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[18251] 江波さんちの安芸ちゃん(日常、のんびり)
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:7f1eaf3e
Date: 2010/05/12 10:28
 5月病にもなることなく耐えきった5月末、癖っ毛の私にはつらい梅雨がやってくる。戦いはまだ終わらないってか、うんざりするね。

「アキちゃん見て見て~ツインテ~ル~」

「梅雨が近づくとあんたのさらっさらの髪がうらやましいよ」

「ベリ~ショ~トのアキちゃんには真似できま~い」

「別に二つ結びが出来ることがうらやましい訳じゃねーよ」

 ぴょんぴょんと保育園から友人の立町 紅葉(たてまち もみじ)が跳ねている。さわがしい奴だなぁ。
 ああ、私の名前を言っていなかったな。私は江波 安芸(えなみ あき)だ。
 湿気と戦うぴっちぴちの女子高生だ。………ぴっちぴちは死語だな、忘れてくれ。

「アキちゃんアキちゃん、お腹すいたよね~早くお昼になってほしいよね~」

「あーやめろやめろ、昼飯の話ししながら胸をさわろうとするな」

 紅葉の悪い癖だ。すぐ人の胸をさわろうとする。
 うーん、もしかしてそっちのケがあるのか?と疑ったことは数知れず、今なお更新中だ。

「てい」

「いた~い」

 わきわきさせて近づいている手を叩き落とす。「いた~い」じゃねーよ。

「ふっ、ふん、そんな普通乳なんてさわっても嬉しくなんかないんだからね、勘違いしないでよねっ」

「チビッ子つるぺタに言われたくねーよ、エセ・ツンデレ」

「うわ~ん天パがいじめる~」

 ダダダダダダと逃げていく、「レンちゃん、そのおっきな胸でなぐさめて~」「えっ、ひゃわーー」とか聞こえるが無視だ無視。
 もう少しで授業だからすぐ解放されるだろう。………ってか同性でもセクハラだよな。










 昼だ、昼休みだ、昼食だ。
 鞄から弁当を取り出していると、誰かが私の前に立っている。「だれだ?」と見ると、無表情で眠そうな目が特徴的な男子生徒、横川 南兎(よこがわ みなと)が弁当を持って立っている。
 ミナトは小学2年のときに転校してきた。さらに私の家の隣に引っ越してきたお隣さんでもあった。
 まぁーこいつが物静か、もくもくと本を読むといったやつで、「暗いやつか?」って思っていたら、話せば言葉は少ないがちゃんとしゃべるし、遊びに誘えば一緒に遊ぶし、気がつけば今も友人として付き合っているわけだ。
 しかしまぁ、前に紅葉が「あんたらの仲の良さは異常だよ~もう付き合っちゃいなよ~それとももう付き合ってるのか~」とかなんとか妄言を言っていたことがある。
 しっかりとOSIOKIしてやったがな。そう言われるだけ親しいわけだが……
 まぁそんなミナトが真面目な顔(普通の人が見たらただの無表情らしいが)で立っている。

「お?ミナトどうした?」

「…アキ、相談がある」

「飯食いながらでもいいのか?」

 こくりとうなずく。ふーん、ミナトが相談ね、珍し。

「お~い、アキちゃんにミナっち~ごはん食~べよ」

「あー今からアキさんのお悩み相談を開始するから、私らは別に食うよ」

「おっけ~おっけ~」

 紅葉がいつも一緒に飯を食べるメンバーのところにもどる。「ミナっちが相談なんて珍しい~」や「なぜミナトはオレに相談しないんダー」に「ドバっちに相談しても……ね~?」「ダーーー」といった会話が聞こえるが無視だ。なんかすすり泣き?みたいなのが見えるが断固無視。ミナトなんてとっくに弁当を開けて食べ始めているし。
 おっ!今日のおかずにはエビフライが入ってるな。私の好物なんだ。もちろんしっぽまでたべるぞ。

「…アキ」

「んー?」

 エビフライを咀嚼しているとミナトがしゃべり始めた。さてさて、どんなことを相談するのやら。

「…昨日、告白された」

 ぶふう、と驚きすぎて吹き出してしまった。咀嚼途中のエビフライの衣やらしっぽやらがミナトの顔につく。

「ああ、わりぃ」

 すぐにポケットティッシュで顔を拭いてやる。
 しかし、告白か。ミナトが告白されたなんて今まで聞いた事なかったからめっちゃくちゃ驚いたよ。
 初めてされたのか?ああ、初めてされたから相談しに来たのか。

「それで、どうゆうセリフで返事をしたらいいのか分からないから、異性である私に相談してんだな?」

「…いや、異性とかじゃなくて、友人の中でアキが、一番よく告白されているから」

 えっ!?いや、そんなよく告白されてるわけではないけど、まったくないというわけではないのは確かなわけで、っていうかミナトに話したことはないはずなんだけど……紅葉か!紅葉なのか!!よしOSIOKI決定だな!!!それにそもそも誰かと付き合ったことなんてないぞ、みんな断ったしな!!…………なんだこの言い訳みたいなのは。まぁとにかく私は誰とも付き合っていな…

「…女子に」

 そっちかーい、いや、なんて言うか、そっちかーい。
 確かに女子からも告白されたことあるけど、割合で言うと8:2で女子が圧倒的だけど。

「…一応、図書室でそれっぽい本を借りたんだけど、よく分からないから」

「図書室に恋愛指南の本なんてあるのかよ。どんなんだ?」

 ミナトが、自分の机から本を取り出し、もどって表紙を見せてくれる。
 『よくわかる告白と返事の仕方 “中級編” 西日本版』
 どこからつっこんでいいやら。

「…本当は“初級編”が良かったんだけど、もう借りられてなかった」

 ミナト以外にも借りてるやつがいるのかよ、こんな胡散臭い本。まさかミナトに告白したやつじゃあねーよな。

「どんなことが書かれているんだ?その本」

「…例えば」

 ミナトがぺらぺらと本をめくって、じっとページを見て私の顔を見つめる。

「…つっ付き合ってあげてもいいけど、かっ勘違いしないでよね、別にあんたのことが好きなわけじゃないんだからね。仕方なく、そう、仕方なくなんだからね」

 えーなにこれー

「…もうひとつ」

 今度はまともなやつだよな、っていうかまともなのあるよな。

「…自分でよければよろしくお願いします」

 おお、普通だ普通な返事だ。やれば出来るじゃないか『よくわかる告白と返事の仕方 “中級編” 西日本版』見直したぞ。

「…ふふふ、これで自分はあなたのもの、そしてあなたはすべて自分のもの。もう他の人なんて見ないで、しゃべらないで、他の人なんていらないでしょ、自分だけいればなにもいらないでしょ。ふふふふ」

 がっかりだ、裏切られた、失望した。
 っていうか、こえーよ。ミナトは無表情に淡々としゃべるから似合いすぎるんだよ、このセリフ。

「…どう?」

「どう?っていうよりも私は“上級編”が気になるような、見たくないような」

「…この本はあまり参考になりそうもない?」

「ねーよ。こんなん参考にしたら相手ひくぞ」

「…じゃあ、アキはいつもどんな風に返事をしてる?」

 どんな返事をしているのかと聞かれても、まぁあまり相手が傷つかないように気を使ってセリフを考えてはいるが、そんな改めて聞かれても……っていうか

「いや待て、そもそも私は断ってばっかりだったんだが」

「…断るから、いい」

「へ?断るの?」

 こくりとうなずくミナト。いや、本から選んだセリフが全部OKのセリフだったから、てっきり………ふーん。断っちゃうんだ。へーそっか。そっかそっか。

「なになに、好みじゃなかったとか?綺麗じゃなかったとか?」

「…綺麗な人だよ」

 ほー綺麗な人か、っていうか誰なんだミナトに告白した人。

「なぁ聞いてなかったんだが、誰に告白されたんだ?」

「…トリイさん、2年の白島 雀居(はくしま とりい)先輩」










 ミナトが「…行ってきます」といって教室を出た放課後、紅葉がニヤニヤしながら近づいてきやがった。
 正直、不気味だ。

「いや~ミナっち返事しにいったね~」

「ああ」

 ………いや、ちょっと待て。

「紅葉、聞き耳立ててやがったな」

「んっふっふ、紅葉の耳は地獄耳なの(はぁと)を忘れてもらっては困るね~」

「はいはい、そうだったそうだった」

「うわ~全然感情こもってな~い。」

「しっかし、ミナトに告白するようなやつがいるとはなー」

「え~、う~ん、でもね、ミナっちは不細工でもないし、でもかっこいいわけじゃない普通顔~ それにさりげない優しさをもったいわゆる良い人どまりの男の子~ でもそれがいいっていう子猫ちゃんはいたのに、猛獣アキちゃんが睨みをきかせていたせいで戦意喪失に~ ああ~かわいそなミナっちに子猫ちゃん~」

「睨みなんてきかせた覚えはねーよ」

「そして、猛獣アキちゃんを恐れずミナっちに告白した奇異な白島先輩について教えてあげるよ~」

「別に興味ねーよ。あと猛獣じゃねーし、奇異とか失礼だぞ」

「まぁ~そう言わずに聞いてよ~ え~ではでは、2年C組に在籍、お嬢様、美人、良い胸、以上~」

「なんか検索ワードみたいだな」

「あっ、あと生徒会会計補佐」

 ああ、どっかで聞いた事がある名前だと思ったら生徒会の人か。

「そして~ 一回断られたぐらいで諦めるような性格の人じゃないかも~」

「はぁ?」

 紅葉がなんとも不吉なことを言った時、がらがらとドアの開く音と共にミナトが教室に入ってきた。
 ぼんやりとして、どうしたんだ?ミナト?

「…狩られる」

「?」

「?」

「…狩られるモノの気持ちが、少しわかった」

 ………えー



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 2
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:c17c0874
Date: 2010/04/30 14:38
ミナトが白島先輩に初めて告白された『ミナっち初告られ事件』が、「…ごめんなさい」というミナトの返事に
 「わかりましたわ。でも私が告白したのはミナトのことが好きだとまず伝えたかったからです。ミナトは必ず私がいただきますわ」と返されたため、
 『ドキッ、狙われたミナっち、貞操の危機もあるよ事件』(事件名はすべて紅葉命名)にめでたく変更してから数日……
ついに6月に入った。本格的に梅雨の時期に入ったんだ。
私は今、全国に何千万人いるかわからない癖っ毛&天パ同盟の人々と共に湿気と戦っているぞ!!

「おはよ~アキちゃん~……なに拳をにぎってるの?」

 紅葉がとことことやってくる。今日はポニーテイルか。

「さらっさらの髪のやつにはわかんねーよ、自称・レズじゃない幼女」

「やめて~自称なんてつけたら、レズじゃないっていうのがウソみたいじゃ~ん」

 だってなー、普通女同士でも胸なんかそうそう触らないからなー
 疑わられてもしかたねーよな。うん。

「あ~違うんだよ、違うんだってば~みんな~、や~め~て~、手で胸を守るのやめて~襲わないよ~、
 あっ、キミは彼氏に守ってもらうんだね、うらやましいね。うん、大丈夫、襲わない、襲わないから彼氏さんそんな目でみないで~」

 日ごろの行いって大事だな。生きてく上での教訓だ。

「なぁなぁ紅葉、騒ぐのはいいが幼女は否定しないのか?」

「う~、誰のせいで騒いでると~あと幼女も取り消せ~」

「涙目で上目づかいされても私にはきかん。何年来の付き合いだと思ってるんだ」

「ちくしょ~」

どたたたた、と紅葉が教室の外に駆けだす。相変わらず身体ちっさいわりにパワフルだな。

「朝のHRまでには帰ってこいよー」

 聞こえたかー?まぁいいか。

「おはヨー江波。なんか立町がすごい勢いで走り去って行ったけド、……あれだナ、おまえらは相変わらず仲いいナ」

 こいつは土橋 県(どばし けん)、高校で友達になったやつだ。ミナト経由でな。
 天然物の金髪に青い眼の自称・生粋の日本男児だ。……生粋…

「ミナトはまだ来ていないのナ」

「私が出るときに、まだ朝飯食ってるみたいだったからな」

 ミナトはよく食べる。食べても太らない体質らしく、これでもかっていうぐらい食べても平均以下の体重だ。うらやましい。
 私も一応乙女だからな、気をつけているんだぞ。……本当に。

「アキさん、土橋くん、おはようございます。」

「おはヨー、宇品」

「おはよ、レン。ああ、紅葉を連れて来てくれたんだな」

 紅葉の手を引いてにっこりと微笑んでいるのは、宇品 恋(うじな れん)。
 友人の中で、もっともまともで普通だ。………まぁ、胸だけは普通じゃないけどな。なに食ったらああなるんだ?

「なんかこうしていると姉妹みたいだナ」

「紅葉がお姉ちゃん?」

「いや、どう見てもあんたが妹だヨ」

「鏡を見ろ、鏡を」

「うう~、天パと金パがいじめる~ レンちゃんなぐさめて~」

「ひゃわーー」

 紅葉がレンの胸に顔を埋めてるな。しかし、いいのか?紅葉?

 〝ざわざわざわざわ″

「あ゛~、違うよ~みんな、違うんだってば~ これはつい、ついなんだよ~」

 まぁ、みんなそんなに本気にしているわけではないけどな。

「…おはよう?」

 ようやくやってきたミナトは、笑いを噛み殺しながらも疑惑をこめた目で紅葉をみつめているクラスメイトと、あわあわやっている紅葉をみて首をかしげている。
 そりゃー意味わかんねーよな。気持ちはわかるぞ。

「あっ!ミナっち~ ミナっちなら紅葉を信じてくれるよね!」

 がしぃ、と紅葉がミナトに抱きつく。ちょっおま…

「…???」

 ほら、ミナトがさらに困惑してるぞ。
 紅葉をミナトから引き剥がしつつ状況説明をしてやる。
 ミナトが少し考えてる。どうしたー?

「…紅葉は女好きだった?」

「違うよ!男がいいよ!!」

「…女嫌い?」

「嫌いなわけではないんだよ!女の子好きだよ!!」

「…男嫌い?」

 なにこの押し問答。

「うぇ~ん、ミナっちがからかうよ~ アキちゃ~ん」

 はいはい、よしよし。
 ……うん?なんだ?ミナト、私の顔になにかついてるか?

「…アキ、もしかして、体調悪い?」

 ……………

「あー、少しだけな」

「…本当に?」

「それは~ 昨日、雨降っているのにカサなしで帰るからだよ~」

 しまった、まさか紅葉に見られていたとは。

「…昨日、放課後にカサ渡したけど?」

 あー、私はよくカサを忘れるんだ。ほら、クラスに一人はいただろ? そんなの小学生までで、高校生になってそれはない?
 まっ、まぁ、とにかく、私の親は私に持って行かせるのを早々にあきらめて、ミナトに私の折り畳みカサを渡したため、ミナトからカサをもらうという習慣になったというわけだ。

「いや、もらったんだけど人に貸したんだよ。ほら、私やミナトの家は学校から近いし」

「そうやって、いたいけな子猫ちゃんをまた一匹たぶらかしたんだよ~」

「たぶらかしなんかしてねーよ」

「そう、あれはミナっちがドバっちにゲーセンに拉致られていった後のことだよ~
 カサを忘れて困っていたA組の子猫ちゃんにカサを渡し、雨の中、男らしく走り去るアキちゃん。
 ……そして子猫ちゃんが一言、かっこいい、ということがあったのさ~」

「わー、アキさんかっこいいですねー」

「ちくしョー、なんで並みもしくは並み以下の男子がそれをしても、きしょいって言われるのニ、かっこいい男子や男前な女子がやったら好感度が上がるんだヨ、ちくしょウ!!」

 レンやめて、はずかしいから。ケン、おまえもやめろ、心の底からの叫びは見ていて辛い。

「おーい、野郎ども。席に付けー」

 先生がきたから各々席に着き始める。あー、ミナトが心配そうに見てくるから、ひらひらと手を振ってやる。
 うーん、わりかししんどくなってきたな。先生には悪いが、寝ちゃえ………










 あー、身体がだるいし、熱い。
 あっ、額が冷たくて気持ちよくなった。
 んー、なにかが頬に触れてる。なんか心地いい。
 ああ、離れてく。心地いいのが離れてく。もっと触れてほしい。

「んん」

 あれ?机にうつぶせになって寝ていたのに天井が見えるのはおかしくないか?
 そもそも、学校の天井じゃねーな。
 …………

「私の家じゃん!」

「…おお、アキ、元気そう」

 ミナトが水の入っているだろう洗面器を机に置きつつ話しかけてくる。
 私は、濡れタオルを額にのせて、パジャマで自分のベットに寝ている。
 ………あれ?

「なんで私パジャマに着替えているんだ?………まっ、まさかミナト、おまえが…」

「…学校から家まで、車で送ってくれた保健の先生が着替えさせたよ」

「ああ、そう……」

「…お粥つくったから食べる?」

「おう、食べる」





 さて、お粥も食べた、薬も飲んだ、水分もとった、あとはしっかりと寝るだけだな。
 ふぁーあ、薬が効いてきたのか眠くなってきた。ぼんやりするなー

「…じゃあ、アキ、行くから」

「………ミナトォ」

「…ん?」

「学校、行くのか?」

「…うん、昼休憩が終るまでには帰る、っていう約束だから」

「ふーん………そっか………そっか」

 ばたん、とドアの閉まる音がした、だめだ、ねむい……










〝ぱらり″

 うーん、何の音だ?

〝ぱらり″

ああ、本をめくる音か。………本?

「ってなんでミナトが居るんだ?」

 上半身だけ起き上がり時計を見ると、15時20分。まだ授業中の時間のはずなんだが。

「…アキ、気分はどう?」

「えっ、あー、うーん、だいぶ良くなったと思うけど」

「…そう、なにか欲しいものある?」

「いや、べつにいい。……いや、だからミナト、学校は?」

「…さぼった」

「いや、なんていうか、ごめんな」

「…いい、お互いさま」

 お互いさまかー、うーん





――ある日の風邪ひきの日――

「アキ、ごめんなさいね。お父さんとお母さん仕事に行くから」

「私は大丈夫だから、いってらっしゃい」

「なにかあったり、しんどくなったら連絡するのよ。………ミナトくんに」

 うん、なんというか、いつものことだけど、今更だけど、

「母さん、一応、私もミナトも年頃なんだけど、そこんところどうなの?」

「あら、仕方がないじゃない。横川さんのところも共働きなんだから。ミナトくんが風邪の時はあなたがめんどうみてるんだから、おあいこでしょ?」

「いや、そーじゃなくて、家に男と女を2人っきりにさせるのはどーなのかってことだ」

「もう、ならミナトくん食べちゃいなさいよ。めんどくさい」

 おーい、娘になに言ってんだ、この母親。

「母さん、ちょっといいか」

 おお、父さん。いいぞ、言ってやれ。

「強制はいかん。めんどくさいからといってそんな投げやりなことを言ってはいかん」

 なんかちょっと気になるけど、いいぞー父さん。たたみかけろー

「ミナトくんにも選ぶ権利はある!!」

 やっぱり父親も敵かよ、ちくしょう。そもそも、普通は父親にとって娘って大事じゃないんか?

「アキ、実は父さん息子が欲しかったんだよなー」

 娘でごめんよ。あと、いま心読まなかったか?

――――――――――――――





 あー、今、嫌なこと思い出したー
 私もバカなこと考えてたなー でも、思春期真っ盛りだったからしかたねーよなー

「…アキ、どうした?ぼんやりして」

「ああ、ちょっと恥ずかしさと、父と母に対する思い出し殺意が湧いて出てきただけだから」

 …そう。と言って、ミナトはまた本を読み始めている。

「なに読んでんだ?」

 表紙をみせるミナト
 『よくわかる告白と返事の仕方 “上級編” 西日本版』
 借りたのかよ“上級編”。

「…“中級編”返しに行ったとき、“初級編”があったから、いっしょに借りた」

 へー、そう。……ついに来たか“上級編”なにが書かれているんだ?

「…“上級編”では、とうとう小道具が登場」

 なんだ?“上級編”でラブレターとかなのか?

「…かばんに、首の血管が簡単に切れるくらいの切れ味のいいノコギリをいれて…」

「いい、それ以上言うな」

「…違うのでは、空のナベを火にかけて、お玉で…」

「いい、もういい。私に“上級編”は無理だ」

 おーい、“上級編”病んだやつしかねーのかよ。

〝てってれ てれてれ てって~ てってれ てれてれ てって~″

 うん?紅葉からメール?
 あっ、ちなみにこの笑点のテーマ曲は紅葉が「これが紅葉のテーマソングだよ~」って言って、紅葉のメール受信の時に鳴るように私達の携帯の設定を勝手に変えやがったやつだ。

『ミナっち学校サボってそこいる~?』

 ミナトが帰ってこなかったから心配してんだな。

『いるぞ。迷惑かけちまった。あと、私もだいぶ調子が良くなった』

『むっふっふ~ そっか~ よかったね~ これで安心して見張れるね~(^⊸^)ニヤリ』

 なぁ!!!

『見張るとは何のことだ?私はそんなことした覚えはないぞ』

『ふ~ん、ミナっちが告白の返事をしてから、アキちゃんミナっちにべったりだったのに~ 紅葉にはまるっとつるっとお見通しだよ~m9』

『べったりなんかしてるかーーー』

〝ピッ″っと、返信をした後に携帯の電源を切る。紅葉め、朝の仕返しか、ちくしょう。

「…アキ?興奮しているみたいだけど、大丈夫?」

「ミナト、違うからな、私は見張ってなんかいないぞ。べったりなんてもってのほかだ。
 ……そう、心配だからだ、心配だからなんだ。ミナトが毒牙にかからないか。それもこれも、親友だからな!そう、親友だからな!!」

「…??」

 ……紅葉、元気になったら覚えていろ!!










――あとがき――
 どうも、ブタと真珠です。
 ハイペースで投稿する人、すごいですよね。
 マイペースが一番、マイペースが一番、と言い訳しつつやっていきます。
 
 

 ナマハゲさん、感想ありがとうございます。
 感想をもらえると励みになりますね。がんばります



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 3
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:63057d8d
Date: 2010/04/30 14:37
 今日は休日でしかも晴れだ。
 これでもかというぐらい雨が降っていたのに休日に晴れるとは空も空気を読むんだな。
 そんな晴れたこの日に私はミナトと本屋へ向かっている。
 えっ?風邪?そんなのしっかり栄養とって、水分とって、薬飲んで、寝てれば一日で治るだろ?
 ……治るんだよ、治ったんだよ、悪いか!

「…着いた」

 すたすたと足早に本屋に入っていくミナトの後に続いて私も店内に入る。
 私は本にあまり興味ないからミナトに付き合っているだけだ。

「あら、ミナト。お久しぶりですね」

「…トリイさん、久しぶりです。なにかあったんですか?」

 ついに現れたか白島 雀居……先輩。

「いえ、風邪をひいてしまって学校を休んでいたの」

「…大丈夫ですか?」

「もうすっかり元気です。心配してくれて嬉しいですわ」

「…よかった」

「ところで、ミナトも本を買いに?」

「…はい。トリイさんはもう会計ですか?」

「ええ、この本屋は品揃えが良いですわね。ミナトに教えてもらってよかったですわ」

「…一番の行き付け」

 おーおー、2人だけで楽しそうに話してるなー
 私は無視か、無視なのか?
 お邪魔か?お邪魔なのか?
 なんか、イライラするなー2人が話していると。

「あら?あなたは……例の“友人さん”?」

「…はい、あの“友人”です」

 今度はなんだ?
 私の方を向いたかと思うと、くすくす笑いやがって。

「なんだ…なんですか?」

 少し言葉がきつくなるのはしかたねーよな。
 だって、笑われたからな、よくわかんねーのに。
 ………笑われたからむかつくんだ。きっと……

「いえ、想像通り元気そうな人だと思いまして」

 にっこりと微笑む様はとても綺麗だ。とくにミナトへ向ける笑顔はとても優しそうだな。
 ……本当にこの人はミナトのことが好きなんだと、わかる笑顔だ。
 でも、私へ向ける笑顔はなんか挑発的だな。

「私は白島 雀居です。よろしくお願いします、友人さん」

「友人あらため、江波 安芸です。よろしく、白島先輩」

 白島先輩は綺麗だけど挑発的な笑顔をむける。
 私も笑顔だけど、たぶん引きつっているだろう。
 なんでこんなにイライラするんだ?くそ!!

「では、ミナト。友達を待たせているのでこれで失礼しますね」

「…はい、また」

 会計に向かう白島先輩。
 ちらりと見えた本のタイトルに、『よくわかる……
 あるのかここの本屋に……





 とりあえず、白島先輩が本屋から出るのを確認する。よし、行ったな。
 はた目から見るとわからないだろうが、うきうきしながら本を選んでいるミナトを見ると、なんとなくイライラがやわらぐ。
 ぶらりとミナトとは別行動をとって歩く。
 『よくわかるシリーズ』
 うわぁー、本当にあった。
 えーと、趣味のコーナーか。……趣味?

「うっわ、結構種類あるんだな」

『よくわかる夕陽の活用法 “青春編”』

 私には向かって走るしか思いつかん。

『よくわかる現代兵器 “一年戦争編”』

 現代兵器なんだろうな、本当に。

『よくわかるよくわかるシリーズ』

 タイトルからもうよくわかんねーよ。
 いや、そもそもこの『よくわかるよくわかるシリーズ』を読まないとよくわからないなんて、よくわかるっていうタイトルがもう間違いじゃないかと…………もう、よくわかんねーや。

『よくわかる現代魔…

 次!!

『よくわかるあいつとの関係 “幼馴染編”』

「……………」

「…アキ、なにか買う?」

 数冊の本をもったミナトがいきなり話しかけてきた。

「いや、私はべつにいいや」

 慌ててのばした手を引っこめる。
 ……もういい、よくわかるシリーズはもういい。










 ミナトが会計をすませ、本屋から出る。
 さて、どうするかな。

「なぁ…」

〝ぐぅ~~~~″

「あー、飯でも食べるか?」

 こくりとうなずくミナトを連れて店をさがす。
 こいつはよく食べるから、手頃な値段なところじゃないとな。
 ……ミナトと一緒に高い店とか行けねーな。

「ファミレスでいいな。入るぞー」

 店内に入って、空席を探す。
 おーおー、休みで晴れてるから客が多いなー

「アキちゃ~ん、ミナっち~」

 んん、ああ、なんだ紅葉とケンか。
 こっち、こっちと2人して手招きをしている。

「2人だけなのか?」

「おウ、立町とすぐそこで会ってナ、腹へったから飯でも食おうゼってことになったわけダ」

「紅葉はせっかく晴れたから、ぶらぶらとしてたんだけど、1人さみしそうなドバっちを見つけて拾ったんだよ~」

「さみしそうとカ、拾ったとか言うナー」

「まぁ~、本当はしつこいナンパから助けてくれたんだけどね~」

 えへへ~と笑いながら教えてくれる紅葉。
 へー、それはそれは。

「いヤ、立町がナンパされてるのはどうでもよかったんだけド、相手のおっさんがどう見ても高校生をナンパしているように見えなくてナ。
 あれはどう見ても幼じ…」

〝バチン″

「え~と、ようし、そう!!紅葉の容姿があまりにも可憐だったからしつこいのなんの~」

 ケン、痛そうだな、メニューで顔面を叩かれるのは。
 あとミナト、腹がへっているのは分かるけど、メニューとにらめっこしてないで、顔面おさえてのたうち回ってるケンの心配ぐらいしてやれ。
……一応、友人だろ。










「はい、ドバっち~ カルピスとオレンジジュースとソーダと梅こぶ茶のブレンド~」

「最後になんちゅーもんを入れてくれたんダ!せっかく途中まではまともぽかったの二」

「ほら、意外にコクが出てておいしくなってるよ~ たぶん」

「どれどレ………まっずいワ」

「やっぱり~」

 料理も食べて、ドリンクバーを使って遊んでいる2人。「おまえも飲メ!」「きゃ~~」とか言ってわいわいとやっている。
 あーもー、こいつら2人だけでも騒がしいな。

「そういえばさ~ ドバっちさ~」

「うン?」

「ドバっちの名前の県って珍しいよね~」

 あー、たしかにそうだな。健康の健とか、剣道の剣とかならまだしも、県は見たことないな。
 まぁ、私もミナトも人のこと言えないけどな。
 安い芸でアキ、南の兎でミナト。…………本当に人のこと言えねーな。

「そうカ?」

「なかなか名前じゃあ見ないよ~ あと、紅葉的には、KENが一番ドバっちぽい」

 中学英語の教科書に出てきそうな名前だな。
 NewなHorizonとか。

「なにを言ってル、この県って漢字は日本で一番多く使われている漢字だと親父が言っていたゾ。ここだって使われているじゃないカ」

「え~ まさか!」

「…もしかして」

「それなら、たしかによく使われているけど」

 日本を47つに分けた内、43カ所で使われてるな。
 あとは、都とか道とか府とかあるけど、圧倒的に県だな。

「オレはどっちかと言うト、ミナトの完璧なまでの無表情の方が珍しいゾ」

 気持ちは分かるが、それも含めてミナトだからな。
 慣れれば気にならないし、なんとなく表情も読めてくるし。

「…無表情だけど、無感情じゃない」

「だからこそ表情だしていこうゼ。……よし!ミナト、オレが言う感情の表情をしてみてくレ」

 ミナトがこくりとうなずく。

「喜!」

「…ん」

「怒!」

「…ん」

「哀!」

「…ん」

「楽!」

「…ん」

「なんも変わってネー!!」

こんなんで無表情が変わったら私がとっくにやってるよ。
……まぁ、笑顔は見てみたいけど…

「…ケンはできる?」

「よーシ、オレの本気を見せてやろウ!」

「紅葉もやる~」

「…喜」

 ニカッ

「…怒」

 プンプン

「…哀」

 うぇーん

「…楽」

 イエーイ

 ……なんというか

「完璧にそろって同じ表情されると、きもいな」

「江波!きもいは傷つク」

「じゃあ、受けつけない」

「それは紅葉たちの存在がなの~」

 あー、うるさい、うるさい。










 客が多いのにあまり長居するのは悪いと思い、ファミレスからでる。

「…そろそろ帰る」

「あー、そうだな」

「なにか用でもあるの~?」

「親が早く帰ってこいって言ってたんだよ」

 私とミナトの両親が同時に土曜日に休みがとれているのは珍しいから、みんなで晩飯でも食べようってことになったみたいだ。
 明日は日曜日だし夜中まで騒ぐきまんまんなんだろうな。

「ドバっちは~?」

「オレはヒマだからぶらぶらするゾ」

「じゃあ~一緒に行くか~」

「おオ、いいゾー 保護者がいれば立町もナンパされないだロ。
 兄貴とよんでいいゾ」

「ドバっちをお兄ちゃんって呼ぶくらいなら、アウストラロピテクスを兄にするよ~」

「まだほぼサルじゃねーカ」

 仲良くわいわいしながら、遠ざかっていく友人2人。
 ………うーん、なんだか…
 まぁ、いっか。










――あとがき――
 文章量少ないのにこの更新スピード
 …………ないね



 風待さん
  ご意見ご感想大歓迎です。ありがとうございます。
  キャラ描写は自分の力量不足でとってもくどくなったのでカットしたら……しすぎました。(えへ
  精進しなければ…

nanasiさん
  あんげい? あんげい… 安芸!? アキ!!

 ラルフレッドさん
  眠そうな目に無表情……たしかに似てますね。
  気がつかなかったー
  ・・・もしかすると以外にミナトが攻め(ry




[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 4
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:62707eb9
Date: 2010/04/30 14:37
 多少湿度は高いものの、とてもいい天気の今日。
 紅葉たちと別れて、家に到着。

「じゃあ、晩飯までのんびりするか」

「…うん」

 今日は江波家、横川家が一緒に晩飯を食べるみたいだからな。
 まぁ、まだ晩飯まで時間があるからぶらぶらしてもよかったんだが、ミナトが買った本を持って、わくわくしてるからな。早く読みたいだろうとさっさと帰ってきたわけだ。





「ただいまー」

「おっ!帰ってきたか。早かったな」

「アキ、ちょうどよかったわ。手伝って」

「ミナトが新しい本を読みたそうだったから早めに帰ったんだよ。で、なにを手伝うんだ?母さん」

「焼き肉の下ごしらえよ」

「あれ?どっか食べに行くんじゃねーの?」

 だいたい合同で食べるときは居酒屋とかに行ってたけど。

「久しぶりにこうゆうのもいいだろうってことになったんだ。それに家なら騒いでも店員さんに注意されない!!」

 いや、あれは父さんが悪い。
 他の客にからむのは注意されるって。

「よっしゃー、今日はしっかりと飲むぞ。セトさんと!!」

 えーと、紹介が遅れたが、今騒いでいるのは私の父親の江波嶺児(えなみれいじ)だ。
 父さんは見た目が真面目そうなのに中身は子どもみたいな人っていう、とっても厄介な父親だ。
 なんせ、小学生の時、父兄参観に来た父さんを見て、隣の席の子が「江波さんのお父さんってあの人?へー、落ち着いててかっこいいね」なんて言われたすぐに「アキー、亀いるぞ、亀。久しぶりに見たなー」と大きな声で呼びかけてきやがったから、つい「クラスで飼ってんだよ!そんなことで騒ぐなー!!」と大声で返してしまって恥ずかしい思いをしたことが一度や二度ですまないのがまた怨めしい。
 まぁ、そんな父さんをすごいと思うことが1つある。
 それは母さんと結婚したことだ。
 母である燦(さん)は、えらいめんどくさがり屋だ。自分に興味のないことは無関心すぎる。
 昔、「仕事はめんどくさいと思ったことはないんだけどねー」とか言っていたから「他にはないのか?」と聞いたら「あとは、結婚生活と家事と子育てかな」と言った。
 性格を考えると育児放棄もありえるだけに子育てに興味があってよかったと子共心に思ったものだ。
 こんな母さんが恋愛に現を抜かすのが想像できない。
いや、もしかしたら恋に恋した時期が母さんにもあったのかもしれないな。なんせ、母さんは同年代の人のなかでも美人な方だ。若い時の写真を見せてもらったが、やっぱり美人だった。すこしきつめだが、男ならほっとかないだろう。
 こう、若さゆえの過ちだとか、若気の至りとか…………ないな。
 本当にこの2人はどうやって出会ったのやら。
 聞きたいような聞きたくないような。
 もし、「めんどくさかったからこの人でいいかなって思って」とか言われたら、その愛があるのかわからん結晶が私であり、ちょっと本気でへこみそうだから聞けないんだ。

「ぼーとしてどうしたの?アキ」

「いや、ふと知りたいような知りたくないようなことを思い出しただけ」

「そう」

 いや、そこはもうちょっと聞こうよ、母さん。あっさりしすぎだ。
 娘が不可解なことを言ってるんだから、ほら、もっとさ。

「どうしたんだアキ。なにか聞きたいのか?」

 おお、父さん。たまにまともな父親になるな。

「まるでいつもはまともじゃないような言い草だな」

「……………」

 声に出して言ってねーんだけど。










 晩飯だ、晩飯だぞ。
 場所は横川家だ。こっちのほうがリビング広いからな。
 みんなよく食べ、よく飲む。
 まぁ、私とミナトはお茶だけどな。未成年だし。
 しかし、

「ミナト!肉を食べろ肉を」

「…タマネギ、おいしい」

「おまえ気に入ったもんばっか食べるのやめろ。
 ってか普通逆だろ。肉ばっか食べるのを注意するもんだろ」

 さっきからタマネギばっか食ってるミナトの皿に肉や他の野菜を入れる。

「ほれ、食べろ」

「…むぅ」

「むぅ。じゃない」

 しぶしぶ肉とかを食べる。まったく。

「…アキちゃんの方が、私よりお母さんぽい」

「あまり嬉しくないです」

「…そう?」

 あー、このミナトみたいにワンテンポ遅れてしゃべっている人は横川 水梨(よこがわ みなり)といってミナトの母親だ。
 なかなかの美人でさらに清楚だから着物が似合いそうな人なんだが、これでもかっていうぐらい無表情で、さらに眠たそうな眼をしている。
 顔はあまり似てないのにミナリさんとミナトがならぶと親子だって一発でわかる。
 そんでもって、この人はなかなか厄介な人だ。
 むかし、ミナトの家でご飯をごちそうになったとき、「…ミナト、イチョウ切り出来ないのよ」と言われて「あんなんすごく簡単なのに?」と答えると、イチョウ切りされた人参がみごとなイチョウの葉に彫られたものを見せられ「…こんなに簡単なのにね」と言われたことがある。
 ミナトにも聞くと、「…イチョウ切りは難しい」って言いやがった。
 すぐにきっちりと本当のイチョウ切りを教えてやった。
 それからもミナトが普通と違った認識をしているモノをごろごろと見つけて、その度に私が修正していった。
 その間違った認識を教えていたのがミナリさんというわけだ。

「ミナリさん」

「…うん?」

「あなたもさっきからトウモロコシしか食べてないので、肉食べて下さい」

「…トウモロコシ、おいしい」

「その言い訳はミナトから聞きましたから」

 ミナリさんの皿にも肉などを入れる。

「…むぅ」

「それもさっきやりました」

 まったく、なんだこの似た者親子。

「ありがとねーアキちゃん。ミナリさんとミナトの面倒見てくれて」

 ニコニコと笑いながら話しかけてきた人は、瀬兎(せと)といってミナトの父親だ。
 この人はいっつもニコニコとしている。
 人当たりの良い顔立ちに、安心感をあたえる雰囲気を持った人で、普通な人だ。
 そう!!普通な人だ。常識をちゃんと持った人だ。
 横川家の明るさはこの人が全て負っているといっても過言ではないっていうか明るさそのものだ。
 横川家の明かるさと常識を守る人だ。
  
「いえ、セトさんこそ父さんの面倒を見てもらってるし」

「いやいや、レイジさんと一緒にいると楽しいから」

 元気な父さんと明るいセトさんが仲がいいのは分かるが、意外と母さんとミナリさんも仲がいい。よく一緒に買い物に行っている。
 今も仲良さそうに話してるしな。

「そういえば、ミナリさんがお酒飲んでいるのをあまり見たことないけど、下戸でしたっけ?」

「…いえ、飲めるんだけど」

「飲めるんだけど?」

 そういえばあまりミナトさんが酒を飲んでいるのってほとんど見たことないな。
 って、ミナト、なんで耳を塞ぐんだ?

「…身体が火照って、セトさんが欲しくなるから」

 ああー、なるほど。ミナトが耳を塞ぐわけだ。
 親のそういうセリフは聞きたくないな、子供として。

「へー、まだまだラブラブってわけか。いいわね」

「母さーん、ずっと愛してるよー」

「はいはい、ありがと。私もよ、父さん」

 父さん母さんもやめてくれ。
 せめて子供がいないところでそう言う会話をしてくれ。
 恥ずかしくて仕方ないな、まったく。

「…ラブラブ」

「照れるなー」

 嬉しそうなミナリさんと照れてるセトさん。
 夫婦関係でいうなら私の両親が普通なんだろうな。
 いや、セトさんも普通かもしれないけど、ミナリさんの愛はちょっと変かもしれない。
 なんせ、むかし、学校の創立記念日で休みだった時にミナトさんと昼ドラを観ていて、内容的には未亡人が夫の友人と結ばれるっていう感じだったんだけど、「…私には無理」と唐突に言われて「なにが?」と聞き返すと「…もし、セトさんが死んだら、私も死んじゃう」といわれた。
 目がマジだったから若干引いた。
 うん、セトさんはミナリさん一筋でいてもらおう。そうならとりあえず平和だ。

「ってか、父さんも母さんも飲み過ぎだ。特に父さん!!」

「大丈夫!まだ3人だ!!」

「なにが?」

「アキの数が」

「だいぶ酒がまわってんじゃねーか!!」

 そもそも何人になるまで飲むつもりだったんだ?

「そうか!じゃあ、ちょっと寝るー」

「寝んな!!せめて家に帰って寝ろってああ」

 ったく本当に寝やがった。

「…アキ」

「ミナト、ちょっと待ってくれ。今から父さんを邪魔にならないところまで蹴り転がさないといけないんだ」

「…アキ」

「んん?どうしたんだ?」

〝ぎゅ″

 誰かが後ろから抱き締めてきた。
 おそるおそる後ろを見ると、思った通りミナトだ。
 いやいや、ちょっと待て。
 親が見てるんだぞ、せめて2人のときな…違う違う。
 なにか言わないと、なにか。

「ミナ…」

「…ふらふらする」

「はぁ?」

 ふと、視界に母さんが入る。

「飲ませちゃった」

 飲ませちゃったじゃねーよ。

「おい、ミナト大丈夫か?」

「…アキ、水」

 どうやら水が欲しくて台所まで行こうとしたのだが、ふらふらで、近くにいた私につかまったみたいだ。
 そもそも、飲ました母さんかミナリさんが用意してやれよ。
 あっ!セトさんは父さんを運ぶのを手伝ってくれていたから除外だ。

「ほら、イスに座れ」

「…うん」

「はい、水」

「…ありがと」

「ミナトくん、お酒弱いのね」

「…私もそんなに強くはないから、私の遺伝?」

「へぇー、ミナリさん似だったら……ねぇ、ミナトくん」

「…?」

「身体が火照ってる?」

 なに聞いてんだ?母さん。

「…ぽかぽかする」

「アキを使ってもいいわよ。私が許す!」

「なに言ってんだぁぁぁぁこの酔っぱらいーーー」

 近くにあったティッシュ箱を母に向かって思いっきり投げつける。
 しかし、余裕をもってキャッチされる。
 しかもニヤニヤ笑って

「あら、水とかもらったり酔いさましの手伝いに使えって意味だったんだけど、ナニを想像しちゃったのかなー?アキ?」

「なぁ!くぅ、なんでもない!!」

「ふふふ、やぁーらしぃー」

「ち、が、う!!」

「…アキ、水、おかわり」

「あー、はいはい」

「アキも飲もーよ」

「飲まない!!」

 そもそも未成年に飲ますな、この酔っぱらいはー

「つまんない子ね。まぁ、ミナリさんが飲んでくれてるからいいか」

「…これ、ウーロン茶」

「それ、ウーロンハイにかえちゃった」

「…いつの間に」

 だから、飲まない人に飲ませるなよ。母さん。

「いやー、レイジさん、ぐっすりだね」

「ああ、すいません。セトさんに任せたままで」

 しまった、父さんのこと忘れてた。
 セトさんがソファに寝かせて、タオルケットまでかけてくれてる。
 その辺に転がしておいてもらってもよかったんだけど……

「いやいや。レイジさん起きそうにないから、今晩はウチに泊めるね」

「大丈夫です。叩き起こします」

「明日も休みだし、寝かせてあげよ」

「本当にすみま…」

 〝ぎゅうーー″

 私の言葉の途中でミナリさんがセトさんに抱きついた。

「…セトさん」

「ミナリさん?」

「…セトさんが、ほしいなぁ」

「ミナリさん、もしかして酔ってる?」

「すいません。母さんが飲ませたんです。
 あーもー、夫婦そろって迷惑かけてー」

「大丈夫、大丈夫。まだ、甘えてくるくらいだから」

「はぁ……」

 もっと酔ったらどうなるんだ?
 いや、いい、考えない。
 それよりも、

「もう、片付けますか」

「そうだね。ほら、ミナリさん、片付けをしないといけないから離して」

「…やぁ」

 やれやれと笑いながらセトさんはミナリさんに抱きつかれたまま器用に食器を台所に運んで行く。
 さて、私も手伝うか。

「ミナト、はい、水。母さん、片付けるから手伝って」

「まだ飲み足りない」

「取り合えずホットプレートとか片付けたあとでな」

 まぁ、疲れるが楽しいな。たまにはこんなのがあっても。










――あとがき――
 ブタと真珠です。
 GWが始まりますね。
 休める……かなぁ……
 更新……出来る……かなぁ……



 或る物書きさん
  アキさんはツンデレだったのかぁ(オイ)
  更新遅いですけどがんばります

 未知を治めるモノさん
  いやー、名前とか考えるの苦手なのでつい…
  名字とかは電鉄の駅名が便利です。





[18251] 白島さんちの雀居ちゃん
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:f2742905
Date: 2010/05/05 15:12
 新入生を迎え、生徒会として会計補佐ではありますがそれなりに忙しかったですが、ようやくゴールデンウィークですわ。
 県外に進学した友達と久しぶりに市内で集まって遊ぶため、電車に乗ったのですが、やはり、そこそこ混んでいますわね。
 懐かしい友人に会うのはとても楽しみにしていたので、わくわくしますわ。





 座るところがなかったので立っていますと、なにかお尻に触れたような気がしますが、混んでいますし仕方がないことですわね。
 ……あれ?でもなぜかまた触れられている。
 あっ!なでられた。
 これはまさか……
 痴漢

「……ぁ……ぅ」

 やめて下さい。と言って手を払いのけないといけないのに、声がでない、体が動かない。
 あれ?
 怖い?
 怖い!
 とても怖い!!
 痴漢をされて、「怖くて何もできなかった」と聞くたびに「情けないですわね」って言っていたのに、いざされると…
 怖い。
 だれか……助けて

「……………」

 何人かの人と目が合ったのにすぐに逸らされる。
 気付いている人はいるはずなのに、見て見ぬふり。
 お尻を触られる不快感と恐怖感で泣きそうになる。
 泣けばやめてくれるかな?
 泣けば助けてもらえるかな?
 ……泣いてもダメなのでしょうね。

「…痴漢はダメ」

 突然、感情がまったくのっていない声と共に不快な手の感触がなくなる。
 怖々と後ろを向くと、痴漢をしていただろう人の腕を掴んでいる人がいます。
 彼が助けてくれたのでしょう。
 おそろしく無表情なのと眠そうな目が特徴的な人ですね。

「はなせよ!!俺はなにもしてねーぞ!!」

 痴漢が騒いでいるみたいですね。
 往生際が悪いですわ。

「オレはこいつが触っていたのを見たぞ」

「私も見ました。この人です」

 みなさん見て見ぬふりをしていたのに、いまさらですね。





 次の駅で降りて、痴漢を駅員の人に預けたり、警察よんだりと、いろいろありましたがなんとか早めに解放されました。
 助けてくれた彼も、状況説明のため一緒に降りてくれました。
 私も大分落ち着いてきましたし、電車を待つ今、お礼を言っておかないといけませんわね。

「助けてくれてありがとうございます。えっと……」

「…横川 南兎」

「私は白島 雀居、美津ノ矢学園の高等部2年ですわ。横川くん」

「…先輩なんですね」

「あら?新入生のかたでしたか。一応、私は生徒会のメンバーなので入学式の時に自己紹介したのですが覚えていませんか?」

「…生徒会長の印象が強すぎて」

「まぁ、それもそうですね」

 気持ちはわかります。
 生徒会長からのあいさつで、「ふっふっふ、ようこそ、私の新たな下僕ども」なんて言われるなんて思ってもみませんものね。

「…すみません」

「いえ、おそらく私も同じ状況なら生徒会長しか覚えていないと思いますから」

 ええっと、話しがそれましたね。

「改めて、助けていただいてありがとうございます。横川くん」

「…?」

「あの、首を傾げられてもこちらが困るのですが」

「…たまたま、座るところを探していて、見つけただけ」

「そばにいた人たちは、見て見ぬふりをして助けてくれませんでしたから、あなたは立派ですわ」

「…」

 黙ってしまいましたが、もしかして何か考えているのでしょうか。
 表情がまったく変わらないから分かりづらいですけど。

「…友人が、痴漢にあったとき」

 なんですか?唐突に…

「…友人が痴漢した人を、ぼこぼこにした」

「それは……また…」

「…止めるの大変だった」

 えっと、もしかして、

「私が痴漢に暴力を振るう前に止めたかったから、助けてくれたのですか?」

「…そう」

「痴漢が許せない、とかではないのですか?」

「…痴漢はダメだけど、暴力もダメ」

 情けないことに怯えてなにもできなかった私を、彼は殴る直前だと思ったのかしら。

「友人さんは助けてあげなかったのですか?」

「…助けるヒマもなく」

 勢いと度胸のある人みたいですわね、その友人さんは……
 いえ、もしかしたら、彼がいたから怯えることがなかったのでしょうか。

「…あ」

「どうしたのですか?」

「…その友人からメール」

 今日は休みですから、遊ぶ約束でもしていたのでしょうね。
 私も友達に、少し遅れるとメールしておかないと。

「…返信……『降りる駅を間違えたから、遅れますん』」

 ます、なの?ません、なの?
 そもそも、送るメールを声に出して読まないで下さいね。

「そんなメール送ったら怒られませんか?」

「…もう寝坊して遅れてるから、どっちにしても怒られる」

「さらに怒らせるようなメールを送ってどうするんですか」

「…なるほど」

 ちょっとおかしな人ですわね。





 電車に乗ってもいろいろ話しをしました。
 どうやら降りる駅が一緒みたいですね。
 まぁ、電車を使って遊びに行くのなら、市内まで出た方が遊ぶところがたくさんありますものね。
 それにしても、彼は助けてくれてから電車に乗って話しをしている今まで、表情がちっともかわりませんわね。
 それなら…

「横川くん、私のこと名前で呼んで下さい。私も名前で呼びたいので」

 少しいじわるをしたくなりました。
 照れる表情を……いえ、せめて赤くなるところが見たいですわね。

「…トリイさん」

 まったく表情が変わりませんね。
 赤くもなりませんし、意外と女性になれているのでしょうか。

「…トリイさん?」

「あっ!はい。えっと、みっ、みっ、みな、ミナト」

 私が照れてどうするのですか。
 しかも、つい呼びすてで。
 でっ、でも、私は先輩ですし、おかしくはないですよね。

「…照れます」

照れていたのですか。
分かりづらいですね。
というよりも、全くわかりませんでしたわ。















 ゴールデンウィークも終わり、私は今日も生徒会室に向かっていると、会長が近づいてきました。

「やあ、我が生徒会会計補佐くん」

「白島です。会長」

「休みはどうだったかね?」

 思い出すのは、懐かしい友人たちと遊んだこと、高校の友達との買い物、痴漢被害、そして、ミナト
 ……………

「充実した良い休みでしたわ。会長」

「それはなにより。私は島並(しまなみ)とひたすらバトルをしていたから、うらやましいよ」

「会長がもっとまともな企画を提案すれば、副会長も反対はしないと思いますけど」

 そもそも会長、休みの間副会長の家に行って、「企画を通せ」「ダメです」といったバトルをしていたのですね。
 副会長、お疲れさまでした。
 生徒会室に行ったらしっかりと労いましょう。

「全部いい企画だと思うのだがなー」

「『わくわく!!みんなブルマで体育祭(男子も)』なんてまともとは思えません」

「なんだと!ブルマは神聖なものだぞ!!」

「そんなのは男子しか喜びません」

「いやいや、気になる男子のアソコがくっきりと……
 ほら、女子もドッキドキじゃないか」

 ………………

「気になる男子のそんな姿なんて見たくありません」

 少し想像してしまいました。
 ……忘れましょう。

「だから、新しく『他校の体育祭へ乱入!!優勝して看板をいただこう』を企画したのにタイトル見ただけでシマナミのやつ却下だよ。
 理不尽じゃないか?」

「他校に迷惑をかけるうえに、看板なんてとってどうするんですか?」

「かざる」

「却下ですね」

「白島!おまえもか」

「カエサル気分はやめて下さい」

「……白島くん、会計補佐なのに私に厳しくないか?」

「私は副会長の味方ですから」

「あんなやつの味方をしてなにが楽しい!!ってか生徒会で私の味方が少なくないか?」

「副会長は会長のストッパーですから。そもそも会長の味方、いらしたんですね」

 会計補佐のくせにぃー、とか騒いでいる会長と生徒会室に向かっていると、本を持った男子生徒が歩いてきました。

「ミナトではないですか。元気でしたか?」

「…元気です、トリイさん。
 …そして会長さん、はじめまして」

「ミナトはこれからどこに?」

「…図書室へ」

 ミナトが本を掲げて見せてくれます。

「本当にミナトは本が好きなのですね。図書室は私もよく利用しますわ」

「…図書館も」

「ええ、私も行きますよ。もしかしたら、出会う前から会ったことがあるかもしれませんね」

「…かもしれません」

「ではミナト、私は生徒会があるのでこれで。
 今度、一緒に本屋にでも行きましょうね。ミナトの行き付けとか教えていただきたいですから」

「…トリイさんの行き付けも、教えてほしいです」

 ひらひらと手を振って図書室に向かうミナトを、私も手を振って生徒会室へ向かいます。

「いやー、白島くんは彼のようなのが好みなのか」

 会長、まだ居たのですね。

「会長、まだ居たのですね」

「心で思うのは百歩譲っていいけど、声には出さないでほしいな」

 つい、本音がでてしまいましたわ。

「まぁ、いいや。……で?いつ告白するんだ?」

「さっきから何を言っているのですか?会長」

「さっきの彼みたいなのが好みなんだろ?」

 えっと、もしかしてミナトのことを言っているのでしょうか…

「いえ、べつに、好みとか、その、あの」

「まぁー、そうだよね。好みのタイプを好きになるとは限らないからなー」

 なにか会長が感慨深げに言っていますが、こっちはそれどころではありません。

「ミナトはそんな、えっと、そもそもあれです」

「なんだい?」

「痴漢から助けてくれたり、話してみたら話しや趣味が合いそうだなと思ったり、無表情だけれど本の話しをしている時はうれしそうなのが何となく感じられて、なんかかわいいなって思ったりするだけで惚れたとか好きになるとか、私はそんなに単純ではないです!!」

 私はいったいなにを口走っているのでしょうね。

「いや、充分じゃないかな。そもそも好きとかはいいとして、気になる異性にはなるだろ?」

「…………」

「さっきだって、デートに誘っていたしな」

「なっ!デートなんて」

「2人っきりで本屋をめぐるんだろ?色気がないが、立派なデートだぞ」

「私はべつにそんなつもりでは…」

「気になるなら、唾つけとくのもアリだと思うけどな、私は」

「でも、そんな、好きかわからないのに…」

「ほぉー、そんなこと言っているうちに誰かにとられるかもしれないな」

「っ………」

 そう言えば、痴漢にあったということは“友人さん”は女性ということですね。
 最低限、1人は親しい女性がミナトのそばにいる。
 …………
 イライラしますわね。
 私はもしかしたら、会ったことのない“友人さん”に嫉妬しているのでしょうか。

「会長」

「ん?」

「ありがとうございます」

「あっ、ああ(からかっていたつもりが何か焚き付けてしまったようだな)」

 会長がぼそぼそと何か言っているようですが、今の私には関係ないですね。
 ミナトがとられるのは絶対に嫌ですから、私のモノにすればいいのですわ。
 友達にすぐ相談するのは少々恥ずかしいので、図書室でそういう本でも探してみましょう。
 案外なにかあるかもしれませんし。
 ふふふ、ミナト、覚悟をしていて下さいね。










――あとがき――
 休みってすばらしいですね。
 
 今回はトリイさんです。
 最初から名前は出ているのに出番の少ない人だったので書いてみたのですが……
 あれ?こんな人だっけ?(オイ)




  ホーさん
   ありがとうございます。
   感想はがんばりの源になります。
   でも、すいません。今回、アキはでませんねー



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 5
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:1140c1be
Date: 2010/05/25 10:40
 土曜日の朝、私の両親は仕事で、私が起きたらもういない。ってのはもうなれたな。
 まぁ、いつもと同じように起きたらいいんだけど、休みはぐっすり寝たいよな。分かるだろ?
 でも、8時には起きてるけどな。
 で、私はミナトの家で朝飯を食べてるわけだ。
 ミナトも両親がいないときは私の家で食べるし、持ちつ持たれつだ。
 あっ、どっちの両親もいないときは……適当だな。

「…はい、アキちゃん」

「あっ、どうもミナリさん」

 なんとなくだけど、ミナリさん機嫌が良いな。
 自分が休みでセトさんが仕事だと、なんかテンション低いのに。

「ミナリさん、なにかいいことでもあったんですか?」

「…いい夢だった」

 ああ、はいはい。セトさんでも夢に出てきたんですね、わかります。
 私の両親もわりかし仲が良い方だと思う(結婚16年以上のわりに)けど、常識の範囲内だと思うわけだ。
 でも、セトさんとミナリさんの仲の良さは異常だよ。いや、とくにミナリさん。

「…おかわり」

「ああ、私が入れてくるよ、ミナト」

 なんかミナリさんぼんやりしてるしな。
 なんか思い出してるんだろう。
 無表情だけど、たぶん、にへらにへらと笑ってるんだろうな。心の中では。
 自分の唇をさわって、えへへへー(えへへへーは私の想像だ)
 自分の頭をさわって、えへへへー(えへへへーは以下略)
 ミナリさん、ごめん。正直、不気味だ。
















 さて、ただいま午前の9時半、喫茶カフェ前だ。
 のんびりとミナリさんの朝飯を食べて、不気味なミナリさんを横目に、今日は何をしようかと思っていたら紅葉からメールがあって、この意味が2重じゃないかって名前の喫茶店の前にいるのだが………

「で?なんなんだ?私にミナト、レンまで呼んで」

「あ~、待って。ドバっちも来るから」

 ケンの家はここから遠いからな。
 とか思っていたら、ケンがすごい速さでやってきた。

「大丈夫カ?立町!!!!」

「どうしたんだ?ケン。そんなに慌てて」

「はァ?だってこんなメールが届いたかラ」

 ケンの携帯を見ると、
 『助けて、助けて。喫茶カフェにいるから助けて』

「なんだこれ?」

「いヤ、オレも訳が分からなかったから急いで来たんだガ」

「だって私達も紅葉にメールで呼び出されたけど、『喫茶カフェに緊急集合!!』としか書かれてなかったけど」

「へェ?」

 紅葉がニヤニヤしながらケンに近づく。

「なになに~ドバっち、紅葉のことそんなに心配してくれたの~」

 そんな紅葉にケンがふらりと近づく。

「わぁ!ドバっちいきなり腕を掴むなんてセクハラだよ~ なんてね~……あれ?ちょっと待って!ドバっち知ってる?人の関節はそっちには曲がらな…あいたたたたたぁぁぁぁぁ」

 ケンのやつ見事な関節技だな。
 ちぎれる~とか、はずれる~とか紅葉が騒いでいるが、自業自得だしな。
 まぁ、でも話しが進まないし止めるか。

「ケン、落ち着け、話しが進まない」

 しぶしぶといった感じで紅葉の腕を解放する。

「うう~、よかった~腕ついてるよ~」

「デ?なんなんダ?」

「えっとね~ この喫茶店ね~ 今日バイトの人たちが、みんな病欠や忌引きとかでいないだよ~ 他のバイトの人が来るまでかなり時間がかかるらしくて、このままだったら開店できないらしくてさ~ それでヘルプでみんなを呼んだのさ~」

「なんでそんなことおまえが知ってるんだヨ」

「紅葉がここでバイトしてるからだよ~ 助っ人で近くに住んでるのが紅葉だけでさ~ さすがに紅葉とマスターだけじゃあ店まわせないからみんな手伝って~ バイト代も出るから、お願い!!」

「うーん、それなら仕方ないか。でも、ここかぁー」

「…アキがするなら、あきらめる」

「私、バイトしたことないのでちょっと楽しみです」

「しかたないナ」

「ありがと~みんな~」





 さて、この喫茶カフェは、大通りにあるから名前くらい知ってる学生はたくさんいるだろうが、入ろうとするやつは少ないだろう。
 なんせ、近くにスタバとかマックとかいろいろあるからな。
 私とミナトは紅葉のつながりで何回か行ったことがあるが、どうやらレンとケンは初めて入ったみたいだな。

「あら、紅葉ちゃんの呼んだ助っ人さん達?かわいいわねん」

「「…………」」

 ちょび髭の生えた渋いおじさんがおかしな話し方で話しかけてきたら、そりゃー驚くよな。

「この人がマスターだよ~」

「「…………!!」」

「じゃあ、みんな。どんなコスプレがいいかしらん」

「いヤ、ちょっと待てヨ。コスプレ?」

「制服とかではないんですかぁ?」

「ああ、やっぱりか」

「…やっぱり帰りたい」

 ミナト、気持ちはわかる。はやまったか……
 なんせここはコスプレ喫茶だからな。





 用意出来たから1人ずつ着替えてねんって言われて、私が一番手のようで、衣装室に入る。
 なんか勧められるままに着替えたが、青を基調としたドレスみたいな鎧。銀色の胸当てや手甲がついている。
 とにかく着替えたから衣装室を出る。

「はい、アキちゃん。これを持って完成だよ~」

 何だ?この剣?

「聖剣エクスカリバーだよ~これで完成、アーサー王ってかアルトリア~」

「髪が短いから完璧にキャラになりきれないのが残念ねん」

「でモ、似合うナ。江波」

「かっこいいです。アキさん」

「…騎士みたい」

「おっ、おお。ありがと」

「ではぁ、次はあなたいってみましょん」

 レンが少しびくびくしながら自分に用意されてるだろう衣装室へ行く。





「あの着ました」
 おそるおそるレンが衣装室から出てくる。
上も下も二―ソックスも黒い、スカートはタイトで短い。そして、白いマントのようなのを羽織って、黒いリボンで長い髪を二つ結びにしている。

「はい、レンちゃんもこれを持って完成~」

変な杖のようなものを持たされて完成ってなんだ?この格好?

「管理局の白い悪魔の嫁だよ~」

「オレみたいに金髪なら完璧だナ」

「まぁ、似合ってるな」

「…うん」

「真ソニックモードの衣装は着てくれなかったのねん」

「みっ、水着はむりですよぉ」

「あれは無理だったか~よし、次は紅葉だよ~」





「じゃ~ん」
 ひょっこりと衣装室から着替えて出てくる。
 上はビキニのみたいで、下はタイトで短いスカート。どっちもレザーだ。そして、黒い悪魔のような羽根に尻尾。レンと同じように二つ結びにして、へんてこなペンギンのぬいぐるみを持っている。

「とある魔界の魔王の側近だよ~」

「いや、さすがにスカートが短すぎるぞ」

「…見えるかもよ?」

「立町、おまえ恥ずかしくないのカ?」

「ああ~、大丈夫、大丈夫~下に短パン穿いてるから~」

 ぐいっとスカートの端を少し上げて短パンを見せる。

「だからって、見せてはいけませんよぉ」

「おまエ、少しは恥じらいを持テ」

「なに~?ドバっち興奮しちゃった~?ドキッとしちゃった~?」

「ゾクッとしタ」

「ゾクッてなにさ~」

「はいはい、ケンカしないでねん。最後は男子2人だけど、どうするん?」

「女装で~」

「おイ!!」

 ある意味、お約束だな。

「…女装」

 女装はいやだっていうふうに、ミナトが私を見てくる。
 ごめんミナト、ちょっと見てみたい。

「わかったわん。じゃあ、男子は女装だから衣装は普通にメイドねん」

「おっけ~」

「待テ、待テ。いろいろ待テ。オレたちはまだ了承してないゾ。女装にモ、メイドにモ」

 ミナトも嫌なのだろう、ふるふると首を振っている。

「問答無用よん。あなたたちはまとめて私が綺麗にしてあ・げ・るん」

 ずるずるとマスターに引きずられていく2人。
 ううう、涙目で私を見るなミナト。ちょっと良心が痛む。

「離セーー」

「…」

 2人とも衣装室に強制連行されていった。
 心の中でドナドナが流れた。





「はい、出来たわよん」

 2人いっぺんだったし、女装だったし、抵抗していたみたいだったから結構時間がかかったみたいだ。

「まずは土橋くんよん」

 無理やり引っ張られてケンが出てくる。
 やたらフリルがおおくて、スカートも短い。露出の高いメイド服だな。
 ケン自身も化粧をさせられているし、髪もウイッグでロングになって、さらにネコ耳。
 しかし、当たり前って言ったら当たり前だが、

「違和感ばりばりだな、ケン」

「えっと、その、えーと、にっ、似合ってますよ?」

「レンちゃん、気を使わなくてもいいよ~素直にダメだしすればいいよ~」

「くソー だからいやだったんダ」

「いや、笑えるくらいならよかったんだけど……なぁ?」

「そうだね~中途半端だね~」

「えっと、にっ、似合いますよ」

「くゥーーー」

 さめざめと泣くなよ、ケン。その姿だとなおさら不気味だから。

「もう少し似合うと思ったんだけどねん。さて、最後は横川くんよん」

 ケンと同じく無理やり引っ張られて出てくるミナト。
 ケンとは違って、装飾の少ないエプロンドレスにロングのスカート。これぞメイド服っていう服だ。
 化粧もされて、ウイッグで腰まで届く長い髪になり、白いリボンで先を少し縛っている。

「「「…………」」」

「…」

「おまえラ、なにか感想を言ってやれヨ」

 いや、だってなぁ

「違和感がまったくねーよ」

「普通に女の子ですね」

「平凡な顔の男の子が女装したら美人にっていうのはマンガとかでよくあるけど~ミナっちは普通だね~美人ではないけど、普通に女の子だね~」

「私も予想外の出来にびっくりよん」

「…恥ずかし」

「オレは化粧っテ、すごいよナって感想しかないナ」















 さて、開店時間の10時を少しすぎてしまったけど、無事開店だ。
 ちなみに剣や杖やぬいぐるみは邪魔だから持ってないけどな。
 さて、頼むから知り合い来るなよー

「あまりお客さんが来ないですね」

「まぁ、だからこそ助かるけどな」

 それでも、ミナトは私の後ろに隠れるように立っているけどな。
 ケンはなんかふっきれたのか、堂々と接客している。

「はっはっは、お嬢さんかわいいねー」

「ありがトニャン」

 客のからかいにしっかりと答えてるしな。しかも、マスターから語尾にニャンをつけろっていういいつけを守ってるし。
 まぁ、紅葉はここでバイトしてるからいつも通りだ。
 レンは恥ずかしがるかと思ったが、意外と平気みたいだな。
 たしかに紅葉やケンみたいに露出や奇抜な衣装じゃあないからかな。

「おお、新しく客が来たな。ほれ、ミナトも行けって」

 ミナトの背をぐいぐいと押していく。
 しぶしぶと若い男子大学生風の客のところにいく。

「…にっ2名様でしょうか?」

「はい」

「…こちらへ」

 案内をして、そそくさと私の後ろに戻ってくる。
 なんだろうな、こんなにびくびくしているミナトを見ると………ちょっとぞくぞくする。

「あっ、私がオーダーをとってきますね」

 いかんいかん、変なこと考えてないで仕事をしよう。





 昼ごろになるとさすがにミナトも慣れてきたのか私の後ろに隠れるようにはならなくなった。
 うーん、ちょっと残念だな。
 とか思っていると学生3人が入ってくる。
 って、

「白島先輩?……と、会長に副会長?」

 制服姿の白島先輩と同じように制服の会長と副会長。
 会長はすっごい背が高くて、副会長はすっごい小柄で紅葉よりちょっと大きいくらいだろう。

「え?………江波さんだったかしら。なんて格好してるの?」

「えっと、友達のバイトのヘルプで仕方なく……先輩こそこんな店に来るとは思いませんでしたよ」

「私はべつに来たくて来たわけではないです。生徒会の集まりの帰りに、会長が寄ろうって言ったので仕方なく」

「おや?知り合いかい?」

 会長、たしか鳴門(ナルト)って言ってた気がするが。
 とにかく会長がにこやかに聞いてくる。

「いや、べつに」

「いえ、べつに」

「「…………」」

「(なぁ、シマナミ、なんでちょっと険悪なんだ?この2人)」

「(興味を持ったらダメだよ。いろいろあるんだろうから。引っかき回すのはナルトの悪い癖だからね。白島さんに迷惑かけたらダメだからね)」

 会長と副会長がこそこそと何かを言ってるな。

「…トリイさん?」

「あら、ミナ…」

 ミナトの声が聞こえた方に白島先輩が向く。
 言葉が途中で止まっているな。気持ちは分かるが。

「ミナト…ですの?」

「…はい」

「本当にミナト?」

「…そんなに見られると、照れます」

「え?ええ、そうね。ごめんなさい。あまりにも違和感がないものですから」

 そうだよな。好意を寄せる男が女装していて、なおかつそれに違和感がまったくなかったらびっくりもするよな。
 いや、前者だけでもびっくりするか。

「(あれってたしか白島くんの愛しい人だったな。ということは、騎士の彼女は白島くんのライバルかな?だから険悪だったのか?)」

「(ナルト、ダメだからね。本当にちょっかい出したら)」

「(ちっ。良い子ちゃん気取りめ)」

「(あれ?いま舌打ちした?口答えした?)」

「(すっ、するわけないだろ。はははは)」

「(そうだよね。ふふふふ)」

 気がつけば、会長は引きつった笑みをうかべて、副会長はなんか黒い笑みをうかべている。
 そんなこんなをしていると、ミナトがマスターに呼ばれて離れていく。おお、今は仕事中だった。

「あー、えーと。ご注文は」

 メニューを開いて何にするか決めている会長たちを待っていると、先の大学生風の2人客の話し声が聞こえてきた。

「なぁなぁ、あの物静かなメイドの子よくないか?」

「はぁ?べつにスタイル良さそうでもないし、顔だって可もなく不可もなくって感じじゃないか。
 やっぱり、あの巨乳の魔法使いの子だろ。おとなしそうだし、かわいいし」

 あー、レンは人気あるなー
 やっぱり男は胸か、胸なのか。

「あんな子が俺らみたいのを相手にするかよ。それに比べてミナトちゃんだっけ、あの子なら俺でもいけそうだと思うんだよ」

 おーおー、なんかミナト狙われてるぞ。よりにもよって男に。
 ふと見ると、白島先輩の笑みが引きつっているな。おもしろい。

「まぁ、気持ちは分かるが、あの子無表情だぞ。接客仕事なのに笑顔見てねーぞ」

「緊張してんだって。俺たちが入ってきて、案内したあと同僚の子の後ろに隠れてたし」

 そりゃあ、女装して接客しろってことになったら誰でも隠れたくもなるだろ。
 ケンはふっきれるの早かったけどな。
 開店前にさんざん紅葉にからかわれたからかもしれんが。

「おまえ、あれか?クーデレだっけ?そんなのが好きなのか?」

「おっ、いいね。俺があの子をデレさせてみせる」

 ミナトがクーデレかどうかは置いといて……
 デレるミナトか………真っ先に今朝のミナリさんが思い浮かんだよ。
 ミナリさんに似てるからなミナトは。
 ってことは誰か好きになったら、ミナトはあんな風になるのか……な?

「ミナト!!ちょっと来て下さい!!」

 びっくりした!!
 白島先輩、いきなり大きな声を出して立たないでくれ。
 それに注文が決まったのなら、目の前に私がいるのだが…

「…なんですか?トリイさん」

「ミナトはなんで女装をしているのですか?」

 白島先輩、そんなに大声で言わないでくれ。
 店にいる人みんなが見ているんだけど。

「…仕事で」

「そうですか」

 ちらりと、ミナトを女性だと勘違いしていた大学生風の2人の客の驚いた顔を見ると、満足したように座る。
 なにがしたかったんだ?

「…?」

「あっ、すいません。いきなり呼び付けて、変なことを聞いて。お仕事に戻ってもいいですよ」

「…??」

 ミナトが困惑しながら仕事に戻る。
 私も困惑してるんだが。

「くっくっく、白島くん。君、まさか男に嫉妬したのかい?」

「ナルト、さすがにそれは…」

「っ………」

 白島先輩、会長のセリフに顔が真っ赤になってるな。
 えっ?まさか図星なのか?

「かわいいところもあるんだな、白島くんにも」

 だって。とか、でも。とか、白島先輩がぶつぶつと言っている。
 あーもー、さっさと注文してくれ。















 終わったー
 やっと、終わった。
 ようやく午後からのバイトの人が到着したから4時ごろに臨時バイト終了。
 マスターからバイト代と遅めの昼食をごちそうになって、店から出た。

「疲れたな」

「…女装は、もうイヤ」

「ドバニャンはあのまま女装して帰ったら良かったのに~?」

「ドバニャンって言うナ」

「ほら~ 語尾にニャンを忘れてるぞ~ ほらほら、ご主人さニャンって言ってみ~」

「もウ、バイトは終わったんだから言わなイニャン」

「ニャンは言うんですね」

「あー、私はもう疲れたから帰る。ミナトは?」

 こくこくと頷いてるから賛成だな。

「私も帰りますぅ」

「じゃア、帰る方向が一緒だかラ、オレが宇品と立町を家まで送ってクニャン」

「紅葉はまだ遊びたいから、ドバっち元気ならレンちゃん送ってから一緒に遊ぼ~ニャン」

「オッケーダニャン」

「えっと、私もニャンってつけないといけないんですかぁ」

 またねーと手を振ってから、わいわいと騒ぎながら3人が離れていく。
 元気が有り余りすぎだろ、あの2人。

「さてと、私達も帰るか」

 こくりと頷くミナトと一緒に歩きだす。

「まぁー、疲れたけどよかったよ、臨時収入も入ったし、面白いものも手に入ったし」

「…?」

 面白いものってところに疑問を持ったみたいだな。
 狙い通りだ。

「これだ」

 携帯のカメラのメモリーからカメラで撮った画像を見せる。

「…!」

 携帯の画面には女装姿のミナト。
 こっそりと写メを撮っといたんだよなー
 ……白島先輩も撮ってたけどな。
 でも、本当は写真撮影禁止らしいけどマスターが「私は恋する乙女の味方よん」とか言って許しをもらったんだけど、私はべつに……その……恋とかそんなんじゃあ…

「…消して」

 ミナトが携帯を奪おうと手を伸ばしてくる。
 おっと、変なことを考えてないでミナトをからかわないと。

「大丈夫、大丈夫。誰にも見せないから」

「…ダメ。…ダメ」

 必死に私から携帯を奪おうとする。
 それを避けながら帰っていく。
 うん、今日は1日でいろんなミナトを見れたからおもしろかったな。





 後日、母さんに写メを見られてしまった。
 ごめん、ミナト。
 でも、また女装姿見てみたいから、化粧道具や服を持って横川家へ向かう母さんを見送る。
 母さん、頑張ってくれ。










――あとがき――
 コスプレ、あんまり意味なかった?
 女性陣の性格的なイメージです。あのコスプレは。
 やっぱり意味なかった?



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 6
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:902ce37c
Date: 2010/05/19 09:36
 週末、明日から休みだからか、みんな朝から「明日遊ぼうぜ」とか「どこ行く?」とか元気に話してるのが聞こえる。
 あー、テンションが上がらない。
 なぜか。
 うーん、あれだ。女の子には周期的にやってくるものがあるからさ。
 まぁ、察してくれ。

「…」

「ミナト、無言で私の眉間をぐりぐりするのをやめろ」

「…しわが」

 私が眉間にしわを寄せてると、いっつもこいつはのばしてくる。
 楽しいのか?

「お~お~やってるね~」

「2人ともおはようございます」

 しばらく無言でにらめっこのようなことをしてると紅葉とレンが来た。
 その間もミナトは私の眉間をいじってるが……

「おはよー」

「…おはよ」

「むむむ、ドバっちはまだか~」

「なんか用でもあるのか?」

「みんナ、おはヨー」

 おお、噂をすればなんとやらだな。

「ケン、紅葉がなにか用が…」

 私がケンに話しかける前に紅葉がケンに抱きつく。それに答えるかのようにケンが紅葉の肩に手をそえる。
 身長差があるから紅葉の顔はケンのお腹の位置になってるな。
 おお、教室がざわめいてる。女子の「きゃー」って黄色い声も聞こえるし。

「…痛そう」

「ああ、そうだな。ミナト」

「え?え?なにがですか?」

 レンが顔を赤くさせている。
 まぁ、残念だけどみんなが期待しているようなことではないんだよ。
 紅葉は、ケンの背骨よ折れろとばかりに絞めつけ、さらに頭で腹を圧迫させてる。
 ケンは絞めつけてくる紅葉を引き剥がすために肩を掴んでいるだけだしな。
 よく聞けば〝ミシミシ″って音が聞こえてくるし。

「なんのつもりダ、立町」

「昨日のことを忘れたとは言わさんぞ~」

「昨日?」

「そうだよ~昨日ドバっちがおごってくれるって言うからファミレスに行ったのに、お子様ランチを勝手に注文して食べさせた怨みを今ここではらすべし~」

「お子様ランチ食べた後二、オレのチキンドリアを強奪してたかラ、それでチャラだロ」

「知るか~ 復讐するは我にありです。軍曹~」

「復讐は禁止のはずダ。軍法会議にかけるゾ、幼女一等兵」

「だれが幼女だ~」

 〝ミシミシ″って音が〝メキメキ″って音に変わった。
 紅葉は小さいのにパワーがあるからな。

「ぐゥ、出ル。朝食ったものどころかカ、朝食ったものが入っている臓器ごと出ル」

「出しちゃえ、出しちゃえ~」

 いや、さすがに臓器を出されると嫌だ。吐かれるのも嫌だが。















 昼休憩、つまり昼食だ。
 各々、弁当を持って集まるのだが、何も持っていない紅葉が後ろからケンに飛びつく。

「ぐェ」

 おお、どんどんケンの顔が赤くなっていくな。
 酸素不足か。
 後ろから首に抱きつくから、首に見事にきまってるな。しかも、身長差のせいでどんどん絞まっていってるし。

「立町、朝にも言ったガ、今度はなんのつもりダ」

「バカね、当ててのよ~」

 紅葉の場合、悲しいことに当たらないと思うから、「当てたいのよ~」が正しいな。
 まぁ、とばっちりをくらいたくないから言わないが。

「会話しテ、頼むかラ会話ヲ」

「紅葉は今日、昼食を購買部で買ってこなきゃいけないんだよ~」

「だかラ?」

「このプリティ~な身体だと、あの列強ひしめく購買部前での争いを1人で勝ち抜くのは無理でさ~ いつもはアキちゃんに協力してもらってるんだけど、今日アキちゃんバットステータスだからね~ そして、ミナっちとレンちゃんじゃあ生きて帰れないし。と言う訳でドバっちに協力してもらおうと思ってね~」

「そんなにすごいんですか?昼の購買部って」

「…?」

「ああ、そう言えば2人とも行ったことなかったな。私は紅葉に付き合わされて行ったが、すごいぞ。あれは」

「ふざけんナー そんなとこ行くカ!!」

「え~、い~や~だ~、一緒に来てくれなきゃや~だ~」

「ゆらすナー、絞まル絞まル」

 ケンの顔色が赤から青へとクラスチェンジしているけど、大丈夫なのか?

「い~こ~う~よ~」

「分かったかラ、首を絞めるナ!!」

「よっしゃ~ 行くよ~」

「デ?おまえを購買部前に集まる生徒の集団の中に放り投げたらいいのカ?」

「さすがにそれは紅葉も生きていられないよ~ 今回は砕氷船作戦でいくよ~」

「砕氷船作戦っテ?」

「ドバっちが購買部に群がる生徒たちを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げで進んでいく後ろを紅葉が悠悠と歩いていくって作戦だよ~」

「ちぎっては投げないけド、かき分けて行けばいいんだナ?」

「まぁ~そうゆうこと~」

 わいわいと作戦を立てながら出て行ったな。

「仲が良いですね。紅葉さんと土橋くん」

「最近とくにそうだな」

「…気が合う」

「たしかに気が合いそうではあるな、あの2人」

「いいことですぅ」

 さて、あの2人はいつ帰ってくるか分かんないし、先に食べ始めるか。







「………恥ずかしかっタ」

 購買部から帰ってきたケンの最初のセリフだ。
 恥ずかしい?

「…ケン、どうした?」

「ミナト、それがナ。人波をかき分けて進んだのはいいんだガ、まぁそれで道が出来るわけがなク、後ろにいた立町は潰されてたんだけどナ」

「いや~危なかったよ~」

「立町を回収しテ、オレが買ってきてやルって言ったの二……」

「でも、そうそう簡単に買えないからね~ そこで、巨人化作戦さ~」

 巨人化?

「ただの肩車ダ」

「見晴らしが良かったよ~それにみんなびっくりしてたから、その間に買えたしさ~」

「くソー、めちゃくちゃ恥ずかしかっタ。みんな見るんだもんナー」

 そりゃ見るさ。
 購買部に肩車で来るやつなんかいたら。

「でも~おかげで、フルーツサンドと紅葉の大好きなコロッセオパンが買えたよ~」

「最初は聞き間違いかと思ったけド、本当にあるとは思わなかったヨ。コロッセオパン」

「とにかく、食べるぞ。先に食べようかと思ったけどレンが、待ってあげましょ?って言うからまだ私達も食べてないんだよ」

「レンちゃんありがと~ではでは食べましょうかね~」

「…いただきます」

「いただきますぅ」

「さぁて、食べるか」

「腹へっター」

「いただき…あっ、からあげおいしそ~ドバっち、ゴチ!」

「おイ、なにナチュラルにつまみ食いしてんダ」

「かわりにコロッセオパン一口あげるよ~」

「アー、どれどレ…………なんだ?口の中で甘みと辛みが壮絶な戦いを繰り広げてるのだガ」

「おいしいでしょ~」

「二度と食べるカ」

「ひど~い」

 私もあのパンのおいしさは分からんな。
 おお、そう言えば…

「なぁ、ミナト」

「…?」

「今日だったよな。うちに泊まるの」

 コクコクとうなずく。

「なになに~?」

 ケンとじゃれてた紅葉がこっちに興味をしめした。
 レンとケンも「お隣なのに泊まり?」ってかんじでこっちを見てる。

「出張に行っていたセトさんが3日ぶりに帰ってくるんだよ」

「あ~」

「なるほどぉ」

 紅葉とレンが納得してくれる。

「そんなにすごいのカ?ミナリさん」

 ああ、ケンは普通のミナリさんしか見たことないのか。普通でもアレだけどな。
 ミナリさん、セトさんが出張のときすごいからな。

 セトさんがいない日数1日、この世の終わりのような負のオーラが出ている。しかし、あまりミナリさんと親しくない人たちには分からない。
 セトさんがいない日数2日、負のオーラの代わりに凄まじい殺気を辺りにまき散らしている。親しくない人でも怯えている。
 セトさんがいない日数3日、帰ってくる日だから大体いつも通りに戻っている、もしくはうかれている。でも、分かりにくいけど若干目が血走っている。

 3日以上は知らないし、知りたくもないけどな。
 ミナリさんが出張のときはどうなってんだろうな。あんまりないけど、ミナリさんの同僚の人が大変そうだ。

「すごいんだよ。本当に……まぁ、それで出張から帰ってくる日は、ミナトは私のところに泊まりに来るってわけだ。ミナリさんも2人っきりにもなりたいだろうし」

 ある日、ミナトからお願いされたんだけどな。たしか小学4年生だったけ。
 空気を読んだのか、それともナニか見たのか。
 ………その時、ミナト涙目だったけど。

「じゃあさ~じゃあさ~紅葉たちも泊まりに行って良い~?明日休みだしさぁ~」

「良いと思うぞ。私のほうも父さんは出張だし、母さんは急に泊まりに来ても気にしないし。一応、メールはしとくけど大丈夫だ」

「レンちゃんは大丈夫~?」

「あの、私、今日弟と妹の面倒を見ないといけないので……すいません、また誘って下さい」

「う~、残念。じゃあ、燦さんに紅葉とドバっち追加~ってメールしておいてね~アキちゃん」

「オレには確認なしかヨ」

「どうせ用事なんてないでしょ~」

「いヤ、たしかにないけド。まァ、ミナトの家は行ったことあったけド、江波の家には行ったことなかったからちょうどいいナ」

「…今日は、賑やかになりそう」

「ああ、そうだな」















 紅葉とケンは一度家に帰って着替えて来るそうだ。
 ミナトはお隣だからもう来てるけどな。

「そういえば……」

「…ん?」

「母さんがミナト用の化粧道具や衣装を用意してたぞ」

 びくっとミナトが震える。
 いやー、女装している写メが母さんにばれた時はすごかったな。
 嬉々として横川家に乗り込み、私が着ないような服を無理やりミナトに着せてたからなぁー
 ミナリさんまで悪乗りして参加して、「…娘も良かったかも」って言ってたし。
 結局、セトさんが止めるまで続いたわけだ。
 私?私はちゃんとカメラマンに徹したぞ。

「…女装ダメ。…女装禁止」

「大丈夫、大丈夫」

「…止めてくれる?」

「似合う、似合う」

「…!」

 いや、そんな裏切られたって感じで見ないでくれ。

「冗談だよ、冗談」

 まぁ、本当にミナト用の化粧道具とコスプレとしか思えない衣装を用意しているけどな。
 チャンスがあればいつでも女装させるき満々だ、母さんは。

「…さすろうか?」

 ふと思い出したかのようにソファに座ったミナトが私に問いかけてくる。

「ん?ああ、頼むよ」

 ミナトが座っているソファに寝転ぶ。ちょうどミナトの太ももを枕にするように。
 膝じゃないのに膝枕ってね。
 ……なに言ってんだ?私は。

「…ん」

 寝転ぶとミナトが私のヘソより少し下をさすってくれる。

「…」

「………」

 うん、気持ちいいな、これ。
 そういえば、アレが始まってからずっとこうしてもらってるな。

「…」

「………」

 ぼんやりと私をさすっているミナトを見る。

「…」

「………えい」

「…ん?」

 手を伸ばしてミナトの頬をつまむ。
 相変わらずこいつのほっぺたは柔らかいな。

「…ふぁふぃ?(なに?)」

「いや、べつに」

 フニフニと頬を引っ張り続ける私をミナトは不思議そうに見つめてくる。
 目が合う。
 私も見つめる。
 近くで見るとミナトの瞳に私が映っているのが見える。

「…」

「………」

 なにか不思議な気分になってきた時、ミナトがふとドアを見つめる。

「…お邪魔してます、…いらっしゃい」

「へ?」

 びっくりしてドアを見る。

「ちっ、ばれたか」

「燦さんが、いけ。とか、はやくしろ。とか言うからばれたんですよ~」

「小声だったけド、これだけドアに近いとばれるよナ」

 母さん、紅葉、ケンの順番でリビングに入ってくる。
 きっ気がつかなかった。
 とにかく!!

「なんで一緒にいるんだ?」

「それはね、家につくちょっと前に紅葉ちゃんとケンくんに出会って、もしかしたら今面白いことになってるかもって思って、3人でこっそりと家に入ったわけ」

 なにも面白いことなんてなってねーよ。

「でも、アキも意気地がないなぁ。女は度胸。イクとこまでイキなよ、めんどくさい」

 イクとこまでイクってどこへだよ。

「しかシ、母親ガ娘に言うセリフじゃないよナ」

「でもさ~膝枕ですよ~膝枕」

 ほっとけ。楽になるんだからいいだろ。

「あら、膝枕プラスなでるのなんて、いつものことよ」

 母さんは余計なことを言わないでくれ。

「立町はされたことないのカ?」

「さすがに幼馴染だからってミナっちに膝枕をされるなんて恥ずかしいよ~」

「それもそうカ」

「でも、紅葉ちゃんのほうが先に彼氏が出来ちゃって、我が娘ながら情けない」

「彼氏~?」

「ケンくん彼氏じゃないの?」

「ドバっちが?まさか~ ないよ~」

「おーイ、速攻で否定するなヨ。ちょっと悲しイ」

「はっ!!もしかしてドバっち紅葉のことが好きなの~? 巨人化作戦で肩車した時も、紅葉たんの太ももの感触萌エーって思ってたの~?うわぁ~紅葉はドバっちに穢された~」

「立町に対する友情って感情ガ、殺意って感情にジョブチェンジしそうなんだガ、どうしてくれよウ。……そうカ、こうすればいいんダ」

「ん~?……あいたたたたぁぁぁぁ~」

 えっと、なんだっけ?この技………ああ、アイアンクローだ。
 紅葉はいろいろ小さいからがっちりとケンの手が顔を掴んでいる。

「痛い~痛いって、ドバっち~ 紅葉のヘッドパーツがブレイクしちゃう~」

 話せるなんて結構余裕があるんだな。

「大丈夫ダ。ちょっとプチっとするだけだかラ」

「頭は1つしかないからプチっとされると大変なことに~ 痛たたぁぁ~」

「うん、仲が良いのはわかったわ」

「…にぎやか」

「そうだな。にぎやかだな」

 さてさて、なにをしようか。
 今日はまだまだ長いからな。












――あとがき――
 間がかなりあいちゃいました。
 うん、がんばる
 明日からがんばる(オイ




[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 7
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:f28c0a07
Date: 2010/05/25 10:38
 ミナトと紅葉にケンが今日、うちに泊まるのだけど…

「ボンバ~しようよ、ボンバ~」

 紅葉は勝手知ったる他人の家、ゲームをごそごそと出してくる。

「オ!コントローラが4つあるから4人対戦できるナ」

「なんか飲み物とか用意するから先に始めとけ」

「…手伝う」

「あー、いいよいいよ。ミナトも遊んでろ」

 台所に向かうと母さんが晩飯の仕度をしている。なんかうきうきしながら。
 若干気持ち悪いって思っても仕方ないよな。

「どうしたんだ?母さん」

「どうしたもこうしたも、今日はミナトくんだけかと思ったら紅葉ちゃんにケンくんまで……なに着せましょ」

「着せるな」

 ミナトの女装騒ぎ以来、母さんの興味の対象に着せかえが追加されてしまったようだ。私にもたまに変なのを着せようとする。はた迷惑だ。
 とくにミナトはお気に入りみたいだけどな。

「えー!!だっていろいろ用意したのよ?……紅葉ちゃんなら、紅葉ちゃんならきっと着てくれるはず!!」

「そうだな、紅葉なら着てくれるかもな」

 棒読みで答えて、ぐっと拳を握る母さんを残して台所を出る。
 人数分のお茶とお茶菓子をお盆にのせて、みんなの所に戻ると……

「アキちゃん、アキちゃん。ヘルプ、ヘルプ~ 味方がヘッポコのドバっちだけだとミナっちに勝てない~」

「いヤ、お前だって似たようなものじゃないカ。ってカ、ミナトが強すぎだロ。なんで爆弾ガ爆発するタイミングを全部把握できるんだヨ」

「…」

「…………」

 ミナトも黙ってるけど、私も黙ってしまった。ミナト、よくゲームできたな。
 なんせ、紅葉とケンの座り方がその……
 まず、床に座っているケンの足の間に紅葉が入って座って背を預けて、コントローラを持っている。ケンは後ろから紅葉を抱きしめるかのように腕を紅葉の前に出してコントローラを持っている。
 ………………いやいや、

「なんでそうなった!!」

「なにが~?」

「なにがダ?」

 まさかの疑問で返されるとは思わなかった。

「おまえらのその座り方のことだ!!」

 こくこくとミナトも同意してくれる。
 そうだよな!普通。

「「?」」

 2人そろって首を傾げるな。無言でなんてミナトか!!
 もう、いいや。……うん、あんたらはそれでいいよ。好きにしろ。

















 さて、飯も食べたし風呂だな。風呂に入っていた紅葉がちょうど出てきた。

「見て見て~ メイドだよ~ご主人様~」

 肩が見えてるし、ミニスカート。機能性よりデザインっていうメイド服だな。
 バイトの時にケンが着ていたやつに近いメイド服だ。

「どうだ~ 興奮するか~?」

 ケンにむけて短いスカートをぴらぴらとちらつかせる。

「うーン、いまいちだナ」

「じゃ~あ~、これでどうだにゃん」

 おお、どこに隠し持っていたのかネコ耳を装備したけど……
 ますますケンが女装した時の衣装に近づいたな。

「そうだナ、いまにダ」

「いちですらなくなったにゃん~」

 いまにって、いまいちよりもの足りないってことか?

「そもそモ、なんでそんなものを着ているんダ?」

「燦さんが貸してくれたんだよ~ なぜか紅葉のサイズにぴったりなんだにゃん~」

「ふふふ、仕事の関係でね。いろいろあるのよ」

 母さんが紅葉の姿を満足そうに見ながら答える。
 仕事ってのもあるけど、本当は母さんの趣味もはいっているがな。コスプレの衣装は。

「…女装怖い。…コスプレ怖い」

 ミナトが震えてる。なんかトラウマになってないか?

「ケンくんはどんなのがいい?」

「いヤ、オレはいいでス」

 ケンが少し引いている。まさか自分まで狙われるなんて思ってもみなかったみたいだな。
 女装をさせられるよりましだろうけど……

「えー!アキは絶対着てくれないし、ミナトくんは怯えるし。あと着てくれそうなのはケンくんぐらいしかいないの。紅葉ちゃんとおそろいで執事の衣装とか着てみない?」

「え?紅葉、そろそろパジャマに着替えたいんだけど~」

「あら?その格好で寝てもいいのよ」

「さすがにそれは~落ち着かないですよ~」

「じゃア、次はオレが入ってくるナ」

 そそくさと風呂へ向かうケン。なんとか逃げたな。

「あーあ、逃げられちゃった。…………そういえば話しはかわるけど、ミナトくん?」

「…?」

「告白されたんだって?」

「…!」

「!!!!!」

 いきなり何を……しかもなんで知ってる、母さん。ミナトは自分の両親にも言ってないのに。

「えへ~」

 やっちゃたぜ~って感じで笑っている紅葉。

「お前か!紅葉!!」

「いや~ここに来るまでに少しね~」

「生徒会の白島 雀居っていう綺麗な先輩なんだって?ふっちゃうなんてもったいないわよ?ミナトくん。でも、彼女もまだ諦めずにアタックしてるんだって?青春ねー」

「少しじゃねーじゃねーか!!1から10まで全部言ってるみたいだな!!」

「ミナトくんも、ちゃんと青春してるのね。これでアキにミナトくんに紅葉ちゃん、全員とも告白され経験者ね。勝ち組みね」

 いや、結局だれも付き合ったことないから勝ち組みじゃねーよ。

「紅葉ちゃんは最近どうなの?好きな人できた?」

「まだ高校に入って2ヵ月ですよ~ ……え~と、そ~だ!!紅葉、ドバっちの背中でも流してくる~」

 あわあわと風呂場へ向かう。あ!紅葉のやつ逃げやがった。
 風呂場の方から、「ドバっち~ 入るよ~」という声と「入んナァァーー!!」という声が聞こえる。
   「ほらほら~ネコ耳メイドが背中を流すなんてエロゲーやエロマンガみたいだよ~」
   「マジで入ってくんなヨ、幼女メイド」
   「だれが幼女だぁ~」という紅葉の声と一緒に、がらがらという音が聞こえる。あいつ、風呂の扉開けやがったな。
   「ひゃわぁぁぁ~~ドバっち裸でなにしてるのさ~」
   「風呂入ってんだかラ、裸なのは当たり前だロ。いいかラ早く閉めロ」
 なにやってんだ、あいつら。………いや、紅葉は。カッとなて開けんなよ。

「ふふふ、可愛いわね。で?アキは………まぁ、アキはほとんど女子からみたいだけど。どう?高校でも告白された?女子に」

「ほっとけ!!まだされてねーよ!!!!」

 ああ、まだって言ってしまう自分が怨めしい。
















 全員が風呂に入り、ぐだぐだと話したり、ゲームをしたりしていると結構深夜になっていた。

「眠くなってきた~」

 紅葉が目をこすりながら言う。
 そのしぐさはやめとけって、さらに幼く見えるから。

「そうだ~ 痛みで眠気を追っ払おう~……がぶり」

「いっテ!!バカ、オレを噛むナ」

 紅葉がケンの腕にかぶりついている。豪快な噛みつきだな。でもそれって自分にしないと意味なくないか?

「ふ~む、これがドバっちの味か~…………そういえば、人肉って実はおいしいって聞いたことあるけど、どうなのかな~?」

「ヘ?なんト?」

 私とミナトは早々に避難させてもらった。
 いつもそうだが、眠気でぼんやりした紅葉はいつも以上に脊髄反射的に思ったことを即実行するからなぁ。

「おイ、ちょっと待テ。立町落ち着ケ。………こっちに来るナ、来るナァ!!」

 じりじりと紅葉がケンを追い詰めていく。
 ぱっとみ、高校生くらいの外人を追い詰める幼女って感じだからシュールだな、この光景。

「ちょこっとだけかじるだけだから~ おとなしくしなよ~ 減るもんじゃないし~」

「減ル。確実に、物理的に減るかラ、来るナァ………うわァァアァアァァ」

 ミナトと共に一時部屋から逃げる。
 ケン、お前の犠牲は忘れないよ。





 騒いだおかげか紅葉は復活したみたいだ。ケンが衰弱したが……
 でもまぁ、みんなも眠くなってきたみたいだし寝るか。
 ミナトとケンは、ミナトが泊まる時の部屋に布団を並べて敷いて2人で、私と紅葉は私の部屋で、1人はベットで1人は布団を敷いて寝ることになった。

「くソォ、最後の最後でひどいめにあっタ」

 腕とか耳とかについた噛み痕をさすりながらケンがぼやく。

「う~ん、まぁ~ ドバっち、ゴチになった!!」

 紅葉が晴れ晴れとした顔でケンの腕を叩く。

「ふざけんナ、耳とかマジで噛みちぎられるかと思ったんだゾ」

「…すごい光景だった」

 そうだな。なんか部屋に戻ってみると、最終的に押し倒されて噛みつかれてたもんな。

「そういえばケンってミナトの家に泊まったり、ミナトがケンの家に泊まったりとかしたことあるのか?」

「いヤ、ないナ。そういえバ」

「そっか………ケンって寝ぞう悪いか?」

「あア、よくベットから落ちていたかラ、もうベット使わずに布団をしいて寝てるくらい悪いナ。」

「だからドバっちの部屋にベット無かったんだ~」

「そっちに転がったラすまんナ、ミナト」

 からからと笑いながらミナトの肩を叩くケン。

「ケン。絶対にミナトの方に転がるなよ。絶対にだ!」

「なっ、なんダ?急二」

 念を押す私に少し引き気味になるケン。

「ドバっち、グットラック~」

「立町までなんだヨ」

「…ごめん」

「ミナトもカ!!」





 結局ケンは訳が分からんって感じだったが、眠気が勝ったのか「じゃア、おやすミ」と言ってミナトと部屋に入っていった。
 私と紅葉ももう布団に入ってるがな。ちなみに私のベットは紅葉が使っている。

「そー言えば、ケンは風呂に入っていて聞き忘れてたけど、ケンって告白されたことあるのか?紅葉、聞いたことあるか?」

「うん~?ドバっちが告白される~!?……喜劇~?」

 ふわぁぁと、欠伸まじりに紅葉が答える。

「いや、喜劇はひどいだろ」

「だってさ~だってさ~ 学校の裏庭の楓の木の下で顔を真っ赤にさせながら告白する女の子を真面目な顔をして見つめるドバっち………落ちは~?って思うでしょ~?」

 うん、ケンには悪いが否定できん。

「男の娘だったり、罰ゲーム告白だったりしそうでしょ~」

「いや、それはさすがに…」

「とにかく~ ありえない、ありえな~い。おやすみぃ~」

 なんか多少強引に話しを切られて感じがするな。そんなに眠かったのか?
 まぁ、いい。私も寝るか。

「ああ、おやすみ」















 翌朝、ミナトとケンを起こすために2人が寝ている部屋に入ると…

「うわ~」

「やっぱりか」

 思った通りの光景がそこにあった。
 ケンは寝ぞうの悪さが発動して、転がってしまったんだろう、ミナトの方に。
 まぁ、普通ならミナトが少し寝苦しくなるだけなんだが………
 問題はミナトは寝てる時に近い人に抱きつくクセがあるってことなんだよなぁ。私も昔やられたことがある。
 小学生の時にミナトと昼寝をしたときに、目が覚めるとミナトに抱きつかれていた。さすがに恥ずかしいからなんとか抜けようとすると、すっごい力で絞めつけられた。「ごめん、分かった。分かったから」って言っておとなしくすると絞めつけるのをやめてくれるが、離してくれない。また抜けようとすると絞めつけられる。結局ミナトが起きるまで、抱きしめられたままだった。
 ケンもなんとか抜け出そうとしたんだろうが途中で力尽きたようだ。

「ドバっち~ 生きてる~?」

 つんつんと紅葉がケンをつついている。

「ハッ!!朝カ………クゥ、まだ離れないカ。2人とモ、助けてくレ」

「はいはい。……ミナト!!起きろーーーー!!!!」

 大声で叫び、べしべしとミナトの頭を叩く。

「…うーん。…」

 ミナトがぼんやりと目を開く。そして、ケンに抱きついているのを確認すると離した。

「たっ助かっタ」

 ケンがふらふらと立ちあがり、顔を洗いに洗面所へ向かう。

「ほら、ミナトも起きろ!!………朝飯、出来てるぞー」

 ようやくミナトが起き上がる。飯で釣られるなよ。
 まだ眠そうなミナトも手を引いていく。
 やれやれ、世話がかかるな。まったく。















――あとがき――
 いまにっていう造語は、昔、演劇の時に殿の格好の友達を別の友達が評価した時に言っていた言葉です。
 ちなみに自分は似合ってるねって褒められました。村人C(Dだったかな)の格好ですけど………

 どうも、村人C(Dだったかな)の似合うブタと真珠でした。



 次こそもっと早く更新しなければ(グッ



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 8
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:216e8ca0
Date: 2010/05/28 09:52
「見て見て~これを見て~」

 あいさつもそこそこに紅葉が横につくったポニーテイル、えっとサイドポニーって言うんだっけ、それを跳ねさせながら走り寄ってくる。めずらしく1番遅くに来たな。
 ……しかし、朝から元気だなぁ。

「あー、どうしたんだ?」

「ふっふっふ~ じゃ~ん」

 手紙を「どうだ」とばかりに見せつけてくる。だからなんだ?

「ラブレターだよ~ ラ、ブ、レ、タ~」

「何小学校の男子からダ?」

「高校生だよ~!!ここの!!」

 いや、ケンの言いたいことも分かるがな。認めてやれよ、そんな信じられねぇって顔しないで。
 紅葉も気に入らないのか、ケンの顔をじろじろと見る。

「ドバっちなにさ~ その顔~」

「そんナ、立町ガラブレターなんてものをもらえるなんテ………それ以前に今時ラブレターってまだあったんだナ」

「意外とまだあるんだよ~ まぁ~告白すらされたことのないドバっちは知らないよね~」

「ぐゥ、なんで知ってル」

 あー、なかったんだな、告白されたこと。まえの疑問がはれて少しスッキリだ。

「へぇ~、ふ~ん、ないんだ~………そぉ~なんだぁ~」

 紅葉はふむふむとうなずいた後に、にやぁーと笑う。

「悪いカ!!したこともされたこともないワー!!くソォ、それなのにミナトも先輩に告白されるシ、よりにもよって立町もとハ。どうなってダ!!」

「いっつも小さいやらロリやら幼女やらとバカにするドバっちに紅葉はモテるんだぞ~って見せつけるために自慢したけど、ここまで反応されると逆にむかつくな~」

 いや、紅葉もそんなに言うほどモテているわけじゃないけどな。
 やっぱり、見た目は良くても小さいから同い年に見えないからだと思うが。あと性格もちょっと変だし……

「…小学生にもこの前、告白されてた」

「ぎゃ~ ミナっちなぜそれを知っている~ ……ドバっちも、それでこそ立町ダって顔をするな~」

 私も知ってるけどな。ミナトと買い物した時に偶然みたんだが、たぶん高学年の子だろうな。「紅葉、高校生だから無理だよ~」ってなんとか傷つけないように断ってた。でも、「愛に歳の差なんてありません」なんて、ませた切り返しを受けていたけど…

「結局、紅葉には好きな人がいるから付き合えないんだよ~って言って走り逃げてたな」

「アキちゃんまで~!!」

「………ヘェー、立町って好きなヤツがいたんだナ」

「ちっ違うよ~ ああ言わないと諦めてくれないと思って言ったんだよ~ っていうか、ドバっちをいじってやろうかと思ってたのに、いつの間にか紅葉がいじられてる~」

「で?ラブレターの返事はどうするんだ?」

 まぁ、どうせ断るんだろうけど。会ってみて決めるとかなしに、告白でも速攻断ってきていたみたいだしな。

「断るよ~ 今日の昼休憩に屋上で返事をするのさ~」

 ああ、やっぱりね。彼氏彼女とか付き合ったりとかにあんまり興味ないのかね、こいつは。………まぁ、私も人のことを言えないか。

「なァ、立町」

「なんだい?ドバっち~……あっ!ラブレターの差出人や中身は見せないよ~」

「見るカ!!……アー、いヤ、断るのなら1人で大丈夫カ?こう逆上されるとかないのカ?」

「ふっふ~ん。心配してくれるの~?でも、大丈夫だよ~ そもそも好きな子にわざわざ決定的に嫌われるようなことはしないよ~ まったく~これだから告白されたことのないドバっちはダメなんだよ~」

「あーアー、どうせオレには分かんねーヨ」

「あ~、ドバっち拗ねてる~ 拗ねるなよ~ ねぇ~ねぇ~」

「だれガ拗ねるカーー!!」

「みぎゃ~~~~」

 ケンが拳を紅葉のこめかみに当てて左右からぐりぐりとしている。……えっと、たしか春日部在住の園児の母親の得意技だったよな。あれ結構痛いんだよ。















 昼飯を食べて、「じゃあ~行ってくるね~ すぐ帰ってくるよ~」って言って紅葉が出て行って、5分くらいたった時「飲み物買ってくるけド、なにかいるカ?」といってケンが出て行ってさらに5分くらいたった……

「ケンのやつ遅くないか?ここ2階だし、自販機そんなに遠くないだろ」

「…屋上?」

「朝に紅葉さんのこと心配していたし、ありえますね」

「ふーむ、ちょっと私達も行ってみるか。もしかしたら面白いことになってるかも」

「…行こう行こう」

「だっ、ダメですよぉー、そんなこと」

 いけません、いけませんと言うレンを連れて廊下に出る。

「…!」

 すると、くいくいと袖をミナトが引っ張って窓を指を指す。
指した先を見ると、窓からは裏庭の楓の木が見える。その楓の木のそばに3人人影が見える。
 人影はケンとあとは……知らない女子が2人。たぶん同じ1年だと思うけど……

「えっと、どういう状況だ?」

 ケンを見つけれたのはよかったが、なんだ?これは。

「…?」

 私の疑問にミナトは首を傾げる。そりゃそーだろうーな。

「あの、もしかして……告白…ですかね」

「ケンにか?」

「えっと、たぶん」

「…」

 見ると、声は聞こえないが女子が何かを言って、ケンが驚いた表情をしているのは分かった。えっ?マジでか?
 ってかもう1人は付き添いか。

「やっほ~ 紅葉、無事に帰還だよ~っていうか、みんな廊下でなにしてるの~」

 3人で裏庭をマジマジと見ていると後ろから紅葉が話しかけてきた。

「ああ、帰ってきたか。早かったな」

「まぁ~断るだけだからね~……あれ?ドバっちは~?」

「えっと、それはぁ…」

 レンがなぜか言い淀んでおろおろしている。

「…あそこ」

 ミナトが裏庭の楓の木のそばを指す。ミナトが指した先を紅葉がじーと見る。

「ん~?……!!」

 びっくりしているな。そりゃそーか。私達もびっくりしたし。

「…告白されてるかも、しれない」

「やっぱりそうなのか?なぁ、紅葉はどう思う?」

「ふ~ん」

 いや、真顔で「ふ~ん」って答えはおかしくないか。それになんか「ふ~ん」と真顔が怖いんだが。

「むっ昔の知り合いとか友達とかで、お互いに一緒の高校だと気付いていなくて、さっき久しぶりに会って話しをしているだけかもしれませんよ。」

 レンがなんとも微妙なフォローをいれる。さすがにそれはないと思うんだが。だって、もう高校に入って2ヵ月、もうすぐ3ヵ月になるんだしな。

「ふ~ん」

 紅葉が冷ややかに言いつつ、裏庭にいる3人を見る。
 一通り話しが終ったのか、ケンは何かを受け取ってうなずく。そして別れようとした時、付き添いだろう女子が何かを言って、ケンは告白をしただろう女子が何かを言った時よりも驚いた顔をして、笑った後その女子の頭をなでて別れた。

「ふ~ん」

 だからその「ふ~ん」をやめろ。本当にこえーよ。





「たっだいマー、ってなんでみんな廊下にいるんダ?」

 しばらくして飲み物を持ったケンが帰ってくる。

「いや、ちょっとな」

「ン?……まぁいっカ。ほイ、江波と宇品はお茶、ミナトは要らなかったよナ。…デ、立町は要るのか要らないのか分からなかったから買ってきたゾ、りんごジュース」

 私とレンにお茶を渡した後、ぽーんと紙パックのりんごジュースを紅葉に投げて渡す。そして、自分の分の紙パックのコーヒーにストローをさして飲んでいる。

「生まれて初めての告白はどうだった~?ドバっち」

 りんごジュースを受け取りつつ、えらく低い声で紅葉がケンに尋ねる。

「ハァ?」

「…見えた」

 ミナトが窓を指して、ケンが裏庭と楓の木が見えるのを見て、「あアー」と納得する。

「なんダ、みんな見てたのカ」

「ふ~ん、どうせなにかオチがあるに決まってるんだよ~……実はあの子達が男の娘だとか~」

「エッ!?あれ男だったのカ?……本当にいるんだな、そんな人」

 感慨深そうにケンが言っているが、いないからそんなやつ!!マンガじゃないんだから。
 ってか告白してきた人が男かもって言われて「いるんだ」って感想は違うだろ。

「マァ、男ならいいんじゃないカ?そっちの方ガ」

 ケンのセリフにみんな顔がこわばる。

「はぁ?ケン、おまえ何を…」

「…冗談?」

「えっ?だって、そんな」

 私もミナトもレンもおろおろと慌てる。

「へ?ドバっち、なにを……だって…あれ?…え?…なんで?…あれ?…あれ?…あれ?」

 紅葉が一番混乱しているな。まぁ、ケンと一番仲良くなってたからな、そんなカミングアウトを聞いたら驚くよな。
 ケンがまさか男色……男が好きとか………大丈夫、友達だからな、受け入れよう。ただ、ミナトと2人っきりにはさせないが…

「?なんでみんなが慌てているのカ分からんガ、あとでこっそり渡そうと思ったけド見ていたならいっカ………ほイ、江波、預かり物」

 ケンがポケットから手紙を出して私に渡す。
 …………え?なにこれ。

「なんカ、お前に直接渡すのは恥ずかしいらしくテ、そこにちょうど良くオレが1人でいたかラ、渡してくれって頼まれたんだヨ。でも、まさか男子だとはナー、ってことはもう1人の子も男子カ?」

 そんなわけあるかぁーー!!……ああ、ついにきたか。中学までだと思ったよ、こうゆうの。
 ここ共学だよなぁ、女子高じゃあないよなぁ。

「…………ちゃんと女子だよ~ドバっち」

「なんダ、やっぱリ女子カ。……百合って言うんだっケ?始めて見タ」

 だから、驚いていたんだな。
 ……しっかし、ケンへの告白かと思っていじってやろうかと思ってたのに、まさか最後に私にくるとは……もうイヤだ。

「じゃあさ~、なんで付き添いの女の子の頭なでてたのさ~?」

 落ち着いた紅葉がケンを問い詰める。ああ、たしかになでてたな、付き添いの女子の頭を。………あの子はそっち系じゃねーよな。

「あア、それがサー、眼を褒められたんだヨ。綺麗なスカイブルーですねっテ。いヤー、この髪と眼の色を奇異に見られることはよくあったけド、褒められることは少なかったからナ。つイ」

 髪の色とか眼の色とか、私達はそんなこと気にしなかったけど、気になる人はきになるのかな。ケンも昔なにか言われたのかもしれないな。

「でっ、でも、勝手に女の子の髪に触るなんて、ドバっちのセクハラ~ 鬼畜~ 変態~」

「いやいヤ、セクハラととられても仕方ないかもしれないガ、鬼畜と変態はひどくねーカ?このサイドポニー」

 わしゃわしゃとケンは紅葉の頭をなでる?……いや、ぐしゃぐしゃにしてるだけだな。あれは。

「ぐしゃぐしゃにするな~ サイドポニーはつくるの大変なんだぞ~」

「人の事ヲ鬼畜やら変態だとか言うヤツに文句を言う資格はねーヨ」

 ケンはそのまま紅葉の頭をわしゃわしゃとぐしゃぐしゃにし続ける。

「………もしかして付き添いの子、土橋くんのこと…」

「ん?なんだ?レン」

「あっ!いえ、なんでもないです、アキさん」

「そっか」

 なんか考え込んでいたみたいだけど……

「む~~…………がぶり」

「いっテ!!バカ、腕をかむナ」

 レンと話していると、あっちでは紅葉がいきなりケンの腕にかむついていた。
 そして、ケンにもらった紙パックのりんごジュースにストローを突き刺して一気に飲み干して、ふぅ~と一息つく。
 忙しいやつだなぁ。

「あ~も~いいや。………ねぇねぇ~ それよりもドバっち、紅葉に協力しろ~」

「なんダ?いきなリ」

「この前、巨人化作戦を実行したときに思ったんだ~ この作戦は日頃、紅葉のことを、小さいね。とか、手のひらサイズだね。とか言ったクラスメイトを悠然と見降ろすことができると~!! だから、巨人化作戦を今一度発動してクラスメイトを見降ろすぞ~」

「ちっサ」

「なんだと~!!」

「目的ガ、目的がすっごイ小さイ」

「いいから肩を貸せ~」

「うオ!ワッ!……分かった分かっタ」

 ぐいぐいと肩にのぼろうとする紅葉に、やれやれと肩車をしてやるケン。
 なんかいつも通りな感じになってんだけど、こっちが置いていかれるぐらい。

「ふっふっふ~ 2メートル以上あるから、みんな見降ろせるぞ~ 見降ろされる気持ちを味わうがいい~ いくぞ~ドバっち~」

「はいはイ」

 肩車をしてもらってご満悦な紅葉の号令で教室に向かうケン。
 いやいや、お前ら…

「あっ!上に気を付け…」

「おい、待…」

「みぎゃ!!」

「ン?」

 私とレンが止める間もなく〝ごちん″と、なかなかすごい音と紅葉の変な声が聞こえる。
 いくら紅葉が小さくても肩車したらさすがに教室の入口より大きくなるからな、そのまま入ろうとしたらそりゃーぶつかるよ。
 紅葉もだが、ケンも気付けよ、ぶつかることぐらい。

「たっ立町!大丈夫カ?」

 ケンが慌てて紅葉を下ろして顔を覗きこむ。

「ふわぁ~~」

「おッ、おイ立町、こんなことで泣くなっテ、ナ?」

 ケンが紅葉の顔のぶつけて赤くなった部分を「ここガ痛いのカ?」と言ってなでる。とくに鼻の頭とかおでことかが赤くなってるな。

「う~ 泣いてないも~ん」

 少し落ち着いた紅葉が、ぐしぐしと目元をやや乱暴に拭ってる。
 いや、泣いてないって言うけど、かなり涙目だったな。かなり痛そうな音してたし。

「はいはーイ、立町はいい子ですネー」

 ケンが今度は子供にするみたいに、ぐりぐりと紅葉の頭をなでる。

「子供扱いするな~」

 ぎゃーぎゃーと文句を言いつつも頭をなでる手は払いのけないんだな。

「ン?おまエ、ここ血がにじんでないカ?」

「マジか~」

「あっ!私、絆創膏持ってます」

 レンがポケットから絆創膏を取り出しつつ2人に近づく。
 さすがだな、レン。気が利いてるよ。

「とにかく、イスに座りましょう。髪もぼさぼさですよ」

「本当だナー、ぼさぼさダ」

「これはドバっちの所為なんだけど~ ……だからドバっちが髪を梳いてよ~」

 わいわいと3人で教室に入っていく。さて、私たちも入る…

「…ん」

「………!!」

 なっ、なんでミナトは私の頭をなでてるんだ?びっくりするじゃないか!?

「なんだよ、急に」

「…?」

 いや、そこで不思議そうに首を傾げられても、こっちが困ってるんだが。
 まっ、まぁ別にイヤだってわけじゃないんだけど、ちょっと恥ずかしな。

「なにをしているのですか?廊下で」

 聞き覚えのある声に振り向くと……

「なんで白島先輩が1年の教室のある2階の廊下にいるんですか?」

「…トリイさん、生徒会室?」

「はい、その通りですミナト。少し用事があったので」

 ミナトににっこりと微笑みながら白島先輩が答える。
 そーいえば、生徒会室って2階だったな。けど…

「それなら西側の階段を使った方が近いんじゃあないですか?」

 東側の階段を使ったら遠回りだからな。……ってか、なんで私はこの人に突っかかってるんだろうな。

「もしかしたらミナトに会えるかと思いまして」

 ああ、やっぱり下心ありで遠回りしてたのか。それも堂々と言いのけるとは………なんかむかつく。
 むかつくけど、ミナトのせいで力が抜ける。

「で、いつまでミナトは江波さんの頭をなでているのですか?」

 そうだ、白島先輩に会ってなでるのを中断するかと思ったら、やめることなくずっとなでてるから、さっきから力が抜けて仕方がない。

「…なでて欲しそう、だったから」

「そっ、そうなのですか?」

「言ってない!!言ってない!!」

 なにを言うかミナト。私がいつそんなことを…

「…なんとなく」

 なんとなくで人の頭をなでるなよ。いや、本当にイヤじゃないんだけど、なんとなくって…

「あの……では、なでて欲しいって言ったら………私でも……なでてくれるのですか?」

「…ん」

 ミナトが空いている手で白島先輩の頭をなでる。
 おーおー、どんどん顔が赤くなっていってるぞ。自分からやってくれって言ったのに。
 なんだっけ?こうゆうの……なでぽだっけ?……ちょっと違うか。
 しっかし、廊下で頭をなでる男子1人になでられる女子2人って、なんだろうな、この光景。へんに目立ってるんだけど。

「…ん」

 ミナトが私と白島先輩の頭から手を離す。
 うーん、なんか頭がさみしい様に感じるな。……もうちょっと…なにを考えてんだ私は。
 白島先輩を見ると、まだ顔が赤いままだが、先輩も残念そうな表情をしている。
 ………………いやいや、“も”ってなんだ“も”って…

「………がんばれます」

 先輩がぽつりとつぶやく。なんだ?

「…ん?」

「今日、私はこれでがんばれます!!ありがとうございますミナト。……また、なでて下さいね」

 白島先輩は、にっこりと幸せそうに笑いながらミナトに手を振って生徒会室へ向かって行った。
 はぁー、もう教室に戻ろう。…………あっ、手紙っていうかラブレター(女子からの)返事しないといけないんだ。……気が重い。















――あとがき――
 Q:ケンは告白とかされたことがありますか?
 A:したことも、されたこともありません。
 これが普通ですかね?したことはあっても、されたことがないって人が多いかな?
 しかし、紅葉とケンのコンビの方がなんか書きやすいです……ミナトしゃべらないし。そしてレンがどんどん影がうすく………ごめんなさい。


 ―感想返しです―
  ナマハゲさん
   素敵とは!!ありがとうございます。しかし、カルテット…………やっぱりレンは忘れられやすいかも、自分もたまにしゃべらせるのを忘れてしまいますし(オイ



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 9
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:c0aa9b02
Date: 2010/06/02 09:43
 朝、ミナトが四苦八苦しながらメールを打ってる。べつに機械オンチってわけじゃあないのにメールだけは苦手なんだよなぁーこいつ。
 そんなミナトを横目で見ながらレンと他愛もない話しをしていると、いつもよりも遅れて紅葉が教室に入って来た。

「おはよ~アキちゃんにミナっちにレンちゃん~ ……そうそう、レンちゃん~ 押し花の作り方教えて~」

「おはようございます。えっと、押し花ですか?」

 紅葉、言っちゃー悪いが似合わねー、押し花なんて……

「そうさ~ 四つ葉のクローバー見つけたんだよ~ せっかくだから押し花にと思ってね~」

 ばさばさっと、私の机の上に紅葉は持っていた袋から四つ葉のクローバーを出す。
 おまえ、勝手に……って、″ばさばさ″?…………えーと、1、2、3、4……20近くあるな。
 なんと言うか…

「ありがたみが薄れるな。こんだけあると」

「よくこんなに見つけましたね」

「でしょ~ 学校がなければ袋いっぱいにしようとしたんだけどね~」

 へっへ~ん、と自慢げにない胸を張る紅葉。

「そんなに乱獲してもしょうがないだろ」

 そう言いつつ机に置いてある、たくさんの四つ葉のクローバーを1つ手に取って、くるくると回す。
 なつかしいなぁ。

「そ~だ!帰りにドバっちも手伝わせて袋いっぱいにしよ~……って、ドバっちまだ来てないの~?」

「だからそんなに採って……ん?そう言えば遅いな、ケン」

「遅刻ですかね」

「遅刻だね~」

 ここで風邪で病欠かって、レンにさえ思われないとはさすがだなケン。まぁ、私もケンが風邪をひくとか想像できないけどな。ちなみに紅葉も。

「ミナトはなんかケンから聞いてるか?って、さっきからメールしているけど、もしかしてケンか?」

「…違うよ。…あと、ケンは分からない」

「そうか。もしかしてケンのやつまだ寝てんのか?」

「そもそも、遅刻する時は紅葉にメールするからね~ドバッチは~………ミナっちがメール苦手なの知ってるし~」

 それもそうだな。…………んん?じゃあ、ミナトはだれとメールしてたんだ?

「なぁ、ミナ…」

「おーし、おまえら席につけー 朝のHR始めるぞー」

 担任が来たか。…………うーん、まぁ、ちょっと気になるけど、いっか。変なことはしてないと思うしな、ミナトだし。
 って、四つ葉のクローバーを置いていくな、紅葉。持っていけ!





「あー、今日は天満と土橋は風邪で休みだそうだ。みんなも気を付けろよ」

 そう言って担任が出ていく。朝のHRが終り、1時間目の授業の準備を始める。
 しっかし、ケンのやつ風邪か。あいつが休んだのは初めてだな。

「…ケン、風邪ひくんだ」

 ミナト、それはケンのことを暗にバカだと言いたいのか?まぁ、バカは風邪をひかないって言うしな。

「大丈夫ですかね?土橋くん」

「まぁ、ただの風邪なら別に大丈夫だろ?まだインフルエンザって時季じゃあねーしな」

「自己管理がなってないな~ドバっちは~ まったく情けないな~」

 紅葉が、けたけた笑っている。いやー、私も前に風邪ひいてミナトに迷惑かけた身としては耳が痛いな。
 しかし、紅葉は風邪ひかないよな。言うだけのことはあるってことか。

「………う~ん」

 紅葉が、けたけた笑った後に急に黙って首をひねっている。どうした?

「なんか~反撃がないと変な感じだなぁ~」

 そう言って、「むむむ~」と唸っている。
 ああ、「情けないな~」とか言ったら大抵ケンから反撃があるからな。
こう、「おまえはオレよりもバカだかラ風邪ひかないだけだロ!!」って感じで言い合いになりそうだもんな。
 まぁ、2人の成績は五十歩百歩だけどな。もうちょいがんばれよ2人とも……

「皆さん席に着いて下さい。授業を始めますよ」

 おっと、先生が来たか。

















 昼、いつもより1人少ないメンバーで昼飯だ。

「う~~ 今日の英語の授業での先生の紅葉への狙い撃ちはひどいよね~」

 弁当を食べながら紅葉がぐちる。いやいや、だってなぁー

「おまえがなんか、ぼーっとしていたのがいけないんだろ?」

「何回も先生が呼んでも気が付いていないようでしたからね」

「…注意不足」

「ミナっちやレンちゃんすら味方してくれないとは~!!でもでも~ だからって何回も当てなくてもい~じゃ~ん そう思うよね~ドバッ…………え~と、ねぇ?ミナっち~」

「…ん?…うん?」

 いきなり聞かれたミナトが少し驚いて答える。
 なんか今日の紅葉はこんな調子だな。ぼぉーっとしたり、話しの途中で病欠でいないケンに話しを振ろうとしたり……

「…………あ~も~ なんか今日は調子が狂うな~」

 紅葉が、がしがしと頭を掻きむしる。

「あーじゃあー、学校終わったら見舞いにでも行くか。ケンの家へ」

「お見舞いか~……仕方ないなぁ~」

 紅葉がふむふむと頷いて、再び弁当を食べ始める。

「あの、私、今日部活で少し話し合いがあるので……えっと、遅れていきます」

 レンが申し訳なさそうに言う。
 ああ、レンは部活に入ってるからな。学校終わってすぐは無理だろうな。私やミナトに紅葉、ケンは帰宅部だから自由だけど……
 くいくいと隣に座っているミナトが私を引っ張る。
 なんだ?

「…特売」

「あ!!」

 ミナトのセリフで思いだした。

「紅葉、おまえだけ先に行っていてくれ。私とミナトは醤油とティッシュの特売に行かないといけないから」

「え~と、レンちゃんは仕方ないけど、ドバっちって醤油とティッシュに負けたの~?」

 いやいや、どっちも必要不可欠なものだからな。安い時に買っておくべきなんだよ。私たちじゃないと、こういった特売は買えないからな。両親が共働きだからこういったことも私たちの仕事なんだよ。















■ ■ ■ ■

 「買い物終わったらすぐ行くなー」って言うアキちゃん達と別れて、やって来たよ~ ドバっちの家の前。
 さて、お見舞いの品も買ってきたし~入るか~………まぁ~近くに来るまで買うの忘れてたから、近くのスーパーマーケットで買ったんだけど…
 さてさて~元気になってればいいけどね~ドバっち~

「こんにちは~」

 いつ来ても金髪碧眼が住んでるとは思えないような、見事な日本家屋だな~

「はいはーい。……あら!紅葉ちゃん、お見舞いに来てくれたの?わざわざごめんね」

 ドバっちの母親、土橋 魅芽(どばし みち)さん。黒髪黒眼の親しみのある顔立ちの優しい人だ。
 なんせ、初めて会ったときに「日本人だ~!!」って言って指を指してしまうという失礼な態度をとったのに、ふふふっと笑いながら「ご期待に添えなくてごめんね」と言って頭をなでて許してくれた人なんだよ~
 まぁ~ドバっちの名字が土橋なんだから、親か祖父母に日本の人がいることぐらい予想しとくべきだったんだけどね~

「ドバっち元気ですか~?」

 最初はミチさんの前ではドバっちのことを、ケン君って言っていたんだけど、ミチさんと仲良くなって「ケンのこと、私のまえでもいつもと同じように呼んでいいわよ。無理しないでね」と言われて、今では「ドバっち」とミチさんの前でも呼んでる。ちなみにミチさんは「ミチさん」って呼んでるんだけどね~

「病院に行って点滴をうったら良くなって、もうだいぶ元気よ」

「あっ!じゃあ~部屋に上がっても大丈夫ですか~?」

「ええ。でも、うつらないように気を付けてね?」

 マスクでも持ってくれば良かったかな~ ドバっちがかかるような風邪だからな~注意しないと~





 「あとで部屋に飲み物持って行くわね」というミチさんに「お構いなく~」と言って別れてドバっちの部屋に向かう。
 がらーっとフスマを開けてドバっちの部屋に入る。初めて来たときはびっくりしたよ~畳なんだから。しかもベットじゃなくて布団を敷いて寝てるしね。……まぁ~日本家屋な時点で気付かなかった紅葉も紅葉だったけど~

「やっほ~元気か~?………ん~?寝てる~?」

 ドバっち、寝てた。しかも、すやすやと………

「ん~~」

 じぃーっと顔を覗き込む。快晴の空みたいな色の眼は今は閉じられて見えない。

「…………」

 なんとなく両手を伸ばしてドバっちの頬に触れる。少し熱い。でも触れ続ける……そして、……………思いっきり左右に引っ張る。

「!!!!!」

 寝ていたところにいきなり痛みを感じて、びっくりして起きたドバっちが紅葉の手を顔から引き剥がす。
 そして、紅葉がいるのを確認すると…

「なんダ!?いきなりなにすんだ!!立町!!」

 と、怒られた。

「いや~人がせっかくお見舞いに来たっていうのに、すやすやと寝てるからつい~」

「つい~じゃねーヨ!………ってカ変なことしてないだろうナ。額に肉って書くとカ」

「おお~その手が~……また眠ってよ~ドバっち~」

「そんなこと言うやつがいるのに寝るカ!」

「ちっ」

「まさかノ舌打チ!…………ハァ、まぁいいカ。しかシ、わざわざ見舞いカ?……悪いナ」

「べつにい~よ~……ヒマだったし~」

「ふーン。……もしかしてオレが学校を休んで寂しかったのカー?」

 にやりと笑いながらドバっちが聞いてくる。ふっふっふ~答えはもちろん決まってるのさ~

「ん~ん、まったく~ ぜ~んぜん」


 ―――――――――――ウソだよ?


「それにアキちゃんなんて、たまには静かでいいなって言ってたよ~」

「ナァ!!ひドッ!!」


 ―――――――――――さみしくないなんて、ウソだよ?


「ってカ、見舞いって立町だけなのカ?」

「え~と、 アキちゃんとミナっちは醤油とティッシュの特売に行って、レンちゃんは部活に行ってるよ~」


 ―――――――――――さみしかったよ?


「宇品は仕方ないけド、オレって醤油とティッシュに負けたんだナ」

 しょんぼりとうなだれているドバっちを見て、笑いが込み上げてくる。

「ふっふ~ん、人徳が足りないんだよ~……あ~!そ~いえば、お見舞いの品を持って来たよ~」

 がさごそとビニール袋から買って来たものを取り出す。


 ―――――――――――ドバっちがいなくて、さみしかったんだよ?


「え~と、パイナップルの缶詰とキウイにフルーツグミだよ~」

「人徳っテ……いヤ、それよりモ。……すげーナ、オレの苦手なものばかりそろえやがっテ」

 呆れたように買って来たものを見るドバっち。うんうん、買ってきたかいがあったな~


 ―――――――――――アキちゃんやミナっち、レンちゃんが休んでも心配はするけど、さみしいなんて思ったことないんだよ?


「しっかり食べるんだよ~」

「苦手だって言ったロ?今!……そもそモ、分かってて買って来てんだロー、立町ー!!」

 がーと怒るドバっちを見て、けらけらと笑ってしまう。うん、ドバっちをからかうのは楽しいな~


 ―――――――――――いっしょにいる今は、さみしくないんだよ?


「騒いだら熱がまた上がるぞ~」

「誰のせいだと思ってるんダー!」

 うんうん元気そうだな~ 明日は学校に来れるかな~?


 ―――――――――――もし、ドバっちがいなくなったら紅葉は落ち込んじゃうよ?きっと


「うわぁ~ドラマの再放送を見たいのを我慢してお見舞いに来た紅葉になんてことを~!!………そうだテレビあるんだし、ここで見よ~」

 ぱちりと部屋にあるテレビつける。

「これっテ本当に見舞いカ?」


 ―――――――――――だから、勝手にどっか行ったらダメだよ?イヤだよ?















■ ■ ■ ■


 ミナトと買い物を済ましてケンの家に行くと、ケンの母親のミチさんが出迎えてくれて、「紅葉ちゃんだけじゃなく、江波さんと横川くんまで来てくれて」と歓迎されて、ケンの部屋にはいると……

「なに騒いでんだ?おまえら」

 紅葉とケンがじゃれあってた。

「だって~アキちゃん!!ドバっちが~ドバっちが悪いんだよ~」

「ドラマを見たかと思ったラ、ゲームを始めようとしたヤツには当然の報いダ!」

「ソニックが…ソニックが紅葉を呼んでるんだよ~」

「まえ来た時にやったろーガ!!そもそも今日なにしに来たかを思い出セー!!」

 あー、はいはい、いつものことか。

「…元気そう」

「ああ、元気そうでなによりだな、ケン」

「マァ、おかげさまでナ……っテ、立町、布団に入ろうとするナ、奪おうとするナ!!」

「おお~温かい~………うわぁ~~」

 さすがに紅葉に風がうつってもいけないし、ケンはぶり返してもいけないから、紅葉をケンの布団から取り出して、そばに投げ捨てる。

「えっと、そうそう。私とミナトで見舞いの品を買ってきたんだが……パイナップルの缶詰にキウイ、それからフルーツグミ」

「奇跡カ、幼馴染トリオ」

「は、紅葉が買ってきていると思ってな」

「大当たりだヨ」

 ケンがパイナップルの缶詰を持って私とミナトに見せる。

「そこで…」

「…鳥皮のやきとり」

 ミナトが取り出す。8本入りのお得用だ。あと味も保障するぞ。

「重イ、たとえ苦手じゃなくてモ病人が食べるにハ重たイ」

「ドバっち~缶切りは~?」

 紅葉が自分で持ってきたフルーツグミを食べながら、ケンから奪ったパイナップルの缶詰を振る。

「結局おまえが食べるのかヨ!!」

「グミうま~」

「人の話しヲ聞ケーー!!!」

「……………あー、ミナト、もうそれ食っていーぞ。なんかもう2人で楽しそうだし」

 こくこくと頷くミナトと一緒に私もやきとりを食べながら、ぎゃいぎゃい騒いでる2人を見る。
 まぁー、ケンも元気そうだし、紅葉も元気になったようだし、いっか。










 えーと、この後にレンも見舞いに来て、騒ぐ私たち(主に紅葉)を「お見舞いに来て騒いだらダメです!!」と叱り、普通な見舞いの品をケンに渡した。
 ケンが「宇品ガ友達で本当によかっター」と感謝していたな。仕方ないことだが。でも、「紅葉たちじゃあ~ 不満か~」って紅葉がまた騒ぎ始めたから、みんなでそそくさとお暇させてもらったけどな。
 お大事に、ケン。















――あとがき――
 風邪をひいたときは、獅子舞のマークの『かぜぴら』が一番です。
 …………あれ?そんな薬は知らない?おかしいなぁ?家の常備薬なんだけど……

 認知度:極低の薬が常備薬のブタと真珠です。友達に知らないと言われて初めて知りました。
 えーと、寒くなったり暑くなったり、みなさんも風邪をひかないよーに気を付けましょう。…………気を付ければよかった……



[18251] 立町さんちの紅葉ちゃん
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:ec11bfc2
Date: 2010/07/06 10:45
――――4月×日――――
 今日は入学式だ~とうとう紅葉たちも高校生だ~

「しっかし、ミナト遅くないか?」

 入学式の後のホームルームが終って、昼頃だし4人でファミレスでも行ってご飯でも食べようって話しになって、…ああ、お父さんやお母さん達は先に帰ったんだよ~
 でも、じゃあ行くかってことになった時にミナっちが図書室に見てくるって言って出て行って、教室で待ってるんだけど……

「横川くん、迷ったんですかね?」

「まぁ~たしかにこの学校広いけど、迷うほどかな~?そもそも図書室ってどこだっけ~?」

「さぁ?私も知らん。新しい学校で図書室を真っ先に確認するなんて本好きぐらいなもんだろ?あと、ミナトはたまにびっくりするようなヘマをするからな、どこか全然違うところに行ってるかもしれないな」

 ミナっち、たま~にあるからね~ こっちが忘れたころに変なヘマをするから、防ぎようがないんだよね~

「携帯かけてみたらどうですか?」

「いや………ほれ、鞄に入れっぱなしだ」

 レンちゃんの提案に、ミナっちの鞄をあさって携帯を取り出して答えるアキちゃん。

「と言うか、携帯電話をなんで携帯しないんだ!!」

「ミナっちだもの~」

「横川くんだから」

「2人ともとっても納得のいく答えをありがとう。……よし、私がミナト探してくるから2人は教室に残っていてくれ。もし入れ違いで帰ってきたら電話して」

 アキちゃんが立ち上がってドアに向かうと、聞き覚えのある声とない声が廊下から聞こえてきた。1つはミナっちだけど、もう1人は誰だろ~?

「ほら教室に着いたゾ」

「…ついた」

「と言うか図書館とオレらの教室っテ同じ階なの二、なんで裏庭にいたんだヨ」

「…不思議」

「本当に不思議だナ、おまえガ」

 がらっとドアを開けて2人が入ってくる。うわ~ミナっちが見覚えのない人と一緒に帰って来たよ~
 ほぉ~金髪に碧い眼って外人さんだ~ってよく見たらたしかクラスメイトの人だったかな~?

「あー、ミナトを助けてくれたのか。ありがとな……えーと」

「ン?あア、オレは土橋 県ダ。えート、あんたらはミナトの友達カ?」

「…うん、友達。…ケンも友達」

 なんか知らないうちにミナっちが仲良くなってる~ 初対面の人を名前で呼んでる~珍しい~ なにかあったのか~?
 紅葉もアキちゃんもレンちゃんもちょっとびっくりして2人を黙って見る。

「…自己紹介」

「悪いけドまだ名前覚えてないんダ。えっト、そっちの凛々しいのハ?」

「えっ?あーもしかして私か?えっと、私は江波 安芸だ」

 うん、アキちゃんは確かに凛々しいよね。中学の時に女子から告白されるくらい……

「そしテ、そっちの大和撫子みたいなのハ?」

「………?」

 誰の事だろうと不思議そうにしているレンちゃんをアキちゃんが肘で突く。

「えっ!!わっ、私ですか?大和撫子だなんてそんな……えっと、あの、あっ!名前ですね。私は宇品恋です」

 大丈夫だよ、レンちゃん。悔しいけど私たちの中で大和撫子にもっとも近いのはレンちゃんだけだから……

「そしテ…」

 さ~、来たぞ~ ちっちゃいか?チビか?ロリか? どれでくる?そ~言えばさっき同級生に「なんで小学生が?」って言われたな~ちくしょう~

「最後にそこの髪がすっごい長いのハ?」

「……はぁ~?」

 今この人なんて言った?髪について言ってた?

「いヤ、髪がすっごい長いかラ…………もしかしテ、あれカ?切るのがめんどくさいとカ?」

「そんなずぼらな人がこんなさらっさらな髪になるか~~!!触ってみろ~」

 この腰よりも長い髪は紅葉の密かな自慢なんだぞ~ この野郎~

「いヤ、会ったばかりの女子の髪に触るなんテ……」

「うっわ~なに、その無駄に紳士的な態度~」

「無駄とはなんダ、無駄とハ!!」

「って言うか、そもそも紅葉の特徴ならもっと他にもあるでしょ~が!!」

「んート……量も多いナ、髪」

「髪ばっかりか~!!髪フェチか~!!こう…チビとかロリとか小学生とかあるでしょ~!!」

 って、自分で何を言ってんだろ~紅葉は…
 見ると、土橋 県が「おオ!」と言いつつ手をぽんと打って、

「たしかにあんタ、ちっちゃいナー」

 って感心したように言いやがった~!!

「おっそいよ~!……って誰がちっちゃいだ~!!」

「うワー、なんかすっごい理不尽な怒られかたヲされてる気がするんだガ」

 うう~なんか調子が狂うな~ 変なヤツ変なヤツ~~~










――――4月□○日――――

「立町さんって小さくて可愛いー」

「ホントホント」

「本当に小柄ね、かわいいー」

「あははは~ そ~でもないよ~」

 いや~、大きい人は目立つけど、とっても小さい人も目立つね~………うれしくないけど…
 うう~アキちゃん~ミナっち~レンちゃん~もうドバっちでもいいから来い~~ じゃないと紅葉は小さいがゲシュタルト崩壊するぞ~ みんなして小さい小さい言いやがって~~!!!

「あっ!そうだ、立町さ…」

「おーイ!立町ーちょっといいカー?」

 声のする方を見るとドバっちが、来い来いと手招きをしている。

「あっ!ごめん~呼ばれたから行くね~」

 話しをしていた女子たちと別れてドバっちの所へ行く。ナイスタイミングだよ~ドバっち~褒めてつかわすぞ~
 ドバっちが廊下に出て歩いて行くから、追いついて隣に並ぶ。

「で?用事ってなに~?」

「ン?……アー……用事なかっタ、すまン」

 え?用事がない?いや~別になくてもいいけどね~助かったし~
 そのままなんとなくドバっちと並んで歩く。こっちの方向だとジュースでも買いに行くのかな~?

「立町サー」

 ドバっちがどうでもよさそうな感じで話しかけてきた。なんだ~?雑談でもするのか~?

「ん~?」

「あんまりため込むなヨ」

「なにを?」

「不満ヲ。って言うかストレス?」

「…………なにを…」

「立町っテみんなが思っているよりも小さいこと気にしているみたいだからナ。って言うカ、オレも覚えがあるんだヨ。外見を気にするって言うカ、髪や眼の色を気にしてたりしてたからナ」

「あ~………」

「それに昔、親父の仕事の関係で転校もよくしてサ、髪や眼の色の違いとか気にしないクラスもあったけド、そうでないクラスもあったりして………どうしてもいじられたりしテ、でも一々反発とかしても良いことないかラ、ぐっと我慢したりしたんだヨ。親にも心配かけたくなかったかラ相談してなかったシ。………まァありがちな悩みかもしれないけどナ」

 ドバっちは「だから愚痴ぐらい聞くゾ」って言って笑っている。

「………………」

 ……………まるで今は気にしてないみたいに話して………今だって……本当は……

「ちぇすと~」

「いっテッ!」

 ドバっちの前にまわりこんでローキック。脛を強打されてうずくまるドバっち。ふっふっふ~まだまだ伝家の宝刀のローキックは衰えておらぬなぁ~

「なにすんダー!いきなリ!!」

「もやっとしてやった~後悔はするはずがない!!」

「威張るナ!!」

 はっはっは~と笑っていると、ドバっちがじとっと睨んで叫ぶ。

「悔しければ、紅葉を捕まえてみなよ~」

 ドバっちの前に挑発しつつ躍り出て、そのまま走る。

「ふン!すぐに追いついテ、捕まえてやるヨ………捕まえテ………捕マ………って速いナー立町!!」

「はぁ~はっはっは~この“閃光の紅葉”と呼ばれた紅葉に追いつけるかなぁ~?」

「なんダ、その痛々しい通り名みたいなのワ!!」

「中二の時にね~ いわゆる1つの黒歴史さ~」

「くだらネー」

「なんだと~!!人の歴史をくだらないなんて~ このエセ外人~!」

「黒歴史なら隠セー それに自分で話しておいてなんだけド、さっきの話しを聞いテ、エセ外人ってセリフが出てくるなんていい度胸してるナ、このロリ町!!」

「そっちこそ紅葉が小さいこと気にしてるの分かっているのに、ロリってつけるなんていい度胸だね~!!」





 言い合いをしつつも、ほぼ全力疾走と言っていいスピードで廊下を走り、階段を駆け下りたり駆け上がったりと2人で走り回る。ふっ、紅葉の速さに着いて来るとはやるな、ドバっち!!
 …………とまぁ~ それだけ豪快に走り回りながら大声で叫んでると、先生にもすぐに見つかるわけで、2人そろって叱られちゃったよ~
 でも、言い合いしながら走り回ったら、いろいろスッキリした~ それに……………それに…………なんか………楽しかった……なぁ










――――5月△×日――――

 いや~今日は良い天気だね~
 学校帰りにドバっちと共にやって来たのは~ドバっちの家だ~ 初めての訪問だよ~それもこれも…
    「今日、赤い帽子と青いオーバーオールを着た少し太った人を見たんだよね~」
    「……………………デ?」
    「なんか~無性にマリオをしたくなったんだよ~それもブラザーズ3を~」
    「理由がくだらない上二、またマニアックなところヲ」
    「まぁ~持ってないから出来ないんだけどね~」
    「オレの家にあるゾ、ソフトもハードモ」
    「マジで!!!言ってみるもんだね!!行ってもいい?ドバっちの家行ってもいい~?」
 ってことで来たんだけど~…………うわ~~なんて立派な日本家屋なんだろ~…………

「って、なんでだ~~!そして、なんでだ~~!!」

「なにがダ?立町」

 ふるふると震える指でドバっちの家と思われるモノを指す。……あっ!表札に土橋って書いてある。ってことは認めなくてはいけないんだね~

「日本家屋なんだけどぉ~」

「だかラ?」

 困惑気味にドバっちが紅葉を見る。いやいや、だから?って…

「すっごい似合わないよぉ~」

「ほっとケ!!って言うかどんな家だったら似合うんだヨ」

「アメリカのホームドラマ『フルハウス』の家みたいなのを希望~」

「立町の興味の対象って妙に古いよナ。……まぁいいカ、ただいマー」

 ドバっちがドアを開ける。古びた木製のスライド式だよ、このドア。田舎で見るやつだよ~って思うのは、なんか年季が入ってるように見えるからかな~

「お邪魔しま~す」

「おかえりなさい、ケン……あら?…あらあら」

 黒髪黒眼の優しそうな女性が紅葉を見て驚いている。え~と、もしかして…

「どうしタ?お袋」

 お袋ってことは、母親?母さん?母上?

「え~~!!!お母さん~~!!!どう見ても日本人だよ~~!!!!」

 指を指して思わず叫んでしまった。しかし、はっ、と冷静になるとなんて失礼なことをしていることに気付く……

「あっあの、えっと、その、ごっごめんなさ…」

「ふふふ、ご期待に添えなくてごめんね?えっと、あなたのお名前は?」

「紅葉です。立町 紅葉です」

「魅芽よ。ケンの正真正銘の実の母です。よろしくね、紅葉ちゃん」

「はっはい!」

 ドバっちの母親、ミチさんがふふふと笑いながら紅葉の頭をなでる。子供扱いされるのは見た目も相まって嫌なんだけど、ミチさんになでられるのは嫌な感じがしないな~ 不思議だ~
 ん~?そう言えばミチさんはどう見ても日本人、でも土橋って名字ってことは………婿養子なんだね~ドバっちのお父さん~

「うんうん、高校に入ってケンが家に初めて連れてきた女の子がこんなに可愛い子なんて……ナイスよ、ケン」

「興奮するなヨ、年甲斐もなイ」

「だって、こっちに来て家に来るのは横川くんとか男子ぐらいだったじゃない」

 へぇ~ミナっち来たことあるんだ~ ………仲いいしね~当たり前か~

「だからっテ………いーかげン、立町の頭なでるのやめてやれヨ。これ以上に縮むゾ」

「あらあら」

「縮むか~~!!!!」

 話している間ずっと頭なでられてました、ミチさんに。失礼な態度をとっちゃったし、それに悪い気はしないからね~





 え~と、とにかくドバっちの部屋に来たんだけど…

「分かっていたけど、畳なんだね~」

 意外と片付いてるな~それに本棚に机、テレビに大きなクッションってなんかモノが少なくて寂しい部屋だな~

「………あれ?ベットは~?」

「ン?布団なら押入れに入ってるけド?」

「………ドラえも…」

「畳に敷いて寝るんだヨ!!……まったク、ほらゲーム出来るようにしたゾ」

 まさかベットすらないとは~ まぁいっか~それよりも、

「おお~憧れのブラザーズ3だ~……でも、なんでドバっち持ってるの~?こんな古いゲーム」

「憧れっテ……アー、まぁいいカ。えーとナ、親父が好きなんだヨ、ゲーム。ゲームはやっぱり日本の物に限るとかどうとか言っていたシ」

「良いお父さん、羨ましい~」





 〝カチカチ″とゲームを進めつつもドバっちといろいろ話していたのだけど、難しいステージになってちょっと集中してやっていたら…

「むずい~ムリ~なんなんだ~この高速飛行艇のステ~ジ~ ドバっち代わりにクリアし…」

「スゥースゥー」

 ドバっちを見ると……クッションにもたれかかって寝てた。しかも「スゥースゥー」って似合わないな~
 まったく、途中からやけに静かだな~って思ったら寝てるなんて……って言うか紅葉もゲームしすぎて背中が痛いから何かもたれかかるモノが欲しいな~ なにかもたれかかるモノ~…………あ……

「……………ドバっち~?………起きてる~?……寝てるね~」

 こっそりこっそりとドバっちに近づいて寝てるのを確認してから、そろりそろりとドバっちの足の間に入って背中をドバっちに預ける。
 ドバっちで即席座イス~………おお~なんかいいな~これ~……おっと、続き続き~

「んア?…………あレ?なんで立町がここにいるんダ?」

「なんだ~寝ぼけてるのか~ ドバっちが無理やり部屋に連れ込んだのに~」

「待テ、いろいろ違ウ。無理やりじゃなくておまえが来たいと行ったんだろーガ。それにここにって言うのは、何でオレの足の間にいるんダってことなんだガ」

「なぜって、座イス代わりに~」

「…………分かっタ、クッションを譲るからちょっと退けロ」

「いいよ~これで~」

「いヤ、あのナァ」

「い~の~!」

「ハァー、ったク………(無防備すぎるゾ)」

「ん~?なにか言った~?」

 頭をドバっちの胸のところに預けているから、上を向いてドバっちの顔を見る。なんかため息をついた後になにか言っていたみたいだけど、よく聞こえなかった~

「ガードがあまいゼって言ったんだヨ」

「ふが」

 いきなり鼻をつままれて、「はっはっハ、ふがってなんだヨふがっテ」とか言って笑われた。
 鼻をつまむなぁ~ そして笑うなぁ~はなせ~はなせ~と暴れていると手に持っていたゲームのコントローラーをとられた。そして後ろから抱きしめるような形でコントローラーを持って「オッ、久しぶりにすると難いナ」と言ってゲームを再開し始めた。
 おお~なんか、これは……さすがに……ちょっと恥ずかしいな~





 ドバっちの家から帰って数時間、ご飯も食べた、お風呂も入った、宿題はなし、さぁ~あとは寝るだけだ~って言ってもまだ寝むたくなるような時間じゃないな~

「ゲームでもしようかな~」

 最近買ったRPGを選んでゲームを始める。
 〝カチカチ″

「…………………」

 〝カチカチ″

「……………」

 〝カチカ…

「ん~やめた~もう寝よ~」

 始めたばかりのゲームを片付けてベットに入る。ゲームをしている間、なんか妙に背中が寒かった……違う、なんか寂しかった?風邪でもひいたかもしれない、そう思って自分自身をぎゅっと抱きしめて眠った。










――――6月○日――――

 放課後に2人で家で遊ぶっていったらドバっちの家ばっかりだったから、今日は紅葉の家だよ~ ドバっちは初めて呼ぶな~

「おオー、家大きいナー………なのに住んでるヤツハ……」

 家を見た後に、やれやれといった感じで紅葉を見るドバっち。

「なにが言いたいのかな~ドバっち~?」

「別になにモ。ただ皮肉だナーって思っただけダ」

「ぐぐぐ~……もう、さっさと入るよ~…ただいま~」

「お邪魔しまス」

 靴を脱いでいるドバっちを置いて、ひと足早く玄関からリビングに向かう。とりあえず、お母さんに友達を連れてきたことを言わないとね~

「お母さんただいま~」

「ん~?おかえり~ 今日は早いんだね~」

「今日は友達来てるから~ あっ!飲み物とかは自分で取りに行くから大丈夫だよ~」

「友達~?だれ~?アキちゃんとかじゃあないみたいだけど~」

「だれって、友達って言ったら友達だよ~」

「ふ~ん……………………じゃ~あ、お母さん、あいさつしないとね~」

「え!いや、別に…」

 止める間もなく、素早い動きでお母さんが玄関に向かう。慌ててお母さんを追って玄関に向かう。
 すると、ドバっちは玄関からリビングへ向かう廊下を歩いているところをお母さんに捕まっていた。

「初めまして~…………もしかして、ドバっちくん~?」

「ヘ?あレ?アー、はイ、土橋 県でス。初めましテ……えート…」

「檸檬(れもん)よ。紅葉のお母さん。レモンちゃんって呼んでね~」

「アー、じゃあレモンさんデ。……ところデ、どうしてオレのこと知ってすんですカ?」

「どうしてって、紅葉が楽しそうに話しを…」

「楽しそうに話してなんてしてないでしょ!!」

 まったく!根も葉もないことを言おうとするんだから!!ドバっちの話しなんて愚痴みたいなのしかしてないし!!それに“ちゃん”って……歳を考えなよ~本当にまったく!!

「えート、なんと言うカ。2人並ぶとさらに思うんだけド、そっくりダ」

「あはは~よく言われるよ~」

「うう~~~」

 嬉しそうにお母さんが笑う。うう~~たしかにお母さんと紅葉は“顔”はそっくりなんだよな~“顔”は~ お母さんの昔の写真とか見せてもらった時、紅葉かと思ったほどだったからな~…………でも、………でも~ 似るんならとことん似て欲しかったよ~背とか~胸とか~
 だってさ~努力の賜物かどうか知らないけどさ~いい歳なのにボンキュボンってスタイルを保ってるんだもん。なまじ顔がそっくりだから、片やスラ~として出るとこは出て引っこむところは引っこんでるのに、片やチビでスト~ンとしているのがなおさら目立っちゃうんだよ~!!
 でも、大丈夫!!まだ高1だから希望はある!!まだ伸びるし育つはず!!たとえ写真を見る限り小4の頃のお母さんにいろいろ負けていようとも!!!!

「なんか娘が無駄な決意を固めてるね~ドバっちくん~」

「世の中って無情ですネ、レモンさン………ってドバっちくんですカ」

「ダメ~?」

「いヤ、なんとでも呼んで下さイ」

「ありがと~ドバっちくん~ お礼に少しだけなら私の胸を触らしてあ・げ・る~」

「とかなんとか言って触ろうとしたラ、人妻に手を出そうとするなんてダ・メ・よ~とかなんとか言って今後これをネタにからかう気ですネ」

「そっそんな訳ないよ~」

「じゃア、その胸をよせるふりをしながら隠し持っている携帯はなんですカ?」

「たっただの携帯電話だよ~」

「カメラ機能を起動させてますよネ」

「まさかバレるなんて~ でも、それでも触りにくるのが年頃の男の子のはず~」

「罠だと分かっていくのハ、ただのバカですヨ」

「もぉ~ドバっちくんのいけずぅ~」

「わ~~~!!わ~~~!!なんなの?なんで会ったばっかりなのにそんなに仲良いの?無駄な決意って言うな~とか、無情とかひどくない~とか、なんで思ったことが分かったんだ~とか言う隙すらなかったんだけど~」

 紅葉を放っておいて、ぽんぽんと会話をしていた2人を止めると、なんかお母さんとドバっちが顔を見合わせて、うーんと考えている。

「なんかレモンさんと話してるト、立町と話してる気分になったからかナ。だからつイ」

「私はたぶん紅葉からドバっちくんの事を聞いて、こんな子かな~って思っていた通りの子だったし、それになんかドバっちくんって三次(みつぎ)さんにちょっと似てるな~って思ったら、なんか初めて会った感じがしなくて~ あっ!ミツギさんは私の旦那様だよ~」

「紅葉とお母さんが似ているからってのは百歩譲っても良いとしても、ドバっち、お父さんに似てるかな~?」

「見た目じゃなくて雰囲気っていうか、私のあしらい方っていうか、つきあい方っていうか……ね~」

「なんかそう聞くとミツギさんト仲良くなれそうな気がすル……レモンさんの性格が立町とそっくりって言うカ、立町がレモンさんとそっくりみたいだかラ、いろいろ苦労してそうだシ」

「ちょっと釈然としないけど~ミツギさんと仲良くなってくれると嬉しいな~ 今度こそ本当に胸を触らしてあげようか~?」

「紅葉もなんか釈然としないな~ それにお母さん、胸胸言わないでよ~!!恥ずかしいな~!!」

「でも大きな胸は男の子のロマンなんだよ~」

「大きいの限定~!?」

「いヤ、オレはどっちかって言うと胸より鎖骨が…」

「へ?」

「え?」

 鎖骨ってあの鎖骨?鎖骨なら大きい方が良いとかないよね、綺麗にうきでてるとか?ん~?評価基準が分かんないな~

「アー、冗談のつもりで言ったかラ2人して真面目な顔しながら自分の鎖骨を見て首をひねらないでくレ」

「………もう~ドバっちくん、マニアックなんだから~」

「………はっ!もし紅葉の鎖骨がドバっちの好みにストライクなら、今後紅葉の身の危険が~」

「あレ?聞こえてないのカ?冗談だゾー聞いてルー?2人とモー!」

「でも大丈夫~趣味は人それぞれだもんね~」

「うわ~ドバっちに視姦される~穢される~」

「……おーイ」

「ん~?どうしたの~そんな目で見て~ あっ!まさか私の鎖骨が見たいの~仕方がないな~特別にちょっとだけだよ~」

「アキちゃんやレンちゃんにも注意しとかないと~ はっ!もしかして好みの鎖骨なら男でも~?もしそうならミナっちにも注意をしとかないと~」

「…………………………」

「「まったく~ドバっち(くん)はエッチなんだから~」」

「うン、よシ、分かっタ。2人ともデコ出しテ」

 ドバっちがきゃいきゃいとはしゃいでいたお母さんと紅葉に、じとっとした目つきのまま言い、デコピンの素振り?みたいなことをしている。
 うん、すっごい痛そうな音がしてるんだけど~っていうかデコピンの素振り?で〝ひゅん″って音がでるってどういうこと~?

「あ、あ~そうそう私、夕飯の買い物に行かなくちゃ~ いってくるね~」

 いつの間にか持っていた財布とエコバックと共に出かけるお母さん。あ~ずっずるい~

「もっ紅葉も用事が~…」

 逃げようとすると、ドバっちが紅葉の頭を掴む。わ~い、どうやら逃げられないみたいだ~

「今帰って来たばっかりだロ?」

「えっと、急用を思いだ…みぎゃ~~~~~~~~」

 言い訳を言いきる前に凄まじい痛みが紅葉の頭を襲った……って本当に痛いんだけど~だって音が、〝ベシ″でも〝バシ″でもなく〝ベコ″だったんだよ?へこんだ?紅葉のおでこへこんだ?

「ドバっち、どこでこんな威力のデコピンを~」

「うちの爺さんから教えてもらったんだヨ」

「土橋流ってこと~?」

「いヤ、親父方の爺さんだかラ、ハートネット流になるナ」

 ヤマトさんの旧姓ってハートネットだったんだね~

「アメリカにデコピンってあるの~?」

「さぁ?爺さんは結構な日本贔屓だシ」

 あ~、だからヤマトさんってアメリカ人なのに日本人みたいな名前なのかな~?そう言えば、クラスメイトにも真理愛って書いてマリアって読む人いたし、そんな感じなのかな~
「マァー、アメリカにデコピンが有っても無くてモ……すっごい痛いだロ?こレ」

「うん、言っとくけど現在進行形で痛いからねっ!!」

 だって、指が当たったおでこが痛いんじゃあなくて、頭痛みたいに頭が痛いからね!

「いヤ、実はやる方も痛いんだけどな指ガ……アー、痛い痛イ」

 諸刃の技なんだね~ハートネット流デコピンって~ だから滅多にしないらしいけど~





 片や頭を押さえながら、片や指をさすりながら紅葉の部屋に入ってゲームをして遊んでいると買い物から帰って来たお母さんが入って来た。

「ただいま~ ねぇ~ねぇ~ドバっちくんは~………………え~と、お邪魔だった?」

「ん~ん、別に~」

 お邪魔もなにも、なにか作業をしていたわけでも、宿題をしていたわけでもなくて、ドバっちとゲームしていただけだからな~

「あ~、もしかしていつもそんな風にして遊んでるの~?」

「そんな風にって………ああ~これは名付けて“ドバっち座イス”だよ~」

「慣れって怖いナ。これを普通やってるんだかラ」

 いつものようにドバっちの足の間に座って、ドバっち座イスの完成だよ~ 最初はドバっちも「やめロ」って言ってわざわざ新しい紅葉用のクッションを置いてくれたんだけど、紅葉が断固として譲らなかったら諦めてやってくれるようになったし、最近はなにも言わなくても普通にやってくれるようになった。人肌の温度に温まる座イスがあれば売れると思うよ~なんせこれって不思議と心地良いからね~

「お母さん、なにか聞こうとしていたけど、なに~?」

「あっ!そうそう、びっくりして忘れるところだった~……ドバっちくん、ハンバーグ好き~?」

「ヘ?アー、好きですけド……?」

「よかった~晩御飯楽しみにしていてね~」

「エ?アッ!帰りますから大丈夫でス。お構いなク」

「え~いいじゃない~一緒に食べよ~ 男の子なんだから帰り、ちょっとくらい暗くなっても大丈夫でしょ~」

 お母さん、駄々っ子みたいだよ~それじゃあ~

「いヤ、暗くなるのは良いんですけド…」

「あっ!親御さんの説得なら任せて~ と言う訳で、携帯貸してね~」

「エッ!?アッ!ちょッ…」

 座って、しかも紅葉が足の間にいるから、たいした抵抗も出来ずに簡単に携帯を奪われるドバっち。

『プルルル、プルルル……もしもし?どうしたの?ケン』

「あっ!初めまして~立町 紅葉の母の檸檬です」

『えっ?……ああ!初めまして、ケンの母の土橋 魅茅です』

「いつもいつも娘がお世話になっているみたいで、ご挨拶が遅れてすいません」

『いえいえ、こちらこそ息子が仲良くさせてもらって』

 なんか最初は少し堅苦しい感じで話していたけど、気付けば和気あいあいと話しをしているんだけど~

「と言う訳で~ミチさんの了承は得たよ~」

「アー、はイ………ごちそうになりまス」

 ドバっちがなにか諦めた感じで返事をする。「出来たら呼ぶね~」って言ってお母さんが出ていった。

「いや~強引な人でごめんね~」

「思い立ったが吉日って感じの行動は立町とそっくりだな」





 あれから1時間くらいして「ご飯だよ~」って声が聞こえたからドバっちとリビングに行く。

「あれ?お兄ちゃんは~?」

「遅くなるから晩御飯いらないって~」

「兄いるのカ?」

「いるよ~楓(かえで)って名前で、3つ年上だよ~」

「3つ年上ってことは大学生か?」

「そう、美津ノ矢国際大学の1回生~ それに…」

 それにと言ったところでお父さんがお風呂場の方からやって来た。もう風呂上がりってことは早く帰って来たんだね~

「お父さんおかえり~今日は早かったんだね~」

「ふふふ~私が早く帰ってきて~ってメールしておいたから~ 妻のお願いを聞いてくれるなんて愛されるな~」

「いや、単に早く仕事が終わったからだ。……で?えーと、ああ、君が土橋くんかな?」

「えっト、はイ、お邪魔してまス。土橋 県でス」

「紅葉の父のミツギだ。本当に……本当に娘が迷惑をかけて……」

「いエ、オレは友達だからまダ……結婚しているミツギさんに比べたら……」

 なんか2人でため息をついてなにかを分かち合ってるんだけど~……いや、仲良くなるのは良いんだけど、なんかやっぱり釈然としないな~
 ………それに、なんか、その~ 昼とか学校で一緒に食べているのに、自分の家でしかも家族がいるなかにドバっちが混じって晩御飯を食べてるのを見ると、こう~なんか………くすぐったいっていうか………ムズムズするっていうか………変な気分だなぁ~ アキちゃん達が来たときはこんなこと思わなかったのにな~
 まぁ~でも、お母さんどころかお父さんとも仲良くなってよかった~…………いやいや、別に友達なんだから親と仲良くなったからって関係ないけど……










――――6月□☆日――――

 放課後~ドバっちとぶらぶらと歩きながらどこに行こうかね~?って話しになって、「マックとか行くカ?」に「う~ん、今日はまっすぐ紅葉の家に行こ~」ってことで、今は紅葉の家っていうか紅葉の部屋だ~

「アー、疲れター」

 ベットに座って「ンー」と腕を伸ばしているドバっちに「とりゃ~」とタックルのようにお腹に抱きつく。

「のワー!」

「今は母さんもいないから、しばらくは2人っきりだ~」

 ぐりぐり~っと押し倒したままドバっちの胸に顔をこすりつける。レンちゃんみたいに柔らかくて気持ち良い訳ではないけど、なんかこう、ほっとするよ~

「立町っテ普段は普通にしてるのに2人になると妙に甘えてくるよナ」

 ドバっちが少し呆れながらも、紅葉の頭を撫でてくれる。う~ん、ドバっちに撫でられるとなんか……ふにゃふにゃになっちゃうな~

「さすがに外でしかも人前でもこうだとバカップルだよ~……って、ドバっちは嫌なのかな~?彼女に抱きつかれるの~?」

「嫌じゃないけド、タックルは痛イ」

「それが紅葉のドバっちに対する愛の重さだよ~」

「重さって言うより衝撃なんだけド」

「衝撃的な愛~?」

「あのナー」

 他愛もない会話をしつつも、今度はドバっちの首に抱きつく。

「ぎゅ~~」

「はいはイ」

 苦笑しながらも要望に応えて、紅葉をぎゅっと抱きしめてくれる。気持ちいい、心地好い、安心する、幸せだぁ~
 ドバっちの首にすりすりと顔をこすりつける。たしかネコとかってこうやって自分の匂いをつけてマーキングするらしいね~ よ~し、しっかり紅葉の匂いをつけとかないと~

「ちょッ、首がくすぐったいッテ」

「ぺろ」

 今度は舐めてみる。ちょっとしょっぱいな~

「うワッ!ちょっと待テ」

 首を舐められてびっくりしたドバっちが紅葉を離そうとするのに対抗して紅葉はさらにぎゅっと抱きつく。………ふっふっふ~離さないぞ~

「かぷ」

「ッツ」

 次は首に噛みつく。甘噛みだからそんなに痛くないだろうけど、うっすらと紅葉の歯形がドバっちの首に残る。なんかドバっちに紅葉の跡をつけてるみたいだなぁ~なんかこう“自分のモノ”って感じで~

「えへへ~」

 首から離れてドバっちの顔が見ながら、嬉しくて思わず笑ってしまう。ドバっちは少し赤い顔で噛まれた部分をさすっている。

「おまえナー………ハァ、まったク」

「ねぇねぇ~ドバっち~」

「ンー?」

 今度は少しずつ顔をドバっちの顔に近づける。

「紅葉ねぇ~」

 ゆっくりとでも確実にドバっちの顔が近くなる。

「ドバっちのことねぇ~」

 ドバっちも紅葉がなにをするのか気付いて、顔を真っ赤にしつつも近づけてくる。
 そして、唇と唇が重なる前に……

「だ~い好…」





 …………

 ………

 ……





「うわぁぁぁ~~~!!!!」

 がばぁと起きる。薄暗い室内、ベット、それに布団………つまり…

「夢か~~~……てか夢落ちかぁ~~~~!!!!」

「ふぁえ?……え?夢?…夢落ち?…なに?」

 アキちゃんがびっくりして起きる。寝起きで、しかもいきなり起こされたから少しぼんやりとしている。
 ああ~そう言えばアキちゃんの家に泊まったんだよね~ミナっちとドバっちと共に……うう~びっくりしたせいで大声だしちゃったよ~

「……えーと、6時半頃か………休日に起きるには早くないか?紅葉」

 アキちゃんが目を擦りながら時計を見てあきれている。

「ごめんアキちゃん~」

「で?なに?夢とか言ってたみたいだけど、悪夢でも見た?」

「えっと、その~ あの~ う~」

 どう説明したらいいか分かんないって言うか、あんな夢の内容を言う訳にはいかないしで、おろおろしてしまう。

「……………まぁ、いっか。……さて、まだ早いけどケンがミナトに捕まってるかもしれないから助けに、もとい起こしに行くか」

「そっ、そうだね~」

 言い辛そうな紅葉を見て気をつかってくれたのか、さてと、と言って背と腕を伸ばした後、立ち上がるアキちゃん。あんな夢を見たばかりのせいか、ドバっちの名前にちょっとドキッとした。
 アキちゃんはさっさと部屋を出て、2人が寝ている部屋に向かう。アキちゃんに追いついて、一緒に部屋に入ると…

「うわ~」

「やっぱりか」

 おそらく寝転がってミナっちのデンジャーゾーンに入ってしまったんだろうドバっちに抱きついて寝ているミナっち、そしてそれに気付いて抜け出そうともがいて力尽きたドバっち
 ………寝てる時の抱きつきイベントって同性でやられてもなんとも言えないな~同性だからこそ良いって言う人もいるみたいだけど、それって美人美形同士がするから絵になるんだろ~な~………とりあえず突いてドバっちの生存確認でもしてみようかな~

「ドバっち~ 生きてる~?」





 まだ眠そうなミナっちをアキちゃんに任せて、ドバっちと一緒に洗面所に向かう。うん、ドバっちと2人でも動揺しない、よかった~ まぁ~所詮は夢だからね~

「なんか昨日から不幸な目にあってばっかりな気がするんだガ」

「そうだっけ~?」

「寝てるとミナトに抱きつかれた上に離れようとするトめちゃくちゃ絞めつけてくるシ、立町には風呂覗かれるシ…」

「あれは不可抗力だよ~」

「そして、まだ立町に噛まれた噛み痕が残ってるシ………ってカ、3分の2がおまえの所為なんだけド、立町」

 ドバっちが腕にまだうっすらと残る噛み痕をさすりながら、じとっとした目で紅葉を見ている。でも紅葉は噛み痕と聞いて、ついドバっちの首を見てしまう。……そこに……夢と同じ位置に……噛み痕が…

―――――――――――“自分のモノ”って感じで

 あ…

―――――――――――だ~い好…

 ああ…

「~~~~っ」

「オッ、おイ!大丈夫カ?顔真っ赤だゾ?風邪でもひいたカ?体調悪いのカ?」

 ドバっちが紅葉の額に手を当てて心配そうに顔を覗きこんでくる……って…

「ひやぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!」

 つい、ドバっちから離れるためにものすごい勢いで後ずさってドンっと壁に当たって止まる。背中痛いよ~

「エ?………ア………悪イ……」

 ドバっちが自分の手と紅葉を交互に見て謝る。あ!あ~~違う!違う違う~!!触られたのが嫌だったからとかじゃないよ~そんなの嫌がるなんて今さらだし、それくらい分かってくれても………いや、でも、少し触った途端に悲鳴をあげて離れられたりすると紅葉も傷つくし、訳分かんなくなる……うう~どうしよう、どうしよう~ そうだ!とにかく…

「ごっごめん、違うんだよ!ドバっち!! 全部夢が、夢がぁ~~ って言うか久しぶりに覚えていた夢がアレって、忘れてもよくない?なんか変な夢を見た気がするな~ぐらいで良くない?そもそもなんの影響であんなことを~ドラマ?漫画?あっ、意外と少女漫画が好きなアキちゃんの部屋で寝たからか~?でもキャストがアレって意外性を出したかったのかもしれないけど、まったく紅葉の想像力はダメダメだな~ あと、紅葉はあんなに甘えん坊じゃないはずだし、自分の跡を残して喜ぶなんてミナリさんじゃないんだから~! それに考えてもみたら夢なんかで現実の関係が気まずくなるのは本末転倒だよね!うん!あんなのはさっさと忘れるに限るね~ はっはっはっはっはっはぁ~~ぁ……」

 とにかく、触られるのが嫌じゃないんだよって伝えるために、ドバっちの手を握って弁明をする。

「アー、なんダ、そノ、寝起きの所為かナ?立町がなにを言いたいのかよく分からン」

「大丈夫、紅葉もなんか分からなくなってきたから」

「「………………」」

 お互い顔を見合わせてため息をついて顔を洗うために洗面所に向かう。
 …………ところで……え~と、つい勢いで手を握ったけど、離すタイミングっていつ?










――あとがき――
 1ヵ月近く更新なしって…………

 今回は紅葉視点の5つ短い話しをくっつけたら、いつもよりえらく長くなってしまいました。
 それになんか紅葉とケンの悩みを出したけど、普通だな~それに深刻でもなんでもないな~(まぁ深刻な話しとか書く技術がないから表現できないけど) でも、こんなもんですよね?普通の高校生だから。
 髪と眼の色を気にするケン、小さいって言うか幼い容姿を気にする紅葉。あと、癖っ毛を気にするアキ、無表情を気にするミナト、胸の大きさ(大きくなるのが嫌)を気にするレン、みんな普通の、他人から見たらどうでもいい事で悩んでます。高校生だもん。思春期だもん……あれ?ミナトは普通じゃなくない?まぁいっか。
 あと、夢落ちはないですね。


 読んでくれた方に最大限の感謝を。
 次の更新は早めにしたいな~



[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 10
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:5c4ff6db
Date: 2011/02/02 09:32
 休日、私の家の台所でレンとお茶の準備をしている。私の部屋にはミナトに紅葉、ケンがいるが今日は遊ぶためにみんな集まったわけではない。7月になると学生には必ずやってくる行事がある。期末テストだ。来週からの期末テストに向けて勉強会をするぞってことで集まってる。
 お茶とかをお盆に載せてレンと部屋に戻ってみると、ミナトがせっせと苦手な数学の問題を解いている。やり始めると割と真面目にやるヤツだからな。
 まぁミナトはいい、でも…………あとの2人は…

「寝てるな」

「寝てますね、仲良く」

 レンは微笑ましそうに見ているけど、ちょっと目を離した隙になに紅葉とケンは寝てるんだ?そろそろ休憩のつもりでお茶を持って来たけど、まだ休憩じゃあない。って言うかケンは苦しくないのか?紅葉が寝転がっているケンの腹を枕がわりにして、2人でTの字みたいな感じになってるんだけど……まぁとにかくヤることは変わらない。
 2人の古文の教科書2冊をそれぞれ両手に持って、振り上げてそれぞれの額に振り下ろす。〝スパァァァン″と自分で言うのもなんだけど、なかなか良い音がしたな。会心の一撃だ。
 ケンは「痛イ」と言って少し赤くなった額を押さえながら起きたけど、腹の上に紅葉の頭があるのに気付いて体勢はそのままだ。その紅葉は起きることもなく「う~ん」と唸ってから、もぞもぞと動いてケンの腹にぐりぐりと頭を押し付けている。しぶといな。

「おイ、立町、それ苦しイ。地味に苦しイ」

 さすがにぐりぐりと腹を圧迫されると苦しくなったケンがぺしぺしと紅葉の頭を軽く叩く。紅葉は「ふあぇ?」と間の抜けた声を出して目を覚ました後、自分が今現在も枕がわりにしているケンの腹をぺしぺしと叩いて、

「かたい」

 文句を言いやがった。

「人の腹を勝手に枕がわりにしながラその言い草カ」

「ふぎぃぃ~~」

 ケンが紅葉の頬を掴んで左右に引っ張る。紅葉も対抗してケンの頬を引っ張ってやろうと手を伸ばすけど届かず、かわりにケンの腹をべしべしと叩く。

「あーもーとにかく2人ともじゃれあうな」

 2人の頭にもう一度教科書を振り下ろす。今度はガッとかゴッという音がなる。角だからな。

「かっ角はやめロ。マジでいテー」

「頭が、頭が割れる~」

 涙目になって頭をおさえ、怨めしく私を見る2人。やれやれと思っていると、くいくいとさっきまでもくもくと勉強していたミナトが私の服の裾を引いてくる。なにやら私に言いたいことがあるみたいで、ずいと近づく。

「どうした?ミナト」

「…ダメ」

「なにが?」

「…本で叩いたらダメ…本が痛むからこれで」

 どうやら本が痛むことが気に入らなかったみたいだ。紅葉とケンは、あれ?こっちの心配は?とか言っている。するとミナトが教科書の代わりにずしっと重い、私の部屋に置いてある木でできた小さな熊の置物を渡してきた。鮭をくわえたあのもっともポピュラーだろう置物だ。昔、父さんが出張の時に私とミナトにと2つ買ってきたお土産なんだけど、なぜかミナトが私の部屋に狛犬よろしく2つともそろって飾って満足そうにしていたからそのままになっていたやつだ。

「ちょっと待テ、それは洒落にならン」

「鈍器、それ鈍器だから!助けて~レンちゃ~ん」

 鈍器を装備した私からまるで殺人鬼から逃げるかのように離れて2人がレンに助けを求める。
失礼な!さすがにこれじゃあしないよ!

「えっと………ダメですよ、せっかくの勉強会だから2人とも真面目にしないと。アキさんもあまり叩いてはいけませんよ。横川くんも危ないモノを渡して煽ってはいけません」

「はい、先生」

「はイ、先生」

「は~い、先生」

「…はい、先生」

「先生ではないですけど」

 少し困った風に笑っているレン。なんか雰囲気が先生ぽかったからつい……っていうか実際紅葉とケンに教えているから今日は先生みたいなもんだ。

「ところでさ~アキちゃん、なんで急に勉強会なの~?今までテストとかのために勉強会なんてしたことなかったのに~」

 紅葉がぶ~ぶ~と不満そうに言う。いまさらだろ、それ。そもそも、「勉強会するぞ。特に紅葉とケンは強制参加だ」って言って集合させたんだから文句ならその時言って欲しかったもんだよ。とにかく、呆れたように紅葉を見て、

「それは紅葉にケン、おまえら2人の中間テストの成績のほとんどが赤点だったりぎりぎりだったりしたからだ!義務教育の中学とは違って下手すると留年するぞ」

「一応うちの高校は進学校ですしね」

 レンがお茶を淹れながら補足をしてくれる。妙にイベントが多かったり変だったりするけど、美津ノ矢学園ってそこそこの進学校だ。そこそこなのは国立大目指すぐらいのすっごい進学校は近くにあるからだ。本気でそういうところを狙う人はそっちに行くからな。
 まぁ取り敢えず美津ノ矢学園入学にあたって、レンは余裕だった。例のすっごい進学校も頑張ったら入れるだろうと先生に言われてたぐらいだ。私とミナトは油断せずちゃんと受験勉強してれば大丈夫。まぁ自分の実力よりちょい上って感じだった。そして、紅葉はかなり厳しかった。紅葉はこれまた近くにある公立の高校にしたらどうだって言われてたんだけど、めちゃくちゃ勉強して入った。
 そう、今までにないぐらい頑張って私達と一緒の学校に入ったんだから、一緒に進級してほしいしな。
 はぁ、とため息まじりに言うと紅葉も、む~と唸りながらもしぶしぶ納得たようだ。

「えっと、取り敢えず今は休憩にして、お茶が冷めないうちに飲みましょう」

 レンが淹れてくれたお茶を渡してくれる。うーん、自分で淹れるよりもおいしいな。準備を近くで見てたけどなにか特別なことをしていたわけじゃあないのに。
それから我が家にあったサクランボをお茶受けがわりに休憩をする。なんだかんだで2時間ぐらいはやってたからな。甘いものがおいしい。
 サクランボの蔕をなんとなく見て、サクランボをぱくぱくと食べているミナトに「ミナト、あーん」と言って素直に開けた口の中に入れると、もごもごと口に中で動かして、べぇーと舌を出すと結ばれた蔕が舌の上にのっている。相変わらず器用なことだ。紅葉がそれを見て「今度こそは紅葉も」と蔕を口に含んでもごもごと動かしているけど、たぶん無理だな。ミナトとあとレンは出来るけど、いくらやっても私と紅葉は出来ないんだよな。

「ケンはサクランボの蔕を結べるか?」

「ン?出来るゾそれくらイ」

 オ!うまイ、とか言いながら食べていたケンになんとなく聞いてみると、なんでもないかのように返事をしてきた。

「よ~し、ならやってみろ~」

 蔕結びを諦めた紅葉が悔しそうに蔕をケンにつきつける。ケンは紅葉がつき付けてきた蔕じゃなくて長いやつを探してパクっと口に入れてもごもごと動かす。

「れきタ」

 大して時間もかからずにべぇーと舌を出しながら出来たと言うケン。舌にのっている蔕を見ると…

「蝶々結び!?」

「うわぁ~…………ドバっち、エロス~」

「なんデ!!」

 皿に置かれた蝶々結びの蔕を見る。普通に片結びは出来る2人もこれはちょっと難しいそうだ。それを聞いてますます紅葉が「ドバっちのエロス~」と騒いでいる。ケンが取り敢えず紅葉の頬を左右に引っ張ってエロス~を止めていると、ふと思いついたのか紅葉を解放して呟く。

「そう言えバ、もう少しで夏休みだナ」

「ああ、期末テストと1年生合宿が終わったら夏休みだな」

「…どうしたの?」

「いヤ、せっかくだし短期でもいいからバイトでもしようかなって思ってサ。ここにもだいぶ慣れたシ」

 ああ、そう言えばケンは今年こっちに引っ越してきたんだったな。なんかすっかり馴染んでいるから忘れてたよ。

「私らの中でバイトって言ったら紅葉だけど」

 私の一言でみんなが自分の頬をさすっている紅葉を見る。なんせ私達の中で長期のバイトをしてるのって紅葉だけだしな。私とミナトも短期のバイトならちょっとだけしたことがあるけど、あんまりくわしくないしな。

「そう言えばそうカ…………でも最近よく放課後とか一緒に遊んでいるけド、ちゃんとバイトしてるのカ?立町」

「う~ん最近あんまり入ってないな~ まぁ~もともと来れるときにってことだったし~」

「そんな不規則で自由なときにでもいいからって条件でいれないといけないほど人手不足なのカ?あそコ」


「あそこのマスタ~とお母さんって言うかお父さんが中学からの友達みたいで、それで人手不足だからって紅葉がバイトに入ってるんだよ~だからある程度自由なんだ~なんかバイトっていうよりもお手伝いみたいだけどね~ まぁ~そもそもあそこってバイト代も制服もアレだし、近くのスタバやマック、あと最近近くにミスドができたからなおさら客も人手もとられちゃってね~少ないんだよ~」

「あア、そういう繋がりなんだナ」

「うん。ま~ね~……あっ!そ~だ~ ドバっちあそこでバイトしない?しよう~ そ~しよう~」

「いやダ」

 紅葉がはいは~いと手を上げて元気よくケンを誘うけど、ケンはすっごく嫌そうな顔をして拒否。断るのはやいな。

「え~前に手伝ってくれたじゃん」

「そんなことあったカ?ミナト」

「…記憶にない」

 ケンの問いにしっかりと答えるミナト。この2人なかったことにするきか?女装させられたことを。

「え~ドバっちあんなにのりのりだったのに~」

「立町、あの時のオレの状態をなんていうか知ってるカ?やけくそって言うんだゾ」

「い~じゃん い~じゃんやろ~よ~」

 紅葉がぶぅ~ぶぅ~と文句を言ってなおもケンを誘っている。私達も昔誘われたことあったけどこんなに粘ってはなかったよな。なんとなく気になって聞いてみると、

「なぜって、前々からマスタ~にドバっちゲットしてこいって言われてたんだよ~」

「ハァ?なんデ?」

「あの手伝ってくれた時に…」

「…記憶にない」

 ミナトが耳を塞いであの時のことを話そうとする紅葉の言葉を拒否する。どんだけトラウマになってんだよ女装が。……………まぁ、トラウマの半分以上が母さんとミナリさん、そして私の所為か。
 そんなミナトを見て紅葉が「ミナっちトラウマか~」と笑ってたけど、でも今はミナトじゃなくてケンの勧誘が目的だからとまた話し始めた。

「んん。え~と、手伝ってくれた時にミナっちは羞恥で働けなかったし、レンちゃんは男性客が来た時にあわあわと慌てちゃうし、アキちゃんは……アキちゃんもバイトしない~?」

「しない」

「って感じで毎年断られてるし~ でもドバっちはやけくそでもなんでもいいけど、女装させられてもちゃんと働いてたし、お客との掛け合いもできてて、初めてなのにこれだけできたらバイトとして欲しいって事みたいだよ~」

「そんだけ買ってくれるのは嬉しいけド、コスプレっていうのがナー」

「どこの店の制服もコスプレみたいなものだよ~」

 紅葉がふっふ~んと胸を張って良いこと言ったよ~とばかりに言っているけど、職業上の服装をコスプレって言うな。そもそもアニメや漫画、ゲームの服装と一緒にするなよ。















 結局取り敢えずは夏休みの間の短期からってことでケンが引き受けて話しが終って、また勉強を始めて、途中に昼食をはさんで結構たった。私とミナトは苦手なところをやってるだけだけど、紅葉とケンはほとんどの教科がアレだからレンがそれぞれの分からない所と必ず覚えていた方が良い所を指摘して教えていく。やっぱり先生ぽいよな。
 隣のミナトを見ると、いつの間にかうつらうつらと舟を漕いでいる。やれやれ。
 レン達の方に声をかける。

「おーい、ちょっと休憩しないか?」

 言うとオッケーやら休憩だ~とか賛成意見が出てきた。レンは「お茶淹れてきますね」と言って立ち上がった。私もそれを手伝うために立つ。っとその前に。

「ミナト、眠いならちょっと寝ろ。今のままだと頭に入らないだろ」

「…ん」

 こくりと頷いた後、よろよろと歩いて私のベッドにボスンと倒れる。
 お茶を入れて部屋に戻ると、部屋を出る前にすでに夢の住人になりかけていたミナトはすでに移住をはたしたらしくすーすーと寝入っている。つまり今近づくと危ないってことだ。ものすごい力で抱きつかれるからな。
 とにかく、ミナト以外のみんなでお茶を飲んで一息つく。

「そっちはどうだ?レン、はかどってるか?」

「はい。2人とも真面目にやっていますよ」

「うう~疲れたよ~」

「えっト、次は英語の予定だからオレは楽できるナ」

「ドバっちって、家とか部屋とか好きなものとか全然見た目と違って和なのに、なんで英語の実力だけ見た目通りなんだよ~ ずるい!!」

 確かにケンは英語ができる。勉強がって言うよりも実践でも出来ている。なんせ前にみんなで遊びに行った時、外国人観光客に道を教えて談笑さえしてたからな。レンが「たぶんこんなことを話してます」と言って説明してくれなかったら訳が分からなかった。その時も紅葉がケンに「なんかずるい」って言ってたな。
 まぁ本人いわく、5、6歳の時にアメリカの方に行っていてその時に英語を親から習って、でも日本に帰るから日本語も習って、帰って来てからも将来役に立つからとずっと習っていたらしい。10年近くやってたら、そりゃペラペラしゃべれるよ。
 ずるいずるい言っていた紅葉がなんかヤケクソ気味にずず~とお茶を飲み干してレンからおかわりをもらっている時になにか思いついたのか、ねぇねぇとレンからお茶を受け取りながら話しかけてる。

「レンちゃんレンちゃん、ごめんね~ 紅葉たちにつき合わせて~」

「全然。私も復習になりますし、教えるのも楽しいから」

「でも、やっぱり彼氏と2人で勉強した方が嬉しいでしょ~」

「ふぇえ、いっいえ、その、えっと、あの、うぅうー」

 紅葉がニヤリニヤリと笑いながらレンとつつく。レンはすっかり顔を真っ赤にしてまともな返しが出来ていない。しかしレン、今年で付き合って3年くらいたつのにこういったからかいに弱いな。

「エッ?宇品って彼氏がいたのカ?」

「あれ?聞いてないのか?」

「いヤ、聞いてないんだけド。それニ、なんか宇品って男が少し苦手そうだかラ、てっきリ」

 うん、まぁケンの言う通りではあるけどな。レンはもともと人見知り気味だったから。特に男子には。しかし、言ってなかったか。とっくに知ってるもんだと思ってたけど。なんせ紅葉の家によく遊びに行ってるなら1度は会っているはずだからな、その彼氏に。

「あーケン、レンの彼氏って紅葉の兄だ」

「あア、楓さんカ」

 やっぱり会ったことがあったか。紅葉の兄で、1人っ子の私とミナトにとって兄のような人だ。私もミナトも楓兄って呼んでるし、楓兄もたぶん妹や弟のように思ってくれてると思う。
 まだ紅葉にいじられてるレンをそろそろ助けようかと思ってると、なにやらケンがうーンと考えてる。

「どうかしたか?ケン」

「ンーいヤ、楓さんって言ったらちょっと気になっていたことがあっテ……楓さんっていい人っぽいんだけド」

 確かに楓兄はいい人だよ。私もミナトも兄として好きだしな。でも、なんかケンの言い淀んでいるのが気になる。

「どうした?」

「いヤ、楓さんに立町の家で会ったときニ、たまになんだけドなんか睨まれてル?ような気がするんだヨ」

 ん?あの楓兄がか?あんまり誰かを睨んだりってイメージが湧かないけど、ケンの気の所為なんじゃないのか?ケンもどうやら実際に接していてどんな人かある程度把握しているから疑問形だったみたいだし。
 うーんと考えていると、レンをいじっていた紅葉がいつの間にかずいっと私とケンの間に割り込んできた。

「はいは~い、たぶんドバっちがレンちゃんをイヤラシイ目で見ているのがばれたんだよ~」

「いやいヤばれたっテ、まるでそんな目で見ていたのは当たり前って感じに言うナ。見てないかラ」

 「あっ!じゃ~お母さんのことを」「いヤ、それは1番なイ」とかなんとかいつもの感じになっている。紅葉のやつ、レンをいじりながらこっちの話しも聞いてたのか。前にも言ってたけど本当に地獄耳だな。
 まだ少し顔が赤いレンがどうしたんですか?と聞いてきたから、簡単に説明すると「んんー」と考えてからなにか納得した感じで頷いている。なんだ?

「えっと、大丈夫ですよ土橋くん。楓は土橋くんのことを嫌っているわけではないです」

「ンー嫌われてないならいいけド」

「まぁ~お兄ちゃんがなにもしてない人を嫌いになるなんて想像できないしね~」

 紅葉がよかったね~ってケンの背中をバシバシと叩いてるけど、今のレンの言い方って嫌っているわけじゃあないけど、睨んでるのは否定してないんだけど。いや、嫌いじゃないってことは睨む意味がないってことで否定してるのか?っていうかケンって楓兄から見たらどうなんだろ。えっと、妹が高校に入って出来た男友達で、家に呼ぶくらい仲が良くって、部屋にいるときは妹が妙にくっついてる…………初めのやつは友達って結構いるから違うか。かなり仲が良い男友達ってミナトもそうだから2つめも違う。3つめは……これか?ってことはもしかして楓兄ってケンに嫉妬っていうか、妹に悪いムシがついたとか思ってるってことか?…………いや、ないなこれは。兄弟仲はいいみたいだけど、べつにシスコンって感じじゃあないしな楓兄。





 なんかいろいろ話している間に結構時間がたってたから、また再開する。取り敢えず、すーすー寝ているミナトを起こさないとな。

「ミナトーそろそろ起きろー」

 ミナトの射程範囲に気を付けながらべしっと頭を叩く。これが安全なミナトの起こし方だ。するとまだ眠いのかミナトがふらふらと身体を起こす。

「顔でも洗って…うわ!」

 ベッドの上で少し身体を起こした状態でミナトが私に抱きついてきた。私は立っていたからちょうど腹の所に抱きついている。もう起きたかと思って油断してた。

「…ん」

 ミナトがその状態でまた眠りにつこうとしてるのか、少しでも寝やすい体勢を見つけるために、顔を私の腹にこすりつけるようにもぞもぞと動く。そのせいでなんかくすぐったい。しかし、こんなことを普通に女子にしたら引っ叩かれても文句は言えないぞ。
 取り敢えず、この状態なら少し乱暴に揺すったら起きるだろう。と思って実行しようとするとミナトが、

「…やわらか…」

 〝ゴスッ″
 目の前にはベッドに倒れているミナト。思わず拳どころか肘を頭に落としてしまった。
 でも、ミナトが悪いからな。人の腹に抱きついといて柔らかいなんて言おうとするから。っていうか私だって一応女だから、ダイエットとかしようとまでは思わないけど太らないように気を付けているんだからな。
 ………さて、次は後ろでこの一連の成り行きを見て大爆笑している小さいヤツと金髪のヤツをヤるか。
 くるりと振り返ると2人ともやばいと感じたのかなにか説得をし始めた。

「江波、柔らかいってたぶんおまえが思っている意味じゃないと思うゾ」

「そ~そ~ 男よりも女の子のほうが柔らかいからね~ ドバっちはかたくて仕方がない」

「反省が足らなかったようだナ立町」

「痛い痛い~今は頭はやめて~せっかく覚えたこと忘れる~………いたたた、まぁとにかくアキちゃんはスリムだからだいじょ~ぶだよ~」

 うわーそれを紅葉が言うと自覚はないのかもしれないけど嫌味に聞こえるな。こいつは見た目から幼児体型だと思われてるけど、いや、実際背は小さいし顔は童顔だし胸もないけど、ウエストだけは嫌味なほど括れてるんだよな。夏にみんなでプールやら海やらで水着になった時に、胸はレンに、ウエストは紅葉に、2人に勝ってるのは身長ぐらいと女としていろいろ負けてんじゃねーかって思ってしまったことが何度あったか。
 ……………なんか今度は違う意味でむかついてきたな。

「…いたい」

 みんなも私もどうこの話しの収集をつけたらいいのか分からなくなってきた時にどうやら元凶のミナトがようやく復活した。なんで頭に激痛を感じているのか不思議がっているミナトを顔を洗いに行かせ、みんなに勉強を再開させてこの話しを無理やり終わらせた。
 ……………ったく。















「じゃア、2人送って帰るナ」

 午後6時、7月だしこの時間だとまだ外は明るいけど、ケンが紅葉とレンを家に送って帰ることになった。

「じゃ~紅葉はドバっちが送り狼にならないように見張りながら帰るね~」

「よシ、なら宇品送ったらオレはそのまま帰ル」

「なぁ!こんなか弱くて可憐な美少女を1人で帰らせるきか~」

「だからちゃんと宇品は送って帰るって言ってるだロ」

「確かにそのカテゴリーだとレンちゃんも当てはまるけど、なんで紅葉が入ってないんだ~!!レンちゃ~ん、ドバっちがひどいよ~ってうわぁ~」

 なんかいつもの如くレンに抱きつこうとした紅葉が寸前のところでケンに持ち上げられて止められる。って玄関先でなにやってんだこいつらは。帰るんじゃあないのか?

「むしろオレが立町が宇品を襲わないように見張る立場な気がするんだけド……っていうカ、相変わらず軽いなおまエ」

「襲うんじゃあないも~ん。スキンシップだも~ん。って、女の子に体重の話しをするとはデリカシ~がないぞ~」

「いやいヤ、よくオレの食べてるモノを強奪してるんだかラ、せめてなにかしらの栄養にしてくれないと奪われ損なんだけド」

「しつれ~な!!これでもちゃんと身長だって伸びて(るといいな)、胸だって(きっと)育ってる(はず)!!」

 ケンが「はいはイ、そーですネ」とまったく信じてない感じで言いながら紅葉を下す。なんか微妙になにか聞こえたけど聞こえなかったことにしよう。

「っていうか、あんたら帰らないなら晩飯食べてくか?」

 なんかもうまったく帰る雰囲気がない。つい十数分前までこの2人、「うわ~テストまでに覚えないといけないことが多すぎる~」やら「今日はもうダメダ。頭がパンクすル」とか言って弱ってたくせに。










 結局3人とも晩飯は食べずにあのあと紅葉とケンが騒いで、レンが微笑ましそうに見守るといった感じで帰った。
 ミナトは今日、両親のセトさんとミナリさんがデートってことで我が家で晩飯を食べてくことになっている。しかしあの夫婦は本当に仲が良いな。明日は日曜日だから今日は帰ってこないだろう。………小さい時はなんで帰って来ないんだろうって疑問に思ってたけど、なんとなく察するようになった時に、自分が昔よりちょびっとだけ大人になってしまったなと思ったものだ。
 3人を見送ってから部屋に戻る時にミナトを先に戻らせて私は台所に寄って、母さんにあとどれくらいで晩飯か聞いて、目についたポッキーを持って部屋に戻る。
部屋で一足先に戻っていたミナトがぐったりと机に突っ伏している。結構集中してやってたから疲れたか、腹がへって元気がないか。…………どっちもか。
 ミナトに持ってきたポッキーの箱を見せるとむくりと顔を起こす。現金なやつだな。ポッキーを1本「ほれ」とミナトの口元に出すとパクッくわえてポリポリポスポスと食べる。なんか動物に餌付けしている気分になるな。
 ミナトが食べ終わったらまた1本を口元に出す、くわえる、食べるといった感じでテンポよくミナトにポッキーを食べさせていっていると、なんか……ちょっとイタズラしてみたくなる。
 ポッキーを出す、ミナトがくわえる、食べる。
 ポッキーを出す、ミナトがくわえる、食べる。
 ポッキーを出す、ミナトがくわえる、食べる。
 右手の人差指を出す、ミナトがくわえる。

「…」

「…………」

 テンポよく食べていたミナトがつい条件反射のように口元に出された私の指をくわえて、びっくりしたように私を見る。私もまさか本当に指をくわえられると思わなかったからちょっと困惑気味にミナトを見返す。

「…」

 するとなにを思ったのかミナトが私の指をガジガジと噛んできた。まぁ噛むっていっても甘噛みみたいな感じで痛くないけど……
 …………………………………っ

「あー、私が悪かったから私の指は食べるな」

 指をミナトの口から抜いて、ポッキーをまた口元に出す。ポリポリポスポスとまた食べ始めてさっきのサイクルを繰り返していると、

「2人ともご飯よー」

 母さんが呼んでいる。呼ばれるのと同時にポッキーが無くなったので最後の1本を食べさせた。食べ終わったミナトが立ち上がって台所へ向かう。私も立ち上がって空箱をゴミ箱に捨てて、ふと自分の人差指を見る。

「…………」

 もう感じるはずがないのに、ミナトの歯とちょっとだけ当たった舌のぬるっとした感触が今でもする気がする。べつに不快感とかじゃなくて………むしろ、その、気持ちよ…

「…アキ?」

「うわっ!!」

 急に呼ばれてびっくりして声の方を見ると、ミナトが不思議そうに見ている。たぶん私が後ろにいなかったからなにごとかと戻って来たんだろう。
 さっき考えそうになったバカな事を忘れるために右手をぎゅっと握りしめて、ミナトに近づく。

「あー、なんでもない。行くよ」

「…?」

 まだ不思議そうにしているミナトの背中を押して、台所へ向かった。本当になんでもないしな……本当に




[18251] 江波さんちの安芸ちゃん 11
Name: ブタと真珠◆eb2ae283 ID:0d6b4149
Date: 2011/02/14 09:30
 テストが終わって結果は来週渡されるってことだ。紅葉とケンは、テストが全部終わった時、魂でも出てるのかと思うくらいぐったりしてたけど、放課後になるとびっくりするぐらい元気になってた。帰りにみんなで遊んだ時に私やレンが疲れるぐらい。ミナトは結構平気そうだった。意外とタフなんだよな。
 しかし、ようやくテストが終わってなにもしなくていい休みだ。今日は別になにも予定はなかったんだけど、読んでいるマンガの発売日が今日だったのを思い出して、本屋にでも行くか。とか思って、本屋と言えばよろこんでついてくるヤツを誘って行くかと、隣の家に行くとちょうどミナトも出かけようとしていたらしく、それも本屋だってことで「私もついて行っていいか」って聞くと「…ん…たぶん…いい?」とかなんか妙にはっきりしない感じだったけど結局「…いこ」ってことで今ミナトと2人でのんびりと歩いている。
 で、なぜかよく行く本屋じゃあなく駅の方に向かっているのだけれど、なぜ駅?たしかに一駅先に行った所に大きな本屋があるけど、今日はそこなのか?
 うーんと考えて、ミナトに聞けば一発で分かるじゃないか。という当たり前の答えにたどり着いたときには駅が見えてきた。そこに…

「え?」

「…いた」

「あ!ミナト……と、江波さん?」

 白島先輩がいた。怪訝そうな表情をしているけど、たぶん今私も似たような表情をしているだろうな。そもそもなんだこの状況、もしかしてこの2人待ち合わせしてたのか?

「ちょっと来いミナト」

「…?」

 白島先輩にあいさつをしようとしていたミナトを引きずって白島先輩から少し離れたところに連れていく。

「なんで白島先輩がいるんだ?」

「…待ち合わせをしたから」

 ああ、やっぱりか。人と待ち合わせしてるなら普通私の誘いを断れよ。………でも、なぜか今は良かったと思ってしまっている。だって私がいないと2人っきりで、つまりそれって……

「えっと、あー、ミナト。おまえ休日に白島先輩と待ち合わせをしてどこかに出かけるぐらい仲良かったのか?それにそもそも、告白の返事して帰って来た時に怖がってなかったか?」

 取り敢えず今は疑問に思ったことをミナトに聞く。ミナトは「…ん」と考えてから真っ直ぐに私を見る。

「…あれから怖くなかったし…本好き仲間だから」

「なんかそんな感じの事言ってた気がするけど。って言うかミナト、おまえな、警戒心ってもんがないのか」

「…警戒心?」

「あのな、ミナト。狩るモノは獲物が警戒しだしたら油断を誘い、隙ができたところで襲いかかってくるんだ」

「…?」

「だからな。ミナトも油断してると襲われるぞ、白…」

「なにかとっても失礼なことを言ようとしてませんか?」

 白島先輩にって言おうとしたところを白島先輩に遮られる。いつの間にか近くに白島先輩が少し引きつった笑みを浮かべながら立っていた。そして私とミナトの間に割り込むようにさらに近づいてくる。そうすると私と白島先輩が向き合う。じっと私を見るというよりも睨むっていうほうが正しいような感じで見つめる白島先輩。なにか挑むような視線になぜか逸らしたら、逃げたら、後悔するような奇妙な感じがして私も白島先輩を睨むように見る。

「「…………」」

 お互いに睨み合うように見つめ合う。ミナトはどうしたんだろうと不思議そうにしている。私も今なんで白島先輩とこんなことをしているのか分からないけどな。

「江波さんは今日どうしたのですか?」

「ちょっと暇だから本屋にでも行こうと思って。白島先輩は?」

「私は“ミナト”と一緒に行こうと約束していたのですわ」

 ミナトってところを妙に強調していることになにか言いようのない苛立ちを覚える。なんでだろう。

「へぇーそれは知らなかったです。いつの間に約束を?」

「あら?あなたの許可がいるのですか?」

「いえいえ、最近白島先輩を見受けなかったので」

「ああ、それはメールで約束したからですわ。私もいろいろと忙しかったので」

 メール……メールか。そう言えばミナトが苦手なメールを一生懸命やってたな。ということはあれか、ミナトのヤツ白島先輩のためにせっせと苦手なメールを覚えてたのか。………………………へぇ、そうなんだ。

「江波さん」

 考え事をしていたら、急に白島先輩がさらに近づいて声を落として話しかけてきた。ちらりとミナトを見ていたから、ミナトには聞かせたくないことなのだろう。なんだ?

「江波さん、あなたはミナトのことをどう思っているのですか?」

「……っ」

 ミナトのことをどう思っているのか。そんなこと決まっている、ただの幼馴染だ。当たり前のことだ。そう即答するはずだったのになぜか声がすぐにでなかった。ぐっと腹に力を込める。

「ただの幼馴染……です」

「そう。“ただの”」

 ただのってところを強調される。それがなぜかむかつく。自分で言ったことなのに。

「だからどうしたんですか」

「いえ、まだそんなことを言っているのですね」

「なにを…」

「もういいです」

 一方的に話しを切られた。むかつく。なぜかとてもむかつく。白島先輩に当たり前のことを言ったはずなのに。
 キッと白島先輩を睨む。白島先輩は冷ややかに私を見返す。それがなぜか負けたようで胸の奥がぐしぐしと名前の分からない感情に蝕まれる。

「…あ」

 無言で一方は睨み、一方は興味がないように見る2人にどうしたらいいか困っていただろうミナトが手を振っているのが横目に見えた。それに私と白島先輩は示し合わせたかのように同時にミナトの見ている方を見ると、

「紅葉とケン?」

 2人もこっちに気づき、紅葉は手を振り返しながら近づいてくる。この2人の登場でなんか険悪で変な空気がなくなった。
紅葉とケンを知らない白島先輩が少し困惑しながらミナトに「お友達ですか?」と聞いている。小学生くらいの女の子と金髪碧眼の見た目外人の凸凹コンビがやって来たら困惑ぐらいするだろうな。

「やっほ~ こんなところで会うなんて奇遇だね~………え~と」

「あっ、私、白…」

「白島先輩ですか~?もしかして」

「え?あの、私のこと知っているのですか?」

「全校集会とかで生徒会の役員として出ているじゃないですか~」

「えっ?そうですけど、でもよく覚えていましたね」

「まぁ~ぶっちゃけると……えへへ~」

 紅葉はちらりとミナトを見る。白島先輩はなんとなくミナト経由で自分を知っていることの意味を察して顔を赤らめている。おい、なんかさっきとは違う感じで変な空気になってるんだけど。

「えート、初めましテ。オレは土橋 県、この小さいのが立町 紅葉って言いまス、よろしク」

 なんか察してくれたケンが、まったく自己紹介をしていない紅葉の頭をぐりぐりと押さえながら紅葉の分も自己紹介をした。自己紹介された白島先輩は「よろしくお願いします」と返しながら改めて紅葉をまじまじと見てなにか考えている。

「えーと、失礼ですけど立町さんって高校生なのですよね」

「そうですよ~」

「もしかして副会長、島並先輩と親戚とかなのですか?」

「あ~ 紅葉の知る限り島並って名字の親戚はいませんよ~」

「そうですか。すみません変なことを言って」

 入学式の時は会長のあいさつがアレすぎな所為で会長の印象ばかりが強すぎて気付かなかったけど、副会長はすっごい小さい人だった。なんとか紅葉より少し大きいぐらいみたいだったし。2人ともランドセルを背負っている方が似合いそうな見た目だ。そのせいで親戚か?と同級生、上級生、教師と何人からも質問されてたな、紅葉。

「ところで、紅葉とケンはなにやってんだ?」

 取り敢えず2人に聞いてみる。駅に来るってことは今からどこかに出かけるのか?

「え~と、紅葉たちはね~ ドバっちの家で四葉のクローバーを押し花にして栞を作ってたんだよ~ほらこれ~」

 紅葉が携帯の写メを見せてくる。製作途中なのかケンの母親のミチさんと紅葉が写っている。紅葉がミチさんに教えてもらいながら作っているみたいだ。
 しかし、まえに採ってきていた時もそうだったけど、えらい量だな四葉のクローバー。だからなんでこんなに見つかるんだよ。

「よくこんなに見つけましたね。もしかして最近はこんなものなのですか?」

 白島先輩が感心したらいいのか呆れたらいいのか判断のつかないような表情で写メを見ている。私も詳しくはないけど今も昔も四葉は珍しいと思う。って言うか押し花って………あーなんかそんなこと前に言ってた気がするな。

「こっちは朝も早くから手伝わされテ大変だっタ」

 ケンが、ハァーとため息をついている。ご苦労さまだな、本当。

「ドバっちあんまり役に立たなかったけどね~」

「オレにとっては新記録だったけどナ。1日で5本も見つけれたことガ」

「あれ?そう言えば押し花の作り方ってレンに習うんじゃなかったのか?」

「レンちゃんは今日、デートだから~」

「ああ、なるほどな」

「れん?」

 当たり前だけど、白島先輩にはだれのことを言っているのか分からないようだ。

「宇品 恋ちゃんって言って友達なんだよ~ 可愛くてしっかりしててスタイル抜群な子なんですよ~ 特に胸がすごいんですよ~ドバっちがいつもイヤラシイ目で見てるくらい」

「えっ」

「しれっとウソをつくナ。先輩が本気にしてるだロ」

「でも、レンちゃんの胸を1回でもそういった意味で見たことなの~」

「アー、いヤ、1回もって言われると自信はないナ」

「なっ!否定するのかと思ってたのに、まさかの裏切り!!ドバっち、やっぱり胸より鎖骨だよネって言ってたのに!!」

「そんな感じには言ってネー!ってカ、あの冗談まだ覚えてたのかヨ!!」

「なっ仲が良いのね」

 ぎゃいぎゃい騒ぐ2人を白島先輩が苦笑しながら見ている。しかし、ケン、鎖骨とはまたなかなかにマニアックなところをいくな。

「結局胸か~ ちくしょ~!………よ~し、こうなったらアキちゃん!一緒に貧乳同盟を組もう~」

「はぁ?私は別に気にしてないから、そんなこと」

 と言うよりもそんなもん組んでどうするんだよ。どう転んでもポジティブな活動をするイメージがわかないんだが。
 とにかく、この答えは紅葉のお気に召すものじゃあなかったみたいで、私をびしっと指さす。

「なぁ~!アキちゃん!Bごときで巨乳気取りか~!!」

「気取ってない!大きさとかあんま気にしてないってことだよ!!ってか、なに公共の場でバラしてんだー!!」

「あっあの、立町さん?あまりそういうのは、こうゆう所で言ったらダメですよ」

 さすがに人通りのある駅前で、しかも男であるミナトとケンのまえでする話題じゃないと思ってくれたのか白島先輩も紅葉を止めようとしてくれている。誰でもいいから味方がいてくれるのは助かる。

「先輩、Cだってまだまだですからね~!なんせレンちゃんはEだし、紅葉のお母さんなんかGだからね!!巨乳を気取るならDからだ~!!」

「え?え!ええ!?なっなんで私の知って…」

 顔を赤くしながらミナトの方をちらちらと見て動揺している白島先輩をびしっと指さす紅葉。白島先輩、動揺したらダメだ。目測で適当に言っているだけなのに、そんな反応したら認めてるってことだからな。
 でも、レンとレモンさんの大きさってそんな感じなのか………あんまり気にしたことはないけど、なんと言うか文字通り桁が違うんだな。本当に。
 とにかく紅葉を止めないといけない。しかし、ここ最近紅葉の担当はケンだったんだが、さすがにこの話題にはツッコミ辛いのか、ミナトと少し離れたところでことの成り行きを見守っている。助けろよ。
 とにかく、あいつはなんかもう開き直ってるのか、あいつの胸の話しをしても意味がない。むしろヒートアップして、私のサイズどころか数値を言われそうだ。教えてないのに…………あっそうだ。

「突然だけど、紅葉の身長は、ひゃくさ…」

「言うなぁぁぁ~~~!!!!」

 紅葉が大声と突進で私の言葉を遮る。こいつ、身長ばらされるのがイヤだったってのを思い出した。
 終わったらしいのを確認したのかミナトとケンが近づいて来る。2人そろって私を見捨てやがって。

「…びぃ」

「なにか言ったか?ミナト」

「…」















 なんかぐだぐだになったが、とりあえずミナト達の予定通り電車に乗って一駅隣の大きな本屋に来た。紅葉とケンは、ケン曰く「草むしりみたいなことしてたかラ、体を思いっ切り動かしたい」ということで、同じくここにある運動公園に来るつもりだったみたいで本屋にもついて来ている。
 しかし、あの運動公園か。公園なのかアレって。巨大な滑り台や種類豊富な遊具までならいいだろう。だけど、あそこってバスケやバレーとかが出来る広い運動館や普通の水泳どころか流れるプールや波立つプールとかまである水泳館、陸上競技やサッカーが出来るグランドまであるところだ。公園(笑)だろ、あそこを公園って言ったら他の公園が。
 なんか取留めもないことを考えていると目的の本屋に着いた。

「…」

 まぁ本屋に入ると、いつもの通りミナトはふらりふらりと歩いていく。本屋や図書館とか本があるところに来るといつもこうだな。白島先輩もなにかメモを見ながらどこかのコーナーに向かっている。こういうところは、ちょっとミナトみたいだ。
 私も本来の目的のモノを探す為に紅葉とケンと一緒にマンガのコーナーに行く。この2人も文字ばっかりな本よりもマンガ派だよな。とりあえず私の目的の品を見つけて、あとなにか他に面白そうなのはないかと見て回る。

「アキちゃんが少女マンガ好きってクラスの人が聞いたら意外だって言うよね~」

「まァ確か二」

「うるさいな」

 私の持っている本を見て、やっぱりね~とばかりに言う紅葉。いくら兄の影響だからといって、本棚に少年マンガばっかり入っているヤツには言われたくない。
 とにかく、会計もすませてミナトを探しに行く。今はなににハマっているかは分かっている。なんせ、ミナトの部屋の整理は私がしているからな。掃除は出来る癖になぜか整頓が出来ないから、埃とかゴミや汚れはないのに本が散らかっている部屋で本の整理をしていると今どういった本に興味を持っているかなんとなく分かってしまうんだ。だから、広い本屋や図書館でもミナトをすぐに探し出せる。
 で、いたわけだけど。………なんで白島先輩が一緒にいるんだよ。ミナトも白島先輩も別々の方向に向かって行っていたのに。まさか、白島先輩は別れたふりをして……いや、白島先輩が手に何冊か本を持っているところを見ると、自分の欲しい本を見つけた後ってところか。
 なんか楽しそうに話している。白島先輩もミナトと同じで本当に本を読むのが好きなんだろう。そして、そういった趣味の話しが合う人と話すのはとても楽しいだろう。白島先輩はミナトのことが好きだからなおさら。ミナトだって………















 結局、あの後レジの近くで2人が来るまで紅葉とケンと一緒に待っていた。なんか割って入れなかった。その後、ちょうど腹がへったからマックで腹ごしらえをすることになった。まとめて注文をして、ミナトとケンが商品を持って来てくれるってことで私と紅葉、白島先輩で席をとっている。

「先輩、先輩」

「なんですか?立町さん」

紅葉が白島先輩の隣に座って楽しそうに話しをする。

「私達って今日邪魔でした~?」

「結構ストレートに聞くのですね。………そう、ですね。皆さんと一緒にいるのは楽しいので邪魔ではないですよ。……3人よりかは余程」

 白島先輩がちらりと私の方を見る。今日1番の邪魔者は私か。まぁそう思うのは当たり前だよな。紅葉とケンが偶然来たからよかったけど、確かに3人だったらどうなってたんだろ。………普通は私が引くべきだったんだろうな。最初に約束していたのは白島先輩だったんだから。ああ、もう、分からん。自分が分からん。

「…アキ、どうしたの?」

 ミナトの声に顔を上げると目の前にミナトの顔があった。山盛りのハンバーガーをのせたトレイを持って。

「…っ……いや、なんでもない」

 白島先輩がミナトのトレイを見てすごい量を食べるミナトに驚いたり、ケンの食べているのを紅葉が強奪して代わりに紅葉が食べていたやつをケンがとって文句を言われたりと、なかなか店の中でも騒がしいく目立つ集団になっていたけど、私はなんかぼんやりとその光景を見ながらもそもそと食べるだけだった。今の自分の訳の分からない気持ちに手一杯で……















■ ■ ■

 マックで食事をすませて、今度はどこに行こうかという話しになって、立町さんと土橋くんの行こうとしていた運動公園に行くことになりました。あそこは私も昔、両親や友達とよく行ったものです。公園と言って良いのかは分かりませんけど。
 運動公園につくと、土橋くんはここに来たことが無いらしく、どういったモノがあるか案内をしながら見て回ることになりました。立町さんが土橋くんにいろいろ説明をしている後ろを私とミナト、江波さんがついて行きます。土橋くんもこんなに広くていろんな施設のある公園は初めてみたいで、「感心していいのか呆れていいのか分からン」といった感想をもらしています。気持ちはとても分かりますわね。

「よ~し、案内終了~ なにする~?」

「そうだナ…」

 案内が終り、遊具とかがある広場に戻ってきて、なにをするかという話しになった時に「わきゃ!」と可愛らしい悲鳴みたいなのが聞こえました。見るとどうやら土橋くんに小学生くらいの女の子がぶつかってしまったようです。体格差で女の子の方がこけてしまったようですわね。

「っト、すまン。よそ見をしてタ。大丈夫カ?」

「へ?あっ!はい、あっありがとう…ございます」

 女の子は起こす為に手を伸ばす土橋くんを見て、ちょっと驚きつつ起こしてもらっています。戸惑っているのは金髪だとか外国人風な見た目の所為でしょうか。
 気がつくと女の子と遊んでいたのだろう子達が集まってきました。小さな子がいたり女の子と同じくらいの子がいたりと、いろんな年齢の小学生くらいの男の子と女の子がいます。子供会かなにかの集まりでここに遊びに来ているのでしょうか。
 外国人のように見える土橋くんに近づき辛いのか、女の子を心配そうに遠巻きに見ています。すると立町さんがぶつかった女の子の手を引き、「みんな~逃げろ~ 外人・ドバっちに捕まると片言しゃべりにされるぞ~」と言って、そのまま女の子と一緒に逃げだします。すると周りの子達も「わー逃げろー」と言って逃げ出しました。

「っテ、まるで怪人みたいな言い方で外人って言うナ!そもそもオレは日本人ダ!!」

 土橋くんが「1人残さず捕まえてやル」と言って追いかけます。みんな、きゃいきゃいとはしゃぎながら逃げています。最初の戸惑いがウソのようですわね。





 結局、土橋くんがなんとか全員捕まえた後、「もっと遊ぼー」ということでみんなと遊ぶことになりました。見るとミナトは数人の男の子たちに、にらめっことか漫才のようなものを見せられています。まったく表情の変わらないミナトを絶対に笑わせると言っていました。江波さんは数人の女の子に囲まれています。なにをしているのかは分かりませんけど。私は走り疲れた小さな子とベンチに座っています。小さな手で私の手を握っていて、とっても可愛らしいですわ。
 すると土橋くんがこちらに来ます。そして水道水で喉を潤しているみたいですわね。

「お疲れ様です」

「先輩モ。それにしてモ、子供ってすごい元気ですネ」

 笑顔で言う土橋くんに「そうですわね」と答えようとした時、土橋くんの腕に元気よく掴まってくる子がいました。最初に土橋くんとぶつかった女の子ですわね。

「ねぇねぇ外国人さん」

 土橋くんは女の子にぐいぐいと引っ張られます。

「一応外国人じゃあないシ、土橋 県って名前があるんだけド」

「じゃあ、ケン!」

「呼び捨テ!まぁいいけド」

「ケンはだれかとお付き合いしてるの?」

「それを聞くカ。……ノーコメントデ」

「いないんだ!」

「直球!もっと濁すカ、察しテ」

「へぇーそっかーそっかー」

 女の子が嬉しそうに言って、少し頬を赤くしています。これはまさか…

「じゃあーあたしがケンの彼女になってあげるー」

 まさか目の前で告白を見るなんて思ってもいませんでした。私とベンチに座っていた子達も「かっぷるー」「かっぷるだー」と言っています。最近の子は結構ませているのですわね。

「うわ~ ドバっちが小学生を誘惑してる~」

 いつの間にか近くにいた立町さんが二マニマと笑いながら土橋くんを小突いています。

「誘惑なんかしてないヨ」

「で?で?返事は?」

 告白した女の子が立町さんと話す土橋くんをこっちに意識を向けさせるために腕を引っ張りながら、答えを促します。

「アー、そうだナ。……そういうのハ、せめてこいつの背の高さを抜いてからナ」

 土橋くんが立町さんの頭をぽんぽんと叩いています。女の子と立町さんだと、なんとか立町さんが高いですわね。

「これぐらいすぐだもーん。あたしはせいちょーきってやつだもん」

「紅葉だってまだ高一で、成長期だもん!そうそう簡単に抜かせると思うな~!!」

「ふーん。でも胸はあたし方がもう勝ってるもんねー」

「小学生に負けるわけないでしょ~!!」

 正直どっちもどっちな気がしますけど、いろいろと。でも、ここで変なことを言ってしまうと、また駅前の事みたいなことになったらイヤなので黙っています。土橋くんに任せます。すると、

「外人!」

 女の子と同じくらいの年齢の男の子が土橋くんにびしりと指さします。

「だかラ、外人じゃなくて土橋 県って名前なんだっテ」

「じゃあ、ケン!!」

「また呼び捨テ!まぁいいけどネ」

「僕と勝負しろ!」

「別にいいけド、なにして遊ぶんダ?」

「遊びじゃなくて決闘だ!!」

 男の子は土橋くんと腕を組んでいる女の子の方をちらちらと見ています。なるほど、そういうことですか。「こっちだ」と言う男の子について行く土橋くん。すると、「遊ぼ、遊ぼ」と子供たちが土橋くんの腕やら服やらを引っ張っています。私と一緒に座っていた子たちも加わっています。

「男もいるけど、ある趣味な人から見たら幸せこの上ない状況だね~」

 てっきり土橋くんと一緒に行くと思っていた立町さんが私に話しかけながら隣に座ります。右腕に告白した女の子、左手にはベンチに一緒に座っていた小さな男の子と女の子が2人で握っていて、服の裾を引っ張っている子が3人。見てると、背中に飛びつく子もいます。……確かに子供好き、そう子供好きな人にとっては幸せな状況ですね。私は土橋くんは、なんたらコンプレックスではないと信じています。

「土橋くんも立町さんも子供に好かれやすいのですね」

「ドバっちの場合、なめられてる感が否めないけどね~」

 今も「ケンー」「ケンー」と呼び捨てで子供たちに引っ付かれている土橋くんを見ると確かにそうかもしれないけれど、やはり好かれているからこそだと思いますわね。
 周りにいた子たちがみんな土橋くんのそばに行ってしまったのでベンチには私と立町さんだけです。だから、ちょっと気になっていた事を聞くチャンスだと思います。

「立町さん」

「はい~?なんですか~?」

「立町さんは土橋くんとは付き合っていないのですね」

「へぇえ?……あ~はい、付き合っていないですよ~」

 2人ともてっきり付き合っていたのかと思っていたのに、土橋くんがさっき付き合っている人はいないと否定していましたから、少し意外だったのです。
立町さんは、まさかこんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、少し間があったけれど手をふりふりと振りながら答えてくれました。そして、にまりと笑って私を見ます。嫌な予感しかしません。

「先輩がそ~ゆ~ことを聞くなら紅葉も聞いてもいいですか~?」

「えっ!?なっなにかしら」

「先輩は断られたのに、ミナっちのことが今も好きなんですか?」

 聞かれるとは思っていましたけど、まさか単刀直入に聞かれるとは思いませんでしたわ。もう少しオブラートに包んで聞くものかと……
立町さんは少しふざけた様に聞いているけれど、視線は真っ直ぐで引くことが出来ない。………いえ、引くつもりは微塵もありません。私の気持ちは隠す必要はないのですから。むしろ隠したくない、否定なんてしたくない。誰に聞かれても答えることは1つです。
 私もじぃっと立町さんの目を真っ直ぐ見て、

「好きです。1度くらいでは諦めません。この思いは変わりませんから」

 ちゃんとしっかりと自分の、私の思いを宣言します。ミナトにも言ったことですけど。
 それに、自分の気持ちに気付こうとか考えようとかをせずに、むしろ少しも認めることすらせず、自分の気持ちを誤魔化し続けている人には今、負ける気なんてまったくしません。必ずミナトを振りむかせて見せます。
 立町さんに私の思いをどれくらい汲み取ってもらえたのか分かりませんが、「ふ~ん」となにか納得したかのような呟きが聞こえます。

「先輩は本気か~……う~ん、応援してあげたいけど、もう応援している人がいるからな~」

 立町さんが足をぷらぷらと揺らしながら、ごめんなさいと謝ってきます。応援している人……江波さんなのでしょうね。当たり前だと言ったら当たり前ですけど、今日初めてまともに話しをした先輩と、幼馴染の友人のどちらを応援するかと言われると、私も友人を応援します。

「あっ!でもでも~ 先輩がミナっちをガンガン攻めて落とすのもいいと思いますよ~ 応援は出来ませんけど、邪魔もしませんから~ いや~ミナっち幸せ者だね~ 先輩ガンバ~」

「え?あ、はい。がんばります」

 ニコニコと江波さんのことを応援しているとは思えないことを言いますわね。と言うよりもどこか私の背を押すように言っているような気がしますけど。
 取り敢えず、立町さんは聞きたいことが終ったのか土橋くん達の方を見ます。2人で土橋くん達を何ともなしに見ます。立町さんと話しをしている間に、土橋くんに子供達がどんどんひっついて、「重イ、暑イ、そして重イ」と大変なことになっています。勝負やら決闘やら言っていた男の子もそんな雰囲気ではなくなってしまったことに戸惑っていますわね。それにしても助けなくていいのでしょうか。隣を見ると立町さんも土橋くんの様子を見てくすくすと笑っています。その笑顔を見ていると…

「立町さん」

「またまたなんですか~?」

「立町さんと土橋くんは付き合っていないということは分かりました」

「はい」

「では、土橋くんのことどう思っていますか?」

「え?」

 付き合っていないとは言っていましたけど、どうしても今日初めて会ってから今の2人の距離感というものを見ると、ただの友達というのとは違う気がします。私はなんとなく、無意識にだと思うのですが立町さんは、私や子供たちに向ける笑顔と江波さんたちに向ける笑顔が違っている気がするのです。そして、土橋くんに向ける笑顔はさらに違うような気が。
 とにかく、私はどのような答えであれ、立町さんの性格ならすぐに返事がくるものだと思っていたのですけど、なにやらとても悩まれています。そして悩みに悩んで、そして、

「きっ……嫌いでは…ない……です」

 さっきまでの元気のよい声ではなく、小さな声で答えてくれました。それは彼女の本当の気持ちなのだと分かるような声で。
私という今日初めて会ったような人に本当のことを答えてくれるとは思いませんでした。ただの友達や友達として好きだとか、当たり障りのない答えでもしかたがないと思っていました。それが本音ということもありますけど。
 ともかく、嫌いではないと言うのは立町さんの本音なのでしょう。もしかしたらまだ、ちゃんとその気持ちがどの種類の好意か整理がついていないのかもしれません。それでも、誰に対してでも、否定やただの友達と言えなかったのかもしれません。私と同じで。
 立町さんを見ると、「むむむ~」と小さく唸りながら俯いています。自分の気持ちとちゃんと向き合って考えている。とても好感を持ちます。それに小さく唸っている立町さんはなにかかわいくてつい意地悪なことを考えてしまいます。

「立町さん」

「うぅぅ~ 今度はなんですか~?」

「それは好きってことですか?」

 俯いていた立町さんがむくっと顔を上げて私を見ます。その顔にはありありと、それを聞きますかぁ!!と書いてあります。

「えぅ……その~……だから~……あの~……………………………………………………好き…だと……思い…ます」

 顔を真っ赤にして、もう最後の方なんて小さいどころかか細い声になっていましたけど、ちゃんと答えてくれました。
 そして、ベンチからおりると土橋くんの方にすごい速さで向かって行き、

「ドバっちのせいだぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁ!!!!!」

「いきなり意味が分からんことを言いながら突進するナー!!!っていうカ、助けロー乗るナー!!止めを刺す気カー!!!!」

 子供たちに押しつぶされそうになっていた土橋くんに止めとばかりに乗ります。土橋くん大丈夫でしょうか。………大丈夫みたいですね。そのまま2人はぎゃいぎゃいと、片や押しつぶされながら、片や子供たちと押しつぶしながら言い合いを始めてますし。それにしても、2人ともとても楽しそうですわね。















 帰り道。いくら日が長くなってきたとはいえ時間が時間なので、子供たちと別れて駅に向かいます。子供のなかにはもっと遊ぶと泣いていた子もいました。とくに立町さんと土橋くんに懐いていた子達が。あと、土橋くんに告白した女の子は「次に会うときには紅葉の背を抜いとくねー」と言っていました。
 その立町さんと土橋くんは私達の前を歩いています。「疲れた~ ドバっちおんぶ~」「オレも疲れているから却下ダ。ってふらふら歩くナ、危ないゾ」と言う会話の後、土橋くんが立町さんの手を握り、引いて歩いています。それがとても自然に見えて、羨ましく思いますわね。
 そっと隣を歩くミナトを見ます。ミナトも疲れたのかいつもよりぼぉーとしています。ミナトは買った本を右手に持っているので左手が空いています。もう1度前を歩く2人を見て、勇気をもらいます。
 そして、ミナトの左手を握って、

「ミナト、2人に遅れていますよ。行きましょう」

 ぐっとそのまま引いて前の2人に追いつくように少し速めに歩きます。江波さんが「あっ」と驚いていますけど、関係ありません。同じく驚いたように私を見て「…トリイさん?」と言うミナトを見ると、自然と笑みがうかびます。
 ミナトのひんやりとした手が心地よくて、今がとても幸せで、この幸せを絶対に手放したくありません。ぎゅっと手を強く握るとミナトも握り返してくれます。改めて思います、絶対に振り向かせてみせます。と。















――あとがき――
 前半はアキさん、後半は白島先輩がメインです。ミナトがあんまりしゃべってないなぁ。
 そして、更新日がバレンタインだけどバレンタイン関係ない話。お話しでは今7月って設定だから仕方がないです。別に、チョコのように甘い話が書けないからとかではないですから、本当に。いや、うん、本当に………




【感想返し】
 HIGUさん
  ほのぼの目指していたはずなのにあまあまに!?なら、あまあまを目指せばほのぼのになるってことですね、なるほど!(甘い話が書けるかどうかは別にして)あれ?違う?
 


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