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[18624] 【ゼロ魔】モンモン双子妹と傭兵の使い魔(オリ主・ネタ?)
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/11/03 20:56
まえがき

使い魔であるオリジナル主人公は現代に生きていた前世の記憶を持っていますが、原作知識をもっていません。また、二重人格気味です。
この主人公の1人称ベースで話はすすみます。

オリジナルヒロイン(モンモランシーの妹で双子)は原作知識を持っていますが、最初の方ではそれを主人公に伝えようとはしません。
こちらのヒロインが裏では主導権をにぎる予定ですが、けっこうひどい性格(もろ悪人タイプ)をしています。

サイドストーリー気味の作品なので、ルイズとサイトはあまりでてきません。
ライトノベル版をベースとしますが、アニメ版や『タバサの冒険』『烈風の騎士姫』シリーズやオリジナル設定なども混ざります。

なお、更新はかなり不定期(実績ベースで3年以上とか)です。

以上のような作品でよければ本文をお読みください。


*****

2010.05.05:初出



[18624] 第1話 召喚主はどこまで
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2017/04/23 20:15
噂に聞いていたことはあった、鏡のような光をくぐる機会があるとは思わなかった。
それをくぐった先で聞こえてきたのは

「"失敗"のステファニーがメイジを召喚している」

との声が響いてくる。
まわりからステファニーと呼ばれた召喚主を見ると、肩ぐらいまでの長さの金髪の少女だが、
一般的な上級貴族のお嬢様というよりは下級貴族に多いタイプだった。

俺は、一瞬失敗したかなと思った。

しかし、まわりを見回してみると、まわりの貴族というか制服だから魔法学院なのだろう。
まわりの女生徒たちのほとんどは髪の毛も長いし、この少女の制服も仕立てはよさそうに見える。

今日という日からして、ここでも春の使い魔召喚の儀式だったのだろう。
貴族なら下級貴族でも常識だが、俺の今の立場は平民のメイジだ。
召喚の招きに応じたと知られたら、好き勝手にされる可能性がある。
鏡のような光をくぐる前に、短時間で考えた言い訳をしてみる。

「アルビオンの戦争中に、ばらばらで退却中、
足を滑らせ崖を落ちる最中『レビテーション』をかけようとしたら、
この場に現れました。鏡のような光を通りましたので、
もしかすると、春の使い魔召喚の儀式だったのですか?」

右手には一般的なタクト状の杖をもっているから、メイジとわかるだろうし

「『レビテーション』をかけよう」

との言いわけにもなるだろう。
ステファニーと呼ばれていた少女も最初は驚いていたような顔をしていたが、
メイジを呼べたことに満足しているのだろうか、

「これで、もう”失敗”だなんて言われないわね」

と言っている。
そうすると、少し離れていたところにいた頭髪が薄い中年の男性が近寄ってきて声をかけてきた。

「春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆる儀式のルールに優先する。
しかし、アルビオン王国では今日も戦争だったのかね?」

殺気は感じないが、その構えに俺のレベルでは隙を見つけることはできなかった。
もしかすると、あの”白炎”よりやっかいな相手か。

「ええ。本来なら、今日の戦闘はなかったはずなんですが、
なぜだかわからないうちに戦争が始まってしまいました。
申し遅れましたが、俺はバッカスと申します」

バッカスは偽名だがアルビオン王国では割合多くある名前でもあるから、この名を使っている。

「これは失礼をした。わたしはコルベールと申して、
このトリステイン魔法学院にて春の使い魔召喚の儀式を担当している。
足を滑らせたということは事故のようだが、春の使い魔召喚の儀式のことは知っているかね?」

トリステイン魔法学院というとあのトリステイン王国の上級貴族用の魔法学院か。
これは鏡をくぐった賭けに勝ったようだな。今の俺よりは金をもっているだろうし、
もう少し格式の低い魔法学院だと、面倒な交渉をしなければいけなかっただろう。
春の使い魔召喚の儀式については、しっかりと聞いたことは無いので素直に聞くことにすることにした。

「貴族がこの日に使い魔召喚の儀式を行うことは聞いています。
しかし、本来ならそれを理由に今日も戦争は一旦中断しているはずでしたが、それ以上詳しくは知りません」

「そうか。春の使い魔召喚の儀式はブリミル教の神聖な儀式だ。
君は意図しようが意図しまいが、彼女……ミス・モンモランシに召喚された以上、
彼女の使い魔になってもらわなければならない」

俺は上級貴族の使い魔になったということで、今までの生活から抜け出せると、
多少は気分を良くしていたのだろう。

「ええ。召喚主であるミス・モンモランシに異存がなければ」

「私にも問題はありませんわ」

「それでは『儀式』を続けなさい」

コルベールと入れ替わりに、ステファニーがよってきて俺の前に立つ。

「少し屈んでくれるかしら。バッカスとやら」

そういえば、使い魔召喚の儀式の最後は口付けだったかと思い出す。
彼女と顔の位置をあわすように屈むと、ステファニーが呪文を詠唱しだした。

「我が名はステファニー・ポーラ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

キスをしてくるが、クラスメイトであろう者達の目の前でキスをするのに照れている様子も無いな。
ふむ。けっこう遊びなれているのか?

「『サモン・サーヴァント』は2回失敗したが『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」

コルベールがうれしそうに笑っている中、女性の声が聞こえてくる。

「召喚に失敗するかと心配していたけれど、これでもう失敗の汚名を晴らせるわね」

「ええ、お姉さま。動物や幻獣とかではないですけどメイジですもの。これで私も胸をはっていられますわ」

ステファニーがお姉さまという相手を見つけると、金髪を縦ロールにしていて、
どちらかというと上流貴族らしい女生徒だ。
顔だけを見ると、一見では見分けがつかないぐらい似ている。
ならんでみてもらわないとわからないが、
ステファニーの方が少しばかり背は高そうで、胸もありそうだ。
制服を着ていると本当に特徴がわかりづらいから、
髪型を替えているのかもしれないなと思っている矢先に左腕上腕が熱くなってきた。
そういえば、使い魔のルーンが刻まれるときに、使い魔が暴れることがあるって聞いたことはあるよな。
あの”白炎”の炎の熱さに比べればたいしたものではないが、
それでも熱いものは熱い。一瞬の熱さなのだろうが10秒以上も熱かったような気がする。

「ルーンが刻み終わったようです」

俺は熱さが収まったので、左腕をまくりながらルーンを見せる。

「『ウインド』のルーンのようだな。これでミス・モンモランシは風の系統に固定される」

「あら、別な教室になっちゃうかもね。ステファニー」

「仕方がありませんわ」

「これで、この教室の使い魔召喚の儀式はおしまいだ。次の使い魔召喚の儀式があるので、別な場所で待っていなさい」

「はい。ミスタ・コルベール」

「ええ。ミスタ・コルベール」

二人について俺も行くが少し離れたところでは、使い魔の召喚を終えた生徒たちは、
自分の召喚した使い魔とコミュニケーションをとろうとしている。
ステファニーの姉はカエルを召喚したようだ。大事そうにかかえている。
カエルは水系統だったよなと思い出す。
適当な空間を見つけると、カエルは話せないので、3人で話を始めた。

「改めて自己紹介いたします。アルビオン王国で傭兵を行っていましたバッカスと申します。
以後、使い魔としてよろしくお願いいたします。ミス・モンモランシ」

「ミス・モンモランシなんて呼ばなくても、ステファニーで良いわ」

「あなたね」

「だって、ミス・モンモランシなら、お姉さまとかぶっちゃうじゃない。
私にはメイドたちも、だいたいはこれで通してるから良いのよ」

確かトリステイン貴族って、気位が高いときいていたんだけどな。どうも、なかなか変わった人物らしい。

「ステファニーはそれで良いかもしれないけれど……学院内ならまだしも、実家でそれは問題があるわよ」

「そうしたら、学院内ではステファニーで、実家ではステファニーお嬢様とでも呼んでもらえば良いわよね?」

「そうね。それなら問題ないわよね。
わたしの方はミス・モンモランシーで、実家ではモンモランシーお嬢様と呼んでもらえれば、それでよいわ」

「御意」

「そういえば、バッカスはメイジなのに剣も持っているの?」

「傭兵をしていると『ライン』程度の実力では時間的に魔力切れしてしまう戦いとかがあるんですよ。
それを補うのに剣を使っています」

こっちの剣も杖だったりするのだが、わざわざ話す必要もなかろう。
話を続けようとすると聞きなれない爆発音に身体が反射的に防御体制に入ろうとするが、まわりは誰も動く様子はない。

「えーと、誰もこの爆発音に驚かないようなんだけれど、なんで?」

「あー。いつものことよ。ゼロのルイズの魔法が失敗しているんだわ」

俺はモンモランシーの言葉を聞いて不思議に思う。

「魔法が失敗して爆発音?」

「そう。魔法を唱えると全部失敗。狙ったところで爆発させるのも失敗続きで、たまにしか成功しないの。
成功の確率ほとんどゼロだからゼロのルイズよ」

「そんなに、あまり失敗って言わないでくれる。お姉さま」

「あら、ごめんなさいね。けれど、ラインクラスのメイジを召喚したんだもの。
もうあなたのことを失敗のステファニーなんて言われないわよ。
それにルイズが成功するかどうか見ものだからちょっと見に行ってくるわ」

魔法が失敗して爆発する? なんだ、その魔法は。
もしかして、俺の主人になるステファニーの失敗する魔法も爆発なんだろうか。

「もしかするとステファニーの失敗というのも、魔法が失敗すると爆発するのかな?」

「魔法の失敗で爆発するのは、ルイズだけよ。
私のは、単純に魔法がコモンの簡単なものでも最初に成功することが五分の一くらいなだけよ」

「『コントラクト・サーヴァント』が1回で済んだのは残念だったな」

「貴方ね。言って良いことと悪いことがあるわよ」

「すみません。傭兵生活が長いもので。話す内容には気を付けます」

十回もの爆発音がしたあとに、
やはりステファニーも気になるのかルイズという生徒の様子を一緒に見に行くこととなった。
桃色がかった金色の髪の毛の少女が、呪文を唱えて杖を振るたびに爆発をする。
確かに、同じところで爆発をしないし、規模も若干ながら違う。
後ろからだからわからないが、視線の先で爆発しているかどうかもわからないな。
集団戦でこんな魔法がきたら怖いぞ。

しかし、こんな使い魔召喚のコモンの失敗で爆発するってどんな系統魔法だ?
4系統のうち単独で可能性があるのは、火をベースにして物質を爆発させることだが、
魔法だけなら火をベースに土か水の系統が必要だったはずだ。
残るのは虚無の系統か?
あれは、どのような魔法か残されていないと聞いているが、一番可能性が高そうな気がする。
ただ禁呪として、何種類かの魔法も禁止されているらしいから、その系統に属するものなのか?
禁呪なら魔法学院あたりだと、記録が残っていないのかもしれないな。

そのうちに爆発しないと思ったら、黒髪で懐かしいタイプの服装をした少年が横たわっていた。

「やっぱりきたのね」

ステファニーはそう言つぶやいた。
あのタイプの服だが、アルビオンはもとより、ハルケギニアにも無いはずだ。
俺がもっている前世だろうと思う記憶に残っているだけだ。
まさか、ステファニーも俺と同じ前世の記憶を何かもっているのだろうか?

それにしても「やっぱり」とは反応がおかしい。

あらかじめ知っていたような言葉だ。
魔法が失敗することと、人が召喚されることに何か関係があるのだろうか。

少年が起きたのか「あんた誰?」と言った声がする。
少し間が空いてからルイズという少女と「ヒラガサイト」と名乗った少年のやりとりや、
周りの嘲笑とコルベールの話声が聞こえてくる。

「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。
春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」

このコルベールの言葉にルイズという少女はがっくりと肩を落とす。
単なる平民だろうと平民メイジであろうと、金さえあれば雇えるが、
メイジの方が格上だと一般的な上級貴族は見ているからな。
ルイズとヒラガサイトの儀式も終わったところで、コルベールは言う。

「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」

俺はステファニーの方も時々みていたが、彼女の反応はまわりと異なり嘲笑などしていない。
このまま残るかと思ったが「さぁ、行きましょう」とのことだ。
俺と彼女は『フライ』を同じく詠唱したが彼女は失敗した。

「やっぱり1回目って中々うまくいかないわね」

続けて2回目の『フライ』の呪文で浮かび上がる。

「『フライ』だけど、途中で魔法が失敗して落ちたりする心配は無いのかな?」

「それは大丈夫よ。最初に発動さえすれば続けている最中に失敗することは無いわ。
皆より遅れているから、さあ行きましょう」

その言葉に従って、ステファニーの後について教室に向かった。
あとに気にかかる二人を残しながら。


教室では、俺はステファニーの横の席に座らされた。
使い魔と、このあとどのように交流していくかの講義だ。
それと使い魔の種類に関して簡単な紙にするための用紙に記入していくものだ。
ステファニーはその用紙にさらさらと書いていったが、棲み処というところで手が止まった。
確かに人間である俺をどうするかというのは迷うかもしれないな。
そこは空欄にして、コルベールと言われた先ほどの教師に渡した。
主人と使い魔の交流ということで、彼女の寮の部屋へ行くことになる。
そこで講義で聞いたことを質問されたのだが。

「さっきから、ためしているけれど、やはり、目も耳にも貴方が見たり聞いたりしたと思われるものは無いわね」

「はぁ」

その「やはり」ってなんだよ、とつっこみたいところだが、今は疑問としてもっておくだけにする。

「それで主人の望むものを見つけてくることだけれど、できるかしら?」

「アルビオン国内なら多少は知っていますので、物によっては見つけることもできます。
しかし、このトリステインだと温暖なので、植生が違うのと具体的な場所が分からないので自信はありません」

アルビオンは高度3000メイルもの上空にあるのに、それほど気圧は変わらない。
温度が違うので、植物の種類がアルビオンとハルケギニアでは違うものが多いと聞いている。

「ちょっと残念ね。けれど、私じゃ失敗が多いから、
集めた材料もあまり成功に結びつかないかもしれないし、お姉さまとは違うから良いわ」

「こちらで暮らすことになったら、トリステインで魔法薬用に使える薬草とかコケでも覚えていきますよ」

「あら、そういえば、貴方の系統は風だと思っていたのだけれど、違うの?」

ちょっとだけ、今日になってから自分でも違和感を覚えているから、勘違いかもしれないが普段通りの状態を言う。

「風が一番強いのですが、火と水も同じくラインスペルを使えます。ただし、土だけはドットでも低いレベルですけれどね」

「私は風が一番で、水が二番でどちらともラインスペル、次に水で最後に土でドットスペルだわ」

「それで主人を守るというところになると、護衛をしたことはありません。
しかし、傭兵の経験があるので、そのあたりの『ライン』のメイジよりは役にたつと思いますよ」

ちょっとばかり売り込んでおかないとな。

「そのわりには、崖から足を踏み外すってドジそうね」

召喚の際の言いわけをここでつかわれたか。

「面目ない」

「それはそうと、問題は貴方の住む場所よね」

「ここの使用人の部屋を借りれば良いのではありませんか?」

「貴方は知らないかもしれないけれど、モンモランシ家って水の名門と呼ばれていたわ。
しかし干拓でラグドリアン湖の精霊を怒らせて交渉役から外されているから、
今は名前だけが名門で実体は貧乏貴族なの」

ちょっとまった。ここは上流階級の貴族の息子娘が集まるところで、
しかもトリステイン貴族って気位が高いはずなのに、いきなり実家の苦しい内情を話すのか。

「そうすると、使用人の部屋は借りられないと? 俺ってどこに住めばよいのでしょうか?」

「この部屋になるのかな?
幸い貴方はメイジと言っても平民みたいだし、ベッドだけなんとかすればこの部屋で良いわ」

「いや、だって、俺って男ですよ」

「あら、領地を持つ封建貴族の娘に手を出すつもりなの? それなりの覚悟が必要よ」

そう言われると、今の俺には手がだせない。
噂ではゲルマニアでは金次第で貴族になれるらしいが、その前に手をだすと……
下手をすると首をはねられかねないしな。

「とは言っても、女性と二人きりで同じ部屋に泊まるというのは、個人的にちょっと」

「そうしたら、もうひとつの手段で、この魔法学院の使用人をおこなってみないかしら。
そうすれば、使用人用の部屋に入れるし、個人で自由に扱えるお金も入ってくるわよ」

「使用人といっても、ここだと、何がありますか?」

「料理人か、衛兵ね」

俺の選択枝はひとつだけ。

「衛兵で入れるのなら、それでお願いします」

「じゃあ、学院長のところまで交渉に行きましょう」

「はい?」

「だって、人間が召喚されるだなんて思っていなかったんだもの。仕方が無いでしょう」

「普通はそうみたいですね。けれど、使い魔召喚のことで何か隠していませんか?」

「えっ? 何を?」

覚えがあるのか、多少は動揺しているようだ。

「ルイズという少女が、人間を召喚したときに『やっぱり』と言ってました。
それと、俺の目と耳のことでも『やはり』と言ってました。
使い魔召喚で人間を召喚することに関して何かを知っているのではないのですか?」

「意外にするどいわね」

「お褒め頂きましてありがとうございます。それで、何かを知っているのですね?」

「世の中、知らない方が良いこともあるわ。この件に関してあまり首をつっこまない方が良いわよ」

俺自身が、人間の使い魔として召喚されている以上、充分に首をつっこんでいる気もするのだが、
彼女のニュアンスでは異なるのだろう。

「そうですか。まずは、衛兵になれるか、学院長室へ行きましょう」
 
せっかく賭けに勝ったと思ったら、負け組っぽいな。なんとなくだけど俺ってこっちの人生でも失敗が多いんだろうか。


*****
『植物の種類がアルビオンとハルケギニアでは違うものが多い』というのはオリ設定です。

2010.05.05:初出



[18624] 第2話 秘密なのはどこまで
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2017/04/24 20:14
主人であるステファニーと一緒に学院長室へ向かってノックをして入らせてもらう。
部屋に入ったところでは、重厚そうな机に腰掛けている白い口ひげと髪が特徴的な老人がいた。
そこから少し離れた部屋の隅に、緑色の髪の毛が特徴的で、眼鏡をかけている女性がいる。
一瞬その女性に気をとられかけたが、本題である衛兵になる話をステファニーから老人である学院長へきりだした。

「オスマン学院長。ステファニー・ポーラ・ラ・フェール・ド・モンモランシです。
今回、使い魔を召喚しましたら、なんとメイジを召喚してしまいました」

「うむ。アスジータだったかな。今日の春の使い魔召喚の担当教師にきいておる」

アスジータじゃなくて、コルベールじゃなかったのか?それとも、どちらかが家名なのか?

「その使い魔になったのがこのバッカスなのですが、事故で召喚されたのだそうです」

「うむ。それで」

「私の実家の境遇を聞けば、それは大変だろうと、この魔法学院の衛兵に志願してくれるというのです」

いや、そこまで俺は言ってないぞっとつっこみたいが、ここでつっこんだら、多分話が破綻するだろう。

「そういえば、ミス・モンモランシは、あのぉ、そのぉ、そういえばのぉ、学費が遅れがちだったようじゃのぉ」

「ええ、なので、食事代や居住費はかからないようにと、衛兵にメイジがいないのなら、
傭兵経験もある自分なら役にたつでしょう。そう言ってくれているのですよ」

「うむ、そうは言ってもな」

「最近は、教師の当直もいらっしゃらないとか。これが王宮に聞こえたらどうなるのでしょうか」

おい、それ脅しだぞ。

「この魔法学院が襲われるとは思えないが、衛兵にもメイジがいた方が何かと役にはたつであろう。
契約に関してはミス・ロングビルと書類をとりかわしてほしい」

そう言って、オスマンという名の学院長は部屋から出て行った。仕事放棄じゃないのか?
それよりも、このロングビルという女性だ。

「先ほどの狂言は中々おもしろかったですわ」

学院長からまかされているだけあって、有能なのだろう。

「あら、わかっちゃいました」

「ええ。ここの衛兵では、生徒にすら何もできませんからね」

「平民の衛兵が貴族に何かすると、問題があるのでは?」

「それを抑えるのが学院長の仕事です」

ふむ。上級貴族からの苦情をおさえられるとは、本来ならここの学院長はそれなりに力があるわけか。
それはともかく、俺は使い魔ということもあり、歩合給で当面3ヶ月は本来月給なのを週給にしてもらえた。
契約は、仮契約だが、オスマン氏のサインを待つだけとなったので、ステファニーは部屋に戻っていくのだが、

「きちんと仕事先への挨拶とか、泊まる部屋がきまったら教えてね」

「はい。ステファニー」

そうして、ロングビルと二人きりになったところで安全のために『ディテクト・マジック』をかける。
風系統のマジックアイテムである『遠見の鏡』がある以外は特に問題は無い。
念の為に『サイレント』をかけてまわりの音を遮断すると、
ようやくこちらに気がついたのかロングビルが涼しげに声をかけてくる。

「あら『サイレント」なんてかけてどうなされたのですか? ここは魔法学院ですよ」

暗に安全だろうと言っているのか?

「マチルダお嬢様とお見受けいたしました。このようなところで見かけるとはおなつかしゅうございます」

「なぜ、その名前を。その前に見覚えがないのだけど」

「エクセター家のブライアンです。お会いさせていただいたことはありますが、覚えていないでしょうか」

「エクセター家のブライアンだったら、銀髪じゃないわ」

「失礼。これは魔法薬を使って金髪から銀髪に染めているのです。
そもそも、アルビオンで傭兵をしていたので、身分を隠すために始めたことですが、
眼鏡こそかけていらっしゃいますが、度が入っていないようですし、
マチルダお嬢様の緑色の髪の毛はそのままでしたのでわかりました」

「そう、私の家に仕えていたエクセター家の長男ね。貴方も精悍になったわね。
けれどマチルダは捨てた名前だから、そのままロングビルと呼んで」

確かに、最近のアルビオン王国ではともかく、4年前の事件をもとからすれば、もう名前を名乗りたくはないのであろう。
俺も実際に自分の生まれを隠してバッカスという偽名をつかっているのだから。

「ミス・ロングビル。ここでお会いしたのもなにかの縁です。
お困りのことがありましたら声をかけていただければ、お手伝いいたします」

「いいのよ。もう昔のことは忘れて。
ここで、話したことも忘れて単純に平民メイジで、ここの秘書であるロングビルとして通して」

「わかりました。ミス・ロングビル」

そうして、俺は『サイレント』を解いて、学院長の契約書にサインしてもらうためにまった。
さしてまたずにオスマン学院長はもどってきて契約書を確認している。

「さすがじゃの、ミス・ロングビル。これで問題なかろう。ミスタ・バッケル」

「バッケルじゃなくて、バッカスです。名前はその書類に書いてある通りですので。
内容については、これで問題ありません。そして、実際の場所まではどのようにしたら良いでしょうか?」

「ミス・ロングビル。案内してやってくれ」

「はい。オールド・オスマン」

しかし、このオスマン学院長は女性の名前は覚えているみたいなのに、男性の名前は覚えていないようだな。
ミス・ロングビルの案内の元、使用人宿舎の部屋への案内を先にしてもらったあとに、衛兵がいる門のところに行った。

ここでは「実力がみたい」と大柄な衛兵でアルフレッドの相手にさせられる。しかも木剣だ。

俺がメイジであることから、剣の実力をなめているのだろう。
実力は確かにこの大柄の衛兵の方があると思われるが、きれいな剣筋だ。
あまりにきれいすぎて簡単に動きが予測できてしまう。
そして、こちらは、実戦できたえあげた剣さばき。
傭兵の剣は、大概は上から力任せに殴りつけるか、横なぎにするぐらいが多い。
たまにあるのが、刺す動きだが場所が狭いとか、相手が一人とかの時だ。
それに対して俺の剣筋は、下方から剣先を上にあげたり、足だけを狙うなんてこともする。
前世で剣道はしたことは無いが、それぐらいのことなら何かで見た覚えがある。
いわゆるこの世界では邪な剣さばきだが、きれいごとだけでは生きていけなかったからな。
木剣でも、正当な剣筋でなくても、実際に勝ったところで声をかけられる。

「悪かったな。メイジだから、杖がなければ平民以下だと思っていた」

「いや、良いよ。実際、そうやってなめてくれた傭兵がいてくれたおかげで、俺は生きているようなものだからな」

メイジだと思って、魔法がでなくなると、接近戦をしてくる傭兵とかはよくいたしな。
ただし、ここのコルベールの隙の無さはどういうものだろうか。
まあ、人の過去をさぐってもしかたがない。

そして、新しい職場でのローテーションは、俺が使い魔であることもあって、ある程度の自由が認められた。
先立つものは欲しいので、使い魔としての時間と睡眠の時間以外は割り当てようと思いながら、ステファニーの部屋へ行く。

「どうだったの?」

「使用人の宿舎で空き部屋が何室かありました。
メイジでもあるということで逆に相部屋をしたがる者がいないようで、一部屋をかりられましたよ。
それにたいして、衛兵の方はひと悶着はありましたが、剣の実力を見せれば納得してくれましたかね」

「うまく行ってよかったわね。貴方ってお金をもっていないでしょ?」

「ええ、まあ」

「そうしたら、私が管理してあげるわね」

「はい?」

「貴方の給与は私が一旦あずかっておいて、必要ならその分を渡すようにするわ」

「えー」

「だって、今もっていないってことはためておくのが下手ってことでしょう」

うーん。傭兵を初めてから、戦いが無いときは遊んでいたからな。確かに今は金がほとんど無い。あきらめて、

「わかりました」

俺はがっくりときた。しかし、上級貴族が衛兵の給金を管理するとはね。
まあ、この魔法学院の衛兵の給与は、一般の衛兵の給与よりは高めの気はするが。

「わかれば良いのよ。わかればね」

そう言いながらも、俺の全身を眺めてから一言。

「とりあえず、その服装だけでもなんとかするわ。幸い明々後日は虚無の曜日だから、まず服を買いましょう」

俺は自分の服装を改めてみると、確かに上級貴族の間にいる格好では無いと気がつかされた。

「そうですね。お願いします」

「それくらいなら、まだお小遣いはあるから」

服に関してはあまり期待できないかな。

「それと、主人と使い魔の交流ということで、夕食は一緒だけど、明朝からの食事はきちんと場所は確認しているの?」

「ええ。ミス・ロングビルに、使用人の宿舎へ行く前によって場所を教えていただけました」

「それなら良いわね。
あとは、聞いていてわかっていると思うけれど、来週いっぱいまでは使い魔のお披露目として教室にいることになるから、
授業の開始15分ほど前に迎えにきてくれるかしら。
いなかったら、部屋の中で待っていても良いわよ」

「わかりました」

「そういえば、貴方の話からするとアルビオンで傭兵をしてたの?」

「ええ」

「貴方は王党派? 貴族派? どちらに入っていたのかしら」

もしかすると、試されているのか。
ただ、あとで本当のことがわかって、そこで険悪になるよりも今のうちに話しておく方が良いか。

「貴族派の方にいました。王党派は負けが見えていますからね」

「そうね。傭兵なら勝ち組についているのが自然よね」

ふー。そんなに偏見はなさそうだ。

「とりあえず、今日のことは日記に書くから、待っていてくれるかしら」

「日記ですか。まめなんですね」

「だって、暇だしね」

「どんなことを書いているのですか?」

興味本位で聞いてみる。

「あら、女性の日記なんて見るものじゃないわよ」

「失礼いたしました」

「まあ、見ても読めないでしょうけれどね」

「えっ?」

「ちょっと、特殊な文字を使っているの。いわゆる東方の文字ね」

「へー、東方の文字を読み書きできるのですか」

そうやって改めてみてみると、このハルケギニア語だけではなく東方の文字と呼ばれている、
主に日本語と英語らしき本が並んでいる。

「そうね。だから、私の日記は誰にも読めないわよ」

にっこりと微笑んでいるが、俺も英語はともかく日本語ならいまだに読める。

「俺も東方の文字は、全部ではありませんが、一部なら読めますよ」

「あら、本当? その本棚に何冊か並んでいるのだけれど、読めるのかしら?」

俺は本棚の前に立ち、背表紙に漢字とひらがなとカタカナと数字にアルファベットが使われている
緑色に十字の模様ともいえる本をとりだした。

「このあたりは、読めますね。
上から『エム・エフ・文庫 ゼロの使い魔2 ヤマグチノボル メディア』……で良かったかな?
それとよくわからない模様の下は『ファクトリー』だったかな?
これであっているんじゃありませんか?」

そうやって、ステファニーを見るとショックなのか愕然とした感じでいる。
東方の文字を読めるという者はほとんどの場合、本当には読めていないからな。
中にはハルケギニア語と同じ言葉で書かれているが、内容はこちらの人間が理解できないものも混ざっている。
もしかすると、俺のほうが彼女より読めているのかもしれないのかな?

「貴方、本当にこれを見るのは初めてなの? ただ、丸暗記というわけではないわよね?」

「ええ、初めてみる題名ですが、何か間違っていましたか?」

「いえ。その本の中身とか知っているの?」

「中身を知る以前に、この本自体を見るのは始めてですよ」

「貴方はどうやって、東方の文字を覚えたの?」

ああ。バカをやってしまった。読める言いわけを考えていなかった。

「えーとですね……」

「ま、ま、まさか、貴方。前世の知識を持っているなんていわないでしょうね!」

俺の方こそ驚いた。
そういえば、使い魔召喚の儀式の時に一瞬だが、彼女に前世の記憶があるのじゃないかと考え付いたことを思い出した。

「ええ、前世の記憶はありますが、もしかしてステファニーも?」

少し考えこんでいるように見えたが、しっかりと返答をしてきた。

「そうよ。私も前世の、しかも日本人の記憶をもっているの。
貴方がその文字を読めるということは、前世は日本人なの?」

「ええ、ずいぶんと忘れかけていますが、日本人としての記憶をもっています」

「なつかしいけれど、その前に、その本は返してもらえるかしら」

「ええ、どうぞ」

そうすると、俺から受け取った本を彼女は俺から離すように別な場所に置いた。
この時、その題名と動作の意味は考えていなかった。
しかしあとになって思い返すと、どうしてそうしたのだがわかったのだが。

「まさか、他に前世の記憶を、しかも日本人の記憶を持っている人にめぐり合うとは思っていなかったわ」

「言われて見ればそうですね。
そういえば探そうとも思っていなかったのですが、日本人としての記憶も全部をもっているわけじゃないんですよ」

「私の方は、比較的覚えていると思うのだけれど、同じ前世の記憶を持つ人を探す手段が無かったわ。
探すのにもお金がかかるし……」

「望郷の念というやつですか?」

「そうね。
どうやっても、貴方の銀髪の姿に、その顔立ちから日本人とは思いづらいのだけれど、
良ければ覚えている前世の記憶を話してくれるかしら」

「この銀髪は事情があって染めているだけで、地毛は金髪です。
それに前世のこともたいしたことは話せないですよ。
何せ自分が日本人で文字や習ったことは覚えているのに、家族や友人たちのことを思い出せないのですから。
いわゆる記憶喪失に近い状態ですよ」

「貴方は、それがつらいの?」

「もしかしたら、最初はつらかったかもしれませんが、今は全くといっても良いほど」

「それじゃ、よかったら、貴方の前世の記憶で話せるだけ話してみて」

そうして、俺は前世で語れる内容は語ってみた。
こうやってみると、なんとなく、テレビでみた内容や学校の授業でならったことや、
生まれ育ったいくつかの街の風景などは覚えていたが、
自分のより身近なことに近づくとまるで霞がかかったようにぼやけていって、最後は話せなくなる。

そんな俺にむかってステファニーは

「無理なところは話さなくても良いのよ」

というが、俺自身はそれほど無理をしているつもりは無い。

「この世界に住んでいますし、前世はあくまで、前世であって、何ら今の人生と関係は無いでしょう?
確かに前世の方が遊べる要素は色々とありましたが」

「そうね。貴方にとってはそうなのかもしれないわね」

「ステファニーにとっては、前世は未だに重要?」

前世が日本人同士ということで、俺の口調も多少砕けてきている。

「重要といえばそうともいえるし、そうでないといっても、はずれてはいないことも多いし」

「話を聞くぐらいなら、俺でもできますよ。何せ使い魔ですし」

「そうね。どうしようかしら」

「前世の話ぐらいは、たいしたことはないんじゃないんですか?」

「貴方も前世を覚えているのなら、魅力的な女性は秘密を抱えているって言葉は覚えていないかしら」

「何か似たような言葉はあったかもしれませんね」

魅力的かどうかはおいとくとして、お茶をにごしておこう。

「あら、使い魔なのに、おべっかのひとつぐらい言えないのかしら」

「いえいえ、充分に魅力的ですよ。ご主人様」

「私に言われてから言っても、遅いわよ。まあ、話せることなら話してあげるわ」

前世の記憶を持った二人の会話は、途中メイドが食事を運んできて一旦は中断したのだが夜遅くまで続いた。


*****

2010.05.06:初出



[18624] 第3話 過去と爆発
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2017/04/25 20:03
昨夕のステファニーと主人と使い魔としての交流を深めた際のことを思い出す。
互いに前世の記憶があるということで、
俺の給料は、半分だけはすぐに渡してくれるということになった。

ちなみに本当に彼女の実家の経済状況は厳しいらしい。
そのせいか、彼女の姉であるモンモランシーは、お小遣い稼ぎとして香水を売っているそうだ。
ステファニーも挑戦してみているのだが、失敗する確率の問題から高級な香水を売るのは諦めて街女用として、
姉よりは安い香水を売ってお小遣いを稼いでいるそうだ。

魔法も1回目は失敗しやすいが、2回目以降に同じ呪文をしようすると失敗する確率が極端に減るらしい。
香水を作るのに同じ成分で何回も行うので、失敗しても変化は無いのだが、
種類を多く作ることにしているので、一般の薬草から作るとのことだ。

残念ながら香水用の薬草類を、俺は知らない。教えてもらえば探せるかもしれないので、
協力を申し込んだら「そのうちね」と言われた。
それでも、彼女が魔法学院へ入学した当初に比べると成功する確率はあがっているらしい。
ただし、最初の1回はどうしても失敗することが多いらしいのだが、未だに原因は不明だそうだ。
同じく前世の記憶を持つ俺だが、子どもの時こそ失敗をしていた記憶はあるが、
今は、高度な魔法を使おうとしない限りは失敗しない。

最近の彼女の2回目以降での魔法成功率は、平均確率で8割程度らしい。
他にもお小遣い稼ぎはしているらしいが内緒だそうだ。こっちの世界で16歳とのことだから、
もう大人して扱われる年齢だが、上級貴族である彼女だから働ける場所も限られるだろうに。

俺は18歳だが、4年前まではアルビオン王国の下級貴族用の魔法学院に入れるつもりだった。
しかし、サウスゴータ家に仕えていたおかげで逃げなきゃならない羽目に陥った。
マチルダお嬢様、いや今はミス・ロングビルか。
こちらまで流れ着いて苦労をしているんだろうな。
貴族の立場を追われる者がとる道は少ない。
国外に逃げ出せればよいが、金をもっていなければ生活基盤は無いし稼ぐ方法も国によって違う。
俺は盗賊よりも、傭兵の道を選んだ。

貴族派が最初に立ち上がった時には国の転覆なんて無理だろうと思っていた。
しかし、勢力が一機に膨れ上がっていく様子をみて、貴族派についていくことにした。
その時は、理由も判明しないサウスゴータ家への理不尽な取り潰しからと、
サウスゴータ家に使えていた貴族ということで、下級とはいえ貴族の立場を追われたことへの恨みからだった。
しかし、しばらくすると貴族派の戦い方が非常にうまくいきすぎる時と、
負けるとは思いづらい戦場でも不可思議な負け方をしたりすることに気がついた。
さらにここ半年程では、打倒王党派だけではなくて、聖地を取り戻すだなんて、
バカなことを言い出しているのも噂として聞こえてきた。
下級貴族でさえ幼い頃から教えられている聖地奪還の失敗にこりていないのか、
名目だけなのか俺にはわからないが、貴族派で傭兵としているのがバカらしくなってきていた。

ステファニーには自分の身元が明らかになるような内容は話さなかったが、
それ以外のことはそれなりに詳しく話している。
真面目に聞いていてくれたし、どちらかというと同情をひいたかもしれないなぁ。
そういえば「亜人や幻獣退治は選ばなかったの?」とは聞かれたが、
アルビオン王国の亜人や幻獣は、他のハルケギニアと少し違うタイプが多いらしいのと、
それに数も多くはいないのと、
国も貴族もあまり熱心に亜人や幻獣退治もしないので安定的な収入源にもならないからな。

前世の話と、こちらの世界で生まれてからの身の上話あたりをしていたら、
あまり遅くなるのも翌日の授業に響くということで、話は途中で終わった。
前世の話題で話せるのは、俺も結構たのしかったんだな。思ったよりも長居をしてしまった。

寝る前には、木剣をまじあわせた衛兵であるアルフレッドが
「おれの古いパジャマでよければ譲ってやる」
っと言ってくれたのでありがたく貰って寝た。
他の衛兵で友好そうなのは2人で、あとは様子見なのか挨拶をしても、生返事か、下手をすれば無視をされた。
傭兵でもよくあることだ。
俺が新顔なのだから、自分から踏み込んでいかないと相手にされなくてもしかたがなかろうな。



今朝の朝食は使用人の食堂で食べている。
俺は使い魔ということもあり、交代前の衛兵と同じ時間に食事をすることになっている。
この時間だと料理人や早番のメイドはいないが、
遅くから活動しだすメイドたちも一部の若い衛兵と仲が良いのか一緒に食事をしている。
そして俺はこの食堂が始めてということもあり、食堂に入っていくと少々年配のメイド長であろうか。

「初顔だね。杖をもっているということは昨日使い魔にされたというメイジの方かい?」

「ああ。その通りだ」

「その格好だと不衛生だからあの席に行ってくれないかい」

自分の戦場から逃げ帰ってきた途中だけあって、多少は汚れをおとしたが、落としきれなかった。
この反応もしかたがなかろう。

「あの席だね。ありがとう」

俺は皆とは外れた席につく。
席には、食事は用意されているので、特に決まった席があるというわけでも無いのだろうか?
そんな疑問が顔にでもでていたのか、さきほどの少々年配のメイドが言ってくる。

「別にあんたがメイジだからといって特別邪険に扱っているわけじゃないよ」

「俺の服装が汚いからだろう」

「まあ、それもあるけれど、遅番や早番などの入れ替わりがあるので、
特に席の指定は無いのさ。まあだいたいは席の位置が決まっていくことが多いけれどね」

「そういうものなのか。初めてなんで勝手がわからなかった。すまない」

「わかってくれればいいのよ」

やはり、顔か雰囲気にでていたのかな。
この年配のメイドは貴族のご機嫌を伺うのに、たけているのだろうな。
食事は固いパンに、多めの豆と少な目の鶏肉が入ったスープ、それにハシバミ草のサラダだ。
俺は貴族といっても下級貴族だったから、貴族時代のときよりも鶏肉の量が少ないぐらいだろうか。
アルビオンでの傭兵時代に比べると、少し塩味が強い感じで肉が少なめぐらいだ。
しかし、傭兵の素人料理よりは、はるかに旨い。
アルビオンでは、塩は貴重だったからな。
海沿いに国家のあるトリステインなら、そんなに塩を心配しなくても良いのだろう。



授業開始前の20分程前になって、昨晩ステファニーから教えられた『アルヴィーズの食堂』の前で待っている。
平民メイジなら部屋に自由に出入りされても気にしなかったが、
俺が日本人としての前世の記憶を持っているということから、
部屋にいるかいないか確認してほしいとのことだった。
天気が良ければ『アルヴィーズの食堂』の前で、天気が悪ければステファニーの部屋の前でまっていることになった。

「今のギーシュの良いところって顔ぐらいしかないんだけどな」

そう呟くようにしながらステファニーは出てきた。

「ギーシュって?」

「ああ、お姉さまの恋人よ。けれどね、ちょっと問題があるんだけどねぇ」

勉強道具を持ってくるために一旦部屋へと戻りながら話す。

「問題?」

「ちょっと顔がいいから、もてるのよね。しかも女性が寄ってこられると、つい手を出しちゃうタイプなの」

「それだったら、トリステイン貴族の女性なら素直にわかれるんじゃないのか?」

「去年もケンカをしてわかれたはずなのに、またつきあいだしているのよ。これも決して悪い話ではないんだけれどね」

「悪い話ではないって?」

「ギーシュにとっては、お姉さまが一番みたいだし、
お姉さまも本気で別れる気があるのかどうかよくわからないのよね。
それにギーシュって、軍の名門であるグラモン家の息子だから、
そこから入り婿になってもらえるなら、グラモン家とつながるのは決して悪い話ではないのよ」

「ふーん」

「けれど、グラモン家も裕福ではないのだけれどね……」

「お金より家柄か。トリステインの上級貴族というのも大変なものだな」

「多分、あの二人はそこまで考えていないわ」

「おい。なんだよ。それ」

「この魔法学院って、封建貴族が自由恋愛できる最後の場みたいなところなのよ。
ここで相手がみつからなかったら、親が決めた相手と結婚しなきゃいけないのよ。
だけど、お姉さまの相手は少々お姉さまの趣味に合わないみたいなのよね」

ふーん。ある意味少女らしい考え方できめていそうだな。
そんなことを話ながら、部屋に寄ったあとに、教室へと向かった。

教室は昨日と同じ教室だったが、昨日いた生徒と入れ変わりがあったようだ。
また、当然のように使い魔たちも違うようだ。
昨日は見なかった、赤い髪の毛に褐色の肌の女生徒のまわりには男どもがむらがっている。
ステファニーの姉であるモンモランシーも来ているが、こちらは昨日もいた。
何せ縦ロールにしているのは彼女ひとりだ。それなりに目立つ。
そして、桃色がかった金髪の髪の毛が目立つルイズという少女へ、
ヒラガサイトが何やら珍しげに使い魔を指差ししながら質問をしているようだ。
俺も初めて見る使い魔がいる。隣に座っているステファニーに聞いてみる。

「あのタコと人魚が合体したような使い魔は何?」

「スキュアよ」

「そのスキュアって、海洋性の生物なのかい?」

「その通りよ。アルビオンって空中に浮かんでいるから海洋性の使い魔は、ほとんどいないのかしら」

「うん。だから、初めて見るよ。この魔法学院ではどうするのかな?」

「海洋性の使い魔用に棲み処をつくってあるから、普段はそこにいることが多いはずよ。
スキュアは人魚系だから、ある程度の時間は外につれてこれるようね」

シュヴルーズという中年の女性教師が入ってきたが、サイトや俺を見てとぼけた感じの声で言う。

「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエールとミス・モンモランシ」

「ゼロのルイズに失敗のステファニー! 召喚できないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ」

教室は笑いに包まれるがステファニーは仕方がないと肩をすくめるだけだった。
まあ平民メイジは金次第で連れてくることはできるからな。
言った人間もその反応に気がついたのか、ステファニーの方については何も言わなくなった。
ステファニーの実家が裕福では無いのは、このクラスでは有名なのか?

ルイズは最初の言葉に反論しているが、騒がしくなった教室の中で、その口論を聞いてくすくす笑いが広まる。
そのくすくす笑いをしていた何人かの口に見事なコントロールで、赤土が口元に貼り付けられた。
教師のシュヴルーズが、8人の口元へきれいに貼り付けたのはたいした腕だ。
厳しい顔つきで見回していたが、その雰囲気から戦場を駆けずり回った感じはしない。
腕は立つが、実戦の場はくぐっていないのかな?

系統魔法と土系統の基本の講義が開始されてから、実際の『錬金』の基本を行う。
最初に教師のシュヴルーズが石から金色っぽく光る真鍮を作り出したときに、
先ほど男たちを取り巻きにしていた女生徒が身を乗り出して聞いている。

「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」

「違います。ただの真鍮です。ゴールドをできるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」

こほんともったいぶった感じでセキをしてから、シュヴルーズは言う。

「『トライアングル』ですから……」

ああ『スクウェア』ではないけれども『トライアングル』であることを自慢したかったのね。
この静まりかえった教室で、気がついていないのか、ルイズとヒラガサイトのやり取りが聞こえてくる。
そんなルイズを見咎めたのかシュヴルーズがルイズにたいして『錬金』の魔法を行うように指示をする。

赤い髪の毛の女生徒が「先生」と言う。

「なんです?」

「やめておいた方がいいと思いますけど……」

「どうしてですか?」

「危険です」

「危険? どうしてですか?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

「ええ。でも彼女が努力家ということは聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」

「ルイズ。やめて」

赤い髪の毛の女生徒が蒼白な顔で言うが、ルイズは立ち上がる。

「やります」

ルイズは緊張した顔で教室の前の方に行くが、
後ろの方にいた短い青い髪の毛に眼鏡をかけた12歳ぐらいの女生徒が立ち上がる。
そして自分の身丈よりも長い木の杖をもって、教室の外に向かっていった。
横ではステファニーが「机の下に隠れた方が良いわよ」と小さく呟いてから机の下にもぐる。
俺も見習って、机の下にもぐりこみながら小声で聞く。

「もしかするとルイズの魔法って『錬金』でも爆発するのか?」

「多分」

「まわりには言わないの?」

「もし、爆発しなかったら、彼女の名誉を傷つけたことになるでしょう」

ふーん。そういうものか。上級貴族って色々と面倒だな。
そう思っているうちに、昨日の使い魔召喚と同じ爆発音が聞こえてきて、
その後の教室内の生徒の口調からすると使い魔たちが暴れだしたようだ。
机からはいでてみると、結構な規模の惨状だな。

ルイズというのは大物なのか「ちょっと失敗みたいね」との一言だ。

まわりから野次がとぶなか、俺はまわりの惨状に比べて、
爆心地の近くにいたはずの、ルイズや気絶しているシュヴルーズに目立った外傷がないことを不思議に思った。


*****
『アルビオン王国の亜人や幻獣は、他のハルケギニアと少し違うタイプが多い。それに数も多くはいない』
というのはオリ設定です。
青い髪の少女はタバサですが、教室を出て行くのはアニメ設定です。

2010.05.07:初出



[18624] 第4話 ド・モンモランシ家の事情
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 08:07
ルイズが『錬金』で教室を爆発させたあとは、誰かが教師を呼んできたらしい。見慣れない教師に、ルイズへ魔法を使わずに教室の片付けを命じていた。確かに誰かが「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!」と言っていたが、ステファニーに聞くとルイズは『レビテーション』でも爆発がおこるらしい。この教師の判断は正しいだろうな。これ以上、教室とか、どこからかもってくるもの全てを爆発させられたらたまらないだろう。変な爆発だったが、ステファニーに聞くと「うーん。ちょっとね……」と言いづらそうなので、ここは戦場でもないし聞くのはやめた。

この教室の片づけが終わるまでは、他の生徒は自由時間。外ではバスケットボールのような感じに近いのだが、手をつかわずに『レビテーション』で玉をうばいあって、相手のゴールにいれて遊んでいたりする風景がある。

俺はステファニーに「まだ、授業時間帯だから、あまりそばを離れない方が良いわ」と言われたので、

適当に学園内の中庭に広げられている丸テーブルと椅子に腰掛けている。同じ席にはモンモランシーが居て、姉妹の会話をしている。それをぼーっと聞きながら回りを見回しているのだが暇だ。確かにあのルイズという少女のそばにいなければ平和な日常そうだ。ステファニーとモンモランシーの話を聞いていても日常のこととか、王都トリステニアの話題のファッションとかもでてきているが、会話のペースがゆっくりだ。まあ、早く話しすぎると話す内容がなくなるのだろう。学院内なんて、変化がほとんどなさそうだしな。ステファニーは一瞬俺のことを話題にしようとしたのだが、モンモランシーは香水に使われる薬草のことを知らないことがわかっただけで、興味は示してこない。

結局は昼食の時間近くなっても、昼まで教室は回復していないようなので、教師からは昼食の時間まで自由時間をつげられた。そうはいっても、残り時間は少ない。ステファニーには「午後の授業までに教室に来てね」と言われたので「了解」とかえす。ステファニーはモンモランシーと『アルヴィーズの食堂』に向かって、俺は使用人の食堂に向かう。使用人の食堂は生徒や教師の食事時間帯に休める者は少ないらしく、その少数の中に混じって食事をする。場所は朝食時に指定された場所でした。この時間は人数が少ないようなので、俺一人ぽつりと離れて食事をしているようなものだが、衛兵の制服でもできれば一人で食事することも減るのだろう。

傭兵時代の癖か周りの者よりも食事を取る時間は短い。授業まで時間があるので、魔法学院内を散策していたら、日中なのにあまり日がささないところに生徒が集まっている。何をしているのだろうか? 興味はあるが、あの貴族の生徒たちの中にわって入っていくのも無理だよな。そのまま通りすぎて、適当に散策を続けて教室に入っていく。

そこでは噂がとびかっていた。飛び交っている噂をなんとなく頭の中でまとめてみる。
『ゼロのルイズの使い魔で単なる平民に、ドットのギーシュが7体のワルキューレを倒した』というものだった。
あとは胡散臭いが「最初はぼこぼこにされていた」とかだとまとめた噂とイメージが合わない。

「最後の方がすばやくて見れなかった」

とかも、メイジやメイジ殺しでも、そこまですばやく動けるのは知らないしな。

「青銅の剣で青銅のワルキューレを倒した」

にいたっては、ワルキューレというのがよくわからない。しかし、青銅の剣だと硬化の魔法でも使えば青銅でも切れるだろう。ただ、そのワルキューレというのがわからないのだが、硬化の魔法を同じくかけていたら、切れるというのはやはりイメージとあわない。まあ、単なる平民と思ってた相手がメイジ殺しクラスの腕をもっていたのだろう。あのヒラガサイトというのに興味をもったが、ルイズもヒラガサイトも来ない。

その前にステファニーが来たので噂のことを聞いてみる。

「最初に『錬金』でつくられたワルキューレという名前のゴーレムにぼこぼこにされていたのに、単なる魔法も特別かかっていない『錬金』で作られた青銅の剣で、その青銅のゴーレムをあっという間に切っていったわ。最後はギーシュが負けを認めたところで、サイトが気をうしなったのよ」

戻ってきた返答に、噂になるわけだと納得した。こんなことなど普通は考えられない。それとは別に

「サイトって気安いな?」

「……サイトなのは、平民に家名があるのはおかしいでしょう?」

「そういえば、そうだな」

俺は興味をもって「あとで、そのサイトの『治癒』をして話を聞いてみたいのだが」というとステファニーには首を横にふられる。

「ルイズとサイトには、必要がなければしばらく近寄らないで」

「何故?」

「ルイズはトリステインでさからってはいけない三人といわれている一人のうちの娘よ。何か気に触るようなことがあったら、あなたの首なんて一発で飛ぶわよ」

「そのわりにはギーシュとか言うのはなんとも無いみたいじゃないか」

「ルイズの父であるヴァリエール公爵と、ギーシュの父であるグラモン元帥は仲が良いみたいなのよ。それに貴族と平民とでは、ある程度扱いが違うのもわかるでしょう」

「そうだったな。悪かった」

「そうね。そのうち紹介できる機会ができたら紹介してあげるけれど、それまでは、自重してちょうだいね」

「俺は単なる興味だから、無理に紹介しなくてもかまわない」

「それなら、私も気が向いたらにするわ」

なんとなくステファニーが、俺をルイズやサイトから遠ざけている雰囲気を感じるが、そのうち紹介してあげるかもってのは意外と本気なのか?

授業中は俺も教室の椅子ですわっているが、基本的なことばかりなのであきてきた。

「夕食後、時間があったら色々と前世のこととか話せると楽しいから部屋にきてくれる?」

「ああ。衛兵の方はまだ、仮段階で適当にしているみたいで良いようだね。使い魔の役割を優先させてくれるらしいから大丈夫だよ」

そうして授業後には、傭兵の詰所にいる。俺は、まだ制服を用意してもらっていないので、定期巡回するときに他の衛兵と組んで見回りをするだけだ。一応夜中も見回りをするのが本当らしいが、実際に行うのはごく一部の衛兵で、大概は詰所で酒を飲んでいるか、せいぜいチェスを指して暇つぶしをしていることが多いらしい。だらけているというか、過去襲われたことが無いので、こんなものらしい。娯楽に飢えているのだろう。俺の傭兵時代の話をきいてくる。

戦場では、酒だけではあきたらずに、幻覚性キノコを漬け込んでいたのもいたよな。俺は戦場では、命取りになりかねないから、安全な場所だと確信がとれるまでは飲まなかったけどな。少なくとも、衛兵の仕事をしているぐらいは詰所で飲むのはやめておこう。

そんな話はさけておいて、適当に思い出した、戦場での話をしていた。話にのってくるのは4人で、残り2人はのってこないか。興味が無いのか無視をされているのかよくわからなかったが、最初に木剣で相手をしたアルフレッドと定期巡回中に話を聞けた。

「それなりの年齢の貴族は問題ないのだが、歳の若い貴族は無茶をすることが多いので、必然的に若いメイジであるバッカスにもそんな対応をしてるのだろう」

「そうですか。そういえば、今日も貴族と平民との間でいざこざがあったみたいですね」

「いや、あんなことは普通おこらない。そもそも、貴族に逆らおうなんて奴はここにいないからな。せいぜい愚痴をこぼすぐらいだが、貴族を負かしたというのはさすがに、すっとするな」

「メイジ殺しっていうのも世の中にはいるのですが、大概はメイジの隙をつく戦い方ですからね」

「そうは言っても大怪我をしたらしいが、ミス・ヴァリエールがケガを治させたらしいから大丈夫だろう」

「へえ、そんな話まで、流れているんですか」

「ああ。コック長なんてもう気が早くて『我らが剣』なんてつけているらしいぞ」

さすがにまわりに何も無いのか、ほとんどが魔法学院内の話題ばかりだ。少し離れたところに村はあるらしいのだが、特に交流は無いらしい。他の衛兵とも一緒に定期巡回だけをして、あとは詰所で話をしたぐらいで、貴族の夕食の時間より少し遅めに夕食をとらせてもらうことにした。この時間だと、メイドもいないし、料理人も当然いない。順番に食事でもするのか、夜警を担当する衛兵が一人いたぐらいだ。今日は夜警も無いし軽くワインを一杯飲む。昨晩は、貴族用のワインを軽くのませてもらったが、今日の使用人用のワインはそれに劣るといっても、アルビオンで普段飲んでいたワインよりは上質だ。アルビオンにいたころはワインばかりでなくて、生暖かいビールなんてのも飲む機会があったのだが、ビールは冷えている方が好きなのでワインばかり飲んでいたな。魔法さえつかえば、ビールも冷やすことはできるが、時間もかかるし精神力もそれなりに使うからもったいない。

だいたい約束の目処としていた時間に行くと、ステファニーは部屋で待っていた。しかもワインをテーブルにおいて。

「ワインを用意して、お金はあまり無かったんじゃないのか?」

「失礼ね。安物だけど、せっかく懐かしい話を聞けると思ったから用意したのよ」

「悪かった。昨晩はどこまではなしたんだっけ?」

「あなたは、どうもあちこと転々と転校してたんじゃないかなって話よ」

「そういえば、そうなんだよな。沖縄と四国と中国地方以外はなんとなくあちこちと記憶があるんだけれど、そのあたりには居たとか行ったという記憶は無いんだよな。なんとなく大学の受験勉強をしてたような記憶はあるから、高校生ぐらいまでは生きていたと思うのだけど、大学時代のことを思い出せないから行っていないのかもな」

「それでも、ここの勉強ぐらいならついていけるでしょう」

「まあ、歴史以外なら大丈夫かな。ただあまりに基本で今のところ暇だけど」

「そうね。あなたはまだ貴族のマナーの授業にでていないけれど、使い魔のお披露目の週がおわったら、別に教室にいる必要もないしね」

「金があれば、ゲルマニアで貴族という手もあるらしいが、傭兵の稼ぎじゃ無理だろうしな」

「そんな、今の話より、もう少し昔の話でおもしろそうなのは無いかしら。あなたは、あちこち移動しているみたいだから、それだけでも聞き甲斐があるのよね」

「そういえば、ステファニーは○×市の出身だったっけ?」

「そこからは旅行ぐらいしかでたことが無いから、日本の中でも色々違いがあるのって結構面白いのよね」

その話をしている最中にドアからノックがした。

「あら誰かしら。ドアを開けてきてくれるかしらバッカス」

「いきなり使い魔モード?」

「そう。この時間ならメイドじゃないはずだから、他の貴族が見えるところでは、ある程度はけじめをつけないとね」

呟くように話あっているうちに、声がかかってきた。

「ステファニー、いないの?」

「お姉さまだったの。めずらしいわね。今、バッカスを開けにいかそうと思っていたけど、お姉さまならいいわ」

俺はその言葉にしたがって、ドアのそばに向かっていたが停止する。ドアが開いたので

「こんばんは。ミス・モンモランシー」

こちらの挨拶に反応もせずに、不機嫌そうな様子でステファニーの方に向かっている。

「あら、あなた、その使い魔と飲んでいたの?」

「そうよ。彼のアルビオンでの傭兵の話が面白いのよ」

「平民メイジなんて、全く中途半端な使い魔を召喚したわね」

おや? 昨日と違う反応だな。女性の気まぐれか?

「いいじゃない。まわりには家の状態がわかっているから、失敗して平民メイジをつれてきたんだとか言われないんだから。それよりも、こんな時間にやってくるのって珍しいわね。お姉さま」

「もう昼間のことを考えていたら一人でいるのも嫌になって」

「昼間のことって?」

「知らないの?」

「ギーシュが、平民に負かされたこと?」

「そうじゃないの。あのギーシュが今度はケティとかという娘と二股にかけたこと」

「ケティ? 1年生だったかしら。けれど、キスとかしてたの?」

「いえ、そこまでは聞いていないけれど……」

「じゃあ、いいじゃない。キスをしてたら二股かもしれないけれど」

「それでも、私だけを向いていてくれないと嫌なの」

俺はドアを閉めて、姉妹の話を聞いていたが、モンモランシーは完全に俺のことを気にしていないな。トリステイン貴族の女性って嫉妬深いって聞いていたが、キスもしてたかどうかわからない相手に二股かけられたと言うのか。まあ、自分だけ見て欲しいというのはトリステイン貴族の女性らしいな。

「そうしたら、婚約者と結婚するのかしら」

「あの人も趣味にあわないわ」

「誰か見つけるにしても、あとは名門というとド・ロレーヌ家あたりかしら」

「あのロレーヌも、塔から逆さ吊りなんて自分からする変態よ」

「そういえば、そんなこともあったわね。そうしたら、あとは、1年上のペリッソン先輩は?」

「ゲルマニアの女に尻尾を振る男なんて嫌いだわ」

「そうしたら、やっぱり家柄でつりあうのはギーシュぐらいしかいないじゃない。そういえばマリコルヌにする?」

「そ、そ、それはいくらなんでもごめんだわ。あんな、ぽっちゃり」

「あとは、私じゃ思いつかないわよ」

「そういえば、ステファニーはどうするつもりなの?」

「うーん。せっかく、魔法学院へ入らず結婚しようと思っていたのに『魔法が失敗するなんて娘を嫁に出すのは恥ずかしい』だなんて言って、父に魔法学院に入れさせられたから、”失敗”のことが伝わったのか、婚約者に逃げられたしね。父の見得が無かったら、今頃それなりに伯爵家夫人にでもなっていたんじゃないかしら」

「あなたね。そんなこと言って、彼氏をろくに作ろうともしていないじゃないの」

「キュルケみたいに、ウィとか言えば良いかしら」

「よりによって、あのゲルマニアの女の真似をすることも無いわよ」

よくわからない人名がでてくるが、ゲルマニア人だとすると、もしかしてあの男性に囲まれていた赤い髪の女か? あとで聞いてみるか。

「だってね。”失敗”のステファニーって言われていたのよ。そう簡単に彼氏だってできないわ。それだったら、いっそのことモット伯と結婚するのも良いかもね」

「モット伯って、あの?」

モンモランシーが嫌そうな顔をしている。

「そう。あのモット伯。メイドのことを認めてあげれば、今は妻もいないみたいだし、正式な子どもも居ないようだから、同じ水系統だし良いと思うのだけど」

「あなたの趣味がわからないわ」

「そうでもしなければ、あとは”失敗”なんて二つ名がついている娘を、妻にしようなんてする封建貴族は思い当たらないわよ」

「けどね。モット伯はねぇ……」

「それじゃなかったら、貴族をやめて、家庭教師になるにしても”失敗”の二つ名はついてまわるでしょうし、いっそのこと、この使い魔と結婚するのも面白いかもね」

はっ? 何を言っているんだ。上級貴族の娘だぞ。前世の日本人の記憶があるとしても、嫌、あるからこそきついかもしれないぞ。

「そんなことまで考えているなら、まだモット伯の方が良いわ。けれど、魔法の失敗をしなくなる方法がわかったら、あなたにだって彼氏ぐらいできるでしょう」

「そうかもね」

少しだんまりの状態が続いているので、俺は口を挟んでみる。

「えーと。姉妹でお話をされているようですから、わたくしめはひきあげさせてもよろしいでしょうか」

「お姉さま。まだお話はあるの?」

「ええ、まだ話たりないわ」

「そうしたら、バッカスはまた明日は、今朝ぐらいの時間にきてね」

「わかりました。ステファニー」

俺は、ほっとした気持ち半分、上級貴族の使い魔ライフを楽しめるかと思ったら、逆に面倒を見る可能性がある? あの使い魔召喚の鏡に入ったのはやはり失敗だったかなと思いつつある。


*****
『ヴァリエール公爵とグラモン元帥は仲が良いみたい』というのは『烈風の騎士姫』からの推測によるオリジナル設定です。
ド・モンモランシ家の内部事情や『モンモランシーに婚約者がいる』はオリジナル設定が多数あります。
モット伯はアニメ版キャラです。

2010.05.08:初出



[18624] 第5話 初めての虚無の曜日
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 08:08
ステファニーの女子寮の部屋でモンモランシーが愚痴をこぼしていた翌日も、同じように『アルヴィーズの食堂』の前でまってから、ステファニーの部屋を寄って教室に行く。その最中にキュルケのことを聞いてみる。思ったとおりに、同じ教室で女王然として、男をまとわりつかせている赤い髪の女性だ。

「あまりかかわらないほうが良いわよ。平民が彼女にかかわったら、まわりの男性からどれだけ攻撃をくらうかわからないわよ」

ステファニーからそう忠告される。うーん。そんなものか。それと、ルイズが『錬金』をかけると言って立ち上がった時に、教室の外へ向かった青い髪の毛の女生徒のことをきく。

「タバサね。彼女は無口だけど、キュルケとは仲が良いから、そっちもさけたほうが良いわよ」

「ふーん」

「ちなみに二人とも『トライアングル』だから」

『トライアングル』というところには結構、驚いた。『トライアングル』は少ないのに、同じ教室で二人か。しかもタバサという名前はペットにでもつける名前だから偽名だろう。もしかすると生まれをはっきりさせられない上級貴族の娘か?どちらにもあまりかかわらない方が、たしかによさそうだ。

授業は暇だが、ちょっとは気にかかっているルイズとサイトもこない。サイトがこないのはわかるがルイズはなぜだろうか。昼食後の教室で授業がはじまるまでにステファニーに聞いてみると、

「ルイズの場合”ゼロ”って言われるぐらい、魔法で成功することがあるのは、あの爆発の効果をつかったばかりのものなのよね。だから、爆発以外で召喚に成功した使い魔は大事なんじゃないのかしら」

「そういえば、ステファニーの場合は?」

「普通の動物や幻獣でないところから言うと”失敗”なんだけど、前世が同じ日本人の記憶をもっているのは良いところなのよね」

さすがに呟くように小声で会話しているが、俺の使い魔としての評価は結局どっちなんだ?



授業後には、傭兵の詰所にいるが、今日は出入りの業者がきているので、衛兵用の制服と普段着の為に採寸をしてもらう。来週前半に来るときにはできあがるそうだ。まだ給金がそれほどの額ではないので、ステファニーに買ってもらうのだが。それとは別にトリステイン王国の王都であるトリスタニアで、平民用の服がすぐにできあがる店を他の衛兵に聞いてみる。俺の服をステファニーが買ってくれるということで、暇なのが多いのか、何店舗か教えてもらった上に地図を貸してくれるという。さらにそれぞれの店の特徴まで教えてもらった。普通の上級貴族あたりなら行きそうになさそうだというところも教えてもらった上で、賭けが成立している。

「ステファニーがこの店に行くと行かないとで、五分五分の掛け率だ」

ステファニーって、本当に普通に呼ばれているんだなぁ。まあ、前世の意識が強かったら、ミスとか言われるほうが嫌なのかもしれないけれど。アルフレッドは

「行く方に賭けているから、是非とも引き釣り込んでやってくれ」

と言われるが、それって賭けというよりは八百長だろう。ここが一番安い店ということらしいから、ステファニーなら行きそうな気もするな。それから

「今きている服はメイドにでも洗濯してもらえ」

と言ってくれる。貴族の寮と違って、洗濯用のカゴがおいてある部屋があるので、そこのカゴにいれておくと、洗濯をして干してたたんでおいてくれるそうだ。

「名前だけは書いて置けよ」

とも言われたが、服に名前を書いておくのはどうしようかと悩んでいたら、

「名入れの刺繍もメイドに手渡しすればしてくれる」

とのことだ。夜は、同じ時間にステファニーの部屋へ訪れると、また違う種類のワインを用意していた。

「もしかして、ワインは結構好きなのかい?」

「そうね。アル中にならない程度には気をつけているわ。けれど安物ばかりだけよ」

「安いだけなら、使用人のワインの方がきっと安いと思うけどね」

「中途半端に舌がこえちゃって安すぎるのは駄目なのよ」

「嗜好品だもんな」

「そうなのよ」

俺やステファニーの前世の話をワインの肴にしている。
どうもバー勤めもしてたそうだから、このあたりからワイン好きなのもあるかなって、ワインバーっぽいところ? そのあたりの細かいところは話してくれない。あらためて前世での日本のバーの定義に悩むところだ。そんな話をしながらも、明日の虚無の曜日は比較的早めにでかけることにした。

「馬を借りるのもお金がかかるのよ」

なんか、主婦でもしていたような感じもするが、前世はあまり気にしないでおこう。翌日の虚無の曜日は、俺は普段通りの食事の時間だが、ステファニーは早めに食事を開始したそうだ。虚無の曜日になると授業が無いので、生徒や教師は結構ばらばらの時間帯で食事をとるらしい。

ステファニーが現れてみると、思ったより子どもっぽい服を着ている。いや、見た目とはあっているんだけどね。俺がその服を見ていたら気がついたのか、言いわけのように言う。

「魔法学院の出入りの業者のお勧めなのよね。これぐらいでおさえておかないと、目立っちゃうから」

「髪の毛が他の女生徒より短いだけでも、確かに目立つよね」

「いいのよ。アンリエッタ王女はこれよりも短いぐらいなんだから」

「へー。アルビオンと、トリステインって違うんだな」

俺が覚えている限り、こちらの世界の上級貴族で髪が短かった女性はいなかったはずだけどな。



王都まで、魔法学院から馬で約3時間弱。最近は馬に乗っていなかったが、意外と乗れるものだ。その馬の上でも、前世の話などを飽きもせずに聞いてくる。まあ、こうやって聞かれてくると忘れていたことも思い出してくるのだが、こっちの世界ではあまり役にもたちそうにない話ばかりだ。まずの目的は俺の服ということで、平民の服でその日のうちにできあがるという、衛兵の賭けの対象の店を話したら、そこで良いとのことだ。実際チクトンネ街程度だと、貴族もたまにいるし、それほど危険はなさそうに見える。さらに裏手に通じる道もみえるから、そこに入ると危険かもしれないが。
仕立て屋では貴族の女性がついてきたことにおどろいていたが、採寸をしてもらって、服を1種類つくってもらうのに、2時間ばかりでできあがるという。平民の男物の服のガラなんてたいしてみるものも無い。貴族のものより多少は固い生地が多い。ステファニーも少しガラあたりをみていたようだが、すぐに飽きたようだ。今着ている服は、戦闘用なので丈夫にできているから、服ができたらきちんと洗濯でもするか。

そのあとに、彼女がいつも香水を販売してもらっているという店に行く。

「今月は来るのが早いですね。ステファニーさま」

店の主人が言う。

「ええ、今月はついでの用事があったから、早めにきたの。売れにくい種類とかあったかしら?」

「となりの方は従者の方ですか」

「今月からね。あまり気にしなくても良いわよ」

「そうですか。この口をゆすぐタイプの香水がちょっと不評のようで」

「あら、刺激を強くしすぎたせいかしら」

「どうも、そのようでして」

「それじゃ、今月もつくってきていたのだけど、その分はやめておいた方がよさそうね」

「いえいえ、半分くらいのお客様は、こちらぐらいの強さが良いという方もいらっしゃるので、来月から半分くらいの量を入荷していただければ結構でさ。あとは、特にありませんが、言われたとおりに回収できる香水の瓶はこれだけでした」

「あら、ありがとう」

「割れやすい香水の瓶を再利用するのに、それで利益をとれるのですから、こちらとしては願ったりかなったりですから」

持たされていた袋の中を出すと、それなりの瓶の数があるのだが、小さめの瓶が主体だ。
かわりにそれよりは数は少ないが形が不ぞろいながら使い終わった香水の瓶を回収する。
店をでてから聞いてみる。

「香水の瓶って、硬化の魔法でもかけてあるのじゃないのか?」

「それって、貴族用とか高級品よ。街女用とか平民でも金持ちの夫人用では普通使わないから、この同じガラス同士なら、私でも違った形にガラスの錬金ができるのよ」

「そういえば、ガラスの錬金ってラインスペルだったものな。確かステファニーって土は一番弱いんだったよな」

「同じ物質同士の変形とか、分離、合体とかなので私でもなんとかなるのよ。失敗しても、何もおこらないだけだしね」

「土にはそういう方法もあるのか」

「あら、内緒よ。硬化の魔法も普通はスクウェアがかけても2年と持たないのだから、こうやって売れるのよ」

「ああ。戦場だと『アース・ハンド』あたりが似ている魔法だな」

「探せば、色々と似た方法はあるのでしょうけれど、平民の為に工夫をして行おうという貴族が少ないからまわりは思いつかないだけよ」

「必要は発明の母という奴だったかな。どちらかというと平民の為というより自分自身のお小遣い稼ぎのためみたいだが」

「その通りね。けれど、それなりの対価は当然もらわないとね」

封建貴族の娘とは思えない言葉だが、前世が日本人だしな。その後は少し遅めの昼食となり、彼女が考えているというのでそれに従う。同じくチクトンネ街にある『カッフェ』という店だ。売りは『お茶』ということだが、なんとなくうまくない。『お茶』というが、これは色から言うと緑茶だろう。

「もっと楽しめると思ったのだけどね。貴方と私の頼んだお茶の種類は違うし、二人のお茶の温度も違うわよね」

「うん。俺のは少しぬるい感じかな」

「私の方はちょっと熱めだから、きちんとお茶の種類によって、温度は変えているみたいね。前世と違って味覚が変わっているのかしら」

俺はきちんと緑茶は入れたことはないのでわからないが、彼女の言う通りなのだろう。それでも、まわりにとっては珍しいのか、結構繁盛しているようだ。『お茶』以外は、普通の料理にデザートが選べるくらいで、それにあわせて『お茶』がでてくるシステムだ。普通の茶、いわゆる前世での紅茶も選べるが、それを選ぶ客は今のところ少ないみたいだ。こちらのデザートと、この『お茶』では味があわない。今のところは、東方の物ということで、物珍しいのだろうな。

少しぶらぶらしながら露天などもみてまわるが買う気は無いようで、話して適当なところで切り上げている。時間になったところで、最初の服屋に行くと服ができあがっていた。一応、着てみてから体形に合うので元に着替えようかと思ったら、ステファニーが

「そのままの方が良いわよ」

とせっかく言ってくれるので、俺も汚れが落ちきっていない今まできていた服を布製のバックに詰め込む。このまま帰るのかと思うと、もう一軒よるそうだ。行ってみると売り酒屋だ。ワインを合計25本ばかり選んでいる。1週8日間だから3週間だと24本になるはずなのに1本多いな。

「ワインだけど、25本って中途半端だよね? 3週間分だったら24本じゃないの?」

俺は店をでてからの、王都の馬を預けている場所までの歩きがてらに聞いてみる。

「あのね。私だって毎晩ワインを飲んでいるわけじゃないのよ。あれは一箇月分よ。週2回はきちんと抜いているわよ」

「それでも普通なら24本だよね。週1日しか抜かないときもあるのかな?」

「使い魔召喚の日の食事にワインがつくと勘違いしていただけよ。それで、手持ちの中で一番よかったのをだしたのだから感謝してよね」

「それは、感謝させていただきますよ。ご主人様」

「そういうときばかり、ご主人様って。別にステファニーで良いわよ」

「失礼」

「それにね。こっちの店の方が、魔法学院の出入りの業者より物の品質の割に安いのよね。魔法学院への配達料を考えても安いし」

俺が聞いてもいないのに話してくる。確かに25本で2エキューをだしていなかったみたいだが、一般平民からみたら高いものだよな。

「他の魔法学院の生徒にも話をして、もう少し大量に魔法学院へ運んでもらうようにしたら、配達料も安く、うまくすれば無料になるんじゃないのか?」

「……うーん。それって、魅力的な話なんだけれど、自分のお目当てのワインも無くなる可能性も高いのよね」

「なるほどね。ワインにこだわりはそれなりにあるわけだ」

「そうよ」

魔法学院への帰り道は他の魔法学院の生徒もまざっていたので、俺は少し離れてステファニーがまわりの生徒たちと話やすいようにしているが、あまり積極的には話題に参加はしていないで、聞き役に徹しているような感じだ。そういえば魔法学院の教室でも、あまり周りとは自分から話をしていないだが、こうやって少し離れてみていると、それが顕著にわかる。まわりの魔法学院の女性同士はそれなりに話しているようだし、ステファニーが俺といるときはどちらかというとステファニーから聞きたがるし、彼女から声をかけてくる方が多いことを考えると、ちょっと印象が変わってくる。魔法学院についてステファニーの部屋へ、香水の空き瓶を持っていくと、

「今日は結構話を聞かせてもらえたし、休肝日だからこなくても良いわ」

休肝日ね。俺の話はワインの肴かとも一瞬おもったが、朝の馬上でも前世のことを聞かれていたからそれだけでは無いのだろう。

「そういえば、衛兵の服と普段着あたりとかも明後日あたりに届くのよね」

「今のところそのような手はずになっていますね」

「そうしたら、貴方も衛兵の仕事にしてもらう割合を増やしてもらったほうが良さそうだから、明日は普通どおりにきてね」

「明日はというと、明後日あたりから変えるつもりか?」

「そうね。そのあたりを明日の晩までに考えておくわよ。それから明日はその今着ている服で迎えにきてね」

「服のことでしたら俺でも思っていたよ。さすがに汚いかなって」

「けれど、そんな貴方を見ていると日本人の意識が強いのか、こちらの下級貴族か平民の意識が強いのかよくわからなくなっちゃうのよね」

「そんなものですか。まあ、色々と経験しているから混ざっているのかもしれませんね」

部屋に香水の瓶を置くと「今日はもう良いわよ。また明日ね」と言われて、使用人の部屋にもどっていった。

夕食をとって、寝る前の蒸し風呂に入るまでの時間が暇だったので、あらためて魔法と剣の練習をしておく。剣は毎日練習しておくべきものだが、使い魔として召喚されてからしていなかったな。衛兵たちは昼間でもしているのだろうか。

魔法の方は、俺の精神力がたまるのは4、5日間ぐらいかかるので、そう頻繁には使わない。召喚された日でも全部は使いきっていないはずだから、召喚日の『フライ』で覚えた違和感を試してみる。『フライ』をかけて飛んでみると、多分5割増しぐらいで早い。『氷の槍』を最大限にだしてみると、今までよりも数がやはり5割増しだ。もしかすると、今までは使えなかった魔法を試そうかと思ったが、場所的に問題があることを思いかえして、それは自重した。今までは風系統をためしていたが、他の水、火、土の系統魔法に関しては変わらない。どうもこの左腕に刻まれた『ウィンド』のルーンが俺自身の風系統の魔法を強力にしているようだ。そういえば、人間のそばにいる動物にルーンがきざまれると話せるようになることがあるらしい。この『ウィンド』のルーンも多分そうなのだろう。試してみたかったのは『トライアングル』のスペルだが、風のトライアングル・スペルは周りを巻き込むことが多いので自重した。しかし、使えるならトライアングル・スペルを覚えておきたい。

ステファニーに風のトライアングル・スペルがわかる方法があるか頼んでみるか。


*****
原作5巻にでてくる『カッフェ』の『お茶』は、3巻の『お茶』が緑茶っぽいので、この設定にしています。

2010.05.09:初出



[18624] 第6話 衛兵のローテーション
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 20:20
虚無の曜日が終わって新しい週の初め、昨日買った服で『アルヴィーズの食堂』の前に居る。洗う服はメイドに直接頼んで、名入れも念のために頼んだ。まあ、あのような傭兵向けの服をもっていきたがる奴も居るとは思えないが。そのメイドによると、この着ている服も洗濯へ出すときに、名入れをしてくれるとのことだった。

しばらく『アルヴィーズの食堂』の前でまってからステファニーの部屋を寄って教室に行く途中にて小声で頼む。

「風系統のトライアングル・スペルがのった本とかが読みたいのだけど、ここの図書館とかで借りられないだろうか」

「あら? トライアングル・スペル? あなたってたしか『ライン』だったわよね?」

「そのはずだったんだけど、昨日の夜魔法を試して見ると、氷の槍が5割ぐらい増えていた。『ライン』でも上の方にいたつもりだけど、もしかすると『トライアングル』になったのかもしれないんだ」

ステファニーがちょっと首をかしげるような動作をしてから

「何か感情的な高まるようなことでもあったの?」

「その線は考えていなかったけれど……覚えは無いね。一番ありそうなのは使い魔召喚で『ウィンド』のルーンが刻まれたから、それのせいかなと思ってさ」

「あなたのルーンの効果はそういうふうに働いたのね。普通は系統が定まっていない動物や幻獣にはそのルーンによって、その方面の能力が高まることがあるのって知らない?」

「知らないけれど、火竜に『ウィンド』のルーンが刻まれて、風竜なみに遠く速く飛べるようなものかい?」

「それであっているわ。人間にルーンが刻まれるってどのようになるか分からなかったから一安心だわ」

一安心? なんだろうか?

「一安心って、何か問題でもおこりそうだったの?」

「いいのよ。問題なさそうだし。それよりもトライアングル・スペル以上を習うのは2年生も後半からだから教科書には一部しかのっていないものね。やっぱり、図書館で借りるのがよさそうだけど、お昼休みに借りてあげるわ」

「ありがとう」

「図書館の本は私が管理しないといけないから、授業中とか夕食後の私の部屋で必要なスペルと効果をノートに写したら良いわ。ノートとペンにインクが普段より必要だわね。インクは授業中、私の横でつかってもらえば良いわね」

部屋ではすでに授業道具を用意してあるのだが、今回は新しいノートとペンを袋に入れたので少しばかり待たされた。

「ちょっとランクが変わったのなら、行ってもらうと思っていたことを変えてみようかしら」

「思っていたこと?」

「そうたいした事じゃないわよ。それよりもどれくらいになったのか教えてね」

「ああ。俺も自身の限界がどこにあるのかわからなかったら、おいおいと実戦にでられないからな」

「そうね。実戦は近いうちに確かにあるかもね」

「えっ?」

「いや、こっちのことよ、あまり気にしないで」

気にしないでと言われても気になるが、女は秘密があるほうが魅力的なのとか言って肝心なところはぼかすからな。まあ、聞いてみるか。

「実戦があるって、トリステイン王国がアルビオン王国から侵攻されるかも知れないってこと?」

「それは、別に生徒が出て行くことじゃないから、気にしなくていいのよ。バッカスは私の使い魔なんだし」

「そうするといつ実戦なんて?」

「そうね。夏休みにでも、お小遣い稼ぎをしてもらおうかなと思ったのよ。衛兵のお仕事はお休みになるはずなのよ。傭兵は二箇月半なんて中途半端な時期は無理だと思うけれど、そうよね?」

「そうだな。二箇月半の契約というのは聞いたことが無いし、戦争になったら抜けられるとは限らないからな。まあ、金を貰うつもりがなければ逃げられるが、信用問題だしな」

「信用問題?」

「まあね。俺は幸い使い魔になったから、あとで入っても大丈夫だろうが、そうでなければ職場放棄とみなされるから、次から傭兵仲間に見放されるからな」

「ふーん。それならやはり、亜人や幻獣退治あたりだったらそういうのを請け負うところがあったと思うから、実戦の勘をたもっておけないかしら?」

「まあ、それぐらいなら、行わないよりは多分マシだろう。特にアルビオンに戻る気も無いし、トリステインに居続けるのなら、トリステインの動植物や幻獣を見るのには手ごろかもしれないな」

そこで話は終えたがなんとなく腑に落ちない。何か煙にまかれた気がするが、納得することにするか。

教室につくといつもの席とは反対にすわることにした。いつもは、ステファニーの左側にすわっていたのだが、今日からは風系統のスペルを写すのにインクを借りるためだ。
しばらくするとルイズはきたが、サイトはこない。関わるなとは言われているが、気にかかるものは仕方が無い。そういえば、サイトのことを、ステファニーと話題の中心にしたことが、なかったことを思い出した。なんかうまく別な話題になっていくんだよな。やっぱり、避けるべき相手なのかな。

昼食も終わり、授業開始前にステファニーから風のトライアングル・スペルが載っている本をよこしてもらったのだが、思ったよりも薄い本だった。

「純粋な風系統だけだと、この本だけみたい。あとは他の系統とあわせた系統の本の方が厚いから、そちらの方が色々とあるかもね」

言われて見ればその通りだ。単純に一つの系統よりは、複数の系統を足していった方が魔法のバリエーションは増える。覚えている魔法の数が多いのが必ずしも良いとは限らないが、自分に合う系統を探すのは、実際につかってみないといけない。正式にはいわれていないが、風で多いのは『エア・カッター』の刃系で、他には『ウインド・ブレイク』の塊系に『ストーム』の渦系に『氷の矢』のような氷系で、最後にトライアングル以上の雷を伴う『ライトニング』系。その他にも例えば『遠目』はきちんと区別することができない系列もある。

使い魔は今週いっぱいぐらい授業の場に参加していればよいだけなので、俺は授業の中身も気にせずに、本の中身を写していく。ルーンを書くのはしばらくぶりだったので面倒だったが、普段つかうハルケギニア語はそれほど面倒でもなく書ける。思ったよりは進みが遅いので、今晩ステファニーの部屋で書かせてもらうにしても書き上げるのは今晩ぎりぎりぐらいかな。明日の昼休みに借りてもらえばよいのだから、明日の午前中でも写していれば良いのか。

そんな最中にサイトが多少の包帯をして来ていたが、どうも床に座らされているようだ。俺は俺のやるべき本の写しを続けている。

授業後には、まず学院長室に向かう。マチルダお嬢様こと、ミス・ロングビルから1週間分の給金、とはいっても使い魔召喚の翌日から開始したのと、虚無の曜日は働いていないので2日分の給金をもらう。最初の3ヶ月のうち正式な月初めの1回の給金日以外は、学院長室でもらうことになっている。その後は傭兵の詰所にくると早速聞かれた。

「例の店で服を買ってもらったのか?」

「ああ。この服がステファニーから買ってもらったものだよ」

そうは言っても、店の証明はできないのだが、特に疑う者もいない。疑うなら、店に聞けばよいだけだが、そこまで酔狂な者もいないようだ。「やったー」だの「ちくしょう」だのと聞こえてくるが、暇つぶし程度のことだからそんなに大きく金は動いていないのだろう。アルフレッドは「もうけさせてもらったぜ」といいながら笑いながら、結果を言いにくる。昨晩や今朝、聞きにこなかったのは賭けの成否を楽しむだけらしい。まあ、実際に暇だしな。

衛兵の詰所で聞いているが、魔法学院の出入りは少ないらしく、俺はいまだ見かけたことはないが、食料関係は毎日くるらしい。こちらは俺もみかけたが、服や文具に本などの雑貨関係は週に2回程度と業者が中心とのことだ。それ以外は教師と生徒の出入りだが、まわりに何もないこともあり、平日は出入りが少ないらしく、生徒がたまに門も通らずに、風系の使い魔にのってでかけることがあるぐらいらしい。
外からの攻めてこられることも無いし、出入りも少ないのだったら、確かにだれたくなるのもわかる気はする。ただ、こういうところって、やはり油断で何かがおこることがあると、俺の前世の知識が教えてくれる。
とはいっても、この魔法の使える世界と、魔法がなかったはずの前世とでは常識は異なるのかもしれないが。

夜は、同じ時間にステファニーの部屋へ訪れたが今日も休肝日ということで、ワインはなしだ。彼女は日記を自分の机で書いている。

「そばに寄らないでね」

そう言われるがわざわざ覗きに行く趣味もないし、彼女の日記の文字が読めるとしたら、彼女の他には俺と、名前からサイトが可能性としてあるぐらいか。

結局風系統の呪文に関しては全部を書き終わらなかったが「魔法を試せる分だけ試してみて」とステファニーから言われる。俺も自身の能力を把握しておきたいから、ためしてみた。トライアングル・スペルをためしてみたいが、いずれも途中でとめるのは難しい。結局は、最大魔力量の把握と回復速度を試してみることにする。昨日のように『氷の槍』を繰り返すが6回できる。これだけ考えても、総出力と回数が増えているので総魔力量はかなり増えているようだ。昨日もだしているから、もう少し上かもしれない。さらに、ドット・スペルである『ウィンド』もまだつかえるが、こいつは5割増しどころか倍ぐらいになっている。もしかしたら、渦系があっているのか?他の風系統のなかの系列も使ってみないとわからないが、渦系統に特化させた戦い方を考えるのも手かもしれない。ただ、これで、俺の精神力も打ち止めのようで、一番最初に習った初歩的なコモンの『ライト』さえできないが、まあ満足な成果だ。明日の晩は念の為に色々と種類を変えて行ってみよう。

翌日も午前の授業は、昨日の続きをおこなって、すでに風の系統のスクウェア・スペルも書き写してある。まあ、使えるとは限らないが、覚える機会なんて中々無いからな。昼休み後は、風を主体として水があわさった、スペルの本をもってきてもらえた。さすがに、風系統のみよりは5倍くらいの暑さはあるだろうか。

本が厚いのはスペルが長くなっていくのもあるのだが、その解説が長いのが主因なんだよな。わかりきったことは、はぶいていこうかなと思っているとステファニーから聞かれる。

「そういえば、衛兵の服が今日届くのよね」

「ええ、その予定ですね」

「もし、今日届いたなら、そろそろ夜警を中心に組んでも良いわよ。その方が貴方の場合、収入が増えるだろうし」

せっかく、上級貴族の使い魔になったというのに、主人が貧乏とはいえないが裕福ともいえない貴族とはな。将来も不安そうだし、この案にのっておくか。

「そうですね。トライアングル・スペルも、この学園内ですぐに使えるものでは無いですし、本を写すのもゆっくりで良いですかね?」

「そうね。多分2週間ぐらいかりられるし、それに衛兵の仕事も1週間連続ということもないでしょう。それに、香水を届けたり、ワインの購入の時にはそばにいてもらいたいから虚無の曜日も月に一回は休んでもらうことになるわね」

思ったよりも、トライアングル・スペルを写すのは時間がかかりそうだが、そもそもトライアングル・スペルを使う機会なんてそうは多くはない。ゆっくり覚えて問題ないだろう。

「ええ、それで、今日衛兵の詰所に行ってローテーションの相談をしてきます」

今日の午後は、授業開始にはサイトがいる。特に昨日みたいに包帯をしている様子も無いし『治癒』の魔法がきいているのだろう。詰所の方に行くと夜警は特に気にするほどでもないようで、いつでも良いみたいだから、週2回にしてもらった。
虚無の曜日とその次の日の2日連続を夜警で、残り6日間は今までどおりにしてもらうことにした。ステファニーに話すと

「あらそうなの。今日はいけれど、次回から、ワインを飲むのなら自分で持ってきてね」

そうにっこりと微笑むステファニーを見ていると、小悪魔にほほえまれたようだ。しっかりと俺のねらいがばれている。前世はなんとなく失敗感があるような気がしていたのだが、こっちの人生も失敗しかかっているのか?


*****

2010.05.10:初出



[18624] 第7話 会わない方がいい人達にあって
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 20:22
授業時間は、風系統と他の系統のあわさったスペルの本を写して、授業後は衛兵の詰所に夕食までいて、夕食後はステファニーの部屋へ向かう。わずかながらも給金が入ったので平民用の安ワインを持参しながらスペルの本を写すか、ステファニーの気が向けば前世の話をしてたりする。魔法の方は、召喚される前に比べて、最大魔法量、最大出力が大幅に増えている、最大出力が出しやすいのは渦系列の風魔法というところまで判明している。一番うれしいのは、1日寝ればほぼ精神力が回復できるというのが一番うれしいところかな。

サイトとは話す機会はもてていないが、ルイズの顔にいたずら書きをするような子どもっぽい性格の少年だ。見た目は、そのあたりの生徒とそうかわらないんだけどな。最近は授業にくるのは午後のようだが、床からルイズの横にすわらされていると思ったら、居眠りをしている。多分、同じ世界の人間がきていると思うのだが、前世の授業に比べてそんなに暇な授業だろうか? 数学と理科系に関しては、高校生ぐらいに見えるからそれに関しては暇だろうが、それ以外はけっこう珍しい話だと思うのだけどな。

そして、そんなサイトが寝ぼけたのかルイズが、自分の寝床に忍び込んでくるとか言い出している。まあ、一般的な高校生の夢なんてそうだろうが、授業中に居眠りしながら言うなんていつの時代のギャグなんだろうな思っていたら、肝心のルイズが怒りを爆発させそうな勢いで眠っているサイトを揺さぶっている。そこへ、ぽっちゃりしたマリコルヌという貴族がからかいの声で言う。

「おいおいルイズ! お前、そんなことしているのか! 使い魔相手に! 驚いた!」

「待ってよ! このバカの夢の話よ! ああもう! おきなさいってば!」

『ルイズ、ルイズ、そんなところネコみたいになめるなよ……』

まあ、こんな暇な生活だ。教室中に爆笑でこだまするのも仕方がなかろう。ルイズが、腕組しながらサイトを見下ろしている。

「サイト。笑っている無礼な人達にして。わたしは、夜中自分のベッドから一歩も出ないって」

その中で、サイトがしたり顔で話を続けていくが、ルイズの怒りを助長していくだけだ。

「お前の寝床はここじゃない、と言ってやります」

そうすると、ルイズは蹴りだすが、首をはねられないだけマシだろう。俺はさも知らぬ風に、教室の爆笑とは別に、風を主体とした他の系統がまざったスペルが載った本から、写し続けようと思ったが、ステファニーに聞いてみる。

「あのサイトって、俺たちがいた前世の世界からきているのかな?」

「……多分、そうね。ただ、ちょっと、私が生きていたころの一般的な服装と違うから、私たちのように数年ぐらいは、ずれているかも知れないけれど」

俺が記憶を残しているのは、ステファニーが死んだという時期より約7年前。それなのに、俺の方が2年ばかりしか先に生まれていない。このサイトは、やはり違う時期からきているのかも知れないな。もう少し他に同じような記憶を持つ者を探そうにも、新聞には求人欄も特に無いし、記事かわりにもならないだろう。

ステファニーの部屋によったあとに、トライアングル・スペルでも、途中で魔法の効果を止められるように魔法の練習をしている。その練習の帰り際に女子寮の外から、破壊音がしたので見上げてみると、誰かが落下中。まずったな。今は夜練る前におこなっている魔法の練習後だから、精神力はほぼからっぽだ。この距離だと『レビテーション』すらかけてやれない。上の方を見ると、3階の窓枠がかろうじて残っている。もしかしたら賊が女子寮にでもおしいったのかとも思ったが、落下した人物の服装は、ここの学院の制服だ。単なる痴話げんかか何かか? そう思っていると、その窓の外に、別な生徒がたっていた。中からは女性の声で「スティックス!」と聞こえてくる。この女性の声はたしかキュルケか。そう思っていると男は炎で打ち落とされて悲鳴をあげている。さらに三人がいっぺんに窓だった場所に一斉に入ろうとしているところに、先ほどとは質の違う炎で三人とも落とされている。ふむ。確かに、平民である俺がキュルケに目をつけられたらあぶなさそうだ。その前に、キュルケ自身もかなり危険な性格だな。ステファニーの「キュルケにはなるべく関わらない方が良い」との忠告は素直にきいておくべきだろう。そうして俺は明日にそなえて寝ておく。



明けて、虚無の曜日。
午前中は、ステファニーと一緒に魔法学院の近くの森で、薬草を探すとのことだ。ここらあたりは村も近いし安全な地域なので、彼女ひとりでも安心して薬草を探せるところだそうだ。俺がついていけばもう少し広いところを探せると喜んでいる。俺は香水に使える薬草を教えられたので、それを中心に探していく作業だが『ディテクト・マジック』で探すのが確実だ。そのついでに、傷薬に使える薬草も見つけたので、両方をイメージしながら『ディテクト・マジック』で探していく。あまり夢中になるとまわりが見えなくなって、獣などに襲われるかもしれないから、まわりを注意しながら採っていく。昼も近くなったので、香水に関する薬草に関しては、魔法が失敗するのにもかかわらず、彼女の方が手馴れているのか採った量は多い。かわりに俺は、香水用とは別に傷薬用に使える薬草を1種類しか見つけられなかったが、採ってあるので、こっちはそのうち何かに使えるだろうから部屋で乾燥させておこう。

薬草を採るのは午前中だけなので、魔法学院への帰りがてらに思ったアイデアを伝えてみた。

「香水の瓶だけど、そこに前世の人を探している趣旨のメッセージをいれてみてはどうだろうか?」

「そうね。それは考えていなかったわ。量が少ないからあまり期待できないけれど、何もしないよりは良いかもね」

「内容だけど『日本人探しています』はどうかな?」

「私の作っている香水の瓶だと少し長いと思う。それにそのセンスはねぇ」

「センスは……まかせた」

「適当に私のほうで香水の瓶のデザインにマッチしたものを考えておくわよ」

折角、魔法学院の外にでてみたので、トライアングル・スペルを試してみる。今覚えているうちの『エア・ストーム』と『ライトニング・クラウド』を使ってみると『エア・ストーム』の方が強力なようだった。もう一つぐらい試してみようかと思うが、夜勤もあることだし、控えておくことにする。隣ではステファニーが

「やっぱり、続けて魔法を放てるのって良いわよね」

と呟いていた。魔法が失敗する原因はいまだ判明していない彼女のことを、どうすることもできない。

魔法学院では食堂が違うので別れるが、俺は夜警があるので、精神力を貯めるためにも食後は昼寝をする。夕刻におきだしたが、まだ少し時間が早いので、軽く剣の練習をしてから、早めの夕食をとった。少し早めだが、衛兵の制服をきて、詰所にやってくる。一応、夜勤も給金は変わらないので人気は無い。それに、あまりに暇なので、結構皆だらけている。見ていると、雑談をしていたかと思うと、チェスを指しはじめているし、あるいはワインを飲んで酔い始めているのもいる。ある程度、時間がたってくると、メイドから差し入れが入ってきた。貴族の料理であまった物から作ったまかない食のスープだが、鶏肉の量も多いし、豆だけではなくて他の野菜等も入っていて美味しい。
これは、夜勤だからといって、夕食時に夜勤の衛兵が少ないのもわかる。ただ、難点はこのスープの量が全員に腹いっぱいになるほどの量はあたるわけでは無いので、やはり新顔である俺にはスープは少なめだ。その他にワインやワインにあわせるのかチーズも持ってきている。ワインはさすがに平民用のワインだが、厨房の方だともう少し良いものが食べられるそうだ。

うーん。料理人になる腕は無いしな。

夜の定期巡回はあるのだが、誰も動こうとはしない。俺も制服ができたので仕事だからと思って声をかけると

「どうせ、なにもでてこないから、行きたければ一人で巡回して来い」

と言われた。
昨晩みたいなキュルケの部屋の事件があっても、昼に帰ってきた時にそのままだったのは、こんなところか。魔法がからんだら、普通の平民である衛兵では対処のしようも無いしな。そうして何回目の巡回だろうか。巡回していると、最近では聞きなれた爆発音がしてくる。連続して爆発しているわけではないから危険は無いのだろうが、念の為に爆発音のした方に行って見た。

ステファニーに近づかない方が良いと言われていたルイズはともかく、キュルケがいて、なぜかサイトがロープでぐるぐる巻きにされている。その上に風竜が上空を飛んでいるが、あの青い髪はタバサだろう。仕事だと思って来たが、なぜこんなにステファニーに近づかない方が良いというメンバーが固まっているんだ? トラブルメーカーか? いや、それならサイトが入るのがおかしいよな。

ルイズが肩を落としている様子から、さすがにトラブルことはないだろうと思ったが、念の為に事情を聞きに近づいていったら、巨大な土ゴーレムが現れた。キュルケの背後に現れた土ゴーレムを見て「きゃぁあああああああ!」と悲鳴を上げてキュルケが逃げ出していく。その巨大なゴーレムがなぜか、残っているルイズや動けなさそうなサイトの方に向かっているので、短い呪文ですむ『マジック・ミサイル』をその土ゴーレムの膝へ向かって放った。単発じゃ、膝は壊しきれなかったが、その間に風竜へのったタバサが、ルイズとサイトを『レビテーション』か『念力』で救いあげている。

土ゴーレムの方だが、少しの間があいてから、膝の再生をすると何事もなかったかのように本塔に向かっていた。巨大な土ゴーレムとは厄介だな。土と風では、風は速度が速いわりに攻撃力は弱いことが多いので、土系統のゴーレムとは相性が悪い。同じランクなら土系統のゴーレムにまともな方法では勝てない。これは、触らぬ神にたたり無しといきたいところなんだがな。

その土ゴーレムの上にこのゴーレムを操っている黒ロープ姿に仮面をしているメイジらしいのを見つけたが、手をだすか? 手をだすためには先ほどよりさらに近づかないといけない。二重に魔法が使えるメイジならば、下手をすると土の砲弾である『ブレッド』を放たれる可能性がある。風系統にとってはやっかいな系統の相手だ。仕方がなく観察していると、本塔にめがけて拳を打ち下ろしたところで、拳を鉄に変えている。多分、最低でもトライアングル上位の出力をもつメイジだな。

本塔に開いた穴にメイジが入っていったが、入る時に牽制するかのようにこちらを見ていったようなので、うかつに近づけないな。近づいていきなり、別な魔法を使われる可能性はある。ゴーレムの動きからすると戦場で動かした経験はあるようには思えないが、逆に普通の素人とも思えない。少したって、土ゴーレムの肩の上にメイジはもどったが、こちらも一定の距離はたもっておく。

土ゴーレムは魔法学院の城壁を一跨ぎして、去っていく音がするので、安全だろうと判断して、城壁まで『フライ』で空中移動した。草原の方に歩いていった土ゴーレムは、肩に載っていたはずのメイジは、ゴーレムが土の山のように崩れていった中に消えていく。俺は念のために、まわりを確認するが、先ほどのメイジは魔法学院に残っているわけでは無いようだ。これだと、あのゴーレムが崩れた土の中をもぐっていったのか、途中でフライを使って逃げて、変わり身にしたのかわからないな。土の山となっていたところから風竜がもどってくると衛兵である俺を見つけたのか声をかけてくる。

「宝物庫を襲った泥棒がいるようだわ。調べておいて。私たちは、ヴァリエールと、タバサとサイト、それにさきほど逃げていったけれど、ツェルプストーが居たわ」

『逃げていった』というところに力が入っていたようだが、逃げるのも正解だろう。

「わかりました。こちらの方で処理をいたしますので、責任者から音沙汰があるまで、お部屋にいらしていただければと」

そのままルイズ達はもどっていったが、俺のことは帽子をかぶっているから、単なる衛兵と思っているのか、同じクラスにいる使い魔だとは気がついていないらしい。遅れて他の衛兵たちがきたので簡単に事情を説明すると「宝物庫の中に入って何が盗まれたか確認してくれないか?」と言われる。

「宝物庫って、入れないのか?」

「いや、魔法が扉にかかっているので、あの穴から入るしか無い」

「それじゃ、教師は?」

首を横に振りながら答えられる。

「本来なら当直がいるはずなんだが、おれがここで衛兵を始める前から居たことなんてない」

「おこせないのか?」

「当直以外はおこせないことになっているが、その当直の教師だってわからない有様さ」

「そうか」

「このような派手な盗み方をするなら、最近街で噂になっている『土くれのフーケ』かもしれないから、宝物庫の中をみてくれないか?」

「中に入っても、どれが盗まれたかなんて分からないんだが?」

「もし『土くれのフーケ』なら壁に盗んだものとサインを残しているらしい。それを見てきてくれないか?」

「ああ。それくらいなら」

俺は『フライ』で宝物庫に入ったが、場所は荒らすわけにはいかないので浮いたままである。宝物庫の中全体までは、月明かりのみでは分からないのでもう一つの杖である剣で『ライト』の呪文を唱えてみると壁に、

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

と書かれている。俺は、戻って他の衛兵につげると、今日の夜警の責任者である衛兵に言われた。

「わかった。今日のことは詰所にもどって報告書でも書いてから、寝ていろ」

「俺が寝ててもいいのか?」

「バッカスはメイジなんだろ。メイジが精神力を貯めるのは寝ることだと聞いているのだが」

「まあ、その通りだけど」

「多分、明日こきつかわれるから、寝ておけ」

衛兵にここの教師たちって信頼されていないんだなと感じて、そのまま報告書を書いて、詰所で眠りについた。


*****
『ブレッド』の魔法は『烈風の騎士姫』で使用されている魔法です。

2010.05.11:初出



[18624] 第8話 知らせていなかったはずなのに
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 20:30
『土くれのフーケ』に宝物庫を襲われてからの翌朝……

俺は他の衛兵から早朝におこされ、宝物庫に行かされる。他には早くおきたメイドに昨日宝物庫を襲われた時にいた3人と、平民の使い魔が呼ばれることになった。

教師たちが好き勝手に言ってわめいている中で、多少はかちんときた言葉があった。

「衛兵は何をしていたんだね?」

「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」

たしかに衛兵がだらけていたのは認めるが、詰所には俺を含めて4人いたし、定時巡回だってしていたんだぞ。当直の教師しかおこせないのにその教師がわからないだなんて、衛兵にどうすれっていうんだ。そう思っている間に、当直の予定だったシュヴルーズが責任追及をされて泣き始めたところにオスマン学院長が現れた。

「これこれ。女性をいじめるものではない」

長い黒髪に、漆黒のマントが冷たい雰囲気をかもしだす若い教師が、オスマン学院長と問答を始めていた。

「さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」

この一言で、まわりにそろった教師全員がだまってしまった。
オスマン学院長が「責任は全員にある」と締めて「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」とたずねる。

「この4人です。すでに昨晩のうちに報告書が作られていますので目を通してください」

コルベールは俺を含めているようだ。一応メイジだし、報告書を提出しているから人数に入ったのであろう。サイトは単なる平民扱いといったところか?

「ふむ、バッカム君。君は少し離れて見ていたようだな」

俺は「ええ、名前以外はその通りです」と、簡単に答えるがあいかわらず、さきほどのギトーとかいう教師の名前は覚えていないし男の名前は覚えないようだ。そうすると、とぼけたように

「もう少し近くで見ていた者がいるようじゃの。説明したまえ」

と言われてルイズが前に進みでて、俺とは違う視点から話している。

「後には、土しかありませんでした。肩にのってた黒いローブを着たメイジは、影も形もなくなってました」

「ふむ……」

オスマン学院長はヒゲをなでている。

「この報告書とそのミス・ヴァリエールの話からして、後を追おうにも、手がかりはナシというわけか……」

それからオスマン学院長は、気がついたようにコルベールに尋ねている。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたかね?」

それにあわせたかのように、ロングビルが現れた。

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

コルベールが興奮したように言うが、ロングビルは落ち着いた様子で、秘書であることを強調するように、オスマン学院長に告げる。

「申し訳ありません。朝から急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこのとおり。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査をいたしました」

「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

マチルダお嬢様も貴族に仕えるのに、すっかりなれたんだな。コルベールが慌てた感じで話の続きをするように促している。

「で、結果は?」

「はい。フーケの居所がわかりました」

「な、なんですと!」

コルベールが、素っ頓狂な声を上げる。昨晩の感じからしてみて、そんなすぐわかるようなところに居るのだろうか? そういう疑問はあるが黙っている。

「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」

「はい。近在の農民に聞き及んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのロープの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

ルイズが叫ぶ。

「黒ずくめのロープ? それはフーケです! 間違いありません!」

男だったかな? とも思いつつ俺より近くでみてたのだし、そうなのであろう。それに、廃屋で仮面をつけていたら怪しいよな。

「そこは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日。馬で4時間といったところでしょうか?」

「すぐに王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

このコルベールには、あの使い魔召喚の時に感じた隙の無さが全く感じられないな。俺の勘違いだったんだろうか。それよりも不可思議な点がでてきた。その間にオスマン学院長が首を横に振って、年寄りとは思えない迫力で言う。

「ばかもの! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ!魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」

そこで俺は本来、平民が貴族の間に口をはさむのは問題なので、代わりに疑問に思ったことを聞くために杖を掲げた。

「何かあるのかね? ミスタ・……」

「バッカスです。お話の最中に失礼ですが、このトリステインでは、夜中に農民が出歩くものなのでしょうか。俺がいたアルビオンでは危険な夜行性の動物や幻獣は少なかったので、それなりに農民は出歩いていることもあるのですが」

「おお、そういえばそうじゃのぉ」

アルビオンといえば、マチルダお嬢様が土のメイジだったよな……まさか、フーケとやらじゃないよな。俺はそっとマチルダお嬢様を、ここでいうロングビルを見る。間違いを感じているのか、冷や汗らしきものを流している。俺はまずいことをしてしまったなと思い、急遽適当なことを聞いてみる。

「もしかすると、その農民はフーケで、フーケというのはアルビオン出身ではないのでしょうか? ただ、なぜわざわざもどってきたのかは分からないのですが」

「そうじゃのぉ。農民がその時間にいるわけがなかろう。盗まれた『破壊の杖』は、誰にもその使い方はわからないのじゃ。それでフーケも使い方がわからなくて、フーケのことを聞いてまわっていたミス・ロングビルに場所を知らせて、使い方を聞こうと待ち構えているのかもしれないの」

「そうすると、ワナがあるということも考えられますね」

「時間がたてば立つほどワナが巧妙になる恐れがある。早速捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

そんなワナが待ち構えているかもと思えている場所に行くなんて、杖を掲げようなんて者はいないよな。マチルダお嬢様がフーケだと、これも困ったことなんだけどな。俺は貴族じゃないから杖を掲げる必要は無いのだが、マチルダお嬢様がフーケであるなら作戦を考えないといけないかもしれない。

「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕まえて、名をあげようと思う貴族はおらんのか!」

俺が思わぬところから杖はかかげられた。ルイズがまず掲げたのだ。続いて、キュルケ、タバサと杖を掲げていく。よりによってステファニーに「関わらない方が良い」という者ばかりが杖を掲げている。その中でさらに驚愕する内容が、オスマン学院長から告げられた。

「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」

俺はその言葉に、タバサの方を見てみるが返事もしないで、一見ぼけっと突っ立っているように見える彼女だが、非常に自然な形で立っていることに気がついた。本来、人間の体勢というのはどこか不自然なところがでてくる。あまりに自然すぎて、不自然さが無いことに今まで気がつかなかった。手合わせしないとわからないが、かなりできるだろう。多分、前世では武道の理想系とされていた自然体に近いのではなかったのかな?

キュルケがゲルマニアの軍人の家系で、炎の魔法も強力と紹介されている。ルイズはルイズの使い魔であるサイトが、グラモン元帥の息子であるギーシュに勝った逸話をしているが、ギーシュってドットだったよな。サイトの実力はメイジ殺しとしてどのあたりなんだろうか。

「この三人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」

オスマン学院長はそういうが誰もでてこない。ワナが待ち構えているかもしれないところに行くような奴は、普通いないよな。この3人の少女は少しおかしいと思うぞ。そして、サイトを含めたルイズとキュルケとタバサに向きなおる。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」

ルイズとキュルケとタバサは直立して「杖にかけて」と同時に唱和する。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミスタ・バッカス!」

俺は思っていないのに突然呼ばれて、一瞬間をあけてから答える。

「はい。なんでしょうか。オスマン学院長」

「君も一度見ているのだし、ついて行きたまえ」

「元は傭兵ですが、報酬は?」

「傭兵か。成功報酬で支払うとして、衛兵の仕事はやめて傭兵にもどるのか?」

成功報酬? 成功でも失敗でも仮契約である衛兵をやめさせるということか。ここの衛兵の給金は割がいいからな。ここの部屋や食事を考えると衛兵の方がいい。

「……いえ、聞いてみただけです。行かせていただきます」

「ミス・ロングビル!」

「はい。オールド・オスマン」

「彼女たちを手伝ってやってくれ」

「……はい。受けさせていただきます」

ロングビルが頭を下げた顔に、失望を浮かばせているように見える。えーと、多分フーケはロングビルで正解なのかな。そうだとするとマチルダお嬢様をなんとかしないとな。

俺は、馬車を一緒に用意する名目でロングビルと一緒に出むく。その時にまわりに人がいないのを確認しながら

「昨晩、俺の方を見ていましたか?」

と小声で尋ねると、緊張感のある感じで答えてくる。

「いや、見ていないよ」

はっきりと貴族の主従関係であったというあかしである昔の名前で呼ぶか。

「マチルダお嬢様。学院長室で冷や汗をかいていたようですし、アルビオン、土メイジ、片道4時間の上に、偶然フーケに会うというのは無理がありますよ」

そうするとあきらめたかのように、

「だまっていてくれていたのかい。衛兵にメイジは一人しかいなかったわよね」

やはりマチルダお嬢様がフーケか。

「マチルダお嬢様。細かい話は後にするとして、脱出しますか? それとも、この魔法学院に残りたいですか? ご協力いたしますよ」

「考え不足だったわ。当てが外れたので、できれば残りたいわ。あのエロ爺の元で働くのはしゃくにさわるけれど」

「わかりました。なんとか、4時間あればおおざっぱに考えておきます」

ステファニーに言わせたら、こういう行動をこの世界の人間のようだと言うんだろうな。19歳で結婚も間近だった上級貴族の娘が、まともな平民生活をおくれなかったのだろう。しかし、マチルダお嬢様もここの給金なら、一人身みたいだし充分な給金をもらえるはずなんだがな。今は、そんなことよりもいかにして『破壊の杖』を

「いかにもフーケから取り戻しましたよ」

という形を考えなければいけない。

用意した馬車は屋根ナシでいつ襲われても、すぐに飛び出せるようにということで、このような馬車になった。ワナをはっているのなら、多分、途中で襲われる心配は少ないと思われるが、念のための予防措置ということになっている。

馬車の御者は俺が行うことになる。馬はならされているのか、それほど苦もなくいうことをきかせられる。とりあえずは、他のメンバーにわりこまれずに、考えをまとめたかった。
後ろでは何やら話しはあったようだが、気にしないですすむ。

ロングビルからは、細いわき道で止まることを言われた。小道では、襲われたときのために一番前を歩くのは俺で、その後ろにロングビル。最後方はシュヴァリエであるタバサが歩いている。俺はまわりのメンバーに

「相手が土ゴーレムを主体にしてくるなら、まわりが開けている廃屋で狙ってくるだろう」

と伝えてある。俺が考えた作戦を歩きながら話していくと、不機嫌な様子のルイズとは別に、最初は

「それは良いわ」

とキュルケが陽気に笑っていたが、その話が続くとキュルケは

「なんで私まで」

って不機嫌になっていく。キュルケに好かれると後でこわそうだからこれで良さそうだが、ルイズの不機嫌は大丈夫かな。

薄暗い森の小道を行くと開けた場所が見える。魔法学院の中庭ぐらいの大きさの中に、廃屋があった。相手が使い方を知りたいのなら、誰かを捕まえて人質にするのが一番楽だろう。だから全員で行動するというのが趣旨だ。相手が『ブレッド』などをつかっても、多段で魔法の防御を行えば問題ないとも伝えた。

一応、念のため、土に関してはこの中でラインと称していても、土では一番レベルの高いロングビルが、広範囲に『ディテクト・マジック』をかけながら、廃屋まですすんでいく。廃屋の中もロングビルが『ディテクト・マジック』でワナなどを探していくが、当然のことながらロングビルがフーケなのでワナが無いことは知っている。廃屋の中では、1年生の時に宝物庫見学で『破壊の杖』を見たことがあるという、生徒でもあるルイズとキュルケとタバサに探してもらう。この時は見つけても、声を潜めてもらうことだ。一見、土のトライアングルを称していても風のスクウェアだった場合には、耳のよさが格段に違うと言ってある。うまく中でみつけたようで、タバサが『破壊の杖』を入り口まで持ってきたので、俺は計画通りに進める。

「おーい、フーケ。聞こえていれば、まずは聞け。ここには、トリステイン王国のラ・ヴァリエール公爵家の娘がいる。この国で、それを相手にするとしたらどうなるかわかるだろう!」

ここで一呼吸してからさらに続けて大声を出す。

「さらに、隣の国、帝政ゲルマニアのファン・ツェルプストー家の娘もいる。ラ・ヴァリエール公爵家と対立できる家だ。何かあったらやっかいな相手だぞ!」

特に反応は無いのは当然だが、さらに俺はひどいことを言う

「この『破壊の杖』の使い方を知っているのは誰もいない。もし知っているにしても魔法学院のオールド・オスマンが知っているかもしれないぐらいだ。あいつをなんとかしろ!」

最後のは、この捜索隊に入れられるのに衛兵の契約のことを持ち出された、おもいっきりの私怨だ。過去知られている限り、フーケが故意に殺人をおかしたり、誘拐などはしていないとロングビルとして話が聞けたので、付け足した蛇足でもある。

ふー、少しはすっきりした。

ルイズと、キュルケは自分の力ではなく、家の名前で解決することに少々不満気だが、俺にはこれ以上のことは思いつかなかったし、他からも有効な具体案がでてこなかったので、そのまま通っている。最後は、俺のアドリブだけど。

帰りに俺は意気揚々として帰ったが、ルイズとキュルケ、それにロングビルの反応は微妙だ。

魔法学院に帰って、魔法学院長室でオスマン学院長とコルベールへ六人から報告をした。俺にたいしてのオスマン学院長の視線がちょっとばかり冷たさそうなのは気にしない。

「さてと、君たちはよくぞ『破壊の杖』を取り返してきた」

貴族であるルイズとキュルケとタバサは礼をする。

「『破壊の杖』は、無事に収まった。一見落着じゃ」

オスマン学院長は貴族である3人の頭をなでる。

「君たち3人には精霊勲章の授与を申請しておいた」

「ほんとうですか?」

キュルケが驚いた声でいう。

「ほんとじゃ。あのフーケから無事に『破壊の杖』をとりもどしただけでもそれくらいの価値はある」

「そちらの貴族様たちには、それでよいのでしょうが、わたくしども平民はどのようになるのでしょうか?」

多少、昼間の廃屋で鬱憤をはらしたといっても、まともに傭兵として仕事を請け負ったらけっこうな額になるはずだ。

「君は衛兵だろう?」

やっぱり駄目か。ちょっと悲しい。オスマン学院長はここで、ぽんぽんと手を打って雰囲気を変えたいようだ。

「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通りとり行う」

キュルケが「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」と言う。

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」

上級貴族の舞踏会なら俺は関係ないなと思いつつも、ロングビルとすぐに接触するのも危険かもと思い部屋に戻ろうと思ったが、今日は正式な給金をもらう日なので、事務所に立ち寄って給金を受け取る。そして詰所の方によったが、今日はすでに働いたから良いだろうということで、今晩の夜勤も無しとなった。



最後にステファニーの部屋によったところで、ドレス姿は可愛らしいが、普段とは違いおさえたような感じの声をかけられる。

「貴方、もしかしてミス・ロングビルと知り合いだったの?」

俺はステファニーの質問に驚きをかくせなかった。


*****

2010.05.13:初出



[18624] 第9話 俺の首って
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/28 20:15
ステファニーの部屋によったところで、ドレス姿は可愛らしいが、普段とは違いおさえたような感じの声をかけられる。

「貴方、もしかしてミス・ロングビルと知り合いだったの?」

俺はステファニーの質問に驚きをかくせなかった。

「そうやって、だまっているところをみるとやっぱりそうなのね」

緑色の髪の毛は確かに特徴的だが、この世界では時々見かけるのでそこまで珍しい色でもない。俺がロングビルの眼鏡に度が入っていなかったから気がついただけだ。それがなければマチルダお嬢様と気がついたかどうか。なぜマチルダお嬢様……いやロングビルのことをきいてくるのか俺は少し嫌な予感をしはじめてきたが、マチルダお嬢様とロングビルがつながっても、まだフーケとはつながる証拠は無いはず。

「何年前かは、はっきり言わなかったけれどアルビオンで下級貴族の地位を失った、というところで気がつくべきだったわ。マチルダ・オブ・サウスゴータって、ミス・ロングビルよね?」

マチルダお嬢様をどうにか、この魔法学園で働けそうな小細工はしてきたが、そんなことステファニーは知るわけがないだろうしな。もしかしたら、マチルダお嬢様と昔あったことがあるのだろうか。素直に認めるとしよう。

「ええ。あまり過去を詮索されるのは好きではなかったので、そこまで話していませんでした。サウスゴータ家に父が仕えていて、時々マチルダお嬢様とは遊んでいただいた仲です。それが何か問題なのですか?」

ステファニーからはなんとも、もどかしげな調子で言葉が返ってくる。

「……ちょっと、確認したいことがあるから、明日まで考えさせて」

さらに部屋から外に出るように言われたので素直に従うが、いつもと雰囲気の違うステファニーに俺は戸惑いを覚えた。よくわからないが、マチルダお嬢様。いや、そういうと嫌われるからロングビルに話をしてみるか。

詰所であらかた、部屋の配置などは聞いているから、ロングビルの部屋の位置もわかっている。一般の使用人ではなく、教員用の部屋にいる。俺は『フライ』で浮いて窓をノックした。

「誰?」

そう聞こえた声はロングビルだ。

「ブライアンです。」

「ああ、今のバッカスの名前で良いわ」

そういって、窓をあけてくれたので、部屋に入らせてもらい窓を閉める。

「ミス・ロングビルと呼ばせてもらってよろしいですか?」

「ばれると問題だから、そのようにして。そのまえに」

『サイレント』の呪文がかけられる。

「これでゆっくり話せるわね。バッカス」

「ええ。ミス・ロングビル」

「それで、きたのは、こんな稼業をしていることを聞きにきたのかい?」

「それもありますが、それよりも重要なことが」

「何かあるのかい?」

「ええ。私の使い魔としての主人であるステファニー・ポーラ・ラ・フェール・ド・モンモランシーに問題がありまして、お会いした覚えはございますか?」

「モンモランシ家が水の名門というのは聞いたことはあるけれど、実際にはあったことは、この学院に来るまでは無いはずだわ」

「そうですか。少なくとも、マチルダお嬢様とミス・ロングビルを同じ人物だと認識しているようです。今日の反応からして、フーケではないかと感じているのかもしれません」

「そんなドジは、今朝の話宝物庫以外ではした覚えはないのだけどね」

ロングビルが考え込んでいる。俺も打開策は無いか考えてみるが、マチルダとロングビルを結びつける線が思いつかないし、さらにフーケだと感づくにしても宝物庫にいなければ気がつくはずは無い。

「俺もステファニーが動くようでしたら、ミス・ロングビルにお知らせいたしますが、最悪、ここを離れることも考えてください」

「全く世の中は思い通りにいかないね」

「そうですね。そういえば、今朝の農民の話はどうなさいましたか?」

「それは、適当な顔を報告しておいたよ」

「今は、盗賊をおこなっているようですが、ここの給金で充分なのではありませんか?」

あらためて、部屋の中を見てみると比較的質素な感じになっている。

「ちょっと、訳ありでね」

「もしかして、サウスゴータ家の時みたいに孤児院へ寄付をなさっていらっしゃるとか」

「あたらずとも遠からずだね。最初モード大公家の娘を、孤児達を預かっていた信頼できる家に預けたのだけど、そこの家の親が死亡してしまったのさ。かわりに私が面倒をみることになってね。そのうち、あのアルビオンの戦争で孤児になった子をさらに預かるようになってしまってねぇ」

「はぁ、マチルダお嬢様……いやミス・ロングビルらしいというか。それで今は何人の子どもがいるのでしょうか?」

「12人のはずだね」

ざっと計算するが、場所にもよるが年間500~1500エキューぐらいか。ロングビルとしてどれくらいもらっているかはっきりしないが、俺の給金を足したら足りるかも知れない。

「もう少し人数がすくないと、俺の給金からだせば、なんとかなるかもしれなさそうですね」

「バッカスが心配することじゃないよ」

「そうはいっても、今朝みたいな失敗をされては、その孤児たちはけっきょくのところ餓死してしまうんですよね?」

「昔は遊んであげたバッカスも、今ではいっぱしの口を聞くんだね」

「そんな昔のことを言われても」

俺は子どもの振りなのか、それとも本当に自分でも子どもと信じ込んでいたのかよくわからないが、マチルダお嬢様とは遊んでもらった記憶が蘇る。

「とりあえず、当面どれくらい、資金がもちそうですか?」

「それは心配しないでいいよ。なんとかするから」

「あまり、無理はしないで下さい。トリステインなら、亜人や幻獣退治をおこなえば、それなりの料金になるらしいので、そちらの道を選ぶこともできるかと思われます」

「考えておくわ。それよりも、そのミス・モンモランシーの動向について教えてくれないかい。もしかしたら、バッカスに話を通さず直接動くことも考えられるから」

「わかりました。多分、今晩か明日が最初の山になるかと思われますので、ご注意を」

俺はそうして、自室に戻っていく。ステファニーの使い魔としていってもあまり明るい展望は見えてきていないが、マチルダお嬢様を助けていくというのも貧乏生活まっしぐらな予感だな。



翌朝、いつもの朝のように『アルヴィーズの食堂』の前でまっている。ステファニーはいつもと調子が違い「ふー、踊っていなかったわ」と謎の言葉を残される。何か聞いても「今晩ね」と言われるだけだ。授業は「一人にさせて」と俺は席へつかずに後ろの壁に立っている。

後ろから見ていると、ステファニーは授業もそっちのけで、考え込んでいるようで、姉であるモンモランシーに心配されたり、教室では教師から指名されたのに、ぼけた返答をしたりと散々な感じだった。ステファニーがずっと、こんな調子だったので、今日の授業では、結局、新しい呪文を写すことはできなかった。俺って、そこまで悪い隠し事をしたのだろうかと悩みたくなるぐらいの、考え込みっぷりだ。授業後は、いつもの通り詰所に夕食、そして、ステファニーの部屋に行って部屋へ入らせてもらうと、すでにワインを飲み始めていた。

「ステファニー、そんな、今から飲んで、どうしたんだ?」

「……迎え酒」

「……今日、考え込んでいるように見えていたのは、二日酔いなのか。その調子だったら、明日も二日酔いになるぞ」

「わかっているけど、飲んでいなきゃ、やってられないわ」

「それで、今晩といってたけど、話せそう?」

「もう考えるのもいいから、出してみるからちょっとこれを読んでみて」

そういうステファニーは、手元においてあった1冊の本を俺に手渡してくる。その本は俺が最初にこの部屋で、日本語が読めて、前世の知識があることを互いに知り合うことになった『ゼロの使い魔2』だった。

「その本をしばらくだまって読んで見て」

俺は言われるがままにページを開いていくと、デフォルメされているが、キュルケやタバサやサイトにルイズが描かれて紹介されている。ギーシュやアンリエッタ女王はよく知らないが名前だけは知っている。ワルド子爵という人物が魔法衛士グリフォン隊隊長でルイズの婚約者だって? そのあとフーケがチェルノボーグの監獄につかまっているところで、ステファニーに「しばらくだまって読んで見て」という言葉を思い出し続けて読んでいく。とりあえずは、フーケは、レコン・キスタとかいう貴族連合に入るような話だが、無事チェルノボーグの監獄から出れたようだ。アンリエッタと枢機卿の話からすると、フーケを捕まえたのはこの魔法学院内でラ・ヴァリエールというとルイズ? これから、ルイズがフーケを捕まえるのか?

それだと、ステファニーが昨日の段階で聞いてきて、今のように迎え酒が必要になるまで飲むとは思えない。ステファニーに聞いてみるか。

「このアンリエッタと枢機卿の話の部分ですが、フーケを捕まえたのはラ・ヴァリエールとなっている。何か、昨日の事と関係するのか?」

「そうよ。その捕まえられる日は昨日だったはずなのよ」

「えっ? そんなバカな。いや、この本ってそもそも何?」

「その疑問はもっともよね。私たちは、その『ゼロの使い魔』という本の中に入ったのか、その本の内容と似た異世界で生まれ変わったんだと思うわ。その本が東方の本として、売られていたときには驚いたけれどね」

「その説明だと、よくわからないんですけど」

「元々、その本は私が前世で読んだことのある本なの。その本でも少しあとにでてくるけれど、姉のモンモランシーもでてくるの。だけど、私は出てこない。だから、魔法学院に来ないで誰かに嫁ごうと思ったのだけど、父の見得のせいで魔法学院にくることになってしまったわ」

ルイズとキュルケとタバサにサイトに当面は関わらせないようにしていたことと、先ほどの本の人物紹介にでてくるということは本の主要人物になったはずだよな。

「もしかすると、本と似たような世界に入ったから、そのままにしておこうと思っていたということでいいのかな?」

「そのぐらいで良いわ。姉とは姉妹だからどうしても影響するはずなのに、それほど姉の性格に影響をあたえなかったようだし、魔法学院で私の魔法の”失敗”だからといって、仲間意識をもつようなルイズじゃなかったし」

俺は黙って話が続くのを待っている。

「使い魔召喚で、まさか私が人間を召喚したけれども、ギーシュがサイトの目の前に香水を落としたりと、私自身がいること自体はそれほど大きな影響を、この世界に与えていないようだと思ってきていたのよね。貴方の話を聞いた限りでは、やはり、あまりこの世界に影響を与えていなかったようだから安心しきちゃったのよ。多分だけど、一人一人で離れていたのなら、意外とこの世界のバランスはくずれなかったのかもしれなかったのかも知れないわね。だけど、二人一緒にいることになって、バランスが崩れちゃったのかもしれないのよ」

「えーと、よく要領はつかめないのですが、今から、俺がここから離れるというのは?」

「一度崩れたバランスを戻すのは個人の力では無理だわ。修復しなければならない部分だけを、修復できるように動いてあとは運まかせしかないわ」

「えーと、フーケを助けただけで、そこまで、バランスが崩れるものなの?」

「やっぱり、フーケをたすけたのね! バッカス」

あっ! やばい。

「それは過ぎてしまったことだから、もう遅いと思うわ。まず、その本に載っていると思うけれど、土くれのフーケを捕まえたからこそ、アンリエッタ王女はルイズのことを思い出しているようよ。フーケから宝を取り戻した程度だと、王女にまで耳に入るかどうかが、まず不透明なのよ」

「えーと、アンリエッタ王女の耳にルイズ達のことが入らないと何が問題なわけ?」

「それについては、その本を最後まで読んで。そうしたら質問に答えてあげる」

俺は言われた通りに読み終えたところで、自分の中でまとめた質問をステファニーにしていく。

「これを読む限り、ミス・ロングビルがフーケとしてつかまらなかった場合、困るのはアルビオンへの出航前の夜の奇襲かな?」

「そうね。そこは、どう動くかは私もよくわからないけれど、フーケより実力のあるメイジをワルド子爵がこの時点で仲間にできているとは思えないわ。けど、問題はそこじゃないのだけど、長くなるからその話は後にするわ。次は?」

「グリフォン隊隊長であるワルド子爵がレコン・キスタへ入っていく貴族で『風の偏在』が使えるほどの使い手なのは確かですかね?」

「そのあたりは魔法衛士隊隊員の妻になることを夢見ているトネー・シャラントに聞いたら『風の偏在』を使えるって言っていた。だから、確からしいわね。あと、彼の母親が『アカデミー』で働いていて、突然やめてしまったのは当時有名な話だったらしいから、父が覚えていたわ」

「ワルド子爵の母とレコン・キスタって何か関係するのか?」

「母親殺しをしたと思い込んでいるようなのよね。それがトラウマになっているから、聖地を目指すレコン・キスタに同調したのでしょう」

「いや、『アカデミー』と『母親殺し』がつながらないのだけど」

「その母は『アカデミー』でハルケギニアの地下に大量の風石が埋まっていることに気がついて、それをどうにかできるのが聖地にあるといことに思いいたったようなのよ。けれど、その風石をどうにかしないとハルケギニアの大地は空中にばらばらと飛び上がっていくし、聖地に行くにはエルフと戦うなんて無謀なことをしなければならない。それをひとりで抱え込んでしまって、気が狂ってしまったのね。それで、普段からワルド子爵に『聖地に行って』とか言ってたのだけど、12歳の時に、客がきている中にその狂った母親がワルド子爵を探しにきたので、奥の部屋で連れ帰ろうとした途中、思わず押しのけたところが階段で、そのままヴァルハラ逝きになってしまったのよ」

12歳の時の母親殺しのトラウマか。

「それだけでなくて、20歳の時に母の日記をみて『アカデミー』の研究で聖地にいかなければ大変なことになるというようなことが、書いてあってそれで聖地に向かう気になっているはずだわ」

確かに本当なら、その行動をとるかも知れないな。ただ、やはり気にかかる。

「ワルド子爵は本当にレコン・キスタに入っているのかな?」

「ううん。そこまでは、さすがに分からないけれど、見つけた年齢は違っていたとしても、実家の整理の際に母親の日記はみつけたと思うから、入っている方に私なら賭けるわ」

「もしレコン・キスタに入っていなかったときは?」

「色々と問題があるから、まずは、入っているかどうかの確認をしないといけないわ。今まで以外のことで聞きたいことは」

魔法衛士隊のスクウェアメイジか。本を読む限りでは、余裕をもちすぎているから、最後サイトに腕を切りおとされたんだろうな。他に聞きたいことというと、

「まだ何点かある。アンリエッタ王女の手紙って取り返す必要はあるのか? 重婚の罪とか言っているが、妻が死んだあとに結婚していた王も確かいたはずだけど」

「男性はそうだけど、女性は、ブリミル教では、まだ前例が無かったはずよ。けれど、結婚はしなくても同盟を組まざるを得ない状況だから、多分、手紙はとりもどせなくても、同盟は組めると思うわ。念の為に取り戻せるなら取り戻した方がよいのでしょうけど」

「サイトが始祖ブリミルの伝説の使い魔で『ガンダールブ』であることは、わかったけれど、本の時点での実力はトップクラスの剣士までには届かず『エア・ハンマー』もさけられないんだったら風系統相手なら『ライン』と互角に戦えるかどうかも分からないよな。『デルフリンガー』がきちんと思い出せば、使い物になると思うのだけど」

「それは……ちょっと考えてみるわ」

「えーと、サイトはそれに、デルフリンガーってのを持ち歩いていないようなんだが」

「昨日のせいね。それは明日、私からルイズに言うからまかせてちょうだい」

「明日まかせてちょうだいって、明日、本当に二日酔いになっていないか?」

「いったい誰のせいだと思っているのよ」

「いや、だってな。知らなかったしな。そもそも、なんで俺がフーケ討伐についていかないと思ったんだ?」

「そうよね。それがあまかったわ。傭兵あがりの貴方なら、お金にならなければ動くことは無いと思ったし、もしついて行っても、捕まえる方にまわると思ったのよ」

「確かにな。フーケの正体も感づいていたから、オスマン学院長に衛兵のことをもちだされなければ行く気も半分くらい無かったし、もし、フーケの正体を知らなかったら、あの土ゴーレムも動きは戦場のものの動きじゃなかったから、シュヴァリエであるタバサと組めば、フーケは捕まえられたかもな」

「そうじゃなくて『破壊の杖』って見てないの?」

「そういえば箱だけは見たけど、中は見ていないな」

「あれって、ロケットランチャーよ。それで、サイトが『ガンダールブ』のルーンをもって、理解して使用し解決にむかったのよ。それで踊っていなかったのね……」

よくわからないが、何か昨日の事件と踊りというのが関係するのか。

「しかしロケットランチャーね。そんなものまであるんだ。しかも、結構威力があるんだな」

「そうね。私たちの世界のロケットランチャーと違うかもしれないらしいから」

『ガンダールブ』のルーンって異世界の武器も理解するのか。

「他にはあるかしら」

「残りふたつだけ。ルイズが力のあるメイジらしいのはわかったけれど、ルイズってもしかしたら、虚無の系統か?」

「その通りよ。よくわかったわね」

「いや、これだけヒントがでてきていたら、さすがの俺でもわかるよ。最後だけど、ルイズ、キュルケ、タバサ、サイトに当面は関わらせないようにしていたのは、やはり今後この4人に何かあるのか?」

「そうよ。けれどこれ以上は、明日以降わかる限り教えるけど、地下の風石のことは気にならないの?」

「そういえば、そうだな。確かに死にたくはないが、すぐ身近に迫った危険じゃなさそうからな」

「じゃあ、今日はここまでにさせて」

「ああ。それと、明日の朝、おこしにきてやろうか? 気休めにしかならないが肝臓に治癒をかければ、多少は二日酔いが楽になるぞ」

「そうね。集中しきれなくて、自分に『治癒』をかけれそうにないかもしれないわね。明朝きてみて」

「わかった。じゃあ、朝は、授業開始の1時間半前くらいにくるよ」

「それでお願い。じゃあ、おやすみなさい」



俺はステファニーの部屋をあとにしたが、ロングビルにどう伝えようかなと考えながら向かい、翌朝約束通りにステファニーの部屋にきた。案の定、ステファニーは二日酔い。治療をしている最中にそろそろ授業に向かう時間が近づいてきたかなと思ったら、ドアでノックがする。ステファニーがドアに向かって「誰?」と聞くと「モンモランシーよ」と答えが返ってくる。

「ああ、ごめんなさい。もう少ししたら出られるから」

「そういえば、あなたの使い魔も見かけないけれど?」

「ここにいるけれど、どうかしたの?」

モンモランシーgが『アン・ロック』の呪文をかけてドアを開けてきた。

「あなたたち、その格好で何をしているの?」

キャミソールとパンティ姿をあらわにしたステファニーがベッドで横になっている。どうも俺って、モンモランシーに信頼されていないようだ。もしかしたら俺の首がまずい?


*****

2010.05.15:初出



[18624] 第10話 二日酔いとキュルケの剣をどうしよう
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/26 20:53
ステファニーの部屋に入ってきたモンモランシーに、キャミソールとパンティ姿をあらわにしたステファニーがベッドで横になっている。

「あなたたち、その格好で何をしているの?」

「お姉さまが考えているようなことは無いわよ」

「わたしが考えているようなって」

ぽっ、と頬がそまる。ああ、やっぱり、男女の営みがあったとか考えていたのね。ステファニーの今の姿を見た最初は、ちょっとばかり下半身に血は集まったが、いまは何とも無い。

「授業に遅れないようにするのよ」

モンモランシーがでていったあと、俺は

「上級貴族って、こういうところ見ても大丈夫だよな?」

とステファニーに聞く。

「他のところは良く知らないけれど、私の家なら私だからっていうことで大丈夫でしょう」

「家族にどう見られているんだよ。ステファニーは?」

「立派な治療行為だし。二日酔いのだけど……それに貴方に住む場所を聞かれた時に『この部屋になるのかな?』って言ったわよね」

「ああ、そういえば」

「そういうことよ」

それはともかく、まずは水を飲ませてやって、それから少しでもアルコール類やそのあとにできる二日酔いの物質を消費させるのに肝臓へ治癒をかけていた。けっこう気休めなんだが、何もしないよりは効果がある。あとは『エア・シールド』の中に彼女をいれて、少しでも酸素を取り入れやすいようにする。前世での高気圧酸素タンクがわりにしたいのだが、酸素だけ選択するなんてことはできないしな。

「うんと、調子はどう?」

「できたら、休みたいところだけど、二日酔い程度で休むなんてね」

「まあ、無理しても、頭はまわらないぞ」

「そうも言ってられないし、昨日よりはましだから。あと、休み時間にまた『治癒』をお願い」

「ああ、じゃあ、廊下でまっているから」

「そうね」

ロングビルには、昨晩にうちに

「ステファニーは証拠を持っていないが、疑ってはいるようなので気をつけた方が」

と、無難な報告をしておいた。ステファニーも今さらフーケの件をどうにかしようとしているわけではないようだが、牽制も含めてロングビルに報告したことは伝えてある。俺は教室までステファニーを送ると、使用人の食堂に向かった。遅番のメイドたちでごったがえしているので、最近使っている席が空いていない。この時間は女性ばかりのようで男は一人だけ。ちょっとばかり居心地が悪いが適当に空いている席を見つけて聞いてみる。

「ここの席はすわれますか?」

「ええ、どうぞ。空いているのでお座りください」

一応、歓迎ムードだ。ただ食事をするはずだけだったのが、質問攻めにあったりする。

「ステファニーさんの使い魔ってあなたですか?」

「ああ」

「バッカスって言うんですよね」

「そうだよ」

「今は衛兵してるんですってね」

「そこで働かせてもらっているよ」

「召喚される前は傭兵だったんですって?」

「してたよ」

「『破壊の杖』を取り戻すのに同行されていたとか」

「そうだね」

食事で一口を食べ終える前に質問がくるので、中々食事がすすまない。ただ、まわりからメイドたちが少なくなってきたのか、ここの席だけがめだつようになってきたようで、メイド長が言う。

「そこでぺちゃくちゃしゃべっていないで、食事が終わったものは、仕事だよ」

そうすると、まわりのメイドは食事が終わっていたようで、全員席を離れていった。仕事が無いわけではなさそうだから、ものめずらしいのだろう。俺以外にいるメイドは俺より遅めに来た娘ばかりのようでばらばらに座っている中、食事も終えて教室に入っていく。
ステファニーは朝食も、とっていないだろうしアルコールを取った翌日は確か甘い物が二日酔いを早くなおすんじゃなかったかと思って蜂蜜をもらってきた。ステファニーはこっそりと、蜂蜜を舐めているので、俺はその合間に先週ぶりの呪文の写しをしている。午前の授業は3回にわかれているので、その合間に中庭のめだたないところにでるが、さすがに二日酔いで『治癒』の魔法をかけられるのは恥ずかしいらしい。

「もうだいじょうぶだわ。ありがとう。バッカス」

昼休みにはずいぶんと元気になったようなので、昼はいつもの通りにすごし、午後の授業の為に教室に入るとステファニーから声をかけられる。

「ルイズの方は、大丈夫よ。貴方が元傭兵で、剣の見立てができるというのが1点。インテリジェンスソードは特殊な例があるらしいからきちんと見させてもらいたいと言ってたら、それでサイトの持っている両方の剣を持ってきてもらえる事になったわ」

「そうすると、衛兵の詰所に言っておいた方がいいな」

「そうね。うまくすれば、今後もサイトの訓練につきあってあげた方が良いと思うから、今後の衛兵のローテーションも変えてもらわないといけないかもね」

おお、俺のもらえる給金が減っていくのか。

「そういえば、そこまでサイトに肩入れしないといけないのか?」

「それを説明するのを忘れていたわね。今晩また部屋にきて、そこで詳しく説明してあげるわ。それまでちょっと協力してね」

「ああ。わかった」

午後の授業は中々すすまないが、終わりが見えてきた2種類目の呪文の写しもノートが2冊目にはいっている。授業後は、中庭の一つで日中なのにあまり日がささないヴェストリの広場にステファニーとルイズとサイトと一緒にくる。目立たないのとあまり人は立ち寄らないそうで、ここにするがサイトとギーシュの決闘もここで行われたらしい。

「それで、あなたが剣の見立てをしてくれるって?」

「ええ。これでも元傭兵なので、剣について多少は見れます。ミス・ヴァリエール」

「なら早くこのインテリジェンスソードの価値を見てみて。もうまったく、この使い魔ったら、ツェルプストーの剣ばかり」

「いや、あれは勝負の結果だろう」

「インテリジェンスソードには特殊なものが多いので見立てるのには時間がかかります。まずはそちらの宝石が多い剣をみせてもらえますか?」

いや、本当にそうか知らないけれど、ステファニーにそう言えって言われたしな。

「ほら、わたしなさい。サイト」

サイトから、受け取った剣を見た感じは、剣としては極普通の剣という感じだ。そこで『ディテクト・マジック』で見てみると、固定化も硬化の魔法も弱い。普通の鉄板なら切れるだろうが、ブレイドでもつかどうかぐらいか。

「まあ、普通の剣に固定化と硬化の魔法がかかっているので、平民相手で硬化の魔法がかかっていない剣なら、欠けることも無いでしょうね。ただしラインクラス以上のメイジを相手にするのでは物足りないと思いますよ」

ルイズがわずかに希望をもっているような感じで、サイトはそれがどうしたという感じだな。俺は先ほどの剣をサイトに返しては換わりにインテリジェンスソードであるデルフリンガーを受け取り鞘から抜き取った。

「いやー、相棒が中々出してくれないので話せなかったぜ」

「ああ、ちょっと、見させてもらいたいので、静かにしてもらえないだろうか?」

「お前なんかに俺様が見れるのか?」

「まあ、やってみるからまずは静かにしてくれ」

「そんなのこちらの勝手だろ」

静かにならないので、その声は無視して剣としてみていく。初めてみる金属だな。表面の錆は、あらかじめ知っておかなければ、本物の錆として認識してしまうぐらい、本物っぽい。手でさわっても感触はかわらないし、研いでみないと本物か、そうでないかわからないだろうな。そして今度も『ディテクト・マジック』で見てみるが何も分からない。物質としてあるかどうかというより反応が無い。まるで魔法が失敗したような手ごたえだが、そのまま他を見ると反応するので魔法は成功している。魔法を吸収しているのだな。たしか、本ではこの格好のままで『ライトニング・クラウド』を直撃されていたな。純粋な電気ではなくて魔力のこもった電気だ。トライアングルクラスの魔法も多分大丈夫だろう。

「ああ、こっちのインテリジェンスソードだが、魔法を吸う性質があります。しかもこの格好も多分、偽者でしょう。なぜだかわかりませんが、本当の姿から擬態していると思います。この錆は錆ではなくて、錆らしくみせかけているだけだと思いますよ。実際、どれくらいの魔法を吸えるかはおこなってみないとわからないのですが、まずは両方を試させてもらいませんかね?」

「ええ、じゃあ、おもいっきり、この剣から試していただけますかしら」

ルイズはサイトの持っている宝石がちらばった剣を指差ししている。

「ええ、最悪両方とも壊れてしまってもよろしいですか?」

「ツェルプストーの剣を持ったままでいるぐらいなら、それでもかまわないわ」

俺はサイトに指示して剣を置いてもらう。俺はあいかわらずうるさいデルフリンガーを、気にしないでその横に並べるようにして置く。そして、タクト状の杖をだして十数本の水でできた鞭である『ウィーター・ウィップ』を唱えて、その水の鞭を互いにからませるようにして一本の長剣のようにする。これだと、普通のブレイドよりも長く使えるうえに、ブレイドよりも強力なので、一対一の時に時々つかう方法だ。これを、並べた二本の剣に同時に叩きつけると、宝石がちらばっていた剣は無残にも両断となったが、デルフリンガーは受け止めている上に弱いが、魔法を吸っている。

「やはり、このインテリジェンスソードは弱いですけど魔法を吸っていますね。すくなくとも対メイジの魔法に対処するなら、結果はもうでていますが、こちらの剣でしょう」

「メイジ相手に役にたたない剣なんか持たせられないわ」

サイトは「こいつナマクラだったのか」と呟いている。

「そんな剣、ツェルプストーにつっかえして、メイジ相手に使えないって言ってやるわよ」

「ルイズ。その他にもサイトにしてあげた方が良いと思うことがあるのよ」

ステファニーがルイズに話しかけていく。

「サイトの剣技と体力を見ておいた方が良いのではって、バッカスが言ってるのよね」

うん? 俺そこまできいていないぞ。ああ、今晩詳しく話すって言ってたか。確かに興味があるな。動きが速かったらしいからな。しかし、こちらの平民に比べて軟弱そうだし、どれくらいうごけるのかも実際にこの目で実力はみておくか。

「サイト。そのバッカスというのは元傭兵らしいから、どれくらいの腕かをみてもらったら良いわ」

ルイズは結構機嫌がよさそうだな。サイトは、なんで、俺なんかにって感じだが。

「いいから、サイトはやくしなさい」

「はいはい。ルイズ」

サイトはデルフリンガーを持つと左手の多分古ルーンが薄く光っている。

「適当に誰かと戦っているイメージでももって、剣を動かしてみてくれないか」

「シャドウ・ボクシングかな?」

俺は、思わず「ああ」と言いそうになったが、ボクシングはこの世界では見かけたことは無い。

「シャドウ・ボクシングっていうのはよくわからないが、相手をイメージしながら剣を振ってみてくれないか」

サイトの剣を見ていると普通の一般的な傭兵よりも速いが、動きそのものは単調で完全な素人だ。こうやってみていると、隙だらけだから一回見切ったら、ある程度以上の剣の実力者の相手にはならなさそうだな。あとはどれくらいの時間かは、魔法学院の時計をみているが、10分あまりでがっくりと速度が落ちて、ルーンの光も消えている。

「これでおしまいか?」

「もう駄目」

「うーん。噂に聞いていたほど速く無いんだけどな」

「そういえば、そうだわ」

「それはともかく、バッカスからみて、サイトの実力ってどう思う?」

「今のだと、正面からドットのメイジと戦えたって、ここの生徒が実戦を知らないから勝ったんじゃないかな?それと動けるのが10分ちょっとなら体力が少ないな。実戦でなら、基礎体力が必要だと思う。それくらいかな」

俺は素直な感想を言ってみた。
そういえばガンダールブって、心の震えで強さがきまるんだったな。

「どう、元傭兵の見識だけど。こちらのバッカスも練習相手が欲しいって普段言ってたので、練習相手になってくれるなら、そのサイトの訓練にもなると思うのだけど。どうかしらルイズ?」

ステファニーは最初からそのつもりか。そういえば、サイトを鍛え上げるっていってたもんな。ルイズの方はというと、どうしようかしらと悩んでいるようだ。

「サイトはキュルケに狙われているんでしょ? キュルケをしたっている男子に襲われたときの対処にも役立つのじゃないかしら」

キュルケをだしにするのか。

「そうね。彼女の剣もつきかえしてやるついでに、メイジと練習をすれば、狙われる機会は少なくなるわね。いいわよ。サイト、訓練しなさい」

俺の衛兵時間が無くなるなぁ。はぁ。

「バッカスも、もう使い魔として授業にでなくても良い時期だから、衛兵の時間は授業の時間帯をメインに変えてもらったらどう?」

「そんな時期だっけ? すっかり忘れていたな。もう一回、衛兵のローテーションを相談しなきゃならないけれど、訓練の時間は原則、授業後に3時間程度と考えて良いかな?」

「そんな、細かいことは、あとできめれば良いわ。それでいいわよね? ルイズ」

「ええ、かまわないわ。ステファニー」

ルイズはステファニーにのせられた格好だな。


*****
『ウィーター・ウィップ』は『烈風の騎士姫』ででていた魔法です。

2010.05.16:初出



[18624] 第11話 鳴かぬなら鳴かせてみせよう
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/27 12:56
ルイズからサイトとの訓練の言質をとった晩のステファニーの部屋では、ひさしぶりというか1週間ぶりにステファニーのワインを飲ませてもらった。かわりに俺がもってきたワインも飲んでみてもらったけれど「やっぱり飲まないわ」とそっけないものだったな。

衛兵の仕事は、夜警の曜日はかわらずに普段の時間帯が午前の授業開始から午後の授業終了までということになった。詰所には夜警で教師はくるらしいが「自由になれなくて邪魔なんだけどな」なんてぼやきもきこえてくる。しかし、フーケにおそわれたのだから仕方が無いだろうな。
昼食の時間は、日によって変わるが、生徒や教師の昼休みの前か後にとるというところだ。メイドと一緒に食事ができるらしい。少しはメイドたちとも仲良くできるかな。ああ、そういえばメイドで黒髪のシエスタには近づくなと言われていたな。夕食後のいつもの時間、ステファニーの部屋へ入って、今晩教えてもらえるということを聞いてみる。

「なんで、今まで『ゼロの使い魔2』の本のことを教えてくれなかったのかな?」

「えーと、普通、こういうの出して、はいそうですね、って信じると思う?」

この本の材質から言って、この世界で作れないけれどな。ただ、この通りになるようにと1巻が見れないなら、やっぱりそう動いていたかわからないよな。特にマチルダお嬢様じゃなくて、ロングビルの動向に関してだけど、ワルド子爵の動向がはっきりしないなら、やはりフーケを捕まえたという形にはしないだろう。俺が行うとしたら、どこからか死体を持ってきて、これがフーケですとして、ロングビルに怪盗としては動かなくしてもらうことかな。まあ、そのあたりはステファニーには正直に話してみた。

「ええ、えげつないわね。けれどね。死体を生き返らせるという禁呪があるのよ」

「そういえば、噂で聞いたけれど、貴族派で死んだはずの貴族が生きていたとか言う噂があったな。所詮戦場で流れる与太話と思っていたけれど」

「多分、トリステイン王国では、そのようなことはしないと思うけれど、いまだ、その術がトリステイン王国に残っているかもしれないわ」

「それはそうとして、昨日の疑問点なんか教えてもらえると思ったのだけど」

「ええ。大丈夫よ。あなたが好きなだけ時間はつぶせるわよ」

そうにっこりと微笑むステファニーって、小悪魔的な笑いなんだよな。タンスの奥にしまってあったノートの塊の前に呼ばれて「これを読めばかなりのことがわかるわよ」と俺の目の前にあるノートの塊にめまいがしそうだ。中に書いてあったのは『ゼロの使い魔』という本のシリーズについての話と、それに対する見識等がかかれている。さらにそれの外伝だという本の内容についても書かれている。ステファニーの一部の日記もみせてくれたが、つぶさに『ゼロの使い魔』にでていたと言われる登場人物の観察日記になっているのには、暇つぶしが無いとはいっても凝り性だな。

これらを見ながら、そういえば、ステファニーが言っていたことを思い出す。

「もしかして、ルイズ達とそのうち紹介するかも、って言ってたと思うけれど、このようなことを考えていたの?」

「そうよ。この2巻の話が終わったところで、紹介しても良いかなと思ったのよね」

「それはどうして?」

「そうすれば、あなたも観察者になって、おかしな動きをしなくてすむと思ったからよ」

「ふーん」

「結果は、残念だったけれど、もともと運だめしみたいなところもあるから、どうしようもないわ」

「おや? 昨日までと違って、意外と楽天的だね」

「どこかでずれる可能性はあったし、もうずれちゃったからどうしようもないわよ。それよりもリカバリーよ」

「それで、まずは、俺にこれを読めと?」

「その通りよ。けれど、まずは全部を読む必要は無いわ。最低限抑えておかないといけないのは、ルイズとサイトの仲をある程度気にすることと、あとはアンリエッタ王女。それにこれから、多分戦争になるけれど、キュルケと、コルベール先生をくっつけること。それにタバサとシエスタね」

「キュルケとコルベール?」

「それを意識して、読んでみて。けれど、あらすじぐらい先に言っておいた方が良いかしら」

ざっくりとだが『ゼロの使い魔』と『タバサ外伝』の話を聞かせてもらった。レコン・キスタはえげつないが、ガリアとロマリアってさらに上を行ってるのか。俺はステファニーのノートを途中まで読んでみたが、タバサがガリア王家の人間ね。多分、最初にみせられていたら、この話は信じていないだろうな。王家の人間が、わざわざ、国外に留学しにきている上に、シュヴァリエになっているなんて信じられない。いや、不名誉印が何か関係しているのだろうか?
まあ続きは明日読ませてもらおう。ざっくりと読むにしても2,3日かかるだろうが、全部読み終わるのに、ステファニーの部屋だけだと何日かかるかな?
しかし、やっぱりステファニーは女性なんだな。本当に欲しいのは、戦闘記録の方とかそちらの名前なんだが、はっきりと残っていない。どうでもよさそうな、恋愛部分の記述が多く残っているのを読まされるとな。



翌日の授業後はサイトの訓練ということで、サイトの訓練メニューを考えるのは俺の仕事だ。このあたりは、ステファニーは「サイトの訓練については、バッカスにおまかせするわ」と俺にほうりなげてきた。ただ、先にアニエスという銃士隊隊長になる予定の剣の教え方のところがあったので、どうしようかと悩んだ。俺とこのアニエスの剣は、本質では一緒なのだが、実際の剣の扱いではまるっきり逆の使い方なんだよな。

サイトとの訓練は木剣を衛兵の詰所で借りることにすると、

「おい、ここでやっていかないのか?」

「最近まで傭兵をおこなっていた俺が、サイトにぼこられていたら、他の貴族のお坊ちゃま、お嬢様方になめられるだろう」

「そうか。まあ、がんばれや」

衛兵からは、笑われながら見送られたが、ぼこられるつもりは無いんだけどな。2つの木剣は俺が持って、サイトにはデルフリンガーを持たせて近くの森までランニングだ。先に俺が目的地についたので、そのまま『トルネード』で森の木々を折っていく。あとは『念力』で整地していくだけだ。

俺とアニエスとでは間合いを見るのは一緒だが、俺の剣での戦い方だが本来は奇襲だ。相手がメイジだと油断しているので、ひっかかるし、受けに回ると我流の俺では、受け方、避け方で差がでてしまう。
かといって、サイトに俺風の戦い方をさせた場合に、下段からの攻撃などは体力を余計に使うだろう。それにメイジ相手の戦いなら、ワルドみたいなメイジ相手で1体1の戦い方なら、サイトが待ちのタイプなら駄目だろうな。隙がなければ、隙をつくれか。とりあえず、最初に間合いを測る訓練で、そのあとは動き回りながらの剣の振り方の種類を少し覚えてもらうというのが、10日間ばかりの短期でのメニューだ。そういえば、ここについたところで、疑問に思ったのだが、

「サイト、そういえば、筋肉痛は無いのか?」

「ああ、そういえばでていない」

「ふーん。そのガンダールブのルーンにはそういう効果があるんだな」

昨日、即席でみてただけだが、疲労がでてくるまでおこなったから筋肉痛がでてくるかとおもったが、そうでないってことか。

「ガンダールブ?」

「その前にデルフリンガーを出してやってくれないか」

「まあ、いいけれど」

そういって、デルフリンガーをだしたところで、デルフリンガーに聞いてみる。

「デルフリンガー。ガンダールブって覚えているか?」

「聞いたような気もするが、覚えていねぇ」

「お前にとって、サイトは使い手なのだろう?」

「おお。新しい相棒だ。けれど、なんか懐かしい気がするな」

「まあ。考えておいてくれ」

そこで、サイトは話してくる。

「なんで俺より先に剣と話しているの?」

「ああ。この剣が、ガンダールブのことを覚えていたら、この擬態もとけるんじゃないかと思ってね」

「ふーん。このサビサビって、本当に偽物?」

「まあ、それも使っているうちに、ガンダールブだとわかったら、きちんと本来の形状に戻るんじゃないかな」

「それで、ガンダールブって?」

「始祖ブリミルにつかえていた使い魔の一人だって聞いた」

「うん?」

「デルフリンガーって、ガンダールブに使われていた剣と同じ名前らしいんだ。俺の主人であるステファニーの家は古い家らしくて、そのあたりの情報も残っているんだってさ」

まあ、これは、ステファニーから使った方がよいといわれている言葉だ。

「へえ。そんな古い剣なのか。本当にサビなんじゃないのか?」

「本物のサビかもしれないが、普通の魔法に耐えられる剣は少ないからこれでもよいかもしれない。しかしそれよりも、基礎体力だ。まずここでは腕立て伏せからな」

それに腹筋と背筋を、俺もサイトと同じ時間だけ、回数なら2,3倍してから、続けて剣の稽古に入る。

「間合いは、足を見れば良い。ただ、それぞれの相手が攻撃してくる間合いは異なるから、それをこれから身体で覚えてもらう」

即席なので、俺が軽くふって、サイトが受けようとしたら、剣筋を途中で変化させる。避けるようだったり、間合いが近ければ、やはり剣筋を変化をさせる。そのタイミングで、軽くサイトに当てていき、身体に覚えさせる。逆の時はサイトの普段の剣なら、単純すぎて、すべて避けて、踏み込んで軽く当てる。これを30分づつおこなってから、学院前までランニングで戻り、最後にデルフリンガーを使っての素振りだ。

もし、明日も筋肉痛とかでてこないなら、筋肉に影響を与えているのだろう。そうすれば、少しでも筋力をあげておくことができるだろうし、即席コースでの難易度もどんどんあげていくつもりだ。



数日間、訓練していると、サイトの伸びをはっきりと感じられる。筋肉痛がおこらないというのは、ガンダールブの特性なのだろう。ステファニーの記憶で書かれていた1年もたたないうちに、生身でもトップクラスの剣士に育ったのがよくわかる。ただ、心の震えがたりないのか、デルフリンガーの擬態がとれない。どうしたものかと悩んでいたが、ステファニーからとんでもない提案があった。うーん。どうしたものやら。

この魔法学院にあの”白炎”がくるのか。いまだ、あいつからは逃げられるとしても、勝てる気はしない。けど、ここのコルベールがね……とも思ったが、最初にあった使い魔召喚では、確かにあの隙の無さは、尋常ではないだろう。しかし、色々なことが本当におこるのだな。これを、個人でどうしろというんだ。やはりルイズの虚無とサイトが使い魔というコンビが鍵なんだろうか。

そうこうしているうちにサイトの剣の腕前は上達しているが、まだ剣の腕は俺の上にいっていないうちにアンリエッタ姫が魔法学院にやってきた。しかし、あの話にロングビルがのるとは思わなかったな。いまだレコン・キスタとつながっているか不明なワルド子爵だが、一発勝負だ。ワルド子爵は明日の対応でわかるな。

俺が夕食後にステファニーへ「どうやって、リカバリーするつもりなんだ?」と聞いたら、思いがけない答えがかえってきたのを思い出した。

「アンリエッタ王女が信頼できる相手は少ないのだから、その信頼できる相手が手柄をたてたことを伝えればいいのよ」

「それって『破壊の杖』をとりもどしたことか?」

「過程はどうあれ、フーケから初めて盗まれたものを取り戻して、精霊勲章授与の申請がされたわけでしょ?」

「たしかに」

「だから私がアンリエッタ王女の女官に『ラ・ヴァリエール公爵家のルイズ・フランソワーズがフーケから『破壊の杖』を取り戻しました件で具申したく』って手紙を渡すのよ」

「そういえば、今回は、アンリエッタ王女の生徒との謁見て生徒の人数が限られていたのに、ルイズとはあっていなかったんだよな?」

「私もあえなかったけれど、落ちぶれているとはいえ水の名門であるモンモランシ家の娘で、ラ・ヴァリエール公爵家の名前が表面に書かれた手紙を、女官が勝手に見せないと判断するわけにもいかないでしょう」

「マザリーニ枢機卿に持っていくという線は?」

「無くはないけれど、最終的にはアンリエッタ王女へ渡すことになると思うわ」

そうして日もくれて、アンリエッタ王女がルイズの部屋に入っていった。俺はステファニーと一緒に、ルイズの部屋を鍵穴から覗いているギーシュの後ろに立つことにした。


*****

2010.05.20:初出



[18624] 第12話 覚醒とラ・ロシェール
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/27 15:52
アンリエッタ王女がルイズの部屋へ入って行った翌朝。朝もやの中、ルイズとギーシュとサイトがあった早々の開口一番。

「あんた、なぜ金髪なの?」

「ああ、もともと金髪だったのを、銀髪にしていただけですよ。それに傭兵の時はこの銀髪で貴族派にいました。今回行く王党派の中に、貴族派にいた傭兵の顔を覚えている者はいないと思いますが、ステファニーに元の髪の毛に戻した方が良いと言われましてね」

実際、王党派よりも、貴族派の傭兵の方が俺の顔を覚えている人間も多いだろうが、5万人もいるそうだから、会うことはほとんど無いだろう。しかし”白炎”だけにはあいたくないな。そう思いながらも俺を含めて馬に鞍を付けていく。俺の服装は、傭兵時代に着ていたものだが、ステファニーは魔法学院の制服のままだ。一応ブーツも新しく購入していたが「足は大丈夫かしら」とちょっとばかり心配していた。

ギーシュが「使い魔をつれていきたい」と言って、ヴェルダンデと名づけられたジャイアントモールを紹介される。

「わたしたち、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物なんて連れていくなんて、ダメよ」

ルイズはそう言うのも普通だよな。サイトは、アルビオンと地面を進む生き物を連れて行けない意味を理解できていないようだ。そのうちにヴェルダンデがルイズに擦り寄って、押し倒していた。俺はステファニーに「とりあえず、ほっておいて大丈夫なんだよな?」と小声で聞く。

「あの水のルビーの臭いを嗅ぎおわって、30秒たってもヴェルダンデが吹き飛ばされないようなら介入して」

「わかった」

ヴェルダンデの下で暴れていたルイズへ助けが入る。ヴェルダンデを吹き飛ばすだけで、それほど強い衝撃も与えていないほどに精密な制御をしている一陣の風。朝もやの中からは、一人の長身の貴族が現われ挨拶をしてきた。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね」

そう。ワルド子爵が現れてきた。続けてワルド子爵は、ルイズをまるで子どものように抱え上げているのだが、ルイズは子ども扱いされていることに気がつかずに、頬を染めているようようだ。ルイズがワルド子爵へ俺たちの紹介をしている。人間の使い魔が二人というのは、さすがに珍しいのだろうが。

「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったよ」

ワルド子爵は気さくな感じでサイトの方に近寄る。

「ぼくの婚約者がお世話になっているよ」

「そりゃどうも」

サイトはワルド子爵に敗北感を覚えているようだな。

ワルド子爵が口笛を吹いたので、ステファニーの方を向いて見ると『作戦は失敗』のサインをおくってきている。ワルド子爵にも手紙を送ったのだが、アンリエッタ王女のようにはいかなかったようだ。昨晩のアンリエッタ王女とステファニーとのやりとりを見ていたら、ステファニーが送った手紙を見てからルイズの部屋へ行ったようだ。何もしなかったら、やはりズレが大きくなっていたのであろう。

この間にグリフォンがくるのであろう。しかし、ステファニーはその時間を使ってワルド子爵に近寄って手紙を渡そうとする。

「ワルド子爵様。『聖地』のことについてご興味がありと聞き及んでおります。少しは参考になるでしょうか」

ワルド子爵の顔色がさっとかわる。

「あと、姫殿下より同行を申し付けられたと申されていましたが、マザリーニ枢機卿にお断りはされなくてもよろしいのですか?」

たしか、マザリーニ枢機卿へ報告しておかないと脱走扱いになるんだよな。脱走は死罪だと聞いているのと、この時点で変化に対する修正を行える人材がほしいというのがステファニーから聞いている。

「僕としたことが、失念していたようだ。そうだね……まずは僕の『風の偏在』を君たちの警護につけて、ラ・ロシェールの港町で僕と合流するようにしよう」

本体がこないのか。少々予想がはずれているな。

「ええ、よろしければ、その手紙の中も読んでいただけますとうれしいですわ」

「気がつかせてくれてありがとう。そのうち何かお礼でも」

「そうですね。作戦終了後に、魔法衛士隊の隊員の方をご紹介していただけますと、うれしいですわ」

ステファニーも、一応は上流貴族の妻の座は諦めていなかったのね。

「約束しよう。それでは『風の偏在』をだそう」

結局はワルド子爵の『風の偏在』も馬で行くことになり、ルイズと併走していくが『風の偏在』からルイズに対しての言葉はそれほど多くはなさそうだ。本体ならなんとかなるのだろうが『風の偏在』になる場を見たから、本人と同じ思考をしているのがわかっていてもルイズも本心まで話しづらいのだろう。サイトはそこまでやきもきしていないようだ。その横でギーシュが併走している。ステファニーからギーシュには「私によってきたら姉に言うわよ」ということで、俺はステファニーの横を併走している形だ。

『スヴェル』の月夜の関係で、急ぐ必要は無く途中昼食をとったが、キュルケとタバサがこない。あまり得意じゃないのだが『遠見』の魔法で後ろを確認してみたが、風竜らしきものはみつけられなかったんだよな。

「やっぱり少しやりとりしていたから時間がずれちゃったのかしら」

キュルケとタバサがこなければ、ステファニーにとって、作戦が変わってくるので重要事項だ。夕刻には次の街へついたが、宿をとったあと、いつものサイトがおこなっている訓練の代わりに、ワルド子爵の『風の偏在』にお願いをしてみた。

「このサイトですが剣をもって1ヶ月弱。本格的に訓練をしだして腕前がぐんぐんとあがっているのがわかります。ドットメイジがつくりだした7体の青銅ゴーレムを正面から切れる実力があります。できましたら、一度腕をみてやってもらえないですか?」

「ほお。興味深い話だが、今は護衛なんだがな」

「トップクラスのメイジであるグリフォン隊隊長との訓練の経験ができれば、サイトが使い魔として、ルイズをまもるのに良いと思うのですが」

今、本体と話あうことができない『風の偏在』はこまっているのだろう。

「10分間で、魔法も今朝のヴェルダンデに扱ったようにしていただければ、ケガもしませんし、サイトの良いところは、筋肉痛をおこさないところなんですよね」

「それならよかろう。確か近くに決闘ができる場所があったはずだから、そういう訓練も可能だろう」

ルイズの方には、ステファニーが

「相手はワルド子爵本人じゃないんだから、サイトを応援してあげたら」

とフォローをしている。俺は俺でサイトに

「ワルド子爵が婚約者といっても、親同士の酒の席できまった話らしいから、それほど本気にしなくてもよいらしいぞ」

と言っておく。

「それに、もし、ここで良い格好を見せれば、今よりもルイズの興味を引くチャンスだぞ」

「あんなやつ、好きでも何でもねえや」

「うん? 俺は好きだなんて言ってないぞ。ばればれだけどな」

「そんなにわかりやすいか?」

「ルイズ本人は気がついていないんじゃないか」

そんな小声でのやりとりをしているうちに、昔は決闘によく使われていたという広場で、サイトと『風の偏在』の訓練が行われることになった。サイトとデルフリンガーには

「たしかガンダールブの強さは心の震えできまると聞いている。自分の心に忠実に動いてみるんだな」

ルイズは形だけのようにも見えるが、サイトの応援をしている。

最初の方は、魔法もつかわずに遊ぶ調子でいた『風の偏在』だが、サイトの左手のルーンの明るさが強くなるとともに動きがはやくなってきた。そうすると『風の偏在』も軽めの『ウインド・ブレイク』などを使い出してきて、サイトも軽く飛ばされることもあるが、再度立ち上がっていく。
もうあと残り1分ぐらいというところだが、ルイズやステファニーでは、体さばきはさえ追えていないように見える。剣さばきになると俺はかろうじて見えるが、多分身体がおいつかない速度になってきている。その中でデルフリンガーが叫びだす。

「思い出した!」

「なんだよてめえ、こんなときに!」

「そうか……ガンダールブか!」

「なんだよ!」

「いやぁ、俺は昔、お前に握られていた。たしかに六千年前も昔の話だ。忘れていた」

『風の偏在』も体勢はそのままにしているが興味ぶかげに聞いている。

「いやぁ、懐かしい気がしていたが、そうか。相棒、あの『ガンダールブ』か!」

「いい加減にしろ!」

「嬉しいねえ! そうこなくちゃいけねえ! 俺もこんな格好しなくても良いんだな」

デルフリンガーの刀身が光り出して、研がれたばかりかのように光り輝いていた。まわりはデルフリンガーを注目していたが、俺は10分を超えたことに気がついたので

「訓練の時間はすぎました」

と伝えた。ステファニーも俺も、デルフリンガーの真の性能をワルド子爵に知らせたくはなかったので良いチャンスだ。途中でデルフリンガーの擬態がとけるか、それとも擬態はとけないままという線もあったが、その時は、木の上作戦だったな。問題は、ワルド子爵本人がどう動くかだな。

「そんな時間になったのか。僕も思っていたよりも楽しめたよ。使い魔くん。また機会があったら……」

「機会があったら?」

「いや、気にしないでくれ」

このワルド子爵の『風の偏在』は自分が『風の偏在』であることを忘れていたのかな?

宿では無難にルイズとステファニー、ワルド子爵とギーシュ、サイトと俺という風な割り振りで部屋がとれた。夕食は昼食とちがって、先ほどの剣の訓練や明日のラ・ロシェール、それにアルビオンの話でけっこうもりあがっている。ステファニーが軽くって言ってても、いつもの通りに一本飲む気でいやがる。たしかに貴族向きの宿でワインの質も良いし、宿泊費はルイズ持ちだからな。
俺は一応護衛なので、アルコールはテーブルワインを一杯飲んだだけで、他は飲んでいない。ワルド子爵の『風の偏在』は普通に食事をとっているな。こうやってみると、本当に普通の人間とどう違うのかさっぱりわからない。

翌日も少々早めの時間に出発したが、ラ・ロシェールの港町には昼食の時間帯を過ぎた頃についた。そこにワルド子爵本人はいたが、キュルケとタバサがいない。ステファニーのちょっとした計算違いか? 俺は学院の衛兵にアルビオンへ一旦行く用事があるからと、休暇をとってある。ステファニーによれば

「キュルケならそれで気がつきそうなものだけどね」

と言ってたが、そこまでうまくいかなかったか。サイトの訓練での最後のデルフリンガーの素振りには、サラマンダーがほとんど毎日きていたんだけど。昼食をとりつつ、ワルド子爵本人と『風の偏在』は離れた席で打ち合わせをしている。俺たち5人は別な席で食事をしているとサイトは

「本当に山の上が港なんだな」

と関心している。昼食後『風の偏在』は消えていた。
一応、『スヴェル』の月夜だから先に、ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』亭をとろうと思っていくと、見かけた風竜、いや韻竜であるシルフィードがいる。いつくるか分からないから、ルイズの性格を見越して『女神の杵』亭に宿をとっていたのか。ルイズはシルフィードに気がついていないのか、そのまま『女神の杵』亭に入っていく。まあ、ここでキュルケやタバサがいなかったのは幸い。タバサあたりは部屋に閉じこもって本を読んでいるか、キュルケにつれられて街のなかでも散策しているのだろう。

俺たちは1階の酒場で休憩しながら、ワルド子爵とルイズが『桟橋』へ乗船の交渉に行っていたが予測どおり、アルビオンに渡る船は明日の予定だ。多分、金をつめば、よりはやく出航する船もあるのだろうが、そういうのは見つけなかったようだ。

あとは夕食までにもどるということで、各自分散行動だが、俺はステファニーと散策と称して、ロングビルと約束している店に入って行った。店に入ると、いつもの緑色の髪の毛ではなく、灰色に染めている。

「ミス・ロングビル。首尾はどうですか?」

「予定通り」

「どんな格好でしたか?」

「例の貴族だけど黒マントに白仮面とはね。アルビオンの首都、ロンディ二ウムの酒場で会うことにしているさ」

そうかと思っているとステファニーがたずねる。

「私から言っておいてなんだけど、よく話にのってくれたわね」

「もうまもなく、国交が断絶されるかもという話だろう。裏ルートはあるけれど、高くてね。アルビオンでそれなりの給与がもらえるなら、それにこしたこともないし」

まあ、俺からモード大公の子どもは? と聞いておいたのもあるが、さすがに教えてくれなかった。ハーフエルフだとは、さすがには教えてくれたり会わせようとは思わないだろう。

「それで、予定通りということは、今晩の宿への襲撃の為に、傭兵を集める依頼をされたのよね?」

「その通りね。まあ、分散させるだけで良いとのことで、傭兵もそんなに多くはないけれどさ」

今まで王党派についていた傭兵なら、頭のめぐりは良くないだろう。腕はあるかもしれないがな。とりあえず、これで、ステファニーをアルビオンにつれていかない工作はできた。
あとは夜を待つだけだ。

『女神の杵』亭にもどっていくとキュルケとタバサにであった。タバサがパジャマ姿では無いな。やはり教室に行ってから気がついたとのことだ。ステファニーの読みどおり、詰所に俺の予定を聞いて、このラ・ロシェールで、全員とあえるだろうと確信していたそうだ。蛇足だが昨晩から泊まっているとも聞いた。夕食後、出航は明日ということから1階の酒場で飲んでいる。飲めるだけ飲んでいるのはキュルケと、ギーシュで、サイトは飲まされている感じだ。少しづつ飲んでいるのがルイズとワルド子爵で、タバサとステファニーと俺はアルコールをとっていない。俺はまわりに、この1階の酒場で、こういう宿で手誰の傭兵に襲撃されたときのコツを教えていきたいけれど、襲撃してくる傭兵の人数が少なさそうなのでよいか。

まわりでは話をしているところで、俺は襲ってくる予定の時刻を見計らっていた。しかし『桟橋』では嫌なことをされるんだよな。
なんでステファニーの計画ってうまくいかないんだ?


*****
ルイズの部屋でのアンリエッタ王女の会話はネタバレありなのでとばしています。
『マザリーニ枢機卿へ報告しておかないと脱走扱い』はオリ設定です。
『脱走は死罪』は『烈風の騎士姫』の設定です。

2010.05.25:初出



[18624] 第13話 ニューカッスル
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/27 15:57
『女神の杵』亭で、予定通りの時刻に、玄関から入ってきた傭兵の一隊を相手に応戦した。
一隊目がきたときに、応戦しながら床と一体化したテーブルの脚を折り、それを立てて盾にする。一隊目が来たときで射程を見極めたつもりなのか、こちらの魔法の射程圏外から矢を射掛けてきている。傭兵がメイジを相手する時の基本だな。外には巨大なゴーレムの石の足が見えているので、指揮はロングビルがとっているのだろう。

「こういう任務って、全員が行かなくても良いのよね?」

ステファニーは面倒くさげに言うが、それくらいきちんとお芝居してほしいのだがな。茶番劇だとわかっていても油断していると死ぬかもしれないってわかっていないのか?

「ああ。半数が目的地にたどり着ければ、成功とされる」

そんなステファニーの質問に、ワルド子爵が演技なのか答えてくれる。こんな時でも本を読みながら、魔法で応戦していたタバサが本を閉じて、キュルケ、ステファニー、ギーシュを指さして「囮」と呟く。
囮のメンバーはステファニー以外に目的も知らないし、ステファニーは”失敗”という二つ名だから、アルビオンに行くと足をひっぱると判断されたのだろう。

ちなみにステファニーは風系統の魔法の成功率があがってきている。使い魔召喚で風系統へ安定化しているのかもしれないらしい。

それはともかく「時間は?」ワルド子爵はタバサに聞くが、知っている人間から見ると本当に白々しいな。「今すぐ」とタバサは呟き

「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」

とワルド子爵が言う。裏口から桟橋に向かう中、しんがりは俺だ。丘の上にある巨大な樹である『桟橋』だ。ワルド子爵はもともと目をつけてあったのであろう船を見つけるため、階段についている鉄のプレートを読んでいるようだ。その階段をみつけたのであろう、階段を登り始める。俺は後を気にしながら階段を上っていると、後ろからの足音に気がついた。

「後ろから足音がする。追っ手だ!」

そう前方に忠告をしながら、後ろを振り返る。まだ、距離があるから『ライトニング・クラウド』は使えないだろう。俺は詠唱が短くすむ『マジック・ミサイル』を唱えて放ったが、相手はこの誘導性の魔法を単に『エア・ニードル』ではじきながら駆け上がってくる。魔法を切り替えたようで『エア・ニードル』が消えて、別の呪文を詠唱しはじめているが『ライトニング・クラウド』の詠唱だ。やっかいな魔法を使ってくる。しかし、その詠唱だけでも、固有のリズムがあるので聞きなれると誰かがわかってしまうんだけどな。

俺は『ウォーター・シールド』を唱えて、さらに後方に下がりながらも右手を前方に出して半身になる。左手にもったタクト状の杖をもって『ウォーター・シールド』の詠唱が完了したときには、すでに俺の身体の周辺はひんやりとした空気がくる。俺はさらに相手と俺の間に剣状の杖を突き刺し、手をはなして下がるが、相手は『ライトニング・クラウド』の魔法を使ってくる。魔法のこもった稲妻は『ウォーター・シールド』を突破するが、その魔法力を減らすのと、水に電気の一部が逃げる。さらに剣状の杖も導電性の金属でできているので、これだけで、通常の電気ならば防御は可能なのだが、あいにくと、ここは魔法の世界だ。導電性の金属だけではなくて、魔法の回路もつくられるらしく、そちらと一般の電気との属性のせいで、一部の稲妻は俺に届いてしまう。
前世での物理法則なんてこちらではあてにならないぞ。はっきりといって、うめきたい痛さだが、なんとか耐えれたようだ。ワルド子爵が空中から『エア・ハンマー』で、相手を吹き飛ばして、相手は気絶したのかしたふりなのか落下していった。相手は、ワルド子爵の『風の偏在』で、白い仮面をつけて、帽子をかえているだけだ。所見では、白い仮面が目について、それ以外は黒いマントのせいでわからないだろうな。

ワルド子爵からは

「見張られている可能性があるから、メイジであるバッカスを狙わせてもらう」

とはっきり言われていた。たまたまワルド子爵と二人きりになった瞬間に言われた。ステファニーのシナリオには、こんなのはなかったのに。『ライトニング・クラウド』をつかってくると教えてもらっていたから、対策をたててあったけど、思ったとおりに全部はさけられなかった。

しんがりはサイトに変わって、俺は剣状の杖を回収してから、自身の右腕に『治癒』をかけながら階段をかけあがった。階段をかけあがった先の出口は、枝が伸びていて、一艘の船が停泊している。船はワルド子爵が交渉して出航することになった。その就航間際になって、グリフォンも口笛で呼ばれて飛んできたが、グリフォンって預けていた場所から考えると、こんなに速くこないぞ。
ステファニーから聞いてはいたが、この世界の魔法生物を知っている人間から見たら、ワルド子爵も抜けているところがあるな。ルイズは気がついていないように見えるところから知らないのか、ワルド子爵を信用しきっているというところか。船のことはワルド子爵にまかせて、俺はもう少し『治癒』をかけて、魔法学院のそばでとった薬草から作った傷薬を、自分で塗ってから眠ることにした。



翌朝「アルビオンが見えたぞー!」との船員と思わしき大声で起こされた。まだ、右腕の傷は治りきっていないので『治癒』の魔法をかけなおす。サイトはポカンとして、アルビオンを眺めているが、俺もアルビオンからでたことはなかったので、この空中に浮いた状態を見るのは初めてだ。いずれ、あちこちの大地がこのようになるかも知れないとおもったら、そんなに楽しめるかというのもあるけれどな。

そして、ワルド子爵に時間配分などを頼んだのが良いのか、黒塗りの船がやってきた。多分、この時間帯なら、ウェールズ皇太子がのった船だろう。俺自身は、王家に恨みがないかというと、無いわけでは無いが、元々強くはなかった。この世界でエルフをかくまっていたならば、仕方が無いと思えてしまったのもある。マチルダお嬢様は本音のところではどうなんだろうなぁ。『ゼロの使い魔2』を呼んだ限りでは、かなり嫌そうだったが。



この空賊を装った王党派の船がきたときには、ワルド子爵の精神力もからっぽで、ルイズは魔法の制御ができない。サイトは、このような空中戦に向いていないし、俺ではさすがに、自分ひとり逃げるぐらいしかできないし、ここでからんでおかないといけないから残っている。しかし、ステファニーと離れると、きれいに話が収束していくな。本当に、俺はアルビオンにずっといようかなと思うぐらいだが、そうも言ってはいられない。

『ゼロの使い魔2』を信用するならば、空賊にばけた皇太子たちだ。特に空賊のかしらの指輪は、ルイズのはめている水のルビーと、色こそ違い形はにているから風のルビーだろう。空賊につかまったが、こいつらが、演技なのか本気なのかよくわからない。まあ、黒髪に黒い髭なんて、アルビオンでは珍しいから、カツラと付け髭なんだろうけれどな。杖と剣をそれぞれ取られて、船倉に閉じ込められたが、朝の食事がわりの軽い1皿スープを4人でわけた後、俺はおこなうことも無いので眠っていた。

俺は寝ていたところをたたき起こされたが、理由は「頭がお呼びだ」と痩せぎすな空賊の言葉だ。上品な言葉だから、貴族崩れだとしてもさほどたっていないのは確かだな。

船長室と思われるところで空族の頭と、ニヤニヤと笑っている空賊もどきたちがいる。俺はだまって、空賊とルイズたちのやり取りを聞いていたが、俺は知らなかったらサイトの言うとおりに貴族派だと言っていただろうな。そんなお芝居も終わって、空賊がカツラと眼帯に、髭もはがして、自己紹介をはじめる。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

俺の心境は、きわめて微妙だったかもしれない。自分の気持ちなんて案外わからないものだ。本人を目の前にすれば、もう少し動揺するかもと思っていたが、それほどでもなかった。そういえば、フーケもウェールズ皇太子の死体を見たときには感慨深げだったらしいからな。

ルイズが、ウェールズ皇太子であることを確認すると、ルイズの水のルビーとウェールズ皇太子の風のルビーの間で見事な虹の架け橋ができた。ステファニーがアンリエッタ王女へ水のルビーのことを聞いていたが、このことも知らなかったみたいだからな。知っていたら、先にルイズに教えていたかもしれないが「売り払って」とは言わないだろう。

ルイズが大使として、ウェールズ皇太子へ手紙を手渡し、ウェールズ皇太子はその手紙を真剣な顔で読んで、少しばかりこちらに確認をしていた。手紙を最後まで読み終わった様で、微笑みながら顔をあげてくる。

「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫からの手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」

ルイズは、任務が達成したかのように顔色を輝かしている。

「多少、面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」

ウェールズ皇太子は笑って言ってのける。

「今、手紙はニューカッスルの城にあるんだが、始祖のオルゴールは城にも無い。風のルビーは姫の手紙とともにお渡ししよう」

ここまで順調にくると、途中の苦労はなんだったのだろうかと思わされるなぁ。ニューカッスルには、アルビオンの下にもぐっていくのは『ゼロの使い魔2』で知っていたが、実際にもぐっていくのは感覚が違う。多分、貴族派につかざるをえなかった、一部の船長なんかは知っていてもだまっているんだろうな。視界がほとんど無いのに、きれいに地下からニューカッスルの城に入るのはたいしたものだ。『ディテクト・マジック』さえつかっていなかったようだ。

城についたら老メイジが

「明日の正午に、攻城を開始する旨、伝えて参りました」

と言ってくる。ワルド子爵も、それほど信用されてなさそうだな。そういえば、見張られているとか言っていたか。いまだ、右手のやけどがなおりきっていないせいで痛いぞ。

ウェールズ皇太子からは「手紙はあとで渡す」と言われていたので、先に部屋を案内される。たいした荷物も持ってきていないのだが、今回の任務で必要不可欠なものがあるからな。そして、俺たち一行は先ほどの老メイジに案内されて、ウェールズ皇太子の部屋へ通してもらった。魔法学院のステファニーの部屋よりも質素な部屋だな。さすがに、衛兵やメイドに割り当てられている部屋よりはよいが、そんなによさそうな部屋には見えない。ウェールズ皇太子からは、4通の手紙が各自に渡された。

「4通なのですか?」

とワルド子爵が問う。

「いや、元は1通だが、ここからの帰りを心配したようで、問題になりそうなところはさけて、たどり着いた人数の分にわけて、手紙を預けてほしいとね。この城の地下の出入りができることを知らなかったのであろうが、懸命な措置だ」

地下のことを知らなかったら、入るよりも出るほうが危険だろう。建前は誰か一人アンリエッタ王女のもとへ戻れれば良いのだが、実際は、ルイズを返すことがメインだ。それゆえに

「さあ、約束の通りに、この風のルビーもたくそう」

とルイズに風のルビーが手渡された。ルイズが何やら言いたげだが、ウェールズ皇太子が手紙のことを気にしていないように見えるので、亡命をすすめることができないのであろう。

「そろそろ、パーティの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい」

ルイズとサイトは、部屋の外へでて行ったが、ワルド子爵と俺は居残っている。ワルド子爵が一礼をしている。

「まだ、なにか御用がおありかな? 子爵殿」

「恐れながら、殿下にお願いしたいことがございます」

「なんなりとうかがおう」

そうして、ワルド子爵からでた言葉は、ウェールズ皇太子にとって意表をついたものであったのだろう。ワルド子爵と俺の共同作戦が開始した。



ウェールズ皇太子へのワルド子爵との共同作戦は功を奏して、城のホールでのパーティに参加している。傭兵姿の俺に対しても、最後の晩餐ということで明るく料理や、酒を勧めてきて、冗談まで言ってくる。見たところ下級貴族もまざっているようだから、俺が下級貴族のままでいて、父が生きたままだったら、王党派についていたのだろうか? そうは考えていてもおこなうことは、おこなうんだけどな。

ルイズがこの死へと確実に向かっている場でのパーティの雰囲気に耐え切れなくなったのか、外にでていった。俺はまよっているふうなサイトに「ルイズを一人にしない方が良い」とうながして、サイトもルイズの後を追っていった。

さて、明日は伝えられている通りに、正午に開戦するのか『ゼロの使い魔2』と同じように早めに開戦するのか。どうなるんだろうな。


*****
『ライトニング・クラウド』での稲妻の途中に金属があっても、稲妻の一部が相手に届くのはオリ設定です。

2010.05.28:初出



[18624] 第14話 レコン・キスタ
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/28 20:16
パーティの翌朝、『風の偏在』の護衛とともにルイズとサイトは『イーグル』号で去っていった。ワルド子爵と俺の建前は『王家を責めるのは大変である』ということを、知らしめることとなっていた。それによってトリステイン王国への侵攻をさせないようにするということにしている。ワルド子爵によれば『風の偏在』がだせる残り3体だけで、500人程度ならメイジではない傭兵を相手ができるそうだからな。トリステインへ帰るのはグリフォンで帰るとルイズ達を納得させていた。ワルド子爵曰く

「風の偏在は距離が離れるほど使える数が少なくなる」

というのも信頼に値する話だったのだろう。傭兵である俺は、金がアルビオン王家からでるということで、あっさりと信じられた。

ルイズとサイトの仲は『ゼロの使い魔2』ほど進展はしていなさそうだが、悪い方向にはむかっていないと思う。あとはステファニーの、腕のみせどころだ。あの気持ち悪くなるぐらい、恋愛情報をノートに書いてあるのを見ると、前世は恋愛小説マニアなのかなとも思うが、普通の女性ってそういうものなのだろうか?

ルイズたちを見送ったあとに、こみいった城の通路の脱出路の確認という名目でウェールズ皇太子に案内してもらっている。脱出路とは関係が無い礼拝堂で、俺はウェールズ皇太子の後ろにたち、指をパチッとならして、ウェールズ皇太子を通常状態に戻す。

「私は君と礼拝堂にいるのかね?」

ウェールズ皇太子は目の前にいるワルド子爵だけを見て、現状を認識していないのだろう。

「貴様の命だ。ウェールズ」

ワルド子爵は『エア・ニードル』で、ウェールズ皇太子の深々とえぐりだした。

「しかし、催眠術か。そのようなもので、人が操れるのだな」

「相手によりけりですよ。たまたま、ウェールズ皇太子がかかりやすかっただけですね」

平民の間では催眠術なるものもあるが、成功率はきわめて低い。実際のところ、俺の催眠術なんて、前世でのお遊びで覚えていたらしいがって、前世の記憶に欠落があって自信は無い。だから、この世界ではつかっていなかった。実際には他人に対して強制力をもたらす魔法である『ギアス』を使ったことだ。そう、昨日のワルド子爵との共同作戦は、この催眠術を試してみるというものだ。実際は『ギアス』なのだが。

本来ならメイジとして格上の相手には聞かないのだが、そこは水の名門であるモンモランシ家には、色々と水の魔法に関する秘伝が残っている。今回使ったのは、水の系統でも『ギアス』の力を強化する水石を使った方法だ。『ギアス』は禁呪に指定されているのだが、ステファニーが覚えていた。俺はそれを教えてもらっただけだ。それを気がつかせないための言い訳が催眠術だ。

『水の精霊の涙』と違い、水石は平民でも手に入る価格で出回っている。おかげで”白炎”の火から逃げ切った時に、普通の『治癒』では治せないやけどを水石で治療できたのだけどな。ワルド子爵にも同じ方法で『ギアス』ではなくて催眠術でウェールズ皇太子を操ったと思わせている。そうじゃなくては、ワルド子爵をいつ操れるかもなんて思われると、俺自身の命が危ない。『ギアス』の魔法が実際にその効果が現れた瞬間からしか『ディテクト・マジック』で検知できないから、この魔法をかけられたことをワルド子爵自身思いだすことは無いだろう。



そう、今回の俺の仕事は、ワルド子爵とともに、レコン・キスタの中心部への潜入だ。
ワルド子爵がのってきたのは、レコン・キスタが本当に『聖地』をねらっているならば良いが、そうでない可能性をしめしてやったことだろう。『聖地』奪還が本当ならばロマリア皇国が味方になってすすめると思われる。しかし『聖地』奪還が本音でなければロマリア皇国は逆にレコン・キスタにたいして『聖戦』をおこすだろう。そうステファニーからの手紙に書かれているのを事前に読ませてもらっている。時間稼ぎを思わせる手だが、祖国が負けたらレコン・キスタについていくのだろう。

俺がレコン・キスタの中心部に入るのは、ステファニーがレコン・キスタに味方をしたいが一介の魔法学院の生徒でしかないから。なので、自分の使い魔をかわりに送るので、トリステイン王国に進出してきたときには、一見うごかないモンモランシ家を攻めないでほしいというものであった。ラグドリアン湖の交渉役を下ろされていることに対して現王家に反感はあるが、クルデンホルフ大公国から借金付けの状態では動けないのを理由にしている。

俺はマチルダお嬢様を、このワルド子爵と仲が良くなるかもしれないのは気に食わない。しかし、俺じゃ、マチルダお嬢様の状態を救うのも無理だろうしな。ステファニーによれば、以前の俺もマチルダお嬢様に特別視されていたんじゃないか? といわれている。そういえば、他の下級貴族とあまりマチルダお嬢様は相手をしていなかったな。俺の前世が欠けていることに起因するのかもねとは、言われたが、昔のことだ。今はどうであろう。



ウェールズ皇太子を倒したところで、開戦した。ワルド子爵の『風の偏在』が昨晩入手したとおりの時間で、予告してきた正午よりはるかに早い時間だ。俺も貴族派の傭兵だったころ、相手を殲滅するときには、貴族派がこの手をつかっていたことを覚えている。ワルド子爵とともに、俺はグリファンにのって、城の外へ脱出した。

脱出の途中、城の入り口では地上戦で王党派が、がんばっているのは見て取れる。しかし、多勢に無勢。最終的には、王党派はなくなるだろうな。

「しかし、よくウェールズ皇太子を殺すような作戦をマザリーニ枢機卿が許可をくれたものですね」

「皇太子がいるかいないかによって士気へ影響はするが、こうやってぎりぎりの戦いの中で皇太子が見えなくなっても気にかける余裕は無いであろうとの判断だ」

「そうですか」

「それ以上も考えているのであろうが……ところで、モンモランシ家はどこまで本気なのだ?」

こっちの事情も内偵するつもりか。

「ステファニーの独断です。モンモランシ家の内情は知りませんよ」

「そういうことにしておいてやろう」

「本当なんですけどね。それよりも、この手紙の切れ端をここへ攻めている司令部に届けましょう」

「よく王家同士の手紙を切るなんてことを、あの姫殿下が決断したものだな」

「俺の入れ知恵です。敵に囲われている城に入れても、出るときは、殺されなかったとしても必ずつかまるとですね」

実際はステファニーに言われて、俺自身も気がついたんだけどな。だいたい、潜入なんて危険なことは普通の傭兵はしないし。

「それよりも、ミス・ロングビル……マチルダ様のところへむかいませんか?」

「良い提案だな。マチルダ・オブ・サウスゴータという名前とトライアングルというところから、クロムウェルは仲間にむかえたがっているようだ」

「俺は、マチルダ様の下につきますので」

「元はサウスゴータ家に仕えていた下級貴族なら、そちらが自然だろう。ミス・モンモランシーからの紹介というのにもあうしな」

「ええ、それではお願いします」

ワルド子爵と俺は、司令部によってから、マチルダお嬢様との約束の店であうために、アルビオン王国の首都ロンディウムに向かった。ワルド子爵とレコン・キスタにはマチルダお嬢様のことをフーケだとは知らせていない。これが、ただひとつステファニーに反抗したものだ。

ステファニーにも影響の大きさはわからないらしいが、実際のニューカッスルで、ルイズとワルド子爵が結婚してしまう可能性が残っていたので、その可能性を排除すると、トリステイン王国へ戻れる可能性がでてくるワルド子爵にたいして、フーケの名前でいるとマチルダお嬢様の行き場がなくなってしまう。単に王家に訳の分からないうちにつぶされた貴族の娘という立場でいてもらって、レコン・キスタで貴族にもどってレコン・キスタとなるものだ。サウスゴータでの女性領主になるかは不明だが、現状では少なくともそれなりの待遇が約束されているとのことだ。レコン・キスタの性質からいえば、一度貴族に復帰すれば、約束は反故されないであろうから、そこまでは慎重にいかないとな。俺自身はアルビオンで下級貴族にもどっても、今後のことを考えると自由に動ける傭兵のままの方がいい。どうせなら、何も知らないで、マチルダお嬢様付きの下級貴族にもどりたかったけれどな。

「そういえば『風の偏在』はどうしたのですか」

「本体が死んだふりをしてもらって消えたはずだ」

ルイズとサイトはどうしているだろうな。ステファニーは、このあたりを予測しているが、空中であえるのか、うまくいくのか何か心配だ。

ロンディウムの夜の街で久々に遊んだ翌晩ワルド子爵とともにマチルダお嬢様と再会した。灰色に染めていた髪から、緑色に戻していた時にはワルド子爵も一瞬驚いていた様子だが、食事をしながら話はすすむ。諸条件をつめるのはワルド子爵の役割で、マチルダお嬢様はワルド子爵の秘書のような立場になるようだ。俺はマチルダお嬢様の付き人的な立場だ。
ワルド子爵の下に付くのなら、ぎりぎりまで金はむしりとるつもりだったのだが、給金をもらう相手はマチルダお嬢様だからその店ではなくて、後ですることにする。マチルダお嬢様が泊まっていた部屋で相場よりも安めで交渉をしたが、

「前にも言ったけれど、モード大公の子どものことを心配しているなら、気にしなくて良いよ」

やはり、俺でもハーフエルフに会わす気には無いのだろう。まあ、会うと、色々と将来がやっかいな事になりそうだしな。

その翌日には、戦が終わったニューカッスル城に戻り、照りつける太陽の下、死体と瓦礫が入り混じる中、戦跡を検分しているワルド子爵のあとにマチルダお嬢様と俺が続いて歩いていく。特に受け答えもしないで、礼拝堂のあった場所までくると、ワルド子爵自ら『ウィンド』をとなえて、周りの瓦礫を飛び散らす。無事に遺体もつぶされずにいる。ワルド子爵がウェールズ皇太子えぐったあとに、まわりから影響のなさそうなところに移動していたもんな。

「あらら、懐かしのウェールズさまじゃないの」

一応、顔は覚えていたのだね。多少驚いた感じではあるが、そう感慨深げでもなさそうだ。遠くから俺たちに対して声がかけられた。

「子爵! ワルド君! ウェールズ皇太子はみつかったかね?」

多分、緑のロープを着ているのでクロムウェルなのだろう。

「はっ。ここに」

「子爵! きみは、敵軍の勇将を討ち取る働きをみせたのだよ。誇りたまえ! きみが倒したのだ! 彼はずいぶんと余を嫌っていたが……、こうして見ると不思議だ、妙な友情さえ感じるよ。ああ、そうだった。死んでしまえば、誰もがともだちだったな」

手紙の件については、すでにしらされているので問題はない。

「理想は一歩ずつ、着実に進むことにより達成される」

クロムウェルがマチルダお嬢様の方に向く。

「子爵。そこのきれいな女性を余に紹介してくれたまえ。未だ僧籍に身を置く余からは、女性に声をかけづらいからね」

「彼女は、取り潰されたサウスゴータ家のマチルダです。トライアングルでもありますし、貴族として戻れるのであれば『聖地』の奪回に協力することとなっております」

マチルダお嬢様にはこの地で安住してもらいたいが、マチルダお嬢様をみていると、ワルド子爵を気にいっているようにも見える。

「訳もわからずに取り潰されたとは悲惨でしたな。ミス・サウスゴータ」

「なぜ、そのことを?」

「余はアルビオンの全ての貴族を知っておる。系図、紋章、土地の所有権……、管区を預かる司教時代にすべて諳んじた」

上流貴族のことは覚えていそうだが、さすがに下級貴族のことは覚えていないのだろう。

「おお、ご挨拶が遅れたね。『レコン・キスタ』総司令官を務めさせていただいておる、オリヴァー・クロムウェルだ。元はこの通り、一介の司教に過ぎぬ。しかしながら貴族議会の投票により、総司令官に任じられたからには、微力を尽くさねばならぬ。始祖ブリミルに使える聖職者でありながら、『余』などという言葉を使うのは許してくれたまえよ? 微力の行使には信用と権威が必要なのだ」

「閣下はすでに、ただの総司令官ではありません。今ではアルビオンの……」

「皇帝だ、子爵」

今の段階ならミュズニルトンの傀儡であることを知っていても、ガリアに操られていることは知らないかもしれないけれどな。

「ハルケギニアは我々、選ばれた貴族たちによって『結束』し、聖地をあの忌まわしきエルフどもから取り返す! それが始祖ブリミルより余に与えられし使命なのだ! その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ」

マチルダお嬢様には「クロムウェルにはなんらかの力があります」とは伝えてある。

「閣下、始祖が閣下にお与えになった力とはなんでございましょう? よければ、お聞かせ願えませんこと」

「魔法の四大系統はご存知かね? ミス・サウスゴータ」

聞かれるまでもなく、子どもでも知っていることだ。マチルダお嬢様は頷く。

「その四大系統に加え、魔法にはもう一つの系統が存在する。始祖ブリミルが用いし、零番目の系統だ。真実、根源、万物の素となる系統だ」

「零番目の系統……、虚無?」

マチルダお嬢様の顔が青ざめている。『聖地』奪回が本気なのか、それともティファニアのことが心配なのだろうか。

「では、ミス・サウスゴータ。貴女に『虚無』の系統をお見せしよう」

クロムウェルが低い、小さな詠唱を唱えている。しかも、リズム感がおかしい。この『虚無』と称している魔法の実体が、アンドバリの指輪だと知らなければ、気にしなかったかもしれない。ワルド子爵は、本当に『虚無』だとおもっているのだろうか? それとも水の系統に属するものだと思っているのだろうか? 魔法が完成したようにクロムウェルが杖を振り下ろす。ウェールズ皇太子の青白かった顔色が見る見ると生気を取り戻して立ち上がった。クロムウェルとウェールズ皇太子が話し合って、ここをさる間際にこちらへ言っていく。

「トリステインは、なんとしてでも余の版図に加えねばならぬ。あの王室には『始祖の祈祷書』が眠っておるからな。聖地に赴く際には、是非とも携えたいものだ」

そのあと今の蘇りについてワルド子爵と、まだ顔色が悪いマチルダお嬢様の会話が続いたがワルド子爵の最後にひとこと。

「きっと聖地にその答えが眠っていると、俺は思うのだよ」

今のワルド子爵とマチルダお嬢様の会話だけを、きいていると『聖地』にこだわっているのは、母殺しだけには聞こえないのだけどな。

このあとって、1箇月の間にマチルダお嬢様は『水』を3日間もかけ続けるほどワルド子爵との間が縮まるんだろうか。
俺がうごいても、そこまでくっつけさせる自信なんて無いぞ。


*****
『ギアス』は『ゼロ魔外伝 タバサの冒険2』ででてくる魔法です。
催眠術がこの世界にあるのと、水石を使った魔法力の強化はオリ設定です。

2010.05.30:初出



[18624] 第15話 タルブ草原まで
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/28 20:16
うまくレコン・キスタの中に入ったが、次の作戦までは、政治家なのか政治屋なのかはわからないが大忙しらしい。ワルド子爵はワルド子爵でひっそりとしているつもりかと思っていたら、各軍隊の訓練を見学しにいっている。

こんちくしょう。ステファニーの情報があてにならないじゃないか。

ワルド子爵は『レキシントン』号の偽装がある程度完了するまでは、暇にしているのじゃないかと推測していたのだがな。レコン・キスタへ自分から入り込んだのと、トリステイン王国に戻る可能性があるかもということで、ここまで対応が違うのか。ステファニーと連絡をとろうとして手紙のやりとりをしているが、中間で見られている。見られても大丈夫なんだけどね。日本語で手紙のやりとりをすることになっているから。それを翻訳しても、まずは大丈夫。なにせ、頭文字の立て読みとかいう方法で情報を伝達することにしている。情報量が極端に減るのは難点だが、サイトにもこの方法なら見られても気がつかないんじゃないのかなということだ。しかし、一行詩を翻訳して話すのがはずかしいな。

ワルド子爵は忙しいらしいが、マチルダお嬢様と俺は、昼間が暇だった。マチルダお嬢様は、サウスゴータの領地の太守となることにきまったが、そこへ貴族として戻るのは、1箇月以上あととのこと。実際にそれのための園遊会などはトリステイン王国への侵攻後になるとのことで、今はまだ公布されていない。トリステイン王国へ侵攻する準備に忙しいんだろうな。

夜は、ワルド子爵とマチルダお嬢様と俺で食事をすることが多いが、俺は途中で抜け出す。これぐらいで、くっつくのかわからないが、マチルダお嬢様がワルド子爵を気にかけているのはわかる。ワルド子爵の方はよくわからない。上流貴族相手なら単純なお遊びにはならないと思うけれどな。そんな食事の何気ない会話の中でワルド子爵が尋ねてくる。

「そういえばバッカスくんは、なぜ、この地に残っているのかね?」

「俺は、アルビオンの出身ですから、この国の土地勘もありますからね。それにステファニーの実家には面白い言い伝えが残っているそうです。『空から舞い降りる恐怖の大王が、我が地を滅ぼさんとした時、虚無の小さき太陽が恐怖の大王を滅ぼすであろう』。ステファニーは今回の状況が似ているので、それをある程度は信じているそうですが、やはり確証がほしいのでしょうね。それがはずれたら、トリステイン王国がどうなるかを考えているんじゃないんですか」

「本当にミス・モンモランシーだけの考えなのか?」

ステファニーの父はあいかわらず、ワルド子爵に疑われているな。まあ、普通の上級貴族の娘が考えるような方法ではないだろう。

「ステファニーの父は、あの気難しいとされるラグドリアン湖の水の精霊を怒らせるような人ということで、父親にも相談できていないそうです」

モンモランシ家は、どちらかというと戦争になっても、水の名門ということはあるので、最前線よりは治癒を行う部隊か、補給部隊の方にいることになるんじゃないかとの予想らしいけれどな。

「ワルド子爵は各軍隊を見てまわっているようですが、どのようなものですか?」

「まずは、空軍の船だが、まともな方法では勝ち目が薄いな。トリステインなら竜騎士連隊が船の真上から突撃するように攻撃をしかけるのがベストなんだろうが」

「何か問題でも?」

「こちらの火竜の竜騎兵隊が問題だな。ブレスの力が違うから風竜の速度を生かして上空から攻撃をしかければ、勝てるはずなんだが」

「それで、トリステインの竜騎士連隊にそのようなことを行う者はいそうですか?」

「そう期待したいところだが、最近、戦争にでかけていない竜騎士連隊がそのように動いてくれるかはなぁ」

「アルビオンの内情を知っても、トリステインに知らせるすべが無いといったところですか?」

「そうでもないんだが、今のところは聖戦なんてばかげたことになる可能性は確かに高そうだ」

「トリステインにいるはずの虚無だよりですね」

「そういうことになるかな」

ワルド子爵はアルビオンがトリステインを攻めることにたいして積極的に回避する手段を思いつかないらしい。マザリーニ枢機卿からどのような策をさずけられたのか不明だが、多分、なんらかの作戦をさずかっているのだろう。そういえば、俺は自由に動けないが、ワルド子爵ならできることがあったな。あれはどうなったのだろうか。まあ、まずは目の前のことを片付けることだ。ワルド子爵も一通り軍隊の訓練をみてまわったのか、俺の練習相手をしてくれることになった。サイトの師匠であることや、ラ・ロシェールの『桟橋』で垣間見せた裏技で興味をもたれたのかな? 俺の傭兵としての実力は一流とはいえないが、普通だと考えられない奇策を用いても、ワルド子爵は崩れるということが無い。真面目に相手をされると、さすがはトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長までのぼりつめただけはある。

このワルド子爵なら”白炎”の秘密を知れば、勝てるだろう。そんなシーンがこないことをいのっている俺がいた。



ワルド子爵との訓練を繰り返していると、暇そうにしていたマチルダお嬢様が3日間あまりでかけてくると、言ってきえていた。ティファニアのところにでも様子を見にいったのだろう。男同士の訓練なんてみていてもおもしろくないからな。

しかし、上流貴族を部下にもっていたせいなのか、ワルド子爵は俺に対しても表面的には厳しい姿勢をみせるが訓練の中でも丁寧に教えてくれる。軍杖と剣状の杖との差があって、俺自身の剣の実力はわずかしか上がらなかったようだが、剣を使いながらの魔法の使い方は格段に上がった気がする。相手がワルド子爵だけだと、本当にあがったのか怪しいところはあるが、ワルド子爵も言ってくれている。わざわざ嘘を言うこともないだろうから本当にあがっているのだろう。丁度魔力の成長期に入ったのかな? 人によって、おそかったりはやかったり、長かったり、短かったりするからな。

俺の場合は、使い魔召喚の儀式か。

タバサ外伝の話を信じるならば、虚無に呼ばれた者以外は、あまり、召喚者にこだわりをもたないようだが、俺の場合はどちらなのだろうか。ステファニーからは

「傭兵やっているのと、衛兵とどちらが良かった」

といわれたが、安全性を普通に考えたら衛兵だが、あの”白炎”がくるなら、さけたいところだよな。そうしているうちに、今度はワルド子爵がクロムウェルにつきそって、ロサイスに行くことになった。俺はひとり、マチルダお嬢様が戻ってくるのを待ちながら、日課となっている訓練を続ける。マチルダお嬢様が戻ってくると、今度は作戦会議だとかということで、俺も付き人としてついていったが、会議は上級貴族だけでおこなわれて、俺はその会議の中には入れなかった。マチルダお嬢様ならティファニア関係以外のことなら教えてくれるだろう。会議からの帰りがてらに聞いてみる。

「そういえば、作戦会議の内容はどうでしたか?」

「ほとほと、レコン・キスタというのには愛想がつきるね」

「何か、不名誉なことでも?」

「そうよ。ゲルマニアとトリステインの婚姻を狙って、その招待の時に襲撃をかけるということさ。まったく、貴族としてあるまじき行為だよ」

「けれど、それには直接参加されないんですよね?」

「わたしは、トリステインの地理に不案内なアルビオン軍のために、斥候隊として派遣される。ステファニーって小娘の予測通りかい。バッカスもくるんだったよね」

「ええ」

予測というか、ステファニーが記録していた原作の流れに近づいている。ステファニーが『バタフライ効果』と『未来からの修正力』とか言っていたが、今は修正力が強いようだ。
ステファニーの考えだと、原作の未来を知っていること自体が、修正力として働いているのではと推論しているのだが、同時に微妙なバタフライ効果も及ぼしているらしい。聞いてみたが、俺の頭ではよくわからなかった。とりあえずは、タルブの一戦をなんとかなれば、ある程度はなんとかなりそうとの目論見らしいのだが、今のマチルダお嬢様とワルド子爵を見ていると、そこまで気楽にステファニーの読んだ本の通りに動くのか不安だ。夜にはワルド子爵も戻ってきて、久しぶりに3人で夕食をともにする。

「ワルド子爵は、どうされることになったのですか?」

「ああ、竜騎兵隊を指揮することになってな。兵として動かされるかと思っていたが、指揮まで取らされるとは思わなかった」

「そういえば『結束』でしたっけ? それなんですかね」

「それもあるだろうが、アルビオンの内戦で人材が減っているのが原因なんだろうな」

「だと、するとトリステインにも勝ち目はあるのですか?」

「普通に考えると無理だろう」

「普通でないとすると、烈風カリンですか?」

ワルドの顔が青ざめていく。

「いや、カリン様は多分動かない。ゲルマニアが完全に信頼できるまでは動かないだろう」

「ゲルマニア?」

「その件については話したくない」

もしかして、ワルド子爵がトリステイン王国をぬけだそうとした動機のひとつってルイズの母である烈風カリンことカリーヌのせいか?

「それよりも、この一戦で体制はきまるが、もうマザリーニ枢機卿に伝える時間も無い。トリステインが勝った場合には、連絡手段はなくなる。魔法学院に戻るのであれば悪いがこの手紙をマザリーニ枢機卿へ渡るように手配してくれ。オスマン学院長にでも渡せばだいじょうぶであろう」

「ええ、了解いたしました。この戦いで勝っても負けても、一旦はステファニーのところにもどることにしていますから」

「また、知り合いがひとり少なくなるのかい。さびしいね」

「マチルダ様。いましばらくの辛抱です。2年以内にはマチルダ様のもとにもどってこれると思います」

ステファニーは俺を長期に面倒を見る気が無いらしい。逆に見てもらう気はあるかもしれないところが頭の痛いところだ。それでも、ワルド子爵の紹介をしてもらおうとしたり、原作ではでていなかったが、メイドを自由にしているモット伯爵と結婚とかも考えているらしいから、完全に上級貴族の生活を諦めているわけでも無いらしい。最近聞いた話では、エレオノールの婚約解消する予定のバーガンディ伯爵あたりとか、アンリエッタ王女が結婚相手のリストにのっていた人間でもいいかななんていいだしている。”失敗”の二つ名がある限り限度はあるだろうけれど、まあ、それでもかまわないという貴族はいるのだろう。主に地方の貧乏貴族らしいので、それなら裕福な平民と結婚でもというのがステファニーの考えらしい。どこまで本気かわからないのだが。

そして俺は、マチルダお嬢様の下で斥候隊に配属されて、タルブの一戦を迎えることになる。アルビオン王国空軍の船はほぼ無傷で、さらに3000人の地上兵士がおりてきた。さすがに、トリステインみたいに貴族の割合が1割なんて非常識な数では無いが、内戦を勝ち抜いてきた連中だ。

たいしてトリステインは空海軍の船はきておらず、ステファニーの予測では数隻程度は港にいるだろうが、出航の準備に間に合っていないのではないかと言っていた。しかもはっきりとはしないが多分2000人あまり。この戦力差、地上軍はともかく、制空権をとったアルビオン軍が通常なら勝ちだよな。

俺はマチルダお嬢様に教えてもらった抜け道を通りながら、戦況も確認していたが、トリステインの竜騎士連隊がお粗末だな。ワルド子爵は、本当にアルビオン空軍の上にいるのだろうか?
それだけを心配していたが、トリステイン軍に攻撃をしかけていた火竜を落とす、日の丸がついたレシプロ機をみかけた。あれにルイズがのっているか”遠見”の魔法で見てみるとしっかりと、サイトの肩にのっている。虚無の魔法を唱えると風も一緒にさえぎってくれるのだろうか?
よくわからん。俺は、ゆっくりとタルブの平原を離れつつも小型の太陽のような光の塊をみかけたあとには、ゆっくりと降下していく中で火を放ちながらもたいした破壊のあとが見えないアルビオン空軍の船をみかけた。

これだけの大事だ。多分、トリステインが勝つだろう。


*****
この世界に一行詩があるのはオリ設定です。

2010.06.05:初出



[18624] 第16話 やっぱりラグドリアン湖に向かうのか
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/27 18:41
王都トリスタニアで、タルブ草原での戦勝記念パレードが行われている頃に、俺はようやくトリステイン魔法学院にたどりついた。

途中で、野生のグリフォンを見つけたことから、アルビオンでワルド子爵のグリフォンにのせてもらった経験をいかそうと思い、こいつにからのろうとしたら、逃げ出しやがる。うまくのっかれたと思ったら、あさっての方向にいきやがるし、さんざんだった。幻獣を乗りこなすとか言ってたワルド子爵との大違いに少々へこむ。このおかげで、街道にもであわない。川沿いにそって余力を残しながら『フライ』をつかって飛んで距離をかせいではテクテクと歩いていたら、いつの間にやら王都トリスタニアにきていた。タルブからだと、魔法学院をいつの間にやら超えてしまったらしい。俺は、トリステイン魔法学院の使用人証明書をだして、トリスタニアで馬を借りることができた。金はあるが、街も村もみあたらなかったんだよ。トリステイン魔法学院についたところで、1箇月ぶりぐらいに会う衛兵の中でも仲がよかったアルフレッドが驚いたように言う。

「生きていたのか? てっきり、アルビオン王国に行った際に死んだんじゃないかと噂だったんだがな」

「ほれ、俺に足があるだろう?」

「足?」

あっ、ぼけた。こっちなら幽霊に関する話は足があるんだったよな。

「足は、勘違いだった。けれど、ステファニーは悲しんでいたのか?」

「そういえば、悲しんでいなかったな」

ステファニーの性格では、そんな演技ができるわけないか。

「いや、わかった。ステファニーの性格って、そんなもんだ」

たしかに手紙で生きているのは知っているだろうが、偽名でだしているんだから、それくらい演技をしておけよ。

「生きていたら、とっとともどってこれなかったのか?」

「さすがに戻ってくる船賃が無かったから、アルビオンのタルブへの降下戦に参加して、途中でぬけだしてもどってきたんだ」

「そういえば、ステファニーの使い魔だったもんな」

この言い訳を素直に信じられる、俺の主人であるステファニーって、やっぱり貧乏貴族として見られているんだなぁ。

「そういうわけで、中に入って生きていることをステファニーに伝えたいんだがいいかな」

「ああ、すまん。別にとめるつもりは無かったのだが、死んだという噂が流れていたからな」

「いや、だいじょうぶ。俺の二つ名は……まあいいか。とりあえず、通らせてもらうよ」

「そうだな。また衛兵にもどるんだろ?」

「その、つもりだけどな」

「最近は夜勤の教師もここで寝ていることが多いから、さわがなければいいし、話のわかる教師もいるもんだぜ」

「そうか。それは楽しみだよ」

すでに時間も夕刻であるから、門を通り抜けてステファニーと会う前に学院長室に向かって、ノックをしたが無反応。部屋の中を覗くと居眠りしているオスマン学院長がいたので、ワルド子爵からあずかっている手紙を渡すのは後にする。向かう先はステファニーの部屋だが、入ったそうそうに言われた。

「やたらと帰ってくるのが遅かったのじゃない。バッカス」

「いや、それは、結構シビアな帰り道だったので……」

タルブからの帰り道の話をしたらステファニーはあきれている。どうせ、俺に野生のグリフォンなんてのりこなせないさ(ぐすん)
それはおいとくとして、互いのこの1ヶ月間の話をしたが、予測の範囲の中でおきてほしくない方向に話がころがっていた。

「タルブで戦いが始まるという時にサイトとルイズの言いあいの後、サイトが離れていた間でゼロ戦にのると思ったのだけど、のらずに戻ってしまおうとしたのよね」

「やはり、戦いの場を経験させなかったことが、ルイズみずから戦場へむかわせられる気にならかったのか」

「そうかもね。しかたがなく、ルイズを説得したわ。その水の指輪をはめながら、始祖の祈祷書を見てみてって」

「もろバレじゃないか」

「そうなのよねぇ。彼女が虚無だということに気がついていたのを知られたわ。そっと、見守るつもりだったのだけど、そうも言ってられなかったのよ」

「それで、虚無というのは?」

「口止めはしておいたけれど、それよりも問題なのは、ルイズが最初の『エクスプロージョン』を使った後に、気絶してしまったらしいのよね」

「何か、問題があるんだっけ?」

「もしかしたら、命を削っているのかもしれないわ」

「そこまで一回目で使えるのかな?」

「それは、わからないわ。ただ、アルビオンへの侵攻で『イリュージョン』はあてにできないかもしれないわね」

「リカバリープランはたてているのかな?」

「ある程度はね。けれど、でたとこ勝負になるかもね」

「そのでたとこ勝負はやめてくれ。それで苦労をするのは俺なんだから」

「フーケ、貴方にとってはマチルダ様だったかしら。それを助けてしまったのが発端よ。あきらめるのね」

諦めるしかないか。いや、最初から話してくれればよかったのにとも思うが、ステファニーの話を当時の俺は信じたとは限らないしな。

「ところでルイズとサイトの関係は?」

「ワルド子爵の偽装死の隙間を、サイトがうめている感じかな」

そう言うが、サイトがルイズとキスをしたのかわからないから、どういうふうに感情が変化しているかわからないらしい。

「やっぱり、もうひとおし足りないのよね。こっちは協力してね」

この協力という言葉に不吉な感じがする。ステファニーの案を聞いていると頭が痛くなってくる。まったくもって、なんて主人をもったんだろうかと思えてくる。けどなぁ、対アルビオンとその後のジョゼフ王対策を考えるとそんなことも言ってられないか。不承不承ながら、その案にのることにする。

ステファニーは他にも話を続ける。なんとかタルブ村へ誘導するために、サイトの宝探しの探検についていったら姉のモンモランシーにギーシュの仲を疑われたとか。姉に向かって

「そこまで趣味は悪くないわ。お姉さま」

って、ひどい言い草だな。たしかに、ギーシュってマニア向けな感じがするけれど、そこまで言うことも無いだろう。近日中にはアンリエッタ王女じゃなくて、もう女王に呼ばれるはずだが、どうなるかとか、他にも話はあったが、サイトって自己鍛錬していないんだよな。

「サイトの訓練は貴方がみてあげてほしいけれど、しばらくはいいわよ」

「さっきの話のことか?」

「そうよ。そこが肝心だからね」

そんな離れていた間のことを話していると、夕闇がせまってきている。俺はいるかどうかわからないが学院長室にむかうと、今度は起きていたが、たまっている書類に追われていた。

「ワルド子爵から、手紙を預かっております。オスマン学院長」

「おお、そうか。ひさびさじゃのう。バックルくん」

学院長を相手に名前を気にするのもあほらしい。

「マザリーニ枢機卿に渡る手はずが整っていると聞いておりますが」

「そうじゃったの」

「それではこの手紙をお願いします」

ワルド子爵からの手紙を渡して、今度は自分の立場を確認する。

「俺は衛兵の仕事にもどってよろしいんですよね?」

「おや? 傭兵になったのじゃないのかの」

傭兵になったのは一時の方便だが、そういえばフーケの事件の時にも言われたような気がする。

「いえいえ、使い魔として主人の頼みをきいただけです。ステファニーから事情は聞いていませんか?」

「そういえば、そんなこともあったような気がするの」

ぼけたふりをするのはやめてくれ。結局は俺の場合、傭兵で衛兵の仕事放棄をしたわけではなくて、当時のアンリエッタ王女の依頼を受けたので、アルビオンから帰ってこれなかったのは仕方が無いということで落ち着いた。確かによく考えれば、王女からの依頼だったもんな。そういうふうに仕向けたのはステファニーだけど。俺は平穏に魔法学院での衛兵に戻るかと思っていたのだが、そこまでうまくはいかなかった。ルイズ達がアンリエッタ王女との謁見に向かった日の夜、ステファニーから告げられる。

「ルイズがね……私がルイズのことを虚無の担い手と知っている。そんなことを、アンリエッタ女王に言ったらしいのよね。今度ルイズと王宮に向かうことになるのよ」

「ふーん。名誉なことじゃないか」

「あのねぇ。タイミングが悪いと、ラグドリアン湖で、キュルケやタバサと会えないかも知れないじゃない。そうすると王女の誘拐計画が成功してしまうのかも知れないのよ」

「そうか。そうすると、先が読めなくなるのか」

「まったくねぇ。今のところ、新しく王女になったので忙しいのと、一度会ったルイズをまた呼ぶのに何らかの理由が必要だからなんとかなりそうだけど」

新しいリカバリープランを俺は聞かされる。まだ、こっちの方がいいか。この前きかされた方法よりは。



今日の衛兵の仕事は早番だったが、休ませて貰うことになった。ここ数日はというと、ステファニーから、モンモラシーがセーラー服姿で教室に現れて、その翌日はルイズが休んだこと聞かされている。昨日は門番をしていると、虚無の曜日なのでモンモランシーとギーシュが、馬で出かけていった。デートなら浮かれた顔をしているだろうに、行きはともかく帰りは、二人とも深刻な顔つきで帰ってきていた。惚れ薬事件がおこったのは確定なので、ちょっと衛兵の仕事をぬけさせてもらってステファニーにそのことを伝えると

「お姉さまのところに行ってみましょう」

そう言われて、モンモランシーの部屋に向かうと、ギーシュがいる。すでにサイトがいて、部屋の中へ入ると、外からもれ聞こえていた声がぴたりとやんだが、ステファニーはその中で話しを切り出す。

「部屋の外で、サイトがあんな薬で好かれても嬉しくないとか聞こえてきたのだけど、もしかして、惚れ薬もつくったのかしら。お姉さま」

「そうなんだ。それの解除薬を頼んだのだけど、作れないって言うんだ」

サイトのトーンがちょっとはさがっているか?

「お姉さま。もしかして、水の精霊の涙が手に入らないの?」

「そうなのよ。ステファニー」

「じゃぁ、ラグドリアン湖に向かったら良いじゃないの。お姉さまの使い魔なら、水の精霊と簡単に連絡が取りやすそうじゃない」

「簡単なのか?」

サイトはきいてくるが、モンモランシーが答えないので、ステファニーが答える。

「ええ。お姉さまの使い魔のロビンなら、簡単に私たちの血を水の精霊に知らせることができるわよね」

「でも学校が……」

「惚れ薬って、禁制なんだっけ。ルイズのことを、女王様にご注進したらどうなるのかな」

「私、身内から犯罪者がでるのは嫌よ」

「わかったわよ! 行くわよ! もう!」

「ふーむ、確かにルイズをあのままにしておくわけにもいかないな。あの態度を見たら、惚れ薬のことがばれてしまうかもしれん」



今朝は早く、魔法学院を出発し、ラグドリアン湖に到着した。丘の上から見下ろす、ラグドリアン湖は湖面がきらきらと青く輝いていてきれいだった。アルビオンでは、これだけ大きな湖を見かけたことが無いからな。前世の記憶を含めてもこれだけきれいに輝く湖は覚えが無い。なんかギーシュが湖に勝手におちていたので『レビテーション』で助けてやったら、ステファニーから睨まれた。あまり、勝手に行動するなってことか。

モンモランシーとサイトの間で、ラグドリアン湖や水の精霊の話をしているところで、このラグドリアン湖の水位があがったことで水没してしまった農民が陳情にきた。しかし、あたりさわりなく、見学をしたことを話すモンモランシーだが、ステファニーは一切口をださない。完全に傍観者モードだな。俺も見習うようにしないとな。

モンモランシーが、使い魔であるカエルのロビンを出すと、ルイズが「カエル!」っていって、サイトに寄り添う。カエル嫌いなのは、やはりそのままらしい。よく、将来、モンモランシーと行動する気になったよなとも思うが、今はそこではない。少しばかりの会うまでの時間、水の精霊の涙のことをモンモランシーがサイトやギーシュに説明している。その最中に水の精霊が現れて、水の精霊の涙である、水の精霊の身体の一部を貰うことをお願いしているが、水の精霊には一度は断られた。そこでサイトが、モンモランシーのかわりに

「なんでも言うことを聞くから『水の精霊の涙』をわけてくれよ!」

といいだしている。結構危ない賭けなんだが、無知っていうことはいいことだ。俺だったら、ステファニーのノートから知った情報からとてもこういうお願いはできない。案の定、条件をだされた。襲撃者がいて、夜になるたびに水の中にいる、水の精霊を襲っているという。その者達を退治することだ。

キュルケやタバサもここ数日は教室にきていないそうだから、時間軸は、それほどずれていないのだろう。さて、どうやって、キュルケやタバサを相手に、サイトやギーシュを無傷で戦わすか。こまったもんだ。


*****

2010.06.12:初出



[18624] 第17話 ラグドリアン湖での攻防?
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/28 20:17
俺たちは、水の精霊から退治の条件を承諾したあとに、水の精霊が示したガリア側の岸辺に隠れて、襲撃者の一行を待つことにした。しかし、この惚れ薬事件を起こさせるためとはいえ、ステファニーの思考についていけないときがある。ゼロ戦の中で気絶していたルイズへ、サイトがキスをしたが、たまたまルイズはその瞬間気絶していなかったと『ギアス』で記憶のすりかえを行うのはな。

「アルビオンの帰りに気絶していたルイズへサイトはキスしていたし、ルイズも受け入れていたからそれぐらいでもいいわ」

こう言いきるしな。

今回のさらなる目的は、サイトにメイジ相手の実戦をつませることもある。訓練では俺や、ワルド子爵の『風の偏在』を相手にしたこともあるが、実戦となると異なる。実際に剣で手を下したのはオーク鬼だけとのことだ。俺が今晩の襲撃者対策の作戦を全員に伝えようとするが、ルイズはサイトにむかって、かまってくれないないことにご立腹のようだ。サイトがルイズを寝かしつけている間だが、そんな二人を見ながらまずは、ステファニーとモンモランシーの安全の確保策を伝える。ステファニーの魔法の失敗率からいってまともな戦力にならないのと、モンモランシーは「そんな、戦うなんて」と言っているので、水系統のメイジによって安全な岸辺に近いところに隠れていてもらうつもりだ。ラグドリアン湖の水を利用して『ウォーター・ウォール』をおこなえば、普段より有利に防御ができる。ステファニーの魔法の成功率の低さを考えると、その護衛のようなものだが、殺傷性の低い『氷の矢』でも連続してとなえておいてもらえば良いだろう。すでに酔っているギーシュにある作戦を頼んでいる。俺が入ることによって大きく戦いかたが変わるからな。

ルイズをなんとか寝かしつけてきたサイトがもどってきた。だいぶ、ほっぺにキスをせがまれていたようだな。その戻ってきたサイトに一般的なメイジの襲撃者対策を伝えた後、サイトがたずねてくる。

「いったいどうやって、水の精霊を襲ってる連中は湖の底までやってくるんだ。水の中じゃ息ができないだろう」

「普通のメイジ同士とかなら俺でもわかるが、水の精霊のことならモンモランシ家のステファニーかモンモランシー様の方が詳しいだろう」

「モンモランシー様? モンモンでいいだろう」

いや、そうはいかないのが、ここの平民の立場なんだけどな。

「やはりここは、お姉さまから説明してもらえるかしら」

今回の惚れ薬のことがあるのか、サイトへ特に文句も言わずに、しばらく考え込んで答えをみつけたのか答えてくる。

「たぶん、風の使い手ね。空気の玉をつくって、その中に入って湖底を歩いてくるんじゃないかしら。水の使い手だったら水中で呼吸ができる魔法を使うだろうけど、水の精霊を相手にするっていうのに、水に触れていったら自殺行為だわ。だから、風ね。空気を操り、水に触れずにやってくるに違いないわ」

水の精霊の話だと、襲撃は毎夜行われ、そのたびに水の精霊は削られる。サイトがどうやって、水の精霊を傷つくのか聞いて、モンモランシーが答えるが、空気の玉の中で炎を使ったら、酸素不足で窒息死しないのかぐらい聞けよ。まあ、魔法を使った炎は、何かを燃焼させるまで、酸素は不要みたいなんだよな。この話を聞いて先ほどまでにつたえていた一般的なメイジ対策から、風と火の系統を中心として他の系統もまざっていた場合のプランを話す。

そして闇夜の中で待っていると二人の人影が岸辺に現れたので、俺はステファニーから教わった『暗視』の呪文を唱える。暗闇の中でも見えて持続性のある水系統の魔法だが、一般的ではないので教わるまでは知らなかった。二人の人影以外は見当たらないが『暗視』をつかっても、漆黒のロープを着込んでいるし、深くフードをかぶっているので、男か女かもわからん。しかし、小さい方の影がタバサの大きい木の杖をもっている。タバサの場合は、単独任務が主体だから、もうひとりはキュルケだろう。俺が、水の精霊への襲撃者かどうかを見極めることになっているので、ギーシュから見える範囲で岸辺に近いところで待機していた。『エアー・シールド』の呪文を唱え始めたのが聞こえてきたので、ギーシュに手を振って合図を送る。

ギーシュが『アース・ハンド』で足止めをかけたところで、下がるように伝えてある。

「命を惜しむな名を惜しめ」

ギーシュはそう家訓を伝えてきたが

「モンモランシーを守るのも立派な戦術だ」

と適当にごまかしといた。
実際問題として、この酔っ払い具合じゃ役に立たないし、このままだったら、まずはギーシュを狙われる可能性が高い。置き土産として『土の壁』もつくっておけとは言っておいたが、それを実行しているかの不安はあるが、ステファニーのところまでいけば3人だし安全だろう。俺は右手にもっている剣状の杖でためておいた『ウィーター・ウィップ』を発動させながら、左手のタクト状の杖ではためておいた『ウィンド』の魔法でラグドリアン湖水を吸い上げて、辺り一面に水をばらまきながら、突撃していく。反対側からはサイトが二人に突撃していってるようだ。この時間でキュルケが足元の『アース・ハンド』を炎で焼き払っている。そして、俺のほうには風の呪文である『エア・ハンマー』がきたので『ウィーター・ウィップ』で作った水の鞭で方向を変える。こちらの水の鞭も削られるが、まわりには水の補給源が大量にあるので、すぐに復元する。時間的には若干かかるが、サイトの距離が少し離れているから、タバサが冷静にどう対処するか計算するだろうと考えていた。水をフィールドにした場合、火の系統は相性が悪いから、俺がタバサと立ち会うことになるだろうとの計算だったがうまくいったようだ。

火を使うキュルケが相手なら、どこかで、炎の光でサイトと気がつくかもしれない。それに軍人としての教育も受けているから、近接戦になったらブレードぐらいは扱えるだろうとの見込みなんだがな。サイトには追跡性のある『フレイム・ボール』も教えてある。しかしキュルケが、動きの速い剣士と戦うことに気がついたら、時間的な都合から『ファイヤー・ボール』か『火の矢』ぐらいしか使えないだろう。俺の方は、タバサの隙を見つけられずに、間を開いて魔法の距離を確かめあう展開になっているが、キュルケとサイトの間が急激につまっている。

「撤収」

タバサの一声があったので

「もしかして、その声からしてタバサか? 杖もそれっぽいし」

キュルケとタバサが撤収しようとしてたとこで、サイトの追撃もとまっていた。

「誰?」

「ステファニーの使い魔のバッカス。そっちの剣士はサイトだ」

「あなたたちなの? どうしてこんなところにいるのよ」

キュルケが驚いたように叫び、

「なんだよ! お前らだったのかよ!」

サイトは初めてのメイジとの本当の一戦で疲れたのか、地面に膝をついた。この騒ぎにもかかわらずにルイズはすやすやと寝ている。ルイズの割り込みが入らなかったな。泣けてくる。



相手がタバサとキュルケだとわかると、今晩泊まる予定だった場所で、焚き火を始めだす。焚き火で肉を焼いている間にルイズが起ききだしてきた。ちょうどキュルケが

「ダーリンって強いのね。追い詰められるとは思わなかったわ」

と言い出す。そんなキュルケにサイトが

「まさか、キュルケに剣を向けることになるなんて」

と言うと、ルイズは

「キュルケがいいの?」

と始まっていた。俺はステファニーに

「キュルケがダーリンって言ってるがいいのか?」

と小声でたずねる。

「ルイズの精神力がたまるのは今のところ嫉妬のはずだから、これでいいわよ。このあとのことも考えておかないといけないしね」

「このあとって?」

「うーん。アンリエッタ王女ね。ウェールズ皇太子が死んだところを目撃したわけじゃないから」

「もしかして、俺がいう?」

「それも一つの手よね」

「違う手があるのか?」

「ちょっと、うまくいくかわからないけれど、そうじゃなかったら、貴方にウェールズ皇太子のことを言ってもらわないといけないわね」

「ウェールズ皇太子に会うとものすごく危険な気がするんだが」

「ちょっと、そこは小細工が必要よね」

ステファニーの小細工か。また嫌な予感がするのだが、気のせいであってくれ。ルイズもサイトにあやされて寝たのは良いが、水の精霊を退治するのと、守るのとにキュルケが困っている。

「どうして退治しなきゃならないんだ?」

サイトに尋ねられて、少し迷っていたようだが結局話すことにしたようだ。

「そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。ほら、水の精霊のせいで、水かさがあがっているじゃない? おかげでタバサの実家の領地が被害にあっているらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」

モンモランシーは、隣の領地がオルレオン家だって気がついていないようだ。ステファニーから聞くかぎり、今はガリア王家の直轄領地だが、その前はオルレオン公家がラグドリアン湖のガリア側湖岸全部と接していたとのことだけどな。キュルケの話を聞いていて途中サイトが考え込んでいたが、

「襲撃者をやっつけるのと引き換えに、身体の一部をもらうって約束したんだ」

「結局は、水浸しになった土地が、元に戻ればいいわけなんでしょ?」

キュルケがタバサにたずねると頷く。

「よし決まり! じゃ、明日になったら交渉してみましょ!」



翌朝、前日の昼間と同じ場所で、モンモランシーが使い魔のロビンを水に放して水の精霊を呼ぶ。襲撃者がいなくなったために、約束どおりに『水の精霊の涙』を受け取れることになった。それで、用事は済んだとばかりに水の精霊が湖面に戻ろうとしたところで、サイトが呼び止める。

「待ってくれ! 一つ聞きたいことがあるんだ!」

「なんだ? 単なる者よ」

「どうして水かさを増やすんだ? よかったらやめて欲しいんだけど。なんか理由があるなら聞かせてくれ。俺たちにできることならなんでもするから」

「お前たちに、任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用してもよいことと思う」

水の精霊は、何度か形をかえたあとにモンモランシーの姿にもどり、語り始める。

「数えるほどもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝『アンドバリ』の指輪を、お前たちの同胞が盗んだ」

「なんか聞いたことがあるわ」

モンモランシーが呟いたのに続いて、ステファニーが言う。

「『水』系統の伝説のマジックアイテム。たしか偽りの生命を死者に与えるのよね」

「そのとおり。誰が作ったものかはわからぬが、単なる者よ、お前の仲間かも知れぬ。ただお前たちがこの地にやってきたときには、すでに存在した。死は我にない概念ゆえ理解できぬが、死を免れぬお前たちにはなるほど『命』を与える力は魅力と思えるのかもしれぬ。しかしながら『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」

「そんな代物を誰が盗ったんだ?」

サイトに限らず、たしかにそう思うよな。

「風の力を行使して、我の住処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった」

「名前とかわからないの?」

「確か個体の一人が、こう呼ばれていた。『クロムウェル』と」

「そういえば、アルビオンの新皇帝と同じ名前だが、その新皇帝は人を蘇らせることができるって噂がひろまっている」

実際にウェールズ皇太子を蘇らせた場を見てはいたのだが、まさか言えないしな。

「そのアルビオンの新皇帝っていうのが怪しいのか。で、偽りの命とやらを与えられたら、どうなっちまうんだ?」

「指輪を使ったものに従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」

「死者を動かすなんて、趣味が悪いわね」

キュルケが頭をかきながら呟いていた。

「アルビオンは、3000メイルの上空にあるのだけれど、水かさをそこまで増やすのかしら?」

ステファニーがたずねると、水の精霊が、また何度か形をかえたあとにモンモランシーの姿にもどる。

「いつかは、その地も地上に戻るであろう。それまで、ゆっくりと水が侵食すれば、秘宝に届くであろう」

何千年かかるのやらと思っていると、水の精霊は話を続ける。

「この地は、ここにとどまり続けるゆえに」

水の精霊は、地中の風石のことを知っているのか?

「わかったわ。取り戻すわ。それでこの水を元にもどしてもらえるかしら」

ステファニー、なんていうことを言うんだ。

「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るなら、水を増やす必要もない」

「期限はいつまでかしら」

「お前たちの寿命がつきるまででかまわぬ」

気が長い話だな。そんなやりとりにサイトがあきれたように質問をしている。

「そんなに長くていいのかよ」

「かまわぬ。我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」

そういい残して、水の精霊が姿を消そうとすると、タバサが呼び止めた。

「待って」

キュルケを含めて、ステファニーも驚いていた。タバサって、そんなんだっけ?ステファニーに短期間で情報をつめこまれたので驚くべきところかどうかわからない。

「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」

「なんだ?」

「あなたはわたしたちの間で『契約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」

「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは深く理解できぬ。しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったかたちはない。しかし、我は変わらぬ。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水とともにあった。変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」

その言葉に納得したのかタバサは頷いて目を瞑って手を合わせて何かを約束しているようだ。ギーシュとモンモランシーは契約の無いようでじゃれあっているし、惚れ薬のせいでルイズはサイトに

「愛を誓ってくれないの?」

とか困らせているし。
それはともかく、ステファニー何を考えている?


*****
『魔法を使った炎は、何かを燃焼させるまで、酸素は不要』というのはオリ設定です。
『暗視』の魔法は『タバサ外伝』にでてくる魔法です。
『土の壁』の魔法は『烈風の騎士姫』にでてくる魔法です。
水の精霊が地下の風石をしっていたり、ラグドリアン湖が安全だという認識なのもオリ設定です。

2010.06.19:初出



[18624] 第18話 アンリエッタとウェールズの裏で
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/28 20:18
ラグドリアン湖から馬での帰り道、併走しているステファニーに小声でたずねる。

「『アンドバリー』の指輪を取り戻す約束をするのは、サイトだったんじゃないのか?」

「そうなんだけど、私が知っている限り約束をまもっていないのよね。それにね」

「それに?」

「貴方が、今晩ウェールズ皇太子に会うと、味方へと引き込もうとされる可能性があるわ」

「その時点で、まわりに聞かれたらまずいよな」

「そう。使い魔の責任は主人である私にも、その責任がもどってくるの。私だけならまだよいかもしれないけれど、使い魔が王女の誘拐の手伝いなんてなったら、実家が危ないわ」

「へー、実家のことも気にしていたのか」

「貴方! 私のこと、どう思っているのよ!」

突然の大声に前方を走っていた、モンモランシーたちがこちらを見ている。

「あら、ごめんなさい。私、なんてはしたない言葉使いだったのでしょう」

「バッカスに何を言われたの。ステファニー」

「気にしなくていいわよ、お姉さま。それよりも解除薬の方をよろしくね」

「……」

なんとかまわりからは、気にされずにすんだようだ。

「私のことをどう思っているのかは、あとで尋ねるとしてこの後のことを話すわ」

俺はステファニー語るその内容を聞きながら、頭がいたくなってきた。

「それって、かなりまずいんじゃないか?」

「これでも、貴方の負担が少なくなるように考えたんだけどね。もうひとつプランがあるけれど、聞いてみる?」

「とりあえず、聞かせてくれ」

残りのプランを聞いてみたら、まだ最初のプランの方がマシだった。ステファニーの頭の中は悪魔か。悪魔の方がまだましか?

「最初のプランでいいよ」

「納得してくれてよかったわ」

にっこりと微笑むその笑顔は小悪魔に誘惑されているみたいで嫌なんだけどな。
俺たちは途中で、ルイズたちと別れて王都トリスタニアに向かう。

「なぜ王都に向かうの? ステファニー」

「ラグドリアン湖の『アンドバリー』の指輪をうばって、トリステイン王国の領地に水害をもたらせたのよ。しかもそれを戦争に使っているようだから、これを知らせるのは貴族の義務よ」

「そうね。けれど、そんなにあの王宮で、この事態を早くつたえられるかしら」

えーっと、やっぱりお役所仕事というのは時間がかかるものなのか。

「そのあたりは、モット伯をたよりにしているわ。あの人なら同じ水の系統で我が家の事情にも詳しいし」

「モット伯って、あのモット伯か?」

ギーシュが割り込んできたが有名なのか?

「モット伯って他にいないわよ。今なら王宮を出る前に間に合うはずだから真っ直ぐむかうわね」

モンモランシーは「モット伯」という言葉に納得したのか、解除薬をつくる手が欲しそうだったが、結局はわかれることができた。

「ギーシュも聞いてきていたけれどモット伯って、そんなに有名なのか?」

「そうね。原作にはでていなかったけれど、多分、王宮の中では、マザリーニ枢機卿についで王宮内では力があるわね」

「確か独身だと言っていたよな? そんな力のある貴族なのに嫁の来てが無いのか?」

「そうね。彼の悪癖……平民をメイドにしてそのあとはっていうのが有名だから、プライドの高いトリステイン貴族では妻のなり手がいないのよね」

「そういうのが旦那でいいのかか?」

「貰い手がいなければ考えてみる相手だわね」

「まあいいか。まずは王宮へ向かうか」

向かう先は、話していた通り王宮でもモット伯のところ。さすがに知り合いといっても、それなりの権力者にあうので、王宮では順番待ちだ。突然の来訪にもかかわらずに待合室ではなくて、個室を与えてくれているので待遇はいい。しかし、ステファニーによればあまり表立って会わないための措置らしい。

「うん? なぜ表立って会いたくないの?」

「だって、王宮に出入りしている人達に見かけられることが多かったら、アルビオンにもれる心配があるでしょう?」

「そこまで心配することか?」

「あのね。貴方をアルビオンに送っているのよ。私が王宮にきているのがわかったら、アルビオンへ情報を渡さないとはっきりと仲間だとは認めてくれないでしょう」

「そんなものか」

「本当にあなたって、政治にうといわね」

「こっちでもそうだけど、前世でも興味がなかったみたいだからな」

「まあ、いいわ。挨拶だけして、あとは口を開かないでいて」

「そうだね。わかった」

会える時間となったということで、モット伯の執務室に通された。

「お久しぶりでございます。ジュール・ド・モット様」

「なに、まわりに、人はいないのだ。普段どおりにジュールでかまわん」

「一応、使い魔をつれてまいりましたので、まずは紹介と挨拶だけでもと思いまして」

「人を使い魔としているとは聞いていたが、変わった使い魔だな」

「アルビオンで傭兵をしていたのですが、事故で私の召喚に巻き込まれたようですの」

「二つ名の通り、ある意味『失敗』での召喚だな」

「そのようなことを言われては、嫌ですわ。ジュール様。この者はバッカスと申しますので、今後ともよろしくお願いいたします」

俺にも挨拶するように軽くひじで小突かれる。

「バッカスと申します。アルビオンで傭兵をおこなっていましたので、礼儀にかなってはいないかもしれませんが、今後ともお目通りのほどよろしくお願いいたします」

モット伯は、そんな俺の挨拶には軽くうなづいただけで、ステファニーと話だす。

「平日だというのに、王宮にくるとは初めてだな。何か緊急の用事とか聞いていたが」

「ええ。ラグドリアン湖へ久々にいってみたところ、お姉さまが地元の農民の要望を聞いて、水の精霊との交渉をおこなったのです」

半分くらいはサイトが交渉したんだけどな。

「ラグドリアン湖? 水の精霊と交渉とは、あの美しい湖で何かあったのかね?」

「以前より水かさがましておりました。近くにいた農民の話を聞いていたら、1年以上も前からそのような状態だったそうです。その頃から領主に訴えているというのに、領主は戦争を口実にして何も水の精霊と交渉をしていないようなのです。あそこの領主の隣の領地と、いったらガリアしかないじゃないですか。ガリアの直轄領を戦争の口実にするなんて、本気なわけがないですよね?」

「うむ。そうだな」

「多分、水の精霊とうまく交渉できないことの、口実だと思うのですわ」

「たしかに、あの領主では荷が重いかもしれぬな」

「ええ。それをお姉さまが、交渉を無事すませたものですから、ラグドリアン湖の水の精霊との交渉役の立場も、モンモランシ家にもどってくるようにお話をと思いまして。それに、お父さまが直接王宮で交渉したら、また王家と交渉決裂するかもしれないので、その仲立ちをと思いましてご助力をお願いにきましたの」

「その話だが、水の精霊と交渉とはどのような内容なのだ。交渉できること自体まれだったと思うが、ステファニーが王宮までくる必要はないであろう」

結構ステファニーって、かわれているんだな。

「さすがは、ジュール様。水の精霊が秘宝である『アンドバリ』の指輪を盗まれたので、それを取り返すのに湖の水かさをふやしていたのだそうです。それを探し出すまで元の湖の位置までもどっていただけるようにお姉さまが交渉してくださったのです」

「『アンドバリ』の指輪? どこかで聞いたことがあるような……」

「多分、我が家にいらっしゃったときにあった話でもと思いますわ。『アンドバリ』の指輪は死者に偽りの『命』を与えるマジックアイテムです。それをクロムウェルという者とその仲間が持ち去ったといっております。そのクロムウェルというのはアルビオンの新皇帝と同じ名前でございます」

「単に同じ名前ということではあるまいか」

「それは、このアルビオンで傭兵をしていた使い魔であるバッカスが、アルビオンでの内戦中に『人を蘇らせることができる』という噂を聞いているのと、タルブ草原の戦いの直前にはこのことでアルビオンへと内偵させておりますので、まず間違いは無いかと思われますわ」

「うむ。よくぞ知らせてくれた。追って連絡をいたそう」

「いえ、それよりも気にかかることがあるのです。バッカスが申すには、ウェールズ皇太子が生き返って、クロムウェル新皇帝に使えていると」

「そのような馬鹿なことが」

「いえ、『アンドバリ』の指輪なら、そのようなことが可能です。しかも、ウェールズ皇太子が蘇っているのならば、次の狙いは、アンリエッタ女王も考えられるかと」

「うむ。要注意だな。用件はそれだけかな?」

「もうひとつあります。実は、アンリエッタ女王に謁見を申し付かっております。その時にも仲立ちになっていただければと、お願いをしたいのでございます」

「アンリエッタ王女から謁見を申し付かるとは光栄なことではないのか?」

「まだ、間がある予定なのですが、実はちょっと……」

ルイズの虚無の覚醒に一役かったことを話して、家族を守るというよりは、自分の身を守るために頼んでいるように聞こえるのだが。

「うむ。なかなか難しい問題だが、この始祖ブリミルの名にかけてなんとかいたそう。水の精霊の件もあわせればなんとかなるであろう。しかし、あのラ・ヴァリエール公爵家の三女がな」

「お手数をかけますが、よろしくお願いいたします。ジュール様」

「なんとかしてみせよう。ステファニー」

そうして、モット伯の執務室をでて、王宮からでたあとは、王宮を見張るようにステファニーと二人でまっていた。黒い人影が門の中から出るときに、かんぬきをさせないようにしている。

「あれはリッシュモンね。あと、数分以内にウェールズ皇太子が通過するはずね。そうしたら貴方の出番よ。バッカス」

「はっきりと言って自信はないんだが」

「けれど、この方法で納得したんでしょ?」

「たしかに、そうなんだけどさ」

「それとも、もう一つのプランでいってみる?」

「もっと問題ありだな……」

「じゃあ、これしか無いでしょう」

まったく、なんの因果か。うまく連携がとれているんだろうか?
心配になってくる。

俺に刻まれた『ウィンド』のルーンに従って、感覚をとぎ済ましていく。アルビオンで、ワルド子爵に習った手法だ。そうして、発見した。ウェールズ皇太子とワルド子爵にその他数人を。
ワルド子爵とはタルブ草原で、サイトたちとあっていない。上空はわざと開けて後方指揮という形にしていたので、サイトの載ったゼロ戦と遭遇していないので大怪我はしていないであろう。しかも、もどってきたという情報も無く、トリステインでは死亡したという情報が流れている。なら、この機会にくるはずというのが、ステファニーの読みだったが、見事にあたったようだ。ワルド子爵が本気でアルビオンに協力していたら、王宮へはもっと前にはいれたであろう。

問題は、どうするかだ。
俺は、仮面をしてワルド子爵達のそばへ近寄り伝える。

「クロムウェル閣下からの伝令だ。ワルド子爵は退路を確保して、その他の者は、アンリエッタ王女を誘拐することとのことだ」

所詮は、『アンドバリ』の指輪に操られたお人形たちだ。ワルド子爵以外は素直に従って動いた。残ったワルド子爵は

「その声はバッカスだな。髪を灰色にそめたのか?」

「いや、傭兵時代から、こっちの髪の色に染めていることが多くてね。ところで、マザリーニ枢機卿とはうまく連絡がとれていないのかい?」

「今まで見張られていたからな。正直たすかった。アンリエッタ女王を誘拐するのはさすがに洒落にならないが、僕の風の魔法では、全員を倒せなくてね」

「誘拐を成功させない方法があるのだけど、のってみる?」

「ああ。可能な限り、アルビオンの情報を流せる機会を見つけるのが僕の役目だからね」

「じゃあ、悪いけれど」

説明をして、ワルド子爵には嫌そうな顔をされたけれど、最終的にはのってくれた。銃声が数発。サイレントをかけた中でワルド子爵に向かって背後から打たせてもらった。こんなに、俺のアルビオンの稼ぎで短銃を用意させるなよな。ステファニーよ。

ワルド子爵は、ラ・ロシェールとは別コースで戻るようだ。背後から、貴族に向かって短銃を無条件で打つ人間がいるとは、思わなかったということにしてある。さて、このワルド子爵がいなくなった中で、ウェールズ皇太子達一行はどのように動いてくれるであろうか。あとは、ルイズ達が本当にくるのであろうか。それで、随分条件がかわってくるのだが。


*****
モット伯はアニメ版のキャラですが、ステファニーはアニメを知らないか覚えていません。

2010.06.27:初出



[18624] 第19話 誘拐の日の夜
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:35e5004f
Date: 2013/10/27 19:08
ワルド子爵のために、チクトンネ街でも短銃を一発打っておく。チクトンネ街では、これぐらいのことは時々あることらしい。

俺たちは、ウェールズ皇太子が出航予定であるラ・ロシェールへ先に向かう。本来なら、王宮からおいかけていった方がよいのだろうが、後ろから魔法衛士隊やサイトたちがやってくるだろう。そこでみつかって、まきこまれると厄介だからな。
王都トリスタニアからラ・ロシェールへは一本道だから、先行して後ろの方に向かって『遠見』の魔法でも時々使えばいい。そうすれば、ウェールズ皇太子たちの動向もさぐれるであろう。ちょっと心配なのは、ウェールズ皇太子たちの中からワルド子爵がいなくなっていることだが、最短経路を選ぶであろうことはわかっている。あとは、先行している俺たちを『アンドバリ』の指輪に操られているウェールズ皇太子たちは気がつくかどうかだよな。

2リーグぐらい後ろに馬にのった騎士の集団がついてきている。さほど明るくはないが、この時間に通常の馬にのった騎士が走ることは無い。しかも帰りの服装はアルビオンの制服だ。間違いなく、ウェールズ皇太子たちだろう。

「後ろから、無事にウェールズ皇太子たちがきているようだけど、本当にルイズたちはくるのだろうか?」

「ルイズには、ウェールズ皇太子が生き返ったという噂は伝えてあるから、大丈夫だと思うのだけど。それにアンリエッタ女王にもこのことは伝わっているはずなのに、事件はおきているわ」

「そうだよな。モット伯にもつたえたのにな」

「彼の場合、一度、マザリーニ枢機卿と相談してから動くでしょうから、それで、今日は間に合わなかったのでしょうね」

「もしかして、そこまで、計算していたのか?」

「そんなわけ無いでしょう。けれど、私のまわりでおこることって、こういう風になることが多いのよね。貴方がきてから風向きがかわっているけれど」

「また、言うなよ。マチルダ様の件は悪かったと思うが」

「どこまで、修正しきれるかよね」

「本当に修正がきくのか?」

「それはわからないわ。未来はいつでも不確定よ」

「ふーん」

「それよりも、後ろは大丈夫?」

「ああ、だいたい、同じ速度で走っているらしい。そんなにいい馬を用意できなかったのだろう」

「そういうところは、馬にのりなれていない私と違うわね」

「俺もそんなにのっているわけではないんだけど、そんなに早く走らせているわけではないからなぁ」

そうしていると、後方から音がしてきたので、”遠見”の魔法で後ろを見ると、ヒポグリフにのった騎士たちが、馬にのった騎士たちに襲いかかってきたのがわかった。
勝負は急襲したヒポグリフにのった騎士たち、多分、トリスタニアの魔法衛士隊だろう。彼らが一方的に馬を倒して、載っていた騎士たちを倒したようにも見えた。戦場では、このような一方的な展開になることは無いので珍しいが、魔法衛士隊は相手に対して油断をしないで近づいている。『アンドバリ』の指輪のことは魔法衛士隊に伝わっているようだ。
倒したはずの騎士たちが次々と立ち上がって魔法を放ってきても、防御や反撃をしているが、ヒポグリフと火の魔法を放った隊員を集中的にねらっている。隊長らしき人物には、ウェールズ皇太子が『エア・ストーム』を放ったようで、巨大な竜巻の中で四肢を切断されるのを見えた。あとは、一方的な虐殺だ。『アンドバリ』の指輪で死なないウェールズ皇太子たちを相手に、魔法衛士隊も奮闘しているといえるだろうが、2分とかからず戦闘は終わる。

ウェールズ皇太子がアンリエッタ女王と多少話し合っていたようだが、そのまま草むらへ隠れるように入っていった。他の騎士たちも同じように間隔をとりながら、待ち伏せの陣形をつくりながら、隠れていく。

さて、待ち伏せの場所にきたのは、風竜にのったルイズ、サイト、キュルケにタバサの4人だ。本来なら、首都警護竜騎士隊がきてもおかしくはない事件だろうに、象王が誘拐されたことを外部にもらしたくはない、魔法衛士隊の面子の問題なのだろう。今回の場合は、火竜ならともかく風竜のブレスでは、火がともなっていないから、何度でもおきあがってくるのであろうから結果オーライといったところだが。
倒れて生きている人物の中で、生きている人物でも見かけたのであろう。なにやら、話かけているようだが、『遠見』の魔法では見ることはできても、聞くことはできないからな。その途中、ウェールズ皇太子たちから魔法が放られたが、タバサの『エア・シールド』でふせいだようだ。

そうするとウェールズ皇太子たちが草むらから立ち上がったが、攻撃をしかけないでいる。サイトとルイズ、ウェールズ皇太子とアンリエッタ女王と話あっていたようだ。しかし、タバサの『ウィンディ・アイシクル』とルイズの『エクスプロージョン』から戦いの火蓋がきっておされた。キュルケが火の魔法を使うとわかると、キュルケに向かって攻撃が集中しているが、それをタバサが防いでいる。あの二人でコンビネーションをくむとやっかいだな。
ラグドリアン湖では、分断して個別で対応したから、なんとかなったが、タバサとまともに戦ったら、長期戦では負けるかな?
倒すことができないと思われている間に、人数が多いのだから各個をねらっていけばよかったのだろう。しかし、火が効くとタバサに気がつかせる結果になったのか、タバサとサイトはキュルケを守るというふうになっているが、ウェールズ皇太子たちにきれいに囲まれていく。

何人かの騎士がキュルケの火によって倒されていったあとに、一旦陣形を整えるのかのように、囲いの輪が大きく広がる。雨がふってきた中で、アンリエッタ女王がルイズに向かって話かけているようだが、ルイズ達は、円陣をくみ上げている。
アンリエッタ女王が説得をあきらめったのか、その中で巨大な六芒星(ろくぼうせい)を竜巻に描かせていく。王家の『ヘクサゴン・スペル』だろう。俺が二つの杖でトライアングルスペル同時に放っても、威力は単純な倍にしかならない。ありゃあ、反則技だな。しかし、烈風カリンの伝説って、この『ヘクサゴン・スペル』を上回るっているのだからな。ワルド子爵がカリンの話をしたときに顔色を青くするのもしかたがなかろう。

あの水を含んだ竜巻を止めようとするサイトもすごいが、デルフリンガーがあの『ヘクサゴン・スペル』を不完全ながら吸い込みながらもまだ生きている。たしか、元素の四兄弟の魔法を吸ってデルフリンガーが破壊するのだから『ヘクサゴン・スペル』を上回る魔法は世の中にまだまだあるのかもしれないな。水を含んだ竜巻が完全に威力を失い、開店がなくなるとともに、大量の水が落ちたときに、ウェールズ皇太子を含んだ周りの騎士たちに、まばゆい光が輝く。それと同時に、糸が切れた操り人形のように、ウェールズ皇太子と騎士たちは地面に崩れ落ちる。それを見ていたアンリエッタ女王が少したって倒れたのも見たが、精神的にまいっていたのであろう。そこまで、見ていたが、おおむね聞いている展開と変わらなかったので、ステファニーに聞く。

「そろそろ、彼女たちもラグドリアン湖へ向かうようだったら、俺たちは魔法学院に戻らないか?」

「そうねっといいたいところだけど、みてたんでしょ? ワルド子爵」

「いつから気がついていたのかな? ミス・モンモランシー」

えっ? ワルド子爵の気配なんて気がついていなかったぞ。

「あの作戦で、単純に引くっていうことが信じられなかっただけです。それだけですわ」

「君たちだけでは、やはり心配でね」

「そうですね。俺たちではウェールズ皇太子と10人の騎士相手では、まともに戦って、5,6人倒せるかどうかだよな」

「もしかしたら、ワルド子爵は、未だ迷っているのではありませんか?」

「な、な、なにをだね?」

「いえ、言いたくないのでしたら、無理にとは言いませんわ。それよりも、このあとマザリーニ枢機卿と連絡をとれる道筋をつけておいてくださいませ」

「今回の任務で失敗しているが、内部に反レコン・キスタ派がいるということにできるから、なんとか言い訳もたとう」

ここで、俺は気にかかっていることを聞く。

「マチルダ様は、その後どのようになさられているかおわかりになるでしょうか。ワルド子爵」

話がそれたことを幸いとしてか軽く返答を返してくる。

「サウスゴータの領地の女太守の地位についている。ただし、彼女ほどのクラスのメイジは中々いないので、クロムウェルの秘書のようなことをおこなっている。クロムウェルの秘書には、シェフィールドとやらがいるのだが、東方の出身ということで、信用を置けないという名目でな」

ステファニーとも俺との予想とも違う。アルビオン侵攻ではまずいかもしれない。

ルイズたちが、風竜で飛んでいったあと、俺たちはワルド子爵と別れて魔法学院に戻る。魔法学院では、教師が寝ているのを確認しながら、衛兵に通らせてもらった。ちなみに、俺とステファニーの仲を冷やかしていたのもいるが、本気ではなかろう。

このあと、俺は一日衛兵の仕事にもどったのだが、徹夜明けで暇な衛兵な仕事はつらい。夏休みまでまだ少しばかりあるが、特に事件もおこらないはずだよなっとすっかり忘れていた。アンリエッタ王女との謁見の日、もとい呼び出しの日だ。えーと、俺もステファニーの使い魔ということで、ついていく。

「ルイズたちは一緒にこないのか?」

「どうも違うみたい」

「もしかして、動きすぎたか?」

「残念ながら、そこまでは、わからないわ。ただ、あまりルイズだけを呼んでも目立つことだけは確かだから、今回の件はどうなるのかしら」

「どうにかなりそうか?」

「ええ、モット伯をちょっと頼っているから」

ギーシュに聞くと、確かに歳若い平民の女性をメイドとして大量に雇いいれているのと、妻がいない以外は悪い噂が無いとのことだ。ギーシュに聞いて、これだけ男の情報をもらえるとは思わなかったが、軍人の家系では無くそれほど付き合いは無いようなので、これだけでも充分だろう。

王宮での謁見待合室での待ち時間では、俺一人平民の格好で、居心地が悪い。まあ、それも時間の問題だが。そうして、アンリエッタ王女との謁見に立ち会うことになった。


*****
『二つの杖でトライアングルスペル同時に放っても、威力は単純な倍にしかならない』はロマリアの聖堂騎士の合体魔法からのオリ解釈です。

2010.07.04:初出



[18624] 第20話 謁見
Name: ペスポチ◆b06feb3c ID:874bdb7f
Date: 2013/11/03 20:57
王宮での謁見待合室での待ち時間では、俺一人がごく普通の平民の格好で、居心地が悪い。まあ、それも時間の問題であって、このあとステファニーの使い魔として付き添い、アンリエッタ王女との謁見に立ち会うことになっている。
ところが肝心のステファニーが

「ジュール・ド・モット様を迎えに行ってくるわ」

そう言って、ひとりぼっちでならばされている。謁見待合室で前に残っているのはあと3組で、いずれも貴族だ。その後に平民もいなかったわけじゃないが、貴族の従者らしきだったのが1組残っているぐらいで、純粋に平民でここにいるのは俺一人。本当に居心地が悪い。
そして、あと2組となったところで、ステファニーがモット伯をつれてきて、一緒に並んだが、これって新しいフラグを立てたような気がする。
それはよしとして、当面は、モット伯が女王と会うのに、わざわざここで並んで待っているというのが目立ちすぎる。今度は別の意味で居心地が悪い。
なんとか、アンリエッタ女王との謁見となったら、

「ミスタ・モット。なぜ、あなたがミス・モンモランシと一緒にきているのですか?」

「ミス・モンモランシに付き添いを頼まれましてな。なにせ話はゼロのことになるのではないかと聞かされましたもので」

ゼロと言われてアンリエッタがため息をついてから、人払いをおこなった。

「ミスタ・モット。あなたがゼロのことを、ミス・モンモランシに話したのですか?」

「いえ、逆でございます。ミス・モンモランシより虚無(ゼロ)の担い手の話を聞きおよび、最近は勅使の役目もひと段落ついておりまして、中々アンリエッタ様とも会う機会ができませんでした。かといって他国出身のマザリーニ様にも話はできず、私一人が話をかかえているよりは、より事情を詳しく知っているミス・モンモランシと一緒に謁見をおこなえばよりよろしいのではないかと思い、本日の謁見に付き添ったのでございます」

「そうですか。ミス・モンモランシにお聞きしたいことがあります。なぜ貴方はルイズのことを虚無だと思い、そして、相談をされたのはミスタ・モットなのですか」

俺はステファニーがどのように答えるかと思っていると

「それは簡単でございます。どうしたら、どのような呪文を詠唱しても、四系統の魔法で爆発をさせるのか不可能でございますから。そうすれば、虚無です。一部では先住の魔法を唱えられるように自身を改造される方もいらっしゃるようですが、ラ・ヴァリエール公爵ともあろう家系が実の娘にそのようなことはしないでしょう。さすれば、我が家に残っていた書物から彼女が虚無の担い手として未完成だったのは、容易に推測できるものです」

先住の魔法といえば、元素の四兄弟か。以前、噂で聞いていたが、多分、今は北花壇騎士団にいるんじゃないかとステファニーは言っていたなと思いだし、続く言葉を待っていた。

「そして、ミスタ・モットに相談したのは、同じ水系統でよく実家でお見受けさせていただいたこともありますし、何より王宮の勅使というお立場ならば、どのような国の秘密であっても、他に漏らすこともなく信頼できるお方だと思ったからですわ」

「そうですか。確かに、ミスタ・モットは勅使です。その彼を信頼せずに他国との使いに出すことはできませぬ。ただ、貴女をおよびしたのは、少々個人的なことでもあり、勅使とあっても席を外していただけないですか」

「ちょっと、お待ちください。アンリエッタ王女様!」

「なんでしょうか?」

「このまま、ミスタ・モットが退出してしまっては、ワルド子爵が危険にさらされます」

そっちの札をとうとう使うのか。けっこうステファニーもおいこまれていたんだな。

「彼は死んだのではないのですか?」

「私も初耳ですぞ。ミス・モンモランシ!」

「いえ、生きてアルビオンの中で間諜をおこなっているようですが、まだ信頼を完全に得ているわけでは無いようです。それは私目の使い魔であるバッカスが、アルビオンでしばらく一緒に行動をしていたので確かでございます。しかも、彼はわがモンモランシ家がレコン・キスタに組しているのではないかとの用心の入れようでございます」

「そうですか。少々、個人的なことだったのですが、その前にお聞きしたいのは、先ほどお話の中にありました、本はどうなっているのですか?」

「それが、父の使い魔であるスキュアに食べられてしまいました」

そんなベタな嘘が通用するのかと思ったら、

「まあ、本当ですか。その本から虚無のことが何かわかるかと思いましたのに」

って、信用しているよ。
ちなみにあとで、この本を食べたというスキュアというタコ人魚の件を聞くと、何冊か本を食べられたのは事実とのことだ。アルビオンではみなかったからよくわかっていなかったが、ステファニーの嘘って、どこまでが本当でどこからが嘘かわからんよなぁ。

計算した嘘と、天然の嘘が世の中にはあるらしいが、ステファニーの場合まじっているみたいだから考えるだけ無駄だという気もするなぁ。

「いえ、私が覚えている限りでは、4つの国に4つの秘宝と4つの指輪によって、虚無はよみがえることと、それぞれには虚無の使い魔が必要であるとのこと。そして、虚無の担い手として目覚めるのにトリステインでは、神の左手ガンダールブを召喚することと、始祖の祈祷書と水の指輪が必要とのことでした。しかも最初の魔法は小型の太陽ほどになる爆発の魔法が使えるということで、ミス・ヴァリエールの魔法に合致していたのです。それ以上となりますと……たしか、神の右手ヴィンダールヴに、神の頭脳ミョズニトニルンに記すこともはばかれる使い魔がいたとか。私が覚えている本の内容は以上でございます。」

「他の国にも、虚無の担い手がいると貴方は申しているのですか?」

「本を読んだ記憶によれば、その通りでございます」

「そこまで知っているのですね。そしてアルビオンにも虚無……」

「これは、申しわけございませんでした。ミス・モンモランシよりマザリーニ様にはお伝えしておりましたが、アンリエッタ王女が『アンドバリ』の指輪によって生き返ったウェールズ皇太子にかどわされるのではないかとマザリーニ様へ具申させていただいたのですが、事件が発生する前にアンリエッタ王女がさらわれてしまって、それが伝わっていないようで。まことにもうしわけございませぬ」

「そうですわ。今の領主はラグドリアン湖の湖面の上昇をとめるどころか、その原因も探れずにいます。それに対して我が姉であるモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシが、湖面の上昇どころか、元の水位まで戻すのと、『アンドバリ』の指輪のことも気難しい水の精霊から情報を得ました」

いや、ほとんどがサイトだろうとつっこみたいが、やめておく。

「そこで姉が女領主となりましたら、また、ラグドリアン湖の交渉役としてふっきさせてほしいのですが」

「今回は、そのような政治のことではなく、本当に私人として呼んだつもりなのですが、その件は考えておきましょう……いえ、現モンモランシ家領主を、そのまま交渉役にすれば問題は解決ではありませんか?」

「私が申すのもなんですが、残念ながらの気性では、また水の精霊と仲たがいを起こすでしょう。なので姉が女領主となってからと考えております」

どうも、アンリエッタ女王はモット拍に話は聞かせたくはなさそうだ。そこで俺は杖を掲げるのはさすがにまずかろうと思い、挙手をした。

「そこで手をあげているミス・モンモランシの使い魔であった……」

「ステファニーの使い魔であるバッカスでございます。発言の許可をお願いいたします」

「よろしいでしょう」

「平民なので、このような場での発言の仕方に失礼があるかもしれませんがあらかじめご了承願います。今回は、我が主人であるステファニーに必要最低限のことをお伝えしていただき、また改めてミス・ヴァリエールと一緒に話をされてはいかがでしょうか」

「……そうですね、ミス・モンモランシ。実は貴方にお願いごとがあります」

「私目などにひきうけられることでしたらなんなりと」

うーん。ステファニーって、どこまで本気だ?

「ミス・ヴァリエール。いえ、ここではあえてルイズ・フランソワーズと言わせてもらいますわ。お友達である彼女ですが、少々融通の利かない面があります。彼女には私直属の女官として可能な限りの権限を彼女に認めた許可証を渡しております。ただし、彼女の場合、必要そうな時にでも、それを使わないことが考えられますので、貴女の判断のもと、ルイズ・フランソワーズにその許可証を使用するよう促す許可証を渡します」

アンリエッタ王女って案外したたかだな。一見するとルイズへの命令権があるようにもみうけられるけど、その最終判断はルイズに任せると言う意味で、ステファニーを完全には之繞しきれてはいないのだろう。それでも、たいした出世だが。

「わかりました。このステファニー・ポーラ・ラ・フェール・ド・モンモランシーは、可能な限り、ミス・ヴァリエールのそばにいるようにいたしましょう」

「ありがとう。私のお友達に貴女のような方がいることを誇りに思います」

目いっぱい勘違いしているような気がする王女に憐みの目を送りたいが、ステファニーが先ほどの俺の発言から俺に対して目で牽制しているから無関心を装っている。

無事に3人ともアンリエッタ女王との謁見が終わってからモット伯の執務室へと部屋を移動し、

「ありがとうございます。ジュール様」

「なに、たいしたことはしておらんぞ。かえっ私の信頼があがったであろう」

「いえ、勅使を信頼できない女王だなんて、亡国へまっしぐらですから……私はそのようなことをのぞみませんので」

「何か、また要件があったのなら頼って来るがよい」

「いえ、ジュール様がいたからこそ、今回の女官の任命をいただけたのですわ。何かありましたら、頼らせていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします」

そうして、王宮から離れて魔法学院へ馬で向かうが

「魔法学院の授業をさぼってまできたかいがあったなぁ」

「まあ、予想外の収穫だわ」

「まあ、あそこまでよく口八丁で女王とモット伯を信頼させられたな」

「ふーん。貴方はそんな風に考えていたのね。バッカス」

「いや……その……」

口は災いの元。俺が直接管理できる給与は半分から3分の1に減った。
泣けるぜ。


*****
久々の更新です。悪人期待するなら、ステファニーだもんな。
ただ、この娘フラグたてまくっているけど、なんか天然でぶっ壊している気もする。

2013.11.03:初出


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