8.お前のドロップも俺のもの
金髪の長い髪をオールバックにした男性キャラ。色黒の肌と長い耳は魔法攻撃を得意とする種族、ダークエルフの証だ。キャラ名は『桃缶』。
身に着けているのはローズヒップ氏とは色違いの『布のローブ』に、『樫の杖』。低レベルのメイジが装備するアイテムだ。(実際、同じアイテムが先ほどからちらほらとドロップしている)。
おそらくレベルは俺たちとそう変わらないだろう。
『見たところ5人ですし、一つパーティ余ってますよね^^』
と、言われた所で困ってしまった。
このゲームでは最大6人までパーティを組むことができる。パーティメンバーのレベル差が10以内に収まっていれば、経験値は均等に割り振られるため(そうでないと、高レベルプレイヤーとパーティを組むことで手っ取り早くレベルが上がってしまうからだ)、このダークエルフをメンバーに入れることには特に問題がないだろう。
とりあえずパーティチャット(パーティに所属しているプレイヤーにのみ表示されるチャット画面)を開いて作戦タイム。
『BANEPON:どうする?』
『PAICAL:どうしましょうね?』
『やわらかタンク:枠は余ってますし、枯れてるわけでもないですし、ここの沸き具合なら火力さん増えても問題ないと思いますが?』
事情を知らない人間には奇異に見えるだろう。
確かに枠は一つ空いているのだが、それは"一応"ログインする"予定"の奴のために、空けておいたものだ。
『PAICAL:実は@1は、ログイン待ちの友人のためにわざと空けてるんです』
『ローズヒップ:ああ、そうだったんですかw』
『やわらかタンク:fmfm』
『青汁:この時間だし、あいつもインするか微妙だな。俺、電話してみる』
ボイスチャット越しにガチャガチャと形態をいじる音が聞こえてきた。
おのれ黒澤、いても五月蝿い奴だがいなくても面倒を起こしやがる。
『PAICAL:最悪、予約済みって、断わってもいいですか?5人のままだと狩り効率落ちるかもしれませんが(汗)』
『ローズヒップ: Σb( `・ω・´)グッ 今のままでも結構おいしいですし、お友達を待っているということなら、私は5人のままでもかまいませんよ』
『やわらかタンク:私もです。経験値うまうまです^^』
『青汁:・・・連絡付いたぞ。あと1時間くらいかかるとよ』
1時間か、微妙だな。なら、その間はこのキャラに入ってもらうのも有りか?1時間くらいって、最初から決め打ちおけばトラブルもないだろうし。
俺がその考えを伝えると、すぐに全員の賛成が得られた。
『青汁:いいんじゃね。ちょうどキリのいい時間だし』
『PAICAL:1時間後にいったんパーティ解散して、続けたい人は残って新しいパーティ募集する、と』
『ローズヒップ:(・∀・)賛成です。私もそのくらいには落ちようとおもってましたので♪』
『やわらかタンク:あい~』
全員が同意するのを確認すると、すぐにリーダーの青崎が、件のダークエルフをパーティに誘った。
・・・しかし、黒エルフたんとハーフリングたんの反応がカワユス(;´Д`)ハァハァ
やはり白木の言った通りのネカマ野郎だなんて思えねえ。大体ネカマ云々なら、それこそ奴本人が一番タチの悪いネカマじゃねえか(それも確信犯)。
よし、パーティが終わった後にでも、それとなくフレンド登録をお願いしてみよう。
『桃缶:よろしくおねがいします』
そんなこんなでPT再開。
俺たちは哀れなゴブリン共の再教育を開始した。
「んでは、アイテム獲得は引き続きランダム、バカラは均等分配にしておくので、1時間よろ」
「了解です~♪」
『よろろです』
各々の獲物を手にして、ひたすらエルフの釣ってくるモブをひたすらしばき倒す。
つか、経験値がパカパカ入るので楽しいと言えば楽しいが、ようは狙いたいモブをひたすらクリックするだけの単純作業なので飽きが来る。常に画面を移動する必要のある白木のエルフ以外は、恐らくどのキャラも大差のないだろう。
そんなわけで、自然と俺の注意は他のキャラに向いていた。
哀れな悲鳴を上げるゴブリンどもをボコりつつ、横目でチラチラ観察(エロイ意味ではない!)する。
青崎は相変わらず逆手に構えた双剣で、モブをザクザク血祭りにあげている。
モブを倒す、というよりブチ殺すというのが適切な表現だろう。時折『雌豚は下半身さえあればいい!』等と叫び声をあげているところを見ると、脳内に魔界から帰還されたク○ウザーさんが憑依なされているらしい。そのおかげかどうかはともかく、一体あたりのモブの処理速度は一番速い。
そこから少し離れたところで(というか、みんな青崎からは微妙な距離をとっているのだが)、周囲に炎の塊を降り注がせるダークエルフ二人。新たに現れた男エルフが、ローズヒップたんに寄り添っているようで少しムカつく絵面である。
ダークエルフは基本、すべての攻撃手段が魔法属性攻撃に限られるらしい。BANEPONと同じように杖を装備していても、それでモブを殴るというアクションはできないそうだ。レベルが上がってくると自分の周囲の敵をなぎ払う範囲攻撃スキルをいくつも習得できる狩場の主役で、人気が高くプレイ人口もヒューマンと一、二を争うという。
だが、俺の見たところ、恐らくダークエルフが人気だという理由は他にもある。そして、ダークエルフの人口の過半数が女性キャラであることもまた、疑いようがない。
何故なら、ダークエルフたんは杖を掲げる度に、その乳が揺れまくるのだ!
エルフは尻でダークエルフは乳だと!
ここの運営はどこまで男心を惑わせれば気が済むんだ!まったくけしからん、責任者出て来い!(注:もちろん褒め(ry)
俺は純粋な気持ちから(たわわにゆれる二つの果実をガン見しつつ)、『魔法職は今供給過多で、野良パーティに参加するのも結構大変なんです。競争が激しくて(;・∀・)』というローズヒップたんの相談に乗るのだった。
まあ、野郎の方はぶっちゃけどうでもいい。野郎なんぞ見てもツマラン。
と、
「おめ~♪」
「お、ラッキーじゃん」
『神品キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『おめでとうございます^^』
『いいなあ^^;』
ぬ?
誰かのレベルがあがったわけでもないようだが?
脳内テンション爆超のまま、無我の境地でオパーイに意識を奪われていたので、正直、何がめでたいのかよく分からん。だが、雰囲気から察するに「おめでとう」を言われているのは俺らしい。
「おお!攻撃力Lv10って、オプションとしては最高です。超良品ですよ。おめ~♪」
その言葉に、思わずアイテム獲得欄のログを確認したのだが・・・・・・・・もしかして、これか?
『獲得者:バネポン,習得物:皮の指サック[攻撃力Lv.10]』
指サック?
どうやら武器や防具ではなく、アクセサリーの類らしいが、何やら強力そうなオプション効果がついている。装備制限は、特になし。
周囲の反応からして、かなりのレア物のようだ。
ちなみにパーティ中に獲得したドロップアイテムは、ランダムにメンバーのインベントリに振り分けられることになる。もちろん、拾った人がそのまま獲得できるスタイルも選べるのだが、この方がアイテムの取り合いに集中するあまりパーティが瓦解したり、ドロップをめぐったトラブルがおき難いという(後で白木に聞いた受け売りだが)。
なので、この獲得は俺の日ごろの行いの賜物なわけだが、
『それ、誰が貰うか公平に決めませんか^^;』
と、言い出したのは例の途中参加の黒エルフ野郎だった。
『いや、私はいいんですけど、パーティの獲得で得たものなんですから、偶然手に入れた人の物っては、どうかなあって^^;』
とか、
『やっぱり高価なものがドロップしたら、公平に分配するのがエチケットでしょう^^;』
等と、狩の手を止めてしつこくチャットしてくる。
やたらと顔文字を多用するのも内心の必死さを表しているようだ。
「んなこと言ってもランダム獲得なんだから、しょうがないだろう」
と、言い返しても、
『だれが決めたんですか、拾った人勝ちって^^;』
と返す始末。
いい加減うざったい。
「最初にランダム獲得にしようって、決めましたよね」
ニコニコと笑顔を浮かべるエロフ。
何故だろう、ただの3D画像のモーションなのに目が笑っていないように感じるのは。
「だな。獲得できる確立は平等なんだし、だったら拾った奴のもんだろう」
青崎はあきれたような(というか蔑んでいるかのような)口調を隠しもしていない。
『ランダム獲得になっている時点で、十分、公平に分配されていると思いますが(;・∀・)』
『私もそう思います』
他の二人も特に不満はないようだ。
『・・・・・そうですか^^;』
さすがに旗色が悪いと悟ったのだろう。
『ヒラさんに攻撃力系装備って必要ないでしょうし、なんだったら私の拾った精神力+10のイヤリングと交換しませんか^^』
今度は物々交換を申し込んできた。
なんというか、傍目にも必死である。
『PAICALさんへ:おい、こいつ、なんでこんなにひっしなんだ?』
このゲームを始めたばかりの俺には、たかがアイテムひとつでどうしてここまで必死になるのか分からない。
思わず、白木に聞いてみた。
『PAICALさんから:攻撃力オプションがついたアイテムは、とにかく高値がつくですよ。攻撃力がオプションレベル分の%比率で上昇するですが、効果が単純で強いです。おまけに滅多にドロップしないので、恐ろしく人気があるんです』
ネットゲーマーなんざどいつもこいつも俺TUEEEEEしたい馬鹿ばっか、と呟く腹黒エロフ。
『PAICALさんから:特に攻撃力オプションの付いたアクセサリーは、べらぼうなバカラで取引されるですよ。職を問わずに装備できますから』
なるほど。
『PAICAL:ついでに言っとくと、精神力+10のイヤリングとか超ゴミですよ。ステ依存スキルとかも結構あるので需要はそこそこあるですが、人気は圧倒的に「攻撃力>>>ステ」です。ステ+系は、せめて上昇値が20以上ないとお話にならないですよ』
つまり、この野郎はよりによって俺様をシャーク(価値や有用性に関して疎い人間を対象にして、不当な交換条件を丸呑みさせて自らが得をする行為)しようとしたわけだ。こういう時だけはコイツの黒さが頼もしい。
カードゲーム暦の長い俺には、その辺の機微がよく分かる。かつて『甲鱗のワーム』(初心者に、コストが大きく重いだけのクリーチャーは弱い、と教えるためだけにあるカード)と『極楽鳥』(一見弱そうで強いカードの代表格)をトレードしてしまったのは、今でも思い出す度にはらわたの煮えくり返る思い出だ。
『じゃあ、この体力+12のゴム長靴とならどうでしょうか^^b』
「しつこい!いい加減にしてくれ!」
思わずぶち切れてしまった。
ボイスチャットを通して、かなり大きな声が伝わったようで、気が付くとその場の全員が狩りの手を止めてこちらを伺っている。
そして、
『・・・・・・』
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【桃缶】さんがパーティを脱退しました。
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ダークエルフは唐突にパーティを脱退すると、ふっとその場から消えてしまった。
「・・・ちょっと言い過ぎたかな」
何とも言えない後味の悪さだ。先ほどのまでの和気藹々とした雰囲気がうせてしまっている。
怒鳴ってしまったのは、俺の短慮だった。
せっかくパーティに参加してくれたローズヒップ氏ややわらかタンク氏に、こんな気分を味あわせてしまったかと思うと、正直後ろめたい気持ちになる。
「まあ、ネトゲには時々あることだ。気にすんなよ」
・・・青崎。
「ですよ。気にしない気にしない。狩り続けましょ~♪」
普段黒い分、白木にこう言われると思わずホッとしてしまう。
『(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン 気にせず続けましょう~♪』
ダークエルフたん (´;ω;`)ウッ
『あれは明らかにあの人が悪かったですから』
ロリングたんも、ありがとうよ~!
ネカマかと疑ったりしてごめんよ~!
うし、気を取り直してやってやるぜ!
新たに気合を入れなおし、ゴブリン叩きに意欲を燃やす俺様。
人の情けが身にしみるぜ。
『PAICALさんから:バネポン、さっき拾った指サック、すぐ装備しといたほうがいいですよ。一応、念のために』
ん?
それはどういうことかと聞きなおそうとした、その時だった。
「おい、あれ!?」
『あれは、まさか・・・』
不意に、俺たちが狩をしていた場所のすぐ近くに、見慣れないモブが出現した。
名前は、『ゴブリン・ジェネラル』。
ゴブリンという名前にふさわしく、口元から除いた不ぞろいの牙や緑色の肌など、あたりに屯する農夫と同じ特徴を有している。だが、大きさは他のゴブリンの三倍ほどもある。
着ているのは真赤なスラックスとジャンパー。髪はもしゃもしゃした天パで、サングラスをつけている。
なんというか、見た目はただのしょぼくれたおっさんだ。
そして、モブレベルは・・・見えねえ?
通常、モブのレベルは自分のレベル+10以下ならばモブの名前の横に表示されるのだが、ということは、少なくともこのモブのレベルは・・・・
俺を除く全員が叫んだ。
『『「「鍵テロだ(ですぅ)!!!」」』』
かぎ、てろ?
「特殊なボス召還アイテムを使った、一種のMPKです!!」
「『黄昏の鍵』って言ってな!呼び出せるのはレベル30以下の弱いボスだけなんだが、タチの悪いことに安全地帯以外ならどこにでも呼び出せるんだ!!」
『おいしい狩場を占拠させたり、タウンの出入り口に設置して往来を邪魔したり、とにかく運営公認の悪質な嫌がらせです!!』
『あれは『悪魔の宮殿』B3のボスです!攻撃力はたいしたことないけど、腐ってもボスだからHPが嫌になるくらい高いです。若葉じゃ逆立ちしても勝てません!!』
みんな詳しいな、おい。つか、テンションたけえ。
プチ廃人に片足突っ込んでる白木や青崎はともかく、・・・黒エルフたん・・・ロリングたん・・・orz
「つまり?」
赤いゴブリンは両手を上に掲げると、なにやら不気味な踊りを踊りだした。
それに誘われたように、モクモクと不気味な雲が頭上を覆う。
なんだかやばそうな気配だぞ (゚A゚;)ゴクリ
そして、頭上に召還された黒い雲から、無数の雷が放たれた。
ドカン!!
「・・・こういうことです」
気が付くと、BANEPONは白目をむき、口から舌をはみ出した間抜けな顔で地面に伏せていた。
周りには、同じように死体となったパーティメンバーが倒れている。
「レベル10に満たないキャラはPKできないので、強いモブを呼び出して代わりに殺させたんです。このゲームではPKされてもデスペナルティは発生しないんですが、モブに殺された場合は経験値が1%下がった上に、インベントリのアイテムをランダムに一つ落とすです」
・・・アウチ。
余りといえば、余りの出来事に俺の脳みそはフリーズした。