騎士道────
それは、近代兵器が戦場を支配する現代においては古臭い理想論としか思われず、また実現するのは難しいかもしれない。
戦争は人間のエゴを剝き出しにする。
裏切り、貪欲、略奪、虐殺。
ありとあらゆる残虐で非人間的な行為がまかり通るのが戦場なのかもしれない。
しかし、だがしかしである。
もし、そんな中でも勇敢さや優しさを持ち続けることができる者がいたなら。
力を持たぬ人々を守護するために、誇りを剣に、誠実を盾に戦場を駆け抜けることができる者がいたならば。
そんな人間こそこう呼ばれるにふさわしいのかもしれない。
騎士の誉れ────
騎士の中の騎士、と……
魔導戦士ガンダム00 the guardian side.1 The creditable knight
ヨーロッパ山間部
息も白むような冷たい夜に、一つの影が屋根伝いに小さな集落を巡る。
屋根伝いに跳んで巡回するのはいかにも目立つと思われるが、上部、それも真上というのは人間にとっては決定的な死角の一つである。
しかも今日は月も雲に隠れ、明かりはお世辞にも大きいとは言えない粗末な家々から漏れる仄かな光だけ。
そんな中を黒いコートで闇に紛れた彼女が音もなく跳んでいるのだ。
よほど勘が鋭い者でない限り気のせいで済ましてしまうだろう。
(どう?)
(……大丈夫だ。まだ追手は来ていない。子供たちを休ませるように言ってくれ。)
シグナムは最後に鋭い視線を左へ右へと往復させた後、自らもアギトたちが待つ小屋へと向かった。
小屋
「お姉ちゃん!」
小屋に入るなり子供たちの抱擁が出迎えてくれた。
冷えた体に温かい手が心地よく、シグナムも「ただいま。」と普段でもなかなか見せないような最高の笑顔で答える。
それほどまでに、この小さな手がシグナムに与えてくれる多幸感は絶大なものだった。
「……………………」
……冷めた様子で壁に寄りかかっている幼い連れがいるとなおさらに。
「ほら、みんな。お姉ちゃんはおじさんたちと少しお話しなきゃいけないからまたあとでね。」
「え~?」
口をとがらせるが、シーリンに促されてマリナのもとへ戻る子供たち。
シグナムも少し惜しいと思ったが、今この時も危機的状況であることを忘れたわけではない。
わずかな油断が致命的な事態を招くのだ。
すぐに表情を険しくするとクラウスの前で、マリナ達には聞こえないように、報告を行う。
「今のところ追手らしい者は見当たらない。村の人間も我々の正体に勘付いた様子はない。」
「そうか……ありがとう。」
その言葉にクラウスもホッと胸をなでおろしたようだ。
近くの椅子を引き寄せて腰掛けると限界以上に張り詰めていた神経を吐き出した息と一緒に少し緩ませる。
しかし、この休息もいつまで続くかわからない。
一刻も早く他のメンバーと合流して、ようやく見つけた隠れ家まで向かわなければ。
「明朝ここを発ちましょう。我々は殿を務めながら、必要ならば陽動も行います。」
「すまないな。本来、客人である君たちにこのようなことを頼んでしまって。」
「水臭いこと言いっこなし!世の中持ちつ持たれつだよ!」
気軽に肩をたたくアギトだが、拠点を捨ててバラバラに散った面々、その中でもクラウスたちは何度もシグナムとブリジットに救われた。
拠点を強襲された際の囮に始まり、追跡してきた敵の迎撃。
敵をかく乱する意味も含め、各地に散ることになった後も、子供たちとマリナのことを心配してついてきてくれた。
その後は言わずもがな。
幾度となく尾行を撒き、ある時は打ち倒す。
その手並みたるや、騎士の称号を持つに相応しいものだった。
「しかし、皮肉なものだな。あの瞬間は手を取り合ったのに、終われば一転、また追う側と追われる側だ。」
「フン、なにを今更……派手に殺し合いをしといて仲良し子良しなんてできるとでも?」
シグナムの一睨みにブリジットは肩をすくめて再び閉口する。
だが、片や連邦の精鋭部隊で片やテロリスト。
ある意味、これが正しい関係なのかもしれない。
しかし、
(……それでも、信じたいと思うのが人間だろうに。)
事実、愚直に信じ続けようとしている人間がここにいる。
現実が見えていない理想論であることは本人も重々承知だろう。
それでも、その手を握り返してくる小さな命のために、刃を交える以外の方法で未来を切り開こうとしている。
だからこそ、そんなマリナがシグナムには眩しくて仕方がなかった。
「少し休む……すまないが、時間が来たら起こしてくれ。」
そう言うと、シグナムは逃げるように部屋の隅にうずくまり、まどろみに身を任せていった。
?????
最近、よく昔の夢を見る。
空は曇り、大地は赤で染まり、大気は絶叫で絶えず震えていた。
そんな世界で、戦場に現れてはリンカーコアを略奪する。
騎士とは名ばかりで、やっていることはまるで死神そのものだった。
シグナムも守護騎士という呼び名はあくまでプログラムの名称であり、自分自身そんな御大層なものだと思ったことは一度もない。
むしろ、騎士と呼ばれることが辛かった。
おかしな話だ。
そんな感情など不要なはずなのに。
矛を揃え並び立つ者と、そして白刃を交えて相対する者と、その両方と同じ称号で呼ばれることがシグナムにとってはひどく苦痛だった。
たとえそれがどんな意味を込めて発せられたものでも、シグナムの心にしこりを生じさせる。
闇の書が全てを滅ぼすその時まで。
今でも、なぜあの頃の自分がそんな風に感じていたのかは分からない。
しかし、今でも騎士と呼ばれる度にあの頃と同じ感情が時折心をよぎることがある。
時々、心の片隅に蘇ってはシグナムを罪悪感で苛む。
お前ごときが騎士の称号を手にしていていいのか、と。
血に汚れたその手で、子供たちを守れるものか、と。
お前の戦技も訓戒も幼いあの子に教え込んでいいものではない、と。
お前は、一国の王女である彼女やその周りにいる人間の側にいていい存在ではないのだと。
何度も、何度も。
過去に葬ってきた者たちが、何よりあの頃の自分が恨めしそうな瞳でそう訴えかけてくるのだ。
なぜお前がそこにいて、自分たちが冥府へ堕ちなければならないのかと……
小屋
「……シグナム。」
アギトの差し迫った声でシグナムは薄く眼を開ける。
小声だったにも関わらず夢の中から現実へと一気に意識を引き戻すあたり流石というか、なんというか。
夢の終わりと合わせて、つくづく自分という人間は戦場が似合いなのだなと自嘲したくなる。
「数は?」
「なんの?」と聞き返さないのを鑑みるに、どうやら“お客様”で正解らしい。
ダボダボの黒のコートのまましきりに窓から外の様子を窺うブリジットは振り返りもせずに指を三本立てる。
(三人だけ……のはずがないか。)
これまでさんざん返り討ちにあってきた相手にたった三人はあり得ない。
集団で動いて目立つようなヘマはしないだろうが、もっといると踏んだ方がいい。
「退路は?」
「ふさがれてる可能性大。一人で逃げるのも難しいかも。」
ブリジットはチッと舌打ちをすると、コートを脱いでさらにその下の服も着替え始める。
「何をする気?それに、その服…」
「地元の子供に小遣いを握らせて買い取った。こいつで連中を嵌める。」
子供たちを起こしながら、シーリンはブリジットが何をする気か悟った。
本来、大人である自分たちがすべきことを彼は一人でやる気なのだ。
「駄目よそんなこと!!」
シーリンやクラウスより早く、マリナが声を荒げた。
いくら体を揺すっても起きなかった子供たちもこれには驚いたのか、目を白黒させてマリナとブリジットの顔を交互に見比べている。
「まだ子供なのにそんな危険なこと…」
「ここで議論してる方がよっぽど危険だと思うけど?それに今までだって叩きのめしてやってるんだからいざという時も大丈夫だって。ていうか、いい歳した大人より子供の方がこういうのには向いてるよ。」
「そういう問題じゃないわ!!」
「じゃあどうすんの?」
ブリジットは首にマフラーを巻き、目深に被ったハンチング帽から少しだけ翠の瞳をのぞかせる。
「ここで仲良く捕まる?それとも、そこにいる非戦闘員を蜂の巣にされれば満足?」
「ちょっと……!!」
この物言いにはシーリンもカチンときた。
しかし、ブリジットの口上は止まらない。
「現実を見なよ。僕らにはこんな下らない議論をしている時間だって惜しいんだ。理想を持つのは結構。子供を戦わせるのは望ましくないってのも正論だ。でも、そのせいで誰も守れなかった後でも同じことを言える?」
そう、だからブリジットは銃を手に取った。
全てを失い、挙句に離さぬようにと握りしめていた最後の一欠片も零れ落ちてしまったあの日から、綺麗言など口にするのはやめた。
けど、
「……けど、ありがとう。心配してくれて。」
もし、戦わなくてもいいんだと言ってくれる人がいてくれたら。
自分や、自分の大切な人たちに優しい言葉と手を差し伸べてくれる人がいたら何も失わず、失っていたとしても血と硝煙で澱んだ空気の中に飛びこまずにすんだかもしれない。
だとしたら、そんな彼女を守り抜くことがブリジットにとってこのクソッタレな運命に対するささやかな復讐になる。
「マリナ様とお荷物の護衛をよろしく。こっちは適当なところで引き揚げるから。」
「……わかった。それと、少しばかり小言を言わねばならんから必ず戻ってこい。」
「へいへい。説教を免除してくれるならもっと生存率が高まると思うんだけどねぇ…」
シグナムの言葉に苦笑しつつも、ブリジットは床下の通路へ降りていった。
集落
まだ夜も明けきらない山間の村を物々しい様子で数人の男たちが走り回る。
農作業や放牧のために起きた人々が訝しげに小声で話し合っているが、そんなことなど気にせずに目標が潜んでいる場所を特定すべく全力を賭していた。
一人のみすぼらしい容姿の少年が話しかけてきたのはそんな時だった。
「おじさん。」
「なんだ。俺はガキの相手をしているほど暇じゃない。さっさとどこかにいけ。」
「マリナ・イスマイールがどこにいるか知りたくない?」
男の足がピタリと止まる。
子供には少し大きすぎるハンチング帽の下で口元が歪んでいる。
「どこにいる?出鱈目を言うと承知せんぞ。」
「出鱈目になるかどうかはおじさん次第だよ。」
そういうと少年は右手を開いて男に差し出す。
それが何を意味しているかは説明するまでもない。
(チッ……ちゃっかりしたガキだ。)
相当貧しい集落であることは一見して分かったが、貧困というのは純粋な子供の心さえも簡単に歪めてしまうらしい。
もっとも、彼も声を大にして言えるような真っ当な仕事についているわけではないのだが。
「ほれ。」
とりあえず手持ちから紙幣を数枚。
それでも不満そうだった少年に腕につけていたブランド物の時計を渡す。
この貧乏くさい村では逆立ちしたって手に入らないような代物だ。
これで落ちないなら、腕づくで聴きだすことになるだろう。
「……ついさっき森の方へ向かった。あそこはここの人間しか知らない抜け道がいくつもある。網を張ったって今からじゃ遅いだろうから、麓の町へ急いだほうがいいよ。」
少年が言い終わるが早いか、男は端末を取り出してついさっき手に入れたばかりの情報を仲間へ伝え始めた。
「……ああ、そうだ。ターゲットは森を抜けて麓に向かった可能性が高い。至急そちらに人員を…」
礼も言わずに足早に男は去っていく。
だが、ブリジットも男がまだいるにもかかわらず赤い舌を突き出して笑う。
「ざ~んねん。そっちは逃走経路とは反対の方向だ。」
受け取った腕時計を何の未練もなく地面に捨てて踏みつぶす。
そして、紙幣もそこらのドアの隙間から家の中へ押し込んで、ブリジットもシグナム達の後を追った。
旧街道
人の手が加わらなくなって久しい街道は、それでも通常の山道よりは格段に歩きやすい。
その分、見通しが良いせいで発見される危険性は高いのだがしばらくはブリジットのおかげでその心配もないだろう。
「彼、本当に大丈夫かしら?」
「今は信じるしかない。それよりも、坑道へ急ごう。あそこを抜ければ合流地点だ。」
今はもう使われていない坑道。
崩落の危険があるという理由から立ち入りが禁じられているが、中はほぼ一本道で迷うこともなく、迂回するよりも早く山の向こうに出ることができる。
問題があるとすればただ一つ、
「大丈夫か?」
「う…うん……大丈夫…」
そうは言うが、やはり子供の体力ではこの距離は長すぎる。
シグナムは肩で息をするその少女を背負い、いっそう歩みを早くするが、他の子供も限界に近い。
「……死んじゃうの、私たち?」
背中から聞こえてくるその言葉にシグナムはドキリとする。
心が折れかけている。
他のみんなに聞こえなかったのが幸いだった。
まだ幼い彼女たちにとって、この状況はあまりにも過酷なものだ。
一人でもこの言葉を耳にしていたならば、子供たちがパニックに陥るのは目に見えている。
そして、たとえここで諦めることが何を意味しているかわかっていても、歩みを止めていただろう。
『血に汚れたその手で、子供たちを守れるものか。』
夢の中の声が嘲笑うのが聞こえる。
だが、
(……勝手に、決め付けるな!)
シグナムは心にかかる暗雲を払いのける。
なるほど、確かに自分の手は血塗れだ。
はやてに仕えるようになったからと言って、過去の罪が消えるわけじゃない。
だが、その罪の責めを受けるべきは自分であって自分の周りの人間じゃない。
クラウスも、シーリンも、アギトも、マリナも、子供たちも。
自分が近くにいることで、みんなが傷つくことになるのなら、その脅威をこの手で打ち払おう。
主から与えられた誇りを剣に。
仲間と培った矜持は盾に。
戦場という名の地獄にあってなお、守り抜くべきは騎士としての務め。
力なき人々を守護し、その標となること。
「諦めるな。」
シグナムは小さくつぶやく。
アギトだけは何か言ったことに気付いたのか、シグナムの方を見る。
しかし、その内容までは聞こうとは思わなかったのか再び前へ向く。
背負った少女に見せる、涼やかな笑顔だけで何を言っているのかわかったからだ。
「きっとみんな助かる。何も心配することはない。」
根拠などない言葉。
しかし、シグナムの笑顔が、そして彼女から伝わってくる力強さが一人の幼子の不安をかき消した。
「……うん。」
「よし、良い子だ。」
眼前にポッカリと黒い口を開けた洞穴が見えてくる。
それを前に、シグナムは後ろに回した手に力を込めなおした。
(ここからが正念場だな。)
旧街道 はずれ
一方、ブリジットも街道を少し外れたところを走っていた。
いや、走らざるを得ないと言った方が正確かもしれない。
「チッ!」
岩の陰から飛び出してきたブリジットを複数の光が追いかける。
普通の銃から発射された弾丸が発光するはずなどないし、ましてやここまでしつこく標的を追いかけてくるはずもない。
となると、まったく異なる理を以って生みだされたものだということだ。
「ったく……こんなところで油売ってる余裕なんてあんのかっての!」
そこらの小石を一握り分ほど手にすると追尾弾へ向けて放り投げる。
炸裂音と同時にごく短時間ではあるが強烈な閃光が発生する。
その隙にブリジットは飛びあがり、上にいた一人を地に叩きつけて昏倒させると再び近くの物影に身を潜めた。
魔力光の色の種類と同時に仕掛けてきた時の方向から察するにまだ四人は魔導士が潜んでいる可能性が高い。
(どうしたもんかね……)
おそらく、業を煮やしたアロウズが管理局に協力を要請したのだろう。
しかし、またなりふり構わず来たものだ。
局に借りを作るより、カタロンのメンバーと地図の上から消えた国の皇女様を始末する方が重要とは、彼女達がそんなに目障りなのだろうか。
「ま……でかい口を叩いた以上はきっちり逃げおおせないとね。」
正直、ブリジットは攻撃魔法が得意ではない。
反面、オートリカバリーという特殊体質と治癒魔法はそこそこ使えるレベルであるため、それらを応用して肉体の強化を行っての格闘戦が主戦術となる。
まだ発展途上中とはいえ、そこらの工作員程度ならば軽くあしらえる技術はすでに身につけている。
問題は、敵がそこらの工作員や魔導士のレベルではないということだ。
もう先ほどのように不意打ちじみた攻撃は通用しない。
(弾の威力とコントロールから察するにランクはBより少し上ってとこか。非戦闘員に魔法を使えない兵士二人に過剰戦力もいいところだろ。)
苦笑をもらしたところで上からの気配を感じ取って前へ転がるように跳ぶ。
それまでいた場所がバンと小さく爆ぜて砂利を撒き散らすがブリジットは気にしない。
「The limited strengthening‐right arm, 200%.(限定強化-右腕、200%)」
腕力を限界まで強化し、さっきまで隠れていた岩に衝撃で袖が引き千切れるほどの威力で拳を撃ち込んで正面へ弾き飛ばす。
岩がその正面にいた魔導士へ飛んでいくその間も射撃が降り注ぐが、ブリジットは強化した脚で華麗なステップを刻んでそれらをかわすと自分で飛ばした岩に靴底を押しつけた。
「The limited strengthening‐left leg, 300%.(限定強化-左脚、300%)」
足の裏との密着状態から脚力だけで再加速された岩の速度は魔導士の予想を上回り、防御ごと彼を吹き飛ばして戦闘不能へ追い込んだ。
しかし、この一手で支払った代価は間違いなく魔導士たちよりブリジットの方が大きい。
「ク……ァ…!!」
左脚は内出血と靱帯損傷。
腹部でも内出血と筋肉にダメージ。
横隔膜もダメージを負ったのか呼吸困難が発生。
右腕は内出血と軽度の炎症。
完全回復するまでに必要な時間は全開状態で35秒というところか。
(クッ……!!ま、ず……左脚を行動可能レベルまで再生……横隔膜の、回復も…並行して最優先で…)
通常、人間の体は70%程度しか能力を発揮できない。
それは100%の力に肉体そのものが耐えられないからである。
しかし、ブリジットの肉体強化は100どころかその数倍にまで能力を引き上げる。
当然、耐久力も向上させているが、それでも限界はある。
通常は全身を満遍なく、その限界値を超えないようにコントロールしながら使用しているのだ。
だが、今回のように一部分だけを限定して、なおかつリミットを超えて強化するとどうしても反動が発生してしまう。
普通の人間ならばここで行動不能に陥るのだろうが、オートリカバリーという稀有な能力を有しているブリジットは時間をおけば戦闘に復帰できるというわけだ。
もっとも、回復するまで味方がフォローしてくれるか、回復が終わるまで敵が待ってくれればの話だが。
「………っ!!」
敵の反撃に顔をしかめながら強化した左腕で前へ跳ぶ。
呼吸器系は何とか回復したが、左脚はまだ少しかかる。
(12、11……)
あと10秒。
左脚を魔力弾が掠めるが、その痛みよりもまだ負荷の痛みが強い。
(9、8……)
あと7秒。
そろそろ左腕も限界が近いので強化を解いて右足一本でかがんでいた状態から宙へ飛び上がる。
(6、5……)
視線を上げると顔面まであと数cmというところで魔力弾が迫っていた。
すぐさま筋力強化を施し、首を左に曲げてかわす。
(4、3、2、1……)
─────ゼロカウント。
「!!」
とどめを確信して接近していた魔導士の顔色が変わる。
先ほどまで力なく伸びきっていた左脚が明らかに力を取り戻している。
しかも、あれほど乱れていた呼吸が整い、袖がボロボロになるほどの衝撃を受けたはずの右腕も何事もなかったかのようにファイティングポーズをとっていた。
この事態に近距離からの砲撃を考えていた魔導士もいったん立ち止まり、宙に浮かぶブリジットのさらにもう一段上へとあがって距離を置いた。
(おいおい……勘が良すぎるよ、あんた。)
あのまま調子に乗って突っ込んで来てくれればさっさと片がついたのに。
そう思わずにはいられないが、何せ相手が相手だ。
自分より格上にそこまで望むのは度が過ぎる。
そして、自分の希望通りに戦いが運ぶなどという考えは命のやり取りでは死を招く。
(残りは二人。こっちは全快したけど、もう同じことは無理だろうな。一人仕留めても残り一人が……いや、その前に逃げ回られて弱ったところを火達磨にされるか。)
それに、おそらくオートリカバリーはもう使えない。
オートリカバリーは一見してみるとメリットばかりのように思えるが、魔法戦においては決定的ともいえるデメリットも持っている。
それは、魔力の消費量。
常に傷を癒し、体に有害なものを排除しているということは、魔法を使わずにいても四六時中魔力を垂れ流しているのと同義なのだ。
故に、オートリカバリーを有している人間のほとんどが無意識に多量の食事を取ったり、常人よりも長時間の睡眠を取ろうとするなど魔力や体力の回復に努めようとする。
ブリジットはある程度能力のコントロールを心得ているが、それでも食事の量が人一倍多く、戦闘の後などは文字通り山のような量を平らげてしまう。
そんな能力を全開にして回復に全勢力を傾けたのだ。
あれほどの短時間でここまで回復するには膨大な魔力が必要であり、また、体力の消耗も激しい。
あれだけの重傷から一分もかからずにここまで回復させるに際し、実に総魔力の三分の一が持っていかれてしまった。
あと一回使えば戦うどころではない。
(あ~あ……こんなことならどこかでかっぱらってでもいいから鱈腹おいしいものを食べとくんだった。)
まあ、そうしていたとしてもこの状況を覆せるとは思わないが。
ただ、愚痴の一つくらいこぼしたってバチは当たるまい。
(しかし、魔導士まで投入してくるなんて相当必死だな……向こうは大丈夫なのかな?)
不意にそんなことを考えるブリジット。
そして、ふと思ったそんなことほど時に当たっているものだ。
坑道
「いたか!?」
「こっちにはいない!!そっちは!?」
「こっちもだ!!だがまだ近くにいるはずだ!!よく探せ!!」
魔力を極力抑え、シグナムとアギトは声を殺して潜む。
すぐ横では件の少女が今にも泣き出しそうな顔をしているが、シグナムが口元を手で覆っている意味を理解して泣かない努力をしていた。
(クラウスさんたちは大丈夫かな?)
(敵の大半はこちらに来ている。おそらく大丈夫だろう。しかし……)
敵の目的を完全に見誤っていた。
おそらく魔導士たちの狙いはシグナムとブリジット。
その証拠に遭遇してすぐにマリナやクラウスたちには目もくれずにシグナムに襲いかかってきた。
おかげでこのざまだ。
(手がふさがっていたとはいえ、かわしきれんとは……未熟。)
背負っていた女の子を庇った時に右の手首に傷を負ってしまった。
戦えないほどではないにしろ、これでは全力で戦えるかどうか怪しい。
「ごめんなさい……」
蚊の鳴くような声にシグナムは少女の顔を覗き込む。
「私のせいでお姉ちゃんに怪我させちゃってごめんなさい……私が自分で歩いてれば………」
「気にすることはない。守るためについた傷なら騎士にとってはこれ以上ない勲章だ。」
嘘偽りない言葉。
だが、その勲章を誇れるのはこの状況を切り抜けた後だ。
(敵は五人。うち魔導士が二人に騎士が一人か……)
魔導士だけでも大変なのに、騎士が混じっているとはなんとも笑えない話だ。
しかも、得物は窮屈な場所でも小回りのきく小刀型。
この狭い通路では、通常の長さの刃渡りのレヴァンティンとの相性は最悪に近い。
無手で行くという手もあるが、どのみち負傷している右手がネックになる。
(時間をかければ仲間が集まってこちらが不利になるか……となれば、先に余計な連中を黙らせた方がいいな。)
アギトとアイコンタクトを取った後、シグナムは守るべき者の頭をポンと優しく叩いてそこに残すと物陰から物陰へと移っていく。
そして、
「悪いな。」
「!」
銃を持ってうろついていた工作員の首を絞めて落とすと、コートを脱がせてそれで手首を縛りあげて岩陰に隠しておく。
(まずは一人……)
間を開けずに今度は近くにいた魔導士に狙いを定める。
不意を突く形で真ん前に躍り出ると、相手が杖を構える前に右手を蹴りあげた。
「きさっ……!」
(遅い!)
口元を押さえて素早く鳩尾に一撃。
ぐったりと倒れ込む魔導士を前の一人と同じように縛り上げた。
(これで二人。)
立ちあがろうとしたシグナムだったが、すぐ目の前まで音もなく忍び寄っていたアロウズの工作員に不覚にも体が固まる。
だが、
(シグナム、目を閉じて!)
目を閉じると同時に、瞳が瞼の向こうで何か激しく光る物を知覚する。
(そのまま前に!)
(承知した!)
声の導くままに目も開けずに拳を突き出すと、ゴリッと何かにめり込む。
「カハッ……」
敵が倒したことを確信していたシグナムは第二撃を叩き込まず、目を開けてアギトと少女に微笑みかけた。
「すまん、助かった。」
「いや、こっちこそごめん。たぶんこれでこっちの場所がバレた。」
「構わんさ。コソコソと隠れているのは性に合わないと思っていたところだ。」
〈Anfang〉
逆巻く炎と共に甲冑を身に纏ったシグナムは、痛む右手を庇いながら愛剣を正眼に構える。
「さがっていてくれ。巻き込まない自信はない。」
「う、うん。」
彼女が下がると同時に、甲高い音が暗い通路に響き渡る。
レヴァンティンも空気の震えに共振し、迫りくる何かにシグナムもアギトも神経を研ぎ澄ませる。
そして、その時は突然だった。
「シッ!!」
「ハアアァァァァァァ!!!!」
火花で互いの顔が一瞬だけ暗闇の中でくっきりと浮かび上がる。
片や剣士とは思えないほど端整な顔立ちをしながらも鋭い眼光を宿した女騎士。
片や日に焼けた肌と無数の傷、そして無精髭が粗野な印象を与える黒髪の双剣士。
すれ違いざまに視線をかわした二人は、休む暇もなく放った二撃目で鍔迫り合いに入った。
「ベルカの騎士も堕したものだ。よもや女子供を連れている人間に迷いもせずに刃を向けるとは。」
「テロに加担する奴に情けなんざ必要ないってことだ。それに…」
男は不敵に笑い、素早くバックステップを刻んで押し合いから脱するとシグナムの右手に鋭い突きを繰り出した。
「上の言うことにいちいち疑問持ってたら騎士なんざやってらんねぇんだよっ!!」
「クッ……!!それは違う!!」
痛みに顔をしかめながら右手に力を込める。
柄頭で剣先を受け止め、手首のスナップで間を置かずに斬り上げを敢行した。
「おっとぉ!!」
鼻先をかすめていく一撃必殺の斬撃に、それでも笑って男は猿と見紛うような身軽さで壁を蹴って空中からシグナムに襲いかかる。
「レヴァン…」
そんな敵に対してカートリッジを使って迎撃しようとしたシグナムだったが、その時になるまで自分が今どこにいるかを失念していた。
(しまった────)
カートリッジの発動は止められたが、剣の勢いだけは止められなかった。
「グアッ!!!!」
「シグナムッ!!」
攻撃をもらったわけでもないのにシグナムの口から漏れた苦悶の声。
固い岩盤に突き刺さった刃から伝わる衝撃を傷口はいとも容易く激痛へと変換し、彼女の腕から自由を奪う。
しかし、それでも左手を柄から離さずに剣を最後まで振り切った胆力を評価したい。
「あ~あ~、怪我人のクセして無茶すっから。」
ケラケラと笑う男は容赦なくシグナムの腹を蹴ってさがらせると、続けざまに彼女の肩に左手に握っていたナイフを突き立てた。
「ガアアァァァァァ!!!!」
「この!!」
「オイオイ、人の心配より自分の心配しろよ。」
その言葉にアギトはハッとして振り返る。
だが、少々遅かった。
「うわっ!」
誘導弾をかわしきれず、アギトは足からバランスを崩して地べたに落ちる。
「遅ぇよ。ちゃんと仕事しろよな。」
「…………………」
「チッ、愛想のねぇこって。」
バインドで動きが取れないアギトと、完全に右腕が死んだシグナム。
万事休すだ。
「しかし、あんたも奇特だな。わざわざ主に逆らうことになる立場に自分からなるなんてな。」
「ぐっ…!お前に………何が分かるっ……!矜持すら持とうとしない、貴様に何がっ!!」
「だがおかげで俺はこうしてピンピンしている。何を血迷ったのかあんな馬鹿どもに加担しているあんたたちはここで終わり。死んで花実は咲かないぜ?」
男は愉悦に浸りきった顔でシグナムの肩を抉り続ける。
そして、言ってはいけない言葉を口にした。
「だいたい連中を助けてなんになる?誰も知りたいとは思わないもののためにやたら騒ぐテロリスト。後はガキが数人と気の毒なくらい世間知らずのお姫さん。こんなやつらが死んで誰が泣く?」
「き…さま……!」
「だいたいあのお姫さんは自分の国を潰してるんだろ?そんな生きてる価値なんざ欠片も見出せない女のために体を張るなんざどうかしてるね。」
「………にも…」
「あ?」
「何も知らないくせに………!!マリナ様を侮辱するな!!」
彼女が何のために生きているのかを、歌っているのかも知らないくせに。
彼女の歌を聞いたこともないくせに。
「あの方は、この世界に残されたわずかな希望だ!!その希望のためなら、私は喜んでこの身も剣も捧げる!!」
「ほざけよ!!プログラム風情が!!」
男は残る右手の短剣をシグナムの心臓めがけて振り下ろそうとする。
だが、その直前に白い輝きが暗闇の中で煌めいた。
「そのプログラム風情にも劣るお前はなんなんだよ。」
アギトを拘束していた魔導士が頭から男の方へ飛んでいく。
目標の腰にクリーンヒットした魔導士はグッタリした様子で倒れるが、男はそんな彼を気にも留めずに上から襲いかかってきた小さな影に刃を振るった。
「チッ!!」
「この……クソガキがっ!!」
ブリジットの前髪が双剣に切断されてひらひらと宙を舞う。
しかし危機的状況にもかかわらず、ブリジットは左の中指を立てて勝ち誇る。
「後ろをよく見てみろよチンピラ。」
「っ!!」
この時、彼女のことが眼中になかったのは絶対的有利が生み出した油断のせいだったのか。
いや、違う。
おそらく、この取るに足らない存在だったはずの少年の持つ何かが自分たちの予想の遥か上をいっていたのだろう。
その何かが作りだしたわずかな間隙が、この男騎士の敗因だ。
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
炎の翼を大きく広げ、シグナムは左手一本で業火を纏うレヴァンティンを振り抜く。
生みだされた衝撃と熱風は狭い通路を駆け抜け、それに巻き込まれた人間一人を壁に叩きつけるなど造作もなかった。
「っぶないな!!こっちにも当たるところだったじゃないか!!」
〈当たってないんだから問題ないだろ。てか、そのボロボロのカッコどうしたんだよ。〉
あの一撃に巻き込まれかけたことを問題なしと断じるのもいかがなものかと思うが、アギトの質問ももっともだ。
ブリジットの上半身の衣服は既に布切れが辛うじて繋がっている状態の上に、血と煤と泥のせいで元の色がなんなのか判別がつかない。
もっとひどいのはその下の肌である。
己と人の血がブレンドされたものがベッタリとこびりつき、自己治癒も不完全なせいで流血が止まっていない傷もちらほらある始末だ。
「……少してこずった。」
「そうか。」
そんな一言で済ませられるような戦いではなかったことは明白だが、わざわざ強がって見せるなど可愛い一面もあるのではないかとシグナムはあえて追及しない。
それに、あっちも待ちきれなかったようだ。
「お姉ちゃん!!」
たまらず駆け寄ってくる小さな体を、満身創痍ながら左腕だけで抱え上げるシグナム。
出来るならその瞳から溢れている涙を拭ってやりたいが、生憎あいている右腕は汚れている上に上手く動かせない。
「大丈夫だったか?」
代わりに言葉をかけるが、それでも小さな泣き声は止まらない。
あれだけ強烈な体験をした上に、自分を助けてくれた人間がボロボロでは仕方ないだろう。
そして、その様子にため息混じりながらも手を差し伸べる人間が出てくるのも無理からぬことだろう。
「ったく……こっちも疲れてんのに無理させないでよ。」
文句を垂れつつもブリジットはガス欠寸前の魔力を振り絞って淡い光をシグナムの右腕に当てていく。
暖かな感触が通り過ぎた箇所から痛みが引き、凝固した血液ごと傷がふさがっていった。
「いいのか?余裕があるんならまずは自分の傷を治した方がいいんじゃないのか?」
「いいんだよ。そのうざったいチビが泣きやむんなら安いもんだよ。」
完治したところでシグナムは右手を握ったり開いたりを繰り返して具合を確かめた後、腕の中の少女をなだめる。
「ほら、私は平気だ。だから、な。」
「でも…」
まだ不安げな少女の瞳を不思議に思い、シグナムの振り返った先には、
「お兄ちゃんが…」
へたり込んで壁に背中を預けているブリジット。
フゥと大きく息を吐いて力を込めるが、数秒と持たずにまた座り込んでしまう。
「ごめん。やっぱさっきのでスッカラカンだったぽい。」
「まったく……無理をするからだ。」
呆れながらアギトとユニゾンアウトしたシグナムは少女を背中に回してブリジットを両手で担いで歩きだす。
「……これって普通は女の子専用だと思うんだけど。」
「女みたいな顔じゃん。」
「後で覚えてろよ『劣化の剣精』。」
「今なんかすっごい失礼なこと言ったろ。」
無駄に火花を散らすアギトとブリジットにどっと疲れを感じながらも、シグナムは口元に笑みを浮かべていた。
(子供、か……存外、悪くないかもしれんな。)
この日の出来事が、彼女にとって新たな家族を増やすことを初めて考えた瞬間だったことにシグナムが気付くのはしばらく後になるのだが、その話は後日に譲ることにしよう。
出口
運転手を務めるイケダは自分がひどく落ち着かない状態であることに今更ながら気がついた。
もし、このジープに子供たちやマリナが乗っていなければこの重圧に耐えきれずに逃げ出していたかもしれない。
いや、嘘はやめよう。
今でも、彼女たちの待ち人を見捨てることになってもアクセルを全開にしたい気分だ。
「クラウスさん、もう……」
「まだだ。もう少し待ってくれ。」
焦っているのはクラウスも同じだ。
しかし、騎士道に準じるわけではないが、今まで自分たちを守ってくれたシグナム達を置いていくことなどできない。
後ろでその帰還を信じて疑わない彼女達のためにも。
「お姉ちゃん、大丈夫かな……」
「もちろんよ。お姉ちゃんは強いもの。」
そう言いながらも、マリナは笑顔の下では心苦しさでいっぱいだった。
力があるというだけで戦場へシグナムを送りだすという理不尽。
そのくせ、自分はその後ろにいながら戦いを否定している。
────わからない。
矛盾しきったこんな自分を、シグナムたちはなぜ守ってくれるのかが。
ただ単に騎士だからというだけで、ここまでできるものなのだろうか。
だとしたら、マリナは彼女に言わなければならないことがある。
どれほど傲慢に思われても、伝えなくてはならない。
「……!静かに。」
シーリンが銃を構えて外の様子をうかがい始めると、途端に緊張感が伝染していく。
だが、それもやってきた人物の顔を見るまでは、だ。
「ただいま~。」
「遅くなりました。」
「……右に同じ。」
荷台に乗り込むより早く、歓声とたくさんの泣き顔が出迎えてくれた。
が、それよりもなお早く、ブリジットごとシグナムを抱きしめた人物がいた。
「マリナ…様……?」
「……約束して。」
震える声で、その涙でシグナムの肩を濡らしながらマリナは続ける。
「これからどんなことがあっても絶対に戻ってきて……!」
「し、しかし、戦いに絶対というものは…」
「そんなの関係ないわ!騎士道のためだけじゃない……あなたを待っている人のために、絶対に帰ってくると約束して!これはアザディスタン第一皇女、マリナ・イスマイールとしての騎士シグナムへの命です!」
「う……」
そこを引き合いに出されたらシグナムにこれ以上抵抗できるはずがなかった。
それに、はやて以外に帰ってきてほしいと言われるのも悪い気はしない。
「……わかりました。」
「……な~んか嬉しそうだね。」
「い~けないんだいけないんだ♪浮気したらいけな……ブッ!」
からかう二人にデコピンを一発ずつ喰らわせてシーリンに治療を頼むと、シグナムは走り出すジープの荷台で愛剣をマリナに手渡す。
「少々古風で亜流ですが、リンカーコアを持たないマリナ様にはこのほうがよろしいかと。」
レヴァンティンの重さがズシリと手に伝わってくる。
シグナムが今まで培ってきたもの全て、そして今とこれから先に背負っていくもの全ての重さだ。
それを意識した上で、マリナは跪くシグナムの肩にレヴァンティンの刃をのせて彼女から教わった口上を諳んじる。
「汝、剣たる者。我が志に殉じる心構えありや?是と為す時は剣をその手に、否と為す時は剣を地にうち捨て応えと為すべし。」
「我、マリナ・イスマイールの剣となるを是とす。故に、我が剣は御身に捧ぐ。その命に、永久に背かざることを我が魂に刻む。騎士シグナムが、今ここに誓い奉る。」
両手でレヴァンティンを受け取り、再びペンダントに戻す。
これで、正式にではないが二人は主従の関係だ。
つまり、先ほどの命令も有効というわけである。
「これから先が思いやられるね。」
包帯でグルグル巻きの状態で寝そべりながらブリジットがポツリとつぶやく。
しかし、シグナムは笑ってその言葉を受け流す。
(この誓いが破られることはないさ。なぜなら……)
騎士の誓いは絶対なのだから。
誉は求めるものではない
ただ、己の行いと共に在るものである
あとがき
えらく遅れてしまいましたがセカンドシーズン初のサイドでした。
リアルが忙しいのは人生が充実している証拠だと友人に言われましたが……こんだけ疲れると真剣にアニメの世界にダイヴするか雲になるか猫になるかしたいです(^_^;)
そして内容についてですが……
……ええ、言いたいことはわかります。
ぶっちゃけ最後のシーンをシグナムとマリナにやらせたいがために書いた話です。
クオリティ?そんなものは後回しに決まってお(殴)
……調子乗ってサーセンでした。
次回からは気合を入れねば……
それでは、次回もお楽しみに!