<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[18126] 【ネタ】後・恋姫無双【完結】
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/25 08:35
作られた外史−。
それは新しい物語の始まり。
終端を迎えた物語も、望まれれば再び突端が開かれて新生する。
物語は己の世界の中では無限大−。
そして閉じられた外史の行き先は…かならずしも元のところに行くとは限らない。
さあ。外史の突端を開きましょう−。


「流れ星が落ちたってのはこの辺じゃないっスかねー?」
「…でも丞相閣下の言ってた予言って昔の話なんでしょ」
「そうっスねー。でも文句は面と向かって言った方がいいっスよ。」
「ああ、それは言えないなぁ。ムリムリ」
「あ、そこに男の人が寝てるっス」

…なんだ?うるさいな。寝てたのに…あれ?なんで俺、寝てるんだ?

!!

愛紗は!鈴々は!朱里は!みんなは!外史はどうなった!

慌てて飛び起きた俺の頭は、俺の顔をのぞき込んでいたらしい女の子のアゴを見事にヒットしていたのだった。


「イテテテテ。酷いっス」
「ごめんごめん…ところでココどこ?」

とりあえず謝る。あと、なんとなく判った。愛紗達に出会った時の様に、どこかに飛ばされたって事が。

「どこって。蜀の成都の郊外に決まってるっス。変なコト聞くっスね〜」
「…蜀?なんで!」

「あのー、そのキラキラした服、伝説の『天の御使い』ではないですか?」

もう一人の女の子が聞いて来た。…これまたなんとなく判った。多分、この二人、武将だ。それも蜀の。蜀?

「ああ、そう言われる存在だと思うけど…一つ教えてくれない?あい…関羽は?張飛は…諸葛亮は…どうなったの?」
「え?御使い様は丞相閣下をご存知なの?」
「じょ…じょーしょーかっか?」
「ええ、孔明様は蜀の丞相であらせられれ…う、舌噛みそう」

なんか随分と後の時代に飛ばされた感じがする。

「…盈ちゃん盈ちゃん。見付けたはいいけどこれからどうするっスか?」
「丞相閣下から天の御使いを見付けたらこの袋を開ける様言われてるわ」

なんかごそごそと長い袋から竹簡を取り出す女の子。
小学生の使う物差しと物差しケースみたいだなぁ…とか思って見守る。

「…宮殿まで連れて来なさい…だって」
「わざわざ指示書く程の事っスかね?ソレ」

連行…もとい歩きながら話の続きをする。

「っス」とか喋ってた女の子は王平。
袋を持ってた女の子は張翼というそうだ。
聞いた事がある様な…ない様な…。部下には居なかったと思うけど。

んで驚愕の事実を知る。

「関羽様は襄陽で呂蒙に…」

ええ!?愛紗が!…死んでしまった?

「張飛様は『鈴々はぜったいゆるさないのだー』とかおっしゃって弔い合戦をしようとしたのですが…」

鈴々が?鈴々が?嘘だ!

「出陣前夜におなかを出して寝てしまったので風邪をひき帰らぬ人に…」

なにその死に方!もとい、嘘って言ってくれ!

「劉備様は張飛様から伝染った風邪をこじらして…」

劉備…?アレ?劉備?いなかったよね劉備。

俺が三国を統一し、左慈とかと闘ったあの後じゃない…のか。
俺が愛紗や鈴々に拾われた歴史でなく、劉備と桃園で誓いを立てた、そういう歴史の後なのか…。
じゃ、朱里も俺の知っている朱里とは別人?俺の事を知らない?そんな!

「あ、見えてきたっス」

劉備の娘、劉禅の治める成都。

その宮城へ二人の案内で向かう。
まず朱里直々の尋問を受ける事になるらしい。

朱里…もしこの外史の朱里が、俺の事を全然知らなくても…それでもいい。
会いたい。彼女の「はわわ」がたまらなく懐かしい。

「おはいりなさい」

ええ!!!!!!
何この妖艶な美女は!


…続きません。



[18126] 後・恋姫無双2
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/16 22:32
続きを思い付いたのでもうちょっと書いてみます。

あ、今更ながら注意事項です。本作は原作レイプです。恋姫に出て来るキャラが成長したり…するのはいいとして、老化したりほとんどが死んでたりするので、そういうのが嫌な方はさようならっす。


***

通された部屋に待っていたのは、道服に身を包んだバインバインの美女…と、幼女?


「天の御使い様ですね。蜀の丞相を務める諸葛亮です。よろしくお願いします」
「さんぐんのばしょくです」
「あ、北郷一刀です。北郷とでも一刀とでも好きにお呼び下さい」

あー、やっぱこの女性が朱里か…俺の知っている朱里とギャップがあって正直同一人物と認識できないや。あとこの幼女が馬謖…馬謖か〜泣いて切られる人だな。


さて、いままでの事をぶっちゃけますか。朱里は頭いいから何かアドバイスをくれるかもしれない。


「というわけなんです」
「…なるほど。同じ様で少し違った外史…ですか。私達はともかく、翠さんや紫苑さんに璃々ちゃん。亡くなった方々に関しての知識にも嘘が見つからないです。正直言うと一度別世界ながら自分が統一した、とか言われても信じ難いのですが…」
「そりゃそうでしょうね」
「しろからたたきだしてふつーだとおもいます。いまからでもおそくないですじょーしょー」

どうもお子ちゃまが敵意むき出しなんだけど。

「いえ、一刀さんには協力してもらいます。我が蜀の為に」

こういう事らしい。魏で曹丕が皇帝に即位した。その時、漢の皇帝が殺された、という情報が蜀にもたらされた。そこで漢の社稷を絶やさない為、蜀で劉備を皇帝にしてしまった。ところが劉協が生きていて山陽公に封じられたという情報が伝わり、やっと誤解と判ったが、ひっこみがつかなくなってしまった。

「劉禅様は漢を正当に継いだわけではないのです。足りない…天命が足りないのです」
「で、天の御使いか」
「はい。天の御使い様が蜀の味方になれば、足りない正統性が補えます」
「でも、てんのみつかいなんて、うらないとしてもふるすぎとおもいます」
「…乃夜ちゃん。これは奇貨なのです。蜀の地から中原を狙うには人事を尽くすのは当然なのです」

もしかして俺の位置付けって微妙?でもまぁ前の外史でも「居るだけ」的な存在だったしなぁ。仕方ないか。

しかし…

「ところで気になってたんだけど…馬謖ちゃんって朱里の娘さん?」
「はわわわわ〜そんなワケありませ〜ん。馬さんとこの末っ子を預っているんでしゅ!あ噛んじゃった…」

…滑舌はあんま成長してないのな。

「あーかってにまなをよぶなど、ふらちもの!」

向こう脛蹴られました。

「いや…本人に許してもらっているんだけど…前の外史のだけど」

結局うやむやに真名を許してもらいました。


さて、敵は華琳の娘。あと蓮華か。

にしても…華琳がよく男に体を任せる気になったな…する事しといて言えるこっちゃありませんが。

「許してないですよ?」
「はぁ?」
「うちの情報網では曹操が男性に身を任せた事は確認されていません」
「でも父親居なきゃ子供はできないでしょ?」
「いえ…曹操が父親なんです」

華琳がどうやってか側近に子供を産ませまくったらしい。

「いかなる左道邪術を使ったものやら…」
「じゃぁ曹丕の母親は?」
「荀彧です」

父から女好きな所と才知を。
母から女好きな所といじわるを。
そして父の理想家的な部分をどこかに置き忘れて来た様な人物だとか。

「…最悪だ!」
「最悪です。妹をいびり倒したり、于禁など配下をいびって自殺させたり、簒奪を除外しても暴君以外の何者でもありません」

だめだ…そりゃはやくなんとかしないと。





[18126] 後・恋姫無双3
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/18 08:11
ついで、と言ってはアレだけど、ここの歴史を教えてもらう。

俺が朱里から聞かされたのは、一人の不器用な女の子のお話。みんなを救いたくて、力足らず挫折して…最後はようやく目的を果たせそうになったのに、義姉妹を亡くして失意に沈んだ女の子の物語。
俺は流されて、結局力で三国を統一した。彼女の果てない苦悩と理想を聞いてちょっと泣きそうになった。

皆のその後も判った。
愛紗が死んだ後、流行り病で多くの人が犠牲になっていた。

璃々が死んで悲しみの内に紫苑も逝ったという。

「翠も?」
「馬超さんは…ちょっと人に言えない下の方の病気で」
「ナニソレ!」

朱里以外で存命なのは星だけ。

「会いたいな」
「しょうぐんはめんちくかんにおられます」
「綿竹関はメンマに使う竹の産地に違いない!と言って勝手に守将になってしまったんです」
「ナニソレ!」


月は行方不明。

「賈駆は?」
「曹丕さんの軍師を張ってます」

桂花の子で詠が軍師か…難敵だな。

恋はくびり殺されたらしい。悲しい。
袁紹達も死んだ。貂蝉は…朱里は存在をしらなかった。


魏では華琳も病死したらしい。

「その件に関しては洛陽で妙な噂がたったそうです」
「噂?」
「ある夜関羽さんの亡霊が曹操さんの枕元に立ち『首を返せー』と」
「ひーーーーーーーーーーー」
「かいだんはにがてですー」
「…曹操さんは迷い無く関羽さんの亡霊を閨に引っ張り込んだそうです」
「ナニソレ!」
「翌朝すっごくイイ笑顔で死んでいる曹操さんが見付かったとか」

ナニソレっていうのが仕事みたいになってきた。

春蘭は曹操の後を追うように、霞は愛紗の後を追うように、それぞれ病死。
秋蘭は戦死。
桂花は産後の肥だちが悪かったらしい。安産型じゃとてもなかったしな。季衣は存命だそうだ。

呉は?

「呉は…主君が暗愚で大混乱です」

え?



[18126] 後・恋姫無双4
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/26 18:29
「蓮華様ぁ〜。もぅお酒はそのくらいでやめてくださいよぉ〜。お体に障りますよ〜」
「…うるさいわね…あっちへ行って!」

穏の足元で砕け散る盃。酒のしぶきを浴びながらも穏はそれを無視した。
穏に昔の淫乱な雰囲気はみじんもない。あの頃よりちょっと胸とおしりが垂れた気もするが、誤差の内誤差の内。

対する主君は昼間から自室で酒を呑んでいた。こどもっぽさや堅さはすっかり消え、大人の女性に成長していたが、雪蓮の様な柔らかさは無かった。それが又、彼女のコンプレックスを刺激する。

「…ていうか、穏は南郡にいなきゃいけないはずよ」
「蓮華様がお酒ばっかり呑んでいて、政務が滞っているっていうから、戻って来たんじゃないですか〜」
「別に滞らせてなんかいないわ。呑んでたって政務くらいできるわよ…雪蓮もそうしてたでしょ」
「変な事真似しないでくださいよ〜。建業からくる命令書が支離滅裂だってみんな困ってますよぉ〜。あ、言ったはしからお酒注がないでくださいよ〜」
「うるさいわね、命令よ!陸伯言!あなたは今すぐ南郡へ帰還し蜀の反撃に備えて訓練でもしてなさい」


…ああああ、またお諌めできなかった。

亞莎はともかく、思春か祭が生きていてくれたらな〜。張昭おじいさんもいない今、私一人じゃ正直荷が重いですよぉ。明命は口下手ですし。小蓮様も「あんなお姉ちゃん見たくない」って宮殿によりつかないですし。
…そうかぁ、雪蓮様と冥琳さんが生きていればそもそもこんな事にもならなかったのか…。

とぼとぼと帰る穏。


(…穏をまたどなりつけてしまった…ごめんなさい…でも…呉は私には重すぎるの…雪蓮…姉さん…)

机に落ちた水滴は酒か、涙か…。


「…みたいな事になっているらしいですよ」
「ナニこの小芝居!」
「とりあえず孫権さんは酒に溺れてまともに政治ができていないご様子。失地挽回のチャンスなんですが、陸遜さんが居る限り難しいかも…」

蓮華はまじめな娘(というかカタブツ)だと思ってたんだけどな。なんか悪い方に行っているっぽいなぁ。

「じょーしょーじょーしょー」
「なあに?乃夜」
「えっけんのじゅんびができたそうです」
「あら、そうなんですか。じゃ、一刀さん、行きましょうか?」

どこへ?って聞くまでもないな。

「はい、我々のご主人様、漢第十六代皇帝。劉禅様の元へ」



[18126] 後・恋姫無双5
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/19 08:40
「こちらにおります者こそ天の御使い、北郷一刀です。即ち。我らが漢を中原に復興させる事こそが、まことの天の意という事となります。陛下におかれましては、ご不自由を強い給い、臣として恐懼に耐えませんが、いましばらく成都でご辛抱いただきますようお願い申し上げます」

「やっほ〜一刀ちゃん?よろしくね〜。成都もいい所だから楽しんでいってね〜」

劉禅はなんかアホの子でした。

***

「しゅいません、あんな娘で…母親から頭と胸だけもらって強い意志とかをどこかへ置き忘れてしまった様なので」

謁見を終え、朱里の部屋へ下がったら突然謝られました。
いや、それはそれでなんとかしないと。っていうか何げに劉備を馬鹿にしてね?

とか言っていたら後ろの扉が(ノックもなく)開けられました。


「阿斗様の夫候補が来たらしいではないか。水臭い。会わせてもらうぞ」


知っている声。すごく懐かしい声。星!

振り向いた俺の目の前に居たのは、昔とちっとも変わらない星の姿。

…歳とらねーな、おい!

………

……?



(いや…お肌、曲がり角過ぎた?)

「ほ、ほほう。天のご挨拶もなかなかですな。もう一度大きな声でお聞きかせ願いたいものです」

声に出してしまったらしい。やべえ…。

「と!ともかく!夫候補というのは何でしょうか!」

声の大きい者が勝つ…筈だ。


まぁ概ね予想通りの話だった。

劉禅の父は甘皇婿と呼ばれ、大変な「いいひと」だったらしい。が。いかんせん身分が低かった。劉備の『中山靖王劉勝の末裔』というのだって、本当だったとしても大したものじゃない。『天の御使い』と結婚させて劉禅に箔を付ける…という計画だったのを朱里がゲロしてくれました。

「あんな娘ですけど、どうぞよろしくお願いします」
「いや、その、…考えさせて下さい」
「はい、いくらでも考えて下さい。選択肢はありませんけど」
「いや、遠回しに断っているんですが」
「はい、いくらでも断ってください。その選択肢自体ありませんけど」


押し問答…というか押され放題問答…というか問答ですらないですよ?

星に助けを求め目くばせを送る。

「まぁまぁ朱里殿。北郷殿も嫌がっているではないか」

助かった。

「恋愛なぞもっとゆっくり進めればいいのだ。北郷殿には阿斗を好きになってもらう時間がいくらでも有るのだからな」

…このひとも敵でした。クソッタレ。

「あの娘はあれはあれで可哀想な娘でな…いまやあの娘の幸せだけが私の望みなのだ」

そうか。長く劉備に忠誠を捧げた星の心残りって事か…。

「赤ちゃんの頃に井戸に投げ込まれたり地面に叩きつけられたり、本当に可哀想だった」
「そっちかよ!」
「アレがあーぱーになった責任の一端は感じているのだ。判れ!」

判るか!

あぁ、青虹の剣抜いて詰め寄らないでください。

「お肌の曲がった昇り龍の願い、よもや聞いていただけないとは思いませんぞ」

どうする?俺。




[18126] 後・恋姫無双6
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/19 19:05
…なし崩しに婚約発表されてしまいました。しくしく。

「これで一刀さんも私達の御主人様、というわけですね」
「いきなり華燭の宴、という訳じゃないのだから良いではないか、のう主殿」

良いワケねーだろ。

「そういえば綿竹関にはメンマがなかったぞ」
「あたりまえですよ。麻竹の産地はもっと南の方です」

関係ねー!それよりまず劉禅の気持ちを確かめろ。

「ん、一刀ちゃん、これからもよろしくね〜」

本人が判っているんだか判っていないんだか。…そういえばいろいろな女性とあーゆー事になったけど、正式に結婚って初めてだな。


さて、作戦会議です。星にも事情を話し、これからの対応を考える事になりました。
あ、劉禅ちゃんは蚊帳の外ね。当然だけど。


では問題です。三国志の前半のヤマ場といえば赤壁ですが、後半のヤマ場といえば何でしょうか?

はい、正解は五丈原でしたー。…駄目じゃん、蜀的に。

なので、俺の知っている三国志の後半の流れを話す事にしました。
もちろん魏延とか馬謖に不利にならない様、大まかな流れだけですよ?


「…つまり、直接長安を狙わず、一旦涼州方面に地盤を築く安全策は、実際には涼州勢力の取り込みにまでつながらず、単なる戦力の逐次投入とその各個撃破、結果的に国力の低下ばかりでいい事は何もない…って事ですね。やってもいない未来の自分の失敗を分析するというのも不思議な感じです」

…一、話したら、十、分析されました。

「あとさきかんがえないばくちしかないほど、ひがのこくりょくにさがあるということです」

ひらがなだけだとわけわかりません。

「愛紗達がいたころならともかく、いまやツワモノと呼べそうな武将もあらかた物故しましたからな。当てになるのは私と…厳顔殿に…せいぜい魏延くらいなものですしな」
「ここにいるぞ!」
…今なんか通りませんでしたか?必死な顔の女の人が…
「気のせいでござろう」
「気のせいですね」
「きのせいです」

会議はそんなに時間が掛かりませんでした。なにせ朱里は天才軍師ですから。

「起こすは乾坤一擲、一世一代の大作戦」

そう。蜀にとって戦略の転換だ。

「呉との共同作戦は必須」

そう、蜀単体では魏には敵わない。蓮華との関係改善は不可欠!って事だ。
でもなにせ呉は蜀にとって先主達のカタキ。まともな外交経路すらない状態。
なかなかの難事ですよ。

「南蛮征伐は無益なのでとりやめとします」

そりゃまあそうだ。南蛮大王心服させても、北伐に来てくれるわけじゃないしな。

「いや待たれい!」

ところがそれには星から駄目出しが出た。

「南蛮は戦力とならずとも、蜀の後背を固めておかねば大作戦も初手でつまづきかねませぬぞ」
「…それほどのものでしょうか?」
「それに、この益州で配下になった兵達は、もともと平和ボケした劉璋の兵。戦馴れしていない事おびただしい。訓練の為にもどこかへ一戦しかけるべきでありましょうぞ」

結局、蓮華への使いは俺が。残りは南蛮征伐となりました。




[18126] 後・恋姫無双7
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/20 07:37
「ひどすぎるにゃ!もうやめてほしいじょー」
「こころをせむるがじょうさくなのです」
「だからってこれはないにゃ。美以にも食べさせてほしいじょー」

馬謖発案の、餌で釣るけど食べさせてあげない作戦…とかの罠が炸裂中。
ぅゎょぅι゛ょぅっょぃ。そんな状態。
孟獲すでに目は涙目/口はよだれである。

「…そろそろ本格的に降参しそうですな」
「これで演習になったんでしょうか…それより星さん、いままでどこ行ってたんですか?…!うわっその山盛り背負っているのなんでしゅか!」
「ふふ、さすが南蛮。麻竹のタケノコも逸品揃いでしたな」

サムアップでいい顔。おはようございます!くらいいいそうな星。

「それが目的ですか!国の大事をなんと心得ているんですか!」

南蛮征伐は実にほのぼのとしたものであった。

「それはともかく。主殿に聞きましたぞ。」

話を切り替える星。都合悪くなったから話を変える…というより人の話を全然聞いていないがゆえの切り返し技である。

「主殿は馬謖殿を朱里殿の娘と勘違いしたとか」
「あんな大きな子供がいる様に見えるなんて…私、憤慨しています」
「だが主殿の誤解も判らぬではない。なにせ一つ寝台で同衾しておるくらいですからな。もし年齢が離れていなければ曹孟徳のともがらと思われるところですぞ」
「あれは…あの娘一人だと恐がって寝れないからで…」

もちろん、夜中に一人ではトイレにも行けない。

「あの娘、姉妹がいたはずでは?」

馬氏の五常、というくらいで、五人姉妹である。馬謖は末っ娘であった。

「四人の姉妹と年齢が離れていたせいもあって、あまり仲良くなかったんですよ。一番おっぱいの大きかった馬良さんはじめ、あの娘の身体特徴をいじめてましたからね」

発育のいい一族であったらしく、馬謖はオミソにされていたのだった。

「昔の自分を思い出しますかな?」
「…そう。そうですね。そうかもしれません」
「昔は貴殿もちびっこ軍師呼ばわりでしたからなぁ」
「ええ」
「今でこそ『諸葛の大乳宇宙に垂る 痩身巨乳でも乳首ピンとしてツン』とまで詠われますが」
「垂れてません!ていうか何でしゅかその変な詩は!」
「先日行軍中に作りました。うむ、我ながら良い詩だ。詩聖の仲間入りできそうなほどですな。吟じていたら軍中にはやるはやる」
「とほほ」


んな事言っている間についに孟獲の心が折れたらしい。

「も、もう許してほしいにゃ。仲間になるからちゃんと食べさせてほしいじょー」

馬謖は持っている釣り竿を降ろす。孟獲は釣り下がった肉団子に食らいつく。

あぐあぐ。

…手を使えよ。

かくして南蛮は平定された。

「おや、川が氾濫している?そういう時はメンマのつまった饅頭を捧げるとよいらしいぞ。何せメンマは神の食物だからな」
「変な伝説残さないで下さい!」

南蛮征伐は実にほのぼのとしたものであった。




[18126] 後・恋姫無双8
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/20 20:33
「港に蜀の皇婿殿が来ておられます。供の人数からしてお忍びの様です」

明命の報告に、穏は小首をかしげた。

「皇婿…でしたっけぇ?確かまだ婚約者だったんじゃないかな〜って思うんだけど〜」
「は、正確には。しかし同様に扱われるがよろしいかと」
「そうねー、皇婿さんが噂通り天の御使いであらせられるなら、天子と同格。劉禅さんが天子を名乗っている以上、皇婿殿でも婚約者でも大した違いはないわね〜」


時ならぬ大物が長江を下って来て、南郡は大騒ぎである。

もっとも、実際にやってきたのは小船一隻。ついた護衛もたった一人。彼自身がきらきらしたその服をまとっていなければ、皇婿の一行としてはみすぼらしすぎただろう。

こちらが兵で囲んでは、逆にその狭量を問われる。そう考えた穏は明命だけ連れて迎えに出る。

「はじめまして〜。大都督 陸遜伯言と申します〜」
「周泰幼平です。おみしりおきを」

穏か。うお、相変わらずおっぱい大きいな…もう一人は何故か“くの一”っぽいお姉さん。

「はじめまして。北郷一刀です。こちらは鎮北将軍 魏延です」
「くっ!」

挨拶しやがらねぇ。睨むな、っていうか手が白くなるくらい拳握るのやめて〜。

魏延連れて来たのはまずかったかな。劉備に惚れ込んでいたらしいし、陸遜は敵もいいトコなんだろうな。でも、このくらい乗り越えなくては蜀呉の同盟など組めやしない。


挨拶はさておき。あと饗応なんかもあったのだがそれもさておき。本題に入る。


「蜀は先年来の貴国へのわだかまりを捨て、攻守同盟締結および、対魏の共同作戦の開始を希望します。つきましては呉王孫権殿に会見したい」

いきなり建業行って追いかえされると困るので、南郡立ち寄って穏に会うってのは規定路線。

「ふふっ♪魅力的な申し出ですね〜。でもそれってほんとーに蜀の、総意ですか〜?」

魏延がこの有り様ではな〜。そりゃ疑われもしますな。

「会見にことよせて呉王を暗殺する、なーんて?策略の可能性もすてきれませんしね〜」

しかたない。

「魏延。思う所を」
「イ?」

突然振られてびびる魏延。

「…正直に言っていいよ、焔耶」

しばらく考え込んだ魏延は、ボソリボソリと話しはじめた。

「…ワタシは…正直この女を殺したくて…仕方ありません。とう…劉備様を悲しませ、死に至らしめた主犯と言っていいですから」

正直すぎるよ焔耶!周泰さんの目付きがこええよ!

「でも…劉備様がいつも言っていた事を覚えています。『誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にしたい』という言葉を。その志を実現するなら、この女への殺意も捨てます。こんな男にも従います」

さりげに使者を軽んじる発言もナシにしてー。

「…というわけです。陸大都督。わが国で一番あなた方を嫌っている将軍の言。お聞きになりましたか?これをもって蜀の総意とさせていただきたい」

焔耶をこれ以上しゃべらさん方がいいので、話を受ける。

「…ふふっ。そう言われちゃうと、なかなか断りようがないですよね〜。では、荊州南郡の領有権はどうされます?そもそも呉と蜀の争いは荊州の領有権の諍いから生まれたものなんですよ〜」
「蜀は荊州の領有権を今後一切求めません。ただ、呉承認の元、共同作戦での軍の通過および策源地としての使用を許可してください」

この時期の軍隊のロジスティックスは現地調達抜きでは語れない。通らせろイコール、現地調達させろという意味だ。

「何度も荊州を軍隊が通る様だと、実質支配は蜀という事になりませんか?」

こちらは周泰の発言。荊州北部に対する侵攻は彼女の責任らしい。

「一回こっきり前提の共同作戦を提案します。詳しくはこの書簡を」

運搬性と証拠隠滅能力を期待した、高価な紙による外交文書である。

「そーですねー、作戦を読む前に言っておきますね〜。私これでも呉の大都督…てことになっているんで、あらかたのことは私の権限でできることなんですけどぉ…」
「孫権さんか」
「はいー。今の孫権様が蜀との同盟を追認してくださるか…すっごくむずかしいと思うんですよねー」
「呑んだくれになっているって本当?」
「…わたしの力が足りないのが残念ですね〜どうにか立ち直っていただきたいんですけど〜」

こちらとしても核心に触れる必要があるな。

「孫権さんが酒に溺れた理由って…お姉さんの事が原因?」
「(にこにこ)」
「周瑜さんの死も関係有り?」
「(にこにこ)」

笑ってごまかす気だな。

「陸遜さん。まぁおとぎ話としてでも聞いて欲しい事があるんだ」

使えるものはなんでも使おう。それが前の外史の話でも。

***

「正直、信じられないですね〜」
「…やっぱそうだろうね」

前の外史の話と、今の蓮華の状態に対する推測を話してみたんだが…手応えはあった…と思う。

「でもぉ〜、雪蓮と蓮華、そして冥琳の想い…という部分では、それなりの説得力があるかもしれませんね〜」

にっこり笑う穏。

「いいでしょう。その話が本当だとしても〜嘘だとしても〜、孫権様に立ち直って頂ければ、それでいい話ですし〜」
「では?」
「はい♪同盟締結は規定路線ということで。共同作戦の方は計画を読ませて頂いてからですね〜」

作戦書を読みはじめる穏。

「じゃ、俺は孫権さんの説得に行くつもりだけど…どうしたらいい?」
「そぉーですねー。私は南郡を離れるわけにはいかないので〜…あっちで小蓮様を巻き込んでください。きっと力になってくれますぅ〜」

読み進めるうちにくねくねしはじめた穏。

「諸葛亮さんったら…こんな作戦を〜あん…興奮しちゃいます〜」

突然発情するなー!




[18126] 後・恋姫無双9
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/21 07:54
えーそりゃないよー。大人の女性じゃん。
「シャオなんでもいうこときーちゃう」くらい言ってくれる妹を想像してたのにー。
すっごいりりしい大人の女性じゃん。つーか年上っぽくねー?
すっごいおっぱいもでっかいし…
…呉についてからおっぱいの事しか考えていない気がするな。

あ、北郷一刀です。今、建業の別邸の小蓮ちゃんの元に来ています。

周泰さんが護衛。魏延は建業に入れてもらえませんでした。まぁまだ敵国の将軍ですしね。仕方ないです。

「穏の紹介状は読んだわ。別世界で恋仲だったらしい、なーんて言われてもこまっちゃうけど。で、シャオにお願いってなぁに?」
「孫権様に対し、まず諌言を。そして同盟のお願いをしたいと思っております」
「えーそれ無駄だよー?シャオだっていっぱいお話して、でも聞いてもらえなかったんだよー」
「私は別世界で、その世界の孫権様…いえ、蓮華と冥琳の、孫策さんに対する想いを知りました。だから、解放してあげたい…その呪縛から」
「…でも、どうやって?」
「尚香さんとお会いして、一つアイデアが浮かびました」
「あ…いで…あ?」

***

月光の射す夜。
蓮華は執務室で潰れていた。

(…蓮華…蓮華、起きなさい…)

「ん…ね…ねぇさん?」

いやだ、私ったら。お酒の呑みすぎで雪蓮の幻まで見るようになったみたい。

(…ごめんなさい…蓮華。私はあなたを縛り付けてしまったのね)

「あやまらないで…」

(あなたは私の代りになろうとしたのよね…天下を争っていた私の代りに)

「…ねぇさん…」

(あなたはあなたらしく生きなさい…あなたには国を保つ才能があるわ。その才能を生かしなさい…)

「…?…違う!」

あ、覚醒した。

「お前!小蓮だな!どういうつもりだ!」

あちゃー、ばれちゃった。

「…わかっちゃった?ごめんねお姉ちゃん」

小蓮に雪蓮さんの仮装してもらって幽霊として説得してもらう作戦失敗ナリ。猿知恵っていうな。

「雪蓮はそんな風に真面目に話し続けられない!絶対どこかで茶化す!」

…どういうキレ方だよ。

仕方ない。矢面に立つか。

「恐れ入ります。尚香様には私がお願いしました」
「なにやつ!」
「北郷一刀と申します」
「蜀帝劉禅様の婚約者にして将来皇婿になられる方ですっ天の御使い様ですっ」

補足ありがとう周泰さん。…自分で言うと恥ずかしいからな。

「それがなぜこの呉王に猿芝居を打つ?」
「あなたにちゃんと政務に戻って頂かないとイケナイ事情がありまして」
「事情?」
「はい。蜀では呉とのわだかまりを捨て、対等な同盟を目指しております」

有り体にいうと信頼できないヨッパライと調印するワケにはいかんのです。

「ざれごとだな。蜀の皇帝とその義姉妹の死は私の命令から生まれたものだ。わだかまりなぞ捨てれる筈がない」

確かに「ほんとうにわだかまりを捨てる」のは難しいでしょうね。でもそれはきっと時間が解決してくれる。

「蜀の国是は一つです。『誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にしたい』。その為ならわだかまりも捨てましょう」
「…おまえは雪蓮と同じ事をいうのだな」

ここはたたみかけるところかな。

「蜀と呉とが同盟しなければ魏に対抗できない。判っているでしょう?」
「…」

単純な国力の問題だ。

「蜀呉が戦う事は魏に利する行為。判っていたでしょう?」
「…」

そう。あそこで蜀と呉とが戦わなければ、魏に十分に対抗できる勢力が完成した筈なんだ。

「でもあなたは国を拡大させたかった…孫策さんの様になる為に」
「…去れ」
「周瑜さんの拡大戦略を守る為に」
「…去れ!」

孫策さんは小覇王。中原に鹿を追った女性だった。
あの外史では周瑜さんすら孫策さんの後ろ姿を追って自滅した。

蓮華もそれを追い続けていたなら、呉が蜀に戦いを挑んだ理由が説明できる。

「関羽を殺させた事、今では後悔しているでしょう?」
「疾うに立ち去れ!」
「お姉ちゃん!」
「お前も出て行け!!」

愛紗ほど陸戦ができる人間が呉にはいない。
だから荊州を取ったところで、蓮華の拡大路線は停滞してしまった筈なんだ。


…が…駄目か?
あとひと押しな気がするんだが。
もう押す手がない。
…ひょっとして詰んだか?


「…蓮華様」
「明…命…?」

突然しゅるりと忍装束を脱ぎ捨てる周泰さん。
月光に裸身が照らされ白く光る。

「蓮華様…私を見て下さい」

打合せにない事なので、ちょっとドギモを抜かれた。
申し訳ないので直視しない様にします。あ、ちょっと残念なおっぱい。

「蓮華様…この傷を覚えてらっしゃいますか?」

からだに残る無数の傷跡を周泰さんは指す。

「これは反乱者共から蓮華をお守りした際の傷です」

肩と背中の傷を指す。

「これは黄祖を討った時の傷っ」

胸の傷。

「これは赤壁の時の傷です」

右腕の傷。

「私が全身に傷を負って戦って来たのは、…そんな蓮華様の為ではありません!」

悲痛な叫び。

「呉のみんなが幸せに、笑って暮らせる世界の為ですっ!みんなの為に昔の蓮華様にお戻り下さいっ!」

しんと静まりかえった部屋。


凍り付いたその場を破ったのはやはり蓮華だった。

「ごめんね…明命…」

周泰さんをハグする蓮華。

「心配かけちゃって…ごめん」

***

翌日。あらためて拝謁する。

「昨日はごめんなさい」

すっかりアルコールの抜けた蓮華。…やっぱ大人になりましたね。

「穏の書状は読んだわ。あなたの語る呉の未来もね。…呉としても停滞してしまった現状は望ましくないの。中途半端なままの覇業に意味はない。共同作戦に賛成するわ」


ここに蜀呉の再同盟が成立。
では、さっそく帰って出兵準備ですな。

「あら、もう少し残って式典に参加していって」

はぁ?

「延ばし延ばしにしていた、呉の皇帝即位式を行なうわ」

ほえ?

「蜀帝皇婿にして天の御使い様が立ち会う即位式なら、後で誰にも文句が付けられないでしょう?」

さりげに政治の道具にされました。

ここに蜀呉の再同盟が成立し、三人の帝が一つ天の下に並び立つ時代がやってきたのだった。




[18126] 後・恋姫無双10
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/21 19:40
「わたくし諸葛亮が申し上げます。先帝は創業半ばでお隠れになり…」
「むずかしいよぅ。朱里。もっとかんたんに言ってよー」

「…戦争に行って来ます。みんな頑張りますから劉禅様はいい子にしててくださいね」
「はーい。いい子にしてたらおみやげ買って来てくれる?」
「…はい」

さて、戦争開始です。

…といっても、実は同盟締結から1年近く過ぎてます。物資準備とか大変だったのと、呉との連係、将の調略、あと農繁期とかの問題もありまして。

「ワタシは子午道通って一気に長安を陥れる作戦を提案する!」
「その作戦は了承。でも焔耶は荊州組な、土地カンある方がいいし」
「わしの陣場はどこかのう?お館様」
「桔梗さんは焔耶の作戦の実行をお願いします」
「私は?」
「星さんは荊州方面に先行して下さい」
「ここにいるぞー」
「ここにいるぞーさんは斜谷を通って陳倉へ。副将は爾那ちゃんで」
「諒解っスよ」
「美以も参加するじょー」
「孟獲さんも荊州方面から進撃して下さい。盈ちゃんが案内します。あとトラ・ミケ・シャム量産型さんたちは兵站支援の別任務なんでよろしくー」
「にゃーにゃー」

成都はなんかてんやわんやです。

***

「あら、こんな簡単な計算もできないの?くすっ。でかい図体してなさけないこと」


泣きながら走り去る季衣。

衆人環視の中でフタ桁のたし算をやらせたらしい。

曹丕の嫌がらせは、基本的に宴会等の衆人環視の中でその人を辱める、というものだ。

(またやったのね)

季衣とすれ違いで入って来た詠。

お育てする際になにか間違ったかな、とさすがの詠も思ったが、その毒牙が自分(と屋敷にいる月)に向かない限り止める気もない。

それより、今は奏上せねばならない重大な事態が発生しているのだ。

「陛下、一大事よ。蜀と呉が攻勢準備にはいっているわよ」

立太子前からのつき合いの為、詠の口調は天子に対するものでは無かった。

「それってそんなに一大事…なのかしら、詠」

曹丕子桓。真名は搖花、だが彼女が真名を許した人間はもはやこの世に一人もいない。

容姿は概ね「父」である華琳そっくり。というか、彼女自身があえて華琳に似せるよう似せるように意識しているのだった。その方が政治的に有利だから。

「…どちらもこの洛陽まで攻め込める程の実力はない筈だけど」

山と川にそれぞれ遮られた二か国の攻勢限界点ははなはだ短い。この認識は正当と言えよう。

「どうも簡単に終らない、そんな気がするわ。…だからあの男を呼んだわ」
「…どうしても会わなきゃだめかしら。正直気が進まないんだけど」
「この魏でいま最強の武将。それも防衛戦に無類の強さを発揮する…他に選択肢はありえないわ」

むろん、男とは司馬懿仲達の事である。


「司馬懿仲達。命により参上つかまつりました」

簒奪者や陰謀家的な印象のある彼だが、実体は魏後半最強の武人である。

いかめしい風貌。太い首。隆々とした腕。広い背中。だれがみても頼れる武将としか思えないだろう。

だが。

「…あいかわらずね。その服なんとかならない?赤いフリフリが気持ちわるいんだけど!」

普通サイズのカワイイ系の女性服を、ぴちぴちに着こなしたでかいジジイ。

かって曹操はキモがりながらもその才を惜しみ、重用していた。
しかし、曹丕は明確に彼を嫌っていた。
理由;キモいから。

ひざまづかれるとミニスカートの中身が見えそう。
そんなの見たくないので曹丕は目線を外しながら話をする。

「聞けませんな。武帝様の御前でもこれで通したのですから、いまさら変えるはかえって武帝様に不敬かと存じます」

一言しゃべる度に、大胸筋群はうごめき、フリルを揺らす。
それも見たくないので曹丕は目線を外に泳がせながら会話を続ける。

「朕には目障りなの!なんでいつもそんな恰好なワケ?」
「…ばあさんや、ご飯はまだかいのう?」
「突然ボケた振りすんな、ジジィ!」
「……実は女物の着物を着ないと死ぬ病気でしてな。いた仕方なく」
「今考えたでしょその設定。どういう仮病よ!それ!」

曹丕のいびりは「いびられても気にしない」人間には何ら効果を発揮しない。そして仲達はその一人である。というか常に女装で通しているこの老人が、言葉によるいびりをいまさら気にするだろうか?

「ではご命令通り、対蜀呉戦線の指揮をとらせていただきます」
「方針を述べてみなさいよ」
「今まで通り荊州は文聘殿に。揚州は曹休殿に。それぞれ増援に兵10万ずつと徐晃、満寵を送ります」
「雍州は?」
「私が参ります。それでは準備がありますので失礼いたします」

雍州は長安を含む一帯。蜀の攻勢最前線となる予定の地である。

司馬懿は言いたいことをいうとミニスカートをひるがえし堂々と退出した。

曹丕はその絶対領域から目をそらす。


しかし、退出の直前、司馬懿は振り返って言った。

「長安はいささか手遅れかもしれませぬ。守将が、守将ですゆえ」
「首だけ正反対に廻してしゃべんな!キモ過ぎるわ!」

梟の様に廻る首は司馬懿のトレードマークであった。

***

長安の高い空の下、夏侯楙は、ぼーっとしていた。

夏侯一族から春蘭の養子に入った彼だが、春蘭の軍才は夏侯楙には受け継がれていなかった。

というか、春蘭は「きっとこの子は華琳様の御為に成る。というか成らせる」と激しくしごいたのだが、全然ものにならなかった。

春蘭に人を見る目がなかった、と言うより「華琳様の為になら人間になにも不可能な事はない」という思想の持ち主だった事の影響が大きいだろう。

子供の頃スパルタ教育を受け続けた彼も、春蘭の死後は自由を満喫していた。突然上からのストレスが無くなった彼が、ぼーっとしていたとて誰が文句を付けられよう。

「ぼー様、ぼー様」

部下達はぼー様と呼ぶ。それすらとがめない夏侯楙。

「敵襲きそうですぜ?子午道方面抜けて来た大物見がうろちょろしてるみたいです」
「んー?」
「洛陽への連絡と、長安の防衛体制発動やっときますかい?」
「ん、うまいことやっといてー」

長安の高い空の下、夏侯楙は、ぼーっとしていた。




[18126] 後・恋姫無双11
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/22 07:44
「ごほっごほっ」
「おかぁさん、大丈夫?」
「すまないねぇ、こんな体になっちまって」
「それは言わない約束よ」

粗末な碗に湯を注ぎ差し出す。

「それよりおまえ、大守さまのところにいなくていいのかい?蜀の軍隊が攻めて来るらしいじゃないか」
「うん、でも、なんか天水まではこないみたい」
「そうかいそうかい、良かったねぇ」

とある幸せな母娘の会話である。

***

「おお、ご無事でしたか。心配しておりましたぞ」
「…あぁ、女装のおっさんか。」

司馬懿、長安に布陣。

長安での軍権を夏侯楙から受け取る。

「別になんてことなかったよ」
「ほほう、それは頼もしい。さすがは夏侯惇殿の御子息ですな。初の防衛戦にも動じぬとは」

元勲の遺児にはそれなりに気を使う司馬懿。

「いやー、遠巻きにしているだけでやつら攻めて来ないんだよねー」
「はぁ?」

子午谷を越えて現れた軍勢も、陳倉経由で後詰に来た軍勢も、長安を半包囲するだけで何もしてこないという。

もちろん、魏軍は長安の外郭からの出入り自由。さすがに庶民の往来はできなくなったものの、これでは兵糧攻めには全くなっていない。

(馬鹿な…やつらの兵站線の長さからして長期対陣は避けたい筈だ)

「敵戦力は?」
「あっちの丘とそっちの丘に陣を張っている…見えるよ、ここからでも」
「…大物見は出されましたかな?」
「なにそれ?おいしいの?」

(クソガキ…)

「…牛金を呼べ!」

旅塵を落す暇もなく、牛金率いる千騎が出撃する。

***

「十万の軍勢が御到着か。ふふ、こちらは三万もおらんのに。豪気なものよのう」
「あのキんモイじいさんが司馬仲達っスか?目ぇ腐るかと思ったっス」

長安の城閣が見える丘の上に、逆茂木を組んだ、厳顔と王平の陣があった。

「あれで名将って言われているのが判らんのう」
「お、城門が開いたっス。敵さん出撃するみたいっス」
「おおかた大物見じゃろう。馬岱を呼んでくれんか?」
「ここにいるぞー!」

すかさず出て来る馬岱。

(いやー、名前すらでてこないかと、蒲公英、実は心配だったのよね)

「さて、子娘共、丞相閣下からの指令は覚えとるかの?」
「長安を攻めっちゃ駄目、っス」
「でも包囲も解いちゃ駄目」
「あと決戦もしちゃ駄目…っス」
「できれば戦力を知られるなって」
「相手が引いた時の追撃はいいらしいっス」

どうすればいいんだか。

「…ところが敵が少数でノコノコ出て来た。戦力を知られるわけにはいかんのう」
「はーい♪叩きにいきたいでーす」

馬岱の千騎が迎撃に出る。

***

「よう、嬢ちゃん。牛金様のお通りだよ。ちょいとどいてくんない?」

牛金隊の進路を防ぐ馬岱隊。

「馬岱よ、どくわけないよねー?」
「んじゃ軽く死んでちょうだい」

槍を構える牛金。

「それもないよねー?」

影閃を構える馬岱。

「ふぅっ」
「いっ!けー!」

一合、二合、と打ち合いが始まる。が、それほど長くは続かない。

「ひーやっぱ荷が重いや」

馬首を返し逃げ出す馬岱。

「待ちなよ!命置いていきなって!」
「うひゃーーー」

気軽にとどめを刺しにくる牛金。

その瞬間、牛金の頭が消し飛ぶ。

…轟天砲による遠距離狙撃である。

「イッテ〜」

と、実際にふき飛んだのは兜のみ。
衝撃でちぎれた兜の緒が牛金の首筋に赤い跡をつけていた。

「…味合わせ損ねたか」


牛金を収容した牛金隊が退却すると同時に、司馬懿の本隊が出撃する。

長安の城門全てが開き、十万を号する歩騎兵が出撃していく。

キモイおじさんを中心に美しい陣が組まれて行く。

もっとも城門から出て隊伍を組むのにほぼ半日。そして移動開始に一時間。

そんな悠長な事をしていたせいか、蜀軍の陣取る丘の一つに到着した時点で、そこはもぬけの殻。

厳顔と王平は既に他の丘に移動し陣を形成していた。

***

魏軍の攻勢は空ぶりに終ったものの、司馬懿は陣地跡を調査した。

結論。偽兵の可能性も含めて、丘一つの陣で一万から三万の間。
もう一つの丘も同程度なら最大六万の兵力で長安を包囲している事になる。

十万で守備する長安を六万の兵力で落せる訳が無い。
しかも十万の増援が来る前に落す、という動きもなかった。

「なにを考えているんだ?やつら…」

劣勢の兵で長安を囲む合理的な理由がみつからん。

この不条理に対する彼なりの、というか、彼らしい回答は。

「まさか、孔明の罠?!」

ピンポーン。一日を待たず司馬懿の元に報告が届いた。

上庸の孟達、反乱。




[18126] 後・恋姫無双12
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/23 08:05
「えっほえっほえっほ」
「にくたいろうどうはつらいにゃー」

木牛そして流馬。サイズに違いはあるものの、人力で運用する車輪付荷台である。

が、朱里が張り切って命名したものの、最近は主に南蛮兵が運用するが為におおざっぱに「ねこぐるま」と呼ばれている。朱里はその辺大いに不満らしい。

蜀ではこの珍発明を利用し、後方の策源地である成都及び漢中から前線へ向け軍需物資を運搬している。

「…おなか減ったにゃ〜」
「これ食べたら怒られるかにゃ?」
「きっと怒られるにゃ」
「でも我慢できないにゃー」

軍需物資は必要な場所に輸送してはじめて役にたつ。
しかし、輸送する途中で、輸送自体の為に物資は消耗されるものだ。

この例で言えば、食糧を運ぶ輸送隊も飯は食うのである。もし武器を運ぶ輸送隊ならば、輸送隊が食う飯も運ぶ為に、運べる武器の量は減らされてしまう。
そして運搬距離が長くなれば長くなるだけ、輸送隊自体が食う飯が増加し、ある距離を越えると全く物資が前線へ届かなくなる。

これが兵站による攻勢限界である。

ねこぐるまは蜀軍の攻勢限界に多少の延伸をもたらした。しかし、長安はなお遠いのであった。

「まっしろ」
「お砂糖かにゃ?」
「お砂糖だといいにゃ〜」

ぺろ。

「!」
「塩だったにゃ!」
「しょっぱいだにゃー」

ま、そういう事もありますわな。

***

孟達子敬。

もともと蜀将であったが、関羽敗死の際に「救援しなかった責任」を問われ、殺されてはたまらないと魏へ寝返った女である。蜀の関羽敗死パニックの被害者の一人と言えよう。

呉と蜀が同盟する、という事態は彼女にとって渡りに船。

関羽を殺した呉が許されるのと同様、彼女の「罪」も既に赦されていた。ここで成果をあげれば、大手を振って帰参できる。

「さて、ここに陣取ると、文聘ちゃんも困っちゃうだろうな」

作戦開始に先立ち、上庸から密かに兵を出した孟達は襄陽を緩包囲。同時に洛陽と江夏の連絡線を遮断した。

当然、江夏方面への援軍、徐晃がだまってはいない。

徐晃は、襄陽の解囲の為、少数の手勢で急行。包囲陣を探って孟達の所在を捜し出し、そこに強襲を掛ける。

「おれは!徐ッ晃ーォー!」

何故か自己紹介を大声で叫びながら、鎖分銅を投げて来る徐晃。

突然の攻撃に馬を倒される孟達。

そこへ短戟を抜いた徐晃が飛び掛かる。孟達は徐晃の手首を受け止めるも、馬乗りされた危険な状況。

「ふふ…ずいぶんと…大物が…来ましたね」
「おれは徐晃!」

巴投げの要領で徐晃をはね飛ばす。

「あなた相手で接近戦はきついわ。でも、あなたの相手は私ではありませんよ」
「?…うぉれっ!!」

横からの一閃。徐晃は短戟で受け止める。

「おおっと。不意打ち失礼。危急の時だったのでな」

常山の昇り龍。その龍牙は、あえて受け止められる様甘い一撃であった。

「…趙子龍…あなた、いつ出たら格好いいか計ってたでしょう」

趙雲は今回、一軍の将としてではなく、少数の手勢で先行し、孟達隊に与力していた。

「はて?…おっとざれ事を言っている暇はなさそうでござるな!」

体勢を整えた徐晃は体を引き、大きなモーション準備に入る。

「おっ!れっ!はっ!」
「…は!つくづく自己顕示欲の強い男よ…ならば応えよう。…我が名は趙雲!」

趙雲が構える。

「徐ッ晃ーォ!」
「華麗なる趙子龍よ!」

***

徐晃戦死。率いて来た援軍は指揮官を失い宛で立往生。

孟達は襄陽を包囲したらしい。

文聘の居る江夏は陸遜による重囲下にあり、最後の伝令以降の状態不明。

荊州は魏の実働戦力が皆無な状況となった。

襄陽の後詰めに呉の周泰の大部隊が北上中という。

洛陽から届いた連絡は、司馬懿にとって最悪のニュースだった。


(やられた。主戦場は荊州。それも呉のぬるい陸兵共でなく蜀が先鋒とは)

と言う事は、狙いは長安でなく、洛陽。

(洛陽までやつらの補給が続くとも思えんが…)

となればこの長安の半包囲は陽動か。

(しかし、うかつに後退すれば追撃が来よう…こちらからの決戦には応じまい…10万の兵を無為に拘束されるのか!)

連絡の竹簡を握りしめ司馬懿は中空を睨む。

(これは軍師殿がなんとか手を打ってくれんと間に合わんな…頼むぞ賈駆殿)





[18126] 後・恋姫無双13
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/24 11:07
皆が頑張って戦っている昨今、どこに消えたか?と思われていたであろう北郷です。

ただいま私、陳倉に来ております。

だって俺、戦場で全然役にたたねーし。
なので後方で別任務です。

現在、廻りの村なんかを巡って、説得工作です。簡単に言うと、移住を勧めに来ているわけです。

この時代、人口が激減していたせいもあって、土地の方が余ってます。なので各勢力が侵略後の土地から住民を本拠地近くへ強制移住、とか実は多くて、なんか黒い気持ちになります。

強制はしません。ええ、強制はしていませんが、…実は兵達が現地調達としてこの辺の麦を刈っちゃってますから、既にこの辺の農家に今年の収穫はないのです。
みなさんの目は虚ろを通り越しちゃってます。なので、

「蜀へ行きましょう。落ち着くまでの食事支給するし税も優遇するよ」

と誘うと…まぁ選択肢ないに等しいですわな。

魂がなんか汚れていく気がします。
でもそういうヤな仕事だけに人には任せる事はできない…ちくしょう。

***

洛陽。

次々と届く悪い知らせ。

賈駆は知らせをそのまま司馬懿の方にも廻し、彼に判断材料を与える事を惜しまなかった。が、だからといって座して司馬懿の判断を待つ彼女ではない。賈駆とてこの時代有数の実績を持つ軍師なのだ。

さらに。曹丕も戦意に不足が有る、とは決して言われないタイプの皇帝であった。

「…まずいわね」
「まず献策なさい、それでこそ私の軍師でしょう」
「状況を整理させて。第一に。長安はおそらく陽動。女装親父と10万の兵が拘束された状態」
「続けて」
「第二に。敵主攻軸は、おそらく荊州。すでに江夏と襄陽が包囲されている」
「しかも徐晃が戦死して、援軍が宙に浮いているわね」
「早急に援軍を再編成しなきゃいけない状況よ。そして現状を放置すると荊州を失う」
「で?どうするの?」

少し賈駆は考えてから続けた。

「曹休殿を寿春へ後退させるべきだわ」
「合肥…いえ、揚州は捨てるの?」
「どうせ一時的なものよ。いつでも取り返せる。今は淮水の線に戦線は後退させて、戦線を整理したいわ」
「満寵はどうするの?」
「汝南へ送りましょう。そこから江夏の解囲を試みさせればいいわ」
「襄陽は?」
「宛の部隊を使って解囲しましょう」
「…という事は、宛への最短距離にいる朕の出番ね」

曹丕は即座に洛陽の御林軍に出撃の指示を出した。
そしてそれを中核に親征軍を起こし、徐晃の残存部隊を吸収すべく宛へ急行する。

さらに留守居の為に冀州以北の兵の動員を指示。

皇帝親征による襄陽の解囲作戦の開始である。

がしかし。


「呉の友よ!今こそ立ち上がれ!我らが勇を見せる時ぞ!」

陣頭指揮は蓮華。
髪を切ったりりしい彼女の号令に、呉軍は応え、ときの声を上げる。

「ほぁーーーーーーーーーーーーーー」

陸兵10万を号する、呉の皇帝の親征軍が時を同じくして建業を出発する。

二つの皇帝親征軍が大陸に存在する、という異常事態に大陸は震撼する。


***

漢水のほとり、江夏の城。

文聘は城壁から全周を見下ろす。

呉の軍勢が幾重にも柵を作り、蟻の通る隙間もない。
漢水側を見ても水軍が游弋し、これまた手抜かりなさそうだ。

長くこの城を守る彼女にとっても、これだけの重包囲を受けた記憶はない。

「降伏…ってなぁ趣味にあわんなぁ。まぁ死ぬってのも趣味にあわんが」

呉の軍勢はこれだけの包囲をしながら、全く攻撃をしようとはしてこない。

「降伏勧告ぐらいせんか!『くそが』くらい言ってやろうと待っとるのに」

暇である。

文聘にとっての戦争は、意外に退屈なものだった。

***

魏の親征軍、宛に到着。早速残留部隊の吸収と再編成を開始する。

そんな中、襄陽からの伝令は驚くべき報告を持って来た。

「やつらはいったい何がしたいの!」
「不明瞭な報告ね、賈駆」

曹丕は不機嫌にたしなめる。

「…失礼しました。報告します。襄陽の敵撤退。周囲に敵影なし、です」
「賊軍共…どこに消えたの?」

追い討ちを掛ける様に、後方洛陽からの報告が届く。

「呉の孫権が直率する10万の軍が建業を出た?しかも寿春には近付きもしなかった?…それどころか空城の合肥まで回避して、洛陽への最短距離を進んでいる?」

(まさか、荊州も陽動?)

「その進路だと満寵の居る汝南にたどり着くわね。満寵に守備を命じなさい」

江夏の解囲はひとまず中止にするしかない。

「おかしい…。この広い大陸でこんなにうまく連係するなんて。どうやったの諸葛亮?」

***

その頃、本来の持ち場である長安を離れ、司馬懿は単騎、街道を駆けていた。

短い丈のワンピをはためかせながら、馬に鞭をくれる。

(独断で長安を離れた事、死罪に値するが…)

行ったはいいが首ちょんぱ、ではさすがの司馬懿も困ってしまう。

(ワシが主戦場へ行かねば敵の攻勢は止められぬ)

ここは少々策を弄する必要がありそうだ。



[18126] 後・恋姫無双14
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/26 18:29
成都にある朱里のおうち。

清貧で知られる彼女の家には数える程度の調度しか無い。

そんな寂しい部屋の寝台に馬謖は「んぎぎぎぎ」と苦悶の表情で寝ていた。

そう。一刀の強い要望で今回、馬謖は一人でおるすばん、なのである。

一人では夜寝られない馬謖だからといって、何夜も徹夜できるわけでない。
とうとう疲れて眠った様だ。

…と。

突然、馬謖の目がぱちりと開く。
あれ?目が醒めたの?

なんと馬謖のおめめにみるみるうちに涙が溜って行く。

「ぅぇぇぇえええええええん」

馬謖の下のシーツには見事な地図が。

やはり一人でトイレには行けなかったらしい。夜トイレに行かないで済む様に前夜から水を断ったのだが…無駄だった様だ。

(うう、これみられたら、じょーしょーにおこられる)

自力でなんとかする馬謖。

ピロリーン♪馬謖ちゃんにシーツ洗いのスキルがついた!

でも、シーツの下の蒲団にまで地図が描かれている、というのには気付かなかった。残念!

***

成都を留守にした朱里はどこへ行ったのか?

彼女は今、武昌にいる。ここで穏と、戦線全体の指揮を取っていた。

「曹休の部隊が寿春に後退を開始」
「満寵の部隊は汝南に進路を変えた模様」
「合肥は既に空き城。なんらかの罠がある可能性は否めず」
「長安からの攻勢は二日目以降なし」
「宛の偵察部隊より定時報告無し。潰された模様」

参謀本部。

一刀の発案で構築されたそのシステムは、各前線からの情報を集約し、効率的な戦力運用を行なう。

もっとも一刀は蜀呉共同作戦をどのように行なうか、の会議において、

「ミニスカのお姉さんがT字の棒持って積木を移動させる様な司令基地があればいいんじゃないの?」

という、周囲にチンプンカンプンな(下心含みの)説明をしただけなのだが。

「周泰には一旦南郡に戻るよう指令を」
「寿春に偵察隊を張り付けて。出撃してきた場合は後方を扼される可能性があるわ」

この時代の戦争は、軍を率いる将軍に兵権の象徴である斧鉞を与えた後は、将軍自身が情報を収集し判断する形式で行なわれていた。

高度な軍事的判断を将軍一人で行なうこのシステムは、「名将」と言われる有能な作戦指揮官を必要とした。

しかし、これが可能な人材は、蜀ではせいぜい魏延くらいしか存在しなかったのだ。


複数部隊を作戦方針に合わせ動かし、早馬や早船や伝書鳩や狼火で指令や報告を伝えるこのシステムにより、蜀呉の連合軍は優勢な戦略機動能力を獲得していた。

ちなみにこの基地では、ミニスカ美女のオペレータ達が現況報告にあわせT字型の棒(通称参棒)で地図上の積木の戦力マーカを移動する風景、というのは実現されたのだがそれを北の地の一刀が見る機会は訪れなかった、というのは明記しておこう。

「基本、敵の拘束を優先。決戦は避ける方針で」
「孫権様に〜、寿春の敵が移動したらぁ、すぐ逃げる様に伝えてね〜」

おそるべき事に、この参謀本部からの命令は、呉の皇帝親征軍すらその指揮下に置いていた。

***

参謀本部システムを持たない(あたりまえだ)魏軍では、前線の親征軍から、他の前線へ指令を送るのに、一旦洛陽を通す必要があった。さらに、他の前線の将軍がその指示をきちんと受け取れる保証も、実行する保証も無かった。

しかしながら、魏には魏で将軍の質での優越があった。

曹丕からの命令が来る前にも関わらず満寵は汝南に防衛線を展開。曹休は孫権軍を後方から突くべく機動した。
しかし、孫権軍はさらりとそれを回避し、合肥まで退却。


「もーなんで後手に後手に廻るのよー!」
「落ち着きなさい、朕の軍師に見苦しいマネはゆるさないわよ」
「…敵の連係が良すぎる。おかしい」
「最悪の前提で朕にとっての最善を考えなさい」
「あー、案がまとまらない!あのじじぃでいいからここに居れば!」

そうつぶやいた瞬間!
突然、天幕に飛び込んで来る赤い巨体!

 『可憐な花に誘われて』

筋骨隆々としたボディ。

 『美々しき蝶が』

ぴっちり着こなした女物の着物。

 『今、舞い降りる!!』

そして華麗な蝶のマスク。


「く…曲者!出あえ!来なさい!許緒!」

当然の反応であった。
あっさり季衣に取り押えられる華蝶仮面。

「朕に刺客とは…賊軍も焼きがまわったわね…こやつの首を切れ!」
「ちょ!ちょっと待った方がいいですぞ」
「お待ちください。陛下」

詠が止める。

「陛下はお若いのでご存じないかもしれないけど…コイツ、むかし世間を騒がせた正義の味方、華蝶仮面だと思うわ」
「ナン…だと?」

(ヨシ。誰もわが正体に気付いておらぬ。昔懐かしい華蝶仮面の姿を借りる事で司馬仲達でないワシとして陛下に自然に助言できるぞ)

「正義の味方…だと?」

謎の正義の味方の出現に眉を顰める曹丕。

「よし首を切れ!」
「アンタ悪の側かよ!」
「ちょ!ちょっと待った方がいいですぞ」

妹をいびり、敵から寝返えってくれた人を裏切り者呼ばわりでいびり、遊ぶ金を貸してくれなかったケチな親戚をいびり…。曹丕、ちゃんと自分が悪側の人間、という自覚はあった。

(業者に『アソアソに載ってる服は今後一切于禁に売っちゃ駄目』って手配したら于禁が口から血を吐いて死んだのにはびっくりしたけどね)

「…その華蝶仮面が何の用かしら」
「お困りと見て参上つかまつりました」
「ほほう?」
「軍議が 紛糾している御様子。ひとつお知恵をお貸ししたい」
「いらんわ!とっとと首を切れ!」
「あああああ即拒否?ちょ!ちょっと待ってくだされ」

しかたなく蝶のマスクを外す司馬懿。

「仲達!」
「あなただったの?!」

この事から、後に“魏志 司馬懿伝”の注釈に「後漢末を騒がせた華蝶仮面の正体は司馬懿だった」と書かれる事になる。

「なんでココにいるのよ、アンタ」
「長安は大丈夫そうなので、部下に任せて参りました。責任放棄は死に値するのは承知の上、何卒御慈悲を」
「朕が心配で単騎追っかけて来たわけね。いいわ。今回は許しましょう」

司馬懿も含めて再度軍議の開始である。

「腑に落ちませぬ」
「何がよ?」
「敵の目的が読めぬのです」

右手を掲げると指を1本折る。

「まず、第一に長安に現れた敵は、長安を落せる戦力では無かった」

曹丕はその指に注目したが、うっかり司馬懿の全身を目に写してしまったので慌てて視線を泳がせた。

2本。

「第二に。襄陽は囲みはしたが、すぐに放棄した」

3本。

「第三。空き城の合肥を素通りした…」

4本。

「第四。手近な寿春も狙わず汝南に向かった」

5本。

「第五。汝南を攻めるのかと思えば今度は合肥へ戻った…」

右手をひらりと返す。

「やつらの領土欲はどうなっておるのでしょうな?」
「国境沿いの都市に対して、まるでやる気が感じられないわね。…江夏を除けば」

詠も考え込む。

「考えられるやつらの目標は、まず江夏」
「考えにくいわ。いかに邪魔でも一都市落す為にしては作戦が大規模すぎるわ。私なら全土の戦力を江夏に集中して一気に落すわ」
「でなければ、洛陽」
「今の賊軍に洛陽を落せる可能性は無いわ」

この時代、城攻めでは籠城する側が極めて有利であった。

現地調達で補給を得ている以上、守城側の兵糧が無くなる前に、攻城側が現地調達すべきものが周囲の町村から枯渇してしまうのだ。

だから力攻めで落せるだけの兵力を集め、一気に落すのが常套手段である。
そして洛陽は蜀呉の遠征兵力で落せるほど小さくはない。

「でなければ…」
「でなければ?」
「陛下です」

司馬懿は不敬にも主君を指さす。

「!」
「陛下がご親征なされている以上、その野戦軍の撃滅は、ある意味究極の勝利条件です故」
「おもしろいわ」
「ただ、陛下がご親征なさるかどうか、あまりに不確定。これが第一目標とはどうしても考えられませぬ」
「では?」
「なので読めませぬ、と申しました。まるで雌雄を決さずにだらだらと戦争を引き延ばそうとしている、ように思えます」
「ではどうすればいいの?」
「敵がもっとも逃げなさそうな所を叩くべきでしょうな」
「…江夏」
「はい。他の都市と違い、江夏だけは厳重に包囲している様ですからな。もし敵が江夏から簡単に撤退したとしても、少なくとも損はしませぬ」

「決まりね」

華琳の娘に戦意の不足はない。

「朕が餌になるわ。もし狙いが朕ならば…逆に食い破って見せる!」

15万を号する戦争機械が南下を開始した。

#なんか仮想戦記みたいになってきたな…



[18126] 後・恋姫無双15
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/25 08:21
今回、蜀呉が出動させた部隊は各部隊せいぜい3万の編成。

実は蓮華の陸兵10万もはったりで、実数は3万しかなかったりする。

そんな中、南郡で待機している明命を主将とする蜀呉連合部隊は、唯一の両軍混成編成。総数も5万の増強編成で、遊撃軍として最大の期待をされていた。

しかし、その部隊は、既に微妙な機能不全に陥りつつあった。

「モフモフ気持ちいいですー。最高ですー」
「やめるんだにゃー」

 モフモフモフモフ

「美以は猫じゃないじょー」

 モフモフモフモフ

「なーぁん」

どうも部隊構成に問題があったっぽい。

***

だが、その部隊に武昌からの命令が下る。

宛から南下してくる魏の皇帝親征軍への横撃である。

魏軍は漢水沿いに南下する事で襄陽から補給を通す筈。

蜀呉連合は先ず漢水を渡り、襄陽と江夏の間で反転。横撃の時を待つ。

魏の親征軍が無能なわけはない。たちまちに伏兵を察知する。

無論、それは参謀本部の構想内。
双方が陣を構え、柵を作ればそれだけで数日が稼げよう。
江夏への南下を阻止する腹である。

しかし。

「踏み潰しなさい」
「は?」
「少数の賊軍など、なんと言う事はないわ」

曹丕の果断は、孔明の予断を凌駕した。

魏軍は行軍隊列のまま、数に任せて連合部隊に襲い掛かる。


明命に与えられた命令は「時間稼ぎ」。もしも魏軍が攻撃を仕掛けてきた際にはのらりくらり退避するのが任務。しかし、

「みなのもの、いまからほんきをだすのにゃ!」

いまいち命令がよく判っていないのか美以が勝手に飛び出す。
どうも部隊構成に問題があったっぽい。

魏の先鋒は俊英、王双。

「あら、仔猫ちゃん可愛いわね」

美以が王双めがけ、巨大猫にゃん棒…もとい、虎王独鈷に長大な弧を描かせる。

だか王双はそれを交差させた流星鎚で簡単に受け止める。

「かわいがってあげるわ」

王双の左右の流星鎚が縦に二重の半円を描き、時間差で降り注ぐ。

「ぎにゃー」

大将にも関わらず救出に飛び出す明命。

「この体躯!お猫様の盾となろう!」

…やっぱり部隊構成に問題があったっぽい。

指揮官が乱戦に参加した事で連合部隊は混乱する。


が、そんな中で一人冷静な女がいた。

「私が一当てする!全軍退却を!」

焔耶。

「わが戦友たちよ、戦え、戦って死ね!」

叫ぶや手勢を率い王双に横槍を入れる。

鈍砕骨を振り回し王双に迫る。

「こんなの受けちゃ死んじゃうわ」

王双は身を低くして大金棒をかいくぐり、自分の間合いに魏延を捉える。
左右の流星鎚が同時に魏延を挟撃する。
魏延は強引に後退し、流星鎚を躱す。

撃ち合うこと十合。

明命たちが撤退したのを確認し、焔耶も踵を返す。

「逃さないわよ」

追撃する王双。

しかし突然反転した焔耶が投擲した鈍砕骨に吹き飛ばされた。

王双の負傷により混乱した魏軍先鋒。

それにより蜀呉連合軍はことなきを得る。

蜀呉連合軍は東廻りで武昌へ向け撤退。

曹丕の親征軍は追撃せず江夏へ南下を続ける。しかし、彼女が到着する前に江夏の包囲軍は撤退を完了していた。

***

「陛下おん自ら救いの手をさしのべて頂けるとは。まったく感謝に堪えませぬ」
「文聘。あいさつはいいわ。何があったか報告しなさい」
「蟻の這い出る隙間もないほど包囲されましたが、それだけですな」
「他には?」
「やつら撤退ぎわに港を破壊していきました。面倒なことで」

(たったそれだけ?…蜀呉の戦力をあれだけ投入して、江夏すら取る気はないと?)

「陛下、早急に国境近辺の各都市に被害状況を調査させたいと思います」

控えていた司馬懿が、難しい顔で具申する。

「なにやら我々は勘違いしていたのかもしれません。この戦争の目的を」

曹丕は司馬懿のフリフリから目を逸す事も忘れ、彼を見つめていた。

***

江夏の解囲と同時に、大陸全土で蜀呉の軍勢は撤退を開始した。

長安を半包囲していた部隊もある朝突然居なくなっていた。

それに気付いた牛金は、精鋭一万を抽出し追撃戦を決行する。

西へ西へ。

追えども追えども蜀軍の姿は無かった。

が、牛金は別のものを発見する事になる。
周囲の風景がいつも見慣れたものと違っていたのである。

「雪…この夏に…雪?」




[18126] 後・恋姫無双16【完結】
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/25 08:34
あれから何年経ったろうか。

大陸を焦がした最後の戦の炎が消えてから、俺達は平和を満喫していた。

結局の所、蜀呉が最後の戦いで取った戦略とは、前進防御してからの焦土作戦に過ぎない。

魏には絶対勝てない。だから孫子の言う不若則能避之を実施させて頂いたわけだ。


蜀は一旦長安まで攻め込み、そこで稼いだ後背地を緩衝地帯にするために意図して荒廃させた。

陳倉付近の住民を巴蜀の地へ移住させた。更に運び込んだ岩塩を農耕地にばらまいた。塩害でこの地域の農業生産力は激減している筈だ。当分この地帯を策源に蜀侵攻を行なうのは難しいだろう。
非道な事をした、という自覚はあるが、毎年の様に戦争に巻き込まれて荒されるのと、いったいどちらがよかったろうか?

呉は長江北岸の一切を放棄した。淮水まで攻め上がった後、北岸側の港湾設備を破壊しながら後退した。御丁寧にも南郡などの北岸の領土は設備を南岸に疎開させた上で徹底的に破壊したらしい。

漢水合流点には、杭を多数打ち込み、大型船の進出を防ぐ工事を行なった。
江夏の重囲はその工事を秘匿し妨害から守るために必要だったのだ。

んで、蜀でも要衝の防備を強化する土木工事。

2ケ国合わせてせいぜい15万しか戦線に投入せず、残りの動員で土木工事をしまくったのだった。


天下三分の計は、天を三分するから天下三分の計なのだ。
一つの天を三人で共有しても、第1位の魏が天下を再統一してしまうのでは意味が無い。
天と天の間に、十分な距離が必要だった。


その結果、蜀は「誰しもが笑顔で過ごせる平和な国」を作り上げた。「蜀の誰しもが」限定になったのは劉備さんのこころざしからすると堕落かもしれないが。

呉は「呉のみんなが幸せに、笑って暮らせる世界」を作り上げた。

蜀と呉がきちんと内政をやって、外に野望を持たなければ…多分、この三国鼎立は相当の長きに渡って維持できるのではないだろうか。

魏も、多分、当分は戦争をしないで済む。あの戦いで苦しんだ人、今も苦しみ続けている人はいるかもしれないけれど…。

劉禅の膝の上で眠る劉璿の寝顔を見て、俺は間違っていなかった、と信じる事にしている。

「か〜ずと」

あれ?蓮華さん?ああ、今日は定例会議でしたね。
定例会議に片方の皇帝が参加しないってのが通例ってのは、どうかと思うんですけど。

「今日はお願いがあって来たの」

はい?

「子種ちょーだい」

はいぃ?

「蜀だけ天の御使いの権威を貰ってずるいわ。呉の方がずーーっと無根拠に天子を称しているのよ。天の御使いの権威、頂戴?」

何の自慢?ソレ…いやまぁ、北伐しなくても王朝の正統性を維持するのに『天の御使い』の名は有効でしたけど。
あー!ズボン脱がさないでー!あのカタブツだった蓮華がこんな!こんな!

ちょっと劉禅も止めてよ!

「いいよ〜。減るもんじゃないし」

いいのかよ!気にしろよ!

「陛下。ここは『この浮気者!』といって涙の一つも流すトコですよ」

朱里も止めろよ。

「このうわきものー」

棒読みかよ!

「うふ♪わたしも〜参加したいな〜って思うんですけど〜」

ああ、穏はそうでしょうよ。


騒がしくも、楽しい小さな天下。これからもいろいろあるだろうけど、ずっとずっと、みんなが笑顔で過ごせる国であるといいな、と思っている。

【終】



[18126] 後・恋姫無双 外伝 劉先主遺詔託孤児
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/26 18:30
朱里ちゃん…ああ、間に合ってくれたのね。

わたし、もう駄目みたい…。
最後にあなたに会えて良かった…おねがいしたい事があるの…。

あなたの才能って曹丕の十倍くらいあると思うの。
だから、蜀の国は大丈夫だよね。

私が死んじゃった後、阿斗ちゃんに君主としての才能があったら…

ううん、ないよね。わかってるの…あのこには君主としての才能はないと思うの。
じゃぁなんの才能があるの?って聞かれたらすっごい困るけど。
だから、あなたが皇帝になって…。

「はわわ〜、陛下、私、阿斗様に一生忠節を尽くしましゅ」

***

「ってとっさに言うしか無かったけど、本当の事いうわけにもいかないし、嘘も付きたくないし返事にすっごい困ったんですよね」
「…あと、曹丕に十倍ってのもちょっと納得いかないものがありました」

…あのー

「ふ、先主殿はすばらしい方であった」
「…だがあの阿斗様の扱いは正直、どうか、と思ったぞ」

***

「桃香様!阿斗様をお救いしましたぞ!しかし、甘の旦那は阿斗様の盾になって!」

「ああ?桃香様!阿斗様をなぜ大きく振りかぶるのです?」

ビッ!

「ひーーーーーーーーーーー」

ターン(ゴツ)

「ゴツって言った!今ゴツって言いましたぞ!!」

もぅ、こんな娘が居なきゃ、星ちゃんが危ない目に逢わないですんだのにー!
星ちゃんの方が大事!あなた程の武将は得がたいんだから!怪我しなかった?へいき?
子供なんてまた産めばいいの。あ、旦那もいなきゃ駄目かー、てへっ。

***

「将としては大事にしたいただいて有難かったが…あの時の周囲の凍った雰囲気…未だ思い出してもおぞけが…」

…あのー

「…あの衝撃が阿斗様の発育に与えた影響は否めぬしな…」

「発育といえば、私が来た頃は太腿の部分痩せに凝っていましたよね」

***

ここのお肉が、おにくが!えーん、朱里、痩せ方教えて〜。

「痩せるのに必要なのは適切な食事と運動ですよ」

わかった。がんばってみる。

あ、でもこのお肉おいしいね、鈴々ちゃん。

「鈴々ちゃんと一緒にばくばくご飯食べたらだめでしゅー」

***

「思えばあれが軍師としての初仕事だったんですか…」

…あのー

「肉と言えば、あの思い出話だな」

***

あのねー、星、知ってる?狼の肉ってすっごくおいしいの〜。

むかし、劉安さんっ、て猟師の人にお世話になった時に、ごちそうしてもらったんだけど、ほっぺた落っこちるかと思っちゃった。

でも、次の朝、劉安さんの奥さんがなんでか死んじゃってて可哀想だったなぁ。
お葬式とか大変だったんだから。

***

「うむ、あれは桃香さまの話から類推すると…」
「はわわー類推しないでほしいでしゅ!」


「…あのー!…ワタシ、桃香さまのお墓に初めてお参りしてるんです!少しはしんみり桃香様を偲ばせてくれませんか!」

「私達も偲んでますよ、ねぇ」
「勿論ですな。ここで偲ばずしてどうする?」

共同作戦後、蜀へ帰還する焔耶達の永安寄り道のお話でした。



[18126] 後・恋姫無双外伝2 星落秋風五丈原
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/27 19:35
じょーしょーじょーしょー

 …なあに、乃夜ちゃん?

じょーしょーって、じょーしょーって、いいにおいね。

 ありがとうね。

じょーしょーって、じょーしょーって、ふっかふか。

 …な…んですと?



「蜀の丞相殿はどうされているかね?」
「朝から晩までお仕事をされております。お食事ですか?食べて一日二〜三合ってとこですね」
「むう…それは…」

「丞相殿にお伝え下され。飯を減らして痩せても御肌に悪いですぞ、と」

「体を鍛えて基礎代謝を上げた方がよろしい」
「華佗殿の考えた五禽戯は効きますぞ」
「ほらほら大熊猫の姿勢!」
「こう!ここをこう!」
「みてみて!こう!」
「みてー」

蜀の使者は最後まで見ずに帰ったという。


…戦争しにくくなったので、逆に外交はさかんになっている御様子。




[18126] 後・恋姫無双外伝3 三都腐
Name: じる◆dd9afefd ID:f193b4ae
Date: 2010/04/28 20:05
時はあれからちょいと未来。

三国も統一され、世は太平となっていた。
え?どこの国が統一したかって?いや、考えてないんだ。ごめん。

さて。ここ洛陽で年二回実施される「混苦魔結党」は、大陸全土の文人が集まり、それぞれの著作を売る場として大きな役割を果たしていた。

んで、今度のそれに向け、ギーコ先生、ショーコちゃん、クレコちゃんの三人は、企画会議に頭を悩ませていた。

「最近、売上不振…よね」
「やっぱマンネリなのかなー、三国志」
「左慈と于吉と華佗と北郷を組み合わせて12通り。貂蝉と卑弥呼と司馬懿を変化球で入れても、たかがしれてるよ」
「…北郷は女が異常に好きって知られてるから、実質6通りだもんね」

バン!

「あの時代、やっぱ男武将すくな杉!」

机を叩いて立ち上がるギーコ先生。

「百合百合しい時代だもんね」

…。

「あのさ、思い付きなんだけど、こんなのどうかな?」
「?」
「あの時代の武将達、ぜーんぶ男に変えて話作っちゃうの」
「「それだっ!」」

「男の曹操…そーぞーつかねー」
「関羽は髪じゃなくてヒゲながくしよーよ、モッファーっと」
「周瑜×孔明とかいんじゃね?もちろん男で」
「魏延×孔明とか?ひー!」

彼女らの新基軸は大あたり。

三国志TSやおい本の大流行で洛陽の紙の値段が上がったと言う。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.084475994110107