かを激しく何を勘違いしているのかが手に取るように分かる。まあ、他人の無様を見守るのも一興であるw

しかし、

『ハバネロさんから:彼女は最高よおォ!!』

・・・なして俺に直チャするんじゃあ。

何やらやばい方向に覚醒しだしている気がするのは気のせいだろうか?

当の白木はといえば(ぺ)天使もかくやという笑顔で、不思議そうに見上げている幼児のほっぺに顔を摺り寄せている。

「とっしー、おなかいっぱいになりましたです?」

「あい!!」

元気いっぱいに応える幼児の口元をふきふきしてご満悦である。

「・・・観音様が・・!!」

そして何やら感じ入ったのか、恍惚とした雰囲気でいきなりヴォイスチャットを使い出し、地声を披露したハバネロ氏。何気にちょっと低めで渋い声である。聞いた感じ三十路くらい?

「す、すみません、ちょっと急用が出来ました!!」

え?

もしかして、パーティ抜けるのかな?まあ、急用では仕方在るまいが。本当に急である。

「十分、いえ、五分でいいんです!少し待ってください!」

えらい勢いでお願いされてしまった。まあ、五分くらいなら、いいと思うのだが。

「いってらっしゃい~」

「ああ、いってら」

『てらりです~(・∀・)b』

他の面子も快く承諾。まあ、勢いに押されたのかもしれない。

「すぐもどりますっ!!」

その場でふっと消えるハバネロ。すぐ戻ると言っていたが、ワープ石を使って街まで戻ったのだろうか?それでは戻るまで時間がかかりそうな気もするが、仕方がない。

狩場移動を一旦停止し、その場で待機する一堂。先頭を走っていた黒澤はその場で立ち止まり、画面をぐるぐると走っている。

「足HAEEEEEEE!!!」

どうやら移動速度を上げるアチャのスキル、スピーディ・フットがよほど気に入ったらしい。気持ちは分からんでもないし、初めてこのスキルをかけてもらったときに俺様も似たようなことをした覚えがある。だが、相手が黒澤だと激しくウザく感じるのは何故だろう。

しばらく黒澤の珍走を眺めていたのだが、10分ほどして画面の端からハバネロが猛スピードで走ってきた。

どうやら本当に街まで戻っていたようだが・・・

「ただいま帰りましたっ!!」

「おか~~」

『おかえりなさ~~い』

やっと来たか。何がしたかったのかは分からないが、ともかく狩場に急ごうと、再び電車ゴッコの体勢に整列しようとした時だった。

「パイ様、お願いにございます」

なにやら神妙な、ハバネロ氏の声。

そして、

「取引アイコン・・?」

幼児を膝に抱えたまま、白木が小首を捻った。

何やらいぶかしげに画面を注視しており、膝のとしあき君もそんな白木を不思議そうに眺めている。

「・・・え?」

この男にしてはあまりにも間抜けな、呆然とした声だった。

さすがにちょっと気になったので、白木の背後絵移動する。因みに、青崎も同じく首を伸ばして白木の画面を注視している。

覗き込んだ先には、



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


ハバネロさんから、【取引】の申し出がありました。

【取引】を開始しますか?


[Yes or No]


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



というアイコンが開いている。

・・・・取引?そういえば聞いたことがある。アイテムをプレイヤー同士で交換できる機能がある、と。

しかし、なんでこのタイミング?

白木も同じ疑問を持ったのか眉根を寄せているが、ひとまず様子を見ようというのだろう、【YES】ボタンをクリックした。

その途端、

「ぶっ!!!」

「おいィ?!!!」

画面には、画面の半分程度にもなる大きめのウィンドウが表示されていて、その中に幾つかのアイテムらしきアイコンが映し出されていた。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

(ハバネロさんから提出物)

1.【ルデールの十字架】
[種別]アクセサリー(Exユニーク)[装備可能レベル]Lv55 [部位]首
[能力]全防御力+40、全攻撃力+30%、HP+20%、クリティカル率+3%、即死攻撃+1%
[オプション]ユニークアイテムにオプションは付きません

2.【鉄のガントレット】
[種別]防具(ノーマル)     [装備可能レベル]LV35 [部位]腕        
[能力]物理防御力+45 魔法防御力+25
[オプション]
[攻撃速度Lv.10]:攻撃速度+10%
[HP増大Lv8]:HP+8%

(あなたの提出物)
なし



ハバネロさんが、【取引】を承認しました。

【取引】を承認しますか?

[Yes or No]

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



白木と青崎が同時に吹いた。目を白黒させて唖然と二人とも唖然とした表情である。

・・・何が起きたのよ?

やはり事態についていけない俺様。童貞じゃ(ry

「ボ、ボ、ボ、ボスアクセ!!!これが噂の公式バランスブレイカー・・・、って、確か相場じゃ最低でも50Mはいったような?!!」

・・・ゴスアクセ?・・・M?

何やら卑猥な響きに聞こえるのは俺様の気のせいだろうか?

「こっちのガントレットもノーマルだけど攻撃速度の補正がマックスだ。おまけにHP補正までLv8って、これ少なくとも20Mはいくんじゃねえか?」

珍しく狼狽した様子の白木に、額に汗を浮かべる青崎。察するに、かなりのレアアイテムのようだが・・・

しかし、そんなものを持っているとは・・・。ハバネロ氏、いったい何者だ?

「ようは、あの馬鹿、恐ろしくレアなアイテムを白木にただでくれてよこそうとしてやがる!」

アホの子のように呆けていた俺様に、青崎が耳打ちした。

fmfm・・・なるほど、そういうことか・・・・って、え?!!!

もしやこれは『貢がれている』という状況ではないだろうか?

「あの、これはいったい・・・?」

さすがの白木もコレは斜め上の反応だったらしく、額にうっすらと汗を浮かべながら、素で首をかしげている。

「レアアイテムは、差し上げまする・・・!!」

画面の中では、土下座モーションを発動させて、白木のPAICAL前にひざまずくハバネロ。

俺様、何やら嫌な予感がして冷や汗が止まりません(´∀`;)。

「是非、私めを、下僕にして頂きたい・・・!!!」

あまりにも真剣な声だった。

「・・・はいィ?」

・・・おいィ?

いや、淡い青春の幻影とか、一事の過ちとか、

まさかハバネロ氏の目には、奴が観音様にでも見えているのというのだろうか。

よもやココまでトチ狂っていたとは・・・!いや、トチ狂わせた白木こそ、恐ろしいというべきか。これが彼は噂に聞く『魔法使い』というやつかもしれぬ。三十過ぎてまで・・・・哀れな。

ともかく前言撤回!今すぐ彼に真実を教えないとトンデモないことになりかねぬ!

これさすがにコレ止めたほうがよくね?

「お、おい青崎・・!」

「いや、ほっとこう。つか、アレに関わりたくねえ!」

断言しやがった。まあ、俺様も全力で同意である。

しかし、問題は白木の反応であった。

「・・・・・・・」

きゅっと目を細めて、何やら思案している。普段のこの男の行動からして、ちょれえ!!と内心喝采しているのかもしれない。何せレアアイテムを受け取った上で、便利な下僕ができるのだ。

普段からコイツの腹の中を身にしみて理解している俺様は、白木がそうするに違いないと思ったのだが・・・

「いけません」

ふっと、優しげな微笑を浮かべて、そう言った。

そして、マウスを操作すると[No]をクリックする。

「え?」

【取引】が中断され、画面の中でハバネロ氏が戸惑ったような声をあげた。

「だめですよ、ゲームで知り合ったばかりの人間にこんな高価なものを送っては。受け取ることは出来ません。これは、あなたの大切な人のために使ってください」

ね、と念押しするように優しく微笑む白木。

声だけ聞けば、そう、声だけ聞けば・・・・orz

「パ、パイちゃん・・・いやパイ様!なんて、なんていい子なんだ!!これはもはや天使、いや女神!!」

不幸なことに、ハバネロ氏はこれで完全に"堕ち"てしまったらしい。

「それよりも、"お友達"になってくれませんか?」

華のような笑みを浮かべる白木。

だが、その声を聞いたとき、俺様の脳内で"お友達"が"便利な道具"、あるいは"奴隷"と変換されたのは何故だろうか?

「も、もちろん!是非フレンドリストに登録させてください、パイ様!!」

そして両者の間で、フレンド登録が取り交わされたのだった。

画面の向こうで、エキサイトし始めるパイカルを余所に、室内は完全に凍りついていた。

その場の全員の視線は、白木に釘付けとなっている。

白木の目元は、目元はすでに笑っていない。つい先ほどまで慈母の笑みを湛えていた唇は吊りあがり、今はもう直視するのも恐ろしい陰惨な笑みになっている。

そして、マイクに拾われぬように軽く手で押さえられた口元から、クスクスと漏れる静かな笑い・・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

決して大きな声ではないのにも関わらず、笑い声は、その場の全員の耳に届いた。誰も一言も口にすることなく、黙って笑い続ける白木の顔を吸い込まれるように見つめている。

静まり返った室内に、しばらくの間、白木のクスクス笑いだけが響いた。

「お、お願いします、パイ様!!お、俺、およびがあればどんな時でも何でもします!!いつでも呼んでください!!」

コチラの空気をまるで感じさせない能天気なハバネロ氏の声。

まあ、画面の向こうの気配を読むとかニュータイプでもなければ無理なのだろうか・・・ハバネロェ・・・!!

「こちらこそよろしくお願いしますね、ハバネロさん」

白木の声は、声だけは、邪気のない笑顔を浮かべていた先ほどまでと変わらないのだが・・・何これ、怖い。

「パイ様!こ、これはもはや信仰だ!!今ココに神が舞い降りた!!」

人の心を巧みに操り、哀れなるハバネロを更なる奈落へと突き落とした白木。これ何もかも人の心を流し動かす策士の技なり。

真の支配とは、支配されている当人に自覚させずに操ることだというが・・・白木ェ・・・

「とっしー、犬はこうやって飼うんですよ♪」

ね、と先ほどとまったく変わらない声。

だがこちらは真に自愛のこもった声でささやきながら、白木は幼児の頭を撫でていた。

「あい!!」

意味が分かってるのか居ないのか、元気にお返事するとしあき君。

『・・・・・・』

いつもはそれなりにリアクションをとるローズヒップ氏も、先ほどから無言で『見下す』モーションを発動していた。あきれ返っているのに違い在るまい。・・・いや、気持ちは分かる。

「パイ様!パイ様!!」

ローマ式敬礼のモーションを発動させて、歓喜の声を上げるハバネロ。

これは、もう駄目かもわからんね。






○=姫



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