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[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian(機動戦士ガンダム00×魔法少女リリカルなのは)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/11/08 21:58
初投稿のロビンと申します。二次創作は初めてにくわえ、非才の身なのでお見苦しいものになるかも・・・。それでも読んでいただければ幸いです。
これは、ユーノが00世界にトリップする話です。お読みになる際は次のことにご注意ください。
1.基本的に00の世界で話が進みます
2.キャラ崩壊が起こる可能性があります(とくにユーノ)
3.かなりオリ設定がはいります
4.不定期更新になる可能性があります

以上のことを考慮して読むか読まないかを決定してください。


4月17日 チラシの裏で修業(大げさですが(^_^;))することにしました。ややこしくてすいません。

4月19日 ご指摘があったので大変勝手ながら一部を削除させていていただきました。

8月25日 first編が完結しました

8月26日 その他板に戻しました。これからも応援よろしくお願いします!

11月8日 strikers編終了&second編開始しました。
     普通に書くの忘れてた……
     それと、ご指摘があったので頭についてた【チラ裏】を外させてもらいます



[18122] プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
「・・・・え?」

そのとき、なのはには世界が停止して見えた。自分の背中の傷の痛みすらも忘れていた。聞こえるのはシンシンと降り積もる雪の音、遠くから響いて聞こえる爆発音と叫び声、そして、自分の愛しい人、ユーノ・スクライアの体から血が流れ落ちていく音だけだった。

「な・・・んで・・?」

なのはは事態をのみこめずに座りこんでしまう。

「な・・・・の・・・、逃・・・・・・・・て。」

だが、徐々に頭が冷えてくるにつれ何が起こっているかを理解する。ユーノの体を見えない何かが貫いているのだ。

(なんで・・・・!)

“気付かなかったのか”と思ったときに一か月前のユーノの言葉が頭の中に響く。

『あまり無茶のしすぎも良くないよ、なのは。ベストコンディションを保つのも魔導士にとっては大切なことだからね。』

そう、ベストの自分なら気付いていた、気付かなくとも押し込まれることはなかった。彼の言葉を真摯に受け止めていたならば。なのはは理解した。いや、理解していてしまった。自分のせいでユーノは死ぬのだと。

「いやぁ・・、いやあああああああぁぁぁっぁぁぁっっ!!!!」
ユーノを貫いている何かが徐々に姿を現す、そして周りからも同じものが現れる。それはなのはには目もくれずにユーノへと殺到する。

「なのは・・・・っぐう!」

ユーノは残された力を振り絞り笑顔を作り最愛の人への最後の言葉を紡ぐ。

「なのは・・・、ごめんね・・・・」

次の瞬間、ユーノの周りの機械が爆発を起こした。
「きゃああああぁぁぁぁっ!!」

なのはは爆風によって鋭く突き出た岩へと吹き飛ばされそのまま突き刺さる、かと思われたがそこに赤いゴスロリドレスを着た少女、ヴィータがギリギリのところでなのはを受け止めた。

「おい、大丈夫か高町なのは!」

「ぁああ・・・、あああ・・・」

「おい、たかま・・・」

その時ヴィータは気付いた。もう一人いたはずの仲間がいないことに。

「おい!ユーノは!ユーノはどうした!」

「ううぅぅ・・、うわあああああああああああぁぁぁ!!!」

「・・・そ・・んな、こんな、こんなのむごすぎんだろ!!」

ヴィータはなのはの号泣ですべてを理解した。ユーノはもうこの世にはいないことを。

「ちくしょう・・・!ちくしょおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」







なんてことのない任務のはずだった。その場にいただれもがそう思っていた。
だが、現実はときに残酷な一面を見せる。そう、管理局の若きエースにたいしても・・・。





あとがき・・・・という名の反省会
ユ「このような駄文を読んでいただきありがとうございます。この作品の“主人公”ユーノ・スクライアです♪」

ロ「おいぃぃぃぃっっ!何勝手に人の書いたもん駄文扱いしてんのぉぉ!?」

ユ「でも、事実でしょ」

ロ「うっ(反論できない・・・)、ま、まあそこは置いといて。何お前主人公を強調しようとしてんの」

ユ「だってただでさえみんなから淫獣とかむっつりとか言われてるからこういうまじめなので主人公はめったにないからね」

ロ「まあ、俺もかっこいいユーノとガンダムのコラボをみたいからこれを書いたんだがな」

ユ「まあ、見てくれる人間がいるのかってはなしだけどね」

ロ「・・・・・誰も見てくれなかったらどうするよ」

ユ・ロ「「・・・・・・・・・・・・・・」」

重い沈黙(脳内時間約5時間)

ユ「ま、まあこんな自己満足のようなものを読んでくださる方がいらっしゃったら心からお礼申し上げます。では、次回をお楽しみに!」



[18122] 1.後悔そして遭遇
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
時空管理局艦船アースラ

「…以上で報告を終了します。」

クロノは画面の向こうの上司に報告を行った。自分の中の感情を押し殺しながら。

「ご苦労だったな、クロノ・ハラオウン執務官。いつもながら鮮やかな手際だったな。ユーノ・スクライア君に関しては残念だったが、彼のためにもこれからの任務もいっそうの尽力を期待している。」

「はい、では事後処理があるのでこれで。」

通信を切ると、それまでため込んでいたやり場のない怒りをぶちまけ拳を何度も壁に叩きつけた。

「っ何がご苦労だっ!何が鮮やかだ!何も、何もわかっていないくせに!!」

そのままクロノは壁にすがりつくように崩れ落ちる。

心に残されたのは激しい後悔と深い悲しみ、そしてかけがえのない友人を失った喪失感だけだった。

(友一人も救えなくて、何が執務官だ……)

そのままクロノは声を上げることもできずにただ泣き続けた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.後悔そして遭遇


その後なのははアースラの医務室に運びこまれた。出血はかなり激しかったが、幸い背中の傷はさほど深くはなく大事には至らなかった。しかし、ユーノのそばにいながら救えなかったということが彼女の心に深い傷を負わせてしまっていた。

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ね、ねぇなのは、もう三日もなにも食べてないよ。ほら、リンゴむいてあげるから。」

暗い部屋の中で視線を虚ろにさまよわせているなのはに金髪の少女、
フェイト・T・ハラオウンは懸命の看病を続けていた。

「……ほっといて。」

「なのはのことみんな心配してるよ、ユーノだってこんなの喜ばな…」

「ほっといてって言ってるの!!」

突然語気を荒げたなのはに驚き、フェイトは尻もちをついてしまった。むいたリンゴが床に散らばった。

「ごめんね、フェイトちゃん…、でも今は一人にしておいて。」

「…わかったよ。」

フェイトは立ち上がるとドアを開けた。

「なのは、これだけは覚えておいて。」

今できる最高の笑顔を作りなのはのほうを向く。

「なのはは一人じゃない。どんなにつらいことがあっても、そのつらいことを私やみんなが一緒に背負うよ。」

それだけ言い残すとフェイトは部屋を後にした。なのはのために作った笑顔に涙が流れているのも構わずに。




ところ変わって、アースラの食堂には夜天の王、八神はやて。そして、その守護騎士たち、正確にはヴィータを除いてだが。
本来なら明るく話をしている彼らだが、今回は重く長い沈黙がその場を支配していた。
最初に口を開いたのは湖の騎士シャマルだった。

「シグナム、ヴィータちゃんは?」

「まだ、部屋にこもっている。」

「そう……」

剣の騎士シグナムは深いため息をついた。あれからヴィータも部屋にこもってしまった。なのはのように食事をとらないということはないが、いつもべったりだったはやてにすら、ろくに顔を見せなくなっていた。

「何もアイツのせいではあるまいに。」

「仕方ないわよ、それにわたしたちだって…。」

「だからといっていつまでも自分を責めてもどうしようもなかろう。」

「じゃあシグナムはユーノ君のことを忘れてもいいって言うの!?」

珍しくシャマルが声を荒げてくってかかる。シグナムも最初はシャマルの勢いに驚いたが、すぐに鋭い視線をむける。

「誰もそうは言ってないだろう!」

「同じことじゃない!」

「いい加減にしないか!!」

それまで黙っていた青毛の狼、盾の守護獣ザフィーラが怒鳴った。

「われらが今なすべきことは、言い争うことではないはずだ。」

二人はザフィーラの叱責を受け二人は冷静さを取り戻した。

「…ごめんなさい、シグナム。言いすぎたわ。」

「いや、私も無神経なことを言ってしまった。すまない。」

二人はに視線を落とした。彼女たちはわかっているのだ。あの場にいた全員があの時受けた悲しみを忘れられるはずがないことを。

「あれは……」

はやてが上を仰ぎながら話し始める。

「あれは、誰のせいでもないんや。ただ、偶然起きた不幸が重なってもうただけなんや。」

「主はやて…」

その時、ヴォルケンリッター全員がはやての目から透明なしずくが流れ落ちていることに気付いた。

「ごめんな、みんな。こんな泣いてばっかの弱い主で。でも、あと少ししたら、前を向いて進むから、今だけはこうしていさせてな。」





ヴィータは医務室に向かって歩いていた。あれから、ずっと泣き続けた。すべてから目をそむけて逃げ出したかった。だが

(そんなんじゃ、駄目だよなユーノ!)

だからこそ、彼女に話すことを決意した。彼の過去を、そして覚悟を。彼女がまた大空へと舞いあがれるように。





「ごめんね…、ごめんねユーノ君……。」
〈マスター…〉
なのはは暗い部屋のベッドの上で彼から貰ったデバイス、レイジングハートを握りしめながら泣いていた。幸せに満ちていたあの時を思い出しながら。







二か月前  地球 海鳴市

「ユーノ君?どうしたの?」

「え、えっとね、なのは。きょ、今日の夕方、僕らが初めて会った森に来てほしいんだ。」

なのはは突然ユーノから学校の屋上に呼び出された。行ってみるとそこにはフェレットの姿をしたユーノがいた。よく見ると顔が心なしか赤い。

「?別にいいけど…、ユーノ君ホントにどうしたの?」

「な、なな何でもないよ!じゃ、じゃあ詳しい話は会ったときに言うから!じゃあね!」

それだけ言うとユーノは足早に去って行った。……転送魔法まで使って。

「?へんなユーノ君。」





その日の夕方

「ユ~ノく~ん。」

「なのは~、こっちこっち。」

「おせえぞ、高町なのは」

「ええっ?なんでヴィータちゃんがいるの?」

そこにはユーノと大切な友人の一人、鉄槌の騎士ヴィータがいた。ユーノの顔はやはり赤い。

「こいつに頼まれたんだよ。見届け人になってくれって。」

「見届け人?」

なんの?と言う前にユーノが話し出した。

「あ、あのね、なのは。」

「?」

「え、えっと、その、あの。」

なのはに笑顔を向けられてドギマギしてしまう。

「おい…、早く言えよ。こっちまで恥ずかしいだろ。」

ヴィータも顔を赤くしながら、すごむ。はっきり言ってあまり説得力がない。

「う、うん。」

ユーのはこほんと咳払いを一つすると大きく息を吸い、なのはのほうへ一歩進み出た。

「なのは、僕は…、君のことが好きだ!」

「え、ふええええええええぇぇぇぇぇぇっっ!?!!?」

予想していなかった言葉になのはは混乱してしまう。だが、無理もないのかもしれない。まだ小学生、しかも初めての告白、さらに常にそばにいた家族のような人間にされたのだ。

(ユ、ゆユユユーノ君が、私のことをすすすす、すす好きぃぃぃ!?)

「ご、ごめんねなのは。突然すぎたよね。」

トマトのように赤くなっているなのはを見かねユーノがフォローに入る。

(あ・・)

なのはは改めてユーノの顔を見る。サラサラの髪、中性的な顔立ちに優しげな笑顔。
だが何より自分を幾度となく危機から救ってくれた、辛い時や大きな壁にぶつかったときに支えてくれたこと。
そしてその時自分の心に生まれた温かな気持ち。

(…そっか、私もユーノ君のこと)

なのははユーノをじっと見つめる。そして、ユーノもなのはから目が離せない。

「ユーノ君…、ホントに私でいいの?」

「うん…、なのはこそ僕でいいの?」

「うんっ♪」

「ありがとう、なのは。」

二人はそのまま抱き合った。そして、徐々に唇を近付け……

「あ~、あのさぁ…。」

その瞬間二人は固まり、声のしたほうを見る。そう、彼らは忘れていた。見届け人として連れてきた一人の騎士のことを。

「続きは後にしてくんねぇ?」

ヴィータは背を向けて立っているが、後ろから見ても顔が紅潮しているのがわかった。
二人の頭からはボッという音とともに蒸気が出る。

「「そそそ、そうだね!!」」

二人のセリフがシンクロする。そしてそのまま互いに紅潮した顔を見つめる。その様子があまりにもおかしく

「ぷっ、くくく」
「ふふふふふふふふふ」
「くっ、くくくくく」

「「「あっははははははは!!」」」

そのまま三人は、大声で笑った。



「ねぇ、なのは。」

ひとしきり笑いあった後ユーノが口を開いた。

「なあに?」

「僕がずっと君のことを守るよ…、これから先何があってもずっと君のそばにいる。約束する。」

「…うん、約束だよ。」

ヴィータはこの様子を遠くから眺めていた。いつまでもこの幸福な時間がいつまでも続くように願いながら……







「ユーノ君…」

ユーノは最後に謝っていた。約束を守れなかったことを。約束をやぶらなければならなくしたのは自分なのに。

「そう……、みんな私のせいだ。」

〈それは違います!決してマスターのせいではありません!〉

レイジングハートの言葉も今のなのはには届かなかった。
そして、なのはの心が徐々に黒い感情で埋め尽くされていく。ふと横に目をやるとフェイトが使っていた果物ナイフがあった。
なのははそのナイフを手に取り自分の手首に静かに当てる。

〈マスターいけません!〉

「ごめんね、ユーノ君…」

なのはがナイフを引こうとしたその時

「バカヤロー!なにやってんだ!」

ヴィータが部屋に飛び込みなのはの手からナイフをはたき落した。

「なにやってんだ!」

「ヴィータちゃん…、何って、死のうとしてたんだよ?」

「っっ、そんなことしてユーノが喜ぶわけないだろ!」

「…ヴィータちゃんになにがわかるの?ユーノ君のなに、…が?」

なのはは言葉を紡げなかった。なぜならそこには今までヴィータの見たことがないほどの、はやてから貰ったウサギの人形を落とされた時よりもなお凄まじい怒りの表情があったから。

「てめぇこそユーノの何がわかってるってんだ!アイツの過去も、お前に告白する時に決めた覚悟も、何一つ理解してねぇじゃねえか!」

何を言っているのか?過去、覚悟?一体何のことかなのはにはわからなかった。

「…教えてやるよ、アイツの背負っていたものをな。」

それは、白き少女が最愛の人の真実を知る時……






西暦2304年  地球  ゴビ砂漠

生物の影一つない死の砂漠にそれはいた。萌黄色と白を基調とする巨大な人型のロボット。
額には二対に飛び出たアンテナ、両手にはそれぞれ杭打ち機のようなものがついた盾と、刃が装着された盾があり、背中の動力部と思われる個所からは淡い緑の粒子が放出されている。

「ガンダムシルト、GNドライヴとの同調律97.2%。システムオールグリーン。さっすがイアンが調整しただけはあるわね。いい子にしてくれてるわ。」

ロボットを操縦していた少女、エレナ・クローセルは満足そうに笑った。

『そいつはどうも。さて試運転は終わりだ、戻ってきてくれ。』

「りょうか~、い?」

通信を切り拠点に戻ろうとしたその時、エレナは誰かがすぐ足もとにうつぶせで倒れていることに気付いた。

「ヤッバ、今の見られてた?」

その瞬間、眼鏡をかけた堅物の少年の顔がよぎる。そして、その人物にネチネチ嫌味を言われる光景が目に浮かぶ。が、その思考は長くは続かなかった。

「って、あの人怪我してる!?」

カメラアイにうつった姿は凄惨そのものだった。血で真っ赤に染まったマントと服、そして腹部には大きな刺し傷、さらに体のあちこちに火傷が確認できた。
エレナは応急措置のための道具を持つとすぐさまコックピットから降り、治療を行うためにその人物を仰向けにしたが、

(わ……)

その時になってエレナは、初めて倒れていたのが自分とそれほど年が変わらない少年だと知った。
サラサラの髪、中性的で整った顔立ちをしていて美少年といっても差し支えがないだろう。

「結構好みかも…、じゃなくて!」

ぶんぶんと頭を振って邪念を追い払う。

「意識はないけど、脈はふれてる。これなら助かるかも!」

と思ったところでふと思いだす。自分が所属している組織がまだ人前に、世界にその姿をさらしてはいけないことに。
本来ならここに置いていくべきなのだが…、

「まあ、しょうがないか。これも何かの縁ということで。」

エレナは少年を担ぐとそのままコックピットに乗り込み、通信を開始する。

「イアン、聞こえる~。」

『ああ。どうした?』

「治療の準備しといて。」

『は!?おい、まさかガンダムに不具合が!?』

イアンは心底あせる。が、彼の心配は思いもよらぬ報告で打ち砕かれる。

「大丈夫、お客さまを拾っただけよ。」

『おい、お前まさか!?』

「じゃ、よろしく~♪」

『あっ、コラッ、おいっ!?』

言いたいことを一方的に伝えて通信を切った。

「待っててね、すぐに治してあげるから。死んじゃだめだからね!」

こうして少年は世界に革新を促す者たちに出会うこととなる。










あとがき・・・・・・・という名の自虐

ロ「来ちゃったね~、おい」

ユ「そうだね~。皆様を大変お待たせしての第一話」

ロ「ぐはっ!」  ロビンに何かが刺さる

エレナ(以降 エ)「まったくよね、そのくせ私(オリキャラ)、出しちゃうし。」

ろ「う、うっさいな、ユーノをガンダムに乗せるにはこうする以外思いつかなかったんだから…」

ユ「えっ!僕乗るの!?」

ロ「いやならやめるか?」

ユ「いえいえめっそうもない!S・Y・U・J・I・N・K・O・U なんだから乗りますよ!!」

エ「てか、なんで主人公をそこまで強調すんのよ。」

ロ「くわしくはプロローグのあとがきを読め。」

ユ「それより僕はこの子とどうからんでくの?」

ロ「ネタバレって言葉知ってる?まあ、なのはに告白されたのに他の女になびく淫獣を描こうと思う。」

ユ「だから淫獣言うな!」

ロ「まあ、軽くハーレム的な感じになってユーノがウハウハみたいな?」

ユ「ちょっとぉぉぉぉぉっ!!何言ってんの!?皆さん嘘ですからねぇぇぇ!!」

(注) マジで嘘なのであしからず

エ「でも、私といい感じにはするんでしょ。」

ユ「え、そうなんだ。具体的にはどんな…」

ロ「ストップ!それ以上はホントにネタバレになるから。」

エ「まあ、なにはともあれ、これからよろしくねユーノ♥」

ユ「う、うん。」

主人公、新ヒロイン(?)と握手をしようとするが…

なのは(以降 なor魔王)「ユ~ノく~ん」  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

ユ「な、なのはっ!?」

魔王「私というものがありながら~!!!!」

ユ「ち、違うんだなのはこれには深いわけが…」

魔王「問答無用!!全力全壊!スターライト・ブレイカー!!」

ユ「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

新ヒロイン(?)どこからともなく現れる

エ「ふう、危なかった。では最後にこのような拙い文を読んでくださった皆様ありがとうございます!では、次回もお楽しみに!!」



[18122] 2.過去
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:37
(よかった…、守れた…)

薄れゆく意識の中、ユーノは安堵していた。なのはは傷こそ負っているものの、この程度なら大事には至らないだろう。ただ守られ震えて見ていただけの昔とは違い、今度は守れたのだ。だが、

(約束…、守れなかったな…。)

あの日誓ったこと、ずっとそばにいるという約束をやぶってしまった。これは罰なのだ。本当の自分を打ち明けることができなかったことへの。だが、きっと彼女は自らを責めるだろう。優しいから、優しすぎるがゆえに。
だから、最後に言わなければならない。彼女が前を向いて歩いていけるように。

「なのは…っぐぅ!」

全身を電撃にうたれたかのような激痛が走る。それでもユーノは最後の力を振り絞り笑顔を作り、最愛の人へ最後の言葉を紡ぐ。

「なのは…、ごめんね…」

周りの機械たちが赤く光り始め、爆発した。その時、爆発した機械たちのうちの一機から青い宝石が飛び出し激しい輝きを放った。そのことに気付いた人間は誰もいなかった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian  2.過去

西暦2304年  地球  ゴビ砂漠

(ここは…?)

ユーノはぼんやりと思考を巡らせていた。どうやら自分は砂の上に倒れていることが理解できた。そして、

(く、ううぅ…)

自分の命が長くはないことも。

ヒィィィィィィィィン

(………?)

どこからか風のような音が聞こえる。だが、風にしてはどこか機械的で、それでいて澄み切っている。ユーノは力を振り絞り視線を上に向ける。
そして、“それ”を見た。緑色の光をまといながら空を飛ぶ巨大なロボットを。

「天、使…?」

ユーノは思わずつぶやいていた。萌黄色と白の美しい体、何よりまとった光が羽のように見えた。そして、疑問が浮かぶ。あれはいったい何なのか?自分はどこにいるのか?そして、

(僕は…、一体、誰なんだ?)

だが、問いの答えを知る前にユーノの意識は闇へと沈んでいった。










時空管理局艦船アースラ  医務室

「ユーノ君の、過去?」

なのはにはわからなかった。スクライアの一族に育てられ、幼くして遺跡の調査と発掘をしていた。それがすべてではないのか?

「やっぱり、何にも聞かされてなかったんだな。」

ヴィータは深くため息をつく。

「だったら教えてやる、アイツの背負ってたものを。」

そう、話さなくてはならない。もう一度なのはが大空に舞い上がれるように。











なのはが告白を受ける一か月前

「おい、ユーノ。いつになったら高町なのはに言うんだよ?」

ヴィータは桜台で魔法の特訓をしているなのはを見守りながら足元にいるフェレット姿のユーノに言葉をかけた。

「な、何言ってるのヴィータ?」

ユーノの顔が一気に赤くなる。それを見てヴィータは意地の悪い笑みを浮かべる。

「好きなんだろ、高町なのはのこと。」

「え!いや、べべ、別にそんなこと!」

「気付かれてないとでも思ったか?高町のニブチン以外はみんな気付いてるぜ。」

「ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?!!!!!?」

「ふぇ!?ど、どうしたのユーノ君?」

なのはは驚き特訓を中止して二人のほうを見る。

「な、なんでもないよなのは!」

「いや、こいつがお前のこと・・・」

「ワーーーーーーーーーーー!!」

ユーノはヴィータの体を信じられない速度で駆け上ると、口を必死で押さえこむ。

「ふぁにふんらふぉのひゃるぉ~!(何すんだコノヤロー!)」

「あははははははははははははははははははは!」

ヴィータはユーノを必死ではがそうとするが、ユーノも死に物狂いで押さえようとする。その様子があまりにもおかしくてなのはは笑ってしまう。

「わら、うな~!」

やっとの思いで口からユーノを引きはがす。その口はよほど強い力で押さえられていたのか赤くなっている。ユーノはユーノで普段はきれいに整っている毛並みがボサボサになっている。

「にははは、ごめんごめん。でも二人ともとっても仲がいいんだね♪」

「「よくない!!」」

二人は否定するが、実際ユーノとヴィータはよく一緒にいる。闇の書事件以降、よく二人でアイスを食べに行ったり、はやての誕生日プレゼントを探しに遠出をしたりしていた。その様子はさながら仲のいい兄妹のようだった。
そのためか互いに心の底から気を許しあえる仲になっていたのだ。・・・・本人たちは否定するだろうが。

「ま、まあとりあえず今日はここまでにしておこう、なのは。」

「うん♪」

なのはは肩に頬を紅潮させたユーノをのせて帰途につこうとしていた。ヴィータはその様子を見てチッと舌打ちをする。

(ユーノもユーノだけど、こいつの鈍さも一級品だな。)

ヴィータはなのはに近づくとユーノをガッ、とつかむ。

「きゅっ!?」

「ヴィータちゃん?」

「こいつ借りてくぞ。夜までには返す。」

「うん、わかった。じゃあね、ヴィータちゃん、ユーノ君。」

なのははそのまま桜台の坂道を駆け足で下って行った。




なのはが帰った後ヴィータは人型に戻ったユーノと対峙していた。

「いつまでこのままでいるつもりだ?」

「……何を言ってるの?」

「とぼけんな、あたしたちとの一件以来、お前は意識的に高町を避けている。」

そう、闇の書事件以降ユーノは意識的になのはと会うことを避けている。今日の特訓にしてもヴィータが無理やりユーノを誘ったのだ。ユーノがなのはを避けている、その異変に日頃からともにいるヴィータは誰よりも敏感に気付いていた。

「お前、アイツのこと好きなんだろ。だったらなんで避けんだよ!高町だって、お前に会えなくてさみしがってんだぞ!」

ヴィータはそれまでため込んでいた思いを一気に吐き出す。その目には涙がにじんでいる。

「僕にはそんな資格なんてないよ」

「資格だぁ!?ふざけんな!」

ヴィータはユーノに飛びかかりそのまま押し倒した。

「自分の気持ちを伝えんのに資格もクソもあるか!」

「なにも知らないくせに……」

「ああぁ!?」

「何も知らないくせに勝手なことを言うな!」

「うわぁっ!?」

ユーノは普段の姿からは想像もつかない力でヴィータを払いのけて立ち上がる。

「僕のことを何も知らないくせに偉そうなことを言うなぁ!」

「こ、んの…!?」

ユーノは泣いていた。今まで誰にも見せたことがないような悲しい表情で。

「守るための力もない、管理局を憎むことでしか生きていけない、そんな僕がなのはのそばにいていいわけないだろ!!」

「ユーノ?」

いったい何を言っているのかヴィータにはわからなかった。だから、

「…話してくれよ、お前のこと。話してくんなきゃわかんねぇだろ。」

「うん…」










第7管理世界  ヴェスティージ

第7管理世界ヴェスティージ。管理局の保護下にある世界で貴重な遺跡群が残り、多くの学者たちがこの世界を訪れた。だが、三十年以上の昔から内紛が絶えずにいた。
原因は皮肉にも管理局の介入。改革派は管理局からの技術提供と支援に期待し、友好的な態度を示した。だが、保守派は管理局による支配を良しとせず、伝統を守るという名目のもとに管理局、ならびに改革派と対立した。
もっともその後、宗教、民族、経済格差、さまざまな理由でヴェスティージのあちこちで戦闘が起き、もはや何が理由で始めたのか誰もわからなくなっていた。

そんな荒んだ世界の一角のほろんだ村に、マントをはおった男がいた。がっしりとした体つき、黒い短髪に日に焼けて黒い肌、顔には青い鳥の刺青がある。ぱっと見た感じは30代半ばというところである。

「ひどい有様だな。内紛状態とはいえこれはあまりに…?」

刺青の男、レント・スクライアは何かに気付いた。自分の目の前の崩れた家から、かすかだが魔力の反応を感じる。

「まさか、生存者がいるのか!?」

正直信じられない。ここに来るまでに出会ったのは原型がわからないほど破壊された建造物と焼け焦げた死体、そしてそれらにたかるカラスやハゲタカたちだけだった。生存者がいるわけがないと思っていた。

「…行ってみるか。」

いるはずがない。そう思いながらもレントは歩を進めた。瓦礫をどけ、どんどん進んでいく。と、突然広い空間に出る。どうやら住居スペースのようだ。そしてその奥にいたのは、

「赤ん坊…、だと?」

そこにいたのは小さなゆりかごの中ですやすやと眠っている赤ん坊だった。レントはその赤ん坊を抱き上げる。その赤ん坊に起きる様子はない。

(外がこれだけの騒ぎなのに気楽なものだ)

そう思ったレントだったが、赤ん坊の顔を見たときそれが間違いだということに気がついた。赤ん坊の頬に乾いた涙の跡があった。彼は気楽に寝ていたのではなく、泣き疲れて眠ってしまっていたのだ。

「流す涙ももうない、ということか。」

レントは思う。この子がここで生きていたのは奇跡以外の何物でもないと、そしてこの奇跡を見捨てることは自分にはできないと。

「…一緒に来い。お前はこの悪意に満ちた世界の中の希望だ。」

そして、レントは魔法陣を発動させて、自分と赤ん坊を仲間のところに転送した。
スクライアの一族のもとへと…








「じゃあ、その赤ん坊が…」

「ああ、僕さ。」

ユーノの懐かしむような、それでいて悲しい目を見ることができずに視線を落とした。

「この後僕はレント・スクライア、父さんに育てられ、考古学の知識を学んで父さんの仕事を手伝っていたんだ。すごく楽しくて、幸せな日々だった。でも、それも突然終わりをむかえたんだ。」










第14管理世界  クロア  首都のホテル

クロアは比較的治安が良く、文化レベルがそこそこ高い。ベルカ系の宗教団体と管理局との対立はあったが、それも気にするほどのレベルではなく平和そのものの世界である。

「ユーノ、そろそろ調査に行くぞ。今回調べる遺跡はここから遠いからな。」

「はい、父さん!」

ユーノが拾われてから6年が経っていた。その間にユーノは周りが驚くほどのスピードで考古学と魔法の知識を習得していった。

「他のみんなが到着する前に先行調査を済ませなければならんからな。…ところでだ。」

「?」

「そろそろお前にも遺跡調査の責任者に推薦してもいいかもしれん。」

「ホント!?やったぁ~!」

ユーノはそこいらじゅうを飛び回ってはしゃぐ。遺跡調査を自分が指揮できることへの期待、何より父が自分のことを認めてくれたのがうれしかった。

「まあ、まずは今回の活躍次第だな。頑張って掘り出し物の一つでも見つけるんだな」

「うん!頑張るよ!」

二人は笑顔で部屋を出ようとするが、その時

ドオオオォォォォン!!

「「!!!?」」

凄まじい爆発音とともにホテル全体が揺れる。続いて聞こえてきたのは銃声と阿鼻叫喚の叫び。

「ぎゃああああ!」

「やめて、なんでこんな…ぐあっ!」

「ミッドに従う不信の徒に裁きを下せぇぇ!」

ユーノは何が起きたか分からない。だが、レントはすぐに事態を把握した。

「テロだ…」

「え!?でもクロアは…」

「おそらくベルカ教の過激派の連中が他の信者を焚きつけるためにとうとう行動を起こしたんだろう。」

レントの読みはズバリ当たっていた。この日このホテルでは管理局とベルカ教が友好関係を築くことを目的とした式典が開かれていた。しかし、過激派はこれを良しとせず、テロを仕掛けたのだ。

「とにかく、逃げるんだ!」

二人は部屋から出るとまっすぐエレベーターを目指す。しかし、

「こっちにもいたぞ!」

テロリストに見つかってしまう。その手には使用が禁止されているはずの質量兵器、マシンガンが握られている。

「仕方ない、こっちだ!」

レントはユーノを抱きかかえると来た道を引き返し階段へと向かった。

「逃がすかぁぁ!」

テロリストはマシンガンを乱射するがレントの防御魔法に阻まれた。

「チィ!」

テロリストは追いかけようとするが、

「チェーンバインド!」

「がぁ!」

ユーノが発動したバインドにつかまりそのまま前のめりに倒れた。

「ナイスだ、ユーノ!さあ急ぐぞ、しっかりつかまってろ!」

この時レントは後悔していた。よりにもよって上層階の部屋に予約を入れてしまったことに。

同時刻  管理局クロア支部

管理局支部のとあるオフィスの窓辺に白いあごひげをたくわえたオールバックの初老の男性がいた。その目は老いた姿からは想像できぬほど鋭く、猛禽のそれを思わせた。やがて老人はこらえきれないといった様子で笑いをこぼす。

「くくく、予想したとおりだな。ここまでうまくいくと逆に恐ろしいな。」

『ファルベル一佐、出撃の準備が整いました。』

「ご苦労。相変わらず鮮やかな手際だな。」

ファルベルと呼ばれた人物は画面の向こうの部下に賛辞を述べる。

「は!では、後ほど!」

「くくくく、では行こうか、“正義”をおこないに!」








「よし、やっと5階に到着か。」

その後ユーノたちは幸運にもその後テロリストと遭遇することもなく、5階の大広間に到着していた。式典が行われていたためか、たくさんのテーブル、そして、多くの死体が散乱していた。

「あともう少しだね、父さん。」

「・・・・・・・・・・」

「?父さん?」

「あ、ああそうだな。」

確かにあと少しだ。だが、レントは何か引っかかりを感じていた。

(なぜ、局員がいない?テロが起こってからもうかなりたっているはずだぞ。)

そう、テロリストには会わなかったが、管理局員にも会っていない。もうさすがに、突入を開始していてもおかしくない時間である。しかも、今日は友好式典で穏健派の重鎮もここに…

(!!!!!)

その時レントの脳裏に最悪の仮定が浮かぶ。だが、そうだとしたらすべての説明がつく。なぜテロリストに会えなかったのか。なぜ、局員に会わなかったのか。

(そういう…、ことか!)

レントは唇をかみしめ、自分たちが最悪のルートに来てしまったことを自覚した。

「ユーノ…」

「父さん?」

レントは式典の会場へユーノを抱えたまま進むと死体の山をかき分けそこにユーノをそこに入れた。

「と、父さん!?」

「ユーノ…」

レントはユーノの手をぎゅっと握る。

「ユーノ、お前はこの悪意に満ちた世界の中にある数少ない希望の光だ。だから、これからどんなことがあってもお前はお前でいろ。お前の中にある優しさを決して忘れるな。」

そう言うとめったに見せない笑顔を自分に向ける

「父、さん?」

なぜ父は逃げるのをやめたのか?なぜ自分を隠すのか?なぜ今のような状況下でこのようなことを言うのか?
これではまるで

「父さん!!」

「じっとしてろ。…達者でな。」

その時、下から数人の人間が上ってくる音がした。五階に到着したその姿を見るとそれは

(管理局員!)

三人の管理局員がこちらへ向かってきた。ユーノは助かったと思った。これで父も自分も助かると。だが、

「まだ、生き残りがいたか。」

「上の連中は何をしてたんだ。」

「別にいいさ。始末してしまえば問題ない。」

(!?なにを言ってるんだ!)

局員たちはレントにデバイスを向ける。だが、レントは素早い身のこなしで局員の一人に接近して腹部に掌底をたたきこむ。

「がああぁっ!?」

「なっ!?」

「こ、こいつ!」

残った局員はレントに射撃魔法を放つが防御魔法に防がれた。

「わかってはいたが、つくづく腐っているな、管理局は。」

「すべては正義のためだ。」

「罪もない人間を巻き込み、テロリストを利用しておいて何が正義だ!」

レントは局員へ突撃していく。しかし、それは読まれていた。レントの足元から光の鎖が現れてレントを捕縛する。

「くっ!」

「このっ、手こずらせやがって…。」

レントに掌底をたたきこまれた局員は立ち上がりスフィアを生成する。そして




レントの心臓を撃ち抜いた。

(父さん!!!)

ユーノは飛び出そうとするが、体が動かない。全身が恐怖で震える。

「時間だ、ひきあげるぞ。」

「「了解。」」

局員たちは転送魔法を使って姿を消した。ユーノはのろのろと死体の中から這い出るとレントのもとに歩いていく。

「とうさん?」

震える声でよびかけるが返事がない

「とうさん、とうさん!とうさん!!とうさんっ!!!」

何度もよびかけるがやはり動くことはない。

「っっとうさーーーーーーーーーーーんっ!!!!」

ユーノは泣きつづけた。もう動くことのない父の亡骸の前で









「この後、僕はこの事件の数少ない生存者として地元の救出部隊に助けられたんだ。そのあと、管理局の強硬派がベルカの過激派に日にちや場所、警備に関する情報をリークしていたことに気付いたんだ。邪魔な穏健派をテロリストに罪をなすりつけて消すためにね。」

「……そのことは言ったのかよ。」

ユーノは首を振る。

「言ったけど、子供の戯言だと一蹴されたよ。他の生存者も似たような対応だったらしい。」

「そんな……」

ヴィータの目には涙が浮かんでいた。

「ありがとう、優しいんだねヴィータは。」

「っうっせ~!」

ユーノは微苦笑を浮かべる。

「ともかく、僕はそのあともスクライアの一族に育てられた。みんな、僕のことを本当の家族のように接してくれたよ。でも、どんなに温かく接してもらってもあの日の怒りと悲しみは消えることがなかった。」

ユーノは座っていたベンチから立ち上がるとヴィータに背を向ける。

「そして、十歳のときになのはたちと出会った。最初はジュエルシードで誰も傷つけたくないって思ってなのはに協力してもらったけど。闇の書事件のとき思ったんだ。また誰かを巻き込んで傷つけてしまった、ってね。それに……」

ユーノは大きく息を吐く。

「もう、わからないんだ。」

「わからない?」

「うん。クロノやリンディさんたちに出会って、管理局にもこんな人たちがいるんだってわかって。最初会ったときはホントに憎くてしょうがなかったのに。だんだん、憎めなくなってって、っ・・・」

ユーノは泣いていた。すべてを失くした6年前からため込んできた思いと仲間たちへの思いを吐き出しながら。

「ユーノ…」

「ねぇ、ヴィータ。僕は、僕は、どうすればいいの?みんなと一緒にいたい、なのはと一緒にいたいって思っちゃうんだ!僕はこんなに弱くて、薄汚れてて、一緒にいちゃいけないのに!」

「ユーノ…。お前、高町なのはに自分の思いを言え。」

ユーノは驚いた表情でヴィータを見る。

「今すぐに、全部話せとは言わねぇ。けど、今の自分の気持ちを言わなかったら後悔するぞ。」

「でも、僕は弱くて…」

「お前だけで守りぬけないならあたしがアイツやお前を守ってやる。あたしだけじゃねぇ。テスタロッサやはやてたち、みんなでお前らを守ってやる。だから、覚悟を決めろ。」

「覚悟?」

「アイツのそばでずっと守り続けるって覚悟だ。」

ヴィータはいつものような鋭い目に戻っている。

「アイツがくじけそうな時も、もう立ち上がれないような怪我をしてもアイツを支えてやれ。」

「ヴィータ…」

「それに…」

ヴィータは笑みを浮かべる。

「お前は自分で思ってるよりスゲー強えんだぞ。」

「え?」

「初めてお前のシールドとぶつかったとき、今まで戦ってきた誰よりも重く感じたよ。まるで何が何でも高町のところには行かせないって信念が乗り移ってるみたいにな。」

ヴィータの言葉にユーノは照れた表情をして顔を紅潮させる。しかし、その表情はどこか晴れやかだ。

「ありがとう、ヴィータ。」

「ま、あとでアイスおごれよ。それでチャラにしてやる。」

「ははっ!もちろん。」

そして二人は夕焼けの道を歩いていく。仲のいい兄妹のように……











なのははただ涙を流していた。ユーノが誰にも言えずに背負っていた十字架。誰よりも自分が気付いてあげなければならなかったのに気付いてあげられなかったその後悔で胸が埋め尽くされていく。

「ユーノ君、そんなに苦しんでたのに、私、わたしっ…!」

「ユーノは、こうも言ってたよ。」

ヴィータも泣いている。それでも、話すのをやめない。やめてはいけない、ユーノの思いをすべて伝えるまでは。

「『僕がいなくなっても、僕が好きだった明るくて、強いなのはのままでいて欲しい』って。そう言ってたんだ。なのに、お前がこんなでどうするんだよ。アイツの思いを、大切な人たちを守りたいって思いを受け継ぎゃなきゃいけないお前がこんなところでふさぎこんでてどうすんだ!!」

「…そう、だよね」

なのはの目に光が戻る。

「レイジングハート、また一緒に頑張ってくれる?」

〈もちろんです。マイマスター。〉

「ありがとう、ヴィータちゃん!」

「気にすんな。あたしはユーノの意思を伝えただけだ。」



少女たちは再び立ち上がる。いなくなった仲間の意思を継いで











あとがき・・・・・・・という名の制裁

フェイト(以降 フェ)「というわけでぐだぐだの二話目が終わったんだけど…。」  ゴゴゴゴゴ!

はやて(以降 狸)「あたしらの出番が少ないんやけどどうなってんのかな~。」ゴゴゴゴゴ!

ロ「うっさい空気s!お前らのせいでいろいろ大変なんだよ!必死で登場させる俺の苦労も知らないで偉そうにすんな空気!」

フェ・は「「なんだとーーーーーーーっっっっ!!」」

ロ「あ、やば…、さすがに言いす…」

フェ「サンダー・スマッシャー!」

狸「ブラッディ・ダガー!」

ロ「ぎゃあああぁぁぁぁ!!」  ロビン、星になる

ヴィータ(以降 ヴィ)「えっ、と、作者がなんか星になってしまったので代わりに司会をするヴィータです。まずは毎度毎度拙い文ですみません。あんな奴でも頑張って書いてるんで応援よろしくお願いしま…」

シグナム(以降 シ)「紫電一閃!」

ヴィ「のわああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
鉄槌の騎士、ギリギリでかわす。

シ「チッ、はずしたか。」

ヴィ「チッ、じゃねええぇぇぇ!なにしやがんだああぁぁ!?」

シャマル(以降 シャ)「あら、ヴィータちゃんこそ私たちを差し置いて何をしてるのかしら♪」

湖の騎士、何か黒いオーラをまとっている

ヴィ「はぁ?」

ザフィーラ(以降 ザ)「シグナムとシャマルは自分の出番が少ないのにお前が目立っているのが気にくわんらしい。」

ヴィ「ザフィーラはいいのかよ。」

ザ「私はすでにアイツを見限っている。」

なんだと眉毛犬、コラッ!

ザ「誰が眉毛犬だ!」

ヴィ「どうした?」

ザ「いや何か声が…」

ヴィ「まあ、少し真面目に話すか。」

シ「そうだな。というかユーノの過去話で終わってしまったぞ。どうするんだ。」

ヴィ「なんでもロビンいわくいろいろ伏線はっときたいんだとさ。」

フェ「回収しきれなかったら悲惨だけどね。」

ヴィ「弱気なこと言うな。今からんなこと言っててどうする。(てかいつの間に戻ってきてんだ。)」

シャ「でも、00にまでまだ話がいってないわよね。いまから伏線ってどうなのかしら?」

ヴィ「ああ、それなら心配すんな。次回から本格的にはいるらしいから。」

は「そうなんや?」

ヴィ「ああ、でリリカル組はここからしばらく出番がほとんどないらしい。」

「「「「え??」」」」

ヴィ「まあ、ときどきは出るらしいから安心しとけ。あとなのは、フェイト、はやて、あたしが出んのは確定らしい。」

フェ・は「「やった!!」」

シ・シャ「「…………」」

ヴィ「あ~、心配すんななんとか出すよう頑張るらしいから」

シ・シャ「「よっしゃ!」」

ヴィ「やれやれ…、では最後に。みなさんこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!では、次回をお楽しみに!」






クロノ(以降  黒)「……僕の出番は?」



[18122] 3.ソレスタルビーイング
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 19:15
西暦2304年  地球  ゴビ砂漠西部


「どういうつもりだ、エレナ・クローセル。こともあろうに一般人にガンダム目撃され、あまつさえここに連れてくるとは!」

「しょーがないでしょ!ほっといたら彼、死んじゃうって思ったんだもん!」

「ほう…、なら君は彼が助かりさえすれば、このことが原因で我々の計画が頓挫してもかまわないと言うのだね?」

「うっ!そ、それは、そのぉ…」

格納庫に赤髪のツインテールをした少女と眼鏡をかけた少年の言い争う声が響く。その場にいた全員が『またか』と心の中でため息をついた。
拠点に帰ってきたエレナは案の定眼鏡をかけた少年、ティエリア・アーデにこっぴどく絞られていた。覚悟していたとはいえ、三日間も会うたびに同じような嫌味をネチネチ言われるのはたまったものではない。

「…やはり君はガンダムマイスターにふさわしくない。」

「それ、今日でもう十回近く聞いてるわよ。」

「正確にはまだ九回目だよ、エレナ。でも、ティエリアもその辺にしときなよ。」

二人の様子を見かねたのか、髪で右目が隠れた優しげな雰囲気の青年がロボットの整備を中断して声をかけた。

「アレルヤ~!ティエリアがいじめる~!」

「いや、僕に言われても…(というか、いじめって)」

「アレルヤ・ハプティズム、君も彼女の行動を容認するつもりかい?」

ティエリアは不機嫌この上ないという表情でアレルヤをにらみつける。その気に当てられたのかアレルヤはたじろぐ。

「いや、別にそういうわけじゃ、ないん、だけ、ど…」

「なら、黙っていてもらおうか。まだ、彼女は反省の意を示していないようだからね。」

「うぅ~~。」

エレナがアレルヤに恨めしそうな視線を送る。『フォローしてくれるんじゃないの!?』とでも言いたげだ。

(ご、ごめんねエレナ)

仲間内でもこうなったティエリアを止められる人間は限られてくる。一人は優秀な戦況予報士、そして、自分たちガンダムマイスターのリーダーである…

「そこらへんにしといてやれよ、ティエリア。」

「ロックオン、だが彼女は!」

「終わったことは終わったことだ。なにか問題が起きたならその時対処すればいい。でだ…」

そう言うと丸いボールに目のついたようなものを持ったブラウンヘアーの青年、ロックオン・ストラトスはボールを置くとエレナの頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでる。

「お前ももうチョイ反省しろ。お前といい、刹那といい勝手な行動をとりすぎだ。」

「う~~、だって……」

「ま、でも…」

ロックオンは穏やかな笑みを浮かべ、今度は優しく頭をなでる。

「お前の気持ち、わからないでもないさ。」

「えへへ♪」

エレナは顔を赤くして笑った。その様子をティエリアは苦々しげに見つめる。

「…僕は整備に戻るのでこれで失礼する。」

「じゃあ僕も…」

「アッ、コラお前らにもまだ言うことが…」

足早に去るティエリアとアレルヤをロックオンは追いかける。

「フゥ~。助かったぁ~。もうっ、ティエリアってばしつこすぎ。」

エレナは頬を膨らませてぶつぶつと文句を言い始める。すると、ロックオンの置いていったボール、ハロが飛び跳ねる。

「ナカヨクナ、ナカヨクナ。」

「私はそうしてるよハロ。ただ、ティエリアが…」

「ナカヨクナ、ナカヨクナ。」

「…、はいはい、仲良くしますよ。」

はぁ~、と大きく息をはくと自分の乗っていた機体、ガンダムシルトを見上げて、拾ってきた少年のことを思う。

「あの子、大丈夫かなぁ~?」



魔導戦士ガンダム00 the guardian   3.ソレスタルビーイング

医務室

「ここは…?」

少年は目を覚ますと周りを見渡す。周りには透明な壁があり、正面を見ると白い天井と明りが見える。どうやら何かの中に入ってるようだ。
そして、瞬時にさまざまな疑問が浮かぶ。
自分は確か砂漠の上で倒れていたはずだ、なぜここにいるのか?
そもそもかなり重傷を負っていたはずなのに、なぜ体がずいぶん楽になっているのか?
あの時、見たロボットはなんなのか?
そして、

「僕は……、一体誰なんだ?」

自分がいったい何なのか?

その時、透明な蓋の向こうにサングラスをかけ、白衣をまとった金髪の男が現れる。

「うわぁ!?」

「目が覚めたかね?」

そう言うと男は端末を操作して蓋をあけた。少年は起き上がり男をまじまじと見る。

「腹部の傷はまだ完治とまではいかないが、もうICUカプセルを使う必要はないだろう。」

「あなたは?」

「わしはJB・モレノ。お前さんの命の恩人だ!」

モレノと名乗った男はかっかっと笑う。その様子に少年は呆気にとられたがすぐさま冷静な態度に戻る。

「そうですか、お世話になりました。」

「まあ、いいさ人を治すのがわしのしご…」

「おい嘘をふきこむな、エレナが運んだから助かったんだろうが。」

少年が声のほうに視線を向けると、扉のそばに眼鏡をかけた男が立っていた。

「おいおい治療したのは…」

「ほとんどエレナとICUカプセルだろうが。」

「むぅ…」

痛いところを突かれたのかモレノは黙り込んでしまう。

「っと、自己紹介がまだだったな。わしはイアン・ヴァスティ。この組織の整備士だ。」

「組織?」

少年は首をかしげる。

「おっと、悪いがいろいろと秘密にしなくちゃいけないことがあるんでね。まあ、来るべき時がきたらわかることだがな。だが、まずは君のことからだ、“ユーノ・スクライア”君。」

「ユー、ノ?」

「まったく、IDみたいなもんを見つけたもののあちこち焼け焦げてて読めないは、字の形が特殊だったりで読むのに苦労したぞ。」

「ユーノ…、スクライア…」

「「?」」

イアンとモレノはユーノの様子がおかしいことに気付く。

「それが、僕の名前なんですか…?」

「おいおい、まさか…」

イアンの顔に戸惑いの色が浮かぶ。だが、モレノは冷静にユーノを観察し判断を下した。

「…記憶喪失だな。」








ブリーフィングルーム

「ええええええぇぇぇぇぇっっっ!記憶喪失ぅぅぅぅ!?」

ブリーフィングの最中にも関わらず、オペレーターのクリスティナ・シエラは想定外の通信に思わず大声を出してしまう。

「クリス、うるさい!」

「す、すみません。スメラギさん。」

必要以上の大きな声を上げたクリスをスメラギ・李・ノリエガはキンキンという音が残る耳を押さえながら叱責した。

「まったく…」

だが、クリスの気持ちもわかる。試験運用中の機体が帰ってきたと思ったら、その機体に乗っていた超問題児のガンダムマイスターが重傷の人間を連れてきたのだ。
戦場でならどんな状況も読む自信がある戦況予報士もこれにはさすがに驚いた。しかも今度は、その人物が意識を回復したものの記憶喪失なのだ。

「でも、どうするんスかね。あの子の処遇。」

操舵士候補、リヒテンダール・ツエーリは頭の後ろで手を組み壁に寄り掛かる。

「まったく、毎度毎度あいつはトラブルを運んできてくれるな…」

もう一人の操舵士候補、ラッセ・アイオンは腕組みをしたまま唸る。

「でも…、彼女もヴェーダによって選ばれた存在…」

もう一人のオペレーター、フェルト・グレイスは小さな声で、しかしはっきりと言い放つ。

「…そうね、エレナもヴェーダが選んだガンダムマイスターだわ。そして、彼の処遇を決定するのもまたヴェーダよ。」

「じゃあ、あの子の処遇は…」

「そ、ヴェーダからの指示があるまでは保留よ。」

スメラギはフェルトにウィンクした後、パンッと手をたたく。

「さあ、ブリーフィングももう終わったし、これで彼の、ユーノ・スクライア君の話もお終い。みんな、作業に戻って!」

その場にいた全員が部屋を出た後、スメラギは携帯端末でユーノ・スクライアなる少年のことを検索していた。

(戸籍を探っても見当たらない、行方不明者・死亡者リストにもヒットは無し、か…)

そう、彼がここにきてから検索を続けているものの、どんなに探っても彼の名前も写真も出てこない。
まるで、最初から存在していなかったのように。

(まったく、イレギュラーもいいところね。)

スメラギは頭を押さえて、深いため息をつき確信する。今夜はどんな酒を飲んでも酔えそうにないことを。










医務室

「じゃあ、次はこのペンを使ってこの紙に、適当になにかかいてくれるかな。」

そう言ってモレノは脳波を測定するための端末を頭に付けたユーノにペンと紙を渡す。

「…………………」

ペンと紙を見てじっと考え込むユーノ。それを見たモレノが慌てて付け加える。

「ああ、そんなに深く考えなくていい。君のかきたいことをかけばいいんだ。」

「かきたいこと……」

ユーノは思い返す。あの美しい機械天使を、それが放つ暖かな光を。
ユーノはペンを黙々と動かし始める。イアンはその様子を、モレノは脳波計をじっと見る。

「…、描けました。」

十分ほど経つと、ユーノは紙とペンを返す。

「どれど、れっ!?」

イアンは驚きで言葉を失くす。
そこに描かれていたのはガンダムシルト。しかも、わずか十分ほどで描いたとは思えないほど精巧に描かれ、特徴をしっかりととらえている。

(マジかよ……)

彼が見ていたのはわずかな間のはずである。にもかかわらずここまで正確に、しかも信じられないほど素早く描いて見せた。

「…?どうかしましたか?」

「あ、ああ。いや、このガンダムシルトがうまく書けてると思ってな。」

「イアン!」

「え、あ!し、しまった!」

イアンとモレノは慌てるが時すでに遅し。ユーノはしっかりとその言葉を聞いていた。

「ガン、ダム…?」

「そ、ガンダムシルト。私の愛機にして、私たちソレスタルビーイングの切り札よ♪」

「「エレナ!?」」

扉のほうを見ると赤いツインテールの少女と肌が黒い中東系の少年が立っていた。背格好から判断するなら二人ともユーノと同い年くらいだろうか。

「おっはよ~、美少年君。記憶喪失なんだって~?大変だね~。君をここまで運んだのは私なんだよ~。さあ、お礼言って!お礼!君のせいでティエリアに怒られて大変だったんだよ~!」

「あ、ありがとう。そしてごめんなさい。」

エレナはユーノに顔をぐっと近づけると矢継ぎ早にユーノに言葉をかけていく。イアンはその光景を茫然と見つめていたが、ハッと我に返る。

「おい、エレナ!ガンダムは…」

「機密事項だって言うんでしょ。でも、イアンだって言っちゃってたじゃん。」

「いや、あれはだな…、ああ、くそっ!」

イアンは頭をガシガシと掻くと、どっかりといすに座り込む。すると、それまで黙っていた中東系の少年、刹那・F・セイエイが口を開く

「エレナ、こいつはお前が連れてきたんだ。だから、お前が責任を持ってこいつに説明しろ。ソレスタルビーイングと俺たちガンダムマイスターのことを。」

「OK、しっかり説明してあげるわよ。あんたの大好きなガンダムのことから、なにからなにまでね。」

エレナはウィンクをするが、刹那は気にもかけずにさっさと部屋を出て行ってしまった。

「…あいッ変わらず無愛想ねー。あれさえなければ結構いけてんのに。さて、と、いいわよねイアン。」

「はぁ~…。勝手にしろ。俺はもう知らん。」

イアンはため息をつきながら立ち上がるとそのまま部屋を出ていった。

「わしも、検査結果を報告しに行くか。後はよろしく頼むぞ。」

「はいはいは~い。」

モレノは検査結果をまとめた書類を持って出て行った。

「さて、と。」

エレナはユーノに向き合う。その顔からは先ほどまでのへらへらした笑いが消え、真剣な表情だ。

「悪いけど覚悟決めてもらうわよ。私たちにかかわったからには。」








通信室

「おいおい、マジかよ。信じられないな…」

「まったくね。ホントにこの数値は正確なの、モレノ?」

ロックオンとスメラギはモレノの持ってきたユーノの診断結果に驚愕する。

「残念ながら正確だし、マジだ。」

そこにはありとあらゆる数値と専門用語がずらりと並んでいる。しかし、二人はある一点のみを凝視する。

「検査の結果、彼は嘘をついていない。正真正銘の記憶喪失だ。おそらく重傷を負ったときに受けたショックで過去を忘れてしまったんだろう。それより特筆すべきは彼の情報処理速度だ。」

モレノは情報処理速度と書かれた部分を指し示す。

「常人のスピードを10とするなら、彼は軽く100を超えている。はっきり言ってとんでもない化け物だよ、彼は。」

ロックオンとスメラギは感服と驚嘆の入り混じった表情を浮かべた。
しかし、彼の経歴を知っていればそれほど驚くことではない。
幼いころより探索系魔法や検索系魔法の訓練を行い、さらにはジュエルシード事件、闇の書事件以降は無限書庫にこもりその膨大な蔵書の整理を行っていたのだ。
そういった才能は確かに備わっていたのかもしれないが、それを常識はずれした域にまでもっていったのは、大切な人を守るために行った彼の並はずれた努力と過去の厳しい試練を乗り越えてきた経験の賜物である。
もちろん、彼らはそんなことは知らないだろうが。

(いったい彼は何者なの?こんな能力を持っていて、なぜあんなところに一人でいたの?)

考えを巡らせるスメラギを黙って見ていたロックオンだが、ふと何かひらめいたようだった。

「Ms.スメラギ。このこともヴェーダに報告しといたほうがいいんじゃないか?彼と俺たちの今後のためにもな。」

ロックオンは不敵な笑みを浮かべる。

「ロックオン、あなたまさか!?」

「おいおい!」

「決めるのはヴェーダだ。そうだろ?」

スメラギも最初は驚くが同じように笑みを浮かべる。

「そうね、今は少しでも人員が欲しいわ。世界を変えるためにも…」

モレノは二人の様子をみてため息をこぼす。

「…やれやれ、ティエリアが聞いたらなんて言うか。」

そんなモレノの言葉を気にせずスメラギはヴェーダへ情報を送信した。









ヴェーダ  内部

そこには生物の影は何一つない。ただ、広い空間に巨大なコンピューターの部品があちこちに設置されている場所。
だが、部品の一つ一つが輝きを放っている。
そして、ひときわ広い空間にはシステムの根幹をなすコアからいくつものコードが伸びている。
周りの光を受けて輝く姿はさながら教会の大聖堂を思わせた。
そんなコアが今までと異なる輝きを放ちながら澄んだ音を立て始める。それは、ほんの数十秒のことだったが一人の少年の運命を決定するには十分な時間だった。










通信室

「ヴェーダから返答があったわ。」

「いつになく早えな、おい。」

ロックオンとスメラギはヴェーダからの返事を見る。その答えは…

「ビンゴ、だな。」











医務室

「戦争行為を根絶するための私設武装組織…」

「そう、それが私たちソレスタルビーイングよ。」

ユーノはソレスタルビーイングのことについての説明をエレナから聞いた。
太陽エネルギーを手に入れ、24世紀になったにもかかわらず、ユニオン、AEU、人類革新連盟の三つに分かれていて世界が一つになりきれていないこと。
いまだに武力衝突や紛争が絶えないこの世界のこと。
それらを根絶し世界に変革をもたらすために現在使われている軌道エレベーターの発電システムの基礎理論を築いた科学者、イオリア・シュヘンベルグが200年前に創設した私設武装組織、ソレスタルビーイングのこと。
そして、MSガンダムのこと。

「そんなことって…」

「私たちが矛盾したことをしようとしてるのはわかってる。でも、誰かがしなくちゃいけないのよ。この世界を変革させるためには。」

そう言うとエレナは悲しげな笑顔を浮かべる。

「別に、軽蔑してくれてもかまわない。でも、私は止まらない。あんな悲劇をもう起こさないためにも。」

エレナの目が涙で滲んでいく。ユーノはその様子を黙って見つめながら考えていた。
彼女の過去に何があったのか?自分と同じ年頃なのに固い決意をしたその時、何を思ったのか?自分が彼女を支えられないだろうか?
そして何より、自分の中にある何かが呼びかけてくる。『この世界の歪みを撃ち砕け』と。
ユーノの視線で我に返ったエレナは自分が泣いていることに気付いた。

「や、やだ!私ったら、何泣いてるんだろ?」

「…エレナ、僕もソレスタルビーイングに入れないかな?」

「ユーノ?」

エレナはユーノを見て驚いた。先ほどまでの戸惑いに満ちた表情から、固い決意をした男の顔になっていた。

「後悔するよ、たくさん。それでも、止まることが許されない。そんな道だよ。それでもいいの?」

「構わない。先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくないから。」

エレナはユーノの決意が固いことを感じ取る。そして、ふっと微笑を浮かべた。

「OK、あんたが入れるようにスメラギさんにかけあってあげる。」

「ありがとう!エレナ!」

「じゃあ、さっそくスメラギさんのとこに…」

「その必要はない。」

「「?」」

エレナが部屋を出ようとすると、扉が開きティエリアが入ってくる。

「君がユーノ・スクライアか。」

「あなたは?」

「僕はティエリア・アーデ。ガンダムヴァーチェのマイスターだ。だが、そんなことはどうでもいい。君は…」

そう言うとティエリアはジャケットの下から銃を取り出し、ユーノに向けた。

「ここで死ぬのだから。」

「……、何のつもり?」

「彼は、我々のことを知りすぎた。機密を守るためにこの場で彼を“消す”。」

「仲間になれば問題ないでしょ?」

「僕は彼のことを信用していない。そして、君のこともだ、エレナ・クローセル。」

ティエリアは鋭い視線を二人に向けるが、エレナとはキッとにらみ返す。

「ユーノを殺したら、私があんたを殺す。」

その時ユーノに頭痛がはしり声が響く『また、守られている』と。

(駄目だ、エレナ!)

「面白い、試してみよう。」

ティエリアは銃の引き金を引こうとした。しかし、後ろから誰かがそれをとめる。

「そこまでだ、ティエリア。」

「ロックオン…、あなたも邪魔するんですか?」

そこには長身の青年、ロックオン・ストラトスがティエリアの銃を押さえている姿があった。そして、その後ろから戦況予報士スメラギ・李・ノリエガが現れる。

「まったく、あなたも無茶なマネをするわね。」

「僕は計画のためなら何だってする。」

「じゃあ、なおさら銃を引け。」

ティエリア、そして、ユーノ達も疑問の表情を浮かべる。そんな三人をしり目にスメラギが前に進み出る。

「本日、この時をもってユーノ・スクライアを整備士補佐、ならびにガンダムマイスターの補充要員とします。これはヴェーダの決定よ。」

ティエリアたちの目が驚きで開く。

「そんな馬鹿なことが!」

「あるんだよ。さっきヴェーダから返答を受け取った。俺もじかに見てる。」

「くっっ!!!」

ティエリアはいまだに信じられないといった顔をしていたが、大きく息を吸い込むといつものような冷静な顔つきに戻る。

「……いいでしょう。ヴェーダが彼を認めたのなら僕も彼を認めます。ですが、少しでも不審な行動やソレスタルビーイングの一員としてふさわしくない行いをしたときは僕が彼を撃ちます。」

「僕もそれで構いません。」

ユーノとティエリアはそのままにらみ合う。互いに譲れない思いをその目に宿しながら。

「……それでは失礼する。」

そう言うとティエリアはさっさと帰ってしまった。

「まったく、あいッ変わらず気難しいねぇ~、あいつは。さて、と…」

ロックオンはエレナに歩み寄り、優しく頭に手を置く。

「よく頑張ったな、エレナ。」

「あ……」

エレナは糸が切れた人形のようにへなへなと床に座り込む。

「は、はは…、腰抜けた。」

「足がぶるぶる震えてて、ビビってんのが丸わかりだったぞ。」

そう言うとロックオンは手を貸してエレナを立たせた。ユーノはその時になってようやく気付いた。エレナの足が細かく震えていることに。必死に恐怖を抑えて自分を守っていたことに。

(エレナ……)

「ま、一件落着ね。これからよろしく、セミ・ガンダムマイスター、ユーノ・スクライア。私はソレスタルビーイングの戦況予報士、スメラギ・李・ノリエガよ」

「これからよろしくな、ユーノ。もう知ってるかもしれないがロックオン・ストラトス。ガンダムデュナメスのガンダムマイスターだ。」

「はい、よろしくお願いします。ノリエガさん、ストラトスさん」

二人はきょとんとした顔をした後クスッと笑う。

「おいおい、固ぇなぁ~、おい。俺のことはロックオンでいいぜ。」

「私もスメラギでいいわよ、ユーノ。でも、さすがにさん付けはしてほしいかな。」

「でも……」

「遠慮しなくていいわよ。もう、仲間なんだから♪」

エレナは無邪気な笑顔を振りまく。その笑顔に誰かの影が重なるが頭に靄がかかったようにそこで途切れてしまう。

「?どうしたの?」

エレナの顔が目の前にドアップでうつる。

「うわっ!な、なんでもないよ!」

「変なユーノ。」

そう言って、エレナは笑った。

「じゃあ、改めて…。よろしくスメラギさん、ロックオン。」

「よろしくね。」

「おう、よろしく。」

そう言うとユーノは二人と固く握手を交わした。



少年は覚悟を決める。今度は大切な人を守るためでなく、世界を変えるために











あとがき・・・・・・・・・・という名の土下座

ロ「申し訳ございません。<(_ _)>」

ユ「…いきなり何なの?」

エ「ホントだよ」

ロ「いまさらだけど気付いた…」

ユ「何にさ?」

ロ「戦闘シーンがひとつもねぇぇぇぇ!!!」

エ「今さらだね。ていうか気付くの遅いよ。」

そう、いままで一つも戦闘シーンがない。しかもこの話を書いてるときにやっと気付くというお粗末の一席。

ロックオン(以降 兄)「とんだ馬鹿だな。というか俺のテロップ、兄って…。」

ロ「だって、『ロ』だと俺とかぶるだろ。まあ、兄にしたことに別に深い意味はないよ。うん、そんなものない。」

兄「そうだな。ものッすごい浅はかな考えが見えるもんな。」

ティエリア(以降 ティ)「どうでもいいが、さっさと終わらせてくれないか。早く作戦行動に戻りたい。」

ロ「チッ、わかったよ、ヴェーダ中毒。さっさと終わらせりゃいいんだろ。」

ティ「誰がヴェーダ中毒だ!」

ロ「さて、皆様、00に入るのが遅くてすみません。これからはバリバリ00中心に進めていくので期待していてください。」

ティ「無視するな!」

エ「まあまあ。(ププッ)」

ティ「今笑ったろ!」

ロ「うっさいおまえら!ま、まあこれからもこんなバカな感じでやっていきますが、頑張って執筆していくのでよろしければこれからも末長くよろしくお願いします。」

兄「次回からは一応戦闘も交えてくんだろ。」

ロ「もちろん、てか俺も書きたい。では最後に、このような拙い文を読んでいただいてありがとうございます。そして、UCさん。返事で言いましたが、ユーノはトレミーに行っちゃいます。でも、フェレシュテともからませます。なので見捨てないでください~(>_<)。それでは、せ~の」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 4.試験運用
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:38
第97管理外世界 西暦2006年 地球

ユーノがいなくなってから1年が経とうとしていた。なのはたちは悲しみを背負いながらもユーノの意思を引き継ぐことを決意し、立ち直りつつあった。
そして、中学に上がり、管理局の任務と学業の両立に邁進していた。もう、あんな悲劇を引き起こさないためにも。

「じゃあね、なのは!」

「またね、なのはちゃん。」

「うん、またね!」

なのはは小学校からの友人であるアリサ・バニングスと月村すずかに手を振りあって別れた後、自分の家に至る道を歩いていった。その後ろ姿を二人は眺める。

「…なのはちゃん、もう立ち直ったんだね。」

「完全にではないけど、ね…」

二人はあの日のことを思い出す。
泣きながら帰ってきた友人たち。そして知らされたもう帰って来ることのない友人の最期とその決意。
その話を聞いて二人も決意した。何があっても、なのはたちが完全に立ち直るまでは泣かずに彼女たちを支えていくことを。
それが、ユーノの願いだろうから…。

「……なんでもかんでも一人で背負ってくんじゃないわよ、馬鹿。」

「アリサちゃん…」

アリサは泣きそうになるがそれをぐっとこらえる。

「見てなさいよユーノ!あんたがいなくったって私たちがなのはを立ちなおらせてやるんだから~~っっ!!」

アリサは大声で空に叫ぶ。ここにはいない大切な友人の恋人にまで自分の言葉が届くように。




魔導戦士ガンダム00  the guardian   4.試験運用



並行世界   西暦2305年  地球  オセアニアの無人島  格納庫

「ユーノォ!キュリオスの武装の調整はお前がしといてくれぇ!」

「………キュリオスも、の間違いだろ!もう、デュナメスとヴァーチェのGNドライヴの調整であっぷあっぷなんだよ!俺をどれだけ酷使するきだぁぁぁ!」

ガンダムデュナメスとガンダムヴァーチェの足元でユーノはガンダムエクシアの顔の横からしれっと無茶な注文をするイアンを二台のパソコンを同時に操りながら怒鳴りつけた。
ここ一週間の間、イアンは何かの設計と製造をしているらしいが、そのツケはユーノに回ってきていた。その状況たるやセミ・マイスターとしての訓練を行うどころかまともに眠る暇さえないほどである。そのうっぷんがついに爆発した。

「いや、システム関係の調整はお前がやったほうが早いからな。」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!俺に訓練受けさせろよ!いやそれよりベッドの上で寝かせてくれ!いいかげん格納庫の床に寝袋で寝んのはキツイから!」

「俺だって同じだ。それに俺はお前等のために頑張ってたんだぞ。文句言うな。」

「「「文句イウナ、文句イウナ。」」」

イアンはそう言うと大きく欠伸をする。ハロ達が協力してくれているものの、やはりGNドライヴとガンダムの調整はそう簡単ではないようだ。

「ちぇっ。」

ユーノは文句を言いつつデュナメスとヴァーチェの調整を完了させて、キュリオスの武装、GNビームサブマシンガンの調整にはいろうとする。そこにキュリオスのマイスター、アレルヤ・ハプティズムがやってくる。

「ユーノ、大変そうだから僕も手伝うよ。キュリオスなら僕もある程度力になれると思うから。」

「サンキュー、アレルヤ!助かるぜ!」

二人はさっそくサブマシンガンの調整を始める。

「ユーノ、ここはどうしたらいい?」

「ん?ああ、ここはGN粒子の伝導回路をこの配置どうりにインプットしてくれ。」

そう言ってユーノはメモ用紙ほどの紙を3枚渡す。そこには図面と小さな文字でびっしりと説明が書かれていた。アレルヤはその一つ一つを真剣な表情で読んでいく。

「……今までと比べてすごく複雑だね。」

「だがその回路に変更すれば弾自体は少しばかり小さくなるかもしれないが粒子の拡散が減る。計算上では速射性が12.3%、威力は9.8%。総合的な攻撃力は14.5%は上昇するはずだ。」

「……君はすごいな、たった一年でここまでのことができるなんて。」

「みんなのおかげさ。とくにイアンとロックオンにはみっちりしごかれたからな。」

ユーノがソレスタルビーイングにはいってからちょうど一年になろうとしていた。記憶を失くしていたユーノだったが、持ち前の理解力、判断力、情報処理能力で、まったく知らなかった整備、ど素人だったMSでの戦闘の技術、その両方を周りが驚くほどのスピードで会得していった。
とくにシステムの構築、改良に関してはすでにイアンを超えつつある。
さらに、戦闘訓練でも高い判断力とロックオン直伝の操作技術によって正規のマイスターと肩を並べるほどの力を持つに至っており、あのティエリアでさえも

「君のセンスは認めてあげよう。」

とまで言っていて、それを目撃した他のメンバーを驚かせていた。
性格も最初は慣れない状況と環境に戸惑い、内気になっていたが、ロックオンやエレナが率先してユーノとの交流を持つことで他のメンバーともなじんでいき(刹那やフェルトのような例外はあるが〉、明るく活発なみんなのムードメーカーになっていた。


「よし、これで終わりだね。」

アレルヤとユーノが一息つこうとした時、フェルトからの通信が入る。

『マイスターズにヴェーダからのミッションを伝えます。現在、オーストラリア東部の沖合でユニオンの不正規部隊と海賊行為を行っていた地元の軍隊との戦闘が発生しています。』

南北アメリカ、オーストラリア、日本までも取り込んだ経済連合国家ユニオン。
オーストラリアはかなり初期の段階でユニオンと同調し歩んできていたが、北東部には北アメリカ、とりわけ合衆国に反感を持っていた旧政権の軍隊の残党が合衆国の船舶にMSを用いての海賊行為を行っており、オーストラリアと合衆国との関係を悪化させる一因となっていた。

『デュナメス、キュリオスで介入。両者の殲滅、ならびにデュナメスとキュリオスの新装備のテストをお願いします。』

「よっしゃ、そんじゃあ行きますか!」

二人の後ろにはいつの間にかパイロットスーツを装着したロックオンがいた。

「ロックオン!」

「整備あんがとさん、ユーノ。いくぞ、アレルヤ!」

「りょうか…。」

「待って!」

三人は声のほうを向く。そこには私服姿の刹那、そして、ロックオンと同じ深緑と白を基調としたパイロットスーツを着たエレナがいた。

「どうしたんだ、エレナ!?そんなカッコして!」

「私に、私にも行かせて。」

三人は驚く。しかし、いち早く冷静さを取り戻したロックオンにたしなめられる。

「今回はデュナメスとキュリオスの武装テストだ。ソリッドの、お前の新しいガンダムのテストじゃない。」

「それでも行きたいの!お願い!」

エレナは必死にロックオンに懇願する。その様子を見ていたユーノはエレナに声をかける。

「けどエレナ、オーストラリア軍はお前の…」

その言葉を聞いた瞬間エレナは腕を組んでカタカタと震えだす。

「わかってる…、だからこそ行きたいの。ここで何もしなかったら、私は世界ときちんと向き合えない!」

エレナの心からの叫びが格納庫の中の冷たい空気を震わせ、熱くする。実際はそんなことはないのだろうが、その時そこにいた人間にはそう感じられた。
それまで黙っていた刹那が語りだす。

「ロックオン、エレナは今、自分の中の歪みと戦おうとしている。憎しみ、恐れ、怒り。あらゆる感情と向き合おうとしている。だから…」

刹那が頭を下げる。

「頼む、行かせてやってくれ。」

「刹那……」

ユーノはここまで感情をむき出しにして喋る刹那を初めて見た。

「そんなことは許されないぞ。」

エレナたちの後ろからティエリアが現れる。

「ヴェーダの命令は絶対だ。背くことなど許されない。」

「でもっ!」

「でも、なんだ?ユーノ・スクライア。君もエレナが出撃することには反対のはずだ。」

「ッッッ!!!」

図星だった。自分は確かに今のエレナに出撃してほしくはない。いつもと違い、頭に血が上った今の状態では危険すぎる。
しかし、エレナの意思も尊重したい。

(いったいどうすればいいんだ!?)

「……ユーノ、ヴェーダに通信入れろ。デュナメスとキュリオスの新装備は性能に不備がある可能性があるので護衛として第二世代機のシルトを連れていくとな。」

「ロックオン!?何を言ってるんだ!二機の整備はイアンとユーノが完璧に仕上げている!」

ティエリアはロックオンにかみつくが、ロックオンはお構いなしといった感じで、ニッとエレナに笑顔を向ける。

「そんな屁理屈が許されると思っているのか!?」

「許すもクソもあるか、エレナが行くって言ってんだろ。」

「ユーノ…」

ユーノは決意した。彼女がそれを望むなら行かせるべきだと。そう、彼女が世界と向き合うためだけではなく、自分が彼女と向き合うためにも。

「4対1、きまりだなティエリア。」

ロックオンの発言にティエリアは言葉を詰まらせる。

「いいだろう。だが太陽炉が破壊されるようなことがあったら命はないと思え!」

ティエリアはそれだけ言い残すと扉のおくへと戻って行った。






十分後

ユーノはキュリオスにテストを行う武装、GNシールドクロウの換装をしていた。そんな時、

「ユ~ノッ♪」

エレナがいつものような人懐っこい笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「ユーノ…、ありがとう。」

「え?」

「心配してくれてたんだよね。ありがとう。」

「いや、俺は別に…」

「またまた照れちゃって~。」

「だ!誰が照れてなんて…」

「……戻ってくるよ。」

ユーノが顔を赤くしながら怒ろうとした時、エレナが真剣な表情を向ける。

「絶対、生きて戻ってくるよ。だってユーノに言いたいことがあるんだから。だから心配しないで。」

「言いたいことって?」

ユーノが顔を近付けるとエレナは頬を紅潮させる。その様子を見たユーノも顔を赤く染める。

『…………、二人とも僕がいること忘れてない?』

コックピットの中にいるにも関わらず、その存在を忘れ去られていたアレルヤがたまらず二人に声をかけた。
二人はばっ、と一気に離れる。

「か、帰ってきたら言うから!うん、帰ってきたら!」

「そ、そうだな!あ、あはははははははは!」

そう言うと二人は照れ隠しに笑いあう。

『やれやれ……』

「あ、そうだ。」

エレナは何かを思い出し、ポケットから青いひし形の宝石を取り出し、ユーノにさし出す。

「今日はユーノの誕生日だからプレゼント。っていうかユーノが最初に握ってたのを私が預かって返し忘れてただけなんだけどね。」

「なんじゃそりゃ。」

ユーノはあきれ笑いを浮かべながら宝石を受け取る。
ちなみに誕生日は、ユーノが拾われた今日、2月3日のことである。

「…気をつけてな。」

「うんっ!」

そう言うとエレナは自らのガンダム、シルトのほうへ向かって走っていく。このあと起こる悲劇を知らずに。









「デュナメス、ロックオン・ストラトス。出撃する!」

「キュリオス、アレルヤ・ハプティズム。目標へ飛翔する!」

「シルト、エレナ・クローセル。いきます!」

デュナメス、キュリオス、シルトはGNドライヴを起動し、空高く舞い上がり飛んでいく。
デュナメスはすでに最大の特徴であるGNスナイパーライフルを構えている。
キュリオスは戦闘機形態に変形し、先行するようだ。

「先に行って敵をかく乱しておくよ。」

「エレナ、あんま無茶すんなよ!」

「わかってるって。」








オーストラリア  東部沖合
今一人のパイロットが、水色の戦闘機、フラッグに追いかけまわされていた。フラッグはリニアライフルを彼の機体、リアルドに撃ちまくってきた。
それをきりもみや低空飛行を使い紙一重でかわしていくが周りでは仲間の機体が次々に爆散し海へ落ちて行った。

「くっ、ユニオンめ、新型のMSまでだしてきたか!!」

旧政権軍は圧倒的不利な状況に置かれていた。
まず、第一に物量差。旧政府軍が母艦3隻にMSが30機なのに対し、ユニオンは母艦5隻にMSが80機と圧倒的に有利である。
さらに、旧政府軍のMSが旧式のリアルドであるのに対し、ユニオン軍は最新鋭機フラッグで挑んでくるのだから勝ち目などあるはずがない。
実際、リアルドとフラッグはソニックブレイドやリニアライフルで撃ち合うが、フラッグの動きに翻弄されバックをとられて弾を撃ち込まれあえなく撃墜されたり、つばぜり合いの果てに押し込まれて切り捨てられるかのどちらかだった。

そして、リアルドのパイロットの目の前に突然ブレイドを構えたMS形態のフラッグが出現した。

「くそ、ここまでか…」

と、そのときピンク色の何かが自分の目の前を通り過ぎたかと思うと、コックピットに穴のあいたフラッグが海に落ちていき爆散した。

「な、なにが?」

パイロットは光の飛んできた方向を見る。そこには、淡い緑の粒子、GN粒子を放出して飛び回るオレンジの戦闘機、キュリオスの姿があった。










先行していたアレルヤはMS群と母艦を発見した。

「見つけた!」

戦闘を確認するとGNドライヴの出力を上げて一気に突っ込んでいく。そしてフラッグの一機に狙いを定めるとトリガーを引いた。弾は当たり、フラッグは海に落ちて爆散した。
他のフラッグたちがこちらを見る。

「なんだ、あれは!?新型か!?」

「キュリオス、介入行動に入る!」

アレルヤはそのまま戦闘の中に突っ込んでいきサブマシンガンを連射する。
フラッグたちは反撃を試みるものの、戦闘機形態がバックをとろうとしても突き放され、リニアライフルに至ってはそのスピードとアクロバティックな動きの前では当たる気配すらなかった。

「悪いけど、エレナが来る前にあらかた片付けさせてもらうよ!」

旧政府軍の部隊は最初は戸惑っていたが、このチャンスを黙って見ているはずがなかった。

「い、今だ、反撃するんだ!撃て、撃て!」

一機のリアルドが敵の母艦めがけライフルを発射しようとするが、再び桃色の閃光が奔る。

「なん………、だと…………」

リアルドは火花を散らした後、爆散した。残った全員が閃光が飛んできたほうに目を向ける。
そこには、かなり遠距離にあるためはっきりとは見えないが緑色のMS、ガンダムデュナメスがライフルを構えながら高速で接近するのが確認できた。

「あ、あんな遠くから当てたのか!?」

さらに三発の追撃が飛んできて、三発すべてが命中した。

「全弾命中、全弾命中。」

「はしゃぐなよ、相棒。今回試すのはこいつじゃなくて、こっちだ!」

デュナメスはライフルを肩に装着すると腰から二丁の拳銃、GNビームピストルを抜いた。

「デュナメス、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

ロックオンは敵部隊との距離をある程度つぶすとビームピストルによる掃射を開始した。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

弾はリアルド、フラッグ、母艦に分け隔てなく当たり、撃墜していく。

「てめえら!全員逃がしゃしねえぞ!」

「逃、逃げろぉ!」

「ば、化け物だぁぁぁ!」

リアルドとフラッグは二機のガンダムにすっかり翻弄させられ、戦意を失ったものたちはその場を離れようとした。

が、デュナメスの来た方向からもう一機、萌黄色のボディに、純白の腕と脚部。そして額に左右に飛び出たニ対の角の下にある目が瑠璃色に輝くガンダム、シルトが迫ってきた。

「シルト、目標を粉砕する!」

エレナは左腕の刃のついた巨大な二等辺三角形の盾、GNシールドブレードを横に薙いで一気に2,3機の戦闘機形態のフラッグを切り裂く。そして、近くにいたリアルドに目を向ける。

「あんたには“大砲の弾”になってもらうわよ!」

エレナはリアルドめがけ高速の突進を仕掛ける。そして、右腕に持った盾を突進の勢いをのせてMS形態のリアルドの胸部にたたきつけた。
しかし、さすがにそれだけでMSは墜ちない。が、そのままエレナはリアルドをおしていく。

「くっ!(こいつ、一体何のつもり…!?)」

リアルドのパイロットは気付く。自分が押し込まれていくその先には……

「ぼ、母艦に叩きつけるつもりか!?」

リアルドのパイロットは戦慄する。が、事実はもっと残酷なものだった。

「圧縮粒子解放、GNバンカー、ファイアッ!」

「!?!!!!?」

リアルドのパイロットは何が起こったのかわからなかった。突然とんでもない衝撃がはしったかと思うと左上の部分が弾け飛んで外が見えた。そこから見えた光景によって自分と敵との距離が離れたことを知った。
そして、そのまま母艦に向かって一直線に飛んでいく。

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

腕を胸部ごとえぐられるように失ったリアルドは母艦のブリッジすら突き破り、その後、爆散した。パイロットにとっての唯一の救いはその母艦がユニオンのものだったことだろうか。







「ほ、本国に通信を!!」

ユニオンの母艦の艦長は本国に連絡を取ろうと試みる。しかし

ザザザザザザザザザザザザザザザザ

「な、なぜだ!?なぜ通信が繋がらない!?」

通信が繋がらないわけ。それはGN粒子による通信妨害が原因なのだがこのとき彼は知る由もなかった。そして、

ずんっ!!!

「ひ、ひぃっ!!」

MS形態のキュリオスが甲板に降り立ちシールドをブリッジに向ける。
すると、シールドが開き中からGN粒子をまとい赤熱した刃、GNシールドクロウが現れる。

「や、やめてくれぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!」

「っく!」
その声を聞いたアレルヤは一瞬ためらうがそのままブリッジにシールドクロウを突き立てた。








「よし、ほとんど片付いたな。後は母艦とリアルドが少しか・・・」

アレルヤが最後のユニオンの母艦を墜としたのを確認するとほっと一息つく。だが、

「シルトニ敵機接近!敵機接近!」

「なに!?」

見るとぼろぼろのリアルドがシルトの背後からブレイドを構えて特攻をかけてる。
だが、エレナは破壊した母艦の上で動きを止めてフラッグの残党をしつこく狙ってバルカンを撃っているためか、そのことに気付かずよけようとしない。

「やべぇ!!」

ロックオンは慌ててビームピストルを撃つが、距離があるためなかなか当たらない。

「エレナ、避けろぉぉぉおぉぉッッッッ!!!!」

しかし、その声はエレナには届かない。
そして、ブレイドがシルトの頭部から胸にかけて深々と突き刺さった。






それは、革新を望むものたちが払わなければならない代償だったのか…………










あとがき・・・・・という名の自己満足

ロ「やっと戦闘シーン書けたぁぁぁぁぁぁ!!」

刹那(以降 刹)「ホントにやっとだな。しかも無駄に長い。」

ロ「いいんだよ、とにかく書けたんだから。」

アレルヤ(以降 ア)「でも早く締めないとまずいよ。あんまり長いのもあれだし…」

ロ「それもそうか。じゃ、手短に済ますぞ。まず今回の目的は00での本来のリリカルなのはの歴史の再現だ。」

刹「どういうことだ?」

ロ「つまり、エレナがなのはの立ち位置なのさ。無理をおして出て行って敵にやられてしまうってこと。」

ア「ああ、なのはちゃんが負傷しちゃって魔法が使えなくなるかもってゆうはなしか。」

ロ「そ、ここではその役回りをエレナに演じてもらったわけ。」

刹「お前のことだ、なにか目的があるんだろ。」

ロ「うっ!するどい。まあ、ネタバレになるからここでは言わないけどな。では最後に、いつものようにこのような拙い文を読んでくださった皆様に心からお礼申し上げます!では、せ~の」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 5.代償
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/06/22 14:58
多くの人からのご指摘をいただいたので4月19日に4話目を一部かなり修正しました。まだ、読み直していない人はそちらを先にお読みください。手間とご迷惑をおかけして申し訳ありません。








半年前

ユーノとエレナは二人きりで萌黄色と白を基調とした巨人、ガンダムシルトを見上げていた。
通常のMSとは違い限りなく人間の体に近いフォルム、しかし、人間とは比べ物にならないほど力強い体のつくりをしている。

「綺麗だ……」

ユーノは無意識のうちにつぶやいていた。
生死の境をいた自分の前を輝く翼をまといながら舞い踊っていた機械天使。目を閉じれば今でもその荘厳な姿をはっきりと思い出すことができる。

「見るたびにそればっかね。刹那もそうだけどあんたもガンダム好きだよねぇ。」

半ば呆れながらエレナは恍惚の表情を浮かべるユーノに語りかける。

「出会いが衝撃的だったのはわかるけどさぁ、普通そこまで夢中になれるもん?」

「夢中、ね。ちょっと違うかな。」

「?」

そう、すこし違う。
好きというよりは憧れ。夢中というよりはこの機体を操ることへの期待感である。

「まあ、なんでもいいけどね。もうすぐこの子はユーノの機体になるんだから。」

もうすぐエレナは新しい機体に乗ることになる。そして、第二世代機のガンダムシルトは予備の戦力としてユーノに割り当てられることになっていた。

「この子のこと、かわいがってあげてね。私がイアンたちに直談判して造らせた大事な子なんだから。」

そう、GNY-00X、ガンダムシルトは本来なら製造されることのなかった機体である。
絶対的な防御力と圧倒的な突進力を用いて単機で敵陣を突破し、拠点を制圧するというコンセプトの元で設計が開始された。
しかし、その特性上武装は近接戦闘のものに限られるというバランスの悪さと、パイロットの技術に依存しすぎる操作性がたたり開発は中止された。
しかし、ひょんなことからそのデータを見つけたエレナがイアンたちに直談判。
ヴェーダの判断により試験運用の後に欠点を克服した第三世代機を製造することを条件に、本来彼女のためにつくられるはずだった機体に代わり、シルトが製造された。
そのため、型式番号も00Xという特殊なものになってしまったのだが、当の本人は「みんなと同じより変わっているほうがおもしろい!」とあまり気にしていなかった。

「でも、なんでわざわざ、こいつにしたんだ?他にもあったろうに。」

「ああ、それはね……」

エレナの表情が少し曇る。

「みんなのことを守れると思ったから、かな……」

「守る?」

ユーノは疑問に思う。シルトの防御力の高さは敵陣を突破するためのものであり、味方の援護に使われるものではない。

「この子のコンセプトはわかっているけど、それでもみんなを守るために力を使いたかったの。あんな思いはもうごめんだから……」

エレナの目がうるんでいる。

「……あたしの本当の名前はね、リリー・A・ホワイト。オーストラリア北東部の地主の家で生まれたの。」

本来機密事項であるはずのことを語り始めるエレナにユーノは驚く。
しかし、エレナの悲しそうな表情を見ていると止めることはできなかった。

「地主だった父はユニオンとの同調路線を指示していたわ。周辺住民の安全と生活の安定を図るためにね。そんな父を私は尊敬していたし、周りのみんなも慕っていた。でも……、ユニオンはそんな父の信頼を裏切った!」

エレナが怒りに拳を震わせる。瞳からはとめどなく涙があふれおち、頬にいくつもの歪なラインが描き出されていく。

「私が六歳の時だったわ、旧政権とステイツとの対立が激化したの。そしてユニオンから軍隊が派遣されることになって、私たちがいた場所も戦場になると聞いて、ユニオンから指示された避難場所に向かって移動していた。その道の途中だったわ、突然旧政権の連中が現れて民間人の私たちに攻撃し始めたの。私たちは必死に逃げた。一人、また一人と人間が撃ち殺されていく中を、ね。」

「……それでどうなったんだ。」

「逃げ切れない悟った父と母は幼い私を逃がすために囮になったの。私は止めようと思った。けど、口が凍ったみたいに動かなくなって言いたいことも言えずに、促されるままに走り出した。そして次の瞬間、父と母がいたところが爆発して私は爆風でふっ飛ばされて石にでも頭をぶつけたのか気を失ってしまったの。
そして、意識を取り戻した時に目の前に広がっていたのは、真っ赤な炎で焼かれている故郷を攻撃しているMSや戦闘機がいる光景だった……」

エレナは自分の中で燃えたぎる怒りの炎を吹き消すようにふうと一息つく。その目からは涙はもう流れておらず、ただ悲しみだけが残った表情を浮かべて再び話しだす。

「ユニオンは私たちを旧政権軍をおびき出すための餌にしたの。そして、そこを重点的に爆撃した……。そのことを知った住民たちは手のひらを返して旧政府軍の支持に回ったわ。口々にそれまで慕っていた父への罵倒の言葉を言いながら。ユニオンはユニオンで自分たちが攻撃している近くに私がいることも知らずに父を役立たずだと嘲笑っていたわ。」

ユーノはエレナを見る。いつもの明るい彼女からは想像もつかない壮絶な過去。そんな過去を背負いながら彼女はいつも笑って自分や仲間を励ましてくれたのだ。そんな彼女に自分は何もしてやれない。それが歯がゆかった。

「その四年後、反旧政権組織で戦っていた私をソレスタルビーイングのエージェントがスカウトしたってわけ。」

そう言うとエレナはいつもの明るい顔に戻り、穏やかな笑みを浮かべシルトを見つめる。

「だから、この子ならもうあんなことにはならない。ユーノやロックオン、刹那にアレルヤにティエリア、みんなのことを守れると思ったんだ……」

「…………………」

二人はシルトを見つめ続ける。互いに大切な思いを再確認しながら。



魔導戦士ガンダム00 the guardian  5.代償

(あ…、れ?)

エレナは意識を取り戻した。いきなり衝撃を受けたところまでは覚えているがそこから先は覚えていない。周りを見ると何か異常が起きたのかぼろぼろでむき出しになった赤熱している基盤や配線に目が行く。
そして、続いて体に痛みがあることに気付く。下に目をやると薄い一枚の板状の金属が右胸から腹部にかけてを貫いていた。

「っ、はぁ…!ここ…、まで、かぁ……」

エレナは一人きりのコックピットでつぶやく。息はすでに荒く、はくたびに血も一緒に口から出た。後悔で心が埋め尽くされていく。だが、同時に仕方がないという思いがわき起こる。

(みんなを、守るための力を、復讐に使ったから、ばちがあたった、かな?)

世界と向き合う。そう言ったのに敵を見るとすべてが頭の中から吹き飛んだ。怒りで周りが見えなくなっていた。

(迷惑、かけちゃった、な……。でも……)

死ぬにはまだ早い。最後の力を振り絞り、エレナはかろうじて生きていた回線を開いた。










オーストラリア東部沖合

「くっそぉぉぉぉっっっ!!」

「ちぃ!こいつらシルトばっかり狙ってきやがる!」

ロックオンとアレルヤは窮地に立たされていた。残っていたリアルド達は特攻のために頭部と胸部を破壊されたシルトをしつこく狙って撃ってきた。
ロックオンとアレルヤはシルトに装備されたGNドライヴを守るために…、
否、実際は自分たちの仲間を守るためにシルトの周りに立ち、防御をしながら迎撃を行っていた。
その時、キュリオスの肩に弾が当たる。

「ぐぁっ!」

「アレルヤ!っく!」

続いてデュナメスにも弾がヒットする。
これしきの弾では墜ちはしないが、衝撃は内部に伝わってコックピットを揺らした。
母艦からの援護砲撃で足場が揺れるとはいえ通常の戦闘でなら100%遅れはとらないだろう。しかし、仲間を守りながら、しかもその仲間が墜とされたという事実が二人に焦りを生じさせ知らず知らずのうちに操作を鈍らせていた。

「シルトヨリ通信!シルトヨリ通信!」

「何!?ほんとか!?」

ロックオンは驚きと喜びの声を上げた。先ほどまで沈黙していた仲間が通信をしてきたのだ。だが、喜びは無情にも打ち砕かれることとなる。

「エレナ!無事なのか!?心配かけさせんな!」

『ロ…、ックオン……』

ロックオンは異変に気付いた。ノイズが混じっているだけでなくエレナの声がよわよわしい。

「おいっ!どうしたエレナ!」

『シルトの……太陽炉…持って、逃げて……』

「何言ってんだ!お前を置いてなんて!」

『私、は…、もう駄目、だから…せめて、太陽炉を………』

「あきらめんな!こんな奴らすぐに!」

エレナの声はますます弱くなる。

『ユー…、ノに…謝っ、といて…。やくそく、守れなくて…ごめん、って…』

「っ!ばかやろぉ…」

エレナはこんなときまで人の心配をしている。その事実にロックオンの目頭が熱くなる。

「連れて帰ってやるから自分で言え!自分からあいつに言ってやるんだ!」

ロックオンはそう言うと再びデュナメスの固有装備であるガンカメラ用のカメラアイからリアルドに狙いをつける。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

そう言うとスナイパーライフルのトリガーを引くが、いつもと違い狙いが甘いのか、外れてしまう。それでもロックオンは構わずにスナイパーライフルを撃ち続ける。

「ちくしょう…、ちくしょおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

ロックオンが叫んだとき、何かが戦闘機形態のリアルドの一機に突っ込んできた。
その何かはリアルドに手に持った桃色の閃光を突き刺し、袈裟がけに振り下ろした。
リアルドは中心から左脚にかけて赤いラインを刻むと海へ向かって落下し、爆散した。

「あれは…!」

アレルヤはその機体を見た。丸い顔の額には正五角形を逆さにしたものにV字の角が伸びている。
その下には緑に輝くカメラアイがあり、人間なら口がある部分からは赤い突起物が突き出ている。
顔の両横の部分には後ろにかけてすらっと伸びた鳥の翼を思わせるような突起物があり、その正面には銃口がうかがえる。
コアのようなものがあるボディはシルトのような萌黄色一色で染められ、ふちには赤いラインが入っている。
肩には白と萌黄色で彩色された台形のプロテクターがあり、そこからのびる純白の腕には、右に先端が鋭く研ぎ澄まされた刃、反対側には二つのとがった突起物がある盾を持ち、左には剣をかたどった桃色の閃光、GNビームサーベルが握られている。
左の腰にはキュリオスのサブマシンガンとほぼ同じ長さの銃身をした銃が装備されている。それは白を基調とし、黒いラインが入っている。
腕と同じく純白に彩られた脚の関節部分にはこれまた萌黄色のプロテクターのようなものが見られる。
何より特徴的なものは、背中から飛び出た円錐の動力部、GNドライヴである。

その姿を見たロックオンは唖然とする。

「ソリッド……!?まさか、乗ってんのは!」

そのまさかだった。

「ユーノ・スクライア…、ガンダムソリッド…、目標を殲滅する!!!」











無人島  格納庫

『シルト、敵の攻撃を受け損傷!マイスターの生死不明!!』

「シルトが損傷だと!?」

壁に寄りかかり三人の帰還を待っていたユーノはクリスティナのあせった声で壁から跳ね起きた。しかもエレナの生死が不明だと聞き焦りと後悔が生じる。

(なんで行かせちまったんだ……!)

あの状態では危険だとわかっていたのに。それでも彼女の意思を尊重して行かせた。自分なら止められたのに!

「っく!!」

ユーノは整備が済んでいるヴァーチェへと向かう。が、それをイアンに腕を掴まれとめられる。

「どこに行く気だ!ユーノ!」

「ヴァーチェでエレナたちを助けに行く!」

「無理だ!個人認証システムを解いとっては間に合わん!」

「じゃあどうしろってんだ!」

ユーノはイアンの手を振りほどくと鋭い視線を向ける。

「ティエリアに頼むしかないだろう。少なくともお前じゃどうにも……」

「僕は行かないぞ。」

言い争う二人のもとにティエリアがやって来る。

「どういうつもりだ!ティエリア!状況からして援護に向かうべきだろう!」

イアンはティエリアを怒鳴りつけるがティエリアは顔色一つ変えずに言葉を続ける。

「彼女は自ら護衛をかってでたんだ。ロックオンたちが無事にGNドライヴを確保し、機密保持のためにシルトを破壊して戻ってくればいいだけの話だ。救出に向かう必要はない。……そう、必要ないんだ。」

よく見るとティエリアの腕がわずかだが震えている。今までにない反応だがユーノはその時、そのことに気付くことはなかった。

「くそぉ……!」

ユーノは悔しさに震える。自分には何も出来ることがないのだという無力さをかみしめながら。

その時、ゴゴンという音とともに外から格納庫のドアが開けられる。
そこには緑がかった黒髪を後ろでツインテールでまとめ、冒険映画にでも出てきそうな服と帽子をした少女が、長い後ろ髪を後ろで結わえた、長身の男にお姫様だっこをされた状態でいた。
少女の顔には若いながらも妖艶な美しさをたたえた微笑みが浮かんでいる。

「何かお困りかしら。」

「王留美!!」

イアンが驚きの声を上げる。
王留美。各国をまたにかけるソレスタルビーイングのエージェントである。

「あなたがユーノ・スクライアね。はじめまして、王留美よ。」

(こいつが……)

留美の笑顔を見た瞬間、ユーノの体に緊張感が走り脳が警告を発する。
『こいつを信用してはいけない』と。
それが彼女の持つ妖艶な気配によるものなのか、はたまたエージェントという彼女の性質故なのかはわからないが、油断ならない人物だということは確かだ。
ユーノの気配を察知したのか長身の男、紅龍は顔つきを厳しくした。

「そんなに警戒しないでいただきたいわね。」

「それより何の用だ、こっちは今取り込み中なんだ。後にしてくれ。」

「あら、つれないことをおっしゃるのねイアン・ヴァスティ。せっかく状況を聞いていいものを届けに参りましたのに。」

その時、三人はようやく留美のはるか後ろに何かがあることに気付く。

「いいもの…?っ!まさか!」

イアンの顔が信じられないといった表情になる。

「そのまさか、でしてよ。」

留美がパチリと指を鳴らすと横になっていたであろう何かがゆっくりと起こされていく。
それは、太陽の光を浴びて萌黄色の体を輝かせる機体、ガンダムだった。

「ソリッド!完成していたのか!」

普段は冷静なティエリアも驚く。なにせ最後の機体、ガンダムソリッドはロールアウトまでまだかかると思われていたからだ。

「本来はエレナ・クローセルで登録するのですが、彼女はいまこの場にはいません。そこで……」

留美が真剣な顔でユーノをみる。

「セミ・マイスター、ユーノ・スクライアで登録してあります。ヴェーダからはソリッドで出撃して先に出撃した三機を援護。敵残党の殲滅をせよとのことです。」

「馬鹿な!準マイスターを第三世代機に登録だと!?そんなことをヴェーダが許すわけがない!」

ティエリアは声を荒げる。それを見た留美が目を細める。

「あら、なら試してみればよろしいじゃありませんか。彼が動かせるかどうか。」

「くっ!」

二人は同時にユーノに視線を向ける。その先には決意に満ちた表情のユーノがいた。
そして、ユーノは作業着のままソリッドのもとへと走りだす。

「待て!ユーノ・スクライア!」

ティエリアは呼びとめようとしたがユーノは構わずソリッドへと走って行った。









素早くパイロットスーツに着替えコックピットに乗りこむと起動コードを音声入力する。

「GNシステム、リポーズ解除、プライオリティをユーノ・スクライアへ。」

ユーノの言葉に反応してコックピットの中に機械の駆動音が響き、外の様子が映し出された。
ユーノは目をつぶり大きく深呼吸をする。初めての実戦、だが関係ない。仲間が、あいつが待っているから。
ユーノは目を見開くと操縦桿を握りしめる。

「ユーノ・スクライア。ソリッド。出るぞ!」

ソリッドはふわりと浮きあがると急加速して蒼天のかなたへ向かって飛びたって行った。










オーストラリア東部沖合

「いた!」

まだまだ距離はあったが、ユーノは5機の上空を飛びまわるリアルドと援護射撃をする母艦を発見する。

「エレナたちは!?」

ユーノはリアルドの下にあるブリッジが丸々なくなっている母艦の甲板をズームで見る。
そこにはらしくない動きをするデュナメスとキュリオス、そして、




首から上が吹き飛び胸部の傷から火花を散らして倒れているシルトがいた。






ブツンッ



ユーノの中で何かが切れた。

「きさまらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

ユーノは右の腰に備え付けていたビームサーベルを抜いて突進を開始した。
そのコンセプト上、第三世代機のなかで群を抜く推進力はリアルド達との距離をあっという間に縮める。
そして、飛んでいた一機にビームサーベルを突き刺すと袈裟がけに振り下ろした。
リアルドは赤いラインを刻み海へ落下していき爆散した。

「あれは…!」

「ソリッド……!?まさか、乗ってんのは!」

「ユーノ・スクライア…、ソリッド…、目標を殲滅する!!!」

リアルド達は散開するとソリッドに対してリニアライフルを発射する。母艦も援護射撃をしかける。
ユーノが操縦桿を軽く動かすとソリッドは横滑りをするかのようななめらかな動きで五方向から時間差で向かってくるライフルの弾と砲弾を紙一重でかわしていく。

「こ、こいつも新型か!?」

「撃、撃て!とにかく撃つんだ!!」

リアルド達はライフルを撃とうとした。が、突然ボッ!という音とGN粒子を残しソリッドの姿が消えた。
と次の瞬間、

「う、うわああぁぁぁぁっ!」

自分たちの上空に仲間の一人が刃のついた盾、GNアームドシールドに貫かれ持ち上げられていた。

「や、やめろぉぉっ!やめてくれぇぇぇぇぇっ!!!」

パイロットは痛みと恐怖からのがれるために懇願するが、やめるはずがない。
なぜならユーノはわざとコックピットを外していたのだ。そして、怒りに震える声でまだ生きているであろうパイロットに語りかける。

「痛いか…?苦しいか…?そうだろうな…、だがな………。エレナが…、アイツが受けた痛みや苦しみは………」

ソリッドのGNドライヴが澄んだ音をあげて粒子の放出量を増加させる。するとアームドシールドのブレードがGN粒子を纏い振動を始めた。

「こんなもんじゃねぇぇぇえぇぇぇぇぇええぇっっっっっっ!!」

ユーノが一気にブレードを振り抜くとリアルドは真っ二つになって海へと落ちて行った。

ユーノは憤怒に身を焦がしていた。ロックオンとアレルヤから通信が入っているが知ったことではない。




こいつらがエレナを苦しめていたんだ。
エレナにあんな辛い表情をさせたんだ。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!!

「ヒッ!」

ソリッドの視線を受けた残り二機のパイロット達は戦慄する。
ソリッドは元の場所にサーベルをしまうと反対側の腰に装備している銃を手に取った。

「う、うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」

恐怖に押しつぶされたパイロットの一人がライフルを撃ちながら特攻をかける。
しかし、ソリッドは動くそぶりを見せない。結果、全弾命中し煙が上がる。

「「ユーノ!」」

ロックオンたちは思わず叫ぶ。
が、煙がはれるとそこには右手に白を基調とし、黒いV字のラインの入った縦に長い六角形を中心に、周りには桃色の大きな六角形の網目状のビームが張り巡らされている。
ソリッドには傷一つついていない。

「ロックオンじゃないが狙い撃たせてもらう!」

ビームが消えるとシールドは変形し銃の形、GNシールドバスターライフルになる。
ユーノは銃口をリアルドに向けると三発の光弾を放つ。
それはリアルドに全弾命中し爆発を起こす。

それを見た最後の一機が逃亡を図るが、

「逃がさん!!」

右腕に装備したシールドが180度回転して、突起物、バンカーの部分を下にした状態でがちりと音を立てて固定される。そして、

ゴウッ!!

ソリッドはMSとは思えない速度で突進し戦闘機形態のリアルドに盾をぶつけ、方向を修正し、砲弾もお構いなしに母艦めがけ突っ込んでいく。

「圧縮粒子解放!GNバンカー、バーストッ!!」

ドンッ!!

リアルドは二つの穴を穿たれ、うなりをあげながら斜め上から母艦に激突する。
母艦はさながらタイタニックのように真っ二つになり爆発した。











ユーノ達はシルトの横たわる母艦の上にいた。
エレナを救出したものの、出血量と傷の大きさからもう持たないことが明白だった。

「すまねぇ、ユーノ…。エレナを守ってやれなくて……!!」

ユーノは首を静かに振る。

「そんなことない。約束どうり、エレナとこうして会えた。」

「ユー…ノ…」

エレナがかすれた声でよびかける。

「ごめん…ね。失敗、しちゃった……」

ユーノは瞳を潤ませながら首を振る。

「違う!俺が…俺が止めていれば、こんなことには…!」

「ねぇ…、ユーノ…、知ってた………?私、あったとき、から…、ずっと、ユーノのこと、好き、だったんだよ……?」

切れ切れの言葉でユーノに告白するエレナ。
あまりにも純粋で、あまりにも悲しすぎる告白。
その様子をロックオンとアレルヤは黙って見つめる。
目をそらしてはいけない。これが自分たちが負うべき罰なのだから。

「キス…、して……っかは…!最後……くらい、わがまま、きいて………」

ユーノは横たえていたエレナの背中に手を回し抱き上げると、涙を流しながら口づけをした。
パイロットスーツは血で汚れ、口の中にはしょっぱい鉄の味が広がっていく。悲しいキスだった。

どれだけ経っただろうか不意にエレナの体の重さが増したように感じ唇を離す。

「エレナ……?」

声をかけるがエレナは満足そうな笑顔のまま動かない。

「エレナ…?エレナッ!?エレナッッッ!!!」

何度も呼びかけ体をゆするが目を覚まさない。そして実感する。エレナの死を。

「ーーッッ!!エレナーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」

海上にユーノの叫びが響いた。











悲しき代償と引き換えに少年は世界を変える力を手にした………。










あとがき・・・・・・・・・という名のお詫び

ロ「と、言うわけでユーノがガンダムに乗って大暴れ、の回でしたが、まず最初に4話に大量の矛盾があったので一部を大幅に改編しました。誠に勝手で申し訳ありません。」

ユ「ホントにアホな作者ですいません。しかし、これからはビシバシしごいていくので暖かな目で見守ってやってください。」

エ「しかし、私はここでいなくなっちゃうのかぁ~。」

ロ「それについては心配すんな。サイドストーリーを書いていくつもりだからそこで出してやる。」

エ「ホントッ!?」

ロ「ただしギャグになる可能性が大だけどな。」

エ「え~~!?」

新ヒロイン(?)、不満そうに口をとがらせる。

シ「出れるだけありがたいと思え!!」

シャ「私たちなんて本編でも全然……」

エ「え!?何この人たち!?」

シ「死んだ貴様に代わり我々が……」

ロ「退場おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

ロビン、某月の巨砲を持ち出し発射する。

「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

出番がない憐れな人たちは星になりましたとさ。

エ「なんだったの…?」

ユ「俺たちの白昼夢だ。気にすんな。てか、ここでも俺の喋り方変わるんだな。」

ロ「一応な。まあ、おふざけはここまでにしてまじめに解説するぞ。今回はなんとかユーノをなんとかオリジナルのガンダムに乗せたかったんだよな。」

ユ「あの、お前の舌ったらずな妄想機体のことか。」

ロ「ぐはっ!キ、キツイこと言ってくれんな……。お前のってただろうが。」

ユ「なんかフワフワで乗ってて気持ち悪かったぞ。」

ロ「ヒドイ!!武器は結構自信あったのに!!」

ユ「調子に乗んな。」

冷ややかな視線にビビりが入る。

ロ「すんません!!!!」

エ「………。これからもこんな感じで行きますがご意見、応援、感想をお待ちしています。最後に、こんな拙い文を読んでくださった皆さんに心からのお礼を申し上げます!それじゃあ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 6.決意の夜
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
オセアニアの無人島  格納庫

「では、私たちは損傷したシルトとGNドライヴを回収させてもらいます。」

留美はそれだけ言うとその場を後にし、森の中を歩いていく。
GNドライヴは無傷で、シルトは損傷が軽微だったもののコックピット内で小爆発が起こっていたため回収し修復されることになっていた。
もっとも、本来の目的は違うのだが。
その道の途中で紅龍は留美に“本来の目的”に関しての疑問をぶつける。

「お嬢様、本当によろしいのですか?彼らにもう一機のガンダムと太陽炉を与えても?」

「彼らも世界を変えるため活動していることに変わりはありません。」

そう、彼らフェレシュテにも世界を変えるための力、ガンダムは必要なのだ……









魔導戦士ガンダム00 the guardian  6.決意の夜


ブリーフィングルーム

いつもは大量の言葉が飛び交っているブリーフィングルームだが、その日は違った。
ロックオンからの報告を受けた面々は各々違う反応を示した。
泣きながら崩れ落ちるもの。
うつむいて涙を流すもの。
いまだに信じられず困惑の表情を浮かべるもの。
悔しさから壁に拳を叩きつけるもの。

それらを眉間にしわを寄せたスメラギは見つめていた。
本当は自分も泣き出してしまいたい。悲しみに身を任せて思考を停止してしまいたかった。
だが、それは許されない。戦況予報士の自分が思考を放棄してしまえば仲間たちは再び危険にさらされる可能性がある。
そんなことは許されない。もう、大切なものを奪わせたりなどしない。

「……ヴェーダに報告を。エレナ・クローセルは死亡。マイスターの欠員を埋めるためにユーノ・スクライアを正規のガンダムマイスターとすることを希望する旨を伝えて。」





個室  ティエリアの部屋

自室のベッドの上に座っていたティエリアは不可解な感情におそわれていた。

エレナ・クローセルは死んだ。しかし、GNドライヴは無事だったのだ。
損傷したシルトもしょせんは第二世代機。しかも、損傷は軽微でもう使用できないということはない。
それに、彼女の行動には今まで問題があった。いなくなって清々したはずだ。
なのに、

「なんなんだ…、この感覚は…」

胸が締め付けられるような、心がかき乱されるようなこの感覚。
ティエリアは胸を押さえてうめく。

「いったいなんだというんだ……」

それが、仲間を失った悲しみだということを後に思い知ることとなるのだが、この時のティエリアはそんなこと知る由もなかった。





無人島 海岸

「エレナ……」

アレルヤは海岸で仲間との思い出を振り返りながら空を見上げていた。
ある日紹介された自分よりもずっと年下の女の子。
本当は戦ってほしくないと思っていた。こんなことをするのは自分だけで十分だ。
しかしその後、彼女の能力の高さに驚かされた。そして何よりも笑顔の奥に秘めた悲しみと固い決意に…

だからこそ、許せない。そんな彼女の命を奪い去ったこの世界の悪意が。

『だったら全員ぶっ殺しちまえよ、アレルヤ!きっと最高の気分だぜぇ!?ひゃははははははははは!!』

もう一人の自分が語りかけてくる。だが、

「……彼女はそんなこと望まない。彼女が望んでいたのは、世界を変えることだ。」

『ハッ!相変わらずつまらねぇ野郎だ。気にくわねぇ奴らは全員殺しちまえばいいんだよ!そうすれば…』

生きていると実感できる。
あの忌々しい記憶のことを忘れていられる。

しかし、アレルヤは拒否した。

「僕はあの事を忘れないよ。戦っている時も、そうでない時も。」

あの記憶を捨てるということ。それは、自分はここにいる目的を失ってしまうことと同義だ。

「あの記憶から逃げるために戦うんじゃない、もう僕たちのような存在を創らせないために戦うんだ。」

アレルヤは記憶の1ページにエレナを守り切れなかったことを書き加える。
どんなに苦しい戦いの中でも決意が揺らがないように。







医務室

イアンとモレノの前の机には脇に寄せられた書類の山と酒の入ったグラスが置かれていた。
足元にはすでに大量の空瓶が転がっているが、モレノはそれを気にも止めずにグラスを手に取り一気に中身を飲み干す。そして、再びグラスを琥珀色の液体で満たした。

「それぐらいにしとけ。医者の不養生なんてシャレにならんぞ。」

「ほっとけ…」

モレノはイアンの制止を無視して再び飲み干して酒を注ぐ。
イアンもそれ以上は何も言わずに、同じように飲み干す。

「思い出すな……」

イアンはぽつりとつぶやいた。
かつて、ここでモレノと酒を飲んでいたときにエレナがやってきて、医務室で飲酒するのは不謹慎だと自分たちから酒を取り上げたこと。
それを止めようと千鳥足で追いかけたこと。
ベーッ、と舌を出し、まわれ右してかけて行った後ろ姿。

そんな日々がもう来ないことを二人は痛感していた。

「ルイードやマレーネやグラーベといい、エレナといい、いいやつ等から死んでいっちまうな…。いやな世の中だ。」

「モレノ……」

二人はかつての仲間のことを思い出す。
危機に陥った若い仲間のためにその身を呈して救い出したものたち、フェルトの両親のことを。
そして、今のマイスター達ともかかわりの深い男のことを。

「また、救えなかったな……」

モレノは天井を見上げてため息をつく。
国境なき医師団に所属していた時から人間が死んでいく様を数えきれないほど見てきた。しかし、どうしても慣れない。

(いや、慣れてしまってはいけないんだ…)

慣れてしまえば目の前の命を軽んじてしまう。そんな気がした。

「お前のせいじゃない。ルイードも、マレーネも、グラーベも、そしてエレナもどうしようもなかったんだ。」

「それでも、やはり自分にも何かできたんじゃないかって考えちまうのさ。どれだけ時間が経とうとな。」

そういうとモレノは再びグラスをあおった。
その様子を見てイアンは嘆息する。

(まったく、医者ってやつは難儀なもんだな……)







個室  刹那の部屋

刹那は明りのついていない自室の床で腕立て伏せをしていた。途中から回数は数えていない。
ただ、かなり前からしているのか体中に玉のような汗がついている。

「はぁ…、はぁ…、っくぁ…!」

とうとう限界を迎えたのか、刹那は手を滑らせて肩から床にぶつかった。
荒い息を整えるように大きく息を吸うと床に大の字になり天井を見上げた。

(ユーノ・スクライア………)

刹那は天井の明りを見ながらユーノからかけられた言葉を思い返していた。





数時間前、ユーノが血まみれの、だがしかし満足そうな笑みをを浮かべたエレナを抱きながら帰還してきた。刹那は無表情で出迎えるが心は乱れていた。
世界と向き合いたいと打ち明けられた時、そのためなら戦うべきだと思って送り出した。
そして命をおとした。自分が戦わせたせいで。

ふと、ユーノと目が合うと彼はこちらに歩いてくる。刹那はまっすぐユーノを見つめ返す。
何を言われるかは大体わかっている。ならば、その言葉を受けよう。それでユーノの気がすむのなら。
しかし、ユーノの口から出てきた言葉は刹那の予想していたものと違っていた。

「……ありがとう、刹那。エレナを、世界と向きあわせてくれて……」

予想外の言葉に驚く。

何を言っているんだ?
自分が殺したも同然なのに。
なのになぜそんな言葉をかけるのか?

エレナを抱いたまま歩いていくユーノに言葉をかけることができず、刹那はその背中を黙って見送ることしかできなかった。




「なぜ、あんな……」

どんなに考えてもわからない。それは自分が戦い続けることしかできない歪な存在だからなのか。

ならば、自分はあえて戦い続けよう。
その答えを見つけるために、世界を変えるために。










廊下

ロックオンは走っていた。
ユーノが正式なマイスターになったことを伝えるために。そして、それよりも伝えなくてはならないことがある。
拠点に戻ってきたときにユーノがしていた顔。あれには見覚えがある。
目は鋭くつりあがり、口は真一文字に結ばれていたあの顔はかつての自分そのものだ。
いや、今もそうだ。自分はいまだに復讐心に振り回されて戦っている。
だからこそ話さなければならない。
自分の過去を。

(ユーノ、お前は俺じゃねぇだろ。お前は、俺のようになっちゃいけないんだ!)









個室  ユーノの部屋

ユーノはベッドに座り暗い虚空をまっすぐ見つめていた。その目には怒りの炎が宿り暗闇の中でも爛爛と輝いている。

ユーノはエレナに過酷な運命を強いたこの世界を創り上げたものたちがどうしても許せなかった。
だから自分がこの手で歪んだ世界を裁く。ガンダムを使って。

ユーノが決意を固めていると扉が開き暗い部屋の中に光が差し込む。

「うっ………!」

闇に目が慣れていたユーノは差し込む光がまぶしく、目を細くする。
そこには誰かが立っているがまだ目が慣れず、よく見えない。

「明りぐらいつけとけ。目が悪くなんぞ。」

どこかひょうひょうとした口調、そして目が慣れてきたことからその人物が誰なのか判明する。

「ロックオン…、どうかしたのか?」

ロックオンは部屋の明かりをつけユーノの前に立つ。

「さっき、ヴェーダから連絡があった。お前を正式なガンダムマイスターとするそうだ。だが……。」

ロックオンは表情を厳しくする。

「俺は今のお前をガンダムに乗せるのは反対だ。」

ユーノは目を見開き驚いた表情でロックオンを見る。

「なぜだ!?」

「なんでもクソもあるか。今の自分の顔を見てみろ。ひでぇ面してんぞ。」

ユーノは自覚があるのかそれきり黙りこんでしまった。
ロックオンはその姿を見てまいったなとつぶやき、深くため息をつく。

「復讐のために戦ったって虚しいだけだぞ。」

「お前に何がわかるんだよ!エレナを奪ったこの世界と向き合うには復讐にすがるしかねぇだろうが!!!」

ロックオンはユーノの目を見る。怒りに心を焼き尽くされた悲しい目。かつての自分と同じ運命を歩もうとしている人間の目だ。
だが、まだ引き返せる。そう信じてロックオンは語り始める。

「……ある男の話をしてやる。そいつの名前はニール・ディランディ。アイルランド生まれのどこにでもいるただのガキだった。あることが起きるまでは……」

ユーノはいきなり喋り始めたロックオンに困惑するが、黙って聞いていた。

「14の時のことだった。そいつは家族と一緒にとあるデパートに行った。家族がデパートで買い物をしている間そいつは外で待っていた。だが、家族が戻ってくることはなかった。
突然後ろで爆発が起こりそいつは吹っ飛ばされた。そして、後ろを振り返ると、家族がいるデパートは瓦礫の山に変わっていた。」

ユーノはそのとき、ロックオンの目の奥に宿る炎を見た気がした。自分と同じ復讐の業火を。

「その後、そいつはそれが無差別テロだと知り、誰よりもテロを憎むようになった。そしてその後、そいつはソレスタルビーイングに勧誘され、その理念に共感してはいることを決意した。入った後も何年経とうと憎しみは消えることがなかったがな。でも…」

ロックオンはユーノに笑いかける。

「そいつは仲間と出会い、初めて守りたいと思えるものを見つけた。そして今、仲間が自分と同じ存在に、復讐者にならないように昔話をしに来たってわけさ。」

ユーノの目から涙がぽろぽろと零れ落ちる。
ロックオンがこんな醜い自分のために、無力な自分のために辛い過去を話してくれたという事実が無意識にユーノの目に涙を生んでいた。

「ロック…オン、……オレッ、は……俺は…!」

ユーノはしゃくりあげながらも言葉を紡ごうとする。

「俺はっ…、俺は、ロックオンほど強くはないんだ!わかってたさ!アイツが復讐なんて望んでないことも!そんなことしたってもうエレナが戻っていないことも!でも、どうすればいいかわからないんだ!この感情はどうしたって消せはしない!そんな俺が何のために戦えばいいのか!」

ユーノは思いのたけを吐き出す。自分の心を縛り付けているその思いを。

「なら、こいつで隠せ。」

ロックオンはユーノに何かを投げる。それは、鈍く黒い光を反射するサングラスだった。

「瞳の奥に何もかも封じ込めて、そいつで隠しとおせ。今お前が持っている感情を捨てろとは言わない。だが、そいつにお前自身を支配させるな。」

ロックオンはユーノの頭を優しく、しかし力強くなでる。

「エレナが好きだったのは、復讐に駆られたお前じゃない……。何かを守るために戦うお前だろ。」

「う、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ユーノは泣いた。それまで自分の心を覆っていた闇を晴らすかのように。
膝の上に置かれたサングラスの上には今のユーノの心を現すかのような澄んだしずくが輝いていた。










彼らはそれぞれの決意を固める。世界に変革をもたらすその日のために。










あとがき・・・・・・・・という名の懺悔

ロ「というわけで第六話でした。なんかぐだぐだですんません。」

兄「ホント駄目駄目だな。まあ、なんか俺がいいこと言ってたから良しとするか。」

ア「あのものすごいクサイセリフのこと?」

兄「クサイ言うな!」

ユ「………………////」⇐感動していたので何も言えない

ロ「書いた俺が一番恥ずいから言い争うのやめてくんない?」

ア「それじゃ、解説行こうか。なんかすごい強引にユーノをマイスターにしちゃったね。」

ユ「主人公だからいいじゃん。」

ロ「お前、それで全部許されると思うなよ。」

兄「てか、ティエリアのキャラが違うよな。」

ロ「これのティエリアは少し丸くしようと思ってるからな。ギスギスしたの嫌いなんだよ。さて、次回からはいよいよ本編行くぞ。」

ア「やっと介入行動を開始するのか。」

ロ「待ちわびたろ。」

ア「僕は憂鬱だよ……(いろいろとね)」

ユ「俺は最初どこに行くんだ?」

ロ「秘密に決まってんだろ!」

兄「ユーノ…、お前いい加減ネタバレって言葉を覚えろよ……。では最後に、こんな拙い文を読んでくださった皆さんありがとうございます!よろしければこれからもご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃいくぜ、お前ら!せ~の…」

「「「「次回もお楽しみに!!」」」」



[18122] 7.介入開始
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/06/24 23:22
西暦2307年
地球の化石燃料は枯渇し、人類は新たなるエネルギー資源を太陽光発電にゆだねた。
半世紀近い計画の末、全長約5万キロにも及ぶ三本の軌道エレベーターを中心とした太陽光発電システムが完成する。
半永久的なエネルギーを生み出すその巨大構造物建造のため世界は大きく、三つの国家群に集約された。

米国を中心とした世界経済連合、通称ユニオン。

中国、ロシア、インドを中心とした人類革新連盟。

そして、新ヨーロッパ共同体AEU。

軌道エレベーターはその巨大さから防衛は困難であり、構造上の観点から見てもひどく脆い建造物である。
そんな危うい状況の中でも各国家群は己の威信と繁栄のため大いなるゼロサムゲームを続けていた。

そう、24世紀になっても人類はいまだ一つにはなりきれていなかったのだ。


だが、そんな世界に大いなる楔がうちこまれようとしていた………





魔導戦士ガンダム00 the guardian   7.介入開始

西暦2307年 AEU軌道エレベーター  AEU軍事演習場

ビルの屋上に設置された全自動銃座のカメラ達はビルの間から飛び出てきた薄緑色のMSを捕捉すると一気に銃弾(もっとも、模擬弾なのだが)の掃射を開始する。
しかし、そのMSは銃弾をかわしながら接近し、その上に備え付けられた的を撃ち抜いていく。

一通り的を撃ち終えたMSはビルの間の道へと着陸するが、今度はその左から弾丸が飛んでくる。
MSは慌てる様子もなく左腕に装備した棒状のものを回転させて弾をはじいていく。
そして、弾丸が飛んできた方向に体を向けて飛びあがり弾丸の雨を潜り抜け上空のバルーンの的を撃ち抜いた。

そのまま高度を上げ、空中でバク転のように後ろを向くと銃座の上の的を撃ち抜いていく。
観客席からその様子を見ていた人々の間から感嘆の声が漏れる。

そんななかただ一人、ビリー・カタギリだけは冷静にその様子を見ていた。
長身を白のスーツで固め、長い髪を後ろで結び眼鏡をかけたその姿は大企業の営業マンのようにも見えるが、実際はユニオンのモビルスーツ技術開発顧問である。

「MSイナクト…。AEU初の太陽エネルギー対応型、か……」

カタギリが分析を進めているとクセッ毛の金髪の男が歩きながら彼に話しかけてきた。

「AEUは軌道エレベーターの開発で後れを取っている。せめてMSだけでもどうにかしたいのだろう。」

男が隣に来るとカタギリは笑みを向ける。

「おや、MSWADのエースがこんなところにいていいのかい、グラハム?」

グラハム・エイカー。ユニオン直属米軍第一航空戦術飛行隊、通称MSWADのエースにしてカタギリの親友である。年齢こそ自分より若いものの、そのMS操作技術はカタギリが知る中ではかなり抜きんでている。
だが、その口調や行動から周りからは変わり者と言われているが、その愚直なまでに自らの信念を貫こうとする姿にカタギリは好感を持っていた(もっとも、彼もまた相当の変わり者なのだが)。

「もちろんよくはないさ。」

グラハムは肩をすくめてカタギリの隣の席に座る。

「しかし、AEUも剛毅だよ。人革の十周年記念式典に新型の発表をぶつけてくるんだから。」

現在、人革連の軌道エレベーターの静止衛星軌道ステーション、天柱の中では電力送信十周年を記念する式典が行われている。
AEUはその式典と同じタイミングで新型のMS、イナクトの発表を行っている。
これは、人革連への対抗心と牽制の意味があるのはだれの目から見ても明らかだった。

カタギリとグラハムが話しているうちにイナクトはデモンストレーションを終えて着地した。

「どう見る?あの機体。」

「どうもこうも、うちのフラッグのサルまねだよ。独創的なのはデザインだけだね。」

カタギリの言う通り、イナクトはフラッグのデータをかなり流用している。
もっとも、デザインの他にも違う点がもちろんあるのだが。

「おいそこぉ!聞こえてッぞ!」

突然の声に二人はイナクトのほうを向く。
すると、中からパイロット、パトリック・コーラサワーが出てきて二人のほうを向く。

「今なんつった!?えぇ!?」

その様子を見ていた二人から苦笑が漏れる。

「どうやら、集音性は高いようだな。」

「みたいだね。」

このとき、まだ誰も予想だにしていなかった。
このイナクトの発表が後々、AEUにとってこの上ない不名誉になることを。




AEU軌道エレベーター上空

突き抜けるような晴天の中を降下してくる一つの光があった。
よく見ると、その光の正体はMSだが、白と青を基調とする人間のような容姿をしていて人革やAEU、ユニオンのものとは違っている。
そして、人間で言うところの額にはV字の飾りがあり、右腕についている長い刀身のついた盾のようなものが特徴的である。

「2400-82、エクシア目標地点捕捉、目標到達と同時に終了させる。」

MSのパイロット、刹那・F・セイエイは自分の愛機であるガンダムエクシアの中で状況整理を行っている。
今回の目的は新型のモビルスーツを撃破することで自分の機体、ガンダムの性能を世界に見せつけること。そして…

「目標対象確認、予定どうりファーストフェイズを開始する。」

目標のモビルスーツ、イナクトが画面に写ったことにより、刹那は思考を切り替える。
そしてそのままイナクトのもとへと降下していった。





管制室

「大尉、接近する機影を確認。」

「なに?」

管制室にいた兵士の一人がMSを発見して報告する。
上官は演習中にもかかわらず接近してくる機体がいることを知って少しいらだった。

「どこの部隊だ?演習中なんだ。さがらせろ!」

いつもならトラブルメーカーのパトリックとすぐに断定できるのだが、その本人は今まさに演習中なのだ。

(まさかアイツ以外にも馬鹿がいたとは………)

頭を抱えようとした時、部下が慌てた様子を見せる。

「レーダー反応、ありません!」

(なんだと!?)

レーダーにうつらないなどステルスを施された機体しかあり得ない。自分たちの部隊にはそんなものは存在していない。

「カメラで追え!」

すぐさまカメラでその姿を補足する。今まで見たこともないような機体を目にしてその場にいた全員から戸惑いと驚きの声が上がる。

「なんだ……あの機体は……」

その問いかけに答えられるものは誰もいなかった。







演習場

「あぁ?アンノウンだぁ?」

「今そちらに向かっている!気をつけろ!」

パトリックは管制室からの報告を半信半疑で聞いていた。
こんなときに仕掛けてくるものがいるとは思っていなかったのだ。

「どうしてこんなときに……」

続きを言おうとしたその時

ザザザザザザザザザザザザザザザザ

「っ!!な、なんだぁ!?」

突然ノイズが走るとそれきり通信ができなくなってしまった。

(なんだってんだまったく……)

そう思いながらふと上を見上げるとたしかに何かが近づいてきている。

そのことにデモンストレーションを見ていたカタギリ達も気づく。

「MS……?すごいな、もう一機新型があるなんて。」

「いや、違うな…」

グラハムはその形状からAEUのものではないことを判断する。
そして、何より背中からこぼれている光が気になる。

(あの光……)

とグラハムたちが思考を巡らせているうちにその機体はイナクトの数十メートル手前に着地した。

呆気にとられる観客たちの中で軍の関係者と思われる人物がイナクトと通信を試みるがどうやら繋がらないようだった。

「通信が……?」

グラハムがつぶやいたその時一人の兵士がその場にいた人間を避難させるために案内をしに来た。
が、そんな中カタギリとグラハムはMSを観察する。


パトリックはコックピットに戻ると突然の乱入者を見据える。

「おいおい、どこのどいつだぁ?ユニオンか?人革連か?ま、どっちにしても他人様の領土に土足で踏み込んだんだ……。ただで済むわけねぇよなぁ!」

そう言うと機体を待機モードから通常モードへと切り替え挑発する。
だが、目の前の機体は微動だにしない。

(なろぉ、なめてんのか!)

パトリックはすこしイラッとくるがまだ笑みは浮かんでいる。

「きさまぁ、俺が誰だかわかってんのか?AEUのパトリック・コーラサワーだ。模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!しらねぇとは言わせねぇぞ!」

そういうと左腕の中に装備されたソニックブレイドを抜き放って構える。
ブレイドが振動を開始し耳をつんざくような高周波に観客達が耳を押さえて呻くがパトリックは気にしない。
だが、それでもまだ動くそぶりを見せないアンノウンに遂にきれた。

「なめやがってぇ…、その面切りおとされりゃ少しは反省するかぁ!?ええ、おい!」

イナクトはそのままアンノウンへと突っ込みブレイドを突き立てようとした。だが、

「…エクシア、目標を駆逐する。」



斬ッ!


アンノウンは装備された盾の刃を起こすとそのまま上に振る。
イナクトの左手はブレイドを握ったまま金属の切断音とともに空高く舞い上がり地面に落ちた。

その場にいた人間全員が呆気にとられながらその様子を見ていた。
だが、誰よりも驚いていたのはイナクトに乗っていたパトリックだった。

「て…、てめぇ、わかってねぇだろぉ…!」

イナクトはライフルを向けると模擬弾から実弾に変えて至近距離から発射する。
しかし、放たれた弾はあっさりとかわされる。

(馬鹿な!)

パトリックは驚いて冷静ではいられなかった。誰よりも特別な自分がこんなことになるはずがない。これは悪い夢なのだと思わずにはいられない。
だが、悪夢はまだまだ続く。

アンノウンは肩から桃色の閃光を抜き放つと右斜めに切り上げる。

「俺はぁ!」

左腕が空を舞う。
続いて右腕に装備された剣が左に振られる。

「スペシャルでぇ!」

右腕が切り落とされる。
とどめとばかりに桃色の閃光がまっすぐ振り上げられる。

「2000回でぇ!」

イナクトの頭が宙へと放り出される。
アンノウンは終わったのを確信したように再び2つの刃を元の状態に戻す。

「模擬戦なんだよぉぉっ!!!」

イナクトはまっすぐ後ろに倒れて土煙を上げた。

その場にいた人間全員が逃げることも忘れて茫然とその様子を見ていた。

と、そんな中グラハムは前にいた男が持っていた双眼鏡を「失礼」と言ってとった。

「なにをする?」

「失礼だといった。」

男の不満を一蹴したグラハムは乱入してきたMSを双眼鏡で全身をくまなくみる。
すると額の飾りの上、カメラかセンサーだと思われる部分の上にGUNDAMという文字が刻まれていることに気付いた。

「ガン……、ダム?あのMSの名称か?」

「ガンダム……」

カタギリが小声で復唱した。





「エクシア、ファーストフェイズ終了。セカンドフェイズに移行する。」

目的を果たした刹那は次なる目的のために軌道エレベーターを上昇していく。
だが、AEUがここまでされて黙っているはずもなかった。

基地内の格納庫から三機の飛行形態のMS、ヘリオンが飛び立っていった。







ソレスタルビーイング輸送艦   プトレマイオス

静止軌道上の発電衛星の影に巨大な青と白でカラーリングされた艦があった。
ソレスタルビーイングの多目的輸送艦プトレマイオス。ガンダムを収容し航行することを目的として作られた。そのため、この艦自体には武装が何一つないのだがGN粒子のおかげでめったなことがない限り発見されることはない。

そんな艦のブリッジで4人のクルーたちがそれぞれの位置に座りキーボードを叩いている。

「エクシア、ファーストフェイズの予定行動時間を終了しました。セカンドフェイズに入ったと推測します。」

オペレーターの一人、クリスティナがいつになく真剣な表情でミッションの進み具合を告げる。

「ちゃんとやれてんのか刹那は?」

「でなきゃ、ソレスタルビーイングはそれまでってことで…」

「無駄口たたかないで。」

二人の操舵士、ラッセとリヒテンダールをクリスが叱責する。
そんないつもと様子が違うクリスティナを見てリヒテンダールがラッセに小声で話しかける。

(なんかいつもと雰囲気が違いますよね。)

(緊張してんだろうさ。実際俺もそうだ。)

(そうは見えませんけど…)

「二人とも何か言った?」

振り向くとじーっと視線を向けているクリスティナがいた。二人は蛇に睨まれた蛙のように固まり、顔をこわばらせた。

「そんなに緊張しないで。私たちソレスタルビーイングの初お披露目よ。ド派手に行きましょ。」

戦況予報士、スメラギがブリッジに入ってきて自分の席まで進むその手には…

「あーっ!お酒飲んでる!!」

「マジですか!?」

クリスティナの指摘に反応したリヒテンダールがスメラギの手に視線をやる。
そこには確かに彼女が酒をいれて携帯させているボトルがある。

「いいでしょ、私は作戦を考える係。後のことは任せるから。」

そう言ってクリスティナの批判的な視線を背に受けながらもボトルに口をつけて中身を飲んだ。
が、口を離すとそこには戦術予報士としての厳しい表情があった。






プトレマイオス  カタパルト

『コンテナ、ローディング終了。キュリオス、カタパルトデッキへ移動。」

周りに装備された五つのコンテナのうち、上の部分に来たものからキュリオスがカタパルトに降ろされていく。

「いよいよだ、ハレルヤ。……待ちわびた?僕は憂鬱だよ……」

キュリオスのマイスター、アレルヤはそう言うとヘルメットをかぶった。

『キュリオス、カタパルトデッキに到着。リニアカタパルトボルテージ230から520へ上昇。キュリオスをリニアフィールドに固定。射出準備完了。』

オペレーターのフェルトは機械的に確認を行っていく。

『タイミングをキュリオスに譲渡』

「I have control.キュリオス、作戦行動に入る。」

次の瞬間プトレマイオスからオレンジの戦闘機、キュリオスが勢いよく飛び出していった。






人革連軌道エレベーター   天柱

天中の静止軌道衛星内部では華やかなパーティが開かれていた。横の二つの壁に人々が立ち談笑するその光景は宇宙にいることを否が応でも実感させた。
そんななか王留美は飲み物を持っていなかったためかボーイに話しかけられた。

「お飲み物はいかがですか?」

留美が振り向き笑顔を見せるとボーイは顔を赤くした。

「いただくわ。」

ドリンクを受け取った留美はボーイがじっと自分の顔を見ていることに気付き、再び笑顔を見せる。

「そんな顔をしてると男が下がるわよ。」

くすっ、と笑うと反対方向へと浮遊していく。
そんな留美にマネージャー兼護衛の紅龍が話しかけてきた。

「お嬢様、はじまりました。」

その言葉を聞いた瞬間、留美の表情が凛としたものになる。

「…遂に、彼らが動き出すのね…。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター達が…」






AEU軌道エレベーター 上空

上空を飛行していたエクシアに下から弾丸が向かってくる。刹那は軽く操縦桿をずらして射撃を避ける。
見ると下からは三機のヘリオンが一気に自分へと向かってきて、
そして追い越した。

ヘリオンたちはエクシアの周りを大きく旋回し続けている。
刹那はGNソードをライフルモードに変えると、編隊を組んでいたヘリオンたちへ向けて弾丸を発射した。
しかし、それらは当たらず、ヘリオンたちはエクシアへと向かってくる。
だが、エクシアは素早くソードの刃を起こすと一機のヘリオンへとそれを振る。
金属の切断音とともに機体の一部を失ったヘリオンが地上に向けて落下していった。

刹那はそのまま一気に殲滅しようとするが距離を取られてしまい思うようにいかない。戦闘機タイプなのでブレイドによる近接攻撃は警戒しなくてもいいが長引くのはまずい。

一方、ヘリオンのパイロットたちもあせっていた。なにせどれほど狙いをつけて撃とうと軽く避けられてしまうのだ。

「なんて機動性だ!あんな機体が存在するなんて!」

「編隊を崩すな!間もなく増援が到着する!」

軌道エレベーターの中から次々とヘリオンたちが飛び立ってくる。刹那はそれをモニターで確認する。

「やはり、AEUはピラーの中にまで軍事力を……」

刹那の第二の目的、それは条約以上に配備された軍事力を白日の下にさらすことである。AEUはその思惑にまんまと乗せられてしまったわけである。
数を確認した刹那はヘリオンの大群の中へと向かっていった。





AEUの演習場の近くの荒野の岩陰に深緑の機体、デュナメスがいた。

「ロックオン、増援接近、増援接近。」

コックピット内の専用ポッドに入っているハロが相棒のロックオンに状況を説明する。

「はははっ、こりゃあ流石の刹那でも手を焼くかぁ。なら、狙うとしようか。」

そう言うとロックオンはコックピットのイスから体を起こすとデュナメス最大の特徴である精密射撃用のスコープを降ろしてセットする。
横から飛び出た接眼レンズを覗き込みロックオンは笑みを浮かべる。

「いこうぜ……、ガンダムデュナメスとロックオン・ストラトスの初お披露目だ!」





刹那は距離をとって攻撃を仕掛けてくるヘリオンの大群に苦戦していた。
四方八方から飛んで来る弾丸をGNソードを使って巧みにかわしていくがこのままではらちが明かない。

と、その時だった。細い閃光が一機のヘリオンの翼を穿った。
バランスを崩したヘリオンは黒い煙を上げながら落ちていく。

「て、敵襲です!」

「どこから…」

下の雲を払いのけて再び閃光がヘリオンを襲う。

「下からか!」

閃光を見た刹那は仲間が援護していることを確信する。

「ロックオンか。」





軌道エレベーターのはるか下にいるデュナメスは額のV字型のセンサーを降ろし精密射撃用のカメラで狙いを定め敵を撃っていた。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

ロックオンはカメラで捕捉した敵の翼のみを正確に撃ち抜いていく。
それはまさに狙い撃つという表現がぴったりくるものだった。

だが、AEUも黙ってはいない。即座に地上の基地からヘリオンを発進させる。

「ビームの位置から場所は割り出した!かなり近いぞ!」

三機のヘリオンがデュナメスのもとへと刻一刻と近づいてくる。

「敵機接近、敵機接近!」

ハロが慌てた様子でロックオンに告げるがロックオンはお構いなしといった感じだ。

「あわてんなよ相棒。何のためにこんな見つかりやすい場所にいると思ってんだよ。それにアイツも出番が欲しいだろうぜ。なぁ……」

「そこだぁぁぁぁ!」

ロックオンはモニターに写った攻撃態勢のヘリオンを見てにやりと笑う。

「ユーノ。」

ヘリオンから弾丸が発射される。が、その時射線軸上にGN粒子の壁をまとった萌黄色の機体、ソリッドが現れる。
弾丸はGN粒子の壁に当たると呆気なくはじかれた。

「も、もう一機だと!?」

驚くパイロットをしり目にソリッドはGN粒子の壁、GNフィールドを解除する。

「未完成だって言ってた割にはめちゃくちゃ使えんじゃねぇかこれ。」

ユーノはイアンからまだ調整中だといわれていた自分の機体のGNフィールドの能力の高さに感嘆の吐息を洩らす。

「アンマ使ウナ、アンマ使ウナ。」

コックピットの右手前にいる青色のハロが耳(?)をパタパタさせながらユーノを注意する。

「わかってるつーの。たくっ、イアンよりお前のほうが口うるさいぜ、967(クロナ)。」

目の前の相棒、967に文句を言っている間も攻撃はされているのだが二人(正確には一人と一機)は極小のGNフィールドのコントロールと巧みな動きでそれらをこともなげにさばいていく。

「んじゃ、ロックオンの期待に添えるように頑張りますか。」

ユーノは表情を厳しくして敵を見据える。

「ソリッド、目標を粉砕する!」

そう言うとユーノはアームドシールドをブレードモードにしてヘリオンに突進していき翼を切り落とす。
バランスを崩したヘリオンは地面をこすりながら進み停止する。
第三世代機の中で随一の突進力をもってすればヘリオンに一気に接敵することなど訳もなかった。

「ば、化け物め!」

「……なーんてこと言ってんだろうな。」

ユーノは相手のセリフをずばり当てるとシールドバスターライフルを抜いて構える。

「狙い撃つぜ!ってか?」

ロックオン直伝の射撃技術で的確に残りのヘリオンの翼を撃ち抜いた。





ちょうどその時、刹那とロックオンが上空のヘリオンをすべて撃破した。

「セカンドフェイズ…」

「…終了だ。ご苦労さん、刹那、ユーノ。」

『お前らだけで十分だっただろうが。なんで俺まで…』

「お前だけ参加できないのは不公平だと思ってな。さて、二人ともさっさとひきあげるぞ。」

『『了解』』

そういうと三人はその場を後にした。







天柱  管制室

「またEセンサーに反応だ今日はやけにデブリが多いな……」

モニターの反応を見て管制官の一人がつぶやく。実際この日はやけに反応が多い。

「質量大きくないか?」

「旧世代の衛星の残骸が引っかかったんだろ。」

と、そこへ指揮官と思われる男がやって来る。

「最大望遠で視認しろ。今が式典中だということを忘れるな。」

指揮官は管制官を注意する。
今日は式典で人革連の重要人物が大勢いるのだ。もし、万が一のことがあればとんでもないことになる。

「了解です。」

モニターに高軌道リングとそこに備え付けられた発電衛星と親機衛星が映し出される。と、突然その周辺に光が走る。

「な、なんだ!?」

「え、映像を拡大します!」

管制室にいる全員が光った場所を注視する。するとそこには、

「MSだと!?」

そこにはシールドに張り付くように進んでくるヘリオンがいた。

「馬鹿な!デブリにまぎれるなんて!」

「シールドの干渉で機体どころか、人体にだって…」

と、その時先頭の一機が爆発して散っていく。

「言わんこっちゃない!」

管制官が顔をしかめる。

「それだけの覚悟だということだ。」

「テロですか?」

部下の当たり前の質問には答えず指揮官は防衛部隊にスクランブルをかけた。





防衛部隊待機場

防衛部隊の人間はあわただしく動いていた。そんな中左目に大きな傷痕を持った人物が廊下を進んでいた。

セルゲイ・スミルノフ。第四次太陽光戦争時の英雄のひとりでロシアの荒熊の異名を持つ。しかし、その異名とは裏腹に温厚な人柄から、周りの信用は大きい。

普段は温厚な彼だが今回ばかりは憤慨していた。

「ヘリオンだと?AEUめ、無作為に第三国に売りつけるからこういうことになる。」

ヘリオンはAEU製の機体だが、セルゲイの言った通り、あちこちに売りつけているせいもあってテロリストが使うもっともポピュラーなMSになっていた。

(いまからでて間に合うか……?)

セルゲイはあせるが、その心配は杞憂で終わることになる。







周辺宙域

「くそぉ、もう駄目か!?」

「あきらめるな!」

防衛部隊が出撃したもののシールドに沿って接近するという馬鹿げた方法を想定していなかったためかなり深くまで侵入されてしまっていた。
しかも、敵はリングの影に隠れてさらに近くまで接近してくる。

「くっ!」

藍色にカラーリングされた武骨に角張った機体、ティエレン宇宙型がヘリオンに向け弾丸を発射するがリングを気遣っているせいで当てることができない。

「チッ!くそ!」

指揮官が舌打ちをした瞬間ヘリオンが持っていた箱のようなものを開くその中には本来の半分しかないものの三本のミサイルが確認できる。
本来の半分しかないとはいえ、直撃すれば静止軌道衛星ステーションなど呆気なく吹き飛んでしまうだろう。

そして、遂にミサイルが発射された。

「直撃コースです!」

「迎撃、間に合いません!」

もう駄目だ。誰もがそう思った時、桃色の閃光がミサイルを射抜き爆散させた。
爆発に巻き込まれたほかのミサイルも一緒に爆発していく。
破片がぶつかりステーションが揺れるが、被害はないに等しい。

閃光が飛んできたほうを見るとそこには急接近してくるキュリオスがいた。

「大したもんだ、スメラギさんの予報は…」

自分たちの作戦指揮官の優秀さを改めてかみしめながらアレルヤはヘリオンへと向かう。二機のヘリオンが攻撃してくるが、機動性に優れたキュリオスに当たるはずもなく、GNサブマシンガンで返り討ちにされてしまう。
が、それは囮だった。最後の一機がステーションへと向かっていく。

「特攻?まったくテロリストってのは!」

アレルヤは激しい怒りを覚える。が、その先には彼の仲間が待っている。

「ティエリアッ!」

ヘリオンが突っ込んでいくその先にごつい体つきをした白と黒を基調とした機体。ヴァーチェが下から出現する。両肩からはGN粒子が放出されている。

「ヴァーチェ、目標を破壊する。」

ヴァーチェは右手に持っていた巨大な大砲、GNバズーカを胸の前に構える。
胸のコアのような部分が輝くと同時にバズーカ内に光がたまっていく。そして、ある一定量の光がたまった瞬間それは巨大な光の柱として放出された。
光の柱にのまれたヘリオンは装甲を蒸発させながらその形を崩していき最後には爆発した。
それを確認したティエリアはバズーカをおろした。

「サードフェイズ終了。」

「やりすぎだよ…、まったく。」

アレルヤはヘリオン一機にバズーカを使ったティエリアに対してポツリとつぶやいた。








日本  経済特区東京

『地球で生まれ育ったすべての人類に報告させていただきます。私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です。』

「武装組織?」

「ソレスタルビーイング?」

沙慈・クロスロードとルイス・ハレヴィがその映像を見ていたのは昨日の事件があった翌日だった。
その日二人は授業が終わった後、学内に設けられたテレビを見ていると昨日起きた事件の概要。そして、事件を解決した組織からの声明が読み上げられていた。
テレビに写ったその人物は頭のてっぺんが禿げあがり、長いひげをしていて眼鏡をかけている。声明を述べている場所はどこか古い建築物の書斎のようだ。






『私たち、ソレスタルビーイングの活動目的はこの世界から戦争行為を根絶することにあります。私たちは自らの利益のために行動はしません。戦争根絶と言う大きな目的のために私たちは立ちあがったのです。』

声明を街で聞いていた絹江・クロスロードは画面に写る人物に見覚えがあった。

(あれは……!)

声明を最後まで聞かぬまま、絹江は自分のオフィスへと走っていた。







『ただいまをもってすべての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー……、どのような理由があろうとも私たちはすべての戦争行為に対して武力による介入を開始します。戦争を幇助する国、組織、企業なども我々の武力介入の対象となります。我々はソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。繰り返します……』

世界中で同じ放送が行われ、それを見ていたものたちは各々違う反応を見せていた。







プトレマイオス ブリッジ

帰還したアレルヤとティエリアはブリッジで声明を聞いていた。
もう、後戻りはできない。たとえこれからどんなに誰かを傷つけることになろうとも立ち止まることは許されない。

「ハレルヤ、世界の悪意が見えるようだよ…」

「人類は試されている。ソレスタルビーイングによって。」








南太平洋の孤島

満天の星空の下でロックオンは声明を聞いていた携帯端末のスイッチを切った。

「始めちまったぞ。ああ、始めちまった。」

ロックオンは自分に言い聞かせるように何度も繰り返しつぶやいた。
とうとうはじまるのだ。多くの犠牲によってここまでこぎつけられた。
正直、始まるまでは自分の中には疑惑に似たわだかまりがあった。しかし、ミッションが始まるとそんなものは吹き飛んだ。

「もう、止められない。」

「止マラナイ、止マラナイ、止マラナイ。」

ロックオンの言葉に反応してハロが飛び跳ねる。

「俺たちは世界に対して喧嘩を売ったんだ。わかってるよな、刹那。」

ロックオンは自分の近くにいた少年に言葉をかける。
彼の覚悟を確かめるために。

「ああ、わかっている。」

刹那はロックオンのほうへ向かずに自分の機体、エクシアを見上げたまま答える。
しかし、ロックオンにとってはその一言だけで十分だった。

刹那はエクシアを見上げながら思い返していた。
神がいないことを知ったあの日、自分を窮地から救ってくれた機体、ガンダム。
それが今は自分の手の中にある。世界を変えることができる力が。
そして、その力をふるうことができる。なぜなら、

「俺たちはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

ガンダムに夢中の刹那にロックオンはため息をつき周りを見渡す。そして、一人足りないことに気付く。

「ユーノはどうした?」

「ロックオン、ロックオン。」

下にいたハロがぴょんぴょん跳ねる。

「967ヨリ通信。ユーノ、海岸、海岸。」

ロックオンはまたかと思い、はぁとため息をつく。

「ま、今日は一人にしてやるか。いろいろ思うところもあるだろうしな。」








海岸でユーノは夜空を見上げていた。足には波が来るたびに海水がかかるがそんなことは気にせずに物思いにふけっていた。
膝の上あたりまで伸びた髪は風になびいている。そして、その目にはロックオンから貰ったサングラスがかけられ、首にはひし形の青い宝石がかけられていた。

エレナが死んだ日からユーノはこうして夜に一人でいることが多くなった。サングラスをかけたまま夜空を見上げても何も見えるものなどない。だが、ユーノには何かが見える気がした。この世界の何かが。

「まったく、いつになっても振り切れないもんだな…。」

だが、自分は戦い続けなくてはならない。
復讐のためではなく世界を変えるために。そして、仲間たちを守るために。

「967、こんな未練たらしい俺についてきてくれるか?」

「言ワズモガナ、言ワズモガナ。」

当然だとばかりに967は跳ねる。

「サンキュー、967。」

ユーノは967をひょいと持ち上げるとロックオンたちのもとへと歩いていく。覚悟をその胸に刻みながら。









世界に今、変革が訪れようとしている。











あとがき・・・・・・・・という名の暴走

ユ「いやー、いよいよ介入開始か。」

兄「てか、ほとんど第一話をなぞってただけだな。せいぜいユーノが出てくるぐらいしか独創性がない。」

ロ「ぐはぁぁぁっっっ!!」←クリティカルヒット

刹「まあ、俺たちを全員が本編に出れたから良しとしよう。」

ア「でもなんか次回もただなぞるだけになっちゃいそうだよね。」

ロ「そこはまあ何とか頑張ってオリジナルストーリーを加えてみようかと思う。」

ティ「どうやってだ?」

ロ「……………………」

ア「考えてないんだね。」

ロ「な、なんとか頑張ってオリジナルストーリーを加えるように努力するので皆様見捨てないでください!」

兄「必死だな。」

ア「必死だね。」

ユ「必死だな。」

ティ・刹「「………………………………」」
冷ややかな視線

ロ「と、とにかく最後にこのような拙い文を読んでくださった皆さんありがとうございます!ホントに頑張るのでご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの…」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 8.ガンダムマイスター
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
インド洋 海上

「はぁ~~………」

ユーノはコックピットで本日六度目のため息をついていた。

「なんでよりよってあの二人と俺だけなんだよ……」

「ドンマイ、ドンマイ。」

「ドンマイじゃねえよ…。今から胃に穴があきそうだっつーの。モレノに胃薬用意してもらおうかな…」

ユーノはかれこれ一時間以上、目の前にいる相棒に愚痴をこぼしている。
967はマシンなのだがどことなくうんざりといった感じがする。しかし、それでもずっと相手をしているのは彼(?)なりの優しさ故なのか…

「けど、お前だけだよ、俺の愚痴に付き合ってくれるのは……」

「ガンバ、ガンバ。」

必死に励ます967のその姿は同情すら誘ってくる。

なぜこうなったのかは昨日に遡る









前日 南太平洋上の孤島

『ユーノ、あなたにはセイロン島の民族紛争に介入してもらうわ。』

ユーノがロックオンたちのもとに戻ってくるとスメラギから明日のミッションについての説明を受けた。

旧スリランカでは二十世紀から断続的に多数派のシンハラ人と少数派のタミル人の間で民族紛争が起きていた。人革連はこの紛争を平和的に解決するという名目のもとタミル人に協力していた。
しかし、人革連の本当の目的はタミル人勢力が掌握しているセイロン島東部の海底を通っている太陽エネルギーケーブルの安全の確保である。
しかも、人革連が介入してきたことにより紛争は悪化し無政府状態にまで陥ってしまった。
そんな、泥沼の紛争に介入するのだが、ユーノが先行しまず人革軍を攻撃。人革軍とシンハラ軍の双方が撤退すればいいが、そうでなかったら…

『それから……』

スメラギがさらに付け加える

「ロックオンとアレルヤは別の任務があるから、後から刹那とティエリアを向かわせるわね。」

「え゛。」

刹那と?ティエリア?
あの二人だけ?仲介役のロックオンやアレルヤがいない?自分だけであの二人をどうにかする?
………無理だ。

「い、いやいや、スメラギさんそれはさすがにちょっと……」

ユーノの困惑した表情を見てスメラギは困ったような笑顔を浮かべる。
横のロックオンやモニターの奥のアレルヤも苦笑いをしている。

『まあ、頑張ってね。』

「頑張ってね、じゃなくて!あの二人がそろうと(俺にとって)ろくなことがないじゃないですか!」

ユーノは本人たちが聞いているのもお構いなしで必死に抗議する。
と、それまで黙っていたティエリアと刹那が口を開いた。

『「「問題ない。」』

「お前らはなくても俺にとっては問題大有りなの!!てか、お前らが原因なの!!」

いつもと変わらぬ様子で答える刹那とティエリアにユーノはイラッとする。

『まあ、今回はあきらめて頂戴。お願い!』

スメラギが手を顔の前に合わせてユーノに頼む。

「……はぁ~。わかりましたよ。」

ユーノはガシガシと頭をかく。

「ところで…」

ユーノのサングラスの下の目が真剣なものになる。

「スメラギさん、人革軍に攻撃した結果シンハラ軍が人革軍に追撃を加えようとした場合は…」

『ええ。』

スメラギも真剣な表情に変わる。

『攻撃してもかまわないわ。それが私たちソレスタルビーイングの使命なのだから。』








インド洋 海上

「……あいつらが来る前に終わらせるしかねぇか。」

ユーノは憂鬱な気分を振り払うように操縦桿をぎゅっと握りしめるが、気分ははれない。

(紛争、か……)

自分たちが人革軍を攻撃すればシンハラ人はそれに便乗し人革軍やタミル人を追撃するだろう。
彼らの気持ちはわからなくもない。だが、

「だからって、それじゃ何にも変わんねえだろぉが……」

憎しみに憎しみを返しても何も変わらない。
ユーノも本音を言えば自分から大切な仲間を奪ったものたちが憎い。だが、それでも必死に変わろうと足掻いているのだ。苦しみながら自分と向き合い前に進もうとしているのだ。

しかし、それでも世界は変わろうとしない。

「なら、俺たちが変えてやる!」

「ヤッテヤルゼ!ヤッテヤルゼ!」

「ああ、967。やってやろうぜ!」

変わろうとしないのなら自分たちが変えよう。なぜなら自分たちは、

「俺たちはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ!」





魔導戦士ガンダム00 the guardian     8.ガンダムマイスター

大気圏周辺宙域



大気に覆われ青く輝く地球。
そのすぐ手前にアレルヤとティエリアはいた。

「GN粒子、最大散布。機体前方に展開。」

ヴァーチェの肩と脚が開き大量のGN粒子がヴァーチェを包みこんでいく。
キュリオスもまたGN粒子に包まれ大気圏突入の準備を開始する。

「シミュレーションは何度もやってきたけど……」

「降下ポイントに到着。大気圏突入を開始する。」

アレルヤが不安を口にしようとするがティエリアの淡々とした口調に阻まれた。

「ティエリア……まったく度胸がいいっていうか……」

フッ、と笑うとアレルヤも自分の降下ポイントへ向かって降りていく。
ヴァーチェとキュリオスが空気との摩擦で赤く発光しながら地球へと向かうその姿は赤い流星が尾を引きながら落ちていくようだった。






同時刻 人革連静止衛星軌道ステーション

ステーション内にけたたましいアラームが鳴り響いた。

「大尉、Eセンサーに反応。大気圏に突入する物体があります。」

「なに?そんな報告は受けてないぞ!」

「最大望遠映像出ます。」

モニターには二つの何かが赤い尾を引きながら地球に降下していっていた。

「あ、あれは……?」

「ガンダムだ…」

大尉と呼ばれた男は声のほうに振りむく。そこには自分の上官に当たるセルゲイがいた。男はセルゲイに対して敬礼するが、セルゲイの目は二つの赤い流星、ガンダムにくぎづけだった。

「あの機体は単独で大気圏突入が可能だというのか……。機体の進行ルートは?」

「お待ちください。」

管制官の一人が降下ポイントの算出にかかる。

「現行のままですと降下予測ポイントは…、一機はタリビア共和国もう一機は……」

管制官は計算結果を見て驚いた。

「インド南部セイロン島!われらの領土内です!」

「やつら、本気で武力介入をするつもりか……!」








旧スリランカ領 セイロン島西部

煙がもうもうと立ち込める中、ティエレンが黄土色と緑の二色に分かれ戦闘を行っていた。
黄土色のティエレンは緑のティエレンに砲撃をしかけるが肩のシールドで防がれる。

「くそっ!人革め!」

黄土色のティエレンのパイロット、シンハラ人は悪態をつく。
そしてそれが彼の人生最後の言葉となった。
横からの砲弾が彼の機体に当たり、吹き飛ばされるように倒れるとそのまま爆発して黒い煙を上げた。
砲弾が飛んできた丘の上には数機の砲撃型ティエレンが配置されている。
それらは幾度か砲撃を繰り返し敵機を確実に減らしていく。
敵の近くで戦闘を行っていたものたちも数人がかりで確実に仕留めていく。

「敵部隊の30%をたたいた!このまま一気に殲滅させるぞ!!」

指揮官が部下に発破をかけていたその時だった。突然の通信が入る。

「大尉、本部からの緊急連絡です!」

「なんだ、どうした?」

「ソレスタルビーイングが来るそうです!」

「そうかここに来るか……、各部隊に通達……」

ザザザザザザザザザザザザザ

「っ!?な、なんだ!?」

部下に指示を出そうとした瞬間、突然のノイズとともに通信が途切れる。

「ま、まさか!もう来たのか!?」







セイロン島東部

「うわぁぁぁぁぁっ!!!!」

シンハラ軍のティエレンが足を撃ち抜かれバランスを崩す。
人革軍のティエレンはそのすきに接敵してカーボンブレイドを振り上げ振り下ろす。
だが、それは当たることはなかった。
桃色の閃光がティエレンの腕に当たりカーボンブレイドを持ったままのそれを切断した。
人革軍の兵士が苦々しげに視線を向けるとそこにはライフルを構えたソリッドがいた。

「来たのか……!ソレスタルビーイング!」

ソリッドはライフルをしまいビームサーベルを抜き放つ。

「ソリッド、紛争を確認。根絶する。」

ソリッドはそのまま敵陣への突入を開始する。
腕を落とされたティエレンが仇とばかりに迫るがビームサーベルで脚を切り落とされそのまま倒れてしまう。
周りも機銃で攻撃をしかけるがそのほとんどがかわされ、当たったとしても967が制御する極小のGNフィールドに防がれる。

「くそっ!」

しびれを切らした一機がソリッドに接近しようとする。が、ソリッドは滑るような動きでバックをとり、ビームサーベルとアームドシールドのブレードの二刀流で脚と腕を切断して無力化する。
そして、その勢いのままに残っていた機体も同様に手足や武器のみを切り裂き無力化した。

「オミゴト、オミゴト。」

「そらどうも。って!」

967の賛辞をさらりと受け流すユーノ。と、そこに砲弾が飛んできてソリッドにヒットして黒煙が発生する。

「やったか!?」

人革軍のパイロットは倒すに至らぬまでも手傷を負わせたことを確信していた。だが、煙がはれるとアームドシールドを構えたソリッドが無傷で出現する。

「む、無傷だと!?」

その光景を見ていた全員に動揺がはしる。やっと自分たちの攻撃がまともに当たったのにダメージがないのだから当然である。

「不意打ちとはやってくれんじゃねぇか。」

「油断スンナ、油断スンナ。」

「わかってる、よっと!」

ユーノは操縦桿を前に倒してティエレンに接近していく。
恐れをなしたのか撤退しようとしているが、構わずに勢いをのせたブレードで両脚を切断する。

「一時退避だ!急げ!」

「逃がすかよ!」

ビームサーベルをしまい、再びライフルを抜いて逃げるティエレンを撃ち抜いていく。
そして、敵を戦闘不能に追い込むとあたりを見回し周辺に敵がいないことを確認する。

「ここはあらかた片付いたな…、そんじゃお次は頭をつぶすとしますか。」

とそこに通信が入る。

「あらら、結局来ちゃったか……」

モニターに映し出されたのは二機のガンダム、ヴァーチェとエクシアだった。







人革連 駐屯基地

けたたましいアラームの中、兵士たちは増援の発進準備を進めていた。

「急げ!」

が、そこにヴァーチェが現れる。

「ヴァーチェ、目標を殲滅する。」

ヴァーチェは両肩に装備された砲門、GNキャノンを下に向け光の柱を発射する。
激しい光にさらされた駐屯基地は爆発することも許されず溶解した。

「目標の殲滅を確認。残存勢力の掃討に入る。」

それだけ言い残すとティエリアは新たな標的を求め飛んで行った。




セイロン島沿岸

「く、くそっ!化け物め!!」

人革軍の艦艇の甲板の上ではティエレンが上空を舞うエクシアに対して砲撃を行うが、それをあざ笑うかのようにエクシアはかわしながら接近してくる。

(民族紛争……)

刹那は対峙するティエレンの攻撃をかわしながら自分にとっての始まりの場所を思い返していた。








硝煙と血のにおいが漂う中、先に逃げてしまった大人たちの無責任な言葉が響く戦場。
周りには仲間だったものの死体が転がり、MSが周りに向けて機銃を掃射する。それを紙一重でかわし必死に市街を駆け抜ける。
そんな死臭が漂う中、刹那は大人たちが言う“神”がどこにもいないことを確信していた。
だが、それでも戦わなければならない。生き残るために。
そして、ガンダムに出会った。彼が今ここにいるきっかけを作ったものと。








刹那はキッと視線を鋭くして敵を見る。この世界を歪ませているものを。

「エクシア、目標を駆逐する。」

刹那はGNソードの刃を起こすと甲板の上のティエレンを次々に切り裂き全滅させた。
そして、艦艇の先頭部へと飛翔するとそのまま旋回しソードを突き立てる。

「うおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

刹那の咆哮に呼応するようにGNドライヴから漏れる粒子が増加する。
エクシアはそのまま加速し艦の後部へと突き進み一直線の赤いラインを刻んだ。
ラインから断続的に火花が散り、その量が増えたかと思った瞬間そこから爆発が起こった。

「目標の破壊に成功。これより残存勢力の殲滅に向かう。」

刹那はこみ上げてくる思いをぶつけるように操縦桿を深く倒し内陸部へと向かっていった。








セイロン島 内陸部

「ふぅ。」

ユーノは撤退を開始した人革軍とタミル軍を見ながら一息ついた。

「オリコウサン、オリコウサン。」

「ああ、あっちはな……」

今のところシンハラ軍は動きを見せてはいない。このまま戦闘が終了すればベストなのだが、そうもいかないようである。

「協力を感謝する!今までの借りを返してやる!」

「チッ!」

ユーノは即座に攻撃態勢に入るが、攻撃の必要はなかった。
上空からエクシアが降りてくると同時にティエレンを両断した。

「刹那……」

ユーノはほっとしたような、そしてどこか悲しげな笑顔でエクシアを見つめる。

「……これが、ガンダムマイスターだ。」

刹那は自分たちの意思を自らに言い聞かせるようにつぶやいた。







JNN本社ビル

「どう?見つかった?」

「ビンゴですよ、絹江さん!」

絹江・クロスロードは同僚が見つけ出したデータを見て満足げな笑みを漏らす。

「やっぱり…イオリア・シュヘンベルグ。」

絹江は最初に街で見たときからモニターの奥の人物がイオリアだということに気付いた最初の人間だろう。
彼女は自身の予測が当たっているのかどうかを確かめるため同僚に頼み調査してもらっていたのだ。
そして、その予測は当たっていた。しかし、

「でも、この人に二百年以上前の死んでますよ。」

そうなのだ。彼は二百年以上前の科学者である。そんな人物がガンダムのような超高性能なMSをつくりあげていたことに驚かされる。
いや、そもそもソレスタルビーイングが二百年以上前にすでに存在していた可能性があるのだ。

(すごい…なんてもんじゃないわね。)

絹江が感心していた時オフィスに声が響く。

「ソレスタルビーイングが出た!?」

その場にいた全員が声のほうを向く。

「タリビアの麻薬畑を爆撃…、南アフリカの鉱物資源をめぐる紛争に介入…、そして、旧スリランカの紛争に武力干渉…双方に攻撃!?」

オフィスにざわめきがはしる。

「そんなことしたら双方の感情を悪化させるだけなのに……」

300年以上続いている紛争がたった一回の介入で止まるわけがない。
そのことはソレスタルビーイングもわかっているはずだ。

(だったらなぜ……?)

彼らが何を目的にしているのかが絹江にはわからない。
だが、彼らの行動には何かしらの目的があるはずだ。

(だったら、とことん調べるまでよ。)

絹江はソレスタルビーイングについての本格的な調査を開始することを決意した。
後にそれが彼女に思いもよらぬ結果をもたらすことも知らずに……。







ユニオン軍輸送機

「旧スリランカ領セイロン島に三機のガンダムが出現しただと!?」

グラハムは通信を聞いて驚かされる。
ほんの少し前まで自分たちの目の前にいた機体がもうすでに別の場所に出現したのだ。

「セイロン島…確か少数派のタミル人と多数派のシンハラ人との間で民族紛争が起こっていたね。」

「ああ、人革は平和的解決のためと称してタミル人に肩入れしているが、実際は太陽エネルギーケーブルの安全確保のためだ。」

話が終わるとグラハムは少し考え込んで通信を開いた。

「キャプテンに言って進路を変えてもらってくれ。あとフラッグの整備を頼む。」

カタギリは驚いて椅子から腰を上げる。

「まさか…!それは無茶だよ…」

「フッ、熟知している。」

カタギリが見つめる先には少年のような笑みを浮かべたグラハムがいた。









インド洋  海上

『そっちもうまくいったみたいだな。』

ユーノとティエリアは別のミッションに行っていたロックオンとアレルヤから無事に済んだとの連絡を受けてホッとしていた(ティエリアは相変わらずの無表情だが)。

『ところで刹那は?いくら呼びかけても通信がないし…。まさかやられたんじゃ!?』

「全員無事だって言っただろ。先に帰頭したよ。」

アレルヤは報告を受けほっとする。

『初めての紛争介入だ。思うところがあるのさ。』

『わからないな…なぜ彼がガンダムマイスターなのか…』

ロックオンの意見を否定するかのような話し方にその場にいた全員がおもわず苦笑する。

『そして、君もだ、ユーノ・スクライア。なぜ、いちいちコックピットを外している。』

確かにユーノは最初の介入の時から極力コックピットに当たらないよう心がけて攻撃していた。

「別にいいだろ。戦闘不能に追い込めば問題ないはずだ。」

『ガンダムマイスターとしての覚悟が足りないと言っている。』

「なかなか手厳しいね。けどな……」

ユーノの表情が厳しくなる。

「いざという時にはきっちり覚悟を決めるさ。仲間を守るためならな。」

そうだ。仲間を守るためならどんなに罵られてもかまわない。
世界から拒絶されてもかまわない。
それが自分のガンダムマイスターとしての覚悟なのだ。

『ならば、今度のミッションでその覚悟とやらを見せて欲しいものだな。』

嫌味ったらしい野郎だ。そう言おうとした時、アラームが鳴り響く。

「!?エクシアに急速に接近する機影!識別は…ユニオンの輸送機!?なんでこんなところに!」

しかも、ご丁寧にステルス使用である。
エクシアが接触していなければまず気付かなかっただろう。

「先行して刹那を援護する!」

『あっ!おいっ!!』

ロックオンが止めようとするのにもかかわらずユーノは刹那のもとへと加速していった。






インド洋 海上

「くっ!!」

刹那は驚愕した。
突然、輸送機から現れたフラッグは空中変形という離れ技をやってのけ、今まさに自分と鍔迫り合いをしているのだ。

「はじめましてだな!ガンダム!」

「くっ!何者だ!?」

刹那の言葉はフラッグに乗っているグラハムには聞こえないのだがそれにこたえるかのようにグラハムは叫ぶ。

「グラハム・エーカー……君の存在に心奪われた男だ!!!」

鍔迫り合いの中グラハムは親友のカタギリにすら見せたことのない最高の笑顔を見せる。
そして、背中のイオンプラズマジェットの出力を上げじりじりと押していく。
だが、刹那も黙ってはいない。
GNドライヴの出力を上げ相手のブレイドを弾き飛ばした。

「圧倒されただと!?だが…」

ソードを振りかざしてせまってくるエクシアを見てにやりと笑う。

「その大きな得物では当たらんよ!!」

自分の攻撃が軽々と避けられたことで刹那に動揺がはしる。
だが、それはすぐに消え去ることとなる。
フラッグは右手でエクシアの肩を掴みそのまま力を加えていく。

「手土産に破片の一つでもいただいていく!!」

刹那の心の中から動揺が消え去り、同時に怒りがわいてくる。
こいつは今何をしようとしている?
なぜ、自分のエクシアの肩を掴んでいる?
なぜ、自分に触れている?
なぜ……俺に触れている!!!!

「俺に…さわるなぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

刹那の咆哮とともにエクシアは回転しフラッグを引きはがす。
それでも、フラッグはライフルで反撃を試みるがそれは思わぬ妨害で失敗に終わる。
突然遠方から光の弾丸が飛んできてフラッグをかすめた。

「なにっ!?もう一機だと!」

グラハムが視線を向ける先には萌黄と白の機体ソリッドがライフルを構えてこちらに向かってきていた。

「ハズシタ、ハズシタ。」

「いいんだよ。やっこさんと本格的にやりあう気はない。もっとも、しつこいようなら容赦はしないがな。」

ソリッドはエクシアの隣に並び立ち、フラッグをにらみつける。

「どーする、フラッグのパイロットさんよ……」

ユーノの思いが通じたのかフラッグはひいていく。

「さすがに二体を同時に相手をする気はないのでね…。また会おう!」

グラハムは遠のいていくガンダム二機を見て思う。
ますます、恋焦がれていってしまうな、と。









?????

「あげゃあげゃあげゃあげゃ!こいつがイレギュラーの乗っている機体か!」

金髪の男が変わった笑い声で笑いながらソリッドの戦闘シーンを見ていた。
その手には手錠がかけられ、首には小型の爆弾が仕掛けられている。しかし、その目は鋭く、猫科の猛獣を思わせた。

「ユーノ・スクライア…。ソレスタルビーイングに保護され、そのままマイスターにまでのぼりつめた存在。」

眼鏡をかけた女性の言葉に隣にいたウェーブがかった髪の男がむっとする。

「こんなどこの馬の骨とも知れないやつをガンダムに乗せるなんて……」

「あげゃ、あんたより数段腕が良さそうだからな。だから乗ってんだろ。」

「なんだと!!!!」

ウェーブの髪の男、エコ・カローネは金髪の男に掴みかかろうとするが眼鏡の女性、シャル・アクスティカにとめられる。

「いい加減にしなさい。私たちはミッションの解析を行っている真っ最中なのよ。」

「グッ……!」

エコはそれきり黙ってしまい恨めしそうに金髪の男をにらむが、そんなことを気にせず男はソリッドの動きを観察していた。

(何やってんだこいつは?俺様たちはボランティアじゃねぇんだぞ。)

コックピットを狙わずに無力化していくソリッドを見ていらだちを募らせる。だが、

(だが、こいつは必死に感情を押さえこんでいる……)

ソリッドの攻撃は確かにコックピットこそ狙っていないが戦闘不能に追い込むには強すぎるものがいくつか混じっている。
まるで世界に対して怒りをぶつけるかのように。

(面白い……!)

男は口の端を釣り上げる。その様子を見ていたシャル達は彼の気配に当てられびくっと体を震わせた。

「おもしれぇ…、会いに行くぜ。」

予想だにしない言葉に固まっていたシャルが反応する。

「待ちなさい!我々の存在は彼らに知られては……」

「問題ないだろ。目的は一緒なんだ。遅かれ早かれ俺様たちのことは連中にもばれるさ。」

そう言うと男は立ち上がり扉へと向かう。

「確かシルトタイプFが完成したところだったな。それで行くぜ。」

シャル達は男を止めようとするがそれが不可能だと悟りその場に立ち尽くした。

(ユーノ・スクライア……。俺様がお前を見極めてやるよ。)

「あげゃあげゃあげゃあげゃあげゃあげゃ!!!!」

金髪の男、最凶最悪のガンダムマイスター、フォン・スパークは不愉快な笑い声を残し格納庫へと向かっていった。









変革を望む者は必ずしも同じ志をもつとは限らないものである。








あとがき・・・・・・・・という名の感謝

ロ「というわけでセイロン島編とフェレシュテ登場の回でした。」

ユ「それより言うことあんだろ。」

ロ「そうでした。ノイバーさん、おかげさまでPが手に入りました!!ご助言ホントにありがとうございました!!」

兄「一時期ホントに世界の悪意が見えるとかつぶやいてたもんなお前。」

ロ「いや、マジでそう思いたくもなるよ。ホントにいじめかと思ったもん。」

ア「まあそれはさておき、次回はサイドを書こうと思ってるんだよね。」

エ「てことはあたしの出番!?」

ロ「まあそうなるな(いつの間に……)。」

エ「ということで次回のあたしの活躍にみんな注目!そしてほめたたえなさい!」

ロ「いや、一応ユーノ中心の話だから。」

エ「ガーン!!!!」

ユ「具体的にはどんな?」

ロ「まあ、出来てからのお楽しみだ(にやり)。」

ユ「……なんか激しく嫌な予感しかしないな。では、最後にこのような拙い文に毎度付き合っていただいてありがとうございます!これからもよろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!じゃあ、せーの…」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] side1.run away ferret
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
これは、ユーノがソレスタルビーイングに馴染み始めた頃のお話です。



ソレスタルビーイング拠点 廊下

「はぁぁ~~~……。キツイ……」

ロックオンの猛特訓から解放されたユーノは肩を落としながら二階の廊下を歩いていた。
とそこに、

(ん?リヒティ?)

前から山積みの書類を両手に抱えたリヒテンダールがよろよろとこちらに歩いてきていた。

「おい、危ねぇぞリヒティ。」

「あ、ユーノ。ちょうどよかった。手伝ってく……うわわわわわ!!?」

「へっ!?」

協力を求めようとしていたリヒテンダールが躓き書類の波がユーノに襲い掛かった。

「おわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

そして、ユーノはそのまま近くの階段から転げ落ちていった。

「ご、ごめんユーノ!大丈夫……?」

リヒテンダールは慌てて階段の下を見るが、そこにはユーノの姿はなく書類が散らかっているだけだった。

「あれ?どこ行ったんだろ?怒って行っちゃたのかな?」

首をかしげながら書類を拾いリヒテンダールは目的地へと向かって歩いて行った。

彼は気付いていなかった。
階段のすぐ近くに一匹のフェレットが横たわっていることに……






魔導戦士ガンダム00 the guardian  side1.run away ferret

(い、てて……)

ユーノはしばらくして意識が戻った。
そして、あたりを見回すがリヒテンダールの姿は見当たらない。

(くそ、リヒティの野郎おいてきやがったな…。後で絶対シメテやる……!)

とリヒテンダールへの復讐を誓うユーノだったが自分の身に異変が起こっていることに気付く。

(?なんか周りのものがめちゃくちゃでかい…)

天井がいつもよりはるかに高い所にあり壁も心なしかいつもより威圧感を感じる。

(いったい何、が!?!!?)

そして、後ろを見た瞬間驚愕する。
そこには自分の背丈の数倍はあろうかという階段が連なっていた。

「きゅーーーーーーーっ!!!!?!?!!?(なんじゃこりゃぁぁぁーーーーーー!!!!?!?!!?)」

ユーノは叫んだ。
しかし、それは声にはならず代わりに甲高い鳴き声があがる。

(えっ!?なんだこれ!?なんで声でないわけ!?なんで、きゅーーーーーっ!なんて叫んでるわけ!!?)

続いて自分の手を見て驚愕する。
そこには自分の手ではなく小動物のような丸い手がある。

(うそぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!!!!)

ユーノはその場で慌てふためく。
その姿はまさに捕食者に追われる小動物のようだ。

(え、なに!?着グルミ着せられて妙な所に放り込まれたの俺!?)

とあり得ない考えを張り巡らせていた時、誰かに首を掴まれひょいと持ち上げられた。

「なんだ、こいつ?」

「きゅきゅっ!!(ロックオン!!)」

そこには自分のMSの操縦の教官、ロックオン・ストラトスの顔が目の前にある。

(でかっ!!成長期かなんかか!?)

ロックオンの顔も手もいつもよりはるかに大きい。

「フェレットかなんかか?大方、物資の搬入の時にでも紛れ込んじまったか。」

ははは、といつものような笑いを見せるとフェレット(ユーノ)を持ったまま自室へと向かう。

「まあ、元いた場所も分かんないからな。俺達で飼ってやるか。」

「きゅきゅきゅっ!きゅっきゅっ!きゅっー!(おいロックオン!俺だ俺!ユーノだ!)」

「ははは!お前も嬉しいか!かわいがってやるからな。」

「きゅーーー!!!(気付けよぉぉぉぉ!!!)」

必死で叫ぶがロックオンには理解されずにそのまま連れて行かれる。

(こうなったら……!)

ユーノは腹をくくると体をジタバタと動かし始める。

「こ、こらっ!暴れんな!!」

ロックオンは暴れるフェレット(ユーノ)を押さえようとするがフェレット(ユーノ)はするりと手から抜けるとひらりと着地して逃げ出した。

「あっ!待て!」

(待つかっ!!)







医務室

(フゥ~……なんとかまいたか。)

ユーノはロックオンの追跡から逃れ医務室に来ていた。

(たぶんモレノならなんとかしてくれる!……はず。)

期待半分、不安半分で扉の前に立つが

(………あかない。)

当然と言えば当然なのだが今の大きさでは扉が開くはずもない。

(どうすっかな……)

とその時、考え込んでいたユーノの前の扉が開き、その前には靴が見える。

(やっ、た!?)

喜びに浸ったのもつかの間、強烈なにおいが鼻をつく。

(酒臭っ!)

と、目の前の足がふらふらと動きユーノのすぐ近くに降りてくる。

「きゅーーーっ!!(あぶねぇぇぇ!!)」

「あ?モレノォ、なんか言ったかぁ?」

見上げるとそこには整備士のイアンが顔を赤くしながら同じく顔を赤くしているモレノに話しかけている。

「いんや?なんだ、もう酔ったかイアン?」

「ふん、まだまだいけるぞ!」

昼間から酒を飲み、あはははと馬鹿笑いをする二人を見てユーノは呆れる。

(駄目だこいつら……。もう出来上がっちまってる……)

ユーノは呑ん兵衛二人を見限り見つからないようにその場を後にした。







廊下

とぼとぼ歩いているとユーノは後ろから気配を感じて振り向く。
とそこには

「……………………」

自分をじーっと見ている刹那がいた。

「………………」

「………………」

二人はそのまま見つめあうが、刹那は視線を外しそのまま歩いて行った。

(……刹那ってやっぱ変わってるよな。)

そんなことを考えていると突然持ち上げられる。

「きゃーーー!!この子かわいいー!!」

「ホント!このふさふさ具合がサイコー!」

「きゅーー!!?(エレナとクリス!!?)」

ユーノが上を向くと自分を抱き上げているクリスティナとそれを覗き込んでいるエレナが見える。
二人ともペットがいないここでは珍しい小動物にはしゃいでいる。

「この子毛並み綺麗だね。でも少し汚れてるかな?」

クリスティナはフェレット(ユーノ)をなでながらポツリと漏らす。

「じゃあこの子と一緒にお風呂入って洗ってあげよう!」

「あ、それいいね!」

エレナとクリスティナはそう言うとユーノを連れて自室に向かう。が

「きゅーーー!!きゅっきゅっきゅーーー!!!!」

フェレット(ユーノ)が全力で暴れだす。

「きゃっ!どうしたの!?」

「きっと嬉しいんじゃないかな♪」

(いやいやいやいやいやいや!!風呂はまずいって!!!人から小動物になったけど今度は小動物から狼になっちゃうって!!!!!小さくても男はみんな狼なの!!!)

しかし、抵抗も空しくそのまま風呂場へと連れて行かれるユーノであった。










ユーノの人間としての尊厳を尊重して風呂で何があったかは語らないでおこう。







ユーノは服を着たエレナの腕の中で灰になっていた。

「なんか元気なくなっちゃたね。」

「エレナがあんなにゴシゴシ洗うからだよ。」

二人が見当違いな議論を進める中フェレット(ユーノ)の目に再び火がともる。

(うう……挫けるものか…。絶対もとに戻る方法を探し出してやる!)

とその時、扉が開きアレルヤが入ってきた。

「エレナ、スメラギさんが君に用だって……」

(今だ!)

フェレット(ユーノ)の目がキランと光る。
フェレット(ユーノ)はするりとエレナの腕から抜けるとアレルヤの足元を潜り抜けそのまま廊下に向かって駆け抜けていった。

「あ!待って!!」

「うわ!なんだ!?」

「アレルヤ!その子捕まえて!!」

クリスティナがアレルヤに頼むが時すでに遅し。
フェレット(ユーノ)は遥か彼方へと逃げていってしまった。








ブリーフィングルーム

「遅いわねあの子……」

「そうっすね……何かあったのか?」

スメラギとラッセはブリーフィングルームでエレナを待っていた。
とその時、廊下からドスドスと走り回る音が聞こえる。

「「??」」

二人が頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべていると突然扉が開きエレナとクリスティナ、そして引きずられるようにアレルヤが飛び込んできた。

「エレナ遅いわよ!それに何の騒ぎ……」

「スメラギさん!ここにフェレット来ませんでした!?」

「「フェレット?」」

エレナの問いにスメラギとラッセは首をかしげる。

「えっと、なんでもエレナとクリスが見つけて飼おうと思っていたらしいです。あと、ロックオンも同じようなこと言ってました。」

アレルヤが事情を二人に説明する。

「なるほどね……。わかった、協力してあげるわ。」

スメラギがニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。

「ス、スメラギさん……?」

その気配をいち早く感じ取ったクリスティナは恐怖に震える。

「クリス………これから言うことを全館に流しなさい……。ふふふふふふふふ…………」










廊下

(ここまでくれば………)

ユーノはエレナの部屋からかなり離れたところで一息ついていた。が、安息の時は短かった。

『総員に通達!現在フェレットが逃亡中!!全員で捜索してこれを捕獲せよ!!繰り返す……』

(なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?)

ユーノは予想外の展開に驚愕する。とそこに、

「みーつけた!!」

再びエレナ登場。そして、突進。

(NOーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!)

ユーノは全力で走りだすがなかなか距離が広がらない。
まさに乙女の底力とでもいうものだろうか。

そんな中、ユーノは走りながらこの事態についての思考を開始し、即座に答えへと到達する。

(スメラギさんかぁぁぁぁぁぁ!!!!あの人何悪乗りしてんのぉぉぉぉぉぉ!!!!!!)

いつもはまじめなスメラギだがごくたまにこういった悪ふざけをする。
普段は大したことはないのだが、今回ユーノにとっては最悪の事態である。

「待って~~!!せっかく餌も用意したのに~!」

エレナの手にはどこから持ってきたのかペットフードが握られている。

(いやぁぁぁぁぁぁ!!それはホンットにやばいって!!)

確かにあれを口にしてしまえばもう完全なペットになり果てるだろう。それは何としても避けたい。

(こうなったらエレナのスタミナが切れるまで逃げ回るしか…ってうおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?)

ユーノの目の前に『カカッ!』という音ともにナイフが刺さった。

(いったい……!?)

ナイフの飛んで来た方向を見るとそこには……

「刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する。」

指に投げナイフをいくつもはさんだ刹那が自分を見下ろしていた。

(ぎゃぁぁぁっっっ!!刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

「ちょっと刹那!その子を始末するんじゃなくて捕まえるの!」

「…急所は外してある。」

(いや、はずしててもダメだろ!!)

心の中でつっこむユーノだがはたと気付く。
二人は話に夢中で自分のことを忘れているようだ。

(今のうちに……)

気付かれないようにユーノはそろりそろりと歩いて逃げ出した。







廊下

(はぁはぁ…ここまでくれば。)

その後、途中でロックオンやラッセ、そしてなぜかいつもとは打って変わって凶暴な性格のアレルヤ(?)に追いかけまわされたユーノだったが、なんとかここまで逃げ切ってきた。

「?この子……」

「なるほど、どうやらこれが今回の馬鹿騒ぎの原因らしいな。」

聞きなれた声にユーノは凍りついた。
振り向くとそこにはいつも無表情な二人、フェルトとティエリアがいた。

(やばい……!これはマジでやばい!)

フェルトはともかくティエリアは本気で自分を駆除しかねない。
しかし、その心配は必要なかった。

「むっ……」

ユーノの振り向いた姿を見た瞬間ティエリアの頬が赤く染まる。
よく見るとフェルトも頬を赤くし、目をキラキラ輝かせ年相応の女の子のように見える。

「きゅう?(えっ?何これ?)」

ユーノはクエスチョンマークを頭の上に大量に浮かべているとフェルトが突然抱き上げた。

「かわいい……」

「まさか、この僕が!?いや、しかしこの感情は…!」

(おいぃぃぃぃ!!なんか二人ともキャラ変わっちゃってるから!しかも、ティエリアがハァハァ言ってて怖い!!)

普段の二人からは想像できない姿にユーノは驚きを通り越して恐怖すら覚えてくる。

「きゅうぅぅぅ!!!(燃えろぉぉぉぉ!俺の中の何かぁぁぁぁ!!)」

ユーノは全力で体をくねりフェルトの腕から脱出する。

「あっ!待って…!」

走り去るフェレット(ユーノ)の背中をフェルトは寂しそうに見つめていた。









二階廊下 階段付近

結局ユーノはリヒテンダールとぶつかった地点に戻ってきていた。

(…俺、一生このままなのかな……)

言いようのない不安がユーノを襲う。
とその時、誰かがユーノを蹴飛ばした。

(いってぇぇぇ!って、うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?!!?)

そして、そのまま階段の上空に放り出される。
ユーノを蹴った人物それは

「ん?今何か……」

ユーノの現状を生み出した張本人、リヒテンダールだった。

(リヒティィィィィィィィ!!!!!!!!)

再びユーノはリヒテンダールに何も言えぬまま階段の下へと落ちていった。










一階廊下 階段下

「……ノ。」

(う、ん……)

誰かがよびかける声でユーノは徐々に意識がはっきりしてくる。

「ユーノ。」

「んあ?」

ユーノが目を覚ますと目の前にはリヒテンダールがいた。

「リヒティィィィィィ!!!!!!!!」

「ぐはっ!」

ユーノは起きると同時にリヒテンダールに鉄拳制裁をくわえる。

「てんめぇぇぇぇぇぇ!!!俺置いていくたぁいい度胸だなぁぁぁぁ!!!!!!!」

「な、何言ってんの!?落ちたから心配で見に来たのに!」

「へ?」

リヒテンダールはユーノに殴られた頬をさすりながら抗議する。
そして、ユーノは重要なことにこのときになってようやく気付く。

「……リヒティ、俺の言葉がわかんのか?」

「…何言ってんの?」

訳がわからないといった様子でユーノを見るリヒテンダール。

「頭うった?」

「い、いや、なんでもないんだ。」

二人はそれだけ言葉をかわすと背を向けあって去って行った。

(夢……だったのか?それにしちゃやたらリアルだったような……)

ユーノは頭の中に浮かんだ風呂場の光景を必死に頭を振って振り払う。
そして、悶々としたまま自室へと帰って行った。

(危な~~。なんとかごまかせた。)

実はリヒテンダールが件の階段を通りかかるとそこにユーノが倒れていたのだ。
そこで、リヒテンダールは自分の失敗を誤魔化すことにしたのだ。

(それにしてもフェレットってどんなんだったんだろ?)










その後、フェルトとティエリアが怒鳴りこんできて騒ぎは一応の終息を見た。
そして、スメラギ達はフェルトとティエリアのこのことは二度と口にしないという要求をのむはめになる。
そして、ある時までユーノはこの件を夢だと思い込んだままになるのだった。










あとがき・・・・・・・・という名の激怒

ユ「ロビィィィィィィィン!!!!!!!!!あのクソ作者どこだぁぁぁぁぁ!!!!!!」

黒「いやな予感がするからと言って僕にメモを渡して逃げた。というか僕は初めてまともな形であとがき登場だな。みなさまお忘れかもしれませんがクロノです。」

ユ「そんなことどうでもいいんだよ!なんなのこれ!きっと読者の皆さまもきっとお怒りだよ!」

黒「それは読んでいただかないとわからんさ。あと、これがお前の本来あるべき姿だ。」

ユ「なんだとぉぉぉ!!!!仕事漬けの青春でまともな恋もしたことないくせに!!!!!」

黒「失礼なこと言うな!!しっかりエイミィと恋愛結婚してるぞ!むしろお前やなのは達のほうが灰色の青春だろうが!!」

ユ「うっさい!!!お前らが仕事を大量に持ち込むからあんなことになったんだろうが!!!」

ぎゃあぎゃあ言いあう二人を見るヒロインとその友人二人。

狸「…管理局、大丈夫なんかな?」

フェ「あの二人が特殊なだけだよ。」

な「そんなこと言ったら私たちもだけどね。さて、みなさん。次回はいよいよフォン・スパークが接触してきます!」

フェ「シルトはどんな感じになってるんだろう?」

狸「まあ、あんま期待するのはアカンと思うで。」

な・フェ「「なんで?」」

狸「だってこの状況作って逃げるやつが書いとるんやで?」

魔法少女三人、魔法やMSまでもちいて乱闘を繰り広げる二人を見て遠い目をする。

な「まあ、どうしようもなかったらアクセルシューターをちらつかせればいいと思うよ♪」

狸「なのはちゃん、それは脅迫や。」

フェ「で、では、最後にこのような拙い文章を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!!」」」






黒「ブレイズキャノン!!!!」

ユ「なんの!GNバンカーをくらえぇぇぇぇ!!!!」

二人の戦いはいつまでも続く……





[18122] 9.接触
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:39
ユニオン 経済特区 東京

『…私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを有する…』

「またやってる…、これで何度め?」

ルイス・ハレヴィは夕方の帰り道でつい先日放送されていた声明を再び聞いていた。
ここのところどこへ行ってもこの放送ばかりが流れていることが平和なこの国で過ごしているルイスにとっては不思議で仕方がなかった。

「お~い、ルイス~!」

そこへ、彼女の友人、沙慈・クロスロードが走ってきた。
長い距離を走ってきたのかルイスの隣までくると膝に手をついて荒く呼吸をした。
しかし、落ち着いてからルイスが見ているものを見て先ほどとは違って困惑した表情を浮かべた。

「ねぇ、ルイス。ソレスタルビーイングなんているのかな?」

「え?」

沙慈の突然の質問にルイスは間の抜けた返事をしてしまう。

「自分の利益にならないのに行動する人たちなんているのかな?」

「きっとすごいボランティアなんじゃない?」

沙慈の問いに対し、無垢な笑みを浮かべてどう考えても的外れな答えを言うルイス。
その顔を見て思わず沙慈はため息をついて視線をそらし、一人で歩いていってしまった。

「あっ、沙慈!待ってよ。」

ルイスは慌てて沙慈のあとを追いかけていった。
画面の向こうで老人がしゃべっていることは自分たちとは無縁のものだと思いながら。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.接触

人革連軌道エレベーター 天柱 地上ステーション

宇宙へと上がる人々の声とアナウンスが響く空間にロックオンたちはいた。

(遅いな、あいつら)

ティエリアを宇宙へ送り出すためマイスター全員がここに集まることになっていたのだが、まだ刹那とユーノは到着していなかった。

そこへ、自動ドアの向こうから刹那とユーノが現れた。
それを見たロックオンは顔をほころばせる。

「よお、遅かったじゃないか、このきかん坊め。」

「それは、刹那のことか?俺のことか?」

「どっちもだ。」

ロックオンの答えを聞いたユーノは「ちぇ。」と舌打ちすると三人のたつテーブルへ歩いていく。

「死んだかと思った。」

ティエリアの発言に刹那との間の空気が険悪なものへと変わる。
ロックオンとユーノはフゥとため息をつき、アレルヤは困ったような笑みを浮かべた。

「ヴェーダに報告書を提出していた。」

「あとで閲覧させてもらうよ。」

「ああ、好きにしろ。」

「ま、まあ全員無事で何よりってことで!」

その場の雰囲気にたまりかねたロックオンが必死の笑顔で場を和ませる。
しかし、言い終えた次の瞬間にはその笑顔は鋭いものになっていた。

「ティエリア、宇宙のほうはよろしくな。俺たちは次のミッションに入る。」

「命令には従う。不安要素はあるけど。」

そう言ってティエリアは刹那とユーノに視線を向ける。
刹那は相変わらずの無表情だがユーノの口元には苦笑が浮かぶ。

と、そこへウェイターがマイスターズのテーブルにやって来る。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」

そう言って彼は刹那とユーノの前に液体の注がれたコップを置いて去っていく。
そのコップの中身は、

「「……ミルク?」」

二人は同時に顔を上げロックオンの顔を見る。

「俺のおごりだ。」

「……ガキ扱いすんなよな。」

「未成年がナマ言うんじゃない。そういうことは酒を飲めるようになってから言え。」

ユーノはロックオンの笑顔の前に今回もしぶしぶ引き下がった。




リニアトレイン

その後ティエリアはロックオンたちと別れ、宇宙へと向かうリニアトレインの中にいた。
遥か上空へと登っていく様子を窓から眺めて物思いにふけっている。

「…やっと戻れる。地上は嫌いだ…」





地上ステーション

「しかし、本当にできるのかい?機体を軌道エレベーターで宇宙に戻すなんて…」

アレルヤの心配は当然のものだった。
ガンダムは単機での大気圏突入はできても離脱することはできない。
そのため宇宙に戻すには資材搬入用のリニアトレインに乗せるしかないのだが、ばれれば当然大騒ぎになり、軍も出動するだろう。

「心配ない、予定通りコロニー開発用の資材に紛れ込ませた。重量が同じで搬入されちまえば荷のチェックはないに等しい。特にここではな。」

アレルヤはロックオンの説明を聞いてなるほどと納得する。

「……まさしく盲点だね。僕たちに弱点があるとすればガンダムがないとプトレマイオスの活動時間が極端に限定されてしまうところかな。5つしかない太陽炉が……」

言葉の続きを言おうとするが刹那に肩を掴まれ強制的に止められる。

「機密事項を口にするな。」

「わ、悪かったよ……」

「そんなむきになんなよ。普通の奴らには何言ってるかさっぱりなんだから。」

困っていたアレルヤにユーノが助け船を出しその場を収めた。
そして、ステーションの外へ出るとロックオンが大きく伸びをする。

「さぁ~て、帰るかぁ。」

「少しは休暇が欲しいけどね。」

「全力で同意させてもらうよ。」

「まあ、そう言うな。鉄は熱いうちに打つのさ。一度や二度じゃ世界は俺たちを認めたりはしない。」

各々意見を言いながら帰っていくその後ろでは人革連の軍人達が扉の前で誰かを待っていた。
そして、自動ドアが開きその誰かがやってきた。

「お待ちしておりました中佐。」

そう言うとその場にいた全員が宇宙から戻ってきたセルゲイに対して敬礼をした。

「宇宙はいかがでしたか?」

「…心地いいな、重力というものは。」

「お察しいたします。」

普通の人間にとって無重力空間の宇宙より地上にいるほうが気分が安らぐものである。
軍人である彼らも例外ではない。

「では、司令がお待ちです。」

そういって、セルゲイの荷物を持とうとするが手で止められる。

「その前にセイロンへ立ち寄りたい。」

「しかし、それでは……」

「私は自分の目で見たものしか信じない男だ。司令も了承される。」

そして、セルゲイたちはセイロン島へと向かった。
そこで、刹那とエクシアに出会う事など知らずに……。






MSWAD本部

「転属命令…?」

「対ガンダム調査隊……ですか。」

エクシアとの戦闘後、カタギリとグラハムはMSWADの本部へと招集された。
ライフルを失ったことに対し何らかの叱責があると思っていたグラハムだったが、予想に反し何の咎めも受けず、逆に対ガンダム調査隊への転属命令という彼にとっては僥倖ともいうべき措置が待っていた。

部隊の構成員を見ていたカタギリだったが、その中に見知った名前を見つけた。

「レイフ・エイフマン教授…!技術主任を担当するんですか!」

「上はそれだけ事態を重く見ているということだ。早急に対応しろ。」

「はっ!グラハム・エーカー中尉、ビリー・カタギリ技術顧問。対ガンダム調査隊への転属命令、受領いたしました。」

こうして、彼らのガンダムとの長い付き合いが始まった。






南アメリカ ユニオン軌道エレベーター『タワー』 北西部

「テロリストねぇ……遠路はるばる中東からとはご苦労なこった。」

ユーノはヴェーダからのミッションプランを再確認してため息をついた。
今回のミッションは中東からきた過激派のテロリストを邀撃するというものだ。

「石油が使えなくなったのは気の毒だけどもっと穏便にできないもんかね。」

中東の国々の多くは軌道エレベーターの建設には参加していなかった。
そのため、太陽光発電の恩恵を受けることができず、二酸化炭素の回収義務や主財源であった石油の輸出ができないことによる経済的圧迫によって厳しい状況に置かれていた。
くわえて、宗教や政治的対立から紛争が絶えず起こっていた。
そのため、そこは戦闘を行い利益を得るような人間や過激な思想の持ち主の温床となっていた。

「しかし、皮肉なもんだな。まさかユニオンを守るはめになる日が来るとはな。」

ユーノはユニオンのエレナに対する仕打ちをいまだに忘れてはいなかった。
それでも戦うと決めたからには軌道エレベーターを守り抜くが、それでも許せないという思いを消すことはできない。

「…やっぱ連中は許せそうにねぇや、ロックオ、ンッ!」

独り言をつぶやいていたユーノだったが、突然頭を万力で締め付けられるような痛みに襲われた。

「くっ……!ああぁぁっ!」

「ユーノ、ダイジョブカ?ダイジョブカ?」

967が心配そうにユーノに話しかけるが、しばらくするとユーノは少し息が荒いもののいつものような人懐っこい笑みを967に向ける。

「…大丈夫だ。心配かけたな相棒。今度モレノに頭痛薬貰っとくよ。」

967の頭をなでるとうれしそうに耳をパタパタさせる。
しかし、ユーノは別のことを考えていた。

(ここんとここういうのが多いな…。記憶が戻りかけてんのか……?)

ユーノはエレナの死後からちょくちょく今回のような頭痛に悩まされていた。
しかも、そのたびに見覚えのない光景や声が頭の中に浮かんではすぐに消えていく。
しかし、今回は少し違っていた。

(……よりによって死体の山の中に入っているヴィジョンとはな。しかも、今までで一番はっきりとしたものだった。)

普通はすぐに消えてしまったり、大した情報ではないものばかりだった。
しかし、今回のものははっきりしたものだった。
それだけでなくユーノ自身、どこか自分にとって重要なもの、忘れていてはいけないもののように思えた。

(喜ぶべき、なんだろうけどな……)

ユーノは不安だった。
もし記憶が戻ったら自分はどうなるのか。
今までのことを忘れてしまうのではないか。
忘れなかったとしても仲間たちを裏切ることになってしまうのではないか。

「ユーノ?ユーノ?」

967のよびかけにユーノは意識をそちらに向け、フッと笑う。

(考えてても仕方ないよな。それに、その時何かあったらあいつらがなんとかしてくれる。)

頼りになる仲間たちの顔を思い浮かべた。
と、その時

「目標補足!目標補足!10時方向30㎞!」

967があわただしく報告をする。
それを聞いたユーノは気を引き締め操縦桿を握る。

「チッ!もうチョイタイミング考えろよな!ユーノ・スクライア、ソリッド、目標を粉砕する!」

ユーノはソリッドを起動し目標地点に向けて飛び立っていった。









ジャングル地帯

うっそうとしたジャングルの中を頭が極端に飛び出たティエレン似の機体、ファントン十機が進行していた。

「もうすぐだ…もうすぐあの忌々しい軌道エレベーターに神の鉄槌を下せる!」

彼らは全員息まいていた。
ユニオンのタワーは彼らの国の状況とは直接的には関係ないが、それでも怒りというものの矛先はどこへでも向けられるものなのだ。

「見ていろ……!今に…」

と、その時だった。
突如空からピンク色の閃光がファントンの頭を貫いた。

「な、なんだ!?」

全員が空の向こうへと視線を向ける。
その先にはライフルを構えたソリッドがいた。

「ガ、ガンダム!!!」

「さっさと逃げろよ。俺はともかくユニオンの連中は容赦ないぞ。」

ユーノはそのままライフルをファントンの周囲へライフルを発射する。
しかし、ファントンたちは構わず進行する。

「くっ!しゃあない!」

ユーノはビームサーベルとアームドシールドを構えそのまま突進し、ファントンたちの武器や脚部を次々と切り捨てていく。

「ラストォ!」

最後の一機の両腕を切断し蹴り飛ばして倒すとビームサーベルをしまう。

「……くくくくくっ。」

突然最後の一機から笑い声が聞こえる。

「あれを狙っているのが我々だけだとでも思ったか?」

ユーノはハッとする。

「!!しまった!」

「もう遅い!」

突然最後のファントンの内部から強烈な光が放たれ爆発が起こる。
しかし、もうもうと立ち込める爆煙のなかからGNフィールドをまとったソリッドが飛び立った。

「馬鹿野郎……!」

煙を見つめながらユーノは苦々しげにつぶやいた。







軌道エレベーター

タワー周辺に三機のファントンがいた。
ガンダムが出現したとの報告を受けて警備にあたっていたMSもそちらに向かい手薄になっている。
それでも、彼らもただでは済まないだろうが最初から死ぬ気なのだから関係ない。
肩に装着した特注の200mmキャノンを構えて発射態勢に入る。

「同志よ、よくやった。これで…」

「お前らも死ねるなぁ。」

そんな言葉とともに突如紫紺の突風が吹き荒れキャノン砲を構えたファントンが真ん中から両断され爆発した。

「「!!!!?」」

残りの2機はその突風の正体を見る。
全体がどこか禍々しさを感じさせる紫紺でカラーリングされ、両手には2種類の巨大な盾を持っている。顔の部分にはフラッグを思わせるようなバイザーが装着されている。

「あげゃげゃげゃ!残念だったな!防衛任務なんざ柄じゃないがアイツももうすぐMS隊と接触するだろうからな。さっさとお前らをしとめて行かせてもらうぜ!」

紫紺のMS、ガンダムシルトタイプFのパイロット、フォン・スパークはそのまま右腕に装備したバンカーシールドを一機に叩きつけ、もう一機のほうへと向け圧縮粒子を解放した。
勢いよく飛んで行ったファントンともう一機のファントンが激突し、二機は爆発、炎上した。

「さて……行くとするか。あげゃげゃ!」







ジャングル上空

「くそっ!どけ馬鹿野郎!別働隊が狙ってんだぞ!!」

ユーノは毒づくがそんなことを知らないフラッグ達は包囲してなかなか道を開けない。
しかも、コックピットを外して撃っているのでなかなか決定打を与えることができない。

「くそ!間に合わねぇ!!」

「あげゃ。じゃあ、手伝ってやるよ。」

「!?」

突然の声に驚くユーノだが、そんな暇もなく目の前にいた二機のフラッグが何かに切り裂かれ爆散する。

「そんな…馬鹿、な……」

ユーノは自分の目を疑った。
目の前にいる紫紺の機体。
細かいところに差異はあり、フラッグのようなバイザーを顔につけGNドライヴの部分が偽装されているが見間違えるはずがない。
大切な仲間が乗っていた機体。
自分が本来受け継ぐはずだった機体、ガンダムシルトがそこにいた。

「なんで…なんでここにいるんだ!!」

回収されたあの日以来見ていないエレナの機体を見て動揺を隠せないユーノ。
しかし、状況がそれを許さない。
周りのフラッグが一斉にユーノ達に接近してくる。

「あげゃ、ボーっとすんなよ!」

シルトはブレードシールドを横に振りフラッグたちを切断していく。

「めんどくせぇ!これで充分だろ!」

周りのフラッグをブレードシールドで切り裂きながら遠方の敵に対してはコックピットを頭部のバルカンで的確に潰していく。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!」

「やめろ…」

自分とは正反対の戦い方をするシルトをユーノは茫然と見つめる。

「やめてくれ…」

ユーノの心が悲しみで埋め尽くされていく。
まるで、エレナがよみがえり復讐にはしってしまっているようで。
エレナが今の自分のような存在になっていくようで。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」

ソリッドははじかれたようにシルトへと飛び出し後ろから抱きつくようにその攻撃を止める。

「やめろ!こいつらを攻撃する必要はないはずだ!」

ユーノは接触回線でシルトのパイロットに語りかける。

「あげゃげゃげゃげゃ!何言ってんだ!てめぇが余計なもんにとらわれてるせいでできないことを俺様が代わりにしてやってんじゃねぇか!」

ユーノはその時シルトのパイロット、フォン・スパークの顔を見た。
猛獣を思わせる鋭い目を持ち、笑っている口からは牙のような八重歯がのぞいている。

「てめぇだってホントはこいつらが憎くて憎くてしょうがねぇんだろ!この世界が憎いんだろ!?だから世界を変えようとしてんだろ!!」

「違う!俺は……がぁっ!?」

再び、ユーノの頭に激痛がはしる。
その影響でシルトの拘束が緩んでしまいシルトが解き放たれた。

「GN粒子チャージ完了!チャージ完了!」

シルトのコックピットにいた三角耳のハロ、874がフォンに報告をする。

「あげゃ!やっとか!」

待ちかねたというようにフォンは右腕のバンカーシールドを近くのフラッグに叩きつけると、そのまま数機のフラッグも重ねておしていく。

「何があったか知らねぇが、そこで黙って見てな!」

フォンはそう言うとバンカーシールドにため込まれた粒子を解放し、フラッグたちを残りの機体に向けて吹き飛ばし全滅させた。

「う、ううぁぁっ……!!」

「ユーノ!ユーノ!」

967が必死に話しかけるがユーノはそれどころではない。
ずきずきと痛む頭をかかえて尋常ではないほど苦しんでいる。

「フォン、ソリッド変!ソリッド変!」

「あげゃ?」

874の言葉を聞いてソリッドのほうを見る。
そこにはふらふらと揺れるソリッドが徐々に高度を下げている光景があった。

「チッ。874、お前の兄弟に連絡しな。治療できる施設に連れていってやるから誘導に従えってな。」

「了解!了解!」

874は耳をパタパタ動かし967との交信を開始する。

「ハロー、967!ハロ!」

「了解、874!了解!」

すると、それまでふらふらしていたソリッドの姿勢が安定する。

「おい、なにやってんだてめぇ。」

「ぐぅぅああぁぁぁ!!!」

フォンは呆れたように聞くが、ユーノは苦しみ続けフォンの問いに答えることができない。

「う……あ…………」

そして、そのままユーノは意識を手放してしまった。









???

『やれやれ、世話の焼ける奴だ……』

その男は光の流れの中にいた。
周りには何もなく、ただ光の奔流といくつものモニターがあるだけである。
その光景から、そこが現実に存在している空間でないことがうかがえる。

『ユーノ…お前はどちらを選ぶ?奴の言うように復讐のために世界を変えるのか。それとも……』

『グラーベ・ヴィオレント…』

男は長い黒髪をなびかせ声のしたほうを向く。
そこには水色のショートヘアをした少女がいた。

『874か…。』

『指示に従って。』

少女は無表情で機械的に用件を伝える。

『フェレシュテのことはソレスタルビーイングには明かさない約束のはずだ。』

グラーベと呼ばれた男は874に鋭い視線を飛ばす。

『今回はこちらも予想外でした。しかし、ヴェーダはフォンの行動を容認しています。』

『フォン…奴か…』

グラーベはどこか疲れたような表情を浮かべる。

『とにかく今はユーノ・スクライアの治療が最優先です。こちらの指示に従ってください。』

グラーベはフゥとため息をつくと874を見る。

『了解した。だが、一つだけ言わせてもらおうか。』

『?』

『俺はグラーベ・ヴィオレントではない。俺は967、グラーベ・ヴィオレントの人格と記憶をもとに構成されたサポートプログラムにすぎない。』

874はきょとんとした顔をするがすぐに無表情に戻ってしまう。

『了解しました、967。』

そう言うと、二人は光の向こうへ向かって流れていった。







???

「ここは……?」

ユーノは見覚えのない建物の中にいた。
あたりには死体の山がいくつも築かれ、血と煤で床や壁は赤黒く汚れていた。

「このっ、手こずらせやがって…」

「!!?」

ユーノは声のした後ろを向くと光る鎖で拘束された男が必死で抜け出そうとしている。
しかし、目の前にいる制服をきた男たちの一人に何かで心臓を撃ち抜かれそのまま倒れた。
その光景を見ていたユーノは右手で頭を押さえる。

「あ、ああぁぁ……」

男たちが去ったあと、死体の山から一人の子供が這い出し、男の死体へのろのろと歩いていく。
ユーノは驚愕する。
体のあちこちが死体の血で汚れ、幼さが残り、今のように長髪ではないが間違いない。

「お、れ…?」

幼い自分は男を必死に揺さぶる。

「とうさん、とうさん!とうさん!!とうさん!!!」

何度もよびかけるが男は起きることがない。

「っっとうさーーーーーーーーーーーん!!!!」

その光景を頭を押さえたままユーノは茫然と見つめる。

「そうだ…父さんはあいつらに……!!!」

ふつふつといままで眠っていた怒りがこみ上げてくる。

「許さない…許さないぞ…。管理局ーーーー!!!!!」









ユーノはバッとベッドの上で飛び起きた。

「はぁ、はぁはぁはぁ……夢……?」

ユーノは自分の見ていたものが夢だと認識するが、同時に思い出したことも確認する。

「管理局…あいつらが父さんを……」

しかし、それ以上は思い出せない。
管理局がどんな組織なのか、なぜあんなことになったのか。

「思い出すんなら一気に全部思い出したいんだがな。」

独り言をつぶやいていると、隣でドアが開いた。

「目が覚めたようね。」

「ふん、治療してやったんだ。感謝しろよ。」

ユーノが顔を向けるとそこには傷が刻まれた目に眼鏡をかけた銀髪の女性とウェーブのかかった髪をした男がいた。

「あんたらは?」

「私たちは……」

「あげゃ!起きたか!」

「ぶっ!!」

突然ウェーブヘアーの男を乱暴に押しのけシルトに乗っていた男が現れる。

「お前は!」

ユーノが掴みかかろうとするが押しのけられた男が先にくってかかった。

「何すんだ!」

「邪魔だったんだよおっさん。」

「なんだと!」

「やめなさい!」

銀髪の女性に怒られウェーブヘアーの男はしゅんとするが、金髪の男のほうはへらへら笑ったままだ。
その様子を見たユーノは毒気を抜かれフゥとため息をつく。

「にぎやかだな、おい。」

「みっともないところを見せてしまったわね。改めて紹介させてもらうわ。」

銀髪の女性はこほんと咳払いをするとユーノに真剣なまなざしを向ける。

「私たちはフェレシュテ。あなたたちソレスタルビーイングと運命を共にするものたちよ。」









狂気を纏う戦士と出会い、少年は何を思うのか……






あとがき・・・・・・という名の紹介

ロ「というわけでフェレシュテ接触!の回でした。」

967(以降9)「というかまたトンでも設定が加わったな。よりによって俺がグラーベか。」

874(以降8)「無計画。」

ロ「だーかーらー、グラーベの人格と記憶をもとに作っているけど本人じゃないって言ってんだろ!」

ユ「それでも読者の皆様は違和感ありまくりだろうけどな。てか、なんでお前なんで生きてんの?なんで生まれてきちゃったの?」

ロ「…なんかいつになくドSじゃないすか、ユーノさん。」

9「まあ、あんな仕打ちを受ければな。」

8「ご愁傷さま。」

ユ「そんな憐みに満ちた視線を向けないでくんない!?マジで泣きたくなるから!みたらしだんごさんにはもう宿命だとか言われちゃったし!」

ロ・9・8「「「そうなんだろ(でしょ)」」」

ユ「しばくぞてめぇらぁぁぁぁ!!!!」

9「さて、次回だがユーノとフォンとヘタレが大活躍するぞ。」

ユ「無視すんな!」

8「エコのヘタレッぷりにこうご期待。」

ユ「あれ!?俺空気!?クロノ並みに空気!!?」

ロ「967も少し活躍するので期待してください!!」

ユ「……もう、疲れたよ。なのはに会いたい……」

ロ「では、最後にこのような拙い文に付き合ってくださった皆様に心からお礼申し上げます!じゃ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」」

ユ「ふふふふふ…所詮俺は淫獣か……。ラッキースケベしか存在理由がないのか……」

主人公とことんネガティブになっていく。

ロ「……いい加減なんかいいとこ見せてやるか。じゃないと大変なことになりそうだし。」



[18122] 10.フェレシュテ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/07/11 18:13
某国 某ホテル

「アレハンドロ様、フェレシュテがマイスターの一人と接触したようです。」

黄緑色の髪をした青年、リボンズ・アルマークが主人、アレハンドロ・コーナーに“自らが見た”情報を伝える。

「“彼”かね?」

「はい、ユーノ・スクライアです。」

「やれやれ……とことんかき乱してくれるよ、彼は。」

アレハンドロは薄い笑いを浮かべながらため息をついた。

「排除しますか?」

「かまわんさ。どんな計画にも多少の狂いはある。たかが一つの不確定要素で揺らぐほど私の計画はずさんにはできていない。」

リボンズは笑顔を浮かべたままククッと笑う主人を見つめる。

「さあ、再生のために奔走するがいい、ガンダム!」




魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.フェレシュテ

南太平洋孤島

「ユーノからの連絡がない!?」

珍しくロックオンが大声をあげたことと予想外の仲間の情報にアレルヤは戸惑う。

「どういうことだ!?」

『わからない……。ただ、ミッション自体はこなしてあるんだけど……』

そう言ってクリスティナは顔をしかめながら画像を送信する。

「これは……!?」

画像を見たアレルヤは自分の胃からこみ上げてくる酸を必死に抑え込んでいた。
そこには脚部や武器だけを的確に破壊されたファントン数機。
そして、情け容赦なく破壊され、コックピットからは赤黒い血が流れ出しているフラッグの大群が写っていた。

「まさかユーノはまだエレナのことを……!」

「アイツはそんな奴じゃない!!」

アレルヤはロックオンの怒鳴り声に驚く。

「ユーノはこんなことしない……するはずがない。」

「ロックオン…ごめん、そうだね。」

アレルヤは一瞬でもユーノを疑ったことを恥じた。
自分たちの中で誰よりも優しい彼がこんなことをするはずがない。

「クリス、今のユーノの位置を教えてくれ……」

『アフリカ北西部の海岸線よ。たぶんヴェーダのミッションに従っているんだとは思うんだけど……』

「いまからアイツをむかえに行く。幸い俺たちにまだ新しいミッションは来ていない。」

そう言うとロックオンはヘルメットとハロを持ってデュナメスの待つ格納庫へと向かう。

『ロックオン!!』

クリスティナの声にロックオンはモニターを向く。

『ユーノをお願い…。もう、あんな思いはしたくないよ……』

「ああ、まかしとけ。」

力強い答えを聞いてクリスティナは安心したような顔で通信を切った。

(信じてるぞユーノ……。お前は自分の闇にのまれるほど弱くないだろ!)







三時間前 フェレシュテ拠点 格納庫

「ユーノこれでいい?」

「ああ、それでいい。そうすりゃサダルスードのセンサーはもうチョイ感度が良くなるはずだ。」

ユーノと褐色の肌の少女、シェリリン・ハイドはフェレシュテの持つ第二世代ガンダムを整備していた。

「…ごめんね、ユーノ……」

「?なにがだ?」

「シルトに…あなたの大切な人のガンダムにあんなことをさせて…」

シェリリンはうつむいたままユーノに語りかけた。

「……ヴェーダの決定だ。従うしかないさ。」

「でも!」

「それに……」

ユーノはシェリリンの肩にポンと手を置く。

「アイツの思いはシルトじゃなくて俺が背負っているつもりだ。だから、心配すんな。」

「ユーノ……」

「あげゃ!おセンチなこった。おまけに死んだ人間から貰ったもんを後生大事に首から下げてるとは笑わせやがる。」

二人は声のしたほうを向く。

「手錠をしていることを忘れないほうがいいぞフォン・スパーク。俺は正直てめぇの面を殴って整形したい気分だからな。」

ユーノは視線をフォンに向けながらぎりりと歯ぎしりをする。

「ふん、やれるもんならやってみろよ。ひと一人殺せないこの腰抜けが。」

ユーノがフォンに近づき胸ぐらをつかむ。

「ユーノやめて!フォンも!」

「人を傷つけないようにすることの何が悪い……!」

「あげゃ!何が悪いだと?」

フォンは鼻で笑う。

「稀代のテロリストのくせにいまさら人を傷つけたくないだ?笑わせるぜ。」

「お前なんざと一緒にするな!」

「一緒さ。お前の戦い方を見たときからある程度の確信を持っていた。」

それまで凶暴な笑みを浮かべていたフォンの顔が一転して理智的なものになる。

「俺は己の楽しみのために戦いを求め、お前は憎しみに身を任せて戦いを求める。根源は違えど戦いを求めていることには違いない。」

「……俺は戦いを求めてなんていない。」

ユーノの顔が陰る。
確かに自分は世界を憎んでいるのかもしれない。
だが、自分が戦う理由は純粋に世界を変えるため、そして仲間たちを守るためだ。

「ならお前は戦争を根絶した後どうする気だ?すべてを許して静かに暮しますってか?」

フォンの顔に再び酷薄な笑みが浮かぶ。

「宣言してやるよ。お前はたとえ世界が変わっても戦いをやめられない。」

「……そんなことない。」

ユーノはフォンから手を離すとふらふらと後ずさりをする。

「どうかな?お前も自分でわかってるはずだ。記憶もなく、存在していた痕跡もなく、ただ怒りのみが自身の中で渦巻いているお前に出来ることは戦うことだけだ。」

「そんなことない…俺は、俺は……うっ、ああぁぁ!」

「ユーノ!?」

突如頭を押さえ苦しみだしたユーノにシェリリンが心配そうに近づき、彼女にしては珍しく感情をあらわにしてフォンをにらみつける。

「フォン、いい加減にして!ユーノはそんな人じゃない!」

フォンはシェリリンの言葉を聞いてなお不遜な態度を崩さない。

「フン、どうだかな。自分を偽る奴がそんなに信用できるのかねぇ。」

「フォン!!」

「……シェリリン、もういい。」

ユーノはまだ息が荒いままシェリリンを手で制し、フォンの前に立つ。

「ユーノ、大丈夫?」

「心配するな。持病みたいなもんだよ。」

先ほどの険しい顔に代わっていつもの人懐っこい笑みをシェリリンに向ける。

「俺はこいつにどうこう言われてどうにかなっちまうほどやわじゃないさ。」

ユーノはそう言うと続いてフォンへ視線を向ける。
その目は怒りではなくただ純粋な強さをたたえていた。

「フォン、俺は確かにこの世界を許せない。」

その言葉を聞いてフォンはフンと鼻で笑う。

「だが、俺はお前のようにはならない。俺のような、俺やエレナたちのような人間をこれ以上増やさないために、そして仲間を守るために戦ってるんだ。」

そう言うとユーノはにやりと笑う。

「んでもって、一応お前もその仲間の一人だと思ってる。ムカつくけどな。」

フォンはユーノの言葉に呆気にとられてしまい一瞬ポカンとするが、すぐにいつもの笑みを浮かべ、心底おかしいというように笑い出す。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!…おもしれえ、だったら最後まで足掻いて見せろ。俺を楽しませてみろ!」

フォンは楽しくて仕方なかった。
ユーノの本性を引き出すつもりが逆に決意を固めてしまった。
予想外のことだ。だが、だからこそ面白い。
自分の言葉に従うわけでもなく、自分の思ってもみない反応が返ってきた。

(予想以上だな。とことん楽しませてもらうぜ……あげゃげゃげゃ!)

フォンが心の中で笑っているとユーノの端末に通信が入る。

「ヴェーダからのミッション……」

「こちらにも届いたわ。」

シャルとエコが扉を開けてやって来る。

「アフリカ北西部の沿岸、マイスターユーノは麻薬密輸の阻止、我々はそのサポートをします。」

「了解。すぐに出る。」

「フォンはシルトでソリッドとともに敵を制圧、エコはサダルスードで…」

「俺も出れるんですか!?」

シャルの言葉にエコの目が輝く。
ユーノとシェリリンはその様子を見て若干距離をとる。

(……なんなのアイツ?)

(エコは今まで出番がなかったから……)

ユーノの質問に苦笑しながらシェリリンが答える。

(なるほどね。)

ユーノはハァ、とため息をつく。

(こいつら大丈夫かよ……?)

そんな思いを抱きながらユーノはソリッドへと歩いて行った。







アフリカ北西部 旧セネガル共和国沿岸

旧セネガル共和国。22世紀に紛争を理由に介入してきたAEUにより占拠、支配され現在にいたっている。
AEUは軌道エレベーターへの武力の派遣のために基地を建設し支配こそしているものの内紛に関しては無関心であり、結果として麻薬の栽培が盛んになりテロリストたちの資金源となっていた。
残り二つの国家群から非難は受けているものの必要以上に介入すると自主性が損なわれるとしていまだに手を出さずにいた。

『でもなんでAEUはそんな状況を放置しているんだ?自分たちの軌道エレベーターにも被害が出るかもしれないのに。』

『あげゃ。ホントに馬鹿だなおっさん。』

『なんだと!!』

水中で待機しているサダルスードでエコがほえる。
そんな様子を見て呆れながら嘆息する。

「AEUが連中の摘発に乗り出さないのは金がかかるからだ。連中が軌道エレベーターに手を出さない限りは金をかけて摘発するより、放っておいたほうがいいと思ってんのさ。」

『連中もそのことが分かっているから今のところは軌道エレベーターに手を出していない。もっともこの先どうなるかはわからないがな。』

エコは地上で待機していたフォンとユーノの説明になるほどとうなずいて納得する。

『やっぱ正規メンバーのほうが落第生のあんたより優秀みたいだぜ。あげゃげゃげゃげゃげゃ!!』

『なにぃ!!?』

そういってエコはフォンをにらみつけるかと思いきや、ユーノに対して凄まじい嫉妬のこもった視線を向けてきた。
ユーノは目をそらして苦笑するが、即座にエコとの回線を切りフォンにかみつく。

「余計なこと言ってんじゃねぇよ!なんで俺がアイツの恨みを買わなきゃいけないいんだよ!!」

『おもしろいから。』

「そんな理由で俺を巻き込むな!」

『「ドンマイ!ドンマイ!」』

「ドンマイじゃねぇっ!!」

967と874につっこむユーノだったが和やか(?)な雰囲気は長くは続かなかった。


『6時方向に目標を確認!これよりミッションを開始する!!』

センサー能力に特化したサダルスードに乗るエコから通信が入り二人も戦闘態勢に入る。

「了解。ソリッド、ユーノ・スクライア、ミッションを開始する。」

『手錠解除!手錠解除!』

『あげゃ!シルト、俺様、出るっ!!』








現在、港には五隻のタンカーが停泊していた。
しかし、その実態は麻薬を密輸するためにテロ組織、ラ・イデンラがカモフラージュした戦艦である。
巨大な船体の中には大量の麻薬と万が一ばれた場合それを守るためのMSやMAが積み込まれている。

「これで最後だな。」

積み荷を確認していた男が最後の積み荷が運び込まれたことを確認する。

「ユニオンや人革じゃここまで簡単にはいかないな。まったく、AEU様様だぜ!」

男がゲラゲラと笑っていた時、萌黄色の何かが後ろのタンカーの一隻にズンッという音ともに降り立った。

「な、なんだ!?」

振り向くと、そこにいたのはアームドシールドをバンカーモードに切り替えたソリッドだった。

「ガ、ガンダム!?」

「ソリッド、目標を粉砕する!」

ソリッドはアームドシールドをタンカーにまっすぐ振り下ろし圧縮粒子を解放する。

「GNバンカー、バーストッ!」

凄まじい炸裂音とともにタンカーは真っ二つになり、ソリッドが上空に舞い上がると同時に爆発した。

「ガ、ガンダムだ!MS隊、発進しろ!!」

男は発進を指示するが今度は離れたところに停泊していたタンカーが水中につかっていた部分に魚雷を受けて爆発する。

「伏兵だと!?」

水中からの予想外の攻撃に戸惑う。
その攻撃をした人物はというと、

「やった!!見たか俺の実力を!!!」

ミッション中にもかかわらず必要以上に喜び、ガッツポーズまで決めていたが油断が災いする。
突如サダルスードの横で爆発が起こり、その衝撃で態勢が崩される。

「うわあぁぁ!!!な、なんだ!?」

エコが爆発の起こった方向に視線を向けると水色の長細いフォルムに二つのアームがついた機体が何機もいた。

「MA!?こ、こんなものまで!」

エコは慌ててデュナメストルペードから流用されたGN魚雷を構えて発射するがまったく当たらない。

「くそっ!くそっ!」

エコが正規のマイスターとして選ばれなかった最大の理由。
それは、予想外の事態に極端に弱いこと。
操作技術自体は優秀なのだが判断に甘い部分があり、それによって引き起こされる不測の事態に混乱してしまう傾向があった。
そして、その弱点が今回も出てしまった。
必要以上に目標に接近し、一つだけに意識を集中させていたため他のタンカーから出現したMA、シュウェザァイに気付かなかったのだ。

「ど、どうすれば!?」

エコが戸惑っているとシュウェザァイ達が一気に距離を詰めてくる。
しかし、サダルスードに攻撃をすることはできなかった。
海面から巨大な水柱とともにヘリオンが突入しシュウェザァイを巻き込み爆発した。

『あげゃ!おっさん、俺のガンダムを壊すなよ。』

「う、うるさい!お前の手助けがなくてもこのくらいなんとかなってた!というかお前のガンダムとはなんだ!!サダルスードはフェレシュテの……」

『オ・レ・の、ガンダムだ。』

フォンの言葉にエコは顔をしかめて黙ってしまう。

『……お前らこの状況でよくコントができるな。』

ユーノが呆れているとヘリオンがこちらに向かってくる。

「それで不意打ちのつもりかよ。」

ソリッドはビームサーベルを抜き放つとヘリオンをこともなげに真っ二つに切り裂き爆発させる。

「…運がなかったお宅ら。記憶が戻ってなけりゃ手加減してやれたんだがな。けど……」

ソリッドは手近なヘリオンにバンカーを叩きつけてチャージが完了した圧縮粒子を解放する。
ヘリオンは勢いよく飛んでいき爆発した。

「テロリストは俺の仇みたいなんでな。今回ばかりは容赦しない!!」

ユーノの脳裏につい先ほどフォンとの言い争いの中で取り戻した記憶とその光景が浮かぶ。




爆発音に阿鼻叫喚の叫び声、そしてマシンガンを構えた男のヴィジョン。
自分の父が死を迎える原因を作ったものたち、テロリスト。



その同類が目の前にいるのだ。
流石のユーノも怒りを抑えることができなかった。
ロックオンとの約束や自分に課したものははっきりと覚えている。
だが、今日はその枷を外す。

『あげゃ!どういう心境だ?あれほど嫌っていた人殺しをするなんざ。さっそく宗旨変えか?』

「……今回だけさ。俺自身にケリをつけるためにも今回だけは容赦はしない。」

今回だけ、今回だけはロックオンとの誓いをやぶる。
これから自分が世界と向き合えるように、憎しみにとらわれず戦うために。

『フン、好きにしな……っと、お客様だ。』

「三時方向ヨリ敵機接近!」

967の言葉通り、そこにはAEUのヘリオン部隊がこちらに向かってきていた。

「今まで放っておいて俺たちが介入したら出てくんのかよ。」

ユーノはソリッドをまだ遠方にいるヘリオン部隊に向ける。

「お前らにも少しばかりお仕置きが必要だな。」

そう言うとアームドシールドをブレードモードにしてその先端を向ける。

「距離、効果範囲ならびに発動タイミング計算完了。967、GNグラム発射。発動タイミングは任せるぜ!」

「任サレタ、任サレタ。」

シールドの中心部が開きそこからミサイルらしきものが発射される。
そのまま広域に広がりヘリオン部隊に向かっていくが数が少なく、とてもすべてを撃墜することはできない。
しかし、ユーノ達の狙いは撃墜することではなかった。

「発動!発動!」

967の合成音とともにミサイルが爆発しGN粒子と弱い電撃のようなものが奔る。

「こんなもので…」

ヘリオンのパイロットたちが鼻で笑おうとした時、機体が突然全機能を停止する。

「な、なんだ!?どうなってんだ!?」

その様子を見てユーノは満足そうに笑う。

「どうだい?GN粒子と特殊周波の電撃による電子機器への攻撃は。」

GNグラムは電子機器を狂わせることによりMSを行動不能に追い込む兵器である。
ただ、その強力さゆえにガンダムにも少なからず影響が出るため使用距離と発動タイミングが難しい。
なので、ユーノと967のコンビネーションがあって初めて使用が可能になる兵器である。

「お仕置き完了っと。」

フォンたちも残っていた敵を殲滅したようだ。

「そんじゃひきあげると……」

「ところがぎっちょん!!」

「!?」

突然響いた声にユーノは驚くが、さらなる驚愕が襲う。
上空から赤く塗装された飛行形態のリアルドが突撃してくる。

「特攻か!?」

とっさに操縦桿を倒してよけようとするが敵は直前で方向を変えてソリッドが動いた方向とは逆の方向へ移動し、バックをとった。

「なっ!?読まれた!?」

「おらおら、どうしたぁ!!」

赤いヘリオンのパイロットはそのままライフルを発射する。

(この程度…!)

「見えてんだよ!!」

「つあっ!!」

ソリッドが動く先を読んでいるのか弾はことごとくヒットする。

「この…」

ユーノはソリッドを一気に加速させ距離があいた所で振り向いてヘリオンと対峙する。

「まさか仕事に向かう途中で会えるとはなぁ。ええ!?ソレスタルなんたらのガンダムさんよ!!」

「こいつ……!」

「気ヲツケロ!気ヲツケロ!」

ヘリオンがまっすぐこちらに向かってくる。
だが、それはヘリオンのパイロットにとっては予想外の妨害に阻まれた。

「あげゃ!俺も混ぜなぁ!!」

距離を詰めてきていたシルトがブレードシールドを振る。
しかし、ヘリオンはバランスを崩したものの紙一重のところでかわした。

「チッ!てめぇ、新手のガンダムか!!」

「その声……」

フォンがヘリオンのパイロットの声を聞き笑いを浮かべる。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!まさか生きてたとはな!」

「「!?」」

フォンの言葉に疑問を持つ二人だったが、ヘリオンのパイロットは素早くその場を離れた。

「逃がすか!!」

「待ちな。」

ヘリオンを追跡しようとしたユーノだったがフォンにとめられる。

「任務は終わった。さっさと帰還したほうが得策だぜ。」

「だが……」

「心配するな。ミッションをこなしていればいずれ奴にはまた会えるさ。」

「?奴を知っているのか?」

「ああ、よく知ってるぜ。だが……」

フォンが楽しくて仕方がないといった様子で笑みを浮かべる。

「お前の仲間にも俺より詳しく知ってる奴がいるぜ。」

「!?」

「ソラン・イブラヒム。いや…刹那・F・セイエイ。」

「刹那が…?」

「教えてやるよ…アイツの過去をな。」







アフリカ上空

「チッ!クソが!」

アリー・アル・サーシェスは自らの乗るヘリオンの中でいら立っていた。
最初にガンダムを見つけたときは嬲るなり、鹵獲するなりしようと思っていた。
パイロットも腕は多少立つようだったが自分の敵ではないと思っていた。
だが、予想外の妨害にあい逃げ出してしまった。

「それにしてもあの笑い声…」

かつて、自分の配下にいた少年兵。
ただ、能力は優秀なのだがあまりにも度が過ぎるため手放さざるをえなかった男を思い出していた。

「まさかな、考えすぎか。」

そもそも奴もソレスタルビーイングに介入される側のはずだ。
あんなところにいるはずがない。

「さて、そろそろ急いだほうがいいか。」

サーシェスは大金のかかった仕事に向かうためガンダムのことについて考えるのをやめ、目的地へと急いだ。








「刹那が…テロリスト!?」

「もと、だがな。サーシェスの野郎に洗脳されて人殺しを繰り返していやがったのさ。」

ユーノは仲間の過去を知り困惑する。

「詳しくは本人に聞きな。お迎えも来たようだしな。」

モニターを見ると遠方からデュナメスとキュリオスがこちらに向かってきていた。

「あげゃ!せいぜいお前の意地を貫き通すんだな。」

『フェレシュテのことは喋るなよ。いいな!』

フォンとエコはそれぞれ言いたいことを言うとそのまま帰って行った。

『ユーノ!大丈夫か!?』

『よかった…無事だったんだね!』

モニターに懐かしいロックオンとアレルヤの顔が写る。

「悪い、心配かけた。」

『悪いじゃねぇ!あとでたっぷり絞ってやるからな!』

今のユーノにはロックオンの怒鳴り声がいつもと違い心地よく聞こえていた。

(そうだ……刹那が何をやっていたかなんて関係ない。今の俺には世界を憎む以上に、守りたいと思える仲間に出会えた……。これ以上幸せなことはない。)

思わずこぼれそうになった涙をを誤魔化すため上を見上げ完全には思いだせていないかつての友に向かってつぶやく。

「守るために戦う……。これでいいんだよな、ヴィータ……」








己の過去と向き合い、少年は改めて決意を固める。





あとがき・・・・・・という名の謝罪&予告

ロ「共闘編その1終了の10話でした。」

フォン(以降 フォ)「あげゃげゃげゃ!今回もグダグダだったな!!クソ作者!」

最凶のマイスター、ロビンにコブラツイスト。

ロ「あだだだだだだ!!!!いきなり何すんのお前!!」

フォ「あげゃ。読者の怒りをお前にぶつけている。」

ロ「ふざけんなこのやろ…いだだだだだだだ!!!すんません!!もう調子のらないからきつくしないで!!」

エコ(以降もエコ)「おい、いい加減にしろ。まじめに解説に…って何で俺だけテロップに変化なし!?」

ロ「ああ、それはめんどかったからだ。」

エコ「なんで!?何で俺だけ!?てかそのまま表記のほうがめんどくさいよね!」

シェリリン(以降 シェ)「細かいこと気にしないの。だからエコはエコロジーじゃなくてエコ止まりなんだよ。」

エコ「何その言い方!!てか俺の名前の由来それじゃないよね!?」

8「どうでもいいから解説と次回予告。」

フォ「あげゃ!そうだったな。今回はユーノの記憶を少しだけ戻すことがメインの目的だったんだよな。」

シェ「どうやらテロが原因で父親が死んだところや向こうの仲間のことを少しだけ思い出したみたいだね。」

エコ「でも彼女のことは思い出したないみたいだな。」

ロ「当たり前だろ。お前ら自分が記憶喪失になって小学生で告ってあんな甘甘な空気出してたの思い出したら悶絶もんだぞ?」

エコ・シェ「「…………………確かに/////」」

フォ「あげゃ!軟弱もんどもめ!」

8「理解不能。」

エコ「うっさい!!」

シェ「さ、さて次回とその次は連続でサイドなんだよね!」

エコ「えっ!そうなの!?」

8「なんでもリリなのサイドの話とユーノの口調が変わったわけを描くらしい(というか話そらした…)」

フォ「リリなのサイドはその後のなのはたちの日常+αを書いて、00サイドは二人のマセガキの話をするらしいぞ。」

エコ「てかロビンの体があり得ない方向にねじれてるぞ。しかも、口から泡吹いてるし。(どうでもいいけど)」

シェ「気にしなくていいって♪それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいた皆様にお礼申し上げます!それでは、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] side2.繋がるオモイ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:2c640ca7
Date: 2010/05/27 18:40
西暦2008年 地球 海鳴市 中学校屋上

「ごめんなさい。私もう好きな人がいるんです。」

サイドアップで髪をまとめた少女、高町なのはに頭を下げられ、彼女の前にいた男子生徒がふらふらと後ろに下がる。

「そ、そうだよね!高町さんみたいに綺麗な人は俺なんかとじゃ釣り合わないよね!!」

「……本当にごめんなさい。」

「い、いや!俺が勝手に好きになっただけだから!それじゃ!!」

そう言うと男子生徒は滝のように涙を流しながら屋上の扉の中へと消えていった。

そして、そんな様子を貯水タンクの裏に隠れてのぞいている四つの影があった。

「……今回もまたバッサリいったわね。」

「なのはちゃん嘘つけないから…」

「それにしたって…!彼ってサッカー部のキャプテンで狙ってる子は何人もいたのよ!?それをあの子は……!」

「ま、まあまあ。落ち着いてアリサ。なのはに気付かれちゃうよ。」

「それにしても今回もまた派手に泣いとったなwww」

「はやて……あんたは毎度見るたびにそのいやらしい笑いを浮かべるのはやめなさい。」

アリサはにやにや笑いながら見ているはやての頭をガッシリと掴み、力をくわえていく。

「いたたたたた!アリサちゃんギブギブ!!」

「やめてアリサちゃん!これ以上はやてちゃんの性格が歪んじゃったらどうするの!?」

「すずか…なに普通に失礼なこと言ってるの。否定はしないけど。」

〈サーも十分失礼です。というよりこのような行動をしている時点で失礼の極みです。〉

すずかの天然発言にフェイトがつっこみ、さらにフェイトに彼女が持っていた金色の宝石、バルディッシュがつっこむ。

彼女たちは自分たちがなのはにその存在がばれていないと思っていたようだが、

「ねぇ…レイジングハート。またみんな来てるね。」

〈……イエス、マスター。〉

彼女たちは呆れたようにため息をつく。

(とりあえずはやてちゃんだけはあとで“お話”しないとね。)

はやてが聞いたら「なんでや!?」とつっこみそうなことを考えながら空を見上げる。

「……もうずいぶん経つのにな……」

ユーノがいなくなってから三年が経とうとしていた。
あの日のことを忘れたつもりはないが、それでも立ち直った。
そのつもりだったが、それでもなのははユーノへの思いを捨てることができずにいた。

「会いたいよ…ユーノ君……」



魔導戦士ガンダム00 the guardian side2.繋がるオモイ

第1管理世界 ミッドチルダ クラナガン郊外

「ま、待て!待ってくれ!!大人しくするからもうやめてくれ!!」

黒いジャケットにフードを被った男が目の前の赤いドレスを着て巨大なハンマーを構えた少女に泣きながら必死に懇願していた。
彼女は男よりはるかに小さく、周りにギャラリーがいれば情けないと思われるのかもしれないが、なりは小さくとも彼女は古代ベルカの騎士である。
普通の人間が対抗しようとするのが間違いというものだ。

「いまさら許せだ…?ずいぶんなめたこと言ってくれんな。」

ガシャコン!という音とともにハンマーの根元から魔力を吸収されたカートリッジの薬莢が排出される。

「ひ、ひぁぁ……」

男は情けない声とともに追い詰められたビルの壁に寄りかかる。

「牢屋に入る前にいいこと教えといてやる……。あたしがこの世で一番嫌いなもんはな、こそこそ裏でいらないことをする下衆と……」

赤いドレスの少女、ヴィータが思いきりハンマーを振りかぶる。

「てめぇらみたいなテロリストだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

振り下ろされたハンマーに顔を打ち据えられた男は横に一直線に飛んでいき、別のビルの壁に叩きつけられ、ズルズルと壁をずり落ちるように崩れ落ちた。
その顔はハンマーの跡が赤くはっきりと残っており、ヴィータの一撃の衝撃で歪んでいる。
目の周りは涙でぐしゃぐしゃになっており、口からは泡をぶくぶくと吹いてのびていた。

「…やりすぎだ、ヴィータ。」

「そうですよ!この人たちきっと毎晩ヴィータちゃんの悪夢にうなされちゃいますよ!」

上空からピンクのポニーテールをした騎士、シグナムと銀色の髪をした人形のような容姿の融合騎、リインフォースⅡがやってきた。

「死んでないだろうな?」

「きっちり非殺傷でやってるからな。そこんとこは心配ない。」

しかし、周りの状況を見てシグナムたちはこめかみを押さえ唸る。
確かに全員生きてはいるのだが、意識がある者は一人としていない。

「…どっちにしろやりすぎだ。少し加減というものを知れ。ここのところお前は少し暴走しすぎだ。」

あの日以来、ヴィータは任務中に時々殲滅戦かと思うような攻撃をすることがあった。

「ユーノのことを悔いているのなら、なおのことこんな行いをするものじゃない。」

「関係ねぇよ。ただ……」

「?ただ……?」

リインフォースが首をかしげる。

「ここんとこ変な夢見てイライラしてんだよ。憂さ晴らしぐらいさせろ。」

ブツン、という音ともに遂に二人がキレた。

「馬鹿者!!任務をなんだと思っているんだ!?憂さ晴らしがしたいならよそでやれ!!」

「そうです!!ヴィータちゃんのおたんこなす!!!」

「うるさい!!無理やり任務に連れてきたのはお前らだろ!!てか、リインのそれは関係ないだろ!誰がおたんこなすだ!!」

ぎゃあぎゃあ言い争う三人の周りに他の局員が報告を受けるために集まってきていたが話しかけられずにいた。
と、そんななか、一人の局員が恐る恐る近づいていくが、

「あ、あのぉ……」

「「「なんだ(ですか)!!!!?」」」

「ひぃっ!!な、なんでもありません!!」

あっさりと引き下がってしまった。




その後、三人の言い争いが終わるまで他の局員たちは待たされることとなる。
そして、そのことを聞いたはやてとシャマルによって三人はこってり絞られることになるのだった。





海鳴市 八神家

「……なんだか嫌な予感がするわね。」

湖の騎士、シャマルは洗濯物を干しながら遥か彼方の異世界で起こったことを直感的に察知する。
実に恐ろしいお方である。

「気のせいだろう。それよりも早く全部干してくれ。重くてかなわん。」

背中に絶妙のバランスで洗濯物の入ったかごをのせたザフィーラがプルプルと震えながら訴える。

「ああ、ごめんなさいザフィーラ。もう少しで終わるからそれまで我慢してね。」

「…ところでなぜ私がこのようなことをしなくてはならない?」

「いちいちかがんでると時間がかかっちゃうから♪」

ザフィーラの不満を一蹴するとシャマルは鼻歌を歌いながら再び洗濯物を干し始める。
しかし、シャマルの楽しそうな様子を見てザフィーラは安堵のため息を漏らす。

(…もう誰もが、前を向いて歩き始めている。ユーノ、お前の思いは確かにここに息づいているぞ。)

とその時だった。

「うおっ!?」

「え?きゃあぁぁ!?」

気が緩んだのかザフィーラはバランスを崩し、残っていた洗濯物をぶちまける。
その煽りをくらったシャマルが物干しざおを倒してしまいかかっていた洗濯物が地面に散らばった。

「「………………………………」」

散らばった洗濯物を見て二人は沈黙する。

「…シャマル。次からは素直にかごを置いて干すことを推奨する。」

「…そうする。」

そう言って二人はどんよりした表情のまま散らばった洗濯物を再び洗濯するために回収を開始した。







無限書庫

「あ~、それそっち!これもそっちにやっといて!」

子ども姿のアルフはきびきびと司書たちに指示を出す。
無限書庫で一番優秀だったユーノがいなくなって以来、ただでさえ忙しかった無限書庫の整理がいっそう大変な状況になってしまった。

「…こんなときユーノがいてくれたら……」

自分が口にしたことにハッとして首を振る。

(甘ったれるな!!ユーノはもういないんだ!あたしが頑張るしかない!)

そして、キッと無限に続く本棚をにらみつける。

「こんなもんに負けてたまるか~~~!!!」

周りが何事かと見つめるのもお構いなしにユーノへ高らかに自分の意思を宣言した。






海鳴市 某マンション

「ただいま!」

フェイトは自宅に帰って来るとしばらく会っていない人物がリビングで待っていた。

「クロノ!」

「久しぶりだな、フェイト。」

クロノはコーヒーをすすりながら手を挙げてフェイトに挨拶をする。

「いつ帰ってきてたの?」

「ついさっきだ。久しぶりに、その、エイミィに顔を見せようかと思って…」

顔を赤くしながら自分の妻の名を口にする。
そこからは若くして提督までのぼりつめた者の威厳はかけらもない。

「ふ~ん、ラブラブなんだ♪」

フェイトがにやりと笑ってからかうと焦り始める。

「ば、馬鹿っ!年上をからかうんじゃない!」

「あはは!ごめんごめん。」

「まったく…」

クロノはため息をついてテーブルの上に飾ってある二人の花婿姿と花嫁姿の写真を見て少し顔を曇らせる。

「どうしたの?」

「いや…」

「ただいま~!あっ、フェイトちゃん帰ってたんだ!」

「おかえり、フェイト。」

「ただいま。エイミィ、母さん。」

買い物でもしていたのか大量の荷物とともにエイミィ・ハラオウンと二人の母親、リンディ・ハラオウンが帰ってきた。

「どうしたのクロノくん?なんかブルーみたいだけど。」

「ああ…。これを見ているとつい、な。」

自分たちの写真を見つめながらつぶやく。
その場にいた全員がクロノの心情を理解し少し暗くなる。

「そっか…ユーノ君を呼べなかったもんね…」

クロノにとっての心残り。
それは自分たちの結婚式に親友を呼ぶことができなかったことだった。

「いまでも思うんだ。僕が、アイツからすべてを奪った組織に所属しているこの僕が幸せを掴んでしまっていいのか…」

「クロノ…」

リンディがつらそうに顔をしかめる。

「アイツが、ユーノが本当は、最後までアイツを守ってくれなかった管理局を、僕を怨んでいるんじゃないかと思ってしまうんだ。」

「そんなことない!!」

フェイトが声を張り上げる。

「ユーノはそんな人間じゃない!そのことはクロノも知ってるでしょ!?」

クロノはハッとして思い出す。
最初にあった時、ユーノは無茶だと知りながら必死でジュエルシードを回収しようとしていた。
あの時のただ誰も傷つけたくないという強い意志が宿ったまっすぐな瞳を思い出す。

「…そうだな。すまない。」

と、そのときパンとリンディが手を叩く。

「暗い話はお終い。早くご飯の支度をはじめましょう。今日はクロノが帰ってきたからごちそうよ!」

そう言ってリンディとエイミィは台所に向かい調理を開始した。
その姿を見ながらクロノとフェイトは幸福をかみしめる。

(ユーノ…もし許されるなら、これからも僕を君の友人でいさせてほしい。君が守ろうとしたものはなにがあっても僕たちが守っていくよ。)






図書館

アリサ、すずか、はやての三人は帰りに図書館によっていた。

ちなみにはやてはなのはのお話の影響なのか服からところどころ白い煙が上がっている。

「…今日も容赦ないな、なのはちゃん。」

「あんたは日頃の行いを改めないからそういうことになんのよ。」

どんよりした空気を纏ったはやてにアリサがつっこむ。

「アリサちゃんやすずかちゃんかて同罪やんか!?」

「私たちはあの光景をビデオにとって本人に売りつけるようなえげつないマネはしてないわよ。」

「うぐっ!」

「ま、まあ今回のことではやてちゃんも反省したよね!?」

うんうんとうなずくはやてだが全く反省した様子はない。

「まったく…」

とその時、アリサが何気なくとった本にはやてとすずかの視線が集まる。
その様子を見たアリサに戸惑いの表情が浮かぶ。

「な、なによ?」

「これ…懐かしい。」

「ほんまや…」

二人が微笑みながらアリサの手から優しく本を受け取る。

「これね、ユーノ君のために初めて借りてあげた本なんだ…」

「そうそう。地球の言葉を勉強したいからって。」

二人は児童用の本をぱらぱらとめくる。

「でも、さすがにこれはあかん!って言われて返しに来たんやったよね。」

「あはは!そうだったね。」

二人はくすくすと笑うが徐々にその声が小さくなって消える。

「…もう三年、か。意外とふっきれるもんやね。」

「それでいいのよ。ユーノだっていつまでもズルズル引きずってられちゃたまんないでしょ。」

「でも…忘れちゃいけないことだよね。」

すずかの言葉に二人はうなずく。
最初はみんな忘れてしまいたいと思っていた。
だが、あの時の悲しみを忘れてはいけない。
忘れてしまえば、ユーノの願いを汚してしまうことを誰もが知っていたから。

「まったく。あのエロ助は余計なものばっか背負わせてくれるわね。」

「まあまあ♪アリサちゃんかてエロいの嫌いじゃないやろ?」

「うん、まあどっちかというと……ってあんたは何言わせんのよ!!!!」

「げふっ!」

アリサがはやての頭にげんこつを叩きこむ。
そのあまりの威力にはやては白目をむいて倒れた。

「あはは!二人とも仲いいね♪」

「あんたはその天然発言をなんとかしなさい!!」

図書館の中にもかかわらず、騒がしくも愉快な時間は少しづつ流れていった。





高町家

「ただいま~!」

「おかえり、なのは。」

「おかえり。」

なのはが自宅に帰って来ると自分の両親、高町士郎と高町桃子が出迎えてくれた。
……この二人、結婚してかなり経っているのだがいまだに結婚したてのようにアツアツである。
しかも、いまだに若い姿のまま。
……ロストロギアでも使っているのだろうか?

「「なにか?」」

「どうしたの二人とも?」

「いや、なにか失礼なセリフが聞こえたような…」

首をかしげる二人を放っておいてなのはは道場へと向かう。

「おかえり、なのは。」

「おかえり~。」

彼女の兄と姉、高町恭也と高町美由希が鍛錬を中止して出迎える。

「なのは聞いたよ~?」

美由希があやしげな笑みを浮かべながら近づいてくる。

「またふったんだって~?いい加減彼氏作ったほうがいいよ~。」

最初は笑っていた美由希だったがその顔が徐々に曇っていく。

「彼氏のいない学生生活より悲壮なもんなんてないわよ。…そりゃ私だって最初は大丈夫だって思ってたわよ。なのに年を重ねるごとに焦りが募って、それに比例するように男子が遠ざかっていって…」

「あ、あの、お姉ちゃん?」

美由希はとうとう耐えきれなくなったのかさめざめと泣き始める。

「なんで私じゃなくてなのは…?やっぱり若い方がいいの?男はみんなロリコンなの!?」

「美由希…話がずれてるぞ。」

恭也がため息をつきながらつっこむが、それでも暴走が止まりそうになかったので無視してなのはのほうを向く。

「なのは、美由希じゃないがそろそろ新しく自分をスタートさせてもいいんじゃないか?ユーノだっていつまでもお前がそんな調子じゃうかばれないぞ。」

恭也の言葉になのははうつむいてしまう。

「うん…わかってるよ。私も最初はそう思ってた。でも…」

「でも?」

なのはは顔を上げる。
そこには笑顔とも泣き顔ともとれるような表情があった。

「最近、変な夢を見るんだ…」

「夢……?」

恭也が問いかける。

「うん。ユーノ君がまだ生きてて、未来の地球で戦っている夢…」

「…夢は夢だ。そんなものに振り回されているとロクなことがないぞ。」

「わかってる。わかってるけど、それでも……」

そう言うとなのははいつもの笑顔に戻る。

「変なこと言っちゃってごめんね。私は大丈夫だよ。じゃあ、二人とも頑張ってね!」

そう言って自分の部屋に向かってかけていくなのはを二人は見送る。

(…なにが大丈夫だ。心が揺れ動いているのがまるわかりだったぞ。)




?????

その晩、ヴィータは再び奇妙な夢の中にいた。

(またかよ…)

最初は巨大なロボットが砂漠の上空を舞っている夢。
続いて、同タイプの5体のロボットが整備されている夢。
そして、はやてたちと同年代の少年や大人びた雰囲気の青年たちが訓練をしている夢。

すべてに共通しているもの、それは…

(ユーノ……)

あの日失ってしまった仲間、ユーノ・スクライアが登場すること。

今日の夢はユーノが格納庫のような場所で壁にもたれかかって何かを待っている。

「おい、ユーノ!!」

ヴィータはすぐ近くで叫ぶがユーノには聞こえていないようだった。
と、そこへ連絡が入る。
それを聞いたユーノは壁から飛び起き、一体のロボットのほうへ向かおうとする。
が、仲間と思われる二人にとめられる。

「おい!ユーノの邪魔すんじゃねえ!!」

ヴィータは殴りかかるがすり抜けてしまう。

「くそっ!!」

とヴィータが振り向くと、外に最初に見た巨人に似た萌黄色の巨人が立っている。
ユーノはそれへ向かって走り出し、起動させて彼方へと飛んでいく。

「ま、待てよ!」

ヴィータが呼びとめようとするといきなり場所が変わり、ぼろぼろの戦艦が浮く海の上空にいた。

「一体…?」

「きさまらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!?」

突然ユーノの咆哮があたりに響く。
ヴィータが後ろを向くとそこには戦闘機やロボットを憎しみに任せ、萌黄色のロボットを使い一方的に破壊している姿があった。

「やめろユーノ…やめてくれよ……」

ヴィータは涙ながらに訴える。
だが、ヴィータの声は届かずユーノは残っていたロボットを全滅させた。

「う、ううぅぅぅ………」

ヴィータは泣いていた。
自分の知っているユーノが消え去っていってしまうようで。

『…ごめんね、辛いものを見せちゃって。』

「…また、てめぇなのかよ。」

ヴィータは顔をあげて目の前の人物、赤いツインテールの女の子をにらみつける。

『ごめんね。でも、ユーノのことを強く思ってくれているあなたとあの子にはユーノと彼らが背負ってしまったものを見ておいてほしかったの…』

「ふざけんな!!ユーノは死んだんだ!あたし達の、目の前でっ……!」

少女はゆっくりと首を振る。

『あなたもわかっているはずだよ。ユーノは今でも戦っている。自分と、この世界と。』

「そんなことない!ユーノが、アイツが自分から戦うなんて…」

『それは、私たちにも非がある。でも、ユーノの決意は本物だよ。』

「違う…アイツがこんなことするはずない…こんなこ…と…」

ヴィータの意識が徐々に薄れていく。

『ごめんね…今日、あなたはここまでみたい。つらいかもしれないけど、最後までユーノの思いを見つめて…』

その言葉を最後まで聞けずにヴィータは意識を手放した。






?????

なのはは巨大な塔が見える場所にいた。
そこでは、細い手足のロボットが空を舞いながら的を撃ち抜き、彼女の目の前に降り立つ。

「また、この夢……」

なのはがため息をつこうとした時、空からもう一体ロボットが降りてきた。

(でも、やっぱりこのロボット、綺麗だな…)

最初に見たときから思っていた。
光を放ちながら空を舞うその姿はなのはの目には天使に写った。

斬ッ!

なのはが見とれていると機械天使がロボットの手を切り落とす。
天使はそのままあしらうようにロボットを打ち倒してしまった。

「すごい………!」

感心していると突然場面が変わる。
深緑の機体が狙撃しているところに数機の戦闘機が向かってくる。

「危ない!!」

なのはは思わず叫ぶが、戦闘機の攻撃は突然出現した萌黄色の機体に阻まれた。

「ユーノ、くん…」

前の夢で知っている。
かつてと違い、背丈や髪が伸び、サングラスをかけていたが見間違うはずがない。
自分の最愛の人、ユーノ・スクライアが乗っている機体。

『ソリッド…ユーノの機体はどう?』

なのはは声のほうへ振り向く。

「また、あなた…」

いつも出てくる赤いツインテールの女の子をまっすぐ見つめる。

「あなたはいったい誰なの!?なんで私にこんなものを見せるの!?」

『あなたたちに知ってほしかったから…。ユーノの戦いを。』

なのはの隣を翼を撃ち抜かれた戦闘機が落ちていく。
地面をこすって止まるが、中の人間は無事のようだ。

『ユーノが枷を課して、自分と、世界と向き合っていることを知っておいてほしいの。いずれ、ユーノがあなたたちのもとに戻った時にユーノの苦しみや怒りを受け入れて欲しいから。』

「ユーノ君が…戻って…来る……?」

なのはが声を震わせて少女を見つめる。
少女はゆっくりとうなずく。

「うそっ…!そんなこと!」

必死で起こるはずのない奇跡への喜びを打ち消すように頭を振る。

『今は信じられないかもしれないけど、いずれ時が来たらわかるよ。私と、私の心を捕まえてくれたこの子が絶対にあなたたちのもとへユーノを導く。』

そう言うと少女は手の中にあるひし形の宝石を見つめる。

「それは、ジュエルシード!?」

なのはが驚きで目を見開く。

「なんであなたがそれを!?」

『この子が、私の心を拾ってくれた。ユーノのそばにいさせてくれた。』

「それは危険なものなの!早く封印しないと!」

『大丈夫……』

近づこうとするなのはを制する。

『この子はあなたたちが思ってるような危険なものじゃない…。ただ、歪んだ使い方をされてしまっただけ。』

とその時、なのはを強烈な目まいが襲う。

「なに…が…」

なのはの視界が徐々に薄れていく。

『またね…なのはちゃん…』

その声がこの日のなのはにとっての最後に聞いた言葉となった。







高町家 なのはの部屋

なのははゆっくりと目を開け耳元でなっていた目覚ましを止める。

「ユーノ君が、戻って来る?」

あり得ない。
だが、あり得ないとわかっているのにどこか期待してしまう自分がいる。

「なのは~!ご飯だよ~!」

「ふぇっ!は、は~い!」

なのはは美由希の声にびくっと体を震わせ返事をすると思考を中断し下へと降りていった。






八神家

ヴィータはベッドの上で飛び起きた。

「なんやヴィータ?今日も珍しく早起きやな。」

もうすでに起きて着替え始めていたはやてが驚いてヴィータのほうを見るが、当のヴィータははやての言葉など聞こえていない。

(あの野郎…ユーノが戦っているだと…?)

「おーい、もしも~し?」

(ユーノは死んだんだ!あんなものは幻だ!あんな奴の言うことなんて…)

「……てい。」

「うわわわ!?」

それまでヴィータに話し続けていたはやてだったが、しびれを切らしヴィータの胸をもむ。
だが、

「……ちっちゃいな。やっぱシグナムかシャマルやないとあかんな。」

「なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!人の胸もんどいてその言いぐさはなんだぁぁぁぁ!!!!」

「「「「ヴィータ(ちゃん)うるさい!!!」」」」

こうして今日も八神家の騒がしい日常は始まった。







?????

『ユーノ……。あなたの大切な人たちとあなたの思いは私が繋ぐよ…。あなたがいつか、彼女たちのもとに帰る日まで…』





あとがき・・・・・・という名の達成感

ロ「な、なんとか、リリなの組の主要キャラ全員を登場させたサイド、でし…た……」

ロビン、そのまま倒れこむ。

狸「え~、作者がオーバーヒートのためぶっ倒れたのでここからは夜天の王こと、うち八神はやてが進行させていただきます。」

シ「しかし、書き終えた瞬間倒れこむとは…。今回は期待でき……」

狸「ああ、ロビンが倒れたのはメタギアを朝の5時までぶっ通しでやっとたからやで?いやぁ~、やっぱラストシーンは泣けるなぁ…」

魔王「どうやら…作者とは少し“お話”しないといけないみたいだね…」

フェ「今のなのはだとホントのお話するまえに消し炭になっちゃうから。誰か別の人に付き添いしてもらってね。」

黒「しかし、僕はすごくネガティブだったな。大丈夫か僕?」

狸「駄目なんやろ。」

黒「あとで付き合えはやて。じっくり“お話”しよう。」

アリサ(以降 ア)「てか、なんかあたしえらく凶暴になってない?」

すずか(以降 す)「あのアリサちゃんもワイルドでかっこよかったよ♪」

ア「正直微妙なフォローをありがとう。」

シャ「というか、誰だかモロわかりの人間が夢に出てきてたわね。」

ヴィ・な「「あれは驚いた…」」

リインフォースⅡ(以降 リ)「お二人だけ目立ってずるいです!」

リンディ(以降 糖)「若いうちは目立ってるくらいがいいのよ♪」

リ「じゃあリインも強引に00に介入…」

アルフ(以降 豆犬)「するなよ。」

ザ「それではそろそろ次回予告行くぞ。」

エイミィ(以降 嫁)「次回はユーノ君の口調が変わるきっかけだったね。というか私のテロップ雑……」

シャ「確か惚気が入るんだったわね。」

糖「若いっていいわね♪」

魔王「……………………………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

狸「なのはちゃん、無言のプレッシャーはやめて。リインとヴィータが泣きそうやから。」

魔王「何言ってんのかな♪私はただどうやってユーノ君を炭人形にして自室に飾ろうか考えてるだけだよ♥」

ア「ハートつけたって言ってること怖いって!!」

嫁「ヤンデレか…最近クロノ君との仲が冷えつつあるからなぁ…。ここらで趣向を変えて…」

黒「やめろよ。」

リ「じゃあリインも…」

八神家一同「「「「やめろ!!!!」」」」

狸「ではこれ以上カオスになる前にしめよか。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!!ほな、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] side.3 僕が俺になるまで
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
ソレスタルビーイング拠点 訓練場前の廊下

「………は?」

「?どうしたの、ロックオン?」

アレルヤがスポーツドリンクを飲みながら歩いていると、ロックオンが今まで見たこともないような間の抜けた顔でユーノの前に立っているのを見つけた。

「いやいや…聞き間違いだよな。うん、そうだ。俺は刹那やティエリアの相手をしすぎて疲れてるんだ。」

するとユーノが少しムッとする。

「……“俺”が俺って言ったらそんなに変かよ。」

アレルヤは盛大にドリンクを吐き出しロックオンにかけてしまったが、二人ともそんなことを気にしている余裕などなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian side3. 僕が俺になるまで

ブリーフィングルーム

ユーノがここに来てから一か月の時が経とうとしていた。
そして、今までで最大の問題が発生したため年長者だけによる緊急会議が今開かれようとしていた。

「今日みんなに集まってもらったのは他でもない、ユーノのことよ。」

スメラギの言葉にその場にいた全員に緊張がはしる。

「私たちは突き止めなければならない………そう…」

スメラギはモニターへと振り向く。

「なぜユーノがこんなにも変わってしまったのか!!!」

モニターに映し出されていたのはつい先日までの大人しいユーノではなく、口調が荒くなっているユーノだった。

「これが反抗期ってやつなの!?お母さんどうしたら……!?」

「いつからスメラギさんが母親になったんですか……?」

「一度言ってみたかったのよね♪」

スメラギはアレルヤのつっこみを華麗に受け流すと全員のほうに向く。

「さて、じゃあ本題に移りましょうか。ユーノが変わったことについて誰か心当たりがない?」

「待て、その前になんでわしらのこの姿がここにあるんだ?」

イアンの意見ももっともである。
そこにはユーノの変化に驚いた時の全員の顔が映し出されている。
イアンが思わず持っていたパソコンを落とし、足にぶつけて悶絶する姿。
書類整理をしていたモレノが一緒に整理していたラッセの腕にうっかりボールペンを突き刺している映像。
リヒテンダールが後ずさりをして階段に気付かずそのまま転げ落ちていく光景。
クリスティナが持っていたコーヒーをこぼし、お気に入りの服にしみを作ってしまい慌てふためく姿。
ここまで間の抜けた顔はドッキリ企画でもそうそうみられるものではないだろう。

「それはもちろん隠しど……ゲフンッ!ゲフンッ!偶然見つけたのよ♪」

「うそつけぇぇぇぇ!!!今隠し撮りって言いそうになったろ!」

「ヒドイですよスメラギさん!!僕のこんなところとるなんて!」

「お前は俺にドリンク吹きかけただけだろ!俺なんてびしょ濡れに…いや、でもこれはこれでいい男だな。さすが俺。」

イアンとロックオンたちはそれぞれ不満を言うがスメラギはものともしない。

「……今思い出しても痛い。」

「……すまん。」

包帯が巻かれた腕を見つめながらラッセとモレノの顔が暗くなる。

「……あの…クリスの映像もう少しないですか?」

「あんたは何を期待してんのよ!!!」

「ぐはぁっ!!」

鼻の下を伸ばしたリヒテンダールにクリスティナのげんこつが幾度も降り注ぐ。

「大体、自分のだけないだろうが!」

そう言ってイアンは端末を操作し始める。

「あっ!ちょ、ちょっと!!」

スメラギは慌てだすがもう遅い。

「これかぁぁぁぁ!!!!」

イアンが勢いよくエンターキーを押すとモニターにでかでかと映像が映し出される。

「「「「「「「あ゛。」」」」」」」

そこには飲んでいた酒を全身に被ってしまい、体のラインが出たまま尻もちをついているスメラギの姿があった。

「…………………///////」

スメラギは両手で顔を押さえてその場にうずくまる。

「…その……すまん。」

イアンの言葉を最後にしばらくブリーフィングルームを沈黙が支配した。






一時間後

「じゃあ、まじめに始めましょうか。」

復活したスメラギが再び場を仕切る。

「え~と、じゃあ私から。私と仲のいい(?)Fさんの証言です。」

クリスティナが携帯端末をいじると目元を隠されたピンクの髪の少女が映し出される。
……はっきり言ってあまり意味がない。

『…エレナが何か言ってた。』

そこで映像は終了する。

「簡潔すぎて面白くないわね。次。」

「いやいや!それでいいじゃないですか!ていうかスメラギさん全然懲りてないですよね!?」

「じゃあ、次は俺だ。T・EとS・F・Sの証言だ。」

「またモロわかりだな。」

スメラギにほえるクリスティナを無視してロックオンにつっこみを入れるラッセ。
もう会議とは呼べない状況だ。
そんな状況のなかモニターにこれまた目元を隠された紫の髪の少年と黒髪の少年が映し出される。

『最近のユーノのこと?…知らない。』

『まさか、何か余計なことを!?万死に値する!!!』

紫の髪の少年は銃を取り出すと勢いよく走りだす。

『ユーノ・スクライアーーー!!!』

パンパン!!

『わああぁぁぁ!!!なんだぁぁぁ!!?』

遠くから銃声と叫び声が聞こえる。
黒髪の少年はわれ関せずといった感じで反対側にあるいていってしまった。

「……これ、この後どうしたんすか。」

「もちろん誤解は解いたよ。」

青ざめた顔のリヒテンダールにロックオンが説明する。

「なかなかおもしろかったけど、もうひと押しほしいわね。」

「じゃあ、わしがとどめを。E・Cの証言だ。」

そう言ってイアンは端末をいじって赤髪のツインテールをした少女の映像を映し出す。

『ユーノ?ああ、あの堅苦しい口調をもうチョイなんとかできないかって言っといたの。なんでって…もうあたしたち仲間なんだし、それに…』

少女が急にもじもじし始める。

『今のユーノもいいけどちょっと変わったユーノも見てみたいというか…、こう、もうちょっとワイルドな感じで迫ってくれれば私だって……』

スメラギが携帯端末をモニターに思いっきり投げつける。
端末は凄まじい風切り音とともにモニターに突き刺さり小爆発を起こした。

「あ、あのスメラギさん……?」

「なぁに?クリス?」

クリスティナは恐る恐るスメラギを見る。
そこには笑顔なのに後ろに死神が鎌を構えている幻が見える。
いや、幻かどうかも正直怪しい。

「ど、どうしたんですか……?」

「クリス、よく覚えておきなさい♪若いうちからいちゃついていると身内の反感を買うものよ♪」

クリスティナはスメラギの闘気におされじりじりと後ろに下がる。
その様子を見て見ぬふりをして残りのメンバーは話し合いを続ける。

「原因はエレナか……。ユーノの奴まじめだからな。」

「しかし、だからといってなぜああなる?もっと別の方法が…」

「……あ。」

ロックオンが何かを思い出したようだ。

「なにか知ってんのか?」

「いや、ニ・三日前にな…」





三日前 訓練場

「口調をなんとかしたい?」

「うん。ロックオンなら何かいいアドバイスをくれると思って。」

訓練が終わった後、ユーノはエレナの要望をかなえるためロックオンにアドバイスを求めていた。

「……というかそれはエレナがもうチョイお前にかまってほしいってことだぞ。」

「そんなことあり得ないよ。ホントに困った顔をしてたんだから。」

(こいつは………)

おそらくエレナは照れていたのだろうがそういうことに鈍いユーノには自分のせいで心底困っているように見えたのだろう。
ロックオンはため息をつくとユーノを見る。

「まあ、確かにお前の喋り方は少し堅いな。もうちょっとラフなしゃべり方をしたらどうだ?」

「ラフ?」

「そうだ。もっとこう荒っぽい感じで“俺”とか言ってみたり。」

「い、いいのかな…?」

ユーノは少し困惑気味にロックオンを見上げる。
その小動物のような仕草がロックオンの悪戯心に火をつけた。

「そうだ!口調を変えて自身を改革することでMSの操縦も格段にうまくなると偉~~~い学者が言ってた!!」

「そ、そうなの!?」

「お兄さんは嘘をつかない!!」

言ってることが何もかも大嘘なのに自信満々に言い放つロックオン。
だが、自分のした行為がとんでもない過ちだったことにすぐさま気付いた。

「そ、そうなんだ…やっぱりロックオンはすごい…!」

ロックオンの視線の先には目をキラキラ輝かせながら真剣な表情でうなずくユーノがいた。
記憶がなくしてしまったせいでさらに純粋になっていたユーノは些細な冗談も真に受けるようになっていた。

「あ、あのなユーノ…」

「ありがとうロックオン!僕…じゃなくて俺、さっそく練習(?)してくるよ!」

「い、いや今言ったことは…」

ロックオンが言葉を言いきる前にユーノはダッシュで自室に向かっていった。

「違うんだユーノ!!今言ったことは冗談なんだ~~~!!!」







現在

「…ユーノもユーノだが、お前も軽率だぞ、ロックオン。」

「面目ない…」

イアンの叱責を受けながらロックオンは小さくなる。

「ま、しかしアイツがいまだにどこか他人行儀なのは事実だしな。」

ラッセが腕を組みながら唸る。

「それにあれにしたってこっちが慣れればいいはなしっすからね。エレナの恋も応援してやりたいし。」

「よくないわよ!!」

リヒテンダールの言葉に反応しネチネチとクリスティナに迫っていたスメラギが男性陣のほうを向く。

「男女交際は18過ぎてからよ!!わたしはそれ以外認めない!!」

「そりゃ単なるひがみ…」

モレノが言い終わる前に壁に無数の投げナイフが突き刺さった。

「なにか?」

「…いや、なんでも。」

「よろしい。それじゃ、今すぐユーノのところに行くわよ!!」

スメラギに率いられ、いやいやながら全員がユーノが今いるであろう食堂に向かった。






食堂

(なんで……?)

食堂にいるエレナは不満たらたらだった。
ユーノの口調が変わったのは確かに驚いたがまあいい。
机に向かってイアンに言われた作業をしているのもこの際許そう。
だが、

(なんでこのカッコ見て無反応!?)

エレナは今、お気に入りのワンピースを着てユーノのそばにいる。
ユーノの反応が楽しみで来たのに様子はいつもと変わらないのだからたまらない。

「このばかち~~~ん!!!」

とうとう我慢の限界が訪れたのかユーノの頭をばちこ~んと叩く。

「あだっ!何すんの!?」

「何じゃないわよ!あんたこれ見て何にも思わないの!?襲おうとか、襲おうとか、襲おうとか思わないの!?」

「選択肢が襲うだけってどうよ!?獣か俺は!」

「そうでなくてもかわいいとか言ったらどうよ!せっかくユーノを誘惑するために頑張ってきたのに!」

エレナは勢いに任せてユーノへの思いを言ってしまう。
しまったとばかりに口を押さえるが時すでに遅し。

「エレナ……」

「…何よ。私があんたのこと好きじゃ悪いの!?」

エレナの顔はすでに真っ赤で、涙でクシャクシャになっている。

「……僕も、エレナのことが好きだよ。」

「え………?」

ユーノが普段の口調に戻り予想外の答えを言うのでエレナは泣くことも忘れて呆けてしまう。

(ユーノが私のこと……!)

喜びに浸ろうとした時、ユーノの言葉で再び現実に引き戻される。

「ロックオンのことも好きだし、スメラギさんのことも好きだし、あと…」

「……………は?」

メンバーの名前を次々と挙げていくユーノを見てエレナはようやく気付いた。
ユーノの好きはloveではなくlikeなのだ。
もっとも、まだ小学生ほどの人間に恋愛感情を理解しろというほうが無理な気もするが。

「それに、エレナはいつもかわいいよ。」

そんな中、ユーノのさりげなく言った発言にエレナは顔を真っ赤にする。

「………馬鹿。」

エレナはユーノの隣に座りユーノに体を寄せる。

「エレナ?」

(普通これだけやったら気付きそうなもんだけどな…)

ハァとため息をつくそんなエレナの姿を部屋の角から見ているいくつもの影があった。






「ふふふふ…甘いわねエレナ。ユーノくらい鈍い子には下着姿で迫るくらい積極的に…」

「子供になにさせる気ですか!?というかもう少し発言に気を使ってください!同じ女子として恥ずかしいですよ!」

「こんなことしてる時点で恥ずかしいも何もあったものじゃないと思うけどね…」

『とか言いつつお前もノリノリじゃねぇか!楽しいよなぁ!アレルヤ!!』

「うるさい///!!」

「どうかしたか、アレルヤ?」

「い、いやなんでもないよロックオン。でもほんとにいいのかなこんなこと?」

「わしらはユーノ達が清く正しい交際をしているか見守っているだけだ。」

「そうそう。」

「おやっさん、説得力ないぞ。」

「そういうラッセさんもですけどね。俺も人のこと言えないけど。」

すし詰め状態で押し合いながら二人を見守る(?)スメラギ達。
とその時、そのことに気付かないユーノ達が話し始めた。






「……で、なんでなの?」

「?…なにが?」

「喋り方変えた理由。なんなの?」

エレナがユーノに寄り添ったままつぶやく。

「それはエレナに…」

「そんなんじゃなくてホントの理由。ロックオンがからかってたのだってホントは気付いてたんでしょ?」

ロックオンは「マジか!?」と叫びそうになるが全員に抑え込まれる。

「ははは、気付いてたんだ。」

「伊達にマイスターやってないっての。」

「うん、そうだね…」

そう言ってユーノは遠い目をする。

「…ここに来て結構経つけど、まだみんなに馴染めてないような気がしてさ。だから、自分を変えれば早く馴染めるんじゃないかと思って……。エレナやロックオンは冗談のつもりだったのかもしれないけど、僕にとっては背中を押してくれたような気がしてたんだ…」

遠くから覗き見ていたスメラギ達の表情もどこかせつないげなものになる。

「別にそんなことない気がするけどな。」

「それでも、この喋り方がみんなとの間に壁を作っているような気がしてね。だから……」

ユーノの顔に人懐っこい笑みが浮かぶ。

「自分を変えるのさ。“僕”から“俺”へな。」

「……そんな必要ないのに。」

二人は声のしたほうを向く。
そこにはスメラギ以下、会議に参加した面々が笑顔で彼らのそばにいた。

「「スメラギさん!」」

「ユーノはもう私たちの仲間なんだからいちいちそんなことに気をつかわなくてもいいのよ。」

「そうだよ!」

クリスティナが二人にガバッと抱きつく。

「ユーノはもう十分私たちと仲良しだよ。でも…」

クリスティナはユーノのおでこに指をチョンとつける。

「エレナは今の喋り方がいいみたいだけどね♪」

クリスティナの発言にエレナの顔が一気に赤くなる。

「な、なななに言ってんのクリス!!!?私は別に……」

「いやなのか?」

意地の悪い笑みを浮かべたロックオンが援護射撃をする。

「い、いやじゃないけど…」

「今のほうが好きだから続けてくれだとさ♪」

「ラッセ!!!!」

珍しくラッセも悪ノリをする。

「まあ、いいじゃないか。青春万歳ってか?年のいったおっさんたちにはうらやましい話だ。」

「~~~~~~~~~~~っっっ!!!!」

イアンとモレノもにやにや笑いながら二人を見つめる。

「どういうことだ?」

「つまり、エレナはユーノのことを……」

「わーーーーー!!!!」

エレナはユーノに説明しようとしていたリヒテンダールをラリアットで吹き飛ばす。

「…とりあえずみんながいいならこのままの喋り方にするけど……」

「そのことは私たちじゃなくて、エレナに聞くのね。」

そう言って全員がエレナのほうへ視線を向ける。

「えっと、じゃあこのままでいいか、エレナ?」

「……うん、今のままがいい。」

悔しそうな顔をしながらもエレナはうなずく。

「じゃ、そうするわ。それじゃみんな、これからもよろしくな!」









こうして少年は自らを少しだけ変革する。仲間たちとの絆を確かめながら…



あとがき・・・・・という名の烏合の衆

ロ「というわけで、ユーノの口調が変わったきっかけでした。」

ラッセ(以降 筋)「これでみんなが納得してくれるかどうかは謎だがな。というかなぜ俺のテロップ筋?」

ロ「筋トレマニアの筋。」

リヒテンダール(以降 ム)「なるほどね。じゃあ俺のムは?」

クリスティナ(以降 ク)「むっつりスケベのムでしょ。」

ロ「ビンゴ!」

ム「ヒドッ!!」

エ「事実だからいいでしょ。」

フェルト(以降もフェルト)「私はそのままなんだ…」

ロ「フェイトと被るからな。向こうもフェからそのままに格上げだ。」

スメラギ(以降 酒)「なんだかうらやましいわね。」

イアン(以降 眼鏡)「お前らの紹介はいいから解説行くぞ。それに今回はゲストもいるんだからな。」

モレノ(以降 医者)「ゲスト?誰なんだ?」

急に周りが暗くなり、空中の一点がライトアップされる。

酒「それでは紹介しましょう。管理局のエース・オブ・エース!誰がよんだか管理局の白い悪魔!高町なのはさんです!」

な「どうも、みんなのヒロイン高町なのはです♥」

ヒロイン、何やら人型の黒いものを抱えながら着地する。

筋「…それはなんだ?」

な「にゃははは♪ヤダなラッセさん。きまってるじゃないですか…」

ヒロイン、艶消しの目で笑みを浮かべる。

魔王「ユーノ君だよ♪」

ム「……え?」

しんと静まり返る。

酒「い、いやねなのはちゃん。そんな冗談…」

魔王「冗談じゃないですよ。だってほら…。」

魔王、後ろから何か取り出す。

魔王「ユーノ君のサングラス♪」

00の皆様絶句する。が、

眼鏡「ユーーーーノーーーー!!!!?」

医者「何してんの君ぃぃぃぃ!!!!?」

魔王「にゃはははは♪泥棒猫からユーノ君を奪還してやっただけなの♪」

ク「怖っ!!この子怖っ!!てかユーノ生きてんの!?」

ロ「まあここはギャグパートだからな。今は炭でも次回までには復活してるよ。」

エ「あんたは身も蓋もないことをサラっと言うな!というかユーノしっかりしてぇぇぇ!」

魔王「あ、泥棒猫だぁ。」

魔王、もう一人のヒロインに視線を向ける。

エ「え?」

魔王「あなたさえいなければユーノ君はこんなことにならなかったんだよ。」

レイジングハート(以降 R・H)〈Accel shooter〉

魔王の周りに無数の光弾が浮かぶ。

エ「いやいや!ユーノがそうなったのあんたの……」

魔王「にゃははは!ひき肉にしてやるの!!」

エ「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

光弾が泥棒猫を襲う

フェルト「……じゃあ、次回予告。」

ロ「そうだな。次回はアレルヤが主役のあの話です!!」

フェルト「ユーノはミッション以外のところに出てくる。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!!次回も頑張るのでよろしければ読んでご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃあ、せーの…」

「「次回をお楽しみに!!」」

「「「「「「「こっちが大変な時に勝手に締めるな!!!!」」」」」」」

魔王「にゃははははは!!根絶してやるの!!」

一同「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」



[18122] 11.限界離脱領域
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
アザディスタン王国 王室

「そんな……、タリビア軍に攻撃するなんて…」

アザディスタン王国の第一皇女、マリナ・イスマイールはソレスタルビーイングがユニオン脱退を宣言したタリビア共和国のMS部隊に攻撃を仕掛けたという報道を見て声を震わせながらつぶやく。

タリビア共和国は太陽光エネルギー分配権を持つアメリカに反発しユニオンの脱退宣言をしたのだが、物量差を考慮するととても賢明な判断とは思えないものである。
しかし、すべての戦争行為に対し武力介入をするソレスタルビーイングを利用することで自軍に被害を出すことなくアメリカ軍とユニオン軍を撃退できると踏んでいたのだ。
だが、予想外の事態が起こる。
ソレスタルビーイングはタリビア共和国を紛争幇助国と認定し、進軍してくるユニオン軍ではなくタリビア軍に攻撃したのだ。
そして、結果は言わずもがな。
タリビア軍は壊滅状態にまで追い込まれ、ユニオンとアメリカに救援を要請したのだった。

「タリビアも、そしてアメリカも、こうなることを予測していたようね。」

「予測していた…?」

マリナはそばにいた眼鏡の女性、シーリン・バフティヤールのほうに振り向く。

「ソレスタルビーイングに介入されたタリビアは率先して米軍の助けを借りたのよ。これによりタリビア国内の反米感情は沈静化し、アメリカ主導の政策に切り替えることができる…。タリビアの現政権もアメリカの支援を受けて安泰。他の国々もタリビアの二の舞を避けるべく、露骨な反米政策は打ち出そうとはしないでしょうね。」

シーリンはクスリと笑ってマリナを見つめる。

「この一連の事件で一番得をしたのはどこかしら?…もし、わからないのであればあなたにこの国を救う資格はないわ……アザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイール様。」

マリナは目をそらして答えなかった。
否、答えることができなかった。
争いを望まぬ彼女は危機的状況にあるこの国を救うためとはいえ、タリビアのようにソレスタルビーイングを利用することを良しとしなかった。

彼女にとって彼らは戦いの権化に他ならない。
そして、その彼らがひょっとしたらこの国にも来るかもしれないのだ。
そんな中で、彼らを利用するなど思いつくはずもなかった。

(確かにこの世界は争いで満ちている……。でもだからと言ってこんなことが許されるはずがないわ……)

そんな思いを抱きながら数日後、太陽光発電システムの技術支援と協力を得るためにSP達とともにAEUに旅立つのであった。
そこに運命の出会いが待っているとも知らずに……。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.限界離脱領域

経済特区東京 某マンション 刹那の部屋

「……何の用だ、ユーノ。」

「何の用だはないだろ。ミッションの分析でもしようと思ってよ。…あのフラッグの印象はどうだ?」

タリビアでのミッション後、刹那とユーノは自分たちの部屋で待機していた。
そんな中ユーノはタリビアからの撤退時に追跡しエクシアに攻撃してきたフラッグについて質問した。

「…通常のフラッグではありえない性能だった。だが、あの動きでは中のパイロットの負担も他のものに比べかなり大きいだろう。」

刹那は筋トレをしたまま感情のこもっていない声でベッドの上で寝転がっているユーノにこたえる。

「だろうな。しかもたぶん装甲はペラペラ。燃料も限界ギリギリじゃないとどんなにフライトユニットを大型化してもあの速度は説明がつかない。」

刹那は筋トレを中断しユーノのほうを向く。

「わかっているならばなぜ聞いた?」

「あ~…それはな……」

マイスターの中でメカニックに精通しているユーノは自分に聞くまでもなくその事実に気付いていることを刹那は知っていた。
そして、何か別に聞きたいことがあることも。

「……いったい何が知りたい。アフリカでのミッションで何があった?」

アフリカでのミッションのレポートはあくまでソリッド一機によってなされたことになっている。
だが、明らかにソリッドの使用している武装によって撃墜されたものでないMSやタンカーもソリッドによるものとなっていたので、ティエリアをはじめとするメンバーは疑問に思っていた。
もっとも、スメラギはなにかに感付いているようだったが。

「ティエリアみたいなこと言うんだな。けど、アイツにも言った通り何にもない。」

「なら、なぜあんなことをした。」

それまで余裕の笑みを浮かべていたユーノだったが表情が硬直する。

「なぜ、あそこまで攻撃した。南アメリカでのミッションも、アフリカでのミッションも……」

そう、ロックオンたちがなにより気にしていたのは相手の被害状況。
普段のユーノらしからぬ残酷な撃墜法を誰もが気にしていた。
もちろん大部分がフォンの手によるものなのだが、アフリカではユーノもテロリストに対して容赦をしなかった。

「……南アメリカであれをやったのは俺じゃない。だが、アフリカでは俺も何機か墜とした。」

「なら、誰がやった?なぜ、お前もガンダムであんなことをした?」

しばしの沈黙が二人の間に流れる。
沈黙を最初にやぶったのはユーノだった。

「俺が………俺が、俺として戦い抜くためだ。」

ユーノは体を起こしサングラスを外して刹那を見つめる。

「答えになっていないかもしれないことは重々承知だ。だが、今はこれだけしか言えない。」

「…………………」

刹那は黙ったままユーノの話を聞いている。

「俺以外に誰がいたのかも今はまだ言えない。けど、俺はみんなと同じ思いで戦っているつもりだ。」

刹那はユーノの瞳をじっとのぞきこむ。
深い悲しみと怒りを、そして固い決意を宿した碧の瞳。
自分と同じ、ガンダムに乗る者の瞳だ。

「……わかった。今は聞かない。だが、いずれ話してくれると信じている。」

「その時がきたら、な。」

ユーノは再びサングラスをかけると今度は自分が質問をする。

「聞きたいことはなんだ、だったな刹那。」

「……ああ。」

「…お前自身のことだ。今のお前はガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして戦っているのか?それとも…」

ユーノのサングラスの奥の眼光が鋭くなる。

「KPSAの少年兵、ソラン・イブラヒムとしてか……どっちだ?」

いつも無表情な刹那の顔に明らかな驚きが浮かぶ。
だが、すぐに普段のポーカーフェイスに戻る。

「……ホントはフェアじゃないから聞こうかどうしようか迷ってたんだがな。やっぱ知っときたいのさ。お前があそこまでガンダムに執着する理由をな。」

「……了解した。」

二人は正面から向き合う。
真実を知るために。
真実を伝えるために。




天柱 低軌道リング上

「ねぇ、沙慈!見て見て!!」

「ル、ルイス!!勝手にそんなとこに行っちゃ駄目だって!!」

自分たちの担当していた職員から説明を受けていた時、沙慈はリングの端に行っていたルイスからの突然の言葉に驚いて彼女に近づく。

「あ……」

注意しようとした沙慈だったが目の前の光景に圧倒されてルイスとともに見とれてしまう。

「すごい……映像で見ていたのと全然違う……」

「うん……やっぱり宇宙はすごいや……」

ルイスと沙慈は眼前に広がる宇宙の黒と星の白、そしてその下に広がる地球の青のコントラストに目を奪われていた。
それは今まで見た星空がつくりものだったと思えるほど美しく壮大なものだった。

沙慈とルイスはハイスクールの宇宙実習で低軌道ステーションを訪れていた。
本来成績優秀者の沙慈だけが来る予定だったのだが彼のガールフレンド(?)のルイスも自費参加で一緒に参加している。
宇宙で働くことが夢の沙慈は今回の実習を心の底から喜んでいた。
憧れていた仕事への第一歩を踏み出せたと思っていた。
しかし、そんな彼の事情を知ってか知らずか一緒についてきたルイスはただ自分が今地球を離れ宇宙にいるということを観光感覚で楽しんでいた。
沙慈は若干呆れてはいたものの、彼女と一緒にいられるということが正直うれしくて仕方なかった。

「二人とも気をつけて。高度一万メートルとは言え、微重力はあるんだから。足を踏み外したら地球へまっさかさまだぞ。」

「あ、はい!」

「すいませ~ん!」

職員の言葉にルイスは手を振る。
が、その瞬間。

「へ?あ、ああ、きゃああぁぁ!?」

「あ!ル、ルイス!!」

足を踏み外してしまったルイスがリング上からのろのろと地球に向かって落ちていく。
その落下速度があまりに遅く危機感を感じにくいが、高度が下がればその分重力も大きくなり落下速度も爆発的に増加する。
人間などひとたまりもないだろう。

「くっ!!」

沙慈はとっさに落下を開始していたルイスの手を掴む。
だが、

「わ、わ、わああぁぁぁ!!?」

そのまま彼もいっしょに落ちていってしまう。

「わぁぁ!!沙慈の馬鹿ぁ!!ちゃんと助けてよぉぉ~~~~!!!!!」

二人は手をつないだまま落下していく。
もはやこれまでと思ったその時、二人の体が上に引っ張られ停止する。
上を見ると職員が二人のケーブルを引っ張り支えていた。

「やれやれ……」

間の抜けた泣き顔で自分を見る二人の無事を確認し、職員は安堵とも呆れともとれるため息をついた。





経済特区東京 某マンション 刹那の部屋

「なるほどね…」

刹那から彼の過去を聞いたユーノは怒りから表情が厳しくなる。

(あのだみ声野郎……。国一つ滅びてもまだ戦い足りないってか。)

アリー・アル・サーシェス
刹那に戦い方を教えこんだ人間。
そして、刹那から戦う以外の未来を奪い取った人間。

「奴がまだ生きているなんて……奴が今何をしているのかわからないのか?」

「悪い、そこまではわからない。そもそも、あのテロ組織に加担しているのかどうかも怪しい。仕事に行く途中とかぬかしてたからな。」

そう言って二人は黙り込む。

「……この世界に神はいない。」

刹那が唐突に沈黙をやぶる。

「?何言ってんだ?」

刹那はユーノの質問に答えずそのまま喋り続ける。

「神がいないことを知った時、俺は戦う理由を失った。だが、ガンダムが俺に戦う理由を、生きる意味をくれた。」

「だから、ソレスタルビーイングに……?」

刹那は力強くうなずく。

「俺のコードネームは刹那・F・セイエイ。エクシアのガンダムマイスターだ。」

刹那は過去の自分を払拭するように言い放つ。
それを見たユーノは苦笑を浮かべる。

「……そうだったな。エクシアに乗ってんのは刹那・F・セイエイ、世界一のガンダム馬鹿だ。」

「ありがとう……最高の褒め言葉だ。」

刹那にしては珍しくはっきりとした笑みを浮かべる。

「そんなつもりで言ったんじゃないんだがな……やっぱ、お前は変わってるよ。」

二人は揃って小さな声で笑ったがユーノの心の中は複雑だった。

(刹那は自分の過去から一歩を踏み出そうとしている…けど俺は取り戻せてもいない過去に縛られたままだ……。)

「ユーノ……」

ユーノのわずかな心の機微を察知した刹那が普段の表情に戻り話しかける。

「何に迷っているのかは俺には分からない。だが、お前もガンダムマイスターだ。だから、戦え。お前が“今”信じるもののために。」

「……俺は…」

その時二人の携帯端末からアラームが鳴り響いた。

「新しいミッション……」

「アレルヤとキュリオスか。」

二人が見ているそこにはアレルヤが二日後に人革連のMSの性能実験の監視をするとの文が記載されていた。






低軌道ステーション 『真柱』 周辺宙域

沙慈たちの一件から二日後、低軌道ステーション周辺宙域に二機のモビルスーツがいた。

一機は藍色のゴツゴツしていかにも兵器といったような風貌のMS、ティエレンの宇宙型。
もう一機もティエレンなのだが細部の装備が通常のものとは違い、その無骨な相貌に似つかわしくないピンクでカラーリングされている。

「少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回ってみろ。」

藍色のティエレンのパイロット、セルゲイ・スミルノフはピンクのティエレン、ティエレンタオツーのパイロットに指示を出す。

「了解しました、中佐。」

パイロットの声は若い女性のもので、これまた無骨なティエレンとは縁遠いものに思える。

「……いきます。」

彼女の言葉とともにティエレンタオツーのスラスターが作動し、加速を開始する。

「最大加速に到達。」

ティエレンタオツーは最大加速に到達すると姿勢制御用に装備された各部スラスターを使用し、華麗に旋回していく。

「……最大加速時でルート誤差が0.25しかないとは……これが超兵の力なのか……」

セルゲイはディスプレイに表示されたデータに感嘆の言葉を漏らす。

「しかし……彼女はまだ乙女だ……」

そうつぶやきセルゲイは彼女、ソーマ・ピーリスと出会ったときのことを思い出していた。






人革連 総合司令部

「で、どうだった中佐?」

人革連の司令部でセルゲイは司令官に向きあい報告を行っていた。
セイロン島でエクシアと交戦した彼は善戦したもののエクシアにティエレンを潰されてしまった。

「ガンダムと手合わせしたのだろう?忌憚のない意見を言ってほしい。」

「……私見ですが、あのガンダムと言うMSに対抗できる兵器は今のところこの世界のどこにもないと思われます。」

そう、侮っていたわけではない。
それでも、自分の予想の遥か上をいく性能は驚異的の一言に尽きる。

「それほどの性能かね?」

「あくまでも私見です。」

セルゲイの言葉を聞くと司令官は満足そうに笑う。

「なら、君を呼び寄せた甲斐があるな。」

司令官の表情が厳しいものに変わる。

「中佐、ガンダムを手に入れろ。ユニオンやAEUよりも先にだ。」

「はっ!」

セルゲイもまた表情を引き締め敬礼をする。

「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが……一人だけ面倒を見てもらいたい兵がいる。」

「?」

セルゲイの頭に疑問が浮かぶが考えている暇は与えられなかった。

「はいりたまえ。」

司令官は後ろにある扉によびかける。
そして、扉が開き一人の兵士が入ってきた。

(これは……!?)

セルゲイが驚くのも無理はない。
長く白い髪、兵士と呼ぶにはあまりにも華奢な体つきをしている。
だが、その眼光は鋭く、まさに戦う者の目だ。

「失礼します。」

そういうと彼女は敬礼をする。

「超人機関技術研究所より派遣されました、超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉です。」

「超人機関……!?」

セルゲイがあからさまに嫌悪感を示す。

「司令……まさかあの計画が……」

笑ってこそいるが司令官もどこか呆れた様子が見受けられる。

「水面下で進められていたそうだ。上層部は対ガンダムの切り札と考えている。」

ピーリスが一歩前に出る。

「本日付けで中佐の専任部隊に着任することになりました。よろしくお願いします。」

セルゲイはピーリスのまっすぐな瞳を見つめたままやりきれない気分になる。
おそらく彼女は自分の息子よりも年下だろう。
そんな彼女を戦わせるという事実がセルゲイの胸を締め付けた。

(………やりきれんな、まったく。)

そんな思いを抱きながらもセルゲイは対ガンダム部隊を指揮することとなった。






低軌道ステーション 真柱 周辺宙域

ピーリスは何の問題もなく上官の命令をこなしていた。
超兵たる彼女に自身の考えなど必要ない。
ただ忠実に命令をこなすことが彼女にとっての存在意義だった。
だが、そんな彼女に予想だにしない事態が起こった。

「な、なに…!?この感じ………!?」

突然何かが自分の頭に入り込み、ありとあらゆるところを駆け巡っているような感覚。
激痛を伴うそれは彼女から徐々に冷静な判断力を奪っていった。




真柱内部 リニアトレイン発着ロビー

「うっ!な…なんだ……!?頭が………!?」

時を同じくして、真柱に到着していたアレルヤにも同様の感覚が襲う。
自分の頭に無断で他人が入り込んでくるような感覚。

「うっ……!っっくぅ!!」

痛みに耐えかね、遂には床に手を突いてしまう。
周りの人間が何事かと騒ぎ始めるが、アレルヤはそれどころではない。

「な、なんなんだ……!?この頭痛は!?」

(あ…たは……)

「!?ぐぅぅぁぁぁ!!!」

突然頭の中に女性の声が響き痛みが増す。
アレルヤは再び呻き顔を下げるが、すぐに顔を上げる。
だが、普段の彼とはかなり印象が違う。
常に隠れていた金色の右目が見え、表情が苦しみだけではなく憤怒が混ざったものになっている。

「くそっ!どこのどいつだ!!勝手に俺の中にはいってくんのは!!」

(あなたは誰!?)

彼の疑問に答えるかのように声が響いたが、答えになっていないそれはただ彼の怒りを増幅させたにすぎなかった。

「てめぇ……!殺すぞ!!」

普段の彼からは想像できないほど荒々しい口調で暴言を吐きながらアレルヤ(?)は立ち上がった。





真柱 周辺宙域

(てめぇ……!殺すぞ!!)

「っっ!!!!!」

今まで頭痛に苦しんでいたピーリスにはその猛獣のような殺意に耐えることができなかった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

彼女は恐怖から模擬弾の入った銃を“それ”がいると思われる低軌道ステーションのリニアトレインの発着ロビーへと向ける。

「!?やめろ!少尉!!」

異変に気付いたセルゲイが接近していくが彼の健闘もむなしく何発もの模擬弾が発射される。
いくら模擬弾とはいえどかなりの大きさとスピードである。
当たれば、低軌道リングはただでは済まない。

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!やめて!!!!いやぁああぁぁぁ!!!」

ピーリスの目は瞳孔が開ききり、動き回って焦点が合わない状態だった。
叫び続けるその姿からは超兵という肩書は見うけられず、ただ駄々っ子が恐怖から逃れるために必死に抵抗しているようだ。

「やめろ!少尉!やめろぉぉぉ!!」

「いやぁぁぁぁ!!やめてっ!!!やめてぇぇっ!!!」

ようやくティエレンタオツーに追いついたセルゲイが抑え込む。
だが、それでも彼女は銃撃をやめない。

「やめろ!やめるんだ少尉!!」

「ああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」

必死で止めようとするがそれでもやめない。
そして、恐れていた事態が発生してしまう。
当たり所が悪かったのか重力ブロックの一部がリングから切り離されてしまったのだ。





重力ブロック

「!?」

重力ブロックの揺れを沙慈たちは最初のうちはデブリがぶつかっているのかと思っていた。
だが、絶え間なく続くそれがデブリによるものでないことを徐々に理解していた時だった。

「わ!?」

「きゃあ!?」

突然今まで比べ物にならないほどの揺れとともに中の明かりがすべて落ちる。
そして、暗闇の中で二人は本来あるはずのない感覚に襲われる。

「わ、わっわっ、ひゃあぁ!?」

「ルイス!!」

体が浮いていく中で沙慈はルイスを抱きとめる。
明りが戻ると周りの人々も体が浮きあがっている。

「なんなのよぉ~?」

「重力が……消えた!?」







リニアトレイン発着ロビー

「誰だ…奴は誰なんだ……?」

アレルヤ、いや、もう一人の彼、ハレルヤは突然切れた声にいら立っていた。
もともと攻撃的な彼だが、勝手に自分の中に入ってきた彼女を殺せなかったことがさらにいらだちを増幅されていた。
と、周りが騒がしいことに気付き窓の外を見る。
そこには切り離された三つの重力ブロックが仲良く地上へと落下していっていた。

「事故か……ククク………ご愁傷様だなぁ。」

ハレルヤはそれまで感じていた怒りを忘れ、重力ブロックを見ながら歪んだ笑いを浮かべる。

(クククク……さぁて、どうなるかね?)

ハレルヤは脳をフル回転させてこれから起こることを想像し始める。

徐々に薄くなっていく酸素を醜く奪いあい、殺しあう姿。
助からないと知りつつ神にすがる者。
絶望から自ら命を絶つ者。
愛する者の名前を届かないにもかかわらず叫び続ける者。

(くはははは!たまんねぇな、おい!)

かつて自分たちも味わった宇宙をさまよい、ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる死への恐怖。
その光景を今度は自分たちが外から、しかも特等席で拝めるのだ。
ハレルヤからしてみればこれほど愉快なことはない。

(ハレルヤ……)

「!?」

ハレルヤは内側にいるアレルヤの声に反応する。

「……出しゃばんなよ。これからがいいとこなんだ。」

ハレルヤは先ほどまでの下卑た笑みから鋭い表情に戻る。
そう、地球の重力につかまり赤くなりながら高熱にさらされ苦しみ、悶え、絶叫していきながら燃え尽きていく。
まもなくそれが見られるのだ。
邪魔などさせない。

(ハレルヤッ!!)

「!!」

アレルヤの叫びと同時に二人の脳内に忌まわしい記憶がよみがえる。

何もない宇宙を彷徨っていたあの日。
食糧、そして酸素がなくなっていくなかでハレルヤが仲間たちを殺していく。
生き残りたい。
ただそう願ってしまっただけでもう一人の自分は仲間たちを手にかけてしまった。
そんなことは望んでいなかったのに。

(駄目だ……!)

(……チッ!わかったよ。好きにしな。)

ハレルヤはそう言ってふて寝してしまった。

「駄目だっ!!」

ハレルヤのことは気にせず、アレルヤはキュリオスの納められたコンテナへと走って行った。






周辺宙域

「なんということだ……」

セルゲイはあまりに信じがたい光景に言葉を失ってしまう。
だが、すぐに正気に戻るとティエレンタオツーに乗っているピーリスに呼び掛ける。

「少尉!少尉!!」

どれほど呼びかけても反応がない。

(気絶しているのか。)

なぜ彼女がこのようなことをして、気を失っているのかについて考えたかったがそんな時間はない。
セルゲイはティエレンタオツーを支えたまま管制室に緊急連絡を入れる。

「管制室、こちらセルゲイ、重力ブロックの被害状況を知らせろ。」

『こちら管制室。中佐、災害時の緊急情報送信によると、流された第七重力区画には232名の要救助者がいる模様です。』

「救助隊は?」

『救助隊は七分後に発進予定、護衛のための小隊にもスクランブルをかけました。ですが……』

管制官が言い淀む。

『爆発の衝撃と空気の流出で第七重力区画の速度が急激に落ちています。あと十四分で地球の重力圏へ引き込まれます。』

「なんだと!?」

セルゲイの目が驚きによって見開かれる。
今、自分の前で232名の命が散ろうとしているのだ。

(……やるしかない!)

セルゲイは覚悟を決めるとティエレンタオツーから離れ、再度管制室へ通信をつなぐ。

「救助行動に入る。少尉の機体回収班を出させろ。」

『し、しかし、あれだけの質量の物を……』

「人命がかかっている!!」

管制官を一喝するとセルゲイは切り離されてしまった重力ブロックへティエレンを発進させた。






第七重力区画

「この区画全体がステーションから離れている!?」

沙慈は近くにあった端末を操作し自分たちのおかれた状況を把握する。
周りの人間はどうにもならないということを知りながらあわただしく動き回っている。

「うそ……それじゃ私たち宇宙を漂流してるの!?」

「救助隊が来るよ。それまでの辛抱だ。」

不安そうなルイスの声に沙慈が笑顔で答えるが、突如なにかがぶつかったような大きな揺れが彼らを襲った。

「な、なんだ!?」






周辺宙域

セルゲイは切り離された区画のすぐそばに着いたが、それまでにかなりの時間をつかってしまっていた。

「限界離脱領域まであと七分……重力区画を軌道高度まで押し上げるには、あのでかぶつを加速させるしかない!!」

ティエレンは一気に加速し重力区画に両手をついてそのままスラスターをふかす。

「ぐぅぅぅぅぅぅっっ!!!」

ティエレンのボディがギシギシと軋みながらも必死で重力区画を押し上げようと奮闘を開始した。





第七重力区画 内部

「大変だ!!」

一人の男の声にその場にいた全員が反応する。

「今端末で計算してみたがこの区画はあと五分で地球の重力圏につかまっちまう!!」

「なんだって!!」

「そんな……」

「あぁ…神様ぁ……」

全員が混乱を始める中、沙慈とルイスも残酷な事実におびえていた。

「さ、沙慈ぃ……」

「あと五分……冗談だろ!?」

あと5分で自分たちは死ぬ。
そんな現実を二人はかみしめていた。








第七重力区画 外部

セルゲイとティエレンは必死で加速させようと努力していたが、第七区画は徐々に高度を下げていた。

「第七区画の質量が大きすぎる……ティエレンの推進力では……!」

頭に付けられたヘッドマウントディスプレイには残酷に刻まれていく限界離脱領域までの時間が表示されている。

「限界離脱領域まであと200秒…このままでは私の機体も地球の重力にとらわれてしまう!」

表示された時間を見て焦りが募る。

「見捨てるしかないというのか……!200人以上の人間を!」

だが、それでもセルゲイは離れようとしない。
かつて、自分は何よりも大切な存在を守り抜くことができなかった。
そのせいで自分の息子、アンドレイにもつらい思いをさせてしまった。
だから、

「あきらめん……!あきらめんぞ!!」

セルゲイは奇跡を信じながらスラスターをふかし続ける。
しかし、奇跡が起きる気配はなく、ただ残酷な現実を突き付けてくる。

「っ……宇宙はなぜ、こうも無慈悲なのだ!!」

セルゲイの心が折れかけたその時だった。
ヘッドマウントディスプレイにアラームが鳴り響き、なにかが高速接近してきていることが分かった。

「この速度で近づいてくる機体だと……!?なぜ今までレーダーに……!!」

セルゲイの中である仮説が組み立てられる。

「まさか!」

そのまさかである。
暗い宇宙の遥か彼方からオレンジ色の戦闘機、ガンダムキュリオスが接近してきていた。





周辺宙域

キュリオスのコックピットの中、アレルヤは決意に満ちた表情で操縦桿を握っていた。

そんな時、王留美の顔がディスプレイの脇に写り、通信をしてくる。

『アレルヤ、アレルヤ・ハプティズム!何をしているの!?あなたに与えられたミッションは……』

アレルヤはウンザリといった様子で通信を遮断する。

「……あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて。」

そう呟き、モニターに視線を移すともう時間がないことが分かる。

「限界離脱領域まであと20秒……!キュリオス!!」

アレルヤは急いでキュリオスをMS形態に変形させると、両手を突き出したまま第七重力区画に突進した。

「な、なんだと!?」

「いけぇ!!」

残り時間が0になるがキュリオスが出力を上げるとそれまでじりじりと地球に近づいていた重力区画が徐々に加速していく。

「持ちこたえた…。しかし、ソレスタルビーイングが人命救助とは……」

セルゲイにしてみれば意外だった。
ただ戦いに介入し、その場を混乱させ、無駄に命を奪うだけのはずのテロリストが人の命を救おうとしているのだ。

「あとは…スメラギさん次第だ……」

アレルヤは願うような気持ちでキュリオスを操縦し続けていた。





JNN 天柱極市支社

「速報!行方不明者リストが出た!!」

ざわめきがはしる中、絹江は見覚えのある名前を見つけ愕然とする。
それは自分の弟、そしてそのガールフレンドの名前だった。

「そんな……」

彼女はその場に泣き崩れる。
見送った時の楽しそうな二人の笑顔。
そして、沙慈との今までの思い出が彼女の頭の中を駆け巡っていた。




第七重力区画 外部

キュリオスとティエレンがともに重力区画を推し始めてしばらくが経っていたが、それでも安定速度にのせることができずにいた。

「ガンダムの推進力をもってしても、現状維持がやっとか……!」

セルゲイが呻く。
しゃくではあったがガンダムが来てくれたおかげで希望の光が差し込んだように思えた。
しかし、このままではいずれ落ちていってしまうだろう。

『聞こえるか!?全員中央ブロックに集まれ!』

「!?」

セルゲイは突然入った通信の声に驚く。

「この声…ガンダムのパイロットか!」

『繰り返す、死にたくなければ真ん中に集まるんだ!!時間がない!急げ!!』

「若い…男の声。」

セルゲイはその男の声を、後々自分と深くかかわる男の声をこの時初めて聞いた。





第七重力区画 内部

「ねぇ、沙慈……」

アレルヤの指示に従って移動していたルイスは不安そうな顔で沙慈を見つめる。

「もしかしたら死んじゃうかもしれないから、今のうちに言っとくね……」

「ルイス……」

その顔は不安に染まっているものの、若干紅潮している。

「私…沙慈のことが!!」

とその時、後ろから来た男に二人は押される。
二人は体勢を崩したものの、なんとか手をつないで離れずにいた。

「トロトロすんな!」

「「す、すみません!」」

二人が謝るのも聞かずに、ぶつかった男はさっさと行ってしまった。

「ルイス!僕らも急ごう!」

「あ!ちょ、ちょっと!!」

ルイスは伝えるべきことを伝えられぬまま沙慈に手をひかれ中央ブロックへと向かっていった。






第七重力区画 外部

(まだか……!)

アレルヤはあせっていた。

彼がこのような無茶な行動に出たのは勝算があったからだ。
キュリオスを失わないようにスメラギがフォローを入れてくると踏んでいたのだ。
だが、いまだにそのフォローが来ない。

『聞こえるか、ガンダムのパイロット!』

ティエレンのパイロットから通信が入るが歯を食いしばったまま操縦桿を握り続ける。

『この区画は間もなく限界離脱領域に入る。』

悔しさが通信からでもはっきりとうかがい知ることができる。

『ここまでだ……離れろ……』

「フッ…できないね!」

アレルヤにしては珍しく勝気な声を出す。

「ソレスタルビーイングに……失敗は許されない。それに……」

その続きを言おうとして言葉に詰まる。
ひょっとしたら自分は機体ごと見捨てられたのかもしれない。
そんな不安が駆け巡る中、ふとある人物のことを思い出していた。

サングラスをかけた長髪の男の子。
一番最後に仲間になった優しい少年、ユーノ・スクライアのことを……。







1年前 ソレスタルビーイング拠点

その日、アレルヤとユーノは遅くまでキュリオスの整備を続けていた。
イアンすらもいない暗い格納庫でキュリオスの周りとパソコンの明かりだけを頼りに二人は調整を続けていた。

「これで、よしっと。さぁ、帰って寝ようぜ。正直もうパソコンとは向き合いたくねぇや。」

「うん、そうだね……」

体を伸ばしながら歩いていくユーノの後ろ姿をアレルヤはじっと見つめる。

エレナの死からまだそれほど月日は流れていないが、ユーノはマイスターとして自分の役割を果していた。
どれほど覚悟を決めようと、過去から逃げ続けている自分とは違って。

「やっぱりすごいな……ユーノは。」

「んあ?」

間抜けな声とともにユーノが振り向く。

「僕よりずっと若いのに、もうしっかりと自分の道を歩いていっている……少し、うらやましいかな。」

「…………………………」

苦笑するアレルヤを見てユーノは黙り込んでいる。
と、思いきや。
全身がプルプルと震えている。
サングラスで表情こそ読めなかったが、口の端が徐々につりあがっていく。

「………っ、く、あっははははははは!!!やばいもう限界だ!あ~腹痛ぇ!!」

とうとう耐えきれずに笑いだしたユーノをアレルヤは茫然と見つめていたが、ハッと正気に戻ると怒り始めた。

「僕はまじめな話をしてたんだ!!それを君は!」

「わ、悪い悪い!っ!プッ、クククク……」

それでもこらえきれないといった様子で再びクスクスと笑う。

「………それは、僕は君からしてみれば滑稽な存在かもしれないけど、僕は僕でいろいろ悩んで……」

「ああ、違う違う。俺が笑ったのはそのことじゃねぇよ。俺自身のことさ。」

「君自身……?」

アレルヤがわからないといった表情で淡い光に照らし出されたユーノの顔を見る。

「俺はアレルヤが思ってるほど大層な人間じゃないよ。そんな俺を一人で何でもできてるお前にうらやましいなんて言われたのがおかしくてよ……。」

ユーノは上を見上げどこか寂しそうに話し始める。

「エレナのこともふっきれてないし、自分の過去がわからなくて不安な時もある。でもよ……」

ユーノはサングラスを外し、憂鬱な気持ちを吹き飛ばすような人懐っこい笑みを浮かべてアレルヤを見る。

「みんなが俺のことを支えてくれている。だから、俺は進んでいけるんだ。みんなを信じることでな。」

「信じる………」

「ああ。スメラギさんにイアン、ラッセとアホのリヒティにクリス。あと、まあ何考えてっかわかんねぇけどフェルトにティエリアに刹那もいざという時はたぶん見捨てねぇだろうし、モレノやロックオンはやたら世話を焼いてくるしな。それに……」

アレルヤの胸にトンと拳を軽くぶつける。

「アレルヤも俺やみんなになにかあったらすっ飛んできてくれるだろ?キュリオスのマイスターさん♪」

「……ああ!もちろんだよ!」

アレルヤは笑顔で力強くうなずく。

「けど、僕も君が思ってるほど大層な人間じゃないよ。だから、僕が助けを求めていたら駆けつけてくれるかい?」

「モチのロンだよ。俺はそのためにここにいるんだからな。マイスター全員かき集めてすっ飛んで行ってやるよ!!」







第七重力区画 外部

(そうだ…僕は何を疑っていたんだ。)

アレルヤは操縦桿を握る手に力を込める。

(絶対、みんなが力を貸してくれる!僕はもう、あのときのように一人じゃない!)

そう、

「ガンダムマイスターは独りじゃない!!」

『……That’s right.しっかり覚えてたな、アレルヤ。』

「!!」

通信に合わせたように地球から桃色の閃光が駆け抜け、右側のブロックを連結していた部分が破壊されるとそのままゆっくりと中央ブロックから離れていった。

アレルヤは遠い地上へと視線を向ける。
自分の仲間がいるであろう地球へと。  

「…流石だ、ロックオン。そして……」

モニターの角に写ったあどけなさが残る少年に目を向ける。

「ユーノ…」

『悪いな、アレルヤ。そっちにすっ飛んでくのは無理だから、ここから援護させてもらうぜ。もっとも……』

二人の顔に同時に苦笑が浮かぶ。

『ほとんどロックオンがやるんだけどな。』






地球 某所

見渡す限り何もない荒野にデュナメスとソリッドがいた。
ソリッドは普段と変わらない姿をしているが、デュナメスは反動防止用のユニットにしっかりと固定され、巨大な超高々度射撃用ライフルを空に向けていた。
横にはGN粒子コンデンサーが置かれ、高威力の狙撃を可能にしていた。

「GN粒子、高濃度圧縮中、チャージ完了マデ、20、19、18…」

ロックオンは超高々度射撃用ライフルに接続されたカメラアイから様子をうかがっているとユーノから通信が入る。

『ロックオン、二発目の軌道計算が終わった。データをそっちに送る。』

「了解。」

それまでスコープ越しに見ていた光景がデータによって補正されよりはっきりとしたものになり、さらに照準もより正確なものになる。

「これだけ距離があってもお前がいるとはずす気がしねぇな。」

『そらどうも。』

「チャージ完了。」

二人が話している間にGN粒子のチャージが完了する。
しかし、問題が発生する。
雲によってターゲットが隠れてしまい、狙い撃てなくなってしまった。

「発射方向の軸線上に雲がかかりやがった……」

だが、ロックオンたちは慌てない。
上空にはもう一人のマイスターがいる。

「切り裂け、刹那!!」

『了解。』

エクシアはGNソードの刃を起こし、振りかぶると一気に振り下ろした。

「はぁぁぁっ!!」

剣圧によって生じた突風により射線軸上の雲がかき消される。
そして、ロックオンの目にはターゲットがはっきりと見えた。

「狙い撃つぜ!!」

ロックオンがトリガーを引くと同時に圧縮された粒子が光の矢となって空を駆け上って行った。






第七重力区画 外部

「ナイスサポートだ、スメラギさん!!」

ロックオンの狙撃によって今度は左側のブロックが切り離される。
アレルヤはその様子を見ながらこの作戦を指揮したであろう戦況予報士に賛辞を送る。

(これだけ質量が落ちれば、ガンダムの推進力ならお釣りがくる!!)

アレルヤはペダルを踏み込みさらに加速をかける。

「上がれぇぇぇぇぇぇっ!!」

光とともに先ほどまでとは比べ物にならない加速を開始した中央ブロックはまたたく間に安定軌道まで加速した。

「……地上から二つの区画を狙撃してパージ、質量を減らし安定軌道にまで加速させるとは……」

信じられないことばかりが目の前で起き、セルゲイはコックピット内で呆気にとられながらも考えを巡らせていた。
ただ戦いを引き起こし、命を無駄に奪っていく存在と思っていたソレスタルビーイングに助けられた。
そんな組織の手を借りてしまったという憤りと彼らがはたして悪なのかという思いの中でセルゲイは悩んでいた。
と、そこに遅れてやってきた救助隊の艦とMSが近づいてくる姿が見えた。

「救助隊が来たか……」

セルゲイがホッとすると同時にキュリオスが手を離し、戦闘機に変形して宇宙のかなたへと飛び去ってしまった。

『ちゅ、中佐!ガンダムが!』

「救助作業が最優先だ。」

『りょ、了解!』

「……私にも、恩を感じる気持ちぐらいはある……」

セルゲイは一人でつぶやく。
その言葉が部下へのものなのか、それとも複雑な心境にある自分へのものなのか、または助けてくれたガンダムのパイロットに対するものなのか、それは彼自身にもわからなかった。
だが、

(次に会ったとき、容赦はせんぞ…ガンダム。)





JNN天柱極市支社

「速報!!要救助者、全員無事救出!!」

歓声が起こる中、祈るように手を組んでいた絹江は顔をあげて安堵する。

「よかった……沙慈、ホントによかった……」

「なお、未確定の情報だが、ガンダムが救出に協力したとのことだ。全員忙しくなるぞ!!」

普段の絹江ならその話題に食いつくのだろうが、今はそれどころではなかった。





救助船内部

「私たち……あともうちょっとで死んじゃってたんだね……。」

ルイスは沙慈の腕をギュッと握りながら震える声で言った。

「ルイス…」

「実感ないよ……でもよかった。」

それきり二人の間の会話が途切れてしまう。
だが、重苦しい空気を変えようと沙慈が話題を振る。

「ねぇ、ルイス。最後に言おうとしてた言葉って何?」

「えっ!?」

沙慈がとうにあの混乱の中でそんなことを忘れてしまったと思っていたルイスは思いがけない質問に顔を赤くして戸惑う。

「教えて。」

まっすぐな沙慈の瞳を見つめるルイス。
だが、そこから自分が言おうとしていたことに何一つ感ずいていないことに気付くと深くため息をつく。

「……教えない。馬鹿……」







周辺宙域

『ご苦労さん、アレルヤ。』

「ありがとう。」

アレルヤはプトレマイオスに帰還する道すがら、通信でユーノと話していた。

「本当にありがとう。約束通り助けに来てくれて。」

『……馬鹿、勘違いすんなよ。これでお前は俺たちに貸し一つだからな。』

「ははははは。そのうち返させてもらうよ。」

照れるユーノを見ながらアレルヤは笑う。
この後、何らかの罰が与えられるだろうが後悔はしない。
これが、自分で決めた道なのだから……。








過去への重力を断ち切ろうとするものたち。その先にあるのは希望か。それとも……







あとがき・・・・・・・という名のお詫び

ロ「アレルヤ人命救助の回でした。」

ア「場面転換が多くてとんでもなくわかりづらいね。まあ、わかりづらいのはいつものことだけど。」

ロ「お前ここだと割と毒はくよな。」

ティ「そんなことはどうでもいい。今回もゲストがいるのだろう。」

ア「そうだったね。今回のゲストはリリなのにおける元祖ライバルキャラ、フェイト・T・ハラオウンさんです!」

フェイト「ど、どうも……」

ティ「?どうした?」

フェイト「えっと、私あんまり男の人ばっかりのところにいたことがないから。少し戸惑ちゃって…」

ロ「流石、なのはと百合疑惑が浮上するだけのことは……」

フェイト「プラズマ・ザンバー・ブレイカー!!!」

ロ「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」

アレルヤ(?)「はっ、相変わらず余計なことして生き急ぐ野郎だ。」

ティ「貴様は………!」

ア「ハレルヤ!?なんで実体化してるんだ!?」

ハレルヤ(以降 ハ)「ここはしょせんロビンの妄想で成り立っている空間だからな。あんまり気にすんな。」

ア「気にするよ!!」

ティ「あまり長引くといけないから早めに済ませるぞ。君も協力しろ。」

フェイト「え!?は、はい!?」

ハ「オイオイつまんねぇな。これからせっかく俺がそいつに面白いことを……」

ア「させるかぁぁぁ!!この作品を打ち切りにしたいのか!!」

ティ「今回はユーノとアレルヤの間の絆を描くのが目的だったようだな。」←後ろのごたごたを無視

フェイト「ほとんど原作と変わってなかったですけどね。」←後ろがさらにもめているが超無視

ティ「まったく、どうしようもないやつだな。」

フェイト「まあ、次回に期待しましょう。」

ティ「そうだな。しかし、君のような常識人が来てくれてよかった。」

フェイト「あ、ありがとうございます。」

ティ「じゃあ、最後に……」

ア・ハ「「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

フェイト「ひゃっ!?ど、どうしたんですか!?」

ハ「どうしたじゃねぇ!!俺があとがき初登場なのにこの仕打ちはないだろう!」

フェイト「あなたがセクハラしようとするからです。」

ハ「するかぁぁぁぁぁ!!!俺はただお前にあんなことやこんなことをして辱め……」

フェイト「十分にセクハラじゃないですか!!」

ア「ハレルヤはともかく僕は必死に止めてたのに!!」

ティ「つっこみの宿命だ。」

ア「そんなっ!!」

フェイト「もうグダグダだから締めるよ。」

ハ「チッ!しゃあねぇな。次回はモラリア編だったな。」

ア「エクシアの新装備が登場!ユーノの活躍にも期待してください!」

フェイト「そして、宿敵サーシェスとの再会に刹那は何を思うのか!」

ティ「任務には関係ないがな。」

ア「ははは……」

フェイト「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!!これからもご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 12.過去との対峙
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/27 18:40
第197観測指定世界

「こちらフェイト。目標の確保に成功しました。」

『ご苦労さま。はやてちゃんとなのはちゃんたちのほうも終わったみたい。目的は達成したから戻ってきて。』

「了解。」

任務を終了したフェイトはエイミィとの通信を切り、封印したロストロギアを苦々しく見つめる。

「……ジュエルシード。」

自分となのはたちが出会うきっかけになったロストロギア。
そして、ユーノを奪っていったものが使っていたロストロギア。

「なんで今頃になって……」

ここ最近、ジュエルシードが使用された兵器が出現する事件が多発している。
人がいない場で事件が発生しているため今のところ実害はないが、管理局が保管していたものが使われていたので、内通者がいるのではないかと問題になっている。
さらに、管理局が保管していたもの以外にも新たに発見されたと思われるジュエルシードまで出てきていた。

「でも、なんで人がいないようなこんな場所でばかり……」

フェイトの疑問ももっともである。
これまで起きたジュエルシードが使われた兵器たちは観測指定世界、しかも狙い澄ましたように人がいない場所だけに出現し、まるで見つけてもらうことが目的のように大きな反応を出して局員を呼び寄せている。

(私たちに発見させることが目的……でも、何のために?)

フェイトは疑問に思うが、再び帰頭命令が下ったのでそのままアースラへと向かった。
この事件を追っていくことで思いもよらぬ出来事が起こることも知らずに……






魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.過去との対峙

経済特区東京 某マンション

「……どうしよう。」

隣人の部屋の前で沙慈は手に筑前炊きを持ちながら迷っていた。
彼の隣人、刹那・F・セイエイは無表情で愛想がなく、どこかつっけんどんで近寄りがたい雰囲気の人物である。
だが、なんとか親睦を深めようと姉のつくった料理をおすそ分けするために彼の部屋の前まで来ていたのだが、なかなか踏ん切りがつかないでいた。

「……自然にやれば大丈夫だよね。」

と、沙慈が決意を固めていると突然扉が開き、中から刹那が出てきた。

「ああ、ちょうどよかった。筑前炊き、姉さんがつくりすぎちゃったから。よかったらいかがかな~、と思って…」

「今から出かける。」

「あ……そう……」

刹那の答えに少しがっかりした沙慈だったが、隣の部屋からもう一人の少年に呆気にとられた。
長い髪にサングラスをかけ、グレーと白のジャケットにジーパンという、何とも怪しさ満点の恰好をした人物だ。

(……………誰?)

「待てよ刹那……って、おたく誰?」

二人そろって同じことを考えるが、少年が沙慈の持っていたものに目を向ける。

「煮物?」

「え?あ、ああ、これね。セイエイさんに食べてもらおうと思ってたんだけど……」

そう言ったところで少年の顔つきが変わる。

「なにぃぃぃぃぃ!!刹那ぁぁぁぁ!お前こんなうまそうな煮物のおすそ分けを断ったのか!?」

「いや、別に用事じゃ仕方ないかなと思うけど……」

「じゃあ、俺にくれ!いや、ください!!是非に!!」

「じゃ、じゃあ、どうぞ。」

沙慈は苦笑しながら少年に料理の入った保存容器を渡す。

「ありがとう!!ここのとこ忙しくてこういう料理を食べてなくてさ。ホントうれしいよ!」

「喜んでもらえて何よりだよ。え~と……」

沙慈が表札を見て名前を確認しようとするが必要なかった。

「俺はユーノ・スクライア。ユーノでいいよ。えっとそっちは…」

「沙慈・クロスロードです。僕も沙慈でいいよ。」

「そっか。改めてありがとな、沙慈。」

そう言ってユーノはさっさと先に行ってしまった刹那を苦笑しながら見る。

「大変かもしれないけど、刹那とも仲良くしてやってくれないか?アイツ、あんな感じだけど根はいいやつだからさ。」

「ははは……、努力するよ。」

沙慈は乾いた笑いをこぼす。

「じゃ、俺も用事があるから。食べ終わったら容器を返しにくるよ。」

「うん。それじゃまた。」

そう言ってユーノは沙慈に向かって手を振りながら刹那の後を追いかけた。





フランス首都 外務省

フランス首都にある外務省の官邸では、外務大臣が中東からの客人、マリナ・イスマイールの相手をしていた。
客人といっても彼女は観光などのためにこの国を訪れているわけではない。
彼女の国、アザディスタン王国へ太陽光発電の技術支援を求めてこの国を訪れていた。

「太陽光発電の技術支援ですか……」

「ぜひともお願いしたいのです。」

大臣はフゥとため息をこぼす。

「我が国としても協力したいところではありますが……。帰国の情勢は不安定です。技術者の安全が保障されなければ議会は承認しないでしょう。」

大臣は顔を少し曇らせるがマリナを見据えたまま話を続ける。

「そうでなくてもAEUの軌道エレベーターは完全稼働には至っていません。技術者を他に回す余裕があるかどうか……」

「そうですか……」

マリナは終始浮かない顔のまま話を聞いていた。
慣れない外交に加え、なかなか支援が得られない現状が彼女の心を徐々に疲弊させていた。

「アザディスタンへの食糧支援は続行させるよう尽力します。力になれず、申し訳ない。」

「感謝します。」

二人は立ち上がり握手を交わして別れた。
その後、大臣は車に乗り去っていくマリナを複雑な心境で窓から見ていた。

「うら若き王女が慣れぬ外交をして国を守るか……哀れではあるが、我々としても施しをする余裕はない。」

アザディスタンが国の衰退を避けるために王政を復活させ、古い血筋の中からマリナを担ぎ出したことは国際社会では周知の事実だった。
マリナ自身もそのことはよく理解していたが、国を救うためならとその役を買って出ていた。
だが、それでも現状を打破することはできず、さらには彼女が出てきたことで改革派と保守派の対立が一層深まってしまった。

大臣もそのことを理解しているからこそ支援をしてやりたいが、軌道エレベーターの開発に遅れているAEUが、もはや何の見返りもない中東の国を支援するなど無理な話である。
しかも、ソレスタルビーイングの登場で自体はさらに悪いほうへ向かっている。

「それも、モラリア次第か……」

そう言って大臣は窓のそばを離れた。







軌道エレベーター リニアトレイン

(モラリア共和国、23年前の2284年に建国したヨーロッパ南部に位置する小国。人口は十八万と少ないが三百万人を超える外国人労働者が国内に在住。約4000社ある民間企業の二割がPMC。PMCとは傭兵の派遣、兵士の育成、兵器輸送、および兵器開発、軍隊維持、それらをビジネスとして行う民間軍事会社……)

「熱心ね、フェルト。」

ミッションのため、地球へ向かうリニアトレインの中でフェルトがデータを参照しているとスメラギから声がかかる。

「任務ですから。」

フェルトはスメラギのほうを向くことなく抑揚のない声で答える。
その反応に苦笑を洩らしていたスメラギにクリスティナが素朴な疑問をぶつけた。

「スメラギさん、モラリアって誘致した民間軍事会社を優遇して発展してきた国でしたよね。どうして今まで内の攻撃対象にならなかったんですか?」

ソレスタルビーイングの声明で紛争を幇助する国も攻撃対象だと言っていたにもかかわらず、軍事会社によって発展してきたモラリアに対する介入が今までなかったのは確かにおかしな話である。

「……それはね、世界の戦争が縮小していけば、彼らのビジネスは成り立たなくなる。……このまま自滅してくれればよかったんだけどね。」

そう言ってスメラギは愁いを帯びた顔で窓の外へと目を向けた。








大西洋 孤島

刹那とユーノが合流ポイントに到着すると、ロックオンと待ちかねたといった面持ちのイアンが話しかけてきた。

「おー、久しぶりだな、刹那。」

「イアン・ヴァスティ…」

本来ミッションに訪れることのないイアンがわざわざやってきていることが刹那には意外だった。

「ん、ふぁれがふいにれきらのふぁ(あれが遂にできたのか)?」

自体を理解したユーノはおにぎりを片手に持ち、口をもごもごさせながらイアンに話しかける。

「ああ。…それよりもお前は口の中のものをなくしてから喋れ。」

「何食ってんだ?」

ロックオンの問いにユーノは口の中のものを胃へと流しこんで答える。

「ご近所さんのおすそわけとおにぎり。」

ロックオンとイアンは顔を見合わせて呆れる。

「おまえなぁ、もう少し緊張感というものを……」

「整備中にやたらと娘と犯罪行為をして結婚した年下の妻の話をしてくる奴に緊張感とか言われたくねーよ。」

「別にそのくらいいいだろうが。というか犯罪行為なんてしとらんわ!!わしらは互いに愛し合ってだなぁ……」

「おやっさん、おやっさん。話ずれてるぞ。」

ロックオンのつっこまれ、再び表情をまじめなものに戻すと咳払いを一つして刹那のほうを向く。

「お前にどうしても届けたいものがあってな。」

「?」

刹那の顔を見たロックオンが笑顔で続く。

「見てのお楽しみって奴だ。」

「プレゼント、プレゼント。」

ハロもどこか楽しげに飛び跳ねる。
彼らの後ろを見るとコンテナと以前とは違った姿のデュナメスがあった。

「デュナメスの追加武装は一足先に実装させてもらった。」

デュナメスの前には同じカラーリングをしたマントのような装甲が装備されている。

フルシールド形態。
デュナメスが狙撃時に死角からの攻撃を防ぐためのものである。
ロックオンの相棒、ハロによって操作され、高い防御性能を持つ装備である。

「で、お前さんのはこいつだ。」

イアンが端末を操作するとコンテナが起き上がり、中から大小二本の剣が出てきた。

「エクシア専用、GNブレイド。GNソードと同じ、高圧縮した粒子を放出。厚さ3mのEカーボンも難なく切断できる。どうだ、感動したか?」

「GNブレイド…」

つぶやく刹那にロックオンが話しかける。

「ガンダムセブンソード……ようやくエクシアの開発コードらしくなったんじゃないか?」

しかし、刹那は二人のことなどお構いなしといった様子でエクシアのほうへ歩いていってしまった。

「なんだアイツは。大急ぎでこんなしまくんだりまで運んできたんだぞ!?少しは感謝ってものをだな……」

「十分感謝してるよ、おやっさん。」

「へ?」

刹那の反応にイアンは不満を漏らすがロックオンにたしなめられる。
二人の視線の先にはエクシアを見上げている刹那がいる。

「刹那は……エクシアにどっぷりだかんな……」

「そうそう。」

最後のおにぎりをパクついていたユーノが二人の会話に加わる。

「なにせ世界一のガンダム馬鹿だからな。」

「ガンダム馬鹿か……違いねぇ。」

3人が笑っていると空から二つの光、キュリオスとヴァーチェが降下してきていた。

「来たか。」

刹那がようやくかといった様子でつぶやく。
こうして、初のガンダム全機によるミッションの役者がそろった。






ユニオン領内 某ホテル レストランバー

(やはりAEUも動く、か……。私たちが動けとなると当然と言えば当然なんでしょうけど……)

携帯端末でニュースを見ていたスメラギ……いや、リーサ・クジョウは沈んだ気分をグラスに注がれた酒で薄めていた。

「やはり気になるかい?」

突然の懐かしい声にリーサは横を向く。

「やぁ。」

彼女にとって旧知の仲であるビリー・カタギリがいつの間にかそばにいた。
彼が注文をしている間に、リーサは端末のスイッチを消した。

「…君ならどう見る?モラリアの動向を。」

「そういうのやめましょ。久しぶりに会ったんだから。」

唐突に質問されたリーサは苦笑を交えながら返す。

「大学院以来だよね……何年ぶりかな?」

「言わないで歳がばれるから。」

少し拗ねた様子で答えるリーサを見てカタギリは微笑む。

「フフ……もう知ってるけど。」

「女はね…実年齢を言われるとその分だけ若さが減るの。」

「初耳だな、そんな実証データがあるなんてね。」

二人は注文したカクテルを飲みながら静かに笑いあった。

「変わってないのね、ビリー。」

「誘ってくれてうれしかったよ。」

リーサは“仕事”の都合でここを訪れていたのだが、ふと大学からの友人であるビリーがこの近くでユニオンの技術者を務めていることを思い出し、久しぶりに会おうと提案したのだった。

「それにしても、やっぱりあの子と同じようなことを言うのね。会った時から思ってたけど、あなたとあの子は似てるわ。」

「?誰だい、あの子って?」

ビリーの心が純粋な興味と焦りの間で揺れ動く。
そのことに気付いたリーサはクスリと笑うと彼の焦りを取り除く。

「少し前から優秀な技術者達と仕事をしてるの。そのうちの一人が私たちより十歳近く下なのにすごく優秀なのよ。きっとあなたと気が合うと思うわ。」

「十歳近く……ということはまだ学生かい!?」

ビリーの顔が焦りから一変、驚きに満ちたものになる。

「ユーノって言ってね。学校にはいろいろ事情があって行けなかったの。ただ、現場で技術をすぐに吸収していったわ……。プログラミングに関してはあなたも負けるかもよ?」

「驚いたな…ぜひとも一度会ってみたいね。」

リーサは苦笑しながら首を横に振る。

「駄目よ。あの子意外と頑固でね……。戦争のために自分の技術を使いたくないって聞かないのよ。」

「戦争……まさかその子は……」

「……戦争孤児、それもユーノ自身もその時の傷が原因で過去の記憶をなくしてしまったの。」

リーサは当たり障りのない事実と少しの嘘で彼、ユーノ・スクライアを紹介する。

リーサはなぜ彼の話をしたのか自分でもわからなかった。
ただ、

(……あの子達にとっては、こちらにいるほうがよかったのかもね。)

いくら覚悟を決めていると言っても、ユーノや刹那やフェルトはまだ幼い子供なのだ。
ビリーのように日のあたる場所で自分の才能を使い、幸せになってほしい。
ビリーに話してしまったのは、叶わぬ願いと知りながらもそう思わずにはいられなかったからだろうか。

「……暗い話をしちゃってごめんなさい。飲み直しましょ。」

「いや、こちらこそ無神経なことを言ってしまってごめん。でも残念だよ。今エイフマン教授が技術主任に来てくれてるんだけどね。」

「技術主任……?」

よく知った名前と予想していなかった単語に問いかけるような形で返事を返してしまう。

「ああ、言ってなかったっけ。今、僕と教授は対ガンダム調査隊に所属してるんだ。」

「対ガンダム調査隊……?なにそのネーミング。」

あまりにもストレートすぎる名称にリーサは思わずふきだすが、心中穏やかではいられなかった。

「新設されたばかりで、名称がまだ決まってないんだよ。」

「その部隊にあなたが所属しているの?」

「僕だけじゃないよ。さっきも言ったけどエイフマン教授も来ているし、変わり者だけど、うちのエースも所属している。」

「へぇ……」

リーサは素気ないふりをするが、ビリーの言葉を一字一句聞き逃さないように耳を傾ける。

「教授はすでにガンダムの放出する特殊粒子の概念に気付いている。」

(!!!!)

リーサは驚いた。
長い時をかけて完成させた太陽炉の原理がこのわずかな間に見破られつつあるのだ。
だが、そのことは表情には出さずビリーに問いかける。

「ふーん……興味あるわね。それってどういう粒子なの?」

「それが……どんなに聞き出そうとしても、教えてくれなくてね。」

ビリーは苦笑しながら肩をすくめる。

「そう……残念だわ。」

「そのことはともかく、君は今何をしているんだい?技術者とかかわりのある仕事みたいだけど。」

「まあ、いろいろとね……」

「…………あの事は……」

それまで和やかな雰囲気だった二人の間に重い空気が流れる。

「……もう…忘れたわ。」

嘘だ。
忘れてなどいない。
だからこそ、今自分はこうしてここにいるのだ。
リーサ・クジョウとしてではなく、ソレスタルビーイングの戦況予報士、スメラギ・李・ノリエガとして。

「そう……」

ビリーはスメラギの思いには気付かず、彼女の手に自分の手を重ねる。

「こうしてまた会えてうれしいよ。」

「うん……」

スメラギは複雑な思いの中にいた。
久しぶりにビリーに会えたことを素直に喜ぶ自分。
だが、そんな彼に対して偽りを語り、情報を聞き出そうとする自分。
久しぶりの友人との再会にもかかわらず、まったく異なる二つの思いが彼女の心に深い傷を残していた。








PMCトラスト 武器格納庫

アリー・アル・サーシェスはアフリカでの任務から呼び戻されるとすぐに格納庫に連れてこられた。

「合同演習ねぇ…まさかAEUが参加するとは思わなかったぜ。」

自分の上司に対してもサーシェスはいつもの軽口をたたく。

「外交努力のたまものだ。我々ばかりがハズレを引くわけにはいかんよ。」

サーシェスの軽口を気にもとめず、苦々しくつぶやく。

「AEUにも骨を折ってもらわんとな。」

「へっ、違いねぇ。」

そんな話をしながら奥へ進んでいくとライトが付いていない部屋に出た。
明りこそないが、そこには巨大な何かがある。

(こいつは……?)

サーシェスが質問しようとした瞬間ライトがつけられ、それは照らし出された。
紺色にカラーリングされたボディに鋭い翼を持った戦闘機。

「この機体をお前に預けたい。」

「AEUの新型か…」

AEUイナクト
最初にガンダムに倒されたMSである。

「開発実験用の機体だが、わが社の技術部門でチューンを施した。」

「こいつでガンダムを倒せと?」

サーシェスの顔に凶暴な笑みが浮かぶ。
彼はアフリカでのソリッドとの一件以来、ガンダムを倒すことを考えていた。
その念願がようやく叶うのだ。

「鹵獲しろ。」

「チッ…言うに事欠いてそれかよ。」

サーシェスは不機嫌そうな声をだすが、凶暴な笑みはそのままだ。

「……一生遊んで暮らせる額を用意してやる。」

「ひゅ~♪そいつは大いに魅力的だな。」

そういうサーシェスだったが、実のところ金などどうでもいい。
ただ、あの機体とまた殺し合いができると言うだけで胸が躍る。

(ククククク…さぁて、でっかい戦争を始めるとしようや!)








モラリア 軍事演習場

翌日、ガンダム全機はモラリアの軍事演習上にいた。

130機のMS対ガンダム5機。
全世界が注目する戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。

「敵さんが気付いたみたいだ。各機、ミッションプランに従って行動しろ。」

ロックオンが全員に指示を飛ばす。
その顔は緊張に満ちながらも晴れやかで、最高のコンディションと言って差し支えがなさそうだ。

『暗号回線は常時開けとけよ。Ms.スメラギからのミッションプランの変更が来る。』

「「「「了解。」」」」

そう言ってマイスターズはそれぞれの敵のもとへと向かっていった。





軍事演習場 北東部

「ほいほいっと!!」

ユーノは軽やかにソリッドを操縦し、敵ヘリオン部隊を無力化していっていた。

「敵機接近!敵機接近!」

「おっ!来た来た!」

ソリッドが後ろを向くと6機のMS形態のヘリオンが地上からこちらに向かってきていた。
だが、想定通りの展開だ。

「ホント、スメラギさんの予想はすげぇな。」

ユーノは感心しながら967に指示を出す。

「967、グラムを発動!」

「了解!了解!」

967が耳をパタパタ動かすと同時にヘリオン部隊の足元からGN粒子と電撃があふれ出す。
するとそのままヘリオン部隊は糸の切れた人形のようにその場に倒れこんでしまった。

「グラムはこういう使い方もできるってことさ。」

ユーノはこのポイントに進軍すると同時に、GNグラムを地上に配置。
撃破したMSの破片などでカモフラージュし、近づいてきた敵を一気に戦闘不能に追い込んだのだ。
扱いの難しいグラムだが、今回はスメラギの予報と組み合わせることによってその性能を最大限に生かすことができた。

『ソリッド、フェイズ1終了。フェイズ2に移行してください。』

「了解。……しかし、今回の俺の役割きつくない?」

『ユーノなら大丈夫だよ。頑張って!』

「へいへい。」

ユーノはクリスティナに励まされながら次のポイントへと向かおうとした。
その時、突然アラームが鳴り響きディスプレイに信じられない光景が映し出される。

「っ!?刹那!!」

そこにはエクシアが紺色のMSに押されている光景が映っている。
と、ユーノは敵の動きを見て何かに気付く。

(この敵の行動を読んでの攻撃……まさか!?)

アフリカで出会ったあの男、

(アリー・アル・サーシェス!なんであいつが!?まさかPMCに所属してたのか!?)

『デュナメス、ソリッドはエクシアの援護に向かって!!』

『『了解!』』

ロックオンとユーノはミッションプランを変更し、刹那とエクシアの援護に向かった。






軍事演習場 東部

エクシアが両手に握られたGNブレイドを振るたびに周りにいたヘリオン達は倒れていった。

(これが…GNブレイド。)

イアンが言っていた通り、これなら大概のものを難なく切断することが可能だろう。
ガンダムセブンソード
これなら確かにその開発コード通りの機体に仕上がったと言えるだろう。

刹那はそのまま感動に浸っていたかったが、すぐさま意識を切り替えると目の前の敵に接近していき右手に持ったブレイドで斬り上げると同時に空高く跳びあがる。
二機のヘリオンがライフルを撃ってくるが、エクシアは体を空中でひねりながら降下していき両手を振るいヘリオン達を切断する。

「そこだ!!」

その時、攻撃の終わった隙を突いて一機がソニックブレイドを突き立てようとしてくる。

「甘いっ!」

しかし、その手を左手に装備した小型のブレイドで切断し、続いて大型のブレイドで頭と左腕を切断した。

「くそっ!!」

周りにいたヘリオン達が接近してくるが、刹那はブレイドを腰に戻し、後ろからGNダガーを抜くとそのまま前方の二機の頭に投擲して突き刺す。
そして、振り向きざまに二本のビームサーベルを抜き、後ろから迫っていた二機を腰の部分から切断した。

「エクシア、フェイズ1終了。フェイズ2に…」

刹那が言葉を紡ごうとした瞬間、コックピット内にアラームが鳴り響いた。

「くっ!!」

刹那はとっさに操縦桿を動かし背後からの弾丸を避ける。
外れた弾丸は地上に着弾し、土煙を発生させる。
ディスプレイには上空を飛ぶ紺色の機影が見えた。

「新型か!?」

それは刹那が最初に相手にした機体、イナクトだった。

(チューンしたあるようだが性能は十分把握している。)

そう思いながら撃ってくる弾丸を避けていた刹那だったが徐々に弾丸がエクシアに近づいていき、遂には正確にとらえた。

「なに!?」

動揺する刹那だったが即座に回避のパターンを大きなものに変える。
だが、それでも敵は確実に当ててくる。

(動きが読まれている!?)

度重なる動揺で動きが鈍くなった所にそのまま紺色のイナクトに体当たりをしかけられ、エクシアは倒れてしまった。

「ぐぅ!!」

「はははははは!機体はよくてもパイロットはいまいちのようだなぁ。ええ!?ガンダムさんよ!!」

刹那はエクシアを起こしながらイナクトのパイロットの声を聞いた。

「あの声……ま、まさか!?」

刹那はユーノとの会話が思い出す。

自分をゲリラに仕立て上げた男。
自分の神への信仰を利用した男。
自分に両親を殺させた男。

「商売の邪魔ばっかしやがって!!」

「!!」

刹那の脳裏にあの日の光景がはっきりと浮かぶ。
赤いウェーブのかかった長髪を風になびかせながら自分の前に立っていた姿。
そして、ナイフの訓練で自分をあしらった時のあの嘲笑。

(やはりそうなのか!?)

「こちとらボーナスがかかってんだ!!」

紺色のイナクトは旋回するとそのまま蹴りを入れてくる。
刹那は腕をあげてブロックするが衝撃でコックピットが揺れた。
しかし、刹那はそんなことを気にしてはいなかった。
目の前にいるこの男が本当に奴なのかということしか頭にない。

(チッ!なんつー堅さだ!!だが…)

イナクトが腕からソニックブレイドを取り出す。

「別に無傷で手にいれようなんて思っちゃいねぇ。リニアが効かないなら……切り刻むまでよ!!」

「くっ!!」

刹那はブレイドを構えて向かってくるイナクトをかわすとビームサーベルで斬りかかる。
だが、

「ちょいさぁ!!」

イナクトが振り向くと同時にエクシアの右手を蹴りあげ、ビームサーベルを弾き飛ばす。

(この動き……間違いない!!)

刹那は激情に任せもう一方のビームサーベルで斬りかかるが、ブレイドで上手く弾かれビームサーベルを手放してしまう。

「………!!!」

刹那は左腰に装備されたGNブレイドを抜いて再びイナクトをにらみつける。
GNブレイドは刹那の感情に反応するかのように激しく振動している。

「何本持ってやがんだ…けどな!!」

そのままイナクトとエクシアは同時に相手へと踏み出し剣戟を重ねていく。
だが、エクシアは鍔迫り合いに持ち込まれるとそのままじりじり押されていく。

「動きが読めんだよ!!」

「くっ!!」

その時、刹那の忌まわしい記憶が呼び起こされた。

自分に銃を向けられ、驚きと戸惑い、そして悲しみの目を向ける母親。

「やめて、ソラン……なぜ、どうしてなの………!?」

そして、乾いた発砲音と火花の後、彼の母親は力なく倒れた。




「う……ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

刹那の咆哮と同時にエクシアの胸部のジェネレーターが激しく輝き、解放された圧縮粒子とともにGNブレイドの切れ味があがっていく。
そして、

「なに!?」

危険を察知したイナクトはソニックブレイドを手放し、後ろに飛んで距離をとる。
ソニックブレイドはGNブレイドに刺さったような状態だったが、離れた瞬間にガランと音を立てて二つに切断された状態で落下した。

「なんて切れ味だ……これがガンダムの性能ってわけか!!」

と、感心しているとエクシアの動きが止まり額の部分が点滅する。

「光通信……?コックピットから出てこいだと……気でも狂ってんのか!?」

イナクトのパイロットがそんなことをつぶやいているとエクシアのコックピットハッチが開いていった。






モラリア共和国 王留美の別荘

「!?エクシアのコックピットハッチが解除されました!!」

「なんですって!!?」

王留美が用意した別荘でオペレーションをしていたスメラギ達に動揺がはしる。
ガンダムマイスターの正体は太陽炉と同じSレベルの秘匿事項なのだ。
ハッチを開けて敵に正体がばれたら今後の計画に影響が出てしまう。

「やめなさい刹那!!計画をブチ壊すつもり!?」

スメラギが必死で通信で呼び掛けるが返事がない。

そして、遂に刹那は外へと出てしまった。

「なんてこと……」

その場にいた全員がその様子を茫然と眺めることしかできなかった。







軍事演習場 東部

「正気かよ……ホントに出てきやがった……」

そして、刹那を見ると彼の口から笑いがこぼれる。

「しかもあの体つき……どう見てもガキじゃねぇか。くくく、はははは!おもしれぇ……おもしれぇぞ!ソレスタルなんたら!!」

イナクトのパイロットもハッチを開け外に出てくる。

「素手でやりあう気か?えぇ?ガンダムのパイロットさんよ!!」

「!!」

ヘルメットを脱いだ瞬間に出てきた顔に、刹那は息をのんだ。
長い赤髪に黄色の瞳。
昔と違いあごひげを伸ばしているが間違いない。

(アリー・アル・サーシェス!!)

その瞬間、刹那の中をありとあらゆるものが駆け巡る。
戸惑い、疑問、決意、悲しみ、そして……怒り。

刹那は気付くとサーシェスに銃を向けていた。
サーシェスも銃を抜いている。

「なんだよ……わざわざ呼び出しておいてこれか!!面ぐらい拝ませろよ!えぇ、おい!?」

二人は徐々に引き金にかけている指に力を入れていき撃とうとする。
その時、エクシアとイナクトの間を閃光が奔り抜けた。

「チッ!!」

サーシェスはいち早くコックピットに戻るが、刹那は光が飛んできたほうへと顔を向ける。

「デュナメスか!」

刹那の視線のはるか先には額のカメラアイをセットし、スナイパーライフルを構えているデュナメスがいた。

「ハズレタ!ハズレタ!」

「外したんだよ!当てりゃ刹那も巻き添えだ、たくっ!!」

相棒の言葉と刹那の予期せぬ行動にいら立ちながらもロックオンは威嚇射撃を続ける。
すると、敵が距離をとっていく。

「離れた……狙い撃つぜ!」

お決まりのセリフとともにライフルを発射するが、イナクトは地面に水平になるような姿勢で弾丸をかわしていく。

「避けやがった!?」

ロックオンの驚きの声と同時に、イナクトは戦闘機形態に変形し、飛び去っていった。
ロックオンは歯噛みしながらも刹那に通信を入れる。

『刹那!!おま……』

『事情はあとで聞かせてもらうわ!ミッション…続けられるわね……?』

「了解。」

スメラギの割り込みをくらったロックオンが不服そうな顔をするが、さらに予想外の事態が起こる。
萌黄色の影が件のイナクトのとんだ方向へと高速で向かっていったのだ。

『ユーノ!?お前まで何を!』

「機密保持のため、奴を始末する。」

ユーノらしからぬ発言にロックオンは慌てる。

『お、おい!たぶん誰かまではばれちゃいない!そんな必要は……』

「ティエリアじゃないが万が一ということもある。奴は何が何でも始末する!」

『ユーノ!今回のあなたの役目は……』

スメラギが非難の声を上げるがユーノは気にしない。

「同時にこなせば問題ない。」

『ちょ、ちょっ……』

スメラギがさらになにか言おうとするが、ユーノは通信を切った。

「イイノカ?イイノカ?」

967が不服そうな声を出す。

「いいんだよ。それより、刹那に暗号通信だ。」

そう言ってユーノはコンソールを叩きだした。







「?ユーノから暗号通信……」

再びミッションに戻った刹那は突然のよびかけに戸惑いながらも、モニターを見る。

「!!」

そこには以下のようなことが記載されていた。

『サーシェスは俺が追う。仕留められるかどうかはわからないがやるだけやってみる。』








軍事演習場 上空

「チッ!結局ボーナスはなしかよ。」

サーシェスはイライラしながら仲間との合流ポイントに向かう。

(しかし…あのガキ何者だ?俺のことを知っているようだが……)

その時、自分がかかわった中東での戦争を思い出す。

(あの剣さばき、まさかクルジスん時の……)

だが、サーシェスは笑いながら首を振る。

「ハッ!考えすぎか……!?」

とその時、突然後ろから光の弾丸がサーシェスを襲う。

「チッ!!」

サーシェスは操縦桿を動かし、きりもみをしながらそれをかわしていく。

「あれはあの時の!!」

後ろからアフリカで会った萌黄色のガンダム、ソリッドが猛スピードで追撃してきていた。

「ハッ!相手をしてやりてぇところだが、こちらにもいろいろと都合があるんでなぁ!」

そう言ってサーシェスは足元のペダルを踏み込む。
しかし、

「てめぇみたいな奴を逃がすわけねぇだろ!!」

ソリッドはさらにスピードを上げて追ってくる。

「くっ!あの野郎……ホントにMSか!?」

サーシェスはコックピットの中で毒づく。

「ターゲット……ロック!もらったぁぁぁぁっ!!!」

「!!」

ソリッドが狙いを定めてライフルを撃とうとする。
だが、下から飛んできた弾が左腕に当たり、照準がずれてしまう。

(いまだ!!)

その隙にサーシェスはその場を離脱する。

「待て!っく!!」

ユーノは追おうとするが、下からの銃弾にさらされ思うように進めない。

「邪魔だ!」

ソリッドがライフルで下にいた数機のヘリオンの頭を撃ち抜き無力化するが、イナクトの姿はもう見えなくなってしまっていた。

「………967、お前下のヘリオンに気付いてたのに黙ってたろ。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「チッ……」

967のとぼけた声に舌打ちをするとユーノは本来の自分の任務に戻っていった。







軍事演習場 渓谷

狭い渓谷の間をソリッドを除いたガンダム全機が飛んでいた。

「まったく……こんなルートを通らせるなんて。」

狭い谷の間を飛びながらアレルヤはぼやく。

「ぼやくなよ。敵さんは電波障害の起こっている地点を重点的に狙ってる。隠密行動で一気に頭を叩くのさ。頼んだぜ……水先案内人。」

とその時、戦闘にいたキュリオスが壁にぶつかり、破片を後ろに飛ばしてしまい、デュナメスに当たりかける。

「あっぶねーなおい!!」

「ヘタッピ!ヘタッピ!」

「ドンマイ。」

「そりゃこっちのセリフだ!」

アレルヤとロックオンがコントを繰り広げているころ、後ろの刹那は先ほどのことを思い返していた。

(なぜ奴がここに……行き場がなくなって、PMCに所属したのか?だとしたら……奴の神はどこにいる……!!)

そんなことを考えていると、一番後ろのティエリアから通信が入る。

『刹那・F・セイエイ。』

「ティエリア・アーデ…」

『今度また愚かな独断行動をとるようなら君を後ろから撃つ……』

今のこの状況では冗談にならないことをティエリアはさらりと言ってのける。

「太陽炉を捨てる気か?」

『ガンダムの秘密を……そして、ソレスタルビーイングを守るためだ。』

険悪な雰囲気を漂わせていると、ロックオンから通信が入る。

『そこまでだ。ユーノが今頃苦労しているときに何やってんだお前らは。』

「『………………………』」

それきり二人は黙り込んでしまう。

(はぁ~……ったく。にしてもユーノは大丈夫なんだろうな?)







軍事演習場 渓谷の反対側

「やれやれ。囮をしろ、なんて言われるとはな。信用してくれてんのか殺したいのか、どっちなんだか…なっ!!」

ユーノはブレードモードにしたアームドシールドを振るい、近づいてくる敵を無力化していく。
すると接近戦は不利だと知ったのか、ヘリオン達は距離をとってライフルを撃ってくる。

「圧縮粒子全面開放っと。……ふ、わぁあぁ~…」

ユーノはGNフィールドを張ると大きく欠伸をする。

「無理に墜とす必要もないから楽っちゃ楽なんだけどなぁ。」

そう言いながらモニターに表示された時間を見る。

「そろそろラストフェイズか……」







軍事演習場 司令部

それはあっという間の出来事だった。

突然、司令部の目の前の渓谷から飛び出てきたガンダム四機は配置されていた部隊を五分もかからずに全滅させた。
大部分はヴァーチェの砲撃によって溶解させられ、残ったものたちもデュナメスとキュリオスの射撃によって倒れ、一矢報いようと近づいていこうとしたものたちはエクシアによって切り刻まれた。

そしてその数十秒後、無条件降伏信号が晴れ渡った空に打ち上げられた。







大西洋 孤島

その夜、ユーノが拠点としていた島に着くとロックオンが拳を握りこみながら刹那へと近づいているのが見えた。

「やっば!!」

「ロックオン怒ッテル!ロックオン怒ッテル!」

ユーノは持っていた967を乱暴に放り出すと二人のもとへと駆け寄る。
しかし、すでにロックオンは刹那の肩を掴み拳を振り上げている。
と、その時

(ぐっ!!)

ユーノの頭に激痛がはしる。
しかし、それでもユーノは止まらない。

(ええい!ままよ!!)

ユーノは刹那を押して彼のいた位置で止まる。
ロックオンは慌てて拳を止めようとするが止められずにユーノを殴り飛ばしてしまった。

「ユ、ユーノ!?」

「だ、大丈夫かい!?」

ロックオンは茫然とし、アレルヤが衝撃で飛んでしまったサングラスを拾って駆けよってくるがユーノは殴られた箇所とは違う、頭を押さえたまま唸り続ける。

「わ、悪い!ホントに大丈夫か!?」

その様子に気付いたロックオンも駆けよってくる。

「だ、大丈夫だ……。いいパンチ持ってるぜ、ロックオン。」

ズキズキと鈍く痛みが残っている頭を押さえながらユーノはへらへと笑いながら立ち上がる。

「ユーノ……」

「………………」

その様子に呆気にとられていた刹那とティエリアも近づいてきた。

「あんま無茶なマネすんなよ……。でだ、なんで殴られそうになったか、わかるだろ刹那。」

ロックオンが刹那に厳しい表情を向ける。

「なぜ敵に姿をさらした?」

だが、刹那は黙ったままだ。

「理由ぐらい言えって。」

「…………」

ロックオンの表情が一層厳しくなる。

「強情だな…お仕置きが足りないか?」

ロックオンが再び殴ろうとすると、横から銃を構える音がした。

「言いたくないなら言わなくていい。君は危険な存在だ。」

「やめろティエリア!」

ロックオンが慌ててティエリアの銃を押さえ込む。

「彼の愚かな振る舞いを許せば、我々にまで危険が及ぶ!また、エレナ・クローセルのような事態が起きてしまうかもしれない……!」

ティエリアはそう言ってうつむいてしまう。
それに合わせるかのようにマイスターズ全員の顔が暗くなる。

「ティエリア……」

「……………」

ユーノがティエリアの前に進み出ていく。

「………なんだ?」

「……なんか今日のお前、らしくないぞ。悪いもんでも食ったのか?」

全員が茫然とした顔になるがティエリアはいち早く元に戻ると顔を赤くして怒鳴り始める。

「君という人間は!!少しはまじめな話ができないのか!!」

「あははははははは!!悪い悪い!!」

ティエリアが殴りかかるがユーノはその拳をひょいとかわす。

「よし、元のティエリアに戻ったな。」

「なに!?」

「エレナのことを気にすんのは勝手だけどよ。こんなところで引き合いに出すなよな。自分のせいで俺らが暗くなってんの知ったら、アイツのことだから化けて出てくるぞ。」

二人のやり取りを見ていたロックオンたちも元の穏やかな顔に戻る。

「ははは……まったく、お仕置きすんのがあほらしくなってくんぜ。」

「でも、確かにそうだね。こんなところで落ち込んでる場合じゃないね。」

「ソウダゾ。ソウダゾ。」

「ミンナ、仲良ク。仲良ク。」

967とハロが砂浜の上を跳ねながら近づいてくる。
が、

「「ワー!」」

「「あ。」」

海岸に打ち寄せていた波にさらわれてしまう。

「おいおい相棒!」

「何やってんだよ967!?」

こうして一人と二機のせいで張りつめた空気はどこかへ霧散してしまった。





経済特区 東京

そのころ、授業が終わった沙慈とルイスは街に出かけていた。

「何もこんな時に出かけなくたって。」

「まだモラリアのこと気にしてるの?」

「ルイスこそAEU側じゃないか。気にしないわけ?」

「モラリアなんて行ったことないし、わかんないって。」

二人は授業の合間にソレスタルビーイングに関するニュースを見ていた。
それを見ていた沙慈の心境は複雑なものだった。
自分とルイスを助けてくれたガンダムが今度は正反対の行動をしている。
なぜ彼らが憎しみの連鎖を生みだすようなことをするのかが沙慈にはどうしてもわからなかった。

しかし、ルイスは気にしていない様子で一日を過ごしていた。

「で、どこに行こうとしてるの?」

彼らの隣を一台のバスが通りぬけていく。

「ウフフ、まずは洋服を見て、洋服を見て、洋服を見る。」

「みんな自分のでしょ。」

沙慈が呆れてため息をつこうとしたその時だった。
通り過ぎてバス停で止まっていたバスが突然大爆発を起こした。
爆風で周りの建物のガラスが割れ、黒い煙があたりを包み込んだ。

「っく……!なんだ……!?」

とっさに前かがみに倒れた沙慈は前方を確認する。
倒れている人、転倒した車と小さな火がいくつも道路上に存在している。
そして、バスの周りには目を向けるのもためらわれるような状況が広がっていた。

「バスが…!!」

周りが騒ぎ始める中、関西弁の男が声を張り上げる。

「テロや!!これはテロやで!!」

「……う…テロって……?」

その声で意識を取り戻したルイスだったが、いまだに状況が把握しきれていない。

「ここから離れよう、ルイス!早く!」

沙慈はルイスの手をとり立たせると、周りには目もくれずその場を後にした。







大西洋 孤島

「おい、お前たち!大変なことになっとるぞ!!」

イアンがマイスターズに駆け寄ってくる。

「何があった、おやっさん?」

「世界の主要都市七か所で同時にテロが起こった!!」

「なんだって!?」

ロックオンの顔に明らかな動揺が浮かぶ。

「多発テロ……」

「被害状況は!?」

アレルヤがイアンに掴みかかる勢いで問いかける。

「駅や商業施設で時限式爆弾をつかったらしい。爆発の規模はそれほどでもないらしいが人が多く集まる場所を狙われた。……百人以上の人間が命を落としたそうだ。」

「なんてことだ……」

話し終えると、ちょうどロックオンの端末に通信が入る。

「俺だ。」

『ガンダムマイスターの皆さん。同時テロ実行犯から、たった今ネットを通じて犯行声明文が公開されました。』

王留美が淡々と情報を伝えていく。

『ソレスタルビーイングが武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています。』

ティエリアが目を細める。

「やはり目的は我々か。」

「この声明を出した組織は?」

『不明です。エージェントからの報告があるまで、マイスターは現地で待機していてください』

それだけ言うと王留美からの通信が切れた。

「……どこのどいつかわからないが、やってくれるじゃねぇか。」

「無差別殺人による脅迫……そんな方法で僕らを止めにかかるなんて。」

「愚かな……そんなことで我々が武力介入をやめるとでも思っているのか……!」

マイスター達に怒りの表情が浮かぶ。
だが、そんなマイスターの中でも激しい怒りと憎しみの炎を宿す者がいた。

「一般人を犠牲にしやがって……!」

ロックオンは歯ぎしりをしながら爪が手のひらに食い込むまで拳を握りこむ。

「……ロックオン。今のあなたはガンダムに乗るべきじゃない。」

「…何だと?」

唐突なティエリアの言葉にロックオンが振り向く。
その顔にはいつもの飄々とした笑顔ではなく、檻に閉じ込められていた獣のような表情が張り付いていた。

「今のあなたがガンダムに乗ったところで足手まといになるだけだ。」

「なにぃ!!」

ロックオンがティエリアの胸ぐらをつかむ。
しかし、ティエリアはいつものポーカーフェイスを崩さない。

「……そんなにテロが憎いですか?」

「テロが憎くて悪いか……!!」

ティエリアは短く嘆息する。

「……憎しみに自らを支配させるな。彼にそう言ったのはあなたではありませんでしたか?」

ロックオンはハッとした表情でユーノを見る。
サングラスで表情が読み取りにくいが、どこか悲しげに見える。
そんなユーノの姿を見て、大きく息を吐きいつもの顔に戻す。

「……悪かったな、ティエリア、ユーノ。」

「別に気にされなくても結構です。」

「そうそう。人間、誰だってそういうことがあるもんさ。」

二人の予想道理とも言える答えを聞いて、ロックオンは苦笑した後、全員に指示を出す。

「そんじゃぶっ続けになるが、各自指定されたポイントに向かってくれ。みんな、よろしく頼む。」

「「「「了解。」」」」

「ああ、それと……」

ロックオンがユーノと刹那を見る。

「お前ら二人は一緒に行動しろ。ユーノは刹那のお目付け役だ。」

「別にかまわないけど、刹那はいいのかよ?」

「なんだかんだ言っても刹那が問題行動を起こしたことには変わりないからな。お前は刹那が無茶しないように監視してくれ。」

「はいよ。」

「了解した。」





そしてその後マイスターズは各々指定されたポイントに向かって飛び立っていった。






大西洋上

「……………」

ユーノはエクシアとともに指定されたポイントに向かう中でつい先ほど見たヴィジョンを思い返していた。






雪が降り積もる中、白い服を着た少女になにかが襲いかかろうとしている。
それを見ていた自分は彼女を守ろうとつっこんでいった。
そしてその後、その少女が泣く声が聞こえる。
顔が思い出せないが自分にとってかかわりの深い誰かが泣いている。

(ヴィータ?フェイト?アルフ?はやて?)

違う。

(クロノ?シグナム?シャマル?ザフィーラ?)

違う。

完全には思い出せていない人物の名前を挙げていくがどれもなにかが違う。
全員自分にとって大切な人には違いないのだろうが、なにかが決定的に違う。

『……ノ君。大……だよ…』

『…束だよ……』

『あ………とう、ユ………』

断片的な言葉が浮かんでは消えていく。
何よりも思い出さないといけないと全身が告げているのにそれができないことがはがゆかった。








「……なんだってんだよ。くそっ……」

ユーノはイライラを誤魔化そうと沙慈から貰ったおすそわけを食べようと容器を手に取ったが、もうすでに食べきってしまってることを失念していた。

「……いいやつだよな。アイツ。」

おすそわけを食べることはできなかったが、優しそうな隣人、沙慈・クロスロードのことを考えることでモヤモヤした気分を忘れることはできたようだった。










世界の悪意と向き合う二人の少年に運命の出会いと過去との再会が迫る。






あとがき・・・・・・・という名の愚痴

ロ「モラリア編の第十二話、いかがだったでしょうか?」

刹「聞くまでもないだろう。」

ロ「聞くまでもなく高評価!?」

兄「現実突き付けて欲しいか……?」

ロ「……いや、いいや……。」

刹「ところで今回のゲストは誰なんだ?」

ユ「なんかもうゲスト呼ぶのが定番になりつつあるな。まあ、どうなろうがロビンが苦しむだけなんだけど。」

ロ「苦しむの前提にすんのはやめてくんない!?……コホン。さて、今回のゲストは湖の騎士、☓☓料理人のシャマルさんです!」

シャ「どうも、湖の騎士、そして全世界における最高の料理人、シャマルです♪」

ユ「いやいや。あなたは誰が何を言おうと☓☓りょう……」

ギロン!!

ユ「すみません失言でした。」

シャ「よろしい♪」

刹「お前は歪んでいる………!」

シャ「あらあら元気のいい子ね♪」ごごごごごごごごごごごごご!!!!!

兄「刹那……こいつを敵に回すのだけはやめとけ。次の日に絶対変死体にされちまうから。」

ロ「お~い。とりあえずギャグはいったんそこまでにしといて解説行くぞ。」

刹「了解した。今回はモラリア編だったな。そう言えばユーノと沙慈はここで知り合うのか。」

ロ「まあ、この作品が将来も存在を許されていたらsecondまでいくつもりだからな。四年後に初めて会いましたじゃちょっとからませづらいかと思ってな。」

兄「なるほどな。まあ、獲らぬ狸のなんとやらだな。」

ロ「うっさい!!」

ユ「しかし、俺とサーシェスが対決すんのかと思ったら、あのひげ野郎あっさり逃げたぞ。」

ロ「だって実質グラーベの967と仮にもマイスターやってる奴が一緒のに乗ってたら流石に仕留めちゃいそうだからな。だから、今回は遠慮してもらった。」

シャ「そう言えば、もうかなりオリジナル要素がはいってきてるわよね。喜んでいいのか悪いのか……」

刹「それはこれから次第だろう。読者の皆様もロビンをびしばししごいてやってくれ。」

兄「そんじゃそろそろ次回予告行くぞ。いよいよ刹那とあの人物が出会う!」

シャ「ユーノ君は徐々に戻っていく記憶に翻弄されながらも戦いつづけていく!」

ロ「次回も皆様が読んでくださるような作品に仕上げますのでよろしくお願いします!」

刹「それでは最後に……」

シャ「あ!ちょっと待ってね。」

ロ・兄・刹・ユ「「「「?」」」」

シャ「うふふふ!久しぶりの出番だからお料理を持ってきてみたの。はい、唐揚げ♥」

湖の騎士、何やら紫でドロドロした塊を取り出す。

ユ「……シャマルさん、唐揚げの何をどうしたらこうなるんですか?」

シャ「愛を込めたらこうなりました♥」

刹「世界の悪意しか感じられないぞ。」

シャ「じゃあ、ロックオンさんに食べてもらおうかしら♪」

兄「刹那の発言はまるきり無視か!!てか、地雷踏まないように黙ってたらスク○ア・クレイ○アになって飛んできたよ!!もう全弾被弾確定だよ!!」

シャ「じゃ、あ~んして♥」

兄「………………………………………」←必死で口を閉じている

シャ「……えいっ、転送♪」

兄「ぐっっっはあああぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!?!?!?!!!!?」

ユ「ロックオーーーーーーーーーーーン!!!!!?」

兄「口がぁぁぁ!!!口が爛れるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

シャ「あらあら、元気になったわね♪」

ユ「いやいや白目むいて倒れちゃってるから!口から泡出てるから!!あといちいち♪や♥をつけんな!!果てしなくウザくていらっとくるから!!」

刹「おい!しっかりしろロックオン!!」

兄「はぁはぁ……なんでか知らんが悪の組織に所属してポ○モンバトルしてる自分がいた気がした……」

ロ「……さて、場が盛り上がってきたのでここらで締めたいと思います。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想などをお待ちしております。それでは次回をお楽しみに!!」






シャ「じゃあ次は刹那君にでも……」

ユ「お前が責任もって全部食えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



[18122] 13.交わる運命
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/05/31 19:42
時空管理局 本局

観測指定世界の任務の後、フェイトは本局で犯罪者のデータを検索し、そしてその男を見つけた。

「ジェイル・スカリエッティ……この人がユーノを………!!」

フェイトは怒りに震えながらモニターに映る紫のウェーブヘアーをした男を睨む。

ジェイル・スカリエッティ
学者として優秀な能力を持ちながら、それを違法な生体研究などに使っている。
そして、彼の犯した違法行為の中にはフェイトにもかかわりの深いものがある。
彼女がこの世に生まれるきっかけとなった研究、

「プロジェクトF・A・T・E……」

フェイトの悲しい記憶の一つ。
母親に捨てられ、自分を見失いそうになったあの日の出来事を思い出す。
そんな彼女を救ったのはなのはとユーノだった。
だからこそ、そんな二人のなかを引き裂いたこの男が許せない。
だが、

(……今はまだみんなに言うわけにはいかない。とくにあの二人には。)

そう、なのはとヴィータには言えない。
あの二人がこのことを知れば、間違いなく自分のことをかえりみずに彼を追うだろう。

「ユーノはそんなこと望まない。」

フェイトはこのことを自分の胸の中のみに留めておくことを決意した。
すべてが明らかになるその日まで…………




魔導戦士ガンダム00 the guardian  13.交わる運命

ユニオン領 海上

夕焼けの赤に染まった空をバックに黒いフラッグとそれに続いて二機のフラッグが白い飛行機雲をつくりながら飛行していた。

『中尉、こんなことをしたって敵さんは見つかりませんぜ。』

後ろにいたフラッグの一機から色黒の男、ダリル・ダッジ軍曹から黒いビームコーティングをされたカスタムフラッグに乗るグラハムへ通信が入る。

「フッ……わかっている。だが、私は我慢弱く、落ち着きがない男なのさ……。」

ダリルからあきらめにも似たため息が漏れる。
そんなことはお構いなしにグラハムは言葉を続ける。

「しかも、姑息なマネをする輩が大の嫌いときている。ナンセンスだが、動かずにはいられない。」

彼らの所属するユニオンでも無差別テロが発生していた。
グラハムはテロ組織にガンダムが介入するかもしれないことを理由に部下の二人を連れて発進した。
だが、今回ばかりはガンダムが目的ではなく、純粋にテロが許せなかった。

『お供しますよ、中尉。』

グラハムにもう一機のフラッグからハワード・メイスン准尉の通信が送られてくる。
そう、彼らもまたテロが許せない。
そして何よりグラハムのことを尊敬しているのだ。
だからこそ彼についてきたのだ。

「その忠義に感謝する!」

グラハム達はどこにいるかわからない敵を求め、遥か彼方へと飛んでいく。
愚直なまでにまっすぐに飛んでいくフラッグ達のボディは沈みゆく太陽の光を受け、彼らの心を体現するかのように美しく輝いていた。





経済特区東京 某マンション 沙慈の部屋

「あ、ルイス。僕だけどどう?平気かい?」

沙慈は携帯端末に映るルイスに向かって語りかける。

『私は大丈夫。けど、ママがスペインに戻って来いってしつこくて……』

ルイスは不満げに顔を膨らませる。
その顔を見た沙慈は苦笑を浮かべながら諭すように語りかける。

「一度戻って安心させてあげたら?」

『駄目よ。もともと留学には反対だったんだから。あれこれ理由つけられて引き留められちゃうんだから。』

その時、玄関のドアが開き絹江が帰ってきた。

「ただいま~。」

「姉さんが帰ってきた。またね、ルイス。なにかあったら連絡して。」

『うん、それじゃ。』

端末からルイスの顔が消えると同時に、絹江が扉を開けて部屋に入ってきた。
その顔からは疲れがにじみ出ている。

「おかえり、姉さん……って、疲れてる?」

「そりゃ疲れるわよ。」

絹江はバッグを降ろすとソファーに寝転がってしまった。

「モラリアの大規模戦闘に同時多発テロ……各国首脳人の公式声明、世界中で起こってるソレスタルビーイングの排斥デモ……社員総出で取材してもしきれないって。」

沙慈は絹江と話しながら冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出す。

「正直、今まで他人事のように考えてたよ。」

「何が?」

「なんて言うか……世界の状況みたいなこと。……はい。」

沙慈は絹江にミネラルウォーターを渡し、テレビで流れている自分が巻き込まれた事件の報道を見る。

「ん……ありがとう。」

「ソレスタルビーイングが現れても、ここは戦争なんてしてないし……自分には関係のないことだって……」

沙慈の脳裏に夕方の光景がよみがえる。

「バスが爆破されて、大勢の人が巻き込まれて……それを見たとき、関係なくなんてないんだって…わかってなかっただけで、何も知らなかっただけで………」

「私もよ。」

「え?」

絹江はミネラルウォーターを見たまま話し始める。
よく見るとそれを持つ手が小刻みに震えている。

「さっき被害者の遺族を取材してきたけど、正直きつかったわ。何も知らないのに……ただその場に居合わせたと言うだけでその人たちの命は消えたのよ……」

絹江の持つミネラルウォーターのペットボトルが彼女の力によってひしゃげる。

「遺族たちがソレスタルビーイングを恨む気持ちがわかるわ。」

「土台無理なんだよ……世界から戦争を失くすだなんて。」

「……彼らもそう思ってるんじゃないかしら?」

「え……どういう意味?」

「戦争根絶なんて言う無茶な目的の裏にはなにかがある。ソレスタルビーイングが成し遂げたいと思っている、本当の目的が…」

そう言って絹江はミネラルウォーターを口に含む。

「……ただの憶測だけどね。」

「でも人は死んだよ。大勢死んだ……悲しんでいる人たちもいっぱいいる。」

沙慈が不満そうに反論する。

「そうね……ホントそう思うわ……」

「父さんたち生きてたら……どう思うだろう?」

沙慈は窓の外を見ながらつぶやく。

「きっと悲しむわ……沙慈のように。」








AEU スコットランド 山間部

岩肌に囲まれた山の中に刹那とエクシア、そしてユーノとソリッドがいた。
エクシアの中で刹那は目を閉じ、かつての自分を思い出していた。







「行っちゃうのか!?」

ソランは戦闘に行こうとする仲間を呼びとめる。
彼は親友だ。
なににもかえがたい大切な友達だ。
だから、行かないでほしい。

「俺は神の代わりに務めを果たしに行くんだ。」

彼はソランのほうを振り向き、凛とした表情で言い放つ。

「駄目だよ!死んじゃうよ!!」

その言葉を聞いた彼はソランの胸ぐらをつかむと怒りの表情を浮かべる。

「なんだお前……怖いのか!?それは神を冒涜する行為だぞ!」

ソランは目をそらし、小さな声でつぶやく。

「違う……お前が死んじゃうのが嫌なんだ。また、仲間が死んでしまうのが嫌なんだ。」

ソランの不安そうな顔を見ると彼はソランから手を離し笑った。

「俺が死んでも、きっと神が救ってくれる。だから心配なんかするな。」

そう言うと彼は自分の首に巻いていたスカーフをソランに渡す。

「後は頼むぜ、ソラン……」

彼はそれだけ言い残すと扉を開けて出ていく。
そして、二度と戻ってはこなかった。







(死のはてに神はいない……)

刹那が考えを巡らせているとユーノから通信が入った。

『刹那、さっき王留美から連絡があった。どうもここで爆破テロが起こったらしい。その時に怪しい男がその場から立ち去るところを監視カメラがとらえていたらしい。一番近い俺達でそいつを追うぞ。』

「了解。」




市街地

刹那とユーノは大型のバイクを使い現場へと別々のルートで駆けつける。
そこからは黒い煙が上がり、パトカーや救急車などのサイレンが鳴り響いている。
二人はあたりを見渡し、情報に会った茶色のクーペを探す。

「!」

刹那が止まっていた前の角を茶色のクーペが猛スピードで駆け抜けていった。

「目標を発見した。追跡に入る。」

『了解。こっちもすぐに追いかける。』

刹那はすぐさまアクセルを踏み、追跡を開始した。
広い道路に出たところで刹那はクーペの隣にバイクをつける。

「目標を確保する。」

刹那はバイクの窓をあけるとクーペへ向かって発砲する。
しかし、窓に当たったものの弾かれてしまう。
やはり、ただの車ではないようだ。

「チッ!」

刹那が舌打ちをすると同時にクーペは加速する。
そして、ある程度距離が離れたところで急にUターンして、もと来た道を走っていってしまった。
刹那もUターンをしようとするが小回りの利かない大型バイクのせいで上手くできない。
刹那はバイクをいったん止めて降りるとクーペの逃げた方向に銃を構える。
しかし、かなりの速さで逃げていたクーペはもうそこにはいなかった。

「クソッ!」

刹那はバイクに戻って追いかけようとするが、地元の警察に見つかってしまった。

「おい、なにをしている!」

刹那は服の下に銃を隠すと両手をあげて敵意がないことを示す。

「貴様、なにをしようとしていた?」

警官は銃口をこちらに向けてじりじりと近寄ってくる。

「別に。」

「IDを確認する……どうした早くIDを出せ。」

刹那の顔に焦りが浮かぶ。
自分がIDを持っていないことを知ったら、テロが発生したこの状況では怪しまれるだろう。
最悪、連行されて機密を掴まれてしまうかもしれない。

(やるしかない!)

刹那が服の下の銃に手を伸ばそうとした時だった。
隣の車線に黒いリムジンが止まり、中からサングラスをかけ、黒のスーツを着た男が出てきた。

「失礼。この少年は我々の連れなんですが。」

(!?)

刹那は驚きの声をあげそうになるがぐっとそれを飲み込む。

「あなたは?」

「こういう者です。」

警官は男のIDを見た瞬間、顔色を変える。

「し、失礼しました!」

警官が敬礼していると刹那の前の窓が開き一人の女性がやわらかな笑みを浮かべながらこちらを覗いている。

これが、刹那とマリナの初めての出会いだった。





市街地

「おいおい……あれヤバいんじゃねぇ?」

刹那の後を追いかけて、クーペを発見したユーノだったが、その後ろに刹那が警官に発見されてしまいもめている様子が見える。

「どうする……って、あれは……?」

刹那を助ける方法を思案していたユーノだったが、突然やってきたリムジンから黒いスーツの男が出てきて警官と話している。

(エージェント……?いや、違うな。)

その時、リムジンの後ろの席の窓があいた。
よく見ると刹那と何か話しているようだ。

「何話してんだ……って、えええぇぇぇぇぇ!!?」

ユーノは目の前の信じられない光景に思わず叫んでしまう。
刹那はバイクに乗るとそのままリムジンの後についていってしまったのである。

「何考えてんだ刹那!!」

ユーノもアクセルを踏んで二台の尾行を開始した。






市街地 自然公園

その後、二人は郊外の森林の中につくられた公園にいた。
野鳥の鳴き声が青々とした葉のグリーンと調和し、落ち着きのある空間だ。
そんな雰囲気に合わせるように二人はついてからもお互いに黙っていた。

「余計なことをしたかしら?」

長い沈黙をやぶったのはマリナだった。

「いや。」

「こんな場所で同郷の人と出会うなんて思わなかった……」

前日、マリナは保守派の重鎮が改革派によって負傷したとの連絡を受けていた。
市民の衝突に発展するのは時間の問題となり、その仲裁を務めるために帰国を余儀なくされていた。
しかも、今日はイギリス外務省と会談をするはずだったのだが、階段を執り行うホテルの近くでテロが発生した。
そこで、急遽場所を変更し、郊外のホテルへと向かっていたのだ。
そして、移動のために乗っていたリムジンから自分と同郷だと考えられる少年を見つけた。
疲労の極限にいたマリナにとって、彼の存在は多少なりとも心労を和らげるものとなった。
だが、彼女の予想は半分は当たりで、半分は外れていた。

「あなた、アザディスタンの出身でしょ?」

マリナは嬉しそうに顔をほころばせながら少年に問いかけるが予想だにしない答えが返ってくる。

「……違う、クルジスだ。」

「クルジス…!?」

少年の答えにマリナの顔から笑顔が消える。

クルジス共和国は6年前にアザディスタンの進行を受けて崩壊した。
アザディスタン領となってからもクルジスの出身者は当然のことながらアザディスタンの存在をよく思ってはいない。

そんな国の人間がクルジスの人間に出身地を聞いてしまったのは大きな失敗であろう。

「そ…そうなの……私、なんて言ったらいいか……?」

マリナはすまなさそうに視線を泳がせながら、かろうじて言葉を紡ぎだす。

「自己紹介してなかったわね。私、マリナ・イスマイール。」

空気を変えようと、マリナは自己紹介をする。

「カマル・マジリフ。」

少年は面倒だと言わんばかりに素気なく答える。

「この国には観光できたの?」

マリナは必死で話題を提供するが、少年はもうたくさんだといった様子で視線を外すと自分のバイクのほうに歩いていく。

「待って!もう少しだけお話させて……お願いだから。」

マリナは少年を呼びとめる。
彼が自分のことを認めたくないことはわかっている。
だがそれでも、わかりあう努力もなしに諦めてしまうことはどうしてもできなかった。

「…………」

少年は足を止めてマリナをじっと見据える。
その瞳にマリナはあるものを感じ取った。

(なんて鋭くて、悲しい目………)

まだ年端もいかない少年にもかかわらず鋭い眼光を放ち、何者も寄せ付けないような覇気をその身にまとっている。
それは戦う者の気配そのものだった。

「…………」

少年は黙ったまま手すりに近づき街を眺め始めた。
マリナはそれを承諾のサインと受け取り、少年の近くの手すりから街を眺める。

「私はね、外交のためにこの国に来たの。」

「外交…?」

「そうなの。カマル君も知ってると思うけど、アザディスタンは改革派と保守派に分かれて、国内は乱れているわ。」

マリナの顔がつらそうに歪む。

「石油の輸出規制を受けているアザディスタンを立て直すには太陽光発電システムが必要……でも、私たちの生活が悪くなったのも太陽光発電システムができたから……保守派の人たちはそれを快く思ってないの。」

マリナの顔がさらに悲しげなものになる。

「両者の対立を止めないと、彼らがやって来るわ……」

「……ソレスタルビーイング。」

マリナがうなずく。

「狂信者の集団よ。武力で戦争を止めるだなんて……。確かに戦争はいけないことよ、でも一方的に武力介入を受けた人たちが現実に命を落としているわ…経済が傾いた国もある……。彼らは自分たちのことを神だとでも思っているのかしら……」

「……戦争が起これば人は死ぬ。」

それまで黙っていた少年が静かに、しかし、はっきりとした意思を込めて言い放つ。

「介入の仕方が一方的すぎるって言ってるの!」

マリナはつい語気を強めて反論してしまう。

「話し合いもせず、平和的解決も模索しないで、暴力という圧力で人を縛っている。……それはおかしなことよ!」

「話してる間に人は死ぬ。」

「でもっ!!」

「クルジスを滅ぼしたのはアザディスタンだ……!」

マリナは少年の気に当てられ、思わず後ろに下がる。

「確かにそうよ……でも、二つの国は最後まで平和的解決を……」

「その間に人は死んだ!!」

さらに目つきを鋭くした少年を見てマリナは思い出した。
クルジスが終戦間際には成人だけでなく多くの少年兵を使い、無茶な戦いをしていたことを。

「カマル君、まさか………!?でも、戦いが終わったのは6年も前よ………あなたは、まだ若くて……」

少年の顔を見つめる。

「戦っていたの!?」

「今でも戦っている。」

「え……?」

「戦っている。」

「!!?」

マリナは少年と距離をとる。
アザディスタンに対して不満を持つクルジスの人間を、保守派が利用して自分を消そうとする可能性は十分にある。
だとしたら、この状況はまずい。

「あなた、保守派の!?もしかして私を殺しに!?」

だが、マリナの予想は思わぬ真実によって打ち砕かれることとなる。

「あんたを殺しても何も変わらない。世界も変わらない。」

「カマル君……」

「違う。」

「え……?」

少年はマリナにまっすぐ向かいあう。

「俺のコードネームは刹那・F・セイエイ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「ソレスタル…ビーイング………!?」

マリナの頭の中にさまざま疑問が浮かんでくる。
彼は何を言っているのか?
彼がソレスタルビーイングの一員?
ガンダムで人を傷つけてきた?

マリナはそれらを言葉にしようとするが、驚きのあまり声が出ない。

「紛争が続くようなら、いずれアザディスタンにも向かう。」

そういうと刹那は自分のバイクへと向かい、その場を後にしてしまった。
残されたマリナは地面に手を突き力なくうなだれる。

「そ…そんな……笑えない冗談だわ……」

「悪いけど、冗談でも何でもないよ。」

「!?」

マリナが後ろを見ると長髪にサングラスをかけた少年が彼女を見下ろしていた。
首には青く輝く宝石がかけられている。

(いつの間に!?)

マリナは慌ててたちあがり、謎の少年と距離をとる。
そして、SP達を探そうとすが、誰もいない。

「ああ、あいつらなら少し眠ってもらってる。殺しちゃいないから安心していいですよ。アザディスタン王国第一皇女、マリナ・イスマイール様。」

「あなたはいったい!?」

「刹那の仲間さ。ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、ユーノ・スクライア。以後、お見知りおきを。」

「そんな……あなたみたいな若い人が……」

ユーノがムッとした表情になる。

「別にいいでしょ。戦うのに年齢なんて関係ないですよ。」

「でもあなたたちみたいな子供が…」

「戦う理由があれば、誰だって戦士だ。銃を持とうが持つまいがね。あなただってそのはずだ。」

(この子は………!)

マリナは自分の心底を見透かされたようで驚いた。
彼女もまた望まないながらも自分なりの方法で戦っている。
アザディスタンのため、そこに住む民のために。

「ソレスタルビーイングにいる奴らは全員戦う理由を持って所属している。その思いを否定する理由は誰にもないはずだ。」

「でも、あなたたちのしていることは間違っているわ!」

「……確かにそうかもな。でもな。だからって、今この瞬間に誰かが傷ついていくことを認めていいことにはならない。」

「それでも……ううん、それならなおさら時間をかけてでも話し合いをするべきよ!」

ユーノはギリリと歯ぎしりをしてマリナをにらみつける。

「じゃあアンタはそいつらに、いつかなんとかするから今は我慢して死んでいけって言うのか!!!」

「そ……れは………」

「それでもあんたは話し合いだけでどうにかなるって言うのか!!俺やエレナや刹那のような存在を生み出してもそんなことが言えるのか!!」

ユーノの言葉に視線をそらしていたマリナだったが、なにかを決意するとユーノの顔をまっすぐ見つける。

「……それでも私は話し合うわ。確かにあなたたちの傷みを理解することはできないかもしれない……でも、言葉にしなくちゃ何も伝わらないわ!」

「そんなこと……!!?あぐ…う、あああぁぁぁぁぁ!!」

「!?ど、どうしたの!?」

頭を押さえて苦しみ出すユーノを見て、マリナは戸惑いながらも心配して駆けより、手をさしのべる。

(くぅ、ああ、ぐぅうぅぅぅ!!?)





ユーノの脳裏に二人の少女がビルの間に浮きながら対峙する光景が浮かぶ。
一人は黒い服を着た少女。
もう一人は白い服を着た少女。
そして、白い少女が喋り始める。

『…………言葉にしないと伝わらないこともきっとあるよ……』

(うるさい…うるさい……!)

白い少女は金髪の少女に語りかけている。
だが、ユーノは白い少女に今の自分を否定されているような気分になる。

『何も知らないでぶつかり合うのは、私……いやだ!』

(うるさい……うるさいうるさいうるさい!!!)

必死に少女の言葉を否定するユーノ。
すると、白い服を着た少女はいつの間にか金髪の少女の前ではなく、ユーノの前に立っていた。

『だから教えて……なんでこんなことをするの……?』

少女はユーノの頬に優しく手を伸ばす。
が、







「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「きゃっ!?」

ユーノはマリナの手を乱暴に払いのけるとフラフラと立ちあがる。

「……お前たちに何がわかる……!大切な人を奪われる気持ちが…お前たちなんかに…わかってたまるか……!!」

「ユーノ君……」

獣のように唸りながら自分を睨みつけるユーノを見て、マリナはただ悲しかった。
ユーノや刹那に何があったのかはわからない。
だが、二人とも抱えきれない傷を背負いながら生きている。
それでも自分にもできることがあるはずだ。

「……大丈夫。」

「あ………」

マリナは優しくユーノを抱きしめる。

「あなたや彼になにがあったかはわからないわ。……でも、あなたたちのことをわかってあげられるように努力することはできる……だから、教えて……」

「俺は……」

その時、ユーノの端末から呼び出し音が鳴り響く。

「!!」

ユーノはマリナの腕を振りほどくとそのままバイクが置いてある場所に走りだす。

「ユーノ君!!」

「悪いな!話はまた今度だ!」

マリナは走り去っていくユーノの後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。







AEU領 海上

刹那とユーノは王留美からの報告によって国際テロネットワーク、ラ・イデンラが一連の事件の犯人と知った。
そして、主要な拠点などの位置情報を受け取り、そのまま現地へと向かった。

「いた!」

刹那はターゲットである戦艦を発見する。
が、同行しているユーノの様子がおかしい。

「どうした、ユーノ?」

『なんでもない……っく!』

時折頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべるその様子はとてもじゃないがなんでもないとは言い難い。

「無理をするな。」

『わーってるよ。』

呻きながらユーノは刹那とともに戦艦に近づいていく。

「エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する。」

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する。」

二機は戦艦の上に勢いよく降り立つと、エクシアはブリッジを、ソリッドは格納庫と思われる場所を切り裂いた。

「ミッションかんりょ……」

二人が安心したその時だった。
ソリッドの足を水中からのびたアームががっちりと掴み、そのまま水中へと引きずりこんだ。

「うあああぁぁぁ!?」

「捕マッタ!捕マッタ!」

967があせった様子でユーノに告げる。

「ユーノ!」

刹那が水中に飛び込むと、そこには青いMA、シュウェザァイがソリッドを掴んでいる。

「ユーノ!早く反撃しろ!」

「う、あああぁぁぁぁ!!」

「ユーノ!?どうしたユーノ!?」

刹那は何度も呼びかけるが、ユーノは頭を押さえたままソリッドを動かそうとしない。
と、それまで様子をうかがっていたシュウェザァイが発射口を開き、魚雷を発射しようとする。
これだけ至近距離で魚雷を受ければ、ソリッドといえども無傷では済まないだろう。

「クッ!!」

エクシアはシュウェザァイに向かっていくがとてもじゃないが間に合いそうにない。

「クソォォォォ!!」

そして、魚雷は発射された。





?????

光の中で黒い長髪の男、967は外の様子を見ながらため息をついた。

『仕方がない。手伝ってやるか。』






AEU領 海上

シュウェザァイのパイロットはなにが起こったのかわからなかった。
突如動き出したソリッドは相手のアームを切り落とすと、そのままアームドシールドで防御したはずだった。
だが、爆発で生じた泡が消えるとそこにはシールドしか残っていなかった。

「いったいどこに!?」

あたりを見渡すがどこにもいない。
が、突然の衝撃が彼を襲う。

「な、なんだ!?」

「あれは……」

外から見ている刹那にはすべてが見えていた。
泡を利用して消えたソリッドが下からビームサーベルを突き刺しているのだ。

『……まだだ。』

ソリッドはビームサーベルから手を離すと、沈んでいっていたアームドシールドを掴み、再びシュウェザァイに向かって突進していく。
そして、バンカーモードに変えると同時に敵へシールドを叩きつけ、圧縮粒子を解放した。
凄まじい水流とともに、二つの穴をうがたれたシュウェザァイは飛んでいき、爆散した。

「……誰だ、お前は?」

刹那がソリッドによびかける。

「今の動きはユーノのものじゃない。お前は誰だ……!?」

ソリッドはエクシアのほうを向くと額の飾りから光通信を開始する。

「ユーノは無事……だが、意識はない!?」

それだけ告げるとソリッドは力なく沈み始める。
刹那は慌てて腕を掴むとそのまま海上に引っ張り上げる。

「ユーノ!おい、ユーノ!!」

『ん………ああ、聞こえてるよクロノ……』

ユーノの声を聞いた刹那はホッと胸をなでおろす。

「何を言ってる……俺は刹那だ………」

『あ、ああ!そうだったな!』

『ユーノ、ヨカッタ!ヨカッタ!』

ユーノは照れた様子で笑うがすぐさまコックピットの中を見渡す。

『刹那……ここに俺以外に誰かいなかったか?』

「わからない。だが、お前以外の誰かがソリッドを動かしていたのは間違いない。」

『……まさか?』

ユーノはパタパタと耳を動かす967を見る。

『あほらし……んなわきゃないか。』

「どうした?」

『いや、なんでもない。さっさと戻ろうぜ。』

そう言うと二人はその場を離れ、空高く飛んでいった。







AEU領 航空機

『姫様、フィンランド外務大臣との連絡が取れましたわ。もっとも、大した支援は期待できないでしょうけど……』

今のマリナにはシーリンの声は届いていなかった。
夕焼けでオレンジ色に染まった雲を見つめながら、スコットランドで出会った二人の少年のことを考えていた。
カマル・マジリフ……いや、刹那・F・セイエイ。
そして、ユーノ・スクライア。
あの時は彼らの話を信じてしまったが、よく考えてみればあんなに若い二人がMSで戦っているところなど想像できない。

「……まさかね。」

きっとたちの悪い冗談か何かだったのだ。
自嘲気味に笑い、彼らのことから頭を切り替えようとした。
その時だった。

「おい見ろ。MSだ。」

「どこの国のだ?」

マリナが声のしたほうを向くと白と青の機体、そして白と萌黄色の機体が飛行機と並ぶように飛んでいる。

「あの白いのは……ガンダムじゃないか?」

二機は飛行機の上にあがると天蓋窓からからこちらを見下ろしている。

「ガンダム……」

マリナはその二機が自分を見ているように思えた。
あの二人の少年が自分を見ている。
ばかばかしいと思ってもその考えが頭にこびりついて離れない。

二機のガンダムは徐々に距離を取り始め、そのまま星がちらつき始めた空へと飛び立っていった。


「もういいのか、刹那。」

「ああ。つきあわせてしまってすまない。」

「気にすんなよ。俺もあの人と接触しちまったし、ついてきたのも俺の勝手だ。」

刹那とユーノはそれぞれ過去の記憶をたどっていた。
刹那は彼女と同じ声の持ち主だった自分の母を。
ユーノは彼女と同じ思いを抱く少女のことを。

(……なのは。君も今の俺のやっていることを見たら、俺を否定するのか?)







ユーノの問いに答えてくれる者はいない。
彼が自らの記憶を取り戻さない限り、その答えは出ないのかもしれない。






あとがき・・・・・・という名の平謝り

ロ「というわけでマリナと接触する13話でした。毎度毎度グダグダですみません。」

刹「いきなり謝罪か?まあ、それでも足りないくらいだけどな。」

ア・ハ「「さぁ、お前の罪を数えろ。」」

ロ「それはよそ様のセリフだろ!!お前ら自分のキャラをどこに置いてきた!?」

ア「僕らは二人で一人の超兵だ。」

ハ「ハードボイルドにいくぜ!」

ロ「もうネタはいいって言ってんの!いい加減にしろや!!」

ティ「馬鹿は放っておいて今回のゲストを紹介する。鉄槌の騎士、永遠の幼女、ヴィータだ」

ヴィ「……なんか引っかかるものがあるが紹介ありがとう。」

刹「では、解説に行くぞ。」

ティ「今回はなかなか書くのに苦労したようだな。」

ハ「いつもも相当なもんだが今回のグダグダ感は別格だったな。」

ロ「………ホントにスンマセン。」

ヴィ「間違いなくボロクソにたたかれるな。」

ア「書くの停止に追い込まれたりして。」

ロ「不安にしないでくんない!?マジで一生懸命書いてんだからお前らだけでも優しくしてよ!!」

「「「「「断る。」」」」」

ロ「己らは鬼かぁぁぁぁぁ!!!」

ハ「まあ、次回はちゃんとするんだな。こんな物でも読んでくださってる皆さんがいるんだからな。」

ヴィ「そういや次回はオリジナルミッションだったな。」

ティ「ああ。だからここではあまり話せない。」

刹「ただ、ノイバーさんの意見を参考にすると言ってたな。」

ア「そうなんだ……って、えええぇぇぇぇぇぇ!!?あれはなんとかsecondまでとっといてパーっと派手にやろうって言ってたよね!?さっそく使っちゃっていいの!?」

ハ「いや、よくないだろ。」

ヴィ「うん、よくない。」

ティ「まったくだな。」

ロ「…………ノイバーさん、マジでごめんなさい。こんなところでさっそく使ってしまって。」

刹「せめてみんなが納得してくれるようなものに仕上げるんだな。」

ロ「もちろんだ!!なので、かなり更新が遅れるかもしれません。」

ハ「うわ、今のうちから防衛線張りやがったよ。セコイな~。」

ロ「うっさい!!そんだけ大事に仕上げたいんだよ!」

ヴィ「やれやれ……。それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければこれからも読んでいただいて、感想、ご意見をいただきたい所存です!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 14.牙をむく悪意(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/11 18:22
人革連領 インドネシア近海

月と星の明かりだけが照らす海にそれは浮いていた。
淡い光に照らし出された黒い船体は鈍く輝き、普通の船とは違い甲板と呼べるものはなく、ただ内部に出入りするための出入り口が上にあるだけだ。
そして、一般に潜水艦と呼ばれるそれに近づいていく一艘の小舟があった。
金属の塊である潜水艦に対し、木でできた小舟は何とも心もとなく見える。

「なんでわざわざこんなボロ船に乗らなくちゃなんねぇんだよ。」

「周りに警戒されないためだ。我慢していただきたい。」

船の先頭で夜になって一層冷え込んだ海風に当たりながらサーシェスは不満を漏らすが、舟を漕いでいる二人のうちの一人にいさめられる。
この二人組、肌はパッと見た感じでは地元の人間のように浅黒いものだが、はねたしぶきが当たったところから茶色の雫が垂れて白い肌が見えている。
どう考えてもまともなことをしている人間ではなさそうだ。

「ハッ!しかし、ソレスタルなんたらに派手にやられたって聞いてたが、まさかこんなもんを使って自分たちだけ逃げ出してたとはな。とんだ臆病もんどもだ…」

「なんだと貴様……!!」

もう一人の男が漕ぐのをやめてサーシェスを睨む。
だが、それでもサーシェスはふてぶてしい態度を崩さない。

「おっと、すまねぇな。本当のことは聞きたくなかったか?ククク……」

「どうやら死にたいらしいな!」

「おい、よせ!」

仲間の制止も聞かず男はポケットから銃を取り出すとサーシェスに向けるが、向けられている本人は薄く笑ったままとくになにかを構えるそぶりを見せない。

「おいおい、いいのか?俺を殺っちまったらお前らの欲しがってるもんは手に入らないぞ?」

引き金を引こうとした男の動きがピタリと止まる。
その顔は憤怒と悔しさが入り混じった醜悪なものになっている。

「クソ!!」

男は銃をしまうと再びボートを漕ぎ始めた。
もう一人の男も安心した様子で作業に戻った。

「サーシェスさん、こちらとしてもトラブルは避けたい。いたずらにメンバーを刺激するマネは控えていただきたい。」

「わーったよ。たく、冗談の通じねぇ奴だぜ。」

「しかし、本当なのですか?“あれ”を我々に譲ってくれると言うのは。」

「ああ。大マジだぜ。」

サーシェスはにやにやと、心底楽しそうに笑う。

「SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)……きっちり金を払ってくれりゃあ譲ってやるよ……」

「しかし、いいのですか?あなたの上の人間が黙っていないでしょうに。」

「なぁに、そこんところは上手くやるさ。それに、これがきっかけででっかい戦争が始まりゃ、俺としても連中としても万々歳さ。」

「…………」

男はサーシェスに空恐ろしいものを感じていた。
一歩間違えば世界が滅びかけないかもしれないにもかかわらず、自らの欲望につき従い、迷わず戦いを引き起こそうとしている。
気が狂っている、などという言葉で片付けることなどできない。

「ああ、それとあの約束も守れよ。」

「もしも戦闘が始まったら自分も参加させろというあれか?」

「おうよ。もし、これを止めに来るやつらがいるなら、その中にガンダムもいるはずだ。」

「鹵獲するつもりか。」

「いんや……」

サーシェスは立ち上がり、空を仰ぐ。

「連中の前で思い知らせてやるのさ……てめぇらのやってることがいかに無駄なのかをな!!ハハハハハハハ!!」

狂気に満ちた笑いは暗い空に消えていく。
だが、そこに込められた悪意はこの世界を確かに侵食しようとしていた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.牙をむく悪意(前編)

経済特区東京 某マンション

「ありがとな、沙慈。美味かったよ。」

「ああ…、どういたしまして……」

ユーノは沙慈に容器を渡しに行ったのだが、どうも様子がおかしい。
ユーノがいくら話しかけてもどこか上の空で、ボーっとしていたかと思うと突然びくりと体を震わせ、頭を押さえてうずくまるということを繰り返している。

「……何かあったのか?」

「……ちょっとね。」

沙慈は「ははは…」と力なく笑うとユーノに背を向け部屋へと戻ろうとする。

「悩みがあるなら聞くけど?」

その言葉を言い終わる前に沙慈はバッと振り向きユーノの手をとる。

「聞いてくれる!?」

「ま、まあ……アドバイスできる範囲なら……」

「本当かい!?ありがとう!!」

「お、おい!!」

沙慈は手を掴んだまま強引にユーノを自分の部屋へと連れ込んで行った。







宇宙 プトレマイオス

「ラ・イデンラも叩いたし、やっとみんな帰ってきますね。」

ブリッジで端末を操作しながらリヒテンダールがラッセに話しかける。

「ああ。ガンダムもそろそろ整備が必要になってくるころだろうしな。」

「それにしても、なんでうちらだけ居残りなんスかね?」

「なにか不満か?」

「当然すよ!!俺だって行きたかったのに!!」

グッと拳を握りながらリヒテンダールが熱く語り始める。

「だってあの三人の行くところって海の近くですよ!?期待してしまうのが男ってもんでしょ!!」

「それが理由か……」

ラッセはあきれた様子でため息をつくが、リヒテンダールの喋りは止まらない。

「きっと今頃、三人で水着を着て泳いだりとかして……」

「フェルトに関してはそんなことないと思うがな……」

二人でそんな馬鹿話をしていると、突然ヴェーダからの通信が入る。

「ん?これは……?」

さっきまで騒いでいたリヒテンダールだが、通信内容を見たとたんに顔が青ざめる。

「そんな、まさか!?」

「どうした?」

様子が変わったリヒテンダールを不思議に思ったラッセもそれを見る。
そして、彼の顔色も一変した。

「おいおい……なんの冗談だこりゃあ!?」

いま、悪意の残照が無垢なる人々に忍び寄ろうとしていた。







経済特区東京 某マンション 沙慈の部屋

「…………と、言うわけなんだよ。」

「……………あっそ。」

夕焼けの光で照らされたソファーに座りながら沙慈の悩みを聞いていたユーノだったが、正直なところバカバカしくなってきていた。
その悩みというのが、彼のガールフレンド(?)のルイスの母親が遥々スペインから日本に来たというものだ。
ルイスは母親の前で沙慈を彼氏と言ってしまったらしく、その場で猛反対を受けてしまい(加えて沙慈の“お母さん”発言によって)、微妙な空気になってしまったらしい。

「どうしたらいいと思う?」

「沙慈さんや……それって年下に聞くことじゃないと思うのは俺だけかね?」

「でも、他に頼れる人はいないし……」

「お姉さんがいるんだろ?」

「駄目だよ。姉さんはそっち方面には疎いから……」

ユーノは大きくため息をつきながら沙慈を見る。

(ハハハ……俺もこんな感じだったのかねぇ?)

完全ではないが彼女に、なのはに告白した時のことはうっすらと思い出していた。
一人では不安だったのか親友についてきてもらい、思いを告げたあの日。
そして、そのまま互いに顔を近付けていき……

「…………………/////」

「ど、どうしたの!?」

突然、両手と膝を床につけてうつむき始めたユーノに沙慈は心配そうに話しかける。

「いや…少し物凄く恥ずかしいことを思い出しただけだから………」

「そ、そう……(少しなのか、物凄くなのかどっちなんだろ?)」

しばらく経つとユーノはコホンと咳払いをして再びソファーに座る。

「まあ、俺に言えることがあるとすれば、お前がどうしたいって聞くことぐらいだな。」

「え?」

「え?じゃねぇっての。お前はそのルイスって子のことをどう思ってるんだ?ただの友達か?それとも好きなのか?」

「す……//////!!?!?」

ユーノのストレートな言葉に沙慈の顔が一気に紅潮する。

「それは……その……」

「あ~もう!好きなんだろ!?その顔見ればわかるっつの!!」

「え!いや、そんなこと……」

「あるんだろ。」

「…………うん。」

コクリとうなずくと、沙慈はそれきり顔を赤くしたまま黙ってしまう。
そして、しばらく二人の間に沈黙が漂う。
時間にしてみれば2、3分だったのだが、二人にとっては何時間も喋っていない気がしていた。
そんな沈黙をやぶったのはユーノだった。

「……沙慈、今の自分の気持ちは伝えたほうがいいぞ。あとで後悔しないようにな。(まあ、俺が言えた義理じゃないけどな)」

「けど……」

「母親に反対されようが何されようが自分の気持ちだけは誤魔化すなよ。……俺みたいになりたくないならな。」

「え……?」

それがどういうことか聞こうとした時、チャイムやノックもなく突然玄関のドアがバーンと勢いよく開いた。

「沙慈~~~~!!開いてたから勝手に入ってきちゃっ、た………」

ルイスは沙慈とユーノを見てその場で固まり、脳をフル回転させる。

(え、何この子?サングラスとかかけてちょっと変だけど、すっごい綺麗な髪してる。女の子?え、なんで沙慈が私以外の女の子と一緒にいるの?それってつまり………)

ルイスはある結論に到達する。
そう、とんでもない結論に。

「……………の。」

「?」

「沙慈の……浮気者ぉぉぉぉ~~~~!!!!!!」

「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!!!!?」」

いきなり突拍子もないことを言い始めるルイスに二人とも驚く。
しかし、ルイスはそんなことなどお構いなしに沙慈の襟を掴んでソファーから引きずりおろし、前後に揺さぶる。

「この子だれよ!!私というものがありながら~~~~!!」

「ご、誤解だよルイス!!この子はご近所さんで……」

「ご近所さんと浮気してたの!?サイテーーー!!」

「だから違うって!!」

「…………あの。」

ユーノは恐る恐るルイスに話しかける。

「なに!?沙慈の次はあなた……」

「いや……俺、男なんだけど。」

「………へ?」

ルイスは動きを止めて沙慈を見る。
あっけらかんとしたルイスの顔を見ながら沙慈は首を縦に振る。

「………男の子?」

「「うん。」」

「………浮気相手?」

「「違う違う。」」

ルイスは沙慈から手を離し、そのままソファーに座る。
そして、

「こんばんわ、沙慈♪」

笑顔であいさつする。
しかし、

「……あんたそれで今までの全部リセットできると思ってんの?」

「………無理かな?」

「うん。無理。」

その後、ルイスは床に正座したままユーノに30分近く説教をされることとなった。








30分後

「そっか。セイエイさんの知り合いなんだ。」

「うん。それで、この間おすそわけの時に渡した容器を返しに来てもらってたんだ。」

「嘘つけ。俺に恋愛のアドバイスを……」

「ワーーーワーーーッ!!」

「え?なに?」

「な、なんでもないよ!」

「……根性無しめ。」

ルイスが不思議そうな顔をする中、沙慈はユーノを呼んだ本当の理由を誤魔化そうと必死である。

「そう言えば今日は何で沙慈に会いに来たんだ?なんか急ぎの用みたいだったけど。」

「あっ!そうだった!!」

ユーノの言葉でルイスは本来の目的を思い出す。

「今晩、ママと一緒に料亭でお食事するの。だから沙慈も来て。」

「えええぇぇぇ!?」

ルイスの突拍子もない話に沙慈は驚いてしまう。

「ちょうどよかったじゃん。行っちゃえよ。」

「ユーノ!?」

「何がちょうどよかったの?」

「いや、こっちの話だ。」

ユーノは沙慈の耳元に口を近づけささやく。

(行ってきて“お母さん”に認めてもらってこいよ。)

(む、無理だよ!そんな急に!)

(男だろ!?覚悟決めちまえよwww)

(……なんか楽しんでない?)

(まあ、他人事だからな。)

(ヒドイよ!!)

(別にいいじゃん。)

「?二人で何してるの?」

「いや、沙慈がどんなカッコで行こうかって相談してきてさ。」

「ちょ………!?」

「じゃあ、来るのね!?」

ルイスの目がキラキラと輝き始める。

「そうそう。俺はこれでお暇するから、沙慈の服を選んでやってくれや。」

「ユ、ユーノッ!!」

沙慈は精一杯の声でユーノを呼ぶ。
が、

「沙慈……頑張れよ。」

ユーノは振り返るとニヤリと笑って部屋を出ていった。

「ユーーーノーーーーー!!」

「さ、服を選ばなくちゃ♪」

日が沈みかけた部屋の中にはウキウキと沙慈の服を選ぶルイスとこめかみに青筋を浮かべた沙慈が取り残された。








ユーノの部屋

「で、いきなり呼び出しってなんだよ?宇宙に上がって、トレミーでガンダムの整備じゃないのか?」

ユーノは刹那とともに自室でスメラギからの通信を受けていた。
スメラギの顔はいつも以上に緊張感に満ちている。

『その前にもう一仕事してもらうわ。』

「何があった?」

『……今しがた、各国家群の上層部にラ・イデンラの残党から犯行声明が届けられたわ。こんな画像と一緒にね。』

スメラギは二人の端末にある画像を送る。

「これは……ミサイル?」

刹那にはそれがなにかわからないようだったが、それを見たユーノが凍りつく。

「おいおい……!連中、弾道ミサイルなんてどこで手に入れたんだよ!?骨董品なんてレベルじゃねぇぞ!!」

「弾道ミサイルだと!?」

『SLBM……二日後のグリニッジ標準時の午後2時にこれをどこかに向けて発射すると言ってるわ。私も最初は信じられなかったけど、たぶんどこかが所持していたものを拝借してきたんでしょうね。どこも混乱を避けるために公表はしていないわ。』

22世紀にはいってからは、世界では核兵器の使用、所持、開発を原則禁止した。
これは核による抑止力に変わる新たな抑止力として高性能なMSが開発されてきたということもあるが、なにより使用した際に軌道エレベーターへのダメージが深刻なものになる可能性があることが最大の理由だろう。
しかし、それでもいまだに核兵器を秘密裏に所持している国は存在し続けていた。

『どこも海岸線の防備を固めたり、捜索はしているけど、とてもカバーしきれるものじゃないわ。』

「だが、いくらラ・イデンラが巨大な組織とはいえど、テロリストがそう簡単に核を手に入れられるとは思えない。」

「どっかの馬鹿がテコ入れしたってことか。」

『ええ。ヴェーダは形状から人革連に所属するどこかの国家が所持していたものと予測しているわ。ただ、仲介したのはおそらくモラリア……それも、PMCよ。』

「なんだと!?」

『彼らは平和事業と言う名目で廃棄された核兵器の処理や管理を行っているわ。おそらく、処理の依頼を受けたものを横流ししたんでしょうね。』

「そんなバカな……いくら連中でも金のためとはいえ、こんなバカげたことするはずが……!?」

ユーノはそこまで言って、ある男のことを思い出す。
刹那のほうを見ると、どうやら彼も同じ結論に達していたようだ。

(サーシェス……!!)

そう、奴ならやりかねない。
戦いを望み、殺戮を楽しむあの男ならやりかねない。

『PMCも今回の件に関しては関与を否定してる。AEUはもとより、それ以外の国家群も流石にそこまでのことはしないと考えてるみたい。』

「そんなもんやってたって否定するに決まってんだろうが!!」

『そうね……。でも、確たる証拠もなしでは彼らがかかわっていると決めつけることはできない……それが世界のルールってものなの。』

「クソッタレめ……!!」

ユーノが悔しそうに歯を食いしばる。

『悔しいでしょうけど、私たちは今できることをするしかないわ。彼らの目標がどこかわからないからマイスターズも散らばって情報収集や捜索をしてもらいます。刹那はアメリカ西海岸に、ユーノはミクロネシアに向かって頂戴。』

「おいおい、SLBMってことは、連中は潜水艦使ってんだろ?そんなもん見つかるわけないだろ!?」

『わかってる!!でも、今の私たちにはこれぐらいしかできることがないの!』

スメラギが珍しく声を荒げる。

『……ごめんなさい。戦況予報士の私がこんな調子じゃ駄目ね。』

「……いえ、こっちも熱くなりすぎました。」

「とにかく、すぐにでも奴らを探そう。まだ時間はある。」

刹那の言葉に二人はうなずく。

『ユーノ、今回はエクシアの探査能力を少しでも上げておきたいの。967やハロは他のマイスターに預けてもらうわよ。』

「了解。合流ポイントで渡します。」

『本当にごめんなさい。肝心な時に役に立たなくて……』

「そんなことはない。あんたの戦術にはいつも助けられている。」

「そうですよ。そんなこと言ってる暇があったら、スメラギさんはもしもの時のための戦術を考えてください。」

『もしものときね……。そんなことが起きないことを願うわ。』

そう言うとスメラギは苦笑しながら通信を切った。

「じゃ、行くか。」

「ああ。」

ユーノと刹那もガンダムのもとへと向かう。
悲劇を引き起こさせないために。






PMCトラスト本社

「どういうつもりだ!!あんなものをテロリストに渡すなど!!」

「あ~?」

PMCトラストの一室でスーツを着た男がサーシェスを怒鳴りつける。
だが、サーシェスはいつものラフな格好のまま机の上に足をのせ上の空といった様子だ。

「ただでさえ国際社会における我々の立場は先の戦闘の結果で危ういものになっているんだ!!そんな中であれを使われたら……」

「ククククク……心配すんなよ。連中には何もできやしないさ。」

サーシェスはそう言って端末を投げ渡す。

「これは………なるほどな。確かにこれなら……」

「そういうこった。せいぜい連中には、俺らの役に立ってもらうさ。ククク…ハハハハハハハ!!」

広い部屋の中にサーシェスの笑いが響いた。







一日後 グリニッジ標準時午前10時 発射まで残り28時間

ユニオン MSWAD本部 格納庫

「グラハム、出撃準備が完了したよ。」

「急ですまない、カタギリ、プロフェッサー・エイフマン。」

グラハムたち、フラッグファイターはカタギリとエイフマンに深々と頭を下げた。
弾道ミサイルによる攻撃予告を受け、グラハムは独断での出撃を決意した。
カタギリやエイフマンは反対したが、グラハムは頑として聞かなかった。
そして、二人は仕方なくフラッグの整備を急ピッチで進めることとなった。

「そう思うなら、いかないでもらいたいものじゃがな。」

「申し訳ありませんがそれはできません。何の罪もない多くの人間が犠牲になるかもしれない時に、指をくわえてそれを見たいることはできません。それに……彼らもおそらく来る。」

「ガンダム……」

エイフマンの言葉にグラハムは笑顔でうなずく。

「彼らも今回の件を黙って見ているはずがない。今度こそ口説き落として見せるさ。」

「やれやれ……君に付き合わされる僕たちは大変だよ。けど……」

カタギリはグラハム達を励ますように笑顔を向ける。

「そんな君だから最後までついていくことに決めたんだ。」

「フッ………その友情に感謝する。」

そう言ってグラハムたちはフラッグに乗り込んでいった。





大西洋海上

「どこだ……どこにいる……!?」

デュナメスとロックオンは大西洋上を飛行しながら捜索をしている。
普段はコックピットの右前に相棒のハロがいるのだが、今は刹那と行動しているためいない。
デュナメスは狙撃戦を想定して作られているため、センサー類が他のガンダムに比べ優れているのでハロなしでもそこそこの探査能力を発揮する。
だが、流石にこの大海原で目的の潜水艦を発見するのは容易ではない。

「クソッ!!早く見つけねぇと……」

その時、コックピット内にアラームが響く。

「チッ!またかよ!!」

デュナメスの後方からヘリオン部隊が接近してくる。

「お前らも探しもんは一緒だろうが!邪魔すんじゃねぇ!!」

ロックオンは水面に背を向けるとヘリオン部隊に対しビームピストルを連射する。
ヘリオン達は光弾の嵐をかわしきれずにあえなく撃墜された。

「今ので四回目か……嫌んなるぜ、まったく……」

各国家群は犯行予告を公表こそしなかったが捜索自体は行っていたので鉢合わせになってしまい、ロックオンは彼の意思とは関係なく戦闘を行ってしまっていた。
もっとも、どこもテロの阻止と同時にガンダムの鹵獲を考えているのだから当然と言えば当然かもしれないが。
だが、この状況下でこんなことをする者たちに対してロックオンが落胆しないはずがない。

「そんなに世界を守るより俺たちの相手を優先したいかよ……!」

ロックオンの悔しさのにじむ声にこたえてくれる者はいない。
だが、それでも彼は捜索をやめない。
彼が体験したものを二度と引き起こさないために……。





グリニッジ標準時午後1時 残り25時間

インド洋海上

太陽の光を反射して輝く海面に戦闘機の影が走る。
その戦闘機、キュリオスの中でアレルヤは疲れた顔をしていた。
彼はキュリオスの機動性を生かし、他のガンダムよりも捜索範囲が広いインド洋と太平洋の西側を担当していたが、捜索範囲が広いということはその分他に比べ消耗も激しくなってしまう。
そんな中で休憩をはさんでいると言っても、もう14時間以上も捜索を続けているのだ。

「エージェントからの情報がないだけでここまで後手に回るなんて……」

これまでのミッションではエージェントやオペレーターからの情報提供のおかげでスムーズに事が運べたが、今回は情報は全くなし。
だが、時間もないという最悪の状況だ。

『チッ!こんなめんどくせぇことさせやがって……見つけたら根絶やしにしてやる!!』

ハレルヤが頭の中ですんなりと戦えない不満と怒りを漏らすが、今のアレルヤはそんなことに構っている余裕はない。

「頼む……間に合ってくれ!!」

アレルヤは気を引き締め直すと、祈るような思い出捜索を再開した。





太平洋中央部

青で満たされた海中を黒と白でカラーリングされたヴァーチェがゆっくりと進んでいた。

「残り24時間37分……。ヴァーチェ、捜索を継続する。」

「急ゲ!急ゲ!」

ティエリアは淡々と作業を進めるが、967はそんな彼とは対照的に焦っているようである。

「問題ない。967は現在の探索深度と範囲を継続。」

「急ゲ!急ゲ!」

自分の言葉を無視して急かし続ける967にとうとう我慢できなくなったのかティエリアは声を荒げる。

「いい加減にしろ!!焦ったところでどうにもならないんだ!今はエージェントと協力して捜索に専念するしかない!」

ティエリアの怒った声を聞いて967は嬉しそうに耳をパタパタさせる。

「ヤット怒ッタ!ヤット怒ッタ!」

「?」

「ユーノ言ッテタ!ティエリア、怒ラセル。ティエリア、リラックス。イイコト!イイコト!」

(……あとで覚えていろ、ユーノ・スクライア!)

ユーノへの復讐を誓いながら、なんだかんだでリラックス(?)できたティエリアはそのまま捜索を続行した。





グリニッジ標準時午後3時 残り23時間


太平洋西部

「ハロ、捜索深度をさらに深くしてくれ。」

「了解!了解!」

刹那は海中での操作に慣れないながらも捜索を続けていた。
海中から探していることもあってMSに遭遇することはなかったが、もともとエクシアはこういった任務に向いていない機体である。
ハロのサポートがあるといっても楽なものではない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。

(もし、奴が……サーシェスがからんでいるなら、放ってはおけない!!)

刹那は無意識に操縦桿を握る力を強くしながらエクシアを操縦していく。
その時、コックピット内にアラームとハロの声が響く。

「海上ヨリ攻撃!」

「なに!?」

海面からドラム缶のようなものが落下してくるとエクシアの周りで爆発する。
その衝撃でエクシアは体を揺さぶられる。

「クッ!!」

「6時方向ヨリ敵機接近!!」

刹那はたまらず海中から海面に飛び出すと、待ち構えていたフラッグが斬りかかってきた。

「そこだ!!」

「やらせるかよ!!」

エクシアはとっさにビームサーベルを抜いて防ぐが、今度は後ろから別のフラッグが斬りかかる。

「おおおおぉぉぉ!!」

「クッ!」

今度は左手で腰に装備されたGNブレイドでブロックする。
ちょうど左右両側から挟まれたような体勢で二機のフラッグと鍔迫り合いをするエクシア。
剣からはパチパチと小さな火花が散っている。

「この程度……グァッ!?」

刹那が二機を振り払おうとした瞬間、正面から弾丸が飛んできてヒットする。
致命傷ではないが強烈な一撃に吹き飛ばされ、そのまま数十メートルを慣性に従って移動してしまう。

「あれは…!」

刹那が顔を上げると、そこには以前タリビアでのミッションの撤退時に追跡してきていた黒いフラッグがいた。

『隊長、おいしいとこだけ持ってかないでくださいよ。』

「スマン、スマン!だが、まだ活躍の機会はあるようだぞ、ダリル。」

『あれをくらって無事なんて……呆れた装甲ですね。』

「おそらくあれは接近戦主体の機体なのだろう。他のものに比べ、ある程度装甲は厚いだろうな。」

黒いフラッグのパイロット、グラハムは努めて冷静に話そうとするがどうしても喜びから興奮した口調で喋ってしまう。
よもや、こんなところでガンダムと、しかも白と青のガンダムに会えるとは思っていなかった。

そんなグラハムとは裏腹に、刹那の心は怒りで埋め尽くされていく。

「こいつらは……!!」

あと一日ほどで核が発射されるかもしれない。
にもかかわらず、奴らはこうして自分と戦おうとしている。
なぜだ……

「なぜ……お前たちは戦おうとする!!」

「刹那ヤメロ!刹那ヤメロ!」

ハロの制止も聞かず、エクシアは弾かれたように飛び出すと黒いカスタムフラッグにビームサーベルを振るう。
しかし、カスタムフラッグは急速にバックしてそれをかわす。
が、

「まだだ!!」

今度は左手に握ったGNブレイドをフラッグの顔めがけ突き出す。
しかし、

「甘いな!!」

グラハムは左利きの彼に合わせて右腕に装備されたディフェンスロッドが回転させ、GNブレイドの柄にぶつけてそのまま弾き飛ばした。

「な!?」

「ノーマルフラッグとは違うのだよ!ノーマルとは!!」

カスタムフラッグは続けざまにエクシアの顔を蹴り飛ばして距離をとると、リニアライフルを連射し始める。
すると、それまで様子をうかがっていた二機もライフルを発射する。

「グ、アアアアァァァ!?」

「装甲表面ヲ損傷!」

エクシアはそのまま棒立ちのような状態でライフルの掃射を受け続ける。
しかし、刹那の闘志はそれに比例するかのように激しく燃え上がっていく。

(変わらない……あの時から何一つ変わっていない!!)

力に任せすべてを蹂躙する者たち。
たとえ誰かが傷つくとわかっていても、戦い続ける者たち。
そんな世界を変えるために、もう自分のように戦うことしかできないものを生み出さないように。
だから、

「俺は……生きているんだぁぁぁぁぁ!!」

エクシアは背部からダガーを抜くと斜め後ろにいる二機のフラッグめがけ投げつける。

「クッ!」

「こいつ!」

ハワードとダリルはとっさに避けるが、その瞬間射撃が止んでしまう。
その隙を刹那は見逃さなかった。

「はあああぁぁぁぁ!!」

GNソードの刃を素早く起こすと二機のフラッグのライフルを斬り捨てる。

「おのれ!!」

それを見たグラハムはソニックブレイドを抜き、エクシアへと向かってくる。

「ハロ、姿勢制御ならびに照準合わせ開始!」

「了解!了解!」

ハロの声と同時にディスプレイに照準ポインタが現れる。
刹那はGNソードをライフルモードに変えて、狙いをつける。

(上だとディフェンスロッドに防がれる。狙うとしたら……足元!!)

ポインタと目標が重なった瞬間、刹那は引き金を引いた。

「エクシア、刹那・F・セイエイ、目標を狙い撃つ!」

銃口から放たれた光はカスタムフラッグの左足に当たり、体勢を崩させた。

「クッ!小癪なマネを!」

グラハムは体勢を立て直すが、その間にエクシアは間合いを詰めていた。

「う、おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

咆哮とともに振られたGNソードはカスタムフラッグの右腕を斬り落としていた。

「おのれ……よくも私のフラッグを!!」

グラハムは激情に任せ突っ込もうとするが、ダリルとハワードにとめられる。

『隊長、いったん引きましょう。このままじゃ流石に……』

『悔しいですが、今回はここまでです。』

「……了解した。」

グラハムはしぶしぶ基地への帰路に着いた。

「この屈辱……忘れんぞ、ガンダム!!」

彼方へと去っていくフラッグを刹那は肩で息をしながら見つめる。
その目には先ほどまでの怒りではなく、悲しみを宿している。

(なぜだ……なぜ、ここまで世界は歪む……)

自分たちが紛争を根絶するために戦うほどに、この世界は悪意に満ちていく。
すぐには世界は変わらないとわかっていた。
わかっていたはずだった。
だが、それでもやるせない気持ちはぬぐえない。

『話し合いもせず、平和的解決も模索しないで、暴力という圧力で人を縛っている。……それはおかしなことよ!』

(!!)

ふと、先日会った彼女の言葉を思い出す。

(マリナ・イスマイール……)

マリナはあくまで話し合いで平和を掴もうとしている。
自分たちとは正反対の“戦い”をして。

(俺たちは……間違っているのか……?)

刹那の心に迷いが生まれる。
だが、それでも彼は力を振るって戦うことしかできない。
彼女のようにはなれない。

(それでも止まれない……止まるわけにはいかないんだ。)

「捜索続行!捜索続行!」

「……了解。エクシア、ミッションを続行する。」

刹那は操縦桿を前に倒し、再び海中にエクシアを沈めていく。
生まれた疑問をその胸に抱きながら……







グリニッジ標準時午後4時 残り22時間

インドネシア 市街地

「で、なんで俺らだけこんなところを歩いてるんだ?」

「……………」

赤道近くの太陽の光を浴びながらユーノとフェルトは地道に聞き込みを(主にユーノが)続けていた。
フェルトはモラリアの時と同じ軽装で来ているのだが、ユーノはいつものジャケットにジーパンだったので汗が止まらなかった。

「………アッチィ~。」

「…………………」

「……あのさ、フェルト。なんか喋ってくんない?」

「…………………」

このミッションに同行してきたフェルトだが、ユーノとはいまだに言葉をかわしていない。

(……やっぱ嫌われてんのかな~、俺?)

と、そんなことを考えながら歩いていると二人の男が話しながらこちらに近づいてきた。

「それにしても妙な奴らだったな~。」

「ああ、あんなに食糧買い込んでどうすんだか。」

(食糧?)

ユーノは引っかかるものを感じ、その二人に話しかける。

「すいません。その人達ってどんな感じでしたか?」

「ん?あんたは?」

「旅行者です。俺たち連れとはぐれてしまって。もしかしたら、その人たちがそうじゃないかなって……」

「ああ、そうかい。もしそうならあれも納得だな。」

「?どういうことです?」

ユーノの疑問にもう一人の男が答える。

「いや、この時期にあんなに食いモンを買い込むなんて地元の人間にしちゃおかしいと思ったんだが、客が来てたんなら納得だ。」

「……どんな人たちでした?」

「ああ、二人ともがたいが良くて……それから、ヨーロッパ訛みたいな喋り方をしてたな。」

「そうですか。ありがとうございました。」

二人と別れを告げた後、フェルトはすぐさまスメラギに連絡を入れる。

「こちら、フェルト。ユーノが地元住民から入手した情報によると、ラ・イデンラのメンバーと思われる二人組が目撃されていました。確認を行った後、また報告します。」

『了解!相変わらずユーノの引きの強さには感心するわ。』

「それ喜んでいいんですか?」

ユーノは苦笑しながら返事をする。

『いいことじゃない。少なくともこんなことをしているときは。』

「ははは…そらどうも……。それじゃまた。」

会話が終わったことを確認するとフェルトは通信を終了した。

「そんじゃ、捜索再開といきますか。」

「了解。」

「……初めてかけてくれた言葉が『了解』って………なんか悲しい。」

「?なんで?」

「いや、わからないならいいんだ……ははは……」

「?」

フェルトは不思議そうな顔のままとぼとぼと歩くユーノの後ろをついていった。
と、大きな通りに出たところでユーノの視界に見知った人物が写る。

(あれは……!?)

金色の髪をし、手には黒い拘束具のようなものをした男と銀色の髪をした眼鏡の女性。
銀髪の女性はこちらに気付いていないようだが、金髪の男は人ごみの向こうからこちらを見て不敵な笑みを浮かべている。

「どうしたの、ユーノ?」

「……フェルト、悪いけど一人で捜索を続けていてくれ。」

「あっ!ユーノ!」

フェルトは引き留めようとするが、ユーノはそのまま人ごみへと走り出した。






裏路地

(確かここに……)

ユーノは表通りから外れた裏路地にやってきていた。
昼間にもかかわらず日が差しておらず、じめじめとした地面からはごみの腐ったようなにおいがする。

(なんで奴がここに……って!!)

ユーノが一歩進んだところで上から黒い影が襲いかかってきた。
影は拳を振りおろしてくるが、ユーノはバックステップでかわし、右脚で蹴りあげる。

「らぁっ!!」

「あげゃ!!」

影はユーノの足を掴んで防ぐと、そのまま投げ飛ばした。

「っ!!」

ユーノは空中で態勢を立て直し、なんとか地面に着地する。

「あげゃげゃげゃ!操縦だけじゃなくて生身でもそこそこやるじゃねぇか。」

「……なんでお前らがここにいるんだよ、フォン。」

かすかに差し込んだ光に照らし出されているのはフェレシュテのガンダムマイスター、フォン・スパークその人だった。
その手には、普段は彼の自由を奪っている拘束具が解除されている。

「今回のミッションはあなたたちだけでは困難だと判断したヴェーダが私たちをバックアップとして送り込んだの。」

フォンの後ろから銀髪の女性、シャルが現れる。

「なるほどね。でも、なんでまたこんなところに?」

「あげゃ!ここには奴の古い知り合いがいるからな。」

フォンの言葉にユーノは固まる。

「奴ってまさか……」

「アリー・アル・サーシェス。今回の騒動を仕組んだのは奴さ。」

「やっぱり……!!」

「足取りはこちらである程度掴んでおいたわ。あなたは情報をマイスターズに…」

「……ユーノ?」

「「!?」」

「あ゛?」

三人は声のしたほうを振り向く。
そこには、ユーノのあとをつけてきていたフェルトがいた。

「フェ、フェルト…こ、これはだな、その、なんというか……」

ユーノは必死に言い訳を考えるが、なかなか思いつかない。

「あげゃ。もう俺らのことばらしちまえばいいじゃねぇか。」

「いや、駄目だろ!!シャルもなんとか言って…………?」

ユーノがシャルに同意を求めるが返事がない。
振り向いて見ると蒼白といった様子がぴったりくるほど顔が青く、細かく体を震わせている。

「あなたたちは……?」

「あ………わ、私は……」

フェルトの問いかけにもまともに答えることができない。
普段の彼女からは想像もできない姿だ。

「あげゃ……そうか、お前がフェルト・グレイスか……。よかったじゃねぇか、シャル。」

フォンがにやにやと笑う。

「お前のお仲間の娘に会えてよ。」

「仲間……?」

普段は無表情なフェルトが珍しく驚いた様子でシャルに駆け寄り、服を掴む。

「お、おい!フェルト!?」

「あなたも第二世代のガンダムマイスターなんですよね!?だったら、お願いだから教えてください!母さんと父さんは……マレーネ・ブラディとルイード・レゾナンスはどうして死んだんですか!?」

「それは………」

「教えて……お願いだから……」

うつむくシャルを掴むフェルトの声は震えている。

「教えて……ください……ひっく……お願い、します……」

シャルはうつむいたまま答えることができない。
空からはぽつぽつと雨が降ってきたが、誰ひとりとしてその場を立ち去ることができなかった。







かつて少女だった者は、自らを縛る過去と向き合う。
今進むべき道を踏み外さないために。








あとがき・・・・・・・という名の自爆

ロ「オリミッション1の前編でした。なんかかなり長くなりそうだったので前後編に分けました。」

ユ「で、本音は?」

ロ「……スンマセン、長くなりそうだったのもありますが、テストと被ってしまったのでそちらを優先します。ホントにごめんなさい。」

フォ「あげゃ!軽く死んどけ。」

ロ「死ぬか!!secondを書くまでは死ねんよ!!」

シャル(以降も変わらず)「まあ、それは勝手だけど。さて、今回のゲストは盾の守護獣、眉毛犬、ザフィーラさんです。」

ザ「紹介にあずかったザフィーラだ。というか眉毛犬ではない!!」

ロ「うっさい、眉毛犬。」

ザ「違うと言っている!!」

シャル「まあまあ……さて、解説行きますか。そう言えば今回、書かないとか言ってたくせに私とフォンをフェルトに会わせちゃったわよね。」

ロ「まあ、これは俺も正直どうしようかと思ったけどこの後の展開につなげやすそうだったからな。」

ユ「この後?」

ロ「ロックオンのロリコン疑惑(笑)」

ユ・フォ・シャル「「「ああ……」」」

ザ「なんのことだ?」

ユ「まあ、いろいろあるんですよ。」

ロ「そして、正直SLBMを出したことに一番ひやひやしてる。」

シャル「なにせ名前を聞いたことがあるだけで、あとは必死で調べた付け焼刃の知識だからね。」

ロ「なんか矛盾が出てたらごめんなさい。直せる範囲で直していきたいと思います。」

フォ「しかし、もう後編の構成はできてるくせにテストなんぞのために完成を遅らせるとはな。」

ユ「え!?じゃあ、すぐにでも書けよ!!」

ロ「……赤い彗星をやり過ごしたらな。」

ザ「素直に赤点とりたくないと言え。」

ロ「うるさい!あいつらは3倍の速さで俺の回答時間を奪ってくんだよ!!」

シャル「それ普通にあなたの勉強不足でしょ。」

ロ「だからこれ書き終わったらすぐにでも勉強開始さ!ノイバーさん、完成はまだ先になりそうですが、テストが終わったら速攻で仕上げますのでお楽しみに。」

フォ「じゃ、そのかな~~~り先になりそうな次回を予告するか。」

ザ「いよいよ現れる敵とマイスターズは戦闘を開始する。」

ユ「だがそんな中、次々に起こるアクシデント!」

シャル「はたしてミサイルの発射は阻止できるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださった皆さんに心からの感謝をさせていただきます!本当にありがとうございました!!では、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 15.牙をむく悪意(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/04 00:31
インドネシア 某ホテル

「落ち着いたか、フェルト?」

ユーノは雨で濡れた髪を拭きながらフェルトに問いかける。
だが、フェルトはうつむいたまま答えようとしない。
シャル達が手配していたホテルに着いてからも髪も拭かずに黙ったままだ。

「髪ぐらい拭けよ。ミッション前に風邪ひくなんざシャレになんねぇぞ。」

「………………」

ユーノはため息をつくとフェルトの髪を乱暴にゴシゴシと拭き始めた。
女性の髪を拭いたことなどないユーノが拭いているので、フェルトの髪はクシャクシャに乱れていく。
クリスティナがこの場にいたらユーノを烈火のごとく叱りとばすだろうが、フェルトは放心したまま大人しくしている。

(……ま、気にすんなって方が無理か。)

自分の両親の死に関わっているかもしれない人間がここにいるのに、それを知ることができないのだから、言葉では言い表せないほど辛いだろう。

「俺はこれからシャル達のところに行って情報を聞いてくる。帰ってくるまでに着替えを済ましとけよ。」

「………………」

フェルトがうなずくのを見た後、ユーノはフェルトの様子を気にしながら部屋を出た。
扉を閉めると、そのまま扉に寄りかかり天井を見上げる。

「フェルトがあの調子じゃ、ホイホイと出撃できないな。」

そう呟きながら先ほどのシャルの様子を思い出す。
あの時の彼女はフェルトを見て明らかに動揺していた。
間違いなく何かを知っている。

(……聞いてみるしかないだろうな。答えてくれるかどうかはわからないがな。)

ユーノは少しあきらめを抱きながらもシャルの部屋に向かった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 15.牙をむく悪意(後編)

シャルの部屋

シャルは普段着からホテルに用意されていたバスローブに着替えベッドに座っていた。
ホテルに着いてからシャワーを浴びたもののいまだに震えが止まらない。
雨の冷たさからくる震えではない。
そうわかっていながら熱いシャワーをずいぶん長い間浴びていた。
だが、寒さを洗い流すことはできても、自身の過去を洗い流すことはできなかった。

(……なんで?なんであの子がここに………)

涙をたたえながら自分を見上げていた瞳を思い出す。
秘匿義務があるため、娘である彼女にもあの日の真実は知らされていないだろう。

(私が……私とプルトーネがあの子の両親の命を奪ってしまった。)

本当はあの場ですべてを打ち明けたかった。
だが、できなかった。

(秘匿事項を守るため……?違う、私は怖かった……あの子に真実を告げるのが……)

真実を告げれば彼女は間違いなく自分を恨むだろう。
あの日から憎まれて当然だと覚悟していたはずなのに、いざ彼女を目の前にすると自分の中にある覚悟も信念も、何もかもがぐらぐらと揺らいで崩れてしまった。
ふと、テーブルの上にある髪飾りに目が行く。
自分のせいで命を落としてしまった仲間、マレーネ・ブラディの遺品だ。
それを手に取るとぎゅっと抱きしめ、ここにはいない彼女に問いかける。

「マレーネ……私は、どうすればいいの?私の罪があの子を追い詰めているのに、私は何もできない……してあげられない……!」

涙が自分の意思とは関係なく零れ落ちようとした。
その時、扉がノックされる。
シャルは慌てて涙を拭き、いつもの表情に戻そうとするがなかなか戻ってくれない。

「シャル、入るぞ。」

「あげゃ。いちいちそんな面倒なことをすることなんざねぇ。」

「あっ、おい!」

扉の鍵が外され、乱暴に開かれた。
開かれた扉の前には額に手を当てて呆れているユーノと874を持ったフォンが立っていた。

「わ、悪いなシャル。急に来ちまって。」

「いえ、ちょうど情報を伝えようと思っていたところだったから……」

シャルは端末からメモリを抜きとりユーノに渡す。

「ここに敵の足取りと予測到達ポイントが記録されているわ。」

「ああ、サンキュー。」

ユーノはメモリを受け取ると扉の前まで歩いていくがノブに手をかけたところで立ち止まる。

「いいのか?聞きたいことを聞かなくて?」

フォンが不敵な笑みを浮かべながらユーノの顔を覗き込む。
ユーノはノブから手を離してシャルを

「……シャル。フェルトの両親の死について知ってることを聞かせてくれ。」

ユーノの言葉にシャルがビクリと肩を震わせる。

「それは……できないわ。秘匿事項を許可なしに話すことは………」

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!違うだろシャル!お前が話せないのはそんなもんのせいじゃない!お前自身が過去を恐れているからだ!過去がお前の今を壊してしまうことが恐ろしくてしょうがないんだろ!?」

「違う……私は……私は……」

フォンがさらに言葉を放とうとするが、ユーノがそれを遮った。

「シャル、あんたの過去に何があったのかは知らない。だけど、言ったはずだ。俺は仲間を守るために戦ってるんだ。だから、お前とフェルトを守るためにも教えてくれ、お前の過去に何があったのか。」

「………わか……」

「それは許可できません。」

「!?」

突然フォンが持っていた874から普段の合成音とは違う声が発せられる。
874はフォンの腕の中から落ちると口の部分が割れる。
そして、中から水色の髪をした少女が光とともに出現した。

「お前は………?」

「874……」

「874!?こいつが!?」

シャルの言葉に驚くユーノ。

「874ってハロの一種じゃなかったのか!?」

「正確に言うと少し違います、ユーノ・スクライア。」

「……彼女も私と同じ第二世代のガンダムマイスターよ。」

「マイスター!?こんなチビが!?」

「あげゃ。お前らだってソレスタルビーイングに入った時はこんなもんだったろ。」

「いや、だって第二世代のマイスターってことは……」

そう、第二世代のマイスターということは間違いなくユーノより年上のはずなのだ。
だが、目の前にいる女の子はどう見ても年下だ。

「私はあなたが思っているような存在、つまり人間ではありません。」

「じゃあなんだってんだよ?」

「私はヴェーダとフェレシュテをつなぐ端末にすぎません。」

「俺の期待してた答えと違うんだけど。」

「それ以上はあなたの権限では知ることはできません。」

「またそれか……でも、なんとなくわかるよ。喋り方や気配からわかる……確かに人間じゃない。」

ユーノの中には確信めいたものがあった。
彼のかすかな記憶の中にある彼女たちも人間の形こそ取っているが、どこか浮世離れした感じが残っていた仲間も人間ではなかったはずだ。

(もっとも、じゃあヴィータ達はなんなんだよって話なんだけどな。)

「とにかく、シャルの過去を教えることはできません。」

「ヴェーダの決定だからか?」

「そうです。」

ユーノは呆れた顔で頭をガシガシと掻く。

「お前はお前だろ?ヴェーダの端末だろうがなんだろうが自分の意思ぐらいあるだろ。お前の意思で教えたくないならまだ納得できるけど、ヴェーダに従ってるだけってのは気にくわないな。」

「私は……」

「ただの端末だってか?違うな。お前は間違いなくヴェーダから独立した思考を持っている。なのになぜ自分で考えて行動しない?」

「論点がずれているように思われますが?」

「あいにくと俺にとっちゃこれもシャルの話を聞くための重要なことなんでな。」

874は無表情のまま肩をすくめて笑うユーノを見る。

(参照した情報と違う……)

874が事前に見ていた情報ではユーノ・スクライアは情報処理能力に特化し、あくまで合理的な行動をとる人物だと聞いていた。
だが、今目の前にいる人物はミッションや彼自身には関係のない話にこだわっている。
ヴェーダの情報が間違っているのか、それともヴェーダですら測れない何かが彼にはあるのだろうか。

874はヴェーダと繋がり、報告を行う。
そして、ヴェーダに秘匿事項を教えることの許可を申請する。
より、彼を理解するために。

「……ヴェーダに許可をとりました。シャルの過去を知ることは許可します。」

「おいおい、いきなりだな。」

「あなたの当初の目的が果たせるのだから問題がないように思われますが?」

(……874の正体を知られたくないから、秘匿レベルの低いものを教えて誤魔化すつもりか?だが、そんなことであのポンコツコンピューターが許可するとは思えないがな?)

「ただし……」

874の言葉でユーノは思考の海から現実に引き戻される。

「このことはシャルから直接話してもらうことが条件です。」

「「!?」」

予想しない言葉にシャルとユーノの顔に困惑の色が浮かぶ。
だが、874はそれだけ言うと再びハロの中に戻ってしまった。
シャルから話すように決定したのはヴェーダではなく874自身だ。
あくまでユーノのことをより知り、ヴェーダにデータを送るためにした行動である。
彼女はあくまでそう思っているが、それがユーノの言う自らの意思だということをこの時の彼女は知る由もなかった。







廊下

フェルトは予備の服(モラリアでのミッションの時にクリスティナに連れまわされて買わされたもの)に着替え、廊下に出てユーノを探していた。
いまだに沈んだ気分は晴れないがソレスタルビーイングの一員としての自分が自然とシャルの部屋へと足を進めさせる。

(何やってるんだろ、私………)

ソレスタルビーイングの一員になる時に過去はすべて捨てたつもりだった。
だが彼女を、フェレシュテという組織のシャル・アクスティカに会った時、今まで押さえこんでいたものが一気にあふれ出した。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
自分はユーノをサポートするためにここにいるのだ。
それ以外のことなど気にする必要などない。

(うん……あの人がなんであっても関係ない。)

フェルトは頭を振るとシャルの部屋の前へと歩を進める。
フェルトが扉を開けようとノブに手をかけようとした時、中から話し声が聞こえた。

「わかったわ、あの日……彼女の両親が死んだときの真実を教えてあげる。」

(!!!!)

フェルトはノブに手をかけようとしている体勢のまま固まってしまう。
かなり古いホテルのため、声が外にもだだ漏れだ。
本来ならかなりまずいのだが、もともと人通りが少ない場所に建っていて、客が少ない。
しかも、エージェントによって人払いも行われているので今日泊まっている客は皆無に等しい。

「…………」

フェルトはしばらく考え込んでいたが、すぐにドアに耳をあてて中の話し声を聞き始めた。






シャルの部屋

「あの日、私たちは人革連の軌道エレベーターに対するテロを食い止めるためにある作戦を行うことを決めたの。」

シャルが静かに、しかし、はっきりとした声で話し始める。

「当時、まだガンダムの存在を知られるわけにはいかなかった私たちはプルトーネのGNコンデンサーを暴走させることでGN粒子を大量放出してコンピューター類を狂わせることで敵を行動不能に追い込むことにしたの。これならビームサーベルなどと違って痕跡は残らない。そう、敵も味方も、誰も死ぬことなんてないはずの作戦だった……」

ユーノとフォンは真剣な表情でシャルの話を聞いている。
聞きたいことはいくつもあったが、今は聞くことができなかった。

「………コンデンサーを暴走させた私はコアファイターを使って脱出するはずだった。けど、システムが作動せず、コンデンサー内のGN粒子のレベルも想定値を大きく超えていた。……私はその時プルトーネとともに死ぬはずだった。でも、そうはならなかった。」

シャルはぽろぽろと大粒の涙をこぼし始める。

「フェルトの両親、ルイードとマレーネが私を助け出してくれた。けど……かわりに二人は………!!」

シャルの話を聞きながらユーノは震えていた。
ある推測が頭にこびりついて離れない。
そんなはずがないと何度も自らに言い聞かせるが、それでも確信してしまう。
ソリッドの使っている武器の一つ、GNグラム。
それはおそらく、

(その時のデータを流用しやがったのか…………!!)

おそらく、シャルもそのことに気付いているだろう。
突然、ユーノは自分たちの乗っている機体、ガンダムがとてつもなく汚れたものに思えた。
自分を助け、ここまで導いてくれたものが、実は仲間の家族や大勢の人間の犠牲の上にできていたのだ。
わかっていたつもりで、本当は何一つわかっていなかった。
犠牲になった人間がいるということは、そのせいで泣いた人間も大勢いるということなのだ。

「ユーノ……どうして泣いてるの……?」

「え………?」

ユーノはシャルに言われてようやく気付いた。
いつからかはわからないが、自分が涙を流していることに。
それは自分が何も知らずにガンダムで戦っていたことに、シャルを縛り付けているものに、そして、フェルトの両親の死に対する涙だった。

そんなユーノにシャルは優しく語りかける。

「ありがとう………優しいのね……。でも、あなたが気に病むことはないわ。」

「けど……」

「あの二人のことを思って泣いてくれているなら戦って。あの二人の意志を無駄にしないためにも。」

「あげゃ。そう言うお前はどうなんだ、シャル?さっきまでめそめそ泣いていたくせに。」

「……私は自分の罪を忘れることはできない……いいえ、忘れてはいけない。だから、もう目を背けはしない。フェレシュテとともに、この世界を変えるために戦うわ。」

シャルは泣いていたせいで赤くなった、しかし晴れやかな顔でユーノを見る。

「ありがとう、ユーノ。」

「俺は何も……」

まだ何もできていない。
そう言うつもりが、シャルの言葉に遮られる。

「いいえ……あなたの優しさは私の心を救ってくれた。」

「優しさ、ね……俺はそんなこと一度も意識したことはないんだがな。」

照れくさそうにユーノは鼻の頭をかく。

「どうでもいいがあのガキにはこのことを伝えるのか?」

「俺が……」

「いいえ、私自身が伝えるわ。」

シャルはベッドから立ち上がる。

「このミッションが終わったら私から言うわ。だから……」

「わかった。」

ユーノは深くうなずくと部屋から出ていった。




この時、彼らは気付いていなかった。
フェルトが部屋の外ですべてを聞いていたことを……



ユーノの部屋

「あの人が……」

フェルトは泣いていた。
不思議とシャルに対する恨みはない。
だが、それでも涙が止まらない。

「父さん……母さん……」

「フェルト……」

フェルトが顔を上げると、いつの間にかユーノが部屋の中にいた。

「あのな………フェルト。」

「………あの人のせいなの?」

「!お前まさか聞いていたのか!?」

フェルトは震えたままうなずいた。

「違うんだフェルト。シャルのせいじゃない。」

「わかってる……でも、涙が止まらないよ………こんなのじゃいけないのに………!」

フェルトが再びうつむこうとするが、ユーノは優しくフェルトを抱きしめた。
彼女が、マリナ・イスマイールがそうしてくれたように。

「あ………」

「フェルト………お前のつらい気持ちをわかってやることは俺にはできないかもしれない……でも……それでも、お前の心を和らげてやることはできると思う。それに、俺だけじゃない。みんな、フェルトが悲しいと思ったときには、きっと支えてくれるよ………」

「ユーノ……」

「だからさ、自分の思いにもっと素直になっていいと思うぞ。みんなは受け止めてくれる。」

「……うん。ありがとう、ユーノ……あり…がとう……」

フェルトはしゃくりあげながら必死でユーノに感謝の言葉を紡いでいた。



その晩、フェルトはユーノに頼み、彼の部屋で過ごした。
ユーノはベッドをフェルトに譲り、自身はソファーで横になった。
ベッドですやすやと眠っているフェルトは、どこにでもいる普通の女の子だった。
ソレスタルビーイングのオペレーターではなく、弱いところも、傷ついて泣くこともある女の子として眠りについていた。

フェルトが眠ったことを確認したユーノはソファーから起きる。

「……シャル、フェルトのことは任せたぞ。」

『ええ、必ず彼女の安全は守るわ。』

シャルの力強い言葉を聞き、安心したユーノは眠っているフェルトを見る。
いつもの無表情で、自分を押し殺したような無理な顔ではなく、年相応の女の子の顔だ。
それを見たユーノはフッと笑うと、部屋に書置きを残してミッションへと向かった。





グリニッジ標準時午前2時 残り12時間

インドネシア近海 オーストラリアとの国境線付近の無人島

「まだか……」

連絡を受け、合流ポイントにいち早く到着していた刹那は焦れていた。
発射までの時間にはまだ余裕があるが、ここまで待たされるのは流石におかしい。

「なにかあったのか………?」

「ソリッド来タ!ソリッド来タ!」

刹那が連絡を入れようとした時、上空から緑の光を放出しながらソリッドがこちらへ向かって来るのが確認できた。

『悪い、待たせたな。……?ロックオンたちは?』

ユーノはあたりを見渡すが他のガンダムの姿が見えない。

「まだだ。」

『まだって……もう連絡してからかなりたってるぞ!?』

ユーノが困惑の表情を浮かべていると二人にスメラギからの暗号通信が届く。

『おいおい……』

「これが世界の答えか……!」

刹那は目の前のコンソールに拳を打ち付ける。
手にはじんわりと痛みが広がっていくが、それよりもなお怒りが上回り、痛みを感じさせることはなかった。






太平洋南西部 人革連領

本来なら静かで穏やかな海に大きな砲撃音が響きわたる。
キュリオスは人革連の母艦からの砲撃をかわしながら距離を引き離していく。

「クッ!ここもか!!」

アレルヤは合流地点に向かっているのだが、どこもかしこも人革軍が配備されているせいで否応なしに遠回りを強いられていた。

(チッ!おいアレルヤ、俺と変われ!さっさと連中を皆殺してやる!!)

「駄目だ!戦闘行っているような時間はない!!」

アレルヤの言うとおり、この数の相手をしていたら流石のガンダムでも大幅なタイムロスになるだろう。

「遠回りになってでも戦闘を避けて行くしかない!!」






太平洋中央部

「邪魔をするな!!」

ユニオン軍と人革軍の攻撃の中を進んでいくティエリアは苛立ちを抑えきれずにいた。
この程度ならバーストモードを使用したGNバズーカなら一気に殲滅できるだろうが、あれを使用しながら合流地点まで到達しても粒子残量は戦力として期待できるほどには回復していない可能性がある。
となると否が応でも無理につっこんでいくしかない。

「967、GNフィールドのコントロールは任せた!」

「了解!了解!」






大西洋 アフリカ南部 AEU・ユニオン境界線

「クソッ!!てめぇらは何してんだ!!」

ロックオンは空を飛び交いながら戦闘をするAEU軍とユニオン軍に悪態をつきながら必死で前へ進もうとするが前に立ちはだかるイナクトやフラッグに足止めをくらってしまう。
そうでなくても流れ弾や撃墜されたMSの破片が降り注いで来るのだからなかなか思うように進めない。

「クッ!!今なにと戦うべきかぐらいわからないのか!?」

デュナメスは右手にスナイパーライフル、左手にはビームピストルを構えて立ちはだかるMSに攻撃するが、捜索やその際に行った戦闘で体力と気力を消耗していたせいでなかなか当たらない。

「ハロがいてくれたら……」

思わず弱音を口にしてしまうが、すぐさま気を引き締める。

「こんなことしてる暇はねぇ!」

ロックオンは操縦桿を勢い良く倒すと同時にペダルを思い切り踏み込んでデュナメスを加速させる。
攻撃や防御を度外視しているため周りの攻撃によってデュナメスのあちこちに細かな傷がついていくが、それでも構わずに弾丸の雨を潜り抜けていく。

必死で前に進むロックオンにある疑問が浮かぶ。

(しかし、いくらなんでもあちこちで戦闘がおこりすぎている……。まさかこいつも連中がかかわっているのか!?)




ロックオンの読みはズバリ当たっていた。




グリニッジ標準時午前4時 残り10時間

オーストラリア西部 沖合 潜水艦内部

「情報は流しといた。あとは好きにやんな。」

『まったく恐ろしい男だな。世界がこんなに騒いでいるときにダミーの情報を流すとはな。』

「ククククク……儲けられるときには儲けとくのは当然だろ。」

サーシェスはダミーの情報を流し、世界各地で戦闘がおこるように仕向けていた。
その情報には全く無関係の国がラ・イデンラに核を流出したというような根も葉もないものから、ガンダムが出現したという情報からなんでもござれといった感じだ。
どこも疑心暗鬼に陥っているせいで普段は信じないような情報に踊らされてしまっていた。
そして、PMCは混乱のただなかにある各地に軍を派遣して戦闘を行うことで利益を上げている。
だが、彼らの真の目的は別のところにある。

『それで、準備は順調か?』

「ああ、連中は何も知らずにはしゃいでやがるぜ。ちょろいもんだ。」

『そうか……では、頼んだぞ。」

サーシェスが通信を切って部屋から出ると扉の前にラ・イデンラ残党の指揮官が立っていた。

「サーシェスさん、各地でガンダムが足止めくっているらしい。残念だが奴らが来ることは……」

「いや、たとえ一機だろうと来るさ。そういう奴らだからな。」

サーシェスはそういうと廊下の向こうに歩きだす。

「どこに?」

「格納庫だよ。あんなクソ狭い所に押し込められていたらせっかくの新型が台無しになりそうだからな。ちっと整備してくらぁ。」

指揮官の男はサーシェスの背中を見送るが、彼の顔に張り付いた邪悪な笑みと漏らした呟きには気付かなかった。

「ま、せいぜい派手に騒いで死んでくれや……ククククク……」



グリニッジ標準時午前6時 残り8時間

某国 某ホテル

「まずいわね……」

スメラギは端末に表示された残り時間を見て焦りを覚え始めていた。
今のように各国家群の攻撃にさらされていては時間通りの到着は期待できない。
スメラギは端末を操作してあるプランを表示する。
ユーノと刹那に言われ、万が一の時のために考えておいたプランだ。
ただ、

「……この方法だけはできれば使いたくはないわね。」

仮にこの作戦が成功したとしても、周囲に甚大な被害が及ぶのは間違いないだろう。
だからこそギリギリまで使わないようにしておかなくてはならない。

「頼んだわよ、みんな………」





グリニッジ標準時12時34分 残り1時間26分

アフリカ マダガスカル島 東の沖合

現在の世界において電力という恵みを与える太陽の光を浴びながら黒い潜水艦と数機のヘリオンが進んでいく。
その恵みをもたらすもの、軌道エレベーターを破壊するために。

「やっとここまで到達かよ。」

『どこも軍が目を光らせているんだ。多少遠回りになってしまったことには目をつぶっていただきたい。』

サーシェスはイナクトで上空に待機しながら舌打ちをする。
ここに到着することが遅れてしまったこともあるが、なにより本来いるはずのものがまだ来ていないのだ。

(……さっさと来いよな。連絡入れたんだからよ。)

「?どうしたサーシェスさん?」

「いやなんでも……」

サーシェスが答えようとした時すぐそこにいたヘリオンが桃色の閃光を受けて爆散する。

「チッ!こっちが来やがったか!!」

サーシェスはイナクトを閃光の飛んできた方向に向けてそれを放ったものを見る。

「ガンダム!!」

そこには右腕のGNソードの刃を起こした青と白の機体、エクシアと白い銃身を構えている萌黄色と白の機体、ソリッドがいた。

「刹那、俺たちだけだけどなんとかするぞ!!」

『了解!!』

2機はまっすぐ潜水艦めがけて突っ込んでいく。
だが、その前にMSが立ちはだかる。
二人はその中に見覚えのある紺色の機体を見つける。

「あれは!」

「アリー・アル・サーシェス!!」

因縁の敵を見つけた刹那はまっすぐサーシェスの駆るイナクトへと突っ込んでいきGNソードを振り下ろす。
イナクトは腕から取り出したソニックブレイドでそれを防ぎ、鍔迫り合いへと持っていく。

「ハッ!またてめぇか、剣使い!!」

徐々に押されていたイナクトはエクシアのコックピット部分を蹴りとばして距離をとる。

「クッ!まだ……」

刹那は再度接近戦をしかけようとするが、ガクンと傾く感覚に襲われ、続いてアラームとハロの声がコックピット内部に響く。

「脚部ニ異常発生!」

「なに!?」

刹那は思いもよらない事態に混乱する。
確かにエクシアの左脚が力なく伸びきり、どれだけ動かそうとしても動かない。
そのせいなのかかなりバランスが悪くなってしまっている。

「ハロ、姿勢制御!」

「了解!了解!」

かろうじて態勢を立て直すが、これでは普段の動きはできないだろう。

(いったいなぜ……ッ!)

その時刹那は先日のフラッグたちの襲撃を思い出す。
あの時は気付かなかったが、おそらく脚の駆動系にダメージを受けていたのだろう。
今の衝撃でそれが表に出てきてしまったのだ。

「?なんだ、今のでどっかいかれたのか?だったら……」

サーシェスはにやりと笑うとソニックブレイドの切っ先を目の前につきだしてエクシアのコックピットに突進していく。

「死んどけやぁぁぁぁぁ!!!」

「クッ!!」

刹那は操縦桿を動かすがエクシアの動きにはいつものキレがない。
猛スピードでソニックブレイドの切っ先がエクシアめがけ接近してくる。
が、

「させるかよ!!」

ソリッドがその間に滑り込み、ブレードモードのアームドシールドでソニックブレイドを上へと弾き飛ばし、くるりと右に1回転して横薙ぎの追撃をくわえる。

「チィ!!」

サーシェスはディフェンスロッドを回転させて軌道をずらして間一髪でかわすが、その代償としてディフェンスロッドを吹き飛ばされてしまう。

「大丈夫か刹那!?」

『ああ。』

ユーノはディスプレイ越しにエクシアの状態を確認し、即座に判断を下す。

「刹那、お前は連中の潜水艦を墜としに行け。ここは俺が引き受ける。」

『だが……』

「今のエクシアじゃMS戦はきつい。お前は発射阻止を優先しろ。」

「……了解。」

刹那は苦い顔をするがユーノに従い、潜水艦へと向かっていく。

「行かせるかよ!!」

サーシェス達はエクシアに射撃をしかけようとするが、その前にソリッドが立ちはだかる。

「そういやお前とはまだ本格的に戦ったことがなかったな……ええ!?盾持ちガンダム!!」

紺色のイナクトはライフルを構えてソリッドへと向かっていった。





グリニッジ標準時12時49分 残り1時間11分

インドネシア 森林地帯

熱帯特有の植物がうっそうと茂るジャングルの中にフェルトとシャルはいた。
かなり前にフォンとアストレアタイプFの出撃を見送った二人はそこに残されたガンダムの搬送機の中にいた。
フェルトから昨日の夜のことを聞いたシャルはうつむいたまま黙っていた。
フェルトも同じように黙ったまま喋ろうとしない。
互いに声をかけることができずに、重苦しい沈黙が二人の間を流れる。
が、その沈黙は備え付けられていた通信用モニターの起動音にやぶられた。
二人は同時に表示されたデータに目をやる。

「エクシアに異常発生!?」

フェルトは立ち上がるとモニターの端末を操作してさらに詳しい情報を参照する。

「左脚部の駆動系に異常……マイスターには問題なし……」

ホッと息をつくフェルトをみてシャルが微笑む。

「……大切に思っているのね、仲間のことを。」

「……シャルさんもですよね。」

ようやくのフェルトの言葉にシャルは少しバツが悪そうな顔をする。

「そうかしら……最初、私はそれほどソレスタルビーイングの理念を理解してはいなかったし、みんなに迷惑ばかりかけていたわ。今でもそう。何もできずに、こうやってただ送られてくるデータを眺めるだけ……。仲間を大切にしているって言葉はあなたやユーノのような人が受けるべき言葉よ。」

「違います!!」

フェルトはシャルのほうに振り返りながら叫ぶ。
思いもよらない大音声にシャルは目を丸くする。

「シャルさんは母さんや父さんのために泣いてくれた!母さんと父さんの意志を引き継いでくれた!シャルさんは私のために、辛い過去を打ち明けてくれた!」

フェルトの目から涙が零れ落ちていく。

「だからシャルさんは胸を張っていいんです!自分が今していることに、誇りを持っていいんです!」

「フェルト……」

それでもシャルはフェルトから目を背けてしまう。

「でも……今の私は無力だわ……。戦うこともできずに、ただここで戦況を眺めるしかない……」

「……そんなことありません。」

シャルは顔をあげてフェルトを見る。
そこにはソレスタルビーイングのオペレーターとしての強さに満ちた姿があった。

「みんなを信じましょう………それが私たちにできる戦いです。」

「信じる……」

ふと、フェルトに彼女の母親と父親の姿がだぶって見えた。

『あんたは生きなくちゃならないよ、シャル。』

『俺たちはガンダムマイスターだ!きっとできる!!』

憂いの中に強さを秘めた瞳、明るくみんなを引っ張っていた笑顔。
そんなかつての仲間の強さは、確かに彼女に受け継がれていた。

「……そうね。ありがとう、フェルト。」

この時、シャルは自分の中の枷が外れたような気がした。
そして、仲間への贖罪のために戦うのではなく、仲間の意志を受け継いで戦うことができることを確信した。





グリニッジ標準時12時53分 残り1時間7分

「チィ!!やるじゃねぇか!!」

サーシェスは以前とは違うソリッドの動きに翻弄されていた。
以前はただ性能差をいかして戦うだけだったが、今は低速と急加速のトリッキーな動きと攻撃形態の変化を繰り返す変則的なアームドシールドとシールドバスターライフルによって徐々に追い詰められていく。

「しまいだ!!」

ユーノはアームドシールドをバンカーモードに切り替えてイナクトに突進していく。

「チッ!!」

イナクトはライフルを撃ちながら後退するが、ソリッドはGNフィールドを張ってあっさりと防いで見せる。

「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「くぅっ!!」

サーシェスの背中に冷たい汗が流れる。
と、その時

「いやっほぉぉ!!」

叫びとともに横から弾丸が飛んできてソリッドの体勢を崩した。

「なに!?」

「へっ……ようやく来やがったか。」

サーシェスはアフリカ大陸から飛来するAEUとPMCの混合部隊を見ながら笑いを浮かべた。

「てめぇ……あの時に青い奴と一緒にいたガンダムだなぁ!?きっちり借りは返させてもらうぜ!!」

サーシェスの企みなど知らないイナクトのパイロット、パトリック・コーラサワーはソリッドにうすら笑いを向けていた。






潜水艦周辺

「ク!!どこまでついてくる気だ!!」

執拗に追跡してくるエクシアを見ながら指揮官は焦りを見せる。
さいわい、相手はどこか不具合があるのかいまだに射撃をこちらに当てることができていない。
だが、このままでは時間の問題だろう。
そんな時、焦れた刹那はエクシアを加速させ、一気に潜水艦へと詰め寄った。

「終わりだ!!」

エクシアはソードライフルを潜水艦へと向けて引き金を引こうとする。
だが、

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!」

「!?貴様は!!」

正面から昨日の黒いフラッグがライフルを撃ちながら接近してきた。
エクシアは発射を中止して高度を上げて回避する。

その様子を見ていた指揮官は慌てる。

「ユ、ユニオン!?どうしてここが!?」

黒いフラッグの後ろからは続々とMSが押し寄せてくる。
だが、

「先日の恨み……ここで晴らさせてもらうぞ!!」

すぐそこにいる潜水艦には目もくれずに全機がエクシアへと殺到する。

「クソ!邪魔をするな!!」

エクシアはライフルで応戦するが不調もたたり、かすらせることすらできない。

「なんだか知らないが今のうちだ!!」

潜水艦はその隙をついてその場を離れようとする。

「待て……ぐぁっ!!」

エクシアは追おうとするが、ライフルの弾を受けて止まってしまう。

「勝ち逃げはさせんよ!」

黒いフラッグのパイロット、グラハムはにやりと笑って見せる。

「とことん付き合ってもらうぞ、ガンダム!!」






グリニッジ標準時13時03分 残り57分

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」

ソリッドはアームドシールドを振るい、敵のヘリオンの翼を切り落とし、遠方の敵に対してはバルカンとライフルで応戦するが、いかんせん数が多すぎる。

「っ……はぁっはぁっ!」

ユーノは肩で息をしながらヘリオンとイナクトの大軍を睨みつける。

「お前らのとこの……軌道エレベーターだろうが……だったら……」

「いただくぜぇぇぇぇ!!」

パトリックは戦闘機形態でソリッドへと突っ込んで行く。
が、

「自分で守れやぁぁぁ!!」

あえなく翼を斬り落とされて海へと向かっていく。

「うっそぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

彼の操るイナクトは情けない声を上げながら派手に水柱をたてて海中へと沈んでいった。

「で……あと、何機だ……?」

目の前にいるMSの大群へと目を向けるが全然減った様子がないそれに嫌気がさしてくる。

「はぁっはぁっ………やっぱ……二人じゃ無理があったかな……?」

とそのとき、後ろからピンクの光弾の雨が通り抜けたかと思った瞬間、目の前のMSが大量の火球に変わった。
ユーノはディスプレイに映った後ろの機体を見る。

『ごめん!遅れた!』

「アレルヤ!!」

オレンジの戦闘機、キュリオスが遅れたお詫びとばかりに前方にミサイルを発射して敵を薙ぎ払っていく。

「サンキュー、アレルヤ!!よく来てくれたぜ!」

『あははは………ま、まあ少し、想定外のことも起きちゃったんだけどね……』

「?」

アレルヤは気まずい表情をしたまま目を合わせようとしない。
と、突然後ろから巨大な砲弾がソリッドを襲う。

「のわああぁぁぁ!!?」

紙一重でかわしたユーノは砲撃が飛んできた方向を見る。
そこには甲板にティエレン、水中にはシュウェザァイを引き連れた人革軍の艦隊が見えた。

「………おい。」

『ごめん……、ここのすぐ近くで見つかっちゃって、撒こうと思ったんだけどなかなか思うようにはいかなくて………』

ユーノはヘルメット越しに頭を押さえるが、すぐさまアレルヤに指示を飛ばす。

「ここは俺一人で何とかする。お前は刹那の援護に向かってくれ。エクシアの調子が悪いから苦戦しているはずだ。」

『でも……』

「でももクソもあるか!あれぐらい俺が面倒をみてやる!!」

『………わかった。気をつけてね!』

そういうとアレルヤはキュリオスを刹那が向かった先へと向けた。





グリニッジ標準時13時13分 残り47分

「どうした!その程度か、ガンダム!!」

グラハムは一方的にソニックブレイドでエクシアを斬りつけていく。

「このっ!!」

刹那も必死で避けていくがそれでも何発かはかすってしまう。
普段ならサーベルで受け流すのだが、今は斬撃を受け止めただけでバランスを大きく崩してしまうだろう。

「どうやら不調のようだが……つけ込ませてもらうぞ!!」

カスタムフラッグはエクシアが剣を抜かないのを確信したのか、斬撃の終了時に肩でぶつかり態勢を崩させた。

「ク、アアアァァァァ!!」

「幕引きとさせてもらおう!!」

カスタムフラッグはソニックブレイドを振りおろそうとする。
しかし、彼方から飛んで来る光に気付くと素早く回避行動をとる。

「新手か!!」

「アレルヤか!」

刹那が目を向ける先にはMS形態になったキュリオスがビームサーベルを抜いてこちらに向かってくる姿が見えた。

「はああああぁぁぁぁ!!」

キュリオスはカスタムフラッグにビームサーベルを振り下ろすがソニックブレイドでいなされた。

「そんな!?」

「貴様の相手はあとだ!」

キュリオスはカスタムフラッグから蹴りを受けて、そのまま海面に向かって落ちていくが態勢を整えて再度攻撃を仕掛けていく。
その動きは先ほど違って荒々しい印象を受ける。

「ザコの分際でやってくれんじゃねぇか!!」

疲労していたアレルヤを無理やり押しのけて表に出たハレルヤはキュリオスを加速させるが、その前にヘリオンとフラッグが立ちはだかる。

「邪魔してんじゃねぇよ!」

キュリオスはビームサブマシンガンを乱射して見境なしに敵を墜としていく。

「ハハハハハハハハハ!!どいつもこいつもカスばっかだな!!もっと足掻いて見せろよ!!」

ハレルヤは本来の目的を忘れてMSたちの相手を開始する。

「さて……思わぬ邪魔が入ったが、どの道これで最後だ!!」

カスタムフラッグはソニックブレイドで態勢を立て直そうとしているエクシアに斬りかかる。

「あげゃげゃげゃ!!まだガンダムを失うわけにはいかねぇんだよ!!」

「「「!!?」」」

その場にいた全員がその機体の登場に驚いた。
真紅に染まった機体が右腕に装備した剣ですんでのところでソニックブレイドを止めたのだ。

「この機体は!?」

刹那はその機体に既視感を覚える。
顔にバイザーがつけられ、血を思わせるような真紅にカラーリングされているが、使ってる武器といい、細部の構造といい自分のエクシアにそっくりだ。
その時、突如としてモニターが開かれる。

「!?暗号通信!?」

そこには潜水艦を追うよう指示されていた。
刹那は一瞬迷うが、即座にその場を離脱して潜水艦を追いかけた。

「逃がすか!!」

「おっとぉ!!」

グラハムはエクシアを追おうとするが、目の前の赤い機体、アストレアにとめられる。

「貴様もガンダムか!」

「あげゃげゃげゃ!!そう焦らず楽しもうじゃねぇか!!」

カスタムフラッグはいったん距離をとって空中変形をやってのけると距離をとって弾丸を放つがアストレアは紙一重でかわしていく。

「ほう!やるじゃねぇか!!だが……」

フォンは凶暴な笑みを浮かべると操縦桿を縦に横にとせわしなく動かしながらペダルを踏み込む。

「俺様の目に捉えられないものはねぇ!!」

アストレアはビームライフルを抜いて見当違いと思われる方向に撃つが、次の瞬間そこにカスタムフラッグが現れる。

「ぬぅっ!!」

グラハムは操縦桿を倒してカスタムフラッグをきりもみさせてかわすが、翼にかすったせいでバランスを崩してきりもみしたまま海面に向かう。

「ぐううぅぅ!!」

グラハムは操縦桿を渾身の力でひきあげてなんとか墜落を免れるが、翼に傷を負ったその姿では戦闘不能なのが誰の目にも明らかだった。

「一度ならず二度までも私の誇りに泥を塗るとは!!」

グラハムはアストレアを恨みがましく見ながらその場から去っていった。

「追撃!追撃!」

「必要ねぇ。奴はまだ生きていたほうが面白い。」

フォンは874の意見を一蹴すると残ったMSに目を向ける。

「さあ、もっと俺を楽しませろ!!」



グリニッジ標準時13時25分 残り35分

某国 某ホテル

残り時間がわずかになったにもかかわらずミッションが成功した知らせが来ない。
そんな状況でスメラギは最後の手段をとること決意した。

「ロックオン、ティエリア、聞こえる?」

『なんだ、Ms.スメラギ?今やっと連中をまいて急いで現地に……』

「作戦変更よ。あなたたちには最終手段のためのポイントに向かってもらうわ。」

『最終手段?』

いぶかしげな表情を浮かべるロックオンとティエリアにミッションプランを送る。
それを見たロックオンの顔が苦いものに変わる。

『オイオイ……こいつは………』

「言いたいことはわかるけど、それが成功すれば最悪の事態だけは避けられる。」

『けどよ!』

『やりましょう。』

『ティエリア!?』

ティエリアは無表情のまま語り続ける。

『これが戦況予報士としてヴェーダの提示したミッションを成功させるものなら従います。』

『………わかったよ。チッ……最初から決まっちゃいたけど、こいつを成功させても失敗させても地獄行き決定だな。』

「………ごめんなさい。」

『気にすんなよ。たぶん刹那たちがうまくやってくれるさ。俺たちは万が一の時の保険だ。』

(………だといいんだけどね。)

ロックオンの笑顔に愛想笑いを向けながら、スメラギは一抹の不安を抱いていた。





グリニッジ標準時13時30分 残り30分

「クソ!もう時間がない!!」

ユーノは焦り始めるが、目の前にいるサーシェスとAEU軍が前に進むこと許さない。

「もう十分だな……。仕上げに入るとするか。」

サーシェスはそう言うとソリッドに背を向けて潜水艦が向かった方向に向かう。

「なろ!待て!!」

ユーノは追おうとするが周りのヘリオン達が邪魔で進めない。

「お前ら……何してんだよ……!!」

軌道エレベーターの周りには多くの人が住んでいる。
にもかかわらず、救援にも向かわない。
そう、自分の父親をエゴで殺したあの組織のように。

「ッッッ!!!どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ソリッドはGNフィールドを発生させると猛然と敵の中を駆け抜けていく。
近づいて斬りつけようとする者たちがいるが、そんなものなどお構いなしに突進していく。

「発射なんてさせるかよ!!」





グリニッジ標準時13時39分 残り21分

刹那はやっとの思いで潜水艦に追いつくが敵はすでに発射態勢に入っている。
おそらく、この乱戦状態を見て発射時刻を早めたのだろう。

「させるかぁぁぁ!!」

刹那はライフルを構えるが、後ろから突然の衝撃が襲う。

「グアァッ!?」

そこには紺色のイナクトがライフルを構えていた。

「悪いな。そいつをお前にやらせるわけにはいかねぇんだ。」

『おおお!サーシェスさん!すまない、助かった!!』

指揮官たちは通信で満面の笑みを浮かべる。
サーシェスもそれに爽やかな笑顔で返す。

「はっはっは!礼はいいさ。なにせ……」

サーシェスの笑顔が唐突に残酷なものに変わる。

「お前らは俺の手で死ぬんだからな。」

サーシェスは持っていたスイッチを押す。
次の瞬間、潜水艦の後部から爆発とともに黒煙が上がった。

『な、ななな!!』

「いや~、助かったぜ。何せこれでPMCはテロを未然に防いだ英雄になれるんだ。失墜した信用も戻ってくるって寸法さ。」

指揮官の顔が怒りと驚きで醜く歪んでいく。

『貴様ぁ………!!』

「おっとぉ、そう厳しい顔をすんなよ。最後くらい堂々とした顔でいろって。はっはっは!!」

「サーシェス!!!」

「おっと!」

後ろから追いついたソリッドがイナクトに斬りかかるがあっさりと避けられてしまう。
ユーノはすぐさま追撃しようとするが、潜水艦の異変に気付く。

「刹那、どういうこったよこれは!?」

『わからない!だが、奴が何かしたのは間違いない!!』

エクシアとソリッドはイナクトと対峙するが、潜水艦はまだ完全に機能を停止したわけではない。

『貴様らの思い通りにはさせん!!』

指揮官は潜水艦のブリッジのコンソールに向かう。
そして、

『どいつもこいつも道連れだぁぁぁぁ!!』

発射ボタンを押した。

「しまった!!」

「まずい!!」

刹那とユーノは慌ててミサイルを追いかけるがとても間に合わない。

「あららぁ。撃っちまったか。」

サーシェスは笑いながらミサイルとそれを追いかける二機のガンダムを見ながらクックッと笑う。

「駄目だ!間に合わない!!」

「クソ……ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

『諦めるな!!』

「「!?」」

二人の機体のモニターにロックオンとティエリアの顔が写る。

『今からヴァーチェであれを破壊する。俺は捕捉役。ユーノは軌道計算を……』

「お、おい、待てよ!今あれを破壊したら居住区に放射能がまき散らされちまう!」

『軌道エレベーターに着弾しても結果は同じだ。死ぬ人間が変わるだけだ。』

「けど!!」

『ユーノ!!』

ティエリアの言葉にユーノは顔を真っ赤にして反論しようとするが、ロックオンに一喝される。

『……もう遅いんだ。今の俺たちにできることは軌道エレベーターを守ることだけだ。もちろん、一番人口が少ないところで爆発させる。』

「人数なんか関係ない!!どいつにだって家族がいて、死んだときに涙を流す奴らが大勢いるんだ!!」

『……それでも頼む。』

ロックオンの声を聞いてユーノは気付いた。

(泣いている……)

そう、この中で一番つらいのは彼なのだ。
テロで家族を失くした彼が、テロを防ぎきれずに多くの人を犠牲にしようとしているのだ。
つらくないはずがない。

「………967、観測データを片っ端からこっちに送れ。」

『ユーノ……』

「地獄行きに付き合ってやるよ。」






アフリカ大陸 軌道エレベーター周辺

「ティエリア、きっちり照準つけてやるから外すなよ。」

「わかっている。」

「データ転送中。データ転送中。」

デュナメスは額の狙撃用のカメラアイでミサイルをとらえ続けている。
超高々度用の装備はなしなのでかなり照準をつけにくいが、それでも狙いをつけられているのは流石と言うべきだろう。

「ロックオン、デュナメスの損傷は……」

「大丈夫だよ。思ったより大したことはない。」

狙い撃つ係がヴァーチェに割り当てられたわけは高威力の砲撃がデュナメスでは不可能という理由もあるが、なによりここに来るまでの損傷で左脚がやられてしまっているのだ。
そのせいでエクシアと同じくバランスが崩れてしまっている。

「データ受信中。データ受信中。」

「ティエリア、そろそろ準備しとけ。」

「了解。GNバズーカ、バーストモード。」

ヴァーチェの持つGNバズーカの砲身が伸び、徐々に光が発射口に蓄えられていく。

「カウントダウン開始!10、9、8……」

(……すまねぇ、ユーノ。)

ロックオンは967のカウントダウンを聞きながら心の中でユーノに謝罪する。
実際に引き金を引かなくても、これから大量殺人の片棒を担がせてしまうのだ。
謝ってすむものではない。
マイスターだから仕方がないというわけにもいかない。
だが、それでもこのミッションが終わったら、話をしよう。
せめて、心が折れてしまうことがないように。

「………3、2、1………」

「GNバズーカ、発射!!」

次の瞬間、極大の光の奔流が空を引き裂いていき、ミサイルに直撃した。







マダガスカル沖合

「……直撃を確認。放射能は………」

ユーノは暗い面持ちでモニターを見る。
だが、予想だにしない答えがそこに待っていた。

「!?放射能反応なし!?」

「何!?」

刹那も確認するが確かに放射能の反応がない。

「外したのか!?」

「そんなはずはない!!確かに当たって……」

「ハハハハハハハハハ!!」

後ろでそれまで黙っていたサーシェスが笑う。

『サーシェス……貴様まさか……』

「そうよ!初めからあれには核なんて積まれてなかったのさ!!しっかりと確認しておくんだったな!!」

指揮官の顔が真っ赤に染まり、その醜悪な顔と相まってさながら日本の神話に出てくる鬼のようだ。

『サーシェスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!』

「うるせぇ奴だ。」

鬼の咆哮を聞いたサーシェスは面倒そうに引き金を引き、沈みかけていた潜水艦にとどめを刺した。

「………経過はどうあれ、結局ミッションは成功した。帰頭……」

「おい!ガンダムに乗っているガキ!!」

帰ろうとする二人にサーシェスは外部音声で語りかける。

「まさか勝ったとでも思ってんのか!?違うな!今回は俺の勝ちだ!!」

「ハッ!負け惜しみを……」

「今回てめぇらは見たはずだ!どこかに核がぶち込まれようとしているにもかかわらず、お前らを求めたり、疑心暗鬼で関係ないところを攻撃する連中の姿をな!!」

「「!!!!」」

二人はハッとした。
確かに今回の件は三国家群が自分たちを求めようとしたり、無意味な小競り合いがなければ発射自体を阻止できていたはずだ。
もし、実際核を積まれていたら間違いなく多くの犠牲が出ていた。

「しかもこれからも全世界で犯人探しが続くだろうぜ!!無関係で弱い奴らを巻き込みながらなぁ!!はははははははは!!」

サーシェスはげらげらと笑う。

「お前らのやってることはなぁ、無意味な行為なんだよ!!この世から争いがなくなるのは人間が一人もいなくなったときだけだ!!」

「っるせぇ!!」

ユーノはイナクトめがけライフルを撃つがあっさりと避けられ、イナクトはそのまま逃げていく。

「せいぜい無駄なことを繰り返してな!紛争根絶を掲げるテロリストさんよ!!」

逃げていくイナクトを二人はただ茫然と見送ることしかできなかった。






太平洋海上

五機のガンダムは宇宙に上がるために軌道エレベーターに乗る準備をするためのポイントに向かっていた。
互いに言葉はない。
サーシェスの残した言葉が深々とそれぞれの心に突き刺さっていた。

「……………………」

ユーノはおもむろにヴァーチェとの回線を開く。

『………なんだ?』

ティエリアは普段と同じ無表情を向けてくる。
だが、不機嫌なのは見た瞬間にわかった。

「ティエリア、俺たちのしてることは本当に無意味なのか………?」

『……………』

「もし、本当に無意味なら、俺たちのしてることは……!」

ティエリアは黙ったまま喋らない。
ユーノはどこか期待している自分がいることに気付いていた。
いつものティエリアの迷いのない答えが返ってくることを。
でなければ、フェルトの両親や、自分が奪った命の犠牲が無意味だったことになってしまう。

『………君はどう思っている?』

「俺は……」

期待と違う答えにユーノはうろたえてしまう。

『やめたいなら勝手にやめればいい。だが、そうなれば君のしてきたことは本当に無意味なものになってしまうことを忘れるな。』

そう言うとティエリアは回線を閉じてしまった。

(俺は………)

その時、回線が開きフェルトの顔が写る。

『ユーノ、みんな!大丈夫だった!?』

「フェルト……」

『よかった………みんな無事で、本当に……』

フェルトの安堵した表情を見て、全員の顔が自然とほころぶ。

「大丈夫、全員無事だ。ガンダムのほうは整備する俺やイアンのことも考えずに多少無茶した馬鹿どものせいで多少ボロくなっちまったのが二機ほどあるけどな。」

『おい、それは俺のことか!?』

『……………………』

「そう聞こえなかったか?」

ロックオンと刹那が睨んでくるがユーノは鼻で笑う。
その様子がおかしかったのか、フェルトはクスクスと笑う。

(………そうだ、無意味なんかじゃない。世界だけじゃない、俺たちは変わっていけているんだ。多くの人の思いを背負いながら。)

ユーノはオレンジに染まった空を見る。
水平線のかなたでまぶしく輝く太陽が自分たちを照らし出していた。
ボロボロでどうしようもなくみっともない姿だが、ユーノにはそれが誇らしいものに思えた。








世界は簡単には変わらない。
だが、それでも人は少しづつでも変わっていける………






あとがき・・・・・・・・・という名の謝罪会見

ロ「というわけでオリミッションその1の完結編でした。そして、更新遅れて本当にすみませんでした。楽しみにしていてくれた皆様に心から謝罪します。」

ユ「いやいや全然反省してないだろお前。反省の意もこめて三話連続投稿しろよ。それが終わるまで寝ることも飯食うことも学校行くことも許さないからな。」

ロ「いやいや無理だって!!学校いかないとかはマジで駄目だって!!」

フェルト「でも、テストが終わったとき、もうあんなとこ行きたくないって言ってた。」

ロ「………私は一切覚えておりません。」

ユ「おい。」

9「まあ、こいつを責めるのはそろそろやめておけ。言ったところで無駄だしな。」

ロ「ヒドイ!!」

ユ「事実だからしょうがないだろ。さて、馬鹿はほっといてゲストを紹介させていただきます。今回のゲストは烈火の将ことシグナムさんです。」

シ「紹介にあずかったシグナムだ。そう、猛烈に出番が欲しいシグナムだ。」

9「そう言うことは作者に言え。」

シ「こいつではあてにならん。読者の心情に訴えかけて出番をもぎ取る。」

ロ「まあ、またしばらくは何があっても出さな……」

シ「紫電一閃!!!」

ロ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」

ユ「……ロビンが肉塊になったところで解説行きます。」

フェルト「今回は私とシャルさんが結構出てたね。」

シ「ロビンいわく、『出さないって言ってたけど出しちゃったもんは仕方ないから徹底的に使っちまおう。』らしい。」

ユ「駄目作者め………」

9「そして私とハロの活躍が結局データ送信と姿勢制御だけだったな。」

フェルト「そこはロビンの想像力じゃそれぐらいしか思いつかなかったんだから仕方ないよ。アイデアをくれたノイバーさん、本当にごめんなさい。」

シ「しかし、あのサーシェスという男は最低だな。」

9「それが読者に伝わったかどうかはわからんがな。」

ユ「ま、これからも努力が必要ってことだな。」

フェルト「いい感じにまとまったところで次回予告行くよ。」

ユ「宇宙に戻ったガンダムとマイスターたち。しかし、いよいよ人革連が本格的に動き出す!」

9「敵の指揮官、セルゲイ・スミルノフの戦略に翻弄されるソレスタルビーイング。」

シ「そんな窮地の中、遂にユーノのあの能力が解禁される!!」

フェルト「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 16.ガンダム鹵獲作戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/16 11:28
?????

何もない真っ白な空間にユーノは立っていた。
いや、立っているかどうかすら感覚的には怪しい。
普通の人間なら戸惑いを覚えるような光景だが、さんざん似たような経験をしてきているユーノは「またか……」とため息をつく。

「まったく、記憶がないからってこんなもんばっか見せられる俺の身にもなれよな……」

「ユーノ・スクライア………」

「?」

後ろから声をかけられ、ユーノは振り向く。
そこには一人の女性が立っていた。
長く美しい銀髪と赤い瞳が印象的だ。

「あんたは?」

「……彼女の言うとおり、本当に忘れてしまっているのですね。」

「ああ、あんた俺の昔の知り合いか。だったら名前ぐらい教えてくれや。たとえ俺の脳みそがつくりだした幻でもそんぐらいのサービスはしてくれ。」

ユーノの言葉にその女性はポカンとした顔をする。

「……残念ながら私は幻ではありません。もっとも、この世に存在しているわけでもありませんが。」

その言葉にユーノはカチンとくる。

「おいおい……俺の幻のくせにえらく冗談が下手だな。じゃあおたくは幽霊か何かってわけか?」

「概念としては近いかもしれませんが、私は人ではなくプログラムなのでメモリーの欠片とでも言うべきでしょうか。」

女性の淡々とした口調と言っていることがさらにユーノの神経を逆なでしていく。

「ほほう、プログラムの割にはずいぶんと人間臭い喋り方するんだな。どこの技術ならそんなことが可能なのか……」

ユーノはあくまで笑顔で受け答えをするものの、声が心なしか苛立ちで震えている。

「ここではない世界です。」

ブツンという音ともに、遂にユーノがキレた。

「ざっけんな!!いい加減にしろよな!俺の妄想の産物のくせに訳わかんないことばっか言いやがって!!」

女性はユーノの怒鳴り声にも動じないが、解せないといった顔で首をかしげる。
しかし、ポンと手を叩いて一人で納得する。

「ああ……そうか、あなたは“ま……”のことも失念してしまっているのですね。」

「あ゛!?」

「そうですね……もしそれに関する知識が残っているのなら、あなたならすぐにでも帰る方法を模索するでしょうからね。」

「何を訳のわからないことを……」

ユーノを見ながら女性は悲しい顔をする。

「あなたは戻らなくてはならない……彼女たちのもとへ……。これ以上ここで戦ってはいけない。」

その言葉にユーノは目を見開いて怒りをあらわにする。

「ふざけんな!!ここで俺だけ逃げられるか!みんなが戦っているのに俺だけが……」

『……ノ。』

「!?」

突然声が響き、白い空間が歪む。

「ここまでですね……」

女性はユーノに背を向けて歩きだす。

「待て!!名前ぐらい名乗っていけ!!」

「……リインフォース。私の主、夜天の王、八神はやてが与えてくれたなによりも大切な名前です。」

「はやて!?お前はやてのこと……」

『…-ノ!』

知った名前を口にした彼女にユーノは詰め寄ろうとするが、突然足元の床が抜けたような感覚に襲われ、終わりのない空間を落下し始める。

「わあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

どこまでも落ちていくと思われたユーノの落下だが、突然現れた光の渦の中にユーノがのみこまれることで終了した。






リニアトレイン 個室

ゴツンという音ともにユーノは頭から壁にぶつかり、現実に引き戻された。

「ッツゥ~~……」

ぶつかったところをなでながらユーノがあたりを見るとアレルヤと刹那が心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。

「大丈夫かい、ユーノ!?」

「あ、ああ。たんこぶできるほどじゃ……」

「そうじゃなくて!いきなり意識が飛んでいるんだからびっくりしたよ!!」

「は?」

「お前はさっきまで気を失っていたんだ……。覚えていないのか?」

刹那の言葉でユーノは今自分が何をしていたのか思い出す。
地上でのミッションを終えた自分たちは、ガンダムの整備を行うためにリニアトレインを使い、トレミーに戻るところだったのだ。
だが、気付くといつの間にかあの空間にいたのだ。

「……どれくらい気絶してた?」

「十数秒ほどだったけど驚いたよ。ボーっとし始めたと思ったら目を開けているのにいくら声をかけても起きないんだから。」

(十数秒……あれがか!?もっと長かったはずだぞ!?)

「どうした?」

「い、いや。なんでもない……」

ユーノは二人に笑顔を向けるが頭の中はさっきの女性が言っていたことでいっぱいだった。

『“ま……”のことも失念してしまっているのですね。』

(何を言おうとしていたんだ?)

どうでもいいことのはずなのに、どうしても思い出さなければいけないことのように思えてきてしまう。
そう、ソレスタルビーイングに加わった時から感じていた脳の奥を使いきれていない感覚の答えがそこにあるように思えて仕方がなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 16.ガンダム鹵獲作戦

人革連 高軌道ステーション ブリーフィングルーム

「特務部隊、“頂部”諸君。諸君らは母国の代表であり、人類革新連盟の精鋭である。」

ずらりと兵士が並んでいる中、その前に立って喋っているセルゲイは少々緊張していた。
いくら階級があがり、長きにわたり軍に所属していてもこれだけはどうしても慣れることはできなかった。
さしずめ、“ロシアの荒熊”の唯一の弱点とでも言うべきだろうか。
もっとも、そんな様子を部下の前で見せはしないが。
セルゲイはそんな中でも部下を鼓舞するために言葉を続ける。

「諸君らの任務は世界中で武力介入を進める武装組織の壊滅、およびMSの鹵獲である。この任務を全うすることで我ら人類革新連盟は世界をリードし、人類の発展に大きく貢献することになるだろう。諸君らの奮起に期待する。」

目の前の部下たちと敬礼をかわしながらセルゲイはある一点を見る。
体格のいい兵士の中に一人だけ小柄な兵士がいる。
その小柄な兵士、ソーマ・ピーリスを見ながら以前の事件を思い出す。
あの時は一人の死者も出なかったが、今回もあのようなことが起きれば間違いなく多くのものが死ぬだろう。
何せ今回の任務はあのガンダムを鹵獲することなのだから……






プトレマイオス 医務室

ユーノは上半身に何も着ないままモレノと向き合っていた。
その体は筋骨隆々というわけではないが、引き締まった体つきをしている。
腹部と背中には大きな赤い円状の傷痕が痛々しく刻まれているが、本人はいたって気にしていないようだ。
聴診器をあてていたモレノは大きく息を吐くと聴診器を外してユーノに笑いかける。

「うん、もういいぞ。今回も異常なしだ。」

「はいよ。」

ユーノはイスから立ち上がり、机の上に置いてあった自分の服を着ていく。

「ったく。完治ならとうの昔にしてんだろうが。なんでお前んとこに来るたびに調べるんだよ。」

「“天災”は忘れたころにやってくる、ってな。一応検査は続けないとな。」

文句を言いながらもユーノは着替えを済ませて再びモレノの前に座る。

「さて、本題に移ろうか。記憶のほうはどうだ?」

「相変わらずだよ。ぽつぽつと人の名前なんかは思いだしてはいるけど、点と点のまんまで繋がらない感じだな。ただ……」

「ただ?」

暗い顔をして笑うユーノにモレノは問いかける。

「俺がソレスタルビーイングに入りたいと思ったわけはわかったけどな。」

「……聞かせてくれるか?」

「ああ。」

そして、ユーノは語り始めた。
ホテルに宿泊していた時に父とともにテロに巻き込まれたこと。
その中で自分たちを守ってくれるはずの警察機構に父が殺されたことを。

話を聞き終わったモレノは顔をしかめる。

「そうか……つらい思いをしたんだな。」

「別にそっちまでブルーになることはないさ。もう、終わったことだしな。」

「しかし、その管理局ってのはいったい何なんだ?そんな名前の機関ならいくらでもありそうだがな……」

「名前の頭にもう少しなんかついていた気がするんだけどな。そこまでは思い出せねぇや。」

そう言うとユーノは大きく伸びをしてイスから立ち上がる。

「またなんかあったら来るよ。薬は……」

「机の上だ。最後に一言だけ言っておくが、あまり無茶はするなよ。お前のその頭痛は精神的なものも関係しているからな。お前が精神的に大きなショックを受けたら、そのはずみで記憶が元に戻ることもあるかも知れんが、また記憶の混乱を引き起こす可能性がある。薬はあくまでそれを抑えるためのものにすぎん。そのことを忘れるなよ。」

「わーってるよ。あ、そうそう……」

ユーノはドアの前まで行って立ち止まり、モレノのほうを向く。

「モレノってさ、喋る犬や空飛ぶ人間って見たことあるか?」

「…………は?」

モレノは呆気にとられた顔をする。

「いや、どうにも俺の知り合いにそんな感じの奴らがいるみたいで………って、おい。なんだその危ない奴を見るような眼は。」

「ユーノ、再検査だ。きっとお前は脳に、いや、心に大きな障害を持ってしまっているんだ。なに、大丈夫だ。わしが何が何でも直して……」

「そんなもんねぇっての!!勝手に俺を危ない奴に仕立て上げるな!!」

「はっはっはっ!!いや、スマンスマン。あんまりおもしろかったもんでな。それから喋る犬や空飛ぶ人間はお前の記憶の混乱だよ。ときたま漫画やアニメなんかの記憶と現実の記憶がごっちゃになっちまう奴がいるのさ。あんまり気にする必要はないさ。」

モレノはそう言うと自分の机に向かい、書類のチェックを始めた。
ユーノは不機嫌そうに舌打ちをしながら医務室を出たが、やはり疑問は晴れない。

(記憶の混乱……本当にそうなのか?)





人革連高軌道ステーション 管制室

人革連高軌道ステーションの周辺宙域に三つの六角形箱を装備した艦が姿勢を制御しながら目標地点へと到達する。

「姿勢制御完了。ハッチオープン。」

「リニアカタパルト、電圧上昇。双方向通信システム、射出準備完了。」

箱のハッチが開くと、そこには長方形のブロック状の何かが詰め込まれていた。

「射出。」

船員の声とともにそれらが発射される。

「通信子機、全体分離。」

それらの横の部分が開くと、今度は小さな立方体の射出され、周りに電波を飛ばし始める。

「通信子機、全体分離開始。予定位置に移動中。双方向通信、正常です。」

「これでわが軍の静止衛星軌道領域の80%を網羅したことになります。」

ミン・ソンファ中尉は隣にいるセルゲイに対して報告を行う。
セルゲイは満足そうにうなずくとふたたびモニターに視線を向ける。

「ガンダムが放射する特殊粒子は効果範囲内の通信機器を妨害する特性を有しています。それを逆手にとり、双方向通信を行う数十万もの小型探査装置を射出。通信不能エリアがあれば、それはすなわちガンダムがいるということ。」

目の前のモニターを操作しながら作戦の概要を再度頭の中に叩きこむ。

「中佐、魚はうまく網にかかるでしょうか?そうでなくては困るよ、ミン副官。これほどの物量作戦、そう何度もできはしない。」






プトレマイオス ブリッジ

ブリッジに一人残されたクリスティナは黙々と自らの作業を進めている。
地上で思いっきり楽しんだ分、仕事に従事しているのだが、なかなか休憩に入れないのは少々きつい。
と、そんなところにリヒテンダールが入ってくる。

「あれ?フェルトは?」

「気分が悪いからって、モレノさんのところに行ったわ。」

「当直連チャンすか?」

「そうなのよね~」

クリスティナが肩をトントンと叩いているのを見て、リヒテンダールの目がチャンスとばかりに光る。

「ここ俺見てますから、食事してきていいですよ。」

「え!?本当!?優しい!」

「いやぁ、それほどでも………(おっしゃ!!)」

クリスティナの嬉しそうな顔を見てリヒテンダールは心の中でガッツポーズをする。
これで、彼女の自分への評価も少しは上がるだろう。
が、喜びもつかの間。

「でも、好みじゃないのよね~。」

クリスティナの一言がグッサリと彼の心をえぐる。
彼女が出ていくまで引きつった笑みを浮かべていたが、出ていくと同時にがっくりと肩を落とした。

「………悲しい。」

哀愁の漂う彼を慰めてくれるものは、ブリッジにはいなかった。
いや、むしろこのやり取りがみられていなかったのはかれにとってせめてもの救いだろうか。





食堂

「さて、飯でも食うか。」

ラッセが食堂のドアを開けて中に入っていくと、思わぬ先客がいた。

「ユーノ?整備はいいのか?」

本来なら整備をしているはずのユーノがごつい本を無重力を利用して片手で持って読んでいる姿を見つけて、問いかける。

「イアンが休んでろだってさ。おおかた、モレノに釘を刺されたんだろ。」

「休ミ大切!休ミ大切!」

967がふわふわと浮きながらユーノの周りをぐるぐる回る。

「なるほどな。で、なんでここで本を読んでんだ?自室で読めばいいだろうに。」

「ここにいたほうがコンテナに近いからな。そのうちイアンが泣きついてくるだろうからここで待機してるってわけさ。」

「なるほど。」

ラッセは苦笑を漏らしながらユーノの持っている本の表紙を見る。
そこには茶色の厚紙の真ん中に大きな字が書かれ、その周りには細かな文字が大量に描かれているだけで、絵がない。
ラッセは全く本を読まないというわけではないが、この手の専門書のようなものはかなり苦手な部類に入る。

「……何読んでんだ?」

「ん?ああ、これか。考古学の古い論文集だよ。」

「考古学?そんなもんに興味があんのか?」

「そんなもんとは失敬だな。これはこれでなかなか面白いもんだぜ。」

「俺にはさっぱりだな。」

ラッセはユーノと喋りながら食事を盛りつけていく。

「まあ、面白いってのもあるんだけど、どうやら昔の俺はこの手のものに興味があったみたいでな。記憶が全部スッ飛んじまっても、こいつに対する情熱だけは残ってたみたいだ。」

ラッセは苦笑しながらユーノの前に座る。

「考古学者の卵でもやってたのか?だったらなんであんなところに倒れてんだよ。」

「そんなもん俺が知りたいよ……って、食うの早ぇな、おい!」

ユーノと話している間にラッセは自分の食事を平らげていた。

「毎日似たようなもんを味わって食ってたってどうしようもないだろ。さて、じゃあ俺もしばらくここでゆっくりと……」

その時、ドアが開き、二人の少年が入ってきた。
そう、最悪の組み合わせの二人が。

「………………………」

「………………………」

ラッセとユーノは自分たちのオアシスに侵入してきた人物、刹那とティエリアを見ながら固まる。
当の本人たちはそんなことなどお構いなしに食事を盛り付けていくが、明らかに二人の間の空気は重苦しい。

「………さて、部屋に戻って書類の整理でも………」

ラッセは立ち上がってオアシスから一転、地獄のような重苦しい空気が立ちこめる空間を脱出しようとするがユーノに腕を掴まれる。

「待った。そんなもんないだろ。」

「いやいや、これがあるんだ。じゃあ、そう言うことで。」

ラッセはするりとユーノの手を抜けるとドアの奥へと消えていった。
残されたユーノが後ろを向くと刹那とティエリアがこちらを凝視している。

(ま、まずい!この状況は非常にまずい!)

なんとかここからの脱出方法を考えるユーノだが何も思いつかない。
と、そこへ

「さ~て、久々にゆっくり食事しよっと♪」

クリスティナ(生贄の羊)がやってくる。
上機嫌で入ってきたクリスティナだったがその場を見た瞬間、すぐさま出ようとするが、ユーノにしっかりと腕を握られる。

「よ~、クリス!食事か?遠慮なくゆっくりとってけよ!!」

「え、えっと、私、その………」

「遠慮スンナ!遠慮スンナ!」

967の援護も加わったユーノはそのまま強引にクリスティナを部屋の中に放り込む。

「俺らは自分の部屋でデータの整理をするから。それじゃ!」

「ちょ、ちょっと……」

クリスティナが何か言おうとするが、ユーノと967はわき目もふらずにその場を離れていった。





その後、クリスティナは気まずい雰囲気の中で食事をする羽目になった。
食事の味など当然わかるはずもなかった。






展望室

「…………………」

フェルトは展望室で一人、漆黒の宇宙を眺めていた。
地上でのミッションの際、両親の死の真相を知った。
フェルトは幼い時に両親を失くしたため、あまり覚えてはいないが父はとても明るく、そして母はとても優しい目をしていたことをうっすらと覚えている。
そのことを思い出すと涙があふれてくる。
ましてや、今日ならなおさらだ。
なぜなら、今日は………

「よう、何してる?」

「!!ロックオン……」

突然の訪問者の声に驚いたフェルトは慌てて目に溜まっていた涙を拭う。
だが、無重力下ではどれほど拭おうと、涙は小さな光の玉となってあたりを漂ってしまう。
ロックオンはフェルトが泣いていたことに気付くと優しく微笑みかける。

「どうした?」

「……父さんと母さんのことを、私が小さい時のことを考えてたの。」

ロックオンはその一言ですべてを悟った。

「へぇ……フェルトの両親はソレスタルビーイングにいたのか。」

ロックオンはフェルトの横に行き、展望台の手すりにもたれる。

「二人とも第二世代のガンダムマイスターだって……」

「そうかい……俺は君の両親のおかげでここにいるんだな……。そんでもってフェルトはホームシックにでもかかったか?」

「今日は命日……二人の。」

飄々とした態度を保っていたロックオンだったが、フェルトに威圧感をかけない程度に表情を少し引き締める。

「何があった?」

ロックオンの質問にフェルトは答えようとするが、秘匿義務を思い出す。
ここで打ち明ければ自分だけでなくロックオンにも迷惑がかかるかもしれない。

「わからない……ただ、死んだとしか。」

「ソレスタルビーイングのメンバーには守秘義務がある。俺も今のメンバーの過去を知っちゃいないが………そうか、両親の情報もか………」

フェルトの心にチクリと痛みがはしる。
自分のことを心配してくれているロックオンに嘘をついてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。

「両親の意思を継いだんだな……」

フェルトは静かにうなずく。
ロックオンはフェルトの頭に手をのせて優しく自分のほうに引き寄せる。

「君は強い……強い女の子だ。」

ロックオンに寄りかかりながらフェルトはユーノの言葉を思い出していた。

『みんな、フェルトが悲しいと思った時には、きっと支えてくれるよ………』

(うん………ありがとう、ユーノ。)

「……ニールだ。」

「え………?」

ロックオンの突然の言葉にフェルトは彼の顔を見上げる。

「俺の本名、ニール・ディランディ。」

「あなたの名前……」

「ああ、そうだ。出身はアイルランド。両親はテロで殺された。……このことはユーノにしか言っていない。君で二人目だ」

「……どうして?」

「教えてもらってばかりじゃ不公平だと思ってな。」

(違う………)

フェルトは胸が締め付けられるような思いだった。
自分は本当のことを、両親の死の真相を話していないのに、彼は自らのことを話してくれた。
けど、それでも教えられない。
だから、今の自分の気持ちを、感謝の思いを精一杯伝えよう。

「………優しいね。」

「女性限定でな。」

ロックオンは少しはにかんだ笑みを浮かべた。
とその時、

「ロックオン……」

ドアを開けて入ってきたアレルヤは、予想だにしない光景にその場で固まってしまう。
そして、顔を赤らめて視線を外す。

「し、失礼!」

「ご、誤解をするな!」

ロックオンが弁解しようとした時、艦内にクリスティナの声が響いた。

『緊急連絡!敵にこちらの位置が探知されました!総員、至急戦闘配備についてください!!』





オービタルリング周辺

『トレミー、オービタルリングの電磁波干渉領域に入りました。』

『光学カメラが敵部隊を補足。』

「来たか……!」

刹那はコックピットの中で気を引き締める。
プトレマイオスは輸送艦であるため、攻撃手段を持っていない。
GNフィールドこそ装備しているが、それでも艦隊戦をしかけられたらアウトだろう。
しかも、今はキュリオスとヴァーチェが迎撃に出てしまっている。
だからこそ、自分たちが戦わなくてはならない。

『全乗組員に、戦術予報士の状況予測を伝えるわ。接近する艦船は輸送艦、ラオホゥニ隻。おそらく、そこに敵戦力のすべてが集中しているはずよ。』

『どういうことです?』

『敵艦二隻はキュリオスとヴァーチェの迎撃に向かったはずだろ?』

スメラギの声に混じり、クリスティナの不安そうな声とラッセの声が聞こえてくる。

『本来はそうしてほしくなかったの。最初のプランではこっちの陽動に気付いた敵艦隊がアレルヤ達を無視、直接本艦へ向かう……そうなれば予定通り、回り込んで挟み打ちができたんだけど………』

スメラギが悔しそうにギリリと歯を食いしばる。

『敵は、こっちの陽動を陽動で答えたのよ。おそらく、搭載された敵輸送艦のMSは発進済み、逆にアレルヤとティエリアは今頃、輸送艦の迎撃に時間を取られているはず………敵の陽動を受けたアレルヤ達が戻ってくるのはあたしの予測だと6分………その間、敵MSの波状攻撃を受けることになる。』

『Ms.スメラギがそう予測する根拠は?』

ロックオンの疑問にスメラギは厳しい表情のまま答える。

『18年前、第四次太陽光紛争時にこれと同じ作戦が使われたわ。人革連の指揮官は“ロシアの荒熊”の異名をとる、セルゲイ・スミルノフ!』

説明を受けた後、ガンダム三機は発進準備に移る。

『エクシア、ソリッド、デュナメス、コンテナハッチオープン。エクシアとソリッドはプトレマイオス前面で迎撃態勢で待機。』

エクシアとソリッドの目に光がともると勢いよくトレミーの前へと飛び出していく。

『刹那、エクシアの左脚の調子はどうだ?』

「問題ない。」

『了解だ。問題はあっちか……』

ユーノが目を向けた先には左脚が黄色の鉄骨に変えられているデュナメスがいた。

『デュナメス、脚部をコンテナに固定、GNライフルによる迎撃射撃体勢で準備。』

『トレミーのプライオリティを防御にシフト。通常電源をカットする。』

ラッセの言葉とともにブリッジの明かりが落ち、モニターやパネルの明かりだけがその場を照らしている。

『ほ、ホントに戦うの!?この艦、武装ないのに!?』

『ガンダムがいますよ!!』

『三機だけじゃない!!』

クリスティナの弱気な言葉をスメラギが遮る。

『さあ、そろそろ敵さんのお出ましよ!!360秒耐えて見せて!!』

『リングの影から、敵輸送艦出現!』

『デュナメス、砲狙撃戦開始!!』

スメラギが言うか言わないかのうちにロックオンは引き金を引いた。

「逝けよ!!」

閃光が駆け抜けるが、敵の輸送艦には当たらず、遥か彼方へと消えていってしまう。

「クッ!機体重量の変化で照準がずれてやがる!」

「ハロ修正!ハロ修正!」

ハロが目を点滅させながら計算を開始する。
しかし、

「時間がねぇ!手動でやる!」

ロックオンはスコープの横のパネルを叩き始める。

『ハロ、今の狙撃データを送れ!俺と967で軌道修正する!』

「ユーノ!?間に合うのか!?」

『俺たちを誰だと思ってんだよ。マイスターであると同時にガンダムの整備士だぞ!』

そんな話をしている間に修正したデータが送られてきた。

「ありがてぇ!これで狙い撃てる!!」

『修正はしたが違和感は変わらないはずだ!気をつけろ!!』

「ここまでしてくれりゃ十分だ!!」

そんな時、敵からミサイルが発射される。

『ミサイル接近!数、24!』

フェルトの声を聞いた三人はミサイルを撃ち落としにかかる。

「狙い撃つぜ!!」

「当たれぇぇ!!」

「いけえぇぇ!!」

三方向から何度も閃光が放たれるが、すべては落としきれずにトレミーに向かっていく。

「しまった!!」

「GNフィールド展開!!」

「りょ、了解!」

ミサイルが着弾するが、そのすべてがGNフィールドに阻まれた。
しかし、衝撃までは消せずに、トレミーの内部を大きく揺らす。

その時、スメラギとロックオンは敵艦の異変に気付く。
ここまで接近してきてもまったく進む勢いを落とさないのだ。

「無人艦による特攻!?」

「と、特攻って………!?そ、そんな!?いやああぁぁぁぁ!!!」

クリスティナは恐怖のあまり頭をかかえてその場に丸まってしまう。

「やらせるか!!」

ロックオンは素早くコンソールを操作し、デュナメスの腰部からGNミサイルを発射する。
敵艦に突き刺さったミサイルは圧縮粒子を解放する。
敵艦はぶくぶくと膨らんでいき、限界に達したところで大きく爆発した。
が、敵艦の破片がこちらへと向かってくる。

「GNフィールド再展開!!」

「いや……いや………!」

スメラギが指示を出すが、クリスティナは丸まったまま動こうとしない。

「クリス!?」

そして、トレミーは破片のシャワーを浴びて大きく揺れる。
一つ一つは小さな破片だが、宇宙空間では加速がついたデブリは凄まじい破壊力を秘めている。
それが容赦なく襲ってくるのだからたまったものではない。

「早く来てアレルヤ……私……死にたくない………」

そんな中でも、いや、だからこそクリスティナは恐怖に呑みこまれていっていた。

「クリスティナ・シエラ!!」

スメラギが一喝するがクリスティナは震えたまま動かない。

「生き残る!!」

フェルトの声がブリッジに大きくこだまする。
全員が思わずフェルトのほうを向いた。
いつもの彼女とは違う、強い意志がこもった目にスメラギですら圧倒されそうだった。

「……全員、生き残るの。」

「フェルト……」

フェルトの声にクリスティナは正気に戻る。
それを見たスメラギはクスリと笑って前を見据える。

「フェルトの言う通りよ!私たちは生き残る!凌ぐのよ、なんとしても!!」

そこにロックオンから通信が入る。

『敵MS部隊を確認した!』

スメラギがモニターを見ると、そこには青にカラーリングされたティエレンの大群がこちらに向かってくるのが見えた。

「輸送艦の後ろに隠れてやがったのか………!」

「敵総数、36機!」

「おいおい、シャレになんねえって!!」

「シャレたまねを!!」

デュナメスがライフルを発射するが、ティエレンたちはデュナメスの死角に回り込む。

「死角に入られた……!ブリッジ、コンテナを回してくれ!」

コンテナを回す間に、ティエレンたちは集中砲火をかける。
トレミーもGNフィールドを張って防ぐが、かなり厳しい状況だ。

「はあああぁぁぁ!!」

エクシアはティエレンの大群の中に飛び込んでいき、一機を斬り伏せるがそれを見た他の機体は戦いもせずに逃げていく。

「誘っているのか……!?」

刹那はGNソードをライフルモードに変えて発射するが、敵は大きく避けて距離をとってくる。
もともと刹那は全マイスターの中でも射撃が得意なほうではない。
そのことも祟って、敵のかすらせることすらできない。

「打ち砕く!!」

ソリッドは側面にいる敵に攻撃を仕掛けるが、距離を取られてしまう。

「しゃらくさい!!」

ユーノはペダルを踏み込んで急加速して突っ込もうとするが、そうすると周りにいる他の機体が射撃で動きを止めにかかってくる。
GNフィールドのおかげでダメージこそないが、敵に近づくことができない。

「クソっ!!もっと前に出て……」

「駄目だ!前に出れば防御が薄くなる!」

二人は必死でヒットアンドアウェイで来る相手を墜とそうとするが思うようにいかない。

一方ロックオンも、

「とらえた!」

敵を照準に捉えるが、すぐさま敵は死角に逃げ込んでしまう。

「またかよ!!」

ロックオンにいら立ちが募る。
こんなことなら左脚がジグでも離れて戦うのだったと考えてしまうがもう遅い。
今はできることをするしかない。

『敵さん及び腰だ!!』

『この程度ならGNフィールドで対応できる!』

(この程度……?)

ラッセとリヒテンダールの言葉にユーノは引っかかる物を覚える。
確かにガンダムの性能は恐ろしいだろうが、いくらなんでもこの数でこの程度の攻撃では消極的すぎる。
元来、MSによる艦船攻撃はここまで距離をとるものじゃない。

(………ッ!!まさか!?)

ユーノは慌ててブリッジに通信を入れる。

「スメラギさん!敵の狙いはトレミーじゃない!!」

連絡を入れるまでもなくスメラギもどうやら気付いているようだ。

『ええ!人革の狙いはガンダムの鹵獲よ!!』

スメラギは自分の席の手すりを叩き、悔しさに顔をゆがませる。

『もう、間違わないと決めたのに………!』

「スメラギさん……」

ユーノは戦闘中であることも忘れて、泣き出しそうなスメラギを心配そうに見ていた。






オービタルリング周辺宙域

「捉えたぞ!!」

急いで引き返していたアレルヤはトレミーと攻撃をくわえる敵を睨みつける。
だが、彼は重要なものを見落としていた。
モニターにある物が表示され、アレルヤに驚愕がはしる。

「機雷群!?誘われた!」

気付くのが遅れたためアレルヤはそのまま機雷が道構える中へと突っ込んでいってしまう。
そして、機雷の爆発を確認したラオホゥからティエレン、そしてピンクのカラーリングをしたティエレンタオツーが発進する。

「この程度でキュリオスが……ッ!?グ、ウウウウゥゥゥゥゥ!?」

いったん引き返し敵部隊を攻撃しようとした時、アレルヤの頭が激しく痛みだす。

「なんだ……この頭を刺すような痛みは!?」

痛みの中でアレルヤは天柱でのミッションを思い出す。

「お、同じだ……あの時と同じ痛み……!!」

痛みとともに頭をかき乱されるようなあの感覚。
二度と味わいたくなかったあの感覚が再び襲ってきている。

「な、なにが……いったい何が!?」

アレルヤは前から近づいてくるピンクの機体を見つける。

「あの機体は!?」

自分の忌まわしい記憶の一部。
あそこにいたときに見たものだ。

「知っている………知っているぞ!!」







プトレマイオス周辺

暗い闇に浮かぶ青いティエレンをエクシアはまた一機斬り伏せるが、それだけだ。
いつものように周りにいる敵もそのまま斬り裂くのだが、今回は一機斬り捨てたらそこまでだ。
他の機体は距離をとって逃げの一手に出てしまう。

「クッ!間違いない……この敵は時間稼ぎをしている!」

デュナメスも狙撃を繰り返すがなかなか当たらない。

「ちっくしょう!持久戦かよ!!」

「…………………」

ユーノは黙ったまま攻撃もしかけずにトレミーの周りの敵を動きで牽制していたが、何を思ったのか敵の大群に向けて突進していく。

「ユーノヤメロ!ユーノヤメロ!」

『!?ユーノ!何をしているの!?戻りなさい!!』

「敵の目的がガンダムの鹵獲なら、これで何機かトレミーから引きはがせるはずだ!!ついでにアレルヤとティエリアの援護に向かいます!」

『無茶よ!ソリッドも鹵獲されてしまう可能性があるわ!』

「大丈夫です!!ついてくる奴らは一気に片付けられます!」

ユーノはそう言うとGNフィールドを張ったままアレルヤとティエリアの向かったほうへと向かっていく。
それを見ていたティエレン六機が我先にと追いかけていく。

「ユーノ!!」

刹那は叫ぶがもうユーノには届かなかった。



ある程度トレミーから距離が取れたソリッドは加速しながらアームドシールドの中から円柱状のものを排出する。
そして、ティエレンたちがそこに接近したところで967に指示を出す。

「967、GNグラム発動!」

「了解!GNグラム発動!!」

次の瞬間、闇の中に青い閃光がはしったかと思うとティエレンたちは動きを止めた。

「よし!さっさとアレルヤ達の救援に向かうぞ!」

「戻レユーノ!戻レユーノ!」

967はユーノに戻るように進言するが、ユーノは聞く耳を持たない。

「ここまで来て引き返せるかよ!!」

ユーノはペダルを大きく踏み込んで仲間のもとへと向かった。






オービタルリング周辺宙域

「中佐、羽根付きの動きが妙です。特殊粒子も出ていません。」

「機体の変調か……それとも罠か……?」

目に見えて様子がおかしいキュリオスにいぶかしげな視線を向けるセルゲイ。
そんな彼にティエレンタオツーを駆るピーリスから通信が入る。

「中佐、私が先行します。」

「カーボンネットを使ってからだ。ミン中尉!」

「了解!」

セルゲイの指示を受けミン達はティエレンの腰に装備されたカーボンネットを発射し、キュリオスの動きを封じる。

そして、徐々にティエレンタオツーが上からキュリオスに近づいていく。

「来るな………!」

ティエレンタオツーが近づくほどにアレルヤの頭痛はひどくなっていく。
だが、そんなことなど知らないピーリスはどんどん近づいていく。

「来るな………!」

アレルヤの脳裏に幼い日に見たティエレンタオツーの姿がよみがえる。
そして、あの悪夢のような出来事も。

「来ないでくれぇぇぇぇぇ!!!!」

アレルヤの懇願もむなしくティエレンタオツーはキュリオスに触れた。
その瞬間、アレルヤは今までに味わったことのない苦痛に襲われた。

「ッッッ!!!グアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!アッァッァァアアアアア!!!!!!」

「なに!?」

接触回線からその声を聞いたピーリスはアレルヤがいったいなぜ苦しんでいるのかわからなかった。

「この声は!?」

セルゲイもまたその声を聞いて驚いた。
前に重力区画を押し上げてくれたあのパイロットの声だ。

「あの時と同じ、若いパイロットの声!だが……なぜ苦しむ?」

そして、今の彼が置かれている状況を見てピンと来る。

「ピーリス少尉を拒んでいるのか……?ッ!もしや!?」

ピーリスが暴走したあとに超兵機関の人間が彼女の脳量子波によって外部から影響を受けた可能性があると言っていた。

「ピーリス少尉と同類……」

ピーリスはその後、二度とそうならないように処置をされたが、彼はそれを受けていない。
その差が今出たのだろう。

(だが、そうならなぜ敵がたにいる?裏切り……?それともあそこを脱走したところを拾われたか?)

『中佐、パイロットの意識が途絶えました。』

ピーリスの声でセルゲイは一時考えることを中断する。

「了解した。各機、羽根付きを4番艦に収容後、安全領域まで離脱。イワン軍曹は本隊に合流し、撤退信号を送れ。」

なぜ彼がソレスタルビーイングにいるのかは捕えた後に聞き出せばいいだけの話だ。
そんなことを考えながらセルゲイは味方の艦の待つ場所まで向かった。
それが思いもよらぬ結果を招くことも知らずに……






?????

光の流れの中で髪をなびかせながら967は嘆息する。

『まったく……自分の思いに一途なのはいいことだが、後先考えずに行動するのはいただけないな。』

ユーノは一度これだと決めるとなかなか考えを変えない。
967も何度かそれが原因のトラブルに巻き込まれている。
だが、彼がユーノについて本当に心配していることはそれではない。

『……どうにもアイツは自分の命を軽く見すぎている。』

そう、ユーノは他人の死には敏感なのだが、どうにも自分のことは戦場にいたとしても後回しにしがちだ。
他者の命を救うことを優先してしまう。
たとえ自分の命を犠牲にしてでも。

『何事もなければいいが…………』






ラオホゥ4番艦

『羽根付きの収納完了。』

「作業兵はパイロットを機体から離し、拘束せよ。」

『作業班、了解!』

ガンダムの収容を完了したセルゲイは思わず安堵のため息をつく。
鹵獲する際には味方機の損傷、最悪死人が出るかもしれなかったが、なんとか全員無事に帰ってくることができた。

『4番艦、発進準備完了。』

「ピーリス少尉としては物足りぬ初陣となったな。」

何気なくそう言ったセルゲイに機械的な答えが返ってくる。

『私にそのような気持ちはありません。作戦を完遂させることが私のすべてです。』

その答えを聞いてセルゲイは渋い顔をする。
まだ若い彼女が自分のことを兵器として認識しているのがセルゲイにはどうしても我慢ならなかった。
本来なら穏やかな日常の中である時は笑い、ある時は泣き、ある時は喜びながら生きているのが正しいのだろう。
だが、彼女はここでこうして兵器として戦っている。
そうさせてしまった罪の一端は自分にもある。

(……なら、せめて私の手で、戦場の中にあっても彼女に人として生きる道を示してやりたい……。偽善かもしれないが、今の私にできるのはそのくらいしか……)

その時、ピーリスのディスプレイに高速でこちらに接近してくる光が写された。

『中佐、熱源が!!』

ピーリスは光が来る方向にティエレンタオツーを向ける。

『来ます!!』

巨大な光は逃げ遅れた二機を包み込み、爆煙へと変えた。

「全機散開!!4番艦は現宙域より緊急離脱せよ!!(この攻撃は……デカブツか!!)」

セルゲイが目を向けた先には肩にバズーカを背負いながらこちらへと向かってくるヴァーチェの姿があった。
ヴァーチェは再びバズーカを発射してティエレンをもう一機墜とす。

「別働隊がいたとは………ん?」

ティエリアはディスプレイにうつされた情報を見る。
そこにはラオホゥから発せられるキュリオスの反応があった。

「なに?敵輸送艦からキュリオスの反応………ッ!敵に鹵獲された!?」

ティエリアの怒りのボルテージは一気に上昇する。

「なんという失態だ!!万死に値する!!」

ヴァーチェはGN粒子排出口を開いてGNフィールドを纏うと、敵の攻撃を受けながらも狙いを定める。
狙いはガンダムがのせられているラオホゥだ。

『中佐、敵が射撃体勢に入りました!4番艦を狙っています!』

「馬鹿な!味方がいるのがわかっているはずだ!それでも撃つというのか!!」

そう、ティエリアはそれでもバズーカの粒子濃度を上げていく。

「アレルヤ・ハプティズム……君もガンダムマイスターにふさわしい存在ではなかった……」

以前は独断行動で全世界にデュナメスの超高々度狙撃能力をさらしてしまい、挙句の果てには鹵獲された。
そんな存在など、ガンダムマイスターにはふさわしくない。
太陽炉を一基失うのは痛いが、敵の手に渡るよりはこの場ですべて破壊してしまうほうがましだ。
ティエリアは引き金を引こうとした。
だが、

(……なぜだ?なぜ、引けない!!)

指先が凍りついたように動かない。
頭では引かなければいけないとわかっているのに撃つことができない。

(クソ!動け………動け動け動け動け…動け!!)

必死に自分に言い聞かせるがそれでも動かない。
それどころか余計な光景まで、エレナ・クローセルの笑った顔、怒った顔、泣いた顔、そして死に様まで浮かんできてしまう。

(何を考えているんだ!!早く……早く撃つんだ!!)

ティエリアの指が震えながら徐々に曲げられていく。
しかし、

「!?な!」

こちらに高速で接近してくるピンクの機体が目に入るとそれまでのことは頭からなくなり、すぐ近くの敵を倒すことのみが思考を支配する。
ピンクの機体ティエレンタオツーは射撃をしかけるがGNフィールドに阻まれてヴァーチェにダメージを与えることはできなかった。

「早い!!ティエレンとは違う……新型か!」」

ヴァーチェはGNフィールドを解除して肩にあるGNキャノンをティエレンタオツーに二回発射する。
しかし、すべて避けられてしまった。

「二度も避けた!?」

ティエリアが驚愕する暇もなく、敵はヴァーチェに近づいてくる。

「中佐、ここは私に任せて羽根付きを!!」

「ピーリス少尉!!ク………!4番艦は指定宙域で待機、羽根付きからパイロットを引きずり出すのを忘れるな!場合によってはカッターの使用も許可する!」

『りょ、了解!』

セルゲイの指示を受けたラオホゥは撤退を開始する。

「ッ……輸送艦が!」

ティエリアは追跡しようとするがティエレンタオツーが高速でもうすぐそこまで迫っていた。

「たった一機でヴァーチェに対抗する気か!!」

「邪魔はさせない!!」

ヴァーチェは再びGNキャノンを撃つが、ティエレンタオツーは避けてヴァーチェの後ろをとる。

「な、なに!?」

「至近距離なら、弾をはじかれても!!」

ヴァーチェはGNフィールドを再度展開するが、ティエレンタオツーの射撃位置が近すぎるため勢いを殺しきれずに被弾してしまう。

「ク!調子に乗るな!!」

ヴァーチェもまたGNキャノンを発射してティエレンタオツーの右脚を吹き飛ばす。

「うっ!よくも……私のタオツーを!!」

「こいつ!!」

ティエリアは損傷した右脚をパージして向かってくるティエレンタオツーを忌々しげに睨みつける。
だが、彼は忘れていた。
敵が一人ではないことに。

『中佐!少尉の機体が!』

「わかっている!MS隊はピーリス少尉を援護しつつ、デカブツの鹵獲作戦に入る!」

セルゲイの指示でMS隊がヴァーチェへと殺到していった。






ラオホゥ4番艦 コンテナ

「駄目だ、機体外部にスイッチ類が見当たらん。カッターを使用する。」

ラオホゥ4番艦の作業兵は赤熱したカッターを取り出してキュリオスのハッチを切断しようとする。
だが、アレルヤはその音ではなく、頭の中に響く声に気を取られていた。

(聞こえる……声が……)

(邪魔はさせない!!)

「そうだ……この声は……ううっ!」

アレルヤは大きく身震いをする。
そして、もう一人の自分に体をあけわたす。

「ああ……そうだ……あの時の女の声だ!」

ハレルヤは周りにいる作業兵など気にも留めずにキュリオスを起き上がらせ、拘束具を力任せに引きちぎる。
そして、シールドクロウを展開し、自分が収められていたコンテナを切り裂いていき、破壊した。

「ハハハハハハハハハハ!!!さぁて……狩りの時間といきますか!!!ハハハハハハハハ!!!!!」






オービタルリング周辺宙域

「4番艦の反応が消えた!?なんということだ……すべては私の判断ミス……しかし、手ぶらで帰るわけにはいかん!!」

セルゲイ達はティエレンのスラスターをふかしてヴァーチェへと向かう。

「是が非でもあのデカブツを鹵獲する!」

そのころ、ヴァーチェとティエレンタオツーは凄まじい戦闘を繰り広げていた。

「あの機体から特別なものを感じる……ヴェーダ、あの機体は……?」

その時、ティエレンタオツーの後ろから大量のティエレンがこちらに近づいてきている。

「新手か!?……なめられたものだ!!」

ヴァーチェはバズーカを発射するが、敵が散開していたため狙いが定まらずに外してしまう。

「なに!?」

発射までのタイムラグを利用して接近したティエレン達はワイヤーを射出してヴァーチェの両手両脚の自由を奪う。
ヴァーチェの体は四方向に引っ張られ、ミシミシと嫌な音が機体内部に響く。
続いて遠くにいたティエレンから円柱状のものが射出され、その中から液体状のものがヴァーチェの伸ばされた関節部分に付着する。
すると、それは青い色の液体から鼠色の固体へと変わり、完全にヴァーチェの自由を奪った。

「これしきのことで!」

ティエリアはそれでもバズーカを撃とうとティエレンに銃口を向ける。

「やらせるか!!」

しかし、ティエレンタオツーがバズーカを蹴り飛ばす。

「ク!それでも!!」

続いて、GNキャノンを撃とうとする。
しかし、これは二機のティエレンが後ろから抱きつき動きを止める。

「だとしても!!」

ヴァーチェはGNドライヴの出力を上げて六機のティエレンを引きずりながら移動を開始する。

「このデカブツはティエレン六機の推進力を上回るというのか!?」

セルゲイは内心焦るが、それでも自分を落ち着かせて指示を出す。

「少尉!腕でも首でも構わん!奪い取れ!!」

『了解!!』

ティエレンタオツーはまっすぐヴァーチェに向かっていく。

「GNフィールド!!」

ティエリアはGNフィールドを張って攻撃を防ごうとするが、GN粒子排出口が開かないため発動しない。

「な、展開が!?」

焦るティエリアの前にティエレンタオツーが迫る。

「来る!」

「はああああぁぁぁぁ!!!」

(やられる!!)

銃身を叩きつけられそうになったティエリアは本能的に自らを守るために、彼自身も気づいていない能力を発動させてしまった。
虹彩が金色の輝きを放ち、電子部品のように虹色のラインがいくつも駆け巡る。
そして、彼の前のモニターには文字が表示された。
GN―004 NADLEEH、と。


次の瞬間、ヴァーチェの外部装甲がワイヤーやジェルなどを弾き飛ばしながらパージされていく。
すると、中から無骨なヴァーチェからは想像もできないスマートなフォルムのガンダムが出現する。
なにより印象的なのが頭部にある赤いコードである。
近くで見ればコードだとわかるのかもしれないが、遠くから見る限りでは赤い髪が無重力下で揺れているようにしか見えない。

「装甲をパージしただと!?」

驚くセルゲイたちをしりめに、ヴァーチェの中から出現したガンダム、ナドレはパージしたGNキャノンを手に取る。

「ガンダムナドレ……目標を消滅させる!!!!」

ティエリアはそれまでの鬱憤を晴らすかのように周りのティエレンへGNキャノンを照射していく。
よけきれなかったティエレン達のパイロットはセルゲイの名前を叫びながら虚空の闇へと消えていった。

「作戦中止!!現宙域より離脱!」

『了解!』

『中佐!』

ピーリスが不満げに叫ぶが、現状の戦力は自分とミンとピーリスだけだ。
万が一にも勝ち目はない。

「撤退だ!」

撤退を告げるセルゲイの顔は後悔と怒りで苦々しい表情を浮かべていた。











「おあああぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」

敵が撤退したのち、ティエリアはコンソールに拳を振り下ろす。
自分へのふがいなさから。
ヴェーダの計画をゆがめてしまったことに対する自らへの失望から。
そして、キュリオスを、いや、アレルヤを撃つことをためらってしまったことに対する怒りから。

「なんという失態だ………!!こんな早期に、ナドレの機体をさらしてしまうなんて………!!」

ティエリアはわなわなと震えながら泣き始める。
普段の彼からは想像もつかない、赤子のような泣き顔だ。

「計画をゆがめてしまった……!!あぁ……ヴェーダ……俺は…僕は………私は………!!」

その時、通信が入る。

『よかった!無事だったんだな、ティエリア!!』

モニターにユーノの顔が映し出されるが、ティエリアは見向きもしない。

『!?どうした!?なにかあったのか……って!!』

ユーノもようやくヴァーチェがナドレになっていることに気付く。

『……そうか、使っちまったんだな。』

ユーノはすべてを理解し、ティエリアに話しかける。

『とりあえずトレミーに帰頭しろ。泣くのはそれからだ。』

ユーノはそれだけ言うと再びソリッドを加速させ、アレルヤの捜索を開始した。
だが、ソリッドが去った後も、ティエリアはそこにとどまり泣き続けていた。






オービタルリング周辺

一方、輸送艦が破壊されてしまったセルゲイたちはMSで高軌道ステーションを目指していた。

「少尉、機体の状況はどうか?」

『長距離加速は無理ですが、航行に支障はありません。』

「そうか……」

セルゲイは安堵のため息を漏らすが、同時に自責の念が胸を締め付けてくる。
自分の判断ミスで多くの部下の命が奪われてしまった。

「これほどの規模と人員を駆使して、一機たりとも鹵獲できんとは……」

その時、ミンから通信が入る。

『中佐、前方より接近する機体があります!』

「何!?」

セルゲイは自身のディスプレイにも表示された機影の速度で相手が何者か判断した。

「羽根付きか!!」

正面からオレンジの機体がセルゲイたちに、いや、正確にはピーリスに向かってくる。

「見つけたぜ……ティエレンの高機動超兵仕様!」

ハレルヤはそれを見ながら凶暴な笑いを浮かべる。

「ああ、間違いねぇ……!さんざんぱら俺の脳量子波に干渉してきやがって!てめぇは同類なんだろ!?そうさ……俺と同じ、体をあちこち強化され、脳をいじくりまわされてできた化け物なんだよ!!!」

ピーリスは気付いた。
キュリオスが狙っているのは自分だということに。

「いきます!!」

『少尉!』

セルゲイは止めようとするがピーリスはキュリオスへと向かっていく。
それを見てハレルヤはいっそう残酷な顔になる。

「いい度胸だな……おんなぁぁぁぁぁ!!!」

キュリオスがビームサブマシンガンを連射するが、あっさり避けられてしまう。
しかし、それがハレルヤの目的だった。
動く方向を先読みして、再度発射する。
今度は全弾命中する。
だが、威力が抑えられているのかティエレンタオツーが爆発することはなかった。

「クッ!?」

ピーリスは再び攻撃から逃れるが、逃れた先でもまた被弾してしまう。

「何!?遊んでいるの!?」

ピーリスはようやく自分が手加減されていることに気付いた。
そして、激しい怒りを覚える。
超兵たる自分をまるでおもちゃのように扱い、もてあそぶこいつが許せない。
だが、そんな彼女の思いとは裏腹に、ハレルヤは“遊び”をやめない。

「ほらさぁ!同類だからさぁ、わかるんだよ!」

ハレルヤは子供のようにはしゃぎながら、しかし、顔には悪魔のような残酷な笑みを浮かべながらビームサブマシンガンを連射する。

「少尉!!」

セルゲイはピーリスの救出に向かおうとするがミンにとめられる。

『中佐!少尉とともに離脱してください!』

「何!?」

『中佐と少尉の能力は、頂部に必要なものです!!』

その時、セルゲイはミンが何をする気なのか理解した。

『仇討ち……願います!!』

「ミン中尉!!」

セルゲイの制止も聞かずにミンは飛び出していった。
そして、キュリオスに特攻をかける。

「少尉はやらせん!!」

「邪魔すんなよ一般兵!!命あってのものだねだろうが!!」

ミンのティエレンがキュリオスの両手を封じるが、ハレルヤは蹴りとばして引きはがすと先の割れたシールドでコックピットの前の部分を挟み込む。
そして、徐々に徐々にシールドをめり込ませていく。

「ミン中尉!!」

『中佐!離脱してください!!』

声が震えていることから彼がとてつもない恐怖に襲われているのがわかる。

「ミン中尉!!」

『離脱するぞ!少尉!』

「しかし!!」

ピーリスは救援に向かおうとするが、セルゲイにとめられる。
彼女の心を後悔が埋め尽くしていく。
自分が無茶をしたばかりに彼が犠牲になろうとしている。
それがピーリスには耐えられなかった。
だが、それはセルゲイも同じことだった。

『……男の覚悟に水を差すな…………!!』

セルゲイは操縦桿を握る手の力を強める。
ピーリスにも彼の握る操縦桿の軋む音が聞こえた。

「了解……しました……!!」

二人はその場を離れていく。
ミンのティエレンが見えなくなるまで、その様を目に焼きつけながら。

「なんだぁ……?仲間見捨てて行っちまうのか?」

ハレルヤはククと笑いながらその背中を見つめたまま追いかけようとしない。
なにせ、多少質は落ちるが、新しいおもちゃを手に入れたのだから。

「やることが変わらねぇよな、人革さんはよ!」

『………いつか……』

「あ?」

ハレルヤは通信回線で話しかけてくる声に耳を傾ける。

『いつかお前たちは……報いを受ける時が来る………我々が築き上げてきて国を……秩序を乱した罰を………!!』

ハレルヤは呆けた顔で聞いていたが、再び笑みを浮かべる。

「そんな大層なもんじゃねぇだろ?人を改造して兵士にする社会に、どんな秩序があるってんだ?」

ハレルヤの顔が少し退屈そうなものになる。
よくしゃべるおもちゃだが、もう飽きた。
そう思った彼は最後に最高の思いつきをする。
普通の人間からすれば最悪の思いつきを。

「そんでもって……俺は女に逃げられて少々ご立腹だ……だからさぁ………楽には殺さねぇぞ!!!」

キュリオスのシールドからクロウの部分が出現し、少しづつ機体を貫きコックピットに近づいていく。

「な、なに!?」

ミンは起こっている事態を把握できずに戸惑うが、すぐに理解させられた。
目の前に赤熱した刃が近づいてきたのだ。

「う。うわああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!!?!?」

ハレルヤは彼の叫びを聞きながら恍惚の表情を浮かべる。

「ハハハハハ!どうよ……一方的な暴力になすすべもなく命をすり減らしていく気分は!?」

「わああああぁぁぁぁ!!や、やめてくれ!ああああああああっ、あっああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

ミンからは先ほどの勇敢な様子は見て取れない。
そこにはただ、死に恐怖する一人の人間がいた。

「ハハハハハ!こいつが命乞いってやつだなぁ!?最後はなんだぁ?ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供のころからやり直している最中か!?」

ハレルヤは反応を楽しみながら少しづつ刃を近づけていく。
が、

(やめろ……ハレルヤ……!)

頭の中に先ほどまで眠っていたアレルヤの声が響く。

「あ……?待てよアレルヤ、今いいところなんだから……」

(やめてくれ………!)

ハレルヤはチッと舌打ちをして顔をしかめる。

「何言ってんだよ……お前ができないから俺がやってやってんだろ。」

(やめるんだ!!)

頭の中に響くアレルヤの大声にハレルヤは顔をゆがめる。
しかし、彼はあることを閃く。
アレルヤにもこの快感を味あわせる方法を。

「ああそうかい。わかったよアレルヤ……まったくお前にはかなわねぇよ……」

(ハレルヤ……)

アレルヤが気を緩めた瞬間、ハレルヤの表情が一転して凶暴なものに変わる。

「なんてな!!」

キュリオスはいったん刃を引き抜くと加速をつけて一気につき立てようとした。
しかし、

「!!!!?」

そうはならなかった。
キュリオスの腕が薄緑色の巨大な輪によって固定されていた。

「なんだこりゃあ!?」

ハレルヤが混乱していると、突然、萌黄色の旋風がその場を駆け抜け、ティエレンを連れ去っていた。
ハレルヤはこれまでにないほどの怒りを込めた目で旋風の正体を睨みつける。

「てめぇは……!」

そこには巨大な盾を持ったガンダム、ソリッドがティエレンの腕を持った状態で立っていた。








数分前

「………頼むぜ、ソリッド!」

ユーノは一番奥までペダルを踏み込みながらつぶやく。
先ほどから嫌な予感がする。
アレルヤがどこか遠くに行ってしまって、もう自分たちのところには戻ってこないような気がしてくるのだ。

「何もなければいいが………」

ユーノは嫌な予感を頭の中から消すかのように猛スピードでキュリオスの反応があった場所に急ぐ。
モニターを見るともうすぐ着くはずだ。

「いた!」

ユーノはキュリオスを発見するが、次の瞬間大きな衝撃に襲われる。
キュリオスが、アレルヤが動かないティエレンにシールドクロウを突き刺しているのだ。

「アレルヤ!?」

普段の温厚な彼からは想像できない行為だ。
アレルヤは倒れたものに攻撃をくわえるような人間ではない。
そう思っていたからこそ、なおのこと衝撃は大きい。
そんなことを考えているうちにキュリオスはシールドクロウをいったん抜いて再びつき立てようとする。
その瞬間、ユーノの頭にいつもの頭痛がはしり、過去の光景がよみがえる。
何も救えなかったあの頃の光景が。

「やめろ………!」

ユーノは頭痛などお構いなしにつっこんでいく。
今はティエレンのパイロットを救うことしか頭にない。
敵だろうと関係ない。
もう、誰も自分の前で傷つけさせはしない。
あのころとは違う。
自分には必死で学んだあの力があるのだから。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ユーノが叫んだ瞬間、コックピット内に文字が描かれた萌黄色の円が描き出される。

「バインド!間に合え!!」

キュリオスの腕の周りに萌黄色の光が集まり、大きな円を作るとそのままキュリオスの腕を締めあげていく。
その隙にユーノはティエレンの救出に成功する。

「967、中のパイロットは!?」

「生キテル。生キテル。」

967の言葉にユーノはホッと一息つくが、キュリオスがこちらを睨んでいることに気付くと、先ほどまでの喜びを心の奥深くに沈めて気を引き締める。

「さて……久々に“魔法”を使っての戦闘になりそうだが、うまくいってくれるか………」







少年は仲間と戦う覚悟を固める。
もう、何も失いたくはないから……





あとがき・・・・・・・・という名の万歳(ユーノ的に)

ロ「というわけで、ガンダム鹵獲作戦編のはな……」

ユ「ばんざぁぁぁぁい!!やっと魔法が使えるぅぅぅぅぅっ!!!!」

ロ「うるせぇぇぇぇ!!ちっと黙ってろ淫獣!!」

ユ「ばんざぁぁぁぁぁい!!」

兄「駄目だこりゃ。諦めてさっさとゲストの紹介に行くぞ。」

ティ「……今回のゲストは……夜天の王……八神はやてだ……」

狸「や~どうもどうも。……てか、この人なんでこんなにへこんでるん?」

ロ「本編読め。」

ティ「あぁ……ヴェーダ……」

狸「……まあ、ええわ。それより、いいお土産があるんやけど。」

兄「へぇ、なんだ?」

狸「これや。」

狸、手の中のスイッチを押すと後ろのスクリーンに映像が映される。

『………優しいね。』

『ちっちゃい女の子限定でな。』

兄「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!?!?!!??なにしてんだてめぇぇぇぇぇ!!!?」

狙撃手、慌てて映写機を狙い撃って破壊する。

狸「いやぁ、ちょおそこでなんかウェーブヘアーの巨乳美人にあってな。気があったからこれをもらったんや。」

兄「あの戦況予報士なにしてくれてんだ!?」

ロ「ロックオン……お前……」

ティ「まさかそんな趣味があったとはな。」

兄「ちげぇっての!!てかティエリアはいつ復活した!?」

ロ「ラジエルに入れといたら元気になったぞ。」

ユ「ばんざああぁぁぁぁぁい!!」

兄「うるせぇぇぇぇぇぇ!!このタイミングでそれ言われると頭くんだよ!!」

狸「でもここできっちりロリコン宣言しとるで?」

兄「本編では言ってないだろ!!」

狸「安心しぃ。うちがあんたの心の叫びを付け加えといたから。」

兄「どこに安心できる要素がある!?それお前が勝手に改竄したってことだろうが!!」

狸「さて、これをトレミーの皆様に……」

兄「人の話を聞けぇぇぇ!!!そしてやめろぉぉぉぉぉぉ!!!いや、やめてください!!!」

狸「いいやん。面白いんやから。」

兄「よくねぇぇぇぇ!!!なに!?こないだの殺人シェフといい俺があとがきに出るときのゲストはこんなんばっかか!!?」

ロ「ピンポン。」

兄「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」

ユ「ばんざあぁぁぁぁぁぁぁい!!」

兄「お前いい加減にしないとマジで狙い撃つぞ!!」

狸「何?ユーノ君を黙らせたいん?」

ティ「そうらしい。」

狸「じゃ、これやな。」

狸、今度は一枚の写真を取り出す。

ロ「これは?」

狸「15話でのワンシーンや。」

そこにはユーノがフェルトを抱きしめている姿が写されている。

狸「ユ~ノく~ん。これなのはちゃんに見せるけどええよな。」

ユ「調子こいてスンマセン!!」

兄「変わり身はやっ!!」

ティ「よほど彼女が恐ろしいのだな。」

ユ「お前らも一回炭にされたらわかるよ。」

ロ「さて、時間もないしそろそろ解説に行くか。」

ユ「今回は鹵獲作戦編か。そして、とうとう俺の記憶が……」

ロ「まだ戻ってないぞ。」

ユ「へ?」

ロ「今回はお前が魔法を使えることを思い出すだけだからな。まだ記憶は完全には戻っていない。」

狸「そんなんでいいんかい。」

ティ「仕方ないだろう。まだこのネタで引っ張りたいらしいからな。もっとも、そろそろ戻すらしいが。」

兄「てか、あのミン中尉とかいうの生き残らせちゃったな。」

ロ「ネタバレになるがあの人、というかセルゲイさんたちはこれからのユーノに関しての展開のキーマンにしていくつもりだからな。」

ユ「そうなの!?」

狸「まあ、どうせしょうもないもんに仕上がるんやろうけどな。」

ロ「はやてさんや、俺は今ほどウィングぜロカスタムが欲しいと願ったことはないよ。今すぐゼロシステムを使ってお前を消し飛ばす方法を知りたい。」

ティ「さて、ロビンが本当にゼロを持ち出さないうちに次回予告に行くぞ。」

兄「アレルヤのもとへと駆けつけたユーノを待っていたのはハレルヤが操るキュリオスだった!」

狸「想定外のガンダムどうしの戦いに、ユーノ君は生き残ることができるのか!?」

ティ「そして、いよいよあの人物がユーノに正体を明かす!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 17.キュリオスVSソリッド
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/12 09:23
オービタルリング周辺

「う………ぁ……」

ミンは力なくコックピットの席に寄りかかっていた。
体のあちこちに突き刺すような激しい痛みがあるおかげか、何とか意識を保っていられる。
先ほどの攻撃で火傷を負ったようだが、なぜか生きている。
壊れかけたヘッドマウントディスプレイからノイズがひどいながらも多少の映像は見ることができる。
そこには、信じられない光景があった。

(盾……持ち……?)

おおきな盾を持った萌黄色のガンダムが自分のティエレンの腕を支えながらオレンジのガンダムと向き合っているのだ。
オレンジのガンダムは銃をこちらに向けるが、萌黄色のガンダムは自分の前に盾を持ってくる。

(守って……くれているのか………?)

自分の仲間の命を奪っていたガンダムが今度は自分の命を守ろうとしてくれているのだ。

(な……ぜ………?うっ………)

ミンは問いの答えを知る前に気を失ってしまった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 17.キュリオスVSソリッド

(さて、どうするか……)

魔法のことを思い出したのはいいものの、自分が使えるのは敵の動きを封じるバインド系、敵の攻撃を防ぐ防御系、怪我などを治す治療系、そして検索や探索系の魔法だ。
攻撃系の魔法は使えることは使えるが素人に毛が生えた程度だ。
MS戦において防御魔法がどの程度使えるかわからないし、攻撃魔法と探索魔法にいたっては論外だ。
唯一使えるとすれば先ほど使ってみて有効性が証明されたバインド系ぐらいだろう。

(まあ、まずはアレルヤに通信だな。)

ユーノはキュリオスとの回線を開いて、アレルヤ(?)の様子をうかがう。
いつもは隠れている金色の右目をぎらつかせるアレルヤ(?)にユーノはうすら寒いものを覚えるが、それでも話し合いを試みる。

「アレルヤ、ここまでだ。みんなが心配している。早くトレミーに……」

『あぁ、戻ってやるさ…………てめぇとそいつをぶち殺したらな!!!!』

「!!!」

アレルヤ(?)はキュリオスのシールドクロウを拘束していたリングバインドを外すと、ソリッドのコックピットに向けて伸ばしてくる。
しかし、ソリッドは腰からビームサーベルを抜いて斬り払って距離をとる。

(……俺の勘違いであってほしかったがな。)

ユーノは自分の仮定が正しいことを確信する。
今、キュリオスを操縦しているのはアレルヤではない。

「……お前、誰だ?アレルヤそっくりの姿をしやがって……」

『ハッ……これから死ぬ奴に、名前なんざ名乗ってどうすんだよ!!』

(速い!!)

キュリオスがビームサーベルを抜いてジグザグの軌道でこちらに向かってくる。
今まで戦ったことがなかったから気がつかなかったが、キュリオスの機動力は桁外れだ。

「そおら!まずはそいつからだ!!」

「!させるかよ!!」

ユーノは操縦桿を倒してソリッドをティエレンの前にもっていってキュリオスのシールドクロウをアームドシールドで防ぐ。
だが、

「それで防いだつもりかよ!!」

キュリオスはアームドシールドをシールドクロウで固定したままソリッドごと振り回して投げ飛ばす。

「うわあああぁぁぁぁ!!?」

「こいつでくたばりなぁ!!」

キュリオスは取り残されたティエレンにビームサーベルをつき立てようとする。

「ク!バインド!!」

ユーノは再びリングバインドを使用してキュリオスの動きを止める。
だが、

「それがどうしたぁ!!」

キュリオスは強引にバインドを破壊してそのままビームサーベルをつき立てようとする。
しかし、今度はさまざまな文字や図形が刻まれた萌黄色の巨大な円がそれを阻む。

「チッ!!今度はなんだってんだ!!?」

キュリオスが力を込めて円にビームサーベルを押し込んでいくほどに細かなひびが円に広がっていく。

「なんだ!?見かけ倒しかぁぁぁぁ!!?」

アレルヤ(?)は凶暴な笑みを浮かべながらビームサーベルを押しこんでいき、円を破壊する。
しかし、その切っ先の先にはもうティエレンはいない。
そして、横から大きな衝撃が彼を襲う。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!?」

キュリオスを蹴りとばしたソリッドは続いてバルカンによる追撃をくわえるが、戦闘機形態になり距離をとると、再びMS形態に戻って後ろにティエレンを置いたソリッドを見据える。

「…………はぁっはぁっはぁっはぁっ!!」

ユーノはコックピット内で荒く息をする。

(た………たった………一発、防いだだけで………こ、ここまで消耗するのかよ………!!)

バインドをやぶられた時、咄嗟にシールドを発動してしまったが、ティエレンを助けるまで破壊されないように保っていただけで魔力の半分を持っていかれてしまった。

(こりゃ……とてもじゃないが………使えそうに……ないな……)

ユーノが必死で呼吸を整えていると、今度はアレルヤ(?)から通信が入る。
モニターの向こうのアレルヤ(?)はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。

『やるじゃねぇか……まさかあんな隠し玉を持ってたなんてな。』

「俺も……ついさっき……思い出した、ばっかなんでな………はっきり言って、かなり、キツイぜ……」

荒く息をつきながらもユーノはにやりと笑って見せる。

「それより、お前の名前を言え……んでもって、アレルヤはどこだ……?」

それを聞いた彼はげらげらと笑いながら答える。

『アレルヤなら今は俺の中だ……必死にお前殺すなって言ってきてるぜぇ?』

「お前の中だぁ………!?」

『そうよ!!脳をいじくりまわされた化け物……それがお前の仲間の正体さ!!アレルヤと俺……ハレルヤ様の二人で完璧な人間兵器、超兵ってわけさ!!ヒャハハハハハハハハ!!!』

ハレルヤの下卑た笑いを見ながらユーノは疲労と不快感で顔をしかめる。

「ハレルヤとはお前にはもったいない名前だな。どこのどいつが名付けたか知らないが最悪のセンスだ。俺ならお前にもっとお似合いの名前をくれてやるね。『クソ野郎』って名前をな。」

ハレルヤは自身への罵倒のことばなど気にも留めずに笑い続ける。

『ハハハハハ!!言ってくれるじゃねぇかクソガキィ!!』

キュリオスはビームサブマシンガンを構えてソリッドへと攻撃を開始する。
銃口から放たれる光の弾丸は何度もソリッドに当たる。

「クッ!GNフィールド!!」

ユーノはGNフィールドを張って対抗するが、後ろにティエレンがいるため動くことができずにいい的になってしまう。

「そらそらどうした!?後ろの雑魚を放っておけば思う存分戦えるぞ!?それとも何か!?お優しいユーノちゃんには見捨てるなんてできねぇかぁ!!?」

(やめろハレルヤ!やめてくれ!!)

「てめぇは黙ってな、アレルヤ!!」

「な……ろぉ……!!」

ユーノはハレルヤの駆るキュリオスの猛攻を防ぎながら考えを巡らせる。

(バインドで動きを止めて……いや、駄目だ。あそこまで素早く動かれるときっちりバインドをかけられるかあやしい。シールドはあと一回使えるかどうか……しかも完全に防ぐことはまず不可能なうえに使えばガス欠でこっちがぶっ倒れる……。駄目だ!手が思い浮かばない!!)

ユーノは後ろにいるティエレンに目をやる。
確かにさっきまでは自分の仲間を苦しめた敵かもしれない。
だが、それは彼を見捨てる理由にはならない。

(諦めるものか!なにかいい方法が……)

その時、ユーノは気付いた。
ハレルヤが先ほどまでと違い接近戦をしかけてこないのだ。

「ギヒャハハハハハハハハハ!!!!最高の気分だよなぁ、アレルヤァァァ!!」

(遊んでんのか……?)

ユーノの予想はあたっていた。
ハレルヤは今度はユーノとソリッドをおもちゃにしている。
珍しいおもちゃを与えられた子供はそれに夢中になり、なかなか飽きがこないものだ。

(だったら……そいつを利用させてもらう!)

ユーノはGNフィールドを解除するとティエレンを引っ張りながら逃走を開始する。

「逃げんなよぉ!これからがお楽しみなんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

キュリオスは当然ソリッドを追跡しながら射撃を続ける。
瞬間的なスピードならソリッドが上だろうが、長時間高速を保っていられるキュリオスのほうがこの場合では遥かに有利だ。
ハレルヤはそれがわかっているからこそいきなり相手に当てるようなことはしない。
最初はかする程度に、そして徐々に手足をもいでいって絶望感を与える。
それが彼のシナリオだった。
だが、ソリッドは急に動きを止めてこちらを向くとアームドシールドをバンカーモードに変える。

「ああ?まさかその状況で俺と真っ向からやりあう気か?」

ハレルヤは訳がわからないといった様子だが、ユーノはシールドバスターライフルをシールドモードにして守りを固める。

「ク……アッハハハハハハハ!!!!おもしれぇ……!!そのお荷物を背負った状態でどんだけやれるか見せてみろよ!!!」

(無茶だユーノ!!よすんだ!!)

「もう遅えよ!!」

ハレルヤはビームサーベルの切っ先をソリッドに向けて突っ込んでくる。

(かかった!!)

ソリッドはビームサーベルをシールドバスターライフルで防ぐ。
そして、バンカーをキュリオスに…………撃ち込まなかった。

「いけぇぇぇぇぇ!!!」

バンカーモードのまま肘の部分からはみ出したブレードの部分にGN粒子を纏わせて振動させ、肘を空高くつきだすように振り抜いた。
だが、

「………………おしかったな。」

ユーノの一撃はキュリオスのシールドクロウの刃にとめられていた。

「いやはや………バンカーと見せかけて本命はブレードか……常人ならくらってたんだろうが、あいにくと俺たちは………」

ハレルヤが残酷な笑みを浮かべる。

「超兵なんだよぉぉぉぉぉ!!!」

キュリオスはビームサーベルを捨ててビームサブマシンガンを抜くと至近距離で発砲した。

「う、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「ダメージ深刻!!危険!危険!」

いくら威力が調整されているとはいえ、この距離で受ければガンダムといえども無事ではない。
事実、力なく離れていくソリッドの胸元は真っ黒に焼けている。
そして、モニターにはぐったりとしたユーノの姿が写っていた。

(ユー、ノ……?)

アレルヤはしばらくその光景が信じられなかった。
自分の生み出したものが、大切な仲間を、信じていると言ってくれた人を傷つけてしまったのだ。

(あ……ああぁぁ……)

「ありゃりゃ………死んじまったかぁ!?ハハハハハハハハ!!!」

(あああああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁっっっっ!!!!!!!!)

アレルヤは絶望の叫びをあげた。
そして、もう一人の自分に初めて憤怒と憎悪の感情を向ける。

(ハレルヤァァァァァァァァ!!!!!)

「ハハハハハハハハハ!!!何キレてんだよアレルヤ!?お前がやったも同然じゃねぇか!!」

(許さない!!たとえ僕の命をなげうってでも君を殺す!!)

「無理だな!!お前はあの時も結局自分を犠牲にできずに俺に引き金を引かせた!!そんなお前が俺を殺すだぁ!?笑わせんな!!」

アレルヤの言葉に下品な笑いをこぼすハレルヤだが、突如入った通信に驚く。

『アレ………ルヤ……』

モニターの向こうには疲労しているが、しかし、無傷のユーノがいた。

「馬鹿な!!?あの距離で受けて無事なわけが……!」

『極小の……GN、フィールドを……コントロールして………防いだ……』

そう、ユーノは967とともに極小のGNフィールドをいくつも作り、ダメージを最小限にとどめたのだ。

『ア……レルヤ。聞こえてんだろ………』

ユーノは必死で声を絞り出す。

『大方………また、めそめそと………泣いてん、だろう……けど、心配…すんな……俺、は……こんなバカに…負けない………から………』

ユーノはそう言ってモニターの奥にいるハレルヤ、そして、さらにその奥にいるであろうアレルヤにニヤリと笑いかける。

「うぜぇ……うぜぇうぜぇ!!たとえ今のを防いでも無駄だ!!こいつで……」

ハレルヤはシールドクロウを構え距離が開いたソリッドに突進するが、その瞬間、四方に萌黄色の円が発生し、そこから同じ色をした鎖がキュリオスをきつく締めあげた。

「クソがぁぁぁぁ!!なんだこいつは!!?」

「ディレイドバインド……俺の残った力をすべて注ぎ込んだ……そう簡単にはやぶれないぞ……」

ディレイドバインド
範囲内に侵入した対象を捕縛する魔法だ。
ユーノの作戦は裏をかいた不意打ち、そして、接近したところをディレイドバインドで捕縛する二段構えだったのだ。
もちろんかなりリスキーだったが。

「967、被害状況は?」

「胸部装甲破損!」

「戦闘は?」

「可能!可能!」

「OKだ、相棒!」

ユーノはソリッドの体勢を整えて、アームドシールドをブレードモードに変更し、キュリオスに突進していく。

「ユーノヨセ!!」

「知るか!!ここまでやられたんだ!腕の一本くらいもらってもいいだろうが!!」

ソリッドはそのままキュリオスの左腕めがけアームドシールドを振り下ろす。
だが、

「この馬鹿者。」

「!?」

967から聞き覚えのない声が響くと目の前のモニターに967の文字がいくつも浮かぶ。

「なんだこりゃ!?」

「拘束できれば十分だ。」

967が口の部分で二つに別れると中からサングラスをした黒い長髪の男が出てきた。

「ミッションの途中でガンダムを破壊するな。」

「誰だお前?人の相棒の中からいきなり出てきてべらべら……」

ユーノはハッとした。

「お前……967か!?」

「いつになく鈍いな、ユーノ。」

ユーノは魔力を使いすぎたせいでチリチリと痛む頭を押さえて唸る。

「マジか……てことはお前も874の同類?」

「まあ、そうなるな。」

967は淡々と答える。

「どうでもいいがソリッドを止めたのはお前か?」

「そうだ。ガンダム同士の戦いは推奨できない。」

「先にしかけてきたのはアイツだぞ。」

「だが、アレルヤ・ハプティズムにはもうその気はないようだぞ。」

ユーノがモニターを覗くと荒く息をしながらこちらを向くアレルヤがいた。

「アレルヤ……か?」

『……うん。迷惑掛けてごめん。』

確かにアレルヤだと確認して、ユーノはバインドを解除する。

「いや、別にどうってこと……あるけど、まあ、大丈夫だ。それよりアイツは…」

『ハレルヤなら抑え込んだよ。まだ君と戦いたがってるけどね。』

ユーノとアレルヤは苦笑しながら互いの無事を確認すると、アレルヤはソリッドのコックピットの中に現れた人物、そして、キュリオスを縛りあげていたものについて質問する。

『ユーノ、彼は……?それにあれは一体何なんだい?』

「あ~、いや、これはな……」

「話はあとだ。お迎えが来たようだからな。」

967の視線の先にはこちらに向かってくるトレミーの姿が見えた。

『ユーノ!アレルヤ!聞こえるか!?』

「ああ、だいじょう……」

『この大馬鹿野郎!!!』

突然の怒声にユーノは腰を抜かしてしまう。

『勝手に敵に突っ込んで行きやがって!!しかも、ソリッドがボロボロじゃねぇか!!』

『ロックオン、それは僕が……』

アレルヤが弁護しようとするがユーノはそれを止める。

「ワリィ。ちっと油断しちまってた。」

『……二度目はない。いいな。』

ロックオンはため息をつくと続いてユーノの後ろにいるものに目を向ける。

『で、それはどうすんだ?』

ティエレンを見ながらロックオンは問いかける。
本来なら機密保持のために始末しなくてはならないのだが、

「返してくる。」

『はぁ!?』

思いもよらない答えにロックオンは間の抜けた声を上げる。

「967、やっこさんたちまだそんなに離れていないよな。」

「遠クナイ。遠クナイ。」

いつの間にかハロに戻った967は目を点滅させる。

「じゃ、そう言うことで。」

『お、おい!!コラ!!』

ロックオンは止めようとするが、ユーノは構わずティエレンを引っ張っていってしまった。







オービタルリング周辺

セルゲイとピーリスはたった二人で高軌道ステーションを目指して進んでいた。
ガンダムを鹵獲できなかったばかりか、多くの仲間を失った。
その事実がセルゲイを苦しめていた。

『中佐……』

ピーリスがそんな彼を心配したのか通信を入れてきた。

『申し訳ありません、中佐。私のせいでミン中尉が……』

「彼が自身で選んだ道だ。自分を責める暇があるなら、彼の思いを無駄にしないようにしろ。」

セルゲイはピーリスにはっぱをかけるが、彼自身かなり精神的に参っていた。
ミンとは頂部に入ってから知り合ったが、第一印象は理想に燃えた若者といったところだった。
歳はもう三十にさしかかっていたが、それでもなお祖国のために戦い、人々を守るという熱い情熱をもっていた。
そんな彼をあの時と同じように見捨ててしまった。

(ホリー、私は……)

その時、ディスプレイに自分たちの後ろから高速で近づいてくるものをとらえる。

『中佐!』

「この速度……ガンダムか!!」

二人は慌てて後ろを向いて武器を構える。
だが、その姿を見て驚きで言葉を失った。
萌黄色のガンダムがボロボロのティエレンを抱えてこちらに向かってきていたのだ。

「まさか、ミン中尉か!?」

セルゲイの問いには答えず、萌黄色の機体、ソリッドはある程度距離を置いたところで止まり、光通信を行う。

「パイロットは無事だと!!?」

セルゲイが戸惑っているとソリッドは徐々に近づいていく。

「動くな!!」

ピーリスが攻撃態勢に移るが、それでもソリッドは止まらない。

「!!」

「よせ少尉!!」

セルゲイの制止もむなしくティエレンタオツーから砲弾が放たれ、ソリッドをとらえる。
だが、それでもソリッドは攻撃する様子はない。
それどころか、アームドシールドなどの武器を捨てた。

「馬鹿な!!それで無抵抗のつもりか!?」

(罠か……?)

セルゲイは戸惑いながらも警戒するが、ソリッドに乗っているユーノはもっと神経をすり減らしていた。

「頼むぜ……撃ってくれるなよ………」

ダメージを受け武器がない今の状態のソリッドなら鹵獲も可能だろう。
だが、もしそうなればソレスタルビーイングは容赦なく彼ら叩き潰すだろう。

「ティエレンを置いて逃げればいいものを。」

「俺なりのけじめのつけかたさ。」

ユーノは苦笑しながら指揮官機と思われるティエレンにソリッドを近づけていく。
そして、それに応えるように相手もゆっくりと近づき、ソリッドの両手に抱えていたティエレンを受け取った。
その時、ティエレンから接触回線で通信が入る。

『仲間を救ってくれたことのは礼を言おう。だが、君たちはそれ以上に私たちの仲間の命を奪った。いずれその報いを受ける日が来ることを忘れるな。』

「……………」

ユーノは相手に文を返信する。
その文をセルゲイは黙って読んだ。
その後、二人はミンの乗ったティエレンを引き連れて離れていった。
その後ろ姿を見ながらユーノは全身から緊張からくる力が抜けていくのがよくわかった。

「ふぅ、ヒヤヒヤもんだったな。」

「帰ったらもっとヒヤヒヤする事態が待っているだろうがな。」

「………帰宅拒否症になりそうだ。」

そんなこと言いながら、ユーノもトレミーへの帰路についた。







高軌道ステーション周辺

「……………」

セルゲイは先ほどガンダムのパイロットから受け取った返事を思い返していた。

『私は自分の犯した罪から逃げません。誤ってすむ問題でもないことも重々承知しています。ですが、それでもこの人を助けることだけは許してください。』

「助けることは許してくれ、か……」

『中佐?』

「いや、なんでもない。早く帰還するぞ、少尉。」

『了解。』

この時、セルゲイは想像もしなかった。
ミンを助けたパイロットとじぶんの運命が深く交わることになるなど……






トレミー 展望室

アレルヤは一人で外を見つめながら先ほどの戦闘を思い起こしていた。
下手をすれば仲間の一人の命を自分の手で奪ってしまっていた。
そう思うと全身から嫌な汗が噴き出してくる。

『チッ!結局殺しそこねちまったか。』

突然響くハレルヤの声にアレルヤは体をびくりと震わせる。

「ハレルヤ……どうしてそんなに人を殺したがるんだ……」

『はぁ?なんでだと?決まってんだろ、お前がそれを望んでいるからさ!!』

「違う!僕は……」

『だったらなんでその手に握られてるもんはなんだ?これから俺たちの同類を皆殺しに行くんだろぉ?』

アレルヤの手にはあるメモリーが握られている。
自分の過去にかかわるミッションを提案するためにスメラギに提出しようと思っているものだ。

「違う!殺さなくても、保護すれば……」

『戦闘用に改造された人間にどんな未来がある?そんなこと自分がよくわかってんだろ?え、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよぉ!?』

「違う!僕がここに来たのは……」

『戦うことしかできないからだろ?』

「違う!!」

『それが俺たちの運命だ。』

「違うっ!!!」

『現実から目を背けるな。』

「僕はっ!!」

「アレルヤ?」

アレルヤがハレルヤの声にこたえるように振り返るが、そこに彼は存在せず、かわりに先ほどもう一人と死闘を繰り広げたユーノがいた。

「………アイツか?」

「ああ……」

ユーノがアレルヤに近づいていく。
だが、

「来るな!!」

「!?」

アレルヤに大きな声で止められる。

「……ごめん。でも、ハレルヤが何をするかわからないから。」

『おいおい、ずいぶんなことを言ってくれるな。まあいい……ちょうどそいつに話があったところだ。代われ、アレルヤ。』

「ハレルヤ!?うっ……」

「アレルヤ!?」

ユーノはその場に膝をつくアレルヤに心配そうに話しかけるが、距離はとったままだ。

「おいおい……心配するんならもっと近くに来いよ。」

「……あいにく俺が心配してんのはアレルヤであってお前じゃねえんだよ、クソ野郎。」

金色の目で笑うハレルヤを見ながらユーノは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

「クククク……まあ、いいさ。聞きたいことは別にあるしな。」

「聞きたいこと?」

ハレルヤの顔がいっそう凶悪なものになる。

「お前はどこで脳やら体やらをいじくりまわされたんだ?」

「は?」

「とぼけんなよ。俺の動きを止めてたあの輪っかのことだ。」

ユーノはようやくハレルヤの言葉の意味を理解した。
彼はユーノの魔法のことをどこかの研究機関の実験体でいたことによって得た力だと勘違いしたのだ。

「あれはそんなもんじゃねぇよ。」

「だったらなんだってんだ?それとも俺じゃなくてアレルヤになら話せるってか?」

「いや………悪いけど俺自身よくわかっていないところが多いんでな。それまでは誰にも言うつもりはない。」

魔法のことについては大方思い出していたが、いきなり「実は魔法が使えました。」などユーノ自身がいまだに戸惑っているのに、他のみんながそう簡単に受け入れられるはずがない。

「チッ……まあいい、そのうち化けの皮を剥いでやるよ………」

そう言うとハレルヤの体から力が抜けて崩れ落ちそうになるが、アレルヤがなんとか踏ん張る。

「ユーノ、ごめん。ハレルヤがまた勝手なことを……」

「気にすんなよ。」

「けど、僕もいろいろ聞きたいことがあるんだ。戦闘の途中で現れた彼は一体誰なんだい?」

「それは……」

「それは俺自身が答えよう。アレルヤ・ハプティズム。」

「「!?」」

二人が扉のほうを向くといつの間にか967がコロコロと転がってきていた。
そして、部屋に入るとなかから男の姿で現れる。

「まさか、967なのかい!?」

「まあ、そうらしい。」

アレルヤの反応を見てユーノは視線を外す。
今まで単にハロの仲間だと思っていたものの中からこんなものが飛び出てくれば驚くのも当然だが、なんだか今まで隠していたようでバツが悪い。

「お前も気づいていなかったのだからそこまで気に病むこともなかろう。」

「人の考えてること当てんなよ!!」

「あはは………と、とりあえずいろいろと聞きたいことがあるんだけど。」

アレルヤは苦笑しながら967に質問する。

「答えられる範囲でなら回答できるが。」

「じゃあ、君は一体何なんだい?見たところ実体があるわけじゃなさそうだけど……」

「俺はグラーベ・ヴィオレントの記憶と人格をもとにつくられたサポートデータだ。」

「グラーベ・ヴィオレント?」

「お前たちのスカウトに関わった人間だ。」

「な!?」

「なるほどね。じゃあなんでそんな記憶と人格データを持ったお前が俺のサポートについたんだ?確かに俺は以前、サポートにハロが欲しいと言ったがお前がおまけについてくるなんて聞いてなかったぞ。」

驚くアレルヤをよそに、ユーノは質問をぶつける。

「ソリッドの追加武装を加えるべきか否かについて見極めるためだ。」

「追加武装?ソリッドにそんなもんあったか?」

「正確に言うならGNアーマーの追加武装だ。」

そこまで言われてユーノはハッとする。

「GNビットか!?前にも言ったけどあんなもん使いこなせるわけないだろうが!あんなもん処理速度云々の話じゃねぇっての!」

「もうヴェーダは追加することを決定した。心配するな。使うときは俺がサポートする。」

「………お前意外と強引なところがあるよな。」

「合理的に判断したまでだ。」

967はため息をつくユーノを一蹴する。

「このことはイアンは知っているのか?」

「いや、彼は何も知らない。何も知らずにヴェーダが推奨した俺をダウンロードしたにすぎない。もっとも、もうすでに俺のことは全員に報告したがな。」

「確認ぐらいしろよ……」

ユーノは頭を抱える。

「聞きたいことはそれだけか?」

「まあ、そんぐらいだな。」

「僕もそれぐらいかな……」

「なら、俺はガンダムの整備に戻らせてもらおう。」

967はそう言うとハロの中に入り、コロコロと転がっていった。






アザディスタン王国 某ホテル

「おやおや、もう彼らに教えてしまうのかい、グラーベ・ヴィオレント?」

整った顔に爽やかな笑みを浮かべながらリボンズはヴェーダからの情報を参照する。
彼は現在、アレハンドロの本来の仕事に同行してアザディスタンにいる。

「まあいいさ。イオリアの、いや、僕の計画には関係のないことだからね……フフフ………」

彼の笑いは誰に知られることもなく夜の闇に消えていった。










過去からの来訪者は、少年に新たなる変化をもたらす。
それは希望か、それとも………







あとがき・・・・・・・・という名のささやかな復讐

ユ「というわけで、タイトルの割には戦闘シーンが短い十七話でした。」

ロ「痛いとこつくのやめてくんない?」

9「事実だから仕方がないだろう。

ア「今回のゲストは若き提督、実はムッツリ?クロノ・ハラオウンさんです。」

黒「久しぶりだがクロノだ。そして僕はムッツリじゃない!!」

ア「だってユーノが……」

ユ「俺の苦しみをお前も味わえ。(サイド1を参照)」

黒「お前かぁぁぁぁ!!何適当なことを言ってるんだ!!」

ユ「勝手に淫獣扱いするお前たちが悪いんだ。」

ハ「それも事実のような気が……」

ユ「チェーンバインド!!」

ハ「あっ!このやろ!本編で魔法が使えるようになったからってここでも使いやがって!!」

黒「こいつはこういう奴だ。」

ユ「うるさいド外道に隠れ変態。お前なんてsecondいったらしばらくでないくせに。」

ハ「痛いとこついてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

黒「誰が変態だ淫獣!」

ユ「俺をその名で呼ぶなぁぁぁぁ!!」

9「……もう無視して解説に行くぞ。」

ア「最初に言ってたけど戦闘シーンが短かったよね。」

ロ「まあ、今回はセルゲイさんとのフラグの回にしたかったから仕方ないということにしてくれ。」

9「言い訳するな。」

ア「ははは………。そう言えば戦闘の最後あたりにかなりまずいのがあったよね。」

9「あれか。」

ア「まんま麒○だったからね。」

9「もう、某隊長が『コード○麟!!』って言わんばかりの勢いだったな。」

ロ「……………ア○シックバ○ターやコス○ノヴァ使ってないんだからいいじゃん。」

ア「よくないよ!!それ単に君が好きだから出したいってだけじゃん!!」

9「まあ、のちのち魔法がからんでくるから出てこないと否定できないのが怖いな」

ロ「まあ、流石にサ○バスターネタは出さないから安心しとけ。てか、出しようがないから。」

ユ「大人しくミッドに帰れ!!」

黒「せっかく来てやったのにその言いぐさはなんだ!!」

ハ「しばき殺すぞ!!」

ア「まだやってるのか……ん?」

魔王「にゃははは……うるさいよ三人とも……スターライト・ブレイカー!!」

「「「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」

9「………静かになったところで次回予告だ。」

ロ「次回はサイドで967の誕生秘話を書きたいと考えています。」

ア「さっさと本編進めろと思っているみなさん、勝手で本当にすみません。」

ロ「皆さんが楽しめるよう頑張りますので見守っていてください。」

9「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!もし、時間があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] side.4 仲間の意味
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/14 21:59
西暦2306年 プトレマイオス コンテナ

「イアン、こっちは終わったぞ。」

「ご苦労さん。次はこっちを頼む。」

「「「「オ疲レ。オ疲レ。」」」」

ユーノとイアンはコンテナに収容されているソリッドの最終調整に入っていた。
一番最後にロールアウトしたソリッドは未調整の部分が多く、今のままでは安定した運用が困難な状態だ。

「やっとシールドバスターライフルか。このペースじゃ介入後も調整を進めなければいかんな……」

「悪いな、イアン。」

「気にするな。これがわしの仕事だからな。」

「ところで例の話は……」

「駄目だ。なんども言っただろ。」

イアンはため息をつく。

「別にいいじゃんかよ!俺にもハロを相棒につけてくれよ!」

「お前の処理速度があればハロなんていらんだろ。大体ロックオンにハロのサポートをつけているのはデュナメスの能力を最大限に生かすためだ。」

ユーノは以前から自分にサポートとしてハロを一機つけることをイアンに頼んでいた。
だが、ただでさえ人員がいないソレスタルビーイングにそんな余裕は今のところない。

「だ~か~ら~、今はいいかもしれないけど介入を始めたら地上で整備すんのはほとんど俺一人なんだぞ。それに俺は未調整のソリッドに乗ってんだから、できることなら戦闘データを細かく解析して記録しておきたいんだよ。」

「ソリッドは介入を開始するまでに完璧にしておく。それにわしも極力下に降りて整備をしに行く。」

「今のペースで可能だと思ってんのか?しかもGNアーマーの設計も並行してやってんのに間に合うだの下に降りてきて整備するなんてよく言えたもんだな。」

「む……」

痛いところをつかれてイアンは黙ってしまう。

「だからいいだろ。頼むよ。」

イアンはしばらく腕を組んで黙っていたが、大きく嘆息するとユーノのほうを見る。

「わかったよ。新しく一機こさえてやる。」

「マジで!?サンキュー!!」

「ただし!」

はしゃぐユーノだったが、イアンの厳しい顔を見てなにかよからぬものを察知する。

「例のあれの搭載を考えてもらうぞ。」

「あれ…………?って、まさか!?」

イアンの口元がにやりと歪む。

「だから何度も言ってんだろ!あんなもん使いこなせるか!使いこなせる奴がいるんなら見てみたいぜ!!」

「嫌なのか?ならこの話はなしだ。」

「うっ………」

ユーノは言葉に詰まるが、根負けしたのか、嫌そうにうなづいた。

「わかったよ。やるだけやってやるよ。それでいいだろ。」

「うむ。じゃあ今晩から作成に入るから、できたら教えてやる。」







?????

俺は気付いたらそこにいた。
生まれてすぐさま使命を与えられ、そのための知識も自分が何者なのかについての情報もすべて受け入れさせられた。
普通なら混乱するところなのだろうが、人格データのもとになった人物のせいなのか、はたまた自分がこういう存在だからなのかはわからないが、戸惑いも何もなくあっさりと受け入れてしまった。

『それじゃ、行くか。』

俺は光の中へ歩いていく。
そして、目的の場所へと向かった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian  side4. 仲間の意味

プトレマイオス イアンの自室

俺が目を開けた時(正確に言うならダウンロードが終了したらと言うべきか)目の前に眼鏡をかけた人物がいた。
彼のことはグラーベの記憶、そしてヴェーダからの情報で知っている。
イアン・ヴァスティ
元AEUのメカニックで、今はソレスタルビーイングでガンダムの整備にかかわっている。

「よお、わしがわかるか?」

「OK!OK!」

俺は電子音で構成された声でイアンの質問に答える。
本来の姿を現してはいけないというわけではないのだが、別にそうすることもないだろう。

「よしよし。問題はなさそうだな。しかし、ハロを作ることを報告したくらいでわざわざヴェーダがAIのデータを推薦してくるとはな。」

どうやら彼は俺の任務について知らされていないようだ。
まあ、あの内容では拒否するのは目に見えているからな……

「よし、じゃあお前さんの相棒になる男のところに連れて行ってやる。」

そう言うとイアンは俺を持って部屋を出た。






コンテナ

コンテナについたイアンはそこにいた人物に近づいていく。
ノーマルスーツから覗く顔にはあどけなさが残っているせいか、長髪が無理に大人びようとしているように見える。

(こいつが………)

「ユーノできたぞ。お前の相棒だ。」

「ヨロシクナ!ヨロシクナ!」

「できたのか!?」

俺の観察対象、ユーノ・スクライアは満面の笑みで俺に近づいてくる。

「こいつなんて名前なんだ?単にハロじゃ味気ないだろ。」

(?)

訳がわからなかった。
俺は単なるサポートをするための道具にすぎない。
なのにこいつは俺の名前を気にしている。

「なあ?お前はどんな名前がいい?」

「おいおい、いくらなんでもそれは無理な注文ってもんだろ。俺が名前をつけてやるよ。そうだな……」

イアンは閃いたのかポンと手を叩く。

「967でクロナってのはどうだ?」

「967?なんか女みたいな名前だな……」

「いいだろうが。女も男もないんだから。」

(一応、性別上は男………でいいのか?)

正直俺自身もわからない。
なにせデータとしての存在なのだから性別は関係ないのだが、もとになったものから考えると男なのかもしれない。
だが、不思議とこの呼ばれ方は嫌いじゃない。

「967!967!」

「おっ!気にいったみたいだぞ。」

「おいおい、お前それでいいのかよ。お前(たぶん)男だろ?」

「967!967!」

「………わかったよ。これからよろしくな、967。」

そう言ってユーノは俺を持ち上げて頭をなでてくる。

「ヨロシクナ!ヨロシクナ!」

とりあえずこれで、第一目標は達成された。
これからこいつと一緒に生活を送り、見定めなければならない。
イアンの目的であるGNビットに対する適正、そしてこいつが計画の支障にならないかについてを。








一週間後 ユーノの自室

一週間ユーノを観察してきたが、わかったことと言えば能力の高さとこいつが常識外れの変わり者だということだけだった。
初のGNグラムを搭載してのテストを成功させたのまではよかったのだが、その後周辺に浮いていたデブリの中につっこんでいったかと思うと、「使えそうな物を持って帰ってあそ……じゃなくて、なんかいい感じのものを作る!」なんて言っていくつか持って帰ったり、ヴァーチェの整備のために呼んだティエリアに、整備が終わった後からかってふざけてみせたりするなど、おおよそ理解しがたい行動ばかりをとっていた。
だが、俺がなによりわからないことはユーノが俺を道具としてではなく、一人の仲間として接してくるということだ。

(わからないな……)

俺はユーノをじっと見つめる。
今は穏やかな顔をしているが、いったんソリッドに乗ったら人が変わったように鋭い顔つきになる。
そこからはどこか怒りにも似た感情が、そして激しい悲しみが感じられる。

(やはり、いまだにエレナ・クローセルのことを気にしているのか……)

ユーノがソリッドのマイスターになれたのは正式なマイスターだったエレナ・クローセルが死んだからだ。
そのことをまだこいつは引きずっている。

「?どうした967?」

俺がじっと見ていることに気付いたユーノがこちらを向く。
そこで俺は思い切って自分の質問をぶつけてみる。

「ユーノ、俺、仲間?仲間?」

ユーノはポカンとするが、すぐにクスクスと笑い始める。

「ああ、967は俺たちの仲間だよ。どうしたんだよ急に?」

「ナンデ?ナンデ?」

「なんでって言われてもなぁ……」

ユーノは笑いながらも困った顔で俺を両手で持ち上げる。

「仲間なんて気付いたらなってるもんだからな……あえて理由をつけるならお前は俺が困ってるとき助けてくれてるだろ?俺もお前が困ってたら助ける……それが仲間である条件ってやつじゃないのかな。」

そう言った後、ユーノの顔が少し陰る。

「………俺はアイツに助けてもらってばっかで何にも返せなかったからな……だから今度は俺がみんなを支えていきたいんだ……お前も含めてな。」

俺はこの時、ユーノの強さの根源を見た気がした。
悲しみを背負いながら、誰かを思いながら戦うことができることがユーノの強さの理由の理由なのだ。
今の俺には理解することはできない。
だが、それでも喜びと思われるを感情が湧いてくるのはなぜなのだろうか。
こいつの強さの理由は計画の支障になるかもしれない。
だが、それでもこいつの優しさというものを認めたい自分がいる。

(わからない……だが………)







その晩、俺はヴェーダに報告を行った。
ユーノ・スクライアは俺のサポートがあればGNビットの使用が可能であるかもしれないということ。
そして、ユーノの力は今のソレスタルビーイングに必要であることを。
ヴェーダからしてみればこれだけ早く報告を行ってくると想定していなかったせいか、若干戸惑いのような反応が見られたが、観察を継続ということになった。

俺は暗い部屋の中で明かりのついた机に突っ伏して静かに寝息を立てるユーノを見る。
こいつの考えていることは俺にはわからない。
だが、いつか俺にもこいつが考えていることがわかる日が来るのだろうか。
もし、そうなったら俺は………








西暦2307年 アフリカ大陸 AEU軍事演習場付近

「おい、967!967!」

ユーノの呼ぶ声に俺はハッとする。
どうやらメモリーを整理するために過去のデータがフラッシュバックしていたようだ。
人間で言うところの夢というやつだ。

「まったく、ボーっとしやがって……もう、ロックオンたちは介入を開始してんだぞ。」

「ワカッテル。ワカッテル。」

ユーノは俺を見ながら呆れ笑いをするが、ロックオンにヘリオンが近づいて来ていることに気付くとすぐに気を引き締める。

「おいおい、気付いてんだろロックオン……自分で何とかしろよな。」

文句を言いながらも、ソリッドを起動させてロックオンの援護に向かう。

「……967、GNフィールドはいけるか?」

GNフィールドは使えることは使えるが安定的な使用はできない。
全体を覆うようなものはせいぜい十秒、小さなものは制限なく使えるかもしれないがコントロールに手を焼きそうだ。
だが、

「問題ナシ!問題ナシ!」

俺とユーノなら問題なく使いこなせるだろう。

「よっしゃ、行くぜ相棒!!」

「了解!了解!」








あのときはわからなかったが、今ならユーノが言っていることがわかる気がする。
確かに俺はみんなと違い人間ではないのかもしれない。
だが、それでもみんなを支えていきたいという思いは俺のものだ。
ヴェーダに与えられたものではなく、グラーベ・ヴィオレントとしてのものでもない。
ソレスタルビーイングの一員としての、967としての確たる意思だ。
たとえヴェーダに否定されようとこの思いを曲げることはない。
それが、この気持ちを教えてくれたユーノに対して俺が返してやれるものだと思うから………








あとがき・・・・・・・・・という名の自問自答

ロ「と、いうわけで967に与えられた任務とユーノとの出会いでした。てか、これでよかったのかな?」

ユ「自分で書いといてそれはないだろ。」

9「いつもそう思っているくせになんで今回のかぎって言うんだ。」

ロ「なんとなく。」

眼鏡「いや、それは駄目だろ。」

ユ「というか、イアンいたのか……」

眼鏡「いたっての!今回出てただろうが!」

9「まあ、そんなことよりも今回のゲストを呼ぶぞ。今回のゲストは初代祝福の風、リインフォースだ。」

リインフォース(以降 初代)「どうも、本編でも少し出てきたリインフォースです。」

ユ「またしばらくは出ないみたいだけどな。というかあれ知らない人間が聞いてたらお前電波ちゃん扱いだぞ。」

初代「大丈夫です。宇宙人、未来人、超能力者がいたら私のところに来なさいとは言いませんから。」

眼鏡「言われても困るけどな。」

9「さて、グダグダにならないうちに解説に行くぞ。」

初代「今回は967さん視点で話が進行していましたね。」

ロ「ちょっとチャレンジみたいな感じでやってみました。……正直あとで感想見るのが怖い。」

眼鏡「やれやれ……」

ユ「てか967が俺んとこ来たのって監視が目的かよ。」

ロ「もちろんトレミーの皆様は知らないけどな。てか、967もだんだんそんなのどうでもよくなってきてるし。」

眼鏡「本編と違ってなんか考えてること人間臭かったな。」

ロ「本編でこんな感じじゃないのは照れ隠しみたいに思っといてくれ。」

初代「無理がないですか?」

ロ「アーアー。聞こえない聞こえない。」

ユ「………ロビンが現実逃避に入ったので次回予告に行きます。」

眼鏡「次回はアレルヤのエピソードをすっ飛ばして一気にアザディスタン編に行きます。期待してた皆様、ホントにごめんなさい。」

ユ「アザディスタンで保守派の指導者、マスード・ラフマディーが何者かに拉致された!」

初代「第三者の存在を感じたソレスタルビーイングは調査を開始する。」

9「そんななか、刹那は自らの過去と再度向き合うことになる。」

眼鏡「そして、ユーノにある人物が接触してくる。その人物とは!?」

ロ「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 18.呼び起こされる戦禍
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/06/29 12:04
アザディスタン王国 寺院

「ラサー!議会は神の教えに反している!」

三日月の明かりに照らされた建物の中から夜の沈黙を破り男の声が聞こえてくる。

「この国の土地は神に与えられし場所、その契約の地に異教徒を招き入れるなど!」

「改革派はいずれ我らからこの土地を取り上げに来ますぞ!」

「ラサー、あなたの言葉で多くの民が立ち上がるでしょう。今こそ……」

「落ち着きなさい。」

ラサーと呼ばれた老人は男たちを静かに、しかし強い意志を持ってたしなめる。
彼の名はマスード・ラフマディー。
アザディスタンの保守派の高名な宗教的指導者である。
保守派の多くの人間から慕われているが、あくまで穏健な人物であり、アザディスタンの人間同士の争いで血が流れることをなによりも嘆いている。

「教えに背いた王女と議会にはいずれ神罰が下されよう。我らは神の報いを待てばよい。」

「いつまでそのようなことをおっしゃるつもりか!このままでは我々もクルジスの二の舞になる!」

「我々が神の矛となり、改革派に神の罰を与え、」

「異教徒をこの地から追い出すのです!」

「私腹を肥やす改革派に神の雷を!すべての恵みを我らへ!」

「教えを忘れたものたちに神罰を!」

男たちはマスードに詰め寄ってくるが、彼は頑として首を縦に振らない。
その時だった。
外で発砲音と同時に銃特有の光が点滅する。

「!?」

「なんだ!?」

「銃声!?」

「まさか改革派の連中が!?」

その場にいた全員が扉のほうを向く。
そこへ、一人の男が駆け込んできた。

「ラサー!賊が…グブッ!!」

男は頭を撃ち抜かれ、血を飛び散らせながら倒れる。
続いて銃を持った数人の男たちが部屋の中に飛び込んできた。
マスードは毅然とした態度で侵入者たちを見据える。

「…………何者だ?この場をどこと考えておる!」

「……フン。」

男の一人が笑うと同時に弾が発射され、マスード以外の人間が血の雨を降らせながら力なく崩れ落ちた。

「どこねぇ……さしずめ昔の商売道具を後生大事にあがめてる馬鹿どもの本拠地ってとこか。」

侵入者たちの後ろから赤髪の男が現れる。

「んでもってあなたはこれから俺たちに協力してもらう運命ってことです、マスード・ラフマディー殿。ククク……ハハハハハハハハハ!!」






この三日後、アザディスタン国内だけでなく、全世界にマスード・ラフマディーが誘拐されたとの知らせがはしった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 18.呼び起こされる戦禍

経済特区東京 某マンション

「ふ、あ~あ……」

ユーノは刹那と廊下を歩きながら大きな欠伸をする。
整備の完了したエクシア、デュナメス、ソリッドは地上に降りると同時にアフリカでの紛争に介入、そして終了と同時にそれぞれの拠点に帰還したのだが、かなり長引いてしまったせいで三人ともろくな睡眠をとっていなかった。
刹那やロックオンにいたっては帰還時にうっかりと寝てしまって地上に落下しかけてしまうといったハプニングが起こっていた。
その二人に比べれば欠伸程度ですんでいるユーノは超人的と言って差し支えないだろう。

「……眠いのか?」

「お前もだろ。もっとも、俺の場合は居眠り運転はしないけどな。ったく、こんなときほどイアンのせいで徹夜に慣れちまったことをありがたく思ったことはないぜ。」

そんな他愛のない話をしながら進んでいくと眼鏡をかけた女性と長い髪の少女が言い争っている姿が見えた。
少女が眼鏡の女性を引っ張ってどこかに連れて行こうとしているようだ。

(あれは確か……ルイスだったっけ?)

ユーノは記憶の引き出しからルイスの名前を取り出す。
彼女たちが争っているのは自分たちの部屋の前だ。

「ルイス!私は彼に会うとは一度も言ってないわよ!」

「少しは私の話を聞いてよ!」

「あの……」

ユーノは恐る恐る二人に話しかける。

「あら……ごめんなさい。お騒がせしたわね。」

「あっ!ユーノ!ねぇ聞いてよ、ママが!」

「あれ?ユーノに刹那さん?」

そんな時、二人の後ろから沙慈がやってくる。

「どうしたの?ってルイス!?」

沙慈がルイスと彼女の母親を見た瞬間、顔をひきつらせる。

「…………………」

そして、ルイスの母親はその沙慈の顔とユーノの顔を交互に見ながら脳をフル回転させる。
その結果、

「あなた!ルイスとこの子と二股をかけていたのね!!」

「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」

やはり親子。
ルイスと同じ考えに行きつく。

「うちの子の気持ちをもてあそぶなんてひどいじゃない!!」

「ち、違うんです!お母さん!」

「そうよママ!!」

「ルイスは黙ってらっしゃい!二股してる男はみんなそう言うの!!」

「あの……」

ユーノは頭痛を覚えながらもルイスの母親に話しかける。

「あなたからもじっくりお話を……」

「俺、男ですけど。」

「へ?」

彼女も以前のルイスと同じ間の抜けた顔をする。

「…………………」

「「「…………………」」」

「……今日のところはお暇させていただきます。それでは。」

そう言うとルイスの母親はそそくさと帰っていった。

「……あの親ありてこの子ありってわけか。」

「どういうことだ?」

「そういうことだ。」

「ははは…………」

「もう!ユーノのせいで予定が狂っちゃったじゃない!」

「俺のせいかよ!」

理不尽なルイスの怒りを受けながらユーノは自室へと戻っていった。






ユーノの自室

自室についたユーノはジャケットを脱ぐと、ベッドの上に携帯端末を置いてその前に立ち、精神を集中させ始める。

「さて……やってみますか……」

足元に萌黄色の魔法陣を展開し、端末に意識を結合させる。

「………案外うまくいくもんだな。」

多少違和感があるのは否めないが、これから行う作業に問題はない。

「さてっ、と。」

ユーノは一気にありとあらゆる情報を参照し始める。

(魔導士……って堂々とのってるわけないか。じゃ、それらしいのを探しますか。)

ユーノはそのまま魔導士、自らの記憶のヒントを探す。

『自分の過去が気になるのはわかるが、勝手に不用意な検索をするのはあまり感心しないな。』

「うわ!?」

突然、目の前の端末に967の顔が写る。

「お、驚かすなよ!」

『その力……』

967は自身の力と似たものを感じる。

『ユーノ、お前は……』

「ん?」

(気付いていないだけか……?いや、ヴェーダにはその痕跡はなかった。)

「?どうした?」

『いや、なんでもない。お前が俺たちに関する情報を流出させない限りその行動は容認される。だが………』

967は表情を硬くする。

『ヴェーダは……いや、ヴェーダにアクセスできるものは常にお前の動向を監視している。そのことを忘れるな。』

「?了解。気をつけるよ。」

967はそう言って通信を切るが、ユーノは967が言ったことがいまいちよくわかっていないようだった。

「どういうことだ………?まあ、あのポンコツのことはもとからそんなに信用していないけどな。」

ユーノは端末との同調を解くと、続いて防御魔法を展開する。

「さて、今度はこいつをMS戦でもなんとかいかせるようにしないとな。」

その晩、電気の消えたユーノの部屋に萌黄色の明かりが灯り続けていた。







アザディスタン王国 王宮

マスード・ラフマディーが誘拐されたとの報道がされた翌日。
マリナは王宮の窓から外を眺めながら彼の安全を祈っていた。

「ラサー………マスード・ラフマディー…………」

彼女がこの国の王女に即位する直前に彼と会っていた。
王族と宗教的指導者として何度か面識があった彼のもとを訪れ、自らの決意を聞いてもらい、保守派の説得を考えてもらおうと思っていたのだ。
だが、彼は反対の立場をとった。
マリナ達が改革を進めていくうえで不満を募らせる者たちの思いを受け止めるために、彼はあえて彼女と違う道を歩むことを決めた。
その行きつく先が彼女たちも目指している場所だと信じて。

だが、それもいまは水の泡となりかけている。

「ラサー………私のしたことは、間違いだったのでしょうか……」

マリナは額を窓にあててつぶやいているとシーリンが入ってきた。

「シーリン、議会は私の意見を取り入れてくれそう?双方の歩み寄りは…」

「そんな状況じゃないわ。」

「え………?」

シーリンの顔にいつもの余裕の笑みはなく、かわりに緊迫感に満ちた厳しい表情が浮かんでいる。

「保守派は議会をボイコット、改革派はユニオンから秘密裏に打診された軍事支援を受ける方向で話を進めているそうよ。」

「そんなことをしたら超保守派を刺激するだけだわ!それに……どうしてユニオンが……この国を守っても利益なんて……」

マリナの疑問はもっともである。
太陽光紛争によって疲弊し、石油を輸出することもかなわず、世界から見捨てられた中東を支援する国家など存在するはずがない。
だが、現にそれでもユニオンはここに来るのだ。

「………あるんでしょ………きっと。」

シーリンは遥か彼方から立ち上る煙を見ながらつぶやいた。








太平洋上空 ユニオン輸送機

アザディスタンに向かう輸送機の中でグラハムとカタギリはコーヒーをすすりながら人革連の作戦内容を見ていた。
詳しいことは判明していないが、かなりの規模の物量作戦をとったようだ。

(流石は人革連というべきか、それともここまでして逃げられたというべきか…)

グラハムがそんなことを考えながら微笑んでいると目の前のモニターにハワードとダリルが写る。

『中尉、久しぶりにガンダムに会えそうですな。』

「そうでなくては困る。」

『しかし、アザディスタンに出兵とは………』

「軍上層部が議会に働きかけた結果だよ。人革に後れをとるわけにはいかないからね。」

ユニオン軍は人革連がガンダム鹵獲作戦を行ったとの報告に焦りを見せていた。
結果は失敗だったものの、ユニオンの軍上層部が焦燥感を募らせるのには十分だった。

しかし、グラハムにはそんなことなど関係ない。
彼の望みはただガンダムと死合うことだけだ。

(待っていろ……ガンダム!)





アザディスタン王国 砂漠地帯

「内戦が始まるまで、機内でお待ちください。狭いですが部屋を用意しておきました。」

紅龍はコーヒーの入ったカップを刹那とロックオンの前に置きながら状況を伝える。

「気がきくね。」

「ホテル。ホテル。」

ロックオンの言葉に合わせるようにハロが楽しそうにピョンピョンと跳ねる。
そんな中、刹那はあたりを見渡してここにいるはずの人物がいないことに気付く。

「……ユーノは?」

「なんでも寝不足だそうで……ソリッドの中で仮眠をとるとのことです。」

「おいおい、わざわざガンダムの中で寝なくてもいいだろう。」

「いざという時に備えておく、だそうです。」

「やれやれ……」

ロックオンは呆れながらコーヒーを一口飲むと、顔つきを厳しくする。

「で、そっちは?」

「アザディスタンの内紛を止めるには、誘拐されたマスード・ラフマディー氏を保護し、全国民に無事を知らせる必要があります。」

「とはいえ、この国の人々は異文化を嫌います。どれだけの成果が出せるか……」

留美と紅龍が申し訳なさそうな表情をしていると、珍しく刹那が自分から喋る。

「俺も動こう。」

「あなたが?」

「俺は、アザディスタン出身だ。」

その言葉にロックオンの眉がピクリと動く。

「刹那。」

ロックオンは扉に向かっていく刹那に声をかける。

「故郷の危機だからって、感情的になるんじゃねぇぞ。」

「……わかっている。」

その後、刹那はアザディスタンで一般的な服に着替えると街へと向かった。
その後ろを一匹のフェレットがつけていることも知らずに……







アザディスタン王国 居住区

刹那が街を歩いていると、否が応でも人々の視線を集めた。
刹那の出身地は確かにアザディスタンだが、より正確に言うならクルジスである。
アザディスタンの人間は戦争が終結したのちもクルジスの人間を忌み嫌い、クルジスの出身者もまたアザディスタンに対してドス黒い感情を抱いていた
そして、地元の人間が見ればクルジスとアザディスタンの人間との区別はあっという間についてしまう。
つまり、街に出た瞬間に刹那は周りから警戒と侮蔑を集める対象になっているのだ。
そんなこの国の人間の様子を見ていると、刹那はあの頃のことを思い出す。

瓦礫と化した街を駆け巡りながら、死の臭いが充満する中で神のためにと戦っていたあの頃のことを。

(あんなことを……まだ続けるつもりなのか……)

刹那が静かに怒りに燃えていると、目の前に10歳ほどの少年が歩いてきた。
肩には二つの壺がくくりつけられた棒を担いでいる。

「お兄さん!水買わないか?」

「いや、間に合っている。」

「え~?でも、そいつはいいのかい?ここでそんだけ毛深いとしんどいんじゃないか?」

「そいつ?」

刹那が少年の視線の先、自分の足元に目をやると、金色の毛並みをしたフェレットがいた。

「こいつは……」

刹那には見覚えがあった。
昔、エレナたちが大騒ぎしながら追いかけていたフェレットだ。

「ほら、やっぱお兄さんのじゃん。そいつのために買ってやらない?今ならまけとくよ。」

「いや、こいつは……」

刹那はそう言いながらフェレットを見る。
とくに愛着があるわけではないが、ここで見捨てるのも忍びない。
刹那は財布を取り出そうとする。
すると、フェレットが首を横に振ったような気がした。

(……まさかな。)

刹那はそう思いながらも取り出しかけた財布をしまう。

「大丈夫だ。こいつはいろいろな所に行っているおかげで多少のことなら我慢できる。」

「キュッ!」

その通りと言わんばかりにフェレットは刹那の肩に上って一声鳴く。

「ちぇ。残念。」

少年はそう言いながらなかなか刹那から離れようとしない。

「ひょっとして、ここは初めて?」

「ずっと世界を旅している。」

その言葉を聞いた少年が目を輝かせる。

「ねぇねぇ!族長に聞いたんだけどさ、この世界にはすっごく高い塔があって、宇宙まで行けるって本当なの!?」

「……ああ。本当だ。」

「もしかして行ったことある!?」

質問攻めにあう刹那は思わず半歩下がってしまう。

「ま、まあな……」

「すっげぇ~~!!」

少年は感極まって両手を強く握る。

「マリナ様が言ってたよ!いつか僕たちも宇宙に行けるって!」

「マリナ……」

「キュ……」

「知らないの?ほら、あそこにあるポスターが、マリナ・イスマイール様だよ。」

刹那が視線を向けた先には、ミッションの最中に出会ったあの女性の写真が確かにそこにあった。

(マリナ・イスマイール……)

「おい、なにしてる。」

刹那が考えに浸ろうとした時、後ろにいた老人から敵意がこもった声をかけられる。

「お前クルジス人だな。顔見りゃわかる。」

「おじいちゃん?」

少年は自分の祖父が何を言っているのか理解できない。
先の紛争を知らないのだから当然なのだが、そんなことなどお構いなしに老人はまくし立てる。

「ここはお前がいていい場所じゃない!とっとと出ていけ!」

刹那は怒るでもなく、どこか呆れた、そして諦めのような顔をして歩きだそうとした。
だが、

「キュゥーー!!」

「!?」

肩に乗っていたフェレットが全身の毛を逆立てて老人を威嚇するように睨みつける。

「なんだ?文句でもあるのか?」

老人は軽蔑のまなざしをフェレットと刹那に向ける。

「キューーッ!!」

フェレットはとうとう我慢ならないといった様子で飛びかかろうとするが刹那に押さえられる。

「よせ。」

「キュ~~………」

刹那にそう言われるとフェレットは力なくうなだれる。
そんな、フェレットをひきつれて、刹那は街の中を歩いていった。






アザディスタン王国 某ホテル

「まさかな…ユニオンに支援を要請するとは。」

アレハンドロはホテルの高層階の部屋からロックのウィスキーの入ったグラスを傾けながら、街から立ち上る煙を窓から眺めていた。

「彼らは軍の中にも保守派がいることを知らないと見える。まったく……自身の国の状態も知らないとは情けないことだ………そうは思わないか、リボンズ?」

笑みを浮かべながらすぐそばにいるリボンズに語りかけるが、リボンズは虹彩を輝かせた状態のまま喋らない。

「リボンズ………?」

「………ああ、すみません。少し考えことをしていたもので………」

「フッ………まあいいさ。大したことでもないからね。」

アレハンドロは再び窓の外の景色を眺めるが、リボンズは難しい顔をしたままだ。

(まさか彼がここに来ているとは……)

ヴェーダと繋がっていた時に見つけた予想外のファクターに若干の焦りを覚える。
もし、彼に自分の存在が知られたら……
そんな不安が彼を包み込むが、すぐにいつもの笑みを浮かべる。

(なあに、彼は気付きはしないさ。それに、おそらく目的は彼のほうだろうからね。)

夕日の中でリボンズは自らを安堵させるように心の中でつぶやいた。








太陽光発電受信アンテナ施設

夜の暗闇の中でモノアイの機体、アンフがアンテナ施設の警備にあたっていた。
その時、一機のアンフの目が光ったかと思うと、背中から大量の煙が排出される。

「ん!?どうした?」

その異変に気付いた一機が何事かと後ろを向くと、銃口をこちらに向けている。
だが、そのことに気付く間もなくコックピットめがけて銃弾が発射される。
銃弾を浴びたアンフは爆炎に包まれる。

「この地を荒らす不信仰者どもに神の雷をぉぉぉぉ!!」

そう言うと最初に動いたアンフの後ろにいたもう一機も残っていた機体に攻撃を開始する。

『ポイントDで交戦!』

「やはりアンテナを狙うか!行くぞフラッグファイター!」

『『了解!!』』

ダリルの言葉に付近の上空を巡回していたグラハム達は高度を下げて一気に目標に近づいていく。
だが、下で戦闘を行っていたのは本来味方同士であるはずのアンフ達だった。

『中尉!味方同士でやりあってますぜ!?どうします!?』

味方に加勢したいのはやまやまだが、機体もカラーリングも一緒ときては区別がつかない。
不用意に攻撃すれば味方を撃ってしまうかもしれない。

「どちらが裏切り者だ……!?」

グラハムたちが迷っているとレーダーにノイズがはしる。

「レーダーが!?」

遥か彼方が光ったかと思うと、そこから閃光が闇を切り裂きアンフめがけて駆け抜け、巨大な穴を開通させた。

「なに!?」

グラハムが驚いている間に、反対方向からもビームが放たれ、次々にアンフを撃墜していく。

「この粒子ビームの光は……ガンダムか!!」

グラハムが睨む先にはスナイパーライフルを構えたデュナメスが、そして、その反対側の岩陰にはシールドバスターライフルを構えたソリッドがいた。

「全弾命中。全弾命中。」

「待機しといて正解だな。」

『まったくだな。』

『正解。正解。』

ロックオンとユーノはフゥと一息つく。
だが、

「ところがギッチョン!!」

別方向から4基ミサイルがアンテナめがけて飛んでいく。

「なに!?」

「なんだ!?」

「ミサイルだと!?」

ロックオン、ユーノ、グラハムは驚きの声を上げるが、ロックオンはすぐさま狙撃体勢に入る。
だが、途中でミサイルの中からさらに細かなミサイルが発射される。

「数が多すぎるぜ!」

それでもデュナメスはミサイルを撃ち落としていくがほとんどがアンテナ施設に落ちていく。

「させるかぁぁぁぁぁ!!」

『馬鹿!!よせ、ユーノ!!』

ユーノはミサイルの先にソリッドを割り込ませると出力を全開にしてGNフィールドを張る。
だが、それでも防ぎきれずにミサイルはアンテナに次々に着弾し爆発していく。
そして、ソリッドもまたその爆炎によって体を大きく揺さぶられる。

「うあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「危険!危険!」

とうとう耐えられなくなったのか、ソリッドは力なく炎に包まれたアンテナ施設に仰向けに倒れた。

「ユーノ!おい、ユーノ!」

ロックオンは通信を試みるがユーノからの返事はない。
そのとき、967が通信をしてきた。

『ロックオン、ユーノは今の攻撃で気絶してしまった。ソリッドは安全な場所まで撤退させてもらう。』

「了解だ!敵はこっちで引きつける!あと、ユーノにあとで拳骨だって言っといてくれ!」

『了解。』

967の通信が終わるとソリッドはフワリと浮かびあがり、撤退を開始する。

「逃がすか!!」

グラハムの駆るカスタムフラッグがそれを追いかけようとするがデュナメスの狙撃に道を阻まれる。

(仕方ない……!)

グラハムは即座に決意するとハワードとダリルに指示を出す。

「ハワード、ダリル、ミサイル攻撃をした敵を追え。ガンダムは私がやる!」

『けどもう一機はどうするんです!?』

「口惜しいが逃がすしかあるまい……。我々に与えられた任務はガンダムの調査とアザディスタンの治安維持だ。どちらもおろそかにするわけにはいくまい。」

『中尉……わかりました。』

『その代わり、ガンダムは任せますぜ!』

「フッ!無論そのつもりだ!!」

グラハムは二人と別れデュナメスのいる崖を目指す。

「おいおい……ユニオンはアザディスタン防衛が任務じゃないのか……?」

ロックオンはうんざりした顔でスコープを覗き込みカスタムフラッグに照準を合わせる。

「やっぱり俺らが目当てかよ!」

デュナメスの額の飾りが下にスライドし、狙撃用のカメラアイが現れる。
さいわい遮蔽物になるようなものがないところから向かってくるので簡単に撃ち落とせる。
ロックオンはそう思っていた。

「狙い撃ちだぜ!!」

デュナメスの構えたスナイパーライフルから光弾が放たれるが、敵は一瞬のうちに空中変形をして攻撃をかわす。

「なっ!?」

予想外の行動にロックオンは動揺する。
確かにフラッグは可変機構を持っているがあくまで地上での変形が前提だ。
空中での変形も可能かもしれないが下手をすれば機体はバラバラに分解してしまう。
しかも、通常のフラッグの何倍ものスペックを持ったフラッグであれをやれば機体が無事だったとしてもパイロット自身がただでは済まない。

「ぐぅぅぅ!!人呼んで……グラハムスペシャル!!」

グラハムはライフルを発射する。

「ハロ!!」

「了解!了解!」

ハロにライフルの弾を防がせている間にロックオンはヘルメットをかぶる。
そして、再びスコープからフラッグの姿をとらえる。

「二度目はないぜ!!」

スナイパーライフルから二発の光弾が放たれるが、フラッグは大きな動きでそれをかわす。
機体のスピードにパイロット自身も完璧にはついていけていないからかまるで巨人に掴まれて振り回されているような動き方だ。

「俺が外した!?何なんだこのパイロット!?」

「あえて言わせてもらおう……グラハム・エーカーであると!!!」

かわした勢いをそのままにグラハムは一気にデュナメスに接近してその顔面に強烈な蹴りをお見舞いする

「蹴りを入れやがった!!?」

カスタムフラッグは腕からソニックブレイドを抜いて大きく振りかぶる。

「チィ!!」

デュナメスも腰の後ろに装備されているビームサーベルを抜いて振り下ろされたソニックブレイドを受け止める。

「俺に剣を使わせるとは!!」

「身持ちが固いな、ガンダム!!」

デュナメスにはビームサーベルが装備されてはいたが、狙撃に特化した機体だということもあってロックオンは使うことはおそらくないだろうと踏んでいた。
だが、今こうして使わないと思っていたものを使わなければならないほど逼迫した状況にある。

「こいつで!!」

デュナメスはあいていた右手でビームピストルを抜いてその銃口をフラッグに向ける。

「何!?」

いくつもの弾がカスタムフラッグに近距離で炸裂するが、グラハムは距離をとって
ディフェンスロッドを使い直撃を避ける。

「な!?受け止めた!?」

だが、いくら対ビームコーティングが施されているといってもこの距離でくらえば流石に無事では済まない。
その証拠に左利きの彼のために右腕に装備されたディフェンスロッドはもはやボロボロで使えない。

「よくも……私のフラッグを!!」

自らの誇りを傷つけられたグラハムは激情に任せてデュナメスへと突進する。

「このしつこさ尋常じゃねぇぞ!!ハロ、GN粒子の散布中止、全ジェネレーターを火器に回せ!!」

「了解!了解!」

「たかがフラッグに!!」

ロックオンも二丁のビームピストルを構えて迎撃態勢をとる。
だが、グラハムのコックピット内に突然の電子音の後に声が響く。

『アザディスタン軍、ザイール基地よりMSが移動を開始。目的地は王宮の模様。至急、制圧に向かってください。』

「緊急通信!?」

一方、ロックオンも留美からの通信で状況を把握する。

「アザディスタン軍が!?」

二人は互いに武器を構えたまま相手の動向をうかがいながら動こうとしない。

「クーデターだとよ。どうする……フラッグのパイロットさんよ。」

「ようやくガンダムと巡り合えたというのに……口惜しさは残るが、私とて人の子だ。」

グラハムは悔しさに顔をゆがめながら操縦桿を倒してカスタムフラッグをデュナメスの背後の空へと舞い上がらせ、戦闘機へと変形させる。

「ハワード、ダリル、首都防衛に向かう!」

『『了解!』』

「ミサイルを発射したものは!?」

『MSらしき機影を見かけましたが、特殊粒子のせいで……』

グラハムは悔しさの残る顔のまま苦笑いをする。

「ガンダムの能力も考えものだな……」

そんなグラハムの乗るカスタムフラッグの後ろ姿を見ながらロックオンは一息つく。

「フゥ。一体なんだったんだアイツは?」

「オ仕事!オ仕事!」

少し緩んでいたロックオンはハロからの催促を受ける。

「あいよ。ところでユーノは無事なんだろうな……」






砂漠地帯

砂漠地帯は昼は灼熱の熱気に包まれるが夜は一転して激しく冷え込む。
そんななかなか植物も育たないような厳しい環境に長い影とそれにつき従うように近くを歩く小さな影があった。

「ひっくち!!もう、ヒクサー!なんでこんなところに来んのよ。ヒクサーはパイロットスーツを着てるから体温の調整も自由自在だろうけど、私はこんなに薄着なのよ?」

そう言って青髪の小さな少女は子供らしからぬ笑みを浮かべながらスカートをちらりとめくるが、長いコートを着た男は前を見たままクスリと笑う。

「だからしっかり着こんできたほうがいいって言ったのに。」

「だって~。そんなことしたらヒクサーが嬉しくないでしょぉ~。」

「どうしてだい?」

「えっ!?そ、それはまあ、その……」

少女は口ごもるのを見て男は再び小さく笑う。

「もう少しの辛抱だよ。もうすぐ彼が来るはずだから。」

「彼?」

男が空を見上げるのに合わせて少女も空を見上げる。
すると、自分たちのすぐ近くへと降りてくる光が見えた。

「あれって!?」

「そう、ガンダムソリッド……ヴェーダにとってこの計画における最もイレギュラーな存在、ユーノ・スクライアが乗る機体。そして……」

穏やかだった男の表情が一変して激しい憎悪に満ちたものへと変貌する。

「僕が最も消し去りたい存在、グラーベのまがい物が乗っている機体さ!」







某ホテル

アレハンドロとリボンズは夜の街に時折輝く光と、それとともに発生する煙を窓から見つめていた。

「避難しなくてよいのですか?」

リボンズがアレハンドロに問いかけるが、口元に笑みを浮かべながら振り返る。

「リボンズ、君も見ておくといい。ガンダムという存在を。」

そう言ってアレハンドロが再び窓の外に視線を向ける。
その先には闇にまぎれて街に近づく一筋の光が見えた。






市街地

瑠璃色の光とともにエクシアが市街地を練り歩く超保守派のアンフに降下していく。

「刹那・F・セイエイ、エクシア、目標を駆逐する。」

乱入者に気付いたアンフ達はエクシアに砲撃を開始するが、シールドと動きに阻まれて当たらない。
そして、接敵したエクシアはGNソードを振るってアンフを腰の部分で両断する。
残ったアンフが攻撃をしかけるが、エクシアはそれらをことごとく斬り捨てた。
その残骸を見つめていた刹那に留美から通信が入る。

「なんだ?」

『カズナ基地からもMSが発進。現在ケヒ地区を通過中よ。』

「了解。」

エクシアは空に浮かび上がると、報告にあったポイントへと向かっていった。







砂漠地帯

「ソリッド、安全地帯まで撤退完了。外部迷彩被膜を展開」

967は安全地帯まではこんだソリッドの中で眠り続けるユーノを見る。
いつもとは違い、穏やかな表情のまま目をつぶっている。
起きているときはなかなかこんな顔を見せないが、こちらが本来の彼でいつもはどこか強がっているような感じがする。
もっとも、そんなことは口が裂けても言えないが。
967がそんなことを考えているとユーノの眉間に少ししわがより、目の端から透明な雫が頬を伝って落ちていく。

「とう……さん………」

967はあくまでデータの集合体であり、涙を流すことはできない。
だが、悲しいという気持ちは理解できる。

「なのは……エレナ………」

「………大丈夫だ。俺はここにいる。お前を置いて、どこにも行きはしない。」

ハロボディの中から出てきた967は子供をあやすように優しく頭をなでる。
ホログラムだから触れはしないのだが、ユーノは元の穏やかな顔に戻る。
とその時、コックピット内で電子音が鳴り、モニターに外から見えないはずのこちらをじっと見る二人が写された。

「こいつは………!」

「ん………うっ……うぅ……96……7?ここは……?」

「ミサイルを防いだ時の衝撃で気を失っていたんだ。それよりも注意しろ。」

「注意しろって……!」

ユーノもこちらを見ている二人に気付く。
そのうち一人は見覚えがある。

「874!?なんでアイツがここにいるんだ!?もう一人は誰だ!?」

ユーノは疑問を一気に吐き出すが一番重要なことを思い出す。

「967、迷彩被膜は?」

「もう使ってる。」

「じゃあなんであいつらは……」

『出てきなよ。聞こえているんだろう?それとも大声でここにガンダムがいると叫んでみようか?』

男の言葉に二人は顔を見合わせる。

「出ていくしかないな。」

「そうみたいだな。967、お前はその中に入っておけよ。」

「……奴には無駄だと思うがな。」

967はユーノに聞こえないようにつぶやくとハロの中に戻る。
ユーノは迷彩を解くと967を持ってハッチを開けて外へ出て彼らのもとへと歩み寄る。
男はにこやかな顔をしているが、隙が見当たらない。
一方、874に瓜二つの少女のほうは退屈そうに唇をとがらせていたが、ユーノの視線に気付くと「ベーッ!」と赤い舌を突き出した。

「はじめまして、ユーノ・スクライア。さっそくだけど君の相棒をこっちに渡してもらおうか。」

「まともに教育受けてないのかお前は?用件言う前に名前を言え。」

「何よあんた!!ヒクサーが頼んでんだから大人しくそいつをよこしなさいよ!!」

「黙れチビジャリ。お前も礼儀をわきまえろ。」

「なんですって!?」

「887!」

男が少女を止める。

「失礼、確かにそうだね。僕の名前はヒクサー・フェルミ。このチャーミングな子は887(ハヤナ)。」

「チャーミングなんて………そんな、ヒクサーこんなところで大胆……♥」

「あんた頭ん中大丈夫か?いい医者紹介するよ。」

「どういう意味よ。」

「そういう意味。」

「お話中悪いけど、僕の要件を聞いてくれるかな?」

ヒクサーは笑みを崩さずにユーノに歩み寄る。

「君は知っているはずだ。君が今持っているそのマシーンの正体を。」

(!!)

ユーノは動揺するが表情は崩さない。

「なんのことだか。」

「隠したって無駄よ、ボーヤ。ヒクサーは知ってるんだから。そいつがグラーベ・ヴィオレントのまがい物だってことに。」

「………ユーノ、こいつらはもうすべて知っている。」

967はハロのボディから出てくる。
その姿を見てヒクサーは顔を怒りで歪ませる。

「ホントにそっくりだ………ああ、そうだ。だからこそ許せない!!」

ヒクサーは懐から銃を取り出してハロボディに向ける。

「させるか!」

「こっちのセリフ!!」

ユーノもヒクサーに銃を向けようとするが887に銃を持った手を蹴りとばされる。

「クッ!!」

ユーノは967の前にかばうようにして立つ。

「こいつはやらせない………何があっても!!」






ケヒ地区

刹那は指定されたポイントの近くの上空を飛んでいた。

「ん?あれは……」

指定ポイントから上がる煙に刹那は嫌なものを感じる。
そして、丘陵地帯を越えてそれがはっきりと見えたとき、刹那は言葉を失った。

「!!」

瓦礫と火の手で溢れかえった街を見て刹那はあの時の光景とそれを無意識にだぶらせる。

長い顔をしたMSが一方的に人間を蹂躙していく姿。
それでも逃げようともせずにMSに向けて発砲する人々。
その中には小さな子どもたちも交じっている。
そして、下半身や上半身のない死体や腕がもがれて呻いている者。
何もかもがあの頃の自分の見たものと、あの頃の自分と同じだった。

「ッッ!!エクシア!!!」

刹那の中でなにかが弾け飛んだ。
GNソードをライフルモードに変えて上空から銃撃を開始する。
そして、当たって体勢が崩れたアンフめがけて刃を起こしたGNソードを振り下ろす。
そのまま残りのアンフにも荒々しい動きで斬りかかる。
その場にいたアンフを全機撃墜してGNソードをライフルモードに戻してアンフの残骸へと目を向ける。
だが、刹那の視線はすぐさま別のものに移った。
自分が通ってきた道にたくさんの子供たちが倒れていた。
彼らは黒い煤をつけたままピクリとも動こかない。

(なぜだ…………?)

あの時、自分はガンダムに救われた。
そして今、自分はその力を手にしている。
なのに、彼らを救えなかった。

呆然と立ち尽くすエクシアに別の場所から現れたアンフ達が攻撃をくわえてくる。
エクシアはそれらをすべて受けるが、それでもまだ動かない。
だが、その攻撃の振動を感じながら刹那は震えていた。
こんな行いを続ける者たちに、そして、力を手にしたのにあの時のガンダムように救うことができなかった自分に対してとどまるところを知らない怒りが湧き上がってきた。

「うううあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

朝焼けの街に刹那の悲しい咆哮が響いた。











一時間後、デュナメスが到着したときにはすべてが終わっていた。
まともな形をとどめているものは建造物、人間ともに少なく、慣れていない者ならその様子を見ただけで胃の中のものをすべて吐き出してしまいそうな光景だった。

「こりゃひでぇ……」

「エクシア発見!エクシア発見!」

この惨状を見ながら顔をしかめるロックオンにハロはエクシアをモニターに映して見せる。
周りにはガンダムセブンソードと呼ばれる所以であるGNブレイドやGNダガーが散らばっていた。
だが、エクシアはそれらに目を向けるずにただ黙って立っていた。

「刹那…………」

ロックオンは通信を入れようとしたハロを止めた。
今の刹那に、かける言葉が見つからない。
ユーノならこんな時にもなにか言ってくれるのだろうが、自分はそこまで器用じゃない。
ロックオンは黙って周辺の警戒に入った。

刹那はデュナメスが来たことにも気付かずにコックピットの中でうつむいていた。
そして、唇をかみしめながらやっとの思いで言葉を吐き出した。

「俺は……ガンダムになれない……!!」









少年はあの日の天使にあこがれた。
たとえそれが遠く、険しい道だったとしても。







あとがき・・・・・・・・・・という名の拷問

ロ「アザディスタン編1でした。」

兄「またヒヤヒヤ設定出したな。いきなりヒクサー&887登場かよ。」

ロ「一応967のキャラ付けが決定した時点でヒクサーとの絡みはいれるつもりだったからな。」

9「しかし、この時点のヒクサーと887は何してたかわからないのだろう?」

ロ「そこは二次創作だっていうのと妄想を加速させてだね………」

ユ「お前の脳みそがとてつもなく腐ってるってことがよくわかったよ。」

ロ「うっさい!」

刹「ゲストを紹介するからそこまでにしておけ。今回のゲストは元アースラ艦長、糖尿病予備軍、リンディ・ハラオウンだ。」

糖「は~い、リンディです。ちなみに美しい女性はどれだけ甘いものを食べても病気にはならないのよ♪」

兄「あんな飲み方してる時点で舌が病気だと思うが。」

糖「あら、そんなこと言わずにおひとつどうぞ♪」

元艦長、角砂糖で埋もれたミルク入り抹茶を出す。

兄「………これもうお茶じゃなくてお茶シロップって呼んだほうが正しい気がする。」

糖「さ、遠慮なく。」

兄「遠慮以前の問題だろ。こんなもん……」

糖「遠慮なくどうぞ。」

兄「いや、そんな口元にグリグリ押しつけられても………」

糖「どうぞ。」

兄「ちょ、なにバインド使って………ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ユ「……さ、尊い犠牲が出たところで解説に行きます。」

9「そう言えばまたお前はフェレットになってたな。」

ユ「やめて。人の傷口に塩を塗りたくらないで。」

ロ「なんかユーノは誰でもいいから肩に乗せたくなるんだよな。なぜか。」

刹「なんとなくわかる気がするな。実際、乗せてて悪い気はしなかった。」

ユ「そんな俺はいつの間にかソリッドに乗っちゃってるし。」

ロ「そこは各自想像力を働かせて下さいませ。」

9「………思いつかなかったんだな。」

ロ「………スンマセン。」

兄「しかもヒクサーとの絡みを中途半端なところで終わらせちまうし………ゲフッ!」

ロ「それは最初からそうしようと思ってたんだ。中途半端に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、後半でみっちりやるためなのでお許しください。」

糖「そう言えばいるはずのフォンさんが出てきてなかったわね。」

ロ「アザディスタン編が終わったらオリミッションで出す予定なのでここで使うのはどうかと思って出せなかったんだ。正直出すべきかどうかかなり悩んだ。」

ユ「出せばいいのに。」

ロ「勘弁してくれ。オリでアブルホールを使いたいからここではだしたくねぇんだよ。」

兄「別の機体で出せばいいものを。」

9「ここで議論しても仕方なかろう。」

糖「それもそうね。さて、次回予告に行くわよ。」

ユ「戦闘から一夜明け、緊張感がピークに達したアザディスタンは崩壊一歩手前に追い込まれる。」

兄「そんな中、刹那は自分にできることに取り組んでいく。」

刹「そして、ユーノとヒクサー、そして、グラーベの記憶と人格を受け継ぐ967の関係はどうなるのか。」

9「各自の思惑が交錯する中、マスード・ラフマディーの救出は成功するのか!?」

ユ「そして、刹那はガンダムになることはできるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 19.聖者の帰還
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/04 09:53
西暦2307年 USA ニューヨーク

ソレスタルビーイングが介入を開始した時、ヒクサーはアメリカにいた。
今まさにエクシアがAEUの軍事演習に現れたところなので誰一人としてソレスタルビーイングの存在を知らない。
だが、ヒクサーの目にはすべてがありありとうつされている。
そんな時、気になるデータがヴェーダから送られてきた。

(これは………?)

今回の介入行動に参加しているユーノ・スクライアをサポートしている自立AIに関するデータ。
今回の介入においてさほど重要なものとは思えずに無視しようとした時、そのデータの中で彼は気になる名前を見つける。

(グラーベ……?なぜ彼の名前が……)

ヒクサーはそのデータをさらに詳しく調べ、愕然とした。
ソリッドに乗っているそれは自らの手で殺してしまった彼の人格と記憶を引き継いでいるというのだ。

「馬鹿な!そんなことが!」

「ふにゃ…………?」

ヒクサーは座っていたベンチから勢いよく立ちあがる。
隣で寝ていた887がうっすらと目を開けて彼の顔を見る。
いや、887だけではない。
街を行きかう人々も突然大声を出して立ち上がったヒクサーに視線を向ける。

「どうしたのヒクサー?いきなり大声出して?」

「………887、少しやらなきゃいけないことができたよ。」

ヒクサーは887のほうを向くことなく話す。

(なぜヴェーダがこんな情報を僕に……?いや、一番の問題はそれじゃない。)

そう、彼にとって一番気にしなくてはならないことはそれではない。
彼にとって大切な、かわりなどいるはずのないグラーベのコピーがこの世に存在し、彼の命をもてあそんでいることが許せない。

「………ヒクサー?」

ヒクサーがようやく887に目をやると、彼女は不安そうに彼を見ていた。

「ああ、ごめん887。僕は大丈夫だよ。」

ヒクサーの言葉を聞いて887はニパッと笑う。

「よかった♪それはそうとこれからどうするの?やらなくちゃいけないことって?」

「その時がきたら話すよ。そう………チャンスがきたらね。」

二人は話をしながら人ごみの中へと消えていく。
ソリッドに、グラーベのまがい物に会うその日を待ちわびながら。




魔導戦士ガンダム00 the guardian  19.聖者の帰還

アザディスタン王国 砂漠地帯

刹那たちが保守派の進軍を止めているころ、ユーノと967はヒクサーに銃口を向けられて動くに動けない状況にあった。
ユーノは967の前に立ち、両手を広げて仁王立ちをする。

「どいてくれないかな?僕はそのまがい物を壊したいだけなんだ。ガンダムマイスターである君を撃つわけにはいかない。」

「だったらこいつを殺すのもご法度なんじゃないか?こいつはマイスターである俺のパートナーなんだぜ。」

「ユーノ………」

「っっ!わかっていないな。僕のこの行動はヴェーダが容認しているんだよ。」

「なに?」

ヒクサーの含み笑いを見てユーノがいぶかしげな顔をするとヒクサーはコートの首元をめくって見せた。
そこにはフォンがつけていたものと同タイプの小型爆弾がつけられていた。

「それは………!」

「わかったかい?もしこの行為が認められていないなら僕の首はとうの昔に吹き飛んでいる。」

「つまりそいつをぶっ壊してもノープロブレムってわけ。」

「これでわかったろう。それを壊しても何の問題もない。君は新しいパートナーを作ればいいだけだ。さあ、そこをどいてくれ。」

「ユーノ、もういい。どいてくれ。」

967の言葉を聞いたヒクサーは穏やかな笑みを向けながら、しかし、憎悪に満ちた心に従い、引き金にかけた指に力をかけていく。
だが、それでもユーノはどかない。

「悪いけど967を殺りたいんなら俺を殺すんだな。もっとも、簡単に死んでやるつもりはないけどな。」

「ハッ!あんたバッカじゃない!?」

887は967をかばうユーノを鼻で笑うと得意げに話し始める。

「そいつは機械なのよ。代えのきく部品みたいなもんなのよ。いちいちそんなもんのために命をかけるなんてとんだアホね!!」

「…………………」

ユーノは黙っているがその顔は徐々に怒りに満ちていく。
そんなことには気づかない887はここぞとばかりにユーノを罵倒する。

「そんなことでよくマイスターになれたわね。あ、そっか!あんたを拾ってくれたあの馬鹿な小娘が死んじゃったもんね~。なんだかんだ言いながら結局は復讐にはしって勝手に死んでったあのお子ちゃまのおかげで何とかマイスターになれたんだもんね~。そんな落ちこぼれ君じゃまともにものを考えられないのも当然かぁ。キャハハハハハハハ!!」

「887、言いすぎだよ。」

ヒクサーにたしなめられると887はプーッと頬を膨らませるが反省している様子はない。

「………最後にお前らに言っといてやる。」

「「?」」

「………お前らは俺がこの世で何よりも許しがたい行いを二つした。」

「負け惜しみ?普段なら聞かないんだけど今回は特別に聞いておいてあげるわ。」

「一つは俺の相棒を、967を物扱いしたばかりか、殺そうとした。」

「事実を言ってやっただけじゃない。」

「そして、もう一つは……アイツを………エレナの覚悟と死を侮辱したことだ!」

言い終わるのが早いか、ユーノの足元に萌黄色の魔法陣が展開され、続いてヒクサーと887の足元にも魔法陣が発生したかと思うと、そこから出てきた光の鎖が彼らを拘束した。

「「!!?」」

二人が事態を飲み込めずにいると、ユーノがヒクサーめがけ突進していく。

「はあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グッ!!」

ヒクサーの顔にユーノの拳が打ちこまれ、その衝撃から銃が手放されてしまう。

「ヒクサー!!」

887が悲痛な叫びをあげる中、ユーノはヒクサーの銃を左手に、そして右手に小さな魔法陣を作り、そこから出した鎖で887に蹴りとばされた自分の銃を器用に自身の上に跳ねとばして回収する。
そして、鎖にぐるぐる巻きにされて横たわる二人に銃口を向けた。

「形勢逆転だ。」

「クソ!なんなのよこれ!?」

887は理解不能な状況に混乱して喚くが、ヒクサーはあくまで冷静に自分を縛り付けるものを観察する。

「これは一体何だい?君がやったんだろう?」

「ちょいと小粋な手品の一種さ。あんまし人に見られるのは好きじゃないんだけどな。」

「それじゃ手品とは言えないな。手品や見世物は人に見られてこそ手品と言えるものだよ。」

「ま、確かにそういうものかもな………。さて、お喋りはここまでだ。967とエレナを侮辱した罪を償ってもらおうか。」

ユーノは引き金を引こうとする。
だが、

「待て、ユーノ。」

「?」

967にとめられ、ユーノは後ろを向く。

「そいつを、ヒクサー・フェルミを始末する必要はない。」

「おいおい……命を狙われた奴の言うことじゃないぞそれ。」

「ここは俺に任せてくれないか?」

967ヒクサーの前まで歩いていく。

「ユーノ、こいつらの拘束を解いてくれ。」

「967、それは流石に………」

「頼む。」

サングラス越しの967のまっすぐな視線にユーノはしぶしぶバインドを解除する。
ヒクサーと887は服についた砂を払いながら立ち上がり、967を厳しい表情で睨む。

「ヒクサー・フェルミ、確かに俺はグラーベ・ヴィオレントの人格や記憶を有している。そういった意味ではお前たちの言う通り、コピーと言ってもいいのかもしれん。」

「そうだ。だからこそ僕は君を………」

「だが、俺はグラーベではない。ヴェーダの道具でもない。」

「!!………ずいぶんとおかしなことを言うんだね。君はヴェーダによって計画のためだけに創りだされた存在だというのに自分の意志を主張するつもりかい?」

「確かに以前の俺なら否定していたかもしれないな………。だが、ユーノは俺を仲間だと、相棒だと言ってくれた。自分の意志を持つことの意味を教えてくれた。だから、俺はたとえヴェーダから与えられた任務を放棄してでもユーノとともに戦い抜く……そう誓った。」

「967………」

「………だが、それでも僕は君の存在が許せない………!グラーベの命をもてあそんだ存在である君を許すことはできない!」

「………なら、グラーベはお前にこんなことをさせるためにあの時、あの言葉をかけたのか?」

「!!」

「グラーベ・ヴィオレントとしての最後の言葉は、俺を破壊するために言ったわけでも、お前をヴェーダの目にするためでもないはずだ。」

967の言葉にヒクサーは俯く。

「グラーベの願いを知ってもなお俺を殺したいのならそうしろ。だが、それがきっかけでお前の苦しみが増すのなら、俺はお前に殺されてやるわけにはいかない。」

「……………なら、僕はどうすればよかったんだ………グラーベをこの手であやめ、君を知った時、僕はどうすればよかったんだ!?」

「………自由に生きればよかったんじゃないか?」

ユーノが不意に口を開く。

「詳しい事情は知らないけどさ、きっとそいつはあんたに自由に生きていて欲しかったんじゃないのか?自分のせいであんたに苦しんで欲しくなかったんだよ。」

「けど、僕は彼を………」

「だ~か~ら~!そんなふうに引きずって欲しくなかったんだろ!あんたホントにそいつに悪いと思ってんなら自分の思うように生きてみろよ!!」

「……………」

「ちょっとあんた!さっきからべらべら偉そうに……」

「887、いいんだ。」

ヒクサーは顔を上げる。
そこにはいつものヒクサーの笑みがあった。

「………今からでも、間に合うかな?過去にとらわれずに自分らしく生きていくことができるかな?」

ユーノはその言葉を聞いてフワリと笑い返す。

「できるさ。なんならお手本を紹介してやるよ。………もっとも、そいつの場合はホントに自由すぎて参ってるがな。」

フォンのことを思い出してユーノは苦笑する。

「へぇ……その人に一度会ってみたいね。」

「あんまりお勧めしないがな。」

二人は小さく笑う。

「………また、会えるかな?」

「どっちも生きてればな。」

「っっ!それはそうだ!」

ヒクサーは最後にいつもの彼のように声を殺して笑うと、887の手を引いてその場を離れようとした。
しかし、887はヒクサーの手を振りほどいてユーノ達のもとに戻る。

「887?」

「先に行ってて!こいつらに少し話があるから!」

「そう……」

ヒクサーは先にスタスタと歩いていってしまう。
そんな中、887はユーノに歩み寄る。

「わかってると思うけど、私はあんたたちのことが大っきらいよ。」

「奇遇だね、俺もだ。」

「でも……ヒクサーを元気にしてくれたことには礼を言うわ。ヒクサーがあんな風に笑うとこ初めて見た。」

887はそう言うとそっぽを向いてしまう。
しかし、真剣な顔ですぐにこちらに向き直る。

「お礼にいいことを教えてあげる。あんたやそいつに興味を持ってるのはなにもヒクサーだけじゃないわ。ヴェーダにアクセスできるやつ全員があんたたちの動向を気にしている。下手に動けば厄介なことになるから気をつけておきなさい。」

887はそれだけ言い残すとさっさとヒクサーのところに走っていってしまった。

残されたユーノと967はソリッドに乗り込むと市街地の近くのポイントへ向けて出発した。

「………聞かないほうがいいか?」

「何がだ?」

「アイツとグラーベ・ヴィオレントの間に何があったか……だよ。」

「………いつかゆっくり話す機会があったら話してやる。」

「フッ……OK、期待しないで待ってるよ。」






一方、朝焼けに染まり、気温が高くなってきている砂漠をヒクサーと887は歩いていた。

「彼が気にいったのかい?」

「な!?いきなり何言ってんのヒクサー!?なんで私があんなあまちゃんのことを……」

「887は嘘をついていると頭の飾りがピクピク動くんだよ。」

「うそっ!?」

887は慌てて頭をぺたぺた触るが、その様子を目を細めて眺めるヒクサーを見て気付く。

「嘘だよ。」

「もう!ヒクサー!」

「また会えるといいね。」

「だから私はそういうわけじゃ!!」

「さて……彼の性格とこの後のこの国の状況を考えると少し根回しが必要かな?」

「誤魔化さないでよ!!」

生物のいない空間に887の大きな声とヒクサーの控えめな笑いがいつまでも聞こえていた。






アザディスタン王国 市街地

『アザディスタン第一王女、マリナ・イスマイールです。みなさん、どうか落ち着いてください。神に与えられし契約の地で国民同士で傷つけあうのはあってはならないことです…………』

あちこちがボロボロの状態のままラジオやテレビからマリナのよく通る声が街中に響いていた。
だが、保守派の人間からすれば憎い敵がおおっぴらに喋っているに過ぎず、改革派の人間もその話をまともに聞ける状況にあるのはわずかな人数であり、聞いていた者たちも街の惨状を見ていると彼女の言葉が空虚なものに思えて仕方なかった。





王宮

「マスード・ラフマディーの行方はまだわからないの?」

「ユニオン軍と共同で鋭意捜索中。けど、まだまだ時間がかかりそうよ。」

「………そう。」

普段ならいないはずのSPが扉を固めた部屋の中で二人は深くため息をつく。
なんとかこれ以上の混乱を避けるために自ら国民にメッセージを発信したが、混乱が収まる見込みはなかった。

(状況は最悪ね………受信アンテナは破壊され、国連の技術者たちも撤退………しかもソレスタルビーイングにまで介入されてしまった。)

シーリンは疲労の色を隠せないマリナをしり目に考えにふける。

(この状況を打開するにはマスード・ラフマディーを保護するしかない。そうするしか………)

しかし、こんなことを考えたところで自分たちにないもできないことはわかっている。
それでも、いや、だからこそ考えなくてはいけないのだ。
この国を守るために。



しかし、シーリンとは違い、マリナは以前あった二人の少年のことを思い出していた。

『戦争が起これば人は死ぬ。』

『戦う理由があれば誰だって戦士だ。』

こんなことを考えている場合ではないと思っても、彼らの言葉が頭の中をグルグルと駆け巡って離れようとしない。
そんな思考の海の中、マリナはただマスード・ラフマディーが救出されたとの知らせを待ち続けていた。







アンテナ施設付近

昨晩の戦闘でソレスタルビーイング、ユニオンのどれでもない第三勢力が内紛を助長している可能性が示唆されたので、刹那はアンテナ施設を破壊したミサイルが発射されたと思われる場所に来ていた。
そこは昼間にもかかわらず人っ子一人おらず、昨晩あれだけ激しい戦闘が行われていたとは思えないほどだ。

「ロックオンの情報だと、この辺りからミサイルが発射されたようだが………」

刹那は地面に計測用の端末を近づけてさまざまな数値を計測する。

「残留反応……?確かにここにMSがいた……しかし、どこに……」

刹那は立ち上がり計測しながら小さな崖になっている場所へと歩いていく。
と、その下にフラッグと二人の人影を見つけた刹那は岩陰に隠れ、様子をうかがう。

「ユニオン?奴らもここの捜索を?」

「回収したポッドもそうだけど、この反応はやはり間違いないね。」

「PMCトラスト側の見解は?」

「モラリアの紛争時に紛失したもの……」

軍服を着た男が白衣を着た男の話を手で制止すると、鋭い視線を刹那がいる岩陰に向ける。

「なんだい?」

「……立ち聞きはよくないな。」

(ッ!?見つかった!)

「出てきたまえ!」

刹那は慌てることなく、訓練の通りに一般人を装って岩陰から出ていく。
弱気な少年を演じながら彼らの前に姿を現した刹那は両手をあげて無抵抗の意志を示す。

「地元の子かな?」

「どうかな。」

白衣の人物は疑っていないようだが、軍服を着た男は警戒したままだ。

「あ、あの……僕、このあたりで戦闘があったって聞いて、それで……」

刹那はあくまで興味本位でここを訪れたと思わせようとする。
この国の出身である刹那だからこそできるカモフラージュだ。

「なるほど。」

白衣の男はフムとうなずく。

「そういうことに興味を抱く年頃であるのはわからなくはないけど、このあたりはまだ危険だよ。早く立ち去ったほうがいい。」

白衣の男は刹那のことを信じているようだが、刹那は白衣の男と話している間も軍服を着た男が気になっていた。
会った時から鋭く自分を睨みつけ、疑っていることがまるわかりだった。
これ以上疑われないためにも早くここから立ち去ったほうがいい。

「はい、そうします。失礼します。」

刹那は一礼すると、彼らに背を向けて歩きだそうとした。
その時、

「少年。」

軍服の男に声をかけられた刹那は凍ったように固まる。

「君はこの国の内紛をどう思う?」

「え?」

自分のことを探っているのか……?
さまざまな推測が刹那の頭の中を埋め尽くす。

「グラハム……?」

「この国の内紛をどう思うかな?」

鋭い視線を背に受けながら、刹那は脳をフル回転させる。

「ぼ、僕は……」

「客観的には考えられんか。なら、君はどちらを支持する?」

その時、刹那はハッとし、ある答えにたどりつく。
この状況から逃れるためでなく、自分が素直にそう思った答えを彼に告げる。

「……支持はしません。どちらにも正義はあると思うから。でも、この戦いで人は死んでいきます…………たくさん、死んでいきます………」

マイスターとしてではなく、素の自分の考え。
戦うことしかできない道にいるからこそたどりついた、自分なりの答え。
今の自分と矛盾していることはわかっている。
答えにもなっていないこともわかっている。
だがそれでも、悩み抜いた果てに導いた刹那だけの答えだ。

「………同感だな。」

軍服の男は目をつぶって答える。

「……軍人のあなたが言うんですか?」

「この国に来た私たちはお邪魔かな?」

子供のように無邪気な、それでいて凛々しい男の笑みを見て刹那は少し気を緩める。

「だって……軍人がたくさん来たら、被害が増えるし……」

「君だって戦っている。」

「え!?」

刹那に再び緊張がはしる。

「後ろに隠しているものは何かな………?」

「ッ!!」

男の笑みが鋭いものに変わり、刹那の後ろにやった手に注目する。
その手には、銀色に光を反射する銃が握られていた。
刹那はそれまでの気弱な表情から一変して、鋭い顔つきに変わる。

「怖い顔だ……」

二人はそのまま睨みあうが、軍服の男は一息つくと隣にいた白衣の男に話しかける。

「カタギリ、一昨日、ここから受信アンテナを攻撃した機体はAEUの最新鋭機、イナクトだったな。」

「!?」

刹那は思いがけない情報に、そして、自分の前で話し始めた男に驚く。

「いきなり何を……?」

カタギリと呼ばれた白衣の男も驚くが、それでも男は話すことをやめない。

「しかもその機体は、モラリアのPMCから奪われた機体らしい。」

そこまで話すと、男は満足そうに一息つく。

「撤収するぞ。」

「あ、ああ……」

男は素早く背を向け、フラッグのもとに歩いていった。





その後、刹那はしばらく動かずに彼の言葉を反芻していた。

「PMCのイナクト……?」

そして、刹那はハッとする。

「………まさか!?」

あの時、イナクトの中から姿を現した赤髪の男、アリー・アル・サーシェスのことを思い浮かべる。

「奴が……あの男が、この内紛にかかわっている……!?」

奴はもう戦いが終わったこの国に用はないはずだ。
なのにまた、戦いを引き起こしている。

「なぜだ……?なぜ、今になって……」

だが、もしそうだとすれば、奴がいるかもしれない場所は、いや、いるであろう場所はあそこだ。






市街地

爆音と銃声が支配する街にユーノはいた。
ヒクサーと別れてから、再びフェレットになって情報収集にあたろうとした時、街から火の手があがるの見たユーノはすぐさま駆けつけた。
そこはまさに地獄絵図だった。
車や建物が燃え盛り、多くの人が血の海に沈んだまま放置されていた。
その様子をユーノは唇をかみしめながら見ていた。

(………同じだ。どこにいたって、人間なんてそう大差なんてない………!!)

自分にとって始まりの場所。
記憶のない自分が本能的にガンダムを欲するきっかけを作ったあの場所とまったく同じだ。
信仰のために他者の命を平然と奪うものたち。
そこに正義のためと言って介入しながら、誰も救おうとしない者たち。
人間のもっとも醜い面を寄せ集めた最悪の場所だ。

「何してんだよお前ら………!こんなことして、何にも感じないのかよ!?そんなに信仰って奴が大切なのかよ!?人の命より重いっていうのかよ!!?」

ユーノが叫んだその時、近くの商店から銃の発砲音が響いた。
ユーノはそこに駆けつけると数人の男が店の金や品物をバッグいっぱいに詰めて飛び出してきた。
男の一人は外に出ると店の中にいるなにかに銃を発砲した。

「待て!!」

ユーノは男たちのあとを追おうとするが、店の中からかすかに聞こえる鳴き声に足を止める。
そして、店の中に入ると、赤ん坊を抱いた女性が焦点の定まらない目のまま倒れていた。

「大丈夫………!!」

女性を仰向けにしたとき、ユーノは絶句した。
腹部にはいくつも穴があき、そこから蛇口をひねったかのように血が零れ落ちていた。
女性の抱いていた赤ん坊は血にまみれてはいたが無傷だった。
だが、このままでは母親は間違いなく死ぬだろう。

「大丈夫だ!お前の母さんは絶対助けてやる!!お前を絶対に一人になんてさせやしない!!」

ユーノは近くにあった石をバインドを利用して銃創に固定して止血すると、続いて回復魔法を使いながら、持ち歩いていた簡易救急キットによる治療を開始する。

「マ……マリナ……さま……」

女性はかすれた声でマリナの名前を呼ぶ。

「マリナ様じゃなくて悪いね!けど、治療してんだから文句は言いっこなしだ!!」

ユーノは軽口を叩きながら治療をするが、女性の呼吸は徐々に弱まってくる。

(クソ!やっぱり俺には何もできないのか!!?こいつも俺と同じような運命にさせちまうしかないのか!?)

ユーノが諦めかけたその時、店の前に車が止まる音がした。
そして、車から降りた二つの影が扉から中に入り、ユーノに近づいてくる。
ユーノは慌てて魔法を解除して二つの影を待ち受ける。

「君……」

「悪いけど取り込み中だ!殺したいんならせめて後にしてくれ!」

「見たところ君はこの国の人間じゃないな。ここは危険区域だ。君を保護させてもらう。」

ユーノが治療をしながら後ろを向くと、白衣に眼鏡をした男、ビリー・カタギリと青いユニオンの軍服に身を包んだ金髪の男、グラハム・エイカーが立っていた。






数分前

「グラハム!流石にこれは無理があったんじゃないかい!!?」

あちこちで爆炎があがる中、カタギリは飛び交う弾丸を避けるために頭を低くしながら、こともなげにジープを運転するグラハムに叫ぶ。

「そうかもしれないな!!だが、放っておくわけにもいかない!!」

グラハムはアクセルを踏み込もうとするが、ふと一軒の商店に目がとまる。

(あれは……?)

中にこの国の人間の来ている服とは明らかに違うものを着た少年がかがんでなにかをしている。
グラハムはその商店の前にジープを急停止させる。

「グラハム?」

「行くぞ、カタギリ。」

「おいおい、ちょっと……」

カタギリはグラハムを止めようとするがグラハムは扉の向こうに行ってしまう。
仕方なくカタギリもついていくと、灰色のジャケットを着た少年がこの店の住人と思われる女性の治療をしていた。

「君……」

「悪いけど取り込み中だ!殺したいんなら後にしてくれ!」

カタギリが少年に話しかけるが、少年はこっちを見ずに答える。
二人は顔を見合わせると、続いてグラハムが言葉を放つ。

「見たところ君はこの国の人間じゃないな。ここは危険区域だ。君を保護させてもらう。」

少年はこちらを向くと軽蔑のまなざしを向けた後、再び治療を開始する。

「聞いているのか?すぐに我々とここを離れるんだ。」

「あんたらユニオンか?こんな状況で誰も助けないで、よくもまあえらそうに……」

少年の言葉にカタギリが苦笑する。

「耳が痛いね。だが、ここにいたら君も危険だ。」

二人は話をしながら少年を観察する。
長く美しい髪によく通る声も加わると女性と間違えるものがいてもおかしくないと思えてきてしまう。
だが、その中性的な容姿からは想像できないほど固い決意がうかがい知れる。

同行することを拒み続ける少年に対してカタギリはある提案を持ちかける。

「その人を本当に助けたいと思うのなら、僕たちとここを離れるのが得策だと思うよ。もちろん、君達の安全は保障する。」

「……ガンダムが目的でやってきた奴らがよく言うぜ。」

「確かに我々の任務はガンダムの調査だ。だが、同時にアザディスタンを救いたいと思う気持ちがあるのもまた確かだ。少し強引だが失礼する。」

グラハムは少年の背中と両足に自らの両手を滑り込ませて持ち上げるとジープへ歩いていく。

「な!?離せ!!」

「世話を焼かせないでもらおうか。」

「グラハム、急いでくれ。この傷だと長くは持たない。」

「了解した。」

グラハムとカタギリは強引に少年と負傷した女性とその子供をのせると難民キャンプに向かってジープを飛ばした。






難民キャンプ

ユーノ達が難民キャンプにつくとすぐさま医療スタッフが女性の治療に取り掛かった。
ユーノの治療が適切だったおかげか女性はなんとか一命を取り留め、今は安静な状態で子どもとともに眠っている。

「よかった………」

ユーノが安堵のため息を漏らしていると、グラハムとカタギリが歩いてきた。

「君の初期治療がなかったら助かっていなかったそうだよ。」

「君のお手柄だ、レディ。」

グラハムのレディ発言にユーノのこめかみに青筋が浮かぶ。

「……おれは男だ。」

「な!?そうだったか……それは失礼した。」

「だから男の子だって言ったのに……」

「別にいいけどさ、慣れてるから。」

ユーノは泣きたくなったが、グラハムとカタギリの顔つきが真剣なものに変わったことに気付くと、警戒を強める。

「さて、世間話はここまでにして……。君のことについて話してもらおうか。」

「君はどうしてあんなところにいたんだい?見たところこの国の人間でもユニオンの人間でもないようだが?」

「………………………」

「だんまりか。だが、私の部下に君のことを調べるように言ってある。黙っていてもすぐに君が何者なのかわかるぞ。例えば………君がソレスタルビーイングの人間だということもな。」

(ばれた!!?)

ユーノはポーカーフェイスをかろうじて保つが、手のひらにはじんわりと嫌な汗がにじんでいく。

「グラハム、悪ふざけが過ぎるよ。」

カタギリにグラハムを注意するのを見てユーノは安堵する。
だが、

『中尉、詳細が判明しました。』

グラハムが持っていた端末から声が聞こえた瞬間、再び緊張で固まる。
ユーノに関するデータはどこにも存在していない。
もしそのことがわかれば間違いなく彼らは疑いの目を向けてくるだろう。
しかも先日ガンダムでの戦闘があったばかりなのだ。
下手をすればガンダムマイスターであることがばれる可能性もある。

(………やるしかないのか!?)

ユーノはジャケットの下から銃を取り出そうとする。
だが、その必要はなかった。

『彼はNGOのメンバーの一人です。アザディスタンの救済に訪れていたようですが、退去勧告を受けていなかったようです。』

(NGO!?どうなってるんだ!?)

『主催者の名前はハヤナ・フェルミ、ギリシャの投資家らしいです。』

(!あいつら………)

名前から察するにヒクサー達がなにか根回しをしたようだ。

(しかし、よくこんな短時間でこんな無茶なこじつけを………)

『彼の名前はユーノ・スクライア。彼女の企画する事業のもとで技術者をしているそうです。』

「ユーノ!?」

カタギリが突然大声を出したのでその場にいた全員が作業をやめて彼らを見る。

「カタギリ、彼のことを知っているのか?」

カタギリは呆けた顔で自分を見る二人に気付く。

「ああ、大きな声を出してすまないね。グラハムには言ってなかったかな?彼はクジョウの仕事仲間だよ。なんでも、凄腕の技術者だとか。」

「ほう……」

グラハムは感心した様子でユーノをまじまじと見るが、ユーノは知らない人間の名前を出されて少々困惑気味だ。

(クジョウ……メンバーの誰かの本名か何かか?)

「君もクジョウから何か聞いていないかい?もっとも、僕は君の毛嫌いする兵器開発にかかわる人間だけどね。」

苦笑するカタギリにユーノは慌てて手を振って否定する。

「い、いえ!嫌いなんじゃなくて、俺のせいで誰かが傷つくのが嫌だって言うだけで……」

「ハハハ……無理はしなくていいよ。僕自身も自分で自分が嫌いになる時があるからね。でも、僕は自分の作ったものがいつか本当に争いをなくせると思っていたいんだ。」

「…………………」

ユーノはバツが悪くなってカタギリから視線を外す。
そう、誰だって平和を望んでいるはずなのだ。
自分たちだけではない。
みんながそれぞれのやり方で平和を勝ち取ろうとしているのだ。

「大丈夫かい?本当に気にすることはないよ。本来、戦いを嫌うのが人間のあるべき姿だからね。」

「すいません……」

「さて、暗い話はここまでにして少しコーヒーでも飲んで休まないかい?……と言っても、インスタントだけどね。」

カタギリはそう言ってユーノをテーブルのあるテントに案内した。







「へぇ……人命救助に……」

「はい。国境なき医師団とは活動内容がまた少し違ってまして。」

「君は技術者だと聞いたけど、治療のほうも手慣れた様子だったね。」

「それはまあ、昔からやってますからね。ここまで来て何もできませんなんて冗談にもなりませんから。」

二人がコーヒーを飲みながら話していると、端末を見ていたグラハムの表情が変わる。

「カタギリ、本部に戻れとの連絡があった。すぐに行くぞ。」

「わかった。……じゃあ、僕たちは戻るけど、君はすぐにこの国を出るんだ。いいね。」

二人はユーノを残してテントを出ていく。

ユーノもテントを出て人気のないところに行って携帯端末を使って通信をする。

『ユーノ!?お前今までどこに……』

「少し調べ物さ。それより、ユニオンの動きが活発になってきてる。さっさとケリをつけたほうがよさそうだ。」

『それについては刹那が動いてくれた。おかげで手掛かりが見つかった。』

ロックオンからあるポイントの座標が送られてくる。

「ここに何が?」

『さあな。』

「さあな、って……」

『まあ、ジッとしてるよりはましだろ。俺も向かうからお前もすぐに来い。』

通信が切れるとユーノはため息をつく。
だが、自分たちの中では一番この国に精通している刹那が掴んだ手掛かりなのだ。
なにかあると考えたほうがいい。

「ったく……とにかく行ってみるしかないか。」






王宮

『……みなさん、どうか落ち着いてください。神に与えられし……』

マリナは自分の映るテレビを消してうつむきながら声を絞り出す。

「なんて無力なの、私は………」

そばにいたシーリンも眉間にしわを寄せて黙ったままだ。
そんな時、不意にドアがノックされる。
SPの一人がドアを開けると、アザディスタンの民族衣装に身を包んだ女性が部屋に入ってきた。

「失礼します。」

「何の用かしら?」

シーリンが視線を向けると同時に、女性は手に持っていたかごを離し、隠し持っていた銃を構える。

「死ね!!改革派の手先が!!」

「!!」

「マリナ!!」

驚いて立ち上がったマリナをかばおうとシーリンが駆け寄ろうとするが、それよりも早く銃声が鳴り響いた。

「ッッ!!」

マリナは思わず目を閉じてしまったが、体のどこにも痛みがない。
恐る恐る目を開けると、マリナを撃とうとした女性は床に倒れ、SPが扉の近くで拳銃を握っているのが見えた。
シーリンはホッとする。
しかし、

「どうして……」

マリナはよろよろと床に膝をつく。

「なぜ……なぜ私たちはこんなにも憎み合わなければならないの……?」

マリナは涙を流しながら問いかける。
だが、彼女の問いに答えてくれる者などいるはずもなかった。







旧クルジス領 キャヴィール砂漠 廃墟

「ふぁ~~あ~~ぁ……」

サーシェスはイナクトのコックピットの背もたれに寄りかかりながら大きな欠伸をする。
マスードをさらってからしばらく経つが、ガンダムが来たせいで彼らの計画は少しばかり予定が狂ってきていた。

『隊長、このジーさん飯どころか水も飲みませんぜ。』

「ほっとけほっとけ、敵の施しを受けたくねぇんだろうよ。」

サーシェスは「またか。」とつぶやいて自分はペットボトルに入った水をあおる。

「まったくこの国の奴らは融通が利かねぇ。」

空になったペットボトルから口を離すとサーシェスは不愉快そうにそれを握りつぶす。

「ソレスタルなんたらの横やりで段取りがぐちゃぐちゃだぜ……」

これからどうするかについてサーシェスが思案し始めると、再び彼の部下から通信が入る。

『隊長!こちらに接近する機影があります!!』

「ユニオンの偵察か?」

『違います!』

一瞬、サーシェスは部下が何を言っているのかわからなかったが、映像が映された瞬間、すべてを理解した。
太陽を背に、こちらに近づいてくる青と白の機体。

『あの白いMSは……』

「ガンダムか!!」

どうしてここに、と言いかけてサーシェスは言葉を飲み込む。
モラリアでの戦闘の際にあの剣を使うガンダムが見せた動き、そしてそのパイロットの不可解な行動。
そして、今回ここを嗅ぎつけたことから確信した。

「やっぱりあの時の生き残りか!!」

サーシェスは犬歯を見せて笑う。

「上等だ……てめぇもお仲間のところに送ってやるよ!!」







廃墟上空

「エクシア、目標ポイント到達。」

刹那は廃墟と化した街をくまなく見て回る。
そして、MSの残留反応と数台の車を見つける。

「やはりここにいたか。」

刹那は口を真一文字に結んで昔の自分と仲間を思い出す。
その時、電子音が鳴り、街のはずれからMSの起動反応が検出される。

「MS!!」

オレンジの夕日に照らされながら紺色のイナクトが風切り音とともにエクシアに近づいていく。

「ガンダムはこっちで引きつける!ジーさんを連れて脱出しろ!!」

『了解!!』

サーシェスは通信を切ってエクシアを見る。

「いやいや……あの時の馬鹿なガキがずいぶんと立派になってくれやがって。師匠としちゃあこれ以上うれしいことはないぜ。だがな……俺を殺ろうとするなんざ思い上がりもはなはなしいんだよ!!」

イナクトのライフルから弾丸が発射されるが、エクシアは前回とは違いすべてよけきった。

「あのイナクト!!」

サーシェスの言葉が聞こえていたわけではないが刹那はサーシェスの言葉を否定するようにイナクトに対してGNソードで斬りかかるがイナクトはソニックブレイドで受け止める。
鍔迫り合いでの押し合いの中で両者が互いに譲るまいと前に力をかけるので二つの剣の間から激しく火花が散る。

「まさかな……あんときのガキがガンダムに乗ってるとは!」

『あんたの戦いは、終わってないのか!!』

「!!音声!?」

『クルジスは……滅んだ!!』

鍔迫り合いはエクシアに軍配が上がるが、イナクトは追撃をくわえようとしたエクシアを蹴りとばす。

「知ってるよ!!」

イナクトのライフルが火を吹くが、エクシアは地面すれすれを滑るように移動し、再び空へと舞い上がるとソードライフルでイナクトを攻撃する。
イナクトはディフェンスロッドを使って弾を防ぎながら距離をとるが、エクシアは再びGNソードの刃を起こしてイナクトへ向かっていく。

「あんたはなぜここにいる!!」

刹那は幾度も剣を交えながら叫ぶ。

「あんたの神はどこにいる!!」

大きく振ったGNソードが空をきる。

「答えろ!!」

「そんな義理はねえな!」

エクシアは後ろに回ったイナクトめがけ横薙ぎを放ち、見事ライフルを切断する。
だが、その爆煙にまぎれてイナクトがエクシアをがっちりと掴むと、地上へ加速しエクシアを叩きつけた形で抑え込んだ。

「ぐあぁぁっ!!」

地面に叩きつけられた衝撃が刹那を襲う。
そして、イナクトはエクシアのハッチを掴んで引き剥がそうとする。

「もったいないからその機体、俺によこせよ!え!!ガンダムゥ!!」

サーシェスの言葉を聞いた刹那が怒りをあらわにする。

「誰が!!」

エクシアは腰に装備されたGNブレイドを固定されたまま回転させてイナクトの右腕を切断した。
イナクトは驚いたように飛び退くとそのまま撤退を開始した。

「やってくれたな……しかし……」

サーシェスの視線の先にはマスードを荷台に乗せた車が戦闘のあった場所から離れていくのが見えた。

「予定通りではある……」

刹那はエクシアを立たせると、逃げるイナクトを黙って見つめた。

「……それはどうかな。」







砂漠地帯

サーシェスの部下たちは指示通りに砂漠地帯を通って逃げようとしていた。
だが、先の戦争に参加していた刹那はこのルートも当然知っていた。

「ん!?」

「あれは!!」

暗くて遠くからではよく見えなかったが、近づいたことで彼らはようやくそれの存在に気付いた。
肩に巨大なライフルを背負い、月をバックにたたずむその姿は見るものすべてを圧倒する風格があった。

「ガンダムか!!」

運転をしていた男がルートを変えようとするが、ライフルを背負ったガンダム、デュナメスはビームピストルの弾を彼らの周りに着弾させる。
そして、煙の中からスリップをするような形で車が飛び出してきた。

「隊長!こちら撤収部隊!」

サーシェスに通信を試みるがノイズがはしるだけでいっこうにつながる気配がない。

「チィ!反応しねぇ!!」

「!来るぞ!!」

助手席に乗っていた男が近づいてくるマスクで目の周りを隠した長身の男に気付く。

「クソ!!」

二人は手に持っていたマシンガンを撃つが、マスクの男は空高く跳びあがって近づき二人の顔を素早く蹴り飛ばした。

「野郎!!」

後ろにいた車から仲間が出てきて銃を構えるが、気配をいち早く察知したマスクの男によって蹴り倒されてしまった。
マスクの男はトラックの後ろの荷台にいたマスードのほうを向く。
しかし、

「動くな!!」

三人の男が銃をマスードにつきつけていた。

「その方を引き渡してもらおう。」

マスクの男は動じることなく言い放つ。

「ふん。」

強がりだと思ったのか、男の一人がマスードへ銃口を近づける。
その時だった。
ヒュン、という短い音がしたかと思うと、男はこめかみに赤い穴をあけて白目をむいて倒れた。

「な!?」

残りの二人は音のしたほうを向くが、顔を向けると同時に眉間に風穴をあけられ、力なく大の字に倒れる。

ハッチのあいたデュナメスのコックピットでロックオンは長らく握っていなかった愛銃のスコープからトラックの様子をうかがう。
敵が残っていないことを確認するとスコープから目を離す。

「まだ腕は錆ついていないようだな……」

孤高の狙撃手は自身の能力の健在を確認すると、悲しげに呟きを洩らした。






マスードはマスクの男、紅龍に縄を解いてもらうと、いぶかしげな視線を向ける。

「あんたは?」

「ソレスタルビーイング。」

「ソレスタルビーイング?」

「アザディスタンの紛争に介入する、私設武装組織です。」

「そうか……お前たちが……」

マスードは内心、複雑な思いだった。
自らを助けてくれた恩義は感じているが、アザディスタンに多くの血を流させる原因の一端であったこともまた事実だ。
だが、そんなことは今はどうでもいい。
早く戻って自分の無事を伝えなければこの国は崩壊してしまう。
マスードがそう思っていた時、夜空から萌黄色と白の機体、ソリッドが降りてきた。

ソリッドは膝をつくとマスードの前に手を差し伸べ、コックピットハッチを開く。
そして、ハッチの中から現れたパイロットの姿にマスードは驚いた。

(子供だと!?)

背丈から察するに14~15歳だろうか。
腕も大人より若干細く、少女のような印象を与える。

「乗ってください。」

「なに?」

「この国でこれ以上血が流れないよう、協力してください。」

「オ願イ!オ願イ!」

マスードはしばらく黙っていたが、首を縦に振ると手の上に乗った。
そして、手はコックピットに近くにつけられ、そこからコックピットに乗り込んだ。
ハッチが閉められ、ソリッドがふわりと浮かびあがるのを感じるとマスードは疑問を口にする。

「君はなぜこの国を救おうとするのかね?見たところ君はまだ若いし、この国とは関係ないように思えるのだがね。」

「なぜ、ですか……」

パイロットは困ったような笑い声を出す。

「俺は与えられたミッションをこなしているだけ……というのは建前で、理由の一つはこれ以上俺の前で誰かが傷ついて倒れていくのが嫌だから。もう一つの理由は、この国がなくなると俺たちの仲間の一人が悲しむからです。」

ソリッドのパイロット、ユーノは遮光処理の施されたヘルメットの奥ではにかんだ笑みを浮かべた。






砂漠地帯

留美は明かりの消えた部屋でモニターに記されたミッションを読んでいく。
驚くべき情報がいくつもあったが、動じることなく読んでいったのは王家当主としての彼女の胆力のなせる技だろう。

「ラストミッション、確かに受け取りましたわ、スメラギさん。」

モニターを消して完全な闇に包まれながら、彼女はスメラギからのプランを了承した。






プトレマイオス

「なんという作戦だ!!本当にあのような指示を出したのですか!!」

人革連の非人道的研究施設を破壊してから5日の時が流れていた。
それまでは大人しかったティエリアの怒鳴り声が久々にブリーフィングルームに響く。

「一歩間違えばエクシアは……」

「これが一番確実な方法よ。」

スメラギは語気を強めてティエリアに言い放つ。

「しかし!」

「僕はスメラギさんのプランに賛成だ。」

「なに!?」

それまで黙っていたアレルヤの発言に再びティエリアの感情が昂る。
しかし、アレルヤは喋るのをやめない。

「世界に見せつける必要があるのさ……ソレスタルビーイングの想いを。」

それは、望まない力を与えられたアレルヤが心から願ったものだった。






王宮

翌日、王宮の外には多くの市民が集まっていた。
その全員が口々に王宮の入口に配置されたアンフに向かった罵りの言葉を浴びせる。
各国のテレビ局の人間も遠くからカメラを回しながらこれから起こることを撮り逃すまいと神経をとがらせている。
一方、アンフ達から距離を置いた所に立っているフラッグのパイロットたちも固唾をのんで見守っている。

そんな中、一人の市民が後ろの空から近づいてくる光に気付いた。

「あ、あれは!?」

その声に兵士に罵声を浴びせていた人々が後ろを振り向く。
空から降りてくる青と白の機体、エクシアにその場にいた全員の注目が集まり、大きなどよめきが起こる。
エクシアは王宮の前に着地した時、兵器について多少の知識がある者はあることに気付いた。

「武装を解除しているだと!?」

カスタムフラッグに乗っていたグラハムもこれにはさすがに驚いた。
そのままやってくれば間違いなく反感を買うのは目に見えていたが、まさかここまでしてくるとは思わなかった。

「馬鹿よ!ここに非武装で来るなんて!!」

王宮の二階にいたシーリンとマリナも慌てる。
昨晩、ソレスタルビーイングからマスード・ラフマディーを保護したとの知らせを受けて会談の準備をして彼らを待っていた。
そして、約束通りに現れはしたが、周りにMSがいるのに非武装でやってくるなどいくらガンダムでも自殺行為だ。
もし、ガンダムが攻撃されて中にいるであろうマスード・ラフマディーの身に何かあれば大変なことになる。

「ガンダムに攻撃はしないで!」

マリナはその場にいた兵士に命令する。

「し、しかし……」

「これは命令です!!」

その時、遠くにいるマリナ達にもエクシアのいるあたりから銃声が聞こえた。

「約束の地から出ていけ!!」

数人の男たちがエクシアに向けて銃を発砲する。
しかし、エクシアは動じることなく王宮へ向けて歩きだす。
それを見たアンフ隊は砲口をエクシアに向ける。
驚いた市民たちが慌てて逃げ出す中、アンフから警告が発せられる。

「保護した人質を解放せよ!繰り返す、保護した人質を解放せよ!」

だが、それでもエクシアはゆっくりと、しかし確実に王宮へと近づいていく。

(まだだ……ここで開放すれば、また何者かに撃たれる可能性がある。)

エクシアを動かしながら刹那は思考を働かせる。
そして、アンフの足元にいた一匹のフェレット、ユーノもまた同じことを考えていた。

(馬鹿野郎、メンツの前に安全に王宮に送り届けることを最優先しろよ。)

スメラギはエクシア一機でやることを決定していたが、どうしても不安だったユーノはこうしてフェレットになって潜り込んでいた。
しかし、二人の願いは届かず、無情にもアンフ達の大砲から轟音とともに弾が発射されてしまった。
直撃を受けたエクシアはその衝撃から歩みを止めてしまう。

「どうして!?」

マリナから悲痛な叫びが上がる。
彼女はそのままテラスに飛び出そうとするが、シーリンに袖を掴まれて止められる。

「シーリン、離して!」

「落ち着いて。……あれを見なさい。」

シーリンに促されるままマリナが外を見ると、煙の中から体の前で両手を十字に重ねて攻撃を防いだエクシアが無傷で現れた。

「ガンダム……」

マリナは小さくその様子を見ながらつぶやく。
あの日であった少年たちが乗っている機体。
自分とは違う方法で平和を作ろうとしている者。
彼らのしていることを認めたくはない。
でも、確かに今、彼は戦っているのだ。


刹那は再びエクシアをゆっくりと歩かせ始める。
普段の自分ならここまでされれば容赦なく斬り捨てるのかもしれないが、今は武器がないせいか、不思議と落ち着いたままエクシアを操縦できている。

まるで、自分がガンダムになったように。







昨晩

スメラギからのミッションを見た刹那たちは驚きを隠せなかった。
なにせ一切の武装なしで王宮にマスード・ラフマディーを届けるのだ。
無謀などという言葉では済まされない。

「本当にMs.スメラギがこのプランを?」

「信じられませんか?なんならこの場で確認をとってもよろしくてよ。」

「別にいいよ……ある意味スメラギさんらしいと言えばスメラギさんらしいプランだ……いてて……」

頭にできた大きなたんこぶをさすりながらユーノが答える。

「ただ……唯一疑問を上げるとすれば、なんでエクシアなんでしょうか?普通に考えれば武装なしでも防御力の高いソリッドが適任なのに……」

「…………………」

確かに刹那自身にも理由がわからない。
問題ばかりを起こしている自分がなぜこの局面で選ばれたのか。

「それは刹那だからだろ。」

全員の視線がユーノに集まる。

「この国のことを誰より知ってて、誰よりもガンダムとしての戦いに憧れる刹那にこそ、このミッションは最適なんだろ。」

ユーノはそう言って刹那にウィンクをする。

「頑張れよ、エクシアのマイスターさん。」







王宮

(そうだ……今度こそガンダムに……!)

刹那の手に力がこもる。
エクシアもまた刹那の堅い決意を受け、まっすぐに王宮に向けて歩を進める。
その姿に圧倒されたのか、アンフ達は武器を降ろし、エクシアに道を譲った。

(すごい…………)

ユーノはその姿に見とれていた。
今のエクシアはさながら巡礼のために道を行く聖者のような神々しさがある。
エクシアは王宮のテラスまで行くと、その場にかがんで手をハッチとテラスの間にもっていく。
そして、ハッチが開くと、中からまず刹那が。
続いてマスードが出てきた。

「王宮へ。」

「うむ……あまりいい乗り心地ではないな。」

「申し訳ありません。」

マスードは彼の皮肉にまじめに答える刹那に対し軽く頭を下げる。

「………礼を言わせてもらう。」

「お早く。」

マスードは刹那に促されテラスへと降り立った。
すぐさまSPが周りを固め、マリナのもとへと彼をいざなった。
その背中を見送った刹那はコックピットへ戻ろうとした。
だが、後ろから声をかけられる。

「刹那・F・セイエイ!」

その言葉に刹那は足を止めて後ろを見る。
来ている服は違うが、確かにあの時の女性だ。

「本当に……本当にあなたなの?」

刹那は後ろにいるマリナにしっかりと真正面から向き合う。

「マリナ・イスマイール、これから次第だ。俺たちがまた来るかどうかは。」

マリナはもっと話したいことがあるのに、それは言葉にはならなかった。

「刹那………」

「戦え。お前の信じる神のために!」

「刹那!」

刹那はコックピットに戻ってハッチを閉めるとそのままエクシアとともに上空に飛び去っていく。







『中尉、追いかけましょう!』

『今ならガンダムを……』

ダリルとハワードが追跡を申し出る。
だが、

「できるものか!」

グラハムは一喝する。

「そんなことをしてみろ。我々は世界の鼻つまみ者だ……!」

だが、グラハムが追跡をしなかった理由はそれだけではない。
先日会ったあの少年たちの言葉が胸を締め付ける。

『この戦いで人は死んでいきます…………たくさん、死んでいきます………』

『こんな状況で誰も助けないくせに、よくもまあえらそうに………』

この国のために何もできなかった自分へのいら立ち。
そして、一方でガンダムがこの国を救ったという事実がグラハムにガンダムを見逃すという選択肢を与えることとなった。

「………すまんな、少年。これが今の私にできる精一杯だ。」

グラハムは上を見上げながら操縦桿を強く握りしめた。






砂漠地帯

「フゥ……ヒヤヒヤもんだぜ。」

ミッションが無事終了したことをテレビで確認したロックオンは体から力を抜く。
しかし、目つきは鋭くしたまま留美のほうを向く。

「けどよお嬢さん。これでこの問題が解決するのかい?」

「……できないでしょうね。」

留美はきっぱりと言う。

「でも、人は争いをやめるために歩み寄ることができる………歩み寄ることが。」

留美はそれまでの厳しい顔からいつもの微笑みへと表情を変える。

「私はそう信じていますわ。」

「信じる、ね……」

ロックオンは苦笑とも呆れともとれない笑いを浮かべながら壁に寄りかかった。












マスード・ラフマディーは誘拐の首謀者が傭兵部隊であり、この内紛が仕組まれたものであると公表。
黒幕はアザディスタンの近代化を阻止しようとする勢力との見方が強いが、犯行声明は出されていない。
その後、マリナ・イスマイールとマスード・ラフマディーは共同声明で内戦、テロ活動の中止を国民に呼びかけた。






しかし、アザディスタンでの内紛はいまだ続いている………










あとがき・・・・・・・・・という名の足掻き

ロ「アザディスタン編2でした。いいペースで書くと言いながら舌の根の乾かぬうちに遅れて申し訳ありません。」

ユ「こいつが調子こいて五万字とかいうとんでもない量を添削(主に削のほう)するのに大変時間がかかってしまったのが原因です。おかげで俺の活躍する場面が減ったこと減ったこと。」

刹「あんだけでてれば十分だろう。」

ユ「戦闘が一切ないだろ!少しは出せよな!!ホントなら対ヒクサー戦があったのに!!」

兄「おいおい……また無茶するなぁ。」

9「ヒクサーが以前ユニオンから奪い取ったフラッグを自己流でカスタムしたものが近くに隠されていてそれを使って戦うという予定だったのだが、文字数の関係上削られてしまったというわけだ。おかげでグダグダだったものがさらにグダグダに…」

ロ「気にしてること言うんじゃない!構想十分の機体が……」

ユ「時間短っ!」

刹「出さなくてむしろ正解だったのでは?」

ロ「そのうち出してみせる!!」

兄「本音は?」

ロ「ごめんなさい、無理です。」

ユ「いつものことながら変わり身も早っ!」

ロ「だってここからはヒクサーはあんま出ないもん。出たとしても戦闘には出せない可能性のほうが大きいから。」

9「まったく………。では、ゲストの紹介に移るぞ。今回のゲストは、猫まっしぐらではなく猫“を”見たらまっしぐら、月村すずかだ。」

す「どうも~。ちなみに猫は世界遺産に認定するための署名運動をしています。皆様、ぜひとも清き一票を!」

兄「もうどこにつっこめばいいかわからない登場だな。」

ユ「カオスに磨きがかかりそうな予感がするな。」

す「火悪主?」

ユ「発音同じだけど百パー違うから。なんか中二病通り越してさらにやばい臭いがする発言だから。」

す「なんだか照れるなぁ~♪」

兄「何この子?俺が出てくるあとがきで一番まともなゲストだけど、すっごい纏ってる空気がふわふわしてて一番やりにくいんだけど。」

刹「それじゃこれ以上脱線しないうちに解説に行くぞ。」

9「ヒクサーはずいぶん大人しく引き下がったな。」

ユ「それ言うなら俺もだろ。普通あの状況であそこまで言われたらどんなに温厚な奴でも間違いなくボッコボコにしてるよ。カ○ーユだったら大変だよ。もうウェ○ライダーで特攻かけちゃうよ。」

ロ「俺としてはヒクサーがヴェーダの指示によってでなく自分の意志で動くきっかけとフェレシュテで活動するフォンの存在を知るきっかけとして登場させた。」

兄「というか魔法見せてよかったのか?俺たちもアレルヤ以外いまだに見てないのに。しかも、アレルヤ自身もよくわかっていないのに。」

ロ「ここだけの話、ヴェーダのデータを覗ける皆様はこれでユーノに対して一層興味と警戒心を示すことになる。」

刹「まあ、そうだろうな。といってもかなり一部の人間に限られてくるがな。」

す「たとえば?」

ユ「今んとこ出てきてる奴らはリボンズ、ティエリア、874、ヒクサー達ぐらいだな。こいつらから話を聞ける連中を含めればもうチョイいるけど。」

す「ふ~ん。じゃあ、ユーノ君こっちじゃモテモテなんだね♥」

ユ「こいつらにモテても嬉しくないから。」

す「そっか~。ユーノ君はなのはちゃん一筋だもんね♥」

ユ「何この子!?なんか強引にそっち方向に話持ってこうとしてんだけど!?下手な誘導尋問より怖いぞこれ!!?」

9「天然キャラの特性を把握しきっていなかったな、ユーノ。まだまだ甘いな。」

兄「お~い、解説続けるぞ。そう言えばユニオンの連中とも接触してたな。」

ロ「スメラギさんがビリーさんに話してるとこかいたからOKかと思ってやっちゃいました。だが後悔はしていない。」

刹「後で展開に困っても知らないぞ。」

ロ「大丈夫。いざとなったらお前らに無茶させるから。」

ユ「人権侵害で訴えるぞ。」

兄「まあまあ……それにそこ以外は基本的にストーリー通りだったんだから問題ないだろう。」

9「それが最大の問題ともいえると思うがな。」

す「大丈夫だよ。こんなにネガティブでいいとこまったくなしのロビンさんが書いてるのにここまで続いてるんだからこれからもなんとかなるよ♪」

ロ「お前マジで帰れ!!無垢な笑顔で言いたい放題言いやがって!!」

す「私何かしました?」

兄「自覚なしかよ。俺達でも流石に無自覚であそこまでは言わないぞ。」

ロ「もうこれ以上天然に傷をえぐられたくないから次回予告行きます!!」

刹「次回はオリミッションだ。」

兄「ユーノはロシアのAEUと人革連領の境界で紛争が勃発するとのヴェーダの予測に従い現地に向かう。」

9「そして、現地でユーノはある人物との再会を果たす。」

す「そんな中、紛争の火種は確実に大きくなっていく。」

刹「はたしてユーノは紛争を食い止められるのか!?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!お時間があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 20.Ash Like Snow(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2011/08/09 09:38
地中海 王留美の別荘

「じゃ、これ向こうの情報。何かわからないことがあったら連絡頂戴。」

「了解。……しかしその格好はどうにかならないか?」

ユーノは若干顔をしかめながらクリスティナの姿をまじまじと見る。
水着姿で携帯端末を渡す彼女はそわそわと落ち着かない様子で中庭に作られたプールをちらちらと目を向ける。

「仮にも命をかけに行く人間を送り出すのにふさわしいもんだとは思えないんだけど。あと、ちらちらとプールを見るな。」

「だって~!」

ユーノはやれやれとため息をつきながらクリスティナの手にから渡されようとしている端末に映った光景に目がとまる。
激しく雪が降っているが、周りにいくつも存在する炎のせいか石畳の上には雪がうっすらとしか積もっておらず、遠くではと煙があがっている。

「これ……」

「ああ、これ?これからユーノが行くところの戦時中の冬の景色だって。AEUと人革連のどちらにつくかですっごく揉めたみたいで……?ユーノ?」

クリスティナはユーノの異変に気付いた。
目がせわしなく動き回り、体は小刻みに震えている。

「ねぇ、どうしたの?」

クリスティナは一歩前に進み出るが、そのことによって端末の光景がさらにユーノに近づいてしまう。
そして、ユーノの脳裏にある光景がよみがえる。




曇った空からしんしんと雪が降る中、白い服を着た少女が背中から血を流し、こちらを見ている。
自分の周りには雪が積もっているのだが、白い雪のカーペットの上にところどころ赤い点が散らばっている。
いや、足元はすでに赤い水たまりができている。
少女は信じられないといった表情でこちらを見ていたが、次の瞬間悲鳴を上げる。
しかし、すぐさまユーノの視界は爆炎に包まれてブラックアウトした。





「ユーノ?」

「……な。」

「?」

「来るなぁぁぁぁっっ!!」

「キャ!?」

ユーノはクリスティナの手を力いっぱい叩き、端末を、そこにある光景を弾き飛ばす。
端末はからからと音をたてて床を滑っていくが、クリスティナはユーノの突然の行動に目を丸くして呆然としている。
しかし、すぐにユーノは正気に戻り、自分がなにをしたのか理解する。

「わ、悪い!大丈夫か!?」

「う、うん……」

クリスティナはユーノに叩かれたことによほど驚いたのか、まだ少し呆けている。

「ホントにごめん!今度なんかおごるからさ!」

「私のことはいいよ。それより、ユーノは大丈夫なの?」

クリスティナは心配そうにユーノの弾いた端末のもとに駆け寄ってそれを拾う。

「なんか、最近のユーノ変だよ。ボーっとすることが多くなったし、頭痛の頻度だって増えてきてるし……」

「大丈夫だよ。最近寝不足だからそうなっちまうんだ。心配かけてごめんな。」

ユーノは改めてクリスティナから端末を受け取り、別荘の玄関へ向かう。
その途中でユーノはクリスティナの方を振り向く。

「すぐに終わらせて戻ってくるから心配すんな。ゆっくりプールを堪能しながら待ってな。」

いつものユーノの笑顔を見たクリスティナは安心から思わず顔がほころぶ。

「うん!頑張ってね!」

「おう!」

ユーノはそう言ってクリスティナと別れた。
この先、運命的な出会いと三年前から追い求めていたものが待っているとも知らずに……




魔導戦士ガンダム00 the guardian 20.Ash Like Snow(前編)

モスクワ北部 ロシアとの国境付近

人気のない森の中に黒のボディのふちにオレンジのラインが入った戦闘機が木漏れ日を浴びながら自らを操る主のようにその存在を主張していた。

「まさかこんな田舎くんだりに来るはめになるとはな。」

手錠で両手を拘束されたフォンは目を細くして周りの様子をうかがう。
北の大地とは思えないほど緑に包まれた景色は精神に癒しをもたらしそうだが、フォンにとっては植物が存在するだけのつまらない場所にすぎない。
ここに来てからもう二日たつが何も起きることなく静かに時が流れていっていた。
せっかく見つかりやすい場所を選んで潜伏したのにこれでは意味がない。

「まあ、それだけここに来たがる奴が少ないってことか。」

フォンが今いるのは旧ロシア連邦から独立したモスクワ連邦の国境付近だ。
かつてロシアはAEUか人革連のどちらにつくかで国内がもめ、とうとうモスクワを中心とした西側の州がモスクワとして独立を果たし、AEUに加盟することとなった。
だが、その結果ロシア側と対立が起こり、2133年から2137年の実に4年間ものあいだ泥沼の戦いが繰り返された。
その後、ロシア連邦はモスクワを独立国家として認め、和平条約を結んだが水面下では対立は続いており、国境付近の地域では両者が牽制しあっている結果、政治的空白地帯になっているところが少なくない。
そこではいまだにAEU派の市民と人革連派の市民に分かれていて、小競り合いがしばしば起きていた。

そんな地域の一つであるこの近くの山間の街はモスクワ、ロシア連邦の両者が他の地域とは違い不可侵の取り決めをしたものの、それを理由にどちらも治安維持に取り組もうとはせずに放置されたことにより、世界でも有数の危険地帯と化していた。
以前は観光客などで賑わっていたこの街も今では誰も近づくことがなくなっていた。

「軍人まで近づくことがそうそうないってんだから呆れちまうぜ。……ん?」

フォンはニヤニヤしながら見飽きた光景を眺めていると人革連の軍服を着た男が遠くから駆けてきた。
男はフォンの乗る戦闘機、アブルホールには気付いていないようだが、物陰から現れたハンチング帽を深くかぶった男としばらく話をした後、何やら分厚く膨らんだ封筒を受け取って去っていった。
ここは確かにAEUと人革連のどちらがいてもおかしくはない場所ではあるのだが、今の男の様子は明らかにおかしかった。

「…………なるほど、そう言うことか。」

フォンはギラリと男たちのいた場所を睨みつける。

「こいつは流石のヴェーダも予想外だったろうな………。どうなるのか楽しみだぜ!あげゃげゃげゃげゃ!!」






経済特区東京 公園

ミッションに行く前に東京に戻ってきていたユーノは一人で公園のベンチに座り道行く人々をボーッと眺めていた。
ここのところクリスティナが言っていたように頭痛の頻度が増し、過去の光景を見ることも増えていた。
魔法に関する知識も日が経つにつれて思い出してきていた。
だが、決定的に何かが思い出せない。
思い出さなくてはいけない何かが。

(………俺は……思い出したくないのか?自分の過去を知るのが怖いのか?)

そんなはずはない。
そう言い聞かせても不安が頭から離れようとしない。
三年前から求めていた答えがもうすぐそこなのに、自分でそれを手にすることを拒んでいるようだ。

「………だったら、いっそこのまま………。」

「このまま、なに?」

「おわぁ!!?」

ユーノは横からの声に驚いてベンチからずり落ちて尻もちをついてしまう。

「ご、ごめん!!そんなにびっくりするとは思ってなくて……」

「いや、大丈夫だ。いてて………」

ユーノに声をかけた人物、沙慈は手を貸してユーノを立ち上がらせる。

「ユーノがここにいるなんて珍しいね。どうかしたの?」

「いや、ちょっとな………。ところで“お母さん”とはうまくいったのか?」

「まあ、ね………ははは………」

まさかピザ一枚とお涙頂戴で何とかなったとは言えない沙慈は乾いた笑いを洩らす。

「そりゃよかった。」

「………あれでよかったのかなぁ?」

「は?」

「う、ううん!なんでもない!」

「?変な奴だな。」

二人はしばらくとりとめのない話をした後、沙慈は部屋に、ユーノはソリッドが待機されている場所に向かおうとした。
その時、ユーノが沙慈を呼びとめる。

「沙慈!」

「ん?なに?」

ユーノは呼びとめたものの、すぐには言葉に出せずに俯いてしまうが、覚悟を決めると沙慈の目をじっと見つめる。

「………思い出さないほうがいい思い出ってあるものかな……」

「?」

沙慈は首をかしげるが、ユーノは言葉を続ける。

「すごく辛くて……逃げ出したくなるかもしれないことって、忘れたままのほうがいいのかな………?」

「……………………」

「もし思い出した時、どうしようもなく苦しいのならいっそ……」

「そんなことはないんじゃないかな。」

沙慈は穏やかな笑みをユーノに向ける。

「辛いからって苦しい思い出から逃げ出したら、その思い出の中にいる人たちも一緒に消えちゃうと思うから……。だから、思い出さないほうがいいものなんて何一つない。僕はそう思うよ。」

「……………そっか。」

「何かの参考になったかな?」

「ああ、ありがとう。」

そして、ユーノは己の向かうべき場所へ歩きだす。
自分のなすべきことをなすために。
取り戻さなくてはならないものを取り戻すために。






ロシア連邦北部 モスクワとの国境線

人気の少ない石畳の古風な街を人革連の軍服に身をつつんだ三人が歩いていた。
わずかに街の外にいるある者は彼らに畏怖と軽蔑の眼差しを、ある者は希望と尊敬の眼差しを向けていた。

「中佐、私たちの任務はガンダムに対する作戦だけであり、今回のような任務は引き受けるべきではないのでは?」

「少尉、我々がガンダムと戦うのは国のためだ。ならば、国のためならそれ以外の任務もこなすべきだろう。」

セルゲイはピーリスに諭すが、それでも彼女は納得がいかないのかムスッとした表情で先に歩いていってしまう。

「しかし、このくらいの任務でなにも中佐や少尉がついてくることは……」

「病み上がりの人間を一人で行かせるわけにはいかんよ。それに…」

セルゲイは本来この任務に一人で来るはずだったミンにだけ聞こえるように小声で話す。

「少尉がどうしてもとついていきたいと言ってきてな……まだあの時のことを気にしているようだ。」

セルゲイの言葉を聞いたミンは自分の右頬にある火傷のあとをそっとなぜる。
あの後、すぐさま治療を受けたミンは全身に火傷を負っていたものの幸いにも軽度のものですみ、すぐに戦線に復帰することができた。
ピーリスはミンが病院にいるときに何度も見舞いに訪れ、謝罪していた。
ミン自身はそれほど気にしていなかったのだが、ピーリスはよほど責任を感じていたのか来るたびに羽根付きガンダムを今度こそ倒して見せると息巻いていた。

「それにしてもガンダムに殺されかけているところをまさかガンダムに助けられるとは思いませんでしたね。」

ミンは自分が何気なく言った言葉を聞いてセルゲイは顔をしかめたのを見て自分の言ったことが失言だったと気付くがもう遅い。

実はつい最近ガンダム、それも件の羽根付きによって人革連の研究施設が破壊された。
そこは超人機関の研究施設であり、非人道的な実験が行われていた場所である。
このことにより超人機関の人間は逮捕され、羽根付きのパイロットが超人機関の出身者であることがはっきりしたが、人革連にとってはソレスタルビーイングに華を持たせる形になってしまい、国際世論も人革連への非難を強めている。
その結果、人革連派とAEU派で分裂していたこの地域の住民同士の対立が激化し、こうして現状視察を行うとの名目のもと軍隊を派遣するため先発隊として頂部の兵士である彼らが派遣されたというわけだ。

「どんな理由があろうと奴らのしていることはテロだ。私はガンダムという存在を認めるつもりはない。しかし……」

セルゲイの表情がいくばくか緩む。

「あの盾持ちのパイロットがなぜソレスタルビーイングにいるのかがわからん。」

「どういうことです?」

「わが陣営以外のものも含めて今までの戦闘記録を見たが、あのガンダムはどのような状況下でもパイロットを傷つけないよう戦っている。」

「はぁ………」

「あの戦い方を見る限り私にはあのパイロットが自分から望んで戦う人間には見えない。まるで自分を押し殺しているように思えて仕方ないのだよ。」

「関係ありません。」

ピーリスは鋭く言い放つ。

「たとえどんな理由があろうと彼らは私たちの敵です。敵である限り見つけ出して排除するだけです。それと……」

戦闘を歩いていたピーリスが二人のほうを向く。

「私がここに来たのはあくまで中佐の護衛のためであり、先の作戦の責任を感じてでは断じてありません。」

ピーリスはそれだけ言うと再びスタスタと歩いていってしまう。

「……聞こえていたようだな。」

「みたいですね。」

二人は苦笑してピーリスの後を追いかけようとする。
その時、建物のかげから4人組の男が拳銃を持って飛び出してきた。

「ッ!!」

「死ね!!人革の犬が!!」

男の一人が引き金を引くと銃口から煙とともに銃弾が空気を切り裂いてセルゲイに向かって飛び出していく。

「中佐!!グァッ!!」

ミンはとっさにセルゲイの前に出て盾になるが左腕に銃弾がかすり、その勢いに負けて倒れてしまう。

「ミン中尉!!」

ピーリスも襲撃に気付き、急いで来た道を引き返すが男たちは次の弾を発射すべく引き金に力を込める。

「クッ!!」

ピーリスが諦めかけたその時、彼女の後ろからウォッカの入った瓶がブンブンと大きな音をたてながら猛スピードで通り過ぎていったかと思うと男の一人の頭にぶつかって派手に割れる。
瓶がぶつかった男は前のめりに倒れこむ。

「なんだ!?」

残りの三人とピーリスは思わず瓶の飛んできた方向を向く。
しかし、ピーリスには自分の隣を何かが駆け抜けていったことしか、そして瓶の飛んできた方向に一番近かった男には土のついた靴底しか見えなかった。

「ぶべっ!」

男は間抜けな声を上げながら倒れる。
その時になって全員がそれが何なのかわかった。
金色の長髪にサングラスをかけ、灰色のジャケットを羽織った少年が蹴った男の顔を踏み台にふわりと空中で一回転して地面に着地した。
サングラスがずれて覗いた目はあどけなさを残しながらも鋭い視線を襲撃者たちに向けている。

「さて……次はどっちが蹴られたい?」

ユーノはにやりと笑うと男たちを射竦めるように睨みつけた。








数分前

「やれやれ……着いたのはいいけどここまで人がいないとはな。」

ユーノは目的地に着いたものの人が少ないこの街でどうすれば情報を集められるか思案していた。
アザディスタンほど来訪者に対して閉鎖的ではないものの、戦時中から続く争いの中で育ってきたためか、数少ない外にいる人々もユーノにいい感情を抱いていないようだった。

(ははは………ホントにここ観光地だったのか?会う人間全員がビビって逃げ出すか睨みつけてくるってどうよ?)

ユーノがそんなことを考えながら歩いていると銃声が晴天の空に響く。

「なんだ!?」

ユーノは銃声が聞こえた場所へ駆けつけると4人組の男たちに撃たれたのか、人革連軍服を着た左目に傷がある男の前にその部下と思われる男が腕を押さえて倒れている。
少し離れたところに軍服を着ていることから彼らの関係者と思われる白いロングヘアーの女性がいて、駆けつけようとするが間に合いそうにない。
しかし、それでも周りの住民はまるでそれが見えていないかのように助けようともせずに道を歩いている。

「チッ!」

ユーノはすぐそこの露店で瓶詰めのウォッカを見つけるとそのうち一本を手にとって男たちのところに駆けだす。

「ちょっと!!お金!!」

「後で払う!!」

露店でウトウトしていた老婆の声を振り切って、ユーノは瓶を男の一人めがけて投げつける。
凄まじい音ともに男の頭にぶつかった瓶は砕け散り、男は倒れこむ。

「おりゃ!!」

残りの三人がこちらを向くが、ユーノは大きく跳びあがると一番近くにいた男の顔に自分の足をめり込ませた。
男の顔はユーノの足が顔を進むにしたがってってひしゃげていき、ゴキゴキと嫌な音を出しながら地面にキスをした。
ユーノは蹴った反動を利用して空中に舞い上がり、クルッと後方に一回転して着地した。

「さて……次はどっちが蹴られたい?」

「こ、このガキ!!」

男たちはユーノに向けて銃を撃とうとする。
だが、

「おっといいのかい?俺が最初にプレゼントしたもんをよ~く見てみな。」

男たちはその時になってようやく自分たちが置かれている状況に気付いた。
最初に投げつけられたウォッカのアルコール度数はかなり高い。
そして、仲間だけでなく自分たちもそのしぶきをたっぷりと浴びてしまっている。
下手に火薬を炸裂させれば自分たちにも引火する可能性がある。

「うっ……」

「隙あり♪」

ユーノは一瞬戸惑った男たちの懐に素早く潜り込むと腹部に掌底を叩きこむ。
男たちは声を上げることも許されず、胃の中のものをすべてぶちまけてその上に顔を突っ伏すような形で倒れた。

「よし。これでおしま……」

「クソガキィィィィ!!」

「!!?グァッ!」

敵を全員気絶させて油断してしまったユーノは一番最初に倒した男が起き上がっていることに気付かなかった。
男はユーノの首を片腕で締めるともう片方の手にナイフを握る。

「死ねぇぇぇぇ!!」

男はユーノの首にナイフを振り下ろそうとする。
しかし、

「むん!!」

左目に傷のある男がナイフを持つ手に手刀を打ちおろしてそれを弾くと、続いて顔面に堅い握りこぶしを叩きこむ。

「ぐぼっ!!」

ナイフを持っていた男の口から血とともに数本の歯が流れ落ち、それを追いかけるように顔も地面に落ちていった。

「げほっ!げほっ!あー死ぬかと思った……」

ユーノは首をなでながら吸えなかった分の空気を補充するように何度も不規則な呼吸を繰り返す。

「助けてくれたのは嬉しいが、無茶は感心しないな。」

「げほっ!……助けてもらっといて説教はないだろ。(ん?この声どっかで…)」

「中佐!中尉!ご無事で!」

「ああ。彼のおかげでな。」

駆けよってきた女性はユーノに敬礼する。

「危ないところをありがとうございます。ですが……」

女性につられてユーノは周りへ視線を向けるとそれまで家の中にいた人々が外に出てこちらの様子をうかがっている。

「早くここから離れたほうがいいですね、中佐。っつ……!」

「大丈夫ですか!?あまり無理をしないほうが…」

「かすり傷だ……それより君もここを離れたほうがいい……」

「そうだな……君も我々と来たまえ。」

「え、でもあなた方は……」

「大丈夫だ。街の外れに宿をとってある。何も基地に連れて行って尋問をしようというわけじゃない。」

「セルゲイ中佐、お早く。」

(!!)

女性が男の名を呼んだ時、ユーノは思い出した。
人革連との戦闘の際、ティエレンを引き渡しに行った時に通信をしてきたあのパイロットだ。

(まさか、セルゲイ・スミルノフ本人だったとはな……)

「さあ、君も早く!」

「あ、ちょ……」

セルゲイに手をひかれユーノは半ば強引に彼らの宿泊するホテルへと向かうことになった。







モスクワ北部 国境線

時を同じくしてAEUの士官服を着た女性がユーノ達が騒動に巻き込まれていた街から少し離れたもう一つの街にいた。

「やれやれ……例の作戦までもう間もなくだというのに、こんな形で新任した部隊の指示をする羽目になるとはな……」

彼女、カティ・マネキンは室内から屋外へ出た温度差でついた水滴を眼鏡から拭きとって再びかけると大きくため息をついた。

(まったく、政治家というやつらは……)

マネキンは今回の作戦に乗り気ではない。
上の人間としては今回の人革連の失態を利用してここをはじめとする国境線を掌握したいのだろうが、そのために派遣される自分たちが犠牲になることなど全く考えていない。
ましてやここの住民のことなど気にしてすらいないだろう。
自分たちを派遣する前に人革連との協力を取り付けるなどやるべきことは山積しているはずなのだが。

「まったく……何のための政治なんだか。」

「大佐ーー!!」

聞こえてきた声にマネキンは思わず頭を押さえて再び大きくため息をつく。

(そう言えばこいつもいるんだったな。)

マネキンは頭を押さえたままもう一つの頭痛の種のほうを見る。
そこには新任した部隊にいたパイロット、パトリック・コーラサワー少尉が周りの冷たい視線などものともせずに満面の笑みで手を振りながら近づいてくる。

「少尉、周囲の状況はどうか?」

「はい!異常なしです!」

「そうか。それと少尉。」

「はい!」

「私たちは今どこにいると思う?」

「国境地帯です!」

「ならば、それ相応の行動を取るべきだとは思わんか?」

「はい!大佐の安全は自分が死に物狂いで確保します!!」

マネキンはプルプルと震えながらひきつった笑みを浮かべ、どんどん頭痛がひどくなる頭を押さえる。
しかし、彼の人懐っこい笑みとそれとはおよそ不釣り合いなほどピッチリと決まった敬礼がおかしくて思わず笑ってしまう。

「プッククク……!もういい……お前に聞いた私が間違っていた。」

確かにこの男は頭痛の種ではあるが、同時になかなかユニークな面も見せる。
良くも悪くも部隊の緊張感を取り除いてくれる。

「?はぁ。」

間の抜けた声を出すパトリックを引き連れ、本隊が待機している場所にマネキンは向かう。
その顔をは先ほどまでの緩んだものではなく、作戦指揮官としての厳しいものになっていた。

(あの噂……こちらにとっても人革にとっても噂で終わってくれればいいが……)








郊外 某ホテル

街から離れたユーノ達は郊外のホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた。
ホテルの内部は古風な作りでなかなかいい雰囲気なのだが、窓の外には無残に両腕が破壊された像や、黒くすすけたボロボロのモニュメントが目についてしまうため台無しになってしまっている。

「気になるかね?」

「え?」

突然セルゲイがユーノに話しかける。

「元はここも風光明美な場所で観光に来る人間が絶えなかったらしい。だが、今となってはこのありさまだ。」

「え!?あ、はい知っています。昔の写真、見たことがありますから。」

いつもよりたどたどしい口調でユーノは答える。
そして、セルゲイの顔をまじまじと見る。

(………似てる、よな。)

顔は似ていないかもしれないが、彼の行動、言動、そして何よりいるだけで落ち着ける感じといい、自分の父に近いものを感じる。

「どうかしたかね?」

「え!?あ!す、すいません!少し考え事をしていて………」

「………迷惑だったかね、ここに連れてきて。」

「いえ、そんなことは……」

「見たところ旅行者のようだったから保護したのだが、あれだけの動きができるのなら余計なお世話だったかもな。」

「そんな大層なものじゃないですよ。ちょっと護身術をかじってるだけです。」

それを聞いたピーリスがブスッとした表情のまま口をはさんでくる。

「それにしては見事な腕前でしたが。軍人と見間違えるほどに。」

「少尉。」

セルゲイがたしなめるがピーリスはプイッと横を向いてしまう。
どうやら一般人であるユーノに助けられたのがよほど気に入らないようだ。

「……すまないね。彼女は少しナーバスになっていてね。」

隣に座っていたミンがフォローするが、ピーリスはギロリとミンとユーノを睨む。

「自己紹介がまだだったね。私はミン・ソンファ中尉。ミンでいい。彼女は……」

「ソーマ・ピーリス。」

「……だそうだ。」

「ユーノ・スクライアです。」

ユーノはミンと握手したのちピーリスにも手を差し伸べるがピーリスは睨んだまま手を取ろうとしない。

「ま、まあ、よろしく。」

ユーノは手を引っ込めると気まずそうに視線を外す。

「しかし、ここに旅行で訪れるとは君も相当の物好きだな。」

ユーノはセルゲイのほうを向く。

「ここがどういうところかわかっているだろう。中東と並ぶ軌道エレベーター開発の影の側面だ。普通なら来る人間はいないだろう。」

「まあ、世界中回っているのでここだけ避けるわけにもいきませんからね。」

「驚いたな……長期旅行者かね。」

「まあ、そんなところです。」

「家族は心配していないのかね?」

「家族は………死にました、テロに巻き込まれて。」

ユーノの言葉にセルゲイ達はコーヒーの水面に視線を落とす。

「そうか……余計なことを聞いてしまったな。」

「そんな!気にしないでください!それに、家族といっても血のつながりはありませんから。」

「どういうことだ?」

「なんでも父に紛争地帯で赤ん坊の時に拾われたらしくて。」

「なるほど……君はある意味で我々のような戦う人間の犠牲者というわけか。」

「えっ!?いや、そういうつもりで言ったわけじゃ!」

「ハハハハハ、気にしなくてもいい。私が自分で勝手に責任を感じているだけだ。」

「……すいません。まあ、僕もそうらしいってことぐらいしかわからないんですが。」

「「「?」」」

セルゲイたちは首をかしげる。

「三年前より以前の記憶がないんです。砂漠のど真ん中で血を流して倒れているところを助けてもらったんです。その時受けたショックのせいで前の記憶が飛んでしまっているんです。」

「そうだったのか……じゃあ、世界を回っているのも。」

「はい、記憶を取り戻すきっかけがあるんじゃないかって思って。おかげでいくらか記憶は戻りました。」

「そうか……」

セルゲイは微笑むとぬるくなってしまったコーヒーをすする。

「しかし、それもここまでにしておいたほうがいい。ソレスタルビーイングが出てきてからというもの、世界各地で戦いが頻発している。しばらくどこかに腰を落ち着けたほうがいい。」

ソレスタルビーイングという単語が出た瞬間、ユーノの顔がそれまでと違い鋭いものに変わる。

「セルゲイさんたちはガンダムを追ってここに?」

「いや、今回はここの現状視察だ。なにせ、あんな失態があった後だから、我々にい感情を持つ者は少ないからな。」

ピーリスの眉がピクリと動く。
それにあわせるようにミンの表情も厳しくなる。

「……ソレスタルビーイングが告発したのがそんなに気にいりませんか?」

「それ以前の問題だ。彼らのやり方はあまりにも一方的すぎる。私は国を守る軍人として彼らの存在を認めん。」

「あいつらは私たちの同胞を殺した。許すわけにはいかない!」

「……なら、あなたたちは救ってくれるんですか?」

ユーノは静かに、しかしはっきりと怒気がこもった声で語り始める。

「一方的な暴力の前になす術もなく大切なものを奪われる人間を救ってくれるんですか?」

ユーノの言葉にミンが思わずかみつく。

「それは……できないかもしれない。だが、彼らのしていることで大勢の平和に暮らしている人間が傷つくはずだ!」

「なら、自分たちだけ平和ならそれでいいんですか!?自分の周りの人間だけが幸せでいればそれでいいんですか!!」

「それは……」

ミンは言葉に詰まる。

「………すいません。少し熱くなりすぎました。」

「いや、こちらこそ君の事情を聞かされたばかりだったのに少し無神経なことを言いすぎた。」

二人が互いに視線を落としているとセルゲイが不意に口を開く。

「ユーノ君、君はソレスタルビーイングを指示するのかね。」

「え?」

「確かに君の言うことも一理ある。我々……いや、AEUやユニオンにいる人間すべてが自分の平穏しか考えていないのかもしれない。だが、彼らがそれを奪う権利もないはずだ。たとえ、君のような境遇の人間を生み出さないためであってもな。」

セルゲイはまっすぐにユーノの目を見つめる。

「それでも君はソレスタルビーイングを指示するのかね?」

ユーノは下を向いて少し間をおくと、顔をあげて自分もセルゲイをまっすぐ見る。

「俺は………彼らのしていることをすべては指示しません。ですが、世界が今のままでいいとも言うつもりはありません。ソレスタルビーイングはどんな理由があっても罰を受けるべきです。でも、そうだとしたら彼らが生まれてしまうような世界を放置していた人たちも何らかの罰を受けるべきだと思っています。」

「……そうか。」

セルゲイは静かに目を閉じて大きくため息をつく。

「すまなかったな。変なことを聞いてしまった。」

「いえ、俺のほうこそえらそうにべらべらと喋ってすみませんでした。」

「それじゃ、難しい話はここまでにして、君の話を聞かせてくれないかな?」

「?俺の?」

「世界中回ってきたんだろう?だったら、何か面白い話を聞かせてくれないか。」

ミンはそう言って横に置いていたレトロな地図を広げる。

「こう見えても旅行が趣味でね、妻と一緒にいろいろな所をめぐったんだが、まだ行っていないところの話を聞いてみたくてね。」

ミンは子供のような無邪気な笑みを浮かべるが、ピーリスが釘をさす。

「中尉、我々は任務中です。そのようなことをしている暇は……」

「構わんさ少尉、たまにはこういった息抜きも必要だ。」

「しかし、中佐!!」

「そう、マチュピチュに遺跡を見に行ったときは大変でしたよ。」

「へぇ、君は遺跡に興味があるのかい。」

「ええ、考古学を少しかじってまして。」

そんなピーリスをしり目に二人は共通の話題で盛り上がり始める。

「少尉、これが我々の守るべきものだ。」

セルゲイは楽しそうに話す二人を見ながらピーリスに話しかける。

「……よく、わかりません………中佐。私の存在理由は戦うこと……」

「それだけでは守れんものもあるさ。少尉にもいつかわかる日が来るさ。」

その後、ユーノとセルゲイたちは夜が更けるまで語り明かした。
まるで、家族のように………







三日後

国境線 森林地帯

翌日、ユーノは紛争が起きると予測された地点で待機していた。
だが、いつもと違い967への口数が少ない。

「………どうした?このまえ遅く帰ってきたと思ったら黙ったままで。」

「俺が喋らないのがそんなにおかしいか?」

「経験上、お前がそうしているときは何か悩んでいる証拠だ。」

「お前、エスパーかなんかかよ………」

ユーノは大きくため息をつくと再び黙りこくってしまう。

(………大丈夫だ。なにもセルゲイさんたちの部隊が来るとは限らない。それに、今回の任務はあくまでAEUと人革連への牽制だ。墜とす必要はない。)

何度も自分に言い聞かせるが、それでも心の中がモヤモヤする感じが消えない。

(大丈夫………)

その時、突然アラームが鳴る。

「なんだ!?まさかAEUと接触したのか!?」

早すぎる。
ユーノは焦るが、写された光景に凍りつく。
そこには、黒とオレンジの戦闘機がティエレンを屠っているのだ。

「アブルホール!?まさか!」

ユーノは急いでソリッドを戦闘の起きているポイントへ走らせる。

「なんでお前がいるんだよ………フォン!!」







国境線手前 森林地帯

森の緑をかき分けて十機以上のティエレンが北の大地を踏みしめていく。
そんな中、セルゲイは一番後ろについている白を基調とし、赤く巨大な肩とキャノン砲をもったティエレンを苦々しげに見る。

「ティエレンチーツー………少尉より前に前線に投入されていた超兵の乗っていた機体、か……」

ティエレンチーツー
超人機関を捜索した際に発見したデータをもとに再現された機体であり、本来は超兵が操縦を担当し、もう一人が砲撃を担当していたようだが、今は操縦も砲撃も一般兵が担当している。

「稼働でのデータの回収をもとに実戦投入を検討するか……」

昨晩、ユーノと別れた後、突然連絡を受けティエレンチーツーとその一行の同行を許可したが、やはりセルゲイは彼らを受けいるのは抵抗がある。
なぜなら彼らは、

「超人機関の生き残りか。まさかこんなに早く、それもこんな形で再会することになるとはな。」

難を逃れた一部の関係者、主にそこに所属していた兵士たちは一般兵としてさまざまな部隊に組み込まれていっていた。

(そういえば、ユーノ君は無事にここを離れられただろうか。)

昨晩、別れる前に見せた太陽のような少年の笑顔を思い出す。

(父さん、か………もう二度とそう呼ばれることはないと思っていたが、まさかあんなところで聞けるとはな。)







三日前

「本当に送っていかなくていいかね?」

「はい、これ以上お世話になるわけにはいきませんから。」

街灯のしたで深々と頭を下げるユーノにセルゲイ達は心配そうに声をかける。
ほんの数時間のことだったが、不思議とここ十年ほどで一番楽しい時間を過ごせた思える。
ピーリスも珍しく話に参加していたこともあって本当に話が弾んだ。

「それじゃ、気をつけてな。」

「はい、父さん!」

「ん?」

予想外の言葉にセルゲイ達は目を丸くする。
ユーノはしまったといった感じで口を押さえる。

「ユーノ君、今のは……」

「え!?いや!その!!」

ミンが指摘しようとするが、すぐ横に立っていたセルゲイもどこか照れた表情をしているのに気付き、言うのをやめる。

「………セルゲイさんの雰囲気がどことなく父に似ていまして。思わず………」

「父さん、か……」

セルゲイは悲しそうに笑う。

「私は軍人としては申し分なかったかも知れんが、父親としては最悪の男だ。」

「え……?」

そう、あの時ももっと親として息子にしてやれることがあったはずだ。
なのに自分は、

「そんなことないですよ。セルゲイさんは俺のことを心配してここまで連れてきてくれたじゃないですか。」

「だが、私は……」

「………中佐。私たちは先に戻っています。では。」

「自分もこれで失礼します。」

ピーリスとミンはそう言うとホテルに向かって歩いていってしまう。
二人取り残されたユーノとセルゲイは近くのベンチに座る。

「やれやれ……変な気を使いおって………」

「すいません。なんだか変なことになってしまって。」

ユーノとセルゲイはしばらく互いに視線を合わせることもなく黙っていた。
街灯の上の空はすでに星たちが遠慮がちに輝き始めている。

「父はテロで死んだといいましたが、違うんです。」

「?」

「テロを利用して第三者に殺されたんです。それも、本来なら治安維持のために動くべきだった人間に。」

「なんだと!?」

「俺の目の前でそいつらは正義のためだといって父を手にかけました。だから、俺はテロリスト、そして正義のためだと言って人を殺す軍人が嫌いです。」

「………………」

「でも、セルゲイさんは違う……あの時、俺を助けてくれました。」

「あのときはどちらかというと私たちが君に助けられたんだがな。」

「でも、あの時俺を見捨てることもできたはずでしょ?」

ユーノは穏やかな笑みを浮かべる。
それを見たセルゲイは少し救われた気がした。
自分のしてきたことは無駄ではなかったのだと。

「それじゃ、俺はこれで。」

「ああ、気をつけて。」

ユーノはセルゲイに背を向けて歩いていくが、別の街灯の下に来るとセルゲイのほうを向く。

「父さん!またね!」

「!ああ、また会おう。」

セルゲイはユーノの言葉を胸に刻み、ミン達の待つホテルへと向かった。
いつか、こんな自分を父とよんでくれた少年に再び会えることを願いながら。







森林地帯

「フッ……歳をとったものだな。」

セルゲイは喜びに浸っていた自分を自嘲するとディスプレイの端を見る。
もうすぐ、目標地点だ。

「よし、もうすぐ待機地点だ。各員、気を引き締めろ。」

セルゲイが指示を出した時だった。
突然ディスプレイにノイズがはしったかと思うと部隊の周りで爆発が起こった。

「敵襲!?AEUか!!」

セルゲイはすぐさま確認を行うが予想していたものとは違う答えが返ってくる。

『ち、違います!この反応は……ガンダムです!!』

「なに!?」

セルゲイは慌てて上空の様子をうかがう。
そこには黒とオレンジでカラーリングされた機体が部隊の周りを旋回している。

「あれはあの時の!?」

「羽根付き!?いや…違う!!」

羽根付きとよく似ているがカラーリングや武装が明らかに違う。
それにピーリスの脳量子波の影響を受けている様子はうかがえない。

「ソレスタルビーイングめ!まだこんな機体を隠し持っていたのか!!全機、攻撃開始!!」

セルゲイ達は空中を飛び交う戦闘機に攻撃をしかけるが、空中対地上の不利、さらに相手のスピードもあいまってかすりもしない。

「あげゃげゃげゃげゃ!!関係ない奴らには悪いがそいつらを逃がすわけにはいかないんでな!!」

フォンの操る戦闘機、アブルホールは地上すれすれまで降下するとそのまま一番後ろにいるティエレンチーツーに向かって突進していく。

「まずはてめぇだ!!」

アブルホールの鋭くとがった先端がすぐそこまで接近する。

「狙い撃つ!!」

「おっと!!」

アブルホールは真上から降ってきた光をかわすが、そのせいで軌道がずれてしまいティエレンチーツーを貫くことなく再び空へと舞い上がる。
そこには萌黄色のガンダム、ソリッドが銃をこちらに向けている。

「何のつもりだフォン!!今回のミッションはあくまで牽制!攻撃をしかけるのはAEUとの戦闘に発展した場合だけだ!!」

「あげゃ!だが、こいつらがAEUとぶつかる前に潰しちまっても問題なしだ。」

「だが!」

「あめぇこと言ってんじゃねぇよ。こいつらをほっといたらもっと厄介なことになるぜ!」

「何!?」

フォンはそう言うと戦闘機の先端にあるガンダムヘッドを起こしてバルカンを発射する。
ユーノは不意をつかれ反応が遅れるが、967がGNフィールドを起動してすべて防ぐ。

「クッ!!やるしかないか!」

「邪魔すんなら容赦はしねえ!!」

戦闘を開始する二機のガンダムにセルゲイ達は呆気にとられる。

「何をしている?仲間割れか?」

『中佐、今のうちに。』

「ああ………」

セルゲイは目標地点を目指しながら空中にいるソリッドを見あげる。
ソリッドを見ているとどうしてもユーノの姿がだぶって見える。

「まさか、な……」

セルゲイはあり得ない仮定を頭の中から消し去ると目標地点へと急いだ。

「ユーノ、人革軍が国境線に!」

「わかってる!!でも、こいつの相手が先決だ!!」

ユーノは必死で全火器を使ってアブルホールに攻撃するがなかなか当たらない。

「フォン、彼に事実を伝えては?」

「言ったところでこいつにはどうにもできないだろうぜ。」

「ですが、このままというわけにはいかないでしょう。」

「チッ……まあ、いいだろう。」

フォンは少し不満そうに舌打ちするとソリッドと通信をつなぐ。

「おい、少しは話を聞け。俺が連中を潰そうとした理由を教えてやる。」

『あ゛!?』

「連中の中にAEUへ亡命を図ろうとしている奴がいる。」

『!?』

「大方この間潰された超人機関の奴らが研究を続けることを条件にAEUに協力するんだろうぜ。」

『でもあの中には正規軍も……』

フォンの顔がニヤリと歪む。

「だから、ついでに潰す気なんだろうぜ。無関係の奴らをな。」

『!!?』

ユーノの脳裏にセルゲイ達の顔がうかぶ。

「そんな……」

「ユーノ?」

ユーノに967の声など聞こえない。
今、彼の頭を埋め尽くしているのは自分のせいでまた大切な人たちが死に直面しているかもしれないという確信に近い不安だけだ。

「ッッ!!」

ユーノはソリッドをセルゲイ達が向かった先に全速力で飛ばす。

「あげゃ。俺たちもいくぞ。」

「了解。」

アブルホールも戦闘機形態でソリッドの後を追った。







国境線

「ククク……ロシアの荒熊もやきが回ったな。この程度のことも見破れないとはな。」

ティエレンチーツーの中にいるうちの一人の男が下卑た笑い声を出す。

「おいおい、本番はこれからだぞ。思い知らせてやろうぜ……ロシアの荒熊と超兵のお嬢さん達に俺たちを切り捨てた報いってやつをな。」











灰の雪は降り積もる。
再び舞い上がり、空を闇で覆い尽くすその時を待ちわびながら。






あとがき・・・・・・・・・という名の焦り

ロ「オリミッション前半戦でした。」

ユ「ようやくセルゲイ中佐登場か。」

9「まったくだな。それより今回も感想が怖すぎるな。」

ロ「やめて。本当に心が折れるから。」

ユ「さて、いきなりですがロビンはほっといてゲストの紹介に移ります。今回のゲストはリリなのにおける元祖ツンデレ、アリサ・バニングスさんです。」

ツン「何よその紹介……ってテロップ変わってる!!?」

ユ「デレ期に入ったらデレに変更らしい。」

ツン「ふざけんじゃないわよ!!」

元祖ツンデレ、主人公にシャイニングフィンガー

ユ「あだだだだだだだだ!!!!俺じゃなくてロビンにやれ!!」

ツン「うっさい!!そもそもあんたがあんなややこしいことになってるからあたしまでこんなことになってるんでしょうが!!!」

ユ「いや、アリサがツンデレなのはどの作品でも………いだだだだだだだだ!!!ごめんなさい!もう勘弁……ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「さ、解説解説。」

9「お前が本来くらうはずだったものをくらってる奴に何か言うことは?」

ロ「死ぬなよ!」

9「満面の笑みで言われても説得力ないぞ。」

ロ「いいんだよ。」

9「フゥ……さて、まず今回のタイトルだが……」

ロ「そこはツッコまないでくれ。」

ユ「とか言ってる時がお前がツッコミ待ちの時だよな。………いてててて。俺頭変形してない?」

9「いつも通りだから安心しろ。仮に脳漿ぶちまけてても黙ってれば読者の皆様にはわからない。」

ツン「何気に恐ろしいこと言うわねあんた。」

ユ「それよりこれってやっぱ。」

ロ「うん。やっちゃった♪」

ツン「『やっちゃった♪』じゃないでしょうが!!歌詞まで一部入れちゃってるし!!」

ロ「しゃあないだろ!!歌詞の感じとタイトルがユーノが00世界にとんだ時と(俺的に)あうんだから!!」

9「接点雪だけだろ。」

ロ「まあ、そうとも言う。ただ、後編ではいろいろ加味していきたいと思ってる。」

ユ「というかここまでフラグ立てた感じの回見たらほとんどの人が次回どうなるかわかると思うぞ。」

ロ「いやぁ、どこまでがセーフなのかわからなくて。まあ、ここで気付く人もたくさんいると思うけど。」

ツン「だったら言うんじゃないわよ!!」

9「もう、遅い。」

ロ「ハッハッハ!しかし、今回もグダグダだったなぁ。」

ツン「自分で言っちゃった!!」

9「これは周知の事実だから問題ない。」

ツン「いやよくないでしょ!!」

ユ「気にしたら負けだ。」

ツン「少しはしなさいよ!!」

ロ「なんだか泣けてく~るぅ。思わず泣けてく~る。」

ツン「あんたもさりげなく被害者面すんな!!」

ユ「人は何かしら誰かに傷つけられる被害者だ。」

ツン「あんたはいきなり何言いだしてんのよ!!」

9「というかもはやツンデレというよりもどちらかというとツッコミだな。」

ツン「ムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!自分でもそう思うけど人に言われるとムカつく!!」

ロ「さあ、ツンデレのツッコミがさえてきたところで次回予告です。」

ツン「このタイミングで!?ああもう!わかったわよ!!」

ユ「AEUへと亡命を図ろうとする超人機関の生き残りがセルゲイ達に牙をむく!!」

ツン「その場に急行するソリッドとアブルホール。そして、遂にユーノが……!」

9「はたして、ユーノは大切な人たちを守れるのか?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの…」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 21.Ash Like Snow(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2011/08/09 09:39
前日 人革連目標待機ポイント

「ここか……」

月の輝きが照らし出す中、ユーノは森林地帯を抜けた国境線付近の村に来ていた。
いや、正確には村だったところというべきだろう。
つい先月ここで住民同士の争いが発生し、村は炎に包まれた。
残されたのは黒く焦げた家畜や人間の骨。
そして、白に変わった木の柱だけだった。
白く変わった柱からは灰が崩れ落ち、村全体を埋め尽くしていた。
まるで、雪のように。

「ッ!!ク、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノは今まで一番激しい頭痛とともに地面に膝をつく。

「く………そ………!」

思えばあの映像を見たときから自分はどこかおかしい。
あの映像、そう、雪を見たときから頭の奥が疼く。

「そういえば、拾われてから雪を見たのは初めてかもな………」

ユーノはそんなことをつぶやきながら立ち上がる。

「………よくわかんねぇけど、雪はどうにも好きになれそうにないな。」

ふと上を見上げると淡い金色の光を放っていた月に雲がかかっていく。

「明日の天気は雪かな……って、この時期に降るわけがないか。」

ユーノは膝についた灰を払うとソリッドの待つ場所まで歩いていく。
明日のミッションで季節外れの雪を見ることになるとは毛の先ほども考えずに。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 21.Ash Like Snow(後編)

国境線 上空

「クソ!!もっとスピードでないのかよ!!」

「これで限界だ。お前が一番よくわかっているだろ。」

967はユーノの顔を見る。
そこにはいつもと違い、全く余裕のない表情で操縦桿を操る相棒がいた。

「落ち着けユーノ!お前らしくないぞ!!どうしたって言うんだ!?」

「……もう、繰り返させない……あんなこと、“僕”の前で二度と………!!」

「ユーノ!?」

ユーノが自分の声など聞こえないかのように呟く姿に967は違和感を覚える。
まるで今、目の前にいるのはいつも人懐っこく、活発で明るい笑みを振りまくユーノではなく、自分の知らない人物のようだ。

「クソ……お願いだ!もっと早く……」

『あげゃ、世話のやける奴だ。』

聞き覚えのある声とともに、横にフォンの操るアブルホールが現れる。

『乗れ。そいつよか少しは早くつくだろう。』

「……!!あ、ああ。すまない。」

「?」

ユーノが返事をして、ソリッドにアブルホールをつかませる。
いまは普段のユーノと変わらぬものであり、先ほど感じた違和感は消えている。

(気のせいだったのか……?)

だが、それでも967の中にしこりのようなものが残って消えない。

(さっきのユーノは確かに俺の……いや、俺たちの知らないユーノだった。だが……)

967はある仮定を思い浮かべる。

(普段のユーノではなく、さっきのユーノが本当のユーノの素顔だとしたら……)

間違いなくユーノは、

『しっかりつかまってろ。飛ばすぜ!!』

フォンの言葉と同時に急加速によってGが増す。

(今はそれどころではないか。とにかくミッションをこなさなければ。)

割りきろうとする967だが、自身で生み出してしまった不安が心の中に残ってしまう。
もし、ユーノの記憶が戻ったら、ソレスタルビーイングから去ってしまうのではないかという不安が。






国境線 AEU側

「なに!?人革連側でガンダムが出ただと!?」

マネキンは予想もしない知らせに驚く。

「はっ!羽根付きに似たものが人革軍に襲撃をかけ、それにつられるように盾持ちも出現したとのことです!!ただ……」

「?なんだ。」

「盾持ちは出現と同時に羽根付きもどきに攻撃を開始して人革軍を守ったと……」

「なんだと?」

マネキンは部下の報告を聞いていぶかしげにあごに手を当てる。

(どういうことだ……?奴らはいままでどこの国家を守るような行動はとらなかった……それがなぜ今になって。)

「大佐!本国より伝令です!!」

マネキンの考察は部下の言葉に中断された。

「どうした。」

「それが……」

渋い顔をした兵士はマネキンに手に持っていた紙を手渡す。

「……やはり噂は本当だったか。」

マネキンは厳しい表情で顔を上げる。

「今回この作戦に参加したものの経歴を調べあげろ!急げ!!」

「はっ!!」

「貴様らの思い通りになると思うなよ、ろくでなしどもめ。」







国境線 人革連目標ポイント

『なんとか着きましたね、中佐。』

「ああ……」

セルゲイは奇跡的に部隊が無傷でガンダムを振り切れホッと一息つく。
だが、油断は禁物だ。
後続部隊が到着する前にあの羽根付きもどきに追いつかれれば今度こそ終わりだ。

「中尉、全員に警戒を怠るなと伝えろ。AEUの動向に対しても気を抜くな。」

『了解!』

「……くくくくく。」

「!?」

ミンの返事と同時に外部音声で曇った空のもとにくぐもった笑いが響く。

「貴様、何がおかしい!!」

ピーリスが笑い声を出したティエレンを怒鳴りつける。

「黙れ、超兵一号。」

今度はその隣にいたティエレンから冷たい声が発せられる。

「セルゲイ中佐ぁ。後続部隊が来るまで警戒ですか……」

「当然だろう。何か問題でもあるのか?」

「いやぁ、そんなことありません……ただ、警戒するんなら味方のほうも警戒しないと。」

その言葉が言い終わるか終らないかのうちにセルゲイ達の乗っていたティエレンの脚部で小爆発が起こる。

「なんだ!?」

「いやいや…………予想以上に信用していただいて我々も嬉しいですよ……おかげで細工がしやすかった。」

「貴様ら………!!」

後方にいたティエレン四機、そして、一回り大きな体を揺らしてティエレンチーツーが砲口を向ける。
黒光りする砲身を睨みながらセルゲイは唸るような声を絞り出す。

「………超人機関の者だな。」

「ご名答。しかし、我々を毛嫌いしていた割にはすんなりと受け入れてくれましたな。」

「たとえ罪があろうと同志だと思ったから受け入れたのだ。」

セルゲイの言葉を聞いた一人が高笑いをする。

「ハハハハハハハハハハ!!!!こいつはご立派だ!!だからあの時も彼女を見捨てたんですかぁ!!?祖国のために!!?」

「貴様、それをどこで!!?」

セルゲイはヘッドマウントディスプレイの下で顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。

「有名な話ですよ。任務のために……」

「貴様!中佐を侮辱するな!!」

ミンの声に男の言葉は途中で遮られる。

「うるさい奴だ………おい。」

リーダーらしき男は隣にいたティエレンに指示を出す。
指示を受けたティエレンはミンの乗るティエレンの右腕をカーボンブレイドで斬り落とす。
かなり乱暴に切断したため機体自体が大きく揺れて、左腕もその衝撃であり得ない方向にねじれる。
ミンのいるコックピットも当然激しく揺れる。

「ぐあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「ミン中尉!!」」

「おっと!長生きしたけりゃ妙なマネをするなよ。もっとも、全員どの道死ぬ運命だがな。しかし………」

超人機関の兵士の乗るティエレンのモノアイが体をピンクに塗られたティエレンタオツーに向けられる。

「超兵一号、お前は一緒に来てもらおうか。向こうもお前に興味があるらしい。」

「ふざけるな!!私は中佐の部隊でガンダムを……」

「兵器であるお前が感情を持つな。」

ピーリスにピシャリと言い放つとそのままティエレンタオツーの腕を持ち上げる。

「来い。」

「ク!!中佐!!」

「少尉!!」

ピーリスとは思えないような悲痛な叫びにセルゲイは必死に彼女に呼び掛ける。
だが、それでも事態が好転するはずもなく、逆に超人機関の兵士たちを苛立たせてしまう。

「本当にうるさい奴だ……そんなにこんな兵器が大切か?」

「少尉は兵器ではない!!」

「貴様がどう思おうが事実は変わらん。しかし……」

リーダーの男はティエレンタオツーに視線をやる。

「超兵一号に感情の揺らぎが増えたのはお前のせいか。興味深いが……」

リーダーの乗るティエレンはカーボンブレイドを抜いてセルゲイの乗るティエレンにゆっくりと近づいていく。

「やめろ!!中佐に手を出すな!!」

「全員殺すんだ。遅いか早いかだ。」

「頼む………お前たちに従うから、中佐たちには………」

ピーリスはよわよわしい声で嘆願する。
だが、

「お前がそうなったからこいつらは死ななくてはならんのだ。」

「私の………せい?」

「少尉、こいつらの言うことに耳を貸すな!!」

セルゲイは必死でピーリスに呼び掛けるが、彼女にその声は届かない。

「そうだ。兵器であるお前が人間のように感情を持ってしまったせいでこいつらは死ぬんだ。」

「違う………私は……超兵だ……。感情など……」

「どうかな?貴様自身も望んでいたのではないか?人間らしくいきることを。」

「ち……がう………私は………私は……!」

「勝手な奴だな。そのためにはこいつらが死んでもいいというわけか………兵器のくせに大した思い上がりだな!!」

「いや………いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

「少尉!!」

セルゲイは血が出るのもかまわずに唇をかみしめる。
自分の判断ミスで部下たちの命が奪われようとしている。
それが何よりも悔しかった。

(何も………何も出来んのか!!)

「死ね。」

セルゲイの乗るティエレンにカーボンブレイドが振り下ろされた。
だが、それが届くことはなかった。
セルゲイのティエレンの前に瑠璃色の光を背中から大量に放出するソリッドが立ちふさがったのだ。

「なに!?」

「………大丈夫ですか?」

ソリッドから声が響く。
その声を聞いたセルゲイ達は驚きで自分たちの置かれている状況すらも忘れてしまう。

「この声は………!」

「まさか!」

ピーリスとミンが目を丸くして愕然とする。

「ユーノ君なのか!?」

セルゲイの声に答えるように、ソリッドがティエレンを押し返してカーボンブレイドの握られていた腕をビームサーベルで切断する。

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」











その時、ユーノは何も考えずに飛び出していた。
目の前には脚部が焼け焦げたティエレンがそうでないティエレンの手によって破壊されようとしている。
そして、先ほどの外部音声で確信した。
あれに乗っているのはセルゲイだと。

曇った空の下、降り積もった灰が戦闘の衝撃で舞い上がり雪のように再びゆっくりと下に引き寄せられていく。
そう、あの時と全く同じだ。

頭がズキズキと痛むが関係ない。
もう、自分の目の前で誰も傷つけさせはしない。
あの時彼女を、なのはを守ったときのように。
だから、

(俺は……………“僕”は!!)

不思議な感覚だ。
今まで自分を苦しめていた頭痛が消え、それまでかかっていた靄が晴れていく。

「967、外部音声をオン。GN粒子の散布を中止、ジェネレーターをすべて推進力に回して。」

「!?ユーノ、正気か!?」

わかっている。
マイスターの情報は太陽炉と同じSレベルの秘匿事項。
だが、今回のミッションで自分がセルゲイ達の敵でないと認識させるためにはこうするしかない。

「いいからお願い!!」

「わ、わかった!」

いつもと違う、だが強い意志のこもった声に967は指示通りに外部音声を入れる。
ソリッドは最大加速でティエレンの前に躍り出るとアームドシールドでカーボンブレイドをこともなげに防ぐ。

「………大丈夫ですか?」

「この声は………!」

「まさか!」

「ユーノ君なのか!?」

ユーノはセルゲイ達の驚きの声を聞きながら安堵する。
そして、気を引き締め目の前の敵を見据える。
目の前のティエレンはなんとか刃を届かせようと力を込めてくる。
だが、

「ティエレン程度の推進力でソリッドに押し合いで勝てるものか!!」

カーボンブレイドをそのまま押し返したソリッドは体勢を崩したティエレンの腕をビームサーベルで斬り落とす。

「ユーノ君………本当に君なのか?」

後ろで倒れたティエレンからセルゲイの声が聞こえてくる。

「黙っていてすいません。でも、僕は………」

二人の会話は長くは続かなかった。
普通のティエレンの打ち出す砲弾よりも一回り大きいものがソリッドめがけて発射される。
ソリッドはGNフィールドを発生させて防ごうとするが、砲弾はフィールドを突き抜けてソリッドに着弾する。

「うあああぁぁぁぁ!?」

「クハハハハハハ!!見たか!?このティエレンチーツーさえあればガンダムなど敵ではない!!」

「ガンダムの首もらったぁぁぁぁぁぁ!!」

周りにいたティエレンたちもティエレンチーツーに続けとばかりに砲撃を開始する。

「ク……あまり調子に乗らないでもらおうか。」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が展開される。

「なんだあれは?」

「気にするな!撃て撃て!!」

元超人機関の兵士たちはそんなものなど気にせず砲弾を撃ちまくる。
だが、

「な!?た、弾が!?」

「完全にはじかれるだと!?」

その場にいた敵、味方、全員がMS戦では起こり得ない事態に混乱する。
本来、弾は弾かれたといっても、あくまで砲弾を防いだといった意味でしか使うことはない。
だが、自分たちの前にいるガンダムは自分の周りにいくつもの回転する奇妙な円形の力場に砲弾を当てることによって完全に別方向に弾をそらしている。

「MSの攻撃を受ければどんなに強固なシールドでも砕けるのは当然だ。けど、当てる角度を調整して正面から受けるのではなく別の方向にいなす形をとれば防御手段として成立する。そしてうまく使えば…」

「くそぉぉぉぉぉ!!」

「こういうこともできる。」

ソリッドに向かって放たれた砲弾は再び出現した力場に弾かれ別のティエレンの腹部に当たった。

「な!?」

弾に当たったティエレンのパイロットは信じられないといった様子で損傷箇所を見るが、そのまま力なく仰向けに倒れこみ灰を巻き上げる。
残った兵士は灰の奥で顔のあたりで光る二つの緑の光がゴッという音とともに消えた瞬間、どうしようもない恐怖に支配された。
現存するどのMSよりも優れた性能を持つ機体が、自分たちの理解の及ばない力を使っている機体がどこからか自分たちを狙っているのだ。
先ほどから物音一つしないのがさらに恐怖を加速させる。
そして、恐怖がピークに達した時、



カラ…………



「っ!!!あああ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

普段なら気にもしない小さな音をかわきりに一人が砲弾を乱射し始める。
それにつられるように周りにいた者たちも緊張の糸がプッツリと切れ、同じ方向に攻撃をくわえていく。
だが、灰の煙幕が晴れたときそこにあったのはボロボロだった民家が彼らの攻撃で跡形もなく吹き飛んだ形跡だけだった。
そして、彼らの背後から何かが猛スピードで突っ込んできて一機のコックピットを貫き上空へと舞い上がる。

「あげゃげゃげゃ!!俺のことを忘れてんじゃねぇよ!!」

先にティエレンを突き刺したままアブルホールを変形させたフォンはクルリと機体を一回転させてティエレンを空高く放りあげる。
放り投げられたティエレンは細かな部品をばらまきながら轟音を上げて地上に激突する。
その姿はもはや何なのか区別できないほどグシャグシャにつぶれていて、隙間があいたコックピットからはポタポタと控えめに血が垂れている。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」

恐れをなしたのかティエレンタオツーを持っていたティエレンがそれすら捨ててフォンに追われて来た道を引き返そうと踵を返す。
だが、振り返った瞬間、すぐ目の前にソリッドを発見してパニックが頂点に達する。

「ひゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

男は奇声を発しながらティエレンを突進させるがソリッドはその両足をブレードモードにしたアームドシールドとビームサーベルで斬り裂く。
ティエレンはまるで小石につまずいたように無様に前のめりに倒れる。
しかし、それでもなんとか逃げようと手を必死で動かすが、ピンクの閃光がはしり肩から腕を切断される。

「これで残りは二機か。」

『あげゃげゃげゃ!なかなかえげつない方法をとるじゃないか。』

「まずないだろうけどセルゲイさんたちを人質に取られたら厄介だったからね。姿をくらませて冷静な判断を奪わせてもらったんだ。それに、フォンにも少しは働いてもらわないとね。」

『ハッ!まあ、いいさ。それよりお前………』

「君や967が考えている通りだよ。全部思い出した。」

「僕の正体を聞いても信じられないだろうけど……」とユーノがつぶやいていると灰の向こうから赤と白の巨体、ティエレンチーツーが現れる。

「そうそう……こいつも倒さなくちゃいけないんだった。」

『手伝ってやろうか?』

「いらないよ。一人で十分、だっ!!」

砲弾が発射されると同時にソリッドは懐に潜り込み、アームドシールドをバンカーモードに切り替えて腹に静かに押しあてる。

「切り札………切らせてもらうよ。」

圧縮粒子を一気に開放したバンカーによってティエレンチーツーは穴を穿たれ上空へと撃ち上げられる。
ソリッドはバルカンを連射しながらティエレンチーツーへと接近する。
そして、バンカーモードのままGN粒子を纏わせたブレードの刃を空高く突き上げる。

「でやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ティエレンチーツーは丁度左右対称に真っ二つになり、激しい爆炎とともに空に散った。

「さて、と。」

ソリッドとアブルホールは残った隻腕の機体を見る。
その視線を受けたリーダー機は後ずさる。

「ば、馬鹿な………!こんなことが……!」

じりじりとよってくる二機を見ながら後ろにさがっていく。
その時、曇った空に緑色の機影がいくつも現れる。

「おおぉ!!や、やっと来たか!!」

緑の機体、ヘリオンを見たリーダーは歓喜の声とともに二機のガンダムを見る。

「クハハッハハハ!!私の勝ちだ!!こうなれば私だけでも………」

『悪いがそれは叶わん。』

「!!?」

突然ディスプレイに現れた眼鏡の女性にリーダーの男は動揺する。

「だ、誰だ!!?」

『カティ・マネキン大佐。貴様を亡命させようとしていた馬鹿者どもをとらえた者だ。』

「な!?」

『貴様が当てにしていた上層部の人間もつい先ほど本国で逮捕されたそうだ。これで貴様のバックはなくなったというわけだ。』

「そ、そんな……」

マネキンの言葉を聞き終えた男の周りにMS形態のヘリオンとイナクトが着陸する。

「ホールドアップ!!へっへ~。大佐ぁ、見てますかぁ?」

イナクトに乗るパトリックはマネキンに緩みきった笑顔を向ける。
だが、マネキンはそんな彼を見ずに頭を押さえる。

(まったく………上層部がここまで腐敗しているとはな。わが軍のことながら情けない。)

マネキンが大きくため息をついていると人革連側から通信が入る。

『人類革新連盟、セルゲイ・スミルノフ中佐です。』

『AEU、カティ・マネキン大佐です。』

『今回は我々の不手際でとんだ面倒をかけましたことをお詫びします。』

『いえ、こちらこそ馬鹿どもが勝手なことを……。まことに申し訳ありません。今後のことについて話し合いたいのですが……』

『助かります。それでは後ほど。』

セルゲイはAEUとの通信を切ると、今度はソリッドと通信をつなぐ。
ディスプレイに映された顔はヘルメットで隠れているものの、確かにユーノだった。

「……まさか君がソレスタルビーイングだとは思わなかった。」

『……ごめんなさい。』

「……我々の情報を知るために近づいたのか?」

『……ごめんなさい。』

セルゲイの質問にユーノは俯きながら謝るだけだ。

『……ごめ……なさい……!』

ユーノは泣いていた。
自分を信じてくれたセルゲイの信頼を裏切ってしまったこと。
そして、もう会うことすら許されないのだという事実が悲しかった。

だが、セルゲイもユーノの涙ですべてを悟った。
本当は隠したくなどなかったのだと。

「そうか……君も辛かったな。」

『ッッッ!!!うっ、うっ!!』

ユーノはこらえきれなくなりポロポロと大粒の涙を流し始める。

「……ユーノ君、我々と来るんだ。君はこれ以上戦ってはいけない人間だ。君のしてきたことは許されることではないが、私がなんとか君を普通の生活に……」

『……できません。』

「なぜだね?」

セルゲイはあくまで穏やかに語りかける。

『あの時……言いましたよね。僕は自分たちのしていることも今の世界も許すことはできません。だから、この世界を変えてから罰を受けます。それが、ここまで進んできてしまった僕にできることだから。』

「そんなことはない!君はこの前も、そして今回も自分の正体が明らかになることもかまわずに私たちを助けた!そんな優しさを持つ君なら……」

『……ごめんなさい。』

ユーノはそれだけ言い残すとソリッドを浮上させて遥か彼方へと去っていった。

「!大佐、ガンダムが!!」

『よせ、少尉。今はセルゲイ中佐たちの保護が先だ。』

マネキンは追いかけようとするパトリックを止めると、遠ざかっていく背中を見つめる。

「……なぜかな。どうしてここまで胸が締め付けられるのだろうな。」

人革連、AEUの両兵士の区別なく、その場にいた全員には降り始めた雨のせいかソリッドの背中が泣いているように見えた。







数時間後

AEU拠点

AEUの拠点でセルゲイは温かいコーヒーを飲んでいた。
部下は奇跡的にも全員無事。
生き残った超人機関の生き残りは全員が本国に送られ、しかるべき処置を受けるとの決定がなされた。
また、他の部隊に散っていた元超人機関の人間たちにも厳しい対応がとられることとなった。
結果的にみれば、あれだけのことが起こったのにそれほど被害が出ず、超人機関という忌まわしい存在を完全に消し去ることができたのだから喜ぶべきなのだろう。
だが、どうしてもそんな気にはなれない。
おそらく、ミン達も同じだろう。

セルゲイはそんな気分を消し去ろうと紙コップに入ったコーヒーをすする。
だが、あの日ユーノと一緒に飲んだものと同じブランドのものなのにまったく美味く感じない。

『……ごめんなさい。』

ユーノの言葉が耳に残って離れない。

「我々が………彼のような優しい少年をあそこまで追いつめてしまったのか……!?」

セルゲイはコーヒーの入った紙コップを握りつぶしてしまう。
熱いコーヒーが手にかかるが、セルゲイは自らへの怒りで熱さを感じることができなかった。

「だとしたら………我々は……軍人は、何のために存在しているんだ!」

セルゲイの目から涙がポタポタと落ちていく。
自分を父と読んでくれた少年を、息子を、また悲しませてしまった。

「すまん………!すまん……!」

セルゲイは熱い涙をぬぐうことなく声を殺して泣き続けた。
それは、枯れ果てたと思っていたロシアの荒熊の最後の涙だったのかもしれない。







ロシア上空

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ユーノ……」

967に操縦を任せたユーノはコンソールに突っ伏して大声で泣き始める。
そして、あの日エレナの言葉を思い出す。

『後悔するよ、たくさん。それでも、止まることが許されない。そんな道だよ。それでもいいの?』

「わかってる………わかってるよ、エレナ……。もう、戸惑うことも、立ち止まることも許されない。家族の温かさのもとに帰ることも、なのはたちのところに戻ることも、もう、できない……できないんだ。」

すべて覚悟していた。
それでも、涙が止まらない。
悲しさや虚しさで心が埋め尽くされていく。

「ごめん………なさい……!父さん…セルゲイさん……エレナ……なのは……!」

ユーノは大切な人たちに謝る。
その声が届かなくてもただひたすら謝る。
心に刻まれた深い傷を自らの言葉で必死で埋めるように。



ユーノを乗せたソリッドの装甲から灰が混ざって濁った雨粒が落ちていく。
まるで、灰色の雪が無理だとわかっていながら、悲しみで満ちた大地を覆い隠そうとするように。
その灰色の雪を降らせながら、ソリッドはユーノの“仲間”の待つ場所へと向かっていく。
どれほど、自らの主が悲しみに打ち拉がられようと、止まることなど許されぬとばかりに、雨の中を突き進んでいった。



















あとがき・・・・・・・・という名の注意報

ロ「オリミッション完結編でした。」

ユ「今回はリリなのの登場人物ではなく、00からスペシャルゲストをお呼びしております。」

9「ロシアの荒熊、ユーノの00世界における父親(?)、セルゲイ・スミルノフ中佐だ。」

セルゲイ(以降 荒熊)「紹介にあずかったセルゲイだ。よろしく頼む。」

ロ「こちらこそよろしくお願いします。」

ユ「……なんか他のゲストに比べて態度が違いすぎない?」

ロ「俺が00でもっともリスペクトするお方だからな。お前らも無礼がないように。」

ユ・9「「了解。」」

ロ「というわけで、今回はギャグなしで解説に行くぞ。セルゲイ中佐、どうぞよろしく。」

荒熊「うむ、よろしく。」

9「ようやくユーノの記憶が戻ったな。」

ユ「そしてせっかく僕の記憶が戻ったのになんでこんな微妙に暗い感じになってるの。あ、喋り方戻った。」

ロ「ここではセルゲイ中佐達とのつながりとなのはたちとの絆、それとマイスターとしての自分との間の葛藤を描きたかったからちょっと暗い感じになっちまったんだ。」

荒熊「実際、人を殺しておいて好きな人間に平然と向き合える人間は普通いないだろうな。」

9「そして、セルゲイ中佐たちに正体がばれたがいいのか?」

ロ「あとで書くけどセルゲイさんたちは助けられた恩もあるからしばらくは黙っておく予定だ。」

荒熊「うむ。」

ユ「でもヴェーダは?」

ロ「もちろん、ユーノのことは槍玉にあがるけど審議中ってことにする。んでもってその間に………これ以上のネタばれは流石にまずいんでここまでだ。」

9「ティエリアあたりが強引にソリッドから降ろしそうだがな。」

荒熊「私とユーノ君との関係はこれからどうなるのかね?」

ロ「それももちろん描いていきます。ただ、どうしてもsecondのほうがメインになるかもしれないけど。」

ユ「ま、そこまで続くように頑張りますか。」

ロ「じゃ、次回予告行くぞ。」

9「記憶を取り戻したユーノは仲間たちのもとに戻るが、その心は晴れない。」

荒熊「そんな彼の心の動きを感じ取った者たちがいた。」

ユ「そして、遂に三国家群が足並みをそろえ始める。」

ロ「ソレスタルビーイングに対する世界の答えとは?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 22.嵐の前の……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/18 00:24
?????

「ここは……」

見覚えのある景色に懐かしさを感じながらユーノは足を進めていく。
みんなと出会った街、悲しいことも楽しい思い出も詰まった街、海鳴市は3年経とうとなにも変わらない。
だが、空の色はまるで水面に油を落としたようにさまざまな色が混じりながら蠢き、街の中には人が見当たらない。

「固有結界?」

固有結界は戦闘、または対象となる何かを周りに被害が及ばないように閉じ込めるためのものだ。

「特に危険な反応は感じられないけど……」

ユーノはあたりの様子をうかがう。
すると、見覚えのある背中を見つける。
金色の髪をツインテールでまとめ、黒いマントをはおった少女。
この街で互いに譲れないもののために戦い、友達となった人物がいた。

「フェイト!!これは一体……?」

ユーノはフェイトの肩に触れようとした。
しかし、フェイトは振り向きざまにバルディッシュに鎌状の魔力刃を発生させてユーノの首に当てる。

「な、何を……!?」

「黙れ。」

冷たい声と目にユーノは固まる。
だが、すぐさま声を張り上げる。

「フェイト!いったいどうしたって言うんだ!?」

「どうした、か…………私たちは気付いたのさ。お前の本性に。」

後ろから聞こえた声に振り向くとピンクのポニーテールの剣士が愛剣のレヴァンテインに炎をともして歩いてくる。

「シグ………ナム……?」

「お前はおぞましいほどの殺意を隠し、我々を騙していた。」

「その報いを受けてもらうよ。」

「違う!!僕はみんなと一緒にいたかっただけだ!!」

ユーノはフェイトの魔力刃をかいくぐり路地裏に入る。
狭く、足元にさまざまなものが散らばっているせいで何度も躓いてしまうが、必死で走る。
どこまで来ただろうか。
気付くと闇の書事件を終結させた海辺に出ていた。

「こ…ここまでくれば……」

「あんたも諦めが悪いねぇ。」

「!!?」

突然目の前から聞こえた声に顔を上げる。
犬のような耳にオレンジの長い髪をした女性がユーノを空から見下ろしている。

「アルフ……!?」

「……あたしの名前を気安く呼ぶな、人でなし。」

アルフは不愉快そうに顔をしかめながらユーノを睨みつける。

「貴様のような裏切り者に呼ばせるほど我らの名前は安くはない。」

ユーノは踵を返して逃げようとするが目の前にアルフと同じ犬の耳に白い髪と浅黒い屈強な体つきをした男が道をふさぐ。

「ザフィーラ!?」

「名を呼ぶな。そう言ったはずだ。」

ザフィーラは拳をユーノの腹部に打ち込む。
ユーノは拳の形をした鉄の塊を叩きつけられたような感覚に空気を吸うこともままならなくなり、その場に膝をつく。

「か………ぁ……」

「あらあら、もうおしまいかい?」

アルフは降りてくるとザフィーラの隣に立ち、襟を掴みユーノを無理やり立たせる。

「………くは……」

「は?」

「ぼく……は、裏切り者………なんかじゃない……!」

「ク……アッハハハハハハハ!!裏切り者じゃない!?じゃあなんでみんなに自分のことを黙っていたのさ!?」

「それ………は……」

「誰も信じられなかったんだろう!?そのくせ友達面をしてみんなを騙してたんだ!!」

「違う!!」

「何が違うのかしら?」

いつの間にか横に黄緑色の服を着た女性がこちらを見つめていた。

「シャ……マル……」

「なのはちゃんを自分のエゴで巻き込んで、挙句、何度も守れずに傷つけたくせによくそんなことが言えるわね。」

「違う……」

「違わないわ。」

「違う!!」

ユーノはアルフの手を払いのけて再び道を走っていく。
その足元には小さく濡れた箇所がいくつもあった。
ユーノは無意識のうちに泣いていた。
誰も受け入れてくれない悲しさと仲間から拒絶の言葉をかけられる恐怖から。

ユーノは小学校の前で再び足を止める。
目の前に帽子をかぶり、十字の杖を構えている少女がいたからだ。

「はや……て……」

ユーノの脚がガタガタと震える。
少しでも気を緩めるとその場で尻もちをついてしまいそうなほどの恐怖がユーノの体を駆け巡る。

「ユーノ君が悪いんよ……うちらのことだまして……おまけにあんなことまでして。」

「あんな……こと………?」

ユーノは震える声でオウム返しに質問する。

「とぼけるな。」

低く鋭い声に後ろを振り向く。
黒いバリアジャケットに白銀の杖、デュランダルを構えた親友が空からゆっくりと降りてくる。

「お前はガンダムで大勢の命を奪ってきただろう。」

「戦いで戦いを終わらせるなんて馬鹿げた理念のせいでたくさんの人が苦しんだこと、知らへんなんて言わせへんよ。」

はやての言葉が終わると同時にユーノの周りに大量の死体が現れる。
ユニオンの軍服を着た者、人革連の軍服を着た者、AEUの軍服を着た者。
一般人、子供、女性、老人。
ありとあらゆる死体がユーノを埋め尽くす。

「あ……あ………」

「何驚いとるん?………みんなユーノ君がやったんやん。」

「そうだ、お前が殺したんだ。自分のエゴを押し通すために!!」

「う……わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノは空高く飛び立ち、固有結界が張られた意味を理解した。
これは自分を逃がさないために張ったものなのだと。
結界の端まで来るとユーノは必死で結界を叩く。

「出して!!ここから出して!!お願いだ!!出してぇぇぇぇぇぇ!!!!」

出られるはずがないとわかっているはずなのに、何度も何度も叩いてしまう。
もうみんなの言葉を聞きたくない。
涙がとめどなくあふれ、頬には激しく動いたせいでいくつも歪な涙の通り道ができている。
そんなことをしていると後ろに気配を感じる。
恐る恐る後ろを向くと赤いゴスロリドレスを着た少女がゴミでも見るような眼でこちらを見ている。

「よく私たちの前に出てこれたもんだな、この人殺し!!」

「違う………違うんだヴィータ………これは……」

違わないとわかっていても言い訳じみた言葉ばかりが口から出てくる。

「お前、アイツをどれだけ悲しませる気だ………?」

「違う………」

「違わないだろ?お前は………」

ソレスタルビーイングの一員で……

「やめて……」

ガンダムマイスターで……

「お願いだ、やめてくれ!!」

人殺しだろ!!

「やめてぇぇぇぇぇ!!!!」

ユーノはその場から弾かれたように飛び出すが、周りはすっかり仲間、いや、仲間だった者たちに囲まれている。
その中から、一人が前に進み出る。
白と青のバリアジャケットに赤い宝石がはめ込めれた杖を持ったブラウンのツインテールの少女。

「な………のは……」

なのはは何も言わない。
目は少しうつ向き気味なせいで前髪に隠れてよく見えない。
ユーノはなのはに少しづつ近寄っていく。

「なのは、僕は……」

「うるさいよ……」

冷たい言葉にユーノは止まる。

「私の知ってるユーノ君は優しくて、人殺しなんて絶対しない。」

「それは……!」

「私が好きになったのはアナタみたいなニセモノじゃないよ………」

なのははレイジングハートをエクセリオンモードに変えてA.C.Sを展開する。

「なのは……」

ユーノは涙の枯れ果てた目でなのはを見つめる。
だが、なのはは無表情のまま発生させた魔力刃でユーノの腹部を貫いた。

「か………は……」

「消えて。私たちの前から。」

ユーノは桃色の魔力の奔流に飲みこまれ、絶望感を抱いたまま意識が途絶えた。








地中海 王留美の別荘

「ああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

ユーノは絶叫とともにベッドから飛び起きる。
窓から外を見るとまだ星が我が物顔で漆黒の空に輝いている。

「………ハハハ。なんでいまさら。」

ユーノは笑う。
笑おうとするが自分の意志とは関係なく涙が零れ落ちていく。

「ハッハハ……戻ることなんてできないってわかってるくせに……………わかってるだろっ!!!!」

ユーノは近くにあった携帯端末を手に取ると床に思い切り叩きつける。
叩きつけられた端末は凄まじい音ともに部品をあたりかまわずばらまく。

「………………わかってるから……もう、忘れさせてよ……」

ユーノは首にかけられた青い宝石、ジュエルシードを握りながらつぶやく。
ジュエルシードの性質を考えれば、暴走を開始してもおかしくないのだが、いっこうに何も起こる気配がない。

「なんで……忘れさせてくれないんだ……」

ユーノは呟く。
だが、その問いかけに答えられる人間がこの世界にいるはずもなかった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 22.嵐の前の……

アレハンドロ邸 

アザディスタンから戻ったアレハンドロはロシアでのミッションの経過と結果を聞くとすぐさまある一室に向かった。
円柱状の壁が遥か上まで続くその部屋にはさまざまな絵画や彫刻が壁に飾られている。
しかし、アレハンドロが部屋の中心にある椅子に座った瞬間、絵画や彫刻の目やブローチから赤い光が放たれる。

「では、始めましょうか、監視者諸君。」

『あまりにも会談の開始が遅すぎるのではないか?何かあってからでは遅いのだぞ?』

「申し訳ありません………ここのところ多忙を極めましてね。」

アレハンドロが涼しい顔で笑うと周りからは不機嫌そうに鼻を鳴らす声がいくつも聞こえてくる。

『早速だが議題に移ろう。ユーノ・スクライア……奴をマイスターから外すか否か?』

『即刻外すべきだろう。不用意にマイスターであることを明かすなどあってはならん。』

『だが、しばらく経つが人革連からは何の発表もない。問題はないのでは?』

『発表されていないだけで軍内部にはすでに情報が……』

『それはあり得ませんな。それならば私の耳にも入っているはずです。』

『情報流出だけが問題なのではない。奴の行動には問題がありすぎる。なにより、奴の使う力が問題だ。』

『あのリングや鎖か。』

『さよう。あの力はあまりにもイレギュラーすぎる。そんな力を持つ者をガンダムに乗せるなど……』

「みなさん。」

互いに姿が見えない状態で喧々諤々の議論を繰り広げる監視者たちの言葉をアレハンドロが遮る。

「どうやら大切なことをお忘れのようだ。彼をマイスターにしている最大の理由は監視、そして、彼の正体を明らかにすることではありませんでしたか?」

三年前、ユーノが発見される直前にゴビ砂漠で正体不明の高エネルギー反応が観測された。
そして、その反応の中心でユーノが発見された。
しかも、彼の存在は現存するどのデータをあたっても見つけることができない。
ユーノがマイスターに選出されたのはその能力値の高さもあるが、イオリアの計画、いや、この世界にとってイレギュラーな存在であるため監視、そしてその正体を明らかにすることも目的の一つになっている。

「考えてもみてください。これはある意味最大のチャンスかもしれません。」

『チャンスだと?』

「そう、彼の情報が世界中に広まれば彼が何者なのか明らかになるかもしれません。」

『だが、マイスターである以上Sレベルの秘匿事項であることには変わりない。』

『そもそも監視のためならガンダムに乗せる必要など……』

「彼の高い能力を利用しない手はないでしょう。それに、イレギュラーを乗せたガンダムがこれからどうなるのか……興味深いではありませんか。」

アレハンドロの発言にさらに議論は混迷していく。

「………今日はこの辺にしておきましょうか。互いの意見を考える時間もいるでしょうし。後日改めて議論するということで今日はここまでで。」

アレハンドロの言葉を皮切りに赤い光が次々に消えていく。
そして、最後の一個が消えるとアレハンドロはけだるそうに立ち上がる。

「やれやれ………彼の存在がよもやここまで大きくなろうとは……ここらが潮時か。」

アレハンドロはにやりと笑うと部屋を後にした。






地中海 王留美の別荘

絶好のプール日和にクリスティナはパラソルの日陰で壊れた携帯端末をジッと見たまま泳ごうとしない。

『これ、踏んで壊しちゃ……壊しちまったから新しいの頼むわ。』

そう言って朝に壊れた携帯端末を渡しに来たユーノの顔を思い出す。
いつもと変わらない笑顔だったが、明らかに何か苦しんでいることを隠している。

「どうしたんスか?」

らしくないクリスティナを心配したのかリヒテンダールが声をかける。

「べっつにぃ~。」

「!それ………」

壊れた端末を見てリヒテンダールも黙る。

「………どう見ても踏んだって感じの壊れ方じゃないっスよね。」

「それに、無理して笑っちゃって……」

この前のミッションから帰ってきてからどうもユーノの様子がおかしい。
みんなの前では普段と変わらないようにしているつもりなのだろうが、全員ユーノが何かに悩んでいるのがはっきりとわかっていた。

「……そうだ!いまから会いに行かないっスか?」

「今から?」

「何をしてあげられるかわかんないけど、何もしないよりはマシっしょ。」

「そうだね。うん、そうしよっか。」








ユーノの部屋

朝からユーノは魔法陣を展開して目の前に浮くある物を調べていた。

「………やっぱり封印処理はされていない。なのに、ここまで安定した状態にあるなんて……」

青い宝石、ジュエルシードを手にとって自らの願いを強く思ってみるが、それでも以前のように暴走するような気配はない。

「……その石が力を発揮しないのがそこまでおかしなことなのか?」

「まあね……。封印処理をされていないこれがここまで強い願いを持った人間が集まる場所で発動しないなんてことあり得ないんだけど……」

「俺としては発動しないほうが助かるがな。お前からロストロギアの話を聞いて正直ゾッとしたよ。」

「僕だって暴走はさせたくないけど、どういうわけかジュエルシードが封印を受け付けないんだ。暴走状態にあるならまだしも、ここまで安定した状態にあるのに封印できないなんてことはないんだけど……」

967は魔法陣の中をコロコロ転がりながらユーノがジュエルシードを調べる姿を見ていた。

「しかし、僕が魔導士なんて話をよく信じたね。もっと驚いたり信じてくれないと思ったんだけど。」

「これでも驚いているんだがな。だが、あそこまでのものを見せられて信じるなというほうが無理だろう。」

967はユーノから彼の正体を聞いた。
ユーノがここではない別の世界から来た人間だということ。
その世界では魔法という技術が現実に存在しているということ。
各世界の安全を管理する時空管理局という組織に所属していたこと。
そして、その管理局の人間に父親の命を奪われたことを。

「しかし……300年以上前の地球に行ったことがあるとはな……」

「正確に言うならこの世界の地球とは全く別の地球なんだけどね。」

「?どういうことだ?」

「記憶が戻ってから調べてみたけど、この世界とあっちの世界では少しずつ歴史に齟齬があるんだ。例えば僕の知ってる地球ではベルリンの壁が崩壊したのは1989年なのに、こっちでは一年早い1988年なんだ。他にもいろいろ調べてみたけど大きいものでは十年以上のずれが出てたり、結果が違うものがいくつもあった。それに……」

ユーノは大きく息を吸う。

「この世界には魔導士も管理局も干渉していないし、まず存在すらしていない。あくまで仮定だけど、この世界は歴史の流れの中で僕の知っていた世界と枝分かれした世界なんじゃないかな。」

「パラレルワールドというやつか。」

「うん。だとすれば管理局が存在していないのも説明がつく。」

967は転がるのをやめると中から出てくる。

「このことは報告するのか?」

「…………実は僕魔法使いで異世界から来た人間で~す!………なんて報告できるとでも?」

「………言い方さえ何とかすれば。」

「仮に信じてくれたとしても今度はガンダムから降ろされる可能性もあるしね。異世界の人間、おまけに魔法なんてここにはないような力があるなんてわかったら危険だと思われるだろうしね。ま、それについてはもう手遅れかもしれないけど。」

肩をすくめて苦笑いをする。

「だが、いつまでも黙っておくわけにはいかないだろう。」

「わかってるよ。話さなきゃならない時がきたら話すさ。」

二人はジュエルシードを見つめながら話すが、そのせいでドアの隙間から二人の人間が中の様子を覗いているのに気付かなかった。

「………ねぇ、私たち夢でも見てるの?」

「僕もそう思ったんスけど、今の発言で違うんだってことがわかりました。」

クリスティナとリヒテンダールはユーノに話を聞こうと部屋まで来たのだが、とんでもないことを聞いてしまった。
魔法、異世界、管理局。
どれもとてもじゃないが信じられない話ばかりだ。

「ねぇ、どうする?」

「どうするって言われても………って、おわ!!」

「へ?きゃあ!?」

プールに入った後で足も拭かずに来たので水で滑ったリヒテンダールがこけてしまう。
そして、それに押し倒されるような形でクリスティナも倒れてしまう。
ドアに向かって倒れた二人はそのまま部屋の中に滑り込むように入る。
当然、中にいたユーノと967は二人を見る。

「「ど……どうも~。」」

「………さっそく話さなきゃいけないみたいだぞ。」

「………みたいだね。」







ラグランジュ1 アステロイド群 

ラグランジュ1
地球と月の間にある重力と遠心力のバランスポイントであり、そこにはいち早く宇宙開発に乗り出したユニオンのスペースコロニーがある。
そこから約300㎞離れた地点にはコロニー開発のために運び込まれた多くの資源衛星があり、巨大なアステロイドエリアを形成している。
その中に、私設武装組織、ソレスタルビーイングの秘密ドッグが存在する。

「アレルヤ、状況はどうだ?」

「問題ありません。衛星周辺のGN粒子散布も基準値を示しています。」

誰もいなくなったプトレマイオスのブリッジで作業をしていたアレルヤに同じくここに残ったイアンが話しかける。
プトレマイオスを整備するために二人はここに残っていたのだが、整備担当のイアンとは違いアレルヤは自分から進んでここに残った。

「ここはわしらに任せて、地上に降りてもよかったんだぞ?」

「大丈夫です。僕の体は頑丈にできていますから。……それに、少し考えたいこともあって。」

アレルヤの言葉を受け、イアンは視線をデータが表示されたパネルに移す。

「……わしらはもうことを始めた。後悔すら許されぬ所業だ。」

「わかってますよ。でも、その言葉はユーノには酷じゃないですか?」

「そうは思うんだがな……アイツも強情だからな。わしらの前じゃ弱音の一つも吐かんのが逆に見ていてつらいよ。」

「だからこそ、僕たちで支えてあげないと。」

アレルヤの柔らかな笑みを見てイアンもつられて微笑む。

「……そうだな。」

「それはそうと、もうすぐ終わりそうですね。」

「ああ、あと一時間ほどで出発できるぞ。」

プトレマイオスの周りにいるハロ達もその言葉が聞こえていたのか仕上げにかかる。
それに合わせてドッグの中は増えた火花で明るく照らされていた。






アイルランド 慰霊碑

暗くなった街の片隅にある長いモニュメント。
そのそばにロックオンの乗る車がとまっている。
ロックオンはシートに身を預けてラジオを聞いていたが、スイッチをひねり電波の受信を中止する。

(こんなにきれいになっちまって……)

あの時、ここで起きた出来事を覚えている人間はこのあたりでももうそれほどいないだろう。
それが証拠に最初は溢れるほどあった花束が今はもう数えるほどしか置かれていない。
もう、多くの人があの時のことを忘れて歩き始めているのに、自分の時間はあの時から止まったままだ。
だが、忘れるということはあの時の悲しみを風化させてしまうということだ。
そうなればいつかまた同じようなことが起こるだろう。
だから、たとえ自分の中の時計の針を止めることになっても、決して忘れはしない。

(そうだ、忘れてたまるかよ。)





王留美の別荘 地下室

暗い地下室の一角、いくつもの巨大なモニターに大量の文字が記されている。
その前でティエリアは自分たちが行った結果を確認していた。

(ソレスタルビーイングが行動を開始してから世界で行われている紛争が31%低下、軍需産業にかかわりを持つ企業の63%がこの事業からの撤退を表明。)

ティエリアは無表情なまま操作を続けていく。

(この数字だけ見るとヴェーダの計画予測水域には到達している。……問題はデュナメスの高々度砲撃能力とGN-004、ナドレを世界にさらしてしまったこと。そして……)

ティエリアの顔が不快感で少し歪む。

(刹那・F・セイエイとユーノ・スクライア。)





東京 某マンション

「ふええええぇぇぇぇぇん!!!」

つい一時間ほど前からルイスは顔をソファーの上のクッションに押し当てたまま泣き続けている。
母親が帰ってしまい寂しいのだろうが、刹那にはおおよそ理解しがたいことだ。

「やっぱりこうなったか。」

沙慈は刹那の隣でため息をつく。

東京に帰ってきた刹那は沙慈に誘われ、こうしてルイスを励ます会に参加することになった。
だが、これまで沙慈との関係を上手く取り持っていたユーノがいないせいで、刹那は少しやりにくい感じがする。

「来てくれてありがとう。人数が多いほうがルイスの気も紛れると思って。」

「……そうでもないようだが。」

「ふええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!」

一層大声で泣き始めるルイスを刹那の一言がつきささる。

「………母親が帰ったくらいでなぜ泣く。」

「ぐすっ!!寂しいからよ!!」

「会おうと思えばいつでも会える。……死んだわけじゃない。」

「ふええぇぇぇぇん!!!沙慈!こいつ嫌い!!叩くか殴るかして!!」

「いや、できないって……ていうか同じ意味だ…フグッ!!」

沙慈の顔にルイスの涙がしみ込んだクッションが投げつけられる。
そして、ルイスは再び泣き始める。

「…ごめんね。」

苦笑しながら刹那をみる。
呆れた様子で、しかし、今この場のことではない何かに呆れているようだ。

「………平和だな。」

「え?」

沙慈が不思議そうな顔をすると、刹那の持っていた端末から呼び出し音が鳴る。

「すまない。用事が出来た。」

「ああ、うん。」

「帰れ帰れ!!バーカバーカ!!」

ルイスの罵倒の言葉を受けながら刹那は部屋を後にした。






王留美の別荘

「魔導士?」

「管理局?」

クリスティナとリヒテンダールはユーノから事情を聞いているのだが、はっきり言ってユーノが言っていること疑わしく思えてくる。

「………なんかスケールがおっきすぎてピンとこないなぁ。」

「世界に対して宣戦布告しといてそれはないんじゃないの?」

「だって私たちのいる世界以外にもいっぱい別の世界が存在しているなんて信じられないよ。それに魔法なんてお伽話の中だけの話だと思ってたし……」

「それはさっき説明したけど、僕たちの使う魔法はクリスたちが考えているようなものとは違って、どちらかというとプログラムに近いんだ。魔力っていうエネルギーを使ってそのプログラムを発動させて効果を得るっていうものだから…」

ユーノは頭から煙を出している二人を見て慌てて話を簡略化する。

「ええと、つまり魔力を使って機械を動かすっていう風に考えてくれればいいよ!!」

実際はかなり違うのだが、そういうことにしておく。

(だからもっと簡単な説明にしろと言ったろ。)

(あれでもかなり簡単にしたほうなんだよ!?)

「きこえてるよ~。」

ジト目で睨むクリスティナに気付くとユーノと967は苦笑する。
そこに、頭からの煙がとまったリヒテンダールが話に加わる。

「でも、やっぱり俺らには魔法使いって言ったら黒いローブを着てでかい鍋で紫の怪しい液体を杖を使って混ぜてるのくらいしか思い浮かばないなぁ。」

「私はマジカルなんとか~!ってミニスカで高いところにたってポーズ取ってるのくらいしか思い浮かばない。」

「二人とも、それは偏見だよ………」

とその時、ユーノは二人の様子がおかしいのに気付いた。
自分が話すたびに二人が徐々に距離をとっているように思えて仕方ない。

「………ねぇ、なんでそんなに離れていってるの?」

「だって……」

「ユーノがそんな喋り方してるのってなんか変だもん。」

「なんか企んでいるようにしか思えないっス。」

「こっちが本当の僕の喋り方なんだけどなぁ。ていうか二人とも僕をそんなふうに見てたの?」

「「うん。」」

「ヒドイよ二人とも!!」

「でも、みんなに知られたくないんなら話し方には気をつけたほうがいいわよ。いきなり口調が変わったら流石にみんな気付くだろうしね。」

「それは気をつけてるんだけど……どうにもあの喋り方は疲れるんだよなぁ……」

頭をポリポリと掻くユーノを見て、二人はいよいよ本題に入る。

「で?一体どうしたんスか?」

「なにが?」

「何がじゃないわよ。帰ってきてからユーノが笑ってないからみんな心配してるんだよ?」

「そんなこと……」

「嘘。ユーノ表面上は笑ってるけど、心の中で泣いてるの丸わかりだよ。」

「俺でも気付くんだからみんなが気付かないわけがないっしょ。」

二人の真剣な顔を見て、ユーノは上を仰ぎ見る。

「そっか……なのはたちにはバレなかったんだけどなぁ。ずいぶん下手になっちゃたな。」

「話してくれない?ユーノが何に見苦しんでいるのか。」

「それには俺も同意見だ。俺も魔法などのことは聞いたがお前自身の話はまだ聞かせてもらってないからな。」

三人に見つめられ、ユーノは観念したように息を吐く。

そして、ユーノはすべてを話した。
赤ん坊のころに内紛で故郷の世界を去ることになったこと。
父親を管理局に奪われたこと。
その後、なのは達と出会ったこと。
自分の気持ちを隠して彼女たちと生き続けてきたこと。
自分の想いをなのはに打ち明けたこと。
そして、あの日の事件が原因で離ればなれになってしまったこと。

「で、エレナに拾われて今に至るってわけ。」

「そうなんだ……」

「でも、それならこれ以上戦い続けることはないんじゃないっスか?」

ユーノは静かに首を横に振る。

「並行世界から戻る方法なんて僕にはわからないからね。この世界で生きていくしかないさ。それに、ここまで来て僕だけ逃げるわけにはいかない。」

「でも!!」

「それに……」

ユーノは悲しそうに笑う。

「僕はどこにも戻れないんだ。数えきれない人を傷つけた僕がなのは達のもとに戻れるわけがないじゃないか。」

ユーノは笑いながら声を張りあげる。

「そうさ!僕はずっとなのは達を騙してきていたんだ!そんな僕にできることはただ戦うだけだ!」

「違う……違うよユーノ!!」

「違わないさ!!いままでが僕にとって異常だっただけだ!!きっと本当はみんなだって僕のことなんか!!」




パンッ!!



乾いた音が部屋に響く。
サングラスが取れたユーノの目には涙がたまっている。
クリスティナはユーノの頬を叩いた手で優しく赤くなった頬をなでる。

「……戦うことしかできないなんて悲しいこと言わないで。ユーノが誰よりも優しいこと、私たちは知ってるよ。」

「でも………きっとなのは達は僕のこと……」

「大丈夫っスよ!ユーノが好きになった子ならユーノことをちゃんとわかってくれてるって!」

「それにユーノが戻ってこれる場所ならもうあるじゃない。」

「?」

クリスティナはユーノの頬をプニプニとつっつく。

「どんなことがあっても、私たちはユーノ達が無事に帰ってくるのを信じて待ってるよ。」

「クリス……リヒティ……」

ユーノは目に溜まった涙をゴシゴシと乱暴に拭うといつもの笑顔を浮かべる。

「やっと笑ったスね。」

「ごめん、心配かけて。」

「ホントだよ。だ・か・ら……」

「?」

クリスティナはニヤリと不気味な笑みを浮かべて手をワキワキと動かす。

「それーーーー!!」

「うわぁぁぁぁ!!?」







十分後
「フ、ククククク……」

「プ、ククククク……」

「わぁ!やっぱりかわいいよユーノ!!」

「……これはヒドイよ。」

三人の視線の先には三つ編みのツインテールをしたユーノがプルプル震えながら顔を真っ赤にしてベッドに座っていた。

「リヒティも967もそんなに笑わないでよ。」

「悪い悪い。しかし、やはり……ククク。」

「そうそう可愛いっスよ。……ククク。」

「………二人とも覚えてなよ。」

「でもユーノは髪が綺麗なんだからもっと気を使わなくちゃだめだよ。」

クリスティナはユーノの三つ編みをほどくと髪を後ろにまとめて根元をリボンでとめる。

「うん。これなら男の子でも違和感はないかな?」

完成した髪型を見てクリスティナは満足そうにうなずく。

「まあ、これなら……」

「「チッ。」」

「ホントに君らあとで覚えてろよ。でも、このリボン……」

ユーノは自身の髪をまとめる赤いリボンを触る。

「いいよ、ユーノにあげる。………そのほうがエレナも喜ぶだろうし。」

「何か言った?」

「ううん!何も!」

クリスティナはエレナから譲り受けていたリボンと同時に本当の意味で彼女の願いをユーノに託せた気がした。

「それと、このことはみんなには……」

「わかってるよ。」

「ユーノが言うって決めるまでは秘密にするから安心していいっスよ。」

「でも二人とも口が軽そうだからなぁ。」

「失礼な!そんなことないよ!」

「そうっスよ!」

二人がユーノを非難していると端末に通信が入る。

「ユーノ、今から集合だってさ。」

「了解。それじゃ行こうか。」

ユーノは967を抱えて広間に向かった。







広間

「合同軍事演習?」

「ユニオンとAEUと人革連が?」

広間に集まっていた全員が表情をこわばらせる。

「エージェントからの報告です。」

「数日後には公式発表があるでしょう。」

ラッセは留美の報告をまさかといった顔で聞いている。

「それが本当ならすげぇ規模だぞ。」

「ユニオンや人革が急に仲良くなっちゃって、なんなんスか?」

「そらま、俺たちのせいだろうな。(やっぱりこの喋り方やりにくいなぁ……)」

ユーノがリヒテンダールの質問に答える。

「そう考えるのが妥当でしょうね。鹵獲作戦に失敗した人革連は他の陣営と組むことで私たちを牽制しようとしている。」

「軍事演習ならわざわざ俺たちが介入する必要なんてないんじゃないか?」

「なにかがある。」

ラッセの言葉を否定するようにティエリアが話す。

「軍の派遣には莫大な資金がかかる。たかが牽制で大規模演習を行うなどあり得ない。」

「同意見よ。王留美、演習場所の特定を。」

「させています。」

「お願いね。…みんな、出撃することになると思うわ、今のうちに羽根を伸ばしておきなさい。」

スメラギがウィンクするとクリスティナはハッとして、気合を入れる。

「フェルト、買い物行こう!」

「え?」

「ほらほら♪あ、あとユーノも来てね。」

「なんで俺まで……」

「……さっきの格好、写真にしてあるんだけどなぁ?」

「な!?脅迫する気か!?」

「?さっきのって?」

「な、なんでもない!なんでもないからなフェルト!!」

「二人きりだとフェルトに見せたくなっちゃうな~♪」

ユーノの顔が一気に青ざめる。

「……どうしろと?」

「荷物持ちお願いね♪あと、他にもいろいろたのしませてもらおっかなぁ~。」

スキップをし始めそうなクリスティナの後をがっくりと肩を落としたユーノと話しについていけていないフェルトがついていった。

「……何があったの?」

スメラギは思わずリヒテンダールに問いかける。

「いやいや……ククククク……」

「別にばらしてもいいんじゃないか?……フフフフフ……」

その後、967が画像データに残しておいたユーノの三つ編みを見てこの場にいた全員がさまざまなリアクションをする。
当然、帰ってきたユーノにリヒテンダールは制裁をくわえられるのだが、街で撮ったクリスティナのある写真によってユーノは否応なしに大人しくさせられることになるのだが、それは別の機会に話そう。






JNN本社

「喜べ絹江!!昨日の報道特集、視聴占有率が40%を超えたぞ!!」

「本当ですか!?」

絹江は上司の言葉を思わず疑ってしまう。
自分がかかわった仕事でここまでの成果が出たのは初めてだ。

「冗談でこんなこと言うか!番組始まって以来の数字だそうだ!」

だが、この結果はあくまで彼女にとっては手段でしかない。
彼女が本当に知りたいことを知るための。

「じゃあ、取材を続けても……」

否が応にも期待が膨らむ。
しかし、上司が言ってきたことは彼女の望むものとは違っていた。

「ああ!上もそう言ってきてる!次はソレスタルビーイングの活動における世界経済への影響を特集するぞ!!」

「……部長!」

突然の絹江の大きな声に言葉を途切れさせてしまう。

「イオリアの取材、続けさせてください!」

「なんでだ!?」

想像もしていなかった申出に動揺する上司に絹江はさらにまくしたてる。

「戦争根絶ではなく、ソレスタルビーイングには本当の目的があるように思えるんです。イオリア・シュヘンベルグを調べていけば真実がわかるかもしれません!だから私は……」

「……わかった好きにしろ。ただし!」

「?」

「無理はするな絹江。深みにはまったら抜け出せなくなる。」

「……はい。」

絹江は自分の父のことを思い出す。
彼もまた真実を追い求め、その中で死んでいった。
あの時の沙慈の泣き顔を忘れたことなど一日たりともない。
だから、自分は死ぬわけにはいかない。
無事に帰ってきて、そのうえで真実を突き止めて見せる。
そんな決意をしながら絹江はイオリアの取材を続行することとなる。



ひょっとしたらこの時すでに彼女の運命は決まっていたのかもしれない。






ユニオン アメリカ MSWAD基地

「オーバーフラッグス?」

「ああ、対ガンダム調査隊の正式名称だ。公にはフラッグのみで形成された第8独立戦術飛行隊として機能することになる。」

「パイロットの補充はあるんですか?」

「だからこそ、ここにいる。」

グラハムが空に視線を向けるのにつられ、ダリルとハワードも上を見上げる。
そこには、白い飛行機雲を発生させながら優雅に飛ぶ12機のフラッグがいた。

「12機も!?」

「あの機体のマーキング……」

ハワードは手に持っていた双眼鏡で先頭のフラッグの腕に着いたマークを拡大する。

「先頭を飛んでいるのはアラスカのジョシュアか!?」

拡大したまま他のフラッグのマークも見る。

「ジョージアのランディ、イリノイのステュアートまでいやがる!」

「各部隊の精鋭ばかりだぜ……」

豪華な顔触れにダリルは思わず感嘆のため息をついてしまう。
だが、グラハムの口からさらに信じられない報告を聞くこととなる。

「驚くのはまだ早い。プロフェッサー・エイフマンの手で、フラッグ全機がカスタム化される予定だ。」

「本当ですか!?」

「嘘は言わんよ。」

グラハムの顔に笑みが浮かぶ。

「調査隊が正規軍となり、12人ものフラッグファイターが転属……かなり大掛かりな作戦が始まるとみた。引き締めろよ!」

「「了解!!」」

二人の姿を見てグラハムは頼もしさを感じる。

(これならば、今度こそ一矢報いることができるやもしれんな。)





人革連 砂漠地帯駐屯基地

何もない砂漠のど真ん中にポツリと人革連の駐屯基地が一つだけ建てられている。
夜になって冷え込んだその外でセルゲイはティエレンを見上げていた。

「出動ですか、中佐。」

いつの間にかやってきていたピーリスから声をかけられる。

「おそらくな。まだ私に作戦の内容は伝えられていないが、我々だけでなく、他のMS部隊にも指示があったようだ。」

「今度こそ、任務を忠実に実行します。」

この前からピーリスは少し治ってきていた機械的な感じが戻ってきてしまった。
よほどあの時言われたことが堪えたようだ。

「……気負うなよ。」

「了解!」

ピッチリとして機械的な敬礼の後、ピーリスが去っていく。
そして、入れ替わるようにミンがやってくる。

「……あの子のことを考えているのですか?」

「……わかるか。」

「わかりますよ。私も同じことを考えていましたから。」

ミンは悲しそうに笑う。

あの後、セルゲイはユーノに関する報告を行わなかった。
ピーリスは猛反発をしたが、彼女を除くあの場にいた全員がその意見に同意した。

「私はまだあきらめたくないのだよ。できることなら彼を救いたい。」

「そのことで少しお話がありまして……」

「?なんだね。」

セルゲイが首を傾げる中、ミンは意を決したように大きく息を吸い込む。

「彼を保護したら、私の養子に迎えようかと思うのです。」

「なに?」

「彼が罪を償って社会に出てきたときに、帰ってこれる場所を用意してあげたいんです。」

「ふむ……」

セルゲイはあごに手を当てながら思案する。

「二度も助けてもらった礼……というわけじゃないんですが、せめてしてあげられることはしてあげたいんです。」

「なるほどな。ところでこのことは君の奥さんには……」

「次の作戦が終わったら話そうと考えています。」

「そうか……そういえば、確か子供が生まれたといっていたな。遅れてしまったが、おめでとう。」

「ありがとうございます。でも、正直あまり実感がわかないんですよ。なにせ生まれた時、私はベッドの上でうんうん唸ってましたから。」

二人は苦笑しながら空を見上げる。

「………次も生き残りましょう。」

「ああ。」








プトレマイオス

「少し加速します。加速Gに注意してください。」

「年寄り扱いするな。」

少し渋い顔で自分の気遣いの言葉を聞き流すイアンを見て、アレルヤはフッと笑う。

「ご無礼。」

そう言ってプトレマイオスを加速させると、イアンはやはり少しつらそうな顔をする。
が、

「だ、大丈夫だ!!」

「そ、そうですか?」

こうして一抹の不安を抱えながらもアレルヤ達は目標地点である地球周辺まで進んでいくのであった。



別荘 地下室

「どうです?」

「私とヴェーダの意見が一致したわ……」

少し疲れた様子でスメラギはティエリアの問いに答える。

「紛争が起こるというのですか?」

「確実にね。」

「場所は?」

スメラギはモニターの上へと視線を向ける。

「中国北西、タクラマカン砂漠……濃縮ウラン埋設地域。」

「濃縮ウラン……」

「どこの組織か知らないけれど、ここの施設をテロの標的にしてる。ユニオンか人革かがこの情報をリークして演習場所に選んだのよ。施設が攻撃されれば放射性物質が漏出し、その被害は世界規模に及ぶわ。」

「すぐにでも武力介入を。」

説明を聞いてすぐさまティエリアは自らの意志を伝える。

「敵の演習場のただなかに飛び込むことになるわ。演習部隊はすぐに防衛行動に出るわよ。……いいえ、ガンダムを手に入れるために本気で攻めてくる。」

「それでもやるのがソレスタルビーイングです。」

「ティエリア……」

ティエリアの顔を見て、スメラギは決意が固いものだと理解した。

「ガンダムマイスターは生死よりも目的の遂行、および、機密保持を優先する。ガンダムに乗る前から決まっていたことです。……いいや、その覚悟なくしてガンダムに乗れません。」

そうだ。
ガンダムマイスターである自分はが再びあのような失態を犯すわけにはいかない。
だから、証明しなくてはならない。
自分がガンダムマイスターにふさわしい存在であるということを。





アイルランド

「了解だ、アジトに戻る。」

夜の道路を愛車で飛ばしながら通信をしたロックオンの表情は自然と厳しくなる。

「こいつはヘビーだな……手加減はできそうにないな!!」

アクセルを思い切り踏み込まれた車は道路とタイヤとの摩擦音をあげながら車のない道をひた走った。




プトレマイオス

プトレマイオスからキュリオスが光とともに飛び出していく。
その中にいるアレルヤは先ほど聞いた情報のせいで憂鬱な気分だった。

「これが世界の答え……」

世界を変えようとした者たちに対する人々の意志。
だが、それを認めるわけにはいかない。
アレルヤはキッと顔をあげて前を、地球を見据える。

「GN粒子最大散布。機体前方に展開。キュリオス、大気圏に突入する!」







地中海 ショッピングモール

『了解、指定時間に合流する。』

「うん、お願いね。」

荷物をすべてユーノに持たせて手が空いているクリスティナは刹那に連絡を終了する。
しかし、

「え!?なんで!?」

彼とエクシアがどこにいるのか表示された瞬間、焦りで言葉を失ってしまう。

「どうかした?」

「!!う、ううん!なんでもない!」

ユーノに突然声をかけられて焦るが、なんとか取り繕う。

「?あっそ。」

ユーノが向きを変えるとクリスティナはホッと息をつく。

(もう……勝手なことしちゃって。怒られても知らないから。)

彼女の持つ端末の地図の上にはエクシアを示す点がアザディスタンにあった。






アザディスタン 王宮

マリナは浅いまどろみの中にいた。
マスードが戻ってきてからも争いが絶えないこの国のことを考えているとなかなか寝付けなかった。
そんな時、彼女は冷たい夜風が肌に当たるのを感じた。

(…………?)

窓は閉めているはずだから風などはいるはずがないのだが、確かに風を感じる。

「ん………うん……」

薄く眼を開けて窓を見る。
閉めたはずの窓が開いている。
閉めたつもりが忘れていたのかと思ったが、そこから影が徐々に部屋に近づいてくる。

「?」

起きたばかりで意識がはっきりしないせいで事態を把握できないが、少しづつ意識を覚醒させていく。

「そこにいるのは誰?」

影の主は彼女の眠るベッドのそばまでくる。
月明かりに照らし出されたその顔は、幼さを残しながらも鋭い眼差しをしたあの少年のものだった。

「せ……刹那・F・セイエイ……どうして?」

なぜ彼がここに来たのかわからない。
彼がこの国を訪れるとすれば武力介入を行うためであって自分のところに来るためではないはずだ。
しかし、現に彼はここに来ている。
マリナが混乱していると、刹那が口を開く。

「……なぜ、この世界は歪んでいる。」

「え……?」

「神のせいか……?人のせいか……?」

「……………………」

突然の質問だった。
刹那はそれきり何もしゃべらない。
ただ、マリナをまっすぐ見つめている。
自分が納得する答えを言うのを待っているかのように。
だが、そのまっすぐさからたまらずマリナは刹那を避けるように視線を落としてしまう。

「……神は平等よ。……人だってわかりあえる。でも……どうしようもなく世界は歪んでしまうの。」

答えになどなっていない。
そんなことはマリナ自身がよくわかっている。
だが、今はこれだけしか思いつかない。

(だから……時間をちょうだい、刹那。私はあなたの納得する答えを………)

声に出そうとするが、思っていることとは違う言葉が口から出てしまう。

「だから、私たちはもっとお互いのことを……」

顔を上げた時、刹那はもうすでにそこにはいなかった。

(夢……?)

そんなはずはないと窓によって外を見る。
そこからは星が輝く夜空の中に緑色の淡い光の点が月へと向かっていく姿が見えた。

「刹那……」

マリナは後悔していた。
今、言わなければもう二度と刹那の問いに答えることができない。
そう思えて仕方がなかった。



刹那はエクシアの中でマリナの答えをかみしめていた。
自分とは違う方法で世界を変えようとしている彼女なら答えてくれると思った。
だが、教えてはくれなかった。
わかったことは世界をゆがませるのは神でも、そして人でもない。
だとしたら、

(何が歪んでいる……それは、どこにある……!)

その問いの答えは今の自分の中にはない。
ならば、探し出すまでだ。

(俺とエクシアで……!!)







AEU フランス 外人部隊基地

さまざまな人種が集まる外人部隊基地の指令室にスーツを着た赤髪の男がソファーに座ってデスクに座っているAEUの士官と話している。
髪を髪留めで後ろにまとめ端整な顔立ちをしているが、浅黒い肌をしているせいか粗野な印象も受ける。

「我が隊に極秘任務ですか。」

「詳しくは指令書を読んでくれ。この私ですら知らされていない。」

司令官は嫌なことでも思い出したのか不愉快そうに顔をしかめる。

「私に与えられた任務はこの指令書とアグリッサを君に渡すことだ。」

「アグリッサ?第5次太陽紛争で使用した、あの機体を……」

「機体の受け渡し場所も、資料に明記されている。」

男は薄く笑った後、立ち上がって司令官に敬礼する。

「了解しました。第4独立外人機兵連隊、ゲーリー・ビアッジ少尉、ただいまを持って極秘任務の着手します。」







外人部隊基地の外で、髪留めを外しながら男は笑う。

「フフフ………ヘヘヘヘヘ………楽しくなってきたじゃねぇか……」

その顔は先ほどまでの爽やかな印象はなく、凶暴なものに変わっている。

「こりゃ戦争だぜ……そりゃもうとんでもねぇ規模のな!!ハハハハハハハハハハハ!!」

ゲーリー・ビアッジこと、アリー・アル・サーシェスの笑い声が夜空に響き渡った。









間もなく、マイスター達は世界と向き合うこととなる。
悪意も、希望も存在する世界と……









あとがき・・・・・・・・・という名の希望的観測

ロ「いろいろ準備中の22話でした。きっと皆様満足して……」

ク「いいわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「ぐはぁぁぁぁぁ!!!い、いきなり何すんの君!!?出て来るなり人の顔殴りやがって!!親父にもぶたれたことないのに!!」

ユ「それどっちかっていうとリボンズが言ったほうが……」

ク「それは言っちゃ駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ユ「ドゥブッハァァァァァァァァァ!!!?!?」

ム「………ええと、クリスが無茶(?)ばかりする人たちを押さえてる間にゲストの紹介に行くっス。今日のゲストは眉毛犬第1号、今はロリっ娘、アルフさんっス。」

豆犬「あんたかなり失礼なやつだね。あんまりお痛するとガブッといくよ。」

ロ「うっさい、このいじめっ子。いたたたた………」

豆犬「あれあんたがやらせたんだろうが!!」

ク「でもあれはやりすぎだよねぇ~。正直かなりドン引きした。」

豆犬「えぇぇぇぇぇっ!!?なんで私のせい!!?」

ム「だってそうでしょ。ほら、ユーノなんてあっちで血の海で倒れてるっス。」

豆犬「それそこの女がやったんだろうが!!」

ク「私そんなことしないもん、てへっ♪」

ロ「取り繕っても無駄だと思うぞ。あんなケン○ロウ顔負けの暗殺拳法……」

ク「石破天○拳ーーーーーーーっっ!!!!!」

ロ「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ユ「ししょおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

ロ「グハッ……!ド○ン……見よ!東方は!」

ロ・ユ「「赤く燃えているぅ~!!」」

ロ「ぐほっ!」

ユ「ししょおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

豆犬「……ねぇ、なにあれ?」

ム「いつもの悪乗りっス。」

豆犬「………もう解説行こう。」

ム「そうっスね。」

ク「それにしても冒頭のあれはやりすぎじゃない?」

ム「かなりえげつなかったな~。」

豆犬「あんなもんリリなのじゃねぇぇぇぇぇ!!!!って人たちはごめんなさい。いや、ホントに。」

ロ「まあ、あれはユーノの罪悪感で脳内補正がかなりかかってるからな。正直書いてる俺もどうかと思ったけど。」

ユ「………と、ところでクリスとリヒティに魔法がばれちゃったね。」

ク「(話そらした。)なんで私たちだけなの?」

ロ「はっきりとばれる奴らは967、フォン、お二人さん。あともう一人にもばれる。ちなみにそのもう一人ももう決まってる。」

ム「いや、だからなんで?」

ロ「967とフォンを除いた皆様、つまりお前らの共通点は?」

ク「それはまあ……」

ム「最終戦で……」

ク・ム「「……………………」」

ロ「そういうこと♪」

ク・ム「「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

ユ「じゃあ、もう一人って!?」

ロ「そ、あの二人のどっちか。てかもう確定したも同然だけど。」

ク「そうじゃなくて私たち原作通り確定!?」

ロ「何期待してんの?当たり前だろ。」

ム「ヒドイっスよ!!」

豆犬「諸行無常。」

ク「うっさい!!」

ユ「それよりクリスたちとのショッピング中僕どうなってんの?なんかいやな予感しかしないんだけど。」

ロ「基本書く予定はないけど気が向いたらサイドで……」

ユ「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

豆犬「いいじゃん。面白そうだし。」

ク「ユーノのあんな姿やこんな姿が……」

ユ「え!?なにされんの!?僕何されてたの一体!!?」

ロ「余裕があれば書きたいなぁ。」

ク「是非に♥」

ム「なんかやばい世界の扉が開きそうっスね。」

豆犬「しかし、今回は戦闘がなかったね。」

ロ「準備の回だから仕方がないんだよ。」

ク「そればっかね。」

ロ「次回は戦闘づくめだから安心しろ。」

ム「それ安心していいの?」

豆犬「だって戦闘なしばっかでもあれだろ。」

ユ「というわけで次回は結構凄そうです。」

ク「じゃ、その期待の次回予告にゴー!!」

ロ「リークされた情報が原因でタクラマカン砂漠で紛争が発生!」

ム「そして、罠だとわかりながら死地へと赴くマイスターズ!!」

ユ「マイスターズは圧倒的物量差の前に苦戦を強いられる!」

ク「はたしてこの危機を乗り切れるのか!?」

豆犬「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!それじゃあ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 23.嵐の中へ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/20 13:07
タクラマカン砂漠

白み始める薄い闇の砂漠をいくつもの緑色の点が埋め尽くしている。

『双方向通信システム全機、予定ポイントに設置完了!』

『ユーロ2より入電!これより浮遊型双方向通信システムの散布を開始する!』

空を飛んでいた飛行機から大量の丸い浮遊物が落とされ、同じように緑の光を放ち始める。

『ユニオン3からの通信も通信状況、オールグリーンです!』

『シミュレートプラン、オールクリア!』

この時をもって、部隊総数52、参加MS832機という空前絶後の作戦の幕が上がった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 23.嵐の中へ


タクラマカン砂漠

早朝、音一つしない砂漠の真ん中に轟音を響かせながらとある施設に近づく3機のアンフと4台の車があった。
濃縮ウランが保管されたその施設に向かう者などそうはいない。
いるとすればテロリスト、そして、そのテロリストを狩る存在ぐらいのものである。

遥か上空、キュリオスに乗って雲の中を突き進むデュナメスは狙撃用のカメラアイを展開する。

「アレルヤ、速度と高度を維持しろ。……うおっ!?クッ!」

突然の揺れに照準がぶれる。

「機体を揺らすな!」

「…無理言いすぎ。」

無茶な注文をつけてくるロックオンにアレルヤは困ったように笑うと、キュリオスを雲の中から飛びださせる。
見下ろすとアンフ達はすでに施設への攻撃を開始している。

「いたぞ!今度は揺らしてくれるなよ!」

「了解!」

地上と水平に移動するキュリオスの上でデュナメスは狙いを定める。

「デュナメス、目標を狙い撃つ!」

放たれた光弾は一機のアンフの頭部を穿つ。
続いて放たれた二発の弾も見事アンフ達をとらえ爆散せしめる。
そして、ロックオンは仲間がやられたにもかかわらずそのまま施設へと向かうトラックを補足する。
引き金を引くたびに車から信じられないほどの爆炎があがる。
どうやら爆薬を仕込んでいたようだ。

「全弾命中、全弾命中。」

「離脱するぞアレルヤ。」

『了解。』

狙撃用のスコープを戻すロックオンだが、モニターに異変が表示される。
複数の熱源がこちらに向かって飛んできている。

「!?敵襲!」

反応に気付いたアレルヤはかわそうとするが、反応が途中からさらに増加する。
そして、分裂したミサイルの爆発によって二機は激しく揺さぶられる。

「ぐああぁぁ!!」

「敵機接近!敵機接近!」

「チィ!くそ!」

ミサイルの爆煙の中から飛び出した二機の前に無数のリアルドが出現する。

「ロックオン!!」

「わーってる!!」

ロックオンはすぐさまスコープを降ろして狙撃を開始する。
そして、キュリオスから離れ腰に装備されたミサイルを発射する。
キュリオスもテールユニットからミサイルを放出して迎撃に当たる。
二機の猛攻を受けたリアルド部隊は大量の被害を出すが、それでもまだまだ機体は残っている。
残った機体は攻撃の合間をついて二機へと向かう。
そして、

「!?」

そのまま体当たりをくわえる。
ぶつかった瞬間に生まれた黒い煙と衝撃によってキュリオスはバランスを崩して戦闘機形態のまま地上へと落下していく。

「アレルヤ!!」

仲間の安否を気づかうロックオンだが、自身の周りも大量のMSが取り囲む。
ビームピストルを抜いて応戦するが、文字通り四方八方から飛んで来る弾丸に翻弄される。
そして、何機かのリアルドに抱きつかれてしまう。

「なに!!?」

ディスプレイに映ったリアルド達を見て不審に思うが、表示された文字で狙いを理解する。

「!こいつら!!」

リアルド達は上半身を残した状態で下半身を切り離して離脱していく。
そして、ある程度距離が取れたところで残された上半身が一瞬で爆炎に早変わりする。
そして、デュナメスは力なく空を漂いながら地上に降りていった。

「ロックオン!!」

いち早く地上に降りてMS形態になっていたキュリオスが地上に膝から砂に不時着するデュナメスに駆け寄る。

「ロックオン!」

「大丈夫だ……。」

休む暇なく、今度は別方向から大量の赤い点が近づいてくる。

「ッ!!来るぞ!!」

手前から徐々に近づきながら着弾していくミサイルに対して、二機はそれぞれシールドで防御するが、上空からヘリオンの爆撃、地上からはティエレンと地上型に銃装備にカスタムされたフラッグの砲撃と、猛攻はやむ気配を見せない。

「案の定持久戦かよ!!」

「っ……!これは流石にキツイね……!!」

激しい揺れに襲われながら、ロックオンはある方向を見る。

(頼むぞ……ティエリア、刹那、ユーノ!!)





王留美の別荘

夜の帳が下りた中、街から離れた別荘にはいまだ明かりが灯り続けている。
フェルトはコーヒーメーカーの前に座りながら、容器に濃い茶色の液体がたまり続けているのを見ている。
他のメンバーも静かに情報が入るのを待っている。

「……ファーストフェイズの終了予定時刻が過ぎました。」

「作戦開始から一時間……無事に離脱できればいいんですけどね。」

クリスティナとリヒテンダールの顔には若干の不安がうかがえる。

「……スメラギさんの予測は?」

スメラギは眉の間にしわを寄せながら、ラッセの問いの答える。

「………おそらくは、プランB-2に移行しているはず。」

「……エクシア、ヴァーチェそしてソリッドの投入。」

それは、ロックオンとアレルヤが離脱できなかったということだ。
あくまで予測なのだが、この場にいる全員にとって彼女の言葉そのものがその証拠のように思えた。







タクラマカン砂漠 AEU司令本部

「ユニオン3、初期攻撃に成功!ガンダム二機、TF41-22ポイントです!」

「遠距離砲撃続行!」

「了解!遠距離砲撃続行!」

あわただしく全員が動く中をマネキンの鋭い指示が飛ぶ。
モニターに映された情報は毎秒変化し、状況の変化を伝えてくる。

「キューマ1から有視界暗号!TF21-23へ部隊の派遣を要請してきました!」

報告を受けたマネキンはにやりと笑う。

「やはり手薄の場所を狙うか……第23MS隊を発進させろ!」

マネキンが指示を出した時、パトリックが不満そうな顔で部屋に飛び込んできた。

「大佐!!なぜ私に出撃命令を出さないのですか!!?俺はガンダムを……」

「今は待機だ。」

「しかし!!」

ごねるパトリックにマネキンは鋭い笑みを向ける。

「信用しろ。私がお前を男にしてやる。」

マネキンの言葉に呆気にとられるパトリックだが、すぐさまいつもの自信満々な笑いを浮かべ敬礼をする。

「了解しました!!このパトリック・コーラサワー、大佐の期待にこたえてみせます!!」

「そうか。」

マネキンはあっさりとパトリックの返事を流して前を向くが、彼女は多少ではあるが彼に期待していた。

(………シミュレーションエースとは言え、腕前はそこそこのはずだ。自称エースの腕前を見せてもらおうか。)

だが、彼女はこの時一つ大きな誤解を生んでしまっていたことを知らなかった。

(男にしてくれるってやっぱ………クゥゥゥッッ!!よっしゃ!!やってやるぜぇぇぇぇぇ!!)

流石のマネキンもパトリックの思考回路を読みきるのは不可能だったようだ。





タクラマカン砂漠 東部

スリープモードのエクシアのコックピットで目を閉じて待っていた刹那にヴァーチェに乗るティエリアから通信が入る。

『ミッションプランをBー2に移行する。』

「了解。エクシア、外壁部迷彩被膜解凍。ミッションを開始する。」

刹那の声に反応し、エクシアは砂漠の一角にその姿を現す。
二本のGNブレイドを装備した万全の状態で肩のセンサーを起こして立ち上がると、隣にいたヴァーチェもそれに続く。
その時、近くを巡回していた二機のリアルドがエクシアとヴァーチェを発見する。

「ガンダム二機発見!!本部に連絡!」

リアルドのパイロットは即座に本部に連絡を入れるが、エクシアが空へと舞い上がりGNソードで二機を斬り捨てる。
地上に残されたヴァーチェはバズーカを構える。

「ヴァーチェ、離脱ルートを確保する。」

ヴァーチェは胸部のジェネレーターにバズーカをつけ、砲身を伸ばす。

「GNバズーカ、バーストモード。」

伸びた砲身の間に光が徐々にたまっていく。

「粒子圧縮率、97%。GN粒子、解放。」

ティエリアが引き金を引くと同時に溜まった光が巨大な光の柱として放出される。
あまりにも大きいその勢いでヴァーチェの巨体が後ろにさがっていく。
光の柱は砂の大地を削りとり、MSを巻き込みながらあたかも塹壕のような地形を形成していく。
そして、その様子をロックオンたちはしっかりと見ていた。

「ティエリア……!?プランがBー2に移行したのか…」

ある程度予見していたとはいえ、予想外の事態であることには変わりない。
すぐにでも撤退しなくてはならない。

「離脱するぞアレルヤ!」

「了解!」

二機はヴァーチェが作った溝に全速力で向かう。

「ファーストシュート完了。GN粒子、チャージ開始。」

離脱ルートを作り上げたティエリアと刹那は自分たちもデュナメスとキュリオスに続き離脱しようとする。
しかし、そんな二人の後ろから無数のミサイルが出現した。

「この物量は!!?」

「対応が早い!!」

反応が遅れ逃げ遅れたエクシアとヴァーチェはミサイルの雨を受け、炎の壁の中へと取り込まれる。

「ぐああぁぁぁ!!!」

「くううぅぅぅ!!!」

二機はミサイルに押されるような形で地上で動きを封じられる。

「く!ソリッドの援護はまだか!?」

ティエリアは歯を食いしばりながら怒鳴り声を上げる。
しかし、モニターに映ったソリッドを示す点は待機していたポイントから少し離れたところを大量の敵に囲まれて右往左往している。

「クソッ!読まれていたというのか!?」







北部

ティエリアたちがミサイルの豪雨を浴びているころ、ユーノは自分の周りを飛び交うヘリオン達に弄ばれていた。
相手をしようとすれば距離を離され、かといって突破しようとすれば火器の雨あられ。
どうあっても援護に向かわせないつもりだ。
いや、

「まずは僕とソリッドが狙いか!?」

地上すれすれを飛びながらライフルを発射するが、あまりにも距離が離されているため当たらない。

「だったらこのまま!!」

ライフルを前方に乱射しながら突破を図るユーノ。
しかし、後ろからの衝撃でソリッドが顔から砂に叩きつけられる。

「クッ!!」

慌ててソリッドを立ち上がらせるが、その間に来ると思っていた敵からの追撃が来ない。

「やっぱりこいつらの狙いは……!」

「消耗戦か!」

物量にものをいわせ、こちらを追いこんでいくつもりなのだろう。
当然向こうも消耗しないわけではないだろうが、こっちが5人に対し敵は数えきれないほどの人員を抱えている。
だが、ユーノとてそう簡単にやられてやるつもりはない。

「多数が少数を押しつぶすか……どこの世界でもそれだけは変わらないね!!」

そう言うとユーノはソリッドをMSの大群の中へと突っ込ませていった。






王留美の別荘

空が白み始めたころ、空っぽのコーヒーメーカーの前でフェルトは眠っていた。
周りはみんな起きているのだが、まだ幼いフェルトにこの時間まで起きていろというのが酷だとわかっていたので誰も何も言わなかった。

「作戦開始から二時間か……」

「プランBなら、デュナメスとキュリオスは間もなく合流ポイントに到着するはずだけど……」

全く連絡がこないため、リヒテンダールとクリスティナは不安を募らせる。

「せめて……GNアームズが使えれば……」

ラッセは悔しそうに歯ぎしりをする。
GNアームズがあれば自分もマイスター達を手伝うことができるのにそれができないことがどうにも歯がゆい。
全員が不安を見せる中、スメラギは星が消えた空を見上げていた。

(時間からして、プランBー2からE-5に移行しているはず……だとすれば、あの機体が来る。)

そう、キュリオスを、アレルヤを苦しめるあの機体が。

(アレルヤ……)






タクラマカン砂漠 脱出ルート

「ッ!!?うぉっああぁぁっ!!!」

半円形の窪地の中を爆撃をかわしながら突き進むアレルヤに突然の頭痛が襲った。
主のコントロールを失ったキュリオスはその場にばったりと倒れこみ、ピクリとも動かなくなる。

「!?どうした、アレルヤ!?」

後ろからついてきたロックオンが心配して声をかけるが、アレルヤは目を見開いて頭を抱えて苦しむ。

「あ、頭が…………!ううっ!!」

この痛みは知っている。
何度も味わったこの感覚が全力で自分に伝えてくる。

「来る……!超兵が………!!」

「超兵だって……!?」

ロックオンはアレルヤの言葉で思い出す。

「報告にあった人革の専用機か……」

「敵機接近!敵機接近!」

「!!?」

ハロの言葉で溝から上を見上げるが、まだ目視できない。
だが、アレルヤは確かにその存在を感じ取っていた。

「来る!!」

アレルヤの言葉と同時に上空にピンク色のティエレンタオツーが飛び出してきた。

「!!!!!」

それを見て固まるアレルヤとは対称に、ロックオンはビームピストルを抜いて攻撃する。
しかし、ティエレンタオツーはそれをかわすとデュナメスには見向きもせずにキュリオスへと向かう。
キュリオスを捕まえたティエレンタオツーは推進力を増して無抵抗のキュリオスを押し込んでいく。

「アレルヤ!!」

追いかけようとするデュナメスだったが、溝の上から残りの機体の攻撃を受けて足止めされてしまう。

「うっ!!思うつぼかよ!!」

ビームピストルを残ったティエレンに発射するが、溝のかげに隠れてしまい当てることができない。

(クソ!この脱出ルートも考えもんだ……!!?)

ロックオンは思わず目を見開く。
ティエレンが全機消えた瞬間、大量の爆雷が降り注いで来たのだ。

「うあっ!!くぅ!」

砂漠にまっすぐ作られた脱出ルートは敵の攻撃を防ぐには確かに有効なものかもしれないが、逆に言えば敵の目標になりやすく攻撃が集中してくる。
もっとも、このMSの大群から逃れる方法は他にないのかもしれないが。
その証拠に、刹那とティエリアはさらに苦戦を強いられていた。








東部

窪地から少し離れたところでは、エクシアとヴァーチェが身を寄せ合うように砲弾やミサイルの嵐に耐えていた。
やまない攻撃の前に刹那とティエリアは退くことも攻めることもかなわぬまま必死に足を踏ん張りコックピットを襲う揺れに耐える。

「くぅっ!!ティエリア!チャージまでの時間は!?」

『あと170だ。』

ティエリアはあくまで冷静でいようとしているようだが、その表情は明らかに苦しそうだ。

「長すぎる……!」

刹那は歯噛みをしながらこちらに向かってくる攻撃の数々を睨む。

(あと170秒もこれを耐えなくてはいけないのか!?)







脱出ルート

ピーリスは押し倒したキュリオスの上に満足そうにティエレンタオツーの足を乗せてゼロ距離から砲弾を撃ち込んでいく。

「うわあああぁぁぁぁぁっ!!」

キュリオスの中にいるアレルヤは叫ぶが、もはや脳を突き刺すような痛みに対してなのか攻撃の衝撃に対するものなのかわからない。
アレルヤの悲鳴に対し、ピーリスは無慈悲なまでに何度も砲弾を撃ち込む。

「ぐあああああぁぁぁぁぁっ!!」

「今度こそ……今度こそ任務を完遂させる!超兵として!」

『…………おい。名前は?』

突然、相手から入った通信にピーリスは攻撃しながらも戸惑う。

「通信……!?」

『教えろよ……』

「超兵一号、ソーマ・ピーリス少尉だ!」

『ソーマ・ピーリスか………いい名前だ。殺しがいがある……!」

「!!!!!」

突然キュリオスの持っていたシールドが開き、中から刃がティエレンタオツーに向かって突き出された。
しかし、本能的に危険だと察知していたのか、ピーリスはタッチの差で操縦桿を少しずらして紙一重でかわす。
と、そこに上からミンの駆るティエレンの援護射撃が降り注ぐ。

「いったん離れろ、少尉!!」

「中尉!?」

「早く!!」

ミンが一喝するとピーリスは体をびくりと震わせキュリオスから離れる。
ティエレンタオツーが離れると、キュリオスはゆっくりと立ち上がる。

「チッ………つまんねぇなぁ。あとは任せたぜアレルヤ………」

狩りの対象が逃げてしまったせいで興をそがれたハレルヤはうつむいて目を閉じる。
そして、

「ハレルヤ!?ぐぁ、あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

先ほどまでの頭痛から解放されたアレルヤが目を覚ますが、今度はティエレンからの攻撃にその身をさらされることとなった。








北部

「はぁはぁ………」

どうにかヘリオン部隊を退けたユーノは肩で息をする。
まだ脱出できていないにもかかわらず額には大粒の汗がにじんでいる。

「大丈夫か?」

「うん……みんなを………援護しに行かな…………ぐあっ!?」

背中を襲った突然の衝撃にソリッドは再び倒れる。

「新手か!?」

967は慌てて後方を確認すると砂煙をあげながらティエレンの波がこちらに押し寄せてきていた。

「ティエレン!?まさか指揮をしているのは!?」

ユーノはティエレン部隊と向き合い、先頭を走ってくる指揮官機を見据える。

「セルゲイさんか!」

「全機、鶴翼に陣形を展開!砲撃開始!!」

セルゲイの一声でそれまで横に一直線だったティエレンたちが端から徐々に曲がっていき、すべての砲門がソリッドに向く。

「これは………マズイ!!」

ユーノは慌ててティエレンたちへとソリッドを突っ込ませていく。
次の瞬間、先ほどまでソリッドのいた場所に巨大な砂の柱があがる。
いや、それどころかその柱はソリッドを追いかけていく。
しかし、セルゲイの乗るティエレンの近くまで行ったところで砲撃が止む。
ソリッドはブレードモードのアームドシールドをセルゲイ機に振り下ろすが、セルゲイはそれをカーボンブレイドで上手く受け止める。

「セルゲイさん!!」

「やはり来ていたかユーノ君!!」

「退いてください!!あなたとは戦いたくない!!」

「無理だな!!私は君を救うまで君たちを追い続ける!!」

「ク!!」

ソリッドは鍔迫り合いを放棄して空高く舞い上がる。
地上から砲撃を受けるがGNフィールドで受け流しながらセルゲイ達の来た方向に行くことで距離をとっていく。

「967、グラムをスタンバイ!!」

「了解!」

ユーノは逃げながら足元にグラムを撃ち込んでいく。

「さぁ来い!!」

しかし、ユーノの考えが読まれているのか、グラムが撃ち込まれた場所を避けてこちらに向かってくる。

「クソ!967、グラム発動!」

ユーノの合図と同時に瑠璃色の粒子と電撃が発生するが、比較的近くにいたティエレン2、3機の動きが少し鈍った程度だった。

「やっぱりもっと引きつけないと駄目か!967、もう一度……」

「無理だ!さっきのヘリオンと今ので全部使い切った!」

メーターを見てみると確かに残弾数はゼロだ。

「仕方ない、全力で逃げるよ!!」

「了解!!」

ソリッドは方向転換して脱出ルートに近づくように西に向かって飛んでいく。
そこが地獄に通じる一本道だとは知らずに。








某国 某ホテル

「作戦開始から五時間か。」

アレハンドロは夕焼けに染まった美しい砂浜を見ていたが、ゆっくりとどこかへ歩きだす。

「どちらへ?」

「他の監視者たちの意見を聞きに行く。……私の仕事もここまでかもしれんしな。」

夕日に照らされた主人の背中を見て、呆れながらリボンズは笑う。

「そんな気なんかないくせに。」

そう、これからのことについて考えているアレハンドロがこんなところでやめるはずがない。
そのことをリボンズだけが知っていた。

「………大人は嫌いだね。」







タクラマカン砂漠 脱出ルート

もう、夕日も落ちて暗くなり始めた空のもとではいまだに爆音と炎の赤白い光が砂漠を支配していた。
脱出ルートの中で、キュリオスはGNフィールドを張りながら身動き一つせずに攻撃に耐えていた。
しかし、キュリオスは平気でも中にいるアレルヤの体力はピークに達していた。

「いつまで続くんだ……この攻撃は………うっ!!」

そして、別の場所ではデュナメスもまたフルシールドに身を包んで砲撃を耐えていた。

「飯ぐらい食わせろって………ぐああぁぁっ!!」






東部

無数の砲撃に耐えていたエクシアが遂に膝をつく。
しかし、その後ろにはバズーカを構えたヴァーチェがいた。
砲身に溜まった光を一気に放出するが、距離をとったヘリオン達にかする気配すらなく虚空へと消えていく。

「く……はぁ……ガンダムを渡すわけには……!」

「はぁはぁ………っ、はぁはぁ………」

すでに二人のヘルメットには飛び散った汗が大量についており、そのことからも戦闘の続行が厳しいことがわかった。







北西部 脱出ルート付近

なんとかティエレン部隊を振り切って脱出ルートまであと一歩と言うところまでこぎつけたユーノだったが、今度はリアルド部隊に捕まり、執拗なまでの自爆攻撃を受けていた。

「ぐああああぁぁぁぁっ!!」

またとりついた一機が上半身だけ残して離れ、それを爆発させる。
地上に落ちたソリッドに今度はフラッグたちの砲撃が加えられる。

「ク!!」

再び空に上がるソリッドだったが、再びリアルドに捕まり自爆される。

「うわああぁぁぁぁぁっ!!」

もう何度繰り返したかわからないこの連鎖に疲労が極限を超えて蓄積されていく。

「………ける、もんか。お前達……なんかに………負けるもんか………!!」




消耗しきったマイスター達。
しかし、そこに日本は沖縄から最悪の増援が向かおうとしていた。





沖縄 海上

夜であっても陰ることのない美しい沖縄の海の上に、巨大な空母がいくつも浮いている。
そして、そこには漆黒の対ビームコーティングを施されたフラッグが並んでいた。

『オーバーフラッグス隊、ミッションレコードクリア!』

「了解した!グラハム・エーカー、出るぞ!」

滑走路から夜空へと舞い上がったフラッグたちはまっすぐにタクラマカン砂漠を目指していった。








東部

「せ………戦闘開始から十五時間……ぐあっ!」

GNフィールドの中にいるヴァーチェの中でティエリアはモニターに表示された数字で確認をとるが、もう今がいつなのかすらわからないし、どうでもいい。
とにかくこの状況を抜け出すことだけが頭を支配している。
そして、ヴァーチェに生み出したGNフィールドの中で膝をつくエクシアの中の刹那にいたっては確認をとることすらできないほど疲労していた。

「……はぁはぁ………はぁはぁ……」

そんな時、急に攻撃がやむ。
先ほどまでとはうって変わって静寂があたりを支配する。

「……なんだ?砲撃が止んだ……?」

『離脱する!』

「!了解!!」

ヴァーチェは地上から、エクシアは上空から撤退を開始する。
しかし、

「見つけたぜ!ガンダム!!」

パトリックの駆るイナクトが後ろからヴァーチェのまえに躍り出る。
ヴァーチェはバズーカを発初するが当たらない。

「どうしたぁ!?動きがのろいぜガンダム!!」

パイロットであるティエリアが疲労しているのだから動きが鈍くなっていて当然なのだが、AEUの(自称)エースであるパトリックはそんなことなど気にしない。

「やれ!!」

両肩に板状のものを乗せた四機のヘリオンが彼の号令に従いヴァーチェを取り囲む。
そして、肩の板を前に倒すと対象の構造物質を磁気化する力場、リニアマグネティックフィールドでヴァーチェを抑え込む。

「ッッッ!!!!!ぐあああぁぁぁああぁぁぁぁあっぁぁぁぁっ!!!!!」

リニアマグネティックフィールドの影響で電気椅子に座らせられているような激痛がティエリアを襲う。

「ガンダム確保!!」

「よくやった!!俺のおかげだな!!」

パトリックは(何もしていないのだが)満足そうにうなずく。
だが、彼の言葉に同意する者は誰もいなかった。






脱出ルート

闇の中でも目立って見えるピンクの足がキュリオスに当たると、そのまま重力に従って倒れていった。

「中尉、羽根付きを鹵獲します。」

「注意しろよ少尉。以前のように突然動き出すかもしれない。」

「了解!」

ティエレンタオツーと周りのティエレンは腰に装備されたカーボンネットでキュリオスの動きを完全に封じ、砂の上を乱暴に引きずっていった。







「クソ!いい加減にしやがれ!!」

ロックオンは真上にライフルを向けて何度も発射して上を飛び交う敵を牽制する。
とそこに、アザディスタンで見たタイプと同じフラッグが上空から現れ横につける。
だが、その動きは以前であったものとは違い、かなり雑だ。

「邪魔だ!」

デュナメスは左手のビームピストルを向けて引き金を引く。
放たれた閃光はコックピットを貫き爆発を起こす。
しかし、即座に同じタイプのフラッグが殺到してきた。

「なめるな!!」

ロックオンは先頭の一機を狙い撃つが、あっさりとかわされる。

(あの動き……アザディスタンの時の奴か!!)

だが、それだけが外した原因ではない。
その証拠に、体に、特に目に続くスナイパーの命である指先が痙攣したように震えてきている。

「指先の感覚が……!」

「抱きしめたいな……ガンダム!!」

グラハムの駆るカスタムフラッグが地面すれすれまで接近したかと思うと、変形してデュナメスを飛びつくような形で押し倒す。

「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!」

衝撃でスコープから目が、そして引き金からは指が離されてしまう。
慣性に従って地面を滑って止まると、カスタムフラッグはデュナメスの頭を掴む。

「まさに……眠り姫だ!」

姫を扱うにしてはあまりにも乱雑な扱いをしながらグラハムは恍惚の表情を浮かべた。







北西部

「はぁはぁ………みんなを……助けなきゃ……」

疲れ切った体に鞭を打ってユーノは操縦桿を動かす。
が、後ろからこちらに来る砂煙に気付く。

「セルゲイさん………もう、追いついたのか……」

汗がついて前が見えにくくなったバイザー越しに後ろから来る集団を悲しそうに見る。

(………違うと信じていたのに。あなただけは、アイツらのような……管理局のようなことだけはしないと信じていたのに………)

テロを利用して自分の大切なものを奪おうとする。
この世界の軍人はそんなことだけはしないと思っていた。
もちろん、自分たちのしていることは許されることではない。
だが、それでもここでも同じ思いを味合わされると悲しさで胸が埋め尽くされていく。

「僕は………」

「!?ユーノ上だ!!」

「!!?」

疲労から気を緩めていた。
いつの間にか大量のヘリオンとイナクトで空が埋め尽くされていた。
そして、肩に板をつけた四機のヘリオンがソリッドの周りを取り囲む。
そのままソリッドは逃げる暇もなくリニアマグネティックフィールドで押さえこまれてしまう。

「ぐ、あああああぁぁぁぁああぁぁっぁぁああぁぁっっ!!!!!!」

「くうううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

人体だけでなく機械にも影響が出るので967も今まで見せたことがないほど苦しみ出す。

「しまった!!!!」

その様子を見ていたセルゲイは焦る。
AEUはアフリカ、モラリア、さらには弾道ミサイル発射阻止などのミッションでソリッドにかなり痛い目にあわされている。
そのソリッドのパイロットであるユーノはAEUに捕らえられれば何をされるかわからない。
セルゲイはヘリオン部隊に近寄る。

「人類革新連盟のセルゲイ・スミルノフ中佐だ。そのガンダムをこちらに渡してほしい。」

ヘリオンのパイロットたちは最初は呆気にとられるが、次の瞬間大声で笑い始める。

「ハハハハハハハハ!!!それは無理ですな中佐殿。このガンダムを鹵獲したのは我々です。そちらに引き渡す義理はありませんな。」

「なら、パイロットだけでも………」

「無理です。何やら思い入れでもあるようですが、そこで指をくわえて見ていてください。」

あざけるようなヘリオンのパイロットの声に歯ぎしりをしながらセルゲイはソリッドを見つめるしかできない。
だが、この時は誰も知らなかった。
この後、最悪の惨劇が起こることを………






北東部

ティエリアとはぐれてしまった刹那は砂漠の空を飛んでいた。
朝焼けでキラキラと砂が輝く光景が幻想的だが、刹那にはそれを楽しむ余裕などありはしなかった。
疲労と眠気で意識を手放しそうになる中、必死で操縦桿を握る手に力を込め、仲間のガンダムを探す。

「……他の…マイスター達は……」

その時、コックピット内に響いた電子音で刹那の意識は無理やり覚醒させられる。

「三時の方向に敵影!?」

視線をやると上りゆく太陽をバックに、こちらに近づいてくる巨大な何かがいた。

「MA!?」

大きな赤い長円型の下半身の上にイナクトの上半身がくっついているという何ともアンバランスな姿をしているが、刹那が注目したのはそこではなかった。
上半身に使われているイナクトには見覚えがある。
細かな違いしかないが忘れるはずがない。

「あのイナクトは!!」

イナクトはゆっくりとこちらにライフルの銃口を向ける。

「この前の借りを返してもらうぜ……えぇ!?ガンダムさんよぉ!!」

サーシェスの声とともに弾が何発も放たれる。
エクシアはそれらをすべて避けるが、接近してきた赤い機体、アグリッサに対応しきれず体当たりをくらう。
MSの何倍もの質量があるMAに激突されたのだから、その衝撃は半端なものではない。
エクシアは無様に砂の大地に叩きつけられ力なく四肢を伸ばす。

「う……あ………」

刹那はなんとかエクシアを起き上がらせようとするが、体に力が入らない。
そこに、体の横に折りたたんでいた6つの足を展開したアグリッサがエクシアの上に覆いかぶさるように着地する。

「フ……逝っちまいな。」

足の一本一本が光ったかと思うと、凄まじい電撃がエクシアを包み込んだ。

「うわああああぁぁぁぁぁああぁっぁぁあぁあっ、ぐぅ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

焼けるような痛みと凍りつくような痛みが同時に襲い、全身の筋肉が弛緩する感覚で刹那は叫び声を上げる。

「どうだぁ?アグリッサのプラズマフィールドの味は?機体だけ残して消えちまいな、クルジスのガキがぁ!!」

サーシェスの言葉も今の刹那の耳には届かない。
瞳孔が開き、体中を痙攣させる刹那には目の前の光景すら見えているのかどうか怪しい。

そんな中、刹那の脳裏にはクルジスの少年兵として戦っている自分の姿が浮かんでは消えていっていた。
両親に数を向ける自分。
銃を持って廃墟となった街を駆け抜けている自分。
親友を止められなかった自分。
大勢の人間を殺した自分。
なににもなれない自分。

(死ぬ………死ぬのか……?この歪んだ世界の中で……………なににもなれぬまま…………失い続けたまま……朽ち果てるのか………?)

そして、ガンダムを見上げて涙をこぼす自分。

「……ダム…。ガン………ダム……」

無意識のうちにエクシアの手を動かすが、わずかにしか動かない。
そして、刹那は意識を手放そうとする。

その時だった。
上空から赤い閃光が何度も駆け抜け、アグリッサを穿つ。
サーシェスは慌ててイナクトをアグリッサと分離させて離れる。

「な……なに!?」

サーシェスは閃光の飛んできた方向にイナクト向ける。
刹那もまた意識がはっきりしないまま空を見上げる。

「あれは…………」

背中から赤い光を翼のように放ち、悠然と自分を見下ろす赤い機体。
姿かたちは違えど、その様子からそれが何なのかはわかる。

「ガン……ダム………」

刹那はエクシアの中で必死に空へと手を伸ばす。

「ガン……ダム………!」

あの時自分に生きるきっかけをくれた存在。
自分が今ここにいる理由そのもの。

「ガン……ダァァァァァァムッ!!!!」









その赤いGN粒子が照らし出す未来は希望か、それとも………





あとがき・・・・・・・・・という名の遂にここまで来ちゃったよオイ

ロ「マイスターズボッコボコ、いいとこなしのタクラマカン砂漠編1でした。」

兄「あとがきで最初に言うのがそれかよ。」

ティ「無能な君に言われたくはない一言だったな。」

ロ「うるさいヴェーダ中毒。アニメじゃお前が一番最初に捕まったくせに。」

ティ「うるさい!!時系列的には大体一緒だろう!!」

ユ「でもちっちゃいお子さんたちは間違いなくティエリアが一番最初に捕まったと思っちゃうよね。」

ティ「そもそもガンダムは大人向けだ!!」

ア「いや、そんなことはないんじゃ……」

刹「ガンダムファンに怒られる……」

ティ「ぐ………」

兄「ティエリアが泣きそうなのでゲストの紹介に行きます。」

ティ「泣いてなんていない!!グスッ………」

兄「(泣いてんじゃんか……)……え~、ヒロインの姉といういいのか悪いのかよくわからないポジション、ユーノの将来の義姉さん、高町美由希さんです。」

美由希(以降 姉)「どうも、高町美由希です。ていうか私のテロップもこれ以上ないくらい雑……」

ロ「じゃあ『義』をつけてやろう。この作品では一応ユーノが主役なわけだし、テロップもそれに合わせたほうがいいか。うん、そうしよう。」

義姉「いや、それはむしろいやだ………って、もう変わっちゃってる!?」

刹「別に問題ないだろう。なぜそんなにいやがる?」

義姉「いや、私はいいんだけどお父さんがね……『ぜったいなのははあの淫獣にはやらん!』て言いながらMURAMASA研いでたから……」

ユ「なんでMURAMASA!?ていうかなんでローマ字!?竹内の兄貴リスペクト!?ていうか僕死亡決定!!?」

ティ「短い付き合いだったな。」

兄「お前のことは忘れない。」

ユ「諦めんのやめてくんない!?」

ア「でも、この調子だとそのうちゲストで来るよね。」

刹「どうするつもりだ?」

ユ「………あの、その時僕はパスで……」

ロ「無理(笑)」

ユ「そうだと思ったよコンチクショウ!!(泣)」

義姉「まあ、なんとかお母さんもセットで来させるようにするからそれで何とか頑張って……」

ロ「さ、問題が解決したので解説へ行くぞ。」

ユ「あんまりそんな気はしないけど………とりあえず張り切って行ってみよう!」

兄「しかし、ロビンじゃないけどこの回、何度見直しても俺らぼろぼろだな。」

ア「もうちょっとどうにか……」

ロ「だが断る。」

義姉「返答はやっ!」

刹「まあ、“奴ら”を登場させるにはここで俺たちが……」

ロ「ああ、それは関係ない。ただ単に俺がユーノをいじめたかっただけ。」

義姉「ヒドッ!!」

ユ「僕君になんかした!?」

ロ「いや、気分で。」

ユ「君は気分で人をあんな仕打ちにあわせるのか!!?」

ティ「ならユーノだけにしてもらいたかったがな。」

ロ「連帯責任ってやつで。」

兄「なんだよユーノのせいかよ。」

ユ「あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?いつの間にか全部僕のせい!?」

刹「鬼。」

ア「悪魔。」

ユ「君らも悪ノリやめて!!」

義姉「あははは………でも、ユーノをピンチにしたのはそれだけが理由じゃないんでしょ?」

ティ「何?」

ロ「それは次回予告で触れます。ちょびっとだけ。」

刹「しかし、今回は本当に戦闘ばかりだったな。」

ア「世界の悪意が見えるようだよ。」

ロ「脳みその中に悪意の塊みたいなのを飼ってる奴が言うな。」

ア「う……」

義姉「ああ、あの性悪ヤッ○ーマンね。」

ア「中の人ネタはやめて!!というかそれ僕に待てはまるから!!」

兄・刹・ユ「「「ヤッ○ー、ヤッ○ー、ヤッ○ー……」」」

ア「だから駄目だって!!」

ティ(…………面白い。)

義姉「ねえ、なんか眼鏡の人がやばい世界の扉を開いちゃいそうなんだけど?」

ロ「じゃ、そうならないうちに次回予告に行きますか。」

ユ「マイスターの危機に登場した新たなガンダムたち!」

兄「追い詰められたマイスターを救出しようとするがその真の目的とは!?」

義姉「そして、追い詰められたユーノ自身ですら知らなかった能力が最悪の形で覚醒する!!」

ティ「はたしてその能力とは!?」

ア「そして、その時マイスターズとセルゲイ中佐は!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 24.暴走
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/07/21 12:39
4年前 無限書庫

縦にどこまでも続く無重力空間でユーノはフヨフヨと浮きながら検索魔法を駆使しながらいくつもの資料を探し当て、読解し、整理していく。

「……あんたのスピード見てると私たちがここにいる意味があるのか疑わしくなってくるよ。」

最近ようやく覚えた子供形態になっているアルフは若干落ち込んだ様子で本を棚へと運ぶ。
司書として無限書庫で働くことになったユーノのサポートをするためにやってきたアルフだが、この手の作業はユーノの十八番なので手伝うといってもあまりできることはないようだ。
実際、正式に管理局に所属している他の司書たちよりも早く、実質ユーノ一人で整理しているといっても過言ではない。

「ハハハ……アルフがいるからここまで早く出来てるんだよ。」

「ここで謙遜されると嫌味にしか聞こえないよ。」

アルフはため息をつきながら本を棚に入れながらユーノのほうを見る。

「?」

アルフは妙な違和感を感じた。
ユーノの魔法陣が徐々にではあるが大きくなってきている。
そして、無限書庫の棚にまで魔法陣が広がった時にそれは起こった。

「ん?あれ?なんだ、魔法が発動しない?」

下にいた局員からすっとんきょんな声があがる。

「こっちもよ。」

「あれ?俺もだ?」

他の場所にいた局員からも同じような声があがる。
アルフも魔法を発動しようとするが、やはり発動しない。

「どうなってんだ?ユーノ、あんたは使えてるけど一体どうやって……!!?」

唯一魔法が使えているユーノを見てアルフはギョッとする。
魔法を発動し続けているユーノの顔から感情が感じられない。
目には理性の光が宿っておらず、機械のように検索を続けている。

「ユーノッッ!!?」

アルフは慌ててユーノに近づき肩を掴んで体を揺らす。
すると、ユーノの目に光が戻り、驚いた表情でアルフを見る。

「!?ど、どうしたのアルフ!?そんなに慌てて!」

「そりゃこっちのセリフだよ!!あんたなんか変だったけど大丈夫かい!?」

「?いや、別にどうもしてないけど……。何かあったの?」

どうやらユーノはさっきのことを覚えていないようだ。
と、その時。

「お、使えるようになった。」

「俺もだ。ったく、何なんだよ一体。」

局員たちは再び魔法を使って検索を開始する。

「一体どうしたの?」

「さっき魔法が使えなくなって……って、気付いてなかったのかい?」

「え?だって僕は使ってたし……」

ユーノは自分の足元を見る。
アルフもつられて視線を落とすと先ほどまでの巨大化していた魔法陣が元の大きさに戻っている。

(……なんだったんだ?)

「……アルフ?」

「ううん、なんでもないよ。さ、作業に戻ろう。早くしないと飯を食い損ねちまうよ。」

「そうだね。」

アルフは先ほどまでの出来事を頭から消去して作業に取り掛かる。

これがのちに異世界で惨劇を引き起こすことも知らずに…………




魔導戦士ガンダム00 the guardian 24.暴走

タクラマカン砂漠 北東部

夜が明け、日の光がまぶしい砂漠の真ん中に突如出現したガンダム。
そのガンダムから刹那に通信が入る。
刹那たちの使っている物と同じように遮光処理が施されたバイザーのせいで顔が見えないが、声と体型から察するに女性のようだ。

『だいじょぶしてる?エクシアのパイロット君。』

「お前は……?」

刹那の問いに答える前に謎のガンダムのパイロットは顔が見えるように遮光処理を解く。
幼いその顔には明るい笑みが浮かび、彼女の魅力を際立たせている。

『ネーナ・トリニティ。君と同じ、ガンダムマイスターね♪』

(マイスター……だと!?)

ウィンクをするネーナを見ながら刹那はいぶかしげな表情をする。
マイスターは自分たちだけのはずだが、彼女は自分をマイスターと言っている。
最初は以前見たエクシアに似た機体のパイロットかと思ったが、彼女の乗る機体はそれとはまた違う。

「その機体は?」

『ガンダムスローネ三号機、スローネドライ。』

「三号機……?」

『一号機と二号機にはね、ニィニィが乗ってるよ。今頃きっと……』







東部

「全機、フォーメーションを崩すな。そのままガンダムを本部へ連行する。」

ヴァーチェの動きを封じているヘリオン達を先導しながらパトリックは締まりのない顔をする。

「指揮を執ったのはこの俺、パトリック・コーラサワーだ!(これで大佐と……フフフフフ!)」

一目ぼれした上司の顔を思い浮かべると再び顔がほころんでしまう。

「そうさ……ガンダムさえ手に入れば大佐の気持ちだって……」

その時、コックピット内にアラームが鳴り響く。

「ん?」

何事かと思っているうちに、遥か彼方から紅蓮の閃光が駆け抜け彼の乗るイナクトを貫く。

「なぁ!!?おわぁぁぁぁ!!!」

奇跡的にもコックピットを外れていたため上半身と下半身が泣き別れたにもかかわらずパトリックは生きていた。
そして、パトリックに続いてヴァーチェを拘束していたヘリオン達も次々に墜とされていく。
解放されたヴァーチェはそのまま砂漠に着地すると砂の上を滑っていく。

「なんだ……!?」

ティエリアは紅蓮の閃光が放たれた場所を痛みが残る体を動かして見る。
そこには長い砲身を肩に背負った黒い機体がこちらを見ていた。

「目標ヘリオン部隊、大破確認。引き続き、ミッションを続行する。」

こちらに背を向けて飛び去っていくその機体から放たれている光の粒子を見たティエリアは驚くが、痛みからまともに考えることができない。

「あの光は……!?」

しかし、痛みが引くにつれ彼の思考は戻っていき、ある結論に達する。

(GN……粒子だと……!?)







脱出ルート近域

カーボンネットにくるまれたキュリオスを引きずって基地を目指すミン達はある種の達成感で満たされていた。
だが、こういうときほどアクシデントは起こるものである。

「総員、油断するな!羽根付きがいつまた暴れ出すかわからん!」

『『『了解!!』』』

ミンは全員の気を引き締めさせるとセルゲイとユーノのことを気にかける。

(中佐……彼を無事保護できただろうか?)

そんなミンに対し、ピーリスはキュリオスを見ながら憎悪で顔をゆがませる。

(このガンダム……超人機関の施設を攻撃し、私の同胞を殺した……)

ロシアでのことがあってから超人機関そのものはどうでもよくなったが、それでも自分の同胞を、兄弟と言っても過言ではない存在を殺したことは何があっても許せない。
ましてやそれが自分と同じ超兵ならばなおさらだ。

(なぜなの……あなただって…………!?なに、このプレッシャーは?)

奇妙な感覚でピーリスは思考を中断してしまう。
自分の上から何かよくないものが近づいてくるのが感じられる。
その時、上から降ってきた何かが周りのティエレンを貫いていく。

「ミサイルだと!?」

その何かはミン達にも襲いかかる。
ミンはその何かの正体を見た。
白く尖ったものが赤い粒子とともにこちらに向かってくる。
しかも、まるで自分の意志があるかのように細かく軌道を変えながら的確に近づいてくる。

「なんだこれは!?」

「ミサイルじゃない!?」

二人が紙一重でかわしていく中、周りの仲間たちはその動きについていけずに墜とされていく。
最後に残された二人は互いに背を合わせて白い何かへ向けて攻撃する。
そんな中、ピーリスは自分たちを見下ろしていた存在に気付く。

「あの機体は!?」

周りを飛び交っていた白いものが自分たちを見下ろしていた赤いガンダムの腰に吸いこまれていく。

「ガンダムスローネ二号機、スローネツヴァイ、ミハエル・トリニティ、エクスタミネート!!」

赤いガンダムの主、ミハエル・トリニティは凶暴な笑みを浮かべる。

「行けよファング!!」

彼の号令とともに再び白い兵器、GNファングが放たれる。
ただ突っ込んでくる先ほどまでのパターンと違い、ファング達は赤い弾丸を発射して二人を攻撃してくる。
その姿はまさしく牙(ファング)の名を冠するにふさわしい光景だった。
突然変わった攻撃パターンについていけなかったミンは次々にファングから放たれる弾に被弾していく。

「ぐあああぁぁぁ!!」

「中尉!!」

砂漠の上で倒れこむミンのティエレンを救援すべくピーリスはティエレンタオツーを向かわせるが、自身もファングの攻撃に翻弄され避けるので精いっぱいだ。

「ハハハハァ!!脆い、脆いぜ!!」

ミハエルはゲラゲラと笑いながらファングを操るが、モニターに映った光景を見て興味の対象をそちらに移す。

「ほぉ……こいつが一番甘ちゃんだって聞いてたけどな……なかなか俺好みの戦い方をするじゃねぇか。ま、派手さに欠けるのが残念だがな。」

そう言うと、モニターの奥のソリッドを見ながらニヤリと笑う。

(そうだ、このミッションが終わったらこいつに話を聞きに行くか……。案外気が合うかもな♪)

ミハエルの視線の先には煤の黒と血の赤に染まったソリッドがMS群を屠っている姿が映っていた。




脱出ルート

グラハムはデュナメスを乱暴に持ち上げようとした時、アラームと同時に隣にいたカスタムフラッグが赤い何かに貫かれて爆発する。

「なに!?敵襲!?」

『ランディがやられた!!』

聞こえてくる部下の声に慌てて振り返ると再び閃光がはしり、カスタムフラッグを貫く。

『ステュアート!!』

『散開!!』

仲間の死を悼む暇もなくフラッグたちは的にならないよう分散する。

「この射程距離は通常兵器じゃないぞ!!」

ダリルは歯を食いしばりながら必死で赤い砲撃をかわしていく。

「まさか他にも機体があったとは……聞いてないぞガンダム……!!」

グラハムは忌々しげに砲撃を撃ってくる方向を見ようとするが、幾度も降り注ぐ粒子ビームの前にそんな余裕は捨てざるを得ない。

「フォーメーションをズタズタにされた!一時撤退する!」

指示を出すころには12機いたカスタムフラッグが半数以上落とされていた。
悔しさからグラハムは血が流れるのもかまわず唇をかみしめ続ける。

(おのれ……あと一歩まで追いつめておきながら!!)

そんな彼とは対称的に、ロックオンは憔悴しきった体に鞭を打ち、自分を助けた者を確認しようとする。

「誰だ……?」

ロックオンはモニターに映った黒い機体を見る。
V字の角がついた顔に人間に近いフォルム、なにより色こそ違えど背中から放出されている粒子は自分たちが乗っている機体が出している物と同じGN粒子だ。

「あの機体は……?」

ロックオンは目の前にいる相棒に目をやる。

「ハロ、知ってるか?」

「データ無シ!データ無シ!」

その時、通信が入り端整な顔立ちをした男が映される。

『どうやら間にあったようだな。』

「あんたは……?」

『スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティ。』

「ヨハン……トリニティ?」

聞いたことのない名前に首をかしげるロックオン。
そんな彼の前にヨハン・トリニティと彼のガンダム、スローネアインが降り立つ。

『君の仲間のマイスター達にも、私の弟と妹が救出に向かっている。』

「どういうことだ……?」

その問いに答えようとするヨハンだが、誰かから通信が入ったようだ。

『失礼、また“あと”で。』

ヨハンはロックオンに一礼するとそのままどこかへ行ってしまう。

「……何なんだアイツ?」

ロックオンが去っていく背中に疑いの目を向けるが、再度コックピット内に電子音が鳴る。

「今度はなんだ……ッ!!?」

ロックオンはモニターに映された光景に凍りつく。
しかし、すぐに操縦桿を力強く握る。

「ハロ、また仕事で悪いけど飛ばすぜ!!」

「了解!了解!」

デュナメスを操縦しながらロックオンは嫌な汗が背中を伝うのを感じる。

「やめるんだ……ユーノ!!お前はそんなことをしちゃいけないんだ!!」









北西部

「ぐああああぁぁぁぁぁああっぁぁぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁっぁあぁ!!!!!」

リニアマグネティックフィールドの発する電撃にユーノは苦しみ続ける。
気絶してもおかしくないのだが、体中を駆け巡る激痛がそれを許さない。

(967……ロックオン……ティエリア……アレルヤ……刹那……)

仲間たちの顔が浮かんでは消えていく。
死ぬのが怖くないわけではないが、それよりも彼らが無事なのかどうかが気になる。
ふと目の前のヘリオンを見る。

(…………お前たちは……)

こいつらはテロを利用して自分からまた大切なものを奪おうとしている。
あの時の管理局と同じだ。

(お前……たちは………!)

痛みの中で激しい憎悪が湧いてくる。
テロで自分と父を嵌め、目の前でその命を奪った。

(お前たちは……!!)

誰も裁こうとしない。
それをいいことに自分からすべてを奪おうとしている。

(許……い……!!)

こいつらに生きる価値などない。

(許さない……!!)

そうだ、消してしまえ。

(許さない……許さない、許さない!!ゆるさない、ユルサナイ!!!!)

あの時、自分が受けた痛みを、父さんが受けて痛みを味あわせろ。

(コロス……!コロス、コロス!!!コロスコロスコロスコロス!!!!!!)

皆殺せ!!

「ウ……!オオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が展開される。

「!?な、なんだ!?」

驚くAEUの兵士だが、さらに驚くべき事態が発生する。
彼らの意志に反してリニアマグネティックフィールドが解除されたのだ。

「な、なんで!!?」

しかし、そんなことを気にしている場合ではない。
目の前にいるソリッドの目が鋭く光り、再び動き始める。

「に、逃げ……!」

恐れをなしたヘリオン達は逃げようとする。
しかし、

「!!?な、なんでだ!?なんで動かない!!?」

どれほど操縦桿を倒そうと、ペダルを踏もうと動かない。
それがわかっているように、ソリッドはゆっくりと振動するアームドシールドの刃を寝かせた状態でコックピットに沈めていく。

「ギ、アアアァァァァァッッ!!ゴブッ!!!」

刃の先端がパイロットの体に刺さった瞬間、血を吐く音ともに静寂が訪れる。
しかし、通信が生きていたせいで残りのヘリオンのパイロットはその静寂のせいでガタガタと震え始める。

「ひ……ひぃぃ……」

「た、助け………」

聞く耳持たないといった様子でソリッドは刃を横に振って一回転する。
元の位置に戻るとヘリオン達の上半身が下半身を追いかけるように地上に落ちていくが、地上に到達する前に爆散する。

その様子を見ていた人革連、AEU両軍は恐怖で固まる。
情報ではパイロットの命を奪うことはなく、一番捕獲が容易だと聞いていたのにこれでは話が違う。

ソリッドはゆっくりとAEU部隊のほうへゆっくりと体を向ける。
美しかった白と萌黄の体は煤で黒く汚れ、巨大なアームドシールドには赤い点がついている。

「な、何をしている!?早く鹵獲するぞ!!!」

「りょ、了解!!」

残っていたヘリオンとイナクトの大群がソリッドめがけ殺到する。
だが、凄まじい轟音とともにその姿が消える。

「ど、どこに!!?」

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声に振り向くと一機のヘリオンがアームドシールドに刺さった状態で持ち上げられている。

「………シネ。」

ユーノは無表情なままソリッドに腕を振らせる。
二つに分かれたヘリオンは火花を散らしながら落下していき爆散する。

「もうよせユーノ!!!ここまでする必要はない!!早く離脱するんだ!!」

「……コロス………!オマエラニモ、トウサンノウケタクルシミヲ、アジアワセテヤル………!!」

「ユーノ!!?」

967はユーノの様子がおかしいことに気付く。
無表情のまま敵を見つめるその目は冷たく、いつもの優しさが感じられない。

(………仕方ない!)

967はユーノからソリッドのコントロールを奪おうと試みる。
この状況では危険かもしれないが、今のユーノに任せていてはマズイ。
しかし、

(!!?アクセスを拒否だと!?)

ソリッドが967のアクセスを受け付けようとしない。

(まさかユーノがやっているのか!?)

ユーノが先ほどから展開している魔法陣に注目する。

(たしか以前、端末を操作して情報を見ていたな……だが、ガンダムをコントロールするには少なくともトライアルが必要なはず……しかもこれは……)

そう、コントロールなんて生易しいものではない。
ユーノはソリッドを完全に支配している。

(だが、相手はあのヴェーダだぞ!?そこからガンダムを完全に自分の支配下に置くなど……)

できるはずがない。
しかし、現にユーノはそれを行っている。

(だとすると、俺にはどうすることもできない………!)

967が絶望する中、ユーノはAEU部隊のMSを墜としていく。
それも、コックピットのみを的確に潰しながら。

「やめろ……」

「シネ……」

少しづつではあるが、確実にソリッドの体が血の赤で染まっていく。

「もう……やめてくれ……!」

「シネ……!!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

967の声も今のユーノには届かない。
アームドブレードが最後のイナクトに振り下ろされる。
その時だった。
下から放たれた何かがアームドシールドに当たって斬撃の軌道がそれる。

「…………………」

「あれは……」

967は下を見る。
そこには砲身をこちらに向ける一機のティエレンがいた。

「セルゲイ・スミルノフか!」

セルゲイは砲身を向けながらも体中から汗がとまらないでいた。

(いったいどうしてしまったんだユーノ君!)

今のソリッドからはそれまで感じていた人間らしさがまったく感じられない。
まるでパイロットがただ目的を遂行するためのマシーンに変わってしまったようだ。

「………ジャマ………スルナ…………!!」

ソリッドは猛スピードでセルゲイの乗るティエレンめがけ突進していく。

「総員待避せよ!!」

『ちゅ、中佐は!?』

「私は盾持ちを引きつける!」

『し、しかし!!』

「急げ!!」

セルゲイが一喝するとティエレンたちは撤退を開始する。

「ニガ………スカ……!」

それに気付いたユーノは突進を中断しライフルをティエレンたちに向ける。

「させるかぁぁぁ!!」

セルゲイは自身のティエレンをぶつけてソリッドの態勢を崩させ、そのまま地面に押し倒して馬乗りになる。

「ジャマ………」

しかし、ソリッドは面倒そうに払いのけて立ち上がる。

「ジャマスルナラ……オマエカラダ……!!」

ソリッドはアームドシールドを振りかぶる。

「クッ!!」

セルゲイの額に冷たい汗が流れる。
だが、その刃は振り下ろされることはなかった。
遥か彼方から駆け抜けた閃光がアームドシールドに当たりソリッドの態勢を崩した。
セルゲイはその隙にソリッドから距離をとり、自分を救った者の正体を確かめる。

「あれは……狙撃型!?」

「ロックオン!無事だったか!」

離れたところに深緑の機体、デュナメスが狙撃用のカメラアイを展開してスナイパーライフルをこちらに向けている。
967はホッと安堵するが、慌てて通信をつなごうとする。
だが、

「ク!やはり繋がらないか!!」

完全にユーノに支配されているソリッドからでは通信をつなぐことはできなかった。
が、

『どうしたんだユーノ!?なにやってんだお前は!?』

ロックオンの方から通信をつないで来た。

「ロックオン、助かった!」

『967か!?どうしちまったんだユーノは!?どう見たってその状態は普通じゃないだろ!』

「詳しい説明はあとだ!すぐにソリッドを止めてくれ!」

『はぁ!?お前が止めればいいだろ!!』

「ユーノがソリッドのプログラムを完全に自分の支配下においてしまっているせいで干渉できないんだ!!」

ロックオンの顔に驚きの表情が浮かぶ。

『そんな馬鹿な!ガンダムを支配するってことはヴェーダを……』

「そんなことはわかっている!!でも実際こうして起こっているんだ!!」

それでもロックオンはまだ疑っているようだったが、自身が操るデュナメスにも異変が起こり始める。

『!!?な、なんだ!?デュナメスが勝手に!?』

デュナメスがじりじりとスナイパーライフルの銃口を逃げるティエレンたちに向けようとする。
ロックオンはそうはさせまいと必死に操縦桿を動かすが、思いどうりに動かない。

『クソッ!!こいつもユーノがやってるっていうのか!?』

「ロックオン、すぐに通信を切れ!まだ間に合う!」

『チッ!後でどういうことかきっちり聞かせてもらうからな!!』

ロックオンが通信を切るとデュナメスのコントロールが戻ってくる。

「フゥ~……まだ信じらんねぇけど、どうやら本当にユーノがやってるみたいだな。」

その時、ティエレンから外部音声が響く。

「狙撃型のパイロット!聞こえるか!?」

「指揮官機……?」

ロックオンはセルゲイの乗るティエレンに視線を向ける。

「今は目的が一緒のはずだ。協力してほしい。」

セルゲイの落ち着きはらった声にロックオンは顔をしかめる。

「俺らにここまでしといて協力しろたぁな……。けど……」

ロックオンはコンソールを操作して光通信を開始する。

「協力する……か。話が通じる相手で助かったな。」

セルゲイは安堵するが、すぐさま気を引き締めてソリッドを睨む。
ソリッドは先ほどから動こうとしないが、肌を刺す殺気は衰えていない。

(………来る!)

セルゲイがティエレンを半歩下げた瞬間ソリッドが猛烈な突進で一気に距離を詰めてくる。

「ク!これほどとは!!」

セルゲイはソリッドの瞬発力に驚愕しながらもカーボンブレイドでソリッドの斬撃を上手く受け流していく。
だが、武器のもともとの強度の差から少しずつカーボンブレイドが削られていく。

「ユル………サナイ……!」

「!!?」

突然の外部音声にセルゲイは動揺してしまう。
その一瞬の隙をつき、ソリッドは強烈な一撃を放つ。
しかし、セルゲイはティエレンを巧みに操作しギリギリのところで白刃取りをする。

「ぐううぅぅぅぅ……」

セルゲイは汗をたらしながら徐々に近づいてくる刃をなんとか止めようとする。

「ウバワセ……ナイ………!」

「!?」

「ボクノ……メノマエデ………モウダレモ……キズツケサセナイ……!!」

「それが君の原点か……!!」

ユーノの声を聞いたセルゲイは思わず気を緩めそうになるが必死に刃を食い止める。

「敵を助けるのはしゃくだが、狙い撃つぜ!!」

そこにデュナメスの狙撃によるサポートが入るが、ソリッドは迷うことなくアームドシールドを捨てて距離をとってそれをかわす。
そして、鋭い動きでデュナメスに近づくとビームサーベルで斬りかかる。
デュナメスもビームサーベルを抜いて受け止めるが、ソリッドはすぐさま離れると後ろに回って再び斬りかかる。

「うぉっ!!?」

慌てて方向転換して再度受けるが、その後についてきた蹴りを受けて地上へと真っ逆さまに落ちていく。

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」

デュナメスが砂煙をあげて砂漠に激突すると、ソリッドはそこめがけて切っ先を向けて突進していく。

「させん!!」

セルゲイは援護射撃をするがソリッドは急停止とバックを使ってそれをかわし、セルゲイが置いたままにしていたアームドシールドを回収して空へと舞い上がる。
そして、シールドバスターライフルを地上の二機に向けて連射する。

「チィ!!」

「ク!!」

二人はそれを何とかかわすが、反撃の糸口がつかめない。

「これが優しさを捨てたユーノの本当の実力ってわけか……。」

「…………………………」

ロックオンが顔をしかめて感心する中、セルゲイは目を閉じ、ある覚悟を決める。

「………私が彼を正気に戻す。」

「!?」

セルゲイの言葉にロックオンは耳を疑う。

「援護しろ、狙撃型!」

「おいおい!!」

セルゲイがソリッドにティエレンをつっこませていく姿を見て慌ててロックオンも援護射撃を開始する。
ユーノもセルゲイの突進に応えるようにソリッドを突進させる。

「正気かアイツ!?ティエレンがソリッドと押し合いで勝てるわけねぇだろ!!」

ロックオンは狙撃でソリッドの勢いをなんとか殺そうとするが、GNフィールドに阻まれて意味をなさない。
そして、ティエレンとソリッドが真正面から激突する。
当然ソリッドが押し勝ち、ティエレンを押し倒して馬乗りになる。
が、セルゲイの当初の目的は果たせた。
セルゲイは接触回線でユーノに語りかけ始める。

『ユーノ君!聞こえるか!?』

「ユルサナイ………!!」

ユーノはセルゲイの声など聞こえていないように無表情なまま怒りをあらわにする。
だが、それでもセルゲイは必死に語りかける。

『頼む、聞いてくれ!!』

「トウサント………オナジメニ……」

『もうやめるんだ!!君の中にある優しさを忘れるな!!』

「!!!!!」

セルゲイの言葉にユーノが反応を示す。
そして、ジッとセルゲイの顔を見つめる。

「ア……?トウ………サン……?」

『頼む……もうこれ以上自分を追い詰めるな……」







ユーノは記憶の海から父の最後の瞬間を探し出す。

『お前の中にある優しさを決して忘れるな。』

最後まで自分のことを気にかけていた父。
その時に交わした約束。
それを自分は……………




「ア……アああ…………ああぁぁぁぁ………!!」

『ユーノ君……』

理性の光が戻った目でユーノはあたりを見渡す。
ヘリオンやイナクトの残骸。
潰れて肉塊になりはてた人間。
そして、血まみれになったソリッドの姿。

「これを……全部…………僕……が………!?」

そう。
すべて、自分がやったのだ。
ここに横たわるすべての人間の未来を奪った。
自分のエゴで。

「うあ……ああぁ……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!」

『落ち着くんだ!君は……』

「離して!!離してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!」

ユーノは必死でソリッドを動かしてティエレンをどけようとする。
しかし、セルゲイはがっちりと押さえこんで離さない。

「離し……て……」

ユーノはひとしきり騒いだところで意識を手放す。
その顔は涙と汗でクシャクシャになってしまっている。
セルゲイはティエレンをソリッドの上からどけると二挺のビームピストルを構えるデュナメスのほうを一瞥して基地へと向かう。
それを見たロックオンは警戒を緩める

「どういうつもりだ……?ユーノのことを知ってるみたいだったが……」

「ソリッド起キタ!起キタ!」

ハロの言葉でロックオンはソリッドのほうを向いて通信をする。

「ユーノ!?」

『残念だが俺だ。』

967だとわかったロックオンは落胆の表情を浮かべるが、すぐさまあることに気付く。

「コントロールが戻ったのか!?」

『ああ……やはりユーノが原因だったようだ。正気に戻った瞬間にコントロールが戻った。』

「そうか……」

『そのユーノだが意識はないが心拍数も呼吸も正常だ。』

その時、ロックオンが一息つくと同時に空が赤で覆われていく。

「これは……!?」

『GN粒子か?そう言えば先ほどから妙な反応があるが、一体これは………』

「そいつも帰る時おいおい説明してやるよ。」

ロックオンは顔を曇らせながら撤退を開始する。
967もそれに従ってソリッドを空へと向かわせた。








北東部

「ヨハン兄ぃ、こっちのミッションはクリアしたわ。」

『そうか……』

ヨハンは満足そうにうなずき、ネーナに次なる指示を出す。

『ネーナ、GN粒子、最大領域で散布。現空域より離脱する。』

「了解ね♪」

ネーナは画面の向こうのヨハンにピースをすると足元にいる紫のボールに語りかける。

「いくよ、HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

「GN粒子、最大散布!」

スローネドライは上空に浮かびあがると胸部のジェネレーターを赤い光で埋め尽くしていく。

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

そして、肩の放出口を開いて一気に赤いGN粒子を撒き散らす。

「ステルスフィールドッ!!」

赤い粒子はあっという間にあたり一面を覆い尽くし、通信機器を狂わせていく。

「この……光は……!?」

空一面を覆い尽くす赤。
美しくもあるが、通常のGN粒子の淡い瑠璃色と違い禍々しさが感じられる。
そう、まるでこの世界そのものが終局に向かおうとしている。
刹那にはそう思えた。






王留美の別荘

「ハロからの暗号通信です……ガンダム、5機とも健在!太平洋第6スポットに帰頭中だそうです!」

その言葉を聞いた瞬間全員に安堵の表情が浮かぶ。

「マジかよ!?」

「心配かけやがって……」

「みんな……」

「ミッションコンプリートですわね、スメラギさん。……?」

留美はスメラギの様子がおかしいことに気付く。
喜ぶでもなく、安堵するでもなく、彼女は驚いた顔をしている。

「どうして……?」

「え?」

「……ううん、なんでもないわ。」

スメラギは慌てて笑顔をつくるが、疑問が晴れることはない。
彼女は今回のミッションでガンダム全機が鹵獲、もしくは破壊されると踏んでいたのだ。
しかし、経過はどうあれ結果は上々。
今回ばかりは予想が外れてよかった。

その後、スメラギは広間で一人、窓から外を見つめる。
あの時、彼を自分のミスで死なせてしまってから予想が外れないようにしてきたのに今回は外して喜んでいる自分がいる。

「予想が外れて嬉しいこともあるのね……」

スメラギは今の自分の感情に困惑しながらも穏やかにほほ笑んだ。







太平洋 海上

先ほどの先頭で消耗しきったマイスター達はエクシアを先頭にオートパイロットで拠点に向かっていた。
だが、誰もが突然現れた新しいガンダム三機に戸惑いを見せていた。
一人を除いては。

「……………………………」

ユーノはミッションが終わってからも眠ったままだ。
ソリッドを操縦をしている967も心配そうにユーノを見る。
あの時の冷たい眼差しを思い出すと言いようのない不安に襲われる。
あのままユーノが戻ることのできない領域に足を踏み入れようとしているような気がしてしょうがない。
だが、

「そんなことは俺がさせない………」

967は決意する。
たとえ何があろうと自分だけはユーノを守り続けることを。
しかし、これまでにない危機がソレスタルビーイングを襲おうとしていた。







今、潜んでいた野望が動き始める。




あとがき・・・・・・・・という名のカウントダウン

ロ「タクラマカン砂漠編2でした。そして、ユーノの手による大虐殺。」

ユ「その言い方やめてくんない………?マジでヘコんでるんで。」

兄「まぁ、いつぞやのいじめ並みにやばいな。」

ティ「だからフェレットはガンダムに乗せるなといたのに。」

ユ「君はこの作品のコンセプト自体を全否定か!?」

刹「やってしまったものは仕方がないだろう。前を向いていこう。」

ア「ていうか今回僕まったく出番がなかったんだけど。」

ロ「だってアニメでもお前この回たいして活躍してないもん。小説でもあんま喋ってないし。」

ア「だからなんでやたらそういうところは本編に沿っちゃうの!?」

ロ「いいじゃん別に。」

ア「よくない!!」

ティ「………不毛な会話が続きそうだからさっさとゲストを紹介させてもらう。今回のゲストは実は女性を口説くのが上手い!?高町恭也さんだ。」

義兄「………別にそんなことはないぞ。というかこのテロップはまずいと言っただろう。父さんがあとでうるさいんだ。」

ロ「じゃあ、ヒ○ロかリ○ンでいいか。」

兄「よくねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!てか最後のはガンダムじゃなくてテイ○ズだろうが!!」

ア「だから中の人ネタはやめようって言ってるだろう!!?」

ロ「いいじゃんべつに。」

義兄「………いつもこんな感じなのか?」

ユ「まあ、大体は。」

刹「これよりひどい時もある。」

ティ「そうならないうちに解説に行くぞ。」

刹「しかし、ユーノの暴走はすごかったな。」

ア「あれって一体どういう能力なの?」

ロ「一応検索、探索魔法が発展したものっていうつもり。相手のプログラムに侵入して自分の支配下に置くって効果。ただしユーノの並行処理能力があって初めて成立する荒技だ。」

兄「しかしヴェーダにすら勝つ能力か………。いいのかこんなトンでも能力出しちゃって。」

ロ「………どうしよう。」

義兄「考えていなかったようだな。」

刹「また行き当たりばったりか。」

ティ「毎度のことは言えヒドイな。」

ロ「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない……」

ア「あ、現実逃避した。」

ユ「もうほっとこう。」

義兄「ところで………よくよく考えればユーノはこんなところで悠長に話しこんでていいのか?」

ユ「へ?」

兄「まあ、こないだ来てた美由希さんが言ってた通りなら次回あたりに桃子さん付きとはいえ士朗さんが来るぞ。」

ユ「………………(汗)」

義兄「そう言えばこの間シャ○ティエを貸してくれと言ってたな。さすがにそれは渡せないからス○ンからディム○スを借りてきて渡しておいた。」

ユ「………………………………(汗)」

ア「え~と、なんて言うか………ご愁傷様?」

ティ「君のことは忘れない(棒読み)」

刹「諦めろ。」

ユ「あの……誰か助けて……」

「「「「「「無理。」」」」」」

ユ「神様ぁぁぁぁぁぁぁ!!どうにかしてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

刹「この世界に神は……」

ユ「知らんわぁぁぁぁぁぁ!!この状況だと神頼みでもしないとやってけないの!!」

ロ「さ、ユーノに死亡フラグが立ったところで次回予告へゴーww」

ユ「今死亡フラグって言った!!?」

義兄「まあ、俺からもあんまり無茶はしないように言っておくから安心(?)しておけ。」

ユ「すっごい不安なんですけど。」

ロ「ほらほら、そこまでにしとけ。」

兄「じゃ、気を取り直して。」

刹「宇宙に戻ったトレミーのクルーにチームトリニティが接触してくる。」

ユ「トリニティの態度に反感を募らせるクルーたち。」

ティ「そして、ユーノはロックオンに自身の正体を明かす。」

ア「その時、ロックオンの反応は!?」

義兄「そして、トリニティの介入によって多くの人々が傷ついていく中、彼らに対するマイスター達の答えとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「「次回もお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 25.強襲
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2011/03/16 08:52
プトレマイオス ユーノの部屋

明かりの消えた部屋の中、ユーノはベッドの上で布団にくるまり震えていた。
一人にしてほしいと言って相棒である967も心配して訪れたクリスティナやリヒテンダールも強引に追い出した。
はっきりとは覚えていないがこの手には確かに感触が残っている。
今までとは明らかに違う感触。
フォンとのミッションの時も同じことをしたはずなのに明らかに違ったものに思えた。
怒りに任せて無差別に命を奪ったという感覚。

「うっっ!!」

そのことを確認するたびに吐き気が押し寄せてくる。
ユーノは喉もとまで来ていた胃液を無理やり押し戻す。
そして、声を殺して泣く。

「…………………」

帰って来た時みんなは暖かく迎え入れてくれたが、ユーノにはそれが辛かった。
ミッションレコーダーを見れば自分が何をしたのか一目瞭然のはずだ。
なのに誰もそのことには触れようとしなかった。
危機的状況だったから仕方がなかったと言えばそれまでだが、明らかな憎しみをもって殺したことには変わりない。
こんなことを言ってはなんだが、間違いなくなのはたちなら自分がしたことを絶対に許しはしないだろう。

「いや………そんなこと以前の問題か………」

話し合いの場を持つことなく一方的に相手を蹂躙していく自分が彼女たちと話し合いができると考えるなど思い上がりもはなはだしい。

「ハハッ……!なんだ………」

ユーノは自嘲する。

「結局、僕も管理局と同じじゃないか……」

自分たちがしていることは一方的に父の命を奪ったあの組織のしていることとなんら変わらない。
平和のためと言いながら多くの人間の命を、未来を踏みにじっていく。

「だったら、僕の今までしてきたことはなんなんだ……!」

エレナの意志を継ぎ、仲間を守り、世界を変えるために戦ってきたはずなのに、気付けば憎むべき対象と同じことをしている。
しかも、誰も自分の怒りも、悲しみも、苦しみも受け入れてはくれない。

「なんで……僕はこんなに孤独なんだ………」





魔導戦士ガンダム00 the guardian 25.強襲

プトレマイオス ブリッジ

タクラマカン砂漠でのミッションの後、プトレマイオスに帰還したスメラギ達はマイスターズを救った者たち、ガンダムスローネ三機とそのマイスター達のことを調べていた。
しかし、

「第一世代、第二世代の機体とも違う……ヴェーダのデータに存在しないガンダム。」

どんなに探してもスローネという名前は見当たらない。

「本当にそんな機体があるんですか?」

怪訝そうな顔をするクリスティナにロックオンが笑いかける。

「あるもないも、この目で見ちまったからな。な?」

「シッカリ見タ。シッカリ見タ。」

目の前に浮く相棒に確認するように視線をやるとハロもそれに答えるように耳をパタパタと動かす。

「ガンダムらしきMSは少なくとも三機存在している。」

「僕らの太陽炉とは違うけど、GN粒子らしきものを放出していました。」

報告を行いながらマイスター達はスローネの姿を思い出す。
彼らの操るMSはガンダムには違いないという確信はある。
だが、

(……気にいらねぇな。)

ロックオンは心の中で舌打ちをする。
確かに彼らは自分たちを助けてくれた。
しかし、なぜかすんなりとは受け入れられない。

(つっても俺の勘にすぎないしな。……でも、気にくわないのはみんな一緒か。)

ロックオンは横にいるアレルヤとティエリアを見る。
ティエリアはあからさまに、アレルヤも戸惑ったような表情をしているがおそらく彼も心中穏やかではないだろう。

「で、お前らはそのガンダムに助けられたってわけか?」

「ああ。」

「で、次の問題はこれね。」

ロックオンがラッセの問いかけに答えるとスメラギはモニターにミッション中の映像を映し出す。
そこにはソリッドがAEUのMS部隊を殲滅している光景があった。

「うわ……」

リヒテンダールはそのあまりの酷さから思わず視線を外す。

「……この時、967はソリッドのコントロールをユーノから奪おうとしたけどそれができなかった。それでいいのね?」

「ああ。それどころかデュナメスのコントロールまで奪われそうになった。あとで967から聞いたが、あれはコントロールというよりソリッドそのものを支配しているって言ったほうが的確だったそうだ。」

「馬鹿な!!」

ティエリアが声を荒げる。

「ガンダムを自らの支配下に置くなど不可能だ!それはすなわちヴェーダの演算処理能力を上回るということだ!第一、彼がそんなことをしている様子は一切……」

「お前も気づいてるだろティエリア。たぶんその秘密はあの円さ。」

ロックオンの視線の先にある映像に全員が目を向ける。
そこにはソリッドの足元に広がるさまざまな文字が描かれた大きな円がある。

「そう言えば、人革の鹵獲作戦の時にも……」

「そうか、アレルヤは俺たちの中で最初にあれを見てたんだったな。」

「でも、あの時は光の輪や鎖で動きを封じたり、円で攻撃を防いだりするくらいで、ガンダムのコントロールを奪うなんてことはなかったけど……」

「はっきりさせる時が来たということだ。」

全員、ティエリアのほうを向く。

「彼が何者で、一体何を隠しているのかを。」

「ティエリア!アイツは俺たちの仲間だぞ!その言い方じゃまるで……」

「敵になる可能性はゼロではないということです。それに最近になって彼が僕たちに何かを隠していることは間違いない。」

ティエリアの言葉にクリスティナとリヒテンダールは視線を落とす。
真実を伝えるべきなのだろうが、みんなが彼の力を受け入れてくれるかどうか自信がない。
もし、拒絶されればユーノはこの世界で文字通り一人きりになってしまう。
ブリッジが重苦しい空気に包まれる中、スメラギが口を開く。

「ティエリア、ユーノは私たちの仲間よ。けど、確かにあなたの言うことも一理あるわ。私たちは彼に話を聞く必要がある。」

「……Ms.スメラギ、その役目、俺に任せてくれねぇか?」

「ロックオン………彼のことを心配するのはわかるけど、私情をはさむのは…」

「わかってるさ。でも、行かせてくれないか。ここで下手うっちまったらユーノは二度と俺たちのもとには戻ってこない。そんな気がするんだ。」

ロックオンの真剣な表情にスメラギはため息をつく。

「わかったわ。でも…」

スメラギはプトレマイオスの前方にいる輸送艦に視線を向ける。

「彼らから話を聞いた後でね。」







廊下

エアロックの施された部屋に空気が満たされ、続いてドアが開けられる。
そこにはロックオンたちのものとは違ったパイロットスーツを着た二人の青年と一人の少女、そして、見覚えのある丸いものが浮いていた。

「着艦許可をいただき、ありがとうございます。」

先頭に立っていた青年はヘルメットをとり、軽く会釈する。
ヘルメット越しではわかりにくかったが少し肌が黒く、整った顔立ちをしている。

「スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティです。」

「スローネツヴァイのガンダムマイスター、ミハイル・トリニティだ。」

「スローネドライのガンダムマイスター、ネーナ・トリニティよ♪」

「みんな、若いのね……」

スメラギは戸惑った表情を浮かべる。

「それに、名前が……」

「血が繋がっています。我々は実の兄弟です。」

ヨハンは柔らかな笑みを浮かべて説明するが、ネーナの声がそれを遮る。

「ねぇねぇ!エクシアのパイロットって誰!?」

無邪気な笑みを振りまきながらネーナはあたりをきょろきょろと見回す。

「あなた?」

「いいや、違う。」

ティエリアは不快感を隠さない声で答える。
しかし、ネーナは「チェ…」と唇を尖らせるだけであまり気にしていないようだ。
と、そこに

「俺だ。」

出迎えたスメラギ達の後ろから刹那がやってくる。

「エクシアのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ。」

刹那を見た瞬間、ネーナは目を輝かせる。

「君ね!無茶ばかりするマイスターは!」

ネーナはそのままスメラギ達の間をぬけて刹那に近寄り、笑みを浮かべる。
そして、

「そういうとこ、すごく好みね♪」

刹那の唇を奪った。
最初は戸惑った刹那だったがすぐさま目つきを鋭くして彼女を払いのける。

「アゥッ!!」

「俺に触れるな!!」

それを見たミハエルはそれまでのへらへらした笑いをやめて、凶暴な顔つきになる。

「貴様!!妹に何を!!」

ミハエルは腰から細かく振動するナイフを抜いて刹那に向ける。

「妹さんのせいだろう!」

「うるせぇぞこのニヒル野郎!!」

ミハエルは今度は仲裁に入るロックオンに対してナイフを向ける。

「切り刻まれたいか!!?ああ!!?」

「やめろ、ミハエル。」

ヨハンはあくまで穏やかな口調でミハエルを止める。
しかし、紫色をしたハロがミハエルをたきつける。

「ヤッチマエ!ヤッチマエ!」

プトレマイオスクルーも敵対心をむき出しにしてミハエルを睨みつける。
まさに一触即発といった状況だ。
と、そこに

「兄サン!兄サン!」

ハロが慌てた様子で飛んでくる。
その様子にその場にいた全員が呆気にとられ、毒気を抜かれる。

「兄さんだぁ?」

ロックオンがいぶかしげな顔をする中、ハロは構わず紫色のハロに近づいていく。

「会イタカッタ!会イタカッタ!」

ハロはクルクルと回りながら喜ぶ。
しかし、

「誰ダテメェー!誰ダテメェー!」

紫色のハロはハロの言葉にとげとげしい言葉を返す。
それでもハロはあきらめずにコンタクトを図る。

「ハロ!ハロ!」

「知ンネェーヨ!知ンネェーヨ!」

だが、ハロの健闘もむなしく紫色のハロが体当たりをしてハロを弾き飛ばす。

「兄サン!記憶ガ!兄サン!記憶ガ!……」

ハロはそんなことを言いながら無重力空間を壁にぶつかりながら遥か彼方へ消えていった。
全員、狐につままれたような表情のまま固まっていたが、スメラギの咳払いでハッとする。

「とにかく、ここじゃなんだから部屋で話しましょ?」

「わかりました。」

三人はスメラギについてブリーフィングルームに向かうが、壁に寄りかかる刹那を見たミハエルは殺意がこもった視線を、ネーナはピースを向けながら笑いかけてきた。
そんな三人を見ていた刹那だが、心の奥にわだかまりのようなものを感じる。

(アイツらが新しいガンダムマイスター……)

「初めて意見があったな。」

めったに自分に話しかけてこないティエリアが話しかけてきたことに刹那は驚いた。

「なにがだ?」

「口にしなくてもわかる。」

ティエリアはそう言うとさっさとブリーフィングルームに向かう。
その背中を見ながら刹那は彼がスローネのマイスター達に対し自分と同じ感情を抱いていることに納得と自分と意見が一致したという意外性を感じていた。







ブリッジ

「なんか、すごい連中っすね。」

廊下に設置されたカメラから様子をうかがっていたリヒテンダールは顔をひきつらせる。
まあ、やってきていきなりキスをしてきたり、喧嘩を吹っ掛けてくれば当然の反応とも言えなくはないが。

「私あの子嫌い。」

クリスティナの言葉を聞いたラッセは驚く。

「まさか刹那のこと!?」

「そう言うことじゃなくて!!」

騒ぎ始めるラッセとクリスティナから離れたところでフェルトは物思いにふけっていた。

「こんなガンダム、パパやママに聞かされてなかった……」

スローネを見ながらフェルトは両親から聞かされていたガンダムのことを思い出す。
フェルトの両親達が乗っていた第二世代機は言わば第三世代機のテストベッド。
フェルトはうろ覚えではあるが父から両世代の機体の話は聞いていた。
その中にあの機体の話は一切なかった。
最初はシルトの発展型かとも思ったが、それもあり得ない。
シルトも一度は開発されたらしいがなぜか彼らの手に渡ることなく破棄されたという。
なんでも別のパイロットが試験運用を行ったらしいが、その時に問題が発生して開発が中止されたそうだ。
もともと操縦性に問題があったのだが、それが追い打ちになりシルトやその発展型が開発されることはなくなったそうだ。

(でも、だとしたらこの機体は一体……)

フェルトはスローネアインを見つめる。
スローネアインの赤い瞳は美しくもあったが、どこか残忍な印象を感じる。
そう思うたび、フェルトはできることなら両親がこのガンダムの開発にかかわっていないことを祈らずにはいられなかった。








ブリーフィングルーム

ヨハンたちをブリーフィングルームに案内したスメラギ達は彼らと向かい合う形で立っていた。

「なぜ、あなたたちはガンダムを所有しているの?」

「ヴェーダのデータバンクにあの機体がないのはなぜだ?」

「答えられません。私たちにも守秘義務がありますから。」

「はぁ~ぁ、残念♪」

スメラギとティエリアの質問を涼やかな笑みで流すとミハエルが鼻で笑う。
それを見たティエリアは隠しきれない嫌悪感をあらわにする。

「太陽炉……いや、GNドライヴをどこで調達した?」

「申し訳ないが、答えられない。」

「またまた残念♪」

ロックオンの質問にも答えないことに苛立つプトレマイオスのクルーを見てミハエルは再び憎たらしい笑みを浮かべる。
すると、先ほどからの対応に業を煮やしたティエリアが敵対心をむき出しにした声でクルーの誰もがしたかった質問をする。

「なら、君たちは何をしにここに来たんだ?」

「旧世代のMSにまんまとやられた、無様なマイスターたちの面をおがみに来たんだよ。」

「なんだと!!?」

「ナーンツッテナ!」とHAROの真似をするミハエルをにらみながらティエリアはつかみかかりそうなほどの剣幕を見せる。

「……気分が悪い。退席させてもらいます。後でヴェーダに報告書を。」

「悪いけど、俺もパスだ。」

「わかったわ。」

ティエリアとロックオンはそれだけ言うとさっさとその場を離れてしまった。

「おっしーねぇ。女だったらほっとかねぇのによ。……あのニヒル野郎は刻んでやりてぇけどな。」

「ミハエル。」

ヨハンにたしなめられたミハエルは返事こそするが反省の色は見られない。
そして、今度はネーナから声が上がる。

「ヨハン兄ぃ、あたしつまんない。……そうだ!船の中、探検するね!」

「……よろしいですか?」

「え……ええ……」

スメラギは呆けた声で返事をするが、その前にネーナは動いていた。
扉の前まで来ると刹那の方に振り向く。

「一緒に行く?」

ネーナは明るい笑みを浮かべながら刹那に問いかけるが、刹那は黙って前を向いたままだ。

「行く?」

ネーナは再度刹那に問いかけるがそれでも刹那は答えない。
すると、ネーナは刹那のそばにまで寄ってくる。
そして、

「………あたしを怒らせたら……駄目よ……!」

(!!!)

それまでと違い、鋭い眼光に刹那は思わずいつ攻撃されてもいいように構えようとする。
しかし、彼女はすぐさま踵を返して扉まで移動する。
そして、最後に意味深な笑みを刹那に向けると扉の向こうに消えていった。

「そうだ!兄貴、俺もチョイ抜けさせてもらうわ。いくぞ、HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

ミハエルはHAROをつかむとネーナに続いて退席する。
その後、スメラギが口を開く。

「とにかく、これだけは教えてくれない?あなたたちがあのガンダムで何をするのか。」

スメラギの問いにヨハンはフッと微笑む。

「もちろん、戦争根絶です。」

「……ホントに?」

「あなたたちがそうであるように、我々もまたガンダムマイスターなのです。」

「つまり、僕たちに協力してくれるのかい?」

「いえ、我々は独自に介入行動をさせてもらいます。あなた方と行動を共にすることはない。そう思ってもらって結構です。」

その場にいた全員の顔が厳しいものに変わる。
言い方こそ穏やかだが、ようは邪魔をするなということを暗に示しているのは誰の目にも明らかだった。

「気に障ったのなら謝罪します。しかし、我々に武力介入を命じた存在は、あなた方の武力介入のやり方に疑問を感じているのではないでしょうか?」

「私たちは……お払い箱?」

スメラギは目つきを鋭くしたままヨハンに問う。
そんなスメラギ達に対し、ヨハンは再び微笑む。

「今まで通りに作戦行動を続けてください。私たちは、独自の判断で武力介入を行っていきます。もちろん、場合によっては同じ作戦を共に行うこともあるでしょう。」

「あなたたちは、イオリア・シュヘンベルグの計画に必要な存在なのかしら?」

「どうでしょう?それは、我々のこれからの行動によって示されるものだと思います。」

スメラギの皮肉がこもった質問にもヨハンは余裕の笑みで対応する。
この時、その笑みの裏にあるなにかを、誰もが感じていた。
不吉な何かを。







廊下

つまらない話につきあいきれなくなったミハエルはHAROとともにある場所を目指していた。

「さ~て、アイツの部屋はどこかなー?」

タクラマカン砂漠でのミッションの際に、プトレマイオスのクルーの中で、唯一気が合いそうだと確信していた相手。
情け容赦なく相手を屠り、殲滅していくあの姿にはどこか引き付けられる物がある。
それに、

「あのみょうちきりんなもんのことも教えてもらわないとな♪」

本来ガンダムに、いや、現存するどのMSにもないあの力。
そのことも気になってしょうがない。
ミハエルは子供のようにウキウキしながら廊下を進んでいると青いハロがある一室の扉の前に浮かんでいた。

「お、あそこか。」

ミハエルはそのまま扉の前に近づいていくが、それに気付いた青いハロ、967がミハエルの方を向く。

「よぉ、ここにユーノ・スクライアがいるんだろ?会わせてくれよ。」

「ユーノ、会イタクナイ、言ッテル!ダメ!ダメ!」

その言葉を聞いたミハエルはにやりと笑う。

「別にいいだろうが……それと、俺らはお前の正体を知ってるぜ、グラーベ・ヴィオレント。」

967はしばらく考え込むように動きを止めていたが、ハロを開けて中から姿を現す。

「…………………」

「ハッ!せっかく出てきたのにだんまりかよ。まあいい。さっさと扉を開けな。」

「拒否する。」

967は断るが、ミハエルはそれを見越していた。

「そう言うと思ったぜ。HARO。」

「シャーネーナ!シャーネーナ!」

HAROは扉の電子ロックの前に行くと通信をしてロックの解除を試みる。

「やめろ!!」

967は止めようとするが実体のない体ではどうすることもできない。

「うるせえなぁ……少し会うくらいかまわねぇだろうが。」

「ユーノに会ってどうする気だ!!」

「なぁに、大したことじゃねぇよ。」

ミハエルの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。

「アイツを俺たちと一緒に連れていくだけさ。」

「な!!?」

「お前らといたらあいつまで腑抜けになっちまうだろうが。だから俺たちと一緒に介入行動をさせる。それが一番さ。」

「ふざけるな!!そんなことさせるものか!!」

「お前がどう言おうと決めるのはアイツだ。」

とその時、電子音とともにロックが解除される。

「さて、ロックも解除されたことだし、ご対面と……」

「おい。」

ミハエルが扉を開けようとしたその時、腕を誰かにつかまれる。

「てめぇ……!」

「ロックオン……」

ミハエルの後ろに憤怒の表情を浮かべたロックオンが彼の腕をつかんでいた。

「ユーノは会いたくないと言っているんだ。無理に会うのはやめてもらいたい。」

「誰がてめぇの言うことなんぞ……」

ミハエルはナイフを抜こうとするが、その瞬間、彼の腕を握るロックオンの手の力が強まり、みしみしと音が鳴る。

「っつ……!」

「ユーノに妙なまねをしてみろ……お前らがなんであろうとただじゃおかない……!!」

ミハエルはロックオンの手を払うと、掴まれていた部分を押さえながらロックオンを睨みつける。
しかし、ロックオンの静かな怒気にあてられ、さすがの彼もあきらめたようだった。

「チッ……いくぞ、HARO。」

「負ケタナ!負ケタナ!」

「うるせぇ!!」

ミハエルがHAROに怒鳴り散らしながら元来た道を戻っていくのを見送ると、967がロックオンに話しかける。

「すまない、助かった。」

「いや、俺もユーノに用があってきたからな。そこで偶然、ってわけさ。何事もなくてよかったよ。」

ロックオンはいつものひょうひょうとした笑みで話すが、967の表情は晴れない。

「ユーノに用があると言っていたが、悪いがしばらく……」

「わかってるよ。でも、どうしてもちゃんと話をしたいんだ。アイツが何に苦しんでいるのか、そして、できることならその苦しみから救ってやりたいんだ。」

967はしばらく考え込んだ後、ロックオンに道をあける。

「………ユーノを頼む。」

「まかしとけ。」

ロックオンは967の横を通り、暗い部屋の中へと入って行った。






ユーノの部屋

暗い部屋の中に光が差し込むが毛布にくるまったままのユーノはそのことには気づかない。
しかし、部屋に明かりがともされ毛布をはぎ取られる。

「ったく、ひきこもりかお前は。」

「ロック……オン………」

ユーノがロックオンの方へ顔を向けると赤いリボンでまとめられた髪がふわりと揺れる。
いつもしているサングラスはしていないせいで不安に揺れる瞳があらわになってしまっている。

「どうしてここに……」

「おいおい……心配して来てやったのにどうしてはないだろ。それに、あのときのことを話してもらっていないからな。」

ロックオンの言葉にユーノの肩がびくりと震える。

「話してくれないか?お前が何に苦しんでいるのか。」

「僕……っは…!」

ユーノの目から涙が次々にあふれてくる。
その様子を見ていたロックオンが苦笑しながら頭を掻く。

「今からそんな調子でどうすんだよ。」

「ごめっ……ん………!」

ロックオンはしゃくりあげながら話すユーノの頭をやさしくなでる。

「ゆっくりでいいから話してくれ。あの時、何があったのかを。」

ユーノはゆっくりと首を縦に振る。



そして、ユーノはすべてを打ち明けた。
自分の正体、異世界と魔法のこと、ロストロギアのこと、自分の過去、そして、かつての友人たちのことを。

「魔法に異世界………か。ずいぶんと話がすっとんじまったな。」

「クリスとリヒティにも言ったんだけど、みんな以外と驚かないんだね……」

ユーノは何とか笑おうとするが、よわよわしくぎこちないものになってしまう。

「ま、この目で見ちまって、実際に体験してるわけだしな。否定するわけにはいかねぇさ。」

「ごめん………僕はあの時、ロックオンとセルゲイさんを………」

ユーノはタクラマカン砂漠でのミッションを思い出したのか腕を組んでカタカタと震える。

「気にすんな。俺もアイツも無事で……」

「気にするよ!!」

突然の大声にロックオンは目を丸くする。

「一歩間違っていたら僕は二人を………いや、そうでなくても僕は大勢の命を……!!」

「あれは仕方なかったんだ!それに俺たちだってこれまでに……」

「そんな問題じゃない!!僕は怒りにまかせてソリッドを……エレナから受け継いだ力であんなことを……!」

ユーノの握りこぶしの間から強く握りすぎたのか血が漏れてくる。

「なのはも、みんなだってきっと僕のことを許さない!!ヴィータだってホントは僕の話を聞いて嫌な奴だって、卑怯者だって思ってる!!」

「ユーノ……」

ロックオンはユーノの肩に手を置こうとするが、ユーノがさらにまくしたてるので手を止めてしまう。

「でも、仕方じゃないか!!誰も信じてくれないんだから!!本当の両親も、拾ってくれた父さんの命も奪ったのは管理局なのに、誰も信じてくれなくて!!そうさ、きっとなのはたちだって僕のことなんて!!」

ロックオンは眉間にしわを寄せる。

「おい、それは……」

ロックオンは何かを言おうとするが、ユーノが震える瞳でロックオンを睨みそれを止める。

「ロックオンたちだって!みんなだってホントはあんなことをする僕と一緒にいたくないって思っているくせに!!」

ユーノはロックオンの胸に顔を押し当て両手のこぶしで何度もロックオンの体をたたく。

「でも仕方じゃないか!!誰も僕のことを受け入れてくれないんだから!!僕にはこうするしか思いつかないんだから!!」

ユーノは子供のように泣きじゃくる。
幼い日からため込んでいた悲しみや怒り、誰にも、大切に思っている者の前でも本当の自分を隠してきた孤独を一気に爆発させた。
そんな涙だった。
その様子を見ていたロックオンは悲しげな表情でため息をつく。

(誰かを守りたいと思うと同時に、幼い日のトラウマから誰にも心を開くことができないのか……ったく、こいつは……)

ユーノが武力介入に参加するきっかけを知って納得すると同時に悲しくもある。
おそらくこれまでもどれほど身近にいる人たちにも本当の自分をさらけ出すことができなかったのだろう。
しかも、やっとのことで自分を受け入れてくれると思っていた仲間たちとも離ればなれになり、この間のミッションの時の出来事で罪の意識を抱いてしまったことで再び誰も信じることができなくなってしまっている。

(けど……だからこそ救ってやりたい…………。確かに俺たちやユーノのしていることは許されることじゃない。でも、こいつにも未来をつかむ権利はあるはずだ!)

ロックオンは自分の胸を叩き続けるユーノの頭を抱き寄せる。

「ユーノ、聞いてくれ……」

「……………………………」

「前にも言ったが、俺がソレスタルビーイングに入った理由は家族をテロで奪われたからだ。お前と同じようにな。」

「……………………………」

「けど、俺の時間はその時から止まったままだ。どれほど世界を変えるために戦っていると思っても、テロリストに対する憎しみから抜け出せない………変わることができなかった。でも………」

ロックオンはユーノの顔を上げさせて自分の方へと向ける。

「お前は少しずつだけど変わってこれただろう?俺やアレルヤ、刹那やティエリアだってお前に何度も救われた。だからさ、これからからも少しずつ、一歩一歩でいいから変わっていけばいいじゃないか。誰のことも信じられないって言うんならまず俺がお前の絶対信じられる存在になってやる。それにお前がどう思おうが俺たちはお前のことを突き放したりしないし、どんなことがあっても信じ抜く。」

ロックオンは自分からユーノを離して真っすぐに瞳を覗き込んで笑う。

「それが仲間ってもんだろ?お前がいつも言ってることだろ。」

「ロックオン………僕は……」

「……今の話は報告しなくちゃいけないんだが………ま、お前から直接みんなに言ったほうがいいだろ。」

ロックオンはそれだけ言うと扉の方へ歩いていき、最後にユーノの方を向く。

「信じてるぞ、ユーノ。」

そう言い残すとロックオンは部屋を出る。
一人残されたユーノは天井の電灯を見上げる。
白い光を放つそれがユーノの目にはやけに眩しく写っていた。







輸送艦 ブリッジ

プトレマイオスから帰還したヨハンたちはHAROから来たミッションを確認していた。

「0ガンダムとシルトの太陽炉の回収かぁ。いかれた奴が乗ってるって聞いてたけど、楽しませてくれんのかねぇ?」

ミハエルはにやにや笑いながらフェレシュテの所有する第二世代機の戦闘記録を眺めている。

「ミハエル、我々は遊びをしに行くんじゃない。」

「わかってるよ。でも、もし連中が反抗的な態度をとったら……」

「そうそう!ボッコボコにしちゃおう♪」

「残念だが、その可能性は低いだろうな。彼女がヴェーダの決定に従わないはずがない。」

ヨハンはそう言いながら自分の前にあるモニターを切り替える。

「シャル・アクスティカ……彼女にとってヴェーダは絶対だろうからな。」

しかし、自分の予想が外れることになることをヨハンはこの時まだ知らなかった。







プトレマイオス コンテナ

イアンは先ほどの接触の際に取得したスローネやその太陽炉のデータの解析に勤しんでいた。
しかし、普段はユーノと二人で、とくにデータ解析の時にはユーノの力に頼っていたため、一人でこなすのはなかなかの重労働だ。

「しかしまあ、あいつに頼りきりってのはいかんからな……。それに、なんだかんだ言ってもまだまだアイツは子供だ。いままでこんなことがなかったのが不思議なくらい………」

「誰が子供だって?」

イアンは驚いて声の主の方を見る。

「ユーノ!?」

「スローネのデータの解析をしてるんだって?だったら、俺の出番だろ。」

「けど、お前……」

「………心配かけて悪かったな。何があったのかはいつか絶対話すから、今は聴かないでおいてくれないか?」

イアンは強い意志を感じさせるユーノの顔を見てため息をつきながらも安心した笑みを浮かべる。

「わかったよ。そのかわり、いままでサボってた分、きっちり働いてもらうからな。」

「へいへい。病み上がりなのに人使いが荒いねぇ。」

「別に病気だったわけじゃないだろ。」

他愛のない会話をしながら作業を開始する二人。
と、そこに

「ユーノ!」

「もういいんすか!?」

「大丈夫……?」

「もう!ホントに心配したんだからね!!」

ユーノを心配していたメンバーたちがコンテナの扉からなだれ込んでくる。

「ちょ!お前らどうして!?」

「ロックオンが教えてくれたの……ユーノはきっともう大丈夫だって…」

「僕らも何かしてあげられないか考えてたんだけどなにも思いつかなくて……」

フェルトとアレルヤの言葉にユーノは呆けたような表情を浮かべる。

「あんなことの跡だからきっとユーノは自分のことを責めてるってみんな心配してたんすよ。」

「なのにいつの間にか勝手に立ち直ってこんなところでこんなことしてるんだもん。ホントに勝手すぎるよ!!」

「なんで……」

「?」

その場にいた全員がユーノの方を向く。

「なんで……俺はガンダムであんなことをしたのに………なんでお前らは……」

「だって……ユーノだもん。」

クリスティナが口火を切る。

「確かにびっくりしたけど、きっと何か理由があってあんなことしちゃったんでしょ?ユーノは人一倍優しいからねぇ~。」

「そうっすよ!他の誰が何と言おうと俺たちはユーノのことを信じるよ!」

「僕もユーノに何度も助けられたからね……だから今度は僕が何かしてあげなくちゃね。」

「私もユーノに過去と向き合う勇気をもらった……それに……」

フェルトはユーノの手を優しく握る。

「私は……ううん、私たちは一人じゃないって教えてくれたのはユーノだよ。だから、一人で悩んだりしないで。」

ユーノはじっとフェルトの手をじっと見つめる。

(温かい……)

この温かさを、ずっと忘れていた人とふれあうことで感じる温かさを取り戻すようにユーノはギュッとフェルトの手を握った。

「えっと……ユーノ、そろそろ……」

ユーノが顔をあげるとフェルトが顔を赤くしている。
それにつられてユーノも頬を赤く染める。

「うわっ!!ごめん!!」

「えへへへへへ~♪」

二人はハッとすると横にいるギャラリーの方を向く。

「青春だね~。」

「青春っすね~。」

「若いってのはいいねぇ~。」

「……えっと、とりあえずこういうことは人のいないところでやった方がいいんじゃないかな……///」

フェルトとユーノの顔が一気に真っ赤になる。

「ち、違うから!!?俺はそんなつもりじゃ!!」

「………………//////」

ユーノが全力で弁解しようとした時、全員にスメラギから通信が入る。

『スローネが介入を開始したわ。………最初の標的はアメリカ、ユニオンのフラッグ部隊の基地よ。』

「!?ちょ、ちょい待ち!そこって別に紛争を起こしたわけじゃ……」

ユーノは慌てて確認をとる。

『ええ、そうなんだけど………』

スメラギの表情も心なしか戸惑ったものになっている。

『それでも、おそらく彼らはやるわ。』







ユニオン アメリカ MSWAD基地

外には曇り空が広がるなか、エイフマンは自分の研究室でガンダムの発生させる粒子、ならびに動力機関についてのデータを再確認していた。

(私の仮説通り、ガンダムのエネルギー発生機関がトロポジカルディフェクトを利用しているなら、すべてのつじつまが合う。ガンダムの機体数が少ない理由も、200年以上の時間を必要としたことも。あのエネルギー発生機関を作れる環境は木星……!)

エイフマンのなかで点と点が線で結ばれていく。

(120年前にあった有人木星探査計画!?あの計画がガンダムの開発にかかわっておったのか!だとしたら、イオリア・シュヘンベルグの真の目的は戦争根絶ではなく……)

その時、目の前のモニターに表示されていた数列や文字が消え去る。

「な、なんだ!?」

続いて彼の問いに対する答えが暗くなったモニターに表示された。

You have witnessed too much…(あなたは知りすぎた…)


「なに!?」

驚く暇もなく警報が鳴り響く。

「何事じゃ!」

『観測室より通達!ガンダムと思われるMSが三機、EW9877方面から当基地に向けて進行中!』

「なんと……!」

エイフマンは即座に頭を働かせる。

「まさか、軍内部にも協力者が!?」

そうでなければ自分がガンダムの真実に近づいたことをソレスタルビーイングが知りえるはずがない。
しかし、彼の背後から迫る赤い光が部屋に至った瞬間、エイフマンの意識はこの世から消え去っていた。




遅れてやってきたオーバーフラッグスは自分たちの基地から黒煙が上がっていることに気付くと焦りを覚え始める。

『隊長、新型が三機です!』

「見ればわかる!!」

いつもは冷静なグラハムも無意識に声を荒げてしまう。
しかし、眼前に自分たちの返るべき場所であった基地が無残に破壊されている様が広がっているのだから無理もない。

「我々の基地が……!」

しかし、それでも何とかクレバーになろうとする彼らに追い打ちをかけるような情報が入る。

『グラ……ハム……』

「!?カタギリ!無事だったのか!!」

グラハムは友人が無事だったことから安堵の笑みを浮かべる。
だが、

『教授が……エイフマン教授が……!』

「なんだと!!?」

グラハムの顔が怒りと悔しさで歪んでいく。

「堪忍袋の緒が切れた!!!許さんぞガンダム!!」

グラハムたちは悠然とこちらを見るガンダムスローネへ向かっていく。
するとスローネツヴァイもフラッグたちを迎え撃たんと向かってくる。

「行けよ、ファング!!」

腰に装備されたファングが放たれ、グラハムの駆るカスタムフラッグへと殺到する。
しかし、

「それがどうした!!」

グラハムは向かってくるファングをことごとくかわし、さらには反撃を開始する。

「うおっ!?こいつ!」

ミハエルは目の前のグラハム機のみに気を取られるが、続いて周りからの射撃にさらされる。
ダメージこそないがここまでてこずるとは思っていなかった。
そんな時、一機のカスタムフラッグがスローネツヴァイへと急接近を開始する。

「ハワード!!」

ダリルは同僚の無茶な行動を止めようとするが、ハワードはそんな事などお構いなしに突っ込んでいく。
そして、カスタムフラッグを空中変形させると腕からソニックブレイドを抜いてスローネツヴァイに斬りかかる。

「見せてやる!ガンダム!!」

「なに!?」

予想外の行動にミハエルはスローネツヴァイの背中に装備された大剣、GNバスターソードを抜いて防ぐ。
しかし、徐々にではあるがカスタムフラッグがスローネツヴァイを押していく。

「これがフラッグの力だ!!」

勝利を確信したハワードはさらに力を込めて操縦桿を押しこんでいく。

「くっ!このままではやられる……」

ミハエルは焦ったような表情を浮かべる。
しかし、すぐにその表情は余裕の笑みへと変貌した。

「わけねぇだろぉ!!」

後ろを飛び交っていたファング達が一斉にハワードのカスタムフラッグに襲いかかった。

「ぐ、おあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

両脚、腰、肩、そしてとどめとばかりに頭に赤いビーム刃が突き刺さり、センサーマスクから光が消え失せ、カスタムフラッグは力なくうなだれ、その態勢のままゆっくりと地上に降りていく。

「ハワード!!」

「ハワード・メイスン!!」

ダリルとグラハムはあらんかぎりの力で叫ぶが、もはやハワードに届くはずもない。
しかし、二人の思いに応えるかのようにハワードの最後の言葉が辛うじて生きていた通信機器を通して聞こえてきた。

『隊長…………フラッグは………』

しかし、ハワードは言葉を最後まで伝えることができなかった。
コックピット部分から火花が散ったかと思うと、次の瞬間には小さく爆発を起こしたフラッグがほとんど部品の原形を留めたまま地上へと落下していった。

スローネツヴァイはというとファングを腰に回収し終えると名残惜しそうにフラッグたちを見ながら遥か彼方へと去っていく。

『隊長!』

「っっ!!無策だ追うな!!」

グラハムは真っ先に追いそうになる自分を歯を食いしばりながら必死で抑える

「プロフェッサー……ハワード……!!くっ!」

グラハムは初めてガンダムに対して今まで感じたことのない怒りを感じていた。
今まではどこか好敵手のように感じていた存在が、憎むべき対象へと変わっていく。

「私の顔に何度泥を塗れば気が済むのだ……ガンダム!!」

この時から、グラハムの根底にあったものは少しずつではあるが歪んでいく。
憎しみという名の感情によって。





太平洋 孤島

あれから数日後、アレルヤとティエリアをプトレマイオスに残して地上に降りて来ていたマイスターたちだったが、全く介入行動はしていない。
なぜなら、

「これでやつらの武力介入は七度目………あれこれかまわず軍の基地ばかりを攻撃……しかも殲滅するまで叩いてやがる………アレルヤじゃないが世界の悪意が聞こえるようだぜ……」

ロックオンはいつもの態度を崩すまいとしているが、言葉の端々から怒りが感じられる。

「トレミーからの連絡は?」

「待機してろと。やつらのせいでこっちの計画は台無しだからな。Ms.スメラギもプランの変更に追われてるんだろうよ。」

刹那はロックオンの言葉を聞きながらハロ達が整備を進めるエクシアを見る。
紛争を根絶するための力であるはずのガンダムで無差別に攻撃を仕掛けるトリニティたちを見ていると言い表しようのない感情が渦巻く。

「………あれが、ガンダムのすることなのか……!?」






アメリカ 某墓地

曇り空のもと、都市部から少し離れた墓地にグラハムとダリルはいた。
軍服のまま訪れたグラハムは勇敢な仲間の墓前に屈み、そこに掘られた名前をじっと見つめる。

「ハワード・メイスン……」

「……やつは、隊長のことをとても尊敬していました。次期主力MS選定にフラッグが選ばれたのは、テストパイロットをしていた隊長のおかげだと……」

ダリルの言葉を受けグラハムは静かに目を閉じる。

「………私は、フラッグの性能が一番高いと確信したからテストパイロットを引き受けたにすぎんよ。………しかも、性能実験中の模擬戦で…」

「あれは不幸な事故です!」

ダリルは何とか弁護しようとするがグラハムがゆっくりと首を横に振ると黙り込んでしまう。
しかし、それでも仲間の思いは伝えなければならない。

「隊長、やつはこうも言ってました。『隊長のおかげで自分もフラッグファイターになることができた。これで隊長とともに空を飛べる。』と。」

「……そうか。」

グラハムは悲しげに微笑む。

「彼は私以上にフラッグを愛していたようだな……」

グラハムは何かを決意したのか、表情を引き締め立ちあがり、今は亡き仲間に対して敬礼する。

「ならば、ハワード・メイスンに宣誓しよう。私、グラハム・エーカーは、フラッグを駆ってガンダムを倒すことを。」

二人はしばらくそのまま敬礼していた。
涙を流すことのない、軍人然としたグラハムらしい姿だった。





ユニオン アメリカ南部

夜の繁華街の一角、パッと見ごろつきといった男たちがひしめく酒場に絹江はいた。
横には屈強な体つきの男が琥珀色をした液体の注がれたグラスを持っている。

「突然お呼びたてしてすみません。」

「軍の近くで会うよりいいさ。それより、謝礼の方は?」

絹江は黙って男に封筒を渡す。
男は封筒の中を確認すると満足そうに微笑む。

「で?」

「タクラマカン砂漠の合同軍事演習で、あなたは新型のガンダムを目撃したそうですね?」

「ああ、確かに見たぜ。」

男の顔が神妙なものに変わる。

「見ただけですか?」

男はしばらく考え込んでいたが、絹江の熱意に押されて口を開く。

「……パイロットの会話を偶然聞いちまった。」

「会話を!?」

「ああ。俺の乗っていたリアルドがガンダムに撃ち落とされちまってな。救助を待っている間に見つけちまったのさ。」

男は自分が聞いたことを話す。

「ヘルメット越しで顔はわからなかったが、声や体格からして若い女だ。」

「会話の中で、ラグナに報告と言ったんですね?」

「聞き間違いかもしれないがな……俺が知っているのはこれだけだ。」

男はグラスに注がれた酒を飲み干す。

「このことを軍には?」

「報告はしていない。あんたみたいな人が高く買ってくれそうだったんでな。」

「…この話、しばらく誰にも言わないでおいてもらえませんか?」

「謝礼に上乗せが必要だな。」

「後日現金でそちらに送金します。」

男はにやりと笑って絹江を見る。

「ありがてぇ。これで娘の誕生パーティも華やかになる。」

男は席を立つとそのまま酒場の外へと出て家への近道である裏通りを鼻歌交じりに歩く。

「~~♪」

しかし、その時車のスリップ音が後ろから迫ってくる。

「?うっ!?」

車のヘッドライトに目をつぶった瞬間、夜の街に銃声が響いた。






AEU スペイン 北部 教会

人気のない緑の丘の上にぽつんと建っている教会の中庭に、珍しく大勢の人間が押し寄せていた。
誰もが美しく着飾り、豪勢な料理がテーブルの上に並ぶ中、ルイスは人込みから離れた場所で沙慈と連絡を取っていた。

「はぁ~い、沙慈。元気してる?」

『バイトの途中。もうシフト入れすぎてくたくただよ。そっちは?』

「結構盛り上がってる。あ!花嫁さんがすっごく美人でね!料理もいい感じだし、それから………」

続きを話そうとしたところで通信が切れる。

「あれ?沙慈?沙慈!もう!どうなって……」

ルイスがふと空を見上げると三つの赤い光の線を描きながら何かが飛んでいる。

「あの光は、もしかして……ガンダム!?すっごい!初めて生で見た!」

ルイスが感心して見ていると三機のガンダムのうちの一機がこちらに近づいてくる。
周りの人々も気付いて騒ぎこそするが、誰も逃げようとはしない。
そして、近づいてきたガンダムが銃口をこちらに向ける。

「え……?」

ルイスが呆けた声を出した次の瞬間、赤い光弾が結婚式会場の真ん中に突き刺さる。
一瞬の悲鳴とともに凄まじい爆風で窓ガラスが割れ、炎と黒煙が辺りを包みこむ。
ルイスは何とかその衝撃に耐え立っていることができたが、目の前に広がる光景を見て凍りつく。
つい先ほどまで幸せな気分で満たされていたそこには倒れて動かない人たちとガンダムの攻撃で抉られた地面の周りが散乱した瓦礫で埋め尽くされ、地獄絵図と化している。
そして、ルイスは会場の中心にいたはずの二人の人物がいないことに気付く。

「パパ……ママ……?」

いくら呼んでも返事がないという事実にルイスは青ざめる。

「パパ!!ママ!!」

ルイスは両親を探そうと瓦礫のそばに駆け寄ろうとするがそこにガンダムからの追撃が加えられる。
ルイスの後ろにあった教会に着弾したそれは爆風を発生させ、ルイスを吹き飛ばす。
そして、ルイスも瓦礫に埋もれ、身動きが取れなくなる。

「パ……パ………マ…マ……」

頭からは夥しい量の血が流れ、左腕は完全に瓦礫の中に埋まってしまっている。
それでもルイスは何とか這い出て家族を助けようとするが、血を失いすぎたのかそのまま気を失ってしまった。







『ネーナ、何をしている?』

ヨハンが少し怒った表情でモニターに向こうからネーナを睨む。

「ごめ~ん!スイッチ間違えちゃって!」

ネーナは困ったような笑みを浮かべてこつんとヘルメット越しに頭をたたく。
彼女は間違えて攻撃したわけではない。
明確な悪意を持って攻撃をした。
ただ、自分が働いているそばで幸せそうにしていたという理由だけで。

『作戦続きで疲れてんだろ。』

『勝手な行動は慎め。』

「はぁ~い!」

二人の兄からの通信が終わるとネーナは後ろを振り向いて赤い舌を出して笑う。
そこにいた人々がどれほど傷ついたのかも知らずに。







プトレマイオス ブリッジ

「トリニティが一般人に攻撃したって一体どう言うこと!!?」

ブリッジに入ってきたスメラギは開口一番で怒鳴るように問いただす。

「紛争幇助の対象者でもいたんじゃねぇか?」

「それが…そうでもないみたいです。ヴェーダにあるトリニティのミッションデータにも記載されてないし……」

「意味もなく攻撃したというの……?そんな……」

ガンダムの力は強大だ。
だからこそ、その力を振るうにはそれ相応の覚悟と倫理観が伴わなくてはならない。
だが、トリニティは違う。
明らかに力を振るうことそのものを楽しんでいる。

(……やはり彼らを認めるわけにはいかない。)

スメラギの腹は決まったようだ。





太平洋 孤島

「クソッ!!」

ロックオンは壁に怒りをぶちまけるように拳を叩きつける。

「何やってやがるアイツら!!遊んでんのか!!」

ロックオンのすぐそばでエクシアを見つめている刹那も拳を握る力を強める。

(一般市民への攻撃……ガンダムが……!?)

ハロとともに整備をしていたユーノも顔をしかめる。

(無関係の人間を傷つける……マイスターがすることじゃない……!!)

自分も多くの人を傷つけてきた。
だが、彼らはそんな良心の呵責さえ感じていないだろう。

「…………もう、我慢の限界だ!」

ユーノは整備を中断すると自室へと向かう。
おそらく来るであろう戦いの準備をするために。






スペイン 国立病院

沙慈は全力で廊下を走っていた。
看護婦から注意されたがそんな事など関係ない。
ルイスが怪我をしたと聞いて大学も休んでここまで飛んできたのだ。
こんなところでもたもたしていられない。
一刻も早くルイスにあって無事を確認したい。
その一念のみで沙慈は走っていた。

受付で聞いた号数の部屋を見つけて沙慈はそこに飛び込んだ。
そこにはベッドの上で頭に包帯を巻いたまま風で揺れるレースを通して外を眺めているルイスがいた。

「ルイス……」

「沙…慈……?どうして……?」

ルイスは驚いたのか、呆けた顔で沙慈を見る。
その様子を見た沙慈は安堵から思わず笑う。

「事故にあったって聞いて……ごめん、来るのが遅くなって。」

「学校サボって。」

「そんなのいいよ。」

沙慈はルイスのベッドのそばにある椅子に腰かける。

(………?)

何か違和感がある。
ルイスはいつもと変わらず微笑んでいるのに何かおかしい。
しかし、沙慈はそれを頭から取り除いて自分もいつものようにルイスに笑いかける。

「でもよかった、元気そうで。ホントよかった……」

ホッと息をつくが、何かを思い出したように急に顔を上げる。

「あっ!そうだ、お見舞いってわけじゃないけど……」

沙慈は持っていたカバンをガサゴソとさせると中から小さな藍色の箱を取り出す。

「これ。」

「なに?」

沙慈が箱を開けると、そこには金色をした大小二組の指輪があった。

「これ……」

「フフフ……ほら前にルイスが欲しがっていたやつ。試験休みの間にバイトしまくってさ!ようやく買ったんだ!」

宅配ピザのバイクを運転する真似をする沙慈。
そして、一通り説明が終わったところで箱を前に出す。

「受け取って、ルイス!」

ルイスは右手で小さな方の指輪を取って顔に近づけじっくりと見る。
日の光を浴びて光る指輪を見ながらルイスは微笑む。

「綺麗……」

その様子を見ていた沙慈は頬を赤く染め、真剣な顔をする。

「ル、ルイス……僕、ルイスのことが……ルイスのことが!!」

「ごめんね、沙慈。」

「え?」

沙慈は最初、それが告白を受け入れてもらえないという意味だと思った。
だが、すぐにそれがルイスの心からの謝罪だったことに気付かされる。

「せっかく買ってもらったのに……すっごく綺麗なのに……」

辺りを沈黙が包む。
自分の心臓の音だけがいやにはっきりと聞こえてくる。
なぜだかはわからないけど、嫌な汗が止まらない。

ルイスはそれまで隠すようにしていた左腕を体をよじって沙慈の前に出す。

「もう……はめられないの。」

そこには、あるべきはずのものがなかった。
ルイスの左手首から先がない。
包帯でぐるぐる巻きにされているが、明らかに途中で途切れている。

「……え………?」

沙慈は事態を飲み込めずにいた。
ルイスはサッと左腕を隠し、震える声で、念を押すように言葉を発する。

「はめられないよ……!」

沙慈は驚愕から目を見開く。
たった今、現実に見ていたはずなのに悪い夢だと思わずにはいられない。

「ルイス……そんな……」

「ごめんね、沙慈……ごめん………」

涙をこぼし始めるルイスに手を差し伸べようとするが、体中が震えて上手くできない。
すると、後ろから腕を掴まれる。
振り向くと看護婦が、彼女もまた辛そうな表情で首を横に振っている。



彼女に連れられ廊下に出た沙慈は説明を受けた。
両親も親せきも、事故で全員亡くなったということ。
その事故を引き起こしたのがガンダムだということを。



周りの看護婦や医師たちが噂話や世間話をしているが沙慈の耳には届かなかった。
目に写るものすべてが真っ白になった世界の中をトボトボと歩く沙慈は何もないところで躓く。
ふらふらと立ちあがるがそのまま壁に寄りかかる。
ふと、ポッケトの中の箱の感触で我に返る。
取り出して開けてみようとするが、体が拒絶してできない。
すると、ポタリポタリと雫が箱の上に落ちては消えていく。

「っっ!!ルイス………!うっ……う……!!」

沙慈はこの時になってようやく、戦争というものを理解した。
それまで、どこか遠くの、他人事のように思えていたことが急に身近なものに変わった。
大切な人たちが傷つき、深い悲しみのどん底に突き落とされる。
そして、彼にも憎むべき対象が生まれた。

(ガン……ダム……!ガンダム……!!)







太平洋 孤島 コンテナ

パイロットスーツに着替えた刹那はエクシアのもとへと歩み寄る。
先程、トリニティたちが再び介入行動をしたという報告が入った。
しかも、民間人が働く軍事工場に対してだ。
もう、見過ごすわけにはいかない。

「よう、大将。どこに行くんだ?」

刹那は声がした方を向く。
そこには刹那と同じようにパイロットスーツに着替え、サングラスをかけ長い髪を赤いリボンでまとめ、青い宝石を首からかけている少年がいた。

「ユーノ……」

刹那は身構えるが、ユーノはひらひらと手を振る。

「そんなに警戒すんなよ。止めたりはしないって。むしろ逆だな。」

そう言うと、ユーノも自分の愛機、ソリッドへと歩いていく。

「………お前も行くのか?」

「ああ、あの阿呆どもにはさすがに俺も腹にすえかねた。」

ユーノは歩みを止めてそのまま話し始める。

「……実は少し記憶が戻ってよ。俺の根底にあるもの、ソレスタルビーイングに入ろうと思った理由がわかったよ。」

「…………………………」

「俺の父さん……つっても、育ての親だけどな。宗教関係のテロに巻き込まれて俺の目の前で殺されたんだ。」

「!!!」

「でも、殺したのはテロリストじゃなかった。本来なら俺たちを守ってくれるはずの組織に、正義のためだとか言って殺された。………俺は、それがどうしても許せなかったんだろうな。三年間も何もかもずっと忘れてたのに、そのことだけは頭のどっかに残ったまんまだった。」

「……だが、俺たちのしていることは……」

刹那の言葉にユーノは自嘲する。

「わかってるさ。俺もその組織の人間と変わらない、ただの人殺しさ。でも、やつらとは違う点が一つだけある。」

ユーノはサングラスを取って振り返る。
その眼には、かつてのような迷いや怒りは一片も感じられない。

「俺は……僕はあいつらのように正義なんてものに逃げ込む気はない。自分の罪を真正面から受け止めて、背負って、そのうえで戦っていく。それが、僕の選ぶ道だ。」

「………そうか。」

二人はそれ以上何も語らずにそれぞれのガンダムに乗りこむ。

「刹那・F・セイエイ、エクシア、出るぞ」

「ユーノ・スクライア、ソリッド、出撃する。」

エクシアとソリッドが朝焼けの空へと飛び立っていく。
ロックオンはその後ろ姿を薄く笑いながら見送っていた。

「やっぱり行くか………あのきかん坊どもめ……」

「追イカケル?追イカケル?」

「もう少ししたらな。それに、アイツも多分行くだろうしな。」

ロックオンは無愛想だった仲間の変化に喜びながらデュナメスのあるコンテナへと歩いて行った。





太平洋上

チームトリニティは片腕のとれたスローネアインを先頭に太平洋上を進んでいた。
アメリカの軍事工場に攻撃を仕掛けたのだが、その際に一機のカスタムフラッグにビームサーベルを奪われ、腕を斬り落とされてしまったのだ。

『まさか、兄貴をてこずらせるやつがいるなんてな。』

『油断大敵ね。』

「肝に銘じるしかないな。」

ヨハンはフゥとため息をついたその時、モニターに警告が表示され、すぐさま桃色の光弾が雨のように降り注ぐ。
三機のガンダムスローネは慌てて回避する。

「なに!?」

「この粒子ビームは!?」

「くっ!ガンダム!!」

ヨハンたちが視線を向ける先には海上をライフルを構えながら向かってくるエクシアとソリッドがいた。

「ガンダムエクシア!!ガンダムソリッド!!」

驚きながら見つめる三人に対し、エクシアとソリッドに乗る刹那とユーノはあくまで冷静に“敵”を見据えていた。

「エクシア、目標を捕捉。」

「ソリッド、同じく捕捉。三機のガンダムスローネを紛争幇助の対象と断定。」

「これより、武力介入を開始する!」

エクシアはGNソードを、ソリッドはアームドシールドの刃をそれぞれ構える。

「エクシア……」

「ソリッド……」

「「目標を駆逐する!!」」

二機のガンダムは猛然とスローネ達に突進していった。






世界は変わってゆく………
多くの人間の悲しみを糧としながら





あとがき・・・・・・・・・・という名の虐殺ショー

ロ「というわけで遂にスローネとガチバトル突入!の一歩手前編でした。」

兄「さて、それはさておき、今回は皆様お待ちかね(?)、ユーノ対高町士郎のという頂上決戦(という名の虐殺ショー)をお楽しみください。」

ユ「今ちっちゃい声で虐殺ショーって言わなかった!!?てか、なんで僕リングの上にいるの!!?」

ハ「では、赤コーナーより本日のゲスト、ヒロインの父親、ザ・キング・オブ・親馬鹿、高町士郎さんの入場です!」

士郎(以降 親馬鹿1)「どうもどうも。」

ユ「君ら止める気ゼロか!!?て言うか桃子さんも一緒に来るって言ってなかったっけ!!?」

ティ「大丈夫だ。向こうのセコンドについている。」

桃子(以降 親馬鹿2)「こんにちは~。」

ユ「止めてくれるんじゃないの!!?」

兄「だって自分の娘に手ぇ出しといて他の女といちゃつくようなやつは助けたくないだろ。あと、読者の皆様もそろそろお前のハーレムなんて見たくないって思ってるだろうし。」

ユ「いや、あれはね……」

ハ「おい、コラ。そこの淫獣。ルールの説明すっからリングの中央に来い。」

ユ「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!!!よりにもよってなんでハレルヤがレフェリーしてんの!!?」

ロ「面白そうだから。」

ユ「後で覚えてろよ!!」

ハ「とりあえずルールは何でもありの方向で。」

ユ「それルールないのといっしょじゃん!!」

親馬鹿1「娘をたぶらかす淫獣にルールなんているのかね?」

ユ「だから誤解だと……」

ハ「んじゃ、ファイっ!!」

ユ「いやいや!!ファイって……ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!本気であの人ディ○ロス持ってきたぁぁぁぁ!!?」

親馬鹿1「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

ユ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹「………では、解説に行くぞ。」

ア「ほっといていいの、あれ?」

親馬鹿2「いざとなったら私が士郎さん(の息の根)を止めますので心配しないでください♪」

兄「むしろ猛烈に心配だ。」

ティ「それはそうとして今回もかなり苦しい展開だったな。」

ア「やめとけばいいのにアニメで換算すると二話分詰め込んだからね。」

兄「そのせいであんな名場面やこんな名場面が……」

ロ「すんません。」

刹「しかし、いよいよ佳境に入ってきたな。」

親馬鹿2「この調子だと私たちももうすぐ出れそうね♪」

ロ「いや、あなた方を出す予定は……」

親馬鹿2「出れるわよね?」

ロ「………はい。」

兄「何この人?めっちゃ怖いいですけど。」

ロ「魔王の親だからな。」

ア「そんなこと言ってるとまた炭にされるよ。」

ユ「ちょ!!いい加減こっちを何とかしてくれませんかね!!?」

兄「まだやってたのか?」

親馬鹿2「じゃあ、そろそろ止めましょうか。」

親馬鹿2、親馬鹿1に近づく。

親馬鹿1「桃子?」

親馬鹿2「はぁー………!!」

「「「「???」」」」

親馬鹿2「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっっっっ!!!!!」

親馬鹿1「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「「「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」」」」

刹「…………見事だ。」

兄「いやいやいやいや!!ここでなんでジョジョネタ!?」

ロ「いいじゃん。強いだろディ○。」

ティ「いくらなんでも自由すぎだろ!?」

ロ「素晴らしいじゃないか自由。Freedom!」

親馬鹿2「ふぅ、久々にザ・ワー○ドだしたら疲れちゃった❤」

ユ「それハートつけていいセリフじゃない!」

ア「………これ以上放っておくとカオスになりそう(いや、もうなってるか)なので次回予告に行きます!」

ティ「スローネ三機に立ち向かう刹那とユーノ!」

ア「苦戦を強いられる中、あの人物が戦いに参加する!」

ユ「そして、復讐すべき対象を知ったロックオン。」

刹「激情のままに銃を手に取る彼が出した答えとは。」

親馬鹿2「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

一同「次回もお楽しみに!!」



[18122] 26.絆
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2011/03/16 08:56
太平洋 海上

「エクシア、目標を駆逐する!!」

GNソードの刃を起こしたエクシアはスローネドライに斬りかかる。
しかし、その間にスローネツヴァイが割り込み、バスターソードでエクシアの斬撃を受け止める。

「てめぇ!!何しやがる!!」

「あたしら味方よ!?」

「違う!!」

「え!?」

ネーナは下から迫っていたソリッドに気付かず、スローネドライを蹴り飛ばされる。

「きゃあああぁぁぁ!!」

「「ネーナ!!」」

弾き飛ばされたスローネドライを受け止めるようにスローネアインとツヴァイがその後ろに回る。

「くっ!!」

ヨハンたちはエクシアとソリッドを睨みつけるが、刹那とはそんなことなどお構いなしにGNソードの切っ先をスローネ達に向ける。

「お前たちが……!」

続いてユーノがアームドシールドをバンカーモードに変える。

「その機体が……!」

「「ガンダムであるものか!!」」

エクシアとソリッドは背中から大量のGN粒子を放出しながら三機のガンダムスローネへと向かって行った。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 26.絆

エクシアはスローネツヴァイと幾度も剣を交えながら徐々に押していく。
ソリッドはスローネドライにライフルから幾度も弾を発射する。

『ちょ、ちょっと!どうするのヨハン兄ぃ!?』

ヨハンは小さく舌打ちをするとエクシアとソリッドとの回線を開く。

「聞こえるか、エクシアとソリッドのパイロット、なぜ行動を邪魔する?我々は戦争根絶のために……」

『ふざけるな!!』

通信機器の奥からユーノの怒鳴り声が聞こえてくる。

『お前たちの行動でどれだけ関係のない人間が傷ついたと思っている!!』

ヨハンはユーノの言葉に顔を少ししかめる。

「何を馬鹿な……戦争根絶という大きな目的のために犠牲は……」

『違う!!』

続いて刹那から声が上がる。

『貴様はガンダムではない!!』

刹那とユーノはそのまま目の前にいる敵に対して攻撃を加えていく。

「錯乱したか……」

ヨハンは呆れたようにため息をつくとツヴァイとドライに指示を出す。

「ミハエル、ネーナ、応戦しろ。」

「了解だぜ兄貴!!」

「待ってました!!」

それまで防戦一方だった三機がついに攻撃を開始する。
ツヴァイが強引にバスターソードを振ってエクシアをひきはがすと、そこにアインからの砲撃が撃ち込まれる。

「くぅっ!!」

砲撃のうちの一つがエクシアの左腕をかすめ、シールドを砕く。

「刹那!!」

「おっと、あんたの相手はこのあたしよ!!」

エクシアの救援に向かおうとしたソリッドの前にビームサーベルを抜いたドライが立ちはだかる。

「どけ!この性悪アリサ!!」

「何言ってんのかさっぱりだっての!!」

ユーノはソリッドの腰からビームサーベルを居合のように抜き放ち、横薙ぎに斬りつけるが、ドライはバックステップを踏むように退がると腕に装備されたビームガンを連射する。

「967、GNフィールド!」

「了解!」

咄嗟にGNフィールドを張るものの、距離が近すぎるためか衝撃で機体が揺れる。
さらに、

「ファングゥ!!」

「くっ!?」

赤いビーム刃を発生させたファングがソリッドのすぐそこまで迫る。

「させるか!!」

エクシアは腰の後ろに装備されたビームダガー、そして、短めのGNブレイドを投擲してソリッドに迫るファングを破壊し、自身に迫っていたファングは二本のビームサーベルで斬りおとす。
だが、

「まだあんだよ!!」

腰に残っていた二機のファングを放出し背中ががら空きになったエクシアへと向かわせる。

「ヤバい!!」

「くっ!!」

しかし、そのファングがエクシアに届くことはなかった。
横から迫ってきた巨大な光の柱にのまれたファングは爆発することも許されずに跡形もなく消え去った。

「なに!?」

「援軍!?」

「なによ!?」

トリニティが光の柱が飛んできた方向を向くと、そこにはひときわ大きな体が特徴的なガンダム、ヴァーチェが接近してくるのが見えた。

「ティエリア・アーデ!?」

「来てくれたのか!」

二人の声に応えるようにヴァーチェは再度バズーカを構える。

「ヴァーチェ、目標を破壊する!」

再び放たれた砲撃はスローネ三機のちょうど真ん中を貫く。
しかし、気付かれたせいか今度はかわされる。

「たった一機増援が来たくらいで……」

『一機じゃないぜぇ?』

「「「!!?」」」

太陽を背に迫っていた何かがスローネツヴァイに斬りかかる。
ミハエルは操縦桿を倒して慌ててツヴァイを振り向かせるが、斬撃を防ぐのがやっとで、勢いに負けて弾き飛ばされる。

『この前の礼だ。』

「くっ!?」

「ミハ兄ぃ!!」

心配するネーナをよそに、ミハエルは何とかツヴァイを踏みとどまらせると襲撃者を睨みつける。
血のような深紅のボディにエクシアのような大剣を右手につけ、左手にはやや大型のビームライフルが装備されている。

「貴様は……!!」

「……生きていたか、フォン・スパーク!」

擬装用のマスクを外したエクシアのテストベッド、アストレアに警戒を強めるスローネを上から見下ろしフォンは鼻で笑って見せる。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!ずいぶんと派手にやってるみたいじゃねぇか!だが、お前らにオリジナルの太陽炉をくれてやる気は俺にもシャルにもないぜ!」

突然登場したフォンに戸惑いを見せているのは何もトリニティだけではない。

「あの機体はあの時の!?」

「やつは一体!?」

混乱する刹那とティエリアだが、ユーノは頭を押さえて唸りながら通信回線を開く。

「フォン!!なんで君が出てくるんだ!?」

『あげゃ。助けてやったのにずいぶんな言い草だな。』

「だいたい擬装用のマスクはどうしたんだ!?まだフェレシュテのことはみんなには……」

『ああ、それなら心配すんな。少し前にシャルと一緒にトレミーに治療がてらに顔を出してきたからな。シャルは今頃まだ連中と一緒に空の上さ。』

「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?」






プトレマイオス ブリッジ
銀色の髪が無重力の影響も受け普段よりも柔らかに揺れる。
シャルは久々の感覚に戸惑いながらもスメラギ達と向き合う。

「スメラギさん、我々を受け入れていただいてありがとうございます。あらためてお礼を言わせてもらいます。」

「いいえ、こちらとしても協力者がいることが分かって心強いです。」

「あのパイロットはちょっと強烈だったけどね……」

クリスティナがポツリとつぶやくのを聞いたスメラギは厳しい視線をクリスティナに向ける。

「ご、ごめんなさい……」

「いえ、事実私たちもフォンを持て余していますから。」

シャルが苦笑しながらフォローを入れる。

「でもシルトと0ガンダムの太陽炉を守ってくれたのはフォンだよ。」

シャルの後ろにある扉が開き、シェリリンとエコ、そしてその後ろからイアンとモレノがやってくる。

「俺も活躍しただろ!?」

「エコはフォンとスローネが戦闘している隙を突いて逃げただけでしょ。」

「う……」

痛いところを突かれたエコは黙ってしまう。

「でも……本当にこれでよかったんでしょうか?」

シャルが顔を曇らせながら呟く。

「ヴェーダは私たちの所有する二基の太陽炉を彼らに引き渡すよう指示しました。やはり、従うべきだったのでは……」

「そんなことない!」

その場にいた全員が珍しく大きな声を出したフェルトの方を向く。

「パパやママはあんなことをするためにガンダムに乗ってたんじゃない……!トリニティにオリジナルの太陽炉を渡したらきっと大変なことになってた。」

「そうっすよ!」

コンソールを叩いていたリヒテンダールが続く。

「トリニティのやつら、むかつきますよ!」

「俺も同感だな。連中とはどうにもそりが合わねぇ。」

「……はぁ~……いい男だったのにな。」

クリスティナはしばらく接触してきたときに撮ったヨハンとのツーショットを見つめていたが、ため息をつくとそのデータを消去する。
それを見ていたリヒテンダールが小さくガッツポーズをとるが、話に夢中で誰もそのことには気付かなかった。

「しかし、ユーノがあなたたちとすでに接触していたなんてね……しかも報告もなし。」

スメラギはにこやかな顔で話しているのだが、背中から黒いオーラがあふれだしている。

「あの……それは私たちが彼に口止めを……」

「それにお前さんはとっくの昔にシャル達の存在に気付いて……」

「それがなにか?」

「「いえ、なんでもありません。」」

いっそう量が増すスメラギの黒いオーラに気圧されてフォローをしたシャルとイアンはそれきり黙ってしまう。

「ま、まあ、それはそれとしてシルトの太陽炉を守ってくれてありがとうございます。」

アレルヤはシャルに頭を下げる。

「きっとエレナも彼らに自分の使っていた太陽炉を渡したくなかったはずですから。」

「それと、ユーノもな。」

モレノがアレルヤの発言に付け加える。

「あいつがここまで戦ってこれたのはエレナの影響が大きいだろうからな。シルトの太陽炉が連中の手に渡ったとわかったらわしらがどれほど止めても奪い返そうとしただろうな。」

「そうですか……」

シャルはフッと微笑む。

「……久々に見たな。」

「え?」

イアンの言葉にシャルは首をかしげる。

「いや、お前さんがそんな風に笑うところなんて久しぶりに見たんでな。」

「うん、私も初めて見た。」

「俺も…。」

エコもシェリリンも目を丸くする。

「これもユーノの影響かもな。」

モレノはからからと笑いながら天井を見上げる。

「さて、その本人は今頃は連中とやりあってる頃か。」

「大丈夫かなぁ?」

モレノの言葉を聞いてリヒテンダールは不安そうな声をだす。

「大丈夫!ユーノ達はあんな奴らになんか負けないよ!」

「うん、ユーノはすっごく強いから……」

そう言ったシェリリンとフェルトは互いに顔を見合わせる。

「……まさか、あなたもユーノのこと……」

「え?」

シェリリンが神妙な顔をしてフェルトをまじまじと見る。

「私は絶対負けないんだからね!!」

「え?え?」

シェリリンが何を言っているのかさっぱりわからないフェルトは首をかしげる。

「……ユーノも罪つくりねぇ。本人にその自覚がないのがまた厄介。」

クリスティナのため息をきっかけにブリッジの空気はそれまでと違うほのぼのとしたものに入れ替わった。






太平洋 海上

「………なんだか猛烈にトレミーに帰りたくない。」

「スメラギ・李・ノリエガか?」

「それもあるけどなんだか嫌な予感がする。」

967と話していたユーノだが、突然刹那とティエリアから通信が入る。

『ユーノ、やつを知っていたんだな。』

『どういうことかきっちり説明してもらおうか。』

心なしか二人がいつもより怖い。

「いや、これは、その、深いわけが……」

『『なにが?』』

「………………………………………」

そこにさらにフォンが割り込む。

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!なかなか苦労してるな!』

「もとをただせばフォンたちのせいだろ!?」

「………お話し中悪いが。」

スローネアインから外部音声が響く。

「こちらは君たちの口論につきあうつもりはない。」

「ハッ!死にぞこないがぁ!また斬り刻んでやるぜ!!」

「けちょんけちょんよ!!」

三機のガンダムスローネが戦闘態勢に入ったのを確認するとユーノ達も構える。

『………そこの機体、今は味方…ということでいいんだな?』

『ああ、今はな。』

「………頼むから人の機体を通して話しするのはやめて。」

刹那とフォンはそんなユーノの苦情など聞かずに話しこむ。
そして、ティエリアは

『………あとで何もかも話してもらうぞ。』

今までユーノに見せた中で一番厳つい表情を見せて通信を切った。

「……………………………………」

「………あとでフォローはしてやる。」

「………期待はしないけどね。」

ユーノのその言葉を合図に三機のスローネと四機のガンダムたちの戦いが再開された。

「(刹那とティエリアはフォンと組んで作戦を行ったことがない……。正直、あの二人を組ませるのは不安だけど、やるしかない!)刹那とティエリアはフォーメーションS-32で攻撃!フォンは好きに暴れて構わない!こっちで合わせる!」

『『了解!』』

『あげゃ!!』

ヴァーチェはエクシアの前に出ると機体のあちこちにあるGN粒子放出口を開き、GNフィールドを展開する。
三機のスローネはそれぞれの装備する射撃武器で応戦するが、全ガンダムの中でも指折りの強度を誇るヴァーチェのGNフィールドはそう簡単には揺るがない。

「GNフィールドか……厄介なものを……」

ヨハンはビームガンではダメージが与えられないと思ったのか肩に装備されたランチャーで攻撃しようとする。
しかし、

『ヨハン兄ぃ!!』

「!!」

ネーナの声でハッとするがもう遅い。
フィールドを張っていたヴァーチェの後ろの影からGNソードを構えたエクシアが飛び出してくる。
スローネアインは慌てて回避するが、エクシアは勢いを殺さずにドライにも斬りかかる。

「くっ!!」

思わぬ不意打ちにアインとドライは態勢を崩してしまう。

「てめぇ!!」

ミハエルは激怒して追撃態勢に入っていたエクシアにバスターソードを振り下ろすが、エクシアはそれを読んでいたようにかわす。
そして、エクシアがそれまでいたため隠れていた地点にヴァーチェがバズーカの砲門に光をため込んだ状態で出現する。

「なに!?」

あわてて三機は回避行動を取るが、その先には深紅の機体が待ち構えていた。

「あげゃ!!」

アストレアはプロトGNソードを真一文字に振るうが、アインとドライのビームサーベルによって押し返される。
しかし、

「もう一撃!!」

今度は真上から降下、いや、もはや落ちてくると言った方が適切なほどの速度でブレードモードのアームドシールドを構えたソリッドが迫る。

「なろぉ!!」

今度はツヴァイが自慢のバスターソードで受け止めるが、真上から高速でアームドシールドを叩きつけられたため、真下に数十メートル下がってあわや海面に衝突するかと思われたが、ギリギリのところでGNドライヴの出力を上げて踏みとどまる。

「くっ!残念だな!お前とは仲良くできると思ってたんだがな!!」

「迷惑な勘違いすんじゃねぇよ!!」

ユーノは強引に振り抜かれようとしていたバスターソードの動きを感知していったん距離をとる。
三機のスローネと四機のプトレマイオス、フェレシュテのガンダムたちは互いに相手を変えながら凄まじいばかりの戦闘を繰り広げる。

「フッ!まさか君とともにフォーメーションを使う日がこようとは思ってもみなかった。」

「俺もだ。」

ティエリアと刹那は互いに笑うと再びフォーメーションでスローネたちを攻撃する。
そして、エクシアの刃が遂にツヴァイをとらえる。
右腕をかすめた程度だが、この調子ならいずれは綺麗に一撃入るだろう。
だが、トリニティも黙ってはいない。
ツヴァイがエクシアと鍔迫り合いを開始すると、アインとドライは上空に上がり距離をとる。

「ネーナ、ドッキングだ。」

『OK!』

ドライのアームビームガンの下の装甲が開くと中からケーブルが出現する。
そして、アインの背中にあるGN粒子受け取り口に接続しようとするが、

「そんな時間が与えられるとでも思っているのか!!」

ヴァーチェがビームサーベルを振るいそれを妨害する。
しかし、彼らの本当の狙いはこれだった。
ヴァーチェの攻撃をかわした二機はすぐさま射撃態勢へと移っていた。

「その機動性では!」

「いっただきぃ!!」

ヨハンとネーナは勝利を確信するが、ティエリアにはまだ奥の手が残っていた。

「ナドレ!!」

ティエリアの虹彩が金色に輝くとモニターにNADOLEEの文字が浮かび、さらにその上にTRIALの五文字が浮かぶ。
次の瞬間、ヴァーチェの分厚い装甲が次々にパージされ、長い髪のようなケーブルを持つガンダムナドレが現れる。
ナドレは胸部にあるジェネレーターを発光させ、周囲に“何か”を放つ。
すると、その何かを浴びたスローネに異変が起こる。
モニターにエラーの文字が表示され、完全に動きが止まる。

「なんだ!?機体の制御が!!」

「システムダウン!?」

「苦シイゼ!苦シイゼ!」

当然GNドライブも停止したので、フッと糸が切れたように地上へ向けて自由落下を始める。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

「ぐううううぅぅぅぅぅぅ!!」

二機は近くにあった島に落下して、黒い土煙を上げる。

「ぐ………なにが……!?」

ヨハンは落下の衝撃で痛む体を起こして自分たちを見下ろすナドレを見上げる。
しかし、ディスプレイも機能を停止しているため、その姿をとらえることができない。

一方、当然の結果というようにティエリアは無表情のままスローネを見下ろす。

「ヴェーダとリンクする機体をすべて制御下に置く……これが、ガンダムナドレの真の能力。ティエリア・アーデにのみ与えられたガンダムマイスターへの裁判(トライアル)システム。」

ミハエルは二人の異変に気付く。

「兄貴!ネーナ!」

二人のもとへ向かおうとするが、エクシア達に阻まれて思うようにいかない。
そんなミハエルの前で、ナドレはビームサーベルをゆっくりと抜く。

「君たちはガンダムマイスターにふさわしくない……そうとも、万死に値する!!」

ナドレは動きの止まった二機へと突進していく。
しかし、

「なに!?」

突然ヴェーダとのリンクが切断され、トライアルシステムが停止してしまう。
その結果、スローネは動きだし、ナドレの攻撃をかわす。

「トライアルシステムが……強制解除された!?いったい、なにが……!?」

その時、以前ヴェーダとリンクするためのターミナルでの出来事を思い出す。
書きかえられた領域を発見し、詳しく閲覧しようとした瞬間アクセスが拒否された。
今回もあのときよく似ている。

「やはりヴェーダは……!!」

物思いにふけっていたティエリアのバックをとったスローネは反撃を仕掛けようとする。

「お返しよ!!」

「くっ!」

ティエリアも気付くが、二機はすでに攻撃態勢に入っている。
しかし、遠方から飛んできたビームに阻まれる。

「またガンダム!?」

「デュナメスか。」

遥か彼方にスナイパーライフルを構えたデュナメスがたたずんでいる。

「これで5対3だ。ちっとずるいが容赦はしないぜ!」

「野郎!!やってやんよぉ!!」

ミハエルはデュナメスへと接近しようとする。
だが、

『ミハエル、ネーナ、後退するぞ。』

「な!?そりゃねぇぜ、兄貴!」

「どうして!?」

「ガンダム同士でつぶしあえば、計画に支障が出る。」

「チッ……わかったよ。」

ミハエルとネーナはしぶしぶヨハンに従い戦闘を中止する。
刹那たちも戦闘をやめるが、まだ警戒は解いていない。
スローネが並び立つと、それに向かいあうようにエクシア達も並び立つ。

「逃げんのかい?」

ロックオンが挑発するが、ここでヨハンは思わぬカードを切ってくる。

『……君は私たちより先に戦うべき相手がいる。そうだろう、ロックオン・ストラトス……いや、ニール・ディランディ。』

「!!」

ロックオンは驚いた。
ソレスタルビーイングの中でも自分の本名を知っているのはユーノとフェルトだけのはずだ。

「二―ル……ディランディ?」

仲間が自分の知る名前以外の呼ばれ方をしたことに刹那は戸惑いを覚える。

「貴様!俺のデータを!」

『ヴェーダを通じて閲覧させてもらった。』

(!!レベル7の情報を!?)

あり得ない。
自分が拒否されたにもかかわらずやつらはヴェーダにあるデータを閲覧できたという事実がティエリアを動揺させる。

『ロックオン……君がガンダムマイスターになってまで復讐を遂げたい相手の一人は、君のすぐそばにいるぞ。』

「なんだと……!?」

(復讐を遂げたい相手……?)

ユーノはすぐさまヨハンの言葉と自分の持つ情報を照らし合わせ始める。

ロックオンはテロで家族を失った。
そのテロの実行犯は軌道エレベーターの太陽光発電の影響で衰退した中東の組織だったという。

(……!まさか!?)

最悪の仮説が組みあがる。

「ロックオン!そいつの言うことを聞くな!」

しかし、ユーノの制止もむなしくヨハンはユーノの仮説通りの答えを話し始める。

『クルジス共和国の反政府ゲリラ組織、KPSA……その構成員の中に、ソラン・イブラヒムがいた。』

「!!!」

「あぁ!?誰だよそいつは!!」

『ソラン・イブラヒム……コードネーム、刹那・F・セイエイ。』

「な……!?刹那だと!?」

衝撃の事実にロックオンの声が震える。

『そうだ、彼は君の両親と妹を殺した組織の一員……君の仇というべき存在だ……』

ロックオンはエクシアを睨む。
刹那はその答えを否定せずに、身じろぎひとつせずにいる。

「……それ以上余計なことをぬかしてみろ。ただじゃおかない……!!」

ユーノはドスのきいた低い声でヨハンを脅すが、それ以上話す気がなかったのかミハエルとネーナとともに駆るか彼方へと消えていった。
しかし、彼が残して言った言葉はあまりにも重く、そして、厳しい現実を突き付けていった。







スペイン 国立病院

『………攻撃を受けたアイリス社工場跡には、多くの遺族が駆け付け、深い悲しみに包まれています。』

端末から聞こえてくるニュースを聞きながら沙慈は花瓶を丁寧に洗っている。

『………なお、攻撃をしたのは新型のガンダムと思われ、その過激な行動に……』

「ガンダム………」

沙慈はその名を聞いた瞬間、憎しみで顔を歪ませる。
ルイスの家族を奪った存在。
そして、彼女の左腕を永遠に奪い去った存在。

ルイスと会った後、看護婦から彼女の左腕の再生治療が不可能だと聞いた。
ガンダムの放つ特殊粒子のせいで細胞の再生が阻害されてしまったためだそうだ。

沙慈は暗くなるが、首を横に振ると精いっぱいの笑顔を作り、花をさした花瓶をルイスの部屋まで運ぶ。

「ルイス……お花……」

ルイスはこたえない。
窓の外をじっと見つめたまま沙慈の方を向こうとすらしない。

「こっちに置くね。」

沙慈はテーブルの上に花を置くとルイスの背中を見ながらうつむく。
日の光を浴びた色とりどりの花が今は恨めしく思える。
そして、ルイスから思いもよらぬ言葉が発せられる。

「………沙慈、日本に帰って。」

「え!?」

「学校休んじゃ駄目だよ。……一緒にいてくれるのはうれしいけど、でも……いつまでもいたらいけないよ。」

「そんなことできないよ!ルイスを一人にして帰るなんて!」

「……沙慈の夢は、宇宙で働くことでしょ?」

沙慈の方を振り向くルイスの顔はいつもの彼女の明るい笑顔だ。
だが、無理をしているのは明らかだ。

「私のせいで、沙慈の夢がかなわないのは、いや。」

それでも、何とか沙慈を送り出そうとする。

「でも!」

「今一緒にいても、後でつらくなるよ。」

ルイスは目を伏せる。

「私はずっと引け目を感じて……沙慈はずっと後悔し続ける。」

「そんなこと……」

『ない』と言いかけて沙慈は口をつぐむ。
そう言いたいのに、言えない自分が心の中にいる。

「ねぇ私の夢を沙慈に託してもいい?」

「え……?」

「……夢をかなえて。それが、私の夢なの。だから、私の夢をかなえて、沙慈。」

「ルイス……」

泣きそうになる沙慈にルイスは笑顔を見せる。

「約束よ。」






病院の外を歩く沙慈の背中をルイスは窓辺から見送る。
時折、沙慈がこちらを心配そうにむくので笑顔で手を振る。
沙慈も笑顔で応えるのだが、それがどうにもぎこちない。
そして、沙慈がもう見えなくなるところまで行くと、自然と涙がこぼれおちていく。

本当はずっと一緒にいてほしかった。
自分のそばで支えていてほしかった。
でも、それ以上に自分のせいで彼に夢を犠牲にしてほしくなかった。






空港へ向かう道で、沙慈の脳裏にルイスとの思い出が駆け巡る。
彼女が帰省するための飛行機に乗る時の見送りの際、キスをねだられて困ったこと。
母親が帰ってしまい、泣いていた時のこと。
低軌道ステーションでの出来事。
そして、彼女と初めて出会った時のこと。
少しわがままだが、優しくて、あの明るい笑顔を見ていると心が落ち着いていく。

そんな日がこれからも続いていくはずだった。
……こんなことになるはずじゃなかった。







太平洋 孤島

小川の流れる森の一角に、瑠璃色の粒子を放つコンテナのそばで刹那とロックオンは向かい合っていた。
周りには刹那の後ろで心配そうに事の成り行きを見守るユーノと二人の間にある木に寄りかかるティエリア、そして、ロックオンの後ろでへらへらと笑うフォンがいた。

「本当なのか、刹那。お前はKPSAに所属していたのか?」

「……ああ。」

言い淀むことなく刹那は答える。

「クルジス出身か。」

「ああ。」

(ゲリラの……少年兵……)

ティエリアは目を細めて刹那とロックオンを交互に見る。
どちらも戦争によって人生を狂わされた存在。
加害者と被害者の違いはあれど、そこは変わらない。

「で、あんたもそれに参加していたのか?」

ロックオンは振り返らずにフォンに問いかける。

「ああ。だが、俺は連中がアイルランドでテロを行う随分前に追い出されたんでね。あの一件にはかかわっちゃいない。」

ロックオンは納得がいかないようだが、刹那が話を再開したためそちらに意識を向ける。

「ロックオン、トリニティの言っていたことは……」

「事実だよ。俺の両親と妹はKPSAの自爆テロに巻き込まれ死亡した。」

ロックオンは一拍置くと、刹那をキッと見据えて話し始める。

「すべての始まりは、軌道エレベーターによる太陽光発電が開始され、世界規模での石油輸出規制が始まってからだ。化石燃料に頼って生きるのはもうやめにしようってな。……だが、一番わりを食うのは中東諸国だ。輸出規制で経済は傾き、国民は貧困にあえぐ。」

ロックオンの声に徐々に怒りがこもっていく。

「貧しきものは神にすがり、神の代弁者の声に耳を傾ける。富や権力を求めるあさましい人間の声をな。」

刹那は目を伏せる。
かつての自分も神を信じ、そのためなら命も惜しくないと思った。
いわんや、他人の命すらも。

「そんでもって、二十年にも及ぶ太陽光紛争の出来上がりってわけだ。神の土地に住まうものたちの聖戦……自分勝手な理屈だ。もちろん、一方的に輸出規制を可決した国連もそうだ。……だが、神や宗教が悪いわけじゃない。太陽光発電システムだってそうだ。けどな、その中でどうしても世界は歪む。それくらいわかってる。」

ロックオンは視線を下に外して悲しみと怒りが混じったような複雑な表情をする。

「お前がKPSAに利用されていたことも、望まない戦いを続けていたこともな。……だが、その歪みに巻き込まれ、俺は家族を失った……!失ったんだよ……!!」

「だから……マイスターになることを受け入れたのか。」

「……ああ、そうだ。矛盾していることも分かっている。俺のしていることはテロと同じだ。暴力の連鎖を断ち切らず、戦う方を選んだ。」

ロックオンはティエリアから再び刹那へと視線を移す。

「人を殺め続けてきた罰は世界を変えてから受ける。だが、その前にやることがある。」

ロックオンは携帯していた銃を取り出し、ゆっくりと刹那に向ける。

「「ロックオン!!」」

ユーノとティエリアが声を上げるがロックオンは銃を下ろさない。

「刹那、俺は今、お前を無性に狙い撃ちたい。家族の仇を討たせろ……!恨みを晴らさせろ……!」

「あげゃげゃげゃ!さっきまで仲間だと言っていたやつに銃を向けるなんざ、なかなかやるじゃねぇかロックオン!」

「仲間である前に仇だ。お前もな。」

「ふん!」

フォンは鼻で笑うと再び黙り成り行きを見守る。
ロックオンは徐々に引き金にかけている指先に力を込めていく。
だが、刹那の前にユーノが立ちはだかる。

「……なんのまねだ?」

「撃ちたきゃまず俺を撃てよ、ロックオン。」

「これは俺たちの問題だ。お前の出る幕じゃない。」

「悪いけど俺たちの問題でもある。なにせ、俺もティエリアもマイスターなんでね。」

ユーノは笑ってみせるが、その笑顔はいつもと違って鋭い。

「………お前ならわかるだろ。不条理に家族を奪われるのが、どれほどつらいことか。」

「だが、同時に仇を恨むことでしか生きていけない虚しさや哀しさもわかるさ。」

ユーノはサングラスを外して真っすぐにロックオンを見つめる。

「だけど、そんな俺に変われと言ったのはあんただ。」

「俺はお前ほど強くないんでね。仇をすんなり許せるほど人間ができてない。」

「俺だって、一生連中を許すことなんてできない。でも、それでも、前を向いて歩き続けることはできる。」

「………ユーノ、もういい。」

刹那はユーノを押しのけて前に進み出る。

「……ありがとう。だが、これは俺が受けるべき罰だ。どれほど理屈を重ねても俺がロックオンの家族の仇であることには変わりない。」

刹那はロックオンに正面から向かい合う。
そして、再びロックオンの指に力が込められ、乾いた発砲音が島に響いた。

驚いた鳥たちが飛び立つ中、ロックオンは銃を下ろさずに、弾丸が髪をかすめたにもかかわらず瞬きもせずにじっとしている刹那を見据える。
少し癖っ毛の黒髪がはらはらと落ちていく中、刹那は目を閉じる。

「………俺は、神を信じていた。信じ込まされていた。」

「だから俺は悪くないって?」

ロックオンは眼光を一層鋭くして刹那を睨む。
しかし、刹那は臆することなく話し続ける。

「………この世界に神はいない。」

「答えになってねぇぞ!!」

「神を信じ、神がいないことを知った。………あの男がそうした。」

「あの男………?」

ロックオンはいぶかしげな表情を浮かべる。

「KPSAのリーダー、アリー・アル・サーシェス。」

「アリー・アル………」

「サーシェス……?」

「やつはモラリアで、PMCに所属していた。」

「民間軍事会社に!?」

「ゲリラの次は傭兵か!?ただの戦争中毒じゃねぇか!!」

ロックオンは苦虫をかみつぶしたような声で唸る。

「モラリアの戦場で……俺はやつとであった。」

「そうか……!あの時コックピットから降りたのは。」

「……やつの存在を確かめたかった。……やつの神がどこにいるのか知りたかった!もし、やつの中に神がいないとしたら……俺は……いままで……」

刹那は視線を落とす。
ロックオンはそんな刹那を見ながら心の中で自嘲する。

(ハハッ……何やってんだかな……。仲間に銃を向けて……責めるような真似をして……これじゃ俺が……)

テロリストのようだ。
だが、それでも確認しなければならないことがある。

「刹那、これだけは聞かせろ。お前はエクシアで何をする?」

「戦争の根絶!」

刹那は力強く言い放つ。

「俺が撃てばできなくなる。」

「構わない……かわりに、お前がやってくれれば。この歪んだ世界を変えてくれ。だが、生きているなら俺は戦う。ソラン・イブラヒムとしてではなく、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとして。」

「……ガンダムに乗ってか。」

「そうだ。俺が……ガンダムだ。」

迷いのない瞳。
それを見ただけで、ロックオンには十分だった。
フッと笑うと銃を下ろす。

「ハッ!あほらしくて撃つ気にもならねぇ。……まったくお前はとんでもねぇガンダム馬鹿だ。」

「……ありがとう。」

「?」

「最高の褒め言葉だ。」

珍しく刹那が笑う。
それを見ていたユーノやティエリアたちも呆気にとられるが、ロックオンが笑いだすのにつられ、自然と笑いだす。

「これが……人間か……」

ティエリアは柔らかに微笑むと再び木に体重を預ける。

「……なかなか面白いもんを見せてもらったぜ。やっぱりお前らはおもしれぇ!」

フォンもまた、小さく笑う。
その場にいた全員は疲れるまで心の底から笑った。
自分たちの築きあげた絆が本物だったことを確信しながら。







南極大陸

ソレスタルビーイングの関係者なる人物から連絡を受け、集められた各陣営の軍事関係者は南極にポツリと作られたとある施設に足を運んでいた。
彼らの乗ったエレベーターはぐんぐんと下がっていき、ある地点を過ぎたところであるものが見えたとき、歓声が上がる。
何十基もの円錐状の部品がすらりと並べられた光景。
それは、彼らにとって見覚えのある、忌々しい存在がつけている代物であった。

GNドライヴ
ガンダムの強さの最大の秘密。
それが今、目の前にあるのだ。

「これで、ガンダムもおそるるに足らん。」








いま、世界の統合が始まる






あとがき・・・・・・・・・という名の忘れてた存在

ロ「というわけで、VSスローネ編でした。」

フォ「俺出してよかったのか?タイミング的には原作とかなり違うぞ。」

ロ「いいんだよ。二次創作なんだから。それにそろそろトレミー組とフェレシュテを合流させようと思ってたし。」

兄「結局、共闘路線か。」

ロ「だって対立させちゃったらこの先どうすればいいかわかんなくなるし。」

フォ「それくらい捻り出せ、このまるで駄目なガンオタ。略してマダオ。」

シェ「……少し無理がない?」

ロ「言われてる側の俺もそう思う。」

フォ「いいんだよ。俺が神なんだから。」

兄「何この俺様キャラ?むかつくんだけど。無条件でむかつくんだけど。」

フォ「黙れ愚民。」

兄「お前こそ黙れ。」

フォ「いや、お前こそ……」

兄「いや、そういうお前こそ……」

シェ「……馬鹿はほっといてゲスト紹介に入りたいと思います。夜天の王のユニゾンデバイス、八神家のマスコット、リインフォースⅡさんです。」

Ⅱ「どうも!お茶の間のアイドルリインです!」

フォ「何がアイドルだ。ロビンが今まで忘れてたのを思い出してなけりゃお前はファースト終わるまであとがきでの出番なしだったぞ。」

Ⅱ「え゛?」

兄「side2を読み直している時にお前もいたことに気付いてここで出したんだよ。じゃなけりゃ多分今回でゲスト出演二回目のやつがいたはずだ。」

Ⅱ「えええぇぇぇぇぇ!!!?ひどいですよ!!ロリコンから普通の人まで幅広く愛されているリインの存在を忘れるなんて!!」

兄「何この異常なまでに自信満々な子?あとヤバい発言をさも当然のようにぶち込んでくるな。」

ロ「さ、忘れられた存在が出せたところで解説へゴー♪」

Ⅱ「え!?リインの出番少ないです!!」

シェ「これからしゃべっていけばいいじゃない。」

Ⅱ「はっ!!そ、そうですね!がんばるです!!」

兄「そんじゃあ戦闘シーンだが、まさかフォンを出すとはな。こいつが治ってるのは時系列的にはトランザムが使えるようになる直前だろうが。」

ロ「だから、そこは二次創作だから目をつぶってくれ。」

Ⅱ「………………………………」←予習して来てないので話についていけない

フォ「しかも刹那との過去話の時は俺様のことはほとんどスルーか。」

ロ「だって共闘しようって時に仲悪くなっちゃまずいだろ。」

Ⅱ「……………………ぇ…………」←さらについていけない

シェ「ところでなんかユーノが私とフェルトにまでフラグ立ててるんだけど。」

ロ「この作品ではユーノは天然ジゴロだからな。無自覚にありとあらゆる方とフラグをたてていく。」

Ⅱ「ユーノさん女ったらしです!」←ようやくわかる話題になって喜ぶマスコット

兄「じゃあ、今日ユーノが出てないのは……」

ロ「シェリリンに会うのが怖いからだってさ。」

シェ「……何がそんなに怖いのかな……?かな……?」

ロ「十分怖ぇよ。」

Ⅱ「なのはさんだともっと怖いです!」

兄「不用意な発言は控えろ。俺たちまで被害をこうむるだろうが。」

フォ「じゃあそうならないうちに次回予告だ。」

兄「疑似GNドライブを手に入れた各陣営が遂に本格的に対ガンダム作戦を開始する。」

フォ「スローネ達に襲いかかるGNドライブ搭載機。」

シェ「そして、沙慈にさらなる悲劇が……」

Ⅱ「次々に悲劇を生みだす裏切り者ははたして誰なのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 27.統合
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/10/17 11:24
アメリカ 国連議会場

「ソレスタルビーイングによって、度重ねて行われてきた凶悪なテロ行為に対して、ユニオン、人類革新連盟、AEUは軍事同盟を締結、国連の管理下でソレスタルビーイング壊滅のための軍事行動を行っていくことを、ここに宣言いたします。」

国連議長の宣誓が終わった瞬間、主石器していた人間全員が立ち上がって会場が割れんばかりの拍手を送る。
その中には、かつてソレスタルビーイングに介入行動を受けたもの、利用しようとしたもの、あるいは救われたものもいた。
そして、己が野望に燃えるものも………





魔導戦士ガンダム00 the guardian 27. 統合

「ようやく計画の第一段階をクリアしたってところか。トリニティの行動が引き金になっているのが解せないがな。」

「それにしては不可解だ。」

ロックオンは見ていたニュースをきり、座っているティエリアを見る。

「なにがだ?」

「各国の軍事基地はトリニティによって甚大な被害を受けている。そんな状況で軍を統合させても、結果など出るはずがない。世論の失望と反感をかうだけだ。」

「何か裏がある。」

エクシアを見つめていた刹那が呟く。

「……正直、僕は不安に思う。」

ティエリアは珍しく弱気な発言をする。

「ヴェーダの情報に明示されていなかったトリニティの存在、そのヴェーダがデータの改ざんを受けたという事実が、どうしようもなく僕を不安にさせる。」

「ヴェーダだってパーフェクトじゃないさ。」

ジャケットを腰に巻きつけてオイルで黒く汚れた顔をタオルで拭いながらユーノが現れる。

「どんなに優秀でも所詮は機械だ。ハッキングも受けるし、すぐれたファイアーウォールを使ったとしてもウィルスにも万全じゃない。俺に言わせりゃ、そこまであのポンコツコンピューターの言う通りに動くべきなのか疑問だよ。」

普段ならここでティエリアがユーノにかみつきそうなのだが、ティエリアはうつむいたまま黙っている。
重苦しい空気がたちこめようとした時、それぞれの携帯端末に通信が入る。

「スメラギ・李・ノリエガからの暗号通信……マイスターは機体とともにプトレマイオスに帰還せよ。」

「OK、作戦会議だ。宇宙に戻るぞ。ユーノ、お前はアイツの面倒をちゃんと見ろよ。」

「了解。」

盛大にため息をついたユーノは宇宙に戻ることを伝えるため、フォンのもとへと足を向けた。





プトレマイオス ブリーフィングルーム

「で、どうするんだ、俺たちは?」

それまで見ていたニュースの映像が消えるとラッセはスメラギに問いかける。

「国連軍の動きを見てからね。」

「あんたのことだ、予測はしとるんだろ?」

「……そのためにも、準備できることはしておかないと。イアンさん、ラッセを連れて、GNアームズの受け取りに行ってもらえます?」

「了解だ!」

イアンは目を光らせると扉へと向かう。

「GNアームズがロールアウトしたのか!」

「とりあえず、一機だけだがな。」

イアンとラッセは嬉しそうにブリーフィングルームを後にする
スメラギは厳しい顔つきのまま残ったメンバーを見渡す。

「残っているメンバーは、上がってくるガンダムの回収にあたります。」

「「了解。」」

「あの…」

モニターをコントロールしていたフェルトがおずおずと手を挙げる。

「シャルさんたちは……」

「彼女たちの処遇もガンダムの回収が済んでからね。なにしろ、フェレシュテのマイスターの一人は地上にいるんですもの。」

「そうですね……」

フェルトは不安そうに視線を落とすが、スメラギは笑いかける。

「大丈夫よ。彼女たちが仮に私たちと別行動になっても、きっと生き残るわ。」

「…………はい!」

嬉しそうにうなずくフェルトを見てスメラギも顔をほころばせる。

(……たしかに、私たちは戦争をしている。けど、この子たちには、戦うだけの存在にはなってほしくない。だから……)

「?スメラギさん?」

いつの間にか表情が暗くなってしまっていたのかクリスティナから心配そうに声をかけられる。

「何でもないわ。さあ、仕事を始めましょ。」

彼女の一声でクリスティナたちはブリーフィングルームを出てそれぞれの持ち場へと向かった。








リニアトレイン公社 会長別荘

「またJNNの取材か。それについては答える気はないと言ってくれ。」

『かしこまりました。』

ひげを蓄えた小太りの男は大きくため息をつく。

「人気者は大変ですな。」

「茶化すな。それより、機体の搬送は順調に進んでいるようだな。」

小太りの男、ラグナ・ハーヴェイは赤髪の男に話しかける。

「代金の分の仕事はさせてもらいますよ、ラグナ・ハーヴェイ総裁。」

「で、なにかね?」

先程のこともあったせいかラグナは少々不機嫌な様子で赤髪の男に問いかける。
男は笑みを崩さずに答える。

「単刀直入に言わせていただきます。搬送中の新型を一機、私に譲渡していただきたいのです。」

男の言葉にラグナの眉間がピクリと動く。

「何を馬鹿なことを。」

「なら、ユニオンでもAEUでも構いません。私を軍にはいれるように配慮していただきたい。」

ラグナは笑みを崩さない男をなめまわすようにじっくりと見る。
物腰こそ柔らかでパッと見では好印象を与えるが、どこか胡散臭い。

「……君は外人部隊にも所属していたな。」

「ゲーリー・ビアッジ少尉と呼ばれています。」

「君のセンスの高さは聞いている。だが、そうまでしてあれに乗りたい理由はなんだ?」

男の顔から笑みが消え、獣のような鋭い気配とともに表情が厳しくなる。
しかし、それは一瞬にして消え去り、またもとの穏やかな笑みが男の顔に浮かんでいた。

「三度も借りを作った相手がいるから……て言うのもあるんですが、私の勘なんですが、近い将来傭兵なんてものが必要なくなる時代が来ると思っていまして。せめて、戦える場所へ行きたいと………そういうことです。」

男の言葉を受けたラグナは不機嫌な顔をさらに厳しいものにする。

「……君はどこまで知っている?」

「だから、ただの勘ですって。」

困ったような笑いを浮かべているが、この男は間違いなくある程度何かをつかんでいる。

「ご配慮頼みますよ、総裁。」

男はそれだけ言うと部屋から出ていく。
その背中をラグナは忌々しげに見つめていた。







「はぁ~……取材は空振り。どうすれば……」

タクラマカン砂漠での作戦に参加していた兵士から得た情報でリニアトレイン公社会長、ラグナ・ハーヴェイにまでたどり着いた絹江だったが、取材を申し入れたものの断られ途方に暮れていた。
相手は自分の会社の大株主。
そう簡単に情報が得られるとは思っていなかったが、わざわざここまで訪れて何の手がかりも得られなかったのは精神的にこたえる。

とその時、大きなマフラー音とともに赤いスポーツカーが飛び出してくる。

「さっき、総裁は面会中だって……」

記者の勘に従い、絹江はスポーツカーの前に出る。
スポーツカーの運転手は突然飛び出してきた絹江に驚いて急ブレーキをかけるが、絹江はそんなことに動じずに運転手とコンタクトを図る。

「あの…」

「何か御用かな?」

車を運転していた男は赤髪で、端整な顔立ちをしているが、少し日に焼けているせいか粗野な印象を受ける。
しかし、話し方はいたって穏やかで好印象を持たせる。
絹江はバッグの中から身分証明証をとりだす。

「私、JNNの特派員なんですが、2、3お聞きしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」

「JNNの記者さんねぇ……」

男は困ったような笑みを浮かべる。

「構いませんが、私は少し急いでまして……車中でよろしければ…」

「!い、いえ……それは……」

絹江は一瞬迷った。
それまではそれくらいのことはかまわないと思っていたのだが、男から感じた何かが自分を踏みとどまらせようとしている。
しかし、

「……やめておきますか?」

「………………」

少し考えた後、絹江は答えた。

「では、お言葉に甘えて……」






別荘から離れた二人は海が一望できる橋の上を車に乗って走っている。
車を運転している男、ゲーリー・ビアッジは絹江が乗ってから何も話そうとしないが、橋の真ん中あたりに差し掛かったところで話し始める。

「絹江・クロスロードさんですか………いいですね、あなたのような美人の記者さんがいて。」

「そんな……」

お世辞だとは分かっているが、綺麗と言われてうれしくない女性はそうはいない。
だが、絹江はすぐさま気を引き締める。

「で、私に聞きたいこととは?」

「間違っていたら謝りますが、ビアッジさんは先ほどトレイン公社の総裁、ラグナ・ハーヴェイ氏と会われていませんでしたか?」

「ええ、会いましたよ。」

ビアッジがあまりにもあっさりと答えるが、絹江はさらに突っ込んだ質問をする。

「どのような話を?」

「私は流通業を営んでおりましてね。物資の流通確認のために総裁に報告に来たんです。」

「わざわざ、総裁に?」

「ええ。」

「それは、私用ですか?」

「ええ、私用です。」

絹江は男のほうに身を乗り出す。

「差し障りなければその物資がなんなのか、教えていただけないでしょうか?」

ビアッジは間を置くが、すぐに八重歯がのぞくような笑い方をする。

「GNドライヴ……」

「GN………ドライヴ……?リニアトレイン関係の機材か何かですか?」

聞いたこともないような言葉に戸惑う絹江だが、それ以上に、隣にいるビアッジが先程から放つ気配は異常だ。
それでも絹江はビアッジの言葉にじっと耳を傾けている。

「いえ、MSを動かすエンジンです。」

「MSの……?」

「………ガンダムですよ。」

「っっ!!!?」

ビアッジの気配が一段と異常さを増す。
自分が期待していた以上の答えとビアッジの気にあてられ、絹江は身震いする。

「知っているでしょう?ソレスタルビーイングの所有する………あのクルジスの少年兵がパイロットをしている、あのガンダムです……」

「クルジスの……少年兵……?」

おかしい。
この男はどこの陣営もつかんでいないはずのガンダムのパイロットについて何かを知っている。
どう考えても、普通の人間じゃない。
そんな絹江の不安をよそにビアッジは語り続ける。

「その餓鬼をですね……誘拐して、洗脳して、戦闘訓練を受けさせ、ゲリラ兵に仕立て上げたのは何を隠そう、この私なんです…。」

「あ……あなた……」

絹江の声が震える。
その様子を見ていたビアッジの笑顔に凶暴なものが入り混じっていく。

「戦争屋です。戦争が好きで好きでたまらない……人間のプリミティブな衝動に順じて生きる、最低最悪の人間ですよ。ククク………」

ビアッジ、いや、アリー・アル・サーシェスはこれから彼女の身に起こることを考えながらほくそ笑んだ。







雨が降り注ぐ夜の裏路地で絹江は血があふれる腹部を押さえながら倒れていた。
ICレコーダーのようなデータを残しておく機材はすべて壊され、そこら辺に転がっている。
バッグの中身もすべてぶちまけられ、無残にも雨にうたれている。
その中に写真の入った定期入れが絹江の近くに転がっている。

「う……あ……」

絹江は残った力を振り絞り、写真へと手を伸ばす。

「と……父さん……」

絹江、沙慈、そして二人の父の三人で撮った写真。
家族の大切な思い出だ。

「さ……沙慈………」

自分の弟の名を喉の奥から振り絞り、何とか写真をつかもうと手を伸ばすが、その一歩前で彼女は力尽きた。






ユニオン 高軌道ステーション

巨大な船が今、高軌道ステーションからゆっくりと星の海へと漕ぎ出していく。
乗組員はたったの二人だが、オートパイロットがあるためそれほど人数は必要ない。
いや、今回は多いと逆に不都合だ。

「わざわざアレハンドロ様が同行なさる必要はないと思いますが?」

ブリッジの特等席から星々を眺めていたアレハンドロにリボンズが問う。

「君が苦労して手に入れてくれた情報だ……この目で見させてもらうよ。それに、これはコーナー一族の長きにわたる悲願でもあるのだから。」

「アレハンドロ様……いえ、コーナー家は何世代も前から計画への介入を画策していたのですね。」

「その通りだ。だが、ヴェーダがある限り私たちにはどうすることもできなかった。………そんなとき偶然にも私の前に天使が舞い降りた。」

アレハンドロは笑みを浮かべながらリボンズの方を向く。

「君のことだよ。リボンズ・アルマーク。」

「拾ったことへのご恩返しはさせていただきます。」

「しかし、よもや本体の場所を突き止めようとは。」

アレハンドロは再び前を向いて感嘆の声を漏らす。

「時間がかかって申し訳ありませんでした。」

リボンズがすまなさそうに苦笑するのを見てアレハンドロは微笑む。

「フッ……リボンズ、君はまさしく私のエンジェルだよ。」







アフリカ 北西部

アフリカ
かつては暗黒大陸と呼ばれ、人を寄せ付けなかった土地の名残がいまだに残っている。
そんなジャングルに囲まれた山の一つにトリニティたちの拠点があった。

「今までさんざん働かせといていきなり連絡なしってどういうこと!?」

ネーナの声がガンダムが置かれた格納庫に響く。
ここのところトリニティはミッションを行っていない。
というより、ミッションが送られてきていない。
国連軍が統合されたという知らせが入る少し前からミッションどころか音信不通だ。

「俺に聞くなよネーナ。難しいこと考えんの苦手なんだからよ。」

へらへらと笑いながら手を振るミハエルを見てネーナも笑う。

「ミハ兄ぃはそういうタイプだよね。」

「な、馬鹿にすんな!」

流石に気に障ったのか顔を赤くしてネーナを睨む。

「バーカ!バーカ!」

ネーナに同調するようにHAROがおちょくる。

「てめぇHARO、刻まれてぇのか!」

ミハエルは顔をひきつらせながらHAROを睨む。

「ミハエル、HAROはトリニティに欠かせない戦力だぞ。」

「うぉわ!?冗談だって兄貴!」

ミハエルは後ろから現れたヨハンに弁解する。
だが、ヨハンはそんなことなど気にせず淡々と話し始める。

「ラグナからミッションプランが届いた。内容はいつもと同じ。作戦は三日後に決行される。」

「待ってました!」

ミハエルは久々のミッションに張り切る。
と、その時。

「ようやく見つけましてよ。」

「「!!?」」

自分たちしか知らないはずのこの場所に女性の声が響く。
声の方を向くとツインテールの女性が長身の男を連れてこちらに歩いてくる。

「なんで!?どうやってセキュリティを!?」

「いいじゃねぇか……どっちにしろ、ここを見られたからにはただで帰すわけにはいかねぇ!!」

ミハエルはナイフを抜いて振動を開始させる。
だが、

「待てミハエル。そこのご婦人、ヴェーダの資料の中で見た記憶がある。」

「記憶にとどめていただいて光栄ですわ。」

ツインテールの女性は軽く会釈をする。

「私の名は王留美。ソレスタルビーイングのエージェントをしております。こちらはパートナーである紅龍です。」

「ちょっといい男じゃん。」

「そぉかぁ?」

ミハエルは敵意むき出しで留美と紅龍を睨む。
しかし、そんなことなど気にせずヨハンは留美と話し始める。

「この場所に来たことで、あなた方の能力の高さはわかりました。それで、私たちに何かご用ですか?」

「ただ、ご挨拶に伺ったまでです。」

「?」

ヨハンのいぶかしげな表情とは対照的に留美は涼やかに笑う。

「チームトリニティも私たちと同じソレスタルビーイング。エージェントである私たちがあなた方をサポートするのは至極当然のこと。」

「何言ってやがる!!」

「あたしらそっちのガンダムの攻撃を受けたんだよ!!」

ミハエルとネーナは口をそろえて留美を非難する。
が、

「そのことについては聞き及んでおります。ですが、私はあちら側の人間というわけではありません。」

「つまり、中立の立場であると?」

「いいえ、私はイオリア・シュヘンベルグの提唱した理念に従う者……それ以上でもそれ以下でもありません。」

「…………なるほど、そういうことですか。」

ヨハンは微笑むと納得したようにうなずく。

「「???」」

ミハエルとネーナは何のことかさっぱりだが、そんな二人を置いてヨハンは話を進める。

「わかりました、王留美。必要に迫られた時、あなたの援助を期待させてもらう。」

「よしなに。」

「この場所を彼らには…」

「伝えないことをお約束いたしますわ。では。」

留美は一礼すると帰っていく。
扉が閉まった瞬間、ミハエルがしゃべりだす。

「いいのかよ兄貴、あっさり帰しちまって。」

「なに、構わんさ。それに、使えるカードは一枚でも多い方がいい。」

「美人ダッタナ。美人ダッタナ。」

HAROの言葉を聞いたネーナの眉がピクリと動く。

「るっさい!」

ネーナは足元のHAROを軽く蹴る。

「ヒガムナヨ!ヒガムナヨ!」

HAROはネーナを挑発しながら蹴られた勢いに任せて機体の後ろに転がって行った。








プトレマイオス ブリッジ

地上から戻ってきたマイスターズはスメラギ達の待つブリッジへと来ていた。

「状況は?」

「今のところ、変化はないわ。」

「トリニティも沈黙してる。」

スメラギとアレルヤがロックオンの質問に答えるとティエリアが口を開く。

「命令違反を犯した罰を。」

ティエリアが真面目な顔で言うので、スメラギはポカンとした後、クスクスと笑う。

「そんなのいつしたっけ?」

「しかし…」

ティエリアがスメラギに抗議しようとするとロックオンに肩を掴まれる。

「そういうことだ。」

ロックオンがウィンクをするとティエリアは少し戸惑うが、すぐにフッと微笑んだ。

「何かあった?」

「さぁ?」

ティエリアの様子がいつもと違うことに気付いたアレルヤは問いかけるが、ユーノがはぐらかすように小さく肩をすくめるとアレルヤは小さく笑ってそれ以上追及はしなかった。

「スメラギさん。」

和やかな空気が流れている中、クリスティナから声が上がる。

「トリニティが動き出したようです。」

「なんだって?」

ロックオンが驚いている中、スメラギがフェルトの方を向く。

「フェルト、彼らの攻撃目標は?」

「進行ルート上にある基地は……人革連、広州軍管区です。」

フェルトの言葉を聞いたユーノの肩がピクリと震える。

(セルゲイさん………)

タクラマカンでのミッション以来会っていないが、おそらくトリニティを追って彼も来るだろう。

(何事もなければいいけど………)

しかし、ユーノの不安は思わぬ形で裏切られることとなる。







人革連 広州方面軍駐屯基地

夜明けが間近な空に三つの赤い彗星が尾を引きながら地上へと向かって行く。
地上にある人革連の基地では人もMSも慌ただしく動いている。

『観測班から通達!三機の新型のガンダムと思われる機影がS-9788方面より飛来!当基地に対する軍事介入行動と思われる!直ちに迎撃に移れ!』

その様子を見下ろすミハエルの目は敵を蹂躙する期待とこの前ガンダムから受けた攻撃に対する怒りによる興奮で見開かれている。

「こっちはこの前の鬱憤がたまってんだ!吐き出させてもらうぜ!!いいよな、兄貴!?」

ヨハンは呆れた顔をするが、こうなったミハエルには何を言っても無駄だということはよくわかっている。

「作戦上は問題ない。」

「そうこなくっちゃなぁ!!」

地上から機関銃と砲撃による攻撃が開始されるが、三機は別れて行動を開始する。

「おらおらぁ!!」

「当たれ当たれぇ!!」

ツヴァイとドライの射撃にさらされるティエレンたちはその数を減らしていく。

「そろそろ片をつける。ドッキングするぞ。」

『『了解!!』』

それまで好き放題に暴れていたスローネ達がアインのもとに集結しようとする。
その時だった。
赤い光が三機の間を奔り、分断させる。

「な、なに!?」

「またエクシアかよ!?」

「いや、違う……!」

ヨハンはモニターに表示された敵の数を見て動揺する。

「十機の編隊だと!?」

ちょうど夜が明け、日の光がその正体を照らし出した。
全身が白でカラーリングされ、胸部からでた突起状のものが肩の後ろまで伸びている。
顔は額に紫色のクリスタル状のものが埋め込まれ、顔の切れ目からは紫に光る四つの目がのぞいていて、中世の甲冑に身を包んだ騎士を連想させる。
そして、何より着目すべきは背中から放出されている赤い粒子と三角錐の出力機関だ。
それは紛れもなくGNドライヴとGN粒子なのだが、

「これは……ガンダムではない!!」

「どういうこったよ!?」

「でもGN粒子は放出してる!」

「あれもまた、ソレスタルビーイングだというのか……!?」

トリニティたちが動揺するなか、白いMSを指揮するセルゲイから各員に指示がとぶ。

「頂部GN-X部隊……攻撃行動に移る。虎の子の十機だ、大破はさせるな。かかれ!!」

セルゲイの怒号とともに十機のGN-X、ジンクスから赤い光の弾が発射される。

「くっ!!」

その威力に顔をしかめながらもネーナは全く別のことに驚いていた。

「何よ、この機動性!?」

今までのMSとはわけが違う。
多彩な動きにそれを生かしきれるスピード。
ガンダムには少々劣るが、これだけの数が相手だとかなりきつい。

「なんという性能だ……!やはりこの機体…すごい!!」

セルゲイはGNドライヴ搭載機の性能をかみしめながら腰のビームサーベルを抜いてドライへと斬りかかる。

「何すんのよあんた!!」

ネーナは激昂するが、セルゲイは動じない。

「もはやガンダムなど……おそるるに足らん!!」

「冗談!!」

セルゲイの言葉が聞こえたわけではないが、自ら斬りかかったことを余裕の表れととったネーナがドライの腰に装備されたミサイルを発射する。
しかし、

「うそ!!?」

「でぇやあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

セルゲイの操るジンクスはこともなげにそれをよけ、ドライの顔に回し蹴りを入れる。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ネーナ!!」

地上へと落下していくドライの救援にツヴァイが向かおうとするが、

「貴様の相手はこの私だ!!」

「なめるなぁ!!行けよファング!!」

ツヴァイは自身を止めようとしたピーリスのジンクスにファングを飛ばす。
中距離から嵐のように赤い光弾が降り注ぐが、ピーリスはこともなげによけていく。

「なんだと!!?」

ミハエルは完全によけられたことで動揺するが、ピーリスはさらにファングにビームライフルによる反撃を行う。
数機のファングが破壊され、残ったファングは攻撃を続けるが一向に当たる気配がない。

「機体が私の反応速度についてくる……!これが、ガンダムの力!!」

ピーリスは自分の能力をフルに活かしきって戦えているためか、今までに見せたこともないような笑顔を見せる。

「よくもファングを!!」

ミハエルは借りを返そうとペダルを踏み込むが、ヨハンから通信が入る。

『撤退するぞ!』

「兄貴!!」

『反論は聞かん!!』

よく見ればヨハンも一機のジンクスに押され始めている。

「ガンダム覚悟!!」

「くぅ!!」

ミハエルは舌打ちをしながらも、ヨハンを追い詰めていたミンのジンクスを牽制しつつ撤退にかかる。
アインに乗るヨハンもネーナの乗るドライを片腕に抱えながら上空へと退避する。

「待てっ!!」

ピーリスは追おうとするがセルゲイに止められる。

『今日はここまででいい。』

「しかし中佐!!」

『眼下の基地を見ろ。』

「?」

ピーリスはセルゲイに言われた通り、眼下の基地に目を向ける。
そこには生き残った者たちが歓声とともにこちらに手を振っている。

「これは……どうして………?あれだけの被害を受けたというのに。」

『……そういえば、少尉は初めて味わうんだったな。』

ピーリスは不思議そうに首をかしげる。

『これが、勝利の美酒というものだ。』

「勝利の……美酒…………」

敵をしとめきれなかった。
味方の被害も甚大だ。
なのに、胸の奥からこみ上げてくるものがある。
ピーリスはその感情につき従い、満面の笑みを浮かべた。
しかし、そのピーリスとは対照的にセルゲイの表情は暗い。

(確かにこの力があればガンダムとも渡り合える。しかし………)

そうなれば今度は間違いなくユーノと正真正銘の殺し合いをする羽目になるだろう。

(やりきれんな……。)

セルゲイは沈んだ気分を背負いながら、地上の基地へと進路をとった。







プトレマイオス ブリッジ

「トリニティ、戦闘区域から離脱した模様。」

「まさか撤退!?」

「何があった?」

「人革連側が……太陽炉搭載型MSを投入したのよ。」

渋い顔でスメラギが話す。

「太陽炉………!?」

「そんな……」

「やはり、ヴェーダから情報が……!」

マイスターズに動揺がはしる中、スメラギはいっそう顔つきを厳しくする。

「これからは、ガンダム同士の戦いになるわ。」

スメラギの言葉にブリッジは水をうったように静まり返る。
今まで自分たちが使っていた力が、今度は自分たちに牙をむいてくるのだ。
誰しも不安に襲われる中、スメラギはある決断をする。

「フェルト、フェレシュテの皆さんをここに呼んで。」

「?どうする気だ?」

ロックオンの問いにスメラギが答える。

「彼らには別行動をとってもらうわ。」

「そんな!どうして!?」

「そうっすよ!戦力は多い方が……」

クリスティナとリヒテンダールが抗議する。

「……いざという時、彼らが最後の砦になるかもしれないわ。だから、ここで共倒れになるのはまずいの。」

「それって……」

「つまり、俺たちがやられる可能性もあるってことか?」

アレルヤとロックオンは表情をこわばらせる。

「万が一のための保険よ。」

「でも………」

「いえ、そうさせてもらいます。」

クリスティナが反論しようとした時、扉からシャルが現れる。

「私もスメラギさんと同意見です。それに、私たちは別のことを探ろうと思っていましたから。」

「別のこと?」

クリスティナは首をかしげる。

「………ヴェーダの情報を流出させた人物、裏切り者を探そうと思います。」

「見つけられますか?」

スメラギから鋭い声がとぶ。
しかし、シャルは動じることなく力強くうなずく。

「見つけます。たとえ、なにがあっても。」

その決意に満ちた瞳を見てスメラギは微笑む。

「わかりました。気をつけて。」

「はい、ありがとうございます。」

二人は固く握手をするとそれぞれの役割を果たすために動き始めた。









「こちらです、アレハンドロ様。」

月の裏側に隠されていたとある施設へと侵入したアレハンドロはリボンズに導かれその奥へと向かう。
そして、壁と見間違うような巨大なゲートの前で二人が立ち止まると、リボンズは虹彩を輝かせる。
すると、動く気配を見せなかったゲートが上へと持ちあがる。
その奥には赤いカーペットがひかれ、美しい模様が刻まれた飾りがいくつもある。
アレハンドロとリボンズは奥へ向かって進んでいくが、その途中で自分たちの足元にあるものに気付く。

「!!」

クレーターを思わせるようなおうとつがついた球体が淡い青い光を放ちながら静かにたたずんでいる。

「これがヴェーダ……!ソレスタルビーイングの…いや、イオリア・シュヘンベルグノ計画の根幹をなすシステム!!」

アレハンドロは狂った笑みを浮かべながらヴェーダを見下ろす。
その後ろでリボンズが邪な微笑みを浮かべていることなど知らずに。







人革連 天柱極市警察署

スペインから戻ってきて数日後、沙慈に姉である絹江が働くJNNの人間からとある連絡が入った。
その知らせを初めて聞いたとき、沙慈は信じられず思わず笑ってしまった。
だが、頭が冷えていくのと同時に全身から冷たい汗が滴り落ちていった。

絹江の上司に連れられ、人革連の警察署へと足を運んだ沙慈を待っていたのは残酷な現実だった。
人の身長ほどの灰色の袋のもとに案内された沙慈は説明を受ける。

「生体照合の結果、絹江・クロスロードさんであると……」

嘘だ。
声を出そうとしたが喉の奥が渇いて声が出ない。

「確認してください……」

担当者が袋のチャックを開ける。
そこには目を閉じている絹江がいた。
心なしかいつもより肌が白く、穏やかな表情に見えた。
とても死んでいるとは思えない。

「姉さん……?」

沙慈は問いかけるが絹江は答えない。

「どうして…………!!」

絹江の頬に沙慈の涙が当たる。
沙慈の体温がこもった涙は冷たくなった絹江に温度を奪われ冷えていく。

「どうして……どうしてっ……!!!」

沙慈は絹江の頭を抱え込むように抱きつくが、ただ絹江の体がすでに冷たくなっていることを、死んでしまったことを思い知らされるだけだった。

「姉さん……!!姉さん!!」

遺体安置室に沙慈の悲痛な叫びがこだまする。
その姿にたまりかね、全員がその場から彼を残して部屋を出た。
しかし、どれほど離れようと沙慈の声が届かなくなることはなかった。







戦いの果てに傷つくのが人ならば
なぜ、誰もが戦うことを選んでしまうのか……








あとがき・・・・・・・・・・という名のカオス

ヨハン(以降 長男)「というわけでジンクス登場編だった第二十七話だ。」

ツン「え~と、今回はとてつもなく怖いことになりそうだということを理由にロビンがメモを残して逃げてしまったので仕方なく初登場のヨハン・トリニティさんとあとがき二度目の登場の私ことアリサ・バニングスがお届け……」

ツンデレ、プルプルと怒りに震える。

ツン「って!!なんで私がこんなことしないといけないのよ!!(怒)」

メモを地面にたたきつけ思いきり踏みつける。

フォ「仕方ねぇだろうが。ロビンのやつが『面白そうだから性格悪い奴らを集めてあとがきに出そう(笑)』なんて言って逃げ出しちまったんだからな。比較的まともな性格の俺が戦う以外無能などうしようもない他の阿呆どもに代わって進行を務めてやりたかったんだが……」

ネーナ(以降 三女)「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ミハエル(以降 二男)「戦う以外無能ってのは俺たちのことかぁぁぁぁぁ!!!!」

ハ「シバキ倒すぞこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

フォ「うるさい、まるで戦う以外は駄目な男&女。略してマダオ。」

三女「黙れこの俺様キャラ!!マダオはグラサンかけてるやつ専用の称号アル!!」

ツン「いや、あんたキャラが別のやつになりかかってるわよ!?」

三女「あんたもあの大食いと声一緒でしょうが!!」

ツン「あんなの私じゃないわよ!!」

ハ「うるさいアルアルチャイナ娘ども。おとなしく親父と同じように頭を焼野原にして涙にくれてろ。」

ツン・三女「「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」

ツン「あんたなんてヤッ○ーマンじゃないの!!」

ハ「その名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!どっちかっていうとア○ンがいい!!」

二男「そんなマイナーなもん覚えてるやついねぇよ!!」

ハ「うるせぇぇぇぇぇぇこの脳みそ海綿体!!テメぇなんざロビンが咄嗟に中の人が演じてる別のやつ思いだせなかったからお前だけ中の人ネタなしなんだよ!!一人孤独感にさいなまれてろボケッ!!」

フォ「うるせぇぞ愚民ども!とりあえずお前らは×××××にしてやろうかぁ!?」

三女「何の権限であんたが私たちに伏字にしなきゃいけないような仕打ちを受けなきゃいけないのよ!!!」

フォ「お前らの存在は俺のためのもの!俺の存在も俺のためのものだぁ!」

ツン「何このジャイアニズム!!?」

ギャーギャーギャーギャー!!

長男「…………予想以上の事態になってきたのでここいらで終わりにさせてもらう。ちなみにロビンの処遇についてはあんずるな。このようなことを引き起こさないよう私がきっちり体に教え込む。今回の一件についてはそれでお許し願いたい。では、次回もよろしく……」






ハ「死ねやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

三女「お前がくたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ツン「とりあえずあんたらうるさい!!」

二男「俺を忘れてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

フォ「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!……ん?やつが来たか。それじゃ俺はそろそろ退散するか。」

俺様キャラ、さっさと逃げ出す。
そして限界突破状態で魔王降臨

魔王「…………みんな、あとがきくらいまじめにやろうよ。私の言ってること、そんなにまちがってるかなぁ…………?」

「「「「うっさい!!!!」」」」

魔王「…………にゃはははははは!少しお仕置きなの!」





その後、彼らの行方を知る者はいない。

………はしゃぎすぎてスイマセン<(_ _)>



[18122] 28.選ぶ道
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f67ac0c6
Date: 2010/10/17 11:31
月 ヴェーダ内部

「これがヴェーダの本体……イオリア・シュヘンベルグの計画の根幹をなすもの…」

アレハンドロ達はコントロールパネルらしき物の前まで進む。

「できるかい、リボンズ?」

「少々お時間をいただくことになりますが。」

「かまわんさ……コーナー家はこの時のために200年以上も待ち続けてきたのだから。」

200年の時を超え、今、歪んだ野望が胎動を始める。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 28. 選ぶ道

プトレマイオス ブリッジ

GNドライヴ搭載機が出たとの知らせを受けた翌日。
シャル達と別れたプトレマイオスのクルー達は慌ただしく事態の把握に努めていた。

「クリス、ヴェーダを通じてトリニティを退けた部隊の映像を出して。……できれば、こちら側のデータは…」

「ブロックしてます。フェルト。」

「ダウンロード終了。映像、でます。」

フェルトがエンターキーを押した瞬間、ブリッジの前にある大きなモニターにその姿が映し出される。
白いボディに赤い疑似GN粒子をまきちらしながら飛びかうその姿はさながら白い悪魔といった感じだ。

「この機体は……!?」

「やはり疑似太陽炉搭載型……!」

スメラギが呻くように声を絞り出す。
刹那は疑似太陽炉搭載型MS、ジンクスの太陽炉を見つめながら自分の行ってきたことを思う。

(戦いが広がっていく……)

自分たちが世界から争いをなくそうとすればするほど世界は歪み、戦いが各地へと広まっていく。
ならば、自分の、ガンダムのしてきたことは世界を歪ませただけなのだろうか。

「………迷うなよ、刹那。」

不意に隣に立っていたユーノから小さく声をかけられる。

「迷ったら死ぬ。お前も、仲間もな。……俺たちの戦いは、そういうレベルにまで来ちまってるんだ。」

ユーノの言葉を受けて改めて映像へと視線を向ける。

(…………ガンダム。)

刹那は心の中でガンダムの名を呼ぶ。
自身の中に芽生えた迷いを払拭するように。





月 ヴェーダ内部

パネルのキーを叩くリボンズの傍らにいたアレハンドロは待ちきれなくなり彼に問いかける。

「どうだね、状況は?」

確かに200年の歳月に比べれば、この程度待たされるのは大したことではない。
だが、それでも間もなくヴェーダを完全に掌握できると考えただけで気持ちが先走る。

「現在レベル5をクリア。レベル6の掌握作業に入りました。」

「そうか……」

「退屈しのぎにこのような情報はいかがでしょう?」

アレハンドロのはやる気持ちを察知したのか、リボンズは面白いデータを見つけたのでそれを見せる。
アレハンドロの目の前にとある情報が開示される。

「ほぅ……ラグナ・ハーヴェイはジンクスの配置を終えたか。ということは、彼の役目もここまでか……」







ユニオン 高軌道ステーション

グラハムを残し、宇宙へと上がってきていたダリルは目の前にあるジンクスを頼もしく思うと同時に疎ましくも思っていた。
グラハムはハワードの墓前での誓いを守るため、ジンクスに乗ることを拒み、あくまでフラッグでガンダムと戦う道を選んだ。
だが、ダリルはグラハムと違い、ジンクスに乗って戦う道を選んだ。
戦友の仇を討つために。

「よぉ、あんたフラッグファイターだろ?」

後ろから声を掛けられたため、考えるのをいったん止めて声のした方を振り返る。
AEUの軍服に身を包んだ軽薄そうな男がこちらに近づいてくる。
AEUの名のあるパイロットなら知っているはずだが、咄嗟に浮かぶ名前と顔の中に一致するものはない。

「………誰だ?」

素直にそう言ったダリルの反応を受けて男は盛大にずっこける。

「この俺を知らないとはモグリだな!?AEUのエース、パトリック・コーラサワー様だ!」

「コーラサワー……?」

うんうんとうなずく男の顔を見ながら記憶の引き出しを開けていく。
そして、

「ああ!一番最初にガンダムに介入され、ボコボコにされた。」

「うぐっ!古傷をえぐるな!!」

パトリックはおおげさなリアクションをするが、すぐに立ち直るとあたりをきょろきょろし始める。

「それより、ユニオンのトップガンどこよ!?」

ダリルはため息をついて話し始める。

「エーカー上級大尉は本作戦には参加しない。」

「え?どういうことだ!?あ……フッ、そうかい。臆病風に吹かれたってわけか。ユニオンのエースも大したことな……うぐぉ!!?」

胸倉を掴まれたパトリックはダリルのもとに強引に引き寄せらる。

「な、なによ?」

突然の出来事に驚いたせいで女性のようなしゃべり方をしてしまうパトリックをダリルは容赦なく睨みつける。

「隊長を愚弄するな!!」

「ゲホッ!!ぼ、暴力反対!!」

「そこまでだ!」

ギリギリと首を絞めつけていた襟の圧迫感から解放されたパトリックはダリルとともに声のした方を向く。
そこにいたのは自分の上官であるカティ・マネキン大佐、その人であった。

「部下が失礼をした。」

「た、大佐ぁ…」

「ユニオンのダリル・ダッジ准尉です。」

情けない声と笑顔を向けるパトリックは一旦放っておいて、敬礼をするダリルに視線を向ける。

(……できるな。)

能力の高い者はその振る舞いや雰囲気にそれが現れるというのがマネキンの信条だ。
ダリルの振る舞いや軍人然とした気配から敏感にその能力の高さを感じ取った。

「AEUのカティ・マネキン大佐だ。本作戦の指揮を任された。よろしく頼む、准尉。」

「ハッ!全力を尽くします!」

マネキンはダリルに頼もしさを感じるが、同時に不思議な感じもする。
これまで表立っての戦いはなかったものの、たがいに敵対していた者同士が今はこうして互いに協力し合い、ガンダムという共通の敵に立ち向かおうとしている。
ここに来るまでもユニオンの軍人とは何人かあったが、誰もが、というわけにはいかなかったが、気さくに話をする人物もいたし、協力し合えることを喜ぶ者もいた。
国で分けられていても、そこはやはり人間同士だ。
わかりあうことができるのだ。

「戦果を期待する。」

そんな思いをかみしめながらマネキンも敬礼を返す。
そして、ダリルの前で情けない顔をしている部下に厳しい声をかけて先に歩きだす。

「パトリック、来い!」

「あ!待ってくださいよ、大佐ぁ!」

パトリックはフラフラとマネキンの後を追いかける。
その後ろ姿を見ながらダリルは先程のマネキンの言葉をかみしめていた。

「戦果はあげるさ……そうでなくてはフラッグを降りた意味も……隊長に合わせる顔もなくなる。」

ダリルは固い決意を胸にガンダムとの戦いを今か今かと待ち続けた。









プトレマイオス ブリッジ

人気のなくなったブリッジで淡々とキーを叩くフェルトとクリスティナ。
そこにスメラギがドリンクの入ったボトルを持って入ってくる。

「ごめんね、無理させちゃって。」

「助かります。」

クリスティナはスメラギからボトルを受け取る。
そして、スメラギは自分が入ってきても作業を続けていたフェルトの方を向く。

「フェルトもね。」

「あ……任務ですから。」

以前にも聞いたセリフだが、前は無表情だったものが今は笑顔になっている。
それを見たスメラギもつられて微笑む。

「システムの構築具合は?」

「八割と言ったところです。でもいいんですか?ガンダムからヴェーダのバックアップを切り離すとパイロットへの負担が……」

クリスティナはボトルのストローから中の液体をすする。
が、

「プッ!!これお酒じゃないですか!!」

「ああ、ごめん♪」

「……確信犯じゃないですか。」

クリスティナは恨めしそうにスメラギを睨むが、当の本人はどこ吹く風といった様子だ。

「フ……フフフ!」

「……最近、柔らかくなってきたわね、フェルト。」

「え!?そ、そうですか。」

フェルトは慌てていつもの調子に戻すが、頬が紅潮している。

「そうよ。」

「いい傾向いい傾向!」

「じゃあ、もうひと頑張りお願いね。」

「「はい。」」

二人を残しスメラギはその場から退散する。
その背中を見送りながらクリスティナは今行っている作業とは別のことを考える。

(さて……そのいい傾向をもたらした二人は今頃どうしてるのかな?)







ロックオンの部屋

「ハックション!!」

「風邪?風邪?」

「ちげぇよ。きっと、誰かが俺の噂をしてんのさ。」

ロックオンはそう言うとハロを残して廊下に出る。

「ドコ行ク?ドコ行ク?」

「なぁに、ちょっとへこんでるやつに発破かけに行くだけさ。」







ユーノの部屋

「へっくし!!」

「どうした?」

いきなり大きなくしゃみをしたユーノに967は心配そうに声をかける。

「いや、なんだか鼻がむずむずしちゃって……」

「体調管理には気を付けろ。こんなときに不調で出られないなんて洒落にならんぞ。」

「わかってるよ。」

「よし、それじゃ再開するぞ。」

ユーノは967に元気そうなそぶりを見せた後、再び意識を集中し始める。
足元に魔法陣を展開して、目の前にいる967へとアクセスを図る。
967へとスムーズにアクセスし全権を支配するが、さほど時間がたっていないにもかかわらず、額には大粒の汗がにじんでいく。

「…………ハァ……ハァ……!」

肩で息をし始めるがそれでもユーノはやめない。

(………あの時タクラマカン砂漠で使った力を自由に使えるようになりたい……か。まったく、こいつの向上心には感服する。)

地上にいたときから練習はしていて、短時間ならありとあらゆる機械を支配できるようにはなったが、実戦で使うには効果の持続時間が短すぎる。

(せめて三分………最低でも一分はほしいところだな。)

とその時、ユーノの足元から魔法陣が消えばったりとユーノが倒れこむ。

「ユーノ!」

「だ……大丈夫……いつもの魔力切れだよ。しばらく経てばどうってこと………ないから。」

「……今日はここまでにしておけ。」

「………うん、そうするよ。」

ユーノは何とかベッドまでたどり着くと力を抜いて大の字になる。
頭は疲労しているのにちっとも眠くならない不思議な感覚だった。

「………ティエリア大丈夫かなぁ?」

ふとティエリアのことを思い出す。
ヴェーダが何者かにハッキングを受けたことに一番動揺していたのは彼だ。
いや、動揺どころか不安に押しつぶされそうにも見える。

「………アイツはお前たちとは少し違うからな?」

「?違うって?」

「ティエリア自身が気付くまでは俺の口からは言えない。」

「それってようは教えてくれないってことでしょ。」

「まあ、そうなるな。」

ユーノは967の答えに大きくため息をつくと意識を覚醒させたまま体を休ませることを優先した。。








ブリーフィングルーム

床に設置されたモニターにジンクスの戦闘シーンを写しながらティエリアは固い面持ちでそれを見つめる。

(状況から見て、ヴェーダのシステムを何者かが利用しているのは確実……しかし、ヴェーダなしに同型機に対抗することなどできるのか……)

誰よりもヴェーダのことを知るティエリアだからこそ、その恩恵の大きさもよく知っている。
しかし、これからはその恩恵なしに戦っていかなければならないかもしれない。
ティエリアが不安に駆られる中、扉が開き誰かが入ってくる。

「悩み事か?」

「……ロックオン・ストラトス。」

ひょうひょうとした笑みを浮かべながらやってきたロックオンだったが、すぐに真剣な表情になる。

「気にすんなよ。たとえヴェーダのバックアップが期待できなくても、俺らにはガンダムとMs.スメラギの戦術予報がある。」

ティエリアはむっとする。
ティエリアが不安になっているのを感じて来たのだろうが、それでも、いや、だからこそティエリアは素直になりきれない。
すぐさまいつもの皮肉のこもった笑みを返す。

「あなたは知らないようですね。彼女の過去に犯した罪を。」

「知ってるさ。」

「え!?」

予想外の答えに驚くティエリアにロックオンは話し続ける。

「誰だってミスはする。彼女の場合、そいつがとてつもなくでかかった……が、Ms.スメラギはその過去を払拭するために戦うことを選んだ。折れそうな心を酒で薄めながらな。」

話し終わるとニヒルな笑みをティエリアに向ける。

「そういうことができるのも、また人間なんだよ。」

「人間……か……!?」

ティエリアはそこでロックオンの言葉の不可解な点に気付く。

「ロックオン、あなたは僕のことを……」

ティエリアが問いかけようとした時、アレルヤの顔が二人の前に現れる。

『二人とも、スメラギさんからコンテナでの待機指示が出た。』

「了解だ。」

ロックオンが返事をするとアレルヤの顔が消え、再びティエリアとロックオンの二人きりになる。
ティエリアは再度質問を試みるがロックオンの真剣な眼差しに言葉を止められる。

「ティエリア、これだけは言わせてくれ。状況が悪い方に流れてる今だからこそ、5機のガンダムの連携が重要になる。」

ロックオンの顔がいつもの笑顔に戻る

「頼むぜ。」

その言葉を聞いたとき、ティエリアは確信する。
自分が何者だろうと、ここにいていいのだと。

「フッ……その言葉は、刹那・F・セイエイとユーノ・スクライアに言った方がいい。」

「ま、そりゃそうだ。」

二人は小さく笑うと自身のガンダムの待つコンテナへと向かった。







?????

黒い煙の立ちこめる廃墟の中に刹那は銃を持って立っていた。
辺りには破壊された兵器や建造物が広がっている。
変わり果ててしまったが見間違うはずがない。
自分の故郷、クルジスだ。
両親とともに何度も見た夕焼けに染まる空はどれほど街が壊されていようと変わらない。

「ソラン……」

「!」

ふいに後ろから声をかけられる。
懐かしい声だ。
だが、振り向いたその先にいたのはアザディスタンの王女、母とよく似た声の持ち主、マリナ・イスマイールだった。

「マリナ・イスマイール……?」

彼女が限られたものしか知らないはずの自分の本当の名を呼んだこと以上に、なぜここにいるのかがわからない。

「こっちへ来て、ソラン……」

刹那はマリナの優しい笑顔に導かれるように歩を進める。

「見て……」

刹那、いや、ソランがマリナもとまで行くと、彼女は屈んである一点を見つめる。
そこには一輪だけ、黄色く美しい花が荒れ果てた大地の上で夕陽を受けてシャンと咲いていた。

「この場所にも……花が咲くようになったのね……」

ソランはじっとマリナの言葉に耳を傾ける。
それは心地よい音楽のようにソランの思考を奪っていく。

「太陽光発電で、土地も民も戻ってくる。ううん……きっと、もっと良くなるわ。」

「マリナ……」

「だからね……もう、戦わなくていいのよ……」

このまま銃を、戦う力を下ろしてしまいたい。

「いいのよ、ソラン。」

マリナの言葉に誘われ、ソランは銃を握る手の力を緩めていく。
そして………




コンテナ 待機室

「!!」

刹那は夢の中の銃が地面にぶつかる音で目を覚ました。
起きてみれば自分の目の前に広がっているのは窓から見える漆黒の宇宙だ。

「夢……か………?」

夢とは思えないほどリアルだった。
現実ではありえない光景なのに、手を伸ばせば届きそうな、そんな夢だった。

「なぜ……マリナ・イスマイールが……」

なぜ彼女が夢に出てきたのか。
やはり、彼女のことを意識しているからなのだろうか。

「いや、それよりも……」

戦いではなく、話し合いで平和を勝ち取ろうとしている彼女の方が正しいと思い始めているのではないか。

「やめたいのか……?やめたがっているのか………?俺は……」








?????

ユーノは血や煤がこびりついた大きな広間にいた。
あの出来事があってから忘れたことなどない場所。
クロアの首都にあるホテル。
自分の父が殺された場所。

「なんで……ここに……」

天井のシャンデリアから床に敷かれたカーペットの色まではっきりと覚えている。
なのに、違うところが一か所だけある。
そう、死体がないのだ。

「もう……いいんじゃないかな………」

「!?」

背後から声をかけられ振り向くと、すぐ手の届きそうな距離にあの時の姿のままのエレナがいた。

「エレナ……」

「ユーノは頑張ったよ。だから、もうなのはちゃんたちのところに戻っていいんだよ。」

優しい笑みを浮かべたエレナはユーノの心に語りかけるように話しだす。

「もう、これ以上傷つかなきゃいけない理由はないよ……」

「けど、僕は!」

「たくさんの人を傷つけたから責任をとらなくちゃいけない?」

言おうとしたことを先に言われてユーノは押し黙ってしまう。

「そんな理由で戦っても、何も変えられない………」

「そんなことない!!」

「彼女たちだって、ずっとユーノのことを思ってるんだよ?ユーノが消えたあの日から、ずっと苦しみながら前に進んで、それでも忘れられなくて悲しんでるんだよ?」

「でも、僕はもう……」

戻りたいと思う心を否定するように言い訳をつぶやくがエレナの言葉にかき消される。

「大丈夫………。きっとわかってくれるよ。さぁ……」

エレナがユーノの後ろを指さす。
そこからはさながら死者を受け入れる天界の扉のように光が漏れている。
ユーノはその光に引き寄せられるように歩き出す。
そして……





コンテナ 待機室

「!!」

ユーノは視界が光に包まれたところで目が覚めた。

「ここは……?」

そこはいつもの見慣れた光景だった。
暗い宇宙の広がりを間近で感じられる窓がある待機室。
いつも通り、出撃に備えているところだ。

「………いまさら……戻れるはずがない。」

そう割り切ったはずだ。
首にかけているジュエルシードもどんなことをしても発動する気配すらない。
仮にジュエルシード、もしくはそれに準ずるロストロギアの力でなのはたちのところに帰れたとしても、今までのような関係には戻れはしない。
だからこそ、この世界で生きていくと決めたのだ。
罪も、悲しみも、怒りも、すべてを背負って生きていくと決めたのだ。
なのに、

「まだ……迷っているのか………」

刹那に迷うなと言ったばかりなのに、誰より自分が戦うことを迷っている。

「戻りたいのか……?僕は……」






アフリカ 北西部

晴れ渡った空に赤い粒子を背中から放ちながら頂部の兵士が乗るジンクスが目標地点へと向かっている。
ミンはジャングルが広がる中に連なる山々のある一点を拡大してセンサーなどを使って調べる。
すると、明らかに反応が違う場所がある。

『間もなく、目標ポイントに到着します。』

「了解した。頂部ジンクス部隊、ソレスタルビーイングの施設に対して攻撃を開始する。」

ジンクスたちは高度を下げ、ターゲットがいるであろう山に近づいていく。
ピーリスはガンダムを退けた戦闘の余韻を思い出しながら操縦桿を強く握りしめる。

「再び、勝利の美酒を………っ!?中佐!!」

ピーリスはただならぬ気配を察知して、セルゲイへと伝えるが、それよりも早く山の一角から巨大な赤い光の柱が一機のジンクスを破壊せしめた。

「読まれていたのか!?」

セルゲイがビームのとんできた地点を拡大すると大きく開いた穴の中から三機のガンダムが砲門を構えながらこちらを見ている姿があった。

『ハハハ!一機撃墜!』

『ハイメガ使って一機かよ。』

はしゃぐネーナと不満そうに唇を尖らせるミハエルと違い、ヨハンは焦っていた。
いずれこの場所も敵につかまれるだろうとは思っていたが早すぎる。
誰かが情報を漏らしたと考えるのが妥当だ。
となると、

「我々を裏切った……いや、最初から葬り去るつもりだったのか、ラグナ・ハーヴェイ!!」

自分たちへとミッションを出していたリニアトレイン総裁、ラグナ・ハーヴェイの思い通りにさせるものかとヨハンは怒りに燃える。

「スローネ、ドッキング解除。敵部隊の中央を突破する!」

ドッキングを解除したスローネ三機は自らのあけた穴からジンクスたちの待つ外へと飛び出して行った。







プトレマイオス ブリッジ

スメラギがブリッジの扉を開けて中へ入ると、そこには目の前のキーボードに突っ伏して眠るフェルトとクリスティナの姿があった。

「……御苦労さま。二人とも、ありがとね。」

スメラギはクリスティナの前にあるモニターを除いて作業の進行具合を確認しようとする。
だが、すぐに表れたEセンサーの反応が表示され、その下に隠れてしまう。

「敵襲!?(ここまでEセンサーに反応しないとなると……)」

「あ……スメラギさん……?」

「なにか……?」

スメラギの気配で起きた二人は眠い目をこすりながら意識を覚醒させていく。

「二人とも、ノーマルスーツに着替えて!」

スメラギはすぐに中央にある自分の指定席へ向かうと艦内に放送をかける。

「総員、第一種戦闘配備。敵は疑似太陽炉搭載型19機と断定!すでに相手はこちらを捕捉してるわ!ガンダム5機はコンテナから緊急発進、フォーメーションS-34で迎撃!」

クルー達は素早くノーマルスーツやパイロットスーツに着替えるとそれぞれの持ち場へと向かう。
スメラギ達はブリッジから正面からこちらに向かってくる赤い点を肉眼でとらえる。

「不意を突いたつもりでしょうけど……!」

そう簡単にはやられはしない。
こちらにはガンダムがいるのだから。






コンテナ

『コンテナ、ハッチオープン。』

『ガンダム出撃します。』

いつも通りフェルトとクリスティナの言葉で送り出されるガンダム5機だが、いつもと大きく違う点が一つ。
これから相手にするのは自分たちと同格の力を持つ機体なのだ。

「各機、フォーメーションS-34!油断すんなよ!」

「「「「了解!!」」」」

ガンダム5機はエクシアを先頭に一列に並ぶと無数の赤い点へと突撃していく。

『ガンダム、視認しました!』

「こちらの行動を予測していたのか……。優秀な指揮官がいるようだな。」

ダリルはにやりと笑って相手の指揮官への賛辞を述べる。
一方、

「どっちでもいいさ!!同性能の機体なら、模擬戦で負け知らずの俺に分があるんだよ!!」

パトリックは持っていたビームライフルを発射して先陣を切る。
周りの機体もそれに続く。

「GNフィールド!」

ティエリアは余裕を持ってGNフィールドを展開する。
しかし、パトリックの放った弾丸はそれを貫いてヴァーチェに直撃する。

「ぐあっ!!フィールドを抜けてきた!?こちらの粒子圧縮率が読まれているのか!?」

ティエリアは動揺しながらも続けて放たれた攻撃をからくもかわしていく。
すると、その後ろから戦闘機形態のキュリオスが飛び出し、普段よりも近い距離からジンクスたちにビームサブマシンガンを発射する。
しかし、ジンクスたちはその攻撃をあっさりとかわす。

「速い!」

しかし、分断されたジンクスの一機をデュナメスが捕捉していた。

「狙い撃つぜ!」

しかし、デュナメスの放った弾はジンクスの肩をかすめただけ。
しかも、普通のMSならば多少のダメージは残せているはずが何事もなかったように動き出す。

「かすっただけかよ!?」

それでもロックオンは狙撃をやめない。
しかし、いつもなら百発百中の狙撃も今回は当たる気配がない。
三人が目の前のジンクスたちに気をとられていると今度は奥に整列しているジンクスたちが一斉に射撃を始める。

「おわ!?」

「くぅ!!」

「この程度!!」

ティエリアはデュナメスとキュリオスの前に出ると先ほどよりも粒子圧縮率を高めたGNフィールドを展開してそれを防ぐ。
だが、攻撃を集中され徐々に押されていく。

一方、敵へ接近戦を仕掛けていたエクシアとソリッドも苦戦していた。
二機のジンクスへとソードライフルと左手に装備された小型ビームガトリングで攻撃するが、かする程度で終わってしまい決定打を与えられない。
二機のジンクスは腰からビームサーベルを抜くとエクシアへと斬りかかる。

「くっ!!」

エクシアは二本のGNブレイドを使って防ぐが、今までに退官したことのない重い一撃が刹那が握る操縦桿をじりじりと後ろに上げようとする。

「ぐぅぅぅ!!」

エクシアはとうとう押し切られて左手に握っていた小型のGNブレイドをはじかれてしまう。
いったん距離をとってダガーを投擲するがそれもはじかれる。

「やる!!」

「けど!!」

続いてソリッドが自慢の突進力を利用してバンカーを叩きつけようとする。
しかし、速くても直線的な動きのため二機のジンクスの弾幕に阻まれ突進がとまる。
そこに弾丸が雨あられと降り注ぐ。

「ぐああぁぁぁぁぁ!!!!」

「ユーノ!!」

刹那は慌てて二機にGNソードを振るうが、やはりよけられてしまう。

「大丈夫か!?」

「な……なんとかな。」

ユーノと刹那が追いつめられる中、ロックオンたちにも危機的状況が訪れる。

「出番だぜ野郎ども!やっちまいな!!」

パトリックの号令とともに吹き荒れる光弾の嵐がデュナメス達を襲う。

「回避ポイントナシ!回避ポイントナシ!」

「くっ!!」

フルシールドのおかげで致命傷は避けられているが、どの道長くは続きそうにない。
アレルヤもよけきれないと判断したのかMS形態に変形してシールドで攻撃を防ぎながら反撃する。
だが、アレルヤの脳裏にある不安がはしる。

「僕らの滅びは、計画に入っているというのか!!?」

「そんなことが!!」

ティエリアはそんなアレルヤの考えを否定するようにヴァーチェの両肩のGNキャノンを発射する。
激しい光の流れが二機のジンクスをかすめてそれぞれの肩から先と左脚を奪い去る。

「やりやがったなぁぁぁぁぁ!!!!!」

パトリックはヴァーチェへと射撃をしながら突進していく。

「まだまだぁ!!」

いくつか弾丸に被弾しながらもティエリアはヴァーチェにGNバズーカを構えさせ、敵を捕捉する。
ところが、突然ディスプレイが消え、コックピット内の明かりも消える。
それどころかガンダムがどれほどペダルや操縦桿を動かそうとうんともすんともいわなくなってしまった。

「な!?ヴェーダからのバックアップが!!」

ヴァーチェだけでない。
他のガンダムも動くのをやめてしまう。

「システムエラー!システムエラー!」

「嘘だろ!?」

「やはり、僕らは……!」

「どうしたんだエクシア!?ガンダム!!」

「動け!!くそ!967、復旧は!?」

「無理だ!!ヴェーダからのバックアップが再開されるか独立して動けるようにならないと再起動は無理だ!!」

マイスターズが戸惑う中、ジンクスたちは急に動きを止めたガンダムに様子を見るように間をおいてライフルを発射する。
何発当てても反撃どころかよけようともしないが、それでも不審がって近づこうとしない。
暗い宇宙を漂いながらマイスターズはそれぞれ思いをはせる。

「僕らは……裁きを受けようとしている……」

自分たちの滅びが運命だとし、裁きを受けようとしているアレルヤ。

「冗談じゃねぇ!!まだ何もしていねぇぞ!!」

何も変えられていないにもかかわらず、消え行こうとしている自分に怒りを覚えるロックオン。

「僕は……ヴェーダに見捨てられたのか……?」

依存しきっていたヴェーダの見捨てられたという事実に目を見開き驚きながら絶望するティエリア。
そして、

(同じだ……あの時と……)

刹那は戦場を駆け抜けていた頃を思い出す。
ガンダムにあったあの時のことを。
そして、ユーノもまたかつての自分の姿を思い起こしていた。

(やっぱり……僕はなにも救えないのか……?)

目の前で父親が殺されそうになっているのに、ただ震えていることしかできなかった自分。
そんな自分がいやで、ガンダムという力を欲した自分。

刹那とユーノ。
どちらも過去の自分になかったものを求めてガンダムに乗った少年。
なのに、そのガンダムに乗りながらかつての自分を変えることができない。
その悔しさは計り知れないものがあるだろう。

(エクシアに乗っているのに……ガンダムにもなれず……)

(ソリッドに乗っているのに……誰も救えない……)

(俺は……!!)

(僕は……!!)







月 ヴェーダ内部

「よろしいのですか、アレハンドロ様?」

「世界統合のために国連軍の勝利は必須事項だ。」

リボンズは口元に薄い笑いを浮かべながらアレハンドロに問う。
そして、アレハンドロも笑いながらリボンズの問いに答える。

「GNドライヴさえ残れば、いつでもソレスタルビーイングは復活できる。」

アレハンドロの口元が邪悪な笑みによっていっそう歪む。

「私は欲深い男でね。地球とソレスタルビーイング、両方手に入れたいのだよ。」







プトレマイオス ブリッジ

「ガンダム、システムダウン!!ヴェーダからの介入です!!」

クリスティナの慌てた声にブリッジ全体に動揺がはしる。
しかし、その中でスメラギは焦らずに指示を出す。

「予定通り、こちらのシステムに変更!」

「「了解!」」

クリスティナとフェルトはキーボードを素早く叩き始める。
かすかな希望を指先に込めながら。






周辺宙域

「ここまでなのか……俺の……命は……」

「こんなところで……諦めろっていうのか……」

そんな二人の脳裏に先ほどの夢で出てきた人物たちが自分に語りかけてくる。

『もう、いいのよ……ソラン……』

『もう、いいんじゃないかな……ユーノ……』

一瞬、二人はそちら側に歩もうとしてしまう。
戦いのない、安寧の日々を送ることを選ぼうとしてしまう。
だが、

「「違う!」」

「俺はまだ生きている!!」

「僕はまだ戦える!!」

「生きているんだ!!」

「守るために戦うんだ!!」

刹那とユーノは懸命に操縦桿とペダルを動かし始める。

「動けエクシア!!」

「動けソリッド!!」

「「動いてくれ!!ガンダァァァァァァム!!!!」」

二人の叫びが重なった時だった。
その響きに共鳴するかのようにエクシアとソリッドの背中にあるGNドライヴが再び淡い瑠璃色の光を放ち始める。
そして、それはほかのガンダムにも起こっていた。

「システムが!?」

「いけるぞ!!」

キュリオスとデュナメスの目に再び光がともる。
しかし、一機だけがいまだに動けずにいた。

「!?ティエリア!!」

ヴァーチェが止まったまま動く様子がない。
ただ単にティエリアが動かそうとしていないのか、それともヴァーチェに問題があるのかはわからないがまずいことには違いない。
しかし、ガンダムが再び動き始めたことで敵も攻撃態勢を取り始めている。
だが、動揺しているせいか動きに精彩を欠いている。
やるなら今だ。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

刹那は猛然とエクシアを突進させて目の前にいたジンクスに斬りかかる。
不意を突かれたため紙一重でかわすが、それ以上にいきなり動き始めたガンダムにダリルは戸惑う。

「こいつ、いきなり!!?」

ダリルはライフルを発射するがエクシアは舞うような動きでそれらをかわしていく。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

ユーノもソリッドを突進させ、ブレードモードに切り替えたアームドシールドとビームサーベルで敵を圧倒していく。
エクシアとソリッドが奮闘する中、デュナメスとキュリオスは動かないヴァーチェの前に立ち、敵を牽制する。

「どうした!ティエリア!!」

ロックオン発心を試みるが一向に反応がない。
その時、ヴァーチェを守るデュナメスたちの下からパトリックの乗るジンクスが近づいてきていた。

「デカブツの動きが鈍い!!いただくぜ!!」

「!!!」

ロックオンはパトリックたちに気付くと腰に装備されているミサイルを下に向けて放つ。

「なぁ!!?よくも!!」

パトリックは驚くものの左腕に装備されていたGN粒子の力場を形成して敵の攻撃を防ぐGNシールドを使ってミサイルを防ぎ、ライフルで反撃する。
パトリックの放った弾丸はデュナメスの左腕に当たり、爆風を巻き起こしてライフルから左手を離させる。

「しまっ………!」

ロックオンがその衝撃で目を自分の横にあるディスプレイに移すとエクシアが目の前のジンクスと鍔迫り合いをしている隙をついて、うしろからもう一機のジンクスがエクシアにビームサーベルを突きたてようとしている。

「刹那!!」

ロックオンは叫ぶが、心配は無用だった。

「まだだ!!」

刹那はビームサーベルを抜くと後ろから迫っていたジンクスへと投げつけ、串刺しにする。
コックピットを貫いたビームサーベルの刃はGNドライヴにまで達し、紫の爆煙を上げながら爆散した。

しかし、ロックオンはエクシアの戦闘に気をとられていたせいで後ろにいるヴァーチェに接近する機影に気付かなかった。

「大佐のキッスはいただきだぁぁぁぁぁ!!」

嬉しそうに叫びながらパトリックはヴァーチェにビームサーベルを突きたてようと迫る。

「!しまった!」

気付いたロックンがビームピストルを撃ちまくるが、パトリックは巧みにそれをよけながらヴァーチェへと迫る。

「くっ!!」

「ロックオン!?ぐぅ!!」

突然後ろへと向かったロックオンにアレルヤは驚くが敵の攻撃にさらされているせいで気にし続ける余裕がない。

「積年の恨みぃぃぃぃ!!喰らえぇぇぇぇぇぇ!!」

パトリックのいままでガンダムから受けた屈辱、恨みを込めた刃がヴァーチェに刺さろうとした。
その時だった。

「ティエリア!!」

間にデュナメスが割って入り、ビームサーベルを身を呈して防ぐ。
だが、フルシールドの部分で受け止めたもののビームサーベルの熱で徐々に溶解し、貫き、遂にはコックピットをかすめた。

「う、あああああぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁっっ!!!!!!!!」

凄まじい痛みにこの世のものとは思えない叫びをあげるロックオン。
しかし、その叫びでティエリアは正気に戻る。
目の間でジンクスがデュナメスを煩わしそうにビームサーベルを振って引き抜く。

「ロックオン!!」

『ロックオン!!ティエリア!どうした!!?』

アレルヤが心配そうに問いかけるが自分のせいでロックオンが傷ついたという事実に動揺するティエリアには答えることができなかった。
そこへ、再びジンクスのビームサーベルが迫る。

「もういっちょぉぉぉぉ!!」

だが、それが届くことはなかった。

「!!?なんだぁ!!!?」

パトリックはそれが何をしたのか見えなかった。
ただ、自分の乗っていたジンクスの右腕が斬りおとされ、目の前を爆発すらせずにふわふわと浮いていた。
その奥には怒りで(少なくともこの時はそう見えたと後にパトリックは語っている)目の光を一層増しているソリッドがこちらを睨んでいた。

「な、な!!?」

「ソリッド……目標を粉砕する!!」

ソリッドは素早くアームドシールドをバンカーモードに切り替えるとジンクスの頭に思いっきりそれを叩きつける。

「消し飛べ!!!!」

激情に任せユーノが操縦桿のスイッチを押すと、パトリックの乗るジンクスは頭部を粉々にして部品をばらまきながら、バク宙をするように後ろに回転しながら遥か彼方へと飛んでいく。

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

遊園地の絶叫マシーン顔負けの回転を味わいながらパトリックは意識を失った。

「くぅ!息を吹き返したぐらいで調子に乗るなよ!!」

ダリルの言葉通り、初めは動揺から動きを乱していたが数で勝るジンクスたちが再び押し始めていた。
しかしその時、彼方から放たれたビームによってジンクスがさらに一機撃墜される。

「新手か!?」

ダリルがビームの来た方向を見ると一機の重装備の戦闘機らしきメカが攻撃を仕掛けながらこちらに向かってくるのが見えた。

「残量粒子は少ないが……」

ラッセはガンダムのサポートメカ、GNアームズの操縦桿についていたスイッチを押す。

「いけよ!!」

大口径の砲門から放たれた光はジンクス部隊の真ん中を奔り、敵を分断する。
ジンクスたちは当然反撃するが、ラッセは巧みにそれをかわしていく。
そして、

「捉えた!!」

再び放たれた光が的確にジンクスに命中する。
GNシールドで防ごうとするが、威力が大きすぎたため防ぎきることができずに爆散する。
ちょうどその時、黒い宇宙の中に白い光の球が上がった。
それを見たジンクスたちは背を向けて撤退を開始する。

「全員無事か!?」

すぐにラッセの問いの答えは返ってきた。

『デュナメス、損傷!デュナメス、損傷!』

「なに!?」

『ロックオン、負傷!ロックオン、負傷!』

「ロックオンが!?」

ラッセと刹那は驚きを隠せない。
だが、誰よりもティエリアの心がグラグラと揺れ動く

「そんな……!僕を……かばって……!」

視界がグニャグニャと歪んでいく。
頭が何かにつかまれて前後左右に揺さぶられているような感覚に襲われる。
だが、そんなことを気にするより、もっと大切なことがある。

「ロックオン・ストラトス!!」

ティエリアはロックオンの安否を確かめるために通信をつなぐ。
だが、ロックオンからの返事は返ってこなかった。






プトレマイオス ブリッジ

「ガンダム各機、デュナメス、ヴァーチェを回収!急いで!」

スメラギは動けるガンダムに対し指示を出し、続いてクリスティナにも指示を出す。

「クリスティナ、モレノさんに連絡を!」

「はい!!」

スメラギはちらりとフェルトを見る。
気丈にふるまってはいるが、明らかに動揺している。

「ロックオン……」

フェルトが誰にも気づかれずにつぶやいたと思った言葉は、スメラギの耳にははっきりと届いていた。





月 ヴェーダ内部

「やってくれるな、ソレスタルビーイング……まさか予備のシステムを構築しているとは……!」

アレハンドロの顔が怒りで歪むが、すぐに笑みが戻る。

「素晴らしい戦術予報だ。流石はスメラギ・李・ノリエガ……。だが、無駄なことだ。」

「アレハンドロ様。」

リボンズから声が上がる。

「レベル6を掌握しました。レベル7へのアクセスを開始します。」

「ふ……もうすぐだ。もうすぐ……!」









悪意が蔓延る中、それでも世界は変わりゆく……






あとがき・・・・・・・・・・・という名の平和的話し合い

ロ「というわけでVSジンクス編でした。」

刹「今回のゲストは二度目の登場、高町なのはだ。」

な「どうも。」

ユ「……なのはが出てきたばかりで悪いんだけど、とりあえずツッコんでいいかな?」

兄「どうした?」

ユ「なんでこんなに今回はあとがきがおとなしい感じで進んでんの!?」

ロ「前回のあとがきの後道化三3きょうだ……ゲフンゲフン!!ヨハンさんから注意を受けたので今回はお堅くやります。」

ティ「……その腕のあざはなんだ?」

ロ「今朝寝ぼけてベッドから転げ落ちただけだ。……ウン、ホントウニナンデモナイヨ?」

ア(どんな目にあったんだろう?)

な「え~と、とにかく解説に行こうか?」

ユ「今回も重い話だったね。」

ロ「そうでもないぞ。お前はVガンダムを見てないからそう思うだけだ?」

ア「Vガンダム?なにそれ?」

ロ「ガンダム作品を見るなら絶対に一番最初に見てはいけないものだ。俺の友人は最初にこれを見て以来ガンダムを見なくなった。」

兄「お前の友人どんだけ打たれ弱いんだよ…」

ティ「話を脱線させるな。」

ユ「あれ、いつものようにカオスな展開に突撃しない。」

刹「してほしいのか?」

ユ「いや、そうじゃないけど……」

な「それはそうと私たちの出番が全然ないんだけど。」

ロ「いや、だから最初に断ったじゃん。ファーストの間は00中心で話進むって。」

な「……私ヒロインなんだよね?泥棒猫は死んだはずなのにバンバン出てるのに対して、私は集団リンチの夢に出ただけだよ?」

ロ「だって魔王だし。」

な「レイジングハート、セットアップ。」

兄「……あの、今回はカオスはなしだって…」

魔王「にゃははははは……!もう関係ないの!私を魔王と呼ぶやつは管理局に代わってお仕置きなの!!」

兄・ティ「「いけ、ユーノ!!」」

ユ「え!?」

ア「彼女を止められるのは君しかいない!!」

ユ「わ、わかった!」

主人公、勢いに負けて魔王の前に立つ。

ユ「なのは!」

魔王「なぁに!?」

ユ「う……(こ、怖い!!)」

魔王「なぁにって聞いてるの。」

ユ「す……好きだよ。」

「「「「「……………………………」」」」」

な「……もう、ユーノ君ったら❤」

兄「………結局、惚気で終わるのか。」

ア「なんでだろう、あの二人を見てると無性に破壊衝動に駆られる。」

ティ「君は彼女と上手くいってないからな。」

ア「別れかけのカップルみたいな言い方やめてくれる!?」

刹「というかカオスにはしないと言いながら結局こういう方向に行ってしまうんだな。」

ロ「自分でもびっくりだよ。」

ユ「……じゃ、じゃあそうならないように速く次回予告をして締めよう。」

ア「国連軍を退けたマイスターズだったが、ロックオンが負傷してしまう!」

刹「自責の念とヴェーダから見捨てられた不安に駆られるティエリアのもとに現れたのは傷が治りきらないロックオンだった。」

ユ「そこでティエリアは自分の存在理由を問う。」

兄「そして、トリニティのいる地上へと向かう刹那。」

ロ「そこで待っていたのは予想外の事態と危機だった!」

な「そんな時、トレミーに敵が迫る!」

ティ「意を決したユーノが囮をかって出るが、刹那と同じく窮地に追い込まれる!」

刹「その時、ガンダムに秘められていた能力が明らかになる!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございました!お暇があればご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 29.TRANS-AM
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:38
プトレマイオス 集中治療室

今まで誰も来たことのなかった集中治療室のカプセルの中に右目に眼帯をしたロックオンが横たわっている。
幸い体の傷は大したことはなかったのだが、効き目である右目がふさがってしまった。

「Dr.モレノ、傷の再生までの時間は?」

「最低でも三週間は必要だ。」

モレノの言葉にスメラギは眉間にしわを寄せる。
三週間。
その間に敵は何度もこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。
それをガンダムが一機かけた状態で、いや、マイスターズにとっても精神的な支えであるロックオンなしに切り抜けなければならないのだ。

「わかってると思うが、一度カプセルに入ったら治るまで出られんからな。」

「治療をお願いします。」

念を押すモレノにスメラギは頭を下げる。

「その間に私たちはドッグに戻ってガンダムの整備を……」

『おいおい……』

スメラギ達が部屋を出ようとしたその時、思いがけない人物から声をかけられる。

『勝手に決めなさんな。』

「ロックオン……」

モニターの奥にいたロックオンがゆっくりと体を起してこちらを見ている。

「敵さんがいつ来るかわかんねぇ……治療はなしだ。」

「しかし、その怪我では精密射撃は無理だよ。」

『俺とハロのコンビを甘く見んなよ。』

「モチロン!モチロン!」

アレルヤの心配をよそにロックオンの言葉をハロが嬉しそうに肯定する。

『それにな……』

ロックオンはフッと短く笑う。

『俺が寝てると気にするやつがいる。いくら強がっていても、アイツはもろいからな……』

「ティエリアか。」

刹那があまりにもきっぱりと言うのでその名を口にできなかったスメラギ達は困ったように笑う。

「あのさ、ロックオン……ティエリアも悪気があったわけじゃ…」

『わかってるよ、なんでお前がそんな申し訳なさそうな顔してんだよ。』

ロックオンはティエリアを弁護しようとしたユーノを笑う。

『俺が起きれば、アイツもすぐにいつもの調子に戻るさ。』

そういうとロックオンはカプセルから出て自分の服が置いてある方へと歩いていく。
カメラから彼が消えると誰からでもなく諦めのこもったため息がふきだした。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 29.TRANS-AM

プトレマイオス コンテナ

「ガンダムの整備状況はどうですか?」

「ヴァーチェの損傷は何とかなりそうだ。」

「………デュナメスは?」

不安そうなアレルヤの声にイアンとユーノは手元の資料から目を離して顔を上げる。

「……流石にあれは無理だ。コックピットが手ひどくやられちまってる。ここじゃ完全には直せないだろうな。ぶっちゃけ、あれであの程度の傷ですんだのが不思議なくらいだよ。」

「ドッグに戻って、ユニットごと取り換える必要があるな。」

イアンはそう言うと忙しそうにどこかへ行ってしまう。
ユーノもハロ達のもとへ向かい、作業を再開する。
刹那は破壊されたデュナメスを見て、顔つきを厳しくする。

(活動できるガンダムは4機……対抗できるのか?あれに……)







ブリッジ

「なーにがフォーリンエンジェルスだ。ふざけやがって。」

ラッセはつい先ほど見たユニオン基地での会見を、苦虫をかみつぶしたような表情で思い出す。
つい数分前、国連軍がガンダムの掃討作戦を公表した。
作戦名はフォーリンエンジェルス(堕ちた天使たち)。
おそらく自分たちのことをさしているのだろうが、堕天使と言われて素直に喜べるはずがない。
それが敵の言っていることならなおさらだ。
おまけに連中が自分たちで太陽炉を開発したかのように行っていたのがさらに気に喰わない。

「私たちは堕ちた天使ってわけね。」

クリスティナは呆れたような笑みを浮かべながらキーボードを叩き続ける。

「そう言えばフェルトは?」

リヒテンダールが思い出したようにあたりを見渡す。

「気になっちゃう年頃なのよ。」

「なにが?」

「……はぁ~…鈍感。」

「な、なんだよ……」

クリスティナの鈍感発言に唇を尖らせるリヒテンダール。
その様子を見ながらラッセはため息をつきながら自分の作業を再開するのであった。






廊下

フェルトはブリッジを離れ、彼に会いに行こうとしていた。
負傷したと聞いた時は心臓が止まるかと思ったが、大事には至らなかったとの知らせを聞いて安心した。
しかし、今度は傷が完治していないのにカプセルから出たという。
どうしても気になったフェルトはブリッジを抜けて彼を探していた。
自室を訪れてもいなかったので、諦めて戻ろうかと思っていた時、その姿を見つける。

「ロックオン……」

廊下の交わっている地点で私服を着て廊下を行くロックオンの姿を見つけたフェルトは後を追う。
ロックオンはフェルトには気付かなかったのかフェルトを置いてそのまま進んでいってしまう。
フェルトは追いかけるが、ロックオンがある一室に入ったのを見て廊下の影に隠れる。
ロックオンの入った部屋には窓から外を眺めるティエリアがいた。

「いつまでそうしているつもりだ?」

ロックオンの言葉を受けてもティエリアは微動だにしない。

「……らしくねぇな。いつものように不遜な感じでいろよ。」

ロックオンは笑みを浮かべながら話すがティエリアは一向にこちらを向こうとしない。
しかし、こらえきれなくなったようにティエリアは話し始めた。

「……失った。」

「?」

「マイスターとしての資質を失ってしまった。ヴェーダとの直接リンクができなければ、僕はもう……」

(ヴェーダとの直接リンク……?)

フェルトはティエリアの話を聞きながら数日前の戦闘を思い出す。
他のガンダムがすぐに予備システムに切り替えることができたのにティエリアの乗るヴァーチェだけがそれを行えなかった。

(新システムの移行がうまくいかなかったのは、ティエリア自身が障害となって……でも、そんなことが人間に……)

常識的に考えればできるはずがない。
しかし、ユーノも何らかの方法でガンダムを自分の支配下に置いていた。
もはや、あり得ないなどと言いきることなどできない。

「僕は……マイスターにふさわしくない。」

(ティエリア…)

背を向けたまま肩を震わせうなだれるティエリアからはいつものような覇気が感じられない。
まるで、子供に戻ってしまったかのようだ。
そんなティエリアの隣にロックオンは立つ。

「ふさわしくない、か……。いいじゃねぇか、別に。」

「なに!?」

ティエリアは驚いたようにロックオンの横顔を見る。

「単にリンクができなくなっただけだ……俺たちと同じになったと思えばいい。」

「だが、ヴェーダは何者かに掌握されてしまった……ヴェーダがなければこの計画は…!」

「できるだろ。」

ロックオンの力強い言葉にティエリアは泣き出しそうな顔を上げる。

「戦争根絶のために戦うんだ。ガンダムに乗ってな。」

「だが、計画実現の可能性が…」

「四の五の言わずにやりゃあいいんだよ。お手本になるやつがすぐそばにいるじゃねぇか……自分の思ったことをがむしゃらにやる馬鹿がな。」

「自分の……思ったことを…」

ティエリアが困惑した表情でつぶやく。
今まで自分はヴェーダこそが絶対だと思ってきた。
自分の考えで行動するなど無意味だと思っていた。
だが、

「じゃあな。部屋戻って休めよ。」

いつの間にかロックオンは廊下に向かって歩き出していた。

「ロックオン。」

「?」

「……悪かった。」

素直な言葉をかけるティエリア。
その謝罪の言葉は自分のせいでロックオンを傷つけてしまったことに対してだけではなく、心配をかけてしまったことに対するものでもあるということをロックオンはわかっていた。

「Ms.スメラギも言ってただろ。失敗ぐらいするさ、人間なんだからな。」

そう言うとロックオンは廊下を進んでいく。
隠れながら今のやり取りを聞いていたフェルトは目を閉じて微笑む。

(優しいんだ……誰にでも…)

自分だけでなく、誰にでも優しい言葉をかけてくれる。
少し寂しい気がするけど、それでもあの優しさに自分は惹かれたのかもしれない。
フェルトとティエリアはそれぞれの思いを胸に抱きながら、しばしの平穏を過ごした。





中東 ドウル 砂漠地帯

「ん、あ~肉食いてぇ~!」

ミハエルは未開封のレーションの缶を投げ出して仰向けになる。
人革連のジンクス部隊を突破してきたものの、どこにも立ち寄ることができず、ろくな食料が買えないのでここ数日、単調な味のレーションばかりを食べている。
ハイカロリーで誰にでも受け入れられる味を目指して作ったのだろうが、これではすぐに飽きてしまう。

「缶詰ばっかで飽きたぜ。」

「私もスイーツ食べたい!!」

二人は無茶な注文ばかりを言う。

「いつまで逃げ回んなきゃいけねぇんだよ、兄貴!?」

「粒子も残り少ないよ!?」

文句を言う二人を相手にせずに、ヨハンは携帯端末で留美と連絡をとる。

「我々を機体ごと空に戻す手はずを整えてほしい。」

『よろこんで……と、言いたいところですが、少し遅かったようですわ。』

「なに?」

『すでに国連軍の部隊がそちらに向かっています。』

「なんだと!?」

『早めの対処を。』

留美が言い終わる前にヨハンは通信を中断する。

「ミハエル、ネーナ、スローネを起動させる!急げ!」






十分後

上空を赤い点が隊列を組んで進んでいる。
その点の一つ、ピーリスの乗るジンクスから通信が入る。

『中佐、ガンダムを発見しました!ポイント、E-8590。』

「全機、迎撃フォーメーション!」

『『『『了解!』』』』

セルゲイの号令とともにジンクスたちは隊列を変更して三機のガンダムスローネを迎え撃つ。

「ミハエル、ネーナ、ドライヴの粒子発生率が低下している。無駄遣いをするなよ!」

『OK!』

『了解!』

(残り30%か……しかし!)

アインはビームライフルをジンクスたちへ向けて発射する。

「散開!」

セルゲイの号令でジンクスたちが散らばり、各機攻撃を開始する。

「チィッ!!」

威力こそガンダムのものに比べれば劣るがGN粒子のビームだ。
それがこれだけの数で襲ってくるのだからたまらない。

「兄貴にゃ悪いが、俺は出し惜しみなんかしねぇぞ!!いけよファング!!」

ミハエルは出力を上げてツヴァイの腰からファングを放つ。

「密集隊形!!」

ファングが放たれたのを確認するとセルゲイ達は円運動をしながら徐々にその円を狭めて互いに近づいていく。
そして、回転を続けながら周囲にビームライフルを乱射する。
不規則な動きが売りのファングだが、これだけ弾幕を張られたのでは攻撃をするどころではない。
次々に粒子ビームに当たり墜とされていく。

「やりやがったなぁ!!」

ファングを墜とされ激怒するミハエルだが、弾幕を突破することができない。
見かねてヨハンがアインのGNランチャーを使ってジンクスを一気に粉砕しようと試みるがジンクス部隊はあっさり密集隊形を解いて再びばらばらに攻撃を仕掛けてくる。

「くそ!!」

「墜ちちゃえぇぇぇぇ!!」

「もう一度アタックだ!!」

ネーナは射撃、ミハエルは残ったファングで攻撃するが、再び密集隊形をとられ、再び数で圧倒されてしまった。







経済特区東京 某マンション

沙慈は部屋の明かりもつけずにテレビを食い入るように見ていた。
後ろにあるテーブルにはルイスに渡すはずだった指輪、そして絹江の遺品が置かれていた。
ここに戻ってきてからどれほど泣いたかわからない。
涙はすっかり枯れ果てた。
この世界に絶望して死のうとも考えた。
だが、やめた。
やつらを、自分からルイスと姉を奪った存在の最後を見届けるまでは自分は前に進めない。
何もできない。
そんなことを考えていた時、テレビでガンダム掃討作戦が行われることを知った。
リアルタイムで中継が行われ、ガンダムが追いつめられていく。
それを見ていた沙慈の口元に何日ぶりかの微笑みが浮かぶ。
しかし、以前のような朗らかなものではなく、ハンターが弱りきった獲物をいたぶっているかのような笑みだった。
そして、その後もじっとテレビの前で戦闘の様子を見続けている。

「やられちゃえよ………ガンダム…………」

テレビの明かりが反射する沙慈の目は虚ろだ。
その虚ろな目のままガンダムへの呪詛の言葉を呟く。
それが自分をさらに追い詰めるものだとも知らずに………







中東 ドウル

ファングもすべて墜とされ、とうとう打つ手がなくなるツヴァイ。
しかし、ドライがジンクスたちに突進していく。

「ネーナ!?」

「数が多いからって!!」

ハンドガンを連射しながら突撃していくドライ。
しかし、ドライは本来支援用の機体であり戦闘能力はアインやツヴァイほど高くない。
それに、感情的になっていた攻撃はあまりも単調になっていた。

「そんなものが当たるか!!」

ミンはビームサーベルを抜いてドライの肩のGN粒子排出口を斬りつけ、態勢を崩したところに蹴りをみまう。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

「これで終わりだ!!」

「させるかよ!!」

ピーリスが追撃しようとするとツヴァイが間に割って入り、何とかピーリスを押し返す。

「兄貴!」

「了解だ!」

アインはドライを支えながらはモークグレネードを発射する。
辺りが白い煙につつまれていく。

「離脱する!」

『っつ……了解!』

『くそ!こちとらガンダムなのによ!!』

ヨハンは相手が視界を奪われているうちに逃げようと考えているのだが、それが通用しない相手もいる。

「逃がさない!!」

ピーリスは操縦桿を勢いよく前に倒す。
が、

「追わんでいい。」

セルゲイのジンクスに肩を掴まれ止められる。

「しかし!」

「やつらのアジトは叩いた。いずれドライヴの活動限界が来る。」

ピーリスは少し寂しそうにうなずくと、セルゲイにつき従って基地への帰路に就いた。







プトレマイオス ブリーフィングルーム

床に設置された丸い大きなモニターにはガンダムスローネとジンクス部隊の戦闘が映されている。
数で勝るジンクスがスローネを追い詰めていくその光景を全員が複雑な心境で見ていた。

「遂に国連軍がトリニティに攻撃を行ったか……」

イアンは渋い顔でつぶやく。

「ガンダムを倒すことで、世界がまとまっていく……」

「やはり、僕たちは滅びゆくための存在……」

「これも、イオリア・シュヘンベルグの計画……」

「だとしたら!」

刹那が大きな声を出す。

「何のためにガンダムがある!?戦争を根絶する機体がガンダムのはずだ!なのに、トリニティは戦火を拡大させ、国連軍まで………。これがガンダムのすることなのか!?これが……」

刹那の言葉を聞いたロックオンはフッと笑う。

「……刹那、国連軍によるトリニティへの攻撃は紛争だ。武力介入を行う必要がある。」

「おいおい!何を言い出す!?」

「無茶だよ!僕たちは疲弊してるし、軌道エレベーターも抑えられてる!この前、敵に襲撃されたのも、エクシアとデュナメスがトレースされたからで……」

「ソレスタルビーイングに沈黙は許されない。」

イアンとアレルヤの反対をロックオンは一蹴する。

「そうだろ、刹那。」

「……ああ。」

刹那もまた力強くうなずく。

「二度と宇宙に戻れなくなるかもしれない!」

それでも、アレルヤは反対し続ける。

「俺一人ででも行く!俺は確かめたいんだ。ガンダムがなんのためにあるのかを。」

「俺も付き合うぜ。」

ロックオンが刹那の付き添いを志願する。
が、

「怪我人はおとなしくしてろ。俺が行く。」

「ラッセ!?」

薄暗いブリーフィングルームにラッセが入ってくる。

「強襲用コンテナは大気圏離脱能力がある。ついでに、GNアームズの性能実験もしてくるさ。」

「今、戦力を分断するのは……」

「諦めろよ、アレルヤ。」

最後まで反対しようとしていたアレルヤをユーノが止める。

「止めたって聞かねぇのはわかってるだろ。」

「でも!」

アレルヤが反論しようとする中、スメラギは刹那の前に行き、苦笑を浮かべながらメモリーを渡す。

「ミッションプランよ。不確定要素が多すぎてあまり役に立たないかもしれないけど」

刹那がメモリーを受け取ると、真剣な顔つきになる。

「ちゃんと、帰ってくるのよ。」

「わかっている。」

刹那はブリーフィングルームを出てコンテナへと向かう。
自分なりの答えを見つけるために。





コンテナ

刹那が地上に向かってから数時間後、ユーノはソリッドのコックピットで待機していた。
だが、ユーノ以外はアレルヤもティエリアもガンダムで待機はしていない。

「いいのか?あの二人にも言わなくて。」

「言ってもどうしようもないよ。ヴァーチェの修理は完全には終わっていないし、アレルヤは戦えるような精神状態じゃない。となると、必然的にこうするのが一番さ。」

ユーノは967の質問にスラスラと答えていく。

「しかし、本当に来るのか?」

「たぶんね。どこの誰だか知らないけど、ヴェーダを掌握しているならガンダム一機がトレミーから離れたことくらい気付いてるはずさ。そんな状況で襲ってこないほうがおかしい。」

ユーノが説明し終えると同時に、ソリッドのモニターに3~5機の反応が映し出される。

「ほら、おいでなすった。太陽炉搭載型をケチって別のMSを斥候として使ってるみたいだけど、間違いなく国連軍だ。」

ユーノはブリッジとの回線を開く。

「じゃ、よろしくね、クリス。」

『……本当に行っちゃうの?』

クリスティナは誰もいないブリッジで不安そうな顔になる。

「そんなに心配しなくていいよ。敵の気をそらしたらすぐに逃げるから。」

『でも、やっぱりアレルヤかティエリアを…』

「あの二人にはもう少し時間が必要だよ。そっとしておいてあげて。」

クリスティナは納得がいかない様子だが、それでもソリッドの発進準備を進めていく。
ハッチをオープンし、後はソリッドが飛び出していくだけとなった時、ユーノにクリスティナが釘を刺す。

『……絶対、絶対無事に帰ってきてね!』

「もちろん。ここで終わる気なんて毛頭ないよ。」

ユーノはそれだけ言うとペダルを強く踏みしめる。

「ソリッド、出撃する!」



ブリッジ

GN粒子を残して遠ざかっていくソリッドを見送るクリスティナ。
と、そこへ

「……行っちゃった?」

「ス、スメラギさん!?」 

あまりにもタイミングよく入ってきたスメラギにクリスティナは慌てる。
今回の出撃はユーノとクリスティナの独断であり、他の誰のもまだ知らせてはいない。

「そんなに焦らなくていいわよ。今日のユーノを見てたらこれくらいわかるわ。」

「気付いてたんですか!?」

「当然よ。あの子、今日はあんまりしゃべらなかったから。きっと何かする気だってことくらいすぐにわかったわ。」

「あの、ユーノのこと……」

クリスティナが心配そうにスメラギを見る。

「大丈夫、別に怒らないわよ。後で少しお説教をしなくちゃだけどね。」

笑いながらスメラギはウィンクをすると、もう小さな点としか思えないほど離れたソリッドを見つめる。

「刹那……ユーノ……無事に戻ってきて。」








大西洋上 孤島

「あぁ~!!あたしのドライが!!」

肩にはっきりと残された傷を見た瞬間、ネーナから叫び声が上がる。

「どうすんだよ、兄貴!」

「王留美に空へ上がれる手配を頼んでいる。」

「信用できんのかよ?」

ミハエルがヨハンに文句を言い始めた時だった。
上空から何かが近づいてくる音がする。

「なんだ?」

「AEUのイナクト……」

木の間から見える赤い機体はAEUのイナクトだった。
赤いイナクトはヨハンたちを見つけると攻撃はせずに光通信を始める。

「攻撃の意思はないだと……?」

だが、この状況でそんなことを信じるヨハンではない。
自分は銃を、ミハエルにはナイフを抜かせ、イナクトを操る何者かに備える。

「ネーナ、スローネで待機だ。」

「ラ~ジャ♪」

ネーナがスローネに乗ると、イナクトは着地する。
コックピットが開き、中から一人の男が現れる。

「よぉ!世界を敵にして難儀してるってのはあんたらか?」

「何者だ。」

男はヘルメットを外し、赤い長髪を外気にさらす。

「アリー・アル・サーシェス。御覧の通り傭兵だ。スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれてなぁ。」

サーシェスの言葉にミハエルはムッとする。

「援軍って一機だけじゃねぇか。」

「誰に頼まれた?ラグナか?」

「ラグナ?あぁ、ラグナ・ハーヴェイのことか。」

男は地上に降りてにやりと笑う。

「やっこさん死んだよ。」

サーシェスはまるで世間話でもしているように軽く言い放つ。

「なに!?」

「!!」

ミハエルが用心してナイフを構えようとした時だった。
サーシェスは隠し持っていた銃を素早く出して引き金を引いた。

「俺が殺した。」

「ミハエル!!」

「ミハ兄ぃ!!」

ミハエルは目を見開いたまま背中から地面に倒れこむ。
これまでガンダムで暴れ回ってきた者の最後としてはあまりにも呆気ないものだった。

「ご臨終だ。」

「貴様ぁ!!」

ヨハンはサーシェスに向けて発砲するが、サーシェスは素早く身をかがめてヨハンに近づき、スライディングでヨハンの態勢を崩して倒す。

「くっ!」

ヨハンは銃を向けようとするが、足で銃を抑えつけられ、さらに肩に銃弾を撃ち込まれる。

「グアッ!!」

「ヨハン兄ぃ!!」

「に、逃げろ!!ネーナ!!」

「でも!!」

「行けぇーーー!!」

「っっ!!は、はいっ!!」

会話を聞いていたサーシェスはクックッと笑う。
そして、銃を押さえていた足をどける。

「美しい兄弟愛だ……早く機体に乗ったらどうだぁ?これじゃ戦いがいがない。」

ヨハンは唇をかみしめると傷を負った肩をかばいながらゆっくり立ち上がりアインのもとへと向かう。

「いい子だ。」

上空へと上がっていくアインを見ながらサーシェスは満足そうにつぶやく。

「さて、それじゃ俺は……」

サーシェスはミハエルを蹴飛ばして仰向けにするとそのままつかつかと歩いていく。
その視線の先には主を失ったスローネツヴァイがサーシェスとミハエルを見ていた。







ラグランジュ3 周辺宙域

ラグランジュ3は宇宙進出の初期時代のコロニー群が集中している。
中には廃棄されたものや、これから廃棄される予定のものも多く、そのため基本的にはコロニー周辺での戦闘は非常時以外タブー(と言ってもどこの国家群もそれを守っていたかどうかは怪しいものだが)なのだが、ここでの戦闘は大っぴらに認められていた。
そのため、軍事演習にもよく使われ、MSの性能実験もよくおこなわれていた。
しかし、ガンダム開発の礎が築かれたのもここであることを知る者は少ない。

そんな、宙域に宇宙対応型のフラッグとイナクトが辺りを哨戒している。

「こちらユニオン1、異常なし。」

「了解。引き続き捜索にあたれ。」

イナクトに乗るAEUの指揮官はモニターの反応を見ながら辺りを注意深く探すが、目当て反応は見当たらない。

「たくっ!本当にこのあたりにいるのか?最初に大気圏に突入したやつの後にここに向かうやつを見たって上のやつらは言ってるが、信用できるのか?」

愚痴りながら捜索を続ける。
その時、目の前をピンク色の光弾がかすめる。
慌てて飛びのいて光弾が発射された方向を拡大する。

「いた!」

ライフルを構えるソリッドを見た瞬間、指揮官の顔が憎しみに染まる。

「こちらトライ1!目標を発見!!」

手早く通信を終わらせると指揮官はイナクトをソリッドへ突進させる。

「仲間の仇を討たせてもらうぞ!!」

ソニックブレイドを突きたてようとするイナクトに対し、ソリッドはブレードモードのアームドシールドを使って受け流し、そのままイナクトの肩を斬り落そうとする。
だが、

「甘い!」

攻撃が読まれあっさりと防がれる。

「クッ!!」

「余裕のつもりか!?それともいまさら人を殺すことをためらうか!?俺たちの仲間を殺しておいて!!」

「ッッッッ!!!!」

接触回線で聞こえてきた声にユーノは動揺する。
一瞬、ソリッドの動きが硬直する。
そして、後ろからぶつかった何かがソリッドの体を揺らす。

「グアアァァァァァァッ!!?」

「クッ!この威力は!?」

967が後ろから接近してくるものを確認する。

「もう来たか!」

「ありゃりゃ………ちょっとまずいかな……!」

そこには周辺を捜索していたイナクトとフラッグ、そして、十数機単位のジンクスが武器を手に取って近づいてきている。

「……967、太陽炉の自爆システムの安全装置をいつでも解除できるようにしておいて。」

「ユーノ、それは……!」

967の不安そうな声にユーノは笑顔で答える

「万が一の場合だよ。でも……」

「なんだ?」

「……ごめん。こんなことにつき合わせちゃって。」

「……フッ。」

今度は967が笑う。

「気にするな。俺はお前の相棒だからな。お前が行くと言うなら地獄でもどこでもついて行ってやる。」

「…ありがとう。」

「お喋りはここまでにしておいた方がよさそうだ。来るぞ!!」

ジンクスたちが一斉にソリッドへと殺到する。

「967!グラムを使うよ!」

「了解!」

アームドシールドの先が開き、そこからグラムが発射される。
それと同時にソリッドは急速にバックする。
ジンクス部隊も散開するが、967たちの方が少し早かった。

「グラム発動!」

6機のジンクスがよけきれずにグラムの効果範囲に取り残され動きを止められてしまう。

「おのれ!!」

残ったジンクスたちはソリッドに向けて一斉に射撃を開始する。
さながら光弾の壁のような弾幕にさらされるソリッドだが、そう簡単にやられてやるつもりはない。

「GNフィールド、最大圧縮率で展開!」

今まで一番厚い光の膜がソリッドを包み込む。
だが、

「あんな出力がいつまでも続くはずがない!!集中砲火で足止めしろ!!」

四方八方から降り注ぐビームの雨にソリッドは身動きを取れない。

「ク……!ユーノ、出力を下げて少し機動性に回すんだ!」

「駄目だ!この状況でそんなことしたらすぐにフィールドを破られる!!」

ユーノの顔に汗がにじみ始める。
もう間もなくフィールド発生の限界時間だ。

「くそ……!まだ終われないのに……!」

まだ答えを見つけていない。
自分たちが戦い続けてきた意味を。
ガンダムという存在の意味を。

「まだだ……!」

「これで終わりだ!!」

ジンクスのうちの一機がソリッドへ向けて突進していく。

「まだ……諦めるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

ユーノの叫びがコックピットに響いた瞬間、ジンクスのビームサーベルがソリッドに向けて突き出された。









大西洋上 孤島

『ヨハン兄ぃ!ミハ兄ぃが!!』

「仇は討つ!!」

しかし、予想外の出来事が起こる。

「なに!?」

主を失ったはずのスローネツヴァイがヨハンの操るアインへと向かってきたのだ。
振り下ろされたバスターソードを間一髪ビームサーベルで防ぐが、ヨハンの頭の中は混乱したままだ。
そんな時、ツヴァイから外部音声でサーシェスのだみ声が発せられる

「はっはっはぁ!!」

「馬鹿な!!ツヴァイはミハエルのバイオメトリクスがなければ!!」

そこまで言って、ヨハンは気付く。

「書き換えたというのか!?ヴェーダを使って!!」

そんなヨハンとは引き換えにサーシェスはご機嫌である。
なにせ、最高の戦争の道具を手に入れたのだから。

「慣れねぇとちと扱いづれぇが……武装さえわかれば後は何とかなるってな!!」

サーシェスはバスターソードを振り抜いてアインを弾き飛ばすと、そのままアインに襲いかかる。

「なぜだ!!?なぜ私たちを!!」

「生贄なんだとよ!」

「そんなことが!!」

サーシェスの言葉を否定するようにライフルを連射するヨハン。
しかし、サーシェスの操るツヴァイはスイスイとそれらをよけて斬りつけてくる。

「同情するぜ!!可哀そうになぁ!!」

「私たちはガンダムマイスターだ!!」

ヨハンはツヴァイをひきはがすとランチャーをめちゃくちゃに撃ちまくる。

(認めるものか!私たちはガンダムマイスター、選ばれた存在なのだ!)

ヨハンの思いとは裏腹に、ランチャーによる攻撃は当たる気配を見せない。

「世界を変えるためにぃぃぃぃぃ!!」

「御託はたくさんなんだよぉ!!」

サーシェスはランチャーをかわしてアインの懐へ一気にもぐりこむ。
アインはビームサーベルを突きだすがバスターソードの刃に沿って受け流され、そのまま体のど真ん中に刃を沈められた。

「ヨハン兄ぃ!!」

「逝っちまいな!!」

サーシェスは後ろから容赦なくハンドガンでの追撃を加える。
体のあちこちを貫かれたアインは火花を上げる。

「……馬鹿な………私たちは…………マイスターになるために生み出され………そのために……生きて……」

アインは主の言葉とともに爆発、炎上し赤いGN粒子とその部品だけが夜空に散らばった。
ネーナは放心状態でその光景を見ていたが、煙の中からツヴァイが飛び出してくる。

「綺麗なもんだなGN粒子ってのは!!そうだろお譲ちゃん!!」

ツヴァイはドライを蹴り飛ばして地面にたたきつけるとそのそばに着地する。

「クッハハハッハハハハ!!!」

サーシェスは高笑いをしながらドライに刃を突き付ける。
が、

「!!?グアッ!!」

「!!?」

横から何かがぶつかったツヴァイはそのまま引きずられるように空へと持ちあげられる。

「なに!?」

その何かが離れると、今度は中から何かが出てくる。
その何かは右手に装備された刃を起こすと、ツヴァイへと斬りかかった。

「邪魔すんなよ!!クルジスの小僧が!!」

「!?アリー・アル・サーシェス!!なぜだ!なぜ貴様がガンダムに!!」

予想外の人物に乱入者、刹那・F・セイエイは激しい怒りを覚える。

二機が互いに距離をとると、エクシアが刃を元に戻し、ライフルで攻撃するが、ツヴァイはそれを軽くよけてハンドガンで反撃する。

「オラオラ!!どうしたガンダム!!」

「貴様のような男が、ガンダムに乗るなど!!」

「テメェの許可がいるのかよぉ!?」

二機は互いに近づくと斬りあいを始める。
エクシアはGNソードを縦一文字に振り、その後左手のシールドをツヴァイの顔面に叩きつける。
しかし、ツヴァイはその盾をつかむと剥ぎ取って投げ捨て、バスターソードをエクシアの顔面へ向けて突き出す。
エクシアはすれすれでそれをよけて、左腕のガトリングを発射してツヴァイを引きはがそうとするが、ガンダムの装甲を相手にバルカンではどれほどの役にも立たない。

「クッ!!」

「刹那!!」

強襲用コンテナを操縦していたラッセはビームガンで援護するが、ツヴァイの射撃の前に距離をとらざるをえなくなる。

「なんて正確な射撃だ!!」

「最高だな、ガンダムってやつは!!覚悟しな!!」

サーシェスはエクシアにめがけバスターソードを振り下ろそうとするが、エクシアが二本のGNブレイドを構えているのを見て距離をとる。
その瞬間、それまでツヴァイがいた場所がGNブレイドによって斬り裂かれていた。

「はぁはぁ……」

「ガンダム……こいつはとんでもねぇ兵器だ!戦争のし甲斐がある!!」

刹那は肩で息をするが、サーシェスの息も興奮からか荒い。
水平線からは陽が昇り始め、戦いがどれほど長く続いているのかを表している。

「テメェのガンダムもそのためにあるんだろ!!」

ツヴァイがエクシアへとバスターソードを構えて突進する。

「違う!!」

刹那はその刃を左手のGNブレイドで止める。

「絶対に違う!!」

ツヴァイに残った右手のGNブレイドを振るう。
しかし、たやすく弾き飛ばされてしまう。

「俺のガンダムは!!」

左手のGNブレイドもすれ違いざまにはじかれる。

「こいつで終わりだ!!」

エクシアにサーシェスの凶刃が迫る。
その時、刹那は驚愕から目を見開いた。
もうすぐ死ぬことに対してではない。
目の前に表示された見たこともない文字に対してだ。
いつも見ていたモニターには羽根のついた金色の楔を模したソレスタルビーイングのマーク。
それが赤く輝き、その上にはTRANS-AMの文字が煌々と光っていた。










月 ヴェーダ内部

「レベル7クリア。ヴェーダを完全掌握しました。」

「そうか、遂に………!」

アレハンドロ達の前の舞台のような場所の下から、光とともに何かがせりあがってくる。
白いカプセルのようなそれの中には、ガラスでできたのぞき窓からモノクルをかけた老人が中で眠っているのがうかがえる。

「やはりいたか、イオリア・シュヘンベルグ。世界の変革見たさに、よみがえる保証もないコールドスリープで眠りにつくとは……」

アレハンドロはカプセルへと近づいていく。

「しかし、残念だがあなたは世界の変革を目にすることはできない。」

アレハンドロは金色に輝く銃を取り出し、安全装置を外す。

「あなたが求めた統一世界も、その抑止力となるソレスタルビーイングも、この私が引き継がせてもらう。そうだ……世界を変えるのはこの私、アレハンドロ・コーナーだ!」

アレハンドロの銃が火をふく。
のぞき窓に細かなひびが入り、イオリアの顔が見えなくなる。

「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

アレハンドロは狂ったように笑いながら何度も引き金を引く。
だがこの時、彼は重大な過ちを犯していたことに気付かなかった。
そのことに最初に気付いたのはリボンズだった。
周りにあったヴィジョンにノイズがはしる。

「なにが!?」

「リボンズ!これは!?」

戸惑う二人の前に、壁と思われていたものが巨大なモニターに変わり、イオリアの姿が映し出される。

『この場所に、悪意を持って現れたということは残念ながら、私の求めていた世界にはならなかったということだ。』

「イ、イオリア・シュヘンベルグ……!」

「システムトラップ……!」

『人間は今だ愚かで、戦いを好み、世界を破滅に導こうとしている。だが、私はまだ人類を信じ、力を託して見ようと思う。世界は、人類は、変わらなければならないのだから……』








大西洋上 孤島

サーシェスはわが目を疑った。
いきなり目の前から、あれほどはっきり見えていたエクシアが突如消えたのだ。

「なに!?どこだ!!」

後ろに気配を感じハンドガンを放つが当たらない。
今度は別方向に機影を見つけて発射するがやはり当たらない。

「なんだ!?あの動きは!?」

今まで戦っていた時の動きとは明らかに速度が違う。

「そこか!!」

サーシェスは振り向きざまに撃つ。
だが、エクシアは信じられない速度で縦横無尽に移動しながらサーシェスの放った弾をよけていく。
いや、サーシェスにはそれすら見えていない。
わかるのは赤い閃光が徐々に近づいてきていることだけだ。

「当たらねぇ!?」

サーシェスが驚愕の声をあげていると、赤い閃光が目の前から消え去る。
そして、すぐさま背中に衝撃が走る。

「俺の背後を!?」

慌ててバスターソードを後ろに振るが、それよりも早くエクシアの拳がツヴァイにたたきこまれる。
凄まじい衝撃にツヴァイは地上に仰向けに落下する。
エクシアがその動きを止めたとき、ネーナとラッセは唖然とする。

「なに……あれ……?」

「エクシアが……赤く……」

エクシアの装甲全体が赤く発光し、胸部のジェネレーターも激しく輝いている。
周りが驚く中、一番驚いていたのはエクシアを操る刹那だった。

「この……ガンダムは……?」

『……GNドライヴを有する者たちよ。』

「イオリア・シュヘンベルグ!?」

突如目の前のディスプレイに現れたイオリアに刹那は驚く。

『君たちが私の遺志を継ぐものなのかはわからない。だが、私は最後の希望を、GNドライヴの全能力を君たちに託したいと思う。君たちが真の平和を勝ち取るため、戦争根絶のために戦い続けることを祈る。ソレスタルビーイングのためではなく、君たちの意思で、ガンダムとともに……』

「ガンダム……」

刹那は改めて確信する。
この機体はただ戦うための道具なのではない。
戦争根絶を、本当の平和を勝ち取るための力なのだと。

(ならば……)

そのために

(俺は……)

戦う!

「どんな手品かしらねぇが!!」

背後からいつの間にか上空に戻っていたツヴァイがビームサーベルを振り下ろす。
だが、エクシアはGN粒子を残してその場から消える。
そして、目にもとまらぬ速さで縦、横、下、上からすれ違いざまにツヴァイを斬り刻んでいく。

「この俺がぁぁ!!」

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」

まだ月が輝く薄暗い空に無防備な状態で投げ出されたツヴァイへエクシアの二本のビームサーベルが交叉された。
しかし、斬り落としたのは左腰のスカート部分だけであった。
サーシェスは命からがらエクシアから逃げ出す。

「なんだ……!なんなんだありゃあ!!」

エクシアはツヴァイを追わずにただその背中を見つめている。
両手に持ったビームサーベルの刃を消すと。刹那は改めてモニターに表示された文字を見る。

「TRANS-AMシステム……これが…TRANS-AM(トランザム)!」







ラグランジュ3 クルンテープ周辺宙域

かつてガンダムの開発がおこなわれていたコロニー、クルンテープ。
その後ろに隠れるように小さな資源衛星がポツリと存在していた。
その中にはおよそただの資源衛星だとは思えないような量のコンピューターやその端末が残されている。
長年放置されていたにもかかわらず綺麗な状態で残されているそれはある種の異様な空気を漂わせている。
そんな中の一台のパソコンのモニターの明かりがつき、ある文字が表示される。

GN-EXCEED system









ラグランジュ3 周辺宙域

「!?消えた!!?」

目の前からソリッドが消え去り動揺するジンクスのパイロット。

「うあああぁぁぁぁぁ!!?」

「!!?」

後ろで何かが光ったのに気付いて振り返ると、そこには赤い何かが駆け抜けながらジンクスたちの手足を斬り落としていく光景があった。
その赤い何かが動きを止める。

「これは……!?」

ユーノは突如発動したシステム、TRANS-AMに動揺する。

「967、このシステムは一体!?」

「わからん。だが、事態が好転したのは確かだ。」

「でも、さすがにこの数を相手じゃ……!」

ジンクスたちは腕や脚が多少なくなった程度では戦闘をやめる気はないようだ。
むしろさらにソリッドとユーノへの憎しみを募らせているようにも見える。
それでもソリッドを警戒しているのかなかなか近づこうとせずに退路を断つような配置についている。
だが、相手が仕掛けてこなくてもこのままではらちが明かない。

「このままじゃ……」

ユーノが弱気になっていると、モニターに二人の人物の姿が映される。
一人は赤髪の男性。
際立って美男子というわけではないが、人のよさそうな笑みでこちらを見ている。
もう一人は金色の髪を後ろでまとめた女性。
美しい顔立ちをしているのだが、厳しい表情でこちらを見ている。

「こいつらは……!!」

「知ってるの、967?」

「ああ、こいつらは…」

『これを見ているってことは…』

967の言葉を待たず男性が話し始める。

『きっとなにかトラブルが起こったっていうことなんだと思う。』

『ルイード、いきなりそれじゃ見てるやつが混乱するだろ。自己紹介くらいしたらどうだい。』

女性は呆れたように男性の頭を軽く小突く。

『おっと、そうだな。俺の名前はルイード・レゾナンス。これを見ている君にとって先輩に当たる男さ。』

『あたしはマレーネ・ブラディ。ガンダムアブルホールのマイスターをしている。』

「ルイードとマレーネって!」

ユーノは以前シャルが話していたことを思い出す。
シャルとともにガンダムの開発にかかわった人物。
そして、フェルトの両親だ。

『それでいきなりだけど、これから俺たちが君に託すのは俺たちとは別のやつがテストをしていたシルトのデータから拝借してきたもんでね。こいつが起こしたとある事件のせいでシルトの開発は凍結されちまったのさ。』

『けれど、もしも介入を開始した時、何か問題が起こったら……例えば、組織内に裏切り者が出たときにこいつが何とかしてくれるかもしれない。そう思ってこいつをあたしたちの仲間の一人に頼んでヴェーダのシステムトラップの一部に組み込んでもらうことにした。』

『こいつの……GN-EXCEEDの発動条件は二つ。ひとつはヴェーダ、もしくはガンダムに何らかの問題、または変化が起きること。』

『もうひとつは、シルトの系列の機体が開発されていること。このシステムはもともとシルトに備わっていたものだからその系列の機体が開発されないことにはどうしようもないんだ。』

『はっきり言ってとんでもなく分の悪い賭けだ。けれど、俺たちはそれでもそのわずかな可能性に賭けてみようと思う。』

『あんたがどういうやつかわからないけど、こいつをどう使うかはあんたの自由だ。』

ユーノと967はじっと二人の言葉を聞いている。
過去のマイスターたちが、今のマイスターを、自分を信じてくれていたということが胸を熱くさせる。

『最後に……もし、俺たちの娘……フェルトに会うことがあったら伝えてほしいことがあるんだ。』

『……フェルトには自分が思ったように生きてほしい。私たちがマイスターだからじゃなく、フェルト・グレイスとして生き方を選んでほしい。』

『……愛してるよ、フェルト。』

二人はすべて言い終わると満足そうに微笑み、そしてゆっくりと消えた。
二人が消えた後のモニターにはGN-EXCEEDの文字が残されている。

「どうする?」

967がユーノに問いかける。
ジンクスたちは業を煮やしたのかじりじりとこちらに近づいてくる。

「……やるしかないさ。先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない!!」

「了解だ!!GN-EXCEED発動!!」

モニターの文字が淡い萌黄色の光の粒になり消えていく。
そして次の瞬間、ソリッドの外見に変化が起こる。
両脚、両腕、肩の装甲が開き、それぞれ三枚ずつ放熱板のようなものが出てくる。
それはさながら鳥が今までたたんでいた羽根を広げたかのようだ。
GNドライヴもコックピットに聞こえるほど激しい唸りを上げて粒子を爆発的に生成していく。
そして、開いた羽根の間から大量の粒子が溢れだしていく。
だが、急激に増えたGN粒子の影響からかソリッドのボディが軋むような不気味な音が聞こえ始める。

「粒子生産量200%!?馬鹿な!この調子では機体どころか太陽炉そのものが持たないぞ!!」

コックピット内にもアラームが鳴り響く。

(まだまだこのくらい!!なのはだってあの時、耐えてみせたじゃないか!!)

なのはの使った力と同じ名前のシステム。
自分だって使いこなせるはず。
そう信じてユーノは意識を集中し魔法陣を展開してソリッドのシステムへのアクセスを開始する。

「これでぇ…どうだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ユーノの叫びと同時にソリッドの異常振動が収まり、赤く輝く体に瑠璃色の六枚のGN粒子の翼を広げる。

「天使…………」

ジンクス部隊の隊員全員が誰が言ったかもわからないその言葉に無言で同意する。
本来は敵であるのだが、その姿は神話に出てくる天使に似て確かに美しい。

「ソリッド、目標を粉砕する。」

ユーノは軽く操縦桿を倒す。
その瞬間、見とれていたジンクスにソリッドが一気に接敵する。
そして、すれ違いざまに掴んだ左手を無造作に引きちぎる。
その光景で我に返ったジンクス部隊はソリッドへの集中砲火を再開する。
だが、ソリッドは避けるどころかGNフィールドを使う気配すら見せない。

「馬鹿め、これで消えされ!!堕ちた天使がぁぁぁぁ!!」

だが、放たれた弾丸はソリッドに当たることはなかった。
すべて見えない壁に阻まれるように方向を変えて飛び去っていく。

「そんな!?」

ソリッドはその場から動こうとはせずにジンクスたちを見渡す。

「どんな手を使ったかは知らないが!!」

一機のジンクスがビームサーベルの先をソリッドに向けて突進していく。
だが、それでもソリッドは避けようとはせずにただ手のひらをビームサーベルに向けてつきだすだけだ。

「それだけで防げるとでも…」

「GNリフレクション。」

その場にいた全員が驚愕する。
確かにソリッドの手のひらに刺さるはずだったビームサーベルがソリッドの手のひらに吸い込まれるように消えていったのだ。

「あ……あ………!?」

訳がわからずパイロットは操縦桿を動かすことも忘れて口をパクパクさせる。
ソリッドはおもむろにジンクスのビームサーベルを握っていた腕を掴み、自分の腰から抜き放ったビームサーベルでその腕を斬りおとす。

「て、撤退!!」

残っていたジンクスたちはグラムで動きがとまったジンクスを回収すると全速力で撤退していく。
ユーノはそんなジンクスたちを追わずにただ見送っている。

「なんとか………なったね…」

そう言った瞬間、ユーノの全身から力が抜けて操縦桿で体重を支えるように前のめりになる。

「まったく……実戦で使ってさっそくこの戦果か。お前の底力には毎回驚かされる。」

「自分でも……びっくり………だよ………」

「トレミーまでは俺が連れて行ってやる。しばらく休んでろ。」

「そう………するよ…………」

ユーノは操縦桿から手を離し、覚醒しきった頭をシートに預ける。

(……おそらくこの力は疑似太陽炉搭載型に対する切り札になる……。そして、おそらくエクシアのGNソードも……。)

GNフィールドの影響を受けないエクシアの実体剣、そして、圧倒的な出力とGN粒子を完全にコントロールするソリッドのGN-EXCEED。
この二つがあればなんとかなるかもしれない。
この時、少なくともユーノはそう考えていた。
すぐそこまで悲劇が近づいていることも知らずに。











天使たちは統合されていく世界に対し、答えを見つけ始める







あとがき・・・・・・・・・・という名のカウントダウン開始

ロ「TRANS-AM&オリシステム登場回でした。」

兄「でした、じゃねぇぇぇぇぇ!!!!」

狙撃手、ロビンに飛び蹴り。

ロ「どぅぶっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

ティ「こんなトンでもチートシステムを出してどうする気だ!?」

ア「おまけにまた原作無視するし!!」

ユ「僕も使っておいてこんなこと言うのもどうかと思うけどこれはないよ。」

刹「とどめはネーミングセンス。」

ロ「おま……肉体的にボロボロなのに精神的に追い詰めるのはやめてくんない…………?」

ティ「貴様に人権などない。」

ロ「さりげなくひどいなお前!!」

フェイト「えっと……私の紹介は……」

兄「悪いけど今回はなしだ。というか勝手に登場したしな。」

ユ「フェイトもロビンに対して制裁をくわえない?」

バルディッシュ(以降 B)〈よろこんで。〉

フェイト「私の代わりに答えるのはやめてくれないかなバルディッシュ!?」

B〈といっているSirが一番乗り気なのだった。〉

フェイト「勝手に人の思考を捏造するのもやめよう!?いつからそんなふうになっちゃったの!?」

刹「出番がないことが原因だろう。お前たちの出番がないということはデバイスであるそいつらの出番もないということだからな。」

B〈………………………………〉

フェイト「ひょっとして図星!!?」

B〈さあ、今回の解説に行きましょう。〉

ア「誤魔化した!?」

ロ「フェイト……ちゃんと後でバルディッシュのご機嫌とっといてね…………ゲフッ!」

フェイト「あの、口からいろいろ出てるんですけど………」

ロ「それはお前の幻覚だ……そう思えば読者の皆様そう思ってくれるから…」

兄「……そういうもんか?」

ア「さあ……て言うか君とティエリアがほとんどやったんじゃないか。」

ロ「さっさと解説いけや!!もうかなり文字数オーバーしつつあるんだからさっさと締めないとまずいんだよ!!」

ユ「(自分が原因のくせに……)え~と、今回で遂にトランザム解禁だね。そしてソリッドはあのチート能力もついでに解禁。」

ロ「だからチート言うな!!あれにはちゃんと弱点的なものもあんの!!次回でちゃんと書くからチートって言うのはやめろ!」

ア「そうでなくてもいろいろマズイ表現があったよね。フェルトのご両親とか。粒子生産量とか。」

ロ「確かにこんな形で出して大丈夫かと思ったけどここいらで出しときたかったから。あと、粒子生産量に関してはさっきも言ったけど次回説明する。」

兄「お前あれだろ。夏休みの宿題を先延ばしにして最後の一週間で苦しみ抜くタイプだろ。」

ロ「……さあ、説明終了!次回予告へゴー!!」

フェイト(誤魔化した。)

刹「ガンダムを託されたマイスター達!」

ティ「新たに手にした力で国連軍に挑むガンダム!」

ア「だが、国連軍の中にサーシェスとスローネツヴァイの姿が!」

ユ「怪我をおして出撃したロックオンはサーシェスに戦いを挑む!」

フェイト「仇を討つための戦いの結末とは!?」

兄「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださってありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃ、せーの……」

「「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」」



[18122] 30.ロックオン・ストラトス
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:45
プトレマイオス ブリーフィングルーム

ラグランジュ1の資源衛星内でのプトレマイオスへの強襲用コンテナの装備、キュリオスのテールブースターの搭載、デュナメスのコックピット部分の修理と大量の作業をクルーがこなす中、スメラギと刹那とユーノを除くマイスター達はブリーフィングルームでイオリアが自分たちに託したシステムについて話し合っていた。

「機体に蓄積した高濃度圧縮粒子を全面開放し、一定時間スペックの三倍に及ぶ出力を得る……」

「オリジナルの太陽炉のみに与えられた機能……」

「TRANS-AMシステム……」

「ハッ……イオリアのじいさんも大層な置き土産をしてくれたもんだ。」

ロックオンは眼帯で右目が隠れた顔で笑う。

「でも、TRANS-AMを使用した後は機体性能が極端に落ちる……まさに諸刃の剣ね……」

「んで、とどめはこいつか。」

ロックオンの言葉に続くように足元のモニターの画面が切り替わりソリッドの姿が映し出される。

「GN-EXCEEDシステム……さしづめ、こっちはシルトの置き土産ってところだね。」

「太陽炉を一時的に暴走状態にまでもっていき、それをコントロールすることで爆発的な出力アップと自分の周りに放出されたGN粒子で光学兵器類をすべて無効化する……」

「それとTRANS-AM使用時にも使えるGNリフレクションの完成形までもつかえている。はっきり言って現存する全ガンダムの中でも最強の部類に入るだろう。」

「けど、リスクも大きいわ。まず太陽炉の暴走状態をコントロールできるだけの優れたシステム操作能力がいるわ。」

「なけりゃ失敗してGNドライヴごとボンッ!ってわけか……」

「そうならなかったとしても機体と操縦者はただでは済まないだろうね。」

ユーノがそうなっていたかと思うだけでアレルヤの顔は青くなっていく。

「そして、発動した後もその出力と飛躍的にアップした性能を生かしきるためにはタイミングや敵や自分の攻撃軌道を即座に算出するような人間離れした演算能力が必要だ。」

「そして、偶然ユーノはそれをもっていたってことね。」

「そういや、その本人は今どうしてるんだ?」

「部屋で休ませてるわ。あれを使った反動なのかどうかはわからないけど、ひどく消耗してたから。」

「しかし……」

ロックオンの口元に笑みが浮かぶ。

「こんなトンでも能力があるんならソリッドだけでもなんとかなっちまいそうだな。」

「残念だけどそれは無理ね。」

スメラギが厳しい顔つきでロックオンの意見を否定する。

「どう言うことですか?」

「ソリッドのGNドライヴの現在の粒子生産率は20%未満よ。」

「なに!?」

ティエリアが目を見開く。

「GN-EXCEEDを使った後のソリッドのGNドライヴは極端に粒子生産率が落ちるみたいなの。ここまで戻ってこれたのもコンデンサーや機体の各部に残されていたGN粒子を使いながらなんとかたどりつけたというのが現実なの。」

「おいおい……じゃあ、GN-EXCEEDを使った後のソリッドは……」

「性能が落ちるどころか行動不能に陥る可能性もあるわ。イアンさんが改良を進めてくれてるみたいだけど、次の戦闘に参加するまでにはGNドライヴはもとに戻るかもしれないけど、改良自体は間に合いそうもないらしいわ。」

スメラギが説明を言い終わった時、正面のモニターに暗号通信が表示される。

「刹那からの暗号通信。」

「開いて。」

モニターから刹那の声が響く。

『エクシア、トレミーへの帰頭命令を受領。報告要件あり。地上にいた疑似太陽炉搭載型が全機宇宙に上がった。』

「やはり……」

『また、ガンダムスローネの一機が敵に鹵獲。』

「鹵獲!?」

マイスター達に緊張がはしる。

「国連軍か?」

アレルヤの質問に刹那は口ごもるが、意を決したように話しだす。

『……スローネを奪取したパイロットはアリー・アル・サーシェス。』

「!!!!」

ロックオンに衝撃がはしる。

『……以上だ。』

刹那はそれ以上会話に参加したくないのか通信を終了する。
ロックオンの肩が怒りに震える。

「アリー・アル・サーシェス……野郎がここに……!?どこまでコケにするつもりだ……!!」

この時、誰も見ていなかったため気付かなかったが、ロックオンの顔は見たこともないほどに憎悪で歪んでいた。
そして、誰でもいいからこのことに気づいていれば、あんな悲劇は起きなかったのかもしれない……






魔導戦士ガンダム00 the guardian 30.ロックオン・ストラトス

国連軍 バージニア級大型輸送艦

「フヘヘ……ご丁寧に予備パーツまでくれるとは気がきくねぇ。」

サーシェスは目の前で修理されていくガンダムを見ながら満足そうに笑う。
不本意だが国連軍にはいるために手土産のつもりで持っていったのだが、幸運なことにそのままガンダムのパイロットに任命された。
まだまだガンダムを使い足りなかったサーシェスとしてはこの上ない僥倖だ。

「貴官か、このガンダムを鹵獲したのは。」

サーシェスは部屋に入ってきた人物の方へふりかえる。
左目に傷のある顔にサーシェスは見覚えがある。

「頂部特務部隊のセルゲイ・スミルノフ中佐だ。」

「ロシアの荒熊から直々に挨拶していただけるとは……」

サーシェスはいつもの作り笑顔をセルゲイに向けながら自分も敬礼する。

「フランス第4外人独立機兵連隊、ゲーリー・ビアッジ少尉です。ガンダム掃討作戦に参加させていただきます。」

サーシェスはいつも通り素の自分を隠しとおせたと思っていたようだが、セルゲイはサーシェスの持つ、おぞましさとでも言うべきものを感じ取っていた。

「聞かせて欲しいものだね……どうやってガンダムを鹵獲したのか。」

サーシェスもセルゲイが自分の本性をある程度見透かしていることに気付いたのか、慌てることなく仕事、戦争をしている時の顔になる。

「へへへ……そいつは企業秘密ということで。」

サーシェスはそう言うと部屋を後にして廊下で顔をしかめる。

「ケッ!ロシアの荒熊だかなんだか知らねぇが俺に目をつけるならそれ相応の覚悟をしておいてもらうぜ。」







オービタルリング 周辺宙域

強襲用コンテナに乗っているラッセと刹那はようやくオービタルリング地帯を抜け出していた。
敵に発見されないためにかなり遠回りをしてしまったが、結局発見されることなく
無事にここまでこれた。

「答えは出たのか、刹那。」

ラッセは無事にオービタルリング地帯を抜け出せたことに安堵したのか、大きく嘆息しながら刹那に問いかける。

『わからない……』

「なに?」

『だが、俺は……俺たちはイオリア・シュヘンベルグに託された。なら、俺は俺の意志で紛争根絶のために戦う。ガンダムとともに。』

刹那の言葉を聞いたラッセはフッと笑う。

(それが答えなんだよ、刹那。今はまだわからないかもしれないがな。)

そして、今度はラッセが自分自身の答えを刹那に語り始める。

「……正直、俺は紛争根絶ができるなんて思っちゃいねぇ。だがな、俺たちの馬鹿げた行いは良きにしろ悪しきにしろ人々の心に刻まれた。……今になって思う。ソレスタルビーイングは、……俺たちは存在することに意義があるんじゃねぇか、ってな。」

『存在すること……?』

「人間は経験したことでしか本当の意味で理解しないということさ。」

ラッセとの話を終えて刹那は考え込む。
介入を開始してから何度も現実を突き付けられた。
自分のやっていることが無意味に思えた時もあった。
それでも、ここまでこれた。
迷いながら、躓きながらも進んできた。
もしラッセの言うように存在することに意味があるのなら、自分のしてきたことは無駄ではなかったのではないか。

(俺の戦いは……無意味じゃなかった。)

目の前に自分の瞳からこぼれた涙が球になって漂う。
刹那はハッとすると涙をぬぐい、途切れた緊張感を取り戻す。
まだ終わってはいない。
そう自分に言い聞かせ気を引き締めているとモニターに電子音とともに文字が出現する。

「トレミーが国連軍の艦隊を捕捉!?」

「チッ!刹那、しっかりつかまってろ!!」

刹那がバイザーを下げると同時に加速による凄まじいGが発生する。
だが、二人はそんなことなど気にせずに仲間の待つプトレマイオスへと急ぐのだった。







ラグランジュ1 周辺宙域 プトレマイオス

「接近する輸送艦はユニオンのバージニア級三隻と推定。」

「有視界戦闘領域まで、あと4200。」

予想より早く現れた国連軍だったが、スメラギは冷静だ。

「資源衛星を利用しながらトレミーは後退。キュリオス、ヴァーチェは防衛戦用意。ソリッド、デュナメスはトレミーで待機。」






「おいおいそりゃねぇだろ!」

待機していた部屋から出ようとするロックオンはスメラギの指示に文句を漏らしながら扉を開けようとする。
だが、

「!?」

ボタンを押しても扉が開かない。
何度も押してみるがやはり開かない。

「ク!ロックがかかってやがる!」

ロックオンは歯ぎしりをする。

「こんなことをするのは……ティエリアか!」







「少し強引じゃないか?」

アレルヤが眉をひそめながらティエリアに問いかける。
ロックオンを出撃させないことには賛成だが、これは少しやりすぎだ。

「口で言って聞くタイプじゃない。」

「でも……」

「私は前回の戦闘で彼に救われた。今度は私が彼を守る!」

「ティエリア……」

感情をむき出しにする。
ここまでムキになるティエリアをアレルヤは初めて見た。
これまでにないほどの人間としての強い意志をもって、ティエリアはヴァーチェに乗り込んだ。







周辺宙域 衛星群外

「全パイロットに通達。出撃したガンダムは2機だけだ。フォーメーション245で対応。包囲して殲滅するぞ!」

セルゲイの指示で一斉に目標地点に向かっていくジンクスたちをサーシェスはツヴァイに乗って後ろの離れたところから眺めている。

「おうおう、皆さんお元気なこって。……ん?」

サーシェスの目の前のモニターに拡大されたキュリオス、ヴァーチェが映される。

「来たか…!」

戦争をすることの喜びを全身で感じていた。






テールブースターを装備したキュリオスを駆るアレルヤはいち早くジンクス部隊を捕捉する。
デュナメスは今のロックオンを乗せるわけにはいかずに出せない。
ソリッドもGNドライブは通常の状態に戻ったがユーノがまだまともに動ける状態ではない。
となると自分とティエリアで何とかするしかない。

「先制攻撃をしかける!」

アレルヤの声とともにキュリオスに装備されたテールブースターの二つの砲門に光がたまっていく。

「いけぇぇぇぇ!!」

テールブースターから放たれた巨大なビームの奔流が逃げ遅れたジンクス一機を飲み込み爆散させる。

「なに!?」

「新装備か!?」

「しゃらくせぇ!!」

セルゲイとダリルが動揺する中、パトリックが一人攻撃を開始する。
これが合図となりジンクスたちも一斉にビームライフルによる射撃を開始した。
だが、

「テールブースターで機動性は上がっている!」

キュリオスは赤い弾幕をかいくぐって再度GNキャノンをおみまいする。
今度は避けられてしまうが、後ろから放たれたヴァーチェの二門に増えたGNバズーカの一撃が一機を確実にとらえ、煙とともに爆散させる。

「各機フォーメーションを崩すな!」

セルゲイは動揺する部下に檄を飛ばす。

「プランEで各個撃破を行う!」

冷静さを取り戻した国連部隊は二手に分かれたヴァーチェとキュリオスを追う。

ヴァーチェの撃破に向かったジンクス達は砲撃を警戒しているのか細かく動きながらビームライフルを連射する。
ヴァーチェはGNフィールドを張って防ぎ、相手の隙をついて両肩のGNキャノンをみまう。
逃げ遅れた一機が墜ちるが、他のジンクスたちはひるむことなく攻撃を続行する。
しかし、GNフィールドに阻まれ攻撃が効かない。

(これなら………いける!)

時間はかかるがなんとか退けることができる。
ティエリアはそう思った。
だが、後ろから何かがこちらに近づいてくる。
オレンジの体に巨大な剣を持ち、自分たちの機体と同じような顔をしている。

「!!スローネか!!」

ティエリアはGNバズーカ、GNキャノン、合計四門から強烈な砲撃を放つ。
しかし、スローネツヴァイはそれをかわす。

「行けよファング!!」

ツヴァイの腰から四つの刃が放たれ、不規則な動きでヴァーチェに迫る。
ヴァーチェは両肩のGNキャノンでファングの破壊を試みるが、二つは撃破するものの残り二つがGNフィールドを突き破り右肩と左脚の装甲を貫いた。
ファングが離れると損傷した箇所から火花とともに小爆発が起こった。
そして、その衝撃でGNバズーカを片方手放してしまう。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

激しい揺れがティエリアを襲う。
ヴァーチェがぐらぐらと揺らぐのを見たサーシェスはにたりと笑ってジンクスたちに通信を入れる。

「あとは好きにしな!」

そう言ってサーシェスは背を向けてその場を離れる。
ジンクスたちは今までの鬱憤を晴らすようにヴァーチェへと集中砲火をくわえて小さな衛星に磔にする。
ヴァーチェもGNフィールドを張って防ごうとするが先ほどのツヴァイの攻撃で出力が落ちてしまい、少しづつフィールドを突き抜けてくるものも増えてくる。

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ティエリアの悲鳴がコックピットに響くがジンクスたちは容赦しない。
それどころかさらに弾丸の数を増やしてヴァーチェを攻め立てた。

一方、アレルヤはテールブースターを装備したキュリオスでジンクスの大軍を相手に善戦していたが、ジンクスにめった撃ちにされているヴァーチェを見つける。

「ティエリア!!」

アレルヤは気をとられてしまい操縦がおろそかになってしまう。
その一瞬をつかれテールブースターの後部に一発の光弾が直撃する。

「グァ!!直撃!?」

その時、アレルヤの頭を強烈な頭痛が襲う。

「っつ!!?頭が!!グァァァァ!!」

アレルヤが頭痛に苦しんでいるとキュリオスにさらに攻撃が加えられる。
だが、アレルヤにはそんなことを気にしている余裕はない。
この痛みには覚えがある。
今まで散々苦しめられてきたものだ。

「ソーマ・ピーリスか……!!」

上からビームサーベルを抜いて迫るジンクスに対してアレルヤはテールブースターを切り離してMS形態に変形してビームサーベルで受け止める。

「被験体E-57!!」

「クゥゥゥ!!」

アレルヤは頭痛に耐えながらピーリスのジンクスと鍔迫り合いをする。
その時、キュリオスの背後に二発の赤い光弾が突き刺さる。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「いまだ、少尉!!」

「我々が援護する!!」

「了解!!」

セルゲイとミンの言葉に背中を押され、ピーリスは再度キュリオスに襲いかかった。






プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、テールブースター破損!超兵と思われる機体と交戦中!」

「ヴァーチェ、敵MSの集中攻撃を受けています!」

スメラギは誰にもわからないよう唇をかむ。
不利だとはわかっていたがここまで押されるとは思っていなかった。
これ以上は危険だ。

「……ガンダムに後退命令を。」

スメラギが後退命令を出すが誰も否定する者はいない。
ガンダムを下げればプトレマイオスが攻撃にさらされるが、仲間がやられるているのを黙って見ているわけにはいかない。
誰もが覚悟を固めたその時、ブリッジに電子音が響く。

『ブリッジ、聞こえるか!?デュナメスが!!』

「!!?」

イアンの慌てた声にブリッジクルーは動揺する。
そこに、

『デュナメス、出撃する!!』

「ロックオン!?」

(ロックオン!?)

スメラギは驚きの声を上げるが、フェルトはそれ以上に驚く。

『GNアーマーで対艦攻撃をしかける!あんたの戦術通りにやるってことだ。』

「でもその体で!!」

スメラギは止めようとしたがロックオンからの通信が切れてしまった。






コンテナ

通信を切った後、ロックオンは静かに左目を閉じ、これまでのことを思い起こす。

家族を失った瞬間。
その後、一人で生きてきた日々。
ソレスタルビーイングにスカウトされた時のこと。
アレルヤ、ティエリア、刹那、エレナと初めて顔を合わせた時の思い出。
エレナが拾って来たユーノが仲間になった時。
エレナが死んだ時のユーノの泣いている姿。
介入を開始してからのこと。
そして……

ロックオンは目を開けてハロに笑いかける。

「ハロ、悪いがつきあってもらうぜ。」

「了解!了解!」

自分の無茶に付き合ってくれる相棒への礼を込めた笑みから、鋭い目つきに変わる。

「アリー・アル・サーシェス……!」

憎い敵の名を呟くとロックオンは時折火球が瞬く宇宙へと飛び出していた。








ラグランジュ1 周辺宙域

「墜ちろぉぉぉぉぉ!!」

キュリオスのすぐそこまでジンクスの刃が迫る。
その時、キュリオスの体全体が赤く輝き、ピーリスの攻撃をかわす。

「!!?」

「なんだ!?」

「あれは!?」

三人が驚く中、赤い閃光と化したキュリオスはジンクスたちの弾丸を潜り抜けて戦場を駆ける。
そして、TRANS-AMを使ったキュリオスだけでなくアレルヤ自身にも変化が起きていた。

「!頭痛が!?」

あれほど痛んでいた頭が今は嘘のように何ともない。

(脳量子波は俺が遮断してやったぜ……)

「ハレルヤ!」

今まで自分に協力したことのないハレルヤが進んで力を貸している。
その事実に戦闘中にもかかわらずアレルヤは呆けてしまう。

(ボーッとしてんじゃねぇよ……ブチ殺せ!アレルヤァァァァァァ!!)

降り注ぐ赤い雨をかいくぐるキュリオス。
そして、いつもとは違いよく狙いを定めて二発だけビームサブマシンガンを発射する。

「うぁ!!」

「「少尉!!」」

ピーリスのジンクスはそのうち一発は避けたが、残り一発は左脚に被弾する。
そして、ピーリスのもとに駆けつけようとしたセルゲイとミンにもキュリオスの弾丸が当たる。

「ぬおおぉぉぉ!!?」

「チィっ!!」

だが、いずれも右腕と左腕を奪う程度で致命傷とは言えない。
そして、この敵を圧倒している時間がもうすぐ終わる。

「クソ!TRANS-AMの限界時間が……!」

高速の移動によるGに耐えながらアレルヤはメーターを見て唸る。
もし、TRANS-AMが解除されれば機動性はガタ落ちだ。
そうなってしまえばいい的だ。
粒子残量がもう残りわずかになり、ここまでかと思われたその時。

「撤退した!?」

どういうわけかジンクスたちは我先にと撤退していく。

(詰めが甘ぇなぁ。)

ハレルヤの呆れぎみのため息を聞きながらアレルヤは粒子残量がなくなって機動性の落ちたキュリオスを引きずるように動かしながらプトレマイオスへの帰路についた。







四方八方からの攻撃にピンポン玉のように巨体を弾かれるヴァーチェ。
ティエリアはリスクを考えつかってこなかった切り札を遂に切る。

「ト……TRANS-AM!!」

ヴァーチェの体が赤い輝きに包まれていく。

「あ、あれは!?」

「あの光は!?」

「例の報告にあった敵の新能力か!!」

国連軍が動揺する中、ヴァーチェはGNバズーカのバーストモードを発動する。
今までため込んだことのない量のGN粒子をため込んで悲鳴を上げるGNバズーカの引き金を引く。
その瞬間、これまで撃った中で最大級の光の柱、いや、もはや光の壁と化したビーム光がジンクスたちに押し寄せる。
その巨大さから逃れる場所を失ったジンクスたちは次々に跡形もなく消え去っていく。
射線軸上にある衛星の後ろに隠れて安心していた一機もその衛星ごと撃ち砕かれる。

「敵の新兵器か!?」

いち早く危険な気配を感知し、少し離れたところでその様子を見ていたパトリック。
そんな彼に思いがけない不幸が降りかかる。
彼の乗るジンクスの頭めがけヴァーチェが砕いた衛星の小さなかけらが高速で迫る。

「へ?おわぁぁぁぁぁぁ!!た、大佐ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

一方的に惚れ込んだ上司の階級を叫びながらパトリックは遥か彼方へと飛んでいった。

砲撃が終わるとヴァーチェの体から少しずつ赤みが抜けていく。

「粒子残量が……!うっ!!」

モニターを見て残りの粒子が少ないことを思い知らされていたティエリアに残っていたジンクスたちが襲いかかる。

「よくもやってくれたなぁ、ガンダムゥゥゥ!!」

ダリルは怒りに身を任せてヴァーチェへと突っ込んでいく。
しかし、

「敵機、急速接近!!」

「なに!?」

別方向から二つのビームの奔流がジンクスたちを何度も襲う。
ティエリアはその方向を見て驚く。

「GNアーマー!?」

右には二つの長い砲身が、左には長い大きな箱状のものを、そして肩には二つの大きな砲門と鋭い刃のような翼をもった重装甲の機体、GNアーマーが接近してくる。その青い鎧に身を包むのは深緑の機体、デュナメスだ。
乗っているのは当然、

「ロックオン・ストラトス!!」

ダリル達は新たにやってきたGNアーマーtypeDに攻撃を集中し始める。

「新手に攻撃を集中しろ!!」

しかし、GNフィールドに阻まれてビームライフルの弾は弾かれていく。
デュナメスの中でロックオンは不敵に笑う。

「悪いが今は狙い撃てないんでね……圧倒させてもらうぜ!!」

「砲撃開始!砲撃開始!」

右手に装備されていた箱が開き、中から無数のミサイルがジンクスたちに放たれる。
ジンクスたちは撃ち落とす、もしくは避けようとするが、大量のミサイルからは逃げ切れずにGNミサイルに食い込まれ、圧縮粒子を注がれて体を膨らませて爆散していく。
大量の火球が宇宙に咲き乱れた。

「このまま対艦攻撃に移行する。」

ロックオンが敵の輸送艦に向かおうとした時、ティエリアの顔が横に映る。

『ロックオン、そんな体で……!』

「気遣い感謝するよ。だがなぁ、今は戦う!!」

ペダルを踏んで急加速をしたGNアーマーは光の筋を残して彼方へと向かっていった。







プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、ヴァーチェ、TRANS-AM終了。粒子の際チャージまで機体性能が低下。」

「ロックオンは?」

スメラギはフェルトのほうを向いて尋ねる。
ロックオンの状況を聞くことも目的だが、フェルトのことも心配だ。
震える指でキーボードをたたくその姿は見ていて痛々しい。

「敵MS部隊を突破。対艦攻撃に突入しました。」

MS部隊を突破できたと聞いてスメラギは一安心するが、それでも危険な状態には変わりない。
そんな時、再びイアンから通信が入る。

『すまん!!今度はユーノだ!!』

『何チクってんだイアン!俺は大丈夫だって言ってるだろ!?それに今は少しでも戦力が欲しいところだろ!?』

『それとこれとは話が別だ!!あんなに消耗してたやつが無理をするな!!』

『グダグダ抜かすな!!それにもうGNアーマーに乗っちまったんだから出るしかないだろ!』

通信機器を通して言い争う二人だったがスメラギの一声で決着がつく。

「GNアーマーtypeSはロックオンの援護に向かって。」

『おい!!』

イアンはスメラギに抗議しようとするがスメラギとユーノはどんどん話を進めていく。

「そのかわりGN-EXCEEDは絶対使用しない。これが条件よ。」

『了解!じゃ、そう言うわけだから頼むぜ、イアン。』

『ええい!!もうどうなっても知らんからな!!』

イアンはやけっぱちと言った感じで了承する。

『GNアーマー、ユーノ・スクライア、出撃する!』

右手に巨大なブレードが装備され、左には大型ガトリングが装備された青い鎧がコンテナから漆黒の宇宙に飛び出していく。
なにより特徴的なのは両脇に水色の巨大な畳まれた翼のような大きなビットが装備され、両肩の部分には一回り小さな青いビットが2対ずつ装備されている。

「967、バスタービットの制御と回避は任せるよ!」

「承知した!!」

ユーノはこの時、嫌な予感がしていた。
なぜか父やエレナの死に様が頭から今日に限ってこびりついて離れない。
普段なら操縦桿を握れば大抵のことを頭から切り離して操縦に集中するのに今はなかなかそれができない。
まるで、これから誰かがいなくなってしまうような、そんな不安がユーノの頭の中で渦を巻く。

(……だったら、僕の手でそれを防ぐまでだ!)

ユーノは仲間の待つ戦場へと急ぐ。
自分ならきっと救えると信じて。








ラグランジュ1 周辺宙域

マネキンたちにも近づいてくるそれが肉眼で見えた。
それの持つ巨大な砲門が火をふけばひとたまりもないだろう。

「敵MA接近!」

「リニアカノンで応戦しろ!」

三隻のバージニア級は装備されたリニアカノンでGNアーマーを攻撃する。
だが、本来MSやMAとの戦闘を考えて作られていないので、GNアーマーは苦も無く射程内まで接近する。

「一気に本丸を狙い撃つ!!」

両肩の大型GNキャノン、そして右側に装備されたGNツインライフルが同時に発射される。

四つの光に貫かれたバージニア級が爆炎を上げて宇宙に散っていく。
自分のすぐそばで味方がやられたことで流石にマネキンの顔にも冷や汗が滴る。

「MS隊はまだか!?」

「到着まで180セコンド!!」

マネキンの隣にいたもう一隻の艦が墜とされ遂にマネキンの乗っている艦が最後となる。

(やられる!)

マネキンは思わず目をつぶった。

「これで終わりだ!!」

ロックオンは最後の一隻に向けて引き金を引く。
しかし、横から飛んできた赤い光弾にツインライフルを破壊され発射が阻止される。

「なに!?」

ロックオンは飛んできた方向を見てしまうが、目の前にいたバージニア級が発射したリニアカノンが機体に当たる。

「グッ!!しまった!!」

バージニア級、そして横からの攻撃にGNアームズはあっという間にボロボロにされていく。

「クソ!!」

これ以上GNアームズを使っていたらマズイと判断したロックオンはドッキングを解除する。
その次の瞬間、リニアカノンがGNアームズを直撃し、煙とともにGNアームズはバラバラになった。
ドッキングを解除したデュナメスにさらに赤い光弾が襲いかかる。
ロックオンは身軽になったデュナメスを巧みに操縦してその攻撃をかわす。
攻撃をしかけた機体はまるで戦いを楽しむかのように無用と思われるようなアクロバティックな動きで接近してくる。
オレンジの装甲に赤い瞳をしたガンダム、スローネツヴァイは狂った喜びに振り回され、ハンドガンを乱射しながらデュナメスとすれ違いそのまま去っていく。

「あれはスローネ……!!アリー・アル・サーシェスか!!!!」

ロックオンはガンッ!と乱暴にペダルを踏んでスローネの、いや、サーシェスの追跡を開始する。
資源衛星群に紛れ込んだスローネを発見したロックオンはスナイパーライフルを発射する。
しかし、スローネは進路を阻む衛星をものともせずに突き進みながら、同時にロックオンの狙撃をかわしていく。
だが、かわされているのはサーシェスの技術のせいだけではない。

「クッ!!利き目のせいで!!」

利き目が見えないせいで上手く狙いがつけられない。
これではスローネの機動力を相手にこれでは当てることは難しい。
スローネはデュナメスの狙撃から逃げるように衛星のかげに隠れると、旋回するように反対のかげからバスターソードを構えて飛び出してくる。
デュナメスは後ろの腰のビームサーベルを抜いてそれを受け止める。
ロックオンはディスプレイ越しに仇が乗っているであろうコックピットを睨む。
鍔迫り合いで発生している光でよく見えないが、ロックオンにははっきりとその位置が見えていた。
狙い撃つべき位置が。

「KPSAのサーシェスだな!?」

「へっ!!クルジスのガキにでも聞いたか!?」

その声を聞いた瞬間、ロックオンの瞳は怒りで大きく見開かれる。

「アイルランドで自爆テロを指示したのはお前か!?なぜあんなことを!!」

「俺は傭兵だぜ!!それになぁ……」

サーシェスはにやりと笑って大きく操縦桿を前に倒してバスターソードを振るう。
デュナメスは押し飛ばされるような形でスローネから離れる。
スローネは勢いをつけて再度デュナメスに斬りかかり、再び鍔迫り合いを開始する。

「AEUの軌道エレベーター建設に中東が反発するのは当たり前じゃねぇか!!」

「関係ない人間まで巻き込んで!!」

「テメェだって同類じゃねぇか!!紛争根絶を掲げるテロリストさんよぉ!!」

「咎は受けるさ!お前を倒した後でなぁ!!」

ロックオンは鍔迫り合いをしながらデュナメスの腰に装備されたミサイルを発射する。

「おっとぉ!!」

気付いたサーシェスは発射する直前に後ろに下がると向かってくるミサイルをバク宙するように上に上がって避ける。
ミサイルは後ろにあった資源衛星にぶつかって光と爆煙を発生させる。
サーシェスは挑発的に笑うとその場から離れていく。

「待ちやがれ!!」

ロックオンはその姿を見失わぬように猛スピードで追跡する。
その姿は世界を変えるために戦うガンダムマイスターではなく、ただ復讐を果たそうとする一人の男のものになっていた。







別ポイント

「刹那、ポイントの座標を確認した。ドッキングを解除する。」

「TRANS-AMで戦闘宙域に向かう!」

体を赤く発光させたエクシアが急加速を開始する。
刹那もまた、ユーノと同じく戦場を漂う嫌な気配を感じ取っていた。
昔、よく似た空気の中で戦っていたことがある。
こんな空気が漂っている時には必ず誰かが死ぬ。

(頼む……!間に合ってくれ!!)








衛星群

衛星の中を寝そべった状態でデュナメスのほうを向きながらスローネツヴァイは狙撃を回避する。
デュナメスは左手のライフルを下げて右手に握ったビームサーベルでツヴァイを斬りつける。
ツヴァイはそれをバスターソードで受け止める。

「絶対許さねぇ!!」

二機は幾度も剣を交え、撃ちあう。
片方は戦いを楽しむため。
もう一方は復讐のため。
歪んだ感情が交錯し合う。

「テメェは……戦いを生み出す権化だ!!」

「喚いてろ!!同じ穴のムジナがぁ!!」

「テメェと一緒にすんじゃねぇ!!!!」

デュナメスは鍔迫り合いのさなか、左手のライフルを捨てて腰に装備されていたもう一本のビームサーベルを抜き放つ。
勢いよく振られたそれはバスターソードを握るツヴァイの右腕を切断する。

「やべぇ!!」

ツヴァイは慌てて逃げるがデュナメスはライフルを拾って追いかける

「俺はこの世界を……!」

その時だった。

「敵機接近!敵機接近!」

「!!?」

目の前のツヴァイに集中しすぎていたロックオンは上空から近づく一機のジンクスに気付かなかった。

「そこにいたかガンダム!!」

そのジンクスに乗るダリルは何も持たずに突っ込んでいく。

「ハワードの仇!!」

「邪魔すんじゃねぇ!!」

ロックオンは残っていたミサイルをジンクスに向けて放つが、ダリルはジンクスの両腕を前で交差させて突っ込んでいく。
ヒットしたミサイルが圧縮粒子を注ぎ込む。
左腕がもげ、コックピットも激しく損傷する。
デュナメスからさらにライフルでの追撃が来るがダリルは構わず突っ込んでいく。

「俺は……!フラッグファイターだぁぁぁぁぁ!!!」

その時、最悪の偶然が起こってしまった。
フラフラと軌道を変えたジンクスがデュナメスの右側、ロックオンの死角に入り込んでしまったのだ。

「しまった!!」

一瞬敵を見失ってしまったロックオンはデュナメスの右手のビームサーベルを振るのが遅れ、特攻をしかけたジンクスに右腕を肩から持っていかれる。
ジンクスも限界だったのか満足そうにデュナメスの腕をもったまま爆煙へと変わった。

その様子を見ていたサーシェスの顔が醜悪な笑みで歪む。

「右側が見えてねぇじゃねぇかよ!!」

ツヴァイの腰からファングを放ち、デュナメスの死角から攻撃を仕掛けさせる。
デュナメスはビームピストルを抜いてなんとかファングを落としていくが、遂に対応できなくなりファングの接近を許してしまう。

「ロックオン!ロックオン!」

「見えねぇ!!」

ファングはデュナメスの頭と右脚に刺さった。
しばしの沈黙ののち、デュナメスの火花が大きくなり、耐えきれなくなったように爆発を起こした。

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

煙の中から出てきたデュナメスはもはや原型をとどめていなかった。
顔は吹き飛ばされ、両脚は途中からなくなり、傷口からは火花が散っている。
武器は何一つ残っておらず、体中には爆発の凄まじさを物語る黒く焼け焦げた跡がいくつも刻まれている。

「損傷甚大!損傷甚大!損傷甚大!戦闘不能!戦闘不能!戦闘不能!戦闘不能!」

ハロの騒がしい声でロックオンは意識を取り戻す。
ほんの十秒ほど気を失っていただけのはずなのに何時間も眠っていたような気がする。

(…………逃げねぇと……せめて……太陽炉は……)

肋骨が折れているのか口の中は血の味が広がり、ヘルメットのバイザーにもひびが入り、右腕も傷を負っている。
本来なら痛みで全身が動かないはずなのだが、不思議とロックオンは痛みを感じなかった。
それが使命感から痛みを感じないのかどうかはわからないが、ロックオンはなんとか操縦桿を動かしデュナメスを衛星のかげに隠す。

(……エレナも……こんな、感じだったのか……?)

ふとエレナのことを思い出す。
エレナも怒りにまかせて戦い、命を落とした。

(……ははっ……目の前で見てたはずなのに……何一つ、学んでねぇな…)

それでも、エレナは最後にユーノに笑いかけた。
変わることができた。
けど、

(………悪いな、エレナ……。俺は変われそうにねぇや。)

ロックオンは狙撃用のスコープを降ろすとコックピットの天井と固定していたロックを外して取り外す。
そして、ロックオンはコックピットのハッチを開ける。
ギシギシと軋みながらもゆっくりと口をあけて宇宙への出口を作る。
何事かとハロはキョロキョロとあたりを見回す。

「ハロ………デュナメスを……トレミーに戻せ……」

ハロに話しかけるその声は内臓にダメージを追ったせいでとぎれとぎれになってしまう。
自分のダメージがどれほどかはわかっているが、ロックオンは無限の闇が広がる宇宙へとスコープを両手に抱えて出ていこうとする。

「ロックオン!ロックオン!」

ハロがロックオンによびかける。
だが、

「命令だ。」

いつもは相棒と呼ぶハロに対して冷たい言葉をかける。
それでもハロはロックオンの名を呼ぶのをやめない。

「ロックオン!ロックオン!」

ロックオンは足を止めてハロの方へふりかえる。
先ほどとは違い、その顔にはいつもの飄々とした笑顔が浮かんでいる。

「心配すんな……生きて帰るさ…」

ロックオンは優しくハロの頭をなでると背中に付けた移動用のバーニアをふかして宇宙へと飛び出していく。

「ロックオン!ロックオン!」

ロックオンの耳にハロの声が悲しげに聞こえる。
単なる電子音の集合に過ぎない音がこれほど悲しく聞こえるのはエレナの最後を思いだして、感傷的になっている自分の妄想なのだろうか。

(………かまわねぇさ……。たまには……いや、最後くらい感傷的になるぐらいいいだろ…)

振り返るとハロが目を点滅させて自分に呼び掛けてくる。
しかし、その声は通信範囲を離れつつあるためか、もうかなりノイズが混じっている。

「太陽炉を頼むぜ……あばよ、相棒。」

ロックオンの言葉を最後にハロの声が聞こえなくなる。

(………こんなずるいマネしてごめんな…)

迷いを振り切るように口を真一文字に結ぶとロックオンはそのまま目の前のGNキャノンの残骸まで向かった。







衛星群外

刹那は戦闘が終わって静まり返った戦場を駆けていく。
今のところジンクスの残骸だけでガンダムがやられたような残骸は残っていない。
その時、コックピットの中にアラームが鳴る。

「TRANS-AMの限界時間が……!」

メーターを見ると残量粒子が底を尽きかけていることがわかった。
このままTRANS-AMを使い続ければ救援に間に合ったとしても役には立たないだろう。
だが、それでも刹那は止まらない。

「頼む!間に合え!!」









「僕は急いでるんだ!悪いけど手加減はできないよ!!」

ユーノは左手に装備されたガトリングを乱射しながらジンクス部隊を突っ切っていく。
後ろに回ったジンクスがライフルを構えるが、そのさらに後ろに巨大な二機のビットが現れる。

「バスタービット、チャージ!!」

二機の砲撃専用のバスタービットにエネルギーがたまるのに合わせて発射口の前にある隙間にピンクの稲妻が奔る。

「「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

放たれた光が攻撃しようとしたジンクスを飲み込み、そのまま射線軸上にいたGNアーマーも襲う。
しかし、

「マルチビット、リフレクト!!」

すぐ後ろに展開していた小さなマルチビットが二機ずつの組になる。
そして、発射口を中心として羽根の部分が直角に開きそこから出てきた光の線で互いに結び付いて四角い力場を形成する。
バスタービットの砲撃はその力場に弾かれ別の方向に曲がり別のジンクス二機を撃破する。

「967、早く行こう!!」

「焦るな!こいつらをなんとかしないことには俺たちも危険だ!」

「でも!!」

「動きは俺に任せると言ったのはお前だろう!!俺を信じろ!!」

回避行動をとりながら967は叫ぶ。

「……わかった。早くこいつらを片付けよう!」









衛星群

ロックオンはGNキャノンの残骸の上でジッとスコープを構えていた。
確認したがあと一発程度は発射できる。
その一発で奴を仕留める。
しかし、最初はそれほど感じてなかった痛みが全身を襲う。
肋骨が折れて肺をかすめているのか、いくら息を吸っても体にしみわたる感覚がない。
胃からは何度も胃液と血が混じったものがせりあがっては口の中に溜まったが、視界を遮ってはいけないと思い、無理をして再び胃の中に押し込む。
そのたびに吐き気が襲ったが、それよりもサーシェスに対する怒りのほうが勝ち、再びふさがった右目の代わりに左目でスコープから宇宙を覗く。
どこまでも広がる闇の中にポツリと立っていると自分以外には誰もいなくなってしまったような錯覚に襲われる。
そんな自分が滑稽に思えてロックオンは自嘲する

「はぁ……はぁ……何やってんだろうな………俺は……」

荒く乱れた息を吐きながらロックオンはつぶやく。

「こんなところで………こんなことして……」

その時、赤いGN粒子を撒き散らしながらスローネツヴァイが現れる。

(そうだ……俺はこいつを……!)

痛む体に鞭を打ち、スコープを構え続ける。
ツヴァイはロックオンを探しているのかあたりを見渡しながらゆっくりと近づいては離れ、近づいては離れを繰り返しながら徐々に距離を詰めて来る。
照準をツヴァイに合わせながら確実に仕留められる距離に近づいてくるのを待つ。

『………駄目だよ……』

「!?」

不意にエレナの声が聞こえてくる。

『早く逃げて………!』

出血のせいで意識が混濁しているせいだろうか。
ますますエレナの声がはっきりと聞こえてくる。
でも、どうしてもそれが自分の幻聴だとは思えずロックオンは答えてしまう。

「ハハハ……悪いな……エレナ。俺は……お前みたいに変われるほど……強くねぇんだ……」

ロックオンの顔がゆるむ。

「こいつを……殺ったって………アイツらが悲しむだけってことも……わかっているさ………」

ロックオンは顔つきを厳しくする。

「でも……俺はこいつを殺らなきゃ………仇を取らなきゃ……俺は前に進めねぇ………世界とも向き合えねぇ……!」

生体反応を感知したのかツヴァイが急加速をしてこちらに向かってくる。

「だからさぁ……!」

ツヴァイが射程範囲に入り、照準がきっちりと合わさる。

「狙い撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

GNキャノンから放たれた光がツヴァイへと唸りを上げながら向かっていく。
ツヴァイは上に逃げるが避けきれずに下半身を光にのみ込まれ爆発する。
しかし、その直前に放たれた赤い光がGNキャノンの砲口に飛び込み爆発を引き起こした。
瑠璃色の粒子があたりに雪のように散らばっていく。
その中を、衝撃で放り出されたロックオンが漂っていた。

「父さん……母さん……エイミー……」

ロックオンの脳裏に幸せだったあの日の光景が浮かぶ。
クリスマスの夜、外には雪が降っているが、家の中は暖かく、豪華な料理が並べられている。
家族の誰もが笑い、楽しげに話している。

「わかってるさ……こんなことをしても………変えられないかもしれないって………もう…元には戻らないって………」

そう、家族を失ったあの日の前には戻れない。

「それでも……これからは…明日は……ライルの生きる未来は……」

自分に唯一残された肉親である双子の弟。
風のうわさでAEUの大手商社に勤めていることを聞いた。
自分はソレスタルビーイングで戦う道を選んだが、平和に暮らしているライルの未来は守ってやりたかった。

ロックオンの視界に二つの光の筋がうつる。
ひび割れたバイザー越しにエクシアとソリッドがこちらに向かってくるのが見えた。








火花が散り、いつ爆発してもおかしくないGNキャノンの残骸へと向かう二人は互いの存在に気付く。

「刹那!!」

「ユーノか!!」

ユーノはジンクスたちを退けた後GNアームズとのドッキングを解除し、TRANS-AMを使いここまで来ていたのだ。
しかし、エクシアもソリッドもTRANS-AMの限界時間がおとずれてしまいスピードも落ちていた。

「ロックオンが!!」

「わかっている!!」

二人は急ぐがそれでもスピードが出ない。
ユーノは意識を集中し始める。

「GN-EXCEEDを使う!!」

確かにGN-EXCEEDを使えばGN粒子の再チャージまでの時間を縮めるだけでなくスピードも飛躍的に上がりロックオンを救えるかもしれない。

「よせ!!まだ調整が…」

「かまうものか!!」

ユーノは967の言葉を無視して発動しようとする。
だが、よわよわしい音を立てるだけで一向に発動しない。

「!?なんでだ!!?なんで発動しないんだ!!!」

ユーノは何度も発動しようとするが反応はない。

「どうして!!?僕に託してくれたんじゃないのか!!誰かを守ることができる力をくれるんじゃないのか!!!!」

無理やり魔法を使って発動しようとしたせいでユーノの頭に鈍い痛みがはしるが何度も繰り返す。

「動け!!動けよ!!動いてくれ!!!」









ロックオンはこちらを目指す二機を見て穏やかにほほ笑む。

「刹那……ユーノ……答えは出たのかよ……?」

ロックオンが自嘲気味に声を出して笑うと口から血があふれる。

(いや………出てても気付くわけねぇか……。お前らはそういうやつらだからな………〉

二人との思い出が甦る。
手を焼かされたこともあった。
自分のようにならないように諭したこともあった。
憎んだこともあった。
そんな二人が自分なんかを救うために必死にこちらに向かってくる。

(俺は阿呆でよ………過去にとらわれて……変わることができなかった……世界を変えようとしてたのによ………。けど、お前らは違うよな……お前らは変わりつつあるんだ……過去の自分から、新しい自分へと…。だから、お前らは変われ……変われなかった、俺の代わりに……)

今度はロックオンの目の前に青い球体が輝く。
地球
人間が、ありとあらゆる命が生まれ、生きている星。
ガガーリンが宇宙をから初めて地球を見た時に国境は見えなかったと言っていたが、現実は国で別れ、いがみ合い、殺し合いが起きている。
だからこそ、問わずにはいられない。

「よぉ……お前ら……満足か………?こんな世界で……」

自分たちを、ソレスタルビーイングを生み出してしまうような世界で。
誰かが途方もない悲しみや怒りを背負わされてしまう世界で。

ロックオンの後ろでGNキャノンが小爆発を始める。
しかし、ロックオンはそんなことなど構わずに左手を指に形にして、自分の想いという弾丸を込める。
たった一発だけの弾丸を。
そして、地球へと銃口を向ける。
いや、本当に自分の想いを撃ちこみたいのは地球ではなくそこに住む人々だ。

「俺は……嫌だね…」

ロックオンが自分の想いを人々へと撃った瞬間、後ろにあったGNキャノンの残骸が爆発し、その炎がロックオンをのみ込んだ。

「「ロックオーーーーーーーーーン!!!!!」」








プトレマイオス ブリッジ

「キュリオス、ヴァーチェ、ともに健在!」

クリスティナが嬉しそうに報告する。

「デュナメスを確認!トレミーへの帰還ルートに入りました!」

フェルトもデュナメスが無事なことを確認するとホッとする。

「全員無事っスね!!」

「うん!!」

ブリッジが喜びに包まれ、スメラギの表情も緩む。
その時だった。
電子音とともに通信回線が開く。

『ロックオン!ロックオン!』

「!?どうしたのハロ!?」

「ロックオン!ロックオン!』

フェルトの質問にも答えずハロはロックオンの名前を呼び続ける。
だが、その声にこたえるべき人間の声がしない。

『ロックオン!ロックオン!』

「!!!!」

「ま……まさか……」

スメラギはよろよろと立ちあがる。
その通信を聞いている全員が呆然とした表情を浮かべる。

「っ……っ……!」

誰もが唇をかみしめ涙をこらえる中、フェルトの瞳からため切れなくなった雫がこぼれ、顔の前を漂う。
それでも、フェルトは声をあげて泣くことはなかった。
だが、その姿は見ている者にとってはただ悲しみを加速させるだけだった。








ラグランジュ1 周辺宙域

刹那とユーノはその場にただとどまっていた。
助けられたはずなのに、そのための力を持っていたはずなのに助けられなかった。

「ロックオン……ストラトス……!」

「ロック……ッ……オンッ……!」

通信を開けば今でもあの快活な声で話しかけてくれるような気がしてしょうがない。
飄々とした笑みを見せ、自分たちを引っ張ってくれる。
時に厳しく、しかし優しく導いてくれるはずだ。

だが、現実は違う。
デュナメスとの回線から聞こえてくるのはハロの悲痛な声だけだ。
もう、彼に会うことはできないのだ。
あの声も、笑みも、優しさも、もう、何も戻ってはこない。

「ロック……オン……!!」

「ッッッ!!!!」

「「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

二人の少年の叫びが漆黒の宇宙を震わせる。
だが、その悲しみを受け止めることができる者は誰もいなかった。









?????

ロックオンは静かに目を開ける。
どこが上で横なのかわからない真っ白な空間に横たわっている。

(俺は確か……爆発に巻き込まれて……〉

そこまで思い出したところで自嘲気味に笑う。

「そっか……ここはあの世ってわけか。」

ゆっくり起き上がるとあたりを見回す。

「昔、聖書であの世がどんなところか読んだことがあるんだけどな………天国にしても地獄にしても殺風景すぎないか?」

「残念だけどここは天国でも地獄でもないのよね。」

ロックオンは声のする方へと振り向く。
懐かしい姿を見つけて思わず表情が緩む。

「……お前がいるのにあの世じゃないってのはどういうこったよ。それともお前、自分がどうなったかわかってないんじゃないだろうな、エレナ?」

あの時の姿そのままでこちらに笑いかける赤髪のツインテールの少女、エレナ・クローセルにシニカルな笑みを向ける。

「……変わらないね、ロックオン。」

「……変われなかったのさ。変わらなきゃいけなかったのに。」

「その軽い感じまで変える必要はないと思うけど?」

「褒めてんのかよそれ……」

ロックオンは苦笑いをしながら上を仰ぐ。

「で、話の続きだ。あの世じゃないとしたらここはどこなんだ?」

「ユーノからロストロギア……それもユーノが首にいつもかけてる宝石のことは聞いたでしょ?」

「ああ……確かジュエルシードだったか?……って、なんでお前がそんなこと知ってんだよ?」

「だって私もロックオンがユーノにいろいろ教えてもらってるその場所にいたんだもの。」

「へ?」

ロックオンは間の抜けた声を上げる。

「それにそのずっと前からユーノと一緒にいたんだよ。」

「おいおい……俺もお前も幽霊になったなんて言い出すんじゃないだろうな?」

「う~ん…少し違うかな?正確に言うなら私たちの残留思念が感情や意志、つまり心を持ったもの……らしいよ?」

「らしいって……」

「だって私もこの子からそんな感じのことぐらいしか聞いてないんだもん。」

「この子?」

ロックオンが首をかしげていると上から青い光の球が降りてくる。

「なんだこりゃ?」

「その子が私の心を捕まえてくれたの。ていうかこの空間そのものがその子ってところかな?」

ロックオンは大きくため息をついて頭を掻く。

「つまりどういうこったよ?」

「え~とね。」

エレナは間をとったあと一息に話し始める。

「つまりここはロストロギア、ジュエルシードの中で、私たちはそこに住む情報生命体とでも言うべきものになったってこと……らしいよ?」

「…………………………………」

「…………………………………」

二人の間の空気を沈黙が支配する。
ロックオンは疑いの目を向け、エレナは気まずそうに視線を外す。
しかし、しばらくの後にロックオンはフッと微笑んだ後エレナの瞳をまっすぐに見る。

「なるほどな………お前の言ったこと、信じるぜ。」

「驚いた………最初は否定するって思ってたのに。」

「魔法だのなんだの聞かされてるせいか多少のことじゃ驚かなくなったからな。」

「私はしばらく信じられなかったんだけど……」

「子供のくせに頭が柔軟じゃないな~、おい。」

「子供で悪かったわね!」

「怒るとこそこかよ……」

ロックオンは怒るエレナをたしなめながら、クックッと笑う。

「それで、これからどうすんだ?」

「これから?」

「とぼけんなよ。俺をわざわざあの世に行かせないでここに呼んだってことはなんか用があんだろ?」

「そっか……うん、そうだね。ロックオンには聞いてもらった方がいいかもね。これから私がやろうとすることを。その上で協力するかどうか決めて。」

エレナはロックオンにこれから自分がすることを話した。

「なるほどな……」

「協力してくれる?」

「まあ、俺もそれが本当にできるならしてやりたいけどよ。」

「やった!!」

「でも、本当にそんなことが可能なのか?できたとしてもユーノのことだから間違いなく断るぞ?」

「大丈夫、無理やりやるから。」

「おいおい………」

「それにね………」

エレナの表情が複雑なものになる。
嬉しいような、悲しいような、切なげな顔つきになる。

「どんな理由があっても、やっぱりユーノはあの子たちのところにいたほうがいいんだよ。」

「エレナ……」

エレナはキッと澄み切った空のように笑う。

「だから、ユーノを元いた世界に帰すよ。」








運命の歯車は止まらない………
その果てに待つものが別れだとしても









あとがき・・・・・・・・・・という名の残り2

ロ「ロックオーーーーーーーン!!!!!!」

兄「いきなり何だよ!?」

ロ「俺はこの回見ていてガチで泣いてしまった。そして家族にドン引きされた。」

兄「そら普通そうなるだろうな。」

ロ「馬鹿野郎!!最初から見てたら男なら誰だって泣くよあの場面は!!!」

兄「泣かない奴は山ほどいると思うぞ。」

ロ「そいつらはきっと男じゃない!!去勢されて……」

兄「お前何ヤバいこと言おうとしてくれてんの!!?あと今回は特別に俺とサシであとがきで話すって言ってたのに俺やってることっていったらツッコミだけじゃん!!」

ロ「まあ、とにかくあの場面はガンダム作品見てきた奴なら感動するってことを言いたかったわけよ。」

兄「素直にそう言えよ。」

ロ「とにかく今回は俺としては中途半端なものにしたくなかったからこの三日間の自由な時間をほとんどをこれにつぎ込んだ。いきなりだけど読者の皆様もここをこうしたらよくなるというところがあるというご意見があったらバンバン言ってください。」

兄「だったら文才を身につけろ。」

ロ「………努力します。」

兄「まあ、その前向きな所は評価してやらんこともない。」

ロ「では解説……と言いたいところだけど、今回はあえてなしにします。」

兄「余計なもんでこれ以上カオスにするのもあれだしな。しかし、この後も俺の出番ありそうじゃね?」

ロ「実際原作のsecondでもちょいちょい出てたじゃん。ここではそれにリリなの風味を足していくって感じにするつもりだ。あ、もちろん普通に出る場面もあるよ。」

兄「てかもうfirstの後のことも考えてんのかよ。」

ロ「ある程度こうしていこうって構想はできているけど実際に書き始めてみないと何とも言えないってのが現実だな。」

兄「それじゃそろそろ次回予告に行くか。」

ロ「ああ、次回はサイドだよ。ちなみにこれと同時投稿するつもり。」

兄「え!?」

ロ「そしてfirstでのサイドはそれで最後になる。」

兄「いやいや!ここでサイドかよ!?せっかく感動的な感じにしたのにまた暴走する気かおのれは!!」

ロ「心配するな。今回はシリアスな感じにしてる。」

兄「本当だろうな?」

ロ「まあ、ツッコミどころ満載だけど。題名読んだだけでたぶんみんな気付く。」

兄「?」

ロ「ま、見てのお楽しみってことで。」

兄「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!そんじゃ、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] side.5 フレンズ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2011/08/09 09:44
南大西洋 孤島

「「臨時休暇??」」

ロックオンとユーノは思わず声を合わせて輸送機に設置されたモニターの向こうのスメラギに問いかけてしまう。
二日後にタクラマカン砂漠でのミッションが始まるのでマイスター全員が拠点として使っていたこの島に集められていた。
しかし、まさか休暇を与えられるとは誰も思っていなかった。

『そ♪今度のミッションはかなり厳しいものになるからみんなに休んでもらおうと思ってね。』

「……おかしいと思ったんだよな。目標地点からめちゃくちゃ離れたここに集められるなんて。」

ロックオンは頭を押さえながら苦笑する。

「まあ、休暇が欲しいとは言ってたけど、まさかこのタイミングだとは……」

ユーノもタラリと汗をたらしながら引きつった笑いを浮かべる。

『ゆっくり休んで英気を養ってね♪』

「でもなぁ、Ms.スメラギ……」

ロックオンが何かを言おうとするが、後ろからティエリアに話しかけられる。

「ロックオン。指示をお願いしたいのだが。」

『ほらほら、呼んでるわよ。』

「……なんかはめられた気がするのは俺の気のせいか?」

「……心配しなくていいよ。休みたいって言ってた俺もそう思ってんだから。」

二人はティエリアに連れられてアレルヤと刹那が待つ砂浜へと歩いていく。
その時、

『ロックオン。』

ロックオンが突然スメラギに呼びとめられる。

「悪いな。二人とも先に行っててくれ。」

ユーノとティエリアを輸送機の外にやると、再びモニターの前に立つ。

『…………今回、あなたたちに集まってもらったのはマイスターズの結束を強めるため、そして、あなたたちが戦う理由を再確認してほしかったからなの。』

「……どういうことだ。」

ロックオンの表情が真剣なものになる。

『あなたも感じてると思うけど、これまでのミッションであなたも含めてみんな思うところがあるみたいだから。そのせいで少し揺らいできてしまってる子もいるでしょ?だから、この休みの間になんとか自分の意志を確認してほしいの。その上で決断してほしいの………これからもガンダムに乗って戦うかどうかを。』

「おいおい、それは……」

『もし、あなたたちの中に戦うことをやめたいと思っている人間がいたなら、私はガンダムを降りることを止めないわ。』

「………言ってることの意味がわかってんのか?」

『あなたぐらいにはね。』

ロックオンはフゥと一息つくと片目だけを開けた状態で笑う。

「OK、確かに俺もアイツらもここらで気持ちの整理をしといたほうがいいかもな。」

『じゃあ、よろしくね。』

スメラギの顔がモニターから消えるとロックオンの顔に影が差す。

「………戦う理由、か……。俺の理由はアイツらと違ってそんな高尚なもんじゃないけどな。」

ロックオンは外に向かって歩き出す。
先ほどまでの悲しい顔からいつものひょうひょうとした笑みに表情を変えて。





魔導戦士ガンダム00 the guardian side5.フレンズ

「おっと……あんま動くなよ、刹那。丸刈りにしなくちゃいけなくなるぞ。」

「…………………………」

ムスッとした顔をしているが刹那はロックオンの鋏に身を任せている。
少し髪が伸びていた刹那を見かねたロックオンが、整える程度に髪を切ることにしたのだ。
刹那は遠慮したようだが、強引にロックオンに椅子に座らされ、上を脱がされて布をかけられた時点で観念したようだ。

「でも意外だったな。まさかロックオンにそんなことができるなんて。」

アレルヤが少し離れたところでリンゴを剥きながらロックオンに話しかける。

「すこし教えてもらっただけだよ。」

「それにしてはすごくきれいな手さばきだけど。」

「教えてくれた人が上手かったからな。………教えてくれた人が、な………」

ロックオンは少し思い出す。
幸せに満ちていたあの日のことを。









15年前 アイルランド

「お母さんすご~い!」

妹の髪を切る母親の手つきを見て、俺は思わず感嘆の声を漏らす。

「フフフ………ありがとう、ニール。」

「母さんは美容師を目指していたからなぁ。今でも下手な床屋よりよっぽど上手いぞ。」

「もう、あなたったら。」

顔を赤らめて照れて笑うその姿にテーブルで新聞を読む父親さんもつられて笑う。

「ねぇねぇ!!僕にもそれ教えてよ!!」

父さんの隣に座っていた双子の弟、ライルが母親のもとに駆け寄ってせがむ。

「あっ!ずるいぞライル!俺も教えてもらうんだ!」

「お兄ちゃんたちばっかりずるい~!!私も私も!!」

「ほらほらエイミー。あんまり動いちゃ可愛くできなくなるわよ。」

母さんは手を止めて騒ぐ俺たちの相手をし始める。
しかし、収拾がつかなくなったのか大きくため息をつくと少し困った表情で笑う。

「はいはい!後でみんなに教えてあげるから喧嘩しない!」

「本当!?やったぁ!!」

「ありがとうお母さん!」

「じゃあ早く私の髪切って~!」

「はいはい。」







その後、俺たちは母さんが倉庫から引きずり出した古びた三つの頭だけのマネキンの前に立っていた。

「じゃあ、教えるわよ。まずはこうして………」

母さんは自分のマネキンを使って丁寧に教え始める。
俺たちは見よう見まねでなんとか母さんと同じようにこなそうとする。
しかし、まだ子供のせいかなかなかうまくいかない。
でも、俺はなんとかそれらしい形にして見せる。

「すごいわねニール!上手く出来てるわ。」

「えへへへ……」

俺は最初こそうれしくて照れ笑いをしていたが、右隣にいるライルの不満そうな顔を見て「しまった。」と呟く。

「………僕もういい。」

「ライル、最後までやろうよ。きっとライルも上手く……」

「つまんないからもういい。」

ライルは拗ねたまま向こうの部屋に行ってしまった。
………アイツは俺のことを気にしすぎるんだよな。
アイツにはアイツのいいところがあるのに………

「………ごめんなさい、お母さん。」

「ニールが謝ることじゃないわ。ライルには後でお母さんが秘密の猛特訓をしちゃうんだから♪」

ウィンクをする母さんを見て俺はホッとするが、ふと左を向くとマネキンの髪が気の毒なほどにぐしゃぐしゃになっているのが目についた。

「エ、エイミー……?」

乱れたマネキンの髪を直そうと奮闘するエイミーに話しかけるが、必死に涙をこぼすまいとする彼女にそれ以上言葉をかけられなくなってしまう。

「あらあら……少し直さなくちゃいけないわね。ニール、エイミーを手伝ってあげて。」

母さんに促されるままに、俺はエイミーの手をとる。

「…………ひっく、お兄ちゃん?」

「エイミー、俺が手を動かすからエイミーは鋏を使って。」

俺はできるだけ優しく手を動かし、切るべき場所へと彼女の手を導いていく。
そして、

「ほら、上手く出来たろ?」

「うん!!」

満面の笑みでうなずくエイミーを見て俺も嬉しくなって笑ってしまう。

「じゃ、次の練習しましょっか?」

「「うん!!」」






その後も、俺たちは何度か母さんに教えてもらって美容師のまねごとをしていた。
……ライルは別の学校に行くために家を離れてしまった。
俺と比べられるのが嫌だったのだろうが、それでも行かないでほしいとは言えなかった。
いや………今思えば、あれに巻き込まれずに済んだんだから、むしろ正解だったのかもな………
トレミーでフェルトに美容師のまねごとを教えている時も思い出しちまったし、やっぱり俺の時間はあの時から止まったまんまか……………








孤島

「ロックオン?」

「あ、ああ。悪い、少しボーっとしてた。」

「刹那を丸刈りにするなよ。」

パラソルを刺した砂浜の上で寝転がりながらジャケットを腰に巻きつけ、白のTシャツ姿で本を読んでいるユーノがサングラスを少し下にずらして意地の悪そうな笑みを向ける。

「するかっての。」

しかし、当の刹那は文句ひとつ言わずにじっとしている。

「ねぇ、二人とももっと刹那に気を使おうよ………」

「いいじゃん別に……それよりアレルヤが料理できるなんて知らなかったな。」

ユーノは意外そうにアレルヤの包丁さばきを見つめる。

「ソレスタルビーイングに来るまで、僕は一人で生活してからね。………そう、一人きりだった………」








12年前

今思えば、あれが僕にとって初めて誰かと心を通わせることができた瞬間だった。
頭の中に聞こえてくる声を頼りに、たどり着いたその場所で出会った一人の少女。
目を開けたままピクリとも動かないその姿から、最初は人形かとも思った。
けど、

「……君が、僕に言ってるの?」

(!私の声が聞こえるの!?どこ?どこにいるの?)

その時確信した。
この子は、人形なんかじゃない。
ちゃんと生きているんだって。

「君の目の前にいるじゃないか…?」

不思議そうに僕が言うと、悲しそうな感じが頭の中にまで伝わってきた。

(ごめんね……わからないの……)

「?」

この時はわからなかったけど、今ならわかる。
きっと、無茶な実験のせいで体を動かすことも、声を出すこともできなくなってしまったんだろう。
でも、この時の無神経な僕の質問にも彼女は怒らなかった。
それどころか、

(でも、お話できてうれしいわ。ずっと、一人ぼっちだったから……)

彼女はうれしいと言ってくれた。
その声が、本当にうれしそうで、なんだか僕まで嬉しくなっていた。

(ここまで来てくれてありがとう。)

「君は……?」

(マリー。マリー・パーファシー。)

「マリー……」

(あなたは?)

「わかんない……思い出せないんだ……。僕が誰だったか……なぜ、ここにいるのか……名前さえ、思い出せない…………」

そうそう、名前を聞かれて困ったんだっけ……
あの時、僕にはあそこにつれてこられる前の記憶がなかったから名前がわからなかった。
いや……もとから名前なんてなかったのかもしれない。

(だったら、私が名前を付けてあげる!)

「?」

(そうね……あなたの名前は………アレルヤがいいわ!)

「アレルヤ……?」

アレルヤ……
僕の名前。
そして、彼女との大切な絆そのもの。

(神様への感謝の言葉よ。)

「感謝……?何に感謝するの?」

(決まっているじゃない!生きていることによ!)

「!!」

そんなこと、今まで考えたこともなかった。
だけどこの時から、僕は生きているという実感を持てた。



そう、それはまさに、僕にとって洗礼だった。
そして、彼女との交流はしばらく続いた。
けど、結局あそこから救うことができなかった。
それどころか、僕は自分のエゴで多くの同胞をこの手にかけてしまった…………
けど、だからこそ僕は…………………!!








孤島

「………一人で生活するには、ある程度料理ができないと困るからね。」

「ま、それもそうか。」

「アレルヤ、手が止まっているぞ。それに、リンゴの皮は1mmで剥かなければならないのに、何だその厚さは!!」

ティエリアは目をつり上げて怒る。
だが、他の四人は何を言っているんだといった表情でポカンと口をあける。
いち早く立ち直ったロックオンはため息をつく。

「………そんな細かくやらなくてもいいだろ。そんなんはだいたいでいいんだよ。」

「いいや!!料理は科学だ!!すべて厳密に計測、計算されていなければならない!!」

ティエリアはすぐさま、生クリームの計量に戻る。

「生クリームは250cc!!だが、容器にこびりついて残る分を……」

「……アレルヤ、もうそいつは包丁握らせといたほうがいいんじゃないか?晩飯が朝飯になるなんて俺はごめんだぞ。」

「俺もユーノの意見に一票だ。」

「……同じく。」

三人の意見が一致するが、それが原因でティエリアは再び怒る。

「何を言っているんだ!!何事もきっちりと……」

「別にいいじゃねぇか。」

ロックオンが苦笑する。

「俺たちは人間なんだ。そんな何でもかんでも完璧にできるわけじゃない。」

その言葉にティエリアはいっそう眉をひそめる。

「われわれはガンダムマイスターなんだ。常に完璧でなければならない。……そう、でなければ、僕は………」







5年前

ラジエルとの模擬戦を終えた僕はいつもの日課を行うため、ある一室に向かった。
予想外の事態が起こっていたようだが、そんなものは関係なかった。
僕は光で囲まれた丸い部屋に入るとヴェーダとつながる。
なぜこのような力が自分にあるのかはわからない。
だが、この力があるからこそ僕はヴェーダからナドレを託されたのだ。

「ガンダムマイスターであることが、そしてヴェーダこそが僕の存在意義だ。」

まだ、正式にマイスターになったわけではないが、必ずなれると確信していた。
完璧であり続ければ、自分でいられる。
だがこの時、僕の中に不可思議な感覚が渦巻いていた。
先ほどのGNセファーの行動。
明らかに危険だとわかっていながら、迷うことなくあんな危険な行動をとった。
ソレスタルビーイングのメンバーにはふさわしくない行動だ。
なのに、

「なぜ、こんなにも心がざわめく……」




この後も、僕はしばしばこの感覚に悩むことになる。
僕は人間である前にガンダムマイスターなんだ。
こんなものに振り回されるわけにはいかない!
…………だけど、もし、この感覚を捨ててしまえば、僕は…………







孤島

「……とにかく!僕はきっちりやらせてもらう!」

ティエリアはそう言うと包丁を持ち、どこから持ってきたのか定規を持ち出す。

「じゃがいもは4㎝角に、ニンジンは5㎜のイチョウ型に切る!!

「………ユーノ、手伝ってくれないかい?」

アレルヤがユーノにひきつった笑みを向けて応援を要請する。
だが、

「却下だ!!」

ロックオンが真っ先にそれを拒否する。

「ど、どうしたの、ロックオン?」

「……お前らは知らないんだ!そいつの作った料理を!」

「?前見たのは普通だったけど。」

「俺とジャングルでサバイバル訓練をしていたときにその馬鹿はあろうことか蛇や木からほじくりだした虫の幼虫を料理しやがったんだぞ!!?」

それを聞いたアレルヤとティエリアは凍ったように固まる。

「失礼なやつだな。貴重なタンパク源だぞ。」

「お前はどこかの原住民か!!?」

「まあ、今回もすぐ近くに森があるから食料を調達しに…………」

「ユーノはゆっくり本を読んでて!!日頃、整備で疲れてるだろうからこんなときくらい好きにしてていいよ!!?」

アレルヤが物凄い形相でユーノの参加を必死で止める。
刹那を除く三人もうんうんとうなずく。

「なんだよ、ったく……軽い冗談だろうが。」

「君が言うと冗談に聞こえない。」

珍しく表情を表に出したティエリアはホッとすると、残念そうにまた寝転がるユーノの持つ本に視線をやる。

「その本は?」

「ああ、これか?古い考古学の論文さ。この間、街で見つけたから買ったんだ。」

「一体いくらしたんだ?」

「200EV。」

「高っ!!」

ロックオンは思わず声を大きくしてしまう。
ちなみに1EVは100円だ

「安いくらいだよ。俺にとっては。」

「俺ならそんなゴツイ本に200EV出すくらいならどっかいいとこでいい飯を食うけどな。」

「僕もちょっと………」

「なんでそんなものを読む必要がある?」

「お前らもう少し学問探求の意識を持てよ………ていうかティエリアに至っては考古学の存在自体を全否定か。」

ユーノは呆れながら再び大きな本に視線を落とす。

「でも、ユーノって一体何者なんだろうね?」

「そういやそうだよな。どこぞの原住民みたいなもん平気で食ったりするかと思えば考古学やらいろんなもんに詳しかったり………」

「なにか覚えていないのか?」

「覚えてりゃ苦労しないっての。」

苦笑するユーノを見て、アレルヤはポンと手をたたく。

「案外、冒険家なんじゃないかな?」

「冒険家?今時そんなもんやってるやついるかぁ?」

「まったくだな。」

「アハハハハハハハハハ!それもそうか!」

そう言ってアレルヤとロックオンは笑うが、内心ユーノは顔から汗がたらたら垂れているのを気付かれないか心配だった。

(ハハハハ………まさかありとあらゆる異世界を回ってそこの遺跡から出土したもので生計を立てている旅の民族出身です、なんて言えないよなぁ。)

そんな時、ユーノは本に載っていた一枚の写真に目がとまる。
それは、階段状に四角い石が積まれたエジプトのピラミッドだった。

(………そう言えば昔、なのはたちに行ってみたいって言ったことがあったっけ………)






5年前 地球軌道上 アースラ

「うわぁ………」

闇の書が起動したことが明らかになってからしばらくして、久々にフェレットから元の姿に戻っていた僕はなのはの持ってきた本に載っていたエジプトというところのピラミッドに夢中になっていた。
ピラミッドはなにも地球だけのものではない。
どの世界にもいくつかは存在している。
だが、こんなまで見事に四角錐の形をとっているものは2、3個ぐらいしか知らなかった。

「……リンディさん、今すぐエジプトに行けませんか。」

「無理です。」

困ったように笑うリンディさん。
今思えば、当然と言えば当然か。
周りにいたフェイトやアルフ、そしてなのはも同じように笑っていたな。

「じゃあ、この事件がひと段落してから……」

「それでも無理だ。」

クロノも呆れたようにため息をつく。

「君は管理局を便利屋か何かと勘違いしていないか?」

「そんなことはないけど……でも、やっぱり行きたいなぁ……。そうだ、転送……」

「……私事で使えるわけがないだろう。」

僕はがっくりと肩を落とす。
僕がここに行きたかったのにはちゃんとした理由があった。
このピラミッドは、父さんが連れて行ってくれた初めての遺跡と瓜二つだった。
三つのピラミッドが砂漠の中に建っている光景。
僕が父さんのような考古学者になりたいと決意するきっかけを与えてくれた場所。
父さんが亡くなってから行くことはなかったけど、ここに行けたら、あの日失ってしまった何かを取り戻せるような気がした。

「ユ、ユーノ君、そのうちなのはが連れてってあげるよ!だから、そんなに落ち込まないで!」

「ありがとう、なのは。でも、それじゃなのはに悪いから遠慮しとくよ。」

あの時の約束を僕はまだなにも果たせていない。
『このお礼はいつか必ずします。』
そんな当てもないのに、思わず口にしてしまったあの言葉。
なのははそんなことなど気にせず戦ってくれたが、僕にはそれがつらかった。
管理局を疑い、一人で解決しようとして巻き込んでしまった身勝手な僕を彼女は友達だと言ってくれた。
本当のことを何一つ話さない僕を…………

「そうだな………フェレットもどきにそんなに気を使う必要はないぞ、なのは。」

「ク、クロノ………」

フェイトが慌ててクロノをたしなめるがもう遅い。
なんか、今思い出しても腹が立つな。

「誰がフェレットもどきだって、無能執務官殿。」

「おや、性格だけじゃなくて耳まで悪くなったのか?フェレットもどき。」

そのまま僕とクロノは睨みあう。
が、

「いい加減にしなさい!!」

「「ぐぁっ!!」」

エイミィさんの拳骨が僕たちの頭を正確にとらえた。
僕たちは頭にできたたんこぶを押さえながらその場にうずくまる。
みんなはその様子を見てやれやれとため息をつく。
………本当に痛いんだよ!!?
だが、僕たちはお互い弱みを見せないように顔をあげて無理やり笑顔を作る。

「……この勝負、預けたぞユーノ。」

「……こっちのセリフだ、クロノ。」

そう言って僕たちは涙目でお互いを笑いあった。






この事件で、僕は本当の意味でクロノたちアースラのクルー、そして、なのはやフェイトたちと友達になれた気がした。
でも、グレアム提督の行い、そしてその行いに対する罰の軽さに僕は納得がいかなかった。
はやてたちには悪いが、正直言うとヴォルケンリッターのみんなに対する処罰にも納得がいっていない。
一方的な暴力や権力であれだけ理不尽なことをしたのに、仕方がなかったの一言で済まされたのがどうしようもなく悔しかった。
だからこそ、僕はみんなと距離を置いた。
………いや、置かざるをえなかった。
今まで言ったこともすべて言い訳に過ぎないのかもしれない。
でも、この事件をきっかけに僕は無意識のうちに自分の根源の部分でみんなと相容れない存在だということを否応なく理解していたのかもしれない。
なのはに告白する勇気をくれたヴィータには悪いけど、この世界に飛ばされていなくても、きっと僕は今とそうたいして変わらない道を歩んでいただろう。
そう、世界に対して戦いを仕掛けるような、みんなの敵になるよう道を………………
そして、どんなに話し合っても、ぶつかり合ってもわかりあうことなんてできはしない。
互いに、どれほどわかりあいたいと望んでいても……………








孤島

「……あんまり馬鹿なことばっか言ってると手を切るぞ?」

「俺の場合は刹那の髪型がおかしくなるだけだから別にいいんだよ。」

「いや、そこはむしろもっと気を使うべきじゃ………」

アレルヤがロックオンにつっこむが、ロックオンはいつものようにひょうひょうとした笑みを浮かべるだけだ。

「そういや、お前はさっきから全然話に参加しねぇな。」

「…………あまり動くなと言ったのはお前だろう。」

刹那はふて腐れた声で答える。

「おいおい………まだ根に持ってんのかよ……」

「そんなことはない。」

刹那は否定するが誰の目にも拗ねているのがわかる。

「そんなに拗ねるなよ刹那。久々の美味い飯がまずくなるぞ。」

ユーノは苦笑しながら刹那の機嫌を直そうとする。
しかし、ユーノの言葉を聞いた刹那はなぜか驚いた顔をする。

「どーした、刹那?」

ロックオンが問いかけると刹那は慌てていつものポーカーフェイスに戻る。

「いや、なんでもない。早く済ませてくれ。」

「?ああ、わかった。」

ロックオンがすいすいと鋏をはしらせる中、刹那は先ほどのユーノの言葉を反芻していた。
だが、声はユーノではなく低い声をした男のものだ。
そう、自分が神のためだとして、切り捨ててしまったモノだ。

(…………父さん。)





8年前 クルジス

その日、俺は近所の幼馴染と遊んでいるとき、転んで膝を擦りむいてしまった。
痛くて、大声で長い間泣いていた。

どれくらい泣いていただろうか………
気付くともう夕方で、仕事帰りだったのか、額に玉のような汗をいくつもつけた父さんが俺を見下ろしていた。

「お……お父さん…………」

父さんは当時の俺にとって何よりも恐ろしいものだった。
無口で厳格で、俺を何度も叱った。
この時の俺も、『泣くな。』といつものような低く鋭い声で叱られると思った。
だが父さんは俺を抱き上げると、めったに見せない笑顔を見せてくれた。

「泣くな、ソラン。お母さんがせっかく美味い飯を作って待ってくれているのに、そんなに泣いててどうする?」

「だって………だって…………」

俺は何度もしゃくりあげ、言いたいことも言えずにいた。
そんな俺を、父さんは肩に乗せ、家に向かって歩いていく。

「ソラン、よ~く覚えておけ。飯を食う時は笑顔でいろ。泣いて食ってたら、どんなに美味い飯でもまずくなっちまう。とくにみんなで食う時はな。」

父さんも顔は見えなかったが、なんとなく泣いている気がした。
アザディスタンとの戦争が激化してきていたこの時期、父さんの両親、つまり、俺の祖父母にあたる人物が戦闘に巻き込まれて死んでいた。
この時すでに、クルジスという国は少しずつではあるが、どこかおかしくなってきていたのかもしれない。
でも、この時の俺にはそれがどこか遠い別の場所で起こっていることのように思えた。
昨日も、今日も、そして明日も、こんな当たり前の日々が続くことが当たり前のことだと思っていた。
だが、おそらく父さんは気付いていたのかもしれない。
こんな幸せな日々がもうすぐ壊れてしまうことを………

「さぁ、早く帰るぞ。お母さんが待っている。」

「うん!」

父さんの笑顔。
俺はこの時を最後に、それを見ることはなくなった。








それからしばらくの時が流れ、戦闘は俺たちの暮らす地域にまで波及してきていた。
隣に住んでいた幼馴染が死んだとき、俺は否応なく戦争を、死というものを実感させられた。
死ぬことが怖くて仕方なかった。
そんな時、神が、いや、あの悪魔が俺の耳元で囁いた。

「死を恐れるな。君たちの魂はこの国を侵略する者たちと戦い、死すことによって神によって救われる。死を恐れることは神への冒涜である。」

そして、俺はやつに、サーシェスに利用された。
………いや、やはり言い訳だな。
経過はどうであれ、最終的に俺が母さんと父さんの命を奪ったんだ。

サーシェスに拳銃を渡され、家に帰ってきた俺を母さんと父さんはいつものように迎え入れてくれた。
だが、俺は家に入った瞬間、母さんに銃口を向けた。
それに気づいた父さんは母さんの前に立ち、俺の放った銃弾を自らの体で防いだ。
口から血の泡を吐きながら倒れた父さん。
だが、俺はそのことについて何も感じなかった。
………感じることができなかった。
母さんは何が起こったのか分からないままその場にへたり込んだ。
そして、俺を見ながら震える声で何とか言葉を絞り出した。

「やめて………ソラン………。」

それでも、俺は確実に銃弾を当てるために近づいていく。

「どうして…………」

母さんはそれでも後ろに下がろうとはしなかった。
父さんに寄り添ったまま震えていた。

「なぜなの……ソラン……ソラン……ソラン……」

そして、俺は引き金を引いた。
母さんも力なく倒れ、家の中は焦げ臭い硝煙と鉄臭い血の臭いで埋め尽くされた。
俺はそのまま家を出た。
周りの家からも同じように銃を持った子供が出てくる。
そして、俺たちを見たサーシェスは満足そうにこう言った。

「おめでとう。これで君たちは神に認められ、聖戦に参加することを許された戦士となった。」

………この世界に神はいない。
なぜこの時気付くことができなかったのか。
気付いていれば、いまでも母さんや父さんと一緒に………
……いまさら言い訳はしない。
だから、俺は戦う。
破壊するしかできないと、何も生み出すことができないとわかっていても戦う。
それしか、俺にはできないから………







孤島

雑談をしながら各々の作業を進めていく。
そして、10分程たったころ、ロックオンは刹那の髪を切り終わった。

「よーし、もういいぞ刹那。」

「………………………」

「?刹那?」

ロックオンは反応のない刹那の前に回って顔を覗き込む。
刹那は静かに寝息をたてていた。

「ありゃりゃ……寝ちまったか。」

ロックオンは頬をポリポリとかきながら苦笑する。

「ロックオン。」

アレルヤが小さな声で呼ぶんでいるのに気付き、ロックオンは声のほうを向く。
そこにはうつぶせのまま刹那と同じように小さく肩を一定のリズムで上下させているユーノがいた。

「そっちもか………」

ロックオンはユーノの横にいたアレルヤのもとに向かう。
そこから見るとユーノのサングラスがずれ、瞼が閉じられた目が見えた。

「………どうする?」

「夕飯の時にでも起こせばいい。彼らがいると作業がはかどらない。」

「そうだな………この天気だから風邪をひくことはないだろ。じゃ、さっさと料理を終わらせちまおうぜ。」

3人は料理に取り掛かる。
この時、ユーノの首に掛けられていたジュエルシードが淡く輝きを放っていることに誰も気付かなかった。








孤島(?)

心地よい風が俺の頬をなでていく。
いつの間にか眠っていてしまったらしい。
ゆっくりと目を開けて周りを見渡すがロックオンも他のみんなもいない。
空もいつの間にか暗くなっている。
………だが、何かがおかしい。
空が暗いのに、うっすらと赤い。
夕焼けとはまた違う赤さだ。
どこか禍々しく、死をイメージさせるような赤だ。

「一体何が………!!?」

目の前を見たとき、絶句した。

「海が………赤い……!?」

それもただの赤ではない。
よく見るとそれは血だ。
海水と混じっているせいか透明感があるが、この臭いは間違いない。
生物と鉄が混じったような臭い。
昔、嫌というほど嗅いだ臭いだ。

俺は布を脱ぎ捨てて波打ち際まで走っていく。
そこで、見覚えのあるものを見つけた。

「これは………ロックオンの鋏……!!」

全身から汗が噴き出す。

「まさか、みんな………!?」

俺は急いで島の中心に向かう。
きっとみんながいるはずだと信じて。
だが、途中で足を止める

「………見つけたとして、俺に何ができる?」

破壊することしか、何も生み出すことができない俺に、一体何ができる?
そもそも、この惨状を作ったのは俺ではないのか?
血で染まったあの海と空は、俺が殺してきた人間の血で染まっているのではないか?
そんな俺を誰も受け入れてくれるはずがない。
結局、俺は

「俺は………ガンダムにはなれないのか………?」

アザディスタンではガンダムになれた気がした。
だが、違っていたのか………?
なにも守れずに、ただ奪っていたあの頃と何一つ変わらないのか!?

答えてくれ、エクシア………………!!










僕は混乱していた。
いつのまにか寝ていたのは何となく理解できた。
けど、起きた時にみんながいない。
さらに目の前に広がる血で染まった海と夜空。

「ロックオーーーン!!アレルヤーーー!!ティエリアーーー!!刹那ーーー!!」

どれほど叫んでも返事は返ってこない。
本当にこの島には誰もいない。
いや、まるでこの世界から人間すべてが消え去ってしまったようだ。

「そんな……そんなことって!!」

僕は飛行魔法を使って海の上へと飛び立つ。
上から見下ろすと本当に海が一面、赤に染まっている。

そして、僕はあることに気付いた。
音が全くしないのだ。
聞こえてくるのは波と風の音だけ。
人が話し合う声も、誰かと一緒にいて笑いあう声も、そして、争いあう音すらも聞こえない。

人間が全くいない世界。
つまり、争いも全くない世界。
ソレスタルビーイングの理念が成就した世界。

「けど……僕は……僕たちはこんな世界を望んでいたわけじゃない!!」

けれど、結局はこうなってしまうのかもしれない。
そう言えば、誰かがこの世で最も残酷な生物は人間だと言っていた気がする。
人間は狩りという形で、生きるためとは関係なくほかの動物を殺して楽しめる存在だ。
それだけじゃない。
戦争という名目のもと、正義なんてあやふやなものを掲げて平然と同類である人間を殺して見せる。
確かに人は他の誰かを思いやることはできるかもしれない。
だが、誰かが受けた痛みを完全に理解することなどできはしない。
それが人間という生き物の限界なのだ。

「でも……なら僕たち、人間という存在は一体…………!!」

情けなくて、悔しくて、悲しくて、それでもどうする事も出来なくて、涙を流すしかない。
こんなにわかりあいたいと思っても傷つけあうことしかできない僕らはいないほうがいいのか………!?
それがあなたの答えなのか、イオリア!?
それに気付かせるために僕たちガンダムマイスターは戦っていたのか!?

教えてくれ、ソリッド………………!!





孤島 砂浜

料理が終わった後、僕たちはロックオンからこの休暇の理由を聞いた。
まったく……スメラギさんには敵わないな。
でも、今だからこそ考えるべきなのかもしれない。
数えきれない人たちを犠牲にしてまで僕たちが戦う意味を。
みんながいた方とは反対の砂浜で僕は静かに目を閉じる。

超人機関から逃げ出したあと、僕はハレルヤと一緒に暮らしていた。
僕たちはそれほど仲が良かったというわけじゃないけど、お互いいないといけない存在だとは認めていた。
けれど、僕は鏡をのぞきこむのが怖かった。
鏡を見たときに映る自分の姿がハレルヤに見えて怖くて仕方なかった。

(違うだろアレルヤァ!お前が本当に恐れているのは俺じゃなくて誰かと関わりをもっちまうことだろ!!)

記憶の中の鏡に写るハレルヤが僕を笑う。

「そんなことない!!僕は……」

(強がんなよアレルヤ!!俺はお前なんだ!隠せると思うな!!)

「違う!!」

僕は目の前の鏡を叩き割る。
それでも、割れた鏡にハレルヤが写る。

(認めちまえよアレルヤ……お前は一人で生きていくこともできないくせに一人で平気だと強がってんのさ!!ソレスタルビーイングに入ってからも、無理だと知りながら一人でいたいと思ってんだろ!!)

違う…………
違う………違う…………
違う違う違う違う違う違う違う違う!!!

「僕は…………!!」

目を開く。
吸い込まれそうな夜空にたくさんの星が光っていて綺麗だ。
なのに、僕はどうしてこんなに孤独を感じているんだろう………

「…………だって、そうするしかないじゃないか…………。僕のせいで、みんなが傷ついてしまうんなら、いっそ……」

『そんなことないよ………』

「!!?」

突然の声に僕は驚く。
なぜなら、もうその声を聞くことなんてできるはずのない声だったから。

「エレ………ナ?」

そんなはずはない!
エレナはあの時僕たちの目の前で死んだんだ!
僕が………守り切れなかったせいで……

『ううん………アレルヤはちゃんと守ってくれたよ。私は最後まで人の心を持ったまま生きていられた………。大好きなユーノに復讐にはしった私じゃなく、いつもの私のまま最後に会うことができたんだよ………。』

エレナ………

『アレルヤが優しいことはみんな知ってるよ。だから………もう一人で強がらなくてもいいんだよ。』

その時、夜空に翼をもった翠色のなにかが飛んでいく。

「あれは………?」

『私がみんなのところに連れて行ってあげる……』

「エレナなのか…………?」

信じられない。
けど、なぜだかそう思わずにはいられない。
そのまま僕は、翠に光る鳥の後をついて行った。






コンテナ

ロックオン・ストラトスからこの休暇の理由を聞いた。
戦う理由を確認しろだと………!?
そんなことなど必要ない!
マイスターとしての覚悟なら当の昔にできている。
いまさら確認する必要など………
…………いや、やはりあるのかもしれない。
僕は人革連に捕えられたキュリオスを撃てなかった。
ガンダムマイスターとして撃たなければいけなかったはずのあの場面で。

「いや、それだけじゃないか………。」

僕は静かに目を閉じる。
紛争に介入した後、初めて近くの街に降り立ったとき、頭をハンマーで殴られた気分だった。
そこに確かにあった人の営みが何も感じられず、血の跡がべったりと残った建物がいくつもあった。
比較的形が残っていたビルの上から街を見ると信じられないくらい怖かった。
死体があちこちに転がり、その肉をはぎ取って戦いが終わった後もくすぶる火でそれを焼いて食う子供たち。
僕は後ろを向いてフェンスに背を預けて座り込む。
いままで自分のやっていることは正しいことなのだと思っていた。
だが、この惨状を生み出す一端を担ってしまったのは僕たちだ。
それでも、この光景は目に焼き付けなくちゃいけない。
僕は勇気を振り絞って再びその光景を見る。
胃の中から何もないはずなのになにかがせりあがってきた。
僕はたまらずその場にしゃがみ込んで吐いた。

目をあけると森の中にあるコンテナに寄りかかっていた。
勇気を示さなければいけないときにそれができず、自分のしたことの結果を直視できない僕にガンダムに乗る資格があるのか……?
選ばれた存在だと思っていたのに現実に向き合う勇気もない僕は、マイスターにはふさわしくない。
………………辞退しよう。
僕は……マイスターにふさわしくない。

『………相変わらず小難しいことを考えてるのね。』

!!?この声は!?

「馬鹿な、彼女がここにいるはずがない!」

彼女は三年前に死んだはずだ!
必死で空耳だと思うようにするがそれでもはっきりと彼女の声が耳に残っている。
仲間だったエレナ・クローセルの声が。

『そんなに思いつめなくてもいいよ…………ティエリア。』

「けど、僕は……」

『ティエリアは初めて会った時よりずっと強くなったよ。』

そんなこと………

『だって、ティエリアは誰かの苦しみを理解してあげられるようになったでしょ。』

「何を馬鹿な……」

『じゃあ、あの時なんでアレルヤについて行ったの?ガンダムから降ろそうと考えていたのに。』

「……………………」

人革連の研究施設に攻撃するとき、確かに僕はアレルヤの援護に向かった。
だが、あれは彼に迷いを振り切らせるためで……

『フフフフフ……嘘ばっかり。ほんとはアレルヤができなかったらあなたがやってあげるつもりだったんでしょ?』

「!!!」

『勇気を見せつけるだけが強さじゃないんだよ……。誰かを思いやることも、強さなんだよ……』

その時、葉の間から翠に光る何かが見えた。
僕は立ちあがり目を凝らす。
それは翠の光を放つ鳥だった。

「あれはエレナなのか……?」

『ついてきて……みんなが待ってるよ……』

僕はそのまま何かに引き付けられるようにその鳥の後ろについていく。
心に迷いを持ったまま……









俺はレンガで建てられたボロボロの小屋の壁に背を預けている。

Ms.スメラギに戦う意味を再確認してほしいと言われた時、できれば俺はそんなことをしたくないと思っていた。
俺は確かに世界を変えたいと願った。
だが、それでも今の俺の根幹をなしているのは復讐心だ。
テロが憎い。
家族の命を奪ったやつらをこの手で殺してやりたい。
戦いを終わらせるために戦うことを選んだのに、俺自身が戦いの連鎖に囚われちまっている。

目を閉じれば今でもあの日の光景をはっきりと思い出せる。
家族を失った俺はソレスタルビーイングに正式に合流する前に家族と過ごした家に行った。
……いや、正確にいえば家が建っていた場所、と言うべきか。
そこに残されていたのはちょうど俺が今背を預けているレンガ建ての家のように、ボロボロに崩れたレンガの壁だけだった。
なんでだろうな……それを見たとき、俺はどうにもやるせなくなって笑っちまった。
ひとしきり笑った後、その壁に体を預けて今度は一晩中泣いた。
家族との思い出が、あのテロの記憶が風化していくにしたがって俺の中から消えていっているようでどうしようもなく悲しかった。

俺は目を開けて空を見上げる。
そこにはムカつくほど綺麗に晴れ渡った夜空がそこに広がっていた。

「……どんな時でも変わんねぇんだな、空ってやつは。」

家族を失った時も、エレナを守りきれなかった時も、空はいつもと変わらず綺麗だった。
そして、世界も、そこに住むやつらも何も変わりはしない。
今この瞬間に不条理に命を奪われているやつらがいるにもかかわらず。

「でも、俺のやっていることは連中よりももっと性質が悪いか……」

なにせ、命を奪う側なんだからな。

「………俺は変われない……デュナメスに乗っていても、何も……。そんなやつが世界を変えるなんて……」

『……でも、ロックオンはみんなを変えてきたよ。』

「!!?」

俺は驚いて立ち上がる。
この声…………!
そんな馬鹿な!
アイツは……エレナは俺たちが最後を看取ったんだ!!
ここにいるはずが………

『ロックオンはみんなのことを変えてきたよ……刹那にユーノ……それにティエリアにフェルト…………他のみんなにも、私にもたくさん大切なものを教えてくれた。』

「でも、俺自身は……」

『急がなくてもいいんだよ……人が変わるには時間がかかる…。ロックオンは人一倍その時間が長いだけ……ただそれだけのことなんだよ……』

その時、俺の後ろの木陰から何かが夜空へと舞い上がる。

「あれは………?」

瑠璃色に輝く鳥。
さながらGN粒子でできたような翼を広げてゆっくりと飛んでいく。

『ついてきて……ロックオンがみんなを変えてきた証拠を見せてあげる。』

………やれやれ、夢でも見てんのか?
でも、夢なら別について行っても問題はねぇよな。









孤島(?)

刹那は一通り島を調べたところで最初にいた浜辺に戻ってきた。
体はそれほど疲れてはいないはずなのだが、なぜか精神的にかなり疲れているように感じる。

「……っはぁはぁ…」

刹那は耐えられなくなったのか砂浜に膝をついて、視線を下に向ける。

「刹那……?」

刹那は不意に上からかけられた声に顔を上げる。
そこには探していた仲間の一人、ユーノが目の前にいた。

「本当に……ユーノなのか……?」

「よかった!!みんないなくなったからすごく心配してたんだよ!!」

やはり何かが違う。
いつものユーノと違う物腰と口調。
だが、刹那はすぐに目の前の人物がユーノだと確信した。
なぜかはわからない。
だが、今のユーノはまるで心をむきだしにしたような、ありのままの姿のような気がする。

「他のみんなは!?」

「いない。俺とお前だけだ。」

「………そっか。」

互いに再開を喜んだが、また二人は暗くなる。

「……もう、いないのかもしれない。」

「え?」

刹那は重い口を開く。

「みんな、もうこの世界にはいないのかもしれない……」

「それって……」

ユーノは自分の顔が青ざめていくのがわかった。
だが、不安に飲み込まれないように声を張り上げる。

「そんなことない!!きっとみんなどこかにいるよ!!」

「じゃあどこにいると言うんだ!!」

刹那の怒鳴り声にユーノは驚く。

「こんな世界の………滅びゆく世界のどこにみんながいるって言うんだ!!」

「滅びゆく……世界……?」

「そうじゃないか!!誰もいない、ただ歪んだ光景が広がるこの世界が滅びゆく世界じゃないと言うなら一体何なんだ!!」

『………ここは、私の心象風景……』

「「!?」」

聞こえるはずのない。
もう、聞くことのできないはずの人物の声が二人の耳に聞こえてくる。

「エレナ!?」

「そんな……だってエレナはあの時、僕のせいで……」

ユーノの暗い声に怒った声が答える。

『いつまで引きずってんのよ!!もう!!』

「!!」

驚いて腰を抜かすユーノに今度は優しい声で語りかける。

『……あれは私が自分で決めた結果なんだから、ユーノは気にしなくていいんだよ。』

「でもあの時、僕が止めていれば!!」

『けど、私は最後に世界と向き合うことができた……そして、あれからもユーノと一緒にいて希望も見つけることができた……ほんとに微かなものだけどね。』

その時、ユーノと刹那の前の波打ち際に淡く輝く瑠璃色のかけらが現れる。

「これは………?」

刹那がそれに手を伸ばした時、そこから激しい光が放たれる。

「な!?」

「刹那!」

二人は逃げることもできずにその光にのみこまれてしまった。







経済特区東京 某マンション

俺は気付くとつい最近訪れた場所にいた。
俺の潜伏先の部屋の隣、沙慈・クロスロードの部屋。
部屋の明かりが落ち、窓から入る月の光で何とか部屋の様子がわかる程度だ。
窓の近くには沙慈・クロスロードが、そして、壁に寄りかかり座っているルイス・ハレヴィがいた。
歩いて近寄って見るとルイス・ハレヴィが泣いている。

(なぜ泣いている。)

声を出そうとしたが、声が出ない。
沙慈・クロスロードたちも俺に気付いていないようだ。

それよりもわからない。
なぜルイス・ハレヴィが泣いているのか。
おおかた親が故郷に帰ってしまったことで泣いているのだろうが、もう会えないわけじゃない。
なのに、彼女は泣いている。

(……俺が普通じゃないのかもしれないな。)

この手で両親の命を奪い、二度と会うことをできなくしてしまった。
そんな俺の考えを押し付けるのがおかしいのかもな……

その時だった。
沙慈・クロスロードが窓から何かを見つけ外を指さす。

(?なんだ?)

俺もそれを見ようと窓の近くに行こうとする。
だが、どれほど歩いても窓との距離が縮まらない。
後ろに……引っ張られる………!?

俺はそのまま何かに引っ張られるような形でその場を後にした。






時空管理局艦船アースラ

目を開けた時、僕の目に懐かしい光景が目に飛び込んできた。
アースラ………
僕たちが悲しい事件と何度も向き合ってきた場所だ。
もう、戻ってくることなどないと思っていたのに、なぜここにいるのか。
辺りを見渡してみると見覚えのある背中を見つける。

(フェイト!はやて!)

声をかけようとしたのに声が出ない。

(なんで!?せっかくみんなに会えたのに!!)

僕は二人の肩に手を置こうとした。
でも、手がすり抜けバランスを崩し前につんのめる。
そして、体もすり抜けて二人の前に出てしまう。

(そんな………)

でも、冷静になって考えればこれでいいのかもしれない。
いまさら僕が現れたところで……こんな人殺しが戻ったところでみんなが苦しむだけだ……
そう思いながら振り向くと、二人が泣いている。

(どうして泣いてるんだ……?)

何かつらいことでもあったのだろうか。
二人は静かに窓から異世界の夜空を眺めながら涙を流している。

(………本当に、僕はどうしようもないな……)

目の前で友達が泣いているのに何もしてあげられない。

だがその時、二人は何かを見つけたのか窓の外を見て驚いた表情をする。

(?一体何が……)

僕は二人の向いている方を向こうとするが目の前に現れた光で視界が遮られてしまう。
そして、そのままその光にのみこまれて僕はその場から去ってしまった。






アザディスタン王国 宮殿

沙慈・クロスロードの部屋から何かに引っ張られたかと思うとここに来ていた。
俺とは違う方法で戦いをなくそうとしている者の住まう場所。
俺の故郷を奪った国の王族、マリナ・イスマイールのいる宮殿。
部屋の主は俺から離れた窓辺に腰かけていた。

(マリナ・イスマイール………)

彼女もまた泣いていた。

俺はあの時、彼女にある問いをした。

『なぜこの世界は……歪んでいる?』

自分と違う方法で平和をつかもうとしている彼女なら答えてくれると思ったから聞いた。
だが、彼女は答えてくれなかった。
それでも、答えてほしかった。
身勝手だということはわかっている。
でも……

(でも……俺は知りたい。この世界を歪ませているものが何なのかを。)

俺はマリナのそばまで歩いて行く。
涙が彼女の白い頬を流れるたびに、月の光が雫を通して輝きを増す。
マリナは泣きながら何かを呟いているのだが、なかなか聞き取れない。

(なんだ……何を言っている?)

俺はマリナの声が聞こえるようさらに近づこうとするが、窓の外から月とは違う光が入ってくる。
マリナと俺は同時にその光を見ようと顔を上げる。
だがそれを見ようとした瞬間、俺は強烈な眠気に襲われてその場に倒れてしまった。
ただ、その前にマリナの声が聞こえた気がした。

「誰もが……平和を求めている…」

と……






地球 海鳴市

光の中から出た時、僕は夜空に浮いていた。
なのはが何度も魔法の練習をしていた小高い丘が下に見える。
そして、すぐそばにはなのは本人がいた。
なのははバリアジャケットを展開したまま月を眺めている。
それだけならよくあることなのだが、ただひとつだけ普段とは違う点がある。
瞳から透明な雫が何度もこぼれおちていっている。
不意になのはの口が動く。
声は聞こえない。
だが、唇の動きで何を言っているのかわかった。

『ユーノ君……』

(なのは……)

できることなら今すぐにでも抱き寄せたかった。
涙を拭ってあげたかった。
でも、できない。
する資格なんて、僕にはもうない。

気付くと、僕も泣いていた。
こんなにお互いがすぐ近くにいるのに、思いを寄せあうこともわかりあうこともできない。
まるで、平和を望みながら傷つけあうことしかできない人類のように。

(なのは!!)

僕は声にならないとわかっていながら叫ぶ。
確かにどれほど近くにいても、他人を思いやろうとしてもできないのかもしれない。
でも、だからと言って諦めてしまったら、僕たちは本当にわかりあうことができなくなってしまう!
だから!!

(なのは!!)

僕が何度も叫んでいると、ふいに空が明るくなる。
月はまだ夜空で煌々と輝いている。
だが、それを上回る光を放つ何かが僕たちの周りを飛んでいる。
なのはも僕もそれが何か確かめようと上を見ようとする。
けど、僕はそれがなんなのかわからないまま意識が遠のいてしまった。





?????

ユーノ……刹那………
あの人たちを守ってあげて。
今は迷ったり、間違った道を進むこともあるかもしれない。
でも、この歪んだ世界に息づくかすかな希望なの……
だから、あなたたちが導いてあげて。
ユーノも刹那も、彼女たちとともに少しずつだけど変わってこれたんだから……





孤島 砂浜

刹那とユーノは同時に眠りから覚める。
二人は目の前の光景を確認するが先程まであった赤い空も血の海もない。

「ユーノ……お前もあの光景を見たのか?」

「君……じゃなくて、お前もか刹那?」

二人は互いに先程の夢のことを聞きあう。
二人で同じ夢を見るなどあり得ないのだが、あのリアルな光景を見た後だと今が現実なのかどうか疑いたくなってくる。

「刹那……」

不意にユーノが口を開く。

「お前は……希望ってやつが見つかったか?」

刹那はユーノの問いに沈黙で答える。
そして、刹那もユーノに問いかける。

「お前はどうなんだ、ユーノ。」

ユーノも沈黙で答える。
言葉はかわさなかったがそれだけで十分だった。
二人は互いに同じ答えにたどり着いたのがうれしかったのか静かに微笑む。
とその時、それぞれ別の方向から何かを追うようにロックオンたちがあらわれる。

「待てよ!……って、あれ?お前らなんでこんなところに?」

「ロックオンたちこそなんで!?一人になって考えたいことがあるって…」

「君たちはなぜここに?」

ティエリアは一人冷静にロックオンとアレルヤに質問する。

「いや、なんか光る鳥みたいなのを追ってたらここに来てて……」

「え!?僕もだよ!?」

「……どうやら、三人そろって同じのようだな。」

ティエリアはクイッとメガネを少し動かす。

「じゃあ、お前らもアイツの声を!?」

「うん!僕もそれを聞いてここに来たんだ!」

「だが、どうやら見失ってしまったようだがな。」

ティエリアの言葉に深いため息をついた後、三人は寝ていたユーノと刹那が起きていることに気付く。

「なんだ起きてたのかよ。それなら早く言えよな。」

「起きてるのにも気付かないで三人でしゃべってたら声もかけづらいっての。」

ユーノは唇を尖らせて反論する。

「ハハハ、悪い悪い。」

「もう夕食はできてるよ。早く食べよう。」

そう言ってアレルヤがテーブルに向かおうとした時、空から瑠璃色の光が降り注ぐ。
強すぎず、柔らかで温かな光が五人を包み込む。

「あれは……!?」

刹那は羽織っていた布をバサリと取って立ち上がると空を見上げる。
そこにはロックオンたちが追ってきていた瑠璃色に輝く鳥がはるか上空へと昇って行くところだった。

「綺麗だな……」

「うん……」

ユーノの言葉にアレルヤがうなずく。
他の三人も何も言わないが同じことを思っているようだ。

「………で、お前らは再確認できたか?」

ロックオンは小声でアレルヤとティエリアに問いかける。

「うん。僕はこれからもガンダムで戦うよ。」

「僕もだ。」

「ハッ……心配していろいろ考えてた俺がアホみてぇじゃねぇか。」

「ところで、あの二人には言わなくてもいいのかい?」

「俺も言おうと思ったがな、あの面を見たらその必要がないってわかったよ。」

「そうか……うん、そうだね。」

三人は空を見上げる刹那とユーノの顔を見る。
迷いが断ち切れた清々しい顔はロックオンたちを安堵させるには十分なものだった。



この後、彼らは全員で二日というわずかな時間を楽しんだ。
これが彼らが全員で集う最後の機会だったことも知らずに。
だが、それでも彼らはこの思い出を忘れはしないだろう。
そう……決して…………











あとがき・・・・・・・・・・・・という名のカウントダウン一時停止と真面目なあとがき

今回は真面目に(いつも割と大真面目で悪ふざけをしていますが(笑))あとがきを書かせていただきます。
今回のサイドは………はい、ごめんなさい。
いつぞやと同じくやってしまいました(^_^;)
firstのセカンドエンディングを自分なりの解釈とオリ設定を組み込んで書いてみました。
もうどうしようもなくあれですが、楽しんでくださいましたでしょうか?
自分はこのエンディングが好きで介入開始した辺りで書いてみたいと考えていて、今回思い切って書いてみました。
なにげにfirstではここで出てくるマイスターズの画が一番好きです(笑)
次回はいよいよ最終決戦突入です!
マイスターズはそれぞれの思いを胸に抱きながら戦場へと向かいます!

最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!
では、次回をお楽しみに!



[18122] 31.永久なる願い
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:52
プトレマイオス

「貴様だ!!」

ティエリアはエクシアのもとから帰ってきた刹那を見た瞬間に掴みかかった。
壁に押し付け、顔面に拳を叩きこむ。
刹那は避けるそぶりも見せずに大人しく殴られる。

「やめろティエリア!!」

イアンが止めようとするがティエリアは止まらない。

「貴様が!貴様が地上に降りたせいで戦力が分断された!!」

刹那を責めながら、ティエリアの目に涙がたまっていく。

「答えろ!!なぜ彼が死ななければならない!!なぜ……!!」

ティエリアが再び刹那を殴ろうとした時、肩を掴まれ後ろへと向かされる。
そして、パンッと乾いた音が響く。

「敵はまだいるのよ!!泣きごとを言う暇があったら手伝って!!」

いつの間にかいたスメラギがティエリアの頬をぶったのだ。
ティエリアは一瞬呆けるが、すぐにいつもの冷静さを取り戻す。
しかし、その目はいまだに悲しみをたたえている。

「……すいません。感情的に……なりすぎました。」

スメラギは俯くティエリアの姿を見て何も言わずに立ち去る。
そして、誰もいない場所に来たところで彼女の瞳からも涙があふれ出した。








ブリッジ

フェルトはずっと泣いていた。
涙を流すほどに心に開いた穴が大きくなっていくようだったが、どうしても涙が止まらない。

「フェルト、ゴメン。フェルト、ゴメン。」

「ハロが悪いわけじゃない……!ハロが……ハロが……」

自分に抱かれていたハロの謝罪にフェルトはさらに涙を流す。
見かねたクリスティナが声をかけようとするが、何を言っていいのかわからず黙ってしまう。

「嫌なんスよ……こういうの……」

リヒテンダールは二人に背を向けて気を紛らわせるように作業を開始する。
しかし、その作業が手につくはずもなく、コンソールから手を離し、ボーッと前を見つめるのだった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 31.永久なる願い

バージニア級

前回の戦闘でソレスタルビーイングだけでなく国連軍もまた消耗していた。

「27機中帰還できたのはたったの十一機……鹵獲した機体も失ってしまった。それに、ガンダムの新たな能力……。マネキン大佐、私は現宙域からの撤退を進言する。このままではただいたずらに兵を失うだけだ。」

「私も同意見ですが、国連軍は増援をこちらに送ると言ってきています。」

「増援だと?」

セルゲイは眉をひそめる。
最初こそ三国家群が一つにまとまり、ガンダムを圧倒していることを喜んだが時間が経つにつれ、国連軍に対しどうにも胡散臭さを感じ始めていた。
新型のガンダムのテロにあわせて裏切り者が出たソレスタルビーイング、ガンダムの位置を的確につきとめたり、それに合わせてガンダムが新たな能力を使用し始めたことと言い、何やら見えない何者かの意志が働いているように思えてくる。
そして、マネキンもどうやら似たようなことを考えているようだ。

「まさかまだGNドライヴ搭載型があるというのか?」

「わかりません。到着次第、第二次攻撃を開始せよとのことです。」

その時、ブリッジに電子音が鳴る。
二人は思わず敵かと思い身構えるが、それはいらぬ心配だった。

「本艦へ向かってくるジンクスを捕捉。」

「なに?」

「生存者がいたのか?」

前方のモニターに映し出されたのは首を失った以外はほとんど無傷のジンクスだった。

「機体照合確認。パイロットはAEU所属、パトリック・コーラサワー少尉と確認。」

『すみません大佐……やられちゃいました……』

すまなさそうに笑うパトリックを見てマネキンは&の笑みを漏らす。

「心配させおって、馬鹿者が…」

「へ?」

「すぐに戻ってこい、馬鹿者。」

「は、はいっ!!」

厳しい顔に戻ったマネキンに睨まれてパトリックは慌てて通信を切ると急いでコンテナへと向かうのだった。









プトレマイオス フェルトの自室

「フェルト?フェルト?」

ハロは何度も呼びかけるが自分を抱いているフェルトは反応しない。
俯いたまま魂の抜けた目で床を見下ろしている。

(もう……何も考えたくない……何もしたくない……)

クリスティナが一旦ブリッジクルー全員に休むよう提案したのだが、フェルトには逆効果だったようだ。
部屋に閉じこもると誰が来ても扉を開けず、ただ俯き続けている。

(……いっそ、このまま…)

フェルトが最悪の答えにいたろうとした時だった。
ハロが目を点滅させたかと思うと、次の瞬間フェルトの腕から飛び出す。

「?ハロ……?」

「連レテッテ!連レテッテ!」

「……どこに?」

「ユーノニ伝言!ユーノニ伝言!」

「ユーノに……?」

フェルトは疑問に思いながらハロを両腕に抱き締めてユーノの部屋に向かった。







ユーノの自室

ユーノは魔法陣を展開して端末を支配下に置く。
帰ってきてから自室にこもるとすぐさま練習を開始した。
だが、その必要はなかった。
それまで使うたびにひどく疲労していたのが嘘だったように安定して使用できている。
まるで、ロックオンの死によって何かが目覚めたかのように。

「ユーノ、もうやめておけ。それ以上は流石に……」

「大丈夫だよ。なんでかわからないけどずいぶん調子がいいから。……それに、もうあんな思いはしたくないから。」

ユーノは967を心配させまいと笑いかけるが、その笑顔は悲しげで967も悲しくなってくる。

(ロックオン、どうすればいいんだ……このままじゃユーノは……)

その時、ユーノの部屋の扉がノックされる。
ユーノは慌てて魔法陣を消して扉をあける。

「フェル……ト……」

そこにいたのは、ハロを両腕でしっかりと抱いているフェルトだった。
目の周りが赤く腫れていてかなり長い間泣いていたことがうかがえる。

「どうした……?」

「ハロがユーノに会わせてって…」

「ハロが?」

「ユーノ見テ!ユーノ見テ!」

ハロはフェルトの腕の中から飛び出してユーノの部屋の机まで行く。
そして、目を点滅させるとそこにあったモニターに何かを映し出す。
そこには右目に眼帯をしたパイロットスーツのロックオンがいた。

「「「ロックオン!?」」」

フェルトとユーノ、そして967はモニターの前まで駆けよると食い入るようにロックオンを見る。

『ユーノ、お前がこれを見てるってことはたぶん俺はもうここにはいないってことなんだろうな……ヤバい、地味にへこんでくるぜ……』

ロックオンは画面の奥で壁に手をかけて落ち込む。
しかし、すぐにユーノとフェルトのほうに向き直ると再び話し始める。

『こいつはもし俺が死んだ時、お前のことだろうからまた守れなかったとか思って無茶をし始めるだろうと思ったから、そんなお前に俺の最後の言葉を贈るためにハロに手伝ってもらって残しておく。』

「ロックオン……」

『まず、俺が死んだとしてもお前が落ちこんだり無茶をする必要はない。俺が勝手して勝手に死んだ……そういうことだ。………まあ、お前のことだからそれぐらいじゃ納得しないだろうな。けどよ、お前が無茶して死んじまったら俺がうかばれないからな。これは他の奴らにも言えることだし、言っておいてもらえると助かるな。んじゃ、次だ。できることならフェルトを支えてやってくれないか?』

フェルトの目が驚きで見開かれる。

『フェルトは人の死ってやつに敏感だからな。きっと、俺なんかが死んでも涙を流してくれるだろうな……。でも、いつまでも俺のことにこだわって欲しくないんだ。フェルト、そしてお前や刹那にはまだまだ未来がある。世界に喧嘩を売っておいてこんなことを言うのもなんだけどよ、俺はお前らにこの世界で生き続けて欲しい。生きてりゃなんかいいことがある。だから、最後まで生き残るって約束してくれ。』

「……っ!ロック……オン……!!」

「フェルト……」

『それと、これで最後だ。お前は俺たちとは違って帰れる場所がある。お前を待っててくれる人がいるんだろ?だったら、何が何でも戻ってやれ。お前がいた世界に戻る手段を探すんだ。』

(ユーノのいた世界?)

フェルトはロックオンの言葉に疑問を感じる。
今の言い方ではまるでユーノがこの世界の人間ではないような言い方だ。
しかし、この時のフェルトはそれが単なる言葉の綾ぐらいにしか思わなかった。

『確かに、お前は罪を犯したかもしれない。でも、罪は生きて償うことができる。だから、お前は生きて罪を償え。お前を待っている奴らとともに……』

ロックオンはそう言うと扉へと歩いていく。
ロックオンの姿が消え、声だけが聞こえてくる。

『こんなもん残しちまったけど、もちろん俺は死ぬ気なんざちゃんちゃらないぜ。何が何でも生き残って世界を変えてやるさ。……じゃあな、また会えることを願ってるよ。』

映像はそこで終わった。
三人は映像が終わったあとも動けずにいた。
しばらくしてずっと泣いていたフェルトが口を開いた。

「ロックオンは……最後まで私たちのことを心配してくれてたんだね……」

「……ああ。」

「だったら……泣いている暇なんてないよね。」

フェルトは顔を上げる。

「私、行くね。」

「……頑張れ。」

ユーノは優しく微笑む。
フェルトはユーノの微笑みに笑顔を返し出ていく。
その姿を見送ったユーノも気を引き締める。

「967、ティエリアかアレルヤに連絡を取れる?」

「了解だ。」

967はすぐにティエリアの持つ端末との回線を開く。

「ティエリア。」

『丁度よかった。君に連絡しようと思っていたところだ。』

ティエリアはユーノの顔を見て、すべてを理解する。

『どうやら、君も僕と同じ考えのようだな。』

「ああ。」

通信を終了すると、ユーノは廊下へと向かう。
自分の意思を示すために。









スメラギの自室

通常電源がカットされた部屋でスメラギはモニター越しにイアンと話している。

『指示どおり、GN粒子を散布させつつ衛星を飛ばした。しかし、こんなんで敵さんを騙せるのか?』

「気休めです。アステロイド周辺は監視されてるでしょうから。でも、うてる手は全部打っておかないと。それで、ガンダムの状況は?」

イアンは携帯端末のカメラから自分をどかしてガンダムを写す。

『キュリオスは飛行ユニットを取り除けば出撃可能だ。ヴァーチェは外装を取っ払ってナドレで出撃させる。専用の武器も用意した。』

「どのくらいで終わりますか?」

『最低でも八時間ってところか……』

「六時間でお願いします。」

『む……わかった。』

イアンは困った表情を浮かべたが、すぐさま承知する。
通信が切れ、イアンの顔が見えなくなると大きなため息が出る。

(現戦力で期待できるのは強襲用コンテナ二機と、エクシアとソリッド、そしてGNアームズだけ……頼みの綱のトランザムも制限時間がある。)

この状況ではまともに戦うことなどできはしない。
今は逃げの一手に出るしかない。
そんなことを考えていたスメラギに意外な人物から通信が入る。

「ティエリア!?」

モニターに映ったのは先ほど自分が叱責した人物、ティエリア・アーデだった。

『スメラギ・李・ノリエガ。次の作戦プランを提示してください。』

スメラギは驚く。

「まさか、戦おうと言うの!?」

『もちろんです。敵の疑似GNドライヴ搭載型を叩ければ、世界に対し我々の実力を示し計画を継続できる。』

「リスクが大きすぎるわ。敵の援軍が来る可能性も…」

『わかっています。ですが、これは私だけの気持ちではありません。』

ティエリアの周りにアレルヤ、刹那、ユーノが現れる。
マイスター達の目には強い意志が宿っている。

『マイスターの総意です。』

「………………………………」

『では。』

通信が終了してティエリアたちの姿が消える。
よくよく考えてみれば、自分は逃げたかっただけなのかもしれない。
重圧から逃げ出して楽になりたかっただけなのかもしれない。
覚悟ができていなかった。

「生き残る……覚悟………」

スメラギは覚悟を固めた。









刹那の自室

ティエリアたちと別れた後、刹那は自分の部屋でデュナメスのミッションレコーダーを見ていた。
そこにはスローネ、アリー・アル・サーシェスの姿が映っていた。

「アリー・アル・サーシェス!?あの男がロックオンを……!!」

刹那は怒りに燃える。
だが、すぐにその怒りは冷めていく。
ツヴァイが破壊されたということはサーシェスも生きてはいまい。

「命を投げ出して……仇を討ったのか、ロックオン……」

その時、刹那の脳裏にあの日の戦友の姿が現れ、声が響く。

『なんだお前……死ぬのが怖いのか!?それは神を冒涜する行為だぞ!!』

(違う!)

刹那はベッドから立ち上がる。

「死の果てに……神はいない!」

ロックオンは敵を討てたが、それでロックオンの魂が救われたわけではない。
戦友の声に続き、ラッセの言葉を思い出す。

『今になって思う。ソレスタルビーイングは、俺たちは存在することに意味があるんじゃねぇかってな。』

「存在すること……それは………生きること……。なくなった者たちの想いを背負い、この世界と向き合う。神ではなく、俺が、俺の意志で!!」









ブリッジ

「そうっスか。刹那たちは戦う方を選んだんスか。」

リヒテンダールはクリスティナからマイスター達の答えを聞いて内心安心していた。
ロックオンの死を犠牲にしてまで逃げ出すようなことはしてほしくはなかった。
声を大にして言うことはできないが、本当は逃げたくはなかった。
だが、それはみんな同じようだった。

「覚悟を決めておけよ。」

「おっかねぇの。」

ラッセの言葉にリヒテンダールは苦笑する。
そんな二人の話を聞いてリヒティとラッセの真ん中の席の背もたれに両腕を乗せていたクリスティナが嘆息する。

「でも、やるしかないのよね。」

クリスティナは戻ってきたフェルトのほうを見る。
よく見ると彼女は自分の席で紙に何かを書いている。

「何してんのフェルト?」

「手紙を……」

「手紙?」

「天国にいるパパとママに……それと、ロックオンとエレナに。」

「フェルトの両親は……」

クリスティナが言葉を紡ごうとするとリヒテンダールがちゃちゃをいれる。

「遺書なんて縁起悪いなぁ。」

「違うの!」

リヒテンダールは自分を睨むクリスティナよりも大きな声を出したフェルトに驚く。

「私は生き残るから……当分会えないから、ごめんなさいって。」

「「「!」」」

三人は驚く。
あれほど落ち込んでいたフェルトからそんな言葉が出るとは思っていなかった。

「そっか……」

「その意気だ、フェルト。」

「ロックオンと約束したから。」

フェルトはロックオンの本当の最後の姿を思い浮かべる。
何があってもロックオンとの約束は、願いは守ってみせる。

「あ~あ、あたしも出そうかな、手紙。」

「え!?だ、誰にです?」

クリスティナの言葉に気が気じゃないリヒテンダール。

「コロニーに居るママ。」

「え?(なんだ~、よかったぁ~。)」

「育ての親だけどね。」

クリスティナは少し寂しそうに笑う。

「いい思い出なんて何もないわ。逃げるように家を出て……ヴェーダに選ばれて。」

「いるだけいいさ。」

「ホントホント。」

男性二人がうんうんとうなずく。

「そう言うリヒティは?」

「両親は軌道エレベーターの技術者だったんっスけどね。ガキの頃の太陽光紛争であっさりっスよ。」

リヒテンダールは苦笑しながら肩をすくめる。

「みんな、いろいろあるんだ……」

「いろいろあるからソレスタルビーイングに参加したんスよ。」

「そういや、こんなふうに話すのは初めてだな。」

ラッセがポツリと呟く。

「それは守秘義務があったから……でも、今さらよね。」

「そうっスね。」

「そういや、アイツの昔話は聞いたことないな。」

「誰?」

「ユーノだよ。記憶がないから仕方ないのかもしれないけど、どうにも気になるんだよな。」

そう言いながらラッセはクリスティナのほうを見る。
クリスティナの目はきょろきょろと泳ぎ顔にも明らかに暑さから出はない汗が浮かんでいる。
よく見るとリヒテンダールもだ。

「……お前ら、アイツの昔話を聞いたな?」

「え!?いやいや!!そんなことないっスよ!!?ね、ねぇ、クリス!?」

「へ!?う、うん!そうそう!!大体ユーノの記憶は…」

「もう思い出してるんだろ。」

「そうそうもう思い出して……ダーッ!!!?そうじゃなくて!?」

「リヒティ!!」

クリスティナはリヒテンダールの口をふさぐがもう遅い。

「そうだったんだ……」

「やっぱりな。どうにも変な感じだったからな。」

「「……………………………………」」

「ま、アイツが自分で話すまでは俺たちも聞きゃしねぇよ。」

「うん。」

「………ありがと。でも、多分もうすぐ言ってくれると思うよ。」

クリスティナは微笑む。

「………書けた。」

話しこんでいるうちにフェルトの手紙が書きあがったようだ。
フェルトは立ち上がると扉へと向かう。

「どこ行くの?」

「ちょっと……」

フェルトはそういうとある場所へと向かった。
おそらく、手紙を届けたいうちの一人に一番近い場所に。









コンテナ

刹那はハロを持ってデュナメスの前に立っていた。
あることを伝えるために。

「ロックオン……俺は生きる。……俺が生きることで世界が変わるのなら、俺は生きる。生きて、戦い抜く。」

自分なりに出した答え。
神を信じて歪んだ形で戦いに参加し、神の存在を否定し、迷い、イオリアにガンダムを託された刹那だからこそ至った答え。
アザディスタンの王女、マリナ・イスマイールとは相容れない答え。
だが、それでいいのかもしれない。
彼女は彼女の方法で平和を求め、自分は自分の方法で平和を求める。

「刹那?」

刹那は声のしたほうを向く。

「フェルト・グレイス……。どうした?」

刹那はこちらに無重力の海を泳いでくるフェルトの手をとり、自分の隣に立たせる。

「手紙、書いたの。ロックオンに。」

「なんだ、二人とも来てたのか。」

デュナメスの胴体部分からユーノがふわりと現れる。

「ユーノ……ここで何を……」

「……聞いていたのか。」

刹那はムッとした顔でユーノを睨む。

「そう睨むなよ。俺も似たようなことをしようとしてたらお前が来るのが見えたんでな。つい隠れちまったのさ。」

ユーノはフェルトの手元にある手紙を見る。

「フェルト、ロックオンとの約束、守ってやれよ。」

「うん。ユーノも、刹那も。」

「なんのことだ?」

「お前がさっきロックオンに言ってたことだよ。」

「?」

刹那はわからないと言った様子で首をかしげるが、二人は笑うだけだ。
そして、笑い終わるとフェルトはコックピットに入るとロックオンが座っていたであろう席に手紙を置く。

「刹那とユーノは、手紙を送りたい人はいる?」

刹那はマリナの顔が思い浮かぶが、すぐにその姿を消しさる。

「いないな。」

「そっか……。ユーノは?」

ユーノはなのはの笑顔を思い浮かべる。
だが、

「俺はいることはいるけど、きっと向こうは貰っても迷惑に思うだけだろうな。」

「そう……寂しいね。」

「……寂しいのは、アイツだ。」

「え?」

フェルトは刹那の言葉が誰に向けられたものかわからずに振り向く。
しかし、すぐに誰のこと言っているのかわかった。

「だからハロ、アイツのそばにいてやってくれ。ロックオン・ストラトスのそばに。」

「ロックオン。ロックオン。」

ふわりと投げられたハロはクルクル回りながらゆっくりとフェルトの手に収まる。

「いてあげて、ハロ。」

「了解。了解。」

「ありがとう……」

「フェルト、悪いけど俺のも預かっててくれないか?」

今度はユーノから何かが投げられる。
一つは黒いレンズが光を反射し、もう一つはそれに巻きつけられていて、ふわふわと赤い色の絵具を吸いこんだ筆が通ってくる道にそれを塗っているようだ。

「これって……ロックオンとエレナの……」

ロックオンがくれたサングラスと、エレナがしていたリボン。
二つともユーノにとって大切な二人との絆だ。

「どっちにも……“僕”はもう十分助けられたから。だから、しばらくフェルトが預かっててくれないかな?」

「ユーノ……?」

フェルトも刹那もユーノに違和感を覚える。
それまでのやんちゃな雰囲気が消え、穏やかで、いてくれるだけでホッとするような優しい笑みを浮かべている。

「フェルトがそれを持っててくれれば、僕はここに帰ってきたいって思えるから。」

「うん……わかった。」

フェルトが強くうなずくと同時に、艦内にアラームが響き渡る。

『Eセンサーに反応。敵部隊を捕捉しました……』

「行くぞ!フェルト、ユーノ!」

「はい!」

「うん!」









ブリッジ

「敵部隊の総数は!?」

スメラギは入ってきて開口一番にクリスティナに聞く。

「十、十三機です!でも、その中ですごく大きいものがいます!」

「大きいもの?」

「モニターに出します!」

「!!!?」

「遅れました……!!?」

スメラギも、そしてフェルトもその姿を見て絶句する。
ジンクスが綺麗に整列しているその真ん中に金色に輝く巨大なものがいた。
その大きさは悠にジンクスの数倍はあり、真ん中についている二つの銃口とその下にある切れ込みのせいで金色の骸骨がこちらを笑っているように見える。

「これ、戦闘艦ですか!?」

「違うわ……」

スメラギはリヒテンダールの答えを否定する。

「あれは疑似太陽炉を搭載したMA!!」

それはあまりにもいきなりの出来事だった。
骸骨の口が開き、中から砲門が現れたかと思った瞬間。
ヴァーチェの砲撃に比べても見劣りしない光の柱が放たれた。

「粒子ビームが来ます!」

「そんな!?あの距離から!?」

通常砲撃を行える距離の外から放たれた一撃がプトレマイオスに迫る。

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

リヒテンダールは渾身の力で舵を切ってプトレマイオスを右に動かす。
間を置いてやってきた砲撃は船首には直撃しなかったものの船尾をかすめて爆発を引き起こす。

「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「クッ!第一粒子出力部に被弾!」

「粒子供給をすべて大に出力部に回して!」

「了解!」

スメラギとフェルトがあわただしく動く中、クリスティナから最悪の知らせが入る。

「っつ!第二波、来ます!」

「リヒティ!」

「やりますよ!」

リヒティの操舵によって今度は完全無欠にかわす。
だが、砲撃の衝撃がプトレマイオスを激しく揺らす。

「「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「っ!強襲用コンテナ出撃!目標、敵MA!」

『『了解!』』

『強襲用コンテナ、出撃する!』

現在のプトレマイオスにおける最大の戦力を敵の最大の戦力にぶつける。
刹那とユーノ、そしてラッセと967は強襲用コンテナを使い敵のMAへ向けて発進する。

「リヒティ!トレミーを近くの衛星のかげに!」

「了解っス!」

「キュリオスとナドレはコンテナから直接出撃!トレミーの防御を!」

『『了解!』』

衛星のかげから二つの光が飛び出していく。

一方、セルゲイ達も二手に分かれプトレマイオス攻略作戦を開始する。

「作戦通りスペースシップにニ方向同時攻撃をしかける。各機、衛星を盾に接近しこれを叩け!」

ここに、国連軍とソレスタルビーイングの決戦の火ぶたが切って落とされた。








戦闘宙域

二機の強襲用コンテナは先行してきたジンクス部隊に砲撃を撃ちこむ。
ジンクス部隊はその砲撃を大きくかわして反撃するが、すでに距離を離されていた。

「中佐!」

「アルヴァトーレに任せておけばいい!」

「ハッ!」

ピーリスとセルゲイは増援としてやってきた大型MA、アルヴァトーレへ向かう二つの機影をそのまま見送る。
その理由はアルヴァトーレの戦闘能力を信頼していることもあるが、なによりおそらくは二機の強襲用コンテナのどちらかに乗っているであろうユーノを撃ちたくはなかった。

(……これが人としての最後の情けだ。)

セルゲイは父親の顔から軍人の顔へと変わる。

「今度こそ、この戦いにけりをつける!」









衛星群 プトレマイオス周辺

衛星に沿ってプトレマイオスに移動していたジンクス二機。
順調に進めていたため、どこか安心しきっていたのだろう。
そこをついてくるものが現れる。

衛星の先で待ち受けていたナドレが飛び出し持っていたビームライフルで先頭にいた一機を撃ち抜く。
撃たれたジンクスはそのまま後ろに仰向けに倒れるようにさがり爆散する。

「これ以上は行かせない!!」

ティエリアが残りの一機に狙いをつけたところで上からもジンクスが現れ射撃を開始する。

「セミヌードのくせに!!」

パトリックはナドレに対し怒涛の攻撃をしかける。
ティエリアは急遽装備されたシールドを使って防ごうとするが、もともと不慣れな装備のため上手く使いこなせない。

「クッ!だが、まだTRANS-AMにはまだ早い!!」

ティエリアはビームサーベルを振るってジンクスたちを後退させる。

「まだまだぁ!!」

「とっと墜ちやがれぇぇぇ!!」








プトレマイオスの情報から近づいてくるジンクス部隊。
ピーリスは殿の前を進んでいた。
もうすぐプトレマイオスに着くという時になって殿のジンクスが動きを止める。

「?どうした?」

ピーリスが振り向くとピクピクと痙攣するように動いているくらいで特に異常は見られない。
そう思えた。

「!!」

よく見るとコックピット部分からオレンジ色の何かが突き抜けている。
それは徐々に開いていきジンクスを真っ二つにした。
そして、その煙の中からシールドクロウを構えたキュリオスがピーリスめがけて飛び出してきた。

「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「あの機体は……貴様か!被験体E-57!!」

ピーリスはビームサーベルを抜いてシールドクロウを受け止める。
アレルヤを押しのけて無理やり表に出てきたハレルヤはゲラゲラ笑いをやめてシニカルな笑みを浮かべる。

「悪いなアレルヤ……俺はまだ……」

ハレルヤはシールドクロウでジンクスのビームサーベルを固定して奪い取って投げ飛ばす。

「死にたくないんでな!!」

ピーリスはライフルを至近距離で発射するがやはりシールドクロウに掴まれて銃口をずらされてしまう。

「クッ!!被験体E-57!!」

「はいなぁ♪」

「!!」

ゼロ距離で銃口を向けられピーリスは凍りつく。
だが、

「させるかぁ!!」

「ぬぉ!!?」

セルゲイの駆るジンクスがキュリオスに蹴り飛ばしてピーリスの横に並び立つ。

「ここは私に任せろ!!」

「しかし!」

「行け!!」

「ハハハハハァ!!」

セルゲイ達が話しこんでいると態勢を整えたキュリオスがセルゲイのジンクスに凶爪をつき立てようとする。

「中佐!!」

セルゲイ達の後ろにいたミン達は射撃を開始してキュリオスを後退させる。

「どけよ雑魚ども!!死んで花実は咲かねぇぞ!!」

ハレルヤはその場にいるジンクス全機を相手にするつもりでいた。
だが、それがこの状況においては誤った判断だったことを思い知らされることとなる。









アルヴァトーレ周辺

刹那とユーノはアルヴァトーレへとたどり着く。
そこにはジンクスが一機も存在せず、ただ金色の巨体が一機だけこちらを向いている。

(一機だけで十分だってか!?なめやがって!!)

ラッセは敵の余裕ともとれる布陣に怒りを覚える。

「射程内に入った!!攻撃を開始する!!あわせろ967!!」

「了解!!」

二機の強襲用コンテナからその空間を埋め尽くすほどのミサイルが発射される。
しかし、アルヴァトーレに届く前に赤い膜に阻まれ火球へと変化してしまう。

「GNフィールド!?どうやってあんな出力を!?」

「模造品でもGNドライヴを7基も積んでいるんだ!!そりゃ出力も出るだろうさ!!」

「ならこいつでどうだ!!」

続いて前方に装備された大型GNキャノンが発射される。
しかし、光の奔流は赤いGNフィールドによって四散し、周囲に浮いていた衛星へとあたり爆発を巻き起こす。
その爆発の中でもアルヴァトーレは平然とこちらを向いている。
そして、おもむろにドクロの口が開き中から砲門が現れ、砲撃を放つ。
しかし、その一撃は刹那たちの下を通ってはるか後方へと消えていく。

「下手くそが!!どこを狙ってやがる!!」

「いや……違う!!」

先ほどの砲撃の軌道計算を終えたユーノは青ざめる。
そして、刹那も敵の狙いに気付く。

「狙いはトレミーか!!」









プトレマイオス周辺

「ギャッハハハハハハハハハハ!!!!!!」

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ハレルヤは衛星にシールドクロウで押しつけていた一機を爆散させる。
周囲の機体がキュリオスに射撃をするがあっさりとかわされる。

「おらおらどうしたぁ!!次の自殺志望者は誰だぁ!!?きっちりあの世に送ってやるよぉ!!!ギャハハハハハハハハハ!!!!」

「クソ!!」

ジンクスの中の一機がライフルを撃ちながらキュリオスへと向かう。

「おいおい無理すんなよ!!痛いのは嫌だろ!!」

ハレルヤは上方に避け、銃口を向ける。
その時、後ろにあった衛星が爆発したかと思うと強烈な光がジンクスを飲み込んでいく。

「なんだ……!?うおわ!!」

キュリオスも背後にあった衛星の欠片も光に砕かれ、光の中へと消えていった。







突如放たれた砲撃を避けきれなかったプトレマイオス。
しかし、誰に責任があるわけでもない。
味方が射線軸上にいるにもかかわらず撃ってくる者など通常ならいるはずがないのだ。
そう、人の命を道具程度にしか考えない者でないならば。

「プトレマイオスが!!」

被弾するその一部始終を見ていたティエリアは焦る。
あそこにはキュリオスもいたが、さきほどの砲撃でどこかに行ってしまった。
今のプトレマイオスは裸同然だ。
すぐにでも救援に向かいたいが、ジンクスたちがそれを許さない。

「クッ!!」

大型ビームライフルを発射するが焦りからくるブレも加わり命中率はぐっと下がる。

「オラオラどうした!?砲撃が使えなけりゃ能ナシか!?」

パトリックのライフルが徐々にナドレに弾を当ててくる。

「グァッ!!ク…ソ……!」

自分の無力さが恨めしい。
それでもティエリアは戦いをやめない。
絶望もしない。
ロックオンの死を無駄にしないために。






プトレマイオス ブリッジ

右側から信じられない量の薄紫の煙がもうもうと立ち上っている。
今までに受けたことのない規模の被害にクルーの誰もが動揺し始める。

「第3、第4コンテナ大破!右側面の損傷甚大!」

「E-20から68までのシャッターを降ろして!」

「スメラギさん!メディカルルームが!」







メディカルルーム

(肋に……内臓系はグチャグチャか……まったく…もう少しスマートに死にたかったんだがな……)

モレノは薄れゆく意識の中、自分の体の状況の把握に努めていた。
そんなことをしなくても死の瞬間が目の前まで来ていることはわかっていたが、医者の性とでも言うやつだろうか。
どうしても診察せずにはいられない。

(ククク………イアンが知ったら……『これだから医者ってやつは』………とか、また説教を始めるんだろうな……)

目の前がかすんでいく中、モレノの目の前によく知る人物たちが通り過ぎていく。

(ロックオン……エレナ………グラーベ……ルイード……マレーネ………)

全員、自分が救うことができなかった人間だ。
周りは気にするなと言うが、それでも気にするのが人間だ。
そして、医者は人間にしかなれない。

(……テリシラ……)

ふと、自分の愛弟子のことを思い出す。

テリシラ・ヘルフィ
自分にとって最初の、そして最後の弟子だ。
若いが腕は確かで、多少合理主義が行き過ぎることがあったが、それでも自分の持つ技術と医者としての心構えを叩きこんだ最愛の弟子だ。
ソレスタルビーイングに加わって以降は会っていなかったが、介入を開始した直後くらいからちょくちょくテレビに登場するようになっていた。
そこで自論を語る彼はあの頃の情熱をそのまま持った素晴らしい医者になったとモレノは思った。

(テリシラ………君は……君の方法で誰かを救おうとしているんだな……。わしは結局、救いたいものを守り切れずに逝く………だから、君は……)



モレノはそのまま静かに息を引き取った。
その顔は救えなかった者たちへの謝罪の表情ではなく、次の世代に自分の希望を、願いを託せて逝けた、晴れやかな顔であった。








ブリッジ

「そんな……」

悲しみにくれる暇もなく、新たなる問題が発生する。

「システムに障害発生!GNフィールド、展開不能!!」

「クソ!!」

リヒテンダールが悔しそうに舵を握る中、スメラギはあることを決意する。

「強襲用コンテナへ行くわ!迎撃しないと!」

スメラギは自らが攻撃を担当するためにブリッジから強襲用コンテナへと急ぐ。

「イアンに連絡を!」

「了解!」

こうして、スメラギ、イアンが強襲用コンテナで迎撃を行うことになった。
それが、運命の別れ道になることも知らずに。









プトレマイオス周辺宙域

「よくもプトレマイオスを!!」

ティエリアは怒りにまかせて切り札を切ってしまった。

「TRANS-AM!!」

赤く発光し、圧倒的な機動力でジンクスたちを屠っていくナドレ。

「なんだぁ!?こいつは!?」

パトリックはその性能に驚いたわけではない。
ナドレから、いや、ティエリアから放たれている気迫を無意識に恐怖したのだ。
パトリックは残った一機とともにナドレへとビームライフルを連射するが当たらない。

「ナドレ!!目標を…」

ティエリアが勝利を確信した時だった。
警戒していなかった方向から件の砲撃がこちらに向かってくる。

「なに!?」

紙一重でかわしたものの、左脚、そしてビームサーベルを落としてしまう。

「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

激しい衝撃がティエリアを襲う。
ナドレのTRANS-AMも終了してしまい、機能が低下する。
そして、それを待っていたようにパトリック達がナドレへと集中攻撃をかける。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「こいつはラッキー!!」

ビームライフルの弾が着弾するたびに、ナドレの薄い装甲が次々に削り取られていく。
そして、遂に右腕を残して両脚と左肩から先がなくなってしまう。

「まだだ……まだ死ねるか……!!」

アラームが鳴り響き電子機器がスパークするコックピットの中で、それでもティエリアは諦めない。

「計画のためにも……そして……!!」

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!」

「ロックオンのためにも!!!!」

とどめとばかりに接近してジンクス二機が放った弾丸は一発は外れ、一発はナドレの頭部をとらえ爆散せしめる。
だが、その前にはなったナドレのたった二発の閃光は的確に二機のジンクスを捕えていた。

「へ……?」

上半身が破壊されたジンクスの中でパトリックは間抜けな声とともに激しい光に包まれた。

ティエリアはジンクス二機が沈黙したのを確認すると全身から力が抜けていくのを感じた。









「下手こきやがっておセンチ野郎が!!」

愛機を手ひどくやられた怒りをやられたティエリアへと矛先を変えて罵るハレルヤ。
右脚と右腕を失ったキュリオスで細かく不完全な変形を繰り返しながらそれでもセルゲイ達の駆るジンクスたちを攻めたてる。
その時、キュリオスの背後から二本のビームが飛んでくる。

「クッ!!まだ生きていたのか!!」

セルゲイは怒りをあらわにする。
こいつらがユーノを惑わせた。
あんなに戦うことを、戦争を嫌っていた少年を戦いの道に引きずり込んだ。
そんな怒りでセルゲイの頭の中がいっぱいになる。
父としての感情を捨てたつもりが、奇しくもプトレマイオスを見てしまったためにその感情が再び蘇る。

「中佐!自分が行きます!!」

「ミン中尉!?」

セルゲイが止める暇もなくミンはプトレマイオスへと向かっていった。

「ミン中尉!」

それに気付いたピーリスは自分が止めようとする。
しかし、

「よそ見してんじゃねぇよクソ女!!」

「チィ!!」

キュリオスがシールドクロウだけでしぶとく抵抗してくる。
二人はキュリオスに阻まれ、ただミンの無事を祈ることしかできなかった。







プトレマイオス ブリッジ

常に変わりゆく戦況を確認し、データとしてまとめていることに従事していたクリスティナはフェルトのほうを見る。
必死に自分にできることをこなす彼女は健気で、そして強い心を持った女の子だということがその姿からありありと伝わってくる。

(………だったら、私は私がしてあげられることをしてあげなくちゃ。)

その姿を見て決心がついた。

「フェルト!」

「はい!」

「デュナメスの太陽炉に不具合があるわ。接続状況に問題があるみたい。」

「あ……そんなデータ……」

「急いで!!このままじゃやられる!!」

「了解!」

フェルトは雷に打たれたように席から飛びあがると急いで確認に向かった。
フェルトが出ていったところでリヒテンダールが喋り出す。

「今の、嘘でしょ。」

「わかる?」

「そりゃあね。」

本当は不具合なんてどこにもない。
ただ、フェルトをより安全な場所に行かせたいがために言った嘘だ。

(ごめんねフェルト。でも、これが終わったら。みんなで生き残ったら、ちゃんと謝るから、生きて!)

その時、電子音とともにソナーに反応がひとつ現れる。

「一機こっちに向かってくる。」

「生きのびますよ!」

「わかってる!フェルトにもう叱られたくないもの」

こちらに向かってくるジンクスにミサイルが発射される。
多少ホーミング性能があるため一発は当たるが決定打にはならない。
左腕を失ってなおこちらに向かってくる。
そして、その途中で軌道を変え下に回り込む。
どうやら、敵はこちらの攻撃の死角に回り込むつもりのようだ。
スメラギ達も気づいたのかコンテナを切り離し、迎撃を試みる。
しかし、一足早くジンクスがブリッジの正面へと到達する。

「「!!!!」」

四つの紫の目があやしく光り、銃口をこちらに向ける。

「クリス!!!!」

リヒテンダールは舵から手を離し、素早くクリスティナのもとまで寄ると彼女をかばうように銃口に背を向け抱きしめる。
その瞬間、敵が放った赤い光がプトレマイオスに突き刺さった。






強襲用コンテナ

「クリス!!リヒティ!!」

スメラギの悲痛な叫びがこだまする。

「このぉ!!」

イアンは引き金を幾度も引いて砲撃を放つ。
そして、避けきれなくなったジンクスは下半身を消し飛ばされ、力なくあたりを漂った。







ジンクス コックピット

(う……あ……)

ミンはかろうじて生きていた。
キュリオスに弄ばれている時のように全身に痛みがはしる。
そして、途方もない痛みからある幻覚を見る。

(盾……持ち……?ユーノ君……か…?)

鮮やかな萌黄色をした機体が再び自分をかばうように立っている。
だが、その姿は儚く消えてしまう。

(ハハハ……当然……か………。彼の…仲間の命を………奪ったのだから……)

ミンは生きてきて彼ほどやさしさに満ちた人間に出会ったことがない。
そんな彼だからこそ、優しすぎるがゆえに自分を許しはしないだろう。
彼から仲間を奪った自分を恨み続けるだろう。
だが、

(だが………それでも……普通に生きて………欲しかった………笑って……欲しかった………)

目をつぶるとその光景がまぶたの裏に浮かんでくる。
生まれたばかりの娘を抱き上げて喜ぶ自分と妻。
そして、少し照れくさそうに遠巻きに笑うユーノを呼んで家族四人で写真を撮っている。
ユーノに娘を手渡す。
赤ん坊の意外なほどの重さに驚く彼を今度は自分たちが笑う。
そんな幸せな生活をこれから送っていく。
送っていくはずだったのに……

「なんで………世界はこんなはずじゃなかったことばかりなんだ……!!」

ミンの閉じられた瞳から涙がとめどなくこぼれてきていた。

………この経験が後にミンをエースパイロットへと押し上げることとなる。
だが、この時のミンはただ己の行いを悔い続けるのだった。








ブリッジ

(あ…れ………?)

クリスティナは自分を抱いている温かい何かの感触で目覚めた。
背中に鈍い痛みがあるが、それよりも自分を抱いているものの正体が知りたい。
気絶する前の記憶を脳から必死に引き出す。

(確か……敵がすぐ前に来て………それから攻撃されて…その時に……)

そこでようやく思い出す。
リヒテンダールが自分をかばったことを。

「リヒティ……?」

上手く呼吸ができずにかすれた声でクリスティナはリヒテンダールの名前を呼ぶ。
外層が吹っ飛ばされ、宇宙空間にいるのも同然の場所で、少しずつリヒテンダールの腕を離していく。
すると、

「!!」

クリスティナは言葉を失った。
リヒテンダールの体が、いや、皮膚だけがめくれたようになくなり、そのなくなった所から人間の体ではありえない、機械の骨格がむき出しになっている。
傷口から出ている血も紫っぽい赤だ。

「だいじょぶっスよ……」

リヒテンダールが苦しそうに、それでも笑いながら言葉を紡ぐ。

「親と一緒に…巻き込まれて……体の、半分が…こんな感じ……生きているのか…死んでいるのか……」

「リヒティ……」

クリスティナはフッと笑うと優しくリヒテンダールを自分のもとに抱きよせる。

「馬鹿ねぇ…あたし……すぐ近くに、こんな良い男いるじゃない……!」

クリスティナは笑いながら涙をこぼす。
リヒテンダールの優しさに触れ、ようやく自分が探していた、自分を大切にしてくれるパートナーに巡り会えたのだ。
リヒテンダールは意外そうな顔をした後、小さく微笑む。

「ホントっスよ……」

ようやく気付いたかといった言葉を受け、クリスティナも笑う。

「見る目ないね……あたし……」

「ホン………ト……………」

「リヒティ……?」

目を閉じたリヒテンダールにクリスティナはよびかける。
だが、彼が逝ったことを理解すると彼をきつく抱き締める。

『……ヒティ!……応答して…!……クリス……!』

ノイズがひどい通信が入る。
いつもはよくとおるスメラギの声がひどく遠いものに感じる。

「スメラギさん……?」

『……リス!?無事…だ…のね!リヒティ……』

クリスティナは静かに首を振る。
スメラギ達にそれが見えるはずがないのだが、通信が聞こえないことが彼らに自分の言わんとすることが伝わった証であると理解する。

「フェルト……いる…?」

『います!』

ノイズが混じっていてもはっきりと聞こえるような強い声。
それを聞けてクリスティナの気が緩む。

「もうちょっと……オシャレに……気を使ってね……」

『そん……こと……!』

それまでこらえてきた背中の痛みが全身に伝播していく。
もう自分も長くない。
だが、それでもこれだけは伝えたい。
託したい。
この願いだけは。

「ロックオンの分まで……生きてね………ウッ!!」

口から血が出てくる。
それでも、クリスティナは話すのをやめない。

「お願い………世界を変えて……!お願い………!」

クリスティナが言い終わるか終わらないうちに通信は切れていた。
だが、確かに託せたはずだ。
自分たちの願いを。

そんな、クリスティナの前に懐かしい人物が現れる。

(エレ……ナ…?)

目の前に現れたエレナは自分たちを見て泣いている。
声は聞こえないがしゃくりあげている声が聞こえてくるようだ。

(そんなに泣かないでよ……いいことだってあったんだから……。私ね、彼氏ができたんだよ……どうしようもなく馬鹿で、頼りなくて………でも、すっごく優しい人……)

エレナは必死で涙を拭い笑っている。
どうやら、自分たちのことを祝福してくれているようだ。

(先に彼氏作っちゃって………ごめんね……でも、エレナはもう少し………待ってあげて……ユーノは……まだ、死んじゃいけないから………)

エレナが頬を膨らませて笑う。
それを見ていたクリスティナもつられて笑う。

(フフ………でも、ユーノは……強敵だよ……?もう、好きな人が………いるんだから……でも、私は……エレナを…応援するよ………。もっとオシャレして……お化粧して………)

クリスティナの視界が徐々にぼやけていく。
そして、完全に周りが見えなくなった時、青白い火花が散った後、爆炎が周囲を包み込んだ。








コンテナ

「クリス!!!」

「リヒティ!!!」

「っ………!……っ……!」

スメラギとイアンが叫ぶ。
フェルトは涙を流しながら金魚のように口をパクパクさせていたが、こらえきれなくなったように大きく息を吸い込む。
そして、

「クリスティナ・シエラーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

彼女の叫びが、音が伝わるはずのない宇宙にこだました。











願ったのは同じ未来………
違えてしまったのは、進む道
ならば、その願いを抱き続けるのは罪か?








あとがき・・・・・・・・・・・・という名の残り1

ロ「最終決戦突入編でした。」

ク「今回で私たちはサヨナラかぁ。」

ム「なんか寂しいっスねぇ。」

医者「まあ、仕方なかろう。これからは草場のかげで…」

ロ「ああ、お前らもsecondに出るよ。」

ク「……………………………………………」

ム「……………………………………………」

医者「………………………………………………」

ロ「……………………………………………」

「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」

ロ「うっさいお前ら!!いちいちそれくらいのことででかい声出すな!!」

ム「いや、だって俺ら今回で完全に…」

ロ「いろいろ忘れた君は第30話を読んでみよう!」

ク「それってつまり……」

ロ「そういうことだ。」

医者「いいのかそれで?」

ロ「………まあ、ネタに詰まったらお前らの出番が増えると思っといてくれ。」

ク「なんか素直に喜べない。」

ム「まあまあ、いいじゃないっスか。ただでさえ俺ら出番が少ないのに。特にモレノ先生なんて原作じゃ終わりらへんに少し出てきてすぐにフェードアウトっすもんね。」

医者「………………………………………………」

ク「モレノ先生落ち込んじゃったじゃない!!」

医者「いや、いいんだ………事実だし……」

ク「モレノ先生はすごい人ですよ!?PやFやIじゃ大活躍ですし!!」

ロ「FとIじゃチョイ役だろ。」

ク「これ以上へこませるな!!」

医者「………………………………………………………………………………(泣)」

ム「モ、モレノ先生がこれ以上へこまないように次回予告に行きます!!」

ロ「トレミーを失い、それぞれの信念のもとに戦い続けるマイスター達だったが、とうとう刹那とユーノを残すのみとなってしまう!」

ク「おのれの野望のために多くの犠牲を強いたアレハンドロ・コーナー!」

ム「はたして彼と、刹那とユーノの戦いの結末とは!?」

医者「そして、二人の導きだす世界への答えとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 32.GUNDAM
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 11:57
戦闘宙域 アルヴァトーレ周辺

黒一色の空間に金色の骸骨から巨大な赤い閃光が奔る。
瑠璃色の粒子を放出するものはそれをかわし、お返しとばかりにピンクの閃光を放つ。
しかし、骸骨はそれを避けるのも煩わしいとでも言いたげに赤い膜を張って事も無げに防ぎきる。

「攻撃が効かない!!」

「いくらなんでも無茶苦茶だ!!」

刹那とユーノは焦る気持ちを抑えながら目の前の敵に集中する。
先ほどからプトレマイオスとの通信が切れ、アレルヤとティエリアからの通信もない。
間違いなく、何かあったと考えるべきだ。
そして、どれほどクレバーになろうと努めても、その事実が四人から冷静な判断力を奪っていった。

「GNフィールドに防がれるなら、懐に飛び込んで直接攻撃だ!!」

ラッセはGNフィールドを張って敵にぶつかっていく。
瑠璃色と赤の力場が互いに反発し合い、激しい光を生じさせる。
だが、その均衡が崩れ始める。
強襲用コンテナの先端が徐々にアルヴァトーレのGNフィールドの中に入り込んでいく。

「よし!!」

これでダメージを与えられる。
ラッセがそう確信した時だった。

「!!駄目だラッセ!!さがれ!!」

「!!?」

967が叫んだときにはもう遅かった。
アルヴァトーレの側部にあった装甲が開いたかと思うと、それが一回転して巨大なアームに変形する。

「なに!?」

刹那が驚いている間にアームは強襲用コンテナの先端を掴みギリギリと絞めあげていく。
その力に耐えきれなくなった部分がひしゃげながら火花を散らしていく。

「刹那!!ラッセ!!」

967は自身の操る強襲用コンテナをアルヴァトーレへと食い込ませようとする。
しかし、接近した瞬間に骸骨の目の部分に当たる二つの銃口が火を吹く。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「くぅぅぅぅぅぅ!!!」

GNフィールドを張っていたため致命傷にはならなかったが、攻撃が当たった後部からは煙が噴き出している。

『ふっはっはっははは!!』

「「「「!?」」」」

四人は突如聞こえてきた笑い声に戸惑う。

『忌々しいイオリア・シュヘンベルグの亡霊どもめ!この私、アレハンドロ・コーナーが貴様らを新世界の手向けにしてやろう!!』

「冗談!!」

ラッセはアレハンドロの言葉に青筋を浮かべながら掴んでいるアームに狙いを定めてビームガンの引き金を引く。
しかし、アルヴァトーレの強固な装甲はそれをあっさり弾くと、さらに力をくわえて強襲用コンテナを捻じり上げる。

「クッ!刹那!」

ラッセと刹那は強襲用コンテナからの脱出を図る。

「させんよ!!」

アレハンドロはドクロの口から砲門を出現させてチャージを開始する。

「それはこちらのセリフだ!!」

しかし、その気配を察知した967が火花を吹き始める強襲用コンテナからソリッドとGNアームズを出した後、カラになった強襲用コンテナをアルヴァトーレへとぶつける。

「ぬぅ!!」

傷こそ負わなかったものの、爆発の衝撃で機体が揺らされ、発射の機会を逃してしまう。
その隙にラッセと刹那は無事にコンテナから脱出する。
その直後、強襲用コンテナが真っ二つに引き裂かれる。

「刹那、無事かい!?」

「ああ!行くぞ、ユーノ!!」

「うん!!」

二人は自分の愛機の武器を構える。

「エクシア!刹那・F・セイエイ!」

「ソリッド!ユーノ・スクライア!」

二人はアルヴァトーレを睨み、切っ先を向ける。

「「目標を……」」

そして、満を持して突進を開始した。

「駆逐する!!」

「粉砕する!!」








魔導戦士ガンダム00 the guardian 32.GUNDAM

向かってくる二機に対してアルヴァトーレは側面に装備された銃口から無数の光弾を放つ。
その弾幕に阻まれ、二機は後退を余儀なくされる。

「クッ!」

「この!」

『二人とも、コンテナを狙え!!上手くいけば腕くらいは吹っ飛ばせる!!』

「「了解!!」」

二機のガンダムとGNアームズの射撃を受けたコンテナは、文字通り蜂の巣のように無数の穴を穿たれたのち、青い稲妻とともに爆発する。

「やったか!?」

「いや!」

煙の中から現れた腕は傷一つついていない。

「無傷!?」

動揺する四人の姿が見えているかのようにアレハンドロは不敵に笑う。

「フッフッフッ……その程度でアルヴァトーレに対抗しようなど、片腹痛いわ!!」








プトレマイオス周辺 強襲用コンテナ

「フェルト、マイスター達の状況を教えて。」

スメラギは体の震えを必死に抑え込みながらフェルトに尋ねる。
フェルトも震える指で携帯端末のキーボードを叩きながら情報を集めていく。

「ナドレは大破……ティエリアからの応答……なし。」

「なんだと!?」

フェルトは自分の役割を果たそうとする。
涙があふれ、目の前の光景が歪んでいってもなお、オペレーターとしてあり続ける。

「キュリオス、機体損傷、大。敵MSと交戦中。」

フェルトの声を聞きながらスメラギは自分を責めていた。
自分の立案したプランで仲間が傷ついていく。
あの時と同じ、彼を失ったときと何も変わらない。
あの事件の後、自分は戦いを拒絶していた。
テレビに戦闘の映像が流れるだけで吐いたこともあった。
それでも何かが変えられると思い、ソレスタルビーイングに入った。
なのに、何も変わらない。

だが、それでもスメラギは信じることだけはやめなかった。

(みんな………)

きっと無事でいる。
そう信じ続けることが、今の自分の義務だとスメラギは感じていた。









衛星群

セルゲイとピーリスは見失ったキュリオスを探していた。

「羽根付きは衛星のどこかに隠れている。あの機体状況では遠くには逃げられまい。」

セルゲイの読みは当たっていた。









衛星にぴったりと張り付くようにキュリオスは体を隠していた。
なくなった手足の切れ目からは火花が散っている。

「しくじったぜ……ったく!」

ヘルメットのバイザーを外してハレルヤは悪態をつく。
今のままでは間違いなく死を待つだけだろう。
宇宙を漂っていたあの時と同じように。

(くそったれが!!)

生き残る方法がないわけではないが、アレルヤが了承するとは考えがたい。
自分ひとりで何とかするしかない。
たとえどんな状況にあっても生き残ることをあきらめない。
どれほど人が死のうと構わない。
殺して殺して、自分を脅かすものを完膚なきまでに、残酷なまでに排除する。
周りから見れば最低最悪の人間だ。

しかし、考えようによってはハレルヤはただ純粋なだけなのかもしれない。
純粋なまでに死を恐れ、純粋に生き残ろうとする。
生物としてのあるべき姿。
その本能につき従っているのだ。

「死んでたまるか……!!俺は死なない!連中を皆殺して生き残って見せる!!」

(ハレルヤ……)

ハレルヤにアレルヤが語りかけてくる。
ハレルヤは怒りで顔をしかめる。

「引っ込んでろアレルヤ。生死の境で何もできないテメェに用はねぇ。俺は生きる!他人の生き血をすすってでもな!!」

(僕も生きる。)

「なに?」

予想外の答えにハレルヤは驚く。

(僕はまだ世界の答えを聞いていない。この戦いの意味すら……だから、僕は死ねない!!)

今までにないほど強い意志のこもった言葉。
ハレルヤに背中を押されて出てきたものではない、アレルヤ自身が言った生きるという言葉。
互いに動機は違えど、初めて意見が一致した。

「……ハッ!ようやくその気になりやがったか。」

ハレルヤはヘルメットを外す。

「ならあの女に見せつけてやろうぜ……」

ハレルヤはゆっくり前髪をかきあげる。
その瞬間、今まで別れていた二人がひとつとなる。
金色とグレーのオッドアイがあらわになり、鋭い笑みが浮かぶ。

「本物の超兵ってやつをな!!」

近づいてきていた二機の反応を捕えた二人は衛星のかげから飛び出し、猛スピードで二機へと向かう。

「出たか!!」

セルゲイとピーリスは射撃を開始する。
そのうちの一発がまっすぐにキュリオスに迫っていく。

「直撃コース。」

「避けてみせろよ!!」

間違いなく当たると思われたが、キュリオスはギリギリのところでそれをかわし、スピードを落とさずに向かっていく。
ピーリスはその動きを見て違和感を覚える。
通常のヒットアンドアウェイを信条とするものとも、あの荒々しく攻撃的なものとも違う。
強いて言うならまるでその二つが一緒になったような動き。

「軸線を合わせて。」

「足と!」

「同時攻撃を!」

キュリオスはピーリスのジンクスを蹴りつけると同時にシールドクロウをセルゲイのジンクスに向けて伸ばし、ピーリスのジンクスに叩きつけた。
シールドクロウから解放されたセルゲイはビームライフルをキュリオスへと放つが、アレルヤとハレルヤはキュリオスを変形させその攻撃をかわす。

「動きが違う!!」

「あの機体でどうして!?」

二人は驚愕すると同時に畏怖を感じる。
まるで、手負いの獣が猟師の喉笛を噛みちぎり、生き残ろうとするような異様な気迫がある。

「今までのようにはいかねぇ!!!」

「そうだろ、ハレルヤ!!!」







アルヴァトーレ周辺

アルヴァトーレの掃射の一つがエクシアのシールドを粉砕する。
そして、無防備な所へ追撃が迫るがソリッドが前に立ちはだかり、GNフィールドで防ぐ。
その隙に二機のGNアームズが砲撃を撃ちこむが、ことごとく阻まれる。
アルヴァトーレは後ろのしっぽのような部分を持ち上げると6機の金色に輝く小さな砲台を放ち、ガンダムとGNアームズを翻弄する。

「あの武器はスローネと同じ!?」

「じゃあ、奴が!!」

刹那とユーノの心の中に怒りが渦巻いていく。
二人は感情に流されそうになるが、ぐっとこらえて六つのファングを攻撃していく。

『刹那、ユーノ、ドッキングだ!!』

「「了解!!」」

二機に迫るファングを砲撃で牽制しつつ、エクシアとソリッドはそれぞれのGNアームズとドッキングする。
戦闘力は飛躍的に上がっているのだが、アレハンドロは一笑にふす。

「GNアーマーなど……ファング!」

「フィールド展開!!」

二機のGNアーマーはGNフィールドを展開してファングの攻撃を防ぐ。

「狙い撃つ!」

刹那はロックオンの口癖とともにソードライフルを放ち、見事に一機撃墜する。

「ビット!!」

ユーノは小型のマルチビットを放ち一機ずつ集中攻撃をかけて破壊していく。
そして、最後の一機になったところで刹那とユーノはGNキャノンとバスタービットをその残り一機に向ける。

「「いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

光の奔流はファングを飲み込みそのままアルヴァトーレへと向かっていく。
しかし、アルヴァトーレはそれをあっさり防いで見せると続いて自分の砲門を二機へ向ける。
刹那とユーノは急速上昇でそれをかわすが、閃光が後ろの衛星群に至った瞬間に無数の火球と猛烈な光が発生したことからその威力の大きさを改めて思い知らされる。

「よくぞ避けた……しかし!!」

アレハンドロは狂気に身を染め、無数の光弾をGNアーマーへ向けて発射する。
二機はその弾幕をかわしながら徐々に距離を詰める。

「突っ込むぞ!!」

「了解!!」

「馬鹿の一つ覚えとは!!」

向かってくる二機へとアルヴァトーレのアームが伸びる。
そして、typeEの脚部を捕えるとアレハンドロはにやりと笑う。
だが、

「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

右手に装備された大型ソードをアームへと叩きつけた。
刃はなめらかに進んでいき、アームをバターのようにスッパリと斬り落とした。

「なに!?」

このとき、初めてアレハンドロに動揺がはしる。

「こっちを忘れてもらっちゃ困るよ!!」

typeSもブレードを駆使してもう片方のアームを斬りおとす。
そして、いつの間にか戻っていたビットたちのビーム発射口とtypeEのGNキャノンに光がたまっている。

「くたばれぇ!!」

一気に放出されたそれをアルヴァトーレは至近距離でまともに受けるが、その間に側面の銃口から放った光弾の一発がtypeEのGNキャノンの一門を破壊する。

「ぐぁっ!!まだだ……!!もう一撃ィ!!」

いまだ健在のアルヴァトーレに突進しながらラッセはもう一撃ユーノが切断したアームの切り口に叩きこむ。
爆発が起き、アルヴァトーレは態勢を崩すがそれでも射撃をやめない。
typeEは遂にそのうちの一発をまともに背中に受けてしまった。

「刹那!ラッセ!!」

「よくも!!」

ユーノと967はもう一度ブレードを叩きこもうと接近する。
しかし、ドクロ口の砲門がtypeSへと向き、砲撃を発射する。

「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ブレードをかすめた程度では済んだが、さらにそこへ光弾の雨が降り注ぐ。
ソリッドは素早く分離してかわすものの、残されたGNアームズは爆散してしまう。
一方、typeEも火花を散らし、いつ爆発してもおかしくない状況に陥っていた。

「刹那……俺たちの……存在を…………!!」

「ラッセ!!貴様ァァァァァァ!!!」

刹那は怒りにまかせアルヴァトーレへと突っ込んでいく。
何度も被弾し、ボロボロになるが止まらない。

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹那の一撃はGNフィールドを突き抜け、アルヴァトーレに突き刺さった。
その衝撃でソードが折れてしまったが、刹那はすぐにその場から離脱する。

「ぬお!!?」

大型ソードが刺さった場所がよかったのかアルヴァトーレが小爆発を起こし、GNフィールドが消え去る。

「うおおおおおおおおおお!!!!」

「あああああああああああ!!!!」

爆発の煙の向こうから刃を構えたエクシアとソリッドが飛び出してくる。

「なにぃ!!?」

「「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」

二人は刃をアルヴァトーレの上部に突き刺し、そのまま刹那は右へ、ユーノは左へと振るう。
赤い線を刻まれたアルヴァトーレは激しい爆炎に包まれていく。

「馬鹿な!たかがガンダム二機に私のアルヴァトーレが……!!」

二人は爆発に巻き込まれぬようその場から離れる。
そして、巨大な花火のように赤い光を撒き散らしながらアルヴァトーレは宇宙に散った。








衛星群

セルゲイは残ったジンクスの左腕に残されたビームライフルをひたすら連射する。
しかし、キュリオスはそれをかいくぐりセルゲイのジンクスに残っていた左腕をはぎ取る。

「ぬおおおお!!」

「中佐!!」

ピーリスはビームライフルを発射するが、やはり当たらない。
キュリオスは衛星のかげに隠れるように姿を消す。
ピーリスはその衛星にライフルを撃ちこみ四散させるが、そこにキュリオスの姿はない。
だが、

「!!!!」

脳量子波でキュリオスの存在を感じ取り、背後から迫っていたビームサーベルを受け止める。

「なぜだ……!!」

なぜ自分が押されている。
なぜボロボロの相手にこれほどまで苦戦する。
自分は、

「私は完璧な超兵のはずだ!!」

『わかってねぇなぁ……女。』

「なに!?」

呆れたように鼻で笑うハレルヤにピーリスは思わず怒鳴る。

『おめぇは完璧な超兵なんかじゃねぇ!!脳量子波で得た超反射能力……』

(そうだ!!だから私は…)

『だがテメェはその速度域に思考が追いついてねぇんだよ!!』

「!!!」

ハレルヤに言われてハッとする。
確かに思い当たる節はある。

『動物みてぇに、本能で動いてるだけだ!!』

「そんなこと!!」

そんなことない。
そう思おうとすればするほど疑惑の中に引きずり込まれていく。
そんな思考を断ち切るように頭部のバルカンを発射するが、キュリオスの姿が消える。

『だから動きも読まれる。』

「!!」

すぐ上の衛星にキュリオスが一本の脚だけで横向きに立ち、ジンクスを見下ろす。

「反射と思考の融合……それこそが………超兵のあるべき姿だ!!」

キュリオスのジェネレーターが輝き、TRANS-AMが発動する。
圧縮粒子がなくなった右手と右足から漏れ出す。

「あの輝きは!!」

「例のやつか!!」

「このぉ!!」

「少尉!!」

セルゲイは飛び出していくピーリスを止めようとするが、ピーリスは止まらない。

「おおおおおおおおおおお!!!!!!」

ピーリスはめちゃくちゃにライフルを乱射する。

(私は超兵!!任務の遂行こそが私の存在意義!!)

『少尉、これが我々の守るべきものだ。』

(!!)

国境地帯でのセルゲイの言葉とあの日の光景が彼女の脳裏によみがえる。

(違う!!私は!!)

『兵器であるお前が感情を持つな。』

自分を道具扱いした超人機関の兵士の言葉も思い出す。
まったく異なる二つの見解。
それがピーリスをさらに迷わせる。

「私はぁぁぁぁぁ!!!!」

ピーリスが引き金を引こうとした時、キュリオスのシールドクロウが左腕を切断する。
そして、キュリオスは振り返りざまに左脚も切断する。

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「さよならだぁ!!女ぁ!!」

キュリオスはシールドクロウをコックピットへ向けてつきだす。
しかし、

「少尉!!」

セルゲイがピーリスのジンクスを押しのけ、かわりに自分がシールドクロウを受けてしまう。

「ぐあああぁぁぁぁ!!」

コックピットの内部が小爆発を起こす。

「中佐!!」

『グッ……!いまだ、ピーリス!』

「ッッッ!!うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ピーリスはセルゲイのジンクスを掴んでいたシールドクロウを装備したキュリオスの左腕を、続いて胸部にビームライフルの弾を撃ち込む。

「ウオッ!!グアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

キュリオスのコックピットで爆発が起こる。
その衝撃ではがれた破片がハレルヤの顔を、金色の右目の上を切り裂いた。




(初めて名前で呼ばれた………)

ピーリスはその事実に呆けていたが、すぐに自分の名を呼んでくれた人物が危険な状況にあることを思い出す。

「中佐!中佐!!」

ピーリスはセルゲイのジンクスに近づくとコックピットから降り、手動で外からセルゲイのジンクスのコックピットを開けようとする。
しかし、シールドクロウを受けてパーツが歪んでしまったのか、少しだけしか開かない。
ピーリスはその狭い隙間に体を押し込むと、起き上がるようにしてその隙間を広げていく。
その姿を見ていたセルゲイは呆気にとられるが、すぐに叱りとばす。

「何をしている!!私にかまうな!!戦え少尉!!」

「できません!!」

「!!」

「中佐がいなくなれば……私は独りになってしまう……」

「少尉……」

セルゲイはピーリスの顔をじっと見ていた。
悲しそうな、寂しさに震えているような、そんな表情をしていた。
それは、ピーリスがはじめてみせた少女らしい表情だった。








「う……ああぁ……」

アレルヤは傷ついた右の額を押さえながらジンクスのほうをモニターで確認する。
そこに映っているのは右目に傷跡のある男、そして、白いパイロットスーツに身を包んだ少女がいる。
おそらく、あれがセルゲイ・スミルノフとソーマ・ピーリスなのだろう。

(………?)

アレルヤは不可思議な既視感に襲われた。
彼女をどこかで見たことがある。
そう、人革連の研究施設で。

「!!」

自分が逃げ出す時に連れていってあげられなかった少女。
絶対に動くことのないはずの少女がそこにいた。

「マ……マリー……!?なぜ……!?なぜ君が………!?」










アルヴァトーレ周辺

刹那とユーノは損傷したGNアームズに近寄り、中にいるはずのラッセに必死で呼び掛けていた。

「ラッセ!!応答しろ!!ラッセ!!」

その時、後ろから赤い閃光が奔る。

「なに!?」

二人は信じられない光景を目にする。
破壊したはずのアルヴァトーレの上部の中から二つの銃を持った金色のMSが現れる。
ドクロの目から覗いていた銃口はそのMSの銃だった。
背中に二枚のウィングが開き、細いバイザーのようなカメラアイがこちらを見ている。

「あれは……!?」

「そんな……!!」

「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

金色のMS、アルヴァアロンは右手のビームライフルを捨てて、ビームサーベルを抜いてソリッドへと踊りかかる。
ユーノはアームドシールドで防ぐが、動揺までは消せない。

「流石はオリジナルの太陽炉を持つ機体だ!未熟なパイロットでここまで私を苦しめるとは!!」

「貴様か!!イオリアの計画を歪めたのは!!」

エクシアがアルヴァアロンに斬りかかるが、バックステップであっさりかわされる。

「計画どおりさ!!ただ主役が私になっただけのこと……主役はこの、アレハンドロ・コーナーだ!!」

アルヴァアロンはエクシアにライフルを発射し、ソリッドを蹴りとばす。

「一体何のために!!?」

エクシアとソリッドは攻撃を防ぎながらソードライフルとシールドバスターライフルを発射する。
アルヴァアロンは二つのウィングを前に少し動かすとそこからGNフィールドを発生させてエクシアとソリッドの射撃を防ぐ。

「破壊と再生だ!」

「なに!?」

「ソレスタルビーイングの武力介入により、世界は滅び、統一という再生が始まった!そして私はその世界を、私色に染め上げる!!」

アルヴァアロンの銃撃をかわしながらエクシアとソリッドは接敵を試みる。

「支配しようというのか!!」

「正しく導くと言った!!」

「自分の欲望を他者に押しつけることが正しいというのか!!」

「君のような何ともしれぬ存在に理解してもらおうとは思わんよ!!」

射撃を繰り返しながらアルヴァアロンはウィングの後ろの先端を二機に向ける。

「私の世界に君たちの居場所はない!」

ウィングの間にエネルギーがたまっていくことによって黒い稲妻が発生する。

「塵芥と成り果てろ!!ガンダム!!」

極大の光の嵐が二機へと向かっていった。

赤い光が消え去った後、そこには何一つ残ってはいなかった。

「フッ……フフフフフ………フッハッハッハッ!!残念だったなイオリア・シュヘンベルグ!世界を統合し、人類を新しい時代へ導くのは、この私………今を生きる人間だ!」

『………気が合うね。僕も同意見だ!!』

「!!!?」

コックピットの中にアラームが鳴り響き上から二筋の光弾がアルヴァアロンへ向かっていく。
アレハンドロはとっさにGNフィールドを発動してそれを防ぎ、飛んできた方向を見る。

「な、なに!?あれは!!」

そこには二つの閃光が美しい赤の軌跡を描きながら
こちらに向かってくる。
一方は鋭く動きながら。
もう一方は六つの翼を広げながら。

「イオリアのシステムか!?」

『見つけた……!』

「なに!?」

刹那の言葉にアレハンドロは過敏に反応する。
だが、刹那とユーノはそんなことなど構わずに突っ込んでいく。

「見つけたぞ世界の歪みを!!」

「お前がその元凶だ!!」

ユーノは魔法陣を展開し、アルヴァアロンの足元にチェーンバインドを発生させる。
アレハンドロはそれに気付いてその場から慌てて離れるが、その先にはエクシアが待ち構えていた。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「クッ!!」

アレハンドロは間一髪でかわすがアルヴァアロンの胸に浅い傷が刻みこまれる。

(負けない!!僕たちは………ソレスタルビーイングはお前なんかに、世界に悲しみを振りまく奴なんかに絶対負けない!!)

「!!!?声が!?」

刹那は突然の出来事に驚く。
頭の中にユーノの声が響いて来たのだ。









強襲用コンテナ

フェルトたちは悲しみに暮れていた。
キュリオスの反応もロストし、残っているのはエクシアとソリッドだけ。
しかし、その二機のサポートメカであるGNアームズの反応も消えている。

「刹那……ユーノ……!!」

もう二人も無事ではないかもしれない。
フェルトはそう思った瞬間、涙をあふれさせる。
そして、そう思っていたのはフェルトだけではない。
イアン、そしてスメラギも沈痛な面持ちでうつむいている。

その時だった。

(負けない!!僕たちは………ソレスタルビーイングはお前なんかに、世界に悲しみを振りまく奴なんかに負けない!!)

「!!?」

フェルトは突然の出来事に思わず立ち上がる。
イアンとスメラギは唐突に立ち上がったフェルトのほうを向いて驚く。

「どうしたの!?」

「今、ユーノの声が!!」

「何を言っとるんだ!?わしらには何も…」

(諦めるものか!!僕は生きる!!ロックオンとそう約束したんだ!!)

「ほら、また!!」

自分たちに聞こえない声を聞いているフェルトにイアンとスメラギは戸惑う。
ショックで混乱したのかとも思ったのだが、今のフェルトはいたって正常に見える。

(ユーノと刹那はまだ戦っている!生きるために!だったら私も!!)

フェルトは携帯端末を使って周りの状況を集めていく。

「スメラギさん、シャルさんたちと合流します。脱出ルートの割り出しは終わっています。」

「フェルト……」

「早く!!」

フェルトに一喝され年上の二人は操縦桿を握ってフェルトの割り出した脱出ルート
を進んでいく。

(ユーノ、私も生きる!生きて、ロックオンとの約束を守るよ!だから、負けないで!!)








ナドレ コックピット内

ティエリアは太陽炉をナドレから切り離して安堵していた。
自分の役割はすべて果たした。
これで、彼のもとへ行けると。

「……これで……あなたのもとへ……ロックオン………」

その時だった。
ティエリアの前にロックオンが現れる。

(迎えに来てくれたのか………)

ティエリアはロックオンに向かって手を伸ばす。
だが、ロックオンはいつもの飄々とした笑みを浮かべて静かに首を振る。

(なんで……?僕の役目はもう……)

『終わってなんざいねぇよ。アイツらがまだ戦っている。』

(アイツら……?)

(諦めるものか!!僕は生きる!!ロックオンとそう約束したんだ!!)

(!!!?)

信じがたいことにこの場にいるはずのないユーノの声が頭に響いてくる。

(これ…は……!?)

(本当に最後の瞬間が来るまであきらめない!!みんなもそう思って戦っているはずだ!!)

(!!!!)

なんでユーノの声が聞こえるのかはわからない。
だが、それは些末なことだ。
彼が言っていることの方が今はよほど重要だ。
本当の最後の瞬間。
今この時が本当にその瞬間なのか。
自分はまだ生きている。
体にも特に傷があるわけではない。
まだ、終わっていない。

『アイツはお前のことを信じてるみたいだぞ?そいつを裏切っていいのか?』

ロックオンの声にティエリアの体が動く。

「まだだ……!!彼が僕を信じているのなら……僕もその信頼にこたえる…!!」

ティエリアのその姿を見たロックオンは安心したように笑い、徐々に足元から消えていく。

『生きろよ、ティエリア……』

「ああ……心配をかけてしまってすまない。僕も本当の最後の瞬間が訪れるまで、絶対にあきらめない!!」

そこにいるのは先ほどまで諦めかけていた少年ではなく、ガンダムマイスター、ティエリア・アーデだった。








アルヴァトーレ残骸周辺

刹那は先ほどから頭の中に響くユーノの声に戸惑いながらもアルヴァアロンを攻め立てる。

「再生はすでに始まっている!!」

アルヴァアロンもビームライフルでエクシアとソリッドを狙うが、TRANS-AM状態の二機に当たるはずがない。

「まだ破壊を続けるかぁ!!」

「無論だ!!」

エクシアとソリッドのライフルから幾度も閃光が放たれる。
アルヴァアロンはGNフィールドを駆使してそれを防いでいくが、まったく二機のスピードについていけない。

「GNフィールド!!」

刹那は歯を食いしばる。
確かにGNフィールドは現在開発されている防御手段としては最高のものだろう。
だが、自分とユーノはそれぞれそれを打ち破る手段を持っている。
刹那はエクシアの持つGNソードを見てある日のことを思い出す。






『刹那、なぜエクシアに実体剣が装備されているかわかるか?』

かつてロックオンにそう問われた時、自分は何も答えることができなかった。
ロックオンはそんな自分を見てフッと笑う。

『GNフィールドに対抗するためだ。』

「!!」

それはつまり、

『計画の中には対ガンダム戦も入ってるのさ。もしものときはお前が切り札になる。任せたぜ、刹那。』





(わかっている、ロックオン!俺は戦うことしかできない破壊者!だから戦う!!争いを生み出すものを倒すために!!)

刹那はさらにペダルを踏み込んで加速する。

「この歪みを破壊する!!」

『刹那!!』

ユーノから通信が入る。

『回線をそのままにつないでおいて!!』

ユーノが何を言っているのかわからない。
だが、間違いなくユーノは何かをしようとしている。
ならば自分もそれを信じてすべてを託す。

「了解!!」

ユーノとの回線を開いたままで固定する。

「967!通信回線に割り込みを!!君を通してエクシアをサポートする!!」

「了解だ!!」

ソリッドの足元に魔法陣が出現すると同時にエクシアの足元にも魔法陣が出現する。
その瞬間、エクシアの動きがさらに軽やかになる。

「これは!?」

先ほどの会話を聞く限りはエクシアに何かをしたのだろう。
ユーノに支えられている。
ならば、その期待に応える。
エクシアはいったん大きくアルヴァアロンから離れ、旋回して勢いをつけてGNフィールドに二本のGNブレイドを突き立てる。
燃え立つように赤熱した刃はGNフィールドを突き破り、アルヴァアロンの両腕に刺さる。

「貴様ぁ!!」

アルヴァアロンは残った右腕でビームサーベルを振る。

「武力による戦争の根絶!!」

しかし、そのビームサーベルは振られる前に手ごと斬り落とされた。
刃が向かってきた方向を見てみると、GNフィールドに穴があき、そこを通してブレードモードのアームドシールドが入ってきていた。
そして、ソリッドの強烈な粒子にかき消されるようにGNフィールドが消滅する。

「それこそがソレスタルビーイング!!」

GN-EXCEEDをコントロールしながらユーノが叫ぶ。

「フィールドが!!?」

アレハンドロは驚き、恐怖するが、ソリッドの猛攻は止まらない。
すぐさまアームドシールドをバンカーモードに切り替えてアルヴァアロンに叩きつけて幾度もバンカーを炸裂させて打ち込んでいく。
腰から下の部分は砕け、残った装甲によってかろうじて繋がっている状態だ。

「俺とガンダムがそれをなす!!」

そして、最後の一撃でアルヴァアロンを上方へ打ち上げる。
そこにはエクシアと刹那が待ちうけていた。
構えていたビームサーベルを両肩につき立てる。
勢いを無理やり殺されたアルヴァアロンは腕の関節が反対方向に曲がり装甲がはがれた中からちぎれた配線が現れる。
エクシアは腰の後ろにあるGNダガーを抜いて両脚ヘ投擲する。
そして、後ろから迫っていたソリッドとともにアルヴァアロンへと突進していく。

「そうだ!僕が!!」

「俺たちが!!」

「「GUNDAMだ!!」」

美しい十字の軌道がアルヴァアロンのコックピット部分を捕えていた。
アルヴァアロンは上半身と下半身がパッカリと別れ、二つの爆炎とともに宇宙に散った。









輸送艦内部

「おやおや……最後の挨拶ぐらいはしてあげようと思っていたのに、せっかちな人だ………」

リボンズは輸送艦の中でアレハンドロが乗っていたアルヴァアロンの反応が消えたにもかかわらず薄く笑っている。

「まさかあの二人がここまでやってくれるとはね………。フフフ…僕が無理をしてヴェーダに働きかけた甲斐はあったということか。」

刹那は偶然戦場で見かけたことから。
ユーノは現れた時に観測された巨大なエネルギー反応に興味があったから。
そちらもただの気まぐれだったのだが、ここまで思い通りになってくれると嬉しくなってくる。

リボンズは輸送艦を帰港ルートに向けると、戦闘が行われていたであろう宙域の方を向く。

「さようなら、アレハンドロ・コーナー……あなたはいい道化でしたよ。」








アルヴァトーレ残骸周辺

TRANS-AMとGN-EXCEEDが終了し、エクシアとソリッドの機体性能がぐんと落ちる。
だが、二人の消耗はある意味二機よりも激しいものだった。
超高速での戦闘。
さらに、あれだけの攻撃にさらされる重圧感。
それは刹那とユーノの体力と精神力を奪うには十分なものだった。

「はぁ……はぁ……!!」

「はぁ……っ、刹那、無事?」

「ああ……」

荒く息をしながら互いの無事を確認し合う。

「ユーノ……お前の使ったあれは一体……?」

「それは……帰ったらゆっくり話すよ。さあ、戻ろう。」

エクシアとソリッドが帰頭しようとした時だった。
後ろからボロボロになったジンクスが一機近づいてきていた。
ユーノはすぐに気付いたが、刹那はそのことに気付いていないが。

「刹那!!!」

「え……?」

ユーノはソリッドの最後の力を振り絞りエクシアを押しのける。
そして次の瞬間、ソリッドのわき腹の部分にビームサーベルが深々と突き刺さった。

「うあああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!」

「ぐあああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!」

コックピットの中で爆発が起こり、ユーノのすぐそばにある赤い閃光がじりじりと体を蝕んでいく。
ユーノと967はたまらず絶叫する。

ジンクスはそのままソリッドを押して彼方へと向かっていく。
そこに残されたのはソリッドの左腕だけだ。

「あ……あ……!?」

刹那は何が起こったかわからず、風が通るようなかすれた声を出す。
しかし、すぐに事態の重大さを把握した。

「ユーノ!!!!!!」

エクシアをジンクスがソリッドを押していったほうへと向ける。
しかし、その方向から赤い閃光がこちらに猛スピードで接近してくる。

「!!まだいるのか!!?」

刹那はその姿を見て唖然とした。
黒い色に、細い手足。
オレンジのバイザーを真ん中で二つに割り、こちらの様子をうかがった後、再び一つに戻す。
その左肩からは赤い粒子が放出され、それを生み出している部分につながったケーブルの先を左手に持っている。

「フラッグ!!?疑似太陽炉を積んでいるのか!!?」

刹那の疑問に答えるように、その通りだといわんばかりの勢いで左手に握っていた柄の先からビームサーベルの刃をつくりだし、一振りする。

「会いたかった……会いたかったぞ!!ガンダム!!」

肩の装甲の間から赤い粒子を放出し、GNドライヴ搭載型フラッグ、カスタムフラッグⅡ、通称GNフラッグがエクシアへと突進する。
刹那は急いでGNソードの刃を起こし、GNフラッグのビームサーベルを受け止める。

「ビームサーベル!!?」

鍔迫り合いのさなか、接触回線で相手から通信が入る。

『ハワードとダリルの仇、このGNフラッグで討たせてもらうぞ!!』

「通信を!?」

刹那の目の前に相手のパイロットの顔が現れる。

「!!!!」

その顔を見た瞬間刹那は驚愕する。
その人物は、かつてアザディスタンであったユニオンの軍人。
自分が民間人ではないと見抜いた男だった。

「貴様は!!」

そして、その男、グラハム・エーカーも驚く。

『なんと!あの時の少年か!?』

グラハムは驚きはしたもののすぐに笑みを浮かべる。

「やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだ……そうだ……」

GNフラッグはエクシアを押し飛ばすとビームサーベルを大きく振り上げ、エクシアの左肩へと振り下ろす。

「戦う運命にあった!!」

「グァッ!!」

そのまま肩を斬りおとし、グラハムはビームサーベルを横に薙ぐ。
エクシアはGNソードで何とか防ぐが、通常のものよりも威力を高めてあるのかGNソードの中ほどまで刃が進む。

「ようやく理解した!!君の圧倒的な性能に、私は心奪われた!!この気持ち……まさしく愛だ!!」

「愛!?」

「だが愛が超越すれば、それは憎しみとなる!!行き過ぎた信仰が、内紛を誘発するように!!」

「それがわかっていながら!!なぜ戦う!!?」

刹那はエクシアを横に一回転させてビームサーベルを弾くと、回転の勢いのままにフラッグの右脚を斬りおとす。
刹那は怒りに燃えていた。
あの時、彼もまた自分と同じように人の死を、戦いの悲惨さを知ったはずだ。
なのに、それでも戦い続けようとしている。

「軍人に戦いの意味を問うとは!!ナンセンスだな!!」

GNフラッグはビームサーベルの切っ先をエクシアの顔の右側につき立てる。
ギリギリとこらえていたエクシアだったが、とうとう耐えられなくなり顔が後ろに吹き飛ぶ。
しかし、刹那はそれでも止まらない。

「貴様は歪んでいる!!」

GNソードを振るい、GNフラッグの顔を斬り飛ばす。

「そうしたのは君だ!!」

フラッグは顔を失ってもかまわずに右拳をエクシアの腹部に叩きこむ。

「グッ!!」

衝撃を受けて刹那の顔が歪む。

「ガンダムという存在だ!!」

GNフラッグは残った左脚でエクシアを蹴り飛ばす。
しかし、エクシアも負けずに後ろに飛ばされながらもソードライフルを連射する。
だが、その光弾はことごとくかわされる。
グラハムの体はGに耐えられず口から一筋の血が流れる。

「だから私は君を倒す!!世界などどうでもいい……己の意志で!!」

「貴様だって、世界の一部だろうに!!」

「ならばそれは、世界の声だ!!」

「違う!!貴様は自分のエゴを押し通しているだけだ!!貴様のその歪み、この俺が断ち斬る!!」

「よく言ったガンダムゥ!!!!」

二機は互いに刃の切っ先を向けて相手へと突進していく。
防御も何もない、純粋なまでの力のぶつかり合い。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

瑠璃色の切っ先と赤い切っ先がぶつかり合い、交錯した。
互いの刃は相手の体に深々と突き刺さり、その傷口から爆発が起こる。

「ハワード……ダリル……仇は…」

「ガ……ガンダム……」

二人はそれぞれ光につつみこまれる。



その時、宇宙の一角に、赤と瑠璃色がまじりあった光球が生まれ、すぐに散っていった。










「グゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

ユーノはジンクスに押し込まれながらもなんとか操縦桿を握りしめ、バンカー部分を静かにジンクスの胸に押し当てる。

「9……967……!!残存粒子をすべてバンカーに集中……!!」

「了…解……!!」

全身の粒子が抜けソリッドの体から力が抜けていく。
だが、それに比例するようにバンカーから放たれる光はどんどん増していく。
そして、

「GN…バンカー……バースト!!!」

ソリッドの最後の一撃がジンクスのコックピットを確実に押しつぶした。
その瞬間、ビームサーベルの刃はゆっくりと消えていき、ソリッドとジンクスは抱き合うように宇宙を漂っていた。



どれほどの時が経っただろうか。
それまで動くそぶりすら見えなかったソリッドの目に光が灯り、GNドライブが猛烈な輝きを放つ。
そして、その輝きが収まると、そこにはジンクスとソリッドの姿はなかった。












誓い永久に……だが、別れゆくのもまた運命……
そして、再会も……









あとがき・・・・・・・・・・・という名のカウントダウンしてたけどまだ終わりじゃないよ

ロ「最終決戦終了。そしてソレスタルビーイング敗北。でも、生き残る。」

ア「て言うか今回のあとがきのサブタイトルは?」

ロ「そのまんまの意味。だってユーノがあの後どうなったか書かれてないじゃん。」

兄「書けばいいだろ!!」

ロ「いや、それはさ、だってなんか先延ばししたくなるじゃん。あんまり字数多いとキツイし。」

ティ「しかし、これはまた先の展開がこれ以上ないくらいわかりやすいな。」

ロ「大体次回予告でばれるしね。」

刹「というかユーノはどこに行った?」

ロ「アイツには今回遠慮してもらった。」

ア「?なんで?」

ロ「だってこっから先しばらくお前らでないもん。」

ティ「なるほどな……」

ア「僕らはしばらくでないんだ~……」

兄「まあ、俺死んでるからあんまり関係ないけどな。」

ア「それもそうだね。」

「「「アッハッハッハッハッハ!!」」」

刹「………………………………………………………」

「「「……………………………………………………………」」」

ロ「………………………………………………………」

「「「えええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?!!?」」」

ロ「だってリリなのの奴らが出せ出せうるさいし、いろいろやりたいこともあるし。あ、でもロックオンはいろいろ出し方があるから出るかもね。」

兄「やりぃ!!」

ア「僕達は!?」

ティ「どうなるんだ!?」

ロ「大人しく新型の開発したり牢屋にぶち込まれてろ。」

ティ・ア「「ヒド!!」」

兄「はっはっはっは。まあ、大人しく出番を待て。」←出れる者の余裕

ティ「貴様ァァァぁぁぁぁ!!!」

ア「何様のつもりだァァァァァァ!!!」

ギャーギャーギャー!!

刹「………………………………」

ロ「お前は今回静かだな。」

刹「ツッコムのもつかれた。」

ロ「ツッコミがいないと世界がボケで飽和するって銀○のお○さんも言ってただろ。」

刹「ならお前が処理しろ。」

ロ「俺どっちかって言うとボケよりだから。」

刹「仕方ない。必殺『次回予告に行くとみんなまじめになる』を出すしかないか。」

ロ「お前もいい具合にキャラ崩壊起こしてきたな。」

刹「では、次回予告に行くからその辺にしておけ。」

ティ「クッ!!おぼえてろ!!」

兄「ハッハッハ!!負け犬の遠吠えだな!!」

ア「その代わりきみはsecondに行ったら出番少なくなるけどね。」

兄「なにをぉぉぉぉぉ!!!?俺の意志はアイツが継いでくれ…」

ロ「次回予告だって言ってんだろうがボケどもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!サテラ○トキャノンかツインバス○ーライフルか石破天○拳で消し飛ばされたいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「「「………………………………」」」

ロ「オホン………!では、刹那君どうぞ。」

刹「西暦2009年、高町なのはたちはとある任務である管理外世界に向かう。」

兄「なんてことのない同窓会のような任務。一人だけが欠けた同窓会。」

ア「しかし、その任務でイレギュラーが起こる。」

ティ「そして、彼女たちの前に奇跡が舞い降りた。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの…」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 33.帰還
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/10/17 12:02
私立聖祥大付属中学校

三人の少女は長い付き合いの友人二人に見送られ、屋上への道のりを歩んでいた。
三人の秘密を知っている数少ない友人だ。

「じゃ、行ってらっしゃいフェイト。授業のノート取っておくから。」

「ありがとう、アリサ。」

「ほんなら、すずかちゃん、また月曜日にな~。」

「気を付けてねはやてちゃん。」

「なのはも気をつけてね。」

「はぁ~い。」

なのは、フェイト、はやてはすずかとアリサに送り出されて人気のない屋上へと向かう。
その背中を見つめていたすずかだったが、不意に頭の片隅に何かを感じる。

「?どうしたの?」

アリサがそれに気付きすずかに問いかける。

「ううん………なんでもない。ただ……」

「ただ?」

「何かいいことがある。そんな気がする。」

「なにそれ。」

アリサはすずかのあいまいな答えに苦笑する。
その後、二人は授業を終えて帰路についた。
思いがけない知らせが届くことになることも知らずに……







魔導戦士ガンダム00 the guardian 33.帰還

戦闘宙域

「ユーノ!!ユーノ!!」

967は必死でユーノに呼びかけるが、目の前にいる相棒は動かない。
薄く眼を開けたまま虚空を見つめるだけだ。
ユーノはジンクスを仕留めたものの、もうすぐ自分に終わりが近いことを感じていた。
体の左半身、丸い傷痕の隣に焼けつくような痛みがある。
思わず乾いた笑いが漏れる。

(ハハハ……なんか、こんなの昔もあったな……)

こちらの世界に飛ばされることになったきっかけ。
なのはをかばって死の淵をさまよい、エレナに拾われて一命を取り留めた。
そして、今回も刹那をかばって自分が犠牲になった。
唯一つ違うのは、今回こそは助からないだろうという確信があるということ。

「ユーノ!!ユーノ!!」

967の呼びかけも遠い世界のものに思えてくる。

「……7、……め…ね……」

「なんだ!?何かしてほしいのか!?」

「9…67……ごめ……んね………」

それは相棒への謝罪であった。
それを聞いていた967は胸がつまるような思いだった。
データの塊にすぎない自分がこんなことを感じているのは奇妙なことなのかもしれない。
だが、それでも967は叫ぶ。

「しっかりしろ!!ロックオンとの約束を破るのか!!生きるのをやめるのか!!」

「そう………だ……ロックオンにも……謝ら…ないと……約束破って……ごめん…って……」

もはやユーノには967の言葉すらただ文章が読み上げられていることとなんら変わらなくなる。

「クソ……!!誰か!!誰かユーノを!!俺の相棒を助けてくれ!!!!」

その時だった。
ユーノの手元に置いてあったジュエルシードが輝きを放ち始める。
それは、かつてフェイトとなのはが暴走させてしまった時の光よりもさらに激しく、魔力もまた信じられないほど発生していたが、しかし、それは争いのさなかにあった時よりも暖かなものだった。

その光が消え去った時、ソリッドとジンクスはこの世界から消え去っていた。









第162観測指定世界

岩石だけがごろごろと広がる広大な世界。
その空をなのは、フェイト、はやての三人はバリアジャケットを展開して定置観測基地に向かっていた。
そして、その三人に昔馴染みであるエイミィから通信が入る。

『じゃ、改めて今回の任務の説明ね!そこの世界にある遺跡発掘先を二つ回って発見されたロストロギアを確保。最寄りの基地で詳しい場所を聞いてものを受け取って、アースラに戻って本局まで護送!』

説明を聞いたなのははのほほんとした顔でつぶやく。

「平和な任務ですね~。」

『ま、ものがロストロギアだから油断は禁物だけど、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃんの三人がそろってて、もう一か所にはシグナムとザフィーラがいるわけだから多少の天変地異ぐらいはなんとかしちゃいそうだけどね。』

エイミィがカラカラと笑う。
通信を終えたなのははふとあることをつぶやく。

「遺跡かぁ~。ユーノ君がいたらはしゃぎそうだね。」

「アッハハハハハ!!言えとるわそれ。」

はやてがおかしそうに笑うと彼女の肩に乗っていた彼女のユニゾンデバイス、リインフォースⅡが不思議そうに首をかしげる。

「はやてちゃ……じゃなくて。マイスターはやて達の会話にいつもその人の名前が出てきますけど、どんな人なんですか?話を聞けば聞くほどどんな人かわからなくなるんですけど?」





リインフォースが今までに聞いていた話

なのはの場合

「すっごく素敵な人!!」

フェイトの場合

「優しい人だよ。」

はやての場合

「からかい甲斐がある男の子www」

ヴィータの場合

「超ド級のニブチン。」

クロノの場合

「フェレットもどき。」

etc.






「一体どんな人なんですか?」

「………なんでやろ。今すっごいリインの頭の中を覗いてみたい。」

首をかしげる八神家の末っ子にはやてはツッコミとも純粋な興味とも取れない言葉をかける。

「ほら、二人ともそこまでにして。見えてきたよ。」

フェイトが言うように、地平線の果てから徐々に基地がその姿を現していた。








北部 定置観測基地

基地に到着した三人はバリアジャケットを解除しながら降りていく。

「さて、基地の方は……」

「遠路お疲れ様です!」

三人が到着すると同時に眼鏡をかけた少年とこれまた眼鏡をかけた長い髪の少女が二人で敬礼してくる。

「本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです!」

「シャリオ・フィニーノ通信士です!」

なのはとフェイトは敬礼を返すが、はやては手を振ってグリフィスに笑いかける。

「彼のこと知ってるの、はやて?」

「あ、二人はあったことあらへんか。」

はやては失念していたというようにポンと手を叩く。

「こちらグリフィス君。レティ提督の息子さんや。」

「「あー!」」

レティ・ロウラン
なのは達が昔何度も世話になった人物であり、フェイトとクロノの母親であるリンディの古い友人だ。
グリフィスの顔をよくよく見てみると確かに目元がよく似ている。

「母から御三方の話は伺っています。不世出の素晴らしい魔導士だと。」

「素晴らしい……ね。本当にそうだったらよかったのにね。」

「あの……何かお気に召さないことでも言ってしまいましたか?」

グリフィスは苦笑してつぶやくなのはの顔を見て申し訳なさそうに話しかける。

「ううん。なんでもないよ。」

「えと、フィニーノ通信士とは初めてだよね?」

フェイトは場の空気を変えようとシャリオに話しかける。

「はい!」

しかし、ここから彼女のマシンガントークが始まり、話を振ったフェイトは心底後悔することになる。

「皆さんのことはよーく知っています!本局次元航行部隊のエリート魔導士のフェイト・T・ハラオウン執務官!いくつもの事件を解決に導いた本局地上部隊の切り札八神はやて捜査官!武装隊のトップ航空戦技教導隊所属の不屈のエース、高町なのは二等空尉!陸海空の若手トップエースの皆さんにお会いできるなんて光栄です~~~~!!あ!リインフォースさんのことも聞いてますよ!優秀なデバイスだって!!」

「ありがとうございますー!」

「あ……あはははは……」

早口でまくしたてる彼女に三人ともたじたじである。
そこにグリフィスから助け船が入る。

「シャーリー、失礼だろう!」

「ハッ!!つ、つい……」

ようやくなのは達が困っていることに気付くとまくしたてるのをやめる。

「シャーリーって呼んでるんだ。仲良し?」

「いえ、子供のころから近所で……。腐れ縁というかなんというか……」

「む~~~~~!」

フェイトの質問に照れながら答えるグリフィスにシャーリーはふくれっ面でグリフィスの脛を何度も蹴飛ばすが、グリフィスは慣れているのか顔色一つ変えない。

「………すごいなぁ自分。」

「この程度で音を上げてたら“あれ”には耐えられませんよ……」

「フフフ……」

遠い目をするグリフィスを見てはやてが苦笑する中、なのはこらえきれなくなったように笑い出す。

「あの……」

「あ、ごめんね!二人を見てたらなんだかこっちが楽しくなってきちゃって。」

なのははシャーリーを見ながら優しく笑う。

「幼馴染の友達は貴重なんだから……大事にしてね。」

なのはの言葉を最後になのは達は説明を受けて現地へと、グリフィスとシャーリーは基地の中へと戻っていった。

基地の中に戻る道すがらシャーリーはグリフィスに尋ねる。

「ねぇ、なのはさんが最後に言ってた言葉の意味って何なんだろうね?」

「さぁ。今度機会があれば話してくれるだろう。さあ、僕らも仕事に戻ろう。」

二人は間もなく先ほどの言葉の意味を知ることになるのだが、この時それを知る由はなかった。









目標ポイント周辺

「あれって!?」

そこについた三人が目にしたのは最初に説明を受けていた平和な任務とはほど遠いものだった。
煙がもうもうと上がり、爆音が響いている。



「あ……あ……!!」

そこにいた発掘スタッフの二人は足がすくんで動くことができなくなってしまっていた。
大人ほどの大きさの楕円型の機械があちこちを破壊し、こちらにじりじり迫ってくる。
楕円型の機械は上の部分についているカメラアイと思われる部分でスタッフを、正確にはスタッフが持っている者の反応を探知した。
そして、それを抱えるスタッフたちを邪魔だと思ったのかカメラアイの上の部分にある光る部分から熱線が放たれる。

「!!!」

ここまでかと思って強く目をつぶったスタッフは感じなければならないはずの痛みを感じずにいた。
恐る恐る目を開けると目の前に桃色の障壁を張って機械たちの攻撃を防ぐなのはがいた。
その上にはフェイトがすでに金色の光弾を無数に出現させ反撃の準備を完了している。

「プラズマランサー、ファイアッ!!」

電撃を纏った光弾が機械たちに降り注ぎ破壊していく。

「大丈夫ですか!?」

「は……はい!」

なのはの声にスタッフたちはうなずく。
二人の体を見るが、パッと見た感じでは傷を負っているようには見えない。
なのははスタッフから目を離すと正面にやってきた同型の機械たちを睨む。
これまでにも何度か目撃している機械群だ。
たびたびジュエルシードを仕込んだものを相手に戦ったことがあり、いずれも見つかりやすい場所で暴れていたことから愉快犯の仕業だということになっている。

「あれは!?」

「わかりません……これを運んでいたら急にあらわれて……」

そう言うとスタッフは抱えていた箱を見せる。
どうやら、中は例のロストロギアのようだ。

(狙いはたぶんこれ……)

『中継です!相手は以前にも出現記録がある例の機械兵器です!』

(発掘員の救護はうちが引き受ける!二人で思いッきりやってええよ!!)

「「了解!!」」

リインフォースとユニゾンしたはやてが要救助者のそばまで降りて来た時、キンッ!と澄んだ音がすると同時に目に見えない何かが機械兵器たちを包み込む。

〈マスター。〉

「フィールドエフェクト……?」

なのはは距離を開けたままカートリッジを一発炸裂させる。

「様子見でワンショット!」

〈Accel Shooter〉

それを見ていた機械兵器が一機こちらに向かってくる。

「シュート!」

レイジングハートの先から桃色の誘導弾が発射され、機械兵器へと向かっていく。
しかし、それは機械兵器に当たる前に何かにかき消されるように途中で散ってしまった。

「無効化フィールド!?」

〈ジャマーフィールドを感知しました。タイプ、AMFと断定。〉

「AMF…AAAランクの魔法防御を機械兵器が……?」

フェイトは自分が握る戦斧、バルディッシュの報告に首をかしげる。

〈はわわわ!!AMFって言ったら魔法が通用しないってことですよっ!?魔力結合が消されちゃったら攻撃が通らないですー!!〉

自分の中であわあわと焦るリインフォースの声を聞いたはやてはクスクスと笑う。

「あはは……リインはやっぱりまだちっちゃいな。」

〈ええ!?〉

驚いて声を出すリインフォースになのはは視線を鋭くして機械兵器を睨みつけながら話す。

「……覚えておこうね。戦いの場で『これさえやっておけば絶対無敵』って定石はそうそう滅多にないんだよ。」

なのははそう言い終わると再びレイジングハートからカートリッジを一つ排莢する。

「どんなに強い相手にも、どんな強力な攻撃や防御の手段にも必ず穴はあって崩し方がある。」

フェイトもそれに合わせるようにバルディッシュから魔力が空になった薬莢を飛び出させる。
はやては二人の説明を引き継ぎ、リインフォースに語りかける。

「魔力が消されて通らないのなら“発生した効果”の方をぶつければええ。例えば小石……」

なのはの周りにある瓦礫の破片がふわふわと浮いて魔力によって弓を引かれた矢のようにギリギリと力をためながら空間に固定される。

「例えば雷……」

フェイトの上空に黒雲が渦巻き、ごろごろと雷音が鳴り始める。

「スターダスト……」

「サンダー……」

「「フォール!!」」

雪崩のように押し寄せる高速の大小のつぶてと辺り一帯の空気を揺るがすほど凄まじい雷光が機械兵器たちを蹂躙し、破壊していく。

〈ふえぇ~……すごいですー。〉

「二人とも一流のエースやからなぁ。」

リンフォースが感心していると、煙の中から数機の機械兵器が飛び出し逃げていく。

〈あ!何機か逃走してるです!!〉

(追おうか?)

「へーきや、こっちで捕獲するよ。リイン、頼んでええか?」

〈はいです!〉

リインフォースは先ほどのなのはとフェイトの魔法の使い方を思い浮かべる。

〈発生効果で足止め捕獲と言うと……こんな感じです!〉

逃げていく機械兵器の前方の空気が急激に冷やされたことによって空気中に存在していた水分が飽和状態になり徐々に霧として現れ始める。

〈フリーレンフェッセルン!〉

霧は徐々に氷の粒に、氷の粒は氷の欠片に変わり、最終的には氷の塊が機械兵器たちを包み込みその動きを完全に封じた。

「お見事!」

〈ありがとうございます!〉






数分後、周囲の安全を確認し終えるとフェイトは件のロストロギアの入った箱を受け取る。

「これがそのロストロギアですね?」

「はい、中身は宝石のような結晶体でレリックと呼ばれています。」

(レリック……)

フェイトはこのレリックを狙ってきた人間の見当はついていた。
ジェイル・スカリエッティ。
これまで数えきれないほどの法に反する研究を続けてきた科学者であり、ジュエルシードを持った機械兵器たちを無人世界で暴れまわらせてきた。
そして、かつてユーノがこの世を去るきっかけを作った男でもある。

そんななのはやフェイト達にとって仇とでも言うべき存在が今回もかかわっているのだが、フェイトにはいくつか疑問があった。
まず、今回の任務で破壊、もしくは捕えた機械兵器たちのどれにもジュエルシードが使われていなかった。
まだ捕えていないほうに使われているのかもしれないが、大雑把にではあるがサーチをかけてもどこにもそれらしい反応がない。
そして何より、今までまるでこちらに見つけてもらうことが目的のように暴れまわっていた機械兵器たちが今回に限ってこっそりと見つからないように動き回っていたこと。
さらに、今まで目的などないように思われていたにもかかわらず明らかにこのロストロギア、レリックを狙ってきたこと。

(今回はジュエルシードを発見させることが目的じゃない……?でも、なんで急に…)

その時、別行動をとっていたシグナム達から連絡が入る。

(テスタロッサ、シグナムだ。そちらは無事か?)

(まさか……そちらにも襲撃があったんですか?)

(いや、こちらは襲撃ではなかったが……ある意味遥かに厄介だな。)

(?)

(危険回避のためにすでに発掘員を退避させておいたのが吉と出たな……。今私とザフィーラの目の前にはバカでかい穴があいているよ。)

(!!?)

(……どうやら今日の任務は気楽にこなせるものでもないらしい。)









遺跡跡 爆心地

「ひでぇなこりゃ……完全に焼け野原だ……」

シグナムたちの応援要請を受けたヴィータとシャマルがやってきたそこは、遺跡が建っていたとは思えない、いや、そもそも何かが存在していたとは思えないような惨状だった。
爆発が収まった今でもあちこちから煙が上がり、焼け焦げた地面特有の何とも言えない嫌なにおいがあたりに立ち込めている。

(……くそ。思い出しちまうじゃねぇか。)

ヴィータはシャマルやシグナムが基地と連絡を取ったり、ミッドに家族全員で引っ越す時の話をしていることに気付かず、あの雪の日のことを思い出していた。



なのはが泣いている目の前には、そこにいたはずのユーノが跡形もなく消え去り、熱で雪が解け、むき出しになった焼け焦げた地面だけがある光景。
アースラに戻った後も捜索を続けようとしたが、生存は絶望的とされ捜索は打ち切られた。

だが、ヴィータが苛立っている理由はそれだけではなかった。
つい今朝方見た夢。
二つの機械天使が全身金色の悪趣味な(少なくともヴィータはそう思った)ロボットを倒す夢。
青と白の機械天使に乗っているのは浅黒い肌をした少年。
そして、萌黄と白の機械天使に乗っているのは……

「どうした、ヴィータ?」

狼の姿をしているザフィーラに話しかけられて現実に引き戻されたヴィータは小さく笑う。

「別になんでもねぇよ。ちっと嫌なこと思い出しちまっただけだ。」

「……そうか。」

ザフィーラはそれ以上は何も言わずにヴィータのそばに黙って座っていた。
その不器用な優しさがヴィータは嬉しかった。
しかし、そんな穏やかな時間は級に終わりを告げる。

「……!動いた!」

それまで黙っていたザフィーラが急に起き上がる。
それと同時に基地からも連絡が入る。

『先ほどの機械兵器群と思われる一団が護送隊に接近中!狙いは輸送中のロストロギアと思われます!』

シャーリーから座標を受け取ったシグナムは各員に指示を出す。

「よし、それじゃ二手に分かれて護送隊に攻撃してくる機械兵器たちの迎撃を開始するぞ。まあ、主はやて、なのは、テスタロッサの三人がいて万が一があるとは思えんが念には念を、だ。私とヴィータは戦力が集中すると思われる場所に、ザフィーラとシャマルは残った発掘員たちの護衛に回れるように中間地点で迎撃に当たってくれ。」

「「「了解!!」」」

この時、彼女たちはまだ知らなかった。
失ったものが着々と自分たちもとに近づいていることに。
運命の時まで、あとわずか……







数分前 護送ルート

「えっと、もう一度復習するです。AMFというのはフィールド系防御の一種なわけですよね?フィールド系というのは……」

「基本魔法防御の4種のうちの一つだね。バリア、フィールド、シールド、物理防御の四つを状況によってうまく使い分けたり、組み合わせたりするんだけど、その中でもAMFはフィールド系の中でもかなり上位に入るね。」

AMF……アンチマギリングフィールド
つい最近になって出てきた比較的新しいフィールド系の防御魔法だ。
現存する中でも最も厄介な防御魔法と呼ばれているのだが、それにはわけがある。
それはAMFは魔法攻撃を防ぐのではなく魔力結合を阻害し、魔法そのものを使用不能に追い込むというものなのだ。
ぱっと聞いた感じでは回りくどく感じるかもしれないが、実戦で体感すればそれがどれほど厄介かがわかる。
まず、ミッド式の魔導士は攻撃手段が魔力そのものを放出して攻撃するというものなのでよほど工夫しない限りまともにダメージが通らない。
かといってベルカの騎士ならば対抗できるかというとそうとは言い切れない。
ベルカ式の魔法は身体能力や武器の強化に特化し、その結果、肉弾戦で戦うものがほとんどで魔法なしでも戦えるつわものもいるほどである。
しかし、それでも所詮は人間だ。
人間対人間ならばまず負けはないだろうが、相手が機械となれば話は別だ。
ただの武器や肉体で機械を潰せる人間はこの世にどれほどもいない。
しかも、魔力結合を解除するということは防御や飛行魔法も使えなくすることが可能ということでもある。
以上のことから必然的にAMFが魔法を使って戦う者にとって脅威となるのは至極当然のことなのだ。

「でも、なのはさんたちはあんなに簡単に……」

「あれは距離もあったし向こうのフィールドも狭かったからね。」

そう、確かに驚異的な能力ではあるが攻略法はある。
AMFは魔力結合を解除できるというだけで魔法で発生させた効果までは打ち消せない。
つまり、先ほどなのは達が見せたように小石を魔法を使って飛ばしたり、天候操作を使って雷を落とすなど方法は多々ある。
しかし、単純な放出系の攻撃魔法オンリーの魔導士や強化した武器や肉体を駆使しての戦いしか経験していないベルカの騎士にはそんなことは無理な相談だ。
さらに、今述べたの方法もAMFの効果範囲内にいないことが大前提である。

「はうぁ!!そうです!!リインは魔法がないと何にもできないです~!!」

なのはの説明を一通り聞いたリインフォースは困ったような顔をする。
それを見たなのはクスリと笑う。

「いい機会だからその辺の対処と対策も覚えていこうね。」

「はいです!!」

「すみません教官、うちの子をお願いしますー。」

4人が和やかに話をしていたこの後、ヴォルケンリッター達は機械兵器の迎撃に当たり、これを退けた。
そしてその直後、遂に運命の時は訪れる。








?????

ユーノは見覚えのある光景の中にいた。
真っ白な空間。
上も下もない、ただ広がりだけがある空間。
コックピット内にいるにもかかわらず、外の様子がはっきりとわかる。
もう、中と外の区別もあいまいだ。

「……僕は……死んだのか……?」

あれだけの疑似GN粒子を至近距離で受けたのだから死んでもおかしくはない。
だが、不思議なことに体に痛みはない。

「ユーノ……」

「967……?なんだ……こんなところまでついてきちゃったのか……」

「言っただろ……地獄でもどこでも付き合うとな。」

「まったく。地獄についていくんじゃなくてどっかいいとこに連れてくくらいの気概を見せろよな。相棒だろ?」

「「!!?」」

二人の目の前に信じられない人物が現れる。
しかも、一人ではない。

「ホント、世話焼かせちゃうよね~。」

「まあ、二人らしいっちゃらしいっスけどね。」

「しかし、こんなトンでもないことになるとは思ってなかったな。」

「クリス……リヒティ……!?」

「モレノ……ロックオン!?」

なぜここに。
そう言おうと思ったのに声にならない。
そこに、さらにもう一人やってくる。
赤い髪のツインテールの少女。

「エレ……ナ………!?」

「やっほ……ユーノ。」

「どうして君が…!?」

「……ユーノを、もといた世界に帰すために、みんなにも手伝ってもらうことにしたんだ。」

「「!!?」」

967とユーノの顔がこわばる。

「僕はそんなこと頼んじゃいない!!」

「でも、彼女たちはユーノに会いたがっているんスよ?」

「それでも、僕はもうみんなには会えない!!会うわけにはいかない!!」

「……そんなにその手を血で汚したことが辛いか?」

「…………………………………………………」

「だったら………」

「「!!!?」」

エレナたちの手に光が集まっていく。
そして、その光がユーノの頭にまとわりつく。

「が……ああああああぁぁあ!!!?!!?っあああぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」

「しばらく………私たちとの記憶を封じておいてあげる……ユーノがまた、現実と向き合うことができるその日まで、ユーノはあの子たちと一緒にいてあげて……」

「やめ………ろ…………!!」

ユーノは必死で抵抗する。
しかし、ユーノの頭の中にあるソレスタルビーイングで戦っていた時の記憶に少しづつ靄がかかっていく。

「や……めて………!!」

もう、目の前にいる人物たちが誰なのかすらわからなくなっていく中、ユーノは声を張り上げる。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

絶叫を残し、ユーノは消えていく。
エレナたちの離れていく姿を見ながら、ユーノは意識を失った。






「っっっぷっはぁ!!これ思ってたよりずっときついじゃん!!」

クリスティナが大きく息を吐く。

「ユーノの抵抗が思ったより強すぎて完全には封じ切れなかったな。」

ロックオンが頭を押さえながら左右に振る。

「でも、ほとんど封じることはできたッスよ。」

「まあ、それくらいしなけりゃわしらがこうしてここにいる意味がないからな。」

「で、これからどうすんだ?」

ロックオンがエレナに問いかける。

「この子と約束したからね。ちゃんとこの子の仲間のことを助けてあげないと。」

「じゃ、ここから先はしばらく別行動になるってわけか。」

「エレナは残ってていいよ。ユーノのことが気になるだろうし♪」

四人がニヤニヤ笑う。
エレナは顔を一気に赤くし、必死で弁明を始める。

「いや!そんなことない!!うん!!そんなことないよ!!?」

「「「「へぇ~。」」」」

「あう………」

俯くエレナを見てロックオンたちは笑っていたが、しばらくすると足元から消え始める。

「おっと、もうか。じゃ、またな。」

「どれくらい離ればなれになるかわからないけど、きっとまた会えるよね。」

「当然っスよ!」

「じゃあな、エレナ。ユーノが無茶をしないようしっかり見とけよ。」

全員が消えた白一色の空間でエレナ上を見上げる。

「ユーノ………きっと、みんながあなたを必要とする時が来る。だから、せめてその時が来るまでは、穏やかに過ごしていて……」









防衛ポイント 西部

「ふぅ、なんとかなったわね。」

シャマルは無事にロストロギアを運びきったとの連絡を受け、機械兵器の残骸の前でホッと一息つく。

「油断するな。まだ残存戦力があるかもしれん。」

「わかってるわ。」

ザフィーラの言葉にシャマルがうなずいた時だった。
空の一部が歪み、激しい風が吹き荒れる。

「これは………次元震!?」

「馬鹿な!?ロストロギアはすでに回収したはずだぞ!?」

二人が動揺する中、何かが次元の隙間からはい出てきて、大気との摩擦で赤熱しながら地上へと落下して大量の土埃を舞いあげた。

「あれは……ロボット!?」

墜ちてきたものを見たシャマルはそう思った。
片方は白一色の体に騎士の甲冑のような頭をしたロボット。
もう一方は白と萌黄でカラーリングされ、より人間らしい顔と体をしている。

(シャマル!ザフィーラ!無事か!?)

シグナムの叫ぶような念話が二人に飛んでくる。
シャマルは風にとばされまいと踏ん張っていた足の力を緩めてシグナムに返事を返す。

(ええ……でも、あれは一体?)

(わからん……?どうした、ヴィータ?)

(どうかしたの?)

(いや、なんでもない。)

シグナムの念話に疑問を感じていると、今度ははやてから念話が入る。

(二人とも悪いけど調べてきてもらえへんか?見たところ質量兵器みたいやし、ほっとくのもまずいから。)

(わかりました。)

(?どないしたん、なのはちゃん?)

(どうしたの?)

(いや、なんでもあらへん。なんやなのはちゃんの様子が少しおかしいんで心配しただけや。)

(そう……?)

さっきのシグナムの念話でもヴィータに何かあったようだが、それほど切羽詰まった様子はない。
あとで直接会って聞けばいいだろうと思い、シャマルとザフィーラはその場を後にした。







防衛ポイント 東部

ヴィータは突然現れたその姿に驚いた。
今朝方、夢で見たばかりのその機体はボロボロだが、それでもなおそれが持つ美しさは微塵も色あせない。
いや、むしろ戦いの中にあったそれは誇り高い傷を負った戦士が空から舞い降りたようだった。

「んな、馬鹿な………なんであれがここに……!?」

あり得ない。
あれは夢なのだ。
過去を断ち切れずにいる自分の夢にすぎない。
しかし、そう思おうとすればするほど気持ちははやっていく。
そして、ヴィータは無意識のうちにシグナムの制止も聞かずに降りてきたロボットへと飛び出していた。








転送地点

「うそ……!!」

なのはもまた、その光景が信じられなかった。
夢の中でしか会えなかったその機体が今、目の前にいるのだ。
そして、おそらくあの中には自分の愛しい人がいる。
もう会えないと諦めながら、いまだに思いを断ち切れずにいた相手が。

「っっっ!!!!!」

なのはは今来た道を戦っているときにも見せたことのない速さで戻り始めた。









墜落地点

「近くで見るとホントに大きく見えるわね。」

二体のロボットは抱き合うように墜落の衝撃でできたクレーターの中心に横たわっている。
よく見ると白一色のロボットのほうは萌黄色のロボットの腕に装備された巨大な盾のようなものを胸の下あたりに打ち込まれているようだ。

「どうやらこの二体は敵対関係にあったようだな。」

「あら?ここに空間が……」

シャマルが盾のようなものが撃ち込まれた場所に人が入り込めるような空間を見つけて覗きこむ。
だが、

「!!!?うっ!!」

そこにあった凄惨な光景に吐き気をもよおしてしまう。
一面に血が広がり、それがなんなのかわからないほどぐちゃぐちゃに潰れた血と肉の塊がそこにいた。

「………どうやら、人、もしくはそれに準ずる知的生命体が乗り込んで操縦して戦いあうもののようだな。」

ザフィーラは白いロボットの中を見てもあくまで冷静に分析をする。
その時だった。

「!?」

「ケホッ!ケホッ!……どうしたの、ザフィーラ?」

少し胃の中のものを戻しかけてむせていたシャマルがザフィーラの顔を見る。

「こちらの方から人の気配がする!まだ生きているやもしれん!」

ザフィーラは人型になると萌黄色のロボットに人が乗り込んでいると思われる場所を力づくで開けようとする。
だが、

「クッ!!なんて堅さだ!?」

ヴォルケンリッターの中では最も腕力のあるザフィーラだが、どれほど力を込めても一向に開く気配がない。

「どうすれば……」

シャマルがつぶやいた時だった。

ロボットの胸の部分が開き、中への道ができる。

「「!!!!」」

二人は警戒していったん上空に上がり距離をとる。

「……どう見る?」

「罠……の可能性もあるけど、ほっとくわけにもいかないわね。」

二人は静かに入口まで降りていくとその中を覗く。
そこには一人の少年と思われる人間が横たわっていた。
彼のすぐそばには青く丸いボールに目がついたような機械が目を点滅させている。

「システム凍結開始。GNドライヴ、オヨビ全機密事項データノ削除開始。」

青いボールはそう言うと徐々に自分の目の光も消していく。

「自己凍結開始。マイスター、オヨビソレニ準ズル存在ノ出現マデ全システムヲ停止。」

自分の役目を終えると青いボール、967は最後に自分の相棒のほうを向く。

(すまない……だが、俺は再びお前とともに戦うことができる日を待ち続ける。)

967の声に警戒して入ろうとしなかったザフィーラが声がしなくなったことを確かめると、意を決して中に入る。
そこは思ってたよりは広く、ある程度は自由に動けるものの、狭いことには変わりない。
ザフィーラは少年を席から抱き上げてその顔を見る。

(……?どこかで見たような……)

ヘルメットの内側についた血に隠れてよく見えないが、どこかで見たことがある顔のような気がする。

「ザフィーラ!早くその子をここへ!その傷じゃ早く治療しないとマズイわ!!」

「あ……ああ。」

ザフィーラは思い違いだと割り切り、シャマルのもとへと運ぶ。

「早く服を脱がせて傷を治療しないと!」

シャマルは手早く傷を負っている左のわき腹部分の服をはぎ取ると治癒魔法をかけ始める。
だが、

「!?傷が治らない!?」

傷そのものは浅く皮の上をはがされた程度なのだが、どれほど治癒魔法をかけても傷がふさがらない。

「ザフィーラ!ここを押さえてて!!私はほかに外傷がないか調べるわ!」

「承知した!」

ザフィーラは出血している部分を押さえて血が流れ出るのを最小限にとどめようとする。
シャマルはその間に少年の体のあちこちを調べていく。
そして、最後にヘルメットを外してよく見えていなかった顔をあらわにする。

「「!!!!!?!!?!!!!?」」

予想外の事態に二人は作業の手を止めてしまう。
ヘルメットを外した瞬間、金色の美しく長い髪が一面に広がり、まるで金色のじゅうたんが太陽の光を反射しているような錯覚に陥る。
だが、二人が驚いたのはそこではない。
成長しても変わらずにその面影を残しているその顔を見間違えるはずがない。
あの日救うことができなかった存在。
この同窓会のような任務でただ一人来ることができなかった少年が、今自分たちの目の前にいるのだ。
シャマルは治療することも忘れ、この任務に参加している人間全員へ念話を開始した。






転送ポイント

はやてとフェイトが急に来た道を戻って行ったなのはを追いかけようとした時だった。

(み、みなさん!!た、大変なことが!!)

(!!?どないしたんやシャマル!?)

いつも落ち着いているシャマルの焦りと驚きの入り混じった声にはやても驚いて返事をするが、シャマルはそれすらも聞こえていない様子でまくしたてる。

(ユ、ユーノ君が今私とザフィーラの前にいるんです!!!!!)

「「え!!!?」」

はやてとフェイトは思わず大きな声を出してしまう。

(シャマル!冗談はやめぇ!!)

言っていい冗談と悪い冗談がある。
はやてはそう思いシャマルをしかりつけるが、シャマルの様子は変わらない。

(本当なんです!!すぐにアースラの医務室を使えるように手配してください!!すぐにでもクラナガンの病院に運びます!!)

「うそや……」

「そんなこと……」

二人が唖然とするが、すぐにシャマルの言っていることが真実なのだと確信して手配を開始した。








防衛ポイント 東部

「そんな……馬鹿な……!!?」

シグナムはシャマルの話を聞いた瞬間、体が震えるのを感じた。
あの日から仲間の前ではどれほど気丈に振舞っても、一人になると後悔と悔しさで泣かない時はなかった。
自分たちを悲劇の連鎖から救ってくれたユーノを守り切れなかった。
何が騎士だと自分を責めたこともあった。
だが、

「っっっ!!!!!!!!」

シグナムもまた、ヴィータの向かった方向へと飛び出していった。








アースラ ブリッジ

「そんな……!!」

「嘘……じゃないよね……!?」

エイミィとクロノは他のメンバーとは違い、その映像をその目で見ていた。
長く伸びた金髪のせいで中性的な顔がさらに女性のように見えてしまうが、間違いなくユーノだ。

(ユーノ……!!)

いつもは非情と思われるほどに冷静なクロノの目に涙が浮かぶ。
親友である彼を失って以来、もう誰も犠牲にはしないと誓い、周りに、そして誰よりも自分に厳しく任務にあたってきた。

「神とかそういうのは信じない性分だったんだがな……今だけは神様とやらに感謝したい気分だ!」

「うん!!」









その後、ユーノはすぐにクラナガンにある病院に搬送され、奇跡的に一命を取り留めた。
彼とともにやってきたロボット二体は管理局に接収され、管理されることになった。
そう、あの管理局に……








?????

「ククククク……」

その老人は目の前にある二体のロボットを見上げて、こらえきれずに笑いを洩らす。
年老いてしまったものの、その鋭い猛禽のような眼と、しっかりと残ったオールバックの白髪と白いあごひげのせいか、風格は一向に衰える様子はない。

「ククク……まさかあの少年がこんな土産と一緒に帰ってきてくれるとは……“見事な手際”だと賞賛させてもらおう。」

あの日、自分に掴みかかろうとしていた少年が三年前のあの“実験”を兼ねた任務に参加すると聞いた時、何やら運命めいたものを感じたものだったが、先日のことで確信した。

「彼と私の間にはどうやらただならぬ縁があるようだな……!」

改めてロボットを見上げる。
萌黄色のほうは厳重にシステムにロックがかけられ、データもすべて消去されているせいで解析はほぼ不可能とのことだが、白いほうの解析は順調に進んでいる。

「地上部隊なんぞに配属された時はどうしたものかと思ったが……こいつのことを誤魔化すにはちょうどいい…………ククククク……どうやら、私は神に愛されているようだ………そう、運命をつかさどる神にね!!はぁっはっはっは!!!!」

時空管理局、ファルベル・ブリング准将は両手を大きく広げ、まるで自身が神だとでも錯覚しているかのように高笑いを続けた。










一時の平穏が始まる……
しかし、その平穏は作られたまがいものか……











あとがき・・・・・・・・・・・という名の最終回予告

ロ「というわけでユーノ、リリなの世界にカムバック!!の回でした。そして、皆様に重大なお知らせがあります。」

ユ「なに?」

ロ「新シーズンからその他板に戻そうと思います。」

兄「やめとけ。」

黒「お前にはまだ早い。」

ロ「うっさいボケ!!ここまで書いたんだから少しぐらい自信もったっていいだろ!!?」

狸「百年早いwww」

ロ「狸汁にしてやろうかこの野郎!」

ア「ていうか今回はリリなのの人たちも来てるんだ………」

な「来てたらまずいの?」

ティ「君が一番まずいんだ。」

フェイト「私としてはあのセクハラの人(ハレルヤのことです)が来てないか心配で………」

刹「今回はマイスター5人とお前たち三人しか来ていないから安心しておけ。」

ロ「オーイ、話し戻したいんですけど!?お兄さん泣いちゃうよ!?」

兄「で、その他板に行くんだろ?まあ、適当に頑張れ。」←投げやり

ロ「もっと励ませやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

狸「ガンバwwwww」

ロ「お前はいちいち笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!お前笑った面見ると無茶苦茶腹立つんだよ!!!!!!!」

ユ「えっと、とにかくこの作品は新シーズンからその他板に戻します。これからも皆さまからご意見、感想などをいただけるとロビンの励みになるのでこれからもよろしくお願いします!!」

ロ「締めとられた!!?」

な「次回はいよいよ最終話!」

フェイト「リリなの世界に戻ったユーノは一体どうなるのか!?」

兄「ちなみに次回のあとがきではそこそこ重大な発表があるらしいのでお楽しみに。」

刹「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援があればお聞かせください!では、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] エピローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/25 19:16
アザディスタン王国 宮殿 マリナの部屋

『マリナ・イスマイール。あなたがこれを読んでいる時、俺はこの世にはいないだろう。武力による戦争根絶……ソレスタルビーイングが戦うことしかできない俺に戦う意味を教えてくれた。あの時の、ガンダムのように。俺は知りたかった……なぜ、世界はこうも歪んでいるのか。その歪みがどこからきているのか。なぜ、人には無意識の悪意というものがあるのか。なぜ、その悪意に気付こうとしないのか。なぜ、人生すら狂わせる存在があるのか。なぜ、人は支配し、支配されるのか。なぜ、傷つけあうのか。なのになぜ………こうも人は生きようとするのか……。俺は、求めていた。あなたに会えば、答えてくれると考えていた。俺と違う道で、同じものを求めるあなたなら……。人と人がわかりあえる道を、その答えを。俺は求め続けていたんだ……ガンダムとともに……。ガンダムと……ともに………』

「刹那………!!」

マリナは机に隠されるように置かれていた端末に残されていた文章を読んだマリナは涙を流しながらそれを抱きしめる。
もしあの時、答えていれば刹那は……
そう思うと後悔してもしきれない。
マリナは涙を拭って前を見る。

刹那は自分の信じたものに従い最後まで戦った。
なら、自分も最後まで信じよう。
人と人は必ず理解しあえると……









宇宙

『なのはへ。この手紙……というより、文章って言ったほうが適切か。これが君に届くことがないとわかっていても、書かせてもらいます。僕は今、君やみんなから遠く離れた世界で戦い続けています。……たくさんの人を傷つけました。たくさんの人の命を奪いました。………こんなこと、急に言われても困るよね。でも、届かないってわかってるから、書かせてもらいます。僕は今、新しく出来た仲間とともに、世界と、そこに蔓延る歪みと戦っています。僕たちのしてることはテロリストと変わらない。父さんの命を奪った管理局の人間と………。でも、僕はこの世界を変えたかったんだ。誰かが誰かを傷つけて、傷ついて……そんな世界が、僕は嫌だった。誰かが泣いていても、誰も知らない顔をしている、こんな世界が………。だから、僕は戦うんだ。ガンダムとともに……仲間とともに……この世界で………』

無重力空間を漂っていた傷だらけの端末の画面がブラックアウトする。
どうやら、故障したようだ。
そして、そこに書かれていた独白は誰にも知られずに宇宙の彼方へと消えていった。








2ヵ月後

クラナガン 病院

海の向こうに沈んでいく太陽をユーノはベッドの上からボーッと見つめている。
額には幾重にも包帯が巻かれ、わき腹も厳重に布が巻かれている。
その目には感情の光がなく日の光を反射する長い金髪も相まって人形のようだが、それでもはっきりと彼自身の意志は存在している。

なのはたちと再会したものの、自分が消えた日からそれまでの記憶が一切思い出せなかった。
医者は一時的な記憶喪失だとしたが、自分にはどうしてもそうは思えなかった。

「ジュエル…シード……」

首にかけている青い宝石を手に取って見る。

意識を取り戻した後、管理局員たちが回収に来たが、ユーノはなぜか渡そうとしなかった。
それでも、無理やり取ろうとするとジュエルシードの魔力値が臨界値にまで近くなり、ユーノの手元に戻すとおさまるという不可思議なことが起きた。
封印処理も受け付けないため、ユーノの手元にあると極めて安定した状態にあるため、そのままなし崩しにユーノが責任を持って所持、および管理をすることとなった。
ユーノ自身もそれには嬉しかったのだが、顔が笑おうとしても笑ってくれない。
脳に損傷はないらしいが、今後も検査を進めていき原因を究明すると言っていた。
他にも、浅い傷ではあるがふさがらない脇腹の傷も今後調べていき対策を練るとのことだ。

しかし、ユーノは自分のことなのに上の空だった。
それよりも何か思い出さなくてはいけないものがある気がする。
誰かとの大切な約束。
なのはではない誰かとの約束。
だが、どんなに思いだそうとしても思い出せない。
まるで思い出すのを邪魔するように頭の中に靄が広がっていく。
そして、

「………またか。」

感情のない瞳から涙がぽろぽろと落ちていく。
何が悲しいのかわからない。
悲しくないはずなのに涙があふれていく。
どんなに止めようと思っても止まらない。
それでも、まるでそれまで背負ってきていた悲しみを洗い流そうとするように瞳の奥からどんどん出てくる。

「また泣いてたの……?ユーノ君。」

ユーノは扉の方を向く。
そこに立っていたのはサイドアップで髪をまとめた少女。
ユーノの幼馴染のなのはだった。

「………………………………………」

「もう、先生も言ってたでしょ?あんまり無理に思いだそうとしてもいいことなんてないって。」

「でも、僕は………」

ユーノが何かを言おうとした瞬間、なのはがユーノを強く抱きしめる。

「お願い……思い出さないで………もう、どこにも行かないで……!」

なのはが着ている管理局の制服に涙でシミができていくが、なのはは構わず抱きしめる。

「わかった……。どこにも行かないよ。」

ユーノの言葉を聞いてなのはは潤んだ目でユーノに笑顔を向ける。
この時が永遠に続くように願いながら。








2310年 ファクトリー艦『エウクレイデス』

「フォン、ソリッドが消えた時のデータのサルベージに成功しました。」

「あげゃげゃげゃげゃ!!よくやった874!これであいつのところに行ける!」

フォンは目の前にある球体を見上げる。
ヴェーダのメインターミナル。
メイン機能はもうこの中にはないが、一部の残されたデータと世界最高クラスの演算能力には目を見張るものがある。
そして、なによりフォンが探していたものが残されていたのだ。

「現在使用できる機体はアストレアだけですが、行きますか?」

「当然!だが、その前に……」

損は後ろから迫ってくる水色の戦闘機を見る。

「アイツらを連れてくかどうかを決める。」

「わかりました。アストレア、出撃準備に入ります。」

フォンはコンテナに向かいながらにやりと笑う。

「待ってな……ユーノ・スクライア!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!」










First season end
But,mission incomplete
continue to season strikers……








あとがき・・・・・・・・・・・・という名のお前らまだ出てきてねぇだろ!!

ロ「というわけで、これでfirstは完結です。まだまだ続きますのでこうご期待。」

兄「ちょっと待て。それよりseason strikersってなんだ?」

ロ「そのまんま。」

ティ「そのまんまじゃない!!まさかstrikers編を書くなんて言うんじゃないだろうな!!?」

ロ「そうだけど。」

ティ「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なめてるのか!!?」

ギリギリ!!

ロ「ゲホ!!絞まる!!窒息するって!!」

ティ「いっそそのまま息絶えろ!!」

ア「それはまずいってティエリア!!」

ロ「ゲホッ!!死ぬかと思った!!」

兄「お前……出番ないからって荒れ過ぎだろ…」

刹「気持ちはわからないではないがな……ところで、奴がどうやらユーノの世界に行くようだが?」

ロ「そう、しかも……この先はネタバレなんでseason strikersを読んでください。」

ア「でも、時間軸的には正しいけどなんでわざわざユーノをいったんもとの世界に戻したの?」

ロ「ああ、それはリリなのの皆さんの一部をソレスタルビーイング側に引き込むための呼び水みたいなもんだ。具体的には六課の新人から一人とナンバーズの中の一人とあと他にも何人か……」

六課新人+ナンバーズ「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?」

兄「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?なんだこいつら!?てか数多すぎて狭い!!」

ティアナ「一体誰を呼ぶの!!?」

チンク「姉だな!?姉だよな!?姉だと言え!!」

ノーヴェ「あっ!!チンク姉ずるい!!」

エリオ「そうですよ!!だいたい機動六課で僕だけ男なんですよ!?いい加減ラッキースケベは卒業したいんです!!」

セッテ「それがあなたのキャラ……」

エリオ「失礼な奴だな君!!ていうか劇中でそんなキャラだった!!?」

ウェンディ「若いうちだけっスよ、女の子の体を堂々と見れるのは。」

セイン「ウェンディその発言はいろいろまずいからやめろ!!」

キャロ「あなたたちはまだ出番があるからいいですよ!!私はフルバックでただでさえ出番少ないんですよ!?ここでくらいは輝けるポジションが欲しい!!」

ウーノ「甘いわね!!私なんて戦闘要員でもないから地味の極みよ!!」

ドゥーエ「わたしなんて正体ばれた時点で即死亡よ!?どんな出キャラだっつーの!!」

スバル「みんな忘れてるみたいだけど私はstrikersの主人公なんだよ!!?となると必然的に私…」

ロ「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!まだ出てもない奴らがガタガタ騒ぐなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!大体もう出す奴は決定してんの!!!!!」

新人+ナンバーズ「え?」

ロ「だからもう出す奴は決定してんの!!お前らが今さらどうあがこうと覆らない!!ハイこの話お終い!お前らは強制退場!」

ウェンディ「え、ちょ!?なんなんスかこの丸くてでかい奴ら!?」

ロ「ハロ(Gジェネ仕様)だ。」

スバル「ウソォォォォぉぉぉぉ!!!!!?ハロってもっと可愛いくなかったっけ!?」

ア「ああ……Gジェネだとそんな感じだから。」

エリオ「いや、そうじゃなくて……ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ロ「さ、静かになったな。」

兄「やりすぎじゃね?」

ロ「いいんだよ。それに今回のもう一つの目的はお前らがしばらくでないから挨拶ぐらいはさせてやろうと思って呼んでやったんだぞ。それを首絞めたり珍入者がやってきたり……」

ティ「そうだったのか。」

ロ「じゃ、まずは首を絞めたティエリアから。」

ティ「根に持ってるな……。オホン……ここまでこの作品を読んでくれて感謝する。僕たちはしばらくでないがこの作品はまだ続くから応援をよろしく頼む。」

ア「次は僕だね。えっと、みなさんが満足してくれたかはわからないけど、多くのご意見や感想によってロビンを支えていただきありがとうございます。これからも応援をよろしくお願いします。」

兄「俺は次のシーズンでも少し出るかもしれないけど、その時はよろしく頼むぜ。これからもユーノの活躍から目を離すなよ!」

刹「俺たちの戦いをここまで読んでくれてありがとう。だが、まだ終わりじゃない。この先も俺たちは世界の歪みを駆逐する。しかし、その合間におけるユーノの物語を見守ってくれ。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!まだまだ続くのでご意見、感想、応援がありましたら、バンバン聞かせてください!じゃ、せーの……」

「「「「「新シーズンをお楽しみに!!」」」」」



[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian season strikers プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/26 19:19
新暦0071年

?????

その男は喜びにうちふるえながらアルコールの入った液体を何度も一気に飲み干していた。
自分の手で“生み出した”娘たちから何度もとめられたが今夜ばかりはその制止を聞けなかった。
自分の生み出したもののせいでこの世から消えてしまったと思った少年が戻ってきたとの知らせを聞いて久方ぶりに涙を流した。
彼が戻ってきたからといって自分が今まで冒してきた罪が消えるわけではない。
だが、それでも嬉しかった。
彼の経歴を見て、自分がしたことの愚かさを思い知らされた。

自分がつくられた存在だと知り、絶望した時があった。
己の中に渦巻く終わりの来ない欲望に必死に抵抗したこともあった。
何かを考えるのをやめ、自分を作り出した管理局の犬になり下がったこともあった。
己が欲望に忠実に従い無意味に破壊をする兵器を作ったこともあった。
自暴自棄になったこともあった。
命を弄び、自分と同じ歪んだ生まれ方をした者たちも多く生み出してしまった。
そして、一人の少年の命を奪い、彼を愛していた少女の心に深い傷を負わせてしまった。
あの日、すべての真実を知った時、自分の愚かしさから死を選びそうになった。

「ククク……まさか自分の娘から諭される日が来るとはね……」

そう言って男は再びグラスの中身を飲み干し、再び無色透明の液体を注ぐ。
薄暗い研究所の光を集めたそれのなかには幻想的な光景が広がっている。
その光景を見ながら男はあの日のことを再び思い起こす。

自分を作った者たちに報告を行った後、彼は自室へ行くと注射器に黄色の液体を入れて自分の腕に刺そうとした。
それを偶然見た娘の一人に取り押さえられた。
あの時はなんでこんなISをつけてしまったのかと後悔したものだが、今は感謝している。
自分が今ここでこうしていられるのは彼女のおかげなのだから。
そう思うと涙がこぼれてくる。
酔ってセンチメンタリズムに浸り気持ちにでもなっているのかと思考を働かせるが、それすらもどうでもよくなってくる。
そう、これから自分たちが行うことには。

「私は自分の罪から逃げない……そして、私の願いを託せる者を見つけた……。ならば、私は彼らに試練を与えよう…………この世界を本当に託せるように………」

そう言って男は深い眠りに落ちた。







翌朝、Dr.Jこと、ジェイル・スカリエッティは鈍い二日酔いの痛みを引きずりながら昨晩飲み過ぎたことを後悔する羽目になった。








あとがき・・・・・・・・・・・という名のみんなー!はーじまーるよー!

ロ「というわけでstrikers編プロローグでした。」

スカリエッティ〈以降 スカ〉「いきなりだがスカリエッティだ。というか私は善人版で出てくるのか。賛否両論で分かれそうだな。」

ロ「まあ、いきなりネタバレだけどお前もソレスタルビーイング側につく予定だから。」

スカ「ホントにいきなりだな!?いいのかここでそんなこと言っちゃって!?て言うか私のこのテロップはなんなんだ!!?」

ロ「くじ引きやおみくじを引いても9割方スカか凶を引かされた人間の怨念によってそうなってしまったのだ。」

スカ「それは単なる君の逆恨みだろ!!?」

ロ「じゃ、プロローグなので今回はここらで終わって一話のあとがきに続く。」

スカ「え、ちょ、ちょっと!?ねぇ、次回のあとがきでも私の出番はあるよね!?」

ロ「では、本編をお楽しみください。」

スカ「おいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!人の質問に答えろ!!」

では、一話のあとがきで



[18122] 1.ホテルアグスタ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/31 19:13
ホテル・アグスタ 舞台袖

「ふぅ。」

眼鏡をかけ、長い金色の髪を緑色のリボンで結んだ青年がつい先ほど自分が論文を発表していた壇上を離れて一息つく。
この後、自分以外の研究者の発表があり、正直自分の論文の発表よりも彼らの論文の発表を聞く方が青年にとってはよほど楽しく、そのためにここを訪れたと言っても過言ではない。

「さて……早く席に戻って発表を……」

その時だった。
自分の足元、丁度地下駐車場があるあたりから妙な反応を感じる。

論文を発表する前に会った管理局に勤めている幼馴染兼婚約者が論文の発表の後に行われる骨董品のオークションの出典品、正確にはその中に混じっているロストロギアを狙って現れる犯罪者を警戒して警備の任務についていると言っていた。

「大丈夫かな……」

ふと、自分の薬指にはめられている桃色の宝石がはめ込まれた指輪を見る。
おそらくは大丈夫だろう。
彼女が鍛えているという部下の子たちもおそらくは何ともないだろう。
しかし、外からここまでくるのには時間がかかる。
そして、この妙な反応に気付いているのはどうやら自分だけのようだ。

「………仕方ない。発表を聞くのはお預けだな。」

無限書庫司書長、ユーノ・スクライアは首にかけているジュエルシードが外れないように気をつけながらネクタイを外し、自分の一張羅のスーツの上着を脱ぐと地下駐車場へ急いだ。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.ホテルアグスタ

地下駐車場

ユーノはスーツを腰に巻きつけ、カッターシャツと黒のズボンという姿でホテルの警備員に薄暗い地下駐車場まで案内させた。

「おかしな魔力反応ですか?あり得ないと思うんですがねぇ。」

「と言うと?」

ユーノの不思議そうな顔に警備員は笑って答える。

「うちの警備システムは全次元世界で一番のシステムですよ?突破できるものは皆無です!残念ですが、今回は司書長殿の勘違いだったのではないですかね?どうです?今度無限書庫の警備の参考にされては?あっはっはっはっはっは!」

「全次元世界で一番、ね。」

そう言ってユーノは手元に小さな魔法陣を展開し、飛んできた何かを防ぐ。

「!!!?」

警備員は驚くがそれで終わりではなかった。

見えない何かがユーノに何度も襲いかかる。
ユーノは小さなシールドを使ってそれらを巧みに受け流し、襲ってきていた何かの腕を掴む。
そして、ユーノが腕をつかむ力を強めると透明だった何かが姿を現す。

「ひぃ!!」

警備員は情けない声とともに腰を抜かす。
そこにいたのは人間ではなかった。
人間のように二足歩行なのだが、体の表面が黒光りする強固な鎧で覆われ。顔にある四つの細い隙間からは目玉がこちらを覗いている。
腕や脚には鋭い刃のような突起があり、体そのものが凶器と言った感じだ。

「全次元世界で一番の警備システムね……今度参考にさせてもらいますよ。」

ユーノの皮肉に答える余裕もなしに警備員は這うように逃げ出す。
それが合図だったかのように襲撃者はユーノを自分の向いていた方向と反対の方向に投げ飛ばすが、ユーノは空中で体勢を整えるとふわりと地上に着地する。

(見たところ甲虫タイプの召喚獣……それも結構上位だ。ったく、こういうのは僕の専門じゃないんだけどな。)

ユーノはこちらに突進してくる召喚獣にユーノはチェーンバインドをかけようとするが、避けられるか、いくつか絡みついても引きちぎられてしまう。
ユーノは腰を落として重心を安定させると向かってきた召喚獣の拳を右手で受け止める。

「もう姿は消さないのかい!?」

「…………………………………」

「だんまりか……けど、僕のサーチが優秀だと思ってやめてくれたのなら、光栄だ…ねっ!!」

ユーノは召喚獣の手を上に跳ねあげて態勢を崩すと思い切り踏み込んで左拳を顔面に叩きこみ、踏み込んだ勢いを利用してくるりと一回転して右の裏拳を同じ箇所に叩きこむ。

「っっっっつつつあぁぁ~~~~!!!!」

しかし、召喚獣のほうは攻撃の衝撃でグラつきはしたもののすぐにケロリとした顔(表情がわからないので何とも言えないが)でこちらを睨む。
一方ユーノは左手と右手の皮がズル剥け、血が滲み出している。

「ったった~~!!君って頑丈だなぁ……」

ユーノは血が出ている手をプラプラさせながら召喚獣のほうを見る。
圧倒的不利にもかかわらずその顔の微笑みは消えていない。

「………………!!!」

その態度を侮辱ととったのか召喚獣が今までの比ではない力を込めて突進してくる。

「やれやれ……少しもったいないけど、これを使うか。」

ユーノは高く跳びあがり自分の股の下に召喚獣を通すと、その勢いを利用して空中で一回転して召喚獣の背中を視界にとらえる。
そして、

「ほいっと。」

小さな金属製のボトルのふたを開けた状態で召喚獣に投げつける。
ボトルの中にはその見た目以上に液体が入っていて、それが召喚獣の体中にかかる。

「!!?!!?」

「あ、わからない?それお酒だよ。」

ユーノはにっこりと笑い、足元にあった金属片を魔法で強化した腕力で思いっきり召喚獣の足元めがけ投げつける。
破片が地面にぶつかり小さな火花が散ったかと思うとそれは瞬く間に巨大な炎となり召喚獣の体を包み込む。

「!!!!!!!!!!!!!!!」

「少し熱いけど我慢してね。君クラスの召喚獣ならこれくらいではどうこうなることはないと思うから。」

ユーノはそう言うと周囲にサーチをかけ始める。

(案の定、召喚した魔導士は近くにいないか………でも、あの子があんな目にあってることがわかったらすぐにでも自分の手元に戻すはずだ。)

普通の召喚獣を道具としか見ていない召喚魔導士ではあり得ないことだが、ユーノには確信めいたものがあった。
彼(?)の首に巻かれていた赤いスカーフ。
あれは間違いなく契約した後に召喚した魔導士が彼にあげた物だろう。
そして、彼もまたそのスカーフを大切に、守るように戦っていた。
そんな強い絆があるのならこの状況に追い込まれた彼を放っては置かないだろう。
しかし、ユーノは甘く見ていた。
彼とその主人との絆を。

「っっっっっ!!!!!!!!!!!!」

「え!?」

召喚獣は自身の闘気で炎を跳ねとばすとフラフラしながらもユーノを睨みつけ、拳を振るってくる。
だが、その拳に最初の力は感じられない。
それをユーノは左手で簡単に止めると召喚獣に語りかけ始める。

「もうやめるんだ!それ以上戦えば君でも無事では済まない!君の主人が悲しむだけだ!!」

「!!!!!!!!!!!!!!」

それでも召喚獣は止まらない。
ユーノに向けて拳を何度も振るう。
ユーノはそれをかわしながら沈痛な面持ちをする。

(仕方ない……!)

ポケットに手を突っ込みある物を取り出そうとする。
その時だった。

「あげゃ。もういいぞ、ガリュー。」

「!!?」

召喚獣の後ろから一人の男が現れる。

(こいつは………!!!!)

ユーノがその男を見た瞬間、彼の全細胞が最大級の警鐘を鳴らした。
黒を基調とし、金色のラインが入ったジャケットをきて、両手首には大きな拘束具の様な輪っかをつけている。
首には何かに吹き飛ばされたような傷跡が刻まれている。
そして、右手には彼の身長のゆうに半分はあろうかという巨大な厚みのある剣。
左手にはこれまた大きな発射口をした銃を持っている。
だが、彼の持つ武器よりもユーノは彼の表情に危険なものを感じた。
猛獣のような赤い瞳に、笑った口元からは牙のような八重歯が覗いている。
その顔には楽しむという感情はあれど、戦うことへの怯えを感じない。
こいつは、間違いなく戦うことを求めている男だ。

「君がその子の主人かい?」

「いや、ガリューの主人は俺じゃねぇ。それより、俺を見て何か思い出さないのか?」

「なに?」

ユーノは警戒しながら男の顔を見回す。
だが、

「知らないな。人違いじゃないかい?」

「あげゃ。テメェはユーノ・スクライアなんだろ?だったら俺の探している人間であってる。」

「けど、僕は君のことを知らないな。おおかたどこかで“あの話”を聞いたんだろうけど、あれは僕一人でどうこうしたわけじゃない。」

「………………」

男はユーノの言葉を聞いた後俯く。
しかし、すぐ男から押さえきれなくなった笑い声が爆発する。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!こいつは傑作だ!!どうやら本当に俺のことを忘れちまってるみたいだな!!?」

「………………」

ユーノがさげすむような眼で見ていることに気付くと男はフンと鼻で笑う。

「ガンダムに乗ってたころとは印象がずいぶん違っていたからな。記憶がないって聞く前におかしいとは思ってたが。」

「ガンダム!?」

ユーノの表情が変わる。

「お、これは覚えてたか。」

「貴様!!どこでその言葉を知った!!?ガンダムとは一体何なんだ!!?」

「あげゃ、知りたいよな……だ・が……」

男は剣の切っ先をユーノに向ける。

「知りたきゃ俺と死合いな!!」

「!!クッ!!」

男が急接近して振るった剣の刃がユーノの前髪をかすめて、何本かを空中へと舞いあげる。
ただ事じゃない風切り音とともに振るわれたその剣は相当の重量があるだろう。
当たればただでは済まない。

「あげゃ!ガリュー、お前は例のモンを持ってアイツらのところに行きな!」

「待て!!」

「おっとぉ!!」

「クッ!!」

男は持っていた銃をユーノの足元に撃ち込み動きを止める。
その隙にガリューと呼ばれた召喚獣は地下駐車場に止めてあったトラックの中から何かを持ち出して去っていった。

「デバイスくらい持ってるだろ?さっさと使ったほうが身のためだぜ!!」

男は銃を乱射しながら滑るような動きでユーノと距離を詰めて右のわき腹に蹴りを放つ。

「クッ!!(こいつ、僕と同じような動きを!?)」

ユーノは両腕で男の脚を防ぐが、その勢いに負けて数メートルほど後ろに押される。
靴の裏からはコンクリートでできた地面との摩擦によって生じた熱で白い煙が上り、コンクリートと革靴の焦げた独特のにおいがあたりに立ち込める。

「どうした!?こんなもんで終わりかぁ!!?」

すぐさま距離を詰めていた男の凶刃がユーノに迫る。

「……ソリッド、セットアップ。」

〈Start Up〉 

ユーノはポケットから六角形の宝石を取り出す。
自分の魔力光と同じ淡い萌黄色の宝石を模したデバイスに起動を命じる。
ユーノの体に光がまとわりつき、発掘作業に当たる時のマントなどの衣服に変わっていく。
そして、右腕にはユーノの身長の半分以上の大きさもある巨大な盾が出現する。
盾には鋭く研ぎ澄まされた刃があり、反対側には二つの大きな突起が付いている。
その盾で男の刃を止めて払いのける。

「ハン!どうやらソリッドのことも少しは覚えてたみたいだな!」

「ソリッドのことも知ってるとなると君はどうやら僕の過去を知っているみたいだね。なら……」

ユーノはグッと体を縮め、一気に伸ばすと同時に男へと飛び出す。

「いろいろ教えてもらうよ!!」

ユーノは真正面から男へと向かっていくように見えたが、男の視界から急にユーノが消える。

「はぁ!!」

「あげゃ!!」

フィギュアスケーターのような滑る動きで素早く男の背後に回ったユーノは盾を横に振るう。
しかし、男もそれを読んでいたのか前を向いたまま右手の剣を背に回してユーノの一撃を防ぐ。

「同じ動きをする人間同士だぜ……読まれないとでも思ったか?」

「そう思ってたさ……だから、こうするんだ!」

ユーノは手元の魔法陣からチェーンバインドを発動させて男をがんじがらめにすると一気に距離をとる。

「ハッ!これがどうした!!」

「こうするのさ。」

ユーノはパチンと指を鳴らして術式を発動する。

「ブレイク!!」

〈Break The Chain〉

男に絡みついていた鎖が急激に発光して爆発する。
しかし、ユーノの攻撃はそれで終わらない。
戦闘の衝撃で崩れたコンクリートの破片を足で上に蹴りあげると盾でそれらを男の方へと弾き飛ばす。
しかし、

「あげゃげゃげゃげゃ!!!!!」

爆発の煙の中から飛び出した男はつぶてをものともせずにユーノへと突進する。
ユーノもそれがわかっていたように盾の刃を使って男の一撃を受け止める。
二人がぶつかった瞬間、ユーノの吹き飛ばされまいと踏ん張る力と男の押しきろうとする力が反発し合い周囲に凄まじい剣風を発生させる。

「一応名前を聞いておこうか!!」

「あげゃ!!思い出してないんなら教えるわけにはいかねぇんだがな!!一応こっちの名前のほうを教えておいてやる!!」

二人は鍔迫り合いをしながら会話をする。
ぶつかり合った刃からは火花が散り、二人の顔にもかかるがどちらもそんなことなど気にしない。

「俺の名はロバーク……ロバーク・スタッドJrだ!!」

「ロバーク!!君の目的はなんだ!!」

「あげゃ!言ったろ!!俺の目的はお前だ!!連中を手伝ってるのは俺に協力するための交換条件にすぎねぇ!!」

ロバークは鍔迫り合いのさなかユーノを蹴り飛ばそうとするが、ユーノはその気配を感じ取って距離をとる。
しかし、ロバークは左手の銃をユーノに向けて何発も放つ。

「おらおら!!」

「甘い!!」

ユーノは地面を滑るようにロバークの射撃をかわしながら距離を縮めていき、回し蹴りを顔面に向けて放つ。
しかし、ロバークも滑るような動きでその一撃をかわすと隙ができたユーノの脇へと銃口を向ける。

「あげゃ♪いただき!!」

「フィールド!!」

ロバークの一撃がユーノを襲うが、ユーノの周りに張られた光の膜がその威力を弱めバリアジャケットで防ぎきれる程度にまで軽減する。

「ッ!今のはなかなかまずかったね。」

「よく言うぜ。フィールドを張って防ぐなんざあの時の戦い方そのまんまだぜ。」

「…………ロバーク、一つだけ聞いていいかい?」

「あ?」

「君が知ってる僕は、どんな人間だった?」

ロバークはユーノに銃口を向けたまま少し考え込むようなそぶりを見せるが、すぐさま八重歯を覗かせて笑う。

「一言で言うならおもしれぇ奴だ。お前も、その仲間もな。」

「仲間……?」

「なんだ?ガンダムは覚えてて仲間のことは忘れてんのか?意外と薄情だな。」

「悪かったね。」

ユーノは少しムッとした顔でロバークを睨む。
しかし、いい気分はしないのになぜか懐かしい気持ちになってくる。

(………前もこんなやりとりをしていたような……)

ヴィータとの口喧嘩でも似たようなことはあったが、それよりももっと懐かしいような、切ないような感じだ。

「お喋りはもういいだろ。いい加減再開といこう……ぜっ!!」

ロバークは切っ先をユーノの顔めがけて突き出すが、ユーノは右手の盾を使ってそれを受け流す。
刃がかすった頬からはうっすらと血が流れる。
ユーノは一旦距離をとってそれを指ではじくと、今度はロバークがいる空間、いない空間を関係なしにリングバインドを発動手前の状態で待機させる。

〈Bind Prison〉

「クソつまらない牢屋に入れられるのはもうごめんなんだがな。」

「だったら脱走してみたらどうだい?」

「ハッ!!上等!!」

ロバークは近くを通るたびに発動するリングバインドを巧みにかわしながら『拘束の牢獄』を潜り抜けていく。
だが、それは誘導だった。
バインドの集団を抜けた先に待っていたのはユーノの左拳だった。

「てぁ!!」

「あげゃ!!」

ロバークはユーノの拳の軌道に刃を置くが、ユーノは刃ごとロバークを殴りとばした。

「グッ!!」

ようやくうめき声を上げるロバークだが、ユーノのほうも無事ではない。
左拳には深い傷が刻まれ滝のように赤い液体が垂れていく。

「驚いたね……防ぐんじゃなくて避けてくると思ったんだけど。」

「そういうお前は相変わらず捨て身の攻撃が好きだな。」

「こうでもしないと昔馴染みと戦場を駆け抜けられなかったからね。」

「フン!だったらもったいぶって使ってないそいつを使ったらどうだ?」

ロバークはユーノの盾の反対側についている二つの突起を顎で指す。

(驚いたな……まさかこれについても知ってるなんて。)

だが、これはユーノにとってある意味切り札と言っていい存在だ。
一旦使えば再び魔力がたまるまでは最低でも2~3分は使用することができない。
だが、今のまま長引かせるわけにもいかない。
ユーノは盾の持ち手についていた引き金を引いてカートリッジを一発排出する。
すると盾がくるりと一回転してがちりと言う鈍い音ともに固定される。

「お望みなら使ってあげるよ。」

「あげゃ!………来な!!」

二人が互いに突進を開始する。
その時だった。

『時間です。ルーテシアとゼストが引き上げを開始しました。』

ロバークの耳の裏に付けられていた骨伝導マイクから少女の声が伝わってくる。

「あげゃ、もうか。」

ロバークは突進を止めてふわりと空に浮きあがる。
ユーノもそれを見て急停止する。

「悪いが今日はここまでだ。俺は俺の用事を済ませて帰らせてもらうぜ。」

「用事?」

まだ何かあるのかとユーノは首をかしげる。
その時だった。

「!!?」

後ろから何かによって動きを止められる。

「874、そいつの使い心地はどうだ?」

「問題ありません。」

よく見るとそれは最近さまざまな場所で事件を引き起こしているという機械兵器。

「ガジェット………!!」

ユーノは自分の不注意に唇をかみしめる。
しかし、ここまで近づかれるまで気付かなかったというのも妙な話だ。

「ディープダイバーだったか?使い道なんざないと思ったが、あのガキの能力もなかなか使えるじゃねぇか。」

ロバークは感心したように笑いながらガジェットとユーノをまじまじと見る。

「僕をどうする気だ!?」

「なに、ちょいとした確認と治療みたいなもんだ。」

ロバークが説明している間にもガジェットはユーノの頭にコードを這わせて何かを調べている。

「封印処理を確認。やはり、何者かの手によって記憶をフリーズされているようです。」

「あげゃ、じゃあ、よろしく頼むぜ。」

「了解。」

ユーノの頭に巻きついていたコードから微弱な電気が流れる。

「!!!?グッアアァァ!!!!」

刹那、ユーノの頭に激痛がはしる。
今までに味わったことのない感覚。
まるで、脳を無理やりこじ開けられているような異常な感覚にユーノは呻く。
だが、

「グ……アアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

肉体強化の魔法をかけた腕の力で強引にコードを引きちぎり脱出してガジェットを斬りつける。
横に真っ二つになったガジェットは爆炎を上げるが、ユーノはその前にそこから脱出していた。

(874、大丈夫か?)

『問題ありません。Ⅰ型を破壊される前に本体に戻りましたから。』

(上等上等!)

「……ッ。僕に何をした。」

ユーノは痛みが残る頭を横に二度三度振ってロバークを睨む。

「あげゃ、そのうちわかるさ。じゃあ、俺はお暇するかね。」

「………逃げられるとでも思っているのか。」

「!!シグナム!」

ロバークの後ろにはピンクのポニーテールをしたシグナムが炎を纏わせた愛剣とともに立っていた。

「まったく、警備員から通報を受けてやってきてみればお前がかかわっているとはな。」

シグナムがジト目でユーノを睨む。

「そっちの職務怠慢でしょ。協力した労いの言葉くらい欲しいんですけどね。」

「最初はそうも思ったがこの惨状を見て気が変わった。」

「そうですか。」

ユーノはこともなげに流したものの実際問題、駐車場はもう原型をとどめていない。

「お取り込みの邪魔をしちゃ悪いんで今度こそ俺もお暇させてもらうぜ。」

「いや、貴様にも付き合ってもらうぞ。牢屋に何日も拘留してじっくりとな!」

ユーノとシグナムは示し合わせていたようにロバークの退路を断つように同時に襲いかかる。
だが、

「残念♪」

「「!!?」」

ロバークはまるで水に潜るように地面の下に入りこんでしまう。

「ユーノ!」

「わかってます!」

ユーノはすぐにサーチを開始する。
しかし、

「……逃げられました。」

ユーノはそういうとバリアジャケットを解除して元の姿に戻る。

「奴は何者だ?」

「さあ?ただ、魔力量はそれほどでもないんですが戦い方に関してはピカ一ですよ。」

「まったく、厄介なことになったものだ。」

シグナムも騎士甲冑から管理局の制服に戻る。

「ところでシグナムさん。」

「?なんだ?」

シグナムが不思議そうにユーノのほうを見る。

「僕の一張羅がボロボロになったんですけど、これって局のお金でどうにかなりませんかね?」

腰に巻いていたスーツを広げるとありとあらゆるところが斬られ、ところどころに焼け焦げた跡がある。
それを自分に見せつけるユーノを見ながらシグナムは頭を押さえながら呆れたような唸り声をあげた。








クラナガン郊外

「ふぅ~!ひやっとしたぁ~!!」

競泳水着のようにピッチリとしたスーツを着た水色の髪の少女は地中からロバークと一緒に出てきたところで大きくため息をつく。

「マジでやばかったじゃん!!もうちょっとであんたつかまってたよ!?」

「あげゃ。その前に連中を叩きのめせば問題ねぇ。」

「相手は手練れが二人だよ!?」

「問題ねぇさ。ユーノの奴が完全に元に戻るまではな。」

水色の髪の少女、セインはフーンとうなずくが、あることに気付く。

「それってこれからあの人がもっと強くなるってこと?」

「まあ、そういうことだな。」

「それってまずいじゃん!!」

「お前らが強くなりゃあ問題ねぇ。いくぞ。」

「あ!ちょっと待てって!!」

少女は慌ててロバークの後ろをついていく。
そして、彼の名を呼んだ。

「待てって、フォン!」








無限書庫 司書長室前

八神はやては緊張していた。
普段からかなり無茶な注文にも応じ、つい先日の任務では自分たちの注意が回らなかったところを助けてもらったのだ。
しかし、にもかかわらず彼のスーツを新調する代金は彼持ち。
おまけに被害を出し過ぎたという理由で上層部から無理やり始末書まで書かせてしまったのだ。

「ユーノさん、怒ってるでしょうねぇ~。」

間延びした声を出す自分の家の末っ子が今は心底恨めしい。
この中に入っただけで問答無用で簀巻きにされて次元の海に放り出されるのではないかという不安が彼女の脳内のすべてを支配しているのにリインフォースはそんなことなど知らずにポエポエと話しかけてくる。

「リイン、今日晩御飯抜きな。」

「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?何でですか!?ヒドイです!!」

リインフォースにささやかな復讐をプレゼントすると、はやては意を決して部屋の中に入った。

「失礼しま~す………」

小さな声とともに入ったはやては唖然とする。
そこはいつものようなきっちりと片付いている理路整然とした部屋ではなく、この部屋のどこにこんな大量の物品が存在していたのだと言いたくなるほどの訳のわからないもので溢れかえっていた。

青銅でできたトカゲか蜘蛛かわからないような生物を模した置物。
茶色く変色した書物。
下手をしたらこれで人を殺せるのではなかろうかというくらい鋭い石が先についた木製の槍。
血の涙を流して叫んでいるような男と女が描かれている絵画。
小さな子供が一人でやってきたら間違いなく泣いてこの部屋を飛び出すようなおどろおどろしい品物ばかりだ。

「ユ、ユーノさ~ん……いませんかぁ~?」

リインフォースは泣きそうな声でユーノの名前を呼ぶ。
すると、

「ん?なに?」

はやてとリンフォースの前にユーノの声とともにそれは現れた。
大きな目玉が飛び出し、口の上下から鋭く飛び出た十㎝以上はあろうかという牙。
そして、頬には赤、緑、黄色のラインが入り、頭の部分には怒髪天を衝くと言うたとえがぴったりとくる逆立った青色の髪のような毛があった。

「きゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「ぎゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

次の瞬間、ユーノがしていた古代文明の面にリインフォースの渾身のドロップキックとはやての全力全開の右ストレートが叩きこまれた。
そこには、かつての病弱で可憐な少女の面影はどこにもなかった。







数分後

「で、君たちは一体何をしに来たわけ?」

ユーノは傷を負った鼻に絆創膏を張って面の修理をしながら客席に座らせコーヒーを出したはやてとリインフォースに尋ねる。

「まさか僕の見つけた発掘品を破壊しに来たとか?だとしたら傑作だね。職務怠慢に加えて器物破損とは給料泥棒どころか給料強盗だよ。いやぁ、プロ顔負けの犯行だ。」

(お……怒っとる……!)

(怒ってますぅ……!)

にこやかに笑うユーノだが、今のこの二人にとってはその笑顔が何よりも怖い。

「で…でも、あんなお面してたユーノ君かて悪いやんか…」

はやてが小声で反論する。
が、

「聞いたかい、古代クリウス文明のお面くん?君が日本円で大体500万するって言うのにはやては弁償してくれるんだって。さすが僕らの中で一番出世してるだけはあるよ。さすが高給取りだね♪」

「スンマセンお面さん!!学がない私をお許しください!!だから弁償は勘弁してください!!」

地上部隊のエース、八神二佐は信じられない速度で椅子から降りると床に頭をこすりつけて許しをこう。
あくまでお面に。
そう、ユーノではなくお面に。
……だから、ユーノに土下座してるけどお面に対してしなくちゃいけない空気なんだってば!

「さて、冗談はこれくらいにして、本題に入ろうか。」

ユーノはお面の欠片を張り合わせるのを中断してはやてのほうを向く。

「今度は何を調べて欲しいんだい?例のものの解読は進めてるけど、まだ時間が……」

「ああ、それやないねん。」

はやてはまじめな顔に戻って立ち上がる。
だが、その顔は相変わらず不安でしょうがないのが見てとれる。

「あのな、ユーノ君がよかったらなんやけど……」

「?」

「いや、嫌やったら別に断ってくれてええねんけど!うん、無理せんといつもみたいにバッサリ言ってもらってええねん!!」

「だから何?」

「えっとですね……」

リインフォースがなかなか切り出せないはやてに代わり用件を言う。

「ユーノさんに機動六課に来てほしいんです。」

「………は?」

はやてはリインフォースが言ってしまったので腹をくくる。

「知っての通り私らは高ランクの戦力が集中しとるせいで隊長陣はリミッターをかけられとる。そこで、や。私としては登録されとるランクが低くて、そんでもって自由に動けて戦闘なれしとる手練れが欲しいんや。」

確かに機動六課は旧アースラのクルーが集まっているため隊長たちははやても含めて全員にリミッターがかけられている。
だが、はやての目的は別にあった。
ユーノに渡していない、例の物の後半部分。

(あれの内容がもしカリムたちの言う通りやったとしたら、この事件のキーを握っとるんはユーノ君とあの変態マッドサイエンティストや。)

正直友人を騙しているのでいい気分ではないが、こうしなければ彼はまた自分たちのもとから……
そう思っただけで言いようのない不安に押しつぶされそうになる。

はやてはユーノが怪しまないようにさらに理由を付け加えていく。

「それにユーノ君いろいろ資格をもっとるやんか?教導免許にデバイスの組み立てに整備、おまけにデスクワーク優秀ときたらすっぽ抜こうとしん奴らはアホやで?」

ユーノはかなりの資格を有しており、実際ユーノを自分の部署に入れようとした者は多くいたのだが、ある理由により全員がそれを断念し、それ以後ユーノを無限書庫から引き抜こうとする者はいなくなってしまったのだ。
はやてもその理由の被害を被った一人なのだが、それでも今回だけは譲れない。
譲れないのだが……

「あ、ごめんなさい。偉そうなこと言ってごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。無茶苦茶言ってごめんなさい。息を吸っててごめんなさい。」

「はやてちゃん……」

自分の主が情けなく頭を下げる姿を見てリインフォースはシクシクと泣き始める。

「……いいよ。」

「スイマセンスイマセンスイマセンスイマセン!!もうしませんから許して………へ?」

「だから、いいよ。」

「「ええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?!!!!!?」」

一回目でおとせると思っていなかったはやてとリインフォースは驚いて本局全体が揺れるほどの大声を出してしまう。

「あの、また前みたいなことは……」

「ああ、もうしないよ。友達じゃないか。」

(その友達にも容赦なかったやんか。)

そう言いたいはやてだったが、ここでご機嫌を損ねるとまずいので黙っておく。

「ほんなら手続きはこっちで済ましとくから、ユーノ君はできるだけ早く合流してな。」

「了解。無限書庫司書長、ユーノ・スクライア。機動六課への転属命令を受領しました。」

ユーノは仕事上の形式に合わせてはやてに敬礼する。
はやても敬礼をするが、どうにもこそばゆかったのか二人ともすぐに笑い始めた。








はやてが帰ってからユーノは機動六課の宿舎に送る荷物の入った段ボールに囲まれた椅子の背もたれに体重を預けながら一人物思いにふけっていた。

(間違いなくはやては何かを隠している……けど、それがなんなのかがわからない。)

自分が機動六課に呼ばれる理由がわからない。
確かにそこいらにいる局員たちよりは強い自信はある。
AMFの中での戦闘ならなおさらだ。
だが、それだけではやてがわざわざ自分を呼ぶとは思えない。

(まあ、いいさ。こっちも隠しごとをしているんだから。)

ユーノが機動六課に加わる決意をした理由。
それはロバーク・スタッドJrと名乗ったあの男だ。

(奴は間違いなく僕の空白期間について何かを知っている。)

もし、はやてから誘われてなければ独断で彼を追うつもりでいた。
だが、渡りに船。
はやてが誘いに来てくれた。
悪いが利用しない手はない。

(何が何でも捕まえて話を聞く。ガンダム、ソリッド、そしてソレスタルビーイング……?)

ユーノは持たれていた椅子から起き上がる。

「ソレスタルビーイング……ってなんだ……?」









革新の歯車は、軋みながらも再び回り始めた









あとがき・・・・・・・・・・・という名のみんなー!はーじまーるよー!その2

ロ「と言うわけでホテル・アグスタ編でした。」

ユ「いきなりここからか。」

ロ「だって他にいいスタートが思いつかなかったし。」

スカ「いきなりセインも登場したしね。」

ユ「それより今回と前回のあとがきのサブタイトルなんなの?」

ロ「某芸人のネタだ。」

スカ「いや、知ってるけど…」

ロ「もう芸能人やめたあいつらを懐かしんでここで出してみた。」

ユ「やめてないからね!!?あの人たち全然現役だからね!?少しテレビに出なくなったけどいつかまたブレイクと言う名の大空にはばたいてくれるって信じてるから!!」

ロ「俺どっちかって言うと笑い飯のほうが好きだから。」

スカ「聞いてないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!誰がそんなこと聞いた!?と言うかもうこれあとがきじゃなくて単なる芸人談議になってない!?」

ロ「じゃ、本格的にどの芸人が面白いか話しあえるように次回予告をちゃっちゃと終わらせるか。」

ユ「目的が違う!!」

ロ「機動六課に合流したユーノ。」

スカ「そこで意外な人物との面識が発覚!」

ユ「さらに予想外の事態が発生!え!?どうなるの僕!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいたただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの…」

「「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] 2.模擬戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/08/28 16:53
海上 訓練施設

ユーノは海上にある模擬戦や訓練を行う施設に立っている。
昔なのはが近所の丘の上で魔法の練習をしていたことを考えると大した進歩だと拍手を送りたくなるが今のユーノにはそんな余裕はない。
なぜなら

『じゃあ、いきますよぉ~!』

リインフォースが他人事のようにポチポチとコンソールを叩くのを遠い目で見た後、目の前にいる四人に目をやる。

一人は銃を持ったオレンジのツインテールの少女。
明らかにこちらにこれ以上ないくらいの敵意を込めた視線を向けている。
もう、『睨み殺してやろうか?』と無言で言っているように思えて仕方ない。

二人目はリボルバーナックルをした青いショートカットの少女。
オレンジのツインテールの子に引っ張られるように張り切っているのだが、どうにも元気が空回りしているように見える。

三人目は桃色の髪をした小さな少女。
傍らには小さな飛竜が飛びまわり、こちらを警戒している。
しかし、少女の方は少しおどおどしたように自分のほうを向いては視線が会うたびに慌ててそっぽを向いてしまう。

四人目は赤い髪をした少年。
青を基調とする槍を構えてこちらを見ているが、時折申し訳なさそうに苦笑している。

「………………なんでこうなった?」

ユーノの心からのつぶやきは晴天の空に飲み込まれて消えていった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 2.模擬戦

話は2日前までさかのぼる

機動六課隊舎 廊下

「ねぇねぇ、ティア。今度来る人ってどんな人かなぁ?」

右手に独特の形をしたガントレットをした青い髪の少女、スバル・ナカジマは訓練校時代からの相棒であるティアナ・ランスターと並んでシャワーで訓練の汗を流すべく浴場に向かっていた。

「さあ?なのはさんたちの昔からの知り合いらしいけど無限書庫の司書長をしてるだけなんだから、大方事務処理をするためくらいに呼ばれたんじゃないの?」

ティアナはいつもの不機嫌な顔のままスタスタと歩いていく。
スバルはそんなティアナの様子を気にかけて声をかける。

「あの……ティア?この前のことならあれくらい誰だって最初は……」

「ッッ!!うるさいわね!!もういいって言ってるでしょ!!」

不機嫌な顔をさらに不機嫌にしてティアナはスバルを怒鳴りつける。
つい先日のホテルアグスタでの任務中のティアナが無茶をしたせいで起きたとあるミス。
その失敗と原因がティアナを焦らせる。

(どんな人が来ても関係ない!私の……ランスターの弾丸はちゃんと敵を墜とせるってことを証明するだけよ……!!)

ティアナはすぐ後ろでしゅんとするスバルのことにも気付かずにどんどん歩いていく。
これがのちにあるトラブル、いや、事件を引き起こすことも知らずに。







フェイトとなのはの部屋

「ユーノさんが来るんですか!?」

エリオ・モンディアルは久々に訪ねた保護者の言葉に顔をパァッと輝かせる。

「うん。はやてが自由に動ける人が欲しいから呼ぶことにしたんだって。」

「あの……?」

エリオの後ろから幼い竜召喚士のキャロ・ル・ルシエはおずおずと顔を出す。

「ユーノさん……って誰なんですか?」

「ああ、そっか。キャロは知らなかったよね。」

フェイトはキャロの手をとって彼女の目を見つめる。

「ユーノはね、私たちの昔からの友達で、すっごく優しい良い人だよ。」

キャロはフェイトの言葉を聞いて顔を赤くしながらもじもじとし始める。
心なしかすぐそばにいる飛竜のフリードリヒもそわそわしている。

「?どうしたの?」

「あの……そのっ……!フェイトさんはその人のことす、すすす!!好きなんですか!!?」

次の瞬間フェイトとエリオは盛大にずっこける。

「な……なんでそう思ったのキャロ?」

「だから言ったじゃないですか。あんな言い方したら誰だって間違えるって。」

起き上がりながらキャロに理由を尋ねるフェイトにエリオが呟く。

「だ…だってフェイトさんがそんなこと言うってことはきっとフェイトさんが好きな人…」

キャロがあたふたするのを見てフェイトとエリオはクスクスと笑う。

「う~ん、ユーノがその気だったら私ももしかしたらOKをだしたかもしれないけど、ユーノにはもう婚約者がいるから。」

「え!?二股!?」

「いやいや、そうじゃなくて……」

混乱するキャロを落ち着けるためにエリオはゆっくりと深呼吸をさせる。

「落ち着いた?」

「はい……」

早とちりをしたせいでとんでもない勘違いをしたキャロは顔をトマトのように赤くして俯く。

「あのね、なのはが薬指に緑色の宝石の指輪をつけてることは知ってるよね?」

「?はい。」

いきなり何を言い出すのかといった表情でキャロはフェイトの顔をまじまじと見る。

「ユーノの魔力光は緑で、ユーノも薬指に桃色の宝石の指輪をしてるんだ。」

「!」

「もうわかったでしょ?ユーノが好きな人が誰か。」

キャロは頬を赤く染めながらこくんとうなずいた。









部隊長室

「しっかし、よくユーノの奴OKしたなぁ。」

ヴィータははやての知り合いが差し入れに持ってきたアイスを食べ終えた後、スプーンを口にくわえて上下させる。

「フフフ………すべては私の人望のなせる技や!」

「毎度毎度クロノと一緒に無茶させてるくせにどの口でそんなことが言えるんだよ。」

「……スンマセン。」

本気でへこみ始めるはやてを見ながらヴィータはフゥとため息をつく。

「ま、まあまあ。無事にユーノ君を呼べることになったわけだし、そんなに落ちこまなくても……」

「スンマセンスンマセンスンマセン………これからは無茶振りをしませんからどうか許してください……」

「あの、はやてちゃん?」

「ハッ!あかん、ループに入るとこやった!」

なのはが声をかけてようやく正気に戻ったはやては自分の手元にあるユーノに関する資料を読み始める。

「しかし、改めて見てみるとよくもまあこれだけの資格を取得できたもんやな。感心するわ。」

「はやてたちがあれやれこれやってみたらどうだなんてさんざん言ってきた成果だろ。」

「「うっ…」」

ヴィータの発言に返す言葉もないのかなのはとはやては言葉に詰まる。

「ヴィ、ヴィータちゃんだっていろいろ……」

「あたしは仕事を手伝ってくれって言ったくらいでお前らみたいに無茶はさせてねぇよ。」

「「…………………」」

二人は黙ってヴィータのほうを向く。
そして、

「「どうもすみませんでした。」」

深々と頭を下げる。
その姿を見たヴィータは一層大きなため息をつくのだった。







医務室

「しかし、ユーノがあっさり主はやての申し出を受けたのには裏があるな。」

「裏って?」

シャマルは机に座って紅茶をすするシグナムに問いかける。
だが、

「……シャマル、私が茶を淹れなおそう。」

シグナムの申し出にシャマルはショックを受けるが、すぐに立ち直るとさらに問いかける。

「ユーノ君がここに来るのは戦力増強のためじゃないの?」

「いや、おそらく主はやてにも何か別の目的があって呼んだのだろう。そして、ユーノもそれを承知の上で奴を追うためにここに来るのだろう。」

「奴?」

「………ロバークと言う男のことか。」

それまで床で日向ぼっこをしていたザフィーラが顔を上げる。

「ああ。奴はユーノの過去のことで何かを知っているようだったからな。ユーノ自身も気になるのだろう。」

シグナムは茶葉を蒸らしているティーポッドをテーブルの上に置いて椅子に座る。

「………でも、過去を知ることってそんなに大切なことなのかしら?辛い過去なら、思い出さないほうが……」

「それが間違っていると我らに言ったのはシャマル、お前だぞ。」

「でも!」

ザフィーラの意見にシャマルは釈然としないような顔する中、シグナムがティーポッドの中の紅茶をカップに注ぐ。
辺りに紅茶特有の爽やかな香りが広がり、言い争っていた二人の心も落ち着いていく。

「先のことを心配しても仕方あるまい。我らはただ目の前のことに全力で当たる。それだけだ。」

シグナムはそう言うと自分で淹れた紅茶をすすり、満足そうにうなずいた。








無限書庫 司書長室

ユーノが旅行鞄に荷物を詰め終えると、リュックサックに衣類を詰めていたアルフがユーノのほうを向く。
あらかた必要なものは向こうに送ったのだが、それでも衣類などは送り切れずに明日宿舎に持っていくためにこうして荷づくりをしているのだ。

「でも、よく引き受けたねぇ。」

「なにが?」

「なにが?じゃないよ。」

アルフが小さな体を伸ばして机の上にリュックサックを置く。

「あんたがいなくなったら私たちが大変なんだからな。そこんとこわかってるのかい?」

「だから機動六課や地上部隊からの依頼は極力僕の方でこなすから。」

「……正直クロノだけでも大変なんですけど。」

アルフが遠い目で笑う。

「クロノにも釘をさしとくから大丈夫だよ。………たぶん。」

「これ以上ないくらい当てにならない“たぶん”だね。」

アルフがジト目を向ける中、ユーノは目をそらして荷づくりに忙しそうにふるまう。

「ま、それはもういいとしてさ。あんま無茶するんじゃないよ?またあんたになんかあったらなのはが泣いちゃうんだから。」

「わかってるよ。」

ユーノは作業を中断して部屋の棚に飾ってある写真を見る。
幼い日になのはたちと撮った写真。
全員で行った模擬戦の後のため、誰の顔も煤だらけで汚れている。
だが、その笑顔は本当に楽しそうだ。

「僕もまだまだやりたいことがあるからね。そうそう無茶はしないよ。」

「とか言ってこないだも両手を傷だらけにして帰ってきたじゃないか。」

「あれははやての職務怠慢が原因だよ。」

苦笑いをしながらユーノは写真をカバンの中にしまう。

「それじゃ、僕は明日早いからもう寝るね。」

「うん、お休み。」

アルフが出ていくとユーノは伊達眼鏡をはずして電気を消すとソファー兼ベッドの上に横になり布団かぶる。
だが、

「……今夜も眠れそうにないな。」







?????

ユーノはいつもの光景の中にいた。
見なれた海鳴の街。
しかし、空は固有結界特有の不可思議な模様で覆われ、逃げ場はない。
そんな場所でユーノは自分のデバイスであるソリッドを起動して盾を構える。
そして、

「ハァァァァァァァァァ!!!!」

上空からの襲撃者の攻撃を防ぐ。

「……今日はフェイトか。」

金色の刃を持つ鎌をこちらに向けてきているには幼馴染のフェイトだ。

「キエサレ!!」

「自分の夢にここまで嫌われるとはね。」

ユーノは若干呆れながらフェイトの攻撃をシールドや盾を使って受け流していく。
いつもと同じ展開。
隙を見てユーノはフェイトの手からバルディッシュを弾き飛ばし、盾の刃の部分を振り下ろす。
だが、

(……やっぱりできない。)

この先どうなるかわかっていても自分にはできない。
ユーノは刃をフェイトに届く途中でとめてしまう。
それを見たフェイトはにやりと笑い、手元に発生させた魔力弾でユーノの胸を撃ち抜いた。






司書長室

ユーノはソファーの上で起き上がるとパジャマ代わりに着ていたシャツが汗でびっしょりなのにもかかわらず手元にあったライトをつけて棚へと向かう。
そして、そこから透明な瓶に入った無色透明の液体をグラスに注ぐと一気に飲み干す。
喉がカーッと熱くなるが、それに合わせて汗が引いていくのを感じる。

「……やれやれ。こうしてアルコール中毒者が出来上がるんだろうな。」

ユーノはそう言って自分の机の前に座ると検索を始める。

「ガンダム……ソリッド……ソレスタルビーイング……ユニオン……AEU……人類革新連盟……」

ロバークと戦った後思い出した単語。
ソレスタルビーイング、ユニオン、AEU、人類革新連盟。
これらをいくら検索しても近い名前の言葉は見つかるもののこれと言ったものがない。

「……早く寝るつもりが結局これか。でも、シャマルさんから極力飲まずに寝ろって言われてるからなぁ……」

約束は破っていない。
自分は飲まずに寝て偶然起きてしまって安眠を得るためにはアルコールを摂取するしかないからこうして飲んでいるのだ。

「我ながら大した言い訳だな。」

この間も召喚獣を撃退した時のことを問い詰められ、ウォッカを持ち歩いていたことを知られて大目玉をくらったばかりなのだ。

「……今度こそ寝ないと。」

ユーノは明かりを消すと再び布団の中にもぐりこんだ。









機動六課隊舎 大広間

機動六課が正式に活動を開始する前にはやてが演説をした場所に機動六課の面々は集められていた。
誰もがこれから行われることを知っているわけだが、ざわめきが収まらない。

「…………………」

「あ、あの、ティア?」

「何?」

隣で貧乏ゆすりを繰り返すティアナにスバルは声をかけるが、ティアナに睨まれて何も言えなくなってしまう。

「……遅い!」

壇上の横にいるシグナムも額に青筋を浮かべている。

「なにかあったのかなぁ?」

なのはが心配そうにつぶやく。
はやてはユーノに着いたら紹介をすると言っておいたのだが、ユーノは到着時刻を一時間近く過ぎても現れない。

「しゃーない。今回は延期して今度の機会に……」

その時だった。
凄まじい爆裂音とともに窓ガラスを突き破って何かが飛び込んできた。

「な!?」

「うそぉ!?」

その場にいた全員が目を丸くする中、エリオだけは飛び込んできたものに見覚えがあった。
白に染め上げられた車体に赤いラインが一本だけ風に流れるように入ったバイク。
今日ここに来るはずの人物の愛車だ。

「ユーノさん!!?」

「「「え!?」」」

エリオ以外の新人三人が驚きの声を上げる中、ユーノはヘルメットもとらずにはやてに文句を言い始める。

「はやて!!君は恨みをかいすぎ!!僕にまで飛び火したじゃないか!!」

「へ?」

はやてが間の抜けた声をあげた瞬間、続いて窓から弾丸が飛び込んでくる。

「チッ!!」

ユーノは舌打ちすると再びバイクで外に飛び出していった。
残された機動六課は呆然とその後ろ姿を見送る。

「……なあ、あれを助けに行くべきだと思うのはあたしだけか?」

「気が合うねヴィータ……私も今そう思ってたところだよ……」

ヴィータとフェイトはバリアジャケットを展開するとユーノの後を追いかけていった。







三十分後
逮捕された男たちは昔はやてに潰された麻薬カルテルの生き残りらしく、偶然機動六課に向かうユーノを見かけて人質に取ろうとしたところしぶとく逃げ回られ、最終的に機動六課の隊舎までついてきたらしい。
ちなみにこの後、彼らにはシグナムとなのはからきついお仕置きをされたのち、監獄送りとなった。







ユーノの部屋

「どっと疲れた……」

ユーノはベッドの上に寝転がると大の字になって大きく嘆息する。
はやてのかった恨みが自分に飛び火したうえに、その後の自己紹介の時にも機動六課の職員たちは知り合い以外の全員が引いていた。

「ま、まあ、無事で何よりでした。」

エリオはユーノの荷物を整理しながら苦笑する。

「ありがと、もうその辺でいいよエリオ。」

「フォローですか?片付けですか?」

「どっちもだよ。」

ユーノは本日十一回目のため息とともに起き上がる。

「けど君がここにいるなんて知らなかったよ。フェイトは何も言ってなかったし、なのはも期待できる新人ばかりだってくらいしか言ってなかったからね。」

「僕もまさかユーノさんにここで会えるなんて思ってもみませんでした。」

「前にあった時からだいたい一年ぶりかな?少し背丈が伸びたね。」

「ありがとうございます。それと、また稽古をつけてもらえますか?」

「う~ん……」

ユーノは困ったように笑う。

「あんまり君に変な癖をつけるとなのはやフェイトから怒られそうだからなぁ……。それに、君くらいの年であんまり無茶をすると体の成長にも害が出るからね。」

「そうですか……」

しょんぼりするエリオにユーノは慌てて付け加える。

「でも、基礎的なことを教えるくらいなら構わないよ。」

ユーノの言葉を聞いてエリオの顔が明るくなる。

「ありがとうございます!あ、そうだ!よかったら他のみんなにもいろいろ教えてあげたらどうですか?」

「いや、それは……」

「そのつもりやで。」

扉を開けてはやてが入ってくる。

「八神部隊長?」

「喜びぃ、エリオ。今日からユーノ先生がみんなの教導に参加してくれるで!」

「本当ですか!?」

エリオは喜ぶがユーノは口をあけてパクパクさせていたかと思うと素早くはやてに詰め寄り小声で問いただす。

(どういうこと!!?僕はあくまで捜査と事務処理で呼ばれたんじゃ……)

(私どもの大きな目的の一つは優秀な人材の育成にありますwww)

(謀ったなはやてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

はやての襟首を掴んでガクガクと前後にゆするがはやてはヘラヘラと笑うだけだ。

「あの……」

「ああ、ごめんなエリオ。ユーノ君が今すぐみんなのところに行きたいって言ってるから案内をしてくれへんかな?」

「はやて!!!!」

「わかりました!!」

エリオはユーノが拒否していることに気付かずに子供とは思えない力でユーノを訓練施設へと連れて行ってしまった。








海上 訓練施設

ユーノは来るときに着ていた隊士服から新人たちに合わせて自身も白いTシャツにジーパンの姿になる。

「えっと、今日から高町一等空尉とヴィータ三等空尉の補佐を(はやてに騙されて)することになったユーノ・スクライアです。どうぞよろしく。」

エリオを除く新人三人はいきなり着替えて何を言っているのかといった顔でユーノを見る。
遠くからは本来彼女たちを指導するはずのなのはとヴィータがその様子を見ている。

(フォローなしですか……まあ、あれだけの騒ぎを起こしておいてフォローを期待する方が無茶ってものか。)

しかし、なのははともかくヴィータはざまあみろとでも言いたげに憎たらしい笑みをこちらに向けている。

(後で覚えてろよ!)

ユーノが一人で復讐を誓っているとオレンジのツインテールの少女から声があがる。

「失礼ですが私たちは戦闘要員でない人から何かを教わるほど弱くはないつもりですが。」

鋭い目つきでユーノを睨みつけてくるその少女はさらにまくしたてる。

「無限書庫の司書長だかなんだか知りませんけど、自分に権限があれば何をしても許されるとでも思っているんですか?だとしたら大した思い上がりですね。」

「ティ……ティア…」

彼女の横にいた青いショートカットの少女が流石に言いすぎだと思ったのか彼女を止めようとする。

「あんたは黙ってなさいスバル。こういう人は一度ガツンと言っておかないとあとあと厄介なんだから。」

「えっと……ティアナ・ランスターさん、だったっけ?」

「二等陸士です。司書長のあなたにはどうでもいい存在でしょうが、少なくとも情報処理専門のあなたよりは強い自信があります。なので、今日のところはお引き取りください。」

「はい、そうしま……」

『こらこらティアナ!せっかくユーノ先生が直々に稽古をつけてくれるって言っとるのにそんな言い方はアカンで!』

海上訓練施設の外から誰かが拡声器を使ってこちらに声をかけてくる。

「「「「八神部隊長!!?」」」」

「仕事はどうしたんだよ…」

ヴィータのツッコミには誰も賛同はしなかったが、全員がここにいるはずのないはやての登場に驚く。

『けどまあ、ユーノ君の実力を知らんティアナがこんな優男に何ができるんだ!な~んて思うのもようわかる。たぶんスバルたちもおんなじことを考えとるやろ?』

「まあ……」

「たしかに……」

二人の少女もユーノのほうを見ながら申し訳なさそうにうなずく。

『そこでや!いまからユーノ君と新人フォワード4人による模擬戦を行うで!ティアナ達が勝ったらユーノ君は煮るなり焼くなり好きにして構わへんでwww』

「おいっ!!!」

『そのかわりや。』

はやての声がまじめなものになる。

『ユーノ君が勝ったら今後一切ユーノ君の教導に文句は言わへんこと!どんなにしんどいと思ってもしっかりついていくんやで!ええな!!』

「「「「はいっ!!」」」」

はやての声がまじめなものに変わったのを受けてティアナ達も表情を厳しくする。

「それじゃあ、すぐに準備を始めようか。」

なのはふわりと浮きあがると空中にタッチパネルを出現させて操作していく。

「なのは、君も最初からこうするつもりだったんだろ?」

「さあ?」

クスクスと笑ってごまかすなのはにユーノは大きくため息をつく。
一方、ティアナ達新人フォワードはと言うと。

「いい!?絶対勝つわよ!!相手がド素人でも手加減なし!あんな肩書だけの人間には絶対負けないわよ!!」

「あの、ティアナさん…」

「エリオ!!あんたも遠慮なんかするんじゃないわよ!スバルと一緒に徹底的にボコボコにしちゃいなさい!!」

何かを言いかけたエリオはティアナの剣幕に押されて黙ってしまう。

「……ホントに気が進まないんだけどなぁ。いっそわざと……」

ユーノは誰にも自分のつぶやきが聞かれていないと思っていたが、シグナムから念話が届く。

(わざと負けるようなマネをしてみろ…………生きて機動六課から出られると思うなよ?)

「……………………………」

顔を真っ青にしてユーノは絶対に負けるわけには戦いに挑むことになった。








回想終了

海上 訓練施設

「ホントになんでこうなった……」

遠くからこちらを見つめるギャラリーたちのなかには自分と新人フォワードとの対戦を聞きつけてやってきたものが大勢いた。
中には不謹慎にも賭けを始める者もいる。

「あのヘリパイロット……たしかヴァイス・グランセニックさんだったっけ。後でじっくりお仕置きしなくちゃね。」










「へっくし!!」

「うわ!?汚いじゃないですかヴァイスさん!!」

「悪い悪い……ただ、なんかいや~な寒気がこう背中を…」

機動六課のヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックは自分の後輩に当たるアルト・クラエッタに謝りながらも全身を駆け巡る嫌な悪寒と必死に戦っていた。

「それにしてもヴァイスさんらしくないですね。」

「何がだ?」

「今回の賭けですよ。みんなフォワードの四人に賭けてるのに胴元のヴァイスさんだけがユーノ司書長に賭けるなんて。」

「フッ……勝負師の血が騒いだのさ。今回は大穴が来るってな。」

ヴァイスは歯をきらりと光らせて笑うが、その笑みも長くは続かなかった。

「何が勝負師の血だ。お前は以前に私と一緒にユーノと組んだことがあっただろうが。」

シグナムに声をかけられたヴァイスは青ざめる。

「あ、姉さん!シーッ!!」

「悪いが私もユーノに一口賭けさせてもらうぞ。部下が不条理に金を巻き上げられるのを黙って見てるわけにはいかんからな。」

「あ、じゃあ私も一口乗ろうかな。」

「そんならあたしも。」

シグナムに続きなのはとヴィータも参加する。

「ごめんなさい。私も…」

「じゃあ、私も!」

「僕も黙ってるわけにはいきませんね。」

「当然、私もや。」

「私もですー!」

フェイト、シャーリー、グリフィス、はやて、リインフォースもユーノに賭ける。

「ちょ!?そんなご無体な!!」

こうしてヴァイスの野望は脆くも打ち砕かれることになるのだった。









ティアナはいら立っていた。
目の前に立っているこのヘラヘラした優男。
なのはの知り合いだかなんだか知らないが、自分たちがどれほどの訓練を受けて今の力を身につけたのかわかっているのだろうか。
それがいきなりやってきてなのはやヴィータとともに自分たちの教導をする。
あり得ない。
そしてこいつの今持っている物がさらに自分を苛立たせる。

「馬鹿にしてるんですか……?」

「?なにが?」

ユーノが今持っているのはデバイスでも何でもないただの棒である。
長さは大体ユーノの胸のあたり程度の木製の棒で、それなりに丈夫にできているようだが、普通はこれで魔導士四人とやりあうとなるとかなり心もとない。

「そんなもの一つで何ができるんですか?戦い方もわからないのならこんなところに来ないでください。」

「ああ、もしかしてこれだけで戦うことを心配してくれてるの?」

ユーノは自分の持っている棒を指さして穏やかに笑う。

「君たちが怪我をしたらまずいからね。これでどうにかすることにしたんだ。」

「「「!!!!」」」

この一言にはティアナだけでなく温厚なスバルとキャロも流石に頭にきたようだ。
つまりユーノは力の差がありすぎて危険だから棒一本で四人を相手に戦うと言っているのだ。

「馬鹿にしてるんですか!?」

「いやいや、君たちがすごいことは知ってるよ?」

スバルが声を張り上げるがユーノは笑って流す。

「だったらまじめにやってください!今朝の出来事といいまじめさが足りません!!」

「キュク!!キュク!!」

「いや、だからあれはどっちかって言うとはやてのせいで……ていうかなんでみんなそんなに怒ってるの?」

幼いキャロの怒った声にユーノは困ったように笑いながら汗を一筋たらす。
そんな中、エリオだけは珍しくおどおどとティアナたちを止めようとする。

「あ、あのティアナさん、ユーノさんは……」

「ハイハイ!すごい人ですよ!でもね!あそこまで馬鹿にされて引き下がれるわけないでしょ!!」

「いや、だからそうじゃなくて!!」

エリオがティアナを止めようとした時、ユーノと四人の間になのはの顔が現れる。

『準備はいい?じゃあ、Ready……Go!!』

パンという音ともにティアナの周りにオレンジの光弾がいくつも浮かぶ。

「ちょ!?だからティアナさん待っ…」

「クロスファイアー……!シュートッ!!」

ティアナの放った攻撃がユーノへと向かい、爆音とともに土煙を舞いあげた。









「あ~あ、決まっちゃったか。」

ロングアーチで情報処理を担当していたルキノ・リリエはその光景に思わず目をふさぐ。
そこそこ体は鍛えこまれているようだったが、あのダメージはどうしようもない。
気の毒だがしばらくはベッドの上で唸り続けることになるだろう。

「それはどうですかねー。」

「リイン曹長!」

目の前にやってきたのは人形のような姿をしているものの、自分の上司に当たるリインフォースだ。

「どういうことですか?」

「あれを見ればわかりますよ。」

「?」

ルキノはリインフォースの指さす方を見てみる。
そこには、

「んな!!?ななな、な!!?」

それを見た機動六課のスタッフからどよめきが起こる。
それを見なれていたものは当然という様子で周りのどよめきをBGMに誇らしい気持ちに浸っていた。










「そんな……!?」

「うそ……!?」

煙が晴れた先を見てティアナ達は驚愕する。
そこには無傷のユーノが棒を左手、右手と交互に投げて持ちかえている姿があった。
ユーノは傷を負うどころか最初に立っていた位置から全く動いていない。

「うん!なかなかいい攻撃だね!でも、少しバカ正直すぎるかな?誘導弾なんだからもう少し相手の意表を突くようにしなくちゃ。それとフルバックの……ええと、キャロ・ル・ルシエさん。せっかくメンバーが攻撃しようとしてるんだから瞬間的にでもいいからブーストしてあげなくちゃ。チャンスの時には手を抜いちゃ駄目だよ。あと、フロントアタッカーのナカジマさん。戦闘では絶対なんてものはないんだよ。敵を仕留められなかった時のことを考えて後ろに回って追撃の準備くらいしておいてもいいんじゃないかな?確かにランスターさんの攻撃は早かったけど、全く動こうとしてなかったよね?そんなことじゃ訓練校からやり直しをくらうよ。あ、当然これはガードウィングのエリオにも言えることだからね。」

ユーノが長々と説明している間もティアナ達は呆気にとられて動けない。
当然、ユーノの説教の内容など頭に入ってこない。

(なんで!!?防御するそぶりすらなかったのにどうして!!?)

ティアナは目の前で起こった現象の原因が理解できずに混乱する。
スバルとキャロも同じくうごけないが、見かねたエリオが動き出す。

「あ~も~!だから言おうとしたのに!!」

エリオはティアナの指示を待たずにユーノへと向かっていく。
それでようやく正気に戻った三人もそれぞれの立ち位置に移動して自分の役割に徹し始める。

(スバルは正面!エリオは後ろから!キャロはエリオのブーストをお願い!)

(((了解!!)))

まずはスバルとエリオが正面からユーノへと近づいていく。
途中、エリオは建物のかげに隠れて別方向からユーノの攻略にかかる。
スバルは自慢のローラーブーツのスピードを利用してグングン加速しながらユーノへと拳を打ち込むべく向かっていく。

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うん、それが当たったら確かに敵は倒れるだろうね。でも……」

スバルが拳を構えようとした時、ユーノは持っていた棒をおもむろに自分の左前にゆっくりと余裕を持って突き出す。

「へ!!?うわわわわわわわわわわわわ!!!!!!」

スバルは突然顔の先に迫ってきた棒の先に驚いて慌てて体を横に倒す。
そしてそのままズザザザと景気のいい音を出しながらユーノの後ろへ滑って行く。

「軸足が前に来てたらどちらから攻撃が来るかわかる人間にはわかっちゃうから気をつけてね。しかも君は右手に武器をつけているんだからあんな距離で振りかぶっちゃ誰にでもわかっちゃうよ。」

「ッッッ!!ウィングロード!!」

スバルは止まったところですぐに起き上がって空中に青い道を作り出し、その上を滑って今度は上からユーノに迫る。

「エリオ!!」

「はい!!」

そして、後ろからもエリオが同時に迫る。

「う~ん、40点。」

「!!」

エリオの槍の先がユーノに届きかけた時、エリオの足元から出てきた光の鎖がエリオの槍を絡め取る。

「エリオ!!」

「油断しない。」

スバルはユーノの脳天に向けて踵を振り下ろす。
だが、ユーノは棒を振るってスバルのわき腹に一撃を打ち込んで、そのまま棒を使ってエリオに向けて投げ飛ばす。

「うわっ!!」

「ぐっ!!」

「このぉ!!」

距離をとっていたティアナがユーノに向けて魔力弾を放つ。

(当たる!!)

そう確信したティアナだが、再び信じられないことが起こる。

「え!?うわ!!」

「うわっ!!」

「キャア!!」

ユーノに当たると思われた魔力弾が直前で何かにぶつかったように方向を変えてティアナ以外の三人に襲いかかる。

「ティ、ティア!!」

「わ、私じゃないわよ!!」

つい先日スバルに魔力弾を当てかけたティアナは動揺する。

(どうして!?私は本当に何にもしてないのに!?あの人だって防御魔法なんて……)

その時、ティアナはユーノの周りをよく見て気付いた。
彼の周りを薄い、本当に薄い緑の円がいくつも囲んでいる。

「あ、ばれた?」

ユーノはいたずらっ子が自分の悪さがばれた時のようにペロリと舌を出す。

「こうやって角度を調整してあげればこれだけ薄いシールドでも攻撃を弾けるって寸法さ。で、それを利用すれば周りへの反撃も同時に行える。あ、ちなみに最初も同じ手を使ったんだ♪」

「そんな……」

ティアナは唖然とする。
もしユーノが今言ったことが本当だとしたら、あれだけの数の弾の軌道を一目見たあとシールドの角度を調整してその後飛んでいく方向まで計算したということになる。

「ティアナさんさがって!!」

呆然としていたところにキャロの大声でティアナは体をびくりと震わせてユーノとさらに距離を取る。

「フリード!!ブラストレイ!!」

「キュク!!」

キャロの一言でフリードの口元に魔力の塊が形成されユーノへとはじき出される。

「飛竜の一撃かぁ…流石にこの薄さで防ぐのは無理かなっと。」

ユーノは右手にシールドを発生させてフリードの一撃を防ぐ。

「これも…だめ…」

キャロが肩で息をしはじめる。
ブーストに加えフリードの制御。
まだ同時にこなすことになれていない上に、ユーノに一切の攻撃が通用しないという事実が彼女の疲労を加速させる。

「ほらほらセンターガード。ちゃんと仲間のコンディションを確認しないと。」

「ッッッ~~~~~~!!!!!」

先ほど自分が格下だと言ったユーノから自分の未熟さを指摘される屈辱。
その事実はティアナの頭を冷やさせるどころかますます怒りを増加させていく。
その時、

(あの、みなさん!!)

エリオが全員に念話で語りかける。

(僕に考えがあるんです!!)

エリオは自分の作戦をティアナ達に話す。

(上手くいくのそれ?)

(わかりません。でも、このままバラバラに攻めるよりユーノさんの弱点を突く方がいいと思います。)

(エリオ君、弱点ってなに?)

「相談は終わったかな?」

ユーノの言葉にエリオたちの相談は中断させられる。

(……今はエリオの作戦を信じるしかないわ!行くわよ!!)

ティアナの号令とともに四人は信じられない行動に出る。

「お!?」

四人は攻撃もせずに、フルバックとセンターガードのキャロとティアナまでユーノへと突っ込んでいく。
布陣は先頭にスバル。
その後ろにティアナとキャロが横に並び、二人の間から顔をのぞかせるようにエリオが後ろに続く。

(気付いたかな?)

ユーノはチェーンバインドを発生させて拘束しようとするが、スバルは防御で防ぎ、絡みついてきたものは持ち前の力で引きちぎる。
スバルが防ぎきれなかったものはティアナの魔力弾とフリードの牙で破壊し、どんどん距離を詰めてくる。

(これは……ばれたな。)

ユーノは棒の中心を握って重心を落とす。

「でぇやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

まずはスバルがしかける。
だが、最初のように大ぶりではなく小さく細かく手数でユーノを攻める。
ユーノは棒の両端を使って上手くいなしていく。

(すごい!!強化も何もしていないただの棒なのに、私の攻撃に軸をずらして当てることで防いでるんだ!)

しかし、その隙にティアナとキャロもユーノとの距離をゼロにする。

「クロスファイアー……」

「フリード!」

「キュクーー!」

ユーノのシールドのさらに下で魔力弾が生成される。
そして、

「シュート!!」

「ブラストレイ!!」

スバルがバックステップでさがった瞬間にユーノへとまとめて放たれる。

「クッ!!」

しかし、ユーノは体をひねってそれをすべてかわしていく。

「そんな!!」

「でも、まだとどめが残ってるわよ!!」

ティアナとキャロが攻撃の反動を利用してそのままユーノの後ろへと向かっていくと今度はスバルの後ろからエリオが飛び出してくる。

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「っ!!」

エリオがユーノへと槍を突き出し、二人ともそのまま動かなくなる。
だが、

「……お見事。この作戦を考えたのはエリオだね。」

「はい。ユーノさんは魔力弾での攻撃はソリッドの中にある“あれ”を使わないとできないですから。それに、ユーノさんは僕たちの攻撃を一歩も動かずにさばいていました。と言うことは、今回のユーノさんが決めた自身の敗北条件は僕たちがユーノさんを一歩下がらせること。卑怯だとは思いましたがユーノさんの弱点とその敗北条件をつかせてもらいました。」

エリオの先には槍の先を両手の間にはさんで止めながらも、その勢いに負けて一歩後ろに下がっているユーノがいた。

「僕の負け……かな?」

「いえ、ユーノさんが手加減してくれていたからここまでできたんです。そうじゃなかったら……」

『こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!何やっとんねんユーノ君!!負けたら承知せぇへんでぇ!!!!』

エリオとユーノが綺麗に締めようとした時、はやてから怒号が飛ぶ。

『そうっすよ!!俺なんて全財産かけちまったんだから絶対に勝ってもらわないと困りますよ!!!!』

「八神部隊長、ヴァイスさん…」

はやてに続いてヴァイスと身内から金欲にまみれた声が聞こえてくるたびにエリオは情けなくて泣けてくる。
しかし、ユーノはエリオの愛槍、ストラーダから手を離して少しさがる。

「ギャラリーからアンコールが入ったみたいだし、第二ラウンド開始といかないかい?」

ユーノのウィンクにエリオは力強く笑う。
エリオ以外の三人も満足していないのか、それぞれの武器を構える。
ユーノはそれを見てニヤリと笑う。

「じゃ、第二ラウンド開始だ。」

そう言ってポケットの中から緑色の宝石を取り出した。









その力、新たな希望を導く光となるか……




あとがき・・・・・・・・・・という名のお前本当に反省してんのかオイ!?

ロ「模擬戦編その1でした。」

ユ「でしたじゃない!!」

ティアナ(以降 ツン2)「なによ私たちのこの扱い!?そして私のこのテロップはなんなのよ!!?」

ロ「アリサさんの遺志を継ぐ者のあかしだ(笑)」

ツン2「(笑)じゃない!!」

ロ「ガフッ!!し、絞まる!!絞まってますってティアナさん!!」

キャロ(以降 天然)「フリード、その人の頭噛み砕いちゃっていいよ♪」

フリード(以降 竜)「キュク♥」

ロ「いだだだだ!!!!ちょっと何すんの君ら!!?」

スバル(以降 KY)「IS!破砕振動!!」

ロ「ちょ、やめ……ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

エリオ(以降 エリ)「……反省しましたと言って毎度反省なんてしていない作者への制裁の最中ですが、ここでさっそく次回予告に行きたいと思います。」

ユ「次回は今回中途半端に終わったところを全部消化したいと思っているとロビンが言ってました。(死んでなければだけど)」

エリ「僕とユーノさんの馴れ初め、そしてユーノさんが実は超有名人であることが判明!」

ユ「次回はシリアス分を多めにしていきたいと思います。今回はちょっとはしゃぎすぎたので次回からはまじめに行きたいと思います。」

エリ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの…」

「「次回をお楽しみに!!」」







ツン2「反省しろぉぉぉぉぉぉ!!!!海よりも深く山よりも高く!!」

天然「そして私たちの愛の手(出番)を!!」

KY「そして次回までに私たちのまともなテロップを考えろ!!」

ロ「ちょ………もう勘弁……」

地獄はまだまだ続く……



[18122] 3.Guardian
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/21 18:12
新暦72年 ミッドチルダ 遊園地

僕は、久しぶりに休暇が取れたフェイトさんと一緒に行ったその遊園地でその人に出会った。
人見知りをしてフェイトさんの後ろに隠れる僕に、その人は手を差し伸べて優しく微笑んだ。
少し怖かったけどその人の手をとる。
ガサついててひんやりとした手だけど、どこか人間らしい温かみが感じられる手だった。

「はじめまして。フェイトの友達のユーノ・スクライアです。」

それが、僕とユーノさんの初めての出会いだった。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 3.Guardian

新暦75年 海上 訓練施設

ティアナ達は距離をとってユーノを取り囲む。
その顔には戦う前の油断はすでにない。

「……ランスターさん。」

「?」

「最初に謝っておくよ。ごめんなさい。」

「はい?」

ティアナは訳がわからず首をかしげる。

「僕は確かに君たちを侮っていたみたいだ。腹を立てて当然だ。」

そう、侮っていた。
ユーノは自分を一歩さがらせる。
これをクリアするには今の彼女たちでは少なくとも二十分はかかると踏んでいた。
しかし、実際はその半分ほどの時間でユーノの課した課題をこなしてしまった。

「だから、お詫びに少しだけ本気を出させてもらうよ。」

ユーノはポケットから取り出した緑色の宝石につぶやく。

「ソリッド、セットアップ。」

〈Start Up〉

ユーノはバリアジャケットを羽織り、多目的武装盾、アームドシールドの切っ先を地面とこすり合わせる。
こすられた場所から火花が散る。

「防御だけはしっかりしておいてね。じゃないと……」

ふわりとユーノの体浮き、地面との間にわずかな隙間ができる。

「怪我をしちゃうよ。」

「え……?」

刹那、スバルはユーノの姿を見失った。
だが、すぐに見つけた。
なぜなら、彼女の目と鼻の先にユーノがいたのだから。

(いつの間に!!)

スバルは拳を振るうが、ユーノはその力の流れに逆らわず、スバルの腕を掴むと彼女が拳を振った方向へと投げ飛ばす。

「クッ!!ウィングロード!!」

スバルは逆さまの状態のままウィングロードを発生させ、そこにローラーを当てて加速させると天地が逆転したままユーノへと再び向かって行く。

「クロスファイアー、シュート!!」

スバルを援護すべくティアナは誘導弾を放つ。

「ホイールプロテクション。」

ユーノは回転する緑の盾を両手の前に張ってスバルとティアナの攻撃を同時に止める。

「クッ!!まだまだぁ!!」

スバルは堅牢な防御に阻まれながらもユーノを何とか押し込もうとする。
だが、

(お…もい…!)

ユーノの体は鉛でできているかのように重く、どれほど力を入れてもビクともしない。
スバルは自分の力に絶対の自信を持っていただけにこれは悔しい。

「こういうときは無理をせずにさがるのがセオリーだよ。じゃないと…」

鋭い風切り音とともにユーノの脚が振られる。
スバルは咄嗟にプロテクションを張るが、あっさりと破られ腹部に衝撃が奔る。

「ガァ……!?」

「こういう風に相手から反撃をもらうことになる。」

数メートル先の壁に叩きつけられたスバルは背中をうった痛みよりも、ユーノの一撃の方がきつかったのか腹を押さえて痙攣を繰り返す。

「スバル!!」

ティアナはスバルを救うべく、ユーノを射撃で牽制しながらスバルへと近づこうとする。
しかし、

「いかせないよ。」

ユーノはフィールドを張ってティアナの進路に立ちふさがる。

「クロスミラージュ、カートリッジロード!」

〈Cartridge Load〉

ティアナはカートリッジを使って魔力を増幅させて周囲に魔力弾を浮かべる。
だが、そのままの状態でユーノと睨みあったまま動かない。

(へぇ……)

それを見てユーノは感心する。

(最初は少し熱くなってたみたいだけど、今は冷静に相手の出方をうかがいながら僕を牽制する。そして…)

ユーノはちらりと後ろを見る。
そこには倒れたスバルに肩をかして起き上がらせるエリオがいた。

(そのうちに自分以外に仲間の救出を任せる……この冷静さがこの子の最大の武器ってわけか。)

(もう格下だなんて思わない!!なのはさんかそれ以上の相手のつもりでぶつかる!)

ティアナとユーノの間の緊張感が極限にまで高まっていく。
そして、

「シュート!!」

最初にしかけたのはティアナだった。
周囲に浮いていた魔力弾をユーノへと放つ。
ユーノはシールドでそれを防いでいく。
しかし、ティアナの攻撃はそれで終わりではない。

(もらった!!)

ユーノの背後に回していた一発の弾が後頭部へと向かっていく。

「フィールド。」

光の膜に阻まれてティアナの一撃は防がれてしまう。
だが、ティアナはクスリと笑うと急にかがむ。
ティアナが屈んだ先にはフリードが火球を口元に生成していた。

「フリード、ブラストレイ!」

強烈な破壊力を秘めた火球がユーノに迫る。
しかし、ユーノはフィールドを解除したまま動かない。
そして、

「はぁ!!」

凄まじい気迫とともに振り抜かれた刃が火球を切断し、霧散させる。

「そんな!?」

「嘘でしょ!?」

二人が驚いていると、ユーノがティアナに急接近する。

「駄目だよ、そんなに大きな隙を見せちゃ。」

「しまっ…」

ユーノはティアナの後頭部に手刀を打ち込んで気絶させる。

「ランスターさんは予想外の事態に弱いところがあるね。あと、少し熱くなりやすいかな?でも、そこを直していけば優秀なセンターガードになれるよ。」

気絶したティアナを安全な場所まで転送すると続いてキャロのほうを向く。
しかし、

「おうりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おっと。」

スバルがウィングロードを使って背後から迫るが、ユーノは横に跳んでそれをかわす。

「次はナカジマさんか。」

「マッハキャリバー、いくよ!」

〈了解。〉

スバルは渾身の力でユーノへ打撃を打ち込もうとする。
しかし、

「だから……見えてるよ。」

ユーノは首を横に動かしてかわすとスバルのあごにクロスカウンターの要領で左拳をかすらせる。
その次の瞬間、スバルは腰が砕けたようにその場にへたり込む。

「え!?あ、あれ!!?」

何が起こったのかわからないスバルだが、それでも起き上がろうとする。
しかし、膝がガクガクと笑い、思うように動かせず尻もちをつく。

「顎を打ち抜かれると頭蓋のなかに浮いている脳が揺らされて、意識がはっきりしていても体が思うように動かなくなるんだ。それと、君は一撃必殺を相手に打ち込んで勝つタイプみたいだけど、必殺の一撃は相手にとっても必殺のカウンターのチャンスになる。よく覚えておこうね。」

四つん這いになってでも立ち上がろうとしているスバルも転送すると改めてキャロとフリードに向き合う。

「フリード!!」

キャロは先手必勝とばかりにフリードをユーノへと向かわせる。
しかし、

〈Flash〉

「きゃっ!?」

「キュク!!?」

ユーノの手のひらの上で発生した光に目がくらみキャロとフリードはユーノを見失う。

「どこに……?」

「!!」

その時、フリードは殺気を察知する。

「キュクーー!!」

自分の主人であるキャロに害をなすものへとフリードは向かっていく。
だが、

「違う!フリード、そっちじゃないよ!!」

「キュク!!?」

フリードはユーノが潜んでいると思われたビルのかげに向かったが、そこには誰もいない。
そして、

「はい。」

「!!」

キャロの首筋にヒタリとユーノの持つアームドシールドの刃が当てられる。

「何か言うことは?」

「ま…参りました……」

「キュク……」

キャロとフリードが俯いてそう言ったのを聞くとユーノは転送魔法を発動させてキャロ達も別の場所に移す。

「さて、と。残りは君だけだね、エリオ。」

ユーノがゆっくりと振り向くとエリオがストラーダを構えてこちらを見ている。
緊張しているのが見て取れるがしかし、その顔には緊張と同居するように強者に挑めることへの喜びからくる笑みが浮かんでいる。

「わざと僕だけ残しましたね?」

「うん。あの三人には悪いけど、君がどれくらい成長しているか確かめたかったからね。」

柔らかに微笑むとユーノもアームドシールドを構える。

「……いきます。」

「うん。」

ユーノが返事をすると同時にエリオは飛び出していく。
ユーノはストラーダの切っ先を受け流してエリオへと蹴りを放つが、エリオは低い身長をかがむことでさらに低くしてユーノの蹴りをかわす。

「ハァッ!」

エリオはかがんだ状態で一回転してユーノの脚を斬ろうとするが、ユーノはアームドシールドを地面に突き刺すようにしてそれを防ぐ。
そして、空いていた左の手のひらに魔力を集中させていく。

「!クッ!!」

エリオがさがった瞬間、ユーノの手のひらに発生した魔力刃がそれまでエリオがいた空間を貫く。
しかし、エリオはすぐさま距離を詰めてユーノと打ちあいを再開する。
ユーノはエリオと鍔迫り合いの最中に問いかける。

「距離をとらないのかい?」

「距離をとったら“あれ”が来るでしょうからね。それに、相手との力量差におびえてさがるより、懐に飛び込んだ方が安全だって言ってたのはユーノさんですよ。」

「ちぇ。言うんじゃなかった。」

ユーノはアームドシールドを大きく振ってストラーダをはねあげ、左手の魔力刃を振り下ろす。

「つっ!!(まだうまくいったことはないけど…やるしかない!!)」

エリオは態勢を崩しながらもそれをかわす。

「!!」

ユーノの前からエリオが消える。
急いで後ろを向くと、滑るような動きでユーノのバックをとっていたエリオが放ったストラーダがすぐそこまで迫っていた。

「いけぇ!!」

「クッ!!」

エリオとユーノの動きがとまり、あたりが静まり返る。

「……やるね。」

「いえ、かすめただけです。」

ストラーダの横には頬にかすり傷を負ったユーノの笑顔がある。

「ご褒美ってわけじゃないけど……これで決めるよ。」

ユーノはトリガーを引いてカートリッジを炸裂させ、アームドシールドをくるりと一回転させて固定すると、バックステップでエリオと距離をとる。

「しまっ…」

「撃ち抜く…!」

ユーノの足の裏に萌黄色の光が集まり、弾け飛ぶ。
その勢いに押し出されたユーノは急接近したエリオに盾を押しつける。

「バンカー、バースト!!」

〈Assault Bunker〉

刃の反対側についていた二つの突起が圧縮された魔力に押し出され、エリオを押し飛ばす。
壁に叩きつけられたエリオはズルズルとズリ落ちて前のめりに倒れる。
しかし、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。








数分後

「ユーノ……なんでエリオにあんなことしたのかな?」

ユーノは訓練場で正座をしてフェイトと向き合っていた。
しかし、ユーノは怖くてフェイトの顔を見ることができない。
フェイトは笑っているのだが、後ろに何やら真っ黒なオーラを背負っている。

「いや、あれはその、エリオの成長が嬉しくて、少し本気を出さないと失礼にあたるかなって……」

「フーン……それでエリオが怪我をしてもいいと思ってるんだ?」

「いえ、決してそんなことは……」

滝のように汗を流しながら俯くユーノを見ながら、訓練場に戻ってきていたティアナ達はなのはとヴィータに向き合っていた。

「あの、あれ止めなくていいんですか?」

ティアナはフェイトとユーノを指さして尋ねる。

「いいんだよ。ユーノも少しやりすぎたからな。」

そういうヴィータの顔には悪魔の笑みが浮かんでいる。

((((この人、絶対楽しんでる……))))

新人フォワードたちは改めて自分たちがいろいろな意味でとんでもない人物に教導を受けていることを思い知らされる。

「それよりもだ……お前らはもう少しいいところを見せろよな。良い線いってたのはエリオだけじゃねぇか。」

「うっ…」

三人は返す言葉もなくうなだれる。

「でも、ユーノさんって一体何なんですか?とても情報処理専門の部署にいる人だとは思えないんですけど。」

スバルの言葉を聞いたヴィータとなのははクスクスと笑い始める。
エリオもスバルの隣で苦笑している。

「ねぇ、みんな。ガーディアンって聞いたことないかな?」

「…?ええ、知ってますけど。たしか、R・A事件(リビング・アーマー事件)解決の影の功労者で、その後も時々いろいろな事件の捜査に協力する人物、でしたよね。」

「正解だティアナ。じゃあ、そいつの特徴を聞いたことはあるか?」

ティアナ、スバル、キャロは首をかしげてそれぞれの持っている情報を挙げていく。

「たしか……魔力光が萌黄色で…」

「大きな盾みたいなデバイスを使ってて…」

「普段は無限書庫で働いている…」

そこまで言って三人は顔を真っ青にする。
バッとユーノのほうを振り向くと正座をしたまま照れくさそうにポリポリと頬を掻きながらユーノがこちらを見ている。

「そんなに話が大きくなってたんだ……」

「「「ええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!!?!!!!!!!!?!!!!?!?」」」

三人の叫びが晴天の空に響き渡る。

「改めて紹介するね。私たちの友人で、無限書庫司書長。そして、『翠空の守護者』、ガーディアンことユーノ・スクライア君だよ。」

「え!?ちょ!!ええぇ!!?」

スバルはユーノとなのはの顔を交互に指差して口をパクパクさせる。
ティアナはと言うとあまりのショックに呆然自失状態だ。
キャロは腰を抜かしてフリードと一緒にプルプル震えている。

「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかな?」

「いや、だってユーノさんそんなこと一言も!!」

「だって聞かれなかったし。」

正座したままあっけらかんと答えるユーノにティアナは頭を抱えるが、すぐにハッとするとスバルの後ろで苦笑していたエリオに掴みかかる。

「エリオ!!あんた知ってたんでしょ!!?何で言わないのよ!!」

ガクガクと前後にエリオを前後にゆすりながらティアナは凄まじい剣幕で怒鳴りつける。

「だ、だって!!言おうとしたのにティアナさんもみんなも聞こうとしなかったじゃないですかぁぁ~~~~~!!!!!」

そう言われ、ティアナ達ははたと思い出す。









『あ、あのティアナさん、ユーノさんは……』

『ハイハイ!すごい人ですよ!でもね!あそこまで馬鹿にされて引き下がれるわけないでしょ!!』









回想終了

ティアナはエリオを掴んだまま青ざめ、続いて真っ赤に紅潮する。

「……ティアナ達は少しお説教かな?」

「知らない相手に油断しすぎだ。」

二人の言葉に三人はがっくりと肩を落とす。
そして、エリオにもフェイトからお説教が待っていた。

「エリオもあんな無茶な戦い方駄目だよ。ああいう戦い方は後先考えないユーノだからできるんだから。」

「はい……ていうかユーノさんのことまだ根に持ってるんですね。」

「しかし、エリオには驚かされたな。」

ヴィータはフェイトがムッとする中、エリオの肩を叩く。

「お前の最後に見せたあの動き、ユーノがよく使うやつじゃねぇか。お前、飛行魔法なんて使えたのか?」

「いえ、あれは…」

「電気変換資質を利用して地面と自分に磁力を持たせて反発させあって浮かんで、地面の磁力一部分ずつを変えることで移動して僕の動きを再現した。……そんなところかな?」

「はい。練習では一度も成功しなかったんですけど、今回は上手くいきました。」

いつの間にか復活していたユーノの説明にエリオはうなずく。

「そう言えば、エリオ君はどこでユーノさんと知り合ったの?」

キャロが不思議そうに尋ねる。

「あ、それ私も聞きたい!」

スバルがキャロに続く。

「えっと、話せば長いんですけど……」









新暦72年 ミッドチルダ 遊園地

その日、エリオはフェイトに連れられてミッドチルダの遊園地まで来ていた。
フェイトは職業柄なかなかかまってあげられないのでたまの休みぐらい一緒に楽しいところに行きたいと言ってエリオをここに連れて来たのだ。

「……そろそろかな?」

フェイトは遊園地の入口を入ったところで腕時計を見ながらあたりを見渡す。

「フェイトさん、どうしたんですか?」

「うん、ちょっと待ち合わせをしててね。私が急な用事で一緒に入れなくなったときに一緒に遊園地を回ってくれる人を待ってるんだ。」

エリオはフェイトの言葉を聞いて不安そうな顔をする。

「あ、大丈夫だよ!その人は私の昔からの友達ですごく優しい人だから!」

フェイトはエリオの不安を感じ取ってフォローをするがそれでもこれから来るその人物に対するエリオの怯えは消えない。
エリオからしてみればフェイトに用事が出来たならそのままお開きになったほうがよかった。
エリオがそう言おうとしたその時、

「ごめん、フェイト!少し遅れた!」

入口から手を振りながら駆けてくる一人の人物。
金色の長い髪を後ろでまとめ、眼鏡の奥の瞳は翠色をしている。

「ホントにごめん!もしかして待った?」

「ううん、私たちも今来たところだから。それよりごめんね。せっかくの休日に頼みごとなんてしちゃって。」

「別にいいよ。アルフもなのはも今日は仕事があるからね。それに僕も暇を持て余してたところだったから。」

ユーノは手を振って笑ったところでフェイトのそばにいたエリオに気付く。
エリオはユーノと目があった瞬間にフェイトの後ろに隠れてユーノの様子をうかがっている。

「フェイト、その子が?」

「うん。ほら、エリオ。あいさつしないと。」

フェイトがエリオを前に出してあいさつをさせようとするが、エリオはフェイトの服の袖を掴んだまま怖いものでも見るようにユーノを見ている。

「ごめんね。少し人見知りが強くて…」

「別にいいよ。同じころの僕に比べれば可愛いもんだよ。」

ユーノはエリオと同じ目線までかがむとふわりと笑って手を差し出す。
エリオも少し怖がっていたが、ユーノの手を握る。

「はじめまして。フェイトの友達のユーノ・スクライアです。」

「エ…エリオ・モンディアル……です。」

「エリオ君って言うんだ。よろしくね、エリオ君。」

「は…はい。」

エリオはすぐにフェイトの後ろに引っ込んでしまい、それを見た二人が苦笑する。

「じゃあ、アトラクションを回ろうか?ここのアトラクションは混むからね。」

フェイトはそういうとエリオと手をつなぎアトラクションを目指して歩いていく。
ユーノはそんな二人を後ろから眺めながらニコニコと笑ってついていった。






2時間後

お昼時になってフェイトが売店に昼食を買いに行き、エリオとユーノの二人は距離をとってフェイトの帰りを待っていた。
正確にはエリオがユーノから離れて少し遠くにある噴水の広場で一人で遊んでいるのだ。

(ハハハ……嫌われちゃったかなぁ?)

ユーノはベンチに座りながら頭の後ろに手を組んで空を見上げる。

(……あの子もいろいろあったみたいだからなぁ。まだ知らない人は怖いか。)

自分の幼いころを思い出す。
丁度今のエリオくらいの時は自分も誰も信じることができず、子供のくせに上っ面だけの付き合いを覚えて自分の心をひた隠しにしてきた。
考えてみればスクライアの一族のみんなにも迷惑をかけてきたかもしれない。

「まったく……ろくでもない人間だよ。」

ユーノはそう言って前を向く。
すると、

「ん?」

エリオが数人の男に絡まれているのが見える。

「ったく、何が次元世界一安全な世界だ。」

ユーノはベンチから立ち上がるとエリオのもとへと歩いていった。





エリオは自分の身長の何倍もあるような男たちを見上げながら震えていた。
相手がいきなりぶつかってきたのだが、ズボンが汚れたと因縁をつけてきたのだ。

「おい、保護者を呼べよクソガキ!」

「人が新調した服汚すなんざどういう教育受けてんだ!」

男たちがエリオに詰め寄るのを見ている周りの人間は眉をひそめてそそくさと立ち去るか小声で話しあうだけだ。

「金が払えないなら体で…」

男の一人がエリオに拳を振り下ろそうとした時だった。

「うちのエリオが何かしましたか?」

ユーノがふわふわとした笑顔でやってくる。

「ユ…ユーノさん……」

エリオは震えながらユーノのほうを見る。
ユーノはエリオの前まで行き、男たちと対峙する。

「何か御迷惑でもおかけしましたか?」

「ご迷惑もクソもねぇよ!どうしてくれんだこのズボン!!」

男が足を持ち上げて汚れたといったところを見せる。
確かに汚れてはいるが、泥で汚れたもので明らかにここでエリオに汚されたものではない。

「責任とれよ!ああ!?」

「これくらいなら洗剤で洗えば落ちますよ?なんなら洗って…」

「ちげぇよバーカ!!クリーニング代よこせって言ってんだよ!!」

男が毒づくが、ユーノは笑ったままだ。

「これくらいのことで金をよこせなんてその派手な見た目によらず器量が小さいんですねぇ。」

「ああ!!?んだとこの優男!!」

男たちがさらに厳つい顔でユーノを睨む。

「あらら、本当のことを言われたからってそんなに怒るものじゃないですよ?それに、いきなり人に金をよこせなんて言うほうがよっぽど非常識だとは思いませんか?それくらい幼いこの子にだってわかりますよ?つまりあなた方は子供よりも常識を知らないって言うことなんですねぇ。」

ハッハッハと笑うユーノを見ていた周りの人間たちは青ざめながら距離をとっていく。

「こ…の……!!」

男たちは怒り心頭といった様子でポケットからデバイスを取り出して起動させる。
ナイフ、メリケンサックとさまざまなものに変わったそれを見たギャラリーから悲鳴のようなどよめきが起こる。

「あらら……不法所持のデバイス。そんなのここで出したら怒られますよ?あ、それすらもわからない気の毒なおつむなんでしたね。いや、失敬失敬。」

ブツリという音ともにナイフ形のデバイスを持っていた男がユーノに斬りかかる。

「!!!!」

周りの人間も、そしてエリオも思わず目をつぶる。
だが、多くの人々が思っていたような結果にはならなかった。
エリオが目を開けると、ユーノが涼しい顔で男のナイフを人さし指と中指の間に挟んでいた。

「ぐ……ぬ……!!」

男は顔を真っ赤にしてナイフを動かそうとするが、ピクリともしない。

「ほい。」

ユーノはそんな男の足を右足で払う。
男はナイフを手放して情けない顔で派手に転ぶ。

「てめぇ!!」

メリケンサックをつけた男が拳に魔力を纏わせてユーノに襲いかかる。
しかし、ユーノはその拳をあっさり左手で受け止めてみせる。

「どうしました?まさかこの程度であんなに威張ってたんですか?」

「や…ろう……!!」

男はユーノを前に襲うとするがびくともしない。
それどころか、自分がつけていたメリケンサック型のデバイスがミシミシと嫌な音をたてはじめる。

「グォ…!!?」

そして、遂にデバイスが砕け散る。
しかし、ユーノはさらに力を入れていき男の手も少しずつ歪んでいく。

「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

激痛にたまりかねた男が叫び声を上げる。
ユーノはそれでもやめずに力をくわえていく。
男の手は骨が砕け、手から突き出て信じられない量の出血を起こしている。

「ハハハ、情けないなぁ。これくらいでそんなに痛がるなんて。」

ユーノは爽やかに笑っているが、後ろにいるエリオはガタガタと震えている。

「やめろ!!やめてくれ!!お、俺たちが悪かったから!!ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「……よーく聞きなよ、チンピラ君。」

エリオはそれまでの穏やかな声から低く鋭い声にさらにおびえる。

「僕がこの世で一番嫌いなものは抵抗する力のない人間から何かを奪おうとすること。そして……」

ユーノは周りで見ている人間を見渡す。
その顔はすでに先ほどの穏やかな笑みから怒りに満ちた阿修羅の顔になっている。

「苦しんでいる人間を見て見ぬふりをして遠巻きに見てあざけり、気の毒の一言ですますようなクズの中のクズのような人間だ。」

周りの人間は気まずそうに視線を外す。

「それと…この子は僕の友人の大切な子だ。この子に手を出すのなら容赦はしない……!!」

「ひ…ひいいぃぃぃぃぃ!!!!」

男たちはユーノから逃げだそうとする。
だが、その瞬間に黄色のバインドが男たちを拘束する。

「管理局の者です。みなさん動かないでください。」

片手に昼食の入った袋をぶら下げたフェイトが魔法を発動して男たちを拘束していた。
フェイトは大きくため息をつくとユーノへと歩み寄る。

「何やってるのユーノ!?こんなに大きな騒ぎを起こして!!管理局の人間だってことを言えばこんなことには…」

「あいにくと僕は管理局の名前をちらつかせて厄介事を解決するようなことはしたくないんでね。」

ユーノとフェイトが言い争っていると周りにいた人間たちがフェイトの存在に気付き騒ぎ始める。

「さすが次元航行部隊のエース。人気者だね。」

ユーノが肩をすくめて笑うのを見てフェイトは一層表情を厳しくする。
だが、それでもこのままではマズイと思ったのか男たちを立たせる。

「私はこれからこの人たちをすぐ近くの部隊まで連れていくからユーノはエリオの面倒を見てて。」

それを聞いたユーノは流石に焦る。
何せエリオも今のを見ていたのだ。
当然……

「……………………………………………」

(こっちをじっと見てるよぉ~!)

この時になってようやく自分の行いを後悔し始めた。

「ぼ、僕が送るよ。うん。だからフェイトはエリオ君と一緒に…」

「ユーノ、過剰防衛をして捕まえましたって言って連れていく気?ユーノはただでさえ上の人間に睨まれてるんだから余計なことはしないで。」

「で、でも!」

その時、ユーノは後ろから誰かに引っ張られる。

「?」

後ろを見てみるとエリオがユーノの服をギュッとつかんでいる。

「じゃ、エリオ。いい子にしててね。」

「あ、ちょっと!!」

ユーノが呼びとめようとした時にはフェイトはもう離れてしまっていた。








ミッドチルダ はやて宅

『わかった。じゃあ、冷蔵庫の中のもんは好きにつかっていいから。』

「うん、ありがとう。じゃあね、ヴィータ。忙しいとこごめんね。」

『おう、じゃあな。』

合鍵で家主たちが任務で不在のはやての家に入ったユーノは電話を切るとソファーに座っているエリオのほうを見る。
行儀よく座っているエリオを見てクスクスと笑う。

「そんなに緊張しなくていいよ。」

「あ、はい……」

エリオは返事をするものの相変わらず固いままだ。
ユーノは台所へ行って何かを作り始める。
あたりにいいにおいが漂い始め、しばらくするとユーノが皿の上に黄色いものを乗せてやってくる。

「はい、オムライス。あいかわらずはやてが料理好きで助かったよ。」

エリオは目の前に出されたオムライスとユーノを交互に見比べる。
ユーノはにっこりと笑ってエリオにオムライスを進める。
エリオはそれでも食べようとしないが、そのうち、



グウゥゥゥゥ~~~~



大きな腹の虫が鳴る。
エリオは顔を赤くしながらスプーンを持って手を合わせる。

「いただきます。」

エリオはスプーンですくってオムライスを口へ運ぶ。
口の中にケチャップライスの程よい酸味と塩気、そして卵の甘さが広がる。

「おいしい…!」

「ありがとう。」

ユーノはオムライスを食べ進めるエリオを見て笑うが、すぐに顔を曇らせる。

「……ごめんね。せっかくフェイトと一緒に入れる貴重な日だったのに。あんな怖い思いまでさせちゃって。」

「そんな……僕の方こそ勝手なことをして迷惑をかけちゃって…」

二人の間に重い沈黙が流れる。
ふと、エリオが口を開く。

「あの……ユーノさんは管理局が嫌いなんですか?」

「………なんでそう思うの?」

「ユーノさん、フェイトさんが管理局の話をしたら嫌な顔したから、それで…」

(……子供っていうのは見てるものなんだな。)

ユーノは大きくため息をつく。

「うん、嫌いだよ。この世でなによりも嫌いだ。」

「……………………………………」

「でも、そこで働いている人全員が嫌いなわけじゃないよ。フェイトとは長い間友達だし、クロノも……無茶なことばっかり言ってくるけどなんだかんだで友達を続けられてるし。」

エリオは不思議そうにユーノの顔を見る。

「言ってる意味がよくわかりません。」

ユーノはそれを聞いてクスリと笑う。

「今はわからなくても、そのうち僕が言ってる意味がわかるよ。」

ユーノはエリオの頭を優しくなでると立ち上がる。

「僕は洗いものがあるから、先にお風呂に入っていいよ。お風呂は廊下のつきあたりにあるから。」

そう言うとユーノはカラになった皿を持って再び台所へ向かう。
エリオは一足先に風呂に入るとこの家でユーノが使っているという部屋のベッドの上で眠りについた。







どれくらいの時間が流れただろうか。
エリオは外から聞こえる音で目を覚ました。
眠い目をこすりながら部屋の窓のカーテンを開けて外を見た。

「!」

エリオはそれの姿に思わず息をのんだ。
大きな盾と翠に輝く剣を持ち、マントを羽織ったユーノが月光浴びながらそれを振るっている。
空の上を滑るように動きながら両手の刃を振るう。
その姿はエリオには『武』というよりは『舞』に見える。
それほどまでにユーノの姿は美しかった。
ユーノは空中でバク宙をきめた時、エリオの姿に気付き彼のもとへと降りていく。

「ごめん、起しちゃったかな?」

「いえ、そんなことは……それより今のは?」

「ああ、これ?」

ユーノは苦笑しながら自分のバリアジャケットを引っ張る。

「ちょっとした訓練をね。もう習慣みたいになっちゃってて……眠るのを邪魔して本当にごめんね。」

「いえ、そんなことないです!すっごく綺麗でした!!」

エリオが突然大声を出したのでユーノは驚く。

「本当に綺麗で……そう、天使みたいでした!」

「天使、ね……ずいぶんと大層なものにたとえられたなぁ…」

ユーノは照れ臭そうに頬を掻く。
そんなユーノの気を知ってか知らずか、エリオはある決意をする。

「あの、ユーノさん!」

「ん?」

「僕に……僕に戦い方を教えてください!!」

「ええぇっ!!?」

「僕……あの時は確かに怖かったけど、それでも、フェイトさんやユーノさんに……誰かに守られてばっかりじゃいやなんです!!だから、僕に誰かを守るための戦い方を教えてください!!」

「いや、そういうことはフェイトに…」

ユーノはフェイトに任せようと思ったが、エリオの目を見て気が変わる。
エリオの決意に満ちた瞳。
そこに過去の自分をだぶらせた。

「………わかった。その代わりちゃんとフェイトに許可をもらうこと。それと、フェイトからも正規の魔法を教わること。いいね?それと今日はもう遅いからすぐに寝ること。」

「っっ!!はいっ!!!」

エリオは満面の笑みでうなずくとすぐに布団にもぐりこむ。
しかし、嬉しさによって興奮していたため、その夜はなかなか眠れなかった。










新暦75年 機動六課隊舎 食堂

「それで、その後よく稽古をつけてもらってたんです。」

「なるほどねぇ~。」

スバルはいつものメガ盛りパスタをフォークに巻きつけながらエリオの話に相槌を打つ。

「じゃあ、エリオ君はその時にユーノさんがガーディアンだって聞いたんだ。」

「まあ、そうなるね。」

「しっかし、意外だったわねぇ。噂のガーディアンがあんなのだったなんて。もっとゴツイのを想像してたのに。」

ティアナがコップに入った水を飲み干してテーブルの上に置く。

「まあ、それはいた仕方のないことだろうな。」

「シグナム副隊長!?」

ティアナ達は突然現れたシグナムに敬礼しようとする。

「ああ、楽にしてて構わん。」

「はい……でも、仕方がないってどういうことなんですか?」

スバルの問いかけにシグナムは大きくため息をつく。

「ユーノがR・A事件にかかわった時はまだ正規の局員じゃなかった。知っての通り、あの事件は管理局の人間が犯人だ。正義の味方を気取っている上の連中としては自分たちだけで始末をつけたことにしたかったのさ。しかし、どれほど事実を隠そうとも管理局の中までは手が回らなかったのだろうな。その結果、ガーディアンの噂はあいまいな人物像とともに局員たちの間だけでまことしやかに語られることとなった。だから、局員たちも誰がガーディアンなのかわからない。なんてことになったというわけだ。」

「なるほど…」

スバルは口にパスタの具のミートボールを放り込みながらうなずく。

「それに……」

「それに……?」

「いや……これは私が言うべきことではないな。」

シグナムはそういうと椅子から立ち上がる。

「邪魔をしたな。午後の訓練に備えてゆっくり休め。」

「「「「はい!!」」」」









ユーノの部屋

「あ~~、疲れた~~。」

「フフ、ご苦労さま。」

ベッドで大の字になるユーノになのはが笑いかける。

「あ~、ランスターさんたちに嫌われちゃったかなぁ?」

ユーノは寝返りをうつと枕に顔をうずめる。

「う~んとね、ティアナはちょっと素直じゃないところがあるけど基本的にはいい子だよ。」

「でも、あの後も声をかけてもらえなかったし……あ~!!どうしよう!!」

「大丈夫だよ。ほら、早く行って教導の準備をしなくちゃ。」

なのはに促されてユーノはしぶしぶ起き上がる。

「あ~あ、大体こういうのは僕は苦手なんだよなぁ……どうせならロックオンにでも……!?」

ユーノは自分が口にした単語に驚いて立ち止まる。

「どうしたの?」

「あ、なんでもない…」

「?変なユーノ君。」

ユーノは先に行くなのはを見送りながら頭の中に浮かんだ単語を並べていく。

(刹那……ロックオン……アレルヤ……ティエリア……。そして、エクシア……デュナメス……キュリオス……ヴァーチェ……。)

何のことかさっぱりわからない単語を脳内に並べ、じっくり吟味していくが、やはり何のことかわからない。

「……後で調べよ。」

ユーノは自分の中でそう完結させると、なのはの後を追いかけた。








スバルとティアナの部屋

午後の訓練を終え、ティアナよりも早く部屋の戻ってきていたスバルは家族への手紙を書いていた。

『拝啓、おとーさんとギン姉ぇへ。今日、すごい人が機動六課にやってきました。なのはさんの幼馴染で、婚約者で、すっごく強い人!最初は私たちのこと馬鹿にしてるって思ったけど、ホントはすごくいい人でした。それに、ちゃんと私たちの欠点を見つけて、それを指摘して……とにかく凄い人です!これから訓練がもっと厳しくなるかもしれないけど、あの人を見てもっと頑張ろうって思えました!機会があったらまた手紙書くね。』

スバルは一通り書き終えると大きく伸びをする。

「これで、良しと。フフフ……おとーさんとギン姉ぇびっくりするだろうな。なにせ、あのガーディアンがやってきたんだから!」










ミッドチルダ西部 陸士108部隊 隊舎

「もうユーノのあんちゃんは向こうに着いてるころか。」

ゲンヤ・ナカジマは湯飲みに入った緑茶をすするとテーブルの上に置く。

「きっとスバルは驚いてるでしょうね。」

ギンガ・ナカジマも自分の湯飲みに入った緑茶をすするとのほほんと息をつく。

「けど、あのあんちゃんのことだからいってそうそうに何か厄介事に巻き込まれてそうだな。」

「まさか。さすがにそこまでは…」

「ないと言いきれんのか?お前だってアイツと初めて会った時に一悶着あったじゃねぇか。」

「ひ、人が気にしてることを蒸し返さないでください!!」

ギンガは顔を真っ赤にして立ち上がる。

「ハハハ!!そう怒んなよ…って、おい!それはまだ飲みかけ…」

「知りません!!」

「おい!こら!ギンガ!!」

ギンガはゲンヤが飲みかけだった緑茶もお盆の上に乗せるとさっさと持っていってしまった。

「ちょっとからかっただけだろ、ったく。」











守護者の名を手にした青年
しかし、彼が守るものは彼を守護者と呼ぶ者が望むものとは違うことを誰も知らない








あとがき・・・・・・・・・・・という名のやっとまともなあとがきだな……

ロ「いろいろ未消化の部分をこなした第三話でした。」

ユ「またぶっ飛び設定が出てきたね。なにこの妄想分たっぷりの僕の二つ名。」

な「えっと……私はユーノ君ならどんな名までもかっこいいと思うよ。」

狸「はいそこ!こんなところでいちゃつかへん!!このはやてさんがいるかぎり甘甘展開は禁止や!!」

な「ちっ…」

ユ「なんか、なのはがどんどんブラックになっていってるような……」

ロ「気のせいだ。それより今回からまたゲストを招待していくぞ。今回は00の主人公、俺がガンダムだ!刹那・F・セイエイだ!」

刹「久しぶりだな、ユーノ。」

ユ「久しぶり……って、僕まだ記憶がないのにここで出していいの?」

ロ「あとがきだからむしろOK。」

刹「だそうだ。」

狸「ほな、解説にいこうか~。」

な「今回は模擬戦とエリオとの馴れ初め、そして、ユーノ君が実は有名人なことが発覚!」

ロ「少しやりすぎた感があるけどさらにぶっ飛んだ設定も出てくるので皆様お覚悟を(^_^;)」

狸「これ以上のはもうかなりヤバいと思うんやけど?」

ロ「無理を承知でねじ込む!!」

刹「そんなことをしていると読者から愛想を尽かされるぞ。」

ロ「あ、ごめんなさい。できるだけソフトにやってみますんで見捨てないで。」

ユ「日和った!!」

な「しかも早い!!」

ロ「俺はプライドなんてどぶに捨てちまってるのさ。」

狸「何カッコ悪いことカッコよく言おうとしてんねん。」

刹「いつものことだ。」

ユ「じゃ、これ以上ロビンが情けない姿をさらす前に次回予告にいこうか。」

な「自分にコンプレックスを抱くティアナはスバルとともに無茶な自主練を続ける。」

ユ「そしてついに事件が起こる!」

狸「対峙するユーノ君となのはちゃん。」

刹「今、悲しい戦いが幕を開ける。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 4.歪んだ想い
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/21 18:13
?????

『デュナメス、出撃する!!』

駄目だ……行っちゃ駄目だ……!!

『GNアーマーで対艦攻撃をしかける!』

やめろ……やめてくれ……!!

『ハロ、悪いがつきあってもらうぜ。』

行くな……!!行ったら君は!!

『アリー・アル・サーシェス……!』

行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!







ユーノの部屋

「ユーノさん!ユーノさん!!」

「ッッッ!!!!ハァッハァッ!!!!!!!」

スバルに揺さぶられてユーノは飛び起きる。
パジャマ代わりのランニングシャツもズボンも汗でびっしょりと濡れて皮膚にくっついていて気持ち悪い。

「大丈夫ですか!?」

「スバル……なんでここに…?」

「教導の時間になっても来ないから心配で見に来たんですけど……ずいぶんうなされてましたよ?」

「ごめん……もう大丈夫だから……」

ユーノはガンガンと痛む頭を押さえながら立ち上がる。

「けど……」

「本当に大丈夫だから……なのは達には少ししたら行くって伝えておいてくれるかな?」

最後まで心配そうに何度もこちらを振りかえるスバルを送り出すとユーノは机の引出しにしまってあったウォッカの瓶を取り出して蓋をあけて一口飲む。
喉にしみわたる焼けつくような熱さをしっかりと感じながら先ほどの夢を思い出す。

(いつもの夢と違う……)

宇宙の中を進む青と白のカラーリングの艦。
そして、そこにいた右目に眼帯をした男性。
知らないはずの人間なのに、どこか懐かしく、そして…

「……?」

ユーノは自分の目元を触って濡れていることに気付く。

「僕は……泣いてるのか……?」

なぜかはわからない。
けど、さっきの男性の顔を思い出すととても悲しい気持ちになってくる。
そして、同時に自分が生きる世界への怒りがわいてくる。

(……なんでなんだろ。)

ユーノは思い出そうとするが、シャツが肌に張り付く不快感が邪魔をしてなかなか思い出せない。

「……シャワー浴びよ。」

ユーノは考えることよりも、汗を流してこの不快感を取り除くこと優先することにした。









魔導戦士ガンダム00 the guardian 4.歪んだ想い

訓練場

「じゃあ、午前の分はここまで。また午後にね。」

「「「「はい!!」」」」

教導を終えたティアナ達は疲れた体で隊舎にある食堂を目指す。

「結局ユーノさん終わりにしか来なかったね。」

スバルが残念そうにつぶやくとティアナは肩をすくめる。

「戦うのが上手くても人に教えるのは苦手なんでしょ。」

「でも、なんだかシャマル先生に無理やり連れて行かれたみたいでしたけど。」

キャロが上を仰ぎながら考え込む。

「そう言えば……なんかあの時のシャマル先生、いつもと違ってわよね…こう、なんというか、黒いものが背中からこう……」

ティアナはユーノがシャマルに連れて行かれた時のことを思い出して身震いをする。

「……なんか、どうでもよかったはずなのにすごく心配になってきた。」








医務室

ユーノは二日連続で正座をしていた。
医務室にはユーノとシャマルの二人きりだ。
二人きりなのだが、医務室のなかは中身がなみなみと残された酒瓶で埋め尽くされている。

「ユーノ君、これはどういうことなのかしら?」

「これは、その……なんというか、あの、まあ、一種の睡眠薬みたいなものでですね、なかなか眠れない時にこれを飲むと安眠を得られるというか……」

「あらあら、ずいぶん変わった睡眠薬ね……それもこんなに……ユーノ君はこんなに睡眠薬を用意して自殺でもする気なのかしら?」

「いえ、むしろ今あなたに殺されないかが不安です。」

ユーノは人間がこれほどまで冷や汗をかけるのかという量をたらしながら必死の弁解を試みる。
ミッドでは18以上で成年であり、酒類を飲んでも問題はないのだが、ユーノが飲む量は常軌を逸しているものがあった。
夜、寝ていたかと思うとうなされて起きると酒を口にする。
ひどい時にはそれを繰り返し一晩で酒瓶を5つ空にして朝に倒れているのを見つけられ、病院に担ぎ込まれたこともあった。
そんなことがあってからシャマルはユーノに禁酒するように言っているのだが……

「そのですね、僕もやめようとは思ったんですよ?ほら、ここって未成年も多いですし。」

「じゃあ、なんで持ってきたのかしら?私、ずいぶん前から口を酸っぱくしていってますよね?このままだとアルコール中毒になるって。だからしばらくは酒類は控えるようにって?この間アグスタで出会ったときにも言いましたよね?」

「い、いや……その、実はヴァイスさんに頼まれまして。」

「あらあらそうなの。でも、どうやってヴァイス陸曹からそんなこと聞いたのかしら?」

「それは、ほら!以心伝心っていうやつですよ!それさえあれば多少離れていたって!」

シャマルはにっこりと笑う。

「へぇ、そうなの。」

「はい!アハハハハハハハハハ!」

「ホホホホホホホホホホホホホ!」

「ハハハハ………ハ……」

ユーノの笑いが消えていく。
そのわけは、凄まじい魔力を目の前で放つシャマルだ。
そして、次の瞬間シャマルがクラールヴィントを起動する。

「ユーノ君!!!!!!!!!」

その日、医務室から緑の光があふれていたことはユーノ以外知らない。









「反省しましたか?」

「……はい。」

精神的にボロボロの状態でユーノはうなずく。
シャマルはその様子を見てため息をつくが、今度は机の中から青い錠剤の入った瓶を取り出す。

「はい、これ。もうそろそろ切れるころでしょ。」

「ありがとうございます。」

ユーノはまじめな顔に戻るとシャマルから錠剤を受け取ろうとする。
だが、シャマルはさっとその錠剤をユーノの手から離す。

「……いつまでみんなに隠しておく気なの?」

「……ずっとですよ。僕が死ぬその日まで。」

シャマルの顔に先ほどよりも激しい怒りが浮かぶ。

「あなたはどうしてそんなに他人事みたいなことが言えるの!?自分の体のことなのよ!?」

「だったら、大人しく局の研究所に行ってモルモットになってでも長生きしろって言うんですか?」

「そうは言ってないわ!!ただ、みんなにあなたの傷のことを…」

「言えばみんなそろって僕を研究所送りにするでしょうね。」

「そんなこと…」

「ないって言いきれるんですか?」

ユーノの問いかけにシャマルは黙ってしまう。
ユーノはシャマルと目もあわさずに彼女の手から薬をとる。

「それと、一つ言っておきます。」

ユーノが扉の手前でシャマルのほうを向く。

「僕はみんなと友人のつもりですけど、あくまで管理局のためだけに僕と接するのなら、みんなは僕が最も嫌悪する人間になることを忘れないでください。」

いつものユーノらしくない、突き放すような声にシャマルはそれ以上何も言えずに彼の背中を見送ることしかできなかった。






廊下

「どういうこと……?」

ティアナは廊下の角に隠れながらユーノを見送る。
先ほどのシャマルの恐ろしい姿から、ユーノが心配になったティアナは医務室の前まで来ていた。
そして、先ほどの会話を聞いていた。

「ユーノさんの傷……?それに、研究所送りって……」

どうにも穏やかな話ではなさそうだ。

(たぶん、聞いても教えてくれない……だったら。)

ティアナは自らの手で調査をすることを決意する。
それを隠すことが、ユーノにとってどれほど重く、悲壮な覚悟であるかも知らずに。








訓練場

「ティアナ、センターガードはあんまり動かない。基本的にできるだけ敵を撃ち落として対処すること。」

「はい!」

ティアナは向かってくるターゲットに対して膝を地面につけて狙いを定めると引き金を引く。
こちらに向かってくる球体が弾けて散っていく。
訓練校でもやった基礎中の基礎だ。
すべて撃ち落としたところでユーノはうなずく。

「お見事。少し狙いが甘いのがいくつかあったけど、この調子なら百発百中なんていうのもすぐだよ。」

「ありがとうございます……」

ティアナはユーノに頭を下げるとすぐにその場を離れようとする。

「……僕が射撃を教えてたら、変かな?」

ティアナは足を止めて振りかえる。

「いえ、そんなことは…」

「隠さなくていいよ。でも、僕が一番君の射撃の型に近いからね。」

「でも、ユーノさんは…」

戸惑うティアナにユーノが苦笑する。

「なのはたちみたいな砲撃や誘導弾は使えないけど、狙撃に関してはそこそこ自信があるんだ。」

「はぁ……」

「だから、今は信じてくれないかな?」

「はい。ただ……」

「ただ?」

「なんでこんな基礎的なことばっかり……私はもう少し実戦的なことを教えてもらいたいんです!」

ユーノは熱く語るティアナを見てクスクスと笑う。

「それがなのはに言えないこと?」

ティアナはハッとして首を慌てて横に振る。

「い、いえ、そんなことは!!」

「隠さなくていいよ。君がそう思うのも無理はないと思うから。」

「え…?」

叱られると思っていたティアナは予想外の答えに思わず呆けてしまう。

「ティアナは確か執務官志望だったっけ?」

「はい。」

「そっか……。じゃあ、頑張りたいのもよくわかるよ。でもね、あんまり君たちくらいで無理をするといいことなんて何もないからね。なのはもそう言ってただろう。」

「?なんのことですか?」

ユーノはティアナの言葉に首をかしげる。

「なのはは、みんなは君たちにあの事を言ってないの?」

「いえ……だから何のことなんですか?」

「…………………………………」

「あの、ユーノさん?」

口元に手を当て、急に表情を厳しくして考え込むユーノ。
しかし、ティアナに話しかけられてすぐにいつもの温和な顔に戻す。

「ん?ああ、ごめん。まあ、多分そのうち話してくれると思うから。それまではなのはのことを信じて待っててくれないかな?」

「?……はい。」

ティアナは不審に思いながらも返事をする。

(そうだ……ついでに。)

今度はティアナからユーノに問いかける。

「そう言えば、ユーノさんはどうして無限書庫で働いてるんですか?ユーノさんくらい強かったら、どんな部隊でやってけそうな気がするんですけど?」

「ああ、それはもともと僕がスクライア族の出身だからかな。本を読むのも好きだし、論文を書いて発表する人間としてはいろいろ知識を詰め込めるのも魅力的だね。」

「本当にそれだけですか?」

ティアナがさらにつっこむ。

「何か頻繁に戦うことができない理由があるんじゃないですか?例えば……体に不都合があるとか。」

ティアナはユーノに揺さぶりをかける。
ユーノは確かに呆気にとられるが、すぐに笑う。

「僕は残念ながら健康そのものだよ。………シャマルさんには酒を控えろってよく言われるけどね。」

「そうですか……(流石にそう簡単には尻尾を掴ませてくれないか。)」

「ただ……」

「?」

「あえて理由を挙げるとしたら管理局が嫌いだからかな………そう、この世から消し去ってやりたいくらいにね……!!」

「!!!!!!」

ユーノの顔を見たティアナはゾッとする。
笑っている。
笑っているのだが、見たこともないような冷たい笑み。
そこには優しさなどかけらもなく、まるで視線で人を突き刺しているようだ。

「な~んてね♪」

しかし、ユーノはすぐにいつもの顔に戻る。

「本当に無限書庫が好きだからって以外に理由はないよ?まあ、執務官志望のティアナとしてはいろいろ深読みしたいのかもしれないけど、あんまりなんでもかんでも疑うと嫌われちゃうよ。」

「は……はい……」

ティアナは必死で体の震えを抑え込んでいた。
少しでも気を抜くとこの場ですぐにでも倒れてしまいそうだった。









?????

今、ユーノの目の前には宇宙が広がっている。
誰もが一度は憧れを抱く、夢の場所。
だが、実際はどこまでも果てしなく広がる闇が自身を飲み込み、生かしては帰すまいとしているようだ。

そんな宇宙の一角に、ある物が漂っている。
青い砲台の残骸のようなもの。
それは火花が散っていて、今にも爆発しそうだ。
そのそばに誰かがいる。
深緑のスーツを着た男が力なく漂っている。

(助けなきゃ!!)

ユーノは足元にあるペダルを踏んで自分が乗っているなにかを一気に加速させる。

(届け……!!届け!!)

もう少しで届く。
助けることができる。
だが、

(!!?なんで!!?なんで止まるんだ!!)

急に動きがとまってしまい、それ以上進むことができなくなってしまう。

(動け!!動けよ!!動いてくれ!!)

その間にも、砲台は小爆発を起こし始める。
そして、男が銃の形にした手を何かに向けた瞬間、爆発で起きた炎が彼を飲み込んだ。









ユーノの部屋

「ああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

ユーノはベッドから飛び起きる。
体中が汗まみれだが、それよりも翠の瞳からこぼれる涙がベッドを濡らしていく。

「もう、朝か……」

白み始めた空の薄い光が窓から差し込んで、部屋の中を照らしている。
これ以上眠ることができないと考えたユーノはソリッドを持って訓練施設へと向かった。








訓練施設

誰もいないビルの屋上で、ユーノはコンソールを叩くと遥か彼方の海上に的を出現させる。
そして、ソリッドをコントロールして中から白く、長い銃身のライフルを取り出す。
ユーノは一度だけ大きく息を吸い込んで吐き出して息を止めると、ライフルの上についたスコープを覗きこむ。

「……狙い撃つ。」

ユーノの指が引き金を引く。
翠色の流星が空を駆け抜け、的を射抜く。
ユーノは中に仕込まれていたカートリッジをボルトアクションで排出すると、その後も止まらずに引き金を引いていく。
翠の弾丸が空を駆け抜けていくたびに、的が一つずつ減っていく。
そして、すべての的が消えたところでユーノは目の前に表示された数字を見る。

『Hit rate 100%』

それを見たユーノは肺の中にためていた空気を外に送り出す。
ユーノがライフルをしまっていると、遠くから物音が聞こえてくる。

「だれかいるのかな?」

ユーノは音のする方に行ってみる。
すると、ティアナとスバルがいた。

(自主練ね……やり過ぎはよくないって言ったばっかりなのに。)

しかも、それだけではない。
ティアナは慣れない魔力刃をクロスミラージュの先に生成して、近接戦闘の練習をしている。

(ありゃりゃ……)

その姿にはキレがなく、お世辞にも上手く動けてるとは言えない。
だが、

「すごいよティア!!きっとなのはさんたちビックリするよ!!」

「うん!!」

スバルとティアナは上手くいっていると思っているようだ。

(そりゃあビックリするよ。喧嘩やってんじゃないんだから……って、僕も人のこと言えないか。)

自分の戦い方もかなり無茶なものであることは理解している。
だが、彼女たちはそのことを理解していない。
そこがユーノとは決定的に違う。
ユーノは自分を、そして誰かを傷つける覚悟を決めている。
そう、本当の殺し合いをする覚悟ができている。
一方、彼女たちからはそんなものがまったく感じられない。
だからこそ、喧嘩の域を出ないのだ。

(ま、そんな覚悟決められても困るけど。)

そんな覚悟を決めるのは自分だけで十分だ。
でなければ、あの時のエレナやロックオンのように……

「!!?またか……」

ユーノは頭を振ると目を閉じて先ほど浮かんだワードを思い出す。

(ロックオンとデュナメス……これはもう思い出してた。問題は、エレナとシルト……。今までの組み合わせもどうやら何かと何かの名前の組み合わせみたいだな。最初はそれぞれ独立した何かかと思ったけど……なにせ『ロックオン』に『刹那』だもんな……)

ユーノはさらに自分の持つ情報と結び付けて深く考えようとする。
しかし、その時。

「ユ~ノさん!」

「うわっ!!」

突然声をかけられて目を開けるとすぐ目の前にスバルの顔があった。

「ユーノさんも自主練習ですか?」

「スバル……君は女の子なんだからもう少し振る舞い方に気をつけなよ。」

「?なんでですか?」

「言っても無駄ですよ。昔からこうですから。」

ティアナも諦めとユーノへの同情をこめた眼差しを向けながらやってくる。

「それよりもユーノさんはなんの練習をしてたんですか?」

「ん?ああ、少し早く起きたから狙撃の練習をね。」

「え!?ユーノさんそんなこともできるんですか!?」

スバルは目を輝かせながらさらに近寄る。

「ちょ、近い!近いってスバル!!」

「こら、ユーノさんが困ってるでしょ。」

ティアナはスバルの首根っこを引っ張ってユーノから引きはがす。

「ありがとう。」

「どういたしまして。ところで、さっきの見てたんですよね?どうでした?」

珍しくティアナは上機嫌でユーノに聞いてくる。
だが、

「ああ、あれね。正直いただけないな。」

よほど自信があったのか、ティアナとスバルは唖然とする。

「あんなお遊びで満足してるんなら今すぐ局員なんてやめるんだね。命がいくつあっても足りやしないよ。」

「……んで…」

「?」

「なんでそんなこと言うんですか!!?ちゃんと普段の教導もこなしてます!!それと一緒に自主練習をやっちゃいけないんですか!!?なんで自主練習でやってることまでなんで否定されなくちゃいけないんですか!!?」

スバルが怒鳴るのをユーノは黙って聞いている。
ティアナはと言うと下を向いたまま拳を震わせている。
ユーノは大きくため息をつくと二人を見て頭を掻きながら質問をする。

「じゃあ、一つ聞こうか。なんで君たちはそんなに急いでいるの?」

「え……?」

「君たちはまだ若いだろ?なんでそんなに急いで力をつけていく必要があるの?」

「それは…」

「急いで身につけた力は上っ面のものだよ。本当に強い人間に当たれば、そんなメッキはあっという間にはがれる。それに、無理をすれば強くなる前に君たちが壊れることになる。」

「でも!!」

スバルはまだ何か言おうとするが、ユーノはさっさと背を向ける。

「……どうやら、なのはは話してくれなかったようだね。」

「え?」

二人の顔を見ることなく、ユーノは隊舎へと歩いていってしまった。








駐機場

ユーノは結局、その朝の教導にはいかなかった。
ヘリなどが格納されている駐機場に行って自分のバイクをいじっている。

「それで、結局ティアナ達は聞く耳持たず。今頃あの喧嘩殺法を自慢げに披露してるでしょうね。」

「へぇ、そんなことがあったんスか。」

ヴァイスは背を向ける形でヘリの整備をしながらユーノの話を聞いている。
軍手はすでに油で汚れているが、ヴァイスは構わずにそれで額の汗を拭い、一息つきながらユーノのほうを見る。

「うん。それに、あの後なのはに会いに行こうとしたんだけどなかなか会えなかったんですよ。あの子たちがあの調子だから、てっきりもう話してくれてるものだと思ってたんだけど……」

「俺もこないだ見かけて忠告はしたんですけど……。俺らぐらいの世代じゃなのはさんとユーノさんのあの話は有名なんすけど、ティアナ達ぐらいじゃ知らなくて当然でしょうね。」

「でも、あれを見たら流石に話す気になるでしょうけどね。あの調子だと僕らの二の舞ですよ。」

ユーノもレンチを持ったまま立ち上がってヴァイスのほうへ苦笑いを向ける。

「けど、ティアナの気持ちも俺はわかる気がしますけどね。」

「と言うと?」

「ティアナの兄貴は局員だったんスよ。割と優秀だったんスけど、ある事件で犯人に逃げられて本人もその時の傷で……」

「そう……」

「んでもって、その時どこぞのド阿呆が役立たずなんて言いやがったそうですよ。」

ヴァイスも無理に軽い口調で言おうとしているが、その声から怒りが滲み出している。

「ユーノさん、俺らは一体何のために戦ってんスか……?上の連中のためですか?本当に救うべき奴らのためには何もできないのに、連中の勝手に振り回されていくしかないんスか?……自分の手で大切な奴から光を奪っちまって、それでも自分にも何か変えられるんじゃねぇかって思って、引き金も引けなくなっちまったのに未練たらしくここにいる俺は一体なんなんスか!!?」

「ヴァイスさん……」

「俺だって、八神部隊長やなのはさんみたいに、必死に局を変えようとしてる人がいるくらいわかってますよ……。でも、それでも、この世界がそんなことで変わんのか疑っちまう自分がいるんですよ!!」

独白が終わると、ヴァイスはヘリに頭と拳をつけて頭を冷やす。

「……スンマセン。ちょっとムキになりすぎました。」

「……いえ、僕もおんなじことを考えてますよ。」

ユーノは再び自分の愛車のほうを向いてかがむと車体をいじり始める。

「僕も無限書庫で、そんな人たちを助けられたらって思ってますけど、今みたいな話を聞くとやっぱりヴァイスさんみたいに考えることは多いですよ。でも、だからって信じることをやめちゃそこまでじゃないですか。」

ユーノは立ち上がり、ヴァイスのほうを向く。

「だから、僕は最後まで信じてみることにしたんです。本当に絶望しきるまで、この世界を。」

「……そうっすか。」

「年下が偉そうなことを言ってすいません。」

「いやいや、年下にんなこと言われる俺に問題ありなんスよ。」

二人はクックッと笑って作業を再開する。
だが、そこへアルトが飛び込んできた。

「ヴァイスさん!!ユーノさん!!大変です!!ティアナとスバルが!!」

「「!!!!」」

二人の脳裏に無茶をしたティアナが失敗をして怪我をする姿がありありと浮かぶ。

「ユーノさん、行ってください!!」

「はい!!」

ユーノは愛車の整備もそっちのけで訓練場へと走っていった。








訓練場

ユーノがそこについた時には何もかも手遅れなのがすぐにわかった。
ただ一つ予想外なことは、なのはがティアナを訓練で撃墜していたこと。

「……フェイト。これはどういうことなの?」

「ユーノ!!ティアナが訓練通りの動きをしなくて……それで、あんなことに……」

「そんなことを聞いてるんじゃない。」

ユーノは冷たい声で言い放つ。
ヴィータはその声にびくりと体を震わせるが、語気を荒げて話す。

「なんで君たちはなのはを止めようとしなかったの?」

「なんでってそれはティアナ達が!!」

「あの事を……なのはが自分の教導の意味を言っていないのに?」

「それは……」

「……もういい。」

ユーノはフェイト達に捨て台詞を吐く。

「君たちも上の連中と同じ……自分の考えをただ相手に押し付けているだけだ。」

「な!?」

ヴィータは心外だと言いたげな顔をするが、その場にユーノはもういなかった。









「あ……あ……!!」

スバルはその場から動けないでいた。
バインドをかけられているがそのせいではない。
今のなのはから感じる異常なまでの威圧感。
そのせいで、体中がまるで金縛りにあったように動こうとしない。

「……スバルも頭冷やそうか。」

なのはの指先に光が集まっていき、スバルへと放たれる。
しかし、

「プロテクション。」

スバルの前にプロテクションを張ったユーノが立ちはだかり、なのはの一撃を防ぐ。

「ユーノさん!?」

「だから言っただろう……バカ。」

ユーノの一言にスバルは俯く。

「……なんで邪魔するのかな?」

「わからないのか?だから君もバカなんだよ。」

ユーノの辛辣な言葉にもなのはは表情一つ変えない。

「スバルたちが言うことを聞かないから、少し頭を冷やそうとしただけだよ。何がいけないの?」

「話し合いもせずに一方的な暴力で相手を押さえつけるのが君の教導なのかい?」

「言ってもわからないような子に何を言っても無駄でしょ?」

「……そうかよ!」

ユーノは左の掌に短い魔力刃を発生させてなのはに投げつける。
なのはは防御しようとするが、魔力刃が速すぎて間に合わず右頬に傷ができる。

「……何するの?」

「僕が甘かったよ。まさか君がここまで馬鹿だったなんて思いもしなかった…!!」

その瞬間、ユーノから凄まじい殺気が放たれる。

「あ…ぅ……!?」

スバルはプレッシャーで息ができずに悶える。
そして、それは離れているエリオたちにも言えることだった。









ユーノが殺気を放った瞬間、エリオとキャロは何かを背負わされたように両膝をつく。

「グ……ァ……!!」

「う……!!」

エリオとキャロは今まで感じたことのないほどのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

(体が…重い……!!)

(押しつぶされる……)

フェイトとヴィータが何か叫んでいるが二人にはそれすら聞きとれない。
そして二人の意識はそのまま闇に沈んでいった。









「邪魔だ。」

ユーノは煩わしそうに自分の後ろにいるスバルと撃墜されたティアナを転送してこの場から離す。

「なんで邪魔するの……?私は正しいことをしてるのに……もう、あんなことにならないように頑張ってたのに!!」

〈Mode Release〉

なのははカートリッジを排出するとレイジングハートの先に魔力刃を発生させる。

「もう、あんなのは嫌だって頑張ってたのに!!」

「違う!!」

ユーノもアームドシールドに魔力を纏わせる。
首にかけているジュエルシードもユーノの怒りに同調するように光を増していっているように見える。

「なのはは自分のエゴを押し付けているだけだ!!その歪み、僕が打ち砕く!!」

ユーノは足元で魔力を爆発させてなのはへと突進していく。
なのはも小細工なしでその一撃を受け止めるが、勢いに負けて後ろに押されていく。

「なんでティアナ達のあの日のことを言わない!!言っていればティアナ達だってあんな無茶はしなかったはずだ!!」

「言う必要なんてない!!あれは私の犯したミスであってユーノ君のせいなんかじゃない!!もうユーノ君が誰かに責められるのなんて見たくない!!」

「この……大馬鹿野郎!!!!」

ユーノはなのはの腹を蹴り飛ばすが、なのははひるむことなく空中で停止をかける。

「セイクリッドクラスター!!」

〈Sacred Cluster〉

なのはから放たれた巨大な魔力の塊は途中で複数の奔流に分かれてユーノへと襲いかかる。
だが、ユーノはそれを撃ちおとそうとも、かわそうともせずにまっすぐ魔力の塊の中心へと突っ込んでいく。

「セイクリッドクラスターは途中で分かれて広域の敵に攻撃するためのものだ!!魔力が分かれた中心に向かえば当たらない!!そう…」

ユーノが大きくアームドシールドを振りかぶる。

「つまりなのはのそばだ!!」

「クッ!!」

なのははユーノの斬撃をかわすが、ユーノはすぐさま滑るようになのはの背後に回ると脇腹を蹴り飛ばす。

「あぅっ!!!!」

ミシミシと嫌な音を立ててなのはがビルの壁に叩きつけられる。
だが、すぐさま壁から離れると空高く舞い上がる。

〈Break THE Chain〉

なのはがそれまでいたところに萌黄色の鎖が食い込み、爆発する。
なのははそれを見て少し動揺するが、すぐさま次の一手をうつ。

「ディバインシューター!!」

〈Divine Shooter〉

ユーノの前にいくつもの魔力弾が展開されるが、ユーノは防御もせずにその中につっこんでいく。

「そんなことしたら狙い撃ちだよ!」

桃色の凶弾がユーノに迫るが、ユーノはアームドシールドを振るってそれらを切断していく。

「こんなものでどうにかなるとでも……」

「思うよ。」

「!!」

ユーノは自分の真下から近づいている魔力弾を見逃していた。
腹部に衝撃がはしり、なのはに距離をとられる。

「がぁ!!」

「ユーノ君のためにしてるのになんでわかってくれないの!!?みんなのためにやってるのになんでわかってくれないの!!?」

「グッ!!……少なくとも……今、なのはがやってることはみんなのためじゃない……!!そんなこと世界中が認めても、僕が認めない!!今のなのはは、あの日僕から父さんを奪った奴らと何も変わらない!!!!」

「違う!!」

〈Excellion Buster〉

「グッ!!」

レイジングハートの先から衝撃波が放たれユーノの動きを止める。

「これで……おしまい!!」

レイジングハートの先に桃色の魔力が圧縮されていく。

「ブレイクシュート!!!!」

「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

ユーノは見えない拘束を破り、アームドシールドを前に出す。

「絶対たる守護の盾よ!!」

〈Absolute Aegis〉

ユーノの前に巨大な五重の魔法陣が展開され、煌々と輝きを放ちはじめる。

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」」

強烈な光の柱と巨大な五重の盾がせめぎ合い、あたりのものを薙ぎ払っていく。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「グウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

そして、遂に均衡が崩れた。
ユーノの盾の初層が貫かれ、誰もがなのはに軍配が上がったと確信するが、第二層にエクセリオンバスターが当たった瞬間、それがなのはへと跳ね返っていく。

「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

なのはは自分の魔法に吹き飛ばされていくが、それだけでは済まない。
アームドシールドをバンカーモードに切り替えたユーノがなのはの腹部にそれを押し当てる。

「バンカー、バースト!!」

〈Assault Bunker〉

魔力によって押し出されたバンカーが叩きつけられ、なのははそのままコンクリートでできたビルの屋上にめり込んだ。
衝撃で内臓に損傷を負ったため、口からは血が一筋流れていく

「は……あ……!!」

ぼやけた視界のむこうでユーノがアームドシールドを再びブレードモードに戻している。
そして、

〈Kill mode on〉

非殺傷設定を解除する。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

「よせ!!ユーノ!!」

周りから制止の声がかかるが、ユーノは止まらない。
なのはの喉もとに切っ先を突き立てるべく、加速していく。

(間に合わない!!)

止めようと飛び出したヴィータ達だったが、到底間に合いそうにない。
そして、ガツンと堅いものに刃が突き刺さるような音がする。

だが、刃が刺さっていたのはなのはの喉ではなく、その隣のコンクリートの床だった。

「あ……ああ…………!!ああぁぁ……!!」

ユーノはその姿を見たことがあった。
口から血を流したツインテールの少女。
自分が守ることができなかったその少女の姿となのはの姿が重なる。

「い…やだ…!!」

「……?」

なのはは目の前で動揺し始めるユーノを不思議そうに見つめる。

「いやだ……!いやだいやだ………!!いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!!!!!」

ユーノは武器を手から離して頭を押さえて苦しみ始める。
その目は焦点が合わず、せわしなく動き回っている。

「もう…何も守れないのは……!!!!!何かを失うのは嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

ユーノは頭を押さえながら後ろに後ずさる。
なのははその隙を見逃さなかった。
右手に持っていたレイジングハートをしっかりと握るとユーノへと突き出す。

「!!?駄目!!なのは!!」

「ディバイィィィィィン、バスターーーーーーーー!!!!!!」

桃色の光がユーノを飲み込む。
その威力に押されたユーノは向かい側のビルの上に放り出され動かなくなる。
そして、なのはも今の一撃で力尽きたのか前のめりに倒れ込んだ。

「なのは!!ユーノ!!」

ピクリとも動かない二人の指に輝く指輪が日の光を浴びてこの場にあわないほど美しい光を放つ。










機動六課周辺 海上

「あげゃげゃげゃげゃ!!ずいぶん本調子に戻ったようだが、まだまだ足らねぇな……お前の力はそんなもんじゃねぇだろ!!」

空中で胡坐をかいて二人の戦いの様子を見ていたロバークはニタリと笑う。

「あらあら……覗き見とはずいぶんと悪趣味ねぇ。」

ロバークの後ろの空間が揺れたかと思うと、そこから眼鏡をかけ、二股のおさげをした少女が出てくる。

「フン!覗き見が趣味の女に言われたかねぇな。」

「だってぇ、私も興味があるんだもの。ドクターが未来を託すと決めた人たちがいる部隊がどんなものか。で・も……」

眼鏡の少女はわざとらしくハァ~と大きくため息をつく。

「あ~んなおバカさんたちに任せちゃっていいのかしら?これなら元テロリストのあなたのほうがよっぽどマシに見えてくるわぁ。」

「あげゃげゃげゃ!他の奴らは知らねぇが、少なくともアイツが全開状態で本気になったらお前らが束になってもかなわねぇよ。」

「あら、ずいぶんなこと言ってくれるじゃない。」

眼鏡の少女は笑みを崩さないが、少し語気を強める。

「あんな奴、私とドゥーエ姉様がいてくれればどうとでもなるわ。」

「ま、そいつはおいおい確かめるんだな。それより、今晩の準備はできたのか?」

「ええ。」

眼鏡の少女が笑う。

「あの部隊の戦力なら余裕で片付けられるレベルを揃えたわ。それより、本気でいくの?実力を測るならガジェットで十分……」

少女の言葉をロバークの人差し指が遮る。

「自分で見て、判断し、行動する。」

ロバークは少女の口元から指を離す。

「そうしてこそ世界は変えられる。この歪んだ世界のルールを決めてる奴へと近づける。」

「ふ~ん……まあ、いいわ。あとはお好きにしなさいな。私は一足先に帰ってるから。」

少女の姿が再び蜃気楼に包まれるように消えていく。

「機動六課……この世界を変えようとしてる奴らがいる部隊……俺様にお前らのすべてを見せろ!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!」









その後、二人は気絶したティアナとともにシャマルの待つ医務室へと搬送された。
互いに傷つけあい、ボロボロで倒れたその姿が二人の未来を暗示していることは、まだ誰も知らない。










あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の山場その一終了

ロ「VS魔王編でした。」

KY「まさか相打ちとはねー。」

ツン2「しかも英語のつづりがわからずうろ覚えで魔法名を書いたというお粗末。」

エリ「とどめにレイジングハートのそれぞれのモードもうろ覚え。使える魔法もネットで調べてようやくなんとかなったなんて……ねぇ、これどうするの?」

ロ「……これからDVD借りてきてAsから観直します。」

天然「それでもいろいろつっこみどころが出てきそうだなぁ。」

ロ「極力そうならないように努めますが、そうなった場合はお手数ですがご指摘をお願いします!!」

KY「それじゃあ今回のゲストを呼ぼうか。今回のゲストは孤高の狙撃手、実はロリコン!?ロックオン・ストラトスさんです!え、て言うか本当にロリコン!?」

兄「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!俺はバリバリ大人のお姉さんが大好きの健全な大人だぁぁぁぁ!!!」

ツン2「近寄らないでくれません?」

KY「キャロ、エリオ!近寄っちゃ駄目だよ!!妊娠させられちゃうよ!!」

天然「え!!?なにするんですかあの人!!?」

エリ「て言うか僕男なんですけど。」

兄「ムカツクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!なんなのこいつら!!?」

ロ「前にはやてが撮った(そして編集した)映像を見せたらこうなった(笑)」(わからない人はfirstの第十六話のあとがきを見てみよう)

兄「なにしてんだてめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

ツン2「そこの犯罪者さん、騒がないでくれません?」

兄「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!弁明を求める!!」






三十分後

ツン2「ま、まあ、そんなことだとは思ってましたけど。」

KY「う、うん。八神部隊長も人が悪いよ。」

兄「さっき人のこと犯罪者呼ばわりしてたくせにどの口でそんなことが言えるんだ?」

「「「「すいませんでした。」」」」

兄「よろしい。」

エリ「あの、そう言えばロビンは?」

兄「狙い撃っといた。」

ツン2「ああ、そう……」

KY「じゃあ、諸悪の根源がいなくなったところで解説へゴー!」

天然「今回はなかなかいろいろときついところがたくさんありましたね。正直感想見るのが怖い。」

ツン2「なによりなんかいろいろフラグがたったぽいんだけど。」

エリ「いろいろってなのはさんとユーノさんが将来的に対立するとこだけじゃないんですか?」

兄「甘いな少年。よく読んでみればもう一つあるフラグがたっているのだよ。」

KY「え!?あ!!ホントだ!!」

天然「みなさんもお気づきの方が多いと思いますがあの人が☓☓☓☓☓になるフラグです。」

ツン2「キャロ、その言い方だといろいろマズイから。」

天然「?なにがですか?」

ツン2「……いや、私が汚れてるだけだってことがよくわかったわ。」

天然「???」

兄「そんじゃ、ここらで次回予告にいくぞ。」

KY「医務室に運ばれたユーノさんとなのはさん!」

天然「そんな中、突如海上にガジェットが出現する!」

ツン2「傷は浅かったものの、なのはさんは周りから待機するよう言われる。」

エリ「ティアナさんとなのはさんの和解。そして、ユーノさんの傷の秘密が明らかに!」

兄「そして、ユーノとなのはを残してガジェットの迎撃に向かったヴィータ達の前にあの男が現れた……」

エリ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!ご意見、感想、応援がありましたらどうぞお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 5.和解と狂気と……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2011/01/17 00:59
?????

晴れ渡った空とどこまでも広がる海の青が映える中、そこに浮かぶ一隻の艦の上は悲しみに包まれていた。

『すまねぇ…ユーノ…エレナを守ってやれなくて……!!』

大きな傷を負った少女を抱くユーノの後ろで深緑のスーツを着た男性とオレンジのスーツを着た青年が俯いている。

『そんなことない。約束通り、エレナとこうして会えた。』

ユーノが震える声で男性の言葉を否定する。
そう、彼のせいではない。
すべては自分のせい。
あの時、止めようとしなかった自分の……

『ユー…ノ…』

少女は涙を浮かべながらただ息が喉を通りぬけていくようなか細い声で話し始める。

『ごめん…ね。失敗、しちゃった……』

『違う!俺が…俺が止めていればこんなことには…!』

『ねぇ…ユーノ…知ってた………?私、あった時から……ずっと、ユーノのこと…好き、だったんだよ…?』

少女は体の痛みに耐えながら必死で笑顔をつくる。
その姿が、そして、そんな彼女の告白がユーノの胸を締め付ける。
なぜもっと早く気付いてやらなかったのか。
気付いていれば、こんなことにはならなかったのに。

『キス…して……?っかは…!最後くらい、わがまま……きいて……』

ユーノは涙も拭わず少女と唇を重ねる。
自分の着ているものも、顔も、口の中も血で汚れていくがそれでもユーノはやめない。
だが、少女の体から力が消えた瞬間、口づけをやめて少女の顔を覗き込む。

『エレナ……?』

少女は笑顔のまま動かない。

『エレナ…?エレナッ!?エレナッッッ!!!』

何度も体を揺さぶって少女を眠りから起こそうとする。
目の前の現実を受け入れまいと必死で叫ぶが、それでもどうにもならない。

「ッッッ!!!!あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」

ユーノは少女の亡骸を抱きしめてあらん限りの声を出して叫ぶ。
その時、ユーノには自分の大きな声に混じって『ありがとう』という少女の声が聞こえた気がした。









機動六課隊舎 医務室

ユーノはベッドの上で静かに目を開ける。
寝ているときに泣いていたため枕が涙で湿っぽい。
だが、それよりも重要なことがあった。
今まで思い出したワードが線でつながっていき、ユーノにはっきりとそれを思い出させた。

「僕は……ソレスタルビーイングのガンダムマイスター……世界の……敵……」

ユーノは起き上がると手元にあった緑の宝石を見る。
あの日の悲しみと引き換えに手にした力を模したもの。

「ガンダムソリッド……誰かを守るための力………。なのに、僕はそれでなのはを……!!」

幸いユーノの独白は医務室に誰もいなかったため聞かれることはなかった。
だが、それがユーノにとって幸いだったのかどうかは、本人しか知らない。








魔導戦士ガンダム00 the guardian 5.和解と狂気と……

ヘリポート

ユーノが目を覚ましていたころ、機動六課の面々は海上に出現したガジェットたちの迎撃に向かおうとしていた。

「今回は空戦だから出るのは隊長陣だけだ。出るのは私、テスタロッサ、そしてヴィータだ。」

「え!?」

シグナムがあげた出撃する人間の中に自分が入っていないことになのはは戸惑う。

「フォワードはティアナ以外ロビーで待機。ティアナは出動待機から外れていろ。」

「そんな……」

ショックを受ける二人にシグナムが眉間にしわを寄せながら言葉を続ける。

「まったく……うかつだったよ。もう少し訓練以外のところで話し合いをしておくべきだったな。」

「私なら出れます!!怪我も大したことはありません!!」

「私だっていけます!!」

「この……ドあほども!!」

ヴィータが飛びあがってなのはとティアナの後頭部を平手ではたく。

「お前らは話し合わなくちゃいけねぇことがあんだろうが!!それもできてないくせに何いっちょ前の口きいてやがる!!」

ヴィータに怒鳴られて二人は互いの顔を見合わせる。

「……ティアナ、頼むから無茶しないでくれよ。もう、あんな思いすんのは嫌なんだよ……!」

「ヴィータ副隊長……」

ヴィータの泣きそうな声にティアナは目を丸くする。
正直、ヴィータがこんな顔でこんなことを言う人物と思っていなかった。

「なのはも話してやれよ。こいつらはあんな奴らとは違う。きっとわかってくれるって。」

「ヴィータちゃん……」

「もしも~し、そろそろ行きますよー!」

ヘリからヴァイスに声をかけられて三人はそのままヘリへ向かう。

「意外だったな。」

「なにがだ?」

「いや、お前があんな風に誰かのフォローに回るなんて珍しいと思ってな。なんだかんだで教官らしくなってきているということか。」

「……なんか引っかかる言い方だな。」

ヴィータはシグナムの言葉に顔をしかめる。

「……ま、こいつはあたしなりの責任の取り方ってやつだよ。」

「?」

「ユーノに言われたんだよ。今のあたしたちは上のお偉いさんと変わらないって。あの時はムカついたけど、少しして事実そうかもしれないって思ったんだ。」

「まあ、訓練以外のコミュニケーションが少し不足していたのは確かに否めないな。」

「そうじゃねぇんだ。」

「「?」」

シグナムとフェイトは首をかしげる。

「あたしも心のどっかで新人どものことを信じちゃいなかったんだ。だから、自分の考えだけ一方的に押し付けて……ハハッ、情けないよな。教え子のこと、全然信じてやれないなんてさ。」

「ヴィータ……」

フェイトは夜空を見上げるヴィータの背中を見つめる。
その背中は今にも泣き出しそうなのに、必死でまっすぐ立っている。
そんな印象を受けた。

「おいおい、お前らまでしけた面すんなよな。」

ヴィータは大きく伸びをしてヘリに乗り込む。

「これから憂さ晴らしにいくんだ。もうちょいテンション上げてこうぜ。」

先ほどの沈んだ表情から一転、からからと笑うヴィータに二人は苦笑いをしながらヘリに乗り込んだ。










ロビー

「むかしむかし、ある世界のある街に一人の女の子がいました。」

ロビーに集められたティアナ達は静かに語り始めるなのはの言葉に耳を傾けている。

「その女の子は、偶然にもその世界にない力、魔法の力を手にしていろいろな事件にかかわっていきました。」

なのはとティアナ達の間にかつてのなのはたちの映像が映される。

「どの事件も悲しくて、辛いものだったけど、女の子はそれを乗り越えるたびに大切な人たちと出会い、少しずつではあるけど強くなっていきました。けど、女の子は救えなかった人たちのことを想うと悔しくて仕方ありませんでした。そこで、女の子は無茶な特訓を始め、それを続けました。そして……」

画面が切り替わる。
そこに映されているのは雪が降るなか、背中に傷を負い、焼けた地面の前で泣き叫んでいる幼いなのはと、それを支えるヴィータだった。

「ある任務で日ごろの無理が祟り、実力の半分も出せなかった女の子は大きな失敗をしました。取り返しがつかない、大きな失敗を……」

再び場面が切り替わり、かつてのユーノの写真が現れる。

「女の子は、自分を好きだと言ってくれた人を……そして、自分も大好きだった人をその失敗で失ってしまいました。」

「そんな!!?」

キャロが立ち上がる。

「そんなはずありません!!だってユーノさんは今ここに!!」

興奮するキャロをすぐそばにいたシャーリーがなだめる。

「最後まで聞いていて。そうすれば何がどうなっているのかわかるから。」

「はい…」

「もう、話し始めていいかな?」

キャロは深くうなずく。

「大切な人を失った女の子はとても後悔しました。何度も死のうと考えました。でも、その人は管理局に故郷を奪われても、家族を奪われても必死で生きてきて、どういう思いで自分を助けてくれたのかを知って、もう一度空を飛ぶ決意をしました。でも……」

再び場面が切り替わる。
今度はなのはが自分よりも身長が大きい大人の局員に何か叫んでいる。

「周りの大人たちは、何度も事件を解決して有名だった女の子の失敗をすべてその人のせいにすることにしました。女の子は許せず、何度も抗議をしました。でも、大人たちはその有名な女の子の名声が地に堕ちることを恐れて、態度を変えませんでした。」

膝の上にのせているなのはの両拳が悔しさで震える。

「……本当は私のせいなのに……上層部は私の与える影響を考慮して、ユーノ君にすべての責任を押し付けて事実を隠蔽した……!!それを聞いた人たちも、何にも知らないくせにみんなそろってユーノ君のことを罵った!!私がそれは違うって言っても、どんなに本当のことを話しても信じてなんてくれなかった!!」

なのはは泣きながら想いをぶちまける。
そして、ひとしきり喋った後大きく息をつく。

「………ごめんね、みっともないとこ見せちゃって。」

「いえ…」

スバルは首を横に振る。
スバルたちの目にも涙がたまっていて、今にも零れ落ちそうだ。

「女の子は、大切な人の無実を証明するために、そして、もう誰かが自分のように大切なものを失うことがないように彼が言っていたように無理な訓練をやめ、人に魔法を教える立場になった後も無茶な訓練はさせないようにしました。そして、そんな日々を過ごしながら三年の月日が流れたある日のことでした。」

画面の画が再び切り替わる。
そこには頭に包帯を巻いた長い髪のユーノがベッドの上から窓の外を見ている。

「ある任務で訪れた世界で、大切な人は成長した姿で戻ってきました。でも、その先に待っていたのは厳しい、本来ならあるはずのない現実でした。彼が退院して元いた部署に戻ると、そこを訪れた人は口々に彼を非難しました。嫌がらせも続きました。幸い、その部署の人たちは彼の人柄をよく知っていたので味方になってくれましたが、それでも嫌がらせが終わることはなくいまだに続いています。」

「そんな…!」

エリオはショックだった。
自分が尊敬しているユーノがそんな目にあっていることなど全く知らなかった。
おそらくユーノが自分を気づかって言わなかったのだろうが、エリオにはそれが辛かった。

「それでも、その人はいつも笑ってこう言いました。『自分にできることを続けていけば周りは変えていける。いつまでもありもしないことに振り回されるほど、人は愚かじゃないって信じてる。』と……。女の子もその言葉を聞いて、その人の汚名を雪ぐために頑張ることを決意しました。でも……」

なのははティアナを見つめる。

「ごめんね、ティアナ、スバル。信じてあげられなくて……。本当は一番最初に言わなくちゃいけないことだったのに……!」

「なのはさ……!!」

泣きじゃくる二人に歩み寄り、なのはは優しく抱きしめる。
二人を抱きながらなのはも泣いている。

「ごめんね……!!ごめんね……!!」

「私…たちも…!!ごめん、なさい……っ!!」

なのはの腕の温かみを感じながら、ティアナとスバルは決意する。
この人たちの、なのはとユーノの想いを決して裏切らないようにすることを……










医務室

ユーノは自分の記憶を取り戻せたことに喜びなど感じられなかった。
戻った記憶自体もまだまだ曖昧で、人物の顔は浮かぶのだが名前が出てこないものがいくつもある。
だが、それでも自分がどこで何をしていたのかは大体思い出せていた。
そう、なのは達のところに戻ってくるつもりがなかったことも。

「………戻らないと。」

おそらく自分が最後に乗っていた機体、ソリッド、そして相棒の967もこちら側の世界に来ているはずだ。

「なんとか探し出して……」

ユーノはベッドから降りて行動を開始しようとするが、足を床につけたところで立ち止まる。

「探し出して……どうするんだ………?」

あれからすでに4年の歳月が流れているのだ。
世界が、そしてソレスタルビーイングがどうなっているのかわからない。
それに、見つけたところで向こうに戻る手段はどうするのか。
前は奇跡的にジュエルシードの力で二度もこちらとあちらを行き来したわけだが、今度も上手くいくとは限らない。
そもそも、ソリッドが今どこにあるのかもわからない。
こんな状況ではどうしようもない。
かといって、このままなのは達のところにいるわけにもいかない。

「打つ手なし、か………」

ユーノは再びベッドに腰掛ける。

「………ここに僕の居場所はない。」

ポツリとつぶやく。
すると、急に壮絶な孤独感に襲われる。
こちらの仲間のそばにいることができない。
向こうの仲間のところには戻ることもできない。

「なら……僕の居場所はどこにあるんだ……?」

ユーノの問いに答える者はいない。
だが、答えを持っているであろう者はいる。
鋭い猛獣の目に、独特の笑い方をするあの男。
名前はいまだに思い出せないが、向こうにいた記憶の中に奴も確かに存在している。

「ロバーク・スタッドJr……」

奴がここにいるということは、彼がジュエルシードを用いずに何らかの方法でここに来たということになる。
となると、彼と接触できれば向こうに戻れるかもしれない。
でも、

「いまさら戻って、何ができるっていうんだ。」

もう向こうには仲間が一人もいない可能性もあるのだ。
世界だってすでに統合されているかもしれない。
そんなところに戻って自分に何ができるのか。

「どこに行っても一人、か……」

ユーノはベッドに寝転がりこれからのことを考える。
模擬戦であろうことか非殺傷設定を解除してなのはを殺そうとしたのだ。
おそらく、みんな自分のことを受け入れてくれはしないだろう。
下手をすれば自分のことを目の上のたんこぶに思っている上層部の連中が出てきて刑務所行きになるかもしれない。
さらに、傷のことがばれればモルモット。
とどめにあの事まで知れ渡ればもう間違いなくろくな死に方はできないだろう。

「………逃げるか。」

あてなどないが、それでもここでジッとしているよりははるかにましだろう。
ユーノは手早く着替えてポケットにソリッドを入れると、窓を開けて右足をかける。

「これじゃホントに犯罪者だな………いや、事実そうか。なにせ世界に喧嘩を売った世紀の大テロリストなんだから。」

ユーノは苦笑しながらそのまま空に飛び出そうとする。
だが、

「「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

「へ?」

ユーノの体にピンクと緑色の輪がいくつも巻きつく。

「うわわわわわわわわ!!?」

バランスを崩したユーノは後ろに倒れ、凄まじい勢いで後頭部を強打する。

「いだだだだだだだ!!!!!?頭割れた!!もう絶対脳みそ見えてるって、これ!!」

簀巻き状態でゴロゴロ転がりながら悶絶するユーノに三人の人影が駆け寄る。

「駄目よユーノ君!!なのはちゃんは何ともないから自殺なんかしちゃ駄目!!」

「ごめんねユーノ君!!私が悪かったから飛び降り自殺なんてやめて!!!」

「ユーノさん駄目ですよ!!これ以上なのはさんを悲しませないでください!!!私も反省しましたから自分で命を絶つなんてやめてください!!!!」

窓に足をかけているユーノを見て、飛び降り自殺をしようとしていると勘違いをしたシャマル、なのは、ティアナがユーノの顔をバシバシと容赦なく叩く。
幸い、ユーノの独り言は聞かれていなかったようだが、どの道これでは……

(ご……拷問……だ………)








十分後

「ご、ごめんなさいね!あんなことの後だったからてっきり私!」

顔にあるいくつもの赤く腫れた箇所をさするユーノにシャマル達は深々と頭を下げる。

「いや、さすがに僕もそんなことで死にたくはないですよ。」

ユーノが乾いた笑いをこぼすたびにシャマル達はバツの悪い顔をする。

「でもじゃあ、何しようとしてたんですか?」

「え!!?そ、それはその……」

「……逃げようとしてたんでしょ。」

なのはの一言にユーノは固まる。

「やっぱり。」

「なんで逃げようとするんですか!?」

「………君たちは人殺しをしようとした人間と一緒にいたいのかい?」

ユーノは大きくため息をつく。
おそらくこの一言で決まりだろう。
最悪、拘束しようとするかもしれないが比較的戦闘力の劣るシャマルかティアナを人質に取って逃げ出そう。
ユーノはそう考えていた
だが、

「いいよ。」

なのはの言葉にユーノはポカンとする。

「私はユーノ君と一緒にいたい。」

「でも、僕はなのはを……」

「今日の教導であったことは私が勝手に無茶をして失敗した。そういうことです。」

ティアナの笑った顔を見てユーノはすべてを理解する。

「そっか……聞いたんだ、あの話を。」

「はい。だから、今度はユーノさんが話してください。」

「?」

「……ユーノさんの傷って何なんですか?それに、研究所送りって。」

「!!?」

ユーノは驚いてシャマルのほうを向くが、シャマルは静かに首を振る。

「この前、私たちが話しているのを聞いていたみたいなの。それで、あの話が終わった後なのはちゃんにも言っちゃったみたいで……」

「……他のみんなにこのことは?」

「言ってません。」

「そう……」

ユーノは自分の座るベッドに手をついて天井を見る。

「………これから見ることは他言無用だよ。」

そう言うとユーノは自分の服を脱ぎ始める。
ティアナとなのはは顔を赤くして目をそらすが、ユーノがシャツをめくったところで、わき腹に目が釘づけになった。

大きな円形の傷跡の横に、薄く皮を削がれたような傷跡が脇腹を回って背中まで続いている。
傷のふさがり方も、傷のある場所がふさがったと言うよりも傷の周りの皮膚がそこを覆っているような感じだ。

「もう四年もたつけど、この傷は完全にはふさがっていない。それどころか、細胞分裂が起こっていないらしい。傷自体は周りの皮膚がふさいでくれたけど、ここから少しずつ同じ症状が体に広がっていっている。もう内臓の一部にまで進行してて、いずれは完全に内臓の機能が停止する。おまけに原因不明で治す方法もわからない。」

「そんな……」

なのはは最初青ざめるが、すぐに顔を赤くして怒りだす。

「どうして言ってくれなかったの!?言えばすぐにでも……」

「このことが局の関係者が知れば間違いなく研究対象になるだろうからね。僕としてはそんなのお断りだよ。それに……」

ユーノは泣き出しそうななのはの顔を見つめる。

「言えば、なのはがそんな顔になっちゃうってわかってたからね。できれば、なのはにはずっと笑ってて欲しかったから。」

「ユーノ君……」

「それに、クラナガンの病院がシャマルさんと一緒に症状の進行を抑える薬を作ってくれたからね。これを飲んでればちょっとは長生きできると思うよ。」

ユーノは青い錠剤の入った瓶を振りながら笑う。

「だからこのことはそんなに気にする必要なし。ティアナはこの傷のせいで僕がやりたいことができないでいるって思ってるみたいだけど、全然そんなことないから心配しなくていいよ。……さて、と。」

ユーノはベッドから立ち上がる。

「みんなも心配してるだろうから少し顔を出してくるよ。」

「ユーノ君!!」

扉の手前まで行ったところでなのはが声をかける。

「……どこにも…行かないよね?もう、いなくなったりしないよね?」

「……ああ、もう消えたりしないよ。」

ユーノはそれだけ言い残すと廊下に出ていく。

(みんな……もう少しだけ、僕はここにいてもいいかな?近いうちにけじめはつけるから、もう少しだけ幸せな日々を過ごさせてほしいんだ……)









クラナガン 海上

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ヴィータは怒号とともにグラーフアイゼンを振りおろして最後の一機を叩き落とす。

「これで終わりか。ずいぶん簡単に片付いたな。」

「たぶん、私たちの能力をはかろうとしてたんだと思います。」

「それにしたってやけにあっさりしすぎじゃねぇか?この程度じゃあたしらが本気にならないことぐらいわかるだろ。」

三人は顔を突き合わせて話しこむ。
その時、

「!!ヴィータ、後ろだ!!」

「!?クッ!!」

シグナムの声に反応してヴィータはグラーフアイゼンで何かを受け止める。

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!ガキが遊びまわる時間じゃねぇぞ!!」

「なっ!!?テメェは……!?」

ヴィータは刃を防ぎながら襲撃者の顔を見て驚く。
ユーノがいなくなってから見続けていた夢にしばしば登場していた男。
猛獣のような赤い瞳に牙のような八重歯。
そして、まるで爆発音のような独特の笑い方を聞き間違えるはずがない。

「おっらあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「おっとぉ!!」

ヴィータは渾身の力でグラーフアイゼンを振り抜き、男を弾き飛ばす。

「なんでテメェがここにいるんだ!!フォン・スパーク!!」

「!?何を言っているんだヴィータ!その男の名はロバーク・スタッドJr……」

「ちっと黙ってろそこのでかパイ。」

「な!?」

ロバークの言葉にシグナムは顔を真っ赤にして怒るが、ヴィータとロバークは睨みあったまま動かない。

「アイツがお前に教えたのか?」

「答える義理はねぇな。今度はこっちの質問だ。なんでお前がミッドにいる?」

「ハン!答える義理はねぇな。」

「そうかい……。だったら……」

ヴィータがロバークへと飛び出す。

「力づくで聴きだすまでだ!!」

まっすぐ振り下ろされた鉄槌をロバークは後ろに滑ってかわす。

「アイゼン!!」

〈Explosion!〉

薬莢が排出され、グラーフアイゼンの鎚の片側から突起が飛び出し、もう一方からは推進機のようなものが飛び出し、火を吹き始める。

「カートリッジシステムか……何度見ても強引な代物だな。」

ヴィータは推進機の産む勢いを利用してハンマー投げの選手のようにグルグル回りながらロバークへ向かっていく。

「ラケーテンハンマーーーーー!!!!!」

「あげゃ!!」

ロバークは剣を使ってヴィータの一撃を受け止めるが、その瞬間剣に大きなひびが入る。

「ハッ!!でかい口叩いてわりにはそれで終わりかよ!!」

ヴィータがさらに押し込むと剣のひびはさらに広がっていく。

「フン!ガキのわりにはなかなかやるじゃねぇか。だが……」

ロバークの口元に凶暴な笑みが浮かぶ。

「『フェレシュテ』、モード・チャリオット。」

〈了解。〉

突然、ヴィータはそれまで感じていた手応えを失い前につんのめる。

「な!?どこに行きやがった!!?」

「ヴィータ、後ろ!!」

フェイトの声に振り向いた瞬間、何かの先端がヴィータの腹部に突き刺さる。

「ウアアアァァァァァァァァァァァ!!?」

ヴィータはそのまま押し切られて海面に叩きつけられ、そのまま沈んでいく。

「ヴィータ!!!!」

フェイトは慌ててヴィータのもとに行こうとする。

「待て、テスタロッサ。」

「シグナム!?なにを…!?」

シグナムが指し示す方を見ていると海面に泡が浮かんできている。
そして、

「プアッ!!死ぬかと思った!!」

そう言って海面から出てくるヴィータのわき腹に薄く傷はあるものの、致命傷ではなさそうだ。

「咄嗟にシールドを張ったか。殺すつもりでいったんだがな。」

「ベルカの騎士をなめんな。この程度でどうこうなるほどやわじゃねぇ。」

そう言いながらヴィータは形態が変わったロバークのデバイスを観察する。
先ほどの巨大な剣ではなく戦闘機の姿をしたボードに乗っている。

(まるきり形が違う……あの戦闘機、たしかアブルホールだったか…?)

夢で見ただけだが、あの先端に突き刺されてやられていったものたちの姿を見ているため、あと少しで自分もそうなっていたかと思うとゾッとする。

(それにしても、あのデバイスの本体はどこだ?さっきの剣かと思ったけど、だとしたら破壊してたはずだ。)

「あげゃ。そろそろ本気を出すか。」

ロバークは足をボードに固定する。

「行くぞフェレシュテ!!」

(了解。GN Booster〉

ボードは一気に加速して三人の視界から消える。

「速い!!」

「けど!!」

フェイトはいち早くロバークの影を捕えると自慢のスピードで追跡を開始する。

(たしかあの女は執務官の……なるほどな、スピードなら確かにアブルホール形態のフェレシュテより少し上回るな。)

(ホントに速い!私が今まで戦ってきた中では間違いなく一番速い!でも、追いつけない速さじゃない!!)

ロバークはフェイトが追いついてきたところを見計らって旋回する。

〈Vulcan Phalanx〉

ロバークの乗るボードの先端部から小さな魔力弾が無数に飛んでくる。
しかし、フェイトも急上昇をすることでそれをかわす。
だが、それがロバークの狙いだった。

「フェレシュテ、モード・スター。」

ロバークの乗っていた戦闘機が消え、今度は手元に狙撃銃が現れる。

「な!?」

「あげゃ、硬直時間が長すぎるぜ!!」

ロバークの放った光弾がフェイトに迫る。
だが、

「させるか!!」

シグナムとレヴァンテインがその一撃を弾き飛ばし、連結刃をロバークへと向かわせる。
だが、ロバークはニタリと笑う。

「フェレシュテ、サブマージェンス。」

〈了解。耐圧フィールド展開。潜航限界深度60m。限界時間は十分。〉

ロバークは飛行魔法を解いてどんどん落ちていく。
そして、大きな水柱とともに海中に沈んだ。

「逃げられないと悟って自害したか……?」

その時、シグナムの後ろの海面から光弾が飛び出してくる。

「!!?クッ!!」

シグナムは振り向きざまに防御するが、今度は別の場所からフェイトとヴィータにも紅蓮の弾丸が飛んでくる。

「水中から狙撃!?」

「マジかよ!!」

三人は見えない敵からの攻撃に翻弄される。

「チッ!!フェイト、シグナム!野郎を海中から引きずり出せ!!あたしが決める!!」

「わかった!!」

「承知!!」

シグナムのデバイス、レヴァンティンから炸裂音とともにカートリッジが排出される。
フェイトの周りにも数えきれない金色の魔力弾が浮かんでいく。

「火竜……一閃!!」

炎を纏った連結刃が海面へと叩きつけられ周囲の海水を熱湯へと変える。

「フォトンランサー!!」

さらにその周りに無数の電撃弾が降り注ぐ。

「チィ!!」

ロバークはたまらず海中から飛び出してくる。

「そこだぁぁぁぁ!!!!」

ヴィータは飛び出してきたロバークへと急接近すると渾身の力でグラーフアイゼンを振り下ろす。

「ぐおぉぉっ!!」

ロバークは右肩に叩きつけられたハンマーを睨みながら呻く。
だが、すぐさま持っていた銃をヴィータの眉間へと向ける。

「クッ!!」

ヴィータは首をひねって銃弾をかわすが頬に浅く傷ができる。
ロバークはヴィータが態勢を崩した隙に大きく離れる。

「殺さずの信条を守ってるわりにはやるじゃねぇか。」

「次はその面を潰してやる!」

「残念だがそりゃ無理だな。」

ロバークの足元に魔法陣が展開される。

「転送!?」

「させん!!」

三人はロバークへと殺到する。
だが、

『転送座標固定。いつでもいけます。』

「あげゃ、ナイスだ874。……それじゃあな、機動六課。」

魔法陣が消え、それとともにロバークも虚空に消えた。

「クッソー!!逃げられた!!」

悔しがるヴィータだが、シグナムとフェイトは彼女に詰め寄る。

「ヴィータ、アイツを知っているのか?」

「どこで彼のことを知ったの?」

「そ…それは……」

言えない。
奴のことを話せばユーノが今まで何をしてきたのかまで話さなければなくなる。

「…………………………」

「なぜ黙っている。答えろ、ヴィータ。」

「ねぇ、教えてヴィータ。お願い。」

「悪い、言えねぇ。」

「ヴィータ!!」

「言えねぇもんは言えねぇんだ!!!」

「「!!」」

ヴィータは大声で叫んだあと、黙ってヘリまで戻っていく。

その後、隊舎まで戻るまで三人の間に会話はなかった。









?????

「珍しいな。お前が傷を負わされるなど。」

銀色の長い髪に右目の眼帯が特徴的な少女が右肩を押さえたロバークに話しかける。

「ひびははいってねぇから大丈夫だ。モード・スターの耐圧フィールドが幸いしたな。それにしてもなかなか面白い奴らだったぜ。」

ロバークは笑いながらはずれた肩をはめ込む。

「そんな傷を負わされてよくそんなことが言えるものだな。」

「こんなもん傷のうちに入らねぇよ。傷ってのはこういうもんを言うんだ。」

ロバークは首の傷跡を親指で指しながら笑う。
銀色の髪の少女は呆れたようにため息をつく。

「そのレベルの傷を負ったら普通は死んでいる。」

「フン。戦闘機人のくせに情けないこった。」

「体が丈夫だろうとなんだろうと首が吹き飛ばされれば死ぬぞ。」

「だが、俺は生きている。」

「それはお前が異常なんだ。」

「不毛な会話はそこまでにしておけ。」

奥から長身の女性が現れ、二人の会話を遮る。

「フォン、ウェンディからのご指名だ。行ってやってくれんか?」

「ケッ、なんで俺があんな小うるさいガキの相手をしなくちゃならねぇんだ。」

「フェレシュテのモード・チャリオットはウェンディの戦闘スタイルと似ているからな。」

「親近感でもわくってか?俺なら同族嫌悪を起こすがね。」

「まあ、そう言わず行ってやってくれんか?姉からも頼む。」

「チッ……!」

ロバークは舌打ちしながらも笑みを浮かべて訓練スペースへと向かっていく。

「……なんだかんだで奴もウェンディのことは気にいっているようだな。」

「素直ではないんだろう。それより、プルトーネの修理は終わったのか、トーレ?」

「ああ、874とドクターが不眠不休の突貫作業を行ったこともあってなんとかな。」

「そうか……じゃあ、例のものを奪還するのももうすぐか。」

二人はそのままロバークの背中を見送る。

「……トーレ、私は姉失格だな。」

「どうした、急に。」

「本当のことは言わずに妹たちを戦わせようとしている。ドクターとの約束とは言え、どうしても、な……」

「……やめたいか?」

銀色の髪の少女が笑う。

「まさか。あの管理局の連中にひと泡吹かせられるのなら喜んでこの身を悪に染めよう。だが、何も知らないあの子らには幸せをその手に掴んでほしいんだ。」

「大したわがままだな。」

「お前の妹だからな。少しぐらいのわがままは許してもらいたいものだ。」

「ほぼ同時に生まれたのに妹も何もあったものではないがな。」

「それもそうだな……さて、私はノーヴェの様子を見てくるか。」

そう言うと二人はそれぞれの場所へ向かおうとする。
その時、

『うわあぁぁぁぁぁぁん!!!チンク姉ぇぇぇぇぇ!!!フォンがいじめてくるッス!!!!』

『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!おらおら!!その程度じゃすぐに蜂の巣だぞ!!!!』

その後、少女の叫びとともに通信が途絶える。

「……助けに行くか。」

「だな……」

二人は盛大に肩を落とし、今度は訓練場の修復にどれくらいの手間と物資が浪費されるかを考えてさらに肩を落とすのだった。










守護者、自らの使命に目覚める
だが、その手元に真の力はいまだ戻らず








あとがき・・・・・・・・・・・・・・という名の実際チンクは結構苦労してると思う

ロ「和解&VSフォン編でした。」

チンク(以降 姉)「いきなりだけどチンクだ。ようやく出番が来たと思ったらこんな役回りだ。」

ユ「まあ、そこのところの文句はフォン……じゃなくてロバークに言って。」

ヴィ「いまさら隠しても意味ないと思うぞ。一話ですでにフォンって呼ばれてるし、今回私が大暴露しちまったからな。」

姉「そんなことはどうでもいい!!なぜ私がこんな役回りなのだ!!」

ロ「ああ、だってナンバーズの常識人(ウーノ、トーレ、チンク)は他のいろいろぶっ飛んだ奴らの世話が大変そうだと思ったからここでも無茶苦茶苦労するけど結局いろいろ世話しちまう、みたいな感じにしてみた。」

姉「何を勝手にそんな妄想を繰り広げている!!そんなことは……」

ユ・ヴィ「「???」」

姉「………あるかも。」

ユ・ヴィ「「……なんかすいません。」」

ロ「さあ、こいつらがへこんだところで今回のゲストの登場だ!!なんと今回は二人で登場だ!!両極端な性格で大変、だけど俺たちは二人で一人に超兵だ!アレルヤ・ハプティズムとハレルヤ・ハプティズムだ!」

ア「そのネタずいぶん前に君からNGが出なかったっけ!!?」

ハ「気にしたら負けだぞアレルヤ。アイツを☓☓☓☓☓したほうが早い。」

姉「姉も手伝おう。」

ロ「……なんか生命の危険を感じるので早めに解説に行きたいと思います。」

ユ「なんとか和解。そして、僕の傷の秘密判明。」

ヴィ「前回と合わせてちょっと苦しい展開だけどな。」

ハ「それよりテメェら三人いるんだからあの俺様野郎にてこずってんじゃねぇよ。」

ヴィ「だってあんなデバイスインチキじゃん!!デバイスの本体一体どこにあんだよ!?しかもフェレシュテの全ガンダムの能力使えるなんて完璧チートだろ!!」

ロ「でも設定的にはフォンの潜在魔力はそれほど高くはないってことにしてるからな。それでもあれだけ押されたのはお前らが魔法にばっか頼ってるからだ。」

ア「でもそこ言われたらミッドの皆さんはどうしようもなくない?」

ロ「だから00の連中に最初はボッコボコにされるんだ。(予定)」

姉「そう言えば機動六課側から行く奴は大体わかってきたけど、ナンバーズからは誰が行くんだ?」

ロ「それは次回かその次あたりで明らかにする予定だ。」

姉「……姉はいいとして、他の奴らが自分じゃないとわかったら間違いなくお前を殺りにくるぞ。とくにドゥーエとか、クアットロとか、セインとか、ノーヴェとか……」

ヴィ「もうぶっちゃけ常識人でない奴ら全員でよくね?」

ロ「よくねぇよ!そんなんなったら俺確実に死ぬぢゃん!!」

姉「まあ、頑張れ。」

ロ「チンクさぁぁぁぁぁぁん!!?あなた止めようと思えば止められますよね!!?あの変態マッドサイエンティストと頑張れば何とか……」

姉「無理だ。」

ユ「ご愁傷様。」

ヴィ「まあ、軽くミンチだろうな。」

ハ「なんなら俺がその前にお前を殺ってやる。」

ロ「俺作者だぞ!!?何この横暴なキャラクターたち!!?」

「「「「「お前(君)がいつもやってることだ。」」」」」

ロ「……スンマセン。」

ユ「作者をきっちりへこませたところで次回予告に行きます。」

ヴィ「次回はオリジナルストーリー!」

ア「ユーノの出生の秘密が明らかに!」

姉「こんなぶっ飛び設定だすなぁぁぁ!!!という方々はごめんなさい!」

ハ「しかも、ユーノは基本的に戦闘には参加せず。しかもほとんど出番もない(笑)」

ユ「え!?どういうこと!!?僕主人公だよね!!?」

ロ「感想にお前がやりすぎってのがたくさん来てたから………じゃないけど、ここらでsecondにむけていろいろ伏線はっときたいところがあるんだよ。それにはお前は次回邪魔なの。」

ユ「………なんか釈然としないけど、締めに行きます。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 6.19年前からの亡霊
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:cb66d0a1
Date: 2010/09/05 23:54
八年前 はやて宅

「いまさらだけどお前って結構綺麗な顔してるよな~。ホント、着る服何とかすれば女で通るんじゃねぇか?」

ヴィータはユーノに出したアイスとは別の味のアイスを食べながらまじまじとユーノの顔を見つめる。

「……それ、はっきり言って嫌味にしか聞こえないんだけど。」

「いや、そういうつもりじゃなくてホントに綺麗だと思っただけだよ。」

ヴィータはアイスを口に運ぶ。
冷たさとバニラの香りが広がり、何とも言えない心地よさに身をゆだねる。

「でも、確かにユーノ君の髪も目も綺麗よね~。金色の髪に翠の眼をしてて本当にお人形さんみたい。」

「だからそういう風に言われるのは嫌いだって言ってるじゃないですか。」

抹茶味のアイスをスプーンですくうシャマルにユーノは拗ねたように口をとがらせる。

「まあ、ミッドや他の次元世界では金髪や翠の瞳は珍しくはないが、お前の瞳は他のものとは少し違って見えるな。」

シグナムが薄いピンクの中に赤い粒が入ったアイスを食べ終えるとユーノの瞳を改めて見てみる。

「『緑』というよりは『翠』というべきだな。草や木よりも宝石の類の色合いに近いように見えるな。」

「あの……そんなにまじまじ見られると恥ずかしいんですけど。」

「ああ、すまん。……しかし、昔どこかでそんな目を見たような……」

「ほらほらシグナム。ユーノ君が恥ずかしがっとるやんか。その話はそこまでや。」

はやては車いすを動かしながら膝の上のお盆にみんながアイスを食べ終えて空になった皿をのせていく。

「…………………」

「?どうした、ユーノ。」

ヴィータがボーッとしていたユーノに話しかける。

「いや……すこし、調べたいことができたからもうお暇するよ。」

「急ぎの用なのか?そうでないなら、もう少しゆっくりしていったらどうだ。」

「ありがとうございますザフィーラさん。でも、私用だから仕事に差し支えない時にやっておきたいので。それじゃ。」

ユーノは八神家全員におじぎをすると玄関へと歩いていった。





その後、彼は誰もいない無限書庫で自分の本当の両親がどういう存在だったのか知ることとなった。








魔導戦士ガンダム00 the guardian 6.19年前からの亡霊

ミッドチルダ 北部

人気のない山間に火の手が上がる。
夜の黒の中に赤い炎は実に目立つが、めったに人が来ない上にわざわざ見つからないように偽装していたせいもあり、助けなど来なかった。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

隠れるように建っていたとある施設に一条の閃光が奔る。
その赤い閃光はその施設を貫き、さらに爆炎を生み出す。

「ば、馬鹿な!!『エンジェル』の同型機がなぜここに!!?」

「反撃しろ!!相手は『エンジェル』の同型だ!!質量兵器でも何でもいいから持ってこい!!」

その場にいた兵士たちは機関銃、ミサイル、魔法兵器、ありとあらゆるものを襲撃者に向けて放つが、その襲撃者はそれらをものともせずに銃口を兵士たちに向ける。

「あげゃ♪」

赤い光が地面に着弾し、兵士たちは爆風で吹き飛ばされる。

「プルトーネ、損傷軽微。作戦続行に支障なし。」

「当然だろ。こいつら程度の武器でどうにかなるようじゃガンダムの名が泣くぜ。」

『おいおい……そのデカブツをここまで気付かせずに接近させられたのはウーノ姉ぇとクア姉ぇ、んでもってあたしが連中の警備を混乱させたからで……』

「こいつにはもともとレーダーやセンサーの類は無意味だ。お前らが余計なことしなくてもどうにかなってたんだよ。」

モニターの向こうでセインがムッとした顔をするが、ロバークは構わず自分の目的を果たす。

「さて……そいつを返してもらうぜ。ソリッドはお前らに過ぎた代物だ。」

襲撃者、腕部と脚部が白、ボディは青でところどころに赤い色が入ったロボットは、施設の人間が『エンジェル』と呼んでいたロボットに手をかける。
右腕は取れ、あちこちボロボロだが、白と萌黄を基調としたその姿は寸分も色あせてはいない。
白のロボットは『エンジェル』を持ち上げようとする。
動作を停止しているためか、普段よりも重量を感じるが、こちらもそれを想定して補助のためにあちこちにスラスター類を取り付けているから問題はない。

「あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!あばよドあほども!!」

白いロボットはとどめにもう一撃光弾を撃ち込むと、星が瞬く夜空へと消えていった。








翌朝 機動六課隊舎 食堂

早朝の訓練を終え、いち早く空腹を満たすためにスバルとエリオはいつものようにトーストやスクランブルエッグ、果てはサラダまでを自分の取り皿の上に山盛りにしてほおばっている。
そんな二人をしり目に、ティアナはトーストを一口かじってすぐに自分の持っている携帯端末の画面を眺める。

「ふぉおふぃふぁのふぃあ?」

「口の中のものを空にしてから喋りなさい。」

いつもなら鋭いツッコミが飛んでくるのだが、今日のティアナは画面に映っているものに気を取られているためスバルへのツッコミが甘い。

「本当にどうしたんですかティアナさん?あんまり食べてないですけど?」

キャロが心配そうに声をかけてティアナはようやく視線を画面から外す。

「ああ、ごめん。これを見てたのよ。」

「これ?」

三人が不思議そうにティアナがこちらに向けた画面を覗き込む。

「管理局の研究施設が襲撃される………昨晩、クラナガン北部の山間の研究施設が何者かの襲撃を受けた。ここでは秘密裏に質量兵器の研究がおこなわれていたようだが、管理局側の代表、レジアス・ゲイズ中将は関与を否定している……なお、当社の記者が独自に掴んだ情報によると、『エンジェル』と呼ばれていた兵器が強奪された模様……情報をかたくなに遮断する地上部隊に周囲の住民は不安と不信感を募らせている………」

「へぇ~、こんな事件が起きてたんだ。」

スバルはマッシュポテトの塊を飲み込みながらエリオが読み上げた文章にうなずく。

「スバル……あんたはもうちょっとニュースに関心を持ちなさい。」

ティアナは呆れてたため息をつくとトーストをまた一口かじり、コーヒーで流し込む。
その時、エリオが何かを思い出して一人で納得し始める

「そうか……じゃあ今朝、ユーノさんはここに……」

「どうしたのよ?」

「あ、いえ。訓練の前にユーノさんにあったんですけど、用事が出来たから2~3日の間留守にするかも、って言ってたのでこれのことかなぁと思って。」

「でも、これって私たち機動六課が勝手に首を突っ込んでいいことじゃないよね?」

「そうだよね~。管轄も違うし。」

「………ユーノさん、どこに行ったんだろう?」










部隊長室

「うん……わかっとった。いつかはこんなことが起こるってわかっとった。けどな………」

はやては自分の机をバンと叩いて立ち上がる。

「何勝手に関係ないところの捜査にいってくれとんねん!!」

隣の小さなデスクでリインフォースがプルプルとはやての剣幕に震える。

「あれか!!?またぞろあのおっさんのせいか!?ほんまにあの中将はどんだけ私を追い詰めれば気がすむねん!!」

「は…はやてちゃん、今回はレジアス中将は関係な…」

「ああん!!?」

「ご、ごめんなさい!!なんでもないですーー!!!!」

その日、はやての怒号が途絶えることはなく、職員たちは騒音に悩まされることになったとか。









北部

地上部隊の局員たちに混じってユーノの金髪が揺れている。
溶解した鉄骨の前にかがみながらあることを調べる。

(この感じ……間違いなくGN粒子を使った兵器による攻撃の跡だ。ミッドにある質量兵器でこんなふうにはならない…)

となると、犯人はおのずと決まる。

(ロバーク……君は一体なんの目的でここに……)

その時、

「ユ~ノッ!!」

後ろから誰かに抱きつかれる。

「……記者さん。ここは関係者以外立ち入り禁止なんですが。」

「かったいこと言いっこなしなし!!大体ちゃんと許可貰って入ってきたんだし!」

「大方、また何か妙なもの見せて強請ったんでしょ、アイナ。」

ユーノは立ち上がると背中にくっついていた幼馴染、アイナ・スクライアを引きはがす。
水色のショートカットと透き通るような白い肌は太陽に照らされていっそう輝いて見える。

「そんなことないわよ。ちょっと情報提供したら通してくれた人がいたのよ。変な人だったわよ~。このカンカン照りの中で分厚い白いコート着てて……あれは間違いなくあの下に何か隠してるわね。」

「はいはい。そのホラ話はまた付き合ってあげるから今日は帰りなさい。」

「だから嘘じゃないって言ってるでしょ!!……ところでぇ、あの子とは上手くいってるの?」

「あの子?」

「ほら、あんたの婚約者のエース・オブ・エース様。なのはちゃんのことよ。」

「ああ、ちゃんと上手くいってるよ。この間も一緒に部下の子に教導を……」

「だ~か~ら~。そういうことじゃなくてぇ~。」

アイナは体をくねくねとさせる。

「夜のお付き合いの話よぉ。あんた昔っから鈍くて女の子に興味がなくておまけに自分が女の子みたいな顔してるせいでそっちの気があるんじゃないかってみんな心配してたじゃない。だから、上手くいってるのかなぁ~って思って。もう初めて済ませた?まだなら私がやり方教えて……ゴフッ!!?」

アイナの頭にユーノの鉄拳が振り下ろされ特大サイズのたんこぶが出来上がる。

「………僕はその手の冗談が一番嫌いだ。」

ユーノは赤い顔でそっぽを向いて再び破壊された施設の調査を始める。

「ったった~!いったいなぁ~、もう!!」

「用がないならホントに帰りなよ。」

「用ならあるわよ。て言うかこれが本来の目的なんだけど。」

アイナの笑いが鋭いものに変わる。

「情報交換といかない?あんたわざわざせっかく配属された部隊に迷惑かけるようなマネまでしてここまで来たってことは何か欲しい情報があるんでしょ?」

アイナは笑うが、ユーノはため息をひとつつくとすぐに背を向ける。

「生憎と一介の記者の確実性の低い情報を手にするために捜査機密を漏らすわけにはいきませんので。」

「あら、結構いい情報そろってるわよ。例えば……『エンジェル』の情報とか。」

ユーノは足を止めてアイナのほうを向く。

「エンジェル?」

「あら、知らないの?私が独占入手した情報なんだけど、なんでもここの施設にいた胡散臭い連中の持ってた兵器らしいわよ。特徴は記事には載せなかったんだけどきっちり掴んでるわよ。」

クスクスと笑うアイナのその顔は悪女そのものだ。

「………先にそっちの情報を言うのが先。それでいいならのってあげるよ。」

「OK、交渉成立ね。言っとくけど、こっちの話を聞いてそれでおしまいなんてことしたらろくなことにはならないわよ。」

「しないよそんなこと。それより…」

「はいはい。え~と、なんでもエンジェルはここの連中が開発したものじゃなくてどこかで拾って来たものなんだって。でもって、そいつの特徴が限りなく人に近い姿をしたすっごいでっかいロボットなんだって。それで………?ユーノ?」

アイナの話を聞いていたユーノは驚いて固まったままアイナを見つめていたが、すぐに詰めよって肩を掴む。

「それが盗られたんだよね!!?それを持って犯人がどこに行ったとかわからない!!?」

「え、えっと!なんかそれを持ってたのも同じようなロボットらしいけど、どこに行ったのかまではわかんない!!ちょ、それよりどうしたのよ!?」

ユーノはアイナの肩から手を離すと口元に手を当てて考え込む。

(おそらく、エンジェルとはソリッドのことだ。それをロバークが持っていったってことか。でも、一体なんで?……ええい、ここで悩んでても仕方ないか!)

ユーノは自分のメモ帳からページをちぎるとアイナに押し付ける。

「ここに僕が知ってることはほとんど書いてあるから参考にして!それじゃ!!」

「あ、ちょっと!!」

ユーノはアイナの制止も聞かずにその場を離れていった。









機動六課隊舎 ロビー

午前の教導が終わり、昼食を終えたスバルたちはロビーに集められていた。

「みんな、急だけど地上部隊から応援の要請があったの。本当に急で悪いんだけど、午後の教導を捜査の協力に変えたいと思います。」

「珍しいですね、他の部隊がうちに依頼してくるなんて。何かあったんですか?」

「昨晩、北部の部隊が捜査しているところにガジェットが現れたらしい。数自体は少なかったから問題なかったらしけど、一応ロストロギアの存在を警戒してあたしらがいくことになったってこった。」

「そういうことだから今からみんなで先に捜査を進めている部隊と合流。周囲を警戒しながらロストロギアの探索にあたるよ。」

「「「「はい!!」」」」

「スターズはあたしと一緒に先に出て部隊と合流。ライトニングはシグナム副隊長と目標地点の周りを調べた後、合流だ。」

ヴィータの説明が終わり、スバルたちは隊舎の入口に歩いていく。

「そう言えば、北部って今朝のニュースで見たところですよね。」

「ああ……でも、多分関係ないでしょ。向こうは質量兵器。ガジェットの狙いはロストロギア。どう考えたってガジェットがそんな所を襲う理由なんて見当たらないわよ。」

ティアナはエリオの話をそう言って締めくくると入口へと歩いていく。

「そう言えばユーノさんは今頃何してるんだろうね?」

「八神部隊長すごく怒ってましたね………」

キャロははやての怒りの声を思い出したのかブルッと体を震わせる。

「ま、まあ、ユーノさんなら大丈夫だよ。」

「帰って来た後のことは保証しかねるけどね。」

ティアナの一言に三人は苦笑しているとヴィータから声をかけられる。

「ほら、早くしろよ。」

「あ、はーい!!」

四人はヴィータにせかされる形で、その場を後にした。









その頃のユーノ

「へっくし!!……なんだ、今のプレッシャーは…?」

ユーノは悪寒に身を震わせながら捜索を続ける。

「……帰ったらはやてはともかくみんなには謝っておかないとなぁ。」








北部

ライトニングよりも先に到着していたスターズの四人は捜査をしていた隊員からことのあらましを聞き、周辺の街の警戒にあたっていた。

「それにしてもユーノの奴、また勝手なことしやがって。」

ヴィータは不機嫌な顔で空になったコーヒーの缶を握りつぶす。

「ま、まあまあ。ユーノさんがここにいることがわかったわけですし…」

「またどこぞへ勝手にいきやがったけどな。」

「ハハハ……」

心底機嫌の悪いヴィータに冷や汗を流しながら必死にユーノのフォローをするスバルだが、横にいるなのはも心なしか機嫌の悪い顔をしている。

(す、すごく居心地が悪い…)

口では言えないが、この二人が機嫌が悪いとこれ以上ないくらい恐ろしい。

(……いっそ、何か騒ぎが起こって二人の気が別の方向に向かってくれないかな~。な~んて…)

スバルがそんなことを考えた次の瞬間、四人の後ろで爆音とともに炎が発生する。

「え!?嘘!!?私のせい!!?」

「何わけわかんないこと言ってんのスバル!!早く行くわよ!!」

四人はそれぞれのデバイスを起動させて爆発の現場へ急ぐ。
爆発に巻き込まれた局員や住民たちが傷を押さえながら呻く中、なのはは周囲にいる局員に指示を出していく。

「怪我を負ってない人は負傷者の運搬を!他の人たちは周囲の警戒をお願いします!!」

「!!」

その時、ヴィータははっきりと見た。
金色の髪をした男がそそくさとその場を離れていくところを。

「犯人と思われる人物を発見!」

「ヴィータちゃん、こっちは任せて!!」

「了解、追跡を開始する!スバル、ティアナ、ついてこい!!」

「「了解!!」」

三人は野次馬をかき分けて逃げた男を追う。
男は建物の曲がり角を利用して三人を撒こうとする。

「クッ!!お願いです!どいてください!!」

「ヴィータ隊長!先に上空から…」

「無理だ!こんだけ人が多いと上からじゃ見分けにくい!!」

三人は人ごみを避けながら進んでいくが、男との距離は開くばかりだ。
男はある程度距離が開いたところで曲がり角を右に曲がる。

「マズイ!!見失っちゃう!!」

スバルは思い切ってウィングロードを使おうとする。
だが、

「がぁ!!?」

「「「!!?」」」

男が曲がったところでうめき声が聞こえたかと思うと、そこにいた人々が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

「なにが…?」

人のいなくなった通りを三人が進んでいくと男が曲がったところからある人物が男の髪を掴んで現れる。

「!!お前は…フォン・スパーク!!」

ヴィータはグラーフアイゼンをギュッと握ってロバーク……いや、フォンを睨みつける。

「ヴィータ副隊長、あの人のこと知ってるんですか?」

「ああ。こないだあたしを海に叩き落して服をずぶ濡れにした張本人だ。」

「!じゃあ、こいつが…!!」

スバルとティアナもデバイスを構えるが、フォンはそんなことなどどこ吹く風といった様子で笑う。

「ガキが自分より年上のガキを顎で使ってるたぁ、何とも妙な画だな。」

フォンの挑発にもヴィータはあくまで冷静に対処する。

「さっきの騒ぎもお前の仕業か?」

「いや、それをやったのはこいつだ。」

フォンは手に持っていた男を投げて渡す。

「!!」

ヴィータはその男の顔を見て驚く。
金色の髪に痛みで薄く閉じられているが、ユーノと同じ翠の眼をしている。
ミッドでは珍しくはないが、それでも気になってしょうがない。

「そいつらはお前ら管理局にずいぶん恨みを持ってるみたいだぜ?確かこいつらの名前は……すい…そう、翠玉人だったか?」

「「「!!」」」

「その面だと存在自体は知ってたみたいだな。」

フォンはニヤリと笑うと足元に魔法陣を展開して転送の準備を始める。

「待ちなさい!!」

ティアナはクロスミラージュから魔力弾を放つが、フォンはひょいと体をひねってかわす。

「じゃあな、チビ。ユーノによろしく言っといてくれ。お前の探しもんは俺の手元にあるってな。」

フォンはその言葉とボロボロになった男を残してその場から消える。
残された三人はしかたなく男を担いでなのはの待つ現場に向かった。










周辺

スターズが爆発騒ぎの対処に追われているころ、ライトニングの三人も周辺の聞き込みの最中に事件に巻き込まれていた。
三人が聞き込みのために入った民家の一つが三人が出た直後に爆破されたのだ。
幸い三人に怪我はなかったものの、その家の住人が助からないことは明らかだった。

「どうしてこんなこと……」

「キュク……」

キャロが崩れた家を呆然と眺めている中、シグナムにヴィータから念話が入る。

(シグナム、ヴィータだ!こっちで今、路地が爆破されて負傷者が出た!)

(こっちもだ。おそらく同時テロか。)

(それで…だな……)

(?どうした。)

口ごもるヴィータにシグナムは首をかしげる。

(……こっちで犯人の一人を捕縛したんだけど………犯人は翠玉人だ。)

(!!!!)

シグナムの脳裏に忌々しい記憶がよみがえる。







布で覆われたテントのような家が燃え盛り、夜空を赤に染める中、騎士甲冑をつけたシグナムは無抵抗の相手に歩み寄る。
誰一人抵抗もせずにただ逃げようとしたところを斬り捨て、リンカーコアを奪い取った。
そして今、ただ震えることしかできない幼子に手を伸ばしリンカーコアを奪う。
露出した自身のリンカーコアを見つめる翠の瞳からとめどなく涙がこぼれおちる。
しかし、シグナムは迷うことなくリンカーコアを奪い取りその場を後にする。
彼女が通って来た道には、同じようにリンカーコアを抜き取られ、二度と動くことのない屍だけが残されていた。







「…………いちょう!!シグナム副隊長!!」

シグナムはエリオとキャロの声でようやく過去の悪夢から現実に引き戻される。

「どうかしたんですか!?急に壁に寄りかかってそれきり動かなくなって…」

「いや……なんでもない。少し立ちくらみがしただけだ。」

シグナムは心配そうに自分を見上げるキャロの頭をなでると意識をはっきりと持つ。

(そうだ……いつぞやユーノの瞳に既視感を覚えたことがあったが、そういうことか………)

消しようのない自分たちの罪。
それが今になって目の前に現れた。
ならば、

(向き合わねばなるまい。それが今の私たちにできることなのだから。)

シグナムは壁から離れる。

「エリオ、キャロ、スターズと合流する。ここは別の人間に任せておけばいい。」

「……はい。」

キャロとエリオは最後まで爆破された家を見ていたが、シグナムの指示に従いスターズとの合流地点に向かった。









街外れ

「何を考えている!!あれほど接触は避けろと言っていたろ!!」

戻ってきたフォンにチンクは目を吊り上げて怒りをあらわにする。

「フン。出会っちまったもんはしょうがねぇだろ。」

「うかつすぎると言っているんだ!!」

「ま、まあまあ。フォンも反省……してないっスね。」

「いつものことだがな。」

フォンの不遜な態度とウェンディの言葉にトーレがため息をつく。

「お~い、みなさ~ん!?そんなことよりあたしの心配をしてくれませんかねぇ~!?」

チンクの後ろからセインが地中に潜りながら必死に何かを運んできている。

「ああ、すまん。忘れていた。」

「ヒドイよチンク姉ぇ!!Ⅰ型が手伝ってくれてもこれ重いんだよ!?」

セインはガジェットの手を借りながら地中からそれを引き上げる。
六本の太い脚をもち、前には二つの大きなカメラアイが横並びについている。
その下には口のように分かれた部分があり、そこからは機銃が覗いている。

「これ何度見ても気持ち悪いっスねぇ~。なんか虫みたいっス。」

「てか、なんであたしがこれ運ばなくちゃなんないんだよ!持ってきたフォンが運ぶのが筋ってもんだろ!」

「旧式のオートマトン運ぶのにいちいちガンダムを使ってられるかよ。こいつをばれないように運ぶためにもお前がやれ。」

「だああぁぁぁぁぁ!!ムカつくゥゥゥゥゥゥ!!わかってたけどスッゲェェェェェェムカつくゥゥゥゥゥゥ!!」

ニタニタ笑うフォンの顔を見ながらセインは地団駄を踏む。

「それより、アイツらが連中のところに踏み込む前にこいつを使っていいのか?」

「いいんだよ。あのチビガキどもに任せてたら日が暮れちまう。」

フォンは持っていた端末を操作して874と連絡を取る。

「874、オートマトンを起動させろ。」

『了解。』

フォンの端末から874の顔が消えると、セインの運んできたオートマトンたちが一斉に動き出す。

「さて、我々も動き始めるか。」

トーレが手をゴキゴキと鳴らす。

「火事場泥棒ならぬ火事場テロリストを懲らしめるとしますか。チンク姉ぇ、しっかりつかまっててよ。」

「承知した。」

チンクがセインの腕につかまると二人は地中へ水に入りこむように沈んでいく。

「ウェンディは私とだ。」

「了解っス~。」

ウェンディはボードに飛び乗るとトーレの後ろについていく。

「俺も行くとするか……フェレシュテ、セットアップ。モード・ジャスティス。」

フォンがFの字が刻まれた盾に悪魔の翼が生えたようなデザインの首飾りに銘じると、彼の右手に巨大な剣、左手に銃が出現する。

「アストレアF、俺様、出るぜ!!」









?????

「よかったのですか、ドクター。」

長髪の女性、ウーノはコンソールを叩きながら自分の後ろで優雅に紅茶を飲んでいるであろうスカリエッティに話しかける。

「なんのことだね。」

「とぼけないでください。なぜ、わざわざ翠玉人たちのテロを妨害するのですか?我々の目的の達成とは無関係のように思えますが……」

「ウーノ、君は優秀だ。」

「?はぁ……」

ウーノは突然のスカリエッティの賛辞に戸惑う。

「確かに君の判断は正しい。だが、私は彼らのやり方が気に入らない。それだけの話だよ。」

「……私が機械的だと言いたいのですか?」

「そうは言っていない。ただ、もう少し物事に潜む無意味さというものに着眼してもらいたいと言っているのさ。」

「無意味さ……ですか?」

「そうさ……例えば感情。生物が生きていく上では不必要だ。いや、それどころか時に冷静な判断力を奪う毒と言っても差支えはないだろうね。だが、それでも人は感情があるからこそ自分の生に意味を見いだせる。喜び、悲しみ、そして……怒り。」

スカリエッティの顔に歪んだ笑みが浮かぶ。

「彼らがテロを行うにいたるまでの経緯には同情するが……私の逆鱗に触れたらどうなるのか、その身にしっかりと刻んでもらおうと思うよ。彼らがしたことで周りにいた人間が抱いた感情をかみしめさせながらね……」

クックッと笑うスカリエッティをチラ見してウーノは嘆息する。
フォンとスカリエッティはとことんそりが合わないのだが、こういうときには二人の思考回路は不思議なほどに一致する。
それを少しでも日常生活にわけてほしいものなのだが、おそらく無理だろうと判断してコンソールを叩き続けるのだった。








テロリストのアジト

「な、なんだ、こいつら!!?」

金色の髪をした男は目の前にいるそれへと魔法を放つが、それに到達する前に霧散して消えてしまう。

「AMF!?まさか、こいつら新型のガジェットか!!」

「違うな。」

突然後ろから聞こえてきた声に男は振り向くが、その瞬間顔面に足の裏が叩きつけられ、意識が飛ぶ。

「そいつの名はオートマトン……だったか?ガジェットとは似て異なるものだ。」

「チンク姉ぇ、もうそいつには聞こえてないっぽいよ。」

着地するチンクの後ろから顔だけを地上に出しながらセインは周りの様子をうかがう。

「そんなことはどうでもいい。それより、周囲に敵は……」

「いないよ。他のルートから進行してるオートマトンも順調に連中を蹴散らしながら目標地点に向かってる。でも、いいのかなぁ?」

「なにがだ?」

「こいつらだよ。せっかくフォンが持ってきたのにこんなところで壊しちゃって?」

セインの問いにチンクは彼女の腕につかまりながら答える。

「こいつらの性能そのものはガジェットより劣るからな。それはフォン自身も認めていたし、なによりもそのフォンがこいつらに爆薬を仕掛けたんだ。問題はないだろう。」

「でも、こいつら爆発すると私たちもヤバいことになりそうなんだけど。」

「逃げるときは頼りにしてるぞ、セイン。」

「ハハハ……嫌な頼られ方。」

二人がそんな会話をしながら地中に潜ろうとした時だった。
別行動をしていたウェンディから連絡が入る。

『……あの、非常に言いにくいんスけど。』

「どったのウェンディ?」

『アハハハハ……フォンがまたやらかしたッス。』









北部

指定されていたポイントで合流した機動六課の面々だったが、身柄を取り押さえた男は何も話そうとせず、途方に暮れていた。

「どうしましょう?」

スバルは腕を組んで考え込む。

「もう一度聞き込みにいくしかあるまい。」

「あんまり、期待できないけどな。」

シグナムとヴィータに促され、全員が聞き込みにいこうとしたその時だった。

『お~い、税金泥棒ども。』

「!!?」

突然空から聞こえてきた声に街にいた誰もが上を見上げる。
そこにはガジェットにスピーカーをつけたものがフヨフヨと進んでいく姿があった。

『たかだかテロリストの拠点を見つけるぐらいでてこずってるとこ見せちゃ無能をさらしてるようなもんだぜぇ!!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!』

「やっろぉ~~!!!」

ヴィータは挑発的な声にギリギリと歯ぎしりをする。

『しかたねぇから俺様がテメェらに連中の居場所を教えてやる!無能じゃないことを証明したいならここに来るんだな!ああそれと、俺様も今はここにいる。逮捕したけりゃ頑張って俺様を探すんだなぁ!!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!』

街全体に聞こえる放送が終了した瞬間、ガジェットが空中で爆発して周りにビラのようなものを撒き散らす。
ティアナはひらひらと落ちてくるその一枚を手にとって見てみる。

「ポイントW-23……ここって、確か山の麓の森林地帯ですよ。」

ティアナが説明しているのだが、ヴィータはグラーフアイゼンを握りしめて何かをつぶやいている

「あのやろぉ、なめやがってぇぇぇ~~!!今度会ったら絶対あのクソムカつく面をぶっ潰してやる!!」

一人で復讐を誓うヴィータにティアナたちは半ばあきれているが、なのははそんな様子も目に入らない。

(この声……!!?)

なのはは聞こえてきた声に凍りついていた。
夢で見たあの男の声だ。
ユーノと同じタイプのロボットに乗り、敵対するものすべてを葬ってきたあの男の声だ。
ユーノをどこか遠くに連れ去ってしまう存在。
そう、なんとしても排除しなければならない存在だ。

「……みんな、すぐにそのポイントに向かうよ。ティアナ達はいつも通り四人で組んで行動。シグナムさんとヴィータちゃん、私は空から単独でポイントを捜索。」

「……なのはさん?」

この時、スバルだけはなのはの様子がいつもと違うことに気付いていた。
どこか鬼気迫るといった様子で、先日の訓練時の一件よりも追い詰められているように感じる。

「ほら、スバル。ボーッとしてないで行くわよ。」

「え?あ、ああ、うん。」

スバルは気のせいだと自分に言い聞かせてティアナ達とともにビラに書いてあったポイントに向かうが、それでもやはりなのはの様子が気になってしまう。

(どうしたんだろう、なのはさん。)

スバルの心配をよそになのはたちも空へと舞い上がる。

(絶対にあなたにユーノ君は渡さない……!!もうユーノ君をあれに乗せたりなんてさせない!!)









テロリストのアジト

「…………………………………」

「あ、あの……トーレ姉ぇ?フォンもきっと悪気はないんスよ(たぶん)。だから、今はやることやってさっさとここから……」

「話しかけるな、ウェンディ。私はいま非常に気分が悪い。一歩間違えると……」

トーレは腕に発生させた魔力刃をウェンディの顔スレスレに振る。

「ひっ!!」

「……お前も巻き込みかねんから注意しておけ。」

ウェンディの後ろにいた男がばったりと倒れ、ウェンディもそれに合わせるように腰を抜かす。

「りょ、了解っス!」

ウェンディは壁にしがみついてなんとか起き上がって周りを見渡す。
周りには金色の髪に翠の眼をした者たちがトーレとウェンディを睨みつけている。
彼らの着ている服はいずれも白を基調とし、袖や端の部分に緑色の糸で三本の曲線が刺繍されている。

「しっかし、こいつらもしつこいっスね。」

「それだけ恨みが深いということだろう。関係のない人間にまでそれを向けるのはどうかと思うがな。」

トーレがフゥと息を吐き出した瞬間、取り囲んでいた男たちから光る鎖が放たれる。

「ハッ!!」

「よっと。」

トーレは鎖を切り裂き、ウェンディは持っていたボードに飛び乗って空中で宙返りをしながら鎖をかわしていく。

「IS、ライドインパルス。」

トーレの姿が一瞬消え、次に現れた時には周りにいた敵が薙ぎ払われた後だった。

「容赦ないっスね。」

「手加減をする必要がどこに?」

「ま、それもそうっスね……ん?」

ウェンディの身に着けていた腕の端末が何かの反応を感知する。

「どうした?」

「お客さんが追加。丁度オートマトンと鉢合わせしたみたいっス。」

「そうか、もう来たか。」








ティアナ達がその施設に侵入したときにはすでに中は大騒ぎだった。
犯人グループと思われる人間が慌ただしく動き回っている。
当然、ティアナ達にも攻撃を仕掛けてくるのだが、混乱しているせいか動きにキレがない。

「なんか拍子抜けね。」

襲ってきた男たちをアッサリ魔力弾で気絶させたティアナが一息つく。

「それよりもこの人たち……」

「うん。びっくりするくらいユーノさんそっくりだね。」

エリオが前に倒れこんでいた男を仰向けにする。
金色の髪に翠の眼。
まさしくユーノの外見の特徴そのものだ。

「ミッドじゃそんなに珍しくないけど、ここまで同じような人が集まってるのは変だね。」

「うん。」

エリオとキャロの会話を聞きながらスバルは眉間にしわを寄せる。

「わるいけど、お喋りはそこまでにしておいて。次が来るわよ。」

ティアナの言葉通り、曲がり角の奥から大きな音を立てて何かがやってくる。

「この感じ……ガジェット?」

「でも、あれってこんなに大きな音ってしましたっけ?」

スバルとキャロが首をかしげているとその何かがやってくる。

「な!?」

四人はその姿に呆気にとられた。
六つの脚をもち、前の部分には大きな虫の目を思わせるようなカメラアイ。
そして、六つの脚を使いながら迫るその姿はまるで脚が一対足りない蜘蛛のようだ。
蜘蛛型のロボットは四人の姿をとらえると昆虫でいう口に当たる場所に装備された銃を乱射し始める。

「うわ!?」

慌てて防御をするが、蜘蛛型ロボットは四人にじりじりと近づいてくる。

「し、新型のガジェット!?」

「だとしたら、悪趣味この上ないデザインね!!」

「この!!」

スバルはいち早く懐に飛び込むと拳をロボットの下から振り上げる。
すると、ものの見事にロボットはひっくり返り、脚をじたばたとさせる。

「なんだ。見た目によらず大したことないじゃない。」

ティアナは転んだロボットをこんこんと叩く。

「ティアナさん、これどうします?」

「ま、一応壊しておいて損はないでしょ。」

ティアナは小さな魔力弾を発生させるとロボットの頭部と思われる場所に撃ち込む。
ロボットは一瞬脚をピンと伸ばして硬直するが、すぐに折りたたんで動きを停止させる。

「でも、これって本当にガジェットなのかなぁ?ずいぶん印象が違うし。」

「……確かにそうね。こんなところにロストロギアが転がってるとは思えないし。」

「じゃあ、ここの人たちの作ったものなんじゃないですか?」

「それもないわね。こんな物作れるほどの物資を誰にも気付かれずに集めるなんて不可能よ。それに……」

ティアナはロボットの足の裏にある小さな文字を指さす。

「Made in USA……!?これって!!」

「そう、たぶんなのはさんや八神部隊長の出身世界、地球の代物よ。」

「じゃあ、これは地球から持ち込まれたものなんですか!?」

「でしょうね。それに、関係ないと思ってたけど、意外とこれと今朝のニュースは関係性があるんじゃないかしら。」

「?」

「忘れたの?ニュースが本当に正しいとしたらあそこで研究されていたのは質量兵器よ。」

「!じゃあ、これが!?」

「さあね。ただ、完全に無関係とも思えないのは確かね。後でこれを持ち帰って……」

その時、ロボットに何かがとんでくる。

「なに!?」

飛んできたのは何の変哲もないナイフだったのだが、目標に刺さった瞬間、赤熱し始める。

「!!」

四人が防御を発動させると、凄まじい衝撃と爆炎が辺りを駆け抜ける。
幸い、負傷者は出なかったが、ロボットは完全に破壊されてしまった。

「クッ!そこ!!」

すべてが収まった後、ティアナは魔力弾をナイフがとんできた方向に飛ばすが、壁に当たっただけで終わった。
ティアナ達は襲撃者がいたであろう場所に向かってみると、床に書置きが残されている。

『Be not related to an extra thing』

「余計なことにかかわるな、か…」

「警告でしょうか……」

「けど、引き下がるわけにもいかないね。」

「奥に進むわよ。とりあえず、ここの連中を取り押さえてから話を聞きましょう。」








「チンク姉ぇ、よかったのあれで?」

「ああ、あの程度の攻撃なら四人そろっていれば防げるだろうしな。フォンが余計なことをしてくれたが、余計なことを嗅ぎつけない限りは連中にも協力してもらおう。」










別ポイント

施設内部に侵入したシグナムだったが、相手がテロリストだとわかっていても自分の愛剣、レヴァンティンを振るうことに戸惑いを感じてしまう。

(彼らが凶行に出てしまう原因は間違いなく私たちにもある……いや、だからこそ今は彼らを止めなければ!)

シグナムは剣を大きく振って自分の意志を強固なものにすると前を凛と見据える。
だが、そんな彼女の目にある光景が飛び込んでくる。

「!!」

まだ年端もいかない子供が戦場と化したこの建造物の中を歩いているのだ。
シグナムはその少年に近づいていく。

「!!あ………あ……!!」

「大丈夫か!?」

少年はじりじりとシグナムから距離を取ろうとするが、シグナム不慣れだが、極力優しい笑みを浮かべる。

「大丈夫だ。私はお前に何もしない。」

シグナムは少年を抱き上げる。

(こんな子供までいるとは……とにかく、この子を安全なところまで……)

シグナムが歩き出そうとしたその時、彼女の腹部に鈍い衝撃がはしる。

「ぐ……あ……!?」

レヴァンティンを床に突き刺したおかげで完全に倒れることは回避できたが、それでも膝をついた状態からなかなか起き上がれない。
そんなシグナムをしり目に、少年は彼女から離れる。

「闇の書の守護騎士……!お前たちも僕らの敵だ!」

シグナムを見下ろす翠の瞳は怒りに満ちている。
そして、少年の手のひらに徐々に魔力が集まっていく。

(しまった……!!まさか、こんな子供まで……!!)

シグナムはなんとか起き上がるとレヴァンティンで少年を斬り伏せようとする。
だが、あの時の記憶が邪魔をして刃を振りおろせない。

「っ……!申し訳ありません、主はやて……このようなところで果てる不義理を、お許しください……!!」

「ゆるさねぇよ。」

次の瞬間、少年は糸の切れた人形のようにばったりと倒れ込む。

「ヴィータ……」

「たく、こんなことになってんじゃねぇかって思って、来てみて正解だったぜ。」

手刀をあてて気絶させた少年をヴィータは軽々と持ち上げる。

「ヴィータ、私は……」

「ま、なんだ。」

ヴィータは頬を照れくさそうに掻く。

「とりあえずこいつを運び出そうぜ。話はそれからだ。あたしもいろいろ話したいことあるし。」

「……承知した。」

二人の騎士は小さな、しかし重たい命を背に外へと向かった。









別ポイント

「あげゃ!!」

フォンが持っていた剣を振るい、取り囲んでいた敵を一気に薙ぎ払う。

「大したことねぇなぁ。ま、人の起こした騒ぎに便乗するしかないんじゃ当然か。」

フォンは倒した敵を煩わしそうに蹴り飛ばして道を作ると先に進もうとする。
その時、

「ほぅ。」

後ろから迫っていた桃色の砲撃を刃で受け止めるが、抑えきれなかった魔力の流れがフォンの体のあちこちにぶつかる。
だが、フォンは気にせず銃を発射する。

〈Protection〉

しかし、フォンの放った銃弾は桃色の壁に阻まれて霧散する。

「フン……不意打ちとはやってくれるじゃねぇか、機動六課。」

フォンが振りかえった先にはなのはがレイジングハートを構えてフォンを睨みつけていた。

「ロバーク・スタッドJr……いえ、フォン・スパーク、あなたを公務執行妨害、器物破損、窃盗、傷害、その他の容疑で逮捕します。」

「その面はそれだけじゃねぇって感じだぜ?」

フォンの言う通り、なのはの頭の中はフォンをユーノにこれ以上接触させないことでいっぱいだった。

「これ以上あなたをユーノ君に近づけさせない!!」

「フン、ユーノ君ね……」

フォンはなのはをじっくりと観察していると、彼女の指にはめられた翠の宝石に目がとまる。

(なるほどな。)

フォンはニヤリと笑う。

「おまえ、アイツの女か?」

「……………………………」

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!そうかいそうかい!アイツも隅に置けねぇな!!」

「っっっ!!!」

〈Divine Buster〉

レイジングハートから放たれた光が再びフォンを襲う。
だが、

「フェレシュテ、モード・ジャッジメント。」

〈了解。〉

フォンの持つ剣が消え、かわりに赤いフィールドが現れ、ディバインバスターを受け止める。
それでも、なのはの一撃はフィールドをうち破りフォンへと向かって行くが、今度は左手に現れた盾に防がれる。

「さて、と。相変わらずトライアルは使えねぇが、戦う分には問題ねぇな。」

フォンは銃口をなのはに向ける。

「……いくよ。」

〈Cartridge Load〉

「アクセルシューター!!」

無数の桃色の光弾が不規則に高速移動しながらフォンへと迫る。
フォンは持っていた銃で撃ち落としていくが、防ぎきれなかったものはフィールドにぶつかり、確実にそれを削っていく。

「チッ!!(思ったより速い!!)」

フォンはなのはに紅蓮の弾丸を放つが、なのはの防御の前にあっさりと防がれる。

(なるほどな……あの防御に加えてこれだけの数を操作できるコントロール能力にあのとんでもない砲撃。おまけに戦いなれてやがるせいか動きもいい………ったく、あの野郎もトンでもないのと付き合ってるもんだぜ!!)

フォンは自分の周りを飛び交う光弾に冷や汗をかきながらも不敵な笑みを崩さない。

「確かにお前は強ぇ。この世界でも正面から対抗できるやつはそうそういねぇだろうな。だが……」

「戦いに絶対はない。それくらい知ってるよ。」

「!!」

フォンがアクセルシューターを避けた先に、桃色の魔力をためていたなのはが待ち構えていた。

「ディバインバスター!!」

〈Divine Buster〉

激しい光にフィールドごと飲み込まれ、爆煙の中に沈むフォン。
しかし、なのはは攻撃の手を緩めない。
残っていたアクセルシューターをフォンがいるであろう煙の中へと向かわせる。
しかし、フォンは体のあちこちに焼け焦げた跡を作りながらも光る刃で自分に向かってくる光弾を斬り落とし、なのはへと振り下ろす。
しかし、なのはもレイジングハートでその一撃を受け止める。

「あげゃげゃげゃ!!やるじゃねぇか女!!殺す前に名前を聞いといてやる!!」

「なのは……高町なのは!!」

「高町なのは……!どんなふうに死んだのかはきっちりあいつに伝えておいてやるから安心して死ね!!」

「誰が!!」

なのははフォンを引きはがすと再び光弾をフォンへと向かわせる。

「なんでいまさらユーノ君の前に現れたの!?あの戦いはもう終わったんでしょ!?」

(!?こいつ、なんでそのことを知ってんだ!?そういや、あのチビも俺の名前を知っていた……どんなってんだ!?)

フォンの疑問をよそになのははさらに攻め立てる。
フォンをバインドで拘束しようとするが、ギリギリで気付いたフォンがその場を素早く離れる。
しかし、

「いって!!」

そこへなのはの魔力弾が殺到する。
だが、フォンはひるまない。
光の剣と盾を使い防ぎながらなのはとの距離を縮める。

(また斬撃が来る!!)

なのはは再び近接戦闘に備えるが、フォンは予想外の行動に出る。
持っていた剣をなのはへと投げつけ、銃をとりだして発射する。

「クッ!でも、この程度……」

「まだ終わりじゃねぇぜ!!」

フォンはなのはの目の前にある投げた剣の柄を握って再び刃を発生させるとそのままなのはの肩へ振り下ろす。

「!!」

「墜ちな!!」

とその時、建物全体が猛烈に揺れ始める。
その揺れのせいでフォンの太刀筋がずれてなのはの肩をかすめるだけに終わってしまう。
だが、助かったのはなのはだけではなかった。

「まさか後ろに誘導弾を忍ばせてるとはな……俺のサーベルとお前の誘導弾……どっちが速いか比べるのも一興だったんだが、どうやら時間切れのようだな。」

「待ちなさい!!」

なのはは天井が崩れ落ちる中、フォンへとレイジングハートを向ける。
しかし、落ちてくる瓦礫が邪魔で狙いがつけられない。
そんななのはを見ながらフォンは笑いながら話す。

「アイツを連れていく理由だがな、それはおもしれぇからだ。」

「!?」

「あの歪んだ世界であいつが……あいつらが何をするのか興味があるのさ!」

「そんな理由で……!」

「そんなことより、さっさと逃げるんだな。生きてりゃ俺をしとめるチャンスはまだまだあるぜ。」

フォンの言うとおり、倒壊はかなり進んできている。

「あばよ、高町なのは。せいぜい生き抜いて俺を楽しませな!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

「待って!!」

なのははフォンへ近づこうとするが、二人の間が瓦礫で埋もれてしまう。
なのはは唇を噛みながら瓦礫を睨んでいたが、すぐにその場を離れた。









別ポイント

「おわわわわわ!!!!」

「ウェンディ、早く来い!!セイン達はもう目の前だ!」

ウェンディはボードから降りて上から落ちてくる瓦礫を避けながら進むが、思うように前に進めない。

「トーレ姉ぇ!ウェンディ、早く!!」

セインが手招きをしたその時だった。
トーレとその後ろを進んでいたウェンディの間に大きな塊が降ってくる。

「ウェンディとまれ!!」

「ヤバ!!」

ウェンディは急停止しようとするが、勢いを止めきれず瓦礫の下に入りこんでしまう。

「ック!!」

その時、チンクはとっさにウェンディのもとへと疾走し、彼女に抱きつくような形で瓦礫を回避する。

「チンク!ウェンディ!」

「……大丈夫だ。」

「右に同じっス。」

「待ってて!こんな壁あたしなら!」

「いや、お前はトーレを連れて脱出しろ、セイン!」

チンクの思いもよらぬ申し出にセインは戸惑う。

「なんでさ!?これくらいあたしなら!」

「もともと別々の出口から脱出する予定だったんだ。少しばかり予定が狂ったが私とウェンディは別の出口から脱出する。」

「でも!!」

セインがそれでもチンク達のもとに向かおうとすると、トーレに止められる。

「……完全に崩壊するまでの残り予測時間は5分だ。……急げよ。」

「了解した。」

「いくぞ、セイン。今はチンクとウェンディを信じろ。」

「……わかった。チンク姉ぇ、ウェンディ、絶対無事に出てこいよ!!」

「無論だ。」

「当の然っス!」

チンクとウェンディはボードに乗るとすぐにその場から離れ、一番近い出口に向かう。

「あれ嘘でしょ。」

「何がだ?」

ボードの上でウェンディは苦笑いをする。

「別々に脱出するって言ってたあれっスよ。顔見てたら一発でわかったッス。」

「やれやれ……セインに顔を見られなくてよかったよ。」

「ま、実際こっちこられてたらちょっとヤバかったスけどね。」

ウェンディは本来曲がる方向とは逆の方向に曲がった左腕を押さえながら苦しげに笑う。

「あんがとうっス、チンク姉ぇ。あんなすちゃらかなセインでもあたしの姉ちゃんスから、心配かけたくなかったんス。」

「それに付き合わされる私はいい迷惑だけどな。」

「顔、笑ってるよ。」

「おっと。いかんいかん。」

チンクは指摘を受けながらも落ちてくる瓦礫に的確にナイフを刺して、それを爆発させて瓦礫を砕いていく。
そして、最後に落ちてきた瓦礫を砕くと、その先に光が見えた。

「出口が見えったスよ!うりゃあぁ!加速そーち!!」

ウェンディはボードを一気に加速させて外に飛び出す。
二人がそこから出た次の瞬間にはそれまでいた建物はガラガラと崩れ去っていた。

「フゥゥゥ!白髭危機一髪っス!」

「それを言うなら黒髭だ。どこで覚えたそんなもの。」

二人は森のひらけた場所に降りて歩き出す。

「早く二人と合流して安心させないとな。」

「そうっスね……!?チンク姉ぇ、危ない!!」

「!!?」

ウェンディが体当たりでチンクを弾き飛ばすと、それまでチンクがいた空間にリングバインドが出現してウェンディを拘束する。

「ウェンディ!!」

「動くな!!」

チンクは声のしたほうを向く。
そこにいたのはそれまで自分たちが相手をしたテロリストとよく似た姿をしているが、着ている服は明らかに違う人物だった。

「管理局、機動六課の者だ。そこの君も手の中のものを捨てて大人しくしてもらえると嬉しいんだけどね。」

機動六課所属、ユーノ・スクライアは自身のデバイスの刃を彼女たちに向けながら最後の警告を発した。










19年前からの亡霊たち
しかし、彼らの憎悪の源泉は遥か古から続くもの










あとがき・・・・・・・・・・・という名のこれはやりすぎたかも

ロ「ナンバーズ本格参戦のオリストーリーだった第六話でした。」

ユ「でしたじゃないよね!?またこんなぶっ飛び設定出して!!しかも僕はホントに出番なかったじゃん!!」

ロ「その代わり次回活躍しそうな終わらせ方したじゃんか。」

狸「それ以前の問題やからな!!なんやねんあれ!?」

ロ「オリ設定。」

ユ「そういうことじゃなくてあんなトンでも設定どうすんの!!?」

ロ「まあ、secondで使おうと思って出したんだけどちとヤバかったと自分でも思ってる。皆様すいません!!」

ツン2「謝るくらいなら出すな!!」

ロ「だが私は謝らない!」

ユ「謝っちゃったのにカ○スマ所長ネタ!?」

ツン2「……もういろいろめんどくさいんでゲストの紹介にいきます。」

狸「女装姿が意外と好評!?歩くネタ製造機!これを書いてる作者は万死に値する!ティエリア・アーデさんです。」

ティ「失礼な紹介どうもありがとう。ティエリアだ。」

狸「あれ、怒らへんのや?」

ティ「もう今回のを読んだらな。」

ロ「そういう言い方やめて!」

ユ「なんか新章開始してから感想掲示板見るのが怖いよね。なんか読者の皆さんはきちんとご意見言ってくれたり暖かい感想送ってくれたりするけどそのうち誰も見なくなりそうで怖いよね。」

ロ「…………………………………………………………(泣)」

ツン2「今回も作者をきっちりへこませたところで次回予告にいきます。」

ティ「遂にユーノVSチンク戦勃発!」

狸「そしてその後機動六課に視察に来る例の方!」

ツン2「その場でユーノさんの最後の秘密大暴露!(もう今回でほとんどバレバレだけど)」

ユ「次回もかなりぶっ飛んでますので皆様どうぞ投石のご用意を。」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 7.翠色の罪
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/09 20:36
ミッドチルダ 北部 森林地帯

「やれやれ、いくら自分に関係ないと思ってても自分のそっくりさんがここまで倒れてると流石にいい気分じゃないね。」

ユーノはあたりに倒れている人を避けながらなのは達が向かったという施設に向かう。

「それにしても、話を聞いた局員たちが変な顔してたのはこういうわけか。」

ユーノが話を聞きにいった局員たちは彼の顔を見た瞬間ひそひそと話し始め、まるで怪物でも見るような眼で見ながらなのは達が向かったポイントを教えた。
そして、ユーノがバイクにまたがりヘルメットをした瞬間、誰かが呟く。
もうユーノには聞こえないと思って呟いたのだろうが、ユーノはしっかり聞いていた。

「テロリストめ、ね………仮にも同じところで働いている人間にかける言葉じゃないね。」

そんなことをつぶやくユーノに記憶の断片がよみがえり、語りかけてくる。
アザディスタンでのミッション。
こちら側の地球ではまだ生まれていない、生まれるかどうかすらわからない国で仲間が浴びせられた言葉。

(……刹那もこんな気持ちだったのかな。)

自分がいる国からはうとまれ、自分と同じ血が流れる者は戦いをやめようとしない。

「………やるせないね、まったく。」

ユーノはため息をひとつついて先に進んでいく。
その時、

(?話し声?)

若い二人の女性の声が聞こえる。
声のする方に行ってみると二人の少女がボードに乗りながら下に降りてくる。
一人は銀色の長髪と眼帯が特徴的な背の低い少女。
もう一人はピンクの髪を後ろで短くまとめた少女で、こちらは左腕を負傷しているようだ。

(翠玉人……には見えないけど、一般人でも局員でもなさそうだね。)

正直、少し管理局にうんざりし始めていたユーノは見過ごそうかとも思ったが、はやてたちに必要以上の面倒を押し付けるのも気が進まない。

(しょうがない。)

ユーノは手元に魔法陣を出現させ、慎重に負傷していないほうの少女に狙いを定める。

(よし……もう少し……)

ユーノがリングバインドを発動しようとする。
その時、

「!?チンク姉ぇ!!」

(気付かれた!!?)

ユーノは一気にバインドを発動させるが、ピンクの髪の少女が眼帯の少女を押してかわりに自分がバインドにとらえられる。

「ウェンディ!!」

(チッ!)

ユーノはソリッドを起動させて草むらから躍り出るとアームドシールドの刃を眼帯の少女に向ける。

「動くな!!」

眼帯の少女はピクリと体を震わせるが、手元に何かをしのばせる。

「管理局、機動六課のものだ。そこの君も手の中のものを捨てて大人しくしてもらえると嬉しいんだけどね。」

(ユーノ・スクライア!?)

眼帯の少女は思いもしなかった名前に動揺する。

(よりによって噂のガーディアンか……厄介な人間にあたったものだ。)

少女はおのれの不運を嘆いたが、それはユーノも同じだった。

(本当はこの子を拘束して負傷してる子を説得して保護……って言う流れで行きたかったんだけど、まさか気付かれるとはね。おまけに、この子はやる気満々。)

ユーノは明らかに手の中のものを捨てる気がない少女を警戒する。

「一応聞いておくが、もしそちらの指示に従う気がないと言ったらどうする?」

「頭の悪い管理局の人間みたいで不本意だけど、君を力づくで拘束することになるね。こっちも一応聞いておくけど、ここまで聞いて指示に従う気は起きないかい?」

「残念ながら。」

「そう。じゃあ……いくよ!!」









魔導戦士ガンダム00 the guardian 7.翠色の罪

ユーノは眼帯の少女、チンクの手元を狙って右手のアームドシールドの刃に左手に発生させた魔力刃滑らせ、スピードを乗せて抜き放つ。
しかし、チンクはユーノが接近を開始した瞬間、あっさりと持っていたものを捨ててその場を離れる。

「ナイフ?」

ユーノはチンクの落としたものを見て首をかしげる。
見たところ投擲して使うタイプのようだが、投げる前に落としてしまっては意味がないように思われた。
だが、

「IS、ランブルデトネイター。」

「な!?」

チンクがそうつぶやいた瞬間、ユーノの周りに散らばっていたナイフが一斉に爆発を起こす。
爆音と振動で木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立った。

「悪いな。手加減をしてやれるほど私は器用じゃない。とくに、妹に危害が及ぼうとしているときはな。」

「チンク姉ぇ……」

「大丈夫か、ウェンディ?」

チンクは地面の上にバインドをかけられて横たわっているウェンディのもとに歩きだそうとする。
しかし、煙の中からユーノが飛び出し、チンクに斬りかかる。

「クッ!?バカな!あの爆発をどうやって!!」

「こうしたのさ。」

〈Heat〉

ユーノの周りの空気の温度が上がっていく。

「魔力を熱に変換して空気の膜を作ったのさ。さすがにプロテクションだけじゃ防ぎようがなかったからね。」

「なるほどな。確かにフォンの言うとおり、頭は回るようだな。」

「?フォン?」

ユーノが首をかしげるのを見てチンクは思い出す。

「ああ、そうか。こちらでは確かロバークと名乗っていたな。」

チンクの言葉を聞き、ユーノの記憶の棚の扉が開かれる。

「そうか、やっと思い出した!彼の名はフォン・スパーク!フェレシュテのガンダムマイスター!」

「……どうやら、フォンの言っていたことはまんざら嘘でもなかったようだな。」

チンクは再びナイフを取り出し、足元に機械の歯車を模した魔法陣を展開する。

「ここからはお互い本気だ。」

「望むところだ。」

ユーノは足元の土を巻き上げて姿をくらまし、チンクへと向かっていく。

「そこだ!!」

チンクは土煙の中へ向けてナイフを投げ、爆発させる。
だが、その衝撃で煙が晴れたところにユーノはいない。

「誰が馬鹿正直にそんな視界の悪いとこを通るとでも!」

土煙を避けて進んでいたユーノが後ろからチンクに斬りかかる。

(あの爆発するナイフは今は彼女の手元にない!もらった!!)

「ナイフでなければランブルデトネイターが使えないと誰が言った?」

「!!!」

チンクの後ろには三枚のコインが置かれ、それらが赤く発光しているのがユーノの目に飛び込んでくる。
あわてて横に進路変更すると同時にコインが爆発し、その爆風がユーノを吹き飛ばす。

「クッ!!(馬鹿な!?あんなコインのどこに爆薬を仕掛けたんだ!?)」

ユーノはチンクをじっくりと観察するが、特に不自然なところはない。
あえて挙げるとしたら彼女の足元に発生している魔法陣だ。

(ナイフやコインに爆薬を仕掛けていないのだとしたら、今まで起こっていた現象は彼女の能力……爆破能力?でも、だとしたらなんでそれを使って僕自身や持っているものを爆発させようとしない?)

チンクはさらに持っていたナイフを取りだして指の間に挟み、投擲の準備を完了する。

「不思議か?」

チンクが小さく笑う。

「残念ながら私は爆薬など使っていない。私のIS、ランブルデトネイターは私が触れた金属を爆発させるものだ。」

「なるほどね……あの手品のカラクリはそういうことか。」

「フッ……手品か。ならば、その手品の恐ろしさを嫌というほど味わうのだな。」

チンクはナイフをユーノへと投げて爆発させるとウェンディの乗っていたボードまで一気にさがる。

「すまんな、ウェンディ。今度新調してもらえ。」

「ちょ!?チンクね…」

「っ!ちょっとまずいかな!」

ウェンディが待ったをかけようとするが、チンクはそれをしばらく持った後、近づいてきていたユーノへと投げつける。

「終わりだ!!」

ボードは赤熱し、今にも爆発しそうだ。

(ッ!こうなったら!)

ユーノはそれを見てさがるどころか突進する速度を上げる。

「馬鹿な!!死ぬ気か!?」

「誰が!!」

ユーノはボードを追い越したところで背中に防御を展開する。
そして、ボードの爆発の勢いを利用してチンクへと一気に接近する。

「なに!?」

「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

態勢を崩しながらもユーノはチンクを押し倒して両の手を抑え込んで動きを封じる。

「っつ……僕の勝ちだ…」

「チンク姉ぇ!!」

「勝ち?違うな……」

「?」

「私達の勝ちだ。」

ユーノは背後から殺気を感じその場を慌てて飛び退く。
次の瞬間、それまでユーノがいた空間の大気を長い脚が斬り裂く。

「無事か、チンク?」

「ああ、なんとかな。」

「二人とも~。ウェンディの回収は終わったよ。」

「ちょっと、セイン!!なに人を手荷物みたいに脇に抱えてるんスか!?」

チンクと距離をとったユーノの前にチンク達と同じ格好をした二人組が現れる。

「四対一か……少し卑怯じゃない?」

「お前やフォンのようなめちゃくちゃな奴にこれくらいやってもバチは当たらんだろ。」

「ハハハ………お褒めにあずかり光栄だね。………あ!!」

ユーノは驚いた顔でチンク達の後ろを指さす。
かなりベタな手だ。

「………そんなものに引っかかるとでも?」

チンクは呆れてため息をつく。
だが、

「なんつって♪」

「「「「!?」」」」

〈Flash〉

ユーノは手元に激しい光を発生させる。
チンク達は目がくらみユーノの姿を見失う。

「クッ!どこだ!?」

「あ!!」

セインが大声を上げる。

「どうした!?」

「ウェンディとられた!!」

「「なにぃぃぃ!!?」」









「離せッス!!この人攫い!!」

「いだだだだ!!!!人の手にかみつかない!!」

ユーノはウェンディにかみつかれながらも必死でその場から離れようとする。

「やれやれ、人を買いかぶりすぎだよ。あんなムキになっちゃって。」

「どうでもいいから降ろせッス!!って、あいた!!」

ウェンディはいきなり地面に落とされる。

「いたた……落とせじゃなくて降ろ……せ………っス。」

ウェンディは目の前の光景を見て凍りつく。
目の前に大量の局員が発生させたスフィアが壁のように並んでいる。

「デバイスを捨てて手をあげろ!!」

「「はぁ~い………」」

ユーノはデバイスを地面に置いて手をあげ、ウェンディは拘束されているので手をあげることができないので暴れるのをやめて無抵抗の意志を示した。










「クソッ!!早く追いかけて……」

チンクが追いかけようとするが、トーレが肩を掴んで止める。

「トーレ!?」

「なにしてんだよトーレ姉ぇ!!早く追わないとウェンディが!」

「これ以上ここにいたら私たちも危険だ。退くぞ。」

「けど!!」

「心配するな。」

トーレはセインに笑いかける。

「スクライア司書長と機動六課に保護されればそれほど心配しなくともいいだろう。」

「え?」

セインが不思議そうに首をかしげる中、近くから足音が聞こえてくる。

「とにかくここから離れるぞ。ウェンディは後で奪還するなりすればいい。」

セインとチンクは不満そうな顔をしていたが、トーレに半ば強引にその場から脱出することとなった。







地上本部 レジアス中将の部屋

口の周りに髭を蓄えた厳つい顔の人物は自分の目の前にいる男の存在が鬱陶しくて仕方なかった。
白いコートで全身を隠し、涼やかな笑みを浮かべながら自分を問い詰めてくる。
その喋り方、態度、そして何よりどこの馬の骨とも知れない人間であるにもかかわらず査察部で民間協力者として働いているということが気に喰わない。

「それで、レジアス中将は襲撃を受けた例の施設とのかかわりは……」

「くどい。ないと言っているだろう。これ以上話すことなどない。」

椅子の背もたれに寄りかかりふんぞり返るレジアス・ゲイズ中将の姿を見た白いコートの男はフゥと眉をひそめながらため息をつくが、顔から笑みは消えていない。

「そうですか。では、そのように報告させていただきます。ただ……」

不意に男の笑みが含みのあるものに変わる。

「僕もロッサも真実をとことん追求していくつもりです。その途中で偶然レジアス中将に疑いの目を向けることがあるかもしれませんが、どうかご容赦を。」

男は深々と、そして優雅に頭を下げると扉へと向かって行く。
そこで待機していた秘書と思われる髪の長い女性が扉をあけ、一礼する。

「それでは、僕はこれで。」

男が廊下に出てもう一礼した後扉が閉じられる。
その直後、レジアスは机を叩く。

「本局の犬が……!!どこまでも忌々しい!」

実際、レジアスは今朝がた報道された施設とのかかわりは確かにあった。
しかし、あの施設の指示をしていたのは“やつ”であり、自分ではない。
レジアスは“やつ”に自分に疑いがかかることがないと、そして、例のものを管理局全体に普及させると言われたからこそ協力したのだ。
だが、“やつ”は唯一進んでいた『ナイト』とその出力機関の研究のデータをよこさないどころか進行度合の報告すら行わない。
そこに加えて『エンジェル』を奪われてしまい、あそこで行われていたことが世間の目にさらされることになってしまった。

「中将。」

秘書をしている女性が扉の前でレジアスに話しかける。

「なんだ?」

「少々仮眠をとらせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

確かに彼女は昨夜から起きていて一睡もしていない。
この時間帯ならばいなくても特に問題はないし、今は一人になりたい気分だ。

「構わん。」

「ありがとうございます。」

そう言うと女性は扉を開けて廊下に出ていく。
その時、彼女の顔に薄い笑みが浮かんでいたことは誰も知らなかった。








廊下

ヒクサーはゆっくりとした足取りで廊下を見渡しながら歩いて行く。
しかし、曲がり角の手前で歩みを止める。

「……尾行なんて、秘書のすることじゃないですよ。」

ヒクサーが振りむくと一つ手前の曲がり角からクスクスと笑いながら先程会った女性が出てくる。

「あら、そういうあなたこそ次元漂流者が査察官の補佐なんてするものじゃないわよ。お偉いさん方の恨みをかったら自分の世界に帰れないどころか、ここで消されちゃうわよ。」

女性は指先に魔力でできた鋭い爪を生み出し、赤い舌で舐めるような仕草をする。

「それは困るね。」

ヒクサーはそう言うとコートの下から銃を取り出して女性に向ける。

「質量兵器はここではご法度よ?」

「僕は君たちと違って魔法の使えないひ弱な男なんでね。これぐらいしても問題はないさ。」

「……すっごい矛盾した話だけど、管理局の息のかかった世界ではよほどのことがないと質量兵器は使えないのよね。たとえ、魔法を使える人間が使えない人間に対して魔法で危害を加えようとした場合でもね。」

女性は呆れたようにため息をつくと爪を消してメモリーをヒクサーに投げ渡す。

「そこに今回の件の詳細が入ってるわ。ただし、しばらくの間は発表しないことね。それがあなたのためよ。」

「どういう風の吹きまわしだい?君はレジアス中将側の人間じゃないのか?」

「ハッ、冗談?なんであんな殺す価値もない堅物で剛腕なおっさんの味方をしなくちゃいけないわけ?あのおっさんの下についてるのは仕事で仕方なくよ。」

女性は心底うんざりした顔をヒクサーに見せた後、背を向けて歩きだす。

「あ、そうそう。レジアスの堅物よりも、ファルベル・ブリングに気をつけなさい。」

女性は真剣な表情でヒクサーの方へふりかえる。

「……あのジジィは本当にくえない男よ。レジアスもあのジジィにいいように踊らされてるだけ。それに、あのジジィには黒いうわさが常に付きまとっている……実際、奴の罪の一端が私や私を作った人なわけだしね。」

女性はひとしきり喋った後、大きく伸びをする。

「じゃ、私はホントに休ませてもらうわ。じゃあね、かっこいいお兄さん。」

女性は手を振りながら再び曲がり角を曲がっていってしまう。

「……ねぇヒクサー、このことはロッサに報告するの?あの底意地の悪そうな女の言ってたことが嘘にしろ本当にしろこれ以上は私たちがかかわるべきことではないと思うし、下手したらロッサ達にも迷惑がかかるよ?」

ヒクサーの後ろの曲がり角の影から頭に猫の耳のような飾りをつけた少女が出てきて女性の去っていった方にあかんべえをする。

「この事件……いや、これまで起こった事件にはトレイターA13がかかわっている。となると、僕たちとも無関係じゃない。それに、僕たちが向こう側の地球に帰るヒントは間違いなく彼が握っている。ついでに、ユーノもつれていくよ。」

「え~?あの旧式コンピューター並みに記憶がよくとぶ奴連れてってどうするの?」

猫耳の少女、887は顔を赤くしながら自身の髪をクルクルと指に巻きつけながら遊ぶ。

「887は……」

「それもうひっかからないよ、ヒクサー。」

887は頭の飾りを押さえながら後ずさる。

「いや、本当は887が嘘をつくと鼻の先が動くんだ。」

「だからもう騙されないって。」

887はヒクサーのニコニコした顔をじっと見つめる。

「…………………………………」

「…………………………………」

ニコニコしたまま自分を見ているヒクサー。
ついに887は我慢できずに鼻を触る。

「嘘だよ。」

にっこりしたまましれっと言い放つヒクサーに887は顔を真っ赤にする。

「ま、887には悪いけどまだ彼に僕らの存在を知られるわけにはいかないな。これからロッサやヴァイスと会うときは気をつけないと。」

「だ、だから私はあんな脳みそお花畑な奴のことなんてどうでもいいって言ってるでしょ!!」

887は笑いながら歩きだすヒクサーへもう抗議をしながらその後をついていった。








スカリエッティのアジト

無事に帰ってきたチンク達をむかえたナンバーズだったが、ウェンディが管理局に捕縛されたと聞いて喜びもどこかに吹き飛んでしまった。
そんな中、スカリエッティは話を聞くと一人でどこかへ歩いていってしまった。

「なんだよあの態度!!ドクターも少しは心配しろよな!!」

赤髪の少女、ノーヴェは怒りながら廊下をドスドスと歩いていく。

「だいたいトーレ姉ぇやクア姉ぇももう少し気のきいたこと言えねぇのかよ。『そうか。』の一言で終わらせていいことじゃないだろ!……って!なんであたしがウェンディのアホの心配しなくちゃいけねぇんだ!!?いや、違う!これは心配なんかじゃくて……」

「何をやっている、ノーヴェ。」

ノーヴェは後ろからチンクに声をかけられわたわたととりみだす。

「チ、チンク姉ぇ!?いや、違う!これはその……」

「隠さなくてもいい。姉も最初は確かに心配だった。だが……」

「?」

チンクはノーヴェに笑いかける。

「ウェンディは運がいい。なにせ、彼女たちのもとに行ったのだからな。」












機動六課隊舎 部隊長室

はやてはソファーに座りながらテーブルをはさんだ向こう側に座る厳しい顔つきをした眼鏡の女性と向き合いながら座っていた。
隣にはユーノが座っているのだが、目の前の女性とは違って気楽にティーカップに入った紅茶を飲んでいる。

「スクライア司書長。あなたはまじめに人の話を聞く気があるのですか?」

眼鏡の女性は手をフルフルと震わせながらユーノの態度を我慢していたが、とうとう我慢が出来なくなったのかユーノを睨みつける。

「生憎と僕は理由もろくに説明もせずに部下に身柄を拘束させるような恥知らずの話をまじめに聞いているほど暇でもないので。今回は八神部隊長がどうしてもおっしゃるのでここに来たにすぎませんよ。あ、お話したいことがあればどうぞ勝手に話していただいて結構ですよ、オーリス三佐。一応聞いておいてあげますから。」

ユーノの言葉に眼鏡の女性、オーリス・ゲイズは全身の震えを大きくし、はやては顔じゅうから汗をふきださせている。
ユーノと妙な格好をした少女がオーリスとその部下に連れられて来ただけでもう胃に穴があきそうだったはやてだったが、今はそれどころか内臓を見えない手に握りしめられているような気分だ。

「では、『勝手に!』話をさせてもらいます。」

語気を荒げるオーリスだが、はやては気を取り直してまっすぐオーリスを見つめる。

「まず、八神二佐。スクライア司書長が勝手に別部隊の捜査に介入した。これはあなたの指示ですか?」

「いいえ。」

はやてが答える前にユーノが素早くこたえる。

「あなたには聞いていません。」

「あなたこそ質問する相手を間違えるものじゃないですよ。それに、僕はここに来る前にもあなたにそう言ったはずですよ?それとも、これを理由に機動六課に対して何か要求でもするつもりだったんですか?……あ、このクッキーおいしい。」

ユーノはテーブルの上のクッキーをつまみながらオーリスの話を流す。
オーリスはこめかみに青筋を浮かべながらも、咳払いをすると次の話題に入る。

「では、スクライア司書長。あなたが捕縛したあの少女ですが、身柄は私たちが引き取らせて…」

「捕縛?僕はそんなことした覚えはありませんよ?彼女は戦闘地域を歩いていて危険だったから僕が保護したんです。バインドは彼女が混乱して暴れたので仕方なくかけたものですよ。」

この発言にはオーリスだけでなくはやても目を白黒させる。

「何を馬鹿な……彼女は…」

「何をしたって言うんですか?あなたは彼女が何をしたのか知っているんですか?あれだけ到着が遅かったのにどうやって彼女が犯罪行為をしている現場をおさえたんですかねぇ。それとも、彼女を連れて行かないと何か不都合でもあるんですか?」

ユーノはすらすらと喋った後、渇いた口の中を紅茶でうるおす。
はやてとオーリスは横断歩道の信号機のように対称的に青い顔と赤い顔をしている。
オーリスは怒りを必死に抑え込みながら最後のカードを、最強の切り札をユーノの前にさらす。

「では、最後の質問です。」

「どうぞ。」

「あなたは、翠玉人ですね?」

その瞬間、勝利を確信したオーリスの口元に笑みが浮かんだ。








ロビー

「それで、翠玉人って何なんですか?」

任務から帰ってきたエリオとキャロは困った表情を浮かべるスバルとティアナに問いかける。
二人のまっすぐな目を見ながらスバルが口を開く。

「え~と、簡単に言うとテロリスト集団かな。」

「あんたは肝心なところの説明を全部端折るな!!」

「あぐっ!!?」

スバルはティアナの鉄拳を頭頂部に受けて床の上に沈む。
その様子を見て震えているフリードやキャロにため息をつきながらティアナは説明を始める。

「翠玉人の話をするには、まず魔法体系がベルカとミッドに分かれる前まではなしを遡らなくちゃいけないの。彼らはもともとミッドチルダにいた民族の一つだったんだけど、魔法体系がベルカ式とミッド式に分かれる際に起こった争いに巻き込まれたの。彼らは当時……ううん、今でも彼らの持つ技術は他のどこよりもぬきんでていて、実際、翠玉人が関係していると思われるロストロギアは今もあちこちで見つかっているの。そして、当時争いを繰り広げていたどの陣営も彼らを引き込もうと躍起になったの。でも、彼らはどの陣営の呼びかけにも応じなかった……その結果、どこからも迫害を受けるようになって当時のミッドを去ったの。」

「でも、それって変ですよ。そんなにすごい技術力があったんなら他のところに対抗できたはず……」

「……それが、できなかったんだよ。」

スバルは頭をさすりながらキャロの質問に答える。

「翠玉人は争いを好まない民族だったんだ。だから、彼らは自分の技術が戦争に使われることを嫌ってどこの陣営にもつかなかったんだ。その後も他の世界で彼らの力を戦いに使いたいと言う人間が大勢いて、断るたびに迫害や殺戮を受けたんだけど、それでもどこにもつかないし、報復も行わなかった。そして、ベルカの諸国戦国時代になってもそれは変わらなかった。」







医務室

「戦いを好まず、抵抗すらしない翠玉人は闇の書の主、そして、我々にとって恰好の獲物だった。事実、私たちは次元世界各地に散らばった翠玉人たちの集落をいくつも全滅させた。まだ、言葉も話せないような赤子も含めてな。」

シグナムは俯きながら唇をかむ。
シャマルとザフィーラもまっすぐに目の前にいるフェイトを見ることができずに床に視線を落とす。

「ユーノの眼に既視感を覚えたときに気付くべきだった。あれだけ大勢の命を奪っておきながら、目の前にその生き残りの末裔がいたのに気付けなかった……あの幸せな日々に浸ったしまったせいで、自分の罪を忘れていた……忘れてはいけないことだったのに!!」

シグナムは壁に拳を打ち付ける。
情けなくて、できることなら自分の怒りを炎に変えてこの身を焼いてしまいたいとすら思った。

「でも、シグナムたちだってやりたくてやったわけじゃ………」

「その一言で片づけちゃいけないことだって、フェイトちゃんもわかってるでしょ。」

「けど!!」

フェイトは必死に食い下がるが、三人の悲しげな眼を見て黙り込んでしまった。







ロビー

「争いが一段落すると、彼らは今の第7管理世界、ヴェスティージに身を寄せたの。ヴェスティージは今と違って未開の地で誰もいなかったから、戦いに巻き込まれてきた彼らにとってはまさに楽園だったでしょうね。でも、そんな平穏な日々は突然崩れ去った。」

ティアナは一息つく。
よく見ると手が震えている。
しかし、覚悟を決めたのか再び話し始める。

「もう、過去の戦争が忘れ去られようとしていた時のことだった。彼らが切り拓いたヴェスティージにいろんな世界から来た難民や開墾目的の移民なんかが移り住んできたの。もともとは翠玉人が切り拓いた土地なのにね。それでも、翠玉人たちは彼らを温かく迎え入れたわ。でも、移り住んできた人間たちはすぐに争いを始めた。そして、かつてのように翠玉人たちの知識と技術を求め始めた。それでも、彼らは平和を望み、自ら進んで和解の仲介役をつとめたわ。でも、そんな彼らの想いは最悪の形で裏切られることになった。」

「19年前、翠玉人たちとその指導者がその世界で争いを起こしている部族の和解のために仲介に向かった。でも、道中で彼らをヴェスティージにいたすべての部族が襲ったんだ。各所に点在していた集落も同時に襲撃され、焼き尽くされた。生き残ったのは本当にわずかだったらしいよ。そして、指導者と多くの仲間を殺された彼らは遂に遥か昔からため込んでいた怒りを爆発させた。」

スバルはソファーに座りこむ。

「それ以後、彼らはヴェスティージだけでなく、故郷であるミッドや新天地であるヴェスティージを奪った次元世界の人間すべてを憎み、テロ活動を行うようになった……」

「でも……」

キャロが震えながらも声を張り上げる。

「だからって人の命を奪っていい理由にはなりませんよ!!あんなにたくさんの人が傷ついていいわけがないです!!」

「そうね……」

ティアナがキャロの肩に手を置く。

「だから私たちが彼らの暴走を止めてあげなくちゃいけないの。」









スカリエッティのアジト

「とまあ、これが管理局側にいる人間が効いている翠玉人の話だろうな。」

「違うの?」

ノーヴェは隣を歩くチンクの顔を見る。

「まあ、大筋はあっていると言ってもいいだろうが決定的にかけている部分がある。」

「?」

「管理局の前身である組織が彼らの知識を求めないと思うか?」

「それじゃ!?」

「それだけじゃないさ。ヴェスティージで起きた内戦の理由は管理局の介入だし、公にはされてないが19年前の大虐殺にしても彼らの長が通る場所や集落をリークしたのも管理局だ。しかも、管理局はテロ活動を行っていない翠玉人たちも摘発している。」

鼻で笑うが、怒りで笑顔が歪む。

「しかも、管理世界の人間たちは翠玉人というだけで毛嫌いして迫害する。まったく、無知もここまでくると呆れを通り越して笑えてくるよ。」









機動六課隊舎 部隊長室

オーリスの勝ち誇った顔を見ながらユーノは紅茶を飲んでいる。
しかし、オーリスは先ほどのように苛立つことなく言葉を続ける。

「なぜ翠玉人であることを黙っていたのですか?」

「特に検査もなかったし、聞かれたこともありませんでしたから。」

「翠玉人の特徴は金髪と翠の瞳……どの世界でも特に珍しくはないから詳しく聞かれるなんてまれでしょう。あなたは翠玉人と知られて困ることがあったのではないですか?」

ユーノはオーリスの言葉にかまわずリラックスしたままだが、オーリスはさらにまくしたてる。

「さらにあなたはアグスタを襲った犯人の一人と面識があるようですね?失礼ですが、どこで知り合ったのですか?あなたはスパイなんじゃないですか?」

「三佐、それは…」

「しばらく黙っていてもらえませんか?私は司書長と話をしているんです。」

はやてがフォローを入れようとするが、オーリスによって阻止される。
すると、それまで黙っていたユーノが口を開く。

「確かに僕は翠玉人です。ですが、それが何か?」

「「え?」」

二人の声が重なる。

「管理局法 第3章 局員の権限および権利について 第7条 局員は出身世界、出身民族、および信条によって差別されない。つまり、僕が翠玉人でもなんら問題はないということです。実際、僕以外の翠玉人の局員もいますしね。それと、僕のことを知っていた容疑者についてですが、管理局内や裏社会にいる人間にはある程度僕の情報は流れてますからね。知っていても不思議はないでしょう。」

「そんな屁理屈が……」

「なら、僕が彼と繋がりがあるという確たる証拠があるのですか?それもなしにスパイ扱いなんて心外ですね。」

ユーノはニコニコしながらオーリスにとどめの一言を放つ。

「以前、僕があなた方に見せたような決定的な証拠をお持ちくださらない限り、僕はあなたの思うようになるほど大人しい人間ではないですよ。」

そう言うとユーノは自分の携帯に何かを映してオーリスに向ける。
それを見たオーリスは顔を真っ青にする。

「まだ持ってたのか!って顔ですね。心配いりませんよ。誰にも見せてませんから。ただ……あなた方が僕や機動六課に何かするつもりなら、次の日の新聞記事にでかでかとこれが載るはめになりますよ。知り合いの記者がすっごく喜ぶだろうなぁ。」

ユーノの笑顔を見ながらオーリスは悔しそうに震えていたが、息を吐いて自身を落ち着かせるとソファーから立ちあがる。

「今回はここまでにしておきます。また何か問題が起こした時はそれ相応の罰が待っているのでそのつもりで。」

オーリスはそう言い残すと扉の前まで歩いて行く。

「ああ、それと…」

「?」

オーリスは突然ユーノに声をかけられて後ろを向く。

「これから言うことはあくまで僕のひとりごとなので聞き流しておいてください。」

そう言うとユーノは爽やかな笑みを浮かべる。

「一昨日来やがれバカヤロウ。」

ユーノのその一言でオーリスは首元まで真っ赤にし、はやては頭を押さえてテーブルにうずくまる。
しかし、オーリスは何も言わずに扉を開けて廊下に出ると壊れるのではないかというほどの力で扉を閉めていった。

「……あそこまで言うもん、普通?」

はやてはテーブルに突っ伏したままユーノに問いかける。

「一度言ってみたかったんだよねあのセリフ。」

「そのせいで私は心底はらはらしたわボケェェェェ!!」

はやてはユーノの襟をつかんでがくがくとゆする。
しかし、当の本人は首から上が人形のように激しく前後しているにもかかわらず笑みを絶やさない。

「勝手に関係ないところに首突っ込んで厄介事ひきつれて帰ってきてその態度はなんやぁぁぁぁ!!」

「君だっていつも似たようなことやってるだろ?機動六課なんてその最たるものじゃないか。」

「私はきっちりあちこちに頭下げてお願いして作ったの!!ユーノ君は無許可で捜査!!これはルール違反!OK!?」

「はいはい。」

反省の色が見られないが、はやては仕方なくユーノを離し本題に入る。

「で、ほんまなん、さっきの話。」

「うん。黙ってて軽蔑した?」

「そんなこと言うたら私らみんな今まで友達続けられてへんって。」

「それもそうか。」

ユーノとはやてはクスクス笑う。

「それで、オーリス三佐に何見せたん?」

「ああ、これね。」

ユーノは携帯の映像を見る。

「あの人たちが関わってた裏帳簿。」

「え、嘘!?頂戴!」

はやてが目をキラキラ輝かせる。

「駄目だって。何に使う気だよ、ったく。」

「でも、そんなんどうやって手に入れたん?」

「アイナたちに頼んで調べてもらったんだよ。少しばかり高くついたけどね。」

「ああ、あのおもろい人ね。」

はやてはアイナのことを思い出す。
以前、はやても捜査中に彼女の取材を何度か受けている。
その時にユーノと同じスクライア族出身で、幼馴染であることを知ったのだ。

「私も頼もうかな?」

「やめた方がいいよ。捜査情報どころか私生活の情報まで聞きだされるから。」

「……やっぱやめとこ。でも、なんでそんなこと調べてもらったん?」

「ああ、昔あの人もはやてたちみたいに無理やり地上部隊に僕を引き抜いたからね。で、頭にきたからこれを見せて強請って無限書庫に戻してもらった。」

「それ犯罪やからな。」

はやてはユーノの話を聞きながらかつてユーノが自分にしたことを思い返していた。




二年前、はやてはかなり強引にユーノを当時自分がいた108部隊にスカウトした。
はやてははやてなりにユーノのことを局の人間に評価してもらいたいと思ってスカウトしたのだが、当の本人は不満だったようだ。
そんなある日、ユーノはある事件の犯人に対し口では言い表せないような仕打ちをして問題を引き起こし、挙句アルフ達無限書庫の司書たちと結託し、無限書庫からの情報提供をすべて遮断した。
そして、流石にはやても困り果ててユーノを無限書庫にかえすことにしたのだった。
ちなみに、フェイトやなのはたちも同じようなことをして同じような被害にあったらしい。





(……なんでやろ。今この時だけあのおっさんに同情したい。)

「どうしたのはやて?」

「いや、なんでもない。それより、あの連れてきた子はどうするん?結局こっちで保護することになったけど……」

「ああ、それならもうなのはとヴィータに話をつけてあるよ。」

「へ?」

予想外の答えにはやては驚く。

「後は部隊長である君が許可していただければ万事解決さ。」

そう言ってユーノは懐から一枚の書類を取り出してはやてに渡す。

「…なるほど。これなら上の連中も手を出すのは難しいやろうな。」

「でしょ?ま、その分はやてに無理をしてもらうことになるかもしれないけどね。」

「もとから遠慮する気なんてないくせに。」

はやては笑いながら自分のデスクに向かうとペンを取り出して書類にサインをした。







?????

「やれやれ、まさかエンジェルを奪われるとはな……まあいい。ろくに調べることができないあれよりもこの『ナイト』の方が幾分かましだ。」

そう言うと老人は目の前にいる白一色の巨人を見上げる。

「GNドライブ……だったか。まさかこんなものを作り出せる世界が存在しているとはな。しかし、模造することはさほど難しいことではなかったな。」

ライトで照らしだされた老人の後ろには目の前にいるボロボロの白い騎士と同じものが傷一つない状態でいくつも並んでいる。

「すまんな、レジアス。真の平和と正義のため、君には今しばらく泥をかぶってもらおうか。ククク……」









天使は狂気のもとへ
しかし、騎士はその歪みを拡大させていく






あとがき・・・・・・・・・・・という名のオリストーリーその二

ロ「というわけでオリ編その二でした。オリ編は次回で完結です。」

フォ「そしてお前の人生はここで終わりだ!」

ロ「いだだだだだだだだだ!!!!またこんなか!?というかなんで今回は卍固め!?」

フォ「俺様の気分だ。」

ロ「ふざけんなぁぁぁぁ!!あ、痛い!痛いからもう勘弁…ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

姉「……ロビンが失神したので私が代わりにゲストの紹介をさせてもらう。今回のゲストは874の友達、フェレシュテの天才メカニック、シェリリン・ハイドさんだ。」

シェ「どうも~。というかなんで今回私?ふつうはスメラギさんとかじゃないの?」

ウェンディ(以降 ウェ)「あんたぐらいしかフォンの暴走に態勢がないからロビンが呼んだんス。」

シェ「その本人泡吹いて倒れてるけど。」

姉「気にしたら負けだぞ。さて、解説に行こうか。」

ウェ「なんかもっとボッコボコに叩かれると思ってたオリ設定をなんか思ってたよりみなさんすんなり受け入れちゃったスね。」

フォ「これにはさすがに俺様も驚いたな。」

シェ「まあ、今回で叩かれる可能性もあると思うけどね。」

ウェ「不吉なことをいうもんじゃないっス。」

姉「まあ、これからもそこで死んでいるやつをしごいていけばいい話だ。」

シェ「あれはもうしごきようがないと思うけど?なんか首とか手足がエクソシストに出てくる人みたいになってるし。」

ウェ「ギャグだから次回には(以下略)」

フォ「あげゃ。じゃあ、さっさと次回予告に行くぞ。」

姉「管理局にとらわれたウェンディ。」

シェ「不安になっている彼女に機動六課は思いもよらぬ提案をだす。」

フォ「その提案とは果たしてなんなのか?」

ウェ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!んじゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 8.スターズ5
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/23 11:06
スカリエッティのアジト

『……外部からのアクセス確認。認識コード、874。起動を許可します。』

コックピット内に光がともり、中に固定されていた球体の目の部分にも光がともる。

「……確かにガンダムマイスターに準ずる存在とは言ったが、なんでよりによってユーノではなくお前なんだ、874。」

四年ぶりに眠りから覚めた彼はモニターに映った水色の髪の少女を疲れたような声を出しながら見つめる。

『現在ユーノ・スクライアは我々に協力してくれる状況になかったので私があなたとソリッドを起動させました。』

「どういうことだ?」

自分の相棒の性格を考えると頼みさえすれば協力してくれると思うのだが、彼女はそうでないと言う。
これはどういうことなのか。

『我々は現在、彼と彼の所属する組織と敵対関係にあります。』

「……つまり、俺の敵でもあるということか。」

球体の目が光り、萌黄色の巨体が立ち上がろうとする。

「ユーノに手を出すと言うなら俺が容赦しない。」

『やあやあ、元気だね君は。しかし、少し私たちの話を聞いてみる気はないかい?』

874に代わりモニターに紫色の髪をした男が現れる。

「誰だ?」

萌黄色の巨人は巨大な銃口を男に向けるが、男は涼しい顔をしたまま質問に答える。

『私の名はジェイル・スカリエッティ。この世界の歪みと敵対する男。そして、君の友人にとある選択を与える男だ。』

青色の球体、967はソリッドに銃口を下ろさせる。

「話を聞かせてもらおうか。」








機動六課 訓練場

今日も朝早くから訓練場に集められた機動六課の新人たち。
そんな彼女たちの前にいつも通りなのはとヴィータが現れる。

「さて、今日もみんな頑張っていくよ。」

「「「「はい!!」」」」

「さて、その前にお前らに会わせておきたいやつがいる。おい、入ってきていいぞ。」

ヴィータの言葉の後に現れた人物を見て四人は驚きのあまり言葉をなくす。
ピンクの髪を後ろで短くまとめ、四人と同じようにTシャツとジーパン姿で不機嫌そうに唇を尖らせた少女がビルの影から姿を現す。

「……今日からスターズ分隊に一時的に配属されるウェンディっス。別によろしくしなくてもいいっス。」

「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」」








魔導戦士ガンダム00 the guardian 8.スターズ5

前日

「離せっス!!この横暴公務員!!職権乱用で訴えるっスよ!!」

「いててててて!!!この餓鬼!!」

ウェンディは自分を無理やり掴んで連行しようとしている地上部隊の局員の手にかみつきながら毒づく。

「あたしに変なことしたらみんなが黙ってないっスよ!!特にクア姉ぇは性格悪いからじわじわいじめられるッスよ!!」

「チッ!!少しは静かにしろ!!」

局員はウェンディの骨折している部分をこれでもかと握りしめる。

「っあああぁぁぁぁぁぁ!!」

「大人しくしろ!お前の身柄はこちらで……」

「いや、そいつの身柄はこっちで引き取らせてもらうぜ。」

ウェンディを連れていこうとしていた局員、そしてウェンディ自身も突然現れたヴィータに戸惑う。

「いちいち余計なことに首を突っ込ないでいただきたいですな、ヴィータ三尉。」

「そいつは正式にこちらで引き取ることになった。嘘だと思うんならすぐにでも確認をとるんだな。」

「それに、今あなた方がとっている行動は管理局の品位を著しく損ねるものだと思われます。そんな人たちに彼女を任せることはできません。」

「おやおや、高町一尉。今あなた方のとっている規律を乱す行動の方がよほど管理局の品位を損ねるものだと思いますが?」

ヴィータに続いて登場したなのはに局員は渋い顔をしながらも皮肉を言う。

「文句があんなら出るとこでてもいいんだぜ。結果はわかりきってるがな。」

ヴィータの強気な声と発言に局員たちは返す言葉が見つからず悔しそうな顔をして黙ってしまう。

「……こんなことをしてただで済むと思うなよ。」

「捨て台詞はいいからさっさと出て行け。」

ヴィータが顎で扉を指すと局員たちは二人を睨みながらぞろぞろと出ていく。
そして、彼らが全員いなくなったところでなのははウェンディに歩み寄る。

「ごめんね、嫌な思いさせちゃって。腕は大丈夫?」

「…………………」

ウェンディは相変わらず厳しい顔つきでなのはとヴィータを睨みつけている。

「ま、あんなのの後じゃあたしらの話なんて聞きたくもなくなる……」

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「「「!!?」」」

ヴィータが大きくため息をつこうとした時、廊下から断末魔の叫びが聞こえてくる。
そしてその後、扉を開けて入ってきたユーノの両手に握られているものを見た。
ユーノの手には空になってなお、もうもうと湯気を上げているバケツが握られている。

「いやぁ、あの人たちには悪いことしちゃったなぁ。はやてから単独行動の罰として掃除をさせられてたんだけど“偶然”熱湯の入っていたバケツをひっくり返しちゃって“偶然”あの人たちの頭にかかちゃったんだよねぇ。まあ、人を理由もなく拘束するなんてひどいことをしたから天誅…じゃなくて、天罰がくだったんだね♪」

「天罰ね…」

「にゃははは……」

二人がひきつった笑いを浮かべるのをよそに、ウェンディはポカンと口を開けている。

「あ、それと君の扱いはこれからこうなるから。」

ユーノはウェンディの前にこまごまとした文字が書かれた書面を見せる。
しかし、ウェンディは真ん中に書かれた大きな文字しか目に入らなかった。

「民間協力者……スターズ5!?な、なんなんスかこれ!?」

あまりにも突然。
そしてあり得ない事態だ。
今まで敵だった人間たちと生活するなどどんな波乱万丈の人生を歩んできた者でもそうはいないだろう。

「あんた頭おかしいんスか!?」

「あははは、よく言われるよ。」

「その割には直す気ゼロっぽいけどな。」

笑うユーノに混乱したまま叫ぶウェンディに呆れるヴィータ。
そんな三人を見ていたなのはがウェンディと目を合わせる。

「びっくりさせちゃって本当にごめんね。でも、こうするしかあなたを守る方法がなかったの。もし、上層部に身柄が引き渡されたら安全は保障できないの。とくに、あなたの体が調べられれば最悪、実験動物にされる。」

「何勝手に人のことを調べてるんスか!」

ウェンディがなのはに吼える。

「あんたたち管理局はいつだってそうっス!!人の知らないところでこそこそと汚いことをして!!そのくせ表向きには正義の味方面をする!あたしたちはそんな管理局が大っきらいなんス!!」

「そうだね……本当に、卑怯者だよね。」

なのはは顔を曇らせるが、すぐにまっすぐにウェンディの目を見つめる。

「でも、だからこそ私たちはそんな管理局を変えたいと思ってるの。本当に正しいと思えることが貫けるような組織にしたいと思ってるの。だから……」

なのははウェンディにかけられていた拘束を解く。

「一緒に手伝ってくれないかな?あなたが管理局の許せないと思うところを一緒に変えていってほしいの。」

なのはに手を貸されて立ち上がったウェンディは折れてない腕で頬を掻く。

「……ウェンディっス。」

「え?」

「いつまでもあなたとかじゃ不便だから名前は教えておくっス。」

顔を赤らめるウェンディを三人はしばらく微笑みながら見つめるのだった。







現在

「ということがあって、今日からこいつも機動六課の一員だ。あんまりいじめんなよ。」

「いやいやいじめませんよ!!じゃなくて何普通に終わらせようとしてんですか!!」

強引に締めようとするヴィータに慌ててティアナがかみつく。

「この子って間違いなくあのフォンってやつの仲間ですよ!!いいんですかそんな簡単に入れちゃって!?」

「うん。だからスターズの二人にこの子のお世話を任せていいかな?」

「え、ちょ、ちょっと!いくらなのはさんのお願いでもそれは…」

「あたしだってこんなツンデレと馬鹿っぽいのに付きまとわれるのはごめんっス。」

「誰がツンデレよ!!」

「ていうか馬鹿ってあたし!?」

「おやおや~?自分で気付くってことは自覚があるんじゃないっスか?」

ウェンディは怒るティアナとスバルを見ながらニヤニヤと笑う。
その笑いはどことなくフォンに似ている。

「あんたね、少しは自分の置かれてる立場を考えなさいよ!」

「きゃ~!ツンデレに襲われるっス~!」

「ティアたんま!!それはまずいって!!」

クロスミラージュをウェンディの頭にゴリゴリと押し付けるティアナをスバルが必死に止めるが、銃口を突き付けられてる本人はへらへらと笑ったままだ。

「はい、二人ともそこまで。ティアナはみんなのリーダーなんだからもっと冷静にならないと。」

「……はい。」

しぶしぶうなずくティアナを見ながらウェンディは舌を突きだす。

「それとウェンディちゃんもみんなともっと仲良くすること。喧嘩は許しません。」

「……はいっス」

笑顔で威圧してくるなのはにウェンディは冷や汗をかきながらうなずく。

「それじゃ、訓練に移るぞ。ウェンディは腕の怪我があるから今日は見学だ。午後から治療のために専用の施設があるところに行ってもらうから、午後の訓練は抜けてもらう。あと、スバルとティアナもウェンディの付き添いだ。」

「え?でも私たちどこも怪我なんてありませんよ?あれから無理もしてないですし。」

「いいから行って来い。これからお前らは三人で一つのチームなんだからな。」

「はあ……」

首をかしげながらも了承し、訓練に向かおうとするスバルとティアナだったが、なのはに呼び止められる。

「二人とも少しいいかな?」

「はい?」

「ウェンディちゃんのことを二人に任せたのは、きっと二人ならウェンディちゃんの事情ときちんと向き合ってくれると思ったからなんだ。だから、ウェンディちゃんのことをお願いね。」

「「???」」

二人はなのはが何を言っているのか最初はわからなかったが、この時は目の前の訓練に集中することにした。







メンテナンスルーム

お昼時にもかかわらず、シャーリーは目の前のモニターとにらめっこを続けていた。
もう朝から椅子に座りどおしのせいか、尻の感覚がなくなってしまい本当に椅子に座っているのかすら分からなくなってしまっている。

「おなかすいた~……お尻痛い~……瞼が落ちそう~……」

「たかだか八時間で音を上げない。」

もうその場に崩れ落ちそうなシャーリーに対し、ユーノは背筋を伸ばしたままコンソールを叩き続ける。

「私は無限書庫なんて労働基準を無視した部署にいたことないからこういう長時間労働はきついんですよ~……というか一からインテリジェントデバイスを作るなんて無茶ですよぉ……しかも、参考にするのがこれなんて……」

二人の前にあるモニターに映されているのは戦闘機型のボードに乗ってヴィータ達を翻弄するフォンの姿だ。

「いくら戦闘スタイルが近いからってこれを再現するのはきついですよ……」

「僕が一人でやるからいいって言ったのに無理やり協力してきたのは君だろ?少しぐらい役に立ちなさい。」

フラフラのシャーリーには目もくれずにユーノは作業を進める。
正直、実際に四年も前であるがアブルホールの整備をしたことがあるユーノにとってはシャーリーがいないほうが都合がよかったのだが、下手に断って変に疑われるもつまらないと思い手伝ってもらったのだが、

(……流石に四年も記憶喪失じゃ思い出すのも大変だな。)

必死でアブルホールに関する知識を思い出しながらそれをデバイスに合わせた形に変換してプログラムをくみ上げていく。
これだけでも大変なのにシャーリーをある程度関わらせなければいけない。
はっきり言ってイアン+友人たちからの無茶な注文にこたえるような日々を送っていなかったら流石に倒れているであろう状況だ。

「アブルホール……The Chariot。正位置での意味は援軍、独立、解放……だが、逆位置だと暴走……」

「何か言いました?」

「いや、なんでも…」

独り言をはぐらかしながら、ユーノは大きくため息をつく。

(彼女が援軍になるか、それとも暴走の火種になるか……頭が痛い話だね。)

ユーノはふと目の前に浮いている白い翼を見る。
かつてフェレシュテと呼ばれていた組織の証を模したそれを見ながら、四年前、ともにアブルホールの整備をしていた名前を思い出せない少女のことを思うのだった。

(……彼女たちは今頃何をしてるんだろう。無事だといいけど。)









西暦2312年 ラグランジュ3 

「へっくし!」 

「どうしたのシェリリン?風邪でも引いた?」

「ううん、なんでもない。それよりヒクサーの足取りはつかめたの、シャル?」

銀髪の女性、シャル・アクスティカは静かに首を振る。

「そっか……最後の通信でフォンを見つけたって言ってたけど、そのフォンも見つからないし、本当にどこに行っちゃったんだろう?」

「それにユーノとソリッド……ソリッドの太陽炉とあの二機の太陽炉のマッチングテストが成功すれば大きな戦力になってくれるのに……」

「といっても、ダブルオーはともかくもう一機の方はとてもじゃないけどユーノ以外は使いこなせそうにないからね~。ユーノには早く帰って来てもらわなきゃ。」

「ユーノが帰ってきてほしい理由はそれだけ、シェリリン?」

「な、なに?ほかに何の理由があるって言うの?」

シェリリンは黒い肌の顔を赤らめながらシャルのいたずらっ子のような笑顔を見る。

「ユーノがいなくなったって聞いた時ワンワン泣いてたのはどこの誰だったかしら?」

「あ、あれはその!あんまりにも突然のことだったからで!!そ、それにユーノは必ず生きてるんだからもう泣かないわよ!!」

「再会できたときにまた泣いちゃいそうだけどね。」

「シャル~~~!!」

顔を一層紅潮させたシェリリンは椅子に座りながらぽかぽかとシャルを叩きながらてれ隠しをするのだった。










ミッドチルダ クラナガン

車で込み合う通いなれたクラナガンの道路を走る一台の車の中で、スバルはティアナとウェンディに挟まれながら汗が止まらないままうつむいていた。
何せ自分を挟む形で顔を互いにそむけて座っている二人の間を流れる空気がピリピリとしていてこの上なく居心地が悪い。
運転を担当しているフェイトも運転しながら苦笑いをしている。

(は、早く着いて……このままじゃ私は間違いなくこの二人の空気に押しつぶされる……)

「……あんた。」

「は、はい!?」

いきなりウェンディに話しかけられたスバルは思わず声が上ずって変に高い声で返事をしてしまう。

「あんた……タイプゼロ・セカンドっスよね。なんで管理局なんかにいるんスか?」

「「!!!!」」

ウェンディの発言にスバルとティアナは驚く。
スバル、そしてその姉であるギンガの秘密を知っているのは当事者であるナカジマ一家、そして友人であるティアナやなのはたちぐらいだと思っていたのに、ただ現場で拘束しただけの彼女の口からその秘密が飛び出してきたのだから驚きもするだろう。

「……あんた、どこでその話を聞いたの?」

「あたしの生みの親はタイプゼロの生みの親と同じっスよ。それくらい知ってて当然っしょ。それより人の質問に答えるっス。なんで管理局なんかにいるんスか?あんたを歪んだ存在として生み出した組織になんでいるんスか?」

「っ!」

ティアナは隣に座っていたスバルを押しのけてウェンディの襟元をつかむ。
スバルはティアナを止めようと必死で腕にしがみつくが、ティアナは止まらない。
後ろでの騒ぎに、車を運転しているフェイトも落ち着かない。

「それ以上スバルのことをもの扱いしたら許さないわよ……!」

「あたしはただ事実を言ってるまでっス。」

「このっ……!!」

おびえる様子もなくすらすらとしゃべるウェンディに苛立ち、ティアナは思わず拳を振り上げる。
だが、それはスバルの手によって止められた。

「スバル!なんで止めんのよ!?ここまで言われて何とも思わないの!?」

ティアナは怒鳴るが、スバルは笑顔で首を横に振る。
そして、ウェンディと向き合って話し始める。

「私はね、最初は自分が痛いことや誰かが痛がるようなことをするのがいやで、局員になろうなんて思っていなかったんだ。でも、ある事故に巻き込まれて、すごく怖い思いをしてた時、助けてくれた人がいたんだ。その時、いつかこの人みたいになりたい……誰かのことを助けてあげられるようになりたいって思って、だからあの人のもとで鍛えてもらおうって思ったんだ。」

スバルの話を聞いている間、ウェンディはじっとスバルの顔を見ていたが、話し終わるとフゥと息をついてそっぽを向いてしまう。
しかし、

「……なれるといいっスね。その人みたいに。」

「!」

ウェンディの小さな声にスバルは微笑む。
それを見ていたティアナとフェイトもホッと一息つく。

「ま、あんなおっかないのになられても困るっスけど。」

「な、なのははそんなに怖くないよ!?少し天然で強引なところがあるだけで…」

「それフォローになってませんよフェイトさん。」

「ていうかそれより前!!前!!ちゃんと運転してください!!」

ウェンディの一言をあわてて否定するフェイトだが、そのせいで蛇行運転をする車に乗っているスバルたちは生きた心地がしなかった。









訓練場

所かわって訓練場。
自分の話をしているとはつゆ知らず、なのはは残ったライトニングの二人の訓練に精を出していた。

「うん!二人でのコンビネーションも板についてきたね!」

「「ありがとうございます!」」

「キュク!!」

疲れが出てきて俯き気味のエリオとキャロだが、なのはの言葉に顔を輝かせる。
しかし、続いてヴィータから出てきた言葉によって二人と一匹の顔は蒼くなる。

「これならもう少し厳しくいっても大丈夫かもな。」

「え?」

そう言うとヴィータはグラーフアイゼンをセットアップする。

「お前らはスバルたちに比べてまだ防御が甘いところがあるからな。まあ、あたしがきっちり鍛えてやるから安心しとけ。」

「がんばってね~。」

そう言ってテンションが下がり気味の二人を森へと引きずっていくヴィータを笑顔で見送るなのは。
ヴィータの姿が見えなくなったところで、彼女も教導の予定とそのための準備に取り掛かるが、どうしても新しく加わった仲間のことが気にかかる。
フォンとどういうつながりがあるのかも気がかりだが、それよりも彼女の言葉がなのはの心にずっと引っかかっていた。

「管理局が大っきらい、か……」

管理局が多くの次元世界に干渉しているにもかかわらず、管理局を否定する。
それだけでこの世界で彼女が居場所を持つことは難しくなる。
多くの人間が生きているのだから、どんな意見を持っていようと、それが誰かを傷つけるものでない限り尊重されるべきだとなのはは考えている。
だが、今の管理局、そして管理世界に住まう人々はそれを良しとしない。
自らの平穏を崩されることを何よりも恐れ、平和の中で苦しんでいる人々へ向けるべき感情を凍結させていっている。
だが、だからこそなのはたちはそれを変えるために管理局の中で戦っているのだ。
しかし、

「……きっと、ユーノ君やあの人たちは否定するんだろうな。」

戦いを戦いで終わらせ、人の意識を痛みで変えようとした組織。

「ソレスタルビーイング……あなたたちのやり方は間違ってる。だから、私はあなたたちとは違う方法でみんなを変えてみせる。そして、ユーノ君も……」

森林地帯で土煙が上がるのを見ながら、静かに自分の覚悟を再確認するなのは。
そんな彼女に通信が入る。

『あの、なのはさん?』

「スバル?どうしたの?」

おそらくはウェンディの付き添いを終えたであろうスバルが画面の向こうで困ったような笑いを浮かべている。

『あの……勝手で申し訳ないんですけど、お父…じゃなくて。108部隊によっていきたいんですけど、いいでしょうか?』

「どうして?」

なのはは優しい笑みを浮かべながらスバルに問いかける。
彼女が通信をしてきた理由はだいたい見当がついている。
しかし、あえて彼女の今の心境を聞いてみたいという気持ちが素直にOKを出そうという気持ちに勝った。

『えっと、そのなんて言うか、ほっとけないんです。』

照れながらも顔に影を落とすスバル。

『……ウェンディは、昔の私なんです。……私もこんな体をしてるから、普通の生活なんて送れない、どこにも自分がいていい場所なんてないって、自暴自棄になってたことがあったんです。私にはお父さんやお母さん、それにギン姉ぇがいてくれたから、今の私があるんです。だから、ウェンディにも、一人じゃないって……ここにいていいんだって教えてあげたいんです。』

「そっか……」

スバルの答えを聞いてなのははうれしくなる。
教え子が自分と同じように誰かに優しさを向けてくれるような人間であったことに喜びを感じずにはいられない。

『ていうか、なのはさんたち私のこと知ってたんですね。』

「うん。でも、スバルをさそったのは…」

『わかってますよ。なのはさんや八神部隊長がそんな人じゃないことはわかってます。』

元気なスバルの笑みを見たなのははフッと笑う。

「それじゃ、行っておいで。お姉さんたちによろしくね。」

『はい!』

通信を終えたなのはは上機嫌でコンソールを叩く。

(そうだよ……私たちは戦ったりなんてしなくても、こうして思いをつなぐことができる。ウェンディちゃんもきっと自分の居場所を見つけられる。)

そんな希望を胸に抱きつつ、なのはは明日の教導の準備を進めるのだった。









メンテナンスルーム

事務処理を終え、はやてと休憩に入ったリインフォースは一人でメンテナンスルームに向かっていた。
家族であるはやてには悪いが、この喜びがわかるのはデバイスである自分だけであろう。
なにせ、今日から機動六課に新しい兄弟が加わるのだ。

「ユーノさ~ん!シャーリー…って、わあ!?」

新しい兄弟に会えるという期待に胸を膨らませてメンテナンスルームに飛び込んだリインフォースだったが、扉の先に広がっていたのは凄惨な光景だった。
シャーリーは机の上に突っ伏して完全にダウンしている。
時折、体を痙攣させているその姿は眠っているというよりはゲームに出てくるゾンビがプレイヤーの手にかかったものを彷彿とさせる。
ユーノは倒れてこそいなかったが、彼の周りには栄養ドリンクの空瓶が無数に浮かんでいる。

「あ、リイン。ちょうどいいところにきたね。今出来上がったところだよ。」

「それよりなんなんですかこの惨状は~!?シャーリー、大丈夫ですか!!?」

「あ……リイン曹長………いつの間にその大きさに戻ったんですかぁ~……?あっちの大きな大人の曹長も綺麗でよかったのに……あれ……?やっぱり大人の曹長がお花畑で手を振ってる……あははは…………」

「シャーーーリーーーーー!!?そっちに逝っちゃ駄目ですよ!?戻ってこれなくなっちゃいますよ!?」

虚ろな目をしているシャーリーの頬を小さな手でペちペちと叩いて正気に戻す。

「情けないな~。僕なんてどこかの真っ黒な服を着た提督や腹黒い狸に酷使されて48時間も寝ないでいろいろ調べたのに。」

「ユーノさんの常識で話をしないでください!!あとはやてちゃんがご迷惑をかけてごめんなさい!!」

「そんなことよりできたんですね!……なんか途中から記憶がとんでるけど。」

シャーリーは眠気と空腹すら忘れてそれを見ていた。
ポッドの中でふわふわと浮いている純白の翼。

〈はじめまして、リインフォース曹長。本日づけで民間協力者、スターズ5、ウェンディのデバイスを務めることになりました。〉

鋭く機械的な女性の声。
彼女の言葉を聞いたリインフォースは呆気にとられるが、いつもの屈託のない笑顔を見せる。

「そんな堅いしゃべり方をしなくていいですよ。もっと柔らかく……」

〈必要以上の馴れ合いをするつもりはありません。それに、私はあくまで民間協力者であるウェンディをサポートする道具にすぎません。そんな存在が必要以上の会話をすることに意味などありません。〉

彼女の突き放すような話し方にシャーリーとリインフォースはポカンと口を開け、ユーノはたらたらと汗をかく。

「……ユーノさん、この子ってインテリジェントですよね?」

「そうだけど?」

「その割には言ってることがあんまりにも機械的じゃないですか?」

「……気のせいだよ。レイジングハートだって最初はこんな感じだったよ?」

「じゃあ、私たちと目を合わせてくれませんか?さっきから目が泳ぎっぱなしですよ。」

シャーリーとリインフォースがじっとユーノの顔を見つめるが、ユーノはきょどきょどと目をせわしなく動かして彼女たちと視線を合わせようとしない。

「ユーノさん、またやっちゃったんですね?」

「またってなんだよ!!ソリッドを作る時に何度かAIを壊しちゃっただけでしょ!?」

「十数回いかれさせれば十分ですからね!?ユーノさんの処理能力についていけなくなって壊れたAIの修復をしたのは私なんですからね!!しかも結局ソリッドはストレージで完成させちゃうし!!」

「君やフェイトが口うるさく壊すなっていうから仕方なくストレージにしたんだろ!!」

「ユーノさんがわざと無茶苦茶に複雑な術式を使うからでしょ!?あんなことまでしてインテリジェント持ちたくないんですか!?」

「本人がいやだって言ってるのになんでわざわざ持たせようとするのさ!!」

ユーノとシャーリーが言い合いを始める中、リインフォースはガラス越しに純白の翼と向き合う。

「あの、ユーノさん、この子のお名前だけでも教えてくれませんか?」

「だからいちいち昔のことを引き合いに……ん?名前?」

シャーリーと子供のように掴みあいの喧嘩をしていたユーノはリインフォースの言葉を聞いてそちらを向く。

「だからこの子のお名前です。まだ決まってないんですか?」

「いや、もう決まってるよ。」

ユーノは乱れた服を直してポッドに手を置く。

「マレーネ……それがこの子の名前だよ。」

「?誰かの名前みたいですけど?」

「なんとなく思い浮かんだんだ。」

ユーノ自身もなぜこの名をつけたのかはわからない。
ただ、アブルホールの性能の再現を試みていたときに思い出した名前なので何らかの関係はあるだろう。
もっとも、二人にはそんなことを言えないが。

「マレーネっていうんですか。よろしくですマレーネ。」

〈…………………………〉

リインフォースが笑いかけても無反応なマレーネを見ていると、この先のことが不安で三人は思わずため息をつく。

「この子、あのウェンディって子と上手くやっていけるんですかね?」

「ま、そこは時が解決してくれると信じるしかないね。」











108部隊隊舎

「なんでこんなところに来る必要があるんスか?さっさと帰って……」

「まあまあ、そう言わずにゆっくりしていこうよ~♪」

ウェンディはスバルに強引に背中を押されて隊舎の中へと入っていく。
急遽行き先を変更して訪れた108部隊の隊舎。
フェイトもティアナも快く承諾したが、ただ一人、ウェンディだけは乗り気ではなかった。

「ここはね~、私のお父さんとお姉ちゃんがいるんだ~。」

「それ何度も聞いたっスよ。」

聞きあきたスバルの説明を聞き流すウェンディだったが、少しうらやましくもあった。
彼女にとって唯一の居場所は創造主であるジェイル・スカリエッティと姉妹たちがいる場所だけ。
管理局はその居場所を壊す存在。
しかし、自分と同じように歪んだ形でこの世に生を受けたスバルは管理局が干渉する社会で家族とともに生きている。
一方、自分たちはコソコソと隠れて生きていかなければならない。
ただ、普通じゃない生まれ方をしたというだけで。

(なんであんただけ……)

「やあ、お客さんかな?」

入口を進む四人の前に一人の男が現れる。
四人がそろってその男性に抱いた印象が変な格好だった。
微笑を浮かべるその顔は整っているが、白いロングコートを羽織っているせいで下に着ているものが見えないせいで、顔に意識がいく前にそちらに注目してしまうせいで奇妙な人物という印象を先に植え付けてしまう。

「変な格好ですね。あだっ!?」

思ったことをそのまま口にしたスバルの頭にティアナの鉄拳が飛んで沈黙させる。

「ハハハ、よく言われるよ。」

「す、すいません…」

赤い顔で何度も頭を下げるフェイトだが、男は気にしていないようだ。
それどころか男は四人の姿をまじまじと見る。

「……もしかして、機動六課の方々ですか?」

「え、ええ、そうですが……」

「やっぱり。」

男の顔に笑みが浮かぶ。

「ハラオウン執務官でしたっけ?ヴァイスから聞いていた通り、美しい方なのですぐにわかりましたよ。」

「綺麗だなんてそんな……それより、ヴァイス陸曹のことをご存じなんですか?」

「ええ。おっと、申し遅れましたが僕はこういう者です。」

男はそう言って一枚の名刺を差し出す。

「本局査察部、民間協力者……ヒクサー・フェルミ?」

「はい。」

フェイトたちは名刺からにっこりと笑う男へと視線を移す。

「僕はこの世界で言うところの次元漂流者というやつでして……。二年前にクラナガンで右往左往しているところを休暇中のヴァイスに保護されたんですよ。その後は、元いた世界に帰るまでの生活費を稼ぐために民間協力者として働いているんです。」

「でも、査察部の方がどうしてここに?」

「例の研究施設襲撃の捜査ですよ。本部としても巨大な質量兵器の開発に地上部隊が関わっているかもしれないと聞いたら黙ってはいられないんですよ。……と、これ以上887を待たせるとまた怒りそうだな。」

そう言うとヒクサーはフェイトたちの横を歩いていく。

「それでは僕はこれで。ヴァイスによろしく言っておいてください。それと…」

ヒクサーはフェイトにだけ見えるように含みのある笑みを向ける。

「ユーノにもよろしく。」

「え……?」

フェイトはヒクサーの方を向くが、すでにヒクサーの姿はそこになかった。

「フェイトさん?」

「あ、うん。ごめん。それじゃ、行こうか。」

今聞いた言葉は空耳だ。
ユーノに査察部に知り合いがいるという話は聞いたことがないし、本人からも聞いたことがない。
そう自分に言い聞かせて隊舎の奥へと進んでいった。



しばらく進むと、青い長髪をした少女が四人を出迎える。

「ようこそ、フェイトさん。スバルとティアナも。」

「ギン姉ぇ~♪」

スバルは我慢の限界といった様子で自分の姉、ギンガ・ナカジマの胸へと飛び込んでいく。
ギンガも嬉しそうにスバルのヘッドダイビングをキャッチする。
ウェンディが呆気にとられる中、ギンガとスバルに先導されて部隊長室に向かう。
そこに待っていたのは陸上部隊の制服に身を包み、多くのしわが刻まれた顔をした中年の男性だった。

「よく来たな、スバル。」

「お父さん…じゃなくて……」

スバルが慌てて言い直そうとするのを男性は笑って止める。

「別にかまわねぇよ。今回はどっちかっていうと娘が親父の職場見学に来たってところだからな。」

そう言うとゲンヤ・ナカジマはフェイトの後ろに隠れていたウェンディに目をやる。

「へぇ、この嬢ちゃんがユーノのあんちゃんが保護したって言ってたやつか。八神のやつが相変わらず無茶してるって言ってたのは本当みたいだな。」

「お父さんユーノさんのこと知ってたの!?」

「ああ、何せ一時期ではあるがここにいたからな。それはそうと聞いたぞスバル~。お前らそろいもそろって天下のガーディアンに喧嘩売ったんだってな~。」

「えと……それはその……」

スバルとティアナが顔を赤くして困る姿を見ながらゲンヤはにやにや笑う。

「ま、ギンガも同じようなことをしたからな~。流石は姉妹ってところか。」

「ちょ!?お父さん!?」

「何かあったの?」

「ああ。あれはあんちゃんがここに配属される日のことだったな…」

顔を真っ赤に紅潮させて止めようとするギンガをそっちのけでゲンヤは楽しそうに話し始めた。








回想

その日、新しく配属されてくるユーノを出迎える準備をしていた108部隊の面々だったが、ちょうどユーノが来る時間に事件が発生し、やむなくその対処に追われることとなった。
ギンガもまた現場で事件の犯人確保に追われていた。
そんな時、彼女の目にメガネをかけたいかにも文系といった男性が歩いているのが目に付いた。
とっくに封鎖が完了していて、関係者以外はこの区画に入れないはずである。

(まさか逃げ遅れた人!?)

ギンガは慌てて男性のもとへと向かう。

「管理局の者です!!ここは危険だから早く避難を…」

「ああ、やっと見つけた。」

ギンガとは対照的にのらりくらりとした様子で話す男性。

「無限書庫から来たんですけど、みなさんここにいらっしゃるって聞いて飛んできたんですよ。あ、これ頼まれてた書類です。」

へらへらと笑いながら自分に書類を渡すその男にギンガは言いようがないほど腹が立った。

「何を考えてるんですか!!?今ここは事件が発生している現場ですよ!!?あなたのような非戦闘員が来ていい場所じゃないんです!!」

「いや、僕は…」

「とにかく私が安全なところまで誘導しますから指示に従ってください!!」

何かを言おうとする男性をギンガは無理やり引っ張って安全なところまで誘導を開始する。
どれくらい走っただろうか。
男性がついてこれるようにローラーブレードを普段より遅く走らせているとはいえ、気を張り詰めながらかなりの長距離を進んできたせいで流石にギンガのかおにも汗が浮かぶ。
しかし、走ってついてきている男性は汗一つかいていない。

(この張り詰めた空気の中でもへらへらしていられるなんて……ある意味大物ね。)

ギンガがため息をついた時、それは突然起こった。
ギンガは上から降ってきた何かに押しつぶされ、すぐに首をつかまれて上に持ち上げられる。

「か……は………!」

上手く呼吸ができない中、ギンガは自分を持ちあげている大男を睨みつけるが、大男はいっそう力を加えてギンガを絞め上げる。

「逃…げて……!」

ギンガは力を振り絞って誘導していた男性に向かって語りかけるが、男性は笑ったままこちらに近づいてくる。

「う~ん、ドラッグをやっているせいで力のセーブができないのか。でも、女の子はもっと優しく扱わなきゃ。」

ギンガは視線で早く逃げろと語りかけるが、男はそのままこちらに近づいてくる。
そして、

「お仕置きだよ。」

一瞬の出来事だった。
ギンガを掴んでいた手に何かがぶつかり、その衝撃でギンガは地面に尻もちを突く形で落とされた。
そして、行きつく暇もなくギンガを掴んでいた男のわき腹に何かがねじ込まれ、そのまま巨体が宙を舞って壁に埋め込まれた。
ギンガはむせながらもその光景に驚き、自分を救ったメガネの男性を座ったまま見上げている。

「君も注意力散漫だよ。もう少し気をつけなくちゃ。」

「あなたは、一体……?」

「ああ、僕?僕はユーノ・スクライア。これから君の部隊で少しの間だけ世話になる予定の人間だよ。よろしくね。」









回想終了

「……なんてことがあったのさ。」

「へぇ~。」

感心するフェイトをよそに、ギンガはみんなに背を向けて部屋の隅で小さくうずくまっている。
スバルたちも自分たちのこともあるせいで笑えないのか、視線を外している。

「ま、その後あんちゃんはいろいろ問題を起こして俺らのところを自分から飛び出して無限書庫に戻っちまったけどな。それまで、いろいろギンガも俺も手を焼かされたもんさ。」

ゲンヤは笑いながらも、隅でこちらを警戒しているウェンディの方を見る。

「お前さんも話に加わったらどうだ?せっかくここまで来たんだから…」

「別にいいっス。」

「んなこと言ったってじっとしてるだけじゃつまらないだろ。」

「あたしから聞きたいのは大方あんたらが追ってる事件に関してっしょ?そんなこと話す気にはなれないっス。」

警戒心むき出しのウェンディの発言にゲンヤはポカンとするが、すぐに笑い始める。

「最初に言ったろ?今回は仕事で話ししてんじゃねぇよ。ただ馬鹿話してみんなで笑いたいと思ってるだけさ。」

「……………………………………」

ウェンディはゲンヤの顔をじっと見ながら、フォンの言っていたことを思い出す。

『いいか、人間てのはどれほど上っ面を取り繕ったって体の反応は取り繕えねぇ。発汗、眼球の動き、鼓動、その人間の癖……上っ面を上手く取り繕うほどそいつは顕著に表れる。ウソってやつはそういったもんを見てりゃ一発でわかるもんさ。』

フォンの言っていた通り、ゲンヤの顔を見てみる。
まっすぐな、優しい瞳で自分のことを見ている。
ウェンディは何度も嘘をつく人間を見てきたし、フォンに会ってからはたいがいの人間の嘘は見破れるようになった。
しかし、今自分を見つめている男からは嘘をついている雰囲気が感じられない。
それどころか、自分を温かく包み込むような感覚を覚える。

「なんで……あんたはそんなにあたしに優しくできるんスか?」

ウェンディはポツリとつぶやく。
ゲンヤ達は黙ってウェンディの言葉を待っている。

「あたしの体のこと聞いてるんっしょ?ただ戦うために生み出されたあたしのこと怖くないんスか?」

「なんで怖がる必要があるんだ?」

ゲンヤは本当にあっけらかんと質問する。

「お前はすき好んでその力で誰かを傷つけたいと思ってんのか?俺にはそうは見えねぇがな。」

「それは…」

確かに、今までもスカリエッティの指示に従ってきたのは自分の姉妹を、そして、親であるスカリエッティを守りたいと思ってきたからだ。
そうするしか自分には思いつかなかったからそうしてきたのだ。

「でも、局やその支配が及んでいる世界の人間はあたしのこと……」

「お前が自分の体のことで何か言われたら、俺がそいつらのところへ行って一人一人ぶちのめしてやらぁ。……ま、この年じゃあんましはしゃげないけどな。」

「この間も腰が痛いって言ってましたもんね~。」

「うるせっ!」

横でクスクスと笑うギンガを叱るゲンヤの言葉を受けてなお、ウェンディは眉間に辛そうにしわを寄せる。

「でも!」

「もういいんじゃないかな、ウェンディ?」

フェイトがウェンディの手をとる。

「スバルもギンガも、それにゲンヤさんもウェンディのことを拒絶したりしないよ。優しくされることに慣れてないかもしれないけど、あなたのことを気にかけてくれる人を拒絶したりしないで。だって、誰かの優しさを受け入れられないことほど、悲しいことはないじゃない。」

「……けど、やっぱりここであたしだけ局につけないっス。あたしはチンク姉ぇたちのこと裏切れねぇっス……裏切りたくないっス。」

「別にいいんじゃねぇか?」

「え…?」

「機動六課にはいったのは自分の身を守るため。今度会ったらそう言ってやりゃあいいじゃねぇか。」

おおよそ管理局の部隊長をやっている人間の口から出てきたとは思えない言葉にウェンディはポカンとする。

「その間に誰と仲良くなろうがお前の自由。例えば、ここで俺達と楽しく馬鹿話をしてもいいし、家族みたいになってもいいだろ、っていうことさ。と…家族はさすがに嫌か……って!?」

自分の言ったことにてれるゲンヤをじっと見ているウェンディ。
その眼からはポタポタと涙がこぼれている。

「ちょ!?俺なんかまずいこと言ったか!?」

「え!?べ、別に変なこと言ってませんでしたよ!?」

突然話を振られて戸惑うティアナ。
スバルたちもおどおどするが、ウェンディの一言でそれは終わりを迎える。

「違…そうじゃ……ないっス。」

嬉しかった。
知らない場所に放り出され、誰も自分を受け入れてくれないと思っていたが、自分のことを怖くないという人が、受け入れてくれる人がいた。
ただそれが嬉しくて、気付いたら泣いていた。

「ありがとうっス……ありが……とう………!!」

自分たちに初めて素直な面を見せて泣いているウェンディにその場にいた全員が優しく笑いかけた。



その後、とりとめのない話はウェンディも加えて大いに盛り上がり、結局機動六課の面々はその日はそのまま108部隊の隊舎に泊っていった。
その夜、ウェンディは眠る前に一人でゲンヤに会いに行っていた。

「どうした?なんかまずいことでもあったか?」

「えっと、その…」

思ったことをポンポンと口にする彼女にしては珍しく言い淀む。

「えっと……ゲンヤさんのこと………お父さん……って呼んでいいっスか?」

「は?」

「ほ、ほら!昼間、別に家族みたいになってもいいんじゃないかって言ってたっス!だから、その……」

恥ずかしそうに指を突き合わせるウェンディを見たゲンヤは思わずふきだし、その後うなずく。

「いいぜ。すきに呼びな。」

「ホントっすか!?じゃあ、パパリンで!」

「パパ……!?それはさすがに…」

「駄目っスか……?」

「う……」

子犬のような目で見上げられ、ゲンヤは仕方なく折れることにする。

「わかったよ。好きにしな。」

「わ~い、やったっス~。」

どことなくうまく乗せられたような気がしなくもないが、新しくできた娘の頼みとあらば、無下に断るわけにもいかないだろう。

「ほら、早く寝ろよ。明日は朝一番で機動六課の訓練に放り込んでやるからな。」

「了解っス~。」

スキップをしながらスバルとティアナが寝ている部屋へと向かうウェンディ。
その姿を見送りながらゲンヤは笑いながら息をつく。

「なんで優しくできるのか、か……そうできる人間ばかりじゃないんだよな、今の世の中。けど、だからこそ俺はお前らのために何かしてやりたいんだ。」

ただの自己満足かもしれない。
本当は何もしてやれていないのかもしれない。
ただ彼女たちの苦しみを加速させているだけかもしれない。
けれど、だからこそ普通の生活を送ってほしい。
そして、それが当たり前になる日が来てほしい。
その日がいつか来ると信じているから、自分は明日も過酷な現実に立ち向かえるのだ。

「さて、俺も寝るとするか。」

明日への決意を胸に秘め、ゲンヤは自室へと向かう。
いつか、二人の娘が……いや、三人の娘が幸せな日々を送れる日を願いながら。









新たに加わった星の輝き
それが導くのは少女たちを縛る鎖からの解放か……







あとがき・・・・・・・・・・・という名の懲りずに謝罪

ロ「というわけでオリ話完結編でした。」

ユ「戦闘シーンゼロ、グダグダ、これからどうしたいのお前?って言いたくなるような展開。本当にどうするの?」

ロ「あーあー。何も聞こえない。何も見えない。」

な「毎度おなじみの現実逃避だね。しかたないから全力全壊の一撃で現実に…」

ツン2「やめてください!せめて今回ぐらいカオスを避けましょうよ!」

ロ「それに一応この先の展開は考えてあんの!というかそちらに合わせたせいでなぜかグダグダに……。やっぱウェンディは加入させるべきじゃなかったのかなぁ……」

ユ「(いつの間にか復活した…)まあ、それよりもデバイス名だよね。よりによってマレーネって……性格もかぶせてきてるし。」

ロ「俺もぶっちゃけ最初はそのままアブルホールにしようと思ったんだけど、フォンのと差別化したくてあえてこうした。」

な「というか今回ってsecondへの布石がこれでもかってわかりやすくあったよね。」

ロ「か、隠し事するより、大っぴらに情報を公開する方が人に好かれるんだよ!」

ツン2「時と場合によるわ!!」

ユ「君の場合隠し事を話してるんじゃなくて隠し事が下手なんだろう。ちなみにリアルでも。この間も普通に一限目サボってたことばれてたし。」

ロ「リアルの話をすんじゃねぇぇぇ!!!!(泣)」←地味にトラウマ

ツン2「この駄目人間。」

ロ「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!一回くらい外で寝ててもバチは当たらねぇだろうが!!」

な「当たったよね。」

ロ「…………………」

ユ「現実逃避が大好きなロビンを(言葉で)フルボッコにしたので、ノリノリで次回予告に行きます。」

な「次回は休日編。新たに加わった仲間、ウェンディとともに出かけたスバルたち。」

ユ「しかし、貴重な休日はエリオたちからの通信で終わりを告げることとなる。」

ツン2「その頃、ユーノさんは自分にとっての始まりの地に足を運んでいた。」

な「明らかになる敵、そして、想定外の乱入者に戦場は混乱を極める!」

ツン2「そして、遂にユーノさんの愛機が再誕の声を上げる!」

ロ「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 9.Return to Angel
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/23 20:09
クラナガン 地下水路

薄暗い地下に張り巡らされた空間に小さな赤い光がふわふわとせわしなく動き回っている。

「あ~!どうしよ~!!せっかく助けたのに逃げちゃったよあの子!!」

赤い光はあちこちを覗きながら困りはてている。
そんな時、後ろに二人分の影が現れる。
そのうち一人はまだ年端もいかない子供の大きさである。

「アギト……あの子は見つかった?」

「ごめん、ルールー。こっちも駄目だった。」

「あげゃげゃげゃ!」

大人の背丈をしている影が独特な笑い方をする。

「なんだよ……何がおかしいんだよ!連中だってこの近辺の捜索をしてるんだ!もし先にあの子を見つけられたらどうなるかぐらいお前だってわかってるだろ!」

赤い光が笑う影にくってかかる。

「なあに、お前のおつむのできがあんまり気の毒だったんでつい笑っちまっただけだ。」

「なに!?」

赤い光の周りに小さいが激しく燃え盛る炎が出現し、笑っていた影を照らし出す。
紅蓮の炎が映しだしたのは赤い目を細めて目の前にいる小さな存在を卑下する笑みを浮かべているフォンだった。

「見つからないんなら協力してもらえばいいじゃねぇか、あのマッドサイエンティストが希望を託すと決めたやつらにな。」

「!お前、まさか!」

赤い光を生み出していた小さな存在は光を弱まらせて青い顔をする。

「ダメダメ!!そんなことしたらゼストの旦那に迷惑がかかるだろ!!」

「どうかな?意外とアイツも自分の姿をお友達に見せられて喜ぶんじゃねぇか?」

「で、でも、あたしらの存在はまだ知られるわけには……」

『いや、もう構わないよ。』

最後までごねる光の主、アギトのすぐそばにスカリエッティの顔が映しだされる。
その光に照らされ、ルールーと呼ばれていた少女の顔もはっきりと見えるようになる。
紫色の長い髪のせいで一瞬、少女ではなく二十代の女性かと思わせてしまうが、顔に残るあどけなさからやはり少女であることが分かる。
しかし、その顔には子供特有の笑顔がなく、限りなく無表情である。

『ウェンディが向こうにいった以上、彼女たちのことだからすでに私たちの存在に気付いているだろう。ウェンディが話しているか否かにかかわらずね。』

「フン、珍しく意見があったな。」

『僕の心は張り裂けんばかりに痛んでいるよ。何せ君のような野蛮人と意見が一致してしまったのだからね。』

モニター越しに火花を散らすフォンとスカリエッティにため息をつくアギトだったが、この状況は紫の髪の少女、ルーテシア・アルピーノの一言で打ち破られることになる。

「フォン、ドクター、私は何をすればいい?」

「あげゃ、そうだな……それじゃ、お前は前みたいにガジェットでひと騒ぎ起こせ。できるだけ騒ぎを大きくして人目を集めろ。」

『その後のことはクアットロたちに任せればいい。上手くやってくれるだろう。』

「わかった。」

ルーテシアはうなずき、魔法陣を展開すると周りにボタンに針のような脚がついたものが大量に出てくる。
そして、

「ガリュー…」

ルーテシアの小さな声でもはっきり聞きとり、彼女の召喚獣であるガリューが現れる。

「行って。」

彼女の言葉にガリューは沈黙を持って答えると小さな召喚蟲たちとともに素早く駆けていく。
それを見送ったフォンたちも動きだすが、フォンだけがスカリエッティに呼び止められる。

「なんだ?まだ口喧嘩をしたいのか?」

『いや、それは君が帰って来てから思う存分やろう。引きとめたのは聞きたいことがあったからだよ。』

スカリエッティの顔からいつも張り付いている笑いが消え去り真剣な顔つきになる。

『本当に今の彼にあれを使わせるきかい?そもそも、君が強引に連れてきた彼らが協力してくれるとも思えないが。』

「あげゃ。そこんところは心配ねぇ。今回は利害が一致しているからな。きっちりユーノを案内してくれるはずさ……あの機体のもとにな。」

フォンの携帯端末に萌黄色の機体が映される。

「ソリッド、ご主人様がもうすぐ帰ってくるぜ……あげゃげゃげゃげゃ!!」

薄暗い地下に爆発したような笑い声が響きわたる。
その狂気に満ちた笑いは彼らが追いかけている少女にも、はっきりと届いていた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.Return to Angel

機動六課 訓練場

お昼前、薄い緑の戦闘機が一人の少女を乗せて軽快に青空を駆け抜けていく。
空中に設置されていた光球の大群が彼女たちに射撃を放つが、まるで波乗りでもするように細かく上昇と下降を繰り返すだけで横に動くこともなくそれを避けていく。
そして、ある程度距離が縮まったところで先端に設置されていた回転式の銃口に光が溜まっていく。

〈Vulcan Blaze〉

先端から放たれた光のシャワーが光球たちを飲み込み殲滅していく。
しかし、撃ち漏らした光球が反撃をしようと自身の前に魔力スフィアを生成するが、戦闘機の上に立つ少女はニヤリと笑うだけで反撃に備える様子がない。
光球からスフィアが放たれそうになり、誰もがもう駄目だと思ったその時、したからオレンジの弾丸と青い道とともに閃光が駆け抜け、残っていた光球を沈黙させる。
光球がすべてなくなったのを確認すると、空を舞っていた少女は戦闘機から飛び降りて地上に着地して両手を広げて立ち上がる。

「10.0!」

ポーズを決めるウェンディだったが、それを見ていたヴィータは一瞬上に視線をやり、大きくため息をつく。

「いや……」

しばらくするとウェンディの頭に彼女が飛び降りた衝撃でバランスを崩した彼女のデバイス、マレーネが見事に激突し、ウェンディは押しつぶされる形で地面とキスをする。

「……0点だ。」

〈同意見です。〉

「……誰か助けて。」



十分後

「うん、余計な動きをしたウェンディ以外はみんな合格ラインだね。」

笑顔で喋るなのはの言葉にフォワードメンバーが喜ぶ中、ウェンディだけがうなだれる。

「ウェンディもいつも余計な動きをしなければ万事OKなんだがなぁ…」

ウェンディを見ながらヴィータは渋い顔で唸る。
その姿を見たウェンディはさらにうなだれるが、止めが待っていた。

「じゃ、ウェンディ以外のみんなは午後から休み。ウェンディは私たちとみっっっちり、と訓練をしようか♪」

「え~~~!?」

黒いオーラを出しながら笑顔を向けてくるなのはにウェンディは内心びくつきながら反論する。

「だ、だってあたしの監視役の二人も休みもらうなんてずるいっス!あたしが午後も訓練するんならあの二人も訓練させるべきでしょ!!」

ウェンディの言葉を聞いたなのはとヴィータは少し考え込む。
そして、

「……そうしよっか。」

「えええ~~~~!?」

今度はスバルから不満の声が上がる。

「そんなご無体な~!たまの休みに街に繰り出して五段重ねアイスを食べるのが私の生きる喜びなのに~!」

スバルは遂に地面に寝転がって駄々をこね始める。

「休みほしい~!!」

「右同じ~!!」

ウェンディも加わりいっそう騒がしくなる。
二人のでかい駄々っ子はさらになのはに詰め寄る。

「「お願いします!なのはさん!」」

二人の目の輝きに必死に耐えるなのはだったが、十秒と経たずに負けを認めた。

「わかったよ。ウェンディもスバルたちと一緒に遊んでおいで。」

「「やったぁ~!!」」

はしゃぐ二人をよそにヴィータがティアナにこっそり耳打ちする。

「……お前も大変だな。」

「スバルが二人になったと思えばどうってことないですよ。」

「それってむしろ大変なんじゃ…」

ヴィータはティアナの顔を見た瞬間その先の言葉を紡げなくなった。
いままでとこれからの苦労を考えていたせいかさめざめと涙を流す彼女を見ていると気の毒でそれ以上何も言えなくなってしまった。

「……悪い。」

ヴィータの心からの謝罪が込められたその一言で午前の訓練は終わりを告げたのだった。




第14管理世界 クロア 慰霊碑前

多くの人や車が広い道を行き交う中、それはポツリとたてられていた。
黒く光りを放つその石には多くの人の名前が刻みこまれ、あの時に起きた悲しみを今にまで伝えている。
しかし、その周りには何もなく、せいぜいいつ置かれたのかも定かではない萎びれた花束がいくつか置いてあるだけだ。
そんな慰霊碑の前に今、真新しい花束が一人の青年の手でたむけられた。

「久しぶり、父さん…」

ユーノは愁いを帯びた瞳である名前を見つめる。

レント・スクライア。
ここで理不尽に命を奪われたユーノの大切な人。
瞳を閉じれば今でも楽しかった日々が思い出せる。
だが、思い出の最後はいつも同じ。
死体の山の中に隠された自分だけが助かり、目の前で大好きだった父親が殺される悲しい光景。
そして、それこそがガンダムマイスター、ユーノ・スクライアにとっての始まりの瞬間でもある。

「ハハハ……あの時はみんなあんなに騒いでたのに、意外とすぐに忘れちゃうものなんだね……」

乾いた笑いをこぼすユーノを道行く人たちは不思議そうに指さし怪訝そうな顔をし、子供たちは変な奴だと笑いながら去っていく。

「…また一人で来てたんだ。」

「君こそ、今年も来たんだ。」

「幼馴染を一人で暗い顔させておくほど私は薄情じゃないの。」

後ろから歩いて来ていたアイナ・スクライアがユーノの横に並び立つ。

「仕事は?」

「あいにくと毎年この日は予定を空けてるの。レントさんの命日だもん。」

「そっか。」

二人はそれだけ話すと、たがいに何もしゃべらずに慰霊碑の前に立っていた。
長い間、街の喧騒だけが二人の耳に入ってくる。
ただ喋らないだけでこれだけ街の中がうるさく思えるのかと思えるほどの音量が二人を包むが、それでも二人は何も喋ろうとしなかった。

どれほどの時間が流れただろうか。
ふいに会い名が持っていたバッグの中から一枚の紙をユーノに差し出す。
ユーノはそこに書かれていることをすぐに読み終わると小さく嘆息する。

「今回もはずれだったわ。あんたが前にぶちのめしたやつ以外は関係者以外の足取りはつかめなかったわ。……でもどうするの?見つけたって手出しできないんでしょ?」

「そうだね……。それでも、僕は……いや、僕たちスクライアの人間は永遠に管理局を許しはしないさ。だからこそ、僕はやつらが今どうしているのかを知りたいんだ。それに、見かけたときに恨み言の一つも言ってやりたいしね。」

そんな冗談を一つ言って、ユーノは笑いながら空を仰ぎ見る。
青く晴れ渡った空高く浮かぶ雲が、所詮今の自分にできるのはその程度だと言っているようだが、不思議と腹は立ってこない。

「そうさ……今の僕は世界を変える力を持たないひ弱な男さ。」

「それはどうかしら?」

「「!?」」

突然現れた長髪の女性に二人は驚く。
広い場所でクスクスと笑う女性と驚く二人は如何にも目立ちそうだが、通行人は全く意識を向けていない。

「意識阻害の魔法を使ったわね…!」

「御名答♪それよりも、司書長さんはこんなところで油をうってていいのかしら?」

「どういうことだい?」

「そろそろミッドで大変なことが起きそうねぇ……あなたの大切な人たちが巻き込まれちゃいそうな大きな事件が…」

女性の言葉を聞いたユーノの目が見開かれる。

こいつは何を言っている?
自分の大切な人を巻き込む?
なのはを?
みんなを?

「っっ!!」

ユーノは頭に血が昇ってしまい、乱暴に長髪の女性の襟をつかんで持ち上げる。

「残念だけど私の相手をしてる暇はないわよ。早くいかないとあれが出てくるわ。」

「あれ……!?」

「管理局がナイトと呼ぶ機体……あなたやフォンにわかるように言うならジンクス…」

「!?馬鹿な!!なんであれがここに!?」

「あら、あなたが連れてきたんじゃない。……ガンダムと一緒に。」

ユーノは妖艶な笑みを浮かべる女性を離して距離をとる。

「……どこまで知っている?」

「私の姉と、妹三人はたいがいのことをフォンから聞いたわ。……ずいぶん馬鹿なことをしたものね。」

何が何やらわからないアイナは混乱を極めるが、そんな彼女を置いてけぼりにして二人の話は進む。

「……確かに馬鹿げた行いさ。たくさんの人を傷つけたし、仲間も失った。それでも、僕たちは世界の歪みを駆逐するために戦った。……たとえ誰に否定されようと、その覚悟だけは絶対に曲げない!!」

「そう……何を言っても無駄みたいね。」

女性は自分の持っていた携帯端末を投げ渡す。

「ミッドに行けばそこから指示が聞こえてくるはずよ。それに従って進めば、あなたの力が戻ってくるわ。」

「信じろと?」

「そこのところは信じてもらわないとどうしようもないわね。ただ…」

女性は鋭く笑う。

「あなたの中に眠っている記憶が、その声を信じるはずよ。きっとね…」

女性はそれだけ言うと二人に背を向けて去っていった。
彼女が消えると、それまでユーノ達に気付いていなかった通行人たちが異様な雰囲気を感じ、何事かと集まってくる。

「アイナ、悪いけど…」

「わかってるわよ。何も聞かないであげるから大切な友達と婚約者を助けに行きなさい。」

呆れながらも笑顔で送り出すアイナ。
そんな彼女に感謝しながらユーノは一番早くでるミッド行きの便の時間を気にして駆けだした。




ミッドチルダ クラナガン 地下水路

本当に急だった。
突然エリオとキャロから連絡を受けたティアナ、スバル、ウェンディがそこに駆け付けた時、横転したトラックがトンネルの壁に頭からめり込んでいた。
幸い怪我人はいなかったそうだが、事故の現場に居合わせた人間全員がガジェットを目撃していた。
五人はすぐさまデバイスを起動させてバリアジャケットを展開すると、ガジェットが作ったであろう道路に大きく開いた穴に機動力のあるエリオとウェンディを先頭に飛び込んでいった。

「ウェンディ、いいの?」

「なにが?」

戦闘機のパイロットの制服のようなモスグリーンのジャケットとジーンズという一風変わったバリアジャケットを着たウェンディはティアナの心配そうな声に振り向く。

「なにがって……ガジェットが出てきたってことはあんたの仲間が…」

「ガジェットと遊ぶくらい大目に見てくれるっしょ。………それに……」

「なに?」

「いや、なんでもないっス。」

ウェンディはティアナの質問を言葉を濁してごまかすが、ある疑念がどうしても晴れない。
スカリエッティや自分の姉妹は無意味な破壊活動はしない。
それが今回は何か目的があるわけでもないのにこんな騒ぎを起こした。

(まさかフォンが?でも、フォンも無意味にこんなことはしないはず……。ああもう!!何がなんだかさっぱりっス!)

結局、答えが出ないままウェンディは進んでいく。
その時、エリオのストラーダとウェンディのマレーネが異変をキャッチする。

〈兄弟、前方に反応だ!〉

〈相手は一人。こちらが圧倒的有利です。〉

「OK!一気に叩き潰すわよ!!」

ティアナの一言でシフトを変えて曲がり角に潜んでいるであろう何者かに備える。
そして、

「包囲!!」

五人は曲がり角にいた何者かをとり囲む。
その何者かの正体は……

「ずいぶんな挨拶ね、ウェンディ。」

「「ギン姉ぇ!?」」

そこにいたのは左手にスバルと同型のデバイス、ブリッツキャリバーを装着したギンガ・ナカジマ、その人だった。
五人はすぐに警戒を解いて、ギンガに歩み寄る。

「ギンガさんも捜査に?」

「ええ。私は別のルートから進んできたんだけど、ガジェットを追ってたらここでばったり…ってわけ。」

「へ~…じゃあ、ギン姉ぇも一緒に行こう!」

「そうね……。じゃあ、一緒に行きましょう。」

その後、ギンガが先行する形で地下水路を進んでいく。
だが、

「……キュクゥ~?」

「……なんだか、ガジェットと全然出てこないですね。」

そう、キャロの言うとおり、もう地下水路に入って三十分程たつのに一度もガジェットに遭遇していない。
いくらなんでもこれはおかしい。

(……?あれ?)

そんな時、先頭を進むギンガの足元を見たウェンディはふと違和感を覚える。

(もしかして……)

ウェンディの中にある仮説が組み立てられていく。
そして、意を決して念話傍受の対策をしたうえでティアナに心の中で話しかける。

(……ティア、念話の回線を傍受されないようにして、今から言うことをギン姉ぇに聞かれないようにみんなに伝えてほしいんス。顔に出しちゃ駄目っスよ。)

(どうしたの?)

(あたしの心眼が狂ってなければたぶん……)

ウェンディは自分の中に浮かんだ最悪の仮定を話す。
ティアナは何とか顔には出さないようにするが、それでも心が動揺でざわめく。

(そんな……!?)

(一応確認してみるけど、もしそうだった場合はよろしく。)

(……わかった。)

開けた場所に出たところで、ウェンディはギンガに話を振る。

「そう言えばギン姉ぇ、パパリンは今日もお茶を飲んでるんスか?どうせ飲むならジュースにすればいいのに。」

それを聞いたギンガはクスクスと笑う。

「お茶の味がわからないなんてウェンディはまだまだ子供ね。せっかくいい“紅茶”を選んできてるのに。」

「へぇ~、そういうもんスか………みんな!!」

「了解!!」

「!?」

戸惑うギンガにキャロのアルケミックチェーンが絡みつき、続いて残った四人とフリードがそれぞれの武器をその場に座り込んだ彼女に向ける。

「なんのマネかしら、みんな?今はこんなことしてる暇は…」

「もうお芝居はいいっスよ、フォン。」

ウェンディの言葉を聞いたギンガはピクリと反応する。

「残念だけど、我が家は紅茶じゃなくて緑茶党なんだ。紅茶はお客様用に少しあるくらいで、ギン姉ぇもお父さんももっぱら緑茶だよ。」

「よく考えてみれば最初に気付くべきだったわ。あんたが私たちに最初に会ったときに名前を呼んだのはウェンディだけ。私たちの名前は知らなかったから呼びようがなかったのね。」

「……あげゃ……あげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

ギンガ、いや、フォンは縛られたままげらげらと笑い始める。
姿や声は確かにギンガだが、下から五人を見る目は赤い色をしている。

「いつから気付いていた?」

「最初に変だと思ったのは足元を見たときっス。」

フォンはウェンディを見上げる。

「本当に少しの誤差だけど、ローラーの動きと音がずれてたんス。きっとフォンは低空飛行して進みながら音を流してたんだろうけど、完全には合わせきれてなかったんス。」

「なるほどな……やっぱあのガキどもの中じゃお前がピカ一だな。だが……」

フォンがクイッと目をやった先を見ると、紅蓮の炎が五人に迫って来ていた。

「っ!」

慌てて四人と一匹が離れると、今度は見えない何かがフォンを縛る鎖を切断する。

「まだまだ甘いな……ま、あいつらの中に放り込めば少しはマシになるかもな。」

縛られていた手首をいじりながら立ち上がるフォンの姿は足元から徐々にギンガではなく、フォン自身の姿に変わっていく。

「世話を焼かせんなよな。あれぐらいお前なら何とかできただろ。」

フォンのそばに赤い髪をした小さな妖精のような少女が舞い降りる。
背中からは蝙蝠のような羽が生え、周りには小さく火花が散っている。

「……フォンはあの人たちの反応を楽しんでる。ばれるようにしたのもきっとわざと。」

続いて、周りに小さな虫のようなものを浮かせた少女と、それにつき従うような形で屈強な体つきをした異形の戦士が纏っていた大気を脱ぎ去るように現れる。

「アギトっち…ルーお嬢様にガリューも…!」

目に見えて動揺するウェンディ。
相手が何者かわからないティアナ達も、新たに表れた敵がただものでないことを感じ取っていた。

「知ってるの?」

「あたしらの助っ人みたいなもんをやってもらってる人たちっス。……強いから気を付けて。」

「ウェンディ……ドクターを裏切ったの?」

「え!?え~と、それは…」

紫の髪の少女、ルーテシアにいきなり痛いところを突かれてウェンディはわたわたと慌ててしまう。
だが、

「ウェンディは監視付きで私たちが保護しているだけ。ここに連れてきたのも無理やりよ。」

冷静にティアナがフォローを入れる。
その言葉を聞いていたルーテシアは表情の宿らない瞳を細くする。

「そう……そういうことにしておく。」

「それはそうと、早くやろうぜ。」

フォンがにやにや笑いながら巨大な剣の刃を起こし、品定めをするようにフォワードメンバーをじっくりとなめまわすような視線で観察する。

「きな……お前らのすべてを俺に見せてみろ!」

フォンは手始めにスバルの腹部へ向けて低い位置から刺突を放つ。
スバルはその一撃を左手のシールドで受け流し、すぐさま右手のマッハキャリバーをフォンの顔へ叩きつけようとする。
しかし、フォンのにやけた顔を見たスバルは悪寒を感じフォンの顔に突き出しかけていた右腕を慌てて引っ込める。
その瞬間、それまでスバルの腕があった位置を凄まじい剣風とともに鈍く光る刃が駆け抜けていった。

「ほう、勘はいい方なようだな。だが……」

「っあ……!」

腹部に斜めに浅い切り傷が刻まれたスバルは鋭く走る痛みに顔を歪ませる。
しかし、それでもフォンの剣の間合いから離れ、神経を研ぎ澄ませる。

「まだ反応が追いつかないみたいだな。まあ、“本番”を数回経験しただけ、しかも殺しの経験のないおぼこちゃんじゃ仕方ないか。」

「スバル!!」

ティアナ達はスバルの応援に駆け付けようとするが、その前にルーテシア達が立ちふさがる。

「邪魔はさせない……あなたたちの番はまだ。」

ルーテシアは足元にベルカ式の召喚陣を展開させ、巨大な黒い甲虫を呼び出す。

「ちょ、ちょっ!!ルーお嬢様ガチっスか!?」

一番に突っ込んで行っていたウェンディは急停止をかけて止まる。
その彼女の前の床に召喚された甲虫の鋭くとがった前脚が突き刺さる。
そして、勢いそのままに続けてウェンディをその鋭い脚を使って攻め立てる。
ウェンディも辛うじてかわしてはいるが、六本の脚をすべてはかわしきれず、徐々にあちこちにかすり傷を作っていく。

「ウェンディ!!」

みかねたエリオがウェンディの救出に向かおうとするが、その前に固い殻に身を包んだ戦士、ガリューが立ちふさがる。

「どけっ!!」

エリオはガリューへとストラーダの穂先を放つ。
だが、

「………………………」

「な!?」

エリオの渾身の突きは石像のように微動だにしなかったガリューの固い外殻にあっさりと防がれてしまった。
それどころか、逆にストラーダの刃にひびが入り、徐々に広がっている。

「エリオ、離れて!!」

ショックで呆然とするエリオに後ろからティアナの鋭い声が飛ぶ。

「クロスファイアー、シューートッ!!」

エリオが空中に跳ねた瞬間、無数のオレンジの弾がガリューへと殺到する。
しかし、それらは炎の壁に阻まれ、目標に到達する前に爆散する。

「ざ~んねん♪」

消えていく炎の壁の前に胡坐をかいた状態でゆっくりとアギトが降りてくる。

「この烈火の剣精、アギト様をなめんなよ……って、うおおおぉぉぉぉぉ!!?」

得意げに鼻をこすっていたアギトにフリードのブラストレイがかすめる。

「こっちを忘れてもらっちゃ困ります!」

「キュク!!」

「この……トカゲもどき~っ!!」

怒るアギトはキャロとフリードに炎の弾を投げつけて応戦する。
キャロとフリードも上手く立ち回りながら攻撃するが、フルバックという役割柄、このような撃ち合いに慣れていないために徐々にではあるが押されていく。

「みんな!!」

「よそ見すんなよ!!妬けてくるじゃねぇか!!」

「クッ!!」

他のメンバーの心配をしながらフォンの剣を紙一重でしのいではいるが、スバルは反撃の糸口がつかめないでいた。

(この人、本当に強い!!でも…)

スバルは、いや、他のメンバーもボロボロになりながら機会をうかがっていた。
ある者は必殺の一撃を。
ある者は己の持ちえる技術で仲間を救うために。
そして、その瞬間は思いもよらぬ形で訪れた。

「うおっと!!」

傷だらけのウェンディがかわした甲虫の雷撃が天井に激突して大小さまざまな破片を辺りにまき散らした。
そのうちの一つがフォンへと向かって行く。

「チッ!!」

フォンは仕方なくそれを左腕で払うが、その一瞬が命取りだった。

「マッハキャリバー!!」

〈Explosion!〉

二発のカートリッジを消費して、スバルは自身の魔力を底上げする。
その青い闘気ともとれる強大な力で放つのはスバルのとっておきに一撃。
憧れているなのはの代名詞とも言うべき魔法。

「ディバイーーン……バスターーーー!!」

拳の先に集中していた魔力が前方へと解放され、青い光の奔流となってフォンを押し飛ばす。

「ぐううぅぅぅ!!」

フォンはモード・ジャスティス、アストレアの最強の武装であるGNプロトソードを模した大剣でスバルの一撃を防ごうとするが、スバルのディバインバスターはなのはのものと比べて射程が極端に短く、効果範囲が狭いかわりに、魔力がより圧縮されていて威力が高い。
しかも、近距離で使われるのでその特徴が一層際立つ。
以前になのはのディバインバスターを防いだことのあるフォンだが、まともに受け止めるまで流石にそのことには気付けなかったようだ。

スバルのディバインバスターによって壁に叩きつけられ粉塵を巻き上げるフォン。
そして、それが合図だったようにティアナ達も動き出す。

「!!!!!!!!」

ティアナはガリューの大振り気味な左フックをしゃがんでかわすと地面に魔力弾を撃ち込んで土煙を発生させる。

「…………………………」

ガリューはティアナを見失うが、それがどうしたと言わんばかりに拳を振るって土煙を晴らす。
そして、その先でしゃがんで銃を構えていたティアナへと突進し、拳を打ち込んだ。
……はずだった。

「!!?」

ガリューが殴ったはずのティアナは彼が触れると同時に陽炎のように消え去る。

「少し出来が悪かったけど、あんたをだますには十分だったみたいね。」

幻術ではない、本物のティアナはガリューに見向きもせずにウェンディのもとへと走り、自分の精製できる最大の魔力弾を黒い甲虫の頭に撃ち込む。
ティアナの最大の攻撃力を持ってしても浅く傷をつけるのが精いっぱいだったが、ウェンディの攻撃のチャンスを作るには十分だった。

「マレーネ、ロードカートリッジ!!」

〈Load Cartridge〉

マレーネの両方の翼から薬莢が一つずつ排出され、彼女たちの下にミッド式の魔法陣が展開される。

「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

〈Rushing Edge〉

ウェンディはマレーネを甲虫に向けてバク転をすることで勢いを増させて突っ込ませる。
その先端は彼女の魔力で光り輝き、さながら赤熱した刃のようである。
そして、その刃は甲虫の腹部に突き刺さり、それでも止まることなく甲虫を空中へと持ちあげ、天井に叩きつけた。
その時、ティアナの幻影に騙されていたガリューがティアナとウェンディに向かって突っ込んでいくが、その間に再びエリオが割って入る。

「ストラーダ、いける!?」

ひびが入った相棒を気づかうエリオだったが、ストラーダからの返答は彼の中に残っていたわずかな迷いを吹き飛ばした。

〈気にするな、兄弟。連中の度肝を抜いてやれ!!〉

「了解!!」

エリオの想いに呼応するようにストラーダから薬莢が三発分飛び出す。
その瞬間、エリオの身体中を稲妻が駆け巡り、エリオはそのまま穂先を先頭に突っ込んでいく。

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「……………………………」

ガリューはまたかといった様子で煩わしそうに体の前で腕を交差させて防御の姿勢をとる。
しかし、エリオはかまわずにガリューの腕にストラーダを叩きつける。
相変わらずガリューの固い殻を抜くには至らなかったが、汗だらけのエリオの顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

「これで……どうだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

〈Plasma Bunker〉

「!?」

エリオの身体を駆け巡っていた雷撃が槍に集まり、巨大な杭を作り上げた。
そして、エリオ自身を後ろに弾き飛ばすほどの力で押し出された雷の杭はガリューの外殻を撃ち砕き、彼の両腕を引きちぎった。

「ガリュー!!」

それまで無表情だったルーテシアが悲痛な声を上げる。
しかし、ガリューは大丈夫だと先がなくなった腕で近づいてくる彼女を制止する。
その先には、今の攻撃の反動で右の肩が外れてもなお、自身の相棒がコアを残して崩壊を始めてなお、左腕一本で立ち上がってくる若い騎士の姿があった。

「まだ……だ…!」

「………………………!」

エリオに対して怒りを向けていたルーテシアだったが、エリオの気迫に恐怖を感じてしまう。
言葉を話さないガリューもまた、先程の一撃と今のエリオの気迫から、彼を全力で当たる相手だと認識した。
互いに満身創痍のままの体を引きずり、間合いを詰めていく。
だがその時、何かが上に着弾した衝撃で地下水路全体が大きく揺れる。

「あげゃ、意外に早かったな。」

フォンは刃こぼれをした刃をしまいながら笑う。

「さっさと退くぞ。チビ!」

「チビ言うな!!」

アギトは文句を言いながらキャロとフリードから離れて激しい閃光を発生させる。

「クッ!フリード!!」

閃光の中でフリードは狙いも定まらないままブラストレイを放つ。
しかし、当然のことながらフォンたちに当たることはなく、天井に大きな穴を開けただけで終わった。

「お前らもさっさと逃げるんだな。こんなところで犬死はお互いごめんだろ。」

「フォン!!」

閃光がはれるとウェンディはイの一番にフォンたちのいた方に向かうが、そこにはもう彼らの姿はなかった。

「く……そ………!」

「エリオ君!!」

キャロは悲鳴をあげてその場に崩れ落ちたエリオに駆け寄ると治癒魔法をかけ始める。

「僕はいいから……キャロは…何ともない………?……ッ!」

「いいからじっとしてて!!」

どれほど強がってもまだ十歳の少年だ。
肩の脱臼に地面を滑って行った際の擦り傷の痛みで顔がゆがむ。

「無茶しないで………。私たち家族でしょ……?もっと頼っていいんだよ。」

「……うん。」

泣きそうなキャロの顔をエリオは優しくなでて安心させる。

その時だった。
フリードが開けた穴からゴウッという凄まじい音が聞こえてくる。
五人は穴から外の様子をうかがい、そこに広がる光景に驚愕した。
青い空になのはの砲撃すらも上回るほどの大きさの赤い何かが駆け抜けているのだ。

「なに……あれ…!?」

ティアナは自分の目に映るものが信じられず思わずつぶやく。

「GN…粒子……!?」

「え!?」

四人は一斉にウェンディの方を向く。
しかし、ウェンディはそのことに気付けないほど動揺し、体をカタカタとふるわせる。

「フォンの機体じゃない……まさか、管理局にもMSが!?」





クラナガン 郊外 数分前

「准将、器の確保に成功しました。これより同調テストを開始します。」

『わかった。いい報告を期待しているぞ。』

管理局の規定のバリアジャケットを羽織った男たちは一人の幼い少女を巨大な白いロボットに乗せようとする。
恐怖で泣き叫ぶ少女の目は紅と緑のオッドアイで、金色の髪が暴れるたびに揺れている。

「やめて!!痛いのはいやぁっ!!

少女は必死で抵抗するが、大人の力に勝てるわけもなく無理やりコックピットの席に固定させられる。
そして、コックピットのハッチが閉じられると、男たちは離れて術式を発動する。

「やめて!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

激痛で叫びをあげる少女。
その叫びがこだました瞬間、後ろにいた巨人たちの目に光がともった。





クラナガン 市街地

その場にいた全員が戸惑っていた。
突然、遠方から向かってきた赤いなにか。
それが街を削り、道路を砕いていく。
ナンバーズのトーレとクアットロはそれがなんなのかはわかっていたが、まさかこのタイミングで来るとは思っていなかった。

「チィッ!!いくらなんでも早すぎる!!」

対峙していたフェイトとはやてのことなど放り出し、明らかに自分たちを狙っている赤い弾丸をビルを盾にして防ぐトーレだが、状況はかなり厳しい。

「トーレ姉さま、私のISで……」

「駄目だ、いくらなんでもリスクが高すぎる!」

確かにクアットロのシルバーカーテンを使えば逃げられるかもしれないが、ここまで狙いが正確となると幻術系に対しても何らかの対策を立ててきている可能性があるだろう。
ましてや、相手はあの男なのだ。
クアットロの能力に対しても備えてあるだろう。

「クソ……ここでわれわれを消す気か、ファルベル!!」

トーレ達が悔しさから歯ぎしりをする一方、フェイトとはやても突然の乱入者に戸惑っていた。

「これはいったい!?」

「ロングアーチ!!これがどこから来とるか特定できへんか!?」

はやてとフェイトはそれぞれ違うビルの後ろに隠れながら、ロングアーチからの連絡を待つ。
しかし、

『無理です!!方向といる地区はある程度判別できても、はっきりと位置がつかめないんです!!それどころか、その地域一帯の電子機器が狂っているせいでカメラでとらえることもできません!!』

「電子機器の故障!?なんでこのタイミングで!!」

グリフィスの報告にはやてはビルの影で唇をかみしめる。
ここまで街を破壊されているのに自分たちは何もできない。
その時、上空に待機していたヴァイスのヘリへ赤い弾丸が唸りをあげて近づいていく。

「アカン!!ヴァイス君避けぇ!!」

「ヴァイス陸曹!!」

二人の叫びもむなしく、赤い弾丸はヴァイスのヘリへと近づく。
だが、その赤い弾丸は飛び込んできた何かの張った力場にはじかれる。

「そんな……」

「あれは……」

二人が呆然と見つめる先にいたのは、ユーノが帰ってきた日にともにやってきたあの機械天使だった。




クラナガン 郊外

ミッドに戻ってきたユーノはバイクにまたがり唖然としていた。
昔、よく見た赤い疑似GN粒子の弾丸が街を襲っていたのだ。
それも、MS相手ではなく人間相手にだ。

「MSが人間相手に……!!」

ユーノが怒りに燃える。
その時、

『君が止めるんだ、ユーノ。』

クロアでもらった端末から声が聞こえてくる。

「誰だ、君は?」

ユーノは驚きを押さえてあくまで冷静に相手を問いただす。

『僕が誰なんて今はどうでもいい。とにかくあれを止めたいんなら僕の指示に従うんだ。』

いきなり一方的に指示に従えと言ってくる若い男の声。
普通なら信じることなんてできない。
だが、ユーノの中の何かがざわつく。
男の声から悲しみ、喜び、怒り、そして希望。
ありとあらゆる感情が入り混じったものを感じる。
そして、それはかつて確かにどこかで感じたことのあるものだ。

「……わかった。どうすればいい?」

ユーノは自分で言った言葉に驚く。
だが、理由はないがこの男が信用できるという確信だけはある。

『今から君をある場所に案内する。……もっとも、そこについて、あれを見てどうするかは君次第だ。』

ユーノはヘルメットをかぶりなおすと、バイクを走らせ始める。

『まずは右に曲がるんだ。』

ユーノはしばらく行ったところで剣を空高くかかげている女神の石像のあるところを右に曲がる。

『次の十字路は真っすぐ。』

続いて水瓶と銃を持った女神が目に飛び込んでくる。

『次も右だ。』

真ん中にギリシャ神話に出てくるような戦車に乗った翼の生えた女神がいる二股の道を右に曲がる。

『次は左。』

どこかの惑星を模した黒い球体を両手に抱いた天使の石像のいる場所を左に曲がる。

『最後は真っすぐ……そして、ゴール。』

ユーノがたどり着いたのは人気のない廃工場。
危険防止のために局員ですらめったに近寄らない場所だ。
そして、その入り口には獅子を従えた天使が一人の若者に盾を託す様子を表現した真新しい石像があった。

「Justice……The Star……The Chariot……Judgement……そして、Strength………随分とロマンチックな趣味をしてるんだね。おおかた、盾を託されてるのは僕ってところかな?」

『それは僕じゃなくてフォンの演出さ。少しやりすぎな気もするけどね。……さて、僕にできるのはここまでだ。ここから先は君が決めることだ。君が後悔のない選択をすることを祈ってるよ。』

「了解、どこかの誰かさん。記憶が戻ったら、この間見つけたおいしいスコッチを御馳走するよ。」

『ッ!楽しみにしてるよ。』

こらえたような笑いを最後に男との通信が途絶える。

そして、ユーノは廃工場の重い扉を開ける。
そこには天使がたたずんでいた。
萌黄色と白のカラーリング、巨大な盾、腰につけられた巨大な銃、人間に限りなく近い体つき。
見間違うはずがない。

「ソリッド……」

もう二度と会うことなどないと思っていた自分の愛機。
失った仲間の想いを背負った機体。

「僕の…ガンダム。」

ユーノは浮遊魔法でコックピットに近づく。
すると、迎え入れるようにハッチが開いていく。

「967。」

いるはずの相棒の名を呼ぶ。
だが、返事がない。
中に入ると、あの頃より一回り大きいパイロットスーツ。
そして、遮光処理のされたヘルメットはあるものの、いつもの定位置に彼がいない。

「無事……なのかな………?」

『そんなことよりも早く操縦桿を握りたまえ。』

「!」

ユーノは反射的に振り向くが、その先には明かりのついた通信装置があるだけだった。

『時間がないので今から私が言う質問に答えてもらうよ。なあに、そこらの駅前のアンケートよりも簡単なものさ。』

あざけるような男の声をユーノは席に座って静かに聞いている。

『私が君に与える選択肢は二つだ。ひとつはここで見たことをすべて忘れて、世界の真実から目を背けて友人や愛する人と幸せに暮らす。もうひとつは、世界中の人間から、愛する人々から憎まれることになっても真実と向き合い戦いぬく道……さあ、どっちを選ぶ?』

なのはたちと再会してから忘れようとしていた選択。
どっちつかずはもう許されない。
ならば、あの日の決意に従うだけだ。

「……僕はいままで夢の中へ逃げてきた……。ここらで、現実に戻らなくちゃいけないよね。」

『どうやら、決まったようだね。』

コックピット全体に明かりがともり、周りの光景がはっきりと見えるようになる。
ユーノは素早くパイロットスーツを着て、背中を席に固定する。

『ミッションプランはすでに転送してある。それに従ってくれたまえ。』

「……あなたの指示に従うのは今回だけだ、ジェイル・スカリエッティ。」

『おや、気付いていたのか。』

わざとらしい声が通信機器から聞こえてくる。

「何を考えているのかは知らないが、あなたのしている行為はテロ……僕の介入対象だ。覚悟しておけ。」

『ハハハ!楽しみに待っているよ。』

スカリエッティからの通信が途絶えたところでユーノは操縦桿を握りしめる。
その瞬間、ありとあらゆる場面が脳裏を駆け巡る。
初めてガンダムを見た時、復讐心に駆られて戦った最初のミッション、介入を開始してからのこと、仲間の死、そして……
ユーノは目をカッと見開くと、目つきを鋭くする。

「ユーノ・スクライア、ソリッド、目標を粉砕する!!」

ペダルをありったけ踏み込み、工場の屋根を突き破ってソリッドとユーノは空へと舞い上がる。
スカリエッティの手によって修復されたソリッドは異世界の陽の光を受けて燦然と輝き、その存在を主張する。

「ファーストフェイズは狙撃型ジンクスの撃墜……あんなお粗末なものが狙撃ねぇ。」

ユーノはため息をつくと、クラナガンの中心部へと向かう。
そんな彼の目に飛び込んできたのは、何も知らないまま赤い光弾の嵐にさらされる仲間たちの姿だった。

「……悪いね、はやて。やっぱり僕はこういう道しか進めないみたいだ。」

自分がソリッドに乗っていることを知られないように、なにより罪悪感から仲間の目につかないように狙撃型のもとに向かおうとするユーノだったが、ヴァイスの乗るヘリにビームライフルの弾が向かって行く。

「!!させるか!!」

先程までの算段など忘れ、全速力でヘリの前まで向かうと、GN粒子の膜を張って赤い凶弾を防ぐ。
だが、防ぎはしたものの、ユーノはヘルメット越しに片手で頭を押さえる。

「やっちゃった……ティアリアに知れたら大目玉だな。」

しかし、後悔してももう遅い。
機動六課の隊長陣、つまり、自分が帰ってきたときにソリッドを見ている人間に見られたのだ。
実際、はやてやフェイト、そしてなのはがこちらを呆然と見ている。
だが、

「気にしてもしょうがないか……ソリッド、ミッションを続行する。」

呆ける仲間や街の人間をよそに、ユーノはソリッドを弾丸が飛んできた方向へ向ける。
すると、街からある程度離れた廃墟でGN粒子の反応を検知する。
しかし、視界にとらえてもいい距離なのにもかかわらずその姿はどこにも見当たらない。
それでも、ユーノは慌てなかった。

「ヘッタクソな狙撃で街を壊してくれちゃって……おまけにやられる覚悟もない。ジンクスどころかMSに乗る資格なんてないな。」

ソリッドはライフルを抜くと、何もなさそうなところへ向かって一発だけ光を放つ。
廃屋の屋上を貫くと思われたその一撃は、見えない何かに当たる。

「大方、ガンダムの光学迷彩を応用したんだろうけど、赤外線カメラで見てばれるようじゃ三流の仕事だね。」

光を屈折させて隠れていたジンクスが胸に開いた穴から火花を散らしながら出現し、仰向けに地面に倒れていき、地上に落ちた瞬間に爆散した。

「ソリッド、ファーストフェイズ終了。引き続きセカンドフェイズに移行する。」

ユーノは右手を操縦桿から離して握っては開くを何度か繰り返す。

「ブランクかな……上手く動かせないな。」

いくら魔導士として実戦を続けてきたとはいえ、MSの操縦からは4年間も離れていたのだ。
全盛期の動きはそう簡単には取り戻せない。

「……ま、そこのところはこれからどうにかするしかないか。」

ユーノが一息ついた時、それは起こった。

(助けて!!)

「!」

ユーノの頭の中に幼い少女の声が響く。

(痛いよ!!誰か助けて!!)

少女の必死の叫びがユーノの頭を突き刺してくる。

「っつぅ……そこか!」

ソリッドが振りむいた瞬間、こちらに向かってきていた七機のジンクスからの一斉射撃が雨あられと降り注いでくる。

「おっと!!」

ユーノは赤い嵐を上空に舞い上がって避けると、真ん中の一機へライフルを発射するが、あくまで牽制のためであり、当てる気はない。

「セカンドフェイズは人質の奪取か……。どれに乗ってるかわからない以上、下手に攻撃するわけにもいかないね。」

おそらく先程念話をしてきた少女が人質なのだろう。
どれに乗っているのかはわからないが、はっきりと彼女の感情が伝わってきた。
恐怖と痛みに支配され、必死に助けを求めている。
それがユーノにミッション云々を関係なく彼女を助けたいという思いを呼び起こした。

(大丈夫!?)

ユーノはとりあえず助けを求めてきた少女に念話で語りかける。
だが、それは逆効果だった。

(!!?いやぁぁぁぁぁっっ!!こないでぇぇぇぇぇ!!)

「っ!?グァッ!!」

少女の拒絶の言葉とともに、ジンクスたちは先程までと違い、射撃を集中させてソリッドを攻撃してくる。
ユーノはGNフィールドを張って対抗するが、攻撃が一点に集中していたため、最大出力のフィールドでも抜かれてしまう。
ユーノは一旦距離をとって再度少女とのコンタクトを図る。

(お願い、怖がらないで!!)

(いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

しかし、ユーノの思いと裏腹に、少女の拒絶の言葉とともに再びジンクスたちが襲いかかる。
ビームサーベル、ビームライフルとさまざまな攻撃で攻めたてられ、避けるだけで精いっぱいだ。

「く…そ……っ!!」

一機一機の能力はガンダムには届かないが、集団で来られるとやはり厄介だ。
遂にユーノは一機のジンクスに鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。
そして、それを待っていたかのように残りのジンクスたちがビームライフルを構える。

「!?こいつら…」

ユーノが回避行動を取ろうとしたときにはもう遅かった。
六方向から放たれた赤い銃弾はジンクスを穿ちながらソリッドにも降り注ぐ。

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

ジンクスの爆発に巻き込まれたソリッドはきりもみしながら地上に落下していき、大きな音とひびを作り、動かなくなる。
幸い、致命傷となるような損傷はなかったものの、中にいるユーノへのダメージは深刻だった。
ヘルメットのバイザーは割れ、墜落の衝撃で頭を打ったせいで額から出血を起こしている。
そんな状況の中でも、ユーノはある仮定を形成していた。

(もう…間違いない……。相手は無人機、それも、あの子が何らかの術式を使って操縦させられている……)

でなければ仲間ごと敵を攻撃するなんていかれた行動の説明がつかない。

(でも、わかったところで僕には何もできない……)

体に力が入らない。
意識が遠のいていく。
自分に向けてジンクスたちがとどめをさすべく銃口を向けているが、もう何もできない。

(ごめん……みんな……)

ミッドの仲間と異世界でできた仲間の顔が浮かんでは消えていく。
走馬灯に浸っているユーノだったが、それは唐突に終わりを迎えることとなる。

(あきらめんな……)

(……?)

(お前も、刹那も……生きて、変わらなくちゃいけないんだ……変われなかった、俺やエレナたちのためにも……)

(……そうだ。)

ジンクスたちの持つライフルの銃口に禍々しい光が溜まっていく中、ユーノの目に再び闘志がともる。

(だからお前は……)

(僕は……!)

次の瞬間、ジンクスたちからビームが放たれる。
だが、

「戦うんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ソリッドはビームが着弾するより速く空へと舞い上がり、一機のジンクスの頭を斬りおとして沈黙させる。

「……ありがとう、ロックオン。僕は戦う……。きっと、刹那たちも変わるために、守るべき者のために戦っているはずだから!!」

ユーノは流血しながらも猛攻をかわし、ジンクスたちを見比べて攻略の糸口を探す。
すると、

「あれは?」

一機のジンクスの額の部分に青く光る宝石が設置されている。
拡大して見ると、その正体がはっきりとわかった。

「ジュエルシード!?」

封印処理はされておらず、無理やり力を引き出されているせいでいつ暴走してもおかしくない状況だ。
おそらく、あの機体に少女は乗せられているのだろう。

「待ってて……!」

ユーノはジンクスたちの弾幕を潜り抜け、ジンクスと接触し回線を開く。

「君!大丈夫!?」

『痛いよぉ……!怖いよぉ……!』

少女は目の前にいるユーノに気付いていないのか、先程と変わらず泣いたままだ。
そんな彼女を見たユーノはヘルメットを脱ぎ捨てると優しい微笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ……僕が君を守る、絶対に助けてあげる!」

『ふぇ……?』

ユーノの穏やかな声に少女は泣くのをやめてモニターを見る。

(あ……)

その時、少女のオッドアイにははっきりとあるものが見えていた。
瑠璃色の大きな翼が、目の前の男の背中から生えている。

(天使さん…?)

少なくとも、少女にはそう見えた。
大人が見れば百人中百人が違うと答えるだろうが、それでもこの時から、この少女にとってユーノは天使となった。

「お名前を教えてくれるかな?」

『ヴィ…ヴィヴィオ…』

かすれた声でヴィヴィオはユーノの問いに答える。
それを聞いたユーノはにっこりと笑う。

「ヴィヴィオちゃんか……。じゃあ、ヴィヴィオちゃん、少しの間待っててね。怖いの全部やっつけちゃうから!」

『…!うん!』

ユーノの力強い笑みに安心したヴィヴィオは大きくうなずく。

「よし、それじゃ……いくよ!!」

ユーノはそう言うとヴィヴィオの乗るジンクスから一気に離れ、ソリッドに逆さまの状態でライフルを構えさせる。
ジンクスたちもヴィヴィオを巻き込まないように攻撃していなかったが、ソリッドが離れた瞬間に攻撃姿勢をとる。
だが、

「遅い!!」

ソリッドのライフルから放たれた桃色の光弾が一機のジンクスの胸部ごと背中についていた疑似GNドライブを撃ち抜く。
赤い粒子をまきちらしながら爆散した味方機に動揺すらしないAIたちは一斉にビームサーベルを抜いてソリッドに襲いかかる。
だが、

「刹那ほどじゃないけど、接近戦は僕の十八番だよ!!」

ユーノはソリッドを元の姿勢に戻すと、ライフルを上空に投げ上げあげ素早く腰のビームサーベルを抜き放ち、左から迫っていたジンクスの腰に見事に命中させる。
そして、急加速で一気に接敵するとビームサーベルの柄を握って真横に振り抜く。
ジンクスは上半身と下半身を切断され、力なく地上に落ちていく。
そんな中、ソリッドの後ろからもう一機接近してくる。

「バンカーモード。」

ユーノはブレードモードだったアームドシールドをバンカーモードに戻すと、そのままひじから突き出た刃を後ろから迫っていたジンクスの頭に突き刺す。
ジンクスは壊れたおもちゃのように細かく手を震わせていたが、アームドシールドがブレードモードに戻る時にその回転する刃で頭から下を斬り裂かれ、赤いラインから火花を散らしながら落ちていき、地上に到達する前に爆発した。
それを見ていた残り二機は、直列に並んでソリッドへと突進する。

「少しは学習したみたいだけど、その陣形にしたのは失敗だったね。」

ユーノは再びアームドシールドをバンカーモードに戻し、こちらに向かってくるジンクスたちに突進していく。

「後ろにいるやつごと撃ち抜く!止められるものなら……」

ソリッドは右腕を大きく後ろに振りかぶる。
対するジンクスもビームサーベルの切っ先を突き出しながら突進してくる。

「止めてみろっ!!」

二つの攻撃が交差し、しばしの沈黙が場を支配する。
だが、それはジンクスの胸が巨大な突起に刺さって軋む音で破られる。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ユーノはそのままペダルを踏み込み、ソリッドを加速させていくと後ろにいたジンクスも一緒に上空へと押し上げていく。

「GNバンカー、バーストッ!!」

アームドシールドから猛烈な瑠璃色の輝きが放たれた瞬間、ジンクスたちは胸に二つの穴を開けてさらに上空へと舞い上がっていく。
そして、ある一定の高度に達したところで赤い粒子の花を咲かせた。

ソリッドは上から落ちてきたライフルをキャッチすると、ヴィヴィオの乗っていたジンクスの方を向く。
せめてヴィヴィオだけでも逃がそうとしているのか、その場から離れていっている。
だが、

「甘いな。僕は成層圏を狙い撃つ男の弟子だよ!」

ユーノはゆっくりとソリッドにライフルを構えさせる。

「ヴィヴィオちゃん、少し揺れるけど我慢できる?」

ユーノの言葉にモニターの奥のヴィヴィオはこくんとうなずく。

「うん、君は強いね……」

ユーノは言葉でヴィヴィオを安心させながら、最低の威力にセットしたライフルで狙いをつける。
狙うは頭部と胴体の付け根。
下手をすればジュエルシードを暴走させて次元災害を発生させる可能性もあるが、失敗はしない。

「狙い撃つ!」

ユーノが引き金を引いた瞬間、ジンクスの首元を細い光が貫く。
ジンクスはしばらくは進んでいたが、しばらくすると四つの目から光が消え、徐々に高度を下げていく。
ソリッドは素早くジンクスを抱えて静かに地上に降ろし、外からの操作でコックピットのハッチを開ける。

「ヴィヴィオちゃん!!」

ユーノもハッチを開けて外に出ると、ジンクスの中にいたヴィヴィオのもとへ向かう。
気絶していた彼女の拘束器具を外し、ユーノは両腕で抱き上げてコックピットの外に向かう。

「う……?」

陽の光に照らされて、ヴィヴィオは眩しそうに眠りから覚める。

「もう大丈夫だよ……よく頑張ったね。」

「天使…さん……っ!!」

ヴィヴィオの目から涙がこぼれおちていく。

「う…ひっく……っわあああぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

泣きじゃくるヴィヴィオをあやすユーノだったが、目の前のジンクスとソリッドのことを思い出す。

「……どうしよ、これ?」

ユーノの呟きはヴィヴィオの泣き声にかき消され、文字通りとんでもなく大きな悩みの種だけが残ることとなった。





ユーノがヴィヴィオを救出する場面を、遠くから見ている人影があった。
少し頬がこけているが、屈強な体つきをした男が右手に槍を、そして左手には青い球体を持っている。

「助けなくてよかったのか?友なのだろう?」

槍を持った騎士、ゼスト・グランガイツは手の平の上の球体にたずねる。

「あいつならあれくらいはきりぬけられる。それに、今は互いになすべきことがある。いつもそばにいるのが仲間とは限らんさ。」

「……うらやましいな。俺はレジアスの近くにいたのに、あいつが何を考えていたのかわからなかった。だが、お前と彼はどれほど離れていても互いに信頼できている……」

ゼストの暗い顔を見た青い球体、967は目を悲しげに点滅させる。

「…そろそろ行こう。ここにもすぐに局員たちが来る。」

「そうだな…」

ゼストは魔法陣を展開し、合流ポイントへの転送の準備を進める。

「レジアス……俺たちの道は、もう一度交わる日が来るのか……?」

ゼストと967、たがいに友に想いを馳せ、それぞれの戦いに身を投じていく。
彼らはその決意を抱きながら、遠く離れた場所へと消えていった。







天使を取り戻した守護者
そして、悲壮な決意もまた再誕の声を上げる





あとがき・・・・・・・・・・という名の鬱

ロ「……第9話でした。」

ユ「あの……どうしたの?やっと僕をガンダムに乗せられるって書き始めは喜んでたのに。」

シ「なんでも何とか00の劇場版の公開日に休みを作ったのに急用ができて観に行けなかったそうだ。ちなみにいまだに見ていないらしい。」

ヴィ「でも、そのうち観に行けるんじゃ…」

ロ「……今週も予定がたくさん詰まっています…」

ユ・シ・ヴィ「「「………………………………」」」

ロ「あははははは…………まあ、十月までには観に行けるよ……俺はそう信じてる。そうでなきゃ世の中おかしい……」

ユ「え、え~、ロビンが本当に鬱なのでさっさとゲストを呼んで場の空気を明るくしたいと思います!」

ヴィ「今回のゲストはソレスタルビーイングの戦況予報士、the 酒豪!スメラギ・李・ノリエガさんだ。」

酒「どうも、ちなみに作者が鬱なのは友達が先に見に行って自慢してきたからなのも理由の一つよ♪」

ロ「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

シ「……頼むからこれ以上追いこんでやるな。本当に目がヤバい感じになってるから。」

酒「あら、楽しければいいじゃない。」

ヴィ「ドSだ!!しかもドSで巨乳だ!!」

ユ「ヴィータ、その発言はいろいろまずいから控えるように。いくら自分の胸がまな板……」

ヴィ「ギガントシュラーーーーク!!」

ユ「ひでぶっ!?」

シ「ユーーーーノーーーーーー!!!?」

酒「さあ、血の海が出来上がったところで解説にゴー!」

シ「オイッ!!無視するな!!どうするんだこれ!?」

酒「今回のメインはフォワードVSフォン+ルーテシア軍団とソリッドの戦闘ね。」

ユ「僕の……活躍………いかがでした……?あれ……?スメラギさんが三人に見える……」

ヴィ「今回はエリオのオリ魔法が出てたな。つ~か、あれ反則じゃね?」←ユーノのことを超無視

酒「だから反動でデバイスが壊れて、エリオ君もそこそこダメージ受けてたんでしょ。」

シ「しかし今回は長かったな。余分なところを省いてこれか。」

ユ「そう。だからこれ以上長くなるとまずいからさっさと次回予告に行くよ……。あれ?なんか目の前が赤い……」

ヴィ「遂にソリッドを取り戻したユーノ。」

シ「しかし、仲間たちが自分を疑っているとわかっていても機動六課にとどまる道を選ぶ。」

酒「そんな彼に、ベルカ教の教会で運命の出会いが訪れる。」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」




ロ「なんでだ……せっかく必死にやること片づけて時間作ったのに……なんであのタイミングで厄介事が……ぶつぶつ…………」



[18122] 10.少女と母親、そして……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/17 12:06
西暦2304年 地球

少年は必死だった。
最近MSの操縦にもようやく慣れ、自分なりに工夫も重ねて何とか普通のパイロットレベルなら手玉に取れるようになった。
だが、この瞬間に相対している相手は違う。
一級品の狙撃能力に自分の技術など及びもしないほどの豊富な戦闘における経験値。
使っている機体こそ何の変哲もないヘリオンだが、明らかにこちらが押されている。

『ほらほら!!そんな調子じゃすぐにつかまっちまうぞ!!』

「クッ!!」

正確な射撃をかわしながら少年は現在自分が操っている機体の特徴を思い出す。
近接武器は装備されてはいるが、それはこの機体の真骨頂ではない。
この機体、デュナメスの最大の特徴は額に備え付けられたカメラアイによる正確無比な狙撃。
本来ならハロに姿勢や防御の制御を任せるのだが、今はそのハロがいない。
だが、それだけで狙撃ができないわけではない。
敵の攻撃で狙いが付けられないのなら、敵の攻撃が届かないところから狙い撃てばいい。

「これでどう!?」

少年はデュナメスの腰のミサイルを発射して距離をとると、額のカメラアイを開いて狙撃の態勢をとる。

狙撃をするときは焦ってはいけない。
とにかくじっくりと絶対に相手をとらえることができるその瞬間を待つのだ。
だが、

「クッ……!」

相手は狙撃の名手にして自分の師匠。
こちらの浅はかな考えなどお見通しだ。
細かく動きながら地形を盾にどんどん接近してくる。

「はぁはぁ……!」

あと少しで向こうの攻撃もこちらに届くようになる。
その重圧が重くのしかかってくる。
そして、少年はそのプレッシャーに打ち克つことができなかった。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

渾身の叫びとともに引き金を引く。
だが、狙いの甘かった弾丸はヘリオンのすぐ横をかすめて空に消えていく。
そして、代わりにヘリオンの放った弾丸がデュナメスをとらえる。
その瞬間、少年の前のディスプレイに『You Lose』の文字が浮かぶ。

『ここまでだ。』

目の前の光景が消えると、少年はシミュレーターの中からはい出してくる。
うなだれる彼の前にはひょうひょうとした笑みを浮かべる彼の師匠がいる。

「お前は技術面ではもう問題ないんだがな……メンタル面がまだ甘いな。」

「はい……」

その言葉にいっそう暗い顔をする弟子を見て、彼は慌てる。

「おいおい、そんなにへこむなよ。今回はお前にとって不慣れなデュナメスのプログラムでやったんだ。狙撃以外はもう一人前だからそんなにへこむな!」

「……っ!はい……」

慰められるとさらにつらい。
少年はとうとうポロポロと涙を流し始める。

「ダ~~~~!!泣くな!!頼むから泣くな!!」

「あ~、ロックオンがまたユーノのこと泣かした~。」

遠くから赤い髪の少女がからかう。
それに気付いた少年の師匠はすぐに逃げ出す彼女を追いかけ始める。
それがあまりにもおかしくて、少年は泣いていたことも忘れてクスリと笑う。
そして、こんな日々がいつまでも欲しいと願ってしまう。
だが、彼の未来に待っている現実は残酷なものだった……




聖王教会 庭園

ユーノが目を開けると、その視線の先に広がっていたのは緑の葉とその間から降り注いでくる陽の光だった。
ベンチの背もたれに寄りかかって寝ていたせいで、いつの間にか頭が上を向いてしまっていたようだ。
ユーノは頭を起こすと、二、三回横に振る。
ふと足元に何かの感触を感じてそこを見てみると、空になったビールの缶が二本転がっていた。

「……また飲んじゃったな。」

隊舎からかなり離れた聖王教会から、バイクなしでどうやって帰ろうかユーノは寝起きでぼうっとした頭で考え始めるのだった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.少女と母親、そして……

ジンクスに乗っていた少女、ヴィヴィオを助け出した後、ユーノはジンクスの額についていたジュエルシードを回収した。
彼が手にした瞬間、暴走しかけだったそれは急速に安定した状態に戻ったものの、ユーノが首にかけているジュエルシードと同様に封印処理を受け付けなかった。
しかし、気にはなったがこのままここにいるわけにもいかず、ジンクスたちを念入りに破壊したのち、ソリッドに乗ってその場を後にした。
その時、ヴィヴィオは安全なところに置いていこうと思ったのだが、よほど怖い思いをしたのかユーノを離そうとせず、仕方なく一緒に連れていくことにした。
ソリッドの隠し場所には苦労したがちょうどいい場所を見つけ、そこに隠しておくことにした。

その後、はやてたちと合流してヴィヴィオを聖王教会に預けることにしたユーノだったが、内心複雑だった。
おそらく、はやてたちは自分がソリッドに乗っていたことに気付いているだろう。
だが、はやてたちはそのことについて言及してこなかった。
あえて追及しなかったのか、気付いていなかったのかはわからないが、ある事実だけは変わらない。
大切な友人たちを裏切り、血に染まった道を再び歩まなければならない。

「……帰ろう、地球に。」

自分はもうここにいていい存在ではない。
向こうに戻って自分に何ができるかはわからないが、それでもあの戦いを引き起こした自分にはこの命が尽きるまであちらの世界を見届ける義務がある。
だが、

「そう……まだこっちでやらなきゃいけないことがある。」

ジェイル・スカリエッティ
天才的な科学者にして、最悪のテロリスト。
表向きにはそうなっているが、ユーノにはどうしてもそうは思えない。

「間違いなくやつには何か別の思惑がある。」

それを知るためにここに来たのだが、はやてたちから話し合いに参加することを拒絶された。
だが、ある意味それははやてなりの気づかいなのだろう。
彼女の友人、カリム・グラシアの能力プロフェーティン・シュリフテンを正しく解析できれば自分が一体何なのかがあの面々の前ですべて明らかになるのだ。
ユーノとしてもそんな場に居合わせるのは少々具合が悪い。

「まあ、やることは一つだ。」

ユーノは隣に置いてあるコンビニのレジ袋の中から三本目の缶ビールを取り出してプルタブを開けて口元へ持っていく。
苦みばしった液体で自分の抱える矛盾や悩みを胃の中へと押し込んでいき、三分の一ほど中身を飲んだところで飲み口を離して大きく息を吸う。

「紛争の根絶……そして、フォンから無理やりにでも向こうに帰る方法を聞きださないと。」

そう呟くと、再びビールのさわやかなのど越しを味わい始めた。






聖王教会 カリムの部屋

カーテンが引かれ、暗くなった部屋の中にモニターの明かりだけが煌々と輝いている。
そこに映っているのは先日の事件の際に現れた機械天使。
はやてたちにとっては四年ぶりの再会といったところだろうか。
だが、それを歓迎する気にはとてもなれない。

以前、ユーノに解読を頼んだ予言を書き換えるように現れた新たな予言。
それを見たはやては本来このことを伝える気のなかったなのはやフェイトにも話した。
それを聞いた二人、とくになのはは青ざめた顔でその場にへたり込んでしまうほどのショックを受けてしまった。

「はやて、本当にこれにはユーノが…」

クロノはテーブルに肘をつき、口元で手を組んだ状態ではやての方を向く。
何とか冷静でいようとしているのだろうが、明らかに暑さからきているものではない汗が額にぽつぽつと浮かんでいる。

「クロノ、少し落ち着いて……」

「落ち着いてなんていられるか……!」

フェイトの一言にクロノは声を震わせる。

「親友がまたいなくなってしまう……いや、それどころか僕たちの敵になるかもしれないんだぞ……落ち着いてなんていられるか……!」

「クロノ提督。」

それまで黙っていた長髪の女性が口を開く。

「今、ここにいる人間であなたと同じ想いを持たない者はいません。ですが、あなたが揺らげば、彼を救うことは難しくなります。そのことをお忘れなく。」

クロノはハッと息をのみ、しばしの間目を閉じた後、いつもの冷静さを取り戻す。

「申し訳ありません、騎士カリム。」

聖王教会の騎士、カリム・グラシアは厳しい顔から一転して柔らかな笑みをクロノに向ける。

「カリム、ありがとな。ユーノ君はこのことを知ったら間違いなく私たちのもとを離れていってまう……いや、ユーノ君のことやからたぶん私たちがどこまでつかんどるかおおかたの見当はつけとるやろうけどな。」

はやてがこの場にユーノを呼ばなかった理由。
それは、機動六課設立の前に出現した預言がはやてたち、とくになのはにとってあまりにも酷なものだったからだ。

「騎士カリム、やはり預言は…」

「……おそらく、間違いないかと。」

フェイトの一縷の希望はカリムの否定の言葉で打ち砕かれてしまう。
カリムはモニターを切り替えて件の預言をその場にいる全員に改めて見せる。

「司法の地、腐敗がはびこりし地に狂気を纏う者、寡の地より来たる。狂気に触れし守護者、自らの使命に目覚め、天使とともに司法の防人のいびつなるを撃ち砕かんとす。司法の地焼けおちし後、白き騎士、墜ちしゆりかごが揃いし時、天使は赤き光の衣を纏い、寡の地へと帰らん。」

カリムは部屋の明かりをつけてはやてたちの顔を見回す。

「これが、以前の預言を上書くように出現した新しい預言です。その後もこの予言は全く変化を見せません。それどころか、さらに強固なものになっていっているようにすら見えます。」

「ほかの付属的に表れた予言については?」

フェイトの言葉に反応するように細い短冊のようなものがカリムの周りに浮かぶ。

「かなり断片的ですが、『戦車』、『雷電』、……これらが頻繁に登場していることから、今回の件においてこの二つに当たる何かが大きくかかわって来るのではないでしょうか?」

「戦車……」

その言葉を聞いた時、なのははフォンのことを思い出す。
彼の使っている武器の形態のもととなっている機体の一つはその名をタロットの戦車のカードからとってきている。
だとすると、やつを押さえさえすれば今回の預言を覆すことができるのではないか。

「なのは?」

「え?」

なのはが顔を横に向けると、心配そうに自分を見つめる親友の顔があった。

「ユーノが心配なのはわかるけど、あんまり根を詰めすぎるとよくないよ。」

「うん、大丈夫。私は何ともないから。」

何とか心配症のフェイトを安心させようと笑顔を見せるが、どうしても体の震えが止まらない。
やっとの思いで取り戻したユーノとの幸せな日々。
それがいまにも崩れ去ろうとしているのだ。

「高町空尉。」

不意にカリムに名前を呼ばれてなのはそちらを振り向く。

「あなたと司書長がいつ式を挙げてもいいようにいつでも会場は用意しておきますよ。ああ、それと招待状も配らないといけませんね。」

温かな笑みとともに送られた言葉。
それは、カリムからの遠回しのエール。
ユーノと過ごすこの時間を壊れないように願う彼女の気持ちだった。

「僕たちの時にはユーノを呼べなかったからな。君たちの時は僕も仕事をほっぽり出してでも参加させてもらうよ。」

クロノが子供のころに戻ったように笑う。

「私もなのはちゃんの花嫁姿を楽しみにしとるよ。……あとできればユーノ君の花嫁姿も…」

はやてははやてで何やら盛り上げるための算段を練っているようだ。

「みんな……」

なのはの瞳から思わず涙がこぼれおちてくる。
みんな自分たちの幸せを心から願ってくれている。
それがなのはの心を温かくしてくれる

「私も応援してるよ、なのは。だから、絶対ユーノのことを守り抜こう。」

「うんっ……!うん…!」






聖王教会 庭園

「プハァッ!」

本日三本目の缶ビールを飲み干したところでユーノはよく手入れされた花壇を見る。
色とりどりの花が咲き、よく見ればまだ季節でないため花をつけていない茎もあるのだが、その緑がまた鮮やかな花の色を引き立てている。

「こんなところで花見ができたら最高だろうな…」

完全に酒飲みの思考回路だが、本来なら聖王教会には酒類の持ち込みは原則禁止である。
だが、シャマルに隠れてアルコールを補給(?)するために道中コンビニによって缶ビールを買ったユーノはそんなことなどどこ吹く風でグイグイ飲んですでに三本。
そして、残っていた最後の一本に手をかけようとしたその時だった。

「?」

ベンチの背もたれの隙間から誰かがクイクイっと服を引っ張っている。
ユーノは何事かと思ってベンチの後ろを覗いてみる。
すると、

「天使さん!やっと見つけた~!」

「ヴィ、ヴィヴィオちゃん!!?」

ここに保護されていたヴィヴィオがクマのぬいぐるみを抱いて無垢な笑みでユーノの顔を見上げている。
ユーノは慌ててビールを隠すとベンチの裏に回ってヴィヴィオの視線に合わせて屈む。

「どうしてここに!?教会の中にいたんじゃ…」

「お外に天使さんがいるのが見えたから探しに来たの~。」

「探しにって…」

はっきり言ってこれはまずい。
ヴィヴィオは人造魔導士で、おそらく何か特殊な能力を持っている。
管理局の人間からしてみればこれ以上ないくらい危険なその彼女が勝手に出歩いているのだ。
しかし、

「天使さん、ヴィヴィオ悪いことしちゃった?」

「う……」

泣き出しそうな顔で自分を見上げる幼子の瞳にはさすがのユーノも勝てない。

「そんなことないよ、僕もヴィヴィオちゃんに会えてうれしいな。」

「ホント!?」

パアッと顔を輝かせるヴィヴィオにユーノは苦笑しながらも、彼女の喜ぶ姿に安堵をおぼえる。
だが、それと同時に激しく胸を締め付けられる。

(いままで、僕は大勢の人からこの笑顔を奪ってきたんだ……そして、これからも……)

「?天使さん?」

「あ、ああ、ごめん。なんでもないよ。」

心配そうに自分の顔を間近で覗き込んでいたヴィヴィオに気付いたユーノは再び笑顔を作って彼女を安心させようとする。
しかし、

「天使さん、なんで泣いてるの?」

「え?別に泣いてなんて…」

「ううん、泣いてるよ。お顔は泣いてないけど、ここの奥の方で泣いてる。」

そう言ってヴィヴィオはユーノの胸に手を当てる。

驚いた。
こんな小さな子が、自分の抱える苦悩を見透かすとは思っていなかった。
いや、むしろ純粋で剥きだしの心を持っているヴィヴィオだったからこそ、ユーノの抱える悲しみに気付けたのかもしれない。

ユーノはよろよろと後ろの木に寄りかかると、悲しい笑顔でヴィヴィオに独白を始める。

「ヴィヴィオちゃん……僕はね、本当はどうしようもない人間なんだ。友達や、好きな人が自分のことをどれだけ気にかけてくれているか知ってるくせに、その想いを裏切っちゃったんだ。そのくせ、自分のしていることには後悔してばかりの、本当にどうしようもないやつなんだ……」

「天使さん…」

ヴィヴィオはユーノのそばまで歩いていき、ギュッと手を握る。

「ヴィヴィオ、難しいことはわかんないけど、天使さんがすごく優しいってことだけはわかるよ。だから泣かないで。」

「そんなこと…」

「だって、天使さんはヴィヴィオを助けてくれたもん!守ってくれたもん!」

舌っ足らずな言葉で必死にユーノに語りかけるヴィヴィオ。
その一言一言がユーノの冷え切った心を温めていく。

「ありがとう……」

優しく彼女の頭に手を置いたときに感じる体温。
今、彼女が生きているという証。
自分が守った温かさだ。

「本当にありがとう、ヴィヴィオちゃん。……これで、僕も前に進める。」

そう、たとえどれほど蔑まれることになっても、無残な最期を遂げることになっても、なのはたち、そしてこの子の未来を守るために戦う。
その決意を、自分が救ったこの小さな命が後押ししてくれた。

「進むって?」

ヴィヴィオは何のことかわからずに首をかしげる。
その仕草があまりにも微笑ましく、ユーノはクスクスと笑う。

「これからもヴィヴィオちゃんのことを守ってあげるってことさ。」

「ホント!?」

「ただし!」

ユーノはヴィヴィオの前に人差し指を持っていく。

「僕とソリッドのことは誰にも言わないこと。それと、僕のことは天使じゃなくてユーノって呼んでほしいな。」

「そりっど?」

「あのおっきいロボットのこと。」

ユーノの言葉でヴィヴィオは合点がいく。

「あのおっきい天使さん!」

「だから天使じゃないんだけど……ていうか、なんでヴィヴィオちゃんはなんでぼくのことまで天使って言ってるの?」

「ふぇ?だって、天…ユーノさんは背中に羽があるんでしょ?だったら天使さんだよ♪」

「…………………………………」

ユーノは恐る恐る自分の背中を見てみる。
が、

「ヴィヴィオちゃん、羽なんてないけど?」

「今は隠してるんでしょ~?」

「いや、隠してるも何も…」

羽などないと言おうとしたが、ヴィヴィオの期待のこもった視線を裏切るわけにもいかずについうなずいてしまう。

「やっぱりそうなんだ!天使さんって大変なんだね~!」

(ああぁぁぁ~~~!!!!!僕のバカァァァァァァァァァ!!!!!)

自分でもここまで子供に弱いとは思っていなかったユーノははしゃぐヴィヴィオをそっちのけで芝生の上で頭を押さえながら悶絶する。
夢見心地の子供と、そのそばで転げまわる大人という画はかなりシュールだ。

「はぁ……」

ユーノは気を紛らわせるためにベンチのそばまで歩いていき、最後のビールを手にとって開けようとする。
その時、

「スクライア司書長、その子から離れてください!!」

「へ?」

強烈な風が駆け抜け、ユーノの持っていた缶ビールを真ん中でパッカリと斬り裂く。
その瞬間、ビールの炭酸が一気にはじけてユーノの顔が黄色い液体でずぶぬれになってしまう。

「大丈夫、ユーノさん?」

とてとてとユーノの足元まで抱えよってきたヴィヴィオに原因は君だと言うわけにもいかず、ユーノは貴重な最期の一本を自分の涙を隠すために使うはめになったのだった。






機動六課隊舎 食堂

この日、先日の事件で負傷したエリオはシャマルによる治療を受けていた。
幸い、彼も相棒のストラーダも致命的な傷はなく、今日から訓練に参加しようとしたのだが……

「はい、エリオ君、あ~ん。」

「キャ、キャロ……」

隣でスプーンにのせたじゃがいもを食べさせてくれているキャロに脱臼した肩を包帯で固定され、半ば強引に休まされてしまった。
仕方なく午前は事務処理をこなしていたのだが思ったより長引いてしまい、こうして遅い昼食をとっているのだが、そこでもキャロの看護が待っていた。

「どうしたの?ちゃんと食べないとよくならないよ。」

「キュクキュクゥ!!」

そう言ってふくれっ面をするキャロとフリードだが、エリオが食事をとりにくい理由はほかでもない彼女にあった。

「クスクス……」

「フフフ……」

「………………////」

通り過ぎていく人間全員が自分たちを見てクスクスと笑いながら去っていく。
中にはエリオに『頑張って♪』と声をかけていく者までいる始末だ。
年頃の子どもとしてはかなり恥ずかしいのだが、善意でやってくれているキャロにそんなことを言うわけにもいかずにこうして耐えているわけだ。

「キャロ、ちょ、ちょっと恥ずかしくないかな?」

「?なんで?」

(………駄目だ……)

何度かこうして遠回しに意思表示はしているのだが、一向に伝わる気配がない。
こうなればエリオにとっての最終手段、ユーノに何とかしてもらうしかないのだが、

「はい、ユーノパパ、あ~ん!」

「あ…あ~ん……////」

頼りのユーノも向かいのテーブルで聖王教会から連れてきたという子に自分が今味わっている恥ずかしさを味あわされている。

「おいしい?」

「うん、おいしいよ。」

笑顔で答えるユーノだが、顔はゆでダコのように真っ赤で頭の上からは蒸気が噴き出している。
ギャラリーが半分向こうに行ってくれているのでエリオとしては助かるのだが、それでもやはりユーノの助けが期待できないこの状況はつらい。
ユーノもまたかなり恥ずかしいのだが、ヴィヴィオの無垢な笑みに負け、こうして食事を食べさせてもらっている。
なぜこうなったかというと……




1時間前

あの後、ヴィヴィオを追ってやってきた聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラをなだめた後、ユーノについていくと言ってきかないヴィヴィオを連れて帰ってきたのだが、そこで思いもよらぬ波乱が待っていた。

「それで、ヴィヴィオちゃんの引き取り先が見つかるまでどうするんですか?」

「どうすると言われてもな……」

ティアナの質問にシグナムは向こうでなのはとユーノにじゃれているヴィヴィオの姿を見て口ごもる。

「ヴィヴィオは生まれかたが特殊だからな……受け入れてくれる家庭があるかどうか……それに、あの子はユーノとなのはになついている。受け入れ先が見つかってもヴィヴィオ自身が納得してくれるかわからん。」

シグナムの言うとおり、ヴィヴィオのユーノとなのはへのなつき方は尋常ではない。
他の人間に対しては人見知りをするのに、ユーノとなのはに対してはまるで二人の中にある何かに引き付けられるようにべったりだ。

「……とにかく、六課で預かるにしても保護責任者を決めなければな。」

「それ、私にやらせてもらえませんか?」

シグナム達が振りむくと、いつの間にかなのはがそこに立っていた。

「私もヴィヴィオちゃんをここに連れてくるのに賛成しましたから、これくらいのことはしてあげないと。」

「それじゃ、僕は後見人をしようかな。」

「こーけんにん?」

なのはに続いてヴィヴィオを肩車しながらユーノがやってくる。
トレードマークの伊達メガネはヴィヴィオの手に握られており、翠の瞳がレンズを透さずにみえている。

「え~と、つまりね…」

ユーノがどう説明しようか考えているとスバルがとんでもない爆弾を投下する。

「なのはさんがヴィヴィオのママで、ユーノさんがパパってことだよ。」

「なっ!!?」

パパ。
すなわち父親、ダッド、男の親、一家の大黒柱。
ユーノの頭の中を彼が持ちうるありとあらゆる知識が駆け巡るが、そのどれもが的を射ているようでいてそうでないものばかりだ。
それほどまでにスバルの発言はユーノにとって衝撃だった。

「な!?なな、にゃに言っちぇるのスバル!!?」

動揺からかみかみで喋るユーノ。
だが、そんな彼に対しなのはは、

「ヴィヴィオは私がママで、ユーノ君がパパでいい?」

まったく気にせず笑顔でヴィヴィオに確認をとる。
そして、ヴィヴィオも、

「うん!私もなのはさんがママで、ユーノさんがパパだったらうれしい!」

「ちょ、二人とも!!」

二人そろってユーノのことなどそっちのけで話しを進める。
それでも考え直してもらおうとするが、

「ユーノパパはヴィヴィオのこと嫌い…?」

「う……」

いつの間にかなのはに抱かれていたヴィヴィオがうるんだ瞳でユーノを見つめる。

「だめ?」

なのはも泣きそうな顔でユーノに迫る。
そして、難攻不落だと思われていたガンダムソリッド、もとい、ユーノの陥落のときはあっさりと訪れた。

「わかった……わかったから二人とも泣かないで……!」

その瞬間、顔を赤らめてうつむくユーノと、自分の腕の中で喜ぶヴィヴィオに見えないようになのははニヤリとほくそ笑む。

「……あれ、確信犯っスよね。」

「気にするな。いつものことだ。」

ウェンディの質問を一蹴すると、シグナムはうなだれるユーノを放っておいてすたすたと歩いていく。
ティアナ達もしばらくユーノに同情しながらも、自分にも厄介事が飛び火しないようにその場を離れていくのだった。





回想終了

(うう……すごく恥ずかしい…)

午後の訓練に向かったなのはの代わりにユーノがヴィヴィオの相手をしているのだが、こんな恥ずかしいところを大勢に見られるとは思っていなかった。
だが、

「はい、あ~ん!」

「あ~ん。」

小さな手で自分に大きな芋の塊を差し出すこの笑顔を見ているだけで和んでしまう自分がいる。
ただ……

(ウプププ♪立派にパパできとるやん。)

このたちの悪い幼馴染さえいなければなおのこといいのだが。

(……なんの用だい、この腹黒ダヌキ。)

こそこそ角に隠れて笑うはやてにユーノは念話で毒づく。

(いやぁ、私は微笑ましい光景やなぁ、っておもっとるだけやで。あとエリオとキャロもw)

(だったらその手に持ってるカメラはなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

はやての手に握られているのは地球でも最新式のビデオカメラだ。
それを使い、ノリノリでユーノとエリオを撮っている。

(八神部隊長、仕事はどうしたんですか!?)

(部下とのコミュニケーションも上司の大切な仕事ですww)

(仕事しろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!)

上司なのだが、そうとは思えない行いを慣行するはやてにエリオは遂にキレる。
だが、目の前にいるキャロに悟られないように必死で笑顔を取り繕う。

(ムフフフ……こんなええ場面を収められるなんてなんて良い日…)

彼女が喜びで小躍りしかけたその時、はやての手元に桃色の魔力弾が着弾しビデオカメラを破壊する。
ビデオカメラが壊れる音に気付いたキャロとヴィヴィオはびくりと体を震わせてはやての方を向く。

「何してるのかな?はやてちゃん。」

はやての後ろから満面の笑みで歩いてくるなのは。
その周りには無数の桃色の流星が舞っている。

「い、いやぁ、ちょっと、新しく買ったカメラの具合を確かめようと思ってやな…」

「へぇ…そのためにわざわざエリオやキャロを隠れて撮ってたんだ。」

今度は反対側から金色の雷を纏ったフェイトが現れる。
フェイトは綺麗な笑顔ではやての肩を女性とは思えないような力で掴む。

「はやて……あっちでちょっと“お話”しようか。」

「ちょ、痛い!それ友達の肩をつかむ力とちゃうよフェイトちゃん!?あ、痛い!!痛いから!!」

文字通りフェイトに引きずられてその場を離れていくはやて。
それを見送ったなのはは彼女の周りを飛び交っていた魔力弾を消す。

「なのはママのあれ、綺麗だったね!」

「フフフ…ありがとう、ヴィヴィオ。」

(……知らないことを無理に教える必要はないよね。)

あの綺麗な星たちにどれほど凶悪な力が秘められているか知らないヴィヴィオの言葉にユーノは苦笑する。
そんなユーノを見て、なのははクスクスと笑う。

「御苦労さま、ユーノ君。大変だったでしょ?」

「そう思うならもう少し早く帰ってきて欲しかったな。」

「でも、いやじゃなかったでしょ?」

「まあね。さて……」

ユーノは空になった皿の前で大きく伸びをすると、椅子から立ち上がる。

「僕もお仕事に行きますか……エリオ。」

「はい。」

エリオも包帯を巻いた右肩をかばいながら立ち上がる。

「それじゃ、ストラーダの整備、頑張ってね。」

「頑張ってね~。」

手を振る二人に送りだされ、ユーノはメンテナンスルームに向かう。
そしてエリオも、

「いってらっしゃい、エリオ君。」

「キュクゥ~♪」

「いってきます。」

キャロとフリードに見送られてユーノの後をついていく。
それぞれ、自分を見送った者が見えなくなった時、ユーノが口を開く。

「恋人みたいだったね。」

ユーノがいたずらっぽい笑みでエリオの紅潮した顔を見る。
しかし、エリオも負けじと反撃する。

「ユ、ユーノさんだって、本当の親子みたいでしたよ。」

「そ、そう?」

二人は顔を赤らめて廊下を歩いていくが、ここまでくると恥ずかしさよりも自分と一緒にいてくれる嬉しさの方が大きくなってくる。

「それじゃ、お互い彼女の期待に添えるように頑張るとしますか。」

「はい!」







メンテナンスルーム

「う~ん……」

シャーリーはメンテナンスルームにきてから唸りっぱなしだった。
なにせ、腕によりをかけて作ったストラーダがあまりにもあっさりと破壊されてしまったのだ。
コアそのものは無傷だったので、修復は容易だったのだが、これから先もあの強度の敵と渡り合うことになった時に今のストラーダの強度では不安が残る。
しかも、問題はそれだけではない。
エリオが最後に放った一撃は、万全の状態のストラーダでも負担が大きく、やはり今の強度では耐えられるかどうか怪しい。
しかし、

「かといって、強度を追求すると今度は重くなっちゃうからなぁ……ガードウィングのエリオには大きなハンデになっちゃうよ……」

実戦で使う武器の重さは思いのほか重要なファクターである。
ほんの数百グラム重みが増すだけで動きに変化が現れる。
さらに、武器の重心の置き場所、使用者の腕力なども考えなければ十二分に実力を発揮ですることなどできない。

「はぁ~……どうしようか?」

目の前にいるストラーダに問いかけるが、答えは返ってこない。
そんな時、一人もんもんと思考の迷宮に迷い込んでいくシャーリーに助け舟が現れる。

「シャーリー、来たよ。調子の方はどう?」

「おじゃまします。」

「あ!二人ともちょうどいいとこに!!まあ、とりあえず入って入って!」

彼女と同じくデバイスの整備を得意とするユーノ、そして、ストラーダの使い手であるエリオがやってきたのだ。
シャーリーは彼らを歓迎し、現在の状況を伝える。

「なるほどね。まあ、確かに今のエリオの腕力じゃ少しきついかもね。」

出されたコーヒーを飲みながら相槌を打つユーノ。
だが次の瞬間、彼の口から思いもよらない言葉が飛び出す。

「でもまあ、別に重くしても問題ないんじゃないかな?」

「え!?」

「重いって言うのは何もマイナスばかりじゃないってことさ。重い得物っていうのは一度加速させて敵にぶつければその分威力が増すしね。ストラーダには推進機がついてるんだから、それでエリオの動きをフォローしてあげれば十分にいけると思うよ。」

「う~ん……」

ユーノの言うことも一理あるのだが、それでも簡単に決められることではない。
腕を組んで悩むシャーリーにユーノはコーヒーカップから口を離して微笑みかける。

「ま、どうするかはエリオとストラーダ自身が決めるのが一番なんじゃないかな?使うのは僕らじゃなくてエリオなんだし、ストラーダもこれからさきもエリオと一緒に歩んで行くんならいつかはぶつかってた問題だろうしね。」

エリオは砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーを飲むのをやめると、ストラーダのもとまで歩いていく。

「ストラーダ……君はどうしたい?僕は…」

エリオの腹はもう決まっている。
だが、自分の決定でストラーダにかける負担を大きくしてしまうのではないかという不安が幼い騎士の中で渦を巻く。
だが、彼の愛機の答えもまた決まっていた。

〈兄弟、俺はお前が望む力を手にしたい。お前が正しいと思えることを貫ける力…それが俺の望むものだ。〉

「ストラーダ……」

エリオは胸が熱くなる。
背中をしてくれる相棒の言葉。
そして、ユーノと出会った日から自分の中に芽生えていた誰かを守れる力が欲しいという願い。
それが今、彼の中で一つの答えへと結びついた。

「シャーリーさん、強度を上げる方向でお願いします。」

「……いいんだね?」

エリオは深くうなずく。
それを見たシャーリーは眉間にしわを寄せてため息をつくが、すぐにいつもの明るい笑顔を見せる。

「OK!今までよりずっといい使い心地にしてあげるから楽しみにしててね!」

「ありがとうございます!」

腰が九十度に達するのではという勢いでお辞儀をするエリオを見たユーノは残っていたコーヒーを飲み干して立ち上がる。

「どこに行くんですか?」

「ちょっと野暮用がね。ま、強いて言うなら……」

ユーノは鋭く笑う。

「世界を変えるための努力をしに行く、ってところかな。」

「「?」」

不思議そうに顔を見合わせるエリオとシャーリー。
どういう意味かたずねようと二人はユーノがいた場所へと視線を向けるが、そこにはすでにユーノはいなかった。






クラナガン 某港

機動六課の隊舎から数百メートルほどしか離れていないとある港。
使われなくなってかなりの時が経ち、せいぜいフェイトが車で隊舎までの道のりの際にすぐそばを通るくらいだ。

「灯台もと暗し、ってね。」

そう言うとユーノは魔法陣を展開し、海中のあるポイントを転送先に定める。
ユーノは目を閉じ、翠の光に体をゆだねる。
そして、ユーノが目を開けたときにいたのはさまざまな機器に囲まれたコックピットの中だった。
狭い空間の中で器用にパイロットスーツを着ると、ソリッドの光学迷彩を解く。

「ソリッド、出撃する。」






クラナガン沖

本来なら穏やかな風が吹き抜ける海上に、その日常に似つかわしくない喧騒が広がっていた。
大型のタンカーと空中の間でさまざまな色のスフィアが飛びかい、時折爆音と火花が発生する。

「投降しろ!!お前たちは完全に包囲…グァ!!」

「誰が局の犬なんぞにこうべをたれるかよ!!」

必死の抵抗を見せるタンカーの乗組員だが、局員たちは余裕の表情だ。

「仕方ない……おい、ナイトを投入する。全員退避しろ。」

仕方ないという局員の顔はその言葉とは裏腹に非情さを含んだ笑みをたたえている。
しかし、次々に持ち場を離れていく局員たちを見てタンカーの乗組員たちは歓声を上げる。
だが次の瞬間、赤い光がタンカーの近くの海面に着弾して、大きな水柱と水蒸気を発生させる。

「な、なんだあれ!?」

「ば、化け物!!」

太陽光を反射させる三機の白い巨体は、否応なしに見る者に畏怖の感情を植え付ける。
先程までの勇ましさが消え失せた乗組員たちは我先にとその場から逃げていく。
海に飛び込む者、浮遊魔法が使える者は空へと。
だが、どこに逃げても巨人たちの狙いからは逃げられない。
一人の乗組員が海を泳ぎながら上にいる巨人、ジンクスの構える銃口へと振り返ってしまう。

「ひぃ!!」

赤く禍々しい光が自分へと今まさに放たれようとしている。
振りかえった暇を後悔しながら必死で手足をばたつかせるが、人間の泳ぐ速度などたかが知れている。
数メートル進むか進まないかのうちに男は海水とともにあとかたもなく蒸発する。

「わあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

それを見た他の乗組員たちのなかには死の恐怖で狂い、ジンクスを攻撃する者が出てくるが、当然のことながら歯が立たない。
そして、ジンクスのうちの一機がちょうど人間が羽虫を払うように空を飛んでいる人間にその手を振り抜こうとする。

その時だった。
萌黄色の閃光が駆け抜け、ジンクスの左腕を関節からバッサリと斬り捨てる。
さらに、桃色の光が二、三度美しい軌跡を描き、ジンクスの体をバラバラにする。

「……反管理局団体の過激派とはいえ、MSの…いや、GNドライヴの力を人間に向けるなんて!!」

ガンダムソリッドの中から、ユーノはジンクスへと激しい怒りを向ける。

「ソリッド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」

残った二機はソリッドへと射撃を開始するが、その軌道は人工知能特有の単調なものだ。
ソリッドはすぐさま懐に飛び込むと、アームドシールドの切っ先をジンクスの胸へと沈め、縦に振り下ろす。
上半身から下半身にかけて真っすぐ伸びた赤い線の間から光が溢れだして爆発を起こす。

ユーノは撃墜の喜びを感じるでもなく、ただ激しい嫌悪感を持ってジンクスを見ていた。

「機械に引き金を引かせるなんて……!罪の意識すら背負わないつもりか!!」

ユーノはあちらの世界でありとあらゆるMSのパイロットを見てきた。
敵味方はあれど、どのパイロットも己の信念のために戦い、いつでも自らの死を、そして、相手の命を奪う痛みを背負う覚悟を持っていた。
だが、こいつらは違う。
ただ作業的に人を撃ち、無残な死を与えていくだけの存在。
そして、こいつらを使う管理局の人間も、十字架を背負うことを拒絶した。
そんな人間に正義を語る資格などない。

「クソ喰らえだな……管理局!!」

腰から素早くシールドバスターライフルを抜くと、反応の遅れたジンクスの頭を撃ち抜く。
続いて胸に二発。
両腕両脚に一発ずつ当てて消し飛ばす。
そして、高度を下げていく合間も胴体全体が穴だらけになるほど撃ち込み、水柱を上げてからようやく止める。
その後、近くの部隊へ通信文を送ると、ユーノは戦闘の残骸で汚れた海中へとソリッドを沈めていった。





その次の日、新聞記事の一角に海難事故の記事が載った。






機動六課周辺

「ふぅ……少し遅くなっちゃったな。」

心底嫌気のさすものを見せつけられたユーノは沈んだ気持ちを抱きながら電灯で照らされた夜道を歩いていた。
だが、帰ればヴィヴィオとなのはの笑顔が待っている。
そう思うことで自分の中にある迷いややるせなさを薄めて歩いていく。

(そう言えばアルコールがまだ抜けてない状態でガンダムを動かしちゃったけど、これも飲酒運転になるのかな?)

しばらくして、そんな馬鹿なことを考える余裕が出てきたところで思いもよらない人物と遭遇する。

「……よぉ、遅かったじゃねぇか。六課の仕事をさぼってまで出かけるなんざ、相当大切な用事だったんだろうな。」

「…………………………」

初めは暗くて顔が見えなかったが、その声だけで誰がいるのか判別するには十分だった。
電灯の明かりの下に歩み出た声の主は、自分の家族からもらったウサギの人形を乗せた帽子をかぶり、赤いゴスロリドレスとは不釣り合いな大きな鎚を肩に乗せている。

「お前が何を…いや、お前のガンダムがどこにあるかきっちり喋ってもらうぜ。」

少女の姿をした鉄槌の騎士ヴィータはもう一人の家族へと裏切られたことへの怒りと悲しみの込められた鉄槌の先を向けた。









あとがき・・・・・・・・・・・という名の不安

ロ「というわけでヴィヴィオ機動六課へゴー&無理やり戦闘シーンを詰め込んだ第十話でした。そしていきなりですが、正直公開が終わるまでに劇場版を映画館で観れるかどうか不安で不安で仕方がありません。」

ツン2「本当にいきなりでどうでもいいことね。どうせあとでDVDやブルーレイで出るんだからいいじゃない。」

KY「ティアの馬鹿ぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

ツン2「ぐはあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!?どうしてあんたがその反応!?てか今本気で殴ったわよね!?」

KY「マッハキャリバーは起動済みです。」

ツン2「なんでそこまで!?」

KY「スクリーンの大画面で見るからこそ映画は楽しいんだよ!!家で見るのもまたいいけどあの迫力を体感しないなんて人生の四分の一損してるよ!!」

ツン2「なんで四分の一なんて微妙な……つーかそこまでのもん!?」

ロ「同志よ!!」

KY「同志よ!!」

ツン2「………なんかあそこで二人が固い握手をしている間にゲストを紹介したいと思います。今回のゲストはプトレマイオスの操舵士、生き残ることにかけてはプロフェッショナル!?ラッセ・アイオンさんです!」

筋「どうも、ラッセだ。しかし、よくよく考えれば俺もよくあの状況で生き残れたな。疑似GN粒子のせいであとあと大変だけど。」

ツン2「普通ならあそこまでの流れであれは完全に死亡フラグですもんね。」

筋「ロビンもセカンド始まってからあの場面を見たくせに始めは死んだと思ったらしいからな。」

ツン2「いや、それはアイツがアホってだけで……」

ロ「同志よーーーーーーーー!!!!」

KY「同志よーーーーーーーー!!!!」

筋「おい……なんかあそこだけ友○党みたいになってるぞ。」

ツン2「大丈夫、そのうちケ○ヂおじちゃんが何とかしてくれますから。」

筋「しかし、今回はまたひどかったな。まあ、修正する前のは別意味でひどかったが。」

ツン2「これ一体だれ?って言いたくなるくらいなのはさんとユーノさんが壊れてましたからね。というかユーノさんに至っては犯罪行為一歩手前ですからね。」

筋「まあ、あれを掲載したら間違いなくsecond行く前に物語が破綻するな。」

ツン2「まあ、なにはともあれついにヴィータ副隊長に見つかってしまいましたね。というか、たぶん副隊長は最初にソリッド見た時点で気付いてたんだろうけど。」

筋「これから先がどうなっていくか見ものだな。というわけで次回予告だ。」

ツン2「ヴィータ副隊長に問いただされたユーノさんだったが、それでもなお機動六課に残る。」

筋「一時の平穏の中、父として、そして愛する者のためにジェイル・スカリエッティとフォンの二人の真の目的に迫ろうと試みる。」

ツン2「そんなユーノさんに意外な人物が接触を図ってきた。」

筋「では最後に、今回もこのような拙い文にお付き合いいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」










「「同志よーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」

ツン2「あんたらいい加減にしろ!!!!」



[18122] 11.求めるもの、失いたくないもの
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/09/30 22:07
機動六課隊舎

朝食。
一日の始まりを告げ、その日の活力を得るための重要な習慣であり、家族や仲間と楽しく語り合う朝の時間だ。
だが、今日の風景は少々違っていた。
食堂の一角が異様な空気に包みこまれ、誰もがそこを避けて通り、遠くから成り行きをはらはらしながら見守っている。

「ユーノ君、あんまりヴィヴィオを甘やかしちゃ駄目だよ?好き嫌いは今のうちから直していかなきゃ。」

「あんまり無理に食べさせようと余計嫌いになっちゃうでしょ?それに、ピーマンの一個や二個食べられなくても生きていけるよ。」

一方は桃色の魔力を全身から溢れださせ、その向かいには翠の闘気が渦を巻いている。
その間に座っている幼子は自分の両親が何をしているのか分からず首をかしげながらも、こっそりと父親の皿に緑の大魔王のかけらを移していく。
しかし、彼女のたくらみは母親の愛機の手によって阻まれ、すべて自分の皿へとフヨフヨ漂いながら戻っていく。

はれてなのはとユーノの娘となったヴィヴィオ。
しかし、なって早々二人の教育方針は対立した。
……まあ、ただ単にヴィヴィオがピーマンを残したので、なのははそれを食べさせようとし、ユーノは無理に食べなくてもいいと言っただけの話なのだが、この二人だと洒落にならない。
片やエース・オブ・エースにして機動六課最大の切り札。
片や管理局の裏の実力者、ガーディアン。
二人が激突した結果はすでに六課の人間の誰もが知っている。
以前に行われた場所は訓練場だったからよかったものの、たかだかピーマンをどうするかだけでここであれの再現をやられてはたまらない。

「にゃははは……ユーノ君、あんまり聞き分けのないこと言っちゃ駄目だよ?」

〈Set up〉

「ははは……相変わらず強引だね、なのはは。」

〈Start up〉

二人がバリアジャケットを纏った瞬間、食堂にいた人間すべてが青ざめ、神に祈り始める者まで出始める。
だが、二人のいさかいはその原因であるヴィヴィオの手によって終結する。

「パパもママも喧嘩しちゃ駄目!!」

椅子の上で頬を膨らませるヴィヴィオを見た二人はすぐにバリアジャケットを解除して満面の笑みを向ける。

「じゃあ、ちゃんとピーマンを食べようね~。」

「え~……」

「ほら、こうして好きなものと一緒に食べれば大丈夫だよ。」

ユーノの皿に残っていたウィンナーと一緒にフォークに突き刺されたピーマンを見て、しばらく考え込んでいたヴィヴィオだったが、意を決して一口でそれを飲みこむ。
最初は渋い顔をして口を動かしていたが、なんとか喉の奥の方へと追いやる。

「よくできました♪」

「えへへ……」

ユーノに頭をなでられ喜ぶヴィヴィオだが、ほんわかしたそのテーブルの周りははた迷惑な騒動が終結したことで大きく安堵の息をしていた。

「つっ……」

その時、ふいにユーノは頭に包帯が巻かれている箇所を手で押さえる。

「大丈夫?まだ痛むの?」

なのはが心配そうにユーノの肩を支えるが、ユーノはその手に優しく手を置いて答える。

「大丈夫、ちょっと痛むだけだから。」

「もう……お昼からお酒を飲みに行くからだよ。」

「ユーノパパ、シャマル先生があんまりお酒飲んじゃダメって言ってたでしょ!」

呆れて苦笑するなのはと、むくれるヴィヴィオに笑顔で謝るユーノだが、ある人物のいるほうに目をやって悲しげな表情をする。
珍しく一人で食事をとるヴィータ。
黙々と食べ進める彼女はユーノの方を見向きもしない。
昨晩、彼女との間にあった出来事は飲みすぎて酔って階段で転んだことにしておいたのだが、実際あったことは違っていた。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.求めるもの、失いたくないもの

昨夜 機動六課周辺

「やあ、ヴィータ。今日の仕事はもういいのかい?」

いつも通り軽い調子で目の前のヴィータに話しかけるユーノ。
だが、ヴィータはグラーフアイゼンをユーノに向けたまま微動だにしない。

「どうしたのさ、そんな怖い顔して。」

「動くな。デバイスを捨ててあたしの質問に答えろ。場合によっちゃ……」

〈Explosion〉

「お前でも容赦しない。」

静かな夜の闇の中、薬莢が高音程の音をたてて道路の上に転がる。

「質問って、さっきの言ってたこと?ガンダムだかなんだか知らないけど、あんまりわけのわからないことを…」

〈Schwalbe fliegen〉

ユーノが続きを言う前に飛燕のごとき速度の鉄球が頬をかすめる。

「質問に答えろ。……次は当てる。」

ユーノは頬をこすったあと、先程までの笑顔を消してヴィータと向き合う。

「そっちの質問に答える前に、こっちの質問に答えてもらおうか。なんで君がガンダムを知っている。」

ユーノは元アースラメンバーにはソリッドに乗っているのが自分であることがばれていると思ってはいたが、ガンダムという名まで判明しているとは思っていなかった。
警戒するユーノに対し、ヴィータは少し考えるが、すぐに不敵な笑みをユーノに返す。

「あたしにもいろいろあってな。他のやつらと違ってそこそこ情報はつかんでんだよ。」

「……いいだろう。今はそういうことにしておく。」

嘘だ。
本当は今まで悪い夢だと思っていたあれが現実で、そこですべてを知ったとは言えない。
いや、ユーノが帰ってきて、ガンダムから引き離した時点で単なる夢になったはずだった。
なのに…

「あたしは質問に答えたんだ。今度はそっちが答えろ。ガンダムはどこにある?」

ヴィータは自分を奮い立たせると、改めてユーノに問う。

「それを知ってどうする気だい?君たちじゃソリッドは使いこなせないし、そもそも質量兵器であるあれをつかうことなんてできないだろう。」

「決まってんだろ。あれをぶち壊す。それでこの一件はおしまいだ。」

「じゃあ、隠してある場所は教えられないな。ま、見つけたところで壊すなんて不可能だろうけどね。」

クスクスと笑うユーノにヴィータは眉をひそめる。
そして、否応なくわからせられる。
今、目の前にいる人物が自分たちの知っているユーノ・スクライアではなく、ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアなのだと。
それでも、だからこそ聞かなければならないことがある。

「じゃあ、最後の質問だ。お前はあれを使って何をする気だ?」

ヴィータの顔を彼女の意思と関係なく一筋の汗が流れる。
できれば自分の想像している答えと違うことを言ってほしい。
杞憂であってくれと願う。
だが、

「決まってるだろう。ガンダムとマイスターは紛争の根絶のために戦う。たとえそれが、どれほど強大な相手であっても。そして…」

ユーノは息を吸って間をとる。
ほんの数秒のことなのに、ヴィータにはそれが何時間ものことに思えた。

「家族や友人であったとしても。」

「っっっ!!!!!!」

ヴィータはユーノが言い終わった瞬間、彼へと飛び出していた。

「っっああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!」

大きく振りかぶられたグラーフアイゼンが獣のような唸りとともにユーノの額へと向かって行く。





ゴッッ!!





鈍い音がしたのち、ユーノの額の左から滝のように血が流れ出る。
それでも、ユーノは立っていた。
メガネが落ち、月明かりに直に照らし出された翠の瞳は悲しそうに震える少女を見下ろしている。

「……んでだよ…」

ヴィータは震えた声でユーノに語りかける。

「なんでだよ!!なんでみんなを悲しませるようなことすんだよ!!!!」

ヴィータはグラーフアイゼンを手から離して精いっぱい腕を伸ばしてユーノの胸を叩き始める。
最初にあった時、自分より少し大きいくらいだった彼の体が、こんなに大きく、そして近くにいるのに今はとても遠くにあるものに感じられた。

「友達だって思ってたのに!!仲間だって思ってたのに!!」

ヴィータの叩く力が少しずつ弱まり、遂にユーノの胸に両拳を置いた状態で動きが止まってしまう。
震える彼女の顔から透明な雫が止まることなく落ちていく。

「家族だって……思ってたのにっ…!!」

「……ごめん。」

ユーノはそれだけ言うと、ヴィータから体を離して六課の隊舎とは反対方向に歩きだす。
ヴィータはそれを見ることもできずにその場に崩れ落ち、一晩中声もあげずに泣いていた。







ユーノの部屋

包帯に手を当てると、傷よりも胸の奥がチリチリと炎で焼かれるように痛む。
あの時、ヴィータの一撃を避けなかったのは自分なりの償いのつもりだったが、優しい彼女を逆に傷つける結果になったかもしれない。

「……何をいまさら。」

ユーノは自嘲する。
ガンダムに乗って戦う道を選んだ時点で、自分は十分にみんなを傷つけている。
それの償いをしたいのならするべきことは一つだ。
戦って、戦って、戦いぬいて平和を勝ち取ってもなお、自分の幸福を犠牲にしてその平和のために戦っていくことだけだ。

「……悪いね、ロックオン。生き残っても、僕を待っているのはいいことなんかじゃなさそうだ。」







部隊長室

「なんでだよはやて!!」

部隊長室でヴィータの怒号が響く。
誰かに聞かれてはまずいのだが、そんなことも忘れてヴィータは自分のデスクでいつも通り仕事を進めるはやてにまくしたてる。

「はやてだってわかってるだろ!?ガン…あのロボットを動かしてんのは間違いなくユーノなんだぞ!!」

「そんなことわかっとる。」

「じゃあなんで何もしないんだよ!!?このままじゃユーノのやつ、何するかわかったもんじゃ……」

「なんや、ヴィータはユーノ君のこと信じてへんのか?」

はやては手を止めてヴィータの方を見る。
彼女の問いにヴィータは黙り込んでしまうが、決心したのかはやてのデスクまで歩いていき、真正面から向かい合う。

「昨日、ユーノから何をする気か聞いた。あたしたちや管理局を敵にまわしてでもやるべきことをする、だとさ。」

「……やっぱり、昨日の傷はヴィータやったんか。」

はやては眉間にしわを寄せてため息をつくと、部隊長として指示を出す。

「ヴィータ三等空尉、今日から一週間、自室での謹慎を申しつける。」

「はやて!!!」

「反論は受付へん。」

淡々と言い放つはやてを見て、ヴィータはギリギリと歯を食いしばる。

「それがはやての答えかよ……!」

「…………………」

「じゃあ、いいさ。あたしはあたしでユーノのために動くまでだ。」

ヴィータははやてに背を向けると、一瞥することなく部屋を出ていく。
その後ろ姿を見送ったはやては悲しげにつぶやく。

「ごめんな、ヴィータ……せやけど、今はまだ動く時ではないんや。その時がきたらちゃんとユーノ君のこと助けような。」

しかし、彼女の言葉はもうヴィータには届かない。
そう、これからさきも決して届くことはなくなってしまった。







本局査察部 ヒクサーの部屋

「で、いい人材は見つかった、ヒクサー?」

ベッドの上をごろごろと転がりながら887は机に向かっているヒクサーに問いかける。
しかし、ヒクサーは真剣な表情で自身の携帯端末を見たまま返事をしない。
その後も、何とかヒクサーの気を引こうといろいろと話す887だったが、それでもヒクサーは振り向きもしない。

「む~~~!!」

遂に業を煮やした887はヒクサーの背中に飛びつく。
887の重さで椅子の背もたれに無理やり押し付けられたヒクサーはその時になってようやく887に気を向ける。

「どうしたの、887?」

「どうしたじゃないわよ!さっきからずっと無視しちゃって!」

「ごめんごめん。」

ヒクサーはそう言うと887の頭を優しくなでる。

「ふに……」

887は本物の猫のように喉をゴロゴロと鳴らしながら、ヒクサーの頬に自分の頬をすりつける。
そんな887の目に、ふと端末に乗っている人物たちの顔写真が飛び込んでくる。

「こいつらって……確か機動六課……だったっけ?随分と話題になってるわよね、良い意味でも悪い意味でも。」

ヒクサーに乗っかったまま887の顔も真剣なものになる。

「けど、本気なのヒクサー?ミッドの人間からソレスタルビーイングやフェレシュテのメンバーを確保するなんて?」

いぶかしげな表情をする887にヒクサーは笑いかける。

「ユーノはこちらの人間で、優秀な能力を持っていて、ソレスタルビーイングの理念に賛同してくれた。なら、僕らの存在を知らないこちらでメンバーを探したほうが安全に事を運べる。」

「けど、こいつらまだまだガキンチョよ?」

「ユーノだってソレスタルビーイングに入ったのは彼らぐらいの時だから、年齢は問題ないよ。それに、スカウトする人間はもう何人か決まってるしね。」

「それ、この間言ってたわよね。えっとたしか……ヴァイスでしょ、あとこの赤髪のちびっ子と、この間新しく入ったやつでしょ、それと…」

887が四本目の指を折り曲げようとした時、ノックの後に扉が開いて緑髪の男が現れる。

「やあ、ヒクサー。お邪魔だったかな?」

本局査察官、ヴェロッサ・アコースは友人の肩にその連れが乗っているところを見てクスクスと笑う。

「そうなの~。これからヒクサーと私はぁ、イケないことしちゃうとこなの♥」

外見に似合わない妖艶な笑みと言葉を見せる887がヴェロッサの気を引いているうちにヒクサーは端末の映像を消す。

「ハハハ!それじゃ、その場面をゆっくり見せてもらおうかな。差し入れのスコーンと紅茶を楽しみながら。」

ヴェロッサは左手に持っていたバスケットの中を887に見せた瞬間、887はヒクサーの肩から素早く飛び降りてヴェロッサの腰に手をまわしていた。

「ロッサの手作り!?欲しい欲しい!!」

「はいはい、そんなに慌てない。今お茶を入れるからね。」

ヴェロッサは887を落ち着かせると、自前の道具を使って紅茶を入れ始める。
辺りに紅茶の臭いが漂い始めると、887のかおがトロンととろけたものになっていく。

「いつもすまないね、ロッサ。」

夢見心地の887の頭をなでながらヒクサーも彼の座るソファーの正面に置かれたベッドの上に腰かける。

「いやいや、作る側としてもこんなに喜んでくれると作りがいがあるよ。」

出来上がった紅茶をティーカップに注ぎ始めると、887は目をキラキラと輝かせ始める。
その姿はいつもの皮肉屋ではなく、彼女の外見にあった年頃の少女そのものだ。

「887がこんなに嬉しそうにするところなんて、向こうにいる間は見たことなんてなかったからね。」

ヒクサーの声にハッとして振り返った887は顔を真っ赤にしながらプイとそっぽを向く。

「べ、別に私は、その…」

「いらないの?残念だなぁ。今日は887が喜んでくれると思って特製のジャムも持ってきたのに。」

「う~~~…」

「ロッサ、どうやら887はいらないみたいだから僕が代わりにいただくよ。」

「ううう~~~~~~……!!」

ニコニコと笑うヒクサーとヴェロッサの視線を受けながら、887は遂に本音を漏らす。

「私もロッサの手作りお菓子食べたい~~~!!」

「フフフ…はい、どうぞ。」

ヒクサーから出されたスコーンに小さな口を必死に大きく開けながらかぶりつく。
そして、咀嚼し始めると満面の笑みが浮かぶ。
さらに、紅茶をすするとふわふわと空を漂って行ってしまうのではないかというほど和んだ顔に変わる。

「今回も887の口にあってよかったよ。」

自分も紅茶を飲みながら887の姿を見て微笑むロッサを見ながら、ヒクサーは複雑な心境を隠しながら笑っていた。

(僕が誘おうと思っている人材は四人……その中で一番フェレシュテの任務に向いているのは君だ、ロッサ。けど……)

親友の死にざまがヒクサーの決断を鈍らせる。
どこの誰とも知れない自分を拾ってくれたヴァイスも、こうして世話を焼いてくれるヴェロッサも、今やヒクサーにとってかけがえのない友人だ。
その友人たちを異世界で起きている戦いに巻き込み、テロリストのレッテルをはられ、死の危険にさらすことがヒクサーには耐えられなかった。
だが、今のソレスタルビーイングもフェレシュテも深刻な人材不足にある。
自分たち欠けてさらに苦しい思いをしている仲間たちのもとに優秀なメンバーを加えてあげたいとは思うが、それでも、彼らを誘うことへの抵抗は消えない。

「ヒクサー、どうしたんだい?さっきから笑ってるだけで話しに参加してないじゃないか。」

「ん……ああ、ごめん。それで、なんの話?」

「だから~、さっきヴァイスから連絡があったんだって。」

887は口の中のものを飲み込んでヒクサーの顔を見上げる。

「なんでも、今レジアス中将が直に機動六課に来てるらしいわよ。」

「レジアス中将が……?」

ヴェロッサは真剣表情で紅茶をすする。

「なんでも、ラルゴ元帥に頼んで、個人としてスクライア司書長に会いに行ったらしい。」

「ユー…スクライア司書長に?」

ユーノの名前が出た瞬間、ヒクサーと887に緊張がはしる。
ガンダム、そしてジンクスの調査にかかわっていた人間がマイスターであるユーノに会いに行ったのだから気が気ではない。
レジアスにはユーノがこちらに戻ってきたときにソリッドに乗っていたことを知るのは容易だろうし、そこからユーノがあれを動かしていたこと可能性に考えつくなど朝飯前だろう。
ユーノが秘匿事項を喋るとは思えないが、それでも喋らなければレジアスはどんな手に出るかわからない。

「大丈夫だよ。」

二人の心配を見透かしていたようにヴェロッサは微笑む。

「レジアス中将もなんだかんだで大人なんだ。あんまり無茶なことはしないさ。」







機動六課隊舎 廊下 部隊長室前

いつもは人もまばらな廊下も、この日だけはある一ヵ所にみんな集まっていた。
突然、伝説の三提督の一人であるラルゴ・キールがやってきただけでも大騒ぎなのに、ラルゴと一緒に機動六課を目の敵にしているレジアスまでやってきて、個人としてユーノと話がしたいというのだから注目しない人間がいないはずがない。

「さてと、ロッサに伝えたからヒクサーにも伝わってるだろ。しかし……」

ヴァイスは部隊長室の扉の前に集まった黒山の人だかりを見ながらため息をつく。

「あれじゃ、もう話を聞くのは諦めた方がいいな。」








部隊長室

『ちょ、みんな!!そんな押したらアカンって!!?』

「……なんだか外が騒がしいな。」

ラルゴは苦笑しながら主のいなくなった部屋の扉を見つめる。
突然レジアスに頼まれ、連絡もなしにやってきてしまったせいでひどい騒ぎになってしまった。
それでも、はやては快くこの部屋を提供してくれたが、彼女も部隊長として今回のレジアスとユーノの話を聞きたいようだった。

「それで、わざわざ個人的に僕を呼びつけて何の御用ですか?レジアス中将。」

外の騒ぎなどそっちのけでユーノは目の前にいる厳つい男に話しかける。
レジアス・ゲイズ中将。
地上部隊の事実上のトップであり、何年もの間ミッドチルダの平和を守ることに尽力してきた人物である。
その一方、その剛腕さや、はやてたちのようなレアスキルを持つ人間を毛嫌いし、現在のミッドにおける最大の戦力、魔導士を集中させている次元航行部隊を敵視していることから、彼に対していい感情を持たない者も多い。
そして、最近彼のまわりに漂う黒い噂や、質量兵器であるアインヘリアルの導入を進めているため、その傾向は加速気味にある。

「この間はオーリスが世話になったようだな。」

あからさまにこちらを睨みつけるレジアスを見てユーノはため息をつく。

「まさか、わざわざ恨み言を言うためだけにここに来たんですか?」

「馬鹿を言うな。要件はまた別だ。」

「じゃあ、なんですか?また強引な手で僕を自分の手元に置くつもりですか?」

「そうだ……と言ったら?」

二人の間に沈黙が流れる。
だが、すぐにユーノの顔に笑いが戻る。

「まあ、その可能性はないでしょうね。あなたは今回、個人として僕に会いにきている。頑固なあなたが、自分で自分の言ったことを覆すようなことをするとは思えませんからね。」

「嫌味か?」

「いえいえ、嫌味と賛辞の両方です。」

「まったく……相変わらず馬鹿正直な奴だ。」

そう言うレジアスの顔には、眉間にしわがよりながらもわずかながら笑みが見える。

「で?それならなんでわざわざラルゴ元帥にまで頼んでここに来たんですか?」

「今回の要件はこれだ。」

レジアスはすでに管理局全体に知れ渡っている件の機動兵器、ガンダムソリッドの映像を見せる。

「これが何か?」

あくまでしらを切りとおそうとするユーノ。
だが、

「君が行方不明状態から、発見されたときに乗っていたのがこれだと聞いた。だから、君からこれについて詳しく話を聞きたい。」

「僕はこれに乗っていた時の記憶が皆無なんですよ?残念ながらお役にたてるとは…」

「……わしはこれの、エンジェルの調査にかかわっていた。」

レジアスの言葉にユーノとラルゴの顔色が変わる。
自分にかかっている疑惑を今この場で認めたのだ。

「レジアス中将、ここでその話は…」

「構わん。」

ユーノの言葉を無視してレジアスは話し続ける。

「研究報告によると、どれほど起動を試みてもこいつが動くことはなかった。この時まではな。」

そう言うと、レジアスはユーノに対して深々と頭を下げる。

「恥を承知で頼む。ミッドをナイトから……ファルベルから守るにはエンジェルしか対抗策がないのだ。力を貸してくれ。」

その時、ユーノは目の前にいるレジアスと、どれほど蔑まれようとも平和を望んで戦い続けた仲間たちの姿をだぶらせた。

(そうか……この人も僕たちと同じなんだ。ただミッドの平和を求めて、自分がどれほど汚れてでも不器用にそれを守ろうとしているんだけなんだ。)

ユーノは口を真一文字に結んだあと、ラルゴの方を見る。

「ラルゴ元帥、申し訳ありませんが席をはずしていただけませんか?ここから先は、僕もレジアス中将もお互い聞かれたくないことがあると思いますから。それと…」

「わかっとる。さっき聞いたのはわしの空耳じゃろうて。」

そう言うと、ラルゴはゆっくりと立ち上がり扉の方へ向かう。

「ついでじゃから人払いもしておいてやろう。安心して話をせい。」

ラルゴが扉を開けた瞬間、人込みの先頭にいたはやてが倒れこんできて気まずそうに笑う。

「そう言うことじゃから、お主らは自分の仕事に戻れ。」

「は、はいい~~~!!!!」

押し合いへしあいを経ながら、蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく局員たちを見ながら、ラルゴはため息をつくと部屋の外に出ていった。
それを見ていたユーノとレジアスも呆れてため息をつくが、すぐに真剣な顔に戻る。

「最初に断っておきますが、僕はあれ、ガンダムについてすべてを話せるわけではありません。」

「ガンダム……それがエンジェルの真の名か。」

「ええ…ガンダムソリッド。私設武装組織、ソレスタルビーイングの機動兵器、ガンダムのうちの一機です。」

「ソレスタルビーイング……?聞いたこともない組織だな。」

「無理もありませんよ。」

ユーノは困った顔で笑う。

「ソレスタルビーイングが活動していたのは第97管理外世界、地球。そのパラレルワールドなんですから。」

「パラレルワールドだと?」

レジアスがただでさえ深くしわが刻みこまれた眉間にさらにしわを寄せる。

「信じられないかもしれませんが事実です。僕が行方不明になった時の地球が西暦2005年だったのに対し、向こうは西暦2304年、実に300年以上の開きがあるんです。」

そして、ユーノは向こうのことについての話を始めた。
科学技術の進歩により、宇宙開発が進み、枯渇した化石燃料の代わりにエネルギー資源を軌道エレベーターと太陽光発電にゆだねたこと。
しかし、それがきっかけとなって各地で紛争が相次ぎ、さらに三国家群の間で己の陣営の威信と繁栄のためにMS開発などの軍事開発が進められていたこと。
そんな世界を変えるためにソレスタルビーイングが紛争根絶のために立ちあがったことを。

「何とも信じがたい話だが、エンジェルやナイトを見たからには信じないわけにはいかんな。」

レジアスの額にはうっすらと汗がにじみ、手は細かく震えている。
だが、現在のミッドチルダが持つ科学技術を大きく上回る兵器が存在し、その中でも秀でた存在であるガンダムとジンクスが今この世界に存在していると聞けば、どれほど肝が据わった人物であろうと動揺するのも無理はないだろう。

「それで、君がいたソレスタルビーイングについてだが…」

「すいませんが、秘匿義務があるのでソレスタルビーイングやガンダムについてはこれ以上話せません。たとえ離れていても、仲間を裏切るようなことはしたくありませんから。」

その言葉にレジアスは渋い顔をするが、今のところ脅威となるとは考えなかったのか深くは追求しなかった。
しかし、それでもこれだけは聞かなければならない。

「君はエンジェルを……ガンダムを使って我々管理局に対して戦いを挑む気か?」

「……レジアス中将、僕は管理局が嫌いです。」

「!?」

「ですが、管理局に所属する人間全員が嫌いなわけではありません。僕がソリッドを駆る時、それは管理局が紛争幇助の対象だと断定したときだけです。」

「そうか……。ならば、我々は基本的には敵対しなくても済む。そう思っていいんだな?」

「はい。」

ユーノの柔らかな笑みを見た瞬間、レジアスは気が緩んだのかひときわ大きなため息とともに背もたれに体重を預けた。
だが、まだ安心するのは早かった。

「では、レジアス中将。今度は僕が質問させてもらいます。ナイトを……ジンクスを量産化したのは一体誰なんですか?初めはスカリエッティかとも思いましたが、彼の仲間が攻撃されていたことから考えるとその可能性はない……。となると、豊富な物資と研究設備がある管理局の誰かがやっていると考えるのが自然だ。」

ユーノの鋭い視線がレジアスを射抜く。
だが、レジアス本人も覚悟をしていたのか、動揺することなく淡々と話し始めた。

「わしがやつと……ファルベル・ブリング准将と面識を持ったのは、やつが地上部隊に移ってきた時だった。」

(ファルベル……ブリング…?)

聞いたことの名前に戸惑うユーノだが、レジアスはそれどころではない。
話をするレジアスの目には明らかな怒りと、自分へのふがいなさからくる憂いが混在していた。

「初めは海から飛ばされてきただけの老人だと思っていた。だが、やつの話を聞いたわしは、初めて自分と同様の考えを持った同志を得たと思った……」

「……いったい、何を話したんですか?」

ユーノの静かな問いに、レジアスはその大きな体からは想像できないほど小さな声で答え始める。

「海に戦力が集中し、手薄になってしまった陸を守るには、もはや質量兵器、そして人造魔導士に頼るしかない……そう持ちかけられた。ジェイル・スカリエッティをやつから紹介されたのもその頃だ。」

「それで、アインヘリアルを…」

「いや、あれは囮に過ぎない。」

ユーノの整った眉がピクリと動く。

「どういうことですか?」

「やつは、君が持ち帰ってきたMS、ガンダムとジンクスを手にしてから、その研究を開始した。しかしその間、世間の目をその研究からそらさせる必要があった。だからこそ、わしはアインヘリアルの建造計画を持ち出し、あれだけ大々的に騒いだのだ。そして、当初の計画通りならば、スカリエッティの産みだした戦闘機人たちが建造途中のアインヘリアルを破壊、そこへ量産化されたMSを投入してそれを鎮圧する。……そのはずだったんだ。」

そこまで聞いたところで、ユーノにはだいたいの流れが見えた。

「だが、スカリエッティは暴走を始め、研究成果を報告すると言っていたはずのファルベル准将とは音信不通……そんなところですか。」

レジアスはギリギリとユーノにまで音が聞こえるほど激しく歯ぎしりする。

「そうだ……!!そして、やつはあろうことかクラナガンの街を無差別に破壊し、挙句のはてに、反管理局の思想を持つ者たちを、ジンクスを使って消し始めた……テロリストだろうと民間人だろうと関係なくだっ!!!」

レジアスが机を叩いたせいで、出されていたコーヒーがひっくり返り、机の上に黒い水たまりを作る。
しかし、ユーノは動じることなくレジアスに話しかける。

「レジアス中将、暴走を始めたスカリエッティの目的はわかりませんか?」

「わからん…ただ、やつがわしのコントロールを離れたのは君が帰還してからそう遅くはない時だった。ひょっとしたら、スカリエッティはスカリエッティで何か狙いがあるのかもしれん。」

その時、ユーノはあることを話すべきかどうか悩んでいた。
このことを聞けば、レジアスの信用を失うことになるかもしれない。
だが、いつまでも隠しておくことができるものでもない。
ならば、いっそこの場で打ち明けてしまおう。

「……中将、実は僕の組織の人間が、スカリエッティと行動を共にしているようなんです。」

「なに!?」

案の定、レジアスはいきり立つが、ユーノは冷静に話を進める。

「彼は……フォン・スパークは僕に記憶を取り戻させ、ガンダムに乗せるためにスカリエッティに協力し、僕と敵対していると言ってしました。ですが、いまだに協力状態にあるところを見ると、まだスカリエッティとともに行う何かがあるのかもしれません。」

「ふむ……君はそのフォンという男とは…」

「こちらでのつながりはありません。ですが、僕にガンダムを与えたのは彼とスカリエッティです。そう考えると、僕も彼らの計画の輪の中に取り込まれているのかもしれません。」

信じてくれないかもしれない。
いや、信じる方がどうかしている。
だがそれでも、信じてくれなければどうすることもできない。

そのユーノの思いが通じた。

「わかった……その話、信じよう。だが、条件がある。」

「条件……ですか?」

ユーノのオウム返しにレジアスはうなずく。

「わしはこれからジンクスが投入される非公式の作戦を片っ端から洗い出す。君にはその作戦に可能な限り介入、阻止してほしい。」

その話はユーノとしても大助かりだ。
自力でジンクスが関わると思われる作戦に目星をつけて出撃するよりは、情報を多く入手できるレジアスが調べてくれた方が助かる。

「では、僕からも条件を提示させてください。」

「なんだ?」

「まず、地上部隊に不必要な戦闘…つまり、侵略行為や弾圧行為を行わせないこと。もうひとつは、この一件に片を付けた後、あなたの行ってきた罪をすべて公表すること。この二つです。」

「むぅ……」

レジアスは脂汗を垂らしながら唸るが、背に腹は代えられない。
ミッドの平和を自らの保身のために見捨てることなどできない。

「わかった……。わしとしても、長年背負い続けてきた十字架を下ろすいい機会かもしれん。」

「では、交渉成立……そういうことでいいですね?」

「ああ。」

レジアスが深くうなずくのを見たユーノが微笑む。

「なんだか、安心しましたよ。」

「?何がだ?」

「あなたのことを誤解していました。もっと出世欲のある人かと思ってたのに、意外と聖人君子なんですね。」

ユーノのその言葉を聞いたレジアスは苦笑する。

「聖人君子か……その言葉は、わしなんぞよりもっと似合うやつがいる。もっとも、わしがくだらんしがらみにとらわれてしまったせいで、道を違えてしまったがな。」

「……きっと、その人もわかっていたはずですよ。あなたが、自分の思いを、ミッドを守りたいという願いを不器用に貫こうとしただけなんだって。」

「だとしても、もう許してはくれんだろうがな……」

レジアスはゆっくりと立ち上がり、少し乱れてしまったネクタイを整えると扉へと歩いていく。

「近いうちに連絡はする。準備だけはしておいてくれ、スクライア司書長。」

「了解しました。……あ、忘れ物ですよ。」

「?」

そう言うとユーノは以前オーリスを追い払う時に使ったデータの入った携帯端末を投げてよこす。

「これは…?」

「僕らはもうある意味、運命共同体なんですから。フェアにいきましょう。それは、すべてが終わる時まで預けておきますよ。」

レジアスはフッと笑うとそれを上着の内側のポケットにしまう。
そして、気になっていたことを最後にたずねる。

「ひとつだけ、聞いてもいいかね?」

「どうぞ。」

「君はどうして、ソレスタルビーイングに入ろうと思ったのかね?……っ!?」

その時、レジアスははっきりとそれを見た。
自分よりもはるかに若いその男の悲しげな表情を。
一人で抱え込むには重すぎるものを背負った人間の目だ。
途方もない悲しみや怒りをそのうちに秘めたその姿は一瞬で消え去ったが、それでもユーノの話から、その重さを思い知らされた。

「……昔、ある一人の少年がいました。その少年は、赤子の時に故郷を焼かれ、自分を拾ってくれた父親をテロリスト、そして、助けてくれると信じていた組織に奪われました。以来少年は、ある一人の少女と出会うまで、誰にも心を開くことなく生きてきました。そんなある日、少年はその少女と離ればなれになり、遠い異世界に記憶のない状態で放り出されました。そんな彼がその世界で初めて目にしたのは、光の翼を広げた天使でした……。」

死にかけていた自分を救った天使。
その天使にあこがれ、記憶がないにもかかわらず、心の奥底に刻まれた傷に従い組織の理念に共感し、戦う道を選んだ。

「……そんな馬鹿な男が一人いた。それだけの話ですよ。」

「……そうか。」

それを聞いたレジアスは満足そうに、だが、悲しそうに笑う。

「君が信頼できる男だと確信できたよ、“ユーノ”。」

名前で呼ばれたことに一瞬戸惑うが、すぐにユーノも笑顔を返す。

「……ありがとうございます。“レジアスさん”。」

ユーノの軽い会釈に見送られ、レジアスは扉を開けて退室した。
一人残されたユーノはホッと一息つくとソファーに寄りかかって天井の明りに目を細める。
とその時、

「うっ……!!」

体を中から突き破られるような激しい痛みにユーノは顔をしかめながら口元に手を持っていく。
くの字に曲げた体を起して口から手を離すと、白い肌とは対照的な赤い液体がこびりついている。

「ゲホッゲホッ!……早いとこ、この一件にケリを付けて向こうに戻らないと、何もできないうちにポックリだな……」

そう言ってシャマルからもらった錠剤を口に放り込むと、自分の血液とともに胃の中へと押し込む。
血のしょっぱい鉄の味と薬臭さが混ざって吐きそうな味になるが、それをしばらく我慢すると体が少し楽になる。
しかし、すぐには動くことができずにソファーの上で横になる。
そんな時、ふと自分がいなくなった後のことを考えてしまう。

「なのはとヴィヴィオには幸せになってほしいな……」

自分はこちらの世界から去るが、残される二人には自分がこちらに連れてきてしまった歪みに翻弄されてほしくはない。
だからこそ、ジンクスを作っているというファルベルなる人物を止めなければならない。

「さて、それじゃそろそろはやてのところに行くか。僕が変なことを言わなかったかひやひやしてるだろうしね。……いや、むしろあの真っ黒な腹に穴が開通するくらい心配させてやるのもいいかもね。」

はやてから受け続けてきた性質の悪いいたずらでたまっていた日頃の鬱憤を晴らす機会を得たユーノは嬉しそうに部屋を後にした。










求めたのは、誰もが欲するもの
失いたくないのは、仲間とのつながり
しかし、その二つを同時に得ることができないのなら、天使を駆る者のとる道はただ一つ……






あとがき・・・・・・・・・・・・・・・という名の刹那ーっ!!!

ユ「えー、ヒクサーの目的判明&まさかのレジアス中将と結託の回でした。ところで、今回なんで僕がこんなことを言っているかというと……」

ロ「刹那ーーーーーーー!!!!!」

ユ「……え~、何とか暇を見つけてロビンが劇場版を見れたので興奮しまくってまともに話ができない状況なので代わりに僕が進行を務めさせていただきます。」

ロ「刹那ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

ユ「いい加減黙れ!!!…ハハハ、お見苦しいものをお見せしてスイマセン。このテンションで一気に書き上げたので今回はおかしいところが多々あるかもしれませんが、みなさんの容赦のないご意見でこいつを現実に…」

ロ「刹那ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

ユ「オーイ、誰か~!!もうホントこいつどっかやってくんない!!?ウザくてウザくて仕方ないんだけど!!?」

狸「はいはい……って、わたしの今回のあとがきの出番これだけか。」

狸、叫ぶ作者をいずこかへと引きずっていく。

ユ「…静かになったところでゲストの紹介に行きます。今回のゲストは実は今回があとがき初登場、the お隣さん、沙慈・クロスロードさんです!」

沙慈(以降 お隣さん)「どうもはじめまして(?)。沙慈・クロスロードです。」

ユ「あとがき登場がsecond一歩手前になってやっとってどうよ……まあ、むしろでなかった方がよかったんだろうけど。」

お隣さん「そこ言っちゃうんなら僕は最初から出なかった方が良かったような気がする……secondいったら原作以上に大変なことになってるし……」

ユ「?どういうこと?」

お隣さん「こういうこと。」

お隣さん、主人公に今後の予定的なものを見せる。

ユ「うえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?これいいの!!?ていうかどっちかだけでもヤバいのにこんなことして大丈夫なの!!?」

お隣さん「だって、secondは暴走しようって決めてた作者がもうこれでストーリーの根幹固めちゃったんだから仕方ないじゃん!!!どうせ僕は目立つ配役もらってもこんなことになるのが関の山なのさ!!!(泣)」

ユ「悲しいこと言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!最近僕が主役の小説を皆様が書いてくれてるんだからそのうち沙慈が主人公の00の小説を誰かが書いてくれるよ!!!」

お隣さん「……泣いてても仕方ないから解説にいこう。しかし、今回はまたとんでもないね。機動六課の皆様に秘密でレジアス中将と協力体制完成か。」

ユ「正直、これは賛否両論分かれると思ったから出さないほうがいいのかなぁ~、と思ってたんだけど結局出しちゃいました。そして、ネタばれするとレジアス中将は生き残るので好きな人はご安心を。というか、この話はロビンがレジアス中将生き残らせたいがために作ったものです。」

お隣さん「やりたい放題だね。」

ユ「最初からそうだけどね……。と、そんなこんなで、ここらへんで次回予告に行きたいと思います。」

お隣さん「確か次回は久々にサイドじゃなかったっけ?なんかユーノがなのはさんと婚約するときに高町家にあいさつに行った時の話だって……」

ユ「……軽く死亡フラグが立ってる気がするのは僕だけかな?なんか玄関の扉開けた瞬間に士郎さんに頭から真っ二つにされそうなんだけど。」

お隣さん「いや、今ここで生きてるってことはその死亡フラグをへし折ったってことだから大丈夫だよ。」

ユ「死亡フラグであることは否定してくれないんだ……(泣)」

お隣さん「ハハハ……では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「次回をお楽しみに!!」」



[18122] side1. 婚約前夜
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/03 23:24
地球 海鳴市

その日、ユーノは目の前にいる恋人の後ろを足首に鉛でもついているのかと聞きたくなるほど、第三者が見てもわかるほど沈んだ気持ちで見なれた道を歩いていた。

「もぉ~、大丈夫だよ。電話でもお父さんはぜひ来なさいって言ってたし。」

「あははは……間違いなく僕には別の意味で言ってるよ、それ。」

乾いた笑いを浮かべるユーノとは対照的になのははニコニコと太陽のような笑みで進んでいく。
だが、彼女は知らないのだ。
彼女の友人たちと自身の父親の恐ろしさを。





アリサの場合

行方不明から帰還して初めてアリサに会いに行ったその日、付き添いをしていたなのはたちがいなくなった瞬間、彼女は豹変した。

「あんたは何なのはたちを泣かしてんのよーーーっっっ!!!!!!」

「ごふっ!!?」

叫びとともに鉄槌のごとき拳がユーノの肝臓を的確にとらえる。
しかし、アリサは悶絶するユーノに倒れることすら許さずに膵臓、胃、横隔膜、止めに心臓へ的確に拳を打ち込んでいった。

(う、動けない!?)

心臓に強打を受けると一時的に体が動かなくなる。
そんなことをどこぞの漫画で知ってはいたが、それを彼女が実行できるとは思っていなかった。
だが、驚きは終わらない。
体の自由を奪われたユーノの前からアリサの姿が消える。

(どこへ……!!?)

次の瞬間、ユーノはあごにプロ顔負けのアッパーを受けて真上に弾き飛ばされる。

「ふぅ……今日のところはこれぐらいで勘弁してあげる。」

そう言って空中を舞うユーノに背を向けてアリサは歩き出す。
その後、合流したなのはに傷だらけの姿の理由を聞かれても、なのはに見えないように睨んでくるアリサのせいで答えることができなかった。






(……すずかの場合はある意味もっと怖かった。)







すずかの場合

アリサと会ったのち、今度はすずかに呼び出されて彼女の家を一人で訪れたユーノ。
物静かな彼女は何もしないだろうと踏んで、なのはたちの付き添いなしを快諾したのだが、それが間違いだった。

「ねぇ、久しぶりにフェレットになってみてくれないかな♪」

「?いいけど…」

不審に思いながらもフェレットの姿になるユーノ。
その瞬間、すずかは素早くユーノをつかむと、ペットだけが入れるような大きさの籠へと放り込む。

「わっぷ!?す…すず……か………さん?」

ユーノが籠の中から見上げるすずかの顔は笑っているのに、気配は完全に怒っている。

「じゃあ、しばらくその子たちと遊んでてね♪」

ニャ~~

「!?」

ユーノががたがたと震えながら振りかえった先にいたのは、愛くるしい顔でこちらをじっと見つめている子猫(約十匹)だった。

「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!?」

その晩、月村家に一匹のフェレットの叫びが響き渡ったそうな






回想終了

「…………………………………」

あの二人でさえこれなのだ。
実の父親であり、こちらに帰って来た自分との交際を反対している士郎に至っては冗談抜きで殺しにかかりそうだ。

「……だ、大丈夫……。きょ、恭也さんや美由希さん、桃子さんだっているんだし………きっとなんとかなるよね!」

不安の中、一片の希望にすがりつくユーノだが、彼の不安は最悪の形で的中することとなった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian side.1 婚約前夜

高町家

遂に玄関先にまで来てしまってから、ユーノは再び激しい不安に襲われる。
そのわけは、

(……すいません、士郎さん。思いっきり殺気が出ているせいで待ち伏せしているのがモロバレです。)

流石になのはもそのことに気付いているのか、ユーノと顔を見合わせて苦笑する。

「どうする?」

「どうするって……行くしかないでしょ。ここまで来たからには。」

覚悟を決めたユーノは玄関の扉を開けて一歩足を踏み入れる。
その瞬間、

「ちぇえええぇぇぇぇぇぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

「やっぱりいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

渾身の力で振り下ろされた一撃を真剣白刃取りにしたユーノは不敵に笑う襲撃者に気まずそうに笑いかける。

「し、士郎さん……お久しぶりです。」

「ふっふっふ……腕を上げたなユーノ君。しかし、残念だがここで死んでくれ。」

「それ仮にも訪ねてきた人間に言うことじゃないですよね!?あとこの行為も!!」

士郎に押されながらも必死で抵抗するユーノ。
しかし、その危うい均衡は一人の魔導士によって終わりを迎える。

「にゃははは………お父さん、ユーノ君に何してるのかな……?かな……?」

士郎の握る白刃はなのはの魔力弾によってポッキリと真ん中から折られる。
キリキリとブリキの人形のように首を向けると、天使の笑みで悪魔のごとき流星を従えるなのはがいた。

「い、いや、なのは……これはだな……」

「少し……頭冷やそうか?」

士郎が言い訳する暇も与えずに魔力弾を次々に当ててマリオネットのように踊り狂わせる。

「やれやれ……だから言ったのに…」

「いらっしゃい、ユーノ君。」

「美由希さん、桃子さん、お久しぶりです。」

踊り狂う父親に呆れる美由紀と、いつも通りの笑顔の桃子に頭を下げる。

「災難だったな……父さんも君のことは認めているんだろうが、どうにも素直になれないようだ。」

「どうも、恭也さん。それよりあれ、止めなくていいんですか?」

ディバインシューターで滅多打ちにされる士郎を見て身震いしながら恭也に問いかける。
が、

「自業自得でしょ?」

「あれくらいどうってことないわよ♪」

「……だそうだ。」

「いやいや……」

それがどうしたと言った様子の高町家の面々。
だが、あのままだといくら士郎でもまずい。

「どうしても止めたいのならいい方法があるわよ。」

そう言って桃子はユーノに耳打ちをする。
それを聞いていたユーノの顔は下からどんどん紅に染まっていく。

「え!?ちょ、ちょっと人前でそれをやるのは…」

「ひどい……ユーノ君は私の主人を見捨てるのね!?」

「いや、でも…」

ユーノは助けを求めるように恭也たちに視線を移すが、

「……俺は見ていないから安心しておけ。」

「右同じ。」

背中を向ける二人を見て、援護が期待できないことを悟ると、ユーノは静かになのはに近づき後ろから抱き締める。

「ふぇっ!?」

「なのは、駄目だよ。」

「……うん///」

なのはは子供のように素直にうなずくと魔力弾を消して、自分も固くユーノを抱きしめる。
一方、士郎はというと雑に美由希に引きずられてその場を後にする。
だが、そんな父親には目もくれずに、なのははユーノの温かさをじんわりと肌で感じ続ける。

「あらあら、仲良しねぇ♪」

「……母さん、頼むから写真を撮るのはやめてくれ。」

「大丈夫!むしろバンバン撮っておいて!」

恭也のことなどどこ吹く風といった様子で母娘そろって写真に夢中になる桃子となのは。
………こんな風に大っぴらにいちゃつくから士郎が怒るのだが、彼女がそのことに気付くのはかなり後になるのだった。








道場

「……で、どうしてこうなっているのかぜひお聞きしたいんですけど?」

道場の真ん中でユーノが向かい合っていた恭也に問いかける。

「……仕方なくだ。」

「目を見て話してください、恭也さん。」

二本の木刀を手にした恭也はばつが悪そうに視線を外しながら答える。

その後、復活した士郎からなのはとの婚約を認めてほしければ恭也と立ち合えと言われ、二人ともしぶしぶ道場まで来たのだが、士郎はユーノが完膚なきまでに叩きのめされることを期待し、なのははユーノの応援に夢中、桃子は桃子でいつも通り笑ってスルーし、唯一まともな思考回路を持った美由希は完全に傍観を決め込んでいる。
そんな外野のテンションとは引き換えに、本人たちはあまり乗り気ではないのは明白だ。

ちなみに、二人から少し離れた所でなのはたちが見守っている。

「ハハハ!恭也、死なない程度に痛めつけてあげなさい!」

「ユーノ君がんばれ~~!」

「フフフ……二人とも頑張ってね♪」

「……ごめん、ユーノ、恭ちゃん。私にこの人たちは止められないよ。」

((人事だと思って……))

思考をシンクロさせながらも、恭也は持っていた木刀を構える。

「恭也さん?本当にやるんですか?」

「まあ、この際だから少し体を動かすくらいはいいだろう。」

「あの……わざと負けてくれるなんてことは…」

「あると思うか?」

「……ないですよね~。」

ユーノは盛大にため息をついてうなだれる。
しかし、

「それに、俺も君がどれほどの実力か見てみたいしな。」

普段クールな恭也が珍しく嬉しそうに笑う。

「本気で来ないと、なのはにカッコ悪いところを見せることになるぞ。」

「ズルイことを言うんですね。」

「年の功だ。本気を見せてもらいたいんでな。」

ユーノもまた鋭い笑いを見せると、近くにあった木製の小太刀を手にする。
しかし、どうにも手になじまないのか首をかしげている。
と、

「あの、少し短くしてもいいですか?」

「?ああ、別にかまわないが?」

「そうですか。」

その後、ユーノが短く何かを呟くと見えない刃が小太刀を斬り裂き、ちょうどナイフぐらいの長さにまで縮める。

「じゃあ、始めましょうか。」

そう言うと、ユーノは得物を前に出してその後ろに隠れるように半身に構える。

(ナイフか……構え方はあっているが…)

それだけではない何かを恭也は感じ取っていた。
ユーノが構えた瞬間に空気が変わった。
まるで銃弾の飛び交う戦場にでも立っているような、常に隣で死神が不気味に笑っているようないやな圧迫感。

(確か、前にもこんな感じを…!?)

恭也が考え込んでいる隙に、ユーノは一機に距離を縮めていた。
木刀の切っ先が恭也の整った顔をかすめる。
耳元で鳴る風切り音で我にかえった恭也も左手に握っていた剣を横に薙ぐが、ユーノはそれを一回り小さくした木刀で見事に受け流して再び斬り込もうとする。
しかし、残っていた右手の刃が振るわれた瞬間、ユーノは大きくバックステップをして距離をとった。
激しく動く中、首元にかけられたジュエルシードがそのせめぎ合いと不釣り合いなほど陽の光を吸収して美しく輝く。

(こいつ……!)

恭也は目の前にいる青年のことを見誤っていたことを自覚した。
今ここで立っている人間は自分の知っている幼い日のユーノではない。
その力で他者の命を刈り取ることのできる戦士だ。
そして、それを見ていた士郎と美由希もそのことに気付いたのか先程までとはうって変わって真剣な表情になる。

「お父さん?お姉ちゃん?」

なのはの問いかけにも答えずに二人はユーノと恭也の動きをじっと見ている。

「ねぇ、父さん。あの動き…」

「ああ、わかっている。」

なのはからいろいろな事件で活躍していると聞いていたので、多少の武術の知識があると考えていたが、あれはそんなものではない。

「あれは…」

(そうだ……!)

恭也はユーノの放った金的への蹴りと頸動脈を狙った攻撃とのコンビネーションをかわしながら思い出す。
自身の妻である月村忍の警護をしたときのことだ。
ある日、彼女を狙ってきた男たちの中にそいつはいた。
眼帯をつけたかなりの年齢のその老人の繰り出してきた人体の急所を的確についてくる攻撃には恐怖を覚えた。
そう、

(ユーノが今使っているのは、戦場格闘術だ!)

卑怯も反則もない。
むしろ反則があるなら即使え。
自分が生き残るために、相手を死に至らしめるために手段を選ばない。
実戦的で、人間の負の側面の集合体のような最低最悪の殺人技術だ。

「クッ!!?」

「はぁっ!!」

左の胸への突きをかわした際に態勢が崩れた恭也の服をつかみ、固い道場の床へと投げ飛ばそうとするユーノ。
しかし、恭也もそれを黙って待ってはいない。
ユーノの指先につかの先を打ちつけて離させると、今度は左手の木刀で頭へ向けて渾身の一撃を放つ。
だが、ユーノは猫のように素早く身をかがめ、態勢を起こすと同時に恭也から離れる。
その時、恭也にだけはユーノの表情が見えた。
かつて死合った老人のような戦場の狂気に染まった、狂った笑みではなく、むしろその逆のような、戦うことへの悲しみに満ちた顔だった。

(ユーノ、君の空白の四年に一体何があったんだ!?何が君をそこまで変えた!?)

打拳と木刀の連撃を受け止めながら、恭也はある決意をする。
一旦、ユーノの攻撃から大きく離れて大きく息を吸って吐き出し、感覚を研ぎ澄ます。
そして、

「神速……!!」

「待て!!恭也!!」

「恭ちゃん!?」

士郎と美由希は何とか止めようとするが、構わず恭也は技を発動する。
その瞬間、恭也の視界は白黒の映像に変わり、周りの動きが止まって見えるようになる。

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

空気が水のように重たくまとわりつく感覚を肌で感じながらすれ違いざまにユーノの首筋へと右手の木刀を振るう。
木刀とはいえど、この速度で当たれば骨は砕け、間違いなく命を落とすだろう。

「っっ!はぁっはぁっ!!」

ボキリと何かが折れる音の後、恭也の視界は色彩を取り戻すが、長く神速を使いすぎて反動でその場に膝をついてしまう。
しかし、後ろにいるユーノはもっと悲惨だった。

「いったった~……!ホントに死ぬかと思った…」

床に大の字になって転がるユーノの持っていた木刀は根元で折れ、左腕には青紫のあざができている。
恭也の動きから危険を感じ取ったユーノは、神速が発動される前に首元に木刀と自らの左腕を持ってきて恭也の一撃を凌いだのだ。
だが、その代償として左腕の骨にひびが入っている。

「ユーノ君!!お兄ちゃん!!」

呆けていたなのはは二人の様子を見て慌てて駆け寄る。

「大丈夫!!?」

「俺は……なんともない…」

「僕もだいじょう……ぶっ!?」

仰向けに転がっているユーノの顔になのはの平手のあとがくっきりと刻まれる。

「バカッ!!ユーノ君のバカ!!こんな大きなあざができてるのに大丈夫なわけないでしょ!!」

ユーノを泣きながら叱責した後、今度は恭也を睨みつける。

「お兄ちゃんもそれで平気なわけないでしょ!!」

「「……ごめん。」」

申し訳なさそうに笑う二人の戦いの決着は、士郎の判定で引き分けということになった。







高町家 庭

その晩、高町家に一泊することにしたユーノは庭先で月を、そしてそれが浮かぶソラを見上げていた。
手を伸ばして星をつかみ取ろうとするが、当然地上から届くはずもない。
いや、たとえ空に上がったところで不可能だろう。
本当にその手を届かせようとするならもう一つのソラ、宇宙へといかなくてはならないだろう。

「……何言ってんだか。」

今まで飛行魔法で空を飛んだことはあるが、宇宙を飛んだことなどあるはずもない。
なのに、どうしてこんなに成層圏の向こうに惹きつけられるのか。
そして、そのことを考えるたびにこんなに胸を締め付けられるのか。

「……こんな時間にどうした。」

「そう言う恭也さんこそどうしたんですか?」

寝間着姿で自分の後ろに立っているであろう恭也に隙はうかがえないが、自分を襲おうとしている気配も感じられない。

「なに。俺もたまにきた実家の庭先で夜空を眺めたいと思うことくらいあるさ。」

「意外とロマンチストなんですね。」

「プロポーズの時、忍にも同じことを言われたよ。」

クックッと笑うその声だけで照れている様子がわかる。
だが、その笑いに合わせて自分も笑いながら、本題を聞く。

「それで、僕はなのはにふさわしいと認めてもらえたんですか?」

「それは父さんに聞いてくれ。俺はもともとなのはの自由意思に任せている。」

そう言うと恭也はユーノの横に並び、自身も空を見上げる。

「……何があった?」

「……………………………」

帰って来てから誰もが自分に投げかけてくる質問。
だが、誰が相手であろうと同じ答えしかできない。

「わかりません……僕自身にも、なんでこんなことができるのか……この四年間、自分が何をしていたのか。ただ……」

「ただ?」

「……少し、自分の心に素直になれた気がします。」

ユーノが恭也に柔らかく笑いかける。
後ろでまとめられた長い髪が月明かりで煌めき、女神が地上に降りてきたような印象を与える。
そして、女神のくちからはっきりとした意思表示がなされる。

「だから、申し訳ありませんけどなのはをもらいうけます。」

その言葉を聞いた恭也は一瞬顔をしかめる。
なのはの自由意思に任せるとは言ったものの、ここまで真正面から言われると流石に複雑な気分だ。
だが、男に二言はない。

「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……ま、後ろに隠れてるでばがめ二人も納得はしたみたいだし、いいんじゃないか。」

恭也はユーノを残してつかつかと歩いていき、後ろにある部屋の中に入ると隠れていた士郎と美由希を見つけ出す。

「で、二人の婚約を認めるのか、認めないのかどっちだ?答えのよっては父さんでも相手になるぞ。」

息子の厳しい視線に士郎はため息をつく。

「わかってるさ。彼にならなのはを任せられる。ただなぁ……そのうちステップをいくつもすっ飛ばして『子供ができちゃいました~♪』なんて言ってくるんじゃ……!!?」

一人妄想にふけり悶々と悩み始める士郎に呆れながら、美由希は恭也に昼間の試合について聞く。

「なんで神速までつかったの?いくらユーノがヤバい感じだったからって、あれだと下手したら取り返しのつかないことに……」

「覚悟を見せてもらいたかったのさ。」

恭也は壁に寄りかかって明かりのついていない電灯を見上げる。

「ユーノがあんなものにまで手を出して、何をするつもりだったのか……そのための覚悟を、な。」

「覚悟ね………何するつもりで覚悟を固めたか知らないけど、なのはをもらうつもりならそれよりも覚悟が必要ね~。じゃないと、父さんが何しでかすかわからないしね。」

「くくく……違いない。」

呆れながら笑う二人は心からユーノに感謝していた。
自分たちの末の妹を心から愛し、つらいことにぶつかっても彼女が笑っていられるようにしてくれる。
そんなユーノとなのはの幸せのために、自分たちもまた出来ることをしよう。
そんな決意を、空で淡く輝く月だけが知っていた。





桃子の部屋

「フフフ……こうしてなのはと一緒に寝るなんて何年ぶりかしら?」

本当に何年ぶりかわからないほど久しぶりだった。
その晩、なのはは桃子に言われて二人一緒のベッドで眠ることになった。
もうそんなことをする歳でもないのに、母親と一緒に眠るというのはどうにも気構えてしまう。
今思うと、一緒に寝ていた頃も周りからしてみたら普通じゃなかったのかもしれない。

(う~……いまさらだけど恥ずかしい///)

同じ布団にもぐりこんできた桃子の顔を見ることもできずに背中を向けて眠ろうとする。
だが、

「にゃっ!?お、お母さん!?」

桃子の手が背中を通って前まで回される。
突然背中を抱きしめられて戸惑うなのはに桃子は優しく話しかける。

「なのは……私はね、なのはが幸せになってくれればなのはが誰を好きになっても構わないよ。……ユーノ君は誰かの痛みを自分の痛みとして涙を流すことができるくらい優しい人だから私も大賛成だしね。でもね、なのはがその優しさに一方的に甘えるようなことになったら、きっとお互いに悲しい結果にしかならないことを覚えておいて。」

「お母さん……?」

今まで聞いたことがない声を聞いたなのはは桃子の方を向く。

「私も、昔お父さんの優しさに甘えちゃって困らせたことがあってね……あとになってすごく後悔したことがあったの。だから、なのはやユーノ君にはそんな思いをしてほしくないの。」

「お母さん……」

桃子は笑いながらも泣いていた。
その時のことを思い出し、それでもなのはの前では笑顔でいようと涙を寝間着の袖で拭う。

「そうだ!今日はお父さんがたくさん意地悪してきたから、お父さんの恥ずかしい話をいっぱい聞かせてあげる!」

その晩、明るい話題に変わった母と娘の会話は、二人が話疲れるまで続けられた。
そして翌朝、二人は士郎の顔を見るために吹き出して周りから不審に思われるのだが、その理由を知る人間は二人以外はいなかった。








翌日、繁華街から帰ってきたユーノとなのはの指にはきらりと光りを放つものがはめられていた。
ユーノの指には陽の光を包み込むような淡い桃色の宝石が。
なのはの指には陽の光さえも飲み込むほど深い翠の宝石が。
照れながらも指をからませながら帰ってきた二人を家族、そして友人たちが出迎える。

「お帰り、なのは、ユーノ。」

「「ただいま、みんな。」」

……ありきたりな日常。
けど、どうしようもなく愛しい日常。
これから先もずっと続くと誰もが信じていた。





あの時が来るまでは。






あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の絶賛後悔中(誤字ではありません)

ロ「というわけで、婚約の際にあったことを描いたサイドでした。最初は完全にギャグにしようと思っていたのに、衝動的にシリアスを入れてしまって書き終わってからどうしようと思っています。」

ユ「というか何あとがきのサブタイトルを絶賛公開中と絶賛後悔中とをかけてるんだよ。ね○っちか君は。」

ロ「俺はあんなに早く整いません。」

ツン2「自慢げに言うな!!」

エリ「ティアナさん落ち着いて!……オホンッ!今回のゲストはフェレシュテの司令塔、元恋に恋する乙女、シャル・アクスティカさんです!」

シャル「若干気になる紹介のされ方でしたが、皆様お久しぶりです。シャルです。」

ロ「そんじゃさっそく解説にいこう~。全員シャルの手に握られている一部の女性の方が喜びそうなものについては一切触れないこと。」

エリ「あれなんなんですか。」

ツン2「……………………/////////」

ユ「君が大人になったらフェイトが教えてくれるよ。」←説明するのが嫌なのでフェイトに丸投げ

シャル「なんなら今すぐ私が教え……」

ロ「純粋無垢な子供に何教える気だぁぁぁぁぁぁ!!?」

ユ「シャルさん、マジで勘弁してください。」

シャル「ちぇっ…」

ロ「それじゃホントに解説にいくぞ!!」←ヤケ

ユ「今回は本来なら僕が徹底的にいじり倒されるはずだったんだよね?なんか序盤で終わって中盤バトル展開にいっちゃったのはホワイ?」

ロ「……気の赴くままに。」

ツン2「要は何となくってことね。このクソニートが。」

ロ「なんとなくで書いただけでニートかよ!!?学校にも行ってるしバイトもしとるわ!!」

エリ「そう言えばろくに知りもしないのにとらハ設定だしましたよね。」

ロ「……他の作者さんの作品とかを参考に書いたのでおかしいところがあったら言ってください。」

ツン2「救いようないわね。」

ロ「一時期あれだけひどく荒れてたお前にだけは言われたくない!!」

シャル「私としては……」

ロ「お前はもう言うことわかりきってるから黙ってろ!!」

ユ「なんかもうホントにヤバい方向にいきそうなので(主にシャルさんとロビンのせいで)、次回予告にいきます。」

エリ「次回はコミック版で出てきたあの回です。」

ツン2「でもウェンディはもうすでにこっちについちゃってるし、どうする気なの?」

ユ「困った時のガンダムです。」

エリ「そんな胸を張って言われても……」

シャル「まあ、一応ガンダム出さないと何のためにクロスさせたかわからないし。それに次回はエリオとティアナが……」

「「え?」」

ロ「それでは最後に…」

「「ちょっと!?」」

ロ「なんだよ、うるさいな。」

ツン2「あたしたち一体どうなるの!?」

ロ「……ネタバレはよくないよね(クスッ)」

エリ「今笑った!!これ以上ないくらい邪悪な顔で笑った!!」

ロ「気のせい気のせいww」

「「うそだっ!!」」

ロ「まあ、死なないから安心しとけ。では、最後に。今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 12.強さの意味
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/17 10:29
クラナガン ミッドタイムズ本社

「……スクライア。お前、本当にこれを載せる気か?」

「何か問題が?」

「大有りだ!!」

体格のいい男が山積みにされた書類が崩れ落ちるのも構わずにドンと机を大きく叩く。
その上にこの事態を引き起こすことになった原因がひらひらと舞い降りる。

『衝撃!時空管理局の闇!!   極端な質量兵器の禁止の裏で進められる巨大兵器の量産!』

「お前の書く記事はいつもそうだ!!やたら上から圧力を受けるようなものばかりだ!!それになんだこれは!?俺たちの書いてるのは新聞だ!ニュースペーパーだ!!こんな週刊誌のスキャンダルみたいな見出しでいいわけないだろ!!」

「インパクトは大事ですよ?」

悪びれる様子もなくアイナは自分の書いた文章を読んで首をひねる。
本人からしてみたら、良かれと思ってやったことがここまで言われる理由がわからない。

「はぁ……もういい。俺も毎度毎度お前の見出しを直すのももう慣れた。しかし、だ……今回はさすがにまずいぞ。」

アイナの上司らしき人物は文章のある一点を指さす。

「この正体不明の機体。そのうち一機のことをお前が嗅ぎまわっていることを局のお偉いさん方は快く思ってないみたいだぞ。」

そう言って茶色の封筒をアイナへと手渡す。
その中に入っていたのは、

「転属命令……アイナ・スクライア、第23管理世界、ルヴェラ支社、芸能部への転属を命ず……なんですかこれ?」

「上の連中が、お前がこれ以上嗅ぎまわらないのならそいつをなしにしてやるってさ。露骨に圧力掛けてきやがった。」

男は横に広がった腹をぶるぶると揺らしながら背もたれに寄りかかる。

「スクライア、今回は手をひくんだ。いくらなんでも今回はやばすぎる。」

「デスクはそれでいいんですか?ようやく真相を掴みかけてるのに引き下がるなんてデスクらしくないですよ。」

「……こいつを見ろ。」

そう言って机の上に写真の束がばらまかれる。
それに写っているのはアイナも含めた、この部署の人間全員の私生活の写真だ。

「この写真撮ったやつ言い腕してますね。うちに欲しいくらいですよ。」

「冗談を言っている場合じゃない!その転属命令を受け取った次の日に俺の家のポストに放り込まれてたんだ。それに、お前の写真に至ってはお前のものだけじゃない。」

そう。
アイナの写真の束の中にはユーノ、そして彼の職場の人間の写真まで含まれている。
それも、隙だらけでいつでも仕留めようと思えば仕留められるような瞬間ばかりが。
だが、

「大丈夫でしょ。」

アイナの軽い口調に呆気にとられて男はポカンと口をあけるが、すぐにごうごうとまくし立て始める。
しかし、当のアイナはあくびをかみ殺すのに必死なようだ。

「お前の友人も狙われてるんだぞ!?心配じゃないのか!?」

「大丈夫ですよ。あのバカップルなら今頃……」








機動六課隊舎 外

「ヴィヴィオ~、なのは~、こっち向いて~。」

「「はーい♪」」

ヴィヴィオとなのはは言われたとおりに笑顔でユーノの方を向く。
隊舎の裏にある木々をバックに、ユーノは慎重にピントを合わせていく。
そして、

「ハイ、チー…」

「いい加減にしろ!!」

「ズッ!!?」

シャッターを切ろうとした瞬間にシグナムにレヴァンテインの峰を頭に振りおろされ、その場で頭から地面に激突した。

「パパーー!!?」

「何してるんですかシグナムさん!!?」

「それはこっちのセリフだ!!いつまでそうしてるつもりだ!!?」

「スバルたちの休憩時間が終わるまでです!!(残り時間3分と24秒)」

「もう戻れ!!」

昼食が終わったのち、家族写真を撮ろうと言いだしたユーノに連れられて外までやってきたなのはとヴィヴィオは、急な話だったにもかかわらずユーノの出す指示通り、モデル張りのクオリティのポーズを繰り出し続けていた。

「ヴィヴィオ~。シグナムさんがママをいじめる~!」

なのはは泣いたふりをしながらヴィヴィオの影に隠れる。
すると、

「む~!ママとパパをいじめちゃ駄目!」

「う……」

頬を膨らませながらぷりぷりと怒るヴィヴィオの前に烈火の将の異名をとるシグナムも後ずさってしまう。
現在機動六課でヴィヴィオに対抗できるのはなのはとユーノ、そしてすっかり喋る愛犬と化して人知れず涙にくれているザフィーラだけなのだ。
仮にヴィヴィオになにかを言おうとしてもその愛くるしい瞳の前に何も言えなくなり、それでも何か言おうとしてもなのはとユーノの殺す笑顔がそれを止めるという鉄壁の布陣が敷かれている。

「……仕方ない、午後の教導が始まる前には戻るんだぞ。」

「「はーい。」」

頭を押さえながら去っていくシグナムの背中を見送りながら、二人はニヤリと笑う。

「けど、ホントにそろそろ行かないとまずいかな?でも、本当に急だったからびっくりしたよ。なんでいきなり家族写真を撮ろうなんて思ったの?」

「あ~……それはその……」

なのはの問いにユーノは思わず口ごもる。
本当のことなど言えるはずなどない。

「ヴィヴィオが家族になった記念を残しておこうと思ってね。こういうのは夫婦生活において大切だよ。」

嘘は言っていない。
記念に残しておこうと思っているのは事実だし、なのはとの絆を大切に思っているのも事実だ。
だが、

(……せめて、写真を持っていくぐらいは許してほしいな。)

向こうで自分を待っているであろう現実で心が折れてしまわないように支えが欲しい。
そう思うのは罪ではないと自分に言い聞かせ、ユーノはなのはを午後の教導へと送りだした。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.強さの意味

ミッドチルダ 北部 山間部

「はい、終了と。」

ユーノは最後の一機の頭を撃ち抜くとソリッドの腰にシールドバスターライフルを戻す。
人の住んでいない地区を通ってきたので少し遅れてしまったが、作戦自体は上手くいった。

「ソリッド、サードフェイズ終了。これより帰頭します。」

『了解、ご苦労だったな。』

「まったくですよ。せっかく午後はヴィヴィオと過ごそうと思って午前中で書類処理を終わらせたのに。」

唇を尖らせて不満そうな顔をするユーノを見てレジアスは呆れてしまう。

『ミッドの平和と、今日一日娘と過ごすのとどっちが大切だと思っているんだ。』

「それはもちろんヴィヴィオと……」

と言いかけて、モニターの向こうで眉間が盛り上がって見えるほどにしわを寄せたレジアスがこちらを睨んでいるのを見て、ユーノはひきつった笑みを浮かべながら弁明する。

「や、やだなぁ。冗談ですよ冗談。」

『やれやれ……まあ、気持ちはわからんでもないがな。わしもオーリスが生まれたときは舞い上がって仕事が手につかないことがあったからな。』

「ですよね!!うちのヴィヴィオもかわいいんですよ!!ほら!これとかこれとか!!」

ウイルスか何かに感染したのかと思いたくなるようなスピードで自分の娘の画像を送りつけてくるユーノにレジアスは文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、この一週間でそれがどれほど無駄なことか思い知らされていたので、すぐにあきらめるほうを選んだ。

『だが、この子は人造魔導士の素体なのだろう?普通の家族など…』

「関係ないですよ。」

画像で埋め尽くされた間から辛うじて見えるユーノの顔が真剣なものになる。

「父さんは赤の他人の僕を本当の息子のように育ててくれました。僕が翠玉人であることを知っていながら。」

『…………………』

「だから、心が通じ合えれば家族になるなんてそんな特別なことじゃないんですよ。僕はそう思っています。」

強い意思を宿した微笑み。
自身の心を引き付けたそれを見るだけで、レジアスはユーノの言っていることにわけもないのに確信めいたものを抱く。

『……強いて理由を挙げるなら、業を背負ったが故の優しさか…』

「?どうかしたんですか?」

『いや、なんでもない。ソリッドはいつも通りこちらが管理している場所に置いておいてくれ。』

「了解。」

通信終えたユーノはソリッドを隠し場所へと向けて飛ばしながら、自分の父のことを思い出す。

「パパ、か……ちゃんとできてるのかな、僕なんかに。」

実の親が誰なのかもわからない。
育ての親は早くに亡くなった。
そんな自分に父親など務まるのだろうか。

父親になってから初めて分かったが、子供を育てるということの大変さがよくわかる。
今あらためて思うと、レントもよく自分を真人間(彼が亡くなるまでは)に育てていたものだ。

「まさか、こんな形で父さんの偉大さを再確認させられるとは思ってもみなかったな。」

一族の誰からも慕われ、頼りにされていた父と違い自分は世紀の大テロリスト。
タクラマカン砂漠でのミッションにしても…

「?タクラマカン……?」

不意に浮かんだ記憶の断片。
その瞬間に心臓が早鐘を打つように激しく動悸し始め、全身から汗が噴き出してくる。

「なん…だ……!?何が……あった………!!?」

思い出すな……

「うる…さい……!僕は……!」

忘れていろ……

「全部背負うって……決めたんだ…!!」

思い出すな!!

「っ!はぁはぁ……」

脳に響く自分の声とひどい頭痛から解放されたユーノは操縦桿を握って体を支えながらなんとか顔をあげて前を見る。

「タクラマカン砂漠……なにがあったのか知らないけど、今は早くヴィヴィオに顔を見せないとまた心配させちゃうから急がないと。」

頭の中でとぐろを巻くもやもやを隅に追いやり、ヴィヴィオの顔を思い浮かべると幾分か動悸もおさまってきた。
しかし、これが自分を苦しめ続けることをユーノはこの時まだ気付いていなかった。






機動六課隊舎 隊員寮

「ふぇ~……」

ヴィヴィオはユーノの膝の上で感嘆の声を上げる。
そんな彼女の視線の先にはなのはがナレーションに合わせてビルの間をかいくぐり目標のスフィアを撃破していく。

「なのはママすごいね~!」

「だね~。」

和んだ空気を醸し出しながらユーノは答える。
任務から帰った後、興味深そうになのはとフェイトの出ている教材用ビデオを見ていたヴィヴィオと一緒にそれを何となく眺めていた。

(今のところジンクスは無人機タイプしかいない。けど、空戦魔導士……いや、普通の魔導士の動きでも、MSの動きに転用されれば大きな脅威になる。)

今のところその兆候はないが、インテリジェントデバイスに使用されているAI技術を使えばできないことはないだろう。
その前になんとしてもジンクスを作り出している場所を破壊しなくてはならない。

「パパ?」

「ん?ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてたね。何かな?」

「パパがお仕事してるビデオはないの~?」

ユーノの胸にぐさりと何かが突き刺さる。

「ヴィ、ヴィヴィオ?そこは働いてるじゃなくて、訓練しているとかじゃないのかな……?」

「だって、ヴィータふくたいちょーがパパはよくお仕事サボってるからビデオ無いって言ってたよ?」

(ヴィータめ……)

確かにユーノはたまに訓練に顔を出すだけだが、事務処理に関しては普通の人間がこなす量の軽く数倍はやっているし、シャーリーとともにデバイスなどの調整もしている。
だが、ヴィヴィオはそんなことなど知る由もないし、なのはが日ごろから魔法の訓練の仕事をしているところを見ているので、どうしても仕事=魔法の訓練と思いこんでしまっているのだ。

「パパがお空飛んでるところ見たい!」

「いや、それは……」

無理だ。
ただでさえ表舞台に出るのが嫌でビデオ教材関係の仕事はすべて断ってきていたのだから自分が出ているものなど存在するはずがない。

「見たい見たい~!!」

「うーん……」

ユーノが駄々をこね始めるヴィヴィオに困っていると、助け船が入る。

「ヴィヴィオ、あんまりパパを困らせちゃ駄目だよ。」

「ママ!」

待ちわびていたなのはの方にヴィヴィオが行ってしまい、助かったような少し残念なような思いをしていると、エリオから声をかけられる。

「ユーノさん、ストラーダなんですが…」

「重すぎた?」

「いえ、そこは大丈夫です。けど…」

「むしろ私たちの方が大変ですよ。」

エリオの後ろからティアナがゼェゼェと息を切らせながら現れる。

「……強度に合わせて出力を上げたストラーダの推進力にティアナさんたちの方がついてこれなくなったみたいで…。僕なら大丈夫ですから、もう少し推進力を落とせませんか?」

「わかった。シャーリーと少し相談してみるよ。」

ユーノは快諾してエリオをスバルたちのもとに送り出すが内心ドキドキものだった。
ストラーダの推進力についてはシャーリーと相談の上で現在のエリオが扱いきれるものより少し上に設定しておいたのだ。
そのことがばれたと思ったのだが、エリオはもう使いこなせているような口調だった。
エリオの成長速度を考えれば、数カ月で使いこなせるようになると思っていたのに、もう現在の速度に対応できている。

(すごい成長スピードだな……加えてもとから備わっていた反射神経もあいまってガードウィングの理想形になりつつある。MSのパイロットとしての素質も高いだろうな……って!!何考えてるんだ僕は!!エリオがMSに乗るわけないだろ!!)

そんなことなどあってはならない。
人を殺めた罪で苦しむなど自分たちだけで十分だ。
とくに刹那は猛反対するだろう。
いや、そもそもエリオやキャロぐらいの年齢の子供が管理局で戦っていること自体許しはしないだろう。
幼いころにゲリラにしたてられ、戦うこと以外の未来をすべて奪われてしまった。
そんな刹那からしたら、こうしてエリオとキャロが命のやり取りをしていると聞いたら、怒り狂って後先考えずに管理局を攻撃しそうだ。
だが、

「フフフ……そこを直しちゃったら刹那らしくないか。」

小声で呟きながら顔を上げると、いつの間にかヴィヴィオが目の前にやってきていた。

「どうしたの、ヴィヴィオ?」

「パパ、なのはママとフェイトさんはどっちが強いの~?」

「へ?」

そんなことなど考えたことなどなかった。
ヴィヴィオは教材用のビデオを見ていてふと思いついただけだったのだが、ある意味究極の質問だ。

(う~ん……初めてあったころはどう考えてもフェイトの方が強かったんだけど、なのはもすぐに追いついたし、何よりあの頃のから随分たってるからどっちも強くなってるだろうし……)

「パパ?」

悩むユーノの視線の先には答えを期待しながら瞳を輝かせるヴィヴィオがいる。
だが、今回ばかりは無敵の司書長もお手上げだったようだ。

「ごめんね、ヴィヴィオ。パパにもよくわからないや。」

「そっかー…」

残念そうな顔のヴィヴィオを何とかしようとするユーノだが、その後ろにいた五人の顔の方を見てしまった。
最初は呆けたような顔をしていたのだが、すぐに五人そろってああだこうだと議論を白熱させていく。
それを見たユーノは確信してしまった。
ここ数日以内に間違いなくややこしいことが起こるであろうことを。






二日後 駐機場

「というわけでっ!第一回、機動六課で最強の魔道士はだれか想像してみよう大会~~!!」

ヘリの窓ガラスが砕け散るのではないかというような大歓声が駐機場に響く。
しかし、それすらも心地いいBGMに感じながらトトカルチョが書かれたホワイトボードをバックに壇上のアルトとスバルが声を張り上げる。

「鉄板の最強候補は六人!」

「近接最強!古代ベルカ式騎士!ヴィータ副隊長とシグナム副隊長!」

「六課最高のSSランク!超長距離砲持ちの広域型魔導士!リイン曹長とのユニゾンって裏技もある八神はやて部隊長!」

「六課最高速のオールレンジアタッカー!フェイト隊長!」

「説明不要の大本命!エース・オブ・エースなのは隊長!そして~!」

スバルはビッと人込みの後ろでこそこそとバイクの整備をしていた人物を指さす。

「管理局の影の実力者!ガーディアンことユーノ司書長!」

その場にいた全員の視線を受け、ユーノは顔を赤くして愛想笑いをしながら整備をほっぽり出してその場を後にする。

「クソー!あの時嘘でもいいからどっちかはっきり答えておけばよかった!」

後悔先に立たず。
この言葉の意味を再度その身に刻みこまれたユーノであった。







聞き取り調査その1 ヴィータ

「個人戦技能?」

ヴィータは差し入れのケーキを口に運びながら首をかしげる。

「個人戦ったっていろいろあんだろ。」

「え~と…とりあえず平均的な“強さ”ってことで」

「平均的な強さだぁ?」

ほっぺたにクリームをつけたままヴィータは渋い顔をする。

「追跡戦か決闘か。戦闘状況や相性によっても左右される。どんな状況でも平均的に強いってのはようは何でも屋ってことだが、マルチスキルは対応力と生存率の上昇のためであって強さとは関係ねえぞ。」

一息ついて湯呑の中をすすったのち、ヴィータは結論を述べる。

「ま、一人の人間がその時できるのはいつだって一つのことだけだ。それが通用しなきゃ強いとは言えないだろ。それともなにか?お前は強くなりたいんじゃなくて、便利な何でも屋にでもなりてぇのか?」

「それは………」

当然強くなりたい。
だが、そのためにはどんな状況にも対応できるスキルが必要だと思っていた。
しかし、ヴィータはそれを強さとは関係ないと言う。

(う~ん……結局誰が一番強いのかもわからないし、そもそも強さって何なのかがわからなくなっちゃったよ。)







調査その2 フェイト

「フェイトさんの個人戦?戦闘訓練は好きな方だよね。まあ、間違っても戦うことが好きなわけじゃないだろうけど。」

機材を片づけながらシャーリーはキャロの質問に答える。

「なのはさんやシグナム副隊長ともよく一緒にやるし、結構負けず嫌いで見ててかわいいと思えるときがあったりとかして、キャロやエリオにとっては結構新しい側面が見られるかもね。」

「へぇ……」

「まあ、そのうち分隊で別れて戦闘訓練とかやることもあるだろうし、その時に見ることができるんじゃないかな。」

軽く言うシャーリーだが、その訓練をする方からしたらたまったものではない。
なのはとヴィータの攻撃にさらされると考えただけで身の毛もよだつ。

「はぁ…」

誰が一番強いか考える前に、そのうち来るであろうその一戦でどう生き残ろうか考えるだけで精いっぱいのキャロであった。







調査その3 シグナム

「まったく。馬鹿騒ぎをしおって。」

「まあまあ、そんなお堅いこと言っちゃ駄目っスよ、シグシグ。」

「誰がシグシグだ!ったく…」

廊下を歩きながら上官である自分に対しても物怖じしないウェンディに呆れるシグナムだが、ウェンディの問いにはしっかりと答える。

「それで、六課の隊長陣の中で一番強いのは誰かという話だったな。」

「そうっス。」

「まあ、条件にもよるが、隊長陣がトーナメントでもしたら、行うたびに優勝者は違うだろうな。それぐらい力が伯仲している。ただ……」

「ただ?」

シグナムが足を止めてウェンディの方を向く。

「互角の条件で一対一だった場合、一番弱いのは…」








調査その4 はやて

「まあ、私らやろうな。」

「です。」

リインフォースと一緒にケーキをつつくはやての答えにティアナは唖然とする。

「でも、八神部隊長は総合SSですよね?」

総合でSSと言ったら単純な魔力だけでもかなり高いことになる。
だが、

「そやけど高速運用はできへんし、並列処理も苦手やからなぁ……ぶっちゃけ六課のメンバーで勝てるのってフリードとヴォルテールなしのキャロぐらいなんちゃうかな?……いや、でも最近のキャロは体力あるやろうし………あかん、体鍛えようかな?それはもうムキムキになるくらいに……」

先端だけがかけたケーキとにらめっこをしながら悩むはやてを苦笑しながら見つめるティアナに、同じく苦笑いをしていたリインフォースが話しかける。

「まあ、シグナムやヴィータちゃんたちも含めて、みんなは一対一ではやてちゃんに負ける気はないと思いますよ?でも、そのなかでもはやてちゃんが一番苦手な人は……」






調査その5 ユーノ

「僕だろうね。自慢でも何でもなくて。」

庭先でザフィーラと日向ぼっこをしながら寝息を立てるヴィヴィオをなでながらユーノはアルトの問いに答える。

「でも、砲撃を撃たれたら……」

「そんなことさせる前に懐に飛び込んで一撃。それで終了さ。」

ザフィーラは起きているが、ユーノと同意見なのか何も反論しない。

「もっとも、逆にいえばぼくが一対一でまともに戦って勝てるのははやてくらいで、他のみんなと比べて能力的に遥かに劣っているんだけどね。平均的なスピードではフェイトよりはるかに遅いし、頼みの綱の接近戦では古代ベルカ式の守護騎士の二人に劣る。おまけに射撃はろくにできないからなのはみたいな砲撃タイプに距離をとられたらワンサイドゲーム。とどめに最初にあげたはやてにも一瞬で詰められない距離からあのバカげた砲撃を撃ちこまれれば一発でアウト。それに…」

ユーノは顔を一瞬曇らせるが、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべる。

「僕はみんなと違ってリンカーコアが小さいからね。術式を複雑にすることで性能を上げて対抗してるけど、それでも基本的な威力が違いすぎる。」

ユーノは立ちあがるとズボンについた芝生のかけらを払う。

「……ただ、みんなが質問の仕方を変えてくればまた違う答えを用意するんだけどね。そのヒントはたぶんなのはが用意してくれてるよ」








調査その6 なのは

「えーと、高町なのは一尉…戦闘記録…映像データ、で、検索っと。」

キーワードを打ち込んでデータが出てくるのを待つスバルだが、容量が大きすぎるためかなかなかモニターに表示されない。
仕方なく飲み物でも持ってこようと席を立とうとする。
しかし、

「スーバル♪」

「うひひゃああぁぁぁ!!?」

あまりもタイミング良く声をかけられ、椅子に座ったままくるりと180度方向を変えて慌てて敬礼する。

「ごごごご!ご苦労様ですなのはさん!!!」

「そ、そんなに驚かなくても……少しショックだよ。」

そんなに自分が怖いのかとその場で膝をついて悩み始める。

「うう……もう少しおしとやかにしていたほうがユーノ君はタイプなのかなぁ………でもでも、中途半端な教導はみんなに申し訳ないし………」

「あ、あのぉ~……?もしも~し?」

「はっ!ご、ごめんね!最近ユーノ君からの夜のアプローチが減ってて……じゃなくて!!」

なのはは大きく咳払いをしてスバルと向き合う。

「それで、隊長たちで誰が一番強いかに興味があるんだったっけ?みんな盛り上がってたよ。」

「あの、すみません。休憩中の雑談のつもりだったんですけど……」

「別にかまわないよ。よく聞かれることだしね。ところでスバル、こんな問題を聞いたことがないかな?」

「?」

「『自分より強い相手に勝つためには自分の方が相手より強くないといけない。』」

「あ…えと、聞いたことないです。」

「じゃあ、問題。『この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさい。』答えは教導の時にでも聞かせてもらおうかな?」

そう言って帰ろうとしたなのはだったが、スバルの顔が呆け、頭から黒い煙が上がっているのを見て苦笑いを浮かべる。

「そ、そんなに悩まなくても……」

「すいません……意味がさっぱりわかりません。」

ブスブスと回路が焦げるような音を立てながらスバルは机の上に突っ伏す。
みかねたなのはは仕方なく助言を授けることにした。

「じゃあ、ヒントを出そうか。さっきの問題の意味はユーノ君の戦い方をよく見てればわかると思うよ。」

「ユーノさんの戦い方?」








部隊長室

質問が終わってからも、自分の前で考え込むティアナを見ていたはやてがクスリと笑う。

「ティアナ、誰が最強かについてのヒントをあげよか。」

はやての言葉にティアナは思考を一時中断して顔を上げる。

「赴任してきた初日にティアナ達が喧嘩を売ったユーノ君やけど、魔導士としてのランクはどれくらいやと思う?」

「う……」

忘れたい過去を織り交ぜたはやての質問の答えについて考える。
自分が無茶をした日の模擬戦。
聞いた話によるとユーノはなのはと互角以上の戦いを演じたらしい。
リミッターをかせられているとは言え、なのはの実力は相当なものだ。

「AAAくらいですかね……何せ噂になるくらいすごい人ですし…って!!何笑ってるんですか!!」

机をバンバン叩きながら大笑いするはやて。
もっと上だったのかと思ったティアナだったが、答えは違っていた。

「ユーノ君は空戦でC、陸戦と結界魔導士としてもB止まりや。」

「え!!?」

嘘だ。
あれだけの実力者が自分たちと同じくらいのランクだとは信じられない。

「せやけど、ユーノ君はいざとなったらSランクの魔導士だろうとなんだろうとねじ伏せる。この意味を考えてみればおのずと答えは出るんとちゃうかな?」

自分よりはるかに強大な相手に勝つ。
それをやってのけているというユーノ。
ならば、本人に聞けば何かわかるのではないか。







駐機場

「というわけでヒントを教えてください。」

「スバル……君はもう少し自分で考えてから来なさい。それにティアナまで……」

頬をオイルの黒で染めたユーノが苦笑しながら尋ねてきたスバルとティアナの話に耳を傾ける。
人がいなくなりようやくバイクをいじれると思ってやってきたのに、今度はこの二人につかまってしまった。
どうやら今日はとことん邪魔が入る日らしい。

「それで、なのはとはやてから僕がヒントだって言われてここに来たと。」

「はい。」

ユーノは汚れているのにも構わずに首にかけていたタオルで額の汗をぬぐう。

「まあ、簡潔に言っちゃうとみんなが言っている『誰が一番強い?』っていうのはナンセンスな問いなんだよね。」

「ナンセンス?」

「極端な話をすると、ライオンが強いかサメが強いかって質問と同じなんだよ。まったく違う力を持った者同士を比べたって意味なんてない。あえて問うとするならもう少し頭を使わないと。」

「「?」」

首をかしげる二人を見て、ユーノはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「スバルは全力のなのはに勝つとするならどうする?」

「え!!?む、無理ですよ!!勝てるわけないじゃないですか!!」

顔が二つに見えるくらいに激しく首を横に振るスバル。
しかし、そんな彼女とは対照的にティアナはハッとする。

「……ティアナは気付いたみたいだね。」

「はい!」

「ティア?どういうこと?」

「つまりね、私たちは『誰が強いか』の聞き方を間違えてたのよ。もう一度隊長たちに……」

その時、隊舎の中を警報の音が駆け巡る。

『各員に通達。ポイントD-23においてガジェット、ならびにアンノウンの反応を感知。フォワード部隊は現地へ向かって確認をお願いします。』

「……答え合わせは後だね。」

「あはは……」

「それじゃ、行こうか……ん?」

ユーノはポケットの中から振動を感じ、それを生み出していた携帯を手に取り、画面を見る。

「……ごめん、先に行っててくれるかな?お世話になってる人から頼み事みたいでね。」

「えー……タイミング悪いですね~。」

「まあ、こっちの要件もそっちと関係があるみたいだから、すぐに応援に行けると思うよ。」

「じゃあ、お先に。」



スバルとティアナが先にいったのを確認するとユーノは着替えてバイクにまたがり、耳元のマイクのスイッチを押す。

「ソリッド、外部迷彩皮膜解除。」

ヘルメットをかぶり、エンジンをスタートさせると自然とハンドルを握る手に力がこもってしまう。

「今度はこんなに街に近いところに出すなんて……何を考えている、ファルベル・ブリング!!」

ユーノは怒りにまかせてバイクとともに外へ飛び出すが、後ろに隠れていた二つの影を見落としていた。

「じゃあよろしくね、ザフィーラ。」

「承知した。」








クラナガン西部 郊外

その少女は風が吹き抜けるビルの上でただひたすらに待ち続けていた。
自分が今握っている砲身から放たれる一撃を受け止めることになるであろう獲物の存在を。
だが、

「ウェンディ……本当に管理局についてしまったの?」

不意に自分たちのもとを離れて行ってしまった妹に問いかけてみる。
トラブルメーカーだったが、明るかった彼女がいなくなって急に普段の生活が寂しく感じられるようになってしまった。
できることなら連れ戻したいが、姉やスカリエッティたちは連れ戻す必要はないと言っていた。

「……今は余計なことを考えちゃ駄目だ。目的を遂行することだけを考えないと。」

No.10、ディエチは余計な思考を断ち切り、完全な狙撃マシーンへと自身の心を変化させる。

「……来た。」






「見~つけた!」

ウェンディは後ろにいる四人のことなど忘れて相棒とともに新型のガジェットのもとへと飛翔する。
が、その一歩手前で彼女は急ブレーキをかけた。

「どうしたの、ウェンディ?」

「これ……もう壊れてるっス。しかも、これは……」

外部の損傷は全く見当たらず、機能だけが完全に停止している。
これとよく同じ状態をウェンディは以前フォンに見せてもらって知っている。

(GN粒子による電子機器の異常……なんでこんなところで?)

「ねぇねぇ、これって壊れてるの?」

「あんたは何でも不用意に触るな。」

ツンツンと丸いボディをつつくスバルの頭に手刀を打ち込みながらティアナは辺りの様子をうかがう。
近くには反応は感じられないし、報告にあった例のアンノウンの姿も見えない。
異常なものといえばここにぽつんと一機だけ放置されたガジェットくらいのものだ。

(……?)

何かがおかしい。
最初に遭遇したガジェットは普通に稼働していたし、こんな大型のものは一機もなかった。

「ウェンディ、あんたの仲間の中に狙撃ができるやつっている?」

「いるっスよ。ディエチっつって、普段からそんなに喋んなくてむっつりスケベタイプの…」

「そういうどうでもいい情報じゃなくて、どういう能力なのかだけ簡潔に教えてくれない?」

ウェンディは不満そうな顔をするが、苛立つティアナを前に仕方なく説明を始める。

「え~と、確かディエチのISはイノーメンスカノンっていうやつで、早い話がとんでもない砲撃をとんでもなく正確に撃ち込む能力で、こんな逃げ場のないところに追い込まれたら……!」

そこまで口にしてウェンディもティアナがこんなことを聞いてきた理由に気付いた。

「みんな、前の方に全力で防御を展開して!!急いで!!」

ティアナが号令するのが早いか、それはすぐに向かってきた。
建物と建物の間を通ってこちらに向かってくる巨大な砲撃。
その衝撃で触れていないはずの壁が砲撃に吸い込まれるようにはがれていく。
五人は固まってプロテクションを重ねがけすることで激流に耐えようとするが、じりじりと後ろに押されていく。
そしてついに、

「わああああぁぁぁぁぁ!!」

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!」

「エリオ!!ティア!!」

スバルが必死に手を伸ばしたのもむなしく、エリオとティアナははるか後方へと吹き飛ばされてしまう。

「大丈夫ですか!?」

「っつぅ……な、何とか。」

「こっちも……」

二人の声と無事な姿を見てキャロはホッとする。
幸い二人は少し離れたところで踏ん張り、事なきを得たようだ。

「とにかくここを離れましょう。このままじゃいい的……!?」

ティアナは上から降り注いできた瓦礫に気付くと慌てて後ろに下がるが、その瓦礫によって完全にスバルたちと分断されてしまう。
しかも、瓦礫の嵐はそれで終わりではなく空に赤い光が奔るたびに次々と襲ってくる。

「ティア!!」

「こっちは大丈夫!!それよりいったん分かれて退くわよ!!」

「了解!」

仕方なく分断されたまま撤退を開始するティアナ達だったが、瓦礫の嵐はティアナとエリオを執拗に狙ってくる。

「ティアナさん、これって…」

「ええ、間違いなく狙われてるのは私たちね。」

前に落ちてきたコンクリートの塊を撃ち砕きながらうなずく。
おそらく、狙ってきているのは自分ではなく、特殊な生まれ方をしているエリオだろう。
ティアナはそう思っていた。
だが、二人の目の前に例の巨大ロボットが立ちふさがった時、その推測が違っていたことに気付かされた。

「アンノウン!!」

ティアナは威嚇の意味も込めて顔へめがけて引き金を引く。
しかし、白い騎士はそんなものなどモノともせずにティアナをその手につかむ。

「く…あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ティアナさん!!くそぉぉぉぉぉ!!」

エリオは破れかぶれで突撃していくが、触れるどころか手の平を振った時に発生した風に飛ばされて廃ビルの屋上に背中から落下する。

「エリ……オ……うああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

気絶してピクリとも動かないエリオの上で死なない程度に、しかし抵抗することが不可能な力で体を絞め上げられて、ティアナの視界は激痛でスパークを起こしたように明滅する。

(狙いは……エリオじゃなくて私……!!?でも、なんで……!?)






?????

「ククク……君は凡人などではないさ。あれの操縦者としては申し分のない素質を持っている。」

ファルベルはワインを片手にジンクスのカメラアイから送られてくるティアナを恍惚の表情で眺める。
そして、手元のグラスにある赤い液体を飲み干すとまるで聖者の再誕を祝うようにティアナへ向けて飲み口を傾ける。

「感謝したまえ……あの無能な男の妹である君に、私が存在意義を与えてやるのだからな。ククク……ハハハハハ!!!」






クラナガン 研究所跡地

人気のないクラナガンの郊外。
住む人間がただでさえ少ないこの場所で、レジアスの管理下にあることからもこの研究所の跡地に近づく者は少ない。
そんな静寂の中にある場所に、バイクのエンジン音が響く。

「レジアスさんもいい場所を用意してくれたよ。目標ポイントにいくまで人目を避けないといけないのがちょっといただけないけど、それでもいい場所だよ。」

「う~……ヴィヴィオはもっときれいなところがいい~。」

「いやいや、わざわざ兵器の隠し場所が綺麗なところである必要は……ってぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

いるはずがない人間の声にヘルメットを抱えたままその場に尻もちをついて驚くユーノ。
そんな彼をオッドアイの少女と青い毛の狼が見下ろしている。

「ヴィヴィオ!!?ザフィーラさんまで!!?」

「パパの働くところ見たいって言ったら、ザフィーラが連れてってくれるって。」

腰を抜かしたままうらみがましい視線でザフィーラを睨みつけるが、ザフィーラは真っ直ぐに見つめ返してくる。

「ユーノ、このことをみなには話すつもりはない。だが、お前が我らに刃を向けるのなら、我らもまたお前に刃を向けることになる。そのことを忘れるな。」

「……そのことより、ヴィヴィオをここには連れてきて欲しくなかったです。」

二人の後ろでソリッドの足に抱きついてはしゃぐヴィヴィオを見ながらザフィーラも少々軽率だったかと考え始める。

「……このへんに託児所ってないですかね?」

「あると思うか?」

「ないですよね。」

「…………………………」

「…………………………」

「はぁ……僕が連れて行きます。ザフィーラさんはティアナ達の援護に向かってください。いくよ、ヴィヴィオ。」

「は~い!!」

ユーノはヴィヴィオを抱き上げると、ソリッドのハッチまで飛んでいく。

「ユーノ!!」

コックピットに乗り込もうとしたユーノにザフィーラが叫ぶ。

「死ぬなよ。」

「ハハッ!了解!ユーノ・スクライア、何が何でも生き残る!」

「ヴィヴィオも!」





コックピットの席に座ったユーノは自分の膝の上にヴィヴィオを乗せて自身のデバイス、ソリッドをしっかりと握らせ、バインドを使って適度な力で自分に固定する。
少し視界が狭まったが、この程度ならサーチを併用すれば問題はない。

「ヴィヴィオ、いい子にしててね。」

「うん…わぷ!」

ヴィヴィオに自分のしていたパイロットスーツのヘルメットをかぶせ、足元のペダルをしっかりと踏みしめる。

「ソリッド、目標を粉砕する!」

ソリッドの目に光がともり、主の呼び声に応えるように背中から光を放つ。
そして、戦闘機やヘリとは違った澄んだ音を上げながら空高く舞い上がっていった。






クラナガン西部 郊外

「早く来い!!死にたいのか!!」

「ノ……ノーヴェ……やっぱ、マレーネに……乗っちゃ駄目…っスか?」

ウェンディは先頭を走る自分の姉妹、ノーヴェに尋ねるが、殿を務めるセッテが代わって答える。

「何度も言わせないでください。ここでうかつに魔法を使って魔力を感知されればそこまでです。つらいでしょうが今しばらく辛抱してください。」

「はぁはぁ……なのはさんの…はぁ……教導より……はぁっ…きつい!」

流石のスバルも肩で息をしながら背中の上にいる足を挫いたキャロを落とさないように気をつけながら走る。

ティアナ達と分断されてから数分後、スバルたちもまたジンクスの襲撃にさらされていたのだが、その危機を救ったのはウェンディの姉妹たちだった。

「言っておくけど、私はまだあなたたちのことを許しちゃいないよ。ティアとエリオの身に何かあったら、絶対に許さない……!」

「ああ!?助けてもらっといてその言い草はなんだ、タイプゼロ・セカンド!」

「ま、まあまあ!今は言い争ってる場合じゃないっすよ!!」

ノーヴェとスバルの間に割って入ってなだめるウェンディだが、今度は彼女が非難の的になる。

「ウェンディ、なんで私たちを裏切ったの?それと私は別にむっつりスケベじゃない。」

「だから誤解だって言ってるっしょ!機動六課のみんなにはただ普通にお世話になってるだけで……」

「少なくとも私たちはそう思っていません。さらなる説明を要求します。」

「それはあとでおいおい説明を…」

その時、六人のすぐ後ろに巨大な岩塊が落下して地面を大きく揺らす。

「……言い争う前にここから離れることを提案したいんだけど。」

「「「「全力で同意させていただきます。」」」」

「です……」

「キュク!」

再び喋るのをやめて全速力で走りだすが、その前に土煙とともにジンクスが降り立つ。
四つの紫の瞳が足元にいる小人たちを見渡し、その中にいた青髪の少女の方へと手を伸ばしていく。

「やばっ!!」

「スバル!!」

スバルは後ろに跳ぼうとするが、そこはすでに先程の岩塊でふさがれてしまっている。
白い手がスバルの視界を埋め尽くし、彼女に否応なしに絶望を与える。
だが、その絶望は空を覆う瑠璃色の輝きによって打ち砕かれた。

まず聞こえてきたのは金属同士がこすれあう不快な音。
続いて、スバルへと伸ばされていた手が空中を舞って離れた地点にドスンという音をたてて落下する。
そして、風が楽器にでもなったような澄んだ音を従えた萌黄色の右腕がジンクスの頭を叩き潰した。

スバルはかつて空港でなのはが自分を助けてくれたときのようにその姿に見とれていた。
限りなく人間に近い姿をしているが、人間とは比べ物にならないほどの力強さと存在感。
そして何より、背中から溢れだしている光の温かさに戦場にいることすら忘れてしまいそうな安堵感を感じられる。

「天使…?」

「何してるんスかスバル!!早くこっち!!」

「あ…うん……」

生返事を返すと名残惜しそうにその場を離れるが、スバルは何度も自分たちを助けてくれたロボットの方を振り返っていた。
一方、ソリッドに乗るユーノはその姿を苦笑いとともに見ていた。

「そんな何度も振り返らないで早く行ってよ。じゃないと、こいつらの相手を安心してできないじゃないか。」

正面の上空には三機のジンクスがビームライフルの銃口をソリッドに向け、今にも発射しそうな状態である。
だが、ユーノはソリッドをビルより少し上を滑らせながらライフルで的確に三機の頭部、両腕、胸部を撃ち抜いて沈黙させる。

「パパすごい!!」

ヴィヴィオはヘルメット越しに賛辞を送るが、今のユーノにはそれすら届かない。
今日のユーノはそれほどまでに集中していた。

(なんでだろう……勘を取り戻してきた以上に、ソリッドの動きが軽いように感じる。まるで、ソリッドと僕が一体になったみたいだ。)

操縦桿が自分の腕、ペダルが自分の足、周りのディスプレイに映る光景が自分の目に直に飛び込んでくるような感覚。
MSの操縦をする者ならば一度は体験したことがあるであろう感覚だろうが、今のユーノにはそれすらも当てはまらないように思えてくるほどに快調だ。
だが、

(気分の方は最悪だな。)

大したことはないのだが、脳をこじ開けられるような感覚がついてまわる。
しかし、今はそんなことを気にしている余裕はない。

「……!十二時の方向に反応……こっちはティアナとエリオか!」

ユーノの足の裏の動きに反応してソリッドが猛スピードで移動を開始する。
ヴィヴィオが小さな体にかかるGに少し辛そうにするが、ソリッド(デバイス)のフィールドを纏っているので耐えられるレベルにまでは負担は軽減されているはずだ。

「……見えた!!」

目標を視界にとらえたユーノはすぐにでもシールドバスターライフルを発射しようとするが、それを見た瞬間に凍りついた。
屋上には激しく吐血しているエリオ。
そして、ジンクスの手の中にはぐったりとしたティアナが目を閉じている。

「パパ!!お兄ちゃんとお姉ちゃんが!!」

「わかってる!!けど……」

下手に手を出せばティアナとエリオもただでは済まない。
それがわかっているのかジンクスの方も自分の目の前で静止したソリッドを見つめるだけで、とくに行動を起こす気配はない。
と、

『ククク……まさかナイト四機をこうも簡単に墜とすとはな。鮮やかな手並みだと称賛させてもらおう。』

ジンクスから外部音声でしわがれた男の声が響く。

「……姿を見せたらどうだ、ファルベル・ブリング。」

『おっと、これは失礼。司書長殿に対して姿を見せないわけにはいかないな。』

そう言うとファルベルはソリッドのモニターにその姿を現した。
首が隠れるくらいに長い白のあごひげに、白髪のオールバックからもうかなりの歳であることが分かるが、その眼は猛禽類のように爛々と輝いている。

「あ……あ……!!」

「!?ヴィヴィオ!?どうしたの!?」

『おやおや……まさか器を連れてここに来るとは。手間を省いてくれてどうもありがとう。例といってはなんだが……』

モニターの奥のファルベルの目がツゥと細くなる。
その瞬間、地上の道路を突き破ってジンクス四機がソリッドをとり囲むように現れる。

『君の死とともに最悪の犯罪者として歴史にその名を刻んであげよう。』

ソリッドへ向けて光弾が雨あられと降り注ぐ。
GNフィールドを張って対抗するものの、攻撃を受け止めすぎて薄くなった部分から何度かビームが飛び込んでくる。

「きゃあああぁぁぁぁ!!!」

ユーノは歯を食いしばって踏ん張るが、幼いヴィヴィオにこの激しい震動はかなりきつい。

「ヴィヴィ…オ……ぐあっ!!」

『ハハハハハ!!!!君との因縁もここまでだ!!いままでよく“正義”のために尽くしてくれた!!きっと父上も喜ぶだろう!!』

(!?なにを……言っている…!)

『それでは、一足先にあの世に行っていてくれたまえ。では、ごきげんよう。』

「待…て……グアアアァァァァァッ!!」

モニターから消えていくファルベルを掴もうとするが、ジンクスたちの猛攻がそれを許さない。
そんな中、ユーノの目にティアナとエリオの姿が飛び込んでくる。

(また……救えない……。ガンダムに乗ってるのに………エレナの願いを……引き継いだのに……!!また何もできないのか………!!)

エレナの、ロックオンの、そして父の死に様が浮かんでは消えていく。
それと同時に自分の罪も走馬灯としてよみがえる。
ソリッドの手に小さな赤いしみがいくつもついている。
辺りを見渡せばヘリオンが一面に転がり、そのすべてが胸の部分から赤い液体をこぼしている。
忘れてはいけない自分の罪。
この手で未来を刈り取った感触。
そして、その時に目覚めた力。



全てを、思い出した。



「う……ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ソリッドの足元に巨大な魔法陣が出現し、辺りを飲み込んで行く。
魔法陣にのみ込まれたジンクスは、次々に動きを止めて地上へと落下していく。
ソリッドはジンクスからティアナをとり返すと、優しくエリオの隣に寝かせてから、ジンクスたちを破壊した。
だが、

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

ユーノの咆哮は止まらない。
この手で人の命を奪った感触が昨日の出来事のように甦る。
同時に、なのはたちとの幸せだった日々の思い出がこなごなに砕け散っていくのを、ユーノははっきりと感じていた。






機動六課隊舎 医務室

緑色の光がエリオの体の上をゆっくりと動く。

「……うん!これなら問題ないわね。もともと思ったほど深刻じゃなかったこともあるんでしょうけど、どこかの誰かさんがかけた治癒魔法が効いたのね。」

「でも、誰なんでしょう?状況から考えるに私たちを助けてくれたロボットに乗っていた人間なんでしょうけど、誰なんだろう……」

包帯が巻かれたわき腹を押さえるティアナの質問にシャマルは視線を落とすが、すぐにいつもの笑顔を作る。

「それより、なのはちゃんの質問の答えは出たのかしら?」

「「…はい!」」

シャマルの問いかけに二人は胸を張って答えた。








ロビー

負傷したエリオ、ティアナを除く三人がなのはと向かい合っている。

「それで、答えは出たのかな?」

「もちっス!」

ウェンディは自慢げにVサインを見せてニカッと笑う。

「私たちは『誰が一番強いか?』ってなのはさんたちに聞いたけど、質問するとするなら、『他の隊長たちに勝つとしたらどうするか?』だったんです。」

「その心は?」

「つまり、自分より総合力で上回る相手に勝つためには、自分の持つ相手よりも優れた部分を使って戦う。さらに、チームで戦うことでそれぞれの持つ穴を埋めることができる。……という答えでどうでしょうか?」

スバルの答えになのはは思わず笑顔を見せる。
この答えを聞いただけで、自分が行ってきたことが間違っていなかったことが証明された。
そんな気がしたのだ。

「じゃあ、その答えが正しいかどうかはこれからの実地や訓練で確かめていこうか。」

「えぇっ!!?」

「合ってるかどうか教えてくれないんですか!?」

「キュク!!」

「大丈夫だよ。明日は分隊で別れての模擬戦をやるからその時にわかるんじゃないかな♪」

「「「えぇっ!?」」」

心底楽しそうななのはと対照的に、さぁっと顔が蒼くなる三人と一匹。



その次の日、スバル、エリオ、ウェンディの三人だけでなくキャロとティアナの食事量も増えて、周りを驚かせることとなった。







廊下

治療が終了したエリオとティアナはユーノの部屋を目指して歩いていた。
自分たちなりに導きだした答え。
たとえ相手がどれほど強大でも、策と信念によってねじ伏せる。
それを教えてくれたユーノに答えを聞いてほしい。
そう思ってユーノの部屋の前までたどり着いたのだが、

「?ヴィヴィオ?」

扉の前でヴィヴィオが両腕を精いっぱい広げて仁王立ちしている。

「ヴィヴィオ、ユーノさんいるかな?私たち、ユーノさんに話があるんだけど…」

「駄目!」

予想外の大きな声に二人は目を丸くする。

「今、パパはここの奥の方が痛いって泣いてるの!!だから会っちゃ駄目!!」

「でも…」

「ちょいちょい。」

すぐそばにいたヴァイスが二人を手招きして呼び寄せ、その場から引き離す。

「俺もついさっき会いに行ったんだけどな。なんか、様子が変だったんだよな。」

「変?」

「ああ。なんつーか、笑いがぎこちないって言うか……もろ作り笑顔で、無理してるって感じだったな。そんで、すぐにヴィヴィオに部屋をおん出されたってわけさ。」

ヴァイスの話を聞いて二人は顔を見合わせる。
数時間前は何事もなかったのに、今になって急に様子が変わった。
思い当たる理由は一つしかない。

(任務に行く前に言ってた知り合いからの頼みごと?でも、そこで一体何が……)

ふと、ティアナは点と点を結び付けてみる。

任務に参加しなかったユーノ。
最近騒がれているアンノウンを撃破している存在。
完璧といっても差し支えのない治療。

あまりにも重なりすぎている偶然。
だが、

(まさかね……だいたい、あんなでかいものを動かすなんてホイホイできることじゃないわよ。)

あり得ない仮定を排除してティアナは自嘲する。

「それじゃ、僕たちは帰りましょうか。いつまでもここにいちゃ迷惑だろうし。」

「賛成だ。ついでにエリオは俺の部屋によってエロ本でも借りてくか?」

「ヴァイス陸曹、セクハラですよ。」

ティアナの若干厳しめの突っ込みを頭で受けとめながら歩いていくヴァイス。
しかし、軽口とは対照的に先程のユーノのことが気になってしょうがない。

(まったく……人を撃った後みたいな顔して。若いのに無理なんてするもんじゃないっすよ?)

そう言いたいのだが、今日のところはフォローを入れることは無理なようなので、明日までエリオをどうからかおうか算段をたてるのだった。






?????

暗い空間の中、大きなスクリーンから放たれる翠の光だけで十分すぎるほどの明かりを得ていた。
その光源であるスクリーンに映っているのは巨大な魔法陣の上で両手を広げている萌黄色の巨人の姿。
そして、それに服従するように力を失っていく白い巨人をファルベルは渋い顔もせずにじっと見つめていた。

「この能力は……。っ!くははっ!そういうことか!!」

翠玉人。
19年前の大量虐殺。
そして、プログラムを支配する力。

「なるほど、なるほど………どうやら君との縁は私が考えていた以上に深く、そして長い付き合いになりそうだ……ククク……」

故郷も、育ての親も奪われた少年の復讐譚。
そんなB級映画のキャッチコピーのような言葉で言い表してしまう自分がどうしようもなくバカバカしい存在に思えてくるが、そんな言葉を当てはめられてしまう方がよほど愚かというべきだろう。
少なくとも、ファルベルはそう考えている。

「さて、もうそろそろフィナーレか……スカリエッティにゆりかごをくれてやるのは少々癪だが、あんな古臭い骨董品よりこちらの方がはるかに使える。」

スクリーンに映されていた映像が切り替わり、今までユーノが倒してきた数とは比べ物にならないほどの大量のジンクスが並んでいる光景が画面いっぱいに広がる。

「コピーには時間がかかったが、製造法さえわかれば管理局なら資源も場所も確保できる。そして……」

ファルベルは机の上の資料を手元に持ってくる。

「多くの人間の思考もな……」

書類に書かれていたのはミッド、ベルカ、その他の過激派たちのリストだ。

「力を授ける見返りに君たちのアイデアをいただこうか。せいぜい有用な技術を生み出してくれたまえ。エンジェルすら上回るような技術を、な……」











少女たちは強さの意味を知る
だが、守護者が求める強さの持つ意味は、誰も知らない







あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の近況報告

ロ「コミック版の話&能力完全開放の第12話でした。」

ユ「今回はいやに時間がかかったね。」

ロ「……最近リアルのほうが忙しくなってきたので更新が少し遅れてしまいました(汗)。これからは本当に不定期更新になるかもしれません。偉い遅いなオイ!と思ったら今度はえらい早いなオイ!なんてことがあるかもしれませんが、一応、週一ペースは守っていきたいと思います。」

な「言わなきゃいけないのはそれだけじゃないでしょ(怒)。」

ロ「……みたらしだんごさんの指摘を受け、secondのストーリーを練り直しているので、secondに入ったらさらに自転車操業になるかもしれません。それでもよろしければこれからもお付き合いください。」

ユ「沙慈が聞いたら喜びそうだけどね。」

ロ「……いろいろ問題は山積みですが、それでも頑張りたいと思います。では、ゲストの紹介を省いて解説へ行きます。」

ユ「ようやく能力全開になりました。やっとだよ!!」

ロ「お前今までどんだけ不満だったんだよ。」

な「さらにティアナにパイロットフラグ。これいいの?」

ロ「というかまだ何人か乗るやつはいるよ。まあ、そのなかでもティアナは結構活躍させるつもりだったから一足先に出しといた。」

な「私は?」

ロ「なのはさん、ネタバレって知ってる?」

魔王「わ・た・し・は?」

ロ「か…活躍できるよう努力させていただきます。だからアクセルシューターを引っ込めて……」

ユ「……これ以上僕の愛しいなのはの怖い姿を見たくないので次回予告にいきます。」

な「え!?あ、はい!!……公開意見陳述会の警備を担当することになった機動六課。(キャピ♪)」

ユ「(キャピって……)しかし、そこへスカリエッティ引きいるナンバーズが襲いかかる!」

ロ「地下でフォンと対峙するユーノ。その時、フォンの口から放たれた言葉に怒りを爆発させる!」

な「ユーノ君とフォン・スパーク。勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 13.激怒
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/10/20 21:17
……ある日を境に、僕を取り巻く環境は一変した。
ビルも、家も、病院も、建物すべてが空虚なハリボテに見えた。
どんなに素晴らしい音楽もただの空気の振動としてしか感じられない。
花のにおいをかいでも何もわからないし、思い出そうとしても思い出せない。
どんなものを口に入れても味がしない、食感もない。
人生で五感がここまで不要だと思うことは後にも先にもないだろう。
それでも、みんなが心配するから無理に笑うようになった。
一人になった時だけが、涙を流すことができる唯一の機会だった。
……一人でいるほうが落ち着いた。

僕の目に色彩が戻るのは、本を読んでいる時か遺跡の発掘に従事している時だけ。
皮肉なことに、それが幸いして遺跡の発掘では大きな功績を上げることになった。
けれど、それが終わってしまえば再び悲しみが込み上げてくる。
それでも、誰にも泣いているところを見せちゃいけなかった。
……どうしようもなく、孤独だった。

気付けば、僕は人に、一族のみんなにさえも心を開くことができなくなってしまっていた。



そんな人生を三年も過ごしていたある日、僕は彼女と出会った。
世界に、色が戻った。
その後もたくさんの友人に恵まれ、つらい別れを繰り返しながらもここまで歩いてくることができた。
僕を好きだと、父だと言ってくれる二人のために残り少ないであろうこの命を使いたい。
けど……





魔導戦士ガンダム00 the guardian 13.激怒

ロビー

「……というわけで、明後日の公開意見陳述会のシフトは今説明したとおりや。全員気を引き締めて…」

誰もが真っ直ぐ立ってはやての言葉に耳を傾ける中、ユーノだけが少し離れたところで壁に寄りかかって俯いていた。
ファルベルと接触したときにほとんどの記憶は取り戻した。
最初は自分の中で整理をつけられず、周りに余計な心配をかけてしまったが、もう動揺している時間さえも惜しい。
一刻も早くファルベルの陰謀を挫いて向こうに戻らなければならない。

「オイ!!聞いてんのか!!」

「いたっ!」

真面目に聞いていないと思われたのか、ヴィータがユーノのわき腹を小突く。
小さい体格の割には強い力でやられたため、ユーノは思わず叩かれた部分を押さえる。

「言っとくけど、今回の任務ではサボらせるつもりはないからな。」

「つつ……了解。」

ヴィータはわき腹をなでるユーノを放って自分の部屋の方向へと戻っていく。
よく見れば、他の面々も思い思いの場所へ散っていっている。
どうやら、はやての話が終わったようだ。

「それじゃ、僕も……」

「ユーノ君。」

「?なのは?それにヴィヴィオも。」

呼びとめられて振り向いた先には、なのはとヴィヴィオがいた。
ファルベルと接触してからなんとなく会いづらくて、顔を合わせることも話をすることもそんなになかったのでこうして話しかけられるのも久しぶりだ。

「私も休みをとったし、今日は一日家族水入らずで過ごさない?」

「でも……」

「教導はヴィータちゃんがやってくれるって。それに…」

なのはが苦笑しながら心配そうな顔をしているヴィヴィオの頭をなでる。

「ヴィヴィオも一緒にいたいって。」

「ヴィヴィオ……」

失念していた。
ヴィヴィオは自分が苦しむ姿を誰よりも間近で見ていたのだ。
そうでなくても、彼女は人の心の機微に敏感なのだ。
そんなヴィヴィオが自分を心配しないはずがない。

いや、ヴィヴィオに限った話ではない。
間違いなく他のみんなにも心配をかけているだろう。

「ごめんね、心配かけて。パパはもう大丈夫だから、そんな顔しないで。」

「ホント……?」

「本当の本当さ。ほら、今パパはここの奥の方で泣いているかな?」

ヴィヴィオの手を自分の左胸に当てて問いかける。
規則的な鼓動がヴィヴィオの手の平に伝わり、それがユーノの気持ちを伝えていく。

ヴィヴィオに笑顔が戻ると、ユーノは彼女を肩車して玄関までの道のりを歩きだす。

「今日はヴィヴィオが好きなところに連れて行ってあげるよ!」

「やったぁ!!」

「フフフ……よかったね、ヴィヴィオ。」

「うん!」

「なんなら、なのはの好きなところにも連れてってあげるよ。」

「え!?」

「久々にデートも悪くないだろう?それとも、ヴィヴィオがいるから恥ずかしい?」

「そんなことないけど……」

「じゃあ、決まりだ。」

珍しく強引に自分の意見を押し通したユーノに連れられ、なのはは紅潮しながら、それでもヴィヴィオと同じくらい嬉しそうにユーノの後についていった。




その日、三人はいろいろなところを回った。
スバルがよく行くという露店のアイス屋で五段乗せに挑戦。
シャーリーがエリオとキャロに教えていたデートコースを少し照れながら三人で手をつないで歩く。
ティアナが訓練生時代によく通ったというファーストフード店でそれぞれ違う新商品を三人で頼んで分け合った。
八神家御用達の食料品販売店で、二人でこの事件がひと段落ついたころに作る料理を相談した。

そんな一日を過ごしたのち、くたびれて眠ったヴィヴィオを背負って部屋に戻ったユーノは帰り道で買ったソフトドリンクを口にする。
その瞬間、ユーノの口元がへの字に曲がる。

「……よくこんな甘ったるいものをみんな喜んで飲むね。」

「私は好きだけどなぁ、この味。」

なのははユーノの手から缶を受け取るとおいしそうに飲み干す。

「えへへ……いちごミルク+ユーノ君味♪」

「素面でそれじゃ、アルコールはやめておいた方が正解だね。」

猫のように口の周りについたピンク色の液体をなめとるなのはの姿にユーノは苦笑いをしながらパジャマに着替えようとする。
すると、上半身をさらした瞬間に背中に柔らかい感触が押し付けられた。

「……どうしたの?今日はやけに甘えるね。」

「……ねぇ、覚えてる?帰ってきたときにした約束。」

「どこにも行かないで……でしょ。覚えてるよ。」

「よろしい…♥」

ユーノを抱きしめる腕の力が少し強くなるが、ユーノは優しくなのはの腕を振りほどく。
少し不満そうに顔を膨らませるなのはの姿がおかしく吹き出してしまうが、なのはの手によってヴィヴィオが寝ているベッドの横にあるソファーの上に押し倒されたことで黙り込んでしまう。
そしてまた、押し倒した本人であるなのはも真剣な顔でユーノを見つめる。

「なんだか、最近のユーノ君があの時の姿にだぶって見えるんだ。」

「あの時…?」

「私が無茶して失敗したあの時。」

「ああ……」

なのはの悲しそうな笑顔で思い出す。
なのははいまだに自分を責めているようだが、ユーノも自分で無茶をしたと思っている。
そして、

(みんなに出会えた……)

決していいことばかりではないが、新たに出会った仲間と絆をつなぐことができた。

「あの時とだぶるって……?」

優しく、壊れ物を扱うように、不安という名の病巣を心から取り除くようになのはの腰に手を回す。
なのはも、それに応えるように言葉を紡いでいく。

「ユーノ君がどこか遠くにいっちゃって、もう戻って来てくれないような、そんな気がするの。そのことを考えると、どうしようもないくらい不安で、悲しくて……!」

涙がこぼれおちそうななのはの唇にユーノの人差し指がかかり、それ以上喋れなくなる。

「なのはが不安になるなら、新しい約束を上げる。」

「新しい…約束……?」

「たとえ離れても……どれだけ時間が経とうと、必ずなのはのもとに戻ってくる。」

話しながらブラウンの髪を梳かす指は冷たく、夜でも少し蒸し暑いこの季節には気持ちいいが、それよりも瞳からこぼれおちる雫の温かさの方がなのはには嬉しく思えた。

「……本当はね、全部知ってるんだよ。」

「うん……わかってる。」

「……捕まえることだってできるんだよ。」

「でも、そうすることは望んでないんだろう?」

「……意地悪。」

真実を伝えても動じないユーノにムッとするが、言うべきことは言わなければならないだろう。

「ありがとう……」

「どういたしまして。」

いい雰囲気のまま、二人はそのまま顔を近づけていく。
が、

「むにゃ……パパ~……ママ~……ヴィヴィオ、弟の方がいい~……むにゅ…」

「「!!?!!??!!!!!!?!?!?!!!!?」」

娘発のまさかの爆弾発言(寝言)で彫刻のように固まる二人。
よくよく考えてみれば、常識に照らし合わせると今の状態は倫理的にまずい。
ユーノは上半身裸、なのははカッターシャツ姿。
そして、押し倒し、押し倒されている体勢。
すぐ横には幸せそうに寝ている娘。
その気は全くなかったのだが、第三者が見たら間違いなく勘違いするだろう。

「も、もう寝ようか!?明日も早いし!」

「ふぇ!?そ、そそそ、そうだね!!」

なのははヴィヴィオが寝ているベッドへもぐりこみ、ユーノはタオルケットを取り出して頭からかぶる。
しかし、一度意識してしまったせいもあり、二人はなかなか眠れない夜を過ごすのだった。







その外では、少し遅い外出をしている人影が三つ。
一つは肩ぐらいまで伸びた髪の横に小さな人形のような小さい影を乗せたシルエット。
二つ目は長い髪を夜風に揺らしながら、あわあわと慌てる女性。
そして、最後は両手を組んで壁に寄りかかって呆れている男。

「やれやれ……あのバカップルは相変わらずそういうところで鈍感というか、なんと言うか……」

「クロノ君、もうちょいタイミング考えて来てくれなあかんて。」

「「……/////」」

「お、さすがフェイトちゃん。やっぱあの二人と同じでうぶやなぁ~。なんやリインも八神家の一員なのにそっち系には慣れとらんみたいやし。」

「君もそうであるべきだと思うのは僕だけか?……それにしても、まさかなのはが先にばらすとはな。」

クロノはユーノに件の兵器の話を聞くために来たのに、家族そろって出かけたと聞いて帰りを待っていたのだが、その機会を逃して現在に至る。
横の二人も最初はそのつもりだったようだが、部屋の住人たちの話を聞いてその気も失せたようだ。

「けど、なんだか安心しました。やっぱりユーノさんはユーノさんです!」

「そうだね。ユーノは好きであんなことをする人じゃないから……誰よりも優しくて、少し鈍感で、意地っ張りで、私たちの大切な友達だ。」

「ああ。本当は誰よりも子供でいたいくせに、必死で背伸びしている馬鹿フェレットのままだ。」

「またまたぁ、提督さんはぁ♪素直に変わってなくて嬉しいって言えばええのに♪」

「む……」

頬を赤らめるクロノを三人で笑うと、フェイトが口を開く。

「はやて、クロノ、リイン、私たち、友達だよね?ユーノやなのは、ヴィータたちも、みんな。」

フェイトの問いに最初は呆気にとられるが、三人はすぐに答えを示す。

「当然のことを聞くんだな。」

「ですっ!」

「そういうことや。」

「うん…」







だが、これが後にJ・S事件と呼ばれる都市型テロ発生前に、この五人が集まる最後の夜となった。










二日後 地上本部

陳述会は特に問題が起きることもなく進行していた。

『……よって、アインヘリアル建造は時期尚早と判断し、計画を凍結させることを宣言させていただきます。しかし、みなさん!この機会に考えてほしいのです!多くの次元世界の問題を時空管理局という一つの組織で解決していくという負担を!!そして、その結果ないがしろにされるものがあることを!!』

「ハハハ……レジアスさん張り切りすぎだよ。」

額に血管が浮かびあがるほどの大声で熱弁するレジアスをユーノは警備を担当している地下施設への入り口から手元のモニター越しで見ている。
この調子でいったら陳述会が終わるころには脳溢血で倒れるのではないかなどと杞憂にも似た思いが頭の片隅をよぎるが、それを一笑に付してふたたび意識を切り替えようとしたその時だった。

「……?」

自分の足元を何かが通っている。
その何かはそのまま後ろの壁を伝って上へ上へと昇っていく。
その先にあるのは、

「……!管制室!?」

その時になってようやく思い出した。
最初にフォンと接触したときに彼が逃げるときに感じたあの反応。
それと全く同一のものだ。

「イージスよりスターズ、およびライトニング!何者かが管制室を目指して進行中!至急確認されたし!!」

(え!?りょ、了解!確認に向かいます!)

エリオの返事が届き、自身も管制室に向かおうとした時だった。
そこで制御されているはずの地上本部の魔導障壁が消え去った。

「マズイ!!」

それが合図だったかのように、曇った空すら見えなくなえるほどの銀色の大群が我先にとこちらに押し寄せてくる。

「ガジェット!?ご丁寧に初っ端からAMFを展開してくれちゃってまあ!!」

食いしばった歯を見せながら笑うユーノへと俵のような形のⅠ型が殺到する。
ユーノは飛び上がると壁を蹴ってその荒波の後ろに回ると、相手が振りむく前に団体の真ん中へと突撃していく。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

最低限使用できる魔力で生成した魔力刃を的確にⅠ型の目玉部分に投げつけて沈黙させていく。
しかし、それが終わればまた新手が押し寄せているという悪循環だ。
しかも、すでに下や本部の中からも反応が感知でき、あちらこちらから爆炎が上がっている。
この分ではスターズやライトニング。
そして、中にいるなのはたちも危険だ。

(いったんここを離れてティアナ達の援護に……駄目だ!おそらく敵の狙いはこの下にある出力機関だ!それを放っていくなんて無理だ!)

ならば、逆にティアナ達をここに呼ぶか。

(これもアウトだ!これだけの数じゃ、下手にティアナ達を動かすと危険だ!)

悩んでいる間にも続々とガジェットは押し寄せてくる。
そして、トラブルとはこういうときほど起きるものだ。

「くっ…うわっ!?」

足元に転がっていたガジェットの一体がユーノの足にコードをからめてその自由を奪う。

「しまっ……」

うつぶせになったユーノが顔を上げた先にはガジェットのレンズが怪しく光っている。
だが、

〈Missile Rain  Spread Shift〉

「景気良く……ばら撒けェェェェェ!!」

〈了解。〉

ミサイルを模した光が空高く舞い上がったかと思うと、次々にガジェットにぶつかって爆発音を響かせていく。

「大丈夫っスか!?」

「ウェンディ……ああ、僕は大丈夫だ。それより、他のみんなは?」

「ティア達は自分たちの場所を守ってるっス。あたしはこれを届けに行って来いって。」

そう言って開かれたウェンディの手の上には見なれた赤い宝石と金色の三角形、そして、十字架が乗っている。

「そうか、なのはたちにこれを!」

「ユノユノも一緒に来るっス!ここにいたらぼこぼこっスよ!!」

「いや、僕は…」

〈Caution!!〉

「「!!!!」」

レイジングハートの声に反応して二人が飛びのいた場所に赤い熱線が集中する。
ウェンディは空中に浮いたままユーノの腕を強引に掴むと、マレーネの翼を握らせる。

「ちょ、ちょっと!!」

「しっかりつかまって!!」

戸惑うユーノのことなど構わずに、ウェンディも翼を掴む。
そして、

「マレーネ、テールユニット展開!!」

〈了解。モード・アクセラレイト。〉

ウェンディの足元に歯車を模した魔法陣が展開され、マレーネの後部に巨大な推進機と二つの砲門が出現する。
二人に掴まれたマレーネは力を溜めるように壁に平行に留まっていたかと思うと、突風とともに壁を駆けのぼり始めた。

テールブースター。
ユーノがマレーネを作った際に、セカンドフォームとして用意していたものであり、キュリオスのそれをアブルホール用に改良したものだ。
ただ、かなり強引に改良したため長時間の使用が不可能だという欠点があるのだが、その分大火力とフェイトすらも上回る高機動を実現している。

「ウ、ウェンディ!!あそこには…」

「あそこはもう無理っス!たぶん、チンク姉ぇが…」

その時、二人が中ほどまで登ったところでそれまでいたところが地下から吹き飛ぶ。
どうやら、すでに手遅れだったようだ。

「くそっ!!」

「悔しがるのはあとっス!!今は早くレイジングハート達を…」

〈マイスター!〉

「おおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!」

「「うわぁぁぁぁぁぁ!?」」

マレーネの警告もむなしく、何者かの槍がマレーネのボディをかすめる。
高速で移動していたのが仇となり、少しの揺れで大きくバランスを崩した二人は空中に放り出されて壁に叩きつけられる。

「かはっ…!ウェンディ…大丈夫……?」

「あたしは平気っス……マレーネが、助けてくれたから…」

〈主に死なれては道具としての存在意義がなくなるので。〉

「ハハハ……相変わらず素直じゃないっスね。」

二人はマレーネの上で膝をつきながら苦痛で歪んだ表情で襲撃者を睨む。
槍を手にしたその男から漂う気迫はただ事ではない。
少し頬がこけてはいるが、体つきはがっしりしていてシグナム達とは雰囲気が違っているが、彼もまた騎士という言葉がぴったりと当てはまるほどに武人然とした人物だ。

「珍しいっスね、騎士ゼスト。あんたがドクターの指示に従うなんて。」

「ここに来たのは新しくできた友人の頼みであり、俺の目的を果たすためだ。お前たちが持つそれを彼女たちに渡されると少々厄介なのでな。」

ゼストは槍の刃を下段に向けて腰を落として顔つきを一層厳しくする。

「止めさせてもらうぞ。」

体を突き刺してくる殺気でわかる。
この男がどれほどの修羅場を潜り抜けてきたのかが。
だが、ユーノも今まで幾多の死線を乗り越えてきたのだ。
そう簡単に思い通りになってやるつもりなど毛頭ない。

「……ウェンディ、ここは僕一人でどうにかする。なのはたちにそれを届けるんだ。」

「了解!」

ウェンディは再びマレーネにつかまり、なのはたちが待つ陳述会の会場へ急ぐ。
ユーノはそれを見送ると、小さな笑いを浮かべる。

「まず目的の第一段階達成、ってところですか?騎士ゼスト。」

「967からお前にだけ伝えてほしいと言われていたのでな。」

「やっぱり、新しい友人っていうのは967だったんですね。」

ユーノとゼストは互いに構えを解いて向かい合う。

「ゆりかごが墜ちようとしても、TRANS-AMは使うな。託された翼を使え、だそうだ。」

「託された翼……」

それはすなわち、フェルトの両親から託されたあの力のことだ。
だが、わからない。

「なぜあなたがそのことを?967は今どこに?」

「アイツは今、余計な横槍が入らないようにしている。」

「横槍?」

「……ジンクスだ。」







クラナガン北東部 

「それじゃ~、準備はOKかしら?」

「ああ、始めるぞ。」

クアットロの手の平の上で967は彼女のサポートのもと足元の工場から飛びたとうとしているジンクスたちへと接続する。

「……掌握完了。やってくれ。」

「了解~♥」

クアットロは手元に出現させたコンソールを叩いていく。
それと同時にジンクスたちは互いに相手の腕や脚を力任せにもぎ取り、挙句の果てには主要機関であるGNドライヴさえも破壊し始める。
その姿を見ていた967は望んでやっているとはいえ、ここまで悪趣味なものを見せられて嬉しいはずなどない。
さらに、

「ああ~……か・い・か・ん♪」

すぐそばで十五、六歳の容姿の少女がSな笑みを浮かべて悶えている光景など見たくもない。

「もう少し穏やかにできない……」

「ほらほら!!踊りなさい!!私の手で!!」

「…………………………………」

クアットロの性格の更生の必要性をかみしめる967だった。
……もっとも、あの親の性格をさらに歪めたような彼女を更生できるかどうかはかなり不安が残るところだが。








地上本部

「なるほど。それで、もう一つの目的はなんなんですか?」

「ある男に会いに来た。」

「ある男?」

ゼストの顔が曇ったのを、ユーノは見逃さなかった。

「……道を違えてしまった友だ。アイツと俺は同じものを信じ、そのために互いにできることをしてきた。だが、俺たちの道はいつしか別れ、俺はアイツと関わりのある事件で部下を失った。……最初は恨みもした。だが、それでもアイツが望んであんなことをするはずがない。だからこそ、俺は真実を、レジアスの真意を知りたいんだ。」

「レジアス……じゃあ、あなたが!?」

ユーノがゼストに手を伸ばそうとする。
その時、

「でええやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

上から滑空してきたヴィータがゼストへとグラーフアイゼンを振り切る。
その後ろにはリインフォースが続く。

「くっ!!」

「!?ヴィータ!!やめるんだ!!その人は…」

ヴィータたちはユーノの制止も聞かずに一歩下がったゼストへと向かっていく。

「リイン、ユニゾンだ!!」

「ハイです!!」

リインフォースが光とともにヴィータの体の中へ消えていく。
それと同時にヴィータの外見にも変化が表れていく。
まずはバリアジャケットの色が変化していき、それに合わせて髪の色も青みがかったものになり、彼女の周りに氷のつぶてが姿を見せ始める。

「いけっ!!」

〈Gletscher Adler〉

鋭くとがった氷の刃がグラーフアイゼンによって押し出され、荒鷲のごとくゼストへと襲いかかる。
だが、ゼストに着弾する前にそれらはすべて紅蓮の炎によって撃ち落とされた。

「オイ!あんた!!」

ユーノは自分の上を舞う烈火の剣精、アギトの方を向く。

「早く下に行ってやれ!このままだといろいろとまずいぞ!!」

アギトはそれだけ言い残すとゼストの援護へと向かう。
ヴィータはユーノに何か言いたげに睨むが、アギトも加わってそれどころではなくなしまったようだ。
そして、ユーノはユーノでアギトの言葉の意味を考え始める。

「いろいろ……?…っ!?」

その時、地下から信じられない勢いで膨れ上がっていく魔力の反応を感知して思わず真下を見る。
下は先ほどの爆発で完全に施設への入り口が閉じられてしまっている。
しかし、それでも確かに感じる。

(これは…スバル!?でも…)

スバルは確かに潜在魔力量の高い方だが、ここまで一気に増加していくのはどう考えても異常だ。
ユーノは意識を集中して下の様子を探り始める。

(これは……あの時の銀髪の子…チンクだったかな?あと、ギンガ……負傷しているのか?それとティアナに、知らない反応がもう一つ。)

どうやらその知らない反応とスバルが戦っているようだが、危険な状況だ。
スバルがではなく、彼女と相対している存在がだ。

(……っ!!やりすぎだスバル!!そのままじゃ…)

最悪の事態が起こる。
あの時の自分のように、血にまみれた手で泣き叫ぶスバルのヴィジョンが頭の中で鮮明になっていく。

「そんなことさせるか!!」

スバルたちは自分と違う。
スバルの手は誰かを救うためのものだ。
自分のように他者を傷つけるために使ってはいけない。

アームドシールドから薬莢を排出して、バンカーモードに切り替えると自由落下するよりもさらに速く地面へと向かっていく。
そして、

「ぶち抜けぇぇぇぇぇ!!!!」

〈Assault Bunker High Boost〉

空気との摩擦で赤熱するバンカーを炸裂させて瓦礫も何かもを吹き飛ばし、地下の道へと侵入する。
すぐさまあたりの様子と現在地を確認すると、ユーノはスバルたちが戦闘を繰り広げているであろうポイントまで急ぐ。
その時、ユーノは新たにもう一つの反応をはっきりとキャッチしていた。
この一件にかかわって以来、何度も自分たちに牙をむいてきた存在を。








「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

スバルが吼えるたびに地下の広い空間が揺れた。
拳が壁にめり込むと上から大小さまざまな欠片が降ってくる。
ギンガが一人で侵入者と戦っていると聞いてスバルとともにやってきたティアナだったが、ボロボロの状態で倒れているギンガと、襲撃者二人の姿を確認した瞬間、スバルがキレた。
普段は使わないように心がけている戦闘機人としての力、振動破砕まで使って二人の襲撃者を追い詰めていく。
ティアナと彼女に救出されたギンガはやめるように言うが、スバルは怒りで我を忘れて誰の声も届かない状態になっていて一向に止まる気配がない。

「くっ!!このぉぉぉぉ!!」

赤髪を振り乱しながらスバルと打ち合いを続けるノーヴェだが、すでに両腕の生体組織が剥がれ始めている。

「オマエタチガ……ギンネェヲ……!!」

スバルの方もすでに腕の機械部分が見えているが、このままでは間違いなくノーヴェの方が先に限界に達するだろう。

「ノーヴェ、離れろ!!」

眼帯の少女、チンクの声に合わせてノーヴェが空中に張り巡らされた黄色の道を駆け上がった瞬間、スバルの周りに刺さっていたナイフが次々に爆発を始める。
スバルは叫び声もあげずに爆炎の中に消えていった。

「スバル!!」

ギンガはスバルのもとに向かおうとするものの、体を思うように動かせずその場に倒れこんでしまう。

(やったか…?)

チンクはいまだに炎に包まれている地点を見つめる。
本来ならばスバルとギンガを保護してファルベルの手が及ばないようにするのが目的だったのだが、ここまで互いに深手を負うことになるとは予想していなかった。
だが、流石にこれで終わりだろう。
チンクはそう思って炎に背を向ける。
しかし、

「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「なっ!!?」

慌てて振り向いたが遅かった。
彼女の小さな体に火炎を纏ったスバルの鉄拳が突き刺さる。
身体中の空気が外に追いやられる感覚にむせかけるチンクだが、続いて打ち込まれた蹴りによって右腕が中の金属骨格ごと粉砕される激痛に残り少ない酸素を消費して呻く。
さらにスバルはチンクの頭を掴んで壁へと投げつけるが、それはギリギリのところでノーヴェがチンクをキャッチして事なきを得た。
しかし、すでにチンクの体は戦える状態ではない。

「チンク姉ぇ!!しっかり!!」

「ノー…ヴェ……姉を置いて…逃げろ……。今のセカンドは……危険すぎる…!」

「いやだ!!そんなことできるわけないだろ!!」

「いいから…行ってくれ…頼む……!!」

チンクの哀願を拒むノーヴェにリボルバーナックルを回転させてスバルが襲いかかる。

「っっ!!」

「よ…せ……!」

避けきれないと判断したノーヴェはチンクをしっかりと抱きしめて、来るであろう衝撃に備えた。
だが、どれほどたってもそれが自分の背中を襲ってこない。

「……?」

恐る恐る顔を上げた先には、翠の盾に阻まれスバルの姿と、マントの上でなびく金色の髪が見えた。

「もういい、スバル。ここまでだ。」

「ウ…ア…!!?」

動きが止まったスバルの目に、ユーノがかばっているチンク達の姿が飛び込んできた。
血だらけで、ぐったりとしたその姿が少しずつスバルの意識を正気へと導いていく。

「ア…あ……わ、私…!!」

「大丈夫。」

「あ……」

頭に乗せられた手の感触に安心したのか、スバルはそのままユーノに体を預けるように気を失う。

「ティアナ、ギンガ。君たちはスバルを連れてすぐに退避して。そこの君たちもすぐにここを離れて。」

「ユーノさんはどうするんですか?」

「僕は…そこにいるやつに用がある。」

ユーノの視線の先、崩れた瓦礫の一角が揺らいだかと思うとそこからGNプロトソードを持ったフォンがニタニタ笑いながら出てくる。

「よお、俺のことを少しは思い出したか?」

「……何をたくらんでいる、フォン。僕を連れ戻したいだけならここまでする必要はないはずだ。」

「言ったろ。俺はあの変態マッドサイエンティストと契約しているってな。一応ここまで手伝ってやる予定だっただけだ。それと……」

フォンの酷薄な笑みにユーノは胸騒ぎを感じる。
今までさんざん見てきた憎たらしい笑みなのに、今まで感じたことのない不安が襲ってくる。

「あの邪魔なできそこないの人間もどきをお前から奪うためだ。」

「!!!!!」








機動六課隊舎

「くそったらぁっ!!」

燃え盛る廊下の隅で不慣れな杖型のデバイスを使って決死の狙撃を繰り返すヴァイスの手が震える。
今自分が狙っているのは立て籠もり犯でも、自分の大切な人間でもないのに動悸が止まらない。
だが、それでも引けない。
自分の後ろには非戦闘要員のみんな、そしてユーノとなのはの娘がいるのだ。



地上本部が襲撃を受け始めた頃、機動六課にもガジェットが大挙してきた。
しかも、救援を呼ぼうにも何者かにシステムの全権を奪われ、本来外敵に対して作動するはずのシャッターなどに局員が閉じ込められるという事態が発生している始末だ。
そんな中、戦闘経験のあるヴァイスは非戦闘要員たちの保護を買って出ていた。

「へへへ……腕は鈍ってなくても、これじゃ二流の狙撃だな。」

自嘲を交えることで動悸を沈めて放つ光弾は的確にガジェットをとらえていく。
だが、やはり多勢に無勢。
徐々にではあるが押し込まれ始める。

「ちっ!!」

舌打ちをして振り返るヴァイスの目にふと扉の隙間からこちらの様子をうかがっているヴィヴィオの姿が見える。
不安そうな顔をしていたが、ヴァイスが自分を見ているのに気付くと不器用ながらも笑顔を作って見せる。
それを見たヴァイスもまた、笑顔を返して前を見据える。

(……いっちょやるか。)

整備服の上着を脱いでそこら辺に放り出すと、再度杖を手にとってバリケード代わりに使っていた瓦礫からひょいと身を乗り出す。

「ヴァイス陸曹!?なにを…」

「グリフィス、ここから先はお前とシャーリーで指示を出せ。俺は連中を引き付けてできるだけ遠くまで行く。その間に何とかしてここを脱出しろ。」

「ヴァイス陸曹!!」

「心配すんなよ。死にゃしないさ。」

そう言って駆けだしたヴァイスは、手に握って置いた小石をガジェットにぶつける。

「こっちだ鉄クズ!!」

怒った……わけではないが、逃げていくヴァイスをガジェットたちが追いかけ始める。

(悪いな、ラグナ。兄ちゃん、もうお前に会えないかもしんねぇ…)

まだ償いは済んでいない。
だが、それでもここで仲間を見捨てたら一生後悔する。
だから、

「あばよ、ラグナ。達者でな……」

ヴァイスは曲がり角を曲がると今来た道の方へ振り返る。
そして、曲がり角を曲がったばかりのガジェット二体の目玉を的確につぶして再び逃げる。

「とりあえず、くたばるにしても他のやつらの逃げ道確保するぐらいのことはしないとな!」

今までの状況を鑑みるに、システムをコントロールしている存在はここにいると考えて間違いない。
でなければ、あれほど迅速に、そしてタイミングよくザフィーラやシャマルと分断されるとは考えにくい。
だが、ヴァイスが考えついたのはそこまでだ。
仮に隊舎の中や付近にいたとしても、どこにいるのかは皆目見当がつかない。

「最後に頼れるのはスナイパーの勘ってか!!?」

すぐ後ろまで迫っていたガジェットの方を振り向きもせずに、的確にガジェットの急所を撃ち抜いて走り続ける。

「とりあえず、管制室の方にでも……!?」

その瞬間、ヴァイスは後ろから迫っていたガジェットの存在すらも忘れてしまった。

「そんな、馬鹿な……!?なんでお前がここに…!?」

猫の耳を思わせるカチューシャを頭に付けた少女の出現に目に見えて動揺する。
そして、その一瞬を見逃すことなくガジェットは一撃でヴァイスを壁に叩きつけた。

「がぁ……」

頭部を強打し、意識が遠のいていく中でもヴァイスは杖を手放さない。

「まだ…だ……!!お前とヒクサーが、俺たちの敵だとしても……いや、敵だからこそ、俺はお前らをダチとして止めて見せる…!!」

「光栄だね、君にそう言ってもらえるなんて。」

「何言ってんのよヒクサー。こういうのは熱っ苦しいっていうのよ。……ていうか本当に熱っ!!」

(え……?)

ヴァイスの霞んでいく視界に白いコートを着込んだ男と、先ほど見た少女と瓜二つの、しかし、こちらは勝気な笑みを浮かべた少女が自分を見下ろしている姿が写る。

(ハハハ……なんだ、887?お前、双子……だった……の…………)

「あらら、火星の向こうに招待されちゃったみたいだよ?」

「それは困ったなぁ……874、できればこのオートマトンもどきを止めてほしいんだけど?」

困ったと言いながら涼しい笑みを浮かべたまま、ヒクサーはもう一人の猫耳の少女、874に問いかける。

「ヒクサー、そろそろユーノが道標を示します。三日後、このポイントに来てください。新たなメンバーへのガンダムの引き渡しとエウクレイデスへの乗艦を許可します。」

「随分いきなりだね。それに、その調子だと僕らが何をしていたかフォンは見抜いていたみたいだね。しかし、道標っていうのは……」

「管理外世界地球の平行世界、すなわち、私たちの世界への座標をユーノに示してもらいます。」

「一体どうやって?」

「これです。」

874の本体の中には蒼く輝く宝石が三つ入っている。
そのどれもが自分の存在を主張するように激しい光を放つ。

「ジュエルシード………そうか!!そういうことか!!」

ヒクサーは合点がいく。
フォンと自分たちがここに来れたのも、元をたどればユーノがこちら側の座標を示したからだ。
ならば、同じことをユーノにしてもらうことで戻ることができるようになるのではないか。

『874、こっちは片付いた。結構粘られたけど、ルーお嬢様も器の確保に成功したみたい。』

「了解。ではヒクサー、三日後に。」

「わかった。ユーノが上手くやってくれることを祈るよ。」









地上本部

「ヴィヴィオが聖王のクローン!?」

「そう言うこった。お前とあの女は戦艦のカギを後生大事に子供だと呼んでたってわけだ。笑える話じゃねぇか。」

フォンの不愉快な笑いをBGMにユーノは呆然と立ち尽くす。
だが、すべてを知ってなお、三人で過ごして日々を否定することができない。
たとえ、ヴィヴィオがなんであろうとあの幸せな一時はユーノにとって確かなものなのだ。
否定など、できない。

「………ゃない。」

「あ゛?」

「ヴィヴィオは道具じゃない……!!」

怒りで震える声を絞り出すユーノをフォンは鼻で笑い飛ばす。

「情でも移ったか?あんなガキ一人になんでそこまでこだわれんだか……」

「ヴィヴィオは僕の娘だ!!」

「フン。だがそれもここまでみたいだがな。」

フォンは骨伝導マイクからの知らせに口の両端をさらに吊り上げる。

「今あのガキを確保したそうだ。あの変態マッドサイエンティストのことだろうから、ゆりかごを起動させた後は今までの記憶を消去して生体兵器にでも…」

〈Kill mode on〉

それまでフォンが立っていた場所の周辺が粉々に砕けて吹き飛ぶ。
フォン自身も常人ならば死に至るような速度で壁に叩きつけられるが、頭部からの流血も気にせず不敵に笑い続ける。

「あげゃげゃげゃげゃ!!!やっとだ!!やっとお前と本気で殺りあえる!!」

「あぁあぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

鋭い切っ先をフォンの首に突きたてるべく突進するユーノだが、フォンもまたGNプロトソードの刃を突き出す。
刃がお互いの頬を深く斬り裂くがそんなことなど気にしない。
フォンは即座にライフルをとりだすとユーノの腹へと乱射する。

「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

しかし、ユーノは防御もせずにフォンの頭を強引に掴むと床に押し付けてそのまま引きずりまわす。
防御もせずに非殺傷設定ではない攻撃をまともに受けたため、夥しい血が出ていて痛々しい姿だが、当の本人は痛みすらないようだ。

「グゥッ!!まだまだぁ!!!!」

フォンはユーノの腹を蹴り飛ばして脱出すると、そのまま左手にも赤い魔力刃を発生させて斬りかかる。
ユーノも緑色の刃を左手に持って突進していく。
そして、二人が激突した瞬間、辺りにあるものすべてが薙ぎ払われた。

ノーヴェやティアナ達にはもはや二人の姿をまともにとらえることができないほどの超高速の剣戟。
そして、何より互いに自らの命など省みない戦いに恐怖して動けずにいた。

『あんなお遊びで満足してるんなら今すぐ局員なんてやめるんだね。命がいくつあっても足りやしないよ。』

不意にティアナの脳内にリピートされるユーノの言葉。
そんな場合ではないとわかっているのに、あの時の言葉が頭から離れようとしない。
そう、あの時自分やスバルがしようとしていたもの延長線上、同じものだが、全く性質を異にするものがティアナの眼前で繰り広げられている。

「これが……殺し合い………」

相手への情けなどはいる余地のない、ただ純粋に命を削り、奪いあうだけの行為。
覚悟もなしにそこへと足を踏み入れようとしていた自分が世界一の愚か者に思えてくる。

すでにギャラリーの存在すら忘れ、すでに無数の傷を体に刻んでいるユーノとフォンだが、それでもなお速度を上げ、互角の勝負を続ける。

「あげゃげゃげゃげゃ!!!!一度でいいからお前とこうしてみてぇと思ってたんだ!!!!予想通りなかなか楽しいぜ!!だが…」

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」

「お前の力はこんなもんじゃねぇだろ!!!!こんなゴリ押しの獣以下の戦いじゃない、お前の本当の力を俺に見せてみろ!!!!!」

フォンの言葉はすでにユーノの耳には届かない。
ヴィヴィオを道具扱いされ、自分となのはのもとから奪っていたフォンへの憎しみで我を忘れてしまっている。

「がああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

本物の獣のような唸り声の後、渾身の斬撃でフォンを彼の持つ剣ごと吹き飛ばすと、自身の胸へと心臓をえぐり出すように指を突き立てる。
だが、そこから出てきたのは心臓ではなく煌々と輝く光の球。
魔導士の証たるリンカーコアだ。
それが外へと姿を現した瞬間、周囲に魔力による激しい突風が吹き荒れる。

「これは……魔力の暴走!?」

暴走を始める魔力に戸惑うティアナだが、その魔力がユーノのリンカーコアを中心に集中し始めたことでさらに焦る。

「まさか、暴走した魔力をリンカーコアに集中させて撃ちだす気!?」

正気の沙汰ではない。
仮に暴走を制御して相手へとぶつけられたとしてもリンカーコアが受けるダメージはとんでもないものになる。
魔法が使えなくなる。
最悪、死に至る。

「ユーノさん駄目!!!!」

ティアナの必死の呼びかけもむなしく、すでに術式は完成されていた。

〈Rampaging Singer〉

ユーノの左手に集まった魔力が空気を引き裂くような音を上げながら巨大な槍へとその姿を変える。
父を奪われたあの日から、ずっと考えていた攻撃魔法。
いや、あまりにもリスクが高いうえに、ただ暴走させた魔力をぶつけるだけなのだから攻撃魔法と呼ぶことすらためらわれる。
危険も顧みずに編み出したユーノの最大にして使いたくはない最悪の切り札。

しかし、凶暴な歌声を奏でるそれを見てフォンは落胆の表情を見せる。

「フン…そんなもんかよ……」

こんなものではない。
自分が戦いたかったのは、いびつに歪んだままでも誰かを守るために戦うユーノなのだ。
怒りにまかせて力を振るう三流と戦ったところでつまらないだけだ。
だが、流石のフォンも暴走した魔力の塊をぶつけられて無事で済むはずがない。
それに、向こうに戻るためのキーマンであるユーノに死なれては元も子もない。

(どうするかな……)

フォンが思案を巡らせる中、わずかではあるがユーノに変化が現れる。

(駄目だよ。私が好きだったユーノは、あの子たちが大好きなユーノはそんなことをする人じゃないよ。)

「う……あ………!?」

「?」

何もない空間を見つめたままユーノの動きが止まる。
しかし、その眼には確かに何かが見えているようだ。
そして、次第に左手の魔力が沈静化し、霧散した。

「う………」

暴走した魔力のコントロールで気力を使い果たしたのか、ユーノはゆっくりと落下を始めるが、そこをフォンにキャッチされる。

「ちっ……結局今回もお預けか。」

フォンは舌打ちをしながらも、足元に魔法陣を展開する。

「オイ、そこのガキ二人。そこにいる銀髪チビとシスコンを連れてとっとと他の連中と合流しろ。今頃は他の連中も片がついているはずだ。」

呆気にとられていたティアナとギンガだったが、フォンの言葉に我に返る。

「待ちなさい!!」

「そいつら二人は煮るなり焼くなり好きにしろ。じゃあな。」

フォンに手を伸ばすものの、結局触れることすらかなわなかったティアナは拘束すべき二人が呆然とする中、唇をかみしめていた。







この日、機動六課は大敗という言葉すら生ぬるいほどの痛手を被った。
犯人グループのうち、二人を確保したもののフォワードメンバー、曹長一人、副隊長一人が負傷
隊舎は破壊され、保護していたヴィヴィオが拉致。
ヴァイス・グランセニック陸曹は行方も生死も不明。
さらに、無限書庫から出向していたユーノ・スクライア司書長も敵方にわたってしまった。



しかし、これはこの後訪れる真の危機の序曲に過ぎなかった。






あとがき・・・・・・・・・・という名の苦悩

ロ「というわけで陳述会警護編でした。そして思いのほか進まないストーリーの練り直し。」

フォ「今までのツケを支払ってると思えば安いもんだろ。」

ロ「いや、わかってるんだけどあの場面とかあの場面の他に良い感じのが思い浮かばない……orz」

ユ「まあ、second編に入ったらあとがきでボツ設定や他にもロビンが無能ゆえに苦労したことなど色々こぼれ話をやるのでそこで話したいと思います。」

フォ「今の状態でそんな余裕ができるのか不安だけどな。」

ロ「ふおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!降りてこい文才ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!我に力をぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

ユ・フォ「「ダークドレ○ムでも呼ぶ気か。」」

ロ「いや、むしろラプ○ーン……」

ルイス(以降 ル)「いつまでアホな話してるのよ!!早く私を呼びなさいよ!!」

ユ「あ、あとがき初登場のルイス・ハレヴィさんだ。」←棒読み

フォ「secondいったらいろいろ暴走するルイス・ハレヴィさんだ。」←超棒読み

ロ「沙慈の設定と合わせていろいろ設定変えてたけど、結局ボツになったルイス・ハレヴィさんだ。」←極限に棒読み

ル「ムカツクゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!なんなのこの腹の立つトリプルコンボは!!?」

ロ「正直お前と沙慈がらみのストーリーの構成に一番てこずってるから、少し八つ当たりしてみた。」

ル「知るかぁぁぁぁ!!!!早い話が全部自分のせいでしょうが!!!!」

ユ「でも、全部事実だし。」

ル「言う必要もないでしょ!!」

フォ「それじゃつまらねぇだろうが。」

ル「何こいつら!?今すぐにでも殴りたいんですけど!!?」

ロ「あ、沙慈。」

ル「え!?嘘!?」

ロ「うん、嘘。」

ル「………………………」

ロ「………………………」

ル「………………………(怒)」

ロ「………………………(汗)」









しばらく脳内にクオリアを流しながらお待ちください。









ル「では、解説にいきたいと思います♪」

ユ「……今回は公開意見陳述会編だったわけですが、皆様いかがだったでしょうか?」

フォ「それよりもみんなあの部分にツッコみたいと思ってるだろうぜ。」

ユ「……なんのことやら。」

フォ「あのスレスレシーンのことだ。」

ル「確かにあれは少しまずいわよね。」

ユ「ロビンが『大丈夫だろ。』って言ってたから大丈夫なんだよ////!!!!」

ル「で、これから先は某戦況オペレーターとか某メカニックの女の子相手にもっとすごいことを……」

ユ「しないからねっ!!?もう何があってもしないから!!!!ていうかしたらこの作品終わるうえに僕の人生も(なのはの手で)終わるからね!!!!」

フォ「でもロビンはギリギリのところは攻めたいとか言ってたぞ。」

ユ「え?」

ル「あ~……これは少しまずいね。作品終わらなくても、この回のあとがきでユーノの人生終わるね。」

ユ「えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?何されんの!!?ていうか何させられんの!!!!?」

フォ「お前はいい奴だったよwwww」

ル「向こうに逝っても忘れないよwwwww」

ユ「死ぬかぁぁぁぁぁぁ!!!!ようやく僕が目立つ作品が増えてきたのにこんなところで死ねるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ル「さ、他にも色々言いたいところがあったけど、弄れるやつ(ロビン)がいないので次回予告にいきたいと思います♪」

フォ(自分で消したくせに。)

ユ「いよいよ次回はクライマックス!」

ル「フォンによって身柄を拘束されてしまったユーノ!しかし、連れていかれた先でフォンとスカリエッティの真意を知らされる!」

フォ「スカリエッティの真の目的とは!?」

ユ「そして、クラナガンを襲う最悪の事態!」

ル「この危機を救うのは機動六課か、それとも……」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 14.天使、赤き衣をまといて…(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 21:40
ゆりかご内部

「さて、これであらかたの準備は終わったな。」

そう言うとスカリエッティは玉座の上で眠りについていたヴィヴィオを抱き上げてフォンへと優しく渡す。

「フン、甘いな。こいつを使えばもっと計画を確実なものにできるだろうに。」

「甘い、ではなくスマートと言ってほしいものだな。私は余計な犠牲を強いるのは嫌いなのでね。それに、君も私がこうすることが分かっていたのだろう?」

「ハッ、なんのことやら。」

フォンはとぼけた笑みを浮かべながらもヴィヴィオを受け取る。

「それで、次に会うときは敵同士なわけだが、遺言はないのか?」

「おや、それが必要なのは君の方だと思ったが?」

「おいおい、無理すんなよひきこもり。ホントはブルってんだろ?」

「はっはっはっ、チンピラに心配されるほど私は落ちぶれてはいないよ。」

互いに毒のある言葉をぶつけあって火花を散らす二人だが、ヴィヴィオがもぞりと動くのを見てそれを中止する。

「しかし、とんだ狸だなお前も。まさかゆりかごをこんな風に使うとはな。」

「なに、私は負けのない作戦をたてただけだよ。彼女や君たちが私の計画を止められなければ私ははれてファルベルへの復讐を果たせる。逆に君たちや機動六課が勝ったら、近い将来ファルベルは罰を受け、管理局の闇はいずれ祓われるだろう。」

「他の連中が止める可能性もあるぞ?」

「残念ながらその可能性は皆無だ。今のところ、私を止められる実力を持つのは君たちガンダムマイスターか機動六課だけだ。」

「あげゃ、よくわかってんじゃねぇか。」

フォンは笑いとともに魔法陣を展開し、クラナガン郊外の廃墟へと座標を合わせる。

「それじゃ、874に礼を言っておいてくれ。彼女がいなければこの自動航行システムは完成できなかった。」

「フン、良いだろう。それから、最後に俺も言っておくことがある。」

「?」

「死ぬなよ。お前が死んだらまたこっちに来た時につまらない思いをしなくちゃいけねぇからな。」

八重歯を見せるフォンの顔は不思議と爽やかで、今までの無茶苦茶な行動が嘘のようだ。
スカリエッティ、いや、ここではあえてジェイルと呼ぶべきだろうか。
彼もまた、狂気に染まった科学者という仮面を脱ぎ捨てた、一人の人間の笑顔を見せる。

「グッドラック、マイスター。」

見送りの言葉とともにフォンとヴィヴィオの体が赤い光の粒となり消えた。
それを見送ったジェイルは根拠もないのに、不思議と確信していた。
彼らと、再びガンダムマイスターと出会うことができるであろうことを。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.天使、赤き衣を纏いて…(前編)

クラナガン 病院

その日、負傷したスバルとギンガの見舞いに来たエリオとキャロは唖然とした。
いつもはヘラヘラとマイペースを貫くウェンディが自分の姉妹に対して明確な怒りを示したのだ。
ティアナはスバルとギンガの部屋に残ったのだが、スバルたちの体のことでどうにも居づらくなった二人は事情をよく知るウェンディに連れられてここまで来たのだが、ウェンディにしてみればここに来るための口実が欲しかっただけのようにも思えた。

彼女に服の襟を掴まれて持ち上げられているにもかかわらず、チンクは穏やかな眼差しでウェンディの顔を見つめる。

「チンク姉ぇ……なんであんなことしたんスか?」

「あんなこと?」

「とぼけんじゃねぇっス!!」

ウェンディの怒鳴り声と合わせて、チンクの小さな体が前後に揺れる。
本来止めなければいけない立場であるはずのエリオたちも足がすくんで動けない。

「なんでみんなにあんなひどいことしたんスか!!あたしたちが戦うのはあくまで自分の身を守るためだって言ったのはチンク姉ぇだろ!!スバルとギン姉ぇはあんなボロボロになって、リイン曹長もザフィーラもシャマル先生も傷を負った!!ヴァイス陸曹は生きてるのかどうかもわからない!!ヴィヴィオとユーノがいなくなったなのはさんはみんなの前ではずっと無理して泣いてないふりをしなくちゃいけない!!!!どれもこれも全部あんたらのせいだろ!!!!」

普段の口調とはほど遠い激しい責め。
しかし、すぐそばにいるノーヴェも止めることができないほどの怒号を受けたチンクの反応は意外なものだった。

「ウェンディ……」

「ああ!?」

「お前が…そう言ってくれる優しい子で安心した。」

「っっっ!!!!!」

次の瞬間、チンクはウェンディの拳によってベッドに叩きつけられた。
ウェンディは馬乗りになってさらに殴ろうとするが、そこで流石にエリオや看護師が止めに入った。

「ちょ、ウェンディ駄目だよ!!!!」

「離せ!!!こいつがすっとぼけた顔をできなくなるまで殴らないと気が済まない!!!!」

暴れるウェンディを6人がかりで何とか抑え込んで外まで運び終えた部屋は先程の騒ぎとはうって変わってしんと静まり返る。
そんな部屋の中へ、キャロは歩を進めた。

「あの……チンクさん。」

「ん?」

「なんで、ルーちゃんやあなたはスカリエッティに従っているんですか?私には、あなたたちが悪い人には見えないんです。むしろ、すごく優しい、温かい感じがします。」

キャロの言葉にポカンと口を開けていたチンクだったが、最初は小さく、そして最後にはこらえきれなくなったように大笑いをする。

「ハッハッハッハッ!!姉が優しいか!!クク…アッハッハッハッ!!!」

「?」

「ククク……ああ、すまない。家族以外からそう言われたのは初めてだったのでな。つい嬉しくて…ハハハ…!!」

スカリエッティの言っていた通りだ。
彼女たちは、誰でも受け入れることができる強さを持っている。
その強さに、ウェンディもまた惹かれたのだろう。
たしかに、これなら託すことができるかもしれない。
この世界の未来を。

「そうだな……もうここいらで明かしても問題はなかろう。ノーヴェも聞け。ドクターがこれから何をしようとしているのか、この戦いの本当の目的を。」





?????

久しぶりの光景だ。
真っ白な空間。
上も下もない、ただ自分の存在をしっかりと感じることができる空間。
向こうにいる間、そして帰ってくるときに来て以来だ。
懐かしさと感慨にふけっていると、ふいに後ろから声がしてくる。

「……行くの?」

「……うん。」

振り向くことなく、その声に答える。
向こうに行ってから、何度も自分をからかった、しかし、自分を弟のように気にかけてくれたオペレーター。

「こっちにいれば、苦しい思いをしなくていいんスよ?」

「それでも、僕は決めたから。」

お調子者の、しかし一途に大切な人と最後を共にした操舵士。

「彼女たちが悲しむぞ?」

「大丈夫さ。みんな、強いから。僕なんかよりずっと。」

自分の主治医であり、みんなから全幅の信頼を寄せられていた船医。

「どこにも居場所がなくなる……どこにも、心を許せる場所にも留まれないぞ?」

「みんなもその覚悟くらいはしてるんだ。いまさら僕だけなんてあるわけないだろ?」

自分の兄貴分であり、師匠。
救うことができなかったあの日、誰もが涙を流すほど誰からも好かれていた最高のスナイパー。

「……それが、ユーノの答えなんだね。」

「ああ。」

明るく、澄み切った大空を思わせるような快活な声。
自分を救ってくれた、そして、彼女の抱いていた思いに気付くことができずに、悲しい別れしかできなかった少女。

ここにいる、そして、遠く離れた地にいるみんながいたからこうして今、自分は立っていられる。

「そっか……」

「……なんか、ごめんね。せっかく気を使ってもらって、なのはたちと再会できたのに、また離ればなれになっちゃうや。」

「けど、止めたって聞かないんだろ?」

「よくわかっていらっしゃる。」

クックッと笑うユーノの前に、光で道が指示される。

「ユーノが望むなら、私たちはもう一度導くよ。向こうへ……西暦2312年の地球へ。」

「……ありがとう。」

光の道を歩くユーノは振り返らない。
わかっているから。
自分の後ろにいる五人が、笑顔で自分を送り出してくれていることを。




クラナガン郊外 廃墟 廃ビル

「う……つぅ……」

背中から伝わる異様な冷たさにユーノは意識を覚醒させる。
なぜ自分がこうなっているのか、今が夢なのか現実なのかすらよくわからないまま体を起こす。
わき腹が少し痛むが、動けないというほどではない。
辺りを見渡してみると、四方をコンクリートで囲まれ、装飾と呼べるのは湿った部屋の角にあるカビと、ところどころに生えている名もない雑草くらいだ。
扉と思わしき場所にはただ大きな長方形の穴が開いているだけ。
窓に至ってはガラスが無いばかりかその隣には扉よりも大きい穴がでかでか開き、二つの月が煌々と輝いているのが見える。

「……風通しは最高の物件でございます。ってか……」

「気にいったんなら住むか?」

「誰が無理やり連れて来られたところに永住するか。」

窓の隣に開いた穴から静かに降り立つフォンを睨みながらよろよろと立ち上がる。
怪我の方はもう全快に近いのだが、体が冷えたせいか上手く動けない。

「それで、僕をここに連れて行きたいんならもう少し優しくしてほしかったんだけど?」

「一度お前と本気でやりあってみたかったんでな。本気にさせるためにそいつを利用させてもらったのさ。」

「そいつ?」

「パパー!!」

「ごふっ!!?」

背中に強烈なタックルを受けたユーノは傷が開きかけたわき腹を押さえてうずくまる。
それでも、さらわれたはずのヴィヴィオの笑顔で痛み以外はすべてが帳消しになったようだ。

「ヴィ、ヴィヴィオ……無事で何より……げふっ…」

「あなたは無事に見えませんが?」

「もとを正せば君のパートナーのせいだろう!」

後ろから現れた874を怒鳴りつけるが、当の本人に効果はなく、むしろヴィヴィオの方が泣きそうになってしまっている。

「ああ!!ヴィヴィオを怒ったんじゃないよ!!?」

「ふぇ……!」

「大変ですね。」

「慰めの言葉をどうも!!それと笑うなフォン!!ホント君ら二人後で殴るからな!!?」





数分後、落ち着いたヴィヴィオの相手を874がしている間にフォンから現在向こう側がどうなっているのかについての話を聞き終える。

「地球連邦に、独立治安維持部隊アロウズ、か……」

フォンの話すことが本当ならば計画通りに世界は統一を果たしたようだ。
だが、

「僕も、みんなもそんな世界を望んで戦ったんじゃない……!」

軍の解体を拒む者たちに対しての弾圧。
そして、目の上のたんこぶの中東、そして地球連邦への参加をしない国への制裁という名の理不尽な仕打ち。
こんなもののために仲間が命を散らしたのかと思うだけではらわたが煮えくりかえる。

「だが、表立った紛争のない、ある意味最高の理想形だ。カタロンの連中を消し去るのも時間の問題だろうしな。」

「…………………………………」

「どうする?お前しだいだ。」

「随分とわかりきったことを聞くんだね。」

「あげゃ、上等!」

フォンは床で胡坐をかくユーノへと手を伸ばす。
ユーノもその手を握って立ち上がろうとする。
だが、

「あ、そうだ。」

「?」

「この間の礼だ!!」

「ぐっ!!」

フォンの手を借りて立ち上がったユーノは、すぐさまフォンの手を離すと渾身の力で顔を殴り飛ばす。
ヴィヴィオはびくりと震えると再び泣きそうな顔をするが、ユーノは晴れやかな顔で額の汗をぬぐうまねをする。

「ふ~~……すっきりした。」

「あげゃ…あげゃげゃげゃ!!それでこそお前だ!!ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアはそうでなくちゃな!!」

殴られたフォンは口から血を流しながらも心底うれしそうに笑う。

「それで話は変わって、他にも聞きたいことが山ほどあるんだけど、まずはこの二つだ。」

ユーノの顔が真剣なものに変わる。

「スカリエッティは一体何をしようとしている?それと、向こうに帰る方法はあるのかい?」

「やつが何をしようとしているか、か……。聞かない方がお前は迷わないかもしれねぇが、それでも知っておかないといけねぇことだからな。」





次元航行艦 アースラ 会議室

三日後、全員が完全に、というわけにはいかないが、機動六課のメンバーのほとんどが回復を遂げ、仮本部としてはやてが引っ張り出してきたアースラへと乗り込んでいた。
しかし、ここで彼女たちを待ち受けていたのは耳を疑う現実だった。

「戦艦をクラナガンに落とす!!?」

キャロの口から出てきた言葉にはやてだけでなく、その場にいた全員が凍りつく。

「はい!!どこに落とすかまでは言ってくれなかったんですけど、今日どこかに落とすってチンクさんが教えてくれました!!」

「おいおいおい!!あの変態科学者マジでいかれてんぞ!!?」

「ヴィヴィオをさらったのは、聖王のゆりかごを起動させるためか……だが、それならなぜゆりかごをそのまま使わない……?」

「知るか!!いかれたおつむじゃまともに考えるのもおっくうなんだろ!」

考え込むシグナムの言葉を一蹴して飛び出していこうとするヴィータだったが、

「まあ、落ち着き。」

「へぶっ!!?」

はやてがリモコンで扉にロックをかけたせいで、マンガのように扉に激突して仰向けに倒れるヴィータ。

「何すんだよはやて!!?」

「ヴィータ、あんたどこに落ちるかも、どこに隠されてるかもわからん代物をどうやって見つける気やねん?」

「あ……」

そう。
どこにあるかも、どこに落ちるかもその時にならないとわからない戦艦を見つけるなど不可能に近い。

「はぁ~……こんなときユーノさんがいてくれたらなぁ……」

「馬鹿!!スバル!!」

「あ……」

スバルは慌てて口を押さえるがもう遅い。
なのはの表情は目に見えて暗いものになり、会議室全体を重苦しい空気が包み込む。

「あの……ごめんなさい、なのはさん………。私…」

「気にすんなスバル。こんないつまでもへこんでるだけの役立たず、いちいち心配すんのも面倒だ。」

「ヴィータ!?」

ヴィータの口から飛び出した予想外の言葉にフェイトは憤慨するが、ヴィータは構わずになのはの隊服を掴んでまくしたてる。

「またお前は泣くだけなのかよ……。あの時、もうあんな思いをしたくないっていったあれは嘘なのかよ!!?ユーノとヴィヴィオを失ったことを一生後悔し続けるのか!!?答えろ、高町なのは!!!!」

「私は…」

ヴィータに間近で怒鳴られ、ようやく思い出した。
なんのために自分が今まで空を飛び続けていたのか。
それは、ユーノの思いを受け継ぐため。
理不尽な運命から誰かを救うために飛び続けてきたのだ。
だから、

「ありがとう、ヴィータちゃん……忘れそうになったけど、ちゃんと思い出したよ。もう、大切な人を手放したくない!!」

「ハッ……くせぇセリフを堂々と言ってくれやがって。妬けてくるだろうが。」

「フフフ…悔しかったらヴィータちゃんも好きな人を作ればいいのに。」

「あのぉ、お二人さん?もうええんやったら話を続けたいんやけど?」

「あ、ごめんね。もういいよ……って、なんでみんなそんな顔してるのかな?」

先程までの重苦しい空気とは違い、今度はほわほわと浮かれたような雰囲気が会議室を席巻している。
バカップルが醸し出すような空気を一人で生産し続けている本人以外の誰もがこう願っていた。
できることなら早くこの場を離れたいと。






クラナガン ホテルアグスタ

「それじゃ、確かに合流ポイントの座標は受け取ったよ、トレイターA13。」

最高級のスイートルームの机の上にどっかりと座るフォンへからヒクサーはメモの上で踊る殴り書きを受け取る。

「しかし、トレイターAなんて何をどうすればなれるのか聞きたいもんだよ。」

「まあ、簡潔に言っちゃうとそいつが馬鹿ばっかするからおばさんが早まっちゃったのよねぇ。」

「それ、シャルが聞いたら怒るよ。」

今日も絶好調で毒を吐く887にため息をつきながら、ユーノは四年ぶりに再会したヒクサーと固く握手をする。

「悪いねヒクサー。スコッチはしばらくお預けみたいだ。」

「大丈夫、すぐに飲める機会はできるさ。」

「パパ~。この人だあれ?」

ユーノのズボンを握りながら、ヴィヴィオはヒクサーの心の奥を覗くように顔をじっと見つめる。

「はじめまして。君のパパの友達をさせてもらってるヒクサー・フェルミです。」

「はじめまして!」

最初は少し戸惑っていたようだが、ヒクサーを信用に足る人物だと感じたのか、すぐにヴィヴィオはヒクサーと打ち解ける。

「まさか、君もこっちに来てるなんて知らなかったよ。いたのなら一言いってくれればよかったのに。」

「君の知り合いは鋭い人が多いようだからね。些細なことからも僕が君の関係者ということがばれるかもしれないだろう?」

「おい、ヒクサー。俺にはばれてもかまわねぇわけか?」

ヒクサーの後ろに置かれた天蓋付きの赤と金のベッドの上に寝そべっているヴァイスが不満そうに唇を尖らせる。
頭には包帯が巻かれているものの、もうすでに起きても問題はなさそうだが、本人曰く『こんなすげぇベッドで寝れる機会なんてもうないだろうから今のうちに堪能しておく。』と言ってここ三日間ベッドの上を離れようとしない。
もっとも、時折887から手荒い看護を受けているようだが。

「それにしても、ソレスタルビーイングにMS、挙句の果てに並行世界とはね。いまだに信じられないよ。」

「……お前、ホントにそう思ってんのか?」

ヴァイスの横になっているベッドのそばではヴェロッサがいつも通りの掴みどころのない笑みを浮かべている。

「君たちにはもう隠す必要はないからね。それに、僕はできることなら君たちの意思でこれからどうするかを決めてほしい。」

「僕にはそうは思っていない顔に見えるけど?」

ヴェロッサの言葉にヒクサーから微笑みが消える。

「大方、俺らを巻き込みたくないなんてすっとこどっこいなこと考えてんだろ。」

「っ!君たちはわかっていないんだ!!これから先、この道を選んだことを後悔するときが必ず来る!!……僕は、もう友が苦しんでいる姿なんて見たくない……だから……」

「バーカ。」

「まったくだね。」

「なっ!?」

ヴァイスとヴェロッサはヒクサーの杞憂を鼻で笑う。

「俺たちが死ぬことを前提で話すなよな。誰がそう簡単にくたばってやるものかよ。」

「もう二年も一緒に仕事をしてきたのに、僕のことを信用していないのかい?」

「けど…」

「ヒクサー。」

ユーノはヒクサーの肩に手を置く。

「君の負けだよ。二人とも、ミッドの……いや、向こうを含めたすべての世界のあり方に納得してないんだ。だったら、もう何を言っても無駄なことぐらいわかってるだろ?」

「……まったく。頑固者ってやつはどこにでもいるもんだ。」

ため息を漏らすヒクサーとは対照的に、ヴァイスとヴェロッサは嬉しそうに笑う。
だが、心残りがないわけではない。
ヴァイスは妹から光を奪ってしまったことを忘れてはいない。
ヴェロッサもまた、姉のカリムやシャッハのことを考えると胸が締め付けられる。

「君はすごいな、スクライア司書長。なんだかんだで、ヒクサーと行くと決めてもまだ僕は未練を振りきれないでいるのに、君は覚悟ができている。」

「僕だってそうですよ。お二人よりも少しそれをするのが早かっただけの話です。と……そうだ。アコース捜査官、最後に頼まれてくれませんか?」

「?」

ユーノはヴィヴィオの頭を優しくなでながら何かを呟く。
すると、

「ふあぁ~……」

大きなあくびを一つしたかと思うと、小さな体がこてんとユーノに寄りかかってくる。

「ヴィヴィオを、なのはのもとに届けてくれませんか?これ以上、くだらない大人のいざこざに巻き込みたくないですから。」

「……わかった。責任を持って届けるよ。」

ヴィヴィオが眠りに就いたその後も、当然のことながら彼らの話し合いは続く。

「じゃあ、あの二人は置いていく方向でいいんだね?」

「ああ。エリオとウェンディには僕らと違ってまだ未来がある。こんなことに巻き込む必要なんてないさ。」

「ちょっとぉ、俺にもまだまだ先があるんですけど?」

「あげゃげゃげゃ!お前のこれから先なんざ、ソレスタルビーイングに入る入らずにかかわらず女に縁のないもんなんだから碌なもんじゃねぇだろ。」

「なんだと!!?」

ヴァイスが飛び起きてフォンに掴みかかろうとしたその時、ユーノにとっては懐かしい声で連絡が入る。

『こちら967。』

「967!よかった、やっぱり無事だったんだね!!」

『その声……ユーノか!!待ちわびたぞ!!』

「967、悪いけど感動の再会は後にして話を頼めるかな?」

『ああ、すまん。まずいことになった。』

「まずいこと?」

『レジアス中将が今までの不祥事を表ざたにされて自宅監禁、それに合わせて隠されていたソリッドが管理局に回収された。』






レジアス宅

「くそっ……!」

数時間前のことを思い出すたびに怒りがこみ上げてくる。
しらじらしいファルベルの演技に、そしてそれに従う妄信者たちに拘束されて自宅で軟禁状態にされたばかりかソリッドの在り処を押さえられてしまった。

「すまん、ユーノ、ゼスト……わしがうかつだったばっかりに……」

「後悔するのはまだ早いぞ、レジアス。」

「っ!?」

レジアスはその声に思わず立ち上がる。
木製の扉が開いたその先に立っているのは、かつてともにミッドの平和を願い、切磋琢磨しあった友人、管理局でも指折りの槍騎士のゼスト・グランガイツだった。

「ゼスト……!?表の局員たちは…!?」

「あの程度の輩に後れをとると思うのか?」

レジアスの後ろにある窓からは、門の前でのびている局員たちが仲良く積み重なっている。
そのそばでは嬉しそうにアギトが花火を出しながらはしゃいでいる。

「それで……わざわざ危険を冒してまで恨みをはらしに来たのか?」

レジアスからしてみればそうしてもらっても構わなかった。
ゼストの部下が命を落とし、彼自身も死にかけたきっかけを作ったのは紛れもなく自分なのだ。
こうしてファルベルに自由を奪われて生き恥をさらすより、その方がいっそ救われる。
だが、ゼストはそれを許さなかった。

「……お前にはミッドの行く末を見守ってもらう。どれほど無様でも生きてこの世界を守ることが、お前の償いだ。」

「……厳しいな。」

「そういう性分なのでな。こればっかりはどうにもならん……。それより、早くここから逃げるぞ。そろそろ追手が…」

『その必要はない。』

「「!!?」」

驚く二人の前にファルベルの姿がテレビに映る。

『やあ、騎士ゼスト。こうして会うのは二度目になるかな?』

「ファルベル・ブリング……!!」

『ようやく君を見つけられてホッとしたよ。なにせ、これから先もいろいろと手まわしをしていきたいのでね。自由に動ける君に協力してもらいたいのだよ。』

「誰が……!!」

ゼストは槍からカートリッジを弾き飛ばして刃を突き立てんばかりの勢いでテレビの画面に向けて切っ先を向ける。
しかし、

『おや、それは残念だ。彼女は君たちが頑固なせいでその命を散らしてしまうわけか。』

ファルベルの左上にある一室の映像が映される。
そこには、一人の女性が不安げな表情で椅子の上に大人しく座っている姿がある。

「オーリス!!?」

「貴様!!彼女に何をした!!」

『まだ何もしとらんさ。君たちが断りさえしなければな。私の指示に従うなら彼女の安全は保障しよう。』

二人は歯ぎしりをしながら画面の奥のファルベルを睨みつけるが、どうすることもできずに静かにうなずく。

『よろしい。では、レジアス中将には今まで通りミッドの平和を守るために尽力してもらおう。騎士ゼストにも裏で動いてもらうとしようか。では、私はこれで。』

画面からファルベルとオーリスの姿が消えると、ゼストは外にいるアギトに語りかける。

(アギト…)

(おう!どうした旦那?)

(……ルーテシアを連れて今すぐ機動六課のもとに行って保護してもらえ。)

(え!?)

(……俺は、これからお前の主たる資格すら失う。俺は…お前にふさわしくない。)

(何言ってんだよ旦那!!あたしは最後まで…)

(いいから行け!!)

(!!)

ゼストの一喝を受けて震えるアギトだったが、ロードの最後の願いを聞いてゆっくりとその場を後にする。

(さらばだ、アギト。お前たちと過ごした時は、仲間を失った俺にとってかけがえのない時間だ。)

(っ!ごめん、旦那!!)

晴天に輝く太陽に吸い込まれるようにアギトが消えた後も、しばらくゼストは窓からそれを見送っていた。





ホテルアグスタ

「まずいな……ソリッドが無いと帰ることができない。」

「落ち着いてる場合じゃないよ!!今のソリッドの太陽炉は起動状態にあるから調べられたら…」

ユーノが慌て始めると同時に874が何かを感知する。

「……みなさん、ジェイルがはじめたようです。」

『り、臨時ニュースです!!クラナガン南部に巨大な戦艦出現し、徐々にその高度を下げ続けています!!地上部隊の発表によると、あと二時間ほどでファルベル准将率いる099部隊隊舎に落下するとのことです!!では、現場にいる…』

「急いだ方がよさそうだな。」

ヴァイスもテレビの向こうで降下を続けるゆりかごを見てようやくベッドから起き上がる。

「とりあえず、ソリッドを奪還するのが先決…」

「しっ…」

ヴェロッサがヒクサーの言葉を止める。

「あげゃ、こっちにもお客さんが来たみたいだな。」

廊下からどかどかと足音が聞こえてきたかと思うと部屋の扉の前でピタリと止まる。
そして、ロックが解除されると同時に杖型やポールアックス型のデバイスを持った局員たちが踏み込んでくる。
しかし、

「おはようございますが抜けてるぜ?」

「このくそったれども。」

ユーノとフォンが持っていたライフルが火をふき、先頭で突っ込んできた二人が顔から後方に吹き飛ばされる。
それにもかかわらず残りの二人も飛び込んでくるが、今度はヴァイスの相棒、ストームレイダーが吼える。
的確に頭部をとらえた一撃を受け、残りの二人も倒れるが、ヴァイスの息もたった二発の弾丸を放っただけで異常に乱れている。

〈大丈夫ですか?〉

「心配すんな……ちっと指先が震えるだけだ。」

尋常じゃないほどの汗をぬぐい、何とか立ち上がったヴァイスを含めて全員で今後の予定を確認する。

「じゃあ、僕とヴァイスは一足先にサダルスードを起動させてゆりかごのもとにいく。ロッサもヴィヴィオちゃんを彼女たちに渡したら指定されたポイントに向かってプルトーネを起動させてくれ。二人とも、MSの操縦は初めてだろうから、遠方から狙撃をしてくれればそれでいい。」

「「了解!」」

「僕は途中にいる967も拾ってソリッドを取り戻しに行く。887、サポートよろしく。」

「OK!」

「俺様はちっと寄るとこがある。874、アストレアの準備は任せたぞ。」

「了解。」

「それじゃ、始めようか。」

ユーノの言葉に全員がうなずくと、扉、窓と思い思いの出発地点へと向かう。

「ミッション、スタート!」

扉から飛び出した三人は、ヴェロッサは非常階段、ヒクサーとヴァイスは通常の階段を下りていく。
窓からは紅の輝きを振りまきながらフォンがクラナガンの中心地へ、翠の光とともに赤い顔をして照れる887を抱きかかえたユーノが郊外へと向かった。





クラナガン南部 099部隊隊舎

「准将、退避の準備が完了しました。」

「……必要ない。」

「は?」

思いがけない上司の言葉に男はまぬけな顔をする。

「必要ないと言っている。」

「し、しかし、もう間もなくゆりかごはここを直撃します!すぐに脱出を…」

「脱出しようとすれば、スカリエッティの作った人形たちが襲ってくる。」

「ですが……」

「そう慌てるな…」

ファルベルはゆっくり立ち上がると窓のブラインドを上げて外の様子をうかがう。
もうすぐここにゆりかごが落ちるというのに、逃げ出すものは誰もいない。
099部隊の人間のほとんどが熱狂的なファルベルの支持者たちであるため、彼が逃げないことには彼らも逃げることはない。
たとえ、命を落とそうとも。
だが、今回は命を張る必要などない。

「そう……彼らが勝手に解決してくれるだろうからな。」





クラナガン 南部

「こっちでーす!!時間はまだありますから落ち着いて避難してくださーい!!」

我先にと逃げる群衆をなんとかなだめながら、少しずつではあるが安全な場所へと導いているスバルだが、内心焦っていた。
他の場所でも同時に騒ぎが起きているせいもあるのだが、魔導士の数が圧倒的に足りない。
このままでは避難が間に合わない。

できることなら、みんなを守れる力が、空に浮かぶあの艦を粉砕できるほどの力が欲しい。
そう、

(あのロボットさえいてくれたら……!!)

スバルがそう思った瞬間、一条の赤い閃光がゆりかごにぶつかり大きくその巨体を揺らす。

「あれは!!」

今まで何度も自分たちを危機へと陥れてきた凶悪な赤い閃光が、今度は自分たちを救おうとしている。

「いったい、どうして……」






「クソッ!!艦首から少しずれちまった!!」

ヴァイスは悔しそうにスコープから目を離して額の汗をぬぐう。
その間に、ストームレイダーは計算を終えていた。

〈仰角修正完了。いけます。〉

「サンキュー、ストームレイダー!機体制御をよろしく頼むぜ!」

ヴァイスは大きく深呼吸をすると、再びスコープを覗きこむ。

「サダルスード、ヴァイス・グランセニック、目標を仕留める!」

遥か下に逃げ惑う人々を望みながら、群青色の巨体の各所に備え付けられたセンサーをフル活用してゆりかごに狙いを定める。
デュナメスの使用していたスナイパーライフルから、本来そこから放たれるはずのなかった赤い弾丸が発射されてゆりかごへと向かっていく。
だが、今度は船体に当たる前に弾丸は何かにぶつかって無効化される。

〈AMFならびに物理障壁の発生を確認。障壁の消耗、修復されていきます。〉

「チッ!!手の込んだことを!!」

障壁にくじけることなく、幾度も引き金を引くヴァイスだが、徐々に狙いが甘くなり、続いて連射の速度が落ち、遂には引き金を引くことすらできなくなってしまう。

(くそっ…たらぁ……!)

スコープ越しの光景にいるはずのない妹の姿が何度も見える。
どれだけ息を吸っても、空気が入ってこない。
苦しい。
体が、指が重い。
重い…重い重い重い重い!!

「ぐ……ぁ………!」

〈バイタル、危険値に到達!〉

すでにヴァイスの耳には何も聞こえない。
頭の中を支配しているのは、激しい後悔と自責の念。

(俺は……俺は……っ!!?)

信じられなかった。
逃げ惑う人々をよそに、ビルの上に二人の人物が立っている。
一人は、自分を、世界を変えるためにスカウトした人間であるヒクサー。
もう一人は、左目に眼帯をつけた少女。

「そんな……!!?どうして、ここに…!!?」

『……お兄ちゃん。』

「ラグ…ナ……」

久々に聞いた妹の声。
ヴァイスにとって何よりも大切な存在であり、向かい合うのが怖くて逃げ続けてきた罪そのものである少女。
そのラグナが、自分の操る質量兵器を見つめている。

『ごめんね、お兄ちゃんが苦しい思いをしていることに気付いてたのに、何もしてあげられなくて……』

「違う!!あれは全部俺が…」

『でもね……』

ラグナは大きく息を吸い込むと手に持つ端末に、そこにヴァイスがいるように優しく語りかけていく。

『でもね……私のこと許してもらえるなら、もう一度昔のお兄ちゃんに戻ってほしいな。……ごめんね…こんなわがまま、聞いてもらえるわけないのに……ごめんねお兄ちゃん……!ごめん…ね……!!』

「ラグナ……」

涙でかすれた声が、ヴァイスを縛っていた枷を外していく。

「ラグナ……聞いてほしいことがある。」

『…なに?』

「俺はこれから、遠いところにいきゃなきゃいけない。けど俺は、お前が待つこの世界に絶対戻ってくる。だから、それまで待っててくれるか?」

『……うん!!』

涙をぬぐったラグナを見た瞬間にヴァイスの体から震えが消え去り、その眼はスナイパー特有の鋭いものへと変わる。

「ありがとな、ヒクサー……」

『フフッ…どういたしまして。』

「さて……いくぜ、相棒!!」

〈All right,my meister!〉

ヴァイスは狙いを定めると、空を飛ぶ局員たちを避けて寸分違うことなく同じ場所へと狙撃を集中させていく。
そして、遂に外部障壁を貫いてゆりかご本体にビームを叩きこんだ。
だが、

〈粒子残量50%をきりました。〉

「ははっ……ちと張り切りすぎたな。」

粒子の消費が早いのは無理もない。
まったく経験のないMSを操縦しての狙撃に気をとられているせいで、粒子残量にまで気が回らなかったのだ。
むしろ、初めての操縦でここまでできるのはひとえにヴァイスの操縦能力の高さのなせる技だろう。

「ロッサ、ユーノさん……早く来てくれ!!」






クラナガン上空

赤い弾丸がゆりかごに向かう中、なのはたち空戦魔導士もゆりかごの落下を少しでも遅らせるべく終わりの見えない戦いのただなかにいた。

「ブレイクシュート!!!!」

渾身の一撃がゆりかごの正面から唸りをあげて迫る。
だが、船体全体を覆うように展開された高濃度のAMFがそれすらも無効化してしまう。
それでも、諦めるわけにはいかない。
もしかしたらあそこにヴィヴィオ、そしてユーノもいるかもしれないのだ。

「絶対に……落とさせたりしない!!」

しかし、その想いに比例するように少しずつ巨体が下へ下へと降りていく。
なのはの不屈の心もその無慈悲な光景の前に折れそうになる。
その時だった。

「ママーー!!!!負けないで!!!!」

「え…」

ふと下に目をやると、食料品店の屋上にたたずむ少女が一人。
翠と紅のオッドアイに、流れるような金色の髪をした少女。

「ヴィヴィオ……?」

自分に問いかけるようにつぶやいた後、なのはは目を潤ませながらヴィヴィオのもとへ急降下していく。

「ヴィヴィオーー!!!!」

自分に課せられた任務も忘れ、屋上に降り立ったなのははヴィヴィオを抱き上げる。

「よかった……!!本当によかった……!!」

「ケホッ……ママ、苦しい…」

「あ、ご、ごめんね!」

なのはは慌ててヴィヴィオを下ろすと、辺りを見回す。
辺りにはすでに人は見当たらないが、確かに誰かがいたような気配がある。

「ヴィヴィオ、どうしてここにいたの?」

「う~んと……え~と……」

ヴィヴィオは首を左右に傾けて考え込むが、

「わかんない。起きたらパパのところじゃなくてここにいた。」

「ユーノ君と一緒にいたの!!?」

「うん!パパ元気だったよ!!」

「よかった……!!」

ヴィヴィオと一緒にいたということは、おそらく無事だということだろう。
しかし、

(だったら、なんでここにいてくれないの……?)

その理由の見当はついている。
おそらく、あれのもとへと行ったのだ。
しかし、悔しいが今の状況を打破できるのはあれしかない。

(……信じなきゃ。ユーノ君は絶対私たちのところに帰ってくる!!)

それに、今はユーノのことを気にかけている場合ではない。
再会を果たせたのはいいが、このままでは全員ゆりかごにつぶされてぺしゃんこだ。

「このままじゃヴィヴィオまで…」

「その心配はあらへんで。」

不安そうななのはのもとに、一緒に奮闘していたはやてが舞い降りる。
その髪や瞳の色は、リインフォースとユニゾンしているため普段と違っている。
そのせいか、

「……誰?」

「ガーン!!ヴィヴィオちゃんそれはないんとちゃう!!?優しい優しいはやてさんに対してそれは…」

「だってぶたいちょーはもっとおばちゃんみたいな感じだもん。そっくりだけどそんなにかわいくない。」

「ガガーン!!!!そんな風に思われてたんか私!!?」

〈はやてちゃん、コントをしてる場合じゃないです!!〉

「ああ、そうやった。……でもやっぱりショックや。」

ヴィヴィオのおばちゃん発言に肩を落とすはやてだが、気を取り直して喋りだす。

「避難しとる人らと一緒にヴィヴィオちゃんをアースラに送るわ。それなら、なのはちゃんも安心できるやろ?」

「うん。ありがとうはやてちゃん。」

「ほな、ちょっと行ってくるわ。ヴィヴィオちゃん、しっかりつかまっとき。」

「うん!」





はやてに連れられていくヴィヴィオの姿を確認したヴェロッサはヒクサーに連絡を入れる。

「こっちは済んだよ。これからエウクレイデスに向かう。887……じゃなかった。874ちゃんにプルトーネの準備をするように言っておいて。」

『了解。』

通信を終了したヴェロッサは、ふと始めてはやてと出会った時のことを思い出す。
自分のことをナンパな男だと思って無駄に警戒していたくせに、手作りのケーキを食べている時に子供のようにはしゃぐ彼女のギャップに驚かされたものだった。
そんな彼女が、いまや部隊長となって活躍しているのだから世の中わからないものだ。
できることなら、姉たちともどもこれからも彼女のサポートに回ってやりたかったが、

「悪いね、はやて。僕は君ほどポジティブに物事をとらえられるようにできてないんだ。」






?????

「チッ……やられたな。」

フォンは蛍光ペンのような色の液体の上に転がっている三つの脳髄を見ながらため息をつく。
別行動をしていたドゥーエや、念入りに調べていたファルベルの通信記録をもとにここを割り出したのに、目的であった最高評議会と思われる存在はすでにこときれているようだ。

「ジェイルじゃねぇが、あのファルベルってやつの上にアステロイドの一つでも落としたくなってくるぜ。」

脳を一つ踏み潰して白いペーストを作ることで憂さ晴らしをするフォンだが、ふとコントロールパネルのモニターの一つに目がとまる。

「バロネットにフュルスト……ハッ!誰が考えたのかは知らねぇが、まさかここまでやってやがるとはな。」

ここまで来ると怒りを通り越して感心すら覚える。
もたらされた技術が最先端のものだったとしても、それをここまで応用できる技術者がミッドにいるとは思わなかった。

「ミッド製のMSか……急いだ方がよさそうだな。」

フォンは靴にこびりついた肉片など気にもかけずに、外で待機させてあるアストレアへと急いだ。






クラナガン郊外

控え目な大きさの戦闘機が、二人の人影を乗せて人気のない裏路地を低空飛行していく。
刹那、戦闘機の真上に影ができる。

「IS、スローターアームズ。」

「マレーネ!!」

〈了解。〉

主とその仲間の一人が飛びのいた瞬間、マレーネは自身を両脇の壁と平行にすることによって上空から迫っていた三日月形の刃をからくもかわす。
ゴウッと凄まじい音とともに地面削った刃は地上に降り立った長髪の少女の手元に戻り、再び投擲の体勢が整えられる。

「エリオ、無事っスか?」

「僕はね。そう言う君は?ウェンディ。」

「見た通りピンピンっス。」

自分のもとに戻ってきたマレーネに再び飛び乗ったウェンディは狭い路地を埋め尽くすほどの魔力弾をばら撒くが、長髪の少女、セッテはそのすべてを紙一重でかわしながら二人に接近していく。
だが、それを黙って見ているエリオではない。

「ストラーダ!!」

稲妻を纏った槍でセッテの振るう刃を受け止めると同時に空いていた左手で彼女の腹部を殴ろうとするが、あと一歩のところで薄い魔力の膜に阻まれる。
だが、まだエリオの攻撃は終わらない。
今度は左腕全体を電撃が奔り、集中した魔力によって輝きを放つ。
もう一人の自分の尊敬する人間が使う技。
古代より受け継ぐ、曲がることのない騎士の信念のこもった一撃だ。

「紫電…一閃!!」

「がっ!!?」

ピンポン玉のようにセッテを吹き飛ばしたエリオだったが、すぐさま背を向けて走り出す。

「ちょ、そんなに急がなくても…」

「あの程度で止まってくれるなら苦労しないよ!!」

エリオの言うとおり、セッテは紫電一閃が放たれる瞬間に半歩後ろに飛んだおかげでダメージを軽減していたのだ。
もっとも、それでもしばらくはまともに動けないかもしれないが。

ユーノとヴィヴィオがいなくなってからの三日間のエリオのこの成長の早さは驚異的だった。
周りが舌を巻くほどの速度でありとあらゆることを吸収していった。

(いくらなんでもこれは…)

プロジェクトFの遺産。
確かに潜在能力の高さの理由の一つかもしれないが、それだけでは説明がつかない。

「?どうしたの?」

「……なんでもないっス。」

ウェンディは頭を二、三回横に振って余計な思考を排除しようとする。
その時だった。

「え……?」

一つ向こうの道を駆ける二つの影をウェンディの目は確かにとらえていた。
一人は猫耳のようなカチューシャをつけた幼い少女。
もう一人は、巨大な盾を右腕に装備した青年。

「ユノユノ!!?」

「え!!?」

二人は足を止めて先程までユーノらしき人物がいた場所へと振り返る。
そこを今度は数人の局員が厳しい表情で駆けていく。

「局員……?」

「な~んか、ヤバそうな感じっスね。」

などと言いつつ二人はその後を追いかけ始めた。






「あ~!!もう!!しつこいにもほどがあるわよ!!?」

「それぐらいしか取りえが無いんだろう!!?」

「ハッ!!言えてるわ…っね!!」

887は手榴弾のピンを口で外すと一瞥もせずに後ろへと放り投げる。
派手な爆音と衝撃で周囲の古い建造物を揺らす。
しかし、それほどの爆発巻き込まれてもなお局員たちは追跡をやめない。

「ったく!!いかれてるわよあいつら!!いくら魔法が使えるからって、死ぬのが怖くないわけ!!?」

「ああいうのは向こうにだって嫌というほどいたろ!!」

ユーノの言うとおりだ。
彼らの目に恐れはないが、同時に人間にとって必要な感情のほとんども同時に抜け落ちているようにも見える。
そう、かつて中東で見た狂信者たちのように。

「なるほどね!!でも、今はあの手の狂信者より正規の軍隊の方がいかれてるの多いわよ!!」

「そら、今頃一人で無茶してばっかの刹那にはお気の毒な話だ!!」






西暦2312年 プトレマイオスⅡ

「っくしゅん!」

「?どうしたの、刹那?」

「いや、少し鼻がな……」






クラナガン郊外

「しかし、これじゃソリッドのもとにたどり着いた時が思いやられるなぁ……」

保管場所はもうすぐ近くなのだが、この調子ではソリッドの周りにも大量の局員が配置されているかもしれない。

「とにかく、今は先に進んでみないことには…」

「ユーノさん!!」

「ユノユノ!!」

「「!!?」」

後ろからの突然の声にユーノと887だけでなく追いかけていた局員も振り向く。

「エリオ!?それにウェンディまで!!」

最悪だ。
まさかここでヒクサーが目をつけていた二人に会うとは思っていなかった。
しかも、ファルベルの部下も一緒なのだ。

「一般局員か……」

「悪いが、機密保持のために消えてもらう。」

「「え?」」

「チッ!!」

「やばっ!!」

エリオとウェンディに気をとられている隙に追いかけていた局員をアームドシールドと蹴りで倒した二人はそのままエリオとウェンディの手を引いて駆けだす。

「ちょっと!?ユノユノなにしてるんスか!?あと874まで!!」

「そ、それに今の人たち局員なんじゃ…」

「うっさいちびっこ!!死にたくなかったら黙って走りなさい!!」

しかし、数歩進む前に辺りを局員に取り囲まれる。

「ワー……これって人生最大のピンチってやつ?」

「それどころか、人生最後の瞬間になっちゃうかもね。」

減らず口を叩きながらもなんとか、この危機的状況を打破できないか思案を巡らせるが、その間にも周囲にはスフィアが形成され、じりじりと距離を詰められていく。
その時、

「下だ!!」

「!!」

どこからともなく聞こえてきた声に反応して舗装の剥がれた道を見てみると、数メートル先にマンホールの入り口を見つける。

「走れ!!」

ユーノの号令に従うまでもなく、全員がそこへと走り出す。
しかし、同時に周囲を取り囲んでいた局員たちと彼らが生成したスフィアが襲いかかる。

「のわぁぁぁぁぁ!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!死んじゃうっスぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「ユーノ!!」

「わかってる!!」

ユーノはマンホールの蓋をバンカーで壊すとそのままそこへと飛び込んでいく。
残りの三人もそれに続く。
長い間放置されていた地下水道は水の流れが全くなく、そのせいなのか腐臭がこもりただ立っているだけでも吐き気がしてくる。

「うっぷ……くっさぁ~!なんでよりによってこんなとこ…」

「文句は後で聞いてやる。」

「やっぱり君か、967。」

ユーノが足元にいた青いボールを持ちあげると、その中から長い黒髪の男が出てくる。

「久しぶりの再会を喜びたいところだが、今はソリッドの奪還を優先させてもらうぞ。」

「そういうところは相変わらずだね。」

「そういうお前は、少し変わったな。」

「ハハハ、何せパパになったからね。」

「ユーノさん!!」

久しぶりの相棒との会話を楽しんでいたユーノだったが、エリオとウェンディの疑惑のまなざしに気付く。

「どういうことなんですか……?その人たちは誰なんですか……?なんで……なんで局員に追われているんですか!?」

ユーノは脇にいる887に目をやるが、肩をすくめられるだけで解決などするはずもない。
自分で、真実を話さなければならない。

「……この子は887。こっちが、僕の相棒の967。そして………僕は、ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、ユーノ・スクライアだ。」







後編に続く



[18122] 15.天使、赤き衣をまといて…(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 21:40
スカリエッティのアジト

「……人というのはよくできているとは思わないかね?」

ジェイルは落ちていくゆりかごが映された大画面を眺めながら独り言のように話し始める。

「己が欲望を満たすために誰かから何かを奪い、それがきっかけでまた誰かから大切なものを奪われる。わかってはいるのに、その連鎖を断ち切ることができない、最も未成熟な生物だ。……しかしその一方で、自らの弱さを受け入れ、誰かと手を取り合うことで未来を紡ぐこともできる。そういう意味では、最も進化した生物かもしれないね。」

そう言うと、白衣を揺らして後ろにぽっかりと空いた大きな入口の方を向く。

「君はどちらだと思う?フェイト・テスタロッサ。」

ジェイルの視線の先には、金色の刃をその手に握りながら歩いてくるフェイトの姿があった。
フェイトはその質問に答えることなく刃を一度振るって空気を振動させると、鋭い目つきでジェイルを睨みつける。

「ジェイル・スカリエッティ、あなたを逮捕します。」

「ふむ……それは別段かまわないのだが、一つだけ条件がある。」

「?」

「この奥にいるメガーヌ・アルピーノ、そして彼女の娘であるルーテシア・アルピーノの保護を約束してほしい。」

(やっぱり……)

彼を追っているうちに、フェイトの中にある確信が生まれていた。
今ここに立っているのは狂気に染まったテロリストではない。

「……あなたの真の目的は何?今のあなたは私たちが想像していたテロリストじゃない。なのに、なぜこんなことを…」

「なぜ、か……動機など必要なのかね?自分が大切に思うものを、世界とそこに生きる命を守ることに。」

「え……?」

予想外の答えに呆気にとられるフェイトをよそに、ジェイルは淡々とこの事件のすべてを話し始めた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.天使、赤き衣を纏いて…(後編)

「私が今回の一件の計画を開始したのは四年前、彼が戻ってきたときだ。」

「……ユーノのことを言っているの?けど、それとなんの関係が…」

「君も知っての通り、彼が君たちと離ればなれになるきっかけを作ったのはこの私だ。いまさら言い訳をするつもりはないが、あの時の私は、自分が作られた存在だと知って絶望し、何も考えずにガジェットの試作型を作り、そしてあの男にそれを差し出した。だが、それがきっかけで彼が犠牲になったと聞いた時は後悔したよ。……この命を断とうとすら考えた。」

「……けど、今あなたはここにこうして存在している。」

「フフフ……まさしくその通りだ。」

ジェイルは自分のしぶとさに思わず笑いが漏れる。

「彼が戻ってきたとき、私自身もこの世に戻ってこれた気がしたよ。そして、だからこそ私なりの償いをすることを決意した。」

「償い?」

ジェイルはしっかりとうなずく。

「管理局の中に巣くう闇を排除し、その後の世界を託せる者を見つけ、試練を与えることで成長させる。それが私の目的だ。」

「な……!?」

驚きで言葉が出てこない。
まさか自分たちを成長させるためにここまでのことをするとは思ってはいなかった。
しかし、思い当たる節はある。
まず、スカリエッティの起こしたと思われる事件での被害者は皆無に近い。
さらに、騒動が起きる場所の特徴も、使ってくる兵器の種類もいちいち違うものが多かった。
確かにあれだけの経験を積めば成長はするかもしれない。
だが、まだわからないことがある。

「でも、なんでユーノを狙ったの!?」

「彼に用があったのは私ではなくフォンの方だ。私はあくまで、彼との契約に基づいて協力したにすぎんよ。」

「だからなんで!?」

「……彼にもまたやるべきことがあるということだ。ガンダムマイスターとしての役目が。」

「ガンダム……マイスター?」

「今はまだ分からなくていい。だが、いずれ君たちにもわかる時が来るだろう。この世界は、綺麗なものだけでできてはいないことを。」

そう言うと、ジェイルは満足そうにフェイトに両手を差し出す。

「ここから先は自分の目と耳で確かめたまえ。人から与えられた答えに意味などないからね。」

自分の手に金色のバインドをかけるフェイトを見て、ジェイルは今まで見せたことのない柔らかな、しかし悲しそうな笑顔を見せる。

「最後に、君とエリオ君に謝罪をさせてくれ。」

「え?」

「……すまなかった。私たちが死んだ人間に会いたいなどというエゴを貫いてしまったために、君たちにはつらい思いをさせてしまった。」

「……そんなことない。」

フェイトの否定の言葉にジェイルは顔を上げる。

「たしかに、つらいことはたくさんあったけど、私はなのはやユーノに会うことができた。こうして、誰かのために戦うことができるようになった……。だから、悪いことばかりじゃなかったと、私はそう思ってる。」

「そうか……」

フェイトなりの気づかいを噛みしめ、ジェイルは体の自由を奪われてもなお胸を張ってその場を後にした。






クラナガン郊外 地下水道

「武力による紛争の根絶……!?」

ユーノの口から出てきた多くの矛盾をはらむ夢物語。
戦いを戦いで終わらせるなど、エリオには到底不可能のように思えた。
だが、それよりも

「……ずっと騙してたんですか?」

自分を、そして自分の家族をだましていたことがエリオには許せなかった。

「人を殺しておいて、平然とみんなの前で笑ってたんですか!!?」

「僕も記憶を取り戻したのがつい最近でね。でもまあ、それ以降はそう言っても語弊はないかもね。」

淡々と事実のみを語るユーノ。
その様子が一層エリオの怒りを増幅する。
しかし、

「あたしは……なんとなくっスけど、ユノユノの気持ちがわかる気がする。」

「ウェンディ!!?」

「だってそうっしょ?あたしらの生きるこの世界が、どれほどいびつなものなのかみんなわかっていて見て見ぬふりをしている。けど、それを間近で見てきた人間が世界を変えたいと思って戦うことを決意したって、なんの不思議もないと思うけど?……まあ、あたしも戦闘機人として生まれて、そういうところは嫌というほど見てきたからそういう風に思ってるだけかもしれないっスけどね。それに…」

「それに?」

「ユノユノがすき好んで人殺しをするような人間じゃないことぐらい、エリオだってわかってるっしょ?」

「それは……」

わかっている。
自分に優しく手を差し伸べてくれたユーノが、そんなことをする人間でないことくらいエリオもわかっている。
けれど、

「でも……でもやっぱり戦う必要なんてないはずだよ!!どこの世界にだって、秩序があってそれを守る組織がある!!」

「けど、今あたしたちを追ってんのはその秩序を守る側の人間なんじゃないの?」

887の言葉にぐうの音も出ないエリオだが、887はためらうことなく駄目押しの一言を放つ。

「あんたも拾われるまでは嫌というほどそれを見てきたんでしょ?それが幸福な日常が手に入った途端に全部なかったことにするわけ?」

「そんなこと!!」

「自分の住む世界の現実くらい、自分で見定めなさい。それができない人間に、このスカポンタンのしてきたことも、しようとすることも否定する権利なんてありはしないわ。」

まだまだ言い足りない様子の887だったが、ユーノが間に割って入る。

「エリオ、ウェンディ。君たちは非合法作戦中のファルベルの部下の姿を見てしまった。おそらく、今下手にみんなと合流すれば、その場で身柄を抑えられるだろう。はやてが何をしてもね。」

「ま、あれだけ強引だったらそれくらいやってくるかもっスね。」

「だから、僕たちについてきて欲しいんだ。その間なら僕たちで二人を守ってあげることができるから。」

「そのついでにソリッドも奪還して、はれてあたしたちはこの世界からバイバイってわけ。」

「ユノユノ、行っちゃうんスか?なのはさんやヴィヴィオはどうなるんスか?」

ウェンディの言葉にユーノの目がわずかに揺らぐ。
だが、

「……仲間が向こうで戦っているのに、僕だけ知らんぷりは決め込めないよ。」

「でも……」

「僕にも譲れないものくらいある。なのはたちには悪いけどね。」

「なら……」

「?」

「なら、あたしもついてくっス!!」

「ええっ!!?」

いきなりの申し出にユーノは戸惑う。

「ちょ、ちょっと!!意味わかって言ってるの!?これから僕は…」

「ユノユノが無茶しないようにあたしがついてって、何が何でもなのはさんたちのところに無事に戻れるようにするっス!!」

「だからそういうことを言いたいんじゃなくて…」

「僕も行きます!!」

「エリオまで!!?」

「ユーノさんが道を踏み外そうとしているのを放っておくことなんてできません!!」

「いや、だから…」

「その話はとりあえず後だ。」

967が視線を向けた先から足音が近づいてくる。

「しょうがない、とにかく今はソリッドのもとへ向かおう!!」






クラナガン上空

〈粒子残量30%!〉

「くそ、もう底尽きかけてんのかよ!!」

怒鳴ってもどうにもならないことくらいわかってはいるが、このどうしようもない怒りをどこに向けていいのかわからない。
なんとかストームレイダーに消費粒子を押さえてもらいながら足止めを継続していたヴァイスだったが、それも難しくなってきていた。
しかし、そこへ新たに加わる機影があった。

『待たせたね、ヴァイス。』

「その声…ロッサか!」

『あげゃ、俺もいるぜ!』

白、青、赤でバランスよくカラーリングされた機体、プルトーネがゆりかごへの射撃を開始する。
その横からやってきた紅の機体、アストレアも持っていた重装備を掃射していく。

「ちょ、オイ!!なんだよその重装備!!それに何だよその背中のでかいの!!」

ヴァイスが驚くのも無理はない。
フォンの操るアストレアの背中には通常よりも一回り大きい推進機、そして腰にはビーム発射口のついた大型の槍、そして大型のバズーカを両腕に装備し、右腕にはトレードマークであるGNプロトソードが装備されている。

『あげゃ、平和的に借りてきたもんだ。』

「嘘つけぇぇぇぇ!!!」







西暦2312年 地球連邦 アロウズ・ヨーロッパ基地

「ぶぇ~くしょいっっ!!」

「うわ!?汚っ!!」

「フフフ……きっと大佐が俺の噂をしてるんだな……」

「アホなこと言ってないで特注した大型粒子バーニア奪われたこと反省しろ!!」






クラナガン上空

『二人ともそこまでにして。今はゆりかごを押し上げることを考えないと。』

「あげゃ、まかせな。」

フォンはペダルを踏み込みゆりかごへと突進していく。
ヴァイスとヴェロッサが操るサダルスードとプルトーネは後方から狙撃をすることで障壁を緩和し、アストレアを援護する。

「ぶち抜きなぁ!!」

腰に装備していた大型GNランサーに粒子を纏わせ、障壁を貫きそのままゆりかごを押し始めるアストレア。
だが、

(チッ……流石にこの質量を[T]で押し切るのはさすがに無理か……!)

確かに落下速度は下がったが、背面に装備した大型粒子バーニアを使っても持ち上げるまではいかない。
となると、

(あとはソリッドにかけるしかねぇか…)






クラナガン郊外 研究所跡

「あれか…」

物陰に隠れる五人の眼には、萌黄色の巨人とその周りを飛び回る魔導士の姿がありありと写っている。

「ざっと十四、五人ってところっスね。」

「後ろから来てるのも合わせたら二十いくわね。」

「じゃ、さっさと始めようか。」

ユーノの手から長細い缶のようなものがソリッドの周りを飛び交う魔導士に向けて投げつけられる。

「耳と目を閉じて!!」

空中に光が発生すると世界が停止した。
いや、少なくとも五人にとっては違っていた。
他の人間が音も視界もない世界に混乱を極める中、五つ旋風が辺りにいるものすべてを薙ぎ払い、そして、

「887!!ソリッドを押さえた!!」

「了解!!こっちは勝手に退散するわ!!」

聴覚と視覚が正常に戻った時、その場に残っていた人間を待ち受けていたのは光がともった萌黄色の巨人の眼だった。

「ソリッド、ユーノ・スクライア……いきます!!」

ふわりと浮きあがったソリッドは、周りにいる魔導士を無視してそのまま屋根を突き破ると空へ舞い上がる。

「二人とも、それに着替えておいて。」

そう言うと一緒に乗ったエリオとウェンディにノーマルスーツを手渡す。

「967が言っている話が本当なら、ひょっとしたら飛び出した先は宇宙かもしれないからね。」




十分前

「ジュエルシードをコンパスにする?」

「ああ、ジェイルによると理論上は可能らしい。ジュエルシードが本来持つエネルギーで次元の壁をこじ開け、向こうにいる人間の感情をコンパスに突き進む。ただ、向こうにいるプトレマイオスのメンバーがお前を想う気持ちが、こちらにいるお前の仲間より強いということが条件だがな。」

「……万が一、なのはたちの想いが上回ったら?」

「向こうとこちらのはざまを漂う羽目になる。」

「博打だなぁ……」

「仮に成功したとしても、どこに飛び出るかはわからない。ひょっとしたらマグマの中に飛び出して一瞬で蒸発、なんてこともあり得るがな。」

「やる前に不安をあおるのはやめてくれない!?」






現在

「まあ、今はゆりかごを止めるのが先決だ。」

しかし、オリジナルの太陽炉を積んでいるとはいえあの質量を浮かせることなど不可能だ。

「そう…浮かせることはね。」

「「?」」

策はある。
TRANS-AMを使えなくても、ソリッドにのみ備わった力を使えば。

(チャンスは多く見積もっても一分。それ以上は内部の圧力が限界を向かえる…)

わずか一分間。
そこにすべてをかける。

「さあ、行くよ!!」






クラナガン上空

「残り…はぁはぁ……!12分……!」

疲労しきった体でゆりかごを睨みつけるはやて。
突如介入してきた三機のおかげで何とか時間を延ばすことはできたが、このままでは住民全員の避難には間に合わない。
なのはや他のメンバーもよくやってくれているが、ここらで撤退しないと自分たちもまずい。

「せやけど…逃げてたまるか……っちゅーねん!!」

何とかしようと残り少ない魔力を振り絞って砲撃を放つはやて。
しかし、現実は残酷だ。
無傷のゆりかごが高度を下げるほどに少しずつ、しかし確実に最後の瞬間は近づいてきていることを理解させてくる。

(もう…諦めるしかないんか!?)

誰もがそう思ったその時、

「残った人間を全員西側に集めろ!!」

「この声……!!」

「早くしろ!!全員仲良くミートパテになりたいのか!!」

声の先を見る。
萌黄色の天使が瑠璃色の光とともに猛スピードでこちらに向かってきていた。
そして、その姿を確認していたのははやてたちだけではなかった。

『遅いっすよ、ユーノさん!』

『ヒーローは遅れて登場……ってやつ?』

ヴァイスとヴェロッサは到着したソリッドに歓喜の笑みを浮かべる。

『あげゃ、何とか間に合ったな。』

モニターの向こうのフォンの憎たらしい笑みですら、今のユーノには天使の微笑みにみえてくる。
仲間たちの笑顔で間に合ったことを確認してに胸をなでおろすがここからが本番だ。

ソリッドのアームドシールドがクルリと回転し、バンカーモードに変わる。
そして、

「GNバンカー、バースト!!」

障壁を一気に打ち破ってゆりかご艦首の左側にとりつくと、今度は巨大な魔法陣を展開する。

「967、いくよ!!」

「了解!!GN-EXCEED!!」

二人が叫んだその瞬間、ソリッドの装甲の一部が開き、六枚の瑠璃色の翼が現れる。
だが、

「クッ……!ユーノ!!」

「っ!!ああ、わかってる!!これじゃ持って三十秒だ!!」

予想以上に粒子生産量が多く、内部の圧力が急速に上がってきている。

本来、GN-EXCEEDはTRANS-AMと一緒に使われるのがベストなのだ。
その理由は機体性能が十分に上がらないことではなくむしろその逆、粒子生産量に機体の粒子の放出が間に合わなくなることにある。
羽のように放出される粒子も本来は内部の圧力を少しでも下げようとするためのものであり、ビーム兵器の効果軽減はその副産物にすぎない。
だがそれだけでは不十分であり、使いきれない粒子は内部に徐々にたまっていき、最終的には…

「ユ、ユノユノ!?なんかものっそい揺れてるっスよ!!?」

ソリッドそのものを内側から破壊する。
だが、

「TRANS-AMは使うなよ!!ここでGN粒子とジュエルシードの共鳴現象が使えなくなったら戻れなくなるぞ!!」

「わかってるさ!!だから…」

ユーノは重くなったペダルを渾身の力で踏み込む。

「さっさと片をつけるっ!!!!」

ソリッドが光の翼をいっそう大きくしてゆりかごを押し始める。

「ゆりかごが…!」

「森林地帯の方を向いていく…!」

たった一機でここまでのことをやってのけるソリッドに唖然とする局員たち。
だが、そんな中で機動六課の面々だけはそれぞれの場所でソリッドを操っているであろう仲間への祈りをささげていた。

「頑張れ、ユーノ…!」

「頑張りぃ、ユーノ君…!」

〈ファイトです!!〉

「いけ!!ユーノ!!」

「負けないでユーノ君!!」

「こんな半端なところで死んだら承知しねぇからな!!」

「お前には、やるべきことがあるのだろう!!」

「パパ!!」





「頑張って!!ユーノ君!!!!」





「う、ああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

赤と瑠璃色の光翼に押しきられるように艦首が横を向くと、すぐさまソリッドはアストレアを引き連れて後ろに回る。

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

ビルのてっぺんすれすれをこすりながらも、何とかゆりかごを完全に人のいない森林地帯へ追いやると、ソリッドとアストレアは離れていく。
すると、それをねぎらうようにサダルスードとプルトーネもやってくる。

『なんとかなったぁ~…!』

『お疲れさま。』

「どうも。お二人もお疲れさまでした。」

「どうもじゃなーーい!!」

エリオが叫びにウェンディも同調して猛抗議を始める。

「あたしらいること完全に忘れてたっしょ!!?あちこちぶつかって痛かったんスよ!!」

しかし、不満を爆発させる二人には悪いが、ユーノはモニターの向こうのヴァイスとヴェロッサの呆れた顔を見るほうがよほどきつい。

『ユーノさん、結局二人とも連れてきちゃったんすね……』

『連れて行かないって自分で言い出したのにねぇ……』

「仕方ないでしょ!?いろいろトラブルが重なっちゃったんだから!!」

『『ふ~ん……』』

「……ま、まあ、それはそれとして……。967、ファルベルのジンクス生産工場は隊舎にあるんだね?」

「ああ。地下で作ったものを一度バラして各所に運んでいたらしい。あまりにも堂々と作っていた分、外部の人間も気付けなかったのだろう。」

だが、それもここまでだ。
ここでファルベルの生産拠点をつぶし、すべてを明らかにすればもうミッドに思い残すことはない。
ユーノがこの事件の終結を確信した、その時だった。
集まっていた四機の間を市街地から飛んできた赤い光弾が横切る。

「っ!?GN粒子!?だが…」

ジンクスのそれとは何かが違う。
一発一発が鋭く、今までよりも的確にこちらを狙ってくる。
攻撃に翻弄されながらもユーノは敵の正体を見極めるべく市街地上空の映像をズームアップする。

「あれは!?」

そこにいたのは、ジンクスではなかった。
いや、外見的特徴に通ずるものはあるのだが、ジンクスの最大の特徴であるX字型の機体制御機構が無い。
さらに、数十機にも及ぶ大群のなかには全体的にスマートになり、ユニオンやAEUのMSを思わせるデザインに三つ目の頭がついたような機体も数機混じっている。

『あげゃ……バロネットにフュルストか。意外と登場が早かったな。』

「フォン、どういうことだ!!?」

戸惑うユーノとは違い、ヴェロッサは冷静だった。
その冷静さが、自分で疎ましく思えるほどに。

『……ミッド製のMSだね。』

『ご名答だ。ついでに言っておくと、やつはすでに隊舎での生産をストップしている。』

「そんな……」

ショックを受けているのはユーノだけではない。
エリオは信じていた管理局が強力な質量兵器の開発を進めていたことに。
ウェンディは再度管理局の闇を目の当たりにしたことから言葉をなくしていた。
そして、この場にいる人間だけでなく民間人の避難にあたっていた者たちにもそれは飛び火していく。

「そんな……!」

「あないなもんまであったんか…!?」

ユーノが探っている以上何かがあるとは思っていたが、これは想定外だった。

「っ!」

「!?なのはちゃん、アカン!!」

はやての制止も聞かずに森林地帯に飛び出していくなのは。
それと同時にそこに墜落したゆりかごによって激しい震動と土ぼこりが発生するが、そんなものに構ってはいられない。
なぜなら、今彼女の眼前に広がっている光景はカリムの預言そのものなのだ。

司法の地焼け落ちし後。
白き騎士。
そして、墜ちしゆりかご。

何もかもがぴったりと当てはまる。

「待って……!!やめて!!」

なのはの願いもむなしく、数十機の編隊から一斉にビームが発射されていく。

本当はわかっていた。
管理局に存在する暗部も、それによって刻まれたユーノの傷が永遠に消えることが無いことも。
知っていて、甘えていた。
予言を聞かされてからも、あの笑顔を見るたびに心の中にちらつく不安を見えないふりをしていた。
どれほど局から突き放されようと、自分のそばにはいてくれると思っていた。
思っていたかった。

「やめて!!!!!撃たないで!!!!!」

きっと裏切られたと思っている。
もう、前のような関係には戻れない。
わかっているのに、それでもユーノが許してくれるのではないかという希望を捨てきれない。
だが、なのはの横を通り過ぎていったピンクの弾丸がミッド製のMS、バロネットの胸を貫いた時に発生した爆風でなのはは地面にきりもみしながら落ちていく。

「あ……ぐぅ…」

激しく体を打ちつけられてまともに動くことすらかなわない。
それでも、芋虫のようにみじめに這いながらも再び空へと上がる。
すでに、四機のガンダムと激しい撃ち合いが始まり、彼女のそばにも弾丸が通っていく。



その姿は遠方にいるユーノにも確認できていたが、それでも今撃つのをやめたらこちらがやられる。

「頼む……早く逃げて…!!」

それでもなのはは逃げようとしない。
それどころかさらにこちらへと近づいてくる。

「お願いだ…!!これ以上、迷わせないで……!!」

白いバリアジャケットを見せつけられるたび、あの瞳で見つめられるほど今すぐにでもここから飛び出して抱きしめたい衝動に襲われる。
だが、

『ユーノ、すぐにでも時空転移の準備を始めてください。』

「っ……わかった。」

これ以上ここにいたら戻るどころの話ではない。
ここでやられたら、ファルベルの思惑をつぶすことも叶わなくなる。

「967、ジュエルシードの共鳴準備。TRANS-AMの制御は僕がする。」

「了解した。」

(……僕は絶対戻ってくる!たとえ、居場所が無くても、誰かの居場所を守るために戻ってきてみせる!!)

迷いを振り切るようになのはの姿から目を背けると、パネルに金色の翼と楔を出現させる。

「TRANS-AM!!!!」

極限までため込まれていた瑠璃色の粒子が空へと放たれる。
赤く輝く衣を纏い、雲すらも突き抜けてはるか上空を目指して天使は突き進んでいく。

「ソリッド……!!砕けぬ堅牢な意思よ!!僕をもう一度みんなのもとへ……ソレスタルビーイングのもとまで導いてくれ!!!!」

967の中にある三つのジュエルシード、そしてユーノの持つ二つのジュエルシードが激しく輝き始める。
そして、激しく吹き荒れる風とともに現れた空の裂け目へめがけてソリッドを突っ込ませる。
その時、

「行かないで!!!!!!」

「!!!!」

下から赤い銃弾の嵐にまじってなのはの声がかすかに聞こえてくる。
だが、それでもユーノは止まらない。

「……ごめん。」

その一言を残し、ソリッドは次元のはざまに飲み込まれた。







2週間後 アースラ 食堂

「ふ~……これで荷物は全部ですね。」

リインフォースは子供ほどの大きさでよたよたとした足取りで食堂の床に荷物の入った大きな段ボールをどっかりと置く。
その前の椅子にはこきこきと首を鳴らしながら肩を叩くはやてがいる。

「……本当に、みんないなくなっちゃったんですね。」

「ほんまやなぁ……。なんや、今も信じられへんわ。」

あの事件の三日後、機動六課は正式な辞令のもとで解体となった。
いや、正確に言うなら空中分解したといった方が適切かもしれない。

事件の後、元アースラのクルーの面々の間ですれ違いが起こり、それが原因で順次機動六課を離れていった。

まず抜けたのはヴィータだった。

『悪いけど、今のはやてには付いて行けねー。』

その言葉と異動願を残してはやてのもとを去ってからは音信不通の状態が続いている。
はやてもお互い落ち着くまでは連絡をとらないほうがいいと思い、自分から探そうとはしていない。

「そんで、ザフィーラとシャマルか……」

続いていなくなったのはザフィーラとシャマル。
二人もいろいろ気を揉むことが多かったのか暇をもらうことを申し出て、はやてもそれを許した。
だが何より新人フォワードにユーノに関しての情報を公開しなかったことにザフィーラはひどく憤慨しているようだった。
その後、シャマルとザフィーラは闇の書事件から交流が続いていたアルフがいる無限書庫へ向かい、そこでユーノが抜けて能率が落ちている情報収集作業の手助けをしているらしい。

二人の次はフェイトだった。
もともと次元航行部隊に戻る予定だったのだが、戻ってからはクロノともども連絡が無い。

『……はやてが謝れば、エリオが戻ってくるの?』

フェイトが最後に残した言葉を思い出すたびに、はやては緩い力で心臓を握られているような、そんな嫌な気分になる。
エリオがいなくなった責任以上に、彼女との友情の修復が難しいだろうという現実がいまだにはやての心をえぐり続けている。

最後はシグナム。
責任感が強すぎるが故に自分を責めた彼女は自ら前線を退き、ギンガとともにナンバーズとルーテシア達の社会復帰のための指導に当たっているそうだ。



こうして、隊長陣を失った機動六課は解体の辞令を受ける前にすでにその機能を失っていた。
そして、残っていた新人フォワードたちも機動六課を離れることになった。
スバルとティアナは古巣の災害担当へ。
スバルは残されたキャロや他のメンバーの心配をしてみんなと一緒にいると駄々をこねていたが、ティアナに引きずられるように戻って行った。
しかし、そのティアナが一番みんなを心配していたのは言うまでもない。
ウェンディがいなくなった時も最後まで現場を探し回り、二日後にスバルと戻ってきたときにはスバル以上にバリアジャケットが汚れていた。

キャロは地球にいるエイミーのもとにしばらく身を寄せることにしたらしい。
エリオがいなくなったことにフェイト以上にショックを受けていたため、復帰するまでには長い時間が必要になるかもしれない。



「はやてちゃん、そろそろ行かないと。」

「だよ!」

仲間たちが去っていく中、唯一残ったのはなのはとヴィヴィオの二人だけだった。
最初こそ消沈していたなのはだったが、残されたヴィヴィオのためにも教導隊に戻り頑張ることにしたのだ。
今日はアースラが正式にお役御免になるとの知らせを受け、はやてとともに中に残されていた私物を取りに来たのだ。
もっとも、なのはの用はそれだけではないのだが。

「ああ、ごめんな。それで、カレドヴルフが一体私になんの用なんや?」

「さあ、私もただ新しくできた兵器の試験だってことしか聞かされてないから…」

自分たちの荷物をデバイスの中にしまうと、二人は出口へ歩きだす。

「またぞろ新しいMSでも開発したんちゃうか?あんなもん作って、世界征服でもする気かっちゅうねん。」

怪訝そうな顔をするはやてにクスクスと笑いながらなのはが答える。

「世界征服はあり得ないし、カレドヴルフはデバイス開発一本に絞ってるからMSを開発したなんてことはないんじゃないかな?」

J・S事件の後、レジアスが制作していたというMSと呼ばれる巨大人型兵器は急速に普及していった。
その理由は、クラナガンの四分の一が壊滅状態になるところを、手も足も出なかった魔導士ではなくMSが解決したという事実が人々に質量兵器の使用の必要性を知らしめたことだろう。
ただ、

「解決したのはユーノ君であってバロネットやフュルストは後から出てきて邪魔しただけやろ!」

「でも、仕方ないよ。情報操作もされてるし、なによりあの時現場にいた人たちもそんなことを気にしてる余裕なんてなかったから。」

「せやかて、レジアス中将の作ったもんを偶然ファルベル准将が発見して、住民を守るために仕方なく使ったなんて話ができすぎとるやろ!?しかも、当のレジアスのおっさんはいまだに地上部隊で幅を利かせとるし!」

「でも、それ以上にファルベル准将もいろいろしてるよね。今まで表舞台に出てきたことなんてなかったのに…」

レジアスがいまだに地上部隊の重鎮でいれるのは、百人中百人がファルベルのおかげだと答えるだろう。
ファルベルはレジアスがMS開発を進めていたのはあくまで全次元世界のためであると公言し、彼にできる最大の償いはこれからも地上の平和のために尽力することであるとした。
その言葉は罪を憎んで人を憎まずとでも言うのだろうか、管理局内外問わず多くの人間から賛同を受け、確かに二人のおかげでどの世界も格段に治安は良くなり、陸だけでなく海からの評価も高い。
さらに近々、正式に海と陸を合併し、新しい部隊を創設する話まであるようだ。

「けど、どうにもあのおっさん胡散臭いんやけどなぁ~…」

「そうは言っても、やっぱりみんなファルベル准将を支持するだろうけどね。」

「うにゅ~……」

「あ!?つまらない話ばっかりしちゃってごめんねヴィヴィオ!!」

難しい話ばかりでヴィヴィオにはついていけなかったようだ。
頭からプスプスと黒い煙を立ち昇らせているヴィヴィオを抱き上げると、二人はそのままアースラの外へ出る。
そこに広がっているのはいつもと変わらない穏やかな光景。
黒いアスファルトの上を走る車の横に敷かれた歩道を人々が歩いている。

「そんなら、早いとこ先方のおるところに急ごか?」

そう言うとはやては道路のそばまで駆けていく。
ヴィヴィオもなのはの腕の中から降りるとそれを追いかけるように走っていくが、なのはだけはそんな気分にはなれなかった。
ここのところ、MSを使ったテロが頻発するのに合わせて管理局がMSの増産をしているのもそうだが、ここのところいろいろな世界で妙な事件ばかりが起きている。
そんな話を聞くたびに、どうしてもなのはにはこの平和が張りぼてのような危うさを抱えているような気がしてしまう。

「お~い、なのはちゃ~ん!タクシー拾ったで~!」

「ママ~!はやくはやく~!」

「あ、は~い!」

はやてとヴィヴィオに呼ばれ、なのはもタクシーへと急ぎ足で歩いていく。
この後、自分たちのもとを離れていった仲間との運命的な再会が待っているとも知らずに……









あとがき・・・・・・・・という名の弱気

ロ「とりあえずstrikers編終了です。そして、みなさんの仰りたいことは重々理解していますが、リアルに苦しんでひねりだしたのでツッコミは優しめだと嬉しいです。」

ユ「まさかのここにきての弱気発言&予防線。」

兄「最低だな。」

ティ「本当に。」

ロ「返す言葉もありません……orz。でも、ストーリー変更がstrikers編にまで至るとは思っていなかったので、正直かなりきつかったです。」

ティ「言い訳を重ねるな。」

兄「事情聴取でゲロする前の犯罪者かお前は。」

ロ「お前らは本当に容赦ないな!!正直お前らの言葉が一番こたえるわ!!!!」

ユ「でも僕たちがこの場で言ってるってことは、自分でもそう思ってるってことだよね?」

兄「ある意味自白だな。」

ロ「そんなことない!!…………と思いたい。」

ティ「こうして現実から目を背けていくことでニートが出来上がるんだな。」

ロ「誰がニートじゃ!!!!」

兄「さて、まだまだ言い足りないけど、グダグダになる前に解説にいくか。」

ユ「よりによって最後で前後編構成。」

兄「その理由も字数がやばそうだったからというしょうもない理由だしな。」

ロ「……積み残しが多かったんだよ。いろいろと…」

ティ「小学生のころにこういうやつが一人はいたな。夏休みや冬休みの最後の日に苦しむやつが。」

ロ「黙れこの野郎!!!!(泣)」

兄「そういや、終わったところもかなり半端だったな。」

ロ「設定的にはソレスタルビーイングの皆様がミッドにやってきたころくらいってことにしてある。これ以上はネタバレになるんでNGで。」

ティ「どうせ碌なものじゃないくせに。」

ロ「お前ホンッットにシバき倒すぞこら!!!?文句言うならこれ見ろこれ!!!!」

マイスター二人+元マイスター、台本的なものを見る。

兄「……また賛否両論分かれそうだなオイ。」

ユ「ま、ここまできたら勝手にやってもらおうか。……ここのところ以外は。」

ロ「あ、駄目だった?」

ユ「駄目に決まってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!どれだけ僕をいじり倒したいんだあんたは!!!!」

ロ「でもそれが駄目になるとティエリアとミレイナがハァハァ言いながら小動物形態のお前にあんなことやこんなことすることになるけど?」

ユ「それはホントに駄目だからね!!?てかティエリアもそんな残念そうな顔しないでくれない!!!!?」

兄「……ゴホン!さて、どうしようもなくグダグダであとがきは終わりますが、一応、ユーノとエリオ、ウェンディがその後どうなったか書かれているエピローグも投稿しているので、これからもこんなどうしようもない感じのに付き合っていただけるなら勇気を持って読んでください。」

ティ「……ユーノ、さっきそこでこんなものを拾ったんだが、フェレットの姿でこれを着てみる気は…」

ユ「誰がリ○ちゃん人形の服なんか着るかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ロ「じゃあ、某高校の制服(女子バージョン)を…」

ユ「もっと着てたまるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

兄「……本当に勇気を持って読んでください。では、エピローグのあとがきでお会いできることを(ロビンが)祈っています。」



[18122] エピローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/02 22:00
西暦2312年 資源衛星群

漆黒の闇の中に浮かぶ無数の岩塊たち。
しかし、この岩塊の中には地球だけでは賄いきれない鉱物資源が豊富に含まれているのだから馬鹿に出来ない。
そんな資源衛星が漂う空間の一角に小さく亀裂が入る。
その亀裂は徐々に大きくなり、その間からは瑠璃色の光が洩れていく。
そして、遂に空間を支えているものが耐えきれなくなったように砕け散ると、そこから赤く光るMSが飛び出してきた。

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」

激しい揺れの中を突き進んできた三人は安定した空間に放り出されたにもかかわらず、次元のはざまで味わった揺れの余波でいまだに目の焦点が合わない。
ソリッドは自らの使命はここまでだとでも言うようにTRANS-AMを終了するが、967はここがどれほどマズイ場所か気付いていた。

「っ……!9…967、ここは……?」

「……一応、戻ってこれたみたいだ。」

ようやく自分たちがどこにいるのか理解し始めたエリオとウェンディは驚きのあまり開いた口がふさがらない。

「ここ…!?」

「マ、マジで宇宙っスか!?」

「そう、ポイントT-33……地球連邦所有の資源衛星群だ。」

「な!?」

よりによって敵の支配下に飛び出してきてしまったことにユーノは焦る。
なにせTRANS-AMとGN-EXCEEDを使ってしまったのだ。
使用していたのが短時間だったとはいえ、GN-EXCEEDのおかげで機体の各所に残されている粒子はなんとか満タンに近いが、粒子生産量は半分以下に落ちている。
こんなところを襲われたらひとたまりもない。

(早くここから…)

改めて操縦桿を握ろうとした時だった。

「え…?」

体に力が入らない。
そう思った次の瞬間には腹部に激痛が奔り、ユーノの口から夥しい血がふき出した。

「ガッ……ァ…!ゲホッゴフッ!!」

「ユーノ!!」

「ユーノさん!!?」

「ユ、ユノユノ!!?どうしたんスか!!?」

突然バイザーの半分を血で隠してしまったユーノの体を二人は慌てて支えるが、それでもユーノの具合が良くなる様子はない。

(く…そ……!!よりによってこんなときに……!!)

こんなタイミングで発作を起こす自分の体を恨めしく思いながら、視界のふさがったヘルメットを外して、ユーノはここから離れようとする。
だが、

「……!!前方に反応……!!この距離までわからなかったってことは…」

衛星の下からコックピットの中を球になって漂う自身の血よりもさらに濃い紅蓮のカラーリングをしたMSが三機、ゆっくりと出てくる。
二機はアストレアが持っていた槍を一回り小さくしたような武装を両手で持ち、明らかにジンクスの発展型とわかるほど瓜二つの容姿をしている。
残る一機にもジンクスの面影はあるのだが、ジンクスよりもがっちりとした印象を受ける。

「ハハハ……まさか、戻ってきてそうそう……新型と遭遇…とはね……つくづく、自分の…引きの強さに呆れるよ……!!」

後ろで不安がる二人を離れさせると、震える手で何とか操縦桿を握って腰からライフルを抜き、こちらに向かってくる三機に銃口を向ける。
が、攻撃はしない。
ここに自分一人ならそれもいいだろうが、今はエリオとウェンディもいるのだ。
自分の不用意な行動で二人を危険にさらすわけにはいかない。

「っはぁはぁ……新型のパイロット、聞こえるか?こちらに交戦の意思はない。退いてくれないか?」

呼吸を整えて絞り出した言葉に、どれほどの説得力もないことをユーノはよく理解していた。
向こうは三機、しかもこちらはガンダムとはいえ四年前の機体。
性能差は明らかなうえに、こちらは能力ががた落ちなのだ。
戦闘を開始すれば間違いなく向こうもそれに気付くだろうし、そうなれば結果は火の目を見るより明らかだ。
しかし、ユーノが予想していたものとは違った答えが返ってきた。

『……いいだろう。』

「やった!!」

「いい人で安心したっス!」

一回り大きな機体、アヘッドから聞こえてきた言葉に安堵するエリオとウェンディだが、対照的にユーノは動揺で指先が震え始める。

『ただし、条件がある。』

「そんな……まさか、なんであなたがアロウズに…!?」

『一つはオリジナルのGNドライヴをこちらに渡すこと。そして、最後の一つは…』

そこまで言って、アヘッドのパイロットは遮光処理のされたヘルメットを外す。
長かった髪は短く切られ、顔には過去の戦いで負ったやけどの痕が生々しく残っている。

『君が私たちの保護を受けることだ、ユーノ君。』

「ミン…中尉…!?」

四年ぶりの再会なのだが、素直に喜ぶことができないどころか状況が飲み込めずに混乱する。

あの戦いの中で生き残っていて安心した。

           なぜ、彼がアロウズにいるのか。

セルゲイやピーリスもおそらく無事なのだろう。

           彼もまた弾圧に加わっているのだろうか。

また会って四人で話がしたい。

           どうしてアロウズになど入ったのだろうか。

いろいろなことに整理がつけられず、戸惑うユーノにミンは再度語りかける。

『おそらく、君のことだろうからアロウズがどういう組織なのか知っているのだろう。だが、私はだからこそアロウズに入ったんだ。アロウズの体制を中から変えるために、私は尽力している。』

初めこそ呆気にとられていたユーノだったが、話し続けるミンを見て安堵にも似た感情がこみあげてくる。
真っ直ぐな目で未来を信じて突き進む、あの頃のミンそのままだった。
だが、

『だから、君はもう戦わなくていいんだ。後ろにいる二人も君に命を救われた者だ。君は確かに罪を犯したが、同時に多くの命を救った。罪はこれから生きて償えばいい。そのための協力は私も惜しまない。……そうだ、君さえよければ私の家に養子に来ないか?妻も男の子が欲しいと言っていたところだから、きっと歓迎…』

「ミン中尉。」

だからこそ、自分にはまぶしすぎる。
ユーノは俯きながら、ミンと目を合わせないように自分の想いを言葉に変えていく。

「僕の罪は……僕自身の命で贖わなければならないんです。戦火にこの身を焼かれながら、それでも戦い続けることこそ、僕が受けるべき絶対にして不可避の罰なんです。」

『ユーノ君!!』

「僕は!!」

ユーノは自分の決意を示すように残っていた力を振り絞る。

「僕は……平穏を手放してここに立っているんです。いまさら、戻ることなんてできない!」

『そんなことはない!!』

ミンのアヘッドはビームサーベルを抜き放つ。

『君はまだ戻れる!!私が君を平穏の中に戻してみせる!!』

ミンのその言葉が合図だったように、ソリッドがアヘッドへと飛び出していく。

(初手で決める!!)

それしかユーノには勝機を見いだせない。
だが、

(!?なんで動かない!?)

エリオは気付いていた。
突進を開始したソリッドを見ても後ろにいるジンクスⅢは動こうとしない。
それどころか、アヘッドも切っ先を下に向けたまま動こうとしない。

(もらった!!)

アヘッドの顔面へと向かうソリッドのブレード。
しかし、

「!?消えた!?」

突如として消えたアヘッドの姿に戸惑うユーノだが、コックピット内が小さく揺れたことに気付くと視線を右に向ける。

「え……?」

そこには、それまで正常に機能していたはずのソリッドの右腕とアームドシールドがぷかぷかと浮いていた。
アームドシールドの刃はGN粒子の供給が途絶えたため光を失い、ただの金属の塊に早変わりしていく。

「う、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

『遅い!!』

ソリッドが下にいるアヘッドの頭に銃口を向けた瞬間、通常のものよりもはるかに強固なはずのシールドバスターライフルを斬り裂き、そのまま左腕の中に刃を奔らせていくと肩に至ったところで横に振り抜き切断する。
先程までの静かな斬撃と違い、今度は斬られたところが激しく爆発してコックピットを大きく揺らす。

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」

攻撃手段を奪われたソリッドだが、ミンは容赦なく両脚も斬り落とすと頭部を掴んで衛星に叩きつける。

『こんな強引な手段をとってしまってすまない。だが、こうでもしないと君は言うことを聞いてくれそうになかったからな。』

「く……う…!?」

四年前の動きよりもはるかに鋭い。
向こうは最新型でこちらは旧式のガンダムであることを差し引いてもミンの力量は相当なものだ。
おそらく、ユーノが消えた後も研鑚を積んできたのだろう。

『一緒にいる二人のこともなんとかできるように努力しよう。だから今は大人しくしていてくれ。』

そう言うとソリッドの頭を掴んだまま連れて行こうとする。
その時、

『大尉!!』

「!!」

ミンは素早くペダルと操縦桿を動かすと彼方より迫ってきた桃色の柱をかわす。
だが、それと同時に上から迫ってきていた青い影の一撃を防ぐことは不可能だった。
アヘッドの腕に滑り込んだ瑠璃色の剣はソリッドを掴むそれを一刀両断して、もう一方の剣で横薙ぎにコックピットを狙うが素早い動きでそこを離れたアヘッドの胸に浅い傷をつけるのが精いっぱいだった。

「噂の新型のガンダムか!!」

ミンは自身の搭乗機の状態、そして部下二人の力量を鑑みて苦渋の決断を下す。

「現宙域より撤退する!」

『大尉!!まだ彼らが!!』

「反論は聞かん!!生きていなければ彼を救うこともできない!!」

部下への叱責なのだが、自分自身にそう言い聞かせるように叫ぶと、ミン達はそのまま背を向けて全速力でその場を離れていく。

(これ、は……)

ユーノは、初めて出会ったときと同じようにそれに見とれていた。
青と白を基調としたカラーリングに、額の赤い飾りから伸びた白いV字と、金色の角が枝の途中で曲がって上に向かい突き出ている。
両手に握られている剣は温かな輝きを放ち、武器でありながらすべてを包み込んでくれているような優しさを感じる。
そして、ガンダムの象徴であるGNドライヴが両肩に装着され、GN粒子を放出している。

(ハハハ……君の戦い方は…変わらないな、刹…那………)

ユーノは青いガンダムの後ろから近づいてきたもう一機の黒と白のガンダムの姿を確認することなく意識を闇に沈める。
だが、そんなことを知らないガンダムのパイロットはユーノが起きているものだと思って通信をつなぐ。

『ユーノ、無事か?』

素気ない声に答えることのできないユーノを前にエリオとウェンディは戸惑うが、二人に変わって967が答える。

「ユーノは気を失っている。すぐに治療をしてほしい。」

『その声……967か。』

黒と白のガンダムのパイロットからも通信が入る。

『二人ほど見ない顔がいるな。』

「事情は後で説明する。早くユーノの治療を頼む。」

『了解した。』

二人のガンダムマイスター、刹那・F・セイエイとティエリア・アーデは仲間との再会を喜ぶ前に、ソリッドと最後の太陽炉をプトレマイオスに運んでいった。





Season strikers end.
And,restart to mission for revolution of “All” world.
Continue to second season.






あとがき・・・・・・・・・・・という名のやっとsecond突入

ロ「やっとsecondに突入しました。なんとかfirstの時の半分でstrikers編を終わらせられました。」

ユ「いろいろ詰め込みすぎたせいであっぷあっぷ感丸出しだったけどね。」

刹「普段の無計画さが露呈したな。」

ロ「いちいちむかつくやつらだなコノヤロー!!」

ア「ま、まあまあ。でも、セカンドに入ったらそこそこ長くやるんでしょ?」

ロ「まあ、ゆっくりまったりと話を進めていこうと思ってる。書きたいことも結構あるし。ていうか増えたし。」

ユ「要はだらだらやるだけでしょ。」

刹「学ばないやつだ。」

ロ「ホントなんなのお前ら!!?仮にも作者を言葉でぼこぼこにして何が楽しいの!!?」

ユ「この先待ち構えている僕の苦行の日々に比べればこの程度……いや、だからペットでもないし女装趣味もないんだって………女たらしって言うのも風評だし、淫獣でもないんだよ………あ、なのは、スターライトブレイカーだけは勘弁して……いや、マジで……」

ア「………なにしたの?ていうか何させる気なの?」

ロ「wwwww」

刹「……ああなるようなことをさせるということらしい。」

ア「笑い方がキモいよ…」

ロ「フッ……俺の座右の銘を教えてやろう。」

「「?」」

ロ「(俺が)面白ければそれでいいじゃん♪」

刹「その生き方は体力と根性がいるぞ。」

ア「そういう問題でもない気がするけど……」

ユ「いやいや………だからね、本来これに描かれてる僕はカッコいいはずであって……」

ア「いい加減戻ってきなよユーノ。そろそろ締めるよ。」

ユ「ハッ!!なんでか知らないけど、どこかしらない学校で絵を描いてる自分がいた……」

刹「何を言っている?」

ア「それ以上はホントにまずいからそこまで!!……オホン。では、最後にロビンから挨拶です。」

ロ「え~と、これからsecondに入るわけですが、くどいですが以前にも言ったように週一更新できるかどうかかなり怪しいです。それでもなんとか守れるように努力していくのでよろしければ応援よろしくお願いします!それと、遅くなりましたがみたらしだんごさん、コノハナさん、さっそくお二人のアイデアを使わせていただきました!少しわかりにくかったかもしれませんが、すこしでも面白い形で使用できて、満足していただけたら幸いです!じゃ、せーの……」

「「「「secondをお楽しみに!!」」」」



[18122] 魔導戦士ガンダム00 the guardian second season プロローグ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/05 01:32
西暦2312年 プトレマイオスⅡ ブリッジ

その艦のブリッジは広々としていた。
実際問題、広いことは広いのだが、何よりそこにいる人間が二人だけのせいでさらに広く感じてしまう。
短くそろえた黒髪をした男性は操舵席、二つあるオペレーターの席の片方にはツインテールの少女が座っているのだが、ただ単に人がいないというだけでそれほどでもないはずの二人の距離は異常に遠く感じる。

「ごめんなさい、遅れました。」

そこへ、ピンクの髪を後ろでまとめた女性が入ってくる。
感情豊かなその顔は嬉しさ半分、不安半分といったような複雑な面持ちをしている。

「大丈夫です!お二人もセラヴィーとダブルオーで出撃準備に入ったところですから。」

「それに、お前の王子様が無事に戻ってこれるかどうかの瀬戸際なんだ。気持ちの整理もつけときたいだろ。」

「お、王子様って……////」

ピンクの髪をした女性は操舵士の言葉に顔を赤くしてあたふたとするが、さらにそこへ少女の追討ちが加わる。

「おお!ラブ臭がするです!!」

「ミレイナ!!」

顔を真っ赤にしたまま怒鳴る女性の姿は歳とは不釣り合いなほど幼い印象を与え、まるで今までそうではいれなかった過去の時間を補っているかのようだ。

「さて、冗談はここまでだ。どうやら、さっきの反応をキャッチしていたのは俺たちだけじゃないらしい。」

その言葉にそれまでふざけていた少女の顔も引き締まる。

「機影3……識別…ジンクスにアヘッドです!」

「刹那、ティエリア!!」

急いで席に着いた女性は目の前のモニターに映る二人のパイロットに指示を出そうとするが、その必要はなかったようだ。

『イアン、ツインドライヴは…』

『心配するな。今のところすこぶる好調だ。』

『了解。』

最高の整備士からのお墨付きをもらった青い機体のパイロットは力強くうなずく。

『ラッセ、トレミーは現在位置を維持、敵襲をかけられる前に帰頭するが、万が一の場合はケルディムにカタパルトから射撃をさせながら後退してくれ。』

「了解だ。しかし、なんとも付け焼刃なミッションプランだな。」

白と黒の機体のパイロットは操舵士の言葉に表情を曇らせる。

『仕方ないだろう。……彼女が、今はあの調子なのだから。』

艦には戻ってきてくれたが、彼女はまだ自分たちの組織には戻ってくれていない。
だが、今生きている仲間が全員そろえば、本当の意味で彼女も戻ってきてくれるはずだ。

ブリッジにいる三人は真ん中の空いた席を見つめる。
そして、そこにいるべき人間が今から戻ってくる仲間とともに復活してくれることを祈りながら。






カタパルト

戻って来てから暇を置かずに二度目の出撃だったが、青年には待ち遠しいほどだった。
戦うことがではなく、仲間が戻ってくることがだ。
あの時、自分が気を付けていればあんなことにはならなかったはずだ。
だが、その失敗を埋めることができるチャンスが巡ってきた。

『刹那。』

モニターの向こうからオペレーターから呼びかけられ、パイロットはモニターの角を見る。

『ユーノを…助けて。』

「…ああ!」

彼女の上に映っているもう一人のパイロットも同意するようにうなずくのを見ると、キッと真正面を睨みつける。

「セラヴィー、ティエリア・アーデ、いきます!!」

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出るぞ!!」

二体の天使は漆黒の宇宙へと飛び出していく。
その姿はまさに、ソレスタルビーイングの理念そのものを体現しているかのようだった。







あとがき・・・・・・・・という名の暴露その一

ロ「second season開始早々ですが、最初のあとがきでいきなり暴露話です。」

ユ「本当にいきなりだね。」

ロ「では、さっそく本題に入りましょう。」

ユ「オイ、無視するな。」

ロ「今回暴露するのは~…これです!」

最初にこの話を書こうとしていた時、ヒロインはフェルトだった。

ユ「まだプロローグなのにいきなり重いの来た!!」

フェルト「ていうか……ええ!?そうなの!!?」

ロ「うん。だから今回お前ら二人だけなわけだし。」

ユ「これ、エレナやなのはが聞いたら僕殺されそうなんですけど?」

ロ「大丈夫。今回は何があっても介入させないから。」

フェルト「そ、それよりも今からでもこっちに書き直しませんか、作者さん?/////」

ユ「?なんで顔赤いの?なんでロビンに対して敬語なの?」

ロ「……相変わらず鈍い奴め。」

フェルト「………………………………orz」

ユ「???」

ロ「……話を戻すぞ。まあ、他にもエレナとかシェリリンとかとくっつけようとかも考えてたんだけど、結局どっちもボツにした。」

フェルト「……なんで私をボツにしたの?(ぎろり)」

ユ(自分限定かい……)

ロ「ひっ……!す、すんません!リリなのと00のクロスとは言え、ユーノはリリなのの人間なわけだし、やっぱユーノとくっつけるのはなのはがいいなぁって…」

フェルト「………………………………(怒)」

ロ「ちょ、待っ…ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ユ「……え~、ロビンが制裁を受けていますがたぶん生き残るのでご心配なく。次回はいよいよ僕用の第四世代機が出ます!!では、第一話をお楽しみください!」



[18122] 1.Crusade
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/06 10:30
機動六課隊舎(?)

『スクライアさ~ん、起きてくださ~い!』

珍しく早起きなリインフォースの間延びした声にユーノは思わず布団にくるまる。
なぜだか知らないが今朝はいやに眠い。
新人たちの教導メニューを組んでいたかもしれないが、彼女の主には日ごろから無茶な注文ばかり押し付けられるのだから今日くらいはサボらせてもらいたいものだ。

『スクライアさ~ん、早く起きないとみんな来ちゃいますよぉ~!』

「知らないよ……エリオたちがきたら適当に君があしらっておいてよ………今日はなんだか眠いんだから……」

『?なんであの二人限定なんですかぁ?』

「……?」

おかしなことを言うものだ。
いや、よく考えたらもっとおかしなところがある。

「リイン、君いつから僕をスクライアなんて他人行儀な言い方するようになったの?」

『いつからって……だって私たち初対面じゃないですか?それに私の名前は…』

「……リイン。君ももう一回じっくり寝た方がいいよ。だから部屋に戻ってほしいな。」

いっそう強い力で布団を握りながらユーノは寝返りをうつ。
きっとリインフォースは寝ぼけているのだ。
自分を起こしに来たのも何かの間違いに違いない。

『む~!!ここで引いたらミレイナも女がすたります!是が非でも起きてもらいます!』

「?ミレイナ?」

耳を澄ましてみるとリインフォースの声が少しずつ変化してきている。
もう少し大人びた、それでいてまだ子供のような声に変わっていく。

『スクライアさ~ん、起きてくださ~い!!』

「どわわわ!!?」

いきなり部屋全体が揺れるような激しい震動がユーノを襲う。
そのせいで先程までの眠気がきれいさっぱり吹き飛び、ユーノはパチンコではじき出された鉄球のように跳ね起きた。




プトレマイオスⅡ 医務室

「どわわわ!!?」

「へっ!?あうっ!!」

治療用の白衣を着たユーノが急に体を起こしたせいで、彼を起こそうとしていた少女のおでこにユーノのヘッドバッドが炸裂する。
少女は痛そうに赤くなった部分をさすりながらその場にうずくまるが、ユーノは状況を把握できていないのか痛みを忘れてキョロキョロと辺りを見渡す。
一面白の壁紙に、見なれた治療用カプセルが設置され、空のベッドのいくつかが寂しげにぽつんと存在している。

「ここは……」

「いたた……ここはメディカルルームです。スクライアさん、戻ってきたとき血まみれでみんな驚いてたです!ミレイナもびっくりです!」

「君は…?」

立ち上がった少女の顔をユーノはまじまじと見つめる。
ブラウンの髪を二つに分けてまとめ、涙が溜まっている瞳はくりくりとしていてなかなかチャーミングだ。

「はじめましてです!イアン・ヴァスティの娘のミレイナ・ヴァスティです!よろしくです!」

「イアン……っ!?」

そこまで言われたところでようやく思い出した。
ユーノはミレイナと名乗る少女の肩を掴む。

「ふぇ!?まさかの一目惚れで愛の告白ですか!!?」

「違う!ミレイナちゃん、今年は西暦何年!!?」

「へ!!?」

「今年は何年でここはどこ!!?」

がくがくと体を揺らされるミレイナはしどろもどろで何とかこたえる。

「こ、今年は西暦2312年でここはトレミーですぅ~~!!!!」

「トレミー…」

そこまで聞いてようやくユーノはミレイナから手を離して安堵のため息をつく。

「ス、スクライアさん?」

ミレイナはリスのように首をかしげるが、今のユーノには喜びのあまりその愛くるしい姿も目に入らない。

(よかった……戻ってこれた……)

そう実感したとき、なのはたちへの罪悪感を感じながらもユーノはホッとしていた。
この独特の空気を吸い込むたびに体が覚えている感覚が呼び起こされていく。

「ただいま……」

ユーノはミレイナにも聞こえないように小さくつぶやく。
それは、戻ってこれた喜びも、大切な友人たちと別れた悲しみも、すべてを含んだ決意の一言だった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 1.Crusade

廊下

フェルトは急いでいた。
ユーノが目を覚ましたと聞いて自分に与えられていた役割をいつもより早く終えたのだが、無重力の廊下はどれほど焦ったところで一定のスピードで進まなければ、逆にいつまでもたっても目的地にはつけない。
それくらいわかっているのだが、どうしても気持ちが先走ってしまう。
なんとか医務室の前の扉にたどり着いたフェルトはすぐに部屋の中へと飛び込む。

「ユーノ!!」

突然入ってきたフェルトに一足早く来ていたミレイナと意識を取り戻していたユーノは目を丸くするが、そんなことなどお構いなしにフェルトはユーノに飛びつく。

「ちょ、フェルト!!?」

「よかった……!本当にっ…よかっ……!!」

昔とは違っていろいろと成長したフェルトに抱きしめられて戸惑うユーノのそばでは、二人以上に興奮した様子のミレイナがいた。

「おお!ラブ全開です!!」

「君はなに訳わかんないこと言ってるの!!?ていうか、フェルトもそろそろ…」

「私ずっと心配してたんだよ!!みんなだって、ユーノのこと…」

「いや、だからその……いろいろとまずいところが当たっているというか…」

「?」

最初は何を言っているかわからなかったフェルトだが、今の自分の態勢を見てハッとする。
薄手の治療着のユーノの胸の上にぴったりと張り付くような形で上半身を押し付けていることに気付くが、混乱してすぐに動けない。
だが、その間にもフェルトの顔はどんどん赤みを帯び、ユーノも顔を紅潮させていく。

「ご、ごめんね……。つい、嬉しくなっちゃって……すぐに離れるから…」

「い、いや、僕の方こそ変なこと言っちゃって……」

「確変です!!スーパー甘々タイムに突入です!!」

「「ミレイナうるさい!!」」

わけのわからないことを叫びながら歓喜するミレイナを二人仲良く怒鳴りつけたあと体を離そうとする。
こんなところを誰かに見られたらたまったものではない。
だが、

「……オイ、心配して来てやった俺たちの気遣いを返せ。」

「……ユノユノ、そんなになのはさんを白い悪魔にしたいんスか?」

「相変わらず君は次々と問題を起こしてくれるな。」

「二股なんて……軽蔑しました。」

「おいおい、起きて早々にこんな随分なことするやつが俺の先輩なのか?」

「……うちの娘に手を出したらお前でも容赦せんぞ?」

「…………元気になったようで何よりだ。」

もう手遅れだった。

「NOooooooooooooo!!!!!!!!!!!!!!」




スメラギの部屋

「?何かしら?」



営倉

「?なんだろう?」



ユーノに顔を見せにいかなかったスメラギの部屋や沙慈がいる営倉にまで魂の絶叫は響いていた。






数分後 医務室

「で、誤解だってこと、わかってもらえました?」

自分の周りを取り囲む面々に説明を終えたユーノはトレミーにきて二日も寝ていたにもかかわらずひどく憔悴していた。
まあ、その原因を作った張本人たちは一切反省していないようだが。

「だって全面的にお前が悪いだろ?」

プトレマイオスⅡの操舵士、ラッセ・アイオンの悪びれた様子のかけらもない発言に頭を抱えるユーノだったが、今まで管理局の人間から受けてきた仕打ちに比べれば軽いものだと自分に言い聞かせて気を取り直す。

「しっかし、俺を見ても無反応ってのはどうかね?まあ、見飽きた反応見せられるよりはいいけどさ。」

少し癖っ毛の男性が腕を組みながら苦笑する。
その飄々とした笑みといい、言動といい、一挙手一投足何もかもが四年前に失ったはずの仲間そのものだ。
だが、

「どんなに似てたってわかるものはわかるよ。え~と……ライルさんって呼んだ方がいいですか?」

「あんたが呼びたいように呼べばいいさ。ユーノ・スクライアさん。」

へらへらと笑うコードネーム、ロックオン・ストラトスことライル・ディランディの言葉を受け、ユーノは彼をこう呼ぶことにした。

「了解、ロックオン。これからよろしく。」

「おう、よろしく。それから…」

「?」

「俺が兄さんじゃないって思ったのは、あんたも兄さんの最後の場に居合わせたからだろ。」

「!!!!」

周りがポカンとする中、ロックオンの小声の呟きに反応して刹那の方を向くユーノだったが、刹那は目をそらす。
おそらく、彼から聞いたのだろう。
だが、

「気にすんなよ。俺は恨んじゃいねぇし、むしろ兄さんの最後を見とってくれたあんたら二人に感謝してるんだからよ。」

先程までの自分の本質を覆い隠すような笑みではなく、心の底から出た素直な言葉にユーノはフッと笑う。

「なんの話ですか?」

「右同じっス。」

「別に大したことじゃないよ。」

なんのことかさっぱりだったミレイナとウェンディは不思議そうな顔をするが、ロックオン、刹那、ユーノの三人だけは互いに顔を見合わせて笑う。
それにつられるように、その場にいた全員に笑顔が伝染していった。





ブリッジ

「へ~。それじゃ、ユノユノはずっと記憶喪失のまま戦ってたんスか。」

あの後、解散になって手持無沙汰になったウェンディは何をするでもなく無重力状態を楽しみながらミレイナ達からユーノの話を聞いていた。
その光景はこの二日でもはやトレミーの日常の風景になっており、最初は抵抗感を持っていたティエリアもすでに彼女の自由奔放さには諦めざるを得なかったようだ。

「私もパパから聞いただけなんですけど、昔のユーノさんはもっとやんちゃだったって言ってたです。」

「確かに、昔の姿から今のあいつを想像するのは難しいかもな。俺なんか話をしてるだけで鳥肌が立ってくる。」

異様に丁寧な言葉で話し、さらには自分のことをさん付けで呼んできたことを思い出しただけで悪寒が奔る。
なんとかさん付けはやめてもらい、フランクな喋り方をしてもらうように話をつけたが、それでも昔のイメージが強いせいで今の彼の姿を見ていてゾッとするようなことは多々ある。

「そうかな?私は今のユーノの方が自然な感じでいいと思うけどな。」

ラッセに反論するようなフェルトの発言を聞いた瞬間、ウェンディは無重力を体験して二日とは思えないような素早い動きで彼女の肩を掴むと真剣な顔をする。

「フェルト、悪いことは言わないからユノユノに手を出すのだけはやめた方がいいっス。白い悪魔にあんなことやこんなことされて後悔してからじゃ遅いから。」

「えっと……なんの話?それに、私はユーノにそういう感情を持ってるわけじゃないから。それに……」

その一言を言おうとして、フェルトはわずかに言葉に詰まるが、すぐにいつもどおりに笑う。

「ユーノには婚約者がいるんでしょ?」

厳然たる事実だ。
ユーノが戻ってきた最初の日に彼を見舞いに行った時、薬指にはめられている桃色の宝石を見て驚き、相手がどんな人間なのか想像しては嫉妬し、しばらくして今度はそんなことを考えた自分に嫌気がさした。
自分にとってユーノはあくまで大切な仲間であり、友人であるがそういう対象として見ているつもりはない。
ユーノの方もきっとそのはずだ。

なのに、その事実を突き付けられるたびに心がちくちくと痛む。

「ふ~ん……。まあ、フェルトがそれでいいならあたしは何にも言わねえっス。」

ウェンディだけでなくラッセとミレイナも少々あきれたような、怒ったような顔をする。

(ったく、フェルトもユーノもこういうところで鈍いのだけは変わらないんだな。)






廊下

「へっくしょん!!う~…もう少し休んでた方がいいのかな?」

鼻をこすりながら自分の体調に不安を覚えるが、それよりも会わなくてはいけない人間がいる。
四年前、血生臭い介入をしていたときにも彼の顔を見て穏やかな日常に何度も引き戻してもらった。
だが、刹那から彼が自分たちのしてきたことのせいで大切な人を傷つけられたことを聞かされて、逃げたいとも思ったが、ソレスタルビーイングに戻ってきたからには向かい合わなければいけないだろう。
その扉の前に立ったユーノは大きく深呼吸をすると、ロックを解除して中へと入る。
殺風景な営倉の隅に、件の人物は膝を抱えて座っていた。
最後にあった時から随分たったせいもあって、身長は伸びているがユーノも伸びているのであの頃とさほど身長差は変わっていない。
少し長めだった髪は少し短くなり、顔も大人の男性のものに変わっているが、見分けがつかないほどではない。

「……ひさしぶり、沙慈。」

「……………………………」

沙慈・クロスロードは無言でユーノを睨みつける。
その眼にはユーノ、いや、ソレスタルビーイングに対する怒りがはっきりと込められている。

「……だんまり、か…」

「……………………………」

「ま、文句を言える立場じゃないことはわかってるけどさ。」

ユーノは頭を掻きながらため息をつくと、扉の前から動かない。

「何か困ったことがあったら僕に相談してよ。できる限り力になるからさ。」

「……………………それだけ?」

「……………………ああ。今はね。」

「じゃあ、早く出てってくれよ……!」

抱えていた膝に顔を押し当て、空気が漏れるようなか細い声で鳴き始める沙慈に背を向けてユーノは営倉を後にする。
この後、“あれ”の調整に向かわなければならないのだが、今の沈んだ気持ちを引きずってまで行こうとは思えなかった。






格納庫

「やれやれ、帰ってきてそうそうサボりとはいい度胸だな。」

文句を言いながらもイアンは喜びに胸を躍らせていた。
ようやく最後のGNドライヴが戻り、二機目のツインドライヴが起動したのだ。
ただ一つ不満なことを上げるとするなら……

「シェリリンのやつが無茶苦茶なものばかりつけてくれたことか。」

そう言ってため息をつくイアンの正面には、正五角形の赤い額から伸びる二対の角をつけた顔が鋭い目でガラスの向こうから整備室を見つめている。
下にある角は綺麗にⅤ字型だが、上にある角は途中で折れまがってより鋭く天を衝いている。
人間ならば耳があるはずの場所には丸い瑠璃色の浅い窪みから後ろまですらっと伸びた長細い三角形があり、その三角形の正面部分には通常のものよりも小さな銃口が備え付けられている。
ボディは白いコックピットハッチと黄色い粒子放出口以外は萌黄色に染め抜かれ、先が鋭い刃になった巨大な五角形の盾を持つ右腕と、腰の右側に装備されている盾への可変機構を持つ銃を握るはずの左腕は白を基調とし、左右の手首でそれぞれ萌黄色と赤の腕輪が付けられたようなカラーリングになっている。
両脚はシンプルに白と関節部分の瑠璃色のみで構成されている。
ここまで特徴をあげて来ておいてなんだが、何より目を引くのは台形の両肩のアーマー部分のさらに外側に付けられた萌黄色の装甲とそこに設置されたコーン型の出力機関だ。

GN-XXXX、ツインドライヴ搭載型、クルセイドガンダム。
その根幹をなすツインドライヴシステムとは、一体のガンダムに二つのGNドライヴを搭載、そして同調させることによって今までよりもはるかに多いGN粒子を生成するものだ。
だが、ただ一つ問題なのがこのシステムがあまりにも複雑、精密であり、相性のいいGNドライヴ同士でないと同調が上手くいかないということだ。
事実、先にロールアウトされたダブルオーガンダムも一番相性のいいOガンダムとエクシアの太陽炉を持ってしても安定稼働領域には達せず、自爆覚悟でTRANS-AMを使って無理やりそこまで持っていったのだ。
だが、今回はその心配はいらないだろう。

「同型のシルトとソリッドの太陽炉、おまけに“あれ”も付けてるから確実だろ。」

もっとも、“あれ”は使う側の人間のことを考えて取り付けたものなのだが。

「ったく、すこしでもシェリリンに手伝せるとすぐにこれだ。こんな暴れ馬、手綱の一つもつけとかないと安心できんだろうが。そうは思わんか、ユー…」

そう言って横を見るイアンだったが、四年の月日が経とうとすぐそばにいた二人目の弟子の面影を追ってしまう自分がいる。

「チッ……ああ、クソッ!もう我慢ならん!首根っこ掴んででもここに…」

「……ぶつぶつ……なんで僕が…」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

扉に手をかけようとした瞬間にその向こうから現れたエリオに驚くイアン。
そしてエリオもイアンのリアクションに驚いて腰を抜かす。

「あ、ああ、すまん。たしか……エリオ、だったか?」

「え、ええ、はい。」

イアンはエリオの姿勢を元に戻してやろうと手を差し出す。
しかし、エリオは戸惑うばかりでなかなか手をとろうとしなかったが、結局イアンの手をとって元に戻してもらう。

「それで、なんの用だ?」

「えと、ユーノさんからなんですけど、今は少し一人になりたいから放っておいてほしいって。」

エリオからの伝言を聞いたイアンは渋い顔をするが、この四年間で身につけた唯一役立つスキル、諦めの良さですべてを割りきり作業を再開する。
そんなイアンにエリオは素朴な疑問をぶつけてみる。

「あの、ヴァスティさん、僕はまだソレスタルビーイングに入るつもりはないですよ?なのに、こんなところに勝手に来ちゃっていいんですか?」

この二日間、エリオとウェンディはかなり自由に艦内をめぐることを許されていた。
ユーノの知り合いだということも大きいのだろうが、それでもまだ正式に組織に入ると決めたわけでもない人間にここまで開放的にしていいのかエリオには疑問だった。
……ウェンディはそんなことなど気にせずメンバーの部屋にまで乗り込んで行っているようだが。

「かまわんさ。いまさら何を漏らされたところで困ることなどさしてないからな。ついでに、お前さんもウェンディってやつも技術方面に関しちゃさっぱりだろ?」

「まあ、そうなんですけど…」

「それに、わしはお前さんたちが加わるもんだと思ってるしな。」

最後の一言にエリオは顔をしかめる。

「僕は人殺しをするような組織に入るつもりはありません。」

確かに最初に想像していた凶悪犯の集まりというわけではなさそうだが、それでも人殺しには変わりない。

「ハハッ、人殺しか。こいつは手厳しいな。けどな。」

「けど?」

「お前さんたちもヒクサーやフォン・スパークのお眼鏡にかかるってことは、その歳で相当重いもんを背負ってるんだろ?」

「………………………」





数年前 ミッドチルダ某所


『いやだ!!お母さん!!お父さん!!』

『エリオ!!』

『返して!!私たちの息子を返して!!』

『違うでしょう?これはあなた方のお子さんのコピーだ。違法な手段で産み出したね。』







現在 

「?どうした?」

「いえ、なんでもありません。」

イアンの言葉で嫌な光景がフラッシュバックしてくる。
確かに、自分にはそういった過去がある。
世界を呪い、他人を呪い、憎しみだけが生きる原動力だったこともあった。
けど、

「……やっぱり、僕にはわかりません。戦うことで世界を変えることが、正しいのかどうか……」

「正しかないだろうさ。」

イアンは驚くほどきっぱりと言い切る。

「わしらのやってることはテロだからな。けど、ここにいる連中は多かれ少なかれ、戦争で人生を歪められている。幼くしてゲリラに仕立て上げられた者、テロで家族を失った者、人体に改造を受けた者……かく言うわしも、戦争で嫌なもんを死ぬほど見て来て、戦うことを決意した。」

イアンは指を止めるとエリオの顔を見る。

「それに、戦うと言っても相手の命を奪うのがすべてではないとわしは思っとる。そして、それを体現できるのが、ガンダムマイスターという存在なんだ。」







展望室

外に広がる星の海を刹那は眺めていた。
ユーノが戻り、ライルが新しく加わり、あとはアレルヤが戻ってくれば全員がそろう。
だが……




一日前 ブリッジ

「ユーノが今まで何をしていたか話せないということはどういうことだ!!」

フォンからの通信にティエリアは声を荒げる。
ティエリアだけではない。
ブリッジにいる人間全員が不信感をあらわにする。

『一応言っておくが、そこにいるガキどもに聞くのもルール違反だ。アイツが話してこそ意味がある。』

「それを僕たちが律儀に守るとでも?」

『守らざるを得ないだろうぜ。それに、そいつらも口が堅い方だろうからな。』

口が堅い、というよりも基本的に魔法文化の存在しない世界の住人にそのての説明をすることが二人にとってはご法度なのだ。
もっとも、そんなことを気にしていられる状況ではないのだが、それでもミッドチルダに戻れた時のことを考えれば黙っておくほうが妥当だろう。

ただ、遅かれ早かれユーノが目覚めればすべてが明らかになる。
エリオたちとは正反対に、刹那はそれに期待することにした。
だが……




展望室

そう、ユーノは自分たちに話そうとはしてくれなかった。
気持ちはわからないではない。
この四年間で自分もさらにこの手を汚してきた。
言いたくないことがあっても不思議ではない。
だが、それでも打ち明けてほしかった。

「……ユーノ。なぜ、なにも言ってくれない。」

「起きて状況把握するのでやっとの人間に、そんな無茶言わないでよ。」

いつの間にか後ろにいたユーノは彼にとっての懐かしい味、宇宙食用に加工された果物ゼリーを容器から吸いながら横に並ぶ。
着ている服は自分たちが支給されている制服に変わり、萌黄色と白のコントラストに目をひかれる。

「四年前も記憶が戻ってから言おう言おうと思ってても結局ふんぎりがつかなくて……。最後のミッションで生き残ったら言おうとは思ってたんだけど、今度は下手こいてみんなと離ればなれ。まったく、締まらない人生だよ。」

苦笑しながら肩をすくめるユーノに、今度は刹那が語りかける。

「なら、今からでも打ち明ければいいんじゃないか?」

刹那の生真面目な顔にユーノは口からゼリーをこぼさないように器用に答える。

「まだみんなそろってないだろう?アレルヤもいないし……それに、スメラギさんもあの調子だし、少し落ち着いてからじゃないとみんな混乱するからね。」

「それほどのことなのか?」

「うん。でも、案外みんなすらっと受け入れそうで怖いなぁ……」

自分の相棒や過去の事例を思い出してもその可能性は高いが、どうせ聞かせるなら全員そろってが理想だ。

「……変わったな。」

「へ?」

「みんな変わったが、お前は随分と変わった。」

「そうかなぁ……僕はむしろあっちの方が不自然だったと思うんだけど…。それに、刹那とフェルトには一応素顔の僕を見せていたはずなんだけど?」

確かに、最後の出撃の前に三人でデュナメスのそばにいたときに見せたあの顔。
あれこそが真実のユーノであることはわかっているのだが……

「…すぐには慣れない。」

「そんなこと言われたって……」

「だが…」

苦笑するユーノに刹那は小さく笑いかける。

「戻ってきてくれて、嬉しかった。」

ユーノは開いた口がふさがらなかった。
飲み口からゼリーのかけらが出ていくが、そんなことよりも目の前で起こっていることの方が衝撃度120%だ。

「どうした?」

「いや……君がそんなこと言うなんて思ってなかったから……」

戻って来てからみんなから変わったと言われるが、ユーノは一番変わったのは刹那とティエリアなのではないかと思う。
刹那もティエリアもあんなに頻繁には笑わなかったし、そもそもとげとげしくて近寄りがたかったのに、いまは新しくやってきたウェンディやエリオともなんだかんだで上手くやっている。

「そんなに驚くことか?」

「まあ、ね。でも、いい傾向なんじゃないの?昔みたいに能面みたいな顔してるよりはさ。」

「能面……」

そこまで酷かったか?とでも言いたげな様子でぺたぺたと顔をなでる刹那だが、それは唐突に終わりを迎える。
艦内全体にアラームが鳴り響き、乗組員に緊張が奔る。

『Eセンサーの反応!!識別はアロウズ所属機、ジンクスⅢとアヘッドと断定!マイスターは出撃準備に入ってください!』

上から聞こえてくるミレイナの声に二人は苦笑交じりにため息をつく。

「悪いけど、話は後みたいだね。」

「すぐに終わらせる。その後でゆっくりとすればいい。」

「ハハッ、違いないや。」





?????

『では、確かにお伝えしましたわ。』

「ありがとう。君には本当に助けられているよ。」

緑髪の少年はモニターに映る女性に涼やかな笑みで思ってもいない賛辞の言葉を贈ると通信を終了する。
おそらく、これも打算的な彼女の思惑の一つなのだろうが、少しくらい一緒に踊ってやるのも悪くない。

「狐と狸の化かし合い。」

「急になんだい、リジェネ?」

「日本では今のようなやり取りをそう言うらしいよ。」

緑髪の少年、リボンズの後ろからリジェネと呼ばれた少年が現れる。
紫色の癖っ毛をした彼は、見た人間誰もが美少年だと答えるほど整った顔立ちをしていて、かけているメガネがそれにアクセントを加えている。

「彼女が狐なのはわかるけど、僕が狸とはひどいことを言うんだね。」

「いいや、君が狐さ。」

「?」

リボンズに後ろから腕をからませるリジェネの顔に美しくも残忍な笑みが浮かぶ。

「自分の周りにいるものすべてが思い通りになると思っているおめでたい彼女が狸で、それを嘲笑っている君が狐さ。」

「僕はそんな悪趣味じゃないさ。」

「悪趣味だろう?アレハンドロ・コーナーの下について彼のすることを見てほくそ笑んでたくせに。」

リボンズに頭をなでられ、目を閉じて嬉しそうに伸びをするリジェネだったが、彼の心の中はイライラでいっぱいだった。
さきほど見た情報によると、ユーノがソレスタルビーイングに帰ってきたらしい。
どこの誰かもわからない人間が、できそこないで、お情けでガンダムに乗ったくせにさんざん計画を掻きまわした人間が自分と同じ体を持つ人間のそばにいると考えただけで虫唾が奔る。

(ユーノ・スクライア……君は目障りなんだよ。ティエリアも君がいると悪い影響ばかり受けるからね。君にはここらで退場してもらおうか……ティエリアや僕たちの目の前から永遠に!!)






トレミー カタパルト

白と黒の巨体は足元を固定されたまま出撃の時をじっと待っていた。
ふいに、中にいるティエリアの横にミレイナの顔が出現する。

『敵機は散開してこちらに向かってるです!!アーデさんは三時方向をよろしくです!!』

「了解。」

『おいおい、俺は初陣なんだぞ?誰かフォローに回ってくれないのか?』

二人の会話に深緑の機体に乗り込んでいる男の声が割り込んでくる。

「君の役割は狙撃で敵を牽制して、トレミーに取りつかせないことだ。比較的容易な仕事のはずだが?」

『ど素人だぜ俺は?荷が重すぎるっての。』

「マイスターに選ばれたからにはこれくらいのことはやってもらわないと困る。」

『あ、おい、ちょっと…』

ロックオンからの反論を聞くことなく、ティエリアは通信をきる。
そんな彼の額には昔よりもさらにしわが寄っている。

「なんで、彼なんだ…」

能力的には問題ない。
あの物言いも“彼”の双子の弟なのだから仕方が無い。
なのに、どうしてもライル・ディランディという男を、ロックオン・ストラトスとして認められない。

『アーデさん?』

ミレイナの声に現実に引き戻されたティエリアは再度目の前の脅威に集中する。

「なんでもない。準備はできているから出してくれ。」

『了解です!タイミングをセラヴィーに譲渡します!』

「I have control.ティエリア・アーデ、セラヴィー、いきます!!」

今ここで死ぬわけにはいかない。
本当の最後の時が来るまで、決してあきらめない。
ユーノに、そしてロックオンに教えられたことだ。
そして、今がその時であるはずが無い。

「セラヴィー、目標を殲滅する!」

セラヴィーガンダムのマイスター、ティエリア・アーデは人間としての熱い感情に身をまかせながら、自分の持ち場へと急いだ。







「ったく、いきなり切るこたないだろ。」

「ティエリア、ロックオン好キ!ロックオン好キ!」

「あれのどこが……って、兄さんの方か…」

渋い顔でこれから自分の相棒になるハロの電子音に耳を傾けながら、会わなくなってから忘れようとしていたコンプレックスが再燃する。
周りの人間全員が双子であるというだけで比べてくる。
そして、自分より何もかも抜きんでていた兄と比べられるたびに双子というものが嫌になっていった。
兄が死んだことはショックだが、それでもこの感情はそれでも消しきれない。

「けどま、今はそんなことを気にするより、なんとかこっちの都合に合わせてもらえるようにしなくちゃな。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「こっちの話だよ。」

こんな話を相手が機械とはいえできるわけがない。
ライルにとってソレスタルビーイングはあくまで利用価値があるから所属しているにすぎない。
だが、ここで彼らに消えてもらっては困る。
仲間たちが自分と、そして彼らの力を必要としているのだから。

「なあ、ハロさんや。兄さんは気合を入れる時なんて言ってたんだ?」

「狙イ撃ツゼ!狙イ撃ツゼ!」

「なるほどね…」

少々癪だが、確かに今自分が乗っている機体にはぴったりの言葉かもしれない。

『ケルディム、リニアフィールドに固定。いけます。』

「了解だ!ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!!」

フェルトの言葉に後押しされるように飛び出したケルディムガンダムは、艦の前方にとどまり額の赤いふたを開けてカメラアイを展開する。

「さあ……ロックオン・ストラトスとケルディムガンダムの初陣だぜ!」









後ろの背もたれに体を固定し、操縦桿を握る刹那の前に厳しい顔をしたイアンが現れる。

『刹那、くどいようだがTRANS-AMは使うなよ!』

「わかっている。」

ダブルオーのツインドライヴはTRANS-AMによって起動させたのだが、安定領域にはほど遠く、十二分にその力を発揮できているわけではない。
いまだに同調率は80パーセント台にとどまり、イアンはTRANS-AMを使うのは危険だという判断を下した。
もっとも、それでも現存するMSの中で抜きんでているのは確かなのだが。

「それより、クルセイドの方は……」

『ん?あ、ああ……問題はない…』

「……?」

メカニックに関しては竹を割ったような性格のイアンが珍しく口ごもる。
何かあるのだろうか?
そう思い問いかけようとする刹那だったが、ミレイナの言葉がそれを阻む。

『ダブルオー、いつでもいけるです!』

「了解。ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!」

高速で外へとはじき出された瞬間、ダブルオーの両肩にあるGNドライヴから粒子が溢れだしていく。
そんな好調の愛機とは対照的に刹那は一抹の不安をぬぐいきれずにいた。







そんな刹那の不安を知ってか知らずか、ユーノは意気揚々と新しいガンダムに乗り込んでいた。
クルセイド。
シルトとソリッドのGNドライヴを持つガンダム。
聖戦を意味する言葉が頭にきているのが少し気にくわないが、エレナと、自分の想いを乗せたガンダムに乗って喜ぶなというのは無理な相談というものだ。

「ユーノ、一応TRANS-AMもGN-EXCEEDも使えるらしいが、基本的には使わないほうがいい。」

「わかってるよ。ダブルオーのデータは一通り見ておいたからね。それに、僕は刹那ほど無茶をするのが好きじゃない。」

「よく言う…」とあきれる相棒の頭を優しくなでていると、ブリッジにいるフェルトから通信が入る。

『ユーノ、ごめんね。最初の出撃なのに無理させちゃって。』

「大丈夫だよ。もともとシルト系は単機による突破がコンセプトだからね。これくらいこなせなきゃ名前倒れもいいところだよ。」

心配してくれるのは嬉しいのだが、フェルトはどうにもそれが行き過ぎているような気がして仕方ない。
憧れを抱いていたロックオンを失い、あれだけ大勢いた仲間が自分のもとを去っていった不安を忘れることはできないかもしれないが、それでもここまでされるとどうリアクションしていいものかと困ってしまう。

「……心配なら、今度はメガネでも残していこうか?」

「!」

驚くフェルトに優しく語りかける。

「もうそんなことしなくても、僕はまた戻ってくるよ。みんながいてくれるだけで、僕はここに戻ってきたいと、生きていたいと思えるから。」

『……うん!』

フェルトをなだめて通信を終えると、メガネをはずして自分の中の意識を切り替えていく。

これから自分がするのは戦争なのだ。
理由はどうあれ、誰かを傷つけその命を奪うことになるかもしれない。
非殺傷設定など甘いものなど存在しない、どこまでもリアルで、陰湿で、救いようのない戦いをこれからするのだ。

「……あんな約束、するんじゃなかったな。」

最後になのはと過ごした夜にした約束。
四年前、フェルトと同じようなことをして彼女を悲しませたのに、約束を守れないかもしれないとわかっていたのに今度はなのはを悲しませている。

「なんなら、今からでも帰るか?」

967の意地の悪い問いをユーノは笑い飛ばす。

「冗談?ここまで来てそれやったら男じゃないよ。」

そう言ってヘルメットをかぶると、完全に頭の中から余計な思考が排除される。
そして、足元をリニアフィールドに固定されたのを確認すると一気に操縦桿を前に押し出す。

「クルセイド、ユーノ・スクライア、いきます!!」

久々に感じるGに数秒耐え、漆黒の宇宙に新たな力とともに飛び出す。
クンッと足元にあるペダルに力を入れると、両肩のGNドライヴから粒子が放出されていく。

「僕の担当は真正面か……。なかなか、ハードな任務になりそうだ!」

そう言って操縦桿とペダルを思い切り踏み込むユーノ。
だが、

「……?」

「どうした?」

「いや、なんでも…」

心なしかペダルや操縦桿が重い気がする。
最初はそれほど感じなかったが、今出せる全力を出した瞬間に急にそれを感じた。
しかし、すぐにそれは消え去りクルセイドは安定した動きを見せ始める。

(気のせいか……)

そう思って正面から迫ってくる敵に向かっていくユーノだったが、この時に気付いておくべきだった。
この時感じたことが気のせいでないことを、そして、クルセイドの動きがあまりに型にはまりすぎていたことを。








ラグランジュ4 周辺宙域

ほんの数日前まで沙慈がいた建設中のコロニー、プラウドを望むその場所に突如ピンク色の閃光が奔った。
プトレマイオスの左舷側から近づいていたジンクスⅢのうちの一体がそれをかわしきれずに爆散する。
それが戦いのゴングとなり、各方面で赤とピンクの閃光が入り乱れ始め、時折まん丸の花火が上がった。

開戦の合図を上げた張本人であるティエリアはあくまでいつもどおりに自分の戦いをする。
セラヴィーの肩から伸びた長い砲身がため込んだ力を誇示するように光を放ち始める。
そして、

「GNバズーカ、高濃度圧縮粒子解放!!」

セラヴィーの背中にある装甲が開くと、そこから巨大なガンダムの顔が出現し、それと同時に二つの砲門から飛び出した光の柱が一機のジンクスを巻き込み粉砕する。
しかし、それでも残った二機はひるむことなくセラヴィーに突撃していく。
確かにセラヴィーの巨体はいかにも接近戦では不利のように思われる。
だが、

「甘く見てもらっては困る!」

肩につないでいた二門のバズーカをしまうと、両手にビームサーベルを握らせて残った敵機を迎え撃つ。
まず突っ込んできた一機の一撃を右手に持っていたビームサーベルで受け止める。
そのまま残った左手の刃で両断しようとするが、残っていた一機がそれを許さない。
後ろから斬り込んできた一機に後退を余儀なくされるティエリアだが、その瞳に弱気の色は見えない。
むしろ、さらに闘志に火がついたようだ。
今度は素早くバズーカを握ると、細かく動きながら小さな砲撃を発射して翻弄していく。
ジンクスたちは何とか接近戦に持ち込もうとするのだが、見た目によらず身軽な動きについていけずにやむなく射撃を開始する。
だが、今度はそれがGNフィールドに阻まれる。
なかなか本丸にたどり着けないことへの焦りと、目の前にいるガンダム一機を攻め落とせないことへのいらつきが溜まっていく。
そして、とうとうそれが爆発した。

「ええい、埒があかん!!一気に斬り込む!!」

勝利を焦った二機は直線的な動きで正面からセラヴィーに迫る。
だが、ティエリアはそれを待っていた。

「バーストモード!!」

再度背中のガンダムフェイスが展開され、セラヴィーの前に瑠璃色の球が生成される。
その球の圧力に押し切られるように二機のジンクスはその場に張り付け状態になり、後ろに少しさがったかと思った瞬間、光の激流に飲み込まれて完全に消滅した。

「ふぅ…」

一息つくティエリアだが、これで終わりではない。
さらに後ろから敵機がうようよと押し寄せてくる。

「クッ……やはり艦を叩かないことには…」

だが、今ここを離れることができることはできない。
ならば、じっと耐えて間隙を突くしかない。

「来い!!アリの子一匹通さん!!」

決意の咆哮とともに、ティエリアは砲門を敵部隊へと向けるのだった。








「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

気合の込められた剣閃がジンクスをGNランスごと真っ二つにする。
まだまだ敵は残っているのだが、刹那に恐れはなかった。
それは、OガンダムとエクシアのGNドライヴを引き継ぐダブルオーに乗っているのが理由だ。
だが、それでも不安はある。
ここで相対している敵は全員手練れなのだろうが、それでも全身を突き刺すようなプレッシャーは感じない。
しかし、もし仮にそんな相手と戦うことになった時、今のダブルオーで何とかできるのだろうか。
あの、GNドライヴを搭載したフラッグのパイロットのような相手にぶつかったときに。

「…………………」

ライフルモードにしたGNソードⅡの引き金を引きながら刹那はあの時の戦いを思い起こす。
自分は生き残ったが、あのパイロットがどうなったのかは定かではない。
だが、もし生きていたのなら…



その時、コックピット内に緊急事態を知らせるアラームが鳴り響く。
しかし、それはダブルオーの危機を示すものではなく、仲間の危機を知らせるものだった。

「!?ユーノ!?」

ユーノが担当している正面が徐々に敵に押し込まれ始めている。

「援護に…」

行こうとするのだが、周りを飛び交うジンクスやアヘッドがそれを許さない。

「くそ!やはり何か不具合があったのか!?」

ダブルオーがそうであったように、クルセイドもそうである可能性はある。
だが、自分も立ち会った同調テストでは問題はなかったはずだ。

「一体どうなってるんだ!?」






整備室

「クソッ!!やはりか!!」

うかつだった。
良かれと思ってつけたものが明らかに裏目に出てしまっている。
ティエリアのシミュレーションだけでスペックを計ったのもまずかった。
かといって今あれを外せば今度は別の問題が発生する。
だが、

「ええい!!今はあの二人にかけるしかない!!」







ラグランジュ4 周辺宙域

目の前に迫る赤い弾丸に反応してユーノは操縦桿を動かしてクルセイドを横に動かそうとする。
だが、

「っ!GNフィールド!!」

射線から半分も動かないところで攻撃につかまり、967によって展開されたGNフィールドによって何とか防ぐ。

「クソ!!なんなんだこの機体!?」

967も同様の感想を抱いているのだが、敵の攻撃を防ぐのに手いっぱいで意見することすらできない。
戦闘を開始したユーノと967だったが、すぐさま窮地に追い込まれた。
なぜなら……

「なんでこんなに反応が鈍いんだ!?」

マシントラブルを疑いたくなるような反応の遅さに募る焦りを押さえきれない。
さらに、どういうことかかなり動きが制限されてしまっている。
武装の中でも一番の突進力を誇るGNバンカーですら当たらない。
このままではやられる。
二人がそう思った時、イアンの顔がモニターの角に出現する。

「イアン!?どうなってるのこれ!?」

『すまん!おそらく、MACSSのせいだ!』

「MACSS!?なんでそんなものを!!?」

967が驚くのも無理はない。
MACSS、すなわちマニューバ・コントロール・サポート・システム。
MSの姿勢制御に大きく貢献するシステムなのだが、本来ガンダムには使われていない。
なぜなら、

『おそらくそいつのせいで動きを制限されちまってるんだ!ついでにクルセイドに使われておるのは期待各所の出力コントロールとも連動しているから本来の性能を出しきれないんだ!!』

「わかってて…っなんでつけたのさ!!」

紙一重で斬撃をかわしながらユーノは目の前にいる自分の師匠に文句を言う。
だが、イアンも望んでこれをつけたわけではないのだ。

『……そいつを使う人間のためだ。』

「……どういうことだ?」

967の厳しい追及の声にイアンは答える。

『そいつの最大加速値だと乗っている人間の反応がついていけなくなる。シェリリンのやつが大丈夫だと言って予想限界値ギリギリに設定したせいで、常人のそれではもはや対処しきれん。だが…』

イアンは覚悟を決めて一か八かの選択肢を二人に与える。

『左膝のところにあるコンソールで機体制御系のシステムは解除できる。』

「ならそれを先に言ってよ!!」

『話はまだおわっとらん。』

イアンの額から汗が噴き出す。

『そいつを解除するということは暴れ馬に手綱なしで乗ることと同義だ。一歩間違えば最悪の事態もありうる。それに、連動させていた出力系が解除された時、ツインドライヴが同調を保っていられるか定かじゃない。』

そう、それは思いもよらぬ副産物だった。
少しでも速度を押さえようと最大出力を限定した結果、同調の際の負担が軽減された。
最初はこの事実に手放しで喜んだが、今は一気に奈落の底にたたき落とされた気分だ。

『どうするのかは、お前らが決めてくれ……。無責任で、本当にすまない……』

顔をしかめてうつむくイアン。
だが、それとは逆にユーノの顔には希望が溢れていた。

「大丈夫だよ……」

『なに?』

「僕の師匠と姉弟子が、心血を注いで完成させた機体なんだ……何が何でも…使いこなしてみせる!!」

乱戦の中、素早くコンソールを操作してシステムを解除する。
その瞬間、

「!!!?う、あああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!?」

体が砕けるのではないかというほどの慣性に押し付けられたユーノは苦悶の声を上げる。
今ほど体を鍛えていてよかったと思える瞬間はないだろう。
なんとか暴れるクルセイドを敵部隊の中へと突進させ、アヘッドの右腕を斬りおとすが、そこで急に感じていた圧力から解放される。

「同調率低下!!現在、70パーセントからさらに減退中!!」

目の前に表示されたメーターは緩やかではあるが着実に同調率は下がっていく。
それに合わせてクルセイドも動きを止める。

『やはり、無理だったのか!?』

イアンは拳をコンソールに打ち付けるが、ユーノはまだ諦めない。

「まだまだ!!967、再同調開始!!TRANS-AM、そして……EXCEEDを使う!!」

『!?ま、待て!!確かにダブルオーは上手くいったが、クルセイドもそう上手くいくとは…』

「「GN-EXCEED!!」」

クルセイドの体が赤く輝き、魔法陣が大きくなるのに合わせて両脚、両腕、そしてGNドライヴが装着された装甲が開き、瑠璃色の翼が出現する。
しかし、それでもメーターは70前半と60後半を行き来するだけでいまだに起動する気配はない。
しかも、問題はそれだけでない。
それまで警戒して距離をとっていたジンクスやアヘッドたちが殺到し始めたのだ。

「っく!!」

鋭く突き出た槍の先がすぐそばまで迫る。
だが、それがクルセイドを貫くことはなかった。
クルセイドの後ろから駆け抜けてきた桃色の閃光がジンクスの腕を吹き飛ばす。
さらに、近づこうとしていた敵機にもビームが降り注いで接近を許さない。

『よお、先輩。早くしてくれ…よっと!』

通信をしながら引き金を引くロックオンの顔には笑みが浮かんでいるが、同時に汗もにじんでいる。
今の状態が長くは持たないことは彼自身が一番わかっているのだ。
ユーノは礼を言う代わりに目の前のコンソールを指先が見えないほどのスピードで叩く。
しかし、それでもクルセイドは動かない。

(くそ……!やはり、制御システムを…)

「…けんな。」

「?」

「ふっざけんなよ!!!!」

それまで歯を食いしばって耐えていたユーノだったが、もう我慢の限界だ。

「お前は、僕とエレナの想いを乗せてるんだ!!!!なのにここで終わり!!?そんなの認めてたまるか!!!!」

終わってたまるか。
こんなところで終わったら、自分は何のためにみんなと別れてまでここに戻ってきたんだ。
まだ何もできていないのに。
誰のことも救えていないのに。
仲間の願いをかなえていないのに。
仲間が、待っているのに。

「!やべっ!!」

狙撃でフォローを続けていたケルディムだったが、遂に一機のアヘッドが弾幕を潜り抜けてクルセイドに迫る。
そして、

「終わりだ!!!ガンダムゥゥゥゥゥ!!!!」

手に握っていたビームサーベルでクルセイドを腰から二つに切断した。






ソレスタルビーイング 秘密ドッグ

「~♪~~♪」

褐色の肌に蛍光灯の光を受けながら鼻唄交じりにコンソールを叩く一人の女性がいた。
彼女がご機嫌な理由はただ一つ。
四年間も待っていた人間がようやく帰ってきたのだ。
しかも、一緒に戻ってきた仲間からもらった画像データを見てみたが、なかなか、いや、かなり彼女好みのいい男になっていた。

「フフフ……フェルトさんはまだそういうのには疎いからな~。そのすきに私がいただいちゃお♪」

もちろん、彼女も彼がすでに婚約済みだということは知っている。
だが、

「略奪愛って、なんか燃えるのよね~!」

彼女には逆効果だったようだ。
そんな恋する年頃になったフェレシュテのメカニック、シェリリン・ハイドはスキップしたい気分を軽やかな指の動きに変換してガンダムのサポートメカの開発に勤しむ。
しかし、そんな彼女にとって至福の時間は突然部屋の中に飛び込んできた銀髪の女性によって終わりを迎える。

「シェリリン!!いい加減にクルセイドのスペックを再調整しなさい!!あんな機体が人間に扱えるわけが無いでしょ!!!!」

元ガンダムマイスターのシャル・アクスティカはクルセイドが完成してから口がすっぱくなるほど繰り返している言葉を再度発するが、シェリリンは耳をふさいでどこ吹く風といった様子だ。

「ユーノが戻ってきたんだからまともに扱えるようにしないと戦力に…」

「大丈夫だって。ユーノならクルセイドの力を120パーセント生かしきってくれるはずだよ。」

「ホントにその根拠のない自信はどこから来るの!!?」

「だ~か~ら~!」

シェリリンも今まで何度も言ってきた持論を展開する。

「クルセイドは反射速度だけで動かすものじゃないのよ!師匠もわかってくれなかったけど、クルセイドの操縦には反射に追いつける軌道計算能力が合わさって初めて力を発揮するの!!それで、967とユーノはそれを持ってる!!自信の理由はそれで十分よ!!」

「それはあなたの想像にすぎないでしょ!!!!」

「そんなことないって前から言ってるでしょ!!!!実戦で使ってみればわかるわよ!!!!」

「そんなことできるわけないでしょ!!!!」

シャルと激しい討論を繰り広げていたシェリリンだったが、これ以上は無駄だと悟ったのかお手製の耳栓を取り出して一切の音をシャットアウトする。
シャルがいまだにごうごうと叫んでいるが、シェリリンはタイピングをしながらクルセイド、そしてそのパイロットになる予定のユーノのことを思い浮かべる。
クルセイドは自分がその設計のほとんどを任せられた機体だ。
もちろん、出来には自信があるし、ユーノと967も使いこなしてくれると信じている。
ただ、ユーノはクルセイドという名前に抵抗を示しそうだと思う。

Crusade
その意味は聖戦であり、正義というものに嫌悪を示すユーノが好まないものだ。
だが、シェリリンが込めた意味は全く別のものだ。

(Crusadeのもう一つの意味…それは改革のために行動すること……すなわち、変革…)

どれほどみっともなくても世界を、そして自分自身を変えようと戦うユーノにふさわしい言葉だ。

「頑張れ……ユーノ……」

「人の話を聞きなさい!!」

「あいたぁ!!?」

シェリリンのユーノへのエールは鈍い音にかき消され、代わりにシェリリンの頭にできた大きなたんこぶが赤い電球のように光っていた。






ラグランジュ4 周辺宙域

真っ二つになったクルセイドの姿に敵味方問わずにどよめきが起こる。
そのなかでも、フェルトは声を上げることもできずに瞳に涙をためていく。
だが、彼女から泣き声が上がることはなかった。

「!!!!?」

再びどよめきが戦場を支配する。
斬られたはずのクルセイドが徐々に瑠璃色の光に姿を変え、しばらくの間を置いた後に虚空に消えた。

「ど、どうなってる!!?」

アヘッドはあたりを見渡すが、どこにもクルセイドの姿はない。
しかし、確かにいる。




フオンッ……




気配を感じたアヘッドのパイロットはすぐに後ろを向く。
そこには、赤く輝くクルセイドが刃を構えてこちらを睨んでいる。

「そこか……!!」




フオンッ……




「!?」

目の前にクルセイドがいるはずなのに、後ろから気配を感じる。
そして、そう思って意識を目の前から一瞬意識を離していると、目の前にいたはずのクルセイドが消えている。
慌てて後ろを振り向くと、そこにも翼を広げているクルセイドがいる。

「馬鹿な!?」

幻でも見ているのかと我が目を疑うパイロット。
しかし、少し離れたところからそれを見ていた彼の部下には“全て”見えていた。




フオンッ……
フオンッ……フオンッ……
フオンッ……フオンッ……フオンッ……!




そして、彼にも何が起こっているのかようやく理解できた。
周りを、TRANS-AMとGN-EXCEEDを発動したクルセイドが無数に飛び交っているのだ。

「な……!?」

そんな馬鹿な。
真っ白な頭の中のキャンパスにその一言だけが貼り付く。
その姿をあざ笑うかのように、クルセイドは切っ先を向ける。

「ユーノ・スクライア……クルセイド……目標を…」

アームドシールドⅡの中に隠されていた刃を出現させると、GN粒子を纏わせて激しく震わせながらユーノは自分の決意を込めた一言を叫んだ。

「粉砕するっ!!!!」

その場にいたクルセイドすべてが消えたかと思うと、五体のクルセイドがそれぞれアヘッドの頭、両脚、両腕と綺麗に斬りわけていた。
当然それだけでは終わらず、残っていたジンクスたちにも向かっていく。

(落ち着け…!こんなものは手品だ!!)

そう、これも十分にあり得ないが、目の前の光景を説明するならば、高速で移動を繰り返すことで複数いるように見せているのだ。

「ならば!!」

一機のジンクスがビームサーベルを抜いてクルセイドに向かっていく。
もし、刃を受け止めたならそれが本物。
そうでなかったら、別の機影に斬りかかればいい。

クルセイドは相手の思惑通りブレードモードの刃でそれを受け止めるが、ジンクスは銃を抜いてクルセイドの顔面に向ける。

(もらった!!)

そう思った時だった。
別方向にいたクルセイドがジンクスの腕を両断し、盾の中心部についていた二つの穴からビームを発射して下半身を吹き飛ばす。
あまりにも呆気なくやられたことにパイロットが呆然とする中、ビームサーベルを受け止めていたはずのクルセイドは粒子になって消えていく。

「ば…かな…!?」

確かに手ごたえはあった。
その状態、しかもゼロ距離からあの動きをするなどあり得ない。

わけがわからないまま戦闘不能に追い込まれた二機を見ながら、ユーノは笑っていた。
あの二機のふがいなさにではない。
クルセイドを造り上げたであろうシェリリンをだ。

「ハハハ……やってくれたね、シェリリン!」

GNシルエット
高速の動きとGN粒子による残像の生成、さらにそこへGN粒子の質量軽減効果を反転することで質量を発生させてあたかも実体を持っているかのように錯覚させる。
四年前、ユーノとシェリリンが思いつきで考えたシステムだったが、瞬発力に優れたソリッドでも残像を見せるのは不可能であり、さらに実際に質量を持たせるほどの粒子を生産することができなかったため、二人の冗談で済ませたと思っていた代物だ。
しかし、シェリリンは曲がりなりにもそれを完成させていたのだ。

「ここまでやってもらったからには期待に応えないとね!」

ユーノがぐっと身を乗り出した瞬間にクルセイドはTRANS-AMとGN-EXCEEDを終了する。
そして、クルセイドの分身たちも消えていくがそれでもユーノは強気なままだ。
クルセイドの右腕に装備したアームドシールドの隠し刃を引っ込めるとそのまま反転させ、盾についた二つの突起部分を前方に持ってくる。

「いくよ!!」

二つのGNドライヴを背中にまわし、一瞬にして超高速の域まで加速する。

「角度修正…左、2.4度。」

「了解!」

相手と自分の動きを計算に入れて微調整を加えながら、二人はGNランスを構えたジンクスへと突進していく。

高速で二機がぶつかった瞬間、しばらく動きが止まる。
最初に動きを見せたのはジンクスだった。
頭に突起を叩きつけられたまま小刻みに動くが、ギリギリでかわされたランスの先をクルセイドに再び向けることはできなかった。
一方のクルセイドは、脇につけたかすり傷をものともせずにギリギリとひしゃげた頭に杭をねじ込んでいく。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

再び二基のGNドライヴから光を放ち、彗星を思わせるほどの凄まじいスピードでジンクスを押しこんでいく。
そして、

「GNバンカー、バースト!!」

二つの杭が圧縮された粒子に押し出されて完全にジンクスの頭を破壊する。
しかし、それでもバンカーの勢いを殺しきれなかったジンクスは彼方へと消えていった。

「ひぃ……!!?」

ユーノはクルセイドを残っていたジンクスたちの方へと向ける。
威嚇には、それだけで十分だった。
宇宙に上がった三色の光を見たアロウズの部隊は次々にその場を離れていく。
四機のガンダムに乗るマイスターたちは、それを追わなくとも自分たちの勝利がゆるぎないものだということを確信していた。







プトレマイオスⅡ ブリッジ

「敵部隊、撤退していくです!」

「フゥ……ひやひやさせやがって。」

劇的な勝利にブリッジにいるメンバーが歓喜する中、フェルトはただ一人胸の前で小さく手を組みながら安堵の息を漏らしていた。

「よかった……」

こう思うのは変かもしれないが、シルトの太陽炉に宿っていたエレナの意思がユーノを救ってくれた。
そんなおとぎ話のようなことはあるはずはないのだが、そう考えるだけで心が温かくなってくる。

「エレナ……ロックオン……ユーノは、今ここで生きてるよ。」







中央ブロック

比較的安全な中央ブロックに避難させられていたエリオとウェンディも、外の戦闘の様子をリアルタイムで見ていた。
初めは不利だったのに、萌黄色の機体の動きが変化した瞬間に戦況がひっくり返った。
その事実は二人を驚愕させるには十分だった。

「ストライカー……」

エリオの口から思わずその単語が漏れる。
エースと並ぶ、優秀な魔導士の称号であり、その一人がいるだけで、どんなに不利な状況も一変すると言われている。
フェイトから聞かされていたその言葉が、ぴったり当てはまるような機体だ。

その後、戦闘が終わっても二人はクルセイドの姿に釘づけでその場を動くことができなかった。








変革のための聖戦
それは、正義のためではなく、己が心と向き合う戦い






あとがき・・・・・・・・という名の舌ったらず

ロ「というわけでsecond編第一話でした。」

ユ「いきなりチート能力が出ちゃったよ。」

ロックオン二代目(以降 弟)「大丈夫だろ?なんでもツインドライヴが安定する回まではあれはやらないらしいし。その頃になったらダブルオーも量子化使えるんだからなんとかつり合うだろ。」

刹「それでも、現状のままで十分強いのは間違いないがな。」

ティ「後はあの舌ったらずな説明部分だけだな。」

ロ「う……そ、それについては次回ある程度解説的なのを入れていけたらなぁ、と思っています。」

弟「ボキャブラリーが貧相だと大変なんだな。」

ロ「るっさいわ!!このコンプレックスの塊が!!!!兄貴呼ぶぞこら!!」

弟「うるせえボケ作者!!最近まともに本読まないからこんなことになるんだろうが!!!!」

ロ「本なら嫌というほど読んどるわぁぁぁぁぁ!!!!!(教科書+参考書)」

弟「小説読めって言ってんの!!!!文らしい文を読めこの野郎!!!!」

刹「……あれを読んで駄目ならもう何を読んでも駄目な気がするがな。」

ティ「何せ、読み終わって数分で単語が頭からこぼれおちていくようなやつだからな。」

ロ「忘れたらまた読むから別にいいだろ!!!」

ティ「よくはないだろ。」

ロ「……ドラ○もんに暗記パンだしてほしい。切実に。」

刹「小説ようにか?」

ロ「参考書用に決まってんだろ!!!!どんだけ無感動になるんだよ小説!!!!」

弟「お前の駄目っぷりはわかったから解説にいくぞ。」

ロ「おまえ、ホントに後でシバくかんな。」

刹「それはそうと、今回出てきた第四世代機のもとになったのはなんなんだ?」

ロ「いや、パクリなのが前提かよ。いや、確かにちょこちょこつまみ食いはしたけど。」

ティ「具体的には?」

ロ「まあ、言っていい範囲なら外見はDX、Wゼロカス(EW版)を参考にして、あと武装は宇宙世紀から少しもらったところはあるな。」

弟「で、バンカーはお決まりの古鉄からか。」

ロ「古鉄は風の魔装機神、某闇騎士と並んで俺が好きなスパロボのオリ機だからな。もちろん、分の悪い賭けが嫌いじゃないパイロットさんもリスペクトだ。」

刹「大方、隠し刃にしたのはより闇騎士風にしたかったからか。」

ロ「そこはノーコメントだ。別に、玄○剛弾とか、白○咬とか、舞○雀とか使うわけじゃないんだから大丈夫だろ?」

ティ「麒○使う気満々の時点でアウトだと思うが?」

ロ「とくに技名とか叫ばないから大丈夫!」

弟「……ホントだろうな?」

刹「さて、そろそろ量もまずいから次回予告にいくぞ。」

ティ「いよいよそろった四機のガンダムと四人のマイスター。」

弟「最後のマイスター、アレルヤ・ハプティズムの救出のために動きだすソレスタルビーイング。」

刹「しかし、戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガはいまだに過去の傷を消せずに迷い続ける。」

ティ「それでも、開始された救出作戦。」

弟「そこで刹那は、思いもよらぬ人物との再会をはたす。」

刹「そして、あらたに動き出したイオリア計画の要となる人物が現れる!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 2.救出作戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/08 22:29
プトレマイオスⅡ 格納庫

目の前の広大な暗闇の中を動き回る赤い影。
ロックオンはヘルメットもせずにスコープを覗きこんで狙いをつけると、おもむろに引き金を引く。
手元からGNスナイパーライフルⅡの光弾が放たれ、一体のジンクスの頭部を吹き飛ばす。
そのまま次の標的に狙いを定めて引き金を引くのだが、今度はギリギリでかわされる。
自然と強張る体の力を抜いて数度光弾を発射する。
そのうち一発は外れ、残り二発は何とかジンクスをとらえたのだが、今度は残っていた一機から攻撃を受けたせいで画面の隅にmiss1の文字が表示される。

「チッ…」

短く舌打ちをして引き金を引くが、今度もまた外れる。
しかし、すぐさま落ち着きを取り戻して最後の一機を撃破すると目の前にいる相棒に問いかける。

「どんなもんかね、ハロさんや。」

「67%!67%!」

「そっか……」

今日は不調なのかいつもより少し成績が悪い。
先日の実戦では自分でも驚くほどの成果を上げたが、今回は少々狙いが甘い。
だが、その少々が命取りになることもある。
その点、兄は四年前の戦いにおいてはかなり優秀だったようで、ほとんどの戦いで命中率90%を下回ることはなく、仲間からの信頼も厚かったようだ。
一方自分は新入りで命中率は平均して70後半ほど、おまけに仲間内の一人からはえらく嫌われているようだ。
そんなことを考えているだけで集中力が途切れて狙いが甘くなる。
さらに不調の言い訳をさせてもらえるならあれが決定的だった。




数時間前

それは、ほんのお遊びのつもりだった。
兄から狙撃を教わったというユーノに一度ケルディムでシミュレーションをしてもらったのだ。

「それじゃ、参考になるかどうかわからないけど…」

そう言ってシミュレーションを始めたユーノだったが、四機の敵機を四発の弾、つまり一発も外すことなく敵を沈めて見せた。
しかも、全て撃墜するまでのタイムはロックオンよりも遥かに早かった。

「ハハハ……あんたがケルディムに乗った方がいいんじゃねぇか?」

「ユーノにはクルセイドに乗ってもらわなければ困る。……あんな無茶苦茶な機体を使いこなせる人間などそうはいないからな。だから、たとえ能力的に劣っていても君にケルディムを使いこなしてもらわないと困る。」

「ティエリア!!」

ユーノは慌ててティエリアをたしなめるが、当のロックオンは笑いながら頭を掻くだけだ。

「気にすんなよ。それに、すぐに追いついてやっから覚悟しとけ。」

そう言って背を向けるロックオンだったが、内心複雑だった。
兄に負け、兄から技術を教わった人間にも負けた自分は一体何なのだ。
悔しいなんてもんじゃない。
いまさら兄の影にふりまわされるなんて思ってもみなかった。

(ああ、そうだ。あんたは昔っから俺より何でもできて、そのくせそのことには気付かないで、それで……)

そして、誰よりも自分に優しかった。
家族を失い、葬式で久々に会った時も泣き顔一つ見せずに自分の罵りに耐えてくれた。
あの時は、兄のせいじゃないとわかっていても、湧き上がる感情を押さえきれなかった。
自分だって泣きたかったはずなのに、黙っていてくれた。

(……なんで一人で決めちまったんだよ。)

なぜ、暗殺稼業をすると勝手に決めたのか。
なぜ、相談もなしにソレスタルビーイングに入ったのか。
なぜ……自分だけを残して死んでしまったのか……





現在

「なんで……あんたはいっつもそうなんだよ………」

なんで自分ではなくユーノたちに頼ったのか。
そんなに自分は兄にとって頼りない存在だったのか。

いや、わかっている。
本当は頼らなかったのではなく頼れなかったことを。
唯一この世に残された家族に、世間に顔向けできないようなことをしているなど言えるはずもない。
そのことで、悩む姿など見たくなかったのだろう。

(けど、それでも…俺はあんたの家族なんだぜ?なんで……)

「ラ~イル!」

ディスプレイに映されていた偽物の宇宙が消えると同時に開いたコックピットハッチから逆さまになったウェンディの顔がにゅっと現れる。

「おいおい、覗き見は感心しねぇぞ。」

「スケベ!スケベ!」

「誰がスケベっスか!」

ぷっくりと顔を膨らませたウェンディの頬を両手で挟んで空気を押しだしたロックオンは、程よくリラックスした状態で狙撃の練習を再開した。





ちなみに、再開直後の命中率は78パーセントまで上昇していた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 2.救出作戦

地球連邦軍 反政府勢力収監施設

とある海岸線に建設された巨大な建造物。
陸地の側には大きな台地があり、その上に細い道路があるだけで正面から侵入するなどまず不可能だ。
海側はひらけてはいるものの、建物の上部に設置された砲門が空に向けて構えられ、さらに旧式とはいえMSまで配置されている。

反政府組織収監所
いまだ地球連邦に反目する組織の人間の多くがここ、もしくは似たような施設に閉じ込められている。
そんな誰もが入りたくいとは思っていないような場所に、本来なら入るはずなどない人物が暗く冷たい部屋で尋問を受けていた。

「あなたは、四年前に起こったアザディスタンの内紛でソレスタルビーイングのメンバーと接触していますね?」

「その時のことは、四年前にもお話ししたはずです。」

半ば無理やりここに連れてこられた女性は毅然とした態度で答える。
だが、尋問を担当している人間はそんなことでは臆しない。

「当時と今とでは状況が違う。新たなガンダムが出現した今、あなたは最重要人物となったのですよ。アザディスタン王国第一王女、マリナ・イスマイール。」

尋問官の言葉に、今はただうつむくことしかマリナにはできなかった。





別室

もう、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
この暗い部屋の中で体の自由を奪われ、まともに眠ることさえも許されない日が何日続いたかわからない。
いや、考えることすら億劫になってきている。
そんな過酷な状況下におかれているアレルヤ・ハプティズムが正気を保っていられる理由はただ一つだ。

(マリー……)

あの時はどうしてという思いで頭の中が真っ白になってしまったが、今になって冷静に考えればわかる。
おそらく、まともに動けないマリーを超兵として送り出すための調整の際に新しく人格を上書きしたのだろう。
そして、彼女が生まれた。

「…………っ。」

突然ついた明かりに目をすぼめるアレルヤ。
だが、ここにきてから何度も体験したせいかもう慣れてしまった。
ただ、今回はいつもと違う点があった。

「起きろ、被験体E-57。」

「!!?」

その声に驚いて顔を上げるアレルヤ。
周りに他の人間がいるが、アレルヤには正面に立つ一人の女性兵士しか見えていなかった。

「この男ですか。四年間この施設に拘束されているガンダムのパイロットというのは。」

誰かが喋っているがそんなことなどどうでもいい。
目の前にいるこの銀色の髪をした彼女にしか興味はない。

「ーーッ!!ーーッ!!」

口につけられたマスクのせいでまともに発音することもままならないが、必死に叫ぶ。

「?」

銀髪の兵士がアレルヤの反応を不思議に思いながら手で合図をすると、付き添っていた一人がアレルヤの後ろに回ってマスクを外し始める。
その間、彼女は一つ気になっていたことを考え始める。

(私の脳量子波の影響を受けていない……報告には、頭部に受けた傷が原因とあったが……)

しかし、今まで黙っていたようだがようやく話す気になったようだ。
これで、自分の疑問の答えも見つかるかもしれない。

(だとしたら、大佐のもとを離れてまでアロウズに入った収穫が少しはあったということか………)




数日前 ロシア セルゲイ宅

『我が連邦政府は、反政府勢力撲滅のため、政府直属である独立治安維持部隊の活動を開始します。治安維持部隊は連邦保安局との連携を図り、効率的な作戦……』

少しずつ小さくなっていく自分の声に気付くことなく話し続ける女性の方を見向きもせずに、ロシアの荒熊、セルゲイ・スミルノフは手元の携帯電話の向こうの旧知の人物の言葉に耳を傾ける。

『今しがた司令部より、独立治安維持部隊への転属命令がありました。』

「行くつもりかね?」

『噂のアロウズ…目にしておくのもいいでしょう。』

電話の向こうにいるカティ・マネキンが話し始めると同時に、扉が開いて銀髪の女性が紅茶を持って入ってくる。
セルゲイは彼女に小さく笑いかけると本題に入る。

「……あの部隊には秘密も多い。内情を報告してもらえると助かる。」

『無論そのつもりです。では。』

ツーツーという音を聞いて通話を終了したことを確認したセルゲイは自分も通話を終了する。

「マネキン大佐からですか?」

「ん?ああ、そうだ。」

彼女を見ていると四年というのがいかに長い時間だったのか実感させられる。
あの兵士然としていた少女が、いまや普通のそれとなんら変わらない。
この姿を見るだけでセルゲイは彼女、ソーマ・ピーリスをここに連れてきてよかったと思えた。

「どのような用件で?」

口を開きかけたセルゲイだったが、話すのを思いとどまり紅茶で間を作ると話を変える。

「それより、例の件については考えてもらえたかな?」

ピーリスは飲んでいた紅茶から口を離し、戸惑いの表情を浮かべる。

「…いえ、……その……」

その表情を見たセルゲイはいくばくかの悲しみと、いきなりこの話を振ってしまった自分の無神経さを少し後悔した。

「なに、急ぎはしない。ゆっくり考えるといい。」

二人の間に沈黙が流れる。
おそらく、彼女は遠慮しているのだろう。
ここを訪れて、今この場で話しに参加していたかもしれない二人のことを考えてしまうたびに、自分だけがという思いに一歩を踏み出せないでいるのだろう。

四年前の戦いが終わり、頂部は解体されて地球連邦軍に吸収されてからピーリスはセルゲイのもとで生活を送っていた。
断られても何度でも誘う覚悟のセルゲイだったが、そんな彼の予想に反してピーリスはあっさりとOKをだした。
それからは、互いに軍での仕事をこなしながら親子同然の生活を送っていた。
そんな中、セルゲイはピーリスに自分の養子にならないかと持ちかけたのだが、こちらは一緒に暮らすときのように色よい返事は聞かせてもらえなかった。
その理由は明らかだった。

二年前、現在のアロウズの前進に当たる組織に、ともに戦いの日々を駆け抜けたミン・ソンファが入隊したことだろう。
その頃から何かと黒いうわさが絶えなかったそこに入ることをセルゲイとピーリスはミンに思いとどまらせようとしたのだが、二人の反対を押し切ってミンは去っていった。
その後、テレビに登場する彼の戦果と、時折くる連絡で無事を確認するという日々が続いている。
そんなミンだったが、彼の戦い方は四年前の事件を契機に大きな変化を遂げていた。
それは、相手を殺さないこと。
ミンが主体になった作戦での戦死者は敵味方合わせてもゼロ。
そのほとんどが極力話し合いで解決され、数少ない戦闘でも相手の命を奪うことなく鎮圧、降伏させている。
その成果を認められ、遂にはアロウズの中でも独自行動を認められた部隊の指揮を任せられているらしい。
“殺さず”のミン。
ある者は敬意を持って、ある者は臆病者だと彼を侮蔑するための二つ名は彼の意思とは関係なく世界中に広まっていた。
しかし、世界中でセルゲイとピーリスだけは知っている。
ミンがそんな戦いを、悲壮な決意をすることになった理由を。





四年前

プトレマイオスからの攻撃で負傷したミンは急いで治療施設に運ばれていた。
すぐ横には同じように負傷したセルゲイが運ばれているのだが、見るからにミンの方が重傷だ。
火傷の跡の上にさらに火傷が重なり、腕には細かな金属片が埋まっている。
ピーリスとセルゲイが必死にミンの意識が途絶えないように話しかけているのだが、それよりもミンの意識はあることへの後悔だけで現実に縛り付けられていた。

「くそっ……!くそっ!!くそっ!!!!なんで……なんで、こんなことになるんだ!!助けたかっただけなのに、なんで!!!!」

「ミン中尉…」

泣きながらうわごとのように同じ言葉を繰り返していたミンだったが、ピーリスはそれ以上彼の言葉を聞くことはできなかった。
なぜなら、ミンは傷の度合いの違いからセルゲイとは別の治療場所へと運ばれていったのだから。




セルゲイ宅

(私だけが、幸せを手にしていいのだろうか……ミン中尉も、それに彼も犠牲になってしまったのに、私だけが……)



ピンポーン



「?」

ピーリスとセルゲイが過去のことを思い返していると玄関のチャイムが鳴らされる。
こんな夜更けに誰だろうかと思いながら歩を進める二人だったが、玄関のドアを開けた瞬間、セルゲイはその場で固まった。

「独立治安維持部隊より、ソーマ・ピーリス中尉を迎えに参りました、第5MS中隊所属、アンドレイ・スミルノフ少尉です。」

「アンドレイ……いつアロウズに…」

「あなたにお答えする義務はありません。父さん…いや、セルゲイ・スミルノフ大佐。」

突き放すような冷たい言葉にセルゲイは何も言い返せずにうつむくが、後ろにいるピーリスは呆けた顔をする。

「父……さん?」

話には聞いていたが、こうして会うことになるとは思っていなかった。

「それより、中尉をアロウズになど……」

「上層部の決定です。それに、アロウズに正規軍の将校の意見が通るとでもお思いですか?」

自分の息子の言葉に何も言い返すことができずに拳を握りしめるセルゲイ。
そんな父のことなど放っておいてアンドレイは後ろにいるピーリスに話しかける。

「準備にはお時間がかかると思いますので、三日の猶予が与えられています。それ以上は待てないことをどうぞお忘れなく。」

アンドレイはそう言うとアロウズの隊服を置いてさっさと帰っていってしまった。
二人はその後もしばらくそこを動くことができずに冷える廊下の上で立ち尽くしていた。
だが、しばらくしてピーリスが口を開いた。

「……大佐、私、行こうと思います。」

「中尉!?」

「私は超兵です。戦うことが私の存在理由です。けど…」

ピーリスは明るく笑って敬礼する。

「任務が終わったら、必ずここに帰って来ます!」

セルゲイも眉間にしわを寄せながらも笑って敬礼をしてみせた。



その二日後、ピーリスはアロウズの艦に乗ることになった。





現在

こうしてここまで来ることになったのだが、日常に長く浸っていたせいかなかなか兵士としての感覚に戻せない。
どうしても、撃つときに相手のことを気づかってしまう自分がどこかにいる。
それもこれも、任務の最中に出会ったあの変なガンダムのパイロットのせいだ。
そう心の中で呟いて小さく笑ったピーリスに、アレルヤが話しかける。

「マリー……ようやく出会えた…。やっぱり、生きていたんだね……」

「マリー……?」

クマがひどい目で笑いかけるアレルヤに対し、ピーリスはわけがわからず顔をしかめる。
マリー
こいつは今確かに自分をそう呼んだが、そんな名前に全く覚えはない。

「僕だよ!!ホームでずっと話をしていたアレルヤだ!!」

しつこく食い下がるアレルヤ。
しかし、それは今のピーリスには逆効果だった。

「私はマリーなどという名前ではない!!」

ずっと会いたいと思っていた人からかけられた拒絶の言葉。
だが、その程度でアレルヤの心は折れない。

「いや……君はマリーなんだ……」

「っ!!」

ピーリスの平手がアレルヤの頬をとらえる。
周りにいた人間が止めに入ろうとしたが、ピーリスはそれ以上アレルヤに手を上げようとはしなかった。

「次にそう呼んだら……殺す!」

そう言うのが早いか、アレルヤの口には再びマスクが付けられ言葉も舌を噛んで自害することも封じられてしまう。

「……勝手な行動をとって申し訳ありませんでした。」

ピーリスはそう言うと部屋を後にした。
しかし、彼らはあるミスを犯していた。
再び暗くなった部屋の中にいるアレルヤの銀色の眼に、今まで宿っていなかった激しい決意が燃え盛っていたことに、彼らは気付いていなかった。





プトレマイオスⅡ 整備室

「やっとらしくなったな。」

「なにが?」

「いや、わからんならいいさ。」

こうして横に並んで整備をするようになって、ようやくイアンにはユーノが戻ってきたという実感がわいてきた。
ユーノには悪いが、戦っている姿を見るよりこうして一緒に作業をしていたほうがらしい気がしてくる。

「それより、あの二人はどうしてる?」

イアンはクルセイドのツインドライヴの微調整を進めながら尋ねる。

「エリオは相変わらずで、ウェンディも今頃ロックオンのところにでも行ってるんじゃないかな?」

「そうじゃない。」

イアンはしかめる。

「いい加減こいつをストライカーと呼ぶのをやめさせられたかと聞いとるんだ。」

「そっちか…」とユーノはイアンのしかめっ面に苦笑するが、あの呼び方をやめさせられるのは至難の業だ。
なにせ、二人曰く理想のストライカー像だと言っているのだから、そう呼んではいけないというのは酷というものだ。

「あの二人なりの褒め方なんだよ。」

「だからってストライカーはないだろ……」

「ストライカーは前に僕たちがいたところじゃ最高の称号の一つなんだ。この暴れ馬がそう呼んでもらえるなって光栄じゃないか。」

「だから……前いたとこってどこだよ…」

「それは…」

言葉に詰まるユーノだが、そこに思わぬ助け船が入る。
携帯端末を通じて刹那から通信が入ったのだ。

『ユーノ、今から来れるか?沙慈・クロスロードが俺とお前に聞きたいことがあるらしい。』

「了解。すぐ行くよ。じゃ、イアン、後よろしく!」

「あ、おい!!こら!!」

肩を掴もうとしたイアンだったが、それをするりとかわしたユーノは刹那と沙慈が待つ営倉へと向かった。






営倉

沙慈に呼び出された刹那とユーノは彼の質問に答えていた。
というより、基本的に刹那が答え、ユーノはその後ろで伏し目がちに立っていると言った方が適切だろう。

「確かに資料にあるように、俺たちは別の立場で武力介入をしていた。」

「仲間じゃないと!?」

「……ああ。」

刹那の淡々とした、しかし、はっきりとした答えに沙慈は視線を落とす。
一瞬、刹那たちへの復讐の炎が消えかけた沙慈だったが、首にかけていた金色の指輪を見て再び怒りに火をともす。

「それでも、君たちも同じようにガンダムで人を殺し、僕と同じ境遇の人を作ったんだ……!君たちは憎まれて当たり前のことをしたんだ……!!」

「……わかっている。」

本当は、刹那たちに向けた言葉じゃなかった。
ここで憎むのをやめてしまったら、自分がここにいる意味がなくなってしまう。
そんな気がして、沙慈は思わずそう言ってしまった。

「世界は平和だったのに……当たり前の日々が続くはずだったのに……!!そんな僕の平和を壊したのは君たちだ!!」

「なら……」

そこで、ようやく黙っていたユーノが口を開いた。

「当たり前の日々を奪われた人に、平和な日々を過ごしていた君は、自分の平和のために犠牲になれと言えるのかい?」

「っ!」

ハッとした。
あの時、自分は戦争なんて、戦いで不幸になる人なんて遠い場所の出来事だとどこかで思っていたのではないか。
いや、今でもそう思っているのではないか。
そんな疑念を振り払うように沙慈は声を張る。

「そうじゃない!だけど、誰だって不幸になりたくないさ……!」

「……なら、君もその人たちから、今君が言ったことと同じことを言われるだろうね。」

「それは……」

戸惑う沙慈に、ユーノは悲しい笑みを見せる。

「沙慈が言ってることは正しいよ……。でも、僕はその裏で、不幸になっていく人間を何人も見てきた。みんなが生きている時に目を背けている影を、僕は嫌というほど見てきた。」

「けど!」

「誤解しないで。僕は自分のしていることを正当化するつもりはない。……罪は償うよ。どんな形であれ、必ずね。」

その言葉を聞いてもなお、沙慈は納得していなかった。
できるはずなど、ない。

「……ユーノ、通信だ。」

「ん……」

二人はせわしなく振動を繰り返す端末をポケットから取り出して表示された文面を読み上げる。
すると、二人の表情は一変した。

「アレルヤが見つかった!?」







ブリーフィングルーム

「アレルヤが見つかったって本当なの!?」

入ってきて開口一番がそれだった。
戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガは自分がラフな格好をしていることすら忘れていた。

「ああ、王留美からの確定情報だ。」

ラッセが王留美の名前を口にすると、ユーノはあからさまに嫌そうにするが、この状況でそのことを口に出すほど空気が読めないわけではない。

「これから救出作戦を始める。」

イアンの言葉に耳を疑うスメラギ。
まさか、まともな作戦もなしに乗り込む気なのかと思ったが、そうではなかった。
だが、今のスメラギにとってはこれから刹那が提示するものの方が最悪の選択だった。

「救出って!?一体どうやって…」

「あんたに考えてほしい。」

「え……!?」

「スメラギ・李・ノリエガ。俺たちに戦術予報をくれ。」

刹那の鋭い視線が彼女をまっすぐに射抜く。
いや、刹那だけではない。
この場にいる人間全員が彼女に期待のこもった視線を向けている。

「そんな……」

彼らの期待とは裏腹に困り果てるスメラギ。
だが、ティエリアがさらに刹那の言葉に付け加える。

「彼が戻れば、ガンダム5機での作戦が可能になります!」

「それでも心もとないが…ゲフッ!」

余計な茶々を入れたロックオンのわき腹にウェンディからの肘鉄が突き刺さる。

「ったく。あの、スメラギさん……だったっけ?まあ、名前なんてどうでもいいや!あたしらからもお願いするっス!」

「ウェンディ?」

予想外の人物からの要望にスメラギだけでなく全員が目を白黒させる。

「僕からもお願いします!」

「エリオまで……」

「僕たち……どうしてもハプティズムさんって人に会って話をしてみたいんです!!お願いします!!」

二人には、アレルヤが歩んできた人生が他人事には思えなかった。
人体を改造され、命を歪められ、世界から拒絶され続けてきた彼は、まさに自分たちの姿を写した鏡も同然だった。
だからこそ会いたい。
会って話を聞きたい。
いままで、何を思って生きてきたのか。
何を思って、ソレスタルビーイングに参加することを決意したのか。
少し冷静さを欠きつつあった二人をなだめると、ユーノは明るく笑う。

「ま、僕の連れ二人もこう言ってるんで、力を貸してくれませんか?」

「……………………………………」

「だんまりですか……それ、はっきり言って卑怯ですよ。」

ユーノの言うことはもっともなのだが、それでもそれ以外にどうすることもできない。
しかし、目をそらすスメラギにフェルトが歩み寄る。

「スメラギさん、これを。」

フェルトが差し出したのは彼女たちが今着ている制服と同じものだ。
ソレスタルビーイングであることの証だ。
だが、

「やめてよ……!そうやって期待を押し付けないで……!」

スメラギは思わず後ずさる。
明らかにみんな落胆している。
自分もアレルヤを助け出したい。
でも、不安で仕方ないのだ。
もし、また間違ってしまったら。
また、エミリオを失った時のように自分のたてた戦術でみんなを死なせてしまったら。
そう考えただけで、今すぐにでもここから逃げ出したくなる。
酒におぼれて、そのまま何も考えないようにしたくなる。

「私の予報なんて、何も変えることはできない……。みんなを危険にさらすだけよ!!」

それだけ言い残して足早に部屋を後にしようとする。
だが、

「後悔はしない!」

「!!」

刹那のよく通る声が彼女の背中にぶつかり、歩みを止めさせる。

「たとえミッションに失敗しようと、あんたのせいにはしない!俺たちは、どんなことをしてもアレルヤを……仲間を助け出したいんだ!」

これで彼女の心が動いたかどうかはわからない。
だが、これが今の刹那の精一杯だ。
自分の心のありのたけを込めた言葉だ。

「頼む……俺たちに、戦術をくれ!」

……刹那たちの熱い思いはスメラギの凍りついた心を溶かすには至らなかった。
だが、揺り動かすには十分だった。

「………フェルト、あとで現状の戦力、状況のデータ、教えてくれる?」

「スメラギさん!」

「来ないで!!」

駆け寄ろうとしたフェルトは床に足を釘でうちつけられてしまったようにその場で止まる。

「……今回だけよ。私は、戻る気なんてない……戻れるわけない……」

そう言って去っていくスメラギの背中を、フェルトは黙って見送るしかなかった。






1時間後 ブリッジ

「スメラギさんから、ミッションプランが届きました!」

さっきのことを忘れたわけではないが、またこうしてスメラギのミッションプランを受け取れて、フェルトは少しだけ彼女を間近で感じられた気がした。
だが、

「おいおい……何だよこのプランは……」

ラッセが苦笑交じりで見ているそれは、確かに常人の脳ではとても思いつかない作戦だ。
というより、思いついても実行するわけが無い作戦というべきか。

「大胆です~……」





格納庫

ブリッジクルーが感心する中、マイスターたちはそれぞれの役割をさほど動揺もせずに確認していた。

「わずか300秒の電撃作戦……それでこそ、スメラギ・李・ノリエガだ。」

そう言って笑うティエリアだったが、収容されている人間のリストの中にある人物の名前を見つける。

「これは……!?」

ティエリアは、慌てて刹那に通信をつないだ。





「あれ、俺にも役割あんのかよ?……けど、そっちのほうが好都合だな。」

「ナンノコト?ナンノコト?」

「こっちのことだよ。サポート頼むぜ、ハロさんよ。」

目を点滅させるハロを笑いながら適当にごまかすロックオンだったが、操縦桿を握りなおしたときには鋭い戦士の目に変わっていた。

「頼んだぜ、みんな……」






TRANS-AMを使うなとしつこく釘を刺された刹那はダブルオーの各所の最終チェックを行っていた。
ツインドライヴ以外は特に問題はないのだが、それでも念入りに調べておいて損はない。
そんな刹那に、ティエリアから通信が入る。

『刹那、王留美からの報告にあったアレルヤが収監されている場所に、こんな名前が。』

「!!!!」

刹那は目に見えて動揺する。
そこに書かれていた名前は、刹那にとって忘れることのできない名前だった。
自分の祖国を奪った国の王女であり、自分とは異なる方法で世界から争いをなくそうとしていた女性の名前。

「マリナが!?」

彼女の姿は、4年たった今でもはっきりと思い出せる。
それほどまでに、刹那の記憶にしっかりと刻みこまれていた。

「マリナ・イスマイールが、アレルヤと同じ施設にいる……!?」

『アレルヤを助け出すついでに彼女も助けたらどうだ?』

「それは……」

できない。
敵からの妨害を考えたら、そんな余裕などありはしない。

『なんなら、僕だけでアレルヤを助けに行くから、君は王女様を助けに行きなよ。』

『「ユーノ!?」』






クルセイドのチェックを一足先に終えていたユーノはその提案を刹那に持ちかけた。
理由は二つ。
一つは、刹那には悪いが、集中できていない状態でアレルヤの救出に参加されても足手まといになる可能性がある。
もう一つの理由は、刹那に彼女を守ってほしかったからだ。
刹那にはアザディスタンに吸収されたとはいえ、祖国と呼べる場所がある。
遥かに昔に故郷を追われた先祖を持ち、第二の故郷と呼べる場所を、生まれた場所を捨てた自分とは違う。
だから、刹那には自分の故郷を見捨てるような真似をしてほしくない。
傲慢かもしれないが、そう願わずにはいられない。

『……わかった。頼めるか?』

「もちろん。それに、僕にはいざという時の切り札があるからね。」

『?』

刹那はなんのことかわからなかったようだが、別に今明かす必要はないだろう。
もっとも、この作戦中にばれるかもしれないが。

「……ユーノ。」

「そんな怖い声出さないでよ。近いうちに話すんだからさ。」

967の低音に少し気圧されながらも、ユーノはすぐそこまで迫っていた今回のミッションの舞台をモニター越しに見下ろしていた。







「GNフィールド最大展開!大気圏突入を開始します!!」

フェルトがミッション開始の合図を下すと同時に、プトレマイオスは瑠璃色の防御膜に守られながら地球へと落ちるように突っ込んでいった。





地球連邦軍 戦艦

その一報に、地上に展開されていた部隊は動きを激しくしていた。

「大佐、ピラーの観測所より入電。大気圏に突入する物体を捕捉。輸送艦クラスだそうです。」

「ありえん!スペースシップごと地上に降りてくるなど!」

指揮を任されていたマネキンは困惑する。
カタロンがそんな高性能な艦を所持しているとは考えられない。
だとすれば……

「攻撃用意!!MS隊も発進準備を急げ!!」

続いてマネキンは施設内にいるピーリスに連絡を入れる。

「ピーリス中尉、敵襲だ。E-57の確保を。」

『了か…』

その時、空から降り注いだ一条の光がMSハンガーを破壊し、その衝撃が建物全体を大きく揺らす。

「もう来たのか!?」

焦るマネキンたちの前に広がる雲の合間から、瑠璃色の光がちらちらと見え始める。

「ソレスタルビーイングのスペースシップが!!」

「砲撃開始!!」

艦に備え付けられた粒子砲が火をふく。
予測時間より早く来たことで焦りを見せたマネキンだったが、ソレスタルビーイングとの因縁がここで終わることを感じていた。
なぜなら、地上に激突を避けるためにも減速は必要になる。
その間に砲撃を集中されればどれほど頑丈な艦だろうが間違いなく沈む。

(仲間を前に焦ったか……それが貴様らの敗因だ。)

マネキンは敵の指揮官の甘さに対し、同じ作戦を考える立場の人間として幻滅にも似た感情を抱いていた。
だが、ソレスタルビーイングの戦況予報士の作戦は彼女の発想の上を行っていた。
そろそろ減速に入ってもいい地点にきてもプトレマイオスの速度は一向に落ちる気配が無い。
それどころか、いっそう速度を上げている。

「減速しないだと!!?」

まさか特攻でもしようというのか。
だが、プトレマイオスの落下地点を見た瞬間にマネキンの顔色が変わる。

「っ!!まさか!!?」





プトレマイオスⅡ ブリッジ

「GNフィールド、最大展開!!」

フェルトのその言葉に全員が衝撃に備えるように体をこわばらせる。

「トレミー、潜水モード!!」

プトレマイオスの艦首部分に広がっていた板状の部分がカタパルトと並行な状態になる。
そして、

「海に突っ込む!!!!」

瑠璃色の隕石は、その昔地上を席巻していた恐竜を滅ぼしたという隕石のように海へと落ちた。
プトレマイオスが海へと潜った瞬間に天を衝くような大きな水柱が上がる。
同時に巨大な津波も発生し、地上に配置されていたティエレンたちに襲いかかる。
津波はティエレンたちだけでは飽き足らず、収監施設の下層部分すらも飲み込んでようやく海へと退いていった。






戦艦

「て、敵艦、水中潜行しています!!」

(やられた!!)

マネキンは唇をかみしめながら己の読みの甘さを、いや、そもそもこんな作戦を読むことなど不可能だ。

(この状況……粒子ビームを半減させることが目的か!!)

津波で地上部隊を無力化し、同時に発生させた霧でこちらのビームの威力を弱める。
さらに、艦そのものを海のなかへ潜らせることでこちらの攻撃手段を限定してきたのだ。






収監所 外部

四機のガンダムはすでに出撃を終え、それぞれの持ち場へと向かっていた。

『刹那、ユーノ、粒子ビームの拡散時間は300秒。その間にアレルヤを。』

「了解!」

「刹那、君はマリナ様を。僕はアレルヤを助ける!」

「わかっている!」

刹那の返事と同時に生き残っていたティエレンたちからの攻撃が始まる。
だが、三人はまず施設上部に設置されていた砲台を破壊し、最大の脅威を取り払うことを優先する。

「くそっ!!」

何とか守りきろうとするティエレンたちだったが、砲台が完全に破壊された次は自分たちであることを忘れていた。
三機のガンダムの粒子ビームを受けてあっさりと撃墜されたティエレンたちをしり目に、ダブルオーとクルセイドが施設の別々の部分へと突っ込んでいく。

「いっけぇぇぇぇ!!!!!」

二機が深々と体を潜り込ませた衝撃で建物がさらに激しく揺れる。
だが、二人はそんなことなできにせずに外へと飛び出していく。

「967、ティエリアの援護を!」

「了解だ!!」

クルセイドはすぐに建物から離れるとダブルオーの防衛に当たっているセラヴィーのもとへと向かう。
ガンダムの出現を受けてでてきたジンクスたちは動かないダブルオーとそれを守るセラヴィーに集中砲火をかけるが、セラヴィーの必死の抵抗に思うように攻めこめない。
ビーム兵器の威力が落ちているところにセラヴィーの分厚いGNフィールドを持ってこられたのだから仕方のない話なのだが、セラヴィーを操るティエリアも必死なのだ。
今の状態でもこの数相手では十分にきつい。
しかも、300秒たてば敵の攻撃の威力は元に戻るのだから冷静に考えれば不利なのはこっちなのだ。
だが、先程の衝撃的な策に浮足立っているジンクスたちは動きにも自然とそれが現れている。
おそらく、スメラギはここまで計算に入れてこの作戦を考えたのだろう。
ならば、自分たちもその期待にこたえねばなるまい。

「ここは死守する!!」

「ダブルオーを仕留めたいのなら俺たちの相手をしてからにしてもらおうか!!」





『敵MS出現です!!』

岩場に腰をおろしていたケルディムへとブリッジからの通信が入る。
作戦自体は今のところ順調なのだが、時間が限られているせいかみんな焦っている。
だが、こんなときほど焦ったら負けだ。

『ケルディム!砲狙撃戦開始だ!!当てなくてもいいから牽制しろ!!』

「了解!」

少し気になる言い方だが、今は自分に与えられた役割を果たすだけだ。
ソレスタルビーイングのメンバーの役割も、カタロンでの役割のどちらもだ。
そんなことを考えていると、セラヴィーに一機のジンクスが粒子ビームを連射しながら突っ込んでいく。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

ケルディムから放たれた光はそのジンクスの頭を弾き飛ばし見事撃墜する。
それに気をとられたジンクス部隊にさらに光弾が降り注ぐ。
今度は狙いをつけずにばら撒くように撃って敵をかく乱するのが目的だ。

「ほら、隙ができたぜ。」

ロックオンの言葉に会わせるように967が操るクルセイドがアームドシールドに装備された小型GNランチャーのビームで敵機を撃墜する。

「ナイスフォロー!ナイスフォロー!」

「いやいや、それほどでも。」

そう言ってケルディムを空へと上げたロックオンは隠れるのをやめて狙撃を繰り返してさらに敵をかき乱す。

「……たのんだぜ、みんな。………ついでに、先輩たちもな。」








収監所 内部

外の混乱以上に中は慌ただしい空気に包まれていた。
下の階は完全に水没してその機能のほとんどがマヒし、加えて上の階もと折れる通路がかなり限定されてしまっていた。
それでも、ピーリスたちは被験体E-57を確保するために、彼の収容されている部屋へと急いでいた。
だが、そんな彼女たちの前の廊下が突如吹き飛び、道がふさがれてしまう。

「なんだ!?」

ピーリスの答えの代わりに弾丸が飛んできて同行していた一人に当たる。
慌てて廊下の角に隠れたピーリスたちは弾丸が飛んできている方を見る。

「カタロンか……!」

マシンガンを構えた男たちが、収容されていた人間たちを連れながらどんどん脱出口のある方へと向かっていく。
ピーリスたちも持っていた拳銃で対抗するが、いかんせん武器の性能が違いすぎるため、どうにも向こう側を突破していくのは不可能そうだ。

「ここは自分が!中尉はE-57の確保を!!」

「頼む!!」

ピーリスはアンドレイを残して別ルートで目的地へと向かった。






収容室

「……?」

さきほどから建物全体の揺れが続いている。
外も騒がしいようだし、何かが起こっているのは間違いない。

(でも、僕には何もできない……マリーを救うことも、ここから出ることさえ、なにも……)

そう思っていたアレルヤだったが、彼のその考えは最高の形で裏切られることになる。
突如自分の前にあった扉が爆発し、そこから射し込む光に目がくらんでしまうアレルヤ。

(誰だ……?)

背丈は自分ほどだろうか。
MSのパイロットスーツを着て、ヘルメットも付けているようだ。
彼の背中から射し込む光が邪魔で顔がよく見えないが、目が慣れてきてようやく顔が確認できるようになった。
濃い翠の瞳に、ヘルメットの後ろの収まりきらなかった豊かな金色の髪がバイザー越しに見えている。
その顔は男性とも女性ともとれるが、どっちにしろかなりきれいな方に分類されるだろう。

(……?)

どこかで見たことがある。
だが、なかなか思い出すことができない。

「その顔は、なんでここにって言うより、誰だって顔だね、アレルヤ。」

「!!?」

声も男性か女性か区別がつきにくいが、喋り方から察するにおそらく男だろう。
だが、それ以上に重要なことが分かった。
笑った顔があの頃そっくりだったおかげで、それをきっかけで記憶の海から大切な仲間の思い出をサルベージすることに成功した。

(ユーノ!!)

萌黄色のパイロットスーツに身を包んでいたユーノが指先を二、三度振るとアレルヤを縛っていた拘束がスッパリと切れて彼を自由の身にする。
アレルヤは急いでマスクを外すとユーノに掴みかからんばかりの勢いでまくしたて始める。

「ユーノ、どうして!?」

「悪いけど、説明は後だよ。」

ユーノは白い拘束服を着たままのアレルヤに端末を投げ渡す。

「そのポイントに行って。アリオスが来る。」

「アリオス!?」

混乱しているアレルヤにユーノは笑いながら振り返る。

「君のガンダムだ。」

そう言い残して去っていくユーノの背中を呆然と見送るアレルヤだったが、手に持っていた端末を見た瞬間に決意を固めた。






プトレマイオスⅡ

『アレルヤを発見した!!アリオスを!!』

「了解です!!」

それまで先行していたプトレマイオスはカタパルト部分だけを海面から出すと、ハッチを開ける。
そして、そこからオレンジ色の何かを収監施設へ向けてはじき出した。






収監所 内部

アレルヤは走っていた。
外も中も騒がしさが増してきている。
早く指定されたポイントに行った方がよさそうだ。
そんなとき、斜め後ろにあった棟で爆発が起こる。
そこに目をやると何者かが囚人たちを逃がしている。

「囚人たちを逃がしている……刹那たちじゃない……彼らは一体?」

だが、今は彼らが何者なのか思案している時間はない。
全面に窓ガラスを張られた場所についたアレルヤは壁にもたれながら息を整える。
長い間動いていなかったせいか疲労が激しいが、弱音を言っている場合ではない。

「はぁはぁ……ここが指定ポイント……!?」

辺りを見渡していたアレルヤだったが、すぐ近くに飛び込んできたそれの弾き飛ばしてくるコンクリートのかけらを防ぐように手を顔の前に持ってくる。
そして、手をどけたときに見えたものに息をのんだ。
オレンジと白でカラーリングされた顔の額からは二本の角、さらに目の横からも角が生えている。
オレンジのコックピットハッチは自らの主を迎え入れるために開き、彼が乗るのを今か今かと待っている。

「ガンダム……!」

ここに来るまで冗談か何かだと思っていたが、確信した。
みんなはまだ戦っている。
自分の力を必要としている。

アレルヤはガンダムへと走り出す。
だが、

「とまれ!!」

後ろから飛んできた鋭い声に金縛りにあったように固まるアレルヤ。
ゆっくりと振り向くと、彼がソレスタルビーイングに入った理由が、彼女が銃を向けていた。

「そこまでだ……!被験体E-57!」







別室

マリナは震えていた。
恐怖からではない。
ただ、悲しかった。

「外で戦闘が行われてるの!?なぜ…」

また多くの命が消えていく。
すぐ近くにいるのに、また何もできない。
なぜ、こんなにも無力なのか。
悔しさで、マリナの瞳から涙がこぼれおちそうになる。
その時、

「聞こえるか!?」

「!!」

扉の外の誰かがいる。
この施設の人間ではない。

「ドアから離れろ!」

「え!?」

「離れろ!!」

言われるがまま離れると、ドアのロック部分が爆発する。
外にいた人物が強引にドアを蹴破り入ってくる。

「!!」

部屋は暗かったが、マリナはその人物を見間違えるはずが無かった。
褐色の肌に、少しウェーブがかかった黒髪。
四年前、自分にこの世で一番答えを見つけるのが困難な問いを残し、姿を消した少年の成長した姿がそこにあった。

「行くぞ。」

「刹那!?どうして!?」

「来るんだ。」

刹那はマリナの手をとると、ダブルオーが待つ場所へ彼女とともに走りだした。






廊下

「悪いけど人の身内に手を出すのは勘弁願いますよ、ピーリス少尉!!」

「「!!!!」」

アレルヤに向けられていた銃をはたき落とすと、ユーノは後ろからピーリスの首に腕をかけて体落としの要領でピーリスを背中から床に叩きつける。

「ゲホッ……!ユーノ…スクライア……!!」

「ユーノ!?一体今までどこに!?」

「ちょっと探し物があってね。ま、帰ったらおいおい話すよ。」

「お前は……!」

押さえ込まれていたピーリスが怒りのまなざしを向ける。

「お前は……自分のせいで、どれほどの人間が悲しんだと思っているんだ!?セルゲイ大佐も、ミン中尉も、……どれほどの傷を残したか自分でわかっているのかっ!!?」

「おわっ!!?」

ユーノを巴投げの要領で投げ飛ばしたピーリスは再び銃を握る。

「やめるんだ、マリー!!」

「?マリー?」

「っ!!何度も言わせるな!!私はそんな名前ではない!!」

ピーリスの否定の言葉に唇をかみしめる。
だが、それでも、アレルヤの中の事実は揺るがない。

「……いいや、これが本当の君の名前なんだ、マリー……マリー・パーファシー。」

「マリー……パーファシー…?」

その瞬間、ピーリスの脳裏に覚えのない光景がよみがえる。
なにも感じられない、闇に包まれた世界。
そんな世界に響く、一人の少年の声。
自分をマリーと呼ぶ声が聞こえてくる。

「くっ……う……!な…なんだ……!?今のヴィジョンは……!?」

激しい頭痛から頭を押さえてその場にうずくまるピーリス。

「マリー!!」

「ピーリスさん!!」

二人は駆け寄ろうとするが、そこにアンドレイが現れる。

「投降しろ!!E-57!!ガンダムのパイロット!!」

「クッ!!」

二人は銃弾をかいくぐって近くの物陰に入る。

「アレルヤ、なんか訳ありみたいだね。」

「ユーノ、何とか彼女を……」

『アレルヤ!聞こえるかアレルヤ!限界時間だ!!』

時間の流れは無情だ。
すでに最初に発生させた霧は晴れてしまい、すでにビーム兵器は元の威力に戻ってしまっている。
これ以上、ここにいるのは得策ではない。

(クソ……!すぐそこにマリーがいるのに!!)

「……アレルヤ、行こう。」

「でも、やっと会えたんだ!!僕はもう彼女を…」

「そう思うんならなおさらここは退くんだ!!」

アレルヤの肩をユーノは痛いほどの力で掴む。

「何があるのか知らないけど……やりたいことがあるなら、いまは生き残るんだ。」

「……っ、わかった。」

歯を食いしばりながらもアレルヤがうなずいたのを確認すると、ユーノは前に出る。

「僕が援護する。君はその隙にアリオスに。」

「!?君はどうするんだ!?」

「大丈夫だよ。とっておきがあるから。」

「とっておきって…」

「ほら、行くよ!!」

ユーノが飛び出したのに合わせて、アレルヤも仕方なくアリオスに向かって駆けだしていく。
その間も銃弾が雨あられと降り注ぐが、ユーノは小さく何かを呟いてその場に立ちどまる。

「プロテクション!!」

「!!?」

アレルヤだけでなく、発砲してきた側もその光景に唖然とする。
銃弾が空中で止まっているのだ。
しかも、弾頭は壁にぶつかったようにまっ平らにつぶれている。

「ボーっとしない!!」

「りょ、了解!!」

ユーノの言葉に尻を叩かれたアレルヤはアリオスに乗り込み、ピーリスの方を見る。

「必ず迎えに来るから……必ず!!」

ぐっとペダルを踏み込み、窓ガラスを粉砕しながら駆けあがっていくアリオスを見送ったユーノは一息つくが、目の前にいる人間を見てそんな場合でなかったことを再認識する。

「投降しろ!!さもなくば…」

「撃つぞ!って?悪いけど、どっちもごめんだね!!」

そう言うとユーノはアリオスが開けた穴へと走り、そして、

「よっとぉ!!」

「な!?」

そのまま外へと飛び出した。

「馬鹿な!!?死ぬ気か!!?」

アンドレイは落下していくユーノを見ながらそう言うが、ユーノにはそんなつもりは毛頭ない。
懐から翠の宝石をとりだし、それの名を叫ぶ。

「ソリッド!!」

〈Start up〉

ユーノの体が光に包まれる。
その中から黄土色のジーンズに白いシャツ、そして、薄い翠のマントを羽織った姿のユーノが飛び出してきた。







「あれは!!?」

「おいおい……ソレスタルビーイングは超能力者でもかこってんのか!?」

「ユーノ……なのか!?」

「ユーノ……お前は一体……!?」






「967!!!!」

「わかっている!!」

生身で空を飛んでいるのだから、弾丸の一発でも間違いなく仕留められるのにみんな驚いているのかユーノを撃とうとしない。
悠々とコックピットに戻ったユーノはバリアジャケットをしまってパイロットスーツ姿に戻ると、手元に現れたヘルメットをかぶりなおす。

「まったく……これで妙な噂が流れても知らないぞ。」

「ま、好きに言わせておくさ。オカルト好きが勝手に騒いで信憑性を薄くしてくれるだろうしね。」

967は呆れながらも、アリオスが空へと上がっていくのを確認した瞬間、プライオリティをユーノに渡す。

「それじゃ、早いところお暇しましょうか!!!!」





四機のガンダムが遥か上空へと上がっていく。
その先には、ジンクス部隊が配置されているのだが、マイスターの誰もが止まることなど考えていなかった。

まず口火を切ったのはアリオス。
左腕に装備されたガトリングを乱射しながら突き進み、陣形を乱す。
続いてダブルオー。
持っていたGNソードⅡをライフルモードにしてさらに敵を分断する。
そして、孤立した一機へとアリオスが高速で迫る。

「しまった!!!!」

「くらええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

腰から抜いたビームサーベルをジンクスへと振り下ろす。
ランスで何とか受け止めたものの、じりじりと焼き斬られていき、最後には持っていた腕と剣閃上にあった頭ごと斬り裂かれた。
そして、振り向きざまにすぐ近くにいたもう一機にガトリングを発射する。
シールドで防がれはしたが、その後ろからダブルオーが迫る。

「くそぉぉぉぉぉ!!!!」

「はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

振り抜かれた刃を止めることはかなわず、ジンクスは見るも無残に胴を斬り裂かれて落ちていく。

そのすぐ横では、クルセイドが急激なストップ&ゴーを繰り返して翻弄しながら一機を確実に追い込んでいく。

「後ろががら空きだぁぁぁぁ!!!!!!!」

後ろからクルセイドにジンクスのランスが迫るが、セラヴィーの砲撃によって塵一つ残さず消し飛ばされる。
そして、

「ひ!!や、やめ…」

「墜ちろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

盾の中から一回り細く真っ直ぐな刃ががちりという音とともに飛び出すと、ジンクスを頭から唐竹割にした。

戦艦からガンダムに向けての砲撃が続くが、対艦戦を想定して作られたもので小さなMSをとらえることなどできるはずもなく、マネキンたちは虹が架かった空へと消えていく四つの光を見送ることしかできなかった。





プトレマイオスⅡ

椅子に座っていたアレルヤは大きく息を吸う。
あの薄暗い部屋の中から出ただけでここまで違うものかと思えるほど空気が美味い。
だが、その喜びを打ち消して余りあるほどの憂鬱がアレルヤの気分を沈ませていた。

(マリー……)

できることなら助けたかった。
だが、あそこで無理に助けようとしていたら今自分は生きていなかった。
その点はユーノに感謝しないといけないだろう。

「アレルヤ。」

不意に声をかけられてアレルヤは顔を上げる。
すると、ティエリアがいつもの仏頂面で湯気が出ているカップを差し出している。

「ありがとう、ティエリア。」

受け取って香り高い黒の液体をすする。
ビールなどの苦いものが苦手なアレルヤだったが、今はこの苦さが臭い飯ばかりを食わされていた舌に嬉しい。
ティエリアはそんなアレルヤの姿に安心しながらも、聞かなければならないことはきちんと聞く。

「アレルヤ、どうして連邦政府につかまっていた?超人機関の情報を…」

その時、扉が開いて三人の人物が入ってくる。

「!!!?」

「いやはやすごいなこの艦は。水中航行すら可能とは。」

「ホントホント。……でも、今度からああいうのは遠慮してほしいっス。」

「それより、僕らがいたら話の邪魔だよ。早く戻ろう、ウェンディ。」

「ハッハッハッ、そうしゃっちょこばんなよ、エリオ。ガキの頃は少しやんちゃなくらいがちょうどいいもんだ。」

「ライルさんも少しは気にしてください!!」

見なれない少女と少年のことも気になるが、それよりも彼だ。
あの時、死んだはずの仲間が今こうして自分の前に立っているという事実がアレルヤを混乱させる。

「ロックオン!!?どうして!!?」

アレルヤの驚いた顔を見てロックオンは笑いながらため息をつく。

「そのリアクションあきたよ。」



「す、すまない……」

事情の説明を受けたアレルヤは、自分の早とちりに少し頬を赤らめながら俯く。
その様子に、ティエリアはクスリと笑う。

「変わらないな、君は。」

「そうかい……?」

「無理に変わる必要はないさ。……おかえり、アレルヤ。」

ティエリアからかけられた意外な言葉にしばらく何も言えなかったが、すぐに笑顔を見せる。

「ああ……ただいま。」

「おかえりっス!」

「オメーは関係ないだろ。」

ロックオンから頭にツッコミを受けたウェンディは舌を出しながら笑うが、アレルヤは当然のことながら彼女の素性など知らない。

「ティエリア、この子たちは?」

「ユーノの連れの…」

「ウェンディ・ナカジマっス!」

喋るのを妨害されたティエリアはムッとした表情をするが、エリオも遠慮がちに自己紹介をする。

「エリオ・モンディアルです。……それで、その…」

「?なんだい?」

「こいつらがあんたに聞きたいことがあるんだとさ。」

ライルに背中を押されたエリオは前につんのめるように進みでる。
そして、

「あの……ハプティズムさんは、どうしてソレスタルビーイングに入ろうと思ったんですか?」

この時、アレルヤは知らなかった。
自分の答えが、この二人に数奇な運命を歩ませることになるなど。





格納庫

プトレマイオスに戻ってきたとき、マリナに呼び止められた刹那は彼女と二人きりでダブルオーの前に立っていた。
初めに、口を開いたのは刹那だった。

「……俺が関わったせいで、余計な面倒に巻き込んでしまった。」

四年前の介入の後も、何度か事情を聞かれたという話は聞いていたが、いまさら彼女があんな強引な手段で、あんな場所に連れてこられるとは考えていなかった。
自分のうかつさに、刹那は申し訳なさで心がいっぱいだった。

「すまない、マリナ…」

「刹那……なぜなの……」

「……?」

「なぜ、あなたはまた戦おうとしているの…!?」

彼女らしい問いだ、と刹那は思った。
だが、おそらく自分は彼女の納得するような答えは用意できない。
ならばせめて、本当にそう思っていることを話そう。

「それしか、できないからだ。」

「ウソよ!!」

マリナは振り向いて刹那の目を見つめる。
見つめて、彼の心に届くように大きな声で語りかける。

「戦いのない生き方なんて、いくらでもできるじゃない!!」

戦うということの方が日常からかけ離れている。
それに、誰だって戦いなんてせずに過ごせることを望んでいるはずだ。
なのに、刹那はそうではないという。
なぜなら、

「それが……思いつかない…」

「!!」

戦い以外の何も教わらずに育ってきた刹那の少年時代。
そして、その中で戦いの虚しさと悲しさを知った。
だから、

「だから……俺の願いは、戦いでしかかなえられない。」

「そんなの…」

「……?」

「そんなの、悲しすぎるわ……!」

マリナは泣いていた。
ポロポロと、こらえることをせずに瞳から涙をこぼしていく。

「……なぜ泣く?」

「……あなたが、泣かないからよ………!!」

マリナの胸を締め付けられるような一言。
だが、刹那はその言葉にただ立ち尽くすしかできなかった。





二人の話を少し離れたところで聞いていたユーノは、壁にもたれながら膝を抱える。
刹那に向けられているはずの言葉が、自分の心に深々と突き刺さっていく。
戦いのない生き方を捨てて、ここまで来てしまった。
刹那とは違って、その選択をすることだってできた。
なのに、

「僕は……僕はっ………!!」

涙が床にしみを作っていく。
それでも、泣くことをやめられない。
誰もいないからこそできる行為だが、ユーノは気付いていなかった。
今の自分の姿を、フェルトに見られていることを。






収監所 周辺

その男は憤っていた。
ガンダムに自らの使命を邪魔されたばかりか、あんな珍妙なものまで見てしまった。
ガンダムに乗り込んだところを見るとソレスタルビーイングの一員なのだろうが、あんなことを人間ができるはずが無い。
そうだ、

「やつも……似非人か……!!」

きっとそうに違いない。
自分の家族と同じ、神の摂理に逆らった存在…

「あ…あああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!」

男の左目から血が流れ出てくる。
義眼を埋め込まれたそれは、彼の感情の昂りに呼応するようにとめどなく血涙を流していく。

「似非人め…………!!!!消してやる……!!!!この世から一人残さず消してやる!!!!!!」

銀色の髪を獅子のごとく振り乱し、ラーズ・グリースは空へ向かって悲しい咆哮を放った。







天使が、己が存在する意味と己が切り捨てたものの間で悩むは、彼らが人たるゆえんか……








あとがき……という名の解説

ロ「アレルヤ救出編な第二話でした。そして、さっそくですがクルセイドの装備について解説していきたいと思います。」

弟「よそでやれや。」

ロ「では、さっそくGNアームドシールドⅡから。」

ユ「ガン無視かい!」

GNアームドシールドⅡ



西洋の五角形型の盾を模した兵器。
そのままでも既存の兵器を斬り裂くほどの切れ味を誇るが、五角形の先端に隠されたGNソードの理論を転用した一回り細身の刀身を展開することによりリーチが伸び、使いようによっては単独で戦艦を両断することも可能になるほどの威力を発揮する。
さらに、かさばるGNグラムを外して中心部に開いた二つの四角の発射口から高圧縮された粒子ビームを放つ小型GNランチャー、そして、隠し刃と反対側に設置された二つの巨大杭打ち機、GNバンカーを装備する。
また、GNバンカーの欠点である圧縮粒子のチャージ時間を短縮することに成功している。
もちろん、防御手段としても優秀なのだが、ユーノはもっぱらGNフィールドや刃で斬撃を受け止めるような戦い方をするので純粋に盾としての活躍の場は少なくなってしまい、設計を担当したシェリリンにとってはそれが不満の種の一つになっている。



ユ「最後のこれなにさ?」

ロ「だって事実だろ。ていうか、書いてた俺が言うのもなんだけどfirstの時からお前って全然こいつを盾として使ってないよね。」

ティ「確かに……」

ア「言われてみれば……」

ユ「あれぇぇぇぇぇ!!!?なんでみんな納得してるの!!?」

ア「だって、君が盾として使ってたのはどちらかというとこれでしょ?」



GNシールドバスターライフルⅡ

盾への可変機構を備えたライフル。
盾の時の形自体はソリッドのものと変わっていないが、強度は上がっている。
また、今回は汎用形態の他にも三つの形態が存在しているらしい。



ユ「らしいって?」

ロ「いや、そろそろあとがきも十分に埋まったからあとがきのネタ提供はこの辺でいいかなって思って。」

ア「本音言っちゃったよ!!?」

ロ「あ、つい。」

弟「つい、じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ていうかそんなことだろうとは思ってたけどさ!!」

ロ「だってそんなホイホイ暴露話ばっかじゃあれだろ?」

ユ「自分で話振っといてそれはないんじゃないですかねロビンさん!!?」

ロ「まあ、気にすんな。お前は今度たっぷりいじり倒してやるから。」

ティ「……いいかげんに次回予告に行くぞ。」

ユ「くそ……まだツッコミ足りないのに……」

ア「ようやくマイスターが全員そろったトレミー。」

弟「しかし、それでもなお過去を振りきれないスメラギ。」

ユ「そんな中、アロウズの襲撃がトレミーに!」

ティ「果たしてこの危機を脱することはできるのか!?」

ユ「そして、遂にあの男が現れる!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 3.戦う理由
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/13 19:26
ミッドチルダ 災害担当部

とある日の昼下がり、オレンジのツインテールが窓から吹き抜ける風に揺れている。
その日、ティアナ・ランスターは元上司からの二つの申し出に驚いた顔、渋い顔の両方を見せていた。
彼女の補佐をしながら執務官試験に備えるという話はありがたいが、その後にされた話はいただけない。
しかし、執務官であり、機動六課にいたころに世話になったフェイト・テスタロッサからの誘いを無下に断るわけにもいかない。
結局、少し考える時間がほしいと曖昧な返事をしてその場をやり過ごすことにした。

『それじゃ、考えておいてくれないかな?』

「はい。……それより、キャロは?」

『うん……まだ、そっとしておこうと思ってる。そういうティアナとスバルはウェンディのこと……』

「大丈夫ですよ。」

フェイトの心配そうな声にティアナは弱々しいながらも笑顔を見せる。

「ウェンディはしつこいのがとりえですから。きっと、今頃どこかでいつもみたいに好き放題してますよ。」

『そっか……うん、そうだね…』

「それじゃ、まだやることが残ってるのでこれで。」

『うん。時間をとらせちゃってごめんね。』

「いえ、それでは。」

通信を終えたティアナは大きなため息と一緒に背もたれに寄りかかる。
ここ数日、似たような誘いは山ほどきていたが、まさかフェイトからも来るとは思っていなかった。

「ティア~、隊長が呼んで…」

「丁重にお断りします、って言っといて。」

「まだ何も言ってないよ!」

「どうせまた、MSのテストパイロットやれって話が来てたんでしょ?」

ブスッとしながらティアナは自分の相棒、スバル・ナカジマの方を向く。
ここ最近出てきた新型の兵器MS。
ゆりかごの落下による被害を食い止めたこともあり、質量兵器であるにもかかわらず実戦での投入が急速に検討され始めている。
それと同時に、パイロット候補生の選出も進められ、すでにかなりの数の人間がMSのテストに参加しているらしい。
ティアナは先ほどのフェイトからの誘いも含めて何度もMS部隊からの勧誘を受けていた。

「でも、希望を出してもなかなか選ばれないところから誘いが来るなんてすごいよ!それに、MSのパイロットになれば執務官にも…」

「あたしはあんなもんに乗ってまで執務官になりたいとは思わないわよ。」

ぴしゃりと言い放つティアナだったが、スバルは最後まで食い下がる。

「でもでも!MSの力があれば今まで助けられなかった人だって助けられるんだよ!?」

「逆もまたしかりでしょ?過ぎた力は身を滅ぼすわよ。」

「……ティアは、MSが嫌いなの?」

捨てられた子犬のような目をするスバルにティアナは額を押さえる。

「別にそういうわけじゃないわよ。でも、今のミッドや他の世界には過ぎた力だって言ってんの。精神的に未熟な状態で巨大な力を持ったら、それこそろくなことにならないわよ。ユーノさんだって…」

その言葉に二人は押し黙った後、部屋の一角に置かれていた新聞記事の方へ視線を向ける。
そこには、ユーノの顔写真とでかでかと指名手配の文字が書かれていた。





地球 アロウズ戦艦

その日、マネキンは非常に機嫌が悪かった。
連絡をしてきた部下兼恋人(?)に怒鳴り散らしてしまったことでさらに自己嫌悪を加速させてしまった。

ガンダムのパイロットの脱走を許してしまった責任は自分にあるとマネキンは思っていた。
上官からもそのことで多少なじられはしたが、それくらいは若くして、しかも女性で佐官にまで上り詰めた彼女にとってはいつものことだった。
そこまでなら彼女もここまで機嫌が悪くはならなかっただろうが、その後が問題だった。

(アーバ・リント少佐……殲滅戦を得意とするあの悪名高い男が指揮をとるのか……)

彼の経歴を読ませてもらったが、ひどいものだった。
必要以上の攻撃で、それこそ草一本残らないような殲滅行為ばかりを行っている。
仮にも治安維持を名目として作られた部隊には似つかわしくない男だ。
にもかかわらず、グッドマン准将は彼に全幅の信頼を寄せているようだった。

(しかも……ガンダムのパイロットと接触があったとはいえ一国家のトップを拘留するなど……!)

つい先ほど聞かされた驚愕の事実だった。
アザディスタン王国第一王女、マリナ・イスマイールがあの施設にいたというのだ。
そのことを聞かされていなかったマネキンはその場で殴りかかりたい気分だったが、グッとその怒りを飲み込んでガンダムに連れ去られたという彼女の救出を誓った。
だが、次の作戦指揮を執るのはリントなのだ。
彼女が死ぬようなことになれば、アザディスタンだけでなく中東の国々すべてから反感を買うのは間違いない。

(いや……むしろ狙いはそれか……)

目の上のたんこぶを潰す口実を作るためにも、おそらく上層部はやるだろう。

「……あの馬鹿を連れてこなくて正解だったな。」

汚れ役は自分だけで十分だ。
望まない任務に就きながら、身内の寝首を掻くなどとても褒められた行為ではないのだから。
もっとも、あの空っぽの頭なら頼めばついてきていただろうが。

「マネキン大佐。」

「……?ああ、ミン大尉。貴官も来ていたのか。」

さきほどまでの不機嫌な表情を消して懐かしい顔を迎える。
リントなどよりもよほど治安維持部隊が似合いの男、ミン・ソンファは火傷の痕で変色してしまった頬を緩ませた。

「やっと知っている人に会えて安心しましたよ。どこに行っても歓迎ムードには程遠かったですから。」

何事もなかったように笑うミンだが、彼とその部隊の人間がアロウズの兵士から激しいバッシングを受けているのはマネキンも知っている。
上層部が彼に独自行動の免許を与えたときにはアロウズも少しはマシになったかとも思ったが、その後で罵りの言葉を平然と吐く兵を目撃した時はつくづく救いようのない馬鹿ばかりだと呆れた。

「すまんな……どうにも、頭の中にも武器が詰まっている阿呆ばかりのようでな…」

「いえ、いつものことですから。……そういえば、もう一人のライセンス持ちが来ているんですよね?どんな方でしたか?」

「ああ……やつか。」

先程会った仮面の男のことを思い出す。
確かに腕は立ちそうだったが、それ以上に何やら鬼気迫る執念とでもいうべきものを感じた。

「……やつは貴官とは正反対の男だ。やつは……戦いにとりつかれている。」

完全に私見だが、マネキンはミスター・ブシドーをそう認識していた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 3.戦う理由

プトレマイオスⅡ 展望室

どこまでも群青色一色の世界の中を突き進むプトレマイオス。
そんな単調な光景も、今のマリナにはつかの間の安らぎを与えてくれる存在だった。
刹那たちに頼んで進路を中東はアザディスタンに向けてもらった。
現在、アザディスタンは連邦への参加を拒んだことで支援も受けることができず、その結果、経済は傾き貧困にあえいでいた。
それでなく、今まで保守派の暴走を押さえていた宗教的指導者、マスード・ラフマディーが無くなったことで改革派との争いが加速、両派の対立は泥沼化していた。
しかし、かといってマリナが戻ればすべてが収まるというわけではない。
それどころか、連邦の介入を受けてさらに事態が悪化する可能性もある。
だが、それでもマリナは戻る道を選んだ。
アザディスタンを離れた親友のためにも、国を見捨てるようなことはしたくない。
もっとも、こんなことを言っていたらその親友から皮肉の一つでも言われそうだが。

(シーリン……あなたなら、どうしていたの……?)

彼女に問いかけたいが、今の自分の隣には誰もいない。
冷たい手すりに寄りかかってそのまま崩れ落ちそうになるマリナだったが、それも許されない事態が訪れる。

「あーー!やっと見つけたっス!!」

「ひゃっ!?」

「ちょっと、ウェンディ!!……スイマセン、驚かせちゃったみたいで…」

尻もちをついたマリナの前にピンクの短い髪を束ねた少女と赤い髪をした少年が現れる。
見たところ、少女の方はだいたい15~16歳程度で、少年の方に至ってはまだ10歳になったかどうかといったところだろう。

「まさか……あなたたちもソレスタルビーイングなの……!?」

こんな子供まで戦いの中にいるのかとマリナは胸を締め付けられる。
だが、

「あたしらは違うっスよ~。いうなれば預かり身分っス。」

お気楽な空気を醸し出しながらひらひらと手を振る少女。
だが、その横では少年が頭痛にうなされる人間のように頭を押さえながら俯く。

「それで、マリナっちはこんなところでなにして……あいたた!!!?何するんスかエリオ!?」

自分より身長の低い少年に耳を引っ張られる少女は顔を苦痛に歪める。

「この人はこの世界にある国の王女様なんだからちゃんとしなきゃ駄目だよ!!」

小声で何か話しているようだが、よく聞き取れない。
しかし、少女はしぶしぶ何かを了承したのか唇をとがらせながらマリナの方に向き直る。

「お騒がせして申し訳ありません……。僕はエリオ・モンディアル、こっちはウェンディ・ナカジマです、マリナ様。」

エリオはマリナに手を差し伸べて立ち上がる手助けをしながら自己紹介をする。

「あなたたちは一体……?」

「それは今は言えないんスよね~。残念!」

相手は王族なのにフランクな喋り方をウェンディにはらはらするエリオだったが、咳払いを一つすると自分たちが彼女を探していた理由を話し始める。

「皆さんからアザディスタンにつくまでマリナ様のお世話を頼まれたんです。」

「お世話なんてそんな…」

「いいのいいの。あたしらも少し考えたいことがあったし。」

「考えたいこと……?」

マリナの不思議そうな顔に二人は困惑しながら顔を見合わせるが、すぐにマリナの方へ向き直る。

「ソレスタルビーイングに入るかどうか……です。」







1時間前 アレルヤの部屋

「そうか……僕の経歴を見たんだ?」

「はい……勝手に見てしまってスイマセン。」

制服に着替えたアレルヤから飲み物を受け取りながら二人はきまずそうにうなずく。

「気にしなくていいよ。別にいまさら見られて困ることでもないしね。」

優しく二人に話しかけるアレルヤだったが、エリオたちの表情ははれない。
しかし、それでも彼らが自分の部屋を訪ねてきた理由を話さなければなるまい。

「それで、僕がソレスタルビーイングに入った理由だったっけ?」

アレルヤは極力穏やかな口調で二人に話しかけるが、エリオとウェンディは体をびくりと震わせる。

「……あの、嫌だったら別にいいっスよ?誰にだって、言いたくないことの一つや二つ……」

「構わないよ。僕自身、ここで君たちに話をして決意を新たにするのも悪くない。」

そして、アレルヤは静かに話し始めた。






4年前 人革連スペースコロニー 『全球』

「はぁっはぁっ……!!!!」

アレルヤは必死に自分の脳に飛び込んでくる思考の嵐と戦っていた。

(ううあああぁぁぁぁ……!!!頭が……頭が痛い……!!!!!)

(いやだぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇ!!!!)

(死にたくない……!!死にたくない!!!!)

自分より幼い、自分と同じ存在。
ここで引き金を引けば同類殺しの汚名をかぶることになる。
だが、それでも迷わない。
自分はガンダムマイスターなのだ。
迷いなど……

(助けてぇぇぇぇぇ!!!!)

「はぁっはぁっはぁっ……!!!」

迷いなど……

(ううぅぅ……あああぁぁぁぁぁぁ……!!!!)

「っ!!はぁっはぁっはぁっはぁっ!!!!!!」

迷いなど……

「……こ…殺す必要が……あるのか……?」

アレルヤの心に、迷いが生まれた。

「そ……そうだ………なにも殺す必要なんてない……彼らを保護して……」

楽な方へ楽な方へと流されていくアレルヤ。
だが、彼の中にいるもう一人の彼がそれを許さない。

『甘いなぁ!!』

「!!!!」

残酷な、それでいて楽しそうな笑い声が頭の中に響く。

「……ハ、ハレルヤ……」

『どうやって保護する…?どうやって育てる…?施設から逃げたお前がまともに生きてこられたのか…?できもしねぇことを考えてるんじゃねぇよ!!!!』

二人の少年が銃を構えて向き合っている。
だが、一人は嬉々とした表情で。
もう一人は、怯えきった顔で壁にもたれて座りながら。

「し、しかし、このままじゃ彼らがあまりに不幸だ……」

『不幸?不幸だって?……ククク……ハハハハハハ!!!!施設にいるやつらは自分が不幸だなんて思っちゃいねぇよ!!!!』

「いつかはそう思うようになる!!!!僕のように!!いつか!!」

『なら、ティエレンに乗った女は自分が不幸だと感じてんのか?そうじゃないだろ……独りよがりなヒューマニズムを押し付けるな!!!』

金色の瞳の少年は銀色の少年へと一歩進み出る。

「違う!!!!僕は!!!!」

『違わないね!!!!どんな小奇麗な言葉を並べたててもお前の優しさは偽善だ!!!お前は優しいふりをして自分を満足させたいだけなんだよ!!!!』

「……で、でも……彼らは生きている……生きているんだ!!」

『改造されてなぁ!!そしていつか俺たちを殺しに来る!!!あの女のように!!!!』

「そ……それは……」

銀色の瞳の少年はカタカタと震え始める。

『敵に情けをかけんじゃねぇよ!!!それとも何かぁ!?また俺に頼るのか!?自分がやりたくないことに蓋をして、自分は悪くなかったとでもいいたいのか!!?』

「ち…違う……僕は……」

『ならなぜおまえはここに来た!!?』

「ぼ、僕は……ソレスタルビーイングとして……」

『殺しに来たんだよなぁ!?』

「ち……違う!違う違う違う!!!!僕はガンダムマイスターとして…」

『立場で人を殺すのかよぉ!?ハハハハ!!!!俺よか性質が悪いぜアレルヤ!!!』

「あ……うああぁ……!!」

銀色の瞳の少年の瞳孔がどんどん開いていく。
眼を閉じようとしても、体がいうことを効かない。

『引き金くらい感情で引け!!!!己のエゴで引け!!!!』

「い、嫌だ……!!!!」

『無慈悲なまでに!!!!!!!』

「っっっ!!!!!!」

その瞬間、アレルヤの中で何かが壊れた。

「撃ちたくない……!!」

そう言いながらも引き金を握る指に力を込めていく。
そして、

「撃ちたくないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

銀色の瞳の少年は引き金を引いた。



オレンジ色の機体から無数のミサイルが放たれ、施設の中を業火で埋め尽くしていくていく。

「うああああああああああ!!!!!ああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!あああぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

この世のものとは思えない絶叫が終わった瞬間、アレルヤの頭の中に響いていた声は、目の前で燃え盛る建物が崩れ落ちるのと同時に消え去った。







現在 プトレマイオスⅡ アレルヤの部屋

「……あの時、背中を押したのは確かにもう一人の僕、ハレルヤだったけど、あれは僕の意思で引き金を引いたんだ。そして……」

アレルヤは膝の上の拳をぎゅっと握りしめる。

「僕は……僕はあの時、人を殺しているんだという恐怖を、同類を殺しているんだという痛みや辛さを感じると同時に、心のどこかで安心してたんだ。」

「安心……?」

エリオが震える声で問いかける。

「同類の意識が一つ…また一つと消えていくたびに、自分の過去が消えていっているような……そんな気がしてたんだ。人の命を犠牲にしても、自分が自分である限り過去は消せないのにね。」

アレルヤは呆れたような、悲しいような、そんな笑顔で二人の方を見る。

「僕は……僕のような人間を生み出したくないと思って、ソレスタルビーイングに入った。けど、それはハレルヤの言うように言い訳であって、本当は自分自身から逃げたかっただけなのかもしれない……でもね。」

金色の瞳の上にある傷をなでながら、アレルヤは固い決意に満ちた目つきをする。

「また、みんなが僕を必要としてくれている。それに、助けたいと思える人を見つけた。だから、僕は戦うことを選んだんだ。」

アレルヤの過去の、そして、新たにできた決意を聞いたエリオとウェンディは言葉をなくす。
そんな二人の様子に気付いたアレルヤは空になっていたコップに温かいお茶を注ぐ。

「個人的には、君たちがソレスタルビーイングに入るのはお勧めできない。でも、君たちの決定は君たちしか下せないし、君たちしか選べない。だから、僕には君たちがどんな選択をしても止めることはできないし、後悔しても最低限の助けしか差し伸べることができない。だから、よく考えて決めるんだ。自分が何をしたいのか、そのためにどうするべきなのかを……」






展望室

「何をしたいのか、か……」

外を眺めていたウェンディはマリナに聞こえないようにそう呟く。
自分は過去を清算するために戦っていたわけではない。
ただ、家族を守るために戦い、機動六課の仲間たちと出会ってからは、ただ目の前で苦しんでいる人を助けたいと思って力を振るった。
その想いは今も変わらないし、ソレスタルビーイングに入れば苦しんでいる人を救えるかもしれない。
だがそれでも、そのために人の命を奪っていいのかどうかわからない。

「ティア……スバル……一人で何かを決めるって、難しいっスね……」





(助けたい人……)

エリオはマリナのそばで黙って俯いていた。
自分が助けたいと思う人は、フェイト、キャロ……機動六課のみんなであり、かけがえのない家族だ。
そのためにエリオは機動六課に入り、その力を磨いてきたのだ。
だが、考えたこともなかった。
みんなを守るという理由で、誰かの命を奪うことなど。

(フェイトさん……)

いつでも答えを用意してくれていた人はもうここにはいない。
もう、彼女に依存するわけにはいかないのだ。
だが、わずか10歳の少年に自分の我を通すために人の命を奪うのかどうかの選択をするのは酷というものだ。
それでも、エリオはいつか選ばなくてはならない。
それが、力を持つ者の義務なのだから。






マリナもまた、二人と同様に悩んでいた。
あの後、やってきた刹那に一緒にアザディスタンに来てほしいと頼んだ。
突拍子もない申し出だったが、それが刹那のためだとマリナは信じて疑わなかった。
だが、刹那の返事はNoだった。
そして、何より彼の言葉がマリナの心に大きなうねりを生み出していた。

『破壊の中から生み出せるものはある。世界の歪みをガンダムで断ち切る……未来のために。それが、俺とガンダムの戦う理由だ。』

その時の刹那の瞳を見たマリナは、彼の決意が固いものだということを理解した。
だが、

(なら……世界のために戦うあなたの未来はどこにあるの……?)

穏やかな日常を放り出した彼の、これから先に存在しているはずだった未来がどんどん遠のいていく。
アザディスタンの王女としてではなく、ただのマリナ・イスマイールとして、それだけが彼女の心に引っかかっていた。






格納庫

格納庫で架空の相手に訓練をしていたロックオン。
ある程度の成果をあげたところでケルディムのコックピットから出てきたのだが、それでも満足のいかないものであったことは顔を見ればわかった。

「はぁ……兄さんのようにはいかないな。……お?」

「!」

ロックオンが下りてくるのを待っていたフェルトと目があった。
フェルトも彼を待っていたのだが、思わず背中を向けてしまう。
なぜ、ここに来たのか自分でもわからないが、それでも彼に会わないといけないような気がして。自然とここに足が向いていた。

「よお、どうかした?」

「ううん……なんでも……」

憧れていた人と同じ顔、同じ声。
それが、どうにもフェルトの胸の奥をくすぐって仕方がない。

「フェルト…っていったよな?君の視線よく感じるんだけど、なんで?」

「べ、べつに、そんなこと……」

そっぽを向くフェルトだったが、彼女に変わってハロが代わりに答える。

「フェルト、ロックオン好キ!ロックオン好キ!」

「ハ、ハロ!!」

足元で転がるハロを真っ赤な顔で叱りつけるフェルトだったが時すでに遅し。
ロックオンの、いや、ライル・ディランディの耳にははっきりとハロの言葉が届いていた。

(チッ……ここでもか。)

もううんざりだ。
ティエリアといい、どいつもこいつも自分と兄を比べてくる。
ライルのイライラは極限に達し、ある行動をとらせることとなる。

「俺は兄さんじゃない。」

表向きは笑顔でフェルトに話しかける。

「わかってる。うん……わかってる……。っ!?」

不意にロックオンに顎を優しく握られ、顔をグイッと近づけさせられる。

「あんたがそれでもいいっていうなら付き合うけど?」

「え…?」

突然の口づけで言葉を奪われるフェルト。
しかし、突然ファーストキスを奪われたことの恥ずかしさに変わって、激しい怒りがこみ上げてくる。

「その気があるなら後で部屋に…」

「っっっ!!!!」

よく響く格納庫の中に乾いた破裂音が響く。
ロックオンの左ほほに赤い跡を残し、フェルトは泣きながらその場を走り去っていった。

「フラレタ!フラレタ!」

「気付かせてやったんだ。」

そう言うとロックオンは痛む頬のことも気にせずにフェルトが走り去った方向と反対方向に歩きだす。

「……比較されちゃたまらんだろ。」

フェルトには悪いが、彼女と兄の間に何があったかなど興味はない。
ただ、似ているというだけで代わりにされるのも、比べられるのもごめんだ。
それに、

「惚れてる相手がいるやつを気にかけてやるほど、俺はお人よしじゃねぇよ。」







廊下

「アレルヤ、上手くやってくれたかなぁ?」

そう呟きながらユーノは久々の重力を一歩一歩確かめながらスメラギの部屋へと歩いていた。

「お前が気にしても仕方ないだろう。決めるのはあの二人だ。」

「まあ、それはそうなんだけどさ……」

しかし、あの二人のことも気にかかるが、今はそれよりもスメラギと話をしなくてはならない。

「気にするな……なんて、言えるはずもないか。」

実際、自分もあの時のことはいまだに引きずっているのだ。
スメラギにだけ過去のことを忘れて今まで通りに作戦をたててくれなどむしのいい話だ。

「誰もがお前たちガンダムマイスターのように全てを背負っていけるわけではないんだ。」

「まあね……どうするかなぁ……」

頬を掻きながら思案するユーノだったが、突然後ろから誰かに抱きつかれる。

「フェルト!?どうしたの!?」

「ユーノ、私…わたしっ……!」

「お、落ち着いて、フェルト!ここだと人に…」

「「……………………………」」

見られていた。
それも、今しがた自分が会いに行こうと考えていた人物と、自分の連れ二人に話をしていた人物に。

「ユーノ……女の子を泣かしちゃ駄目よ?」

「えっと!その……ごめん!邪魔しちゃって!だから気にせず二人で話を……」

「誤解だぁぁぁぁぁぁ!!!!弁明の余地を求める!!!!」







数分後 スメラギの部屋

「ご、ごめん……早とちりしちゃって……」

「わ、私もごめんね……ユーノのこと見つけたらついというか……」

「もういいよ……ここに来てからこんなのことばっかで慣れつつあるから……」

乾いた笑いをするユーノにアレルヤとフェルトは苦笑するが、ユーノからしてみればこの程度何ともない。
なにせ、向こうであんなところを見つかったら自分の婚約者とその友人たちに五体を引き裂かれたあげく消し炭にされるかもしれないのだから。

(……すいません、なのはさん。不可抗力なんで怒らないでください。)

冷や汗交じりである年のバレンタインの日を思い出す。
あれは、自分が司書長に任命された年だった。
司書の女の子たちからチョコを貰い、自室で休憩がてらにそれを食している時だった。
そこへやってきたなのはにそれを目撃され、問い詰められた挙句に砲撃魔法から半日近く逃げ回るはめになった。
もちろんもらったチョコは義理チョコだったのだが、あの日のなのはは話をする暇も与えずにとりあえずディバイン・バスターを撃ってきた。

「?どうしたの?顔色悪いわよ?」

「いえ……ちょっと、魔王の姿を思い返していただけです。それより、今の話本当なの、アレルヤ?」

「うん……彼女は間違いなくマリーだった。……四年前の時点で気付くべきだったんだ。僕の脳量子波にあれだけ干渉できるのはマリーぐらいだったのに……」

アレルヤの話が本当なら、ソーマ・ピーリスはアレルヤと同じ場所にいた少女ということになる。

「けど、驚いたよ。まさか君がマリーと会っていたなんて。」

「……ごめん。あの時僕が話していれば、ひょっとしたら…」

「いや、あの時はあれでよかったんだ。」

ユーノの言葉をアレルヤは否定する。

「あの時、ソーマ・ピーリスがマリーだとわかっていたら、僕は引き金を引けなくなっていた。」

「……それは、今も同じじゃないの?」

スメラギはグラスのワインから口を離し、机の上に座るとアレルヤに問いかける。
だが、彼女の問いにもアレルヤは毅然と答えた。

「それでも、僕は彼女を助けます。それが、今の僕の戦う理由です。」

「……うらやましいわ。」

「え……?」

「あなたには、戦う理由ができたのね……。あたしの戦いに、そんな理由なんかあったのかしら?」

「イオリアの計画に賛同したんじゃないのか?」

青い球体がスメラギの足元まで行くと、中から黒い長髪の男、967を投影する。
スメラギは967の方をニコリともせずに、ただ辛く苦しい表情をして向いた。

「もちろんしてたわ。争いをなくしたいとも思った。でもね……それとは別に、私は自分の忌まわしい過去を払拭しようと思ったの。その思いで戦った……そうよ、私は自分のエゴで、多くの命を犠牲にしたのよ!」

「スメラギさん……」

涙ぐむスメラギにフェルトが手を差し伸べようとするが、質量のない967の手に阻まれ、首をゆっくりと横に振る彼に従ってその手を引っ込める。

「でも、私は過去を払拭できなかった。……今の私には戦う理由が無いの……ここにいる理由も……」

「……僕もそうでしたよ。」

全員の注目が集まる中、ユーノはアレルヤのグラスにワインを注いで一気に飲み干す。

「……僕も、本当は戦う理由なんてなかったのかもしれません。ただ、心のどこかに残っていたわだかまりを理由にして、この世界に対して復讐を果たしたかっただけなのかもしれません。でも……」

ユーノはアレルヤ、フェルト、967、そして、スメラギの顔を見渡す。

「僕には、戦いの中で守りたい人ができました。スメラギさんは違うんですか?」

「私は……」

「違うんなら、なんで僕を助けてくれたんですか?」

アレルヤは戸惑うスメラギを見てフッと笑う。

「きっと、見つけられますよ。僕たちにだって見つけられたんだから。きっと、スメラギさんにだって……」







四人が部屋から帰った後、一人取り残されたスメラギは昔の写真を見ていた。
あの日、全員が、失ってしまった仲間も含めた全員が笑っている写真にそっと指先で触れる。

「ロックオン……クリス……リヒティ……モレノさん……エレナ……もう一度、私に世界と向き合うことができるのかしら?そして……大切な人を守ることが……」

『……できるよ。』

「!?」

『だって、あなたはスメラギ・李・ノリエガ。私たちの戦況予報士じゃないですか。』

「エレナ……?」

振り返って問いかけるがそこには誰もいない。
どうやら、たったあれだけの量で酔いが回っているようだ。

『トレミー、間もなくホルムズ海峡を抜けるです。』

ミレイナの声を聞いてようやく夢から覚めたような気分になったスメラギは、あることに気付いた。

「これは……?」

外の様子が目の前のモニターに映されているのだが、どうにもおかしい。

「周辺が静かすぎる……魚たちの姿もこの深度で……」

多少なりとも見えていいはずの魚群が全くいない。
魚たちがいないということは、捕食者であるより大きな魚がいるか、もしくは音に敏感な彼らを逃げ出させるようなものが近くにあるということだ。
しかも、まったく魚の影が無いということから前者は考えにくい。
ということは、答えは決まってくる。

「っ!?まさか!」

そのまさかだった。
スメラギが予測をたてた次の瞬間には異常の原因たちが押し寄せて来ていた。







ブリッジ

「Eソナーに反応!!六つの敵影が高速で接近してくるです!!」

戦闘経験の浅いミレイナは近づいてくる何かを敵機と認識したが、ラッセとフェルトにはそれが本当はなんなのかわかっていた。

「そりゃ魚雷だ!!フェルト!!」

「GNフィールド、最大展開!!」

瑠璃色の膜に阻まれて致命傷を与えるには至らないが、艦全体が大きく揺れ、中にいる全員に非常事態であることを知らせる。
だが、揺れ以上に重大な事態が発生していた。

「魚雷の中に重化合物が!!」

「ソナーを封じられたです!!」

プトレマイオスをギラギラと鈍く光る粒が取り囲み、周囲からの情報の一切を遮断する。

「この深度で動ける敵だと!!?」

こんな深度に潜れる兵器など聞いたことが無い。
となると、必然的に彼らが遭遇していない敵、新型ということになる。

史上初のGNドライヴ搭載型の水中戦用MA、トリロバイトは高速でプトレマイオスに迫りながら下部に装備されていたあるものを発射する。

「第二波、きます!!大型魚雷二発です!!」

フェルトの言葉に続いて、二つの魚雷はめりめりとGNフィールドに食い込んでいく。

「GNフィールド、突破されたです!!」

「新兵器かよ!!」

防御を突破した二発の魚雷は外壁にぶつかり、しばらく赤く輝いていたかと思うと、大きな爆発とともに大きな二つの穴が開通した。

「下部コンテナに浸水!!」

本来ならそのコンテナにあるガンダムに出てもらって敵を撃破してもらいたいのだが、この深度でガンダムを出すことは不可能だ。
それどころか、このままでは中に入ってきた海水と周りの水圧で艦そのものが圧壊する可能性がある。

「浮上するぞ!!ガンダムを出せなきゃこっちは終わりだ!!!!」

ラッセは舵を上に向けるが、当然敵はそれを阻むためにさらに攻撃を仕掛けてくる。
上からも爆雷が降り注ぎ、上に進むほどに当然のことながらその衝撃はどんどん増していく。
しかも、それもただの爆雷ではなかった。
船体全体が爆雷から出てきた奇妙な網のようなもので覆われ、砲門もハッチも自由に開閉することができない。

ケミカルボム
合成樹脂に水分を吸収させることで拡散させ、その後凝固することによって相手の動きを封じる兵器だ。
合成樹脂によってがんじがらめにされたプトレマイオスはそれでも上を目指して突き進んでいくが、フェルトとミレイナにはすでに諦めの色が広がっている。

「諦めるな!!とにかく、上にあがるぞ!!」

そう言ってフェルトとミレイナを奮い立たせるラッセだったが、彼自身も絶望感で押しつぶされつつあった。
だが、救世主はゆっくりと、だがしかし確実にブリッジに近づいていた。






海上 アロウズ空母

マネキンの隣にいるハ虫類を思わせる男はニヤニヤとした笑いで海中に消えていく爆雷を眺めている。
アーバ・リント少佐。
彼が立てる作戦のほとんどが殲滅戦を前提としたものであり、彼はそれを楽しんでいる節がある。

「二分間の爆撃の後、トリロバイトで近接戦闘を仕掛けます。敵艦が圧壊する様が見れないのが残念ですが……」

歪んだ笑いを浮かべるリントを嫌悪感のこもったまなざしを向けるが、彼のここまでの手順は見事としか言いようがない。
だが、

(リント少佐……索敵と初期行動は見事だが、これで敵の指揮官がどう出るか……)

今のところ動きはないが、あの作戦を考えついた指揮官なら何か動きがあるはずだ。
自分たちを驚かせるような、とんでもない何かが。





プトレマイオスⅡ

「船体を覆った樹脂で砲門が開きません!!」

「操舵もだ!!」

焦りが焦りを呼び、三人から冷静な思考を奪っていく。

「クソ!!敵はどこだ!!?」

「Eソナー、使用不可です!!」

「打つ手なしかよ!!くそったれが!!!!」

「落ち着いて!!」

「「「!!!!!!!」」」

いつの間にかブリッジに入ってきていたスメラギが声を張り上げ、彼らの混乱を収める。

「手はあるわよ!もうすぐ爆撃がやむ!」

「え!?」

スメラギの言うとおり、それまで続いていた震動がある時を境にぴったりと収まった。

「とまった……ですか?」

「そして、海中の敵がこちらに接近し、直接攻撃を仕掛けてくる!」

「おいおい!!じゃあ逆にヤバい…うおっ!!?」

それまでとは比較にならないほどの大きな揺れと、それまでは聞こえなかった艦内を流れる水の音がわずかながらも聞こえてくる。

「て、敵機が船体左舷に突撃しました!!!!被害甚大!!このままでは圧壊する恐れも……」

「ラッキーね、私たちは!」

「「「!!?」」」

ブリッジ中央の席の背もたれに手をかけながら不敵に笑うスメラギ。
そう、彼女はこの状況を待っていた。

「索敵不能の敵がそこにいて、トレミーはガンダムが出撃可能な深度まで到達している!おまけに敵は、面倒な下部コンテナの注水時間も短縮してくれた!」

彼女の言うとおり、すでにガンダムに乗り込んでいたマイスターたちは次々にコンテナから海中へと飛び出していく。
その中でもいち早く出撃したセラヴィーとティエリアは船体にとりついていたトリロバイトに掴みかかり、これ以上艦を攻撃させまいと押し返しにかかるが、トリロバイトはそれでも鋭い先端を突きたてようとする。
いくらガンダムといえど、大型のMAが相手では押し切られてしまう。

「だが、切り札はある!!」

ティエリアはペダルを踏み込むと同時に、モニターに翼と楔を出現させる。

「TRANS-AM!!!!」

セラヴィーの背部のガンダムフェイスが開き、機体全体が紅蓮の輝きを放ちだす。
推進力を上げたセラヴィーは一気にトリロバイトを引きはがす。
しかし、トリロバイトは側面に装備されたアームをセラヴィーに叩きつけてセラヴィーの拘束から逃れようとする。
だが、セラヴィーに続いて出撃していたケルディムからの狙撃で大きく体勢を崩す。
元来、水中でビーム兵器を使用するのは無意味に近い。
なにせ、空気中で使うよりも格段に威力が落ち、射程距離も大きく縮む。
しかし、

「水中でもこんだけ近けりゃ!!」

狙撃とは言えないほど近い距離でスナイパーライフルを発射する。
その攻撃にひるんだのか、トリロバイトは二機から離れ始める。
だが、その隙を見逃すほどユーノも刹那も甘くない。

「クルセイド、目標を粉砕する!!」

「ダブルオー、目標を…」

その時、刹那の目の前にマリナが現れる。

『刹那、私と一緒に来ない?アザディスタンに…』

「!」

マリナからの誘い。
自分があの日から失ってしまったものが、ひょっとしたら戻ってくるかもしれない。
彼女と一緒に戻れば、枯れたクルジスの大地にも花が……

『刹那?』

フェルトの声にハッと現実に引き戻される。
揺らぎそうになった自分を叱りつけると、真一文字に口を結ぶ。
自分にできるのは戦うことだけだ。
自分がクルジスに、アザディスタンに、マリナに、自分たちの故郷のためにできるのはこれだけなのだ。
そう、ただ目の前の敵を……

「目標を……駆逐するっ!!」

一機に接敵した二機へアームが振られるが、クルセイドは左腕を、ダブルオーは右腕を、それぞれ互いに味方へと伸ばされていた凶爪を叩き斬る。
そして、二人は示し合わせていたように両側に刃を突き立てて後ろへと並行に赤いラインを描いていく。
トリロバイトはそれでも一矢報いようと後ろに装備されていたアームを展開するが、それすらもダブルオーに切断され、結局何もできないまま海中にくぐもった爆発音を残して消え去った。

『刹那、ユーノ!海上に出る!!』

「「了解!!」」

アリオスの翼にダブルオーとクルセイドが掴まったことをコックピットに伝わってきた衝撃で確認したアレルヤは切り札を切る。

「TRANS-AM!!」

光の届かない深い海から、輝く海面へ向けて一気に上昇していくアリオス。
周りの色も徐々に黒から緑、緑から青に変わり、そして、遂に水柱を上げて海面に飛び出した。

「何事だ!?」

リントは目の前で起こった事態が理解できずに目を白黒させるが、太陽を背負うその機体の正体を見た瞬間に青ざめる。

「ガ、ガンダム!!?馬鹿な!!?トリロバイトはどうした!!?」

「反応、ロストしています!!」

「まさか、トリロバイトが!!?」

「艦を後退させろ!!」

焦り始めるリントをよそに、マネキンは的確に指示を出す。
だが、リントはあくまで攻勢に出ようとする。

「MS隊を発進させろ!!」

「もう遅い!!」

敵をなめきってMSをまったく出撃させていなかったのが仇になった。
がら空きの空母のブリッジにダブルオーが刃を突き立てるべく迫る。
だが、

「!刹那!!」

「!?くっ!!」

一機のアヘッドがブリッジ手前まで近づいていたダブルオーを肩からぶつかって弾き飛ばす。
しかも、そのアヘッドは通常のものとは少々違っていた。
持っているビームサーベルは日本刀を思わせるような鋭く研ぎ澄まされたもので、頭部には通常のものと違って日本の武将が付けている兜のような捻じれた角がついている。

「アロウズの新型か!!」

その武将風のアヘッドは体勢を整えたダブルオーを見てギラリと目を光らせたかと思うと、ビームサーベルで斬りかかる。
素早い身のこなしで縦横無尽に刃を振られ、流石の刹那も苦戦を強いられる。

「刹那…っ!!」

援護に向かおうとしたユーノだったが、後ろから感じた気配に振り向きざまに刃を合わせるとぶつかったビームサーベルとの間で激しく火花が散る。

「アヘッド……!!?でも、この動きは!!」

「この機体……やはり乗っているのは……!」

ミンとユーノは顔を見なくともその動きで互いに誰なのかすぐさま理解していた。



そして、それは刹那と彼にも当てはまることだった。

「この動き……!手ごわいやつか!」

「その剣さばき……間違いない、あの時の少年だ!何という僥倖……!!生き恥をさらした甲斐が……あったというものだ!!!!」

ミスター・ブシドーは仮面に隠れた顔を至上の笑みで満たすと再会の喜びに満ちた咆哮を上げる。
そのまま歓喜の舞を踊るかのように激しく、しかし的確な斬撃でダブルオーを攻めたてていく。
ダブルオーと刹那もある時は攻撃をかわし、ある時は攻勢に転じてとめまぐるしく攻守を入れ替えながらアヘッド近接戦闘型、サキガケと激しく斬り合う。
しかし、刹那に余裕が無いのに対し、ミスター・ブシドーは余裕、いや、至福の時間を楽しむかのように笑っている。

「まだだ……!!こんなものではないだろう!!ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「ぐうっ!!!」

大きく振りかぶられた一撃を受け止めるダブルオー。
しかし、その衝撃の重さはしっかりとコックピットにまで伝わり、操縦桿を握る刹那の顔に汗がにじませた。



そして、刹那たちが剣戟を重ねる中、ユーノもミンの駆るアヘッド改と死闘を繰り広げる。
ミンのアヘッド改が腰から棒状のものを外してそれを伸ばすと、片側から湾曲した大きなビーム刃が現れる。

「薙刀!?」

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

ミンは刃をクルセイドの肩へと突き出すが、ギリギリでかわしたクルセイドが逆に距離をつめてアームドシールドを振るおうとする。
だが、ミンはアヘッドに素早く薙刀の柄の真ん中を握らせると、反対側にもビーム刃を発生させて回転させる。

「うわっ!!?」

足元から迫る予想外の攻撃を辛うじてシールドバスターをシールドに変形させて受け止めるが、今度はするりと横に移動されたかと思うとその遠心力を利用して加速された刃がクルセイドの頭を狙う。

「クッ!このっ!!」

額の飾りの先を斬りおとされながらもなんとかかわしてアームドシールドで斬りつけようとするが、今度は柄を長く持たれて距離をとられたせいで当たらない。
細かく距離を変えてくるミンに翻弄されるユーノだが、ミンも自分の機体の装甲を浅く削ってくるユーノの攻撃に冷や汗を垂らしながら渡り合っていた。

(こんな瞬発力のある機体を使いこなすのか……!気を抜いたらやられる!!)

(機体性能の差に助けられているだけだ……!隙を見せたらやられる!!)



張り詰めた空気のなか一進一退の攻防を繰り返す二機のアヘッドと二機のガンダム。

「刹那!ユーノ!」

空中を旋回していたアリオスも援護に加わるべくMS形態に変形してツインビームライフルを抜くが、その前に特異な形状をしたバックパックを背負ったアヘッドのカスタム機が現れる。

「その機体……!被験体E-57!!」

アヘッド脳量子波対応型、通称スマルトロンにのるピーリスは唇を噛みながら持っていたビームライフルで猛然とアリオスに攻撃を開始する。
アリオスも前に立ちはだかるスマルトロンに射撃を介するが、こちらの攻撃はあっさりと防がれ、逆向こうの攻撃を肩にもらってしまい灰色の煙が立ち上る。

「機体のせいじゃない……!僕の能力が落ちているのか……!」

脳量子波が使えなくなり、ハレルヤがいなくなったアレルヤの能力は格段に下がっていた。
それでも、常人よりは勘が鋭いし、反応速度や運動能力、操縦技能は通常のそれを上回っているのだが、相手が同じ超兵、しかも完成形ともいえるピーリスを相手にするには心もとない。

「……っ!来るっ!!」

スマルトロンが肩からビームサーベルを抜いてアリオスへと襲いかかる。

「墜ちろガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

「クッ!!!」

アレルヤは何とかかわそうとするが、反応が間に合わずここまでかと思われた。
だが、遠方から飛来した青い弾丸がスマルトロンの動きを止め、さらに飛んでくる弾丸が後退させていく。

「あれは……!?」

全員が戦いを中断して弾が飛んできた方を向く。
そこには水色のカラーリングをしたイナクトとヘリオンの混合部隊がこちらに向かってきていた。
その突然の乱入者に敵味方問わず彼らに対して警戒心を強めるが、その必要があったのは紅の機体たちだけだった。
一斉に放たれたリニアライフルの弾はピーリスたちの機体にだけ降り注ぎ、ガンダム三機に対しては攻撃をするどころか周囲を護衛するかのように飛び回る。

「まさか、カタロン!!?」

「彼らの援護に来たとでもいうのか!!?」

「反政府組織が……!私の道を阻むな!!!!」

三人は降りかかる火の粉を払いのけるべくその圧倒的な性能差と腕前を存分に見せつける。
中でもミスター・ブシドーは激怒の刃を振るいながら旧式MSたちを鉄くずに変えながら海に叩き落とし、一歩、また一歩とダブルオーとクルセイドに近づいていく。
しかし、それでもカタロンは止まらない。
まるで蜂が巣を守るために次から次に湧いて出てくるようだ。

「これ……どうなってるの!?」

ユーノは呆気にとられてその場から動けずに気の抜けた声で呟く。

「わからん……だが……」

967は足元の海中にいるプトレマイオスの反応を確かめる。
幸い圧壊は免れたようだが、それでも今の状態ではまともに戦闘に参加することができないのは明らかだ。

「今のうちにプトレマイオスと一緒に退いたほうがよさそうだ。」

「けど、彼らが……」

967の言っていることはわかる。
だが、彼らを見捨てたくないと思っている自分がクルセイドに背を向けさせるのをためらわせる。
だが、967はあくまで冷静で、冷徹だった。

「ユーノ!戻るんだ!」

「……っ!……了解!」

次々に墜ちていく水色の翼を、唇をかみしめながら見ていたユーノだったが、刹那やアレルヤとともに仕方なくその場を後にした。





その後、ガンダムを逃がし終えたカタロンは撤退し、アロウズも深追いは不要とみなしこの海域から撤退したのだった。






オマーン湾 孤島

アロウズは撤退したものの、プトレマイオスの被害は甚大だった。
下部コンテナに会いていた穴は予想以上に大きく、こことは別の場所でイアンとユーノ、そして沙慈が急ピッチで修復をしているが、何とか航行できるようにするのがやっとだろう。
しかし、ゆっくりもしていられない。
アロウズがいまだに中東付近にとどまり、虎視耽々と自分たちを狙っているかもしれないのだ。

そんな中、刹那とマリナはカタロンから去り際に受け取った暗号通信に従ってこの島にきていた。
二人の目の前には水色でカラーリングされたイナクトとヘリオンが夕陽を浴びながらしゃんと立っている。
しかし、よく見るとどちらも煤で汚れ、満足に装甲を変えることもままならないせいか細かな傷の上にさらに継ぎ接ぎのような箇所もいくつかある。
こんな危険な状態で、ここに二人を、否、マリナを呼びつけたのだからよほどの理由があるに違いない。

「誰なのかしら……私に会いたい人って……」

マリナの疑問に答えるように、欧州系の男に付き添われた一人の女性が武装した男たちの間から歩みでる。

(!)

その姿に、刹那は見覚えがあった。
四年前、アザディスタンの王宮でマリナのそばに立っていた彼女だ。

「シーリン…!?シーリン・バフティヤール!!?」

「久しぶりね、マリナ・イスマイール。」

久々の友人との再会にニコリともせずにシーリン・バフティヤールは驚くマリナの前に立つ。

「どうしてあなたが!!?」

「……私は今、カタロンの構成員……地球連邦のやり方に異議を唱える女よ。」

「カタロンに……!!?どうして!!?」

「……あなたが、その身を囚われることになっても連邦に参加しなかったのと同じ理由よ。」

そう言うとシーリンは長細いメモリースティックを刹那に投げ渡す。

「立ち話もなんだからここにきてちょうだい。私たちの拠点の一つよ。」

「……いいのか?」

「良いも悪いも、あなたは来る気なんでしょ?そして、あなたの仲間たちも。」

ぞろぞろと構成員が帰っていく中、シーリンはようやく笑顔を見せる。

「ありがとう、姫様を助けてくれて。向こうに来るまで、マリナのことをお願いね。」

シーリンはすぐに元の厳しい顔つきに戻ると人の波の中に消えていく。

「シーリン!!」

マリナはあらんかぎりの力で叫んだが、シーリンの返事が彼女に帰ってくることはなかった。






プトレマイオスⅡ 下部コンテナ

「お~……いたたた……フェルト、目は駄目だよ、目は……」

ハロと修復作業を再開したユーノだったが、さきほどのスメラギの衣装披露の際、ユーノだけがフェルトの目つぶしにもだえ苦しむことになった。
明らかにイアンの方がいやらしい目で見ていたにもかかわらずだ。

「僕、フェルトに何か嫌われるようなことしたかなぁ?」

痛む目元を押さえながら手を動かすユーノ。
と、その時ふと何かを思い出したのか、手を後ろにまわして髪を束ねていた翠のリボンを外す。

「……そろそろ、話さないとね。」

みんな戻ってきたし、スメラギも元の調子を取り戻した。
これ以上先延ばしにする必要はないだろう。

「……できれば、まともな反応をしてくれる人が一人くらいいてくれると嬉しいけど、あの面子にそれを期待しても無理かもなぁ……」

ユーノは初めて自分(喋るフェレット)に会った時のなのはのリアクションを思い返しながら応急処置で済ませた箇所の修理を始めるのだった。






ミッドチルダ ティアナとスバルの部屋

「それじゃあ、よろしくお願いします。」

『わかった。でも、どうしたの?急にOKを出すなんて?』

「いえ……少し考える時間が欲しかっただけですから。」

『?そう、それならいいけど。それじゃ、お休み。』

フェイトの顔が目の前から消えたことを確認したティアナはすでにベッドにもぐりこんでいた相棒を起こさないように静かに息を吐きだす。
今日の昼ごろ、匿名でティアナのもとにある一通の手紙が届けられた。
そこに書かれていたのはこれ以上ないほど簡潔な内容。

「ウェンディ・ナカジマとエリオ・モンディアルを取り戻したいのならフェイト・T・ハラオウンのもとへ行け、か……」

フェイトやクロノがこんな手紙を出すわけがないし、妖しい匂いがプンプンだが、あえて乗ってやることにした。
スバルに相談しようかとも思ったが、彼女には彼女の夢がある。
自分のわがままでそれを潰すようなことはしたくない。

「……ウェンディ、エリオ、待ってなさい。すぐに助けてあげるから。」

彼女が今ここにはいない友人たちへ立てた誓い。
そんな彼女の姿を、夜空に輝く月だけが優しく見守っていた。






翠の守護者の秘密
天使たちはそれを知った時、何を思うのか……







あとがき・・・・・・・・・・・という名の私事

ロ「というわけで、アレルヤの過去暴露&ブシドー本格参戦な第三話でした。それにしても平成ガンダム(G、W、X)はやっぱ見てて懐かしいね。久々に『月は出ているか!?』ってジャミル艦長と一緒に言っちゃたよ(痛)。」

ツン2「ホントに私事ね。ていうか、Wはなのはさんのお兄さんが……」

ロ「ナニイッテルノカナ?ティアナサン?」

ツン2「……なんでもない。」

ユ「そういえば、君が最初に見たガンダムって確かWのデスサイズじゃなかったっけ?」

ロ「あれは幼い日の俺にとってはいろいろとセンセーショナルだったな。なにせ、テレビをつけた瞬間鎌を振りかぶってバッサリ斬ってる画だったからな……しかも、格好が格好だから最初見たとき『実は敵なんじゃ!!?』なんてことも考えた。」

弟「乗ってるやつはあの面子の中の(比較的)常識人だったけどな。そう言えば、Gの方が放送開始が先なのになんでWから見てたんだ?」

ロ「普通にやってること知らんかった。Gは確かビデオと再放送で見てたのを覚えてるな。あっちはさらにセンセーショナル……つうより、ガンダムと認められなかった。ていうかいまだに少し抵抗がある……」

ツン2「武装とか参考にしといていまさら何言ってんのよ。」

ロ「そういうことをここで言うな!!まだ出してないんだからあれは!!」

弟「そう言えば、ソリッドやクルセイド、オリジナル機体のほとんどはG、W、Xから何かしらのインスピレーションをもらってるんだったな。」

ロ「ソリッドは何とかそうならないように一人で妄想を膨らませたんだけど、いま登場した時の説明を読み返してみるとかなり影響を受けてるな。なんとか、00っぽい機体にしたかったんだけど……」

ユ「XのDVD一気に見てしばらく後にオリ機体の構想を練ってたからね……もう少し間をおけばよかったのに。」

弟「まあ、過ぎたことはしょうがないだろ。クルセイドもDX大好きなロビンが考えたので丸々パクってきてる所がホントに些細な場所だけど一か所あるからな。暇な人はここじゃないかとあたりをつけてこっそりと嘲笑してやってください。」

ロ「良いじゃんDX!!ガロードの声が某刑事だっていうやつは俺が許さん!!ガロードは恋愛にはもうちょい積極的だ!!!!」

ツン2「聞いてないってのそんなこと。」

ユ「それじゃ、どうでもいい話はここら辺にして次回予告に行こうか。」

ツン2「カタロンの拠点へと向かうことになったソレスタルビーイング。」

弟「しかし、ある人物の行動が原因でアロウズからの襲撃を受けてしまうカタロン!!」

ユ「そして、戦いとは言えない虐殺を目にしたエリオとウェンディは怒りにまかせて戦場の中へ飛び出していく!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 4.熱砂の攻防
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/25 21:17
ミッドチルダ 某部隊

その日、ヴィータは昨日からいた部隊の指揮官に呼び出されていた。
はやてたちと袂を別ったのち、いろいろな部隊を渡り歩いていたヴィータだったが、呼ばれて向かった部屋には指揮官はおらず、見知った顔が堅い面持ちで待っていた。

「で、あたしに一体何の用だよ、クロノ。」

「ここでは一応階級で呼んでほしいものだな、ヴィータ三等空尉。それと、出来ればその不機嫌な顔で睨むのをやめてくれ。」

「睨んでねーです。もとからこういう顔なもんで。」

ヴィータの返答に嘆息しながらも、クロノ・ハラオウンは旧知の仲の彼女に今回の要件を伝える。

「ヴィータ三等空尉、本日づけでクラウディアへの転属を命ずる。なお、拒否することは認めない。」

口を開きかけていたヴィータはクロノのその一言で不機嫌な仏頂面をさらにひどくしながら腕を組む。

「君には同じくクラウディアに配属になるある局員の教導を担当してもらいたい。」

「ある局員?」

怪訝そうな顔をするヴィータだったが、そのある局員の名前を聞いた瞬間に表情が一変した。

「ティアナ・ランスター……君が機動六課にいた時の教え子だ。」

「ティアナが……クラウディアに!?」

「それだけじゃない。彼女には新兵器のテストパイロットもしてもらう……と言っても、これは上からのお達しなわけだが。」

クロノの苦い顔を見てヴィータも苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「ハッ!お偉いクロノ提督の艦にも遂にMSがやってくるってわけだ。おめでとうさん。」

「そう言ってくれるな……僕だって好きで許可したわけじゃない。」

ヴィータからの嫌味に唸るように言葉を絞り出したクロノだったが、その一方でMSの性能を認めてもいた。
ミッドで艦隊戦と言えば魔導砲と魔導士による砲撃、ならびに相手の艦へ乗り込んでの白兵戦と相場は決まっていたが、大きな戦艦と違って小回りが利くMSがあれば艦の一隻や二隻を墜とすことなど朝飯前だろう。

「今クラウディアはMS用のハンガーを取り付けているところだ。それが済み次第すぐに各世界の治安維持にあたる。」

「治安維持?弾圧の間違いじゃないのか?」

「……反論はしない。だが、それでも僕は僕の信じるもののために出来る限りのことをするだけだ。」

「出来る限りね……それの結果があれじゃ世話ねぇんだよ…!!」

ミシミシという音が聞こえてきそうなほど拳を堅く握りしめるヴィータの脳裏にはある記事の一面が浮かんでいた。
当然、クロノもその記事を読んでいる。

「……すまん。違うと言ったのだが、それでも向こうに有利な証拠ばかりがそろっていて、何もできなかった。」

「何もできなかっただと!!?とっととユーノの身柄をこっちで押さえてりゃこんなことにはならなかったんだよ!!!!予言のことも何かもこそこそ進めといてこのざまだろ!!!!なのはだって…」

何かを言いかけて、ヴィータは辛そうに目を背けて黙る。
そして、クロノに背を向けると扉へと歩いていく。

「……命令には従ってやる。けど、あたしはあんたらのことを許したわけじゃない。」

「…了解した。」

黙って部屋を出ていくヴィータ。
しかし、彼女の心の中で燃え盛る怒りの炎は収まることを知らなかった。
そして、その炎は彼女が守りたかったものへと向けられることになる。





地球 アロウズ司令部

「ようやく決心したか、ビリー。」

「お世話になります、おじさん。」

「ここでは司令と呼びたまえ。」

「失礼しました。」と訂正の言葉を述べたビリー・カタギリはアロウズの最高司令官であるホーマー・カタギリからの言葉を待つ。
もっとも、彼が何を言うのかをわかっていてビリーはここに来たのだが。

「君には亡きエイフマン教授のあとをついで、新型のMSの開発を担当してもらう。」

「了解しました。」

ビリーは軽く頭を下げるが、その様子にホーマーは少々違和感を覚えていた。

「どうかしたか?」

「いえ。僕はいたって“普通”ですよ。」

「そうか…それならいいんだ。」

「では、失礼します。」

廊下へ出たビリーはつかつかと自分に与えられた研究室へと歩を進める。
そう、これが普通なのだ。
つい先日までの日々が夢であって、ただ現実に引き戻されただけなのだ。
あの忌々しい事実によって。

(クジョウ……君はずっと前から僕のことを利用していたんだね……そして踏みにじったんだ、僕の気持ちを……!!)

この前までは取り戻そうと必死だった彼女の笑顔も、今のビリーにとっては怒りの対象でしかない。
もし、今あの笑顔を誰かに向けているとしたら……
そう思うだけで、ビリーに芽生えた殺意は彼の心を黒で塗りつぶしていった。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 4.熱砂の攻防

ルブアルハリ砂漠

砂丘が幾重にも連なった砂漠を三機のガンダムと一機のVTOLは目印もなしに、しかし、真っ直ぐに向かうべき場所へと突き進んでいた。

「こんな場所に基地があるとは……よく連邦に見つからないものだ。」

輸送機を操るティエリアが呆れ半分、感心半分といった様子で呟いていると、耳ざとく聞きつけたロックオンがモニターの向こうで解説を始める。
しかし、隣に座る刹那は別のことで頭がいっぱいだった。
いや、メンバー全員、そして沙慈とマリナもそうだろう。
なにせ、先行しているクルセイドに乗るユーノやその連れたちが、この世界の人間ではないというのだから。






昨日 プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

「ね、ねえ、本当にいいの、ユーノ?」

ユーノに部屋に招かれ、とある頼みごとをされたフェルトはユーノを前にしていまだに戸惑っていた。
彼女の利き手には鈍く光る鋏が握られ、その前には美しい金色の滝がもどかしそうに揺れている。

「うん。もう別にこだわる理由はないし、いい加減邪魔だと思ってたところだったから。」

「でも、こんなにきれいなのに勿体ないよ。」

今は亡きクリスティナも間違いなく同じことを言っていただろうが、それでもユーノは頑として聞かなかった。

「早く。みんなが待ってるよ。」

「……わかった。」

ようやく決心がついたフェルトはゆっくりと、しかし大胆に金色の滝の中ほどへ銀色の刃を滑り込ませる。
そして、成層圏を狙い撃つ男直伝の手さばきで鋏を動かしていく。
切り落とされた金の糸たちは、自分の主だった者の周りの床一面を金色のカーペットへと変えていった。






ブリーフィングルーム

その日、急の申し出にもかかわらず、客人四人を含む全員がブリーフィングルームに集まっていた。
誰もが自分の用事をほっぽり出してきたのだが、誰もそのことを責められるはずがない。
なにせ、彼ら全員が知りたかったことをようやく知ることができるのだから。

「本当にやっとだな。結局、クリスとリヒティからは聞けずじまいだったからな。」

「しかし、あんたら長い付き合いだったんだろ?なんであいつのこと調べようと思わなかったわけ?」

ラッセの独り言にロックオンが混ぜ返すが、ラッセの代わりにスメラギが答える。

「調べようとはしたわ。でも、ユーノに関するデータは何も見つからなかった。まったく、あの子がやって来てからしばらくは眠れない日が続いたわ。」

苦笑しながらも、楽しそうに話すスメラギ。
結局、ユーノがなんであろうと彼女たちにとって彼が仲間であることに変わりはないのだ。
そんなスメラギ達の反応をどこかさびしげに見ていたロックオンだったが、その時ようやく主賓が到着した。

「ごめんごめん、待たせちゃったね。」

普段なら真っ先にかみつくティエリアも、ポーカーフェイスを崩さない刹那も、常にいざこざの間に入って緩衝材の役割を果たすアレルヤも、誰もがブリーフィングルームに入ってきたユーノの姿に驚かされていた。
昨日まで駆けていたメガネの代わりにサングラスをかけ、薬指につけていたピンクの宝石の代わりに、左手首には萌黄色のリボンを、右手首には赤いリボンを腕輪のように巻きつけている。
そして何より、彼の最大のトレードマークとも言える長かった髪は肩のところできれいに切りそろえられ、首にかけていた青い宝石がもう一個追加されている。

「おいおい、いきなりイメチェンかよ?失恋でもしたか?」

ただ一人、対して驚かなかったロックオンだけが軽口を叩くが、彼もすぐに黙ることになった。
なぜなら、

「失恋ね……どっちかっていうと、僕が振った側なんだけど、向こうもいい加減愛想を尽かしちゃってるだろうからそれで正しいのかな?」

「……マジでかよ。」

ユーノの苦笑いと周りからの針のような視線にさらされ、ロックオンは自分の不用意さを後悔しながら沈黙する。
そして、その沈黙に後押しされるようにユーノの後ろからフェルトがおずおずと顔を出す。

「あの……ユーノにどうしても切ってほしいって言われて…」

フェルトの小さな声にティエリアは大きなため息をつく。

「まったく……君は人を驚かせるのが趣味なのか?」

「これでそんなに驚くなんて、僕としても想定外もいいところだよ。けど、この分なら僕の話しを聞いて、ちゃんとしたリアクションを返してくれそうだね。例えば……こういうのを見たときとか。」

「!!?」

突然の光に思わず目をつぶってしまったティエリアだったが、目を開けたときには先程のイメチェンで受けたものよりもさらに大きなショックが待っていた。

「ユーノは……?」

「お~い、こっちこっち。」

「?」

いなくなったはずのユーノの声が足元から聞こえてくる。
全員がゆっくりと視線を下ろし、声の主を確認するが、

「……フェレット?」

沙慈の言うとおり、そこにいたのは金色の毛並みをした一匹のフェレットだった。
だが、いち早く事態を飲み込めたティエリアとフェルトは顔を真っ青に、続いて真っ赤へとめまぐるしく変化させる。

「そんな顔しないでよティエリア。あの時みたいな嬉しそうな顔を見せてほしいな♪」

フェレットの姿になったユーノの言葉にティエリアは石像のように固まったまま背中からばったりと倒れた。
それが合図となり、ブリーフィングルームはてんやわんやの大騒ぎとなった。



数分後

「ごめん……会う人会う人まともな反応を返してくれる人が少なくて……」

「僕たちは君の友人たちより常識をわきまえているつもりだ。」

「……いい度胸してるよ。ホント。」

アリサあたりが聞いたら発狂するぐらい怒り狂うのではないかと思える発言をこともなげに言ってみせるティエリアがいつもより頼もしく思える。

「それより、いまだに信じられないうえに理解できないことが山のようにあるんだけどな。」

「そうですか?ミレイナは魔女っ子に憧れてたから人生のハッピーニュースのトップ3に来るくらいワクワクしてるです!」

ラッセを代表とした年長者組はいまだに魔法文化や異世界という事実を受け入れられずにいたが、ミレイナを筆頭とする若年層組は予定通り(?)あっさりと納得してみせた。
それどころか、ミレイナに至っては自分も魔法を使えるのではという期待に胸を膨らませているようだ。

「あの、さっきもユーノさんが言ってたけど、リンカーコアが無いとどんなに頑張っても魔法は使えないですよ?」

「ブ~!使える者の余裕ですか?でもでも、ミレイナだって魔法で大人な感じに変身したり、影で悪者から街の平和を守ったり、白馬に乗った王子様に告白されたりしたいです!!」

「なんか、どれも完全にミレイナの願望っスね……。」

「まあ、どうしても使いたいって言うんなら……」

ユーノは言葉をそこで途切らせ、意識を集中させる。

(この声が聞こえないとね。)

「「「!!?」」」

念話のチャンネルをフルオープン状態にして、意識をばら撒くようにあたりかまわずに語りかけると、反応を示した人間が三人いた。

「今のは…」

「あの時、聞いた…」

「ユーノの声…」

「リンカーコアを持っているのは刹那、ティエリアにフェルトか……ま、こっちで魔法を使えたってあんまり意味はないけどね。」

三人の反応を楽しんでいたユーノだったが、ここで話を終わりにするわけにもいかない。
まだ、さわりの部分しか話していないのだから。

「話を戻すけど、僕は時空管理局っていう組織に所属していた。エリオとウェンディもね。」

「しかし、随分と傲慢な組織だな。世界を管理してくれなんて、俺は頼んだ覚えはないぜ。」

「ロックオン、そんな言い方をしなくても…」

「まったくもってその通りさ。」

ロックオンをたしなめていたアレルヤはユーノの答えに呆気にとられる。

「頼まれてもいないことを押しつけがましくやってやるなんて抜かして、ハリボテの正義にすがりついて平然と弱者に犠牲を強いる、最低最悪の組織さ。でも……」

ユーノの顔に悲しげな笑みが浮かぶ。

「それでも、僕は信じたかったんだ。僕みたいな人間がこれ以上生まれないような世界を作れる、ってね。」

「けど、お前さんは今ここにいる。」

イアンの言葉にユーノは静かにうなずく。

「……そうさ。だから、僕は戦う道を選んだ。世界を変える手段を戦いにしか求められなかった。」

「それじゃ、あなたがそうなった理由を一からきっちりと話してもらえるかしら?もちろん、個人的に話したくないと思うことは無理に話さなくてもいいけど。」

「お気づかいどうも、スメラギさん。でも、全部話さないといろいろと途中で不都合が出てきますから。洗いざらい全部喋りますよ。」



そして、ユーノは全てを打ち明けた。
物心がつく前に故郷を戦火で焼かれたこと。
自分を本当の息子のように育ててくれた義父を管理局に殺されたこと。
誰にも心を開けなかった日々のこと。
なのはたちと出会い、多くの事件を通して人間らしい感情を少しずつ取り戻せしていったこと。
自分が翠玉人だと知った時のこと。
そして、こちら側に飛ばされたことと、ミッドチルダに戻ってからの出来事。

話が終わった時、真っ先に口をきいたのは刹那だった。

「ユーノ、管理局は子供を俺のように、戦いの道具にしているのか?」

「セイエイさん、それは……」

エリオが何かを言いかけるが、ユーノによってそれを止められる。

「あくまで個人の意思によるけど、そういう側面があるのは否めないね。けど、少なくとも僕の知る範囲では洗脳をしたり、嫌がる子を戦わせることはしていなかった。」

「……そうか。」

刹那は納得していないようだったが、今はこれ以上追及するつもりはないようだ。
そして、もう一人の当事者と言ってもさしつかえのないエリオは刹那以上に不満そうだった。
エリオからしてみればフェイトやキャロのためにと思ってしてきたことを否定された気分なのだろうが、刹那にも譲れない思いはある。

「……なんですか?」

刹那と目があったエリオは睨み返すように長身の刹那の顔を見上げる。

「……別に。ただ、お前の保護者はなぜ止めなかったのかと思ってな。」

「どういう意味ですか……?」

低い声で問いかけるエリオだったが、刹那は動じない。
周りにいるユーノ達の目にも、二人の間を流れる空気が険悪なものになっていくのがわかるほど二人の気はピリピリと立っていく。

「子供を戦わせることになんの疑問も持たない人間がなぜ平然と正義をかかげているのか俺には理解できない。」

「別にあなたにミッドやフェイトさんたちのことを理解してもらおうとは思っていませんよ。」

「……歪んでいるな。」

「え?」

「お前も……そしてお前を戦場へと送りだしたそのフェイトというやつも、俺には何もかも歪んでいるように思える。」

「ッッッ!!!!」

その瞬間、ブリーフィングルームに小さな落雷が発生し、それを纏ったエリオがストラーダの穂先を刹那の顔へと向けている。

「フェイトさんを悪く言うな!!」

エリオの行動に動揺しながらも、唯一彼を止めることができるユーノとウェンディはバインドでエリオの動きを止めようとするが、刹那はそれを止める。
それどころか、刹那は切っ先を向けられた時から今まで微動だにしない。

「あなたに僕やキャロの苦しみを理解することなんてできないでしょうね!!でも、フェイトさんは違う!!フェイトさんは僕を苦しみから救ってくれた!!」

「そして、戦場へと向かうお前を止めなかった。」

「違う!!それは僕の意思だ!!」

「ならば、そのフェイトのために戦うことだけが、お前が今ここで生きている理由なのか?」

「そうは言っていない!!僕は…」

そこでエリオの言葉が途切れる。
この時になって、エリオは自分の戦いの意味を初めて自分自身に問いかけていた。
そして、その答えは刹那の言うとおりだった。

「僕は……僕がここで生きている理由は……」

フェイトやキャロを守ること。
確かにそれはエリオに戦いを決意させたものではあるかもしれないが、存在意義ではないはずだ。
なのに、それ以外に自分の生の意味を見いだせない。
本当はもっと別の理由があったはずなのに、それが思い出せない。

「……俺も、かつては神のために戦うことだけが生きる理由だった。そのためなら、この命を投げ出してもいいと考えていた。」

刹那はカタカタと震えるストラーダの刃を握りしめる。
切れた手のひらから血がポタポタとこぼれ、電流に焼かれた皮膚が生臭い匂いを放つが、それでも刹那は手を離さない。

「お前が誰かを守るために戦いたいという思いを否定するつもりはない。だが、お前はそのために命の奪い合いをするのか?そして、そのためだけに生きていくのか?かつての俺のような、破壊することしかできない人間になりたいのか?」

すでにストラーダの電撃は消え、エリオも柄を持っているのでやっとの状態になるが、それでも刹那は刃を握ったままエリオの怯えが混じった瞳をじっと見つめている。
最初は驚きや戸惑いで騒いでいた周囲も沈痛な面持ちで二人の成り行きを見守っている。

「お前はまだ間に合う。だから、お前は俺のようにはなるな。戦いしか選べないような、そんな人間にはならないでくれ。」







現在 プトレマイオスⅡ コンテナ

浸水の止まったコンテナで、エリオは一心不乱にストラーダを振るっていた。
だが、こんなことをしたところで答えが出るわけではない。
本当は何をしたいのか、そのためにはどうすればいいのか。
それがわからない。
そんなエリオの目に、ふとすぐそばに立っていたダブルオーが飛び込んでくる。

「刹那・F・セイエイ……」

壮絶な瞳だった。
悲しみ、怒り、憎悪、後悔。
本当の戦争を味わったものにしかわからないものを彼は見てきたのだろう。
だからこそ知りたい。
彼の見てきたもの、そして、彼が見ているものを。





ルブアルハリ砂漠

刹那はあの時の痛みとエリオの顔が忘れられないでいた。
純粋で、正義感にあふれた瞳をしていた。
まぶしくて目をそらしたくなるほど、輝いていた。

(エリオのことを考えてるのかい?)

(……これで話しかけるのはやめろと言っているだろう。)

いきなり頭の中に話しかけてきたユーノに刹那は顔をしかめる。
魔法の適性があると言われた時は特に何とも思わなかったが、こうして話しかけられるのはあまり気分がいいものではない。

(慣れれば便利だよ。回線を限定すれば周りには聞かれずに済むしね。)

とはいっても、いきなり順応しろと言われてもおいそれとできることでもない。
しかし、こんな話はユーノとの間だけで、しかも誰にも聞かれないようにしたいのも確かだ。

(……何があった。あそこまで執着するからには何か理由があるはずだ。)

(それは、僕の口からは言えない。けど、いつかエリオが自分から話してくれるはずだよ。君とエリオは似ているからね。)

(そうか?)

(うん。君もエリオも、良くも悪くも真っすぐだから……っと、どうやら到着みたいだ。この話はまたあとでね。)

ユーノからの念話が聞こえなくなった刹那は改めてエリオのことを思う。
向こうに行っていたというフォンたちはメンバー候補としてエリオとウェンディをこちらに連れてくるつもりだったらしいが、刹那、そしてユーノもそのつもりはさらさらない。
今のところこちらに戻ってきているフォンとコンタクトをとり、どうにか向こう側に戻す方向で決定している。
しているのだが、当の二人は口には出さないものの、それを不満に思っているようだ。
それに、

(異世界製の疑似太陽炉搭載型MS……もし、あちらの世界でそれが広まっていたら……)

あの二人がそれを用いた争いに巻き込まれる可能性は十分にある。
いや、それだけではすまないかもしれない。

「……何事もなければいいが。」

刹那は一抹の不安を抱えながら、ハッチの開いた格納庫へとVTOLを滑り込ませていった。







カタロン拠点

プトレマイオスのコンテナと違い、うっすらと埃が漂うカタロンの格納庫の中にはフラッグなどの旧式MSがずらりと並んでいるのだが、カタロンの構成員の関心は完全に三機のガンダムに向けられてしまっている。
もっとも、これはカタロンだけに限った話ではない。
中東でのガンダムの認識は現在の世界共通のものとは違っている。
かつてアザディスタンにおいて宗教的指導者を助け出して不要な争いを止めた英雄の機体。
当時から世界に見捨てられていた中東で暮らす者にとって、ガンダムの存在は希望の象徴であった。

そんな熱烈な歓迎を受けた一同だったが、刹那、スメラギ、そしてマリナは別室に案内されていった。
沙慈も刹那に連れられて一緒に行ったところをみるとここで彼と別れることになりそうだ。

「けど、それが沙慈のためか……」

動物園の珍獣のような扱いから解放されたユーノはクルセイドの足に寄りかかってホッとしながらも、もう沙慈と話をする機会が失われるのかと思うと素直に喜べない。
もう、昔の関係に戻ることはないだとわかっていても、ちゃんとお互いの間で決着をつけておきたかったのに。

「……?」

視線を感じて顔を上げると、マリナと、彼女の後ろに隠れている子供がそこにいた。

「話は終わったんですか?」

「刹那たちはまだシーリンたちといるわ。」

「それで、その子たちの相手を頼まれたってわけですか。」

「ええ。それで、この子たちがどうしてもガンダムを見たいって……」

「ああ……」

納得した。
この子たちはクルセイドをじっくり見たいのだろうが、おそらく自分に気を許していないのだろう。
マリナもそのことが分かっているからこんな困ったような笑い方をしているのだ。
ユーノはヘルメットをとると、マリナのズボンにしがみついていた男の子の目線まで屈む。

「別に見るくらいなら構わないよ。なんなら、触ってみる?」

「ホント!?」

パアッと顔を輝かせると男の子はクルセイドの足をぺたぺたと触って回る。
しかし、一分もたたないうちにもうあきてしまい、今度はユーノに興味を示す。

「お兄ちゃんも一緒に遊ぼ!!」

「え…僕は……」

マリナの方に視線を向けるが、彼女は微笑んでいるだけだ。
しかし、ユーノが彼女たちの期待には応えることはなかった。

「ごめんね。お兄ちゃんは、やらなきゃいけないことがあるから……」

「え~~……」

男の子ががっくりと肩を落とすが、それ以上にマリナの顔は暗い。
だが、必要以上にこの子たちの住む世界に足を踏み込んではいけない。
そう思いながらマリナたちに背を向けるユーノの前にアレルヤが現れる。

「いいのかい?」

「わかってるだろ?あそこは僕のいていい場所じゃない。」

きっぱりと一片の迷いもなくそう言ったユーノに、アレルヤはどう声をかけていいかわからず黙って見送るしかなかった。







ペルシア湾 アロウズ空母

穏やかに波が唄う海の上、ピーリスはセルゲイにアロウズ、そして新たに出現したガンダムについての情報を伝えていた。
そして、思いもよらない知らせを聞かされる。

「大佐が出動なさっているのですか?」

『ああ、ガンダム探索のための部隊を任された。よもや正規軍がアロウズの小間使いにされようとは…』

「そうでしたか…」

別に彼女が悪いわけではないのだが、気丈なセルゲイが珍しくこぼした愚痴に申し訳なさを感じていたピーリスだったが、セルゲイにはそれよりも気になることがあった。

『それより、あれは元気かね?』

「アンドレイ少尉のことですか?任務を忠実に果たしていますが…」

『……私への当てつけだな。』

「え?」

画面の向こうのセルゲイの笑顔が曇る。

『あれは私を怨んでいる。』

「どういうことですか?」

『私は軍人であっても、人の親ではなかったということだ。』

「大佐……」

寂しげに笑うセルゲイ。
そんなことはないと強く言いたかったが、彼の笑顔がそれを押しとどめさせる。
だが、それでも自分に人らしい生き方を教えてくれた人が、親でないなど言ってほしくはない。
悲しい顔をしてほしくない。
だから、

「大佐、あの件、お受けしようかと思います。」

『本当かね!?』

思わず身を乗り出すセルゲイに、ピーリスは柔らかに笑いかける。

「詳しくは、お会いしたときに。」

通信を終えたピーリスは空を見上げる。
白い雲が流れていくこの景色が、波の声が自分を祝福してくれているような気がする。

「私は幸せ者だ……」

ピーリスは今この瞬間に感じている幸せが永遠に続くものだと疑っていなかった。
この数時間後までは。






カタロン拠点

「マリナ様、これも!!」

腕いっぱいに積み木を抱えてマリナのそばまでやってきた男の子はマリナの前にそれをぶちまける。
しかし、マリナの目には一人の子供の姿が目に写っていた。

「ちょっと待ってね…」

そう言うと、マリナは隅に一人で積み木をいじっていた子供の方を向く。

「こっちに来ないの?」

「…………………」

マリナの言葉に一瞥するが、返事もせずに俯くと再び一人で積み木を手にとる。
だが、マリナは彼の前まで進むとそこに座り、手を差し出す。

「ね?一緒に遊びましょ?」

「…………………」

初めは抵抗を示していたが、マリナの手をとったその子はその温かさに導かれるようにマリナの上での中へと飛び込んでいく。
マリナもまた、それを優しく受け止め、優しく抱き寄せる。



その様子を見つめながら、刹那は部屋の外で母の面影を思い出していた。
そして、引き金を引いたあの日のことも。

「あの子供たちも君たちの犠牲者だ。君たちが変えてしまった世界の。」

戻ろうとした時、沙慈に声をかけられ刹那は足を止める。

「……ああ。そうだな。」

刹那のあまりにもあっさりとした返答に沙慈は唇をかみしめる。

「何も感じないのか!!?」

「感じてはいるさ。俺はあの中に戻ることはできない。」

違う。
自分の求めている答えはそんなものじゃない。

「それがわかっていて、なぜ戦うんだ!!?」

「理由があるからだ。わかってもらおうとは思わない。恨んでくれて構わない。」

そう言い残して自分のもとを去っていく刹那を、沙慈はずっと睨みつけていた。





VTOL

「アザディスタンに彼女を送り届ける?」

ユーノは刹那の正気を疑うように問いかける。

「本当にいいのですか?」

スメラギが念を押すが、マリナはしっかりとうなずく。

「無理を言ってすみません。でも…」

マリナの言葉にスメラギはあごに手を当て思案を巡らせる。
スメラギとしても、マリナの意思は尊重したいがリスクが大きすぎる。
しかし、刹那がいてくれればいざという時もなんとかしてくれるだろう。

「ガンダムは使えないわよ。万が一見つかれば、アザディスタンに危害が及ぶ可能性があるわ。」

「この機体を使わせてもらう。みんなはガンダムでトレミーへ。」

「わかったわ。」

各々が順次席を立っていく中、最後に立ちあがったティエリアは刹那に近づいて皮肉のこもった笑いを見せる。

「なんなら、帰ってこなくても構わない。」

「馬鹿を言うな…」

入口付近で立っていた人間がポカンとする中、刹那の薄いリアクションを見届けたティエリアはVTOLをあとにする。

「この四年間で何があったんだい?君が冗談を言うなんて。」

ティエリアに追いついたアレルヤは先程の真意を探る。
本気で言ったとは思えないが、冗談だとしたらこの四年でティエリアも大きな変化を遂げたのだろう。

「……本気で言ったさ。」

「え?」

真剣な声のティエリアに間の抜けた返事をするアレルヤ。
しかし、ティエリアはすぐにニヒルな笑みで振り返り、

「フッ……冗談だよ。」

と、あっさり本気ではないことを示してみせた。
すたすたと去っていくティエリアの考えがわからず、後ろにいたスメラギとユーノに「わかる?」というように視線を向けるが、二人もティエリアの考えがさっぱり見えなかった。






カタロン拠点

カタロンに保護されることになった沙慈だったが、さっきの刹那といい、ここの人間といい、刹那に助けられてからというものの沙慈には受け入れがたいものばかりで溢れかえっていた。
もう、我慢の限界だ。

(ソレスタルビーイングもカタロンも戦いを引き起こすやつらじゃないか!!そんなところにいられるか!!)

少しでも早くここを離れたい沙慈は自分でも気付かぬうちに早足になっていた。
それくらい、自分にとっての日常に帰りたいと強く願っていた。
裏口から外に出た沙慈は物陰からあたりの様子をうかがう。
一面灼熱の太陽が照りつける砂漠は、人間一人くらいは簡単に干物にできそうなくらい過酷な環境だ。
ここを徒歩で横断するのは賢明ではないだろう。

(どうしよう……)

「何をしている!」

「!」

横から声をかけられた沙慈はびくりと体を硬直させる。
銃を持った男が疑いの目で沙慈を睨んでいた。

「いえ……あの…」

上手い答えが見つからずしどろもどろする沙慈だったが、彼の顔を確認した男は先程の厳しい目つきとは違い友好的な態度になる。

「おお、あんたソレスタルビーイングの!」

違います。
そう言おうとした沙慈だったが、これはチャンスだ。

「街に仲間がいて、連絡を…」

「おお、そうか。街までは遠い。車を使いな。」

男はズボンのポケットからキーをとりだして沙慈に投げ渡す。

「あ……どうも…」

ぎこちない笑みでそれを受け取った沙慈は車の場所まで急ぐ。

(良い人だったな……)

勘違いとはいえ、疑いもせずに見ず知らずの自分に力を貸してくれた名も知らないカタロンの構成員。
しかし、彼もまた戦いを引き起こす存在、沙慈にとっては受け入れられない存在なのだ。
そう自分に言い聞かせた沙慈は車のエンジンをスタートさせて砂漠へと出ていった。

しかし、世の中そんなに甘くはない。
すぐに自分のうかつさを思い知らされることになった。

「こいつで越えられかな……」

水もない、地図どころかコンパスもない。
照りつける太陽は布で全身を隠していても容赦なく体温を上げていく。

(……戻った方が賢明かな?)

そう思い始めた沙慈の前に、巨大な影が出現する。

「連邦軍!?」

助かった。
そう思った沙慈だったが、すぐに宇宙でのことを思い出す。
またカタロンの構成員だと思われたらたまったものじゃない。
しかし向こうもこちらに気付いたのか、戦艦は徐々に高度を下げてくる。

(しかたない……)

またあそこに戻るくらいならこちらの不が幾分かマシだ。
そう結論づけた沙慈の前に、数台の車に乗った連邦軍の兵士が現れる。

「ここで何をしている?」

「あの、僕は…」

「まあいい。話は戻ってからじっくりと聞かせてもらおうか。」

「はい……」

沙慈は連邦軍の兵士に囲まれた状態で、戦艦へと向かった。






戦艦 尋問室

「あんな軽装でなぜ砂漠を走っていた!!」

「っ……!」

机を叩く音、そしてドスの利いた声が沙慈を追い詰めていく。
ここに連れられてきてからまるで一昔前の秘密警察の取り調べのような尋問が続いている。
この調子では、真実を話したところで信じてはもらえないだろう。
沙慈がそう思っていた時、さらに追い討ちがかかる。

「バイオメトリクスがヒットした。こいつはカタロンの構成員だ!」

ドアを開けて入ってきた兵士が指をさしながら蔑みのこもった声を沙慈にぶつける。

「違う!!僕はそんなんじゃない!!」

「そんな嘘が…!」

「うあっ!!」

堅い拳が沙慈の頬にめり込む。

(なんで……僕はただ、あそこから離れたかっただけなのに……!!)

どこにいても変わらない。
あの時、同僚をかばったあの時から自分の運命は決していたのかもしれない。
そんな絶望感が沙慈に押し寄せてきたとき、兵士たちの上官と思しき人物が現れた。

「手荒なマネはよせ!!」

「た、大佐!!」

「下がれ。話は私が聴く。」

部下二人をさがらせ、自分の目の前に座ったその男の顔を沙慈はまじまじと見る。
まず目に飛び込んでくるのは左目から額にかけて大きく伸びた傷だ。
しかし、その威圧感もさることながら、それよりも彼の冷静な眼差しが軍人らしからぬ理知的な印象を持たせる。

「君は戦士ではないな……」

「え……?」

彼の言葉に沙慈は戸惑う。

「長年、軍にいたからわかる。君は戦うものの目をしていない。つまり、カタロンではないということだ。一体、何があったのかな?」

「………………………」

言えない。
言えば、また争いに巻き込まれる。
その恐怖が沙慈の口を固く閉ざしてしまう。
だが、

「……ソレスタルビーイングと行動を共にしていたのではないか?」

「!」

なぜそのことを。
そう言いたげな沙慈の目を見ながら彼は答える。

「データを見ると、君は数週間前までガンダムが現れたプラウドでコロニー開発に従事していた。そして、ガンダムと戦闘があったこの地域に君がいる。なあに、簡単な推理だよ。」

「………僕は。」

怒りに震える手を必死に静めながら沙慈は話す。

「僕は、カタロンでもソレスタルビーイングでもありません……!!」

「わかっている。ただ、話を聞かせてほしいだけだ。悪いようにはしない。」

男は穏やかな声で沙慈を落ち着かせる。

「自己紹介が遅れてしまったな。私は地球連邦軍所属、セルゲイ・スミルノフ大佐だ。よろしく、沙慈・クロスロード君。」

「はい……」

力なく答える沙慈と紳士的にふるまうセルゲイ。
その二人の会話は、廊下で聞き耳を立てていた一人の兵士がしっかりと聞いていた。





ペルシア湾 アロウズ母艦

「こんな作戦が許されてなるものか!!!!」

ミンはその一念で自分の愛機のもとへと歩を進めていた。
オートマトンをキルモードで使用する。
相手がなんであろうと、こんな残虐なことが許されていいはずがない。

「しかし、どうするのですか大尉!?ライセンスがあっても我々が作戦を中止させることなど……」

「先に出撃して説得に当たる!!それしか方法はない!!」

「しかし、上層部が…」

「くどい!!救える命を見捨ててなにが軍人だ!!!!」

部下の心配を一蹴してミンは早足で歩いていく。
だが、

「あなたのアヘッドは整備中で出せませんよ、ミン特務大尉。」

「アンドレイ少尉……!!」

格納庫の扉の前にいたアンドレイは淡々と話す。

「今までの戦闘で摩耗が激しい部分があるそうです。なので、今回の出撃はご遠慮ください。」

ウソだ。
自慢ではないが、ここ数年でまともに攻撃を受けたことはなかったし、整備も欠かさずにしていた。
不具合などあるはずがない。

「リント少佐の差し金か……!!」

あの蛇のような冷徹な笑みが頭の片隅をよぎる。
自分を毛嫌いしている彼ならば、これくらいのことはやるだろう。
まして、ここは完全にアウェーだ。
周りも協力を惜しむはずがない。

「あなたがどう思おうとそれは勝手です。ですが、あなたが我々の作戦の邪魔をしようとしていたのは事実です。」

アンドレイはミン達のすぐ横をすたすたと歩いていく。

「あなたは何もわかっちゃいない。今、平和を守るために必要なのは慈悲じゃない。ときに何かを切り捨ててでも前に進む非情さだ。」

すれ違いざまに聞こえたアンドレイの言葉に、ミンは壁に拳を叩きつけるほどの怒りを覚えていた。







ルブアルハリ砂漠 連邦軍 戦艦

「この馬鹿者が!!!!」

怒号とともに振り下ろされたセルゲイの拳で、彼の部下は床に這いつくばる。
しかし、そんなものでセルゲイの怒りが収まるはずもない。

「誰がアロウズに報告しろと言った!!!」

「しかし、それが私たちの任務です!」

「判断するのは私だ!!」

反抗的な目で自分を見上げる部下に、落胆の色を隠せないセルゲイ。
しかし、それよりも今は彼の安全を確保するのが先だ。

「クロスロード君、今すぐここから脱出するんだ。」

「え!?どういうことですか!!?」

駆け足でやってきたセルゲイの言葉に驚きを隠せない沙慈。
だが、セルゲイにはそんなわずかな時間ですらも惜しかった。

「君の存在をアロウズに知られた。やつらは超法規的部隊だ。私の権限で君をかばいきることはできん。」

「そんな!!」

「急ぐんだ!!」

不平を言おうとした沙慈はセルゲイの怒鳴り声に体をすくめる。
だが、すぐにそれが彼の本心ではないことを理解した。

(震えている……)

セルゲイの手がかすかだが、ぶるぶると震えている。
自分の無力さに、沙慈を救えない自分への怒りで震えていた。

「……わかりました。」

「すまん……」

それだけ言葉を交わすと、沙慈は車が置いてある場所までの道を急ぐ。
そんな中、ふと車のキーを私くれた男の顔が頭をよぎる。

(なんなんだ……クソ!!)

関係ない。
ここから街までの方角はすでに教えてもらっている。
誰がどうなろうと関係ない。

『自分の平和のために犠牲になれと言えるのかい?』

知らない。
そんなの、知ったことじゃない。
戦争なんて、やりたいやつが勝手にやればいい。

沙慈は猛スピードで砂漠に飛び出すと、そのまま街の方へ向かおうとする。
だが、そんな彼の目にあるものが飛び込んでくる。
赤い光を放つ粒が、自分が来た方角へと飛んでいっている。

「あれは……まさか!?」

口の中がどんどん乾いていく中、沙慈は無意識のうちにカタロンの拠点へと車を走らせ始めた。





プトレマイオスⅡ ブリッジ

「王留美より、緊急暗号通信!」

フェルトの声でブリッジに緊張が奔る。

「アロウズのMS隊が、カタロンの施設へ向かっているそうです!」

スメラギは各々が自分の席に着いたのを確認すると、すぐさま結論出す。

「救援に向かうわ!!トレミー、対衛星光学迷彩を張って緊急浮上!ガンダムの発進準備を!」

「了解です!!」




コンテナ

『トレミー、緊急浮上を開始しました。海上まで、あと0043です。』

「急げ……急げってんだよこの野郎……!!」

今のロックオンにはフェルトの声は届いていなかった。
仲間が、今まさに危機にさらされているのにこんなところで足止めを食っている自分が歯がゆい。

「頼む……急いでくれよ!!」





カタロン拠点 内部

プトレマイオスの中以上に、ここは大変な混乱に陥っていた。
そう簡単に見つかるはずのないこの場所へ、今頃になって急に敵部隊が押し寄せてきたのだ。

誰もが基地の中を駆け回っている中、クラウス・グラードはただ一人冷静になろうと努めていた。

「クラウス、うってでよう!!」

「駄目だ!戦力差がありすぎる!」

ここで出ていっても、圧倒的な性能差の前に袋叩きにされるのがオチだ。
ならば、

「守りを固めて、ソレスタルビーイングの救援を待つ!!」

「来てくれるのか!?」

「私は信じる!!そう……信じるんだ!!」

来るかどうかはわからない。
あの時は、協力はできないと言われたのだから、普通は来ないと思うだろう。
だが、それでも信じる。
信じなければ、道は開けない。
と、その時。

「うおっ!!?」

基地全体が大きく揺れ、電灯が激しく点滅を繰り返す。

「爆撃か!!」






外部

中以上に外は大変な状態だった。
崩れた外壁の隙間からMSが出撃するものの、旧式のティエレンやヘリオンでジンクスに対抗できるわけもなく無残にスクラップへと変わっていく。
戦いとすら呼べないような一方的な蹂躙に、アロウズの兵たちは何も感じてなどいないようだが、ただ一人だけ怒りとやるせなさを感じている人間がいた。

「あんな旧式のMSで……!!」

ピーリスは震える指で引き金を引く。
まるでおもちゃのようにあっさりと壊れていく。
だが、あの中には人間が乗っているのだ。
自分が死の恐怖にさらされることなく一方的に相手の命が散っていく。
そのことに、ピーリスは疑問を感じずにはいられない。
人間として。
そして、兵士としても。

(こんなことが……!!)

今ならわかる。
べつにカタロンやソレスタルビーイングを支持するわけではないが、こんなことを認められるはずがない。
だが、これだけで終わりではなかった。

『これより敵基地の掃討作戦に入る!オートマトン起動!』

『了解!』

「そ、そんな…!!」

こともなげに言っているが、キルモードのオートマトンは容赦などしない。
それこそ、中にいる人間が非戦闘要員だろうと皆殺しだろう。

『オートマトン、射出!』

「ま、待って!!」

ピーリスの呼びかけもむなしく、アヘッドの背中から無数の箱のようなものが轟音と砂煙を巻き上げながら基地の中へと落ちていった。
そして、

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

銃声や爆発音に交じってかすかに、だが確かに断末魔の悲鳴が聞こえてくる。

「そんな…!!こんなことが…!!」

それは、まさしく悪夢のような光景だった。
一方的に命を奪いながらも何も感じない兵士に無機的な動きで命を奪っていく無人兵器。
希望など一片もないように思われる戦場。
だが、それは舞い降りた。

いくつもの閃光が固まっていたアロウズのMS部隊を分断する。
光が放たれてくる先には、四機の瑠璃色の天使が紅蓮の悪魔を討つべく向かってくる。
だが、

「遅かったか!!」

ティエリアの言うとおり、遅すぎた。
すでにカタロンのMSは全滅に近い状態で、動いているものもすでに満身創痍の状態だ。

「カタロンの人たちは…」

『ここは任せる!!』

「ロックオン!!?待って!!」

ロックオンはユーノの制止の声も聞かずに地上へと向かう。

「急げよ……ガンダム!!」

しかし、当然のことながらその前にはジンクスが立ちはだかる。
だが、今度は遠方から砲撃がジンクスたちを薙ぎ払う。

「トレミー!?どうしてここに!!?」

少し離れたところで待機しているはずのプトレマイオスがそこにいた。

(ユノユノ、聞こえるっスか!)

「ウェンディ!?」

(今からあたしとエリオであのできそこないのガジェットもどきをぶち壊すっス!!)

「な!!?」

(そういうわけでよろしく!!)

「いや、よろしくじゃなくて……あ、ちょっと!!?」

念話が一方的に終了してしまったことに若干の怒りを覚えたものの、今のユーノはほかのことに気をまわしているほどの余裕があるわけなどなかった。






十分前 プトレマイオスⅡ ブリッジ

「ひどい…!!」

フェルトは砂漠の一角で上がる爆煙を見ながら呟く。
惨劇の様子は、戦闘空域にいないプトレマイオスのブリッジからもはっきりと見えていたし、誰もがフェルト同意見だった。
そして、マイスターたちに自分たちの思いを託すしかないことへのやるせなさも。

(私たちには、見てることしかできないの……!?)

フェルトは悔しさで目を閉じ、俯いていく。
すると、そこへウェンディとエリオがデバイスを発動した状態でやってくる。

「あなたたち、何を!?」

「僕たちをあそこまで連れていってください!!お願いします!!」

「まさか……戦うつもりか!?」

ラッセの言葉にエリオがうなずく。
だが、

「馬鹿を言わないで!!相手はMSなのよ!!?」

生身の人間がMSに敵うはずがない。
たとえ魔法を使えようが、その事実は変わらない。

「あなたたちがどれほど優れた力を持っていても…」

「それでも、あの人たちを助けることぐらいはできるはずっス!!」

「僕たちを置いていってくれたらそのまま引き返してくれて構いません!!だから、お願いします!!いかせてください!!」

二人は深々と頭を下げて嘆願する。

「……約束して。MSには絶対手を出さないことを。」

スメラギの言葉にバッと顔を上げると、ブリッジのメンバーが溜め息交じりで発進の準備を進めている。

「あ…ありがとうございます!!」

「危ないと思ったらすぐに逃げてね。あなたたちに何かあったら、ユーノに合わせる顔が無いわ。お願いよ。」






現在 ルブアルハリ砂漠

砂塵を巻き上げながら突き進むマレーネの上には、戦闘機のパイロット用の制服のようなバリアジャケットをつけたウェンディと、半袖半ズボンと白い薄手のコートを羽織ったエリオが乗っている。

〈間もなく戦闘区域です。流れ弾に注意してください。〉

「了解!スターズ5、一気に突っ切らせてもらうっス!!エリオ!!」

「OK!!いつもみたいにブンまわしてくれていいよ!!」

「その言葉を待ってた!!」

エリオがしっかりとつかまったことを確認したウェンディはマレーネを巨大な弾が飛び交う戦場へと突っ込ませる。
砂の柱があちこちで上がる中、ウェンディとマレーネはその間をまるで波乗りでもするようにするすると縫うように進んでいく。
そして、

「エリオ、あれ!!」

ウェンディが指さす先には四足のマシーンが銃弾をあちらこちらに乱射しながら、死体の山を築きあげている光景があった。

〈Sonic move〉

一瞬、稲妻が奔ったかと思ったときには一機のオートマトンの頭部に幼い騎士の槍が突き刺さっていた。
カタロン達は何が起こったかわからず押しを抜かすが、オートマトンは機械故に混乱など起こさない。
突如として出現した小さな襲撃者も冷徹に排除しようと試みる。
だが、その前に今度は嵐のような光弾がエリオに銃口を向けていたオートマトンを破壊する。

「……ざっけんなよ…!!」

こんな機械で人を傷つける痛みを感じないで命を奪う。
ウェンディだけでなく、エリオも激しい怒りに燃えていた。
どうしてもアロウズが自分をモルモットにしていた連中とかぶって見える。
二人の若い戦士の心に火をつける理由はそれだけで十分だった。

「これが……!!」

「人間のすることかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

灼熱の太陽の下、二人は咆哮する。
そして、二人の抱いた想いは空を駆けるマイスターたちと同じものだった。




「自ら引き金を引こうとしないなんて…!!」

アレルヤも多くの人間の命を奪った。
その罪はどんな理由をつけても消えることはない。
だが、こいつらは違う。
自らの手を汚すことすらも拒み、それでも他者の命を奪っていく。

「罪の意識すら持つ気が無いのか!!!!」

戦闘機形態になったアリオスの先端に挟まれたジンクスは腰で真っ二つにされ、黒煙を生じながら空に消えた。




別の場所では、ティエリアが今まで感じたことのないほどの憤怒に身を焦がしていた。
いや、怒りすら通り越えて絶望すら覚える。

「お前たちは……どこまで愚かになれば気がすむんだ!!!!」

怒りにまかせて両手のGNバズーカを合体させ、その間にエネルギーを蓄積していく。

「ダブルバズーカ、バーストモード!!!!」

砲門の前に発生した巨大な光球がジンクスを粉砕しながらさらに上へと消えていった。




「こんなことをしても何も感じないのか、あんたたちは!!!!」

クルセイドのバンカーが炸裂し、地上へと叩きつけられたジンクスは炎と金属片に変わって辺りに飛び散る。
しかし、それを最後まで見ることなくユーノは次の敵に襲いかかりブレードで背中のGNドライブごと貫く。

「こんな…ことを……父さんの命を奪って、お前たちは……!!」

変わらない。
やはり、どこに行っても人間という生き物は変わらない。
正義という名のもとに群れたとき、平然と倫理観を捨て去る。
誰にも裁かれないのをいいことに。
ならば、

「なら……僕がお前たちを断罪する!!!!」

アームドシールドを縦にまっすぐ振り下ろし、とどめとばかりに横薙ぎの一撃も叩きこむ。
四分割にされたジンクスは物言わぬ鉄塊になり果て、赤い尾を引きながら落ちていった。




ピーリスは目の前で背を向けているモスグリーンのガンダムを撃つことすら忘れ、その光景をただ呆然と見つめていた。
この光景を見ているとはっきりとわかる。
今、自分は人の命を奪ったのだ。
これが、戦争なのだ。

「!!」

オートマトンをすべて破壊したガンダムが今度はスマルトロンめがけて両手に持っていた銃の引き金を引く。
気が抜けてしまっていたピーリスも、流石に正気に戻る。
だが、

「ゆるさねぇ…!!ゆるさねぇぞアロウズ!!!!」

(っ!!)

反撃することができない。
指が震えて、いつもの動きができない。
ピーリスは盾で光弾を受け止めると、そのまま離脱していく。

敵はすでに射程外まで逃げたのだが、それでもロックオンはビームピストルの連射をやめようとしない。

「逃げんなよ…!!」

ここまでやらせておいてろくに被害も受けずに退却などさせるものか。
一機でも多く叩き潰してやる。
なのに、敵はどんどん逃げていく。

「逃げんなよぉ…逃げんなよアロウズゥゥゥゥ!!!!!!!」

ロックオンの叫びは、四機のガンダム以外いなくなった空に虚しく響いた。










戦いは終わった。
しかし、残された者たちの胸に押し寄せてくるのはやり場のない悲しみと怒りだけだった。
そんな様子を、夕暮れの中で遠くから眺めている影があった。

「あ……あ………!?」

夢だと思いたい。
そうだ、きっとこれは悪い夢なのだと沙慈は自分に言い聞かせる。
だが、よろよろとついた膝から伝わるさらさらとした感触が全て現実であることを思い知らせる。

「僕が……僕が、話したせいで………!?」

瓦礫になり果てたあそこにいた子供たちも、キーを渡してくれた男も、全員傷ついた。

「そんな………そんな………!?」

沙慈が地面に手をつくと、首にかけられていた金色の鎖と指輪が高い音を奏でる。
その指輪と対をなすものを指にはめるはずだった人を傷つけた存在と同じことをしてしまった。
刹那に対して言ったはずの言葉が、そのまま自分へと返ってきた。
自分も、人殺しになった。

「う……嘘だ……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

どれほど否定しても、沙慈自身がよくわかっていた。
戦いから逃げるために、大勢の命を犠牲にしたことを。







アザディスタン王国周辺

ルートが限定されているせいで夜までかかってしまったが、刹那たちはアザディスタンまで一歩手前というところまで来ていた。

「間もなく、アザディスタンだ。」

「やっと、帰ってこれたのね…」

「ああ、“あんた”の国だ。」

刹那のその言葉にマリナは悲しげに笑う。
刹那は、自分の国でもあるのに俺たちの国だとは言わなかった。
おそらく、アザディスタンには自分の居場所などないと思っているのだろう。
それでも、マリナは刹那にここが自分の国だと言ってほしかった。
そばに、いてほしい。

「もうすぐ雲を抜けるぞ。」

刹那の言葉にマリナは現実に引き戻される。
目の前に広がる厚い雲が徐々に消え、赤い景色が……

((赤い……?))

もうすでに夕暮れ時ではない。
赤など見えるはずがないのだ。

(なんだ……!!?なぜこんな時に思い出す!!?)

あの赤髪の男。
存在しない神をあがめさせ、戦場へと自分を送り込んだあの男が。
ロックオンが自らの命をかけて葬ったはずのあの男のことが気になって仕方がない。
刹那はじんわりと手に汗をかきながら雲のその向こう側へと出ていった。

「これ…は……!?」

「アザディスタンが…!!」

「燃えている…!!?」

まさに、地獄絵図だった。
炎が居住区を包み込み、ありとあらゆるものを飲み込んで燃え盛っている。
生存者がいるかどうかなど、問いかけることがバカバカしく思えるほど街は破壊されきっていた。

「どうして…!?どうして、アザディスタンが…!?」

「この規模……テロなんかでは…っ!?」

そいつは燃え盛る建物を、芸術作品を見るかのように見下ろしていた。

「あれは、ガンダム!!?しかも、あの色は、まさか!!!」

忘れるはずがない。
あの男が自分のしている機体にするパーソナルカラー。
あの紅蓮の色を、見間違えるはずがない。

「くっ!!!!」

「刹那!!?」

刹那は大きく舵をきって旋回すると、今来た道を急いで戻り始める。

「刹那待って!!!!」

「駄目だ!!諦めるんだ…!!」

「でも!!!!」

「あそこは!!!!」

一段と大きい刹那の声にマリナは言葉を止められる。

「アザディスタンは……“俺たちの国”は、いつかあんたを必要とする日が来る…!!だから、その時まではこらえてくれ…!!」

「刹那………」

刹那はマリナがいなければ声をあげて泣いていただろう。
それほどまでに、あの男に対抗できない己の無力が悔しかった。
そして、マリナもまた、刹那の国が守れない自分の無力にただ涙を流し続けた。







天使たちは、己が敵がいかなるかを知る
だが、新たなる影もまた、天使の翼をとらえつつあった





あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の要注意

ロ「カタロン基地編な第四話でした。そして結構お待たせして申し訳ございません。」

ヴィ「そしていきなりですが次回からすごい急展開になるので、『こんなもん体が受け付けんわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』という方はご注意ください。」

ユ「一体何する気さ。いや、知ってるけど。」

ア「ていうか次回予告に行っちゃった方が説明の手間が省けるんじゃないかな?」

刹「また身も蓋もないことを……」

ロ「では、ホントにいつもより早いけど次回予告にゴー!!」

ヴィ「カタロンの基地が襲われた翌日。ソレスタルビーイングは彼らが逃げるための時間を稼ぐために海へとうってでる。」

刹「しかし、そこへ現れたのはアロウズではなかった。」

ア「はたして、現れたものとは一体なんなのか!?」

ユ「そして、トレミーのメンバーの運命は!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 5.現れたモノ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/11/29 22:31
ミッドチルダ MS用コンテナ搭載型艦船 アルデバラン

「准将、座標の特定が完了しました。いつでもいけます。」

「そうか。」

ファルベルは満足そうにうなずくとブリッジの真ん中の席にどっかりと腰をおろし、乗組員全員の顔を見渡す。
そして、

「これより我々は第97管理外世界-P2、もう一つの地球へと向かう。各員の奮起に期待する。」

「ハッ!アルデバラン発進します!」

号令とともに、最新式の艦はMSの技術をもたらした世界へと旅立っていった。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 5.現れたモノ

カタロン拠点

消えない死臭が漂う中、マイスターたちは最初に会った時とはうってかわって非難の的になっていた。

「貴様たちがここの情報を漏らしたのか!!」

「そんなことはしていない。」

ティエリアは落ち着いた様子で淡々と話すが、詰め寄ってきた男たちはそんなものでは到底納得しない。

「貴様らのせいだ!!貴様らが仲間を殺したんだ!!」

一人が銃を抜いてティエリアの顔に突きつけるが、横にいたロックオンがその腕を掴む。

「やめろ!こいつらは何もしてねぇ!」

「わかるものか!!」

「信じろよ!!」

「けどよぉ…!」

男は銃を下ろし、大粒の涙をこぼし始める。

「仲間が……さっきまで笑ってたやつが…!!」

「わかってる……仇はとる…!」

ロックオンの説得に応じ、それまで男たちが向けていたやり場のない怒りは収まったが、今度は深い悲しみが押し寄せる。
そんな彼らを横目で見ながら、ティエリアはあたりを見回し考える。

「一体、誰がアロウズに……」

以前にもロックオンが言っていた通り、ここの周辺はGN粒子が絶え間なく散布されているせいで位置の特定は綿密な捜索を経なければ不可能だ。
そんな様子はここを訪れたときにはまったくなかった。
となると、残された可能性は一つ。
誰かがこの場所をアロウズ、ないしは連邦に属する者に教えたのだろう。
だが、堅く結束された彼らの中に裏切り者がいるとは考えにくい。

(だとすれば、比較的ここに来てから日が浅い人間、つまり……)

ティエリアが視線を移した先には一人の男の死体の前で震えている沙慈がいた。
ティエリアは背を向けてその場から離れようとする沙慈に素早く歩み寄って肩を掴む。
肩をびくりと震わせる沙慈だったが、ティエリアはそんなことなどお構いなしに人気のない廊下へと強引に引きずっていく。
乱暴に沙慈を壁へと放り出したティエリアは鋭い口調できりだした。

「何をした?」

「ぼ、僕は……」

「したんだな?」

その反応が証拠そのものだった。

「君は誰だ?アロウズのスパイか?」

「ち、違う!!僕は…」

咄嗟に言い訳を考えようとした沙慈だったが、目の前のティエリアの眼光に射すくめられて言葉を継げない。

「訳を話してもらうぞ。沙慈・クロスロード。」






プトレマイオスⅡ ラッセの部屋

戦闘の後、プトレマイオスの中も慌ただしい空気に包まれていた。
あの惨状を見ていたスメラギが突如倒れてメディカルルームに運ばれたかと思うと、今度はボロボロになったエリオが帰ってきたのだ。
目じりからあごにかけて続く二つの線は、煤だらけの顔も手伝って彼がここに来るまで泣いていたことを証明していた。
混乱のさなかにあるとはいえ、そんなエリオを放っておけるわけもなく、ラッセが自分の部屋に招くことになった。

「落ち着いたか?」

「はい……」

濡れたタオルで顔をぬぐったエリオはぐったりとした様子で俯いていたが、ふいに口を開いた。

「誰も、助けられませんでした……」

「そんなこたないだろ。お前らがいかなかったら、もっと被害が出ていたかもしれない。中にいた子供たちも犠牲になっていたかも…」

「それでも!!!!」

エリオはぶるぶると肩を震わせながら小さくしゃくりあげる。

「それでも……僕たちの目の前でたくさんの人が死んでいったんです!!!!死んでいったんだ!!!!」

ラッセは優しくエリオの肩をポンポンと叩く。

「お前らのせいじゃない。人間が一人でできることには限界がある。犠牲になったやつらは、お前らの努力の外にいたんだ。仕方がなかったんだ。」

「でもっ……!!」

「その気持ちは確かに大切だし、こんな光景になれちまってる俺たちはどっかおかしいんだろうな。けどな、酷な言い方かもしれねぇがここで、こんなことをしてるぐらいなら、これから先こんな思いをしないで済むようにするのが一番なんじゃないのか?少なくとも、俺はそうやって前に進んできた。」

ひとしきり言いたいことを言ったラッセだったが、それでもエリオは俯いたままだった。

「……俺はまだやることがあるからもう行くぞ。その泣きっ面が少しはまともになったらみんなに顔見せに来い。」

うなずく様子も返事をする様子もなかったのでそのまま部屋を後にしたラッセだったが、結局その日エリオがみんなの前に姿を現すことはなかった。






カタロン拠点

急激に温度が下がった外気が入ってくる中、死んでいった仲間たちの遺品を探していた。
感傷に浸っている暇などないが、ここを去るまでにはできる限り見つけて弔っておきたい。
その一心で寒さをこらえて歩いていた彼女の前に、ここにいるはずのない人物、マリナ・イスマイールが呆然と立ち尽くしていた。

「アザディスタンには戻らなかった…」

「シーリン!!」

「!?」

嫌みの一つでも言おうと思っていたシーリンだったが、涙を流すマリナに抱きつかれて言葉をなくす。

「アザディスタンが……!私たちの故国が……!!」

「アザディスタンが……?」






廊下

いやに明るく感じる廊下に、パシンと乾いた音が響き渡る。

「なんという……!何という愚かなことを……!!」

睨むティエリアと目を合わせることができないまま、沙慈は目の前のティエリアにではなく、自分を安心させようと言葉を紡いでいく。

「こんなことになるなんて……思ってなかった……!!僕は、戦いから離れたかっただけで…!!こんなことになるなんて……僕…」

ティエリアは短く歯ぎしりをすると、沙慈に現実を叩きつける。

「彼らの命を奪ったのは君だ!君の愚かな振る舞いだ!」

「!!!!」

「『自分だけは違う』、『自分には関係ない』、『違う世界の出来事だ』、そういう現実から目を背ける行為が無自覚な悪意となり、このような結果を招く!」

「僕は……!そんなつもりじゃ……!!」

だが、それが揺るぎようのない事実であることは沙慈もわかっていた。
それでも、今の沙慈には泣き崩れる以外どうすればいいかがわからない。
犠牲になった人たちに、そして仲間を失った人たちにどう償えばいいのか。

「ティエリア……っ!?」

「沙慈……!?」

「君たちか。」

帰ってきていた刹那と合流していたユーノが現れる。
カタロンの基地の惨状の理由を尋ねようとここに来た刹那だったが、目の前の光景に表情を厳しくする。

「どういうことだ?」

「アロウズの仕業だ。そして、その原因は彼にある。」

床に手をついて泣き続ける沙慈を見つめる刹那とユーノ。
彼が何をしたのかはわからないが、取り返しのつかないことをしたことは事情をよく知らない二人にもよくわかった。
だから、刹那は声をかける。

「立て、沙慈・クロスロード。」

「ぼ…僕のせいでっ……!!僕のっ……!!」

不意に、沙慈は自分の肩に手の感触を感じて固く目をつぶる。
おそらく、罰を受けるのだろう。
それだけのことを、自分はしたのだから。
そう覚悟を決めていた沙慈だったが、刹那から出てきた言葉は意外なものだった。

「いいんだ。」

「え……?」

泣くのも忘れて沙慈は刹那を見上げる。
見上げた彼の顔は、怒りでも失望でもなく、ただ悲しそうだった。

「ティエリア、沙慈はただの一般人に過ぎない。アロウズのスパイでもない。」

「ああ。」

刹那が静かに同意する。

「俺とユーノが保証する。そういうことができる人間じゃない。」

刹那は沙慈に肩を貸して立たせる。
フラフラと頼りない足取りだったが、沙慈は刹那から離れると自分の足で床を踏みしめる。

「ここにいたら何をされるかわからない。悪いけど、もう少し一緒にいてもらうよ。」

そう言って自分を力強く引っ張る手に、沙慈は今までにないような温かさを感じていた。







アロウズ母艦

失態だ。
今まで自分が指揮してきた作戦の中で五本の指に入るほどの大きな失態だ。
作戦の結果ではなく、その方法が最大の原因だ。
なのに、目の前にいるこの男はにやついた顔で賛辞を送ってくる。
そのことが、マネキンには何よりも許しがたかった。

「ガンダムの横やりで何機か失いましたが、反連邦政府組織の秘密基地を叩くことに成功しました。これは勲章ものですよ?マネキン大佐。」

「黙れ。」

「おや?掃討戦はお嫌いですか?私は大好きですが?」

「人殺しを喜ぶというのか!?」

マネキンの厳しい追及にも、リントはヘラヘラと挑発的に答える。

「なぜそこまで興奮なさっているのですか?あなたも以前、同じようなことをやっているではありませんか?」

リントのその言葉に、机の上に置かれていたマネキンの手に力が入る。

「いやはや……あれはとても不幸な事故でした……。誤情報による友軍同士の戦い……あなたはあの時、AEUの戦術予報士だったはず…」

「言うな!!」

マネキンは机を叩いて立ちあがるとリントの襟元を掴む。
確かに、その時に過ちを犯したし、そのせいで償いようのない罪を負った。
だが、その時の傷をこいつにえぐられるのが我慢ならなかった。
しかし、リントはそれでもうすら笑いを消さない。

「また味方に手を出すのですか?あんなことがあれば戦争に二度と関わりたくないと思うはず。それがなかなかどうして……」

そう、マネキンも一度はそう思った。
だが、彼女は逃げる道を選ばなかった。
あんな悲劇を二度と引き起こさないためにも、今こうして戦場に立っているのだ。
マネキンが手を離すと、リントは涼しい顔で襟元を正して頭を下げる。

「尊敬させていただきますよ?マネキン大佐。」

白々しい言葉に怒りを覚えながら、マネキンはリントが部屋から出ていく姿を黙って見送った。
この蛇のような男とは決して相容れないということを再確認しながら。
だが、

「私も、やつと変わらんか……」

そのことを、否応なしに理解させられた一日だった。






カタロン拠点

月明かりの中、シーリンはマリナからかなりショッキングな話を聞かされているにもかかわらず、気丈にふるまっていた。
ここで動揺を見せれば、マリナは間違いなくそのことで自分を追い詰めるだろう。

「都市部の主要施設はそのほとんどが破壊されてたわ……警察も、軍も機能していなかった……それでも、私はあの国に…ラサーに託された国を…!!」

「よく、戻ってきたわね……」

マリナの性格上、そんな光景を見せられて残ろうとしないはずがない。
もっとも、誰が彼女をここまで連れてきたかはわかっているのだが。

「刹那が強引に……」

「彼に感謝しなくちゃね…」

「なによ!!私は死んでもよかった!!アザディスタンのためなら、私はっ……!!」

「マリナ……」

シーリン震える彼女を静かに抱き寄せながら、再度ガンダムのパイロットへ感謝する。
彼でなければ、マリナは何があってもアザディスタンに残っただろう。
彼がいたからこそ、マリナはこうしてここにいられる。
もっとも、マリナ自身はそのことに気付いてなどいないだろうが。

(ありがとう……ガンダムのパイロット……)







アロウズ空母

明かりの消えた部屋で、ピーリスはふさぎこんでいた。
人を殺した感触がいまだに手から消えてくれない。
だが、

「あれが……いや、あれこそが本当の戦場。」

なにもわかっちゃいなかった。
いつか、セルゲイのもとへ帰れると信じて疑わなかった自分が恨めしい。
あんな感情、持たなければよかった。

「……?」

暗かった部屋に端末に何かが届いた音がする。
机に近づいてモニターを見てみると、メールを現す封筒のマークの下に懐かしい文字の羅列が光っている。

「大佐からの暗号文……?どうして、頂部のみで使用されていたもので……?」

不思議に思いながらメールを開いてそれを読み始めた瞬間、ピーリスの頬を透明な筋がいくつも伝っていった。

『手の込んだ連絡をしてすまない。アロウズに気付かれたくなかったのでな。中尉が、カタロン殲滅作戦に参加したことを聞いた。そのことで、私は君に謝罪しなければならない。実は、私が入手した情報のせいであの作戦が行われてしまったのだ。辛い思いをさせるようなことをしてすまない。気に病むな、といっても無理かもしれないが、中尉はあくまで命令に従っただけだ。だから、どうか自分を責めないでほしい…』

まだ続きはあったが、歪んでいく視界のせいでまともに読むことができなかった。

「そんな……大佐自身も辛いはずなのに、私を気づかって……!!」

彼が辛い思いをする必要はない。
これは、自分が受けるべき罰なのだ。
兵器でありながら、人並みの幸せを掴もうとした自分への。
セルゲイまでもがそれに巻き込まれる必要はない。
だから、

「ありがとうございます、大佐。私は大佐のおかげで、自分が超人機関の超兵一号であることを再認識しました。私は兵器です。人を殺すための……道具ですっ…!!幸せを、手に入れようなどっ…!!」

涙で前が見えなくなっても、ピーリスは敬礼をやめなかった。
そう、たとえ見えなくても、ピーリスにはセルゲイがそこにいると思えたのだから。






プトレマイオスⅡ ブリッジ

翌日、さまざまな問題を抱えながらも今後の方針自体は決定した。
ただ、

「スメラギさんの容体は?」

遅れてやってきたラッセとフェルトにアレルヤが問うが、フェルトは黙って首を横に振った。

「そっか……」

「ま、それはそれとして、カタロン側の状況は?」

「モニターに出します。」

ロックオンの問いに応え、ミレイナがモニターに外の様子を映す。
そこには、搬入されてきた物資をトラックに積みながら出発の準備をする彼らの姿があった。

「カタロンさんたちの移送開始は予定通り1200で行われるです。」

「アロウズは来るぜ。間違いなくな。」

モニターが切り替わる前にロックオンが言う。

「わかっている。」

ティエリアが苛立った様子で答える。
わかっているからこそ、今自分たちが置かれた状況がどれほどマズイものかもわかる。

「ガンダムを出す。」

刹那の言葉に、アレルヤが戸惑う。

「しかし、戦術は…スメラギさんが倒れたこの状況では……」

「それでも、やるしかないだろ。」

ラッセが操舵席に着く。

「トレミーを海岸線に向ける。敵さんに見つけてもらわないとな。」

「了解です。」

「プトレマイオス、はっし…」

「待って!」

今まさに発進しようとしていたところで、ユーノの大声がそれを止める。

「どうした?」

「え…?あ、いや、その……」

ティエリアに追及されて、ユーノは言葉を濁す。
嫌な予感がする。
そんな理由で、止めるわけにはいかないことなどわかっている。
けど、

「……ううん。ごめん、なんでもない。」

「そうか……」

ティエリアは最後までいぶかしげに見ていたが、結局プトレマイオスは海岸線へとうってでた。







?????

「向こうも覚悟を決めたみたいだ。囮になるため、海岸線に出ていく。」

『そう。それじゃ、あなたたちの出番は…』

「どうかな?」

「ヴァイス、どうかした?」

「さっきからエウクレイデスの観測装置が振れっぱなしだ。」

『それって…!』

「ああ、間違いなく連中がこっちに来る。……チッ!よりにもよって最悪のタイミングで……」

「フン、泣き言言ってる場合かよ。連中だけじゃ荷が重いんなら、俺様とお前らが手伝ってやるしかねぇだろ。」

「というわけで、僕らも出ることになりそうだよ、シャル。」

『わかった。彼らのサポート、お願いね。』

「了解!」





ペルシア湾 海岸線

『そろそろ、こっちに気付いた敵さんがやってくるころだ。ガンダムを出すぞ。』

コックピットの中でその言葉を聞いていたユーノだったが、さっきから胸騒ぎが収まらない。
それに合わせるように、まるで空気も不気味に震えているように感じる。
だが、

(なんだ……?この感じ、前にもどこかで……)

無垢な力が、悪意に振り回されているようなこの感覚。

(いつだ…!?思い出せ……!!)

クラナガンでの戦い?

(違う……!)

R・A事件?

(違う…!)

闇の書事件?

(違う!)

そうだ、それよりも少し前。
フェイトと初めて会ったあの事件。
P・T事件の時、時の庭園を中心に引き起こされようとしていた現象。

(次元震!!?)

いや、少し違う。
あの時のように無秩序にノイズが奔るようなものとは違い、今回はチューナーで調律されたような規則性がある。
そこを辿った先には……

(マズイ!!!!)

ユーノはそれが何かわかったと同時に、全ての回線へ向けて大声をぶつける。

「全員対ショック姿勢!!!!ブリッジ、思いっきり面舵をきって!!!!」

『な!!?』

「早く!!!!」

ユーノの勢いに負けてラッセは混乱したまま舵をきるが、その理由はすぐにわかった。

「なんだ、ありゃ!!?」

プトレマイオスの前方に七色の稲妻が奔る黒い穴のようなものがぽっかりとそこの空間を飲み込んでいる。
そして、そこから現れたのは、

「戦艦!!?でも、あんなのデータベースに…」

フェルトが驚いたのはそれだけではない。
こちらのゆうに二倍はあるであろうその巨体。
そして、両脇から伸びた艦首の間に備え付けられた大きな砲門が不気味にこちらを向いている。
しかし、そんなことを確認している余裕はラッセにはなかった。

「喋るなフェルト!!舌を噛む……ぜっ!!!!」

「きゃああああああああ!!!!!」

突如現れたそれをかすめながらも、プトレマイオスは何とか横並びの状態でそれと相対する。

「こいつは…!!って、おい!!?」

ラッセが続いて驚愕したのはそれの長く伸びた両脇の艦首から続々とジンクスに似た機体が飛び出してくる。

「後ろをとられたです!!」

「見りゃわかる!!!!それより、ありゃなんだ!!?ジンクスみたいだけど、なんかフラッグみたいなのもいるぞ!!?」

「識別……データにありません!!」

「新型か!!?それにしたって、さっきのは…うおっ!!!!」

「きゃあ!!?」

敵と思われる機体からの射撃にプトレマイオスが大きく揺れる。
しかし、謎の襲撃者に混乱を極めているラッセ達は冷静さをどんどん失っていく。
そこへ、

『ミレイナ、ガンダムの発進シークエンスに入って!!フェルトはガンダムが全機発進したのを確認したらすぐにGNフィールドを展開!!ラッセ、バロネットとフュルストはこっちで押さえるからどうにか敵艦と向かい合うような形までもってって!!!!』

ユーノは今とるべき行動を的確に指示していく。
だが、ラッセ達は訳がわからないままなのは変わらない。

「ユーノ、なんなんだありゃ!!?訳がわかんねぇことだらけだぞ!!?」

ラッセの声にユーノは唇をかみしめる。
認めたくなかった。
どこかでこんな日がいつか来るのではないかと思いながら、あり得ないと不安に蓋をしていた。
だが、こうして現実にやつらは現れたのだ。

『……管理局だ。』

「なに!!?」

『あいつらは、管理局だ……!!』






アルデバラン ブリッジ

「敵艦からの反撃ありません。」

「結構。しかし、まさか出て来てすぐにエンジェルと同じGN粒子を使う艦に出会えるとはな……これもまた運命か……しかし……」

ファルベルは笑ってこそいるが、目的は果たせていない。
あの瑠璃色のGN粒子を出すGNドライヴを搭載した機体が出てきていない。
こちらが使っているGNドライヴと違って、あれは粒子のチャージをしている様子はなかった。
つまり、

「長時間の作戦行動が可能……!!渡してもらうぞ、正義のためにな……!」

「准将。」

一人の局員から声をかけられた瞬間、バロネットが一機爆発した。

「敵MSが出てきました。総数、5。」

「そうか、ようやく本番というわけか……では、見せてもらおうか、エンジェルの真価を!!」






プトレマイオスⅡ周辺

「異世界のMSねぇ……そういうジョークは、テレビドラマの中だけにしな!!」

ケルディムの両手に握られたビームピストルが火をふく。
しかし、弾丸の雨は大群の中の二、三機をとらえただけで残っていたバロネットたちが次々に押し寄せてくる。

「チィッ!!こいつら、動きは素人に毛が生えた程度だが、数と武器の威力だけはだんちだな!!」

「だが、この程度でガンダムが!!」

セラヴィーの砲門から幾度も閃光が放たれる。
それを援護するようにセラヴィーの周囲を旋回していたアリオスもライフルでバロネットを撃墜していく。
だが、

「おかしい……!」

「アレルヤ?」

刹那は目の前にいた一機を斬り捨てるとアレルヤの声に耳を傾ける。

「このMS、動きがどれも同じだ!」

「「「!!!!」」」

この統率のとれた動き。
それこそ、一機一機がチェスの駒のように自らの犠牲を顧みずに与えられた役割を果たしている。

「まさか……!?967、サーチを…」

「もうやっている。これは……当たりだ。こいつらに、人間は乗っていない。」

「な!?」

嫌な予感が的中してしまった。
間違いなく、空戦魔導士の動きをAIに再現させているのだろう。

「MSならぬMD(モビルドール)ってか!?悪趣味にもほどがあるぜ!!」

「MSまで無人に…!!こんなもので人の命を奪って何とも思わないのか!!?」

激昂するロックオンとアレルヤの猛攻になす術もなく散っていくMD。
しかし、それでも押し寄せるバロネットのうちの数機が防衛線を抜けてプトレマイオスへと向かっていく。

「しま…ぐぅっ!!」

防衛へと向かおうとしたクルセイドを他の四機とは比較にならないほどのバロネットの大群が取り囲む。

「クッ……人形遊びをする歳でもないんだけどね……」

「だが、どうしても付き合ってほしいようだぞ?」

967のその言葉に、ユーノは一筋の汗を垂らしながら鋭い笑みを浮かべる。
そして、

「なら……とことん付き合ってもらうぞ!!!!」

荒れ狂う風となったクルセイドは、良心の呵責も死への恐怖もない兵器たちへと向かっていった。







アロウズ母艦

「ガンダムが識別不明の部隊と戦っているだと?」

マネキンは横を歩く兵士からの報告を聞きながらブリッジへと急ぐ。
ソレスタルビーイングは囮となるために海へとうってでてくることはわかっていたが、それを迎え撃とうとしていた自分たちよりも先に手を出した存在がいる。

(しかし、識別できないとはどういうことだ?カタロン……はあり得ないか。あれだけ協力してもらっておいて手の平を返す理由が無い。だが、カタロン以外に一体どこの誰が…?)

「大佐!」

マネキンがブリッジの入り口に到着したとき、若い女性の兵士が駆け寄ってくる。

「どうした?」

「それが……上層部からガンダムとの戦闘が終了したら、出現した部隊とコンタクトを図れと……」

「なに?」

訳がわからない。
敵の敵が味方とは限らない。
しかし、言われたからにはやるしかない。

「了解した。だが、こちらの呼びかけに応じなかった場合は……」

「その時は大佐に任せるとのことです。……あの。」

「なんだ?」

つっけんどんな言い方に金色の髪をしたその兵士はすくむが、マネキンの顔をまっすぐに見つめる。

「……大佐は、この命令をどう思われますか?」

「どう、とは?」

「……いえ、なんでもありません。差し出がましいことを聞いて申し訳ありません。」

そう言うと兵士は敬礼をしてその場を去ろうとする。
そんな彼女に、マネキンは気付いたら声をかけていた。

「待て。名前を聞いておこう。」

「は?」

「木石でないならば名前ぐらいあるだろう。」

「は、はい!」

改めて敬礼して、彼女は名前をはっきりとした声で述べる。

「先日付でこちらに転属となりました、ルイス・ハレヴィ准尉です!」

「そうか……覚えておこう。」

マネキンはそれだけ言い残すと横にいた兵士とともにブリッジへと入っていくが、一人になったルイスはその場で肩を落とす。

「昨日のあいさつ……私もいたんだけどな……」

マネキンの記憶力は悪くはないのだが、昨日の作戦のせいで彼女のこと頭の中に叩きこむには至らなかったようだ。
しかし、そんな事情を知らないルイスはこんな調子でこの手でガンダムを倒すという目的を果たせるかどうか不安を覚えるのだった。






?????

「良いのかい?」

「なにがだい?」

「いきなり出てきたあれのことさ。近くにいる部隊に接触を図らせるんだろう?少し不用意じゃないかい?」

「さあ、どうかな?」

リジェネが珍しく厳しい表情で追及してきたことにリボンズはクスクスと笑いながらはぐらかすように答える。
リジェネはそのせいでさらにムッとした顔になるが、それがリボンズには面白くて仕方ない。
しかし、これ以上もったいつけるのはかわいそうだろう。

「これを見なよ。」

「?」

二人の前の大きなスクリーンの前にあるデータが開示される。

「これは……!?」

「そう、あれが現れたときと、ユーノ・スクライアが出現、そして消えた時の反応は驚くほど酷似している。つまり……」

「あれは彼と何かしらの関係がある……そういうことだね?」

「そういうことさ。それに……」

「それに?」

リボンズはツゥっと口の端を吊り上げる。

「僕の中にある何かがざわめくのさ……。あれは使える、ってね。」








プトレマイオスⅡ 医務室

彼は、ベッドに横たわっていた。
リーサ・クジョウは自分を信じると言ってくれた人の手をとって必死に呼びかける。
その時、ふと彼が口を開く。

『かのために生まれ、かのために死す……それを運命というのなら、抗うことかなわず……見えない道を旅し、行きつく先にあるものは、命の終焉……それこそが、神…の……』

彼の声はそこで途切れ、それと同時に握る手から一気に温かさが消えていく。

「エミリオ…?」

わかっているのに呼んでしまう。
答えてくれるはずなどないのに。

「エミリオ!?エミリオ!!!!」

その時、何かに両腕を掴まれたリーサは彼から離されていく。

「待って!!エミリオ!!!!エミリオ!!!!!」

しかし、彼女の呼びかけは虚空に消え、彼の姿も闇の中に消えていった。





スメラギが目を覚ました時に見えたのは白い天井だった。

「……わかってる。だけど、私にもまた守りたいものができたの。いつまでも、縛られているわけにはいかないの。」

スメラギは治療着のままカプセルの外へ出ると、自分を待つ者たちのもとへと急いだ。





ブリッジ

「GNフィールド、出力70%まで減衰!!」

「くそっ!!」

ラッセはいつになく重く感じる舵を握りながら歯を食いしばる。
先程からイアンが砲撃に回って近づいてくる敵を撃ち落としてはいるが、プトレマイオスにくる敵は増加して行っている。
いままで、損傷を負っていないのが不思議なほどだ。

「おかしいわね……」

「スメラギさん!?」

治療着のまま現れたスメラギに誰もが驚くが、スメラギ自身はいたって落ちついていた。

「事情は、この二人から聞いたわ。」

「フェルト~!生きてるっスか~!」

「ラッセさん!!大丈夫ですか!?」

「エリオ、ウェンディ!!?」

バリアジャケットを展開したエリオとウェンディがスメラギを押しのけて飛び込んでくる。
そして、

「あたしらも出るっス!!あんなポンコツ三等兵、あたしらでも…」

「駄目よ。」

ラッセが怒鳴ろうとしたところに、スメラギの澄んだ声がブリッジ全体に通る。

「全員、何かにしがみついておきなさい。」

「え?」

スメラギの言うことがわからず緊張感のない返事をするクルー。
だが、スメラギだけはこの後起こるであろう事態を曖昧ではあるが予想していた。
そして、それは現実のものとなる。






プトレマイオスⅡ周辺

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹那は何機目かわからないバロネットを斬り捨てる。
ダブルオーの周りはすでにかなり数が減っているが、プトレマイオスはいまだに攻撃を受け続けている。

「クソ!!はやく、救援に…」

ダブルオーが振りむいた瞬間だった。
海中から飛び出した何かがトレミーの周りにいたバロネットの一機に突き刺さる。
それは一回だけでは終わらずどんどん海中から飛び出してきてバロネットを撃ち落としていく。

「一体、何が……」

『おい、青いガンダムのパイロット。』

「!!?」

突然の声。
しかし、それは刹那の言葉を待たずに一方的に話してくる。

『悪いが間に合わなかったみたいだ。他の連中と一緒にお前らの艦に集まれ。じゃないと……』

少しの間の後、謎の声は告げる。

『仲間と離ればなれになるぞ。』

その時になってようやく刹那は気付いた。
よく見ると周りに味方がいない。
それだけではない。
全てのガンダムが完全に孤立させられている。

「……!!マズイ!!」

その時、刹那は感じていた。
敵艦の主砲と思われる部分にたまっている不可解な力。
目に見えないが、何かよくないものであることはわかる。
刹那は、瞬時に回線を開いていた。

「全機、トレミーの周りにかたまれ!!!!」

「刹那!?」

「早くしろ!!!!」

しかし、刹那の警告は一足遅かった。





アルデバラン ブリッジ

「ふむ、ここまで減らされるとはな……流石だと称賛させてもらおう。だが……」

搭載してきたMSの半数以上が撃墜されたにもかかわらず、ファルベルの口元には余裕の笑みが浮かんでいる。

「准将、チャージが完了しました。」

「よろしい。では、彼らに渡してくれたまえ……私からの招待状をな……」







プトレマイオスⅡ ブリッジ

「う……!!」

「フェルトさん!?」

フェルトは胃を掴まれるような感覚に思わず口元を押さえ、ミレイナに返事をすることもできずにイスからずり落ちて床に手をつく。

「フェルトも……やっぱ感じるみたいっスね……!!」

よく見れば、ウェンディとエリオも辛そうに壁に寄りかかっている。

「フェルトどうしたの!?フェルト!!」

「スメラギ……さん……何か、悪いことが……起きます……!!」

「悪いこと!!?」

「だいたい……見当はつくっスけどね……」

息も絶え絶えのフェルトに代わってウェンディが答える。

「魔法に慣れてる…あたしらでも……魔力酔いを起こすほどの強烈な魔力……。こんだけのもんを……使うってことは…何かを、転移させるつもり……」

「何かを転移!?」

驚くスメラギ達に、ウェンディは人差し指を床に向ける。

「何かって……ここにあるもんっていったら……この艦とガンダムぐらいっしょ……」

スメラギは自分の予感が的中していたことに、久方ぶりに苛立ちを覚えていた。
予測が当たって腹が立つことなど、そうあるものではない。
だが、対抗手段が全くないのだからしかたがない。

「全員、対ショック姿勢!!」

それしか言うべきことが無いとはいえ、スメラギには自分のその言葉が恐ろしく軽いものに思えた。






周辺

「おいおい……!!なんだよあれ!!」

ロックオンの前に現れたのはアルデバランが現れたときに空を喰っていた真っ黒な穴だった。
突然放たれた黒い光はいくつにも分かれ、そこいらじゅうに黒い穴を開けた。
そして、

「!!?す、吸い込まれる!!?」

ロックオンは必死にペダルを踏むが、ケルディムはどんどん黒い穴へと吸い寄せられていく。

「制御不能!!制御不能!!」

「待てよ…!!俺は、まだ何も…!!」





「く……マ、マリー!!!!」

アレルヤは彼女の名を叫ぶ。
だが、無情にも少しずつ戦闘機形態のアリオスは先端を浮かせ始める。

「僕は……マリーを!!!!」





「ク…ソ……!!」

ティエリアは何とか黒い穴に飲み込まれまいと必死に押し戻されそうなペダルと操縦桿を握りしめるが、長くは持たないことはよくわかっていた。

(ならば……!!)

ティエリアは力を緩める。
当然セラヴィーは黒い穴へと猛スピードで迫っていくが、

「これで……どうだぁぁぁぁぁ!!!!」

その勢いを利用してプトレマイオスへととりつく。

『ティ、ティエリア!!?』

「クッ……僕だけでも……トレミーを!!!!」






「ト……トレミーへ……!!」

仲間が待っている。
なのに、手が届かない。
また、手の平からこぼれおちていく。

「クソ……!!クソォォォォォォ!!!!」






「クルセイド…!!お願いだ、頑張って!!」

しかし、主の願いもむなしくクルセイドは周囲の海水ごと黒い穴へと飲み込まれつつあった。
それは、抗いがたい運命のようにじわじわと全てを飲み込んでいく。
そして、






「「「「「うわあああああああ!!!!!」」」」」

五機のガンダムと輸送艦、プトレマイオスⅡはバラバラに異次元へと続く門に飲み込まれた。
役割を終えた門は再び閉じられ、海面の上で暴れる波以外は何も残ってはいなかった。

それを見終えたファルベルは満足そうに息を吐くが、新たに客人がやってくる。

「准将。空母と思われる艦船がこちらに接近してきます。」

「敵意は?」

焦る部下とは対照的にファルベルはどっしりと構えている。

「空母より入電。戦闘の意思なし。こちらと話し合いの場を持ちたいそうです。」

「よろしい。こちらの世界の住人が紳士的で助かる。」

そう、

(実に、利用しやすそうだ……)








そして、異界に天使たちは降り立つ









あとがき・・・・・・・・・という名の妄想の暴走

ロ「というわけで第五話でした。」

弟「でしたじゃねぇよ。どうすんのこれ?」

ティ「いきなり原作ブレイク……大丈夫なのかこれ。」

刹「というかここにきてまたメンバーがバラバラか。どうするんだこれ?」

ア「マリー……!!!!(泣)どうしてくれるのさこれ!!?」

ユ「もう終わりかなぁ、これ。」

ロ「これこれうるさいわこれぇぇぇぇ!!!!お前らは某忍者漫画に出てくるチビ忍者かぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

弟「ハッ○リ君?」

ロ「ちげぇよ!!!!違ううえに古いから!!!!」

ユ「でも、本当にどうすんの?本来ならここでアレルヤとピーリスさん(マリーさん)との惚気が入るはずなのに。」

ア「そうだよ!!!!それとあとで殴るからねユーノ!!」

ロ「ああ、心配すんな。お前ら二人はこっちに残ってるから。」

ア・ユ「「へ?」」

ロ「次回辺りで説明するけどお前ら二人は転送に失敗してこっち側の地球で別々の場所に飛ばされたことになってるから。」

ア・ユ「「なんですとぉぉぉぉぉぉ!!!?」」

ティ「じゃあ、僕たちは?」

ロ「お前らは別々の世界に飛ばされてる。だから、合流するまでそれぞれがメインの話がある。」

弟「マジか!!?」

ロ「まあ、一話ぐらいだけどな。ちなみにこれから先は全員合流するまでは基本的にそれぞれのサイドの話を交互にやっていこうと考えています。」

刹「できるのか?」

ロ「できるのかも何も、ここまできたらやるしかないだろ(汗)」

ア「まあ、期待はしないけど僕がマリーを取り戻せるなら許してあげてもいいよ。」

(((((このバカップルの片割れが……)))))

ア「さあ、次回予告へ行こうか、みんな。」

ティ「……ああ。」

刹「管理局の戦艦によってバラバラにされたトレミーのクルー達!!」

弟「しかし、地球にはユーノとクルセイドが残されていた!」

ティ「ユーノはこちらに残されているかもしれない他のメンバーを探し始める。」

ユ「その頃、同じく地球に残されていたアレルヤはアロウズの部隊に発見されてしまう!」

刹「しかし、その部隊にはアレルヤの探し人、マリー・パーファシーことソーマ・ピーリスがいた!」

ユ「はたしてアレルヤは彼女を取り戻すことができるのか!?」

ア「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!それじゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 6.再会と別れの洗礼~Alleluia~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/08 10:31
西暦2312年 地球 グリーンランド最北端

先日までの荒れた天候が嘘のように太陽がさんさんと輝くグリーンランドの最北端。
海も珍しく穏やかな表情を見せていたのだが、そこに突如現れた黒い穴によって事態は一変した。
黒い穴から吹きつける激しい風によって白波がたち、太陽が黒い雲に覆われたかと思うと雷轟が辺りに響き渡る。
そして、雷轟とともに穴の中から白い脚のようなものが徐々に出てくる。
続いて腰、腕、胴体と肩、最後には人間のように丸みを帯びた顔が外に出たところでそれを支えていた力が消え去り、地面にたたきつけられるように落下した。
それを見届けた黒い穴は少しずつ小さくなり、それに合わせるように雷雲も消え去っていくと海は先程までの穏やかさを取り戻した。

「っつ~……!!管理局の連中め……やってくれたな……!」

黒い穴から現れた巨人、クルセイドガンダムに乗っていたユーノは落下の衝撃による痛みに呻きながら頭を振る。

「それで……ここはどこかな~?」

魔力の質や量から推測するに、おそらく管理局が使ったあの兵器は次元転移を引き起こすものだろう。
しかも、まともに座標がセッティングされている様子はなかった。
それが故意なのか、それとも未完成のものだったからかはわからないがどこに飛ばされたかわからないことには変わりない。
辺りを見回しても見覚えのあるものが何一つないところからしてもおそらく知らない世界に飛ばされてしまったのだろう。
そう思いながらクルセイドを空に上げようとしていたユーノだったが、相棒から思いもよらぬ事実が伝えられる。

「ユーノ。」

「なに?」

「ここは……地球だ。」

「は?」

「ここは地球のグリーンランド……しかも、向こう側の地球ではなく俺たちがいた地球だ。」

意外な事実に呆気にとられていたユーノだったが、すぐに967の情報が真実である証拠がやってきた。

「センサーに反応!?識別は……ジンクス!?じゃ、じゃあ本当に!!?」

「ああ。西暦2312年の地球だ。」

冷静に喋る967に対し、ユーノは大慌てでクルセイドを海中へと潜らせてその場から離れていく。

「僕ら以外にこっちに残されているメンバーがいるかわかる?」

「現在キャッチできる反応は……かなり微弱だが、これはアリオスだな……。」

「位置は?」

967はしばらく黙りこむと目を点滅させる。
そして、

「大体の位置しかわからないが……おそらくオセアニア方面だな。」

「遠いな……」

こちらに近づいてくるジンクスの反応を目で追いながら、ユーノは顔をしかめる。
こちらに残ったのがアリオスだというのはある意味最大級のアンラッキーだ。
アリオスに乗るアレルヤは改造を受けた施設にいたというソーマ・ピーリスを取り戻そうと躍起になっている。
アレルヤがこの状況でアロウズに攻撃を仕掛けるとは考えにくいが、もしアロウズに発見されたら、そして、そこに彼女がいたとしたら。

「はやまらないでよ……アレルヤ!!」

最悪の事態を避けるべく、ユーノは大きくペダルを踏み込んでジンクスたちを引き離しにかかった。







魔導戦士ガンダム00 the guardian 6.再会と別れの洗礼~Alleluia~

ミクロネシア 無人島

「ラッキーだったな……」

状況を把握できたアレルヤが最初に発した言葉がそれだった。
訳がわからないままアリオスとともにあの黒い穴に飲み込まれた時にはどうなるかと思ったが、幸いこうして自分もアリオスも無傷ですんだ。
仲間たちがどうなったのかがわからないのが唯一の不安の種といえるかもしれないが、悪いが今はそれどころではない。

「マリー……」

彼女が待っている。
なんとかして、彼女を取り戻したい。
その一念は、アレルヤに普段の彼からは想像できないほど大胆の行動をとらせることとなる。






インド洋 アロウズ空母 指揮官室

「では、あなた方は異世界から来た……そうおっしゃるのですね?」

「ええ。その通りです。」

マネキンが目の前にいるリーゼントの老人に非現実的な単語を口にするたびに、横に立っているリントの口元が小馬鹿にしたような笑いを浮かべる。
しかし、彼女も正直なところを言うとリントのようにいまだにそんなことなどありえないと思いたい。
思いたいのだが、

(異世界……とどめに魔法か。まるでおとぎ話だが、見たからには一概にありえないとは言えないか……。しかし……)

彼らの話が本当だとしたら、何もかも合点がいく。
突然出現した彼らの艦、無人で動く見たこともないMS。
そして、

「ガンダムのパイロットの一人があなた方の世界の出身者というのは本当なのですか?」

「ええ……非常に遺憾ながら。」

顔を曇らせるこのファルベルという老人。
第一印象は笑顔がまぶしい好々爺という感じだが、その裏には何かあると長年の勘がマネキンに告げていた。

「ユーノ・スクライア……第7管理世界ヴェスティージ出身。テロで集落を失い、その際にスクライアの一族に保護される。幼少期にテロにあい、その時に義父を亡くす。その後、ジュエルシード、闇の書などの事件にかかわり情報収集において大きく貢献する。その2年後、戦闘中に敵の攻撃を受けて生死不明に。その翌年、正式に死亡認定がされるが、4年前に2機のMSとともに帰還を果たす。その後、無限書庫司書長を務めるが、都市型テロ、J・S事件の際にMSで戦場をかく乱、犯人逮捕を妨害する。さらに、戦艦の落下を阻止しようとした管理局を妨害。現在、最重要参考人として指名手配中、ですか……何の事だかさっぱりな部分もありますが、あなた方が彼を目の敵にしているのはよ~くわかりましたよ。」

リントの皮肉のこもった言葉にもファルベルは不気味なほど友好的な笑みで答える。

「私どもとしましても彼の使うMS、エンジェル……失敬、正式にはガンダムでしたな。あれは全ての世界の脅威になると考えていまして……できることなら、排除、もしくは対抗手段を得るためにもガンダムを鹵獲したいのですよ。」

「先程、あなた方のMSを見せてもらいましたが、あの性能ならば十分にガンダムとも渡り合えると思いますが?」

「いえいえ、とんでもない……あなたもわかっているはずですよ、マネキン大佐。ガンダムは我々の想像以上の力を持っている。そんな彼らに対して十分などという言葉はあり得ませんよ。」

疑いの視線を浴びるファルベルだが、半分は本心だ。
もっとも、残り半分もばれたところでどうとでもなるが。

「できることなら、私どもはあなたがた地球連邦と協力してことに当たりたいのですよ。こちらはMSでの戦闘には不慣れでして……ようやくパイロットの育成にとりかかったというのが現実なのですよ。それに、お互い情報を提供し合えば彼らに一歩先に行かれることも少なくなるはずでは?」

「そちらの言い分はよくわかりました。ですが、こちらもすぐに返事をすることはできません。それに、まだソレスタルビーイングを異世界に転送した理由をうかがっていません。」

マネキンの言葉にファルベルは意外そうな顔をする。

「おや、言いませんでしたかな?非常に危険な状態だったので、やむなく大型転送砲を使用するしかなかったと申し上げたはずですが?」

「先程それについてのデータを見せてもらいましたが、あれだけのチャージ時間のものを追い詰められていたからといってすぐに撃てるわけがないでしょう?事前に撃つ準備をしていたとしか考えられませんが?」

「あくまで保険のつもりだったのですよ。我々としても、未完成のあれを撃つのは避けたかったのですが…」

「ファルベル准将。」

とぼけるファルベルにマネキンの鋭い視線が刺さる。

「これはあくまで私の推測にすぎませんが、あなたはガンダムの技術を手に入れるために彼らをあなた方の手が届くところに送ったのではありませんか?」

「…………………………………」

「あなた方の組織、時空管理局は慢性的な人材不足だそうですね?それを解消するためにもガンダムという力が欲しかった……違いますか?」

「ふむ……」

ファルベルはあごひげを指でさすりながら上を向いていたが、すぐに老人特有のにんまりとした笑顔になる。

「買いかぶりすぎだと言っておきましょう。私はあなたほど頭が回る人間ではありませんので。」

「そうですか。失礼しました。」

マネキンは頭を下げるとファルベルを部屋から丁重に送り出したが、お互いの印象が最悪だったのはよくわかっていた。

(ファルベル・ブリング……油断ならん男のようだな。)








格納庫

アヘッド脳量子波対応型、通称スマルトロン。
その名の通り、脳量子波を使える人間が操縦することを前提に設計されているため、現在のところ扱えるのはソーマ・ピーリスだけといっても過言ではない。
しかし、今までの戦闘において彼女が乗っていたにもかかわらずその性能は十分発揮されていたとはとても言えない。
それは、彼女が兵器ではなく人としてあろうとした結果なのだろう。
だが、

「私は超兵……どんな任務でも忠実に実行する……そのために生み出された存在……」

もう、そうであることは許されない。
そのことは先日理解した。
……したのだが、そう簡単に割り切れるものでもない。
その証拠に、愛機を見つめるピーリスの瞳は悲しげで、今にも消えてしまいそうなほど儚げだ。
そんな彼女のもとに一人の兵士がやってくる。
一人物思いにふけっていたピーリスもそれに気付き、やってきたその兵士の方を向く。

「お邪魔してしまいましたか?」

「いえ……」

ショートカットの金髪によく合う絹の上を滑るような女性の声にピーリスは少々驚く。
女性の兵士、しかもこれだけの若さでアロウズに所属している者がいるなど思いもしなかった。
だが、驚きを表情に出したのは彼女の方だった。

「し、失礼しました……」

暗い表情のピーリスを見て何か悩んでいたのを察知した彼女はバツが悪そうに視線を落とす。

「あなたは…」

「補充要員として着任した、ルイス・ハレヴィ准尉です。」

「MS部隊所属のソーマ・ピーリス中尉です。」

「え!?あ、そ、その、申し訳ありません中尉殿!軽々しく口をきいてしまい…」

「構わない。」

短く返事をしてすぐに目の前に並んでいるMSたちの方を向くピーリス。
その反応に、やはり気に障ってしまったのではないかと後悔を募らせるルイスだったが、ピーリスの口から出てきた言葉は意外なものだった。

「あなた……無理をしている。」

「え?」

まるで街角の占い師のように突拍子もないことを口にするピーリスにルイスは呆けた顔をする。
しかし、ピーリスは感じたことをそのまま話しているにすぎない。

「私の脳量子波がそう感じる。あなたは心で泣いている。」

「そ、そんなこと……」

「誰かを、ずっと思っている。」

「!」

ピーリスの超兵特有の勘は的を射ていた。
ピーリスの言葉にルイスは自分のそばにはいない彼に思いをはせる。
連絡をしなくなった自分を、彼は責めるだろうか。
復讐を選んだ自分を見たら、なんと言うだろうか。
ガンダムに対して復讐することだけを考えて生きてきたルイスの心に大きな波紋がいくつも起こり、重なり合ってさらに大きなうねりになっていく。

「中尉。」

後ろから聞こえてきた声にルイスはハッとして現実に引き戻される。

「ここにおいででしたか。ブリーフィングの時間です。」

アンドレイは最初はルイスの存在を気にかけずにピーリスと話をしようとしていた。
だが、

「!」

ルイスの顔を見た瞬間、アンドレイの時間が停止する。
自分を見つめる彼女の瞳の中へ、自分が吸い込まれていくのを感じる。
全身を電撃が駆け巡るこの感覚は今まで経験のないものだ。

「君は……」

無意識のうちにこぼれおちたアンドレイの言葉にも、ルイスは生真面目に背筋を伸ばして敬礼をする。

「ルイス・ハレヴィ准尉です。」

「…………………………………」

敬礼をするその姿すら、アンドレイには女神が自分に微笑みかけてくるように思えてくる。
叶うならば、この姿を永遠に見ていたいとすら思う。

「?少尉、返礼を。」

「あっ…ああ、はい。」

ピーリスの言葉に女神と一対一で向き合っていた天界から、一気に機械然としたものが並ぶ下界へと引き戻される。
ピーリスに促されるままに、アンドレイも敬礼を返す。

「アンドレイ・スミルノフ少尉です。」

「………………………?」

敬礼をする手を下ろしたいルイスなのだが、アンドレイは一向に敬礼をやめる気配はない。
じっとルイスの顔を見つめたまま、固まっている。

(乙女だ……)

アンドレイの頭の中はそのことでいっぱいだ。
第三者からすれば思いすごしと言えるのかもしれないが、女っ気のない士官学校で青春時代を過ごしたアンドレイには今後の人生にあるかどうかの運命の出会いに思えたのだった。







?????

「彼らをここに招待した?」

「ああ。」

涼しい顔でこともなげにそういうリボンズだが、リジェネがこんなことで納得しないことなど百も承知だ。

「何か問題でもあるのかい?」

「大有りさ。まさか、あんなバカげたことを本気にしているの?」

「バカげたこと、か……まるで“人間”のようなことを言うんだね。」

人間
その単語にリジェネはさらに顔をしかめるが、リボンズは言葉を続ける。

「僕らは上位種なんだ。もっと柔軟に物事をとらえなくちゃね。」

そう言ってリジェネを諭すリボンズだったが、彼にも少々戸惑いはあった。
魔法という存在はいいとして、問題は彼らが異世界からやってきた存在であるということだ。

(もし彼らの言うことが真実なら、計画が前後してしまったことになる……)

本来ならば地球連邦が完全に地球圏を掌握し、全ての争いが平和の名のもとに消えてから彼らのような存在と出会うはずだったのに、こうして現実に異世界からの、地球とはまったく別の場所にいる存在とのコンタクトを図ることになってしまった。

(まあいいさ。どうやら彼らもこちらとはことを構えるつもりは今のところないようだし、利用価値は十分にあるからね。)

無論、向こうも同じことを考えているようだが共同戦線を張るのも悪くない。

(さて、そろそろヒリングたちにも動いてもらおうかな。ヴェーダから新たなミッションを与えられた者たちも動き出しているし、これから忙しくなりそうだ……フフフ…)






ミクロネシア 無人島

アリオスのシステムの一通り終えたアレルヤはある操作をする。

「これでいいはずだ……あとはどちらが来るのが速いかか……」

卑怯な方法だがもし他のマイスターたちが先に自分を見つけたら、そして、自分の探し人が現れたら協力してもらおう。
だがもし、彼女が先に着いたら状況は最悪だ。
今度は拘束どころか、間違いなく命を奪われる。

「それでも、僕は君を助ける……待ってて、マリー!!」







?????

「これは……」

データの流れに身をゆだねていた874はある信号キャッチする。
この量子通信のパターンを間違えるはずがない。

「アリオスの太陽炉の信号……でも、これは……」

一言で言うなら、これはうかつな行為だ。
これだけの通信パターンを強くすれば、間違いなく信号をキャッチされる。
他の仲間に自分の居場所を知らせるためなのかもしれないが、あまりにもリスクが大きすぎる。
そのことはアリオスのガンダムマイスターもわかっているはずだ。
だとしたら、なぜ。

「アリオスのマイスターはアレルヤ・ハプティズム……そうか……!」

彼の思惑に気付いた874はすぐにフォンたちへとことの次第を伝える。

「フォン、アリオスの反応をキャッチしました。アロウズも動き出している可能性があります。早急な対応を。」

『あげゃ、了解だ。今回はやつの思惑に乗ってやるさ。』

「フォン、あなたは気付いて…」

『いつか行動を起こすだろうと思ってたが、まさかこんな方法をとるとはな。』

呆れた声で874の質問に答えるフォンだが、その様子はどこか楽しそうだ。

『俺はアヴァランチで出る。それと、いらない世話かもしれないがアブルホールの強化を急げよ。』

「了解。」

短く返事をして通信をきる874。
しかし、人間ならフォンの最後の一言に多少なりとも怒りを覚えてもおかしくない。
なぜなら、アブルホールの強化はもはやまったく別のMSを作ると言っても過言ではない域に達しているのだ。
骨格自体はそのままでいける部分も多少あるが、武装や変形機構の変更部分だけでも通常なら一カ月以上はかかる。
それを一人で、しかも急げと言っているのだ。
そして何より、それを扱うはずの人間はどことも知れない異世界に行ってしまったのだから。
だが、874はフォンの言葉を忠実に実行していた。
なぜなら、彼の行動に意味のないことなど一つもない。
いつだってフォンは自分にすら想像もつかないことをやってのけるのだから。
だから、信じる。
自分の意思で。
あの時、874はそう決めたのだから。






ミクロネシア

ミクロネシア
オセアニアに属する島国の一つであり、21世紀からの急激な経済成長によって世界の主要国の一つにまで上り詰めた国だ。
しかし、そんな経済大国にまでのし上がったこの国にも多くの無人島が存在している。
いや、出来たと言った方が適切かもしれない。
太陽光発電による恩恵を受けるようになってから、その利益を享受しようと都市部への人口移動がはじまり、そこから離れていた島々の中にはまったく人がいなくなったものもある。
それが開発を受けることなく残ったものが現在この国が所有する無人島のほとんどを占めている。

そんな無人島のうちの一つから、アロウズは強烈な反応を検知し、その場へと向かっていた。
突如現れたあの時空管理局と名乗る者たちの言っていることが本当だとしたら、おそらく別世界に送り損ねたガンダムの一機だろう。

(しかし、その本人たちはすでにいない……まったく、無責任な話だな。)

コックピットの中でピーリスは嘆息する。
先程、こちらから送ったあの信じがたい報告を受けた上からの指示で彼らをある場所へと招待することになったらしい。
しかし、そんなことはピーリスには関係ない。
ただ、上からの指示に従うまでだ。

『そろそろ反応があった海域だ。総員、気を引き締めていけ!』

『了解!』

「……………………………」

通信機器から響く声は、すでにピーリスには届いてはいなかった。
そんなものに頼らなくても、はっきりと感じる。
確かに、ここにやつがいること。

「……!!来る!!」

ピーリスがスマルトロンの高度を急激に下げた瞬間、その後ろにいたジンクスに二条の光の槍が突き刺さり爆散させる。
ピーリスは仲間を墜としたビームを飛ばした存在を睨みつける。

「被験体E-57!!!!」





「クソ!!先にマリーたちが来たか!!」

遭遇するなら、できれば誰か一人でも来てからにしたかったが、どの道今回は退く気はない。
なにがあっても、彼女を助け出す。

「アリオスガンダム、アレルヤ・ハプティズム、目標へ飛翔する!!」

戦闘気に変形したアリオスは編隊のド真ん中へ斬り込むと、MSへと変形して両腕に装備していたガトリングを四方八方へとばら撒く。
アリオスを中心に陣形が大きく広がり、孤立する者も出る。
それを、アレルヤは見逃さなかった。

「そこだ!!」

相手の銃撃をきりもみでかわし、逆さになったままビームライフルで的確にジンクスの中心を撃ち抜く。
ハレルヤがいなくなり結果的に能力は落ちたが、四年前の介入でアレルヤはそれを補ってなお余りあるものを手にしていた。
それは経験だ。
基本的にハレルヤに頼らずに自分だけで強敵と幾度も刃を交えたアレルヤはその分だけ戦いの駆け引きを学んでいる。
もっとも、前回の介入ではこちらの性能が圧倒的であったためそれを発揮する機会はさほどなかったが、それでも最後のジンクスとの戦い、そして今回のような疑似太陽炉搭載型との戦闘ではアレルヤの助けとなっていた。
だが、

「すきにさせるか!!」

「うあっ!!」

それでも、ひいき目に見てピーリスとようやく肩を並べたところだ。
しかも、これだけ大量の敵を相手にするには一機だけでは流石に限界がある。

十機以上のジンクスを相手に善戦していたアレルヤだったが、徐々に取り囲まれ、遂には銃撃によって火だるま状態になってしまった。

(クソ!!せめて、誰かもう一人いてくれれば!!)

両肩のビームシールドで耐え続けながら苦悶の表情を浮かべるアレルヤ。
撃墜されるのは時間の問題だと思われた。
だが、

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!!?」

アリオスを取り囲んでいた一機のジンクスから断末魔の叫びが聞こえたかと思うと、その機体が海面へと落ちて爆発と同時に水柱を発生させる。
その水柱が消えた先には、白い銃身をアロウズの部隊へと向けている影があった。

「あれは!!」

「盾持ち!!ということは…」

「ユーノか!!」

クルセイドへ反撃しようと方向転換をしようとするアロウズ部隊だったが、その間に間合いを詰めたクルセイドの一撃によって再び一機撃破される。

「ユーノ!!」

『無茶しすぎだよアレルヤ。反応が強くなる前に967がおおよその場所の検討をつけてくれてなかったら間に合わなかったところだよ。』

「ごめん……でも!!」

『わかってるよ。』

ユーノはシールドバスターライフルを変形させた盾で攻撃を防ぎながらアレルヤに親指を立てる。

『取り戻しにいくんだ、君の大切な人を!!』

「…!ああ!!」

アレルヤはクルセイドに背を向けると、スマルトロンへアリオスを斬りかからせる。

「マリー!!目を覚ますんだ!!」

「クッ!!」

鍔迫り合いのさなか、アレルヤはピーリスへと必死に語りかける。
だが、それを周りが黙って見ているはずがない。

「ピーリス中尉!!」

アンドレイは援護へと向かおうとする。
だが、その前にクルセイドが立ちふさがった。

「悪いけどここは通行止めだ。」

「こいつ!!」

アリオスへと執拗に攻撃をしていたのが一転、今度はクルセイドが集中砲火の的になる。
だが、ユーノはあくまで冷静だ。

「967!」

「了解!シールドバスターライフル、モード・アサルト!!」

967の声と同時に変形したときに盾の中心部をなしていた装甲部分が開き、放熱板のように斜めに広がる。

「一発でも多く当たれば…」

赤い光の雨をかわしている最中、銃口に光が溜まり、それと同時に放熱板の役割を果たしている装甲の合間から瑠璃色のGN粒子が溢れだしていく。
そして、

「それでいい!!」

それまでと違い、シールドバスターライフルがまるで大型の機銃のように無数の光弾を絶え間なく発射し始める。
その予想外の連射に泡を食ったのはアンドレイだった。

「こ…これは!!?」

弾の一発に当たり、左脚を持っていかれる。
そこでようやく距離をとるアンドレイだが、これではピーリスの援護に向かえない。
それはほかの機体も同じようだ。

「アレルヤの邪魔はさせない!!」






ユーノが他の機体を押さえている中、アレルヤの必死の説得は続いていた。

「よすんだマリー!!君はこんなこと望んじゃいないはずだ!!」

「うるさい!!私は超兵!!不完全なお前とは違う!!私は…ただの兵器だ!!」

スマルトロンのビームがアリオスの頬をかすめる。
機体のバランスが崩れかけるが、アレルヤは何とか体勢を整えてガトリングで反撃する。
そんなアレルヤの心に去来していたのは、悲しみだった。

「君は兵器なんかじゃない!!君は超兵である前に人間だ!!」

思いをぶつけるようにビームサーベルをぶつける。
しかし、それを受け止めたピーリスにはその言葉が何よりつらかった。

「違う!!私は人間であることを望んではいけないんだ!!」

あの時見たあの光景。
人を撃った時のあの感覚。
そのすべてが、自分が人間であってはいけないとささやく。
なのに、こいつはそのことを否定する。

「私が愚かな望みにすがったせいで、あんな悲劇が起きたんだ!!!!そんな私が人並みの幸せを得ていいはずがない!!!!」

アリオスを振り払ったスマルトロンはシールドでアリオスの腹部を殴りつける。
その衝撃は当然アレルヤにも伝わるが、それでもアレルヤは折れない。

「違う!!」

「何が違うと言うんだ!!!!私は戦争のための道具にすぎない!!!!そんな私があの人の家族になんて…」

「それでも君が持った感情は君のもののはずだ!!!!」

「!!!!!」

アリオスは肩をぶつけてスマルトロンからビームサーベルを弾き落とすと、そのまま抱きつくように強引に動きを封じる。

「君が抱いたその想いも、今まで感じてきたものも!!そして今、涙を流している君の悲しみも全て君のものだろ!!!!」

言われてようやく気付いた。
目から熱い雫がどんどん溢れだしている。

「感情を持っている限り君は人間だ!!!!兵器は誰かのために涙を流したりしない!!!!」

「っっ!!そんなこと!!」

「それを僕に教えてくれたのは君だ、マリー!!!!」

「!!!!!!」






?????

その日、彼は悲しそうだった。
逆に、彼の中にいるもう一人の彼は楽しそうだった。

(どうしたの、アレルヤ?)

「マリー……僕…僕っ!!」

こらえきれずに涙を流し始めた彼をなだめながら話を聞いた。
今日、実験で仲間の一人をひどく傷つけてしまったこと。
そのことを、もう一人の彼に全て任せてしまったこと。
そして、そのことを何よりも楽しんでいるもう一人の彼のこと。

「僕は……人でなしだ!!」

(アレルヤ……)

「ハレルヤにいやなことを全部押し付けて!!自分は傷つきたくないから誰かを犠牲にして!!僕は……僕は人間なんかじゃない!!化け物なんだ!!」

(そんなことない!!)

大きな声に驚いたのか、彼は泣くことも忘れてじっとこちらを見つめる。

(アレルヤは今泣いている!!自分のせいで傷ついた人のために涙を流せる!!それは、アレルヤが人だからできることなの!!だから、そんな悲しいことを言わないで!!)

「マリー……」

(それに……)

「?」

(アレルヤは私の友達だもの。私が友達に選んだ人が化け物なんかであるはずがないじゃない!)

その言葉に、彼はしばしの間沈黙するが、すぐにクスクスと笑い始める。

「やっぱり、マリーは変だ。」

(え?)

「僕のことを友達なんて、変なの!」

(そ、そんなこと!!)

「でも……」

(?)

「ありがとう、マリー……僕は人間で、君の友達だ。何があっても、絶対に。」







現在 ミクロネシア

「っああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!?マリー!!?どうしたんだ、マリー!!!」

痛い。
頭が割れる。
知らないはずの記憶がよみがえってくる。
声が、聞こえてくる。

(会いたい……アレルヤと話したい!!)

「違う……!!私は……!!」

(セルゲイ大佐と……父さんと話したい!!)

「!!!!」

その時、ピーリスは理解した。
彼女も、自分なのだと。

「う、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「マリー!!!!!」

絶叫とともにピーリスは意識を手放す。
アレルヤは、そんな彼女を抱きかかえるようにスマルトロンを優しく支える。
だが、その時間は長くは続かなかった。







驚異的な連射で弾幕を張っていたクルセイドだったが、奇しくもアレルヤの説得が終わると同時にその連射も終焉の時を迎えた。
放熱板の間からの粒子の放出が無くなり、銃口の中にたまっていた光も徐々に薄くなっていく。

「粒子残量が底をついたか……!!」

「ユーノ、わかっていると思うが再チャージまで弾を撃つどころかシールドとしても使えないぞ。」

「わかってるよ。ついでに、向こうもそのことをわかってるみたいだ…っと!」

「喰らえ!!」

クルセイドがアームドシールドの中から刃を出した瞬間、アンドレイのジンクスがランスをクルセイドへと突き出す。
それをアームドシールドで受け止めたクルセイドだったが、それを皮切りにそれまで距離をとっていたMSたちが一斉にクルセイドへと押し寄せてきた。

「中尉の援護を優先しろ!!残った者は盾持ちを押さえろ!!」

「そうは…っとぉ!!あぶなっ!!」

それまで自分がいた空間が斬り裂かれるのを見ながらユーノは冷や汗を流す。
粒子のチャージが終わるまではろくに射撃を行うことができない。
それまでこの猛攻を近接戦闘だけでしのがなければならないのは酷だろう。
実際、抜かせるつもりがなかったにもかかわらず何機かがアリオスのもとへと向かっていく。

「ごめんアレルヤ!!そっちに2、3機行った!!」

「わかってる!!けど…」

ピーリスが気絶したせいで動きを止めたスマルトロンを支えているせいでアリオスもまともに回避行動をとることができないのだ。
かといって、ここで彼女を手放してしまったらもう二度とこんなチャンスは巡ってこないかもしれない。
そんなアレルヤに一人の復讐鬼が迫る。

「ガンダムゥゥゥゥゥ!!!!」

「うあああぁぁぁぁぁ!!!!」

ルイスのジンクスが放った光弾からスマルトロンをかばうように銃弾を受けたアリオスは大きく体勢を崩す。
そして、そのはずみに彼女を手放してしまった。

「しまった!!!!」

落ちていく手をとろうとするアリオス。
しかし、すぐそばにはルイスの刃が迫る。

「パパとママの仇!!!!」

「アレルヤ!!!!」

「マリー……!!マリーーーー!!!!」

アレルヤの健闘もむなしくスマルトロンは海へ、そしてアリオスはビームサーベルで貫かれた。
……はずだった。

「な…!!?」

ルイスは我が目を疑う。
ガンダムを貫くはずのビームサーベルの刃がない。
いや、それどころかジンクスの右腕から先がきれいに切断されている。

「あげゃ♪」

呆気にとられていたルイスが続いて感じたのは激しい衝撃と上へと持ちあげられる浮遊感。
そして、辛うじて見えた先にいのは、

「ガン……ダム………!!?」

だが、自分が知っているガンダムとは明らかに違う。
血よりもなお濃く、そして鮮やかな赤の塗装に、通常のMSのそれとは比べ物にならないほど分厚い装甲。
そして、両手だけでなく両足の先からもビームの刃が飛び出ている。

『なさけねぇなぁ、アレルヤ・ハプティズム。惚れた女の一人も自分だけで守れないとは。』

「フォン……スパーク…!!?」

紅蓮の重攻機、アヴァランチアストレアFから聞こえてくるフォンの声に気をとられるが、アレルヤはすぐにこの手につかみ損ねた彼女のことを思い出す。

「マリーは!!?」

『大丈夫、彼女なら無事だよ。』

アレルヤは通信を送ってきた機体がいる海面を見る。
そこには、白、青、赤、黄とバランスよく配色された機体、プルトーネがスマルトロンを抱えていた。

「あなたは……?」

『悪いけど、自己紹介は後にしてもらうよ。ここは僕たちに任せて君はこの子を連れてこの場を離れるんだ。』

「え!?でも…」

『君の機体は損傷が激しい。これ以上の戦闘はさすがにきつい。それに…』

モニターの向こうにいる男がフッと笑う。

『君の大切な人なんだろう?』

「!」

『守ってあげなよ。もう、こんなことがないように。』

「……ありがとう。」

『どういたしまして。』

プルトーネからスマルトロンを受け取ったアリオスは戦場から背を向けて急速離脱を開始する。

「中尉!!」

「ピーリス中尉!!」

アンドレイとルイスはそうはさせまいと追撃を開始する。
しかし、

「クッ!!?」

「水中から狙撃だと!!?」

海面から飛び出してきた赤い尾を引く実弾が二人の機体をかすめる。

『ユーノさん、援護しますから斬り込んでください!!』

「ヴァイスさん!!」

懐かしい声に気が緩みかけるが、辺りを囲むアロウズの部隊に再び目つきを鋭くする。

「数はこちらが上だ!!押しきれ!!」

「……なんて言ってんだろうが、数なんて問題じゃねんだよ。」

「俺たちの連携、甘く見るなよ。」

「それじゃ行ってみようか、ユーノ“司書長”。」

「もう司書長じゃないですよ、アコース“捜査官”。」

それぞれの場所で、四機のガンダムは思い思いの得物を構える。

「アストレアF、俺様、目標を叩きつぶす!!」

まず仕掛けたのはアストレアとフォンだった。
その大きな体からは想像ができないほどのスピードで斬りかかったアストレアは見事にジンクスを肩から腰へ真っ二つに切断する。
その瞬発力に驚いたジンクスたちはアストレアから離れるようにバラけるが、それを待っていた人間がいた。

〈ターゲット、射程に入りました。〉

「了解!ヴァイス・グランセニック、サダルスード、目標を仕留める!」

海中に潜んでいたサダルスードの銃口から対空魚雷が発射される。
海面から勢いよく飛び出したそれは一機、また一機と的確に敵をとらえていく。

「クソ!!まず水中にいるやつから…」

「させないよ!」

ヴェロッサはプルトーネを滑るような動きで海面を目指していた一機の横につけると、腰にビームサーベルを突き刺す。

「な…あ…!!?」

「ヴェロッサ・アコース、プルトーネ、目標を沈黙させる!」

そのままグルリと一回転したプルトーネによって二つに分かたれたジンクスはなす術もなく爆散した。

「い、いったん退くしか…!!?」

退却を考え始めていたアヘッドのパイロットの前に、萌黄色をした絶望の使者が現れる。

「ここまで好き放題やっておいて……逃げようなんてむしがいいと思わないかい?」

「うああぁ……や、やめろ…!やめて……」

その要望が叶うはずもなく、クルセイドのバンカーの先が静かにアヘッドに押しあてられる。

「クルセイド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」

鈍い音とともにアヘッドの体に穴が穿たれ、そこから赤いGN粒子を漏らしながらアヘッドは冷たい海へとその体を沈めていった。

「た、退却だ!!退却!!」

誰が言うでもなく、4、5機だけ残されたアロウズ部隊は蜘蛛の子を散らすようにその場から離れていく。

「フゥ……助かったよ、フォン。まさか君たちも来てくれるとはね。」

「感謝なら874にするんだな。874が気付くのが遅かったら今頃お前らは仲良く魚の餌だ。」

赤い粒子が消えた空からあたりを見渡しながらユーノは大きく息をつく。

「それより、早く彼を探した方がいいんじゃないかな?今度は信号を強めるなんてことはしないだろうから手間がかかるよ。」

「それよか、一緒に連れてったあれって敵だろ?何考えてんだアイツ?」

「ああ、それは…」

ユーノはヴェロッサとヴァイスに理由を説明する。
アレルヤが人革連の超人機関で改造を受けた人間であること。
そこで、マリー・パーファシーという少女に出会ったこと。
機関から逃げるときに彼女を一緒に連れていけなかったことへの後悔。
そして、ソーマ・ピーリスという人格を植え付けられ、敵として再会することになったことを。

「超兵ね……やっぱ、どこ行っても馬鹿な奴らはいるもんだな。」

「しかし、敵同士になっても彼女を助けようとするなんてね。若いっていいね~♪」

「いや、アコース捜査官も十分若いですよね?」

人の色恋ごとに興味津津のヴェロッサだったが、この話はアレルヤと彼女を見つけてからするべきだろう。

「それじゃ、早く探そう。いつまたアロウズがやってくるかわからないしね。」

「「「了解!」」」

四人はそれぞれバラバラに散らばってアレルヤの捜索を開始する。
だが、彼らは気付いていなかった。
その様子を、いや、クルセイドを追っている存在がいることを。






無人島

「アロウズは……追ってこないみたいだな。」

モニターを見ながらホッと一息つくアレルヤ。
何とかここまでは誰にも発見されずにすんだが、大きな問題が一つ残されていた。

「やっぱり返事はなしか……」

先程からスマルトロンの中にいる彼女に通信を入れているのだが返事がない。

「やっぱり、まだ起きてないのかな……?でも、強引にハッチを開けるわけにはいかないし、それに…」

目が覚めた時、彼女はマリー・パーファシーでいてくれるのだろうか。
もし、ソーマ・ピーリスのままだったら、彼女は間違いなく自分をとらえようとするだろう。

「……何を考えているんだ、僕は。決めたじゃないか。どんなことがあってもマリーを助けるって。」

そのためなら喜んでこの命をかけよう。
絶対に取り戻してみせる。








ピーリスは一人の少女の前に立っていた。
彼女は自由を奪われ、ずっとこの暗い部屋の中でカプセルに閉じ込められたまま彼を待ち続けていたのだ。

(アレルヤが呼んでる!!)

「そうね……」

優しく彼女の言葉を肯定する。

(アレルヤに会いたい!!)

しかし、彼女の願いはずっと叶うことはなかった。
なぜなら、

(この手が動いたら……この脚が動いたら……!!)

アレルヤのところに行けなかった理由。
それは、彼女自身であるピーリスがよくわかっていた。

「ごめんなさい……今まで、こんなところに閉じ込めて。だから、今度はあなたが彼と生きて。」

(でも、それじゃあなたが…)

「ううん……」

ピーリスは首を横に振る。

「私はもう、たくさん……たくさん、大切なものをもらってきたから、今度はあなたがそれを受け取る番よ。それに、私は消えるわけじゃない。あなたのことを、ここからずっと見守っているわ。」

(ソーマ……)

「行って、マリー・パーファシー。あなたが好きな人のもとへ……」

ピーリスは闇の中へと自ら歩いていく。
そして彼女が消えた瞬間、少女はゆっくりと起き上がり、光の向こうへと歩いていった。








『…………ヤ…』

「!!」

か細い声が聞こえ、アレルヤの体が硬直する。
その声は軍人然とした固い口調ではなく、アレルヤのよく知る彼女の話し方だった。

「マリー…!?マリーなのかい!!?」

『心配をかけてごめんなさい、アレルヤ。もう、大丈夫だから。』

アレルヤは慎重にスマルトロンからアリオスを離す。
空中でMSの装甲越しに向かい合う二人の間に沈黙が流れる。
そして、どちらともなく近くにあった島の密林の中へ着陸した。
同時にハッチを開けて互いの顔を確認するが、それよりもなすべきことをするために地上に降りて駆け寄っていく。

「マリー!!」

「アレルヤ!!」

互いの相棒のちょうど中間で二人は固く抱き合う。
初めて出会ったときから、この時をどれほど待ち望んだか。
会話はできても、相手の温かさを感じることができないもどかしさ。
離ればなれになってからも、敵同士になってもずっと思いあっていた二人の再会。
その感動に、言葉よりもさきに体が勝手に動いていた。

「マリー……!!やっと会えた……!!やっと……!!」

「アレルヤ……!!私もずっと待ってた……!!いつか来てくれる……また会えるって!!」

空白の期間を埋めるように二人はしばらくそのまま動かなかった。
そのまま、どれほどの時が流れただろうか。
空はいつの間にか灰色の雲に覆われ、マリーを自分の胸に押し付けるように抱いていたアレルヤの頬に冷たい粒が当たって弾ける。

「雨……?」

アレルヤが上を向くと同時にそれまで静かだったジャングルに激しい雨音が響き渡る。
二人も例に漏れず、髪や肌を雨で濡らしていく。

「アレルヤ、私の乗ってきた機体にテントがあるから取ってくるわ。」

「それは僕が……」

「いいの。今まで迷惑をかけちゃったから、その分私が頑張らないと。」

優しい笑顔でアレルヤから体を離したマリーはスマルトロンのテントをとりに中へと戻っていく。
その間、アレルヤに今まで押し込めていた不安が重くのしかかっていた。
逃げたとき、生き残るためにハレルヤがした行為。
四年前の戦いで大勢の人間を犠牲にしたこと。
そして、同胞の命を奪ったこと。
どれも、話したくない事実だ。
それでも、

「それでも…僕はマリーに全てを伝えなければならない……でないと、僕はマリーと向き合うことができない。」

アレルヤのそのつぶやきは雨にかき消され、マリーにまで届くことはなかった。







ミクロネシア海域

その知らせがセルゲイに届いたのは中東の砂漠から抜けてインドに差し掛かろうとした時だった。
ピーリスが羽根付きのガンダムにさらわれたと聞き、いてもたってもいられずに部下の制止も聞かずに単身で出撃した。
ここからはかなり距離があるが関係ない。
彼女が自分の娘がこうしている間にも危険な目にあっているのだ。

「ピーリス……!!」

雨の勢いは徐々に強くなってくる。
それでも、正規軍の使用するカラーリングのジンクスは風に逆らいながら突き進んでいった。






無人島

テントに雨が激しく叩きつけられる中、アレルヤとマリーは黙って向かい合っていた。
再会を果たした時に、互い抱きしめあうほど思いを募らせていたにもかかわらず、いざこうして向かい合うと言葉が出てこなかった。
しかし、その沈黙はアレルヤの声で唐突に破られた。

「マリー……なぜ、君がソーマ・ピーリスだったんだい?」

四年前、最後の戦いで果たした劇的な再会。
いや、再会というならあの低軌道ステーションの時にはすでにしていたのだ。
その後は言わずもがな。
互いに気がつくことなく殺し合いを演じた。
もっとも、その時マリーはソーマ・ピーリスだったわけだが。

「たぶん、違う人格を植え付けて失っていた五感を復元させたの。ただでさえ非人道的な研究だったから、早急に結果をだして機関の存続を図ったんだと思う……」

「そんな……!」

そんな理由でマリーは戦場へ送られたのだ。
可能なら、マリーを戦場に送りだした人間全員を断罪してやりたいが、ユーノが、そして彼女の上官が行ったと聞いた。

「でもね…」

マリーはふわっと笑う。

「でもね、そのおかげであなたの顔を見ることができた……脳量子波のおかげかしら?」

「えへへ……」と照れたように笑うマリー。
しかし、対照的にアレルヤの表情は暗い。
彼女とこうして話すことができるようになったのはアレルヤも嬉しいが、それは同時に自分が犯してきた罪を彼女が知るということも意味している。
だが、アレルヤは逃げる道を選ばなかった。

「マリー……僕は、君に伝えなければならないことがあるんだ。」

アレルヤの震える声にマリーの顔も固くなる。

「僕は……僕は、今まで仲間や同胞をこの手で……!!」

施設から逃げた後、生き残るために一緒に逃げた仲間を惨殺したこと。
初めてガンダムで人の命を奪った時のこと。
ハレルヤの暴走。
そして、超人機関への攻撃。
その全てがアレルヤの心を蝕んでいく。

「僕は……僕はっ!!」

「大丈夫……」

「!」

辛さから視界を固く閉ざしていたアレルヤが目を開けると、自分の手の上に置かれているマリーの手が見えた。

「辛い過去も……これまでの戦いのことも……もう一人のあなたのことも……全部、覚えてる。」

「覚えてる……?」

「私は……私たちも、あなたとハレルヤと一緒だから……。二人で一人、彼女の記憶を私も持っている。彼女が大勢の人やあなたを傷つけたことも、彼女がどれだけ優しいかも、そのせいで彼女がどれだけ悩んでいたかも、全部覚えてる……」

自分もどれだけ罪で汚れているかマリーは知っている。
だが、それでも彼女は感謝している。
どれほどアレルヤが汚れていても、その気持ちだけは変わらない。

「脳量子波で叫ぶことしかできなかった私に反応してくれたのはあなただけ……あなたがいたから私は生きていていよかったと思えたの。だから……」

マリーが顔をあげて真っ直ぐにアレルヤを見つめる。
そして、

「神よ、感謝します。Alleluia……」

二度目の洗礼だった。
あの時と違うのは、彼女が手を組んで神への感謝の意を全身で表わしていること。
そして、こうして本当の意味で思いをつなげたこと。
それが、アレルヤには嬉しかった。

「マリー……僕も…」

その時だった。
薄手の布地から曇天の空にはありえないほどの強烈な光が飛び込んでくる。

「なんだ!?」

二人は外へ飛び出して光源の正体を見て驚いた。
この空域にはいないはずの正規軍のカラーリングをしたジンクスがこちらを見下ろしていた。

「連邦軍!?」

『中尉!!』

「その声……!!大佐!!?」

マリーは驚いていた。
セルゲイの率いている部隊は現在はここからかなり離れているはずだ。
にもかかわらず、彼はここに来たのだ。
自分を追って。

ジンクスから降りたセルゲイへとアレルヤとマリーは近づこうとする。
だが、

「そこで止まれ、ガンダムのパイロット!」

「「!!」」

突きつけられた黒い銃身にアレルヤは動きを止める。
今にも発砲しそうな空気だが、それを遮るようにマリーが声を張り上げる。

「待ってください大佐!!話を聞いてください!!」

「中尉!!?」

セルゲイは彼女の行動に驚くが、自分の知る彼女がなんの理由もなしにそんなことをする人間でないことはよくわかっている。

「……聞かせてくれるか?中尉。」






海上

アレルヤ達がセルゲイと相対しているころ、その二人はできる限り急いで、しかし丁寧にある人物を探していた。
ヴェーダから彼がここにいるとの情報を得た二人は仕事や学業を放り出してまでここに来たのだ。
ここで彼を止められなければなんのためにこんなにずぶぬれになってまで必死に駆けずり回ったのかわからない。

「でも、なんでラーズは彼を追っているんでしょうか?彼は僕たちとは違うはずなのに……」

薄い黄緑の紙をした青年が隣にいる黒い癖っ毛の男に問いかける。

「わからん。だが、ヴェーダを通じて見たやつの目はハンターのそれだった。彼を狙っているのは間違いないと私は思う。」

ボートのハンドルを左にきりながら男は周りの光景をよく見る。
彼が仲間であるはずがないのだが、それでも命を狙われているかもしれないと知ってなにもせずにいることなど自分にも、そして隣にいる彼にもできるはずがない。
隣にいる彼は誰かの痛みを自分の悲しみとして感じることができる心の持ち主だ。
彼が自分を見つけてくれてうれしく思うし、今回の救出も真っ先に言いだしたことを仲間として誇りに思う。
そして、自分は誰かの命を救うために日夜奔走しているのだ。
管轄外だと言われればそれまでかもしれないが、放っておくことなどできない。
自分は医者で、心を持った“人間”なのだから。

「レイヴ、悪いが少し揺れるぞ。」

「え、ちょ…うわぁぁぁぁ!!?」

荒波を乗り越える際の揺れでその場に尻もちをついた自分の相棒、レイヴ・レチタティーヴォはいつものことなので気にかけず、世界的に有名な医師、テリシラ・ヘルフィは自家用の船のスピードを上げていった。





無人島

「人格を上から書き換えただと……!?」

信じがたい事実だ。
まさか、そこまでのことを超人機関がしていたとは思わなかった。
だが、あの非道さを目の当たりにしてこの事実を否定することなどセルゲイにはできなかった。

「今の私はソーマ・ピーリスではありません。マリー……マリー・パーファシーです。」

彼女の言葉に続くようにアレルヤが話す。

「マリーは優しい女の子です!人を殺めるような子じゃない!」

一歩前に出たアレルヤにセルゲイは手に持っていた銃を握る力を強めるが、アレルヤは臆さない。

「マリーはあなたに渡さない……!連邦やアロウズに戻ったらマリーはまた超兵として扱われる!そんなこと、僕が許さない!」

「だが、君たちといても中尉は戦いに巻き込まれる!」

「そんなことしません!!」

心外だとばかりにアレルヤは怒鳴るが、セルゲイは頑として聞かない。

「私はテロリストの言うことを信じるほど愚かではない。」

「信じてください!!」

アレルヤの説得もむなしく、撃鉄がガチャリと鈍い音をたてる。

「私は君たちの馬鹿げた行いによって多くの同胞を失っている。その恨み、忘れたわけではない。」

セルゲイの言葉にアレルヤはギュッと唇を結ぶ。
彼の言うことはいちいちもっともだ。
自分はテロリストで、一緒にいればマリーは戦いに巻き込まれる。
そして、彼の仲間の命を奪ったことも事実だ。

せっかくマリーを取り戻せたのにまた奪われてしまう。
絶望で目の前が真っ暗になるアレルヤだが、ある提案を思いつく。
根拠などない。
だが、この目の前にいる彼のマリーへの想いが真実のものだと信じ、一縷の望みをそれに託すことにした。

「……撃ってください。」

「なに?」

セルゲイの眉がピクリと動く。
マリーも突然の事態に訳もわからず気を動転させる。

「その代わり、マリーを……いいえ、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと約束してください。」

「アレルヤ何を!!?」

「いいんだ……」

マリーをなだめ、アレルヤは銃口の前に進み出る。

「撃ってください。」

そう言って自分を見据えるアレルヤのオッドアイを、セルゲイはじっと見つめる。
彼女を思う気持ちが真実であることも、そのためになら命を投げ出せる覚悟が本物であることもすべてがありありと伝わってくる。
ならば、自分もそれに男として答えることが礼儀というものだろう。

「……承知した。」

セルゲイは少しずつ指に力を込めていく。
アレルヤもその時を目を閉じて静かに待っていた。
そして、銃弾が今まさに放たれようとしたその時だった。

「いや……やめて!!」

「!!?」

絹を裂くようなその声に目を開いたアレルヤの目に飛び込んできた光景は銃を構えるセルゲイではなく、銀色の髪を揺らす彼女の姿だった。
慌ててどけようと肩を掴もうとしたアレルヤだったが、それよりも早く乾いた炸裂音と硝煙が湿った空気の中に漂った。










その頃、ユーノはクルセイドでの捜索を967に任せて自分はバリアジャケットを展開して隠れられそうな場所を片っ端から探しまわっていた。

「フゥ~……これだけやっても見つからないなんて。サーチに引っかかるのは鳥とかばっかだし、ホントに時間がかかりそうだなぁ…」

溜め息交じりで南国特有のにおいが立ち込める森の中へと舞い降りる。
ムッとする湿気と草の匂いに思わず顔をしかめるが、それよりも今はアレルヤを探すことが先決だ。

「はぁ……人がこんなに苦労してるのにアレルヤがラブシーンとかしてたらどうしよ?反射的に手が出ちゃうかもしれないよ……」

理不尽にアレルヤへ怒りの矛先を向けながら捜索をするユーノ。
しかし、

「っ!!?」

反応が一瞬遅れた。
これだけ生物の反応が多いと役に立たないと思ってサーチをやめていたのが裏目に出た。
障壁を張るよりも速く弾丸がユーノの肩をかすめ、わずかではあるがそこから血がにじむ。

「動くな。両手を上げろ。」

冷たく突き刺すような声にユーノは振り向くこともできずに声の主の指示に従う。

(……けど、サーチをしていなかったとはいえ、ここまで近づいて気付かないなんて……)

魔法のことを忘れ、訓練漬けの毎日を送っていたせいもあって気配には人一倍敏感になっていたはずなのにここまで接近を許す日が来るとは思ってもみなかった。
だが、

「アロウズかい?随分と仕事熱心なことで。」

軍人、しかも精鋭ぞろいのアロウズの中にならこれくらいの芸当をやってのける人間は一人はいるかもしれない。
しかし、ユーノのその予想は大きく外れていた。

「俺はそんなものではない……俺は、お前のような似非人を狩る存在だ。」

(……?似非人?)

ハスキーがかった声にユーノは心の中で首をかしげる。
あいにく自分は似非と呼ばれるような出生をした人間ではないし、別に改造を受けた覚えもない。
もっとも、魔法を使えるというだけでこちらの人間にとっては衝撃的事実だろうが。

「僕はそんなんじゃないけど?」

「黙れ。貴様にその自覚がなくとも、いずれ貴様も目覚めるときが来る。俺の…俺の家族のように……!!!」

男の声が呻くようなものに変化し、今にも銃弾が放たれようとしているのがユーノにもわかる。

(まずい……防御魔法を張って対抗するしかないかな?)

できることならあまりこの世界の人間に魔法のことを知られたくなかったので極力使わないように心がけていたのだが、今回は仕方がない。

「神よ……似非人に死を…そして、彼の魂に安らぎを!!!!」

襲撃者が発砲しようとした瞬間にユーノも障壁を張ろうとする。
だが、それよりも一足先に銃声が雨の中を突き抜けていった。









マリーはその場で膝をついた。
だが、襲ってくるはずだった痛みは全くない。
アレルヤも呆然としているが無傷だ。
恐る恐る視線を上へ向けてみると、そこには銃を真上に向けているセルゲイがいた。

「たった今、ソーマ・ピーリス中尉は名誉の戦死を遂げた。」

「大佐……」

これが、セルゲイがアレルヤに対して示した答えだった。
彼を許すことは一生かかってもできないだろう。
だが、彼を信じることはできる。
そう思ったからこその決断だった。

「……中尉を頼む。」

そう言い残し、セルゲイはその場を去ろうとする。
だが、

「スミルノフ大佐!!」

マリーの声にセルゲイは足を止める。

「私の中にいるソーマ・ピーリスがこう言っています……あなたの娘になりたかったと……。そして、私も……」

セルゲイは一度大きく空を仰ぎ、マリーの方へ振り返る。

「そうか……その言葉だけで十分だ……」

娘を送り出すような瞳。
たまらずマリーはセルゲイへと駆け寄って抱きつく。
涙で震える彼女に、セルゲイは優しく語りかける。

「生きてくれ……生き続けてくれ……そして、彼と幸せにな……」

「っ……!!はいっ……!!」



その後、ゆっくりとジンクスを浮上させるセルゲイは最後まで敬礼をするマリーを見つめていたが、ある程度の高度にまで達したところで背を向けてその場を離れた。
その帰りの道中、見なれない機体と遭遇する。

「あれは……ガンダムか。」

白い機体、プルトーネは警戒するようにライフルを向けていたが、セルゲイは今しがた自分のいた場所の座標を転送する。

「これは……まさか、ここに彼らが?」

ヴェロッサは不審に思いながら、額から放つ光でこちらと交戦の意思がないことを示すセルゲイをそのまま見送り、座標にあった島へ向かう。
そこで、彼が見たものは、

「あれま……人が苦労している時にお熱いことで。でも……」

クスリと笑うと、その姿を画像に収めて記念に記録する。

「悪くない画だ……」

そこには、互いの気持ちを確かめ合うように口づけをかわす二人の姿があった。
それを祝福するように、雲が晴れた空には大きな虹がかかっていた。








「クッ!!」

襲撃者は間一髪でその銃弾をかわすと、撃ってきた者に対して撃ち返そうとする。
だが、持っていたのが狙撃用のライフルだったせいもあり、その前に追撃を受けてやむなくその場から退散することになった。

「待て!!」

「おわなくていい、レイヴ。それよりも、彼の傷を見るのが先だ。」

草むらをかき分けるように現れた黒髪の男にユーノは身構えるが、それを見た男はフッと笑う。

「心配しなくていい。私たちは君を彼から守りにここへ来た者だ。」

ユーノの肩の傷を見ながら黒髪の男はホッと胸をなでおろす。

「この程度なら問題はないな。途中で弾道がそれたおかげで致命傷にならずに済んだ。」

「あの、あなた方は……?」

思い出したようにその言葉を口にしたユーノに、男は再び笑う。

「私の名はテリシラ・ヘルフィしがない医者さ。彼はレイヴ・レチタティーヴォ。学生をしている。」

「テリシラ……?あっ!!まさか、ドクター・テリシラ!?」

「おや、知っていたか。君はこちらの話には疎いと思っていたのだが……」

知っているも何も、四年前の介入をしていた頃から話題になっていた医師だ。
医学の研究おいて様々な発見をしただけでなく、戦場での無償の治療、さらには軌道エレベータの医療への使用する理論を展開している超がつくほどの有名人だ。

「ドクターのことを知らない人はそういませんよ……」

呆れたように笑いながらレイヴと呼ばれていた青年がユーノに手を貸して立ち上がらせる。

「いや、何せ異世界の人間がこちらの世界の事情に興味を持つとは思っていなかったのでね。」

「!!」

二人に気を許しかけていたユーノだったが、その言葉に再び緊張が奔る。

「なぜそのことを知っている……!」

「なに、つい先ほどヴェーダからダウンロードされた情報だ。流石に最初は驚いたが、そう考えると納得がいく点が多々あるのでね。」

「僕はいまだに信じられませんよ……魔法とか異世界とか……」

「あなたたちは一体……!?」

戸惑うユーノにテリシラが答えを示すように虹彩を金色に輝かせる。

「私たちはイノベイド……ヴェーダに生み出され、その目となり耳となり、時には与えられたミッションをこなす……そういう存在だ。」








優しき狂戦士、想い人を取り戻す
空の守護者、造られし天人と出会う






あとがき・・・・・・・・・・という名の嫉妬

ロ「というわけで、ユーノがIの皆様と遭遇する第六話でした。」

ア「ちょっと!!僕とマリーの再会の件は!?」

ロ「うるさい、このバカップル。」

ア「なにをぉぉぉぉ!!?」

ユ「僕がなのはと敵対フラグ立ってるのにいちいち騒ぐなよ、このバカップル。」

マリー(以降 彼女さん←ミレイナ命名(笑))「ユーノ君んんんんん!!?なんかキャラ変わってない!!?」

ヴァイス(以降 元ヘリパイ)「人が必死で探し回ってるときに何してくれてんだよ、このバカップル。」

ア「なんか初登場の人にまで酷い言われようだ!!?」

ヴェロッサ(以降 ナンパ師)「はっはっはっはっ、このバカップル。」

彼女さん「こっちは特になにもなしでバカップル呼ばわり!!?」

フォ「どうせあの後エロい展開に突入したんだろ、このバカップル。」

ア「してないからね!!?ていうかしてたらこの作品終わるから!!」

レイヴ(以降 学生)「あなたのせいで僕らの出番が減っちゃったじゃないですか、このバカップル。」

ア「それ僕のせいじゃないよね!!?どっちかっていうとロビンのせいだよね!!?」

テリシラ(以降 毒舌医師)「いい加減認めたまえよ、このバカップル。」

ソーマ(以降 ソ)「私はカヤの外か、このバカップル。」

彼女さん「ピーリス中尉ぃぃぃぃぃ!!?あなたも初登場なのになんで嫉妬の炎をそんなに燃やしてるの!!?」

ソ「お前は私のものだ/////」

彼女さん「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?そっちの趣味の人だったのこの人!!?」

ロ「バカップルがうるさいうえに、こいつらのせいであとがきが無駄に長くなっているのでそろそろ次回予告に行きます、このバカップル。」

ア「ここでもそれ言うんかい!!!」

ソ「次回はロックオン編だ。」

元ヘリパイ「次元の狭間から飛び出したロックオンを待っていたのは一面に広がる荒野の世界。」

ナンパ師「そんな開拓世界の町でロックオンは情報を集めつつ地球に戻る手段を模索する。」

ユ「そこで、ロックオンはある二人の人物と遭遇する。」

フォ「自分と似た境遇の二人……そこでロックオンは自身のアイデンティティを再度問い直す。」

学生「そんな中、突如として出現する新型MS!!」

毒舌医師「ケルディムで迎え撃つロックオンに勝機はあるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」

ア・彼女さん「「僕(私)たちはバカップルじゃなーーーーーーーーい!!!!!!!!」」



[18122] 7.twin’s
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/14 16:20
?????

その時をリボンズは部屋の真ん中にあるソファーに座して待っていた。
本当は出迎えに行くべきなのかもしれないが、たかだか人間を相手にそんなことをする必要などないと考えたリボンズは堂々と座っていた。
そして、その時が来た。

「お待たせしましたな。」

そう言って暗い入口から菫色をした髪の青年に連れ添われて現れたのは一人の老人。
一件好印象を抱きそうになる風貌だが、その瞳は鷹のように鋭く、この老人がタダものではないことがリボンズにはよくわかった。
そして、リボンズも普通の人間でないことを老人は見抜いていた。

「お待ちしていましたよ、異世界からのお客様。」

「驚きましたな……あなたのような若い方がこの世界を率いていらっしゃるとは。」

「率いている、ですか……いかにも人間らしい表現ですね。」

老人の言葉に小さく笑うリボンズ。
しかし、老人の方はあくまで柔和な態度で彼と話す。

「お気に障ったなら謝罪いたします。しかし、この年になると思ったことがすぐに口から出てしまうもので……。見抜いてしまったことをついつい……おっと、これも失言でしたな……」

その言葉に隣に立っている青年はムッとするが、当のリボンズはそんなことなど気にしてなどいなかった。

「いえ、そう思われたのでしたら別にかまいませんよ。理解のない者が見ればそう思うのかもしれませんからね。」

「そういえば、その理解のない者がこちらに二人ほど残っていたそうですな。こちらの不手際で申し訳ありません。」

「気にはしていませんよ。それに、むしろ二人だけでもこちらに残ってもらって助かりました。」

「と、言われると?」

老人が不思議そうに首をかしげるとリボンズはクスリと笑う。

「彼らには僕らに対抗する存在であってほしいんですよ。この世界のためにもね……」

そう言って瞼を開いたリボンズの目には野望にも似た炎が燃えていた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 7.twin’s



第43開拓世界 ゲイルス 荒野

二本の角を持った獣がごつごつとした岩が転がる赤茶色の大地に生える貴重な緑を食む。
遠目には鹿にも見えるが、近づいてみると鹿とは違うことがよくわかる。
頭は確かにくすんだ緑の毛皮で覆われているが、胴体は亀の甲羅のような固い殻でおおわれ、動くたびにその殻の隙間からピンクの地肌が見える。
そんな猛獣の牙さえもはじき返しそうな堅牢な体を持つその獣の耳がピクリと動く。
彼を襲う存在はこの世界でもかなり限られているのだが、それでも敏感に自分に迫る危険を察知する。
しかし、彼が目的でここに来たものにここで逃げられたのでは骨折り損だ。
固い殻に覆われていない頭に慎重に狙いをつけ、獲物が逃げようと背を向けた瞬間、

「悪いな。」

銃声と空気を切り裂く音がした後、小さく血しぶきを飛ばしながらその鹿のような動物は地面にばったりと倒れた。
今晩の食事を手に入れることに成功した男は素直に喜びを表現したい気持ちを押さえ、獲物の前で膝をついて両手を組む。

「主よ……私ども小さき者に、この犠牲を与えてくださったことを感謝します……」

男は別に敬謙なクリスチャンというわけではない。
しかし、地球から来たという先祖からの代々伝わる教えに従っているだけだ。(もっとも、多少ミッド風に変化はしているらしいが)
それに、自分たちを生かすために犠牲になった彼に対する感謝の気持ち自体は本物だ。

「さて、早いとこ沢に行って血抜きをしないとな…」

男は無精髭の生えた顔をあげて純粋な質量兵器仕様のライフルと獲物を担ぐと近くの水場へ向かおうとする。
その時、遠くで爆音のような叫び声が遥か彼方から聞こえてきた。

「この声……ゲイルか。まったく……またどこかの馬鹿が手を出したか。」

初めてこの世界に来た人間の中には、この世界の名の由来にもなったその珍しい動物を見ようとする者がいる。
しかし、この世界に住んでいる人間は進んで特別な用がない限り彼らとはかかわりを持たないようにしている。
もともと人前にはなかなか姿を現さないため遭遇することは少ないのだが、ただでさえ気性が荒く、その上魔力結合を解除する鱗を纏っているのだから生半可な装備で会いに行くのは自殺行為と言えよう。
しかし、どうやらゲイルと遭遇した馬鹿は魔法で対抗しているようだ。
時折パッパッと光が明滅していることからそれがわかる。

「チッ……馬鹿が!」

興味本位で会いに行って死ぬのは勝手だが、流石に近くで死なれては寝覚めが悪い。
装備は心もとないが助けに行くしかない。
ライフルを構えて走り出した男だったが、しばらく進んだところでそれが魔力光ではないことに気付いた。
その証拠に、ゲイルの声がいつも以上に鬼気迫っている。

「なんだ……!?」

一体どうなっているのか。
訳もわからず、切り立った崖になっている場所についたところで男は唖然とした。
モスグリーンと白の巨人と、全身を虹色の鎧で固めた巨竜が崖の下で激しい死闘を演じていたのだ。



「クソッ!!なんなんだよこいつは!!?」

「該当データナシ!データナシ!」

「当たり前だ!!あったら逆にびっくりだっての!!」

ロックオンは今日がワースト3に入るくらいの人生最悪の日であることを確信していた。
あの黒い穴に飲み込まれた後、いきなりグランドキャニオンも顔負けのだだっ広い荒野に放り出され、他のガンダムの反応を探すどころか地図すら役にたたず途方に暮れていたらケルディムと同じくらい大きなトカゲ(?)に遭遇し、こうして襲われる羽目になったのだからそう思いたくなるのも仕方がない。

「ったく!!実は怪獣映画の撮影でしたなんてオチにはなんねぇのかな、っと!!」

GNピストルで的確に怪物の頭をとらえるが、怪物はひるんだ程度で再びケルディムの腕へとその鋭い牙を向ける。
空中へと上がることでその一撃を回避するが、怪物も負けじとそれまで背中にしまっていた大きな翼を広げる。
その翼だけで怪物の全長の約二倍はありそうだが、それをひょいと二、三回羽ばたかせるとケルディムが昇った高度まであっという間に追いつく。

「おいおい……!!ドラゴンなんざおとぎ話の中だけに…っ!!?」

おとぎ話
自分で言ったその言葉でロックオンの頭は急速にある仮定にたどり着く。
あの時はあそこまでのモノを見せつけられても信じられなかったが、彼の話が本当だとしたら地図が役に立たなかったことも、目の前にいるこいつについても全て説明がつく。

「まさか……俺、本当に…!!?」

ロックオンは操縦することすら忘れて呆ける。
そう、おそらくここは地球ではないどこか。
異世界と呼ばれる場所なのだ。

「マジ…か……」

目の前にいるドラゴンはすでに口の中に何やら虹色の光をため込んで臨戦態勢を整えているが、ロックオンはそのことに気付かないほどショックを受けていた。
せっかくソレスタルビーイングに入ってアロウズに対抗できる力を手に入れたのに、向こうにカタロンの仲間たちを残して帰る方法もわからない場所に飛ばされてしまったのだ。
その絶望は計り知れないものだろう。

「ロックオン!!ロックオン!!」

ドラゴンは口の中の光を外に出そうとしていることに気付いたハロがロックオンに警告を出すが、当の本人は気が抜けてしまいもう手が1mmも動かない。

「どうしろってんだよ俺に……」

しかし、抜け殻状態だったロックオンの心の中がある感情で埋め尽くされていく。
あまりにも理不尽なこの状況。
おまけに目の前でぎゃあぎゃあとうるさく喚くでかいトカゲ。
灼熱のマグマにも似たその感情は、遂にロックオンの口から言葉として噴火した。

「どうしろってんだよ!!!!!!」

ドラゴンが口を開けると同時に体を斜にずらして巨大な虹色の弾をかわしてケルディムは口が閉じられる前にビームピストルの弾を口腔内にたたき込む。
まるで口の中で線香花火が燃え盛っているように激しい光の花を咲かせたドラゴンは呻くような声をあげて地上に落下していく。
そして、赤い土煙をあげて地面に激突したものの、ドラゴンはすぐに起き上がって上空にいるケルディムを睨みつけると、周囲の大気が鈍器に変わったのではないかと思うほどの咆哮を上げる。

「キレたか?まあいい、俺も憂さ晴らしがしたいところなんでな……とことん付き合ってやるよ!!!!」

ロックオンは銃口を下にいるドラゴンへと向けるが、戦いは予想外の形で終結する。
ガラスを引っ掻くような不快な音が山彦のように周囲一帯に広がったかと思うと、ドラゴンはマタタビを与えられた猫のように大人しくなり、ケルディムに背を向けて去っていった。

「なんだ?」

ロックオンは不快な音の音源を探して辺りを見渡す。
すると、崖の上に立つ人影に気づいた。

「あんたか、今のをやったのは。」

外部音声で無数のイボがつき出たオカリナを持ったその人物に話しかける。
ティエリアがいたら機密事項を守れとまたうるさく言いそうだが、こんなところにきて機密もクソもないだろうとロックオンは自分の中で納得してすぐに頭をきりかえる。
見たところこちらに危害を加える気はないようだが(もっとも、持っているライフルで攻撃されたところでどうということはないのだが。)、助けてくれたからといって素直に信用するほどロックオンも甘くはない。
だが、男の答えは意外なものだった。

「勘違いをするんじゃない。お前じゃなくてゲイルを助けたんだ。」

「ゲイル?こんなところに放り出されて途方にくれてる人間にいきなり襲いかかってくるあのデカブツのことか?」

ロックオンが棘のある言葉を吐くと、男はあごで翼を広げて空へと昇っていくゲイルをさす。

「ゲイルス……この世界の名の由来にもなったように、ここはもともと彼らの土地だ。私たちは彼らにこの地を分け与えてもらって生活している。敬意を払うのは当然だろう。」

「なるほどね……そいつは悪かったな。」

ロックオンは崖の近くまでケルディムを寄せるとハッチを開けてケルディムの顔の前に出る。

「それで、ゲイルス……って言ったか?具体的にはどういうところなんだ?」

いきなり出て来て何を言うのかと思ったが、男にはそれよりも不満なことがあった。

「その前に顔を見せたらどうだ?それとも、顔を見せずに話すのがお前の初対面の者に対する礼儀なのか?」

「おっと、こいつは失礼。」

ロックオンはヘルメットをとって外の空気を吸う。
少し埃っぽいが、こうして息ができるので問題はなさそうだ。

「これでいいかい?スナイパーさん。」

「スナイパーじゃない……私の生業は猟師だ。それと、猟師だからってそのまま猟師なんて呼ぶな。私にはアルフレード・K・ウルフという立派な名前がある。」

猟師さん、と呼ぼうとしていたロックオンは出鼻をくじかれるが、それよりも聞かなければならないことがある。

「アルフレード、ここは一体どこなんだ?別の世界に飛ばされちまったことぐらいはわかるが、具体的にどういうところに飛ばされたかまでは分からないんでね。」

「お前、次元漂流者か……なるほどな、それならわざわざごたごたが起きている世界にきても仕方がないな。」

「次元漂流者?ごたごた?それどういうことだ?」

「質問は一つずつにしろ。話すこちらのことも考えろ。」

説教じみたアルフレードの言葉にイラッとするが、それでも彼は貴重な情報源だ。
ご機嫌を損ねるわけにはいかない。

「悪いな。せっかちなもんでね。」

ロックオンのへらへらした笑いにアルフレードもイラッとするが、妙な騒ぎを起こされても困るので質問には答えてやる。

「まず、最初の問いの答えだが、ここは第43開拓世界ゲイルス。巨竜と鉱物資源、そしてわずかな緑が存在する世界だ。」

「なるほどね…そんじゃすぐで悪いが次の質問だ。次元漂流者ってのはなんだ?」

「言うなれば世界規模での迷子だ。ごく稀に現れることがあるが、そのほとんどは元いた世界に帰れずに管理局が管理する世界で一生を遂げることになる。」

アルフレードのそのぶっきらぼうな事実の言い方にロックオンは笑顔を消して表情を厳しくする。

「おいおい、いきなり絶望的なことを言ってくれるなよ。そこは絶対帰れるとか言うところじゃねぇのか?」

「無駄に希望を持たせておくのも悪かろう。私なりの気づかいだ。」

「そらどうも……」

こめかみをピクつかせながら投げやりな返事をするロックオンだったが、どこかそうではないかという疑惑は持っていた。
しかし、

「けどな、俺はどうしても戻らなきゃなんねぇんだよ……仲間が向こうで待ってるんだ。」

「……そうか。」

「……?諦めろとか言わねぇのか?」

ロックオンが意外そうに聞くと、アルフレードは目を閉じる。

「主は愛する者に越えられない試練は与えない……お前が絶対に帰るというのなら、それは神が与えられた試練であり、それを為すことに何らかの意味があるのだろう。」

「なんじゃそりゃ……ていうかあんたクリスチャンか?別世界にまでキリスト教が普及しているとは驚いたな。」

「私の先祖はもともと地球出身だ。今のは私の曾祖父が勝手に解釈したものだ。それより、お前も地球出身か?」

「そうだ。」

と答えたロックオンだが、しばらくしてしまったと後悔する。
“こちら”の地球と“あちら”の地球は時間的にズレがあるうえに歴史の流れも少し違う。
深くツッコまれれば怪しまれる可能性がある。

「しかし、その割には異世界について知っているような口ぶりだったな?本当に地球出身か?」

「こっち側出身のやつに知り合いがいてな。そいつから聞いた。」

「……そういうことにしておいてやる。……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。なんていうんだ?」

「ん……ああ、俺はロック…」

「ロック?」

「いや、ジーン……」

「?どっちなんだ?」

「ジーン……ジーン・マクスウェルだ……」

なんでそう言ったのかはロックオン自身にもわからなかった。
確かにガンダムを使わせてもらっているが、ソレスタルビーイングに義理立てする必要はどこにもない。
コードネームを教えればいいし、なんなら本名で言ってもよかった。
だが、ロックオンやディランディの名を口にしようとしたときによぎった自分そっくりの顔。
心がもやもやし、気付いたら仲間たちが自分を呼ぶ時の単語、ジーンとなんとなく出てきたマクスウェルという名前をくっつけていた。

「ジーンか……あまり良い名ではないな。」

「喧嘩売ってんのかテメェ……」

思いつきの名前とはいえ、自分のセンスにケチをつけられるのは頭に来る。

「まあそれはいい。いつまでもここにいるのはお互いまずかろう。」

そう言うとアルフレードは一人で歩きだす。

「ボーっとするな。そのデカブツの置場も提供してやるからついてこい。まったく、厄介事を持ちこんでくれおって……」

「そういや聞き損ねてたけど、三つ目の質問だ。」

ロックオンの声にアルフレードは足を止める。

「この世界で起こってるごたごたってのはなんなんだ?」

もったいぶるようにそのまま立ち止まっていたアルフレードだったが、神妙な面持ちで振り向く。

「この世界に、管理局の連中が手を出そうとしている。」

その言葉に、コックピットの中に戻ろうとしたロックオンは動きを止めた。






同時刻 第一管理世界 ミッドチルダ 病院

「もう、ついてこないで良いって言ったのに。」

「そうは言っても、心配なものは心配なんだよ。」

微かに花の香りを漂わせるその女性は長い黒髪を揺らしながら隣に立つ若い男に笑いかける。
周りにいる人間は彼のウェーブのかかった短い金髪と翠の瞳を見ながらこそこそと話し合うが、二人はそんなことなど気にせずに大きく開いた自動ドアを通って外へと出る。

「もう、あなたってば昔からそう。大事なことは一人で抱え込むくせに、人の心配ばっかりして。」

にっこりと目が見えなくなるほどの満面の笑みでリュアナ・フロストハートは長い付き合いの恋人に苦言を呈するが、当の恋人は溜め息をつきながらごまかすように笑うだけだ。

「別にそんなことはないさ。人間少し無茶をするくらいが健康には良いんだよ。」

「じゃあ、私もその健康法を採用しようかしら?」

「駄目。」

「ほら、結局あなたのわがままなんじゃない。」

リュアナは恋人のエミリオン・ヴィントブルームのわき腹を小突きながら抗議するが、エミリオンはやはり笑って流す。
だが、エミリオンの笑いが突如消える。

「……?」

リュアナは不思議そうに前を向くと、そこには長い藍色の髪と管理局の陸士服をした女性が頭を下げていた。

「ごめん、仕事にいかないといけないみたいだ。」

「エミリオン……」

「大丈夫だよ。この埋め合わせはいつか…」

「そうじゃないの。」

リュアナはエミリオンの腕をぎゅっと握る。

「本当に、無理をしてない…?」

「……ああ、もちろんだよ。」

しかし、エミリオンはリュアナの方を向くことなく待っていた局員のもとへと歩いていく。
そして、彼女から受け取った白い白衣を羽織ると胸ポケットにかけていたメガネをかける。

「プライベートの時には連絡はしないでほしいと言っておいたはずですが?ナカジマ陸曹。」

「申し訳ありません。しかし、どうしても早急に確認したいことがありまして……」

疲れた顔で謝るギンガ・ナカジマに、自分も苦労を重ねている身としてエミリオンは気遣いの言葉をかける。

「そちらも大変ですね。先の事件で逮捕した子の研修とは……」

「正確に言うなら、聖王教会側が提案したことなんですけどね。でも、あの子たちにもいい経験になると思います。」

「それにしたって、まさか僕の護衛なんて……」

今回は完全に自分の意思で決めたことなので、あの男も根回しはしていないはずだったので彼女たちがついてくると聞いた時は驚いた。
そして、驚くと同時に嫉妬にも似た感情が小さく灯っていることにも気付いた。
自分や家族は何もしていないのに、周りから忌み嫌われて生きてきた。
それに引き換え、彼女たちの周りには理解者が大勢いる。
そんなことを考えるとうらやましくて仕方なかった。

「ヴィントブルーム技師長?」

「ああ……スイマセン。少し考えことをしていたもので……」

不思議そうに自分を見ているギンガに気付いたエミリオンはそう言って取り繕う。

確かに昔は誰も自分のことを受け入れてはくれなかったが、今は違う。
自分が何者なのかを知ってもそばにいてくれる人がいる。
どんなに希望が薄くても、太陽に向かって必死に体を伸ばす向日葵のように明るい彼女にどれほど救われたか。
だから、今度は自分が彼女を守る。
たとえ、この手で生み出すものが誰かに不幸をもたらすものになるのだとしても……







三日後 ゲイルス

冷える夜の闇にまぎれながら、ロックオンは持っていた氷を口の中に入れる。
こうすると口から出る息が白くならず、獲物に感づかれる確率が低くなる。
氷のせいで体の中から冷えてくるが、こんなもので音を上げるわけにはいかない。

(……来た。)

仕掛けておいた餌に、通常の猪よりも遥かに大きな牙を持つ動物が森の中から出てくる。
アルフレードの話ではこいつは雑食だそうだが、どちらかというと肉食よりらしい。
猪のくせに。

だが、ロックオンは臆することなく確実に仕留められる距離に入ってくるまで息を殺して待ち続ける。

(あと20……17……12……)

少しずつではあるが着実に近づいてくる猪。
しかし、射程距離まであと5mほどのところで何かに気付いたのか視線を餌ではなく正面に移す。
そして、一声鳴いたかと思った時にはロックオンへと突進を開始した。

(気付いたか……)

だが、ロックオンは慌てない。
相手が動いているときはいたずらに撃ったところで当たらない。
敵の動きを読み、そのうえで急所へと確実に一撃を加える。
それだけでいい。

「狙い撃つ!」

そう言った次の瞬間には猪は倒れて慣性に従って数m進んで動かなくなった。
その額には赤い点がくっきりと刻まれている。

「ミッション完了……なんてな。」

ロックオンは予定よりも距離が近くなった獲物を四つの車輪がついたそりのようなものに乗せると、居候先の主との合流地点である水場へと向かう。
そこそこ距離はあったが、カタロンで鍛えていたおかげかさほど辛いとは感じない。

「早かったな。」

先に血抜きをしていたアルフレードに続き、ロックオンも隣に猪を置くと首元を大きなナイフで切り裂いて血を流し始める。

「肉はあとで燻製にでもしておくとして……毛皮は今度ミッドに行った時に売るか……ついでに、お前とあのMSも送ってやる。」

「俺がついでかよ。てか、いい加減名前で呼べよな。」

唇を尖らせるロックオンだが、アルフレードはその訴えを無視する。
もう三日も経って、町の人間は気軽にジーンと呼んでくれるのだが、アルフレードだけは名前を呼ばずにお前としか言わなかった。

「名はそのものの本質を指し示す。偽の名で呼べばその人間がわからなくなる。」

「へいへい、さいですか。」

その後、二人は無言で荷車に今日の成果を乗せて自分たちも乗り込むと、馬に鞭を打って車を走らせ始める。

「しかし、魔法が使えるのにこんな前時代的なもんで移動とはな……」

「この世界に入ってくる魔導器具など再生すら不可能なゴミばかりだ。デバイスもボロのストレージくらい。だから、こうするしかないのさ。」

そんな話をしていると、大きな円の描かれた場所につく。
パッと見たところ直径100mほどだろうか。
さまざまな文字や数字が書かれている。

「けどまあ、俺にしてみりゃこれだけでも十分にすげぇと思うがな。」

「こいつは特別だ。これがあるから私たちはゲイルや他の魔生物との無駄な遭遇を避けられているんだ。」

そう言いながらアルフレードは作業を終了する。
すると、円全体が光で覆われ、闇夜の中でその一帯だけが昼間になったかのように明るくなる。
だがその光はしばらくすると薄くなり、それに合わせるかのように二人の姿も薄くなっていき、光がすべて消えたときには二人もその場から姿を消していた。






開拓者の町 ログナー

基本的に開拓世界と呼ばれる世界には二種類のものがある。
一つは管理局などの庇護の下、新たな資源や土地を求めて開発を進める世界。
もう一つは、管理局などの庇護を受けない代わりに一切の干渉を拒み、自由を求めて新たな世界へと挑むものたちが集う世界である。
管理局は現段階で後者の存在を認めてはいるが、あくまで自分たちの支配下にあるものと考えているのでしばしば衝突が起こっていた。
ゲイルスもそんな世界の一つで、この西部劇のワンシーンをきりだしたような永遠の黄昏に染まる町、ログナーに集まった者たちは管理局に頼らずに自由を謳歌している。

「しかし、何度見ても妙な町だな。ずっと夕暮れ時なんてよ。」

「この世界のこの場所に相違空間を作ったことへの代償とでもいうものだな。もともと存在している空間を依代にする代わりに相違空間ではこういったことが起こりやすい。しかし、この程度なら生活にはさほど支障がないから誰も気にしないというわけだ。」

「それ、間違いなく魔法に慣れ親しんでいるから言えることだぞ。」

アルフレードの魔法になじんでいた者の常識を言われて苦笑するロックオン。
ここにきてからこの異世界の人間的常識を普通の生活(?)を送っていた自分にまで当てはめるのはやめてもらいたいのだが、どれだけ言っても馬の耳に念仏だった。
そんなことを考えながら町の中心部で荷車から降りたロックオンだったが、どうも様子がおかしい。
集会所の中にも外にも所狭しと住人が押し寄せている。

「どうした?」

「あ!ウルフさんにジーンか!ちょうどよかった!今、局の連中が来てるんだよ!!」

「管理局が?」

ロックオンは眉をひそめるが、それ以上に沈黙を守るアルフレードの顔は不快感一色だった。

「ああ!また性懲りもなくアリア山の開発にかかわらせてもらいたい、なんて言ってんだよ!!ふざけんなってんだ!」

異常なまでに怒りをあらわにする住人だったが、それも仕方ないだろう。
ロックオンがこの町に訪れる前から局員がしつこく交渉に訪れていた。
その内容はこの世界有数の鉱物資源の宝庫、アリア山の開発を協力して行いたいというものだった。
だが、そもそもアリア山はすでにログナーの住人がすでに安定した鉱石の採掘に成功しており、共同で開発を行うメリットなどどこにもない。
つまり、

「ほしいのは採掘権か。」

「そういうことだ。」

アルフレードも荷車から降りると集会所に向かおうとしていたロックオンに手綱を渡す。

「悪いがこいつを家まで運んでおいてくれ。」

「オイ、俺もあそこに…」

「いいから行け。」

アルフレードはロックオンの耳元でささやく。

(ミッドに行くつもりならここで管理局の連中ともめるのはマズイ。大人しくしているんだ。)

強引にロックオンを荷車に乗せると、馬の尻を叩いてゆっくりと歩かせ始める。

「オ、オイ!!」

「そいつを置いたら好きにしていろ。」

何か言う暇もなくロックオンは荷車で家へと向かって、いや、運ばれていった。






集会所

木造りの広い空間が、それですら場所が足りないほど人間で埋め尽くされていた。
この木のいい匂いが漂う集会所は普段ならば住人の憩いの場となっているのだが、今日だけは違っていた。
周りの人間の明らかな敵意。
目の前に出された飲み物に毒が入っているのではないかと思うほど圧迫感。
そんな中、ギンガとエミリオンは水色の髪の少女を挟んで肩身の狭い思いをしていた。

「あの……」

勇気を振り絞って言葉を絞り出したギンガだったが、周りの無言の圧力に再び黙ってしまう。
だが、

「もう少し愛想良くした方がいいと思うよ~……あ痛っ!!」

「アハハハ!どうもすみません!!」

真ん中に座っていた少女、セインがカラカラ笑いながらとんでもないことを言うのでギンガは拳骨を頭に振りおろし、エミリオンは慌てて口をふさいで愛想笑いをするが、周りからの視線はますます厳しくなる。
そこへ、

「みんな、少し落ち着け。お客人が困っている。」

黒い無精髭とあちらこちらに捻じれた黒い毛先が飛び出た頭が人込みをかき分けて進み出る。
風貌こそ粗野だが、その態度は礼儀正しく軍人のそれを思わせる一面もある。

「あなたが、この町の指導者ですか?」

「いや、この町の指導者はあえて言うとするならこの町の人間全員だ。私は決定権の一部を持つ一住民にすぎない。」

そう言うとアルフレードはギンガ達の前に腰を下ろす。

「単刀直入に言わせてもらおう。私たちはあなた方と共同開発を行うつもりはない。」

案の定の返事だったが、エミリオンもここで引き下がるわけにもいかない。

「しかし、資源を独占するのはいかがなものでしょうか?どの世界にも、見つかった物の恩恵を受ける権利はあるはずです。」

「その言葉、そっくりそのままあなた方に返させていただこう。我々から見ればあなた方こそが富や権力を独占し、それを用いて次元世界全体を支配しているように思われる。」

「そんな!風評ですよそんなこと!!」

ギンガは憤慨して立ち上がるが、アルフレードは落ち着いた口調で話す。

「お嬢さん、あなたは山に登ったことがありますか?」

「!?なにを…」

「山の頂上に登ると、今まで見えなかった風景が見えるようになるものでね。それまで見えなかったことが目に飛び込んでくるようになるものだ……」

アルフレードは揺らぎない信念を込めてギンガを見上げる。

「あなたはまだ若い。まだ二合目に差し掛かったかどうかというところだろう。だからといって、自分の見えないものをないものと考えるのは愚者のすることだ。」

「…………………………………………」

黙りこくるギンガ。
しかし、

「しかし、私たちにはこの世界の鉱石資源が必要なのです。あなた方の不利益にはなりません。だから…」

「私たちは適正な価格でとれた物をミッドにも販売しているはずだ。それに、私たちが危惧しているのはあなた方からの干渉だけではない。」

「?」

「やはりわからないか……」と呟くと、アルフレードはゆっくりと喋り始める。

「あなた方の開発方法がこの世界に与える影響だ。我々は最低限の量を採掘し、日々の生活に当てている。しかし、あなた方が大規模に採掘を行えばこの世界に生きる命はないがしろにされる可能性は高い。」

「それは……」

「ないと言い切れるのか?この町の住人の中には局の無茶な開発で環境が激変し、故郷に住めなくなった者も少なくない。」

アルフレードは椅子から立ち上がって人をどけて入口までの道を作る。

「どうぞ、お帰りください。我々は管理局に協力する気はない。」

まだ食いつこうとしたエミリオンたちだったが、周りの雰囲気に背中を押されてその場を去る。
だが、程度で管理局が黙っているはずがないことをアルフレード、そしてエミリオンもよくわかっていた。
だからこそ、エミリオンはこの場で何とか説得したかったのだ。

(頼む……何も起きないでくれ……)






商店街

荷物を家に置いたロックオンは店へと繰り出していた。
二日後にはこの町を後にして次元世界の中心地とも言うべきミッドチルダに行くのだから、どうせなら記念に何か持っていきたい。
そう思ってここに来たのだが、ここに最初に来たのはアルフレードがロックオンに仕事を手伝わせるために今着ているジーンズとカウボーイシャツ、そして鉄底の靴を与えるために連れてこられたぐらいで他の店はろくに見ていない。
店の中にはなんなのかわからない商品を売っているところもある。

「チッ……やっぱアルを連れてくりゃよかったな……」

頭をかきながら並べられた食品や装飾品を見ていくロックオンだったが、

「「あの。」」

「ん?」

重なったせいでエコーのように聞こえる声に振りかえるロックオン。
そこにいたのは、まるで執事のような服を着た少年(?)とそれを従えるお嬢様のような服を着た少女だった。
二人とも濃いこげ茶色の髪をしているが少年(?)の方は短く、少女の方は長い。
いや、少年と思ってしまったが、よくよく見れば執事のような服を着ている方も女の子かもしれない。

「僕たちこの町の特産品みたいのを買いたいんですけど何かいいもの知りませんか?」

「悪いな。俺もここにきて日が浅いんでな。そういうのはよくわからねぇや。」

「そうですか……」

そう言うと二人は残念そうに肩を落としてトボトボ歩いていく。
ロックオンもその場から去ろうとしたのだが、

(チッ……)

あんな顔を見せられて放ってはおけない。
甘いかもしれないが、自分の気持ちをごまかすくらいならカタロンになど入っていない。

「おい。」

「「?」」

「何を買えばいいのかはわからねぇけど、それを教えてくれるやつとはある程度面識がある。」

「「…………………………………………」」

「な、なんだよ?」

まじまじと自分を見る彼女たちにロックオンは思わず後ずさる。

「ありがとうございます。ぜひ教えてください。」

「あ…ああ……、どういたしまして。」

どうにもこの二人は苦手だ。
なんというか無感情というか、機械っぽいというか、まるで生まれたての赤ん坊と話をしているようだ。
年相応の喋り方をしていないせいだろうか。

「それでは、さっそく案内をお願いします。」

「ああ………(まあいいや。俺もついでに良い感じのもんを買って土産にするか……)」






親しい人間を何人か見つけて話しを聞いてやってきたのは商店街の外れにあるアクセサリー店だ。
そこには色とりどりの石や動物の骨や毛皮を加工したものが置かれている。
ロックオンはめぼしいものがなく正直すぐにここを離れたかったが、連れの二人、オットーとディードが姉妹へのプレゼント選びをしているせいでここにとどまらざるを得なかった。

「つかお前らどんだけ姉妹がいるんだよ!」

ロックオンが指さす先には十個以上の装飾品を買っている二人の姿があった。

「私たちは12人姉妹ですので。」

「すげぇ大家族だな………俺なんて妹と同い年の兄貴がいたくらいだぜ?」

「同い年?」

オットーが不思議そうに首をかしげると、ロックオンは苦笑する。

「双子だよ。」

「じゃあ、僕たちと同じだね。」

「?同じ?」

「私たちも双子です。」

「おいおい嘘だろ?だってオットーは男みたいだし、胸だって……あ、悪かった。俺が悪かったからその置物をそこにおいてくれないか?それぶつけられたら俺死ぬかもしれないから。」

無表情でギリギリと木彫りの熊(推定重量100㎏)に指を喰い込ませて持ち上げていたオットーは青ざめたロックオンの謝罪を聞いて、もとあった位置にそれを戻す。

「しかし、皮肉なもんだな。俺たち兄弟はぎくしゃくしてたけど、お前ら姉妹は仲がいいんだな。」

「どういうこと?」

店の真ん中にある柱に寄りかかるロックオンにオットーは不思議そうに尋ねる。

「兄さんは俺と違って何でもできてよ……ガキの頃は周りと比べられて嫌な気分になったもんさ。それがどうにも気にくわなくて、家を出て寮制の学校に通ったよ。」

もっとも、あの後二度と家族に会えなくなるとわかっていたらそんなことをしなかったかもしれないが。

「?なんで嫌なのですか?」

「は?いや、なんでって…」

ディードの問いにロックオンは思わずこけそうになる。

「お前らはそういうことないのか?誰かに比べられてムカついた事とか……」

「比べられるのはしょっちゅうだけど……別に僕は嫌だと思ったことはないかな。」

「私もです。」

「嘘つけ。少なくともオットーはさっき俺に熊投げようとしただろうが。」

「あれはお兄さんがセクハラするからでしょ。」

というオットーだったが、横にいるディードの胸元を見て自分のものと比べるとやはり気分が沈むのか胸を両腕で隠して暗い顔をする。

「ま……まあ、確かにちょ~~っとだけいいなあ、って思うことはあるけど、基本的に比べられてもそんなに怒ることでもないと思うよ。だって、僕とディードは別の人間だもん。違っていて当たり前なんだから、比べられることもあるよ。」

「けど、お前らは双子……」

「ではあなたに逆に聞きますが、双子であることにそれほど特別な意味を見出すことが必要なのでしょうか?私にはあなたが勝手に双子であることに固執しているように思いますが?」

目から鱗だった。
でも、確かにそうなのかもしれない。
双子だからといって同じである必要などどこにもない。
似てしまう部分はあるかもしれないが、それくらいは誰にでもあることだ。

(俺は……兄さんと同じくらい優秀じゃないといけないと思ってた。けど、俺は兄さんじゃない。兄さんの影に縛られる必要なんてなかったんだ……)

だとしたらどうして自分は家族のもとを離れてしまったのか。
自分が残っていればあんなことにはならなかったかもしれない。
もっと団欒を過ごすことができたかもしれない。
激しい後悔と悲しみがこみ上げてくるロックオン。
そんな時、

『主は愛する者に越えられない試練は与えない。』

アルフレードの言葉が頭をよぎる。
家族を失い、兄も戦いの中で命を散らし、自分だけが生き残った。
だが、それにも何か意味があるのかもしれない。
その証拠、と言えるかどうかは謎だが、自分はカタロンに入り、そこから兄がいたソレスタルビーイングにまでいたり、兄の乗っていた機体の後継機に乗ることになった。
いままで運命というものにすがったことはなかったが、信じてみるのもいいかもしれない。
自分は、世界に一石投じるために生き残ったのだ。
そういう運命だったのだと。

「そうだよな…」

「「?」」

「俺はライル・ディランディ……ジーン1……そして、コードネーム、ロックオン・ストラトス……」

「あの……?」

ディードは返事がないロックオンを心配して話しかけるが、その声も今のロックオンには届かない。

「フフ…ククク……そうだよな。双子であることを拒んでた俺が、一番双子であることにこだわってたんじゃねぇか。」

ロックオンはバンと膝を叩いて背を伸ばす。

「悪かったな、変なこと聞いちまって。」

「いえ……お気になさらず。」

訳がわからず顔を見合わせるオットーとディード。
その時、

「やっと見つけた!!」

修道女のような服を着た女性が店へと飛び込んでくる。
町を駆け回っていたせいか息が荒く、疲労のせいなのか背中から異様な何か湧き上がっているように見える。

「あ……あなたたちは……ぜぇぜぇ……研修中の身であることを………ぜぇぜぇ………わかって……いるのですか……!!?」

「ご……ごめんなさい、シスター・シャッハ。チンク姉ぇたちにお土産を買うのに予想以上に手間取っちゃって……」

「い……言い訳は後で聞きます……!それより……」

聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラは大きく深呼吸をした後、ロックオンに深々と頭を下げる。

「この子たちがご迷惑をかけたようで申し訳ありません!!しかし、研修中の身なのでどうかご容赦を…」

「ああ、別にかまねぇさ。むしろ、俺が人生相談に乗ってもらったくらいだしな。」

ロックオンはそう言うと店の外へ出て二人の方へ銃の形にした指を向ける。

「サンキュー、オットー、ディード。お前ら良い尼さんになれるぜ。」

「尼さんじゃなくてシスター……」

と、オットーはツッコもうとしたが、すでにそこにロックオンの姿はなかった。

「あ~あ、行っちゃった……」

「お礼を言い損ねてしまいましたね。」

「……………………」

「……?シスター?」

「え!?あ、ああ、なんでも……」

シャッハには気になっていた。
先程のあの男の姿。
カリムの預言にあった一文が頭をよぎった。

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

五体の天使に関する預言の一つ。
なぜか、あの男がその孤高の射り手だと思ってしまった。

(そんなわけないですね。)

そう思ったシャッハだったが、この翌日になって自分の勘が当たっていたことを知るのだった。








アリア山

その晩、赤茶けたアリア山の管理の当直にあたっている者は中腹にある小屋で眠っていた。
アリア山は自然に開いた洞窟の中に鉱物がむき出しの状態で存在しているため、採掘のために爆発を使って坑道を作る作業が不要だった。
もっとも、爆破して坑道を広げればもっと鉱物を採れるかもしれないが、ここは多くの生物の住処にもなっているためログナーの住人はあくまで手堀で鉱石の採掘を行っているのだ。
そんな生き物が多く眠っているこの山に、突如として爆音とともに粉塵が舞い上がる。

「な!?なんだ!!?」

当直の男は飛び起きると服を着替えるのも忘れて外へと飛び出す。
そこには…

「う、うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

鋭い翼に丸みを帯びた巨大な体。
そして人間のような顔がついているのだが、目が二つだけではなく額にも巨大な六角形のものがついていて左右にせわしなく動いている。
叫び声で男の存在に気付いたそれは。
いや、それに乗っている人間は冷酷な笑みを浮かべると、小屋ごと男の体を粉砕した。







翌日 ログナー

「アリア山が占拠されただと!!?」

その一報はすでに町中を駆け巡っていた。
最近になって出てきたMSという新型の兵器が投入され、完全に町の人間を締め出している。

「クソ!!なんなんだよあの化け物は!!?」

「人間相手にあんなものを使うなんて!!」

「管理局め!!俺たちを潰してここの資源を根こそぎ奪う気か!!」

沸騰する町の人間の感情。
そして、怒りの矛先はMSに乗らないギンガ達へと向けられることになった。

「くたばれ管理局!!」

「よくも騙し討ちをしてくれたな!!」

「ただで済むと思うな!!」

泊っていた宿から外に出た瞬間、ありとあらゆる罵詈雑言と投石にさらされるギンガ達。
このままでは本当に街を無事に出られるかどうかも危ぶまれる。

「ありゃりゃ……こりゃホントにまずいね…あ痛!…あたし昨日からこんなのばっか……!」

「ええ……このままだと僕たちは文字通りミンチにされるかもですね。」

するとそこへ、

「落ちつけよみんな!!こいつらだってあんなことになるとわかってたらわざわざ説得になんて来ないだろ!!」

「よそ者のお前に何がわかる!!あそこには俺たちの仲間がいたんだぞ!!それをあいつらは!!」

「だからってあいつらにこんなことして何か解決すんのか!!むしろ、あいつらに何かあったら連中はそれを理由にこの町を潰しに来る!!」

「あの人…」

白い肌にブラウンの髪がよく似合うその男は町の人間を必死になだめるその姿にギンガは不覚にも見とれていた。
理由はどうあれ、自分たちを守ってくれていることに感動していた。

「遅れてスイマセン…って、あの人は…!?」

「あ。」

「昨日のお兄さん。」

さほど大きな声でもないのに、ロックオンの耳はこの騒ぎの中でもはっきりとその声を拾っていた。

「オットー!?ディード!!?お前らも管理局だったのか!?」

驚くロックオンだったが、さらに予想外の事態が訪れる。
きっかけは、一個の石だった。

「あたっ!!」

「「!!」」

ロックオンの額に当たったその石には赤いものが付着し、その源泉となっているロックオンの額から細く赤い線が顔を伝う。

「お前たち……!!」

「よくも……!!」

その瞬間、二人を中心に激しい風が吹き荒れる。
そしてディードの手には二振りの光刃が、オットーの周りには光の渦が巻きあがっている。

「ちょお!!?」

「オットー!!ディード!!駄目!!!!」

セインとギンガが止めようとするが、それよりも先に二人を止めた人物がいた。

「やめとけ。俺は大丈夫だからそこらへんにしとけや。」

「けど……!!」

「やめとけ。」

穏やかだが重い言葉に二人は魔力を消す。
そこへ、

「乱暴をしてすまなかったな。」

「おせぇぞ、アル。おかげで俺は流血だ。」

「それは良かった。これでお前も頭に血が昇っても外に余分なものが出て冷静に物事を対処できるな。」

「ハッハッハッ、ブッ飛ばすぞコノヤロー。」

青筋を浮かべた笑顔のロックオンは放っておいてアルフレードはギンガ達のもとへ歩み寄る。

「あなた方は確かにあれが来ることを知らなかったのだろう。だが、まったく無関係なものではない。あなた方が管理局の人間である限りな。」

そう言うと、アルフレードは目の前に人一人ほどの大きさの光の円を出現させる。

「今すぐこの世界から去れ。さもなくば、私とて手をださずにいられる自信はない。」

凄味のこもったその言葉に、ギンガ達も、そして町の住人ですら言葉をなくす。
その後は粛々としたものだった。
先程までの怒号が嘘のように静まり、ギンガ達も光の中から順次外へと出ていった。
全てが終わったあと、そこにはアルフレードとロックオンだけが残っていた。
最初に口を開いたのはアルフレードだった。

「……悪いな。お前とあれを送るのは私の役目ではなくなりそうだ。」

「行く気か?勝ち目はないぞ?」

「だとしても、何もしないわけにはいかない。もう、あの時のような思いをするのはごめんだ。」

二人は同時に目的の場所へと歩き出す。
そこには戦うための術が眠っているのだ。

「少し昔の話をしてやろう……ある男の話だ。その男は管理局の自然保護隊に所属していた。男は自らの仕事に誇りを持ち、その限りある自然を守るべく奮闘していた。だが、そんなある日、彼のいた世界は実験施設をたてると言う名目のもと管理局の手によって破壊されてしまった。美しかった森は灰色の壁が乱立し、川のせせらぎは灰色の煙を生み出す音にとって代わられてしまった。だがな、男が何よりも許せなかったのはそんな歪められた世界を守れと言われてその通りに行動するやつらがいたことだ!!」

アルフレードは自宅に着くと、納屋にあったライフルを取り出す。

「……それ以後、絶望した男は管理局を捨て、守るために身につけた魔法すら捨て、開拓民としてゲイルスへと旅立った。そして……」

ライフルに弾を込め、ありったけの弾の箱を腰につける。

「今この時、もう一度守るために力を振るおう!やつらにこれ以上、私の大切なものを奪わせてなるものか!」

アルフレードの話が終わるころ、ロックオンの準備も完了していた。
モスグリーンのパイロットスーツに身を包み、ヘルメットを持った手を肩に乗せている。

「お前には関係のないことだぞ。」

「俺も恩くらい感じるさ。それと、もうお前なんて呼ぶな。」

ロックオンは鋭く笑う。

「俺のコードネームはロックオン・ストラトス。ソレスタルビーイングに所属する、ケルディムガンダムのガンダムマイスターだ。」

「ロックオン……狙い撃つ男か……良い名だ。」

「そらどうも。」

二人は同じ方向を見つめたまま拳を突き合わせ、夕焼けの中を歩きだした。






アリア山

地平線からようやく陽が昇ったころ、ギンガとシャッハ、そしてエミリオンはオットーたちを先に艦に帰したあとでアリア山に来ていた。
そこには住民たちが言っていた通り、バロネットとフュルストがそれぞれ三機ずつ上空と登山道、そして坑道を押さえていた。

「なんのマネですかこれは?あくまで平和的に解決する方向のはずでしたが?」

エミリオンは丁寧な口調で話すが、目の前に立っている男は一笑に付す。

「こんな世界の一つもどうにかできないで全ての世界の平和を守ることなどできませんよ、ヴィントブルーム技師長。」

「それは傲慢です!力で抑えつけることが平和への道など…」

「中立の立場の聖王教会の方は黙っていていただきたいですな。」

「中立だからこそ、このような行いを看過していることなどできません!!これはすでに管理の範疇すら越えて圧政です!!」

「ふん……あなたはどう思われますか、ナカジマ陸曹?あなたも時空管理局に属する者ならばどちらが正しいかわかるでしょう?」

「ええ……そうですね。」

ギンガのその言葉にシャッハとエミリオンは目を見開き、対照的に男は目を細める。
だが、

「シスター・シャッハとヴィントブルーム技師長の言っていることこそが管理局のとるべき道だと私は確信しています。」

男の顔から笑みが消える。

「小娘が……自分が言っていることがどういうことかわかっているのか?」

「あなたこそ恥を知りなさい。力はそれを持たざる者のためにあるべきなのに、あなた方はその力を弱者へと向けた。こんなものが正義だなんて、私は認めない。」

「ハッ……親父に似て馬鹿な娘だ。あの堅物がどうなっても知らんぞ?」

「……覚悟はできてるわ。父さんも私も、管理局で働くと決めたときから命を掛けなければいけない時がくることくらいよくわかってる。」

「チッ……」

脅しが通じないとわかった以上、これ以上こいつらと話をしたところで無駄だろう。
後ろの馬鹿な女二人だけならMSに撃たせて終わりでいいのだが、ここでエミリオンを失うわけにはいかない。

「よかろう……ならば、地獄で後悔するんだな!!」

「「「!!!!」」」

男が懐から取り出したのはデバイスではない。
黒光りする鉄製の銃。
純粋な質量兵器だ。

「クッ!!」

ギンガはすぐさまブリッツキャリバーを起動させようとするが、それよりも速く銃弾が発射される。
しかし、

「IS、レイストーム。」

三人の後ろから伸びてきた光の帯がギンガを守るように包み込み、銃弾を粉砕する。

「貴様……!!」

「オットー!?」

いるはずのないオットーがここにいることに驚くギンガだったが、男にはそんなことはどうでもよかった。

(ええい!!監視班は何をしていた!?なぜこいつの接近に気付かなかった!!?)

アリア山の周りには遮蔽物がなく、身を隠すことなど不可能だ。
なので、監視をしている人間だけでなくMSからも丸見えのはずなのにどうしてここまで来られたのか。

「そんなに不思議ですか?私たちがここまで誰にも見つからなかったことが。」

「!!!!」

それまで焦りから来ていた汗が一気に冷たいものに変わる。
首元に当てられた光の刃で動きを制されながら、男はディードの話を黙って聞く。

「申し訳ありませんギンガ、シスター・シャッハ。ですが、この者たちを放っておくことなど私にはできません。」

「僕も同感。僕たちの立場が悪くならないように気を使ってくれるのはいいけど、その前に僕たちの意思を聞いてくれてもよかったんじゃないかな?」

「そうそう。あたしら犯罪者なんだからいまさら一個や二個くらい罪状が増えたって気にしないよ。」

そう言って地中から這い出てきたセインの両手には顔中痣だらけにされた二人の男の襟が握られていた。

「ああ、ちなみにこいつらだけじゃないよ。他の見張りをしてたやつらもぼこっといたから。」

ニヤリと笑うセインに溜め息をつきながらシャッハも笑う。

「ブリッツキャリバー!」

「ヴィンデルシャフト!」

〈〈Ja boul!〉〉

二人もバリアジャケットを纏い、形勢は逆転したかに見えた。
しかし、男は追い詰められているにもかかわらず醜悪な笑いを崩さない。

「何がおかしい。」

「ククク……!忘れたか?お前たちが今なにに囲まれているかを!!」

「「「「「「!!」」」」」」

気付いた時、それはすでに大きな影を作りながら手を伸ばしていた。
ディードは慌てて男を飛び越えてギンガ達の側に着地するが、その間に男はバロネットの手の平に乗って離れていく。

「ハハハ!!技師長、あなたは本当に優秀だ!!このバロネットやフュルストだけでなく、あれの構想を一人でこなしてしまったのだからな!!」

「あれ……っ!?まさか、キャバリアーがもうロールアウトされているのか!!?」

「試作機ですがねぇ!!ちょうどいい試験会場もあることですし、テストをするにはうってつけだ!!」

「試験会場だと!?」

その言葉に六人は凍りついた。
間違いなく、こいつらはログナーの町をMSで殲滅する気だ。

「待ちなさい!!そんなこと私たちが…」

「状況をよく見てから喋るんだな!!お前たちには試験のための前座になってもらう!!」

その言葉に呼応するように、MSが一斉にギンガ達の方へと銃口を向ける。

「死ねぇ!!!!」






「お前がな。」






遥か彼方、陽が高くなり始めた空から一条の閃光が駆け抜け、呑気に銃を構えていたバロネットのコックピットを撃ち抜く。

「なあ!!?」

突然の事態に戸惑いながらも、敵味方問わずに太陽をバックにライフルを構えるそれを見る。
陽の光でよく見えなかったが、そこから少しずつ高度を下げていったことでそれが何かわかった。
モスグリーンのパネルのような装甲を体中につけ、額には顔にある眼とは明らかに違うカメラアイがつけられている。
だが、それを確認できたのはMSのパイロットたちだけだった。
なぜなら、

「あ……あんな距離から狙撃をしたと言うのか!!?」

現在開発されているMSにはそんな芸当はできないし、そもそも並みの人間では目標をとらえることすら不可能だ。
しかし、

「孤高の射り手……」

「え?」

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

色は確認できないが間違いない。
こんな長距離での狙撃をできるのはその者しかいない。

「あ!?シスター・シャッハ!!?」

セインの制止も振り払い、シャッハは姿の見えない天使のもとまで行こうとするが、それは思いもよらない人物の手によって止められる。

「待て。こっちだ。」

「あなたは!?」

がっしりと手を掴んだその男はつい先ほど自分たちを町から出した男、アルフレード・K・ウルフだった。

「あんたどうしてここに!?」

「説明は後だ。安全な場所まで案内してやるからそこで大人しくしていろ。でないと……あいつの邪魔になる。」

アルフレードのその言葉にシャッハは敏感に反応する。

「知っているのですね、彼を。」

その問いに誰もが息をのむ。
だが、アルフレードの答えは、

「悪いが言えない。守秘義務というやつだ。」








「まあ、弱い者いじめが好きな奴らだねぇ……同じとこのやつにまで手を上げようとするなんざ救いようのない馬鹿だ。」

「手加減ナシ!手加減ナシ!」

「もちろん。それに、アロウズとそっくりなことをするやつらを俺がほっとくわけねぇだろ。」

ケルディムが地上に降り、膝を突く形で狙いを定めるとロックオンは再びスコープを覗きこむ。

「ケルディム、目標を狙い撃つ!」

再度放たれた光弾は細身の体のど真ん中に当たり爆散させる。
自分たちの射程距離外からの攻撃であることに気付いていた管理局の機体はケルディムへと向かってくるが、それは自らの回避率を落とす行為以外の何物でもなかった。

「ハッ……猪の方がなんぼか頭がよかったな。」

まずは真正面から突進してきていた機体。
頭を吹き飛ばされてもんどりうったところへさらに胴体へ追撃を加えて撃墜。

次は左の細身の機体。
細かく動いているが、所詮は素人の操縦だ。
パターンがわかりやすいうえに別方向へ動く時の硬直時間が長い。
そこを狙って胸に一発。

そこでようやく自分たちの行動のうかつさに気付いて引き返していくが、逃がしはしない。
最後の細身の機体によく狙いをつける。
逃げるときに後ろを確認していないのか、まともに回避行動をとる前に背中のGNドライヴを撃ち抜いて爆散させる。

「よし、残り一機!」

「全弾命中!全弾命中!」

ハロの言うとおり、今日は調子がいい。
今のところ一発も外していないし、残りの一機も外す気がしない。

「そんじゃ、初のパーフェクトを狙ってみますか!」

そう言ってロックオンが引き金を引こうとした時だった。

「っ!!?うおっとぉ!!」

ハロがコントロールを担当していたケルディムの姿勢が大きく崩れる。
文句を言おうとしたロックオンだったが、その理由を見て納得がいった。
先程まで相手をしていたものとは明らかに違う作りのMSがそこにいた。
仲間がやられている間に間合いを詰めていたのか、すでに向こうの射程距離に入っているようだ。

「チッ!!」

スナイパーライフルでの狙撃は無意味と考えたロックオンはビームピストルを抜いて向こうの射撃に対抗するように連射を始める。
しかし、相手の動きはそれまでのものとは比べ物にならないくらいによく、ロックオンの攻撃はシールドと縦横無尽の動きでことごとく無効化される。

「こいつ!!」

近接戦闘が行える距離にまで詰め寄られて、ロックオンは相手がシールドの中から抜き放った実体剣を両手のビームピストルの下の部分で受け止める。

「こ……のぉ!!」

払いのけて両肩へ弾丸を叩きこむが、装甲が少し剥けた程度であまり決定打にはならなかったようだ。
むしろ、相手の怒りを増幅させただけのようにも思える。
その証拠に、ロックオンの攻撃でのけぞっていた体を無理やり前に倒してケルディムを押し倒すと腰に装備されて剣の柄を持ち、発生させた光刃でコックピットを貫こうとする。
だが、その前にケルディムはGN粒子を大量に放出させて地面と平行になったまま滑るようにその拘束から脱出する。

「ハロ……あいつ、たぶん…」

「ヘタッピ!ヘタッピ!」

「ああ……だろうと思ったぜ。」

あれに乗っているのもMSに乗り始めて間もない素人だ。
だが、機体の性能と時折見せるあの機械的な動きとのコンビネーションでそれを埋め合わせている。

「ハハハ……!てめぇだけで戦う気は毛頭ないってか?」

総合能力ではケルディムが上回っているかもしれないが、乗っているのが自分では十二分にその性能を生かしきれていない。
その影響がこうして出ているのかもしれない。
こんな時、MSでの戦闘経験が豊富な他のマイスターならなにか良い手の一つも思いつくのかもしれないが、あいにく自分はそんな機転がきくほど戦いなれていない。
だが、

「俺はあいつらや……兄さんとは違う人間なんだ……だから、俺は俺なりの戦いをするだけだ!!」







その頃、試作型のキャバリアーシリーズ一号機、エスクワイアのおかげでどうにかアリア山の影に隠れることができたバロネットたちは逃げたギンガ達の捜索にとりかかっていた。
もし彼女たちが生きて帰って自分たちに不利な証言をしたら、もうゲイルスに手を出すことは不可能になるだろう。
その時は、ファルベルは間違いなく自分たちを切って捨てる。

「そんなことさせるものか……!!何としても見つけ出して消してやる!!」

その時、ガラスを引っ掻くような激しい音が山全体に響き渡る。

「そこか……!!」

男とパイロットはニヤつきながら高度を徐々に下げていく。
だが、

「!?熱源反応!!?」

「なに…うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

虹色の嵐がバロネットを飲み込んで粉砕する。
山の一部にはポッカリと穴があき、そこからは紅蓮の鋭い瞳が爛々と輝きを放っていた。






「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ロックオンは執拗に斬りかかってくるエスクワイアを闘牛士のようにかわしながらその隙に二、三発ではあるが着実に攻撃を当てていく。

(耐えろ……!!チャンスは必ずあるはずだ!!)

こちらはオリジナルの太陽炉。
向こうは疑似型。
こっちは作戦行動時間に制限はないが、相手はいずれ粒子が底をつく。
その時がチャンスだ。
少し無様だが、今自分が確実にこいつを確実にしとめるにはあの方法しかない。
だが、このギリギリの状況はロックオンの集中力を確実に削っていた。
すなわち、これはエスクワイアの粒子が尽きるのが先か、ロックオンの集中力が途切れるのが先かの勝負だ。

その勝負の勝者は……

「はぁはぁ……っ!!しまった!!」

エスクワイアだった。
一瞬動きの遅れたケルディムの前に立ちふさがるようにエスクワイアが刃を構えていた。

(やられる!!)

やはり自分は何もできないのか。
そんな絶望感で胸がいっぱいになったロックオンだったが、救世主は現れた。

「グオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「!」

エスクワイアが巨大な丸太のようなもので打ちすえられたかと思うと横倒しの状態で急降下していく。
地上ギリギリで体勢を立て直したものの、今度は嵐のように虹のかけらが降り注ぐ。

「あれは……!!」

虹色の鎧を身にまとい、前に突き出た二本の角は神々しく、太い尻尾と四本の足は対峙するものすべてに畏怖の念を抱かせる。

「ハハッ……やりやがったなアル!!」

この荒野の世界の支配者、虹竜ゲイルは己のテリトリーを犯したものに対して怒っていた。
自分よりはるかに小さいあの生き物は分をわきまえているのでそうそう愚かなことはしないがこいつらは違う。
無礼にも自分の寝床の一つにズカズカと踏み込んできて荒らし回る。
先程のあの音で目覚めていなければこいつらを見逃してしまうところだった。

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

怒りにまかせて突っ込んだゲイルは再び哀れな鉄人形に尻尾を叩きつける。
エスクワイアはピンポン玉のように上空へと叩き上げられ、パイロットは追撃が来ると警戒していたがいつまでたってもそれは来ない。
なぜなら、ゲイルの目にはエスクワイアを倒す存在がはっきりと見えていたのだから。

「!!!!」

慌てて振り向くがもう遅い。
そこにはほぼゼロ距離で二丁の銃を構え、赤い輝きを放つケルディムがいた。

「TRANS-AMでのゼロ距離連射だ……相当きついぜ。」

ロックオンは唇から笑いを消した後、渾身の力で叫んだ。

「乱れ撃つぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!」

まるでピンクのカラーボールが無数にぶつかっては弾けるように、ビームの光がエスクワイアを粉砕していく。
そして、手足が完全にちぎれ、黒焦げになった胸元をさらしたままエスクワイアは地上へと落ち、赤い粒子の花を咲かせた。







翌日 ログナー入口

「ったく、こんな古いので大丈夫なのかよ?」

「文句を言うなら乗るな。知り合いから無理を言って貸してもらったものだ。古くてもまだ使える。」

長細い後ろのコンテナにケルディムを収容した後、輸送船の助手席に乗り込んだロックオンは鼻を衝く異臭に不満をもらしながらもシートベルトで体を固定する。

「しかし、都会に行くんならもう少しましな服を餞別にくれよな。これじゃ西部劇の町から来たおのぼりさんみたいじゃねぇか。」

「あながち間違ってはいないだろう。しかし、餞別をやらなければならないのは事実だな。」

そう言うとアルフレードはポケットから虹色の欠片を取り出す。

「ゲイルの鱗を加工したものだ。あとはネックレスにするなり指輪にするなり好きにしろ。」

「いいのか?貴重なんだろ?」

「ここ数日の命がけのバイトの報酬だと思えばいい。」

「ハハハ、命がけのバイトね……結構楽しかったけどな。」

ロックオンが受け取った欠片を大切にポケットにしまうと、アルフレードは前を見ながら少し頬を赤らめる。

「また…」

「ん?」

「また、気が向いたらここに来い。大したもてなしはできんかもしれんが、私もみんなもロックオン、お前を歓迎する。」

「クク……なんだ?照れてんのか?」

ロックオンはからかうが、アルフレードは大きく一つ咳払いをしてごまかすと操縦桿を起こす。
正面の窓から見える景色は青と白だけのものに変わり、今度は黒い穴が目の前に出現する。
そこへ輸送船が飛び込もうとした時だった。

「グオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

「!」

はるか遠くから爆音のような叫び声がロックオンを送り出すように聞こえてくる。
その声にロックオンは小さく笑うとつぶやいた。

「ああ……またな、デカブツ。」







孤高の射り手、荒れし地、なれど希望の満ちし地を去る
その絆は永久に彼の地にとどまる






あとがき・・・・・・・・・・・という名の長くなっちゃった

ロ「異世界、ロックオン編な第七話でした。」

弟「それより言うことがあんだろ。」

ロ「……実はこの話で今までの最高文字数をあっさり更新してしまいました。読みにくくてごめんなさい。orz」

オットー(以降 双子1)「削ってこれってどうかと思うよ?」

ディード(以降 双子2)「昔から言われてるでしょ。あなたは文字数オーバーしすぎるって。」

ロ「でも興味ないことは最初の一行で終わらせられる自信があるぞ!」

シャッハ(以降 シスター)「両極端だと言っているんです!!中庸というものを知りなさい!!」

セイン(以降 モグラ)「中庸って?」

弟「辞典で調べろ。というかお前もだいぶ脳みそが気の毒な方か。」

ギンガ(以降 ギ)「というかこんなことしてる間にどんどん文字数増えるから早めに次回予告にゴー!!」

双子1「次回は刹那編。」

シャッハ「機械文明が進んだ世界に飛ばされた刹那。」

モグラ「しかし、そこは質量兵器開発を押さえるという名目のもと、圧政に苦しめられている世界だった。」

弟「治安の悪い街の用心棒となって情報を集める刹那。」

双子2「そんな彼に、ある出会いが待っていた……」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 8.蒼の賢帝
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/19 01:07
?????

「なるほど……つまり、僕にも魔法を使える資質があると?」

「はい。しかも、あなたほどの魔力量を持つ存在はかなり稀ですね。訓練次第ではすぐにAAAクラスの魔導士になれますよ。」

普段使うものとは異なる声に少し戸惑いながらもリボンズはファルベルがよこした人間の診察を受けている。
他の者にも診察を受けさせたが、今のところリンカーコアというものは全員に存在していた。
考えるに、これほどリンカーコアが存在する個体がいたのは塩基配列が同じだからなのではないか。
その証拠に同じ塩基配列の者の診察結果は瓜二つ、ぴったりと当てはまる。
となると、リジェネと同じ塩基配列の体を持つティエリアもリンカーコアを持っていることになる。
しかも、気にくわない話だが魔法の資質はリジェネの方が上らしい。
なんでも、魔力の量自体は全員と比べてほんの少し劣るらしいが、なんでも氷結変換資質というものがあり、それが常人のそれと比べてずば抜けているらしい。
それだけ聞けば喜ばしい知らせなのだが、それはすなわちティエリアもその能力をもっている可能性があるということだ。
しかも、こちら側にいるリジェネも裏でいろいろ動き回っていて油断がならない。

「まあ、所詮は僕の手のひらの上だ。今は好きにさせておくさ。」

「なにか?」

「いえ、なにも。それより、先程の約束は守ってくださいね。」

「ええ、最新式から古代のものまでデバイスのデータは提供させていただきます。そちらも例のものをお忘れなく。」

「わかっていますよ。しかし、あなた方も酔狂ですね。わざわざ倒すべき敵であるガンダムのデータを提供してほしいなんて。」

そう、確かに意外だった。
彼らが欲したのはMS、それも第2、第3世代機のデータだった。
どうせなら最新型のデータを持っていけばいいのに、なぜかガンダムに異常なまでに固執した。

「あれをどうする気か知りませんが、いまさら第2世代や第3世代を組み立てても意味はありませんよ?」

「……フフフフフ……准将はあれをシンボルにしようと考えているのですよ。」

「シンボル?」

「ええ……世界の秩序を管理する組織の象徴としてエンジェル……いえ、ガンダムを使うつもりなのですよ。」

「なるほど……」

呆れた男だ。
顔には出さないが心の中でファルベルにそのような評価を下す。
なにせ、兵器を秩序のシンボルにするなどリボンズにすら思いつかない馬鹿げた発想だ。

「しかし、それにしても不思議ですねぇ……」

男は首をかしげる。

「ここまでリンカーコアを持っている人間が、それもここまで資質が高い人ばかりが一堂にそろっているなんて……」

(たしかに妙だな……)

男の言葉にリボンズも同意する。
自分たちは確かに特別な存在だが、DNAを提供した人間がリンカーコアを持っていないと自分たちもリンカーコアを持っているはずがないのだ。
つまり、

(イオリアはリンカーコアを持っている人間を意識的に選抜した…?フッ……まさかね。)

自分の仮定に自嘲するリボンズ。
そもそも、こちら側に魔法は存在していないのだから、イオリアですら知りえるはずがないのだ。
偶然に決まっている。

「しかし、准将の話ではスクライア元司書長はあなた方すら上回るというようなことを言っていましたね。信じがたい話ですが。」

その言葉に考え込んでいたリボンズは顔を上げる。

「どういう意味ですか?」

「いえ、こればっかりは准将の思い込みですよ。立ち聞きなんですが、なんでも彼の血筋がどうとか言っていましたけど、私にはどう考えてもあなた方のほうが上…」

その続きを言おうとした男は、リボンズに手を肩に置かれる。

「詳しくお聞かせ願えるよう取り合っていただけませんか?」

「え?」

「なあに、ちょっとした興味ですよ。」

などというリボンズだが、心の中では狂喜していた。
ファルベルはここに来て話をした時、ユーノのことを攻撃魔法が使えない落ちこぼれだと言っていた。
だが、彼がタクラマカン以降の戦闘でよく使っていた力。
自分と同じ塩基配列を持つ“彼”ですら手を焼いたGN-EXCEEDを使いこなしたあれはかなり特殊な能力だ。
最初はファルベルも有力な情報を知らないのかと思ったが、糸口は今つかんだ。
ここでユーノの能力を把握しておけばかなり有利な立場に立てる。

「できれば早い方がいいですね……なんとかなりませんか?」

「はぁ……?わかりました。」

そう言い残してその場を去った男だったが、その後人知れず資源衛星の間をカタロンの工作員に擬装されて漂う羽目になっていたことは、ファルベルとごく一部の人間しか知らない。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 8.蒼の賢帝

第17管理世界 エイオース
工業と犯罪の都市 ニュード ダウンタウン B-4地区

曇天の空から雨が絶え間なく降り続いている。
地面に落ちた雨水は灰色の地面を流れ、ひび割れから見える茶色の地面へと落ちて濁った水たまりを作った。
曇っているとはいえ、昼間にもかかわらずすでに街の中は薄暗く電灯が灯っているところまである。
曇り空もこの暗さに一役買っているのかもしれないが、最大の理由は街を囲うように建てられた分厚く巨大な壁。
そして、町中に建設された巨大な工場だ。

ここ、エイオースは次元世界の中でも指折りのロボティクスの技術を有しており、ミッド向けに機械製品などを製造、輸出している。
しかし、その技術は質量兵器に通じる部分もあるので危険視もされており、この世界の地上部隊によって厳しく制限を受けていた。
もっとも、その制限は関係のないところにまでおよび、過剰な資金は兵器開発に使われるのではないかと的外れもいいところの難癖をつけて低価格で製品を輸出させているため必然的に賃金は少額になってしまう。
そのせいで生活ができずに困窮する人間が大勢出たが、管理局はさしたる社会保障も行わずに放置。
その結果、不満が溜まった住民がしばしば過激な行動にでるなど治安が著しく悪くなってしまった。
それでも、商品の生産がおこなわれ、この世界の機械製品が他の多くの世界で低価格、高品質で販売されさまざまな人間を喜ばせているが、エイオースの実情を知る者はほとんどいない。
中でもこの街、ニュードはエイオースの中でも一番治安が悪く、『犯罪現場を見たいならニュードにいけ。』などと不名誉な言葉が生まれるほどだった。
といっても、ニュードで発生する犯罪のほとんどはダウンタウン、もしくは環境汚染から街を守るために建造された防護壁の外にある貧民街で発生していた。
中心部は局の施設が多くあるため表立った犯罪行為は少ないのだが、そのしわ寄せは放置状態にあるダウンタウン、そして貧民街へと来ていた。

そんなダウンタウンの一角で、今日ももめ事が起こっていた。

「へへへ……悪いなおっさん。俺たちも生きていくためなんでな。」

狭い路地の地面の上であおむけに倒れた中年の男に腕に入れ墨を入れた集団が笑いながら蹴りを見舞う。
男たちの手にはすでに奪い取った金が握られているが、ここでは相手を生かしておけば報復の恐れがある。
とどめを刺すのが常套手段だ。
だが、

「!?へぶっ!!!」

一番後ろにいた男が天高く飛んだかと思うと顔から地面に墜落する。
残りの三人は何事かとすぐに振り返るが、そのうち二人の顔面に素早く拳が叩きこまれる。
口の中から白い欠片を吐き出しながら仰向けになる仲間に驚いていると、残りの一人の頭に銃口がつきつけられる。

「そこまでだ。その人の金を置いて消えろ。」

「てめぇ……!!B-4の連中が雇ったっていう用心棒か!!」

浅黒い肌にウェーブのかかった黒い髪、そして赤いスカーフに白いシャツに黒いジャケットとズボン。
目には雨よけのためのゴーグルをつけているが間違いない。
ダウンタウンの中でも最も非力な人間が集うB-4地区の人間が雇ったと噂になっていた用心棒だ。

「消えろ。命まではとらない。」

「へっ……そう言われて引き下がる馬鹿がいるかよ!!」

男は胸ポケットに隠していたデバイスを起動して杖を展開する。
そこから放たれた光は用心棒に当たった。
はずだったのだが、

「避けたか……まあいい。デバイスがあるこっちがどう考えても有利だろ!!」

その後も何度も魔力弾が発射されるが、用心棒の男は限られた空間上手く使ってかわしていく。
そして、近くにあった鉄製のパイプを手に取ると…

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

蒼い魔力を纏わせて渾身の力で真一文字に振り抜く。
デバイスを持っている男とはかなり距離があったが、捲き起こった旋風が男を路地の一番奥にあった壁に叩きつけて意識を刈り取った。
鉄パイプにはいまだに渦巻く風が纏わりつき地面削って……否、斬り裂いていた。

「ファーストフェイズ終了、セカンドフェイズへ移行する。」

用心棒は中年男性に肩を貸して立ち上がらせる。

「立てるか?」

「う……あ、あんたは……刹那さんか…?」

「ああ。すぐに『アイアン』まで運ぶ。そこで手当てを受ければいい。」

「す……すまん……」

男の体重が不意に重くなる。
どうやら気を失ったようだ。

「オ~イ、刹那~!」

男を背中におぶったところで、上空で見張りをさせていた相棒が下りてくる。
刹那と同じようにウェーブのかかった髪に幼い瞳に声変わりをしている途中のような中低音。
浮いているこの姿を見たら地球の人間は驚くかもしれないが、ここでは飛行魔法自体は割とポピュラーなものだし、刹那も苦戦はしたがある程度は使えるようになった。
ただ、それを差し引いても彼の相棒が普通でないことは誰の目にも明らかだった。
髪と瞳の色は蒼と普通かもしれないが、背丈が人形ほどしかない。
初見では間違いなく高性能なおもちゃか何かだと思うだろう。

「ジル、監視はどうした。」

「刹那が今倒したので全員だよ。でなけりゃこんな悠々としてるわけないじゃん。」

にっこりと子供のように笑いながら濡れた半袖と半ズボンを絞って刹那の肩に座るジルと呼ばれた少年。
二日前に強引についてきたのだが、無理やり追い払うわけにもいかない。
なぜなら、

「追い払ったら、全部“読んで”管理局にたれ込むからな。蒼の賢帝様に隠し事ができると思うなよ~!」

「……わかっている。」

今ここでこいつを野放しにしたらなにをばらされるかわかったものじゃない。
まったく、厄介な能力だ。

こうなったのは二日前、刹那がこの世界に来た翌日のことだった。






二日前 ダウンタウン BAR『アイアン』

B-4地区にあるバー、アイアン。
鉄を意味するここはさびれてこそいるが歴史は古く、エイオースが管理世界に入る前から操業し、工場の従業員たちの憩いの場として親しまれていた店なのだが、今では無法者の巣窟となりマスターも頭を悩ませていた。
だが、つい先日現れたあの青年。
カマル・マジリフと名乗った彼が店の雰囲気を見かねてたむろしていた男たちに文句を言ったのだ。
当然、男たちはカマルを取り囲んで袋叩きにしようとしたのだが、武器を持ったそいつらをカマルは素手のままで返り討ちにしてしまったのだ。
間抜けな顔でのびていた男たちを放り出したあと話を聞いてみると、彼は突然この付近に放り出された次元漂流者らしい。
マスターだけでなく、古い常連客からも感謝されたカマルだったが本人曰く、

「礼を言われるほどのことをしていない。」

らしかったのだが、すっかり彼を気にいったB-4地区の住人たちから用心棒を頼まれたのだ。
最初は断ろうと考えていたカマルだったが、聞けばこの地区には老人や子供などが多く、よく襲われては金銭、最悪の場合は命を奪われることもあるのだと言う。
流石にそれを聞いてはカマルも断りきれなかったのか、自分が元いた世界に戻るまでの手掛かりを掴むまでの間だけという条件で用心棒を引き受けることになったのだ。

そんなことがあった次の日、すでにカマルの噂が広まっているのか性質の悪い客は少なくなったのだが、それでもやってきたスキンヘッドの男を中心とした集団にそいつは囚われていた。

「!」

カマルは驚いた。
男たちが持っている籠の中にいたのは人。
それも、本当に人形ほどの大きさがあるかどうかという代物だ。

「珍しいな、ユニゾンデバイスか。」

「ユニゾンデバイス?」

マスターの言葉にカマルが反応する。

「ああ。主と融合することでその力を発揮する人型のデバイスのことだ。そのほとんどが古代ベルカの遺物で稀少なもんだから、たとえ適合者じゃなくとも裏では時折高額で取引されているらしい。」

「あいつにも心があるのだろう?なのに売り物にするというのか?」

カマルの怒りのこもった視線にマスターは困った顔をして答える。

「カマル、気持ちはわかるがそんなこと連中には関係ないのさ。デバイスの方も不運だったと思って諦めるしかない。」

「……………………………」

カマルはそれ以上追及しなかった。
ここで一悶着あればマスターたちに迷惑がかかる。
そのことはよくわかっていた。

しばらくすると、酔いが回ってきた男たちは雷のような声で笑い始める。
どうやら、別の地区での略奪に成功した帰りにここへ寄ったらしい。
しかし、上機嫌だった男たちが籠の中にいるユニゾンデバイスの少年を睨みつけながら小声で話し始める。
そして、

(……?何をする気だ?)

手足に鎖をつないで逃げられない状態で外に出してテーブルの上で立たせると、投げナイフを取り出す。

(まさか!!?)

そのまさかだった。
男の一人がナイフを少年へと投げつける。

「ひぃ!!」

間一髪でかわした少年はその場にへたり込む。
ナイフを投げた男は舌打ちをして下がると、今度は別の男がナイフを投げつける。
それを再びかわす少年だったが、その顔は目に見えて怯えている。

「チッ……!避けてんじゃねぇよ売れ残りが……」

「ハッハッ!こんなチビ一人仕留められないなんて情けねぇなぁ……」

どうやら、誰が先に彼にナイフを当てるかで競っているようだ。
それを見ていた他の客たちは眉をひそめるが、自分たちではどうしようもないことはわかっている。
相手は7人、しかもおそらくはデバイス持ち。
逆立ちしたって勝てっこない。

今すぐにでも飛びかかって殴り飛ばしたいカマルだったが、マスターや他の客には迷惑をかけらない。
そう思いながら拳を握りしめていると、

「何をしてる、カマル。」

「マスター?」

マスターが茶色い酒瓶をカマルに渡す。

「あのクズどもをさっさと締め出せ。そいつは俺がおごってやる。」

「!」

驚いて辺りを見回すカマル。
他の客たちもウィンクやいけいけと合図を送っている。

「了解した。」

周りに後押しされ、カマルは悪趣味なゲームを楽しんでいる男たちへとずかずかと歩いていく。
そして、

「ああ?なんだテメェは。」

「俺のおごりだ。たらふく飲んでいけ。」

男の一人に酒瓶を渾身の力で叩きつけた。
茶色のガラス片が当たりに散らばり、男たちは騒然とするがすぐにデバイスを取り出す。

「やっちまえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

それが合図だったように客たちは木製のテーブルを倒して盾代わりにして騒ぎに巻き込まれないようにするとカマルへエールを送り始める。

「がっ!!?」

「ゲボッ!!!」

銃を持ってはいたが、この程度の相手ならそれを使う必要はなさそうだ。
なにせ、連中ときたら攻撃はするものの防御はてんで駄目。
おまけにその攻撃も遠距離タイプのミッド式はむやみやたらに弾をばら撒くだけ。
近接戦闘のベルカ式は強化こそしているようだがこちらも防御はてんでなってないうえに、接近戦の経験値はどうやらカマルの方がはるかに上のようだ。

「ガハァ!!!!」

スキンヘッドの男を除く全員を倒したカマルはにらみをきかせる。

「残るはお前だけだ。そいつを残してさっさと出ていけ。」

「なるほど、良い腕だ……だが、あくまで魔法を使えない人間としてもレベルでの話だがな!」

「なっ!!?ぐああぁぁぁぁ!!!!」

いきなりだった。
男の持っていた棒が伸びたかと思うとカマルの腹をとらえ、窓を粉砕して外へとはじき出していた。

「俺はこれでも元騎士でなぁ……少々やりすぎてこんなところでこうしてはいるが、実力はA……そんじゃそこらのやつに負ける道理はない。まして、魔法を使えない人間にはな。」

「グ……ゲホッ……!」

「ほう、今ので立ちあがるか。なかなか鍛えているようだが、所詮は生身の人間だ。」

カマルはフラフラになりながらも懐から銃を取り出して撃つが、それすらも男のシールドで止められる。

「質量兵器か……俺が他のやつらのように防御魔法を使えないとでも思ったか?」

「クソ……!!」

“あいつ”は自分には魔法を使える素質があると言っていたが、どうすればいいのかさっぱりわからない。

「騎士相手によくやった……だが、俺を敵に回したのは馬鹿だったな。」

そう、馬鹿だ。
大馬鹿だ。
ここで自分が倒れれば次は焚きつけたマスターたちの番だろう。
なぜあの時もっと冷静にならなかったのか。
後悔するカマルに男がゆっくりと歩いていく。
するとその時、

「何が騎士だコンチクショー!!!!」

「!!!」

その声の主は、件のユニゾンデバイスだった。

「騎士ってのはなぁ、弱い者のために刃を振るうやつのことを言うんだ!!!!オイラや他のみんなにひどいことしておいて偉そうな口きいてんじねぇよ!!!!この希望ゼロの禿頭野郎!!!!」

「……そうだ……」

ここからは見えない彼の声に目が覚めた。
こいつが騎士のはずが……正義であるはずがない。
そんなこと、絶対に認めない。

「チッ……うるさいやつだ。お前をかたづけたらやつもいい加減処分するとしよう。」

「………そうはさせない。」

「っっ!!!?」

男は思わず半歩下がる。
目の前にいる若造の様子が先程までと違う。
さっきまではただ強いだけの男だったのに、今は強い信念に支えられた何かがある。

(馬鹿な……!!相手をよく見ろ!!やつにはもう武器がない!!)

頼みの綱の銃も効かない。
もう、勝ったも同然ではないか。

「死ね!!小僧!!!!」

フラフラのカマルに男の一撃が真上から迫る。
その時、

(“刹那”、右だ!!!!)

(!!)

ユニゾンデバイスの声が頭の中に響き、カマル、いや、刹那は咄嗟に右に避ける。
男の一撃は外れ、その後に続けて放たれていた左への横薙ぎも同時にかわしていた。

「なっ!!?」

驚く男だったが、さらに驚くべき事態が起こる。

(刹那!!右手に魔力を集中させろ!!)

「なに!?」

(いいから早く!!)

魔力を集中させろと言われてもどうすればいいのかわからない。
だが、右の掌に意識を集中し、そして周りに漂う何かをかき集めてあるものを想像する。
かつて自分が搭乗していた機体の武器の一つ。
ピンクに輝くあの光の刃のように。
全てを斬り裂くあれが、今欲しい。

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

刹那は無我夢中でなにも握っていないはずの右手を振るう。
男もそれがわかっていながら防御魔法を発動させるが、その抵抗もむなしくご自慢のデバイスごと体を斬り裂かれて倒れた。

「これ……は……?」

男を倒したことよりこっちの方に驚いていた。
自分の握った右手の隙間から蒼く鋭い光の刃が伸びている。
それからは激しい、しかし優しい風が自分の顔へと吹きつけてくる。

「へぇ、風撃変換か……レアなもん持ってんじゃん。」

いつの間にか周りには人が集まり、その中にいたマスターの手のひらには拘束から解放された少年がいた。

「サンキューだ刹那!ほめてつかわそう!」

先程までとは違い、生意気に思えるほどに高慢な礼に刹那はそっぽを向いて歩きだそうとするがあることに気がついて振り向く。

「どうして俺のコードネームを知っている!?」

ここにきてから街の人間にすら言っていないはずなのに、なぜこいつが知っているのか。

(アロウズのスパイ!?いや、やつらがここにいるはずはない!!だが、俺のコードネームを知っていたということはソレスタルビーイングやガンダムについても……)

「アロウズ?ソレスタルビーイング?ガンダム?なんじゃそりゃ?」

「!!!!」

流石の刹那も動揺を隠せない。
カマルが偽名だということを見破られたばかりか、ガンダムの情報までつかんでいる。

「さて、なんででしょう?」

「っっっ!!!!」

刹那は発生させた刃を少年へとつきつける。

「お前は誰だ!?なぜ俺の素性を知っている!!」

「へっへ~ん、驚いたろ!あ、あとはじめっから刺す気がないのにそんなことしたって無駄だよ~ん!」

「!」

その言葉でわかった。
こいつは自分の思考を読み取ったのだ。
よく考えてみれば、男たちが投げたナイフもこいつには一切当たらなかった。
つまり、先読みして避けていたのだ。

「ピンポーン!大正解!」

からかうように上でぐるぐる回るそいつは、けらけら笑いながら刹那の肩に乗る。

「オイラの名前はジルベルト!蒼の賢帝ジルベルトだ!ジルで良いぜ!よろしくな、刹那!いや…」

ジルベルトはニヤリと笑うと刹那に手を差し出す。

「My Lord!」

「?ロード?」

「早い話がオイラのご主人さまってことだよ!お前についてってやるって言ってんだからありがたく思えって!」

「おい……俺はそんなこと頼んじゃ…」

「まあ、積もる話もあるだろうから店に戻ろうZE!お前の知り合いもいろいろ聞きたいことがあるみたいだし!」

さっきから置いてけぼりをくらっていたマスターたちだったが、刹那と呼ばれて応えるカマルというはずの青年に疑いの目を向け始める。

「説明してもらうぞ、“カマル”。」

その日、ティエリアの尋問など子供だましだったことを刹那は身にしみて思い知らされた。






現在 アイアン

そして、話せる範囲のことをすべて話して現在に至る。
自分がソレスタルビーイングの一員であること。
世界の歪みを駆逐するために戦っていたこと。
戦いの最中に発生した黒い穴に飲み込まれてこの世界にやってきたこと。
可能な限り話した。
そう、隣で小さなジョッキの中のオレンジの液体を飲みながら自分の皿の上に置かれたおかずを食べるこいつ以外は。

「プハ~!このために生きてんなぁ~!!」

「ジルはどうせ見張りしてただけでしょ~。」

「うっさいアリンコチビ!!年上に対してその口のきき方はなんだコノヤロー!!」

(自称)超超超年寄りの見た目10才ほどの人形もどきがバーに遊びに来た5歳の子供と本気で喧嘩をする様は見ていてため息が漏れてくる。
さらに言うなら、ロードになれというあの強引な要求も悩みの種だ。

マスターたちに事情を説明している間にこいつはほとんどの機密事項を知ってしまったようだ。
それをネタにロードになれと脅迫してくるは、刹那の仕事に同行するはでやりたい放題だ。

「だってロードについてくのは融合騎にとっちゃ当然のことだ!」

「思考を読むなと言っている……それに、俺はお前のロードになった覚えはない。」

「あるぇ~?いいのかな~?全部ばらしちゃったら刹那的にはまずいんじゃねぇの~?」

憎たらしい笑顔で刹那の周りを飛ぶジルだったが、今日の刹那は冗談が通じなかった。

「真面目に聞け。俺は騎士ではないし、そもそもお前の主になれるほど立派な人間じゃない。この手で、多くの人間の命を奪ってきた最低の人間だ。」

普段なら憎まれ口をきいて流すジルも、今回ばかりはその場で凍りつく。

「俺は近いうちにミッドチルダへ行く。たぶん、仲間たちもそこを目指しているはずだ。お前を連れていって、戦いに巻き込むことは俺にはできない。」

「……んで…」

「?」

「なんでだよ馬鹿刹那!!オイラやっと自分の命をかけられると思えるやつに会えたんだぞ!!?なんでそんなこと言うんだよ!!」

「ジル……」

「刹那わかってねぇんだろ!!?ロードがいない融合騎がどれだけ孤独で!!どれだけ悔しくて!!どれだけ情けないか!!」

涙まみれでポカポカと刹那の頬を叩くジル。
痛くはない。
だが、刹那には今まで殴られた中で一番芯にきたパンチだった。
それでも、いや、だからこそ、

「……すまない。」

「っっっ!!!!もう知るかバーカ!!!!刹那のバーカ!!!!」

「あ!こら、ジル!!」

マスターが止める前に、ジルは開いていた窓から土砂降りの外へと飛び出していった。

「おい、いいのか止めなくて!?あいつがお前の秘密を管理局にばらしたら……」

「構わない。いずればれることだ。ただ……」

刹那は食事の途中にもかかわらず立ち上がる。

「今日は散歩をしたい気分だ。」

そう言うと、刹那は傘も持たずにジルが飛んでいった方へと歩き出した。







中心区画 管理局支部

「はぁ~……なんでよりによってこんな大切な日に雨が降るかねぇ……」

黒い短髪の男は傘の中でバリバリと頭をかきながら文句をたれる。
これが美女とのデートの待ち合わせなら一時間どころか一週間だって待ってみせるが、あいにく今待っているのは自分が属する組織を嫌う人間たちだ。
交渉がうまくいくかどうかわからないし、そもそもこのまま永遠に待ちぼうけもありうる。

「ったく、あのアホども………俺が直に出迎えるべきだとか言って本当はサボりたいだけじゃないだろうな?」

このクソ寒い中わざわざ門の前で待つ自分の心を誰かに理解してほしい。
クラッド・アルファード三佐はそんなことを考えながら手をこすり合わせて寒さをごまかしていると、ふとあるものが目に付く。

「ん……?ありゃユニゾンデバイスか?このクソ寒い中傘もささずに何やってんだか。」

ロードはどこだろうとあたりを見渡すが、それらしき人物は一人もいない。

「融合騎が融合騎なら主人も主人てやつか……って、もういねぇや。」

少し目を離したすきにいつの間にやらユニゾンデバイスはどこかに行ってしまったようだ。
しかし、今度は傘を持っていない人間がすたすたと歩いてくる。
はたから見ていると恋人に振られた恋愛ドラマの主人公のようだ。
馬鹿はデバイスに限った話ではないということかと思っていると、その男がこちらに歩いてくる。

「すまないが、ここら辺をユニゾンデバイスが飛んでいかなかったか?」

「ん?ああ、アイツね。あんたがロードなのか?」

「いや……単なる知り合いだ。」

「フーン………単なる知り合いにすぎないデバイスをずぶぬれで追っかけるなんざ酔狂だねぇ。」

生返事をするクラッドだが、油断はしていない。
状況から考えるにあのデバイスはこいつから逃げていて、こいつは裏でユニゾンデバイスを非合法に販売している人間だ。
そう考えるのが普通なのだが、

(……なんでだろ?ど~も、カリムちゃんの言ってた予言が気にかかるなぁ……)

『悲しき破壊者、気高き蒼の天使とともに神剣にて歪みを駆逐する者あり。』

目の前にいるこいつがあの司書長の仲間とは思えないのだが、どうにも悪人には思えない。

「あんたが探してるやつならあっちに行ったよ。さっさと行ってやんな。」

「すまない、感謝する。」

短く礼をすると、男は再びクラッドの言った方へ歩き出そうとする。
だが、

「ちょい待ち。」

「?」

「ほれ、こいつを貸してやる。追いついたときにこういうのを黙って差し出すのが男の定石ってもんだ。」

「そうなのか?」

クラッドの言葉を真に受けた男はたたまれた傘を受け取ってもう一度礼をするとさっさと行ってしまった。
そして、残されたクラッドはというと……

「へ~くしょい!!!!」

ずぶ濡れになっていた。

「はぁ~……やっぱ俺も酔狂だわ……けどま、そんぐらいの気構えの方がいいか。なにせ、全世界に喧嘩を売る準備をするわけだしな。」

「………お待たせしました。」

「お、待ってました……って、そんなに引かないでくれません?地味にブロークンハート……」

ずぶ濡れのクラッドに戸惑いながらも、各工場の責任者は気を引き締める。

「そんじゃまゆっくり話し合いましょうか。管理局をぶっ潰すためのMS作りについての話を……」








中心区画 居住区

雨の中、ジルは人目につかないようにかなりの高度を飛んでいた。
また捕まるのが嫌だったからというのもあるが、それよりも泣いている顔を誰にも見られたくなかった。

「泣くもんか……!だってオイラ決めたじゃないか……もう、逃げたりなんてしないって!」

初めて戦場に立ったあの時のこと。
自分の役割を教えられ、忠実にそれを守ろうとした。
だが、怖かった。
人のドロドロとした感情を感じ取った時、怖くてその場から逃げ出した。

その後の説明はいらないだろう。
主からはいらないと言われ、周りからは罵られた。
そして、あの忌まわしい戦乱の時代が終結した後。
自分がいた国はもはや存在せず、残されていたものは死体と瓦礫の山だけ。
なのに、その後も戦いの火が消えることはなかった。
どこへ行ってもそれはある日唐突に起こるし、自分も兵器として利用されかけたことは何度もあった。

歪んでいる。

そう思ったが、自分一人ではその歪みを正すことはできなかった。
だから誓ったのだ。
いつか自分と志を同じくする者が現れたのなら、その者をロードとして自分も戦場に立つ。
そのためなら、あのおぞましい感情も逃げずに受け止めてみせる。
主がいない孤独にも耐えてみせる。
そう思って、長い年月を耐え続けてきた。

そして、彼が現れた。
自分と同じく戦火で多くのものを失い、同じ志を持つ人間。
そんな刹那のためになら、この命を捧げても構わないと思った。
なのに、

「ばかぁ……!!」

泣かないと言ったばかりなのにまた涙が出てくる。
それほどまでに、刹那に断られたのはショックだった。

「やっぱり、刹那はオイラなんていらないのかな……」

建物の縁から足を投げ出して座る。
いっそ、ここから落ちてしまえばどれほど楽だろうか。
似たようなことは今まで何度も考えてきたが、それでも歯を食いしばって踏みとどまってきた。
だが、もう無理だ。

「やっぱり、世界を変えるなんてできっこないんだ……」

「……そうかもしれないな。」

「!?」

それまで頬を打っていた雨の感触が突然消える。
代わりに大きな丸い影と、浅黒い肌の青年が自分を見下ろしていた。

「刹那……」

「確かに、世界を変えることなんてできないのかもしれない。だが、諦めればかもしれないではなく、絶対に不可能になる。」

刹那は力強くそう言い放つ。
四年前の戦いのときに学んだこと。
イオリアからガンダムを託されたときに、自分の中でそう決めた。
それが、自分が世界に対して果たすべき責任だと思ったから。

しかし、ジルは再び前を向いて涙を流す。

「……けど、やっぱり無理だよ。オイラ、一人では何にもできないもん……刹那だって、オイラのロードになってくれる気はないんだろ?」

「……俺はお前を俺たちの戦いに巻き込みたくない。俺たちの所業はどんなことをしても償うことができない。これ以上……関係のない奴を巻き込みたくない。」

「あの沙慈ってやつのこと言ってんのか……?」

「……やはり、見ていたのか。」

「初めて会った時は表層部分だけだったけど、みんなに話してるときにほとんど見た。」

「………そうか。」

刹那はジルの涙を止めるように頭に優しく手を置いてなでる。
ジルも刹那の前では泣く姿を見せたくなかったのか、両手で目をこすって涙をふきとる。

「………オイラさ、初めてこの命を預けてもいいって思えたんだ。刹那ならこの世界から戦い消し去ってくれるって……」

「……………………」

「だから頼むよ!オイラも一緒に戦わせてくれよ!」

ジルの態度を見ていればわかる。
自分と同じ願いを持っていることも、そのための方法がこれ以外に思いつかなかったことも。
おそらく、今まで激しい孤独に耐えて自分のような存在が現れるのを待っていたのだろう。
それが、刹那の心を動かした。

「………俺はお前のロードにはなれない。」

ジルがびくりと震える。
だが、それに構わず刹那は言葉を続ける。

「だが、お前がついてきたいのならそうすればいい。」

「え……?」

「お前が世界を変えたいと願うなら、少なくとも俺はお前を歓迎する。蒼の賢帝、ジルベルト。」

最初は訳がわからず戸惑いの表情を浮かべていたジルもすぐに笑顔に変わって刹那の腕に抱きつく。
すると今度は感極まったのか再び泣きじゃくり始め、刹那の腕を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにする。
刹那はそんなジルを落とさないように、慎重に屋上から空へと飛びあがると居候先へと帰っていった。





二日後 B-4地区

別れの日がやってきた。
今日はミッドへの納品を行う日であり、それにまぎれてダブルオーと刹那を向こうに運ぼうというのだ。

「世話になった。しかし、本当に大丈夫なのか?俺がいなくなればまたここは……」

「心配するな。局のお偉いさんがようやく重い腰を上げたらしい。これからは治安維持を徹底するそうだし、新しい雇い口もできるらしいからな。」

「新しい雇い口……?」

「ああ。詳しくはわからないんだが、エイオースの工場全てが協力して大規模な生産を行うとか言ってたなぁ……まあ、こっちとしては食いぶちがみつかって大助かりだがな。」

新しい働き口。
機械産業が発達した世界。
そして、管理局が作ったMS。

「……まさかな。」

「お~~い!置いてくぞ刹那~!」

輸送船へと持っていく製品の上に乗っかっていたジルが刹那を呼ぶ。
少しは彼をみならって楽天的にならなければと自嘲していると、ある人物が現れる。

「お~!いたいた!探したぜ有名人!」

「あんたは……」

ジルを探すときに世話になった男。
昨日はラフな格好だったが、今日はピッチリとした管理局の制服に身を包んでいる。

「管理局の人間だったのか……」

「なんだその顔は?俺みたいなやつが局員やってたら変だってか?」

「いや……昨日は世話になった。」

「気にすんなって。あ、それはそうと今日はお宅に聞きたいことがあってきたんだった。」

「聞きたいこと?」

不意に男の纏う空気が緊張感に満ちたものに変わる。

「なんでもさ~、あんたがここに来た時に正体不明のMSが一緒に目撃されたって通報があったんだよね~。」

「!」

「こっちとしては形式上でもいいからお宅に話を聞かないといけないんだけどさ~……」

へらへらした笑みを浮かべていた男の目が鋭いものに変わる。

「あんたなんか知らない?」

「……悪いが知らないな。」

二人の間に言い表しようのないピリピリとした空気が流れる。
だが、

「………そっかぁ~。そりゃ残念。」

男はすんなり引き下がる。

「そういやミッドに行くんだって?道中気をつけてな~。」

背を向けてひらひらと手を振って歩く男。
しかし、ほんの数分対峙していただけの刹那の額にはじんわりと汗がにじんでいた。









「あれが悲しき破壊者くんねぇ~……随分想像と違ってたな~。」

エイオースの全工場の責任者たちとなんとか話をつけた後、正体不明のMSが出現したとの話を彼らから聞いた。
向こうはそれをこちらがエイオースを潰すべく送り込んだ機体だと思っていたようで、誤解を解くのにずいぶん苦労した。
しかし、彼らが見せてくれたその映像を見てあることを確信できた。
そのMSがカリムの預言にあった天使のうちの一体であることを。

「はやてちゃんは信じてなかったみたいだけど、あれがそんなにショッキングな内容かねぇ?」

発動条件が整っていないだの、もう戻ってくるはずがないだのいろいろ言っていたが、それよりも友人が自分のいる組織の敵になることを信じたくないだけの言い訳だろう。

「どうせならはやてちゃんも見切りつけてお友達に協力する方向でいけばいいのに。けど、あの真面目なところがまた良いんだよな~………よし、帰ったらまた口説こう。」

その時、ポケットに入れていた携帯端末がぶるぶると震えだす。
嫌な顔でそれを取り出すと、誰の呼びだしかわかってさらに嫌な顔をする。

「ハーイ、世界の女の子の救世主、クラッド三佐でーす…ってうるせぇなぁ……あ?今すぐ戻って来いって?冗談きっついぜ。今から素敵な女神様をひっかけようって時に………わかったようるせぇな!戻りますよ戻ればいいんでしょ!!ったく………あいつら俺よか優秀なんだから別にいなくたっていいだろうがよ………」

とは言え、自分に命を預けると言ってくれた部下を無下に扱うわけにもいかない。
ナンパはまた今度の機会にと決めると、ぶつくさ呟きながらクラッドは隊舎へと向かって歩いていった。






輸送船 コンテナ

『刹那さん、本当にそこで良いのか?どうせならこっちに来て座れば…』

「いや、向こうに着いたらすぐにでも降ろしてくれ。これ以上迷惑はかけられない。」

限られた明かりの灯されたダブルオーのコックピットに刹那はいた。
下手に人口密集地帯で降りるよりも、人気のないところで降りた方が
輸送船を操縦している彼も自分をミッドチルダに連れていったことがばれればただでは済むまい。

「なんてこと考えてんだろ?」

「だから読むなと言っている……」

肩の上で笑うジルを睨む刹那。
だが、ジルは刹那の心の中がよく見えていた。

「『お前が同じ考えでよかった……』って?いや~照れるなぁ♪」

「……調子に乗るな。」

「あだっ!」

刹那のデコピンにジルは額をさするが、その顔は満面の笑みだ。
そして刹那も、新たに得た仲間へ小さな笑みを向けた。

『さあて、ご両人!いざゆかん、ミッドチルダへ!』

「お~!!」

「了解!刹那・F・セイエイ、ダブルオー、これよりトレミーの捜索ミッションを開始する!」








悲しき破壊者、蒼の賢帝の願いを背負いて天使とともに司法の地へと羽ばたく





あとがき・・・・・・・・という名のどうしよう

ロ「刹那編な第八話でした。」

クラッド(以降 ナンパ師2)「いきなりオリキャラ二人も出してなに普通に終わらせようとしてんの。」

ジル(以降 蒼)「しかもオイラに至ってはキャラ立たせすぎなうえにユニゾンデバイスなんかにしてどうすんだよ。」

刹「しかも戦闘シーンはほぼゼロ。最低だな。」

ロ「ごもっともな意見なんですけど一人自分で存在意義否定してるやついなかったか!!?」

ナンパ師2「でも事実だし。」

ロ「ジルはあとで重要な役割を果たしてくるの!!ていうかたぶん読者の皆様が予想ついちゃってるようで怖い!!」

蒼「まあ、ユニゾン、刹那のパートナー、んでもってオーライ……」

刹「それ以上は本当にばれるからやめろ。まあ、今回は連続投稿で埋め合わせをするなんて浅はかなことを考えているようだから大目に見てやろう。」

ロ「とどめ刺しにかかってんのか励ましてんのかよくわからない言葉をどうもありがとう。(泣)」

ナンパ師2「そんじゃ、その次回予告に行きますか。」

蒼「次回はティエリア編。」

刹「どうにかトレミーと一緒に飛ばされたティエリアとセラヴィー。」

ナンパ師2「彼らがたどり着いた世界は何とミッドチルダ!」

蒼「どうにか情報を収集すべく、ウェンディとエリオの助言をもとに会った人物とは?」

刹「そして、地球に戻る方法を手に入れるべく、ティエリアたちはある人物の奪還に挑む。」

蒼「はたして結末やいかに!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 9.記者と鴉とマイスター
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2010/12/26 00:30
?????

「フフフフフ………!!ハハハハハハハハ!!」

おかしくてたまらない。
ファルベルが渋々教えたあの情報。
まさかユーノにそんな秘密があるとは思ってもみなかった。
しかも、彼自身はそれを知らずに生きてきたのだからさらにおかしい。

彼もまた自分と同じように特別な存在。
世界を導くことができる力を持つ人間であることを知らずに世界に対して戦いを仕掛けたというのだから笑えてくる。
これ以上の笑い話がこの世にあるだろうか。

「いいね……君がいれば来るべき対話への準備はさらに盤石のものになる。」

だから、リボンズはある重大決断をこともなげに下す。

「君を僕のものにしよう、ユーノ・スクライア……君だってその方が良いに決まっているのだから……フフフ……ハハハハハ!!」

リボンズの笑いが部屋の中にこだまする。
そんな彼の姿を、紫の髪の少年が唇を噛みながら柱の影で見つめていた。






魔導戦士ガンダム00 the guardian 9.記者と鴉とマイスター

第1管理世界 ミッドチルダ 海上

見渡す限りの水平線。
その日、ここに誰もいなかったのはこちらに住む人間にとっても、こちらに送られた人間にとっても幸運だったとしか言いようがない。
穏やかだった海が突如荒れ狂い、水柱と見紛うばかりの高波があたりに発生する。
その波の発生地点を中心に黒い穴が出現し、そこから巨大な艦とそれに必死にとりつく黒と白の巨人が現れる。
その二つは鋭角に海中へと突っ込みそうになったが、間一髪のところで本来の飛行姿勢へと戻して水面との衝突を避けた。

「くぁ~~!!!!今のはマジでまずかったぞ!!」

間一髪のところでプトレマイオスを救ったラッセは額の汗をぬぐおうとする。
だが、

「……どこだここ?」

見たところ海のど真ん中のようだが、GPSには何も映っていない。
地図と照らし合わせてみてもここがどこなのかさっぱりだ。

「どうなってんだ……?」

「無駄よ……ラッセ……」

「スメラギさん!無事だったのか!」

「ミレイナも大丈夫です!」

「私も……」

「右同じっス……」

「僕も……」

『わしもな……』

『いつつ…!一体何があったんですか?』

砲撃に当たっていたイアンと沙慈も含め、クルー全員が弱々しいものの笑みを見せたことでラッセは安心する。
そして、全員の無事が確認できたところでラッセは先程のスメラギの言葉の意味を問う。

「スメラギさん、無駄ってどういうことだよ?」

「……たぶん、ここは異世界よ。そうでしょう?ウェンディ、エリオ。」

全員の視線が集まる中、エリオは静かにうなずく。

「はい。おそらく、間違いないと思います。」

『……クッ…!!やはりそうか…!!』

「ティエリア!!無事だったのね!!」

通信用の画面の向こうにティエリアの顔を確認できたことからフェルトは魔力酔いによる頭痛も忘れて歓喜する。
だが喜びもつかの間、新たな問題点が告げられる。

『すまない、刹那たちとはぐれてしまった。トレミーと一緒にここに来れたのは僕だけのようだ。』

「そんな……」

フェルトは放心状態でその場に崩れ落ちるが、その状態を長く続けていられる暇はなかったようだ。

「こちら時空管理局所属、次元航行艦クラウディアだ!そこの艦、今すぐこちらの指示に従い同行せよ!繰り返す!こちらの指示に従い同行せよ!」

「クラウディア!?しかもこの声…!!」

その声をエリオが聴き間違うはずなどない。
自分の保護者であり、母親代わりである彼女の兄の声を間違えるはずがない。

『ラッセ、潜航してここから退却。僕は彼らを押さえる!』

「アーデさん待っ…」

「了解した!」

エリオの制止もむなしくセラヴィーはクラウディアに向けて砲撃を開始する。
その間にプトレマイオスは海中へと潜っていった。





クラウディア ブリッジ

「艦長、MSが攻撃を!」

「クッ!!やはり止まる気はないか!!しかし、まさか本当に来るとは!!」

セラヴィーが放つ砲撃がかすめる中、クラウディアの艦長、クロノ・ハラオウンは苦々しい顔つきでカリムの言っていた予言を思い返していた。

『反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。』

おそらく、その天人とやらがあれのパイロットなのだろう。
確かに薙ぎ払うという表現がぴったりくる暴れっぷりだ。
だが、こちらに気を使っているのか直撃させてくる気配はない。

「何を考えてるのか知らないが、こちらにも対抗手段はある!」

「しかし、艦長!!」

「このまま彼らを逃がすわけにはいかない!!エスクワイアとシュバリエを!!」

「……了解!!」

肩を震わせるオペレーターに心の中で謝罪したクロノは急遽とりつけることになったハンガーへと通信を入れる。

「ティアナ、フェイト、いけるか?」

『はい!』

『けど、いきなり実戦なんて……』

「だが、ここであいつの手掛かりを取り逃がすわけにはいかない……頼む。」

『……わかった。』





ハンガー

通信が終わると、着慣れないパイロットスーツの密着感にフェイトは再び顔を赤らめる。
胸元は白く分厚い特殊素材で覆われ、その下には彼女のパーソナルカラーである黒に黄色の体の線に合わせてラインが入っている。
こうして改めて自分の体を見てみると、あのバリアジャケットがどれほど大胆だったのかがよくわかる。

〈Sir,集中を。〉

「!わ、わかってる!!」

コンソールのわきにある窪みに収まっているバルディッシュからの指摘にフェイトは一段と顔を赤くするが、すぐに真剣な顔になると耳元にあったスイッチを押してヘルメットのバイザーを下ろす。

「フェイト・T・ハラオウン、シュバリエver.ライトニング、行きます!!」

開いたハンガーの入り口から長細い顔にV字型のアンテナと肩から短い金色のウィングを生やした機体が飛び出していく。
金色のバイザーを目元につけ、額に設置された第三の目は晴れ渡った空をしっかりと見据えている。
両腕には見えないが中に銃身が隠されている。
本来ならばシールドが装備される予定だったのだが、フェイトのたっての希望によりアームガンの威力を高めることを優先した結果取り外されることになった。
背中には彼女の相棒を模した戦斧が装備され、この機体の基調色となっている黒で塗りつぶされた刃が鈍く輝いている。

「いくよ、バルディッシュ!」

〈Yes sir!〉

フェイト専用にカスタマイズされた試作機、シュバリエver.ライトニングは背中のGNハルバードを両手に持つと黒と白の機体へと猛然と斬りかかっていった。



通信を終了したティアナはあることを確信していた。
あの艦には間違いなくエリオとウェンディがいる。
匿名の手紙の言うとおりにクラウディアへと出向し、MSのテストパイロットを引き受けてすぐに今回の次元振動を感知して駆けつけてみればあの萌黄色の天使と同型の機体が目の前にいる。
偶然でないと考えるには十分すぎる根拠だ。

オレンジに白のラインが刻まれたパイロットスーツを着たティアナは相棒であるクロスミラージュを目の前のカードホルダーに差し込むとしっかりと操縦桿を握る。

「行くわよ、クロスミラージュ!」

〈All right,master!〉

「ティアナ・ランスター、エスクワイア、出ます!!」

橙にカラーリングされたエスクワイアが空へと飛び出していく。
腰の両側に装備されていたホルスターからビームピストルを抜くとシュバリエの後に続く。

「エリオ……ウェンディ……待ってて!!」

二人の仲間のことを思いながら、ティアナはごつい装甲に覆われた敵へ向けて引き金を引いた。





海上

砲撃を続けていたセラヴィーに黒い刃が迫る。
ティエリアは急遽砲撃を中止してビームサーベルでその一撃を受け止める。

「MS!?新型か!!」

目の前にいる機体のその姿にティエリアは驚いていた。
おそらくジンクスを基に作ったものなのだろうが、驚くのはその装甲の薄さだ。
ナドレのように余計な装備は一切付けていない黒のボディは見るからに薄く、一撃でも貰えば間違いなく沈むだろう。

「クラウディアは墜とさせない!!」

「!」

それまで視界をふさいでいた漆黒の機体が上へ消えたかと思うと、今度はその後ろから赤い閃光が無数に迫ってきていた。

「クッ!!」

咄嗟にGNフィールドを張って防ぐが、今度は後ろから高速で先程の機体が迫る。

(速い!)

少なくともティエリアはここまで高速で移動する機体と戦ったことがない。
せいぜいシミュレーションでキュリオスと戦ったことがある程度で、それでもここまで速くはなかった。

「ガンダム以上のスピードの機体……ここまでのものが…!!」

振り向きざまにビームサーベルを合わせるセラヴィー。
だが、その次の瞬間には別方向から斬りかかられて攻撃を防ぎきれない。

「グッ!!この!なめるな!!」

二つの砲門から次々に光を放つが、黒い機体は悠々とそれをかわしていく。
そして、砲撃に集中していたセラヴィーに今度はオレンジの機体の射撃が直撃して体勢が大きく崩される。

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

今まで味わったことがないほどの危機感がティエリアを押しつぶしてくる。
一方、シュバリエとエスクワイアに乗るフェイトとティアナは勝利を確信していた。

「いける!!」

「はい!!このままいけば…」

しかし、彼女たちは知らない。
たった今、目の前にいる存在がイオリア・シュヘンベルグから希望を託された機体であることを。
その真の力を。

「TRANS-AM!!」

「「えっ!!?」

突如として赤く輝き、セラヴィーを覆っていたGNフィールドが強固なものに変化する。
しかもそれだけでは終わらず、その強固な防御の中でセラヴィーはゆっくりと二門のGNバズーカを構えるとエスクワイアとその射線上の奥にあるクラウディアへと狙いを定める。

「(あれはマズイ!!)ティアナ、クロノ、避けて!!!!」

「クッ……!!」

フェイトの叫びにティアナもクロノが乗るクラウディアも回避行動をとるが、それよりもセラヴィーの砲撃が早かった。

「圧縮粒子解放!!!!」

ため込まれていた光がさながら龍のようにうねりを帯びながら空を切り裂く。
それはエスクワイアの右腕を飲み込み溶解させ、クラウディアも左舷にかするように被弾すると灰色の煙を上げながら高度を下げていく。

「よくも!!!!」

フェイトは感情が高ぶったままセラヴィーの背後からハルバードを振り下ろす。
だが、

「!!?せ、背中に顔!!?」

強烈なGN粒子を放ちながら開いた装甲の中から、隠れていた巨大なもう一つの顔が出現する。
それに気を取られていたフェイトはセラヴィーの腕に握られているビームサーベルを見逃していた。

「しまっ……!!」

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

間一髪でかわしたシュバリエだったが、握っていたハルバードの柄ごと左腕を切断される。

「この!!」

むきになって残っていた右腕の銃口を開くが、そこへストップをかける声が届いた。

『待てフェイト!ここまでだ!!』

「クロノ!?」

『クラウディアも先程の砲撃で被弾した!!そっちもエスクワイアとシュバリエを損傷している!!深追いすればこっちもマズイ!!』

「っ……!了解……!!」

渋々フェイトはクロノの指示に従うが、ティエリアにしてみればこの状況は渡りに船だ。

「今ので粒子残量が30%を下回ったか……」

TRANS-AMを発動したにもかかわらず仕留め損ね、挙句こちらもかなりのダメージを追ってしまった。
しかし、追撃が来るかと思ったが二機の新型とそれを搭載していた艦は退却を開始している。

「こちらも深追いは無用か……」

ティエリアは操縦桿を倒してセラヴィーを海中へと潜らせ、先に撤退したプトレマイオスの後を追った。





プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

ティエリアが合流した後、ブリーフィングルームに集まっていたクルーの誰もが悔しさをにじませていた。
プトレマイオスと一緒にこの世界に来たのはセラヴィーとティエリアだけ。
そのセラヴィーも突然出てきた艦から逃げるときに損傷。
すなわち、現在戦力と呼べるのはプトレマイオスの砲撃だけということだ。

「しかし、本当に良かったのか?向こうの指示に従っていれば物資や帰る方法だって……」

「いや、あれでよかった。」

イアンの言葉をティエリアはばっさりと否定する。

「彼らが我々をとらえて無事に帰す保証はない。」

「そうです!!」

ミレイナもティエリアの意見に手を挙げて同意する。

「スクライアさんからお話を聞いてミレイナもプンプンです!!」

「だが、セラヴィーはしばらく使えなくなっちまったんだぞ?今度来たら対抗できるかどうか…」

「ハッ……らしくないなおやっさん。」

ラッセはイアンの不安を鼻で笑う。

「いつもなら『わしに不可能はない!!』、なんて言ってその通りにしちまうくせに、訳のわからないところにほっぽり出されただけでギブアップ宣言か?」

「そらまあ……ギリギリ物資はそろってるし、あの程度なら二日ほどあれば何とか……」

「よっしゃ、そんじゃ決定。修理はおやっさんが何とかするとさ。」

「お、おい!!わしはまだなにも…」

「それじゃあ、あとはどうやって他のマイスターと戻る方法を探すかね……」

イアンの文句を封じ込めるようにスメラギが強引に話しを進める。

「フフフ……!」

「?どうかした、フェルト?」

「ううん。最初はみんなこんな風にしわ寄せてたのに、いつもみたいになったなって思って。」

フェルトに言われて気が付いた。
最初に顔を合わせたときはみんな不安を抱えていたのに、いつの間にか普段の明るい空気に変わっていた。

「俺たちに暗い空気は似合わないってことか。」

「緊張感に欠けているとも言える。」

「こりゃまた厳しいお言葉で……」

ティエリアの言葉に苦笑するラッセだったが、それを見ていたティエリアの顔にも笑みが浮かぶ。

「けど、本当にどうします?私たち、ここがどこなのかもわからないし、そもそも情報を集めるって言ったって、その情報源がどこにあるかも…」

「あの……」

フェルトの言葉を遮るようにエリオが手を挙げる。

「その、ウェンディが何か知ってるみたいなんですけど……」

「?なにかって?」

注目が集まる中、ウェンディが満を持して前へ進み出る。

「いろいろ情報持ってて協力してくれそう人間ならあてがあるっス。たぶん、ユノユノの名前を出せば食いついてくるはずっス。マレーネ。」

〈了解。この人物です。〉

マレーネが投影した写真に写っていたのは一人の女性だった。
水色のショートカットに、白い肌をした首から身分証明証のようなものを下げている。

「この人は?」

「え~と、名前はアイナ・スクライア。ユノユノと同じスクライア一族出身で、記者をやってるっス。」

「記者?おいおい、たかだか記者が俺たちに有益な情報を持ってるなんて……」

「甘い!角砂糖にガムシロップかけて食べるより甘いっスよラッセ!」

ちっちっと指を振るウェンディと彼女のありえない食い合わせの例えに顔をしかめるラッセだったが、ウェンディの話を聞いて態度を一変させる。

「あたしも話しを聞いたくらいなんスけど、管理局の裏側の相当ヤバいところまで首を突っ込んでたみたいだからなんかいいネタ持ってるかも。ついでに、(違法な手段も使うけど)情報収集についてはピカイチみたいだし、会ってみて損はないと思うっスよ?」

「けど、どうやってコンタクトを取るの?そもそもここがどこなのかがわからな…」

「ああ、それならさっきマレーネとストラーダに聞いておきました。ここは十中八九ミッドチルダです。僕らが今いるのは首都のクラナガンから50kmの沖合です。」

「なぜそんなことが分かる?」

「さっきの戦艦、クラウディア級の戦艦はほとんどつい先日あった事件でこの世界に集結していますし、戻っていった方向はちょうど次元航行艦のドックのある地点と一致します。それに、いくら次元震を観測したからといってここまで素早く艦を出せる世界はそうそうないですから。」

「……理由は本当にそれだけか?」

ティエリアの鋭い視線と言葉にエリオはドキリと心臓が高鳴る。
だが、なんとか笑顔を取り繕う。

「え、ええ……それだけですけど、なにか?」

「……ならいい。イアン、VTOLの準備を。ウェンディ、君はそのアイナという人物とコンタクトを取る方法を思いついているんだな?」

「モチ!!まあ、このウェンディちゃんにどーんとお任せあれ!」

「あの……僕も行きます。ウェンディとアーデさんだけじゃ心配ですから。」

「それじゃ、よろしくねエリオ、ウェンディ。……でも、ウェンディはともかくエリオはよく協力する気になったわね?」

「え!?いや、あの、これは別にそんなんじゃなくて、なんと言うか、捨てられてる子犬をほっとけない心情に似ているというか!!」

「えっと、別にそんなに強く否定しなくてもいいんだけど……」

「え!?あ、ああ!!そうですよね!!じゃあ、早くいきましょうアーデさん!!善は急げです!!」

エリオはブリキの人形のようにカチコチとした動きで二人の袖を掴むと強引に引っ張って外へと出ていく。
それを見送ったスメラギ達だったが、三人がいなくなったところでスメラギが口を開く。

「エリオとウェンディをミッドチルダにおいていくのは難しいかもしれないわね。」

「ああ。ウェンディは最初からそんな気はしてたが、エリオも最近になって思うところがあるみたいだしな。」

「だが、俺たちのエゴにこれ以上付き合わせるわけにもいかないだろ。これは俺たちの世界、地球の問題であって、この世界の住人である二人を巻き込んでいいものじゃない。」

「……そうかな?」

「フェルト?」

自分の呟きに予想以上に注目が集まり少しどぎまぎするフェルトだったが、気を取り直すと自分の意見を主張する。

「私はエリオとウェンディの意思を尊重するべきだと思う。二人にもなにか譲れないものがあって、そのために戦う道を選んだのなら私たちが口出しすべきじゃないと思う。」

「しかしだなぁ……」

「……そうね。」

スメラギの肯定の言葉にその発言をしたフェルトですら驚く。

「けど、そうだとしたらちゃんと決めてもらわないと困るわ。少なくとも、私たちがこの世界を去る前には。」

これから先に待っている戦いは中途半端な覚悟でどうにかなるものではない。
迷えば自分だけでなく仲間まで傷つくことになるのだ。

「とにかく、今はこの話はおしまい。みんな、すぐに準備に取り掛かって。」

パンパンというスメラギの手の音に送り出されてそれぞれの持ち場に戻るクルーたち。
その後、海面にわずかに顔をのぞかせたプトレマイオスのカタパルトから一機の青い輸送船が飛び立っていった。






クラナガン 次元航行艦ドック

『失態ですね、ハラオウン提督。』

「……その他人行儀な言い方をいい加減やめてくれないか、アルフ。」

久しぶりに顔を見た家族から毒を吐かれていい気分の人間など一人もいない。
だが、目の前に、しかし遠い場所にいるアルフからの厳しい非難の言葉はとどまることを知らない。

『そう言えば、MSの試験運用を任されたそうですね?遅れましたが、謹んでお祝い申し上げます。』

「皮肉はやめろ。」

『いえいえ、心からの祝辞ですよ?私どもの友人であるユーノ・スクライア司書長を犯罪者扱いするファルベル准将に従うあなたへの精一杯のね。おっと、そういえばあなたはもう違いましたね。これは失礼しました。』

冷淡な笑みに返す言葉もないクロノ。
だが、自分のとった道を間違いだとは思っていない。
内側から組織を変えるため、何よりいつか戻ってくることが確定したユーノとその仲間を止めるためにはこうするしかないのだ。

『では、私はこれで…』

「待て、アルフ。」

『……まだ何か?』

「……反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。」

『騎士カリムの預言が何か?』

「……それがこの世界に現れた。それも、数多の星々を束ねし方舟もだ。」

『!』

「君とはやては否定していたが、どうやら予言は本当だったらしい。だとすれば、ユーノもこちらに戻ってくる可能性がある。だから、君にも協力…」

『……協力してとっ捕まえて牢屋にぶち込めってか?』

「そうは言ってない……だが、もしユーノがこの世界に害をなすのなら僕は一局員として……」

『局員の前に友達だろうが……だからあたしはあんたらと縁を切ったんだ。』

「アルフ!」

クロノは呼びとめようとするが、その前にアルフは通信を一方的に終了する。
そして、一人で部屋に残されたクロノはどさりと椅子に腰かけると俯き加減でため息をついた。






第23管理世界 ルヴェラ 文化保護区 ミッドタイムズ支社

「ゔぇぇ~~……こんな昼ドラみたいなどろどろの愛憎劇な記事を読む奴の気がしれないわ……」

ようやく書きあがった原稿を左脇にある書類や記事の山の一番上に乗せると、アイナは机に顎をついて文句をたれ始める。

「こんなもんより今の局のやり方気にしなさいってのよ……いまさら『質量兵器使いま~す!てへっ♪』、なんてなめたこと言ってんのに誰も何も言わないなんてつくづくいかれてるわ……」

「スクライアさ~ん、編集長がお呼びですよ?」

「はいはい、原稿よこせってんでしょ?わかりましたよ~っと。」

ぴょんと跳ね起きたアイナは紙の山が崩れるのもお構いなしで一番上から原稿をとると居眠りをしている男の方へと歩いていく。
しかし、

「ああ、それと本社から手紙が来てますよ?なんでも、アイナさんの知り合いだって言ってた局員から送られてきたものだって。」

「局員から手紙?」

確かに情報交換を行っている局員は何人かいたが、そのほとんどがここへ来るきっかけになった出来事で縁を切りたいと言ってきた。
一人だけ馬鹿なあいつが残ってはくれたが、そのあいつにはもうルヴェラに移されたことは言ったし、そもそも蓋をしている臭いものをつつきまわす自分に用がある人物などいるものなのだろうか。
不思議に思いながら薄い緑の封筒を切り取り線に従って開くと、その大きさに不釣り合いなほど小さな紙の欠片が入っていた。

「なんだこれ?」

たたまれていたそれを開いた瞬間、アイナは息をのむ。
至って簡潔な文章だが、今のアイナにとってそれは濁流の川の中でもがく自分にたらされた一筋の藁のように思えた。

「どうしました?」

「ごめん。これ編集長に出しといて。それと、あたしは今からありったけの有休とるって伝えといて。」

「ええ!!?ちょ、ちょっと!!?」

押し付けられた原稿の束に戸惑う同僚をよそに、階段を早足で下りるアイナは縁を切らなかった馬鹿へと連絡を取る。

「クロウ?あんたどうせしばらく暇でしょ。ちょっとミッドまで付き合ってほしいの。……え?もうそっちにいる?オーライ、それはちょうどいいわ。あたしもすぐに向かうから……どうしたもなにも、ユーノに関する情報が手に入ったのよ。……は?寝ぼけてんのはあんたの方よ。ガセにしろなんにしろ、こいつを送ってきたのはユーノに関係あるやつ、もしくはあんたが探りいれてる上司の部下が仕掛けてきたんでしょ。前者ならあたしもあんたも万々歳。後者でもあんたに損はないはずよ。……OK、交渉成立ね。ああ、それとアイリスちゃんも一緒に連れて来てね。待ってる間あの子の入れたお茶を楽しみたいから。……はぁ?あんたに拒否権なんかないわよ。女に奉仕するのは男の義務なんだから。それじゃあね♪」

受話器の奥でまだ叫んでいるようだったが。この際細かいことは気にしないでおこう。
なにせ、あの一文はそんなことに気を回す余裕を自分が奪い去ったのだから。

『ユーノ・スクライアについて知りたいのなら夜11時、北のハイペリアルタワー跡に来い。』

どこの誰だか知らないがいい度胸だ。
もし罠だったとしても、間違いなくユーノをはめたあのジジイとつながりがある。
だから、何が何でも身柄をとらえて知っていることを洗いざらいはいてもらおう。
それが、今の自分がここにはいないユーノにしてあげられることだと思うから。






108部隊隊舎

誰もいない廊下にバンと大きな音が響く。
壁に打ちつけたこの拳の痛みは自分への罰なのだ。
ティアナはそう思うしかないほど悔しくて仕方なかった。
あと少しでエリオとウェンディに手が届くかもしれなかったのに、自分の力不足のせいで救うことができなかった。

〈あれはマスターのせいではありません。〉

「下手な慰めなら要らないわ……」

〈いいえ、厳然たる事実です。あの時、エスクワイアはマスターの反応速度に追いついていませんでした。〉

クロスミラージュの言っていることは間違っていない。
エスクワイアのレスポンスは限界ギリギリまで上げていたのだが、ティアナにはそれでも遅く感じていた。
まるで二人羽織で戦っているような、ちぐはぐの動き。
それでも、そんな状態でセラヴィーと互角以上の勝負をしていたのだから驚きだ。

「けど、結果がすべてよ。私は負けた……そういうことよ。」

だが、確かにエスクワイアへの不満は尽きない。
MSを扱いなれていない管理局の人間に合わせているのだろうが、ティアナのように突出した才能を持つ者にはあわなかったようだ。

(エスクワイアじゃ私の動きについてこれない……一体どうすれば……)

「失礼。」

不意に声をかけられたティアナは驚いて壁から離れる。
誰もいないと思っていたからあそこまで感情を爆発させたのだが、それを見られていたのかと思うと恥ずかしくて死にそうだ。

「ランスター補佐官ですね?」

「ええ。なにか?」

鋭く光る赤い眼。
しかし、顔立ちは全体的に幼く、低い声を聞いてようやく成人していることが分かるほど童顔だ。
黒いぼさぼさした髪に金色の十字架の真ん中に白い石がはめ込まれたピアスが右耳で揺れ、彼を初めて見た人間にはハイスクールの生徒が悪ぶっていると思って笑ってしまうのではないだろうか。

「カレドヴルフ・テクニクス社はご存知ですね?」

ご存じも何も、管理局にもデバイスを納入している次元世界有数の大企業だ。
もっとも、MSの登場によって最近はその地位を脅かされつつあるようだが。

「実は地上部隊にある兵器のテスターを務めてほしいとのオファーが来ていまして。」

この男が自分を訪ねてきた理由がよくわかった。
要するにこいつはカレドヴルフに恩を売るために自分を利用しようとしているのだ。

「申し訳ありませんが、私は…」

「そういえば、負けたそうですねガンダムに。」

「ガンダム……?」

「あなたとハラオウン執務官が戦ったMSの名称ですよ。ミッドではエンジェルと呼ばれているようですが。」

「……あなた、何者?」

ティアナは男と距離をとるとクロスミラージュをセットアップする。
自分やフェイトですら掴んでいない情報を知っているこの男。
どうやら、ただの局員ではないようだ。

男の方もティアナの雰囲気が変わったことを察知して、それまでの丁寧な言葉遣いをやめて鋭い刃物のような口調になる。

「俺の正体はどうでもいい。今カレドヴルフではある構想の下、新しいタイプのMSの製作を極秘裏に開始している。どの道キャバリアーシリーズではお前の能力を十二分に生かせないのだから、新しく開発されるそれにかけてみても良いんじゃないか?」

「それは…」

「迷っている時間はないはずだ。本当の意味でウェンディ・ナカジマとエリオ・モンディアルを助けたいのなら今はカレドヴルフに行け。」

「!?まさか、あの手紙を送ったのは!」

「……キャバリアーシリーズで十分お前の能力に対応できると踏んでいたんだがな。俺の誤算だ。」

この男があの手紙の差出人。
だが、だとすると疑問がわく。

「なんで私にあんな手紙を送ったの?」

「ああでもしなければお前はMSと関わりを持ちそうになかったからな。だが、仲間を助けたいと思うのならMSは不可欠な力だ。それだけは保障しよう。」

「けど、私を利用することには変わりないんでしょ?」

「察しが良いな。だが、お前もいずれ俺と同じ位置に立つ日がきっと来る。」

男は名刺ほどの大きさの紙をティアナへと放るとそのまま来た道を歩いていく。

「俺は待ち人がいるのでこれで失礼させてもらう。それでは。」

男は相手がデバイスを起動しているのに背中を見せて歩き出す。
だが、彼にはティアナが撃ってこないという確信があった。
彼女は自ら目の前のチャンスを手放すほど愚かな人間ではない。

〈ですが、少々不用心です。〉

「そう言うなエルダ。これは俺なりの誠意の見せ方だ。」

廊下の角を曲がったところで彼のピアスが語りかけてくる。
妙齢の女性の声は堅苦しさを覚えるほどきっちりとしたもので、デバイスとわかっていても一礼したくなるほどだ。

「ですが、エルダの言うことにも一理あります。ご主人様は気を許した相手には隙を見せすぎます。」

開いていた窓から一羽の鳥が差し出された男の腕にとまる。
光を浴びて銀色に輝く薄い菫色の羽毛は美しく、すらりと長く伸びた尾羽は金色の糸が天界から地上へと降りてきたかのようだ。

「アイリスか……小言は後で聞くとして、アイナはこちらについたか?」

「はい。待ち合わせ場所を下見してからこちらと合流するとのことです。」

「そうか……お前はもう一度アイナのところに行って警護を頼む。ついでに茶を入れてやるくらいのサービスはしてやれ。」

「承知しました。」

アイリスと呼ばれた鳥は再び窓から空へと大きく羽ばたいていく。
それを見送ったクロウ・ヘイゼルバーグはこれから自分たちが会うことになる人物についてある程度予想はついていた。
そう、友人であるヒクサー・フェルミの仲間たち。
ソレスタルビーイングのメンバーであることを。





午後十一時 クラナガン郊外 ハイペリオンタワー跡

高く天を衝く巨塔になるはずだったその建造物は他のビルよりも低い位置で成長が止まっていた。
クラナガン郊外の再生計画の一部として立てられようとしていたこの魔力観測用のタワーは建築を担当していた中小企業の相次ぐ倒産、撤退によって初期の状態で放置されたままになっていた。
この計画を立案した者たちはそれでも何とか完成させようと試みたが、これにかかわった企業の不幸を目の当たりにしたせいで腰が引けてしまい、誰も手を出さないまま今日に至るというわけだ。(もっとも、倒産や撤退が重なったのは本当に偶然だったのだが)

そんなこの場所で、アイナは一人夜風に当たりながら自分を呼びだした人物を待っていた。

「う~さむ……女を待たせるなんてマナーがなってないわよね。男ならそれくらい常識よ、どこかの誰かさん。」

「……アイナ・スクライアだな。」

暗がりから現れた紫の髪の人物をアイナは注意深く観察する。
月明かりを反射しているメガネとその奥の突き刺すような眼光は大人びた雰囲気を醸し出しているが、幼さが残る端整な顔はその厳しい表情とは裏腹にきれいだという印象をアイナに抱かせた。

「それで、あたしになんの用?言っとくけど、情報提供ならそっちが先よ。しょうもない話を聞かされてドロンされたらたまらないからね。」

「……ユーノ・スクライアはソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「は?ソレス……なにそれ?」

訳がわからないといった顔をするアイナに少年は説明する。

「全ての戦争行為を武力によって根絶するために立ちあがった私設武装組織……そして今は、世界の歪みであるアロウズ、その後ろにいる存在を駆逐するために戦っている。」

その突拍子もない話にアイナは呆れる。

「じゃあなに?あんたらは戦争を終わらせるために戦争をしてたってわけ?そんで、ユーノがその組織にいたって?冗談やめてよね。私は生れてこのかたそんな組織の名前聞いたことはないわ。」

「ソレスタルビーイングが活動しているのはこの世界じゃない。第97管理外世界地球……その並行世界だ。ユーノがこちらで行方不明になっていた時、僕らは彼とともに戦っていた。そして、今も彼は世界の歪みと戦っている。」

「OK,百歩譲ってあんたの言ってるその馬鹿げたことが本当だとして、その肝心のユーノはどこにいるの?」

「わからない。」

アイナは再び呆れてため息をつく。

「あんたねぇ……人のこと馬鹿にしてんの?」

「僕たちは突如現れた管理局の艦の手によって分断されてしまった。おそらくこことは別の世界のどこかにいるはずだ。」

「じゃあ、悪いけど他の人間当たって頂戴。あたしもどこにユーノがいるかわからないからね。」

「残念だが僕が聞きたいのはそのことじゃない。はぐれてしまった仲間を探すためにも君から次元航行に関する技術を持つ人間の情報をもらいたい。」

「どっちにしろユーノに関して大した情報得られない以上、あたしは協力する気はないわ。悪いわね。」

「そうか………なら、こうするしかないな。」

少年は懐から取り出した銃をアイナへと向ける。
しかし、アイナは動じない。

「ふ~ん……結局そう来るわけね。」

「僕たちは何としても仲間を見つけて戻らなければならない。手段を選んでいる余裕などない。」

「……あんたさあ、馬鹿じゃない?」

「なに?」

「あたしがこういう事態について何も考えてなかったと思う?」

「!!」

少年は前転をするようにそれまでいた場所から飛びのく。
その瞬間、彼がそれまでいた場所に真紅の弾丸が突き刺さる。

「やっぱクロウにボディガード依頼しといて正解だったわ。」

「別にお前のためじゃない。俺は俺の目的のためにここに来たまでだ。」

タワーの鉄骨の間に潜んでいた人物、クロウは黒の上下に、目立ちすぎるため脱いでいた白のロングコートを改めて羽織ると手に握っている白銀の銃を少年に向ける。
二対一のこの状況、通常ならばこの時点で少年の負けは決定していたろう。
だが、

「悪いが伏兵ならこちらにもいる!ウェンディ!!」

「あいよ!!」

「「!?」」

今度はアイナとクロウが驚く。
自分たちの背後から何かが高速で迫ってきたかと思うとクロウを跳ね飛ばしてアイナの周囲に魔力弾を撃ちこむ。

「へへっ!!形勢逆て……」

「それはどうでしょうか?」

「うにゃ!!?」

今度はクロウを強襲した少女が長い髪をしたメイド服の少女に頭を蹴られて何かから転落する。

「残念、カードの数はこっちの方が上だったみたいね。」

「……そうでもないですよ。」

「……!」

今度こそ勝ったと思ったアイナだったが、背中にチクリと何かが押し付けられるのを感じて一気に冷や汗を放出する。

「僕たちもあなたを傷つけるのは本意ではありません。お願いですから、最後まで話を聞いてください。」

「この状況でそんなこと言っても説得力なんて……ん?あれ、あんたユーノのところにいた…」

アイナは後ろにいるその少年に見覚えがあった。
写真ぐらいでしか見たことがなかったが、ユーノがよく稽古をつけているといっていた少年だ。
さらに、よく見ればアイリスが蹴り落とした少女もユーノが保護して機動六課にいたはずの子だ。

「いたた……あんたそんな恰好してるくせにエライ強いっスね……」

「メイドのたしなみです。賛辞をいただくほどのものではありません。」

「……どういうことこれ?」

事態が飲み込めないアイナに代わり、「やはりか……」とクロウが紫の髪の少年に歩み寄る。

「いまさらかと思うかもしれないが、もう少し俺たちの話を聞くつもりはないか?」

「君は?」

「クロウ・ヘイゼルバーグ。フェレシュテにスカウトされる予定だった男、とだけ言っておこう。」

「フェレシュテに…?」

紫の髪の少年はメガネを指で上にあげるとクロウの顔を覗き込む。

「詳しく聞かせてもらおうか。君がフェレシュテとどのような関係にあるのかも含めてな。」





三十分後

月が昇る寒空の下、白い湯気が折り畳み式のテーブルの上から天高く昇っていく。
アイリスはティエリアのティーカップが空になると素早くポットから新しいお茶を注いで満たす。
テーブルを囲んでお茶をする五人の姿からは先程の緊張感は欠片も感じられない。

「なるほどねぇ~。大変だったのねあなたたちも……アイリスちゃん、お茶おかわり。今度はダージリンで。」

「かしこまりました。」

中でも一番緊張感にかけているのが今夜の主役の一人でもあるアイナだ。
先程から話し合いをしているのはティエリアとクロウだけで、彼女はアイリスが肌身離さず隠し持っている紅茶を呑気に楽しんでいるだけである。

「あの……僕たちはあなたに用があってきたんですけど?」

「いいのいいの。今のところあたしはあんたらの役に立ちそうな情報は持ってないから。」

「ふぉれふぇもふぁなふぃにふぁんかふるのぐぁきふゃろしごろやふゃいんフか?」

「口いっぱいにマドレーヌほおばってるやつに言われたかないわよ。」

「ていうかなんで言ってることわかるんですか?」

リスのようにアイリスが用意していた菓子を口の中に詰め込んでいたウェンディは紅茶(一杯アバウト900円)でそれを胃の奥に流し込む。

「「おいそこ、人が真剣に話をしているときにゆるい空気を出すな。」」

とうとう我慢が限界に達したのかクロウとティエリアはのほほんとしていた二人とついでに真ん中に座っていたエリオを睨みつける。

「あ、話終わった?」

「まだ終わっていない。ようやく事情が呑み込めたところだしこれからが本題だ。それと、そこのパイナップル頭にも関係のあることだからしっかり聞いておけ。」

「んあ?」

今度はビスケットに手を伸ばそうとしていたウェンディは間の抜けた顔でクロウの方を向く。

「?彼女がそのテロリストと何の関係が?」

「なんだ話していなかったのか。まあ、あまり口外したいことではないか。」

そう言うとクロウは一枚の写真をテーブルの真ん中に放り出す。

「「!!!!」」

エリオとアイナの表情が険しくなる。
ウェンディに至っては目を見開きながら口を魚のようにパクパクさせて声にならなかった空気を吐き出す。

それに写っていたのは一人の男。
濃い紫の髪をした白衣の男を知らない者はミッドチルダにはいないだろう。

「ドクター!!?」

ウェンディの生みの親、ジェイル・スカリエッティその人が自分のことで騒いでいる人間がいることなど知らずにいつものうすら笑いを浮かべながらこちらを見ていた。

「お前たちの要望にこたえられる可能性があるのはこいつくらいだろう。」

「で、でもこいつは犯罪者ですよ!?」

「馬鹿正直に局の技術者連中に頼むよりもマシだろう。それとも、犯罪者扱いされているスクライア司書長を探したいから手助けをしてくれとでも言うつもりか?」

「それは……」

こちらに戻ってから一番驚いたこと。
質量兵器であるMSを使用していることもそうだが、何よりユーノがまるでこの前の事件の主犯格のような扱いを受けていたことだ。
あの危機を救ったのはユーノだといっても過言ではないのに真実は歪められ、ミッドチルダの人々もそれを当然のことのように受け入れていた。

「クロウ、悪いけどあたしも反対。倫理的にどうかってことよりも、こいつを連れてくるのが不可能よ。」

アイナの言うことももっともだ。
相手は第一級の犯罪者。
彼を投獄している場所に敷かれている警備は並大抵のものではないだろう。
しかし、クロウはニヤリと笑ってみせる。

「いや、方法はある。エルダ。」

〈はい。〉

ピアスに戻っていたエルダを外すとテーブルの上に地図を投影する。

「二日後にスカリエッティを軌道拘置所に護送するんだが、その最中にこいつは死ぬ予定だ。」

エリオとウェンディは鳩が豆鉄砲でも食らったように顔を上げる。

「……口封じね。」

アイナの言葉にクロウは静かにうなずく。

「少なからず上の連中が絡んでいるからな。下手に証言されようものなら局の信頼はガタ落ちというわけだ。」

「それで彼を護送中に襲撃を受けたと見せかけて殺害、ということか。」

「だが、そこにつけこむ隙がある。」

クロウが再び地図に目を落とすと、全員がそれに注目する。

「護送ルートのここ。海岸線に出たところで連中はことを起こす。もともと人目につかないように少人数で構成されているし、スカリエッティの始末された事実が広まらないために人員はあの老いぼれの部下で構成されている。」

「それなら多く見積もって五人ってところっスね……あたしはやる気満々なんスけど、ティエリアとエリオはどう?」

ウェンディの珍しくまじめな顔にティエリアは目を閉じながら腕を組む。

「君とこの人物のつながりが気になるが、僕は必要だと思うことをするまでだ。」

「OK!んでエリオは?」

エリオはしばらく迷っていたようだったが、すぐに顔を上げる。

「……僕も行く。真実が闇に葬られようとしているのなら、放っておくことなんてできない。」

「よっしゃ!そんじゃそれで決まりってことで!」

バンと机を叩いて立ち上がったウェンディは少し進んだところで忘れ物を取るかのようにテーブルの上にあった菓子類をありったけ腕に抱えて帰路につく。
そんな彼女に呆れながら、クロウも残っていたビスケットを一枚手に取りながらティエリアたちへ最後の注意事項を伝える。

「言っておくが、俺の援護には期待するなよ。これでもファルベルの部下をしているんでな。下手を踏んで怪しまれたら情報を得られなくなる。」

「いや、これで十分だ。協力に感謝する。」

「また何かあったら頼ってくれて構わない。用がある時はアイナを通じて連絡をくれ。」

「了解した。」

アイリスがてきぱきとテーブルといすをたたみ終えた頃には、あんなによく見えていた月が雲に隠れてしまった。

「……良い月だったんだがな。」

名残惜しそうに完全に明かりの無くなった空を見上げるクロウ。
そんな彼に、もう姿も見えなくなってしまったティエリアが微笑む。

「いつかまた出るさ。どれほど厚い雲が空を覆っても、光はずっとそこにあるのだから。」

「意外と詩人だな。もっと無愛想なやつかと思ったが。」

「僕だって人並みに感動くらいはするさ。」

顔は見えないが、声でティエリアが拗ねているのがよくわかる。
それがおかしかったクロウは闇にまぎれて今夜一番の笑顔を作った。







二日後 プトレマイオスⅡ ブリッジ

奇しくも、その日の夜も空は厚い雲に覆われていた。
海面ギリギリからカタパルトデッキをのぞかせているプトレマイオスも久々に海中から顔を出したのに月光を浴びることができないのが残念そうに見える。

「セラヴィー、リニアカタパルトに固定完了、いつでも行けるです!」

『了解。ウェンディとエリオは?』

「二人とも所定の位置についたそうです。後はアーデさんの到着を待つとのことです。」

『そうか。』

短く返事をするティエリア。
この素気ない態度のせいで周りから誤解を受けやすい彼だが、これはティエリアなりの儀式とも言える。
気のきいたことの一つも言いたいが、照れが邪魔をして言いたいことを言えない。
ティエリアをティエリアたらしめている、数少ない彼の愛嬌と言えるだろう。
しかし、ミレイナはそれを口に出したりはしない。
なにも言わずに、ただそれを見ているのが楽しいのだ。

『セラヴィー、ティエリア・アーデ、出る!!』

そんなことを思われているとも知らずに加速して飛び出した白と黒の巨体。
イアンが宣言通り二日で修理を完了したことに感謝しながら、ティエリアはセラヴィーを指定ポイントに向かわせた。





海岸線

「~~♪~~~♪」

護送の最中だというのに、鼻唄に合わせてつま先で護送車の床を叩いてトントンと鳴らす男に局員は渋い顔をする。
これから本来の予定では脱出がほぼ不可能な場所に一生閉じ込められることになるというのにそれに対する怯えが全くない。
それどころかそこがどんなところで、そこでこれから何をしようか考えて楽しんでいるようだ。

「オイ、静かにしろ。」

「~~♪」

「オイ!」

「おや、音楽は嫌いかね?」

やっと鼻唄をやめた男だが、今度はうすら笑いを向けてくる。
鼻唄に苛立っていた局員は今度はその笑いが気にくわなくなってくる。

「貴様、自分がどういう立場かわかっているのか!」

激昂する局員だが、男は両手を拘束されているにもかかわらずふてぶてしい態度を崩さない。

「人の質問には答えたまえ。君が呼ぶから私はわざわざ歌をやめて話を聞いてあげようとしたのに。」

「こいつ……!!」

「オイ、構うな。放っておけ。」

拳を振り上げていた局員だったが、仲間の一人からたしなめられてどっかと再び腰を下ろす。
そうだ、別に殴る必要などない。
なにせ、こいつはここで死ぬのだから。

車が急にブレーキをかけると地面との摩擦音で甲高い音が海沿いの道に響き渡る。
護送されていた男は唄うのをやめて局員の顔を見渡すが、服を掴んで立たされるとそのまま外に放り出される。

「なるほど、私にここで消えてもらわないとあの男も困るというわけか。」

持ち前の天才的頭脳を用いるまでもなく、状況だけでそれを判断するのはたやすかった。
別に恐怖はない。
いつかこうなることは覚悟していたし、そうでなくとも死は誰にも等しく訪れるものだ。

「ククク……天下のドクターJもこうなっては他愛のないものだな。さぞ恐ろしかろうなぁ…」

ただ、一つだけ不満があるとすれば、

「フゥ……私の罪を裁くのが君たちのような愚鈍な輩だというのはいささか残念だよ。」

「フン、死の直前だというのによく喋るやつだ。そんなにおしゃべりが好きなら死に際の言葉くらいは聞いておいてやる。」

「おや、良いのかね?では、一言…」

そう言うと、無限の欲望ことジェイル・スカリエッティは自分を取り囲む局員たちを嘲笑う。

「くたばりたまえ、クソ管理局。」

ニタリとしたその笑みは男たちを怒り狂わせるには十分すぎるものだった。
殺傷設定されたデバイスの先をスカリエッティへと向け、魔力弾を放とうとする。
その時、



「セラヴィー、目標の確保に入る。」



凄まじい閃光が上空から降り注ぎ、それまで男たちが乗っていた車を吹き飛ばした。
その衝撃で男たちはもとより、スカリエッティも爆風で吹き飛ばされる。
だが、

「ホイ!ナイスキャッチ!」

スカリエッティだけは地面に激突する前に何者かに丁重に抱きかかえられ、そのまま空へと昇っていく。

「君は……いや、そんなまさか…」

「喋ってると舌噛むっスよ、“ドクター”。」

独特の口調で話す彼女は上空で待機していたそれへと向かう。
暗闇で全体の姿は確認できないが、淡く輝く瑠璃色の光と、二つの青い光がそこに何かが存在していることを証明していた。

「逃がすな!!何としてもやつを仕留めるんだ!!!!」

一斉にスカリエッティと彼を抱えている何かにデバイスを向ける。
だが、

「ストラーダ!!」

〈Ja boul!!〉

突如上から落ちてきた小さな影に一人、また一人と吹き飛ばされていく。

「必中……一閃!!」

「があっ!!!!」

最後の一人が突きだされた槍の穂先に飛ばされて海へ落ちると、それを待ち望んでいたかのように雲の間から月が顔を出した。

「ほう……!これは見事だ…」

月明かりが地上を照らす中、スカリエッティが見つめる先にいたのは白と黒の巨人。
それは以前に見せてもらったものとはまた違った美しさを有していた。

「Dr.ジェイル・スカリエッティですね?」

「いかにもそうだが、君はソレスタルビーイングかね?」

白と黒の巨人、セラヴィーの威圧感にも動じずスカリエッティは娘に抱えられたまま質問する。
だが、ティエリアはその質問には答えずに要件だけを伝える。

「僕たちにはあなたの頭脳が必要です。力を貸してほしい。」

「フム……ウェンディやエリオ君がいるということは私がどういう人間かはもう知っていると思っていいのかな?」

「……そのうえでお願いします。もう、仲間と離ればなれになるのはごめんだ。」

「フム……」

この時、スカリエッティは悩んでいた。
自分の娘たちはすでに罪を償おうとしていて自分もそのつもりだったのに運命はそれを許さない。
なんとも皮肉な話だ。
だが、どれほど悩んだところでそれが自分の宿命だというのなら受け入れざるをえまい。

「力になれるかどうかはわからないが、事情を聞かせてもらおうか。それと…」

スカリエッティは黒い手錠で繋がれた両手を見せる。

「これをとってくれると助かるね。この状態だと肩がこって仕方ないのでね。」

その時の笑顔は先程までの他者を見下したものではなく、人間味あふれる優しいものだった。





プトレマイオスⅡ コンテナ

「……暇ですね。」

「メカニックなんてそんなもんだ。ここのところ激しい戦闘もなかったからな。」

定期点検を終えたイアンと沙慈は手持無沙汰だった。
セラヴィーの修理を急ピッチで仕上げた反動もあってすっかりさびしくなったコンテナの壁にもたれかかってなにをするでもなくボーっとしていた。

「……暇だからソリッドの修理でもするか?でもそれほど資材に余裕があるわけじゃないからな……」

人というのはつくづく不器用な生き物だ。
忙しさに慣れた後いきなり時間が与えられるとなにをしていいのかわからなくなるものだ。
そんな緊張の糸が切れた二人が呆けていると、それまで真っ黒のディスプレイを表示していた携帯端末が光る。

「ティエリアから?一体なんの用だ?」

ティエリアのミッションが上手くいったことはついさっき聞いた。
いまさら連絡をする必要などないし、そもそもティエリアがミッションの直後に自分に連絡を入れてくることなど今までなかった。

「何か用かティエリア?」

不思議そうに回線を開いくイアン。
しかし、そこに映っていたのは見なれたティエリアの不機嫌な顔ではなく、紫の髪をした男の笑顔だった。

「…………………………………」

『…………………………………♪』

「………誰だ?」

『随分な挨拶だな。用があるというからわざわざそちらに向かっているというのに。それとも、そちらにいるメカニックは礼儀を心得ていないのかね?』

初対面の人間へのズケズケとしたもの言い、そして憎たらしいうすら笑い。
そのすべてにイアンの体と心は全力で拒否反応を示す。
正直この場でモニターごとこの顔を叩き割ってやりたい。
とその時、

『あまりイアンを刺激……あ、コラ!!』

何やら画面の向こうでドタバタとしていたかと思うと、今度はティエリアの疲れた顔が映る。

『はぁはぁ………!!!!す、すまない。少し話がしたいというから通信をさせたんだが……あ!?それはいじるな!!!!子供かあなたは!!?』

再びドタバタしていたかと思うと、ゴンと鈍い音がしてコックピット内に静けさが戻る。

『………たびたびすまない。彼が言うには地球に戻ることは可能だそうだ。ただ、そのための装置や観測データが必要になるから時間がかかるらしい。』

脇でのびているその彼のことはこの際無視して通信を終了するティエリア。
最初は意外とまともな人格の持ち主かと思ったが、セラヴィーの中の機材を見た瞬間目の色が変わった。
まるで無邪気な子供のようにあれこれ調べ始めたかと思ったら、最終的には分解して調べようとする始末だ。

「……手錠を外すんじゃなかった。」

あの時のウェンディの忠告を聞いておくべきだったといまさらながらティエリアは後悔する。
だが、事情を聞いておいていまさら手錠をはめるのもなんだか気が引ける。

「腐敗を一掃するための犠牲、か……」

そのことを話している時、スカリエッティは愉快犯のようにクスクスと笑っていたが、あの無理をして笑う姿を見ているだけでそれがどれほど彼にとってつらい選択だったのか、どれほど葛藤を繰り返したかがよくわかった。
かつてのティエリアなら否定していた感情だろうが、今はよくわかる。

「ロックオン……今の僕はあなたにどう見えているんだろうか……」

答えが返ってくることのない問いかけ。
だが、その答えはすでにティエリアの中に存在している。
そのことにティエリア自身が気付くのはもう少し後になってからのことになるのだった。






反逆の天人、司法の地にて新たなる希望を見出す


あとがき・・・・・・・・・・・という名のようやくI編突入

ロ「クロウ&アイナ&スカ加入なティエリア編でした。そして次回からやっとI編に本格的に入ります!!」

ティ「というか書いている最中も頭の中はそのことばっかりだったろ。」

ロ「うん。」

エ「否定しないの!!?」

ロ「だってユーノにあんなことやこんなことさせられるかと思うと笑いが止まらないw」

ウェ「キショッ!!ていうか何させる気っスか!!!?」

ロ「だってユーノの25%はラッキースケベ、25%は女装、50%は天然ジゴロでできてるんだもん(ロビン調べ)。」

ティ「完全に君の偏見だろ!!」

ロ「あ、ラッキースケベの比率がもうちょいでかいか。」

エ「直すとこそこじゃないよね!!?」

ロ「まあ、この議論は後でサイドで一話丸々使って結論を出すとして、そろそろ次回予告へゴー。」

ウェ「させるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!何くだらないことに一話使おうとしてんの!!?でも次回予告に行くのは賛成っス。」

エ「次回はいよいよI編に突入!」

ティ「アレルヤ救出後、テリシラとレイヴの保護を受けることになったユーノ。」

ウェ「そこで信じがたい人物に遭遇したユノユノ!その人物の正体とは!?」

ティ「さらに、十年前にユーノとなのはたちが救えなかった“彼女”が現れる!」

エ「はたしてユーノさんは今度こそ目の前の理不尽な現実を打ち砕けるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 10.闇の欠片
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/27 22:03
聖王教会

マイスターたちが激動の日々を過ごしていた頃、カリムは自室でずらりと並んだ文字を目で追っていた。

『五人の使徒、五体の巨人、数多の星々を束ねし方舟とともに混沌たる地より司法の地へと来たる。人、光翼纏いしかの巨人を堕天使と名付け忌み名とす。』

ゆりかごが墜ちたあの日、萌黄色のMSが放った赤い光に呼応するように一気に出現したこの予言。
本来、彼女の能力は半年から数年後以内の出来事をランダムに記すものであり、先の事件も含めてここまで連続した予言を出せるものではない。
しかもそもそも、この能力は月の魔力と呼応して発動するはずのものなのに今回はあの赤い光に反応して発動した。
理由はいまだにわからないが、あの瑠璃色の光と赤い光の衣が自然界に存在する魔力に何らかの干渉を与えたと考えるのが妥当かもしれない。
さらに、この時各地に出現した異次元への入り口とそこから見えた青の惑星。
これも予言に影響を与えたものの一つだろう。

「混沌たる地……司書長、あなたたちはそこで一体何を見て、何を為すのですか?そして……」

カリムは別の紙片に目を移す。
五枚一組のその紙片に書かれているのは天使に関する予言。

まず、射り手と深緑の天使についてのもの。

『孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり。』

次に、狂戦士と黄昏色の天使。

『優しき狂戦士、黄昏に染まりし天使とともに鋭き翼にて天空を駆ける者あり。』

続いて、天人と漆黒の天使。

『反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり。』

今度は、破壊者と蒼の天使。

『悲しき破壊者、気高き蒼の天使とともに神剣にて歪みを駆逐する者あり。』

最後に、守護者と翠の天使。

『天空の守護者、堅牢なる翠の天使とともに神盾にて歪みを打ち砕く者あり。』

この予言は、彼女と親しい人間の多くに伝えた。
反応は様々だった。
その内容を否定する者、受け入れてそれに備える者、まったく別の思惑を持つ者。
聖王教会はあくまで中立の立場を貫くつもりだが、もうすでに彼女は大きな運命の輪の中にいるのかもしれない。
いや、聖王教会に限った話ではない。
ミッドチルダ、そして全ての世界が巻き込まれているのかもしれない。
そして、カリムにはある確信があった。

「予言はこれだけでは終わらない……おそらく、まだ続きがあるはず……」

それが現れるのがいつになるのかはわからない。
だが、カリムには彼らがやってきただけで終わるとは思えなかった。



先の見えない闇の中、誰もが手探りでそこにあるなにかを掴もうと必死になっていた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 10.闇の欠片

エウクレイデス

『で?彼女とはいちゃいちゃできてる?』

ニヤニヤと笑うユーノの顔にアレルヤは苦笑せざるを得なかった。
マリーを取り戻せたのは嬉しいが、状況が状況なだけに気を抜いているわけにはいかない。

「別にそんなことしてな……」

「よく言うぜ、俺たちが必死こいて探してるときにあんなことしてたくせに。」

後ろでドス黒い気配を隠そうともしないヴァイスがぼそりと呟く。
あの時にヴェロッサが撮った画像はすでにフォンと874、そしてフェレシュテメンバー全員に送られた。
そのせいでヴァイスのようにひがむ者、冷やかす人間(四名)、妙に興奮する女性陣(二名)などからいき過ぎに思えるほどの追及を受ける日々を送っていた。

『楽しそうで何より♪』

「人事だと思って……」

溜め息をつきながら考える。
どうしてこうも他人の色恋沙汰にユーノは敏感なのだろうか。
昔から人の心情の機微には鋭く感じるほうだったが、この四年でさらに勘が鋭くなっている。

「自分のことになると鈍いくせに……」

『?何か言った?』

「なんでも……」

どうせなら自分へ向けられている好意にも敏感になればいいのにとアレルヤは思う。
あそこまでフェルトが見え見えの態度をとっているのにプトレマイオスのクルーでユーノだけがそのことに気付いていない。
それはもう、はたから見ているとフェルトがあまりにも哀れに見えてくるほどに。

「ユーノ……あんまりフェルトを泣かせちゃ駄目だよ?」

『もちろん、もう心配をかけるのはごめんだよ。そのためにも早くトレミーと合流しないとね。』

そういう意味で言ったのではないのだがと呆れるアレルヤだが、早く他のメンバーと合流することに関しては大いに賛成だ。

「フォンたちも向こうに行くつもりみたいなんだけど、地球でまだやらなきゃいけないことができたって言ってる。」

『イノベイド……レイヴに与えられたミッションのことだね。』

アレルヤは真剣な表情になったユーノにうなずく。

「ヴェーダがなんのために彼らに六人の仲間を集めることを指示したのか、それがわかるまでは地球にとどまるそうだよ。」

『僕もレイヴ達の仲間集めに協力はしてるんだけど、僕にできることなんて限られてるからね。おまけにいろいろ問題もあるみたいだし、いつになったら終わるのか皆目見当がつかないよ。』

自分たちが置かれている状況を再確認し、思わず暗くなる二人。
早く仲間を探しに行きたいのはやまやまなのだが、イノベイド、ヴェーダを掌握しアロウズを影から動かしている者と同じ存在に与えられたミッションが一体どういうものなのか気になるのも確かだ。
それに、みんなもそう簡単にどうこうなってしまうほど柔にはできていない。

「……大丈夫だよ。僕たちがみんなを信じなきゃ、誰が信じるのさ。」

『そっか……そうだよね。』

「それに、案外刹那やティエリアは向こうでも派手に暴れてるかもよ?」

『……正直それは想像したくない。』

あの二人が本気になったら管理世界の地上部隊の一つや二つ本当に全滅させてしまいそうな気がして怖い。
向こうに着いたときにそんなニュースが報道されていないことを心から願わずにはいられないユーノだった。





テリシラ邸

町から少し離れた静かな林のそば、青々とした庭の草花を眺めながらテリシラ・ヘルフィはユーノの定期連絡が終わるのを待っていた。
普段ならばあいている時間はたまっている仕事の消化や読書に使うのだが、今回はそんな気にはなれない。
なぜなら、彼にはいろいろと聞きたいことがあるのだから。

「魔法に異世界、そして時空管理局……今のところ公にはなっていないが、軍内部でこの事実が公表されるのは時間の問題か。」

「……たぶん、混乱を避けるために世間への公表を控えているんでしょうね。もっとも、管理局も本来なら魔法文化がない世界に自分たちの存在を公表することはないんですけど。」

ドアを開けて入ってきたユーノの声にそちらを向くテリシラ。
だが、

「……何かあったのかね?」

「いえ……ありえそうな妄想を思い浮かべてしまったせいで少し鬱になってるだけです。」

乾いた笑いをこぼしながら椅子に腰かけるユーノに疑問と不安を覚えるテリシラだったが、気を取り直してユーノの前にある椅子に座る。

「それで、昨夜こそはよく眠れたかな?」

テリシラの笑みと対照的にユーノは大きくため息をつく。

「いまだに整理がつかなくてそれどころじゃありませんでしたよ。今夜もよく眠れない自信があるくらいです……」

「それはすまないことをした。これからはそうならないよう極力注意させてもらおう。」

「……そんな顔で言われても説得力無いですよ。」

クスクスと笑うテリシラに珍しく温厚なユーノがムスッとした顔をする。
しかし、それも仕方がないだろう。
テリシラ達が一体どういった存在なのか教えられ、彼女を見てそれが紛れもない事実だということを理解させられたのだから。

「失礼します、ドクター。」

扉を開けて入ってきたのは紫の髪をした少女。
長いストレートヘアーを揺らす彼女の顔を見てユーノは再び大きくため息をつく。
仲間の一人である彼のようなメガネこそかけていないが、その顔を見間違えるはずがない。

「先程JNNの方から出演依頼のお電話がありました。」

「ありがとう、サクヤ。後で折り返し電話すると伝えておいてくれ。」

「承知いたしました。では、これで。」

セラヴィーのガンダムマイスター、ティエリア・アーデを少し幼くして女性にしたような外見のサクヤ・レイナードはテリシラに一礼するとすたすたと部屋を出ていってしまった。
彼女と出会ったのはここに来たその日、イノベイドという存在を知った日と同じ日だった。




二日前 テリシラ邸

アレルヤが見つかったとの知らせを受けた翌日、ユーノはクルセイドを967に任せてレイヴとテリシラに案内されるままに彼らの住居に招かれ、広間に案内されていた。
一人で住んでいたとは思えないほどの広いが、外から見た大きさからは想像できないほど装飾は簡素で、下手に着飾ってある豪邸よりよほど居心地がいい。
だが、清潔感の漂う広間でユーノに打ち明けられたことはそんな印象を吹き飛ばしてしまうほど強烈なものだった。

「イノベイド……?」

「そうだ。私たちはヴェーダによって生み出された生体端末、言うなればヴェーダの目であり耳である存在だ。」

突然そんなことを言われても困る。
それがユーノのレイヴとテリシラたちに対する反応だった。

「けど、あなたたちはどう見ても人間にしか…」

「あなたはすでに僕たちの同類と出会い、そしてそのうちの一人はあなたのバディを務めているはずです。」

レイヴの言葉にハッとする。
おおよそ信じがたい話だが、だとしたら全てに説明がつく。
ヒクサーがグラーベ・ヴィオレントのまがいものだと言って襲ってきた理由。
874と887。
そして、ガンダムを止めることができた力。

「967も…イノベイド……!?」

「そうだ。彼はグラーベ・ヴィオレントの記憶を引き継ぎ、ヴェーダから君を監視するミッションを与えられていた。だが、途中でそのミッションを放棄したにもかかわらず今もなお活動を継続している稀有な存在だ。」

ショックでないはずがない。
だが、

「……967がなんだろうと、やっぱり僕にとって967は967なんです。だから、ヴェーダの道具のように言うのはやめてください。」

「……失礼した。だが、彼や私がそういった存在であることを知っておいて損はないはずだ。それに…」

テリシラが何かを言おうとした時だった。
レイヴとテリシラの後ろから現れた人物にユーノの目は釘付けになった。
紫の髪に端整な顔つき。
女性と見間違うほどの美貌はそのままに、胸元が少し膨らんでいて本当に女性になってしまったかのようだ。
だが彼を、ティエリアを見間違えるはずがない。

「ティエリア!!?無事だったの!!?けど、その体は…」

ティエリア(?)に近づこうとしてユーノは気付いた。
その人物はティエリアのいつもの険しい表情も、最近になって見せるように笑顔もしていない。



その表現がこれほど当てはまる顔をユーノは見たことがなかった。

「ドクター、この方は?」

一言一句がユーノに冷たいものを浴びせかける。
感情のこもらないその声を聞いているだけで体が震えを起こしそうだ。

「サクヤ、彼はユーノ・スクライア。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ。」

「そうですか。お初にお目にかかります。サクヤ・レイナードです。以後お見知りおきを。」

「ドクター……この、人は…」

聞きたくないのに、口が勝手に質問を投げかける。
テリシラの口の動きがスローモーションに見える。
聞きたくない。
聞きたくないのに、ユーノの鼓膜はテリシラの声をしっかりととらえ、言葉として脳へその事実を伝達した。

「サクヤは君の仲間の一人、ティエリア・アーデと同じ塩基配列を持つ同型のイノベイドだ。」

テリシラの言葉が頭の中で何度もエコーする。
その後、放心状態のユーノはその後聞かされた彼らのもう一人の同居人、ブリュンの説明を聞いたのだが、そんなことが頭の中には入ってくる余裕などもうどこにも残されていなかった。





現在 テリシラ邸

そんな出会いからもう二日たつのに、いまだに彼女の表情のない人形のような顔を見ることにユーノは耐えられずにいた。

「……そんなに彼女が嫌いか?」

テリシラは柔らかな物腰で質問する。
しかし、ユーノは彼女が嫌いなのではない。
嫌いではないのだが、

「違うんです……彼女を見ていると、昔あった嫌なことを思い出すんです。」





十年前

「アリシアを蘇らせるまでの間に私が慰みのために使うだけのお人形、だからあなたはもういらないわ。どこへなりとも消えなさい!」

フェイトの目から、またたく間に理性の光が消えていく。
この厳しい現実を受け止めるには彼女は幼すぎる。
なのに、この女は容赦などしなかった。

許せなかった。
自分が生み出した命を、心を持つ存在を物のように扱うこいつが許せなかった。
結局、彼女は最愛の娘とともに虚数空間へと消えていった。
同情しないわけじゃない。
だが、それでも僕は永遠に彼女を許すことなどできないだろう。
どれほど娘を愛していたのだとしても、もう一人の娘を人形扱いして心に深い傷を負わせた彼女を絶対に許しはしない。




現在

「……僕が嫌悪する対象を挙げるとするなら、それは彼女じゃなくてヴェーダやそれを掌握している存在だ。」

ユーノが膝の上に乗せていた両拳がギシギシと鳴る。

「あなたや彼女にだって心はある。なのに、ただの道具としてしか考えることのできないヴェーダが僕は許せない……!!」

「……最初にも言ったが、私たち、少なくとも私やレイヴやブリュンはこの社会で生きた記憶を、今の生を大切にしたいと思っている。彼女も複雑な事情があって感情を無くしているが、いつかそう思ってくれる日が来るはずだ。」

「……すいません、勝手に熱くなってしまって。」

テリシラの意思も確認せずに一方的にまくしたてていた自分が恥ずかしい。
しゅんとしてうなだれるユーノだったが、テリシラは優しく笑いかける。

「気にすることはない。むしろ、誰かの痛みを自分の痛みとして受け止められるその心は誰にでも持てるものじゃない。大切にするといい。さて……」

机の上に一冊の本が置かれる。

「悪いがレイヴが教科書を置き忘れてしまったようでね。よかったら届けてやってくれないか?それと、ついでにサクヤも連れて行ってやってくれ。」

「え?でも、ドクターが行けば……」

「私はこう見えても多忙でね。それに、あまり自分で言いたくはないがそこそこ顔を知られている。一介の学生に会いに行ったとなると後でレイヴが困るだろう。」

それでもユーノは納得がいかずに断ろうとしたが、テリシラがウィンクをしたのを見て全てを悟る。
おそらく、レイヴのカバンから教科書を抜いたのも彼だろう。
テリシラの悪だくみ(?)に額を押さえるユーノだったが、苦笑しながらもそこそこな厚さのその本を手に取る。

「わかりました。責任を持って届けさせてもらいます。」

「ああ、頼んだよ。」






某高校

「……というわけで、太陽光発電で半永久的なエネルギーが手に入った半面、太陽光紛争という負の側面もまたこうして……」

久々に聞く歴史の教師の退屈な講義に耳を傾けながらレイヴは校庭をなんとなく見ていた。
教師が今話しているところは自分にも深く関係のあるところなのだが、どうにも聞く気になれない。
情報をいつでも参照できるというのも理由の一つだが、その歴史の大きなうねりの真っただ中にいるのにいまさらこんな事を真面目に聞くのがひどく滑稽に思え、どうしても授業を受ける気がそがれてしまっていた。

「でも、これじゃまるで不良だよ…」

ミッションを与えられてからただでさえ学校を休みがちになってしまったのに、授業をまともに受ける気すらなくしてしまったら学生失格なのではないか。
そんなことを考えていたレイヴだったが、後ろに座っていたクラスメイトに背中をつつかれて後ろを向く。

「レイヴ、外。」

「外?」

校庭ならとっくの昔に見ている。
疑問を感じつつ再び校庭に目をやると……

「…………………………………」

そこにいたのはサングラスをかけた金髪の男と無表情な紫の髪の少女。
灰色のジャケットを着て満面の笑みでブンブンと手を振る彼を見たレイヴは血の気が引いていき顔は真っ青に変色する。

(レイヴさん。)

突然頭の中に響いた高い音程の少年の声がレイヴをさらに追い詰めていく。

(ユーノさんとサクヤさんがレイヴさんの忘れた教科書を届けに行きました。)

(もう来てるよ……て言うかあの人たちなんで堂々と正門から入ってきてこっちに手を振ってるの!!?)

「おい、あの人たちお前に手を振ってないか?」

「き……気のせいだよ……」

滝のように汗を流しながらそっぽを向くレイヴ。
しかし、クラスメイトのほとんどがユーノ達の存在に気付き始め、レイヴへの視線も集まってくる。

(え……?あ、はい、わかりました。レイヴさん、早く来ないと盗んだバイクで学校のガラスを全部割るとユーノさんが……)

「ああもう!!!!わかったよ!!!!行けばいいんでしょ行けば!!!!」

突然大きな声と共に立ち上がったレイヴにクラスにいた全員が驚くが、レイヴはそんなことなどいまさら気にするわけもなく、猛ダッシュで校庭へと向かっていった。



玄関

(あの……あれでよかったんですか?)

(うん、ありがとう。でも、ブリュンがリンカーコアを持ってて助かったよ。ドクターやレイヴが間に入って話をするのはめんどくさいしね。)

レイヴが走っていったのを見たユーノとサクヤは玄関で彼が来るのを今か今かと待っていた。

(けど、ドクターもユーノさんも人が悪いですね。もう少しやり方があったんじゃないんですか?)

(だってレイヴをからかうと楽しいんだもん。……マズイ、クセになりそう。)

「ほほう………そんなことのためにわざわざあんなことを?」

その声の先にいたのはレイヴ……いや、怒りに燃える悪魔だった。

「や……やあ、レイヴ……人の念話を立ち聞きするのはよくないなぁ……」

「人を面白おかしく弄りまわすよりはまともだと思いますけど?」

「な……何の事だか?じゃ、じゃあ僕はこれで……」

「待ってくださいよ……教科書を渡しに来たんでしょう?どうせならゆっくりしていきませんか?それはもうゆぅぅぅぅっっっくりと。」

悪魔の微笑みを浮かべながらレイヴはがっしりとユーノの肩を掴む。

「で、でも僕もやることがあるから……」

「先程この後暇になると言っていましたが?」

「それは今言わなくてもいいんじゃないかなサクヤ!!?」

(自業自得です。)

「ブリュンにまで見捨てられた!!!」

文字通り八方塞がり。
頼みの綱のブリュンもそれきり念話をしてこなくなる。
そして、

「それじゃあ、話もまとまったところでゆっくりオハナシをしましょうか……」

ずるずると引きずられていくユーノ。
この時、彼は徐々に小さくなっていくサクヤを見ながら某教導官のことを思い出していた。





放課後 図書室

「死ぬかと思った………睨まれてるだけなのに死ぬかと思った……!!」

「大げさですよ。」

ガタガタと震えるユーノとすっきりした顔で歩くレイヴはそれぞれ違う本棚を物色していく。

「それにしても……ここにある本をほとんど読んだことがあるなんて冗談でしょ?」

「残念ながら本当だよ……あ、それももう読んだことあるからいいよ。」

レイヴが手に持っていた本の表紙を一瞥したユーノは再び目の前の本の壁に目を通し始める。
信じられないといった顔をするレイヴだが、無限書庫にこもり、こちらにいる間もあらゆる本を読みあさり、無限書庫に戻ってからも様々な書物を読んでいたユーノは信じられない量の本の内容を記憶していた。
もっとも、こうしてたまに知らないところに行けばまだ読んでいないものが見つかるのでそれをまた借りて読んだりするのだ。

「その探究心と記憶力は尊敬しますよ……学者になろうとか考えなかったんですか?」

「学者ねぇ……論文を発表することはあっても本業にしようとは思わなかったなぁ……」

それに、ソレスタルビーイングに入る前からそんなことなど無理だと思っていた。
ただ辛い思い出から逃げるためにのめり込んでいる自分が学者になるなど、本気で打ち込んでいる人間に失礼なような気がしてその道に進むことなどとうの昔に諦めていた。

「勿体ないなぁ……今からでも本腰入れてみたらどうですか?」

「レイヴ……僕がいま何やっているのか忘れてない?」

まさか世界の敵をやっている人間が学者のまねごとをするなんてことができるわけがない。
いや、案外テロリストが書いた論文という形で話題にはなるかもしれないが。

「……?」

次の本棚へ向かおうとしたユーノはふと違和感を感じた。
不吉で、それでいて懐かしいようなこの気配。

「ユーノさん……何か変じゃないですか?」

「やっぱり君も感じるんだね……」

「ユーノ、レイヴ。」

「サクヤ……君もか。」

別の場所にいたサクヤもこの気配につられてユーノとレイヴのもとへとやってくる。
夕焼けに染まり、人影もまばらになった図書室の本棚の森をかき分けながら三人は進んでいく。
そして、一つの本棚の前で足を止める。
蔵書の中でも特に古いものばかりがそろっているその中に、それはあった。
茶色い革製の分厚い表紙に金色の十字架の装飾。
次元世界の中でも最高位に属する魔導書の一つ。
そして、本来なら“二冊”存在するはずがないもの。

「久しぶりだね……あの夢が現実だとしたら大体四年ぶりかな?……リインフォース。」

いっそうオレンジが濃くなっていく部屋の中、嬉しいはずのその再会がユーノには新たな闇の胎動のように思えた。







街灯が暗くなりつつある街の中、さまざまな人々が広い道を歩いている。
自宅へ急ぐサラリーマン、学校帰りに友人たちとファーストフード店による学生、そして手をつないで歩くカップルたち。
そんなカップルの中に、アレルヤとマリーもいた。

「寒いね……」

「そう?私はそんなことないけどなぁ?」

そう言って手を握る力を強めるマリー。
アレルヤは顔を紅潮させるが、すぐに自分も手を握る力を強める。
ユーノには悪いが、もう少しゆっくりと時間をかけて歩きたいと願わずにはいられない。
だが、

「!?」

「?どうしたの、マリー?」

「感じる……!」

「感じるって、なにを?」

「わからないだけど、急がないと!」

「ちょ、マリー!?」

強引に手を引っ張られてつんのめるアレルヤ。
だが、そんな愛しい人のことも目に入らないほどマリーは焦っていた。
この感覚がなんなのかはわからないが、何かよくないことが起きそうなのはわかる。
その前に、なんとしてもこの気配を放つもののもとへと行かなければ。



テリシラ邸

テリシラ邸において唯一狭い場所と呼べる地下室に一同は集まっていた。

「夜天の書……またの名を闇の書、か……そんな物騒な名前の割に私は何も感じないが……」

「たぶん、ドクターにリンカーコアがないからだと思います。魔法をろくに知らなかった僕でも威圧感のようなものは感じますから。」

翠の光の中に浮かぶその本を見ながらテリシラは何事もないように腕を組んでいるが、レイヴは放たれているプレッシャーのせいか顔を歪めている。

(ブリュンもそれから何かを感じます……不吉な、だけど悲しい感情が流れ込んできます。)

かなりゴテゴテとした女物のドレスを着た少年、ブリュン・ソンドハイムもまた体が動かずとも、いや、体が自由に動かないからこそそれが抱える悲しみを誰よりも理解できた。

「それじゃ、起動しますよ……」

全員の視線を背に集めながら、ユーノは目を閉じて意識を闇の書の欠片へアクセスを開始する。
本来、はやてのようにこの魔導書に選ばれた人間の下でしか起動はしないのだが、本物ではなく言うなればこちらは欠片である。
ある程度こちらからコントロールが可能であると推察し、ユーノは自身の能力を使って彼女を起動させることを申し出たのだ。
だが、欠片とはいえ相手は希代の魔導書だ。
本来ならありえない形での発動によって何が起こるかわからない。
だが、そのことを説明したうえでテリシラ達はOKを出してくれた。
そんな彼らを危険にさらさないためにも、慎重に事を運ばなければならない。

「ユーノ、問題ありませんか?」

「ありがとう、サクヤ。今のところ問題ないよ。」

このままなら何とかなりそうだ。
ユーノがそう思った時。

「グッ……!?ぁぁぁ……!!」

突然胸に軋むような激痛が奔る。
歯を食いしばってこらえるユーノだったが、マズイ事態になったことは誰の目にも明らかだった。

(ユーノさん!?しっかりしてください!!ユーノさん!!)

「う……あああぁぁぁぁ……!!!!」

「レイヴ、サクヤ、すぐにベッドの用意をしてくれ!私は機材を用意する!」

「は、はい!!」

「了解しました。」

みんなが慌て始める中、とうとう膝をついて胸をかきむしるユーノ。

(これが……ヴォルケンリッターのみんなが言っていた浸食か……!!まさか……これほどとは……!!)

自らの主すらも死の淵へと追いやろうとしていた夜天の書の闇。
それが強引に起動しようとしたユーノを外敵と認識として排除しようとしているのか、主として認めて内側から喰らおうとしているのかは定かではないが、このままでは命はない。

(けど……これはチャンスだ……!!)

浸食を開始したということはリンカーコアとシンクロ状態にあるということだ。
つまり、この状態にあればこの魔導書の闇のみを排除できる可能性も残されているということだ。

(リイン…フォース……!!あの時は救えなかったけど……今度こそ君を救う!!)

目の前の光景が黒に塗りつぶされていく中、ユーノはそこにはいない彼女へと手を伸ばしながら床に倒れ込んだ。






海鳴市(?)

ビルが立ち並ぶ街。
だが、そこに人影はなく、空も赤と黒の色彩で歪んでいる。
そんな中、彼女はただ一人で立っていた。
世界一幸福な魔導書として生涯を終えたはずの自分がなぜこの世界にいるのかはわからない。
だが、四年前にあの赤い髪の少女に導かれて彼と再会したということはこれも運命なのだろう。

「ユーノ……あなたの手で終わりにしてください。この呪われた生を。」

「随分勝手だね。僕にはなのはのもとへ帰れって言ったくせに、自分ははやてに会おうともしないなんて。」

後ろに立つユーノの方を向こうともせずに、リインフォースは首を横に振る。

「ここにいる私は夜天の書……その闇を背負った欠片にすぎません。主など、いない。」

「ならなんであの時はやてからもらった名を言ったんだ。大切な名前だって言ったんだ。」

「ただ義理を立てただけです。それ以上でもそれ以下でもない。」

「ならなんで君は今泣いているんだ。」

あの時とは違う、ちゃんと透き通った雫。
ポタポタとアスファルトにしみを作るそれは、彼女の本当の想いを切実に語っていた。

「君が闇を背負っているというなら、僕がその闇を消し去ってみせる。もう一度、祝福のエール……リインフォースとして生きることができるように!」

「ユーノ……!!」

―――ほざいたなグズが

「!?」

―――無力なあなたが彼女を救う?愚かな……

「誰だ!!出てこい!!」

―――出てこい?僕たちの家に土足で踏み込んでおいて何言ってるのさ、バーカ!

地の底から響くような声に身構えるユーノ。
できれば自分をマスターとして誤認してくれていればやりやすかったのだが、やはり異物として認識されているようだ。
明らかに敵意のこもった三つの声の主がどこにいるか見回すが、その正体を見極めるよりも早く赤い何かが地面を斬り裂きながらユーノへ迫ってきた。

「この程度!!」

ラウンドシールドで弾いて飛んできた方向へ生成した魔力刃を投げつける。
だが、

「あっははははは!!」

高笑いをあげる何かはそれをすべて叩き落とすと、ユーノを近寄らせないようにリインフォースの前に立つ。

「お前は……!!」

「弱いなお前!僕の方がずっと強いぞー!!」

「調子に乗るな雷刃。このようなカスの攻撃など防いで当然だ。」

「王、雷刃はまだ幼いのです。どうかご容赦を。」

「ブー!星光も王様も何言ってるのさ!僕が弾いてなかったら当たってたくせに!」

「オイオイ……!!」

目の前で言い争う三人の少女。
髪の色や髪形など細部が違うが、どれもよく知る友人たちの昔の顔だ。

「リインフォース、君を改悪した奴は随分悪趣味だったみたいだね……!!」

彼女たちが言い争っている間にユーノはポケットの中へ手を突っ込みデバイスを探す。
だが、

「!?」

ない。
確かにズボンのポケットに入れておいたはずなのにどこにもない。

「ああ……探しているのはこれか?」

はやてに似た少女は思い出したように手の平の上に翠の宝石を取り出す。

「忘れたか?ここは闇の欠片の中……我等のテリトリーだ。貴様の得物がそのまま使えるとでも思ったか?」

ニタリと笑ってソリッドを握りつぶすと、少女たちは戦闘態勢に入る。

「ねぇねぇ!!アイツどれだけ持つかな!?」

「……長くて一分でしょうか?」

「馬鹿を言うな。その半分で十分だ。」

次々に生まれていく魔力弾に取り囲まれていくユーノ。
リインフォースは思わず駆け寄ろうとするが、ユーノは手でそれを止める。

「ハハハ、この悪ガキども……数と力だけが勝負の行方を決定すると思うなよ?」

「フン……負け惜しみを。」

「負け惜しみかどうか試してみろ。」

ユーノも足元に魔法陣を展開して臨戦態勢に入る。
そして、

「かかってこい闇の欠片!!!!」

「望むところです……」

「後悔するがいい!!」

「死んじゃえぇぇぇぇぇ!!」

翠に輝く光刃を握りしめながらはやてに似た少女へと一気に距離を詰めていくユーノ。

(まず狙うとしたらたぶん広域砲撃を持っているこいつだ!!)

大きく振りかぶられた刃が真っ直ぐに振り下ろされる。
だが、

「やらせません。」

「グッ!!」

左から飛んできた追尾弾を片手に発生させた防御でどうにか相殺する。
だが、その衝撃で斬撃がずれてしまい、たやすくかわされてしまった。

(けど、この程度は折り込み済みだ!!)

他の二名の援護を受けながら距離を取ろうとするはやて似の少女へユーノは再度接近を試みる。

「馬鹿の一つ覚えだな……近づいて攻撃するしか能がないのか?」

「そうでもないさ。」

「!?」

少女の足に翠の鎖が絡みついて動きを奪う。
しかし、初めは戸惑っていた少女もすぐに嘲笑を浮かべながらユーノを見下ろす。

「バインドか。だが、動きを止めたところで…」

「爆ぜろ。」

ユーノが指を鳴らすと少女の嘲笑は激しい光の爆煙の中に消える。

「王!!」

「王様!!」

「グッ……!!塵芥が王たる我に手をかけるなど…」

どうにか防いで煙の中からでてくる少女だが、よろめいている間に再び無数のチェーンバインドが体をぐるぐる巻きにする。

「な!?」

「まだ終わりじゃない!」

リング、ストラグル、捕獲用結界。
ユーノが持てるありとあらゆる拘束魔法でがんじがらめにされた王と名乗る少女は声を上げることすらままならないまま海へと落ちていった。

「あ~あ、調子に乗るから落ちちゃったよ。さむそー!」

(いける!!)

彼女たちが優位に立っているのは間違いないだろう。
だが、そのせいで生まれた余裕につけこむ隙がある。

「一気に終わらせる!!」

次に狙いを定めたのは星光と呼ばれていたなのはに似た少女。
能力がそっくりそのままコピーされたものならば、至近距離での動きには付いてこれないはずだ。

「この一撃で…」

心臓に狙いを定めて切先を押し出そうとするユーノ。
だが、

「やめて……ユーノ君……!」

「!!」

怯えた目で自分を見る彼女の顔に思わず手が止まってしまう。
そして、

「へっへ~ん、隙ありぃぃぃぃぃ!!!」

後ろから迫っていた凶刃がユーノの腹部を貫いた。





テリシラ邸

「ガハッ!!!!」

口から激しく血をふきあげるユーノ。
赤い雫が数滴テリシラの顔につくが、そんなことは気にせずに治療を続行する。

「レイヴ、そこのメモに書いてある薬品を大至急持って来てくれ!!」

「はい!!」

机の上に置いてあった紙を握りしめて走っていくレイヴを見る余裕もなく、すぐさまテリシラは酸素マスクをユーノに装着する。

(外傷がないのに吐血した……!!本当に何でもありだな、クソッ!!)

原因ははっきりしているのにどうすればいいのかわからない。
目の前に苦しんでいる人間がいるのに救えないというのは医者として最大の屈辱だ。

(本を燃やすか…!?いや、下手に手を出したらユーノがどうなるかわからない!ならレイヴ達に頼むか…!?駄目だ……レイヴ達もユーノの二の舞にならない保証はない!どうする……どうすればいい……!!?)

(ドクター…)

不安なのかブリュンが話しかけてくる。
だが、今は相手をしていられる余裕はどこにもない。

(すまないブリュン、後にしてくれないか?ユーノなら私が必ず…)

(違います、ドクター。誰かがここに近づいています。)

「なに?」

思わず手を止めて玄関を見る。
すると、それと同時に勢いよくドアが蹴破られ、そこから二人の人影が飛び込んでくる。
警戒するレイヴとサクヤだったが、侵入者のうちの一人の顔を見て驚く。

「あなたはソレスタルビーイングの!?」

「すいません!訳は後で話します!!」

銀と金のオッドアイの青年、アレルヤ・ハプティズムが頭を下げる中、銀色の髪の女性は急いでユーノのもとへ駆け寄る。

「やっぱり気のせいじゃなかった……!!」

ここで何があったのかはわからないが、おそらくユーノがいつものように無茶をしたのだろう。
マリー・パーファシーはそのことをすぐに察し、街にいたときから感じていた気配の発生源を見つめる。

(怖い…!でも、なんだか悲しい……ずっと、会いたい人に会うのを我慢しているような……胸が締め付けられるような感じがする…)

(……あなたも、感じるんですね。)

「!?」

突然聞こえた声にマリーは辺りをきょろきょろと見回すが、声の主は冷静に語りかけてくる。

(落ち着いてください。ユーノさんは今、その本の中で大切な友達を守ろうとしています。)

(友達……?)

(かつて救えなかった友達を救おうと、必死で戦っています。悲しい運命を打ち砕くために。)

声の主はそこで一拍置いてマリーに再度話しかける。

(お願いです、ユーノさんを助けてあげてください。ユーノさんはここで死んでいい人じゃない!)

(…あなた、名前は?)

(ブリュン……ブリュン・ソンドハイムです。)

(ブリュン、具体的に何をするのか教えて。)

(今から僕がユーノさんを介して夜天の書へアクセスします。その時にあなた……ええと…)

(マリーよ。)

(はい。マリーさんも一緒に夜天の書の中へ入ってもらいます。そこで、ユーノさんが言っていた防衛プログラムを見つけ出して消滅させます。)

(できるの?)

(わかりません。でも、ユーノさんの手助けぐらいはできるはずです。)

「……わかった。」

「マリー……?」

ぶつぶつと呟いていたマリーを心配したアレルヤが肩に手を置こうとするが、彼女はその手を優しく止める。

「心配しないで、アレルヤ。私もユーノ君も、すぐに戻ってくるから。」

(ドクター、ブリュンもマリーさんと一緒にユーノさんを助けに行ってきます。)

(な!?待つんだブリュン!!)

テリシラが止めるよりも早く、ブリュンはマリーと意識を同調させてユーノとの念話の回線をつなぐ。

(いきます。)

(うん!)

返事をした次の瞬間、マリーは奇妙な浮遊感を感じながら暗い空間を落ちていった。







海鳴市(?)

「う……ぐ……!!!」

「フン……なかなかどうして、粘ってくれるじゃないか。」

「そうだね~。王様なんて一回落っことされちゃったもんね。」

ヘラヘラと笑う雷刃へ拳骨を入れると王は再び赤い短剣を作り出す。

「さて、遊びはいい加減仕舞いにしなければな。そのしぶとさは大したものだったが、まさか惚れた女の面影に刃を止めるとはな。」

「…………っ!!!!!」

すでに体中に傷を作り、地べたに這いつくばった状態のユーノは肺から空気が逆流するのを感じながら三人を睨みつける。
そして、睨みつけながらも彼女たちへ刃を向けることにためらいを感じている自分が腹立たしい。
あの星光と呼ばれていた少女の言葉に動揺して開けられた腹部の傷からはすでに致死量を超える血液が流れ出ているはずなのに意識ははっきりし、気絶するどころか体中に刻まれた傷の一つ一つから送られてくる痛みを嫌というほど感じる。
いっそここで倒れてしまえば楽になれるのではないかと思ってしまうが、それでもユーノはアスファルトに血糊をべったりと付けながら立ち上がる。

「もう十分だろう!!ユーノには手を出すな!!」

「そうはいかんだろう。分をわきまえずに我にたてついたのだからな。見せしめに惨たらしい死を与えてやらなければ。」

リインフォースの涙ながらの訴えを一蹴してさらに赤い刃を生み出して完全にユーノを取り囲む。

「しかし、貴様も愚かだな。大人しくこいつを消し去っていればこんなことにはならずに済んだものを。」

「……かで………うだ…」

「?」

「愚かで結構だ……!!先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない……!!今を後悔して選んだ未来に、僕は意味なんて見出せない!!」

かすれた声で、それでも大きな声で宣言する。

「何があってもリインフォースは助ける!!僕が生きるこの今を後悔しないために!!!!」

「戯言を……もういい。貴様との問答にもいささか飽いた。」

無造作に振り下ろされた王の手に従い、赤い流星群がユーノへと殺到する。
次々に着弾したそれは禍々しい光と黒い道路の破片、そして粉塵を巻き上げながら全てを粉砕していく。

「あ~あ、僕がとどめを刺したかったのに。」

「あんずるな。いずれまた戯れる機会はやってくる。」

いまだに爆発を続ける道路に背を向けてその場を離れ始める二人。
だが、

「星光?何やってんのさ?とどめを刺せなかったのが悔しいのはわかるけどいつまでも見てたって…」

「……終わっていません。」

「なに?」

振り向いた瞬間、彼女は唖然とする。
自分の魔法が地面を穿っているそのはるか前方。
銀の長髪の女性がすでに息絶えたはずのユーノに肩を貸してそこに立っているではないか。

「大丈夫?」

「マ……マリーさん……どうして……」

「ブリュンがあなたを助けてって言って、それで気付いたらここに……」

いきなり見知らぬ場所に放り出されて戸惑っていたのだが、目の前でユーノがやられかけているのを目撃して間一髪で救出したマリーだったが、いまだに危険な状況であることに変わりはない。

「貴様何者だ?どうやってここに来た?」

睥睨するようにマリーを見下ろす王。
援軍としてやってきたのは良いが、自分もユーノも武器がない。
しかも、自分に至っては魔法戦はずぶの素人なのだ。

「なんだぁ!?やる気か~!?」

「一人増えたところで結果は変わりません。二人まとめて葬って差し上げましょう。」

いまさらだがジワリと手のひらに汗がにじんでくる。
とそこへ、

(マリーさん、ユーノさん、聞こえますか?)

「ブリュン……!?」

「ブリュン、あなた今どこにいるの!?」

ブリュンの声に安心するマリーだったが、その安心は長続きしなかった。
なぜなら、声の主であるブリュンの姿がどこにもないのだから。

(ブリュンは今この人を縛っているものの中心にいます。今からこれとこの人を切り離すから、それまで時間を稼いでください。)

「そんなこと言われたって、私どうすればいいか…」

(今お二人がいる場所はその子たちのテリトリーです。)

「そうだ……だから、僕たちにはどうすることも…」

(ですが、彼女たちも全てを支配できているわけじゃない。その証拠に、ユーノさんはそこでも魔法を使うことができているはずです。)

言われてみれば確かにそうだ。
王は最初にユーノが持っていたはずのソリッドを握りつぶしてみせたが、ユーノが魔法を使うことまでは止めることができなかった。

(現実の世界でないのなら、ものをいうのは想像力のはずです……つまり…)

「僕たちの意思で武器を顕現することが可能ってことか!」

「できるとでも思っているのか?」

くっくっとこらえるように王が笑う。

「確かにここでは存在する者の意思に応じて何かしらの現象や物を生み出すことができる。」

「ですが、あなたはすでに自らのデバイスが破壊されるところを見てしまっている。」

「そうそう。お前の意思が五感を上回ることがない限りデバイスを出すことなんて無理ってことさ!」

「……フフ………クッククク……!」

「何がおかしい?」

マリーに支えられながらユーノの顔に不敵な笑みが浮かぶ。

「なめるなよ、化け狸。」

肩を貸していたマリーのから離れるとフラフラしながらなんとか自分の足で立つ。

「ガンダムマイスターに不可能なんてないんだよ……お前らみたいな井の中の蛙にマイスターの実力を図れると思うな!!」

あえて挑発的なことを言って相手の怒りを誘う。
ぶつかってくる殺気が、少しずつだが確実に傷だらけの体を集中力で満たしていってくれる。

「図に乗るなよグズが……!!!!」

王のかざしたての前に巨大な魔力の塊が球の形をとって出現する。
最初は小さかったそれは時間が経つほどに大きく、そして力がさらに圧縮されていく。
だが、それに比例して自身の体にも気力が満ちていくのをユーノははっきりと感じていた。

「マリーさん、下がっていてください。」

「で、でも……」

あんなものを真正面から受けたらどこにいても変わらないのではないか。
そう思ったマリーだったが、ユーノの顔を見てその認識を改める。

「大丈夫……僕を信じて。」

笑っている。
すでに満身創痍で、絶望的な状況なのにユーノは笑っている。

「マリーさんもできれば何か武器になるものを想像しておいてくれると助かります。」

「わかった、任せて。」

「無駄だ……遠き地にて闇に沈め!!」

放たれた一撃が周囲のありとあらゆるものを砕きながらユーノ達へと迫る。
だが、それに動じずにユーノは右手を前に出して想像する。

かつての自分の愛機の姿。
その力を受け継いだ翠の宝石。
全ての理不尽を打ち砕き、大切なものを守り抜くための力。
その名は、

「ソリッド、セットアップ!!!!」

右手に巨大な盾を出現させると同時に、ユーノは瞬時に自分の持てる最大の防御呪文の構築を完了する。

「絶対たる守護の盾よ!!!!」

〈Absolute Aegis〉

展開される巨大な五重の魔法陣。
その一枚目に当たった魔力の塊は周囲に余波をばら撒くが、それでもその勢いは一向に衰える気配がない。

「なるほど、五つの強力な防御壁で分散させて攻撃を凌ぐ魔法か……大したものだが、所詮は防御魔法。我に傷をつけることなど…」

「それはどうかな?」

ギシギシと軋んで砕ける一枚目の防御壁。
だが、二枚目に魔法が当たった瞬間、

「な!?」

「うそ!?」

「くっ…!!」

唸りを上げてユーノへと迫っていた魔力の奔流が今度は王たちへと迫りくる。
慌てて回避行動をとる三人だったが反射された魔法のが一足早く彼女たちを吹き飛ばす。
そして、

「まずはお前だ、裸の王様!」

〈Assault Bunker〉

轟音とともに撃ちだされた杭によって地上へとまっさかさまに落ちていく王。
だが、残っていた二人はすでに反撃の準備を終えていた。

「よくも王を…!」

「お返しだ!!」

無数の光弾がユーノへと迫る。
だが、

「行って!!」

「「!?」」

何かが魔力弾の嵐の中を駆け抜けたかと思うとすでにユーノの姿はそこになく、互いにぶつかった魔法が空中に鮮やかな色の花火を打ち上げるだけに終わった。

「どこに…!」

きょろきょろとあたりを見渡す雷刃。
しかし、突然彼女の見える景色が一変する。

「?」

膝がガクッと抜けたように見えていた光景の高さが変わる。
いや、それだけではない。
まるで天地が逆転したようにそれまで見えていたものがひっくり返る。
逆さまになった星光が何かを必死に叫んでいるが、何を言っているのかよく聞こえない。
なにが起こったのかわからないまま腕を動かそうとする。
だが

「え……?」

両腕がない。
いや、それだけじゃない。
ぐんぐんと高度を下げる彼女の目に飛び込んできたのは自分を追いかけるように落ちてくる下半身。
そして、オレンジの戦闘機の上に立ちながら自分を見下ろす侵入者がそこにいた。

「よ……くも………!!」

ひじから先がない腕でユーノを掴もうと必死にもがくが、彼女は手を届かせることもかなわずに虚空へと消えた。

「あれは……!!」

「キュリオス……なのか?」

じっとこちらを見つめるマリーの方を見ながら、助けられたユーノ自身も呆気にとられる。
武器になるものを想像してくれとは言ったが、まさかこれが出てくるとは思ってもみなかった。
しかし、マリーにしてみればこの状況を打破するのに必要な力と考えたとき、もう一人の自分が操っていたピンクの機体よりもそれを翻弄したキュリオスの方が印象的だったにすぎない。
だが、どのような経緯で生まれたにせよ今の状況でこれ以上心強い援軍はほかにない。

「よくも二人を…!!」

それまで無表情だった星光の顔に明らかな怒りの色が現れる。
しかし、彼女の抵抗も無意味なものとなる知らせが届いた。

〈ユーノさん、切り離しに成功しました。あとは残った彼女を倒せば現実世界に戻れるはずです。〉

「なるほどね。それじゃ、早いとこ済ませてこの死にかけの体とおさらばしようか。」

「できるとお思いですか?あなた方程度私一人でも本気になれば……」

「勘違いはよくないなぁ、劣化魔王。」

ユーノはチッチッと振っていた指で彼女の後ろをさす。

「言ったろ。彼女と君たちとの切り離しに成功したって。つまり……」

ゆっくりと後ろを向く彼女の先には、王が使っていたものと同じ赤い短剣と祝福のエール、リインフォースが浮いていた。

「僕たちが手を下さなくても彼女が君たちを裁くってわけさ。」

「穿て、ブラッディダガー!!」

赤い光に串刺しにされた星光は声を上げることもかなわずに霧散する。
そして、それと同時にユーノとマリーの足元に魔法陣が展開される。

「ありがとう、ユーノ…!!」

「泣くのは無しだよ。それじゃ、あとで…」

───満足か?

「!?」

───父さんを奪われた悲しみをこんな自己満足で薄めて満足か?

(まさか、まだあいつらが…)

───お前が戦う理由はそんなもののためじゃないだろう?自分から大切なものを奪うこの世界が憎いから戦うんだろ?

(そんなこと……)

───どれほど大層な理想や理念を掲げようとお前の根底にあるものは変わらない。

「誰だ!!」

すでに一人きりになった架空の世界でユーノは叫ぶ。
そして、そいつの方を向く。

「お前……!?」

怒りの炎が宿っているかのような赤い髪と赤い瞳。
だが、中性的なその顔は鏡の向こうで嫌というほど見たものだ。

「忘れるなユーノ……いつか俺じゃない俺がお前の心の奥に押し込められていたものを世界へ見せつける日が来る…必ずな。その日を楽しみにしてるんだな……」

にやけた顔で消えていくもう一人の自分。
必死で手を伸ばすが彼はどんどん薄くなっていく。

「待て!!!!」

「フフフ……忘れるなよユーノ。お前がどれほど捨てようとしても俺はお前の中にいるぞ!!ハハハハハハハハ!!!!!」






テリシラ邸

「待て!!!!」

手を伸ばすと同時に目覚めたユーノは天井の明りで自分が現実の世界へ戻ってきたことを確信する。
しかし、気のせいか夜天の書の中で刺されたところが痛むせいでいまだに自分が幻の中にいるのではないかと疑ってしまう。

「目が覚めましたか?」

傷の有無を確認していたユーノは濡れた手ぬぐいを絞っていた彼女の存在にようやく気付き、そこでここが現実の世界であることを実感する。

「リインフォース……まさか、ずっと看病を?」

「彼女がどうしてもというので私が許可した。問題はないだろう?」

お盆に簡単な料理を乗せたテリシラが二人のすぐそばまでやってくる。

「しかし、本当に昨日はいろいろと驚いたよ。魔法というのは何でもありなんだな。」

「そういうわけでもないんですけどね……」

皿の上のリンゴを口に運びながら苦笑するユーノ。

「そういえばマリーさんとブリュンは?」

「彼女が本の中から出てくると同時に意識を取り戻したよ。もっとも、彼氏の方が大騒ぎして大変だったがな。」

「ああ……」

マリーが意識を取り戻すと同時に彼女に抱きついて狂喜乱舞するアレルヤ。
その光景が目に浮かんで思わず笑顔がひきつってしまう。

「それはそうと、私はこれから少し家を開ける。ラーズがターゲットにしている男のもとへ向かって彼を待つ。幸いアレルヤ君が護衛をかってでてくれたからもしもの時も大丈夫だろう。君はマリー君とリイン君と一緒に留守番を頼む。」

「それはいいですけど……大丈夫なんですか?いくら彼が仲間候補だとは言ってもイノベイドを狙っているんでしょ?」

「そのために護衛をつけるんだし、そもそも私は彼にイノベイドであることを気付かれていない。まあ、何とか説得してみるさ。」

それだけ言うとテリシラはサングラスをかけるとそのまま外へと出ていく。
そして、誰もいないことを確認したユーノはリインフォースにある問いかけをする。

「リインフォース、君の中にいたあの三人のモデルはたぶんなのはたちだよね?」

「ええ。私の記憶の中で特に印象深かった彼女たちの姿を防衛プログラムが真似たのだと思います。」

「……ねぇ、もしかしたら僕の姿をしているのもいた?」

「いえ……いなかったと思いますが?あなたはあの事件では騎士たちや私と刃を交えた回数はそれほど多くないはずですから。」

「そうか……そうだよね。」

リインフォースの言葉にあの時見て、聞いたものをすべて否定しようとするユーノ。
だが、どうしても脳裏からあの声と姿が離れようとしてくれない。
あのゾッとするような笑みを浮かべた幼い自分。
そして、彼の残した意味深な言葉。

『いつか俺じゃない俺がお前の心の奥に押し込められていたものを世界へ見せつける日が来る…必ずな。』

ぞわりと全身の毛が逆立つのを感じながら頭をブンブンと振って思考を切り替える。
せっかく自由になってはやてに会えるようになったのに、これ以上リインフォースに心配をかけるわけにはいかない。

「ごめんね、変なこと聞いちゃって。」

「いえ……」

首をかしげながらユーノを見るリインフォースだったが、彼女もこの時は自分の抱えていた闇から解放された喜びからユーノの反応をそれほど気にしなかった。






だが、この時すでにそれが生み出される準備は進められていた。
ユーノが長い間心の奥に押し込めていたもの。
それを受け継ぐ存在がこの世に誕生する準備が。






あとがき・・・・・・・・・という名の結局伏線で終わっちゃった

ロ「というわけで再び伏線張りまくりなI編第一話でした。」

毒舌医師「全然本編に入ってないじゃないか。」

ロ「だってリインフォースはこの後重要な役割を果たすから早いとこだしときたかったんだもん!!」

学生「次回は異世界編なのに初っ端が完全オリジナルはどうかと思うよ?」

サクヤ(以降 サ)「それに私のキャラ作りにかなり苦労してましたね。その割にはみたらしだんごさんの設定を出しきれてないし。」

ロ「そこツッコムのやめてくんない!!?そしてアイデアを提供してくれたみたらしだんごさんありがとうございます!!」

初代「しかし、firstから張っていたユーノの俺口調伏線がようやく活躍の場を与えられそうで安心しました。」

ロ「登場人物にまで安心されちゃったよ!!?ていうかお前ら俺が単なる気まぐれでユーノを俺口調にしたと思ってたの!!?」

「「「「うん。」」」」

ロ「お前らマジでこの後校舎の裏来いや。」

学生「どこの校舎ですか……ていうか僕の学校はやめてくださいね。あなたが来るだけで汚れそうなんで。」

ロ「レイヴさんんんん!!?あなたそういうキャラだった!!?」

サ「とりあえず場も煮詰まってきたので(要はグダグダになってきたので)ここらで次回予告に行きたいと思います。」

毒舌医師「次回の舞台は再び異世界へ!」

初代「ミッドチルダへと無事にわたった刹那とロックオン。」

学生「そのころ、海上施設でただ一人残されていた少年の世話をしていたシグナムに危機が迫る!」

サ「再会を果たした刹那とロックオンは彼女たちを守りきれるのか…」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 11.ミッドチルダ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:8e6f9208
Date: 2011/01/11 23:25
プトレマイオスⅡ コンテナ

「フッ!!ハァッ!!!!」

コンテナの一角に鋭い太刀風が吹く。
しかし、それでもエリオは満足せずにさらにストラーダの切っ先を勢いよく突き出す。
斬り裂かれた空気が鳥の鳴き声のような甲高い音を立ててエリオの遥か前方へと飛び立っていく。

(まだだ……!!まだ、こんなものじゃあの人に届かない!!)

目の前に思い描く仮想敵は浅黒い肌のあの青年。
そして、その動きは彼の愛機であるダブルオーの洗練された動き。
ミッドチルダに戻って来てからずっと刹那の影を追い続けて訓練を続けているが、自分なりに修練を積めば積むほど彼のすごさを思い知らされた。
まず、彼の影と立ち合っても攻撃が当たらない。
あの動きを頭の中に思い浮かべて槍を突き出しても別の動きでいなされる。
ならばとこっちも手を変えると向こうもまた別の動きで完全にこちらの攻撃をかわす。
そして、どの動きからもすぐさま攻めに転じて一撃で自分を仕留めてくる。
もしもこれが影でなかったらエリオはゆうに数十回は死んでいることになる。

「クソッ!!!!」

気合ばかりが先走り、もどかしさから動きが雑になる。
そこに、

「踏み込みが甘い。もっと脇をしめて半歩前に踏み出してみろ。」

「!」

反射的にその言葉に従って脇をしめて普段より大きく踏み込む。
すると、ストラーダの穂先が奏でる音は先程までの澄んだものから重みのあるゴウッという音に変化した。

「うん、まあそんなもんだな。つっても、こういうのは俺よか刹那が教えるべきなんだけどな。」

「アイオンさん……」

いつの間にか来ていたラッセがエリオへ飲み物を手渡す。
そして、自分も持っていたもう片方の容器の中身を喉を鳴らしながら飲み干していく。

「余計な口出しして悪かったな。けど、お前を見てるとガキの頃のユーノを思い出しちまってな。」

「ユーノさんのこと?」

「ああ。」

ラッセはその時のことを思い出したのかくっくっと笑いをこらえながら楽しそうに話し始める。

「あいつに格闘技のイロハを教えたのは俺と刹那でよ。刹那は武器の扱い、俺は戦場格闘技をみっちりたたき込んでやったのさ。いやぁ、あの時のあいつはお前と違ってどんくさくてよ。いっつも俺と刹那にボコボコにしごかれてはエレナが大騒ぎするっていうのの繰り返しだったな。」

「……それであんな風になったんだ。」

顔をひきつらせながらぼそりと呟く。
あんな死にたがりのような戦い方をどこで学んだのかと不思議に思っていたが、ここでこの人たちに習ったというのなら納得だ。
フェイトがあまり見習わない方がいいと言っていたのもごもっともだろう。
だが、

「あの……僕にも稽古をつけてくれませんか?」

ラッセは驚きのあまり持っていた空の容器であたふたとお手玉をしてしまう。

「正気か!?」

「結構本気です。」

「おいおい……え~と、ストラーダ、だったっけか?お前はいいのか?ご主人様がとんでもない道に進もうとしてるぞ?」

〈俺は兄弟が望むもののために力を貸す。ただそれだけだ。〉

「駄目だこりゃ……」

使い手に似て頑固な槍に溜め息をつくと、ラッセは表情を引き締める。

「言っとくが少しでも中途半端な態度が見えたらすぐにやめるぞ。覚悟しとけ。」

「はい!!」

〈Ja!!〉

威勢のいい返事にラッセは小さく笑うと、すぐさまエリオに自らの持つ技術を教え始めた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 11.ミッドチルダ

第1管理世界 ミッドチルダ 首都クラナガン

第1管理世界ミッドチルダ
その名の通り、次元世界の中心地的ポジションにある世界であり、ありとあらゆる世界の物品が流れ込み、それを再び別の世界へ送り出す役割も果たしている。
そんなミッドチルダの中でも発展を遂げているのがこのクラナガンだ。
もっとも、次元世界の中心となっている世界の中心都市なので人口流入もすさまじく、時折招かれざる客もやってくることがあるのだが。

「なるほどな……それで、ここでどうやって他のメンバーの情報を集めるんだ?」

顔の隣にフヨフヨと浮いている連れに視線を向ける刹那。
しかし、ジルの答えは彼の期待を粉微塵に砕いてくれた。

「そんなもんオイラが知るわけないだろ。新聞でも読んどけ。」

「…………………………………」

なんとなくこんなことではないかと思ってはいたが、ここまではっきり言ってくれると逆にすがすがしくなる。
古の時代から生きているのならぜひとも信用できる情報源くらい知っておいてほしかった。

「しゃーないじゃんか。オイラもここに来るの久しぶりなんだから。」

「だから、人の思考を読むなと言っている。」

もはや日常の一部と化したやり取りをしながら刹那は人込みをかき分けて小さなコンビニへと入り、入口付近においてあった新聞や雑誌類をありったけ買う。
ジルの意見に従うわけではないが、他のメンバーにつながる手掛かりがなくても最近起きたことに目を通しておいて損はないだろう。

『開拓世界で落盤!?開拓民たちの横暴の実体。』

『謎の襲撃者!?クラウディア級、急遽補修作業へ。』

『機械製品製造の光と影。管理局、エイオースの治安維持の本格始動。』

ゴシップ記事に載っているものの中には刹那がいたエイオースのものもあるが、他にも関係ありそうなものがいくつも載っている。
だが、関係ありそうなものがあまりにも多すぎてどれを信じていいかわからない。
ただ、新聞に載っているある記事だけは全ての新聞に共通して載っていた。

『最悪のスパイ!!無限書庫司書長の裏の顔!!』

そんな見出しの横に載っているのは今ここにはいない仲間の写真。

「………………………」

ぐしゃりと新聞を丸めると外に出てごみ箱の中へ突っ込む。

「……気にすんなよ刹那。オイラはわかってるからさ。」

ジルが沈んだ空気をどうにかしようとパタパタと手を動かして励ますが、刹那の表情は暗いままだ。
ユーノはこの世界のために必死に戦ったのに、まるで諸悪の根源のようなこの言い草。
叶うならば、今この場にいる全員に声を大にして真実は違うと叫びたかった。
だが、そんなことができる立場でないことはよくわかっているつもりだ。

「……行くぞ、ジル。」

「オ、オイ刹那……」

グッと唇を噛みしめると刹那はスタスタと怒りをぶつけるように早足で歩き出す。
その時、

「勿体ないねぇ、お兄さん。せっかく買った新聞そんなに早く捨てちゃっていいの?」

軽い調子の男の声に刹那もジルもイラッとするが、無視してそのまま歩きだそうとする。
だが、男もしつこく付きまとってくる。

「オイオイ、その手の中にあるのも捨てるつもりなら俺にくれよ。俺もゲイルスから来たばっかでここのことよく知らねぇんだ。」

「自分の金で買え。」

「そう言うなよ~。それより、なんでこの新聞捨てちまったんだよ?」

どうやら男は刹那が捨てた新聞を拾ってきたようだ。
ぐしゃぐしゃと音をたてながら広げて一面を音読する。

「『最悪のスパイ!!無限書庫司書長の裏の顔!!』ね……ひょっとしてお兄さんこれ見てプッツンしちゃったわけ?」

「………………………」

「なるほどなぁ……確かにこんなお人好しの面した兄ちゃんが凶悪犯罪者には思えないわなぁ。」

「……ユーノは望んで人を傷つけるようなやつじゃない……!」

「ありゃりゃ、おたくらこいつの知り合いだったのか。でも、ここでそんなこと言っちゃまずいんじゃないの?だって…」

男の声が低音に変わる。

「おたくらまでソレスタルビーイングのメンバーだってばれちゃうよ?」

「「!!」」

その瞬間、刹那は人目も顧みずに男の顔があるであろう場所へ脚を振り抜こうとする。
だが、その脚は刹那自身によって止められた。

「ひゅーー!大胆だねぇ、刹那。でも、人込みでこんな目立つことするとあのかわいい教官さんにどやされるぜ。」

ジーンズにカウボーイシャツとミッドチルダでもかなり変わった格好をしているが、脚の横でニヒルな笑みを浮かべている顔は自分が探している人物の一人だった。

「ロックオン・ストラトス……」

「止めてくれたからよかったけど、下手したら首の骨が折れてるぜ。」

脚を引っ込めた刹那にロックオンが手を差し出して握手をする。
はずだったのだが、

「オイ刹那、このニヒルな勘違い野郎がロックオン・ストラトスか?想像以上に軽いうえに服のセンスが最悪だな。」

ジルのその一言に空気が一気に凍りつく。
出していた手をそのままに、笑顔のロックオンはこめかみにピクピクと青筋を浮かべながら穏やかな声で話す。

「刹那、その人形はなんだ?そんなできの悪いおもちゃで遊ぶ歳でもないだろ?」

「誰ができの悪いおもちゃだこの若造。たかだか二十年と少ししか生きてないのに偉そうな口きくんじゃねぇよ。」

「何こいつ?ひねっていい?ひねっていいよな?」

「……二人ともやめろ。周りが見ている。」

先程の刹那の蹴りと、現在進行形でバチバチと火花を散らす二人に通行人の注目が集まり、なかには管理局へ通報しようとしている者までいる。

「とにかく、話はここを離れてからだ。」

「はいよ。オラ、行くぞチビ。」

「誰がチビだこのニヒル!」

「…………………………………」

こんな時にも言い争うジルとロックオンに呆れながら、刹那は仲間に再会できた喜びからすぐ近くまで行かないとわからないほど小さく笑った。






海上施設

その日も、烈火の将ことシグナムは海上施設へと足を運んでいた。
ここに収容されていたセインたちも監視付きではあるがすでに研修のために聖王教会や地上部隊に配属されてもうここにはいない。
これほど早く出ることができたのは彼女たちがスカリエッティの全貌を知らずにただ利用されていたという点。(もっとも、最初期に生み出されていたウーノたちは全てを知った上で協力していたと供述して投獄されているが。)
さらに、スカリエッティの『彼女たちを道具としてしか認識していない。』との発言が世間の同情を買い、更生させれば普通の人間と変わらないのと判断から早期の出所につながった。
ルーテシア・アルピーノは無人世界カルナージでの謹慎を申し付けられたが、彼女の母にあたるメガーヌ・アルピーノもともにカルナージに渡り、今は念願の親子水入らずの生活を送っているそうだ。
ただ、

「おーい!」

緑のカーペットに踏み込んだ瞬間飛びついてきたこのアギトと名乗る融合騎は自ら望んでここに残っている。
だが、それも今日までだろう。

「待たせたなアギト。監視付きではあるが騎士ゼストを探してもよいとの許しが出た。」

「やりぃ!!」

くるくると回りながら喜びを全身で表現するアギト。
少々おおげさな気もするが、それもしょうがないだろう。
彼女の証言によって全滅した部隊の隊長であるゼスト・グランガイツが生存していて、なおかつスカリエッティに協力していたことが判明した。
アギトはあくまでゼストはアルピーノ親子を守るために仕方なくやっていたことで、情状の余地があると言って彼の捜索を申し出たが、仮にも犯罪者である彼女をそう簡単に出すわけにもいかなかった。
だが、シグナムの根気強い交渉によって今日ようやくその許可が下りたのだ。

「へへへ……!!待ってろよ旦那!どんだけ突っぱねてもあたしは絶対あんたを探すからな!!」

「よかったな、アギト……」

嬉しそうに踊るアギトに頬笑みを浮かべるシグナム。
だが、目の前にあるアギトの笑顔が罪の意識で真っ黒に塗り潰されていく。
ユーノを引きとめることができず、挙句の果ては彼を犯罪者扱いする組織にいまだに所属している自分が情けなくなってくる。

「あっ……そ、それで、あんたはどうするんだシグナム?」

アギトはシグナムの暗く沈んだ顔に気付いたのか慌ててはしゃぐのをやめる。

「あんたもさ、あたしと一緒に旦那を探してくれよ!あんたならあたしも歓迎…」

「すまないがそれはできない……私は、もう剣をとることができない。」

あの日以来、シグナムは剣を握っていない。
いや、握ることができなかった。
レヴァンテインを握ろうとするたびに、なのはとヴィヴィオの泣き顔やかつて自分の犯した罪が頭をよぎって手に力が入らなくなった。
もう戦うことができない。
そう思いながらあちこちをさまよい歩き、気が付いたらギンガにここで働かせてほしいと頼んでいた。

「私は……私は逃げたんだ………目の前の現実から逃げてここに来たんだ。」

「で、でもさ…」

「そいつに何を言っても無駄だよ。他人の命を奪っても平然としてられるただのプログラムにすぎないんだから。」

俯いているシグナムのもとへ白い囚人服を着た少年がつかつかと歩いてくる。
金色の前髪の間から覗いている翠の目は冷たく研ぎ澄まされ、本来なら持ち合わせているべきである無邪気さがかけらも感じられない。

「お前、まだそんなこと言ってんのか!シグナムがかけ合ってくれなきゃ問答無用で牢屋へぶち込まれてたんだぞ!?」

「僕はそのことをどうにかしてくれなんて頼んでいない。こいつが勝手にやった。それだけの話さ。」

翠玉人のテロリストたちのアジトで保護された少年、ブリジット・フリージアはアギトの言葉を鼻で笑う。
ようやく見せた笑顔も明るいものではなく、ドス黒い感情が込められた侮蔑の笑みだ。

「このっ…!!」

「いいんだ、アギト。」

ブリジットに飛びかかろうとしていたアギトを自分の手の平の中へ包み込んで止めると、シグナムは少年の目線に合わせるように屈む。

「許してくれなどと言える身ではないことは重々承知している。だが、それでも君のために力を尽くすことだけはさせてほしい。このとおりだ…」

深々と頭を下げるシグナム。
だが、当のブリジットはそん彼女に言葉も掛けずに足早に立ち去ってしまった。

「なんだよあいつ!!シグナムが頼みこんでなけりゃ極刑になってたんだろ!?翠玉人だか何だか知らないけど、そこらの悪ガキだってもう少し礼儀をわきまえてるぞ!!やっぱ子供だからってテロリストを更生するなんて…」

「アギト。」

シグナムの悲しげな瞳に、アギトは口からこぼれおちそうになった言葉を喉の奥へしまい込む。
おそらく、アギトが言おうとした言葉をシグナムはさんざん周りから言われ続けてきたのだろう。

「…ごめん。」

「いいんだ……あの子やあの子の血族に対して私がしてきたことは到底許されるものではない。」

そう、たとえ人々が翠玉人に対して行ったふるまいを忘却の彼方へと押しやろうとも、彼らはその記憶を忘れはしない。
それが、怨嗟というものなのだから。

「だが、だからこそ私はあの子を……いや、これも詭弁だな。あの子を気にかけているのは結局自分の逃げ道が欲しいからなのだろうな……」

この期に及んでまだ逃げようとする自らの愚かさに自嘲するシグナム。
しかし、アギトの見解は彼女のそれとは違っていた。

「逃げたいんならなんであいつの前に現れるんだよ。」

「それは……」

「逃げたいなら顔を見ないのが一番だろ。なのに、あんたはあいつに何度も言葉をかけて、あいつのために必死に駆けずり回ってる。そんなの、逃げようとしている奴にできることじゃない。」

アギトは戸惑うシグナムの顔のすぐ前まで近寄るとニパッと笑う。

「あんた、すげぇ騎士だよ。あたしが会った中じゃゼストの旦那の次に偉大な騎士だ!」

「偉大な騎士、か……」

「そうそう!あんたは自分がやってることを誇っていいんだ!」

「剣を握れないのに偉大か……フッ……とんだ騎士もいたものだな。」

口ではそう言ってみるが、嬉しくないわけがない。
剣を握れなくなった今でも、自分にとって最大のアイデンティティである騎士としての心構えを捨てていなかったことに気付けたのだから。

「主のため、民を守るための剣が騎士……今までそのために戦っていたのに、いつの間に忘れてしまっていたのだろうな……」

あまりにも当然のことになりすぎていて、少し躓いてそれを守れなかっただけで騎士失格など思い上がりもはなはだしい。
はやてのおかげで真の騎士になれたというのに、その称号を自ら捨てるなどできるはずもなかったのに。

「……アギト、騎士ゼストを探すのは少し待ってもらっていいか?」

「は?」

「ブリジットを一緒に連れて行きたい。それまで、しばし時間をくれないか?」

その言葉にアギトの顔が輝く。

「それじゃあ…!!」

「ああ。剣を取れない騎士がなんの役に立てるかわからんが、監視役として同行させてもらいたい。」

「OK、OK!!剣の使い方ぐらい道中であたしが思い出させてやるよ!!」

小さな手でシグナムの肩をバンバンと叩くアギト。
そのしびれにも似たかすかな痛覚をシグナムは愛しいもののようにしっかりと噛みしめていた。






クラナガン

オープンテラスのそのカフェに異様な光景が広がっていた。
お昼時にやってくる常連のOLたちもその光景を不気味に思って近づかず、数少ない客もある一つのテーブルに視線を注いでいる。
そのテーブルの上には所狭しと雑誌が置かれ、さらにその周りにも座っている人間が見えなくなるほど量の週刊誌や新聞が山のように積まれている。

「しかし、手近にあった記事だけでこの量とはな……」

ブラウンの髪をしたロックオンの顔が紙の山の中からひょっこりと出てきて大きく嘆息する。

「ミッドはありとあらゆる世界の物が集まるからな。他の世界で出版されてるもんもお取り寄せ自由ってわけさ。」

ジルも積まれた雑誌の上によじ登ると、ロックオンに負けないほど大きなため息をつく。

「限度ってもんがあるだろ……ここに来てからコーヒー何杯飲んだかわかんねぇぞ。」

「だが、他のメンバーがミッドチルダにいるとは限らない。情報源が無い以上こうするよりほかにない。」

ひときわうずたかく積まれた雑誌の束をとると、刹那はようやく見えるようになった横の光景も気にせずにページをどんどんめくっては怪しいと思ったものにマークをつけていく。

「これが終われば今度は旅費を稼ぎながらこいつを一つ一つ確認して回るのか……」

「オイラ頭痛がしてきた……」

文句を言いながらページをめくる二人。
そんな時、ふとロックオンの手が止まる。

「どうした?」

「いや、この一行広告……」

刹那とジルはロックオンの指さす方を見てみる。
そこには、次のように書いてあった。

『我らが王を穢した者どもに罰を!!』

「なんなんだろうなこれ?新手の宗教か?」

「バーカ、ちげぇよ。たぶんこりゃベルカ教……それも聖王信仰系列のもんじゃないのか?王って書いてあるだけだから断定はできないけど、ミッドじゃ確か王って言えば聖王信仰が一般的だったからな。」

「フ~ン……よくわかんねぇけど、じゃあこの穢した者どもに罰をってどういうこったよ?」

「…………………………………」

「?刹那?」

この時、刹那の頭をよぎったのはかつての自分や戦友たちの姿。
罰を与えるという名目のもと、命を投げ出して銃を手に取り、そして人を殺した。

「ジル、最近あった出来事で聖王に関係するものはあるか?」

「ああ、それならこれじゃないか?」

ジルが机の上の雑誌を床の上に落としながら発掘したその記事には都市型テロ、J・S事件のことのあらましが書いてあった。

「Dr.Jことジェイル・スカリエッティは自らが生み出した戦闘機人たちに意見陳述会を襲撃させ、その三日後、今度はベルカ時代の負の遺産、戦艦・聖王のゆりかごをクラナガンに落下させようとした。だが、地上部隊が使用したMSによって最悪の事態は回避され、新設部隊、機動六課によってスカリエッティ、戦闘機人たちの身柄が拘束され、事件は終結した……」

「なるほどな……」

ロックオンは周りの本の山が崩れるのも構わずに立ち上がる。

「んで、どうする刹那?こいつがこのスカリエッティと戦闘機人とかいうやつらに対して宗教狂いのアホどもが報復するってことを意味してるんだとして、襲撃する方もされる方もどこにいるか俺たちは知らねぇ。」

「それならここにある。」

刹那は脇にあった一つの雑誌の層から一つの新聞を抜きとる。

「海上施設……なるほど、ここに戦闘機人たちがいるわけか。」

「いや、戦闘機人と呼ばれている者たちはすでにここを出ているらしい。」

「は?だったら、ここは関係ないんじゃ…」

「いや……そうでもなさそうだぜ。」

ジルは刹那が持っている記事の隅に書いてある一文を読み上げる。

「『なお、ここにはスカリエッティの協力者であるユニゾンデバイスと、別件で逮捕された翠玉人の少年が収容されている。この少年は翠玉人系テロリスト『亡国の復讐者』に所属していたと思われ、スカリエッティとも何らかのつながりがあるのではないかとの疑いが浮上している』……はぁ~、あいっ変わらず翠玉人への偏見は健在かぁ~。翠玉人ってだけでテロリストに協力者、捕まったこいつに同情するよ。」

「けどま、事実はどうあれこの広告載せた連中がここを狙う理由はあるってわけだ。でもよ、言いたかないけど俺たちはこの世界の人間じゃないぜ?」

ロックオンは再び席に着くと覚めたコーヒーを一気に飲み干す。

「俺たちが何より優先すべきなのははぐれた他の奴らと合流して早いとこ地球に戻ることだ。道草くってる暇はないぜ?」

「……わかっている。」

わかってはいる。
だが、それでも刹那はこの世界のことが放ってはおけなくなっていた。
ここに来るまでに見てきた歪み。
そして、かつての自分と同じように宗教を理由に命を奪う者。
たとえ自分のいた世界とは違う場所なのだとしても、湧き上がってくるこの感情に違いなどない。

「それでも、俺は…」

「まあ、なんだ……」

関係ないと言ったロックオンだったが、その表情から刹那が自分と同じ考えであることを確信してこう切り出す。

「俺は新入りなわけだし、先輩の意思は尊重しなきゃいけないわけだから、刹那がどうしても、どーーーーーしてもなんとかしたいってんなら協力せざるを得なくなるわけなんだけどよ…」

頭をかきながら照れるその姿に刹那は最初呆気にとられてしまう。
しかし、すぐにロックオンの言葉の意図するものを感じ取って決断を下した。

「こいつらは紛争を起こすつもりだ。ならば、俺はガンダムマイスターとしてこの紛争に介入する。」

「地球で起きるものでなくてもか?」

「紛争を根絶するのがマイスターの使命だ。場所は関係ない。」

「ハッハッ、都合のいい使命なことで。でも嫌いじゃないぜ、そういうの。」

二人は辺りに積まれていた乱暴にどけると、テーブルの上にコーヒー代を乗せて歩き出す。

「良いとこあるじゃんお前!」

「うるせぇよチビ。俺はいつだって良い奴だ。それより刹那、ミッションプランはどうする?今回はあの美人の戦況予報士さんに助言を聞けるわけじゃないんだぜ?」

「いつもと同じだ。俺が斬り込んでお前が狙撃。それだけだ。」

「それだけって言われてもなぁ……」

「それに、策はある。」

苦笑するロックオンから、今度はすぐそばを飛んでいたジルと視線を合わせる。

「……頼めるか?」

「もちろん!オイラの力は刹那のためにあるんだからな!」

「……ありがとう。本当にすまない。」

辛い役目をジルに負わせることになることに心苦しさを感じながら、刹那はダブルオーの待つ街の外れまで足を急がせた。






海上施設

誰も信用するな。
人は生きている限り永遠に独りだ。
それが、ブリジットの信条だった。
翠玉人であるという理由だけで迫害を受け、両親が死んだあとは持っていたものをすべて奪い取られ、たった一人だけ残された家族である妹もろくに医者に診てもらうこともできずに病でこの世を去った。
憎かった。
自分たちを見捨てたこの世界もそうだが、それ以上にこの体に流れる翠の民の血が何よりも許せなかった。
だから、世界に、そして自分たちをこのような状況に追い込んだ忌々しい平和の血筋とやらを否定して死ぬために争いの中へと飛び込んでいった。
だが、何の因果か憎むべき敵に命を救われ、挙句の果てにここに来る原因と一時的にではあるが一緒に生活する羽目になった。

「……いっそ、あの時死んだ方がよかったな。」

この状況に甘んじている自分が情けなくて、そんなことばかりが頭をよぎる。
あんな奴の世話になるくらいなら、いっそ誰かに殺してほしいくらいだ。

「僕のために、か……だったら殺してくれよ。」

そう呟いた時だった。
突然目の前の天井が崩れ落ち、本来なら見えるはずのない青空と燦々と輝く太陽が白い天井に開いた穴から見える。
だがその光景はすぐに群青色に染め抜かれた巨体によって覆い隠されてしまった。

「こいつ……」

丸くつるりとした頭部、そして額から飛び出した鋭角な角の下では赤い一つ目がせわしなく右へ左へと動いている。
その目がブリジットを捉えると、分厚い金属で覆われた腕に握られている赤い光の刃がゆっくりとだがこちらに近づいてくる。

(ああ……そっか……)

漠然とだがわかる。
自分はここで死ぬのだ。
ようやく、家族のもとへ逝けるのだ。
相手がどう思って手を下すのかはわからないが、ブリジットは感謝の思いでいっぱいだった。
だが、

「クッ!!!!」

もうすぐそこまで迫っていたはずの刃が消え、同時に誰かに抱きかかえられている温かさを感じる。

「何を考えている!!!!死にたいのか!!!!」

しっかりと自分を抱きしめる腕の中でブリジットが顔を上げると、そこにはいつもと違い険しい表情で怒鳴るシグナムがいた。

「僕のために力を尽くしたいんだろ?だったらほっといてよ…」

「ふざけるな!!!!」

赤い銃弾をかいくぐりながら、はじめて見せた自分への怒りにブリジットは目を丸くする。

「生きようとしても生きられない奴だっている!!お前のように辛い思いをしながら、それでも前を向いて歩いている奴だっている!!生きることをあきらめるというのは、その者たちに対する最大の侮辱だ!!!!」

天井が崩れる中、壁際に追い詰められたシグナムはブリジットを下ろして首にかけたままにしていた相棒を手に取る。
震えが無いわけではない。
苦しくないわけではない。
だが、ここで逃げたら今度こそ騎士ではなくなってしまう。

「レヴァンテイン……もう一度、力を貸してくれるか?」

〈Ja boul!!〉

炎の魔剣は主が命じる前に彼女を騎士甲冑で包み込み、自らは厚みのある刃と鞘に変化する。
それを手に取ったシグナムはブンと一振りして久々に握った柄を手になじませる。

「……私のことはどれほど憎もうと構わない。だが、自分を憎むのはもうやめろ。そんなことをすれば、悲しむのはお前を生んでくれた両親だろう。」

「…………………………………」

唇を噛みしめてうつむくブリジットの頭を強くなでると、シグナムは群青色の襲撃者へと飛びたっていく。

(向こうはMS、こっちは生身か……勝ち目は薄いな。だが……それもやり方次第だ!)

シグナムは振り下ろされた拳を紙一重でかわす。
拳に巻き込まれた風に態勢が崩れそうになるが、なんとか踏ん張ると振り下ろされた拳のある一点を注目する。

(狙うとするなら……装甲が薄くなっている関節部分!!)

手が戻される前にシグナムは直滑降に近い形で人差し指の関節部に突っ込んでいく。

「レヴァンテイン!!」

〈Explosion!!〉

炸裂したカートリッジに込められていた魔力でレヴァンテインに炎が灯り、必殺の一撃を放つ態勢が整う。

「紫電……一閃!!!!」

ただ単純に強化された武器で叩き斬る。
シンプルだが、そこには長い年月を戦い抜いてきたシグナムだからこそ極められた極意がある。

(やったか……)

指一本だが、動揺を誘うには十分だ。
その隙にコックピットへ一撃を放り込んで終わりにする。
煙が漂う中、シグナムは自分の描いたプランを実行するためにカートリッジを再び炸裂させようとする。
だが、煙が晴れた時に動揺がはしったのはシグナムの方だった。

「な……!?」

指はいまだに健在。
それどころか、傷一つない完璧な状態でレヴァンテインを受け止めて悠々とシグナムを見下ろしている。

(馬鹿な!!勘が鈍っていたのか!?)

それはあり得ない。
たかだか数日で数百年培ってきた剣技が衰えるはずなどない。

(なら、相手の装甲が予想以上に厚かったのか!?)

これもあり得ない。
自慢じゃないが、この程度の厚さのものなら強化していれば斬れないはずがない。

「ならば……さらに威力を上げるまでだ!!レヴァンテイン!!」

〈Ja!〉

今度は二発カートリッジを使い、さらに強力な炎をレヴァンテインに纏わせる。

「紫電一閃・剛!!」

なめきって動こうともしないMSへ向けてシグナムは渾身の力でレヴァンテインを振り下ろす。
だが、ここで先程攻撃が通らなかった理由が明らかになった。

「!?炎が!!」

手にぶつかった瞬間、それまで燃え盛っていた炎が急速に小さくなって最終的には単なる剣と成り果てたレヴァンテインがギシギシと悲鳴を上げていた。

「AMF!?だが、この効果範囲は……」

AMFを使っているならはなから飛行魔法を使えているはずがない。
そもそも、あの独特の体を押さえつけられるような圧迫感が全くない。
そんな驚き焦るシグナムをパイロットはニヤニヤしながら余裕を持って見ていた。

「ククク……どうだ、新たに開発されたケンプファーとAMC(アンチ・マギリング・コート)の実力は?」

管理局やその他の開発機関から流れてきた情報をもとに製造されたベルカ系MS、ケンプファー。
闘士を意味するその名の通り、ベルカ特有の肉体強化をMSに転用した初の機体であり、場合に応じて高密度状態のGN粒子をさまざまな部分に送って行われる近接戦闘ではおそらく地球のMSを含めても太刀打ちできるものは少ないだろう。
もっとも、弱点として遠距離の攻撃手段が小型のビームガンのみなのだが、それを補うためにAMCを開発し、ゆくゆくはABC(アンチ・ビーム・コート)も装備させる予定だそうだ。

「つまり、貴様がどれほどの魔力を有していたとしてもケンプファーの装甲を抜くのは不可能だということだ!」

「クッ……!!」

間一髪でケンプファーの手の平をかわすシグナムだが、状況はさらに悪化する。

「増援……それも一機や二機じゃない……!!」

遠くからやってきた六体の群青色の機体はシグナムを取り囲み、じりじりとその距離を縮めてくる。
だが、そのうち一機が地上にいたある人物に気付いて高度を下げていく。
その人物とは当然、

「ブリジット!!」

後を追おうとするシグナムだったが、周りにいるケンプファー達が道を遮る。

「騎士の身でありながら聖王を穢した者どもに与するとは…!」

「恥を知れ、プログラム風情が!!」

外部音声で響く罵倒の言葉の数々。
その声に、すぐそこまで死が迫っているにも関わらずブリジットは激しい怒りを覚える。
つい先ほど似たようなことを言ったはずなのに、その時の自分にすら怒りを感じる。

(殺されてたまるか………お前らにだけは殺されてたまるか!!)

そう思った時には、ブリジットは全力で走りだしていた。
銃弾で芝生がめくりあがって土が顔にまとわりついてくる。
何度も転びそうになるが、それでも必死に走り続ける。

「死ねるか……!!僕は…まだこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!!」

「よく言った、クソジャリ。」

施設全体を包み込むような激しい閃光。
誰もが光に目がくらみ、一瞬すべてが見えなくなる。
だが、そんな中でも閃光を生み出した者は目指すべき場所がしっかりと見えていた。

「シグナム、ユニゾンだ!!」

「アギト!?だが、しかし…」

「いいから準備しろ!!いくぞ!!」

悩んでいる時間はない。
シグナムはすぐに腹を決めると刃を下ろして意識を集中させる。

「「ユニゾン…イン!!!!」」

再び激しい光が発生し、シグナムの姿が消える。
そして、光が消えて現れた彼女の姿は先程までとは大きく違っていた。
肩を覆っていた騎士甲冑は消えて全体的に薄手なものに変わっているが、その代わりに背中からは蝶のような四枚の炎の羽が開いている。
髪の色も変化し、握っている剣からは今までとは比較にならないほどの猛る炎が噴き出して敵対するものすべてを焼き尽くすのを今か今かと待っているようだ。

「アギト、あの子を助ける!!」

(わかった!!)

その瞬間、突きだされた刃をことごとくかわしたシグナムはありったけの魔力をレヴァンテインに集中、凝縮させる。

「この一撃……」

(止めれるもんなら……)

「(止めてみろ!!)」

溢れ出た魔力が幾重にも層をなし、刀身が蜃気楼のように揺らぎながら灼熱の火炎を生み出す。

「紫電一閃……斬っっ!!!!!」

シグナムにとっての極意、ただ全力の一撃で敵を屠るという信念が込められたその一撃はブリジットをとらえようとしていたケンプファーの右腕を見事に斬り落とした。
だが、

「クッ……!!すまん、レヴァンテイン……無茶を、させた……」

〈心配…するな……〉

強気に答えるレヴァンテインだが、本来許容できないほどの魔力を受け止め、さらにAMCで守れた分厚い装甲に叩きつけられたせいで刀身はすでに砕け散り、コアにもひびが入ってしまっている。
そして、シグナム自身も激しく消耗してしまってブリジットの前で膝をついてしまう。
だが、それでもシグナムは脂汗がにじむ顔でブリジットへ笑いかける。

「大丈夫…か……?」

「何言ってんだよ……!僕よりあんたが…」

「この程度……どうという…ことはない………騎士、だからな……」

余裕などまったく感じられない全力を尽くした後の笑み。
だが、不覚にもブリジットはその笑みに安堵の感情を抱いてしまう。
そうせずにはいられないほど、今のシグナムの顔は彼にとって安心感をもたらしてくれるものだった。
しかし、現実は残酷だ。
右腕を斬られたケンプファーはその復讐を果たすべくシグナムへと近づいてくる。

「逃げないと!!僕のことは放っておいて…」

「馬鹿を……言うな……私はお前を守ると、決めたんだ………騎士の決断は、命より重い………」

朦朧とする意識の中、シグナムはせめてブリジットだけでも守ろうと固く彼を抱きしめる。

(シグナム!早く逃げないと!!)

「アギト……お前だけでも、逃げろ……」

(いやだ!!あたしと一緒にゼストの旦那を探してくれるんだろ!!約束破んのかよ!!)

「………すまない。」

振り下ろされる刃の風切り音を聞きながら、シグナムは覚悟を決めてブリジットを抱く腕の力を強めて固く目を閉じる。
そのとき、

「ふせろ!!!!」

「!」

真上から聞こえた声に従い、反射的にブリジットごと地面に倒れ込む。
その瞬間、突風とともに何かが頭上を通り過ぎていく。
そして、ドスンと何かがすぐ横に落ちる音にシグナム達が顔を上げると、そこには群青色の腕の上で瑠璃色の光を両肩から放つ一体の天使がいた。

「ユーノ……じゃない?」

確かにユーノが乗っていたものと大まかな形は同じなのだが、カラーリングや持っている武器が大きく違っている。
何より、先程聞こえてきた声はユーノのものではない。

「ここは俺が抑える。早く逃げろ。」

「お前は一体……」

「早く行け。」

短くぶっきらぼうな言い方だが、自分たちを守ろうとしてくれている想いがそれでも色褪せることなく感じられるのはひとえにパイロットの人柄ゆえだろうか。
そんなことを考えながら、シグナムはブリジットの助けも借りてどうにか歩き出す。

「逃がすか!!」

両腕を失ってなおシグナム達を追おうとするケンプファー。
だが、その前に一振りの剣を握った青と白のMSが立ちふさがる。

「ダブルオー、新型MSを紛争幇助の対象と断定……殲滅する。」

ダブルオーガンダムのコックピットの中、刹那・F・セイエイは隣に浮かんでいるジルベルトとともに駆逐すべき対象を睨みつける。

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!」

両肩に装備されていた二基のGNドライヴを後ろにまわして猛然と突進を開始するダブルオー。
両腕を失ったケンプファーにそれを止める方法などあるはずもなく、あっさりと上半身と下半身に泣き別れて爆散した。
しかし、残っているケンプファー達がそれを見て黙っているわけがない。

「囲め!!相手は一機だけだ!!囲んで斬り刻んでしまえ!!!!」

六機の群青色の巨体が腰のGNドライヴから赤い光を放ちながらダブルオーへ次々に斬りかかる。
横薙ぎ、唐竹割、袈裟、斬り上げ。
ありとあらゆる剣閃がダブルオーをかすめていく。
だが、

「なぜだ……!!」

十回以上ビームサーベルを振るったところでようやくケンプファーのパイロットたちも異変に気付く。

「なぜ攻撃が当たらない!!」

最初はかわすだけで手一杯なのかと思ったが、すでにこちらは全員合わせればゆうに五十回以上は刃を振るっている。
にもかかわらず、相手は反撃をせずにそれを完璧にかわしきっているのだ。

「なぜだ!!なぜ……」

「ハッ……お前らの気の毒なおつむじゃ一生理解できねぇよ。」

刹那の肩の上でジルが脂汗のにじんだ顔で笑う。

「見えてんだよ……お前らのドス黒い殺意はな!!!!」

ダブルオーに上空から再び刃が迫る。
だが、ジルにはそれがはっきりと“みえていた”。

(刹那、上、左2.4度。その後は真下から一機が突き上げに来る。)

「了解。」

ジルの言葉を聞いた刹那の視界に本来なら見えるはずのない少し未来の太刀筋が空中にはっきりと描き出される。
そのギリギリにダブルオーを移動させると、次の瞬間にはそこを刃が通り過ぎていく。
そして、下から突きを放っていた一機がこちらを振り向くのが遅れたところにGNソードを真一文字に振り抜いた。

「しまっ…」

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!」

分厚い装甲が火花を上げながら真っ二つに斬り裂かれる。
腕ごと胸を袈裟がけに斬られたケンプファーは残った部分を痙攣させるようにぴくぴく動かしながら海中へと沈んで水柱を上げた。

「っ……!!はぁはぁ…………!!!!」

「ジル、大丈夫か?」

「わ…わりぃ……久々だとここらが限界みたいだ……!!」

「構わない……よく頑張った。」

『そうそう、こっから俺たちの仕事だ。』

そのまま眠りについたジルを気遣って空中で動きを止めていたダブルオーに迫っていた一機のケンプファーの頭が後方に吹き飛び、よろよろと高度を下げていく。
その一機に続いて進もうとしていた他の四機は驚いて動きを止めるが、その行為はただ自分たちを狙われやすい状態にしただけだった。

「ハロ、姿勢制御を頼むぜ!」

「任サレタ!任サレタ!」

「オーライ、そんじゃ狙わせてもらいますかぁ!!」

水中から出てきたケルディムのコックピットの中、パタパタと耳を動かすハロにニヤッと笑いかけたロックオンは再びスコープを覗きこむ。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!!」

額の狙撃用カメラアイを展開したモスグリーンと白の機体、ケルディムは海面ギリギリにとどまりながらスナイパーライフルの引き金を引く。
最初の一発は一機のケンプファーの胸部を捉えるが、持ち前の分厚い装甲に阻まれて致命傷とまではいかない。
だが、ロックオンはすぐに狙う部分を頭に変更して再びトリガーを引いて見事命中させた。

「か~!!なんて装甲してやがんだ!!普通ビーム兵器が当たって表面が剥がれるだけなんてあり得んのか!?」

『使われている材質が地球のものとは違うのかもしれない。だが、この程度ならどうにかなる。』

「オイオイ、狙撃担当の俺はどうにもなんねぇ…よっと!!」

再びケルディムから放たれた弾丸はケンプファーの腕を捉える。
相変わらずせいぜい態勢を崩す程度だったが、刹那とダブルオーにはそれだけで十分だった。

「ハァッ!!!!」

甲高い切断音を上げながら縦にGNソードを振り抜き、すぐさま横に薙いでケンプファーを四等分にする。

「て、撤退だ!!退くんだ!!」

ここにきて流石に実力の差に気付いたケンプファー達は順次撤退を開始する。
それを追おうとするダブルオーだったが、その必要はなかった。

「セラヴィー、目標を殲滅する。」

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!?」

遥か彼方から突如現れた光の柱はケンプファー達を飲み込み、澄み切った青空に三つの花火を咲かせた。

『おい、あれって……』

ロックオンは狙撃用のスコープを戻しながら呆けた顔で砲撃が飛んできた方を見る。
黒と白の機体に、水色と白でカラーリングされた艦。
一週間にも満たない日々だったが、彼らを探すことにどれだけ躍起になったことだろう。

「ティエリア、無事だったのか。」

モニターに現れた顔に刹那はホッと安堵の息を漏らす。

『そちらも無事で何よりだ。やはり君もあれに目をつけていたか。』

「あれ……まさか、お前たちも?」

『ああ。たぶん君のことだろうから、あれを見たらここに来るのではないかと思って僕たちもここに来たんだ。まさか、先を越された上にケルディムまでいるとは思っていなかったがな。』

「……すまない。」

『謝ることはないさ。』

珍しくティエリアが柔らかに笑う。

『ガンダムマイスターの使命は紛争の根絶。君はその使命に従ったまでだ。』

「……随分都合のいい使命だな。」

『臨機応変だと言ってくれ。』

その光景を見たら、ニール・ディランディはどんな顔をしただろうか。
犬猿の仲といっても過言ではなかったティエリアと刹那が笑いあっているのだ。
まぶしい笑顔で互いの無事を心から喜びあっているその姿は、まるでニールの望んだ世界の姿の縮図のようだった。

『あ~テステス……あ、繋がってる?やっほー、せっちゃん!元気してたっスか?』

ティエリアの顔が映っている画面の隅に今度はウェンディが出現する。

『刹那……!!無事でよかった……!!』

『ストラトスさんもご無事で何よりです!』

今度は涙目になっているフェルトとにっこりと笑っているミレイナの姿が、

『ま、心配はしてなかったがな。』

『嘘つけ。おやっさんは刹那が無茶してねぇかひやひやしてたくせに。』

フンと照れてそっぽを向くイアンとそれをからかうラッセ。
そして、

『よかった……!!無事だったんですねセイエイさん!!』

汗にまみれたエリオの姿に刹那は改めて全員が無事だった喜びを噛みしめる。

『悪いけど、感動している暇はないわよ。早くここから離れないと今度は管理局がやってくるわ。』

「了解。……そうだ。言い遅れたが一人紹介したいやつがいる。」

『あら、そうなの?こっちにも一人紹介しなくちゃいけない人がいるの。……まあ、基本的には良い人だからあんまり怒らないであげてね。』

「?」

遠い目で笑うスメラギに刹那は疑問を感じながらケルディムともども撤退を開始する。
その去り際、色とりどりの花火がまるで送り出すように上がっていたことはその時振り返っていた刹那しか知らない。




翌日 クラナガン

『そう、じゃあもう行くのね。』

「ああ。心配をかけてしまってすまない。これから先は連絡も取りづらくなると思うから機会があったら主はやてによろしく伝えておいてくれ。」

テレビ電話ではあるが、久しぶりにシグナムの顔を見たシャマルはホッとする。

『なんだかいろいろすっきりしたみたいね。前とは大違いよ?』

「そんなに違うか?あまり顔に出しているつもりはないのだが……」

『別に隠すことないわよ。嬉しいことがあったら嬉しい顔をする。当然のことじゃない。』

「そういうものか?」

『そういうものよ。』

クスクスと笑うシャマルに「むぅ…」と唸るシグナムだったが、建物の窓が外からコンコンと叩かれる。

「すまん、連れが呼んでいるのでここまでだ。」

『そう…じゃあ、元気でね。』

「ああ、お前とザフィーラも元気でな。」

通話の終了を知らせる音を聞く前に建物の外に出たシグナムを待っていたのはこれからともに旅をする仲間の不機嫌な顔だった。

「おっせーよシグナム!長電話は嫌われるぞ!」

「すまんすまん。用件だけ伝えたらすぐに終わらせるつもりだったんだが。」

「なんだよその主婦みたいな言い訳は!」

そう言いながら、アギトはシグナムの差し出した手の平に腰かけてにっこりと笑う。
しかし、もう一人の連れの方は不機嫌な顔でそっぽを向いたままだ。

「……約束。」

「?」

そっぽを向いていたブリジットが鋭い目つきでシグナムの方を向く。

「約束を守れよ。騎士としてふさわしくない行いをしたら、お前の命は僕が貰い受ける。」

そう言って一人だけ先に歩き出すブリジットに、シグナムは思わず笑ってしまう。

「ああ……そうしてくれ。」

今となっては、この命は自分のものではない。
目の前を歩くこの小さな命に預けた大切なものなのだ。
彼がもう一度彼自身のために歩くことができるようになるその日まで、全力で支え続けよう。

「それで、とりあえずどこに行く?」

「そうだな……騎士ゼストを探すといっても形式上はあくまでお前たちの社会復帰と更生のための奉仕活動ということになっているからな。とりあえず、最近話題になっているエイオースへでも行って手伝いでもするか。」

「なんで管理局のために働かなくちゃいけないんだよ……」

「お前はいちいち文句言うな。さて、そうと決まったら早いとこ行こう!」

奇妙な組み合わせの三人は真っ直ぐに道を進んでいく。
今も、そしてこれから先も。





三体の天使と方舟集う
なれど、翠と暁は未だ還らず




あとがき・・・・・・・という名のDVD発売万歳!

ロ「というわけでシグナム復活&トレミーメンバー合流編な第十一話でした。そして、遅ればせながら劇場版DVD発売開始!初っ端に出てきたあの笑えるソレスタルビーイングの映画が君の家で見れるぞ!」

弟「メインそこじゃねぇだろ!!俺とサバーニャの活躍を…」

蒼「ここではもうすでに乱れ撃ってるやつが何言ってんだよ。」

ティ「だが確かにあれは驚いたな。ロビンなんて見る映画間違えたかと思ったらしいしな。」

ロ「帰ってから思い出して大爆笑だったけどな。」

アギト(以降 剣精)「それはそうと次回はまたI編か……あたしらの出番が無いじゃんか!」

ロ「心配すんな。しばらくお前らが出る予定はないから。」

剣精「え?」

刹「……異世界編もしばらくは俺たちがメインになるらしい。」

剣精「ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!?ひどい!!あたしはともかく結構前から出てたのにまったく出番が無かったシグナムの立場はどうなるんだよ!!」

弟「お前、その言葉で相棒がだいぶダメージ受けてるぞ。」

シ「…………………………………………………………(泣)」

剣精「ああ!!ごめんシグナム!!そういうつもりで言ったわけじゃ……」

ロ「まあ、いいんじゃね。自宅警備が本職なわけだし。」

シ「……………………………………………………………(血涙)」

剣精「ちょお!!?もお!!この状況を打破するためにも次回予告へゴー!!!!」

ティ「カタロンの構成員となっているイノベイドを狙ってラーズが現れると読んだテリシラはカタロンの基地へ向かう。」

弟「一方、レイヴもブリュンの探知したとあるガンダムの探索を開始する。」

刹「そして、ユーノもアレルヤが収監されていた施設で手に入れた情報をもとにある場所へと向かう。」

蒼「そして、それぞれに訪れる新たな出会いとは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援などをよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」

シ「………………………………………………(血涙)」

剣精「いい加減戻ってこい!!!!」



[18122] 12.Mission of I
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/13 19:58
某都市 遊園地

その夢の始まりはいつも同じ。
菫色の髪をした母さんと赤髪をした父さんの間で私が二人と手をつないで歩いている光景。
よく家族で行った遊園地の観覧車を待っている時、母さんは私と同じように楽しそうに笑いながら、父さんは照れ臭そうに煙草を吸いながら私の頭をなでる。
そして、やっと私たちの番が来て私は二人の手を引いて乗ろうとする。
けど、

「お母さん……?お父さん……?」

二人はなぜか下を見つめたまま動こうとしない。
それどころか、周りの人たちもみんな動きを止めている。
どうしていいのかわからず、私は一人で動かない人間に囲まれているという恐怖にひたすら耐える。
そして、しばらくしてやっと母さんと父さんが動き出す。
けど、

「ダウンロード完了……これよりミッションを開始する。」

「お父さん……?」

私を置いてどこかに行こうとする二人の袖を掴もうと必死に手を伸ばす。
でも、

「うっ!!?」

(塩基配列パターン0988、人間名サクヤ・レイナード。新たなミッションに移行。記憶の削除、ならびに必要データのロード開始。)

頭の中で声がして、それと同時に今まで家族で過ごしてきた思い出にどんどん靄がかかっていく。
いやだ……母さんや父さんとの思い出が無くなるなんていやだ!!!!

「私……!!思い通りになんて………ならない!!!!」

(拒絶反応を確認。人格の消去を最優先に…)

「出てけ……!!!私の中から出ていって!!!!」

頭の中をいじりまわしてくるその声を私は強引に押し出しにかかる。
いつの間にか空は鈍色に変わり、冷たい雨が体をうちすえている。
そして、私は苦しさから手をついて、地面にできた水たまりを覗いて息をのんだ。

「なに……これ……!?」

目が光っている。
ありえない。
こんなの嘘だ。

「嘘……嘘だぁぁぁぁぁ!!!!!」

(人…の……失敗…リンク……喪失…認………同エ…ア内……………排……動を…始せよ………)

叫びと同時に声がだんだん小さくなって消えていく。
助かった……の?
ううん、考えてる暇なんてない!!
早くここから離れないと!

「お母さん!!お父さん!!早くここから逃げよう!!!!」

私は二人に駆け寄って手を掴もうとする。
けど、雨で滑って上手く掴めずにその場で転んでしまう。
その時だった。

「え……?」

さっきまで私の顔があったところを何かが鋭い音をたてて通り過ぎていく。
擦り傷で血がにじんでいる膝をかばいながら私は顔を上げる。
そこにあったのは、

「お…父さん?」

父さんの手。
けど、それが握っているものを見て私は恐怖で震え始める。
虫も殺せない性格だった父さんの手に握られていたのは、鈍色の空から降ってきた雨で自身も鈍色に輝くナイフだった。

「あ……あ……!!?」

「登録番号08165-RT702の廃棄ミッションを受諾……任務を開始……」

父さんだけではなく、母さんや周りにいた人たちも思い思いに手近にあるものをとって私に近づいてくる。
そして、

「排除する……」

「いや……!!」

なんで……?
なんで、父さんも母さんも私を殺そうとするの?
なんで、そんな冷たい眼をしているの?
こんなの……私の知ってる父さんや母さんじゃない!!

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

私はズリズリと手を滑らせながら何とか立ち上がると必死で走り始める。
けれど、父さんや母さんだったものと歩行人たちは信じられないスピードで私の後ろをぴったりとついてくる。
怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!

それまで家族で積み上げてきたものがガラガラ音をたてて崩れていく。
辛くて、苦しくて、悲しくて。
何もかも投げ出したくなってくる。
こんな思いをするくらいなら心なんていらない。
これから先、母さんや父さんがいない生活で幸せなんて感じることなんて絶対にあり得ない。
なら、こんなものいらない。
私は……ココロナンテイラナイ。




テリシラ邸

夢から覚めたサクヤはカーテンの隙間から射し込む光より、何年振りかに流していた涙のせいで目を細めてしまう。
この夢にしたって、感情を捨ててからは見ることはほとんどなくなっていた。
なのに、ここ数日で頻繁に見るようになってしまった。
おそらく、その原因は

「あ?起きた?」

フヨフヨと浮いている本を供につけ、スクランブルエッグとサラダを乗せた皿を運んできたこの男、ユーノ・スクライアだろう。

「サクヤが寝坊なんて珍しいね。」

「申し訳ありません。」

ベッドからネグリジェ姿で立ちあがったサクヤは深々と頭を下げる。
サクヤは別に意識してやったわけではないのだが、服の間から見える小さなふくらみや白い肌にユーノはそのことを指摘するわけにもいかずバツが悪そうに視線を背ける。

「すぐに食後のお茶の準備を…」

「べ、別にいいよ!たまにはサクヤも休まないと!」

「ユーノ……彼女に怒られますよ?」

「ち、ちがっ!僕は別にそういう目で見てたわけじゃ!!」

「?」

本の中から出てきたリインフォースにあたふたするユーノに首をかしげるサクヤ。
だが、そんな慌ただしい日々の始まりにサクヤは自分でも気付かずに小さな、本当に微かな微笑みを浮かべていた。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 12.Mission of I

中東

実に十年ぶりだろうか、この強烈な暑さをもたらす日差しを全身で浴びるのは。
テリシラはその名が広まり始めてから中東方面へ治療に赴くことがなくなってしまった。
もちろんそれはテレビの出演や論文の作成が忙しいというのも理由だが、最大の原因はお座なりな中東政策によって治安が悪化してしまったことだろう。
おまけに今はカタロンを潰そうと躍起になっている新政府のせいで戦闘が激化し、しばしの平穏を取り戻したところにNGOがやってきても、次の日には戦闘が再開されて退去勧告が出されるなんてこともざらだった。
もっとも、それでも残って現地の人々を助けようと尽力しようとする人間もいるが。

「そんなに危険なところなら、私とアレルヤに任せてドクターは別の人を探している方がよかったんじゃ……」

「自分に与えられた責務を放り出すことなどできんよ。それに、君たちが危険な目にあっているのに私だけ安全なところにいるなどおかしな話じゃないか。」

助手席に乗っていたマリーはそれでも納得はしていないようだったが、テリシラの筋金入りの頑固さに負けて口を閉じる。
テリシラはそれに満足すると、今度はフロントガラスにうっすらと映ったアレルヤの顔に視線を移す。
眉間にははっきりとしたしわが浮かんでおり、彼の心が不安や困惑で大きく揺れていることが手に取るようにわかる。
その理由はおそらく、マリーがここへ同行することに仕方なくOKを出してしまったこと。
そして、

「砂漠は嫌いかね?」

テリシラの言葉にアレルヤの方がピクリと動く。
その反応にテリシラは「やはりか…」と小さくため息をつく。

「タクラマカンでのミッションは私もデータを閲覧させてもらった。君たちはあの時の最善の策をとってああいった結果になってしまったんだ。仕方ないさ。」

「頭ではわかっているんですけどね……でも、あの時僕らがもっと上手くやっていればスローネの暴走を多少なりとも抑えられたんじゃないかと思うと、どうしても後悔の方が強くなってしまうんです。」

苦笑するアレルヤを、テリシラはまるで赤子のようだと思ってしまう。
ユーノもそうだが、彼らは純粋で、強い決意を胸に秘めながらもほんの少しの出来事で心が大きく揺らいでしまう。
しかし、時に危うさを感じさせるその純粋さがあるからこそガンダムという強大な力に驕ることが無いのかもしれない。

「それに、僕が心配なのはそのことじゃないんです。」

あごに手を当ててただ一人思考の海に浸っていたテリシラはアレルヤの声に反射的に顔を上げる。

「ユーノを一人で残してきてよかったのかなって思っちゃって……その、ユーノはあんまりサクヤと上手くいってないみたいだったから……」

確かに、ユーノはサクヤのことを気にかけてよくコミュニケーションを取ろうとしていたが、サクヤの方はいつも無反応で受け答えをして、話自体もかなり短めで終了してしまっていた。
だが、テリシラはそのことを全く心配していなかった。

「そのことなら大丈夫だ。」

「?」

「ユーノはただサクヤに笑ってほしいだけなのさ。別に上手くいっていないわけじゃない。」

「でも、彼女は…」

「それに、ユーノの最大の長所は誰にでも好かれやすいということだ。彼は自分でも気付かないうちに周りに人を引き寄せて、その心を掴んでしまう。それは君たちもよく知っているだろう?」

「まあ、確かに……」

ただ、生来の鈍さから短所に変わってしまうこともあるが。

「ん?何か言ったかね?」

「い、いえ……けど、コミュニケーションを取れる云々以前に、サクヤのあの感情の希薄さはさすがに異常ですよ。」

「何か理由があるんじゃないですか?」

アレルヤとマリーのその問いにテリシラは上を向いて話すべきかどうか思案するが、フゥと息を吐いて前を見る。

「サクヤは……自分の両親に殺されかけたんだ。」





テリシラ邸

「どういうことですか?」

リインフォースは大きなリュックに荷物を詰め込んでいるレイヴを手伝いながら問いかける。

「僕とドクターもサクヤから聞いた話から状況を推測した程度なんだけど……サクヤには家族がいて……もちろん、ご両親もイノベイドだったんだけど、ある日新しいミッションを行うためにヴェーダからリセットを受けることになったらしいんだ。だけど、その時サクヤだけは自分からヴェーダとのリンクを切断することでリセットを免れたんだ。」

「なら、問題はなかったのでは?」

「そうはいかないさ。ヴェーダからしてみればリンク機能を失ったイノベイドは不良品。そのまま放置しておけばイノベイドの存在が公になってしまうかもしれない。だから……」

「ヴェーダは、彼女を処分することにした……」

レイヴは唇を噛みながらゆっくりとうなずく。

「その場にいた両親に襲われ、そこから命からがら逃げ出した後も他のイノベイドから命を狙われる日々を送ったらしい。よほど、辛い思いをしたんだろうね。そんな生活をしていた彼女は苦しみを少しでも和らげるために感情を捨ててしまって、僕とドクターが保護した後も笑いもしなければ、怒ったり泣いたりもしない。そんな彼女を見ていると、僕らまでつらかったよ。……でもね。」

レイヴはニッコリと笑う。

「ユーノさんが来てから、サクヤは少しずつだけど変わりつつあると思う。」

その言葉に、リインフォースもフッと優しく笑う。

「ユーノは月のような人ですから。」

「月?」

「どんなに暗い夜道でも、空高く大地を見守り、温かな光で明るく照らして迷っている人々を導いてくれる……そんな人ですから。」

「ああ、それなんとなくわかるなぁ……ユーノさんといると何となくホッとできて、また明日も頑張ろうって思えるんだよね。……たまに悪ふざけが過ぎることがあるのがたまに傷だけど。」

「あと、少し鈍感なところも。」

そう言って苦笑するレイヴとリインフォース。
ユーノがサクヤの凍りついてしまった心を溶かしてくれるという確信があるからこそのこの笑顔。
ユーノは無意識のうちに、癒そうとしている人間以外の心すらも和ませているのかもしれない。

「よし、準備完了。」

そうこうしているうちに荷物もまとめ終わり、レイヴは大きく膨らんだリュックの重みと固さを感じながら背中にまわす。

「本当に行くのですか?」

「うん。僕らもMSで戦闘しないって保証はないからね。ガンダムが手に入るかもしれないのなら行かない手はないよ。それに……」

「それに?」

「……ううん。なんでもない。」

自分でない自分がブリュンの送ってくれたイメージのガンダムで戦っている夢を見た。
そんなことを言ってリインフォースをこれ以上心配させるのはレイヴも本意ではない。

「それじゃ行ってくるよ。みんなによろしく。」

「わかりました。」

手を振りながら見送るリインフォースの視線を受けながら、レイヴは自分の真実を探す旅に出た。





地下

(やはり……レイヴはガンダムを探すみたいです。)

「そっか。」

その知らせを聞いたユーノは薄暗い地下室の掃除を終えるとブリュンの前まで椅子を引きずっていって背もたれに顎をのせるように座る。
別に疲れたからそうしたわけではなく、むしろ理由はその逆だった。
居候をしているからには家事くらいはしようと思ったのだが、料理以外はそのほとんどをロボットが行っているし、普段はサクヤがロボットの行えない作業をやってしまうためユーノの出番は無きに等しいのだ。

「はぁ……学校の図書室から借りてきた本は全部読んじゃったし、これからどうするかな~……」

(?ユーノさんもどこかに出かけるつもりじゃなかったんですか?)

「うん、そのつもりだったんだけどね。」

ユーノは苦笑しながら視線を上へ向ける。

「レイヴがいなくなって僕もいなくなったらサクヤとリインフォースだけだからね。彼女たちを二人きりにしておく勇気は僕にはない。」

(杞憂では?)

「だといいんだけど。」

そう言いながらユーノがポケットから取り出したのは一本のメモリー。
アレルヤを救出するときに一緒に手に入れたもので、そのほとんどが収監されている人間や、定時連絡といった他愛ない情報ばかりなのだが、これに記録されているあるものにユーノは着目していた。

「アロウズの支援者からの通信…」

アロウズからの連絡ならわかるが、その支援者からの連絡というのは妙だ。
しかも、その通信の内容は全て消されているうえに相手の素性を知ることができないというのがまた怪しい。

(ユーノさんは、それがリボンズ・アルマーク本人、もしくは彼に与するイノベイドからのものだと?)

「そっちもありえるけど、僕はどっちかっていうともう一つの可能性の方が濃厚だと思ってる。」

(もう一つの可能性?)

「なあに、身内のごたごただよ。」

ブリュンに笑いかけるユーノだったが、この場に彼がいなければさぞ懐疑心に満ちた表情をしていただろう。
――王留美
昔からどう努力しても気を許すことができなかった彼女からの情報に載っていた収監されている人間のリストと自分が手に入れたリストは全く同一のもの。
もちろん単なる偶然と考えるのが妥当だし、もし留美が向こう側の人間だとしたら自分たちにこの情報を流すメリットはなんなのか。

(けど、彼女は間違いなく何かを隠している。ここに行けばそれが何かわかるかもしれない……)

端末にメモリーを突き刺して表示したのは“どこかの誰か”が通信をしてきた場所。
幸い地上の、それもよく知っている場所だから行こうと思えば行ける。
だが、

「やっぱり無理だよなぁ……」

今のサクヤやリインフォースを放ってはおけない。
サクヤは最近になってようやく打ち解けて(?)きたし、リインフォースもまたはやてに会えるかと不安に思う時があるようだからできることなら付きっきりでいてあげたい。

「私たちはあなたが思ってるほど弱くはありませんよ?」

「それはわかってるつもりだけどさぁ、それでも心配なものは心配でしょ……って、いつからそこにいたの?」

ユーノは背もたれに顔を乗せたままで後ろにいる二つの気配に対して問いかける。

(すいません……ブリュンが呼びました。やっぱり、こういう話は本人たちでした方がいいんじゃないかと思って……)

椅子に固定されたままのブリュンから申し訳なさそうな念話が届く。
謝るくらいなら最初から呼ばないでほしいと思ったユーノだったが、呼んでしまったものは仕方ない。

「まあ、そういうことだから。今度ドクターかレイヴが帰ってきたときにでも行ってみるから別にかまわないよ。」

「そんなに気を使われたらこっちがかまいます。」

リインフォースは床の上をするすると滑るようにユーノとブリュンの間へと進んで不機嫌な顔で睨みつける。
ユーノは視線を外そうと横を見るが、そこにはポーカーフェイスのサクヤが待ち構えていた。

「ユーノ。私からひとつお願いがあるのですが。」

「?」

「私があなたの用事に付き合うことを許可してほしいのです。」

「は?」

何か言われるとは思っていたが、予想の斜め上を行くその頼みにユーノは一瞬呆けるが、すぐに首を激しく横に振る。

「駄目駄目駄目駄目駄目!!!!!そんな危ないこと…」

「ならばなおさら私がついていくべきなのでは?一人よりも二人の方がより安全だと思いますが?」

「でも、ブリュンの世話は…」

(ブリュンのことはそんなに心配いりません。)

「それに、私もできる限りサポートはします。」

三人でユーノを論理の袋小路へと追い込んでいく。
そして、遂に反論のネタが尽きたユーノはギブアップを宣言した。

「わかったよ……ただし、何かあったらすぐに僕、ドクター、レイヴの中の誰かに連絡すること。いいね。」

(はい。)

「はぁ……どうして僕の周りにはわからず屋ばっかり集まるんだ……」

渾身のため息とともにユーノが見つめる端末にははっきりと『天柱』の二文字が記されていた。





中東 カタロン基地

「ようこそ、ドクター。国境なき医師団の協力を得られて感謝しています。」

「いえ。組織、思想に関係なく医療行為を行う。それが我々の基本方針ですから。」

テリシラ達は砂漠の奥深く、巨大な岩の壁が乱立している場所へとやってきていた。
その岩の一つに隠されていた基地の一つは外見からは予想できないほど広いのだが、なかにいる人影はかなりまばらでカタロンが慢性的な人員不足にあることがはっきりとわかった。

「あんな幼い子もいるんだな……」

「ああ見えても彼女は優秀なコンピューター技師なんですよ。ちょっとドジなところもありますけどね。」

「へぇ、そうなんで……!!」

振り向いた彼女の顔を見た瞬間、アレルヤは絶句する。
薄い青の髪をした幼い顔に、それに不釣り合いな大人びた視線を見間違えるはずがない。

(アレルヤ、あの子……)

(ああ。たぶん、874と同タイプのイノベイドだ。)

じっと興味深そうにこちらを見つめるその視線にさらされていると、自分たちの心を覗かれている錯覚すら覚える。
だが、それはとんでもない思いすごしだった。

「ハーミヤ、これをトレーラーに…」

「はい……え!?」

「いてぇっ!!?」

ハーミヤと呼ばれたその少女が古めかしいキーボードを持っていたことを忘れて振り向いたせいで、隣に立っていた男の向う脛にその角がクリーンヒットする。

「あっひぃぃぃん!!?ごめんなさ……きゃああぁぁぁぁぁぁ!!?」

慌てて頭を下げながら後ずさるが、今度は後ろにあったテーブルを倒してその上に置かれていた機械類を辺りにぶちまけてしまう。

「…………い、いこうか、マリー。」

「そ、そうね……」

一足先に治療を待っている人間が待機していた部屋に向かったテリシラを追うように二人もその場から離れる。
だが、そこについてみると今度はテリシラが汗をだらだら流しながらつっ立っている。

「?ドクター、どうしました?」

「……あれだ。」

「あれ?」

アレルヤとマリーもテリシラが視線を向けている方を見てみる。
すると、

「「!!」」

偶然というのは恐ろしいものだ。
874と同タイプのイノベイド(?)を見つけたかと思うと、今度はテリシラと同じ顔をした女性がこちらを睨んでいる。

「なんだ?あたしの顔になんかついてんのか?」

「い、いや…」

戦いのさなかにいるせいか、乱暴な口調とお世辞にも親しみやすいとはいえない目つきで近づいてくる彼女に三人、とくにテリシラはハラハラしながら顔をそらす。
その動きを不審に思ったのか、彼女はサングラスで目元を隠したテリシラの顔をじっと覗きこむ。

「……あんた、どこかで会ったっけ?」

「キ、キノセイジャナイデスカ?」

上ずった声を上げながらテリシラから女性を引き離したアレルヤだったが、それでも疑惑のこもった視線を向けてくる。

(ド、ドクター……)

(だ、大丈夫だ……!いざという時は生き別れの兄妹ということにする!)

(それ信じる人間いるんですか!?)

ひきつった笑みでこそこそと話す三人に対して周りも何かおかしいということに気付き始める。
だが、

「そこまでにしておけ、スルー。」

濃いブラウンの短髪に欧米人の特徴である澄み切った白い肌をした男性が腕を組んだまま仲間のぶしつけな態度をいさめる。
テリシラ達からしてみれば助かった、と言いたいところなのだが、それよりも正面を向いた彼の顔を見てはっと息をのんだ。
青い右目と対を為すはずの左目には黒い眼帯がかけられている。
つけている眼帯の汚れ具合からしても、それはここ最近傷を負ったからつけたものではなく昔からその状態であることが分かる。

「けどさぁ、レイ。な~んかドクターの顔ってどっかで見たことあんだよね。」

「テレビに出ているものでも見たんだろう。それより、俺としては早いところドクターに仲間の治療を始めてほしいんだがな。」

「あ、ああ……それはもちろん……」

テリシラは負傷している人間の方へ歩いていこうとする。
そこに、レイと呼ばれた男がテリシラの方を見ずに言葉を放つ。

「ちなみに俺には治療はいらない。この左目は随分前に潰れてもう手遅れだからな。」

眼帯の男、レイ・フライハイトはテリシラに詰め寄ってきた女性、スルー・スルーズの腕を強引に掴むとテリシラからの返事も聞かずにその場を離れる。

「悪いな、ドクター。少し気難しいが、二人ともいい奴なんだ。許してやってくれ。」

「いや、こちらも失礼だった。後で謝らせてくれ。」

苦笑しながら治療に当たるテリシラとアレルヤ達。
しかし、ラーズのターゲットも含め、三人ものイノベイドが集中していることに不安を感じずにはいられない。

(こりゃあ一悶着あるかもなぁ……楽しみだよなぁ、アレルヤ……)

「え!?」

「どうしたの、アレルヤ?」

驚いて立ち上がるアレルヤを、さらに驚いた顔で見上げるテリシラとマリー。
だが、すぐにアレルヤは表情を取り繕うと屈んで治療の手伝いを再開する。

「なんでもないよ。ちょっと空耳がね……」

「空耳?」

「そう、空耳。」

そのはずだ、とアレルヤは自分に言い聞かせる。
四年前のあの日から、彼の声を聞いたことは一度もないのだから。

(ハレルヤ……なんでいまさら思い出させるのさ。)

この世にはいないはずのもう一人の自分への言葉を呟きながら、アレルヤは彼と彼との記憶を頭の片隅へと追いやった。





翌日 天柱 地上ターミナル

(本当についてきちゃったよ……)

人込みの隙間へ的確に入り込みながらしっかりとついてくるサクヤ。
頭痛を感じながらユーノはどんどん前に進んでいくが、それでもしっかりついてくるサクヤのせいでさらに疲れが押し寄せてくる気がする。
しかし、疲れの理由はそれだけではない。
どうにもきな臭いのだ。

「普通こんな人目につくとこで通信をするかなぁ?」

「しかし、履歴には確かにここからだと記録されていますが。」

「それはそうなんだけど……あ、すいません……」

「いえ、こちらこそ。」

こんな風に限られた空間を無制限の道行く人間であふれかえっている場所で通信をすれば誰か気付きそうなものだが。
そう思いながら二人は進んでいくが、さっきぶつかった人物が何かを思い出したように近づいてくる。

「すいません。」

「どうかしましたか?」

「いえ、さっき何か落としたみたいですよ。」

「御親切にありがとうございます。」

ぶつかった時は気にしなかったが、よく見るとかなりおかしな格好をしている。
ハンチング帽を眼深にかぶり、髪が一切見えないどころか表情をまともに読むのも難しい。
声のトーンが高く、茶色のコートを羽織った体はユーノより少し低いくらことからかなり若いようだ。

「それで、落としたものっていうのは…」

「ああ、すいません。落し物じゃなかったです。」

「?」

「……君はこれから命を落とすのさ。」

〈Icing nova〉

「!!!!!!」

急に冷徹なものに変わった少年の声にユーノは咄嗟にプロテクションを前面に展開する。
その瞬間、周囲にいた歩行人たちは悲鳴を上げることもできずに吹き飛ばされていく。
いや、それだけではない。
爆心地を中心に床一面が凍りついて場所によっては床と天井が氷柱で繋がってしまっている。

「あ~あ……前も言ったろう、ガルム。僕は不慣れだから少し抑えてくれって。」

〈Sorry,Regene.〉

「まあ、いいや。それより、あいつはどうなったかな?」

急激に温度の下がった大気から発生した白い靄のせいで攻撃を直撃させた相手すらも見失った少年は余裕を持ってあたりを見渡す。
その時、

〈Assault Bunker〉

真横からミクロの氷を纏いながらユーノが飛び出してくる。
その右腕に装着されたアームドシールドのバンカーが今にも炸裂しそうに翠の魔力光を撒き散らすが、突如出現した氷の壁が少年の代わりにバンカーを受けて粉砕された。

「チッ……!」

「フゥ……今のは少し危なかったかな?」

ふわりと浮かびながら距離をとった少年の頭から帽子が落ちる。
その顔があらわになった瞬間、ユーノは驚きで目を見開くと同時に激しく歯ぎしりをする。

「さて、僕は君をよく知っているんだけど、とりあえず初めましてかな?僕の名前はリジェネ・レジェッタ。この姿を見れば僕がどういう存在かなんて説明はいらないよね。」

「イノベイド……!!」

紫の髪がややカール気味なことを除けばほとんどサクヤとティエリアにその姿が変わらないリジェネにユーノはその視線だけで射殺さんばかりの鋭い眼光をぶつける。
その理由は、彼が仲間たちと同じ姿をしているからではない。

「……なぜこんなところで非殺傷設定を解いた?」

悲鳴と警備員の怒号を背に浴びながら、ユーノは震える声で問いかける。
これだけの大出力の魔法を殺傷設定で、しかもこれだけ人が密集している場所で放てばどうなるかなどわかりきっている。
サクヤが巻き込まれた人たちに応急処置をして回っているが、すでにこときれているものがほとんどだ。
その事実は、リジェネがなぜ魔法を使っているのかという考えをユーノに与えず、ただ燃えたぎる怒りのみを提供していく。

そんなユーノに対し、リジェネは酷薄な笑みを浮かべて答える。

「愚問だね。君を殺すために決まっているじゃないか。もし、民間人が巻き込まれたのを怒っているのなら、あんなダミーに引っかかってこんなところまで来た自分を怒りなよ。」

あの情報がダミーだった。
それはいい。
自分のせいであることも認めよう。
だが、それを差し引いても許せるわけが無い。

「ふざけるな!!!!」

アームドシールドを回転させて鋭い刃でリジェネに斬りかかるが、リジェネはそれを腰から抜いた紫の刃で受け止める。
ユーノはかまわずにリジェネを押しきろうとするが、その瞬間にガルムと呼ばれたデバイスがリジェネの体を白と黒のパイロットスーツを模したバリアジャケットを展開して白いものをあちこちから噴出させ始める。

「っ!?」

〈Cocytus Ivy〉

蔦の様に絡みついてきた冷気は徐々にユーノの関節部分を氷で固めて自由を奪っていく。

「サクヤ!!」

ユーノはリジェネを蹴り飛ばして距離をとると負傷者の治療をしていたサクヤへ叫ぶ。

「僕はこいつの相手をする!!君もすぐにここを離れろ!!」

「わかりました。」

「そういうわけにはいかないな……」

〈Killer Hail〉

外から降り注ぐ凍てつく弾丸がユーノを次々とかすめていく。
その向こうから現れたリジェネはユーノに向けた憎悪の笑みとは違い、愛おしさすら含んだ穏やかな笑みでサクヤへと近づいていく。

「来ないでください。」

「怖がらなくていい……僕は君を迎えに来たんだ。」

「こ……来ないで……!!」

最初こそいつものように抑揚のない言葉で対処しようとしていたサクヤだったが、リジェネの接近に伴って徐々に無表情から恐怖の顔へ、そして声は震え始める。

「運命を受け入れるんだ……君はイノベイド……人間なんて劣等種のことなんて気にすることはない……」

「いや……いや……!!」

迫りくるリジェネがあの時の両親の姿にだぶる。
恐怖で動くことができない。

「サクヤ!!!!」

ユーノは体のあちこちが凍らされたままの状態でなんとかサクヤへ近づこうとするが、その間にもリジェネは虹彩を金色に輝かせながら着実に距離を縮めていく。

「フフフ……君は後でゆっくり氷漬けにしてあげるよ。まずはその前に彼女を……」

「させるか!!!!」

有効かどうか定かではないせいで一瞬ためらうが、ユーノは足元に発生させた魔法陣にリジェネを飲み込む。

「これは……!?」

リジェネは慌てて円の外へ出ようとするが、それよりも効果の発生の方が早かった。
それまでリジェネを覆っていたバリアジャケットと大きな銃身は消え、ユーノの体を覆っていた氷も少しずつではあるが消えていく。

「クソ!!」

(ここまでは予想範囲内……問題は、これからだ!)

悔しがるリジェネをよそに、ユーノはさらに意識を集中させる。
そして、

「グ!?」

突然リジェネは頭を押さえてその場に倒れ込んで七転八倒の苦しみようを見せる。

「グ…ああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「どうやら……イノベイドとやらは優秀な分この手の干渉には脆いみたいだね。」

「貴…様……!!!!」

リジェネは苦しみの中、憎悪に満ちた顔で睨みつけてくるが、ユーノもそんなことに気を割く余裕はない。

(さすがに……魔法や機械みたいにはいかないか……!)

今、ユーノがコントロールしているのは脳量子波。
テリシラの話ではイノベイドには個体によってそれぞれ異なる脳量子波を使ってヴェーダ、もしくは他のイノベイドと通信を行うらしいのだが、ユーノはその際に使われる脳量子波を乱すことで封じてやればリジェネの能力を半減させられると考えたのだ。
もっとも、魔法や機械類のようにスイスイというわけにはいかないが。

「よくも……!!」

「僕を殺そうとするのはともかく、サクヤに手を出すのはやめておいた方が賢明だよ。もう一度脳量子波を使えば今度は脳を完全に破壊する。」

はったりだ。
そこまでのことはできない。
だが、それでもさっきまでの激痛がよほど後を引いているのかリジェネは警戒してなかなか動こうとしない。
しかし、もしはったりだとばれたら。
あの重い負担の中、いつまで耐えられるかわからない術式を継続させなくてはならなくなったら。
考えただけでゾッとする。

「さっさと消えろ。命まで取ろうと思わない。(頼む…気付いてくれるなよ……)」

「フン、脳量子波を封じたくらいでずいぶん嬉しそうだね。(マズイ……ティエリアがいないからせめてサクヤ・レイナードだけでもと思ったんだけど……)」

互いにうかつな行動をできない中、警備員や連邦の兵士たちのものと思わしき足音が煙の向こうから近づいてくる。

「どうする?このままじゃ君も都合が悪いだろう?」

「だから?そんなことを理由に僕がサクヤを君に渡すとでも?」

「この状況では荷物が少ない方がいいだろう?」

いちいちもっともだが、それでもユーノは譲るつもりはなかった。

「あいにくと重荷なら定員オーバー以上背負い込んでるんだ。いまさら一つや二つ増えたってどうってことないよ。」

(こいつ……!!)

食いしばった歯を見せて笑うユーノと確実に近づいてくる足音に鼓動を早まっていくのを感じるリジェネ。
だが、ユーノも強がりでも笑っていられる状況がもう長続きしないことはわかっていた。

(どうするかな……)

ユーノがサクヤへ視線をやりながら考えを巡らせようとしたその時、

「ユーノ!!!!」

「「「!!」」」

その声に三人は一斉に自分がいた場所から跳ぶ。
リジェネは声と反対側へ。
ユーノとサクヤは声のした方へ。
そして、それまで聞こえていた警備員たちの怒号は驚愕の声へと変わって離れていく。
それに代わり、今度は澄んだ風のような独特の音を奏でていた機体が煙を吹き飛ばしながら現れた。

「クルセイド!ということは…」

「すまない、遅れた。」

「いやいや!ナイスタイミング!」

クルセイドから聞こえてくる967の声に安堵の息をつくとユーノはサクヤを両腕で抱き上げて開いたコックピットへと滑りこむ。

「女連れとはいい御身分だな。」

「そんないいもんじゃないって。それより、敵は?」

「何機か墜としてきたがジンクスが二機ほど追ってきている。」

ユーノはパイロットスーツに着替えもせずに操縦桿を握ってペダルを踏み込む。
いつもは半減している衝撃が直に伝わってしまい少し顔を歪めるが、空へと飛びたった瞬間にすぐ近くまで来ていた正規軍のジンクスの一機の腕を一刀両断して蹴り落とす。

「それで、僕たちを助けに来るのだけが目的じゃないんだ……ろっ!!」

迫っていたもう一機の刃をゆるく高度を下げてかわしたクルセイドの中でユーノが叫ぶ。

「ああ。どうにもアレルヤ達が厄介なことになっているみたいなんでな。」

敵の攻撃をGNフィールドで防ぎながら967はいつものようにあっさりと答える。

「なるほどね。それじゃ、早いところ行こうか。」

腰から抜いたシールドバスターライフルで頭を吹き飛ばすとユーノはそのままクルセイドを海中へと沈めていく。

その様子を上空から見ていたリジェネは端整な顔を怒りで歪める。

(挨拶は済んだかい?)

突然聞こえてきたリボンズの声にさらに怒りを募らせるが、すぐに爽やかな笑みを浮かべる。

(ああ、十分すぎるほどにね。でも、君が欲しがるわけは結局わからずじまいだったけど。)

(フフフ……そういうことにしておいてあげるよ。)

リボンズからの言葉が消えると同時にリジェネは不機嫌な顔でその場を後にする。

(認めない……!!お前なんかが僕なんかより優れているなんて!!)






中東

ユーノがリジェネと対峙しているころ、テリシラ達は夜に行われた作戦の帰路で一息ついていた。

「随分と操縦が上手いようだな。」

テリシラは汗を拭いていたスルーにコーヒーの入ったカップを渡しながら話しかける。

「MSのことか?それなら当たり前さ。小さい頃から乗っているからね。」

スルーは渇いた喉へ熱い液体を流しながら不機嫌な顔で答える。

「……戦わなけりゃ生き残れなかったからね。」

確かに彼女の操縦には舌を巻くところがいくつもあった。
それがイノベイド故なのか、それとも彼女の言うように本当に昔からMSに乗っていたからなのかは定かではないが。

「……俺たちが戦うことがそんなに不思議なことか?」

スルーの言葉に続いてレイが隻眼をテリシラへと向ける。

「戦うから連邦も黙っちゃいないんじゃないのか?」

「ハッ!わかっちゃいないね。連邦は非武装の相手だろうと邪魔なら攻撃してくる。こっちはあくまで正当防衛さ。」

「ああ。戦わなければ生き残れない……俺はこの左目を代償にそのことを学ばされたよ。」

「しかし、先程の戦闘で負傷者も双方に出たろうに……」

「あの、ドクターさん。」

それまで全員にコーヒーを淹れていたハーミヤがテリシラの袖を引っ張る。

「あの基地は中東とヨーロッパの双方への中継基地でした。あそこにダメージを与えれば両方の基地への武力配備が遅れます。つまり、ひいては戦いを避けることになるんです。これってステキだと思いませんか♪」

「いや、だからと言ってだな……」

「「…………………」」

「?どうした?あんたらさっきから話に全然参加しないじゃないか。」

スルーから言葉をかけられたアレルヤとマリーはびくりと体を震わせる。

「なんかあったのか?」

「い、いや……別に……」

バツが悪そうに視線を外すアレルヤ。
スルーはその態度にムッとするが、それも仕方ないだろう。
言うなればスルーたちがあえぎ苦しむ原因の一部はアレルヤ達ガンダムマイスターにもあるのだから。

そして、マリーも連邦軍兵士の一人として彼女たちと戦っていた。
先程の話を聞いて罪悪感を感じないはずがない。

「…本当に、大変だったんだなって思って……」

「あんたらはドクターと同じ意見なんじゃないの?」

「私たちはそんなことが言える立場じゃないから……」

「ふーん…。ところでさ。」

スルーは話しも中ほどにテリシラに詰め寄る。

「あんたさ、やっぱり見たことある顔だよね。」

「いや……」

顔をそらしてスルーの視線を避けるが、それでもスルーはしつこくサングラスの奥まで覗き込もうとしてくる。
その時、

「ブラッドさん、おかわりどうぞ……あちゃっ!!」

「うあちゃっ!!!おい!ハーミヤ!!」

今回の保護の対象であるブラッドの腹部にハーミヤが持ち前のドジさでコーヒーをひっかけてしまう。
全員が「なんだ……」と安堵するが、そんなものとは比べ物にならない危機がブラッドを襲う。

「グアッ!!?」

「あひゃ!?」

鈍い銃声と同時にブラッドとハーミヤはその場に倒れる。
だが、ハーミヤが無傷なのに対しブラッドは苦しそうに肩にできた銃創を押さえる。

(来たかラーズ!!)

再び銃声があたりに響き、今度はブラッドの脚から赤い飛沫があがる。

「ブラッド!!」

「あいつか!!」

スルーとレイは銃を抜いて緩やかな崖を滑り下りてくる影に向けて発砲しようとする。
だが、

「うっ!!」

「うあっ!!」

「手を上げて離れてもらおうか。そいつは人間ではない存在だ。」

銀髪の長い髪を揺らしながら、失った左目をケーブルで狙撃銃のスコープとつないだラーズが近づいてくる。
威圧感の漂うその風貌に並みの者ならば大人しく引き下がったのだろうが、今回の相手は違った。

「医者として患者を見殺しにはできん。」

「ドクター!!」

マリーが慌ててテリシラをかばうようにラーズとの間に割ってはいるが、ラーズは特に怒るわけでもなくある程度距離を保ったままスコープ越しにブラッドを狙っている。
そして、冷たく言い放った。

「似非人は生きている価値などない。」

ラーズの行動理念であり、百年近く経とうと生き続けてきた理由そのものだ。
だが、その言葉がテリシラの逆鱗に触れた。

「価値のない命などあるものか!!!!」

医者としての自分を否定するその言葉が許せなかったテリシラは激しい口調でラーズを怒鳴りつける。
だが、それはこの状況では逆効果だったようだ。

「ならばどけっ!!!!己の命を守るがいい!!!!」

「「クッ!!!!」」

激情に任せて弾丸が放たれる前に、テリシラとアレルヤはほぼ同時に動き出していた。
そして、ブラッドをかばってその身に弾丸を受けたのは、

「うあっ!!!!」

「アレルヤ!!!!」

絹を裂くような声をあげながらマリーはピクリとも動かないアレルヤへと駆け寄る。
銃を発砲したラーズはというと動揺から銃を下げて、カタカタと震えている。

「なぜだ……!?私に人を傷つけさせるな……!!」

震える声でそう言い残すと背を向けて去っていくが、テリシラ達はそんなことなど構わずアレルヤの傷の具合を確かめる。

「アレルヤ!!!!アレルヤ!!!!」

「心配するな!!防弾チョッキは貫通していない!!」

しかし、それにしてはやけに気を失っている時間が長いと不審に思うテリシラだったが、そんな心配をよそに突然カッと目を見開いたアレルヤはスクッと立ち上がる。

「アレルヤ!!よかった!!本当によかった!!!!」

「たくっ!!むちゃすんじゃ…」

「……あの野郎は?」

「え?」

その時になって、ようやく全員アレルヤの異変に気付いた。
先程までの温厚な笑みはなりをひそめ、鋭く凶暴な眼光と荒々しい口調でまわりにピリピリとした緊張感をばらまく。

「オイ、メスガキ。」

「あひゃ!?」

「お、おい!?なにすんだよ!!」

スルーが止めるのも気にせずアレルヤ(?)はハーミヤの胸倉を掴んで顔の高さまで持ち上げる。

「あのクソ野郎はどこに逃げた?とっとと答えないとテメェから殺すぞ?」

「何をしてるんだアレルヤ!?早くハーミヤを…」

「うるせぇぞヤブ医者ぁ!!俺は寝起きが悪いんだ……口答えばっかしてっとミンチにすんぞ!!?」

「う……!!かはっ…!!」

「わ、わかった!!言うからまずハーミヤを…」

「口答えすんなつったろ!!あのクソ野郎の前にテメェらから先に…」

アレルヤ(?)が銃を抜いてテリシラにつきつけようとするが、その手をマリーが止める。

「あなた……ハレルヤね。」

「!!」

「あひゃっ!!」

テリシラは驚きのあまり尻から落下したハーミヤのことも忘れてまじまじと二人の顔を見比べる。

「フン……動けるようになったら今度は名前つける以外のお節介まで焼くのかよ、マリー。」

「あの人が行った場所なら教えるから、この人たちには乱暴をしないで。」

「……チッ!」

ハレルヤはおもしろくなさそうにそっぽを向くと銃をしまう。
それを見ていたスルーとレイもホッと緊張感を緩めるが、テリシラだけは気を緩めない。

「ラーズを追ってどうする気だ?」

「決まってんだろ……俺を撃ったことを後悔させながら地獄に送ってやるのさ。」

「待て!そんなことは…」

「マリー、奴はどこに行った?」

「あ、あっちに…」

テリシラの制止も聞かずにハレルヤはマリーが指さした方へと猛然と駆けていく。

「ま、待て!!」

「テメェは“妹”といっしょに大人しく待ってな!!ハハハハハハ!!!!」

「妹……?」

なんのことかと首をかしげるが、その時になってようやくテリシラは顔にあるはずの感触が無いことに気付く。

「ド、ドクター……」

マリーがおずおずとサングラスを差し出す。
どうやらあの騒ぎの合間に落としてマリーが拾ってくれていたようだが、すでにそれは意味を為さないものになっていた。
テリシラの顔を見ながらレイ、ハーミヤ、そしてスルーが目を白黒させながらテリシラの顔を凝視する。

「あ、あんた……」

「同じ顔……」

「……どういうことだ?」

「え、え~と……」




この後、不覚にもテリシラはハレルヤの残していった言葉に感謝することとなった。




孤島

体によってくる羽虫を払いのけながらレイヴはうっそうと茂る気や蔦の間を進んでいく。
一介の学生に過ぎないレイヴがこんなところに一人でいたらさぞかし心細いだろうと思うだろうが、その心配は無用だ。

(ブリュン、現在地の確認を頼む。)

(レイヴの脳量子波の位置を確認。ガンダムから発信されている脳量子波の方向へ向かっています。そのまま進んでください。)

ここにはいない幼い仲間の言葉にレイヴはクスリと笑みを漏らす。

(助かったよ。君の能力が無かったら今頃迷子だ。いや、その前にガンダムの存在すら気付かなかっただろう。)

(お役にたててうれしいです。ブリュンの能力は脳量子波を使う者同士を強力につなぐことができますから。)

(それに引き替え、僕は写真とかの映像からしか仲間を見分けられない。ヴェーダがどうしてそんな能力にしたのか不思議だよ。)

自嘲気味につぶやくレイヴ。
もちろん、今のままでも十分にすごい能力なのだが、どうせなら直接見てわかるぐらいのことをしてくれてもよかったのではないかと不満に思ってしまう。

(その理由はわかりませんが、レイヴの能力の仕組みは説明できます。)

(え?)

(ヴェーダはイノベイドが見たものやネットワークに流れた情報すべてに『タグ』を埋め込んでいます。一般のイノベイドはその『タグ』を認識できませんが、ブリュンは脳量子波を強めた時なら『タグ』があることがわかります。でも、解読はできません。ですが、レイヴは無意識に『タグ』から仲間を認識できるのでしょう。)

(つまり、多くの情報の中から仲間の項目だけわかるということだね。)

顔を蔓の間に押し込んで、広がった隙間に体も押し込んでどうにかひらけた場所まで出たレイヴは手近にあった岩に腰かけて水を飲む。

(その話が本当なら、仮説ではあるけどわかったことがある。)

(なんですか?)

(イノベイドの特殊能力は基本的にリミッターの解除に過ぎないんじゃないかな。例えば、ブリュンの能力は脳量子波の強化だけど、全てのイノベイドが初めからブリュンのように強い脳量子波を持っていたっていいはずだし、僕のように全員がタグを読めたっていいはずだ。でも、あえて能力は封じられているんだ。イノベイドは人の世界で生きるために能力にはリミッターをかけられているけど、僕たち六人の仲間だけが能力の解除を許される存在なのかもしれない。)

(確かにそうですね……レイヴさんに見いだされ、テリシラ先生に力を引きだされるわけですから。)

(ヴェーダの情報によると本当に超能力みたいな力を持つイノベイドもいるみたいだけど、僕たちはほんの少し能力を付加された存在なんだろうね。)

(だからユーノさんも勘違いされたんですね。)

(フフ……いい迷惑だったろうけどね。)

(でも、ほんの少しという表現はどうでしょうか?)

(え?)

ブリュンの否定の言葉にレイヴはポカンとする。

(レイヴを呼ぶガンダム……その力はとても強大なものだと思います。)

(……………………)

レイヴの脳裏に数日前に見たあの夢の光景がよみがえる。
知らない人間と、自分すらも知らない過去の自分がガンダム同士で戦っているヴィジョン。
その夢の意味するものを知ることも、レイヴの今回の探索における目的の一つだった。

(レイヴとガンダムが出会った時、何が起こるのか………ブリュンは……恐ろしい………)

(……大丈夫さブリュン。)

レイヴはブリュンの不安を取り払うように努めて明るく答える。

(ここまで来たんだ。先に進むよ。)

(……はい。)

レイヴは腰を上げると赤茶けた山の方へと歩き始める。

そのわずか後ろ。
透けた犬のような生物が茂みに潜んでいた二人の人物のもとまで駆けよっていく。

「いくかい?」

ジャングルにはおおよそ似つかわしくない白いタキシードで身を固めた男が横にいるこれまた白のコートを着た男に問いかける。

「いや、もう少し待とう。もし、あれが……1(アイ)が残っているとしたら、ついでに破壊しておいた方がいい。」

「わかった。」

タキシードの男は再び犬を放つとその二人はレイヴの後を追い始めた。





中東

じりじりと照りつける太陽の光をラーズは自らへの罰のように全身に浴びていた。
いや、あるいはその光で自らの体にこびりついた汚れを払いたかったのかもしれない。
汗が噴き出てくるのも構わずにラーズは血の涙を流しながら足を引きずるように歩いていく。

「神よ……許したまえ……!」

「許してやるぜぇ?テメェが死んだらな!!」

「!!」

かわした二発の銃弾がラーズの髪を散らしながら遥か彼方へと飛んでいく。
しかし、それに安堵する暇もなく今度は鈍く光るナイフの刃が喉もとへと迫る。

「くぅ!!」

薄く皮をはがされながらも再び間一髪でかわして距離をとる。
襲撃者はその様子を見ながら舌なめずりをしながらナイフをくるくるとまわして遊ぶ。

「いいねぇ……殺されるにしてもそれくらいしてくれねぇとなぁ。」

「お前は……ガンダムのパイロットの一人か。」

「んなこたどうだっていいんだよ……とっとと良い声あげながら死んでくれやぁ!!!!」

金と銀のオッドアイが陽の光を反射しながら怪しく光ったかと思うと一気に距離を詰めてくる。
ラーズは突き出されたナイフを銃の柄で受け止めて弾き返すが反撃はしない。

「去れ。人は殺さない。」

「クハハハハ!人間か……あの馬鹿ども以外に俺たちをそう呼ぶやつがいたとはな。アレルヤが聞いたら泣きだしそうだぜ。」

突然の襲撃者、ハレルヤの笑い声に眉をひそめながら、ラーズは再び警告する。

「もう一度言う。去れ。」

「そうはいかねぇなぁ……アレルヤには悪いが、テメェを殺さねぇと俺の気が収まんねぇンだよ!!!!」

右手に握っていた銃を捨ててもう一本ナイフを握ったハレルヤは両手を広げて突進していく。
空気を斬り裂く音にラーズは一層の警戒心を強めていくが、それは突然起きた。

「グッ!!?アレルヤ、てめぇ!!」

「!?」

「邪魔すんじゃねぇよ……!!!!グアッ!!!わかったよ!!代わってやる!!」

事態が飲み込めないラーズにハレルヤは憎悪をこめた視線をぶつけるが、それも長くは続かず焼けつくような大地に倒れ込む。

「とまったか……?」

ラーズは慎重に近づいていくが、そこに激しく地面が削りながら向かってくるジープが突進してくる。

「チッ!!」

ラーズはライフルを構えると牽制の意味を込めて運転している黒髪の男の脇に銃弾を撃ち込んで動きを鈍らせる。
その隙にボンネットの上に素早く飛び乗ると運転していた男に銃口を突き付けた。

「悪いが、似非人のもとまで案内してもらうぞ。」

ラーズのその言葉に、アレルヤを追ってきたテリシラはラーズに気付かれないように小さく笑った。





孤島 山内部

「こんなところにこんなものがあるなんて……」

山の麓にあった洞穴を進んでいたレイヴは感嘆の声を漏らす。
ここまでのものを誰にも気付かれずに作り上げたという事実に改めてソレスタルビーイングという組織の隠密性を思い知らされる。
この調子では案外日常生活の中にいても気付かずにソレスタルビーイングの関係者と接していることがあるかもしれない。

「ハハ…まさかね。」

そんなことを考えながら歩いていると、ようやく完全に人工物でできたものを発見する。

「扉が…」

その扉はレイヴが振れるより早く、脇に設置されていた小さなレンズから光が放ち認証を完了して久方ぶりの来訪者をその部屋に招き入れた。

「見つけた……」

レイヴは夢遊病者のような足取りでそれの前まで歩いていく。
額から突き出たV字型の白い突起とその下にある相手を射すくめるような眼。
白と紺色だけでカラーリングされたその体は最新型であるアヘッドがゴテゴテと余計なものばかりがついている不良品に思えるほどのある種の洗練された美しさがある。
だが、胸部にある薄い青のコアの冷たい印象と爪のように鋭い指のせいでその美しさが悪魔の持つそれのように思えてしまう。

「これが僕を呼ぶもの……ガンダム……!」

まるで封印でもされているように透明な球体と立方体のフレームで固定されたガンダムは自分で招いた客であるレイヴを見下ろしたまま動こうとしない。

「動くのかな?どうやったら取り出せるんだろう?」

ゲストであるにも関わらずこの部屋の主を目覚めさせるために何かないかと探し始めるレイヴ。
だが、招かれざる客たちもそれと同時に部屋の中へ踏み込んでくる。

「え!?うわぁ!?」

犬のようなものがレイヴを襲う。
レイヴがそれをようなものと思ったのは、すくなくともそれが犬ではないとわかったからだ。
まず、見たこともない種類であったし、目が普通の生物ではありえない色をしている。
なにより、それを通して床や壁が見えるのだから完全に犬だと認めるのはいささか抵抗がある。

「1ガンダム……そんな物騒なものをどうするきだい?」

「誰です!?」

レイヴは飛びかかってきた犬のようなものを手で払うと声の方を向く。
そこにいたのはこの亜熱帯の島に着てくるにはふさわしくない白いコートと白いタキシードで身を固めた二人の男だった。
タキシードの男を見つけた犬のようなものは嬉しそうに尻尾を振りながら彼の足元へ戻っていく。

「通りすがりのイノベイドと…」

「その友人その1さ。」

突然の襲撃で気分を害していたレイヴだったが、イノベイドと聞いてほっと安心する。

「僕もイノベイドなんです。ある使命を受けてここへ……」

「なるほど。なら…」

「!?」

コートの男は懐から銃を取り出してレイヴに向ける。
訳がわからず声もあげることのできない彼に、男は綺麗な笑顔を見せる。

「その使命とやらを聞かせてもらおうか、ビサイド・ペイン君。」

レイヴが混乱する中、ようやく仇を見つけ出したヒクサー・フェルミはこらえきれずにもう一度クスリと笑った。






目覚める悪意
交わる運命
その果てに希望はあるのか……




あとがきという名の新年明けましておめでとうございます

ロ「新年一発目となった第十二話でした。そして、新年あけましておめでとうございます!」

学生「ロビンさん、今年に入ってからカレンダー見ました?」

ロ「あけましておめでとうございます!!」←「空気読めよ。」的な視線

スルー(以降 勘違い)「あ、駄目だこれ。知らぬ存ぜぬで押し通す気だ。」

ハーミヤ(以降 ド天然)「えっと、作者さんが触れないようにしていますが、更新が遅れて本当にごめんなさい!」

毒舌医師「浮かれて忘れていた課題をこなすのにかなり時間がかかってしまったようだな。いや、弁護するわけじゃない。むしろ忘れて浮かれていたこの阿呆に鉄槌を下したいくらいだ。」

レイ(以降 レ)「しかし、ようやくI編が本格始動してきたな。」

勘違い「やっとあたしらも出れたよ……てかこっちで魔法戦なんてやってよかったの?」

リジェネ(以降 腹黒)「それは僕に出てくるなって言いたいのかい?」

サ「いえ、そうではなくて純粋に心配してるんです。あなたただでさえ微妙な立ち位置なんですからここで無理すると二度と出られなくなりますよ?」

腹黒「何この子!?設定的には感情まだ取り戻してないのにこの切れ味鋭い嫌味はなに!?」

ド天然「たぶん嫌味で言ってる自覚ないですよ?」

腹黒「なお悪いわ!!」

レ「なら最上級の嫌味を込めた言葉ならいいのか?」

腹黒「いやそういうわけでもないけど!!」

学生「……えー、なんかもう腹黒さんが可哀そうになってきたのでここらで次回予告に行きます。」

腹黒「腹黒言うな!!!!本名で呼べ!!!!」

毒舌医師「次回もI編。」

勘違い「ようやくガンダムまでたどり着いたレイヴに復讐心に駆られたヒクサーがせまる!」

レ「しかし、そこで覚醒を果たすIガンダム!」

ド天然「けど、それは狡猾に仕組まれた罠だった!」

腹黒「そして、ラーズの覚醒を試みるテリシラ。」

学生「その時、ブリュンの心によみがえる感情とは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 13.1ガンダム
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/16 21:14
ラグランジュ3 ソレスタルビーイング・ファクトリー

広い宇宙のとある一角。
細かな岩の欠片の中にポツリとある一つの大きな衛星。
その中に作られた施設の廊下を菫色の髪をした女性がメガネをかけた女性の後ろをついていく。

「わからないことは何でも聞いてね。」

「はい。慣れるまでご迷惑をおかけします。」

振り返る時に金色の髪がふわりと揺れる様を後ろから見ながらアニュー・リターナーはぺこりと頭を下げる。
そんな彼女にリンダ・ヴァスティはいろいろな意味でホッと胸をなでおろす。

「トレミーは行方不明になっちゃったけど、残っているマイスター二人のためにもガンダムを強化する装備を作っていかないといけないから……フフッ、忙しくなるわよ。」

「はいっ!」

「それにしても、アニューさんのような優秀な人が入ってくれて助かるわ。」

「?」

「どうもうちは変わった人が多いから。とくにメカニックは主人も含めて『M・A・D』がつくようなね。それに、目を離すとすぐにどこかに行っちゃうし……」

「ハハ…ハ………」

夫が行方不明になったのをどこかに行っちゃったの一言で済ますリンダにアニューは苦笑を禁じ得ない。
おまけに自分もメカニックであるのに『M・A・D』がつく人間ばかりだとフワフワした空気で言う神経の図太さは尊敬の念すら抱きたくなる。
いや、案外リンダの言っていることが本当で彼女が天然であると勝手に自分が認識しているだけなのではとまで思えてくる。

(私、そんな人たちと上手くやっていけるのかしら……)



シェリリンの部屋

そんなやり取りが外で繰り広げられていることなど知らず、フェレシュテのメカニック、シェリリン・ハイドは古いものから新しいものまでありとあらゆるデータを目の前のモニターまで引っ張り出していた。

「さぁてと!ガンダムのパワーアップパーツの開発。すんごいのつくって師匠とユーノをアッと言わせてやるんだから!」

クルセイドをいろいろ弄りまわした時点でアッと言っているのだが、そんなことを知らないシェリリンの気合はとどまるところを知らない。

「まずはアリオスだけど……追加装備自体がMSに変形するってどうよ?これって師匠に受けそう!……そうだ!確か倉庫にあれがあったはず」

そう言ってモニターに出したのは普通のMSよりも一回り小さい機体。
体も全体的に丸みを帯びていて無骨な男性よりも可憐な少女を連想させる。

「GNY-0042-874、ガンダムアルテミー……懐かしいなぁ。」

この機体、アルテミーは肉体を持つことを拒んだ874のために作ったガンダムであり、シェリリンにとって初めて作成に携わった機体である。
今改めて見てみると出来が荒い部分もあるが、大切な友達を思って作ったあの情熱が時を越えて体の中に流れ込んでくるようだ。

「874、どうしてるかな……」

今はここにいないシェリリンの大切な友達。
あの独特の笑い方をするマイスターとともに今もどこかの戦場を駆けているのだろうか。
心配にならないことはないが、彼女にも自分にもやらなくてはいけないことがある。
それに、お互い生きていればいつか会うこともできるだろう。

「さて、他に使えそうなものないかな~。」

頭を切り替えるために独り言をつぶやきながらサルベージを再開しようとするシェリリンだったが、874のことを思い出したついでに浮かんできた一人の青年の笑顔を思い出して手が止まってしまう。

「てぇーー!!違う違う!!今はユーノのことはこっちに置いといて……」

頭をぶんぶんと振りながら高速でコンソールの上の指を躍らせるが、

『ユーノに会いたい。ユーノとデートしたい。ユーノと……etc』

「わぁーーーー!!!?違うの!!これは違うからね!!?」



シェリリン・ハイド、19歳。
経験豊富なようで実はうぶな恋多き乙女であった。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 13.1ガンダム

孤島

レイヴは未だに事態を飲み込めずにいた。
というより、さっきからわけのわからないことが起こりっぱなしだ。
ヒクサー・フェルミと名乗ったイノベイドとその友人と言った男のもとに戻った犬のようなものは相変わらず唸り声を上げながら自分を睨みつけているし、ヒクサーからは銃を向けられかなり危険な状況だ。
それに、どうして彼らがここに来ることができたのかがわからない。
ここにこれがあるのを知っているのは自分とブリュンだけのはずなのに。

「もう一度聞くよ。」

ヒクサーは一歩前に出る。
それに合わせるようにレイヴも一歩後ろに下がる。

「その物騒な1ガンダムで何をするきだい?」

「アイ…ガンダム?」

(……?)

その反応にヒクサーは違和感を覚える。
まるで、自分が操っていた機体のことを何も覚えていないかのようにオウム返しをする彼が自分の親友を死に至らしめた人物と同じだとは思えない。

(何を馬鹿な……演技に決まっている。)

復讐の対象として見れなくなりつつある自分を叱りつけると、わざわざ知らんぷりをしている仇に説明をしてやる。

「イノベイドをガンダムマイスターとして武力介入させるために造られたガンダム……イノベイドの能力とこのガンダムの能力が合わされば圧倒的だったろうね。ひょっとしたら、世界は今とは違った姿になっていたかもしれない。もっとも、実際にはマイスターに人間が選ばれたため、こいつは使われなかったがね。」

「このガンダムが武力介入のための機体…?」

(白々しい……!)

ヒクサーはいっそこのまま引き金を引いてやろうかと指に力を込めるが、後ろにいるヴェロッサに止められる。

(もう少し待とう。どう見ても彼の反応は変だ。)

(けど……!!)

「でも……」

最後までごねたヒクサーだったが、レイヴが話し始めたので否応なしにヴェロッサの指示に従ってレイヴの言葉に耳を傾ける。

「僕はただこれに呼ばれてここに来ただけで……」

「ほう…呼ばれた、ね……流石はその機体のマイスターだ。」

感情が高ぶっていることに気付いたヴェロッサはヒクサーを止めようと肩に手を置くが、それすらも振り払ってヒクサーはもう一歩前に出る。

「まさかアレハンドロ・コーナーがアルヴァトーレを開発した施設に機体を隠しておくとはね。恐れ入ったよ。」

「ヴェーダからダウンロードされたデータでその人や機体のことは知っています。でも!」

「でも……なんだい?」

威圧感のこもったヒクサーの言葉にレイヴはたじろぐが、自分の身の安全のためにも意見はしっかり主張する。

「僕には関係ない……!それにかかわったイノベイドは別にいる!そもそもヴェーダが僕に与えた使命はほかにあって……」

「それは奇遇だね。君もヴェーダのミッションに従っているのかい?」

一瞬見せたヒクサーの柔らかな笑顔にレイヴはようやくわかってもらえたと思い緊張の糸を緩める。

「そ、そうなんです!イノベイドの中から六人の仲間を……」

「でも、おかしいな…」

「え……?」

ヒクサーの笑顔が一瞬にして鋭いものに変わる。

「この僕もヴェーダの命令で君を追ってここまで来たんだよ。」

言い終わるが早いか、鋭い銃声が部屋の中にこだました。




中東

「悪いが、似非人のもとまで案内してもらうぞ。」

「まさに神出鬼没だな、ラーズ・グリース。」

テリシラはラーズにばれないように小さく笑いながらサングラスをゆっくりと外す。
ちらりと横に視線をやって倒れているハレルヤを見るが、倒れてこそいるがこれといって外傷は見当たらない。

(彼が人間だったから見逃したのか?だとしたら、やはりスルーを連れてこなかったのは正解だったな。)



三十分前 カタロン基地

「で、どういうことかきっちり説明してもらおうか?」

おどおどするマリーを蚊帳の外に追いやり、素顔をさらしているテリシラを取り囲むカタロンのメンバーたちは厳しい追及の視線をぶつける。

「ドクター、あんたは一体何者だ?スルーとどういう関係にある?」

レイに露骨なまでの疑いのまなざしを向けられ、テリシラは目をそらすが、その先には同じ顔をしたスルーが気味悪そうに自分を見つめている。
その横ではハーミヤが物珍しそうに自分とスルーの顔を見比べている。
まさしく四面楚歌。
唯一味方であるマリーはあの調子だから援護は期待できない。
ならば、

「妹よ!!」

テリシラはかなり当てにならない切り札を思い切って使うことにした。

「私はお前の兄さんなんだ!!」

(ドクターーーーーー!!!!!?)

マリーの心の叫びは聞こえずとも彼女の冷や汗まみれの顔から自分のとった選択がどれほど馬鹿げたものであるかよくわかる。
だが、ここまできたら押し通すしかない。
テリシラは覚悟を決めると最高の(作り)笑顔でスルーに語りかける。

「私は生き別れになったお前がここにいると聞いていてもたってもいられずに駆けつけたんだ!!」

(だからその設定はかなり無理がありますって!!!!)

声なきマリーのツッコミにもめげず、テリシラはスルーと真正面で向き合う。

(う……)

あまりにも突拍子もない話だったせいか、スルーは全身をプルプルとふるわせてテリシラを睨みつけている。

(や、やはり無理があったか……!!)

(当たり前でしょ!!あなたそれでもテレビのコメンテーターですかっ!!?)

もうおしまいだ。
二人は覚悟を固めるが、スルーの反応が突如変わる。

「兄さん……!」

「「へ?」」

「兄さ~~ん!!!!」

((ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?))

目を潤ませながら飛び込んできたスルーに押し倒されてテリシラは尻もちをつく。

「オ…オヤジが事業に失敗して、家族がバラバラになって私ずっと一人でさびしかったんだ!!」

(ナイス設定だヴェーダ!!)

(いやいや!!ありえないでしょ!!)

ホッとするテリシラと現実的にありえない事情をさも当然のように受け入れて感涙にむせぶスルーにマリーは全力でツッコム。

(ハッ……!でも、イノベイドのスルーさんはともかく、ハーミヤちゃんやフライハイトさんは……)

「ステキ!!生き別れの兄弟の再会だわ!!」

「…………まあ、そういうことにしておいてやる。」

(…………………………)

もはや何も言うまい。
そう心に誓うマリーは目の前の現実を仕方なく受け入れることにした。




回想終了

あの後、自分たち以外に十人いた兄弟姉妹はどうしているかなどのとんでもない話をごまかしてなんとかここまで来たわけだが、さっきまでのはあくまで前座でここからが本番だ。

「彼を殺さなかったのか?」

「人は殺したくない。」

「何百人も殺しておいてか?」

テリシラの言葉にラーズがわずかだが顔を歪める。

「奴らは似非人。人間ではない。」

「確かにな。」

「なに?」

ラーズの肩がピクリと動く。

「だが、イノベイドも人間と同じように生きていている。」

「なぜそのことを……まさかお前!」

「そして、君もだろ?ラーズ。」

「!!」

その瞬間、穏やかだったラーズに明らかな敵対心が生まれる。
それでも、テリシラは臆しない。

「なぜ認めない!百年も生きているイノベイドハンターが普通の人間であるものか!!君はイノベイドだ!!」

「黙れ!!似非人っ!!!!」

ラーズは発砲しようとするが、それよりもテリシラの方が早かった。

「目覚めろ!!ラーズ・グリース!!!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

六人の仲間の能力を覚醒させる能力。
それがテリシラに与えられた役割なのだが、覚醒させる能力がどういったものになるかはテリシラにも覚醒させられる側にもわからない。
そう、たとえそれがどれほど危険なものでも。

「!!?」

テリシラ達のはるか後方。
空から細い光の柱が降りてきたかと思うと爆音とともに地上に大きな光のドームが生まれて全てを砕いていく。

「なんだあれは!?」

光の柱は一度だけではなく何度も地上に降り注ぎ、地形を変えながらテリシラ達に近づいてくる。

「私は……似非人……生きる価値などない……」

「まさか……お前がやっているのか!?」

左目から血の涙を流しながら視線を虚空にさまよわせるラーズの肩を必死にゆする。
だが、同じうわごとを繰り返すだけで光の進行は一向に止まる気配がない。

「オイ、ラーズ!!やめろ!!」

「似非人に…死を……」

「クッ!!」

すでにあと数百mというところまで迫っている光に焦るテリシラ。
だが、いつの間にか目の前まで来ていた人影がラーズの首元に手刀を当てて意識を刈り取ると、そのまま彼を抱きかかえる。

「君は……アレルヤ君の方か?」

「御心配をおかけしてスイマセン、ドクター。」

光が消えた空の下、太陽を背にしたアレルヤの微笑みにホッと胸をなでおろす。
だが、いつまたあんなことが起こるかわからない。
なにせ、ラーズは気を失っているだけで今も生きているのだから。




孤島

「……反撃はしないのかい?」

すぐ後ろにできた小さな焦げ跡から再びヒクサーへと視線を戻したレイヴはどくどくと高鳴る胸の鼓動をどうにか抑えようとするが、体の方はそれを拒む。

「僕を撃つことがヴェーダからの指示なんですか?」

「いや、これは私怨さ。ビサイド・ペイン君。」

ここに来てから聞き飽きたその呼ばれ方に、レイヴは歯を食いしばって反論する。

「僕はレイヴ・レチタティーヴォ!ビサイド・ペインなんて人は知りません!!何かの間違いだ!!」

しかし、レイヴの必死の訴えもヒクサーには小賢しい演技としか認識してもらえず、怒りの炎は一層激しく燃え上がる。

「これはヴェーダが教えてくれた情報だよ。今日この場所にビサイド・ペインというイノベイドが現れる。そして、そのイノベイドこそ……!!」

ヒクサーは後ろに新たな親友がいることも忘れて激情に身をゆだねる。

「かつて僕のかけがえのない友の命を奪ったガンダムマイスターだとね!!!!」

「よすんだ!ヒクサー!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

撃たれる。
そう思ったレイヴは反射的に脳量子波を最大レベルで辺りにまき散らす。
そして、それを待っていた巨人の目に光が灯った。

「な!?」

球が消えたかと思うと、1ガンダムを取り囲んでいたフレームも細かなブロック片へと分解される。
それが終わると今度はその拘束から解き放たれた1ガンダムが喜びを全身で表現するように四肢をグッと伸ばして背中の出力機関、GNドライヴ[T]を唸らせる。

「封印がとけた!?」

レイヴを撃つことも忘れて動揺するヒクサー。
だが、レイヴの方はもっと大変だった。
目覚めた1ガンダムから送り込まれる見たこともない光景に混乱して何が起きているのか冷静に考えることができない。

「僕は……!!僕は、だれだ!!?」

そんなレイヴを守るように1ガンダムは鋭い爪をヒクサーとヴェロッサに振り下ろす。
間一髪でかわす二人だが、生身の人間がMSに対抗できるはずがない。

「ヒクサー、ここは…」

「わかってる。」

入口までさがったヒクサーは苦々しげにレイヴを睨む。

「ビサイド、覚えておいてくれ。ガンダムの力を得たとしても僕の復讐を止めることはできないよ。」

振り下ろされる拳をバックステップでかわしたヒクサーはそのまま退散していった。

「僕を…守った?」

無人のはずの1ガンダムの不可解な行動に戸惑うレイヴだったが、心の整理をつける間もなく1ガンダムから手を差し伸べられる。

「この中に、真実があるのか……?」

恐る恐る腕を登ってコックピットの中に入るレイヴ。
中は想像以上に暗く、上から射し込む光でどうにか座る場所と操縦桿が確認できる程度だ。

「すごいな……これがMSの……」

操縦席に座って操縦桿に触れたその時だった。

「!?うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?」

頭の中に膨大な情報が流れ込み、心すら蹂躙されていく。
そんな中、レイヴの目にはあるものが写されていた。

(これは……ビサイドの記憶!?僕の…過去!?)






「ソラン・イブラヒム?そいつにエクシアを?」

俺の視線を涼やかな笑みで受け流すリボンズ。
おっと、ここは良い子の顔をしていなきゃな。

「君が進言したそうだな?」

「そんなにマイスターになりたいならシルトがあるじゃないか。」

コイツ……人の古傷を!

「まあいい。俺は君に従う者。『君の計画』に協力するさ。」

見え透いてんだよ、リボンズ……
マイスターとしても滅びを恐れたか?
だが生憎だったな。
俺に、滅びはあり得ない。





「その後、リボンズ、ヴェーダの双方を欺くためコピーのふりをした俺は記憶のバックアップを1ガンダムに隠し、自らはヴェーダのリセットを受け入れた。」

邪魔そうに胸元のボタンを一つ外したビサイド・ペインは目を細めながらパイロットスーツに腕を通す。

「だが、時は満ちた……俺は俺の望むように世界を変える!!」

上に開いた出口を睨んだ1ガンダムは、背中から赤い粒子を放ちながら空へと舞い上がった。



中東

「どうです、ドクター?」

「命に別条はないだろう。だが……」

左の瞼をめくった先に埋め込まれた義眼。
本来イノベイドは高い再生能力を持っているのだが、ラーズの場合この義眼のせいで再生が阻害され、ヴェーダとのリンクも切断されたままになってしまったのだ。

(設備が整ったところなら手術も可能だろうが、街中でさっきのを撃たれても困る……)

というより、手術以前にこのまま彼を連れていけば自分たちも吹き飛ばされかねない。
どうしたものかと頭を抱えていたテリシラとアレルヤだったが、さらに厄介なものが砂煙を上げながらやってきた。

「スルー!?ハーミヤまで!!」

「マリーとフライハイトさんも!!」

基地に残っていたはずのスルーはジープを二人のすぐそばに止めるとテリシラに抱きつく。

「兄さん!!さっきのにやられたんじゃないかってすげぇ心配したよ!!」

「あ、ああ、なんとかな。」

「アレルヤ……よね?」

「うん。心配かけてごめん。」

「しかし、連邦もとんでもないものを作ったものだな。」

気絶しているラーズを縄で縛りながらレイが呟く。

「連邦?」

「連邦の衛星兵器のテストだったらしいですよ?でも、準備不足で壊れちゃったみたいですよ?不用意なテストをしてくれたおかげでこっちもデータをゲットです♪」

ご機嫌な様子で小躍りするハーミヤだが、テリシラとアレルヤはそれがテストではなく連邦軍にとっても予想外の事態だったことに気付いていた。

(ドクター、やはりさっきのはラーズが?)

(いや、まだ決めつけるには早い。)

「どうしたんですか?二人でこそこそして?」

いつの間にかハーミヤが二人の足元まで来て顔を見上げている。
だが、ここでアレルヤは妙な違和感を覚える。

「ハーミヤちゃん、さっきはごめんね。」

「?なんのことですか?」

「!?」

テリシラも動揺しながらもさらにハーミヤに問いかける。

「その兵器のデータを私にも見せてくれないか?」

「?データ?なんのです?」

「連邦の極秘兵器のだ!持っているんだろう!?」

「何言ってんだよ兄さん?」

「急にどうしたんですかドクターさん?」

ここでようやくマリーとレイも異変に気付く。

「何を言ってるんだ二人とも!さっきおれたちはこの目で…」

「なんだよレイ?あんたもう片っぽの目まで悪くなったのか?」

食い違う言葉と記憶。
その異変の理由を知っているのはソレスタルビーイングの関係者だけだ。

(記憶操作……ヴェーダの仕業か!!)

さっきの兵器とやらはよほど見られたくなかったものらしい。
自覚が無ければイノベイドであろうと秘密を漏えいする可能性があると判断されて記憶の消去が行われたのだろう。
だが、それができない者たちもあれを見ていたのだ。
となると、

(マズイ……!!基地にいる人間をヴェーダが放っておくはずがない!!)

しかも、うってつけなことにイノベイドであるブラッドがいるのだ。
もし、彼が戦闘タイプのイノベイドだとしたら……

「スルー、基地に戻る。手伝ってくれ。」

「なんだよ、そいつも連れてくのか?」

「このまま放っておくわけにもいかんだろ。」

いつもとかわらぬ口調で話すテリシラだったが、人類の未来のために造られたヴェーダが時にどれほど無慈悲に人の命を奪うのかはその端末である自分がよく知っている。
だが、たとえ端末にすぎない存在だろうと目の前で消えかかっている命を捨て置くことはできない。
それが、師であるモレノから教えてもらった医者のあり方なのだから。




ソレスタルビーイング・ファクトリー

「ん?なんだろこれ?」

いつの間にか届いていたメールにシェリリンの目がとまる。
普段ならイアンからアドバイスや武装案が送られてくるのだが、そのイアンは現在行方不明。
他のメンバーから送られてきたものである可能性もあるのだが、今のところ全員そんな余裕はないはずだ。
不思議に思いながら開くと、そこには新しい武器のアイデア。
それも、かなり独創的だ。

「すごい……一体誰がこんなものを…っ!!?」

874
たったその三文字でもあの二人が送ってきたものであることは明白だ。

「OK…!!最高のものを造ってあげるわ!!」





一方、こちらでもしばらく顔を見せていなかった人物から直接連絡を受けていた。

『シャル、久しぶり!』

「ヒクサー!?あなた一体今まで連絡もせずにどこで何を……」

『それは僕たちがそっちに戻った時に説明するよ。』

「ロッサ!?あなたまで一緒なの!?」

つい先日情報を集めるために地上に降りたヴェロッサが消息不明だったヒクサーと一緒にいる。
頭が痛くなる話だが、わざわざ戻る前に連絡してきたからには訳があるのだろう。

「それで、何があったの?」

『ごめん、話すと長くなるから今は言わない。とにかく、なにも言わずにこれの準備をしてほしい。』

「これは……」

それはシャルと因縁があるもう一機のガンダム。
彼女をスカウトし、本来ならヒクサーとともに自分の横に立ってくれているはずだった人物の愛機。
二年前、あの戦いのときに敵の手から再び自分たちのもとへと舞い戻った『秘密の領域と至高の神秘の天使』の名を冠する存在。
それを用いなければいけない相手となると、シャルには一人しか思いつかない。

「……相手はフォンなの?」

シャルは不安を押し殺した顔でヒクサーに問いかける。
だが、彼の答えはシャルが恐れていたものではなかった。
なかったのだが、これの口から出てきた敵の名は最悪だった。

『ビサイド・ペイン……グラーベの仇だ。』

その瞬間、二人の間の空気が一気に凍りついた。






中東

荒涼とした大地を二台のジープが走りぬけていく。
その一台に乗って基地を目指していたテリシラにブリュンから連絡が入る。

(テリシラ先生、レイヴが話をしたいそうです。脳量子波を中継します。)

(わかったつないでくれ。)

つくづく便利な力だとテリシラは感心する。
どれほど離れていようと脳量子波通信を行えるばかりか、こうして遠くにいる仲間同士をつないでくれる。
しかも、ユーノの話では念話の回線も通常のそれよりはるかに強いそうだ。

(先生、無事でよかった。)

ブリュンの脳量子波と念話の強さに因果関係があるのではないかと考えていたテリシラだったが、レイヴから通信が入って考えを一時中断する。

(なんとかな。ラーズの能力を解放したせいで大変なことになってしまったよ。試射された兵器の情報秘匿のためにヴェーダが目撃者の殺戮を始めるかもしれん。)

(確かにそうなります。でも、それはヴェーダが行うわけじゃない。ヴェーダを裏から掌握している者の都合ですよ。もちろん処理にヴェーダを使いますが、ヴェーダの指示ではない。)

「……?」

何かが変だ。
そう思いながら、テリシラは会話を続ける。

(なぜそう思う?)

(衛星兵器を欲しているのは連邦です。ヴェーダじゃない。つまり、それを利用してイオリアの計画を進める者のしわざです。)

(……心当たりがあるような言い方だな。)

(さあ、そこまでは……それよりも、たぶんラーズの能力は遠距離にあるマシンのコントロールです。今そちらに向かいますので対応は僕に任せてください。)

一応揺さぶりをかけてみたが別段怪しいところはない。
だが、それがかえって疑わしい。
いつもよりも饒舌で論理的だったあの喋り方のせいだろうか。

(……ブリュン、聞こえるか?レイヴとの通信は切っているな。)

(はい。)

どうやら、レイヴに違和感を抱いていたのは自分だけではないようだ。

(レイヴの脳量子波に違和感はないか?まるで別人のような……)

(脳量子波自体は正常です。ただ…)

(ただ?)

(レイヴの脳量子波がとても強まっています……とても、強く……)

「…………………………………」

脳量子波が強まっている。
それだけであれほどの違和感が生まれるものだろうか。

「ドクター…」

そもそも、あまり胸を張って言いたくはないがあそこまでレイヴはスラスラ自分の考えを言うような人間ではないし、あれほど筋が通った話をしたことは今のところ一度もない。

「ドクター……!!」

それに、ラーズの対応は自分に任せてくれと言ったときのあの自信。
首尾よくガンダムを手に入れたとしてもコントロールされては意味がないはずだ。
なのに、どうしてあそこまではっきりとあんなことが言えたのだろうか。

「ドクター!!」

「おわっ!?」

耳元で怒鳴られたテリシラは思わず助手席から跳びあがる。

「さっきからどうしたんですか?もうすぐつきますよ。」

「あ、ああ…すまない。」

マリーの不思議そうな顔にテリシラはフゥと息をつく。

(とにかく、今は目の前の問題からだな。)

基地の前にとまったジープからひらりと跳び下りるスルーの方を見るテリシラ。
だが、出迎えに出てくる人間はおろか、見張りすらいない入口は不気味なほど静まり返っている。

「あれぇ?見張りがいない?お~い!!帰ったぞ!!」

「!待てスルー!!行くな!!」

「!?」

テリシラの声と同時に置くから頭を血だらけにした人間が倒れこんでくる。
そして、さらにその奥から虹彩を金色に輝かせたブラッドが現れる。

「ブラッド、お前!?」

「遅かったか!!」

混乱しているスルーだったが、理由を問いかける前にブラッドが信じがたいスピードで彼女へ襲いかかる。

「逃げろスルー!!相手は戦闘型のイノベイドだ!!」

「んなこと言ったって……!!」

一瞬の隙をついてブラッドがスルーの首元へ手を伸ばす。
だが、その手がスルーへ届く前にブラッドの側頭部にレイの膝が食い込んでいた。

「悪く思うなよ、ブラッド。」

2~3m転がって横たわった仲間を気遣いながらもレイはテリシラへ鋭い視線を向ける。

「どういうことか説明してもらおうかドクター。あんたはブラッドの異変の原因を知っているんじゃないか?」

「それは……」

「!!レイさん!!」

「!?グッ!!!!」

ハーミヤの叫びに振り向くが、起き上がったブラッドはすぐにレイの懐まで入り込んで首を掴むと天高く持ち上げた。

「こ……っの……!!」

必死で足をばたつかせながらブラッドを蹴るレイだったが、逆に手の力はどんどん強まっていく。
やがて脚の動きが徐々に弱々しいものに変わり、レイの意識も薄れていく。

「レイを離せ!!」

「スルーさん、駄目!!」

「離せよ!!あのままじゃレイが!!」

マリーはスルーを羽交い締めにしてどうにかその場に押しとどめるが、確かにこのままではレイが危ない。

「このままじゃ……うっ!?」

飛び出そうとしたアレルヤだったが、内側から出てきたハレルヤに止められる。

(ハッ!てめぇじゃどうにもなんねぇだろアレルヤ……ちっと体を借りるぜ!!)

強引に表に出るハレルヤ。
そして、

「ハッ!!イノベイドだか何だか知らねぇが、その首へし折られりゃ流石にくたばんだろ!!!」

ブラッドへと突進していくが、その時基地の奥から機械音と地響きが聞こえてくる。

「チィッ!!」

想定外の事態に戸惑うハレルヤだが、後で相棒が騒がないようにやることだけはやっておく。

「オラッ!!」

ブラッドの手へ踵を振り下ろしてレイを離させると、今度はそのレイを蹴り飛ばしてブラッドから離す。
その瞬間、

「うおっ!!」

「あっひぃん!!?」

無人のはずのティエレンが出現したかと思うと、腕に装備されていた銃でブラッドを粉砕した。

「あたしのティエレン……!?どうして!?」

「つつっ……!!決まってんだろ……そこにいるクソ野郎の仕業だよ。」

「!!」

全員、テリシラ達が乗ってきたジープの方を注目する。
そこには、いつの間にか後部座席で意識を取り戻したラーズがその瞳を金色に輝かせながら凄まじい形相でそれまでブラッドがいた場所を睨んでいた。

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

ラーズの咆哮に応え、奥からさらにティエレンやヘリオンがぞろぞろと出てくる。

「落ちつけラーズ!!やめるんだ!!」

必死にラーズを止めようとするテリシラだが、ラーズはさらに興奮していく。
そして、遂にティエレンたちの銃口が一斉にテリシラとラーズへと向けられた。

(まさか、自害する気か!?)

「兄さん!!」

「ドクターさん!!」

もはやこれまで。
誰もがそう思った時だった。

「!?」

一条の光がティエレンの頭部を貫く。
そのことに驚く暇もなく、さらに光が突き刺さり残っていた機体も土煙を上げながらばったりと倒れ込む。
その上には、赤く輝く翼を広げている一機のMSがいた。

「あれは……!」

「天使!?」

「いや……!」

唖然とするスルーとハーミヤの言葉を否定しながら、ハレルヤは苦々しげに自分たちを助けた機体を睨む。

「ガンダムだ……!」

白と紺でカラーリングされた1ガンダムはハーミヤの言っているようにさながら天使を思わせる優雅な動きで辺りを見渡す。

「間に合いましたね、ドクター。」

「レイヴか……!?」

テリシラは相変わらず違和感が付きまとうレイヴの脳量子波を感じながら1ガンダムを見上げる。
だが、そんなテリシラたちの事情など構わずにラーズはさらに奥からティエレンを呼びだして自らへと攻撃しようとする

「ラーズ、お前まだ……!」

気付いたテリシラが慌てて止めようとするが、それよりも早く1ガンダムのビームライフルが火をふく。

「こまるなぁ……自殺しようだなんて。」

「ぐっ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

自害を阻まれたラーズは激怒する。
そして、とうとうそれを阻んだレイヴと1ガンダム、さらに周りの人間もろとも自分を吹き飛ばすことを決定した。

(!ドクター!衛星兵器が起動しました!!)

(なにっ!!?)

はるか上空から響いてくる轟音に上を見ると、小さな点だった光がこちらに狙いを定めるように徐々に大きくなってくる。
当然止める手立てなどあるはずがない。

「君だけでも逃げろレイヴ!!!!」

咄嗟にそう判断したテリシラだったが、1ガンダムはその場を動こうともせずに上をじっと見ている。

「レイヴ!!!!」

その声と同時に空にかかっていたわずかな雲すら吹き飛ばして光の槍が一直線に落ちてくる。
1ガンダムはシールドを掲げ、GNフィールドも張ってその光に備えた。
だが、その時1ガンダムよりも上に瑠璃色の輝きが割り込んだ。

「!」

「967、GNフィールドを最大出力で展開!!」

「了解!!」

「そして……絶対たる守護の盾よ!!」

〈Absolute Aegis〉

その瞬間、巨大な五枚の魔法陣と1ガンダムが展開していたものとは比べ物にならないほどの激しい光がテリシラ達の上空を覆い尽くす。

「グッ!!」

光と激突した一枚目の魔法陣があっさりと砕け散り、今度は二枚目の魔法陣が光を辺りに乱反射しながらせめぎ合うが、これもあっという間に砕ける。

「つっ……!!三つ目まで行ったのは久しぶりだな……!!」

三つ目の魔法陣が激流にぶつかった瞬間、翠の光をまきちらしながらそれは爆発して勢いを和らげる。
そして、四つ目の魔法陣が光を受け止めてそのまま包み込んでいく。

(頼む……五枚目まで行ってくれるなよ!!)

綺麗な翠の球体はところどころ濃淡の縞模様をつくりながらうごめくが、しばらくすると静かになって消えていった。

「ふぅ……」

ここ数年で一番のギリギリ具合だ。
後先考えずに飛び出したはいいが、もし純粋に対魔法戦を想定して術式を組んだ五枚目までいっていたらどうなっていたかわからない。
そんな胃薬をいくら積んでも足りないほどの危機一髪を乗り越えたユーノはGNフィールドで手助けしてくれた愛機の操縦桿を礼の代わりにぎゅっと握る。

「ありがとう、頑張ってくれて。」

「それで、俺が874から聞いているよりもっとややこしいことになっているようだな。」

そう言ってハロの体から出てきた967は目の前にいる機体を睨みつける。

「967……?」

『ユーノさん、助けてくれてありがとうございます。』

「レイヴ!君だったのか!」

ユーノがレイヴ(?)の声に顔をほころばせているにも関わらず、あいかわらず967は厳しい表情をしている。
いや、声を聞いてさらにしかめっ面になっているようにも見える。

『それで、これからのことなんですが……っ!?』

「うわっ!?」

突然、二人の意思に関係なくガンダムが動き始める。

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

「ラーズ!?もうよすんだ!!」

テリシラの言葉など聞くはずもなく、ラーズは邪魔をしたガンダム二機への復讐に全精力を注ぎ込む。

「旧世代のイノベイドめ……やるじゃないか。」

「ユーノ!お前の力でコントロールを……」

「あ~……ごめん無理。さっきのアブソリュートイージスで魔力はほぼすっからかんで浮遊魔法も使えないような状態だから。」

じりじりと迫ってくるクルセイドの手に冷や汗が流れ始める。
なんとかできないこともないが、その方法はユーノにとっては絶対に取ることができない行動だ。

「ユーノ、ハッチに手がかかりましたが?」

「わかってるよ!!ていうかこの状況で冷静に話さないでくれる!?なんかすごい頭にくるから!!」

サクヤを怒鳴りつけている間にもミシミシと嫌な音と時折黒に染まるディスプレイが状況が切迫していることを知らせてくる。

「どうすれば……っ!?レイヴ何を!?」

「ちょっと惜しいけど殺すしかないか。」

コントロールを奪われながらも1ガンダムは銃口をラーズへと向ける。

(レイヴ!!何をする気だ!!)

(ラーズは殺します。)

(なっ!!?)

普段のレイヴからは想像もできない言葉に驚くテリシラ。
だが、それだけではなくレイヴ(?)は淡々と言葉をつづけていく。

(代わりの仲間を探せばいいことですしね。彼もそれを望んでいます。)



テリシラ邸 地下

(怖い……)

豹変したレイヴと彼の操るガンダムから感じる冷たい心。
だが、だからと言ってこのまま放っておくことはできない。

(力を持ったレイヴを誰も止められない……でも、ラーズさんの方を止められれば……!)





中東

(ラーズさんやめて!!)

「!!」

(ラーズさん……めてくださ………落ちつい……能力を…やめて……)

懐かしい声。
もう、聞けることなどないと思っていた最愛の息子の声にラーズは固まる。

そして、それはブリュンも同じだった。
今の両親とは違う母親、そして父親の顔、声、そして思い出。
それらを吟味するほどにブリュンの目から涙がこぼれおちていく。

(ブリュン……なのか!?)

(……はい。ブリュンです。)

「お……あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「おや、どうやらラーズの能力から解放されたみたいだね。また目を覚まされたら厄介だし、今のうちにやっておくか……」

スムーズに動くようになった1ガンダムで改めてラーズの乗るジープへ狙いを定める。
しかし、その前にクルセイドが立ちはだかる。

「……なんのマネですか?ユーノさん。」

「君こそ何のつもりだ。」

「見たとおりですよ。ラーズはこのままでは僕たちに与えられたミッションの邪魔になります。」

「なるほどね……それで、お前は“誰”だ?」

さっきまでのゆるい空気を消し去って1ガンダムと向かい合う。
967もすぐにGNフィールドを展開できるように集中力を高めていく。

「何を言ってるんですか?僕の声を忘れたんですか?」

「子供のころからろくな人間(まあ、僕がその最たるものなんだけど)を見てこなかったんでね。人を見る目には自信があるのさ。どれだけ上手く取り繕っても内面まで取り繕うことはできない。」

「ホントに困った人だなぁ……なんなら、ドクターに聞いてみますか?脳量子波はどんなに頑張ってもごまかせませんから……ねぇ、ドクター。」

(ああ、確かにそうだ。だが、あいにく私もユーノと同じ考えだ。)

わずかにレイヴ(?)の眉が動く。

(お前はレイヴじゃない。確かに肉体はレイヴのものだが精神はまったく別のものだ。レイヴは人の痛みを自分の痛みとして感じられる男だ。貴様のように迷いなく人を撃つようなやつじゃない!)

「困った人たちだ……僕だってそう言われればいい気分はしませんよ?」

1ガンダムが微かに動いただけでクルセイドもそれに合わせてライフルを向ける。

「ガンダム同士で戦えばどちらもただでは済まないぞ。それでも、ラーズを殺すつもりか?ビサイド・ペイン。」

(ビサイド・ペイン……?)

967の口から出てきた聞いたこともない名前に困惑するユーノだが、レイヴではない誰かはその答えにユーノ以上に驚く。

「貴様は……クハハ!そうか!次はそいつを壊されたいのか、グラーベ・ヴィオレント。」

「そうはさせん。俺の命にかえてもユーノは守り抜く……!」

「フフフ……良いだろう。この場はお前の覚悟に免じて退いてやる。だが、シルトの流れを汲むそれに乗っている限りそいつもいずれは地獄に行きつくことになる。」

1ガンダムがライフルを収めて高度を上げていく。

「それから、テリシラ達には告げ口をするなよ?もししたら、今度はお前が自分の手で大切なものを壊すことになるからな。」

「貴様……!!!!」

「967、一体どういう……」

「じゃあな、グラーベ……せいぜい足掻いて俺を笑わせてくれ!ハハハハハ!!!!」

「なろっ!!」

「待て、追うなユーノ。」

「でも!!」

「追うな!!」

珍しくきつい口調にユーノもビクリとする。

「頼む……追わないでくれ。」

「あ、ああ……」

俯いたままユーノの方を向くことができない967はそのままハロの中へと戻る。

「……サクヤを送り届けたらアレルヤ達を回収する。フォンからアリオスを受け取ったら、フェレシュテと合流して今後の指針を決めるぞ。」

「うん……」

コックピットの中に険悪なムードが漂う。
だが、それでも967は言えなかった。





もしかしたら、自分がユーノの命を奪っていたかもしれないなど、とても言う勇気はなかった。





ただ与えられた記憶
だが、誰かを想うその心はこの手で掴んだ確かな未来




あとがき・・・・・・という名のA.C.Eポータブル発売記念

ロ「ビサイド復活な第十三話でした。」

ユ「そして967、ヒクサー、シャルのトラウマアゲイン。」

ブリュン(以降 女装君)「そして僕とお父さんも再会。ていうか僕のカッコここでもゴスロリなんですね。」

毒舌医師「気の毒に……」

ロ「まあ、それはそれとしてだ。俺は00に出てくる親子関係ではセルゲイさんとピーリスと同じくらいラーズとブリュンが好きなんだよな。」

ラーズ(以降 バツイチ)「作品中では最後くらいしか親子らしいところはなかったはずだが?」

ロ「むしろそこが良い。最後の最後にわかりあえたって感じがして俺は好き。」

ユ「なんかそういうの好きだよね、君って。」

ロ「TOSのクラ○スとロ○ドとかな。」

バツイチ「自己申告してどうする。」

女装君「ていうかあれってクラ○スルート選んでたらいろいろ鬱だった気が……」

毒舌医師「なんで知ってるんだ?」

女装君「イノベイドですから。」

ロ「あ、それいいな。これからネタ出しとか締めるときはそれで行こう。」

ユ「させないからな!ていうかサブタイトルのA.C.Eポータブルの話はどこ行った!?」

ロ「あ、それは買った人同士で勝手に話をしててくださーい。(黒)」

ユ「黒っ!!自分は買えてないからって八つ当たりするな!!ていうかそれなら最初からサブタイトルにするな!!」

ロ「うっさい!!!!いつか金が溜まったら買ってやるっていう発売と同時に買った世の富裕層どもへの俺のささやかな自己主張を否定するな!!!!やっぱり金だよ……!!カ○ジの利○川さんも言ってたろ!!金は命より重いんだ……!!よし……今から腎臓を片っぽ売って金を……!!」

ユ「やめんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

毒舌医師「……ロビンが腎臓を売りに出すといろいろあれなので次回予告に行くぞ。」

女装君「次回は久々の異世界編!」

バツイチ「どうにか合流を果たしたトレミーのクルー達。だが、並行世界へ戻るための準備は物資不足から遅々として進まない。」

ユ「装置を開発するための材料を探すため、とある廃棄施設にやってきた刹那たちはそこで世界の歪みを目撃する。」

毒舌医師「そして、捜査のために同じくその施設を訪れたフェイトたちと遭遇してしまう!」

ユ「ガンダムVSキャバリアー!死闘の果てに待っているのはなんなのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援などをよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 14.Fの遺産
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/20 16:43
第1管理世界 ミッドチルダ 首都クラナガン

激務の合間のオアシスであるお昼時。
クラナガンのとあるコーヒーチェーン店のオープンテラスに山のように積まれた新聞やゴシップ記事がテーブルを完全に隠している。
突然崩れたその中から現れたのは青の上下でその身を包んだ、見るからに清掃員といった風貌の二人組。
一人はぶつかった紙類のせいで崩れたブラウンの髪を指で直しながら嫌そうな顔で再び記事に目を通している。
もう一人は青いキャップに収まりきらなかった紫の綺麗な髪を横にやりながら新しい週刊誌を手に取る。

「ちくしょ~~……アルからもらった軍資金がこんなに早く尽きちまうなんて……」

「文句を言う前に手を動かせ。僕らはこの世界の歴史、情勢、文化、全てにおいて赤子以下の知識しか持ち合わせていないんだ。休みの間にできる限り情報は手に入れておくべきだ。」

「けどよぉ、これじゃ休みが休みの意味をなさねぇよ。しかもわざわざ材料買うためにバイトなんて……」

ロックオンはテーブルの上に置いた自分の帽子の上に顔を突っ伏す。
いくら次元航行をするための準備をするためとはいえ、バイトで資金を稼ぐなど無理にもほどがある。

「仕方ないだろう。地球の物質ではないものまで用意しなければいけないんだ。」

ティエリアはずれていたメガネを直しながら読み終わったものを横に積む。
しかし、彼も内心同意見ではある。
つい先日連れてきたあのイアンすらも上回る『M・A・D』な科学者の指示は無茶なものばかりだ。
特に、ガンダム、そして太陽炉すらも分解して調べ上げようとした時はクルー一同本当に焦った。(もっとも、その時からイアンとだけは妙にウマが合うようになったようだが。)

「大体不公平だろ!」

ロックオンが板とテーブルを叩いて起き上がる。

「なんで俺たちだけがバイトで刹那はトレミーに残ってんだ!!」

「君も最初は了解しただろう。あと、声が大きいぞ。」

「うぐっ……」

痛いところをつかれたのかロックオンは渋い顔をして黙りこむ。

「……今のエリオ・モンディアルには刹那が必要だ。」

「俺たちみたいにしないために、か?」

二人の間に沈黙が流れる。
不思議と街の喧騒も耳に届かず、風の音だけが二人を包み込んでいるようだ。

「あんた……意外とやさしいんだな。」

「何を馬鹿な……それより、そろそろ休みも終わりだ。現場に戻るぞ。」

「へいへい。また命綱をつけてビルの窓ふきか……ったく、嫌になんぜ。」

文句を言うロックオンだったが、顔を若干赤くしながら先に歩いていくティエリアの背中を見つめるその顔は彼の兄、先代のロックオンによく似た包容力のある笑顔だった。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 14.Fの遺産



プトレマイオスⅡ コンテナ

「はぁっ!!!!」

鋭い一撃と化した影が金属製の床を駆け抜ける。
だが、その先で待ち構えていたもう一つの影はすぐ近くまで迫っていた攻撃を金属製の棒の上を滑らせて受け流す。
そして、

「蒼牙……一迅!!」

「くっ……!!」

強力な風を纏わせて棒を振り抜く。
刃など付いていないはずの棒で強固な床が切断され、咄嗟に相棒を盾にした小さな影がその身に斬撃の激痛を感じながら吹き飛ばされる。
だが、小さな影はなんとか着地した地点で踏ん張ると、足の裏に微かに電撃が奔らせる。

「っ……!!」

大きな影が構えた時にはすでに手に持っていた得物は真っ二つに切断されていた。
だが、長さの異なるその二振りをさっと手に取ると風を纏わせて振り向く。

「蒼牙……」

「必中……」

「連舞!!」

「一閃!!」

幾重にも重なった蒼の斬撃と鋭い突きが交差する。
それが終わると今度はカァンと音をたてて大振りな槍が空中を舞っていた。

「はい。そこまで~。」

床に落ちたストラーダを拾いに行くエリオと二つに分かれてしまった棒を捨てる刹那に上から模擬戦の様子を眺めていたジルが下りてくる。

「刹那もだいぶ魔法に慣れてきたな。オイラも融合騎として鼻が高いぜ~。」

「だから俺は別にお前のロードじゃないと……」

「照れんなよ刹那。いい弟分ができてよかったじゃないか。」

「お!さすがラッセ!よくわかってらっしゃる!」

「………………………」

盛り上がるジルとラッセは放っておいて刹那はエリオのもとまで歩いていく。

「大丈夫か?」

「はい……それより、どうでした?」

エリオはしびれの残る手でなんとかストラーダを握りながら刹那を見上げる。

「悪くない。俺もお前と戦うことで魔法戦に慣れることができて感謝している。」

「ありがとうございます、セイエイさん!」

パアッと明るい顔で頭を下げるエリオだが、反対に背を向けた刹那の顔はどことなく暗い。
トレミーと合流してからすぐにラッセ、そしてエリオから頼まれて気乗りがしないままエリオに戦闘術を教えたり、こうしてときたま模擬戦を行うのだがどうしてもあの赤髪の男が頭をよぎってしまう。

(俺は……今の俺のしていることはやつと何も変わらない……)

どんなに違うと自分に言い聞かせても心が晴れない。
そんな葛藤の中、刹那はここ数日のエリオとの訓練を行っていた。

「あんまり思いつめんなよ、刹那。」

ラッセに肩を叩かれて刹那が振り向く。

「お前があいつに教えてんのは生き残るための戦い方だ。死ぬための戦い方じゃない。」

「ラッセ……」

どうしてといった顔をする刹那をラッセが笑う。

「気付かないとでも思ってたのか?急所をつかずに相手を制する方法、追い詰められた時の対処……どれもあいつが必要としているものだ。」

そう言うとラッセは暗い雰囲気を吹き飛ばすように刹那の背中を勢いよく叩く。

「自信持てよ。お前はエリオにとって良い師匠だよ。」

「……ありがとう。」

ボソリと小声でそう呟いてさっさと歩きだす刹那。
それがおかしくて、エリオとジルが首をかしげているのも関係なくラッセは笑いを必死に堪えていた。





調整室

「ハッハッ、青春だねぇ。」

「ハッハッ、まったくだな。」

「も~……ジェイルさんもパパもおじさん臭いです。」

飲み物を運んできたミレイナはイアンとその横に立つグレーの制服の上に白衣を羽織った男、ジェイル・スカリエッティの発言に苦笑する。

「おじさん臭いというのは聞き捨てならないね。その言葉が似合うのはイアンくらいの歳になってからだ。」

「失礼なことを言うな。わしはまだ十分に若いぞ。」

「二人とも……せめてモニターから顔を離して喋ってください。」

エリオとラッセの訓練の光景を眺めながら目も合わせないで会話をする二人に溜め息をつきながらも数時間前に差し入れた食事のトレイを持ちあげる。

「きりのいいところで早く切り上げてくださいよ。また徹夜したら体を壊しちゃいますからね。」

「はいはい……」

「わかってるよ……」

本当にわかっているのか不安が残るが、生返事をする二人を残してミレイナは薄暗い部屋から退散する。

「しかし、イオリアを同じ科学者として尊敬するよ。」

ミレイナがいなくなったことを確認したジェイルは指を躍らせるとガンダム、そしてGNドライヴのデータを表示する。

「軌道エレベーターを実現しただけでも大したものなのに、まさかさらにその先を行くテクノロジーの基礎理論を確立するとはね。」

「お前さんだって負けず劣らず大層なものを作っているそうじゃないか。」

「私の場合はほとんどがろくでもないものさ。兵器の開発に生体実験……どれも人に誇れるものじゃない。それに……」

ふいに横を向いたときに見えたイアンの悲しそうな横顔にジェイルは言葉を飲み込む。

「いや、なんでもない。」

「なんだよ。途中で止められると気になるだろ。」

「他愛のない話さ。私が生まれてはじめて良かれと思ってしたことが、二組の親子を不幸のどん底に突き落としてしまった……そんな、馬鹿な男の話なんて聞いても仕方ないだろう?」

「ジェイル…………」

「ほら、イアン。手が止まっているぞ。早く終わらせないと今度はミレイナと一緒にウェンディまで怒鳴りこんできそうだ。」

無理に笑うジェイル。
それを見たイアンも無理に話を聞こうとはせずに作業を再開する。
だが、

「……いつか話せよ。」

「まあ、暇だったらね。」

その言葉を最後に、二人はモニターとのにらめっこを再開した。





ミレイナの部屋

「もぉ~!ジェイルさんが来てからパパの『M・A・D』さが悪化してるです!」

「まあまあ。オタク同士、気が会うところがあるんスよ。」

ヘラヘラと笑うウェンディと頬を膨らませるミレイナ。
そして、

「あの……どう見ても僕場違いな気が……」

「そんなに照れなくても良いっスよぉ!男の子は若い女の子と一緒にいる時が一番楽しいってセインが言ってたっス!」

「ぼ、僕は別にそんなこと……」

無理やり連れてこられた沙慈は赤い顔で俯いたまま肩身の狭い思いをしていた。
だいたい、ウェンディの言う理論は恋人のいない男に対してのみであり、好きな相手がいる沙慈にとってはまったく関係のないことだ。

「ミレイナ、一度ちゃんとクロスロードさんとお話ししてみたかったんです!」

……ないはずなのだが、女の子二人に囲まれてまったく何ともないと言えば嘘になる。

「ごめんルイス……これは別に浮気じゃないから。」

「何か言いましたか?」

不思議そうな表情で近寄られ、沙慈の顔はさらに赤くなる。
だが、ニヤニヤと笑うウェンディを見ていると今度は別の理由で顔が赤くなってくる。

「そう言えば、クロスロードさんはセイエイさんとスクライアさんのお友達だったんですよね?」

「それは……」

ミレイナの言葉に照れなど一気に吹き飛んで心の片隅に影が差す。

「……僕も昔はそう思ってたけど、きっと刹那とユーノは別にそんなこと……」

「そんなことないっスよ。」

あっけらかんとした声を出すウェンディの顔を見る。

「せっちゃんはいっつもさっちんの心配してるし、ユノユノは前にあたしにはっきりと『沙慈は僕の友達だよ。』な~んてくさいセリフを真顔で言うし、これが友達でないならなんなのかって話っス。」

「でも、彼らは僕のことをだましてたんだ……!たくさんの人を傷つけておいて、僕の前で笑ってるふりを……!」

「それも違うですよ?」

「知らないの?」といった顔のミレイナはいつもの調子で話し始める。

「スクライアさんはずっとクロスロードさんに本当のことを言えないことが辛かったって言ってたです。セイエイさんもクロスロードさんの御家族や大切な人が巻き込まれたって聞いた後、一人で泣いてたです。」

泣いていた?
刹那が?
自分の知っている姿からはとても想像できない。

「さっちんはせっちゃんやユノユノが嫌いなんスか?」

そう言われて改めて考える。
自分は本当にあの二人が嫌いなのだろうか。
憎悪の対象として見ることができるのだろうか。

逆に、また友人として手を差しだすことができるのだろうか。

「………わからないよ。」

ウェンディの問いかけは沙慈の視界を埋め尽くす天井の明りに溶け込んでいった。





ブリッジ

「材料を入手できるかもしれない?」

ブリッジにいたスメラギとフェルトはモニターに映ったⅤサインをするアイナを見る。

『うん。クラナガンから北西34㎞。アイザックの外れで最近になって廃棄されてるラボが見つかったらしいの。2日後には局が本格的に捜索に入るらしいんだけど、その前にそこを調べられれば……』

「ひょっとしたら何か見つかるかもしれない……そういうことですね。」

『そ。まあ、クロウの話ではなんか地上部隊と航行部隊の間でもめてていつ来るかは正直はっきりとはわからないらしいんだけど、二日は時間を稼げるって言ってた。』

「OK、ありがとう。フェルト、外に出てるロックオンとティエリアを呼びもどして。すぐに探索に向かうわよ。」

「了解。ダブルオー、先行準備に入ります。」





調整室

「アイザックのラボ?」

その単語を聞いたジェイルの顔が険しいものに変わる。
そして、すぐに刹那の端末へ回線をつないで呼びだす。

『どうした?』

「ラボの探索に行く前に君たちに言っておかなければならないことがある。」

『?』

真剣な顔をするジェイルに疑問を持つ刹那だが、彼の言葉を待たずにジェイルは喋り始める。

「そこにあるもの……とくに、残されていたとデータを見たとしても、エリオ君とは今まで通りに接してほしい。」

『どういうことだ?なぜ、エリオが……』

「とにかく約束してくれ。何があっても、彼を傷つけるような真似だけはしないでくれ。頼む……」

「お、おい、ジェイル…」

『スカリエッティ……』

頭を床にこすり合わせるほどの土下座。
研究以外は世捨て人のようにふるまうジェイルのその姿に二人は言葉を失くす。
だが、

『……わかった。』

刹那がしっかりとうなずいて見せると、ジェイルはようやく顔を上げた。

「すまない……だが、今は聞かないでくれ。」

『構わない。』

こんな時、ユーノなら気のきいたことの一つも言えるのかもしれないが、刹那はそれほど器用な性格をしていない。
だが、そんなことをしなくても刹那の優しさを周りの人間はよくわかっている。

「ありがとう。気をつけて行って来てくれ。」

『……了解した。』






数時間後 アイザック周辺

「な~んてことがあったらしいぞ。」

月明かりの下、ケルディムを操縦するロックオンはティエリアに軽口をたたく。

「刹那のやつ結構照れてたらしいぞ。ぜひ見ときたかったなぁ。」

「……無駄口を叩くな。GN粒子のおかげで探知されにくいとはいえ、トレミーは今セラヴィーとケルディムだけで守っているんだ。気を抜いていて接近を許したなんて愚かなことだけはしないでくれ。」

「ちぇっ……もうちょいユーモアのきいた答えを言えないのかよ。」

不満そうな声で通信を終了したロックオンだったが、そのノリの軽さとは裏腹にティエリアの姿がモニターから消えると表情を厳しくする。

「あんましいい予感はしないな……」

「ヤバソウ!ヤバソウ!」

「ああ。まったく……クラウスたちがどうなってんのかもわかんねぇのに面倒ばっかやって来てくれるな。」

とはいえ、この面倒を片づけないことには自分を待っている仲間の元には戻れない。
そう考えていてはたと気づく。

「……なんか俺、ソレスタルビーイングに入ってから楽天的になった気がする……」

「イイ傾向!イイ傾向!」

「そうかぁ?」

悪いことではないのかもしれないが、素直に喜んでもいいことにも思えない。
ハロの楽しそうな声にそう思わずにはいられないロックオンだった。




ラボ

「ふざけるなっ……!!」

暗闇の一角。
機能を取り戻したモニターに表示されたデータ、そして画像を見た刹那はコンソールに渾身の力で拳を叩きつける。
その衝撃で脆くなっていた装置が壊れるが、いっそその方が刹那にとっては良かった。

「プロジェクトF……!!こんなものの存在が許されてたまるか……!!」

もはや物資を入手するなど刹那にはどうでもよくなっていた。
この施設を一刻も早くこの世から葬り去らなければならない。

「ジェイル・スカリエッティ……お前が言っていたのはこういうことか……!!」

刹那が苦々しげに見つめる先に映っていたのは、黄緑の液体で満たされた培養槽。
その中にいるのは、

「エリオ……お前が背負う歪みはこれか……」

エリオが目を閉じて浮かぶその様に刹那は胸が締め付けられる。
幼くして亡くなった“オリジナルのエリオ・モンディアル”を模倣して生み出された存在。
それが、今自分たちと行動を共にしているエリオの正体。

「ジル……お前は、どう思う?」

「……わかんねぇ。けど…」

横に浮いていたジルは刹那の肩に腰かける。

「どんなに悲しくても、死んだ人間をよみがえらせていい理由にはなんないよ……だって、それってそいつの生き抜いた人生を否定することになる……オイラは、そう思う。」

「そう、か……」

「けどけど!オイラ達と一緒にいるエリオは死んだ方のエリオじゃないんだ!生まれ方がどうであれ、一人の人間として接してやるのが正しいと思う!」

「そうだな……」

必死に熱弁するジルの頭を優しくなでた刹那は脇に置いていた手の平ほどの金属の塊を持ちあげる。

「……ジル。」

「わかってるよ。読まなくたってそれくらいわかる。」

「止めないのか……?」

「最低限必要なものをゲットできたんだ。これ以上こんなところを残しておく理由はないだろ?」

「……あとでスメラギから小言だな。」

せっかくの物資の補給がこれでパーだ。
角を生やして悪鬼のごとく怒り狂うスメラギとイアンの姿が頭をよぎるが、二人とも理由を聞けばわかってくれるはずだ。

『刹那!!』

「うわっ!!?オイラじゃないよ!!!!最初に言い出したのは刹那だから!!!!」

「ジル……」

突然刹那の手元から聞こえてきたフェルトの声に慌てて言い訳をしながら刹那の頭の後ろに隠れる。

『何言ってるの!?二人ともすぐ戻ってきて!!管理局に見つかって襲撃を受けてるの!!ティエリアとロックオンが踏ん張ってくれてるけど想像以上に敵が手ごわくて……』

「わかった。こちらも言われていたものを入手したからすぐに救援に向かう。」

『急いで……アウッ!!』

「思っている以上に余裕はなさそうだな。」

短い叫びと振動でブラックアウトした携帯端末をしまった刹那は外で待機させているダブルオーのもとまで急いだ。





アイザック周辺

深い夜の闇をいくつもの光源が照らし出す。
かなり距離がある街から聞こえてくるけたたましい警報が耳障りだが、そこで激しい戦闘を繰り広げる四機には互いに武器をぶつけあう音でそれをかき消していた。

「バルディッシュ、モード・サイズ!!」

〈All right!〉

漆黒の戦斧がガチガチと音をたてて高速で変形していく。
組み上がった白と黒のコントラストが美しい曲線の刃は周囲の大気を震わせながら同じようなカラーリングの機体へと向かう。
だが、相手も黙ってそれを受けるわけがない。
ピンクの刃で受け止めてすぐさま長細い顔へ砲撃を放つ。
それを持ち前の機動力でかわしたシュバリエとフェイトにティエリアは短く舌打ちをする。

「武器だけが変形か……クロウの話ではデバイスの技術を転用しているらしいが、実験段階でここまでのものを作り上げるとはな……」

だが、本当に厄介なのはそれではない。
ガンダムを上回る機動力と瞬発力。
砲撃戦主体のセラヴィーには分が悪い。

「ケルディム……も苦戦しているか……」

ちらりと上を向くと遥か上空で以前戦った機体がケルディムを前にはなかった鎚のような装備を振るいながら追い詰めている光景があった。



「ハロ、ジェネレーターは火器よりも機動力の確保にまわせ!!」

「了解!了解!」

さらに動きが滑らかになったケルディムは唸りを上げる鉄槌をかわすと赤くカラーリングされた脇腹へ弾丸を撃ち込む。
しかし、装甲をさらに強化されたエスクワイアはそれをものともせずにGNパイルを横に振り抜く。

「うぉっと!!やっぱ粒子をまわせねぇと威力はこんなもんか!!」

すぐそばをかすめていった鎚とケルディムの持つビームピストルを見比べながら苦笑する。
粒子が少ないせいで威力が普段よりも控え目になっているせいかエスクワイアはダメージを受けている気配が全くない。
それでも、この状態でも通常のMSならば沈んでいる攻撃力なのだが。

「とは言え、こんなもん喰らうわけにもいかねぇしな!!」

さらに追撃してくるエスクワイアへビームピストルを発射しながらなんとか狙撃できる距離まで移動しようとする。
しかし、エスクワイアの方もぴったりとケルディムについて離れない。

「ちょこまかすんじゃ……ねぇよっ!!」

エスクワイアを操るスレンダーで高身長の女性が毒づく。
お淑やかに振る舞えばなかなかの器量良しなのだが、生来のガサツさが災いしてかなり近づきがたい空気をだしている。

「チッ……まさかMSに乗ることになって……おまけにさっそく戦闘とはな!!」

(本人の希望で)外見を大きく見せているヴィータは目の前にいるケルディムにしつこく食らいつく。
クラウディアのクルーで唯一ガンダムの存在を知っているヴィータはケルディムがかつて夢の中で見たデュナメスと同タイプの機体であることを見抜き、狙撃をさせまいと最初から接近戦へともちこんだ。

(こいつに距離をとらせたら狙撃が来る……あたしの距離で戦わないと一方的に狙い撃たれて終わりだ!)

手も足も出ずに終わる。
そんなことは万が一にも許されない。
でなければ、何のために危険を冒してまで戦いを挑んだのかわからない。




10分前

「ヴィータ、もうすぐ目標地点だよ。」

「ああ……わかってる。」

これ以上ないほど不機嫌なヴィータの声にフェイトは苦笑いを浮かべるしかない。
ティアナがカレドヴルフの試作機のテストのために抜けたせいで余ってしまったエスクワイアをヴィータが使うことになったのだが、当然本人は猛烈にそれを拒否した。
だが、クロノが艦長として出した命令に従わないわけにもいかずこうして渋々彼女専用に再カスタムされたエスクワイアに乗っているわけだ。

「それにしても……その格好はどうかと思うよ?」

「うっせー、ボイン。年取ってもガキの姿のままのあたしの苦しみがお前にわかるか。」

確かに与えられたパイロットスーツはぶかぶか。
コックピットではペダルや操縦桿には手が届くものの、どんなに頑張って伸ばしても最後まで踏み込んだりできないなどのシュールなハプニングが起こったせいでヴィータの不機嫌さはさらに加速傾向を見せた。
そこで、変身魔法で姿だけは妙齢の女性に変化し、さらにペダルや操縦桿に改良を加えてどうにか通常のパイロット並みの動きをするまでは改善された。
しかし、それだけでヴィータの動きを十分に再現できるわけもなく、彼女の操縦方法にはテストも兼ねて新しい機能が追加されていた。

(ダイレクト・フィードバック・システム……たしかに、これが搭載されれば私たちの動きの再現率はさらに上がる。でも……)

ダイレクト・フィードバック・システム
パイロットの思考を直接伝えるため、魔法戦の実力を忠実に再現することが可能となるシステムであり、今回実験的にヴィータの搭乗するエスクワイアに搭載されている。
これによって魔導士として優秀な人間を乗せることでMSの能力を生かしきり、場合によってはスペック以上の動きを行うことすら可能にした。
だがその反面、ダメージが多少操縦者にもフィードバックされてしまうため使用者には強靭な精神力が求められることになった。

(いくらヴィータでも、無理があるんじゃ……)

「……心配すんなよ。」

フェイトの不安に気付いたのか、ヴィータは親指を立てて見せる。

「腐っても守護騎士だ。仮想の痛みに屈するほどやわじゃねぇよ。」

「うん……よかった。」

「?よかった?」

「うん。なんだか、最近のヴィータ、ピリピリしてて話しかけにくかったけど、やっぱり優しいままで変わってなかったって思えたから。」

フェイトの純粋すぎる言葉にヴィータの顔が一気に赤くなる。

「バッ…!!ちげぇよ!!今のは別にそういうつもりで言ったんじゃなくて余計な心配すんなってことで……」

「ううん。やっぱりヴィータは良い子だよ。」

「だからお前は人の話を聞けッ!!それと子供扱いすんな!!」

全力で抗議をするヴィータだが、フェイトはなんで彼女が怒っているのかわからないままニコニコと笑いながら話しかけてくる。

「チッ……どうして魔導士ランクの高い奴らは変わったやつらばっかなんだ……ん?」

ブツブツと愚痴を呟いていたヴィータはある反応に目を止める。

「識別不明機……?二つはMS程度の大きさで……一つは戦艦くらいのでかさか。」

こんなところに来る人間など自分たちのように無断先行で最近発見されたラボを調べようとする者だけだろう。
となると、どう考えてもこの識別不能機はまともな目的を持っているとは考えがたい。

「チッ……関係者かなんかか?おおかた証拠隠滅のためにやってきたってとこだろ。オイ、フェイト。」

「うん。わかってる。」

二人は機体を一気に加速させて目標へ近づく。
そして、

「なっ!?」

「あれ……!!」

目視できる位置まで来て驚く。
つい先日逃がした艦があらたにもう一機のMSを追加して月明かりの下ゆうゆうと進んでいるではないか。

「ヴィータ…!!」

「ああ!まさかこんな形でビンゴを引き当てるなんてな!!」

向こうもこちらの存在に気付くが、ヴィータは一気にモスグリーンの機体、ケルディムへ接近して肩に付けていたGNパイルを外して渾身の力で振るう。

「おらあぁぁぁぁぁ!!!!!」

「おわっ!!!?」

反対側の面についているブースター部分から赤い粒子をまきちらしながらケルディムの肩を削るGNパイル。
しかし、皮一枚削られただけのケルディムはすぐさま距離をとって狙撃の態勢に入る。
だが、

「させるかっ!!!!」

「クッ!!コイツ!!?」

再び距離を詰められ仕方なく二丁のビームピストルを抜いて対抗する。

「ロックオン!!」

すぐさま援護射撃をしようとするセラヴィーとティエリア。
しかし、

「させない!!」

「グッ!!?」

高速で接近してきたシュバリエによって砲門を弾かれてあさっての方向へビームを撃ってしまう。

「この前の新型か!!」

「今度は逃がさない!!」






現在

「圧縮粒子解放!!」

二つに合わさったGNバズーカから巨大な光球が撃ち出されるが、シュバリエの脇をすり抜けたそれは地上にぶつかってピンクの稲妻のドームに姿を変えた後、クレーターを作り上げる。

「すごい威力だ……!!」

〈ですが、当たらなければどうということはありません。〉

「うん!!」

刃に粒子を纏わせてセラヴィーへと振り抜くシュバリエ。
その姿は漆黒の色と相まって騎士というより死神のそれを彷彿とさせる。

「クッ……!!やはりセラヴィーでは……」

『ティエリア、さがれ!!』

「!!」

その声にGNバズーカをしまってシュバリエから離れるセラヴィー。
それを追いかけるフェイトだったが、セラヴィーとの間に割り込んできた閃光に動きを止めていったんさがる。

「増援!?」

「新しいガンダムか!!」

二人が見つめる先でダブルオーはライフルモードにしていたGNソードを元に戻すと今度はエスクワイアへ斬りかかる。

「つっ!!?」

パイルで受け止めるヴィータだが、加速してぶつけられた刃に押されてケルディムから引きはがされる。

「しまっ……」

「狙い撃つぜ!!」

最大威力で発射されたケルディムの一撃はダブルオーのすぐわきを通りながらエスクワイアの左肩を撃ち抜いた。

「っつあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ヴィータ!!!!」

今までとは比べ物にならない痛みに絶叫するヴィータ。
その隙をついてダブルオーがとどめをさすべく真っ直ぐ刃を振り下ろす。
しかし、持ち前の機動力を使ってシュバリエが間一髪でGNサイズを使ってその一撃を受け止める。

「はぁっ!!」

「クッ!!」

その状態からすぐに切り返してダブルオーのGNドライヴを狙った一撃は惜しくも外れるが、ダブルオーに距離をとらせることには成功する。

「ヴィータ大丈夫!!?」

「ってて……!心配すんなつったろ。このくらいならまだやれる。」

フェイトとヴィータが話している間に、刹那たちも互いの無事を確認し合う。

「あっぶね~……あのまっ黒クロスケ結構速いぞ。」

「もう片方は以上に固いしな。最大出力で撃って肩の装甲が削れるだけなんざ異常だぜ。」

「…………………」

彼我の戦力を鑑みるに、三機そろってどうにかトレミーをかばいながらこの場を離れられるといったところだろう。
だが、

「ティエリア、頼みたいことがある。」

「?」

「できればラボの破壊に向かってほしい。理由はこれから全員に送る。ジル。」

「あいよ。」

ダブルオーから送られてきたデータにトレミーのクルー、そしてガンダムマイスターたちは驚愕し、怒りをかみ殺しながら静かにうなずく。

「すまない……」

「構わない。その代わり、トレミーは必ず守り抜け。」

「わかっている。」

急速にその場を離れていくセラヴィーを見送ったダブルオーとケルディムは改めてシュバリエ、エスクワイアの両機と向かい合う。

「刹那、はっきり言ってあの二機と俺とティエリアの相性は最悪だ。できるだけ近寄らせないでくれ。」

「了解した。」

刃を断ち斬るべき敵へと向け、もはや一種の儀式と化した己の覚悟を宣言する。

「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!」

同時に動き出したケルディム以外の三機はすぐさま剣戟を重ねていく。
火花と剣閃が混じりあい、そこだけがあたかも舞踊のステージのように明るく映える。
そこへケルディムの狙撃が加わり、その動きはさらに複雑で美しい軌道を描き出す。

「そこだ!!」

一瞬のすきをついてエスクワイアのパイルがダブルオーを叩きつぶそうとする。
しかし、それを読んでいたジルと刹那はパイルの柄にGNソードをぶつけて太刀筋をずらすとそのまま柄に沿ってエスクワイアの腕へ刃を走らせる。
だが、それを遮るように今度はシュバリエの鎌が首を狙ってくる。
やむなく攻撃を中断してそれをかわすが、二人の動揺は大きい。

「読むのと同時に攻撃が来る……!!」

「いや、場合によっちゃそれ以上だぜ……」

エスクワイアはともかく、シュバリエの動きはすでにジルの予測のスピードを上回りつつある。
こんなスピードで戦えば思考が反射に追いつかないものなのだが、よほど高速での戦闘に慣れているのかシュバリエの動きは驚くほど滑らかだ。

「強い…!!」

認めざるをえない。
MS戦を経験したことのない人間ばかりだと聞いていたが、少なくとも今対峙しているこの二機は一流の戦士だ。

「だが、負けるわけにはいかない!!」

首元をかすめるサイズをかわしてシュバリエの脇をくぐり、後ろから迫っていたエスクワイアと互いの意地をぶつけあうように鍔迫り合いをする。

『なんでミッドに来た!!!!』

「!?」

突然の接触回線から聞こえてきた女の声に操縦桿を押しこまれないように力を込めながら刹那は耳を傾ける。

『お前らがここで戦う理由はなんだ!!ユーノを巻き込んで、挙句この世界の秩序まで破壊する気か!!!!』

「貴様!?どうしてユーノを…」

『お前たちさえいなければ……あたしも…はやても……なのはとユーノだって!!!!』

エスクワイアがダブルオーを押し始める。

『この世界で生きる奴らだって、傷ついてまで変わることを望んじゃいない!!!!』

「……誰かの想いを踏みにじっていてもか……!!」

『!?』

押していたエスクワイアだが、途中でピタリと止まる。

「失ったものを手にするために命をもてあそび……幼い、なんの力も持たない子供が戦わなければいけないと思うような世界が正しいとでも言う気か!!!!!!」

ユーノも、そしてエリオも。
本当ならもっと穏やかな日々を過ごしていただろう。
家族と笑いあって生きていただろう。
だが、あの二人は自ら戦場へとその身を投げ込んでしまった。

「別の世界だろうと関係ない……!!」

ダブルオーの両肩から今までの比ではない量のGN粒子が溢れだし、エスクワイアを押し返していく。

「貴様たちのその歪み……俺が……俺たちが断ち斬る!!!!!!」

力任せに振り抜いた刃は巨大な金属の塊であるパイルの先端を両断していた。
信じがたい出来事に呆けてしまうヴィータだったが、そんな彼女をよそに今度はシュバリエがダブルオーと戦闘を開始する。

「ヴィータはさがってて!!」

返事がくる前にダブルオーを斬りつけて再び距離をとったフェイトはアームガンでケルディムも牽制する。

「チィッ!!やっぱはえぇな!!」

「捕捉不能!捕捉不能!」

影を残して動き回るシュバリエに苦戦するケルディム。
だが、ダブルオーは時折シュバリエの軌道へ入り込んでその進行を妨げる。

「読まれてる!?けど!!」

「駄目だ!!早すぎてオイラでも動きをとらえきれない!!」

すぐに視界から消えてしまうシュバリエに苦戦する刹那とジル。
しかし、ふと気付く。

(こいつ……まさか?)

ダブルオーが攻撃を受けた箇所をみて刹那はあることに気付く。

「試してみるか……」

刹那の策など知らずにシュバリエを突っ込ませてくるフェイト。
彼女が狙っているのはMS戦の定石であるコックピットではなく、武器を握るその腕だ。

「これで……ダウン!!」

無防備になっていた右腕に刃が向かってくる。
しかし、ヒットする直前にダブルオーが少し動く。
その結果、サイズが向かう先は、

「!?くっ!!」

危うくコックピットを貫こうとしていたサイズを多少動きが崩れるのも構わず強引に引っ込めたフェイトは冷や汗で体温が急速に下がっていくのを感じる。

「危ない……!!でも、どうしてあんなこと……」

「やはりな。」

刹那の予測は当たっていた。
エスクワイアもそうだったが、敵は攻撃を意識的にコックピットから遠ざけている。

「不殺主義か……だが、お前たちのそれは甘えだ。」

ユーノも極力コックピットを外しているが、それはあくまでむやみに命を奪いたくないという確固たる信念に支えられているが故のものだ。
しかし、こいつらは違う。
ただ相手の死を背負うことを拒絶しているために相手を殺そうとしない。
その証拠に、

「こんな攻撃で……ガンダムが墜ちるものか!!!!」

限りなく浅い傷。
ただ傷つけることを恐れているだけのぬるい攻撃に刹那は怒りを爆発させる。

「はぁっ!!」

鋭い突きを放つが、シュバリエは余裕を持ってそれをかわす。

「今度こそ!!」

がら空きになっていた頭部へ鎌を振り抜こうとする。
だが、

「そこだ!!」

「えっ!!?きゃあっ!!!!」

寸でのところでライフルモードになっていたGNソードの弾がシュバリエの肩から先を吹き飛ばす。

「その程度で俺とダブルオーを止めることはできない。」

「うっ……!!」

ダブルオーの目に何かを感じたフェイトは距離をとる。
そこへ、

『フェイト、ヴィータ、これはどういうことだ?』

「クロノ……」

『ラボに向かえといった覚えは全くないぞ。しかも、こんな居住区の近くでMSを使うなんてどういうつもりだ?』

静かに威圧感を放つクロノに二人は言葉を無くして俯く。

『とにかく早く帰ってこい。』

「でも、あいつらは!!」

『命令だ。』

冷たく言いきって通信を終了したクロノにヴィータは拳を固く握りしめるが、仕方なくこの場から撤退を開始する。

『敵機、撤退を開始したです。』

『ティエリアからも連絡が入りました。ラボの破壊に成功したそうです。』

戦いは終わった。
しかし、しばらくその場から誰も動けない。
勝利を掴んだにもかかわらず、虚しさだけが心を埋め尽くしていく。
その感覚だけを生き残った証として胸に刻み、プトレマイオスⅡとガンダムたちはその場を去った。






プトレマイオスⅡ 医務室

「そうか、やはり残っていたか……」

ミッションの後、ジェイルに呼び出された刹那とジルはそれぞれ椅子と肩に腰を下ろす。

「データはあらかた参照した。」

「ということは、私が何をしたのかもわかったということか。」

自嘲しながら二人に背を向けて机の上の紙にペンを走らせ始めるジェイル。

「……私自身、人工的に生み出された命だったせいか人の手で人を作るということにあまり抵抗を持っていなくてね。誰かの心を癒すことができるなら法を破ることなどなんとも思っていなかった。」

「だから、プロジェクトFを?」

「ああ。……今となっては愚かなことをしたものだと思うよ。死した人間の命を生きている人間が弄ぶことがどんな悲劇を生むかよく考えておくべきだった……」

「そんな言い訳が……!!」

「そう、まさしく言い訳だ。私は彼らにいくら詫びても償うことなどできはしない。あの二組の親子を絶望の淵へ追いやったのは私だ。だが、だからこそ私は逃げない。」

手を止めたジェイルは椅子をクルリと回転させると二人の方を向く。

「彼が本当の意味でFの呪縛から解放されるその日まで、私は全力で彼を支えるつもりだ。」

「お前が世界を変えたいと願う理由もそれか。」

「無限の欲望……それの矛先がよもや世界に生きる命に向くなんて、私を生み出した者たちも想像できなかっただろうがね。」

神妙な顔をしていたジェイルの顔はいつの間にかいつもの掴みどころのない笑みに変わっていた。

「さて、君たちのせいで少量しか手に入らなかったが、あれだけあればコアの部分は作れるだろう。」

伸びをしながら立ち上がるジェイルにジルは顔を輝かせる。

「そんじゃあ、やっと地球に……」

「ああ。あとレアメタルが各種キロ単位と周りを保護するための金属類が……」

「あ、聞きたくなかったそれ。」

さっき書いていた見積書を読み上げていくとジルはひきつった顔でひょろひょろと高度を下げる。
それを見ていたジェイルはフッと笑って扉の前まで歩いていく。

「心配しなくても良いよ。こいつについてはヘイゼルバーグ君たちがどうにかしてくれるだろう。それじゃ、私はイアンの手伝いに行かせてもらうよ。」

「ジェイル。」

はじめて呼ばれたファーストネームにジェイルは足を止める。

「お前がどんな過去を背負っているかは知らないが、俺たちは少なくともお前を仲間だと思っている。」

「……そうかい。」

背中を見せたまま右手をひらひらと振って歩いていくジェイル。
その背中はいつもよりも悲しげで、しかし希望に満ちているようにも見えた。






過去を変えられないのなら、未来を変えるために今を足掻くのは生ける者たちの特権か……





あとがき・・・・・・・・・・・という名の暴露その2

ロ「というわけで、エリオの秘密&スカの過去暴露な第十四話でした。そして、今回暴露するのは~~……」

実はヴィータの操縦方式はGガンのあれみたいな感じになる予定だった

ヴィ「こっちにしときゃよかったんじゃね?」

ロ「だってこれやったらベルカ系の奴らはほとんど関さんと秋元さんのやりとりみたいになっちゃうだろ。」

弟「なるわけないだろ……というか中の人で呼ぶのはやめろ。」

ロ「固いこと言うなよ三木さん。」

蒼「やめる気なしかい!!」

ロ「ていうか、これ採用しちゃったらこんな感じになるぞ。」





エリオ「フェイトさぁぁぁぁぁん!!!!」

フェイト「この馬鹿弟子がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ロ「みたいな。」

エ「いやいやいやいや!!!!これはないでしょ!!!!」

フェイト「キャラ崩壊なんてレベルじゃないよね!!?もう完全にド○ンと東方○敗だよね!!?」

ロ「だってお前らすぐにこういう方面に持ってきたがるだろ。」

エ・フェ「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁ!!!!」」

刹「なりかけてるぞ。」

ティ「まあ、ロビンに目をつけられたのが運のつきだな。」

ヴィ「これ以上エリオとフェイトがこの作品をGガン色に染める前に次回予告に行くぞ。」

刹「次回はI編。」

ティ「レイヴがビサイドに肉体を奪われ、仲間を探す術が無くなったテリシラ。」

フェイト「そんな彼を訪ねる一人のイノベイドがいた。」

蒼「一方、フェレシュテと合流したのち、アロウズを裏で操る人物が出席するパーティーの情報を得たユーノとアレルヤは潜入を試みる。」

弟「そこでユーノは想像もしていない事態に直面することになった!」

ヴィ「では最後に、このような拙い文を読んでいただいてありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!んじゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 15.歪み
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/22 20:42
テリシラ邸

「本当にいいのかい?兄さんのところに世話になって。」

両手に抱えていた荷物を床に置いてスルーは申し訳なさそうにテリシラの方を向く。

「ああ。お前の所属していたカタロンの部隊は壊滅したんだ。放ってはおけないだろう。」

「どこもかしこもステキ!」

「「………………………」」

その割にはお気楽なハーミヤはクルクルと回りながら部屋の広さにはしゃいでいるが、テリシラとスルーの視線に気付くと慌てて大人しくなる。

「はぁ……それにしても、レイの奴大丈夫かなぁ?他の部隊と合流するって言ってたけど……」

「レイさんも残ってくれればよかたんですけど……」

「彼には彼の譲れないものがあるのだろう。あれだけ意思が固いのならいくら止めたところで聞いてはくれないさ。」

と、口ではそういうものの、テリシラはレイが去ってくれたことに内心安堵していた。
これ以上自分たちの秘密を知られるのはごめんこうむりたいし、何より必要以上の詮索は彼自身にも危険が及ぶ。

(だが、彼も私たちのことを知ってしまった。はたしてヴェーダが放っておいてくれるかどうか……)




数日前 中東

「それで、俺には話せないというわけか。」

「ああ。悪いがそういうことになる。」

スルーが仲間たちを弔っている間、レイとテリシラはガランとした部屋の中で向かい合う。

「教えれば君にも危険が及ぶことになる。」

「……また、ブラッドのようなやつが来ると?」

「そっちの方がまだ救いがあるな。今度は、スルーやハーミヤが君を襲うことになるかもしれない。彼女たちの意思に関係なくな。」

「それは、あんたも同じじゃないのか、ドクター。」

「………その通りだ。」

「………ふぅ。」

顔をしかめながら乱暴に椅子に座ったレイは俯いたまま口を開いた。

「………最初に…」

「ん?」

「最初に会った時から、あの三人はどこか変わっててな。他の連中がそんなことはないと言っても、俺にはそうは思えなかった。」

クスクスと笑いながら話すレイの方を見ずに、テリシラは壁に寄りかかったまま耳を傾ける。

「それでも、あいつらは俺たちにとってはなにものにも代えがたい仲間なんだ。連邦と必死に戦って、一緒に飯を食って、馬鹿な話をして、笑って………関係ない奴からすればバカバカしいと思うかもしれないが、家族を失った俺にとってはあいつらとの絆だけが唯一人としての俺のよりどころなんだ。」

「………すまない。」

「謝らなくていい。むしろ、スルーたちを助けてくれたことを感謝する。」

「終わったよ……って、どうしたの二人とも?」

作業が終わったスルーが部屋に入ってきてテリシラとレイを見る。

「いや、お前とハーミヤをドクターが引き取ってくれると言ってたんでな。その話をしていた。」

「!」

テリシラが声を出す前に、レイが大きな声で話し始める。

「お前も肉親が見つかったことだし、これ以上無理に戦うことはないだろ。ついでに、あのおっちょこっちょいも連れてってくれるそうだ。」

「そんな……あんたはどうすんだよ!」

「俺はほかの部隊に合流するさ。なに、昔世話になった人がいるところに行ってみるさ。」

「でも!!」

「いいんだよ。」

レイは片目だけでニコリと笑う。

「俺は俺の生きたいように生きて、死にたいように死ぬ。それだけだ。」

床に置いてあったヘルメットをひょいと持ち上げるとテリシラの正面まで歩いていく。

「ドクター………二人を頼む。」

「………わかった。」

それだけ言うと、戸惑うスルーを置いてレイはその場を後にした。




現在 テリシラ邸

「ドクター、ラーズを言われた通りブリュンのそばに寝かせておきました。」

「ん……ああ、すまないな、サクヤ。」

「お疲れのようですね。よく眠っていらっしゃいましたよ。」

「いや、少しうとうとしてしまっただけだよ。」

テリシラは体を起こすと手に持っていた小説をソファーの上に置く。
レイがどうなったのかを考えていたら、ついうたた寝をしてしまったようだ。

「しかし、私たちもレイのことを心配できる立場ではないな……」

あのガンダムを操っていた人物。
確かに、レイヴと同じ脳量子波を使っていたが間違いなく別の人格だ。
状況的に考えれば、レイヴの体をその人格が奪ったということだろう。
もし、そうだとしたら

「ドクター、レイヴは……レイヴ・レチタティーヴォという人物はこの世から消滅してしまったのでしょうか?」

「……わからない。」

できればそうであってほしくない。
希望的観測であっても、今はレイヴの生存を信じるしかない。

「レイヴがいなくても、私は覚醒を行うことはできる………問題はどうやってその仲間を探すかだな。」

テリシラが立ち上がろうとしたその時、玄関のチャイムが鳴る。

「珍しいな……一体誰だ?」

防犯用に付けていたカメラで客の顔を確認するテリシラ。
だが、

「!!」

「この男は……!!」

紫の髪と中性的な顔立ち。
メガネをかけてはいるが、間違いない。

『聞こえているんでしょ、ドクター・テリシラ。』

カメラからこちらを見つめるその男をテリシラ、そして誰よりもサクヤは警戒する。

『僕の名前はリジェネ・レジェッタ……レイヴの使いとして、そしてあなたたち六人の仲間の一人として参上しました。』




魔導戦士ガンダム00 the guardian 15.歪み

フェレシュテ拠点

部屋を漂う空気の重さがどんどん増していく。
そんな雰囲気を肌でピリピリと感じながら一人地球に降りてきたシャルは口を開く。

「967、あなたも会ったのね。」

「ああ。」

967がうなずくとシャルは髪をかき上げてキュッと唇を噛みしめる。

「ビサイド・ペイン……まさか生きているなんて。」

「俺も迂闊だった。ユーノからレイヴ・レチタティーヴォのことを聞いたときにもっと追及しておけば……」

「それは仕方ないわ。ユーノが騙されるほど巧妙な演技じゃ…」

「違う。」

二人の会話を遮ったユーノに全員の視線が集まる。

「少なくともレイヴという人間は存在していた。あれが演技だったとは思えない。」

「じゃあ、なんスか?二重人格とか言うんじゃないでしょうね?」

藍色の制服を着たヴァイスが唇をとがらせながら反論するが、それをたしなめるようにアレルヤが口を開く。

「それはないと思うけど……でも、ユーノがそう言うんならきっとそうなんだよ。」

「でも、なんでレイヴは急にあんなに変わっちゃったのかしら……」

「………もし、」

「「「「?」」」」

967の神妙な面持ちにユーノ達の視線が集まる。

「もし、レイヴというイノベイドの肉体がビサイドと同一のものであったなら、ビサイドがその上に自分の記憶や人格を書き込んだのかもしれない。」

「どういうこと?」

アレルヤの質問を967に代わりシャルが答える。

「ビサイドは自分のパーソナルデータを他のイノベイドに書き込むことができるの。」

「しかも、一時的にではあるが他のイノベイドをコントロールもできる。」

「!そうか、だからあの時!」

「ああ。あのまま奴を追っていたら俺はお前に手を出していたかもしれない。………言いだせなくてすまない。」

「ううん……こっちこそ、ごめん。」

「はいはい。仲直りはそこまでにしといて、問題はこれから先どうするかっしょ。」

ヴァイスの言葉に部屋がしんと静まり返る。
レイヴが変わってしまった理由が分かったところで元に戻す方法はわからないのだ。
しかも、ヒクサーたちはビサイドと1ガンダムに対抗するために宇宙にあるファクトリーで例の機体の最終調整を進めていてこちらに合流できそうにない。

「………ねぇ、967。」

「なんだ?」

ユーノは額をトントンと指で軽く叩きながら質問する。

「今、ヴェーダを実質的に支配しているのはリボンズ・アルマークっていうイノベイドだって言ってたよね。」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「なら、イノベイドを支配しているのもリボンズと言っても過言じゃないわけだ。」

「オイ……まさか、お前………」

「そのまさかさ。」

ユーノは緊張感から額にじんわりと汗をにじませながらニヤリと笑う。

「こちらからリボンズ・アルマークと接触を図ってレイヴを元に戻す方法を聞きだす。」

「正気か!!?相手は俺たちの敵と言っても過言ではない存在だぞ!!」

「だからこそ、さ。ついでに弱みの一つでもつかめれば万々歳だよ。」

「だが……」

「あら、でしたらちょうどいいタイミングでしたね。」

まるで見計らっていたかのように扉が開き、二人の人物が部屋の中に入ってきた。
一人は緑がかった黒いストレートヘアの美しい女性。
もう一人は彼女を守るようにその一歩前に進み出た長身の美男子。

「王留美……」

「あら。覚えていただけて光栄ですわ、ユーノ・スクライア。」

ばかに丁寧な口調にムッとした顔をしながらも、ユーノは彼女の言葉を待つ。

「明日の夜、いままで姿を見せなかったアロウズの上層部が出席するパーティーが開かれるそうです。」

「その上層部って……」

「ええ。リボンズ・アルマーク……今の連邦を影で動かしているのも彼。あなた方の宿敵とも言える人物です。」

留美は優雅な歩き方でユーノの前まで進むとその手をとる。

「彼はあなたにとても興味を持っている……そう、愛おしく思うほどに。」

「そりゃ、魔法なんてもの珍しいものを使えれば興味の一つや二つ持つだろうさ。」

留美の手をゆっくり離して溜め息をつくユーノ。
だが、

「フフフ………自分の真の価値を知らないというのは哀れですわね。」

「?」

留美はユーノの視界を埋め尽くすほどに顔を近づける。

「あなたは自分で思っている以上に特別なんですよ?その力も……そして与えられたガンダムも。」

「なにを……」

突然の行動に訳もわからず顔を赤くするユーノに最上級の笑みを見せた留美はスッと離れる。

「誰が行くかはそちらにお任せします。では、私どもはこれで。」

言うことは言ってやったとばかりにさっさと帰っていく二人に呆気にとられていた一同だったが、すぐに話し合いを再開する。

「で、誰が行く……ていうか、行く気満々ね、ユーノ。」

「もちろん。言いだしっぺだしね。」

「じゃあ、僕がサポートに回るよ。」

こうしてパーティーに潜入する人間が決まったのだが、一つだけ問題があった。

「あなたたち二人とも顔が知られてるわよね。」

「「あ。」」

「忘れてたな……」

967は呆れて頭を抱えるが、その瞬間シャルの目が怪しく光る。

「安心しなさい……とっておきの方法があるから。ウフフフフフ……!!」





後にユーノは語る。
人間、不用意に何でもやるなどと言い出すものではないと。



テリシラ邸 庭

その頃、自宅を訪ねてきたリジェネを連れて庭に出たテリシラは背を向けたままのリジェネの話を一通り聞き終えていた。

「なるほど……事情はわかった。レイヴが君を仲間として見つけ出した。なら、君は本物なのだろう。」

「はい。」

「だとすると、レイヴから聞いているだろうが私は今レイヴと袂を分かっている。つまり、君を覚醒させることはできない。」

「そう言うと思いましたよ。」

そう言って振り向いたリジェネの薄ら笑いにテリシラはいっそう緊張感を高める。
サクヤがひどくおびえていたので警戒はしていたが、この顔、そして話し方で確信した。
コイツは、信用できない。

そんなテリシラの印象など知らないリジェネは弁舌をふるう。

「考えてもみてください。ヴェーダが我々に与えたミッションは個人的感情より優先されるはずです。」

調子が出てきたリジェネの弁論はとどまるところを知らない。

「あなたはレイヴが別人になってしまったことを気にされているでしょう?僕の能力が解放されればその能力を使って解決できるかもしれませんよ?」

「根拠のない希望的観測だな。」

「だが、今の状況では何も打開策はない。そうでしょう?」

(わかりやすい奴だ……)

ころころと自分に有意な話題を次々に提示しながらこちらに意思の提示をさせない。
典型的な詐欺師タイプの人間の喋り方だ。

「それに僕はレイヴに見つけ出されたものですが彼の味方というわけではない。強いて言うならヴェーダ、そして人類の味方だ。」

足元に咲いていた花を摘んでその香りを嗅ぎながらリジェネは目を細める。

「あなたが僕を覚醒させてくれたらレイヴとの間を取り持つことを約束しましょう。」

「なるほど。悪い条件ではないな。だが…」

「?」

「君は知らないかもしれないが私は数十年の間、人間社会で暮らし、数多くの人間と接してきた。その経験から言わせてもらうが……」

テリシラの口元が笑う。

「君の約束など信用できない。君の話し方は典型的な嘘つきのものだよ。」

その瞬間、リジェネの表情は一気に怒りで歪んだ。




地下

子供が広い屋敷に放り込まれたときにまっさきに何をするだろうか。
その答えはいつの時代でも変わらないものだ。

「えへへ……」

テリシラ邸の家事をこなすロボットP-5、通称ピノ子(ハーミヤ命名)に連れられてハーミヤは広い屋敷をくまなく歩いていく。
そんな時、

ビーッ!ビーッ!

「え?この先は入っちゃ駄目ですか?わかりました、行かないです。」

そう言って暗闇の中へ消えていくピノ子を見送ったハーミヤだったが、すぐにその約束を反故にしてピノ子の後を追う。

「へ~、地下室ですか。」

興味津々で階段を下りていくハーミヤ。
しかし、そこで彼女を待っていたのは、

「!!!?!!?!?!!!!!!?」

豪華な装飾を施された椅子。
そこに座っているのは黒い眼帯をつけた長い髪の少女。
部屋の明かりがついていないせいで本来それが持つ美しさは一気に恐怖へと反転した。

「あっひぃぃーーーーん!!!!!!!!」

「ハーミヤ!?」

「ハーミヤさん?(まさか“彼”を……)」

その叫びに富んできたスルーとサクヤだが、部屋の中の様子を見てそれぞれ別の意味で絶句する。

「こ、これは……!」

(やはり、見つかってしまいましたか。)

ゴスロリ衣装を着たブリュンに言葉を失くしているスルーとハーミヤ。
そこで、サクヤは余計な詮索をされないように先手を打つ。

「ドクターの趣味です。」

「はぁっ!!?」

「ドクターは毎日この子を愛でて日々の疲れをいやしているのです。」

最初にブリュンを見た時のユーノの言葉を少しアレンジして話すサクヤだが、それがどれほど衝撃的なことかまったくわかっていない。

「兄さんに等身大ゴスロリ人形の趣味があったなんて……」

ショックのあまりフラフラと壁に寄りかかるスルー。
しかし、そのおかげで部屋の奥に横たわっている人物が気付かれることはなかった。







(チッ……下手に出ていればつけあがって……!!)

リジェネは持っていた花を握りつぶすとなんとか笑顔を取り繕うが、それは先程までの余裕のあるものではなく追い詰められた獣のような鬼気迫る雰囲気を纏っている。

「あなたをここで殺してもいいんですよ……?レイヴには僕を覚醒させないようなら殺してもいいと言われているんです。なにせ、彼にはあなたの代わりを見つける能力があるんですから。」

「ほう。」

化けの皮がはがれると同時に自らの嘘を露呈したリジェネをテリシラは鋭い視線でさらに追い詰める。

「どうやら中立というのも嘘なんだな。」

「!」

「嘘つきは必ず多くの嘘を重ねている。君自身がそれを証明したようにね。」

リジェネの唇がわなわなと震え始める。
それでも、崩れかけている笑顔で脅しをかける。

「死にたいのですか……!」

だが、テリシラがそんな脅しに屈するはずなどない。
なぜなら、

「レイヴは私に銃を向けても撃たなかった。それは私の代わりが簡単には見つからないと考えたからだ……違うか!!」

鋭く切り込むテリシラにリジェネは遂に笑みを消して怒りを込めて睨みつける。
二人の間を風だけが通り抜け、一触即発の膠着状態が延々と続く。
そのとき、

「兄さ~~ん!!どこだ~い!!」

「「!」」

屋敷の方から遠くにいてもよく聞こえるスルーの大声がテリシラを呼ぶ。
それをきっかけにリジェネは一歩下がって嘲笑する。

「今日はいったん引き上げますよ。家族ごっこで忙しいようだ。」

「ならばレイヴの体を支配している者に伝えろ。必ずレイヴは取り戻すとな。」

去っていくリジェネの背中を見ながら、テリシラはある可能性を導きだしていた。

(彼が六人の仲間の一人として選ばれているなら、同じタイプのイノベイド……サクヤかティエリアを仲間にできるかもしれない……)

しかし、この案には二つ問題がある。
まず、ヴェーダとのリンクを自ら切断したサクヤが仲間になれるかどうか。
イノベイドの能力の多くはヴェーダとリンクしているからこそ発揮できるものである。
しかも、仮にサクヤがリンクを取り戻せるとしても、過去にあれほどイノベイドに関してつらい経験をした彼女が協力してくれる可能性は極めて低い。

次の問題点は仲間になってくれる可能性のあるもう一人の人物、ティエリアが今はこの世界にはいないということだ。
ティエリアを仲間にするにはこちらから彼が飛ばされた可能性のあるという並行世界に行かなければならないことになる。

「どちらにしろ、ソレスタルビーイングと接触しなければならないことは確定か……」

しかし、あれからユーノ達がどこでどうしているのかこちらからではわからない。
ならば、向こうから接触してくれるようにするだけだ。

「あまり紳士的な方法とは言えないが、少し強引にいかせてもらうぞ。」




翌日 某国

ここは国連でも中枢を担う大国のとあるホテル。
歯の浮くような美辞麗句の乱れ飛ぶパーティー会場に選ばれた、この虚構のきらびやかさに彩られた場所に一台の車がゆっくりと止まった。

運転席から降りてきた銀色の瞳の運転手が扉を開けるが、そこにいる人物は最後まで駄々をこねてなかなか出てこようとしない。
しかし、遂に観念したのかおずおずと顔を出し、辺りの様子をうかがうとこそこそと出てきた。

「オイ、あれ……!」

「綺麗……どこの御令嬢かしら?」

できる限り人目を避けてでてきたつもりだったのだが、その姿を一目見たら誰もが視線を外せなくなっていた。
美しく伸びた金色の髪は背中までまっすぐにのび、それを受け止めるパーティードレスは淡い青のドレスは背中が大きく開いていてかなり大胆な仕様だ。
空に浮かぶ月と比べても遜色のない透き通った肌はパーティー会場の光を一身に受けてさらに美しく輝く。
しかし、俯いたままの顔だけは濃い茜色がさし、自分に集まる視線にこそばゆそうに体をもじもじと揺する。
そのパーティー慣れしていない仕草がさらに男性、さらには女性の注目をさらに集めていく。

「もぉ~……やりすぎだよ、シャル……」

女性に扮装することになったユーノは恥ずかしさから固く目を閉じてつい数時間前の出来事を思い返していた。



数時間前 フェレシュテ拠点

「ごめん、本気でこれで行かせる気?」

「あら、何か問題がある?」

シャルの意外そうな表情にユーノは頭痛を覚え始めている額から手を離して、ひきつった顔でシャルを睨む。

「もう一度言うぞ。本気か?」

今度は強めに言うが、今度は穏やかな笑みでそれを受け流す。

「あら、大丈夫よ。だって……」

シャルは手鏡を出してユーノの顔を映す。

「こんなに可愛いんだもの♪」

「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

ユーノが絶叫すると同時に扉が開いてぞろぞろとギャラリーが部屋の中へ入ってくる。

「わ……すごい……」

(ギャハハハハハハ!!!!!!よく似合ってんじゃねぇか!!ヒャハハハハハハハハハハ!!!!!!!)

「う~……少し嫉妬しちゃう……」

「相変わらずなんというか……本当に男なのかお前?」

「黙れギャラリーども!!!!!!!!!あとそこの球体!!!!なに普通に画像に残そうとしてるんだ!!!!!!」

かつらもかぶり、完璧にドレスアップしたユーノがビシリと967へ指をさすが、そんなことなど構わずに967は次々にユーノの姿を記録としてメモリへ収めていく。

「ごめんシャル。シェリリンに967のバックアップボディを作るように言ってくれないかな?今すぐこの不届き者を叩き壊さないといけないから。」

「無駄だ。すでにシェリリンもこちら側についている。」

「準備万端ですかコンチクショー!!?」

もう抗議をするユーノだったが、その怒鳴り声も男性のものとは思えないほど高く、機械を使わなくても十分に女性で通じるだろう。
そんな時、それまでボケッと黙っていたヴァイスがユーノの手をとる。

「ユーノさん!!」

「?」

「俺と結婚して……」

「お断りします♪」

〈Assault Bunker〉

「ゴフッ!!!!?」

人としての道を踏み外そうとしていたヴァイスにバンカーを(もちろん非殺傷設定で)叩きこんで壁まで吹き飛ばしたユーノは薄く化粧をした顔でにっこりと笑う。

「これから発言するときはTPOをわきまえた方がいいですよ、ヴァイスさん♪」

「は……い…………」

うずくまったままのヴァイスは弱々しく痙攣を繰り返して動かなくなった。




現在 ホテル

「なんで僕……じゃなくて、私ばっかりこんな格好を……」

「よくお似合いですよ、お嬢様。」

「ホホホ、後で覚えてらっしゃいアレルヤ。」

周りに見えないようアレルヤのわき腹に肘を打ちこんで悶絶させたユーノは周りからの視線にさらされながら進んでいく。
室内に入ると、今度はさらに男性からの注目が集まり、ひどい時は口説かれることもあった。

(うわぁ~……男って気持ち悪っ…!!僕もこんな感じだったのかなぁ……)

こんな気持ちの悪い空間でよく食事ができるものだと蒼い顔で歩いていると、こうなるきっかけを作った人物がシャンパンの入ったグラスを笑顔でこちらへ傾ける。

(あんたなぁ……!)

留美に愛想笑いを返しながら必死に怒りを押し殺すユーノ。
不意に彼女が仲間内からも狸にたとえられる幼馴染に重なって見えるが、別に悪いことじゃないとさっさと忘れる。

(あれ……?)

言いよってくる男や留美に意識が言っているせいで気付かなかったが、よく見ればどこかで見たような顔ぶれもそろっている。

メガネをかけ、長髪を後ろでまとめている男。
自分と同じ金色の髪をした女性。
アレルヤと自分を追い詰めていた兵士。
探せばまだまだいそうだ。

(マズイな……これ以上注目されるとリボンズ・アルマークを探すどころじゃ……)

「失礼。」

一瞬ぎくりとするが、そのまま無視するのも不自然なのでゆっくりと振り返るユーノ。
淡い緑の髪に涼しげな笑顔を浮かべた美男子。
それがその人物に抱いたユーノの感想だった。

「一曲いかがですか?」

「…………………」

レイヴと同じような顔なのに感じる印象は全く違う。
レイヴがホッとするような空気を出しているのに対し、目の前にいるこの人物は笑っているのにまったく安心できない。

(そんな顔をしないでほしいな。周りが騒ぎ始めている。)

(!!)

(念話がそんなに珍しいかい?君のいた世界の技術だろう?)

フッと笑うと強引にユーノの手をとってホールの真ん中まで引っ張っていく。

「僕がリードしますから、力を抜いてついてきてください。(僕に用があって来たんだろう?)」

「はい……よろしくお願いします。(リボンズ・アルマーク……だな?)」

「ええ。」

ニコニコしながら答えるその顔は男のユーノでも魅力的に感じるが、警戒心で表情が今まで以上に強張る。

(女装の趣味があるのかい?)

横にステップを踏みながらリボンズが問いかける。

(顔が割れているから仕方なくさ。)

(フフフ……嬉しいよ。そうまでして僕に会いに来てくれるなんて。)

(気持ち悪い勘違いをするな。見えないところでアロウズを動かして偉そうにふんぞり返っているのがどんな奴なのか見に来ただけだ。)

(おや?本当に目的はそれだけかい?)

押し倒すように一歩進み出たリボンズは背をそらして床のスレスレまで髪を下ろしたユーノの耳元でささやく。

「ビサイド・ペインからレイヴ・レチタティーヴォの体を取り戻す方法を知りたいんじゃないかい?」

「……わかっているんなら話は早い。」

体を起こしたユーノはリボンズの右手をとって左へ動く。

「すぐにでも教えてもらおうか。じゃないと、ここでひと暴れしなくちゃいけないことになる。」

「それは無理だね。」

リボンズはくるりと回ってユーノと距離を詰めると挑発的に笑う。

「リジェネとの戦いで周りにいる人間を気にして本気を出せない君が、こんなところで不用意に武器をとるはずがない。」

「どうかな?アロウズに取り入って利権をむさぼる害虫の一人や二人、いなくなった方が世の中のためだと思うけど?」

「なら、試してみると良い。」

汗をにじませながらユーノはドレスの下に忍ばせていたソリッドを起動しようとする。
だが、

「っ……………………!」

「クス……………………」

結局、曲が終わってもソリッドを起動させなかったユーノはリボンズとともに喝采の拍手を受ける。

「少し場所を変えようか……フフフ……」

「…………………」

自分の甘さに顔をしかめながらも、リボンズに導かれるままに階段を一段一段上っていった。




テリシラ邸 地下

ようやく見つけたソレスタルビーイングの手掛かりを手にブリュンのいる地下室に相談のために降りてきたテリシラ。
というより、上にいたら考えごともできないような状態なので逃げてきただけなのだが。

(尋ね人とは大胆な方法ですね。)

(ああ。こうして派手にデータを流せば何らかのアクションがあるはずだ。)

二人の視線の先には高校生……下手をすれば中学生にも見える少女の顔写真とMISSINGの大きな文字。
そして、その下にはその少女の名前、シャル・ヴィルゴがはっきりと書かれていた。

(そのシャルという方は今でもソレスタルビーイングに?)

(この写真は20年近く前のものだが、この少女は大人になり容姿が変わったが最近のヴィジョンに映っていた。……ところで、このシャルに関するレポートを書いたのは誰だと思う?)

(?)

(レイヴだよ。シャルはレイヴの学校の先輩だったのさ。)

(不思議な縁ですね……)

(まったくだ。)

もっとも、本当に偶然かどうかはわからない。
レイヴ自身が気付かないうちにヴェーダがレイヴを何らかの目的を持ってシャルの母校に送り込んだ可能性だってある。
しかし、今はそれはどうでもいいことだ。
それより、

(で、ラーズ……君のお父さんの方はどうだ?)

ブリュン心の中で首を振る。

(説得は続けています。でも……)

(そうか……)

ブリュンの後ろで眠っているラーズのもとまで進む。

(薬で眠らせておくのにも限界がある。タイムリミットがきたら別の手を考えなくてはならない。そのことは理解しておいてくれ。)

(はい。)

気丈に振る舞うブリュンだったが、逆にそれが痛々しい。
実に百年ぶりに再会できた父が自分を殺そうとし、挙句自らもイノベイドだと知って自殺を図ろうとしたのだ。
サクヤの時もそうだが、こんな話を聞くたびにテリシラは自分がイノベイドであることが心底嫌になる。
なぜ、普通の人間のように家族と過ごすことを許されないのか悲しくなってくる。

(大丈夫です、ドクター。)

(!)

(心だけで結ばれた家族だからこそ、ブリュンとお父さんとの繋がりは普通の家族よりも強いものなのかもしれません。だから、今でもブリュンにはお父さん声が聞こえているんだと思います。)

(そう…なのかもな。)

(それはそうと、ドクターの『女装監禁事件』の誤解は解けましたか?)

シリアスな話から思い出したくない話に話題が切り替わり、テリシラは先日のスルーとハーミヤとのやり取りを思い出す。

(……ある意味、そっちの方が君のお父さんより手ごわいかもな。)

(ご愁傷様です。)

今頃、二人は自分を真人間に戻す方法を真剣に考えているのだろうか。
そう思っただけで全身の震えが止まらないテリシラであった。




ホテル 個室

ぱちぱちと薪が爆ぜる音だけがVIPルームに響く。
その炎だけで照らされた部屋のあちこちには年代物時計や彫刻が安置されているが、ユーノの視線はソファーに腰かけて赤ワインを口に含む青年に釘づけになっている。

「シャトー・マルゴーの2302年物だよ。君は酒類が好きだと聞いて取り寄せておいたんだ。」

「わざわざご丁寧にどうも……なんて言うとでも思ったか?」

「おや、残念。」

リボンズは本当に残念そうにグラスから口を離す。

「さっきからどういうつもりだ?僕は君と楽しく談笑するためにここに来たわけじゃない。レイヴを元に戻す方法を教えないなら、君を生かしておく理由はない。」

「フフ……ハハハハ!」

「!?何がおかしい!?」

「君は本当に優しいね……そして、優しすぎるが故に誰にでも等しく残酷だ。」

リボンズの異様な気配に思わず後ずさりをする。

「恋人と別れてまでソレスタルビーイングに戻ったそうだね……可哀そうに、その子は大層泣いていたそうだよ。」

「なんでそんなことを……!!」

「まだまだ知っているさ。小さな頃から偽りの笑顔で周りを欺いていたことも、向こうに戻ってから殺人一歩手前の行動をとったことも……君のことはある人間からよく聞いているんだ。」

「ファルベル・ブリングだな……!」

「フフフ……やはり気付いていたんだね。まったく、困ったことをしてくれたものだよ。オリジナルのGNドライヴを四基も別の世界に送ってしまったんだから。それに、魔法の存在で連邦内部は大混乱さ。」

リボンズはグラスに残っていたワインを飲み干すと美しい、しかし妖しげな笑みを浮かべる。

「まあ、そんなことはもうどうでもいいんだ。それより、ビサイドから体を取り戻す方法だけど、残念ながら無理だね。」

「な!?」

「レイヴ・レチタティーヴォのパーソナルデータが残っていないんじゃ体を取り戻したところで彼はよみがえらない。何をしてもね。」

「そんなこと……」

「信じられないかい?少なくとも僕は君たちよりもイノベイドのことは詳しいし、なにより僕は君に対してだけは嘘をつく気はない。」

「君、きみ、キミと……いい加減にしろ!!」

もう我慢できない。
コイツと話していると腹が立ってくる最大の理由。

「さっきから僕がどうしたっていうんだ!!ストーカーみたいに個人情報をべらべらと喋って……!!今したいのは僕の話じゃなくてレイヴをどうすれば……」

「残念……今の僕にとって大切なのはユーノ・スクライア、君の今後についての話なんだよ。」

おもむろにソファーから立ちあがったリボンズは身構えるユーノの前まで歩を進めると右手を差し出す。

「ユーノ・スクライア、僕たちの側に来ないかい?君は世界を導く資格を持つ人間だ。」







救いの手
だが、その手をとればもうあの場所には戻れない





あとがき・・・・・・・・・・・という名の皆様お待たせいたしましたwww

ロ「というわけで男性陣二人が人間としての尊厳を失いかけている第十五話でした。」

ユ「ねぇ……ここでもこの格好しなきゃいけないの?」

ロ「その格好して喜ぶ人たちがたくさんいるからサービスだ。」

ユ「僕に対してのサービスは無しですか!!?」

女装君「大丈夫ですよユーノさん。慣れれば大したことないですから。」

ユ「君はもう少し男の子としての尊厳を持とう!!?」

毒舌医師「というか、私の誤解は結局解けるはずだが?」

ロ「ああ、そのうちな。」

毒舌医師「そこのところは原作と変えてくれないのか……orz」

ロ「大丈夫、世の人間の中には動かない人形相手にあんなことやこんなことしてるやつだっているんだから、ドクターのことを受け入れてくれる人ぐらい……」

毒舌医師「私がそういう趣味だという前提で話をするのはやめてくれないかな!!?」

ユ「え~……この後三人でロビンをボコッときたいと思うので、早いとこ次回予告に行きます。」

毒舌医師「次回は再びミッド編!」

女装君「カレドヴルフが新型MSの試験をすると聞いたトレミーのクルーは介入行動をするべく準備を進める。」

ユ「しかし、クロウからそれを止められ、仕方なく引き下がる刹那たち。」

毒舌医師「しかし、ロックオンだけは独断で介入を開始する!」

女装君「しかし、そこで見た新型のMSとは驚くべきものだった!」

ユ「その性能に次第に劣勢を強いられるロックオンとケルディム。」

毒舌医師「ロックオンを救うべく試験場に向かう刹那とティエリアは彼の窮地を救えるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 16.MS・デバイス ガンダム
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/01/30 00:02
プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

その日、マイスターを除く全員が深刻な顔をつきあわせていた。
そんな彼らの足元に映されているのはこちらでの協力者が提供してくれたあるMSのデータ。

頭の綺麗なV字型と両肩の内側に立っている黄色いアンテナ。
白い腕部や脚部の関節、そして肩はオレンジのプロテクターで防御力を上げられ、背中にはブレードを兼ねた長めの鋭いウィングが装着されている。
腰には二丁の銃、右肩には白とオレンジの長い銃身の狙撃銃を背負い、胴体にあるコアの部分を覆い隠す赤い装甲の横には機関銃が装着されている。
だが、やはり“それ”がそうよばれる所以は後ろの腰に装着された円錐状の出力機関、GNドライヴと額のアンテナの上にあるカメラアイとは別に付けられた、二つの目を持つ限りなく人に近い頭部だろう。

「ガンダムカマエル……どうして、こんなものが……」

スメラギの疑問は最もだが、今の最大の問題はそれではない。
相手がガンダムであるということを知らず、ケルディムとロックオンが一人で極秘で行われるこのガンダムの性能実験への介入に向かったということだ。

「ミレイナ、刹那とティエリアからの連絡は?」

「今のところ……お二人からはないです。」

遅すぎる。
両腕をギュッと握って不安を押し殺そうとするが、体が自然に震えて来てしまう。
ロックオンを連れ戻すために行かせた二人にも間違いなく何かあったのだ。

「クソッ……!!なんでもっと早く情報をくれなかったんだよ!!」

「仕方ないだろ……お上でも完全に把握することのできないカレドヴルフの情報を手に入れることができただけでもクロウはよくやったよ。」

「だがなぁ!!」

言い合いを始めるイアンとラッセ。
それはまるでこの場に渦巻く不安や苛立ちが一気に爆発したようで、普段なら仲裁に入るスメラギやフェルトでも止めることができなかった。




時は遡り前日。
この緊急事態の始まりはミッドでの情報収集を協力してもらっているアイナからのとある情報だった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 16.MS・デバイス ガンダム

昨日 プトレマイオスⅡ ブリッジ

この日も現在いる場所が異世界で、史上最悪のテロリストのレッテルを貼られている以外はどうということのない一日の始まりを迎えたソレスタルビーイングの面々(+保護されている3人と新しくメンバーに加わったマッドサイエンティスト)たち。
海中に身を潜めているプトレマイオスのブリッジでも、普段の光景通りミレイナとフェルトが休憩をとっているイアンとスメラギに代わりデータの整理を続けていた。
そんな時、二人のもとへ一通のメールが届く。

「あ!アイナさんからの情報です!」

「極秘情報……?」

アイナにしては珍しく複雑に暗号化された文面にてこずりながらもなんとか解読終えたフェルト。
しかし、安堵の表情を見せる前にコンソールを素早く叩いて艦内放送を流す。

「全クルーへ通達。アイナ・スクライアよりカレドヴルフ社製MSの性能実験が行われるとの情報を入手。至急ブリーフィングルームへ集合をお願いします。」





ブリーフィングルーム

「しかし、また急だなぁ。」

ロックオンがスメラギの後ろのモニターを見ながら苦笑する。
アイナが提供した情報ではカレドヴルフ社が性能実験を行うのは明日の午前二時。
出撃の準備事態は容易にできる時間ではあるが、マイスターの準備を整えるにはなかなか厳しい制限時間だ。
なにせここに来てから強敵とぶつかりあい、先日も例のキャバリアーシリーズとかいう新型二機を相手にしていたのだ。
疲労がかなり溜まっているはずだ。

「しかし、妙な話だな。」

ティエリアがあごに手を当てて話し始める。

「カレドヴルフがMSを開発しているといった情報はいままで全く流れていなかった。」

「そんだけ隠しときたかったってことじゃねぇのか?前にお前ら言ってたろ?ここは管理局に製品を納入こそしているが秘密主義……とくに、開発部門でそれが顕著だって。」

「それでも、ここまで情報が流れていなかったのは不自然ですよ。」

ティエリアに代わってエリオがラッセの質問に答える。

「確かにカレドヴルフは昔から秘密主義の塊みたいなところはありますけど、売り込む相手であるはずの管理局に対してまでここまで隠すのはおかしいです。」

「まあ、そりゃ確かに……」

「……考えられる可能性は二つね。」

スメラギが人差し指をたてる。

「まず一つは、そのMSの情報を管理局も知っていて、そのうえで公表を隠さなくちゃいけないほど彼らにとって不都合なものであること。それで、二つ目なんだけど……」

スメラギは口ごもりながらも、二本目に立てた指の向こうで腹をくくる。

「あんまり考えたくないけど、カレドヴルフがそのMSを管理局以外の人間に売るつもりでいる。」

「……PMCのようにか?」

刹那の言葉に旧プトレマイオスのクルー達は一様に暗い顔をする。
人為的に争いを発生させ、自社の兵器を売って利益を上げていた死の商人たち。
彼らのような組織がこの世界にあるとしたら、

「……俺はこの性能実験に介入するべきだと思う。」

まずは刹那が口火を切り、それにティエリアが続く。

「僕も賛成だ。これ以上いたずらに戦火を広げられては僕らも行動がとりにくくなる。」

「俺も右に同じってやつだな。」

「あたしもモチ賛成っス!」

ロックオンとウェンディも賛成に回り、これでマイスター三人+保護対象一人は他のメンバーも賛成する者だと信じて疑わない。
だが、

「俺は反対だ。」

意外にも、ラッセから反対の意思表明が飛び出す。

「お前ら忘れてんじゃないのか?ここはあくまでミッドチルダであって俺たちのいた地球じゃない。必要以上にここの事情に首を突っ込める立場でもねぇだろ。」

「だが!!」

「わしも反対だ。」

ティエリアの反論を待たずにイアンがラッセを擁護する。

「今のところ紙一重でガンダムは致命傷をくらっていないが、消耗がかなり激しい。このままじゃこの調子で戦い詰めじゃいつかガタが来るぞ、ガンダムもお前らもな。」

「それじゃ、私も反対に回っておこうかな?」

ジェイルがヘラヘラと笑いながら手を挙げる。

「これ以上派手に騒げば管理局だけでなく全次元世界の住民から反感を買いかねない。ミッドでの介入を続けるか否かは後で決めるとして、今回はやめておいた方がいいね。」

「あの、僕も……」

エリオもジェイルに便乗する形で手を挙げる。

「まだカレドヴルフがそんなことをしているのか定かじゃありません。下手にうってでて真実が違っていたら……」

「でもでも!怪しい動きを見せているのは事実です!」

ミレイナはブンブンと両手を振りながら猛抗議をするが、スメラギがそれをたしなめる。

「私も今回は反対よ。この世界に不慣れな私たちが下手に戦えば受ける被害は大きくなるわ。それにラッセも言ってたけど、この世界の住人じゃない私たちが介入行動をしていいのか私も決めかねているのが正直な感想よ。」

「5対5か……見事に割れちまったな。」

ロックオンがため息にも似た声で唸る。
しかし、刹那は一人だけ意思表示をしていない人物へ視線を向けて問いかける。

「沙慈・クロスロード、お前はどうだ?」

「え!?僕!?」

「君以外、他に誰がいる?」

ティエリアの言葉と視線にその場を動けなくなる沙慈。

(僕は……)

正直、関係ないのなら自分やこの世界で生きる人々を戦火に巻き込むようなことはやめてほしい。
しかし、また自分のような人間を生み出してしまうのなら、他力本願だとはわかっていても刹那たちに何とかしてほしい。

だが、そんな時ふと気付く。
さっきまであれほどみんなが真剣に考えていたのに、自分はどこか遠くの場所で起きている出来事だと思ってしまっていた。
異世界というありえない場所のことについて話し合っているのだから当然かもしれないが、今立っているのはそのありえない異世界なのだ。
なのに、また考えることを放棄しようとしていた。

「……僕には…」

しかし、それを踏まえたうえで沙慈は自分なりの答えを示す。

「僕には……どうすればいいのかわからない。たしかに、刹那たちの言うように兵器を造ることで傷つく人たちがいるんだと思う。だけど、この世界で暮らしているわけじゃない僕たちが、一方的に価値観を押し付けていいことにはならないと思う……」

沙慈は他のメンバーの視線が耐えられないのか、下を向いて声を震わせる。

「卑怯な答えで、本当にごめんなさい……でも、本当にわからないんだ……!」

「……そうか。」

刹那の言葉が沙慈の胸に突き刺さる。
きっと呆れているに違いない。
この後におよんで何も決められない自分に失望しているに違いない。
そう思った沙慈だったが、次の刹那の言葉に耳を疑う。

「それがお前の答えなら、それでいい。」

「え……?」

「迷うことは悪いことじゃない。悩み続けることも、一つの答えだ。」

ティエリアはその言葉に呆れて笑うが、沙慈の答えを否定する気はないようだ。

「君のおかげで結局決められなかったな。」

「でも、さっちんらしくてあたしは良いと思うっス。ティエリアだってそう思ってるくせに素直じゃないっスね~♪」

ウェンディはティエリアに抱きついて頭をくしゃくしゃとなでるが、当の本人はメンバーの手前であるため抑えてこそいるが、険しい顔でそれに気付かないウェンディを睨みつけている。

「しかし、ホントにどうするよ?介入するならするでさっさと決めて準備に入らないといけねぇだろ。」

『すまないが、それはナシだ。』

ティエリアはウェンディに拳骨を振り下ろして引きはがすと、携帯端末を取り出して通信してきた相手の顔を映す。

『すまない、連絡が遅れた。』

「それはいい。それより、さっき言っていたことはどういうことだ?」

『そのままの意味だ。その試験運用に介入するのは中止してくれ。』

ムッとするマイスターズだったが、クロウもそれくらいは見越している。

『カレドヴルフはあくまで民間企業だ。完全に管理局側というわけじゃない。』

「だが、それでも兵器開発をしていることは事実だ。」

『“兵器を開発している”だけだ。それをどう使うかは操縦者次第じゃないのか?私見ではあるが、カレドヴルフは馬鹿とまともな奴の見極めはできている。それに……』

クロウは画面の端に映っていたウェンディにちらりと視線をやるが、すぐに目の前のティエリアに戻す。

『個人的な事情で悪いが、おそらくその新型MSに乗るのは俺の知り合いだ。それに、いずれ戦うことになるとしても、彼女なら自らの為すべきことを見つけてくれるはずだ。』

「それは、そのパイロットがいずれ僕たちに協力してくれる……そう捉えていいのか?」

『それはわからん。だが、彼女も目指すところの根本にあるものはソレスタルビーイングのそれと同じはずだ。』

ティエリアはしばらく考え込むが、他のメンバーの顔を見回すと答えを決める。

「いいだろう、今回は見送ることにしよう。だが、もし攻撃してきたときは容赦はしかねる。」

『ああ、構わない。お前たちが思っているほど、こっちの人間も柔じゃないからな。』

「フッ……言ってくれる。」

『それはそうと、カレドヴルフのことを疑っているんなら今から送るデータに目を通しておいてくれ。材料の仕入れ先や製品の納入先の一覧などだ。これを見れば少しは不信感も晴れるだろう。』

「わかった。」

クロウの顔が消えると同時に、ティエリアは部屋のモニターの方へデータを転送する。

「なるほど……確かに、管理局にだけいい顔してるってわけでもないし、胡散臭そうな所とは関係を持っていない……優良企業の鏡だね。」

ジェイルが一人フムフムと納得している隣で、ロックオンは対照的に険しい顔をしている。

「ライルさん、どうかしました?」

「ん?いや、なんでもねぇよ。狙い撃てなくて少し残念なだけさ。」

「君はまだ狙い撃たれる側だと思っていたが?」

「ありゃりゃ、厳しいお言葉で……」

ティエリアの辛らつな言葉をいつものように受け流すロックオンだったが、エリオだけは彼の様子がいつもと違うことに気付いていた。
しかし、その原因まではわかってはいない。
モニターに表示されていた、原料の入手先であるゲイルスが原因であることまでは。





クラナガン 地上部隊駐屯地

「ったく、不用意に情報を流すんじゃない。」

「だって、すごいの造ってるって言ってたから……」

しょげるアイナを容赦なくにらみながらクロウは言い訳にだまって耳を傾ける。

「やっと引き出せた情報だし、今までのMSやデバイスの概念を覆すものだってすごい自慢してたんだもん…」

「ちょっと待て?なんでそこでデバイスが出てくる?」

開発されていたのはMSのはずだ。
なのに、そこでなぜデバイスの話が出てくる。

「え?なんかよくわかんないけど、ええと確か……そうそう、デバイスとしてのMSを目指しての開発?なにこれ?わけわかんないことばっか……」

「それはこっちのセリフだ。貸せ。」

アイナがめくっていたメモ帳を取り上げ、パラパラとページをめくっていくクロウ。
そして、あるページで手を止めて目を見開く。

「なるほどな……確かにこれなら操縦の適性が無い者でも……そして、適性がある者ならなおさら……!」

メモを机の上に放り出したクロウはバリアジャケットを展開する。

「俺はもう少しカレドヴルフと関わりを持っている奴らの周辺を洗ってみる。お前もアイリスと一緒に情報を集めてくれ。」

「どうしたのよ?」

「……ひょっとしたら、カレドヴルフはとんでもないものを生み出そうとしているのかもしれない。もっとも、もろもろの問題点をどうやって克服したのかまでは知らないがな。」

「?」





プトレマイオスⅡ コンテナ

「さて……うるさいのがいないうちにさっさと出かけますか。」

「命令違反!命令違反!」

「うおっ!!?頼むから騒ぐな!!」

大きな声を出すハロを黙らせた後、こっそりとケルディムに乗り込んだロックオンはハロをいつものように前にある窪みにはめる。

「悪いな……アル達に危害が及ぶかもしれないのなら黙って見てるわけにもいかないよな。」

今はさほどゲイルスの鉱石を必要としていなくとも、もしMSが量産化されることになったとしたら。
あの穏やかに暮らす人々の生活がそんなくだらないことで脅かされてしまうとしたら。

「黙ってられねぇんだよ……たとえ、違う世界の出来事であってもな。」





ブリッジ

最初にその異変に気付いたのはフェルトだった。

「!?ハッチが勝手に!!?」

海上に出る時を見計らっていたかのようにハッチが勝手に開き、ガンダムの出撃態勢へと入る。

「ミレイナ、すぐにハッチを閉じて!!」

「駄目です!!内側から誰かがコントロールしてるみたいで…」

『悪いな、二人とも。』

「ロックオン!?」

「ストラトスさん!?」

モニターに映っているのはパイロットスーツに着替えているロックオンとコックピットの中の風景。
つまり、それが意味するものは

「今回は手を出さないでってクロウさんが…」

『それはあいつの事情だろ?俺は俺の事情があるんだよ。』

「ストラトスさん!!スト…」

ミレイナ声を最後まで待たずにロックオンの顔が消える。
そして、次の瞬間にはプトレマイオスから瑠璃色の輝きを放つケルディムが夜空へと飛びたっていった。




クラナガン 地上部隊 大型駐機場

「チィッ!!余計なことを!!」

『ごめんなさい…私たちの不手際です。』

「それはべつにいい!!それより、早くそいつを呼び戻せ!!でないとマズイ!!」

『マズイ?』

平謝りをしていたフェルトは焦りを見せるクロウに首をかしげる。

「カレドヴルフが開発していたのはただのMSじゃない!!対抗策もなしに戦えば無事に済む保証はない!!」

幸い周りに人はいない。
素早く端末を操作してそのデータを送る。

『これ、は……!!?』

「どこでデータを手に入れたか知らんがそういうことだ。しかもミッドの技術を組み込まれて魔導士向けに強化されている……パイロットによっては一個小隊を蹴散らすことだって可能だ!」

『す、すぐに残っているマイスターたちを出します!!』

通信を終えた後もクロウは後悔で拳を握りしめる。
どうしてあの時もっと強く止めておかなかったのか。
心のどこかで仮に出撃したとしても互いに被害をこうむることはないと油断していたのではないか。

「クソッ!!」

考えれば考えるほどに自分の不甲斐なさに腹が立つ。
近くにあった鉄製の屑入れを蹴り飛ばすが、後悔はどっかりと心のド真ん中から動こうとしない。

〈マスター、後悔しているのならあなたには為すべきことがあるはずです。〉

「わかっている……!!」

エルダの言葉に幾分か冷静さを取り戻したクロウはバリアジャケットを変化させて黒の地に白の体の線に合わせて描かれたラインが特徴のパイロットスーツを身に纏う。

〈幸い私たちの方もテストがあります。異変に気付いて駆けつけたと言えばどうにかなるでしょう。あの老獪な男もカレドヴルフが開発していたMSのデータを手に入れたと言えば喜んでゴタゴタをもみ消してくれます。〉

「ハッ……竜の懐にいるというのは存外安心できるものだな。」

自嘲しながら向かった先にいたのは細長い手足をした漆黒のMS。
クロウや他の何人かの精鋭にのみ与えられた実験機で、間もなく試験を開始すると言ってきている。

「問題はどうやって試験開始を早めるかだな……」

〈そこはマスターの腕の見せ所でしょう。〉

「無茶を言ってくれる。だが……」

フュルスト・試験型に手を置いたクロウは鋭い笑みでその顔を見上げる。

「望むところだとだけ言っておこう。」





カレドヴルフ試験場

背中から伝わってくる微細な振動。
精密機器の塊のようなコックピットが目覚めたことを証明する高い音程で集中力がグングン増していく。

『ランスター二士、準備はよろしいですか。』

「はい。スタンバイオッケーです。」

ヘルメットのバイザーを下ろしたティアナは操縦桿とペダルの具合を確かめるとそれまで暗かった空間へ差し込んできた白い光の先を見つめる。

『カタパルト、セット完了。タイミングをカマエルへ譲渡。』

「I have control.ティアナ・ランスター、ガンダムカマエル、いきます!」

グッと右腕を前に押し出した瞬間、ティアナは強烈なGを感じながら夜とは思えないほど明るい地上へと跳び出していく。
海沿いにあるアスファルトの試験会場に降り立ったそれは両目をギンと輝かせると肩に装備されていた白い狙撃銃を手に取ると宙に浮いて動き回っているターゲットへと照準を合わせる。

「ユーノさんから教わった狙撃がまさかこんなところで役に立つなんてね。」

自嘲を漏らしながら狙撃用スコープで捉えていた光球の一つを赤い弾丸で撃ち抜くと、周りにビル群が出現し残りのターゲットを隠してしまう。
だが、ティアナは慌てずに影から出てきた一つを撃ち落とす。
すると、今度は動いているだけだったターゲットたちが一糸乱れぬコンビネーションでティアナへ攻撃を仕掛けてくる。
操縦桿を軽く倒してその銃撃を潜り抜けたティアナは溜め息交じりに残っていた三つのターゲットを瞬時に撃ち抜いた。

「所要時間一分……これじゃテストにならないわね。」

〈マスターの能力値が高いのも考えものですね。〉

「やめてよ。私はクロスミラージュが考えてるほど優秀なんかじゃないわ。」

急遽追加された遥か彼方の海上に浮かぶターゲットすらも撃ち抜いたティアナは相棒の言葉に苦笑する。

魔力量は凡人並み。
経験値は普通の局員よりも少し上回っているだけ。
狙撃に関しては教えてくれた人間の足元にも及ばない。

そう考えているティアナだが、すでにその実力は同い年の局員と比べればかなり抜きん出ている。
しかも、MSの操縦に関してはシミュレーターを使っての模擬戦とはいえトップクラスの実力を誇るのだ。
カレドヴルフにしてみれば最高の人材がやって来てくれたと喜んでいるに違いない。

「MS・デバイス、ガンダムシリーズね……ていうか、この機体の名前はどうにかならなかったのかしら?」

カマエル
ティアナが開発チームから聞いたところによると地球の天使の名前がその由来らしいが、この天使が何とも過激なのだ。
なんでも神の正義を司る天使であり、それに敵対する者に対しては情け容赦なく攻撃を加えて滅ぼす、まさに破壊の天使と呼ぶにふさわしい存在らしい。

「さしずめ、私にこの世界のルールに敵対する人間を容赦なく葬れってとこかしら?」

〈マスター、別に彼らはそういうつもりでは……〉

「わかってるわよ。」

冗談を真に受けたクロスミラージュの声にクスリと笑ってスコープを元に戻すと、今回の試験の最大の目的であるGNドライヴのMGモードへの切り替えを行おうとする。
だが、

「っ!?クロスミラージュ!!」

〈GNフィールド展開!〉

カマエルの周りに張られた赤いベールが桃色の弾丸を弾き返す。
ギリギリセンサーに反応する場所だったから攻撃が来たからよかったが、そうでなければまず反応することはできなかっただろう。

「試験の続き……なわけないわね。」

〈模擬弾をすべて破棄。実弾に変換します。〉

戦闘態勢を整えたティアナは敵がいる海上をズームアップする。

「ガンダムタイプ!?しかも、あんなに遠くから狙撃を…!!」

驚くティアナだったが、それは狙撃態勢をとったままのケルディムとロックオンも同じだった。

「マジか、防ぎやがった!?しかもありゃあ…」

「ガンダム!!ガンダム!!」

「チッ!!どこからガンダムの情報を仕入れてきやがった!?」

すぐさま第二、第三波を放つケルディムとそれをかわすカマエル。
二つの月を頭上に戴いて距離を詰めてくるケルディムの姿は並みのパイロットを逃走に至らしめるほどの風格を有しているが、ティアナは不敵に笑う。

「観測班、聞こえますか?これからMGモードに切り替えて迎撃にあたります。データの収集を忘れないでください!」

『ランスター二士!?それはいくらなんでも無茶だ!!レリックだって、まだカマエルを合わせて三つしか譲り受けていないんだ!!もし何かあったら…』

「同じガンダムタイプを落とせないようじゃMS・デバイスの名が泣きますよ。」

そう言って開戦を閉じた時にはすでにかわせるギリギリのところまでケルディムが接近してきているが、ティアナは構わずにクロスミラージュを通してカマエルと“繋がる”。

「レリックとの同調開始……MGモード、解放!」

〈Drive ignition!Magica GUNDAM System standby ready!〉

ロストロギア・レリックと同調するティアナ、そしてさらにティアナを介してGNドライヴとレリックが同調していく。
そして、

「もらったぁ!!!!」

「……こっちがね。」

ケルディムの一撃が放たれた瞬間、カマエルの背中のブレードが一気に開いてGNドライヴが放出していた粒子の色が赤から濃いオレンジへと変化する。

「なっ!?」

「遅い!!」

スナイパーライフルの射程よりもさらに内側にもぐりこんだカマエルの拳がケルディムの顔面に叩きつけられる。
辛うじて首が捻じ切れることはなかったが、二、三回ほど回転することになったケルディムは無様にビルの上に背中からダイブする。

「っいつつ………!!ハロ、損傷は!?」

「軽微!軽微!作戦可能!」

「オーライ!」

ケルディムを起き上がらせて上空からこちらを見下ろしているカマエルを再び視界にとらえたロックオンだが、ある疑問が浮かぶ。

「何してんだアイツ……?普通追撃を叩きこむとこだろ?」

ロックオンの疑問に対する答えはいたって簡単。
操縦者であるティアナがそれを不要だと考えたからだ。

「すごい……!!これがカマエルの本当の力……!!ううん……私の本当の実力!!」

常に冷静沈着なティアナだが、その心は徐々にその力に飲み込まれていく。

「これさえあれば……ガンダムさえあれば、私はウェンディを、エリオを、大切な人をみんな守れる……!!」

青みがかった黒の瞳が彼女の魔力光と同じオレンジへと変化し、顔には今まで見せたこともないほど無邪気で残忍な笑みが浮かぶ。

「まずはこいつ……そして次にあの艦と残っている敵……!!それと、私たちを困らせる奴らみ~んな……!!アハハハ……なのはさん褒めてくれるかなぁ?」

〈マスター!!!!〉

奥底湧き上がる感情に支配されかけていたティアナだったが、クロスミラージュの声にハッとする。

〈……浸食に気を付けてください。〉

「え、ええ……ごめん、変なところ見せちゃって。」

正気に戻ったティアナだが、胸の内側から外側へ何かが喰い破ろうとしているような感覚は未だに消えない。

「クロスミラージュ……さっき私どんな顔してた?」

〈ご覧になりますか?〉

「……やっぱいい。」

不安を感じるのは後でいい。
とにかく、今は目の前の敵に集中するだけだ。

「ハッ……余裕ってわけか?だったら、その鼻っ柱へし折ってやんぜ!」

「MSでの戦闘があんたたちだけの専売特許じゃないってことを証明してやるわ!!」

ケルディムとカマエル。
ガンダムデュナメスからそれぞれ異なる発展を遂げた二機のガンダムの戦いが始まった。




クラナガン 沿岸

ロックオンの援護に向かうべく出撃した刹那とティエリアだが、二人の間に会話はない。
今、一言でもしゃべれば互いに怒りを相手にぶちまけてしまう。
それが、今の二人の共通認識だった。

(デュナメスを……ロックオンの機体をよくも……!!)

送られてきたデータを見た瞬間にティエリアはわかった。
わかって、しまった。
MS・デバイス一号機、GND-CV001、ガンダムカマエルは先代のロックオンがマイスターを務めていたデュナメスをもとに造られたものであることを。

(ロックオンの願いも知らない人間がデュナメスの力を使うなど……!!)

クロウは手を出すなと言っていたが、この感情を抑えることなどできるはずがない。
ロックオンが心に負った傷を。
彼がそれでも戦い抜いてきた日々を。
彼の優しさを。
それを知らない人間があの機体の後継機に乗ることなど、刹那には我慢がならなかった。

「刹那……」

その声にハッとする。
まるで、極寒の世界にいるように体を震わせているジル。
おそらく、刹那の怒りを間近で受けてしまっていたせいだろう。

「すまない、ジル……」

「へ…へへ……オイラなら大丈夫だよ。それに刹那たちが怒る気持ち、なんとなくだけどわかるよ。」

強がって笑う小さな戦士のおかげで刹那の心は幾分か安らぐ。
心は熱くなってもいい。
だが、頭の中は常に冷静でいなければ戦いの中では命取りになる。
そう、たった今感じた悪意を見逃してしまうところだった。

「俺たちが気付かないとでも思ったか!!」

刹那はダブルオーをなにもないように見える岩場へ向けると、手に持っていたソードライフルでその一角を吹き飛ばす。
すると、なにもなかったはずのそこの光景が歪んだかと思うと、漆黒に染まった細身のMSが飛びあがってナイフのような武器でダブルオーへと斬りかかってきた。

「完全に反応を消していたのは大したものだが……」

「オイラをごまかすには雑念が多すぎだったな!!」

GNソードで漆黒のフュルストの一撃を受け止める刹那とジルだったが、最初の一機がばれると残っていた四機もダブルオーとセラヴィーへ襲いかかる。

『刹那!!』

「ああ、今までの連中のようにはいかないようだ!」

鍔迫り合いのさなか、ダブルオーへビームピストルを密着させていたフュルストを弾き飛ばして距離をとった刹那はセラヴィーと背中を合わせて試験型のフュルストとたちを迎え撃つ構えをとる。

「どうしてこんな時に……!」

「泣き言を言っている暇はない!押し通るまでだ!!」

「そういうこったぁ!!」

二つの瑠璃色の光が離れた瞬間、禍々しい赤い閃光たちは闇夜に紛れるように波の上を舞い踊り始めた。




カレドヴルフ試験場

「狙い撃つぜ!!」

「いけぇっ!!」

二つの研ぎ澄まされた弾丸がすれ違い、ケルディムとカマエルの頭部をかすめる。
しかし、二機はこまめに狙撃を行う位置を変え、相手の動きから攻撃を察知して紙一重でかわす。
そんな膠着状態がすでに10分以上続いていた。

「チッ……意外とやるな!!」

「強い!強い!」

ロックオンはビルの影にケルディムをひそめさせるとヘルメットを外して額の汗をぬぐう。

「流石に一筋縄じゃいかないか……!!」

〈ええ、MS戦ではやはり彼らの方が一日の長があります。〉

ティアナもカマエルを地上に降ろすとヘルメットをとって長いツインテールの髪をコックピットの中で広げる。

「だが……」

「でも……」

「「負けるか!!」」

同時に飛び出した二機は同じようにビームピストルを抜いてビルの影から影へ跳びながら相手へ光弾の雨をばらまく。
流れ弾がビルを削り、地面にぶつかって粉塵を巻き上げながら試験場を照らすライトにも負けないほどの明るい輝きを生み出していく。

「ぅあっ!」

カマエルの肩にケルディムの放ったものの一つがぶつかる。
カマエルとリンク状態にあるティアナは痛みをこらえるように片眼を閉じ、別のビルの後ろへ隠れたケルディムを睨む。

「それで隠れたつもり!?クロスミラージュ!!」

〈All right!!Cross fire!!〉

カマエルは物陰に隠れずにその場でクロスミラージュを模したビームピストルを連射する。

「?何を……」

カマエルとティアナの意図が読めずに困惑するロックオンだったが、その答えはすぐに明らかになった。

「左方注意!左方注意!」

「なっ!!?」

ハロの呼びかけに反応して左を見ると、そのまま建物と建物の間を真っ直ぐにすり抜けていくはずだったオレンジの弾丸が、途中で見えない何かに引っ張られるように軌道を変えてビルにぴったりと背中をくっつけていたケルディムへ突撃してくる。
驚いてビルの影から飛び出したケルディムはビームピストルで追跡してくる弾丸を撃ち落とすが、今度は上から二発の弾丸が狙いを定めてこちらへ向かってくる。

「っ!!」

再びビームピストルで撃ち落とすが、今度は背後から。
それを撃ち落とせば今度は右からとさまざまな場所から光弾が襲いかかってくる。

「どうなってんだよ!!」

ありえない現象に動揺するロックオンだったが、さらに信じられない光景が待ち構えていた。

「熱源多数!熱源多数!」

「おいおい……!!」

追いかけて来ていた最後の弾丸を撃ち落として一息つきたかったロックオンだったが、行き着いたその場所には無数のオレンジの光球が宙に停止した状態で待ち構えていた。

「誘われたのか!?」

ケルディムは振り向いて腕を交差させているカマエルの姿を確認しようとするが、それよりも早くティアナは待機させていたGN粒子とレリックで増幅させた自分の魔力の混合弾に命じる。

「これで……終わりっ!!!!」

〈Dead end shoot!!〉

「ハロ……!!」

ロックオンがハロに何か言おうとした瞬間、辺りはオレンジの爆煙に包まれ、それでもオレンジの弾丸たちはとどまるところを知らずにケルディムがいた位置へ降り注ぐ。

(勝った……!!)

これだけの集中砲火を浴びて無事で済むはずがない。
たとえ、同じガンダムタイプでも耐えることはできないだろう。
ただ一つ、納得のいかない点を挙げるとすれば、

「これで、私も人殺し、か……」

〈マスター……〉

もちろん、パイロットは無事な可能性もある。
MS・デバイスはそのための機能を搭載しているし、できる限りそうしようとは心がけている。
だが、それでも生存率を100%にすることはありえない。
そのことはティアナ自身覚悟の上だし、それが無ければMSに乗る資格はないと考えている。

「わかっちゃいたけど、重いわね……」

胸の奥を締め付けられるティアナだが、同時に人を殺してしまったという事実をその程度の言葉で済ませてしまった自分の残酷さがさらに気分を鬱屈とさせる。

できれば、自分を知っている人間に今の顔を見てほしくない。
見ればきっと、みんな自分に失望するだろうから。

「……ミッション、かんりょ……」

〈!!?Caution!!〉

「え!!?」

カマエルの背中に煙の中から出てきた二発の光弾が突き刺さる。
装甲を貫通するには至らなかったが、態勢を崩したカマエルは頭から地面に突っ込むように倒れる。
なかにいるティアナにもその衝撃は伝わるが、それよりも背中に走る鋭い痛みに耐えることに必死でそんなことに構っている暇などなかった。

「さっきのはマジでヤバかったぜ……」

煙が晴れたその先には、プロテクターの役割を果たしていた六角形の装甲が無傷のケルディムの周りを守るかのように浮いている姿があった。

「あれで……防いだっていうの……!?」

〈そのようです。〉

落ちついた口調で話すクロスミラージュだが、普通に考えればこの状況はすでに勝負がついている。
カマエルは地面の上に横たわり反撃することができない。
一方、ケルディムは二丁のビームピストル、そして攻撃にも使用できる防御用のGNシールドビットが9基。
どう見ても、カマエルに勝機はない。
そう、カマエルが普通のガンダムだったら。

「ク……クロスミラージュ、MAへの変形機構は……」

〈問題ありません。いつでもいけます。〉

「オッ…ケー……」

痛みをこらえて操縦桿を握ったティアナは自分たちを見下ろしているケルディムの光通信を見て鼻で笑う。

「『機体を捨ててさっさと逃げろ。』……何言ってんのよ。勝った気になるのは…」

左脚の横にあるボタンを押したティアナはこれから来るであろうGに耐えるべく体を硬直させる。

「早いわよ!!!!」

「なにっ!!?」

倒れていたカマエルの姿がロックオンの目の前で変わっていく。
体は人間に近いその姿からは想像もできない動きで捻じれ、それまで隠れていた爪や牙が手足や頭部の代わりにでてくる。
背中にあったブレードを残して首の後ろへと移動したGNドライヴは変形が完了したことを祝福するようにいっそう激しくオレンジの魔力とGN粒子が混じりあったものを放出する。

「コイツ!!」

オレンジと白の獣へビームピストルを発射するケルディムだが、しなやかな動きでそれをかわした機械仕掛けの獣はそのまま壁に爪を立てると一気にビルの上へ駆けのぼる。

「チッ……まさかMAへの変形機構……それも、」

ロックオンはライトを浴びて美しく輝くカマエルを睨みつける。

「動物タイプのMAに変形とはな!!」

動物をモチーフとしたMA。
構想自体は地球にもあったが、技術的な問題でいまだに実用化されていない。
それを、カレドヴルフはやってのけたのだ。

「驚いたな……しかも、よりによって猫とはな……!」

ロックオンは変形したカマエルを猫と表現したが、それは少し違う。
長く伸びた四肢に、強靭で長い爪を持ち、爛々と輝く二つのオレンジの瞳の下には異様に長い牙。
あえて例えるなら、猫よりもさらに大きくて俊敏な豹といったところか。
その豹の背中には一対のブレードが煌々と輝き、脇にはそれまで手に握られていた二丁のビームピストル。
そして、右肩に担がれる形で装備されたスナイパーライフルは動きを邪魔しないように使わない間は銃口が後ろを向いているようだ。

「第2ラウンドよ!!」

「上等!猫狩りといこうぜ!!」

ビルの上に陣取っていたカマエルへビームピストルを放つが、屋上に着弾するよりも早く別の屋上へ跳んだカマエルは着地と同時に脇にあるビームピストルでケルディムへ射撃を行う。

「ビット展開!ビット展開!」

二つのシールドビットが光弾を弾くが、今度は背中にたたまれていたブレードが両脇に展開され、カマエルは猛烈な突進を開始する。

「斬り裂けぇぇぇぇ!!!!」

二枚のシールドビットの間を一陣の風となったカマエルが駆け抜けると、真っ二つに切断された二つのビットがガラガラと音をたてて地面に落下して爆散する。

「クッ!!」

接近戦が危険だと悟ったロックオンは空へ飛び立とうとするが、カマエルは鋭い爪を使ってケルディムを地面へ引きずり降ろすとその鋭い牙で頭部を食い千切ろうとする。

「なろっ!!」

左手のビームピストルの柄をあごに叩きつけて隙間を作ったケルディムはそこへ右手のビームピストルの銃口を潜り込ませる。
だが、

「クッ!!」

鼻先に光をかすらせながら後ろへ下がったカマエルはMS形態に戻ると両手に握ったビームピストルにオレンジ色の短剣を出現させる。

「何でもありかよお前!!」

斬りかかってきたカマエルの一撃を銃の下の部分で受け止めたケルディムはその隙に残っていた右手のビームピストルを発射してカマエルをさがらせると、再び空へと舞い上がる。

「狙い撃つぜ!」

上からの鋭い狙撃がカマエルを襲う。
しかし、素早くMAに変形したカマエルは地上を縦横無尽に駆け回って狙いを絞らせない。
だが、ロックオンの真の狙いは狙撃でカマエルを仕留めることではなく、

「!!」

シールドビットを潜ませている場所へ誘導することだった。

「蹴散らせ!!」

「クロスミラージュ!!」

互いに聞くことのできない二つの怒号はあるいはビームの嵐に、あるいは強固なGNフィールドへと姿を変えて戦場で荒れ狂う。
永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほどに激しく、そして戦場の美を顕現した二機の戦いにカレドヴルフのデータ観測班は本来の役割を忘れて呆然と見入っていた。

だが、突然その美の競演は終わりを告げることになる。
ライトアップされた試験場という名の舞台に一つの黒い影が一直線に駆け抜ける。
カマエルとケルディムの間に入ったそれは、ケルディムの両肩を掴むとそのまま海の方へと押していく。

「新手か!?」

漆黒の機体の手を振りほどこうとするロックオンだったが、接触回線で送られてきた暗号に驚く。

「『ここは退け』だと!?」

操縦桿を握り潰してしまうのではないかと思うほどの力を手に込めるが、続きを読んで考えを改めざるを得なくなる。

「増援……!?エスクワイアとシュバリエってやつか……!!」

さらに、刹那たちもフュルストの試験型に遭遇してしまったらしい。
あの二人なら逃げることくらいはできるだろうが、増援が来る前に全て落とすのはさすがに無理だろう。

「つうか、バレてっから普通に顔見せていいぞ、クロウ。」

『なんだ、わかっていたのか。』

小馬鹿にしたような笑い声とともに現れたクロウの顔にロックオンは顔をしかめる。

「こんなこと俺たちに伝えてくるのはお前くらいだろ?」

『それもそうか。ところで、どうして一人でこんな無茶をした?』

「……今は言いたくねぇ。」

『やれやれ……』

子供のようにふてくされた表情で目をそらすロックオンに苦笑しながら、後ろから追いかけて来ているカマエルを一瞥したクロウはコンソールを操作し始める。

『俺が合図をしたらわざと攻撃を受けたふりをして海へ潜れ。なにが合図かは見ればわかるはずだ。』

「は!?オイ、まっ…」

通信回線を切ったクロウはコンソールを再度操作し、その横におさまっていたエルダに命じる。

「エルダ、フルドライヴ!!」

〈了解!!〉

それまで黒一色だったフュルストの体が燃え立つような赤に変化し、それまで以上のスピードでケルディムを押し始める。

「TRANS-AM!?なんで疑似太陽炉で!?」

驚くロックオンだったが、そんなことなどお構いなしにクロウはフュルストに腰に装備されていた二丁のビームピストルを抜く。

「エルダ、粒子拡散率を最大に設定。目標が撤退を開始と同時にフルドライヴを解除。」

〈了解。粒子拡散率最大。〉

銃口に蓄えられていた光が無数の閃光に姿を変えてケルディムに襲いかかる。
だが、

「なるほどな……確かにこれなら、見た目は派手でもダメージは大したことはないってことか。」

ぶつかったビームは派手に粒子をまきちらしはするが、機体そのものへのダメージは皆無だ。
コックピットの揺れもほとんどない。

「そんじゃ、どうにもムカつくが逃げるとしますか。」

「ヘタレ。ヘタレ。」

「誰がヘタレだ!」

ハロに怒鳴りながら、ロックオンはケルディムがフュルストの攻撃に押されているように背中から海中へ沈めていった。

〈フルドライヴ終了。GNドライヴ機能停止。各部コンデンサーの使用を開始。〉

(一回使っただけでこれか……)

ケルディムを見送ったクロウは苦々しげにエラーの文字を見つめる。
J・S事件の際にガンダムが使ったTRANS-AMを再現したのはいいが、たった十数秒使っただけで貴重なGNドライヴがお釈迦になったのでは話にならない。
これではとてもソレスタルビーイングの援護を行うことなどできない。

『そこのMS!武器を捨ててこちらの指示に従ってください!』

「フゥ……俺がそんなこと考えても解決するわけでもないし、まずはこっちの面倒を片づけるのが先か。」

クロウは武器をしまうとカマエルに通信をつなぐ。

「こちら管理局特務部隊所属、クロウ・ヘイゼルバーグ曹長だ。こちらでアンノウンの反応を感知して応援に駆け付けた。さっきの戦闘でGNドライヴが機能停止になってしまった。フュルストの回収を願いたい。」

『あなたは…!!』

その声と顔にティアナはケルディムを追ってきたことも忘れてクロウにかみつこうとするが、クロウは何食わぬ顔で話を進める。

「そちらの性能実験に割りこんでしまったことは詫びよう。だが、秘密主義も度が過ぎると不興を買う……今回のアンノウンの襲撃がその最たるものだと思うが?」

『…………なるほど。あくまでそう言い張る気なわけね。』

「ランスター二士だったか?なんのことを言っているのか知らないが、あまり難癖をつけるのはやめておいた方がいいぞ。カレドヴルフに出向しているとはいえ君は局員なのだから。」

つまり、今はあまり大きなアクションを起こすな。
この男はそう言っているのだ。

〈ヘイゼルバーグ曹長、私も少々お伺いしたいことがあります。〉

ティアナに代わり、今度はカードホルダーにおさまっていたクロスミラージュが尋ねる。

〈先程の攻撃、粒子拡散率が通常のものよりひどく高いように見受けられたのですが、意図して行ったものなのでしょうか?〉

あまりにもストレートな質問。
それにクロウがイエスと答えたならば、先程の一連の行動は襲撃者を逃がすためのパフォーマンス。
つまり、

(コイツとさっきの奴は仲間……)

さっきの戦闘の時とは違う嫌な湿り気が体全体を包み込んでいく。
静かだが、常に喉元に刃を当てられているような感覚。
いっそ、ひと思いに攻撃してきてはくれないかとさえ思ってしまう。
だが、そんなティアナの考えに反してクロウはクックッと笑う。

「それは知らなかったな。おおかた、新システムを発動した際に何らかのトラブルがあったのだろう。」

〈ええ、フルドライヴ終了時には粒子のコントロールが困難な状況になっていました。何らかの不都合があっても仕方ないかと。ご理解いただけましたか?名も知らぬインテリジェント・デバイス殿。〉

〈……………………………〉

二人の言い草に気分を害したのか、はたまた上手く誤魔化されてしまったのが気にくわないのか、クロスミラージュはそれきり黙りこんでしまった。

その後、フュルストは回収され、クロウはカレドヴルフ、そして同僚である地上部隊の人間からも事情聴取を受ける羽目になった。





クラナガン 沿岸

何度目かわからない剣閃が空をきる。
しかし、相手の攻撃もまた空をきり、二つの影は距離をとる。

「はぁ…はぁ……!」

「ちくしょぉ~……当たらねぇ……!」

ダブルオーのコックピットで憔悴しきった刹那とジルが肩で息をする。
戦闘を開始してからまだあまり時間は経っていないのに、これだけ消耗させられるなど刹那たちは考えてもみなかったに違いない。
おそらく、これだけの手練れはアロウズにもそうはいないだろう。

「どうする刹那、このままじゃニヒルを助けに行く前に俺たちがやばいぜ?」

「だが、ここで退くわけには……」

(あの方なら無事に撤退を開始しましたよ。)

「「「!!?」」」

突然聞こえてきた念話に三人は目の前の敵と刃を交えながら目を丸くする。

(ご安心を、ごしゅじ……クロウの使い魔です。セイエイ様、アーデ様でいらっしゃいますね?ポイント86-Qから撤退を。フュルスト達は都市部を避けて逃げれば追ってはこないはずです。)

(なぜそう言える?)

(このフュルスト達は試験型にすぎません。必要以上の追跡の果てにGNドライヴを失う可能性を彼らが考えないはずはありません。)

(……刹那、ムッツリ。コイツ、嘘は言ってない。)

(……わかった。ティエリア、撤退するぞ。)

(了解。)

セラヴィーの砲撃で陣形が崩れた隙に二機はその間をくぐって遥か海上へと消えていく。
そして、鳥のさえずるような声の念話の言うとおり、フュルスト達は追ってくることはなかった。





プトレマイオスⅡ 営倉

「ったく、ここでしばらく臭い飯を食ってろってか?」

「反省!反省!」

戻って来てからというもの、ティエリアから殴られるは、フェルトの平手打ちを食らうは、とどめにしばらく営倉での謹慎を命じられるはで踏んだり蹴ったりだ。

「ま、俺が全面的に悪いから仕方ねぇんだけど。」

ケルディムのビットは二つ失ったが、あそこまで派手に暴れておけばMS・デバイスの開発に対する牽制にはなっただろう。
それでも、ゲイルスに手を出すようなら今度は容赦しない。

「狙い撃つ……」

できるのか?
あのガンダムを相手に?

「っ……!」

ギリリと自分の歯ぎしりの音だけが聞こえてくる。
自分とハロ、そしてケルディムと互角以上の勝負を繰り広げたあのガンダムとそのパイロット。
あれだけの相手とまた戦って無事で済む保証はどこにもない。

「クソ……」

明かりにかざした自分の右手が嫌に小さく見える。
兄から引き継いだガンダムの力を十分に生かしきれていない事実に腹が立ってくる。

「クソーーー!!!!!!」

壁を叩いてみるが、現実は変わらない。
現実を、今を変えるにはただ前へ歩き続けるしかない。

「……ハロ、いまから訓練メニュー組んどいてくれ。それと、ここでできる可能な限りの訓練を頼む。」

「任サレテ!任サレテ!」

「やってやるさ……勝てるかどうかじゃない。勝たなきゃいけねぇんだ……!!」





孤高の射り手、猛々しき天使と弾丸の使徒と交えし戦火にて己の無力を知る
なれど、其は変革の礎となる





あとがき・・・・・・・・・・という名の認めたくないものだな……(以下略)

ロ「オリガンダム登場&ロックオンとティアナが暴走な第十六話でした。」

ツン2「てか何よあれ。ZOI○Sなの?まるきりZOI○Sよね?ついでに私の暴走具合とかレリックどうして譲り受けられたんだよボケとかいろいろ言いたいことがあんだけど?」

ロ「それについてはそのうち説明する……ていうか、ガンダムの情報がカレドヴルフに流れてる時点である程度予想つけよ。」

弟「お前の妄想を理解できるほど俺たちは電波じゃない。というか、俺しばらく謹慎かい。しかも終始オリガンダムに押されっぱなし。どういうことだよこれ?」

ロ「フゥ……これだからニヒルとツンデレは嫌だよ。自分の意見ばかり押し通したがる。」

ツン2・弟「「至って常識的なことしか言ってませんがね!!?」」

ロ「ハァ……なんか二人して文句ばっかなので次回予告に行きます。」

ツン2「次回は再びI編!」

弟「リボンズの誘いに対するユーノの答えとは!?」

ツン2「その頃、暗躍を続けるビサイドはフォンを利用すべくコンタクトを図る。」

弟「しかし、その時フォンから伝えられた想定外の事実とは!?」

ツン2「そして、フェレシュテのメンバーと接触できたテリシラはレイヴの肉体を取り戻すべくフォンとともにビサイドの後を追う!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 17.悪意の1VS狂気の正義
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/02/04 23:36
連邦軍 某国基地

鉄製の床の上。
GNドライヴ[T]のチャージをしている1ガンダムの中には、ヴェーダから情報を送られてくるビサイドがいた。
そして、ある一人の人間についての情報が目にとまる。

「へぇ……こんな奴がいるんだ。」

犬歯をのぞかせて笑みを浮かべる赤い瞳にビサイドは本当に獣のようだという感想を抱いてしまう。

「フェレシュテを離脱し、密かに四機のガンダムを修復したトレイターA13、フォン・スパーク……コイツに一役買ってもらおう。」

ビサイドはチャージが完了したことを確認すると機体を固定していたアームを外す。

「設備を使わせてくれて感謝するよ。もっとも……」

ニヤリと笑って眼下に横たわる屍とMSの残骸へ言葉をかける。

「もう誰も答えてはくれないけどね。」

1ガンダムが飛び去った後に残されていたのは無残に破壊された基地と、その中で辛うじて生き残っていた一基のGNドライヴ[T]をチャージするための装置だけだった。





魔導戦士ガンダム00 the guardian 17.悪意の1VS狂気の正義



某国ホテル

「ハ……ハハハ。」

ユーノは差し出されていたリボンズの手に触れることなく一歩下がる。

「何を言い出すかと思えば……そっちにつけだって?冗談じゃない!みんなを裏切ってお前たちに従うくらいなら、この場で死んだ方が百倍マシだ!!」

語気を荒げるユーノだったが、リボンズはそんなことなど気にせずにさらにユーノとの距離を詰める。

「なぜそんなに拒否するのかな……?君は世界の平和を願っているんだろう?だったら、ソレスタルビーイングにいるより僕たちの側にいるべきだということくらいわかるだろう?」

「僕が望んでいるのは“全ての人にとっての平和”だ!!“少数を犠牲にした多数にとっての平和”じゃない!!」

「だから多数を犠牲にしてまで少数を救うと?」

「違う!!本当に人と人とがわかりあえる世界にしたいだけだ!!」

「それは理想論にすぎないよ。人はその数だけ違う思いを持ち、それゆえに争いを起こす。平和なんてものは人為的に作り出し、人為的に維持していくしかないのさ。君だって間近で見ていたじゃないか……」

リボンズの微笑みが嘲りを含んだものに変わる。

「ロックオン・ストラトスとエレナ・クローセルが使命よりも復讐を優先して無様に死んでいく姿を。」

全身の毛が逆立つのを感じる。
気付けばレイヴをどうすれば元に戻せるかを聞くことも忘れ、ソリッドを起動して中からライフルを取り出していた。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

〈Kill mode on〉

カートリッジの排莢と同時に翠の弾丸が唸りを上げる。
しかし、リボンズはそれでも笑みを消さない。

「残念だよ。こういうことはしたくなかったんだけどね。」

「!?」

リボンズの肌にぶつかった弾丸が弾けて散る。
いや、リボンズの肌のすぐ上に張られたフィールドに防がれたのだ。
驚いて距離を取ろうとするユーノだったが、今度は後ろから黄緑の鎖がユーノの体をがんじがらめにする。

「グッ!!」

「見た見たリボンズ!?あたし偉い!」

「ああ、流石だねヒリング。」

背中からユーノを押し倒して上に乗っている少女をリボンズは子供を褒めるようになでる。

(迂闊だった……!馬鹿正直に一人で会うわけがなかったのに……!!)

なんとか抜けだそうと必死に体を揺するユーノだったが、今度は赤い髪をした男が少女をどけて鎖に手をかざす。

「グッ!!?ああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

全身を駆け巡る赤い稲妻。
意識が飛びそうになるとより一層強い電流が流れてそれを許さない。

「ブリング、やり過ぎには気をつけなさないよ~?この子は大切なお客様なんだから。」

「問題ない。『ガラッゾ』は非殺傷設定にしてある。」

「あっそ。でも、もう限界って感じだけど?」

「うあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!あっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

美しい外見とは正反対の断末魔の叫びをあげるユーノを心配するように男を止めようとする少女だったが、彼女の顔に張り付いている表情は心配という言葉からは程遠いサディスティックな嫉妬の笑みだ。

「ブリング、そこまでにしておいてあげてくれないか?ユーノの僕たちに対する印象を悪くしたくないからね。」

リボンズの言葉に従って彼と同じ塩基配列のイノベイド、ヒリング・ケアと彼女とは別の塩基配列をしたイノベイド、ブリング・スタビティはユーノから離れる。

「っはぁ!はぁ!!」

痛みで痙攣をおこしながらユーノは酸欠手前の肺へ空気を取り込もうと激しく呼吸を繰り返すが、体中の筋肉が電撃の影響で上手く動いてくれず思うようにいかない。
うるんだ瞳で震えるその姿には先程までの勇壮な立ち振る舞いは残っておらず、無残に端が焼き切れたドレスの似合う女性そのものだ。

「あららぁ、随分元気が無くなっちゃって。本当に女みたい♪」

しかし、ケタケタと笑うヒリングの言葉に微かに残されていたユーノの意地が呼び起こされる。

「………レ…」

「?」

「誰が……女だ………この…アバズレ……」

「へぇ~~……いい度胸してんじゃない。」

ユーノの背中を踏みつけると、ヒリングは手の平に魔力刃を作り出す。

「自分の立場ってものをよ~く理解しときなさい。その気になればいつだってあたしたちはあんたを殺すことができるのよ。大人しくリボンズの言うことを聞かないなら、あたしがこの場で……」

「ヒリング。」

冷たい声にヒリングはビクリと体を震わせる。

「今すぐユーノから離れるんだ。」

「は……はい……」

寒くないはずなのにガチガチと歯を鳴らしながらさがったヒリングは床の上に腰砕けに座りこむと震えを抑え込むように両手で体をさする。

「すまないね。彼女には後できつく言っておくから許してくれないかな?」

「はぁ……はぁ…っ……だったら、お前もロックオンとエレナに今すぐ謝罪しろ……!あの二人の生き方をお前なんかに否定できると思っているのか……!!」

「フゥ……残念だよ。君はどうやら必要以上にあの愚かな人間たちに感化されているようだね。大局に立つ人間は感情に流されるようではいけないよ?」

「黙れ……!!それ以上ロックオンとエレナを侮辱したら許さない!!」

「まあ、それについては後でゆっくりと話すとしよう。」

リボンズはブリングに命じてユーノを運ばせようとする。
しかし、

「……失敗だったな。」

「?」

「これだけ時間があったら、術式を解除してくださいと言っているようなものさ。」

「!!」

パーンと乾いた音をあげて砕けたチェーンバインドに驚くブリングめがけてアームドシールドを振るったユーノはドレスの裾を引き裂いて猛然と窓へと走り出す。

「逃がすか!!」

ブリングはどうにか止めようとするが、彼のデバイス、ガラッゾは近接戦闘型のためユーノを止めるほどの遠距離攻撃手段は持ち合わせていないためどうすることもできず、ユーノを見送るしかない。

「でぇぇぇい!!!!」

ガラスを蹴破ったユーノは浮遊魔法を使ってふわりと着地すると車を止めてある門まで走っていった。

「振られちゃったか……」

「あ、あの、リボンズ……」

「気にしなくていいよ。ただ……」

リボンズは笑みを消すとよろよろと近づいてきたヒリングの顎を掴んでギロリと睨む。

「ユーノ・スクライアを手にかけることは僕が許さない……わかったな。」

「わ……わかった……!!」

再三恐怖にさらされたヒリングはそれ以上何も言えず、リボンズがその場を去ったのちも足が凍りついて動くことができなかった。





「どうしたの一体!!?」

駆け込んできたユーノを乗せて全速力で車を出したアレルヤはその姿にひどく面喰った。
なにせ体のあちこちに小さな焦げ跡ができているうえにシャルが吟味して選んだドレスはボロボロで大きく破れた裾からはユーノの白く美しい脚が大胆に見えている。

「ちょっと痛めつけられただけだよ。それと顔赤くして人の脚を見るな!!!!」

「あだっ!!」

アレルヤの視線に気づいたユーノは後ろから頭を蹴り飛ばすと残った裾で肌を隠す。

「いたた……それで、収穫はあったのかい?」

「結論から言うと体を取り戻してもパーソナルデータが無いとレイヴは復活しないらしい。」

「え!?」

「まあ、慌てなさんな。」

そう言うとユーノはカツラをとってニヤリと笑う。

「裏を返せば、パーソナルデータと肉体がそろえば何とかなるかもしれない、っていうことさ。」

「でも、そのパーソナルデータはどこに……」

「あるとしたらヴェーダだけど、そこには僕たちじゃ手出しはできない。」

「じゃあどうするのさ?」

「今のヴェーダはサブターミナルにメイン機能が移されている。けど、メインターミナルが起動しているとすれば、レイヴのパーソナルデータがそちらに送られている可能性はある。しかも、レイヴのことが邪魔でメイン機能のあるターミナルに置いておきたくないと考える人間がいるならなおさらね。」

「メインターミナル……そうか!」

「うん、フォンと会うことができれば、何かつかめるかもしれない。」





某国 荒野

とある国境付近の荒野。
事情を知らない者ならばテロリストの本拠地でも発見したのかと聞きたくなるほどの数のジンクスが空を埋め尽くしている。
しかし、彼らが目指すのは開けた荒野の一角。
もっと正確に言うならば、そこで暴れまわる紅蓮の機体へとジンクスたちは集結していた。

「あげゃげゃげゃ!!!!」

しかし、集まれば集まるほど砲撃、斬撃、そして自らが持っていた槍でその体を貫かれたジンクスの残骸で山が築かれていく。
そして、ひときわ大きな爆発が起こった後にはすでに動いている機体は存在していなかった。
その真ん中で佇むアストレアF改以外は。

『ジンクス部隊完全沈黙。』

「これが新連邦軍か?他愛もない。」

知らない人間からガンダムと一緒に来いと呼び出されて久々に戦闘に突入したので期待していたのだが、最凶最悪のガンダムマイスター、フォン・スパークには物足りない相手だったようだ。
前座の不甲斐なさに少々がっかりしたフォンだったが、ハロから聞こえてくる874の言葉でしぼみかけていた期待が再び膨らむ。

『未確認機接近。通信です。』

「やっと主賓のお出ましか。」

待ちかねていた呼び出し主は若い男、見た目から判断するに学生ほどの年齢だろうか。
モニターに映った顔には他者を見下すような薄ら笑いが張り付いている。

『強いね、フォン・スパーク。あくまで“人間”としてはだけどね。』

「フン、呼び出しておいて待ち伏せとはな。」

『君の実力を知りたかったから連邦軍を使わせてもらったよ。彼らはガンダムの情報には飛びついてくる……そして君は自分を呼びだした相手を確認するためにやってくるというわけさ。』

悪びれる様子もなく弁舌をふるう男に、それでもフォンも不敵に笑いながら切りかえす。

「どうでもいいが、呼び出しといて姿を見せなけりゃ名乗りもしないってのはどういう了見だ?」

『おっと、これは失礼。』

全てを蹴散らしたアストレアとフォンの前に白い影が赤い光とともに空から舞い降りる。

『僕は“レイヴ・レチタティーヴォ”、ヴェーダの特殊ミッションを受けた特別な存在だ。』

フォンが六人のイノベイドのミッションを知っていると踏んだビサイドはあえてそう名乗ったが、それが失敗だった。

「ほお、特別か……そりゃすげぇ。けどよ…」

ニヤリと笑うフォン。

「おかしな話もあるもんだなぁ……そのレイヴなんとかっていうイノベイドは何人いるんだ?」

『なに?』

「その名前のパーソナルデータ……俺のヴェーダの中にあるんだがな!」

『!!』

ビサイドは凍りつく。
相手が人間だからと言って侮っていた自分の認識の甘さが悔やまれる。

この男が獣などとんでもない。
こいつは、フォン・スパークは狡猾に人を嵌め、それを見て嘲り笑い、無残な最期を届ける悪魔だ。

『馬鹿な!!なぜレイヴのデータがお前のところに!?』

「ハッ…ようやく尻尾を出したなイノベイド。じゃあ、お前の言う特別なミッションに俺も一枚噛むためにその体をもらいうけようか……力ずくでな!!」

アストレアが持っていたライフルを1ガンダムへ向ける。
一拍遅れてビサイドもライフルをアストレアに向けて発射する。
ほぼ同時に放たれた赤い閃光は両機の顔をかすめ、アストレアはガンダムフェイスを偽装していたマスクを、1ガンダムは微かに焦げ跡をつくって一気に距離をとる。
それまでいた場所をグルグル回るように互いの射程距離を保ちながら激しく撃ちあう二機。
だが、さまざまな重火器を装備したアストレアにビームライフル一丁の1ガンダムが射撃戦でかなうはずもなくGNランチャーを捨てて発射されたミサイルにやむなく距離を開ける。

「ビサイドって言ったか。お前、他のイノベイドに自分の記憶と人格をコピーする能力を持ってんだろ?」

『なっ!?』

なぜそこまで知っている。
その動揺からアストレアのビームをよけそこなった1ガンダムは左腕の盾で防ぐが、それをきっかけにフォンは銃撃を集中させてたたみかけてくる。

「ところでよ、逃げるスペアが無い時はどうなるんだろうなぁ?」

『ま、まさか……!?』

どうなるかなどわかりきっている。
だが、わかっているうえでこいつはそれを実行に移そうとしている。
まるで、子供が興味本位でカエルの解剖をするように。
自分の期待以上の結果が示されるかもしれないというありえない残酷なまでの探究心に突き動かされている。

「試してみるか!!?」

『やめろぉぉぉぉぉ!!!!』

ビサイドは生れてから体験する“二度目”の恐怖に反射的にコックピットの前にシールドを持ってくるが、フォンはあえて中心から少しずれた場所、ちょうど腕があるであろう辺りに的を絞って急接近してGNソードを突き立てた。

『ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』

ビサイドは自分のすぐ横を突き抜けている分厚い刃、そしてその下に転がっているさっきまで自分と繋がっていた左腕に視線をやりながら絶叫する。
痛み、怒り、恐怖、憎悪。
フォンに対する感情がとめどなく湧き上がり、愛機の傷口から漏れるGN粒子を気にする余裕もなく命の危険を回避するために反撃もせずにその場から逃げていく。

「やっぱりそうなるか。つまんねぇやつだ。」

少しは根性のあるところを見せると思っていたフォンだったが、所詮は死の恐怖にさらされたことのない者などこの程度かと落胆する。
だが、本来の目的自体は果たせた。

『1ガンダムの疑似太陽炉のパターン認識。追跡中……行動予測範囲を絞り込みます。』

874がいる場所はかつてヴェーダのメインターミナルとして活動していた世界でも指折りの優秀な量子演算コンピューター根幹部。
データ自体はほとんどリボンズの手によって消去されてしまったが、再起動後は本物のヴェーダにアップされるデータがこちらにもアップされ続けているのでフォンも六人のイノベイドのミッションの存在に気付いたというわけだ。
そして、本物のヴェーダから弾きだされたレイヴのパーソナルデータもここに収められている。

「そんじゃ、次の段階だ。シャルと合流して例の物を受け取ったら“ミッションに選ばれた肉体”をもらいに行く。」

『了解。回線に割り込みをかけます。』





テリシラ邸 地下室

(お父さん……)

(……………)

もう何度目かもわからない呼びかけ。
相手が答えない自分の声ほど精神を追い詰めるものはない。
しかし、ブリュンは挫けることなくラーズとの対話を試みる。

(体はドクターの処置で眠らされていてもブリュンの脳量子波は届いているはずです。)

(……………)

(お願いです……答えてください……)

(……………)

こんなにも近くにいるのに、触れあうこともできなければ心を通わせることもできない。
これが、親子と言えるのだろうか。
考えるほどに辛くなり、ブリュンは涙をこぼしそうになる。
そこに、

(どうかね?)

泣きそうになっているところに声をかけられたブリュンは驚くが、すぐにいつもの調子に戻して返事をする。

(まだです、ドクター。)

(そうか……ところで、さっき例のシャル・ヴィルゴから連絡があった。だから、しばらく留守にしないといけないんだが……)

(大丈夫です。諦めずに説得を続けます。)

気丈に振る舞うブリュンにテリシラは一抹の寂しさを覚えるが、彼の意思を無視してまでそのことを口に出そうとは思わない。

「頑張れ。戻ったらあの義眼の再生手術も行おう。もちろん、君のお父さんと相談したうえでね。」

(……!はい!)

励ましの言葉に少し元気を取り戻したブリュンは再びラーズに語りかける。
また、父とともに過ごせる未来を手にするために。




フェレシュテ拠点

「それで、あの賞金を懸けてきたお医者さんと会うことにしたんだ。」

「直接会って理由を確かめるのが一番でしょ。」

遅れて地上に降りてきたシェリリンはシャルの言葉ににんまりとする。

「直接会って確かめる。グラーベ流ってやつね。」

そのグラーベ流に付き合わされてどれだけ苦労させられたことか。
今回もラジエルができたらさっさと消えてしまうし、少しは自重してほしいものだ。
唯一の救いはヴェロッサが残ってくれたことだろうか。

「それはそうと、賞金の10万EVはどうするんだい?」

「別にそれは……」

「もちろん、私がカーゴポッドを買う資金に使うのよ!」

いらないと言うつもりだったシャルはまたかというような顔をするが、シェリリンは目を輝かせながら続ける。

「中古でいいの見つけたんだ!!師匠は『お前にゃ早い』で終わりなんだもん!でも、いい加減私も自分のを…」

「駄目よ。イアンさんがいいって言わない限り私が許しません。」

「ええーーーー!!!!なんで!!!!」

何度見たかわからないこのやり取りにヴェロッサはつい苦笑してしまう。

「イアンさんが早いって言っているんだから実際早いんでしょう。それに、この賞金はNGOにでも寄付するわ。」

「ムーーー!!!!シャルのわからず屋!!アンポンタン!!変態趣味!!」

「…………何か言った?」

「ひっ……!!」

ドスの利いた声と青筋を浮かべた笑顔に罵詈雑言の限りを尽くしていたシェリリンも流石にまずいと気付いたのか黒い肌を真っ青にしながら手で口を押さえこむ。
しかし、怒りの収まらないシャルはシェリリンの両方のこめかみを拳でぐりぐりと挟む、俗に言う梅干しの状態でシェリリンを攻めたてる。
「いたたたた!」と声を上げつつ、涙ながらに視線を使って救いの手を隣にいたヴェロッサに求めるシェリリン。
呆れて笑っていたヴェロッサだったが、このまま話が進まないのは望むところではないので新しく話題を振ることにする。

「それはそうと、例の装備は完成したのかい?」

「いたたたたたた!!!!!!ほ、ほらシャル!!ロッサが聞いてるよ!?これやめてくれないと私話せない!!」

「…………はぁ。」

甘やかすな。
そう言いたげなジト目に心の中で謝罪したヴェロッサはシャルの拳から解放されたシェリリンのこめかみをなでる。

「いちちち……ったく、もう~…………あ、フォンから頼まれてた装備ならもうできてるよ。ついでに、プルトーネの強化もね。サダルスードも絶賛強化中よ!」

「そう、ありがとうシェリリン。」

「でも、プルトーネの新装備の方は制御をハロに任せてる分オリジナルには少し劣っちゃうけど……」

「そこは、僕の腕の見せ所ってやつかな。」

ウィンクを返すヴェロッサだが、シャルの表情は重い。

「でも、フォンから連絡が無いと渡しようがないわ。これだって、私たちが持っているだけじゃ意味がないわ。」

シャルが見つめる先にあるのは黄色いハロ。
その頬には猫の髭のような三つの細い線が書き込まれ、口(?)も猫のように丸くかわいらしいものになっている。

「はぁ、今頃どこにいるのやら。ヒクサーよりも勝手で性質が悪いわ。」

『あげゃ、そりゃあ悪かったな。』

「「!!!?」」

「おや。」

シャルの愚痴に反応して起動した874専用ハロは目のライトをちかちかと点滅させて辺りの様子を窺うようにコロコロと転がる。
ヴェロッサは興味深そうにじっくりと観察するが、驚いたシャルとシェリリンは腰が抜けたまま立てずにいる。
すると、ハロが二人に視線を固定させて「あげゃげゃげゃ!」と独特の笑い声をあげる。

『随分でかくなったなシェリリン。』

「フォ、フォン!?」

『あげゃ、久しぶりだなシャル。そこの優男とあの暑苦しい馬鹿は役にたってるか?』

「え、ええ、まあ……じゃなくて!あなた今どこに…」

『イノベイドの医者に会うらしいじゃねぇか。俺もその場に同席させてもらうぜ。』

「ちょ、ちょっとフォン!?」

『じゃあな。日時と場所は勝手に見させてもらった。現地集合ってやつでよろしく頼むぜ。それと、イノベイドの医療データがあったはずだな?そいつも忘れずに持ってこいよ!あげゃげゃげゃ!』

一方的に言いたいことを言って、やりたい放題をしてから通信を切るフォン。
袂を分かってからもう2年もたつのにそういうところは全く変わっていない。

「まったく、本当に勝手なんだから……」

だが、シャルにはフォンが変わっていないというその事実がただただ嬉しかった。




某国 森林地帯

人気のない森林地帯のド真ん中。
人工的に木が伐採された場所に車を止めたテリシラは到着と同時に空の上から降りてきたそれを見上げる。
白と水色に染められた平たく長い箱のようなものが背中から赤い粒子を放出しながら少しずつ、ゆっくりと高度を下げて緑のカーペットの上に着陸する。
その中から出てきた3人の人物、ボール型のマシーンを持った黒い肌の女性とパイロットスーツを着ている緑の長髪をした男、そして、メガネをかけた長い銀髪の女性がテリシラの前に進み出た。

「シャル・ヴィルゴか?」

開口一番、テリシラがそう尋ねるとかつてシャル・ヴィルゴだった女性はフッと微笑む。

「その名前で呼ばれるのはすごく久しぶりね。」

シャルは本当に懐かしそうに、そして寂しそうに空を見上げて思いを馳せる。
はじめて高校に行った時のこと。
ワークローダーの技術を競う大会で惜しくも優勝を逃した時のこと。
しかし、それがきっかけでソレスタルビーイングに入るきっかけ、グラーベにスカウトをされた。
ルイードとマレーネ、そして874との出会い、そして悲しい別れ。
グラーベやヒクサーとの思い出。
フォンとの出会いと決別、ヒクサーとの再会。

お世辞にも良いことばかりとは言えないが、それでもいまさら悲観してどうなるわけでもない。
そのことを、仲間の娘と自分たちの意思を継いだガンダムマイスターから教えられた。

晴れやかな顔で前を向いたシャルはテリシラに尋ね人なんかで驚かしてくれた礼だとばかりに彼の経歴を読み上げていく。

「ドクターテリシラ・ヘルフィですね。国境なき医師団のジョイス・モレノの弟子……」

「!なぜそのことを…」

「あれ?ユーノから聞いてなかったんですか?」

ハロを両手に抱えていた少女、シェリリンが首をかしげるが、それ以上にテリシラの頭の中に大量のクエスチョンマークが生まれる。

「ユーノと先生は一体どんな関係だったんだ?」

「それはね~、話すと長いことながら……」

「……悪いね、二人とも。お客さんが到着みたいだよ。」

そのヴェロッサの言葉に二人は話を中断して彼が見上げている先へと視線を移す。
雲ひとつない空で輝く太陽に小さな黒い点ができたかと思うと、それはどんどん大きくなって遂には赤いMSへと姿を変えて4人の横へ降り立った。

「イノベイドの医者!お前に用がある!」

「ガッ、ガンダム!」

何かしらの準備はあるかもしれないとは思っていたが、まさかガンダムまでやってくるとは思っていなかった。

「やはり君たちはソレスタルビーイング……私設武装組織にして世界に敵対する者……!」

「ええ、私はね。でも、“アレ”は違うわ。もっと、ずっと、始末の悪いものよ。」

シャルが満面の笑みを浮かべているが、テリシラはすでにそんなことが気にならないほどある意識がその男に振り向けられていた。
赤いガンダム、アストレアのコックピットからつるされたワイヤーにつかまって降りてきた赤い目の男はズカズカとシャルのもとへと歩いていく。

「シャル、データは持ってきたな。」

「ええ。」

シャルの計端末に目を通した男、フォンは満足そうに腕を組むとシャルとともにテリシラのすぐ前まで歩いていく。

「これを。」

「私に?」

シャルから端末を手渡されると、テリシラはすぐに目を走らせ始める。

「医療データ?人間のものじゃない……イノベイド?……これはすごいな、一体誰がこんなものを……」

文の締めくくりのそのさらに後。
そこにあった名前にテリシラは目を見開く。

「モレノ先生!!?」

自分の師の名前がソレスタルビーイングに関係するデータに搭乗して動揺するテリシラだが、フォンにはテリシラがその内容を理解しているというだけで十分で、説明する気などまったくないようだ。

「OKだドクター!行くぞ!」

「な、なに!?ちょ、待ってくれ!私はシャルに会いにここに来ただけで……」

「シャル自身に用があるわけじゃないだろ?俺と来ればお前の望みはかなう。」

「し、しかしだな……」

呼び出しておいてこんな一方的に別れるなどシャル達が許すはずがない。
そう思っていたのだが、

「気をつけていってらっしゃい。」

「油断してると命にかかわるから気を抜かないでね。」

もう諦めているといった様子で苦笑しながら見送るシャルとヴェロッサ。
シェリリンはシェリリンで上機嫌でフォンへ874のパーソナルデータが転送されたハロを渡す。

「お、おいどこへ連れて……」

「いいところへだ。シェリリン、コンテナの中のブツも貰ってくぜ。」

「うん、後で感想教えてね。」

強引にテリシラをアストレアの中へ押し込んだフォンはシャルへ別れのあいさつもせずにアストレアを発進させる。
往生際悪く足掻いていたテリシラだったが、ハッチが閉じられてしまってはどうにもならないと悟って大人しくするが、ふとモニターに映るシャルの寂しそうな顔が目にとまった。

「お、おい、いいのか?彼女たちに別れを言わなくても?」

「あげゃ!そのうち一緒に“遠出”するつもりだからいいんだよ!それよりしっかりつかまってないとゴールに着く前に死んじまうぞ!」

「いや!掴まれってどこに……うわっ!!」

何やら誤魔化された気がするが、それよりもテリシラはもうヒリヒリと痛む後頭部をぶつけまいとフォンの座る席をしっかりとその手でつかむことに集中することにした。




テリシラ邸 地下室

テリシラがフォンたちと会っている時とほぼ同時刻。
ラーズはさまざまの光景を“見ていた”。
過去から現在に至るまで行われていたソレスタルビーイングの戦い。
リボンズと監視者、アレハンドロ・コーナーの暗躍。
そして、一番最近の映像。
自分の妻だった者とまったく同じ姿の女性がソレスタルビーイングのドックの廊下を進んでいるヴィジョン。

(!!お父さん!目が覚めたんですね!)

気だるそうに起き上がったラーズの気配に気づいたブリュンは嬉しそうに話しかけるが、ラーズは返事をするでもなく、ブリュンをその手にかけるでもなくフラフラと出口を目指して歩いていく。

(お父さん……!?待ってください!)

「……俺は…」

ブリュンの椅子の後ろで足を止めたラーズは振り向くことなく話し始める。

「俺は、多くの罪を犯した。この罪を償うまでは死なない。」

それが息子を安心させるためのものなのか、それともいままで奪ってきた命に対する懺悔なのかはわからない。
だが、ラーズの中である一つの確固たる決意が生まれていた。

(自殺を思いとどまってくれたんですね!でも、どこへ……)

その問いかけには答えず、ラーズは黙々と歩き続ける。

(待って!行かないでください!)

呼びかけても止まってはくれない。
かと言って、手を取るどころか体を動かすこともできない。
ならば……



応接室

「どうしたもんかなぁ……」

慣れないパソコンで描いた落書きのようなテリシラとブリュンの絵を前にしてうんうんと唸るスルー。
その絵の下には『兄さんを社会復帰させるための作戦会議』というテリシラにしてみれば迷惑この上ない会議名がでかでかと張り付けられている。

「結構ソンドハイムさん素敵ですからね。あのコスプレをやめさせるのは難しいですよ?」

「…………………………………」

ハーミヤの発言にあの姿は無理強いさせているのではなく、やめたら命にかかわるということを知っているサクヤは事実を伝えるべきかどうか迷う。
話してしまえば、この二人にイノベイドのことを包み隠さず打ち明けなければならないし、それはテリシラも望んでいないはずだ。
………というのは表向きで、はっきり言ってしまえばこのまま黙っていたほうが(サクヤ的に)面白いことになりそうなので、言わないでいるだけなのだが。

「サクヤ、あんたも何かいい方法考えなよ?」

「そうですよ!もしかしたらそのうちレイナードさんもドクターの魔の手に……!!」

「私は女性で子供とは呼べない年齢なのでドクターの趣味とは合わないかと。」

「あ~~~!!!!いっそサクヤを襲ってくれてればまだ希望が持てたのに~~~~!!!!」

サクヤのその発言に絶望の淵に叩き落とされたスルーは混乱して的外れな希望を口にしながらブンブンと頭を振ってもだえる。
とその時、

(お父さんを止めて!!)

「「!!!!?」」

「?」

なにが起こったのかわからないサクヤのそばでスルーとハーミヤは彼女以上に自らの身に起こった現象に混乱を極める。

「頭の中に声が……!?」

「なんなんですか……!?」

「頭に声……!?……まさか!!」

二人の言葉の意味を理解したサクヤは地下室へ続く扉へと向き直る。
そして、それと同時に現れたのは

「きゃあ!!?」

「お前!!なぜここに!!」

ここにいるはずのないラーズの出現に驚きを隠せないスルーとハーミヤだったが、サクヤだけは両手を広げてラーズと向き合う。

「お二人を手にかけたいのなら、まずは私からにしてください。」

「レイナードさん!?」

「あんたなに言って…」

「……心配するな。」

それまでと違い、三人がイノベイドであることに興味が無いようによろよろと玄関へ向かうラーズ。

「もう……罪を犯しはしない。」

そう言い残してラーズが姿を消すと、何が何だか分からずスルーとハーミヤはへたり込んでしまう。
しかし、追い打ちをかけるように謎の声がさらに話しかけてくる。

(スルーさん!ハーミヤさん!……よかった、無事だったんですね……)

「あっ……ああ…お前は?」

(ブリュンです。地下室でお会いしましたね。)

「あのお人形さん?私どうしちゃったんですか?」

今にも泣きそうな声をだすハーミヤにサクヤは手を貸して立たせると近くにあったソファーに座らせる。

(驚かせてすみません……突然のことだったので脳量子波をつないでしまいました。全てをお話ししますので、落ち着いて聞いてください。それと……)

ブリュンはクスリと笑うと、まずはなによりあの疑惑を晴らすことにする。

(ドクターに女装少年を監禁して楽しむ趣味はないので安心してください。)

「あ、ああ、そう……」

喜ぶべき知らせなのだが、今のスルーの脳は現在の状況を受け入れることだけで手一杯だった。




ビサイドの隠れ家

「グッ……ナ、ナノマシンの修復が……追い、つかない……」

左肩から先を失くしたビサイドは遠ざかりつつある意識に鞭を打ちながら一歩一歩床を踏みしめながら歩いていく。
常人ならばここにたどり着くまでに失血死しているほどの傷だが、辛うじて生きているのはビサイドがイノベイドであるから以外に理由はないだろう。
もっとも、イノベイドの肉体をもってしても限界は近いが。

「はやく……パーソナルデータを予備の体に……!!」

血で道を描きながらなんとか予備の体の入ったカプセルの隣にあるもう一つのからのカプセルへ入る。

「これで、よし……」

命を繋ぎとめることができてホッとするビサイドだったが喜びもつかの間、招かれざる客が扉と反対側の壁を破って部屋の中へと侵入してくる。
赤い体の飛び入りゲスト、アストレアの手には前に立ち合った時には持っていなかった棘付きの鉄球が握られていて、接近戦での攻撃力が上がっている。

(フォン・スパーク!?どうしてここが……!?いや、問題ない。体さえ新しいものになれば……!!)

急いで隣にある器に意識を移しにかかるビサイド。
だが、フォンは十分しとめられる時間があるのに手を出そうとしない。

(……そろそろか。)

フォンが改めてアストレアに鉄球、GNハンマーを構えさせる。
すると、それを見計らっていたかのようにフォンとアストレアに不名誉なトンネルを開通された1ガンダムが動いて銃を構える。

「フッ……馬鹿め、唯一俺を仕留められるチャンスを逃したな!!」

「いや、違うな。お前が“そこ”から出ていくのを待っていたのさ。」

「は?」

フォンはそう言うとおもむろにハッチを開いてテリシラをそこへ立たせる。
そして、

「ドクター、患者がお待ちかねだぜ、降りな!」

「へ!!?ちょ、まっ…!!」

「あげゃ!」

「うわああぁぁぁぁ!!!?」

テリシラを蹴って落とすとハッチを閉めてビサイドの乗り込んだ1ガンダムと対峙する。
一方、乱暴に降ろされた(?)テリシラはどうにか無事に着地するとフォンへ文句を言おうと顔を上げるが、その前に目の前にあるものに視線が釘付けになる。
黄緑の髪をした少年が。
取り戻そうと必死になっていた仲間の体が今、目の前にあるのだ。

「レイヴ!!!!」

カプセルにすがりついて呼びかけるが当然返事など返ってくるはずがない。
肉体を再生してパーソナルデータをダウンロードしなければ単なる入れ物にすぎない。
そして、レイヴを復活させるためには

「じゃ、第二ラウンドを始めるか。」

フォンが少なくともこの場からビサイドを追いださなければならない。




宇宙 ソレスタルビーイング 秘密ドック

「まったく、あの息のつまる場所から帰ってきたのに、今度は宇宙へ逆戻りすることになるとはね。」

「そうぼやくな。これがあれば、これから先の戦いを多少は有利に進められるだろうからな。」

クルセイドを輸送艇から一定の距離でぴったり張りつかせながらユーノは深く溜め息をつく。
精神的にも肉体的にも疲れていて休みたいと思っていたのに、宇宙へあがって新しいミッションを行うことになったのだからそれも仕方がないだろう。
だが、今回のミッションは気を抜いて行えるほど容易いものではない。

ドックの場所をアロウズに知られたとの知らせを聞いたユーノとアレルヤは急遽宇宙へあがり、完成していた新装備を積んで離脱した輸送艇の護衛にあたっている。
どうやってアロウズが今までばれなかったドックの場所を突き止めたのかは気になるが、それよりも今はここを離れるのが優先だ。

『すいません、お疲れのところを手伝っていただいて……』

新しく入ったメンバー、アニュー・リターナーにアレルヤは優しく声をかける。

「構いませんよ、リターナーさん。僕たちこそトレミーで受け取りに来なければいけなかったのに、こんな危険な目に合わせてしまってすみません。」

『アニューでいいですよ、アレルヤさん。お気づかいは嬉しいですが、サポートチームの私たちが実動部隊のトレミーの皆さんの手を煩わせるわけにはいきませんから。』

『そうそう!気にすんなよ!俺たちだってソレスタルビーイングなんだからな!』

「あ、エコいたんだ。」

『どういう意味だぁぁぁぁぁ!!!』

ユーノの冗談にフェレシュテの予備のマイスター、エコ・カローレはマイクへ怒鳴るがユーノはクスクスと笑い返す。

「冗談だよ。それより、ⅠとⅡはどんな感じ?」

最近フェレシュテの中でも空気になりつつある彼にはややきついユーノの冗談にエコは渋い顔をしながら今度は普通の音量で答える。

『まあ、完成間近なのには違いないけど、ダブルオーとクルセイドとマッチングをして調整していくしかない……ってシェリリンが言ってたぞ。』

「けど、ダブルオーは今いないし、クルセイドとの調整を行うほど時間に余裕があるとは思えないし……」

『心配ないわ。そのためにセブンソードや“アトラス”と“ウラヌス”があるんだから……それより、そんなに厄介なことになってるの?その仲間集めって。』

「というより、多分これから先が一番ゴタゴタしてくると思います。ここから先は切るカードの順番を間違えたらあっという間にチェックメイトがかかる。こっちも、そして向こうもね。…………ていうか、アトラスとウラヌスは永遠に使う日は来ないから心配しなくていいですよ。」

ユーノの棘のある言葉と言い方にイアンの妻にしてミレイナの母親、リンダ・ヴァスティは苦笑する。

『そんなこと言わないで。シェリリンも一生懸命頑張ったんだから。』

「その頑張りをもっとまともな方向に使ってほしかった……」

夫婦漫才のように息の合ったやりとりに一同の緊張がゆるみかけるが、近づいてくるその気配を誰よりも早く感じ取ったマリーの言葉でのんびりとした時間は終わりを告げた。

『なにか来ます……!すごくたくさんの中に、一つだけ強い想いが……!これは……愛……?』

まるで、マタドールのように荒々しい、しかし舞台に上がる瞬間を待ち焦がれていたような踊り子のような想い。
まるで、恋を覚えたばかりの一途な少女だ。

『Eセンサーに反応!!ジンクス15、アヘッド3……っ!?アヘッドのうちの一機はカスタム機!』

アニューの言葉やセンサーの影を見るまでもなく、ユーノにはその恋する少女の姿がはっきり見えていた。
普通のジンクスやアヘッドから距離をとっているそれは、捻じれた角と通常のものよりはるかに大きいビームサーベルを握って一直線にこちらへ突っ込んでくる。

「ハハッ……!ホント、自分の引きの強さが恨めしくなるね!!」

アームドシールドの刃を伸ばしたクルセイドは加速された一撃をその上に滑らせて受け流すと、加速の勢いで距離を取ったそのアヘッドと向き合う。

「ったく……刹那もとんでもないのに好かれたもんだね!!」

「フッ……!!まさか、今度は君とあいまみえることができようとはな!!」

自らに合わせてカスタムされたアヘッド近接型、サキガケを操るミスター・ブシドーの歓喜の表情と対照的に、ユーノは苦しみをこらえるように眉間へしわを寄せて笑った。





某国 某ホテル

兵どもが夢の後、などと小奇麗な表現はこの場合似つかわしくないだろう。
むしろ、利権という輝きに引き寄せられた腐りきった心根を持つ害虫たちがいなくなって元の静けさを取り戻した……
そう言った方が適切だ。

「……来たね。」

月明かりで照らされた庭園の噴水の傍、リボンズは後ろから聞こえていた足音がとまったのを確認して振り向く。
そこには、銀色の髪と黒光りする銃をもった男が一人で立っていた。

「僕もハントするのかい?イノベイド・ハンター、ラーズ・グリース。」

ラーズはその問いに答えず、ただ黙ってリボンズに銃をつきつけていた。






近づく暁
しかし、夜は明けるその前が何よりも暗い




あとがき・・・・・・・・・・・という名の00初参戦おめでとう!

ロ「というわけで第十七話でした!そして機動戦士ガンダム00 first season、第2次スパロボZに参戦おめでとうございます!宮野さんたち声優陣の活躍が楽しみです!!」

ユ「いや、楽しみって言ってもアニメと変わらないんじゃ……」

ロ「甘いな淫獣!!モンブランをガムシロップに浸して食うより甘い!!」

ユ「それ誰が試したの?というか誰が淫獣だ!!」

ロ「スパロボではた作品の敵と戦闘するときはそれに合わせたセリフになるからスパロボでしか聞けないセリフも山ほどあるんだな、これがぁ!!」

ア「なぜここでアホ○ル?」

ロ「宇宙世紀組はもちろん、WとXも参戦するからきっとすごい感じになるのでは……なんて今から期待してる俺がいる!!」

彼女さん「自分の世界に入っちゃってる……(汗)」

ロ「さらにボトムズやグレンラガンなどの新規参戦作品にも注目!!ただ、正直コードギアスはルルーシュが活躍できるかすげぇ心配だ!!てか主人公が誰なのかマジで気になる!!アサ○ム!?まさかのアサ○ムさん!!?」

ユ「しらないよ……もうついてけないから、次回予告にいこう。」

ア・彼女さん「「うん。」」

ユ「次回はミッド編。」

ア「これから先の戦いでデバイスが必要になると考えたジェイルはその材料としてとんでもないものを要求してきた!」

彼女さん「しかし、ジェイルと同じことを考えていた刹那は彼の求める物を手に入れるためにある場所へ!」

ユ「同じころ、遂にあの二人もカレドヴルフの試作機へと搭乗してその防衛にあたる!」

ア「激突する三機の第四世代機とカレドヴルフ製ガンダム!」

彼女さん「互いに譲れない想いを背負った両者の戦いはどんな結末を迎えるのか!?」

ユ「では最後に、今回もこのような拙い文を最後まで読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



「第2次スパロボZもだけどその前にGジェネワールドもよろしく!!」

「「「ていうか発売日そっちの方が先だったよね!!?」」」



[18122] 18.白翼と青狼
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/02/13 02:48
ミッドチルダ 次元航行艦用ドック

ここは次元航行艦の補修作業やその役目を終えた艦の解体や保全を行うこの場所の入り口にいる三つの人影のうちの一つがふと足を止めて晴れ渡った空を見上げる。
元無限書庫司書長、ユーノ・スクライアが消えてから二週間が経ったミッドチルダでは彼は重犯罪者。
この空を守ったはずの人間が責めを受け、何もできなかった自分たちはのうのうとその空の下を歩いている。
管理局教導隊所属、高町なのは一等空尉はその事実が不愉快で仕方なかった。

「お~い、なのはちゃ~ん!タクシー拾ったで~!」

「ママ~!はやくはやく~!」

「あ、は~い!」

幼馴染の一人である八神はやて二等陸佐とそのユニゾンデバイスのリインフォースⅡ、そして目に入れても痛くない娘のヴィヴィオ・S・高町に呼ばれ、口に出せない不満を心の奥へしまってなのはもタクシーへと急ぎ足で歩いていく。
次元世界でも指折りの大企業、カレドヴルフ社へと向かうタクシーへ。



災害担当部

「カレドヴルフへ出向?」

民間への公開訓練を終えたスバルは薄手のシャツのままで汗をふきながら、ザ・サラリーマンと言うべきスーツ姿の男性の方を向いて名刺を受取る。
そして、その名刺に書いてあったカレドヴルフという文字にスバルは「ああ……」と納得したような声を出す。
さっきの公開訓練は救助活動をする災害担当部にとって一種のアピール、地球で言うところの消防士たちが民間人の前で消火活動のデモンストレーションなどを行うそれに似た部分がある。
ただ、災害担当部とはいえ次元世界の治安維持を担っている管理局に所属している以上、こういったデバイス開発に関連する企業への出向を命じられることは公務員とはいえ別段珍しいことではない。
要はより優秀な道具を作る代わりにそのための実験に人材を差し出す、ギブ・アンド・テイクの関係だ。

ただ、カレドヴルフはMSが主戦力に置き換わりつつあるにもかかわらず、参入に乗り遅れたせいで業績が落ちつつある。
だからこそ、優秀な人材にテスターを務めてもらって早く新しい製品を開発したいのだろう。

「司令から許可が下りているみたいですから構いませんけど、私なんかで良いんですか?どうせなら教導隊に所属している人の方がいいんじゃ……」

「いえ、今回はぜひナカジマ二士に担当していただきたいんです。一号機のテスターを務めている方からナカジマ二士はMSの災害現場への投入を希望していると聞いたので、今回我々が開発した機体に多少なりとも興味があるのではと思いまして……」

「MS?」

デバイス一本槍だったカレドヴルフがMS開発に着手したことも意外だが、親友にしか言っていないはずの自分の想いをなぜこの人物が知っているのだろうか。

「あの、まさかその一号機のパイロットって……」

「え?ああ、そう言えばランスター二士とナカジマ二士は災害担当部、そして機動六課時代からの付き合いでしたね。あれ?もしかして、ランスター二士がテスターをしていることを聞いていなかったんですか?てっきり、本人からお聞きしているものかと……」

首をかしげる男の言葉に口をポカンと開いたまま目を丸くするスバルの顔はまるで漫画の一場面を切りだしたようにコミカルなものになっていた。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 18.白翼と青狼

プトレマイオスⅡ コンテナ

「デバイスをつくる?」

エリオと無手での組み手を行っていたラッセはいったんそれを中断すると、レンチをぽいと工具箱の中へ投げ捨てて新しい工具を持ったジェイルに聞き返す。

「ああ。リンカーコアの保持者が三人……向こう側の地球にいるユーノ君と私がまだ会っていないメンバーも含めれば四人以上はいる可能性があるわけだ。しかも、刹那君は風撃変換、ティエリア君は氷結変換。フェルト君も素質は高いようだし、これだけの人間が四人以上いればそこらの部隊なら簡単に蹴散らせるだろうさ。」

そう言って再びダブルオーをなめまわすように眺めてホゥと恍惚の息を吐いたジェイルは瞳を輝かせながら整備と言う名のガンダムの性能調査へと戻る。
そんな彼の姿に溜め息をついて組み手を再開しようとするラッセとエリオだったが、壁に寄りかかっていた刹那の言葉で今度はそちらの方を向く。

「だが、俺もティエリアも、そしてフェルトも魔法戦の経験はほぼゼロに等しいぞ。」

「君は少なくとも戦闘経験があるだろう?ジル君から聞いたが、少しアドバイスしただけで魔力刃を生成した上に、飛行魔法もすぐに習得できたそうじゃないか。それに、未来のストライカー候補生を圧倒できているだけで戦闘力は相当なものだよ。」

「経験の差だ。エリオは経験を積めば俺たちではたどり着けないような高みにも手が届く。」

刹那に褒められ嬉しさで顔を赤らめるエリオだったが、その気分は次のジェイルの言葉で吹き飛ばされる。

「それはあくまで君たちが魔法を使用しないという前提での話だろう?しかも、魔法戦の経験が無いということはそれだけ伸び代があるとも言えないかね?」

「まあ、刹那の戦い方はどっちかっつうとベルカタイプだからな。遠距離への攻撃手段なしであそこまで戦えるんなら、魔法を使いこなせるようになれば魔導士として相当な実力になるだろうな。エリオには悪いけど、さらに差が開くな。」

「………………………………………………」

「オイッ!!そこの無神経な二人!!お前らのせいでエライ落ち込んでるやつがいるぞ!!!!」

ラッセが膝をついて乾いた笑い声でぶつぶつつぶやき始めたエリオの肩を抱きながらジェイルとジルへ怒鳴るが、二人はどこ吹く風だ。

「「いやぁ、つい♪」」

「ついじゃねぇよ!!コイツもう自殺するんじゃないかってぐらいへこんでるぞ!!?」

「……心配するな。」

刹那は壁から背中を離すと脇に置いてあった鉄パイプを持ってエリオの前まで歩いていく。

「お前はまだ若いし、成長スピードも俺よりも遥かに上だ。それに、お前は強くなることをあきらめるつもりはないだろう?」

「!」

エリオは慌てて顔を上げると何度もうなずく。

「だったら、そんなことをしている暇はないはずだ。立て。すぐに実践式の組み手を始めるぞ」

「はい!」

ストラーダを起動させてコンテナの空いた場所へ移動していくエリオ。
その後ろ姿、とくにエリオの手に握られているストラーダを見た後、刹那は自分の手に握られている鉄パイプを見つめる。

(デバイス、か……)

考えていなかったわけではない。
エイオースで用心棒をしていた時から、デバイスがあればとよく思っていた。
合流してからも、市街地へ出るときは用心して銃を携帯してはいるが魔法を使える人間を相手にどこまで役に立つか不安ではある。
それに、これから先もMSだけでなく生身での対人戦がある可能性は否定できない。

「………ジェイル。」

背中あわせだが、ジェイルは聞かずとも刹那が何を言おうとしているのか悟る。

「構想自体はすでにできているよ。これだけ興味深いものばかりだと制作意欲がうずいてね。ただ、どうしても手に入れてほしいものがある。」

ジェイルはそう言うと振り向きもせずに上に丸められたメモを放り投げる。
それをキャッチして開いた刹那はそこに書いてあるものにポーカーフェイスをわずかに崩して驚く。

「本気か?」

「その反応は予想していたがね。あくまでできればの話だよ。」

その時のジェイルの笑いに含まれていた押さえ込まれた怒りとメモの内容に刹那はピンとくる。

「なるほどな………デバイスの制作に関係なく、できれば『管理局の手元には置いておきたくない』、というわけか。」

「おや?ばれたか。」

「知られたくないのならもう少し上手く誤魔化すようにするんだな。」

だが、ジェイルは別段本心がばれたことに動揺する様子はない。
むしろ、刹那が自分の心底に気付いてくれたことが嬉しそうだ。

「向こう側のMSに使われるくらいなら、奪取してこっちが……というところだね。もっとも、君たちが望まないなら使うつもりはないがね。で、どうする?私の依頼を受けるか、それとも受けないかは君立ち次第だ。」

「……あのガンダムは危険だというのが俺たちの共通認識になっている………つまり、そういうことだ。」

「OKだ。スメラギ君には私から言っておくよ。」

その言葉を聞いて小さくうなずいた刹那はエリオたちのもとへと歩いていく。
その途中、ポケットにねじ込んだ紙には確かにこう書かれていた。
『ジュエルシードのデバイスへの使用とGNドライヴの性能の再現について』と。




カレドヴルフ 地下格納庫

「デバイスとしてのMSの開発?」

カレドヴルフ社に到着した後、一階でヴィヴィオとリインフォースを預けたなのはとはやては奥から現れた研究員に連れられて長い階段でなかなかそこの見えない地下へと下りていく。
その先に待っている物なのがなんなのか聞いて、どうしてもなのはは憂鬱な気分になる。

「ええ、それがMS・デバイスにおける最大の開発目的です。今はまだ試作段階なので不完全な部分も多いですがゆくゆくは非殺傷設定、さらには相手のMSを無傷で捕獲する……というようなことも可能になると我々は考えています。」

「それより、やっぱりMSの試験のために私たちを呼び出したんですね。」

いつもは使わない標準語で話すはやての目は捜査官が犯罪者を追及するときのそれになっている。
厳しい口調に苦笑する研究員だったが、それでも階段を下りる足を止めることはない。

「そう怒らないでください。申し訳ないとは思ったのですが、あなた方はMSに良い印象をお持ちでないようなので……彼女もそうですから。」

「彼女?」

ゆうに20mはあろうかという巨大な扉の前についたなのはは首をかしげるが、扉が開いたさきに疑問の答えがいた。

「だから、もう少しMS形態時のレスポンスを上げてほしいって言ってるんです!」

「だから、何度言わせればわかるんですか!!モーションデータも取っているんだから普通の人がついていけないものになっては後で私たちが困るんですよ!!」

初めは分厚い扉に阻まれて聞こえなかったが、大勢の研究員に交じって一人の少女が自分よりも背の高い相手に物怖じせずに激しい言いあいを繰り広げている。
オレンジ色のツインテールを揺らす彼女になのはとはやてが目を白黒させていると、扉が開いたことに気付いたのか少女の方もポカンと口を開けたまま震える人差し指を二人の方に向ける。
両者の間に流れる沈黙。
しかし、しばらくの後

「「あーーーーーー!!!!!!!!!!」」

「あーーーーーー!!!!!!!!!!」

その場にいた全員がビクリと硬直してしまうほどの大声をあげてしまうが、三人にさらなる衝撃が走る。

「すいませ~ん!!遅れちゃ……」

「「…………………」」

「…………………」

「…………………」

続いて元気よく階段を駆け下りてきた青髪のボーイッシュな少女に注目が集まり、青髪の少女の方も懐かしい顔ぶれに言葉を失くしてしまう。
その後、ようやく放った第一声は

「あーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

「「あーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」」

「あーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

先程の叫びを上回る大音量の声が格納庫全体を揺らした。




数分後

「本当に……ほんっっっっとうにお騒がせして申し訳ありません!」

「いえ、もう気にしていませんから。」

なのはは顔を赤くしながら案内された先でもまだ謝る。
ここまで謝り倒されると逆に申し訳なくなってくるのか、研究員は苦笑しながらなのは、はやて、スバル、そしてティアナをひろい場所まで案内する。
そこだけ明かりがついていないので後ろから射し込んでくる光を頼りに周囲の様子をうかがうしかないのだが、その光に反射して何かが奥でキラキラと微かに光っている。

「今明かりをつけますので……」

そう言って手に持っていたリモコンのスイッチを押して先程の暗闇と対を為す強烈な明かりが四人の視界を白で埋め尽くす。
もう何度か体験したティアナはすぐに目が慣れるが、今日来たばかりのなのはたちは閉じていた目を少しずつ開いていきそれを見る。

左に立っているのはオレンジと白を基調としたMS。
見上げるほど大きなそれは腰に二丁の短銃、肩には長い狙撃銃を装備し、頭部には二つの目の他にV字型の突起の上に緑の台形に守られた大きめのカメラアイが付けられている。

「カマエル……」

右にいたのは全身を薄めの青で染め抜き、二の腕と太ももの部分だけは白くカラーリングされた機体。
前腕部分から手の甲かけてメタリックシルバーのプロテクターが装備され、肘と踵から研ぎ澄まされたブレードが生えている。
四肢の関節部分には緑のクリスタルのようなものが使用され、胸部にはひときわ大きな赤いコアがはめ込まれ、その圧倒的な存在感を一段と際立たせている。
頭の上には長さの異なる二対の突起に挟まれるように二つの補助カメラが設置され、二門のバルカンの間にある黄色い瞳はまるでそこに映り込む物を一つ残らず殲滅するような激しさを秘めているようだ。

「なに……これ……!?」

そして、真ん中で真っ直ぐ虚空を見つめていたのは背中に白く大きな翼を携えた天使。
憂い、怒り、優しさ、全てを含んだその瞳は悲しげに虚空をさまよっている。
赤い逆三角形から伸びた天を衝く金色の角とその下からでている鋭く白い枝のような飾りは限りなく人に近い構造をした顔を、人とはまた違った、もう一つ上の次元の存在へと昇華させている。
耳の部分に装着された群青色の小さな翼と同じ色でカラーリングの胴体の真ん中には赤でふちどられた緑の球体が安置され、上からの光を一身に受けて美しく輝いている。
肩には胴体と同じ騎士の甲冑のようなプロテクターが付けられ、その下にも同じ形状の薄手のプロテクターが三枚重ねられ、まるで肩からも羽が生えているようだ。
白い腕と脚はすらりと長く、左手に握られている長剣のような銃身をしたカノン砲は群青と白のコントラストが映え、兵器というより一つのアートといった感じだ。

「ガンダム……」

なのはのその一言に、研究員とティアナは目を丸くする。

「なのはさん、なんでこれがガンダムだって知ってるんですか?」

「え?」

「ミッドの人間にとってはエンジェルの通り名の方が一般的なはずですが……どこで正式名称を?」

「それは……その……」

しまった。
この名を知っている人間は少なくともこの世界にそうはいない。
にも関わらずなのはが知っている理由はただ一つ。
これと同型の機体が戦っているところを、そしてそのパイロットたちの歩んできた日々を見たことがあるからだ。

「なのはさん、これがなんなのか知ってるんですか!?」

「えっと、あのね……」

「私が教えたんよ。」

スバルに詰め寄られていたなのはははやてのその一言に驚く。

「スクライア司書長が乗ってきたエンジェルを管理してた人から詳しい話を聞いた私がなのはちゃんにそのことをぽろっと話してもうたんや。ね、なのはちゃん?」

「え…う、うん。」

はやての意図が読めないままなのははこくりとうなずくが、同時に念話が飛んでくる。

(なのはちゃん。悪いけど、後で詳しい話聞かせてもらおか。言いたくないところは言わんでええから。)

(……ごめんね。)

(なんで謝るん?私ら友達やろ?言いたくないことを無理やり聞きだすようなことせえへんよ。)

(……ごめんね。本当にごめんね。)

念話はそれで終わり、はやては研究員の話に耳を傾け始める。
残されたなのははというと、泣き出しそうになるのを必死にこらえながら自分がいずれ乗ることになるであろう機体、ガンダムを見上げる。
白い翼をたたんで静かに眠りについているそれに、心の中で問いかける。

(ねぇ……なんで、私の……私とユーノ君のところにやってきたの?)

お前たちさえ来なければ、みんながバラバラになることもなかった。

「…………ん。」

ミッドチルダも、少し物騒な連中はいるかもしれないが基本的に平和。

「………さん。」

ユーノも自分のそばを離れていくことはなかった。

「……はさん!」

ヴィヴィオとユーノと、三人で当たり前の日常を送っていくはずだった。
なのに、

(なんで……私から大切な人を奪っていくの?)

どれだけ恨んでも恨み足りない存在。
だが、もしこれに乗れば少しでもユーノの見てきたものを理解できるのではないか。

「なのはさん!!」

「ひゃっ!!?」

スバルに耳元で怒鳴られて、なのははようやく全員の注目が自分に集まっていることに気付く。

「せっかく説明してもらってるのにそんな態度じゃ駄目ですよ!」

「え?あ……う、うん。そうだね……」

「オホンッ……」

研究員は軽く咳払いをすると、先程と同じ説明を開始する。

「MS・デバイスとはその名の通り、デバイスとしてのMSを目指したものであり、その動力にはGNドライヴ以外に安定状態でGNドライヴと同調させたレリックを使用……もう少し正確に言うならば、レリックで増幅した操縦者の魔力を使っています。将来的には魔力のみで動かすことを目標とし、その際にはロストロギアを使用せず安全性を重視したものにしたいと考えています。」

「え~っと、よくわかんないんですけど、じゃあ私たちがテストするこのMSは危険ってことですか?」

「そんなことはありませんよ!レリックは使っていますが、限定的に封印処理を解除してエネルギー源として使用しているだけですから。……しかし、あえて危険な点を上げるとすれば、レリックの力を使う時、つまりMGシステムを使う時に侵食を起こすことでしょうか。」

「浸食?」

はやての顔がわずかに強張る。

「ええ。といっても、ある一定の感情が増幅されたりする程度ですので、あなた方がお持ちのデバイスのAIによるサポートとご自身が気をつけていればそうたいした問題ではありません。むしろ、反応速度を上げることも可能ですので、使いようによっては他のMSにはない武器になります。」

「そら乗せる奴に危ないゆうたら乗るもんも乗らんやろ。あんたらがいくら安全や言っても私は信用できへん。」

「それに関しては私が保証します。」

ティアナが研究員の横に立つ。

「私は実戦でMGシステムを使いましたけど、特に問題はありませんでした。」

「せやけどなぁ……」

「私乗ります!」

スバルが元気よく手を挙げる。

「私がテストを重ねて、これが安全に使えるようになればたくさんの人を助けることができるんですよね?だったら、私やります!」

「スバル……」

「私も乗るよ。」

スバルに続きなのはも立候補する。

「せやけど、なのはちゃんは……」

「……確かに、MS……ガンダムのことは許せないよ。でも、私とユーノ君を繋いでくれるものは、これくらいしか思いつかないから。」

決意に満ちた瞳。
こうなった彼女を止められないことを、長い付き合いのはやては知っている。
ならば、できる限りサポートするだけだ。

「ほな頑張って……って、あれ?よく考えたら私の分がないんとちゃいます?」

「ああ、八神二佐には別にやってもらいたいことがあるんです。」

「やってもらいたいこと?」

「ええ。この三機のガンダムを…」

その時、

『ランスター二士はいるか!?』

野太い男の声に顔しかめながら端末を手に取った研究員はなのはたちにも聞こえるように音量を最大にする。

『現在ロストロギア保管庫が見たこともないMSの襲撃を受けている!!カレドヴルフもMSを出撃させろ!!』

「そんな義理はありませんね。」

間髪いれずに鼻で笑い飛ばした研究員にはやてたちは唖然とした様子で固まるが、端末の向こうの怒鳴り声はそんなことを許すはずがない。

『ふざけるな貴様!!協力を拒むというのか!!』

「またMS・デバイスのデータを持っていかれてはたまりませんからね。とくに、この前のように有無を言わさない手段を取られては困るんですよ。」

『貴様ぁ………!!』

激しい口論を開始する両者。
しかし、なのはの耳には彼らの会話の中に出てきた一言がリフレインしていた。

「見たこともないMS……それってまさか!」

なのはは浮遊魔法を使って真ん中にいたガンダムの胸元まで上がると、下にいる研究員に尋ねる。

「今からこれを出せますか!?」

「確かに動きますが、サリエルの最終調整はまだ……そもそも、私たちが関与することでは……」

「早くしてください!!あなたたちのくだらない意地の張り合いに付き合ってる時間はないんです!!」

なのはに一喝され、思わず背筋をピンと伸ばした研究員は半ば自棄でガンダムの出撃準備を開始する。

「ああもう!!どうなっても知りませんよ!!」

自棄になっている研究員の言葉を背にコックピットの中にもぐりこんだなのはは右の操縦桿の横にあった丸いくぼみにレイジングハートをはめ込み、彼女を通して伝わってくる基本的な操縦方法を頭の中に叩きこんでいく。

〈パイロットスーツのデータ、ダウンロード完了。展開します。〉

レイジングハートはなのはの着ていた隊士服をしまうと一瞬で純白のパイロットスーツを纏わせ、膝の上にヘルメットをポンと置く。
慣れない手つきでそれをかぶったなのはは外の光景が移されたディスプレイの下にある丸いモニターに視線を落とす。

「ガンダムサリエル……そっか、それがあなたの名前なんだ。」

サリエル
神の命令を意味する名前を持ち、悪の道に走った天使の罪を図り堕天させる役割を持つ天使。
だが、心優しい彼は自らが堕天させた仲間のことを想い、時折血涙を流すことがあったという。
そして、彼自身も後にある罪を犯し、自ら堕天した。

当然、なのははそんなことなど知らない。
だが、

「これから、あなたは自分と同じ存在と戦いに行くんだよ……?私も、大切な人と戦うことになるかもしれないんだ……」

自然と涙がこぼれていた。
どうしても、サリエルと自身の置かれた境遇を重ね合わせてしまうなのは。
だが、だからこそ今は戦う道を選ぶ。
いつか、大切な人を取り戻すことを信じて。

「頑張ってくれるよね……じゃないと、私は一生あなたたちを……ガンダムという存在を許さない!」

いつの間にか足元にあったエレベーターで地上まで出ていたサリエルは、中にいるなのはがグッと踏み込んだペダルに反応してその翼を開き、その間に取り付けられたGNドライヴから赤い光を放ちながら力をため込んでいく。
そして、

「高町なのは、サリエル、いきます!!」

一瞬にして遥か上空に飛びたったサリエルは翼を一振りして白い光の羽を数枚散らすと、猛烈なスピードで目標へと向かって行った。




ミッドチルダ西部 ロストロギア保管庫 内部

クラナガンから少し離れた場所に建てられた管理局の保管庫。
ここには週に交代で局員がやって来て倉庫の中にあるものを補完、管理をするのだが、交通の便が悪く、街へ買い出しに行くのもひどく苦労する場所なのだ。
どうせなら街中にでも造ればいいだろうと思うかもしれないが、そうもいかない。
なにせ、ここに保管されているのはミッドチルダで発見、もしくは犯罪者が持っていたロストロギアを本局に渡す前に一時的に安置しておく場所なのだ。
封印処理がされていると言ってもロストロギア。
取り扱いを間違えれば甚大な被害が出るし、盗み出そうとする不逞の輩も残念ながらいるのだ。
となると、必然的に交通の便が悪く、さらに人的被害が出ないこのような場所に保管庫をつくるしかないのだ。
もっとも、今はその立地がたたって襲撃を受けているにもかかわらず応援が全く来ないのだが。

「ここまでだ侵入者!!」

一人の局員が蒼のパイロットスーツに身を包んだ男に魔力弾を放つ。
MSに乗ったままであったなら手の出しようもなかったが、こうして降りて来てくれたのならこちらに分がある。
そう思っていたのだが、

「光魔……閃刃!!」

「なぁっ!!?」

右手の蒼い閃光が魔力弾を斬り裂いたと思った次の瞬間には間合いを詰められ、左の閃光で肩から袈裟掛けに斬り伏せられていた。

「この程度か……」

「まあ、ミッド式相手だからな。それに、そのフィギュアスケートみたいな動きを初見で見切れるやつなんてそうそういないだろ。」

刹那は床と少し隙間を開けた状態でゆっくり減速して止まると、目の前にあった扉を切り刻んで突破する。

「みっけ!」

刹那の肩から離れたジルは部屋の中に安置されていた箱を持ちあげようと試みるが、彼の体よりずっと大きいそれが持ち上がるはずもなく代わりに刹那がひょいと持ち上げる。

「これか。」

「らしい。変態科学者がくれた反応と完璧に一致してる。」

それでも蓋を開けて中を見てみると、確かにユーノが首からかけていたものと同じ青の宝石が二つある。

「ジュエルシード、シリアルナンバーはⅥとⅦか。」

「刹那、見とれてないでさっさとおさらばしようぜ?ゆっくりしてたらムッツリとニヒルから文句がくるぞ。」

『いいかげんにそのムッツリという言い方はやめてもらいたいものだな。』

「おわっ!!」

突然聞こえてきたティエリアの声に跳び上がるジルだが、刹那は彼の声に微かに含まれている焦りの色を感じ取る。

「増援か?」

『ああ。』

今度はロックオンの声が聞こえてくる。
それに交じってガコンと狙撃用のスコープを下ろす音もする。

『この間のとは別のガンダムが出てきやがった。』

少し上ずった笑いが聞こえるのと同時に、保管庫全体が大きく揺れた。



外部

「問答無用かよ!!」

間一髪で極大の砲撃を避けたケルディムは額のカメラアイでしっかり狙いを定めて白い翼を生やしたガンダムへ向けてスナイパーライフルを発射した。
しかし、相手は白い羽を二、三枚残して上空へと舞い上がり、そこからケルディムへ向けて滑空を開始する。

「させるか!!」

「不用意だぜ!!」

当然、セラヴィーの砲撃とケルディムの狙撃が次々に押し寄せてくるのだが、白と青のガンダムはもう一度大きく翼を羽ばたかせると横へ上へ、時にはきりもみに回りながら攻撃を避けてケルディムへと近づく。
そして、

「サーベル!!」

「!!」

腰から抜き放たれた赤い光をバックしてかわすと、相手と距離を取るように空へと昇ってセラヴィーと並び立つ。

「あっぶねぇ……!謹慎を解いてもらったのはいいけど、その初戦にこのレベルの相手は荷が重すぎやしやせんかね?」

「甘えるな……と言いたいところだが、確かに少々やりにくいな。」

初手で使ってきた砲撃から察するに、おそらくこっちはヴァーチェの発展型だろう。
かつてヴァーチェを操っていたティエリアはそれを見抜き、同時に相手のガンダムがセラヴィーとは違い、装甲を薄くして機動力のアップを図っていることも理解していた。
だが、装甲を薄くした分全体的な防御力はさがっているはずだ。

「ならば、そこにつけこませてもらう!!」

セラヴィーは二つのGNバズーカを連射。
ケルディムも二丁のビームピストルで弾丸の壁を作り上げていく。
戦っている場所がロストロギアの保管庫ということもあり、おそらく流れ弾を恐れて建物に極端に近寄るような大きな回避行動はしないはずだ。
先程の回避は見事だったが、これだけの数の攻撃をよけきることは不可能に近いはずだ。

「終わりだ!!」

だが、終わるわけにはいかない。
翼付きのガンダム、サリエルとそのパイロット、高町なのははまだ倒れるわけにはいかなかった。

ユーノを連れ戻せていない。
ユーノの見てきたものを知らない。
ユーノに絶望をもたらすものがなにかわかっていない。

だから、ここで負けられない。
まだ、死ねない。

「私は……死なない!!」

〈Drive ignition!Magica GUNDAM System standby ready!〉

唖然とするティエリアとロックオン。
GN粒子が先程までの禍々しい紅から桃色に変わったかと思うと、セラヴィー、いや、五機ある第四世代機のガンダムの中でも随一の防御力を誇るクルセイドと見比べても遜色のないほど高出力のGNフィールドが全てのビームを完全に無力化していた。

「またあれかよ!!」

ロックオンは舌打ちをして七つに減った虎の子のシールドビットを飛ばしてサリエルへ多角攻撃を仕掛けるが、それより早くなのはは動いていた。

「レイジングハート!!」

〈Accel shooter!!〉

一気に飛びあがったサリエルは左手に握っていた多目的砲撃兵器、ストライクカノンから数発の光弾を発射する。
シールドビットに向かっていく桃色の弾丸だが、ビットもずっとそこにとどまっているわけではない。
あわや直撃と思われた瞬間に俊敏な動きですり抜けると小型ビーム砲でサリエルを撃墜する。
……はずだった。

「アクセルシューター!」

「なっ!?」

物理法則を無視して地面スレスレで方向転換してセラヴィーへと殺到する。

「ハロ!!」

しかし、こちらも直撃には至らず高速で戻ってきたシールドビットに阻まれてあえなく消えた。

「フゥ……!そういやこいつもあったんだったな。」

「すまない、助かった。」

追尾してくるビーム攻撃。
MSで戦っていると忘れてしまいそうになるが、ここは異世界なのだ。
地球の常識で戦っていると痛い目を見ることになる。

「……他にも厄介な能力がありそうだな。」

「いやになるな、まったく。」

「しかし……」

改めてストライクカノンを構えて砲撃の態勢を取るサリエル。
しかし、セラヴィーとケルディムは元の位置から全く動こうとしない。
なぜなら、

「1対3でこちらが負ける可能性は考えられないな。」

黒煙を切り裂いて現れた光弾にサリエルは驚いたように急降下してそれが飛んできた方向を見る。

「あれは……!」

青と白のカラーリング。
そして、銃としての機能を兼ね備えた剣を使うあの機体。
おそらく、乗っているのは浅黒い肌をしたあの少年だ。

「刹那・F・セイエイ……!!!!」

四年前のあの戦いでもいつもユーノのすぐそばにいたあの少年。
そのくせ、最後は一番近くにいたにもかかわらずユーノを守り抜けなかった男。

自らの魔力光で瞳孔を桃色に染めたなのはは気が狂わんばかりの嫉妬にその身を内側から焦がし、いっそうその力をサリエルへと注ぎこむ。

「お前は……おまえダケハァァァァァァァ!!!!!!!!!」

「!?」

その時、刹那の視界は激しい粒子の嵐で埋め尽くされていた。
しかし、あくまでそれは刹那から見た光景であり、実際には全身にGN粒子を纏ったサリエルが瞬時に間合いを詰めて一心不乱にビームサーベルを振るう姿がそこにあった。
しかし、これだけのGN粒子と魔力の混合粒子を生み出すなのはも大したものだが、相手がなんなのか、そしてどこから攻められているのか厳密にわからない状態でこれだけの剣戟をこなす刹那の近接戦闘における勘も常人離れしている。

「ユルサナイ……!!ワタシカラ……ユーノクン………ヲ、トルノハ……ユルサナイ!!!!」

「つっ!!」

三回刃を打ちあったところでそれがようやくビームサーベルだと気付いた刹那は冷静に太刀筋を見極めて隙を窺う。

「カエシテヨ…!!ユーノクンヲカエシテ!!!!」

「これで……きめる!!」

唐竹割をかわしたダブルオーはすぐさま大きく体が流れているサリエルへ横薙ぎの一撃を見舞おうとする。
しかし、

「ウリエル、目標を撃滅します!!」

サリエルに刃が当たる直前、鈍い銀色の甲に覆われた手がGN粒子を纏いありとあらゆるものを切断するはずのGNソードを受け止め、あろうことか押し返してきている。

「なに!?」

「もう一機だと!?」

「冗談きついぜ!!」

「一機じゃないわよ!」

「「「!!!!!」」」

狙撃態勢に入っていたケルディムはそれを中断して遥か彼方からの狙撃を腕にかすらせながらも何とかかわす。

「あいつは……!!」

つい先日手痛い目にあわされたオレンジ色の機体、ガンダムカマエルも加わりこれで数的有利は消えた。

「なのはさん!!」

「ご……めんね。もう、大丈夫だから。」

〈もうしわけありません、マスター。何度も呼びかけたのですが……〉

「ううん。私のせいだから気にしないで。」

ダブルオーのGNソードを受け止めるスバルの声に正気を取り戻せはしたが、なのはは改めてGMシステムのリスクの高さを認識する。
レイジングハートが遠くで呼びかけているような気はしたが、それよりもガンダムとそのパイロットへの怒りと嫉妬で完全に我を失っていた。
これからガンダムを使うときは、普段以上に感情のコントロールにつとめなければいけないだろう。

「二人とも、悪いけど長く話している暇はなさそうよ。」

ティアナの言うように、セラヴィーとケルディムは攻撃態勢のまま距離をとり、二機が離れたのを確認したダブルオーもスバルの操るガンダム、ガンダムウリエルの手からGNソードを引き離して少しさがる。

「これで3対3か……」

「ビビったのか?」

「馬鹿を言うな!」

ロックオンの挑発にムキになるティエリア。
それを見たロックオンはクスクスと笑って画面に向かって手を合わせる。

「ハハッ!悪い悪い。」

「まったく……」

ティエリアの呆れたような、怒ったような顔を見て安心したロックオンはスコープ越しに狙いをつけ始める。
ティエリアもまた、操縦桿を握る手に力を込めていつでもしかけられるようにスタンバイする。

「ティエリア、ロックオン。」

「心配すんな。こっちはいつでもいけるぜ。」

「こっちも準備はできている。」

「了解。フォーメーションはいつも通りでいく。」

通信を終了した刹那が精神を研ぎ澄ませようとしたその時、それまで肩にとまっていたジルがふわりと目の前に浮かぶ。

「刹那、わかってると思うけどなるべく直撃は避けろよ。もし下手に当たってジュエルシードの封印が解除されたりしたら……」

「わかっている。」

ロストロギアの恐ろしさについてはユーノやエリオ、そしてジェイルから聞いてよくわかっている。
惑星一つ、あるいは次元の海に浮かぶ世界の二つや三つが跡形もなく吹き飛ぶかもしれないと聞かされれば嫌でも慎重になるというものだ。

(想像以上に厳しい戦いになりそうだ……)





「スバル、ティアナ、六課での訓練は覚えてるかな?」

「もちろん。」

「ばっちりです!」

自分と同じように、あるいは自分以上に慣れないMSでの戦闘にプレッシャーを感じているはずなのに、それを欠片ほど見せない教え子たちの強さに思わず微笑む。

「じゃあ、いつも通りティアナはセンターガード、スバルはフロントアタッカーでよろしく。」

「なのはさんはどうするんですか?」

「私は……状況によっては二人に合わせて役割を変えていくよ。だから上手く合わせてね。」

「「はい!!」

「じゃあ……行くよ!!」





「GNバズーカ、バーストモード!!」

「ストライクカノン、撃ちます!!」

〈Divine buster!〉

「「いけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

開戦の合図はセラヴィーとサリエルの砲撃だった。
二つの光が交わった瞬間に二つの影が飛び出し、それに合わせて二つの狙撃銃からその機影へ幾度も鋭い一撃が何度も放たれる。
その弾幕をかいくぐり、ダブルオーとウリエルはGNソードと肘のブレードをぶつけて火花を散らす。

「くっ……!!武器を持っていないからと言って攻撃力が低いわけではなさそうだな!!」

「うぅ……!!この人、強い……!!けど、負けるもんか!!」

おおよそ機械とは思い難い柔軟性に富んだ動きで鞭のように右足を振り上げてダブルオーの左手を跳ね上げたウリエルは即座に左の踵を回し蹴りの要領でダブルオーの脇に打ち込む。
ダブルオーも右手のGNソードでそれを受け止めるが、威力を殺しきれずにアスファルトを削りながら横へ体がずれる。
だが、その事実よりも刹那をギョッとさせる光景が目に飛び込んでくる。

(GNソードが!!?)

本当にわずかだが、GNソードに小さな亀裂が入っている。
踵にも確かにブレードは装備されていたが、粒子を纏わせた状態のGNソードにぶつかれば傷を負うのは向こうのはずだ。

「!!まさか!!?」

刹那は傷ついたGNソードに負担をかけないよう攻撃を受け流しながら改めて目の前に立つガンダムをよく見てみる。
その手に武器こそ持っていないが、代わりにもとから装備されているブレードはうっすらと赤みを帯び、動きを邪魔しないように極力無駄なものが削られているので通常のMSよりアクションの幅が広い。
戦闘スタイルは多少違うが、自分と同じように接近戦用の造りをしたこの機体は、

「エクシアの改良型か!!」

突き出された拳に合わせて距離をとったダブルオーはライフルモードにしたGNソードをウリエルへ向けるが、それを阻むようにオレンジの光球たちが殺到してくる。
それらを斬り捨てながら後退していくダブルオー。
それを援護するためにケルディムもカマエルへの狙撃を中断してクロスファイアーの撃墜に精を出す。
だが、カマエルの方はその間もケルディムとセラヴィーへ狙撃を続けているのでどうしても狙いが雑になってしまう。

「うおっ!!」

「ロックオン!!くっ…!!」

援護しようとする刹那だが、目の前に迫るウリエルの拳とその後絶妙のタイミングで飛び込んでくる光弾がそれを許さない。
ここで普段ならセラヴィーが一旦全体に向けて砲撃を放ち、敵味方ばらけたところで陣形を再構築するのだが、そのセラヴィーも相手の砲撃手を相手にしているせいで思うように動けない。

本来五機が連携してこそその力を十二分に発揮する第四世代機だが、個々のスペックも相当高い。
それがここまで押されるのだから、この三機もかなり強力な機体なのだ。
しかし、何より刹那が舌を巻いたのは三機の連携だ。
これだけのコンビネーション、特にカマエルとウリエルのものは昨日今日でできるものではない。
長い年月を共に過ごした者同士でもできるかどうかというほどつけ入る隙が無い。

だが、それが切り崩されたらどうなる?

「ジル、頼めるか!?」

「待ってました!!」

即座に周囲に散らばる意識を集積し、整理し、操縦をしている相棒へと的確な情報を伝える。

「右の打拳から右膝!!そのあと左の肘!!」

受け止めるまでもなく、ジルの指示を攻撃の軌道に変えて目の前に描き出してその間を潜り抜けてウリエルを残してカマエルへとダブルオーを向かわせる刹那。

「正面から狙撃!!左下22度、真上、右後ろからも二発ずつくる!!」

振り返らずにそれを避けて斬り捨てる。
同時に、サリエルの相手をしているセラヴィーと完全にフリーになったケルディムへ手短に作戦概要を伝える。

「ティエリア、ロックオン、仕掛けるぞ!!」

「「了解!!」」

スナイパーライフルでサリエルを牽制ししながら、ロックオンはケルディムの左手にビームピストルを握らせ後ろにいるウリエルへ向けて乱射して足止めする。
その間にダブルオーはカマエルへ向けて突進していく。

「接近戦…だけど!!」

ビームピストルを構えてダブルオーを止めようとするティアナ。
だが、

「ティア、違う!!」

「!?」

ダブルオーが急に下にさがったかと思うとその後ろから現れたのは砲門にこれでもかと光をため込んだセラヴィー。
咄嗟に引き金を引くが、攻撃はことごとくGNフィールドに阻まれてしまい、セラヴィーには届かない。

「しまっ…」

「もらった!!!!」

かわそうとしたティアナだったが、反応が間に合わず右腕を持っていかれてしまう。
そして、カマエルの負ったダメージはダイレクト・フィードバック・システムによってティアナにも伝わる。
すなわち、たとえ腕がそこにあったとしても、

「う、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!??!!!?」

確かに肘から先が吹き飛ばされた痛みを感じてしまう。
思わず操縦桿から手を離して無くなったはずの部分を抑えるが、そこには確かに自分の腕がある。
なのに、痛い。
痛くて、そこから先の感覚が完全に無い。
これから先、どれほどの幸福が待っていようと一発で帳消しにできるほどの激痛だ。
それだけは自信を持って言える。

「うで……が……!!!!!わたしの…………て……!!!!!!!!」

「しっかりしてティアナ!!ティアナの腕はちゃんとあるよ!!」

「な……のは…さ………たすけ…て!!あつい…!!いたい……!!いたい……!!」

〈DFS解除!通常操縦に切り替えます!!〉

クロスミラージュがDFSを解除してようやくダメージ感覚の共有から解放されたティアナ。
しかし、それでも刻み込まれた痛みは彼女を蝕み続ける。

「いたいよ……!!おにいちゃん……!!!!」

「ティア!!ティア!!!!」

「ティアナ!!」

完全にコントロールを失って高度を下げ続けるカマエルをかばいながらなのはは必死にダブルオーを近づかせまいと砲撃を繰り返すが、ダブルオーは後ろの二機の援護を背に着実に距離を縮めてくる。

「刹那……あのパイロット……」

「ジル、見たくないなら目をつぶっておけ。」

それ以上ジルの言葉を聞きたくなかった刹那はあえて冷たく言い放つ。
ここで仕留めておかなければ間違いなく脅威になる。
ならばせめて殺めるところは見せたくないと気を使ったが、こんなことを言ってもジルは死の瞬間を感じてしまうだろう。
それでも、止まるわけにはいかない。

刹那は速度を上げて一気にカマエルへと近づいていく。
焦るスバルは必死にティアナへの呼びかけを続けるが、一向に回復の兆しは見えない

「ティア!!お願い、気をしっかり持って!!」

「う……ぅぅあぁ…!!た……すけて…!!キャロ…エリオ……ウェンディ………!!」

うわごとで仲間の名前を繰り返すティアナ。
そして、

「たすけて……スバル…!!」

弱々しい声で呼ばれた自分の名前で、スバルの中に眠る力が呼び起こされた。

「やらせない……!!」

「目標を……駆逐する!!!!」

すぐそばまで近づく刃。
主の友の危機に、ウリエルは覚醒した。

「やらせるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

〈Drive ignition!Magica GUNDAM System standby ready!〉

マッハキャリバーの声と同時にウリエルのGNドライヴを囲むようにセットされていた六枚の機械的な羽が開き、それぞれ先から青い光を出したかと思うとそれらは互いに結び付き、青い日輪を描き上げた。

「なに!!?」

「ティアは……私の友達は殺らせない!!!!」

金色の右目と青に染まった左目で砕くべき対象をしっかりとらえたスバルはウリエルの手へエネルギーを注ぎ込む。
その道筋にあったクリスタルたちは青く輝き、赤いコアも完全に青で支配されてしまった。
エネルギーをため込んだ手からも青い蜃気楼が立ち上り、そこに秘められた破壊力を物語っている。

一方、GNソードも瑠璃色の輝きをこぼしながら振り下ろされる。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「でぇりゃぁぁぁぁ!!!!!!」

ぶつかりあう二つの光。
周囲へ輝きをまきちらしながら押し合う二機。
その均衡状態はウリエルの思いがけない一手で崩された。

「マッハキャリバー!!!!」

〈Sword breaker!!〉

「なに!!?」

ウリエルがその手を閉じていくほどにGNソードに入っていたひびが広がる。
刹那はGNソードをひきぬこうとするが、もうすでに遅かった。

〈Break End!!〉

ウリエルの手が完全に閉じられると同時にGNソードはまるでガラスのように細かな破片に姿を変えて砕け散る。
ダブルオーは残っていた柄を手に離れるが、スバルはそれを逃がさない。

「吼えろ、ウリエル!!」

〈Mode wolf!!〉

ウリエルは地面に手をついたかと思うと頭部がクルリと下に周り、それに代わって短い牙がずらりと並んだ獣の頭が現れる。
装甲の間から出てきた鋭い爪で人間らしかった手脚も大地をしっかりつかむ。
肘と踵にあったブレードは胴へと移動し、その間にできた力場に巨大な光の刃が出現する。
青い日輪を背負っていたウィングは再びたたまれて背中の上で激しく光を噴出している。

「猫の次は犬かよ!!」

変形したウリエルへスナイパーライフルの銃口を向けるケルディムだったが、辺りの大気を巻き込むような轟音とともにスコープ越しのロックオンの視界から消えさる。
そして、次にロックオンがウリエルを視界にとらえた時にはダブルオーをその刃で切断せんとしていた。

「クッ……!!」

しかし、間一髪のところで刹那はダブルオーを空へあげて難を逃れたが、ウリエルとスバルの追撃はそれで終わらない。

「ウィングロード!!」

「!!?」

「うそぉっ!!?」

足元に突如出現する天へと続く青い道。
ウリエルは土煙を巻き上げて跳び上がると、その道の上を駆け昇ってダブルオーへと近づいていく。
もちろん、セラヴィーとケルディムの攻撃が降り注いでくるのだが、青い道はまるでウリエルの意思に従うようにその間を縫って伸び、ウリエルもそこを駆け抜けていく。
そして、ダブルオーとの距離がある程度縮まったところでウリエルの爪が輝き始める。

「ストライクレーザーーー……!!」

「っ!!」

やられる。
刹那は覚悟を決めて唯一残っていた武装、ビームサーベルで相打ちに持ち込もうかと考え始めるが、その策は不発に終わることになる。

〈Error!!〉

「え!!?きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

突然消えたウィングロードに驚く暇もなく、スバルはMA形態のウリエルともども地上へ落下していく。
相打ちを考えていた刹那も何が起こったのかわからず呆然とするが、通信で聞こえてくるティエリアの声で正気に戻る。

「撤退する!!これ以上は危険だ!!」

「りょ、了解!!」

「クソッ……待てっ!!」

「スバル!!」

空に消えていく三機を追いかけようとするスバルだったが、ティアナの戦闘継続ができなくなった今追うのは危険だと考えたなのはは彼女を止める。

「ウリエル、そしてサリエルもまだ完全じゃない。さっきウィングロードが消えちゃったときにそのことはよくわかっているはずだよ。」

「っ……!!はい……」

たしかに、咄嗟に使ってしまったが先天性の能力であるウィングロードが出せただけでも奇跡に等しい。
だが、

〈すこし妙ですね。〉

「マッハキャリバー?」

コンソールの先に収められている相棒の言葉に首をかしげるスバル。

〈ウィングロードを使った時ですが、本来ならあれは失敗に終わっていたはずです。〉

「え!?そうなの!?」

〈しかし、外部、それも敵MSから何らかの干渉によって一時的ではありますが使用を可能になったと思われます。〉

「敵からの干渉?」

〈正確に言うなら、敵が持ち去った何か。そして、それと共鳴した彼らのGNドライヴというべきでしょうか。〉





ミッドチルダ 海上

「ん?」

「どうした?」

ジュエルシードの入った箱をしげしげと見つめていたジルの声に刹那はそちらへ目をやる。

「いや、今なんかコイツから変な感じがしたんだけど……」

「封印処理がされているんだろう?だったら、特に問題はないはずだ。」

「だよなぁ……」

納得はいかないようだが、封印処理を受けたロストロギアがそう簡単に発動するとは思えない。
ここのところ周りがピリピリしていたせいで神経質になっていたのだろう。
そんならしくない自分の杞憂がおかしくてフッと笑うジル。



しかし、箱の中では封印されているはずのジュエルシードがうっすらと輝きを放っていた。






栄光の天使、ここに集う
異邦の天使、未だ集わず





あとがき・・・・・・・・・・という名の泣きたい

ロ「というわけで、カレドヴルフ製ガンダム全機集合&なのはたちも合流&デバイス作るためのジュエルシードゲットな第十八話でした。そしていきなりですがすごい泣きたいです……(泣)」

ツン2「いきなりなによ。」

ロ「第二次Zが発売されるってわかったから興奮を抑えきれずにAポータブルを久々にやろうとしたら……」

KY「したら?」

ロ「メモリースティックがいかれてデータ全部なくなってた!!!!!〈血涙〉」

狸「なんやそんなことか。」

ロ「そんなことじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!俺のフル改造ソウルゲインとゴッドガンダム!!!!アンジュルグと真ゲッター!!!!ヴァイサーガとダイモス!!!!アシュセイヴァーにマジンガーシリーズ!!!!etc……!!!!どうしてくれんだこんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」

ツン2「いや、私たちに八つ当たりされても困るんだけど。」

な「ていうか、リアル系の残り二機はどうしたのかな?」

ロ「あの二機はなんかリアル系のくせにごつごつしてるから使ったこと無い。(ちなみに軽く20周は越えてたと思います)」

ツン2「バンプレストスタッフに謝れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

KY「ていうか、その状態で書いたから私のガンダムあんな感じになってたんだ……」

ロ「ホントはGガン一色にしようかと思ったけど八つ当たりでついやっちまった。」

KY「まあ、戦闘スタイルは近いから別にいいけど……」

狸「しかし、今回はいい感じ(?)になのはちゃんがヤンでたな。」

ロ「THE魔王って感じにしたかったんでww」

狸「どっちかっていうと包丁持ってきてユーノ君と某オペレーター刺した後で自分も刺すっていう感じやったけどww」

魔王「……二人とも、後でじっくりオハナシしようか?」

ロ・狸「「Σ(゚Д゚;)」」

ツン2「……勇者二名に死亡フラグがたったところで次回予告です。」

KY「次回はI編!」

ツン2「いよいよ始まるそれぞれの戦い!」

魔王「地上ではフォンとビサイドが…」

狸「そして、宇宙ではユーノ君とアレルヤが激しい戦いを繰り広げる!」

ツン2「そしてレイヴの肉体をテリシラは……」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文章を読んでくださってありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!では、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」









魔王「……あとがきは終わったけど、オハナシするのは忘れてないよ♪」

ロ・狸「「(((( ;゚д゚))))!!」」



[18122] 19.Get back
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/03/05 22:19
某国 某ホテル

「僕もハントするのかい?イノベイドハンター、ラーズ・グリース。」

挑発的な笑みでリボンズが銃を構えるラーズに問いかける。
その余裕は彼がこの危機を乗り切れる自信がある現れであり、同時にその危機的状況もおそらくは訪れないであろうことを確信しているからでもあった。
その証拠に、ラーズは銃を静かに下ろして穏やかに、そしてきっぱりと言い放つ。

「もう、愚かな行いはしない。」

「ほう、心境の変化というわけだ。それとも、心の成長と言ったほうがいいかな?」

リボンズは嬉しそうに微笑む。

「いいね。それはイノベイドでも進化できるっていうことの証明だ。」

本当に嬉しそうに笑うリボンズとは対照的に、ラーズの眉間に刻まれた深い皺は消えていない。

「なぜ、俺が来ると思った?」

「簡単な話さ。僕の知り合いに六人の仲間候補がいてね。六人の仲間はヴェーダから特別な情報を得られる……そんなようなことを詳しく教えてくれるのさ。君だって僕の情報をヴェーダから受け取ったんだろう?」

「確かに、お前のヴィジョンは見た。だが、他の連中とは違う……俺がヴェーダと繋がるのは息子の脳量子波とリンクしている時だけだ。」

その言葉にリボンズは笑みを消して目を細める。
そして、ラーズの右目を見て納得する。

「なるほど、そうか……君はその怪我のせいで脳量子波の機能の一部を失っていたね。」

「そんなことはどうでもいい。なぜ、俺が来ると思った?」

再びの追及にリボンズは瞳を閉じる。

「僕は世界を……そして、計画を進める者……誰でもその存在を知れば会いたいと思うはずだ。それに今、君は相談できる仲間が欲しい。そうだろう?」

「…………………」

ラーズは何も答えない。
しかし、リボンズの答えは当たらずとも遠からずだった。
多くの似非人を手にかけ、あまつさえブリュンの命すら奪おうとしたのだ。
たとえ、六人の仲間の一人だったとしても彼らが受け入れてくれるはずがない。
なにより、ブリュンに合わせる顔がない。

そんなラーズの心を読んでいたリボンズはクスリと笑う。

「いいよ、僕なら今すぐにでも力に慣れる。なんだって相談してくれ。僕は君の味方だ。……そうだ、手始めにというわけではないけど、アニュー・リターナー。君の妻と同型のイノベイド、彼女を君にあげてもいいよ。」

「!!」





魔導戦士ガンダム00 the guardian 19.Get back

宇宙

「はぁ!!」

「でぇい!!」

火花が散るたびに赤と瑠璃色の輝きが黒い空間に散らばる。
周りにいる紅蓮のMSたちは赤い剣を振るうサキガケの主から干渉をするなと言われているため手が出せないが、それでも何もしないでいるわけにもいかずこうして二機の戦いを見守っている。
もっとも、干渉するなと言われるまでもなくすでに自分たちがわりこめるような戦いでないことはこの激しい剣戟を見ていれば明らかだった。

「浮気性な私を許せ、少年!!!!悪いが今は目の前にいる彼にこの想いをぶつけさせてもらう!!!!」

「あんまりしつこいとストーカーで訴えるよ!!!!」

刃を展開したアームドシールドでサキガケの大型ビームサーベルを受け止めるクルセイド。
鍔迫り合いで発生する火花で視界を遮られながら、ユーノはアレルヤとアリオスが護衛する輸送艇の方を見る。

向こうも例にもれず、残っていたジンクスからの激しい攻撃にさらされていた。
どうにか被弾はしていないものの予定のコースから少しずつずれ始めているし、アリオスの防御も苦しいものに変わってきている。
このままでは、全滅は必至だ。

「戦いの最中によそ見とは……妬けてしまうな!!!!」

「うあっ!!!!」

隙をついてクルセイドを吹き飛ばすとさらに左手に持ったショートビームサーベルでコックピットを狙った刺突を放つ。
クルセイドもシールドバスターライフルをシールドに変えてそれを受け流すが、すかさず両手を大型ビームサーベルに添えて鋭い連撃を繰り出してくる。

「つまらんなガンダム!!!!目の前の敵に集中したまえ!!!!」

「クッ……!!」





「ユーノ!!!!」

〈気ぃ散らしてんじゃねぇよアレルヤ!!すぐそこまで来てんぞ!!〉

「!!」

クルセイドに気を取られていたアレルヤはハレルヤの声で反射的に輸送艦ギリギリまで接近していたジンクスを撃ち落とす。

『アレルヤさん、やはりクルセイドもこちらについてもらわないと!!』

「無理です!!今あの機体を抑えられるのはユーノしかいない!!」

アニューの意見はもっともだが、下手にクルセイドがこちらに近づこうとすればサキガケに墜とされる。
そうでなくとも、あそこにとどまっているジンクスたちもこちらに来るかもしれないのだ。
そうなれば、アリオス一機ではとても守りきれない。

『くっそー!!せめて俺がアストレアで出れれば……!!』

しかし、アストレアはすでに地上に降ろされてしまっている。
故にエコの案は検討する前に却下だ。

ならば、GNアーチャーをだすか?

しかし、これも却下だ。
GN粒子がチャージされていないのに使うことなどできるはずがない。

『予定コースからかなりずれているわ!!』

『でも、あの敵の中を突っ切っていくなんて無理ですよ!!』

リンダとアニューの声がアレルヤにも焦りを伝染させる。
もう攻撃を体で止める場面も増えてきた。
ユーノとクルセイドも終始押されたままでかなり危ない。
というより、動きにいつもキレがない。

〈チッ!!あのアマちゃんが!!こっちが気になって集中できてねぇ!!〉

ハレルヤの言うとおり、どうにか輸送艇の護衛に戻ろうとしていたユーノは目の前のサキガケに集中しきれていない。
そして、そのことはハレルヤだけでなくブシドーも気付いていた。

「どうやら、あれが君の枷になっているようだな。」

クルセイドとの戦いに少なからず落胆していたブシドーは、ユーノの実力を完全に発揮させる手段を思いつく。

「私が君の枷を外してやろう。」

〈!!野郎!!〉

「まさか!!?」

ショートビームランチャーを輸送艇に向けたサキガケに、アレルヤとハレルヤは咄嗟にその射線軸上にアリオスの体を投げ出す。

「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

『アレルヤ!!!!』

「やめろ!!お前の相手は僕だ!!」

「これは代償だ……戦いに臨む者は枷を戦場に持ち込むべきでない!!」

戦いの妨げとなる物を排除すべく、サキガケの銃口から今にも破壊の光が放たれようとしていた。




ビサイドの隠れ家

「じゃあ、第二ラウンドを始めようぜ!!」

互いに得物を持って睨みあう1ガンダムとアストレア。
しかし、忘れているかもしれないが彼らの足元にはテリシラがいるのだ。
もし、乱戦になれば彼の身の安全は保障できない。
さらに言うならば、カプセルに入っているレイヴの肉体も無事では済まない。

「お、おい……まさかここで戦うのか!?」

片や命など塵芥程度にしか考えていないビサイド。
片や元テロリストのフォン。
この二人が戦いの最中に周りに気を配るなどまずありえない。
考えれば考えるほど、テリシラの脳裏には自分がどちらかに踏まれて赤い染みになる未来しか思い浮かばなかった。

しかし、そんなテリシラの不安とは裏腹に1ガンダムとアストレアは睨みあったままなかなか動こうとしない。

(まだか……)

来るはずの応援の反応は未だない。
なぜフォンが仕掛けないのかは知らないが、ビサイドにとっては好都合だ。

「フォン・スパークよ、わからないな。なぜ俺を攻撃する?お前の目的はなんだ?」

「あんたと同じさ。俺も一枚噛もうと思ってな。」

「?」

「六人の仲間集めさ。」

「!!」

時間を稼ぐだけだったつもりが、フォンの言葉にビサイドは目を丸くする。

「しかし、それはイノベイド以外には関係のないことのはずだ。人間のお前には……」

「おっと、お喋りはおしまいだ。これ以上時間稼ぎをさせる気はねぇよ。」

そう言って一歩前へ出るアストレアとフォン。
しかし、

「フッ……少し遅かったな!!」

アストレアの後ろの壁を破り、星が瞬く夜空を背景に一機のMSが飛び込んでくる。
バイザーに三本の角がある頭は兜をかぶった人のそれに近いのだが、両肩が紺色の大きな球形、特に左肩には赤くカラーリングされた何かの装置がついているせいで限りなく薄い青の胴体や手足とのバランスがひどく悪く見える。
甲に凶悪な三つの大きな棘がついた手の指先からは赤い光の刃が出ていて、それがいっそう化け物じみた印象を見る者に与えていた。

そのMS、ガラッゾの指先に発生したビームサーベルが左手のシールドを真っ二つに切り落とすが、フォンはそれに臆することなくガラッゾへハンマーを叩きつけた。

「砕けな!!」

潰れたコックピットへ容赦なくライフルを撃ちこんでとどめを刺すが、さらに二機のガラッゾが壁に開いた穴から乱入してくる。

「ハッ!上等!!」

乗り気で二機のガラッゾ相手に大立ち回りを始めるフォンだが、ビサイドはその隙にその場から離脱を図る。

「また会おう、人間!」

「逃がすかよ!!」

近くにいたガラッゾの頭を吹き飛ばして振り向きざまに1ガンダムへハンマーを飛ばす。
しかし、届くまであと一歩と言うところで惜しくも残っていたガラッゾに受け止められてしまった。
しかし、ビサイドに逃げられたにもかかわらずフォンは余裕だ。

「馬鹿な奴だ……これから先待っているのがいばらの道だとも知らずに……」

スイッチを押して後ろについていたブースターを点火させてハンマーを喰いこませると回転させて一気に装甲を粉砕した。

「それじゃあ、あんたがどうやってそれを切り抜けるのかじっくり見せてもらうとしようか。」

ひとまず敵を一掃したフォンは爆炎に囲まれながら空を見上げる。

「さて……連中は上手くやっているかねぇ?」



???

私、また何もできないの……?
アレルヤが傷つきそうになっているのに、また見ているだけなの……?

「……なら、どうする?」

……私に、アレルヤを助けられるの……?

「できる。私たちなら。なぜなら、私とお前は……」

うん……そうだったね。
私とあなたは、

「「超兵なのだから。」」



宇宙

一瞬だった。
まず驚いたのがこの盾持ちの動き。
さっきまでとは比べ物にならないほど鋭い一撃でランチャーごと左腕を叩き斬った。
そこにゆるい甘さは微塵もなく、代わりに研ぎ澄まされた名刀のごとき殺気がブシドーの心を高ぶらせている。
しかし、その一方で今度はブシドーが輸送艇が気になりはじめる。
あのままならあの羽根付きの発展型ごと墜ちていたはずだったのに、咄嗟に体を傾けてそれを避け、さらに羽根付きにぶつかって射線軸から弾きだそうともしていた。

(一体何が……)

「遅い!!」

「!!」

気を抜いてしまった。
視線を戻した時には、盾持ちが武器も兼ねたその大振りな盾を振り下ろさんとしているところだった。

「ぬぅっ!!」

辛うじてかわすが、今度はその盾がグルリと回転して二つの突起が光を反射してギラリと鈍く輝く。

(マズイ!!)

バンカーを撃ちこまれまいと必死で距離をとったブシドーだったが、それはあくまで囮だ。

「967!!」

「了解!モード・バースト!!」

左手に握っていたシールドバスターライフルの装甲が大きく開き、開いた装甲の間にピンク色の稲妻が走り始める。

「GN粒子、圧縮完了……悪いが手加減抜きだ。」

「死にたくなければ脱出しろ!!」

稲妻が消え去った瞬間、むき出しになった黒い銃身から圧縮されたGN粒子が巨大な光の柱となって漆黒の宇宙を切り裂いた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

「クッ……!!」

味方が薙ぎ払われた後、難を逃れたブシドーとサキガケは赤熱するライフルとともに輸送艇へ戻っていくクルセイドを見送る。

「なるほど……どうやら、私の目も当てにならないようだ。君にとってそれは枷ではなく力の根源というわけだ。」

追えない距離ではない。
しかし、自分を見てくれないなどという子供じみた嫉妬から彼の力の源を奪い去ろうとした愚かな人間に彼と刃を交える資格などない。

「今は退かせてもらおう。だが次に会うとき容赦はないぞ、レディー。」




「どわぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

船体が大きく左に傾くのに合わせて船内をエコが飛んでいく。
しかし、中にいる人間の表情とは逆に、輸送艇は予定通りのコースを、それも敵の攻撃をかすらせもせずに進んでいた。

「お、おい!!あんた勝手に何を…」

「うるさい!!死にたくなければ黙っていろ!!」

強引に操縦桿を奪い取ったマリー(?)はエコを怒鳴りつけて大人しくさせると素早い舵取りでジンクスの間をすり抜けていく。
そのスピードたるや、アリオスの援護が間に合わなくなるほどだ。

「ま、待って……このままじゃ追いつかない!!」

「情けないことを言うな、被験体E-57!!」

「!!」

通信機器を通して聞こえてくるのは確かにマリーの声。
だが、明らかにそれはマリーの言葉ではない。
アレルヤのことをそう呼ぶのは、彼女以外ありえない。

「ソーマ・ピーリス!?なぜ!?」

〈チッ、しぶとい女だ……まだマリーの中に居やがったのか。〉

毒づくハレルヤの声もしっかり聞こえているが、ピーリスはそこにはあえて触れずにそれよりもこの事態を打開するほうを優先する。

「先行する!援護しろ!!」

「い、いや、その前に……」

〈テメェもいつまでもなんでなんで聞いてんじゃねぇよアレルヤ!!体を貸せ!!〉

「ちょっ……!!……ハァッハッハッ!!行くぜおんなぁ!!しっかりついてこい!!」

「貴様に言われるまでもない!!」

変形したアリオスはそれまでの防御一辺倒から豹変、輸送艇を守りもせずに眼前に立ちはだかる敵へ猛烈な攻めを開始する。

「オラオラァ!!!!今ならもれなくタダで挽肉にしてやるから遠慮なく来いよぉォォォォォ!!!!!!!」

先端部分で挟んだジンクスを斬り裂くと、今度はMSに変形して腕のガトリングで周囲の敵を屠っていく。
ここまで攻撃に偏ると輸送艇が墜とされそうなものだが、輸送艇の操縦を担当しているピーリス。
いや、ピーリスとマリーがそうはさせない。

〈あの時のアレルヤとハレルヤみたいに!!〉

「思考と反射を……融合させる!!」

ビームの雨あられの中、アリオスが切り開いた血路をピーリスとマリーは常人ならば操縦桿をとられてしまいそうなほどの超高速で、それでもルートを外れずに突き抜けていく。

「勝手に進んでんじゃねぇよ!!!!餌がいなけりゃ得物が喰いつかねぇだろうがぁ!!!!」

「貴様がこちらに合わせろ!!!!」

言い争いながらも順調に歩を進めていくハレルヤとピーリス。
殿を務めているユーノは追いすがるジンクスの頭をバンカーで潰しながら聞こえてくる二人の言い争いに苦笑する。

「なんだかんだで息ぴったりだね。……仲は本当に悪いけど。」

「同族嫌悪と言うやつだろう。」

「そんなに似てる?あの二人。」

「まあ、あくまで俺の私見だ。それはそうと、どうやら向こうはもう離脱できたようだぞ。」

「ありゃ、いつの間に。それじゃ、僕たちも早いところ引き上げようか。」

頭を失って右往左往するジンクスを蹴り飛ばしたクルセイドは全速力で離脱を開始する。
もちろん、アロウズは追いかけては来るのだがなぜか途中でそれを中断した。

「?」

(……リボンズか。まったく、根回しのいいことだ。)



某国 某ホテル

(フフフ……相変わらず元気で困るね。リジェネもばれていないつもりでいるんだからおかしいったらないよ。)

しばらく黙っていたせいで間があいてしまったが、ラーズに考える時間を与えるという意味ではいい方向に働いたようだ。
しかし、なぜこれほどまでラーズが悩むのか理解できない。
彼が求めて止まなかったものが手に入るところまで来ているのに。

「悪い話ではないと思うよ?君はまた家族三人で暮らせるんだ。百三十年前のようにね。」

リボンズの言葉にもラーズは黙っていて答えようとしない。
いや、今口を開けば彼にすがってでもあの日の日常を取り戻したいと言ってしまいそうになる自分を押し殺すためにあえて話そうとしないのだ。

だが、昔のことを思い返していくうちにラーズは気付く。
息子がいても、妻がいても。
もう、どんなことをしたとしても戻れないのだ。
なぜなら、自分は全てを知り、そして変わってしまったのだから。

しかし、その一方で希望もある。
今の自分には息子を守れる力がある。
たとえ、拒まれても構わない。
息子と、その仲間たちを影ながら守ることこそが今の自分の生きる理由だ。

「……それは、俺の妻ではない。」

未練が無いはずがない。
それでも、いつまでも過去に逃げ込んでいるわけにはいかない。
もう、イノベイドハンターではないのだから。

「そうか……それは残念だよ。さしたるは違いはないと思ったのに。まあ、望む時はいつでも言ってくれ。それじゃあ本題に入ろう。今日はどんな用件でここに来たんだい?」

「お前は『六人の仲間集め』にどこまで関与している?」

「まさか僕が仕掛けているとでも思っているのかい?それは誤解だよ。確かに情報は得ているが、本当にそれだけさ。ただ、関係したいとは思っている。」

「邪魔をするつもりか?」

ラーズは再び銃に手をかけるが、リボンズがそれを止める。

「怖い顔をしないでくれよ。その逆さ。六人の仲間集めが上手くいくように手を貸したいと思っているんだ。」

その言葉に、ラーズはかすかだが違和感を抱く。

「妙な話だな。計画を自らの物としたお前がなぜいまさらブリュン達のミッションに介入する必要がある?」

「ストレートに言うね。まあいい、隠し事はなしでいこう。僕が彼らのミッションに興味を持った理由……それは、ヴェーダ自体が計画のために行っていることだからだ。」

リボンズがチラリと後ろを見ると、カーテンに隠れて紫色の髪の少年、リジェネがこちらの様子をうかがっている。
少し不機嫌なのは大方こっそり持ち出したガラッゾ三機がそろいもそろってフォンにやられてしまったというところだろう。
そんなリジェネに見せつけるようにリボンズはラーズと話を続ける。

「僕はイオリアの計画を引き継ぐ者だ。六人の仲間集めをヴェーダが遂行しているのなら、それが計画にとって重要なものだと確信している。」

「…………………」

もちろん、理由はそれだけではないが。
そんなことは話さなくとも向こうも見抜いているだろう。

「もう一度言うよ。僕は六人の仲間集めに協力を惜しまない。」

そう言うと、リボンズはラーズのすぐそばまで行ってリジェネには見えないように囁く。

「さて、協力者としてアドバイスだが、僕の知り合いが仲間候補になっているようだけど彼はふさわしくない。別のイノベイドを探したまえ。」

「……言いたいことはそれだけか?」

「今は……おっと、もう一つあったよ。」

「?」

「協力してくれるのであれば、ユーノ・スクライアを僕の下まで連れて来て欲しい。できるだけ丁重にね。」

「………なぜだ?」

「なぜ、か………いいだろう。君には聞かせてあげよう。」

そして、リボンズはラーズに話す。
なぜ自分がユーノを欲するのか。
ユーノ自身すら知らない彼の出生とその力の秘密について。

話を聞き終わったラーズは、途中から見開いていた両目のまま尋常ではない量の汗を流す。
それほどまでにリボンズの話は信じがたいものだった。

「馬鹿な……!!もしそれが本当だとしたら、奴はこの世界の……いや、全ての世界にとって脅威以外の何物でもないことになるんだぞ!?」

「違うな……彼は言うなれば世界が用意したワクチンだ。人間の体だって異常が見つかれば容赦なくそれを排除するはずだろう?たとえそれが自分の細胞の一部であってもね。」

「だが、何を悪とするかを決めるのは奴自身だ……もし、奴が世界そのものを否定すれば……」

「そうならないように僕が導くのさ。彼がこの世界に絶望しないように創り変えてね。もっとも、彼にも多少妥協を覚えてはもらうことにはなるけど。」

「………………っ!!」

ラーズのあからさまな怒りの表情に珍しくリボンズがため息をつく。
残念ながらこの議論は平行線になりそうだ。
ラーズにはユーノを連れてくる気はないようだし、何より今の話を受け入れることすらできていない。

「まあいいさ。とにかく今は君たちに与えられたミッションを頑張ってくれ。」

「言われずともそうする!」

そう言って足早に去っていくラーズを見送るリボンズ。
その後ろではリジェネも慌ただしくその場を離れていく。
おそらく、ビサイドと合流する気なのだろう。
すべて手の平の上の出来事であることも知らずに。

「フフフ……頑張ってくれ。全ては来るべき対話のために………」



ビサイドの隠れ家

今、一人の少年が一糸まとわぬ姿でカプセルの中で眠りについている。
つい数時間前までは左肩から先が無かったにもかかわらず、すでに赤い筋繊維が腕まで復元され、後は皮膚ができるのを待つばかりの状態になっている。

そんな彼の前で、テリシラは改めてイオリアが作り上げたイノベイドという存在の凄さを思い知らされていた。

「イノベイドの肉体は基本的に人間と変わらない。しかし、体内にあるナノマシンにより高い再生力を持つ……まさか、そのための起動コマンドまで用意されていたとは…」

これでレイヴは助かる。
しかし、それは自分だけの力で成し遂げたわけではない。
横にいるイノベイドの少女874。
そして、

(モレノ先生……またあなたに助けられました。)

師であり、技術だけでなく医者としての心構えを叩きこんでくれたモレノ。
失踪していた彼が四年前までソレスタルビーイングに所属し、さらには記憶を失っていたユーノの主治医までつとめていたというのだから驚きだ。

(まったく……本当に妙な縁だな。)

「ドクター・テリシラ。」

「ん……ああ、すまない。なんだい?」

しかし、話しは変わるが何度見ても874と話をしていると違和感がついてまとう。
あのおっちょこちょいのハーミヤと同型だというのに874の方はしっかりしている、悪く言えば無表情すぎるきらいがある。
最初に会っていたのが彼女だったらハーミヤの方に違和感を覚えたのだろうが、そう思ってもやはり同じ顔でここまで物静かだと気味が悪い。

そんなテリシラの感想を知ってか知らずか、874は淡々と話を進める。

「肉体が回復したら記憶を戻す作業が必要です。それはフォンの基地で行いますので後は任せてください。」

「うむ……私も同行できないのかね?」

「申し訳ありませんがそれはできません。」

「しかし、医者としては最後まで見届けたい。どうにかならないか?」

「あなたには進めるべき使命があるはずでは?」

そう言って874がテリシラの前に映したモニターにはここに来る前に会ってきたあの女性がいた。

『ドクター・テリシラ、あなたの『六人のイノベイド探し』に協力いたします。今そちらに向かっていますので同行してください。』

「わかった。」

短く返事をしたテリシラは床に放り出していたスーツに袖を通すと874の前に立つ。

「レイヴを……私たちの仲間を頼む。」

「わかりました。責任を持って彼をお預かりします、ドクター。」

「!」

その時、874が微笑んだ気がした。
光の加減のせいかもしれないが、テリシラの目に確かにそう見えた。

「……やはり、そっちのほうが似合っているよ。」

「?」



ファクトリー

軌道エレベーターの高軌道リングのとある一角。
表向きは国連の所有物になっているそこにはかつてソレスタルビーイングを我が物にしようとしていた男、アレハンドロ・コーナーのファクトリーが存在し、1ガンダムもそこにいた。
アストレアに刻まれた傷はすでに癒え、背中にはそれまで無かったバインダーが装備されている。
しかし、戦力が強化され後はその力を振るうのみだというのに、ビサイドはそのすぐそばで手すりに手をついて困惑の表情を浮かべていた。

「おかしい……」

数時間前まであった余裕はどこかへ消え去り、寒気が全身を支配していく。

「なぜだ……なぜヴェーダから情報がダウンロードされてこない!?」

せっかく復活してリボンズを出しぬけるところまで来たのに、突然ヴェーダからミッションに関する情報が一切送られてこなくなってしまった。
何か異常が起こったのかと言われても、フォンとの戦闘で傷を負ったことくらいしか……

「!!」

そう、傷を負った。
だが直接の原因はおそらくその後のあれだ。

(そうか……!!あのレイヴの肉体が六人の仲間に選ばれた存在であって、肉体を交換した俺はもう違うということか!!)

改めてあの憎たらしい顔を思い浮かべてギリリと歯ぎしりをする。
フォンはこうなることがわかっていてわざとビサイドを仕留めなかったのだ。

(どこまでも忌々しい人間め……!!いや、その前にこのことをやつに知られたら……!!)

「ふぅん……1ガンダムの修理だけでなく改造も加えているのか。」

扉の奥から現れたリジェネに思わずビクリと体を震わせるビサイド。
六人の仲間から外された今、最大の問題点はこいつだ。
聞けば邪魔だと思ったユーノをダミーの情報で呼び出して殺そうとしたらしい。
そんなリジェネに仲間から外れてしまったことがばれればただでは済むまい。
なぜなら、あくまでリジェネとは互いに利害が一致していたから手を組んでいたにすぎないのだから。

「ところでリボンズなんだけどこっちに気付いているかもしれないんだ。だから計画を急ぐ必要があると思うよ?そこで相談なんだけど、あの医者を処分しないかい?」

「え?」

「解放能力者はこっちの味方になる奴を新しく見つける。そうだ、いっそ今いる六人の仲間も全員消して総入れ替えした方がいい。」

ビサイドは平静を装うが、内心穏やかではない。
もし、新しく仲間を見つけることになれば自分に資格が無くなったことに気付かれる。

(そうなれば、多分こいつは……)

いずれそうするにしても、今はまだそんなことをさせるわけにはいかない。

「まあ、考えておくよ。」

「どうしたんだい?君らしくもない。」

リジェネはすぅっと目を細めると至近距離からビサイドの顔を覗き込む。

「もしかして、何か隠してる?」

「何を馬鹿な……」

おそらく、生まれてからしてきた演技の中で最高のものだろう。
ビサイドはリジェネへの笑顔をそう評価すると、優しく彼を押し返す。

「ヴェーダからの新たな情報を分析しなくてはならないんだ。」

「ああ、なるほど……」

もっともらしいことを言ってはみたが、リジェネが納得したとは思えない。
しかし、この場をやり過ごしてレイヴの肉体を取り戻せれば後でどうとでもなる。

「ヴェーダを掌握したからといっていつまでもリボンズに大きな顔をさせておくのは気にいらないからね。僕も能力を解放されれば彼を超える力を手に入れられるはずだ。そして、君の下でその力を役立てるよ。」

「(ハッ……よく言う。)君はリボンズのもとへ戻れ。あまりここに長居すると怪しまれるぞ。」

「そうだね……そうするよ。」

リジェネを送り出し、ビサイドは改めて今の状況を分析する。

(フォン・スパークはレイヴの肉体を貰い受けると言った……となると、テリシラを連れてきたのは体を治療させるためか。体が再生されればパーソナルデータも転送されるはず……となると、レイヴはフォンのところか。……とにかく、あの体を取り戻さなければ。全てはそれからだ。)



フェレシュテ 拠点

「これがソレスタルビーイングの秘密基地か……」

「あまりきょろきょろしないで!部外者を連れてきたのは内緒なのよ!」

「あ…ああ、すまない。」

しかし、シャルには悪いがやはりあちこち目移りしてしまう。
さまざまな軍事関連施設に治療に赴いた経験のあるテリシラでも、今話題になっているソレスタルビーイングの基地は見たことが無いし、これから先も見れるとは考えていなかったのだから仕方が無いのかもしれない。

「いまさら内緒もクソも無い気がするけどな。主力はほとんど異世界に飛ばされちまって地球にはいないんだから。」

奥から現れた汚れたランニングシャツを着た男が額の汗をぬぐいながらやってくる。
この男とはまだ会ったことはないが、一応情報は見たことがある。

「あんた、ドクター・テリシラだっけか?俺はヴァイス・グランセニック。フェレシュテのガンダムマイスターで整備士もやってる。出身は…」

「異世界、正確にはミッドチルダ。異世界の治安維持を担当している時空管理局でヘリのパイロットを務めていた。その際、ヒクサー・フェルミにその才能を見いだされ、ヴェロッサ・アコースとともにスカウトされてこちら側の地球に来た。……こんなところかな。」

説明しようとしたことを説明される側に先に言われたヴァイスは面喰うが、すぐに感嘆の声を上げる。

「驚いたな……イノベイドってのはそんなことも知ることができるのか。」

「あくまでヴェーダにアップロードされたデータ、それも許される範囲でだがね。」

「……お話し中悪いけどこちらを優先してもらっていいかしら。」

シャルが少し不機嫌そうに言ったのでヴァイスは肩をすくめて一歩下がる。
しかし、続いてやってきたシェリリンはテリシラを見つけるなり笑顔で近づき、

「では、賞金はお預かりします。」

「え?」

手を差し出されながらそんなことを言われ、テリシラは困惑してしまう。
だが、すぐさまシャルに首根っこを掴まれて引き離されて説教も食らうことになった。

「き、気にしなくていいわよ。私たちは賞金目当てで名乗り出たわけじゃないから。」

「賞金よこせって言ったやつがいるのにそんなこと言っても説得力ねぇけどな。」

「だって資金難なんだもん!!(主に私が)」

「威張って言うことじゃありません!!それに、この人はモレノ先生のお弟子さんなのよ!!」

「う……」

流石にそこまで言われては賞金を要求するのは心苦しいのかシェリリンは頬を掻く。

「しょうがないかぁ~……モレノ先生の知り合いだしね。」

シェリリンとシャルの話だけで、モレノがどれほど慕われていたのかよくわかる。
だが、それと同時に寂しくもあった。

「先生はここで研究を続けていたのだね……いっそ、私も誘ってくれればよかったのに。いや、私がいても足手まといになるだけか。」

「それは違うわ。」

シャルが声を張る。

「モレノ先生はあなたに世界的名医になって人々に尽くしてほしかったのでしょうね……」

「孤児だった私を拾ってくれたのもモレノ先生よ。ここのメンバー、みんな先生のことが好きだったの。だから、きっと先生はドクターの未来のことを考えて呼ばなかったのよ。」

(……まったく、あの人らしいというか…)

モレノの不器用な優しさに自然と口元がほころんでしまう。
そんなモレノ弟子であることを、心の底から誇りに思えた。

「先生はどこにいても常に信念を持って全力で生きる……そんな人だった。そして、私もそうありたいと思う……」





(……私も、君の師であれたことを誇りに思うよ、テリシラ。)





「?先生?」

ふと聞こえた声に後ろを振り返るテリシラ。
しかし、当然そこには誰もいるはずはなく、懐かしい声ももう聞こえてはこない。

「どうかしたの?」

「……いや、空耳だったようだ。気にしないでくれ。」

しかし、空耳であってもモレノの声が聞けたのは嬉しい。
それだけでも、ここに来たかいがあったというものだ。



テリシラ邸 地下

(ドクターは基地についたそうです。しばらく帰ってこれないそうです。)

「そっかぁ~……」

無事であることが分かっただけでも儲けものなのだが、スルーは肩を落とさずにはいられない。
せっかく全てを知った上でテリシラと話をできると思っていたのにお預けになるのは少し辛いものがある。

「ドクターはどこにも逃げませんから、そんなに気を落とさなくてもよいかと。」

「……ていうか、あんたホッとしてないかい?」

「……………気のせいでしょう。」

「今の間なんだ!!?」

スルーのツッコミを軽く無視し、サクヤはそそくさとその場を後にする。

「あんにゃろ~……!!そのうち絶対追及してやるからな~……!!」

「それより、どんな人が仲間になるんですか?ワクワクします♪」



フェレシュテ 拠点

個室にテリシラを案内したシャルは早速本題に移った。

「それで、ティエリア・アーデに会えたとして、すぐに覚醒を試みるの?」

「私にはそれしか仲間かどうかを確かめる手段が無い。」

「でも、それだとティエリアの意思はどうなるの?能力を解放しても仲間になりたくないって言うかもよ?」

「……それと、僕たちもできればそれは遠慮してほしいですね。無理やり能力を覚醒させられて仲間を持っていかれるなんてまっぴらごめんだ。」

全員、開いた扉の方を向く。
見あきた癖っ毛、緑の長髪の端整な顔立ち、金と銀のオッドアイ、銀色の髪をした二人の女性。
しかし、シェリリンの視線はその誰でも無くサングラスをかけた一人の青年に釘づけになっていた。

「ユーノ!!」

「うわっ!?」

ラグビー選手も顔負けのタックルでシェリリンに押し倒されたユーノは翠の瞳に困惑と嬉しさの笑みを見せる。

「ハハハ……久しぶり、シェリリン。元気にしてた?」

「うん!ユーノこそ大丈夫だった?」

「あ~……現在進行形で大丈夫じゃないかも………」

相手が女性とはいえ、腹の上にどっしりと腰を下ろされていては流石に重い。
シェリリンもそのことに気付いて笑って照れ隠しをしながらユーノから離れる。
すると、今度はヴァイスがつかつかと歩いてきてユーノの制服の襟を掴んだ。

「ユーノさん………このあと二人だけで少し話があるんですけど?いえ、別にひがんでないですよ?ええ、別にうらやましくなんかないですよ。あっちで嫁さんもらっておいてこっちでもモテモテだからって心底どたまを狙い撃ちたいなんて欠片も思ってませんから。」

「あの……ヴァイスさん、ところどころに本音が………というか、若干シェリリンとシャルの視線も怖い……」

「ハッハッ、モテる男はつらいねぇ。」

「………査察官、見境なく女の子を口説くあなたと一緒にしないでくれません?」

「……うぉっほん!!その話は後にして、早く本題にはいらないか?」

テリシラの咳払いでドタバタに参加していた人間も、それを面白おかしく観察していた人間もきっちり身なりを整えて並び立つ。

「………それで、ユーノとしてはティエリアを覚醒させるのは反対なわけか?」

「ええ。悪いですけどそれだけは譲れません。というか、まずティエリアが拒否するでしょうね。」

「随分簡単に言いきるじゃないか。」

テリシラが突っかかるが、ユーノはクスリと笑ってそれを受け流す。

「四年前だったらどうだったかわかりませんが、少なくとも今のティエリアはミッションだからといってトレミーを離れるようなことをしませんよ。ドクターが思っている以上に、ティエリアは頑固で、意地っ張りで、人間くさくて………そして、誰よりもトレミーのみんなを家族のように思っていますから。」

「家族、か………それが、彼が人間社会で暮らしてきて得たものというわけだ。」

テリシラも強張った顔を緩めてフッと笑う。

「諦めるしかなさそうだな。私とて、強引に家族の下から彼を引き離すのは望むところじゃない。」

「でも、それじゃあドクターたちに与えられたミッションはどうするんですか?」

マリーが顔を不安で曇らせる。

「レイヴを取り戻したとしても、残り二人の仲間候補のうちの一人はビサイド側なんですよね?あと二人、別のイノベイドを探すにしても彼らが大人しくしているとは思えません。」

「ですね。あのリジェネっていう奴は僕のことを消そうとまでしたからね。強硬手段に出てくる可能性は否定できない。」

「でも、このまま何もしないでいるわけにはいかないよ。それに、僕たちも早くトレミーの後を追わないといけないのに、こんなところでグズグズしてはいられない。」

切り札を取り戻せはしたものの八方塞がり。
しかも、その切り札は今はここではなく……

「ん?」

「どうかした、シェリリン?」

ヴェロッサの言葉も聞かず、シェリリンはブツブツと上を見て呟いていたかと思うと、にんまりと笑って全員の顔を見渡す。

「ねぇ、フォンに会ってみない?」

「あいつに?」

「本気かよ?」

ヴァイスとエコはいぶかしげな顔をするが、シェリリンは胸を張る。

「ひょっとしたら、フォンならもうヴェーダの真意やミッションの目的もわかってるかもしれないよ!目的が分かれば少しは動きやすくなるし、フォンにも手伝ってもらえばいざという時いい知恵を貸してくれるかも!」

「はぁ………何のためにあいつをトレイターにしたんだか。」

「でも、悪くない考えだ。」

溜め息をつくエコを後ろにやって、前に出たユーノは無言が全員の肯定の証であることを察知し、力強くうなずく。

「それじゃ、僕とアレルヤはフォンと合流。もちろん、ドクターも来ますよね。」

「ああ。」

「私も行きます。私とソーマもアレルヤたちの力になれるかもしれない。」

「ユーノ、私も行かせてください。あなたたちがそこまで言うフォン・スパークという人物をこの目で見ておきたいのです。」

「悪いけど、俺はパスの方向でよろしくお願いします。サダルスードの改造を途中でほっぽり出すわけにはいかないっスから。おいエコ、嫌な顔してないでお前も付き合えよ!」

「じゃあ残念だけど私もパスね。ヴァイスに付き合ってあげなきゃいつ終わるかわかんないから。とうぜん、シャルも残ってくれるよね。」

「それじゃあ、僕も残らせてもらおうかな?戦力を分散させる意味でもプルトーネは残っていないとね。」

「それと、リンダさんとアニューさんにもこっちに残ってサダルスードの改造を手伝ってもらうわ。」

全員の配置がきまったところで、ユーノは改めて確認をする。

「それじゃあ、フォンと合流するのが僕、アレルヤ、ドクター、マリーさん、リインフォース。残って後から合流するのがエコ、シャル、シェリリン、リンダさん、アニューさん、ヴァイスさん、アコース査察官。でいいですね?」

「ええ。それじゃあ、みんな気をつけて行きましょう。ここからが正念場よ!」



地上 某所

人っ子一人いないとある荒野。
青い空を切り裂き、赤い光が通常のMSなど比べ物にならないほどのスピードで飛んでいく。

「素晴らしいぞ1.5(アイズ)ガンダム!全ての性能が1.5倍に改良された!この機体ならアストレアより空戦能力は格段に上だ!!」

人間に苦汁をなめさせられたという事実を払拭するためには、その人間を完膚なきまでに叩きのめす以外に方法はない。
それが可能になったと考えただけで、ビサイドは心踊らずにはいられなかった。
しかし、そんな彼の気分をぶち壊しにする一行が後ろからやって来ていた。

『ガンダム!ガンダムに告ぐ!!今すぐ武器を捨てて停止しろ!!』

「また貴様らか!!」

いい気分でいたのにそれを邪魔されたビサイドはアイズガンダムの背中に取りつけていたバインダーを前に持ってくると、その間にエネルギーをため込み始める。
そして、

「消えされ!!」

「な!!?」

強烈な光の奔流へと変わったそれはジンクスたちを飲み込み、あたかもそこには最初から何もなかったように全てを消滅させていた。
哀れにも犠牲になった連邦軍の兵士たちを一瞥したビサイドは再び冷酷な笑みを浮かべる。

「フッ……誰も俺を止めることはできない!!」

『それはどうかな?僕が試してあげるよ!』

突然の声にもビサイドは動揺することなく上を見上げる。
同じ赤い光を放ちながら降りてきたのは水色のやや角ばったボディと途中で折れ曲がった角が印象的な機体。
懐かしくも因縁のあるその機体を見たビサイドはいっそうわき起こる笑いを止められなかった。

「ヒクサー・フェルミ……死に損ないめ。ちょうどいい、アイズガンダムのテストに使ってやる!!」

「グラーベの仇……覚悟しろ!!」

アイズガンダムとガンダムラジエル。
奇しくも、ヒクサーが親友を失った時と似たような状況で二人の戦いは開始された。



宇宙 エウクレイデス

「! フォン、ビサイドの機体が戦闘に入りました。」

カプセルを覗き込んでいたフォンは874を見てニィと唇を吊り上げる。

「相手はヒクサーだな。」

「はい。」

「あれの準備は?」

「できています。」

「あげゃげゃげゃ!!上等だ!そんじゃ、俺も行くか!!」

フォンはカプセルから離れてコンテナへ向かおうとする。
その時、

「待ってください!!」

物々しい音とともにカプセルが開くと、ふらつく体をカプセルの端を握って支えながら黄緑の髪をした少年が起き上がる。

「僕も……僕も、彼と決着をつけなくては……!」

「フン、起きたてで随分と気合が入ってるじゃねぇか、眠り姫さん。」

フォンの言う通り、永遠に思える眠りについていたレイヴはその嫌味に気のきいた返答をすること無くその場に崩れ落ちた。





奪還されし探索者
しかし、悪意の執着心は侮れず





あとがき・・・・・・・・という名のキャラ関係紹介1

ロ「というわけで、いよいよI編がクライマックス間近になってきた第19話でした。そして、いきなりですが御指摘があったので今回は地球側のキャラの関係的なものを乗せておきたいと思います。」

毒舌医師「そういえば、そろそろネタが尽きてきたから感想でこういうのが増えて来て助かったとか言ってなかったか?」

ロ「さあ!!では、キャラ関係をご覧ください!!」

学生「あ、駄目だこれ。ゴリ押しする気だ。」

トレミークルー ユーノ、アレルヤ、967
・ユーノとアレルヤは一時期テリシラ達の世話になっていたが、現在はフェレシュテのメンバーと合流。967はグラーベの人格と記憶を受け継いでいるためかビサイドに因縁めいたものを感じている様子。

フェレシュテ シャル、シェリリン、エコ、ヒクサー、887、ヴァイス、ヴェロッサ
・ヒクサーとヴェロッサはグラーベの仇、ビサイドと同じ肉体を持つレイヴをビサイドと勘違いして追い詰めるが、結果的に1ガンダムを覚醒させる手助けをしてしまう。その後、ラジエルを手にしたヒクサーは887とともにビサイドを追い、ヴェロッサはシャル達と合流。
・宇宙で新装備の開発を行っていたが、テリシラの尋ね人の広告を見て地上に降りてミッションに参加しているイノベイド、テリシラと接触を持つ。その後、宇宙に残っていたメンバーも連邦に発見されたファクトリーから新装備をもって地上に降りる。

新メンバー リンダ、アニュー、マリー、リインフォース
・予定ではトレミーに配属になるはずだった二人。とくに、アニューは操舵士、さらに医師としての役割を果たす予定だった。
・ソーマ・ピーリスとしての記憶を植え付けられて戦っていたマリーだったが、アレルヤとの戦いによって記憶を取り戻す。その後、アレルヤをサポートするようになる。
・消えたはずだった闇の書の欠片、リインフォースがこちら側の地球に転移し、ユーノ達に発見されて完全に浄化されて夜天の書の欠片として完全復活を果たす。主であるはやてとの再会を望みながらも、ユーノの支えになりたいとも考えている。

トレイター フォン、874
・訳あってソレスタルビーイングの反逆者扱いになってしまった。しかし、現在でもフェレシュテと協力関係にある。ビサイドが利用するために呼び出すが、それを見破ったフォンの手であっさり返り討ち。さらに、ダメージを負った肉体からビサイドのパーソナルデータを追い出し、六人の仲間に選ばれたレイヴの肉体を奪還した。

イノベイド(レイヴ、テリシラサイド)レイヴ、テリシラ、ブリュン、サクヤ
・レイヴによって発見され、保護、もしくは仲間として覚醒を果たした者たち(ただし、レイヴはヴェーダによって最初に覚醒。テリシラもレイヴからイノベイドであることを告げられ自らの能力で覚醒を果たす。)。サクヤはテリシラ邸で秘書兼家政婦、ブリュンは仲間を繋ぐ役割を果たしている。

イノベイドハンター ラーズ
・イノベイドでありながらイノベイドを狩る存在。ブリュンとは百三十年前に家族だったが、そうとは知らずブリュンを撃ち、体の自由を奪ってしまう。覚醒後は機械を統べる能力を持ち、ブリュンの説得によって自らの過ちに気付く。

イノベイド(ビサイドサイド)ビサイド、リジェネ
・グラーベを手にかけた張本人であり、他のイノベイドに自らのパーソナルデータを書き込んだり、一時的には操ることもできる。替え玉を使ってグラーベとの戦いを生き延びた後は1ガンダムにパーソナルデータを残してリセットを受け入れる。そして、1ガンダムに乗り込んだレイヴの肉体を再び自らのものにする。しかし、フォンによって肉体が奪われ六人の仲間から外れる。
・リジェネ(六人の仲間候補)とは利害が一致したので協力関係にあるが、互いに完全には信用していない。



ロ「次回はミッド編なので、その時はトレミークルーや管理局なんかの関係を乗せたいと思います。」

毒舌医師「その前にこれでいいのか聞くべきだと……」

ロ「ヤブ医者がうるさいのであとがきのネタとして使えなくされる前に次回予告に行きたいと思います。」

学生「本音が出てますよ?」

ロ「次回はミッド編!でも戦闘はなしの方向で書きます!期待してた皆様スイマセン!」

学生「(押し切ったよ……)気晴らしにクラナガンへと繰り出した沙慈、ロックオンとティエリア、ウェンディの二組。」

毒舌医師「そして、それぞれ思いがけない人物と再会を果たすことに!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださってありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお願いします!じゃ、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 20.それぞれの休日
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/03/21 22:44
プトレマイオスⅡ コンテナ

「かぁ~!!こいつはまた派手にやられたな……」

もはや怒る気力も無くしてしまったイアンは痛む頭を押さえながら三機のガンダムを見上げるよりほかはない。
ケルディムのシールドビットの修復は終わっていないまま。
セラヴィーも隠し玉は無事なものの装甲の消耗が著しい。
そして、なんといってもダブルオー。
主武装のGNソードⅡを破壊され、挙句右腕に至っては伝達系回路に異常をきたしているときたものだ。
いったいどういった量のGN粒子を浴びればこうなるのか。

「いやぁ、随分厄介なものが出てきたみたいだねぇ。」

「この惨状を作り出す原因がなに他人事みたいな言い草してやがる!」

ヘラヘラ笑いながら脇でコンソールを叩くジェイルに頭痛がさらにひどくなるのを感じるが、弱音を吐ける状況でもない。
横でハァハァ言いながらガンダムの整備を行うマッドサイエンティストと協力して修復を行ったとしても戦力がガタ落ちしてしまっているのだから、使う時にはせめて最高の状態で操縦できるようにしておきたい。

「すまない、俺のせいで…」

「お前らはあんまり気にするな。GNソードは予備に一本あるからそれを使えばいいしな。」

本当はその二つで別の使い方があった。

(……そんなこと言ったら刹那の奴もっと思いつめそうだしな。)

スメラギの提案した気晴らしに唯一のらずに残ってエリオの鍛錬と整備の手伝いをしているだけでも十分なのに、この上さらに無理をされて倒れでもしたら今度はこっちがまいってしまう。

「どうした?」

「いや……お前がいい奴でよかったのか悪かったのかわしの中で激しい葛藤が繰り広げられとるんだ。」

「???」

そんなイアンをよそにエリオとジルの鍛錬の影響で床の塗装が剥げ、ジェイルの『なんでも解体して調べたい病』の発作が起こりかけていることで、彼の心労はさらに悪化の一途をたどるのだった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 20.それぞれの休日



クラナガン

「よかったんですか?」

「ん~?」

後ろを歩いている連れの言葉にロックオンは近づいてきた通行人をひょいとかわして振り返る。
人でごったがえす中、その波をかき分けついてくる沙慈は周りに聞かれない声量で話せる距離まで近づくとこそこそと小声で喋る。

「イアンさんたちが忙しいのに僕たちだけ街に出て羽を伸ばすなんて……」

「俺は正直助かったけどな。あんなピリピリしたところにいちゃあろくに休めねぇって。それに、あんたもいつまでも同じ服を着てるのは嫌だろ?」

「それは、まあ……」

強制労働させられているところを刹那に助け出されたのだから、沙慈の服は当然一着しかない。
こまめに洗ってはいたが、流石にもう二、三着は欲しい。
それを理由にスメラギにロックオンたちの外出に付き合わされたのだが、沙慈は不用心この上ないと思わずにはいられない。

「あの、もし僕たちがトレミーに乗っていることがばれたらどうするんですか?それに、僕をこんなところに連れだして、逃げるかもとか思わないんですか?」

沙慈の質問にロックオンはポカンとした顔で立ち止まっていたが、周りが驚くほどの大声で笑った後で肩を組んで歩きながら質問に答える。

「まず、後者はよほどの馬鹿じゃない限りありえないな。帰る手段もない、地理も疎い、ここのルールもさっぱり。そんな状態で異世界なんてありえない場所に放り出されたいのか?管理局に頼って帰ったとしてもお前はアロウズにテロリストとして認識されてるから、すぐに高重力下での強制労働に逆戻り。へたすりゃ有無を言わさず頭に鉛玉をパンッ!……てわけだ。それでいいなら逃げてもいいぞ。」

確かに、ここで一人になるのは砂漠においていかれるよりもやっかいかもしれない。
戻ったとしてももうテロリストとしての汚名を消せるはずが無い。
今は大人しくしたがっておく方が吉か。

「それと、俺たちがソレスタルビーイングだってばれる確率は限りなくゼロに近いな。ここ最近ガンダムで暴れまわったのにマスメディアは一切そのことを取り上げていない。書かれていたとしても記事の隅で当たり障りのない情報ばっかだ。どうやら、やっこさんたちはあくまで俺たちのことを隠しておきたいらしい。それに……」

ロックオンは自分の来ている服を指先で引っ張りながら苦笑する。

「まさかこんなカウボーイスタイルの奴がガンダムを動かしてるなんて夢にも思わないだろうぜ。」

さまざまな人種が集まるミッドチルダでもロックオンの格好はかなり浮いている。
まるでマカロニ・ウェスタン映画から飛び出してきたような彼は道行く人々の注目を集め、その端整な顔立ちも手伝って写真を撮る者まで出てくる始末だ。
もっとも、ロックオン本人からしてみればいい迷惑なのだが。

「もっと普通の服なかったんですか?」

「その言葉、これを買ったやつに是非とも言ってやってくれ。」

ロックオンはこの目立つ格好を。
沙慈は服がにおい始める前に新しい服を手に入れるためエリオがくれた地図を片手に一路ショッピングモールを目指す。
その時、

「きゃあっ!!」

後ろから女性の甲高い叫びが聞こえたかと思うと、ナイフと花が刺繍された清楚なデザインのバッグを持った黒いニット帽の男が人波を切り裂きながら走ってくる。

「お願い!!誰か捕まえてください!!」

しかし、女性の叫びもむなしく引ったくり犯のナイフを恐れて誰も捕まえようとはしない。
だが、

「ホイ。」

「うわっ!!?」

道の脇によっていたロックオンはその長い脚をひっかけて転ばせると、起き上がろうとする男の続けざまに顎へ蹴りを見舞う。
男が白目を向いて気絶するとロックオンはまずナイフを取り上げ、続いてバッグを拾って持ち主の女性へ手渡す。

「大丈夫かい、お嬢さん。」

「あ、ありがとうございます!」

女性がお辞儀をするとその長い黒髪が揺れてあたりに微かな花の香りが広がり、ロックオンはそれを一人占めにしていたいと思ってしまうが、ワッと歓声が上がるとそんな考えも吹き飛んでしまった。

「いいぞ!!兄ちゃん!!」

「ブラボー!!ブラボー、Mr.カウボーイ!!」

「あ……ああ、どうも……」

「……目立つなって言われてたのに早速やっちゃいましたね。」

激怒するティエリアと死神のごとき笑顔のスメラギが二人の脳裏をよぎる。
この拍手喝采と引き換えに彼らが失ったものは相当にでかい。
しかし、そんなことをゆっくり悩む時間も天は与えてはくれなかった。

「どいてください!!地上部隊の者です、どいてください!!」

「「!!」」

近くにいたのか、もう管理局の人間がやって来てしまった。
もし、下手に勘ぐられでもしたら。
そうでなくても、顔を覚えられてしまったら。

すぐさま逃げようとするロックオンと沙慈だったが、周りにいる人だかりがそれを許さない。
そうこうしているうちに、管理局の人間は二人のすぐ後ろまでやって来てしまった。

「申し訳ありませんが動かないでください。あなた方には事情を……」

「……ん?」

どこかで聞いたことのある声だとは思った。
しかし、振り返って顔を確認した時の驚きは隠しようが無かった。
藍色の長い髪をしたその少女も、ロックオンの顔を見て同じように驚いているようだ。

「お、お前……!」

「あ、あなたは……!」

「知ってる人ですか?」

沙慈がロックオンのリアクションに首をかしげていると、今度は引ったくりにあった女性が少女を見て笑顔で手を合わせる。

「あら、あなたエミリオンと一緒にいた……」

「え?ええぇ!!?なんであなたが!?」

少女の動揺に追い打ちをかけたことなど欠片ほども気付いていない女性はポエポエと呑気な笑みを浮かべる。

「よかったらそちらの人を紹介してくれないかしら?お礼もしたいし。」

「い、いえですね。その前に事情聴取……ハッ!!で、でもその前に技師長に連絡を入れた方が!!?」

「その前に俺の質問に答えろ!!なんでお前がここにいるんだよ!!?」

「僕完全に置いてけぼりだから誰かこの状況説明してーーー!!!」

ロックオン・ストラトス、沙慈・クロスロード、ギンガ・ナカジマ、リュアナ・フロストハート。
縁とはかくも不可思議で、しかし必然に彩られているものだ。
そして、それは何もこの四人に限ったことではなかった。



別区画

抱えている荷物で前が見えない。
いや、見えなくとも自分が行方不明者扱いされているにも関わらず短パンにタンクトップといういろいろと隠す気ゼロな愚か者がはしゃぎながら前を走っていることは知っているのだが。

「ほらティエリア~!早く来るっスよ~♪」

(コイツ……!)

今すぐ荷物を放り出してビンタの一発もくらわせてやりたくなる。
しかし、せっかく買ったものを放り出すほどティエリアも子供ではない。
だが、それでもあることだけはとても我慢できることではない。
抱えている箱たちの中身が年ごろの女性らしい洋服やアクセサリーならまだ納得はいった。
ところが、実際はどうかというと、

「なんでこんな山のように菓子類を買わなければいけないんだ!!!!」

その怒鳴り声で甘い匂いのする要塞がぐらぐらと揺れる。
この街に詳しいと言っていたウェンディと出てきたのまでは良かったが、彼女が詳しかったのは食料品店と娯楽施設の場所オンリーで他はどこに何があるかさっぱり。
アルバイトでここを訪れていたティエリアの方が詳しいという始末だ。

「女の子の体の半分は甘いものでできています。」

「なんだそのCMみたいなセリフは!!」

「まあまあ、怒ってばっかだと早死にするっスよ?もっとにこやかに……」

「ふざけるな!!全て君の胃へ消える物のためになんで僕がここまで大変な思いをしなくちゃいけないんだ!!」

「全部じゃないっス。四分の一はミレイナとフェルトの分っス。」

「これの四分の三を食べる気か!?」

あの体のどこにこの体積が消えるのか不思議で仕方ない。
そう言えば配給されている食事も彼女が大食いだと知らずに十人前を食いつぶされたが、あの時も全員怒る前に腰を抜かしていた。

「本当に呆れた食欲だな。そんなことだと体重計に乗った時に泣きを見るぞ?」

「大丈夫っス。あたしの場合カロリーは全部おっぱいの方に行くから。あ、なんならむっつりスケベのティエリアにサービスを、ぶごぁっ!!?」

ウェンディがいたずらな笑みを浮かべて振り返ったところにティエリアが蹴り飛ばした缶が鼻っ面にクリティカルヒットして派手に転ぶ。

「……今度ふざけたことを言ったらセラヴィーの頭から逆さ吊りにするぞ。」

「あたた……そんな怒らなくてもいいじゃないっスか。………それに、別にふざけてなんかないのに……」

尻もちをついたまま赤くなった鼻の頭をなでるウェンディだったが、ティエリアの顔はそれに負けず劣らず紅潮していた。
普段一緒にいるのは同性ばかり。
おまけに、ウェンディのように無神経に思えるほどストレートに女性を実感させる人物もいなかったためその手の話に対する免疫が皆無に等しいのだ。
皮肉にもお菓子の箱詰めが顔を隠してくれたためウェンディには気付かれなかったが、体の芯から来る熱さはなかなか引いてくれそうにない。

「くそっ……!なんなんだ一体……」

「どうかしたっスか?」

「うるさい!なんでもない!」

箱をどけてティエリアの顔を確認しようとするウェンディを器用にかわしたティエリアは黙々と進んでいく。
だが、

「うわっ!」

「あっ!」

「ああぁ~~!!」

ウェンディの声と気配を頼りに進んでいたので、前に出て目印を失くしたせいで通行人にぶつかってしまった。
ウェンディがガラガラと崩れ落ちた箱をいそいそと回収するのを尻目にティエリアはぶつかってしまった人物に頭を下げる。

「申し訳ない。こちらの不注意で……」

「いえ、僕たちの方こそ荷物を散らかしちゃって……」

そう言ってお互いに顔を上げた時、ぶつかられて彼女たちはティエリアの後ろを見ながら声を失っていた。

「ウェン…ディ……?」

「んあ?」

いそいそと箱を積み上げていたウェンディも、その声のする方を向いて目を丸くする。

「オットー……それに、ディード……!?」

(マズイ!!)

十分に注意はしているつもりだった。
ウェンディやエリオを知っている人物と接触はしないようにしないと、あの二人にとってもこちらにとってもいろいろと都合が悪い。

(どうする……!?どうすれば…)

「あら?二人ともどうしたのかしら?」

「!」

考えている間に今度は太陽の光よりもさらに濃い金色の髪の女性が執事服の少女と同じ色合いのドレスを着た少女のもとへ駆け寄ってくる。
ティエリアは思わずワイシャツとピンクの上着の間に忍ばせていた銃を抜こうとするが、ウェンディに想像以上の力で腕を抑えつけられて止められる。

(!?何を……!?)

(そっちこそ、あたしの姉妹になにする気っスか!!)

(姉妹!?)

確かに姉妹がいるという話はジェイルからも聞いていたが、まさかこんな形で再会することになるとは思っていなかった。
そういうことなら、ティエリアもできれば彼女たちを傷つけたくはないが、不穏な空気を感じ取ったのかオットーとディードと呼ばれた少女たちは臨戦態勢に入りつつある。
しかし、金髪の女性が間に割って入ると素早くティエリアの手をとってその顔をまじまじと見つめる。

「な、なにを……」

「そう……あなたが、漆黒の天使を駆る人なのね。」

「!」

漆黒の天使
それが何を意味するのか普通ならばわからないだろうが、ティエリアにはすぐに理解できた。

「なぜセラヴィーを……ガンダムを知っている……!貴様、管理局の者か……!?」

「いいえ。」

ティエリアの威圧感に富んだ声にも動じず、女性は笑顔で答える。

「私の名はカリム・グラシア。聖王教会に仕える一騎士です。」

その穏やかながらも堂々とした振る舞いにティエリアも銃をだすことも忘れて、ただ茫然と彼女を見つめ返していた。

「よろしければお茶をご一緒しませんか?いましがたチョコポットを買ったのですが、私たちだけでは少々多すぎたようなので。」

「さ、さんせー!ほら、ティエリアも!」

「え!?い、いや、僕は……」

「男の子がグダグダ言うんじゃありませんっス!ほら、行くっスよ!」

「ちょ、ちょっと待った……」

ティエリアが両手でやっと支えていた箱の壁を片手で担いだウェンディは残っていた手でティエリアの首根っこを捕まえると、カリム達の後ろを歩きながらずるずると引っ張っていくのだった。



無限書庫

「それで、我らにもそちらに来いと?」

ディスプレイの向こうではやてはグッと唇を噛んで家族からの棘のある言葉に耐える。
久しぶりの会話にもかかわらず、ザフィーラの機嫌はすこぶる悪かった。
理由は言うまでもなく六課での出来事だ。

「今のキャロのことなど放っておいて、使命を優先しろ……そういうことですか。」

『違うんやザフィーラ……そういう意味じゃ…』

「そういうことでしょう。それとも、また表向きの理由だけで人を振り回すおつもりですか?」

屈強な男の姿だけで十分相手を威圧するのだが、容赦のない言葉がさらにはやてを追い詰める。
そんなことはザフィーラが一番よくわかっているが、ぬけぬけとアースラに乗れと言ってきた無神経さに怒るなというほうがよほど無茶だ。
おまけに、今度もティアナにスバルといった若い芽に加えて傷心のなのはをMSに乗せて戦わせるつもりだというのだ。
たとえ主といえど、このような暴挙が許されるはずが無い。

「とにかく、我々も無限書庫の手伝いで忙しいのでこれで……」

「まあまあ、そんなこと言わないで協力してやれよザフィーラ。」

オレンジに近い金髪をした男が人懐っこそうな笑顔で二人の下までやってくる。
襟もとに白い羽根のバッジをつけた彼はザフィーラと肩を組むと、そのままはやてに敬礼をする。

「行っちゃえって。ここは俺とアルフがいれば十分だからさ。キャロの世話は……アルフにまかせっきりになるけど、なんとかなるって。」

「しかし、司書長……」

「だから司書長じゃないっつってんだろ?この不肖ハイネ・フライシュッツ、副司書長であることも恐れ多いのに、そんな出世をおいそれと受け入れるわけにはいきませんなぁ。」

ケラケラと笑っておどけて見せる現・司書長のハイネだったが、その努力もむなしくその場の空気は一向によくはならない。
しかし、にやけた顔をザフィーラに近づけるとそっと囁く。

(頭ごなしに全否定するより、この子が何をするのか傍でじっくり見てこいよ。)

(ですが……)

(人の価値ってのは過程はともかく結果的に何を為したかで決まるもんさ。彼女やお前らの物語はこんな中途半端なところで終わっていいもんじゃないだろ?それに、お仲間が心配なら自分で支えてやらなくちゃな~。人任せにして偉そうなことを言うよりよっぽど建設的だと思うけど?)

(ぐっ……)

ハイネは強気な態度と巧みな言葉で押しきってザフィーラを渋々ながらもうなずかせるとはやてにウィンクをする。

「そんじゃ、俺はお偉いさんに出さなきゃいけない書類があるからまたあとでな~。」

無重力の空間をゆっくり落ちていくハイネはザフィーラに背を向けると先程までのチャラけた顔から真剣を抜いた侍のように鋭い目つきに変わる。

〈……心配なさらずとも、スクライア様の物語も終わってなどいませんよ。〉

白い羽根のバッジ、ヴェステンフルスはここのところ人のいないときには深刻な顔ばかりしているハイネに優しく語りかける。
そんな彼にハイネも笑って答える。

「心配なんかしてないさ。あいつはいつだって自分の力で自分の望むストーリーを紡いでいく……そういう奴なんだよ、昔っからな。」



喫茶店

ここはマイスター三人のいきつけの喫茶店。
普段ならば雑誌や新聞がうずたかく積まれているのに、女性二人と見なれない青年一人を連れてきたロックオンにウェイトレスは顔を赤らめながらその関係を尋ねるが、残念そうな表情で離れていったところを見ると、彼女の思うような答えは得られなかったようだ。

「女の子に人気なんですねぇ~。」

「あんたさぁ、会話聞いてた?あんたらが俺たちの彼女と勘違いされてたの!」

「?私もうエミリオンと付き合ってますよ?」

「いえ、だからですね……」

「……もういいわ。あんたと話してると疲れる。」

はぁと大きくため息をつくロックオンとそれを見て苦笑する沙慈にギンガは本来の目的を忘れそうになってしまうが、気を引き締め直すと改めてロックオンたちに質問を開始する。
いくら久しぶりの休日だとはいっても、そこは締めなければなるまい。

「それで、あなた方はこの人……リュアナ・フロストハートさんが引ったくりにあっているのを目撃し、犯人を拘束したと。」

「僕は何もしてませんけどね。やったのはほとんどスト…もが!?」

「そ、そうそう!この俺、“ジーン・マクスウェル”がほとんど一人でやったようなもんだっ!なっ!沙慈!?」

ぎこちない笑顔のロックオンとのアイコンタクトで全てを悟った沙慈はこくこくとうなずいて口に当てられていた蓋から解放される。
しかし、ギンガはその態度でいっそう二人を怪しみ始める。

「失礼ですが、出身はどちらですか?ジーンさんは地球の出身だと伺いましたが?そちらの方は?」

「え、えっと。ぼ、僕も地球の出身です。な、なんだかわけのわからないうちにここに飛ばされていて、知り合いの人たちも一緒で。そ、それで、はぐれたマクスウェルさん達にも会えて……」

「次元漂流者ということですか?周りにいた人に相談はされなかったのですか?良識のある方ならば、我々に保護を求めて地球に戻るという方法を教えてくれるはずですが?」

いぶかしげに質問を繰り返すギンガに言葉を詰まらせる沙慈だったが、すかさずロックオンがサポートに入る。

「いやぁ、俺たちの知り合いの一人がこっち出身の奴なんだけど、そいつともはぐれちまってさぁ。そいつが不慮の事故で異世界に飛ばされたらとりあえずミッドに行けって言ってたもんでね。そりゃさ、俺も早いとこ戻りたいと思ってたけどあいつになにも言わないで戻るのも悪いだろ?」

身振り手振りで話すその姿はいかにも胡散臭いが、フゥと一息つくとギンガは手帳をぱたんと閉じる。

「わかりました。そういうことにしておきましょう。」

「おっ!サンキュー!ええと…」

「ナカジマです。ギンガ・ナカジマ。」

「そっか、ギンガか!サンキュー、ギンガ!」

不意に名前を呼ばれたギンガはボッと顔を赤くするが、ばれないようにウェイトレスが持ってきた直径50㎝はあろうかという器にどっさりともられたジャンボパフェでそれを隠す。
だが、

「……それ一人で食べる気か?」

男性陣はその量に顔をひきつらせ、ギンガはさらに顔を紅潮させていく。

「け、健康の証ですもんね!いっぱい食べられるってことは!」

「っっ~~~~~~!!!!!//////」

「このアホ!」

ロックオンは沙慈の頭をはたいて喋りを中断させるが、ギンガはすでに薬缶顔負けの量の蒸気を頭から噴き出し、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
意外にお茶目なギンガと空気を読めない沙慈の二連コンボで気まずい空気が流れ始めるが、この状況を打破する人物がいた。

「それじゃあ、せっかくだから自己紹介しましょうか♪」

「「「は?」」」

「ほら、えっと……袖振り回すも他生の縁っていうじゃない?」

「いえ、近いようで遠いですよそれ。」

「とにかく、ここで会えた記念にお友達になりましょうってことで。」

なに一つ納得はできないが、三人にはこの強引さに逆らう自信も偶然提供された話題の変更に異議を唱える気もさっぱりなかった。

「それじゃあ私からね。リュアナ・フロストハートです。先程はありがとうございました。仕事はお花を育てて売ることで、趣味はお花を育てることで、好きなことはお花を……」

「ダァーーッ!!あんたの花に対する愛情はよくわかったからそこまでにしてくれ!!俺はジーン・マクスウェル!あんたがまともに会話を成立させれば他に希望はない!」

「ハハハ……僕は沙慈・クロスロードです。宇宙開発関連の仕事をしています。」

「マクスウェルさんとは面識がありますが、改めて自己紹介をさせていただきます。ギンガ・ナカジマ一等陸士です。所属は…」

「ああん、駄目よギンガちゃん!」

リュアナはギンガの首がゴキリと嫌な音を立てるのも構わずに顔を両手で挟んで自分の方を向かせる。

「ここではあなたは局員じゃなくてただの女の子!お仕事の話はNGよ!」

「(い、いたた……)で、ですが、それでも私は陸士部隊の隊員として…」

「てい。」

「いたたた!!わ、わかりました!!ギンガ・ナカジマ16歳です!よろしくお願いします!!」

リュアナの魔の手から逃れたギンガはありえない方向に曲がっていた首をおさえて呻くが、リュアナはニコニコ笑いながら耳元でささやく。

「私の見立てだとジーンさんには彼女さんはいないわよ。頑張ってね♥」

「な!!?な、ななな何をおっしゃってるんですか!!?」

「お前こそ何言ってんだ?」

慌てふためくギンガにコーヒーを飲んでいるロックオンがポツリとつぶやく。
その言葉を聞いたギンガはさらに混乱し、照れ隠しのためにソフトクリームがとぐろを巻いているパフェを頬張り始める。

「うわ、すご……」

「あの体のどこにあの量が消えるんだ?」

「あら、女の子の体の半分は甘いものでできているのよ♪」



聖王教会

「それあたしのセリフっス!」

突然ティーカップから口を離して空へ向けて叫ぶ妹にセインはビクリと体を震わせる。

「いきなりなんだ?」

「いや、なんか今ツッコまなくちゃいけない空気を感じて……」

「ツッコまれる側の奴が何を言ってんだか……」

「アホの子のセインに言われたくないっス。」

「何だとコラァァァァァ!!!!もう少し姉を敬うことを覚えろこの野郎!!!!」

「二人とも静かになさい!!アーデさんと騎士カリムが話をできないでしょう!!!!」

「「そういうあんたが一番うるさい!!!!」」

わめくシャッハとウェンディ、セインに頭痛を覚えながらもティエリアは両脇にいる双子が用意してくれたお茶とチョコポットを口に放り込む。

「……甘すぎはしないか?」

「あら?私は好きですよチョコポット。」

「そうじゃない。その予言とやらを僕に教えるのが甘いと言っているんだ。」

カリムは優雅に紅茶を一口飲むが、ティエリアは彼女の見せた予言を書き写したメモを差し出す。

「この予言を僕たち以外に誰に教えた?」

「私が親しくさせていただいている信用できる人たちに。」

「僕が君を消して口封じをするとは思わなかったか?」

次の瞬間、ティエリアの首元に二振りの刃が付きつけられ、体の周りを光の渦が取り巻く。
オットーとディードの目の照準は涼やかにティーカップを手に取るティエリアの顔に向けられ、今にもその身を砕かんとしている。
しかし、カリムは優しく微笑んで二人に目配せをするとオットーとディードはそれぞれの武器を収める。

「不器用な方ですね。」

「周りが勝手にそう言うだけだ。」

「そう思われたくないのなら素直に私のことを心配しているとおっしゃればよろしいのに。」

カリムのその言葉にティエリアは子供のようにムッとするが、すぐさま表情を取り繕って問いかける。

「あなたがた聖王教会は管理局と協力体制にあると考えていいのか?」

「私たちはあくまで中立です。ただ、不義には刃を持って応え、義には祝福を持って応える……それだけのことです。」

「つまり……」

「ええ。たとえそれが管理局であろうとあなた方であろうと、私たちは人としての道に外れる行いは許さず、なにものかを救うための行いには最大限の助力をさせていただくということです。」

大したものだ。
初めての相手には天の邪鬼なティエリアでも素直にそう思ってしまう。
言葉だけならただの綺麗言で終わるのだろうが、彼女たちの気品にあふれる振る舞い、結束力、そして言の葉の一つ一つに込められている信念が心を揺さぶってくる。

「それで、僕たちのことはどう思っている?」

「何か恥ずべきことをしたと?」

「いや。誰にどう思われようと、僕たちは自ら信じるべきもののために戦った。それだけは断言できる。」

「ならば、それで問題はないのでは?己に正直なあなたがそう言うのであれば、きっとそうなのでしょう。」

疑うことを知らないのかと皮肉の一つでも言おうと思ったが、脇にいる二人の視線が痛いので止めておく。
しかし、この予言(カリム曰く予報と言った方が適切)には驚かされる。
曖昧ではあるものの、見事に五機のガンダムの特徴を言い当てているし、乗っているマイスターの情報もあながち間違ってはいない。
ただ、

「……一つ聞きたいんだが、反逆の天人というのはどういう意味なんだ?おそらく僕のことをさしているんだろうが、反逆や天人と言われても身に覚えが無いんだが……」

「それは私にもわかりません。ただ…」

カリムは何かを言おうとするが、思いとどまって口を閉ざす。
自分の立てた予測は彼にとって残酷すぎる。
そう思うと言葉にすることができなかった。

「……そろそろおかえりになられた方がよろしいのではないでしょうか?待ち合わせをしているのでしょう?」

「ん……もうこんな時間か。それじゃあ、そろそろ帰らせてもらおう。」

そう言ってたちあがったティエリアだったが、すぐ後ろに来ていたパイナップルヘッドの放つドス黒いオーラに思わずその場で固まる。

「ど、どうした?」

「……そんなにパツ金がよかったスか?それとも年上だから?」

「え?」

「ティエリアの……バカァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

「ぐほっ!!!?」

全力のボディーブロー。
少女の腕力とは思えないほどの衝撃がティエリアの肝臓を貫き、一時的な呼吸困難に陥れる。
アバラが逝ってしまったのではないかと思えるほどの痛みに膝をつくティエリアの前に箱を山積みにしたウェンディはフンと鼻息を一つ残して足早に去っていく。

「な……なんだって言うんだ……」

「あ~……お兄さん厄介なことになっちゃたね~。でも、一応言っとくけどあれでもあたしらの妹だからさぁ……」

菓子詰めの山にすがりついて立とうとしていたティエリアの首元に再び刃が当てられ、両脇の地面を光の帯が削り取っていく。

「泣かしたらただじゃすまないよ?」

「……………………………」

どれほど過酷な戦いの中でも恐怖を感じたことなどないティエリア。
彼が初めて体感した恐怖は、幸か不幸か女性の機嫌を損ねた時のものだった。



プトレマイオスⅡ コンテナ

「おかえりさん……って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

セラヴィーのハッチから噴水の如く湧きだしてきたカラフルな箱たちに頭をかきむしって叫び声を上げるイアン。
それを飛び越えて出てきたウェンディはそれをきちんと組み立てると、ここまで送り届けてくれた人物に例の一つも言わずにブスッとしたまま部屋へと戻っていった。
そして、わずかに残された(それでも十分に大量だが)箱の間からよろよろと這い出してきたティエリアを見てイアンは驚いて駆け寄る。

「ど、どうした!!?何かあったのか!!?」

「………ボディーブロー。」

「は!!?」

事態が飲み込めないイアンに、ティエリアは持っていた紙袋を差し出す。

「………チョコポットだ。なかなかいい味だったから、後でジェイルと食べてくれ……」

「お、おい!!?」

まるで週末前のサラリーマンのような状態で部屋へ向かうティエリアに、普段と違うその姿のせいでイアンはそれ以上言葉をかけることができなかった。




「おかえり~。楽しめたかい?」

「まあ、そこそこな。」

一方こちらはジェイルに迎えられたロックオンと沙慈。
あの後、ギンガとリュアナの案内&コーディネートでクラナガンの街を歩いても違和感のない服装を手に入れ、ティエリアとは対照的にご機嫌で戻ってくることができた。

「つまらない格好になっちゃったねぇ。あっちの方が面白かったのに。」

「ブッ飛ばすぞマッドサイエンティスト……!街を歩いただけで指さされて笑われたり写真撮られたりする俺の苦しみがお前にわかるか?」

「私はこのまま歩いただけで人(局員)が集まってくるような超有名人だよ!?そんなものすでに体感済みだ!!」

「あんたの場合自業自得だろうが!」

ヘラヘラと笑うジェイルの脳天にチョップを一撃入れたところで付き合いきれなくなったのかロックオンと沙慈はその場を去っていった。

「いたた……まったく、せっかくのいいアイデアが飛んでしまったらどうするんだ。私の脳はそこらの精密機器より繊細にできているというのに……」

そういうとジェイルは自分の手に握られている二つの装飾品に視線を落とす。

一つは腕輪。
金色のリングに青いひし形の宝石がはめ込まれ、淡く輝きを放っている。

もう一つは髪飾り。
ピンの端にはピンク色のバラの飾りがつけられ、その中心には同じ宝石がはめ込まれている。

「フム……ティエリア君とフェルト君の分はこれでいいとして、残るはあと二つ……できれば予備にもう一つ作っておきたいところだな。向こう側にはジュエルシードが五つ……それだけあれば、あの二人用にあのシステムを模したものを作れるな。おっと、相棒となるAIも彼らに合わせなくてはな。」

やることは多い。
だがその分、一研究者としてやる気が出てくるのもまた事実だ。

「さて、今日も徹夜が決定かな?イアンには悪いが今夜も付き合ってもらうことになりそうだ。」

友人泣かせな今夜の計画をたてながら、ジェイルは再びガンダムの整備に取り掛かる。
ロックオンが言っていた自業自得の罪への償いはこれしかないと信じて。





つかの間の平和な日常
明日待っているのは、戦いの中にある日常





あとがき・・・・・・・・という名のキャラ関係紹介2

ロ「というわけで女ったらしが二人追加された第二十話でした。そんでもって女ったらしどもが言い訳を始める前にキャラ紹介に行きたいと思います。」

弟「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!俺たちそんなつもりゼロだからね!!!?」

ティ「というか僕はただ単に脅されただけだろうが!!!!!!」

ロ「そんじゃ、キャラ紹介どうぞ~。」←超無視



トレミー・クルー(異世界組)
・それぞれ別々の異世界に飛ばされたがミッドチルダで合流。合流するまで過ごした別世界での出来事をきっかけに各々が異世界で戦う理由を模索し始める。

新規加入組 ジルベルト、ジェイル
・ジルは刹那がいたエイオースで売り物として扱われているところを助けられ、刹那と同行することを決意する。人の思考を読む能力を持ち、その子供っぽい喋り方に似合わず博識。刹那に主になってほしいと頼むが、刹那にはその気はない様子。
・J・S事件の真相を公表されることを恐れた上層部の人間に消されかけたジェイルだったが、間一髪で救出されてソレスタルビーイングに協力する。イアンとは気が合う友人として接する。

異世界での協力者 クロウ、アイナ
・クロウは友人であるヒクサー、ヴェロッサ、ヴァイスのために。アイナは幼馴染のユーノの手掛かりを求めてソレスタルビーイングに情報を提供する。

クラウディア・クルー
・クロノにはやてと袂を分かったフェイト、ヴィータが合流。フェイトはシュバリエ、ヴィータはもともとティアナが使っていたエスクワイアをカスタムして搭乗する。

カレドヴルフ
・クラウディアを降りたティアナはデバイスとしてのMS、MS・デバイスのテスターを務める。デュナメスの発展型、ガンダムカマエルに搭乗する。
・その後、はやて、なのは、スバルも合流。スバルはエクシアの発展型、ガンダムウリエルに、なのははヴァーチェの発展型、ガンダムサリエルを操る。すでにダブルオー、ケルディム、セラヴィーと戦闘を経験している。

聖王教会
・元ナンバーズ、セイン、オットー、ディードがシスター見習いとして身を寄せている。
・カリムは自らの預言を親しい人物に伝え、そのうえで中立の立場を貫くことを決定している。

管理局
・実質的にファルベルが実権を握る。レジアスは娘であるオーリスを人質に取られ、ゼストとともに従わざるを得ない状況下に置かれる。

レジスタンス
クラッドを中心に反管理局の色が強い世界を回り協力者を集う。現在はエイオースで独自にMS開発を進めている。

シグナム、アギト、ブリジット
・責任を感じて剣をとることをためらうシグナムだったが、アギトの説得、そしてブリジットを守るために再び戦いの中に身を投じることを決意する。現在はゼストの行方を追いながらエイオースで社会奉仕活動を行っている。
・闇の書の守護騎士であったシグナムを激しく憎悪していたブリジットだったが、『騎士としてふさわしくない行いをしたら命を貰い受ける』という契約を結び、行動を共にする。



ロ「という感じです。」

弟「オイ!!それより俺たちの女ったらし疑惑を……」

ロ「事実なんだから受け入れろよなこのスケベども。」

ティ「スケベにランクアップした!!?」

弟「その称号はユーノで充分だろ!!!!」

ロ「いや、あいつはもうエロリストのレベルだから。」

弟「何その造語!!?なんかもう救いようない感じなんですけど!!?」

ロ「それじゃあ、エロリストが出てくる次回の予告へゴー!」

ティ「それよりスケベという呼び名を撤回しろ!ったく……次回はI編!」

弟「フォンとの合流を果たしたユーノ達。」

ティ「そして、ハーミヤが仲間の一人だとわかったテリシラは彼女を覚醒させる。」

弟「地上では、ビサイドを仕留めることができなかったヒクサーの下へあの二人が駆け付ける!」

ティ「そして、最後の仲間が覚醒の時を迎える……」

弟「はたして、ヴェーダの目的は一体何なのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 21.明かされた真相
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/02/24 23:49
クルセイド コックピット内

ディスプレイから入ってくる星々の輝きを透明な瓶に通してみる。
乱反射を繰り返しながら自分の目に飛び込んでくる光が、今のユーノには恨めしくて仕方なかった。

「残りちょっとか……」

底に残されたわずかな錠剤がユーノの命綱だ。
しかし、その命綱ももうまもなくぷっつりと切れつつある。

『忘れないで。薬が切れたらいつ発作が起こるかわからない……いいえ、それどころか今までのツケが一気にやってくるかもしれない。注意して。』

いまさらシャマルの言葉が脳内でリフレインする。
医療担当のアニューがどうにかしてみるとは言っていたが、どこまで再現できるものか。

「ま、アロウズとイノベイドを倒せるまでもってくれればいいさ。」

「死ぬのが怖くないのか?」

「今さらだよそれ。」

ユーノは錠剤を取り出して飲み込むとカラカラと笑う。

「故郷で赤ん坊のころに死にかけ、クロアで死にかけ、ジュエルシード事件で死にかけて、こっちに飛ばされる時も死にかけて、向こうに戻る時も死にかけて……少なくとも計5回は死んでいる命だ。やることやった後で後生大事にすがりつこうとは思えないよ。」

「……家族はどうする?」

967の言葉にユーノの笑い声が止まる。
しかし、笑顔で、でも悲しそうにその質問に答える。

「犯罪者の親や夫なんて欲しくないだろ?」

「だが……」

「はい!暗くなるからこの話おしまい。ほら、エウクレイデスがお出迎えだよ。」

独特の形状をしたオレンジと白のファクトリー艦を視認すると、アリオス、VTOLが次々にコンテナへ向かって飛んでいく。
ユーノも話を打ち切ってクルセイドを向かわせるが、967はどうしても心に引っかかるものがあった。
自分を犠牲にしてでも他人を助けようとし、誰よりも孤独を嫌うくせにそれを悟られないように笑うユーノが恋人や友人たちのことをそう簡単に吹っ切れるはずがない。

(……馬鹿な奴だ。もう少し甘えて生きられれば楽になれるだろうに。)

もちろん口には出さない。
それに、967自身ユーノと似たようなものなのだから指摘できる立場ではない。
ミッドチルダにいた時もジェイルやゼストからそのことで嫌味や皮肉の嵐にさらされたにもかかわらず変えようとしなかったのだから筋金入りだ。

(……俺も反省しないとな。)

すでに二週間以上たっていまさらだとは思うが、そう心に誓う967であった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 21.明かされた真相


地上

「あばよ、死に損ない。」

ボロボロのラジエルとそのそばで倒れているヒクサーを一瞥したビサイドはアイズガンダムで遥か彼方へと去っていく。

(レイヴの肉体を取り戻さなければ俺は六人の仲間に戻れない……よみがえったレイヴがまず向かうとしたらテリシラ邸か。)

ビサイドは操縦桿を倒して目的地に向かって飛んでいくが、その姿が見えなくなると今度はそれにかわって水色の戦闘機が降りてくる。

「ヒクサーーーー!!!!」

セファーから降りてきた887は目を潤ませながら全速力で駆け寄ると、全身を使って倒れていたヒクサーの体をゆさゆさと揺する。

「ハ…ヤナ……」

残っていた力を振り絞って起き上がったヒクサーだが、887はいるもと違って手を貸そうとせず、まず彼を怒鳴りつけた。

「だからあたしがついてくって言ったじゃない!!!!『自分の親友の仇で君には関係ないよ、かわいい887。』なんてカッコつけちゃってさ!!」

怒り顔、自分のモノマネ(若干の脚色あり)、泣き顔とコロコロ表情を変える887の頭をなでてヒクサーは安心させるようにフッと笑う。

「そうだね、悪かったよ……」

「バカ……!!本当に心配したんだから!!」

涙をぬぐった887はヒクサーに肩を貸して立たせると、一転して優しく語りかける。

「今度は二人で戦いましょう?二人ならあんな奴ギッタンギッタンにできるわよ!」

「ああ、そうだね……」

口ではそう言うが、ヒクサーの心は変わらない。
グラーベのためにも一人で戦いのもそうだが、それよりも友人たちを巻き込んでしまうことが恐ろしい。

『それで俺の敵、お前を撃て。』

ビサイドの残した言葉がはっきりと耳に残っている。
グラーベの『生きろ』という最後の言葉に救われはしたが、もし銃口の先が自分の頭ではなくヴァイス、ヴェロッサ、そして887たちだったとしたら?
またあの時と同じことになっていたら……
考えただけでゾッとする。

「元気だしなよ!ラジエルを修理して出直そうよ。」

「いや、修理は無理だ。シャル達も今は手一杯だし、僕のわがままで迷惑をかけるわけには……」

「オイオイ、誰が手一杯だって?」

「「!!」」

上から聞こえてくるエコーのかかった声に二人は空を見上げる。
太陽を隠していた二つの大きな影がラジエルの傍に着陸すると、その胸の部分からパイロットスーツに身を包んだ二人の人物が出てくる。

「水臭いよヒクサー。ラジエルが完成したら一人で行っちゃうなんて。」

「ヴァイス、ロッサ!」

なぜここに。
そう言おうとする前に、コックピットから降りてきたヴァイスから軽く拳骨で小突かれる。

「信用ねぇなぁ俺たち。心配症にもほどがあるだろ。」

「でも、ビサイドは……」

「話は967君から聞いたよ。そのうえで僕たちは君に協力するよ。それに、秘策があるしね。」

「秘策?」

887は首をかしげるが、ヴェロッサはニヤリと笑って後ろの二機を指さす。

両肩に大型のセンサーとスナイパーライフル。
脇には固定式の二つの高出力ライフルが装着されている藍色のMSは見るからに砲狙撃戦用のものだ。

左手に盾、右手にライフルを持つ青、白、赤のカラーリングの機体の背中には今まで無かった鋭い“牙”が六つ、盾にも同じものが六つずつついている。
こちらはトリッキーな戦術が期待できそうである。

「なるほどね。でも、ガンダムを強化するだけじゃビサイドには……」

「こいつらはあくまで秘策のための隠し玉その一とその二だ。要は別にある。」

「要?」

ヴェロッサが上をむいた後でニコリと笑うとヒクサーも彼らの思惑が見えてくる。

「そうか……!それなら確かにビサイドに対抗できるかもしれない!」

かすかだが希望の光が見えた。
しかし、彼の力を借りる前にラジエルを修復しなければならない。

「そんじゃ休みが無くてちっときついけど、シェリリンと一緒に頑張りますかぁ!」

「ああ!ビサイドの奴にひと泡吹かせてやろう!」



エウクレイデス ブリーフィングルーム

「なるほど、六人の仲間のうち覚醒してメンバーになっているのはまだ四人というわけだ。」

無重力下で体を支えるための手すりに腰かけているフォンだが、もともとエウクレイデスの乗組員はフォンと874だけ。
しかも、874に至っては実体を持たないのでフォンのその行為をとがめるものはいない。
無論、レイヴもそんなことなど気にせず説明を始める。

「レイヴ・レチタティーヴォ、つまり僕は仲間を見つけ出す者。テリシラ・ヘルフィ、仲間を覚醒させる者。ブリュン・ソンドハイム、仲間を繋ぐ者。ラーズ・グリース、機械を統べる者。そして、ビサイドが僕の能力で見つけ出したリジェネ・レジェッタ。その能力は未知です。」

レイヴから聞かされて初めて彼らの能力の詳細を知ったフォンだが、ここである疑問が生じる。

「おかしいな。」

「何がです?」

「ヴェーダは六人の仲間にわざわざ能力を付加している。それはメンバーが揃った後の行動に役立てる能力に違いない。」

「僕もそう思います。」

そこでフォンがニヤリと笑う。

「なのにだ。レイヴとテリシラ、お前たち二人は集めるための能力であってメンバーが揃った後は役に立たない……そうは思わないか?」

「あ……」

言われてみればそうだ。
仲間を集めるのに必死で気付かなかったが、レイヴとテリシラの能力は仲間集めのためであってブリュンやラーズのように直接的な意味を持たない。
つまり、考えられる答えは……

「考えられるのは二つ。六人の仲間が揃ったら我々二人には別の能力が付加される。もしくは六人が揃った後も今の能力が役に立つ。違うか?」

「ドクター!!」

レイヴは話しも半ばでドアを開けて入ってきたテリシラへ手を伸ばす。
テリシラも笑顔でレイヴを受け止め、固く抱きしめる。

「よかったな、レイヴ。」

「ありがとう、ドクター……」

「感動の再会の最中悪いけど、ドクターの推測の他にもう一つ可能性がある……そうじゃないのか、フォン。」

続いて現れたユーノの言葉に誰もがフォンに注目する。

「選ばれた六人というのはお前たちを除いた人数だ。つまり……お前たちの役割はそこで終わる。用済みだってわけだ。」

一同がごくりと唾を呑む。
それはつまり、ヴェーダから不要と判断されるのと同じ。
回収され、リセットを受け入れることになるかもしれないのだ。

「失礼ですが、その可能性は低いのではないでしょうか?」

しかし、レイヴとテリシラの不安を払拭するように、アレルヤ達に連れられてやってきた銀髪赤眼の女性が毅然と反論した。

「誰だ、てめぇ?」

「夜天の欠片、リインフォースと申します。以後お見知りおきを。」

「で?お前がこの二人が不要になる可能性が低いと言い切る根拠はなんだ?」

ギラリと光るフォンの瞳にも臆せず、リインフォースは自らの依代である魔導書を片手に一歩進み出る。

「まず、もしそのヴェーダがそれほど高性能ならば彼らの性格を考慮して何らかの反抗を受ける可能性を考慮するでしょう。それに、六人の仲間と接触を持たせる理由もないはずです。仲間として加わるならいざ知らず、わざわざあれだけ人間じみた感情の持ち主たちと関係性を持たせればデメリットこそあれ、メリットは無きに等しいはずです。それこそ、レイヴが一人で仲間を見つけてヴェーダに申請して覚醒させる。それだけで十分のはずです。」

「ヴェーダがもしミッションの遂行を強制してきたら?」

「そうできる機会やそうすべき時は何度もありましたが、ヴェーダから介入を受けた痕跡はありませんでした。つまり、ヴェーダ自身がこの選び方に何らかの重要な意味があると考えていて、なおかつ二人もその後、重要なポジション占めるということになるのではないでしょうか?それと……」

リインフォースはニタニタと笑うフォンを睨みつける。

「私を試すのはやめていただきたいですね。同じことを考えているのに道化じみた扱いを受けるのはいい気分がしません。」

「ちょ、ちょっと、リインフォース…」

リインフォースが魔力を放出し始めたことに気付いたユーノは慌てて二人の間に割ってはいるが、フォンは笑みを消さずリインフォースも渦巻きはじめる魔力を収めようとはしない。

「あなたはもっと利口な人間だと聞きましたが、己の興味のために身を危険にさらすのは得策とは言えませんよ?」

「虎穴に入らずんば虎児を得ずって言葉があるのを知らないのか?それと、俺は別にお前を脅威だとは思ってないんでな。」

「面白い冗談ですね。試してみますか?」

「ハッ……上等だ。ボコボコにした後エアロックから放り出してやるよ。」

フォンもフェレシュテをセットアップしてGNプロトソードを展開し、戦闘準備を整える。
艦の中で戦闘を行うなど遠慮してほしいものだが、誰も二人を止めることができない。
……かに思われた。

「!?」

「ほう…」

強制的に魔力の放出とデバイスの展開を解除されたリインフォースとフォンは、魔法陣を展開してこちらに厳しい視線を向けているユーノの方へ振り向く。

「いい加減にしないと、ふたりとも僕が相手をするよ?」

「……はい。」

「余計なことを……」

魔法陣を消したユーノがホッと一息つくと、フォンが話し始める。

「仮に六人が揃った後もお前たちの能力が生かされるなら、残り二人のうち片方の能力は確定する。そして、ヴェーダの目的もな。」

「で、その心は?」

「鈍い奴だな。つまり……」

「フォン、887とヒクサーから通信です。」

タイミング悪く入ってきた通信にアレルヤは渋い顔をするが、画面の向こうではヒクサーが笑顔で話している。
そして、今度はテリシラに用がある人物の顔がすぐ間近で出現する。

『兄さん!!いるんだろ!!』

「スルー!?」

どアップで出現れたスルーの顔に思わず後ろに下がってしまうが、スルーは興奮した様子でまくしたてていく。

『ガンダムがやって来て家がドカーンってなって!!そこにラーズが現れてビビビってやったらガンダムが逃げてラーズもそのままどっかいっちゃって!!』

「……とりあえずサクヤに代わってくれ。」

モニターにすがりつくスルーを強引に押しのけて登場したサクヤは、つい先ほどあった出来事のいきさつを説明し始めた。



20分前 テリシラ邸 地下

「は~……兄さんまだ帰ってこないのかなぁ?」

「世に言うブラコンというものですか?」

「あんたホントいい性格してるよな……!」

いつものようにブリュンの前でコントを開始する二人と、自分の着せ替えを妄想して別世界へ旅立ちつつあるハーミヤに心の中で苦笑するブリュン。
賑やかなのはいいことなのだが、これではテリシラが帰ってきたときに疲れを癒せるのか疑問が残る。

(あの、皆さんもう少し静かに……)

そう言おうとした時だった。
轟音と同時に屋敷全体が大きく揺れ、それまで騒いでいた三人も何事かと身を寄せ合う。

「なんだ!?」

(この脳量子波……ビサイドのガンダムです!!)

庭先にもう一発ビームが着弾し、地下室の天井から細かな塵が降ってくる。

「クソッ!!MSさえあれば……」

悔しがるスルーだが、たとえMSがあったとしても相手はガンダム。
勝ち目があるとは思えないが、それでもそう思わずにはいられないのだろう。

「テリシラ!!レイヴ!!出てこい!!」

レイヴと同じなのに、乱暴なその声に怯えるブリュン。
しかし、その恐怖心をグッとこらえて脳量子波で語りかける。

(こ、ここにはお二人はいません!)

「ほう……それは困ったな。なら、二人をおびき出すためにお前たちを始末しようか!!」

「「「!!」」」

今度は屋敷へ銃を向けて、本気で四人を撃とうとしている。
スルーは悔しさで歯ぎしりを、ハーミヤはギュッと固く目を閉ざしてその時が来るのをただ待つことしかできない。
だが、

「なに!?」

突如コントロールを失ったアイズガンダムはよろよろと地面に膝をつきそうになるが、なんとかそれをこらえる。
しかし、未だに不安定な状態は続き、必死に操縦桿を動かして態勢を保とうとするビサイドの視界に以前仕留め損ねた銀髪が入ってくる。

「立ち去れ!!俺の覚醒された能力は知っているだろう!!今すぐ去らなければそのサーベルでコックピットを貫くぞ!!!!」

(お父さん……)

「ぐ……旧世代のイノベイドめ……どこまでも邪魔を……!!」

「去れ!!!!!!」

「クッ……!!」

ラーズの能力、何よりその気迫に押されたビサイドは尻尾を巻いて逃げだす。
スルーたちはラーズに会おうと階段を駆け上がるが、それより早くラーズは去っていく。
だが、

(ブリュン、ユーノ・スクライアはいるか?)

(え……?)

(……いや、いないならいい。)

その言葉を最後に、ラーズは庭先から姿を消していた。



現在 エウクレイデス ブリーフィングルーム

『というわけです。』

「そうか……ビサイドも焦っているようだな。」

「でも厄介ですね。焦っている分手段を選ばなくなってきている。早く対策を講じないと……」

『そこで、君や僕たちの出番というわけさ。』

隣のモニターにいたヒクサーがミッションプランを送ってくる。
それを見たユーノは目を丸くし、次いでこめかみを押さえて唸りながらヒクサーをジト目で見る。

「個人の能力に頼りすぎじゃない?」

『でも、ビサイドを排除するには一番いい方法だと思うよ?』

887とヴェロッサ、ヴァイスまでニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。
こうなってはどれだけ反論しても無意味だろう。

「わかったよ。そのかわり、僕もどれだけ効果があるかは保証できないよ?」

『協力してくれるだけで十分さ。ただ……』

ヒクサーの表情が一転、厳しいものに変化する。

『とどめは僕に任せてほしい。……奴から謝罪の言葉が聞きたい。』

そんな奴ではないだろうが、ヒクサーは本気だ。

「……わかった。こっちもついさっきレイヴが六人目を見つけた。……偶然だけどね。」

そして、誰も予想していなかった人物だ。
というより、彼女であるはずが無いと決めてかかっていただけなのだが。

『それじゃあ、今から私たちも向かいます!!待っててくださいね!!』

最後の仲間、ハーミヤはそうであることも知らずにはしゃいだ様子で通信を終了した。
すると、今度は顔をつきあわせて地上、宇宙で分かれているメンバー全員で今後の算段を練り始める。

「で、五人集まるのは確定としてその後はどうするんだい?」

「サクヤを覚醒……は無理だな。もし仲間候補に選ばれているのならレイヴが気付くはずだ。」

「リンクが切れているから?」

「だとしても、リンクが回復したらヴェーダが何をするかわからない。どの道無理な話だ。」

アレルヤとマリーの提案を却下したテリシラは何やら一人で考え込んでいるレイヴへ視線を向ける。
もっとも、レイヴの考えていることなどお見通しなのだが。

「……リジェネを覚醒させる気か?」

「本気ですかレイヴ!?彼は…」

「わかってるよリインフォース。けど、リジェネを覚醒させれば六人が揃う。それで何かがわかるのなら、僕は彼を覚醒させるべきだと思います。」

「俺は兄ちゃんに賛成だな。」

「僕も。それに、いざという時は僕らで何とかすればいい。そのためについていくんだしね。」

結局、フォンとユーノに押し切られる形でそういうことになる。
すると、今度は二人きりになったところでフォンがユーノに尋ねる。

「オイ、あの能力はなんだ?」

「え?」

「さっき俺とあいつの魔法を解除したあれだ。AMFでも使ったのか?」

「いや、四年前にタクラマカンのミッションの時に使えるようになったんだ。……あんまり思い出したくないけどね。」

渋い顔で肩をすくめるユーノだったが、フォンはいつもと違って皮肉の一つも言わずに真剣な表情で考え込む。

(コイツの能力……普通に考えれば何かがトリガーになって解放されたと考えるべきだろうな。RPGじゃあるまいし、経験を積んで習得したとは思えない。)

その時、ふとフォンの脳裏にミッドチルダで最高評議会のいた場所に踏み込んだ時の記憶がよみがえる。
あそこにあったデータの中には不自然な形で消されていたものがあった。

(19年前の翠玉人虐殺事件……その時に殺された翠玉人の長に関する一切の情報が消されていた……んでもって、こいつもあの時の関係者……つうより、数少ない生き残り。ただの偶然か?)

そんなわけがない。
だとしたらユーノの力は翠玉人、そしてその中でも重要な何かであったと考えるのが妥当か。

「……どっちにしろ、向こうに行ってからの話だな。」

「なにが?」

「いい気なもんだな。ひょっとしたら向こうに行ってからはお前が話の中心になるかもしれないんだぞ。」

珍しく不機嫌な様子でその場を後にするフォン。
その理由がわからず首をかしげるユーノだったが、彼自身も心のどこかで違和感のようなものを感じ取っていた。



軌道エレベーター

「私が仲間……♪」

案の定ポワポワと浮かれているハーミヤに溜め息を一つもらすテリシラだったが、サクヤをさがらせて彼女の手をとる。
そして、

「目覚めろ!」

テリシラの瞳が輝き、ハーミヤはビクンと背中をのけぞらせて同じように瞳を輝かせる。

(どうですか、ハーミヤさん!)

スルーとともにテリシラ邸に残っていたブリュンもワクワクしながら彼女の能力がなんなのか尋ねる。
それはこの場にいるみんなも同じである。

「あ……」

「あ……?」

「あんまりよくわかりません~……」

「…………………」

肩すかしである。
ハーミヤの能力が何か分かればリジェネの能力を解放しなくてもよかったかも知れなのに、結局何もわからずじまい。
となると、上で待っているリジェネの能力を解放して六人をそろえるしかない。

「ところで、ユーノ達は?」

サクヤは辺りを見渡すが、フォン以外にマイスターの姿が見当たらない。
協力関係にあるにもかかわらず、この重要な場面で参加しないのはいかにも妙だ。
そう思いながらきょろきょろするサクヤだったが、テリシラがポンと肩をたたく。

「心配ない、彼らには彼らの役目があるのさ。」

「!……そういうことですか。」

「ああ。目に目を、というやつだ。」




高軌道ステーション 無人区画

「やあ、待ってたよ。」

後ろにガルムガンダムを、そして手にはデバイスと物騒なものをそろえているパイロットスーツ姿のリジェネはやってきたレイヴ達一同を迎え入れる。
サクヤはその笑みにハーミヤと同じようにテリシラの後ろに隠れようとするが、意を決すると自ら前に進み出る。

「それで、サクヤとそっちの小さな子、どちらが新しい仲間なんだい?」

「ハーミヤが六人目です。」

「ふーん……それはそうと、君が本物のレイヴ君か。危うく僕もビサイドに騙されるところだったよ。これでテリシラ先生との誤解も解けたね。君が元に戻ってくれて本当によかったよ。しかし……」

リジェネはこの場にいる者の中で唯一イノベイドではない存在へ不愉快そうに視線を向ける。

「関係のない者が来ているようだが?」

「フン、見届け人さ。いきなりMSで皆殺しにされても困るからな。どっかの誰かさんを襲ったようにな。」

「僕が?仲間を殺そうなんて考えるはず無いじゃないか?」

「あげゃ。ガンダムで来ておいてか?」

「僕だって身を守る必要がある。大体、仮に僕が本気で戦ったら……」

リジェネの瞳が怪しく光る。

「君たちには防げない。だろう?」

不遜ともとれる余裕の発言。
しかし、その言葉をフォンは真っ向から否定する。

「いや、いくらでも手はあるぜ?」

フォンの獣じみた笑いにリジェネは不機嫌そうな顔になるが、すぐに涼しい顔を取り繕う。

「まあいい。彼と話したところで無意味だ。僕を覚醒させてくれるのかい?」

「……あなたを仲間に迎え入れようと思います。」

「フフッ!正しい判断だよ。人類のため、イオリア計画のため尽力することを約束するよ。」

「ドクター、お願いします。(……二人とも、フォンのところへ。)」

(はい。)

(です!)

テリシラがリジェネに近づいていくのに対し、レイヴ達はじりじりと距離をとっていく。
そして、

「目覚めろ!!」

テリシラが手をかざす。
しばらくの間、リジェネは呆けるように虚空を見つめていたが、ふいにニヤリと笑うとガルムガンダムの方を向く。

「ハッ!!」

まるで子供が言うことを聞かないペットに命令するように無造作に指をさすと、コーン型のプロテクターで防御されていたはずの太陽炉が飛び出し、残された穴からは光が溢れだしている。

「オリジナルを含めた太陽炉のコントロール……!これが僕の能力か!!ハッ…ハハハハハッ!!!!」

最悪の能力が最悪の人物に与えられてしまった。
太陽炉をコントロールできるということはつまり、現在使用されているMSのほとんどを無力化できるということだ。
とうぜん、ガンダムも例外ではない。

「ソレスタルビーイングだろうがリボンズだろうが、僕のこの力の前にひれ伏すことになる……!」

「勝手なことはさせない!その力はヴェーダが…」

「わかっているさ。僕だってイオリア計画は重視している。ただし、僕のやり方で計画を進めたいだけさ。」

「あげゃ!わかってねぇな!」

フォンがレイヴの前に立つ。

「そんな能力、ヴェーダが想定した使い方以外になんの利用価値もないぜ。」

「!?」

「何を馬鹿な……この能力の強力さがわからないのか?太陽炉搭載機の全てが僕の前にひざまずく。地球連邦もソレスタルビーイングも、誰も僕に手出しは……」

〈Set up!〉

「!?ガァッ!?」

押し倒されたリジェネの顔のすぐ横に分厚い刃が突き刺さる。
頬を流れる赤い血にそれまで余裕をみせていたリジェネも流石に恐怖で凍りつく。

「手出しできたなぁ?イノベイド。」

「ひっ……!!」

「フン……つまらねぇやつだ。おおかた、ユーノを追い詰めたのも周りの人間を盾にしてなんとかなったってところなんだろ?」

「なにを……!!!!」

わずかに残っていた勇気をかき集めて何とか言葉を絞り出すが、フォンは臆病者の言葉など聞く耳持たないと言った様子でテリシラ達の方を見る。

「オイ、何か変化はないか?この馬鹿の馬鹿な姿を見るためだけに馬鹿なことしたんじゃ世話ないぜ?」

「い、いえ……今のところは何も……っ!!?」

その時、四人は同時に頭を押さえて呻く。
それを見ていたフォンは満足そうに鼻を鳴らす。

「始まったか……来るべき対話に向けての新たなシステムの発動が!!」



オービタルリング周辺

「姉さんからビサイドの位置が送られてきたわよ。」

「了解!……しっかし、胃が痛くなるぜ。ばれてないだろうな?」

「何言ってくれてんのよ。あんたとテンペスタが上手くやってくれなきゃアロウズがわんさかやってくんのよ?」

ヴァイスの操るサダルスード・テンペスタが先行する形で低軌道リングを進む一向。
サダルスードに新たに取り付けられた機能、アクセス型ジャミングとそれを生かしきるストームブリンガーがいなければ、とうの昔に発見されているだろう。

〈司書長がプログラムを構成してくれていなければこう上手くはいかなかったでしょう。〉

「そんな大したことじゃないよ。子供だましのレベルの代物さ。」

「……子供だましで世界最高水準の監視プログラムをハッキングして出しぬかれたらあたしらの今までの苦労はどうしてくれるわけ?」

「まあ、安全に進めるんだからよかったということで……」

セファーを操る887はユーノの発言にイラリとくるが、ヒクサーのなだめの言葉に頬を朱色に染める。
しかし、そんな887と一緒にいるだけで、いや、こうして仲間に囲まれていること自体がヒクサーにとっては辛くて仕方が無かった。

「すまない、887……ロッサにヴァイスも……」

「なんだよ急に。」

「これは危険な作戦だ。いまからでも、僕だけで…」

「もう!そういうの言いっこなし!」

「!」

驚くヒクサーに887たちは追い打ちをかける。

「あたしはあたしの意志でやるの!文句なんて言わせないよ!」

「僕もさ。おいてけぼりはもうごめんだよ。」

「お前はほっといたら何するかわかんねぇかんな。俺たちみたいなのが一緒にいてちょうどいいんだよ。」

「僕はあなたのことはよく知らないけど、みんながここまで言ってくれているのにその想いを無視するのは許されないんじゃないかな?」

「ここまで来て退く人間なんていないよ。それに、ここでおめおめ帰ったらシャル達に何をされるかわからないよ。」

「だそうだ。俺もまだ分解されるのは勘弁願いたいんでな。」

六人それぞれの自分への思いやり。
あの日、グラーベを失ってから二度と手に入らないと思っていたものが今再び、自分の傍にある。
それだけで、泣きそうになってしまう。

「……ありがとう、みんな。」

それは、ヒクサーを縛っていたものが解けた瞬間だった。
親友を撃ち、その苦しみの呪縛にとらわれながらも足掻き抜いてやっと手にすることのできた強さ。
再びできた仲間が、ヒクサー・フェルミを復活させたのだ。



軌道エレベーター

「っ………はぁはぁ……」

ようやく落ち着いたのか、四人はフラフラと立ち上がる。
それを待っていたフォンはレイヴに問う。

「で、ヴェーダはなんだって?」

「僕ら六人の仲間の役割。それは……」

「それは?」

「新たなる監視者!!」

「ほぉ……」

大体の予想はあっていたが、問題はなぜその役割にイノベイドが駆り出されたかということだ。

「イオリア計画はヴェーダの行動の是非を判断するため、その時代の人間から監視者を選びだし、拒否権を与えてきた。」

イオリア計画には大きく三つの知性体が関連している。
まずは、言わずもがな人間。
そして、世界最高峰の量子演算コンピューター、ヴェーダ。
最後に、ヴェーダの端末として役割を果たし、機械と人間の間に存在するイノベイド。
この三位一体の計画進行こそが理想形となるのだが、今までイノベイドには拒否権は与えられていなかった。
だが、

「しかし、人間による監視者だけでは計画の大きなゆがみを正せなかった。そこで、僕たちイノベイドの監視者を設置し、拒否権に代わって特殊能力が付加された。」

レイヴ 監視者を見つける力
テリシラ イノベイドの能力解放
ブリュン イノベイドの監視者を繋ぐ力
ラーズ 機械を……ヴェーダを制御する力
リジェネ 太陽炉を制御し、計画にそぐわない戦いを止める力

「バカな!!!!」

リジェネは大声で怒鳴るとわなわなとふるえる自分の手を見ていっそう怒りを深くする。

「監視者だと……!?これだけの力があればもっと計画を理想の形に変えられるのに!!」

「だが、お前の力はそのためのものだ。それ以下でもそれ以上でもない。無敵になれなくて残念だったな、チキン野郎。」

「うぅぅ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

膝をついたリジェネは何度もこぶしを床に打ちつける。

何度も
何度も何度も
何度も何度も何度も

そして、手の部分の素材がすりむけ、血がうっすらとにじんでいる甲を見る。

「フッ……フッ…フフフ……ハハハハハハ!!」

突如笑いだしたリジェネにぎょっとするレイヴ達だが、今度はその顔を見てさらに背中をうすら寒いものが下から昇ってくる。

「いいだろう……ならば監視者として最初の仕事だ……!このメンバーでは計画を進められない。新たなメンバーのためこいつらを排除する!」

「リジェネ!?」

一人だけ非常口へ向かうリジェネを引きとめようと手を伸ばすレイヴだったが、引きとめることは叶わず、さらに事態は悪い方向へ向かい始めることになる。

「ビサイド、やれ!」



外部

「レイヴの体は確保してあるんだろうな?」

『もちろん。僕も仲間を見つけられるやつは欲しいからね。』

「ならば派手にいくか!他のメンバーが死ねば再び俺が『六人の仲間集め』を支配できる!!」

ビサイドが狙いをつけるのはレイヴ達がいる区画そのものではなく、その外壁部にある六角形の金属の塊。
軌道エレベーターという構造的に不安定な建造物を支えるのには不可欠なアンカーだ。

アイズガンダムの持つライフルから閃光が奔る。
当たったその瞬間はただ金属の塊が静かに離れていくだけだったが、数秒後には内部に大きな振動が発生した。



内部

「!!?」

「この振動は!!?」

「ひ~ん!!」

三人が慌てふためく中、リジェネだけは悠々と地上行きのリニアトレインが待つステーションまで進んでいく。
ビサイドすらも出し抜いたという優越感に浸りながら。

「バカな奴だ……君も六人の仲間に入れないんだよ。そのための肉体を自分で殺すんだからね。」

意気揚々とこれからのことを考える余裕があるリジェネに対し、レイヴ達の動揺は大きい。
軌道エレベーターという密閉されて逃げ場のない空間でこれだけ大きな揺れに襲われれば冷静でいろという方が無理かもしれないが。

「ビサイドの仕業か!?」

「私たちここで死ぬんですかぁ~!!?」

「……いや。」

フォンは端末を取り出して外の様子を把握すると、三人にもそれを見せる。

「そうはならないだろうぜ。」



外部

「!?」

もう一つアンカーを破壊しようとしていたアイズガンダムだったが、後ろから飛んできた鋭い光をその身をひるがえしてかわす。

「攻撃だと!?どこから…っ!!」

不穏な気配を感じて再び操縦桿を大きく倒すと、それまでアイズガンダムがいた場所を見えない何かがいくつも駆け抜けていく。
いや、それは方向を変えるとなにもないように見える空間から赤い刃を出現させて再びアイズガンダムに襲いかかる。

「一体何が……っ!?」

誘導された先に待っていたのはオレンジと白の戦闘機。
先端を大きく開けてアイズガンダムをはさみこもうとするが、ビサイドは間一髪でそれもかわす。
すると、今度は光弾の豪雨が襲いかかり、さらに逃げ場を奪っていった。
動揺するビサイドだったが、まだ終わりではない。

『僕は……いや、僕たちは君を許さないよ、ビサイド!!』

「この声……!!ヒクサー・フェルミか!!」

背後に迫っていたGNプロトビットの光線をかわし、自分の周りを取り囲む五機のガンダムを見て冷や汗を流し始める。

「……ここまでだな、ビサイド。お前犯した罪……今この場で償え!」

ヒクサーと同じく、浅からぬ因縁を断ち切るべく967はコックピット内にその姿を顕現させた。






新たなる監視者たちの物語
その終幕は近い……





あとがき・・・・・・・という名の次回に続くぅ!

ロ「というわけでいよいよヴェーダの目的が明らかになった第21話でした。そして次回もI編にして一気に終わらせるつもりです。」

毒舌医師「今回グダグダになったから焦り始めたな。」

ド天然「魂胆丸見えですね~。」

ロ「うるさいわヤブ医者に幼女!!焦らし過ぎたせいで皆様から『ねぇ、トレミーとまだ合流しないの~?ユーノの秘密って~?』って感じの感想がわんさか寄せられ始めたんだからここいらで区切っときたいの!!」

学生「うわ~……自分勝手~……」

バツイチ「独裁者か?」

女装君「もっと性質悪いですよ。」

ロ「お前ら全員そろったからってここぞとばかりに責めてくるんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!もう辛いから次回予告へゴー!!」

学生「いよいよ次回でI編は完結!!」

毒舌医師「ビサイドとの最終決戦がついに幕を開ける!」

ド天然「しかし、その一方で軌道エレベーターには崩壊の危機が訪れる!」

女装君「外壁のパージによる地上への被害を押さえるため、お父さんがその力を振るう!」

バツイチ「そして、レイヴ、ヒクサー、967とビサイドの因縁はどのような形で決着を迎えるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございました!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 22.決着の時
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/02/28 20:42
西暦2293年 地球 紛争地帯

ここはアジアのとある紛争地帯。
太陽光発電にかかわる小競り合いが頻発する昨今において紛争は特に珍しいことではないのだが、この光景を見てしまうと誰しも人類の、自らの愚かしさに嫌気がさしてしまうものだ。

だが、それでも男は信じていた。
人は変わることができるのだと。

「さて、始めるか…」

近接戦闘用の武装しかない特殊な機体だが、潜在能力はかなり高い。
不安定と言われている例のシステムの試験も行わなければならないが、問題はないだろう。

「シルト、ビサイド・ペイン、試験運用を開始する。」

上空から一機に下降すると同時につき出た頭に鋭い刃を携えた盾を突き刺す。
周りは何事かと敵味方関係なく注目するが、ビサイドは近くにいた一機に狙いを定めると右腕のバンカーシールドを叩きつけ、圧縮粒子を解放して別の機体へ吹き飛ばす。

「悪いな、リボンズ。俺はお前と違って人間を見限ることなどできない。」

クスリと笑うとビサイドはパフォーマンスがわりに派手に破壊した三機のファントンから逃げ出した三人の人間を見て安心する。
この小さく弱々しい、そして愚かな生物が愛おしくて仕方ない。
弱く、そして愚かだからこそ、己の無力と過ちに気付いたときに人は手を取り合い、二度と間違いを犯さないのように学ぶことができる。
だから、微力ながらも自分もその助けになりたいとビサイドは願う。
そのためにも、

「こいつは……GN-EXCEEDは完成させてみせる!!」

コンソールを操作して作動させると、激しい震動がシルトとビサイドを襲う。
だが、ビサイドは歯を食いしばってそれに耐える。
すると、徐々に震動はおさまり各部の粒子貯蔵量も正常に戻っていく。

「よ……し…!!このまま……」

成功した。
そう思ったビサイドだったが、突如彼を異変が襲う。

「っ!!?ぐっ……あ……頭が……!!」

―――死ね…………!!

「っ!!?」

―――殺してやる…………!!

「な、なにが…!!?」

―――死にたくない…………!!

「や、やめろ……!!」

―――死ね死ね死ね死ね死ね!!!!

「入って…!!くるな……!!」

―――根絶やせ…………!!

「俺の中に……!!」

皆殺せ!!!!

「入ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」





……気付いた時には、一人だけだった。
焼け野原に一人、スクラップと瓦礫、死体と焼けた地面。
そして、それ以上におぞましいものを見せつけられたことへの怒り。
今のビサイドに残されているものはただそれだけだった。

「イオリア……!!!!」

バカみたいだ……
今まで人間の可能性なんてあやふやなものを信じていた自分が心底馬鹿らしく思える。

「イオリアァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」





その後、俺はリボンズに計画を俺たちイノベイドにすることに賛成する旨を伝えた。
そして、1ガンダムを製造した。
俺にあんなものを見せたイオリアに復讐するため。
そして、救いようもないほど馬鹿な人間どもを支配するために……



魔導戦士ガンダム00 the guardian 22.決着の時

「このっ……ザコどもが!!」

ビサイドは攻撃をかわしながら毒づくが、どれだけ吠えたところで5対1の不利は解消されない。
チャンスさえあればヒクサーか887をコントロールしてそこから崩すこともできるのだが、意識が集中できないこの状況では難しい。

『おや?休憩中かいビサイド?』

「茶化すな!!お前の仕業かリジェネ!!」

『まさか。フォン・スパーク辺りが仕込んでいたんだろう。』

人事なのをいいことに、傍観者を気取るリジェネ。
レイヴの肉体さえこちらにあるなら軌道エレベーターごと消し飛ばしてやりたいが、それもかなわない今の状況がさらに怒りを増幅させていく。
それを感じ取ったのか、リジェネもフッと笑って虹彩を輝かせる。

『まあいいさ。協力してあげるよ、我が友ビサイド。』

「!!ユーノ!!」

「来るか!!」

気配を察知した二人はすぐさま作戦通りに行動を開始する。

『僕からのプレゼントだ。』

「「間に合え!!」」

魔法陣がクルセイドを包み込み、同時に5体のガンダムがガルムガンダムのGNドライヴが外れた時のように激しく粒子を噴出し始める。
だが、

「……?」

『……っ!?馬鹿な!!なぜ太陽炉が分解しない!!?』

手にしたはずの力で使用不能になるはずのGNドライヴが異常なく作動していることにビサイド以上に動揺を隠せないリジェネ。
逃げることすら忘れて何度も能力を発動してみるが、アリオスとクルセイドのオリジナルGNドライヴはおろか、[T]までコントロールすることができない。

「なぜだ!?どうして……っ!!」

その時、ようやく思い出した。
奴があの時使った能力。
魔法、脳量子波、電子機器のシステム。
全てを支配するあの力のことを。

「貴様なのか……ユーノ・スクライア!!!!」

醜く歪んだ怒りの顔で壁の向こうへいるユーノへ問いかける。
そして、ユーノもそれに答えるようにニヤリと笑って見せる。

「フゥ~!ギリギリだけど間にあったね。」

「ああ。まさか、ヒクサーたちでなくGNドライヴの方へ干渉してくるとは想像していなかったがな。だが、どちらにしろ同じことだ。」

「ああ。ビサイドの能力もあのリジェネ・レジェッタの能力も他者、もしくは物を支配する力。なら、初めからより強力な力の支配下に置かれているのなら役には立たない。」

「そう……!」

ヒクサーはビサイドの時とは違う、優しく抱きかかえられているような温かな心でユーノと967の言葉に続く。

「ユーノに僕とハーミヤの支配権を与える……これこそ僕たちが導き出したお前の攻略法だ、ビサイド!!」

「グッ!!」

通信回線をオープンにし、967を通して全てのガンダム、そしてヒクサーとハーミヤの脳量子波をブロックする。
ユーノの力がビサイドやリジェネの力を上回っていることが大前提の博打に近い作戦だったが、見事にはまってくれた。
残る目標は一つ、ビサイドを倒すだけだ。

(チッ……ビサイドはもう当てにならないか……だが、覚えておけユーノ・スクライア!この力がある限り、僕は何度でもお前を殺しに行く!!)

「くそっ!!リジェネの役立たずめ!!」

完全に協力関係が瓦解したビサイドは一人で五機のガンダムを相手にどうにか逃げる機会を窺うが、それを許すほどユーノ達も甘くはない。
アイズガンダムの動きに合わせて包囲網を移動させ、徐々に互いの間隔を狭めて追い詰めていく。

「いけっ!ファング!!」

ヴェロッサの操るプルトーネ・ハウンドの盾から六つのファングが飛び出す。
アイズガンダムはそれを撃ち落とそうとライフルを構えるが、その瞬間ファング達は姿を消す。

「なにっ!?」

「白ハロ!」

「了解!了解!」

純白のハロはヴェロッサの命じる通り、姿を消したファング達を操り四方八方から射撃を行ってビサイドを翻弄していく。
ギリギリでそれをかわしながら、ビサイドもこの包囲を抜けだすべく穴になりうる機体へ狙いを定めていた。
狙撃は一流かもしれないが、まだMSに乗って日が浅い者を接近戦に弱いあれに乗せるのは不用意だ。

「サダルスード!!お前がこの布陣における穴だ!!」

一瞬の隙をついてヴァイスの駆るサダルスードへ特攻をかけるビサイド。
だが、何を考えているのかヴァイスは狙撃用のスコープを下ろしてしまう。

「生憎と、俺も殴りあいは好きな方だ!!」

「なっ!?」

突然、サダルスードの背中から飛び出してきたチェーン。
その先についていたアンカーに挟まれたアイズガンダムは完全にその動きを封じられ、さらに反対側から出てきたチェーンとアンカーを胴にグルグルと巻きつけられて武器をとることすらできなくなってしまう。

「チェーンバインド……なんつってな!」

「こ……の……!!」

焦るビサイドだったが、さらに驚くべき事態が発生する。

「!?ハッチが勝手に!?」

『お邪魔しま~す、なんてね。』

『お前の顔を拝みたいというやつがいるんでな。』

接触回線でコントロール権を完全に奪われたアイズガンダムはビサイドの意思に反してハッチを開き、外にいたセファーラジエルのマイスターを迎え入れた。

「……ビサイド・ペイン。」

ヒクサーは手に構えていた銃をビサイドに向ける。

「最後に……グラーベに謝罪をしてもらおうか。」

ヒクサーのその言葉を冷や汗で額を湿らせながらもビサイドは鼻で笑う。

「わざわざそれが聞きたくてここに来たのか……?」

「だとしたら?」

「フッ……あまいな!!!!」

瞳をかっと見開いたビサイドはコックピットに隠していた銃を取り出す。
だが、その引き金を引くよりもヒクサーの方が早かった。
音の伝わらない真空空間で二回ヒクサーの持っていた銃に軽い衝撃が走る。
ビサイドのヘルメットのバイザーには二つの小さな穴が開き、そこを中心にはいった細かなひびと血の雫がその死顔を隠していた。

「……たとえ、嘘でも謝ってくれれば……ただ、友のために……」

ようやく討ち果たした親友の仇。
しかし、ヒクサーの心に残されていたのは言いようのない虚しさと受け入れがたい苦さだった。

「……ヒクサー。」

「……いいんだ、887。それに……」

そう、887たちが、この痛みを背負ってくれる仲間がいる。
だから、ヒクサーはあの時のように自分を捨てずにいられる。

「それより、軌道エレベーターにいるみんなが心配だ!」



内部

「どうやら上手くやったようだな。」

「あなたはここまで予測して……」

もう読みがどうとかそういうレベルではない。
フォンのそれはもはや神がかり、いや、神すらも凌駕するほど全てを理解しきっている。

「そんなことより、俺が言ったことを覚えているか?」

「僕とドクターの能力が六人そろっても変わらないのなら残り一人の能力は確定する。それこそ、ハーミヤの能力。」

「え?」

なにがなんだかわからないハーミヤの肩に優しく手を置いてレイヴは説明する。

「ハーミヤ、君の能力とは『仲間のリセット』。覚醒した能力、かかわった記憶を消去する力だ。」

「なるほどな。仲間の入れ替えのために『探す』、『覚醒』、『解除』の力が必要なんだな。」

「で、でもでも、私どうやっていいのか~…」

「仲間の中で複数の同意が得られればその能力は発動するんだ。」

そう言うと、まずはレイヴが高らかに宣言する。

「僕は、リジェネ・レジェッタの監視者からの解除を要求します。」

「私もだ。」

(同意します。)

レイヴに続いてテリシラ、ブリュンも賛同するが、まだハーミヤの能力は発動しない。
そこへ、

「俺も同じだ。」

「ラーズさん!」

(お父さん!)

ようやく到着したラーズも賛同し、これでリジェネ以外の全員の賛同が得られた。
すると、ハーミヤは瞳を輝かせて上を見上げると機械的に話し始める。

「リジェネ・レジェッタ。監視者の総意としてあなたをリセットします。」



リニアトレイン

「ビサイドめ、使えない奴だ。まあ、あてにはしていなかったけどね。」

個室でくつろいでいたリジェネはハーミヤの能力など知るはずもなくレイヴたちを消す手段をあれこれ考える。
だが、

「……あれ?」

突然ついさっきまでの記憶が消える。
おかしいとは思ったが、最近の記憶はしっかり残っているし、表立ってヴェーダやリボンズの気に障るようなことをした覚えはない。

「じゃあ、なんでこんなところに?留美にところへ行く途中か?」

何か腑に落ちないが、そんなリジェネとは関係なくリニアトレインは地上へ降りていく。
軌道エレベーターに残るレイヴたちを残して。



軌道エレベーター 内部

「リジェネさんのリセット完了です!」

「ありがとう、ハーミヤ。」

終わった。
ようやくあの介入者たちの魔の手から逃れることができたことに誰もが胸をなでおろす。
しかし、まだ終わりではなかった。

「それじゃ、俺たちもさっさと退散するとしようぜ。このエレベーターはもうすぐ倒れるからな。」

「なんですって!?」

攻撃はもうやんだはずだ。
これ以上破壊されないはずの軌道エレベーターが倒壊するはずなどないと思っていたレイヴはフォンの言葉に驚きを隠せない。

「微振動が次第に大きくなってきているだろうが。イノベイドのくせにそれくらいわからねぇのかよ。」

フォンはジャケットの内ポケットからペン型のソリッドヴィジョンと投影機を取り出しておもむろに床へ向けてスイッチを押す。

「報告します。」

「あっひ~ん!?誰~!?」

自分そっくりの少女に驚いて腰を抜かすハーミヤに対し、874は驚きもせずに淡々と状況を説明し始める。

「アイズガンダムの砲撃によりバランサーが破壊されました。現在、緊急制御システムを使い安定をはかっていますが完全コントロールは不可能です。」

「マズイな…」

テリシラの額に汗がにじんでくる。

「倒壊を防ぐためには外壁をパージすることになる。そうなれば……」

「地上の街は無事では済みませんよ!?多くの人が犠牲になります!!」

そんなことはこの軌道エレベーターの管制室にいる人間もわかっている。
しかし、せっかく手に入れた何十億もの人間のための永久的なエネルギーと数万人の命を天秤にかければ誰しも前者を選ぶだろう。
数万人の命を目の前にしていないのならばなおさらだ。
だが、それを黙って見過ごせない者はレイヴ以外にもいた。

「……俺の能力で制御してみる。」

「ラーズさん!?」

「地上にいる住民が避難するくらいの時間は稼いでみせる。」

そう言うとラーズは一人制御のために精密機器が集中している部屋まで歩きだすが、制御をおこなうということは彼がここを離れられなくなることを意味する。
さらに、

「無理だな。」

フォンが欠伸まじりにあっさりと言い放つ。

「複雑なバランス計算が必要になる。どう頑張っても無理だろうな。」

「タワー内に残って作業を続ければラーズは脱出できない……!彼は自分を犠牲に……」

(お父さんはイノベイドハンターとして多くの命を奪ってきました……きっと、その償いをしたいのだと思います。)

「……ふざけるな。」

声を震わせながらレイヴはキッと顔を上げる。

「誰も犠牲になんてさせない!僕がガンダムでみんなを救います!!」



外部

アイズガンダムの背中に張り付いていたGNセファーのコンデンサーが離れる。
セファーの残存粒子を示すメーターはほぼゼロをさしていたが、その代わりアイズガンダムのメーターは十分な量を表している。

「セファーのコンデンサーから粒子をありったけ移した。これでしばらくは普通に動けるはずだよ。」

「ありがとうございます。」

ついこの前まで命を狙っていた人間に礼を言われるのは何とも背中がくすぐったいが、レイヴの方はそんなことなど気にしていないようなのでヒクサーはひとまず胸をなでおろす。
だが、戦闘型イノベイドとはいえ操従の経験のないレイヴをこのままいかせていいものなのだろうか。
それに、アイズガンダムを使うというのが何か引っかかる。

「本当にいくのかい?」

「はい!大丈夫です!」

コックピットに座るレイヴのハキハキとした返事にそれ以上異論を唱えることもできず、セファーの傍まで戻るヒクサーだったが、それでも見送る背中に嫌な予感を覚える。

「ヒクサー?どうしたの?」

「いや、ちょっと気になるのさ。なぜフォンがこうもあっさりレイヴにアイズガンダムを使わせたのか…」

『確かに……あの性悪にしては親切すぎるな。』

フォンだってこのアイズガンダムから漂う嫌な気配は察知しているはずだ。
なのに、こうも簡単にレイヴに使わせるだろうか。

「とにかく、今は何かあった時のために備えておくのが正解か……」



内部 簡易制御室

背中のパネルからの光だけの暗い部屋。
罪人たる自分には似合いの棺桶だが、眠りに着く前にせめて救える命は守り抜きたい。
だが、

「クッ……!」

(お父さん!?大丈夫ですか!?)

「……邪魔者がいる。」

(え?)

上手く誤魔化しているが、機械を統べる力を持つラーズを欺くことはできない。

「俺以外の誰かがピラーのシステムに介入している。だが、俺は諦めん!ここでバランスを取り続ける!」

(レイヴさんがガンダムでバランス回復のために出撃しました。もう少しだけ頑張ってください!)

「レイヴが…クッ……!!」」

意識が緩んだ瞬間再び大きな揺れが発生する。
ラーズは安心しようとした自分の甘ったれた心に鞭を打って再び意識を研ぎ澄ませる。
だが、気を緩めてしまった代償は大きく、コントロールはいっそう難しくなる。

(お父さん、やはりこの巨大なシステムをコントロールするのは無理です!)

「グッ……!それでも、やらなければ……!!」

(巨大なシステム……っ!そうだ!)

その時、二人の会話を聞いていたテリシラがひらめく。

(ラーズ!ブリュン!ヴェーダにバランスを計算させるんだ!!)

((!!))

ラーズはヴェーダを止めることができる力を持っている。
ならば、協力させることも可能ではないかとテリシラは考えたのだ。

(ブリュン、ラーズの能力をヴェーダとリンクさせられるか!?)

(やってみます!おとうさん、ブリュンを介してヴェーダと!)

(いや、駄目だ!!ここで意識をさいたら計算が終了するまで軌道エレベーターがもたない!せめて、誰かが少しの間でも支えてくれれば……)



別室

「レイヴがつくまではラーズに頼るしかないか……だが、」

「ええ。頑張ってはいるが一進一退ですね。いや、徐々にではあるがバランスが崩れかけて来ている。」

ラーズの言うピラーのシステムに介入してきているという存在の仕業だろう。
しかし、その目的がわからない。
三基しかない軌道エレベーターを倒壊させてまですることと言えば、現状では自分たち監視者の抹殺くらいしかないだろう。
しかし、リジェネはリセットされて監視者について知る者はもういないはずだ。

「じゃ、あたしたちはセファーで脱出しましょう。ここにいてもいいことはないよヒクサー。」

887の声にハッとして考えを中断すると、テリシラもその言葉に同意する。

「ああ。レイヴにガンダムを用意してくれただけでも十分だ。君たちまで巻き込まれる必要はない。避難してくれ。」

「それはあなたたちもいっしょでしょう?」

「いや。私たちの仲間が戦っているのだ。仲間としてできることをするためにも逃げるわけにはいかない。」

強い意志の宿ったテリシラの瞳。
それに懐かしさを覚えたヒクサーはフッと笑って腹をくくる。

「友のため、か……いいね。それなら僕もここで見学させてもらおうかな。」

「えええぇぇぇぇぇぇ~~!!!?」

叫んで不満を言おうとする887だったが、さらに大きな揺れが発生して思わず近くにいたハーミヤに抱きつく。
ヒクサーとテリシラも壁を支えにして態勢を保とうとするが、このままではそれすらも難しくなるだろう。

(誰だ……!?一体誰が妨害している!?)



外部

「ユーノ!!早く計算を!!」

サダルスード・Tと協力して監視の目をごまかしているアレルヤは限界が近かった。
いや、正確に言うならば軌道エレベーターの方に限界がせまっている。
最初は揺れているのかどうかすらもわからなかったが、今はわずかではあるが揺れ幅がはっきりと目で見えるようになってきている。
そして、この目に見えるようになった小さな揺れが深刻なものであることは誰にでもわかった。
だが、

「どうしたんだユーノ!!」

ラーズを助けるべくシステムと意識をリンクさせたユーノが一向に計算をしようとしない。
まるで、軌道エレベーターを支えることに手一杯のようだ。

(フフフ……相変わらず君は優しいんだね。自分と関係ない彼らを助けようとするなんて。)

(リ…ボンズ……!!介入をやめろ……!!さもないと……)

(どうするというんだい?僕は今そちらにはいない。君に僕を撃つことなどできないよ?まあ、君が僕の下に来るというなら考えてあげないこともないけど?)

(っ……卑怯者……!!)

―――憎い

(リボン……ズゥ……!!)

―――この世界が

(お前……だけはっ……!!)

―――消せ

(許…さない……!!)

―――魔導の力など……間違った世界など、

(許さない!!)

―――消してしまえ

『お待たせしました!!』

聞こえてきた声に意識を取り戻す。
下から急速に接近してきていたアイズガンダムはアンカーの上に来ると、背中から大量の粒子を放出して失った質量を補い始める。
ユーノもリボンズの妨害が入らないよう、いっそう意識を集中させる。
しかし、それには及ばなかった。

(……ここまでか。まあいいさ。それより、僕の言ったことを考えておいてくれ。君だって、いずれ僕と一緒にいるべきだと気付くだろうしね……)

バランスが回復し始めたのを見計らい、リボンズは妨害を中止する。

「リボンズ……お前は一体なにをたくら……?」

手が熱い。
右の手に視線を落とすと翠のラインが何本か刻まれている。
しかし、それはすぐに消え去ってしまい、手を包み込んでいた熱さも消えてしまっていた。

「なんだったんだ……?」



ヴェーダ

その時、二人は光の流れの中にいた。
互いにすっかり姿が変わってしまったことにクスリと笑う。
そして、実に百三十年ぶりに手を繋いで自分たちの運命を翻弄し、また結びつけてくれた存在へと向かっていく。

「ヴェーダ……」


……今、この時だけはお前に感謝する。




ラーズは息子の手のぬくもりを確かに感じながら、そう小さくつぶやいた。



軌道エレベーター 外部

「粒子の消耗が激しい……!どこまでもつか…」

警告音にせかされるレイヴはいやがおうにも貧乏ゆすりをしてしまう。
ラーズ達はまだヴェーダとリンクできないのだろうか。
そう思っていた時、待望の知らせがやってくる。

(レイヴさん、お父さんがヴェーダとリンクできました。)

「そうか!よかった!」

緊張感から解放されたことで一息ついて背もたれに体をゆだねる。
こうしていると、ガンダムが自分を支えてくれてようで悪い気がしない。

「頑張ってくれたね、僕のガンダム。」

―――それはお前のガンダムではない!

「え……!?」

―――お前がMSを操縦できるのはこの体が俺のモノだという証拠だ!!

「まさか、ビサイド…」

慌てて離れようとするが時すでに遅し。
レイヴの目の前が真っ暗になると同時に、ビサイドの視界は一気にひらける。

「ハッ!!馬鹿な奴め!!同じ手に二度も引っ掛かるとはな!!」

再びレイヴの肉体を、六人の仲間の資格を手にしたビサイド。
まず、これから為すことになるであろう使命、不明だった残り二人の能力、そしてこのミッションの目的を知る。

「……なるほど、六人の仲間とは監視者だったのか。……なに?仲間をリセット?フ…フハハッ!ならば、その前に今の監視者をすべて消し去る!!そして新たに選び出す!!この俺の手で!!」

つい先ほどまでレイヴが、この肉体の持ち主がいた場所へ狙いを定める。

「死ね!!」

引き金にかけられた指が少しずつ曲がり始める。
だが、

「あげゃ!!死ぬのはテメェだ!!」

「なにっ!?」

赤い閃光に態勢を崩したアイズガンダムはあさっての方角にライフルを発射してしまい、目標を破壊するには至らなかった。
さらに、その赤い閃光を放った重攻機が猛スピードで突進してくる。
反射的に突き出してしまった盾にぶつかったサーベルが焦げ痕を刻みつけながらじりじり迫るが、それよりも通信で聞こえてくる空気が爆発するような笑い声に生物的な恐怖を感じてしまう。

「フォン・スパーク!!」

「あげゃげゃげゃ!!」

以前見た時とは大きく異なるアヴァランチ・アストレアに動揺を見せながらも、ビサイドもライフルを捨ててビームサーベルでの打ちあいに臨む。

「人間風情が……俺の計画の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁ!!!!」



内部

「レイヴが再びビサイドに!?」

始まってしまった戦いと突然訪れた急展開に混乱するテリシラ。
そんな中、ヒクサーはようやく感じていた違和感の答えにたどり着いた。

「ビサイド……まさか、あの時……」

自分のパーソナルデータを残していた。
もともとパーソナルデータを残していた機体なのだから再び書き込むことも可能のはずだ。
そして、フォンもそのことに気付いていた。

「フォンは最初からビサイドと戦うためにレイヴをガンダムに乗せたと?」

いや、何かがおかしい。
フォンがそんな短絡的な理由だけでビサイドを復活させたとは思えない。
まだ、何か裏があるはずだ。



外部

「あげゃげゃげゃげゃ!!!!」

脚部の装甲を展開し、そこからビームサーベルを発生させてアイズガンダムを攻めるA・アストレア。
しかし、アイズガンダムも四本の刃をいなしながらバックをとる。

「人間風情が……首を突っ込むな!!」

後ろのバインダーを前面にまわし粒子をチャージしていく。
巨大なエネルギーの塊が生成され、激しい余波でアイズガンダム自身も小刻みに震えだしたかと思うと巨大なビームががら空きのA・アストレアの背中に突き刺さった。

「やったか……」

爆発を見ながらビサイドは一息つく。
苦戦はしたが、一番の障害は取り除いた。
第四世代機が二機とフェレシュテのガンダムが二機残っているが、この場はテリシラ達を殺して逃げだせばいい。
奴らを消す機会などいくらでもある。

「特にクルセイド……お前は俺が手を下さずともいずれ…」

その時だった。
MSの反応を示す電子音が鳴り響き、爆発の炎よりも濃い赤の機体がサーベルを手に一直線にこちらへ向かってくる。

「フォン・スパーク!!!!」

「ハッ!!」

すれ違いざまに互いの光刃を振るう。
紅蓮の盾が二つに斬り裂かれ、宇宙の闇に放り出される。
そして、

「なっっ!!?」

アイズガンダムは強化の要であるバインダー、そしてビームサーベルを握る腕を斬り飛ばされていた。

「イノベイド風情は大人しく世界を見てな!!あげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!」

抵抗する手段の無くなったアイズガンダムの背中にハンマーを叩きこむ。
どうにか受け止めようと前を向いたところにもう一発。
さらに顔面へ、今度は残っていた左腕。
されるがままのアイズガンダムを、フォンはとどめも刺さずにいたぶり続ける。

「フォン・スパーク!!もう十分のはずだ!!」

駆けつけたアレルヤはそのまま戦闘機形態で止めに入るが、その前に一つの影が立ちはだかった。

「ユーノ!?なにを…」

「アレルヤ、今は黙って見ているんだ。」

「馬鹿な!!?レイヴがこのまま殺されるのを…」

「あれは“ビサイド・ペイン”だ。どうしてもフォンの邪魔をするというなら、僕がまず相手になる。」

クルセイドに刃を突き付けられ、アリオスはMS形態のまま動きが取れなくなってしまう。
そしてまた、967もユーノの行動に驚きを隠せない。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか、967。もうすぐ、ビサイドが完全に消えるところが見れるかもしれないのにさ。」

それはそうだろう。
もうすぐ、フォンの手でアイズガンダムは…

「!なるほど、そういうことか。」



内部

「なるほど、なぜフォンがこんなことをしているのかわかったよ。」

「どういうことだ!?」

掴みかからんばかりの勢いのテリシラにヒクサーは微笑む。

「彼は自分の力で何かをやり遂げようとする者を愛する。ビサイドは僕の仇であると同時にレイヴが自分で倒すべき存在だ。僕とレイヴ……二人それぞれに決着をつけさせるにはこの方法しかない。」

「つまり、フォンはレイヴにビサイドと決着をつけさせるために?」

「そして、レイヴが上手くいかなかった時のことを考えて自分もガンダムで出た……とても彼らしいと思うよ。」

「理由はどうあれ、可能性はある!ならば、私はその可能性を信じる!!」

テリシラは脳量子波を全開にして叫ぶ。

「レイヴ!!お前自身の手でビサイドを打ち破るんだ!!!!」



外部

(レイヴ!!)

(レイヴさん!!)

(レイヴ……)

(レイヴさ~ん!!)

「ガッ…あぐぁ……な…にぃ!?」

脳の奥から自分でない者が目覚めていく。
他人のしたことはあっても、自分で味わったことのない感覚に恐怖を覚えるビサイド。
彼の異変はアイズガンダムが動きを止めるという形であらわれ、フォンも攻撃の手を止める。

「フン、やっとお目覚めか。」

「ユーノ、君は最初からこのことを……」

「確信はなかったけどね。でも、レイヴはそう簡単に消えるような弱い人間じゃない。だから僕もフォンの賭けに乗ってみたのさ。」

狂人のように不可思議な動きを繰り返すアイズガンダムを前に誰もが願う。
そして、レイヴもまた願う。

「大人しく俺の記憶の海に消えろ!!監視者の役割は俺が果たす!!ヴェーダとともに人間を支配するのだ!!」

(僕は消えない。僕を必要としてくれる世界、役割……そして仲間がいる人とイノベイドが共存する世界、僕たちこそそれを信じ、望まなくては。)

そう、人もイノベイドも。
自然に生まれた者も、作られた者も。
優良も劣等もない。
ただ、誰もが己として生を全うできる世界。
それこそが、レイヴの願い。
私欲にまみれたビサイドに初めから勝ち目などなかったのかもしれない。

「だが……!俺なりの……楔は…打ちこませてもらう……!」

消えゆく意識の中、最後の力を振り絞って回線を開く。
その相手とは、

「ユーノ…スクライア……!」

「!」

「俺は……もうすぐ…消える……だが、貴様は残る……クルセイド…GN-EXCEEDの遺産……とともに…」

「それがどうした?」

「どうした…だと……?ク……クフフフ……ハハハハ……!傑作だな……!それが、お前たちにただ力を貸しているとでも…………本気で…思っているのか……!?」

「!?どういう…」

「忘れるな………イオリアは……………変革……れば……イノ……ドや……んげん…など…………どうなっても…………グ…アアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

「待て!!ビサイド!!」

ユーノは思わず手を伸ばすが、ビサイドは俯いたまま動かなくなる。
そして、

「………ユーノさん。」

「レイヴ……」

レイヴは体を取り戻した。
なのに、ビサイドの言葉が耳の奥から消えてくれない。

「オイ、相談は後だ。お客さんだぜ。」

フォンが示す方を見ると、ジンクスとは明らかに違うMSがこちらにやってくる。

『ハァイ、お久しぶり。』

「お前は……!」

モニターに映った女の顔。
パーティーに潜入したあの時に会った女だ。

『とりあえずその物騒なのをしまいなさいよ。こっちにやりあう気はないわ。た・だ・し、その機体、ビサイドの使っていたガンダムが欲しいの。』

「アイズガンダムを?なぜ?」

「くれてやりなレイヴ。お前にガンダムは必要ない。そいつらの親玉はビサイドのデータが欲しいようだ。」

レイヴは自分と同じような顔をしたヒリングを見るが、彼女はクスリと笑うだけだ。

『否定はしないけど、あんたたちもそいつが復活するのはもうごめんでしょう?だったら、あたしらに預けちゃいなさいよ。二度と復活しないことは保証してあげるから。』

「……………………」

こちらはまともに動ける機体はオリジナルGNドライヴを積んでいる第四世代機とサダルスード・T、プルトーネ・Hとアストレアの計五機。
通常なら勝てないこともないが、アイズガンダムや軌道エレベーターにいるみんなを守りながらとなると厳しいかもしれない。

「……わかりました。ガンダムを渡します。」

レイヴがハッチから出てくるとガラッゾはアイズガンダムを掴んで約束通りこの注意気を離れていく。
しかし、

「待て。」

ユーノがそれを呼びとめた。

『まだ何か?』

「……お前たちの上にいる奴は、GN-EXCEEDについて何か知っているのか?」

『そりゃあね。あたしたちは知らないけど、多分知ってるんじゃない?なんなら、一緒に来る?』

「いや、いい。自分で考える。」

『あっそ。それじゃあ今度こそバイバイ、女装家さん♪』

ユーノはあからさまに顔をしかめてその一団を見送る。
それがビサイドの残した謎のせいなのか、ヒリングの最後の一言が原因なのかはユーノ自身にもわからなかった。




数日後 太平洋

「で、なんでこんなことになってんだよ!!!!」

ヴァイスはサダルスード・Tの高出力ライフルで近づいてきたジンクスを薙ぎ払いながら叫ぶ。
これでもう何機目かわからない。
耳元でシェリリンの『エウクレイデスに当たったらどうすんのよ!!』という叫びが聞こえているが、この際無視だ。
今は他人を気遣っていられる状況じゃない。

「次元転移の時のエネルギーは大きいから感知されやすいけど、まさかこんなに早くやってくるなんてね。」

「感心してる場合かよロッサ!!このままじゃミッドに行く前にサメの腹の中だぞ!?」

「心配すんな。サメだって鉄クズまみれの肉なんて喰いたかねぇだろ。どうせなら新鮮なまま提供してやれよ。」

「いや、そういう問題でもない気がする。」

フォンのブラックジョークに苦笑しながらツッコむユーノは目の前に来ていた敵を一刀両断しながら、あのミッションの結末を思い返していた。



あの後、軌道エレベーターは修復され、地上の住民に被害が及ぶことは一切なかった。
レイヴ達はというと、抜けてしまった仲間を埋めるべく協議を重ねたようだが今は現状維持ということで一致したようだ。
もっとも、レイヴの提案でオブザーバーとしてフォンを選んだとようだとサクヤが別れ際に言っていたが。

そして、ようやくというか当然というべきか、それぞれの生活に戻った。

テリシラはスルーたちと共に生活を送っている。
医師として多忙な生活を送る中、サクヤの心とブリュンの治療を続け、妹となったスルーとその友人であるハーミヤの世話をしているそうだ。

ラーズは再び単独行動をとることにしたようで、一旦みんなでテリシラ邸に集合してどんちゃん騒ぎをした次の朝には姿を消していた。
スルーは息子に別れの挨拶もしないなんて薄情な奴だと憤っていたが、ブリュン曰く「どんなに離れていても心はつながっている。」そうであり、それほど気にしてもいないようだ。

そして、レイヴもしばらく旅に出ることにした。
監視者になったからにはもっと世界を見ていろいろ知った上で最善の判断を下せるようにしたいとのことだそうだが、スルーはカッコつけすぎと笑っていた。
しかし、そんなレイヴが監視者になってくれたこと喜んでいたユーノの励ましの言葉にいっそう彼のやる気がわいたことも付け加えておこう。



「で、めでたしめでたしならよかったんだけど……」

「そう簡単にいかないのが世の中というやつだ。」

地球に残っていたメンバーをかき集め、地上でも運用できるよう改良したエウクレイデスで転移することになったのまでは良かったのだが、その膨大なエネルギーを感知した連邦軍がやってきて今の状況にあいなるというわけだ。

「こいつらホンットにしつこいわね!!」

「まあ、面倒くさがらずにもう一度宇宙に上がって転移すればもう少し安全だったのかもね。」

「今さらだよそれ!!」

セファーラジエルのビットとアリオスのガトリングが飛びまわるジンクスを粉砕する。
しかし、その爆煙の向こうから新たな機体が出てくるので休む暇が無い。

「このままじゃ、転移するどころじゃない……!」

「ですが、すでに開始してしまいました。止めることはできません。」

874の言葉に中央の席に座る(仮)艦長のシャルの額に汗が浮かぶ。
急遽オペレーターをすることになったマリー、リインフォースも事態が切迫していることをヒシヒシと感じているのかいつも以上に無口になっている。
操舵を任されているアニューもかなり苦しそうだ。

「あと数分なのに……!」

『あと数分時間を稼げばいいんだな。』

「!?」

太陽から落ちてきた何かがジンクスの頭を貫き、股の間から抜け出て海面に突き刺さる。
それを合図に海中からは続々と対空魚雷、空は太陽を覆ってしまうほどの無数の影が現れる。

「あなたは!?」

『そうか、あんたらタダもんじゃないとは思ってたがソレスタルビーイングだったのか。言ってくれればよかったのに…よっ!』

フラッグを操る隻眼のパイロット、レイは漆黒の翼をきらめかせながら陣形を崩していく。

『スルーに感謝しろよ!!あいつの頼みじゃなければこんなにヤバい作戦をクラウスさんに頼んだりしねぇぞ!!』

「スルーが……!」

そう、スルーがカタロンに頼んだのだ。
魔法やいろいろとマズイことも漏らしてしまうことになったが、それよりもユーノ達を安全に向こうに送り出したいと思って別動隊に合流していたレイ頼んだのだ。
最初は信じがたい話や任務の危険さから断ろうと思っていたレイだったが、スルーの熱意に押されてこうして協力することにした。
もっとも、別に目的もあるのだが。

海上での作戦と聞き、ヘリオン・マリンストライカーパッケージを大量投入したのが功を奏していつになく順調に連邦軍を撃破していくカタロン。
その間に、準備は整った。

「エネルギーチャージ完了!!いつでもいけます!!」

「了解!!次元転移装置起動!!」

前面に放出されたエネルギーが強烈な嵐を生み、同時にポッカリと黒い穴をあける。
それを見たガンダム各機は急いでエウクレイデスに戻っていく。
が、ここで予想外の事態が起こる。
レイの乗るフラッグもエウクレイデスに乗り込もうとしているのだ。

「フライハイトさん!?何を!?」

「悪いが俺も連れてってもらうぞ!いろいろと知りたいこともあるんでな!!」

魔法が実在するのか、そして仮に実在しているのならこちらの戦力になりうるのか。
それがレイに課せられた使命だ。
さらに、ソレスタルビーイングにはいったというジーン1、ライル・ディランディからの報告を受けろとも言われている。

(ライルさん……)

「あ~もう!!そこのフラッグ!!この際仕方ないからついてきてもいいけど、あんまり世話やかせないでよ!!」

クルセイドから聞こえてくるユーノの声に肩をすくめたレイはそのままエウクレイデスへ。
そして、

「それじゃ行くわよ!多次元世界の中心地ミッドチルダへ!!」

エウクレイデスは、黒い穴へと消えていった。



テリシラ邸

「行ったか……」

スルーの淹れた濃すぎるコーヒーに眉をひそめながら空を見上げる。

「君も、仲間に再会できることを祈っているよ……」



都市

「……そうか、行ったか。」

息子からの知らせに人込みのなかで空を見上げる。

「『自分にも娘がいる。けど、もう会うことはできないだろう。』か……」

隙があれば消そうかとも思ったが、あんな眼を、多くの悲しさを知っている男が自らの意思で世界を滅ぼすとは思えない。

「存外、あいつの心を救うのはその娘かもな。」



某国 森林地帯

指に乗っていた小鳥たちが飛び立っていく。
レイヴはゆっくり立ち上がるとヴェーダから送られてきた情報にクスリと笑う。

「行っちゃったか……また会えると良いな。」






作られし者たち、己が使命に準ずるを選ぶ
なれど、其は新たな可能性を、未来を示すもの





あとがき・・・・・・・・という名のI編終了&暴露話

ロ「というわけでI編終了!な第22話でした!んでもってこの際だからI編の暴露話をしようと思います。」

毒舌医師「あんまり聞きたくないような話がでてきそうな気がする……」

ド天然「何が出るかな~?」

女装君「何が出るかな~?」

勘違い「何が出るかな~?ちゃらちゃらちゃちゃん♪」

学生「なんでごきげんよう!?そんな簡単に流していい話じゃないからね!?」

バツイチ「とにかく聞いてみないことにはな……」

学生「その前にラーズさんは手に持ってるカメラを置いてください。」

バツイチ「…………ロビン、早く話せ。」

学生「その前にカメラを離せって言ってるでしょぉぉぉぉ!!?」

ロ「じゃあ、バツイチが戻ってきた息子の思い出を記録している間に暴露するのはこちら!」


実はレイヴとラーズもミッドに行く予定だった


毒舌医師「まあ、これは確かに無いな。」

ロ「ついでにアイズガンダムももってくつもりだったからなぁ……流石にあとあと支障が出ることになりそうなんでボツにした。ただ、ラーズを連れてってユーノと子供自慢させたいって思ってたんだけどな。」

学生「というかそのためだけにこの案考えたんでしょ?」

ロ「…………(汗)」

サ「図星のようですね。」

バツイチ「何なら今からでも…」

毒舌医師「却下だ!!これ以上キャラ崩壊するな!!」

女装君「ブリュンもお父さんと一緒の方がいいです。」

バツイチ「ブリュン……」

ロ「……事情を知らない奴が見てると変質者が美少年に女装させてハァハァ言ってる光景にしか見えないな。」

学生「しかも少年もそれで喜んでるようにしか見えないですね。将来が激しく不安だよ……」

サ「…………いい。」

ド天然「ステキです♥」

学生「この二人の将来もすっごい不安だ!!」

勘違い「なんかヤバい扉が開きそうになってるやつらがいるんで次回予告!!ほら早く!!」

学生「次回は異世界編!」

毒舌医師「遂に地球連邦がミッドへ!」

バツイチ「そして同時に反感を覚えたテロリストが一斉蜂起!」

女装君「襲撃を受けるクラナガンの街!」

ド天然「アロウズと協力して防衛に当たるなのはさんたち!」

勘違い「トレミーでも防衛に打って出るべきだとマイスターたちが主張!」

サ「その時、スメラギはどのような決断を下すのか……」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!」







バツイチ「……サイドでもいいから子供自慢させてくれないか?」

ロ「……考えとく。だからハァハァ言いながらカメラを近づけるな。」



[18122] 23.クラナガン防衛戦(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/31 00:20
無限書庫 休憩室

ここに来るのもひどく久しぶりのような気がする。
別に休みを取っていないわけではない。
だが、ここにきても一番気が合う友人がもういないせいで自然と足を運ぶ機会は減っていった。
他の司書たちと話をするのが嫌いなわけではないし、むしろ気を紛らわせるなら歓迎すべきだ。
なのに、その気にすらなれなかった。

「じゃあお前は何をしたいんだよ?」

紙コップに入った澄んだ赤褐色の液体がそこにとどまる姿に仕事場には存在しない重力の偉大さを感じながらハイネは呟く。
ユーノがいなくなっても無限書庫はその機能の重要性まで無くなるわけではない。
ならばと副司書長の自分がここを守らなければならないと奮起してはみたが、望みもしていないのにいつの間にかいままで肩書の頭についていた副が取れていた。

こんなことのために踏ん張ってきたわけじゃない。

そう思って、今まで無神経に、そしてろくに感謝の意も述べなかった阿呆どもへささやかながら復讐をプレゼントしてやった。

『無限書庫は依頼された資料にかかわる任務の正当性を独自に判断し、それが不当であるとみなした場合はこれを拒否することができる。』

家のコネを使うのは、というより家を告げとしつこく言ってくるあの固太りにあまり貸しは作りたくなかったのだが、こんな無茶を通すには使えるものは使わなければなるまい。

「ま、なにはともあれ実質的には中立にたてたわけだ。ったく、こんな無茶しなくても独自路線をいける聖王教会がうらやましくなってくるぜ。」

いや、むしろこっちの場合はそうだった方がまずかったか。
なにせ、尊敬していた司書長を犯罪者扱いされたのだから司書たちが怒りを感じないはずが無い。
実際、アルフを筆頭に過激な者たちは局と本格的にことを構えようとすらしていた。
中立にならなければならなかったのは彼らの怒りを少しでも和らげるためでもあったのだ。
しかし、今回成立させた法案のせいで無限書庫への正義の味方の管理局が大好きな民衆からの風当たりは一層強くなるだろう。
その矢面に立たなければならないハイネの心労たるやいかほどのものになるか。

「……いやになるな。」

「何がですか?」

「キュク?」

「おわっ!!?」

いつの間にか自分を見上げていた少女と小さな竜に思わずバッと距離をとる。
向こうも驚いたのか目を白黒させながらこっちを見ている。
気まずい空気が流れ始めるが、大人であるハイネが子供である彼女に気を使って先に話しかけるのが常識というものだろう。

「どうしたキャロ?部屋で休んでるんじゃなかったのか?」

「あ……いえ、休んでばかりじゃ悪いので少しでもお手伝いをと思って……」

無理をして微笑む姿が痛々しくて仕方が無い。
機動六課時代に一緒だったザフィーラとシャマルが抜けてしまったのだからしょうがないのかもしれないが、二人にキャロのことは任せておけといったので弱音ははけない。

「気にすんなって。子供は子供らしく、余計な気を回さず無邪気に虫網振り回して蝶でもおっかけてればいいの。」

ハイネなりに励ましたつもりだった。
しかし、キャロの表情はさらに暗くなっていくばかりだ。
こういうときアルフなら上手くフォローできるのだろうが、生憎と一人っ子の上に同年代か年上の人間の付き合いばかり多いハイネはこういう時どうすればいいのかわからない。

(あ~……もっと人生経験つんどくんだった。)

「失礼します。」

ハイネが頭を抱えそうになった時、休憩室に一人の男が入ってくる。

赤い髪が印象的な男だった。
髪と同じ色の髭のせいで初めは粗野なイメージを持ってしまうが、その礼節を踏んだ言葉にそれなりの教養があることがうかがえる。
しかし、なぜだか信用できない。
上手く言えないが人に道を違えさせる力、負のカリスマ性とでも言うものだろうか。
そういったものが感じられる。

「地球連邦所属、ゲーリー・ビアッジ中尉であります。」

「地球連邦……?」

聞いたことがある。
なんでも、ファルベル准将がコンタクトをとって協力態勢を持つことになったとかいう組織だ。
そして、ユーノが向かったという世界を統治している者たちでもある。

「今回は我々と管理局が協力することになったので、優秀な情報捜索機関である無限書庫にお招きいただいたのですが……いやはや、どこもかしこも驚きで満ちていますよ。この目で見てなお信じられないくらいです。」

「ただ挨拶とおしゃべりをしに来たわけではないのでしょう?御用件を。」

「おっと、これは失礼……実は、ファルベル准将殿からこのようなものを預かっていましてね。」

ゲーリー・ビアッジと名乗る男の差し出した書状を見たハイネは表情をこわばらせる。

「そちらのお嬢さんが幼いながら優秀な魔導士だと伺いまして……ぜひ、我々に協力していただきたいと…」

「馬鹿な……!!この子はまだ…」

「いえね、私も止めはしたんですよ……ですが、ファルベル准将が彼女にも戦う理由があるはずだと言われましてね……」

そう言うと、男は膝を曲げてキャロの目をじっと見つめる。
人みしりの強いキャロは最初こそ警戒したが、次第に男の言葉から耳が離せなくなっていた。

「君は大切な人を任務中に失ってしまったそうだね?可哀そうに……。でも、そんな君だからこそ、残った大切な人を守るために戦うべきだ。」

「大切な人を……守る……」

自然保護隊にいた時のみんな。
機動六課でできた仲間たち。
そして、自分を引きとってくれたフェイトとその家族。
もう、そのどれを失うのもキャロには耐えられなかった。

「……私、行きます。」

「キャロ!?」

ハイネの驚きの声とは対照的に、ビアッジの目がスッと細くなる。

「いいのかい?」

「はい!至らないところもありますが、よろしくお願いします!」

「そうか……なら、私もできる限りのことはしてあげよう。君が望むなら、管理局、地球連邦、どこでも君の望む部隊に所属できるようにしてあげよう。」

「キャロ、待つんだ。」

「司書長殿、彼女を心配するのもいいですが彼女の意志を尊重してあげることも大人の役目ではないですか?」

そう言うとビアッジはキャロの背中を押して部屋を後にしようとする。

「最後に一つだけ聞かせていただけないでしょうか?あなたは、本当にファルベル准将に……いや、准将だけにキャロを戦線に出せと言われたのですか?」

「……我々の世界もいろいろとゴタゴタとしていましてね。確かに、お偉いさん方は魔法という未知の力に興味を示していますが、私個人としては子供を強くしたいというのが本音ですね。」

「強くしたい?」

「ええ……子供は純粋だから少しのきっかけで想像しないほどの力を発揮することがあります。それを見るのが大好きなんですよ……」

「っ!!」

違う。
コイツは子供を強くすることが好きなんじゃない。
そうして、戦わせることに喜びを感じている。
そういった顔をしている。

それをキャロが見ていないことが惜しまれるが、今からでも遅くはない。

「キャロ……」

「私なら大丈夫です。」

止めようとしたが、キャロの笑顔に黙ってしまう。
その間に二人は去ってしまったが、ハイネは後にこの出来事を深く後悔させられることになった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 23.クラナガン防衛戦(前編)



ミッドチルダ クラウディア

本当に来てしまったのだなとマネキンは思う。
パッと見たところ地球、もちろん2312年の方だが、そちらものと見比べても遜色はない高い文化水準だ。
ただ、この魔法というものはどれほど聞いたり見たりしても何かのトリックではないのかという疑念が晴れない。

転移魔法、飛行魔法、治癒魔法、防御魔法、攻撃魔法。

手品ではないのだが、そうであってほしいと願っている自分が心のどこかにいる。

「いかんな……これからこちらの世界の人間に会うというのに。」

精鋭ぞろいの部隊だからこそ異世界という未知の領域へ派遣された。

それが表向きの理由であり、任務で芳しい戦果を上げなかったせいでここに飛ばされたことは(約一名を除いて)誰もがわかっている。
しかし、そうであったとしてもこれから協力する組織の人間に会うこと自体は有意義なことであるとマネキンは考えていた。
もっとも、副官であるリントはそれよりも地球に戻って殲滅戦の一つでもしたいようだったが。

「失礼します。」

そんなことを考えているうちに応接室に着いたマネキンは開いた扉をくぐって面喰った。

若い。
見たところ二十を過ぎてまだ間もない青年がこちらを見ている。
こんな若者がこの艦の長をしているという事実に自分が正気ではなく白昼夢でも見ているのではないかと思ってしまう。

「お待ちしていました。クラウディ級艦長、クロノ・ハラオウンです。どうぞおかけください。」

「え、あ……ち、地球連邦所属、独立治安維持部隊で作戦指揮官をつとめているカティ・マネキン大佐です……」

どうにか自己紹介を終えて促されるままに席に着くが、やはり落ち着かない。
ファルベルほどとはいかなくともそれなりに歳の人物、どれほど若くとも自分と同年代の人物が出てくると思ったのにこの若さ。
まるで不意打ちを食らった気分だ。

「……やはり驚かれますよね。」

クロノの言葉にマネキンはハッとするが、クロノの苦笑いを見て考えがそのまま顔に出ていたことに気付いて後悔する。

「やはり、若いと思われますか。」

「いえ、そんなことは……」

「隠さなくてもいいですよ。自分でもそう思いますから。」

不覚だ。
一回り若いこの青年に心を見透かされたばかりか、フォローまでされてしまうとは。

「ですが、管理局はほとんどの世界の治安維持を担当しているのでどうしても慢性的な人材不足にあります。ですから、使える者は子供でも使う……もちろん、本人たちの意志にもよりますがね。」

「では、あなたも?」

マネキンの言葉にクロノは一瞬だけ瞳の奥に暗い影を落としたが、すぐに柔らかく笑う。

「昔の話ですよ。今は思うように行動することもできなければ、融通もきかない、そこらにいるちっぽけな大人の一人ですよ。」

(なるほどな……だてに一つの部隊を率いているわけではないというわけだ。)

現場で相当の経験を積み、しかしどれほど優秀な結果を出しても決しておごらない。
上に立つ人間の器量は十分にあるということか。

「では、本題に入りましょうか。お偉方が勝手に取り決めをするのはいいが我々のように実際に動く人間同士が信頼関係を結ばなければ共闘態勢というのはひどく脆いですからね。」

「ええ……まったくです。」

本当に、彼のような人間がアロウズにももう少しいてくれれば少しは救われるのだが。
そう思わずにはいられないマネキンだった。



地球連邦 ギアナ級地上戦艦

わかっていたことだ。
これだけ若い、しかも女性の佐官は自分が出身の地球でもまずいないのだから注目は集まるだろう。
しかし、いちいち奇異の視線を向けられるのははやても好むところではない。
許されるならばこの戦艦の連中をセクハラで訴えているところだ。

「失礼します。」

廊下の一角に設置されていた扉を開けて逃げ込むようにそこにはいるはやて。
だが、そこで待っていた人物もやはりはやての姿を見て驚嘆している。

「なんと!?」

しかも、いかにもびっくりしましたというような声までおまけについてきた。
とどめにはやてが「何か文句でも?」という目付きをしても未だに驚愕の表情を崩さない。
少なくとも、廊下ですれ違った人間に対しては有効だったのにこの男にはそれが効かない。
こちらを完全になめているのか、それともはやての表情に含まれている少なからぬ怒りを察知できないほど驚いているのか。
どちらにしろ、肝が据わっているという意味では指揮官にふさわしい人物といえるだろう。

「はじめまして。時空管理局所属、特別機動兵器試験部隊の指揮を執っている八神二等陸佐であります。」

「あ……ッホン。失礼。地球連邦所属、セルゲイ・スミルノフ大佐です。」

冷静さを取り戻してようやく自分の行動をはやてが不快に感じていたことに気付いたセルゲイははやてに負けず劣らず渋い顔をする。
だが、

「八神中佐…いや、こちらでは二佐だったな。貴官の年齢をお教え願いたい。」

「19ですが何か?」

「19……」

やはり若すぎる。
セルゲイがそう思ったのは彼自身が少々古風な考え方をしているからでもあるのだろうが、かつてピーリスと出会っていたということも理由の一つだろう。

「……かさねがさね失礼した。女性に歳を聞くのはタブーだったな。」

そう言ってごまかすが、やはり動揺は隠しきれない。
そこへ、さらに追い討ちがかかる。

「……私は、10歳から戦いの場に赴いていました。」

「!?」

今度は隠しきれない。
座ろうと腰をかがめていたのに、勝手に背筋を伸ばして彼女の目を見つめていた。

「巻き込まれてしまった、と言った方が正確ですけど。それでも、私はその時の事件をきっかけに今の道に進むことに決めました。もう、私のように理不尽な理由で傷つく人間を見たくなかったから……。セルゲイ大佐から見れば私はまだ子供かもしれへんけど、やることにきっちり筋は通しとるつもりです。」

「…………………………」

自分の息子以上に年下の、それもこんな可憐な少女に面と向かってここまで啖呵を切られたのは初めてだ。
それなりに修羅場をくぐってきたということだろう。
だが、幼い少女にそんな無茶をさせなくてはならなかったと捉えることもできる。
本来は導く側であるセルゲイにとっては複雑な心境にさせられる話だ。
だが、今はとにもかくにもしなければならないことがある。

「……すまない。」

深々と頭を下げたセルゲイに今度ははやてが目を丸くする。
別世界の人物とはいえ自分よりも階級が上。
それも、年上の男性にこうも簡単に頭を下げられたことなどはやての局員生活においてはなかった経験だ。

「今までの非礼を許してもらいたい。貴官の覚悟も、そして願いも知らない私が口をはさむ道理などあるはずなどない………本当にすまなかった。」

「ちょ、そんな!私かて偉そうなことばっか言ってもうて…」

わたわたと戸惑うはやてだったが、頭を上げたセルゲイから出された手を照れながらも握り返す。

「これからよろしく頼む、八神二佐。……そう言えば、変わった喋り方をしているな。たしか……そう、カンサイ訛だったか?」

「へぇ…ようご存じですね。私のは日本の京都ってところにしばらくおったんで。まあ、そうは言うてもすぐに東京に移ったんですけど……。そういうセルゲイさん……やのうて、大佐はロシア訛が少し入ってますね。」

「さんで構わんよ。私はロシアの出でな。気をつけてはいるのだが、どうも気がゆるむと出てしまうらしい。」

「あはは!それわかります!私もよくやりますから……っていうか、もう出とるし。」

ペロリと舌を出して自分の頭をこつんと叩くはやてにセルゲイも同じように小さく笑う。
来ている服こそ互いに組織で支給されているものだったが、それさえ違っていれば親子にも見える。
気付けば、それほどまでに二人は打ち解けていた。



???

『それでは、手はず通りに……』

「うむ……」

男はモニターの向こうで光る翠の瞳にうなずくと嫌悪感をあらわにする。

「テロリスト風情が……いい気になりおって。」

「だが、彼奴等と手を組めば聖王様を忌々しい局の手より救い出すこともできよう……」

「さよう……せいぜい彼奴等には捨て駒として存分に働いてもらうことにしよう……」



???

「狂信者どもめ……あそこを押さえた次は貴様たちの番だ……!」

「我らが古のときより重ねし恨み……存分にその身に刻みつけてやる……!」

そう言うと、金髪の男たちは背後に映されていた地図の方を向く。
複雑に入り組んだ道と、その各所に赤い印がいくつか点在している。

「クラナガンさえ取れば、後は一気に喉元に喰いつくまでよ……」

多次元世界の中心世界であるミッドチルダ。
そして、その中心地であるクラナガン。
今、最大の危機が迫ろうとしていた。



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「大規模テロ?」

いつもは飄々としているロックオンも流石に声のトーンを下げる。

『ああ。対立している組織同士も手を組んで、ひとまずクラナガンを落としてしまおうという腹づもりらしい。もちろん、MSも出てくる。』

「しかし、君が情報を掴んでいるということは局がすでに対策を講じているのではないか?」

『……やつらを殲滅するためのな。』

「!?」

クロウの言葉にティエリア、そして一同の表情がこわばる。

『今は情報を伏せておいて、やつらが襲撃をかけてきたところでこれを叩く。ファルベルはそう考えているらしい。』

「つまり……」

『そう、クラナガンとそこに何も知らずにいる住民、そして地上部隊の駐屯地を餌に使うつもりだ。』

「け、けど!クラナガンが壊滅状態になればどの世界も影響を受けます!!管理局だってそんなリスクを冒してまで…」

『やるさ。奴はそういう男だ。』

「そんな……」

ダンッ!という音にエリオはビクリと体を震わせて言葉を止める。
壁に叩きつけた痛みというより、湧き上がる怒りを押し殺しているスメラギからは誰も声をかけることができないほどの無言の威圧感が噴き出してきていた。

「クロウ、その情報は…」

『まだごく一部しか知らない。そのごく一部というのも厄介な連中を片づけられれば多少の犠牲もやむを得ない、なんてことを平然と言ってのけるクソどもだ。』

当然、住民はそんなことなど知らないだろう。
もし、テロリストたちが攻めてくれば真っ先に犠牲になるのは彼らだろう。
そして、万が一生き残ったとしても真実を話されないよう局の手で……

「クロアと……ユーノの父親の時と同じ手を使う気か……!!」

その時、全員がハッと息をのんだ。
そう、この作戦はユーノが話してくれたあのテロの時とひどく状況が酷似している。
仲間が歪んでしまった時と同じことを繰り返そうとしているという事実が刹那の逆鱗に触れた。

「この戦いに介入する。テロリストも局も関係ない……クラナガンに被害が及ぶ前に全滅させる!」

「ちょ、ちょっと刹那!」

「ま、確かにそれが一番だよな。クラナガンに被害が及ぶようなことが無ければ生き残りを口封じする必要もないわけだしな。」

「だが、別の移動手段……公共の移動手段を使われたら手の出しようが無い。二手に分かれる必要があるな。」

「ロックオンにティエリアまで……!」

『あんたは反対なのか、スメラギ・李・ノリエガ。こんな戦術を戦況予報士として許せるのか?』

「それは……」

許せるはずがない。
だが、ここでいたずらにクルーを危険な目に合わせることもできない。
一人の戦況予報士としての感情と、ソレスタルビーイングのみんなの命を預かる立場の間で心が激しく揺れる。

『……とにかく、俺は内側ではしゃごうとしている連中をできる限り止める。他にも信用できるやつらには連絡を入れておく。お前らは手を出すのも出さないのも自由にしてくれていい。地球連邦がこちらにきているのだから、動きにくいだろうしな。ただ……この世界の一人の住人として頼みたい。……クラナガンを、そこで生きる罪のない人々を守ってくれ。』



クロウの顔が消えてから、ブリーフィングルームは重苦しい空気に包まれていた。
未だ本調子ではないガンダムでどこまで対抗できるかわからない。
それに、テロリストの迎撃に向かえば管理局と地球連邦も相手にしなくていけないかもしれないのだ。

「で、どうする?」

ラッセが沈黙を振り払うように口を開く。

「ここらではっきりしといたほうがいいんじゃないか?俺たちはここでも介入行動をするべきなのか、それともできる限り関わらないようにすべきなのか。」

「無駄な戦闘を避けるのなら、極力かかわるべきでは……」

「そんなことは関係ない。」

イアンの言葉を刹那が一蹴する。

「俺たちは状況やコンディションによって行動するかどうかを決めてきたわけではないはずだ。紛争を、世界の歪みを根絶する………ただ、それだけのために戦うと決めて誰もがここに立っているはずだ。」

再びその場を静けさが支配する。

紛争の根絶。

誰もが戦争の虚しさや哀しさをその身で体感し、戦争をなくすために許されぬ戦いの中へその身を投じた。
ここは地球じゃないから。
ガンダムが万全ではないから。
そんなもの、言い訳にすぎないことはわかっていた。
ただ、自分たちがまだ何もしていないこの世界から、許してくれるかもしれない存在から拒絶されるのを恐れていた。

しかし、マイスターたちはわかっていたのだ。
もう、どこにも自分たちがとどまれる場所が無いことを。
ならばせめて、人間の業を一身に背負うことになっても全ての世界から歪みをなくす。
それこそが、ソレスタルビーイングの為すべきであることを。

「……私たちは…」

スメラギが静かに語りだす。

「私たちは、戦争をなくすために地球に大きな歪みを作り出してしまった。そして、ここにも私たちが起因となって生じた歪みがある。だったら、責任を取るべきよね。」

「スメラギさん……!」

フェルトにフッと笑いかけたスメラギは続いて強気な笑みでジェイルを見る。

「ジェイル、フェルトのデバイスはどこまで完成してる?」

「悪いがもう少しかかるね。ただ、ストレージでいいならすぐにでも組み上げてみせるよ。」

「OK。それじゃ、マイスターはガンダムでMSの迎撃。フェルトとエリオ、ウェンディは別ルートで入ってくる方の探索と身柄の拘束を任せていいかしら?」

市街地戦組に名を連ねられたことにフェルトが、そして何より彼女と親しいウェンディが驚く。

「ス、スメラギさん!?フェルトに魔法戦は…」

「なにも無理にやりあえとは言ってないわ。クロウやアイナと協力してできる限りのことをして。」

「……危なかったらグレイスさんはすぐにでも下がらせます。」

「ええ、そうして。」

エリオのその発言にスメラギのフェルトを捜索任務に当てた時以上のざわめきが起こる。
あのエリオが本来戦闘要員ではないフェルトを危険地帯へと向かわせることに同意するなど、それまででは考えられないことだった。
しかし、刹那は驚きはしたが、すぐに肩に乗っていたジルをエリオの方へと優しく押し出す。

「力になってやってくれ。」

「刹那……」

「俺なら大丈夫だ。」

「……うん。」

力強くうなずいたジルはエリオの頭の上に腰かけていつものように自信満々の笑みを見せる。

「感謝しろよ!一時的にとはいえ、この蒼の賢帝様が協力してやるんだかな!」

「それはどうも……」

チームワークにいささか不安は残るが、これで市街地を捜索する人員は決まった。
そして、最大の問題はガンダムである。

「言っとくが、完璧なんて期待するなよ。特にケルディムとダブルオーは武装が不完全なんだ。下手すりゃ今度こそ墜とされるぞ。」

「ただの脅し文句……じゃなさそうだなぁ……」

「出れればそれで構わない。後は俺たちでその穴を埋めるだけだ。」

「素人に毛が生えた程度の俺にそこまで期待するのはやめてくんない?いや、実力を認めてくれるのは嬉しいんだけどさ。」

「ガンバ!ガンバ!」

無責任に励ます相棒を担ぎあげてにらめっこを開始するが、そうしたところで事態が好転するわけではないのでやめる。
しかし、こうでもして気を紛らわせないとあのプレッシャーに飲み込まれてしまいそうだった。

(あのオレンジの猫ガンダム……たしか、カマエルだったか?こないだ結構派手に叩いてやったけど、あの調子じゃまた出てくるな。)

真剣な眼差しのロックオンに、小言を言おうとしていたティエリアも黙ってしまう。
おそらく、刹那も同じことを考えているのだろう。

(サリエル、セラヴィーと同じヴァーチェの発展型……機動力は向こうが遥かに上、しかも砲撃は同レベル…対抗しきれるか……?)

(エクシアの発展型、ウリエル……MAへの変形機構にGNソードを破壊できるほどの攻撃力……今の俺に仕留めきれるか……?)



数日後 クラナガン

「あ~!ティア!!あれあれ!!」

訓練校時代から慣れ親しんでいるとはいえ、この無尽蔵の食欲だけはどうにかした方がいい。
15段重ねのアイスをペロリと平らげた後でクレープ屋に走っていけるスバルの体は間違いなく世界七不思議に登録できるレベルの超常現象だとティアナは確信する。
しかし、この前の戦いでは助けてもらったのだから休みの日に食べたい物をおごってやるくらいはやぶさかではない。
……まあ、軍資金が無くなればそこまでだが。

「ティアも一緒に食べようよ~!」

「いや、私はいいわ……」

空になりかかっている財布の中身を見てがっくりと肩を落とす。
やはり、もっと別の形で恩返しをするべきだったか。

「……ん?」

顔をあげてふと目についたのは一人の女性。
グリーンの軍服のようなものを着ている彼女は明らかに周りから浮いていて、彼女自身もそのことが分かっているせいかひどく落ち着きが無い。

「スバル、ちょっと待ってなさい。」

「ふあ?」

頬にクリームをつけて間の抜けた声を出すスバルをそこに置いてティアナは軍服の女性へ歩み寄る。
近づいてみてわかったが、金色の髪をした彼女は美人と呼んでもそれほどさしつかえはないように思えた。

「すいません。」

「は、はいっ!?」

裏返った声を出しながらピンと背筋を伸ばす。
もう間違いない。

「失礼ですが、ミッドチルダの方ではありませんね?」

「え?え、ええ、まあ、そうですけど……」

ホッと思わずため息を漏らすティアナ。
これだけ見た目が良ければアホな男どもに声をかけられそうなものだが、どうやらその前に見つけることができたようだ。
もし、ナンパに掴まって面倒なことになっていたらせっかくの休日が丸々パーの可能性もあった。

「時空管理局の者です。よろしければ事情をお聞かせくださいませんか?なにか、力になれることがあればなんでも…」

「え、ええ?いや、私は…」

どういうわけか女性はブンブンと首を振りながら後ずさる。
しかし、その行動のせいでティアナが抱いていた印象は『次元漂流者かもしれないそれなりの美人』から『何か怪しいところがあるそれなりの美人』に変わってしまっていた。

「……何か後ろめたいことでも?」

「い、いえいえ!?そんなこと…」

「なら、どうして逃げようとしているんですか?」

「そ、それは……」

明言できないとなるとますます怪しい。
ティアナは強引にでもしょっぴこうかと思案を巡らせ始めるが、そこへ女性と同じような服を着た男が現れる。

「アンドレイ少尉!?」

「ハレヴィ准尉!一体ここで何を……」

アンドレイはルイスの前に立つオレンジの髪の少女を見て一旦動きを止める。
そして、その気の強そうな瞳とルイスの腕を握ろうとしているという状況を鑑みてある結論に達する。

「貴様!!准尉になにを!!」

「ちょ!?少尉!?」

突然街中で銃を抜いたアンドレイに驚くルイスだったが、ティアナもそれを見て自分の中の仮定を完全に正解だと思い込んでしまった。

「やっぱりテロリスト!!?」

〈Set up〉

「今すぐ武器を置いて手を挙げなさい!!」

「ええ!!?ちょ、ちょっと!!?私たちはアロウズの…」

「!?カードが銃に!?だが、手品くらいで驚くとでもおもったか!!」

「いきなり質量兵器とはやってくれるじゃないの!!ただで済むと思うんじゃないわよ!!」

「ふ、二人とも待って!!とにかく落ち着いて~!!」



数分後

「すいませんでした……」

「いや、こちらも早とちりをしてしまって……」

「ハイこれ。ここのクレープはすごくおいしいんですよ♪」

「あ、どうも…」

アンドレイとティアナがたがいに謝る中、スバルはもごもごとクレープを咀嚼しながらルイスにもチョコとイチゴのクレープを差し出す。
緊張感のかけたその行動にティアナはスバルの頭へ拳骨を見舞うが、たんこぶができようとスバルは食べることも喋ることもやめようとしない。

「それにしてもルイスさんってすごいんですね!ちきゅーれんぽーのエリート部隊に所属してるなんて!」

「私たちからすればあなたたちの方がすごいわ。まだ子供なのに大人に混じって捜査や戦闘を行うなんて……」

「我々の住んでいた世界じゃ考えられないことだな。」

改めてこちらとの文化の違いというものに驚かされる二人。
慢性的に人材不足にあるとはいえ、地球では法的にも倫理的にも子供が公務を行うなどありえない話だ。

「私たちからすれば質量兵器、しかもMSなんてデカブツでドンパチやっている世界があること自体が信じられませんよ。」

「それじゃあお互いさまというわけだ。……っと、准尉、そろそろ行かないとマズイ。また隊長にどやされることになるぞ。」

「え!?あ、いけない忘れてた!!」

ルイスは慌ててたちあがるとスバルたちに一礼する。

「スバル、クレープありがとう。おいしかったよ!」

「ハイ!今度はお勧めのアイス屋さんに行きましょう!」

「世話になったな、ランスター二士。できれば、また戦場ではない場所でお互い無事に会いたいものだな。」

「ええ。スミルノフ少尉もお気をつけて。」

去りゆく二人の背中を見送りながら、スバルはティアナの頬を人差し指でぐりぐりと押す。

「……なによ?」

「惚れたね?」

「バカ言ってんじゃないわよ。スミルノフ少尉とはまた会えるかもわからな…」

「あれぇ~?私はアンドレイ少尉とは一言も言ってないよ~?」

「……殴るわよ。」

「でも、多分アンドレイ少尉が好きなのはルイスさんだね~……顔見てたらすぐに、あいたっ!!?なんでなぐるの~!?」

「警告はしたわよ。ほら、馬鹿言ってないでさっさと……」

『ティアナ!スバル!聞こえとるか!?すぐに戻ってきぃ!!出撃や!!』

「出撃?」

至って平和な今日、どこに出撃する必要があるというのか。
首をかしげる二人だったが、続いて聞こえてきた言葉に事の重大さをすぐさま理解させられた。

『クラナガン近郊に例の三機が出て他のMSと戦闘をしとる!!はようせんとクラナガンにまで被害が及んでまう!!』



海上

「ハァッ!!」

群青色の頭へビームサーベルを一撃。
続いてGNソードを真っ直ぐ振り上げて脇から肩を斬り飛ばす。
本来ならコックピットを狙って一突きすればすぐに片がつくのだが、ABCが施されている分厚い装甲を抜くのはGNソードやビームサーベルといえども容易ではない。
そんなケンプファーの大群を前に刹那はタクラマカンでの消耗戦を思い出していた。

「この数……俺だけでおさえられるか…?」

こちらは一機たりとも後ろには通せず、おまけにプトレマイオスの防衛も行わなければならない。
一方、敵は何機落とされようと一機でも防衛ラインを突破すればそれで勝ちが決定する。
ケルディムとセラヴィーに応援を頼みたいが、二機とも別の防衛ポイントで戦っている。
いや、むしろプトレマイオスからの援護が無い分向こうのほうが辛いかもしれない。

「っ!せあっ!!」

後ろにいた一機の背中にGNソードを投げつける。
首元に刺さったそれへ一気に距離を詰めて薙ぎ払い、残りの機体に射撃をして牽制する。

「やるしかないんだ……!!もう、俺たちのような人間を生みださないためにも!!」



山岳地帯

「ほらよっと!」

目の変わりに二つのラインが入ったドーム状の頭が消し飛び煙が上がる。
しかし、岩影を利用して迫るMSたちは崖を利用して身を隠すケルディムへお返しとばかりに砲弾を撃ち込んでくる。

「チッ……!進むのが遅い代わりにこっちも上手く狙いが付けられねぇか…って!うおっ!?」

「崩落注意!崩落注意!」

ロックオンは上から落ちてきた岩の塊をかわしてケルディムを別の影へ潜り込ませる。
そこを狙って再び弾丸の雨が降り注いでくるが、慌てず改めて敵の機体のデータを確認する。

「RKL-01、陸専用GNドライヴ搭載機リグルね……ったく、こんなもん作る知恵を他ことにまわしてもらいたいもんだ。」

翠玉人が開発したMS。
彼らの生い立ちや置かれている状況には同情できるが、牙をむいてくるのなら容赦はしない。

「やれやれ、ソレスタルビーイングってのは損な役回りだねぇ。」

ポツリとつぶやいたロックオンはやるせない気分をかみ殺しながら、再び狙撃を開始した。



森林地帯

「クッ!!」

眼下の木陰を疾走する影へGNバズーカを放つセラヴィー。
ここから都市部へ進むとそこはJ・S事件において聖王のゆりかごが落ちた場所であり、ミッドチルダがMSの有用性を認めることになったきっかけを作った場所である。
しかし、皮肉にも今そこはクラナガンを占拠せんとする者たちがまず目指すべき場所であり、身を隠しながら近付けるという意味ではもっとも有利にことを運べる場所でもあった。

「バーストモード!!」

環境保護団体から森林破壊と罵られても仕方ない光景を作り出すティエリアだったが、環境を守って人を守れなかったのでは飛んだ笑い話だ。
大きくひらけたそこへ出てきたジンクスをビームサーベルで一刀両断にすると、防衛線を抜けつつある二機を二つのバズーカで吹き飛ばす。

「旧型とはいえ、この地形を利用されると辛いな……」

どこからもってきたのかは知らないが、旧型のジンクスがこれだけの数だけ押し寄せてくるとなると一機では厳しい。
こうなれば、後で相手になってもいいから管理局の機体の一機でもやって来て欲しいものだ。
ティエリアがそう思ったその時、

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「!?」

横を抜けようとしていた一機がくの字に曲がって空を飛んで墜落する。
今度は上から抜けようとする機体へ無数の鉄球が撃ちこまれ、死に絶える直前の虫のようにぴくぴくと動きながら弧を描いて落ちていった。

「こいつは…!」

鉄槌を肩に担ぎ、鉄球が発射された左手のシールドから箱を二つ排出したエスクワイアに警戒心を高めるティエリア。
まさか、ここで再び会うことになるとは思ってもみなかった。
確かに来てほしいとは思ったが、何もこいつではなくてもいいだろうと唇を噛みしめる。
エスクワイアも首を回してセラヴィーを見る。
だが、一瞥しただけで攻撃はしかけず、残っているジンクスたちへと向かっていく。

「お前らの相手はひとまず後回しだ……!」

悔しそうに唸るヴィータだったが、ここはひとまず現在クラナガンの脅威となりうるこいつらを片づけることが最優先だ。

「行くぞ、アイゼン!!」

〈Ja boul!〉

轟音とともに森の中へ突っ込んだエスクワイアはそこにいたジンクスの頭をパイルでひしゃげさせて動きを止めると、その隙に進もうとしていた機体へ再び鉄球を打ち込んで沈黙させる。
セラヴィーも負けじと空を進む別動隊を薙ぎ払っていくが、高性能な二機がそろっても全てを撃ち落とすことなどできない。
何機かが猛攻を抜けてクラナガンへと迫る。

「ヤバい!!」

「させるか!!」

攻撃目標を目の前にいる敵から後ろにいるジンクスへ切り替えようとするが、それを阻むように射線軸に他の機体が割り込んでくる。

(間に合わない!!)

失敗の二文字がティエリアの頭の中をよぎる。
だが、

「クロスファイアー……シューート!!」

「「!!」」

オレンジの光弾が壁となり、二機がそれにぶつかって爆炎へと姿を変える。
残った一機も何事かと戸惑っているうちに頭を撃ち抜かれて森の中へと消えていった。

「あれは!?」

「カマエル……!」

狙撃銃を肩に戻したティアナはこちらを見ている二機にいまいち状況が飲み込めないが、とにもかくにも攻撃をしてくるということはこのジンクスたちが敵であることは間違いないようだ。

「というわけで、指揮をよろしくお願いします。八神隊長。」

『了解や。とりあえずそのメタボ君とどっかで見たような撲殺兵器は無視!連邦軍とともにナイトの進行を阻め!!』

「了解!!」

はやての宣言と同時に、アースラ、そして周りにジンクス部隊を展開したギアナ級が出現する。

『はやて、そちらには使える武装は搭載されていない。私たちが前に出る。』

『はい、よろしくお願いします。』



山岳地帯

「やべっ!!」

隙をついて抜けた一機が真っ直ぐクラナガン目指して飛んでいく。
慌てて狙いをつけようと振り向くが、そこへ攻撃を受けて態勢を崩してしまう。

「クソッタレが!!!!」

家族の命を奪った連中が行ってしまう。
また、なにも守れないのかとロックオンが絶望しかけたその時、

「一撃必倒!!」

「!」

空から舞い降りた青い影がその拳で頭部を粉砕する。
続いて青い狼へ姿を変えたそれはケルディムには目もくれず胴体から生えた光の刃で他のリグルを一刀両断していく。

「いくよ、マッハキャリバー!今はこいつらを倒す!!」

〈了解!〉

「なんかよくわかんねぇけど、俺たちもやるぞ、ハロ!!」

「狙イ撃ツゼ!狙イ撃ツゼ!」

ケルディムとウリエル。
本来は敵対する者同士の即席コンビネーションは急場しのぎにしてはなかなかだった。
ウリエルがその突進力で敵をばらけさせ、その隙にケルディムが狙い撃つ。
理想的な布陣で迎え撃つ二機だったが、どんな戦術にも穴はつきものだ。
そう、リグルは陸専用のMS。
空こそ飛べないが、その柔軟な動きで崖に跳び乗ってそこを進むことなど訳はない。

〈バディ!敵が上を!〉

「でもここをあけることはできないよ!」

「クソッ!!影になって狙い撃てねぇ!!」

ウリエル、ケルディムともに打つ手なし。
このまま見送るしかないかと思われた時、空から猛スピードで降りてきた一機が胴体を貫いて爆散させた。

「ハッハァー!!不死身のコーラサワー参っっ上!!」

パトリックのどうでもいい自己紹介に呆気にとられるロックオンとスバルだったが、彼に率いられるように現れた紅蓮の軍団に驚く。

「アロウズ!?」

「よかった……来てくれたんだ!!」

「ガンダムに手を出せないのが残念だが、素人に毛が生えた程度の連中、俺一人で片づけてさっさと長い因縁にけりを…」

カッコをつけようとしたパトリックだったが、それができないのが彼だ。
一機のリグルの放った砲弾が彼のジンクスを直撃。
当然そのまま倒れるが、不死身の二つ名の通りやはり今回も自身は無傷だ。

「……あの馬鹿。」

戦艦の中でマネキンはまったく学習しない部下をどうすればもう少しまともできるか今日も頭を悩ませるのだった。



海上

「しまった!!」

プトレマイオスの防御に回ったすきに一機見逃してしまった。
当然、追いかける刹那だったが他のケンプファーがその余裕を与えてはくれない。

『セイエイさん、追ってください!!』

「この弾幕じゃ無理だ!!」

そうこうしているうちにケンプファーの姿は小さくなっていく。
他のケンプファーのうち何機かもそれの後を追う。

「ク……ソ……!!」

仲間の守ろうとしたもの一つ救えない。
自分の無力さが悔しい。
その時、

「!?」

金色の閃光が奔ったかと思うと、先頭にいたケンプファーがバラバラになる。
残りのケンプファー達も腕や手足を斬り落とされて海へとまっさかさまに向かっていく。

「あいつは……!」

プトレマイオスに取りついていた機体を払いのけた刹那は横に並んだ黒い機体に警戒を強める。
途中から管理局や連邦が出てくるであろうことは予想していたが、まさか苦戦を強いられたシュバリエがこんなに早く出てくるとは思っていなかった。

『やれやれ……やっと修理が終わって巡回任務に入れると思ったんだがな。フェイト、わかっていると思うが……』

「わかってる。」

こちらを見ているダブルオーにこの感情をぶつけられないのがもどかしい。
しかし、今すべきことはフェイトもわかっている。

「シュバリエ、迎撃任務に入ります!」

ダブルオーをその場に残して群青色の大群の中へシュバリエとフェイトは突撃していく。
仕掛けてこなかったシュバリエに呆然とする刹那だったが、すぐにシュバリエの後を追う。
そこへさらに、

「ディバイーーン……バスターーー!!!!」

「「!?」」

二機の進む道を切り開くように後ろから光が駆け抜け敵の隊列を崩していく。

〈敵勢力の分断に成功。〉

「うん。それじゃ、私たちも行くよ、レイジングハート!!」

〈All right!!〉

ピンクの光を纏った翼を一振りすると、シュバリエやダブルオーとも見劣りしない速度で突撃を開始する。

「あの機体……!?」

「たしか、サリエルだったか。」

敵ならこれ以上ないほど手強いが、味方ならばこれほど心強い増援はない。

(いける……!!)

この時、三つの防衛地点を守る誰もがそう思っていた。
しかし、彼らは知らなかった。
まだ見ぬ機体が、この後ろに控えていることに。



クラナガン

「流石に混乱してきたな。」

ジルは我先にと逃げ惑う人々の波をエリオと逆流しながら呟く。

刹那たちが派手に騒いだおかげでここが攻撃対象になっていることが明らかになったせいでクラナガンの街はパニック状態だった。
三方を囲まれ、逃げ道を次元港に求めた人たちはそこへ集結していくが、エリオとジルは反対に地上部隊の隊舎へと向かっていた。

「ここまで大騒ぎだと誰もお前が行方不明の局員だってことに気付く奴はいないな。」

「それはテロを仕掛ける側にとってもそうだよ。むしろ、これだけパニックになっているのなら少し攻撃を仕掛けただけで大きな被害を出せる。」

「んで、そのためにもまず兵隊が出てくるところを潰すのが鉄則ってわけだ。」

ビルの壁を蹴って人込みを飛び越えたエリオは到着した隊舎の様子をうかがう。
中では局員たちも慌ただしく動いているが、今のところ何かが起こっている様子はない。

「お前を除いてはな。」

「駆けよ、小さき狩人……!!」

〈Strum Würger!〉

ジルの指さした方向にエリオがストラーダを投擲する。
雷撃を纏い、はかなくも激しい星のごとく輝く刃はそこに何もないはずの宙にささり、天を衝く稲妻を残してカランと音をたてた。

「そんなに殺気が駄々漏れじゃ、見つけてくれって言ってるようなもんだぜ。」

「行こう、人が集まってきた。」

黒焦げで気絶している男からストラーダを抜いて足早にそこを去るエリオ。
これで三人仕留めたわけだが、おそらくまだまだいるだろう。

『エリオ君、そっちは大丈夫?』

「今三人目を仕留めました。そっちはどうですか?」

『こっちも今しがた五人目を仕留めたところなんだけど……きゃっ!?』

『エリオエリオ!!フェルトってばすごいんスよ!慣れてないとかいいながら杖型のストレージでバンバンドタマぶち抜いてるんスよ!!』

『ま、まぐれだよ……』

まぐれと謙遜するフェルトだが、二人がかりとはいえエリオよりも多い五人をこの短時間で仕留めるのは並大抵の技術でできることではない。

「もともと才能もあったんだろうけど、そのきっかけが魔法だったのが幸いしたな。」

「どういうこと?」

通信を終えて再びビルの壁を利用して進みながら尋ねる。

「お前もわかってると思うけど、魔法はある程度意志によって結果が決まるところがあるからな。フェルトが絶対当ててやるって思って撃ったんなら、あいつの中にある素質が少しばかしサポートをすることもあり得るってこった。」

「なるほどね……っと、僕らも早く次の場所へ急がないと……」



その頃、クロウもまたクラナガンに潜入していた敵を狩っている真っ最中だった。
背後から忍び寄り、白銀の銃を後頭部に押し当てて引き金を引いて昏倒させる。
もはや単調な作業の繰り返しと言ってもいいこの繰り返しに飽き飽きしてくるが、子供の遊びと違って途中で放り出すわけにもいかない。

〈しかし、随分えげつない倒し方をしますね。〉

「合理的だと言え。それに方法を選んでいられる状況か。」

次元港や公共交通機関。
この状況で仕掛けてくる可能性が高い場所をことごとく潰してはいるが、聖王教会に応援を頼んでも手が回らないのが現状だ。

〈!マスター、六時の方向に反応!〉

「!!」

振り向くと、ビルの上からこちらを狙っている人間が一人。
エルダで撃ち落とそうとするが、誘導弾を使ってもあの距離まで届くのに時間がかかる。

「ふせ……」

「その必要はないぜ。」

群衆へ向けて叫ぼうとしたクロウだったが、その前にビルの上にいた男がぐらりと大きく揺れて仰向けに倒れた。

「なにが……!?」

その時、反対側のビルに一つの影。
狙撃銃を抱えてヘリパイロットの制服を着た男が足早にその場を去っていく。

〈マスター、あれは……〉

「ああ……どうやら、ようやく帰ってきたようだ。」



海上

「かなり減ってきたな。」

目の前にいたケンプファーを斬り捨てて刹那は呟く。
このペースならばもうすぐ決着がつくだろう。
だが、問題はその後だ。
管理局や連邦軍がこのまま見逃してくれるはずが無い。

「……どの道、俺たちはスメラギのプラン通りにやるしか……っ!?」

警告音で咄嗟に操縦桿を大きく倒した刹那はそれまで自分がいた場所を見て冷や汗をかく。
セラヴィーやサリエルの砲撃すらも上回る極大のビームが唸りをあげてすぐそこをかすめていっているのだ。

「この砲撃……!?」

「あれが……撃ったの?」

三人が見つめるその先にいたのは一機のMS。
いや、フェイトにはMAに。
なのはにはMS。
そして、刹那はどちらに分類することもできなかった。

上半身は通常のジンクスのものなのだが、下半身は人間のそれではなく強いて例えるなら蜘蛛。
八つの鋭くとがった脚をぎちぎち動かしながら、まるで宙を歩くようにゆっくり近寄ってくるその姿は神話に出てくる怪物のようであり、ジンクスとは別に下半身部分に付けられた巨大で丸い二つの目が見る者に嫌悪感を抱かせる。

「こいつも相手にしないといけないのか……!?」



森林地帯

「うっげぇ~……」

昔戦ったプログラムの暴走体並みに気色悪いとヴィータは思う。
見た目は向こうの方が上かもしれないが、こっちは動きがクモやサソリといった人間が生理的に受け付けない動物のそれを機械で再現しているのだから暴走体とは違った気色悪さがある。
そして、それは喜ぶべきなのかこの場にいる全員がそう思っていた。

「……魔法文化まで嫌いになりそうなくらいの衝撃度だな。」

別に魔法文化が浸透している世界がこういうものを好んでいるわけではないだろうが、それでもそう思いたくなるほど悪趣味だ。
ただ、場所を選ばず先程の砲撃が行えるという点では兵器として優れていることは認めねばなるまい。
すなわち、ティエリアが排除すべき存在であるということだ。

「しかし、連邦の戦力を合わせても全て押さえることができるか……!?」



山岳地帯

「チッ!!こっちのMSのデザインセンスはホントに悪趣味この上ないな!!」

溶解してブスブスと黒い煙を上げるマグマを隠れるのをやめたケルディムとロックオンが見下ろす。
後少しでも遅れていれば、骨も残らず蒸発しているところだ。

「んで、幸か不幸かウリエルとアロウズもかわしたか。こいつらで勝手に潰しあってくれると助かるんだがな。」

しかし、そうもいかないのがこの世の世知辛いところだ。
このデカブツが出現したことで勢いを盛り返したMS部隊が進むのも阻止しなければならないし、それを妨害してくるであろうデカブツも倒す必要がある。

「さて……」

「いっちょ……」

「「やるとしますか!!」」

ウリエルとケルディムがほぼ同時に飛び出す。
下の蜘蛛の脚の付け根が開き、そこから出てきたロケット状の筒の中からさらに細かいミサイルが飛び出てくる。

「回避ポイントナシ!」

「だったら作るまでだ!!」

二丁のビームピストルを猛烈な勢いで連射してミサイルを火球へと変えたケルディムは後ろから迫っていたウリエルをかわしてデカブツへ突っ込ませる。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

渾身の力で振り下ろされる青い拳。
しかし、その前にGNフィールドが立ちふさがる。

「クッ……!?フィールドくらい、振動破砕で……」

〈Caution!〉

「!?」

相棒の警告にその場からさがろうとしたスバルだったが、それよりも早く二本の前脚がウリエルのわき腹に食い込む。

「グ……アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

激痛にもだえるスバル。
だが、それでも操縦桿だけは離さない。
どうにか拳を打ち込もうと力を入れるが、一向にGNフィールドが破れる気配はない。
そして、遂にスバルもウリエルも動きを止めてだらりと力なく腕を伸ばす。
それを確認したデカブツは一旦前脚を離すと、改めてコックピットに狙いを定める。

「ク……ソォ……!!」

ここで終わり。
今まで感じたこともないほどの死の予感の中で、それでもスバルは諦めていなかった。

「まだ……諦めるもんか……!!」

最後の力を振り絞って操縦桿に手をかける。
こんな満身創痍の状態でなにができるのか自分でもわからない。
それでも、ここで終わりになんかしたくない。

「生きる……!!そう…だ……!!私は……生きる!!!!」

『……よく言った。それで正解だよ、スバル。』

その瞬間、空から強烈な光が一条だけ降ってきた。





五人の使徒、五体の巨人、数多の星々を束ねし方舟とともに混沌たる地より司法の地へと来たる
孤高の射り手、深き緑の天使とともに彼方より不浄を撃ち抜く者あり
反逆の天人、漆黒二面の天使とともに光茫にて全てを薙ぎ払う者あり
悲しき破壊者、気高き蒼の天使とともに神剣にて歪みを駆逐する者あり

そして……




あとがき・・・・・・・・という名の次回へ続く!

ロ「というわけでクラナガン防衛戦の前編でした。」

蒼「前後編構成にしちゃって……どうすんだよこれ。」

ロ「だって一話でまとめるつもりがやりたいこといろいろやってったらこうせざるを得なかったんだもん……orz」

ティ「久々の出番がこれか、クソニート。」

弟「とりあえず俺たちの女ったらしの称号を取り消せよ、クソニート。」

ロ「お前らここぞとばかりにこないだのストレス発散するのやめてくんない!?」

刹「自業自得だ。」

ロ「うるせぇ!!この天然たらし二号!!お前なんて二股かけて背中から撃たれればいいんだ!!!!」

蒼「おいぃぃぃぃ!!!!!こいつ原作の主人公!!そんな人にそんなこと言っちゃだめでしょ!!?」

狸「でもこの話の進み方やと二股になる可能性は低いんちゃう?」

弟「……そういやそうだな。というかリリカル組の奴がさらっと出てきてんじゃねぇよ。」

ロ「……まあ、天然たらしは歩いてるだけで無意識に獲物をひっかけるから誰かかわりが見つかるだろ。」

刹「???さっきから何を言っている?」

狸・弟(うわぁ……自覚なし。)

ティ「だから天然なのだろう。」

刹「???」

ロ「もう、なんかコイツの鈍さ見てるとイライラしてくるんで締めに行くぞ!!」

狸「もてへん男のひがみは嫌やなぁ……(笑)っと、それは置いといて……今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!ほな、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 24.クラナガン防衛戦(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:ff647d35
Date: 2011/11/09 17:36
第1管理世界 ミッドチルダ 衛星軌道上

『ロッサより暗号通信。オルガが出たそうだよ。』

「OK、それじゃジャストタイミングってわけだ。……いや、ある意味最悪のタイミングだな。」

大気との摩擦で生まれる熱で赤に染まる愛機の中でユーノは自嘲する。
犯罪者扱いされている男が新たな脅威とともに帰ってきたのだ。
多次元世界の人間が歓迎するはずなどない。

「まあ、やっとというか先に下に降りたわがまま男のせいでなかなか合流できなかったみんなに会えるわけだし、そこのところは目をつぶってもらおうか。」

『というより、君もフォンもそんなこと関係なく行動するタイプだけどね。』

「さらに言うならお前もな。……いや、マイスター全員がそうか。」

「「はっはっは……」」

耳に痛い苦言に乾いた笑いでごまかしながら目をそらす二人に諦めの溜め息をつくと967は再びディスプレイへと視線を戻す。
眼下に広がる雲を抜け、煙と閃光で装飾された三つの場所を見比べる。

「……アレルヤ、俺とユーノはすぐ下の山岳地帯に行く。お前は森の方へ向かってもらっていいか?」

『海じゃないのかい?』

「そこはフォンが担当する。ヴァイスもそろそろ向かっているころだろう。」

「そう言えば、ヒクサーはどうしてる?僕たちより先に動くって言ってたけど?」

「……やっと動き出したようだ。」

そのやっとに到達するまでの光景が三人の目にはありありと浮かぶ。
ごねる887とそれを口八丁でやる気にさせるヒクサーとヴェロッサ。
毎度のこととはいえ、あの気まぐれはどうにかしてもらいたいものだ。

『ホント、彼も大変だね。』

「あんなとんでもないのと24時間共同生活してるアレルヤの方が大変だと思うけど?」

「……悪いがお喋りはそこまでだ。そろそろ作戦に移るぞ。」

967の言葉に二人は先程までの和やかな空気を消し去ってディスプレイに集中する。
それぞれ目標が視認できる距離まで近づいたことを知らせる電子音とひときわ大きいMA、オルガのアップ映像に合わせてペダルを踏み込んだ。

「アレルヤ・ハプティズム、アリオス、目標へ飛翔する!」

「ユーノ・スクライア、クルセイド、目標を粉砕する!」

赤から瑠璃色の流星へと変わったアリオスとクルセイドは、ゴウッと空気を切り裂く音を残して急下降を開始した。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 24.クラナガン防衛戦(後編)

山岳地帯

967がハロの姿のままだがこちらを睨んでいる気がする。
通信を傍受して今どういう状況なのか確認したところまでは良かったが、スバルの言葉に思わず彼女が乗っていると思われるガンダムに話しかけてしまった。

「……知り合いか?」

「ま、まあ……そんなとこ……(お、怒ってる……)」

怒りを隠そうとしない相棒に顔が引きつるが、そんなことなど知らない敵は待ってなどくれない。
ユーノはウリエルを蹴り飛ばしてそこから離すと、自身もクルセイドと空へと舞い上がる。
それまでいた場所は鋭い爪によってえぐられ、細かく砕けた石がパラパラと周辺にまき散らされた。
上半身の顔にくっきりと傷跡を刻みこまれたオルガは爪を引き上げるとガチガチと関節を鳴らしながら不安定な場所もものともせずに進んでくる。

「……僕の記憶が確かなら、あんまり近接戦闘向きじゃないってシェリリンが言ってような気がしたんだけど?」

「前情報が当てにならないのはよくあることだろう。それに、今のは油断していたお前が悪い。」

「へいへい……」

『オイ!!ユーノ!!』

目の前に敵、そして周りには敵予備軍がひしめいているというのに呑気にため息をついていると、怒っている、それでいて嬉しそうな声が聞こえてくる。

『お前ユーノだろ!!今までどこで何やってたんだよ!!』

「地球でのんびり人探しさ。そっちは現在進行形で苦労しているみたいだね……って、あーーーー!!!!!!シールドビットが二基ないじゃないか!!!!一体何やったんだよ!!!!?」

『訳わからんガンダムとやりあって壊れた!!それよりお前の方こそ何やってたのかきっちりと…』

「ふざけんなーーーーーー!!!!!!!シールドビットは僕がイアンから押し付けられた無茶を死ぬ気でこなしてやっと手にしたデータをもとに造られてるんだよ!!?もっと丁寧に扱いなさい!!!!」

『うるせーーーー!!!!お前が今まで整備をサボってたのがいけないんだろ!!!!』

「だったら君もフォンに振り回されてみるか!!?普通にミッションこなすより遥かに重労働なんだぞ!!!!」

「……オイ、二人とも。」

「『あ゛!!?』」

967の声に視線を前に戻す。
すると、そこには下の大きな二つの目の代わりに大きく開いた砲門が光をため込んでいる光景が広がっていて……

「うおっ!!?」

「おわっ!!?」

ケルディムとクルセイドは発射された大型ビーム砲を咄嗟にかわす。
しかし、今度は右に逃げたクルセイドへ上半身のジンクスが握っていたビームライフルの銃口が向けられる。
しかし、それが発射される前に真上からの強烈な光が腕ごとライフル吹き飛ばした。

「ったく、相変わらず油断しすぎよ。」

「油断はしていないさ。あれくらいかわせたよ。」

「その割には焦ってたみたいだけど?967がばっちり送ってくれてたよ。」

ブーブー言う887といつものように涼しい笑顔を向けてくるヒクサーに顔を赤らめるユーノ。
背中にプロトビットを戻すセファーラジエルはいつもどおり美しい姿なのに、それにどこか嫌味ったらしいものを感じてしまっても悪いことじゃないと思いたい。

「……裏切り者。」

そっぽを向いている967に文句を言うが、答える様子はない。
都合が悪い時はいつもこうだ。

「っとぉ……ごめんごめん。忘れてたわけじゃないんだよ。ただ、眼中になかっただけでね。」

まるで無視され続けていたのが気にくわないとでも言うようにズシンと音をたてて一歩前に出るオルガ。
しかし、三機のガンダムはそれに臆することなく、むしろ余裕を持って堂々と正面に立つ。
その姿はアロウズの部隊にも攻撃をすることも忘れさせるほど雄々しく、そして優雅だった。

「さて……まずはお前を舞台から引きずり落とすとしようか!」



森林地帯

戦場に突風が吹き荒れる。
それまで自らの命を謳歌していた青々しい葉がいくつも散って空を舞う。
しかし、そのどれもが後悔しているようには見えない。
むしろ、そうやって自分も風になることを待ち望んでいたように高く、さらに高く舞い上がってそこへ誘ってくれたオレンジの翼を祝福する。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

アレルヤはアリオスを木の葉の群れから飛び出させるとあいさつ代わりとばかりに背中に積んでいた急ごしらえのテールユニットからありったけのミサイルを発射する。
そして、潜んでいたジンクスたちが火球に変わるのを待たずにMSへと変形してオルガへとツインビームライフルを連射する。
しかし、オルガの周りに展開された分厚いGNフィールドがバチバチと音をたてながらそれをことごとくはじいてしまった。

「流石にむしがよすぎたか。」

ミサイルで残存勢力のほとんどを撃破し、間髪置かずに主戦力であるオルガを叩く。
そうできれば本当に最高だったのだが、やはりそううまくはいかないらしい。

「ティエリア、大丈夫かい?」

援護を頼もうとすぐそばにいたティエリアに通信を入れる。
しかし、いつもならすぐに返事をしてくるのにティエリアはポカンとしたまま口をあけている。
どうしたのかとさらに声をかけようとするが、その前にコックピット銃にティエリアの怒鳴り声が響いた。

「何をしていたんだ君は!!!!!!!!!!」

「っっっっつつつあぁ~~……!!」

耳を押さえようとするアレルヤだったが、ヘルメットにそれを阻まれてその後もティエリアの怒鳴り声を聞く羽目になる。

「理由はどうあれ、これほど長期間トレミーから離れているとは何事だ!!!!!!!!貴重なオリジナルGNドライヴが破壊でもされていたら死んでも許される問題ではないぞ!!!!!!!!」

「わ、わかった……僕が悪かったから……」

「…それに…………」

「?」

「……どれだけみんなに心配をかけたと思っているんだ。この…馬鹿……」

泣いていた。
あのティエリアが自分のために泣いてくれている。
ティエリアはアレルヤの顔を見た時驚いていたが、アレルヤもティエリアの予想外の反応に驚愕していた。
だが、こういうときにかけるべき言葉はわかっている。

「ごめん……ありがとう。」

ただそれだけで気持ちが通じ合える。
そんな仲間を持てたことをアレルヤは心から誇りに思う。

『やあ、お二人さん。いい感じのところ悪いけど、敵さんがお待ちかねみたいだよ?』

風景の一部をまるで布でも取り払うように現れる白の機体。
プルトーネ・Hを操るヴェロッサは二人の間へ割ってはいる。
ハッとして涙をふくティエリアだったが、知らない顔に気を引き締める。

「アレルヤ、彼は?それに、プルトーネが少々改造されているようだが?」

「えっと、彼はフェレシュテの新しいマイスターで…」

「紹介は後でもできるだろう?今はとにかく、こいつを片づけなくちゃ。」



海上

穏やかだった海面にいきなり白波がたつ。
フェイトが後ろへ吹き飛ばされたシュバリエの態勢を整えている間に、今度はダブルオーが斬り込むが、発射されたミサイルが壁となって近づくことすらできない。

「意地でも接近させない気か!」

「なら!!」

〈Divine Buster!〉

桃色の砲撃がオルガへと唸りを上げて迫る。
しかし、高濃度に圧縮された粒子の膜はそれすらも防いで見せた。

「またフィールド…!」

(近づけてもあれがある限りGNソードでも本体に到達するまでタイムラグが出る……さっきもそのせいでチャンスを逃してしまった……)

接近するまでなら、ダブルオーもシュバリエも何度か成功している。
だが、ここまで高密度のGNフィールドを展開されると実体剣といえども多少なりとも影響は受ける。
その間に周囲から攻撃をされれば受けざるを得ない。

「でも、戦いにおいて必勝の定石なんてない……!絶対に崩せる!!」

そう自分に言い聞かせて心を奮い立たせるなのは。
しかし、その言葉はオルガを攻略できない今は負け犬の遠吠えとなんら変わらない。
どれほど言葉を紡ごうと、力で結果を示さない限りそれはなんの意味もない言葉遊び。
自己陶酔以外の何物でもない。

「行って!!」

〈Accel shooter!〉

どこかに穴が無いかとさまざまな場所へ光弾を走らせる。
だが、どこに当たっても結果は同じ。
一発もその身に届くことはなく、反対に蜘蛛の両目から放たれる攻撃に距離をとることを余儀なくされる。
それでもなのはは攻めるのをやめない。
通常射撃に切り替えたストライクカノンを撃ちこんでいく。

「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

もはや何のためにそれをしているのかも忘れ、半狂乱状態でトリガーを引き続けるなのは。
しかし、その無意味な作業も終わりを告げる。
なのはとは比べ物にならない、赤い狂気に染まったある一機のMSによって。

「邪魔だ……少し黙ってろ。」

「あぐっ!!?」

背中から突き飛ばされたサリエルはきりもみしながら海へと落ちていく。
しかし、主がまともに操縦できない状態でもレイジングハートがしっかりと海面で落下にストップをかけ、自分たちを突き飛ばしたものを見上げる。

「あれ…は……!?」

全身に返り血を浴びたような紅蓮のMS。
その手に握られている分厚い剣は鈍く輝き、妖刀と呼ばれていてもおかしくないほどの風格が漂っている。
そんな狂犬のような雰囲気のガンダムからこれまた狂った笑いが刹那の耳へと届けられる。

『あげゃげゃげゃげゃげゃ!!久しぶりだな、刹那・F・セイエイ!!』

「お前は……フォン・スパーク!?なぜここに!?」

『オイオイ、仲間を連れて来てやったのにつれねぇ言葉だな。』

「仲間だと?」

『ああ。例えば……』

「っ!!」

いつの間にかオルガが大型ビーム砲の砲門を開けてフォンの操るアストレアを狙っている。
話に夢中で油断していた。
なんとか攻撃を中断させようと接近を開始するがとても間に合わない。
だが、当のアストレアは微動だにしない。
なぜなら、フォンは知っているのだから、

『この下に隠れてる童貞とかな。』

海面から勢いよく飛び出した対空魚雷は見事にオルガの下あごを捉え、上を向いた口から放たれた高出力のビームはアストレアの少し上を通って空へと消えていった。

『だ~れが童貞だってこのあげゃベイド。次はテメェの股狙うぞコラ?』

『ハッ!テメェごときの弾が俺に当たるわけねぇだろ。せめて目玉を取り替えてから出直しな。』

「この声……!」

海中から出てきたサダルスードから聞こえてくる声に刹那は聞き覚えがあった。
こちら側に来ることになった時に語りかけてきたあの声だ。

『よお、ダブルオーのパイロットさん。前は間に合わなくて悪かったな。俺はヴァイス・グランセニック。ロッサと同じく、こっち側出身のガンダムマイスター二号ってところだ。』

「異世界出身のマイスター……!?」

『あんたも聞きたいことは山ほどあるだろうけど、俺も聞きたいことはわんさかあるんでな。まあ、とりあえずはだ……』

ヴァイスの視線に促されるように刹那もいまだ健在のオルガを睨む。

『コイツをかたづけてからゆっくりと話そうや。』

「……了解した。」

改めてそれぞれの武器をとる三機。
二振りの剣と一丁の狙撃銃を突きつけられ、大きさで上回るオルガも歩みを止めた。

「……いくぞ。」

その一言で散らばると、まずは一斉に自分たちの持つ射撃武器を発射する。
GNフィールドによってすべて阻まれるが、目くらましとしての役割は十分だ。

「くたばりな、ポンコツ!!」

GNフィールドにミシミシと音をたてながらも徐々に刃を深くえぐりこんでいくアストレア。
周りにいるケンプファー達は当然それを阻もうとするが、

「させるかよ!!」

頭に弾丸を撃ち込まれて一機がもんどりうって海へと転げて落ちていく。
その先でスコープ越しにこちらを狙っている群青色の影にケンプファーの搭乗者たちは体を震わせる。

「なんだ?来ないのかよ。だったらこっちからいくぜ!!」

狙撃銃を肩に戻し、両脇についている固定式ライフルを手に取るサダルスード・T。

「遠慮はなしだストームレイダー!!全力でぶちかませ!!」

〈All right!!Fire!!〉

二本の光が戦場を駆け抜ける。
飲み込まれた群青の闘士たちはもがき、溶解しながら爆発して散っていく。
もはや砲撃と呼んでもさしつかえのない掃射が終わった後に残っていたのはオルガとわずか数機のみ。
恐れを為した生き残りは背中から撃たれるなど考えもせずに一目散に逃げ出したのだが、オルガだけは両腕を斬り取られても逃げようとはしない。

「やっぱりな。コントロールしてるのはMDシステムか。」

負けが確定したこの状況でも逃亡しないのは死を恐れていない、つまりパイロットがいない証拠だ。
おそらく、逃げた連中も囮くらいにはなるとわかっていてどんな戦況でも最後まで戦うように設定しておいたのだろう。

「無様な奴らだな……自分で自分が機械より劣っていることを証明するとはな。」

「機械と違って命をかける覚悟ができないってことか……ま、こいつはそんなこと考えちゃいないんだろうけどよ。」

「だが、そう思うとこいつも哀れな奴だ。他者からその覚悟を強制され、死ぬとわかっている時もそれを曲げることができない。」

まるで、かつての刹那のように。

「……お前のその歪み、この俺が断ち斬る。」

刹那は静かに半身に構える。
右手に握られた剣にありったけの粒子を送り、おそらく最後となるであろう一撃のために神経を研ぎ澄ます。
そして、

「!」

目から放たれた二つの熱線を体をひねらせながらひらりとかわし、それに沿って一気に間合いを詰める。

「ダブルオー、目標を駆逐する。」

天地が逆転したまま真一文字に振り抜かれた一撃は前脚を斬り裂き、巨大な胴体すらも真っ二つにしていた。
光の無くなった瞳で、それでも最後までダブルオーに手を伸ばしてくるその姿に幼い日の戦いを思い返しながら、刹那はビームサーベルでとどめとなる刺突を胸へと突き立てる。

「……ファーストフェイズ、終了。」

海へと消えた悲しい兵器に、刹那はあらためて戦うという行為の虚しさを噛みしめさせられた。



森林地帯

一方、刹那たちのように決定打を与えられる実体武器が無いアレルヤ達は苦戦を強いられていた。
遠距離からどれだけ砲撃を撃ちこもうと全て無効。
近接戦闘ではビームサーベルが通用しない。
手も足も出ないという言葉をここまで顕著に表している光景はそうないのではなかろうか。

「けど、アリオスで突っ込めば……」

「自殺したいんなら勧めるけど、そうじゃないならやめておいた方が賢明だよ。」

軽やかに攻撃をかわしながらライフルを撃つプルトーネ・H。
アリオスも同じように射撃を繰り返すが、やはり通らない。
だが、向こうの攻撃もこちらには当たらない。
長く続く均衡状態に眉間にしわを寄せ始めるヴェロッサはふと横目でジンクス相手に大立ち回りを繰り広げる鉄槌の騎士とオレンジの天使を見る。
連邦とあの二機が加勢してはくれないかと一瞬だけ思ってしまうが、その可能性はまったくない。
なにせ、向こうはこちらとテロリストたちが潰しあってくれれば大助かり。
生き残った方を漁夫の利にすればそれで片がつくのだから、協力などしてくれるはずが無い。
もっとも、背中から撃たれるようなことが無いのでそれはそれでいいのだが。

「けど、このままってわけにもいかないよね。」

アレルヤの呟きに攻撃態勢に入っていたセラヴィーの動きが止まる。

「?ティエリア?」

(……できることなら、まだ隠していたかったが…)

だが、仲間の命と天秤にかけるまでもない。
今後、たとえ戦いが不利になろうがかまわない。
セラヴィーのジョーカーを……切る。

「……アレル…」

「ハイハイ!ストーーップ!」

ティエリアの言葉をヴェロッサが止める。

「悪いけど、二人とも少し時間を稼いでくれないかな?ハウンドの切り札を使う。」

「ロッサ!?だけど、あれは…」

「いいんだよ。僕は君たちみたいに最前線に出るわけじゃないし、少しくらい手札がばれてもなんとかやっていけるさ。」

「けど!!」

「……ヴェロッサ・アコースだったか?」

ティエリアの声にアレルヤは息をのんで黙る。
しかし、ヴェロッサはその鋭い視線を受けながらもニコニコと人のいい笑みを絶やさない。

「……信じていいんだな?」

「もちろん。」

「よし……アレルヤ、僕たちで奴を引きつける。その隙にプルトーネが叩く。」

「……わかったよ。」

久しぶりの強引さが懐かしく、苦笑しながらもアレルヤはアリオスを戦闘機に変形させて上空を飛びまわって牽制射撃を開始する。
反撃しようとオルガも上を向くが、そこへセラヴィーも砲撃を絶え間なく撃ち続けてくるので攻撃はおろかそこから動くこともままならない。

「ロッサ、あとどれくらい!?」

「あと14~15秒ってところかな?できれば完全に奴の視界を奪ってほしい。」

「了解した!!」

ティエリアは砲門の角度を少し下げて発射する。
激しい土煙と焦げた木々から立ち上る黒煙で完全にオルガは周りの様子をカメラで確認することができなくなる。
しかし、各種センサーのおかげでどんな敵だろうと立ちどころにその居場所を掴むことができる。
こんな子供だましなど、なんの役にも立たない。
そのはずだった。

ふと、オルガにつまれていたAIが異変を感知する。
先程までいたはずのガンダムの反応が一機足りない。
どんなに範囲を広げても、どんなセンサーを使ってもその姿を捉えられない。
ならば、いなくなった奴に用はない。
おそらく逃げたのだろう。
だったら、残っている二機を倒すまでだ。
そう判断し、攻撃のとめたアリオスへ狙いを定めて大きな砲門をあける。
そして、



ブオン!



フルパワーで発射した。
そのはずだ。
なのに、いつまでたってもアリオスの反応も消えなければビームも出ない。
逆に、自らの体がどんどん動かなくなっていく。

「……油断したね。」

背後から声が聞こえてくる。
それが誰のものかは知らないが、とにかく攻撃しなければ。

「無駄だよ。君の主な機関は潰させてもらった。もうフィールドを張ることも攻撃をすることも不可能だ。」

聞こえてくる言葉の意味も理解できず、映像にノイズが混じり出す。
しかし、最後に見えたもので今何が起こっているかは理解できた。
あいつは、あの白いやつは逃げてなどいなかったのだと。



薄れていく煙の中、最初に現れた時のようにカメレオンのように風景の一部から現れるプルトーネ。
ビームサーベルで貫かれたと思われる焦げ痕がついたオルガを残し、アリオスとセラヴィーの待つ場所までゆっくりと帰っていく。

「パーフェクト・ステルス……無限の猟犬をもとにシェリリンとヴァイスが考えてくれた能力でね。視覚、センサー、ありとあらゆる探知手段から完全に姿を消し去る。本来は隠密専用の能力なんだけど、こんな形で使うことになるとは僕自身考えていなかったよ。」

「だが、今回はそのおかげで助かった。感謝する、ヴェロッサ・アコース。」

「ロッサでいいよ。僕も君のことをティエリアって呼びたいからね。」

ヴェロッサの笑顔に、敵に囲まれていることも忘れてティエリアもクスリと小さな笑みを見せた。



山岳地帯

「さて、どうしたもんかな……」

背中に突き刺さってくるアロウズの視線にさらされながら、ユーノは一歩下がってミサイルの雨から逃れる。
すぐ目の前では瓦礫がごろごろと転がり、炎と埃で姿がかすむオルガを中心に起伏に満ちていた地形がほぼ平らに変わってしまっている。

「こんなことならアトラスで来ればよかった……」

「後悔先に立たず。」

「いちいち癇に障る言い方するのやめた方がいいよ。」

こめかみをひくつかせながらクルセイドを再び突撃させる。
しかし、12度目の挑戦も厚い粒子の膜の前にバンカーどころか拳を触れさせることすらできず後退を余儀なくされる。
その間にもケルディムとプロトビットから攻撃が行われるが、こちらも効果は薄そうだ。

「どんなにでかくても一撃放り込めれば終わると思うんだけどな……」

「その一撃を叩きこめなくてこんなにてこずってんだろ。どうすんだよ?」

「これだけ高密度のGNフィールド使われちゃね~。現存する兵器のほとんどが無効化されちゃうわよ。」

「それに対抗するためのGNソードとアームドシールドなんだけど?」

「だったらどうにかして見せなさいよ。」

本当ならどうにかできるはずなのだ。
しかし、これだけ外野がうるさくてはアームドシールドを届かせる前に離れざるを得ない。
ならば、GN粒子そのものを無効化できればすんなりと倒せるのではないだろうか。
GN-EXCEEDを使って、

『それがお前たちにただ力を貸しているだけだとでも本気で思っているのか?』

「っ!」

ビサイドの狂った笑みが頭をよぎる。
二、三回頭を横に振ってそのイメージを取り除くと改めて冷静に考える。
ツインドライヴが安定しない状態でTRANS-AMやEXCEEDを使うのは避けるべきだ。

(となると、現状の装備で何とか……)

───怖いのか?

(っ……違う!!GNドライヴの保持を考えているだけで……)

───ハハハッ!上手い言い訳だな。でも、手が震えてるぜ?

「っ……!はぁっはぁっ!!」

「?ユーノ?」

明らかに息が荒くなるユーノ。
モニター越しのロックオンですらその異変に気づけるほどだ。

「お……おい……」

「はぁっはぁっはぁっはぁっ!!!!」

「!?どうし……」

「まずはリグルをどうにかしないといけないようだね。」

967が問いかけようとしたところでヒクサーがユーノに語りかける。
その穏やか口調に震えが収まっていくのを感じる。
ひとまず敵と距離をとってヘルメットを外して汗をぬぐう。
外気に触れてひんやりとする額が元の自分に引き戻してくれた気がする。

「できる、ヒクサー?」

フゥと息をひとつはいて改めてヘルメットをかぶって聞き返す。
ヒクサーは親指を立てると通信を終了してセファーラジエルをリグル達の前までもっていく。

「第一形態だけど、足止めくらいはできる。ね、887?」

「もちろん!!任せてよ!!」

ビットをラジエルに装着させた後で上空で待機していたセファーが急降下して一帯に粒子をばらまいていく。
ジャミングの役割を果たす粒子のせいで通信が途切れて連携が乱れる。
そこへ、ビットから放たれた閃光が二機のリグルを貫く。
なにが起こったのかわからないまま、残りの機体にも降り注ぐビームの雨あられ。
それから逃れた者はラジエルがビームサーベルで直接斬り捨て、一機たりとも後ろに通さない。

「よっしゃ!!それじゃ、俺たちもやるとしようぜ!」

ヒクサーと887に触発され、ケルディムの額のカメラアイを展開してロックオンは狙撃の態勢に入る。

「ケルディム、目標を狙い撃つ!!」

スナイパーライフルから放たれた光弾はGNフィールドを前に防がれる。
しかし、それでもロックオンはトリガーを引き続ける。
ただ、一点に狙いを絞って。

「再展開もできずにこれだけ同じとこばっかだと、流石に薄くなるだろ!!」

ロックオンの言うとおり、ケルディムの狙撃を受け止め続けた正面の部分が周りと比べて明らかに薄くなっている。
そこへ、

「いまだ!!いけっ!!」

「了解!!」

満を持してユーノとクルセイドが突進していく。
流れ弾が何発か機体をかすめるが関係ない。

「どんなに殻にこもっていようが……」

「それごと打ち砕くまでだ!!!!」

GNフィールドとぶつかった瞬間激しい稲妻がクルセイドを包み込む。
しかし、わずかの後バァンという炸裂音とともにそれを突き破ったクルセイドが体ごとオルガへぶつかっていく。

「クルセイド……目標を粉砕する!!!!」

渾身の力で叩きつけられたバンカーに胸部の装甲がひしゃげる。
だが、さらなる衝撃がその場にはしる。

「う……おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

「なっ……!?」

「オイオイ……!!」

「あのデカブツを……」

「たった一機で……」

「持ち…上げた…………!?」

地面がひび割れ、体の下に装着されていた三機のGNドライヴを見せながらバタバタと脚をばたつかせるオルガを片腕だけで持ち上げている。
常識外れのその光景に誰もが口を開けたまま唖然とするが、クルセイドの操縦桿をおもいきり押し倒すユーノは歯を食いしばりながら笑う。

「バンカー、フルバーーースト!!!!」

小クレーターが生まれると同時に瑠璃色の光に押し上げられるようにオルガが宙を舞う。
しかし、クルセイドの猛攻はまだ終わらない。
バンカーモードのまま隠し刃を出して粒子を纏わせると、抵抗する術を持たない哀れな蜘蛛へと突進していく。

「でぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

天高く突き上げられた刃はオルガを一刀両断せしめ、クルセイドは自由落下に任せて地上に膝をつく形で降り立つ。

「……ファーストフェイズ、終了。」

空に咲いた赤い大輪の花を背に立ちあがるクルセイドの中で、ユーノは目の前の光景の変化に苦笑する。

「わかってたけど、やっぱそう来るわけか……」

自分たちを取り囲むアロウズの部隊に三機は互いに背中を合わせて迫りくる輪に向き合う。

「こっから先のことは考えてあんのか?」

「そこのところはアコース査察官しだいだね。そろそろだと思うんだけど……」

そう言って表示されていたタイマーへ目をやろうとするが、その前にこの空域全体に聞こえるほど大きな声が響き渡る。

『管理局局員に通達する!!MSでの戦闘を停止!!これよりクラナガンにてテロリストの残党の掃討に入れ!!』

「おっ!!来た来た。」

伝説の三提督の一人、武装隊栄誉元帥ラルゴ・キールの声に管理局の部隊だけでなくアロウズ達も動きを止める。

『なお、地球連邦軍にもMSでの戦闘を禁ずる!!この命令に反する場合はいかなるものであろうと厳罰に処する!!』

「これが撤退の合図か?」

「ま、そんなところ。しかし、三提督を動かすなんて一体どんな手品を使ったんだろ?」



森林地帯

「別に三提督に動いてもらったわけじゃないよ。」

ヴェロッサはそう言うと録音してあったそれをティエリアたちにも聞かせる。

『なお、地球、れんぽう、ぐん、も、も、びる、スーツ、での……』

ちぐはぐな言葉の羅列に過ぎないそれをヴェロッサは手元のコンソールを使って加工する。
すると、こうなる。

『なお、地球連邦軍もMSでの……』

「なるほど。しかしいいのか?こちらの有力な人物の言葉を勝手に使うなど……」

「大丈夫。あの三人も多分だけど同じことを考えてるはずさ。僕はそれを代弁しただけだよ~。」

「い、いいのかなそれで……」

「いいのいいの。あの三人ってば、いっつもニコニコ老人会の寄り合いみたいなことしてるわりには動く時は僕ら顔負けのめちゃくちゃさなんだから。」



山岳地帯

「ほら、種明かしは後でしてもらうとして、今はここから離れるのが先決だよ。」

ヒクサーに促され、もどかしそうにこちらを見ているジンクスたちを尻目にユーノとロックオンも空高く飛んでいく。
だが、その時クルセイドの通信機器が一人の少女の声を拾っていた。

『ユーノ……さん……』

「!!」

少し迷って、しかしすぐに決断するとバイザーに遮光処理を施し、ケルディムとセファーラジエルとの回線を切る。

『ユーノさんなんでしょ……?なんで、行っちゃうんですか……?』

「…………………………」

ユーノはスバルの問いに答えない。
答えられるはずもない。

『テロに加担した容疑なら、私たちが無実を証明しますから、一緒に帰りましょう……?』

「…………………………」

『なのはさんだって、ずっと待ってますよ……?ユーノさんが帰ってくれば、みんな元通りに……』

「お前は、本気でそう考えているのか?」

「!」

なにも喋ろうとしないユーノに代わり、967がスバルの言葉をはねのける。

「この際はっきり言ってやろう。この機体に乗っている人間がユーノ・スクライアだったとして、本当にコイツがもどったら全てがリセットできるとでも思っているのか?」

『そうだよ!!ユーノさんだってそっちの方がいいに決まって…』

「お前たちがそういった一方的な独善の押しつけが、この事態を招いたんじゃないのか?」

『そんなことない!!お前たちが勝手にユーノさんを巻き込んだんじゃないか!!!!』

「……よく考えてみることだ。お前が考えているほど世界は単純にはできていない。俺たちがお前たちにとって悪であるように、お前たちの存在が悪である者たちもいるんだ。」

それを最後に通信を終える967。
そして、ハロの中から出て来て半透明の体でユーノの前に立つ。

「すまない。」

「いきなり何?」

「勝手なことをしてしまった。」

「さっきのことなら別に気にしてないよ。あれは、本当なら僕が言わなくちゃいけないことだったんだ。」

こちらの仲間との決別。
それをする勇気がユーノの中で完全には形成されていなかった。
それは確かだが、967が謝った理由はもう一つある。

「……俺は、お前がとられるのが怖かったんだ。」

「967……」

「また、お前が向こうに戻ってしまったら……そう思ったらつい、な……」

「ハハッ……意外と心配性だね。僕の帰る場所はソレスタルビーイング以外もうどこにもないのに。」

悲しそうに笑うユーノに、967は言葉をなくして俯く。
自分のエゴで彼の“故郷”を奪ってしまった。
そのことが胸に重くのしかかってくる、967にとっては憂鬱一色の撤退になってしまった。



海上

「ロッサの奴また無茶なことを……」

この後問題にならないかハラハラしながらもプトレマイオスとともに海中へと姿を消していくサダルスードとヴァイス。
ダブルオーとアストレアもそれに続く。

「うかねぇ顔だな?何か思うところでもあんのか?」

「……撤退を開始する。周辺の警戒を続行。」

「言いたくないってか……まあ、いいさ。その反応だと、何が考えているかはだいたいわかるからな。」

フォンの顔が消えた後も刹那は渋い顔のまま深度をさらに下げていく。
こちらで製造されてしまったGNドライヴとMSの意味をただ一人で噛みしめながら。



プトレマイオスⅡ コンテナ

久しぶりの古巣の臭いをユーノとアレルヤは胸いっぱいに吸い込む。
それだけでも十分帰って来れたことが実感できるのだが、その後の熱烈歓迎がその思いを一層際立たせた。

「ユーノ!!!!アレルヤ!!!!」

「おっと。」

二人に真っ先に抱きついてきたフェルトはもう二度と離れない意志表明をするように腕に込める力を強める。

「よかった……!!本当によかった……!!」

「ただいま、フェルト。」

「心配かけてごめん。」

「まったくだ。俺たちが不安に過ごした日々を返してもらいたいぜ。」

ぶつくさ言うくせに、ラッセも二人に拳を突き出してぶつけあう。
そんな時、ふとユーノはあるビッグニュースを思い出してニヤリと笑う。

「そう言えば、いいのアレルヤ?」

「?」

「せっかく彼女と再会できたのにフェルトに浮気なんかして。」

「なっ……!?」

「「「「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?」」」」

ユーノの言葉にラッセだけでなく、いつの間に来ていたのかスメラギ、ミレイナ、ロックオンまでがアレルヤに詰め寄る。

「どういうことだアレルヤ!!俺たちがヒーコラ言ってるときにお前何してたんだ!!?」

「ち、違うんだラッセ!!マリーとはまだ何も…」

「マリーさんって方なんですか!!ミレイナも会ってみたいですぅ!!」

「だ、だからまだそんな関係じゃ…」

「ほう。ならば、これは一体何だ?」

ユーノの脇に抱えられていた967は目からある動画を投影する。
遥か上空から撮影されていたそれが最初は全員なんなのか、そしてなにをしているのか理解できなかったが、アップにされた瞬間に一部の人間から歓声が上がる。
雨にぬれた白く艶やかな長い髪が風に揺れ、そこへ柔らかく瞳を閉じて顔を近づけているアレルヤが何をしているのか一目瞭然だ。

「わあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!!?!!!!?何してるの二人とも!!!!!!」

「査察官が記念にって。」

「なんの記念なのさ!!!!?ていうか早く消して!!!!お願いだから!!!!」

「大胆です~……」

「こ、こんな風にするんだ……」

「ほぉ~、やるじゃねぇか。この色男。」

「フフフ……!!アレルヤ、後で私の部屋に来なさい。じっくり根掘り葉掘り尋問……じゃなくて、相談に乗ってあげるから。」

「やめて!!!!お願いだから見ないで!!!!!!」

アレルヤは顔を真っ赤にしながら967を取り上げるようとするが、ユーノは浮遊魔法で上へと逃げて二人のキスシーンを流し続ける。

「まあ、良いじゃないかアレルヤ。若いうちだけだぞ、こんな反応が返ってくるのは。」

「そうそう、光陰矢のごとし。気付けば私のようにこの歳まで独身の男までいるんだから。」

「そうは言ってもイアンさん……と、誰?」

ヘラヘラ笑って手を振る紫の髪の男。
よく見れば、その頭の後ろからにゅっと日の出のごとく出現してくる小さな人間もいる。

「………変態と人形?」

「誰が人形だコラァ!!!!」

「私はあながち外れていないな。」

「いや、そこは否定しましょうよドクター……」

「エリオ!」

呆れながらやってきたエリオの前にアレルヤは進み出る。

「しばらく見ないうちにたくましくなったね!」

「え?そ、そうですか?」

「うん。なんて言うのか、前と違って揺らいでいないって感じがする。」

「えへへ……」

「ブ~!エリオじゃなくてあたしも褒めてほしいっス!」

「もちろん、君のことも忘れてないよウェンディ。そうだなぁ、ウェンディは……」

背中に抱きついてきたウェンディを離し、上から下までくまなく見る。
そして、

「…………………」

黙り込んだ。

「ちょっと……『成長したね!僕も嬉しいよウェンディ!』みたいな称賛の言葉はどうしたんスか?」

「………変わらないっていうのも時にはいいことだよね。」

「それどういう意味っスか!!」

「まあ、それは置いておくとしてだ。新しく入ったメンバーを紹介しないとな。」

喰ってかかろうとするウェンディの腕をとって止めたティエリアは二人を前に出す。

「ユーノ君は知っていると思うが、一応初めましてと言っておこうか。都市型テロ、J・S事件の主犯格にして天才科学者、無限の欲望ことジェイル・スカリエッティだ。以後よろしく。」

「古代ベルカのユニゾンデバイスの生き残り、蒼の賢帝ジルベルト様だ!よろしく頼むぜ!!ちなみに刹那はオイラの主…」

「違う。」

即座にその言葉を否定する刹那の髪をヒステリックに引っ張るジルだったが、刹那はそれをものともせずに引き離すとアレルヤの前までもっていって握手代わりに指を握らせた。

「よ、よろしく……」

「おい、そっちは済んだか?なら、俺たちもいい加減に自己紹介に移りたいんだがな。」

一同に会していたクルー達は声の方を向く。
沙慈に連れられやってきた五人、その中の一人が不機嫌そうに唇を尖らせる。

「感動の再会って気分はわかるけどよ、おいてけぼりの俺たちはどうすりゃいいんだよ。」

「わかってるくせに割って入るなんて無粋なやつね。」

「「まったくだね。ハハハ。」」

「なんで俺一人だけヒールみたいになってんだよっ!!」

元査察部組の息の合った毒舌に話も忘れてキレるヴァイス。
正直、この三人相手に口げんかで勝てる奴は今のところ世界中どれだけ探してもいないのではなかろうか。
まあ、それはともかくまずは自己紹介だ。

「あ~……エリオとウェンディは知ってるだろうけど、時空管理局地上部隊、機動六課に所属していたヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックだ。今はフェレシュテでサダルスード・Tのマイスターと整備を担当してる。よろしく頼むわ。」

「同じく時空管理局、査察部にいたヴェロッサ・アコース。プルトーネ・Hのマイスターと諜報を担当させてもらってる。よろしくね。」

「ヒクサー・フェルミ。こっちは887。僕らもフェレシュテでマイスターや情報集めを担当してる。ああ、誤解のないように言っておくけど、僕たちは地球出身だし、これでも君たちよりも前からソレスタルビーイングに所属してるんだよ。」

「そうそう。つまり、私たちはあんたたちの先輩に当たるってわけ。」

「そんなチビじゃ誰も信じねぇだろうがな。それはそうと、しらねぇやつらは耳かっぽじってよく聞け。俺はフォン・スパーク。トレイターA、つまりお前らにとっちゃ裏切り者ってわけだ。」

「トレイターA!?なぜそんな者をここへ…」

「ま、まあまあ、言いたいことはわかるけど落ち着いて…」

フォンに掴みかかろうとするティエリアをなだめるアレルヤまで無視して、フォンはジェイルのすぐそばまで歩み寄る。
みんな当然何かと注目するが、二人はそんなことなど関係なくいつもどおりにことを始めた。

「生きてやがったか。しぶとい奴だ。」

「君こそまだ生き延びていたのか。とうの昔にくたばってしまっているかと思ったよ。」

「ひきこもりでモヤシのお前と一緒にするんじゃねぇよ。今からでも遅くねぇから牢屋にこもりたいと思ってんだろ?」

「ハッハッハッ…私は君ほど牢屋が好きじゃないのでね。そこのところの常識はあるのだよ。」

「……おい、なんだあれ?」

「やだなぁラッセちん。あの二人なりの親交の深めかたっスよ。」

「いや、どう考えても犬猿の仲の二人の言い争いだろ……」

久々の再会に周りが若干ひいているのも関係なく親交を深める(?)ふたりは放っておき、とにかくこれでメンバーは全員そろった。

「しかし、えらく大所帯になったなぁ……コンテナなんてもうパンク寸前だぞ?」

「すぐにシャル達のいるエウクレイデスも降りてくるそうだから心配はないよ。こっちで苦戦しているみんなにプレゼントもあるよ。」

「プレゼント?」

イアンの不思議そうな顔にヒクサーはユーノと顔を見合わせてニヤッと笑う。

「GNアーチャーにダブルオーの追加武装。それとオーライザー二機。しっかり持って来たよ。」

「お!!遂にできたのか!!」

「あれ?アトラスとウラヌスのことは言わないの?」

「あれは新装備じゃない。単なるシェリリンの趣味だよ。」

「アトラス?ウラヌス?」

「ああ、いや、こっちの話……それより、僕たちもいろいろ聞きたいことがあるんだ。例えば、今のミッドがどうなっているとかね。」

ユーノのその言葉に、明らかに場の空気が凍りつく。
誰よりもこちらの世界に愛着があり、誰よりも管理局を憎んでいるユーノ。
感情的になるなという方が無理だろう。

「……辛い話になるかもしれないわよ?」

「かまいません。今、何が起こっているのか知った上で自分が何をするべきなのか考えたいんです。」







そして、ユーノは全てを知ることになった
自分の連れてきたモノのせいで、管理局やミッドチルダがどうなってしまっているのかを





優しき狂戦士、黄昏に染まりし天使とともに鋭き翼にて天空を駆ける者あり
天空の守護者、堅牢なる翠の天使とともに神盾にて歪みを打ち砕く者あり
方舟に集いし天使、変革の痛みをその身に背負い、傷つきし翼で戦場を駆け抜ける





あとがき・・・・・・・・・・という名のようやく合流完了

ロ「やっとこ合流した第二十四話でした。大変ながらくお待たせしました。」

ユ「ホントにやっとだね……そしてアトラスとウラヌスはとことん引っ張ると。」

ロ「あと二話ほどは出す予定ないからな。」

弟「じゃあなんで出した!!?」

KY「ついでに言うならここでやる予定だったのがかなり残ったよね!!?どうすんのコレ!!?」

ロ「ゆっくり、一歩ずつ前に進めばこなせないことなんてないんだよ?」

フェイト「いいこと言ってるみたいだけど早い話が不完全燃焼ってことだからね!!?」

刹「いつものことだ。」

ロ「それにあれをやるとお前の周辺の人間関係かなりぎくしゃくしてくるぞ。」

ティ「ざっと読んでみたが……あの空気の中には確かにいたくないな。」

KY「え?そんなにひどいレベル?」

ア「ほら、これ。」

KY「…………………………」

フェイト「…………………………ま、まあ、守護騎士のみんなとも最初はぎくしゃくしてたけど仲良くなったわけだし、これくらいは……」

ロ「あるい程度親しくなってから関係が壊れると修復が難しいもんだぞ。ぎくしゃくの原因の一人だからって現実逃避すんな。」

フェイト「ハッピーエンドを目指すって言ってたくせにその言い方はないんじゃないかなっ!!?というかこれもう前の関係に戻れなくない!!?」

ロ「GN粒子と革新者とジュエルシードで万事解決だ。」

ユ「要訳すると力押しってことだね。」

ロ「……そうとも言う。」

弟「あ、駄目だこれ……コイツ早く何とかしないと……」

KY「……なんかもう鬱になりそうだけど、そんな暇ないので次回予告へゴー……」

ユ「ようやく合流をはたしたソレスタルビーイング!」

刹「つかの間の平穏を過ごそうとする一同だったが、各世界で新たな紛争が発生する!」

弟「新たに完成した次元航行装置を使ってそれぞれの戦地へと向かうガンダム!」

ティ「そして、ついにユーノは親友と最悪の再会を果たす!」

KY「しかし、それでも自らの存在理由をかけて戦場へと飛翔するマイスターたちを待っているものとは!?」

フェイト「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!それじゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 25. Intervention to the all world
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/03/22 09:05
プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

久々の自室のベッドは思っていた以上に心地よくはないものだと思う。
その原因がベッドそのものではなく別にあることはユーノもよくわかっている。

「最悪だ……」

できることなら過去に戻ってやり直したい。
四年前のあのとき、やはりこちらに戻るべきではなかった。
周りがどれほど馬鹿だと言おうと、あそこで息絶えようとも、GNドライヴを持ち込むべきではなかったのだ。

過ぎた力は人の心を狂わせる。
今まで散々そういうものは目にしてきたし、ユーノ自身もそんな経験をしていないと言えば嘘になる。
なにせガンダムという力に魅せられた人間の一人なのだから。

「GNドライヴだって見方によっちゃロストロギアだろうに……。なんでみんな何も言わないんだろう?」

「……コントロールできているからだろうな。」

967の声に彼がコロコロと転がっている机の方に視線をやる。

「『自分たちは使いこなせている。』『自分たちならミスは犯さない。』なにより、『役に立つから。』そう思っているから、どれほど大きいリスクでも軽いものとしてしか受け取れない。ロストロギアを作った連中も同じことを考えていたはずだ。」

「けど、それは思い上がりだった。それに気づいた時には大概は手遅れになっている。しかも、気づくのが遅ければ遅いほど事態は深刻になっていく。」

「それも利益を享受しているうちはわからんものだ。」

「けど、そんな言葉じゃ納得のいかない人間だっているさ。」

「少なくとも、そういう馬鹿がここに二人はいるな。」

967の皮肉に苦笑するユーノ。
967も自分で言っておきながら照れたように目を点滅させている。

「じゃあ、馬鹿は馬鹿らしくやれることからやっていくとしますか!」

「そうだな。」

967を手にかかえ、ユーノは長らく聞いていなかったイアンの小言を聞きに笑顔でコンテナへと向かった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 25. Intervention to the all world


アースラ スバルの部屋

『来ないで!!!!』

二回目にルイスと会った時の言葉が未だに頭の中でグルグル回転し続けている。
訓練校時代のペーパーテストはそこそこ優秀にこなせた頭も、人間関係の修復の方にはまったく力を発揮してくれそうにない。
とどめに久しぶりに顔を合わせた上司たちの空気があれでは元気が取り柄のスバルでも憂鬱な気分にもなってくる。

「はぁ……」

スバルが大きくため息をついて寝返りをうつと遠慮がちにドアがノックされる。
いつもは鍵などかけていないのだが、よほど一人でいたかったのか無意識にロックしてしまっていたようだ。
パネルを操作してそれを解除すると、自動的に開いた扉の向こうに予想外の人物が立っていた。

「アンドレイ少尉!」

緑の軍服に身を包んだアンドレイはスバルの顔を見るなり頭を下げる。

「ハレヴィ准尉の非礼を謝罪しに来た。本当にすまなかった。」

「い、いえ。気にしてませんから。でも、ルイスさんどうしちゃったんだろう。あんなに怒るなんて……」

「……准尉はガンダムに親類をことごとく殺された。」

「え……」

「目の前で両親を奪われ、彼女も重傷を負った。だからこそ、ガンダムをあそこまで憎んでいるんだ。」

「で、でも、私たちはそんなこと…」

「ナカジマ二等陸士、これは理屈じゃないんだ。」

アンドレイの目つきが厳しいものに変わる。

「我々がいた世界ではガンダムは存在そのものがタブーの機体だ。そんなものを使うところを見せられて悪い印象を持つなという方が無理だ。無論、自分もいい気分じゃない。」

話を聞いていたスバルはしゅんとしてうなだれるが、アンドレイはフッと笑うとその肩をたたく。

「だが、それとこれとは別の話だ。君たちの人格まで否定するつもりはない。」

「……!はい!」

「ただ、気をつけておくのに越したことはない。やはり、連邦軍の中には快く思わない人間もいるだろうからな。」



ブリーフィングルーム

「やはり、どこまでも平行線のようですね。」

はやてのその言葉にフェイトはあからさまに顔をしかめる。
久々に一堂に会したはやてとクロノたちだったが、やはり確執は大きかった。
はやてたちアースラのクルーは上層部の指示通りにしか動けないクラウディアを批判し、クロノたちクラウディアのクルーはカレドヴルフに尻尾を振って極秘に開発していたガンダムの試験運用を任されたアースラを批判するというもはや水かけ論といっても過言ではない不毛な口論が続いている。

「八神二佐、試験運用も結構ですが一企業の試験運用にここまで肩入れするのはいかがなものでしょうか?あの三機……もはやただの企業が持っていい戦力の範囲を超えていると思いますが?」

「私たちからしてみればあなた方の行動の方がよほど問題が多いと思われますよ、ハラオウン執務官。力で有無を言わさず反対勢力を抑え込む……まるで、独裁者です。」

「あくまでそれは最終手段です。私たちは出来る限り平和に…」

「強大な力はそれを持っているだけで相手を従わせることができます。あなたが言う平和は誰のための平和ですか?」

時間がたつほどに悪くなる場の空気。
クロノはたまらず横で立っていたフェイトをにらんで黙らせると、最後にこう切り出した。

「はやて。今は、あえてこう呼ばせてもらう。ミッドもほかの世界も、現在限りなく情勢は不安定だ。力で抑えつけなければならないことも出てくる。だからと言って、僕も今の管理局のやり方を認めているわけじゃない。だからこそ、内側から変えるためにも僕たちはルールに従って動く。」

「悪いけど、私はクロノ君みたいに人間ができてへんねん。誰のためかもわからんようなルールに縛られるくらいなら、多少周りからバッシングを受けても自由に動ける立場でいたい。」

「じゃあ、今度はそのためにエリオやウェンディだけじゃなく、スバルやティアナ、なのはまで犠牲にする気?」

「……そういうことになるかもしれへん。けど、私はそうならへんよう最大限の努力はする。最初に犠牲になる人間がおるとしても、それは私であるようにする……それだけや。私はあんたみたいにいつまでも悲観的になっとるつもりはない。」

「っ……!!よくもぬけぬけと……!!」

「フェイト!!!!」

はやてにつかみかかろうとするフェイトを怒鳴り声とさらに厳しいまなざしで制したクロノは改めてはやてをまっすぐ見つめる。

「……どうやら、本当に平行線のようだな。」

「わかっとったことやろ。もうお互い譲れへんとこまで来てしまっとることくらい。」

クロノは目を閉じて、少し物思いにふけるように上を見てから席を立つ。

「……これから我々は各世界への巡回任務に入る。」

「……そうですか。お気をつけて。」

仕事とはいえ、友人同士の会話にしてはあまりにもそっけない言葉で議論は終わった。
自動ドアのしまる音に、一人残って椅子に座っていたはやては足元に置いてあったバッグをちょんちょんとつつく。

「終わったで、リイン。」

「……お二人とも怖かったです。」

そう言って顔をのぞかせたリインははやての顔のすぐ前まで上がってくる。

「でも、リインははやてちゃんが一番怖かったです。フェイトさんにあんなこと言うなんて……」

「開き直ったっていう風に思われたやろな……けど、一生恨んでくれな、私の気が晴れへんから。」

「はやてちゃん……」

「あ~あ……どうしてこうなってもうたんやろ。」

さばさばした笑みで顔を上に向けるはやて。
その瞳がうるんでいることをリインはどうしても指摘することができなかった。



プトレマイオスⅡ コンテナ

「フッ!!セアッ!!」

「ハッ!!」

本日快晴、もとい潮の流れも穏やかな中、プトレマイオスのコンテナではガンダムですし詰め状態にもかかわらず限られた空間で拳が空気を切り裂く音の協奏曲が奏でられている。
小柄なエリオから繰り出される拳打は高身長のラッセにとっては防ぎにくいものなのだが、そこは経験の差が物をいう。
突き上げられる形で向かってきた一撃を左腕にこすらせるようにいなすと、体が流れたエリオへ鋭いローキックを放つ。
しかし、エリオは床に手をついてそれをかわすと、今度はお返しとばかりにそれを軸にして逆立ちのような格好での回し蹴りをラッセのガードへ叩きつけた。

「っつぅ……!!なんつう無茶してくれやがる。まるで猫みたいなやつだな。」

「とか言いつつしっかり防いでるんですよね……結構いい手だと思ったのに。」

「昔っからこういう殴りあいには慣れてるからな。お前とは年気が違う。」

構えながらカラカラと笑って見せるラッセとエリオだったが、後ろにいる二人は溜め息交じりで指を止める。

「毎日毎日、よく飽きないもんだな……」

「いまどきの若者は誰しも張り切りたいものなのかねぇ?私があのくらいの頃は(強制的に)研究室にこもっていたものだったが……」

「……そっちもそっちでそうかと思うがな。まあ、それはひとまずおいといてだ…」

イアンはさらに深く息を吐くと隣で挙動不審な動きでちらちらラッセとエリオの様子をうかがいながら指を震わせて気も漫ろな状態で作業にあたっているユーノの肩をガッシと掴む。

「お前は過保護過ぎだ。」

「何言ってるのかなイアン?僕はただラッセがエリオに怪我させたら○○した上で○○○しようと思ってるだけだよ?」

「お前何しようとしてんだっ!!?頼むからそんなヤバい眼でヤバいこと言うのはやめろ!!冗談に聞こえん!!!!」

「冗談なわけないだろ!!」

「なお悪いわっ!!」

過去のトラウマのせいでラッセの稽古に過敏になっているユーノをどうにかなだめる。
帰って来てからというものの、ラッセと刹那がエリオに稽古をつけていると知って錯乱寸前まで慌てふためきソリッドをキルモードで発動したユーノを(気絶させて)とめたクルーたちだったが、過去の経験からエリオも自分のように死にかけるような特訓をさせられるのではないかと気が気でないようだ。

「まあ、彼らもちゃんと手加減してくれているみたいだし…」

「僕はあの二人ともう一人に何度となく殺されかけました。」

「……大丈夫だよ。うん。たぶん大丈夫。」

「そういうこと言うときはせめてこっち見て話ししてくれません?」

適温にもかかわらず汗だくの顔であさっての方向に視線を向けるジェイル。
ユーノのジト目が背中に辛いが、やはり振り向けない。
逃げ出そうにも逃げだせない状況の中、そんなジェイルに桃色の髪をした守護天使が舞い降りた。

「イアンさん、ジェイルさん、お疲れ様です。これを飲んで一服してください。」

「ん?お、おお!ありがとうフェルト君!!助かったよ!!いや、本当に!!」

「え?あ、ど、どうも……?」

フェルトの持ってきた紅茶を奪うように手にとって精一杯の笑顔を浮かべる。
その後ろでは追及し損ねたせいで不機嫌この上ない顔で舌打ちをするユーノがいる。
しかし、フェルトと目が合うとすぐに顔を取り繕って笑いかける。
フェルトもそれに気付くと、頬を少し赤らめて笑いながらマグカップを差し出す。

「……フェルト君。心なしか彼のものだけ私たちのものと比べてレベルが高すぎる気がするのだが?」

ジェイルのその言葉にフェルトはギクリと肩を揺らす。

「き、気のせいじゃないですか?」

「いや、どう考えてもユーノの方が色も濃いし香りもいいだろ?茶葉からして絶対的に違う。」

「ついでに言うならブランデーもたっぷり目に淹れてあって僕が好きな味だね。ありがとう。」

「え?そ、そう?」

完全に他の二人と差をつけたことが露見しているのに嬉しそうに微笑むフェルト。
もっとも、その気づかいを向けた相手が自分の好意を察してくれなかったことは彼女にとって良かったのか悪かったのかはわからないが。



ブリッジ

フェルトが個人的な理由で抜けたので、現在アレルヤが手伝いに来ている。
そこへフラフラとやってきたウェンディも加わり、いつも以上の回転率でブリッジでの業務は進行していた。
仕事がはかどればその分だけ暇な時間もできてくるわけで、結果的に、

「というわけで第一回『トレミーメンバーでコイバナしようぜ!!』始まりです~!」

「「わ~!!」」

こういうことになる。

「いや、どういうわけでそうなるの?」

みんなのストッパーを務めるはずのスメラギまでのってきたせいで最早収拾がつかない。
すなわち、アレルヤが槍玉に挙げられるのは確定だ。

「それじゃあ、最初の質問ね。そのマリーさんとはA~Zのどこまでやったの?」

「いきなりとんでもない質問来ちゃった!!!!」

「A~Zってなんのことっスか?」

「それはですねぇ…」

「説明しないで!!後でジェイルさんから僕が怒られるから!!!!」

「これからどこまでやったか話すんだから別にいいじゃない。」

最高に爽やかな笑顔で最高にオヤジじみた質問をしてくるスメラギに流石のアレルヤも堪忍袋の緒が切れた。

「少なくともあなたが考えているようなことはしてません!!!!」

顔を真っ赤にしながら怒鳴ると今度はミレイナから黄色い声が上がる。

「つまりもうちょめちょめまでやっちゃったんですね!?ハプティズムさん不潔です!!」

「してないって言ってるだろ!!しかもその言い方と反応が凄い腹立つんですけど!!?」

不潔と言いつつ嬉しそうにキャーキャー騒ぐミレイナ。
律義にそれに突っ込みを入れるアレルヤだったが、今度は彼の中でハレルヤが意地の悪い笑みを浮かべた。

(俺だったらもっと強引にベッドに押し倒して…)

「ハレルヤはもっと黙ってて!!!!」

アレルヤは大声で自分に向って怒鳴るが、パントマイムとなんら変わらないそれがハレルヤに効果があるはずが無かった。



宇宙 エウクレイデス

「へっくち!」

「?どうかしましたか、マリー。」

「少し鼻がむずむずしちゃって……」



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「はぁ……もう、ハプティズムさんはわがままですねぇ。それじゃあ、ミレイナがもう少し答えやすい質問をしてあげるです。」

そう言うとミレイナはビシリと戸惑うアレルヤの顔に人さし指を突き付ける。

「ズバリ!マリーさんとのチューは何味でしたか!?」

「あ!それあたしも聞きたいっス!!」

「却下で。」



エウクレイデス

「はっくしょん!!」

「マリー、またですか?」

「うん……本当に何なんだろう?」

「早くアレルヤのところに行ってその肌で温めてもらいましょう。」

「リ、リインフォース!!からかわないでよ!!」



プトレマイオスⅡ

「ファーストキスはレモンの味なんて幻想よ……フフ……」

「……ノリエガさんが言うと重みを感じるです。」

「それじゃあ、次あたしの番っス。」

「まだ続くの……?」

なにを思い出したのか影のある笑みを浮かべるスメラギを放っておいてウェンディが挙手する。
それにもううんざりだという表情を返すが、アレルヤに拒否権などない。

「アレルヤはマリーさんのどこが好きになんスか?」

((あれ?まともな質問来ちゃった……))

以外に普通な質問だったせいか、二人だけでなくアレルヤもガードが緩んでしまう。

「そ、それはその……えっと、まず、優しくてお淑やかなところでしょ?あと、髪が綺麗なとこでしょ?あと……」

「もういいわ。なんだかすごくむかむかしてくるから。」



エウクレイデス

「は……はっくしょん!!」

「……マリー。本当に風邪をひいたんじゃないですか?」

「うん……ちょっとアニューさんに診てもらってくる……」



プトレマイオスⅡ

「独身女の僻みは嫌っスねぇ…」

「何か言った?」

「いえいえ、なんでもないです。それじゃあ、次は……」

「まだ続くの……?」

『……何をしているのか知らないが、そろそろ終わりにしてもらうぞ。』

「ヘイゼルバーグさん!」

ミレイナが慌てて正面のモニターに向き合ってアレルヤへの質問攻めは終了を迎える。
無論、アレルヤが心からこのヘイゼルバーグと呼ばれた見知らぬ人物に感謝したことは言うまでもない。
だが、クロウが連絡してきたのはアレルヤを救うためではない。
むしろ、これから過酷な役目をこなしてもらうことになる。

『ついこの間奮闘してもらったばかりで悪いが、また各世界へ散ってもらいたい。』

「なんかあったんスか?」

『大ありだ。失敗に終わったとはいえあれだけ管理局が追い詰められたんだ。他の連中も黙っているわけがない。』

「……また、戦いが起こったのね。」

スメラギの悲痛な声にクロウも黙ってうなずく。

『お前らが来る前から少しずつ均衡状態が崩れつつあったからな。そこに先日のあれだ。』

「他のグループが動き出すにはこれ以上の好機はない、ってわけね。」

『そういうことだ。どの世界のどこにどのマイスターとガンダムを向かわせるかについてはそちらの判断に任せる。』

「わかったわ。」

「いいんですか、安請け合いして。」

アレルヤの声にスメラギが振り向く。

「僕たちには時空転移を行うような技術はありませんよ?紛争が起きている世界に向かおうにも移動手段が…」

「あら、女の子に対してだけじゃなくこっち方面も鈍いわねアレルヤ。」

スメラギがニヤリと笑う。

「時空転移ができなきゃこんな簡単に引き受けたりしないわよ。ねぇ、ジェイル?」

『もちろんさ。私にかかれば時空転移を可能にすることなど朝飯前さ。』

クロウとモニターを二分割するように出てきたジェイルとイアン。
ところどころオイルで汚れている二人の横の壁は取り外されて内部の基盤や配管がむき出しの状態になっている。

『今しがた接続が完了した。これでいつでも他の世界にいけるぞ!』

『ただ、地球に戻るのはもう少し待ってくれ。並行世界への転移にはもう少し調整が必要になる。』

「OK、十分よ。ところで…」

スメラギは二人の脇や後ろを隅々までしっかりと探すが、その場にいるはずのもう一人の整備士の姿が見当たらない。

『ああ、ユーノならもう先にクルセイドに行っちまったよ。まったく気の早い奴さ。』

イアンの苦笑にスメラギも同じように苦笑いをする。
おそらく、自分一人で何とかしたいと考えているのだろうが、周りにいる者にはそっちの方が辛い。
事情を知っているからこそユーノの無茶に口出しはできないが、自分たちを頼るくらいの甘さを見せてほしいものだ。

「スメラギさん、僕もアリオスで待機します。」

「ええ、お願い。……それと、あの子へのフォローもね。」

「ハハ……了解です。」



ミッドチルダ 教導隊駐屯地

この歳になっての事情聴取ほど辛いものはない。
穏やかな陽の光の中で椅子にもたれていると本当にそう思う。

ラルゴは自分より若い局員からの追及から解放されてからはしばらく仕事が手につかなかった。
MSを使ったテロに、それを阻止したあの機体たち。
頭痛の種は増える一方だ。
こんな時は一服するに限る。

「フゥ……レジィ坊も苦労しているようだし、わしらもお飾りになりつつある……。後は若いもんに期待するしかないのかのぉ?」

『ラルゴ元帥!!』

席を立とうとしたラルゴは慌てた様子の部下の声に再び椅子に戻る。
目の前にいる彼の顔は真っ青で今にも倒れてしまいそうだ。

「どうした?少し落ち着かんか。」

『も、申し訳ありません!!しかし、あれが出ました!!』

「あれ?」

首をかしげるラルゴに若い局員はたどたどしい早口でまくしたてる。

『先日の戦闘で介入してきたあのMSが他の世界でも戦闘を行っています!!』



第27管理世界 ジバオ

日本の古い街並みを彷彿とさせる建造物が乱立している。
かつて神隠しと呼ばれた次元転移で異世界へと飛ばされた地球の人間、その中でも日本人たちの子孫が集中している世界、ジバオ。
多次元世界でも有数の伝統的なその街並みが、今は無残に六機のジンクスに踏み荒らされていた。

MSのパイロットは逃げ惑う人々に、三日月のような飾りを額につけたジンクスの大きな足の裏が迫る。
着物に身を包んでいた女性はもはやここまでと悟り、我が子を固く抱きしめその場にうずくまる。
だが、

「ダブルオー、目標を駆逐する。」

強烈な旋風がジンクスを街の外へ吹き飛ばしたかと思うと、続いて放たれた閃光がジンクスを貫いて爆散させる。
残っていたジンクスたちは何事かと戸惑っているうちに、今度は二つの剣閃で近くにいた機体が手脚を斬り取られて地面の上に転がる。

「な、なにが……!?」

女性は訳もわからず腰を抜かすが、彼女の腕から離れた少年は剣を構えるそれを指さしてにっこりと笑う。

「かっこいい!!」

その言葉になんの反応も示さず、ダブルオーは街の遥か上空まで退避する。
ジンクスたちもダブルオーを追って空に上がるが、ダブルオーは付かず離れずの距離で牽制射撃を繰り返しながら街の外まで四機を誘導していく。
そして、

「ヒクサー・フェルミ。」

「了解。ここまで来れば大丈夫だね。」

被害が及ばないことを確信したヒクサーはトリガーを引く。
下の林に潜んでいたセファーラジエルに気付かなかったジンクスはビームライフルの弾丸で撃墜される。
そこでようやく伏兵の存在に気付くが時すでに遅し。
一機は二つのビットに頭とGNドライヴを貫かれ、二機は鋭いダブルオーの剣戟のまえにあえなく両断された。

「ミッション完了……な~んてなっ!」

「早いとこずらかるわよ。またうるさいのが出てきたらたまらないからね。」

ジルと887に急かされ、刹那とヒクサーは撤退ポイントまで機体を向かわせた。



第12管理世界 フェディキア

「うわああぁぁぁぁ!!」

黄土色のMS、リグルが倉庫を吐かして中にある金属製の箱を持ち出す。
瓦礫を避ける男はすぐさま管理局に通報しようとするが、ここにおいてあるものが違法な手段で入手した金塊であることを思い出すとグッと唇を噛んで思いとどまった。
もっとも、そんなことをせずとも遅かれ早かれ露見してしまうことなのだが。

「お前たちが使うくらいなら俺たちがもっと有効に使ってやる。」

翠の瞳をいやらしく細めながら操縦桿を動かしてその場を去ろうとする男。
だが、遥か彼方でスコープ越しにその様子を見ている男がいた。

「残念。」

「!?」

箱を持つ腕が後ろへ飛んでいく。
衝撃で開いた箱からは金の延べ棒がガラガラと音をたてて辺り一面に広がるが、リグルのパイロットはその音を聞くことはできなかった。
なぜなら、続けて飛んできた二発の光弾が頭と左膝を撃ち抜いていたのだから。

「全弾命中!全弾命中!」

「俺ってば絶好調だな。……っとぉ。おまけがぞろぞろと。」

人気のない港の建物に隠れていたケルディムの中でロックオンは改めてスコープからこちらに向かってくるリグル達に狙いをつける。

「ケルディム、目標を狙い撃つ!」

無防備にも正面から行軍していたリグルは先頭から順に胸や頭、肩に肘、膝に風穴を穿たれ倒れていく。
しかし、それでもわずかに生き残ったものたちはどうにかケルディムに攻撃が届くか届かないかというところまでたどり着くことに成功する。
しかし、そこには新たな絶望が待っていた。

「あげゃ!!」

降りてきた真紅の機体、アストレアに頭から真っ二つにされて爆散するリグル。
残っていた仲間たちは仇を取るべく銃口を向けるが、速度の付いた重い刃での横薙ぎで爆炎へと変えられてしまった。

「やりすぎだろ……」

「俺の辞書に手加減なんて文字はねぇ。やるからには全力でだ。」

フォンの言葉に肩をすくめながら、ロックオンはケルディムを空へと上げてその場を後にした。



第122管理外世界 ラグリエ

見渡す限り砂漠の世界、ラグリエ。
レアスキル所持者を集めて倫理的観点から禁止されているような研究をするのにはうってつけの場所だ。
この広大な砂の世界にぽつぽつと点在する研究所は見つけるだけでも困難を極める。
そうでなくとも、その厳しい環境ゆえに凶暴な進化を遂げた獣がうじゃうじゃしているのだ。
なので、好んでここを訪れようとする者などそうはいない。
そして、何よりモルモットたちに脱走しようなんて甘い考えを持たせないで済む。

「ふ……わあぁ~……」

怯える子供たちを監視カメラで見ながら白衣の男は大きなあくびをする。
ここにいる子供たちがここに来ることになった理由は様々だ。
金が目的で肉親に売り飛ばされた者。
孤児だったところを拾われてしまった者。
拉致されて連れてこられた者。
そして、男が所属している組織が最初からこの目的で集落一つを滅ぼされて連れてこられた者。
モルモットに同情する気など男には微塵もないが、せめて自分たちの研究の役にたたなければ、死んでいく彼らも浮かばれないだろう。

そんな勝手な妄想は、ドンという爆音と建物全体を襲う震動で終了させられた。

「な、なんだ!!?」

一旦切れた電灯が予備電源で再びついた部屋の中で椅子から跳び起きた男は回復した監視カメラを見て唖然とする。
破壊された壁からオレンジの巨人が子供たちに手を伸ばしている。
最初は怯えていた子供たちも、その手を伝って下りてきた赤髪の少年に導かれて外へと逃げていく。

「馬鹿な!!」

ありえない。
この場所を的確に突き止めただけでなく、対魔法防御も完璧なはずのこの分厚い外壁を破壊する存在などいるはずがない。
そう考えながらも、男はあたふたしながら他の施設へ連絡を取るために通信気を手に取る。
だが、聞こえてくるのはノイズだけ。
なにがなんだかわからない男はますますパニックに陥っていく。

一方、子供たちを救出したアレルヤは最後の子供に確認をとる。

「君たち以外にもう捕まってる人はいないんだね?」

「はい!!これで全員です!!」

「よし……エリオ、君も戻って。」

「はい!!」

ハッチを開けてバリアジャケット姿のエリオをコックピットに招き入れると、アレルヤは両腕に隠されていたガトリングを施設の内部へ向ける。

「ひ、ひゃぁ~……!!?」

「僕たちは人体実験ってやつが嫌いでね……報いを受けてもらうよ。」

間抜けな声でどうにかその場から這い出そうとする男の存在など知らないアレルヤだが、それでもここに存在する悪意はしっかり感じ取っていた。
だから、今回は引き金を引くのをためらうことはない。

「アリオス、目標を破壊する。」

両腕から放たれた光弾の嵐は広い空間を埋め尽くし、光が一定量を超えたところで爆発とともに白く四角い建造物は跡かたもなく吹き飛んだ。

「アリオス、ファーストフェイズ完了。セカンドフェイズへ移行する。」

『アレルヤ、こっちも最後の一つを潰した。』

「拉致されていた人たちは?」

『もちろん、全員無事だよ。』

ヴェロッサの言葉にホッと胸をなでおろすと、アレルヤは遠くで待っていた子供たちの前にアリオスを静かに降下させる。

「これから君たちを管理世界まで連れていく。そこで局員に保護してもらうんだ。いいね?」

クロウが次元航行のできる小型艇を何機か用意してくれたおかげで、拉致されていた人々を救うことができた。
こんな自分でも、誰かを助けることができた。

(ハッ……あいかわらずあめぇなぁ。さっさと吹き飛ばしちまえば早かったのによ。)

「それでも、僕はこの子たちを助けられてよかったと思うよ。たとえ僕の偽善にすぎないとしても、この笑顔を見れただけでそんなものどうでもいいように思えてくるからね。」

涙でくしゃくしゃになった笑顔で自分へ手を振る子供たちが、アレルヤにはまぶしかった。



第105管理外世界 エグザ

湿地帯が続くエグザの高山。
山を丸々拠点に変えてしまったその男たちは、つい先日あった戦いで同志たちが大敗を喫したことを受けて新たな作戦を考えている最中だった。
しかし、そこへ漆黒の天使が二門のバズーカを持って舞い降りる。

「セラヴィー、目標を殲滅する!」

ティエリアは引き金を引いて激しい光で要塞と化していた山を跡形もなく消滅させると、今度は生き残っていたケンプファー数機の相手をしようとビームサーベルを構える。
しかし、ケンプファー達はセラヴィーに到達する前によろよろと高度を下げてぬかるんだ沼地へと降りてしまった。

『ティエリア~!読み通りバックアップシステムを使ってたっス。ヴァイス陸曹と潰したからたぶんもう使えないと思うんスけど、どう?』

「ああ。たった今確認した。とりあえず、ファーストフェイズ終了だ。」

問題はセカンドフェイズ。
ここの観測部隊に気付かせることはそんなに難しくないだろうが、サダルスード・Tとヴァイス・グランセニックがしっかりと自分の役割をこなせるか不安だ。

『……お前、今なんか失礼なこと考えてたろ?』

「いや、そんなことはない。それより、ウェンディの回収を頼む。」

『了解。ったく、てめぇの彼女ならてめぇで面倒を見ろってんだ……』

「何か言ったか?」

『いいえ、なんでございませんよ~、っと。』

ヴァイスの影口になっていない影口にティエリアはムッとする。
確かにウェンディがついてきたいと言ったので連れてきたのは自分だが、ただそれだけであそこまで言われるのははなはだ心外だ。
そのはずなのだが、

「……馬鹿な。彼女は、ただの子供だ。」

そう自分に言い聞かせ、ティエリアは囮になるため観測部隊がいる地点へとセラヴィーを走らせた。



第36管理世界 イクタァ 空の中心・チェリッシュ

高濃度塩分の生みの遥か上空に浮かぶ島々。
その姿からイクタァは天空都市の二つ名を持ち、そこに住まう人々は魔法以外にも優れた技術を用いて快適な生活を送っている。
しかし、空中に浮かぶ都市群で形成されたイクタァは外部からの攻撃に弱く、魔法障壁を抜かれれば対抗手段など皆無に等しい。
そして、今まさにイクタァの中心地、チェリッシュでその最悪の事態が起ころうとしていた。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」

大きな紅蓮の弾丸に島全体が大きく揺れる。
普段は見えない障壁もはっきりと見えるようになり、今度は薄くなって消えつつある。
つまり、この揺れに耐えてもあの障壁が破られれば弾丸が直に届くようになる。
そうなれば、逃げ場のないこの島とともに住民は全員心中せざるを得ない。

「も、もう駄目だ……」

一人がそう呟くのに合わせて周りにいる人間も諦めてガクリと膝をつく。
管理局の下請け企業から流されてきたバロネットに乗るパイロットも彼らの絶望を感じて醜悪な笑みを浮かべて引き金に指をかける。
その時だった。
轟音とともに発生した風がそのバロネットの両腕を斬る。
そして風を纏うそれは、今度は拳を腹に打ちおろしてバロネットを遥か下の海へと突き落とした。

「あれは……?」

「MS……」

「いや……あれは、天使だ……」

肩から二つの光の翼を生やし、雄々しく右腕の盾を一振りして刃を伸ばすそのMSはさながら聖戦を前に荒ぶる天使のようだ。

「イクタァにまで来るか。ホント、過激な連中が増えたなぁ……」

「俺はこんなところに住む連中の気がしれん。素直に下で暮らせばいいものを。」

辺りを取り囲まれたにもかかわらず、気にせずユーノと967は話に花を咲かせる。
そして、敵が全て出てきたのと同時に意見の交換も終える。

「ひのふのみの……十機か。大盤振る舞いなことで。」

これだけの数のMSに囲まれれば普通ならば多少は臆するが、この手の戦いに慣れているユーノに数の圧力は通用しない。

「クルセイド、目標を粉砕する!」

一瞬で間合いを詰めたクルセイドはバロネットの頭だけを斬り落としてコックピット近くに蹴りを叩きこむ。
完全潰さないよう加減されたそれは中のパイロットの意識のみを奪い、再び海へと落下させた。
その隙に残りの機体が集中砲火を浴びせてくるが、後ろにまわしていたGNドライヴで回転する粒子の壁を作り出して弾く。
そして、一気にバロネット部隊の上まで上昇するとシールドバスターライフルをアサルトにセットして雨あられと撃ちこんでいく。

「安心していいよ。威力はギリギリ押さえてあるから死ぬことはない。」

「もっとも、この後どうなるかまでは責任を持ちかねるがな。」

ハチの巣状態でよろよろと海面に不時着したバロネットを見て一息つくとその場を離れようとするユーノ。
だが、

「っ!!?」

突如センサーに入ってきた反応に慌てて振り向く。
幸いアームドシールドの上をかすめる程度で済んだが、この巨大な光刃をまともに受けていたらクルセイドといえどもただでは済まなかっただろう。
だが、突然の襲撃者、そしてそれとともに現れた艦と鉄槌を装備したもう一機のMSの出現はユーノを動揺させるには十分だった。

「クラウディア……!?まさか……あの二機に乗っているのは……!!」

赤い光の剣を二つに分かつ漆黒の機体と、鉄槌を構える赤のカラーリングの機体。
その光景は、嫌でもあの二人の姿を連想させた。

「ユーノ……やっと見つけた!」

「じっくり話を聞かせてもらおうか……あたしらに隠してたことすべてな!」

フェイトとヴィータがグッと操縦桿を握る力を強めるのに対し、クロノはブリッジの中央で眉間にしわを寄せる。

「……こんな形で、再会などしたくなかったよ、ユーノ。」



第27管理世界 ジバオ

松のみで構成された風流な林の上を辿って退却するダブルオーとセファーラジエル。
行楽日和といってもさしつかえのない穏やかなこの場所に、一匹の修羅が近づいてきていた。

「!?」

最初に気付いたのはヒクサーだった。
イノベイドの勘、とでも言うのだろうか。
なにか、とてつもなく不吉な何かが近づいてきている。

「!?刹那!!」

続いて気付いたのはジル。
強烈な感情の流れを感じ取り、刹那へ迫りくる何かへの警戒を促す。
そして、

「……来るっ!!」

ダブルオーが振り抜いたGNソードは太陽を背に降りてきたアヘッドの大型のビームサーベルに受け止められる。
陽の光から引きずりだしたそのアヘッドの頭の角を見た瞬間、刹那は全てを理解した。

「お前は……!!」

「ようやくだ……!!やっと会えたな…少年!!!!」

長年の宿敵を見つけ出したミスター・ブシドーは、まるで戦友との再会を喜ぶように大きく振りかぶった刃をうちおろした。





変革をもたらす使徒と天使
彼らの前に立ちはだかるのは、彼らの罪そのものか……



あとがき

今回は真面目にあとがきを書かせていただきます。
最初に、震災に会われた方々に深くお見舞い申し上げます。
自分は実家のある西側の方へ帰っていたので少し揺れた程度で済みましたが、テレビで被害状況を見て愕然としました。
そして同時に何もできない自分の無力さを痛感させられ、初めの三日間ほどはひどく落ち着かない状況で過ごしましたが、今はある程度落ち着いて状況把握に努めています。
そして下宿先に帰ってからも不謹慎だと思い投稿は控えていたのですが、Arcadiaや他のサイトで作家の皆さんがこの状況でも力強く自らの作品を提供しているのを見て自分も触発されて新しい話を投稿することにしました。
こんな拙い作品でも多少なりとも皆さんの不安を紛らわせることができるのなら、これほど嬉しいことはありません。

最後に、大変な状況だからこそみんなで協力し合って頑張りましょう!



[18122] 26.友よ…
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/03/26 12:59
第1管理世界 ミッドチルダ 宇宙

宇宙というのは異世界でも変わらないのだなとマリーは思う。
エウクレイデスの展望室から望む宇宙は、人々が住んでいる星にリングがないこと以外は、ほとんど同じだ。
漆黒の空間が無慈悲な広がりを持ち、その中で微かに輝く星々が集い、輝きあうことでその闇を照らしている。
まるで幾千もの災厄とわずかな希望が詰め込まれていたパンドラの箱のようだ。

「ちょ!?それ本当なのシャル!!?」

一緒に星を眺めていたシェリリンの焦った声にマリーも窓から見える光景からそちらに意識を移す。

「だってまだ強化装備もライザー二機も届いてないのよ!?今のままのダブルオーとクルセイドが新型と戦って無事に済む保証はないよ!!」

『わかってるわ!スメラギさん達はミッションが終わったケルディムとアストレアを連れてダブルオーの救援に向かうらしいわ!私たちはこのままイクタァへクルセイドの救援に向かいます!』

「救援に向かうって言ったって……!使えるのはあのレイって人のフラッグくらいじゃない!!」

『……GNアーチャーがあるわ。』

「!まさかシャル!?駄目だよ!!もしシャルに何かあったら!!」

『けど、今はこれ以外に方法が…』

「あの!」

会話に集中していた二人に、不意打ち的にマリーから言葉が飛んでくる。

「提案があるんですが、よかったら聞いてもらえませんか?」



その後、シャルとシェリリンはマリーの半ば無茶な提案に同意せざるを得なくなった。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 26.友よ…


第36管理世界 イクタァ

穏やかな水面に風圧で白いラインを刻みながらクルセイドが疾走する。
しかし、その横からさらに高速で漆黒の雷光が迫りくる。
肉眼で捉えることはできないが、その高速移動で発生した風圧で削れる海がそこに彼女がいることを証明していた。

「はぁっ!!」

「チッ!!」

やむなく迫ってきた光刃をアームドシールドの刃で受け止めるが、今度は残っていた右の刃が振り抜かれる。
シールドバスターライフルを盾に変形させてそれも止めるが、軋むエネルギフィールドの様子を見てすぐさま後ろへ下がってアームドシールドの小型キャノンで応戦しようとする。
しかし、

「おおおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

今度は直滑降してきた鉄槌の騎士の前にさらなる後退を余儀なくされ、一向にこちらに攻めのターンが回ってこない。

「だったら…!!」

重力を無視してクルセイドは一直線に上昇する。
クラウディアの車線に入らないように浮遊している島の影響で空にとどまっている岩石群の間を飛びまわり、両手の武器で二機を狙っていく。

「しゃらくせぇ!!!!」

鉄槌の騎士は両脇にセットされていた鉄球をばらまいてビームを阻むと猛然と岩石群へと突進していく。
クルセイドの隠れた岩を砕いてそこから引きずりだすと、鎚に装備されていたバーニアをふかして盾の上からコックピットを叩いた。

「ぐ…ぁっ……!!」

全身を襲う衝撃に手の先だけでなく脳髄まで痺れている錯覚に囚われる。
しかし、そんなことで止まってはいられない。
再び迫ってきたパイルを上昇してかわし、同時にライオットソードの連撃をシールドバスターライフルとアームドシールドで防ぐ。
攻撃の勢いを利用して後ろへ体を流し、クルセイドは一つの岩の上にふわりと降り立つ。
二機もクルセイドから少し離れたところにある岩の上に立ち、手に握っていた得物を下げる。

「……ユーノ。」

繋いだままの通信回線。
モニターの向こうには黒塗りのバイザーをしたヘルメットで顔を確認することのできないパイロットがいる。
だが、シュバリエに乗るフェイトには顔が見えずともそれが誰かわかっていた。
クルセイドのパイロットも覚悟を決めたのか、静かにヘルメットを取り去る。
金色の髪が揺れ、いつも見ていた時よりもさらに哀しそうに、そして鋭く光る翠の瞳にフェイトの優しく儚げな笑みがうつる。

「髪、切ったんだね……」

「……ああ。」

「……もう、帰ろう?」

ユーノは目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。
しかし、俯いてそれを見ようとしないフェイトはところどころすれて聞こえなくなる声で説得を続ける。

「ユーノが、局を許せないのはわかるよ。けど、こんなことしたってユーノが後で辛くなるだけだよ……」

「……そんなの、わからないさ。」

「わかるよ!!!!」

目にいっぱい涙をため、バイザーに涙が飛び散るのも構わずフェイトはまくしたてる。

「そんな顔してたら!!そんな悲しい顔してたら!!誰だって辛いってことくらいわかるよ!!!!こんな子供の八つ当たりみたいなことして!!!!みんなも自分も傷つけて!!!!こんなことしたって何にも変わらないよ!!!!」

「だったら僕が局にいた時、何か変わった?ただ言われたことをこなして、どこかで誰かが泣いてても仕方がないって言って目をそらして、犠牲になっていく人たちに、フェイトはそんな世界で我慢しろって言うの?」

「そんなこと言ってない!!!!ユーノこそ何もわかってないよ!!!!なのはが今、どんなに苦しんでると……」

「もういい、フェイト。」

「ヴィータ!!?」

成長した姿でモニターに映されているヴィータは、赤く目を腫らしつつも、うるんだ目でキッとユーノを睨む。

「もう、こいつに言葉をかけるだけ無駄だ。力づくで連れていくしかない。」

「……今、局に捕まるわけにはいかないんだ。仲間のためにも。」

「っっ!!!!あんな……あんなろくでもない奴らなんかどうだっていいんだよ!!!!」

ヴィータはありったけの声で叫ぶ。
だが、ユーノは動じない。
むしろ、ヴィータの言葉に心の中で小さな、しかし激しい熱を持った種火がくすぶりだす。

「あいつらが……!!あんな犯罪者みたいなやつらなんか、最初からいなければよかったんだ!!!!」

犯罪者
確かにそうだろう。
だが、そうならなければいけなくしたのは誰だ?
刹那は、洗脳されゲリラに仕立てられ、戦い以外の道を断たれてしまった。
ロックオンは、両親を理不尽に奪われ、カタロンに入らなければならないほど追いつめられてしまった。
アレルヤは、体を改造され、国家から追われ、怯えながら暮らさなければならなくなってしまった。
ティエリアは、ソレスタルビーイングの使命以外に生き方を見つけられなくなってしまった。
スメラギも、イアンも、ラッセも、フェルトも、ミレイナも、みんなソレスタルビーイングの外に帰る場所を持てない。
そして、モレノも、クリスティナも、リヒテンダールも、フェルトの両親も、グラーベも、戦いの中にありながら、誰よりも戦いを止めようと必死で足掻いて、もがいて、苦しみながら命を散らしていった。
ロックオンは、ニール・ディランディは憎しみにとらわれて、それでも最後まで変わろうとしていたにもかかわらず志半ばで宇宙に消えてしまった。
エレナは、リリー・A・ホワイトは守ってくれるはずの国に裏切られ、それでも最後まで仲間のことを想いながら逝った。

そんな彼らがろくでもない?
最初からいなければよかった?
否、断じて否。
たとえ、世界中が非難しようとユーノの仲間たちへの想いは変わらない。
むしろ、たった今、どの国やどの世界の首脳、指導者をより集めても彼ら一人分にも釣り合わない。
それを、ヴィータはユーノの前で否定した。
ユーノが、クルセイドガンダムのガンダムマイスター、ユーノ・スクライアがキレるには十分すぎる理由だ。

「……お前が…」

「あ!?」

「お前たち風情が…!!」

全身の毛が逆立っていくのがわかる。
もう、この感情を押さえ込めない。

「お前たち風情が僕の仲間の覚悟を侮辱するな!!!!!!!!」

「「!!!!」」

周辺の大気を震わせるほどの声。
実際はそれほど音量があるわけではない。
しかし、ユーノの中で燃え立つ怒りが対峙する二人に有無を言わさず威圧感を押し付けてくる。

「僕への誹りはいくらでも許す……!!けど、僕の仲間たちの……ロックオンやエレナの命をかけた願いを侮辱することだけは神だろうが聖王だろうが絶対に……!!!!絶対に許さない!!!!!!!!」

次の瞬間、クルセイドがそれまでたっていた岩が粉々に砕け散り、ヴィータの操るエスクワイアの懐でクルセイドが拳を握りこんでいた。

「なっ…」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」

最早武器も使わず、拳のみでエスクワイアの装甲を削り取っていく。
クルセイドのマニピュレーターもボロボロになっていくが、それでもユーノは止まらない。
エスクワイアから強制的に伝わってくる痛みでヴィータの意識が飛んだ後も顔面、腹、肩、所構わず殴り続ける。

「ヴィータ!!!!」

フェイトはシュバリエを走らせてライオットソードを振るが、その瞬間クルセイドの姿を見失う。

「え…!?」

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

振り向いたときにはバンカーがあと数十センチといったところまで迫り、そこでようやくフェイトは理解した。
ユーノは、自分たちを傷つけないように今まで手加減していたのだということを。

(やっぱり……ユーノは、ユーノだよ。)

肩が吹き飛ばされてしまった搭乗機とともに巨岩に叩きつけられる痛みを感じながら、フェイトは変わってしまった友人との関係と、互いに変わらず抱く想いの落差に思わず自嘲してしまう。
そんなフェイトとシュバリエをバインドでその場に縛り付け、上空で待機していたクラウディアへ超近距離まで接敵したクルセイドはブリッジへライフルの銃口を向ける。

「っ………!!本気か、ユーノ……!!」

「ああ、本気さ。マイスターに戻ると決めた時から、覚悟していたことだ。」

クロノとユーノは相手がなにを言っているのか知らない。
それでも、相手に、そしてなにより自分に言い聞かせるように声を絞り出す。

「僕はお前に撃たれてやるわけにはいかない……!!撃てばお前は、また一人ですべてを背負い込むことになる……!!」

「それでも、もう逃げるわけにはいかないんだ……!!世界を変えるって、僕は決めたんだから!!!!」

「!!ユーノ駄目っっ!!!!」

「う……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

フェイトの制止の言葉もむなしく、クルセイドはその指を曲げ、粒子ビームの発射音を辺りに響かせた。



第27管理世界 ジバオ

松の木で二羽の小鳥がその翼を休めている。
しかし、異変に気付いた一羽が頭をもたげて空へと舞い上がる。
もう一匹もそれに続こうとするが遅かった。
周囲の松も巻き込んで彼らが止まっていた木は紅蓮の刃で薙ぎ払われ、逃げ遅れたその鳥は無残な姿で地面に叩きつけられた。
だが、その刃を振るった人物はそんなことを気にも留めない。

「どうした少年!!!!その程度か!!!!」

「くっ!!!!」

サキガケが再び横薙ぎに大型ビームサーベルを振るう。
斬撃とそれによって発生した突風が頑丈な木々を倒していくが、ダブルオーは柄をサキガケの手に当てて軌道をずらし、返す刀で斬り上げを放つもののサキガケが残していたショートビームサーベルで受け流されてしまう。
追撃を受けないために背を向けたまま一旦距離を置くが、それでもブシドーはしつこく喰いつく。

「チィッ!!」

振り向きざまに合わせた刃から火花が散り、弾かれた互いの剣を再びぶつけて火花を散らすダブルオーとサキガケ。
そして、何度目かの剣戟で鍔迫り合いに入る二機。
その時、ジルは刃から伝わってくる感情に思わず両腕で震えを押し殺すようにギュッと体を抱く。

「せ……刹那……!!コイツ、ヤバい……!!」

怒り、愛情、憎しみ、憧憬。
正と負の感情が入り混じり、本人すらもうなぜ戦い始めたのかわかっていない。
しかし、そんな中でもただ一つだけ彼を突き動かしている確固たる意志がある。
それは、全力のガンダムと戦い、それを凌駕すること。
名も知らぬこの修羅の中にはもうそれしか残されていない。

「う…あぁ……!!」

あまりにも強烈な感情に当てられ、吐き気からよろよろと刹那の膝の上に倒れ込むジル。
しかし、どれほどジルが苦しんでいようと刹那はそちらに気を向けることができない。
刹那も何度か剣を交えているこの敵の持つある種異様な強さを感じているのだ。

「ここはその昔、こちら側の日本で失踪した人間たちが作り上げた世界だそうだ……そんな世界を一度この目に焼き付けておきたいと思って来てみれば君がいた………やはり私たちはただならぬ縁で繋がっている!!!!」

「異世界に俺たちの……地球での争いを持ち込むな!!!!」

譲れぬ思いをぶつけあうように剣にかける圧力を強めていく二機。
しかし、

「僕もいることを忘れてないかい!」

「!!」

先に距離をとったのはサキガケ。
それまで自分がいたところを駆け抜けていく二条の閃光を見送り、それを撃ってきた無粋の輩を仮面から覗く目でギロリと睨みつける。

「つまらぬ横槍を………!」

「裏方だからって、無視されるのが好きなわけじゃないんでね。刹那、君も君だ。一人で先走り過ぎだよ。」

「そうそう!なに一人で盛り上がってんのよ!」

「……すまない。」

別にそのつもりはなかったのだが、サキガケに集中してヒクサーたちのことを忘れていたのは事実だ。
1対1でけりをつけるつもりでいたが、何もそれにこだわる必要はない。
敵は一機。
こちらは二機。
数の有利を使わない手はない。

「……いくぞ。」

「了解!!」

ジグザグの軌道でサキガケへと斬りかかるダブルオー。
しかし、ブシドーもこの程度の動きで翻弄されるほど甘くはない。

「小癪!!」

大型ビームサーベルでダブルオーの斬撃を払いのけ、さらにショートビームサーベルを突きたてようとする。
だが、そこへ再びセファーラジエルのビットから閃光が奔る。

「小賢しい……!!」

ダブルオーから離れたサキガケはセファーラジエルに目標を変更して一歩踏み出す。
それを、刹那は待っていた。

「!?」

サキガケの左脇から大きく左脚を前に出すダブルオー。
それを軸に大きく回転したかと思うと、ガキンという強烈な音を残して大型ビームサーベルが高らかに宙を舞った。

「あと少し深かったらやられていたな……」

愛機の胸に刻まれた薄い傷にブシドーはひとりごちる。
残っている武器はショートビームサーベルと飛び道具のみ。
この状態で満足な勝負ができるとは思わないし、何よりダブルオーに集中することができない戦いでは興が乗らない。

「……ここはひとまず退かせてもらおう。」

「待てっ!!」

「馬鹿、追ってどうすんのよ。こっちもボロボロじゃない。」

887の呆れの混じる声に刹那はハッとする。
よく見ると最後の一振りだったGNソードに亀裂が入り、今にも砕け散りそうだ。
どうやら、最後の一撃で限界を迎えたらしい。
そうでなくともダブルオーはところどころに浅い傷があり、飛び散った火花で焦げたのか頭部には細かな焦げ痕もちらほらある。

(駄目だ……今のままでは、これから先を戦い抜くことはできない。)

未完成のガンダム。
なによりも自分の未熟さ。
これらの問題を解決策は、今のところ日頃の鍛練くらいしかない。
技術的な面はユーノたち技術屋に任せるのが一番だ。

そう言えば、そのユーノは今頃どうしているのだろうか。
単機でもミッションをこなせると判断され、単身イクタァへ向かったはずだが、もうミッションは終わったのだろうか。

「……トレミーから暗号通信。今こっちに向かってるってさ。おっと……それよりこっちの方が重大かな?」

「?」

「クルセイドが、管理局と戦っているらしい。」



第36管理世界 イクタァ

まったく動けなかった。
目の前に銃口がつきつけられていたのに、何もすることができなかった。
だが、クロノが何より驚いたのはその後だった。

「外して、くれた……?」

一人の乗組員のその言葉に、ガチガチに力が入って強張っていた体から気が抜けていくのを全員が感じる。
先程まで自分たちに突きつけられていた大きな銃口は上を向き、放たれたビームは雲を突き抜けて空へと消えていた。

「っ…………」

苦い顔で歯を食いしばるユーノ。
あれほど覚悟していたはずだったのに、いざ撃とうとすると体がそれを拒絶する。
目の前にいるのはただの艦のはずなのに、親友の面影が脳裏に浮かぶ。

(撃て……!!撃つんだ……!!今まで散々撃ってきただろう!!!!)

だが、今目の前にいるのはなにものにも代えがたい親友だ。

(だから撃たないのか!?)

いままで撃ってきた人間にだって親友はいた。
ただ知らない人間だからという理由で、何のためらいもなく人の命を刈り取ってきたのか?

(違う!!違う違う!!!!僕は、ガンダムマイスターなんだ!!!!)

だから、何のためらいもなく親友も殺す。
それが、役目だから。

「う……あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

もう、何が正しいのかわからない。
考えることを放り出して、ここから逃げ出したい。

ユーノは、遂に操縦桿から手を離してしまった。

「撃てない……!!撃てるわけないじゃないか……!!だって、クロノは……僕の親友なんだ……友達なんだ!!!!」

「ユーノ……」

頭を抱えて子供のように泣きじゃくる相棒に、967はかける言葉が見つからない。
こちらに来てからいつかこうなるのではないかと危惧していたが、援護に駆けつけてくれる機体がいない状況でこれはマズイ。
実際、回復したヴィータの乗るエスクワイアがボロボロながら、そして対MS用のバインドで縛りつけられていたフェイトの操るシュバリエも拘束を破ってこちらへゆっくりと近づいてきている。

「ユーノ、帰ろう?みんな、きっと許してくれるよ?」

「いやだ……それでも、いやだ……!!もう、僕は戻れないんだ……!!」

「だったら、どうすんだよ……?そんな風に泣いて、戦うこともできないのになにができるんだよ?」

「た、戦える……!僕は、戦わなくちゃいけないんだ……!!」

「まだそんなことを……!!」

「ユーノ。」

二人の言葉を遮り、意を決して967がユーノの前に姿を現す。
触れることのできない肩に手を置き、涙がこぼれ続けるその目としっかり視線を合わせる。

「俺なら、こいつらを蹴散らして逃げることも可能だ。なんなら、その命を奪うこともできる。」

967の衝撃的な言葉にフェイトとヴィータは身構える。
しかし、967はそんなことなど気にしない。

「だが、クルセイドのマイスターはお前だ。クルセイドでなにをするのかはお前が決めろ。このまま連中につかまるもよし、皆殺しにするもよし。お前が動かせないなら、望むことさえ言ってくれれば俺が代わりにそれをこなそう。……奴らを、殺すこともな。」

「駄目だよ……」

いつの間にかユーノの涙は止まっている。
そして、何度も首を横に振って967の提案を拒否する。

「駄目だ!!そんなこと僕が許さない!!みんなを傷つけることは僕が許さない!!!!」

「だったら、このまま鹵獲されるか?」

「それは……」

「できないか?だったらどうする?このまま、何もしなければ周りに流されていくだけだぞ?」

「……僕は、フェイトも、ヴィータも、そしてクロノも撃てない。」

気弱にそう言うユーノを967は鼻で笑い飛ばす。

「いつものことだろう。いつもお前は相手のことばかり考えて余計なことをする。今日もいつもどおりだ。」

「いつも…どおり……?」

「ああ。いつものように、お人好しなお前の戦いをすればいい。俺はそれに従うまでだ。」

「……そうだ。」

なにを迷っていたのだろうか。
白か黒か、二択にする必要などない。
グレーだって、立派な答えなのだ。
今までだってそうしてきたのに、友人たちを前にして心が揺らいで、いつの間にか白か黒のどちらかしかないと決めつけていた。

「……ありがとう、967。」

「この貸しはでかいぞ?」

「ハハッ!上等!!」

先程の沈痛な表情とはうって変わり、晴れやかに笑ってヘルメットをかぶるユーノ。
もう、迷いはしない。
自分の戦い方で、自分の信じたものに向かって突き進む。
たとえそれで、友人たちと対峙することになっても。

「ごめん、フェイト。やっぱり戻れないよ。」

「ユーノ!?」

「僕の願いは、管理局じゃ叶えることはできない。どんなに矛盾してても、泥臭くて、見てる方がみっともないと思うような無様な生き様をさらしても……僕の願いは、ソレスタルビーイングでしか叶えられない!!」

アームドシールドをクルリと回転させ、ブンと一振りして刃を伸ばす。
そして、いつもどおりあの一言で心を奮い立たせる。

「クルセイド、ユーノ・スクライア、目標を粉砕する!!」

粒子を残してそれまで立っていたクラウディアの前から高らかに空へと舞い上がったクルセイドはクルリと宙返りをすると、逆さまのままでエスクワイアとシュバリエへ射撃を仕掛ける。

「このくらい!」

「なめんじゃねぇよ!」

二機はかわして反撃に移ろうとするが、そこへ思わぬ追撃がやってくる。

「そらよっと!!」

「なっ!?」

「ウソ!?」

巨大な岩石がクルセイドに蹴り飛ばされてこちらに飛んでくる。
慌てて射撃を中止して緊急回避に入るシュバリエだったが、岩は次から次へとこちらへ向かってくる。

「スターダスト・フォール……なんちゃって♪」

「こっ……のっ!!」

「クッ……うわっ!」

シュバリエは持ち前の機動力でかわし続けるが、エスクワイアはよけきれず遂に両手で岩を受け止める。
ズシリとした重量が操縦桿からだけでなく、腕に直に伝わってくるがヴィータはどうにかその場に踏みとどまる。
だが、ユーノの狙いはそこにあった。

「GNバンカー、バースト!!」

「なっ……ゴフッ!!?」

バンカーそのものは当たっていない。
しかし、砕けてさらに加速された岩石が腹へ、顔へ、腕へ、全身にまんべんなく降り注いで内部へダメージを与え、エスクワイアを完全に行動不能へ追い込んだ。

「伊達にあの激戦の中で不殺を貫いていたわけじゃないんでね。」

「女性関係になると鈍いくせに、こういうことだけはすぐに思いつく都合のいいおつむをしているのさ。」

「……どういう意味?」

「そういう意味だ。」

「???だからどういうことさ?」

本気でわかっていないこの鈍さに溜め息をつく967、そしてしつこく聞いてくるユーノだったが紅蓮の大剣が迫ってくるのに気付くと砕けた岩の一つを蹴って勢いをつけてそれをかわす。

「ザンバーか……どうせなら赤じゃなくてちゃんと金色をしたやつをみたかったかな。」

などと冗談を言ってみるが、実はそれほど余裕があるわけではない。
隻腕になったとはいえ、常時の機動力はアリオスと同等。
瞬発力ではクルセイドに匹敵するシュバリエを捉えることは容易ではない。
先程はこちらの手札をほとんど見せていないおかげで不意をつけたが、クルセイド最大の武器の一つである瞬発力はすでに見せてしまった。
すなわち、ここから先は隠し玉なしの真っ向勝負をするしかないということだ。

「誰か助けに来てくれたりしないかなぁ……?」

「……あえて言おう。そんな都合のいいことが…」

『後ろに跳べ!!』

「「!!」」

その言葉にバッと後ろへ一気にさがるクルセイド。
シュバリエもそれを追って前に出るが、そこへ頭上から青白い弾丸が降ってくる。

「クゥッ!!?」

破損した左肩からグラリとよろめいて大きく傾くが、何とか立て直して襲撃者の正体を見極めるためにフェイトは遥か上空を見上げる。

そこにあったのはさんさんと輝く太陽。
しかし、その一点。
黒い小さな影が見えたかと思うと、それがどんどん大きくなってシュバリエへ突進してくる。

「あれは……戦闘機!?」

漆黒の翼をかわしたフェイトはギリギリで先端を海面と平行にして辺りを駆け巡るそれをよく観察する。
細い機体はフュルストに通じるところがあるが、そもそもフュルストはMSであって戦闘機ではない。
しかも、こちらはなんというか細いというより極限まで絞り込まれ、不要なものをできる限り排除した機能美がある。

「ヤバいと聞いて駆けつけたんだがな……いらん世話だったようだな。」

「いえいえ、そんなことないですよ。どうしようか悩んでた所でしたから。」

ムスッとした顔のレイにユーノはニコリと笑みを返すと再びシュバリエと向かい合う。
旧世代機のフラッグとはいえ、ここでもう一機こちら側に加わったことは大きい。
しかし、

「ちなみに、増援は俺だけじゃないぞ。」

「へ?」

そのもう一機の増援に気付いたのは味方であるユーノや967ではなく、フェイトのサポートをしているバルディッシュだった。

〈!!sir!もう一機太陽に隠れています!!〉

「え!?」

「……こちらに気付きましたか。」

「でも、もう遅いです!!」

もう上からは来ないだろうと考えていたフェイトは不意をつかれる。
しかし、そんな彼女のことなどお構いなしに白銀の髪の二人は容赦なく両手のビームライフルを乱射してシュバリエを光弾の檻に閉じ込めた。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

瞬く間にボロボロになったシュバリエは何とか近くにあった岩にしがみつき墜落だけは免れるが、もはや新たにやってきたそれを見るくらいのことしかできなかった。

通常のMSと比べて一回り小さいそれはフェイスカバーで顔を隠し、赤に近いオレンジと黒でカラーリングされたバインダーを背負い、二丁のライフルからはさっき撃ったビームの残光がふわふわと浮かび上がっている。

「GNアーチャー!?一体誰が…」

『私と…』

『私です。』

今、ユーノの口の中に物があったら間違いなくバイザーにそれがへばりついて視界を奪っていただろう。
それほどまでにモニターの向こうに現れた人物は衝撃的だった。

「何やってるんですかマリーさん……それにリインフォースも……」

気まずそうに笑うマリーと相変わらずそれがどうしたと言わんばかりの無表情でこっちを見ているリインフォース。
疲れているところへさらに追い討ちをかけてくる最悪のダブルコンボだ。

「ごめんなさい。説明は後でするから、今はこっちに合わせて!」

「マリー、間もなくシャル達が動きます。グラムの発動まで残り4…3…2…1…0。」

海中から水柱が上がる。
そこから飛び出してきたミサイルに上空のクラウディアは警戒を強めるが、マリーたちの狙いは撃墜ではなく撹乱だ。
クラウディアの真下で炸裂したミサイルたちは高濃度の粒子と特殊な電磁波を発生させる。
それとほぼ同時に、クラウディアのブリッジは異常に襲われた。

「!?探知系統に異常!!目標をロスト!!」

「なに!?」

「退きます!!」

「!りょ~かい!!」

三機が海面近くまで下がると、見計らっていたように巨大な四つの長方形が海の中から出てくる。
フェレシュテのファクトリー艦、エウクレイデス。
本来宇宙でのみの運用を考えて作られていたが、フォンの手によって改造されて地上、さらには海中で行動も可能になった超高性能艦だ。

「三人を回収したらグラムを発射して再潜航!」

「了解!!」

電光石火でコンテナへ滑り込む三機。
それを確認したアニューは舵を下へ、エコはグラムを上へ飛ばして再びクラウディアの動きを封じる。

「ユーノーーー!!!!」

粒子の霧の向こうから、フェイトの叫び声が聞こえる。
ユーノは一瞬だけ悲しそうに眉をひそめ、その後、そのしがらみを振り切るように笑いながら呟く。

「バイバイ、フェイト…」

海の中へ消えていくエウクレイデスの中で、ユーノはこれが最後だと決めてイクタァの海よりも濃い涙を一滴だけ流した。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「スクライアさんたちも撤退成功です!」

戻ってすぐにブリッジへ駆けつけた刹那もその言葉にホッとする。
しかし、喜んでばかりもいられない。

「ユーノには、これから辛い戦いになるわね。」

スメラギの言葉が全員に重くのしかかる。
もしかしたら、ユーノは親しい人間と砲火を交えなければならないのかもしれないのだ。
だが、スメラギの言う『辛い戦い』で終わらせる気は刹那にはない。

「だったら、俺があいつの背負うものを少しでも軽くする。重さで潰れそうになるなら、手を差し伸べる。それだけだ。」

「刹那……うん、そうだね。」

フェルトも刹那に同意する。
もう想うだけじゃなく、すぐそばで支えることができるのだから。



???

「ったく、甘いったらねぇな。たかだか知り合いと殺りあうことになったくらいで動揺しやがって。」

「だったらあんたは殺れたの?一応記憶は99.9%再現できてるんでしょ?人格は……まあ、昔のデータだから似てなくても仕方ないかもしれないけど。」

「オイオイ、随分な言い草だな。一応言っとくけどな、俺のこの喋りも性格も、あいつのものであったことは代わりねぇんだ。」

「まあ、それはいいのよ。で、殺れるの?殺れないの?」

「いちいちつまんねぇこと聞くなよな。……速攻で仕留めてたに決まってんだろ。」

「ヒューヒュー!かっこいい!それでこそあたしの相棒!」

「相棒ねぇ。なにもここまで合わせる必要はなかった気がするよ。……っと、あのオールバックジジィから暗号通信だ。」

「え~~!?また裏方?いいかげん刹那たちと遊びたい~!」

「ま、そう言うな。そのうち会えるさ。そのうち、な……」











守護を司りし使徒、新たな仲間とともに戦場をかける
残されし古き友、悲しみに倒れようとも、再び立ち上がる





あとがき・・・・・・・・・・・・という名のやっちまったZE☆

ロ「いきなりいろいろ急展開な第二十六話でした。」

ユ「ああ、だからやっちまったZE☆なんてなめたタイトルにしたわけね。」

蒼「しかも俺と刹那の出番が想像以上に少ないし。」

ロ「だってお前ら次回主役だから今回は控えめにしといた。」

蒼「え?」

9「……ロビン曰くvividとForceまで書くなんて無理だけど、登場人物少しくらい出すならギリギリセーフだろってことで次回からvividやForceのキャラクターの四年、六年前とマイスターたちが出会うって話になってくる。」

蒼「おいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!それギリギリセーフじゃねぇよ!!!!思いっきりアウトだよ!!!!!!トリプルプレー級のぶっちぎりのアウトだよ!!!!!!!!」

ユ「僕は別にどうでもいいよ。だってあれ、どっちも僕出てないし……(黒)」

蒼「お前は勝手にやさぐれてろ!!!!」

ロ「というわけで、誰が出るかな、誰が出るかな~♪な、次回予告へゴー!」

蒼「何がというわけだっ!!!!つーかそこ二人はなんで準備万端で次回予告にいこうとしてんの!!?」

ユ「とある管理世界を訪れた刹那とエリオ。」

9「そこで二人は悩みを抱えた一人の少女と出会う!」

ユ「悲しい記憶に翻弄される彼女との邂逅に、二人は何を想うのか……」

9「そして、彼女に一つの答えを示すべく刹那は新たな力を手に空へと飛ぶ!!」

蒼「……なんかいろいろ釈然としない……。まあ、とにかくにも、最後に今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 27.小さな覇王
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/03/29 16:57
?????

それは、彼女にとってはいつもの夢。
しかし、彼女の中に眠る彼にとっては忘れ難く、辛い現実。
そしてそれは、いつの間にか彼女にとっても悲しく、捨てることができない後悔へと変わっていた。

「オリヴィエ!!僕は……!!」

炎に包まれた廃墟で、彼は必死に思い人へ手を伸ばす。
だが、彼女は少し振り返って、いつもの明るい笑顔を残して去っていった。



第22管理世界 タラニス ホテル

少女は暗い天井へ手を伸ばしていたことに気付くとそれをゆっくりと目元へ持っていく。
うっすらと濡れている肌をこすると、沈んだ気分でベッドの横にあるガラスで自分の顔を見る。
彼とは程遠い女性的な顔。
しかし、紫紺と青の虹彩異色は彼の血をひいている証だ。

(ひどい顔……)

もう、何度あの光景を目にしただろう。
彼の記憶に目覚めてから、突発的に苦しくて叫びだしたくなることもあった。
それまで興味のなかった武術にまで積極的に取り組むようにもなった。
だが、それでも埋まらない。
心にぽっかりと空いた穴にスースーと冷たい風が通っていく。
その穴を埋めるにはこの拳を向ける先を見つけるか、この身が何者よりも強いことを証明するしかない。

「……もう、寝よう。」

これ以上起きていると明日の鍛錬に影響が出る。
そう考えた少女は、再び温かな毛布の中へもぐりこんだ。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 27.小さな覇王


タラニス 闘技場都市・ゴール

タラニスは古代ベルカからの文化が残り、多くの古い建造物、特に闘技場が乱立している世界である。
そのせいか各地で武術が盛んであり、ミッドチルダでもメジャーなストライク・アーツから戦場で使われていたという古式武術までさまざまな流派が存在している。
大会も数多く開かれており、インターミドル・チャンピオンシップでも優秀な成績を収める猛者を数多く輩出している。

「ってとこかなぁ?まあ、早い話が脳筋ぞろいの暑苦しい世界だってこった。」

ジルは刹那に買ってもらった古代ベルカから伝わるという由緒正しいドーナツをかじりながら説明を終了する。
そんなジルの口からこぼれおちた食べかすを肩から払いながら刹那は改めて街にくまなく目を向ける。

確かに近代的な建築物に交じって古代ローマを彷彿とさせる石積みの建物がちらほらと立っている。
その中には石畳の粗末な舞台から、それこそコロッセオのような立派な闘技場もある。
公園は武術の型を練習している人であふれかえり、小さな子供から老人に至るまで皆一様に爽やかな汗を流している。

「本当に武術が盛んなんですね……」

「エリオは来たことがないのか?」

「話に聞いたことはあったんですけど、来るのは初めてです。一度は来てみたいと思ってたんですけど、フェイトさんの都合もあったし、六課ではそんな暇もなかったですから……あ!!あの人すごい!!」

そう言って再び目を輝かせながら心にその風景を刻みつけるエリオ。
それを見て刹那は昨日なぜ彼がここへ同行することを嘆願したのかようやくわかった。

先日、エウクレイデスと合流して例の物を受け取った刹那たちは再び思い思いに別の世界に散ることになった。
その時、このタラニスに潜伏しているベルカ系過激派の調査に向かうことになった刹那に珍しくエリオが自分からついていきたいと申し出たのだ。
刹那も変だとは思ったのだが、無茶はしないという条件付きで同行を許した。
しかし、まさかこれが目的だとは思ってもみなかった。

(観光に来たわけじゃないんだがな……)

(いいじゃんか。男なら強くなりたいと思うのは自然なことだろ?)

(そういうものか?)

「すごいすごい!!ホントに強い人ばっかりだ!!」

はしゃぐエリオとは対照的に苦笑いで刹那は歩きだそうとする。
その時、ふと公園の奥の人込みが目についた。
最初はそこに備え付けられていた仮設リングが見えていたのだが、それまで稽古に励んでいた人々が続々とそこへ吸い寄せられるように集まっていく。

「なんでしょうか?」

「さあ?試合でもやるんじゃねぇの?」

「試合?こんな街の中でか?」

「別に珍しかねぇよ。ここの連中はよく街中で場所を見つけりゃ試合をすることもあんのさ。……しっかし、ストリートファイトでここまで人が集まるのはオイラもここ十数年じゃ見たことないな。行ってみようぜ。」

「ジル、俺たちは……」

「固いこと言うなよ。それに、もしかしたらオイラたちが探してるやつらがやるのかもしれないぜ!」

そんなことは100%ありえないと思うのだが、刹那はジルとエリオに引っ張られてなされるがままに公園の仮設リングへと連れられていってしまった。



公園 仮設リング

憂鬱だ。
やはり旅行をするならもう少し場所を選ぶべきだった。
なんとなくタラニスを選んでしまったが、こういう馬鹿がここには多すぎる。
無論、全員がそういう部類にカテゴライズされるわけではないが、比率はやはり高い方だろう。
しかし、それをわかっていながらここに来てしまったのはやはりこの身に流れる覇王の血のせいだろうか。

「オイ……人がせっかく稽古をつけてやろうって言ってんだ。それを無下に断るとは随分礼儀の知らないガキだぜ。」

「いらぬ世話だと言ったのです。あなたの流派では私の目指すものには永遠に届かない。」

ゴリラと見間違えるほど大きな体をした男からは悔しさのにじむ唸り声が、ギャラリーからは「オォー!」と感嘆の声が上がるが、ただ子供というだけでこのような態度をとられるのははなはだ不愉快だ。
しかしカイザー・アーツ正統、アインハルト・ストラトスはそんなことなどおくびにもださず自分よりはるかに大きな男に正対する。

「このガキ……もう謝ってもゆるさねぇぞ!!」

「……さっきから少しうるさいですよ?口げんかをしにきたのですか?あなたも格闘家なら拳で語りなさい。」

「こ……のっ……!!!!」

男が大きなモーションからミドルキックを打ってくる。
小さなアインハルトにはそれだけで顔面へ向かってくるハイキックになるわけだが、恐怖心は微塵もない。

「遅い……」

スローモーションに映っていた蹴りを前に出てかわすと、脚に力を込める。

「覇王断空拳。」

脚先から練り込まれた力が拳にまで伝わり、男の鍛えられた腹筋へと突きささる。

「ご……あ……!?」

何が起きたのかわからない男はその場にうずくまり、必死に空気を取り込もうと呼吸を繰り返すが、アインハルトは微塵の心配もせずにもう用はないといった様子で背をむけて歩きだす。
しかし、それがうかつだった。

「てんめぇ!!!!」

「!!?」

振り向くと先程とは別の男が剣型のアームドデバイスを片手に襲いかかってくる。
観客に仲間が混じっていたのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
もう切先はすぐそこまで迫って来ている。
回避することはおろか防御も間に合わない。
反撃も届きそうにない。

(やられる……!!)

まだ倒れるわけにはいかないのに。
彼の、クラウス・イングヴァルトの無念を晴らせないまま倒れるわけにはいかないのに。
悔しくて、情けなくて、恐怖とは別の感情のせいで泣きだしそうになる。
だが、

「蒼牙……一迅!!!!」

その涙は蒼い風に舞い上がり、誰の目にも触れることはなかった。



(マズイ……!!)

近くにあった枝を拾い上げ、猛烈な風を纏わせて刹那は一気に上へ飛びあがる。
ギシギシと枝が軋むほどにまで成長した風と共に急下降してくる刹那に気付いた男は目を見開くが、もう遅い。

「蒼牙……一迅!!!!」

「ガッ……!!?」

刹那の握っていた枝が砕け散るが、男はそれ以上に悲惨な状況に陥っていた。
体中に切り傷が刻みつけられ、手脚の関節がありえない方向に曲がったままゆうに3mはあるのではないかという高さまで飛ばされている。
茂みの上に落下したおかげでそれ以上の負傷は避けられたが、そうでなくとももうまともに動くことはできないだろう。

「……消えろ。次は……命をとる。」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!!!」

筋肉質の男は転げ落ちるようにリングから降りると、茂みで気絶している男を抱えてそそくさと公園を後にした。

(命をとるって本気かよ?)

(脅しだ。この程度のことで目立つ行動をとるつもりはない。)

(……もう十分目立ってますけど。)

エリオの言うとおり、刹那は十分に目立っていた。
年端もいかない格闘少女の窮地を救ったヒーローとして、もう十分すぎるほど人々から注目を集めていた。
さらに、すぐそこには騒ぎを聞きつけた局員までやって来ている。

「どうするんですか!?」

「どうするもこうするも逃げるしかないだろ!!」

「やっぱりそうなるんだね!?」

エリオとジルもリングに上がって刹那とともにその場を離れようとする。
が、刹那が腕に抱えているものを見て仰天した。

「この子も連れてくんですか!!?」

「放ってはおけない。」

「は、離してください!!私は別に…」

「局で長い長~い事情聴取と説教をくらうか?」

「う……」

ジルのその言葉に黙りこくったのを見計らうと、刹那はすぐさま空へと舞い上がる。

「わわっ!!僕まだ飛べないんですよ~!!?」

慌ててエリオは刹那の脚につかまる。
重量が増したせいで少し速度は落ちたが、飛ぶことに関して問題はない。

「いくぞ。しっかりつかまっていろ。」

「え…って、うひゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

全身に風を纏い、普段以上の速度で飛ぶ刹那にかろうじてぶら下がるエリオ。



彼は後にこう語る。
この世で一番スリリングな絶叫マシーンは刹那・F・セイエイであると。



街はずれ

「ここまでくれば安心かだな。」

「うん……安心だよ。もう飛ばなくていい。……うっぷ。」

「情けない奴だな……まあ、それは置いといてだ。嬢ちゃん、問題はあんたのことだ。」

青ざめた顔で口を押さえるエリオを放っておいてジルはベンチに腰掛けるアインハルトの顔をまじまじと見る。

「……あんた、イングヴァルトの血筋か。」

「!」

「え!?」

「?イングヴァルト?」

刹那はエリオたちの反応の意味がわからず首をかしげるが話は続く。

「なんのことですか?」

「とぼけんなよ。碧銀の髪に紫紺と青のオッドアイ……ついでに言うならさっき使ってたのは不完全だけど“断空”だ。ここまで揃ってちゃしらをきるほうが無理だぞ。」

「でも、覇王イングヴァルトの末裔は現在では静かに暮らしてるって聞いたけど…」

「そこはこの嬢ちゃんに聞けばいろいろわかるんじゃねぇの?」

「ジル、エリオ。」

盛り上がっている二人はそこでようやく刹那のことを思い出す。

「ああ、そっか。刹那は地球出身だもんな。知らなくて当然か。こいつは…」

「結構です。自分で言います。」

アインハルトはジルを視線で制すると立ちあがって刹那と向き合う。

「私の名はアインハルト・ストラトス。古代ベルカの王が一人、覇王イングヴァルトの血を引く者です。」

「覇王?」

「諸王時代でも指折りの強さだったと伝えられている人物です。そして、私の武術、カイザー・アーツの開祖でもあります。」

「それで?その覇王の末裔がなんだってさっきみたいなことになってんだ?あのウルトラ単細胞の血筋は特に問題なく過ごしてるって聞いてたけど?」

「ここを訪れたのは単なる旅行です。それと、彼を侮辱する言葉は控えていただきたいのですが?」

ムッとした顔で睨まれ、ジルは肩をすくめて刹那の肩へと戻る。
しかし、アインハルトの覇王へのこの執着は子孫であるからというだけでは説明がつかないレベルだ。

「……両親は?」

「今日は一人で来ました。それに、普段も一人で生活してますから。」

「その歳でか?」

「いけませんか?」

「普通はな。両親もよほどの理由がなければ許すとは思えない。」

「…………………………!」

今まで聞かれたことのない質問にアインハルトはポーカーフェイスを崩してしまう。
いや、正確には刹那の放つ気に当てられているところが大きいだろうが。

「……強くなりたいんです。」

「「「?」」」

重く閉ざされていた口から出てきた言葉に三人は首をかしげる。

「私は、カイザー・アーツで天地に持って覇をもって和を為せる王になりたいんです……!!そうすれば、彼の……!!彼の後悔を雪げるんじゃないかって……!!」

涙ながらに語る彼女にエリオと刹那は戸惑うが、ジルはすぐに彼女が言っていることの意味を悟る。

「……記憶の伝承、か。」

「記憶の伝承?」

「ああ。ベルカ時代の諸侯の末裔の中には身体資質だけでなくたまにその記憶を受け継いで生まれてくるやつがいるらしい。オイラも話で聞いたことがあるだけで、実際のものを見るなんて思ってもみなかったけどな。」

「私は、その中でも彼の悲願と後悔の記憶を色濃く受け継いでいます。」

「けど、それと強くなりたいのとどういう関係があるの?」

エリオの発言にいっそう固く目を閉じて涙をこぼすアインハルト。
そして、ジルもまた目を伏せる。

「……勝てなかったんだ。」

「?」

「クラウス・G・S・イングヴァルトは、『最後のゆりかごの聖王』、オリヴィエ・ゲーゼブレヒトに“最後”まで勝つことができなかったんだ。」

「?だから、それがどうして…」

「クラウスは……ゆりかごに行くオリヴィエを止めることができなかったんだ。」

「!?」

「あいつは、そこで命を落としたオリヴィエのことを生涯後悔した。それからさ……あのバカチンはてめぇの体のことなんて顧みずに戦い続け、結局民と国を残してさっさと逝っちまった……ホント、どうしようもねぇ馬鹿だったよ、あいつは……」

「それで、強くなりたいというわけか。」

刹那はそこまで聞いて一つの結論に達する。

「くだらないな。」

その言葉に三人は呆気にとられる。
だが、アインハルトはすぐさま刹那にかみついた。

「何がくだらないんですか!?あなたが彼のなにを理解してるというんですか!!?」

「また“彼”か。」

刹那は膝を折ってアインハルトと目線を合わせる。
そして、色の違う二つの瞳の奥に、そこに眠る悲しみに語りかけるように言葉を紡いでいく。

「お前の願いはなんだ?」

「だから、この拳で…」

「違う。覇王ではなく、お前の願いはなんだと聞いている。」

アインハルトはすぐに答えようとするが、言葉が出てこない。
覇王イングヴァルトの悲願を達成することが自分の願いだったはずだ。
なのに、この青年の問いに答えることができない。

「……たしかに、お前にはその覇王とやらの血が流れているのかもしれない。記憶も受け継いでいるのかもしれない。だが、お前はお前のはずだ。戦乱の時代じゃない、今を生きる一人の人間のはずだ。」

「けど…!!なら、この胸の中の想いはどうすればいいんですか!!ただ時代が違うからという理由で、彼の願いを捨てることなんて私にはできません!!」

「……過去は、捨てるためにあるんじゃない。だが、今を縛るためにあるわけでもない。」

少年兵としての過去。
仲間を救えなかった過去。
どれも、振り返れば辛くて進む足を止めたくなってしまうものばかりだ。
だが、刹那は捨てずに、それでも止まらずにここまで来た。

「……忘れろとは言わない。だが、記憶に囚われて自分の心から自由を奪うのはもうやめろ。それに…」

「!」

フッと笑った刹那の顔に、アインハルトは穴のあいた心にいつもと違う温かな風が入ってくるのを感じる。
それがいつも憮然としていそうなこの人物が笑ったからなのか、それとも彼の言葉で自分が変わったからなのかはわからない。
だが、ここまでいい気分になったのは生まれて初めてだ。

「いつか、お前にも本当の自分の願いができる。お前の苦しみをわかってくれる人間が必ず現れる。」

「……そう、でしょうか…?」

「……今はまだわからなくていい。だが、いつかお前の前にそんな人間が現れた時にそんなことを言っている男がいたということを思い出してくれればいい。」

それだけ言うと刹那は立ちあがってエリオたちとその場を後にしようとする。
刹那の言葉に考え込んでいたアインハルトだったが、肝心なことを聞いていないことを思い出す。

「あの!!あなたのお名前は!?」

「ダブルオーガンダムのガンダムマイスター……世界の歪みを駆逐する願いを抱く者だ。」

「え……?」

何を言っているのか。
わけもわからずこの時は三人を見送ったアインハルトだったが、後日その意味を知ることとなる。



「よかったのか?」

ジルが宙で寝転がりながら刹那に聞く。

「お前がマイスターだってばれたらまずいんじゃねぇの?」

「いまさら顔を知られたところで問題はない。」

「それに、それよりもあの子のことが心配だったんですよね?」

エリオのニコニコした顔に刹那は目をそらす。
気のせいか顔も赤い。

「『俺はただ、あいつの歪みを断ち斬っただけだ…』う~ん、かっちょいい!!」

「読むなと言っている。」

横で浮かぶ相棒にデコピンをかまし、刹那は持っていた端末でメールを送る。

「……あいつなら、この手の話に詳しいだろうからな。」



その晩 森の中

『へぇ、そんな子がいたんだ……おぉ、いた……』

誰にやられたかはっきりとわかるたんこぶとビンタの痕をさすりながらユーノがうんうんとうなずく。

「……大丈夫ですか?」

『うん……シェリリンもマリーさんたちもなんだかんだで手加減してくれたから……』

「頭と口から血が出てくるような状態にするのを手加減とは呼ばないんじゃねぇの?」

『心配かけたのは事実だし…』

「僕は今ユーノさんが倒れないかが心配です。」

『それはまあ、ひとまずおいといて……その覇王イングヴァルトの血をひく子のことが少し気になるね。しかし、面と向かって『くだらない。』か……相変わらず自分からババを引くのが好きだね。』

血をふきとって表情を引き締めると改めて刹那と向かい合う。

『たしかに、記憶が戻ることは時々あるらしいけど、問題はその子自身が覇王の記憶に振り回されていることだね。』

「ああ、あいつ自身どうすればいいか悩んでいるようだった。」

『記憶そのものに支配される……ってことはないかもしれないけど、少し危ないかもね。もし、そのまま成長して、力を向ける先を間違えたら……』

「俺たちのようになる、か?」

神妙な顔の二人にエリオとジルもかたずをのんで二人の会話に聞き耳を立てる。
しかし、それに気付いたユーノはすぐにいつものふわふわした笑いでそれをごまかした。

『まあ、刹那がアドバイスしてくれたみたいだから大丈夫だと思うけどね。さて、この話はもうおしまい!今度はそっちが僕に伝えることがあるんじゃないの?』

「……すまない。」

溜め息交じりで目を閉じる刹那と後ろでバツが悪そうにこそこそしている二人にユーノは盛大に肩を落とす。

『うん、わかってた……なんとなくこんなことになるんじゃないかって……』

そう言うとユーノはデータを送信する。

『明日には動くらしい。こんな言い方は不謹慎かもしれないけど、ケンプファーが三機だからセブンソードのテストにはちょうどいいかもね。』

「街には?」

『そっちはエリオと管理局に任せるさ。幸いタラニスにはまだMSは配備されていないから戦闘に介入はしてこないでしょ。それに、生身の魔導士がMS相手にドンパチやろうなんて考えるとでも?』

「……ごめんなさい。僕は一回だけあります。」

誰にも聞こえない声でそう言いながら乾いた笑みを浮かべるエリオ。
あの時は知らなかったとはいえ、ジンクスにたった一人で向かっていった自分を大馬鹿野郎と罵ってやりたい。

『それじゃあ、頑張ってね。僕も明日は少しやることがあるから。』

通信を終了すると、刹那はパチパチとはぜる焚火のそばでケンプファーの出撃ポイントを確認する。
だが、やはりあの少女のことが頭をちらついて集中しきれない。
自分でも口下手なのはわかっているが、あの時はああするしか方法がなかった。
しかし、おそらく彼女も言葉で理解するより自分で体験して学ぶタイプだろう。

(……できることなら、もっと別の方法で伝えられれば良かったんだが……)

しかし、刹那にもマイスターとしてのミッションがある。
それをないがしろにすることはできない。

(……考えていても仕方ない。俺は俺にできることをしていくまでだ。)

静かに寝息をたて始めたエリオに毛布を一枚かけると、刹那も火の暖かさを感じながら木に寄りかかって目を閉じた。



翌朝 森

変な夢を見た。
せっかく街から離れて人気のない森にやってきたのに、いつもと違うあの夢のせいでアインハルトは早朝の鍛錬に身が入らなかった。
いつも見ている覇王イングヴァルトの記憶もいいものとは言い難いが、今朝のものもかなり壮絶だった。

見たこともない廃墟を、見たこともない機械兵士が闊歩している風景。
質量兵器を持った子供たちが機械兵士に撃たれて血の噴水を上げながら倒れていく。
そんな中に、彼もいた。
神を信じて戦い、その中で神の存在を否定し、依るべきものをなくしてもなお生きようと必死に戦う。
しかし、世界はそれでも彼からその命を奪おうとした。
その時だった。
あれが、光の槍とともに空から舞い降りたのは……

「……あの天使は、一体…」

宙を舞う木の葉へ突き出した拳をそのままにアインハルトは呟く。
あの瑠璃色の光を纏った美しくも力強い天使。
そして、

「……あの方、ですよね…」

黒髪に浅黒い肌の少年。
幼くはあったが、まちがいなく先日出会ったあの青年だ。

風を纏わせたあの一撃。
なにより、ただ事ではないあの気あたり。
並みの人物ではないとは思っていたが、あの戦場で生き残ったのならばその説明もつくのだが、

「……そんなわけ、ないですよね。」

あくまで自分の夢。
現実と混合するのはよくない。

「……今日はここまでにしておきましょう。」

どうにもすっきりしないまま始めた鍛錬を途中でやめるアインハルト。
気分を落ちつけようと森の奥へ足を伸ばそうとするが、すぐさまその異変に気付いた。

「……金属の臭い?」

かすかだが、金属がこすれあって生じる独特の臭いが風にはこばれてやってくる。
その風もどこか澱んでいて、吸い込んだだけで肺がドス黒く染まってしまいそうだ。
それでもさらに進んでいくと、ガキン、ガキンと何かがぶつかりあう音が聞こえてくる。

(……?剣戟の音?)

そこでようやく危険を感じ取り、戻ろうとするアインハルト。
しかし、そんな彼女の前に空から何かが降ってきた。

「きゃっ!!」

木々をなぎ倒して落ちてきたのは群青色の太い腕。
幸いアインハルトに当たることはなかったが、その衝撃で後ろへ吹きとばされた彼女は足をくじいてしまった。

「つっ……!一体、何が…!?」

ぽっかり空いた枝葉の隙間から例の音が聞こえてくる。
何が起こっているのか確認しようとそこから空を見上げたアインハルトは足の痛みも忘れてその光景に見入った。

「天……使…?」

少し形は違うが、夢に出てきた天使が、それぞれ形の異なる7本の剣をその手に三体の機械兵士と戦っていた。





「!刹那!!森に誰かいる!!」

「なに!?」

刹那はGNロングソードを腰に戻して腕が落下した場所を拡大して映す。
街からかなり離れたここならば無用な被害が出ることも無いと思っていたので、その動揺は大きい。
しかし、この場にいた人物の顔を見て刹那の心はさらにグラリと揺らぐ。

「あいつは!!!!」

「チビ覇王!!なんでこんなところに!!?」

呆然とした表情でこちらを見上げる彼女に二人は驚く。

「なぜここに……っ!?うわっ!!」

「どわぁ!!?」

しかし、彼らが驚いたままにしてくれているほどケンプファーもお人好しではない。
左腕を斬りおとされた一機の体当たりで大きく体勢が崩れたダブルオーにそのまま至近距離でビームピストルを発射していく。

「うっ…!!つあっ!!」

接近戦を想定して造られたケンプファーの控え目な威力の銃撃だからこそなんとか耐えられてはいるが、このままではいずれ装甲を抜かれる。

「ぐあっ!!こ……の……!!ガンダムと、ガンダムマイスターを……なめるな!!」

「!?」

ケンプファーのパイロットは突然の揺れに何事かと周囲を確認する。
しかし、すぐにコックピットの機器はことごとくダウンし、モニターさえもブラックアウトして状況を確かめることができない。

「ダブルオー・セブンソード、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!」

綺麗な曲線をした二等辺三角形の刀身と垂直につけられた柄を握り、拳の先から生えたかのような刃で深々とケンプファーの首と右肩を突き刺す。
ダブルオーはその状態からさらに腕を振り、一気に刃を滑らせた。

「うおおおお!!!!」

綺麗に切断された頭と腕を切先で弾き、さらに本体に拳をぶつけて落下地点をアインハルトのいる場所から離すと、刹那は改めて残った二機を睨みつける。

「……よく見ておけ。これが、俺たちの願い……戦火の果てに希望を見出すための戦いだ!」

近く、しかし言葉が届かないほど遠くにいるアインハルトに語りかけると、刹那はダブルオーをケンプファーへ向けてつき進める。
そのまま逃げる隙も与えずに淡く刀身を輝かせる二振りのGNカタールを脇に突き刺し、火花を散らしながら振り下ろす。
四本脚になってしまったケンプファーはよろよろと落ちようとするが、さらに刹那はカタールを太腿の鞘に戻し、腰にあったロングソードで袈裟掛けに斬りつけた。
アインハルトを中心に二つに分かたれた体は彼女の両脇の少し離れたところに落下するが、彼女はもう悲鳴を上げることすら忘れていた。

「綺麗……!」

光を放つその天使にアインハルトは刹那の面影を重ねる。
激しくも優しく、力強くも凛々しいそれはまるで風。
刹那の持つ力を体現しているようだ。

アインハルトが刹那にそんな感想を持つ一方、唯一残されたケンプファーのパイロットは二本のビームサーベルをダガーモードにセットして構えるダブルオーに恐怖する。

「う……あ……!!?」

「悪いけど、あんたらの企みはここまでだ。まあ、せめて未来を担う若人のためにいい散り方してくれや。」

「う……うわあああ!!!?」

恐怖の叫びと同時に投げられた二本のダガーが両足に突き刺さる。
続いて一気に接近したダブルオーは二本のカタールで両肩を貫く。
さらに、ロングソードとショートソードで胸部に赤い十字架を刻むと、遥か上空へと蹴りあげて自身もそれ以上の高度へ飛び上がった。

「これで終わりだ!!」

左肩のGNドライヴに固定していた分厚い大剣、GNバスターソードを両手で握り、重力に逆らいながら昇ってくるケンプファーへ真一文字に叩きつける。
装甲を砕き、斬り裂きながら振り抜かれたバスターソードを素早く肩に戻すと、今度は最後の一撃で体から外れ、空へと舞い上がっていた四つの剣をキャッチしてもとあった場所へとおさめた。

「任務……完了。」

しかし、まだ刹那にはやることがある。
アインハルトの前にダブルオーを降ろし、手を差し伸べる。

「立てるか?」

「……!やっぱり、あなたなんですね。」

「街まで送ろう。その足で戻るよりは安全だろう。」

「でも、あなたたちは…」

「俺たちも街で仲間を回収しなければならない。」

「ま、俗に言うついでってやつだ。」

(そんなことを聞いているわけではないのですが……)

名前も知らなければ経歴も不明。
おまけにさっきまで訳のわからないロボットと壮絶な戦いを繰り広げていた男を信用してこの身を預けるなど愚の骨頂だ。
そう思っていたのだが、

「早くしろ。じきにやつらの仲間が騒ぎを嗅ぎつけてやってくる。」

「え?ああ、はい……」

ついそう答えてしまって顔には出さないが自己嫌悪に陥るアインハルト。
しかし、ここまで来て断わるのも心苦しいものがある。

「では、失礼して…」

痛む足をかばいながら金属でできた冷たい指に腰かけて優しくハッチまで運んでもらうと、コックピットの中からヘルメットをした刹那が出てくる。

「一人で来れるか?」

「え?その…」

「……足を負傷したか。すまない、俺たちが気付かなかったばかりに……」

「い、いえ!私のほうこそ勝手に来てしまって…」

「手を貸そう。掴まれ。」

差し出された手にアインハルトは戸惑う。
今までこんなことをされたことがない……と言えば大げさになるかもしれないが、自分のことを知った上で、しかも厄介事を持ち込んだ自分に対してこんな風に接してくれる人間は今までいなかった。

「お~い?もしも~し?」

「え!?あ…す、すいません…」

ジルの不思議そうな声にハッとすると、ブンブンと首を振って刹那の手を掴むアインハルト。
そのままコックピットの操縦席の斜め後ろに座らされると、市街地へ向けて操縦する刹那の肩を見つめる。

(大きい……)

先日もそうだったが、自分よりも遥かに大きい。
体格的にもそうだが、人間的にもすごく大きい。
一緒にいてくれるだけで、心の奥がポカポカしてくる。
だから、ずっとそばにいてほしい。

(いつか、私がもっと強くなれたら、この人は振り向いてくれるだろうか……)

「どうかしたか?」

「!」

視線に気づいた刹那が前を向いたまま話しかけてくる。
しかし、アインハルトは見られているわけでもないのに顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

「ここまでくればもういいだろう。後は局に保護してもらえ。」

「今回は事情聴取とお説教を回避することは無理だろうけどな~。」

「いま戻りまし……え!?ちょ、ちょっと!?なんでこの子がいるんですか!?」

「ちょっとしたトラブルってやつだ。ほれ、姫……じゃなくて、未来の覇王様のおかえりだ。」

ダブルオーを昇ってきたエリオと入れ替わりにアインハルトを外に出し、再び手の平の上に彼女を乗せようとする。
しかし、アインハルトはいっこうに乗ろうとしない。
そして、

「あのっ!!」

「なんだ?」

刹那の顔を見てまたさらに顔を赤くするアインハルト。
だが、グッと気恥かしさを飲み込むと勇気を出して想いを言葉にする。

「いつか……私が、本当の自分の願いを見つけられたら、あなたと釣り合うような人間になれたら、お手合わせをお願いしていいですか?」

「?」

言ってから後悔する。
相手は管理外世界出身の人間。
この手合わせの申し出に含まれる意味を彼はどれだけ理解しているだろうか。
そう思いながら、そっと顔を見上げる。

「???」

「~~~~~っっ!!!!!!」

やはり、わかってくれてはいないようだ。
もう恥ずかしくて、炎熱変換ができるわけでもないのに全身から火が噴き出そうだ。

(そうですよね………赤の他人からいきなりあんなことを言われて…)

「別にかまわないが?」

「え!!?」

あっけらかんと答える刹那にアインハルトも驚くが、一番驚いたのはアインハルトの言葉の意味するところを読み取っていたジルだ。

「おまっ!!刹那!!!!意味わかってんのか!?」

「?そのつもりだが?」

「待て!!思いなおせ!!今やってることも世間的に見れば十分犯罪なんだからこれ以上罪を重ねるな!!!!」

「?」

「ロリコンは流石にまず…ッブ!!?」

「本当ですか!!?」

「ああ。俺でよければいつでも付き合おう。」

「や、約束ですよ!!絶対ですからね!!」

最後まで念を押してからアインハルトはダブルオーの手に乗って下に降りる。
そして、空へ消えていくダブルオー、いや、彼を見送る。
だがその時、彼女はまた重大なミスを犯していたことに気付いた。

「……名前を、聞いていませんでした…」



ダブルオー コックピット

「お、おい刹那!?お前本気であいつと…」

「ああ。今すぐには無理かもしれないが、いつか成長したあいつと手合わせをしてやれればいいとは思う。」

「……ん?」

何かおかしい。
話がかみ合っていない。

「でも本当に熱心な子ですよね。きっと記憶に関係なく武術が好きなんでしょうね。」

エリオとも話がかみ合わない。
ジルは怪訝そうな顔をしながら、改めて刹那に尋ねる。

「なあ、刹那?お前、あいつのことどう思ってんの?」

「?精神的に不安定なところもあるが、筋はいいと思っている。」

「ああ…そう……」

そうして、再びエリオと今後の訓練について互いに話題を提供し合う刹那。
その肩の上で、ジルは遠い眼で小さな覇王にむけて合掌する。

「チビ覇王……お前の言いたかったことは、この朴念仁どもにはこれっぽっちも伝わってないぞ……」



四年後 ミッドチルダ

「ガァッ!!」

「こんなものですか……」

そう言うと、バイザーをつけた女性は気を失った男に背を向けて歩き出す。
そのさなか、体が光に包まれ中学生の姿へと戻った彼女はギュッと握った拳を見ていっそう力を込める。

「まだ、届かない……!いつかあの人と再会するその時までに、あの人に届くくらい私は強くなってみせる!」



その後、自称覇王ことアインハルト・ストラトスはあの青年の時のように、鮮烈な出会いを果たすことになるのだった。








それは、今の覇王と、今の聖王が出会う物語
その前にあった、ほんの些細なきっかけの物語……






あとがき・・・・・・・・・・・・・という名のごめんなさい

ロ「というわけで第二十七話なわけですが、やりすぎました。ごめんなさい。」

蒼「いきなりだなオイ。まあ、そう言いたくなる気持ちもわかるけど。」

刹「とりあえず弾劾裁判の前に特別ゲストを呼ぶぞ。自称覇王、でも実は意外と奥手、アインハルト・ストラトスだ。」

アインハルト(以降 覇王)「どうも。で、これはどういうことなんですか?」

エ「え~……実はもっとシリアスで戦闘シーンが半分以上のバージョンのがあったんですけど、どうせならオリジナル要素強めでギャグ多めでさらに刹那さんに片想いするアインハルトをかいてみたいってことでこういう感じになっちゃいました。」

蒼「やりたい放題だなボケ作者。」

ロ「…………でも、シリアス版の方はこっちにしようとって決めた時に消しちゃったし……」

蒼「書き直せ。」

刹「その結果はもう目にしたはずだが?」

覇王「ああ、こっちの方に影響されて今回以上に中途半端になったあれですね……」

ロ「人の黒歴史掘り返してんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!!月○蝶で消し飛ばされたいかオラッ!!」

エ「こんな妄想作り出すあなたの頭の中こそ消し飛んだらどうですか?」

ロ「妄想できるのは人間の特権なんだぞ!!?」

エ「いや、訳わかんないですって……」

蒼「でもまあ、次回はそこそこシリアスな感じみたいなんでとりあえず予告へゴー!」

刹「第3管理世界ヴァイゼンで鉱山遺跡で過去に起きた事件を調査しにやってきたロックオン。」

覇王「その近くの森で、彼は一人の孤独な少年と出会う。」

エ「全てを奪われ、復讐に燃える彼に亡き兄の面影を見たライルさんは自らの胸の内と兄の末路を少年に告げる。」

蒼「そして、そんな彼らの前に現れる赤いガンダム!」

刹「ロックオンは少年の未来を真の意味で守り抜けるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでくださいましてありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援をよろしくお願いします!では、せーの……」

「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」



[18122] 28.復讐の結末
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/04/05 21:43
第3管理世界 ヴァイゼン

カッカッと乾いた音が夜の森に響く。
初めは浅かった木の傷も何日、何週間、何ヶ月と受けているせいですでにナイフの刃が三分の一ほど埋まるところまで削れてしまった。
だが、それでも少年はやめない。
冷たい空気に触れ続けているせいで、その手が氷のような温度になってもナイフで木の幹に傷を刻み続ける。

「ハッ…ハッ…ハッ……」

皮膚と違い、完全にオーバーワークの肉体から出てくる息は熱く、冬でもないのに息が白くなる。
しかし、少年の中に渦巻く衝動はそれよりもさらに熱い。

(殺してやる……!)

藍色の羽の痣をもった二人組。
あいつらがやったことを、あいつら自身にも味あわせる。
その一心で、強くなろうとしていた。

ボロボロになった指先から血が噴きだす。
刺すような痛みが奔るが、それすらもうどうでもいい。
なぜなら、彼にはもう何も残されてはいないのだから。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 28.復讐の結末


ヴァイゼン 遺跡鉱山

「で、来たはいいけどほっぽりぱなしかい。」

茶色い局員の制服に身を包む二人の男は呆れながら周囲の状況を見渡す。
壊れた家屋はほとんどが片づけられているものの、未だに瓦礫や廃材があちこちに転がり、街のシンボルであり収入源であった遺跡鉱山は落盤の危険から立ち入り禁止の看板に入り口をふさがれている。

「生き残った奴らは復興とか考えなかったのかねぇ?」

『その時に生き残ったのは数人だけ。後は全員死んだらしい。』

「なるほどな……人がいなければ復興も無理というわけか。しかし、だからと言って公的機関がこの状況をそのままにしておくというのは問題だと思うがな。」

ロックオンとレイの言葉に端末の向こうにいるクロウは苦虫をかみつぶしたような顔をする。

ここ、第3管理世界ヴァイゼンはミッドチルダと隣接する世界であり、環境もよく似ている。
さらに、首都近郊は公共交通機関の充実などの利便性の高さと郊外にある住宅街の閑静さから住みたい街の上位にランクインするほど人気がある。
しかし、そんなこの世界で一年前に遺跡鉱山崩壊事故が起きた。
北西部の街、アミアで住民約230人がほぼ全滅するというこの凄惨な事故は様々な地形や時間的要因など不運が重なり、このような結果を招いたとされている。
しかし、

「事故じゃなけりゃ誰がやったってんだよ?」

『それはわからない。だが、俺も遺体の状況や家屋の損傷を見てみたが自然現象とは思えないような傷が多々ある。』

「しかし、その割にはあっさり事故として処理されたようだが?」

『疑わしいほどにな。実況見分は一回、しかもその後は報道にも一部圧力がかけられていた。お前らの世界ではここまでされていてもこれを事実として鵜呑みにするのか?』

幼い容姿に似合わぬ鋭い視線に二人は顔を見合わせて肩をすくめる。
どうやら、相当きな臭いことは決定のようだ。

「……な~んか、さっきからこそこそ人の後をつけて来てる誰かさんも気になるしな。」

ここに潜りこむために制服を用意してもらったのだが、逆にその誰かさんは警戒を強めたようだ。

「潮時だな……また連絡する。」

『了解。協力できることがあったらまた言ってくれ。』

その言葉を聞いてパタンと端末を閉じたロックオンはレイを連れてそこを離れようとする。
だが、件の気配はしつこくついてくる。

(ジーン1。)

(わかってる。俺が引きつける。)

(了解。)

「……わりぃ、少しトイレに行ってくるわ。」

ロックオンはそそくさと茂みの奥へ入っていく。
そして、完全に人気のなくなったところで木の方を向いて、ゆっくりとポケットに手を入れる。
そして、

「よう、俺は顔も見せない奴と連れションする趣味はないぜ。」

「!」

隠れていた人物は慌ててその場から離れようとするが、その瞬間レイの腕が彼の視界をふさいだ。

「ガッ!!?」

宙で一回転してドサリと地面に倒れた男の前に銃を持ったロックオンもやってくる。

「俺の出番なしかよ。」

「ないに越したことはないでしょ。で、コイツどうします?」

二人と同じように局員の制服を着たその男は白目をむいたまま完全に伸びている。

「……罪状は猥褻物陳列罪ってところか。」

「は?」

首をかしげるレイをよそに、ロックオンはにんまりと笑うと男を下着姿にして拘束する。

「よっしゃ、ここってどっかに女子校とかってなかったか?」

「ありますけど、まさか……」

「その、まさかだ。」



その次の日の朝刊、ヴァイゼンでも屈指のお嬢様学校に下着姿の不審者が飛び込んできたとの見出しが隅に載せられた。



森林

「あの男のプライド、きっとズタボロですね。」

その日の昼下がり、少し遅い昼食に味気ないクッキー型のレーションを口にしながらレイは男に同情する。
しかし、ロックオンの方は相変わらず悪魔の笑みをたたえたまま喉を鳴らしてミネラルウォーターを飲む。

「人のことこそこそつけまわしてたんだ。いい薬だよ。それより、聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

その言葉に、レイは食べるのを中断して真剣な顔でロックオンと向かい合う。

「率直に聞きます。魔法は、アロウズに対しても有効だと思いますか?」

ロックオンはペットボトルから口を離す。
そして、少し上を向いた後で答えた。

「現実的じゃねぇな。」

「やはりか」といった顔をするレイ。
ロックオンはその顔も見ずに言葉を続ける。

「まず、戦力をそろえるのが難しい。なんでもリンカーコアとかいうのがないと使えないらしいし、管理外世界、つまり俺たちがいた地球なんかじゃそいつを持ってるやつはかなり稀らしい。もっとも、その代わり持ってるやつは相当資質が高いらしいけどな。」

「じゃあ、俺たちの中にもその高い資質を持った奴が…」

「いたとしても無理だな。どんなにすげぇ力を持ってたとしても生身で戦うわけだからな。MSでの戦闘で生かすにはMS、魔法、どちらも相当熟練した腕の持ち主じゃないと厳しい……ってユーノが言ってた。ま、せいぜいオートマトン相手にするのがやっとだろうな。」

「そう、ですか……」

微かな希望を見出せたと思ったのだが、やはりそううまくはいかないらしい。
レイは大きなため息とともに大の字に転がっていっそう深く息を吐く。

「……それはそうと、ストーカーはあいつだけじゃなかったらしいな。」

「ええ。けど、こっちはずいぶんかわいいですね。」

「生憎と、俺は子供に好かれるよりいい女に好かれたいけどな。」

そういうとロックオンは手元にあったクッキーを後ろの草むらに向けて高らかに投げ上げる。

「!」

そこに潜んでいた彼は思わずそれを手にとってしまうが、すぐに警戒を強める。
しかし、ロックオンは振り向きもせずに慌てふためく気配を感じながら笑いを必死にこらえる。

「出てこいよ。別に取って食ったりはしねぇよ。」

「……………………」

ロックオンからのクッキーを片手にしばらく考え込んでいた影だったが、あくまで警戒はしたまま草むらからのそのそと出てきた。

(……!驚いたな……俺らのところにいるやつらとそう変わらねぇ歳だぞ?)

自分の肩越しに見る彼の着ている服は端が擦り切れ、髪は自分で切ったのか不揃いなうえにひどく枝毛が目立つ。
瞳は濁り、鋭い視線でこちらの様子をうかがうその姿はまるで野犬だ。
しかも、

「オイオイ、飯をわけてやったのにその態度はないんじゃないのか?」

「……?」

「左手……後ろに隠してる物騒なもんはしまえ。」

「!!」

驚いた表情をする少年だが、ロックオンに対する警戒心をさらに高める。
何度も木にぶつけたせいで刃がボロボロになってはいるが、十分武器になりうるナイフ。
子供だから多少油断するかと思っていたが、この男はあっさりそれを見破って見せた。
只者ではない。

(……ミスったかな?)

(いきなりばれたらそりゃ驚きますよ。子供ならなおさらね。もっとも、こっちもいつ後ろから刺されるかわからないような状況は勘弁ですけど。)

「……別に、あんたらのことを刺そうなんて思ってない。」

「「!!」」

今度はロックオンとレイが驚く。
唇の微かな動きだけで意志疎通を図っていたはずなのに、この少年はその内容を即座に言い当てた。

(読唇術の心得が……?いや、こいつの場合単に勘が鋭いのか。どっちにしろ、この歳の子供にできる芸当じゃないことは確かだな。)

レイは客観的にそう分析しながらも、完全に第三者の立場に立つことができないでいた。

(チッ……疼くなよ、こんな時に……)

眼帯の奥が熱い。
失くした左目で見た最後の光景が、両親や故郷が赤い閃光と炎で崩れさっていく記憶がよみがえる。
そして、目を覚ました後で残っていた右目で見たあの時の自分の姿がこの少年とだぶる。
この、濁りきってしまった瞳が。

「……イ?オ~イ?レイ・フライハイトく~ん?」

「……ん?ああ、なんですか?」

いつの間にか少年を横に呼んでいたロックオンの声にレイは左目の眼帯から手を離す。
ロックオンはレイからの返事を受け取って一息つくと改めて話を聞いていなかった彼に説明する。

「名前教えてほしけりゃ俺たちの方から先に自己紹介しろだってさ。ったく、嫌なとこだけしっかりしてんだな最近の子供は。」

「それで?」

飲み込みが遅い、いやどういう状況かはわかっているくせにいちいち不満そうな態度をとる後輩にロックオンは肩をすくめながら大げさに首を横に振ってみせる。

「俺ことロックオン・ストラトスの自己紹介は終わったの。で、次はお前の番。」

「(ああ、そっちで名のったのか……)……レイ・フライハイト。お前たちの言葉で言うところの管理外世界というやつからやってきた人間だ。」

「……管理外世界の人間が、どうして管理局の制服なんて着てるんだよ?」

「いちいち痛いところついてくるねお前……まあ、いいけどさ。ちょいとわけありで一年前にあったっていう遺跡鉱山の事件を調べてんだ。」

「!」

少年の顔に明らかな動揺が奔る。
二人はそれを見逃さなかったが、そこは追及せずに話を進める。

「局員じゃねぇと現場にいけないって知りあいに言われたもんでな。それで、こんな固っ苦しい格好をしてるってわけ。」

「……あんたら何者?」

「想像にお任せするよ。……さて、今度はお前が自己紹介する番だ。」

わしゃわしゃと笑顔でぼさぼさの頭をなでるロックオン。
嫌そうな顔をする少年に苦笑交じりで冷や汗をかくレイだったが、少年の方は特に何もせずに淡々と自己紹介を始めた。

「……トーマ・アヴェニール……9歳……」

「トーマね……なるほど。で、お前はなんでそんな物騒なもん持ってこんなところにいるんだ?見たところ、ここに随分長いこといるみたいだけど?親は?」

「………………………」

「だんまりか。ま、いいけどよ。」

そういうとロックオンはたちあがってグッと大きく伸びをするとトーマににっこりと笑いかける。

「よかったら晩飯を一緒に食わねぇか?材料は現地調達だが、そのレーションより美味いことだけは保証してやるよ。」

「……………………」

「よっしゃ、決定な。お前も手伝えよトーマ。働かざる者食うべからずってな。」

トーマは相変わらず黙ったままだが、強引に彼の参加を決めたロックオンは今晩の食事を手に入れるため、木にかけてあったライフルを手にハンティングの場所へトーマと一緒に歩き出す。
あまりにも唐突なその行動にレイは止めに入ろうとするが、ロックオンはトーマに向けた笑顔とは真逆の厳しい表情でそれを止める。

(悪いな、レイ。俺はこいつを放ってはおけねぇよ。お前だってそうだろ?)

ロックオン、いや、ライルが思い出していたのはカタロンに来たばかりの頃のレイ。
そして双子の兄、ニールが最後に自分へ別れを告げたあの時の眼。
それと全く同じ眼をしたこの少年が、このままでは自分たちや兄のような形で人生に幕を引いてしまうのではないか。
トーマの事情を知らない彼にも、そう思えて仕方なかった。



ヴァイゼン 首都

久しぶりの小遣い稼ぎに男は興奮を押さえられなかった。
見たこともない世界に、見たこともない技術。
そして、見たこともない力をもつ人間たち。
そんな連中がいる世界で暴れられると考えただけで高揚感が絶頂に達してしまう。

「……オイ、聞いているのか?」

「んん?ああ、すまねぇすまねぇ。ファンタジーに憧れていた人間としては感慨深くてよぉ……ついいろいろと考えちまってた。」

心にもないその言葉に今回の雇い主たちは顔をしかめるが、バラバラと写真を机の上に放り投げると床に置いてあったアタッシュケースを足で男の横に押しやる。

「遺跡鉱山……ここに妙な二人組がやって来ていろいろ嗅ぎまわってたらしい。」

「そいつを消してほしいと?」

うなずく雇い主に男はあからさまにため息をついてみせる。
もっと大きなヤマだと思っていたのだが、これでは拍子抜けもいいところだ。
もっとも、標的がMSを持っていないという保証はないし、もしかしたらこちらに来ているというあの連中と鉢合わせるかもしれない。
無論、かなり可能性の低い話だが。

「いいぜ。給料の分はしっかり働いてやる。ただし、やり方は俺に任せてもらうぜ。」

「かまわん。……ところで、お前の上にいる人間はこのことを知ってるのか?」

「ああ、大将たちか。黙ってやってきたけど多分知ってるぜ。許可しないつもりなら、お宅ら消して俺から仕事を奪ってるはずだから安心しな。」

ゾッとするような言葉を犬歯をのぞかせて言うこの男に、雇い主たちも背筋が凍らせて理解する。
これが、戦争屋というものなのだと。

「へへへ……それじゃあ、派手にフッ飛ばしてくるから期待して待ってな。」

札束で重くなったアタッシュケースを持った赤髪の男、アリー・アル・サーシェスはその禍々しい笑みのまま裏路地へと消えていった。





赤い炎の揺らめきに引き寄せられ、暗い森の茂みから出てきた小さな羽虫がその周りを飛び交う。
しかし、ロックオンはそんなことなど微塵も気にせずに骨付きの肉にかぶりつく。
そこらに生えている草を香辛料代わりにしたので少々野性味が消しきれていないが、それでも味気ないレーションに比べればはるかに人間らしい食事だ。

「んぐっ……ってわけで、俺たちの方は今のところなにも収穫なし。せいぜいこいつに会えたくらいだな。」

そう言って骨を後ろに放り投げてトーマを脇に寄せる。
モニターの向こうではアレルヤが何か言いたげだが、あちらもこっちを責められない理由があるようだ。

『あっ!!ねーねー!!それなに!?』

『わっ!?ア、アイシス!!駄目よ!!アレルヤは今大事な話を……』

『えー!!いいじゃん!!マリーのケチ!!旅は道連れ世は情けだよ!!』

「ハハッ、にぎやかだな!もっと落ち込んでるかと思ったんだが。」

ロックオンのその言葉にアレルヤは笑顔を微かに曇らせるが、後ろにいる二人の少女を見てフッと短く笑う。

『それでも、あの子たち二人は助けられた。それだけでもよかったと思わなくちゃ。』

「……残念だったな、間に合わなかったなんて。」

『後悔しても仕方ないよ。今はまた来るかもしれない襲撃に備えるさ。それに、何も絶望しか残っていないわけじゃない。』

「?」

『まあ、撮れたら今度見せてあげるよ。それじゃ、僕はサレナの手伝いもあるからこれで。』

「手伝い?オイ、そりゃいったいどういう……あ、切りやがった。」

話を途中で切り上げたアレルヤにロックオンは舌打ちをするが、すぐに最後の肉に手を伸ばす。
それを自分で食べるのかと思われたが、ロックオンは横に座っていたトーマに差し出す。

「ホレ、もうこんな御馳走食えないかもしんねぇぞ?」

「…………………………」

黙って目の前に出された肉を見ていたトーマだったが、すぐに受け取ると小さい口で噛みちぎり始める。

「……味はまずくない。」

「つまり美味いってことか?素直にそう言やいいものを…」

ふいと横を向いて食事を続けるトーマ。
苦笑しながらロックオンはその頭をなでるが、ふいに出会ってから抱えていた疑問をぶつけてみる。

「お前、なんでこんなところに一人でいるんだ?」

「……………………」

「黙ってちゃ困るんだがな…そんじゃあ、だ……これは俺の勝手な想像なんだが、お前あの街の生き残りじゃないのか?」

「……………………」

トーマは沈黙を貫くが、わずかに肩がふるえているのを見てロックオンとレイは自分たちの推測が当たっていることを確信した。

「一年前、何があったのか話してくれないか?」

「ただの事故だよ…」

「だったらお前はこんなところで一人でいる?すぐにでも保護されてそれ相応の扱いを受けているはずだろ?」

「……………………」

なかなか心を開こうとしないトーマ。
しかし、ロックオンはあきらめない。

「なあ、トーマ。この世界の人間じゃない俺に何ができるのかわかんねぇけど、ずっと一人で抱えてるより楽なことだって世の中には山ほどあるぜ?」

「……………………」

「事故…じゃないんだろ?」

「……ああ、殺されたんだ。」

トーマは食べかけの肉を炎の中に放り投げてロックオンの顔を見上げる。
その瞳は涙でうるみ、同時に激しい怒りのせいでギラギラと光っている。

「あいつらに……あの藍色の羽の痣のやつらに、みんな壊されたんだ!!」

「藍色の羽、ね……」

思い当たるものが無いロックオンは視線の先をわずかの間だけ宙にさまよわせるが、すぐにトーマの顔にそれを戻す。

「みんな事故だって言ってるけど、俺は見たんだ!!あいつらが、瓦礫の上に立っているのをこの目で確かに!!だから…」

「誰も信じてくれないから復讐か?」

レイもその言葉に体をこわばらせる。
たしかに、それならば幼いトーマがこんなところで一人で、それもあんなボロボロのナイフ一本で暮らしていたのか合点がいく。
誰も信じてくれないから、強くなって自分で仇を取る。

(……こうして向き合ってみると、見てられないな。)

アロウズに焼かれた故郷。
仕方ないと自分を切り捨てた大人たち。
だから、必死でMSの操縦を覚えた。
それしか生きる道もなかったし、自分の怒りを鎮めるにはそれしかなかった。
だが、

「トーマ…」

「復讐か……やめちまった方がいいぞ、そんなもん。」

レイはまさかロックオンがそう言うとは思っていなかったのか面喰うが、彼のウィンクを見てひとまず任せることにした。

「何がやめろだよ……そうしなくちゃいけなくしたのはお前ら大人じゃないか。少し先に生まれたからって、偉そうなこと言って、いざとなったら何の当てにもならない……そんなお前らが復讐をやめろ?大きなお世話なんだよ。」

「ハハハ、耳が痛いな。けどな、少しばかし早く生まれてるから復讐の結末ってのがどういうもんなのか知ってるのさ。」

目を見開いてトーマはロックオンの飄々とした笑みを見つめる。

「……あんたも、復讐を?」

「いや、俺じゃない。……つーか、俺は当事者って言えるかどうかも怪しいんだけど……いや、やっぱ当事者なんだろうな。」

ロックオンはそう言うと、手元にあった小枝を焚火に投げ込む。
新しく入ってきた枝がパチパチとはぜる音を上げる中、それは静かに語られ始めた。

「俺の家族はガキの頃にテロで死んじまってよ……俺はいろいろ訳あってその場にいなかったんだが、その話を聞いてすぐに駆けつけたんだ。生き残った双子の兄さんの下へな。」

「双子?」

「ああ。こいつは余談なんだが、俺はこの兄さんが心底気に喰わなくてよ。向こうはそうでもなかったみたいだけど、俺はなんでも優秀な兄さんと比べられるのが嫌で遠くの学校で寮暮らしをしてたのさ。それで事なきを得たわけなんだが、兄さんの方も現場にはいたけど家族と離れていたせいで何とか生き残れたんだとさ。で、俺は葬式で出会いがしらに兄さんの顔に右ストレートを一発。」

「え!?」

「んで次に左を一発。けど、兄さんは黙って俺に殴られてたよ……自分のせいでもないのにな。俺も、そんなことはわかってたけどどうにも我慢できなかったんだろうな。散々言いたい放題言って泣きわめいて、なんで自分がその場にいなかったのか後悔した。」

「……憎くかったの、犯人が?」

トーマの真っ直ぐな視線が痛い。
だが、ロックオンは苦笑でそれをごまかしながら話を続ける。

「今でも憎いさ。けど、俺にはどうすることもできなかったからな。だが、兄さんは違った……葬式が一段落した後、兄さんと最後に会った時のあの目は今でも覚えてるよ。濁ってて、目の前にいる俺のことなんざちっとも見てなくて……ちょうど、お前みたいな面してたよ。」

「………………………」

「それから俺たちは別々の道を歩いていった。俺は兄さんから送られてくる金で大学まで行って、一流企業に勤めることになった。」

「お兄さんは?」

「……俺のために、そしていつか復讐すべき対象を見つけて殺すために裏稼業、スナイパーをしていたらしい。ま、これは兄さんの仲間から最近になって聞いた話なんだけどな。」

トーマは「どうして」と聞きそうになるが、その質問は飲み込んで別の疑問をぶつける。

「仲間って?裏稼業の?」

「いや、ソレスタルビーイング……って、お前にはわからないか。端折って説明すると、『武力ですべての戦争行為を根絶する』なんて馬鹿な目的のためにつくられた私設武装組織さ。」

「なにそれ?矛盾してるじゃん。それって要は戦争で戦争を終わらせるってことだろ?」

「まあな。だから俺の世界では四年前にそいつらは目の敵にされて、結局一つに統合された世界に負けた。……けどな、俺の兄さんは、その中で家族の仇をとったんだ。」

「え?」

「連邦軍……俺たちの世界の軍隊の中に混じっていたその仇を、兄さんは撃ったらしい。」

「……そっか。じゃあ、よかったんじゃ…」

「よかねぇよ……!!」

それまで穏やかだったロックオンの声が唸るようなものに変化し、トーマも冷や汗をかいて口をつぐむ。

「兄さんは……俺の兄さんは、その時復讐を果たすと同時に、この世を去ったんだ……!!」

ギリギリと拳を握りしめるロックオンの気迫に、トーマは体が動かなくなる。
それでも、話だけはしっかりと耳から入ってきて脳に刻みつけられていく。

「復讐ってのはな、所詮自分一人のことだけしか考えていないんだよ……!!残された人間がどんな思いで日々を過ごすことになるのかも知らないで、相手と自分の破滅へ向けて突っ走るだけだ……!!」

「……けど、俺にはもう何も残ってない。だったら、別に…」

「お前が勝手にそう思ってるだけだ。その証拠に、俺たちはお前とこうして同じ時を過ごしてる……お前がくたばれば、俺たちの心には後悔が残る。」

「でも、俺はそれでも……」

その時だった。
爆発音と同時に三人に突風が襲いかかり、トーマはその小さな体を飛ばされそうになる。

「チッ!!」

間一髪でロックオンが受け止め、体勢を横にして着地して事なきを得るが、上からは枝葉のざわめきに交じって大気が鳴るような独特の音が聞こえてくる。

「この音……GNドライヴか!!」

「俺らが嗅ぎまわってんのがよっぽど嫌だったみたいだな。随分強引なことしてくれるぜ。」

トーマを立たせ、ロックオンは火を消して制服の上を脱ぎ捨てる。

「レイ、お前はフラッグでトーマを安全なところまで運べ。俺はケルディムで敵さんを足止めする。」

「了解。トーマ、こっちだ。」

「ちょ、ちょっと!!」

「トーマ!!」

レイに引っ張られていくトーマに、ロックオンは叫ぶ。

「よく見てろ……これが、お前が進もうとしている道に待っているものだ!!」



上空

サーシェスは舌打ちしながらもニタニタとしたいやらしい笑みを消そうとしない。
きっちり戦ったわけではないが、久々の殺しは新しい雇い主の意向に従わなければならない彼にとって十分な刺激になったようだ。
だが、それでもやはり足りない。

「どうせならスカッとMSの一機もブッ飛ばしてやりたかったけどな。しかし、馬鹿な連中だ。こんな近くでキャンプファイヤーなんざすれば位置はモロバレだろうに。」

元傭兵のサーシェスならばまずこんな迂闊なことはしない。
いや、ある程度経験を積んだ者ならばこの行為がどれほど危険かわかるはずだ。

(つ~ことは素人か……チッ、払いがいいとはいえ、つまんねぇ仕事を……?)

それはこの世界の人間ではおそらく気付かなかっただろう。
黒く塗りつぶされた一つの影が静かに夜の闇にまぎれてこの場を離れていく。

「カスタムフラッグ?やけにボロいな……いや、その前にどうしてフラッグがこっちにいる?」

こっちのMSと地球の共通のMSはジンクスだけのはずだ。
バロネットとかいう似た機体は存在するが、そちらは変形機構を備え付けていないはず。
だとしたら、このフラッグは何者なのか。

「まあいい。ちょうど遊び足りなかったところだ……派手に吹き飛べよ!!」

そう言うとサーシェスは新たに手に入れたガンダム、アルケーガンダムの飛び道具、GNファングを発射しようとする。
だが、

「狙い撃つぜ!」

「!?チィッ!!」

湖のほとりから迫ってきた鋭い閃光。
不覚にもフラッグに気を取られてポジショニングと狙撃態勢に入る隙を与えてしまった。
いや、あのフラッグが発見されることを見越してあえて囮に使ったのだ。
裏をかかれ、プライドが傷つけられたかに思えたサーシェスだったが、そんなものはどうでもよくなっていた。
むしろ、隙をつくってしまった自分の甘さへの嫌悪感より、サーシェスの中で一つの感情が膨らんでいく。

「ハッハッハッ……!!こいつはいい……誰が乗ってるか知らねぇが、そいつに乗ってたことを後悔するんだな…」

アルケーは大剣を手にゆっくり高度を下げていたかと思うと、突然加速して再生治療を受ける原因へと斬りかかった。

「ええ!!?ガンダムのパイロットさんよぉ!!!!」



スコープで見たその姿はまさしく異形だった。
ハイヒールでも履いているかのような足。
異常に角ばっているうえに長い腕とそこに装備されたシールド。
その肩には大剣を背負い、そのほとんどを鈍い紅蓮でカラーリングされた体は悪魔と呼ぶにふさわしい。
だが、その顔の形には確かに物言わぬ自分の相棒の面影がある。

「チッ……また俺たちのサルマネか?いいかげんにしろってんだ…よ!」

牽制射撃……なのだが、ロックオンは当てるつもりだった。
だが、異形のガンダムはギリギリのところでこちらの存在を察し、スルリと渾身のタイミングの狙撃をかわした。

(かわした!?あのタイミングで!?)

自画自賛するわけではないが、最近の命中率はかなりものだった。
反射神経も、戦いの勘も、相当鍛え上げていない限りかわすのは無理なはずだ。

「お前……本当にこっち側のやつか?」

MS戦を昨日今日で始めてできる動きではない。
となると、アロウズの隠し玉だろうか。

「ま、答えはすぐに聞かせてもらうさ……コイツでな!!」

突然加速してきたガンダムの刃を左手で抜いたビームピストルで流し、右手のスナイパーライフルを額につきつける。

「!!」

だが、悪寒が背中を駆け抜けると同時にそれをさげ、左手のピストルを乱射しながら距離をとっていく。
すると、近すぎて見えなかった悪寒の正体が目にとびこんできた。

「脚にサーベルだぁ!?どんな馬鹿が造ったんだよそれ!!」

「いい勘してるじゃねぇか!!あの男じゃねぇのが残念だが、お前もソレスタルなんたらなんだろ!?だったら、再生治療のツケを肩代わりしてやれよ!!」

自分の半身を吹き飛ばした機体と同系列のガンダムの鋭さにサーシェスは憎しみすらも超越して高揚感が沸き起こってくる。
戦いを求めるこの身体が、どんどん火照りを帯びてくる。
それこそ、まるで恋人同士が互いを求めあうように。

「戦争ってのはこうじゃねぇとな!!!!なぁっ!!!!」

ビームサーベルの生えた脚を振り抜くと体が流れていく力を加算して回転し、バスターソードをケルディムの横っ腹へ向かわせる。
一撃目をビームピストルで受けとめたケルディムだったが、二撃目を受け止めればやられると踏んで降下して避けた。
だが、ここでロックオンは一つの疑問が浮かぶ。

(なんで追ってこない?)

ある程度体が崩れているとはいえ、このガンダムとそのパイロットならば追撃は十分に可能だ。
なのに、なぜ追わないのか。

その答えは、ただ一つ。

「行けよ!!ファングゥ!!!!」

より凶悪な追撃を行うためだ。

「なっ!?」

六つの牙に動揺を隠せないロックオンだが、体はどうすべきかすぐさま判断を下す。
小回りのきかないスナイパーライフルを捨てて右手にもビームピストルを握り、光刃を突きたてようとする二基のファングを撃ち落とす。
だが、アルケーの猛追はとどまるところを知らない。

「まだあんだよぉ!!!!」

「敵機増加!増加!」

「っ!!」

さらに四つ追加されるファング。
あちらを狙えばこちらが、今度はそちらを狙えば今度はまた別のファングがケルディムへと突撃をかける。
間には細かく射撃を浴びせられ、ケルディムはもとよりロックオンの精神もどんどん擦り減っていく。

「装甲表面損傷!攻撃継続中!危険!危険!」

「ち…くしょう、め……!!」

「オラオラ動きが鈍いぜ!!!!それとも何か!!?お前もあの男みたいに負傷を抱えたまま出てきたか!!?ガンダムのパイロットってのは揃いも揃ってバカばっかりだなぁ!!!!」

ロックオンの消耗は如実にケルディムの動きに反映されていく。
最初の勇ましい動きはなりを潜め、まるで老人のように鈍ったその動きは捕食者にとって最高のコンディションになったことを示していた。

「終わりだ!!死ねぇぇぇぇぇ!!!!!」

ケルディムが一瞬動きを止めたその時、八基のファングとバスターソードを握ったアルケーが同時に襲いかかった。





「っ……!!」

もう、見ていられなかった。
おそらく、今押されているロボットに乗っているのはロックオンだろう。
ついさっきまで一緒に食事をとり、話をしていた人間が死にかけている。
幼いトーマの心にはあまりに重すぎる現実だ。
だが、

「目をそらすな、トーマ。」

レイはトーマに逃げることを許さない。
大きく旋回し、距離をとったままケルディムとロックオンの戦いを見せつける。

「これが、お前が進もうとしていた道だ。」

「あ……!!」

「相手を憎み、殺し合い、壊しあい、奪いあう……これが戦いなんだ。」

「あ…ああぁ……!!」

「お前は、これを見ても復讐を続けるのか……?これだけの痛みを背負い、それでもその手で仇を取りたいのか……!?」

「お、俺……!!」

「一度踏み出せば、もう戻ることはできないんだ。苦しくても、怖くても、“人の命を奪うことになっても”逃げ出すことは許されない……俺たちは、そんな中で生きているんだ。お前に、それだけのものを受け止める覚悟はあるのか!?」

「う……ううぅ……!!!!」

いやいやをするように首を振るトーマ。
涙でゆがんだ視界にはもうケルディムの姿は映っていない。
だが、それでもわかる。
彼は、ロックオン・ストラトスはそれでも戦っているのだ。
どんなに苦しくて逃げ出したくても、相手の命を奪ってしまうかもしれないことをわかっていても。
それでも、歯を食いしばって戦っているのだ。

「俺……はっ……!!」

子供のトーマでもわかる。
この二人は……いや、戦いに身を置く者に真の意味で戦いを望む者などいないのだ。
もし、そんな奴がいたとしたらそいつは人間じゃない。
この世界に存在してはならない、巨大な歪みそのものだ。
だから、トーマは叫ぶ。
その歪みを体現しているかのようなあの巨大な悪魔に立ち向かうロックオンに、自分の心が、そこに宿る願いが力に変わって届くように。

「負けるな!!!!ロックオーーーーン!!!!!!」





「……な…んだと!?」

とどめを刺したはずだった。
なのに、獲物の姿が突然消えてしまった。
その時のサーシェスの脳裏によみがえったのは四年前のあのガンダムのこと。
あの時も、クルジスの少年兵が乗っていた蒼いガンダムの姿が一瞬にして消えた。
そして、その後待っていたのは、

「しまっ…」

振り向こうとしたアルケーの顔面に数え切れないほどの光弾が突き刺さる。
いや、かろうじてバスターソードで防いだため実質受けたのは数発だったが、それでも損傷を免れることはできなかった。
外皮が無くなり、鈍色の内部をさらしたままアルケーは周囲をきょろきょろと窺う。
そして、

「そこだぁ!!」

嬉々としてファングを向かわせた先には確かに赤く輝くケルディムがいた。
四つのシールドビットで一つの力場を作り上げていたケルディムが。

「心配すんな、トーマ……」

フラッグからこの光景を目にしているであろうトーマに、ロックオンは優しく微笑む。

「お前はきっと俺たちの言葉の意味を理解してくれると信じてる。だからさあ……」

指に力を込め、力場へ向けていたビームピストルのトリガーを引く。

「俺は……お前を泣かすようなやつらを、全ての世界から排除してやる!!!!」

それに呼応するように四つのシールドビットでつくられた空間に光が充満し、巨大な柱となってファングへと襲いかかった。

「なあっ!!?」

これほどの砲撃が来るとは思っていなかったサーシェスは迫りくる光に肝を冷やす。
だが、そこは傭兵としての経験の長いサーシェスだ。
左腕のシールドをかすらせながらも何とか回避し、バスターソードを振りかざして反撃の準備に入る。

「けど、もう遅い。」

「!!!!」

フォロスクリーンでしっかりとコックピットに狙いをつけていたロックオンは、ためらうことなく引き金を引いた。

「ロックオン・ストラトス!目標を狙い撃つ!!」

「チィッ!!」

アルケーの胸へと突き刺さった一撃はそこに小さな、しかし致命傷となる穴を穿ち、力なく背中から地上へ落下していくアルケーを爆散させた。
しかし、そこにサーシェスはもういない。

「チッ!!お遊びが過ぎたか……大将からなんか言われるかもしれねぇけど、とりあえずこっから逃げるのが先か。」

脱出用のコアファイターから苦々しげにケルディムを睨むサーシェス。
ロックオンはそれを知ってか知らずか再び狙撃を行おうとするが、タイムアップが訪れた。

「TRANS-AM終了!TRANS-AM終了!」

「逃がしたか……」

赤い光の衣が消えるのに合わせ、ケルディムはゆっくりと地上へと降りていく。
静寂を取り戻した夜の森に舞い降りるその姿は、その名の示す智天使(ケルディム)にふさわしい美しさをその身にたたえていた。



翌日

「……行っちまったか。」

ロックオンは横で寝ていたトーマがいないことにさほど驚かず、レイを起こして出発しようとする。
しかし、

「?」

地面に残されていた伝言。
管理世界で使われている独特の筆記体で書かれていた短いその言葉にロックオンはクスリと笑う。

「最後まで素直じゃねぇな。」

上手く書けずに歪んだ『thank you』が消えないように木の葉をのせ、ロックオンはレイとともにヴァイゼンを去っていった。



六年後 第23管理世界 ルヴェラ

『前略 
スゥちゃんお元気ですか?俺は一昨日からルヴェラの文化保護区に入りました。わがまま言って許してもらった一人旅も残り後三ヶ月。保護区内は次元通信が不自由なのであんまり連絡できませんが俺は元気でやってます。
……あと、スティードにしごかれて勉強もきっちりやってます……。約束通り、旅行の間に世界を見て回って自分の答えを見つけます。』

「よし、こんな感じでいっか。」

〈上出来です。〉

明るい笑顔で大きく伸びをするトーマ。
首にかけているレンズ付きの小さな相棒にお墨付きをもらい、遠くにいる保護者兼姉代わりに手紙を出そうと立ちあがる。
だが、

「っと、忘れてた。」

もう一人、自分の今を伝えたい人。
届くかどうかわからないが、できることなら一番手紙を送りたい人へのものを忘れていた。

『拝啓 ロックオン・ストラトス様
俺は元気にやってます。世界は……俺たちにとって本当の意味で住みやすい所に変わったわけじゃないけど、それでもみんな悪いところも、未熟なところも認め合って、少しずつ前へ進んでいると思います。俺も良い人に拾ってもらって、良い人たちに囲まれて、あの頃からは想像もできないほど幸せです。
その人たちに頼んで、ロックオンのお兄さんや、あの後のロックオンの戦いを見せてもらいました。すごく、辛いこともたくさんあったと思います。逃げたくなった時もあると思います。でも、最後まで、そして今も世界のために戦い続けているロックオンを、俺は心から尊敬します。……気が向いたらもう一度会いに来てください。今度は、俺が御馳走するよ。』

「よし。」

〈また書いたんですか?届くかどうかもわからないのに。〉

「いいんだよ。あの人は忙しいんだから。」

そういうと、トーマは受付にいたシスターに手紙を渡して教会を後にする。
二つとも保護者の下へ届くようにはなっているのだが、トーマ曰く彼ならそのうちの一枚を抜きとることなど造作もないことだそうだ。
もっとも、それが行われたことは一度もないが。
しかし、彼の下へ自分の想いが届いている自信はある。
あの時、確かに自分たちは心を通わせることができたのだから。

「さて、早いところ目的地に行こう。このままじゃ日が暮れても歩き通さなきゃならなくなるや。」

〈ルヴェラ鉱山遺跡でしたね。ここからだと結構ありますよ。〉

「ダイジョブ、ダイジョブ!ワークローダーで宇宙へ出るために鍛えた俺の健脚をなめるなよ!」

〈いや、脚だけ鍛えてもどうしようもないと思いますけど……〉

そんな相棒のツッコミなど気にせずに、穏やかなルヴェラの風に押されてトーマは目的地へと走り出す。

そこに、彼の忌まわしい過去を解き放つ出会いが……
そして、守りたいと思える人との出会いが待っているとは知らずに……







それは、新たな力をめぐる物語
その前にあった、小さな、しかし確かな光をもたらす邂逅……





あとがき・・・・・・・・・・・・という名の重すぎ

ロ「トーマとカタロン二人組遭遇な第二十八話でした。そして重すぎる。」

弟「自分でシリアス貫くって決めといてその言い草はないんじゃない?」

レイ(以降 眼帯)「それにガンダムは大概重い話がどこかに一話は入ってくるものだ。」

ロ「いや、Forceも何気に話が重いしさ……やっぱトーマ出すべきじゃなかったかな?」

トーマ(以降 二股)「その発言でさりげなく俺傷ついてるからね!?あと特別ゲストなのに紹介なし!?しかもなんだこのテロップ!?」

ロ「思い過去引きずってるくせにお淑やかなタイプと元気っ娘を絶賛攻略中のやつにぴったりなテロップだろ?」

二股「違うからねっ!!?なんかよくそんな話聞くけど違うからねっ!!?」

弟「トーマ……恋は一途な方が周りも応援してくれるもんだぞ?」

眼帯「特にお前の保護先は女系家族だからな。二股がばれたら家族会議&死刑執行決定だ。」

二股「俺そんな重罪犯した!!?ディバイダーとかよりそっちの方で裁かれんの俺!!?」

ロ「そういう作品でそういうキャラ崩壊の仕方だ。」

二股「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!お前なんか消えてなくなれぇぇぇぇぇ!!!!!(ガチで)」

ロ「ギャグでディバイド・ゼロ撃たせるかっつーの……そんじゃ、次回予告へゴー!」

弟「アレルヤとマリーはテロを未然に防ぐためにとある世界へと飛ぶ!」

眼帯「しかし時すでに遅く、二人が駆け付けた時には犠牲者が出た後だった。」

二股「崩壊した街で民間人を装って生存者の救出を行う二人。そこで、両親を失った少女と小さな旅行者に出会う。」

弟「焼け野原でも努めて明るく振る舞う少女に心癒されるアレルヤ。」

眼帯「一方、家族を失い、絶望の中で夢すらも失くしかける少女に手を差し伸べるマリー。」

二股「そんな彼女のため、旅行者の少女の提案である計画をたてる二人。」

弟「しかし、再びそこへ忍び寄る不穏な影!」

眼帯「二人の少女の運命は……そして、影と対峙するアレルヤの下へ駆けつける助っ人とは!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 29.残された欠片
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/04/10 00:49
第55管理世界 ヌアザ 南東 芸能の街・アガート

炎が大地を覆い尽くす。
倒れている人間が一人、また一人と飲み込まれては黒い塊と煙に変わっていく。
そんな目を閉じたくなる光景が眼下に広がる夜空を、オレンジの翼は飛んでいた。

「くっそぉぉぉぉ!!!!」

なぜ自分が来るこの世界を最後にまわしてしまったのかとアレルヤは後悔する。
もっと早く来ていればこうならずに済んだかもしれないと思うと、普段穏やかな彼でも叫ばずにはいられない。

「アリオス!!」

愛機の名を呼び、その姿を人型へと変化させて地上を我が物顔で歩くバロネットをガトリングとツインビームライフルでハチの巣へと変えていく。
しかし、すでに撤退を始めていた一団はその様子を見ていっそうその脚を急がせる。

「ハッ!逃がすかよ!!」

(お前たちだけは僕たちの手で……)

珍しく意見が一致するアレルヤとハレルヤ。
動機に違いはあれ、この惨状を生みだした者たちを逃がすつもりはないことだけは確かだ。
だが、

(アレルヤ!!ハレルヤ!!待って!!)

「(!!)」

下に降りているマリーの声で二人は改めて街の様子に目を向ける。

泣き叫ぶ子供。
呆然とそれまで自分たちが住んでいた家を見つめている人々。
敵を追うよりもなすべきことがあることを、その光景は無言のままにアレルヤに告げていた。

(……ハレルヤ、これから救助作業に入る。周囲を警戒の後、危険が無いことが確認できたら僕らも降りる。)

「オイオイ、アレルヤ……」

(ハレルヤ。)

「……チッ。わーったよ。」



この晩、ヌアザでも有数の芸能と工芸の街、アガートはわずか数時間で灰と瓦礫の街と化してしまった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 29.残された欠片


灰の街・アガート

「う~ん……これはひどいなぁ……」

少女はせっかく長旅をしてまでやってきた目的地の変わり果てた姿に思わず眉間にしわを寄せてしまう。

芸能、工芸に秀でた街、アガートは一晩にしてすべてが無に帰してしまった。
なぜテロリストたちがここを狙ったかはわからないが、どっちにしろこの街はもう立ち直れない。
外の人間も、そしてここに住んでいた人間も、誰もがそう考えていた。

「せっかく裁縫の勉強しようと思ってきたのに……」

それどころではないだろうと誰もが言うだろうが、少女からしてみれば大問題だ。
なにせ、今度無断で一人旅に出たことがばれたら何を言われるかわかったものじゃない。
しかも、よりによって(偶然首都で足止めをくらって事なきを得たが)危険な状態のところへ飛び込んでしまった。
もう、お咎めを受けることは確定だ。

「それでもやれることはやっておこうかな。っと、そのまえに……」

そう言うと、紺色の髪の少女、アイシス・イーグレットはとてとてと生存者たちの集まる場所へと駆けていった。



「思ってた以上にひどいね……」

治療に一区切りつけたアレルヤは額の汗をぬぐい、ここからの光景に深いため息を漏らす。
あの後、局員たちも集まり救助作業が開始されたものの未だに発見されていない住民は少なくない。
そもそも、この状況では発見されていないこと=生存は絶望的である、ということを示している。
それでも生存を信じてか、それともせめて亡骸をそのままにしておきたくないと思っているのか救助をやめようとする者はいない。
アレルヤとマリーも、身分を偽っていることがバレればまずいことになるとわかっているにもかかわらず、この街に残って作業に協力していた。
それに、

(いつまた連中が来るかわからねぇからな。ったく……だからあの時目先のことにとらわれずに皆殺しときゃよかったんだ。)

「……先のことを考えて今を後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない。ユーノの受け売りだけど、僕もその口さ。」

(ハッ、甘いことで。勝手にしな。)

ハレルヤはそう言って不貞寝してしまう。
だが、ハレルヤも四年前の戦いから少しずつではあるが変わってきている。
以前なら、有無を言わさず表に出てきただろうし、アレルヤの意見など真っ向から否定していたはずだ。

「そこのところはユーノに感謝しなくちゃね。」

そう言って昼食になってしまった朝食を取るべくマリーの下へ向かおうとしたアレルヤだったが、ふいに右足が重くなる。

「?」

最初は誰かが助けを求めて掴んできたのかと思ったが、ここには人が埋まっているような瓦礫もないし、負傷して動けない人々もすでに中央広場に集められているはずだ。
ならば、どうして足が重いのだろうか。
不思議に思いながら視線を地面に落とし、その後ゆっくりと首を後ろにまわす。
すると、

「………………………」

「………えへ~♪」

良い笑顔の8~9歳の女の子がアレルヤのズボンを握っていた。
それはもう万力と勘違いするほどしっかりと。

「あの~……」

「………えへ~♪」

紺色の髪をしたその少女は着ている服にもニコニコしている顔にも煤や汚れがついていない。
どうやら、昨日からここにいたわけではなさそうだ。

「あの、お父さんとお母さんはどこにいるのかな?」

「………えへ~♪」

アレルヤの質問にもただ笑うだけの少女。
どうして欲しいのかわからないままアレルヤは困り果てるが、少女のお腹から凄まじい音が響いてきたことで彼女の意図を理解する。

「……お腹がへってるの?」

ニコニコしたままこくこくとうなずく少女。
しかし、アレルヤとマリーも食料に余裕があるわけではない。
一応プトレマイオスはまだこの世界にとどまってもらっているが、いちいち追加の食料を取りに行くのも面倒だ。
この子には悪いが、被害に会ったわけではないのならここは断るのが吉だろう。

「あ、あのね?僕もあんまり食べ物を持ってないんだ。だから、お父さんかお母さんに……」

「えへ~♪」

アレルヤのズボンがさらにギチギチと音を立て始める。
その力はもう万力すらも上回り、子供のそれでないことは明らかだ。

「あ、あの……」

「えへ~♪」

「………………」

「えへ~♪」

「……わかったよ。少し分けてあげるから手を離してくれない?」

「やった!!ありがとうおにーさん!!いやー、せっかく裁縫を勉強しようと思ってここに来たのに昨日あんなことがあったでしょ?で、ここまで来ちゃったからには何か手伝えないかと思ってたんだけど軍資金が底をついたから食べ物買う余裕がなくてさ~!その時に良い人っぽいおにーさんを見つけて助けてもらおうと思ったんだ!」

「……君、本当は随分喋るんだね。というか、お金が無いなら大人しく帰ればいいのに……」

「いいじゃんいいじゃん!旅は道連れ世は情けっていうじゃん!これも何かの縁だと思ってさ!」

無邪気に、というよりもやたら馴れ馴れしくアレルヤを叩く少女はその本人を置いて先にアレルヤが行こうとしていた場所へ走り出す。

「あ、ちょっと君!!」

「君じゃないよ~!!アイシスだよ~!!ほら、お兄さんも早く早く!!」

アイシスと名乗るその少女は焼け野原になったこの街とは対照的な明るい顔で走っていく。
最初は呆れていたアレルヤも、どこかで見たような彼女の元気な笑みに不思議と先程までの沈み気味の心が軽くなったような気がした。



中央劇場

マリーは祈っていた。
ひび割れから光が差し込む壁の前に横たわる物言わぬ人々の一人一人の前で両手を組み、膝をついて弔いの言葉を述べていく。
それを繰り返していると感覚がマヒして、こんなことに何の意味があるのかとマリー自身もわからなくなってくる。
それでも、この人たちにマリーがしてあげられることはこれくらいしかない。

(………泣くな、マリー。泣いたところで、彼らの命が戻るわけじゃない。)

ソーマが心の中で呟く。
だが、彼女の言葉はマリーに対してなんの説得力もない。

「……あなたも泣いているじゃない、ソーマ。」

(……フッ、こんな時ほど一つの体にお前といることを疎ましく思うことはないな。)

自嘲して誤魔化してはみるが、ソーマの瞳からも涙が止まらない。
アレルヤと違って、自分たちは何もできなかった。
自分の無力さが悔しくて仕方なかった。

「これが、全部ウソだったら……お芝居だったらいいのにね……」

マリーが今いる場所はこの街のシンボルである劇場の舞台。
多くの人が演劇を楽しむこの場所も、今となっては永久の眠りについた人々が一時的に安置される場所になってしまった。

そんな場所だからだろうか。
マリーは、ここにあるものすべてが偽物なのだと思いたくなってくる
全てが演劇の途中で、自分はそこに迷い込んでしまっただけなのだと。
だが、現実は変わらない。

「お芝居なわけないでしょ。」

「!」

その声にマリーは後ろを向く。
一組の男女の前に、幼い少女が屈んでいる。
凛としたその態度は彼女の幼い容姿をもってしても堂々とした印象を生みだし、鋭い翠の瞳は有無を言わさず他人を従わせる強さを持っている。

「これがお芝居?だったらとんだ三文芝居ね。ハッピーエンドで終われない、悲劇にしても救いがなさすぎる……これは演劇なんかじゃない。ただの、現実よ。」

「あの、私…」

「希望もクソもありはしない……ただ真っ黒い絶望一色の世界……そんな中で、夢なんて見れるわけないでしょ……」

そう言うと少女は目を閉じて横たわる男女の頬に優しく手を置く。
その目には先程までの鋭さはなく、か弱い少女の儚さをたたえていた。

「ねぇ……起きてよママ、パパ……!!こんなところに、私を一人にしないで……!!」

「っ……!」

マリーは思わず彼女を抱きしめていた。
泣きそうな声なのに、涙の一つも流せないその少女が、マリーには哀れで仕方なかった。

「もう、行きましょう?ここにいても、あなたが辛いだけ…」

「どこに行っても同じよ……だったら、私はここにいたい。ここで、ママとパパと一緒にいたい。」

「でも!」

「ほっといてよ!!」

少女はマリーの腕を払いのけようともがき、それができないとわかると隙間から抜け出して睨みつけてきた。

「あんたに何がわかるのよ!!家族がいなくなった人間の気持ちがわかるの!?」

「それは……わからないよ……でも!!」

「なんであたし助かっちゃったの!?一人ぼっちになるくらいなら、こんな思いするくらいなら生きてて良かったのかわからないじゃない!!!!」

次の瞬間、劇場中に響くくらい大きな音とともに少女の頬が赤く腫れる。
何が起こったのかわからない少女は一瞬呆けるが、すぐに冷たい視線をマリーに向ける。
しかし、マリーも退かない。

「そんなこと言っちゃ駄目……ここは、生きたくても生きられなかった人たちが眠ってるんだよ?あなたのパパとママも、生きてほしいって思ってるよ。」

「そんなこと…っ!?」

少女はまだ何か言おうとするが、マリーは強引に彼女を立たせると出口へと引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと!」

「ここにいちゃいけない。ここにいたら、あなたはもう立ちあがれなくなる。」

アレルヤを失ったあの時の自分のように。
その予感を敏感に感じ取ったマリーは、彼女を連れてアレルヤとの待ち合わせ場所を目指した。



集会所

「……遅いなぁ、マリー。」

「遅いねぇ。もう食べちゃったよ。」

「ああ、そう……」

もしゃもしゃとレーションを食べるアイシスにアレルヤは溜め息で答えるが、ここに来るまでのアイシスの働きぶりはその図々しさを差し引いても大したものだった。
大人でも二人がかりで運ぶものを一人で運んだり、怪我の治療も適切そのもの。
この若さでどこでそんなものを学んだのか気になるところではあるが、そんなことはこの際どうでもよかった。
それに、何より彼女の特筆すべき才能はその明るさだろう。

「アイシスは不思議だね。」

「ん?なにが?」

「こんな大変な時なのに、君といるとこっちまで笑えるようになるよ。」

「そうかな~?家族からはヘラヘラするなって怒られてばっかだけどね~。……けどさ。」

アイシスの笑顔が急にさびしげなものに変わる。

「こんな時だからこそ、誰かが馬鹿やって笑ってないとみんな気が滅入っちゃうよ。誰かが笑ってくれるなら、あたしは喜んで馬鹿なことの一つや二つやってみせるよ。」

そう言うと、アイシスは再び影を振り払うようにニパッと笑う。
それを見たアレルヤは、会った時から感じていた既視感の正体に気付いた。
彼女の笑顔は、エレナとユーノのそれに似ているのだ。
自分がどんなにつらくても、周りに自分の力を分け与えるようなまぶしい笑顔。
誰よりも苦しい思いをしてきた二人だからこそもちえた才能。
それと同じものを持つこの少女は、一体どんな人生を送ってきたのだろうか。

「無理はしないでいいよ。」

「へ?」

アレルヤは、せめてものお返しにと優しい言葉を彼女へ送る。

「一人でいるのが苦しくなったら、周りに頼っていいんだよ。……もっとも、君の場合は頼み方を覚えなくちゃいけないけどね。」

「ひょっとしてさっきのことまだ根に持ってるの?こんな美少女のキュートな仕草が見れたんだから儲けもんじゃない。」

幼い体形でセクシーポーズを取ろうとするアイシスにアレルヤはドッと疲れが押し寄せ気を緩めてしまう。
それがまずかった。

「……俺はミニチュア版マウンテンゴリラのにやけづらなんて見ても欲情しねぇよ。十年たったら出直してこい。」

「へ!?」

「う、ううん!!なんでもないよ!?(ハレルヤァァァァ!!!!)」

「……アレルヤ?何してるの?その子は?」

アイシスへの言い訳を考えていたアレルヤはその声にハッと横へ視線を向ける。
成り行きでついて来たアイシスをどう説明しようかと思いながら、マリーの方を見たアレルヤはピタリと動きを止める。

「マリー、そっちこそその子は?」

「えっと、ね?」

困ったように頬に手を当てるマリー。
その彼女の左側には、ボロボロのドレスを着た少女がじろりとこっちを見ている。

「お~、結構かわいい。なに?二人の子供?」

「「なっ!?」」

「んなわけないでしょ。この女に勝手にここに連れてこられただけよ。」

アイシスの発言に動揺する二人をよそに少女はアイシスにきっぱりとそう言い放つと服が汚れるのも構わずに近くにあった石の上に座る。
アイシスもまだ心の整理がつかない大人二人そっちのけで彼女の隣に腰掛ける。

「あたしはアイシス・イーグレット。で、あっちのカッコよさげで良い人なおにーさんはアレルヤ。あなたの名前はなんていうの?」

「……サレナ・ミューン。出身はミッドだけど、演劇の勉強のために家族でこっちに引っ越した。」

「フーン……じゃあ、なんか大人っぽいのはそのせいか。」

「あんたがガキっぽいだけでしょ。……それに、もう演劇なんてできやしない。」

「なんで?」

「あんたねぇ……」

本当に不思議そうに首をかしげながらあっけらかんと聞いてくるアイシスにサレナは怒る気もうせてしまう。

「ママもパパももういない……しかもアガートはこのありさま。その状態でどうしろってのよ。」

「うーん……家族がいなくなっちゃったのは辛いかもしれないけど、それで夢を諦めきれるの?」

「諦めるも何も、どうしようもないじゃない。」

「けどさぁ、ここで夢を放り投げたらサレナのパパとママのしたことって無駄にならない?」

「無駄?」

「うん。だって、サレナの夢のためにわざわざここに移り住んだんでしょ?サレナのパパとママが生きた証ってサレナそのものなんじゃないかな?だったら、ここでサレナが折れちゃったら二人の生きた証って何にものこんないじゃん。」

「…………………」

サレナは目を伏せたまま立ちあがると、そのままトボトボと劇場の方へ歩き出す。
「う~ん」と唸りながらアイシスも立ちあがると、寂しげな背中に声をかける。

「ま、たかだか9年くらいしか生きてないあたしが言っても軽いかもしんないけどさ。少し考えてみてよ、今言ったこと。」

止まろうともしないその背中に自分の言葉が届いたのかどうかは定かではないが、アイシスは何度も左右に首を倒しながら考え込む。
そして、

「……アレルヤ?もうダイジョブ?」

「うん……ていうかさらっとびっくりすること言わないでくれないかな?」

「そんなことはどうでもいいから。それより、二人に手伝ってほしいことがあるんだけど?」

「手伝ってほしいこと?」

「うん。ちょっと耳貸して……」

それは、突拍子もない提案だった。
まず、材料もないし、こんな時だから三人だけですべての作業をこなさなければならないうえに、人が集まってくれるかも定かではない。
それでも、アレルヤとマリーはすぐさまアイシスのアイデアに乗ることにした。

「それじゃ、行動開始ね。あたしは一旦首都に戻って衣装の材料買ってくる。大体2000~3000ほどあれば足りるかな?」

「了解。僕も舞台の代わりになるものを造らなくちゃいけないから、一緒に材料を買いについてくよ。」

「それじゃあ、私は台本かな?こっちの昔話はいくつか読んだことがあるから、簡単なものなら書けると思う。」

「よし!それじゃあ行動開始~!!」



二日後 中央劇場

この日もサレナはここに来ていた。
もう両親の遺体は運ばれてしまっているのだが、それでもここを離れたくなかった。

ここには家族で何度も来た。
舞台の上で演じる俳優や女優を見て、いつか自分もああなるんだと心躍らせた。

だが、それはもう叶わない夢。
これからがらんどうになった心を死ぬまで引きずって生きていく。
そうするしかないと思っていた。

「オーイ、未来の大女優さん。」

「………………………」

このしつこさもここまで来ると見上げたものだ。
サレナは億劫そうに立ちあがると、アイシスのいる扉まで歩いていく。

「何か用?もうほっといてって……」

「それがそうもいかないのよね~。もう宣伝しちゃって結構な人が集まるみたいだし。」

「?」

首をかしげるサレナの前にアイシスは一枚の紙を取り出して広げて見せる。

「円卓騎士物語……主演サレナ・ミューン!!?何よこれ!?しかも人の顔写真まで載せて!!」

「いやぁ、探すの大変だったよ~。所属してた劇団の写真を見つけられたからよかったけど、そうじゃなかったらその無愛想な顔を載せなきゃいけないとこだったよ。」

「あんたねぇ!!」

掴みかかろうとするサレナだったが、アイシスはその手を取って腕が千切れるのではないかと思うほど強い力で外へと連れていく。

「ちょ、ちょっと!!」

「いいからいいから!ほら、これ!!」

冷たい夜風が当たる外へ出て、サレナはその冷気に体を震わせるより早くそこにあるものに驚愕した。
木の板で組まれた舞台。
それこそ劇場のものに比べればちゃちなものだが、ピカピカと表面が輝くそれは確かに舞台だ。
その周りにはどこから持ってきたのか大きな電球と金属箔で覆われたボロ傘で造られた照明。
そして、照明の光によく映える銀色の騎士服が真ん中に一着仕立てられていた。

「な、に…これ?」

「ここまで仕上げるのは大変だったよ。途中でアイシスとマリーにも手伝ってもらって……あと、発電機を(イアンさんの目を盗んで)持ってくるのは大変だったよ。」



プトレマイオスⅡ

「ん?なんかいつもよりすっきりしてるような……ジェイル、お前またなんか持ってたのか?」

「いや?それよりデバイスの仕上げに入りたいから手伝ってくれないか?」



アガート

「なんでこんなこと……」

「べっつに~?あたしはただ街の人たちの気が少しでも晴れればな~、と思ってサレナを巻き込んだだけだよ~?まあ?もしも?サレナがどうしてもいやだっていうんなら?降りてもいいんだけどぉ~?……アレルヤとマリーが全責任を持ってくれるらしいし。」

「「それは言ってない。」」

「いたた!!」

二人に耳を引っ張られてバタバタ脚を動かすアイシス。
しかし、器用に二人の拘束から抜け出すと一回り小さいサレナのグリーンの髪をなでる。

「あたしは神様って信じないけど、もしいるんなら最後まで諦めない人間の味方だと思うよ。」

「……なによ、偉そうに。」

「けど、私も見てみたいな、サレナのお芝居。」

「みんな君のお芝居を待ってるよ。もちろん、僕もね。」

「……馬鹿。どうなっても知らないんだから。」

ふくれっ面で、でも紅潮したままアレルヤから台本を受け取ったサレナは、明日の公演に備えてそれを熟読し始めるのだった。



一時間後 街の外

「……というわけだから、協力してほしいんだ。」

『なるほどね……たしかに、ここいらで仕掛けてくるのがタイミング的には一番良いわな。人も集まってきてるところにとどめを刺されちゃ本当にアウトだ。』

ロックオンとの定時連絡の後、アレルヤはエウクレイデスにいたある人物に連絡を取る。
皮肉にも、サレナの初舞台の日が最も再襲撃を受ける可能性の高い日だった。
だが、そんなことはさせはしない。
ガンダムマイスターの名にかけて。



翌日 中央劇場前

その日、幼い子供が主演を務める劇にもかかわらず、多くの人々が集まっていた。
こんな場所で、しかも子供が主演を張るというもの珍しさもあったのだろうが、ここはもとは芸能と工芸の街。
いつ終わるかもわからない街の整理に疲れた人々は美に飢えていた。
それこそ、誰とも知らぬ子どもの芝居を欲するほどに。

「こ、こんなに集まったんだ……」

舞台裏で男物の騎士服に着替えたサレナは満員御礼の観客を見てごくりと唾を飲む。
同年代の人間より演技が上手い自信はあるが、この街の目の肥えた人々に満足してもらえる自信などあるはずがない。
しかし、ここで逃げたらここに集まった人たちはどれほどがっかりするだろうか。

「ダイジョブダイジョブ!その衣装は今まであたしが作った中じゃ最高傑作だから!」

「心配なのはそっちじゃないっての……ああ、どうしよう……」

「大丈夫。今のサレナの全力を出せば、みんなわかってくれるはずだよ。」

マリーはそう言ってサレナを落ちつかせながら、片手で端末から伝わってくる情報に目をやる。

(目標を視認……やはり来たようだな。)

(でも、アレルヤならきっと何とかしてくれる。私は、そう信じてる。)

「さて、そろそろ始まるよ!今日も元気に行ってみよー!」



そして、舞台の幕は上がった。
ここでも、そして街の外でも……



街の外

アガートから北に約70㎞。
標高1000mを超える山々が連なるこの上空を、バロネットたちはものともせずに悠々と進んでいた。
このタイミングで駄目押しが来れば、アガートはもう立ち直れない。
そのことをわかっているパイロットたちは歪んだ喜びをこらえられないといった様子だ。
だが、次の瞬間彼らの顔から笑みが消えた。

初めに飛んできたのは紅の閃光。
弾丸にもかかわらず、業物のような鋭さを秘めた一撃が後ろを飛んでいた一機の胸に風穴をあける。
驚いて歩みを止めるバロネットたちだったが、最初にやられた一機に近い機体にも胸に穴が開く。

その穴を穿った人物は、スコープ越しに見えるくすんだ青色の機体を見て取り繕うことなく本音をさらけ出す。

「てめぇらみてぇなクズに情けをかけるつもりはねぇ……まとめて地獄に堕ちろ!!」

藍色に染め抜かれた愛機を手ごろな大きさの岩に腰かけさせ、ヴァイス・グランセニックは遥か上空を舞う蠅どもを狙う。
しかし、怒りに燃えているのは彼だけではなかった。

「アリオス、目標を全滅させる!!」

鋭いオレンジの輝きがその先端に一機とらえたかと思うと急激に締めあげてコックピットごと捻じ切る。
そのままMSに変形してツインビームライフルで敵を薙ぎ払っていくアリオスの中で、アレルヤはもう一人の自分にすら見せたことが無いほどの憤怒の表情を浮かべていた。

「お前たちはわかっているのか……?」

アリオスの連弾でバロネットが跡形もなく消し飛んでいく。

「あの子だけじゃない……どれだけ多くの人の心に傷を残したのか、わかっているのか……!?」

無謀にも近づいてくるものはサーベルで串刺しにして斬り落とす。

「自分でもこんなに怒ってるのに驚くよ……けど、お前たちのような人間は許しておけない……許しちゃいけない!!」

アレルヤは操縦桿を一気に押し倒し、アリオスを一団の中へ突っ込ませる。
そこへ、さらに地上からサダルスードの援護が入って敵の陣形を崩していく。
さながら二つの舞台で違う物語がシンクロするように、二機と二人のコンビネーションは華麗で、苛烈を極めた。



アガート

「すごい……!」

(ああ……!とても子供だとは思えない…)

マリーとソーマは、色眼鏡ではなくサレナの才能と演劇を愛する心、そしてそれが生み出す演技に感動していた。
本来の物語を短く、そして少人数でもできるように簡単なものに書きなおしたとはいえ、これだけ魅せられるとは思っていなかった。
それは舞台裏で見ているアイシスや、この場に集まっている人々もみな同じ。
誰もがサレナから目を離せなくなっていた。

そして、サレナ自身も演技のさなかで母の言葉を思い出していた。

『演劇はね、役者のためにあるんじゃないの。それを見てくれる人たち、周りで支えてくれる人たちのためにあるの。役者にとって本当にうれしいことって、そういう人たちの喜ぶ顔じゃないのかな?』

(……うん、ママ。)

ヒュンッと作り物の剣を振る。
自分の一挙手一投足で、この傷ついた人たちの心を癒せている。
それがなによりうれしい。
ここ数日失っていた涙がよみがえってきてしまうほどに。

(けど、まだ駄目……泣くのは、カーテンコールの後だもん!)



街の外

「そこだっ!!」

ヴァイスの指が動くと同時にまた一機墜ちていく。
もうかなり数は少なくなり、殲滅するのは時間の問題だ。
しかし、今のアレルヤにはその一分一秒がおしかった。

「なんとか、ラストシーンくらい見たかったんだけど……」

『そりゃ俺もだよ。けど、後腐れを残しとくわけにもいかないだろ。』

渋い顔で言葉をかわす二人。
だが、その時思いもよらぬ人物が協力を申し出た。

(だったら、俺に任せな。)

「ハレルヤ、協力してくるの?」

(勘違いすんなアレルヤ。俺は一暴れしたいだけだ……体を借りるぜ。)

いつものように強引にではなく、すんなりと主導権を握ったハレルヤはいつになく真剣な顔でコンソールを叩く。

「一気に決めるぜ……!TRANS-AM!!」

紅蓮の輝きを纏ったアリオスは再び戦闘機へとその姿を変える。
そして、その変化に驚いている一機へ向けて突進して先端のシザーで胸を食い千切ると、今度は変形して固まっていた残存機へ両腕のガトリングを向ける。

「本日快晴につき花火日和ってかぁ!!?」

通常よりも高威力の、そして量が増したガトリングの弾が残っていた機体を全て屠り去ると、TRANS-AMを終了する。

「ガキのお遊戯を見に行くなりなんなり、あとは好きにしな。俺は寝る…」

「……ああ、ありがとう、ハレルヤ。」

「ケッ!」と照れたような声に後押しされるように、アレルヤは街の方角へとアリオスを飛ばした。



アガート

すでに、劇は終盤に差し掛かっていた。
最後は騎士が魔物を倒し、囚われていた姫を助け出せばおしまいだ。
だが、その最後でサレナは動きを止めた。
考え込んだまま動かないサレナに、観客は何かあったのかと騒ぎ始める。
その時、サレナは最後のセリフを、彼女の一世一代のアドリブを敢行した。

「民衆よ!!ここに絶望は駆逐された!!」

(ちょ、ちょっと!!セリフ違うって!)

(しーっ!)

準備万端でドレスに着替えていたアイシスは慌てて飛び出そうとするが、マリーがそれを止める。

「今は苦しく、立ちあがれないかもしれない!!だが、我々は一人ではない!!倒れそうなときは隣にいる友が手を貸してくれるだろう!!倒れそうな者がいるならば支えようとする心を持っているはずだ!!それがある限り、希望の欠片は潰えない!!だから……」

サレナは大きく息を吸い、両手を広げてあらんかぎりの力で叫ぶ。

「生きろ!!生きて生きて、欠片が再び一つとなるその日まで、生き抜くんだ!!!!」

刹那、静寂が場を支配する。
だが、次の瞬間には小さな拍手が。
それは次第に大きくなり、終わりには

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

歓喜の叫びと嵐のような拍手がサレナに降り注いでくる。
生き残った住民の中に残っていた種火が一つとなって燃え盛るように、サレナが一礼して舞台を降りた後も、それは終わることはなかった。

「……すごいな。まさか、ホントにこれだけの人の心を動かすなんて。」

「ああ。ありゃあ将来えらいことになるぜ。」

終盤に間にあったアレルヤとヴァイスは感嘆の言葉を漏らす。
少ししか見ることができなかったが、大女優の卵からその雛が孵ったことを確信させるような会心の演技だった。

「アレルヤ。」

「マリー、どうだった。」

「ばっちりよ。」

「そっか……それじゃ、僕らももう行こうか。この騒ぎのおかげでアイシスも撒けたみたいだしね。」

「いいのか?挨拶くらいしてけばいいものを。」

「いいんだよ。それに、女優っていうのは映画やテレビで見るからいいものなのさ。」

アレルヤは最後に、観客に囲まれるサレナとアイシスに微笑みかけ、その場を後にした。





余談になるが、この後アガートは驚異的な速度で復興を遂げる。
そして、以前以上に芸能や芸術の発展に力を注ぎ、その道を目指す若人たちが集まる、まさしく希望の集う街になった。



六年後 ミッドチルダ 高町家

「でね、ママがお仕事でしばらく帰ってこれないんだって。」

「あっそ……それで、なんで私はこんな格好であんたの家にいるわけ?んであんたはなんであたしに抱きついて頬ずりしてくるわけ?」

「だってパパが恋しいんだも~ん。」

せっかくのオフの日に友人の家に招かれたかと思えば、いつぞやの映画の時の格好で抱きつかれたまま身動きが取れない。
翠の瞳はそのままに、グリーンの髪は金色のサラサラヘアーのカツラで隠し、男物のズボンとマントをしたその姿は幼い日の彼そっくりだ。
だが、この仕打ちを我慢できるほど彼女は大人ではない。

「だからってあたしにコスプレをさせるなーーー!!!!!!」

サレナは怒りにまかせてヴィヴィオをソファーの上に投げ飛ばすと、カツラを床に叩きつける。

「あたしがこのカッコするとあんたのママがはぁはぁ言いながら近寄ってくるし、本人に至ってはこの間会った時泣かれて気まずい空気になるし!!!!」

「でもあの映画のサレナ可愛かったよ。ほら。」

『なのはーーーーー!!!!』

「あんたは父親の黒歴史掘り返して何が楽しいんだーーーーーー!!!!!!!」

『劇場版・魔法少女リリカルなのは』の名シーンをバックに、サレナは渾身の拳骨をヴィヴィオの頭に叩き込んだ。



第23管理世界 ルヴェラ フリーマーケット

「できた!アイシス特製、煮え切らないカップル専用ウェディングドレスMk-Ⅴ(脳量子波対応使用)!!」

最早ウェディングドレスと呼びがたい、かなりきわどいその服をご機嫌で露店の真ん前飾るアイシス。
もともと腕が良いので商品自体は売れていくのだが、このシリーズ(Ⅰ、Ⅱは諸事情により奪取される)のせいで客がなかなか近づいてこない。
まあ、物珍しさで近づいて来た客をひっかける分には役に立っているのかもしれないが。

「あ~あ、あの二人ちゃんと挙式したのかなぁ?なんか事実婚だけで済ましちゃってそうで……ん?」

昔出会ったカップルのことを心配しているアイシスの前に、出来立てほやほやの雰囲気のカップルが現れる。

「うわ……最近はこんなのが流行ってるんだ……」

〈トーマ……リリィに着せる気ですね。このムッツリ。〉

「誰が着せるかっ!!俺はもっと清純そうな服が好みだ!!」

〈自分で性癖暴露してどうするんですか。〉

首飾りと漫才のようなやり取りをしている少年。
その彼に背負われている話についていけてなさそうな天然っぽい少女。
アイシスのレーダーが面白そうだと判断するのにそう時間はかからなかった。

「そこの仲良しさん、いい服あるよ~!見てって!」








それは、二つの物語のささやかな序章
心に光を取り戻すための、初めの一歩






あとがき・・・・・・・・・・・・・・・という名のだがそれがいい!

ロ「あんまりバカップル臭がしない第二十九話でした。そしてぶっちゃけ最後のヴィヴィオとサレナのネタがやりたいがために書きました。素晴らしいオリキャラを提供してくれたみたらしだんごさんに感謝します。」

ア「わかっちゃいたけどそれ言っちゃ駄目だよね!!?なんか最後の方だけスラスラ書けてるからおかしいとは思ってたけど!!」

ロ「劇場版やることになった暁にはぜひとも小話で書いてみたいです。というか、それ関係なく書きたくなってきます。」

彼女さん「ようはユーノをいじりたいだけだよね!!?どんだけその手のネタが好きなの!!?」

ロ「リリなの関係のものを読み漁り始めた時からユーノいじりは大好きさ!!そして一度面白いと思ったらオチなど考えずに突っ走る!!」

ア・彼女さん「「自慢できることかっ!!」」

ロ「だがそれがいい!!」

ア「ちょっと真剣に頭冷やした方がいいよ……で、次回はティエリア編……と見せかけてユーノ編だったね。」

彼女さん「何そのどうでもいいフェイント……」

ロ「まあ、これまたぶっちゃけるとティエリア編は行く場所が行く場所だから戦闘はなしになりそうだな~、と思って先にユーノ編を片づけることにしただけだ。」

ア「あっそ……それじゃ、後よろしく。」←もういろいろと諦めている

彼女さん「え!?私一人で!?ったく、もう……違法研究を行っている施設へ潜入するユーノ。遺跡の中で巧妙にカモフラージュされていたその場所を見つけ出すが、そこには凄惨な光景とそれを造り出した人物が待っていた!魔力エネルギーの結合分断を使ってくる敵の前に窮地に追い込まれるユーノ!!はたして、勝ち目はあるのか!?……はぁはぁ、長かった……」

ロ「それでは最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 30.殺意満ちる感染者
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/04/15 19:18
?????

―――消せ

ああ……またこの夢か。
ビサイドの戦いのときからはじまり、最近こっちに戻って来てから毎晩のようにコイツにうなされる。
真っ暗で、意識は完全に眠りについているはずなのにこの声が脳をシェイクしてくるこの感覚。
最悪としか言えない。
でも……この声、ビサイドとの戦いの前にも聞いたことがある気がする。

―――修正しろ

そうだ、父さんが殺された後。
“おばあちゃん”に仕方がなかったんだって言われてから、いつも聞こえるようになったんだった……
でも、少ししてそのことを話したらおばあちゃんに……

―――消してしまえ

あれ……何をされたんだっけ……?
わからない……
アルバムの1ページが欠けてしまったように、あの時のことだけ思いだせない……

―――力を持つから、人は道を誤る

うるさい!
人が思い出そうとしている時にごちゃごちゃとわめくな!

―――原初に還せ

なんなんだよお前は!!

―――魔導の力など、消してしまえ



第334管理外世界 煉獄の大地・ムスペル

火山帯ばかりのムスペルでは珍しい針葉樹の森でユーノは頭痛にさいなまれながら目を覚ます。
MSのコックピットで眠るのに慣れているとはいえ、あんな夢を見てしまうということはやはり体に良いわけではないのだろう。
だが、悪夢を見るにしてもどういった夢を見るか選択するくらいどうにかできないものかとユーノは思う。

(けど、本当に何なんだろう?こっちに戻って来てからいつも見るけど……っつ……!?)

頭痛で最初は気がつかなかったが、両腕が燃えるように熱い。
脚も爪先から針のついたボールを転がされているような痛みが昇ってくるような感覚がある。
しかし、痛む箇所を押さえようとした瞬間にそれはフッと消え去り、後には淡い翠のラインから放たれていた光だけが微かに残されていた。

「なんなんだよ……ホントにっ…!」

「ん……?なんだ、もう起きたのか?」

ユーノの声にスリープ状態だった967も目を覚ます。
慌てて笑顔を取り繕いその場をごまかすが、心の中に芽生え始めた不安までは誤魔化しきれない。
しかし、与えられたミッションは待ってくれない。

「いつまでもぼうっとしていていいのか?起きたばかりで言いたくはないが、このままだとまたシャルとシェリリンから制裁を受ける羽目になるぞ?」

「……今度は血まみれどころか頭をトマトみたいにクシャッとされそうだ。」

「それよりあの二人ならお前の“例の写真”をばらまきそうだけどな。」

「そっちの方が怖いよ!!」

命の危機以上に人としての尊厳を守るため、ユーノはハッチを開けて熱気の漂う大地へと飛び出していった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 30.殺意満ちる感染者


ムスペル 溶岩遺跡

「は~……あっついたらないな。これならスーツ着てくるんだった。」

足元をグラグラと煮立つ溶岩が流れていく石橋の上でピッと指先で顔の汗を飛ばす。
溶岩の上に落下した汗は蒸発する音すら残さずに水蒸気に変わり、微かな温度の変化に敏感に反応した形状記憶合金入りの溶岩が魚、鳥、狼とさまざまな姿に変わりながらユーノのすぐ横で踊り狂っては燃える海へと戻っていく。

「物騒な溶岩、て言うか物騒じゃない溶岩なんてあるわけないか。」

ロストロギアの暴走で死の世界に変貌する前のムスペルでは熱エネルギーの利用のための研究が盛んに行われていたため、その副産物として生まれたこのような仕掛けがあちこちに存在する。
それを目の当たりにしながら、できることならミッション以外の目的、できることなら学術調査でここを訪れたかったとユーノは思う。
しかし、よく見ればあちこちにもともと存在していた物とは異なる仕掛けがちらほら設置されている。

「例えばこれとかね……ほいっと。」

壁に設置された扉へ向けて小石をひょいと投げる。
取っ手にそれがぶつかった瞬間、上に鎮座していた石像が傾き、水がめの中にため込まれていた溶岩が滝のように降り注いだ。

「……やっぱ訂正。溶岩より人間の悪意ってやつの方がよっぽどおっかないや。」

ひきつった笑みを浮かべてそう言うと、ジャケットの胸ポケットからライトを取り出して橋の脇を丹念に照らして目を凝らす。
すると、

「……みっけ♪」

微かに光を反射する透明な床。
それを確認すると下を流れる死の奔流を恐れずユーノは一歩踏み出す。
足がついた部分だけが虹色のいびつな輝きを放ち、下の光景を遮る。
コツコツと音をたてて壁にまで到達したユーノは不愉快そうに眉間にしわを寄せるとその壁を渾身の力で蹴り飛ばす。
レンガ造りのはずの壁が機械部品をばらまきながら砕け散り、暗い口を開けた隠し通路にユーノはさらに嫌悪感をあらわにした。

「光学迷彩の床に、擬装されてた扉。おまけに別の遺跡から持ち込んだ年代が全然違う像で作ったあり合わせのトラップ……なめたことしてくれるじゃないか。」

古代文明に詳しいユーノが適任だということでこの任務を割り当てられたのだが、やはりどうしても考古学を愛する一人の人間としての感情が優先されてしまう。

「これじゃマイスター失格だな……スメラギさんももう少し人選は慎重にすべきだよ……」

そう言いながら、ユーノは数日前のあの出来事を思い返し始めた。



三日前 プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「ムスペルへ?」

呆けた顔でオウム返しをするユーノ。
メンバーの中で最後に通達された彼のミッションは違法研究の調査とそのデータがこれ以上悪用されないように抹消すること。

「ええ。こっちの事情、しかも遺跡関係に強いのはユーノくらいだしね。」

「ジェイルさんも結構詳しいでしょ?」

「あのモヤシドクターに平均気温40度越えの世界が耐えられるわけないだろ。」

ロックオンの口の悪さに苦笑いを浮かべるユーノだが、確かに彼を連れていった時のことを思い浮かべると汗だくになりながら満足そうな笑みを浮かべて倒れている姿しか思いつかない。
やはり自分が行くしかない。

「それにしても、こっちってこの手の違法研究が好きね。『人ならざるモノを生みだす』か……こんなの、成功する日なんて来るはずがないのに。」

「いや、ある意味成功してますよ。」

ユーノのその言葉にスメラギだけでなくその場にいた誰もが目を白黒させる。
だが、そんな全員の言葉を待たずにユーノはクスクス笑いながら皮肉たっぷりの毒を吐く。

「人間としての良心のかけらもないクズが誕生しているって意味じゃ開始した当初から彼らの研究は成功してますよ。もっとも、蛆虫以下のおつむじゃ一生かかったって気付かないでしょうけどね。」

それだけ言い残すと、ユーノは怒りに歪むこの顔を見せないよう、誰よりも早くその場を後にした。



現在 遺跡 隠し通路奥

「で、あの場から逃げたはいいけど後でシャルとシェリリンにどつかれると……」

移動のために刹那とエウクレイデスに乗ったのまでは良かったがその後個人的に呼び出しを受けた。
後は言わずもがなだ。

「鬼って実在するんだね……そこそこ本は読んでるつもりだったけどあの日初めて知ったよ。」

あの時の恐ろしい風貌と鉄拳の痛みを思い出しつつ歩を進めるユーノ。
あれを知った今、ユーノには何が出て来ても驚きはしない自信があった。
だが、その自信は脆くも崩れ去ることになる。

「!?」

開けた場所に出て、最初にユーノの目に飛び込んできたのは容器に入れられたピンク色の塊。
いや、よくよく見てみると背骨に肉の塊がついている。
その背骨の形も豚や牛ような家畜のものではなく、人間のそれだ。

「……どうやら想像以上にヤバそうな場所だ。」

先程までの余裕はなくなり、背中を冷や汗が伝っていく。
それでも先に進むユーノは、極限まで高まっていた緊張感のおかげですぐにその異変を察知した。

「血の臭い……?」

それも古いものではない。
今しがた飛散した血の臭いが奥からかすかに漂ってくる。

「……行くしかないな。」

覚悟を決めて再び足を前へ前へと押し出していく。
そして、永遠に続くと思われたこの広大な空間のゴールへ辿り着く。

「…………………」

金属製の無機質な扉。
だが、その隙間から流れ出てくる鉄の臭いの赤い液体に心臓が暴れ始める。

「……目標の確保に入る。」

〈Start up〉

ソリッドを起動させ、右手の盾で体をかばいつつ左手に愛用しているライフルを構える。
いつも来ている遺跡調査用の作業着も兼ねているバリアジャケットがいつもよりべたつくのを感じながら、ユーノは扉をゆっくりと開けた。

「!!」

戦慄が体を駆け巡った。
腰で両断された白衣の人間。
頭を唐竹割にされ、目玉と脳漿を飛びださせているおそらくは女性の死体。
抵抗の際に右腕を斬りおとされ、さらに内臓をはみ出させている男。
さまざまな戦場を見てきたユーノもここまで酷いものにお目にかかったことはそうそうない。

その光景のド真ん中。
多分、この状況を作り出した男がそこにいた。
上半身裸のその青年の茶髪は血で濡れ、手に持っている異常に機械的な巨大リボルバー付きの戦斧に至っては血糊の間からわずかにのぞく白銀の刃を確認することすら困難だ。

「動くな。」

扉の外にいた時から気付いていたのであろう。
さして驚く様子もなく冷めた、しかし鋭い視線をユーノに向けてくる。

「ここで何をしていた?」

自分でもこの状況でよくもここまで冷静にいられるものだと、ユーノは思わず自嘲した。




(……強いな。)

ドゥビルは自分に続く侵入者をそう判断した。
強者と死合うのはドゥビルもまんざら嫌いではない。
だが、好敵手となりえる可能性を持った人間をまた葬らなければならない虚しさのせいで喜ぶ気にはなれなかった。
自分で言うのもなんだが、つくづく因果な体だ。

「動くな。」

最初のその言葉をかけられずともドゥビルにはまだ動くつもりなどない。
しかし、今の自分を見たらお決まりのそのセリフが出てくるのはいつものことだ。

「ここで何をしていた?」

「……?」

わかっていてここにやってきたのではないようだ。
ただ、武装しているところを見るとまったく何も知らずにやってきたとも思えない。

「……お前も感染者か?」

「感染?細菌かウィルスの研究でもしてたのか?」

どうやら、違法な研究をしていたのは知っているようだが、その内容までは知らないらしい。
しかも、自分の同類でもなければお目当ての存在でもないらしい。

「知らないならそれでいい。これから死する者が知ったところで無意味だからな。」

「!!」

そう言うと、ドゥビルは瞬時にユーノの前からその巨体を消してみせた。




(くるっ!!)

目の前で筋肉質の巨躯が消えると同時にユーノは神経を研ぎ澄ませる。
そして、

「!!フッ!!」

「ぬうっ!!?」

一瞬の気配の揺らぎを感知すると、背後から首筋へ迫ってきた一撃を強靭な盾で受け止める。

「ショートジャンパーか……レアな能力だけど、ワンパターンな急所への攻撃はお勧めしかねる…ねっ!!」

火花を散らしながら斧を弾き、左手のライフルをほぼゼロ距離から連射する。
しかし、再び青年の姿が消えると今度は真上から体ごと打ちおろしがユーノの脳天めがけて一直線に落ちてくる。
ユーノはそれを受けずに右にかわす方を選び、動かない屍たちにすまないと思いつつ障害物を蹴散らしながら血の海を滑っていく。

「今度はこっちの番かな?」

血でぬるぬるした床から少しだけ浮かび、慣性を利用してそのままGNドライヴ特有の動きを再現しながら青年の脇腹へアームドシールドの刃を叩きつけた。

「……?」

壁へ派手に吹き飛んで土煙を巻き上げる青年を追わず、ユーノは構えを解いて攻撃を当てた時の違和感について考える。

(あのタイミングでクリーンヒット……?いや、初見だったから僕の動きが見きれなかったのかもしれない。それよりも問題はアームドシールドが当たった時の感触……)

ギャリンという金属のような音と人間の皮膚とは思えないあの堅さ。
そして、欠けてしまったアームドシールドの先端。
何もかもが腑に落ちない。

「そんなに不思議か?」

青年がわき腹を押さえながら煙の中から現れる。
感触がどうであれ多少のダメージは与えていたらしく、盛大に血をこぼしながら歩いてくる。
だが、

「っ!?」

「その反応……やはりエクリプスの感染者を見るのは初めてか。」

わき腹から白い煙が立ち上り始めたかと思うと、パックリ裂けていた傷がみるみるうちにふさがっていく。

(オートリカバリー!?いやそれにしたって治るのが早すぎる!あの傷もあれだけの打ち込みを受けたにしては浅すぎる!)

混乱して冷静に状況判断を下せない。
そんなユーノに青年は静かに語り始める。

「お前を過小評価していたことは詫びよう。だが、お前を生かして帰すわけにもいかないのでな。……全力で潰させてもらう。」

青年は藍色の羽が刻まれた左手を突き出し、自らの得物をその手首に当てる。

「リアクト。」

「うっ!?」

見たこともない魔法陣を足元に展開して斧で手首を斬り裂いたかと思った瞬間、激しい風と光がユーノの視界をふさぐ。
そして、

「っ!!」

反射的にその場からさがると、それまでいた場所の床が粉微塵に砕け散る。
バランスを崩しながらなんとか倒れるそうになるのをこらえ、新たに発生した血で染まる粉塵の向こうに目を凝らす。

「ハッ……ハハハッ……それ、なんの冗談?」

もう笑うしかない。
筋肉質でガタイがよかった体がさらに一回り大きくなり、肌の色も変化している。
それだけでなく、全身が分厚い甲冑のようなものに覆われ、銃剣のようだった戦斧もリボルバーが消え去り巨大化していた。

「名も知らぬ強い男……お前に敬意を表してこのディバイダー695、ランゲ・リアクテッドの全力で葬ることを約束しよう。」

「お褒めにあずかって光栄だけど、最後のやつは遠慮したいなぁ……」

「フッ……本当に面白い男だ。だが……」

青年が構える。

「フッケバイン・ファミリーの一人として、このドゥビル……お前を逃がすわけにはいかん。」

「そう……じゃあ先手必勝ってことで!!」

相手が向かってくるのを待たずにライフルの引き金を引く。
だが、向かってくる弾丸をドゥビルと名乗った青年はよけようとしない。

(よし!直撃…って、ええ!?)

パンと小気味いい音を残し、ドゥビルのかざした左手の前で魔力弾が霧散する。

(AMF!?でも、だとしたら彼も影響を受けるはずなのに……!!)

動揺するユーノを気にも留めず、ドゥビルは淡々と説明を始める。

「冥途の土産に教えておこう。ディバイダーが稼働を開始すれば術式の解析、そして魔力エネルギーの結合分断など容易い……つまり、魔導は通用しない。」

「なるほど、分断する者(ディバイダー)ね……そりゃまたとんでもない能力だ。けど、魔法を全てキャンセルできるわけじゃないみたいだね。」

そう言うとユーノはグッと足に力を込めると床を粉砕してドゥビルとの距離を一瞬にしてゼロにする。

「身体強化までは無効化できないでしょ!!」

〈Assault Bunker〉

甲冑で覆われていない場所へバンカーが打ちこまれる轟音にユーノは勝利を確信する。
しかし、バンカーがドゥビルの肌に当たると同時に粉々に砕け散った。

「な……!?」

「エクリプスに感染すると、体がこういう具合になる。個人差はあるがな。」

そう言うとドゥビルはすでに大きく振りかぶられていた戦斧を横薙ぎに振り抜く。
その一撃は周囲にあるものすべてを破壊し、その部屋そのものを完全に崩壊させた。

一方、ユーノは辛うじて生きていた。
生きてはいたが、無事であるはずがない。

「かっ……は……!」

肉塊の入っていた容器をいくつか突き抜け、床の上で起き上がろうともがく。
薬品の臭いと頭部からの流血のせいでクラクラしながら立ちあがるが、右腕を見て体がズシリと重くなる。

「ソリッド……」

一番厚い部分、しかも相手の刃の根元にぶつけたのに、すでにアームドシールドは見る影もない。
現在進行形で破片をバラバラとこぼしながら、むき出しになった翠のコアも崩れ落ちていく。
そんな長年つきあってきてくれたデバイスの最後を見届けながら、ムスペルの外が薄暗いという理由でロックオンの形見であるサングラスを置いてきたことが正解であったと血まみれの頭でユーノは考えていた。

「あれを受けきったか…大したものだ。」

悠然とドゥビルが歩いてくる。
空気を取り込もうと必死で息を吸うユーノとは対照的に、余裕を持って第二撃目を振り抜く。
倒れるようにそれをかわすユーノだが、発生した剣風で再び壁に叩きつけられる。

「無様なものだ。名を聞く暇もないとはな。」

「グッ……あっ……!ハッ……ハハッ…!新聞……読んで、ないの……?これでも………結構、有名人なんだけど……?」

「悪いが知らんな。ここ最近そういったものを手に入れる機会が無かったのでな。殺した後で調べるとしよう。」

フラフラと立ちあがるユーノを待ってドゥビルは再び戦斧を大きく振りかぶる。
しかし、ユーノも力を振り絞って起きあがり、チェーンバインドを使って自分を宙へと放り投げる。
再び発生した衝撃で体が流れるが、体勢を制御しながらどうにか浮かぶことには成功する。

「無駄なことを……その状態で俺に勝てるとでも?」

「当……然。ガンダム、マイスターに…敗北の二文字はない……らしいんでね。」

「お前が何者だろうと関係ない。もう勝負はついている。」

「ハッ……思い…あがるなよ。この………筋肉ダルマ……勝負は…これからだ……!!」

同じ高さまで上がってきたドゥビルに啖呵を切っては見せたが、確かに今のままでは勝てる見込みはない。
せめて、攻撃が通るようにしなければ負ける。

『術式の解析、そして魔力エネルギーの結合分断など容易い。』

「……!」

そうだ。
なにも、魔法のキャンセルはドゥビルだけの特権ではない。
ユーノも似たようなことは可能だ。

(できるか……?魔法じゃなくてもプログラミングをもとにして動いているならいけるとは思うんだけど…)

「何をぼんやりとしている。」

「っ……!!」

急降下で後ろに回っていたドゥビルの攻撃をかわす。
もう考えている暇はない。
わずかな可能性に賭ける。

「ハッ!」

「!!」

ユーノが自分から仕掛けてきたことに驚くドゥビル。
武器は砕かれ、残る銃ではどれほど接敵して撃っても決定打にはならないことはわかっているはずなのに、この行動に出る理由がわからない。

(血迷ったか?)

斧で正面から近づくユーノを攻撃する。
しかし、前髪を数本散らしながらも、ユーノはドゥビルに接近する。

(打拳か?無駄なことを。)

無理に打てば今度は手の骨が折れる。
そう思っていたドゥビルだったが、ユーノのとった行動は思いがけないものだった。

「フッ!シッ!」

「……なに?」

ユーノがしたのは、ただドゥビルに二回触れただけ。
いぶかしく思いながら、ドゥビルは先程までの大振りではなく小さく鋭い攻撃にかえてユーノを捉えようとする。
だが、紙一重でかわされ続け、その間にも体中のあちこちを軽い平手打ちで叩かれ続ける。
そんな状態が十数秒続き、遂にドゥビルはユーノから距離を取った。

「……何のつもりだ?」

「さて……?なんのつもりでしょう?」

ドゥビルの答えも待たず、ユーノは小さく笑いながら体を加速させて右足を真っ直ぐにドゥビルの腹部へ突き出した。

(愚かな……)

ドゥビルはよけようとしない。
おそらく、ユーノにとって渾身の一撃であろうこれをあえて受け、隙ができたところに最後の一撃をお見舞いする。
それが、ドゥビルの筋書きだった。

「終わりだ。」

「……君がね。」

「!!!!?!?ガッ……!!アァッ!!?」

目を見開くドゥビル。
ユーノの一撃で甲冑は砕け、構造変化を起こしていたはずの肉体にくっきりと靴底の後が刻みつけられる。
久しぶりに味あわされた呼吸困難とありえない事態に今度はドゥビルがたたらを踏んでさがる。
だが、ユーノの攻撃は止まらない。
高度を下げるドゥビルに向かって静かに、そして素早く距離を詰める。

「ガァァァァ!!!!」

獣のような方向とともにドゥビルのディバイダーが唸りを上げる。
しかし、剣筋が甘くなっていたそれをユーノはひょいとかわして後ろに回ると、今度は背中合わせのまま体をひねって肩甲骨の下へ右肘を振り抜く。

「グッ!!?オオォ……!!?」

地上で足場がある時と遜色のない威力のその一撃で背中を覆っていた部分も砕け、心臓に強烈な衝撃が伝わってくる。
さらにユーノは体を横にしてグルリと回転すると、ダメージで動きを止めていたドゥビルの脳天に爪先をめり込ませ地上へと叩き落とした。

「な……ぜだ…!?」

体の傷や甲冑を再生させながら、ドゥビルは上でバインドを利用して腕の止血をしているユーノを睨む。

「この現象……ディバイドか!?だが、お前は……」

「悪いけど、僕が使ったのは君の能力とは少し違う。」

そう言うとユーノは足元に魔法陣を展開し、右手を翠の光で包みこんで見せる。

「解析するところまでは同じかもしれないけど、僕が働きかけたのは君の体やその武器を変化させているプログラムそのものだ。」

「なに……?」

「触れたところからそこの構成情報を読み取り、システムに使っている本人でも気付かないほど小さなほころびを植え付けておく……そして、攻撃をする際にそのほころびを広げ、さらにプログラムそのものを暴走させる因子を纏わせておく。すると、そういうことになるってわけさ。はっきり言って確証はなかったけど、上手くいって助かったよ。」

「馬鹿な……!!リアクターやディバイダーもなしにあの一瞬で構成情報を解析したといのか!?」

そう。
ユーノは簡単に言っているが、普通に魔法関係のプログラミングを解析するにはかなりの時間を要する。
それをこの短時間で行うなど、人間の脳の容量や情報処理速度では不可能だ。

しかし、それはあくまで常人の話。
ここにいるのは、クルセイドのガンダムマイスターにして元無限書庫司書長、ユーノ・スクライアなのだ。

「昔っから放出系の攻撃魔法はからっきしな代わりに、こういうのは得意でね。君が魔法で体を変化させているのがわかれば、そこから先は僕の土俵さ。」

「……っ!化け物め…!!」

「どっちがさ。僕にやられた傷だってもう回復してきてるじゃないか。」

「お前のことだ。それも見越しているんだろう?それに、中まで通ったものは回復しきっていないこともわかっているはずだ。」

「またまた……過大評価だよ。」

そう言って笑うユーノの下へ、ドゥビルは再び上がる。
謙遜しているのだろうが、攻撃魔法が使えなくともユーノは戦士として十分優秀である。
しかも、ドゥビルのようなエクリプス感染者にとっては最悪の相手だ。

「しかし、俺の圧倒的優位は変わらない。お前はすでに重傷。そして、俺はダメージを受けてもまだ余裕がある。お前の攻撃ほうもネタが割れている……これで負けるはずが…」

「勘違いするなって言っただろう、筋肉ダルマ。」

真っ直ぐ右腕を突き出し、鋭い表情でドゥビルを睨む。

「能力自慢で勝てるなら誰が勝負なんかするか……覚悟と修練で圧倒的な力の差を埋めることができるから、自分より大きな存在にも向かっていけるんだ……!!そう、たとえ世界が相手でも!!」

ユーノの右手が激しく輝く。
残っていた魔力を限界まで雪ぎこんで強化した拳から漏れだす光、そしてユーノの気迫にドゥビルは徐々に押されていく。

(馬鹿な……!!なんで下がる……!!追い詰めているのは俺のはずなのに、なぜ下がる!!)

「どうした……そこそこ死線は越えてきたんだろう?だったら、ビビらずに向かってこい。」

「調子にのるなよ……!!この一撃でお前は死ぬ!!たとえどんな手段を用いようとそのことに変わりはない!!」

ドゥビルは大気すらも震わせるような凄まじいステップインでユーノへと突撃してディバイダーを振り下ろす。
だが、

「勘違いするなって言ったろ…」

ユーノが軽く拳をぶつけると、ディバイダーの刃がその部分だけ呆気なく砕け、ドゥビルの正面のガードがガラ空きになる。

「勝負に絶対はない……それがわからないんなら、君の方こそ僕の敵じゃない。わかったか?わかったなら……」

ユーノは重量をほぼゼロにした状態で大きく拳を引き、突き出した瞬間に通常の倍の重量を拳に課した。

「顔洗って出直してこい、この筋肉ダルマ!!!!」

野球の外野手が全力投球をするように腕を振り抜くユーノ。
胸部に激突した光る拳は、その外殻を木っ端微塵に打ち砕き、ちょうど真ん中に拳の形を刻みつけてドゥビルを壁へと吹き飛ばした。




数分後

「グ……ゥッ……!!」

ドゥビルは全身を貫く痛みで目を覚ます。
リアクトはとけているが体の方は再生を開始しているし、ディバイダーの方も致命傷には至ってない。
しかし、折れた肋骨が左の肺を突き破り、胃の方もぐちゃぐちゃの状態だ。
動けるようになるにはまだ時間がかかるだろう。
だが、まだ生きている。

「あ、起きた?データは取れなかったけど、君がデータバンクを破壊してくれたおかげで手間が省けたよ……というか、僕が出てくる必要あったのかなぁ?」

横たわったままドゥビルは奥からやってきたユーノへ冷ややかな視線を向ける。
ユーノもそれに気付いたのか包帯やガーゼで埋め尽くされた顔で苦笑しながらわざとらしく肩をすくめる。

「そんな顔しないでよ。正当防衛だし、君ならそれくらいの傷じゃ死にはしないだろう?」

「確かにな……だからこそ解せない。なぜとどめをうたなかった?」

かすれた声のドゥビルの問いにユーノはいつものように困った笑みを浮かべ、息を吐いて間を置くと語り始めた。

「一言で言えば僕の信条だから、かな?仲間からは甘いってよく言われるけど、それでも必要以上に命を奪うのは嫌だから。たとえそれが人殺しでもね。」

「俺たちとは正反対の生き方だな……いつか後悔するぞ?」

壁にもたれて腰を下ろすユーノ。
先程の戦闘でからくも勝利を収めたが、やはりダメージは大きいようだ。
そんな体に鞭を打って話を続ける。

「それでも、今の生き方を曲げることは一生かかってもできないだろうね。」

「理解できないな。自分が生きるために他人を殺す。直接的でないにしろ、誰もがそうして生きているはずだ。」

「まあ、そうだろうね。僕も直接的にも間接的にもたくさんの人の命を奪ってきたわけだからね。それを全部背負ってるんだって思うと苦しくて仕方ない時があるよ。でも……」

「……でも?」

口ごもるユーノだったが、ドゥビルにせかされフッと悲しげな表情を見せる。

「人の命を奪って痛みも何も感じなくなったら、僕たちは人間じゃなくなる。どんな力を持つ化け物より始末に負えない、最悪の怪物に堕ちてしまう。そんな気がするんだ。」

「それの何が悪い?」

「ハハッ…身も蓋もない言い草だね。けど、僕はやっぱりいやだ。偽善でもいいから、人としての痛みを背負い続けていたいんだ。」

「フッ……本当に、俺たちは正反対だな。お前は他者を生かすために戦い、俺は己を保つために他所の命を奪う戦いをする……ここまで違っていると逆にすがすがしいな。」

そう言うとドゥビルは傷が完治していないのもお構いなしで体を起こす。
節々から血が出てするので、ユーノは咄嗟に治癒魔法をかけようかと思ってしまうが、その余裕はドゥビル自身の言葉で消え去った。

「もうすぐ俺の仲間がここに来る。逃げるなら早くするんだな。」

「え゛?」

こんなでたらめな能力を持った人間があと数人ここに来る。
このままだとその全員を相手にしないといけない。
考えただけで吐き気がしてくる。

「ち、ちなみにあとどのくらい?」

「さあな。頭をやっている人間は気まぐれなやつだからな。予定より一週間近く遅れてくることもあれば……」

「ドゥビル~?生きてる~?」

そんな間延びした声とともにドゥビルと向き合っていたユーノの背中を砲撃がかすめ、奥に残されていた研究室の残骸を跡形もなく消滅させた。

「……ずっと早くにやってくることもある。」

「こ、今回は早かったようで……」

二種類の女性の声に交じって声変わりを始めたばかりの少年の声も聞こえる。
しかも、ガラガラと何かが崩れる音と荒々しい砲撃の音も聞こえてきた。

「せ、説得してくれませんか?」

「無理だ。」

「ですよね……ハハハ……」

どうやらことを構える以外に道はない。
そう考えていたユーノだったが、すっかり忘れていることがあった。
彼もまた一人ではなく、さらにそのもう一人の下へ戻っているはずの時間をとうの昔にオーバーしていることを。

『伏せろ。』

「へ?」

ユーノの返事も待たずに天井が崩れ落ちる。
墜ちてくる破片を防御するのも忘れてユーノは外からこちらを覗いているクルセイドに目が釘付けになっていた。

『予定時刻になっても戻らないから来てみたが……どうやら正解だったようだな。』

「ハ…ハハハ……!ああ、本当にナイスタイミングだよ967!」

ユーノは脇目もふらずにクルセイドに乗り込むと、すぐさまその場から離れる。
ディスプレイに遺跡が崩れゆく中こちらに狙いをつけている銀髪の少年が映っている気がするがそんなものは関係ない。
とにかく、あの人間離れした人間が何人も徒党を組んで押し寄せてくる前に脱出することが先決だ。
でも、

「すまない。お前を救うためとはいえ、遺跡を壊してしまった。」

「別にかまわないよ。もうだいぶ改造されてて見る影もなかったからね。ハハハハハ!」

カラカラと笑うユーノ。
だが、

「本音は?」

「チクショー……!!改造されてるって言っても本当はいろいろ調べたいものがあったのにぃぃぃぃぃぃぃ!!!!あの馬鹿どもが持ち込んだ物の中にも掘り出し物があったかもしれないのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」

心底悔しそうにコンソールをバンバン叩いて涙にくれる。
これ以上叩かれると精密機器が壊れそうなのだが、ここで下手に刺激するとさらに事態が悪化しそうだ。
なので、967はただ一言こう言った。

「……本当にすまなかった。」



遺跡

「フー、あっぶねぇなぁ。あのクソカス、今度会ったら必ず殺ってやる。」

「馬鹿言え。あんなデカブツの相手なんていくらディバイダー保持者でも無理だ。」

黒い肌の女性が呆れた様子で少年をたしなめる。
あと少し遅かったら生き埋めになっていたかもしれないせいで気が立っているのかもしれないが、生身でMSの相手をするのは無謀以外の何物でもない。
だが、それでも気が済まないのか銀髪の少年はギャアギャア女性にわめき散らし続けている。
そんな彼らを尻目に、一冊の本を持った女性が肩を貸しているドゥビルに聴く。

「ドゥビル、一体誰にそこまでやられたの?まさか、ちっこいがきんちょのカッコしたバアさん?」

「いや、全然違う。見た目は……そうだな、はっきり言って女男だ。」

「女男?」

「ああ。金髪に翠の瞳……もしかしたら翠玉人かもな。着ているものがもう少しマシだったら間違いなく女と間違えていた。刃と杭打ち機付きの盾とライフル型のストレージを使っていた。それと、感染者でもないのにディバイド……いや、それ以上の芸当をやって見せたんだが……聞いているか、カレン?」

問いかけるドゥビルだが、彼女は外見を聞いた時点で続きは聞き流していた。

(へぇ……あの時見逃したあの子が来てたんだ。ったく、ドゥビルをこんなにしてくれちゃってぇ。)

仲間がやられて怒らなければならないはずなのだが、不思議と顔がにやついてしまう。
なにせ、四年前の賭けが自分の価値に転びそうなのだから。

「サイファー、あの賭け覚えてる?」

「は?」

「なんかさぁ、ドゥビルの話を聞くに今のとこ私が有利みたいだよ?たぶん自覚が全くない天然ジゴロに育っているとみた!」

「天然……?ああ、あの時の……っ!!?じゃあ、ここにいたのは!?」

「たぶんね~。しかも相当いい男になってるっぽいよ。」

「そんなことを言ってる場合か!だからあの時殺っておけばよかったんだ!」

「「???」」

まったく話が見えない男性陣に対し、女性二人は会話に花を咲かせる(?)。

「あ~!誤魔化すのはナシ!!勝った方が負けた方から1000万!きっかり払ってもらうからね!!」

「そんなことはどうでもいい!!今度という今度はそのずぼらを直してもらうからな!!」

「……俺らおいてけぼりかよ。」

「いつものことだ。」

耳元で怒鳴る首領の声を耳の奥へダイレクトにぶつけられながら、ドゥビルはどうすれば早くアジトに戻れるのか思案するのだった。



六年後

自分たちのアジトへ突入してきた局員に対し、ドゥビルは少なからず期待を抱いていた。
あの戦いをかつて自分を破った男とともに駆け抜け、人類初の革新を果たした者の一人と刃を交えることができるのだ。
本人でないのが悔やまれるが、近しい存在なのだからリベンジ前の練習台にはちょうどいい。

「侵入した外壁、完全に修復されたみたいです!」

「構わないよ!制圧して外に出るんだから!」

(来たか。)

ビッグマウスを叩きながらやってきた三人のうち、ドゥビルの目には赤髪の青年しか映っていない。
隣で仲間が何か言っているが、この際それはどうでもいい。
自分でも珍しいと思うくらい、喜びに打ち震えている。
それほどまでに、この瞬間を待ちわびていた。

「管理局特務六課の制圧チームです。武器を捨てて投降しなさい。」

「できない相談だな。」

その一言を残し、ドゥビルは真っ先に自らが獲物と定めた男へと飛び出していった。






それは、不吉を運ぶ者たちの物語
それに至る道にあった、戦いのひとつ




あとがき・・・・・・・・・・・・という名のネタバレ祭り

ロ「というわけでお前何ネタバレ連発してんだよって感じの第三十話でした。そして、あとがき書いてるこの日には俺はもう第二次Zにドップリだ。ていうか、ガイバスターいくらなんでも装甲薄すぎだろ!そんなところまで原作どおりじゃなくていいの!!」

ユ「それはどうでもいいんだよ。それより何さりげなくとんでもないネタバレしてくれてるの?」

ロ「なんのことやら……」

ユ「とぼけるなよコノヤロー?なんか僕が知らない人と面識あることになってるし。」

ロ「あのおねーさん二人とはお前が戻って来てからの過去バナでやるから。」

ユ「それだけじゃなくて六年後の描写でやっちゃいけない感じのネタバレがあったような気がするんだけど?」

9「ドゥビルの性格も少し変だったな。」

ロ「いいか、お前ら。世の中見て見ぬふりするのが良いこともたくさんあるんだぞ?」

ユ・9「「お前にとってな。」」

ロ「さぁ、今回は特別ゲストは(気難しいから)呼んでないので、さっさと次回予告へゴー!」

9(誤魔化したな……)

ユ「ジェイルさんにある頼みごとをされて無人世界カルナージへやってきたティエリアとウェンディ!」

9「そこで出会った母娘と穏やかな時を過ごす二人。」

ユ「しかし、そこへ予期せぬ人物がウェンディのよく知る子たちに連れられてやってくる!」

9「その人物の姿を見て動揺する二人。そして、その人物からティエリアにさらなる驚愕の事実が語られる!」

ユ「真実を前にティエリアはどのような決断を下すのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!では、せーの……」

「「「次回をお楽しみに!!」」」



[18122] 31.誘惑者
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/04/25 20:23
無人世界 カルナージ

その日、木造りのベランダで彼女はいつものように娘と一緒にいつもの日常を過ごしていた。
仲間たちを失い、彼女自身も深手を負ったあの日からは想像もできないほど穏やかな日々を。
しかし、こうして命を繋ぎとめてくれた恩人に何もできなかったこと。
そして、自分たちを追い詰めた存在が未だに管理局で幅を利かせていることが彼女の心にしこりを残していた。

「ママ?」

娘に呼ばれ、メガーヌ・アルピーノは眉間に寄せていた皺を消し、優しく微笑みながら顔を上げる。

「なに、ルーテシア?」

自分でも親馬鹿だと思うが、自分によく似たかわいらしい容姿に先程まで感じていた憂鬱が癒されていく。
この幸せな時間まで自分を導いてくれたジェイルとゼストに、心から感謝したい。
そう思っていたメガーヌの前で、ルーテシアは上を指し示す。

「?」

最初はそれが何かはわからなかった。
しかし、ただ美しい瑠璃色の輝きが降りて来ているくらいにしか確認できなかったそれは、ある程度距離が縮まったところでメガーヌにもなんなのかがはっきり理解できた。

「MS?」

最近話題の新兵器。
質量兵器を毛嫌いしていたはずの管理局のご都合主義で導入された巨大ロボット。
そんな偏見を抱いていたメガーヌだったが、それを見た瞬間そんな主義主張など頭の中から吹き飛んでしまった。

「天使……?」

重装甲ながら流麗なフォルム。
人に近いにもかかわらず、遥かに力強い四肢。
そして、その背に背負った光は人を遥かに超えた存在であることを証明していた。

「ガンダム……でも、フォンの使っていたのと違う。」

娘の発言で、メガーヌは初めてガンダムという天使の名を知ることになった。




魔導戦士ガンダム00 the guardian 31.誘惑者


セラヴィー コックピット

「む~ん……」

額に汗を浮かべながら四度目のシミュレーションを開始するウェンディ。
しかし、シミュレーションと言っても魔法戦のものではない。
彼女とその相棒のマレーネが作りだしたイメージの中でウェンディが握っているのは操縦桿。
そして、それを使って操っているのはウェンディの魔法での戦闘スタイルと極めて近い戦い方をする機体、アリオスだ。

「目標へ飛翔する!」

あいさつ代わりにジンクスとアヘッドの混成部隊へライフルを連射。
それなりに距離もあったので全機容易くそれをかわすが、群れの中からはぐれた一機を見つけるとウェンディはニヤリと笑って上唇を舌で湿らせる。

「駄目っスよぉ?鹿は群れからはぐれちゃただの的なんスから。」

アリオスを一気に詰め寄らせ、ウェンディはすぐさまMS形態へと変形させる。
その過程で生じたわずかな高度上昇によってジンクスの攻撃は空振りに終わり、代わりにアリオスの連弾がコックピット部分を残してジンクスを粉々に粉砕した。

「んでもってぇ……調子こいて後ろから襲ってくる卑怯者にはコイツをくれてやる。」

振り向きもせずに後ろへ突き出したビームサーベルは音もなく忍び寄っていたアヘッドの頭を貫き、その体から抵抗する力を奪い取った。
続いて降り注ぐ集中砲火を自由落下でかわし、地上ギリギリで再び加速させて地上を疾走する。

「ハハハッ!遅い遅い!!」

自分の後を追いかけてくる土煙と戯れながらアリオスの背中を地面に向けるウェンディ。
そして、まるでジンクスとアヘッドの動きの先が視えているようにガトリングで誘導し、ツインビームライフルで的確に撃ち落としていく。
だが、しばらくするとウェンディの顔に不満の色が浮かび始める。

「……やっぱこういうのは性にあわねぇっス。」

ウェンディがそう呟いたところでアリオスは肩に被弾する。
地表スレスレを飛んでいたアリオスはその一撃で呆気なくバランスを崩し、地面の上を転げまわって止まった。
そして、ブラックアウトしたウェンディの前にMission Failedの文字が表示され、それから目をそらすように瞼を上げるとティエリアの無愛想な顔がそこにあった。

「また同じ展開でやられたのか。これで何度目だ。」

「だってぇ~!あそこでドバーンとでっかいの撃ちこんで終わらせた方がよくないっスか?アリオスってば、動きはあたし好みなのに火力も接近戦での手数ももう一つって感じっス。」

「最先端機であるガンダムに言いたい放題だな。」

〈それにその要求はどう考えてもあなたのわがままです。事実マイスター・アレルヤはあなたが物足りないというアリオスで十分すぎるほどの戦果をあげています。〉

「う!そ、それは……」

〈大体自分の未熟さを機体のせいにするその性根がいけません。そんなことだからいつまでたってもシミュレーションで満足な結果を出せないのです。〉

ティエリアよりも厳しい相棒の指摘に言い返す言葉もないウェンディ。
しかし、マレーネとティエリアの指摘は当たっているようで少し違う。

実はウェンディの操縦技術は決して低くない。
むしろ、彼女の素質はガンダムを操るに足るものだというのがマイスター全員の共通見解だ。
ならば、なぜウェンディはシミュレーションである一定以上の成績を残せないのか?
その原因は彼女の性格にある。
乗っている機体がいかに優秀でも、不完全とはいえ最新式であるツインドライヴを採用していても、ウェンディのフィーリングに合わないとすぐに動きにムラが出て来てしまう。
今のところキュリオス、アリオスでのシミュレーションが一番いい成績を残しているのだが、それでも気分屋のウェンディを満足させるに足るものではなかったようだ。

「だって……だってなんか気分が乗ってこないんだもん!!」

〈嘘泣きしても駄目ですよ。〉

「てへっ♪」

〈……この分じゃ実戦に出れるのはかなり先になりそうですね。〉

「その前にこんな不安定な人間に操縦桿など間違っても握らせはしないがな。さて、ようやく到着だ。」

会話を中断し、ティエリアはまだ新しいロッジのベランダからこちらを見ている女性と少女の顔を拡大して確認する。

「メガーヌ・アルピーノ。そして、彼女の娘のルーテシア・アルピーノ。あの二人が、僕たちの地球の座標を知っているのか……」



ロッジ

「ようこそ……って言うのも変かしら?あなたたちはテロリストなわけだしね。」

そう言いつつもメガーヌは車椅子で二人に紅茶を運んでくる。
膝の上に載せたお盆が揺れて危なっかしいが、手伝おうとするルーテシアに目で大丈夫だと伝えるとテーブルの上までなんとか運びとおした。

「ドクターから伝言っス。『足を完治させられなくてすまない。』だって。」

「別にいいわよ。これから時間をかけて治していけばいいんだもの。」

メガーヌもそのまま席につき、優しくウェンディの手を握る。

(それより、あなたの方こそ大丈夫なの?)

ウェンディにだけ聞こえてくる念話。
ティエリアの方をちらちら視線を向けているメガーヌの言わんとすることを、ウェンディも悟ってそれ以上は何も言わない。

(彼らにあなたの体のことは……)

(ティエリアたちはなんも知らないっス。ユノユノもそこんところは黙っててくれたから。)

(けど、もしあなたが…)

(バレた時はバレた時。それに、脛に傷持つ人間ばかり集まってるからそれくらい大目にみてくれるっしょ。)

ヘラヘラとした態度をとってはいるが、ウェンディの不安や寂しさが念話を通して伝わってくる。

長い時間を過ごしてきた家族やようやくできた友人できた友人と離れてしまったことへの寂しさ。
もうこの世界に自分の居場所がないのではないかという孤独感。
新しく出会った人々が自分を受け入れてくれないのではないかという不安。
そして、

「……密談とは感心しないな。」

このメガネの青年に傾きつつある想い。
今は本人たちも自覚していないくらい小さなものだが、互いの胸の中でそれは順調に育っている。
見ている方が、危うく思えるくらい急速に。

「フフフ……彼女が何を言っていたか気になるのかしら?」

「茶化さないでもらいたい。それに、別に僕は…」

「この人ウェンディの彼氏?」

「そうなんスよルーお嬢様。けど金髪美女に鼻の下伸ばしたりして大変…」

「君も平然と嘘を語るな。」

いつものように拳骨でウェンディを黙らせたティエリアは真剣な顔で本題をきりだす。

「僕らがここに来たのはほかでもない。あちら側の地球の座標を知っていると…」

「あ!そうだ!」

……はずだったのだが、メガーヌの大きな声とパンと手を合わせる音にティエリアは話の腰を折られる。

「せっかくだからゆっくりしていかない?将来的にはお客様を泊めるお仕事をしようと思ってるからそのテストっていうことで!」

「いや、僕がここに来たのはそんなつもりじゃ…」

「大丈夫よ!ちゃんとベッドは大きめのをひとつ!そして私たちは夜はグッスリ寝てるから!」

「だから人の話を…」

「奥様、今夜は精のつくものをよろしくっス。」

「悪ノリするなっ!」

二度目の拳骨でウェンディの(どこまで本気かは知らないが)企みは潰える。
しかし、その一方でメガーヌはどんどん話を進めていく。

「それじゃ、メニューは普通でベッドはひとつでいいのね。」

「そうじゃなくて…」

「ママ、準備してくるね。」

「お願いね~。」

「…………………」

メガーヌの暴走を止めようとしたティエリアだったが、この三人の押しの強さに抵抗する気力を放棄する。
メガーヌもティエリアが折れたことを確認すると、心の中でホッと溜息をつく。

(まったく……悪いとか言っときながらこういうのは私に丸投げなのね。)

おそらく彼女ならこうするであろうことを見越してこの二人をチョイスした命の恩人に、メガーヌはそれ相応の礼をすることを胸に誓うのであった。



プトレマイオスⅡ 整備室

「で、なんであの二人を一緒に行かせたんだ?」

「また急に話を振ってくるね。」

ヘラヘラした態度で話を流そうとするが、笑っている時点でイアンにはジェイルが何らかの目的でティエリアとウェンディに座標の受け取りに向かわせたことがバレている。

「なんであの二人なんだ。水と油って言葉くらい知ってるだろ?」

「そこまで言うか……まあ、確かに正反対の性格だがね。しかし、どうしても確かめたいことがあるのでね。」

「確かめたいこと?なんじゃそりゃ?」

「なに、私の思いすごしならそれでいいのさ。」

そう、思いすごしならそれで構わない。

ティエリアと会った時からずっと感じていたあの違和感。
いや、正しく言うならばジェイルが生まれてから自分自身に感じ続けていた普通の人間とは違うもの。
ティエリアからも微かではあるがそれが感じられた。

(まあ、仮に彼が私やウェンディと似た存在であってもいまさらイアンたちはどうこう言ったりはしないか。だが、問題は彼自身だ。)

もし、ティエリアが自らの真実を知ったら。
そのショックを受け止めきれなかったら。

「……たのんだよ、ウェンディ。本当の意味でティエリアを支えてあげられるのは君だけかもしれないから。」



数日後 カルナージ

この四年でティエリアは自分が本当に我慢強くなったと思う。
昔の自分ならば、のんびり観光気分で数日間も滞在などしていなかっただろう。
しかし、目的も果たせていないことがティエリアに焦りを募らせていた。

「唯一収穫と言えるのはこれくらいか。」

メガーヌから教わった飛行魔法で屋根の上からフワリと浮かび上がる。
建物よりも高い視点から見えるこの世界は確かに美しく、リゾート地としては満点と断言してもさしつかえないだろう。
だが、それはあくまで観光目的でここに来た場合だ。
ティエリアはミッションでここに訪れているのであって、あの親子と交流するためにやって来ているわけではない。
だが、この数日それを言いだそうとすると心の中がもやもやして上手く言葉にできずにいた。

「ティエリア。」

そんなことを考えていたティエリアは下からの呼びかけにそちらを向く。
車椅子の上で手招きをしているメガーヌを見て「またか…」と呟きながらも、ティエリアは彼女の前に静かに着地する。

「何か?」

「よかったらルーテシア達と花を摘みに行ってくれないかしら?せっかくだから綺麗な花の一つも飾ってみようかと思って。」

断る、と言いかけてティエリアは口をつぐむ。
メガーヌは彼にとって魔法のイロハを教わった師匠に等しい存在である。
そんな彼女の頼みを無下に断ることは流石のティエリアにも無理だったようだ。

「了解した。すぐに戻って…」

「ゆっくりしてらっしゃい。私なら一人で大丈夫だから。」

「……承知した。」

不満そうなティエリアをニコニコと送り出すメガーヌ。
近くで待っていたルーテシアとウェンディに引っ張られてその場を離れたことを確認すると、とりあえずはホッと一息つく。

「問題はここからねぇ……早く終わらせられればいいんだけど。」

ティエリアたちが向かった場所とは逆の方向。
数人の少女たちとそのあとに従って歩く一人の青年の方を向いて、メガーヌは先程までの穏やかな表情を一変させた。





(なんで僕がこんなことを……)

そう思いつつもメガーヌから与えられた指令はしっかりこなす。
色とりどりの花々を選定しつつ、少しずつ籠の中を鮮やかに埋め尽くしていく。

「……『なんでこんなことしないといけないんだ。』って思ってる。」

「!」

いつの間にかティエリアの横で花を摘んでいたルーテシアがボソリと呟く。

「ティエリアはウェンディや、私やガリューといても楽しくない?」

「そういう問題じゃない。僕は使命を果たすためにここに来たんだ。遊びに来たわけじゃない。」

「……使命だから、私たちと仕方なく一緒にいるの?」

「それは…」

そんなことはない。
だが、そうなるとやはりこの子やメガーヌ、そしてウェンディとこんな時間を過ごしていることに充実感を感じているのだろうか。
あのもやもやの正体は、この充実感を否定しようとしている自分に対する不満なのではないか。

「私は、ティエリアやウェンディと一緒にいると楽しいよ。ドクターやゼストと一緒の時も楽しいことはあったけど、それよりもあの時はみんな必死だったから。」

辛いことを思い出したのか、ルーテシアの無表情な顔が暗くなる。
そんな彼女にどう声をかけていいのかわからないティエリアは柄にもなくおどおどしてしまうが、それを見たルーテシアはわずかに、光と影がそう見せているのかと思うほどかすかな笑みを浮かべる。

「けど、今は平気。ママも、ガリューもこれからずっと一緒。ウェンディとティエリアはずっとここにはいられないかもしれないけど、ずっと……ずっとずっと私の友達。だから…」

ルーテシアはそのことを告げる決意を固める。

「ティエリアが、どんな生まれ方をしてても、どんな力を持っていても、私はずっと友達だよ。」

「え……?」

ルーテシアの言葉に疑問を口にすることもできずに呆然とするティエリア。
だが、ジェイルやナンバーズたちと長い間ともに過ごしていたルーテシアはティエリアの持つ“人に近いが、人ならざる者”の空気を敏感に感じ取っていた。

「ルーテシア、それはどういう……」

「ティーエーリーアーーー!!!!」

「グハッ!!?」

全力のタックルで草むらへと押し倒されたティエリアは軽く痙攣をおこしつつもウェンディの頭を驚異的な握力で締めつける。

「君は僕を殺したいのか……!?」

「あたた……!!ティ、ティエリアがロリコンにならないように助けてあげたのに……」

「?ロリコンって?」

「さっきのティエリアみたいにちっちゃい女の子にハァハァする危ない人のことっス……いたたたたたたたた!!そ、それ以上はマジでドタマ破裂するぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

「…………………」

「そう……ウェンディ、ガリューはティエリアはそんな人じゃないって言ってるよ。」

「当たり前だ。」

ウェンディをダウンに追いやったティエリアはそのことを気にもかけずに籠を持って立ちあがる。

「そろそろ戻ろう。これだけあれば、部屋の中も華やかになるだろう。」

そして、ティエリアは歩き出す。
運命の輪の中へと……



ロッジ

最初の研修任務に姉妹たちと当たっていたノーヴェは並行世界の来客に対して良い印象を持っていなかった。
腹の中にある黒いものを隠して爽やかな好青年を演じている。
このメガネの奥の瞳は常に笑みをたたえているが、それは自分たちを見下しているもののように思えて仕方がない。
だが、ディエチやセッテも同じようなのだが、もう一人の同行者はそうでもないようだ。

「あの、ルーちゃんはいないんですか?せっかく来たからお話ししたかったんですけど?」

「キュク!」

横でホバリングするフリードと遊びながら明るい様子でメガーヌに話しかけるキャロ。
だが、はたから見ていてその様子は不気味なものがある。
なぜなら、カルナージに到着するついさっきまで、キャロは見ているノーヴェ達まで気分が暗くなるほど沈んでいたのだから。

(あの薬……精神安定剤だって言ってたけど、本当にまともなものなのか?)

キャロ曰く、信頼できる人からもらったらしいが、これはさすがに異常だ。
後で探りを入れてみた方がいいかもしれないと考えていたノーヴェだったが、連れて来た客人、リジェネ・レジェッタとメガーヌの話が山場を迎えたことでそちらに意識を集中させる。

「では、どうしても協力はしてもらえないと?」

「ええ。私は今の管理局、そしてそれに協力するあなたたちを信頼することはできません。それに、この足じゃ役に立てることなんてないでしょ?」

平然と振る舞うメガーヌだったが、内心は驚きで満ちていた。
髪形や声は少し違うが、ティエリアと瓜二つのリジェネが地球連邦の人間として訪ねてきたのだから無理もないだろう。

一方、リジェネもメガーヌの反応を見て確信を抱いていた。
自分の探し人がここの世界に来ているということを。

「そうですか……残念ですが今日はここまでにしておきましょう。ところで、今日はお一人ですか?」

「娘がいるわ。けど、今は少しお使いに…」

「いえ、そうではありません。我々以外に来客がいるのではありませんか?」

「あら、なんでそう思ったのかしら?」

素知らぬ振りを貫くメガーヌだったが、リジェネの目はごまかせない。

「車椅子で生活していらっしゃるので家事に多少なりとも魔法を使っているのではと思ったんですが、その割にはその反応があまりにも薄いんですよ。」

「私はできる限り魔法には頼らないようにしているの。」

「おや?先程は僕たちに出すお茶を淹れるときに使われていたようですが?」

「できる限りって言ったでしょう?無理してお気に入りのカップを壊したくないもの。」

「では、わずかに残されているあなた以外の魔力の反応はどう説明します?」

「娘のものよ。」

「僕は魔法には詳しくないのですが、親子でもここまで反応が違うものなのですか?」

「オイ、あんた!いい加減にしろよ!!」

しつこく追及するリジェネに、メガーヌではなくノーヴェの堪忍袋の緒が切れた。

「あたしらがあんたをここに連れてきたのはこっち側の文化をより知ってもらうためであってこんなことをさせるためじゃない!これ以上この人に変な言いがかりつけるようなら、あんたの上の人間に正式に抗議させてもらうぞ!」

(チッ……劣等種め。)

鼻息を荒げるノーヴェに冷めた目を向けるリジェネ。
だが、確かにこれ以上こちら側の人間の感情を悪くするのはリジェネにとっても、リジェネとともにこちら側に来た彼らにとってもいいことではない。

「わかったよ、ノーヴェ。……不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません。僕も知らない場所に来て、さらに僕らと敵対する組織もこちらに来ていると知らされてピリピリしていたようです。」

「いえ、お気になさらず。よかったらまたいらしてね。」

「ええ、ぜひとも。」

そう言ってあっさりとその場を後にするリジェネと何度も頭を下げてその後を追いかけるノーヴェ達。
しかし、キャロだけは四人がその場を離れた後も最後まで残っていた。

「メガーヌさん。」

「なにかしら?」

娘にやっとできた同年代の友人に優しく微笑むが、キャロには先程の子供らしい無邪気さは一片も残っていなかった。

「もし、メガーヌさんとルーちゃんがまた私から大切なものを奪ったら、絶対に許しません……」

(!!)

一瞬、声が出なかった。
氷柱を首筋に押し付けられているような強烈な殺意。
その暗く虚ろな瞳を見つめていると、こちらまでそこに引きずり込まれるような恐怖感。
さっきまで戯れていた彼女の友人も、羽をたたんで手すりの上で怯えている。

「だから、絶対裏切らないでくださいね。私、ルーちゃんとはずっと友達でいたいから。」

「え、ええ……」

再び豹変して子供らしい振る舞いに戻ったキャロに、メガーヌはむしろさらなる恐怖を感じつつ彼女を送り出す。
キャロに付いてフリードも一緒に飛び立つが、いつものように彼女の傍を飛ぼうとしない。

「?どうしたの、フリード?」

「キュク……」

「私ならもう大丈夫だよ。ほら、一緒に行こう?」

「キュク!」

ようやく普段通りに戻ったキャロにフリードも安心したのかすぐにすり寄っていく。
だが、フリード、そして本人すらも気付かないところでキャロは変わっていっている。
取り返しのつかないところに向けて、ジワジワと。



キャロが合流するその少し前。
リジェネはこの世界に来ていた時から感じていた同朋の気配が強まるのを感じ、足を止める。
説得に向かうならば今だろう。

「悪いけど、先に行っててくれないかな?一人でもう少しここを楽しんでおきたいんだ。」

「そんなこと言って、またあんな尋問まがいのことをするんじゃないだろうな?」

「僕もそこまで馬鹿じゃないさ。君たちの心象を悪くしないことは約束しておくよ。」

「しかし、私たちにも任務が…」

「追及を受けたら僕のわがままに振り回されてい大変だったとでも報告しておけばいいさ。それじゃ、僕はこれで。」

「あ!ちょっと!!」

ディエチが止めようとするが、悠然と森の方へ歩いていくリジェネを止めることはできず、見送るしかなかった。





「う~ん、迷った!!」

「迷ったじゃない。」

元気ハツラツで胸を張るウェンディに制裁を加えつつ、彼女を先頭にし、さらにその後をついてきてしまった自分をティエリアは激しく後悔していた。
この短距離をどうすれば反対方向へ進むことができるのかは後で問いただすとして、これ以上メガーヌを待たせるのは心苦しいものがある。

「ウェンディ、相変わらずおっちょこちょい。」

「てへ♪」

(これをおっちょこちょいの一言で済ませていいものなのだろうか……)

呑気すぎる二人に呆れつつも、今度はティエリアが先頭に立ってロッジへ戻ろうと歩きだす。
だが、

「フフフ……楽しそうだね。以外と元気そうで安心したよ。」

「「!!」」

後ろからの声に反射的に銃を抜くティエリアとウェンディ。
しかし、振り向いて声の主の姿を目にした瞬間言葉をなくした。

「う……そ………!?」

「馬鹿な……!!?なんで、君は……!?」

木陰から現れたのはウェーブがかかって先が上を向いている髪。
しかし、その色は鮮やかな紫で、整った顔立ちは多くの女性を魅了させるほど美しい。
だが、二人が驚いたのはそれが理由ではない。
その美しい顔立ちが、ティエリア・アーデその人のそれとまったく同じだったからだ。

「な……なぜ、僕と同じ姿をしている!?」

ようやく絞り出した問いかけに、彼は心底おかしそうにクスクスと笑う。

「当然だろう?僕と君はDNAが同じなんだから……塩基配列0988タイプ……」

「まさか……君は……!?」

「そうさ。」

彼がティエリアの反応にいっそう嬉しそうに口の端を吊り上げる。

「僕も君と同じつくられし者……“イノベイター”、リジェネ・レジェッタ。」

「イノベイター……」

「リジェネ…レジェッタ……」

同じ言葉を反芻するティエリアとウェンディ。
完全にその場の空気にのまれた二人、いや、ティエリアはそれ以上の言葉を紡げずにリジェネの話に耳を傾けるしかない。

(そうさ。)

「!?あ、頭に声が……!?」

念話とはまた違う、脳の奥底を揺さぶってくるようなその感覚にティエリアは戸惑うしかない。
リジェネはそんなティエリアに、赤ん坊をあやすように優しく語りかける。

(GN粒子を触媒とした脳量子波領域での感応能力……それを使ってのヴェーダとの直接リンク……遺伝子操作とナノマシンによる老化の抑制……僕たちはイオリア・シュヘンベルグの計画に必要な存在だ。まさか、自分に同類がいるなんて思いもしなかったかい?)

馬鹿にしたようなリジェネの失笑にティエリアは改めて銃口を向ける。
しかし、リジェネはそれを恐れもせずにズンズンとティエリアの前まで歩いてくるとそのまま横に並び立つ。

(気を悪くしたなら謝るよ。どうやら、ガンダムマイスターである君には、ヴェーダによる情報規制がかかっていたようだね。)

「そんな……」

四年前。
ティエリアは自分の中のアイデンティティを完全に消失した。
ヴェーダにアクセスし、ガンダムマイスターとしてミッションに参加することへの誇り。
ティエリア・アーデという存在を支え続けてきたそれらは、四年前にアクセス権を失ったことで脆くも瓦解した。
だが、全てにアクセスを許されていたと思っていたのに、自分だけが特別だと思っていたのに、自分だけが同胞と呼ぶべきものたちの存在を知らなかった。
何とも滑稽で、ショッキングな話だ。

だが、ティエリアはすぐにそんなことはどうでもよくなった。
それは、ロックオン・ストラトスとの交流で彼がただの特別な存在から、仲間たちにとって特別な、そしてかけがえのない存在になったことに起因しているのは確かだが、それよりも目の前にいるリジェネの目的を探ろうと神経を逆立てていることが最大の理由だった。

(なら、教えてあげるよ。この計画の第一段階は、ソレスタルビーイングの武力介入を発端とする世界の統合。第二段階はアロウズによる人類意思の統一。そして、第三段階は人類を外宇宙へ進出させ、来るべき対話に備える。それが、イオリア計画の全貌さ。)

脳量子波による呼びかけが聞こえていないウェンディには何が起きているのかさっぱりだが、聞いているティエリアはさらに混乱していた。

人類意思の統一。
外宇宙への進出。
どちらもすでに一組織がどうにかできる範疇を超えているように思える。
しかし、おそらくリジェネはそれを達成できる自信を持っている。
なぜなら、

「そう……宇宙環境に適応した僕らが、人類を新たなフロンティアに導くのさ。」

ようやく声に出して言葉を言うリジェネに、ティエリアはグラリと目の前が揺らぐような気持ち悪さと傲慢さへの反発心が心の中で首をもたげる。

選ばれた人間。
自分以外は劣った存在。

まるで、昔の自分の嫌な部分を濃縮したようなリジェネの振る舞いを見ているようで内臓が蠢きまわるようで嫌な感じだ。

「人類を新たなステージに導くためには大きな波が必要だ。そう、変革という名の波がね。」

もう、我慢の限界だった。
発砲衝動を必死に抑えながらティエリアの横を通り過ぎて後ろに回っていたリジェネも背中に銃口を突き付ける。

「だから、アロウズの卑劣な行為を黙って見ていろというのか!?」

「変革は痛みを伴う……君たちだってそうしてきたじゃないか。」

何をいまさらといった様子で涼しげな顔で肩をすくめるリジェネ。
反論しようとしたティエリアも、かつてロックオンに同じことを言ったことを思い出して口を閉ざしてしまう。
だが、

「……今、君たちはイオリアの計画の障害となっている。」

リジェネもティエリアの頑なな態度に笑顔を消して振り向き、目つきを鋭くする。
そのティエリアのいつもの表情とまったく同じであるそれを見たウェンディは、本当にこの二人が同じDNAを元に生み出されたことをいまさらながら納得した。

「僕たちは計画のために生み出された。僕たちの存在意義は計画を遂行すること……君は自分の存在理由を自分で否定している。」

そう言うと、リジェネはフワリと穏やかに微笑んでティエリアに真っ直ぐ手を差し出す。

「ティエリア・アーデ、ともに人類を導こう……同じイノベイターとして。」

「違う。」

間に割り込んできたルーテシアにその手を掴みかけたティエリアはハッとし、リジェネは不愉快そうに顔を歪める。

「あなたとティエリアは違う。ティエリアは、そんなことのためにいるんじゃない。」

「おかしなこと言うね……イノベイターでもない君に僕らの何がわかる?」

「ハッ……あんたこそ何を知ってるんだ。」

今度はウェンディが前に進み出る。

「さっきから黙って聞いてればイノなんちゃらだの人類を導くだの大層なこと言ってくれちゃって。知ってるっスか?ティエリアってば怒りっぽくて、その上ムッツリで、年上の金髪が大好きで仕方がない…」

「勝手に人の性癖を捏造するな。」

調子に乗っていたウェンディにティエリアによる鉄拳が脳天に突き刺さったことで話が途切れるが、ウェンディは締めにかかる。

「そんで、どうしようもないくらいトレミーのみんなのことが好きなんスからね。あんたたちのところで人類を導くなんてことより、トレミーでガンダムに乗ってる方がよっぽど有意義っス。」

「なるほど……!」

リジェネの顔から遂に笑顔が消える。
表には出さないが、体中からにじみ出る怒りで腕が小刻みに震えている。

「ユーノ・スクライアといい、こちら側の人間は僕の邪魔をするのがよほど好きらしい……!!機械混じりのできそこないの分際で……!!」

(機械混じり?)

ティエリアは首をかしげるが、ウェンディは誰の目にもわかるほど動揺する。
それを見のがさなかったリジェネは、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。

「ハハハ……!!なんだ、言ってないのか!?お前がただの…いや、その前に人間ですらないことを!!」

「ーーっ!!」

〈Set up!Kill mode on!〉

ウェンディはマレーネを展開して今にも撃たんばかりの勢いでその銃口をリジェネへ向ける。

「それ以上余計なことを抜かしてみろ……ここから生きて帰れると思うな…!!」

「フフフ……まあいいさ。遅かれ早かれ君の秘密は明るみになる。その時苦悶する姿を僕は楽しませてもらうとしよう……」

リジェネはそのまま背を向けてきた道を引き返していく。

「ティエリア、さっきの話だけど、答えは急がないよ。またそのうち会いに来るからね。君と僕は、いつでも繋がっているのだから……」

その姿が見えなくなると、それまで場を支配していた緊張感が一気に霧散する。
しかし、その反動のように今度は重苦しい沈黙がティエリアとウェンディの間に流れ出す。
片や、自らが何者なのか知り、知られてしまった者。
片や、自らが何者なのか知られたくないと思う者。

どちらからも言葉が出ることはなく、そのまま帰途につこうとする。
だが、ルーテシアがそれを許さなかった。

「ウェンディは、ティエリアが人間じゃなかったら嫌い?」

「!」

あまりにもストレートな質問に二人とも体が強張る。
しかし、ルーテシアはさらにティエリアにも問いかける。

「ティエリアは、ウェンディがなんなのかわからないと嫌い?」

「それは……」

ふと顔を上げるとウェンディと目が合う。
ウェンディの方も言いたいことがあったようだが、ほんの少し見つめあっただけで二人はお互いにそれを悟ってフッと笑う。

「そんなことはない。ウェンディのことが理解不能なのはいつものことだ。」

「あたしだって。乙女の頭に容赦なく突っ込み入れる男が普通の人間だった方が驚きっス。」

「……そう。じゃあ、これからも仲良し?」

「ああ、もちろんだ。」

「イエース!」

元気に親指を立てるウェンディと優しくルーテシアの手を取るティエリア。
そんな二人を見て、彼女が彼らの未来を予見したことなどこの時は誰も知らない。





その後、ティエリアたちは確かに地球の座標を受け取ってカルナージを後にした。
二人にとって、短いが大切な日々を過ごしたこの世界を。



四年後

その日もルーテシアは実務と趣味をかねた家の改造と設計にいそしんでいた。
もうすぐここに同年代の友人二人と、その元同僚たちがやってくるのだから気合も入る。
張りきるルーテシアだったが、机の上の紙の束から一枚の写真がフワリと落ちたのに気付いてそれを手に取ると、穏やかな表情であの日の思い出に浸り始める。

「フフフ……これ撮るの大変だったなぁ。」

麗しき乙女三人に囲まれているにもかかわらず、ブスッとした顔でカメラの方を向いているメガネの青年。
しかし、ルーテシアだけは知っている。
撮る前にあれだけごねていた彼が、その後でほんの少しの間だけ嬉しそうに笑っていたことを。

「あのデコボコカップル、結局姉妹の中で誰よりも早く子供つくちゃったのよねぇ…チンクも気の毒に…」

阿鼻叫喚の姿で泣き叫ぶチンクの姿を思い出して同情するルーテシアだが、実際気の毒なのは彼である。
子供できたとわかった瞬間家族会議でつるしあげにあい、肩身の狭い思いをする羽目になったのだから。
まあ、自業自得と言えなくもないが。

「そう言えば、あの二人も子どもと一緒に来るんだっけ?まったく、休暇だからって良い御身分ね。」

文句を言いつつ、ルーテシアは楽しそうに笑う。
そして、この後到着した友人たちと一緒に残るメンバーをもてなすための準備を始めるのだった。








それは、鮮烈な出会いを支える少女の物語
その前にあった、心を繋ぎ合わせる優しさ




あとがき・・・・・・・・・・・・という名のまたネタバレかよ

ロ「というわけで、ルーテシア&メガーヌがいい感じで絡んできたと自画自賛してる第三十一話でした。」

ティ「……オイ、なんだこれ?」

ロ「どうかしたか、甲斐性無し。」

ティ「嫌な呼び方するな!!なんだ最後の(いろいろな意味で)とんでもないネタバレは!!?」

ロ「そりゃまあ、お前らがXXX板じゃないと書けないようなことした結果ああなったんだろ?」

ティ「生々しい言い方もやめろっ!!だからなんでああなった!!?」

ロ「面白そうだから。」

ティ「きっぱり言うな!!」

ウェ「ハァハァ……」

ティ「ウェンディもその妙な息遣いはやめろ!!」

ウェ「いやぁ、ここはワルノリすべきだと笑いの神様が…」

ティ「この世界に神などいないっ!!」

ルーテシア(以降 設計マニア)「それ刹那のセリフでしょ。それといきなりですけど特別ゲストのルーテシア(vivid版)です。」

ロ「しかし、この二人の子供か……どっちに似ても人様に迷惑かけそうだな。」

ティ・ウェ「「どういう意味だっ!!」」

設計マニア「だいじょぶだって。二人合わせて二で割ったらちょうどいいと思うから。」

ロ「それはそれでいろいろ問題ある気がするけどな。」

ウェ「あんた重ね重ね失礼っスね!!あたしとティエリアの愛の結晶に何て言い草っスか!!」

ティ「だからそういう言い方はやめろ!!もうこれ以上アウトな単語が出る前に次回予告へ行くぞ!!」

ウェ「再びトレミーに集ったメンバーたち。そこで、ドクターが遂に完成した新デバイスを披露する!」

設計マニア「しかし、そのデバイスには大きな問題があって……!?」

ティ「その解決の糸口が見つからないまま、情報収集と骨休めに街へ繰り出すクルーたち。」

ウェ「そこで、遂にマイスターたちとあの少女たちが出会いを果たす!」

設計マニア「そして、ユーノが出てきたことで事態は最悪の方向へ!」

ティ「マイスターたちは、どの世界でも拒絶される運命にあるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援などをお聞かせください!では、せーの……」

「「「「次回をお楽しみに!!」」」」



[18122] 32.GNデバイス
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:ff647d35
Date: 2011/04/30 08:01
軌道拘置所

「……飽きたな。」

そう言うとチンクは手に持っていた本をポイと後ろへ投げる。
犯罪者の身で読書を許されているというのはかなり恵まれて入るのだが、いかんせん頼んでも持ってきてくれる量や検閲にかかる時間のせいでチンクの読む速度に追いつかないのだ。

「まあ、これも罰か。妹たちを騙していたのだからゆるいくらいだ。」

ノーヴェ達は違うと言ってくれたが、チンクの思いは変わらない。
自分たちのエゴにつき合わせたせいで彼女たちの経歴に傷をつけてしまったことはいくら詫びても足りることなどない。
そして、それは同じように罪をかぶってここに繋がれている三人も同じだろう。

「しかし、ドクターは今頃どうしているのだろうな?護送中に行方不明になったとだけは聞いたが………と、いかんいかん。また独り言が過ぎたな。」

本能的に孤独を紛らわせようとしているのか、独り言が多くなったと自分でも思う。
これでは危ない人間街道まっしぐらだ。
だが、返事あるはずのない独り言に応える声が聞こえてきた。

「気になるんならついてくる?」

「!?」

いつの間にか目の前にいた長い黒髪の女性の声にチンクはハッと床から跳び上がる。
気付けば廊下にはそれまで警備をしていた局員が横たわり、目の前のこの女性と1対1の状況に陥っている。

(まさか……私たちを消しに来たのか!?)

可能性としてはゼロではない。
チンク達が今まで無事だったのは余計なことは言わずに口を閉ざしていたからだ。
その態度が非協力的だとされここに送られたわけだが、いつ真実が語られるかわからないと思う人間が強硬手段にうってでたとすればこの状況も納得がいく。
しかし、真実はチンクの予想の斜め上を行っていた。

「相変わらず早とちりが治ってないわね。そんなことだから下手こいてこんなとこに行くことになるんでしょ。」

「その声……!まさか!」

「やっと気付いた?」

女性の髪の色がみるみる変化していく。
毛先まで完全に変わったところで女性は大きく伸びをして低身長のチンクの頭をポンポンとなでる。

「久しぶり、チンク。」

「ドゥーエ……!よかった!無事だったんだな!!」

「モチのロンよ。んで、さっそく何だけど私たちに協力してもらうわよ。ていうか、この状況でここにいたらろくなことにならないから協力するしかないんだけどね。」

「……この悪知恵、確かにドゥーエのようだな。」

嫌な形で自分の姉だと確認したチンクは顔をひきつらせながら話に耳を傾ける。

「今からでも管理局にひと泡吹かせてやる気はない?」

「どういうことだ?」

「まあ、それは出てから詳しく話すけど、一つ言えるとしたら世界は最悪の方向に転がっていっていることよ。」

「……どうやら、本当に話を聞く必要があるようだな。」

「ええ、そうしてもらえると助かる……って、この感動の再会の最中にやなやつが…」

うんざりした様子で局の制服から端末を取り出して一人の男の顔を眺める。
目の周りにできた痣と頬の手の平の痕でドゥーエは何があったのか(あまり考えたくはないが)悟る。

『いたた……オーイ、ドゥーエちゃ~ん。お姉さんと妹さん助けたけど、いきなりビンタとゲンコはないんじゃない?』

「大方会ったばっかりのくせに口説いたんでしょ。ウーノ姉さま、トーレ、もっとやっていいわよ。」

『『わかった。』』

『え?ちょっと待……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

男の襟首が何者かの手に掴まれて消えたかと思うとディスプレイもブラックアウトする。

「……今のは?」

「私の現雇い主兼協力者。……認めたくないけど。」

ドゥーエの遠い目を見て、チンクは彼女もまた苦労を重ねてきたこと理解してホロリとしてしまうのだった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 32.GNデバイス


ミッドチルダ 海中 プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

ロックオンは不機嫌この上なかった。
ようやくミッションを終えて戻ってきたのに、久々の休みの早朝から呼び出されればだれでもそうなる。
それは差があれどみんな同じらしく、ミレイナに至っては寝ボケたまま夢と現実を行き来しているようだ。

「やあ、みんな集まってもらって悪いね。」

「オイ、マッドサイエンティスト。こんな朝っぱらから人を…」

そこまで口にしてロックオンは固まる。
にこやかなジェイルの顔。
それはいい。
だが、目の下のクマとその後ろで半死人のような虚ろな顔のイアンに文句を言うのも忘れてただただ唖然とする。

「オ…オイ、おやっさんは生きてるのか?」

「……勝手に殺すな。まだ生きとる。……あと1時間ほどで眠りに落ちてしまいそうだがな。」

イアンの言葉にラッセはうなずくが、1時間どころか今にも倒れそうな彼を見ているとなんの説得力もないなと思った。

「それはいいんだ。……やっと完成したぞ。」

「完成?」

アレルヤは首をかしげる。
オーライザーはまだ調整に時間がかかると言っていたので違う。
そうなると何が完成したのか見当もつかない。
だが、答えはすぐに二人の手からそれぞれの使い手へと渡された。

「君たちに合わせて作ったデバイスだ。大事に使ってくれたまえ。」

「デバイス……ああ、確かGNドライヴの性能を再現するとか言ってたあれですか?」

「おおっ!!魔女っ子ステッキ登場ですか!?」

都合のいいタイミングでばっちり目を覚ましたミレイナに自慢げな笑みを見せながらジェイルは胸を張る。

「そう……GN(ガン)デバイスとでも名付けようか。もっとも、GNドライヴの性能を再現したというより、まったく別の方法でそれっぽく見せていると言った方が正確かもしれないがね。」

ミレイナの質問に答えたジェイルはティエリアとフェルトにそれぞれソレスタルビーイングの楔に青い宝石がはめられた形の腕輪とピンクのバラの中心に同じく青い宝石がはめ込まれた髪飾りを渡す。

「これは……」

「たしか、ジュエルシードってロストロギアじゃ…」

「まあ、それについては後で説明する。刹那とユーノ、あとアレルヤの彼女にはこいつだ。」

そう言ってイアンがさし出したのは二つの首飾り。
一つはソレスタルビーイングの楔の裏表に青い宝石が二つつけられ、右の羽の部分に剣の装飾が彫られたもの。
もう一つは大まかな形は前者と同じなのだが、左の羽に盾を模したものが彫り込まれたもの。
そしてもう一つ、オレンジ色のコスモスの中心に宝石が埋め込まれたブローチ。
どれも美しく、制作者であるジェイルやイアンが性能だけでなく見た目にもこだわりを持っていることがうかがえる逸品である。

「わ、私もですか!?」

まさか自分にもデバイスが与えられると思っていなかったマリーは驚くが、刹那とユーノの反応も大げさだった。

「なんで俺たちのだけ二つついてるんだ?」

「ていうか!僕のジュエルシード何に使ってるかと思えばこんなことしてくれて!!」

「いやぁ、ツインドライヴのマネをしたのはよかったけど制御が大変だったよ。」

つまり、この二つのジュエルシードはツインドライヴを模倣しているというわけだ。
オリジナルが未だにうまく機能していないのに、試作機も同然のGNデバイスに使う度胸は称賛に値するかもしれないが、見方を変えればただの無謀である。
それは、“彼ら自身”がよく知っている。

〈ご、ごめんなさい~!!!!〉

「!?」

〈いちいち謝んじゃねぇよ、うざってぇ。次元の果てまで消し飛ばされてぇか?〉

〈ま、まあまあ。せっかく生まれてきたのに一日経たずにさよならは嫌だよ。〉

〈そーそー。せっかくこんな綺麗なお嬢さんやお姉様方がいるんだから末永~くお付き合いしたいねぇ。〉

〈…………………………………〉

「しゃ…しゃしゃ、喋ったぁ!!?」

「そりゃ喋るよ。インテリジェントだもの。」

驚いて腰を抜かすフェルトにジェイルが呆れた様子で溜め息をつく。

「僕は別にAIはいらなかったんだけどなぁ……」

〈ええっ!!?ご、ごごごごめんなさい!!!!今すぐ消えますから許してください!!!!〉

「いや、別にそこまでしなくていいけど…」

デバイスとは思えないほど狼狽するGNデバイスその1(仮)に思わずひきつった笑みを浮かべてしまうユーノ。
しかし、ティエリアは相変わらず冷静に渡されたGNデバイスその2(仮)を手首にはめようとする。
だが、

〈オイ、メガネヤロー。なに俺様を勝手につけようとしてんだよ。調子こいてっと消し炭にしたあと粗大ゴミに出すぞコラ。〉

思いがけない暴言を吐かれ、怒りをぶつけるようにジェイルの白衣の襟元を掴んで固く握りしめた拳を振りかざす。

「言っておくけどそのAIは私やイアンが作ったものじゃない。君たちに似せようとしたのに勝手にそうなってしまったんだ。」

「遺言はそれだけか…!?」

「ククク………!まあまあ、落ちつけよティエリア。」

ロックオンが笑いをこらえながらフェルトの横に立つ。

「こんだけいいデザインしてんだ。少し口が悪いのくらい目をつぶれよ。な、GNデバイスさんよ。」

そう言ってロックオンはフェルトの手の中にあるGNデバイスその3(仮)に話しかける。
だが、

〈チッ……ニヒル気取ってる勘違い男が。俺がレディーとお楽しみの最中に話しかけてくんじゃねぇよ。〉

同じく暴言を吐かれ、今度はロックオンがヘラヘラ笑うジェイルの襟を掴む。

「オイ、今すぐこいつブッ壊せ。じゃないとお前のその陽気な脳みそを狙い撃つ。」

「ラ、ライルさん落ち着いて!!」

なんとか止めようとロックオンにしがみつくエリオ。
ロックオンは冷たい笑みで遂に銃を抜くが、ストッパーを果たすはずのティエリアまで応援に回っているせいでゴタゴタに拍車がかかってしまっている。
そんな彼らを無視して、ウェンディは首をかしげる。

「でも、流石にこれは変っスね。普通インテリジェントっつっても、もうチョイ機械的な喋りなんだけど……」

「それについてはわしはおろかジェイルもさっぱりだそうだ。たしかにこちらでAIを設定したはずなんだが、気付けばこうなってたのさ。」

〈彼らが特異すぎるだけですよ。僕はいたって普通です。〉

「お前さんもそれだけ個性豊かなら十分異常だよ。というか、女に設定したはずなのに人格が男ってどういうことだ?」

いぶかしげな顔をするイアンにGNデバイスその4(仮)は何も言い返せず、乾いた笑いで誤魔化すしかない。
そして、そんな中その4の所持者であるマリーが最初に気付いた。

「そう言えば、刹那さんのやつは喋りませんね。」

「オイオイ、まさか刹那のだけ手抜きでストレージにしやがったのか?」

喧嘩腰でイアンに絡むジル。
だが、彼の予想は刹那の手の中にいるGNデバイスその5(仮)本人によって否定された。

〈………俺も人格くらいはある。〉

「「「………………」」」

「……だそうだ。」

「………似せるって意味じゃコイツはある意味成功だな。失敗した方がよかった気がするけど。」

異常に(刹那に似て)無口なその5にジルは一抹の不安を覚えるが、これで一応GNデバイスたちの自己紹介は一通り終わったことになる。

「それじゃあ、記念というわけじゃないがセットアップしてもらえないかね。初期設定もやっておいてもらいたいのでね。」

ロックオンとティエリアの魔の手から逃れたジェイルはカラカラ笑いながら各々にそう告げると、刹那たちはデバイスを掲げる。
そして、

「「「「「セットアップ!!」」」」」

光が五人を包み込んでデバイスが起動……

「「「「「………………」」」」」

…しなかった。

「……オイ、どういうことだこれ?」

「……それは僕たちのセリフだ。どういうことだ?」

ロックオンとティエリアの厳しい追及の目にジェイルは珍しく頭をかいて冷や汗交じりのひきつった笑みを浮かべる。

「あれぇ~?」

「あれ?じゃないですよ。あれだけ騒いでおいてこれじゃ僕たちが恥ずかしいですよ。」

ユーノは周囲の視線(特にクスクス笑って顔を背けるスメラギ、アニュー、沙慈)に顔を赤らめる。
すると、彼らの疑問にGNデバイスたちが答えた。

〈だ~れがお前らのデバイスやるっつったよ。このコンコンチキが。〉

〈悪いけど、かわいこちゃんの頼みでも俺らにも譲れないもんはあるからねぇ。〉

〈僕らは自分で使い手を選びます。だから、いくら制作者であるドクターやイアン主任の頼みでもこればっかりは無理です。〉

〈どうしても使いたいというのなら、その資格を俺たちに示すことだ。〉

〈じゃ、じゃないと僕たちも力を貸せないんです~!〉

「そんな……」

「資格って言ったって…」

彼らが求めるものがなんなのかわからないことにはどうすればいいのかわからない。
ある意味、ガンダムマイスターに選ばれるよりも困難な関門かもしれない。

〈……俺たちはそれぞれ、“彼ら”と賭けをしているからな。〉

〈は、はい。“あの人たち”が、もし僕らの力を使おうとしているなら、それ相応の覚悟を示してくれるはずだって。〉

「彼ら?」

〈いずれわかることだ、刹那・F・セイエイ。それに、俺たちの問いかけの答えは、すでにお前たちの中にあるはずだ。それぞれの曇りの中にある、一点の光がな。〉

あまりにも抽象的な答え。
案の定五人はなんのことかわからず、GNデバイスたちを返そうとする。
だが、ジェイルたちにそれを受け取る気力はもう残っていなかった。

「……立ったまま寝てるです。」

「イアンさんは白目剝いてますよ…」

月の彼方まで意識が飛んでしまった二人を引きずって、ラッセと沙慈がブリーフィングルームを後にした。
残された面々は彼らが残していったそれとそれの使い手になるはずだった五人に注目する。

「……まあ、そのうち使えるようになるでしょ。」

「長く付き合えば心を開いてくれるかもしれませんし。」

「お二人さん?そういうセリフはこっちをしっかり見て言うものですよ?」

スメラギとアニューの無責任な発言にこめかみをひくつかせながらユーノが言う。
刹那がフォローを求めて同じくデバイス保持者であるエリオとウェンディに意見を求めようとするが、それを察知したのか二人はすぐに扉へ向かう。

「あ~……今日はみんなお休みっスよね?あたしら外出の準備があるんで!」

「そ、そうそう!たまには息抜きもしないとね!!」

〈そうだな。ここにいたら気が休まらないからな。〉

〈これは逃げたわけじゃありません。戦略的撤た…〉

マレーネの言葉が終わる前に脱兎のごとく逃げる最年少組。
ならばとマリーがアレルヤに助けを求めようとするが、ゆっくり首を横に振ったのを見てやはり当てにできないことを再認識する。
ティエリアとフェルトは残ったミレイナに聞こうとするが、彼女の偏った認識と知識でおかしなことになったら目も当てられない。

「つまり……」

「……しばらくはこのまま…ということか?」

そういうことになり、一部に心労を残したまま一斉外出をすることになるのだった。



クラナガン ショッピング街

平日にもかかわらず人でごったがえすショッピング街。
アレルヤとマリーはその中をはぐれないように手を繋いで歩いていた。
そんな時、ふいにマリーがショーウィンドウの奥に光る物を見つけて立ち止まる。

「アレルヤ、これ……」

「ん…」

マリーが指さした先にあったのは二組の銀色のリング。
大きさが異なっていることから、それが何に使われるものなのか容易に想像がつく。

「いつか、こういうのを二人で見せあう日が来るのかなぁ…」

「来るよ。絶対に。」

桜色に染まった頬で手を繋いで照れる二人。
一見すると婚約手前のカップルのデートに見えるのだが、現実はそれからほど遠いものである。

(ケッ…!のろけやがって。)

(なんだひがみか?小さい男だな。)

(んだとコラ!!!!)

(やるのか!!?)

((人の頭の中で喧嘩するな!!))

彼らの同居人たちが騒ぐせいで雰囲気は台無し。
ただ、これはこの二人にとっては他のカップルとは違う、少し特殊な状況だと考えることもできる。
だが、最大の問題はこの二人。

「お?なんだ、また惚気てるのか?」

「ちょ、ちょっと…!せっかく良い雰囲気に割りこんだら悪いですよ!」

撒いたと思ったロックオンとアニューが追いついてくる。
本当ならば、二人きりでクラナガンの観光を楽しむはずだったのにこの二人(特にロックオンの)悪意ある行動のせいでそれもままならなくなってしまった。

「……ホント、身内にここまで怒りを覚えたのは初めてだよ。」

「ま、まあまあ……私は別に気にしてないから。」

〈わかってないなぁ、マリー。アレルヤにとっては君と二人きりでいることに最大の意味があるんだよ。それをこのお邪魔虫は…〉

「お前も結構毒吐くよな……!狙い撃ちたくなってくるぜ…」

「自業自得よ。」

怒りで拳を震わせるロックオンをアニューがたしなめる。
そんなことをしていると、さらに二人のデートに乱入してくる存在が現れた。

「あら、ジーンさん?」

「リュアナ、知り合いかい……あれ?あなたは確か…」

「ん?…ゲッ!」

その顔を見て飄々としているロックオンが珍しく渋い顔をする。
沙慈と以前ここに来た時に会ったおっとりしているくせに剛腕なこの女性。
リュアナ・フロストハートとロックオンがゲイルスで会ったメガネの男と出会ってしまったことで、アレルヤとマリーのデートは甘いものからさらに遠のいていくのだった。



ショッピングモール

「はぁ~……どうせならセルゲイさん誘ってくればよかったわ。」

「部隊長……今のカッコ見られたらお嫁に行けなくなりますよ?」

シャーリーの言うとおり、はやての今の姿はお世辞にも見られていいものとは言い難かった。
制服の上着を腰に巻きつけ、バーゲンセールの棚へ絶叫しながら突っ込んでいくその姿は花も恥じらう乙女というより熟年の主婦に近かった。

「というかこんなことのためにリイン曹長は事務処理任されて私は一緒に連れてこられたんですかっ!!?」

「こんなこととはなんや!!これから長期任務に入るんやから準備は大切やろ!!」

「任務に関係ないものだけ買っといて何言ってんですか!!」

両手にズシリと重い紙袋を持たされたシャーリーは本気でアースラを降りようかどうか思案し始める。
一方、はやてはシャーリーの二倍の量の荷物を軽々と運びながらリインへの土産は何がいいかと商品棚を見て回るが、その時おかしな一団を見つけた。

「フ~……魔女っ子さんの衣装が無いのは残念ですけど、いろいろ面白い物も見れたから満足です。」

「衣装じゃなくてバリアジャケットでしょ。それにしてもフェルトったらどこに行ったのかしら?」

「結構おちこんでましたからね~……もしかしたらユーノさんと沙慈さんを探しに行ったのかもです。」

「……フェルト、それだけはやっちゃ駄目よ。ストーカー行為だからね。」

元気のいい少女と落ち着いた雰囲気の女性がキョロキョロしながら歩いている。
誰かを探しているようだったが、どうやらクラナガンに来るのは初めてでてこずっているようだった。
その時、その二人とはやてたちの目と目があった。

「すいません。」

年上と思われる女性がはやてに話しかけてくる。

「私たち、クラナガンに来たのは初めてで……連れの一人とはぐれてしまって困ってるんです。よろしければ、何かいい方法をお教えいただけないでしょうか?」

そうは言っているが、女性の顔にはややあきらめに近い色が浮かんでいる。
確かに、こんなことを言われて協力してくれる人間はそういないだろう。
しかし、彼女が最初にはやてへコンタクトをとったのは正解だった。

「いい方法も何も、お手伝いさせていただきますよ。」

「そんな……そこまでしていただくわけには…」

「ええですって。私、こう見えても局員なんです。困ってる人がいたら助けるのは当たり前ですって。」

はやてはそう言ってニコリと微笑むが、対照的に二人に困惑の色が浮かぶ。

「?どうかしましたか?」

「い、いえ……なんでもないです。」

「そうですか。それじゃあ、探しに行きましょうか。シャーリー、私の荷物持って…」

「自分で持ってください。」

「……駄目?」

「駄目です。」

シャーリーにきっぱりと断られて不満げに口をとがらせるはやてだったが、話しかけてきた二人がはやての荷物を一つずつ持つ。

「え、ええですよ!!自分で持ちますから!」

「いいんですよ。お手伝いしてもらうんだからこれくらいしないと。」

「です!」

「すいません……苦情は後で八神はやて宛てに送ってください。」

「苦情来ること前提で話すのはやめい!給料カットすんでシャーリー!」

職権乱用をはたらく上司にさらにわめくシャーリー。
そんな彼女たちを見た二人は、荷物の重さも忘れてクスリと笑った。



オフィス街

鬱だ。
せっかくユーノを外に連れ出せたのに、彼が一緒についていったのは沙慈。
エウクレイデスのクルーのあの妨害さえなければ今頃は(フェレットの姿とはいえ)ユーノとクラナガンの街を歩くことができたのに。
フェルトはシェリリンへの恨みの炎を燃え上がらせながら、こうなることになった経緯を思い返し始めた。


数時間前 プトレマイオスⅡ

「ね、ねぇ、ユーノ。一緒に行かない?」

(おおっ!)

その場に居合わせた者たちは心の中で驚きの声を上げた。
鈍感な刹那とユーノは気付いていないが、あのフェルトが遂にユーノへアプローチを開始したのだから興味を持ってしまうのが人情というものだ。
特に、この二人は。

(フェルトさん、ファイトです!)

(フフフ……!!良いわよフェルト!なんなら私がデートコースを考えてあげるわ!!)

周りがひくくらい興奮するミレイナとスメラギ。
しかし、彼女たちとフェルトの期待を裏切る言葉がユーノの口から飛び出した。

「いや、僕はいいよ。」

空気が凍りつく。
それをユーノも察知するが、理由がわからないまま説明する。

「だって僕、指名手配犯だよ?街に出たらすぐに局員がわんさかやってきて大騒ぎだよ。」

確かにそうだろう。
しかし、そんなことではフェルトは引き下がらない。

「で、でも、私たちまだクラナガンにそんなに詳しくないし、ユーノがいてくれたら心強いなぁって思って!そうだ!フェレットの格好で行けばユーノだってわからないよ!だから、ねっ!?」

異常なまでの執着を見せるフェルトに終始押されっぱなしのユーノ。
そして、遂にフェルトの執念が実を結ぶ。

「わ、わかったよ……それじゃあ、僕も行くよ。」

(やった!!)

心の中で全力のガッツポーズをとるフェルト。
しかし、喜びもつかの間。
次のユーノの一言で天国から地獄へと堕とされることになる。

「沙慈と。」

「……え?」

我が耳を疑う。
そうだこれは幻聴なのだ。
そう思いたいフェルトだが、事実は厳然として変わらない。

「そうだよね……みんな何回か行ったことはあってもそんなすぐに建物の位置とか覚えられないよね。」

「い、いや、僕はもう……」

フェルトから向けられる漆黒のオーラに恐れおののく沙慈。
だが、その矛先はすぐに変わることになる。
なぜなら、真の黒幕は他にいるのだから。

「いやぁ、シャルやシェリリンにも言われてたんだけど、フェルトもそう言うんならやっぱり行った方がいいよね。」

「……え゛!?」



エウクレイデス

「フフフ……!抜け駆けは許さないよ、フェルトさん。」

「ごめんなさいね、私はこれでもフェレシュテの責任者だから。やっぱりシェリリンを応援するのが筋ってものなの。」



プトレマイオスⅡ

今、フェルトの心情を可視化したら頭の上に巨石がいくつも落ちている光景が見えるだろう。
エウクレイデスのクルー、特に整備と開発担当のシェリリンはフォンになにかの手伝いを強要されて街への外出を棒に振っている。
もちろん、シェリリンの妨害の真の意図はそのことの腹いせではない。
フェルトがユーノとの関係を進めないようにと彼女の行動を読んで一計を案じていたのだ。

「じゃあ、僕たちはこれで。」

そんなことには欠片も気付いていないユーノはフェレット姿になり、小さな体には不釣り合いな大きさになってしまったGNデバイスを無理に首にかけて行ってしまう。
沙慈も呆然としているフェルトを気の毒に思いながらも、これ以上厄介事に巻き込まれないようそっとその場を後にする。
そして、泣きそうな顔のフェルトはスメラギとミレイナと一緒にクラナガンへ行くことになったのだった。

無論、彼女たちが乗っていたVTOLの空気が異常に重かったのは言うまでもないだろう。


現在 クラナガン オフィス街

そんなこんなでスメラギと出てきたのだが、今の自分を見られたくなくて途中でこっそりと一人で抜け出したのだった。

「はぁ……」

シェリリンへの恨み言を心の中で呟くのに疲れたフェルトは大きなため息と一緒にそれを吐きだす。
確かに、シェリリンの妨害も許せないが、なによりユーノの鈍さがいけない。
自分への好意へのあの鈍さは容姿の良さも手伝って犯罪の域に達している。

〈あれで女の子だったら口説きやすい天然系の子でそれはそれでよかったんだけど、男であれはないわなぁ。〉

「でも、仕方ないのかもね…」

ポケットの中にしまってあるGNデバイスその3(仮)の言葉に首を振るフェルト。
そう、あの鈍さの根源をたどっていくと、フェルト、そしてシェリリンも認めたくない事実へと到達する。

「……やっぱり、今でも好きなんだよね。」

こうして管理局と対立することになっても、ユーノは婚約者のことが忘れられないのだろう。
だから、他の女性からの好意を単に友人の延長線上として好いているとしか捉えられない。

「確か、た…高町……なんだったっけ?」

恋敵の名前も覚えられないなんて抜けていると思う。
そう自嘲しながら歩いていたフェルトは、通行人の一人とぶつかってしまう。

「きゃっ!」

「ひゃっ!ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

「いえ、こちらこそ…っ!?」

「?」

ぶつかった女性はフェルトの顔を見てひどく驚いているようだった。

サイドアップでまとめた髪と澄んだ瞳。
そして、白く美しい肌をしているのだが、どこかあどけないその顔は同じ女性のフェルトでも守ってあげたいと思ってしまうほどかわいらしい。

ぶつかっただけでここまで驚かせてしまったことにフェルトもおろおろしてしまうが、彼女もフェルトが戸惑っていることに気がついたのか慌ててペコペコと頭を下げる。

「ほ、本当にごめんなさい!ぶつかったのにジロジロみるなんて失礼ですよね!」

「い、いえ!私もボーッとしてましたし…」

お互い謝り続ける二人。
しばらくして周りの通行人にクスクス笑われていることに気付くと真っ赤な顔を見合わせる。
それがおかしくて、二人もつられて笑ってしまった。
ひとしきり笑うと気分も落ち着き、いつものように話をする余裕も出てくる。

「せっかくですからお茶していきませんか?いいところ知ってますよ。」

「え…?でも、私お金は…」

「いいんですよ。これも何かの縁ですから。それに、少し相談に乗ってほしいこともありますし。」

そう言うと女性は近くにある店へとフェルトを引っ張っていく。
だが、彼女、高町なのはは知らなかった。
この時、互いに名乗らなかったことが皮肉な運命への第一歩になることに。



次元港

「フェイトさん!」

笑顔でこちらへ駆けてくるキャロをフェイトは複雑な面持ちで迎えた。
キャロがクラウディアの補充要員としてくるというだけでもフェイトにとっては頭が痛いのに、さらにMSにまで乗るというのだから心配は募る一方だ。
しかし、キャロはそんなフェイトの気持ちを知ってか知らずかとにかく明るく振る舞う。

「キャロ、元気だった?」

そんなはずがない。
自分もそうだが、それ以上にエリオがいなくなって憔悴していたのはキャロなのだ。
それこそ、初めて出会ったころを思い出させるほど暗くなっていた。
なのに、そんな彼女が戦いの最前線に出るなどフェイトには耐えられない。
だが、それを察したキャロはニコリと笑う。

「大丈夫ですよ、フェイトさん。私、頑張りますから!」

「キャロ……うん、そうだね。」

六課の時のような笑顔。
なぜここまで前向きになったのかわからないが、少しだけ不安が和らぐ。
そう思っていたフェイトだったが、突如キャロの表情が一変する。

「どうしたの、キャロ?」

「フェ、フェイトさん……あれ!」

キャロの指さす先。
次元港のガラス越しに見えるその姿を確認してフェイトも声を失う。
ウェーブのかかった黒髪の青年。
その影に隠れるように周囲の目を気にしながら歩く赤い髪の少年。
最初は見間違いかと思ったが、腕に付けられている青いデジタル時計のような待機状態のデバイスを見て確信する。

「エリオ!!」

「エリオ君!!」

その声に気付くことなく青年とともに人混みに消えていくエリオ。
彼を追いかけるため。二人は示し合わせたように同時に次元港から飛び出していった。



中央通り

「い、良い天気ですね。」

「…………………………」

どうにか会話のきっかけを作ろうと奮戦するティアナ。
しかし、ルイスは終始ムスッとした表情のまま答えず、黙々と足を進めていく。
一緒に誘われたアンドレイもティアナをフォローしてやりたいとは思うのだが、生来の口下手がたたってどうすることもできない。
そして、この休暇を利用して交流を提案したスバルはティアナとアンドレイの苦労など露知らず。
一人レストランの食品サンプルを見ながら物欲しそうな顔をしていた。

(……彼女はいつもこうなのか?)

(悪い奴じゃないんですけどね……強引すぎる割には見切り発車のことがよくあるんです……)

しかし、今回ばかりはこれくらい強引な方がいいかもしれない。
ティアナもアンドレイもあんな形で、ただガンダムに乗っているという理由だけで、新たにできた友人たちとの関係を終わらせたくないのだ。
提案者であるスバルが多少残念なのは置いておくとして、これを逃せばもう関係修復のチャンスはないかもしれない。

「……なんで。」

「?」

それまで黙っていたルイスが口を開く。

「なんで、あなたたちはガンダムに乗るの?」

あんなものに、自分の家族の命を奪ったものに乗るのか。
ルイスも彼女たちが家族の命を奪ったのではないことはわかっている。
それでも、しかし何も知らない彼女たちだからこそ、ガンダムという力を使うことがルイスには許せなかった。
だが、ルイスは見誤っていた。
ティアナとスバルが、かつて自分を傷つけたものとはまったく異なる存在であることを見抜いていなかった。

「私は……仲間を助けたいんです。」

「仲間?」

MSに乗る時の決意。
未だに本当に助けられるのかと不安になることもあるが、それを悟られないようにティアナはルイスとアンドレイに精一杯の笑顔を見せる。

「だから、ルイスさんには悪いですけどカマエルからおりる気は今のところこれっぽっちもありません。」

「じゃあ、スバルは?あんな呑気な子がガンダムに乗るなんて……」

「スバルも心配いりませんよ。あんなんですけど、芯がしっかりしてるのは付き合いの長い私が保証します。」

「…信じているんだな。」

「腐れ縁なんてそんなものですよ。」

そう言って怒りでひきつる笑顔でスバルに鉄拳制裁を加えに行くティアナ。
それを受けて涙目でこちらに戻ってくるスバルを見て、ルイスはティアナの言葉に嘘いつわりが無いことが分かる。
自らの意思と関係なくハレヴィ家の当主となった彼女は社交界で仮面の下に様々な思惑を隠した人間と接してきたのだ。
そんな環境が彼女にそれが信用に値する者なのか、それともそうでないのかの目利きを可能にさせた。
だからわかる。
この二人は、エゴのためにガンダムで戦っているわけではないのだと。

「フフフッ……!なんだか、考えるのがばかばかしくなってきちゃった。」

「え?」

戻ってきたスバルとティアナはルイスの突然の笑い声にキョトンとするが、今度はルイスがスバルの手を引っ張って街の中を駆け抜けていく。

「わわっ!?ルイスさん!?」

「ほら!今日は思いっきり羽を伸ばすんでしょ!」

「やれやれ……ん?」

子供のようにはしゃぐ二人に苦笑していたアンドレイだったが、隣にいるティアナが愕然とした顔で通りの一角を見ていることに気付く。

「なんで……!?」

いつもは冷静な彼女だが、今は何かにひどく驚き、額に汗までにじませている。
そして、アンドレイが止めるよりも早くティアナは走りだした。

「ウェンディ!!!!」

ティアナが叫んで掴んだのは、髪を後頭部でまとめた同い年くらいの少女。
その少女も、そしてすぐそばにいたメガネの青年も幽霊にでもあったような顔でティアナを見ていた。


数分前

「はぁ~……」

普段は悩みとは無縁なウェンディも、今回ばかりはそれと向き合わざるを得なかった。
ここに来る前、隣を歩いているティエリアや他のメンバーからも言われた言葉が、ウェンディの心をぐらつかせていた。

『もう、僕たちと行動を共にするのはやめた方がいい。』

エリオもそう言われ、二人揃って間抜け面をさらしてしまった。
だが、短い間とはいえともに戦いを潜り抜けてきた人間にそんなことを言われれば大なり小なりショックは受けるだろう。
プトレマイオスに乗ってからときどき言われてはいたが、このタイミングで切りだされると動揺も大きい。
無論、ウェンディもエリオも彼らが自分たちを気遣ってのことだということはわかっている。
しかし、本当にここで降りていいのだろうか。
こんな中途半端なところで、戦いから逃げ出すような形であの艦から降りて。

「気にすることはない。君たちにとってはこちらがいるべき世界なのだから。」

ティエリアのその一言に、ウェンディはムッとする。

「なんスかそれ?あたしらはそっちにいちゃいけないんスか?」

「端的に言えばな。」

「随分と勝手っスね!あたしだって自分がどうしたいかくらい…」

「本当に残りたいのか?」

そう言われて言葉に詰まる。
ここで降りれば、ティアナやスバルにまた会えるかもしれない。
だが、プトレマイオスに残ることを選べばもう二度と会えないかもしれない。
いや、最悪の場合は敵同士になるのだ。

「迷うくらいなら降りた方がいい。君たちにとってそれが最良の選択だ。」

そうかもしれない。
だが、この言いようのない心に引っかかるものがそれをためらわせる。

(……私は…)

「ウェンディ!!!!」

突然の大声と手の感触でウェンディは体をビクリとふるわせる。
聞き覚えのある声と、その温かさが今はただ怖かった。
それでも振り向くと、ずっと会いたいと思っていた友人がそこにいた。

「ティ…ア……!?」

いつも気丈なティアナが瞳を潤ませながら自分を見ている。
だが、そのことに感動する間もなくウェンディの脳裏に最悪の未来が浮かぶ。
隣で同じく驚いているティエリアの正体がばれれば、ティアナは間違いなく彼を拘束するだろう。
ウェンディ自身も何らかの疑いをかけられるかもしれないが、それよりもティエリアとティアナが傷つけあうことだけは避けたい。
しかし、その気持ちが強すぎてそのための方法がなかなか思いつかない。
すると、それまで面喰っていたティエリアが口を開いた。

「この子の知り合いか?」

「ええ。あなたは?」

「僕は別の世界の者だ。偶然この子を発見し、事情を聞いて今まで保護していた。今日ここに来たのは、彼女を知り合いの下に帰すためだ。」

「ちょっ…!?」

口を挟もうとするウェンディだったが、ここで下手に喋ったらボロが出るかもしれない。
そう思うと、声が出せなくなってしまった。

「ランスター二士。」

人込みをかき分け、ティアナの連れと思われる男もやってくる。
その緑の制服はウェンディとティエリアもよく知る部隊の物。

(アロウズ…!?なんでティアと!?)

事情はともかく、これでますます迂闊に喋れない。
ウェンディは仕方なくティエリアに任せることにする。

「君が彼女を知っているのなら話は早い。彼女を保護してやってくれ。」

「……わかりました。では、お手数ですが隊舎まで少々お付き合い願えますか?形式上だけでも事情聴取をしないといけませんので。……アンドレイ少尉、申し訳ありませんが…」

「いや、私も同行しよう。どうせ今日は非番で暇をしていたところだ。」

「わかりました。ついでに、スバルとハレヴィ准尉を呼んできていただけますか?」

「承知した。」

アンドレイはうなずくと、スバルたちが行った方へ向かう。
その様子を、まるで絞首台へ向かう囚人のように、ウェンディは悲しげに見つめていた。



ショッピング街

女性は三人寄ればかしましいというが、あながち嘘ではないなとエミリオンは思う。
ただ、彼女たちの話題のせいで男性陣がげんなりし始めていることに気付いてほしい。

「あら?じゃあ、マリーさんとアレルヤさんはそんなに若い時から恋人同士なのね。」

「恋人というか……その時はまだ友達だったというか…」

「でも、小さい時なんてみんなそんなものよ。それで、後になってあの頃の感情が恋だったってことに気付くのよ。」

「その喋りからすると…アニューさんもなかなか恋を重ねてきたようね。」

「いえ、私なんてまだまだですよ。」

「う~ん……じゃあ、恋の真っ最中かしら?ジーンさんと?」

「なっ!!?」

さらに盛り上がりを見せる女性陣。
対照的に、テンションがどんどん落ちていく男性陣。
後ろと前でわずか数メートル。
なのに、もはや完全にいる世界が別だ。

「……すいません、リュアナはこの手の話に目が無くて…」

「あんたも彼氏ならもう少し自重させろよ。おかげで俺らはぶれてるぞ。」

「でも、ここであの輪の中に入っていく勇気はないしね…」

そういうアレルヤだが、一番文句を言いたいのは彼だろう。
本当はマリーと二人きりのはずだったのにロックオンとアニューに邪魔をされ、さらに後からやってきたリュアナのせいで残りものと化した男二人と街を歩く羽目になったのだから。

「しかし、な~んで女ってのはあの手の話が好きかねぇ?」

「一学者としての意見ならあるけど聞きたいかい?」

「それはそれで味気ないからやめとくわ。しかし、あんた学者だったのか?」

「正確には開発者さ。もっとも、嫌々やらされてるっていうのが本音だけどね。」

その理由、自分が翠玉人だということを言ったところで彼らが理解することなど不可能だろうと苦笑するエミリオン。
だから無理に打ち明ける必要もないし、変に気を使われるのも望むところではない。
先日会った彼らについてもそうだ。
並行世界の人物だが、久しぶりに気の合う開発者と知りあうことができたのにそんなことで今の関係を崩したいとは思わない。

そんな思いを抱えたまま、エミリオンは運命の場へと近づいていった。



ショッピングモール 外

「ほんなら、クジョウさんたちは地球出身なんですか。」

彼女の気さくな人柄にスメラギも最初感じていた戸惑いを忘れていた。
それほどまでに、この八神はやてという女性は魅力的な人間だった。

「ええ。はやてさんは日本出身なのよね。何度か行ったことがあるけど、あそこは良い国ね。四季がはっきりしてて、何より治安がいいわ。」

「ん?」

スメラギの言葉の最後の部分に、はやては首をかしげる。

「あっちってそんな物騒なんですか?イギリスに知っとる人がおるんですけど、そんなこと言ってませんでしたよ?」

「……まあ、私が経験したことだから、万人に当てはまるわけじゃないわ。」

こちら側の地球は、あちらと約200年もの誤差がある。
今はくすぶっているだけの負の感情も、しばらくすれば目に見える形で現れるかもしれない。
もちろん、そうならない可能性もある。
だが、今も確かに世界に悪意は存在しているのだ。

「……ひょっとして、聞いたらアカンことでした?」

申し訳なさそうに尋ねてくるはやてに考えを中断する。

「そんなことないわ。私が気にし過ぎてるだけよ。」

そう。
管理局の中にも、はやてのような人間がいるのだ。
彼女のような存在がいるなら、世界もきっと良い方向へ進んでくれるだろう。

「そうですか?それならええんですけど…」

「それより、もっとあなたの話を聞かせてくれないかしら?あなたの家族や、日本での生活についてね。」



喫茶店

オープンテラスの落ち着いた雰囲気の喫茶店で、二人の人物が注目を集めていた。

一人は桃色の髪をした女性。
コーヒーに息を吹きかけて冷ましつつ少しずつ口へと運んでいく。

もう一人はブラウンの髪をサイドアップでまとめた女性。
芳醇な香りの紅茶によくあう美しいその姿はさまざまなメディアに取り上げられ、管理世界に住む人々にとって羨望の的となっている。

こんな美女二人が男も連れずにいたら、普通は声をかけてくる人間の一人や二人はいそうなものだが、彼女たちの発する美のオーラとでもいうものが高いハードルになっているのか男性はおろか女性ですら声をかけることができなかった。

しかし、当の本人たちはそのことよりも重要な案件があるようだ。

「恋人と離れ離れに……?」

フェルトは寂しげに笑うなのはに胸を締め付けられるのを感じる。
フェルトも、どちらも片思いではあったが、愛しい人と離れる辛さはよく知っている。
だから、名前も知らない彼女のその話を他人事とは思えなかった。

「私にも責任はあるんですけどね。ずっと……その人が苦しんでいることはなんとなく気付いてたくせに、甘えちゃって……肝心な時に何もしてあげられなかった。だから、私から離れていってしまったのは仕方がないことだってわかってるんです。……けど、やっぱり思い出すと辛くて…」

「……苦しい、ですよね…」

フェルトの沈んだ声になのははハッとして顔を上げる。
我が事のように悲しんでくれている彼女に、一方的に自分の苦しさを吐露していた自分が恥ずかしくなる。

「ご、ごめんなさい!あなたがそんなに気にすることじゃ……」

「いいんです。……私も、同じことがあったから。」

「え……?」

フェルトは流れ落ちそうになっていた涙をぬぐう。

「私も、大切な人が遠くに行っちゃったから。一人は、お兄さんみたいな人で、私の初恋の人……でも、遠く…ソラのずっと向こうまで行って会えないんです。」

「…………………」

ソラの向こう。
つまり、もう彼女の初恋の人は、この世にはいない。

「もう一人の人は、私が悲しくて、もう歩けない時に支えてくれるような優しい人なんです。けど、その人も手の届かないところに行ってしまったんです。」

「……悲しく、なかったんですか?」

なのはは尋ねる。
自分なら、きっと耐えられない。
そんな過酷な現実を乗り越えてきた彼女の気持ちを知りたかった。

「すごく悲しかったですよ。けど、私は一人じゃなかった。それに、約束があったから。」

「約束?」

「その人が言ってくれたんです。必ず戻ってくる、って。だから、私は倒れずにいられた。帰ってきてくれるその日まで。」

「じゃあ……」

ニコッと笑ってフェルトはうなずく。

「戻ってきてくれました。だから、あなたも信じて。大切な人のことを、その人との約束を。」

約束
なのはも、ユーノとかわした約束がある。
たとえ離れても、どれだけ時間が経とうと、必ずなのはのもとに戻ってくるという約束が。

「……なんだか、コーヒー一杯じゃ釣り合わないくらいのアドバイスをもらっちゃったなぁ。」

「そんなことないですよ。私もいろいろと参考になりましたから。……甘えっぱなしはよくないですよね。向こうが鈍感過ぎるせいだと思ってたけど、私ももっと自立しないと。」

「え?鈍感って……まさか、まだその人と…」

なのはの意外そうな声にフェルトの表情が一気に虚ろなものへと変わる。

「そうなんですよね……長い間離れていたせいかなと思ってたけど、こっちがどれだけアピールしてもなかなか分かってもらえなくて………あれ?なんでだろう、涙が出てくる……アハハハ………」

「……その人、よっぽどなんですね。こんなにカワイイ女の子の気持ちに気付かないなんて。」

一人空回りする自分の好意とその相手の態度を思い出してたそがれるフェルト。
そんな彼女を励ましながら喫茶店から連れていくなのは。

初めて会った時は、あの艦に乗っていた少女とそっくりだったので驚いたが、話をしてみると明るく、なのはの中の彼女のイメージとあまりにもかけ離れていたので疑惑は一片残らず晴れていた。
しかし、この後なのはは自らの勘が外れていなかったことを思い知らされる。



中央通り

「あの……こんな堂々としてていいんでしょうか?」

道行く人々の何人が知っているかはわからないが、エリオは一応行方不明者なのだ。
これほど人目につく場所を歩いているとなんだか悪いことをしている気になってくる。
しかし、そんなエリオの不安を刹那は一刀両断する。

「お前はもう戻るんだ。いずれわかることが遅くなろうと早くなろうと関係ない。」

「それはそうなんですけど……」

そう、地球へ行った時からずっと願っていたことだ。
ミッドチルダに戻り、キャロやフェイトと再会する。
それに手が届くところまで来ているのに、どうにもすっきりしない。

「エリオ、お前には素質がある。鍛錬を重ねれば相当の実力を得られるはずだ。」

「ま、刹那には遠く届かないだろうけどな!」

「……はい。」

違う。
自分が望んでいる言葉はそんなものじゃない。
刹那とラッセとの訓練より、もっと何か大切なものがあそこにはまだ残っている。
今まで目の当たりにしてきた戦いや出会いの中で抱いた何かが、その答えが残されている。
それが、エリオの態度を今一つ煮え切らないものにしていた。

「……刹那さん。僕、やっぱり…」

「エリオ君!!!!」

驚いて言葉を続けるのも忘れて振りかえるエリオ。
小さな肩を揺らして息を切らし、小さな竜とともにうるんだ瞳で見つめてくる少女。
そして、その後ろで声にならない嗚咽を漏らしながら口元を手で隠す金髪の女性。
キャロ・ル・ルシエとフェイト・T・ハラオウンが、エリオを固く抱きしめていた。

「キャロ!?フェイトさん!?」

「よかった……!!心配したんだよ!!」

「怪我はない!?痛いところは!?」

「キャ、キャロ!!フェイトさんも!!人が見てますって!!」

抱きつかれたまま周囲の視線を気にして顔を赤らめるエリオ。
そんな彼らをよそに刹那はその場を後にしようとするが、フェイトを見てその足を止める。

(こいつが、フェイト……)

エリオの保護者にして、彼の所属していた部隊の隊長。
その華奢な体からは彼女が戦っている場面など想像できないが、それ以上に刹那が思っている以上にまっとうな人物だった。
こんな幼い子供を戦いの場に出す人間だから、アリー・アル・サーシェスのような人間を想像していたのだが、さっきの様子を鑑みるにエリオに対する愛情は本物のようだ。

「あなたがエリオを?」

フェイトに話しかけられ、そこで刹那はようやく自分のうかつさを恨んだ。
下手に追及を受ければ自分の素姓を知られる可能性がある。
エリオを送り出すついでに、クラナガンで情報を得ようと来たのに捕まってしまっては本末転倒もいいところだ。

「……俺の世界、地球に飛ばされたところを保護した。」

「地球……どうしてそんなところに?それに、管理外世界の住人であるあなたがどうしてここに?」

「俺の知り合いにミッドの出身者がいる。魔法についてもそいつから聞いた。エリオが飛ばされてきた理由は本人も気を失っていたからわからないが、その知り合いに頼んでここに送ることにした。こいつ……ジルもその友人から紹介されたものだ。」

「こ、こら!なんでオイラがあんな優男に……ムガッ!?」

できるだけいつもと変わらないよう振る舞う刹那。
しかし、油断はできない。
もし出身地や職業を聞かれれば、200年先の地球から来た刹那の話のどこかに矛盾が出るかもしれない。
なにより、その知り合いについて話すことになったら……
かと言って、ここで逃げだせば怪しまれるのは間違いないし、エリオにも何らかの疑いがかかるかもしれない。

「そうですか……では、恐縮ですが隊舎まで同行してお話を聞かせていただけませんか?もちろん、言いたくないことは無理には聞きません。そちらのユニゾンデバイスも一緒に来てください。」

「……わかった。できる限り話そう。」

(オ、オイ!いいのかよ!?)

(ここで断れば余計に怪しまれる。今は付いていくのが最善の選択だ。)

覚悟を決めてフェイトに従って隊舎を目指すことにした刹那。
そんな彼にキャロが満面の笑みを向ける。

「ありがとうございます!エリオ君を助けてくれて!」

「キュクゥ!」

「……当然のことをしたまでだ。」

無垢な少女のその笑顔の裏に、悲しい過去に縛られる心が存在していることを、刹那はまだ知らない。



地上部隊 隊舎付近

沙慈は生まれてこのかた、ペットというものを飼ったことが無い。
しかし、動物と触れ合うのは嫌いではないし、むしろ野良猫をかまうのは好きな方だ。
だが、今肩に乗っているフェレットにそういった対応をできる自信はこれっぽっちもない。
なぜなら、体の大きさに合わないペンダントを無理矢理身につけているのはれっきとした人間の友人なのだから。

「大方見て回ったね~。次はどこ行く?」

肩の上でご機嫌のユーノ。
しかし、何度かクラナガンを訪れている沙慈にとっては見知った場所がほとんどだった。
無論、今まで知らなかった場所や見どころを教えてくれるのでそれはそれで有意義な時間だが、この人一倍鈍い友人をめぐる二人の女性の争いにはからずも巻き込まれてしまったことで素直にそれを喜べないでいた。

「……ユーノ、そのうち後ろから刺されるよ?」

「?なんで?」

「だめだこりゃ……」

こういう人間が痴情のもつれや三角関係で真っ先に犠牲になるのだろうなと沙慈は思う。
いや、女性だけでなく男性からもやっかみを受けていそうだ。
もっとも、本人はまったく気付いていないだろうが。

「それにしても本当に誰もユーノだって気付かないんだね。」

ユーノをめぐる恋模様を考えていると精神衛生上良くないと判断し、沙慈は話題を変える。
フェレットの姿に変わっているとはいえ、魔法が常識のこちらでは少しは疑われると思っていたのにそれが全くない。

「変身魔法は割とメジャーだし、案外使い魔程度にしか思われてないのかもね。僕だって見破れるのは知り合いくらいだろうね。」

「その知り合いに出会ったら?」

沙慈の不安そうな顔にユーノはフェレットの姿のままカラカラ笑う。

「それはないって。このだだっ広い街で僕のことを知っている人間に合うなんてことそうないよ。」

「そう……そうだよね!」

ユーノのその言葉に沙慈もホッとしたように笑顔を見せる。
人であふれかえるこの街で、ユーノと親しい人物と遭遇するなどまず考えられない。
そう、思っていた。
次の瞬間までは。

「あれ?沙慈か?」

後ろからやってきたロックオンとその一団のほうを向く沙慈とユーノ。
その中に、よく知っている、会話のペースを乱されるのでできれば関わりたくないと思っていた人物の姿もあった。

「あら?あなたも来てたの?」

「お、お久しぶりです……」

ニコニコと手を振るリュアナに沙慈はひきつった笑みを浮かべる。
その様子にユーノは何があったのか聞こうとするが、さらにその後ろからやってきた女性たち、その中の二人の姿を確認して笑顔を凍りつかせる。

「ロックオン?なに?あなたたちもここに来てたの?」

「ストラトスさん、お二人のデートの邪魔しちゃ駄目ですよぉ!」

「?ロックオン?ストラトス?」

リュアナとエミリオンはロックオン、彼らがジーン・マクスウェルだと思っている人物がまったく別の名で呼ばれることに首をかしげる。
ロックオンは冷や汗をかきながら頭痛が出てきた額を押さえる。
だが、その後ろでははやてとシャーリーが彼よりも遥かに神妙な面持ちで沙慈の肩を凝視している。

「あれ……そのフェレットひょっとして……」

はやてがズンズンこちらに向かってくるので思わず後ずさる沙慈。
だが、今度は後ろから新たな刺客がやってくる。

「沙慈・クロスロード?」

「何やってんだお前?」

そのいぶかしげな声の主、いつもはとっつきにくい無表情の刹那も沙慈には救世主のように思えた。
だが、彼らが連れてきた二人はユーノにとっては死神とおなじくらい会いたくない人物だった。

「どうかしまし……っ!!?」

一匹のフェレットの姿を確認してフェイトは目を見開く。
キャロはフェイトがなぜそんなリアクションを取るのか理解できなかったが、続いてやってきた六人組が理由を尋ねる暇を与えてくれなかった。

「あっ!!フェイトさん!!」

スバルがいつものように元気よく叫ぶ。
全員の注目が一旦ユーノから離れ、スバルとその後ろにいた五人へと向けられた。

「ティエリア!?」

「ウェンディ!?」

見事にプトレマイオスのクルーと元機動六課の関係者で反応が分かれる。
だが、そんな中で数人だけは反応が異なっていた。

「沙慈……!?」

「ル…イス……!?」

「ピーリス中尉……!?なぜここに!!?しかも、被験体E-57…貴様まで!!」

「アンドレイ少尉!!?」

まるで、天敵同士が一つの飼育スペースに放り込まれたようにどんどん悪化していく事態。
だが、本当の最悪の事態はこれからだった。

「う…そ……」

「!!!!」

別の道からやってきたなのはは言葉をなくす。
初めて会った時と同じ姿で、しかし自分以外の誰かの肩に乗る彼に自然と声が震えだす。
ユーノも彼女と、驚愕の表情を浮かべているフェルトを目視して頭を巨大な鈍器で叩かれたように目の前の光景がグラグラとしてくる。

「ねぇ……これ、どういうことなの……!?」

なのはのその問いかけは、この場にいる誰もがその答えを聞きたい、しかし誰も答えることのできない問いだった。







使徒、その罪深きゆえに束の間の安らぎも許されず
なれど、其は彼の者たちが歩むと決めた道




あとがき・・・・・・・・・・・・・・という名の次回は修羅場の本番

ロ「というわけで、修羅場の前の準備な第32話でした。そして、さっそく次回予告ですが、次回はいよいよ三股淫獣に天罰が!女心をもてあそんだエロリストの末路をお楽しみ…」

ユ「できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!」

ロ「ゲボロッパッァッッ!!!!?」

ユ「お前何主人公を亡き者しようとしてくれてんの!!?しかも最悪の方法で!!!!」

弟(でもやってること女の敵のやることそのまんまだしな~……)

ア(これ現実にやってたら本当に刺されそうだよね。)

ティ(フェルトたちも大変だな。)

お隣さん(というか、僕もなんだかイライラしてきたよ。)

刹「ユーノ……夏目漱石の“こころ”という小説を読め。参考になる。」

ユ「なんの参考になるのっ!!?ねぇ、なんの役に立つのっ!!?ていうかそこの四人も何考えてるか大体わかってるからねっ!!!!」

お隣さん「あっちは死ぬのは好きになったほうだしいろいろ事情が違うからね。まあ、君の場合本当に読んだほうがいいかもしれないけど。」

ロ「ゲホッ……あ~死ぬかと思った。ラ○ウの馬に蹴られた人間ってあんな気分で逝くことになるんだろうな。」

ユ「お前はそのまま今日を生きる資格のない連中の下へ旅立て。五十円あげるから。」

ロ「誰が逝くか。え~……では、今度こそ本当に次回予告に行きます。」

ユ「遂に元機動六課の面々と遭遇してしまったソレスタルビーイング!!」

刹「バラバラに逃走を図るが、迫りくる魔法の力に追い詰められる。」

弟「その時、五人の願いがGNデバイスの力を呼び醒ます!!」

ア「クラナガンでの初の魔法戦!」

ティ「そして、ウェンディに届くフォンからの暗号通信。」

お隣さん「指示された場所へ向かった彼女を待っていたのは、新たな翼だった……」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!では、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 33.新たな翼(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/07 19:01
託児所

「……?」

持ち前の素質で、ヴィヴィオはそれを敏感に感じ取っていた。
強大な力がいくつも発現する予兆。
幼い彼女にはそれがなんなのかはまだわからないが、何かが起ころうとしていることだけは勘でわかった。

「……ママ?」

つい先ほどここに自分を預けて街に出ていった母親。
その力も、そのなにかで感じにくくなってはいるが確かにその近くに存在している。
そして、もう一つ。
その何かのど真ん中にいる懐かしい反応がヴィヴィオの意識をそちらに集中させていく。

「……パパ?」



アースラ

「なんだ……この感覚は?」

ザフィーラは廊下を走って外へ急ぐ。
はやてから連絡を受けてから、しばらくして出たこの反応。
これほど強大な力を発することができるのはロストロギアくらいしか思い浮かばない。
だが、通常の物と違ってこちらは安定しているし、何より悪意や不吉なものは何一つ感じない。

「ザフィーラ!」

「シャマル、リイン。お前たちも感じたか。」

出口で二人と合流し、ザフィーラはそのまま外を目指す。

「これって、ジュエルシードの反応そっくりです!」

「けど、何かが違う。なんていうか……まるで、ジュエルシードの力と別の、魔導士の力が混じっているような……」

「考えるのは後だ。今はとにかく現場に急ぐぞ。」



クラウディア

「クソッ!これならあたしも外の出てりゃよかったぜ!」

フェイトからの通信を聞いて後悔するヴィータだが、それよりもこの妙な反応の場所へと急ぐ。

「この感じ……まさか、あの女か!?」

四年前のあの夢に出てきた少女。
その時の感覚と今回のこれはひどく似かよっている。
となると、関係している人間はおのずと限られてくる。

「ユーノ……!そこにいるんだな!!」



プトレマイオスⅡ

「……!」

「?どうした?」

イアンとジェイルが泥のように眠ったのを確認してブリッジで待機していたラッセは上を向いて固まるリインフォースに問いかける。

「……ラッセ、エウクレイデスに連絡を。街に出たメンバーに何かがありました。」

「は?でも、そんな連絡は…」

その時、まるで見計らったかのようにスメラギから通信が入ってきた。
ラッセは驚きつつも回線を開くと、そこには翠の柱をバックにこちらを見ているスメラギの姿があった。

『……ッセ!ラッセ!聞こえるラッセ!』

「スメラギさん!?どうしたんだよ一体!?」

『説明は後よ!大至急こっちに来て!』

「そっちにって……街中にトレミーを出せってのか!?」

『早く!そっちに残ってるダブルオーとクルセイドは射出準備をしておいて!場合によってはそっちに戻る余裕はないかもしれない……きゃっ!!』

「スメラギさん!?スメラギさん!!」

画面が揺れたかと思ったら、その瞬間スメラギの顔が消えて後には黒く塗りつぶされたディスプレイだけが残り、事態の深刻さをラッセに示してくる。

「クソッ!!マジかよ!!」

「エウクレイデスには私から連絡をしておきます。」

「ああ、そうしてくれ!!トレミー、浮上するぞ!!」



クラナガン郊外

「あげゃ!コイツの試運転で出てきたんだが、なかなか面白いことになってるな。」

クラナガンの街に突如出現した五色の柱にフォンは鋭くとがった犬歯を見せて笑う。

「まあいい。予定とは少し違うが、あのアホにコイツを引き渡すとするか。もっとも、使いこなせるかどうかは別だがな!あげゃげゃげゃげゃ!!!!」




時間は遡り、この少し前。
この事態の発端は、最悪の再会と遭遇だった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 33.新たな翼(前編)


数十分前 クラナガン 地上部隊隊舎前

「「全員動かないで!!!!」」

早かったのはフェイトとティアナ。
ティアナはクロスミラージュをセットアップし、フェイトは数発の魔力弾を生成して近くにいた刹那たちに向ける。
だが、それと同時にユーノも動いていた。

「フラッシュ!!」

「っ!!」

沙慈の肩から飛び降りたユーノは、素早く人の姿に戻ると手の平に強烈な光を生みだしてその場にいた通行人も含む人間全員の目をくらませる。
すると、それが合図だったのかようにクルー達はそれぞれ非戦闘員の手を引っ張ってバラバラに人混みの中へ消えていく。
魔力弾を発射するティアナとフェイトだったが、狙いが甘くなっていたそれが当たるわけもなく、地面に当たって霧散するだけにとどまってしまった。

「クッ……!!」

「ティ、ティア!?どうなってるのこれ!?」

「私が聞きたいわよ!!けど、あいつらユーノさんと一緒にいた!!一般人じゃないことだけは確かよ!!」

ようやく目が慣れてきたティアナはざわめく通行人の波を見渡し、目標を見失ったことがわかると短く舌打ちしてアンドレイたちの方を向く。

「少尉、私たちはこれから彼らの捕縛に向かいます!少尉たちはMSで出れるよう待機していてください!」

事態が飲み込めず呆けていたアンドレイもその言葉で冷静さを取り戻すとしっかりうなずき、そのまま自分の艦へと戻ろうとする。
だが、

「!?准尉!何をしているんだ!!」

「沙慈…刹那・F・セイエイ……ユーノ・スクライア………なんで……」

へなへなとへたり込むルイスを無理矢理立たせようとするアンドレイ。
だが、ルイスは魂が抜けてしまったようにすぐにまた崩れてしまう。
眉間にしわを寄せ、厳しい顔のままどうすることもできずにいたアンドレイだったが、リュアナがルイスの手を握ると幾分か表情が和らぐ。

「彼女は私たちに任せておいて。」

「あなたはすぐに戻ってください。彼女の安全は我々が保証します。」

「……よろしくお願いします。」

アンドレイは一礼してその場を離れる。
それを見送ったティアナは、すぐに指示を出す。

「これから彼らの追跡を開始します!私は西!スバルは…」

「ティア!!」

「ああもう!!なによこの忙しい時に!!」

割り込んできたスバルに苛立ちを隠せないティアナはつい怒鳴ってしまうが、彼女の伝えようとしていたことが分かると同じように青ざめた。

「ウェンディがいないの!!!!」

「えっっ!!?」

ドタバタしていて気がつかなかったが、確かにそれまでいたはずのウェンディが消えている。
そして、それはもう一人。

「エリオ……!?エリオ!!」

再び姿を消してしまったエリオに悲痛な声を上げるフェイト。
キャロも信じられないといった表情で呆然と立ち尽くしている。

そんな混乱のただ中、はやては一人冷静だった。

(エリオとウェンディをさらった……?いや、あの状況でそこそこ手練れの二人をさらうのはリスクがでかすぎる。メリットも特に考えつかへんし、そうなると…)

できれば考えたくない結論だが、そうだとすると全てがぴったりと当てはまる。
となると、それが明るみに出る前に早く二人を取り戻さなければ厄介なことになる。

「ティアナ!スバル!なのはちゃん!休日に悪いけど、一働きしてもらうよ!!」

はやては声を張る。

「ティアナはさっきいっとったとおりでええ!スバルもティアナの指示に従って!私となのはちゃんも速攻で戦闘許可下ろしてもらうから、それまで気張ってや!!」

「「ハイ!!」」

はやての声に触発され、負けじとフェイトもキャロの肩を掴む。

「キャロ!私たちもエリオを追いかけよう!」

「は、はい!!」

人込みをかき分けて追跡を開始するフェイトとキャロ。
はやてはそれを見て寂しげな表情をするが、すぐに表情を引き締める。

「こんだけ注目が集まっとって人が多いなら、まだそう遠くまでは行ってへんはずや!急いで捕まえんで!!行きぃ!!」

「スバル、あんたは東から探して!私は反対から行く!!」

「了解!!マッハキャリバー!!」

〈Ja boul!〉

愛用のブーツとリボルバーナックルを展開し、空へと道を作って疾走していくスバル。
ティアナは人の少ない裏道へと向かう。
だが、こんな時に真っ先に動くはずの人物は微動だにしていなかった。

「なのはちゃん!」

はやての呼びかけにもなのはは何も答えられない。
目の前で起きたこと、そして受け入れがたい現実にただ立ち尽くすしかなかった。
だが、はやてから頬にきつい一発をもらって我にかえる。

「しっかりしぃ!!ここで取り戻さんかったらいつユーノ君を取り戻すねん!!!!」

「はやてちゃん…」

肩を揺らす親友の言葉に、ようやくなのはの目に光が戻る。

「うん…!はやてちゃん、早く戦闘許可を!」

「了解や!ついでにアースラにおるザフィーラ達にも連絡入れとく!!」



ショッピング街

「ちょ…ちょっと待って!!」

「運動不足ですよスメラギさん!!少しアルコールを控えた方がいいんじゃないですか!?」

人混みの間をぬって走るなんて芸当ができないスメラギに何とも辛辣な言い方だが、ユーノはそれくらい焦っていた。
魔導士、それも管理局の中でもその実力は五本指に入るであろう友人たちと、その優秀な部下に見つかってしまったのだ。

(はやてとなのは、それにフェイトが戦闘許可を得るまで少し時間に余裕がある……!)

もっとも、はやてならばそのわずかな時間をさらに縮めてくるだろうから、実際はもっと時間的に余裕はない。
だが、当面の問題は元機動六課のフォワード三人だ。

(あの三人なら街中で戦闘をしても怪我人が出なければ後で言い訳はどうとでもなるし、しかもその実力は折り紙つき……もし、魔法での戦闘経験のないみんなが見つかったら間違いなく捕まる!)

そうなればアロウズに引き渡され、拷問に近い尋問を受けた後で即刻極刑だ。
考えただけでゾッとする。
いや、自分もそうなる可能性は否定できない。

「スメラギさん、ちょっと失礼!」

「え?ひゃあ!?」

スメラギを背と脚の下に手を回して持ち上げ、ユーノはそのまま空へと飛ぶ。
下では通行人たちが物珍しそうにこちらを見上げているが、それを見下ろしているスメラギは本当に何も使わずに空を飛んでいるという事実に顔を青ざめさせながらユーノにしっかりつかまる。

「高いところ苦手でしたっけ?」

「そ、そうじゃなくてもいきなりこれは怖いわよ!」

「すいません。けど、できるだけ距離を稼いでおきたいんです。」

ユーノの深刻そうな顔に、スメラギも恐怖を忘れて表情を厳しくする。

「あの子たち、あなたの言っていた……」

「ええ、僕の友人とその部下の子たちです。たぶん、現在局が保有する部隊の中でもそうないでしょうね。」

そして、できることならユーノはなのはたちのことをこんな形ではなく自慢話として伝えたかった。
だが、それはもう叶わない夢。
ユーノ自身が、その選択をしてしまったのだから。



西部 裏通り

人気のない裏通り。
二人は、必死の思いでそこを駆けていた。

「大丈夫か、フェルト?」

「う……うん、もう大丈夫。」

ロックオンに手を引っ張られるフェルトは先程の閃光のせいでぼやけてしまった視界が徐々に戻っていくのを感じながら、先程会っていた彼女の姿を網膜の奥で再生していた。

高町なのは

皮肉なことに、ここに至る道の途中でようやく名前を思い出した。
管理局でも屈指の強さを持つ魔導士にして、ユーノの婚約者。

なぜ気付かなかったのか。
彼女の話をもっと注意深く聞いていれば、思い当たるキーワードはいくつもあったはずなのに。
理由はわかっている。
あの時、フェルトの頭の中は先代のロックオン、ニールとユーノのことでいっぱいだったからだ。

(なんて迂闊なの、私は……!)

自分に関わることばかり気にして、周りが見えていない。
オペレーターとしては最悪の行動であり、事実この状況を生みだすことに一役買ってしまったのだ。

だが、フェルトはもう一つわかっていなかった。
誰も彼女を責める者などいないということを。

「そんなに気にすんなよ。」

「え?」

ロックオンが走りながらニッと笑って見せる。

「誰だってミスの一つや二つくらいする。問題は、その後どれだけ早く立ち直れるかだぜ。」

〈そうそう。女の子なんだから、コイバナに気を取られて見落としをするくらいの愛嬌がなくちゃ。〉

「ロックオン……デバイスさん……」

〈いや、デバイスさんは勘弁してくんない?〉

GNデバイスその3(仮)は抗議の声を上げるが、フェルトは二人からの意外な言葉に今の状況も忘れて呆けてしまう。
だが、次の瞬間には新たな感情が彼女の心の奥底から生まれてくる。

(助けてあげたい……こんな私でも、みんなを支えてあげたい!)

あの時、ロックオンが自分に優しく接してくれたように。
ユーノが、苦しい時に一緒にいてくれたように。
みんなが、支えてくれたように。

「そこまでよ!」

「「!!」」

上から飛んできたオレンジの弾丸から庇うように、ロックオンはフェルトを抱いて地面を転がってそれを避ける。
そして、すぐさま太陽の影に隠れている敵へ向けて腰から抜いた銃を連射する。
だが、ロックオンの放った弾丸は全てかざされた手の前にできた何かによって弾かれてしまった。

「止まりなさい。あなたたちをユーノさ……広域指名手配犯、ユーノ・スクライアの関係者とみなし、事情を聞かせてもらいます。大人しく投降しなさい。」

クロスミラージュのアンカーを使い、悠然と下に降りたティアナは鋭い目つきで二人を睨む。

「さっきの攻撃でわかったでしょう。あなたたちじゃ私に指一本触れられない。抵抗するだけ無駄よ。」

「だからってはいそうですかって言う犯罪者がいるとでも?」

ロックオンは右手で銃を握ったままフェルトを後ろに隠す。
そして、

「……逃げろ。」

「え……?」

冷や汗がにじむ笑顔で、ロックオンは小さな声でフェルトに伝える。

「俺が気を引く。その間になんとか逃げろ。」

「けど、それじゃロックオンが!!」

「俺は一人ならどうとでもなるさ。お前が先に逃げてくれた方が気兼ねしないで済む。」

フェルトでも、それが嘘だとはっきり分かる。
こっちは文字通り指一本触れられず、向こうは無制限に攻撃してくる。
逃げ切るなどまず不可能だ。

「なら、私が代わりに囮になる!マイスターのロックオンより、私が犠牲になった方が!」

「バーカ。お前見捨ててきたら俺はその場でガンダム下ろされて袋叩きだよ。だったら、俺が残るのが最善の選択ってやつさ。」

「そんな!!」

「……悪いけど、私はお喋りに付き合うほど気は長くないの…クロスミラージュ!!」

〈All right!〉

薬莢が飛び出し、ティアナの周りに無数の魔力弾が浮かぶ。
それを見たロックオンはフェルトを突き飛ばして自分から離す。

「早く行けっ!!」

「駄目!!ロックオン!!!!」

「クロスファイアー、シュート!!!!」

オレンジの凶弾がフェルトに気を取られているロックオンへ迫る。
そしてその時、フェルトは反射的にロックオンの前に飛び出していた。

「ばっ……!!?」

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」



オフィス街

驚くほど綺麗に通行人たちが二人を避けて通っていく。
だが、その不自然さもこの時の二人には気にしている余裕などなかった。

「はぁっ…!はぁっ…!」

超兵としての勘がささやきかけてくる。

「はぁっ…!!はぁっ…!!」

一刻も早く、ここから離れなければならないと。
とてつもなく危険な何かが、もうすぐそこまで来ていると。

アレルヤとマリーは、言葉をかわすことなくそれを敏感に感じ取っていた。
いや、二人に限った話ではない。
いつもは喧嘩で騒がしいソーマとハレルヤも、今回は神妙そうな様子で黙りこくっている。
それほどまでに、事態は切迫しているのだ。

しかし、それでも二人の手は固く結ばれていた。

「アレルヤ……!!もう、私のことはいいからアレルヤだけでも…」

「駄目だ!!もう、君を見捨てることなんてできない!!」

〈そうだよ……せっかく会えたのに、ここでさよならなんて悲しすぎるよ!〉

一分一秒だって離れていたくない。
この温かさを二度と失いたくない。
そんなアレルヤの想いが手を通じてマリーにも伝わり、さらにGNデバイスその4(仮)にも伝播していく。

(……私もだよ、アレルヤ。)

いや、アレルヤだけではない。
プトレマイオスに乗ってからの出会った人々。
彼らとの絆も、マリーにとってはかけがえのないものだ。
だから、

〈Plasma lancer!〉

「ファイアッ!!」

「!!マリー!!」

アレルヤは迫りくる雷撃の槍からマリーを遠ざけるため、彼女を抱いて正面へと跳ぶ。
バチバチと音をたてながら歩道に焦げ痕を残した槍は消滅していくが、それを放った人物は消えることなく空から舞い降りる。

「エリオを返して……!」

フェイトは漆黒の戦斧を突きつけながらすごむ。
だが、マリーとアレルヤは恐れることなく立ちあがる。
二人が作ってきた、そしてこれからもその先に繋がっていく絆は、こんなことでは揺るがないのだから。



北部 ビル群

ビルの上をひょいひょいと器用に飛び移っていくティエリア。
そして、彼に背負われたアニューは少しからだが竦むのを感じながらも黙って彼に全てをゆだねる。

「怖くないか?」

「大丈夫よ。それより、急いだ方がいいんじゃない?」

アニューの言葉にティエリアはうなずく。
状況から判断するに、彼女たちはユーノが以前言っていた管理局の知り合いだろう。
その実力は組織の中でも抜きんでており、実戦経験も豊富なSクラス魔導士だという。
メガーヌから聞いた話が嘘や冗談の類でなければ、Sクラスの魔導士になれば一個小隊など軽く蹴散らす力を持っているという。

(……冗談であってほしいがな。)

〈……っ!でもないみたいだぜ!!〉

「!?」

いつの間にかティエリアたちの上に巨大な光球が出現していた。
それはビルの屋上に触れるか触れないかのギリギリの大きさまで肥大化してティエリアとアニューを押しつぶそうとするが、ティエリアは咄嗟に一気に高度を落として地上まで降りる。

地面スレスレで急ブレーキをかけるが、勢いを殺しきれなかったせいでアニューともども固い道路の上に放り出される。
肺に伝わる衝撃でむせぶアニューだが、ティエリアはそれを心配しながらも助けに行けずにいた。

「ええ度胸やな。あんだけ魔力駄々漏れ状態で逃げるなんて。」

「君たちが優秀なら探知される危険を心配してゆっくり進んだところでいずれ見つかる。ならば…」

「多少早う見つかったとしても距離を稼いどくほうが得策っちゅうわけか……お褒めにあずかり光栄やけど、こうなった時の対抗手段はあるんか?」

面と向かって金の十字架を突きつけてくるはやてにティエリアはギリリと歯ぎしりをする。
そう、問題はここから。
ティエリアがメガーヌから教わったのは飛行魔法と基礎的な射撃、防御の魔法。
それだけのカードで百戦錬磨の魔導士に勝てると思うほどティエリアも傲慢ではない。
しかし、それでもやらなければならない。

『四の五の言わずにやりゃあいいんだよ。お手本になるやつがすぐそばにいるじゃねぇか……自分の思ったことをがむしゃらにやる馬鹿がな。』

彼の言葉がよみがえる。
そう、ただがむしゃらに戦い抜く。
彼の魂に、戦いの中で命を散らしていった仲間たちにそう誓ったのだ。

「僕は戦う……!!がむしゃらに、お前たちと戦う!!」



東部

「ま、待って刹那!!」

「待ってる暇なんてねぇっての!!ほら早く!!」

沙慈が何か叫んでいるが、刹那は彼の腕を離そうとしない。
ジルとともに道行く人を強引に押しのけ、少しでも前に進もうとする。
沙慈がルイスと再会して、あそこにとどまりたい気持ちはわかる。
だが、沙慈には未だにカタロンの構成員であるとの疑いがかけられ、さらに自分たちといるところを見られたのだ。
以前捕まった時は事なきを得たようだが、そんな幸運が二度も続くとは考えにくい。

「すまない……」

それが、刹那の精一杯の言葉だった。
沙慈に課した重荷に対し、あまりにも軽すぎる言葉。
しかし、今の刹那が言えることはそれだけなのだ。
どれほど罵られようと、どれほどこの身を傷つけられようと、謝罪以外にできることなどない。
そう思っていたが、首にかけていたGNデバイスその5(仮)の言葉で目を覚まさせられた。

〈……お前は変わらなくてはならない。〉

「!!」

〈声をかけるのみが想いの示し方ではない。しかし、ただ刃を振るうだけでは、それは狂気となんら変わらない。だから、お前は変われ。ただ戦うのではなく、明日を……未来を切り開くために戦え!〉

「……ああ。」

この絶望的な状況下のせいで忘れかけていた。
倒れて言った仲間たちの分まで、刹那は生きなければならない。
戦いしか知らない刹那は、それでもその先に自分なりの答えを、戦う意味を見つけ、これからも変わるために戦っていくのだ。

(俺は戦うことしかできない破壊者……!だからこそ、俺にしかできないことがあるはずだ!)

だから、

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「刹那!!」

ジルの警告のおかげで、真上から打ち下ろされた拳を間一髪でかわす。
その威力で人は倒れ、地面は砕けて灰色の塊がいくつも転がるが、幸いにも刹那と沙慈、ジルを含めて怪我人は一人もいなかった。
だが、ウィングロードから飛び降りてきたスバルと刹那たちの間に漂い始めた不穏な空気を感じ取ってどんどん人がその場を離れていく。

「時空管理局です!武器を捨てて投降してください!」

「ケッ!だ~れがそんなことするかよ!大人しくしたってろくな目に合わないのは決定だろうが!」

毒づくジルだが、刹那たちにとってその意見はもっともだ。
ここで大人しく捕まるつもりは端からない。

「そういうことだ……悪いが、ただやられてやるつもりはない!」



地下水路

「エ、エリオ君!速すぎるです!というかアクロバティックすぎです!!」

エリオの背中でミレイナはキャーキャー叫ぶ。
超高速、しかも壁や天井を足場にノンストップで突っ走っているのだからミレイナのみている光景はすでにグルグルと回転し、ただ自分が物凄いスピードで動いていることしかわからなくなっていた。

「ごめんなさいミレイナさん!!でも今は早くここから離れないと!!」

「て、て言うかエリオ君は残るんじゃなかったですかぁぁぁぁ!?」

「!」

ミレイナのエコーがかかった声にエリオは思わずその場で足を止める。

(そうだ……もう、僕には関係のないはずなのに……)

刹那にもそう言われた。
ここで彼らと別れるのが今の自分にとって最善の選択のはずだ。
なのに、

「……つかまっててください。」

「へ!?うひゃあああぁぁぁぁぁぁですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

勝手に体が動く。
フェイトから授かった閃光のごとき速さでこの先を目指してしまう。

(そうだ……ミレイナさんを放っておけない。彼女を送り届けたらすぐにでも…)

戻ってどうするのか。
アロウズと、あの理不尽極まりない集団と共闘する管理局に戻ったところで自分の心を押し殺すことに慣れていくだけだ。

(ああ……そうか…)

ようやくわかった。
心の中に巣食うもやもやの正体が。

(僕は……ソレスタルビーイングにいたいんだ。)

世界を変えたい。
こんな理不尽がまかり通る世界を、キャロや自分が生きる世界を変えたいのだ。

「……だから、今は帰れないよ……キャロ。」

エリオは立ちふさがるキャロを見つめながら言い放つ。
ようやく追いついたキャロはフルフルと首を振りながら近づいてくる。

「なんで……?エリオ君、私やフェイトさんと一緒にいるのが嫌なの!?」

「違う。だけど、今は戻れない。僕も、あの人たちと一緒に戦ってみたいんだ。」

「そんな…そんなのおかしいよ!あの人たちはルールを破って…」

「そのルールが僕らを守ってくれた?僕はフェイトさんに助けてもらうまで、この世界を許せた日なんて一日たりともなかった。僕は救われたけど、そんな世界は変わってはいないし、ルールで縛られて僕たちのような人間を見捨てる人たちを正しいなんて思えない。」

エリオは、いや、背中から降りたミレイナもキャロの放つ気配が徐々に異様なものへと変化していることを感じる。
以前の彼女からは考えられないほど冷酷で、無邪気な負の感情がほとんど垂れ流し状態、隠そうともせずに二人の身を突き刺してくる。

「アハハハ………そっか、その人たちに何かされたんだね?大丈夫だよ、すぐに私の知ってるエリオ君に戻してあげるから……」

静かだが、形容しがたい不気味さがこもったその声にエリオもストラーダを構える。

「怖くないよ?ただ……ほんのちょっと痛いだけ。」

刹那、地下水路を轟音が包み込む。
この密閉された空間で竜魂を召喚されたフリードが窮屈そうに羽をたたみ、メラメラと燃え盛る火炎を口の隙間から漏らしている。

「抵抗しないで。あんまり傷をつけたくないから……」



ショッピング街

「大分、離したかな……?」

人の気配が無くなってきたところでユーノは後ろを振り返る。
今のところ追われている様子はないが、別の場所では懐かしい魔力反応が感じられる。

(流石にこのまま撒くのは無理だったか……ったく、こんな時ほどみんなと知り合ったことを後悔するときはないよ。)

おそらく他のメンバーははやてたちのうちの誰かと鉢合わせたのだろう。
対抗手段を持っているのは生身での戦闘にも慣れているマイスターたち、その中でも魔法を使える素質を持つ刹那とティエリアくらいだろう。
その二人も、はやてや元六課のフォワードと比べると魔法の運用という点ではどうしても見劣りしてしまう。

(……スメラギさんをVTOLまで送ったら一旦みんなの援護に……っ!!?)

突然視界が桃色一色で染め上がる。
ギリギリのところでその光の柱を回避したユーノだったが、ビルの屋上に肩から突っ込んでしまう。

「かっ……はっ…!!」

激しく打ちつけた右肩をかばいながらもスメラギの無事を確認すると、容赦なく飛んできた追撃を強化した手で払いのける。
桃色の光弾は床に叩きつけられ乾いた音を残して消えるが、そんなことよりも自分を見下ろしている彼女の存在が重いプレッシャーとなってのしかかってくる。

「意外と……元気そうだね。」

起きたスメラギを後ろに下がらせ、いつでも防御魔法を使用できるように魔法陣を展開する。
しかし、デバイスのない今、できることなら逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
なぜなら、エース・オブ・エースの相手を丸腰でするなど自殺行為に等しいのだから。

「ユーノ君……悪いけど、捕まってもらうよ。」

「“友達”なんだから見逃してくれない?」

「できないよ。」

きっぱりそういうなのはにユーノは苦笑するが、カートリッジの排出と同時に生成されたアクセルシューターにさらに苦笑いの苦みの部分が強くなる。

(どうする……!?スメラギさん一人で逃げさせても途中でつかまる可能性が高い……)

ならば、なのはを倒して強行突破を敢行するか。

(いや、こっちの方が無茶か……!)

なのはと戦えるのかという以前の問題に、デバイスを持たない自分と彼女の実力の差は明白だ。
無策の今、勝てる見込みなど1%もあればいい方だ。

(また、守れないのか……!?)

父の時のように。
エレナの時のように。
ロックオンの時のように。

(……僕は……なんて無力なんだ……!!)

悔しくて仕方がない。
守るための力を、ガンダムを手にしたのに、肝心な時には何もできない。
それでも、この想いだけは曲げない。

「守ってみせる…!!僕の目の前で、僕の大切なものを一つたりとも奪わせるものか!!」

この胸に宿すは、砕けぬ信念。
全てを守るという、絶対たる誓い。

〈そう……それが、あなたの覚悟。譲れない願い。〉

「!?」

驚いたのはユーノだけではなかった。
GNデバイスから放たれる眩い翠の光になのはとスメラギも目を細める。

「あれは……ジュエルシード!?」

〈違います……GNデバイスです!!〉

高らかにそう宣言した時には光はおさまり、かわりに二つのコアを為す二つのジュエルシードがユーノの魔力光と同じ翠に染まっていた。

〈僕に名を!my Meister!〉

「名前……」

ユーノが思い描くのは、翠の天使。
決して砕けぬ、絶対たる守護の盾。

「我が胸に宿すは砕けぬ願い……全てを覆う守護の盾!」

ジュエルシードから溢れだす魔力が、渦を巻いてユーノを覆う。
その光に彼の名を乗せるように叫んだ。

「クルセイド!!セーーットアップ!!!!!!」

〈All right,my Meister!!Start up!!〉



西部 裏通り

「うそ……!?」

「オイオイ……!」

「これは……!」

三人が三人、フェルトにティアナの一撃がクリーンヒットしたと思った。
しかし、それは彼女の服の胸ポケットから溢れ出る深緑の魔力光に阻まれ、霧散し、さらにその圧力でティアナを押し飛ばした。

「クッ……!?」

何とか着地するティアナだったが、突如発生した強力なエネルギーを前にその成り行きを見守るしかない。

〈大切な人を支えたいという想い……それこそが、フェルトちゃんの覚悟であり願いってわけか。〉

「覚悟……願い……?」

〈そう……強い覚悟は願いの表れであり、願いは覚悟を生み出す根源。フェルトちゃんは、家族みたいに接してくれるこいつらを支えたいと思った……その強さは、俺を認めさせて余りあるものだ。〉

彼はクスッと笑う。

〈ホント……あの子の言ってた通りだね。いざとなると自分なんかよりずっと強いって言ってたよ。〉

「え……?」

フェルトが呆けるのと同時に深緑の光は消え、バラの髪飾りがフェルトの前髪にちょこんとおさまる。

〈ほら、そんなことよりあのツンデレな感じの子がお待ちかねだよ。〉

ハッと顔を上げたフェルトの前には、再びクロスミラージュを構えて近づいてくるティアナがいた。

「ど、どうすれば……!?」

〈フェルトちゃんの今の気持ちを言葉に、呪文にすればいい。後は名をくれれば俺が何とかする。〉

「私の気持ち…」

フェルトは一瞬考えるが、すぐにキッと顔を引き締める。
そして、自分だけの呪文と、深緑の天使を思い描く。

「我が胸に宿すは静かなる願い……彼方より、輩を支えし疾き一撃!」

深緑に染まったジュエルシードから出現した魔力の渦がフェルトを包み、叫びとともにその力を顕現させる。

〈ケルディム!!セーーットアップ!!!!!!〉

〈All right!!my Meister!!Get set!!〉



オフィス街

「クゥッ!!?」

突然発生したオレンジの輝きがアレルヤとマリーへ突進してきたフェイトを押し返す。
当のマリーたちも彼女のブローチから放たれる強い光に何が起こったのかわからずにいた。
だが、

(温かい……)

強すぎるきらいがあるが、決して悪いものではないことだけはわかる。
まるで、アレルヤの心に直に触れているようだ。

〈ううん。これはアレルヤだけの温もりじゃない。君と、君の中にいるもう一人の君が持つ覚悟と願いの形だ。〉

「私と、ソーマの……?」

〈ああ。君の覚悟は、彼やその仲間たちとの絆を紡ぐこと。誰かと心を寄せ合うことが、君の強さの源だ。〉

(絆……)

マリーとアレルヤの思い出。
ソーマは、セルゲイとの親子としての絆。
そして、そこからさらに先へと無限に広がっていく絆。
孤独だったマリーは、それを守り、紡いでいくことの重要性を誰よりも知っている。
だからこそ、彼はその光に惹かれたのだ。

〈さあ、Mein Meister。僕にあなたが望む名と、その力の形を示して。〉

彼のその言葉と、力強くうなずくアレルヤの笑顔にマリーもまた笑顔で答え、オレンジの渦の中で高らかに心の中に思い浮かんだ言葉を読み上げる。

「我が胸に宿すは温かなる願い……永久の繋がりを紡ぐ翼!」

その名は、

「アリオス!!セーーットアップ!!!!!!」

〈Ja!!Mein Meister!!Anfang!!〉



北部 ビル群

はやては訳もわからず、ただ凍えていた。
さまざまな環境に適応し、装着者を最適な状態に保っておいてくれるはずのバリアジャケットをつけているのに、目の前にいる青年から発せられる紫の光と冷気に当てられて信じがたいほどの寒さを感じてしまう。

「まさか……氷結変換!?」

だとしても、この魔力量は異常だ。
なのはには一歩及ばないかもしれないが、これだけ膨大な魔力と変換資質を同時に有しているというだけで十分脅威だ。
しかも、彼がつけているブレスレットから感じるこの力は、多少違いはあれどよく知っている。

「まさか……ジュエルシードをデバイスにつこうたんか!!?」

〈そういうことだ、腹黒女!!しかし、見直したぜ根暗!〉

心底嬉しそうに、彼はティエリアに語りかける。

〈もっと冷めてんのかと思ったけど、意外と熱いじゃねぇの!!それがお前の中にあった覚悟と願い、がむしゃらさと、仲間への誓いだ!〉

「いや……違うな。」

ティエリアはフッと自嘲すると、アニューをさがらせ自らは銀幕と化した道を悠然と前へ進む。

「これは、僕たちにとってかけがえのない人がくれたものだ。僕一人では、到底手にすることなどできなかった。」

〈けど、理由はどうあれお前はその強さを今持っている。だったら、やることは一つじゃねぇのか?my Meister。〉

「ああ……!!」

紫の渦の中心に立つティエリアは、紫に染まった宝石が飾られた右腕を掲げて目を閉じる。

「我が胸に宿すは熱き願い……全てを薙ぎ払う氷魔の息吹!」

カッと目を開いたティエリアは仕上げに今まで味わったことのない高揚感とともに咆哮した。

「セラヴィー!!セットアップ!!!!!!」

〈All right!!my Meister!!Set up!!〉



東部

風撃変換
あらゆる変換資質の中でも最も希少であり、最も扱いづらいスキルの一つである。
まず、魔力を風、すなわち大気の動きに変換するというのがネックになってくる。
知っての通り、よほどの速度や密度を持たないと大気というものは武器になりえない。
それだけのエネルギーを魔力で生み出すのはかなりの重労働であり、これをいかに効率良く行えるかが風撃変換を使う上で重要になってくる。
さらに、その希少性ゆえに戦略や鍛練の方法が確立されておらず、宝の持ち腐れになることが多々あるのだ。
しかし、裏を返すならば、もし使いこなすことができればセオリーにはない攻撃方法を生みだすこともでき、相手に何もさせずに完封することも可能。
つまり、風撃変換とは使い手によってただのお飾りにもなるし、他に類を見ない強力な武器にもなりえるのだ。

それが、スバルの中に知識だった。
だが、およそ魔法戦の経験が自分より豊富だとは思えないこの青年から吹きつけてくる蒼い風は戦うために存在するものにしか思えない。

「せ、刹那!?一体何を…!?」

「いきなりマジモードか!?」

突然のことに沙慈とジルも慌てるが、一番驚いているのは刹那だ。
自分の意思とは関係なく強力な魔法が発動し、自分たちを守っている。
しかも、これだけ派手なのに刹那が感じている疲労感はいつもよりはるかに小さなものだった。

最初は戸惑っていた刹那も、この力を使っているものがなんなのか理解し、首元の飾りへと視線をやる。

〈……お前の覚悟と願いは戦うこと……そして、その先に未来を切り開くこと。〉

「……ああ。」

〈お前は…いや、あなたは我が主たるにふさわしい。どうぞご指示を、Mein Meister。〉

寡黙な性格によく似合った、固い口調の彼に刹那はかつての自分を重ねて微苦笑し、自らの心の赴くままに言霊を生みだす。

「我が胸に宿すは鋭き願い……歪なるを断ち斬り、未来を切り開く一迅の風!」

さらに蒼が濃くなったジュエルシードを手に取り、刹那は大気を震わせる。

「ダブルオー!!セットアップ!!!!!!」

〈Ja!!Mein Meister!!Anfang!!〉



郊外

天を衝く五色の光。
クラナガンの住民たちは突如現れたそれに戸惑いながらも、その美しさに目を奪われていた。
そして、一人あの場から離れたウェンディも人気のない草原でそれに見とれていた。

「すげぇっス……!」

『すごいついでに俺様からプレゼントだ。』

「!フォン!!」

ポケットの中から聞こえてくるフォンの声にウェンディは視線を戻し、端末でフォンの顔を映す。

『一つ聞いとくぜ。』

「?」

『お前は、自分の我のために人を撃てるか?』

「は……?」

怪訝そうな顔するウェンディに対し、フォンは獣のようなその瞳をぎょろりと動かす。

『戦争ってのは突き詰めれば我の通し合いだ。テメェの都合を押し通すために他人の都合を弾き飛ばす。聖戦と言おうが、綺麗言を並べようがな。そう…』

フォンの口の端がスゥッと吊りあがる。

『紛争の根絶のためだと言おうがな。』

「……!」

『それでも戦いの場に赴くってんなら、俺がお前に力を与えてやる。ただし、途中で逃げようとしたら容赦なく殺す。』

「………………………!!」

本気だ。
長くフォンとともに行動し、彼からありとあらゆるものを学んでいたからわかる。
フォンは、一歩踏み出したのにさがろうとする者には容赦などしない。
だが、それでも。
いや、それがきっかけでウェンディの心は決まった。

「……どこに行けばいい?」

『あげゃ!良い面だ……そこらのガキよりはマシになったな。』

ディスプレイの横に座標が表示される。
ウェンディはすぐ近くであるそこへ早足で、最後には駆け足で向かう。

『「よぉ。」』

端末と肉声が重なる違和感も気にせず、ウェンディはフォンが寄りかかっているそれに一歩一歩、しっかり大地を踏みしめながら近付く。

淡い赤の翼は草原の緑によく映え、胴体の下に取り付けられた長い砲身は黒光りしてその存在を誇示している。
フォンの手で改良を受けたアブルホールは、使い手であるその少女がやってくるのをずっと待っていたのだ。

「案外あっさりこっちを選んだんだな。」

パイロットスーツを投げ渡されたウェンディは着替えながら鼻で笑う。

「これでも結構迷ったんスよ。なにせ、悩み多き乙女なもんで。」

「そんなサバサバした態度で言われてもな。」

コックピットに座り、マレーネをコンソールの横の溝にはめて起動準備に取り掛かる。

「ご丁寧にマレーネの席まで用意してるとは、なんともはや……」

〈未熟なあなた一人で操縦するよりはマシでしょう。〉

「言ってくれるッスね……フォンはこれからどうするんスか?」

「俺は連中の援護に回る。今頃シャル達も大慌てでこっちに来てるだろうぜ。」

「そんじゃ、目下あたしのやることはそろそろ出てくるMSの足止めと囮っスね。」

「エウクレイデスが来たら俺もアストレアで出る。任せたぜ、“ウェンディ”。」

「了解、フォン。」

赤い光を避けるようにフォンは距離を取り、それを確認したウェンディはアブルホール改を空へと上げる。
ふと、モニターに映った文字に目が向けられる。

「Sphinx……運命の輪っスか。」

スフィンクスが描かれているカード、タロットのナンバー10、運命の輪。
その意味は転換点、結果、定められた運命。
だが、逆位置だとすれ違いや情勢の悪化。

おそらく、フォンはいずれこういう日がやってくるのをわかっていたのだろう。
だから、改良型にこの名前を与えた。
すれ違いも、結果として受け入れてこの大転換点を乗り切る。
その可能性を、ウェンディに託したのだ。

「ったく、面倒を押し付けてくれちゃって……けど、やってやるよ!」

気合を入れ直し、新たな翼の名を呼ぶ。

「ウェンディ、ガンダムスフィンクス、目標へひとっ飛びっス!!」






後編に続く



[18122] 34.新たな翼(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/27 22:06
?????

「お?やっと本気モードか?」

金髪の少年は寝転がっている状態から上半身をむくりと起き上がらせると五色の光の柱を見てニヤリと笑う。

「ジジィはあいつを消したがってて、リボンズはあいつを手に入れるために俺を生みだした……わざわざFの技術を使ってまでな。」

「それだけじゃないでしょ。Fの技術を使って記憶を復元しても、あんたは一応イノベイドなんだからさ。」

「オイオイ、イノベイドって呼ぶなよ。リボンズ曰くイノベイターなんだからよ。」

「あいつがそう思ってんのは自分だけでしょ?正直、なんであんな奴らにあんたが従っているのかあたしにはさっぱりだわ。」

「いいんだよ。俺のやりたいことをやるにはまだ早いんだからさ。」

そう言うと、少年はゆっくり立ち上がる。
血まみれの局員の死体のド真ん中で。

「しっかし、やりすぎじゃない?いまさら『い~ち抜~けた!』なんて言うこいつらもこいつらだけどさ。」

「やりすぎね……その責任はほとんどあいつにあるんだがな。なぁ、“兄弟”……」



魔導戦士ガンダム00 the guardian 34.新たな翼(後編)


郊外 上空

「早くしろ!ガンダムに乗っていない今が好機だ!!」

アロウズ所属、バラック・ジニン大尉は連絡を受けると残っていた部下を引き連れていち早く動いていた。
四年ぶりに表立って行動を開始したソレスタルビーイングと初めて遭遇した彼は、その折に部下を一人失っている。
軍人でいる限り、彼もまた死を覚悟していたであろうが、四年前の介入の際にも多くの仲間たちが犠牲になったことが思い起こされ、心中穏やかでいられない。

『た、大尉!市街地に侵入しては管理局との盟約が…』

「入らなければ問題はない!!街の外に置いてあるガンダムか輸送機を破壊すればいい!!」

水をさしてくる部下を怒鳴りつけ、バラックは周囲の捜索を開始する。
上層部もそうだが、アロウズの一人一人が異界という普段と違う環境のせいでどこか浮き足立っている感があるように思われて仕方がない。
むろん、バラックも戸惑いはしているが、それでも必要以上に管理局に媚び諂う必要などない。
むしろ、ガンダムのパイロットを一人輩出しているという点では詫びてほしいくらいだ。
そんな政治的なしがらみに苛立ちを覚えつつもバラックはアヘッドを近くの森へ向ける。
だが、その時センサーのモニターにありえないものが映る。

「反応!?しかもこの距離まで感知できないだと!!」

GNドライヴを搭載していない限りこんな芸当は不可能である。
しかし、現在ガンダムのパイロットたちは足止めをくらっているはずだ。

「ならば一体…」

バラックがその続きを言おうとした瞬間、紅蓮の砲撃がバラックたちの機体の間を突き抜けていく。
通常の砲撃と比べると多少攻撃範囲は狭いが、その分こいつは速い。
バラックたちが気を張り詰めていると、雲を切り裂きながらそれは現れた。
淡く赤い翼をした戦闘機が、下に装備された細長い砲身から砲撃の残照を散らしながらこちらへと向かってくる。
機体と同じ色の粒子を放出しているところを見ると、疑似型ではあるがやはりGNドライヴ搭載機だ。

「羽根付き!?」

しかし、四年前の時の物とも今の物とも造りが違う。
となると、新型だろう。

「だが、たった一機で四機を相手にできるとでも…」

「スフィンクス、敵の侵攻を阻止するっス……じゃなくて、阻止する。」

「!!」

紅蓮の羽根付きは、左脇にあるマシンガンを連射してジンクス一機を隊列から引き離す。
しかし、撃墜するには至らず逆に接近を許してしまう。

「終わりだ!!」

ランスの銃口を突き付け、勝利を疑わないパイロット。
だが、突然羽根付きの動きが止まって急降下を開始する。

「なっ!!?」

それまで粒子を放出して推進力に変えていたスラスター部分が脚になったかと思うと、ある程度降下したところでホバリングして止まる。

「も~らいっ!!」

そのままジンクスを中心に、滑るような動きと赤い連射で張り付けにした羽根付きは敵機が完全に沈黙したことを確認すると落ちていく光景も見ずに元の戦闘機に変形して残る三機の周囲を飛びまわる

「クソッ!!だが、その姿では接近戦はできまい!!」

バラックは先回りしてビームサーベルを抜いて羽根付きを待ち受ける。
しかし、羽根付きは勢いを殺しもしないでそのまま真っ直ぐに突進してきている。

「特攻か?無駄なことを…」

確かにここでスピード緩めれば的になるが、かと言って特攻したところでかわされてその後で直撃を受けるのがオチだ。
しかし、羽根付きのパイロットのとった手段はそのどれとも違うものだった。

「!!」

バラックも不穏なものを感じ、反射的にアヘッドを半歩下げる。
それが、生死を分けることになった。

「なにぃっ!!?」

先程はただスラスターが脚になっただけだったが、今度は機首が背中に周り、両脇から腕が出現する。
巨大な翼は両肩に移動し、胴体の中から細長い頭が出てきて額にたたまれていたⅤ字の角を大きく広げる。
それまで赤一色だった装甲も繋がっていた部分がわずかに広がり、その間から白い別の装甲をのぞかせる。
機体の下についていた砲身は右手に握られ、左手には腰から抜いた赤く輝く短い刀身が握られ、それまでアヘッドがいた空間を鋭く斬り裂いた。

「クゥ!!おっしぃ……!!後もうちょいだったのに!!」

アヘッドを落とせなかったことを悔しがるウェンディだったが、十分バラックたちの度肝を抜かすことに成功していた。

「三段変形だと……!?どんな馬鹿がつくった機体だそれは!!」

バラックたちの集中砲火に、MS形態をとっていたガンダムスフィンクスは再び戦闘機形態に戻って空を縦横無尽に飛び回る。
MSと戦闘へというそれまでの変形に加え、その間のような形態への変形も可能なスフィンクス。
もともとそれは完全なMSへの変形を想定して造られていなかったアブルホールの名残なのだが、フォンはそこへさらに完全なMS形態を加えて戦略の幅を広げることを選んだのだ。
もっとも、フォンにその才能を見いだされたウェンディをもってしても未だ完全に使いこなすことはできていないが、GNドライヴ搭載機四機を相手に渡りあえているのだから、その潜在能力は相当のものだろう。
スフィンクスを操るウェンディは誰よりもそれを肌で感じつつ、街にいるメンバーの様子を気にかける。

「みんな大丈夫っスかね……ティアたち相手じゃ結構きついはずだけど…」



東部

刹那は全身を駆け巡る力を確かに感じながら、見えない衣をはぎ取るように右手を軽く一振りする。
その瞬間、周囲で渦巻いていた風がおさまり、蒼い光の中から刹那がその姿を現した。

背中に二つの穴があいた蒼を基調として白のラインが入ったTシャツ。
腕には蒼い篭手と関節には瑠璃色のクリスタルでできたプロテクターをつけ、右手にはGNソードⅡ、左腕にはシールドを装備しているが、それ以外は一切なにも身につけていないため中東の人間特有の浅黒い肌が露わになっている。
脚には具足ではなく蒼色の光を放つ白いブーツと白に風が流れるような蒼のラインが入った長ズボンと腕と同じプロテクターが動きを妨げず、しかしきっちりと防御としての役目を果たしている。
腰には金属製のベルトを巻き、そこには二本の白い柄が収められている。

「刹那…」

首の赤いスカーフをたなびかせ雄々しく立つ刹那にジルは戸惑うが、いつものようにポーカーフェイスままで手をさしのべられる。

「ジル、力を貸してくるか?」

「……!ああ!!もちろんだ!!」

ジルを肩にちょこんとのせ、刹那はスバルに切先を突きつける。

「沙慈・クロスロード……先に合流地点に向かえ。」

「う、うん!」

沙慈は促されるままに走りだす。
スバルはそれを追おうとするが、刹那から放たれた見えない斬撃ですぐ目の前の道を斬られて足を止める。

「……ここは通さない。」

初撃で刹那が、初めは単なる戦闘慣れした人物としか思えなかったこの青年が、十分脅威になることを感じ取った。

「押し通ります。」

「させん。」

〈〈Explosion!〉〉

マッハキャリバーとダブルオーもカートリッジを炸裂させ、臨戦態勢に入る。
二人の間に静かだが重い空気が流れ、緊張で神経が張り詰めていく。
そして、その静けさは刹那の斬撃で舞い上がっていた石の欠片の落下音で破られた。

「刹那・F・セイエイ、ダブルオー、目標を駆逐する!!」

「いくよ!!マッハキャリバー!!」

同時に飛び出した両者は拳と刃をぶつけあう。
激しく火花を散らす二つのデバイスと二人の戦士。
鍔迫り合いの末、一旦離れた刹那はスカーフに隠れているダブルオーの言葉に耳を傾ける。

〈マイスター、伝えておかなくてはならないことがあります。〉

「なんだ?」

〈我ら、GNデバイスの性質についてです。〉



オフィス街

「あなたたちの性質?……って!?きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「お、落ちるっ!!僕は魔法は使えないんだって!!」

オレンジの戦闘機の翼につかまりながらマリーはなんとか聞き返す。
しかし、魔法が使えないアレルヤはしがみつくのに必死でそれに耳を傾ける余裕などさらにない。
そんな状態にもかかわらず、アリオスは話を続ける。

〈ドクターはジュエルシードを使うことでGNドライヴの性能を再現しようとしましたが、僕たちの力は根本的な部分ではGNドライヴと大きく異なるんだ。〉

「ど……いうことっ!!?」

後ろから飛んできた電撃弾を伏せてかわし、身近な建物の屋根の上に降りる。

背中が大きく開いた黒一色の伸縮性のあるタンクトップにさまざまな形のナイフや種類豊富なカートリッジが入ったホルスターがついている。
アリオスのパーソナルカラーである鮮やかなオレンジで染められたスカートの下には頻繁に宙を飛ぶことになるマリーを気遣ったのか、パイロットスーツのようなもので隠すべきところを隠していた。

〈……アレルヤ、もしかして期待してた?〉

「そんな余裕ないって……」

「それよりアリオス、詳しく聞かせて。」

〈了解。まず、僕たちが君たちにしてあげられるのは魔法を使う時のブーストだけだ。〉



北部 ビル群

「もっと簡潔に言ってくれっ!!」

ティエリアは器用に両手に持った巨大なバズーカ二門をはやてを牽制するために連射しながらセラヴィーに問いかける。

黒のダメージジーンズに背中が大きく開いた白のシャツ。
さらに、MSのマニュピュレーターを思わせるような異常に分厚い黒のガントレットと三本のクローがついた具足がティエリアの中性的な印象を打ち消してなお余りある男らしさを醸し出していた。

そんな彼の姿に少しもったいないなという感想をいだきながらセラヴィーは説明する。

〈だからよぉ、俺たちはお前らの魔法を発動させる際にそれぞれの波動と同調させた魔力を供給してフォローすることはできても、俺たちの魔力そのものだけで魔法を使うことはできねぇんだよ。つまり、お前らの魔力がすっからかんになったら普通の魔導士と同じように打ち止めってこった。まあ、その代わり使いようによっては単なる射撃魔法でも超ド級の威力を持たせたりすることもできるんだがな。そこんところはお前らが各自自分に合った使い方を考えてくれや。〉



ショッピング街

「なるほどね、要は全自動カートリッジシステムって感じか。理屈は大体わかったけど、当然制限はあるんだろ?」

〈はい。僕たちの魔力の比率を大きくしすぎると、マイスターたちのリンカーコアに影響を及ぼし、最悪死に至ります。もっとも、そうならないために僕たちがストッパーとして存在しているんですが。あ、ちなみにカートリッジも使えますから場合によって使い分けてくださいね。〉

「なるほど……万能ってわけにはいかないってこと…だっ!」

桃色の流星を切り捨てながらユーノは苦笑する。

アームドシールドを右腕につけ、翠のズボンと背中に二つの穴が開いた白いシャツ。
二色のリボンを腕に巻き、腰に巻き付けた白銀のマントをたなびかせるその姿はさながら物語の中から勇者が飛び出してきたようだ。

〈けど、それでもマイスター・ユーノは助かるんじゃないですか?ただでさえリンカーコアの潜在魔力量が気の毒なレベルなわけですし。〉

「……クルセイド。言葉は時に核ミサイルより凶悪な兵器になるんだよ。」

〈ご、ごめんなさい!!!!……けど、僕たちの最大の特徴は別にあるんですが、それにはもう少し時間がかかります。それまでは上手く立ちまわってください。〉

「上手くって言われてもね……向こうもぼくも、我慢が苦手なんだよねぇ……」



西部 裏通り

「そ、それよりこれからどうすればいいの!?」

二丁の銃で見よう見まねながらティアナの猛攻を相殺するフェルト。
しかし、魔法での戦闘はたった一回。
しかも、ウェンディの操るボードの上から射撃魔法を使ったくらいなのだ。
そんな彼女がここまで粘れているだけでも大したものだ。

〈つーか、結構わたりあえてんじゃん。〉

「しつっこいわねっ!!!!さっさと墜ちなさいよ!!」

「む、無理だよっ!!もう限界!!」

緑のバイザーの下でフェルトは涙目になる。
動きやすい服装をイメージしてソレスタルビーイングの制服を思い浮かべたのは良かったが、その動きやすさは今のところまったく意味を為していないし、太腿と肩につけられたシールドビットらしきものの使い方などさっぱりだ。
緑のバイザーにしても表示されているターゲットマルチロックもどう活用して良いのかチンプンカンプンだし、腰のホルスターにある銃のパーツのようなものもどうしていいのか全く分からない。
唯一わかるのは背中にある狙撃銃くらいだが、こっちも基礎的な使い方を知っているだけでろくに触ったこともないし、そもそも魔力弾のあめあらしにさらされているこの状況で役に立つとは思えない。
そんなフェルトを見かね、ケルディムが重い腰を上げる。

〈あ~……そうだな。まずは誘導弾の練習から行こうか。ロードカートリッジって言ってみて。〉

「ふぇ!!?ロ、ロードカートリッジ!!」

〈Load Cartridge!!〉

「ひゃあっ!!?」

突然自分の周りに出現した緑の魔力弾たちにフェルトは目を白黒させるが、ケルディムはさらに注文をつけてくる。

〈次にこいつらをコントロール。できることなら、ピストル撃つのと並行して使いたいね。〉

「コ、コントロールって!?」

〈頭ん中でこいつらの動きを思い描けばいいから。……ついでに、余裕があったらこういうこともできるよ。〉

「!」

ケルディムから送られてきたイメージにフェルトは息をのみ、そして決心したのか意識を集中し始める。

「いくよ、ケルディム!」

〈OK!Homing sniper!〉

「素人に誘導弾がっ!!」

〈年季の違いを見せつけましょう…Cross fire!〉

「ホーミングスナイパー……!!」

「クロスファイアー……!!」

「「シュートッッッ!!!!」」

深緑とオレンジの魔力弾が入り乱れ、二人の少女の持つ銃が火をふく。
そして、それに翻弄される男が一人。

「オ、オイっ!!お二人さん!!?俺もいること忘れてませんかね……っっとぉ!!?」

顔面スレスレを通っていくオレンジと深緑の光にロックオンは顔をひきつらせながらも銃を使ってフェルトを援護する。
だが、

〈オイ、ニヒル野郎。〉

「あ!?」

〈……邪魔。〉

「…………………」

確かに、ティアナにロックオンの銃弾はまったく届いていない。
はっきり言ってこの場にいても役立たずだ。

〈って、フェルトちゃんが言ってた。〉

「ええ!!?そ、そんなこと…」

「……………………………………………」

ロックオンから沈黙の視線が痛い。
しかしその目を見て、フェルトはケルディムとロックオンのやり取りの真の意味がわかった。

「……ごめん、ロックオン。やっぱり先に行ってて。私一人ならどうにかなるから。」

「チッ……さっきと立場が正反対になっちまったな。だったら、遠慮なくトンズラさせてもらうからな!!」

〈オー、いけいけ。この負け犬。〉

「負け犬言うなっ!」

そんな捨て台詞を残してロックオンは一人その場を離れる。

(ありがとう、ケルディム。)

〈いえいえ、俺は思ったことを言っただけだよ~ん。〉

「……よかったの?あんた一人じゃ心細いんじゃない?」

ティアナが挑発的な発言をするが、フェルトは余裕を持ってそれを返す。

「心配しなくてもいいですよ。私、こう見えても一人に慣れてますから。」

「フフフ……いい度胸してるじゃない。けど……素人がなめんじゃないわよ!!」

フェルトの態度が気に障ったのかティアナは感情任せにクロスファイアーをフェルトへ突撃させる。
しかし、感情的になっているとはいえそこはティアナだ。
しっかり全方位から向かわせ、回避させる隙を与えない。
この一斉射撃を防ぐにはフェルトも誘導弾をぶつけて相殺するしかない。

(その隙に徹甲弾を撃ち込んで終わらせる!)

……そう思われたが、フェルトは一つだけ手を隠していた。

「ケルディムッ!!」

〈Yes Meister!Danced bullet!!〉

「!?」

足を止めたフェルトにクロスファイアーの一発が直撃するかと思われた瞬間、斜め上から深緑の弾丸が飛んでくる。
さらにフェルトの周りを飛び交っていたティアナの魔力弾はことごとく撃ち落とされていき、遂には全て撃ち消される。

(クッ……大したものね。けど、これで誘導弾は全部…)

〈!!マスター、違います!!〉

「え…グッ!!?」

とどめを撃とうとしたティアナは逆にフェルトのホーミングスナイパーをわき腹に撃ちこまれたたらを踏む。
どうにか倒れることは免れたが、そこへさらにフェルトからの攻撃が飛んでくる。

「行くよ……ダンスド・バレット!!」

「なっ……!?」

その光景に唖然とするティアナ。
誘導弾から、さらに射撃が放たれ彼女の体を滅多打ちにしていく。

(そんな……こんな、ことって……)

通常、誘導弾はそれ自体を相手にぶつけて攻撃するものだ。
しかし、フェルトのそれはそれと同時にそこから射撃魔法を放出して攻撃してきた。
それを可能にするには魔力を高圧縮して誘導弾を作る必要がある。
そんな無茶をする人間は少なくともティアナの記憶にはない。

「ハァッ……ハァッ……わ、私にもできた……!」

〈お見事。案外フェルトちゃんってこっち方面の才能があるのかもね。魔力量も半端じゃないし。〉

「ううん。ケルディムのおかげだよ。私一人じゃどうにも…」

「……クロスミラージュ、モード3!!」

「「!!?」」

端が千切れ、ところどころに穴があいたバリアジャケットのまま、それでもティアナは立ちあがりフェルトを睨みつける。

「なめてたのは私の方だったことは認めるわ……」

狙撃形態をとったクロスミラージュを両手で支え、痛みで震える体に鞭をうつ。

「けどね……負けられないのは私も一緒……ユーノさんを…エリオを……そしてウェンディを………!!友達を取り戻すまで私は負けない!!!!」

「っ!!」

〈Photon shot!〉

気迫に押され、思わずティアナへ引き金を引くフェルト。
しかし攻撃が当たると思われた瞬間、光弾はティアナをすり抜けて建物の壁に着弾し、さらにティアナも陽炎のように消えてしまう。

「ど、どうなってるの…!?」

〈チッ……幻術か!渋いものを!!〉

ケルディムが舌打ちをした瞬間、お返しとばかりに真後ろから通常より早い弾がフェルトの後頭部めがけ飛んでくる。

〈Protection!〉

「アウッ!!」

ケルディムの防御で防ぎはするが、勢いまでは殺しきれず前のめりに倒れるフェルト。
しかし、倒れたまま転がって後ろにいたティアナを見つけると彼女へ攻撃する。
だが、再び弾丸はすり抜けてティアナも消えてしまう。

「また!?」

〈フェルトちゃん、左!!〉

「キャアッ!!」

ケルディムの警告のおかげで直撃は免れたが、狙撃弾が抉った道路の破片が容赦なくフェルトの顔に降り注いでくる。

「どうしよう……これじゃ手も足も出ないよ……」

弱気になるフェルトに追い打ちをかけるように、ティアナは場所を変え、シルエットで翻弄しながら徐々に追い詰めていく。

(お願い、ロックオン……早く来て!)



オフィス街 上空

「ハッ!!」

「キャアッ!!」

金色の閃光が黄昏色の戦闘機とその上に乗るマリーを翻弄する。
そのワンサイドゲームと言ってもさしつかえのない戦いを地上で見ながらアレルヤは気が気でない。

「マリー……それじゃ駄目なんだ……!」

今のマリーはアリオスの特色をまったく生かせていない。
確かに、フェイトの瞬発力には目を見張るものがあるが、マリーはそれに対して同じように瞬発力で対抗しようとしている。
その結果、わずかに上回るフェイトの攻撃の前に防御に徹しざるを得なくなっている。

「アリオス、もっとスピードは出ないの!?」

〈無理言わないでよ!今これ以上のスピードを出そうとしたらマリーの体が持たないよ…っとぉ!!?〉

そうこうしている間にもバルディッシュの鎌がマリーとアリオスの目の前に迫る。
かろうじてきりもみでかわしはするがアリオスの装甲に浅く傷がつき、マリーの動揺はさらに大きくなる。

(よし!タイミングは掴んできた……次で決める!)

「どうすれば…」

「マリー!!!!!!」

マリーは下からの大声で、アレルヤの方を向く。

「アリオスはスピードだけが武器じゃない!!!!動きで相手を翻弄するんだ!!!!」

「動き……?」

MSのアリオスに乗るアレルヤからのアドバイス。
ソーマが彼と対峙していた時の記憶。
そして、パイロットスーツのようなこのバリアジャケット。
点と点が繋がり、マリーの中で一つの答えが生まれた。

(……アリオス、こういうことはできる?)

〈……!なるほどね。もちろんできるさ。というより、できなくてもやってやるさ!〉

「これでっ!!」

マリーに追いついたフェイトは彼女の胴へとバルディッシュを振り抜いた。
だが、

〈Gepanzert!〉

「っ!?」

振り抜いたはずのバルディッシュから手ごたえが伝わってこない。
それどころか、さっきまで確かにそこにいたマリーとアリオスの姿がない。

「なにが…」

〈Gatling  raid!!〉

「!!」

「ガトリングレイド……フルシュート!!!!!!」

「クッ!!プロテクション!!」

その場から飛びの光とするフェイトだったが、回避が間に合わないと判断するやいなや即座に防御を発動させて下からの銃弾の襲撃に耐える。
信じがたい量の魔力弾にプロテクションも悲鳴を上げ始めるが、何とかその猛攻を耐え抜いて反撃に移ろうとする。
しかし、

「また消えた!?」

攻撃が来た場所にはすでにマリーの姿はない。
そして、フェイトが別の場所へ視線を移そうとした、

〈Caution!!〉

「えっ!!?」

バルディッシュの警告に振り返るが、もう遅い。

「アリオス、カートリッジNo.Ⅳ・チャージ。」

〈Eine Eile!!〉

フェイトの視界に映ったのはオレンジの鎧を身に纏ったマリー。
両肩に大きなウィングをつけ、腰からはオレンジの粒子を放出し、右手に握った魔力刃の柄にホルスターから飛び出てきた赤と白のカートリッジを挿入している。

〈Explosion!Schwert strike!〉

ガキンとカートリッジを炸裂させ、マリーは魔力刃を握る右手に力を込める。

「シュベアト……ストラーーーイク!!!!」

カートリッジ、アリオス、そしてマリーの魔力が一気に圧縮され、太陽を思わせるような濃いオレンジ色に染まった魔力刃はバリバリと不気味な音をたてながらフェイトのプロテクションに突き刺さる。

「クッ……!!重…いっ……!!」

マリーの突きの威力でフェイトの腕が痺れ始める。
しかし、本当の恐怖はこれからだ。

「!?プ、プロテクションが……!?」

バリバリと音をたてるサーベルに、フェイトのプロテクションはひび割れることすら許されず徐々にその進行を許していく。
オレンジの刃が少しずつ……少しずつフェイトの胸を貫こうと近づいてくる。
肌を突き刺してくる熱が強くなり、フェイトも顔を蒼くする。
しかし、苦しいのはマリーも一緒だった。

(お…願い……!!早く、墜ちて……!!)

一瞬の爆発力を生かしたこの一撃。
本来ならば、防御の隙をついて一発で仕留めることを想定して組んであるこの魔法は長時間発動していると暴発の恐れがある。
マリーも、その恐怖と必死に戦っていた。

カラフルな火花を上げる盾と剣。
その美しさとは裏腹に、二人は互いにギリギリのところで精神をすり減らしていた。
だが、その均衡は下、地下からの乱入者によって崩された。

「!?なんだ!?」

まず気がついたのはアレルヤ。
下から伝わってくる大きな揺れに立っていられず手と膝をつく。
続いて聞こえてきたのはくぐもった爆発音と何かが崩れる音。
そして、すぐ目の前の地面にビシリと亀裂が入った。

「っつ!!!!」

アレルヤが跳び退くと同時に巨大な何かがアスファルトを突き破って空へと舞い上がる。
水色と白の鱗を持つそれは、背中に少女を、そして口先に槍を持った少年を乗せながらマリーたちの間に割って入るように空へと上がった。

「キャッ!!」

「クッ!!」

マリーとフェイトは魔法を解除して乱入者との激突を回避する。
そして、

「キャロ!!」

「エリオ君!?」

激しく翼をはばたかせる飛竜の鋭い牙を足とストラーダを使って防ぐエリオと、フリードの上で無邪気に射撃魔法を乱射するキャロに二人の動きは自然と止まる。

「クッ……このっ!!」

「アハハハハ!!!!苦しいんでしょ?だからあんまり暴れないでって言ったのに!」

そして、遂にその時が訪れる。

「つっ……!!う、わああぁぁぁぁぁ!!!!?」

フリードのあごの力に耐えられなくなったエリオはストラーダともども宙に放り出される。
フォルムツヴァイで飛ぼうにも、体が激しく回転しているでせいで上手く姿勢制御をおこなえない。

「エリオ!!」

「エリオ君!!」

地上へまっさかさまに落ちていくエリオへ、フェイトとマリーはほぼ同時に飛び出した。



北部 ビル群

人がいなくなったビル群に、爆音とともに突如巨大な氷柱が出現する。
氷柱は一つだけでなく、二つ、さらに三つと数を増してビルの側面、屋上、道路と所構わず出現していく。
そして、周りを飛び交う一人の魔導士と、その中心で歓喜の叫びを上げているデバイスに振り回されている青年がいた。

〈ヒャッハーーーーーー!!!!!!!いいぜティエリアーーーー!!!!やっぱオメェは最高だァァァァァァ!!!!〉

軽く牽制のつもりで使った魔法がブーストされ過ぎてもはや砲撃魔法となんら変わらない。
ティエリアとしては必要以上に街に被害を出したくないのだが、攻撃が収まればはやてから攻撃が飛んでくるので撃ち続けるしかない。
このやたらとトリガーハッピーなセラヴィーに振り回されながら。

「いい加減にしろ!!ここら一帯を氷河にでも変える気か!!?」

〈んなこと知るかぁぁぁぁぁ!!!!!!こんだけブーストしても平気な奴と組めたんだ!!!!そうなりゃサーチ&デストロイで万事解決だろうが!!!!!!〉

まったく聞く耳を持たないセラヴィー。
同調率の関係で大幅に攻撃を強化できるのはいいが、やり過ぎはよろしくない。
だが、ティエリアも過去に似たようなことをいくつかやってきているのであまり強く言うことができずにいた。
唯一の救いは戦闘に巻き込まないようアニューを先行させたことだろうか。

(……ロックオン。やっと、君の苦労がわかった気がするよ。)

〈イヤッハーーーー!!!!Snow blow!!!!〉

ご機嫌で(砲撃と化した)射撃魔法を連発するセラヴィー。
しかし、はやてもこのまま黙ってなどいない。

「調子に乗んな!!穿て、ブラッディダガー!!」

ビルに生えた氷柱を盾にして攻撃をかわし、影から赤い短剣をティエリアめがけて連射する。
急いでそこから離れようとするティエリアだったが、セラヴィーがそれを止める。

〈いいところで下がるんじゃねぇよティエリアァァァァァァァァ!!!!Glacier wall!!!!〉


ティエリアの周囲の氷が盛り上がり、分厚い壁となってブラッディダガーの進行を妨げた。

「ちょ!?そんなんインチキやん!!!!」

〈るっせぇ腹黒!!!!ティエリア、こいつを使え!!!!〉

「了解!ティエリア・アーデ、セラヴィー、目標を殲滅する!!」

〈Chilling nova!!!!!!〉

ブラッディダガーを防いだ氷壁に砲門を向けるティエリア。
両脇にぶら下がっていたキャノン砲も起こし、脚部のクローでしっかりと地面をわしづかみにして体を固定すると、紫の巨大な魔力の塊を前方に作り上げる。
そして、

「〈バーストッッッ!!!!〉」

「でぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」

押し出された魔力の塊は砕いた氷壁も巻き込み、さらに周囲の冷気と氷も吸収し、超広域魔法としてゆっくりとしたスピードではやてに迫る。

「うそ~ん!!!!タンマ!!タイムターーーイム!!!!!!」

しかし時が止まるわけもなく、巨大な冷気の新星ははやてを完全に飲み込んだ。
……かに思われた。

「待てって……言うとるやろーーーー!!!!」

「なっ!!?」

今度はティエリアが驚愕する。
いつの間にかはやての杖の先にこの空域全体からかき集められた魔力が力場を形成していた。

「収束砲を見んのは初めてやろ?……移動しながら術式組むの大変なんやよ!!」

〈Starlight breaker〉

振り向きざまに発射されたスターライトブレイカーは、本来の使用者であるなのはのそれと全く遜色がないほど強烈で、ティエリアのチリングノヴァとせめぎ合い、ビルの窓ガラスを粉々に粉砕していく。

「ハアアァァァァァァァ!!!!!!」

「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

二つの魔力が入り混じり、どちらがどちらかわからなくなったところで臨界を迎えた魔法は激しい衝撃波を生みだして消失する。
周りに立っていた建造物に原形をとどめているものはなく、少なくとも壁の一部が剥がれ落ち、鋭く尖った氷の塊がいくつも張り付いている。
術者の二人も無傷とはいかず、ティエリアはバリアジャケットの袖が破れ、はやても端がボロボロにほつれ、さらに顔やバリアジャケット、さらには左手の魔導書のあちこちに白い霜がついていた。

「これがジュエルシードの本当の力……ガジェットに使われとる時と大違いやないかい。化け物かっちゅうねん。」

「これがSクラスの魔導士……人間じゃないと考えてかかった方がよさそうだな。」

ティエリアもはやても、改めて相手がただものでないことを理解して一層気を引き締める。
そんな二人の戦いの輪の中へ突進していく影があった。

「くたばれカマ野郎!!」

「なにっ!!?」

赤いゴスロリの少女がティエリアの頭部めがけてハンマーを力任せに振りおろしてくる。
咄嗟にバックステップでかわすが、氷で覆われた道路を砕くと、今度は真横に振り抜く。

「クッ……!!」

これだけ密着されるとさっきのように氷で防ぐわけにもいかず、バズーカを盾になんとか重い一撃をしのぐティエリア。
少女も左腕のバズーカが自分を狙っていることに気付いたのか一旦距離を取った。

「ヴィータ……」

はやては彼女の参戦に、嬉しいような、悲しいような、複雑な面持ちで呟いてしまう。
しかし、当のヴィータははやての方に一瞥もせずにティエリアと対峙している。
それがティエリアを警戒してのものなのか、それともはやての顔を見たくないからなのかは本人しか知らない。

「はやてちゃん!!」

「リイン!来てくれたんか!」

ヴィータに続いてやってきたリインにはやてはようやく明るい表情を見せる。

「ザフィーラとシャマルは?」

「他のポイントに向かってるです。それより、また派手に壊しちゃいましたね~……始末書で済むといいですね。」

「……なんかエライへこむわぁ…」

憂鬱な気分になるはやてだが、ティエリアはそれ以上に眉間に皺を寄せる。
一人だけでもてこずっているのに、そこへさらに増援が二人追加。
可能性など一片も残らないほど希望を刈り取られた気分だ。
しかし、ティエリアは諦めようとはしなかった。

「ロックオン……僕に力を貸してくれ!」



ショッピング街

いつからだったろうか。
この二人が、たとえ模擬戦であっても、戦うことが無くなったのは。
教本通り、いや、それ以上の防御魔法を駆使する翠の魔導士。
素晴らしい才能を持ち、誰よりも努力を怠らない白の魔導士。
組めば、絶対的な砲撃とそれをフォローする鉄壁の守りで相手を圧倒してきた。
だが、少女は少年を傷つけてしまったことで自らの心にも深い傷を刻み、少年は少女に明かすことのできない秘密に後ろめたさを感じるようになった。
思う心は同じなのに、すれ違い、もう手が届かなくなってしまった。
そんな二人は、触れあうことができる距離に来ても手を取ることはできなかった。
できることはただ一つ。
互いに、牙をむきあって傷つけあうことだけ。
たとえ、心からどれほど血が流れ落ちようとも。

「ぅああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!」

二つの咆哮が重なるたびに桃色の流星が空を舞い、淡い翠に輝く刃が煌めく。
その光景を前にしても、スメラギは逃げることができなかった。
だが、戦っている仲間を残していくことができないわけでも、ましてや恐怖で足がすくんだわけでもない。
ただ、悲しくて目を離せなかった。

「ユーノ……」

泣いている。
今、武神のごとき形相と、獣の咆哮を上げているユーノが、スメラギには泣いているように見えた。
それは、ユーノと対峙している彼女もそうだ。
怒り一色のようなその表情も、必死に自分を押し殺しているようにしか見えない。

詳しい事情を知らないスメラギですらもそう思ってしまうほど、ユーノとなのはの戦いは見ていて痛々しいものだった。

「クルセイド!!!!」

「レイジングハート!!!!」

〈〈Load cartridge!!!!〉〉

カートリッジによって強烈な魔力が二人の得物に満ち満ちる。
まるで、彼女と彼もまた、強引に終わらせてでもこれ以上この二人を戦わせたくないとでもいうように。

「烈震……轟破!!!!」

「全力……全開!!!!」

「アクセルスマッシュ!!!!」

「エクセリオンバスター!!!!」

ほぼゼロ距離でなのはの砲撃とユーノの左拳がぶつかりあう。
巨大な魔力の光と、限界まで研ぎ澄まされた魔力で強化された拳の激突は大気を震わせ、意思を持たぬものをその衝撃で吹き飛ばしていく。

「ぅぅううあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぅ…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

バリアジャケットが損傷し、露わになった肌が裂け、焼け、傷ついても二人は止まらない。
思いのたけを攻撃に、そして言葉に込める。

「もう……戻れないの!?」

「何をいまさら……!!わかってたことだろ!!」

右肩から先のバリアジャケットを消失したなのはが狂ったように叫ぶ。

「わかんないよ!!!!私たち、あんなに一緒だったのに……大好きだって言ってたのに!!!!」

左拳が焦げたままでも、ユーノが激昂する。

「一緒なんかじゃない……!!なのはにはわからないよ!!!!目の前で家族を奪われた人間の……大切な人と一緒に心を壊された人間の気持ちなんて!!!!!!」

「それでも、一緒に歩くことはできる!!!!支えてあげられる!!!!!!」

〈Strike stars!!!!〉

「それが何になった!!!?楽しい思い出があれば悲しい記憶は忘れていい!!!?ふざけるな!!!!ロックオンを…クリスとリヒティを……モレノ先生を………エレナの命を踏みにじられたことを忘れろっていうのか!!!?そんなこと、僕は絶対に許さない!!!!」

〈Assault bunker!!!!〉

「クッ……!!けど、それはユーノ君が同じことをしていい理由にはならないよ!!!!!!」

「うあっ……!!その力を、管理局に利用されている君が言うことかっ!!!!!!!」

すでに二人は防御をしていない。
ユーノの頬に魔力弾がぶつかれば、今度は拳がなのはの腹部に突き刺さる。
決して同じ答えにたどり着けない二人が、今共有できるのは痛みだけ。
愛しい人が、自分の体を傷つけること。
激情に任せた言葉とは裏腹に、できることなら、こうすることでしか交わる道がないのなら、永遠にこうしていたい。
だが、そんな異常な願望にいつまでもしがみついているわけにはいかない。
だから、ユーノは完全な決別の言葉を紡ぐ。
体以上に、心が痛む言葉を。
どちらが勝とうが構わない。
これ以上、傷つけあうだけならいっそどちらかの手で終わりにした方がいい。

「……もう、いいだろう。」

「なに……がっ!!」

アクセルシューターを素手で潰し、その一言を絞り出す。

「僕はもう……君の婚約者じゃない。ソレスタルビーイング……世界の敵……最悪のテロリスト……ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアだ。」

その瞬間、なのはの時が止まる。
頭ではわかっていたのに、絶対に聞きたくないと思っていた言葉を聞いてしまった。
無防備な状態で、小さく震えながら涙をポロポロとこぼす。
そして、

「ーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

〈Blaster 3!Starlight breaker!!〉

絶叫とともに、いくつものビットから凶星の輝きがユーノを、そしてスメラギを襲う。

「あ……!!」

「スメラギさん!!!!!!!!」

〈Absolute Aegis!!!!〉

動けないスメラギの前にユーノが立ち、五枚の盾を出現させる。
しかし、一枚目はあっさり砕け、二枚目も反射するどころか軋んで消え、三枚目など問題にならずに粉砕される。
そして、四枚目が花のつぼみのようにその魔力の激流を包み込むが、一つ、また一つと開いた穴が繋がり、それが一つになった瞬間風船のように弾けて五枚目の盾へと襲いかかった。






閃光の後、長い沈黙が流れる。
スメラギは、無傷だった。
ユーノも外傷はない。
だが、彼の受けたダメージは深刻だった。

「がっ……!!!あっ…がっ……!!!!!!」

「ユーノ!!!!?」

口から血を吹き出す。
鼻からも流血し、充血した眼からも涙のように血が溢れ出てくる。

「なんで!?完璧に防いだんじゃ…」

〈防いだんじゃないんです…!〉

クルセイドが声を震わせる。

〈マイスターは……彼女の砲撃を魔力に変換して吸収したんです!!〉

それが、五枚目のアブソリュートイージスの効果。
四枚防御で消耗した魔力を吸収し、自分の力に変換する。
しかし、器に水を入れ過ぎれば溢れてしまうように、許容できる以上の魔力を肉体に取り込むことはできない。
それでも無理にそれを行えば、器の方が崩壊する。
アブソリュートイージスは、攻撃を受けない、そして術者の後ろまで“絶対に”通さない魔法であると同時に、自らの肉体を犠牲にしてでも守り抜く、捨て身の防御魔法なのだ。

「ス…メラギ、さん……」

かすれた声で、ユーノがスメラギの手を取る。

「みん、なに……せん…じゅ…戦術、を……」

何を馬鹿なといった顔するスメラギにユーノは虫の息で続ける。

「み……なが…無事、なら……後は、なんと……」

「わかった!!わかったからもうしゃべっちゃ駄目!!!!」

涙で目を真っ赤にするスメラギの下に、なのははゆっくりと降り立つ。
自分のせいでユーノがまた傷ついてしまったこと。
しかし、局員としての使命を全うしなければならないこと。
その狭間で揺れる彼女に、もはや正確な判断など下せるはずもなく、なんとなく振りかぶった杖を振り下ろそうとする。
だが、

「……歪んでいる…!!貴様は……歪んでいるっ!!」

〈Unerfahrener Wind!!〉

「あ……?」

風がなのはの頬をうつ。
しかし、なのはの意識はそちらではなく、剣を構えている彼の背中に向いていた。

(は…ね……?)

彼の背中にあるのは、蒼く揺らめく二つの翼。
それから離れる光の欠片は、まるで羽のようにふわふわとゆっくりさがっていく。
なのはが確認できたのは、そこまでだった。

「蒼牙……一迅!!!!」

蒼い旋風が牙となり、刃はなおいっそう疾い清風となり、なのはに袈裟掛けの傷をつけて建物の端まで弾き飛ばした。



彼のデバイスが、その力に覚醒したのはつい先ほどのことだった。



数分前 東部

「「はああぁぁぁぁぁ!!!!」」

拳と刃がぶつかり火花を散らす。
刹那とスバルが戦い始めてから何度も繰り返されてきたことだったが、戦況は徐々にスバルへ傾きつつあった。
なぜなら、

「っ!刹那!!また“あれ”が来る!!」

「クッ……!」

その言葉と同時に、金色に瞳を輝かせたスバルの拳が異様な音をたてながら刹那のすぐそばをかすめていく。
不愉快な低音をたてるその拳をよく観察すると、心なしか震えているように見える。

(なるほど……!微細に振動させることで破壊力を上げているのか!!)

この一撃で一度防御を突き破られ、さらにローラーブーツに光の羽が生えたかと思うと、速度や威力がワンランクアップした。
それから先は所構わず、時には剣の破壊までも狙ってくるスバルの猛攻に刹那は受けに回る比率が大きくなってしまっていた。

しかし、スバルにも余裕はない。
刹那の放つ斬撃の一発一発が必殺の威力を秘めており、戦闘のセンスに富み、自分よりも遥かに実践慣れした彼は魔法抜きなら間違いなく自分の一段も二段も上にいるだろう。
事実、普段は使わない破砕振動やギア・エクセリオンを出してようやく押しているのだ。

(この剣捌き……間違いない!この人は…)

(武器破壊……そして、このデバイス……やはりこいつは…)

「「あの時のガンダムのパイロット!!!!」」

互いにかすめた攻撃が頬の皮を削る。
しかし、両者ともひるむことなく剣戟と打拳を重ねていく。
あの時つけ損ねた決着を望むように、屈辱の撤退を強いられたあの時を払拭するように。
スバルと刹那は猛烈な攻防を繰り広げる。
その時だった。

(く……おぁ……)

「!?」

「そこっ!!」

突然聞こえてくる苦悶の声。
それに動揺した刹那に隙ができ、スバルのパンチをまともに左肩で受けてしまう。

「グッ!!」

鈍い痛みが奔るが、刹那はすぐに右手のGNソードを振るってスバルを引き離す。

(う…………あ……)

苦悶の声は弱々しいものに変わり、今にも消えいりそうだ。

「刹那、この声って…!?」

「ああ……間違いない!」

仲間が、ユーノが危機に立たされている。
自分たちの中で、一番魔法での戦闘に精通しているユーノがここまで追い込まれるほど危険な敵を相手に自分が対抗できるかわからない。
しかし、こんなところでグズグズしている暇はない。
あの時のように、ロックオンのように間にあわないなどもうあってはならないのだ。

「ユーノ……!!」

「これで決める!!必中一閃!!」

青い魔力の塊を右手の中に握りしめ、スバルが上空からウィングロードを通って刹那へ迫ってくる。
だが、刹那は微動だにしない。
それどころか、GNソードをしまってしまった。

「ディバイーーーン……!!」

「オ、オイ刹那!!」

スバルはすでに発射態勢に入っており、刹那の傍らにたたずむジルも焦りだす。
しかし、

「俺は……」

刹那の想いが、

「ユーノを助ける……」

ダブルオーに伝わり、

「もう誰も……」

ダブルオーはそれを力に変え、

「俺の前で……傷つけさせはしない!!!!」

目醒めを果たした。

〈GN device,limit off!!Force detonation!!!!〉

「のわぁっ!!?」

「うわっ!!」

刹那を中心に起こるエネルギーの爆発と風に、ジルは刹那の肩にしがみつき、スバルは必死に踏ん張って何とか飛ばされまいと努力する。
しかし、刹那から吹きつけてくる風に止まる気配はなく、さらに刹那自身にも変化が現れる。

「!!」

刹那の背中、シャツの穴が開いた所から蒼い翼がゆっくりと現れ、一度大きく羽ばたくとさらに激しい風が巻き起こる。

「こ…の……!!これくらい!!」

逆風の中でもスバルは再び刹那へ突進していく。
だが、

「邪魔を……するなっ!!」

「え!?」

風で、それも重厚な金属の塊を思わせる重さを有した突風でディバインバスターを発射しようとしていた拳の方向がずれ、さらに今度はそれが放たれる前に刹那に頭をがっしり掴まれて地面に叩きつけられた。

「がっ!!?」

人一倍頑丈なスバルでも頭が潰れたと錯覚してしまうほどの衝撃で気が遠くなる。
しかし、それでもスバルは手を伸ばして刹那を止めようとするが、さらに追い討ちが入る。

「光魔閃刃!!」

〈Klinge des Lichtes!!〉

「っっ!!!!」

刹那のベルトから抜き放たれた白い柄は、瞬時に蒼い光の刃を形成してスバルのわき腹を深々とえぐった。
声も上げることができず、ぐったりした様子で気絶するスバルだが、魔力刃で貫かれたはずのわき腹から出血はない。

「……甘いな。」

つい自分でそうつぶやく。
ユーノの知り合いだと思うと、とどめをさすことがためらわれた。
だが、ユーノはこんな自分でも笑って迎え入れてくれるだろう。
そんな彼を守るために、刹那は建物で挟まれた道から無限に広がる空へと飛びたった。



ショッピング街

「スメラギ!!ユーノは!?」

「わからない……!!だけど、ひどいことに違いはないわ!!それより刹那、あなたのその姿は…」

なのはを退けた刹那はすぐに二人の下へ駆け寄る。
ありとあらゆる場所から出血を起こしているユーノは治療のための知識が乏しいものでも重症であることが分かるほどひどい状態だ。

「俺にもわからない…だが、とにかく早くここから……っ!!」

「へ!?刹那……きゃあっ!!?」

スメラギは刹那に抱えられながら、それまで自分たちがいた場所から生え出た鋭い楔に目を丸くする。
咄嗟に刹那が二人を抱えて飛んでなければ、三人仲良く百舌の早贄のようになっていたことだろう。

「……いい動きだ。」

屋上の端に蒼い毛並みをした青い狼が降り立つ。
彼からの賛辞の言葉にも刹那はニコリともせず睨みつける。

「ユーノ君をこちらに渡してください。」

「ハッハッハ……チョイヤバめってやつか?」

今度は黄緑の服に身を包んだ女性が後ろから現れる。
だが、彼女は狼とは違って刹那たちよりユーノの状態を気にかけていた。

(ひどい……!!早く治療しないと!!)

医療に詳しいシャマルにはわかる。
おそらく、リンカーコアが許容できる量に魔力を無理矢理吸収したのだろう。
周囲に漏れだした不自然な魔力の流れが何よりの証拠だ。
ユーノを治療するためにも、一刻も早く彼らを拘束、もしくはユーノから引き離す必要がある。

「投降してください。」

「我らを相手に逃げられると思うな。」

『そうでもないぜ。』

「「「!!」」」

刹那たちがいる場所に、何かがぶつかって粉塵を巻き上げる。
シャマルとザフィーラは初め何が起こったかわからなかったが、スメラギと刹那にはそれが何か即座に分かった。

「ダブルオー!!」

「ラッセ!間にあったのね!」

『待たせたな!エウクレイデスももう来てるはずだ!!』

「お互い説明聞くのは後にしようぜ!!とりあえず逃げろ!!」

「待てっ!!」

ザフィーラが刹那たちの前に立ちはだかるが、ライフルモードのGNソードで動きを牽制すると一気にガンダムに乗り込む。

「定員オーバーだろっ!?オイラ外に出ようか!?」

「あなたが出ても意味ないでしょ!私が外にでるからユーノを!」

「了解!ダブルオー、離脱する!」

スメラギを優しく手の中に抱え、しかし素早くその場からダブルオーは離脱する。
ガンダムに乗っている限り魔導士からの追撃は心配ないが、MSの攻撃だけが気がかりだ。
しかし、不思議とMSの姿が見当たらない。

『MSの追撃なら心配すんな。』

「ヴァイス・グランセニック…」

モニターに現れたヴァイスはニヤリと刹那に笑いかける。

『俺の後輩が上手くやってくれてるよ。』



西部 裏通り

「クッ…!ハッ!」

ティアナの狙撃を紙一重でかわし続けているフェルトだったが、もう体力的にも精神的にも限界が近い。
しかし、ここでようやくあの男が戻ってきた。

「狙い撃つぜ!」

「きゃあっ!!」

頭上をかすめていく桃色の弾丸に、今度はティアナが悲鳴をあげて頭を下げる。

『離脱しろ!!』

ポケットに入れていた端末からの声に、フェルトはすぐにその場を離れる。
ティアナはその後ろ姿を狙おうとするが、ロックオンとケルディムの狙撃が邪魔で上手く狙えない。

「なんでよ……せっかくウェンディに手が届いたのに……なんで邪魔すんのよーーーーー!!!!!!」



北部 ビル群

(目を閉じてろ。)

「!」

ティエリアは自分を取り囲む敵には聞こえないその声に従い、固く目を閉じる。
すると、次の瞬間には銀世界になっていたが今度は強烈な光によって白一色の世界へと変わる。

「うわっ!!」

「うひゃあっ!?」

「なんや!?」

突然のことにはやてたちは戸惑うが、ティエリアはその間に全速力でその場を離脱する。

「なろっ!!」

目をチカチカさせながら、それでもヴィータは手球を弾き飛ばしてティエリアを撃墜しようとする。
だが、その前に鉄球は全て紅蓮の光に撃ち落とされ、ティエリアもすでに追いつくことができなほど遠くに離れてしまった。

「今の射撃……!!」

戦ったことがあるから、はっきりと覚えている。
またやつに、フォン・スパークに邪魔された。
それが、ヴィータの悔しさを爆発させた。

「畜生……!!くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」



オフィス街

「クッ!!」

地面に激突すると思い固く目を閉じるエリオだったが、固い感触が背中に伝わるものの思っていたほど大きな衝撃がやってこない。
不思議に思って目を開くと、未だに見える景色は高く、地面との距離は大きく開いている。
そして、すぐ目の前には自分をその手に包んでいる天使がいた。

「プルトーネ!!」

「ロッサか…」

エリオが落下している真下に来ていたアレルヤはホッとする。
しかし、残念ながら安堵に浸っている暇はない。

「アレルヤーーー!!」

マリーの声にハッとして後ろを向くと同時に上に手を伸ばす。
分離したデバイスのアリオスの上に乗るマリーはその手を掴むと、プルトーネの影に隠れるように撤退を開始する。
フェイトとキャロは最初こそプルトーネが入ってきたことに驚いて呆けていたが、ようやく事態の深刻さに気がついて追跡しようとする。

「白ハロ、ファング。ビルにかすめて瓦礫を落とすんだ。」

「OK!OK!」

盾から出た二基のファングが的確にビルをかすめ、瓦礫を落としてフェイト達の進行を妨げる。
だが、

「ちょっと!!二人に当たったらどうするんですか!」

手の上で烈火のごとく怒るエリオにヴェロッサは苦笑する。

「あれくらいじゃあの二人はどうってことないよ。それより、ミレイナちゃんは……っと、どうやら、ヒクサーが合流したみたいだね。」

さらりと自分の抗議を受け流すヴェロッサにムスッとするエリオだったが、先に逃がしたミレイナが無事だと聞いて胸をなでおろす。
しかし、不安の種は尽きない。

(キャロ、あんなに好戦的じゃなかったはずなのに……それだけじゃない。なにか……何かおかしい…)

家族の変化に胸騒ぎがするが、もうそれについて調べることはできない。
もう、戻ることはできなのだから。



郊外

『ウェンディ、街に出てたやつらも撤退を開始した!俺らも退くぞ!』

「りょ~かい!」

MSの数が増えてきたせいでやや苦しい状況になっていたウェンディはその言葉に、アロウズ部隊に背を向けてすぐそこまで来ていたプトレマイオスと撤退を開始する。

「……結局、墜とせたのは一機だけ、か…」

あのまま続けていたら、間違いなく物量で押しつぶされていた。
スフィンクスが悪いのではない。
まだ、ウェンディの技術が追いついていないのだ。

「ティエリアたちに追いつくのはまだ先になりそうっスね。」

サダルスードの援護射撃をボーっと見つめながら、ウェンディはこれから待っているであろう戦いに、自分も引き金に指をかけなければならなくなるであろう戦いに思いをはせた。











後日、この騒動によって異世界においてソレスタルビーイングの存在を大衆に知らしめることになった。
表向きは潜入していたメンバーを退けたということで処理されたが、人々は彼らの持つ力に恐れを抱くようになる。
それは、管理局の軍備をより強固にするという風潮に繋がり、アロウズとの共同作戦を取るということへの追い風にもなった。

だが、あの日前線で戦っていた物たちは知っている。
退けはしたが、それが自分たちの目指す勝利とは程遠いことに。




使徒、その手に新たなる力を得る
なれど、人が彼の者たちを受け入れること能ず



あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・という名の知ってる人少なさそう

ロ「修羅場な前後編になった三十三話と三十四話でした。そして、刹那の戦闘シーンではロビンの脳内には青のレクイエムが流れていました。」

蒼「なんだそれ?」

ロ「某鬼眼の侍が大暴れするアニメのオープニングだ。」

弟「マニアックすぎてわかりにくいわ!!つ~かスフィンクスってなんだよあれ!?思いっきり某歌姫二人が出てくるやつの戦闘機じゃん!!」

ア「いや、若干『修正してやる!!』の子の乗ってたのの風味も混ざっていたような……」

ティ「要はパクリたい放題ということか。」

ロ「か~ぜ~が~ふき抜けたonce in my life♪幾千か~いの、出会いのな~かで♪」

ユ「歌って誤魔化すなっ!!ていうかツッコむポイントがこれだけだと思うなよ!!」

ロ「俺の書いたものにツッコまないポイントがないものはない。こないだなんてレポートに名前書き忘れて呼びだしてくらってツッコまれた。」

ユ「それツッコミじゃなくて単なるお説教だよねっ!!?いい年して名前書き忘れるとか何やってんの!!?」

ロ「I miss you♪忘れ~は~しな~い~から♪」

刹「忘れたんだろ。というか少しは恥じろ。」

ユ「その前に歌うなって言っただろ!!」

ロ「未来の果てを、奏でていて~♪死ぬときまで~♪」

蒼「てかノリノリだな。なんかジャイアンのリサイタルみたいになってるからさっさと次回予告に行くぞ。」

弟「トレミーに戻って治療を受けるユーノ。その時、ジェイルとアニューから自分に残された時間がわずかであることを知らされる。」

ア「しかし、それでもクルセイドに乗り続ける決意を語るユーノ。」

ティ「一方その頃、なのはがユーノと戦ったことを知ったヴィヴィオは彼女の下を離れていってしまう。」

ユ「そこへ、彼女を崇拝する者たちの魔の手が迫る!」

蒼「娘が拉致されたと知ったユーノは、傷を癒えるのも待たずに救出に向かう!」

刹「ユーノ達は、彼女を助け出すことができるのか…」

蒼「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお寄せください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 35.僕の娘に……何をしたって聞いてんだよっ!!
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/16 23:59
地上部隊 隊舎 エントランスエリア

「なんで!!?」

その大きな声にその場にいた誰もが目を白黒させてそちらを向くが、すぐにバツが悪そうに視線をそらして足早に去っていく。
そんな彼らを気にかける余裕は今のなのはにはなかった。

「なんでパパにあんなことしたの!!?みんなひどいよ!!!!」

「あ、あのね、それは……」

めったなことでは動じないなのはも、この追及にはおたおたと取り乱してしまう。
先日の戦闘で受けた傷もまだ完治していないのに、会いに来た娘にここまで責められれば無理もないのかもしれない。
さらに、なのは自身もユーノをあそこまで追いつめてしまったことに対して罪悪感を持ってしまっているせいでどう言えばいいのかわからなくなっている。

「パパはずっと一人ぼっちだったんだよ!?たくさんの人がいるのに、ずっと一人で泣いてたんだよ!?ママはずっと一緒にパパといたのに、なんでわかってあげなかったの!?ねぇなんでっ!!?」

「っ……!」

ヴィヴィオの言葉が一つ一つ胸に突き刺さってくる。
俯いたまま、ヴィヴィオの顔も見れないなのは。
その後ろでは、はやてたちも沈痛な顔でその言葉を受け止めていた。

「お、おちついてヴィヴィオ。なのはさんだって、やりたくてやったわけじゃ…」

「もういいよ!!」

スバルの手を払いのけ、ヴィヴィオはとてとてと出口の方まで走っていく。
そして、自動ドアの前で振り返るとありったけの声で叫んだ。

「おねぇちゃんもぶたいちょーもママも、みんなみんな嫌い!!」

「ヴィヴィオ……」

こらえきれなくなったなのはは涙を流しながらフラフラとした足取りでヴィヴィオに近づこうとする。
だが、

「こないで!!!!」

ひときわ大きな声にビクリと体を震わせて立ち止まる。

「ママなんて大っ嫌い!!!!」

「ヴィヴィオ!!」

呆然と立ち尽くすなのはに代わり、スバルがヴィヴィオを止めようとするがそれを待たずにヴィヴィオは外へと飛び出してしまう。
そんな彼女を、誰も追いかけることはできなかった。



クラナガン

「パパ……うっ…グスッ……」

今のヴィヴィオの心情を現すように、空も曇って冷たい雨を降らせる。
傘も持たずに飛び出して来たので、ヴィヴィオは全身をびしょ濡れにしてしまうが、それでも目の周りだけは雨ではなく涙で濡らしていた。
大好きなユーノのことを、理解するどころか誰もが悪人だと言って責め立てる。
きっと、そのせいで戻って来てくれないのだ。

「パパ……パパ………!!」

会いたい。
また、あの大きな手で頭をなでてほしい。
またいろいろなところに連れていってほしい。
また一緒に、母と三人で暮らしたい。

「失礼……」

「!」

不意に声をかけられてヴィヴィオは驚いて振り向く。
周りも見ずに歩いていたせいで気付けば人気の少ない場所まで来てしまった。
しかも、声をかけてきた男たちは黒いフードで姿を隠して見るからに怪しい。

「だ…誰……!?」

そう言いながらじりじりと後ずさるが、今度は後ろにも大柄な男が現れて逃げ道をふさぐ。

「ひっ……!?」

男たちの間で尻もちをつくヴィヴィオだったが、先頭に立っていた一人が膝をついて恭しく頭を下げる。

「御無礼をお許しください、陛下。ですが、あの汚らわしい管理局に一矢報いるためにも、陛下のお力が必要なのです。」

「い、いやぁ……!!」

「陛下をお連れしろ。」

ヴィヴィオの周りに数人の男が並び、魔法陣を展開する。
そして、まず中心にいたヴィヴィオ。
続いて周りにいた男たちがスゥッと空気に解けるように消える。
残っていた者たちもどんどん消えていき、最後の一人が消えるとそこには大きな水たまりと雨音だけが残された。



この翌日。
ヴィヴィオ・S・高町の捜索願が受理されることになった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 35.僕の娘に……何をしたって聞いてんだよっ!!


プトレマイオスⅡ メディカルルーム

ゆっくりと目をあけると、いつぞやと同じように透明な板越しに入ってくる光がまぶしい。
しかし、あの時と比べてかなり成長したユーノは自分がどうなっているかわかっていた。

「目が覚めたかね?」

サングラスをかけた医者の代わりに、どこか人をイラつかせる因子を含んだにやけ顔が覗きこんでくる。
しかし、おそらく彼が治療に当たったのだから文句は言えない。

「いやぁ、つい改造したい衝動に駆られたが、傍にアニュー君がいてくれたおかげでなんとか我慢できたよ。」

……やはり訂正しておこう。
できることなら、今すぐこのふざけた顔を殴り飛ばしてやりたい。
それも身体能力を限界まで強化したうえで。

「……ホント、アニューさんが合流してくれた後で良かったですよ。ドクター一人に任せていたんじゃ何をされるかわかったものじゃないですからね。」

フィルターが開くと、ユーノはむくりと起き上がって頭をかこうとする。
だが、

「……!?」

突然目の前がぐらりと揺れ、カプセルの端に手をついてしまう。

「しばらくは大人しくしていることだ。薬の副作用もあるが、それ以上にリンカーコアや身体が悲鳴をあげているはずだ。」

確かに、魔力酔い特有の吐き気や倦怠感で身体が重い。
だが、

「……リンカーコアは?」

「そこのところは心配しなくてもいい。しばらく魔法は厳禁だが、致命的なダメージは受けていない。まったく、丈夫なのは身体だけじゃないようだ。」

そう、思っていたほどダメージがない。
なのはの全力の一撃を吸収したのに、反動が少なすぎる。

「おそらくだが、君は本能的に吸収した魔力をさらに熱などに変換することでダメージを和らげようとしたのだろう。」

いや、違う。
そんなものでどうこうできるレベルではなかったはずだ。
それにあの時、なのはの魔力が流れ込んだときに自分の中で何かがカチリと音をたてて開いたような気がした。
ずっと抑えていた、何かが。

「あら、目が覚めたんですか?」

〈マイスタ~~!!御無事だったんですね~~~~!!〉

奥からアニューがD・クルセイドを持ってやってきたので、ユーノは考えごとを中断する。

(まあいいか……無事だったんだからそれで良しとしとかないと。それより…)

ユーノは苦笑いを浮かべながらアニュー、正確には彼女の手の中にいる新しくできた相棒に話しかける。

「クルセイド……君、僕と一緒にいたんだよね?」

アニューと一緒にやってきたということは、自分が起きるまでここにいたということだ。
つまり、とりあえずは助かったことを知っているはずだ。

〈ふぇ!?で、でもドクターとアニューさんがまずいことになったって…〉

「……少し脅かし過ぎたかな?」

「けど、まずいことに変わりはありません。……ユーノさんもよく聞いてください。」

アニューはともかく、いつもヘラヘラしているジェイルが真剣な顔で、鋭い目つきでユーノに向かいあう。

「薬が切れてどれくらいですか?」

「……なんのことですか?」

「とぼけても無駄だよ。悪いが、一日寝ていたから身体を隅々まで調べることなんてわけなかったよ。」

アニューは机の上のカルテを取ると、ユーノに差し出す。

「薬によってGN粒子による症状を抑えていたようだね。幸いと言っていいのかわからないが、ここにもともと患者がもう一人いたおかげで似たような薬がある。だが、それを見ればわかるように君はもうかなり進行している。薬を使っても発作を抑えるので精一杯だろう。進行を遅くすることももう不可能だ。」

「ユーノさんの場合、薬で押さえ込んでいた分その反動がきているというのもあるんですが、何よりいままで体を酷使しすぎました。身体に蓄積されたダメージも相まって、いつ発作が起こってもおかしくありません。」

そこまで言うと、ジェイルが口の前で手を組む。

「……結論から言おう。君は、持ってあと半年、三ヶ月もすればまともに動くこともできなくなるはずだ。無論、これは大人しく治療に徹していた場合の話だ。今のように戦いに参加していたら、もっと進行は早くなるだろう。」

〈マイスター……〉

心配そうな声を出すD・クルセイドをなでると、ユーノはフッと笑う。

「そんじゃ、あと二ヶ月ほどでアロウズ……いや、あのクソッタレどもと決着をつけないといけないってわけか。今まで以上に張りきらないとね。」

その答えに、アニューとジェイルは口を開けたまま驚き、そして怒鳴る。

「わかってるんですか!?このままじゃユーノさんは…」

「わかったってどうしようもないんでしょ?だったら、少しくらい死ぬのが早くなってもいいからやりたいことやらないと。」

「簡単に死ぬなんて言葉を口にするな!!人の死が……それも望まれないものが、周りをどれだけ傷つけるかわからない君ではないだろう!?」

「そうですね……でも、これが僕って人間ですから。それに、僕はみんなが思ってる以上に最低の人間ですよ……誰も、僕のために涙を流す必要なんてない。」

「このっ……!!」

物凄い音とともに椅子が倒れる。
いつもは冷めているジェイルが、ユーノの襟元を掴んでわなわなと震える拳を振り上げる。
しかし、そこで動きが止まる。
張り詰めた雰囲気がしばらく続くが、ジェイルが大きく息を吐いて手を離すとユーノは再び横になる。

「頼むからそんなことを言わないでくれ……あの子も、きっと君のことを案じてあんなことに…」

「あの子?」

「ドクター!」

アニューの声にジェイルはしまったと口を閉ざそうとするが、今度はユーノが素早い動きでジェイルの肩を掴む。

「あの子…?あの子って誰なんですか!?まさか…」

誤魔化そうとも思ったが、ユーノの鬼気迫る表情に負けてジェイルは白状する。

「ああ、ヴィヴィオのことだ……彼女は今、隊舎を飛びだしたきり行方不明だ。そしてクロウの情報が本当なら、彼女をさらったのは…」

「ベルカの過激派……!!」

先程までのユーノの穏やかな表情が一転し、鬼の形相へと変化する。

〈マ、マイスター……?無理をしては…〉

「……ドクター、悪いけど退院です。スメラギさんにミッションの提案に行かないといけないので。」

もとより止めるつもりなどなかった。
というより、パートナーであるD・クルセイドに止められないのにこの鬼神を止められるはずがない。

ジェイルとアニューは、同情の余地などないのにヴィヴィオをさらった犯人たちに同情した。
この眠れる怪物を、本当に怒らせてしまったのだから。



コンテナ

「ハッ!」

「甘いですよ!」

「は~い、残り三分な~。決着つかなかったら二人揃ってデバイス出したまま筋トレ各種100回な。勝った方は免除で負けた方は二倍量な。」

ジルの声が響く中、自由自在に飛び回る戦闘機を下から突き上げられた槍がかすめる。
しかし、その上に立って操るマリーは踏ん張って体勢を維持したまま再び距離を取る。
エリオもそれに負けじとケルディムガンダムの膝を蹴り、続いてセラヴィーガンダムの腹を蹴って宙を飛んでマリーとD・アリオスに追いつく。
そして再び空中で剣戟が始まるが、その下は上とは違って実に穏やかだった。

「リミットオフ?」

後ろで派手に魔法戦の訓練に励んでいるエリオとマリーに渋い顔をしながら、イアンはいぶかしげな顔をする刹那に説明する。

「ああ。お前らのリンカーコアだったか?それとGNデバ……っと、ガンダムと同じ名前をもらったんだったな。ややこしいこった……まあ、それはどうでもいいんだ。ダブルオーから話を聞いただろうが、こいつらは生成している魔力をお前らのフォローに使っているわけなんだが、リミットオフをする前はリンカーコアと完全に同調しているわけじゃない。この状態だとこいつらの魔力は肉体強化に使えないんだが、完全に同調を果たすことでそれも可能になる。無限のエネルギーを身体能力の向上に使える……そいつは使ったお前さんが一番よくわかっているはずだ。」

「危険はないのか?」

「俺はデバイス専門ってわけじゃないが、今のところ心配はなさそうだ。まあ、詳しくはジェイルに聞いてくれ。ただ、少しでも同調率が下がると安全のためにも解除されるようにはなっている。調子に乗ってると痛い目にあうぞ。」

「わかった。」

「……それより、いいかげんあいつらを止めてくれ。そのうちガンダムを壊しちまうんじゃないかって思うと落ち着かん。」

エリオはガンダムを足場に、マリーはその間をぬうように飛びまわる。
もはや刹那とエリオ、そしてラッセが行っていた訓練など比較にならないほど激しいものになっている。

「……努力する。」

「頼むぞ。努力するだけじゃなくて何が何でも止めてくれ。」

切実なイアンの願いを、声には出さないが無理だと考えながら刹那はその二人の方へ向かう。
しかし、あることを思い出して振り返ってイアンにそのことを尋ねる。

「そう言えば、ウェンディも残ったんじゃなかったのか?フェルトも今朝から姿が見えないが…」

「ティエリアもだろ?あいつらならエウクレイデスだ。」

フェルトはともかく、そこでウェンディを待っているであろうものを思い浮かべてイアンは苦笑いを浮かべる。

「フェルトは向こうにいる整備士に狙撃を教わりに行って……ウェンディは今頃ティエリアとフォンにMSの訓練だ。」

「…………………」

刹那も流石に気の毒だともったのか、少々顔をしかめて彼女のガンダム、スフィンクスを見上げる。
しかし、実際は刹那の想像以上にウェンディの受けている訓練は過酷なものだった。



エウクレイデス コンテナ

「オラオラオラ!!!!そんなすっとろい反応じゃ千回は死ねるぞ!!!!」

「遅い!!そして無駄な動きが多すぎる!!!!この程度の数を相手に何をやっている!!!!」

「ムリムリムリムリムリムリ!!!!!!!!!!!!!一面敵だらけなのに避けきれるわけないっしょ!!!!!?」

ディスプレイに映るジンクスⅠの群れにウェンディは悲鳴を上げる。
しかし、フォンとティエリアは容赦など虚数空間に捨ててきたのだ。

「四年前アレルヤ・ハプティズム(正確には違うけど)はこの数を相手に一人で暴れまわってたんだ!!!!キュリオスにできたんなら俺が作ったスフィンクスにできないわけねぇだろ!!!!」

「この程度でてこずっているようではそこらの猿を乗せた方がマシだ!!!!猿より上等になりたければこなしてみせろ!!!!」

「だから無理だってーーーーーーー!!!!!!!!!」

「「だったら基礎訓練からやり直しだ!!!!体力作りから操縦桿にペダル、コンソールの扱いまで一日30時間みっちりたたき込んでやる!!!!」」

「だから物理的に無理だって………ってまたやられたーーーー!!!?」

「オラァッ!!また操縦の際の基本動作の復習だ!!あげゃげゃげゃげゃ!!!!!!」

「もう勘弁して………っていつの間にか氷で手脚固定されてるし!!!?」

〈SM好きなのか?〉

「いや、猿並みの知能に操縦を叩きこむんだ。こうでもしないといつまでたっても無理だ。」

「言っとくが少しでも腑抜けた真似したら管理局にいたころの訓練が天国だったと思える基礎体力トレーニング(本日すでに二度体験済み)が待ってるぞ。」

「それじゃあ開始だ。」

「ちょっ、まっ……いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

フォンとティエリアがこっそり敵を増量させたシミュレーターと半強制的に行われる操縦の基本動作の反復。
最初こそ嬉しそうにしていたウェンディも、この超スパルタ訓練に限界まで追いつめられている。
いや、ウェンディのように丈夫でなかったらすでにベッドに撃沈していたことだろう。

そんな彼女を気にかけ、フェルトは手を休めてウェンディがいるシミュレーターを見上げる。

「だ、大丈夫なのかな……」

「フォンが言うにはあいつは一回鼻っ柱を折っといた方がいいらしいけど……もうすでに30時間の操縦訓練がすでに10セットは予約済みだからな。流石に(精神的に)死ぬかもな。」

調子に乗りやすいウェンディには有効かもしれないが、やりすぎにもほどがある。
ただ、これを乗り越えたら間違いなく彼女は強くなっているに違いない。

「さて、それはそうとこっちも負けてられないな。」

「はい。」

ヴァイスがリモコンを使って人型のターゲットを出現させると、フェルトはスナイパーライフルを構えて狙いをつける。

「焦るなよ~……狙撃ってのは競争じゃねぇんだ。しっかり狙いを定めろ。」

神経を研ぎ澄ませ、目標の動きを観察し、その指を引き金にかける。

〈Rifling shoot!〉

パンと空気がはぜる音とともにきりもみに回転する弾丸が超高速でターゲットの腹のド真ん中を撃ち抜く。
額に汗をかきながら息をつくフェルトの肩をヴァイスが叩く。

「お見事。そいつが基本だ。どんなに乱戦になっててもこいつだけは心がけろ。狙ってから撃つまでの時間は慣れてくりゃ短くなる。」

〈ついでにフェルトちゃんは才能あるからね。実戦をこなしてけば相当のもんになるよ。〉

「実戦、か……」

初めて銃を持ったあの日、フェルトはオペレーターとして戦場に立つのとはまた違った緊張感を感じていた。
撃たれるのもそうだが、撃つ側に立っているのだということを改めて自覚させられた日だった。
しかし、マイスターたちも、ユーノもこの感覚を常に感じながら戦っていたのだ。

(私、ユーノのこと何もわかってないんだ……)

街で会った彼女、高町なのはと違って。

(って!違う違う!!あの人は関係ない!!)

そう、今は自分の方がユーノの近くにいるのだ。

(だから違う!!私は……)

〈……今なら独占できる。ここがチャンスだ。〉

「…………………」

〈…………………〉

「……ケルディム?」

〈じょ、冗談だよ!?軽い冗談!!〉

「というかスナイパーやろうってやつがそんなに思ってること顔に出してどうすんだ。」

真っ赤な顔でD・ケルディムを外してギリギリ締めつけるフェルトにヴァイスは呆れながら溜め息をつく。
と、その時、

『ティエリア、フェルトさん!すぐにトレミーに戻って!』

艦内放送でシェリリンの声が聞こえてくる。

『ユーノが起きたんだけど、子供が拉致されたって聞いて一人で助けに行くって言って聞かないの!!』



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

いつになく異様な雰囲気に包まれるブリーフィングルーム。
フラフラのユーノの放つ気迫はそれほどまでにこの場に影響を与えていた。
しかし、スメラギも譲らない。

「何度言っても無駄よ。その子がいる場所もわかっていないのにどうやって助けるの?それに、その傷じゃ…」

「傷なんかどうだっていい。命だっておしくない。」

「子供かお前は。少し落ち着けって言ってんだよ。」

呆れるロックオンだったが、ユーノに睨まれると肩をすくめて沈黙を決め込む。

「彼女を使えば、それまで使えなかった古代ベルカ時代の兵器を起動させることもできる……お飾りの錦の御旗にさせられて、新しい戦いを生むかもしれないんだ!」

「……理由はそれだけか?」

もちろん、それだけではない。
だが、それを口にしてしまったら今の自分を、なのはの前で言った決別の言葉を否定することになる。
それが、刹那の問いに答えることをためらわせた。
しかし、誰もが予想だにしない人物からその言葉は飛び出した。

「ユーノの大切な人が傷つこうとしている。それだけで動く理由は十分のはずだ。」

「ティエリア!?」

遅れてやってきたティエリアは驚くユーノにフッと笑うと真剣な顔でスメラギと向き合う。

「子供一人救えないで、世界を変えられるはずがない。僕はそのことを、あなた方から教えてもらったんだ、スメラギ・李・ノリエガ。」

最初は戸惑っていたユーノだったが、ティエリアの力強さに背中を押され、迷いの消えた晴れやかな笑顔をする。

「僕は、ヴィヴィオを助けたいんです。力を貸してください。」

「……やっと本音が聞けたわね。」

スメラギはクスリと笑うとブリッジに通信を繋ぐ。

「聞いてたわね。これから私たちは拉致されている少女の奪還に入るわ。」

『はいです!クロウさんとアイナさんに調査を依頼です!』

「あ、ちょっと待って。」

その時、ユーノがミレイナにストップをかける。

「拉致した騎士たちの居場所を調べるんなら、僕にもできることがあるかもしれない。」

「その体で?」

「大丈夫ですよ。別に派手に動いたりするわけじゃないですから。ま、頭は使いますけどね。」

トントンと頭を指で叩くユーノに首をかしげるスメラギ達だったが、当の本人は彼らならば自分に協力してくれるであろう確信を持っていた。



無限書庫 司書長室

「あ~……なんか今なら目からビーム的なの出せそう……」

すっきり片付いた司書長室でハイネは背もたれに寄りかかってギシギシ音をたてる。
前司書長がいたころは自分が担当する情報収集はここまで多くなかったのに、最近は本当に寝る間もないくらいに依頼がやってくる。

「なんだよ、『遺構に使用されている石材の種類とその特色』って……どんだけマニアックなの引き受けてたんだあの馬鹿。」

おそらく依頼者と気が合って、しかも自分も知りたかったから安請け合いしたに違いない。

「しかも途中で消えちまうし……てめぇの引き受けたもんならてめぇで最後までやれよな!!」

バシリと報告書を床に叩きつけてハイネは再び背もたれに寄りかかって天井を見上げる。

「ぼやかないぼやかない。これも司書長の勤めだよ。」

「俺は返上したいって絶賛希望中なんだがな。それを無理矢理ここに座らせてんのはお前らだろうが。」

「あーあー。聞こえませーーん。」

「このやろ…」

耳をパタパタさせて聞こえないようにするアルフに自分の担当している分を三分の二押し付けてやろうかと本気で画策するハイネだが、その時ドアが叩かれる。

「はい、どうぞ。」

慌てて二人は身だしなみを取り繕うと客人を迎え入れる。

(……ん?)

一人は白のロングコートを着た童顔の男。
もう一人はサングラスをかけた金髪の男。
その金髪の男に、ハイネとアルフは既視感を覚える。

「どうかしましたか?」

「え!?ああ、いえ!どうぞこちらへ。(……そうだよ。まさかね。)」

そう思ってアルフは二人にソファーをすすめ、自分はハイネとともにテーブルを挟んで反対側のソファーに座る。

「管理局査察部所属、クロウ・ヘイゼルバーグです。」

「ハイネ・フライシュッツです。それで、御用件は?」

査察部と聞いて心の中で舌をつきだすハイネだったが、そんなことはおくびにも出さずに爽やかな笑顔で受け答えをする。

「現在、ある少女が行方不明なのは知っていますね?」

「ヴィヴィオ・S・高町……そりゃ知ってますよ。知り合いの知り合いの子ですから。」

「では、彼女の生まれ方が少々特殊だということも?」

「ええ。まあ、そんなの私どもは気にしてませんけどね。」

「残念ながら、今回彼女が行方をくらましたのはそれに関連してのことなんですよ。」

「ハハハ。また査察部お得意の裏でコソコソですか?」

強気に出るハイネにアルフは隣でハラハラしながら、必死に愛想笑いを浮かべる。

「否定はしません。しかし、彼女の身柄を一刻も早く保護するために必要なことだったと自分は考えています。」

「彼女の心配じゃなくて彼女のせいで妙なもんが動き出すのが心配だからでしょう?」

(ハ、ハイネッ!!)

「少なくとも自分は彼女のためにと思って動いています。そして、ここに来たのもそのためです。」

「というと?」

「単刀直入に言いましょう。無限書庫の方でベルカ自治区に古代から今まで残る教会、それも聖王に関連する聖遺物が伝承で残っているとされているものを探し出してほしいのです。できれば未だに発見されていない、単なるお伽噺と思われているものを。」

「なるほど……」

確かに、そういった場所やその近辺に彼らが潜んでいる可能性は高いだろう。
だが、ハイネの返事は端から決まっていた。

「お断りします♪」

それはアルフも同じらしく、今度はうんうんとうなずく。

「私どもも忙しいので。では、この話はここまでということで…」

「……なるほど。見つける自信がないんだね?」

「あ゛?」

それまで黙っていたサングラスの男の言葉にハイネは怒りで笑顔を歪める。

「意外だったなぁ~……そりゃあ、エレメンタリーの時の成績は下から数えた方が早かったかもしれないけど、その後は頑張ってそこそこの成績を残したって言ってた気がしたけど?」

「あのな……あんた何様だ?人の過去をさも見てたようにべらべらしゃべりやがって。いいかげんにしないとここの本棚に閉じ込めて千年後にミイラで発見…」

「ハ、ハイネ…ちょっと?こいつ、もしかして…」

「は?」

アルフは男に指をさしたまま口を金魚のようにパクパクさせる。

「ハハハッ!相変わらずせっかちだなぁ、ハイネは。」

「!!!!お、お前まさか…」

「なんだ。やっぱり気付いていなかったんだ。」

そう言うと、男はサングラスを取って宝石と見まがう美しい翠の瞳を二人の前にさらした。

「そんなことじゃ、そのうち足元をすくわれるよ。」

「「ユーノ!?!!!?!!?」」

「えええぇぇぇぇっっっっ!!!!!?」

ハイネとアルフの大声に、すぐそばを歩いていた数人の司書もドアを勢い良く開けて部屋の中へなだれ込んでくる。

「司書長!!!!」

「無事だったんですね!!!!」

「よかった……本当によかった!!!!」

「心配したんですからね!!!!」

「みんな元気そうだね……安心したよ。」

「お、おまっ……なんでここに!?てかどうやってきたんだ!?」

「ヘイゼルバーグさんに頼んで連れて来てもらったんだ。見習い査察官だって言ってね。いやぁ、眼を隠して帽子かぶってたら案外あっさり来れたよ。」

「そりゃあ、指名手配犯がわざわざ一番来たくないと思うところに来てるなんて思いもしないだろうさ……」

あまりの大胆さに呆れながら笑うアルフ。
もっと悲劇的、もしくは感動的な再会を想像していたせいで拍子抜けもいいところだ。
だが、こちらの方が自分たちらしいのかもしれない。

「それで、急で悪いんだけど、さっき言ってたところを調べてくれないかい?僕も協力する。」

「おっ!ということは司書長お得意の並列処理を…」

「残念ながらいろいろあって魔法の使用を禁じられてるんだ。」

「なんだぁ~…」

がっかりする司書たちだったが、ユーノは魔法なしの手読みでも十分情報検索は早い。
戦力としては十分だ。

「ところでだ。お前、これ終わったらどうする気なんだ?」

「それは、ヴィヴィオを助けて…」

「違うその後だ。」

ハイネの目つきが鋭くなる。

「管理局に……いや、全ての世界に喧嘩売ってるっていうのは事実なんだろ?」

その質問に、ユーノは苦笑する。

「……まあね。後悔することや迷うことも多々あるさ。けど、自分の心に恥じることはしていないつもりだ。」

「……そうか。」

そう言うとハイネはスーツを脱いでカッターシャツになると司書たちに指示を出す。

「オイ、きょうは徹夜だ。今来てる客も全員返して外から来る連中は誰であろうと中に入れるな。」

「はい。」

「それと、書庫内にいるやつらには探すものを今すぐベルカ関係のものに切り替えろって言っとけ。それと、一時的にしろ司書長が帰ってきたこともな。それとだ…」

ハイネは肩越しにユーノにニヤッと笑ってみせる。

「俺たちはこれからユーノとその仲間のサポートをなにより最優先させる!管理局のアンポンタンどもにバレないようにな!これから忙しくなるぞ!」

「ハイネ……!」

「ハッ!なんつう面してんだお前は。泣いてっとまた女顔って馬鹿にされるぞ?」

「僕は女じゃない!……けど、今日くらいはそう言われてもいいや。友達とその友情が変わらないでいてくれたのが、こんなに嬉しいとは思わなかったから。」



この日、無限書庫は徹夜にもかかわらず久しぶりに以前の活気を取り戻した。
それこそ、調べ物をしているというよりは宴会をしているような陽気な様子で。



翌日 ベルカ自治区 ディサイド寺院跡


巨大な教会の前に二人の男と一つの小さな影が立っている。
彼らが立っているその境界はステンドグラスが割れ、元は美しかった騎士の彫刻は腰から上が完全になくなっている。

「ここか。」

「らしい。」

ユーノの情報を疑うわけではないが、昨日出ていって今日の朝にはここだという知らせが入ったことに刹那とジルは感嘆していた。

「それより、ここにそんな物騒なものが眠っているというのか?」

「だからそれも含めてらしいって言ってんの。オイラだって、あんな馬鹿なもん本当に作ってたなんて聞いたことないっての。」

ティエリアは唇を尖らせるジルから右手に握っていたある物語に目を移す。

「昔々、聖王様の配下には優秀な鍛冶屋がたくさんいました。その中の一人に、神様は本当にいるのだろうかと考えた男がいました。その男は、神様を探すためにいろいろな方法を試しました。魔法、錬金術、哲学、ありとあらゆる勉強をしましたが、その答えは見つかりません。
ですが、その中で男はあることを思いつきました。『そうだ!神様を作ってみればいい!人間の自分に作れたなら、神などいない。しかし、優秀な鍛冶屋である自分でも作れないのなら神様はいるに違いない!』そう考えた男は早速神様を作り始めました。男はありとあらゆる世界からさまざまな材料を集めました。

長く長く生きた龍の牙…
人を一睨みで殺す魔獣の瞳…
世界一の輝きを放つ石…
建物すら溶かすサソリの毒針…

いろいろなものが男の下に集まり、鍋で溶かされ、ハンマーで鍛えられ、最後には一本の剣になりました。男はそれが神様なのか確かめるために、一人の騎士にその剣を使ってみてほしいと頼みました。するとどうでしょう。それを手に持った騎士はなんの罪もない人々を斬り始め、最後には自らも黒い光となって消えてしまいました。そう、男は神様を作ろうとして悪魔を作ってしまったのです。
怒った聖王様は、男をその剣に鎖でグルグル縛り付け、地下の奥深くへ閉じ込めました。男はやがて死に、その剣は男の逆恨みを吸ってさらに強力になりました。聖王様はその剣を神殺しの剣・タキリと名付け、誰もそれを使わないように閉じ込めたうえに教会を建て、固く固く封印を施しましたとさ。」

ジルの音読が終わったところで二人はもう一度外観が崩れた寺院を見上げる。

「それがここ、ディサイド寺院であって、この地下深くにはその神殺しの剣が怨念とともに眠っている……っていうちゃっちい昔話さ。」

「しかし、その男たちがそれを求めているということは…」

「ないない。聖王が建てたってのは本当だけど、そんなもんがあるなんて聞いたことないっての。大方、ラリってここでなんかそれっぽいことをしようとしているだけなんじゃないの?」

「だといいがな…」

「オイ!」

後ろから声をかけられた三人が振り返ると、すでに黒いフードをかぶった3人の男が槍や剣などの武器を手に立っていた。

「怪しい奴らめ……ここは聖王様の治められるべき地である!即刻たち去れ!!」

「お前らに怪しいとか言われたくないっつの。この美形二人より脳筋ゴリラが顔隠してるほうが十人が十人、怪しいって言うに決まってんだろう。」

「この……!チビめ!!」

男の一人が剣を振り下ろそうとする。
だが、

「オイ……お前こそ何してる?」

「ゴパッ!?」

いきなり打ちおろされた踵で男は鼻や口から液体を出して倒れる。
残った二人も何事かと振り返るが、その顔に容赦なく爪先が突き刺さる。

「ごめん遅れた。」

靴についた血を犬の糞でも踏んだような顔で地面にこすりつけて消そうとするユーノ。
その姿からは、先日の戦闘でのダメージは感じられない。

「相変わらずタフだな君は……世界最後の日がやってきても生きていそうだ。」

「ゴキブリか僕は。っと、それより早くした方がよさそうだよ。最後に気になったことがあったから少し調べてきたんだけど、あの昔話は嘘と真実が入り混じっている。」

「どういうことだ?」

「神殺しの剣は作られてたけど、そいつが生み出された経緯は違ってたってことさ……はい、これ。」

ユーノは男からフードを取ってティエリアと刹那に渡すと、地上部隊の隊舎に三人の男を転送する。

「逆探されるぞ?」

「いいんだよ、それが目的なんだから。流石にこんなヤバいものをほっとくほど管理局も馬鹿じゃないだろうし……よし、変装完了っと。それじゃ、行こうか……僕の娘に手を出した屑どもを後悔させるためにね。フフフフ………!!」



内部

「………ん……?」

起きたてでボーっとした頭のまま、ヴィヴィオはとりあえず立とうとする。
だが、

「!?」

ジャラリと鎖が動く音がして、少ししか腕が上がらない。
脚もほとんど動かせず、腰も何かで巻かれて動かせない。
しかし、ヴィヴィオが何より驚いたのは自分の体に起きた変化だった。

「な、なんで!?私、どうして大人に!?」

ヴィヴィオは贔屓目に見ても7~8歳くらいの容姿をしていた。
しかし、たった一晩で成人の大きさまで背丈が伸び、髪も腕に届くほど伸びている。

「な、なんで……!?」

そこでようやく思い出した。
昨日なのはに誹謗の言葉を浴びせ、そのまま隊舎を飛びだしたところを見知らぬ男たちにつかまったのだ。

「お目覚めになりましたか、陛下。」

ハッと顔をあげると目の前にはフードをかぶったその男たちが膝をついて頭を下げている。
初めは怖がっていたヴィヴィオだが、逃げられないことを悟ると毅然とした態度で男たちを睨みつける。

「数々の非礼、誠に申し訳ありません。しかし、我々ベルカの騎士が天に覇を為すためにも、陛下に封印を解いていただきたいのです。」

「知らない!私は聖王じゃないし、封印を解くことなんてできないよ!!」

「陛下……あの汚らわしい管理局に何か吹き込まれたのですね?嘆かわしい……しかし、ご安心を。我らが責任を持って陛下を正気に…」

「変なのはおじさんたちでしょ!?いいから離して!!」

「陛下……あれの暴走を心配しておられるのですね……ですがご安心を。我らも研究を重ね、ようやく制御する手段を見つけることができました。」

まったく話が通じない男たちは言いたい放題喋った後、ヴィヴィオが腰かけている台座の前で何かつぶやき、魔法陣を展開する。

「な、なに!?なにするの!?」

「陛下も封印を解かれればきっと記憶がお戻りになるはずです。さあ、お早く……」

「いやだっ!!私は聖王じゃない!!私はヴィヴィオだもん!!」

そう、ヴィヴィオ・S・高町だ。
エースオブエース、高町なのはと。
翠空の守護者の、あの天使の娘。

「助けて……」

こんな時に思い出すと、いやこんな時だからこそ思い出してしまう。

「助けて……!」

ヒーローのように、自分を助け出してくれたあの人を。

「助けて……!!」

カッコよくて、強くて、誰よりも優しいあの人を。
父、ユーノ・スクライアのことを心の中に何よりも強く思い描いてしまう。

「助けて!!パパーーーー!!!!」

「……もう限界だ。」

その声に、ヴィヴィオだけでなくかしずいていた男たちもそちらを向く。
いつの間にか一人の男が立っていて、わなわなと肩を震わせている。
ヴィヴィオは、その声をよく知っている。
あの人が本気で怒っている時の声だ。

「貴様!!陛下の御前であるぞ!!身の程をわきまえろ痴れ者が!!」

「……まだ早い?助けてなんて言われて早いわけがあるか……むしろ遅すぎるくらいだ……!!」

「聞いているのか!!」

男たちの一人が独り言のようなことを呟く男の肩を掴む。
だが、その男はその手首を掴むと関節とは反対の方向へ曲げていく。

「ぐっ…あっ……き、貴様……何を…!?」

「……何をした?」

「な、なに!?」

男のフードからかすかに見えた翠の瞳が、ヴィヴィオの抱いていた希望を確かなものへと変える。

「僕の娘に……何をしたって聞いてんだよっ!!!!」

左拳を顔面に叩きこまれた男は宙で二、三回回転して崩れかけていた壁に頭をつっ込んでしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなった。

「オイ屑ども……覚悟はできてるだろうな……」

周囲を取り囲む男たちも、その声に思わず体を震わせる。

「ヴィヴィオに手を出したんだ……五体満足で帰ろうなんて都合のいいこと考えるなよ!!!!!!!」

「パパ!!!!」

フードを取り払い、ソレスタルビーイングの制服にその身を包んだユーノに、ヴィヴィオは歓喜の声をあげた。



ベルカ自治区 雑木林

「あんのバカっ!!行くぞ、ハロ、フェルト!!」

「僕たちも行くよ、マリー!!」

ユーノの予想外の行動に慌てて飛び出すケルディムとアリオス。

「ユーノは!?ユーノは大丈夫なの!?」

「そっちは心配いらねぇよ!!一人じゃないんだからなんとかなる!!それより、ミッションを時間内にこなせるかどうかの心配をしろ!!さっさとしないとうるさいのと鉢合わせるぞ!」



ディサイド寺院 内部

「いい度胸だな……!!一人でここに乗り込んでくるとは!!」

〈Anfang!〉

アームドデバイスを起動してその切っ先をユーノに向ける男たち。
だが、

「一人じゃない。」

「ガアッ!!?」

今度は疾風を纏った斬撃で男が壁を突き破って外へと放り出される。
それを放った人物はフードを脱ぎ捨て、背中の蒼い翼を広げる。

〈Limit off!Force  detonation!!〉

「二人だ。」

「ちっがーーうだろっ!!オイラ入れて三人だ!!」

刹那の背中から出てきたジルはプンプンと怒るが、その緊張感のない態度とは対照的に男たちはいっそう殺気立つ。
しかし、これで終わりではなかった。

「違う。」

〈Critical blizzard!!〉

紫の魔力と吹雪で壁に穴があき、フードの一団の大半が吹き飛ばされるか氷漬けになってそこらに転がる。

「僕を入れれば四人だ。」

〈勝手に俺らを省いてんじゃねぇよドチビ!!〉

不機嫌そうな顔で月をバックに教会に入ってくるティエリアだったが、不機嫌の理由はジルの発言ではない。

「ユーノ……」

ギロリと睨みつけてくるティエリアにユーノは顔を横に向けるが、そちらには刹那とジルがこちらを見つめていた。

「ガンダムを投入して敵を分断してから救出の手はずだったが?」

「いや、だってさ……あんなことしてるの黙って見てるわけにもいかないでしょ?」

「冷静に行こうってオイラ達に言ってたのはお前だった気がすっけど?」

〈ついでに言うなら戦術予報士のおねぇちゃんにも無茶すんなって釘刺されてたよな。〉

〈勝手なことしちゃ駄目ですよマイスター!〉

D・クルセイドにも裏切られ、完全に四面楚歌状態になってしまった。
となると、とるべき行動は一つ。

「……ごめんなさい。」

〈謹慎になるかもな。まあ、傷も完治していないから身体を休めるいい機会だと思うんだな。〉

D・ダブルオーからの冷たい一言にユーノはがっくり肩を落とすが、それを見ていた男は侮辱と受け取ったのか怒り狂う。

「貴様らぁぁぁ……!!!!生きて帰れると…」

「何見当違いなこと言ってんだ?」

ジルは「まだ気付かないのか……」と呆れて嘲笑を浮かべる。
ティエリアも疲れた様子でフゥと鼻を鳴らす。

「僕たちが外で呑気にあんな大魔法の準備をしていた時点で気付かないのか?」

そう言われてハッとする。
恐る恐る外を見てみるとボロ雑巾のような体で倒れている彼の仲間がいる。
腰を抜かしそうになる自分を奮い立たせて奥に待機させている者たちの様子をうかがおうと勢いよく扉をあけるが、そちらには斬られているか顔をアンパンマンのようにして気絶している騎士たちがいるだけだ。

「残ってんのあんただけだよ?」

「ヴィヴィオを泣かせたんだ……覚悟はできてるだろうな…!!」

ゆっくり距離を詰めてくる三人。
しかし、

「フ……フフフ!!ハハハハハハハハ!!!!馬鹿め!!!!もう封印は解けている!!!!」

そういうと男はヴィヴィオの後ろに立ち、魔法陣を展開してこの地下に眠っているはずのそれを呼び覚まそうとする。
刹那とティエリアは取り押さえるために飛び出そうとするが、ユーノがそれを止める。

「やめておくんだね。それが君のためだ。」

「ハッハハハハハハハハハハハハ!!!!何を馬鹿な!!!!貴様たちこそいまさら泣いてわびても許さんぞ!!!!」

男は高笑いをしながら術式を起動させる。
だが、

「グッ!!?お、オオオオオオオオォォォォォォォォォ!!?!??!!?」

男の中から出た黒い靄が床の下へと吸い込まれていく。
しかし、地下に眠っているはずの魔剣は目覚めず、男が白目をむいて倒れただけだった。

「……どういうことだ?」

男の頭を蹴ってどかしてヴィヴィオの拘束を外すユーノにティエリアが問いかける。

「確かにこの寺院の下にはタキリは眠っている。だけど、タキリを起動するには人一人の魔力じゃ足りないのさ。」

そう言うと、ユーノは腰が抜けてたてないヴィヴィオを両手で抱えると真実を語り始める。

「ジルの言ってた昔話に騎士が一人出て来てたろう?」

「ああ、確かタキリを持って正気を失ったとかいう……」

「今でこそ被害者の一人のように描かれている彼だけど、彼こそが神殺しの剣を生みだすきっかけを作った人物なんだ。物語に出てきた鍛冶屋、まあ現代風に言うならデバイスマイスターは別に神を作ろうとしたわけじゃない。神学や哲学、錬金術や魔法の知識に長けていた鍛冶屋に、武勲をたてるために殲滅戦用の魔導具の制作を依頼したのがその騎士だったのさ。しかし、無駄に人を殺める武器を作ることを拒んだ鍛冶屋の妻子を人質にとり、無理矢理作らせた。けど、それを起動するには多くの魔力が必要だった。だからその魔力を得るためにその騎士はありとあらゆる世界の魔生物からその力を奪い取ってきた。」

「なるほどな。光る石というのはその魔導具を制作する際に使った鉱石……龍の牙や魔獣の目というのは魔生物から奪った魔力かリンカーコアというわけか。」

〈となると、大方黒い光になって消えたってのはさっきみたいに魔力を奪っている様子を言ったものだったってことか。〉

「そう。そして、その騎士はそれを戦場で使用したわけなんだけど、敵を全滅させることには成功したけど、味方も巻き込んである世界の半分を生物が住めないような土地に変えてしまったんだ。事情を知った聖王は鍛冶屋の妻子を救い出し、その騎士を処罰して鍛冶屋の協力の下その兵器をここに封印したってわけさ……さて、昔話はここら辺にして。」

ユーノは随分大きくなったヴィヴィオの頭を、小さかった時と同じように優しくなでる。

「よく頑張ったね、ヴィヴィオ。遅くなってごめんね。」

「パパァ……!!」

ヴィヴィオは自分が大人の姿になっているのも忘れてユーノに抱きつく。

「うっ……!!わああぁぁぁぁぁん!!!!怖かったよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「っと!ハハハ!もう大丈夫だから。ほら、涙をふいて。」

袖でヴィヴィオの涙をぬぐい、先程までの鬼のような顔からホッとする笑顔を浮かべる。
それを見たヴィヴィオは我慢できず、

「パパ大好き!」

「へ!?」

〈わっ!?〉

「なっ!?」

〈ひゅう~♪だ~いたん!〉

「〈…………………〉」

「娘相手でもこれはちょっとまずくね?」

ユーノの頬に口づけをする。
崩れた壁から、出番がなかったメンツが見ていることも知らずに。

「そ…そんな……きゅう……」

「……オイ。娘助けるためだって聞いたから俺たちも張り切ってたんだけど?」

「愛人!愛人!」

「なるほど……実は愛人を助けるためだったと……?」

「……ソーマ、ちょっと代わってくれない?あなたもユーノを撃ちたいでしょう?」

セットアップしたまま気絶してケルディムの肩の上で倒れるフェルト。
いちゃいちゃしている様を見てトリガーを引きたいのを抑えるロックオンと愛人という単語を連呼するハロ。
愛人(ヴィヴィオ)に抱きつかれているユーノに呆れてものも言えないアレルヤ。
ソーマと一緒にどうやってユーノにお仕置きしようか考えるマリー。

それらを見た瞬間にユーノは悟る。
プトレマイオスに戻ったら、きっとろくでもないことになると。

「ちがーーーーーーーーーう!!!!!!誤解だよ誤解!!!!!!」

「パパー?愛人って?」

〈コイツみたいな女ったらしが何人も…〉

「セラヴィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!ヴィヴィオに余計なことふきこんだら虚数空間に捨てるぞ!!!!!!!!!!」

「話をそらすなユーノ・スクライア!!!!私たちが心配している時に貴様は!!!!!!!」

「なんだぁ!?がらにもなく心配してたのか!?今流行りのツンデレってやつかぁ!?ギャハハハハハハハ!!!!腹痛ぇ!!!!!!」

(喧嘩売らないでってハレルヤ!!!!)

(ソーマもカートリッジ取り出さないでーーーー!!!!)

「う~ん………ユーノ…ユーノに愛人が………」

「愛人!愛人!」

「殴っていいよな?罪にならないよな!?」

「だから違うんだってばーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」





本日もミッドチルダの夜はにぎやかだ。



翌朝

突然隊舎に転送されてきた男を尋問し、いの一番で教会に駆け付けたなのはだったが、そこに残されていたのは気絶しているベルカ系魔法の使い手たちと氷や壁の破壊された後だけ。
しかし、そこにまぎれてディスクが入ったケースが一つ。
ディスクの表面には『Y to N』の文字。
まさかと思い手に取ったなのははすぐにレイジングハートに解析を頼む。
そこには、

『ヴィヴィオは無事。今はこちらで保護する。至急聖王教会に協力求めよ。』

「これって……」

先日決別したはずの彼からの物と思われるメッセージ。
その終わりの先には、

『P.S 今はまだ戻れない。対峙しなければならない時もある。だけど、互いの思いは曲げぬように。局員としての……エースとしての誇りを見せてほしい。』

「……嘘つき。」

泣きながら膝をつき、不器用な優しさに微笑む。

「やっぱり、ユーノ君は私の大切な人だよ……!!昔からすごく優しい、世界一カッコイイ男の子だよ……!!」

忘れることなんてできない。
けど、取り戻すこともできない。
だったら、せめて待とう。
待ちながら、ゆっくりでもいいから、彼とは違う方法でもこの世界を少しずつでもいいから変えていこう。
間違わないように、自分なりの方法で光を掴めるように……









天空の守護者、幼き王をその手に抱く
白き翼、その胸に再び光をともす
しかし、守護者の命の灯は揺らぎだす……






あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・という名のだが私は謝らない

ロ「というわけでただヴィヴィオに『ママなんて大っ嫌い!!』と言わせたいがために書いたと言っても過言ではない第三十五話でした。」

な「………………………………orz」

ユ「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!?僕の恋人さんがすごいへこんでるんですけど!!!!?」

蒼「まあ、あれはなぁ……」

ヴィヴィオ(以降 陛下)「だってあの時は本当に嫌いだったんだもん。っていうか陛下って言うの禁止!」

な「ヴィヴィオーーーーーーー!!!!!!!!!!!!(血涙)」

ティ「転送。」

白い魔王、強制退室

陛下「なにしたの?」

刹「ストーカーになりかけてた危ない親を隔離しただけだ。」

ユ「仲間の想い人に対してその言い方はないんじゃない!?」

蒼「でも事実じゃね?」

ユ「……………………………………」

陛下「う~ん、大人の話って難しい………パパたちが忙しそうなので私とジルちゃんで次回予告です♪」

蒼「つっても、次回は久々にサイドらしいけどな。」

ロ「次回は『お前調子に乗ってこんなもん書きやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!コンクリで固めた後東京湾に沈めてやろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!』と思われる方もいらっしゃるかもなので、どうぞご注意を。」

陛下「あ!わかった!!Gジェネの………むが。」

ロ「あははははははははは!!!!!!!!!!何言ってるのかな君はーーーーーー!!!!!!!さあ、あっちでパパと仲良くねーーーーーー!!!!!!!」

蒼「……何やってんだか。では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!では、次回もお楽しみに!!」






ハイネ(以降 西○さんボイス)「てか俺今回あとがきでれないのかよっ!!?」

豆犬「私もっ!!!!」

クロウ(以降 鴉)「俺だって随分前に登場してたのに出れてないんだ。我慢しろ。」



[18122] side1.集いしGたち
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/21 22:03
(注)今回は内容がかなりあれなので、こんなもん受け付けるかっ!という方は戻るを押してください。
ついでに言うならワールドやってない上にいろいろオリジナル要素強めです。
趣味に走ってしまってごめんなさい<(_ _)>






?????

ここは、いくつもの世界が入り混じりできた場所。
いくつもの戦いの歴史が混合し、いくつもの悲劇が共鳴し、そして、希望たちも互いに手を取り合い、戦乱の日々を戦い抜いた。
戦乱は終わり、死鳥も滅び、秩序を取り戻した……はずだった。

「ハルファス……!?どうして!?」

漆黒の魔鳥。
取り戻したはずの彼女の愛機はもはや呼びかけに応じない。
声なき叫びをあげながら、全てを破壊しつくしていく。
もう一度この世界に彼らを呼ぶにしても、かなり時間がかかる。
誰かすぐにでもここに来てほしい。

「誰か……誰か、この世界を救って!!」




彼女のその祈りは、別の世界を駆ける一機の天使に届いた。


魔導戦士ガンダム00 the guardian side1.集いしGたち


ここは数ある多次元世界の内の一つ。
とある紛争に介入するためやってきたユーノと967だったが、その戦いは両陣営の歩み寄りという形で終結した後だった。

「人騒がせな話だ。勝手に緊張状態に入って勝手に和解とはな。」

「まあまあ。犠牲者が出なかったんだからそれでよかったじゃない。」

ムスッとする967をなだめるユーノ。
967も戦いを望んでいるわけではないが、結局何もすることがなかったのに張り切っていた自分がバカバカしく思えて仕方がないのだ。

「今回は空回りもいいところだったな。」

「たまにはそれもいいさ。それに、面白いものも見つかったから僕は満足してるよ。」

「その古臭いディスクのことか?たしかに太古の昔から存在していたというのは興味深いが、中身は結局わからないのだろう?」

「いいんだよ別に。それに、これ見てると親近感がわかない?」

「この絵か?たしかに、ガンダムに似ていないこともないが……偶然だろう。」

「夢がないなぁ、967は。考古学者に向いてないね。」

「大きなお世話だ。もともとなるつもりなどない。」

拗ねてそっぽを向いてしまう967にユーノはクスリと笑うが、この穏やかな時は突然終わりを迎える。

(……けて……!)

「?何か言った967?」

「いや?お前こそ何か…」

(…すけて……!!)

「「!?」」

二度目で二人はようやく異常に気がつく。
声の発生源は、ユーノが右手に持っているディスクとそのケースだ。

(助けて……!!)

「ユーノ!?これは一体!?」

「わ、わからないよ!!僕だってこんなの初めてで…」

(異なる歴史を歩むGよ……この世界を救って!!)!

「救って……て!?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?!!?」

戸惑うユーノと967、そしてクルセイドの前に現れた光が彼らを飲み込む。

「「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」」

激しい揺れと、どこかに引っ張られる感覚。
二人がそれを感じた時には、クルセイドの姿はすでにこの世界から消えていた。



Gが集う世界 The Generation

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」

「っっ!!ユーノ、姿勢制御を急げ!!どこかはわからないが空だ!!」

突然の事態にも967は焦らずクルセイドのサポートをする。
最初は動揺していたユーノも力強く操縦桿を握ってクルセイドの体勢を立て直すと、ようやく周囲の様子が見えてきた。

「なんだ……ここ!?」

光を抜けた先は先程までいた世界とは全く別の様相を呈する世界だった。
大地は荒れ果て、海は濁り、厚い雲で覆われ雷鳴が鳴り響く薄暗い空には鳥など見当たるはずもない。
所問わず火の手が上がり、さながらこの世の地獄と言うべき光景だ。

「ユーノ、ここは…!?」

「わからない……僕もこんな世界初めて見た!」

『……助けて!』

「!?」

その声に目の前のディスプレイに視線を移す。
そこに映っていたのは、金色の髪を持つ一人の女性。
こんなところに知的生命体がいたという驚きよりも、ユーノ967は彼女の悲しげな表情の方が気にかかった。

「あなたは一体……?」

『あなたは……そう、彼らとは別の歴史を歩む革新のG……』

「G?何を言って……」

ユーノの言葉にさらに彼女は悲しげな表情をする。
しかし、決意のこもった瞳でユーノを見つめる。

『私の名はアプロディテ……この世界、Generationを創造した者……』

「世界を創造!?そんな馬鹿な!」

『正確に言うならば、この世界を創りだした存在を作りだした者、というべきでしょうか……』

「どちらにしろ信じがたい話だな。世界を滅ぼす力とやらはユーノから嫌というほど聞いてきたが、ミッドでも世界を創造する技術を生みだしたという話も発見したという話も聞いたことがない。」

『ですが、あなた方は現実にここにいる。あれが……ハルファスが創りだした世界に。』

「ハルファス?それは…」

その時だった。
彼方から突然閃光がクルセイドを襲う。
咄嗟にかわしてそれが飛んできた方を見て、ユーノと967は我が目を疑った。

それは、一羽の鳥。
レイヴン、大鴉を思わせる漆黒のカラーリングに、二つの機械的な翼をもつそれは、瞳をギラリと光らせる。
GNドライヴもなく独特の頭の形状をしているが、カメラアイや輪郭でわかる。

「ガンダム!?」

『そう、ハルファスガンダム……この世界を生みだしたあれが、今度は世界が滅ぼそうとしているのです。だからお願いです!ハルファスから、この世界を救ってください!!』

「救うも何も、向こうは俺たちを逃がす気はなさそうだ!」

967の言うとおり、ハルファスは信じがたい速度で距離を詰めてくるとビームサーベルで斬りかかる。
だが、早いだけのその動きをあっさり見破ったユーノはすれ違いざまに深い傷をハルファスの胸に残す。
だが、

「傷が!?」

周りの装甲がまるで生物のように胸部の傷に集まり、ボコボコ泡立ちながらそれを修復していく。
さらに、それだけではない。
傷から落ちた装甲が膨張し、さらに分裂を繰り返してあるものの形をとっていく。

「なっ!?」

「ガン…ダム……!?」

背中にバインダーをつけた紺色のガンダム。
ハルファスの装甲から生まれたそれは、胸の砲門、手に持っているビームライフルでクルセイドへ一斉射撃を開始する。

『トルネードまで……ハルファス、一体どうして……!』

「それよりこの事態の説明をしてもらいたものだな!!どうなっている!?お前の世界のガンダムは!!」

怒鳴る967だが、驚くべき事態は終わらない。
今度はトルネードと呼ばれたガンダムの一部が徐々にその姿を変え、さらに別のガンダムへと変わっていく。

全身からビームを放つ黒い巨大なガンダム。
紺と赤で染め抜かれた赤熱する鞭を持ったガンダム。
クローの機能を持った盾を持つ緑のガンダム。
白くカラーリングされ、凶悪な爪をもつガンダム。
緑の刀身のみを持つ、騎士を思わせる赤いガンダム。
背中のビットを飛ばし、複雑な動きでこちらを翻弄してくる鈍色のガンダム。
ガンダムの顔をした腹部と触手をもつ巨大なガンダム。
巨大なMAから変形し、ありとあらゆる火器で辺りを焼き尽くしていくガンダム。

ありとあらゆる種類のガンダムが、数え切れないほどの量でクルセイドを圧倒する。

「クソッ!!負けるものか!!」

ユーノは隙をついて触手をもった二つ顔のガンダムへライフルを連射する。
しかし、そのガンダムはそれをものともせず、わずかについた傷も周りの装甲が覆って回復させてしまう。
その間にも周りからの攻撃は止まらず、再び防御一辺倒になってしまう。

「けど、こんなものでクルセイドが墜ちるとでも……」

「……貴様ハ、ナゼ戦ウ?」

「!?」

突然聞こえてくるアプロディテとは違う声。
ハルファスから聞こえてくるその声は、ユーノに問う。

「ナゼ戦う……?コヤツラヲ見ロ……全テ、人ガ生ミ出シタ物……破壊ノタメノ力ダ。コンナモノヲ……Gヲ生ミ出ス人間ノタメニ、ナゼ貴様ハ戦ウ?」

「どこの誰だか知らないけど、井の中の蛙って言うのはよく言ったものだね!君の言うそれは人間のほんの一面にすぎない!!人は過ちを犯した分、それからさまざまなものを学んで未来へつないでいくことができる!!」

「その可能性を摘み取るというのなら、貴様は俺たちの敵だ!!」

「お前のその歪み……この僕が打ち砕く!!」

「愚カナ……ナラバ貴様は学ブコトガデキタノカ?貴様ノ振ルウソノ力モ、所詮ハG……破壊ノタメノ力ダ!!」

ハルファスの一撃でクルセイドが大きく吹き飛ばされる。

「貴様モソノ力デ多クノ命ヲ奪ッタハズダ!!ソノ貴様ガ私ノ歪ミを打チ砕クダクダト!?笑ワセルナッ!!」

「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

地面を背にしながらGNフィールドで致命傷は免れているが、コックピットに伝わってくる激しい衝撃がユーノの意識を遠くへいざなおうとする。
その中で、ユーノの耳には謎の声の言葉がリフレインする。

「破壊のための力……?」

「ユーノ!?」

涙で目の前がにじむ。

「僕のやってきたことは……無駄だったの?」

『惑わされないで!奴の言うことに耳を貸しては…』

アプロディテの言葉も、ただの空気の振動にしか思えない。
自分と、自分に関わるもの、かかわってきたものが無意味なものにしか思えない。

「やっぱり……僕のやってきたことは無意味だったのか?」

絶望の淵に沈もうとしたユーノの前に、ハルファスの一撃が迫る。
だが、もう避ける気力等残っていない。
素直に、最後の時を迎えようとユーノは瞳を閉じた。
その時だった。

「諦めるな!!」

「グッ!?」

ビームサーベルをつきたてようとしていたハルファスに、棘の突いた巨大な鉄球が激突する。
体勢を崩したハルファスは地面を転がって岩山に激突してその動きを止めた。
何が起こったのかわからないユーノが鉄球の飛んできた方を見ると、それが繋がる鎖を出している光の中から一機のMSが姿を現す。

「これ……は……?」

「0ガンダム…いや、違う!」

白いそれは、確かに0ガンダムに似ているが、細部の形状も違えば使っている武器も違う。
なにより、背中にGNドライヴが存在していない。
だが、確かにそれはガンダムだった。

「君は争いのためにそれに乗っているのか!?そのために戦ってきたのか!?違うだろう!!君は……君も守りたい物のためにガンダムとともに戦っていたはずだ!!」

「オノレ…!!アムロ・レイ!!ニュータイプデアリナガラ、ナゼ私ノ邪魔ヲスル!!」

「ハルファス……いや、おそらくはバルバドス・ニューロか。俺はお前とは違う。俺は、まだ人類に絶望しちゃいない!!」

「愚カナ!!ユケッ、ベルフェゴール!!ヤツラヲ血祭リニアゲロ!!」

魔王の名を持つ白いガンダム、対ニュータイプ用ガンダム、ベルフェゴールが白いガンダムへと襲いかかる。
だが、

「お前こそなぜわからない!?」

「憎しみは憎しみを生むだけだって……判れっ!!」

二機の戦闘機が空の裂け目から飛び出してきたかと思うと、ガンダムへと姿を変え、それぞれ手に持っていたライフルをベルフェゴールへと連射する。

「あんたもなに弱気になっているんだ!!」

額から砲撃を放つガンダムのパイロットが吼える。

「あんたの想いってのはこんな奴の言葉で揺らぐほど軽いもんなのかよ!!」

「俺にはわかる……あなたのその願いはもうあなた一人のものじゃない!!多くの人の心が宿る……大切な願いなんだ!!」

細長い顔のガンダムは手に持つサーベルでベルフェゴールを一刀両断する。
しかし、今度は緑のガンダムがクローを突き出しながら二機に襲いかかる。
すると、再び空に生じた光からまたガンダムが現れた。

「バルバドス!!あなたは人間が信じられないんですか!?」

「なぜそこまで人に絶望する!!なぜかすかな希望まで潰そうとするんだ!!」

一機は胸に髑髏をつけた分厚いマントのようなものを着たガンダム。
緑のガンダムが発射したビームライフルをフィールドで弾くと巨大な剣で右腕を斬り落とす。
すると、残っていた小型のガンダムが身体を赤熱させると、いくつもの分身を生みだしながら二丁のライフルを連射して緑のガンダムを粉々に消し飛ばした。

「すごい……!!」

「GNシルエット……だが、やつらにGNドライヴは……」

「そこのガンダム!ボーっとしている暇はないぞ!」

「次が来ます!」

「!?」

今度は上空から紫一色の、もはやガンダムと呼んでいいのかどうかわからない顔の機体が二本の幅広のサーベルで襲いかかる。
しかし、

「人間が愚かだからって……滅ぼすなんてやっぱりおかしいんだよ!!」

背中に光の翼を広げるガンダムが、その手に持った盾から放たれる熱線で紫の機体を爆散させる。
そのガンダムのパイロットが、ユーノに向かって問いかける。

「あなたも人が滅んでも仕方がないと思うほど、愚かだと思っているんですか!?さっきあなたが言ったことは、全て嘘っぱちなんですか!?」

「違う……違うよ!!だけど、わからないんだ!!何が正しくて、何が間違っているのか……こんな狂った世界じゃ、それがわからないんだ!!」

「……なぜ、お前はそんなことを気にする?」

突如、厚い雲が吹き飛び、そこからまぶしい太陽の光を背負いながら天使のような純白の翼を背負ったガンダムが現れる。
その後ろに赤い騎士のガンダムと紺と赤のガンダムが回るが、翼をもつガンダムは手に持っていた二つの銃口を持つ巨大なライフルを構えながら上を向く。

「全てが狂っているのなら、俺は自分を信じて戦う……お前も、そうではないのか?」

巨大な銃、ツインバスターライフルの一撃で二体のガンダムは跡かたもなく吹き飛ばされる。
翼をもつガンダムはゆっくりとそれを羽ばたかせると、ユーノ達の下へと舞い降りる。

「……敵勢力、いまだ健在。任務を続行する。お前もお前の役目を果たせ。」

「けど、僕は君ほど強くない……強くないんだっ!!」

「甘えるなっ!!!!」

いつの間にか背後に迫っていた二つ顔の巨大ガンダムの頭部を、神々しい日輪を背負ったガンダムが掴んでいる。

「強くないなら強くなれ!!!!お前の信念を貫けるほどに強く!!!!」

日輪を背負ったガンダムは巨大ガンダムを蹴り飛ばすと、胸の装甲を開いてハートの紋様を浮かび上がらせる。

「俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

日輪のガンダムの手が、言葉通り真っ赤に燃える。
そして、真っ直ぐすぎる、しかし激しいスピードで距離を詰めたそのガンダムは敵の頭をがっしりと掴んだ。

「ばぁぁぁぁぁぁくねつ!!!!!!ゴッド!!フィンガーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

激しい叫びとその手から生じる衝撃が大気を震わせる。
しかし、本当の衝撃はこれからだ。
なんと、日輪のガンダムはたった一機で自分よりも遥かに大きなそのガンダムを片手で持ち上げたのだ。
そして、

「ヒィィィィィィィト!!エンドッッッッ!!!!!!!!」

強烈な爆発を起こした巨大ガンダムは、機械とは思えない断末魔の叫びをあげながら崩壊していった。

「お前も俺と同等の闘志を秘めているはず!!!!ならば立てっ!!!!貴様の守るべきもののために!!!!」

「そうだ!!!!」

今度は別の地点で雲が消え去る。
空から降り注ぐ一筋の細い、しかし確かなその光を金色の放熱板を開いたガンダムが受け止める。

「あんただって大切な人がいるはずだ!!!!理屈なんて関係ない!!!!俺がティファを守りたいと思うように、あんたにも理屈抜きで守りたいと思うものがあるはずだ!!!!だったら…」

そのガンダムに乗る少年は、うごめく巨大なガンダム二機に照準を定める。

「そんな奴らに……負けるなぁ!!!!ツインサテライトキャノン!!!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

背中に合った二つのキャノン砲から、セラヴィーを思わせる、いや、それすらもはるかに凌ぐ超極大の砲撃が巨大ガンダムとその周辺にいた機体を薙ぎ払っていく。
そして、それを待っていたように空から切り込む機影が三つ。

「僕にも守りたい人がいる……だから、今は逃げずに戦うっ!!」

蒼い翼をもったガンダムは、それを飛ばすと鈍色のガンダムを様々な角度からの射撃で翻弄する。
すると、今度は赤いカラーリングのガンダムが背中からウィングを外して発射する。

「俺はキラと戦い、友を失い、迷ってばかりのどうしようもない男だ!!だが、この心にある平和への願いだけは揺るがない!!!!」

「俺もだ!!!!」

今度は赤い翼を広げ、巨大な剣を持ったガンダムが残影を残しながら迫る。

「俺は大切な人を失って、それが悔しくて力を手にした!!!!けど、それはただ憎しみに身を任せて戦うためじゃない!!!!歩く道を間違っても、誰かが涙を流すことがない世界にしたいって想いは変わらなかった!!!!あんたも大切な人を失う痛みを知っているんなら、どんなに間違っていると思っても自分の心を偽るような真似をするな!!!!」

巨大な剣を突き刺した赤い羽根のガンダムは、すぐさまそれを抜くと今度は掌部のビーム発射光を押しつけて炸裂させる。
その一撃は鈍色のガンダムの腹部に風穴を開けて撃墜する。
しかし、そんな三機の隙をハルファスの生み出したガンダムは見逃さなかった。
つるりと禿げあがった頭に、髭のようなアンテナを持つガンダムが虹色の蝶の羽を広げて迫る。
だが、

「させない!!!!」

まったく同じ姿の、しかし禍々しさを感じさせないガンダムが虹色の蝶の羽を広げて突撃していく。

「ホワイトドールは世界を終末へと導く力……だけど、この力のおかげで僕たちは世界を救うことができたんだ!!!!」

二つの蝶の激突は、少年の乗る方に軍配が上がり、禍々しい気配を持つ機体は砂へとその姿を変えていった。

「オノレG……!!オノレ歴史ノ継承者ドモ!!貴様タチホドノ者ガナゼワカラナイ!!?人ノ愚カサヲ!!世界ヲ蝕ム悪意ヲ!!」

ハルファスは激昂すると羽のようなものを飛ばしてガンダムたちを一気に葬ろうとする。
しかし、羽のようなビットの前に五芒星が出現してその進行を妨げる。

「ナニッ!?貴様ハ三璃紗ニ戻ッタハズデハ!?」

「わが魂に宿る正義が俺を再びここに呼んだ……ならば、すべきことはただ一つ!!」

まるで古代中国の武将、三国志演義にでも出てきそうな派手な鎧を身につけたガンダムが高らかに声を上げる。

「新たに導かれた仲間とともに、貴様を討つ!!!!星・龍・斬!!!!」

「チィッ!!!!」

五芒星を突き抜けたそのガンダムの剣で、羽型のビットは全て斬りおとされる。
まるで、ミッドのような機械的ではない本物の魔法のようなその動きにポカンとするユーノと967だが、それよりもさらに驚くべき事態が起こる。

「大丈夫ですか?」

喋った。
いや、それだけではない。
マシーンであるはずのガンダムが人間のように笑いかけたのだ。

「ガ、ガガガ、ガンダムが!!!?」

「喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「?何か変ですか?アムロ殿たちにも初めて会ったときに驚かれたのですが……」

「驚くよ!!!!MSが喋るわけないもん!!!!これは夢だもん!!!!」

「まさか、転移の際に回路に異常が……!?」

「オイオイ、まさかここまできてガンダムが喋ったくらいで驚くか?意外と頭が固いんだな。」

目の前で起こっていることが受け入れられず混乱する二人の前に、もう一機ガンダムが現れる。
その姿は今ユーノ達が対峙しているガンダム、ハルファスにそっくりなのだが、カラーリングが大きく異なる。
ハルファスが大鴉とするなら、こちらは紅蓮の不死鳥。
炎の中から生まれ、炎をもって生まれ変わるフェニックス。
そう、フェニックスガンダムと呼ぶべきだろうか。

「マーク・ギルダー……!!!!忌々シイフェニックストトモニ再ビ私ノ前ニ立チハダカルカァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

「仮にもこいつの生みの親の頼みなんだ。無下に断るわけにもいかんだろ?それに、こいつらもここに来たのに、俺一人不参加というわけにもいかないな。なあ、バナージ。」

フェニックスのパイロットがそう言うと、ハルファスの後ろから純白の機体が現れビームサーベルで斬りかかる。
まるで、ユニコーンのような一角を頭に頂くその機体の一撃をかわしたハルファスはすぐさま反撃に移ろうとする。
しかし、

「ここから……いなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「!!」

赤い光を放つ一角のMS。
すると装甲が割れ、その間から赤い輝きを放つ新たな装甲が出現していく。
頭にあった一角の角も二つに分かれ、バイザーのようだった目も二つに変化し、その姿を完全にガンダムのそれへと変化させた。

「あんただけは、どの世界にも存在させちゃいけない!!!!」

「グッ…オオオォォォォォォ!!!?」

先程までとは比較にならない速度で振り抜かれたビームサーベルで、ハルファスはその腕を斬りおとされてたたらを踏む。

「すごい……」

「ああ……」

集いに集ったガンダムたち。
姿かたち、パイロットに違いはあれど、その力も、その信念もガンダムを駆るにふさわしいものである。

「俺たちだけじゃないぜ。」

「え?」

フェニックスのパイロットの言葉に、辺りを見てみる。
すると、

「これは……!!」

「どいつもこいつも融通の利かない馬鹿ばっかさ。けど、悪くない。」

地上を進軍してくるガンダムの連隊。
空を席巻するガンダムたち。
死神、ピエロとさまざまな要素を組み込んだガンダムたち。
ボクサー、龍といった異色の様相のガンダムたち。
戦闘機、重火器、拡散ビーム砲で敵を薙ぎ払うガンダムたち。

すでに、ハルファスと互角、いや、それ以上の数と質のガンダムたちがこの場に集結していた。

「当たって!!」

「倍返しだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「ウラキ少尉、突貫します!!」

「ブルー…マリオン……もう一度俺と戦ってくれ!」

「こちらΔリーダー!作戦に参加させてもらう!」

「人の不正は、マフティー・ナビーユ・エリンが正す!!」

「F90……火星から帰ってきたばっかだけど、もう一働きしてもらうぞ!!」

「シルエットの力を見せてやる!!」

「行くぞ、8!!」

「オラオラ!!死神様のお通りだぁぁぁぁぁ!!!!」

「敵を殲滅する。」

「弱い者が戦場に出てくるな!!!!」

「いくよ、サンドロック!」

「マシンガンパーーーンチ!!!!」

「ドラゴンクローーーーー!!!!」

「ローゼスビットォォォォ!!!!」

「グラビトンハンマーーー!!!!」

「ガロードだけに良いかっこさせるかよ!!!!」

「そうそう、パーっと派手にやろうぜ!」

「また引き金を引かねばならんとは……だが、今は未来のために戦う!!」

今までの鬱憤を晴らすかのように、ガンダムたちは驚異の進軍を見せる。
それも、ただの進軍ではない。
見ているものに希望を与える、絶望を打ち払うような雄々しい戦いぶりだ。

「で、どうするんだい?新しいGNドライヴのガンダムさん。いまさら尻尾を巻いて逃げだすかい?」

「まさか……ここまでの物を見せられて熱くならないはずがないじゃないか!!」

力を振り絞ってクルセイドを立たせると、ユーノはにっこりと笑う。

「僕も戦う!!どんなに狂った世界でも、大切な人たちや想いを守るために、戦い抜く!!!!」

「そうだ……俺たちは絶望するために戦っているんじゃない!人の未来を信じているからどんな戦場でも戦い抜けるんだ!!!!」

白いガンダムはその身を光で包み、放熱板を翼のように背中につけた青と白のガンダムへと変わる。

「俺たちの力を使え!君ならできるはずだ!!」

「はい!!」

ユーノは魔法陣を展開し、周りにいるガンダムたちと繋がっていく。

意識が広がる感覚。
戦場の未来を見通す力。
己の肉体とその技術を宿す力。
月から送られてくる輝きと蝶の羽。
人を超えた人の、悲しくも力強い願い。
正義を以て平穏を掴もうとした闘士の想い。

全てのガンダムの力が、クルセイドへと集結していく。

「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「GN-EXCEED!!」

調整が済んでいないことも忘れ、無我夢中でEXCEEDを発動するユーノと967。
しかし、不思議とクルセイドの状態も安定し、スペック以上の力が引き出されていく。

「ゼロ……!!僕を導いて!!」

「ヌゥ!!?」

ハルファスの動きを見通し、先回りをするクルセイド。
ハルファスもビームサーベルで対抗しようとするが、クルセイドは素手でそれを払いのける。

「ナッ!!?」

「うおおおりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

そのまま武器も使わずにハルファスを打拳と蹴りだけで圧倒するクルセイド。
まるで嵐のようなその攻めに為されるがままピンポン玉のように身体を右へ左へと飛ばすハルファス。
そして、連打が止んだかと思うと今度は渾身の一撃でハルファスは宙を舞う。

「轟魔猛撃………バスターブレェェェェェイク!!!!」

体勢の崩れていたハルファスにクルセイドのGN粒子を纏った蹴りが突き刺さる。

「グッ……オッ……!!ナ、ナメルナ!!」

「まだまだ!!今度はこいつだ!!!!」

「ウオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!?」

二つのGNドライヴから、虹色の輝きが溢れだしハルファスを押し流す。
そして、ある程度離れたところでシールドバスターライフルをバーストモードで構える。

「サテライトバスター!!!!!!」

「ヌウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」

ライフルが軋むほどの砲撃で、ハルファスは装甲を焼かれるが、それでも未だに生き残っていた。
しかし、

「お願いします!!」

「ああ!!」

「うん!!」

白と青のガンダム、そして青い翼のガンダムと意識を繋ぎ、その力を貸してもらう。

「「「いけっ!!フィンファンネル!!ドラグーン!!」」」

無数のビットがハルファスを取り囲み、これでもかというほど光の雨を降らせる。
ここまでの猛攻に流石のハルファスもよろよろとさがるが、意地でも倒れようとしない。
そこへ、さらに追い討ちがかかった。

「ここらで幕引きといこうじゃないか!!」

文字通り、炎を纏う不死鳥と化したフェニックスの上にクルセイドが乗り、ハルファスへと突撃していく。
そして、

「どんな装甲でも……打ち貫くのみ!!!!」

炎の翼とバンカーの前に、ハルファスの体はバラバラに砕け散る。
最初はどうなったのかわからなかったハルファスを操っていた意思も、自らの身に起こったことを理解すると断末魔の悲鳴を上げた。

「オオォ……!!?ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

大気を、大地を揺るがすその叫びに、ガンダムたちは戦闘もやめて飛ばされまいとその場で必死に踏ん張る。
すると、突然ハルファスが笑い始めた。

「ハ…ハハハハハ!!!!傑作ダナ、異ナル変革ノG!!」

「!?何がおかしい!!」

「知ッテイル……私ハ知ッテイルゾ!!!!貴様ノソノ力ヲ!!!!全テヲ原初ヘト還スソノ力ヲ!!!!」

「なに!?」

「哀レヨナァ……!!貴様ガドレホド世界ヲ守ロウトモ、人間ガ貴様ヲ受ケ入レルコトハナイ!!!!ソシテ、イツカ貴様モ自ラノ使命ニ従ワナクテハナラナクナル日ガ来ル!!」

「どういう意味だ……何を言っているんだ!!?」

「クククク……知ラズトモヨイ!!貴様モココデ果テルノダカラナ!!!!」

戸惑うユーノの前で、突如ハルファスの胴体が赤熱し始める。

「タトエワガ命ニ代エテモ、貴様ラダケハコノ場デ葬ッテクレル!!!!」

「!!熱量増大!!自爆する気か!?」

「やばいな……世界も創れるやつのエネルギーで自爆されたら、それこそこの世界ごと終わりだぞ。」

「わかってるんならもう少し焦ってくださいよ!!早く止めないと…」

「まあまあ、そう慌てんなよ。こっちのGNドライヴのガンダムも、そう捨てたもんじゃないぜ?」

「え……?」

その時、空から一条の光が降り注いでハルファスを貫く。
さらに周りから刃を持ったビットが縦横無尽に駆け回り、ハルファスを微塵切りにしていく。

「あれは……!?」

空から腕を広げて舞い降りたその姿に、ユーノは我が目を疑う。
それは、戦友の駆る機体とよく似た蒼のガンダム、ダブルオーと瓜二つだった。
そして、それに率いられるように他のガンダムも姿を見せる。

「刹那……刹那なのか!!?」

「刹那!!君も来ていたのか!?」

「……………………………」

「刹那なんだろ!?なんとか言ってくれ!!!!」

刹那と思われる人物は何も言わない。
そして、ただ一言だけユーノに告げた。

「戦え……生きるために、変わるために。」

「刹那!!!!」

『……申し訳ありませんが、時間です。勝手に呼んで、勝手に送り返すようなことをして申し訳ありません。ただ、許されるのなら、あなたの未来に希望の多からんことを……』

アプロディテがそう言うと、こちらに来た時と同じ光がクルセイドを包み込む。

「待ってくれ刹那!!刹那ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

必死に手を伸ばすユーノだったが、刹那たちには手が届かず光の中へと消えてしまった。
残されたガンダムたちは、ダブルオーと似た機体とともに残っている敵のガンダムと対峙する。

「よかったのか?あいつもガンダムマイスターだったんだろ?」

「あっちの俺たちがどうなってんのか気にはなったがな……でも、大丈夫だろ。何せ俺たちだからな。」

「それに、彼も自らの意思で戦っている。そう簡単に負けるはずなどないさ。」

「案外、僕たちが助けられている場面の方が多いかもね。」

「……あのガンダムから強い意志を感じた。いつか、あいつも変わることができるかもしれない。」

「なるほどね……少し薄情な気もするけど、それがお前らなりの絆ってわけか。」

「みんな、無駄口はそこまでにしておけ。まだ敵は残っている。」

アムロと呼ばれていたパイロットの言葉に、ガンダムたちは未だ多く残る敵を睨む。

「行くぞ!!俺たち、Gの歴史を継承するものとしての使命を果たすために!!!!」

「おう!!!!」

その言葉を合図に、ガンダム軍団は大地や空を埋め尽くすほどの敵へと突撃していった。



エウクレイデス コンテナ

「……ノ…!!」

「う……ん…」

誰かが呼ぶ声がする。
アプロディテとも違う、懐かしい声が自分を呼んでいる。

「……ーノ!!」

優しく肩を揺り動かされ、ユーノは少しずつ瞳を開いていく。
すると、黒い肌をした女性が涙目でこちらを見ている姿が目に入ってきた。

「ユーノ…!!よかった!!気がついたんだね!!」

「シェ…リリン……?」

いつもなら恥ずかしがってすぐに引き離そうとするシェリリンの抱擁も、今はひどく懐かしいものに感じる。

「僕は……たしか、たくさんのガンダムと一緒に戦って……」

「何言ってるの!?967と一緒に意識不明のまま帰って来てすっごく心配したんだよ!!!!」

「え……?」

そう言えば、クルセイドは決して浅くはない傷を負っていたはずだ。
それはどうしたのか。

「戦闘がなかったのに一体何があったの!?クルセイドは無傷だったから、戦闘があったとは思えないんだけど……」

「無傷……無傷!!?」

「ひゃっ!?」

シェリリンのその言葉にユーノは飛び起きる。
慌てて外へ這い出してクルセイドを見てみるが、確かに傷一つ見当たらない。

「夢……だったのか?」

「……二人揃って同じ夢を見るとでも?」

「967!」

目を覚ました967の言葉に、ユーノは再びコックピットに戻る。

「なんだったんだろう、あれは。」

「わからん。だが、そいつが関係しているのは確かだろうな。」

そう言うと、シェリリンの持っているディスクのケースへ視線を向ける。
相変わらず表面がかすれていて、ガンダムらしいものが描かれているのだけがかろうじてわかる状態だ。
しかし、そんなケースとディスクにある変化が起こっていた。

「GジェネレーションWorld……?」

最初は読めなかった字が、そこだけはっきりと読めるようになっている。

「これ何かのゲーム?ガンダムに似たのが描かれてるけど…」

「……ガンダムだよ。」

「え?」

シェリリンは呆けた顔でユーノを見る。

「異なる歴史を歩むガンダムたち……それが集う世界の物語さ。」

ユーノのウィンクを受け、967もフッと笑って先程の体験を心の中にしまっておくことを決意する。
そう、いつかまた彼らと出会えるその日まで……









全てのGが集う世界
彼らは葛藤を繰り返しながらも、世界を守護するために今日もそれぞれの戦いの中へとその身を投じていく……







あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・という名のマッハで土下座

ロ「さーーーーせんでしたっ!!!!!!!」

ユ「またいきなりだね……まあ、気持ちはわかるけど。土下座の大バーゲンをしているロビンに代わり、いつも以上に趣味と妄想丸出しのサイドにお付き合いいただきありがとうございました。」

9「お詫びというわけじゃないが、これからしばらくそれぞれのガンダム作品から何人かゲストを呼んでいくぞ。今回は宇宙世紀のガンダムと言ったらこの三人、アムロ・レイ、カミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタだ。」

アムロ(以降 白い悪魔)「アムロだ。別にララァに振り回されているわけじゃないアムロだ。俺はシャアとは違う。」

ロ「ハクチョウに面影重ねて夢の中で出て来て汗だくで飛び起きる時点で十分振り回されてるぞ。」

9「お前はいつ土下座をやめていいといった。」

ロ「さーーーーーせんっっ!!」

カミーユ(以降 キレる人w)「大変だな君たちも……修正してあげようか?」

ユ「ごめん、こいつも十分若いから。『これが若さか……』なんて言う資格ないから。」

ジュドー(以降 まともな人w)「でも一回本気で反省させた方がいいと思う。あ、俺はジュドーだ。スパロボなんかでは最近Zの劇場版のせいで参加できなくなってきてるけど、ロビンは本気で復活させてほしいと切に願っているジュドーです。」

ユ「え?マジ?」

ロ「……だってAでの移動後ハイメガの快感が忘れられないんだもん。」

まともな人「そう言えば最終戦で次の周の資金稼ぐために祝福つけてつっこませまくってたな。おかげでラスボスに狙われてエライ目にあったけど。」

白い悪魔「俺なんてImpactでシャアとの戦闘で一番無茶させられたな。主人公機の二機が墜とされるのが嫌でフル改造したνと一緒にフィンファンネル連発させられた。」

キレる人「俺は基本的にいつもベンチでしたね。鍛えない理由が顔が長くてカッコ悪いなんて理由だけでスパロボ始めたころから約五年間も。おかげでイベントで出るときはいつも苦労させられた……」

ロ「……だってその頃はカッコよさ重視だったもん。おかげでサイ○スターの強いこと強いこと。」

キレる人「修正してやるーーーーーー!!!!!!」

ユ「やめて!!!!こんなんでも作者だから!!!!コイツがいないと話が進まないから!!!!」

白い悪魔「それじゃあ、話を進めるためにも次回予告に行くか。」

9「ヴィヴィオの救出に成功したソレスタルビーイング。」

キレる人「しかし、一時の平穏も束の間に新たなミッションが下る。」

ユ「とある世界で王族が人質にとられる事件が発生!」

まともな人「管理局、ソレスタルビーイングともに狙撃要員を配置して事態に当たるが、その時ヴァイスの脳裏にあの悪夢がよみがえる!」

白い悪魔「ヴァイスは過去からの呪縛を振りほどくことはできるのか!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお待ちしています!では、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 36.引き金の重さ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/05/29 22:35
アースラ 医務室

何度つばを飲み込んでも、ペットボトルの中のお茶を飲んでものどの渇きが収まらない。
その理由は、シャマル自身がよくわかっているのだがそれでも資料から目を離すことができない。

GN粒子の持つ毒性と、それに侵された際の症状。
細胞分裂の阻害、目眩、立ち眩み、そしてそれらの進行速度と決定的な治療法が未発見であること。

読めば読むほど、ユーノを苦しめていた病と酷似している。
さらに、並行世界の地球から来た彼らの言葉を信じるのなら、ユーノは四年前、すでにMSでの戦闘を経験している。
そして、彼の所属していた私設武装組織は壊滅に追い込まれた。
もしその時、ユーノが戦闘の折にGN粒子を大量に浴び、それを使用した兵器によって負傷していたとしたら。

「このままじゃ持って半年……早ければ、二ヶ月ほどで身体を動かすことさえ難しくなる……!」

シャマルはなのはにこのことを知らせようと念話を繋ごうとするが思いとどまる。
ヴィヴィオがいなくなってから沈んでいた彼女が、最近になってようやく前向きになって来てくれたのだ。
そこに今回のこのことを伝えたらどうなるだろうか。

ユーノが、残り少ない時間を戦いに費やしていると知ったら。
もし、このことを知った上でなのはと離れ、命を削っていると知ったら。

それを告げるのは、なのはにとっても、ユーノにとってもあまりにも残酷な仕打ちだ。

「なんで……なんで、あの二人が……こんな運命を背負わなくてはいけないの……!?なのはちゃんもユーノ君も、ただ静かに過ごそうとしていただけなのに……!!」

涙にくれるシャマルは、はやてが呪いにおかされていた時と同じくらいこの世界が憎かった。
ただ平穏を求めていただけの男女二人の仲を最悪の形で引き裂き、その絆を元に戻すことすら許そうとしないこの世界が。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 36.引き金の重さ


プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「で?お分かりいただけましたか?」

バツが悪そうに笑う一同をユーノは笑顔のままギロリと睨み回す。
ジェイルの手で子供の姿に戻ったヴィヴィオを見てようやくユーノの愛人説は終息し、ヴィヴィオのお守を任された沙慈、エリオ、ウェンディの三人、そして救出に参加した刹那、ティエリアたち以外のメンツがここに集められて反省させられていた。

「普段からみんなが僕のことをどう思っているかよぉく、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくわかったよ。まさか愛人を作るようなふしだらな人間だって思われてるとはねぇ……」

(普段からナチュラルに女ひっかけてるやつがよく言うぜ。)

(いや、天然だからこそそういう方面には人一倍真面目なんだろ?)

「そこ二人、話聞いてる?ちゃんと聞いてくれないと簀巻きにした上でミッドチルダ一周、ガンダムに吊るされていく超高速での空の旅をプレゼントしちゃうよ?」

冗談のようなセリフを、冗談を言っているとは思えない笑顔でロックオンとラッセに語るユーノ。
二人もその冗談(であってほしい)を実行されてはたまらないと蒼い顔で口をつぐんで背筋を伸ばした。

「うん、よろしい。さて、それじゃあもう少し僕の話に付き合ってもらおうか。ヴィヴィオとの思い出や映像を交えながらじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくりと。」



その後、実に三時間もの間、反省を促すためのネチネチとした説教二割、ヴィヴィオの自慢話八割のユーノの“オハナシ”は続いた。
後にプトレマイオスクルーは語る。
『ユーノに娘の話と色恋沙汰の話をふるのは愚か者のすることだ。』と……



ユーノの自室

「ふぅ……」

エリオとウェンディの方に興味が移ったヴィヴィオをベッドに腰掛けながら見つめる沙慈は溜まっていた疲れを出すように息を吐く。
誰に似たのか、見知らぬこの艦に来てからも疲れ知らずでパワフルに遊ぶヴィヴィオに沙慈は少々圧倒されていた。
宇宙技師の試験勉強の時も大変だったが、自分にとってはこちらの方がずっと大変かもしれない。
しかし、不思議と悪い気はしない。
最初から持っていたものかはわからないが、ヴィヴィオには周りを和ませる才能があるようだ。

「お兄ちゃん!!」

腕を伸ばして再びこちらにやってきたヴィヴィオを沙慈は抱き上げて隣に座らせる。

「ねぇねぇ!お兄ちゃんはパパの友達なんでしょ?」

「うん……まあ、そうなるのかな?でも、もう何年も会ってなかったけどね。」

「昔のパパってどんな人だった?」

「そうだなぁ……昔はもっとやんちゃで子供っぽいくせに皮肉屋でね。刹那もお隣さんだったんだけど、ユーノはよく遊びに……というより、ご飯を食べに来ていたって言った方がいいかな?」

そう、あの頃はルイスもいて、刹那もいて、騒がしくて慌ただしい日常を送っていた。

「でも、やっぱり一緒にいて楽しかったね。ユーノは根は優しいし、一緒にいるとホッとできたから。」

「へ~……じゃあやっぱり、昔からユーノパパはユーノパパだったんだ!」

「まあ、そうだね……あの異常な鈍さだけは知らなかったけど……」

「鈍さって?」

無邪気な笑顔で聞いてくるヴィヴィオだが、その場にいる全員がその答えを言えるはずもなく困った顔で黙りこくる。
その理由がわからないヴィヴィオは首をかしげるが、近くにいた967を手に取ると顔を近づける。

「ねぇ、クロちゃん。鈍いって何が鈍いの?」

「いや、それはだな……というかクロちゃん?」

「うん!967だからクロちゃん!」

「クロちゃん……」

「?どうしたの?」

流石の967も幼子にいつものように文句を言うことはできないのか情けない声でヴィヴィオのつけた愛称をリピートしてさらに気分を沈める。
逆に周りは話題が逸れてくれたことと、珍しく967が落ち込んでいる姿を見ることでこみ上げてくる笑いを必死に押し殺している。
だが、そのうち一人は967からの逆襲で一気に奈落の底へと叩き落とされることになった。

「……ウェンディ。休憩はもう十分だろう?そろそろ訓練に戻ったらどうだ?」

「え゛?」

「そうだ、ティエリアとフォンを呼んでやろう。すぐにでも訓練に取り掛かれるように。」

「いや、ちょっと待っ……」



そのわずか1分後。
ウェンディはトラックに詰め込まれる牛のように鬼教官二人に引きずられていった。



エウクレイデス コンテナ

「で、現在に至るってわけか。」

うつぶせのまま動かないウェンディから聞こえてくる理解不能なうめき声をなんとか聞きとりながらヴァイスは苦笑する。
その隣では肉体ではなく、精神的に疲れたフェルトがスナイパーライフルを肩に寄りかからせて座っている。

「あの……ヴァイスさんはあれを聞かされたことがあるんですか?」

「いや、ない。」

「じゃあ、私たちの苦痛はわからないですよ……」

「その代わりヴィヴィオにピーマン食べさせるかどうかでハルマゲドンを起こそうとしてる場面に居合わせたことはあるけどな。」

「……私が甘かったです。」

あの溺愛ぶりを見たらヴァイスの言葉が大袈裟なものでないことはよくわかる。
度が過ぎるあの親馬鹿っぷりなら、娘のために世界の一つや二つ終わらせてしまいそうで怖い。

〈そういや、ベルカの過激派の連中ってあの子に手を出したんだよな?あいつのことだからガンダム持ち出して拠点全部見つけだしてたたきつぶしたりするんじゃね?〉

「ハッハッハッ!まさか~!流石にそこまではしないだろ!」

「そうだよ。ユーノだってもう大人なんだし、それくらいの分別は…」

その時、二人の脳裏をよぎったのはD・ダブルオーとD・セラヴィーのミッションレコードにあったユーノの鬼の形相。
そして、変装のために拉致犯のフードを引きはがしているときの邪悪な笑み。

妙な胸騒ぎがした。

「……悪いけどさ、トレミーのコンテナに通信繋いでくんない?」

「はい。」

恐る恐るコンテナにいるであろうイアンとジェイルの下へ通信を繋ぐ。
すると、

『やめんかこのバカもん!!!!そんなことのためにガンダムを出せるか!!!!』

『そんなこと!!?うちのヴィヴィオに手を出した連中をこのままのさばらせておけと!!?そんなこと天が許しても僕が許さない!!!!』

『知るか!!!!今ガンダムが戦って犠牲者が出たら問題に…』

『大丈夫!!いっそ死んだ方がマシな罰を与えるだけだから!!!!死ぬなんて生温いこと僕が許さないよ!!!!』

『全然大丈夫じゃないからなそれ!!!?』

『オ~イ、どれ押せば出撃準備に入るんだい?』

『お前もなに素直に従っとるんだ!!!!』

「「…………………………………」」

想像以上の異常事態に二人はそのまま呆然とその様子を眺めることしかできない。
超超超親馬鹿もここまで来ると呆れさえも通り越してあっぱれだ。
これだけ愛情を注がれれば、ヴィヴィオが道を誤ることはないだろう。
もっとも、別の意味で人としての道を踏み外しそうだが。

『はぁ……何をやっているんだ、お前たちは。』

「あ、クロウ。なんか用か?」

フェルトから精神的疲労が伝染したような声でヴァイスに返事をされ、クロウはますます顔をしかめる。

『すぐにバーナウに飛んでくれ。厄介なことが起きた。』

「厄介なこと?」

そこまで言ってもまだ気の抜けた顔をするヴァイスとフェルトにクロウは苛立ちを声に込めて言い放った。

『バーナウのシン国の王子が誘拐された。』



第76管理世界 バーナウ シン国 某所

大人でもむせかえりそうなカビ臭さの中、その少年は目隠しをされたままでも毅然とした態度を崩そうとしなかった。
それは、一国の未来を担うさだめを背負った男としての自覚がそうさせるのだろうか。

(私とは大違いだな……)

マリアンヌ・デュフレーヌは小さいが、立派な男と自分をくらべて嘆息する。
あの日、拠点を潰され、さらには世界が大きく動き始めたのをきっかけに自分の行いに疑問を持ち、本来の“仲間たち”のもとを離れはしたが、やっていることと言えば彼らといた時となんら変わりはない。
むしろ、ただ日銭を稼ぐためになんの指針もないここの連中に協力している自分をひどく情けなく思う。

「……どうかされたのですか?」

声変わりのしていない高音程にマリアンヌは視線をそちらに向ける。
この状況下で自らの身の安全よりも、こんな仕打ちを受けさせている自分のことを気にかけてくれたことに感心していた。

「ひどく心が乱れていらっしゃるようですが?」

「……これからどうするかを考えていただけだ。お前も長生きしたいのなら余計なお喋りは避けることだ。」

日本刀のような剣を殺意を込めずに彼の喉元に当てながら、マリアンヌは美しい翠の瞳を悩ましげにスッと細めた。



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

バーナウは十カ国ほどの国が共存するごくごく小規模の世界である。
星自体が少々小ぶりなので重力もミッドよりは少し控え目で、地表の70%が海、残りの30%である一つの大陸に小さな国々が身を寄せ合うように存在している。
国同士の争いはないが、別世界からの侵攻にさらされた歴史を持ち、それがきっかけで管理局の庇護を受けるようになった。
主要な産物や工業はないのだが、古くから次元運搬技術に優れ、中継貿易の基地として栄えた。
特に、シン国は全ての世界からの物品を一手に引き受け、それを周辺国家に運搬してそこからさらに別世界へと輸送することで長きにわたり繁栄を続けてきた。
しかし、全世界的に次元運搬が発達した今では重要性を失い、徐々にではあるが衰退傾向を見せている。
そこで、先代の国王は観光、さらに新たな運搬技術を周辺国家と協力して開発を試みることで国の立て直しを図ろうとしていた。
しかし、その計画は軍部と文官の対立の中で国王が死去したことで宙ぶらりんの状態になり、さらには情勢の不安定化が発端となって治安も悪化し始めている。

「と、これが無限書庫からの情報を大雑把に説明したものよ。詳しいことは手元に配ったものに目を通しておいて。」

クルー各員が手元の資料に目を通す中、ジルだけはふくれっ面でそっぽを向いている。

「なんだよ!オイラの出番を取ってくれちゃってさ!ジル先生のハチミツ授業はもういらないってか!?」

「君の偏見とどうでもいい情報に富んだものよりこちらの方がはるかに効率的なのは確かだな。」

「ティ、ティエリア……」

資料を見たまま歯に衣着せぬ言葉を放つティエリアをアレルヤがたしなめようとするが、時すでに遅くジルは鼻をすすりながら必死に涙をこらえている。

「うわ~~~~~ん!!!!!!ティエリアのオカマ!!女顔!!ムッツリスケベ!!ヴィヴィオにあることないこと吹き込んできてやる~~~~!!!!」

「好きにしろ。」

部屋を飛び出していくジルをティエリアどころか刹那も止めようとせず、それがジルにますます拗ねた態度を取らせた。

「刹那!!資料を見てるときにお姫様のこと考えるなんて不謹慎だぞ!!」

「っっ!!!!勝手に読むなと言っている!!!!」

それまで黙っていた刹那はその一言で勢いよく振り返って持っていた端末をジルへと投げつける。
しかし、それは惜しくも閉じかけの扉に阻まれてジルには当たらず、その隙間から真っ赤な舌を突き出している姿が最後に見えた。
突然の刹那の激昂に騒然とする室内だが、ユーノは辛うじて破壊を免れた端末を拾い上げて刹那に渡す。

「刹那、君は今回の任務を外れていたほうがいい。」

「任務に入ればいつもどおりに…」

「ミッションの確保対象が王族でも?」

ユーノのその言葉に刹那はグッと唇を噛みしめる。
今回救出するのがこの世界の王族だと知った時、刹那の頭をよぎったのは彼の故郷を治めるマリナのことだ。
理想を掲げる政策といい、さまざまな問題に直面している現状といい、アザディスタンとマリナの置かれている状況に近いものがあった。
ミッションに入ればいつも通りにできると言ったが、正直冷静でいられる自信はなかった。

「案外、ジルは君に今回は外れていてほしくてあんなことをしたのかもね。」

確かに、ジルは悪戯好きなところはあるが、人の知られたくない秘密を、特に刹那の心の内を暴露するようなことは少なかった。
今回、バーナウの説明をしたかったのも、そんな刹那を動揺させないようにフォローしようとしたからなのかもしれない。
だが、それでも刹那の心は変わらなかった。

「それでも、俺は行く。ここで退けば、俺がここにいる意味がなくなる。」

「……僕が言うのもなんだけど、故郷とか、大切な人が絡む任務は感情的になりやすい。それが重大な隙を生むこともよく知っている。それでも行くのかい?」

「ああ。」

迷いなど一片も感じさせずに力強くうなずく刹那。
それにユーノだけでなく、一同は諦めたように笑うと改めてスメラギのプランに耳を傾ける。

「今回のミッションの要はケルディム、クルセイド、サダルスードによる狙撃よ。誤射や不手際があると内部に潜入する人間に危険が及ぶわ。支援するガンダムはもちろん、ロックオン、ユーノ、そしてヴァイス・グランセニックの三名はそこのところを肝に銘じておいて。」

「了解!」

「それじゃ、久々に967とのコンビネーションを見せるとしますか。」

張りきるロックオンとユーノ。
しかし、そんな二人とは対照的にヴァイスは珍しく無言だった。

「?ヴァイスさん?」

「ん……?ああ、なんスか?」

「何じゃねぇよ。深刻そうな面で黙っちまいやがって。」

「……そんなひでぇ顔してたか?」

中途半端なヴァイスの笑顔にユーノとロックオンは顔を見合わせる。

「オイ……本当にどうかしたのか?」

「いつものヴァイスさんらしくないですよ?」

「いや、なんでもねぇんだ……なんでも、な……」

そう言って誤魔化すヴァイスだったが、スメラギの口から出てきた誤射という単語と手の平ににじむ汗が嫌な記憶を呼び起こす。

もう、振り切ったと思っていた忌まわしいあの記憶。
妹の目から自らの手で光を奪ってしまったあの感覚がよみがえってくる。

(クソッタレ!ちゃんとラグナと向き合っただろうが!!なんでいまさら思い出す!!)

後ろ向きになりそうな自分を奮い立たせて拳を握りしめるヴァイス。
しかし、結局この後も彼の手から湿り気が消えることはなかった。



シン国 国境線 旧関所跡

月が雲に隠れ、光が無くなった大地でティアナはそっとカマエルの光学迷彩を解除する。
山と山に挟まれたこの谷にある関所跡は不正取引や危険物の密輸を取り締まるために存在していたのだが、今は誘拐犯が量産されたジンクスを見張りに立てて籠城しているのだから皮肉な話である。

『ティアナ、状況はどうや?』

「いつでもいけます。いつもより少し見えにくいですけど、これくらいなら問題ありません。」

管理局と連邦軍の合同作戦。
はやてとセルゲイの立てた作戦は、まずカマエル、狙撃型ジンクスによるMS部隊の狙撃で敵を撹乱、敵MSの動きを封じた上で魔導士が内部に潜入して誘拐された王子を奪還するというものである。
谷間で正面と後ろが開けている以上、潜入は困難を極めるし、なにより谷間をMSで進軍するとどうしても一列に並んでしまって数の利を生かすことができない。
そこで、遠方からの射撃を主体に攻めることにしたのだ。
しかし、作戦の立案者である二人だけでなく、参加する者全員がある懸念を抱いていた。

「部隊長、彼らはここに来るでしょうか?」

彼らとは、言わずもがな、ソレスタルビーイングである。
紛争、そしてその幇助と判断される行為に対して武力をもって介入するという彼らの掲げる理念が嘘でなければここに現れる可能性は十分にある。
しかし、その可能性は限りなくゼロに近い。

『今回の騒動は混乱を避けるためにバーナウでもシン国、それもそこのお偉いさん方と私ら管理局以外は知らんはずや。来るわけがあらへんよ。』

明るい調子でそう言うはやてだが、本音は違っていた。
クラナガン防衛戦で使われていた三提督の音声。
しかも、まるで図ったかのように彼らのホームグラウンドでないはずの異世界で紛争を嗅ぎつけすぐさま駆けつけてくるスピード。
考えたくはないが、管理局内にも協力者がいると考えるのが妥当だろう。

(たぶん、ユーノ君の知り合いやろなぁ……結構慕っとる人は多いし、偉い人らにも気にいっとる人がぎょうさんおったからなぁ……)

枚挙に暇がない協力者候補に軽く頭痛を覚えながらも前向きにこれはチャンスだと考えることにする。
他の紛争地域より、一つの世界が戦乱の渦に巻き込まれるかどうかという重要かつ秘密性の高いここにソレスタルビーイングが現れたならば内通者がいるということが明白になる。
さらに、最近バーナウの事情に探りを入れていた人間をピックアップしていけばその尻尾を掴めるかもしれない。

『ま、来てくれへんのが一番ええんやけど。』

「はい?」

『ん?ああ、こっちの話や。ティアナは自分の役割をしっかり…』

その時だった。
突如、闇夜を切り裂いてピンクの閃光がジンクスの頭を吹き飛ばす。
それを合図に三方向から関所跡に向けて次々にビームが突き刺さってくる。

「部隊長!!」

『わかっとる!!こっちも攻撃開始や!!』

予想が当たってしまい、自分のせいでないとわかっていてもはやては思わず歯ぎしりした。



北東

「お~お~……うじゃうじゃ出て来てくれちゃって。」

「ウジャウジャ!ウジャウジャ!」

下から出てくるジンクスを軽快に撃ち落としていくロックオン。
彼が兄と比較されるのが嫌で長きにわたりライフルの訓練をしていなかったなど、今のこの姿を見たらもはや誰も信じないだろう。

「しっかし、こんなのんびりしてていいもんなのか?こんな丸見えの場所でこんなに敵に囲まれてるってのに。」

『今回の敵は基本的には誘拐犯のみ。連邦や管理局が仕掛けてきたら反撃していいけど、こっちからちょっかい出して事態を複雑にしなくてもいいよ。』



北西

『それはそうと、クルセイドって狙撃までできたのかよ。』

トリガーを引きながら聞いてくるロックオンにユーノも右目につけたMPRを通して入ってくる画像をもとに鼻歌まじりでジンクスの手脚を撃ち抜きながら答える。

「今、ライフルをスナイプで使ってるんだ。通常形態やアサルトの時みたいに連射は利かなくなるけど、弾速、貫通力ならケルディムにも負けないよ。」

銃身が長く伸びたシールドバスターライフルが再び火をふく。
逃げようとしていたジンクスが右脚を撃ち抜かれて転ぶと、ユーノは頭を撃ち抜いて完全にその動きを封じた。

『えげつねぇ……』

「お前も人のことは言えんだろ。」

『お前らほどじゃねぇよ。ところで、サダルスードのマイスター……ヴァイスだったっけか?なんか様子がおかしくないか?』

「……ロックオンもそう思う?」

ロックオンに指摘され、二人も自分たちの疑念がより強固になる。
サダルスードの狙撃が時間がたつほどに甘くなってきている。
それどころか、狙撃のペースも徐々に乱れ、今では素人かと思うほどにひどいものになっていた。

「ヴァイスさん?どうかしたんですか?」

『あ、ああ……悪い。少し調子が悪くて。』

『オイオイ、風邪でも引いてんのか?汗だくだぜお宅。』

『だ、大丈夫だ。そのうち収まる。』



南東

『ヴァイス、本当に大丈夫?顔色が悪いよ?』

「ほ、本当に何でもない……」

心配するアレルヤにそう言うヴァイスだったが、すでに引き金にかけている指先は冷たさ以外何も感じなくなっていた。
味方がいるあの場所の近くを狙っているというだけで消化器官に収められているものがすべて逆流してきそうだ。
しかし、そんなことを言えるはずもなく再び引き金を引こうとする。
だが、今度は指が動いてくれない。

(クソッ……!!動け……動けってんだよ……!!)

スコープを支えていた左手も使って動かそうとするが、まるで石になったかのようにピクリともしない。

『ヴァイス!?早くしないとエリオたちが!!』

「わかってる!!わかってんだよ!!」

理解はできても体が拒否する。
妹が苦しむ姿がほんの数分前のことのように思い出される。

「俺のせいだ……けど、それでもこうすることを選んだんだろうが……!!」

必死に自分に言い聞かせるが、今度は全身が震え始める。
だが、こいつは逃げても逃げてもヴァイスの後ろにぴったりとつけてくる影のようなものだ。
ならば、

「……わかったよクソッタレめ……!!とことんやってやるよ……その代わり、俺はここでお前と決別してみせる!!」

自分を縛る誤射の恐怖にむけて宣戦布告するヴァイス。
今、彼にとってなによりも辛く苦しい戦いが幕を開けた。



旧関所跡 内部 2階

向かってくるものすべてを四人はただひたすらになぎ倒す。
侵入者に対抗しようと誘拐犯も必死だが、突然の襲撃に浮足立っているのか統率されていない。

〈Speer angriff!〉

〈Photon shot!〉

〈Gatling  raid!〉

〈Vulcan Blaze!〉

エリオの鋭い突きによって壁に叩きつけられそのまま意識を手放す者。
フェルト、マリー、ウェンディの銃弾の嵐の前に背中から倒れる者。
彼らの前に立った人間は誰一人としてまともに動ける状態ではなかった。

「目標が閉じ込められている場所わかる!?」

「あたしの勘的にはこの上のフロアの北通路に面してる部屋のどこか!!」

「その心は!?」

「いざという時に台地の上にあがってMSと合流!その後速攻でここからサヨナラって逃走方法が一番やりやすいから!!もっとも、こんだけ包囲がきつければそれも無理だろうけど!」

ウェンディとエリオは敵を次々に屠りながら会話する。
未だに魔法戦に慣れていないフェルトとマリーはそれを見て呆れながらも感心した。
その時、

(マリー!!)

「!!」

ソーマの声と同時に押し殺された、しかし強烈な殺気をマリーは感じ取る。
フェルトの首筋へ向けた一撃の軌道上に弾き飛ばされることを覚悟してサーベルを置く。
だが、思いのほか軽かったその一撃はマリーでもやすやすと受け止められ、それを放った人物は驚愕しながらも距離を取って四人の正面に舞い降りた。

「ほう……いい勘だ。気配を殺した上での“速牙”を防ぐとはな。」

手に握っている二本の刀を鞘におさめながら金髪を腰まで伸ばした女性は素直に感嘆する。
しかし、彼女の薄い反応より、エリオやウェンディ、そして攻撃を受けた本人であるフェルトの方が彼女に驚いていた。

「この人、ユーノと同じ…」

「翠玉人…!」

「いかにも……だが、少年。忠告しておくなら私たちに対してその呼び名を気軽に使わないことだ。翠の民はその名で呼ばれることを嫌う。お前たちが侮蔑をこめて呼ぶようになったその名が、私たちには何にも勝る屈辱なのだよ。」

「!!」

マリーがエリオの前に飛び出す。
いつの間にか彼女の右手には抜き放たれた刀が握られ、分離していたD・アリオスの胴に浅く傷がついていた。

〈~~~~っつっつぅ……!!マリー、僕は君より頑丈だけど、ある意味君より繊細にできてるんだよ!?〉

「……またか。今度はさっきよりスピードを上げたのだがな……軽くショックだよ。」

「クッ……!その割には、余裕みたいですね。」

刹那張りのポーカーフェイスの女性の実力に嫌な汗がにじみ始める四人。
マリーは彼女の攻撃を二回防ぎはしたが、それは彼女特有の超兵としての勘によるものであり、攻撃の軌道自体は目で追えていない。
マリー以外の三人に至ってはただ立ち尽くしているより他はなく、マリーがいなければ間違いなく斬られていただろう。

(……みんな。)

マリーが念話でささやく。

(ここは私が抑えるから、みんなは目標の確保に行って。)

(けど、マリーさん一人じゃ!!)

(私なら大丈夫。だから……行って。)

本当は全然大丈夫じゃない。
怖くて今にも体が震えだしそうだし、そもそも自分は争い事が好きではない。
しかし、おそらくアレルヤが自分の立場だったら、間違いなくこうしただろう。
マリーは、恐怖から来る震えを笑顔に変えながらそう確信していた。

「……ごめんなさい…!」

まず、フェルトが翠玉人の女性の脇を一目散に走っていく。
どうすべきか迷っていたエリオとウェンディもマリーの意思を酌んでフェルトに続くが、女性は三人に手を出さなかった。

「……なぜ、黙って通してくれたんです?」

「なに、ただの気まぐれだ。私は金でここの連中に雇われている身でな。料金以上の働きをする義理などない。それに……いや、やめておこう。お前に話しても詮無いことだ。」

武人の性なのか、自分の心の内にある迷いを見せることを拒んだ彼女は再び刀を鞘に納めて浅く腰を落とす。

「私も通してもらえませんか?」

「料金以上の働きはしないが、貰った分はきっちりこなすのが大人というやつだ。それに、お前の何が私の太刀を止めたのか気になるのでな……悪いが、それをはっきりさせるまでは死んでも付き合ってもらう。」

〈Coating〉

二本の刀の柄にある翠のアスタリスク型の宝石が無機質な声を上げる。
白い魔力が鞘と彼女の腕を覆い、一段と増した威圧感がマリーへと押し寄せてきた。

「マリアンヌ・デュフレーヌ、クレシェンテ、いざ参る。」

「え、えと……マリー・パーファシーです!押し通ります!」

〈GNデバイス、アリオス!そう簡単には墜ちないよ!〉

三日月の刃を持つ女剣士と、黄昏の翼を従える超兵の戦いの火ぶたは切って落とされた。



三階

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

桃色の閃光とともに崩れた壁から男たちが放り出された。
今度は地鳴りかと思うほどの揺れが一人の少女が床に拳を叩きつけたことで発生し、ぽっかり空いた穴からバインドで拘束された男たちがぶら下げられる。

「フゥ……結構てこずりましたね。」

「うん、急がないと。」

なのはとスバルは周囲に敵がいないことを確認すると再び奥へと進んでいく。
はやてからの最後の通信でソレスタルビーイングが現れたと言っていたが、おそらく彼らの目標も拉致されているシン国の王子だろう。
彼らの目的がなんにしろ、今ここで王子を渡すわけにはいかない。

「あの……なのはさん、本当にもう大丈夫なんですか?」

「なにが?」

「なにがって……その、ユーノさんやヴィヴィオのこと……」

「……決めたんだ。」

不安そうな顔でマッハキャリバーと走るスバルになのははニコリと笑う。

「今どうにもできないことで悩むより、手の届く範囲で頑張ってみようって。」

「なのはさん……」

「だから、今は困ってる人を全力で助ける。それが私にできることだから。」

「……安心しました。」

今度はスバルが隣を飛行するなのはに微笑みかける。

「やっぱりなのはさんはそうでなくちゃ!心配するなんておこがましかったですよね!」

「ううん、そんなことないよ。ありがとう、スバル。」

「でも、ソレ……なんとかも王子を狙ってるんなら、潜入している人と遭遇したりしそうですね。あの剣を使ってた人強かったから、できればもう当たりたくないなぁ……」

「そうならないためにも、早く王子を救出……」

「フェルト、もっと速く!」

「ごめん、まだ飛ぶのには慣れてなくて……」

「それに僕たちは自分で走ってるからね。」

「……暗にあたしだけ楽してるみたいな言い方やめてくんないっスか?一応魔力は使って…」

「「…………………」」

「「「…………………」」」

これが漫画の1コマだったならば、バッタリという擬音がぴったりくるだろう。
十字路で二人と三人はお互い目を白黒させる。
しかし、次の瞬間にはなのはとフェルトは動いていた。

〈Accel shooter!〉

〈Photon shot!〉

魔力弾同士がぶつかって対消滅を起こしたときの波動で二組は否が応でも距離を離される。
後ろにある別の通路の影に身を隠し、射撃戦を開始する二人だが、スバルとエリオ、ウェンディのコンビは未だ混乱していた。

「エ、エリオ!?ウェンディもなんでここに!?」

「そ、それはこっちのセリフっス!!」

「スバルさん来てたんですか!?」

「エリオ、ウェンディ、私語は慎む!戦闘中だよ!!」

「スバル!今は戦いに集中して!私もそんなに余裕はないかも!」

「「「は、はい!!」」」

誘導弾を出しての撃ちあいにもつれ込むが、お互い砲撃と近接戦闘を仕掛ける者はいない。
この狭い空間で砲撃を撃てば自分にも被害が及ぶ可能性があるし、接近しようにも逃げ場のないここでこの弾幕の中を進むのは容易なことではない。
しかし、かと言って誘導弾の扱いがほぼ互角のフェルトとなのはでは戦いが膠着状態に陥ってしまった。
一分一秒を争うこの状況で、これはよろしくない。

「なのはさん、私が突破して目標を……」

「駄目!これだけの数、しかもコントロール性の高い誘導弾じゃ守りきれない!」

すぐそこまで迫ってくる深緑の狙撃手たちを前になのははそう判断を下す。
しかし、桃色の流星に立ち向かうフェルトの判断は違った。

「エリオ、行ける?」

静かだが、重い決意が込められた言葉。
エリオも黙ってうなずくと、ストラーダのスラスターを展開して突撃の準備に入る。
そして、

「GO!!」

〈Homing sniper,Sprite shift!!〉

残っていたホーミングスナイパーが新たに生成されたものと合わせてフェルト、ウェンディ、エリオの周辺を飛び交い、近寄ってくるアクセルシューターを撃ち落としていく。

「クッ!?これがティアナの言っていた誘導弾による二段射撃……!!けど!!」

「うっ!!」

エリオに大量のアクセルシューターが集中し、相殺しきれなかったものがエリオの体をかすめていく。
だが、それを見たフェルトは影から飛び出してスナイパーライフルを構えた。

「ライフリングシュート!!」

空気を切り裂き、緑の弾丸が桃色の魔力弾を撃ち落としていく。
しかし、その間にもエリオとフェルトにアクセルシューターは容赦なく襲いかかってくる。

「なんで……なんでそんな無茶するんですか!?」

手脚に当たろうと決して退かず、ライフルを撃ち続けるフェルトにスバルが問いかける。

「なんでそこまでして撃つんだ!!自分も、誰かが傷つくこともわかっていてなんで銃を取るんだ!!」

「スバル!!」

なのはが止めるのも聞かずに、スバルも弾幕の中へ飛び出していく。

「なんで……人の命の重さがわからないんだ!!」

「違う!!」

〈Protection!〉

スバルの一撃をプロテクションで防ぐが、そのプロテクションもスバルの拳の威力にミシミシと悲鳴を上げ始めている。
だが、それでもフェルトは叫ぶ。

「私は……!!狙い撃つ人間は誰よりも命の重さをわかってる!!だから、引き金を引くんです!!引き金の重さはスコープの向こうにいる人間の命の重さ……そして、守るべき人たちの命の重さなんです!!」



南東

ロックオンが中の様子を窺おうと通信を繋いだ瞬間、ヴァイスにもその声が聞こえた。

「あいつ……俺の言ってたことを…」

フェルトに狙撃を教えるにあたり、まず最初に伝えたこと。
それは、自分たち狙撃手がその手に負う重責だった。



エウクレイデス コンテナ

「いいか?これが本物の銃だ。」

「お、思ってたよりずっと重いんですね…」

デバイスではない本物のライフルを持たされて困惑気味のフェルト。
しかし、ヴァイスの思惑は別にある。

「そいつには実弾がこめてある。引き金を引いてみな。」

「え!?」

ヴァイスの真意がわからずさらに戸惑うフェルト。
しかし、ヴァイスの強い瞳に促され、渋々見よう見まねでライフルを構えて目標へ向けて銃口を向ける。
だが、

「……?」

指にどれだけ力を込めても引き金が動かない。
ありったけの力を込めているはずなのに、びくともしない。

「不思議か?」

ヴァイスがフェルトから銃を取り上げて訓練用のターゲットへ狙いをつける。

「重かったろ?」

「はい……もっと簡単にできると思ってたのに。」

「簡単にできちゃ困るんだよ。この重さはな、命の重さなんだ。」

「命の重さ?」

「そうさ。コイツから銃弾が飛び出せば、命の一つや二つあっという間に奪っちまう。けどな、コイツの重さはそれだけじゃない。俺たちが預かっている仲間の命の重さ……そいつも加わってんのさ。」

バンと炸裂音が響き、人型のターゲットの頭に風穴があく。

「それでも、俺たちは引き金を引かなくちゃいけない。けど、忘れるな。引き金の重さは命の重さ……スコープの向こうの人間の命、そして仲間の命の重さなんだ。」



現在 シン国 旧関所跡 南東

「……そうだよな。テメェで言っといて、すっかり忘れちまってた。」

クックッと自嘲すると、ヴァイスは瞳を鋭く光らせ再びスコープを覗き込む。

「あいつらが命賭けてんのに、俺だけビビって逃げ出すわけにはいかないよな!!なあ、ストームレイダー!!」

〈Yes my Meister!!〉

先程までは狭く閉ざされていた視界が開け、指先に重さは感じるがべったりと張りつくような嫌な感じはなくなっている。
ヴァイスは確信する。
今なら、たとえ成層圏の向こうでも狙い撃てると。

「サダルスード・テンペスタ、ヴァイス・グランセニック、目標を仕留める!!」

まずはクルセイドの支援に回っているダブルオーへ向かっていく機体に狙いを定める。
別の機体の相手をしているダブルオーの背中めがけてビームサーベルを振り下ろそうとするジンクスだったが、その瞬間サダルスードのスナイパーライフルが唸り上げた。
紅の弾丸で腰を撃ち抜かれよろつく間に、ダブルオーがそれを斬り裂く。
礼を言いたそうにこちらを向くダブルオーだったが、集中し始めたヴァイスには最早、狙い撃つべき敵しかその目に映っていなかった。

「ストームレイダー、仰角に0.2度ほど誤差がでてる。修正を頼む。」

〈了解。〉

即座に誤差修正し、それに合わせてジンクスの各部を撃ち抜いていくヴァイス。
その精密さは敵の隊列を崩すほどで、それまで辛うじて戦線を維持してきたジンクスたちも完全に分断され、逃亡、特攻をかける者と総崩れ状態となってしまった。

「サダルスード、ファーストフェイズ終了!セカンドフェイズに移る!」

『ケルディム、ファーストフェイズ終了。セカンドフェイズへ移行する。』

『クルセイド、同じくファーストフェイズ終了。ダブルオー、アリオス、セラヴィーとともにセカンドフェイズへ移行。アストレアを援護して退路を確保します。……すごいですね、ヴァイスさん!急にどうしたんですか!?』

『ああ、見違えたぜ!』

興奮した様子で話しかけてくるユーノとロックオンに、ヴァイスは右手の親指を立てる。

「なに、俺が勝手に作っちまった亡霊を退治しただけだよ。」

『?なんのことかわかんねぇけど、とりあえず結果オーライだな。今度は、早いとこフェルトたちが目標を確保してることを祈るぜ。』



旧関所跡 内部 三階

スバルの拳が遂にプロテクションを打ち砕く。
しかし、

〈GN device,limit off!!Force detonation!!!!〉

「くっ……ううぅ!!?」

「スバル!!」

フェルトの背中の深緑の片翼がスバルを押し返していく。
スバルを援護しようとなのははエリオとウェンディに向かわせていたアクセルシューターをフェルトに集中させる。
しかし、その前に太腿と肩に装備されていたシールドビットがその進行を阻んだ。

驚く二人だったが、エリオとウェンディ、誰よりフェルトは別の意味で動揺していた。

「ケ、ケルディム!?これ恥ずかしいよ!!」

「み、見えてませんから!!僕は何も見てません!!」

「……なんか素っ裸よりエロいっス。」

シールドビットが離れた箇所。
その下にも布があるかと思いきや、そこにあったのはフェルトの白い素肌。
両肩にあった四基が離れたせいで脇が見え、太腿を挟むようにつけられていた四基が無くなったせいでかなり露出が激しくなっている。

〈HAHAHA!ドクターと俺で考えたフェルトちゃん用リミットオフ形態だ!これであの人のハートもゲットだぜ!〉

「こ、こんなかっこ誰にも見せられないよ!!」

〈だいじょぶ、現在進行形で人に見せてるし、あのニブチン用に俺も録画してるから。〉

「……な、なにやってるのかな?」

「あの人って露出狂なんですかね?」

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

なのはとスバルにまで言いたい放題言われ、フェルトの顔は白い部分が見当たらなくなるほど真っ赤になる。
というより、この場にいる全員が顔を赤くして目をそらしているのだが、状況が状況だけにいつまでもこうしているわけにはいかない。

「と、とにかく!!王子はこちらで保護させてもらいます!!あなたたちも身柄を…」

〈させるかよ!!フェルトちゃん、いいかげん集中!!ちびっこはさっさと奥へ行け!!〉

「は、はい!!」

ケルディムの言葉に慌てて十字路の左を目指すエリオ。
そうはさせまいとなのはが誘導弾を飛ばすが、それを見てフェルトが黙っているはずがない。

「ビット、マルチプルディフェンス!!」

〈Shield bit,Multiple shift!!〉

一基一基、フェルトの魔力でコーティング、強化されたビットたちが別の動きでなのはのアクセルシューターを防いでいく。
その隙にエリオは全力で弾幕の中を駆け抜けた。

「行ってエリオ!!ここは私とウェンディで抑える!!」

「はい!!目標を確保した後は手はず通りに!!」

「行かせるとでも!!」

「それはこっちのセリフっス!!」

〈Rushing Edge!〉

追おうとするスバルにマレーネの鋭く尖った刃先が迫る。
両手で挟んでなんとか事なきを得たスバルだったが、その間にエリオの姿は完全に消えていた。

「ウェンディ……!!なんで邪魔するの!?」

「ホント、自分でもなんでこうなったのかよくわかんないんスけどね……どうにもアロウズの裏でこそこそしてるやつらと今の管理局を牛耳ってるジジィは心底気にくわねぇんス!!」

〈Vulcan Blaze!〉

「っ!!」

至近距離からの射撃を屈んでかわしたスバルはそのままマレーネを砕こうと拳を上へ振り抜く。
しかし、その一撃はウェンディが全力で踏み抜いた足の裏で防がれ、再びウェンディの距離であるミドルレンジまで離された。

「ま、グダグダ言うのはお互い性分じゃないっしょ。」

マレーネの上で、ウェンディは来い来いと手で誘う。
スバルも痺れる右手をぶるんと大きく振ると、改めて構える。

「そうだね……こうやってぶつかって話をする方が私たちらしい!!」

〈〈Load cartridge!!〉〉

二人の相棒からそれぞれ薬莢が飛びだし、膨れ上がった魔力が渦を巻く。
一方、なのはとフェルトの間にも張り詰めた空気が流れ始める。

「名前……まだお互い名乗って無かったですよね。私は…」

「高町なのはさんですよね。ユーノから聞きました。」

ユーノの名前を古くからの友人でもない女性に言われムッとするなのはだったが、フェルトの胸中はさらに穏やかではない。

「ユーノを墜としたのはあなたですね?」

「……好きでやったわけじゃないです。」

「ユーノだってそれは同じだったはず……なのに……!!」

「ユーノ君のことをよく知りもしないあなたに、私たちのことをどうこう言われる筋合いはないよ。……フェルト・グレイスさん。」

「っ!?私の名前をどうして……」

〈Divine buster〉

驚きでフェルトの動きが一瞬止まったところへ、なのははなんの躊躇もなく砲撃を放り込んだ。
しかし、フェルトも横に飛んでそれをかわすと、壁にぶつかるギリギリのところでなのはにスナイパーライフルを向けていた。

〈Blast hound〉

今度は深緑の砲撃がなのはを襲う。
辛うじて右手のプロテクションで相殺するが、実力が拮抗していることを悟って不用意に動かない。
だが、すでにエリオは先行済み。
フェルトは無理になのはたちを倒さず、エリオから救出の報告を待てばいい。

(エリオ……急いで!)



内部 北通路

先程から妙に騒がしいなとフィオラ・シンは目隠しされたまま顔をあげる。
目隠しをされ、夜であることに加え部屋の中に明かりは皆無なのでまったく部屋の様子がわからない。
ただ、声で先程までいた女性に代わって別の人間が自分の見張りをしていることはわかる。
そして、喧騒がこちらに近づいていることも。

「クソッ!!局だけじゃなくてソレスタルなんたらまで来るなんて!!どうなって…」

〈Plasma  bunker!!〉

「ブゴッ!!?」

「わっ!?」

突然何かが吹き飛ぶ音と男の叫び声にフィオラは思わずその身をすくめる。
続いて、誰かがこちらに歩いてくる音に身体を硬直させるが、目隠しを外されて緊張はすぐに解けた。

「フィオラ・シン王子ですね?」

久しぶりに目で見たのは自分と同い年ほどの赤髪の少年。
雷電を纏わせた槍を担ぎ、痙攣する無骨な男をバックに手際よく拘束を解いていく。

「あの、あなたは?」

フィオラがそう尋ねると、少年は少し困ったような、照れたような笑みを浮かべ、デバイスと思われる槍から何か言われて真っ直ぐな瞳でフィオラと向き合う。

「僕はソレスタルビーイング。あなたの救出に来ました。」

「ソレス……?管理局ではないのですか?」

「まあ、いろいろ事情があって……それより、今はここから離れることだけを考えましょう。説明はその後でも十分間に合うはずです。」

そう言うとエリオは、フィオラの手を取って部屋の外へと出ていった。



内部 二階

「うん……本当!?……わかった、できるだけすぐに行く。」

D・アリオスを装着したマリーは、正面のマリアンヌと周りに集まってきた誘拐犯たちへ笑みを浮かべたままツインビームライフルを模した銃を向ける。

「……その様子では、どうやらそっちが一枚上手だったらしいな。」

「もう戦う理由はないはずです。逃がしてくれませんか?」

浅い切り傷だらけのマリーの言葉に周りの男たちはいっそう殺気立つが、マリアンヌだけはフッと笑って上を仰ぐ。

「残念だが、私にはまだ戦う理由がある。」

かちゃりと鞘に入った二本の刀を鳴らして白い魔力を腕から立ち上らせる。

「私の決意のためにも……ここで逃げるわけにはいかんな!!」

「っっ!(速い!!)」

今までよりもさらに速く懐に飛び込んできたマリアンヌにマリーは背中にひやりとしたものを感じるが、音速の剣士はそのまま彼女の脇を通り抜けた。
そして、

「ガッ!!?」

男たちは何をされたのかわからなかった。
ただ、マリアンヌの手には刃を赤で濡らした二本の刀。
そして、仲間の一人が袈裟掛けの傷から大量の血を溢れださせていた。

「き…さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!裏切ったな!!!!!!!」

「裏切る?おかしなことを言うものだな。」

〈Accelerator First・Gear〉

クスクスと笑いながらマリアンヌはガッと地面を強く蹴ると、目にもとまらぬ速さで男たちの後ろに回り込む。

「私はもとより貴様たちのような下衆と仲間であった覚えはない。日銭を稼ぐために協力したまでだ。お前たちの目的が失敗に終わった以上、最早刃を向けない理由はない。」

鞘に納めていた二本の刀の柄に彼女が手をかけると、数秒間だけ冷たい風が狭い通路を駆け抜ける。
すると、

「刃波……一の疾。」

男たちは体中に血も滴らせないほど鮮やかな傷を刻まれ、声もあげずに倒れた。

「どういうつもりですか?」

本気のマリアンヌの実力にうすら寒いものを感じつつ、マリーは尋ねる。

「ここであなたがこの人たちと敵対しても得る物はないはずです。一体どうして?」

「私なりのケジメのつけ方だ。ここでの出来事に限らず、今までしてきたことがリセットできるとは思わないが、この変わりゆく世界の中で新たな一歩を踏み出すために必要だった。」

そう言うとマリアンヌはマリーを押しのけて決して高くはない天井を見上げる。

「先に行った仲間とはどうやって合流するつもりだ?」

「え?えっと……壁を壊して、一回外に出ようかと……」

「無謀だな。外で起きているMSの戦闘に巻き込まれる可能性がある。」

〈Accelerator Second・Gear〉

腕だけでなく、今度は脚からも白い魔力を立ち上らせるマリアンヌにマリーは何をする気か聞こうとするが、それよりも彼女の剣が疾かった。

「豪速……二の疾。」

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!?」

マリーの見ている目の前で、超高速の斬撃が天井を細切れにして上への道を作り上げる。
腰を抜かす彼女を尻目に、マリアンヌは先に上がって呆れた様子で下のマリーを見下ろす。

「どうした?来るんじゃなかったのか?」

「は、はぁ……」

〈怖~……本気だったらやられてたかも。〉

(その時は私が何とかしていた……と、言いたいが、流石にあれを完全に見切れる自信はないな。)

マリアンヌが本気じゃなかったことに感謝しつつ、マリーたちもフェルトたちが待つ上の階へと上がっていった。



三階 十字路

(フェルト、そっから離れろ!!)

「!!」

なのはと同時に砲撃に移ろうとしていたフェルトはその声に咄嗟にそれを中断して後ろへ大きく跳ぶ。
その瞬間、二人の間に天井を崩して大きな手が出現した。

「くっ!!これは…MS!!」

なのはは顔の前で腕を組んで瓦礫を防ぐが、それでも、フェルトを逃がすまいとガンダムの手をかわすように誘導弾を飛ばす。
しかし、すでにフェルトはウェンディの操るマレーネの上に飛び乗り、その場から猛スピードで離れて行った。

「ま、待て!!」

スバルも追いかけようとするが、ゆっくり動いたガンダムの手が起こした震動でまともに立っていられずその場に尻もちをついた。

「スバル、撤退するよ!」

「でも!!」

建物が揺れる中、必死に訴えるスバルになのはは静かに首を横に振る。

「今日は私たちの負けだよ。けど、まだ次がある。今無理してそのチャンスを手放すの?」

「っ……!わかりました……」

なのはに従いスバルも崩れた外壁からウィングロードを伸ばして外へ出る。
それをサダルスード・Tのコックピットから見送ったヴァイスはホッと一息ついた。

「流石なのはさん。退き際をわかっててくれるから助かるぜ。」

〈こちらの方々も退き際がわかっているとなおよかったのですがね。〉

ストームレイダーのその言葉にヴァイスも渋い顔をする。
そんな彼らの目の前のディスプレイに映っていたのは、連邦軍のジンクスⅢたちが退路を確保しようとしているガンダムに群がっている光景だった。



旧関所跡 周辺

「つっ!!数で勝るからって!!!!」

『967!!潜入しているフェルトたちに連絡!!!!突破は困難!!転送魔法で安全な距離まで移動の後帰還しろとな!!!!』

「了解!!!!ティエリア!!チャージはまだか!!?」

『もう少しかかる!!!!フォン、そちらは!?』

『こっちも結構楽しめてるぜ!!!!そっちはそっちで何とかしろ!!!!』

遠方からの狙撃、突撃してくるジンクスⅢの部隊にユーノ達は苦戦を強いられていた。
王子を彼らに奪われたと知った瞬間、それまで静観を決め込んでいた連邦、管理局混成軍が誘拐犯たちを無視して一気に襲いかかってきたのだ。
ユーノ達も必死に抵抗するが、徐々に包囲網は縮まっていく。
そして、ケルディムとアリオスはというと、

「ハロ、シールドビット展開!!三基はアレルヤの援護にまわせ!!」

「クロスミラージュ、マルチロック!!クロスファイアー、シューートッ!!!!」

カマエルの連弾を防ぎながらケルディムもビームピストルで迎撃する。
アリオスはアリオスで完全に包囲され、集中砲火を逃れるので精一杯のようだ。

「ガンダムに警告する!!要救助者をこちらに引き渡し投降せよ!!この警告が受け入れられない場合、撃墜もいとわぬものとする!!」

「ハッ!!端っからそのつもりだろうが!!」

(けど、確かにこれだけの数を用意されちゃ……!)

「弱気になってんじゃねぇよ!!!!どいつもこいつも皆ご……うおっ!!?」

「言ったそばから!!!!」

ハレルヤと代わり、アレルヤは攻めに移ろうとしていたハレルヤとは対照的に再び逃げの一手を取る。
しかし、どれだけ時間を稼ごうとどの機体も援護に来れる余裕はなさそうだ。

(チッ!!久しぶりにヤベェな……)

「こうなったら僕が囮になってでもみんなを……」

ハレルヤとアレルヤが覚悟をした時だった。

「(!!?)」

「な、なんだ!?」

混成軍がいる場所とは別の方向。
多方向からGN粒子のビーム、実弾とさまざまな射砲撃がジンクスたちへと雨あられと降り注いでくる。

「伏兵!?」

『いや……違う!!』

ティアナの推察をセルゲイが真っ向から否定する。
誘拐犯たちはすでにあらかた捕縛、もしくは逃げられてしまっている。
ソレスタルビーイングも少数精鋭のため伏兵を用意できるとは考えにくい。

「じゃあ、別の勢力が……!?」

『くっ……!オペレーター!!アンノウンの位置の割り出し急ぎぃ!!』

『だ、駄目です!!センサーはおろか、目視もできません!!』

『な、なんやて!?』



別地点

「いやぁ、GN粒子の影響で少し剥げてっけど十分使えるな、この光学迷彩。」

『ちょっと!!あんまりはしゃがないでくださいよ、三佐!!MS動かしたいからって言うからこんな無茶な作戦を許可したんですからね!?だいたい、指揮官であるあなたがこんなところでやられたら…』

「わーってるよ、いちいちうるせぇな!!お前は俺の母ちゃんか!!」

『……俺、男なんですけど。』

「言葉の綾だ、気にすんな。さて……そろそろ迷彩がきれる頃か。全機、撤退準備に入れ。まだ連中にボーダーブレイカーの存在を悟られるわけにはいかないからな。それと、各員デイライトとイーグルアイの使用データの提出を忘れんなよ。ミッションレコードとってなかったとか言ったら後でデスバレーボムな。」



旧関所跡 周辺

「どうなってんだこりゃあ!?」

「乱戦!乱戦!」

「とにもかくにも、僕たちにとってはチャンスだ!この隙に逃げよう!!」

ユーノの発言に異を唱える者はおらず、全機その場から撤退を開始する。
混成軍も追おうとはするものの、約二十秒ほど続いたアンノウンからの射撃に阻まれて完全に姿を見失ってしまった。



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「なんだったんでしょうか、あれ。」

全員無事に戻って来れたことを祝う間も与えずにミレイナがそう切り出す。

「連邦と管理局に攻撃してたよね。」

「て~ことは味方?」

「敵の敵は味方……なんて単純な話でもない気がするけどね。ま、それよりゲストが何か言いたそうだから、まずは話を聞いたほうがいいんじゃないかな?」

アレルヤとジルもユーノの言葉に従い、フィオラはエリオの後ろから前へと歩み出る。
そして、

「助けていただいて申し訳ありませんが……今すぐ僕を管理局へ引き渡してください。今回の不始末の責任を取る形で。」

プトレマイオスのクルーが面喰うのも気にせず、はっきりとそう言い放った。






動きだす境界の破壊者
それは、新たな時代の幕開けを告げる福音か





あとがき・・・・・・・・という名のヘタレ祭www

ロ「というわけで、異世界・みんなでミッション編に突入な第三十六話でした。そして今回も特別ゲストを三人お招きしています。」

刹「今回のゲストは宇宙世紀ガンダム外伝の中から三人を呼んでいる。」

蒼「まず、『0080・ポケットの中の戦争』からクリスチーナ・マッケンジー。続いて『0083・スターダストメモリー』からコウ・ウラキ。最後に『第08MS小隊』からシロー・アマダだ!」

クリス(以降も ク)「どうも、クリスです。アルみたいに覗き見したら目を潰しちゃいますよ♪」

コウ(以降 コ)「ウラキです。MSの知識だけは豊富だなとか言われると地味にへこみます……」

シロー(以降 シ)「シローだ。……別に連邦を裏切ったわけじゃない。連邦とアイナを天秤にかけてアイナを取っただけだ。」←人それを裏切りと言う

ロ「外伝のヘタレ三人組かwww」

ク・コ・シ「「「誰がヘタレだ!!!!」」」

ロ「だって…」

クリス
最後まで自分が相打ちで殺った相手がバーニィだとは気付かず。しかもアレックスともどもスパロボでの使い道が特に見当たらない

コウ
言わずもがな、おそらく外伝史上最高のヘタレ。初対面のソロモンの悪夢に説教くらっておまけに敬語を使ってしまうwwこれにはガトーもびっくりwww

シロー
隊長としての最初の出撃でポカをやらかす。しかもその後は蛭にビビるは水浴び覗いて銃で撃たれるはで笑かしてくれるw

ロ「ほらね。」

シ「ほらねじゃない!!なんだこの紹介!?」

刹「だが、あながち間違いでは…」

コ「曲解し過ぎだから!?この人のフィルター通ってるせいでかなり真実が歪んじゃってるから!!」

ロ「でも、お前もスパロボではバニングさんをデンドロビウムに乗せた方が…」

コ「人の見せ場を取るなっ!!ていうかそう言えばIMPACTでもαでもAでも……とにかくありとあらゆる場面ですぐに僕を降ろしてたな!?」

ロ「だってぶっちゃけバニングさんの方が優秀だし。お前使った時なんて対シーマの時だけシーンの再現に使ってただけだし。」

ク「私なんてG3取ったところでお払い箱……IMPACT一話目で『チッ……使えねぇなこいつ。』なんて早くに見切り付けてたし!!」

ロ「避けないガンダムなんてただのハリボテだ。」

ク「ヒドッ!!」

シ「俺は割と長く使ってくれてたな……」←すげー嬉しそう

ロ「ああ、お前大概どの作品でも最初から愛とか友情持ちだったからな。あとEz-8は鍛えたら意外と使えたし。まあ、宇宙適正低い時もあったからその時は最終決戦間近でさよならだったな。」

シ「………………………………」

蒼「なんかこいつらゲストなのにすげぇへこんでるんですけど!!?これ以上自信なくされる前に次回予告へゴー!!」

刹「次回は今回に続きバーナウ編。」

ク「ソレスタルビーイングに救出されるも、自らを犠牲にしようとするフィオラに戸惑うクルー達。」

コ「はたして、彼の真意とは一体!?」

シ「そして、シン国にアロウズと管理局の影が忍び寄る!」

蒼「そして、クルセイドを操るユーノにも危機が迫る!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をよろしくお願いします!じゃ、せーの……」

「「「「「「次回をお楽しみに!!」」」」」」



[18122] 37.砕けた盾
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/06/05 00:58
プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

久しぶりの親子水入らずの時間にもかかわらず、ユーノの気分は決していいものではなかった。
その証拠に、967とハロを相手にキャッキャッとはしゃぐヴィヴィオから距離を取り、一人眉間にしわを寄せてあの少年の言葉を思い返していた。
自分を管理局に引き渡してほしいと言ったフィオラの真意がわからない。

(国のため、か……)

おおよそ子供とは思えない、あの落ち着いた態度がユーノの胸を締め付ける。
子供の時に子供でいれない辛さはよくわかっている。
状況がそれを許さないと言われればそれまでかもしれないが、そんな大人の都合であの少年の自由を奪ってしまっていいのだろうか。

「パパ?」

ヴィヴィオに声をかけられてハッと顔をあげる。

「アハハ!心配させちゃったかな?」

不安そうな表情で自分を見上げる彼女を安心させようと険しい顔からいつもの穏やかな顔にして優しく肩車をする。

「パパは元気だから大丈夫だよ!ほら、ヴィヴィオがそんな顔してたらクロちゃんとハロちゃんまで心配な顔になっちゃうよ?」

「うん!」

「俺はお前にクロちゃんなんて呼ばれる方が気持ち悪いぞ。」

「は~い、クロちゃんはちょこっと黙ってよぉねぇ~。」

余計なことを言う相棒をやや乱暴に蹴り飛ばし、ユーノは肩の上にいるヴィヴィオにハロをあげた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 37.砕けた盾


コンテナ

「遂に無理だったな、畜生め……」

後ろから聞こえてくるストラーダを振るう音をBGMにイアンは涙をこらえながらそう呟く。
幸い今は一人で素振りをしているだけなのでハラハラするようなことはないのだが、ここが彼らの訓練場であることは最早変更することはできないようだ。

「イアンさんどうしたんだろう?なんだか元気が無いけど。」

〈大方昨日も徹夜したんだろ。〉

自分たちが原因とは知らずに素振りをしながらそんなことを言う二人だったが、ふと別の場所へ視線を移すとこっそりとこちらを見ている緑の真っ直ぐな長髪の少年がいた。

「あの……」

「!!」

素振りを中断して声をかけるが、フィオラは少し大人びた顔を赤くして隠れてしまう。
その様子に苦笑するエリオだったが、彼が隠れている物影まで歩いていくと手を差し伸べる。

「よかったら見ていてください。誰かに見てもらっていると、気が引き締まりますから。」

「え…」

「オイオイ、ちょっと待て!」

ここでイアンがストップをかけた。

「仮にもコンテナだぞ?この坊ちゃんが帰った後で機密をばらさないという保証が…」

「いまさらばらされてもさして困ることはないんでしょ?それに、子供が見てもわからないって初めて会ったときに言ってましたよね?」

「ム……」

エリオのいたずらっ子のような笑顔と言い分にイアンは渋い顔をするが、参ったをするように両手をあげてすごすご戻っていく。
それと一緒にエリオもフィオラの手を引いて中央へと向かう。

「お前、だんだんマイスターに似てきたな。」

「最高の褒め言葉ですよ。」

「褒めとらん。いらんところばかり似てきよって。」

二人のやりとりに戸惑いつつもフィオラも開けた中央にやってくると、エリオは手を離して再び素振りを始める。

「すごいなぁ、君は…」

「?」

「僕と同じくらいの年なのに、ずっとしっかりしてる。自分で考え、行動する。うらやましいし、尊敬できるよ。それに比べ、僕はみんなをまとめることも…」

「……すごくなんてないですよ。」

素振りを続けながらエリオは言う。

「僕は王子と違って思い込みが激しいですからね。それで、何度か道を踏み外しそうにもなりました。いや、現在進行形で踏み外しているのかもしれませんしね。」

「でも、君は迷っていない。」

「思い込みが激しい人間が迷ったら、その瞬間ただの頭の悪い人間に早変わりですよ。だから、せめて迷って歩みを止めることだけはしたくないんです。」

「歩みを止めることだけはしたくない、か……」

その言葉にフィオラが思い浮かべたのは二人の人物。
一人は、自分の頼みに応じて常に傍らで知恵を貸してくれる摂政。
もう一人は、自分とこの国に忠義を尽くす武人。
どちらもこの国と自分のためを思って行動しているのに、対立してしまっている。
全ては、自分の王としての未熟さと捨てきれない迷いのせいで。

「……僕にも、できるかな?」

「できますよ!王子は僕よりずっと立派な人ですから!」

「僕なんて父上と比べたら全然立派じゃないよ。だから、王子って呼ぶのはやめてくれないかな?」

「え?」

この艦に乗って初めて、フィオラは子供らしい笑みを見せる。

「友達になってほしいんだ、エリオ。だから、フィオラって呼んでくれないかな?」

「友達……」

手を止めて意外そうな顔をするエリオに、フィオラは苦笑する。

「いつも城の中ばかりで、友達を作る機会がなかったから、誰もいないんだ。だから、僕の初めての友達になってください。」

そう言うフィオラだったが、エリオも同年代に友人と呼べるような人間は思い当たらない。
強いて言うならばキャロくらいだが、

(キャロは……なんか違うんだよなぁ……家族っていうか、なんというか……)

「や、やっぱり僕なんかじゃ駄目?」

「え!?いやいや!!……実は、僕も同年代の友達って初めてなんだ。こちらこそよろしくね、フィオラ。」

「うん!よろしくね、エリオ!」

固く握手をする二人の少年。
フッと笑って作業を続けるイアンと、雄々しく立つガンダムたちだけが、この友情が誕生する瞬間を見ていた。



ブリッジ

今日もプトレマイオスのブリッジは平常運行中だ。
約一名、椅子に座って突っ伏している者を除けば。

「も~、いい加減立ち直ってくださいよ、グレイスさん。かわいかったですよ?」

「見られた………みんなにあれを見られた……」

みんな特にどうこう言わずに流してくれたが、その優しさがフェルトには辛い。
しかも、肝心のユーノからは

『女の子があんまりこういうカッコしちゃ駄目だよ。』

と、苦笑いで諭される始末。
もちろん、この原因を作ったD・ケルディムとジェイルはあとで折檻しておいたのだが、懲りずにまた何か企んでいるようだ。

『な、なんかそっちも大変みたいだね。』

「まあ、ごくごく個人的なことなんだけどね。それより、話の続きをしてもらっていいかしら。」

大画面の向こうにいる犬耳の少女の発言をスメラギが促す。
アルフもそれ以上はフェルトをさらに落ち込ませることになると思ったのか、何度も戦闘中の映像を見ているミレイナのことも放っておいて続きを話す。

『シン国の摂政……カイエン・ストルツァだけど、いい意味でも悪い意味でも有能みたいだね。』

「というと?」

『先代の国王時代から重要なポストについてたんだけど、王子に摂政を任命されてからも政治活動において中心的存在になってる。』

「待って。王子自身が彼を任命したの?」

『うん。もっとも、口八丁で王子を丸めこんだってもっぱらの噂だけどね。やってることも自国のためとはいえ、かなりグレーな部分があるしね。』

呆れるアルフとは違い、スメラギは考え込んでしまう。
幼いとはいえ、フィオラはかなり頭が回るし、しっかりと自分の中に指針を持っているように見受けられる。
そんな彼が、何の考えもなしにそんな重要なポストをホイホイと信用のおけない人物に任せるだろうか。

『どうかした?』

「……ううん、なんでもないわ。それより、今度は軍のトップについて聞かせて。」

『え~と……ああ、あったあった。名前はジムニー・ライド。摂政の方とは違ってかなり若いね。21で軍のトップに立って以来、違法デバイスやロストロギアの裏取引の取り締まりの強化を率先して行い、当時の治安維持に一役買ったみたいだね。ただ、先代が崩御してからはその強硬姿勢が裏目に出て内外問わず反発を招いているみたい。ま、今の治安悪化はコイツとさっきの摂政のグレーさのせいで民衆に不信感が募っているのが原因ってとこかな。』

治安の悪化についてはアルフの意見で間違いはないだろう。
しかし、だからこそわからない。
なぜ、フィオラがこの二人に信用を寄せているのかが。



シン国 城

「では、我々の提案を受け入れることはできないと?」

「管理世界の再編のために我が国、いや、このバーナウが受ける損失は計り知れない。申し訳ないが、お断りさせていただこう。」

ファルベルはシン国軍・最高司令官、ジムニー・ライドの言葉に失望の意をあらわにする。
しかし、ジムニーはそんなことなど気にも留めずに続ける。

「そもそも、異世界の宇宙開発に我が国の民を差し出せというのが不条理この上ないのではないのか?」

「それについては何度も説明したはずですがな。そこで宇宙開発の技術を学び、我々の世界でも宇宙開発に着手する。当然、それ相応の見返りは……」

「見も知らぬ劣悪な環境に、民草を向かわせろというのか!?俺たちを侮辱するのもいい加減にしろ!!」

長机にバンと手をつき、遥か向こうに腰かけるファルベルを噛みつかんばかりの勢いでジムニーは睨みつける。

「そもそも現体制になって以降も協調政策を取り続けたのが間違いだったのだ!!いくら先代がリュフトシュタイン大統領と親しかったとはいえ、こんなやつらと…」

「ほう……それは、我々の友好関係を無に帰しても構わない……そう捉えてよろしいのかな?」

ファルベルの挑発的な言葉にジムニーは感情に任せて答えようとするが、それを横に立っていた喉元ほどまで伸びた長い白髭の老人がいさめる。

「准将殿。我々は今の関係の維持を望んでいます。しかし、異世界の宇宙開発に協力するというのはフィオラ様不在の状態で決定できることではないのです。ですから、今日のところは結論を出すのは待っていただきたい。」

白い髭を揺らすカイエン・ストルツァの言葉に、ファルベルは目を細めて黙りこむが、しばらくすると不穏な笑みを見せた。

「わかりました。こちらとしても熟考していただくのは大変結構なことです。ただ、一つご報告させていただくなら、ラグシー国内で何やら不穏な動きがあったようなので一時的に我々の管理下に置かせていただきました。」

「…………………………………」

「実に残念なことです……あの美しい首都が一夜にして焼け落ちてしまった。ですが、フィオラ様が誘拐されたとなると、我々も不本意ながらシン国を管理下に置かせていただくことになるやもしれません。そのことを、どうぞお忘れなく……」

意味深な言葉を残してファルベルは退室する。
しかし、残された二人がそれと同じくらい気にしているのは互いの腹の内だ。

「どういうつもりかな、ジムニー殿。フィオラ様不在の今、不用意な発言は国を滅ぼしますぞ。」

「そちらこそどういうつもりだ、カイエン執政官。貴公はシンが食いつぶされるのをただ黙って見ているつもりか!」

「今のシンには管理局の協調が不可欠。一度切れた縁は再び繋ぐには大きな犠牲が伴う。」

「その縁を守るために民を売ると!?民への心なきものが国と呼べるのか!?」

ファルベルとの会談以上にヒートアップする二人。
やがて、息を整えたジムニーから切り出した。

「どうやら、俺たちはとことん相容れないようだな。」

「そのようですな。だが、それでもフィオラ様は我らを信じ、この国の政を担うことを決断された。」

「ならば、俺は俺のやり方でフィオラ様の理想を目指すまでだ。」

そう言うとジムニーは一人、振り向きもせずに廊下へと出て行ってしまう。
それを見送ったカイエンは椅子に腰かけると、しばらくその場から動こうとはしなかった。



クラウディア

「がったがたもいいところだな、この世界は。」

外から帰ってきたヴィータは誰に言うでもなくそう呟く。
あちこちで小競り合いが起き、誰もが疲弊しきっているこの国の現状を見ればそう思わざるを得ないのかもしれないが、表向きにはこの世界のためにやってきたのだから声を大にしてそんなことを言えない。
しかし、その呟きをしっかり聞いている人物がいた。

「駄目だよ、ヴィータ。そんなこと言っちゃ。」

「一人言だよ一人言。お前こそ人の話を勝手に聞いてるんじゃねぇよ。」

見当違いな文句をたれながら歩くヴィータにフェイトも溜め息を漏らしながら続く。

「そういやぁ昨晩、救出作戦と平行してラグシーの制圧作戦が行われたらしいな。」

「うん……ひどかったよ。首都はほぼ焼け野原、他も完全にMSで占拠されてる。」

「ったく……人のこと言える御身分じゃねぇけど、関心しねぇ話だな。」

「まったくだ。……と言っても、遅れて来た私が言えた義理ではないがな。」

その声に二人は前にいた人物の方を見る。
火傷の痕が印象的な東洋人系の顔をしたその人物は寄りかかっていた壁から背を離すと二人に手を差し出す。

「アロウズ所属、ミン・ソンファ大尉だ。本日付けでクラウディアに乗ることになった。こちら側の事情には不案内だが、これからよろしく頼む。」

「フェイト・T・ハラオウンです。」

「ヴィータだ。……言っとくけど、あたしはお前より年上だからな。子供とか言ったらアイゼンの染みにしてやるからそのつもりでいろ。」

ミンの様子、というより長年の経験から自分にとって最上級に不快な発言の予兆を感じ取ったヴィータは先手を打つが、その失礼極まりない予防線にフェイトは彼女の頭を押さえて何度も謝らせる。

「ご、ごめんなさい!悪い子じゃないんですけど、ちょっと短気なところがあるというか……」

「あだだ!!なにすんだよフェイト!!」

「ハッハッハ!別に気にしてないから構わんよ。改めてよろしく、ヴィータ“ちゃん”。」

「“ちゃん”つけんな!!これでもあたしは三尉だぞ!!マジで潰して鏡餅に混ぜてピンク色にした上で飾ってやろうかこの野郎!!!!」

「お、落ち着いて!!悪気はないんだから!!」

フェイトに羽交い絞めされてじたばたするヴィータにミンはいっそう子供っぽいと思ってしまうが、笑うのをこらえて彼女たちに接触した目的を果たすことにする。

「それはそうと、次の作戦に参加するのはやめておいた方がいい。」

「は?」

ミンはいぶかしがるヴィータとフェイトに一枚の作戦指令書を渡す。
すると、二人の顔は一気に青ざめる。

「お、おい!こんなもん本気でやる気かよ!?」

「少なくともファルベル准将はそのつもりだ。遅かれ早かれ、クラウディアにも命令が来るはずだ。」

「……目的はソレスタルビーイング、ですね。」

怒りを押し殺すフェイトに、ミンは静かにうなずく。

「彼らの下にフィオラ皇太子がいるのなら、間違いなくシンへの進行を阻止するよう頼むはずだ。それに、新生されたソレスタルビーイングの今までの作戦行動も合わせて分析すると、現れる確率は高い。」

「そんなことのために一つの国を犠牲にするんですか!?」

「それを決めたのは管理局、君の所属する組織だ。」

その一言にフェイトは口ごもる。
だが、ミンも自嘲して再び壁に背を預ける。

「もっとも、かくいう私もアロウズの一員だ。君の素直なその想いも、事情を知らない人間にすれば詭弁にすぎない。」

「だったら、あんたは違うって言うのかよ?」

「もちろん、ライセンス持ちとはいえ私も少なからず組織のしがらみというやつに縛られている。しかし、その上で退けない一線というものは設けている。だから、君たちにこのことを伝えた。それに……」

「「?」」

首をかしげる二人に、ミンは微苦笑して答える。

「ユーノ君の友人に手を汚してほしくはなかったから、かな?」

予想外の答えに、二人は一瞬言葉をなくしてしまった。



ギアナ級

「こんなことが許されるんですか!?」

「は、はやてちゃん!!」

襟を掴んでくってかかるはやてに、セルゲイは黙って言葉を聞くしかない。
リインも必死に二人の間に割って入ろうとするが、彼女の小さな体では何の意味もなさなかった。

「シン国を制圧して管理下に置くって……こんなんソレスタルビーイングをおびき出すため以外の何物でもないやないですか!!セルゲイさんはこれを黙って見てるんですか!?」

「アロウズは超法規的部隊だ。一介の佐官の私がどうこうできるものではない。それに、これは管理局のトップの決断だ。はやて、君もその意味がわかるだろう?」

連邦軍と管理局は協力関係にあるが、互いに立案した作戦には意見することはできない。
そして、その作戦に協力することはできても、妨害するようなことがあれば即敵対行動とみなして排除に移ってもよいことになっている。
なお、この排除行動の際に相手方に損害が出たとしても、その責は妨害した側にあるため一切の弁解が許されない。
つまり、セルゲイが下手にこの作戦に関して進言すれば彼は勿論、彼の部下にも何らかの責任を追及されるかもしれないのだ。
そのことははやても承知しているし、セルゲイが誰より悔しい思いをしていることもわかる。
だが、それだけを理由に一つの国が犠牲になるのを黙っていられるほど彼女は大人になりきれない。

はやてはセルゲイから手を離すと床に落ちていた上着を羽織り、リインを連れて扉の前まで歩くとそこで止まる。

「セルゲイさんができへんのやったら、私らがやります。無用の犠牲が出んように、私らは私らで独自行動をとります。ギアナ級は残って待機していてください。」

「はやて。」

「“無理”はしません。けど、“無茶”はさせてもらいます。だから、今回は黙って見とってください。」

振り向いたはやての表情は乙女のものではなく、雄々しい指揮官のそれになっていた。

「これが、ミッドの魔導士の戦いです。」



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「間違いなく罠だ。」

イアンのその言葉に情報を提供してきたクロウさえもうなずく。
シン国を制圧するための作戦にもかかわらず、首都周辺を中心におかれた待機部隊。
その数は首都に配備されるMSを優に上回り、間違いなく外からやってくるであろうものを待ち受けている布陣だ。

「大方、首都に向かわせるMSはシン国を挑発するためのものだろう。誘いに乗ってくればそのまま適当な理由を後付けして制圧。乗らなければ乗らなかった時でそのまま防衛のためと言って駐屯させる……汚い話だ。」

ラッセが不愉快そうにそう吐き捨てると全員がそれをきっかけに怒りを燃え上がらせる。
いや、一名だけはそうではなかった。
フィオラはそわそわと落ち着かない様子で事の成り行きを見守っている。

「それで、具体的にはどうするんだ?俺たちが介入すれば連中は喜び勇んで飛んでくるぜ?」

「それに、アロウズが協力している現状で僕たちが出て行ったらシンがソレスタルビーイングを擁護している疑いをかけられるかもしれない。その……アザディスタンみたいに。」

アレルヤは刹那の方を気にしながら喋るが、当の刹那はさして気にする様子もなく目を閉じたまま手すりに寄りかかっている。
しかし、心なしか落ち着かない自分を無理に抑え込もうとしているようでもあり、沈黙が抜き身の刀のような気配をいっそう鋭いものに変えていた。
そんな中、それまで聞き手に徹していたティエリアが口を開く。

「僕は今回の介入は見送るべきだと思う。」

「と言うと?」

「元をただせばこの国に問題がある。仮に僕らが介入して一時的に鎮静化したとしても、時間を置けば問題が再燃する可能性は高い。」

「ティエリアさん!?そんな言い方しなくても…」

エリオが異を唱えようとするが、ティエリアは鋭い目つきでエリオを射竦める。

「なら、この国が立ち直るまで介入を続けるか?いずれ地球に戻る僕らが中途半端に手を出して放り出せば事態が悪化するだけだ。」

「けど!!」

「エリオ、いいんだ。」

フィオラは掴みかかろうとしていたエリオを止めて、今度は自分が前に出る。

「たしかに、あなたの言う通りかもしれません。それでもお願いします……シンを、この国を守ってください!!」

「それで、根本的な部分は先送りにするのか?」

黙っていた刹那の言葉にフィオラは声を大きくする。

「違います!!この状況さえ脱することができればこの国はまだ立ち直れる!!」

「お前が犠牲になることでか?」

「それは……」

「……お前は逃げようとしているだけだ。」

「え?」

そう言うと刹那は一人扉の前まで歩いていく。

「ダブルオーの調整を頼む。ジルと待機しているからプランが決まったら送ってくれ。」

「お、おい!まだ今回出撃するかは……」

「僕は刹那に賛成。ロックオンは?」

「俺に振るなよな。ま、ここで行かなきゃ俺がガンダムに乗る意味ねぇし……賛成ってことで。」

「と言うわけでマイスターは3対2で今回のミッションに賛成ってことで。」

半ば強引にマイスターの意見をまとめたユーノにアレルヤとティエリアはそれぞれフゥと息をついたり、メガネを小刻みに動かすがどうやら反対する気はないようだ。
スメラギは他のクルーの意思を確かめようとするが、苦笑を返したり肩をすくめたりするところを見ると全員反対する気はもうないようだ。

「エウクレイデスは?」

『私たちはそちらの総意に従うまでです。』

「了解しました。ミッションプランは後で送りますので、各員への通達をお願いします。」

『わかりました。では。』

シャルの顔がモニターから消えたところでクロウも姿を消す。

「これから私たちは管理局とアロウズの侵攻へ介入を開始するわ。みんな、気を引き締めてね!」

「はい!」

返事と同時に次々に部屋を後にするメンバー。
そんな中、スメラギはフィオラとエリオを呼びとめる。

「口ではあんな風に言ってたけど、刹那はあなたに期待してるのよ。」

「え?」

二人はまさかといった表情で顔を見合わせるが、スメラギの小さな笑い声に前を向く。

「そうでなかったら、刹那が自分からミッションに賛成するはずがないもの。だから、よく考えてみて。あなたがこの国からいなくなるのが、本当に最良の選択なのか。エリオも、彼が覚悟を決めた時は助けになってあげて。」

「はあ…」

よくわかっていないようだが、きっと彼らにもわかる時が来るだろう。
もっとも、自分があまりそれを望んでいないことだけはスメラギが伝えることはなかった。



廊下

先にブリーフィングルームを出てジルを探していた刹那だったが、そのジルがなかなか見つからない。
いつもなら頼みもしないのに自分からやってくるはずなのだが。
その時、

「?」

下から何かに服の端を引っ張られる。
不思議に思って振り向くと、そこにいたのは自称自分の相棒と戦友の娘だった。

「どうした?」

「いや、それがな。このお嬢ちゃんが…」

頭の上に乗るジルの言葉を待たずに進み出たヴィヴィオは無言の威圧感を放つ刹那に恐る恐る話しかけた。

「あのね……パパのこと守ってあげて。」

「……?ユーノは強い。そのことはお前がよく知ってるはずだ。」

「守ってあげて!」

震えながら大声でそう言うヴィヴィオに刹那はそれ以上何も言えなかった。
必死に訴える彼女が本気でユーノを心配しているのはよくわかったし、なにより刹那の中でも今すぐにでも何かが起きようとしている不安がこみ上げて来ていた。

「わかった。ユーノは俺が……いや、俺たちが守る。」

「ふぁ……」

刹那に頭をなでられ、いくらか気を許したのかヴィヴィオは硬かった表情をふにゃっと緩める。
その先程までのギャップに刹那もついつい柔らかに微笑むが、ニヤニヤとこちらを見ているジルに気付いてすぐに気を引き締める。

「行くぞジル。ミッションのシミュレートがある。」

「へ~いへい。そんじゃあな、ヴィヴィオ。」

「うん!ジルちゃんと天使さんも気をつけてね!」

「「は?」」

その単語に二人は思わず足を止める。
天使と呼ばれる理由がまったく思いつかないのだが、ヴィヴィオの純粋な瞳を見ているとさっきの刹那に対する天使発言が本気であることが分かる。

(マイスター、発言の許可を。)

(なんだ?)

(おそらく彼女は先のマイスターの戦闘時の姿を見てそう思ったのではないかと。)

そこで二人は合点がいく。
確かに、リミットオフ時の姿は背中に羽が生えているように見えるし、幼い彼女がそれを見て自分を天使だと勘違いしても仕方がない。
だが、このまま彼女に天使呼ばわりを続けられたのではクルーからからかわれるのは必至だ。

「……俺のコードネームは刹那・F・セイエイだ。刹那でいい。」

「うん!刹那さん!」

元気よくうなずくのを見てホッと一安心すると、改めてシミュレートに向かう刹那とジルだったが、彼らは気付いていない。
ヴィヴィオの目には、今も確かに刹那の背中に二つの蒼い翼が見えていることに。



シン国 首都・アウンセン 外壁周辺

不本意な任務に出撃することになったミンだったが、とりあえずのところは安心していた。
こんな任務にユーノの友人たちを巻き込まずに済んだことが今回の唯一の救いだ。

『申し訳ありません、大尉。あなたにこんな役を押し付けてしまって。』

「かまわんさ。それに、彼女たちはもう少し周りに甘えることを覚えるべきだ。無論、君もな、クロノ艦長。」

『しかし、ライセンス持ちのあなたならば本来指示に従う必要は…』

「私が本隊の指示に従うのが君たちが出撃を拒否する条件なんだ……仕方がない。それにしても驚いたよ。まさか、ユーノ君の友人に会えるとはな。」

『それはこちらのセリフですよ。まさかあいつとあなたが知り合いだったなんて。』

フェイト達も驚いていたが、ミンもまさかこんな形でユーノの友人たちと出会う機会が与えられるとは思っていなかった。
お互い素直に喜べないのが本当に残念だが。

『大尉はどうしてユーノと?』

「最初は戦場で別のガンダムに殺されかけているところを救われた。次は彼がパイロットだとは知らずに上官と同僚と一緒に。そして、そこでも彼に救われた。その時気付いたのさ。彼は、本当は戦いを望んでいないということを。」

だから、今度は自分が救おうとした。
戦火の中から、誰も手を差し伸べようとしない彼のために。
だが、力及ばず彼は今も戦火の中心にいる。

『安心しましたよ。』

「?」

『ユーノはどこに行っても馬鹿なまま。誰かれ構わず必死に助けようと駆けずり回る……そんな気持ちのいい馬鹿だったことがわかってよかったです。』

「馬鹿ね……」

『ええ、馬鹿ですよ。おまけに隠れスケベで天然ジゴロです。』

本当に嬉しそうにそう語るクロノにミンは苦笑を洩らすが、センサーに反応が出たところで鋭い目つきに変わる。

「すまないがお喋りはここまでのようだ。」

『ええ。それでは、ご武運を。』

クラウディアとの回線を切断してミンはアヘッド改をさらに加速させる。
グングン首都を囲む外壁に近づいていくが、そこで違和感を覚える。

(MSがいるのに動きが無い?)

交渉で解決できないかと考えていたミンにとっては助かるが、どうにも様子がおかしい。

今、目視しているのは自分と入れ違いにバージニア級に配備されることになったという新型三機。
そして、その三機の前に侵攻を遮るように立っているのはミッドチルダの民間企業が流出したデータをもとに開発したという新型のガンダム三機。
味方同士のはずだが、両者の雰囲気はお世辞にも友好的とは言い難い。

「だからさぁ~。あたしらはあんたらの上の人間の頼みでこんな田舎くんだりまで来てんの。さっさと終わらせて帰りたいんだから邪魔すんじゃないわよ。」

「私たちも直属の上官である八神二佐の指示でここにきました。シン国を管理下に置くにあたり、彼の国に不利益が生じる場合は各自の判断で動くようにと。」

「八神はやて二等陸佐……確か三提督や聖王教会ともコネクションがあったな。後ろ盾がある人間っていうのはうらやましいものだね。どんな相手にも強気に出れる。」

「そこはご想像にお任せします。しかし、私たちはそんなものは関係なく自分の正義に基づいて行動しています。私の目指す正義と相反するのなら、たとえどんな理由があろうと折れるわけにはいきません。」

背中に白い翼を持つガンダムから聞こえてくる若い女性の声は新型が砲身を向けてくるのにも臆せず凛とした空気を纏って首都を守るように立ちはだかる。

「……どういうことか説明してもらおうか。」

ミンもその輪の中に入り、事情を確かめようとするが案の定どちらからも歓迎はされていないようだった。

(例のライセンス持ちか。余計な時に…)

(増援…はやく事態を収めないともっと来る!)

口に出さないが、どちらもミンの登場にさらに神経を逆立てている。
シンに侵攻されるのも困るが、ここで同志討ちを始められても参る。
ミンがそう思い、とにかく話をしようとしたその時だった。

「管理局に告ぐ!!」

外壁の上で黒髪の男が叫んでいる。
おそらく魔導士なのだろうが、MSの前に生身で出てくるなど自殺行為もいいところだ。
しかし、そんなことなどお構いなしで男は弁舌をふるう。

「俺はシン国、軍総司令官、ジムニー・ライド!!これ以上我が国の領土を侵すことは何人たりとも許さん!!即刻退去せよ!!この要求が受け入れられない場合、武力の行使もいとわないものとする!!」

(マズイ!!)

最悪の事態が今まさに起ころうとしている。
ジムニーと名乗った男の後ろからは続々と武装した魔導士たちが現れ、敵対心をむき出しにしている。
しかし、しつこいようだが彼らは生身なのだ。
MSに対抗できるはずがない。

「またうるさいのが出てきたわね。もういいや。早いとこ終わりにしちゃお。」

「!!」

新型の一機が男たちにその砲身を向けて粒子のチャージを開始する。

「馬鹿な!!人間相手にビーム砲を使う気か!?」

ミンがアヘッド改を盾にしようと飛び出すが、それよりも早く動いた機体があった。

「な!?」

青と白、そして胸に赤いコアを持ったガンダムが彼らをかばうように射線軸の上に飛び込んでいた。

「させないよ!!」

「あらら、とことん邪魔するわけね。まあいいわ。ちょうどウザいと思ってたし!!」

「やめ…」

新型に刃を突き立ててでも止めようとする。
だが、青いブレード付きのガンダムは夕焼けのオレンジに染まった空を切り裂いて飛んできた一条のビームによって救われた。
新型はその狙撃をかわすために発射を中断して離れると、それが来た方向を向いて額にある横長の第三の目を光らせる。

「来たわね……ガンダム!!」





「あっぶねぇ……ギリギリセーフだな。」

ロックオンはスコープから犠牲者が出なかったことを確認してフゥと肺にため込んでいた空気を吐き出すが、新型がこちらを向いたことで再び息を止める。

「まずは連中を二手に分けて引き離せだったな。頼むぜ、ヴァイス。」



西

「任された!」

ヴァイスの指が動くと同時に赤く細い槍が外壁の前に集結していたMSの間を駆け抜ける。
すると、今度はカレドヴルフ製ガンダムたちがこちらを向く。

「うげっ!俺ん所にはなのはさんたちかよ……俺だってばれたら殺されるなぁ…」



外壁周辺

「あっははは!!来た来た来た来た!!いくわよ、リヴァイヴ、ブリング!!」

「わかってるよ。」

「了解した。」

新型MS、ガデッサ二機とガラッゾが最初の狙撃が来た東へと向かう。
それはまるで、それまで夢中だったお古のおもちゃから新しいおもちゃへと興味が移ったようにあっさりとジムニー達を放っておいて最優先目標の確保へと動く。
そして、それはなのはたちもそうだった。

「スバル、ティアナ!!」

「「はい!!」」

皆まで聞かずとも二人は即座にガデッサたちとは反対の方向へとその姿を獣に変えた愛機とともに駆けだす。
そして、サリエルもその翼を大きくはばたかせてその後に続く。
通信回線を本部と繋いだままにしているミンも即座に行動に移ろうとするが、本隊の動きを見てソレスタルビーイングの目的を見抜いた。

「この動き……人口密集地帯からMS隊を引き離すのが目的か!!」

聞こえてくる『ガンダムが逃げた!!』などと似たような単語を叫ぶ友軍機の追跡ルートをたどると行き着くのは住む人間などいない草原地帯と海岸線。
間違いなく誘われている。

「……!!そうか!」

何とも彼ららしい作戦だが、こちらとしてはありがたくない話だ。
いまさらこの事実を伝えたところで逆に追撃を受けて消耗、それが無くとも彼らの最初の目的は達成される。
ならば、せめて次の一手のために備えるのが最善の選択だろう。
ただ、ミンにとって問題なのは二手に分かれているソレスタルビーイングのガンダムのうち、どちらに彼がいるかだ。

「ええい!!侭よ!!」

ミンは新型三機が向かった方へアヘッド改の頭を向ける。
その先に、ユーノがいることを信じて。



草原

「チッ!!そろそろキツイな!!」

後ろに続々と集まってくる赤と白の二種類のカラーリングをされたMSにロックオンは汗をにじませながら笑う。
とりあえず待機していた部隊も合わせて約半数を連れてくることに成功したが、この数を相手に付かず離れずで誘うのが想像以上に厳しい作業なのだ。
敵の放つビームが機体をかすめるたびに冷や汗が1ℓずつ増加していくのではないかと思うほどスリリングだ。
だが、そのスリルもようやく終わりを迎えようとしていた。

『ロックオン、そちらを目視した。カウントダウンを開始する。』

「了解!!ハロ、こっちもカウントを頼む!!」

「任サレタ!任サレタ!7…6…5…」



海岸線

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!?想像以上にキツ過ぎやしませんかねスメラギさん!!?」

管理局、アロウズの両者に追われ、簡単な役割だと言っていた戦術予報士に叫びながらヴァイスは目一杯ペダルを踏みたい衝動をなんとか抑える。
せっかく誘ったのに、ここで突き放して戻られたのでは元の木阿弥だ。
そんな自分の中の焦りと格闘しているヴァイスに、待望の知らせが入る。

『ヴァイスさん、ご苦労様です。カウントを開始します。』

「待ってました!!ストームレイダー!!」

〈了解。7…6…5…〉



「4…3…」



〈2…1…〉







「〈0〉」



草原

「セラヴィー、目標を殲滅する!!」



海岸線

「クルセイド、目標を打ち砕く!!」





その瞬間、首都を挟むように二つの閃光が大地を、そして空を引き裂いた。
それに巻き込まれたMSたちは溶解し、爆発し、炎を上げながら地上へ向かって一直線に落ちて行った。



草原

「つうっ!!なめたことしてくれんじゃない!!」

遅ればせながらやってきていたヒリング達はどうにかセラヴィーの砲撃に巻き込まれずに済んだ。
しかし、こちらに来たMSの約半数は撃墜、もしくは戦闘不能。
さらに突然の一撃で完全に隊列が崩れてしまい、退くも進むもできなくなってしまった。

「チッ…!ヒリング、ブリング、役立たずどもは無視するんだ!!僕らだけでもガンダムを仕留める!!」

「了解!」

あたふたと取り乱す味方を押しのけ、三人はセラヴィーとケルディムに一直線に突き進む。
しかし、ソレスタルビーイングの策はまだ終わっていない。

「セラヴィー、セカンドフェイズ終了。」

「了解。アリオス、サードフェイズを開始する!!」

「セファーラジエル、同じくサードフェイズを開始する。」

「!」

「なに!?」

「うそ!?」

上を見上げた三人、いや、辛うじて生き残っていた全機がそれを見て固まる。
二つの影が茜色の日を浴びながら持てる武装をフル活用しながら急降下してくる。
そして、その二機が通り過ぎた次の瞬間には、

「う、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

残っていた機体のさらに半分が爆散していた。

「この……!!人間の分際で!!」

それまで冷静だったリヴァイヴも怒りに我を忘れてアリオスとセファーラジエルへ集中攻撃を開始する。
しかし、追おうとするとセラヴィーとケルディムから射撃で妨害され、いつもの実力の半分も引き出せない。
そして、徐々にガンダム四機との距離があいていく。

「このまま別動隊と合流する。」

「オーライ!しかし、あいつら上手くやってんのか?」



海岸線

「そんな……」

一撃だった。
たったの一撃で味方の大半が沈黙。
自分が常々行っている戦術を目の当たりにするだけでここまで動揺するものなのかと愕然としてしまうなのは。
しかも、それをやったのがユーノなのだから驚きは倍増する。

「クルセイド、セカンドフェイズ終了。」

「了解。ダブルオー、目標を駆逐する。」

「アストレア、まとめてぶちのめす!!」

「くっ!?」

しかし、驚く暇もなく今度はダブルオーとアストレアが襲いかかる。
斬撃、射撃と使い分けて次々に味方を屠る二機をカマエルとウリエルが止めようとする。
しかし、サダルスードからの射撃に阻まれ思うように近づけない。

「こ……のっ!!」

ティアナはカマエルをMAに変形させ、的を絞らせないようにジグザグに動かしてサダルスードとの距離を潰すと胴体から生えるブレードで斬り裂こうとする。
だが、今度はクルセイドがカマエルの頭を踏み台にして、次の動作までワンテンポ遅らせてサダルスードを逃がす。
そして、跳び上がった勢いそのままにウリエルへアームドシールドで斬りかかった。

「はぁっ!!」

「せぇい!!」

全重量を乗せたクルセイドの一撃を右腕のブレードで受け止めるウリエル。
しかし、クルセイドはすぐさま右足を大きくウリエルの左脇の奥へ踏み出し、身体を回転させながらそちらへ移動しつつ勢いよく横薙ぎを背中へ放った。
だが、ウリエルもそれを読んでいたように左肘のブレードで上手く抑えると、力に逆らわず弾きだされるように前へと跳ぶ。
そして、

「マッハキャリバー!」

〈Wing road!!〉

MAへ変形すると同時に空へと続く青い道を出現させ、そのまま加速しながら登っていく。

「ストライクレーザーーーーーーー……クローーーーー!!!!」

青く輝くその爪をクルセイドの頭部めがけて振り抜く。
クルセイドもアームドシールドでそれを防ぐが、そのまま押し倒されて今度は鋭い牙が頭を噛み砕こうとその口を抑える左の掌の向こうでガチガチとぶつかりあっている。

『投降してください!!』

聞こえてくるスバルの声にユーノは歯を食いしばって笑う。

「六課時代は一本も取れなかったのに……ずいぶん偉くなったもんだね!!」

膝蹴りでウリエルを浮かすと地面スレスレを飛んでごつごつした岩肌にウリエルを叩きつける。
一瞬ぐらつく間に拘束を逃れ、アームドシールドの小型ランチャーを撃ちこむが、MSに変形してかわされた。
ライフルが使えれば隙の大きいランチャーではなくそちらを使うのだが、バーストを使ってしまったので復旧にはもう少しかかる。
その時が勝負だ。
そう思っていたのだが、

(うっ……!?)

突然視界が大きく揺れる。
気が付かなかったが、いつの間にか体中がだるく、まるで血液の代わりに水銀でも流されているようだ。

「?どうした?」

「いや、なんでもないよ。」

異変を察知した967が心配そうに話しかけてくるが、ユーノはいつものように笑って見せる。
だが、それでも視界は未だに波打ち、座っていなければ間違いなく倒れてしまいそうなほどだ。
そして、それが災いした。

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

青い日輪を背負ったウリエルが突進してきたのに気がついたユーノはクルセイドのアームドシールドを振るって近寄らせまいとする。
だが、それが迂闊だった。

「それでは駄目だ!!」

「!!」

刹那の警告もむなしく、刃を掴まれその動きを封じられるクルセイド。
そして、

「ソードブレイカー!!!!」

〈Break end!!〉

研ぎ澄まされた刃と、

「あ……」

ランチャーの機能を備えた発射口、

「チッ!!」

そのすべてが欠片となり、

「おりゃあっ!!」

ウリエルの打拳で押し飛ばされると同時に、クルセイドの右腕で爆発が起きた。

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

その衝撃で右腕は装甲がはがれて内部がむき出しになり、クルセイドは煙を上げながらフラフラと荒波が寄せる岩場にどっかりと座りこむように腰を落とした。

「グッ!!どうした!!お前らしくもない!!奴の戦術は聞いていたはずだ!!」

そう、刹那から聞いていた。
だが、この気だるさに頭が回らず、一瞬記憶の棚からも消え失せていた。
今日は、いや、今自分は何かがおかしい。

(クソ!これで残る武装はライフルにビームサーベルが一本か……)

ウリエルと自分の戦闘以外は完全にこちらが優勢だが、これだけでスバルとやり合うのは心もとない。
実体剣に頼らず格闘戦を行えるアトラスならばこんなことにはならなかったのだろうが、こうなるとは予測していなかったのであのクセの強い強化案を欲するなどなかったはずなのだ。

『ユーノ!無事か!?』

「うん、なんとか。けど、アームドシールドをやられた。もう正面切っての戦闘はきついかな?」

『だったらさがってな!お前の分まで俺が喰いつぶしてやるよ!!』

前に出て行くダブルオーとアストレアに任せてさがるクルセイド。
しかし、プレッシャーが弱まったにもかかわらずユーノの不調はますますひどくなる。
まるで、見えない何かが体の中を蝕むように。

『いつ発作が起こってもおかしくありません。』

(まさか……!!また、こんな時に!!)

アニューの言葉を思い出し、顔をさらに蒼ざめさせる。
もし、そうだとしたら、

「うおらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「ぐあっ!!!!」

後退していたクルセイドの背中に衝撃が奔る。
波打ち際に叩き落とされた轟音に他の機体も気がつく。
オレンジを吸収して鈍い色に輝く波間の上にたたずむ鉄槌の騎士と漆黒の死神。
エスクワイアとシュバリエが、集中砲火でクルセイドの動きを完全に封じていた。
そして、

「墜ちちゃえぇぇぇぇぇ!!!!!!」

後方からの広範囲にわたる砲撃をモロに受け、最早無事な箇所を見つけるのが難しいほどのダメージを負ったクルセイド。
鮮やかに萌える翠の装甲は見る影もなく、完全に動きを止めていた。

「しまった!!!!」

刹那は慌てて引き返そうとするが、今度は高圧縮された粒子ビームがダブルオーの脇をかすめる。
それでもなお、クルセイドを救うために刹那は突き進む。
嵐のように銃弾が身体を叩こうとも、ミサイルの爆風で体勢が崩れかけても、愚直に突進する。
もう、ユーノの手を離さないために、彼の娘の願いを違えないように。
敵に背を向けることになろうとも、ユーノを守るためにその手を伸ばす。

「ユーノ!!!!」

倒れたクルセイドをかばうように前に陣取り、刹那はここぞとばかり押し寄せてくる敵へライフルを連射する。
それと同時に、クルセイドへ接触回線を開いて中の様子をうかがう。
すると、

「な……!?」

近くにいるジルの驚いた声も、刹那には届かない。
ただ、真っ赤になったヘルメットのバイザーから見えるユーノの閉じた瞳と荒い息づかい、そして967の絶叫で頭の中が真っ白になっていた。



『クルセイド被弾!!ダメージ深刻です!!』

合流地点にあと一歩のところに迫っていたロックオンたちに緊張感が奔る。
いくら相手が強力でも、あのユーノがそこまで追いつめられるはずがない。
心のどこかでそんな楽観的な考えを抱いていたのは確かだが、それでもそう思わせるだけの実力をユーノは持ち合わせている。
そのユーノが、この短時間に窮地に立たされることなどありえるのだろうか。

「クソッ!!」

ロックオンはケルディムを止めると、追いかけてくるガデッサへ向けて攻撃を開始する。
このまま敵を引き連れた状態で救援に向かっても逆に危機を招くと判断して自主的に迎撃に切り替えたのだが、他のメンバーも同じ考えなのか同じように止まるか反転して敵へ攻撃していく。

「やっと追いかけっこは終わり!?だったら、さっきの借りを返させてもらうわよ!!」

「こっから先は通さねぇ!!」

撤退戦があっという間に激しい打ち合いへと変わる。
そして、その中には敵でありながらユーノの身を案じている者もいた。

「通してくれ!!ユーノ君を殺す気か!?」

別部隊の回線から聞こえてきたユーノの危機。
ガンダムを相手にアロウズが手加減などするはずがない。
このままでは、間違いなくユーノは殺される。
しかし、皮肉にもそんなミンの想いと裏腹に仲間を守ろうとさらに攻撃を激しくしていった。



「ユーノさんがいけないんですよ?」

キャロはクスクス笑いながらトリガーを引き続ける。
キャバリアーシリーズ三号機、カヴァリエーレ。
ビアッジの口利きで乗ることになったこの機体で自分の居場所を壊した人間に報いを受けさせることができると考えただけで恍惚とした表情になってしまう。
自分でも、なぜここまで気分が高揚するのかわからない。
ただ、気持ちいい。
ユーノとその仲間を葬り去れると考えただけで全身が震えるほどの快感が下から昇ってくる。
フェイトとヴィータはなぜか歓迎はしてくれなかったが、そのうちわかってくれるはずだ。
自分は、正しいことをしているのだから。

「アハハハ……消えちゃえ!!」

無邪気に動かない相手へ残酷な仕打ちを続けるキャロ。
だが、それに比例するように刹那のボルテージはぐんぐん上がっていく。

「グッ!!お前たちは……!!」

サダルスードとアストレアも、それぞれエスクワイア、シュバリエの相手に精一杯でこちらにかまっている余裕はない。
唯一の救いはカレドヴルフ製ガンダムの攻めが止んでいることだが、それでも他の機体からの攻撃だけでも脅威になりうる。

理不尽な現実。
その中でも必死に生きるユーノを排除しようとする彼の世界の住人と異邦人たち。
彼らの振る舞いは、刹那から怒りで冷静さを奪うには十分すぎた。

「TRANS-AM!!!!!!」

両肩のGNドライヴが唸りをあげ、ダブルオーの体が赤く輝く。
それは、なにも変わろうとしない彼らに対してダブルオーが激怒しているようでもある。

「あれは!!」

「チッ!!」

ダブルオーの姿にそれが何を意味するのか知っているフェイトとヴィータは相手をしているサダルスードとアストレアが目の前にいるにもかかわらず距離を取る。
しかし、何をするつもりなのか理解していない管理局のMSやMDは逃げようとしない。
その結果は、もはや口にすることすらバカバカしく思えるほど明確なものになった。

「な…」

彼らの視界から消えたダブルオーが再び姿を現したその瞬間、取り囲んでいた一角が金属の細切れになって爆散する。
そこでようやく自らの身に危険が迫っていることを悟り、隊列が崩れるのもお構いなしで各機ダブルオーから離れようとする。
だが、刹那は逃がす気など毛頭ない。

「ダブルオー…刹那・F・セイエイ……目標を駆逐するっ!!!!」

背中から真っ二つに斬り裂かれ、叫ぶことすら許されず爆ぜるバロネット。
と、同時に周りにいた他の機体も胸を撃ち抜かれて爆発する。
そして、雑魚が粗方片付いたところで刹那の標的はクルセイドを追い詰めたカヴァリエーレへ変更される。

「アハハハ!!来るの!?いいよ!!私が受けた痛みを思い知らせてあげる!!」

両足のマイクロミサイル、右手のハイパービームライフル、左手のガトリング、そして顔を挟むように両肩に展開したメガランチャーをこれでもかというほど撃ち尽くす。
しかし、TRANS-AM状態のガンダムに正面から挑むのは無謀すぎた。
逃げ場がないと思われるほどの砲射撃の中をかいくぐり、カヴァリエーレに接敵したダブルオーは大小二本のGNソードでは両肩の砲身を突き刺す。

「貴様の歪みを破壊する!!!!」

続いて太腿から二本のカタールを抜き放ち、両腕の得物を斬り裂いてそのまま両腕にねじ込む。
そして、ビームサーベル二本で脚を貫き、空いた右拳で遥か上空へと打ち上げた。

「これで終わりだ!!!!」

上に先回りすると、バスターソードを振りかぶり、真っ直ぐに刃を走らせる。
だが、

「!?」

「フェイトさん!?」

「バカッ!!フェイト!!」

抱きかかえるようにカヴァリエーレの盾としてその背中をさらすシュバリエ。
その予想外の行動でコンマ一秒だけダブルオーの斬撃が鈍る。
それが、運命の別れ道となった。

「つっ!?」

突然コックピットに響く警告音。
両肩のGNドライヴからは細く煙が立ち上り、ダブルオーはゆっくりと高度を下げていく。

不完全なツインドライヴシステム。
その事実が露呈し、刹那も改めて思い知らされる。
ダブルオーは、まだ完成していないのだと。

「なんだか知らねぇけど、こっちにとっちゃ好都合みたいだな。」

「く……!!」

離れていたエスクワイアが確実に距離を縮めてくる。
刹那もどうにかならないかと必死に操縦桿を動かすが、相棒は眠りについたままうんともすんとも言わない。

「刹那!!」

「チッ!!オリジナルGNドライヴを渡すわけには……!!」

ヴァイスとフォンが援護に向かう。
だが、それよりも早く赤い閃光が空へと舞い上がった。

「!?」

あと少しというところで、突如視界のほとんどがふさがれ、しかも水飛沫とともに沖へと押し戻されていくエスクワイアとヴィータ。
そして、海面に叩きつけられた瞬間見えたのは、すでに次の獲物を探す一匹の獣だった。



?????

───原初へと還せ

また……この臭い………

───世界を滅ぼさぬために

生臭い、鉄の臭い……
全てを赤に染める……
僕の中から……どんどん漏れ出していく……

───消せ

……そうか
お前たちが、こんなもので世界を汚すのか……

───人は、力を持ってはいけない

だったら、もういいよ……
消してやる……

───魔導の力など……今の世界など





───消してしまえ
───消してしまえ
消してしまえ
消してしまえ
     ───消してしまえ
消してしまえ
───消してしまえ




消してしまえ



海岸線

967は何が起きたのかわからなかった。
ただ、自分自身も含めてクルセイドのコントロールが効かない。
バイザーについた血の間からカッと見開いた瞳で敵に、いや、この世界に存在するもの全てに憎悪を向ける相棒の姿だけがはっきりとこれが現実であるということを理解させる。
コックピットの中に翠の六芒星を基軸に、図形、ローマ数字、古代文字が複雑に絡み合った見たこともない魔法陣が広がり、ユーノの体の節々にはパイロットスーツの下にあってもわかるほど煌々と輝く翠のラインが幾筋も走り、重なり、混じり、侵食するように上を目指して這い上がっていく。
ユーノは何かつぶやいているのだが、口の中にたまった血液で声がくぐもり、上手く聞こえない。
それでもなんとか聞き取ろうとする967だったが、それは突然訪れた。

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

いつ動いたのかもわからないほどの速度でシュバリエを払いのけ、カヴァリエーレに刺さっていた剣を乱暴に抜き取ってとにかく生き残っている機体に次々に放り投げていくクルセイド。
一見乱雑に見えるそれは意外なほど正確で、シュバリエ、エスクワイア、ウリエル、カマエル、そしてサリエルの何処かに突き刺さり、DFSが作動している機体からは激痛にうめく声が聞こえてくる。
そして、すぐ目の前にいたカヴァリエーレに残っていたビームサーベルでむちゃくちゃに斬りつける。
しかし、狙ってか、それとも意図せずか、どれも装甲をなでる程度であり、まるでキャベツなどの葉物野菜を一枚ずつ外側から剥いでいくようにじわじわ追い詰めていく。
だが、一度ビームサーベルを振るうたびにクルセイドの体も軋む。

(粒子生産率が理論値を突破……!?GNドライヴの出力にクルセイドのボディが悲鳴をあげているのか!?)

しかし、967がそれをわかったところでユーノは止まらない。
どんどん装甲を削っていき、遂にあと一歩でコックピットというところまでこぎつけた。

「あ……」

死の予感。
それに直面したキャロが感じたのは恐怖ではなく、家族との思い出。
そして、そこに辿り着くまで味わった孤独や苦しみ。

独りが怖い。
独りは嫌だ。
独りは苦しい。

ただ、それだけしか心に残っていなかった。

ブゥンと音をたてて光の刃が振り下ろされる。
熱くもなければ、痛みもない。
これが死ぬということなのかとふと思うが、それは違っていた。
なぜなら、ビームサーベルは間一髪のところで後ろからクルセイドに抱きついていたサリエルが手の甲で受け止めていたのだから。

「だ……め………!!」

燃えるような手の痛みに耐えながら、なのはは必死で訴える。

「こん…なの……!!私が大好きなユーノ君がすることじゃないよ!!!!」

「なのは……」

「なのは、お前……」

翼を何度もはばたかせ、クルセイドを自分たちから引き離そうとするなのはにフェイト達は言葉をなくす。
あの時、ティアナを撃墜した訓練とは真逆の光景がそこにあった。

クルセイドは邪魔をするサリエルを最大の障害と認識したのか、強引に振り払うと腹へ強烈な蹴りを見舞う。
爪先の装甲が剥けるが、そんなことなど気にせず今度は左手で頭を掴むと岩場に押し当てて引きずりまわす。
意識を手放すことすらも許されない痛みの中、それでもなのはは語りかけ続ける。

「わ……たし、ちゃんと…約束、守ってるよ………?ユーノ君は、こんなことのために戦ってるの………?違う、でしょ……!?」

粒子が噴き出す右腕を振り上げ、その胸にビームサーベルを付きたてようとする。
しかし、なのははサリエルの手を借りて、ユーノをクルセイドごと抱きしめた。

「だから……戻ってきて………!!私の……私や今のユーノ君の友達が知らないユーノ君にならないで!!」

「……………………………ぁ。」

魔法陣が消え、ユーノの体からも翠のラインが消えていく。
瞳孔が開きっぱなしだった眼も元の穏やかなものに戻り、まるで眠るように静かに閉じられた。
それを見届けてなのはも安心したのか、フッと意識を手放して眠りについた。

「止まった……のか?」

ガタガタのクルセイドを無理矢理動かしながら、967は呆けたようにそう呟く。
TRANS-AMもいつの間にか終了し、甚大な被害が出た混成軍もそれ以上攻撃しようとはせずに去っていく。
サリエルも辛うじて無事だった他のガンダム二機に肩を貸されて退いていく。
それを追おうと思う者はいなかったし、仮にそう考えていたとしても、もうまともに動くことすらままならなかった。





その後、ロックオンたちの相手をしていた新型三機と他の機体も退却したとの知らせが入った。
だが、ダブルオーはGNドライヴに致命的なダメージが残らなかったもののしばらく使用不能。
クルセイドに至ってはあるだけの部品をありったけつぎ込んで修理。
それでも、アームドシールドの修復の目途は立たず、実質戦力として数えられなくなってしまった。



だが、ソレスタルビーイングはこの世界を去らなかった。
一人の少年と、彼が治めるこの国の人々が答えを見つけるまで、彼らのバーナウでの戦いは終わらない。






守護者の盾砕ける
彼方へと消えんとする彼の者の魂を繋ぐは、堕天へと導く哀しき天使
ならばその愛は、茨の道を行くのと同義か





あとがき・・・・・・・・・・・・・・という名の暴露話その4

ロ「というわけでクルセイドがボッコボコの上にツインドライヴ搭載機が初トランザム。でも結局いいとこなしなうえにユーノがアゲイン暴走な第三十七話でした。」

刹「いろいろ詰め込み過ぎだ。」

ユ「ていうかクルセイド使えなくなっちゃったじゃん!!」

ロ「大丈夫、これはアトラス&ウラヌス使用フラグだから。」

ユ「ばらしちゃったよオイ!!そういう意味じゃ全然大丈夫じゃないよコレ!?」

9「そんなことはどうでもいい(よくないけど)。それより、今回の特別ゲストだ。今回は『Lost War Chronicles』よりマット・ヒーリィ。『THE BLUE DESTINY』よりユウ・カジマ。そして『宇宙、閃光の果てに』よりフォルド・ロムフェローだ。」

マット(以降 マ)「マット・ヒーリィだ。場違いな気がするが、盛り上がるよう努力させてもらう。今日はよろしく。」

ユウ(以降もユウ)「ユウ・カジマだ。よろしく頼む。」

フォルド(以降 フォ)「フォルド・ロムフェロー!GP-05のパイロットをしてる。小うるさいルースがいないから今日ははしゃぐぜ!」

ロ「自己紹介が終わったところでサブタイにもあるように今回も暴露話が出るぞ~!今回の暴露話は~~……これ!!」



この話におけるユーノのMS戦闘時の理念はマットをもとネタに設定を考えた


ユ「へ~……まあ、なんとなくそうじゃないかって思ってる人はいたかもしれないけどね。」

フォ「でもあくまでもとネタってだけでかなりロビン色に染まってるけどな。だからよい子はバッチイから触っちゃ(ほめちゃ)いけないぞ!!」

ロ「俺は犬のフンか!!?」

マ「だが、殺さずを貫こうとしている辺りはかなり近いものを感じるな。そのせいで苦悩しているところなんかも。」

ロ「LEGACYもそうだけど、Chroniclesも初めて読んだ時、08小隊とかポケ戦とはまた違った形で一年戦争の中の兵士の苦悩や葛藤、んでもって見落とされがちな戦争の悲惨さを伝えてくるんだけど戦闘も臨場感があって俺の中では結構評価高いぞ。だから、これ書くにあたってなのはとの恋とか友人たちとの関係、ソレスタルビーイングとしての使命の板挟みの間でユーノがどう物語を展開するか考えてた時、ふとこれを思い出してユーノの根本にある部分はこれをもとにしようって決めたんだよな。」

ユウ「どうなるか不安だったが、ある意味結果オーライだな。原作のユーノとは違ってきたが、主人公として魅力的なものに近付けられたという点では正解だったな。」

ユ「その代わりトンでも設定連発だけどね。(ていうかカジマさんとテロップかぶってるせいでややこしい……)」

刹「あまりにもマットに近づけ過ぎないようにとの苦肉の策か。」

9「見苦しいな。」

ロ「うるさいクロちゃん。最近ヴィヴィオに弄られる以外存在意義をなくしつつあるくせに。」

9「黙れ妄想家。」

ロ「トイ化しても売れ残りまくったやつが何を偉そうに。」

9「それは俺じゃない。ハロだ。」

フォ「お前らの話は不毛すぎっから!!もういい加減次回予告に行くぞ!!」

刹「クルセイドの修復の間、情報を得るためにヴァイス、ヴェロッサ、ヒクサーの三名は管理局陣営へ。」

9「だが、そこで三人にとって最悪の事態が起こる!」

フォ「そして再び隣国で燃え上がる戦火!!」

ユウ「ユーノを残して発進するガンダム。」

マ「先の戦闘以上の戦力の投入、包囲網を敷かれて苦戦する四機!」

ユ「その時、新たな力を手にしたクルセイドがその一撃で戦場を揺るがす!!」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!!よろしければ、ご意見、感想、応援をお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 38.巨人と影
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/06/12 01:07
バーナウ 某所

「あ~あ、もうちょっとだったのに。あんたの“彼女”、余計なことしてくれるわね。」

撤退していく両陣営を遠く眺めていたルーチェ・ハイドレストはサリエルを恨みがましそうに見つめながら隣で寝っ転がる金髪の少年にまで文句を言う。
長い黒髪をオレンジの風に揺らし、大人びた顔を少年の腹にドサリとうずめる。
もぞもぞと動き、起きているのか眠っているのかわからない少年にそこそこな大きさの胸を押しつけながらニヤリと笑う。

「こんなとこ見られたらまずいんじゃない?あの子、意外と嫉妬心強そうだし。」

「大丈夫だよ。俺は亭主関白目指してるから。」

「本音は?」

「……かなりビビってる。」

別に見られているわけでもないのに、少々強引にルーチェを引き離して少年は大きく伸びをする。
金色の長髪がオレンジの陽を浴びていっそう輝くが、そこまで髪の手入れに気を向けていない、というより女っぽいと言われるのが癪なので興味を持とうとしないせいでその美しさを自分ではあまり理解していない。
幸い、ルーチェが日頃から弄るついでにケアを欠かさないので枝毛は皆無に等しいが、彼女としてはきちんと手入れをする習慣を身につけてほしいようだ。
そんなことなどまったく知らない少年は、ただ戦場に残された残骸をじっと見つめる。

「ホント……人間ってやつはいつまで経っても変わらないよな。なのに、あいつは人間を信じている。俺にあいつの力があったらさっさとゴミ掃除を始めるのに。」

「あんたも同じの持ってるじゃない。」

「完全じゃねぇよ。俺は結局あいつのコピー……完全に目覚めたあいつの力の半分にも及ばねぇよ。」

「それでも十分大したことあると思うけどなぁ。……っと、それよりいい加減名前決めなよ。いつまでも相棒をあんた呼ばわりは気が引けんだけど?」

「まあ、そのうち自分でいいのを思いついたらな。それより、早いとこマルスに戻れよ。ああ、それとあの狂犬と時代錯誤野郎にも一応連絡入れとけ。出番が来たってな。」

そう言うと少年は瞳を隠していたサングラスを胸ポケットにしまい、翠の宝石を闇に染まろうとしている空の下にさらす。

「そろそろ兄弟に挨拶に行かないといけないと思うしな……なあ、プルト。」

もう一人の自分の相棒、漆黒の分厚い装甲を纏った機体に少年はニヤリと笑って語りかけると自分と同じ記憶を持ちながら、まったく異なる選択をしたユーノへの愛憎を抑えきれずにいた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 38.巨人と影


プトレマイオスⅡ メディカルルーム

ベッドの上で組んだ腕を枕がわりにして見飽きた天井を仕方なしに見つめるユーノ。
アニューとジェイルは残り時間のことは言わずに誤魔化してくれたようだったが、マイスターズからは厳しい視線を向けられ、フェルトとヴィヴィオには泣きつかれ、他のメンバーからも呆れられるという精神的拷問を受ける羽目になった。
しかも、

「……痛い。」

その後、再び一人ずつ見舞いにやってきたフェルトを除く女性陣から強烈なビンタを計10発。(なかでもシェリリンの一撃は首がもげるかと思うほどきつかった。)
おかげで顔がお子様に人気のパン顔ヒーロー並みに腫れてしまった。
訳を聞いても答えてくれないし、男性陣は苦い顔で口ごもり、あげくなぜか全員から見舞いに来なかったフェルトに理由を聞きに行くなという始末。

「僕が何したって言うんだよぉ……」

悲しげなユーノの呟きにジェイルは溜め息を、そしてアニューは二回目の制裁の準備に取り掛かった。



スメラギの自室

「落ち着いた?」

「はい……」

目を赤く腫らしたフェルトは、顔をそれよりさらに赤く紅潮させて恥ずかしそうに俯いて小さくなっている。
その様子があまりにも可愛らしく、ついからかいたくなってくる。

「はい、これ。」

マグカップに琥珀色の液体を入れて差し出すスメラギ。
フェルトはそれを口にするが、すぐさま喉が焼けるような熱さにむせかえった。

「こ、これお酒じゃないですか!?」

「嫌なことを忘れるには一番の薬よ。」

自分も氷を一つ浮かべたグラスにウィスキーを注ぎながら、ユーノの頬を張った時の感触を思い返していた。



一時間前

「あの……なにか用ですか、スメラギさん。」

D・ケルディムをスリープモードにして、フェルトは理由を探してみるが、本当にそれがわからない。
いや、できることならわからないことにしておきたかった。
当の本人が気が付いていないのに、周りだけが自分の心をわかってくれているというのは辛いものだ。
ユーノの前では我慢していたが、いないときには自分でもわかるほど態度に出てしまっていた。
しかし、その時は誰も何も言わなかったし、触れてほしくはなかった。
だが、スメラギはそれが必要だと思ったのだ。
プトレマイオスのクルーとしての役割に支障が出ないようにというのもそうだが、フェルトのこれからのためにも。

「無理をしなくてもいいわよ。」

「別に、なにも無理なんてしてません。」

「高町なのは。」

その単語にフェルトは身体を大きく震わせ、言葉をなくす。
そして、そのまま嗚咽交じりに俯く彼女を、スメラギは優しく抱きしめた。

「……辛かったわね。もう、我慢しなくていいのよ。」

「スメラギ……!!さんっ……!!」

フェルトはそのままポロポロと大粒の涙をこぼしながらワンワン泣き出す。

「私……!!ユーノに、何も……!!何もっ…してあげられなくて!!」

「そんなことないわ……フェルトはちゃんと、ユーノのことを助けてあげられてるわ。」

「それだけっ………!…じゃ、ないんです!!私、ユーノと、離れてくあの人を見て………心の中で、いい気味だって!!ユーノが………どんな気持ちなのか知ってるのに!!」

「恥じることじゃないわ……誰だって、そういう想いには抗い難いものよ。」

ベッドに座らせ、自分も隣に座って背中をさするスメラギ。
気丈に振る舞っていたフェルトだったが、本当はユーノから彼にまつわる話を聞いていた時点でずっとこらえていたのだ。
ユーノには心に決めた人がいて、自分の方を振り向いてくれることはないかもしれないこと。
そして、仮に振り向いてくれたとしても、今の立場を利用して婚約者から彼を奪うようなことをしていいのか。
秘めていた想いとそれらの板挟みで、ずっと悩んでいたのだ。

「……私、知ってるんです。」

瞳から涙を流し続けたままフェルトは話す。

「ユーノの左手のリボン……あの人から……ひっく!!…もらった物を、今でもしてるんです……!!口では……強がってても、本当は苦し……!苦しんでるんです!!指輪だって、捨てずにポケットに入れてるのも知ってます!!」

何ともユーノらしい話だ。
おそらく、自分の婚約者だと話せば全員が彼女に対して引き金を引くのをためらうと思ったのだろう。
だから、あの時あえてもうしがらみはないように振る舞って見せたのだろう。
愛しい人のために、仲間の命を危険にさらすことが無いように。

だが、フェルトには逆効果だったようだ。
優しい嘘というものは、それがバレた時に相手をより深く傷つけてしまう。
そして、人の心の機微に敏感なフェルトが想いを寄せているユーノの嘘を見破るなど、さぞ容易いことだっただろう。

「それに、さっきの戦闘でわかったんです!!あの二人は………どんなに離れていても今もお互いを想ってるんだって!!私なんかが、入る隙もないくらい強く、心で結ばれてるんだって!!!!なのに、私……!!」

「そっか……」

自我を失って暴れまわるユーノを捨て身の行動で止めたなのは。
戦術予報士であるスメラギからすれば無鉄砲極まりないが、彼女の強さ、単純な戦闘能力だけではない、ハートの強さを見せつけられた。
そこのところは、流石ユーノの恋人と言うべきだろうか。
だから、フェルトは安心してしまったのだろう。
『アイツがユーノと自分の傍にいなくてよかった。』と。

「私は最低の人間です!!!!人の不幸を喜んで……!好きな人の前では善人ぶって……!!」

「……そうね。だけど、それが人間って生き物なの。誰も責める資格なんてない……仮に、それができるとしたら自分だけよ。」

そう、誰が責められようか。
誰だって、心を持っている。
そして形にして見ることができず、手で触れることもできないそれは、時にその持ち主であっても思い通りにならないものだ。
ある時は大地から噴き出す灼熱の炎以上に激しく燃え上がり、またある時は水底よりも冷たく静かにたたずむ。
そして、時に春風のように穏やかに誰かを想い、時に雲のように気まぐれに流れていく。

思い通りにならない、だがしかし誰にとっても最も自然で人間らしいそれを否定することができるだろうか。

「フェルトはもう十分苦しんだわ。自分で自分に、厳しすぎるほど罰を下している……」

「けど、私はそれでも……」

「諦める必要なんてないわ。今がどんな状況であれ、誰を選ぶかはユーノが決めることよ。気兼ねすることなんてないし、フェルトがユーノとそういう仲になりたいんなら、私は応援するわ。」

子供をあやすように顔を胸に当てさせ、自分の体温をわけるようにギュッと抱きしめる。
そして、

「……ユーノには本格的にお仕置きが必要ね。」

「……?」

スメラギに抱いてもらって温かいはずなのに、フェルトはふと背筋に寒いものを感じるのだった。



メディカルルーム

まずやってきたのはスメラギだった。
意識を取り戻して全員での見舞いを受けてしばらくしてからだったので、何事かと思ったユーノだったが。

「ユーノ、歯を食いしばりなさい。」

「は……ブッ!!?」

右頬に綺麗に真っ赤なスメラギの手形が残る。
なぜ殴られたのかわからないユーノは混乱しながらその理由を尋ねようとするが、スメラギは入って来た時の厳しい表情とは打って変わって満足そう笑う。

「フゥ……すっきりした。」

「僕は全然すっきりしませんよ……なんなんですか一体?」

「それじゃあ、ちゃんと体調を整えるのよ。」

「聞く気ゼロだよこの人……」

「それと……なんでビンタされたかフェルトに聞いたりしたらひどいわよ♪」

邪悪な笑みで脅すスメラギに文句を言おうとしたのになぜか蛇に睨まれた蛙のようにただうなずくことしかできないユーノ。
しかし、これはほんの始まりに過ぎなかった。



五分後 アニュー

「ユーノさん……ちょっと殴らせてください。」

「ブボッ!!?」

さらに五分後 ミレイナ

「女の子を泣かせるなんてサイテーです!!」

「グホッ!!?」

さらにさらに五分後 リンダ

「あらあら、鈍すぎるのはよくないわよ?」

「ゲハッ!!?」

くどいがさらに五分後 ウェンディ

「このニブチン!!」

「ゴフッ!!?」←フルパワーで殴られたので首が約90°回転。当然痛める

しつこいけどさらに五分後 マリー&ソーマ

「この……女の敵!!」←マリー

「プオッ!!?」←右頬

「一度死ね!!」←ソーマ

「ギャフッ!!?」←左頬

どうでもいいけどさらに五分後 887

「女ったらし!!」

「ゴォッ!!?」

もう疲れてきた……さらに五分後 シャル

「いい加減気付きなさい!!」

「ガボッ!!?」

とどめのさらに五分後 シェリリン

「浮気者ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!フェルトさんの分もついでに込めて、必殺のGNビンターーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「いや、訳わからな……ぶっはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」←首が完全にあさっての方向に。臨死体験でフェイト似のあの子と再会する。



現在 スメラギの部屋

「う~ん……どうせならもっとキツイのかませばよかったかしら?うん、それじゃ今からでも……」

酒臭い息を吐きながら立ちあがるスメラギだったが、小さな寝息にふと横に目を向ける。

「……スゥ…………スゥ……」

間もなく成人間近とはいえ、アルコールに対する免疫が少なかったようだ。
碌に酔う前に眠ってしまったフェルトに、スメラギはハァと溜め息をついてベッドの真ん中に横たえて毛布をかぶせると、自分はソファーの上でタオルケットにくるまって眼を閉じた。



シン国 管理局部隊 駐屯地

首都から離れた田舎町。
現在、ここに滞在している混成軍の真っただ中に、ヴェロッサとヒクサーはいた。
自分の古巣と言っても過言ではないのに帰ってきたのにここまで緊張感を持たなければならないことにヴェロッサはついつい苦笑いを浮かべてしまう。
ソレスタルビーイングのエージェントとしてここに来たことは悟られないようにはしているが、今まで行方不明だった自分が突如ここに現れた時点で胡散臭さ満点なのだ。
おまけに隣にはあちら側の地球出身のヒクサー。
情報収集のためにスカウトされたとはいえ、面が割れている管理局の情報を手に入れてこいというのはなんとも無茶な注文だ。

(無茶と言えば、はやては大丈夫なのかな?)

昨日の作戦で本部の意向に逆らう形を取ったはやて。
ただでさえカレドヴルフの件で眼をつけられているのに、これ以上の問題を起こせば彼女の進退に関わってくる。
こんな時に力を貸していたのがヴェロッサやカリム、そして三提督なのだが、今はほぼはやてが全て背負い込んでいる。
誰か協力者までとはいかないまでも、相談に乗ってくれるような大人がいてくれればいいのだが。

「身内の腹の中を探るのはそんなに気がひけるかい?」

ヒクサーの微笑みに、ヴェロッサも笑顔を返す。

「まあね。でも、そんなことを言ってたら査察官は務まらないよ。それより、気付いてる?」

「ああ。完全にプロだね。」

ここに入ってからぴったりと二人の後をついてくる押し殺された気配。
よほど鋭い者でなければ見逃してしまうであろうそれに、二人はしっかりと気がついていた。

「ヴァイスの方は?」

「今のところ見つかってないってさ。一応、つけて来てるやつらに狙いはつけてるみたいだけど、まだ待ってもらってる。」

「887が聞いたらお説教間違いなしだね。『そんな危ないこと、ヒクサーはしちゃダメ!!』って。」

ヴェロッサのあまり似ていない声真似にクスクスと笑うヒクサー。
だが、ここで騒ぎを起こして何も得られずに帰ったのでは骨折り損もいいところだ。
せめて、最低でも次に行われる作戦について何かしらの情報を入手しなければ。

「それで、ここに君の彼女がいるのかい?」

「彼女じゃないよ。どっちかって言うと妹だね。」

郊外の街の割にはそこそこ大きなホテルに足を踏み入れる二人。
すると、すぐにその怒鳴り声は聞こえてきた。

「何考えてんだ!!民間の実験部隊が局の任務に首つっ込んでんじゃねぇよ!!」

「こっちもこれでも局員や。それに、そっちこそこっちの仕事の妨害せんといてくれんか?」

二階のホールに上がる二人だが、その声の主たちはそれにも気付かず口論を続ける。

「無関係ななのはやティアナ、あげくスバルまで巻き込みやがって!!今度は誰を犠牲にする気だ!?」

「そんなこと私の命に代えてもさせへん!!あんたこそ何考えてんねん!!お偉いさんに尻尾振って、忠実な飼い犬のつもりか!?」

「んだとコラ!!!!」

「いい加減にせんか!!!!」

はやてに話しかけることもできずにどうしようかと遠巻きに見ていた二人だったが、顔に傷を持つ髭の男性が一喝したことで騒ぎはとりあえず終息する。
男性もはやてとヴィータが落ち着きを取り戻したところで、改めて話を再開した。

「我々がここに介したのはラグシーのレジスタンスをどう抑えるか議論するためのはずだ。私情を持ち込むつもりなら、即刻この場を去りたまえ。」

「……申し訳ありませんでした、セルゲイ大佐。」

「こちらもお見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」

クロノが頭を下げるが、はやてとヴィータの間の空気は悪いまま。
セルゲイとクロノも溜め息を漏らすが、二人を無視して話を続ける。

「それで、大佐は進軍を控えるべきだと?」

「私の心情はともかく、シンとの関係が悪化している中で進めば、背中をつかれる可能性は否定できん。」

「マネキン大佐も同様の意見でした。上の決定のツケで現場が振り回される……やりきれない話ですね。」

「それじゃ、いっそ辞めちゃう?クロノ。」

クロノが振り向くと、いつもの掴みどころがない笑みで手を振る親友がそこにいた。

「ロッサ!!無事だったのか!!」

思わず立ち上がるクロノ。
そして、彼に続いてはやても驚いた様子で駆け寄る。

「ロッサ!?無事やったんならなんで連絡くれへんねん!!」

「あの後、ヤバい連中につけ狙われてね。連絡を取れる状態じゃなかったのさ。(……嘘は言ってないよ。嘘は。)」

意味深な視線を送ってくるヒクサーに心の中でそうつぶやくヴェロッサ。
大体、そのヤバい連中を相手にしなければならないきっかけを作った張本人がよくもまあこんなに楽しそうにしていられるものだ。

「八神二佐。彼は……」

「ん?ああ、すいません、大佐。この人は私の友人で、査察官をやっとるヴェロッサ・アコースです。ロッサ、この人はセルゲイ・スミルノフ大佐。並行世界の地球から来た地球連邦の軍人さんで、私らに協力してもらってる。」

「ヴェロッサです。はやてがお世話になっているようで……」

「セルゲイ・スミルノフだ。こちらこそ、はやてには助けてもらっている。」

固く握手を交わすセルゲイとヴェロッサ。
だが、その脇ではヴィータがヒクサーを見て目を見開いていた。

「ん?ああ、そうか。君たちとは初対面だったかな?僕の名前は…」

「ヒクサー・フェルミ。」

〈Anfang〉

はやてが握手を求めようとした時、ヴィータはアイゼンを起動する。
ヒクサーは穏やかな態度を崩さないが、空気が一変したことだけはわかる。
目の前の少女が、自分に殺意以上と言ってもいい憎悪の念を抱いていることくらいは。

「どうしたのかな?」

「とぼけんのは勝手だ。けど、あたしはあんたら……ソレスタルビーイングに対してだけは殺さずにいれる自信はねぇ。それだけは最後の情けで警告しておいてやる。」

ブウンと鈍く空気を切り裂く音が辺りに響くと、ヒクサーは姿勢を低くして後ろに跳ぶ。
何がどうなっているのかわからないはやてたちは混乱する。

「ちょ!?なにやってんねん!!その人はロッサの知り合いで……」

「ソレスタルビーイングの一員だろ!!はやてたちは知らなくても、あたしは知ってんだよ!!四年前も、その前からもずっとな!!」

(四年前……?)

ヴィータの猛攻を紙一重でかわし続けるヒクサーはその言葉に疑問を感じる。
四年前やそれ以前から知っているはずがないのだ。
なぜなら、ユーノがソレスタルビーイングであることは彼が復帰してから初めて明かされた事実であるのだから。
だが、そうなると彼女がヒクサーを知っていることの説明がつかない。

(まさか、本当に…)

「そこまでだ。」

ヒクサーの中で仮定が、きわめてありえない話ではあるが、それが出来上がった時、つけていた男たちが数人でヴェロッサともども彼を取り囲む。
はやてが間に入って止めようとしているが、おそらく聞き入れてもらえないだろう。
となると、

「八神はやてさんだっけ?挨拶はまた今度ね。できれば、穏便な形で。」

そう言ってヴィータの一撃と、取り押さえようとする男たちの腕をかいくぐったヒクサーは一直線に窓へ向かう。
そして、

「な!?」

「マジ!?」

ガラスを蹴破り外へと飛び出す。
死の危険を感じるほどではないが、かなりの高さから宙へその身を翻したヒクサーは手近な街頭に忍ばせていたフックをひっかけて上手く地上へ降り立つ。
しかし、追跡者たちは砕けた窓から各々デバイスを向けている。
とその時、

「ガッ!!?」

男の一人が頭をがくんと後ろにのけぞらせて倒れ込む。
さらに、残りの男たちも遠くから飛んでくる光を額で受け止めバタバタと倒れていった。

『退くぞ、ヒクサー!!』

「了解!!けど、ロッサがまだいるよ。」

『あいつはなんか考えてんだろ!いざとなりゃああとで俺らだけで殴りこめばいい!!』

建物の屋根に登っていたヴァイスもすぐに下に降り、追手が来ないうちに撤退を開始する。
そして、残されたヴェロッサはというと、

「いやぁ、台風一過ってこういうことを言うんだねぇ。」

呑気に白いスーツについた汚れをハンカチで落としていた。

「ロッサ……また会ったばっかやけど、少し話を聞かせてもらわんとあかんみたいやね。」



プトレマイオスⅡ メディカルルーム

「……って、ことらしい。まあ、あの兄ちゃんのことだから大丈夫だとは思うんだが……お前、人の話聞いてるか?」

「聞いてるよ。はい、ヴィヴィオ、あ~ん♪」

「あ~ん♥」

ベッドの上で娘を膝に乗せてうさぎリンゴを食べさせて惚気るユーノにロックオンは軽く苛立つが、そこはグッとこらえて次のミッションの話を続ける。

「グラシーのレジスタンスを援護するのはいいけど、それで連中が調子に乗って無茶をされたら本末転倒だ。」

「かと言って、放っておいたらラグシーはまた戦場になる。局や連邦が鎮圧に動いて背中をガラ空きの状態にすれば、反感を持っているシン国の軍勢が黙っていない、か……」

「パパ、あ~ん♪」

「あ~ん♥」

「やっぱお前らしばらく離れててくんない?なんでかわかんねぇけどすげぇムカつくから。」

「「え~?」」

ヴィヴィオはともかく、ユーノまで子供のようにふくれっ面をするのでロックオンのイライラはさらに募っていく。
ジェイルに助けを求めようと声をかけようとするが、重傷のクルセイドの修復という名目で逃げていたことを思い出して舌打ちして苛立ちを抑える。

「ライルおじさんのケチ。」

「ライルおじさんの意地悪。」

「ごめんな~、ヴィヴィオ。“お兄さん”もお仕事だから。それとそこの親馬鹿は後でブッ飛ばすからな。」

「子供の前でそんなこと言わないの。」

奥から追加のリンゴを持ってやってきたアニューにたしなめられ、ロックオンはお手上げとばかりに両手を大きく上げて背もたれに寄りかかる。
どうやら、ユーノに対しては厳しい女性陣もヴィヴィオには甘くなるようだ。

「でも、変なの。」

ヴィヴィオはひょいと残念そうな顔をするユーノの膝から降りると、不思議そうな顔でハロを持ち上げて話しかける。

「仲良くするのなんて、ケンカするよりずっと簡単なのに。ね、ハロちゃん。」

「ミンナ仲良シ!ミンナ仲良シ!」

「ああ……まったくだな。」

子供に正論を言われるとは、何とも情けないことである。
三人は苦笑を浮かべ、無邪気にハロと戯れるヴィヴィオを見ながら大人になって自分たちが失ったものの大きさを改めて思い知らされる。
しかし、子供に戻れない以上、大人は大人の手段でできることをやるしかない。

「局を止めて、シンやラグシーが動かないのが一番理想的なんですけど…」

「無理だろうね。どっちも対管理局、そして局に協力している連邦への感情が悪化している。何かしらのアクションは起こすと考えた方がいい。」

「となると、管理局に仕掛けてくるシン、ラグシーにも介入することも考える必要があるな。やれやれ……これじゃ四年前、評判悪い時のソレスタルビーイングだな。」

「でも、これ以上お互いの感情を悪化させるわけには……」

「……あ、はい。ええ、もう大丈夫そうです。……え?ええ、わかりました。ユーノさん、スメラギさんからです。」

「スメラギさんから?」

端末を受け取り、話の途中で割り込んできたスメラギとユーノは向き合う。

『ユーノ、確かあなたはリュフトシュタイン大統領と親しかったそうね?』

「?ええ。アドバイザーに呼ばれたこともありますし、個人的にも付き合いがありましたけど……」

エヴァンジェリン・リュフトシュタイン
現在のミッドチルダの大統領を務める人物であり、ユーノとは親しい友人同士でもある。
ハイネを通じて知り合ったのだが、年下の自分にまで分け隔てなく接し、意見を聞こうという姿勢に好感を持った。
しかし、それはこんな状況になる前の話だ。
いまやテロリストと同列の扱いを受けているユーノと彼女の接点などあるはずがないのだが。

『いい知らせよ。ハイネが仲介して、大統領がバーナウ各国の政府に戦闘を避けるようにかけあってくれるらしいわ。もちろん、管理局へも撤退の勧告を出すそうよ。』

「本当ですか!?」

『ただし、シンへフィオラを帰すのが条件。そのためにも、次の作戦は絶対阻止する必要があるわ。』

「まあ、帰すにしても帰らせる国が無いんじゃどうしようもないですからね。でもどうするんですか?まさか、全部敵に回すなんて言うんじゃ…」

『そこはクロウと私の腕の見せ所よ。ま、クルセイドの整備は次のミッションに間に合うか微妙だから、あなたはゆっくり見物してなさい。』



シン 旧都市・廃墟群

以前にも説明したが、シンはかつて中継貿易で栄えた国である。
それが衰退した今でも、各地にこうした中継基地として存在した都市が遺構として残されている。
現代のビルを思わせるこれらの建造物たちもそういった遺構の一つであり、ここを過ぎればラグシーとの国境線は間近だ。

(妙だな……)

荒れ果てた都市の上を通り過ぎながらクロノは長らく感じ続けていた違和感をさらに強める。
上層部に自分の考えが受け入れられなかったのはいつものことだが、作戦決行直前にまるで図ったかのようにバーナウ各国との大統領の交渉。
さらには、シンからの不戦協定の申し入れ。
そして、極めつけはまもなくラグシーの領空に入ろうとしているにもかかわらず、まだ敵と思える存在と遭遇していないこの状況。
全てが自然に起きたこととは思えない。

(はめられた……?だが、一体誰に、なんの目的で?)

こういった交渉事が得意なのははやてだろう。
だが、管理局への反感が強い現状でシンが彼女の話に乗るとは思えない。
そもそも、もしそうだとしたらアースラとギアナ級が同行してくるはずがない。
もちろん、レジスタンスが挟撃のチャンスをみすみす見逃すような真似をするはずがない。
だとすると、残された可能性は一つ。
彼らがこの世界で交渉を行えるほどコネクションを持っているとは思えないが、つい最近その身柄を拘束した、本人は否定しているが、ヴェロッサがあちら側に付いている可能性がある以上、他にも協力者がいると考えても不思議ではない。
それに、叩けばいい敵が自分たちだけになって益を得るのは間違いなく彼らだけだ。
そう、

「!!艦長、センサーに反応!!MS、5機です!!」

「来たか!!」

ソレスタルビーイング。
彼ら以外に、この状況を歓迎する者などいないだろう。

「各機出撃!!クラウディアは現在位置で停止!!」

襲撃は予想していなかったわけではないが、まさかソレスタルビーイングのみを相手にすることになるとは思っていなかった。
しかし、それでも作戦に変更はない。

「悪いが、こちらにも優秀な戦術予報士はいる。今度は、そちらが手の平の上で踊ってもらう番だ。」





出てきたMSへ向け、アリオスはツインビームライフルを発射する。
距離があるため当たることはないが、すぐさま変形して旧都市部へ逃げていく。

「とりあえず第一段階は成功した。ロックオン、後は任せたよ。」

『了解、間抜けどもに目に物見せてやるぜ。』

ちょうど中心部に来た瞬間、ケルディムのスナイパーライフルが火をふく。
幾重にも連なり迫る閃光を前に、MS隊は後退しようとするが、それを上空で待っている影があった。

「ちょいなぁ、っと!!」

絶妙のタイミングだった。
完全にケルディムに注意がいき、さらに退こうとして上への警戒が薄れた一瞬の間にスフィンクスのテールユニットから無数のミサイルが発射される。
ジンクスやバロネットにぶつかる前に爆発したそれからは、黒いネットが放出されて目標へとからみついて地上へと落とす。
そして、

「こんがらがってポンっと。」

「ガッ!!?」

テールユニットが切り離されると同時に落ちた一個の球体から発生した電撃がネット同士を伝って拘束していたMS、そして中の操縦者に炸裂する。
死に至らしめるほどのものではないが、失神させるには十分すぎるその一撃で人間はおろかMSの精密機器も異常をきたし、ガクリとうなだれて動かなくなった。

「飛ぶな!!建物を盾にして戦うんだ!!」

ケルディムの狙撃、そして空を席捲するアリオスとスフィンクスを前にそう判断を下す混成軍。
だが、下では残っていた二機が待ち受けていた。

「ダブルオー、目標を駆逐する。」

建物の隙間に降り立った一機がダブルオーの刃で両断される。

「セラヴィー、目標を殲滅する。」

そして、また別の場所ではセラヴィーの砲撃を逃げ場のない状態でまともに受け止めるしかないMSたち。
上からもスフィンクスとアリオスによる援護射撃も加わり、先行した部隊は完全にガンダム五機に取り囲まれる形になった。
しかし、マイスターたちはこんなことでは気を緩めない。

「刹那、スメラギ姉ちゃんの予測時間まであと1分だ。そろそろおかわりが来るぞ。」

「了解。ヴァイス達に出撃を……」

『刹那。』

ティエリアから通信が入るが、心なしか珍しく顔色が優れない。
嫌な予感がする。

『フェレシュテは出撃できない。』

「はぁっ!!?」

「…………………」

『アイナがレジスタンスに拘束された。ヴァイスとヒクサーも救出に向かうそうだ。』

「ちょ、ちょい待ち!!じゃあ、オイラ達はどうなるんだよ!!?」

『ユーノが救援に来るそうだが……それまで僕たちの方が持つかどうか。』

「救援って……クルセイド壊れたじゃん!!」

『わかっている!!だが今は信じるしかない!!』

ティエリアの叫びと同時に各機に表示されていたタイマーがゼロになる。
そして、それと同時に遥か彼方から紅と白と黒の大群がこちらへまっしぐらに向かってくる。

「別動隊のアロウズと管理局軍……」

戦闘開始の後、自分たちが動きを止めたところで伏兵を投入。
逆に包囲し、鹵獲、もしくは撃破する。
スメラギの予測通りだが、こちらは手札を数枚捨てる羽目になり、おまけに新しく加わるカードは能力が未知数。
絶望的に思える状況だが、刹那は不思議とこう思っていた。
『ユーノならば、どうにかしてくれる。』と……



ラグシー レジスタンスのアジト

「え~……突然ですが、私の名前はアイナ・スクライア。ピッチピチの19歳でミッドタイムズの記者してます。左遷されてさりげなくへこんでいるところに腐れ縁からここで調べてほしいことがあるって言われてやってきて、親切心から物騒なこと考えてる人たちに今はしゃぐとヤバいよって教えてあげようとしたらとっつかまって、どういうわけか頭に銃口ぐりぐりされてま~す……」

「……それで、俺たちがはいそうですかと納得すると思っているのか?」

青ざめた顔で笑うアイナは自分に向けられる銃が増えてさらに笑顔をひきつらせる。

「マジマジ!!!!ホントだから!!!!知り合いから今話題のソレスタルビーイングが動くけど、ここであんたらが動いたら連中はあんたらも標的にするって聞いたから小遣い稼ぎのためにリークしに来たの!!!!」

椅子にグルグル巻きにされた状態でガタガタ動いて必死に訴えるが、男たちの疑いのまなざしが消えることはない。

「何度も聞いたが、その知り合いっていうのはどういうやつなんだ?」

「……局員。」

「よし、始末しろ。」

「だーーーーー!!!!!!!!だからスパイじゃないって!!!!これホント!!!!スクライア族ウソつかない!!!!」

「じゃあ、そいつの名前と所属している部隊は?」

「……ノーコメントで。」

「殺れ。」

「ストーーーーップ!!!!!!!マジやめて!!!!!!つーかあたし殺したら首だけになっても呪ってやるから覚悟しろーーーーーーーーーー!!!!!!!」

「なるほど……頭は念入りに潰しておけ。」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!?冗談!!!!冗談だから!!!!だから殺すのは勘弁!!!!いや……ちょ、誰か……Help me!!!!!!」

「……相変わらずうるさい奴だ。」

あわやというところで扉が吹き飛んでアイナの隣にいた男が鉄製の重厚な扉とともに壁に叩きつけられる。
銃以上に耳元で起こるその風切り音に生命の危機を感じるアイナだが、一応彼女を助けるつもりでやってきた彼らの猛攻は恐怖に震える彼女そっちのけで続く。

「穿て、ブラッディ・ダガー。」

「ちょおっ!!?」

「踊れ。」

〈Crazy marionette!〉

「ふおっ!!!!」

「仕留めるぜ!!」

「ひょわっ!!!!……って、いい加減しろーー!!」

倒れた椅子で縛られたままアイナがわめく。
男たちが全員ノックダウンしたところでようやくおさまった射撃の嵐にさらされたことに不満げだが、救出に来た全員が白い目でその姿を見下ろす。

「お前が迂闊に接触を図るからだろう、バカ。」

〈まずはメールからと言っていたでしょう、バカ。〉

「おかげで俺たちは本来の任務そっちのけだ、バカ。」

「これでオリジナルGNドライヴやマイスターに何かあったら君のせいだね、バカ。」

「私は特に何もありませんが、ユーノから伝言です。バカ。」

「最後の銀髪女!!バカはユーノの伝言じゃなくてあんたの感想でしょ!?」

「ユーノからも『バカ。最上級のバカ。』との伝言を授かっています。」

「…………………」

リインフォースから幼馴染の辛辣な伝言を受け取ったアイナは今の自分の情けない姿も相まって泣きたくなった。



プトレマイオスⅡ コンテナ

『だから待てと言っとろうに!!クルセイドの最終調整はまだ終わってない!!』

「レスポンスと照準にバランサー、それとブーストの調整でしょ?出撃した後、僕と967でやるから心配いらないよ。」

クルセイドのコックピットでコンソールを叩きながら聞きなれたイアンの小言に耳を傾けるユーノと967。
しかし、出撃を取りやめる気は毛頭なさそうだ。
だが、今回は事情が違う。

『それが問題なんだろ!!シェリリンの考案した装備なんだぞ!?まともな人間に扱えるかどうか…』

「大丈夫だよ。クルセイドもめちゃくちゃだったけどなんだかんだで使いこなせてるし。今回も僕が我慢すればいい話だよ。」

『……なんかさりげなく失礼なこと言われてる気がするのは私の思い込み?』

ムッとした顔で二人を睨むシェリリンだが、気がつかないフリを続けながら二人は話を続ける。

『ああ、クソッ!!止めるのは無理そうだから言っとくがな、“流れ弾”を撃ち過ぎるなよ!!同志討ちでガンダムが落ちるところなんざ見たくないぞ!!』

「了解、努力するよ。それじゃ、ヴィヴィオ。パパ行ってくるね~♪」

『行ってらっしゃ~い!』

『……一応トレミーとエウクレイデスも出るんだけど?』

ビームが飛び交う旧都市部を目視してなお、デレデレするユーノのせいで緩みかけた空気を、スメラギが咳払いをして引き締める。

『クルセイドは敵布陣を突破。その後、広域射撃で退路を開いて。』

「了解。……お前もいつまでもだらしない顔をするな。」

「ちぇっ……わかってるよ。親子のスキンシップでそんなに目くじら立てなくてもいいでしょ。」

手厳しい相棒の指摘に唇をとがらせつつ、戦闘に向けて徐々に精神を研ぎ澄ましていく。

『クルセイド、リニアカタパルトに固定。リニアボルテージ、270から580に上昇。射出準備完了。』

『タイミングをクルセイドとスクライアさんに譲渡です!』

「I have control。クルセイド・アトラス、ユーノ・スクライア、出ます!!」

火花を散らしながらクルセイドが空へと飛び出していく。
新たな力を、その身に宿して。



旧都市部

「せえぇぇぇぇい!!!!」

「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

七本の剣と拳が激しく交錯する。

「そこっ!!」

「させるかよっ!!」

二丁の銃から放たれる二色の弾丸が戦場で輝く。

「レイジングハート、出力50%で安定!ディバイーーーン、バスターーーー!!!!」

「セラヴィー、バーストモード!!!!」

二本の光の柱が空を引き裂く。

「バルディッシュ、サイスフォーム!!」

「羽根付き……お前との因縁もここまでだ!!」

「クッ!!」

漆黒の死神と紅の猛虎が黄昏の翼を追跡する。

「おりゃああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「墜ちちゃええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「のわぁ!?」

鉄槌の騎士と重装甲の砲撃手が運命の輪を守護する獣を追い詰めていく。

包囲網が狭まっていく中、ガンダム各機は周囲からの攻撃に注意しつつ強敵を相手にしていた。
しかし、いつも以上に神経をすり減らすせいか危ない場面が増えてきていた。

「とろいぜガンダムゥゥゥゥゥ!!」

「くっ!?」

ウリエルの打拳から距離を取ったところに紅に染まったジンクスからの射撃が飛んでくる。

「そういやテメェにもでっかい貸しがあったよなぁ!!」

はじめてソレスタルビーイングが世界に自らの存在を示したその日。
パトリックのエースとしての名声は一転して嘲りの対象へと変わった。
初めてガンダムにやられた男。
自称エースの無様な敗北。
そして、四年前のフォーリンエンジェルス以降につけられた不死身のコーラサワーの二つ名。
どんなに彼が鈍感であっても、それが自分への皮肉と嘲笑を含んでいることくらいはわかっている。
だが、それでもパトリックはそれすらも受け入れ、MSに乗り続けた。
全ては、マネキンとガンダムへのリベンジのために。

「終わりだぁ!!ガンダム!!!!」

パトリックの操るジンクスの槍がダブルオーへと迫る。
その時だった。

「!?」

機銃の激しい連射音とダブルオーとの間を通り抜けて地面に着弾するそれに、パトリックは慌ててジンクスをさげる。
しかし、機銃の弾は土煙を上げながら追いかけていき、遂にパトリックが地上を離れるまで続いた。

「なんだぁ!?」

パトリックだけでなく、近くにいたすべての機体がそれを見た。
左腕に五つの回転式銃口をつけた盾。
右腕には、これ見よがしの巨大な杭。
両肩には何を考えてつけたのか、巨大な箱のようなものを担ぎ、背中側にまわした二基のGNドライヴだけでなく背中に巨大な推進機を取りつけてある。
なにより、黒と萌黄色のアンバランスなカラーリングの分厚い装甲は、セラヴィーと同レベルと思えるほどゴツイ。
しかし、肩の箱に挟まれている装甲を追加された顔は、確かにクルセイドだった。

「……やっぱそういう反応だよね。」

クルセイド・アトラスで敵陣を突っ切って来たユーノは苦笑交じりで味方と敵からの好奇の視線を受け止めていた。
パッと見、何をしたいのかわからないこの姿ではそれも仕方がないのかもしれないが、装甲を激しく損傷した上に主武装を失っていたクルセイドを実戦で使えるようにするには、装甲と武装が揃っているアトラスかウラヌスにするしかなかったのだ。

『ユーノ、それってまさか……』

「……だって、使えるのがこれくらいしかなかったんだもん。」

「俺だってできることならもう少しまともな機体に乗りたかった。」

アレルヤの気の毒そうな笑顔に遠い目で返事をするユーノ。
967も普段とくらべて毒舌が控え目になっている。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。

「このぉ……!!見せ場を奪ったばかりか、俺より目立ちやがってぇ!!」

「うわわっ!!?」

「チッ!!」

パトリックからの射撃で大きく左へ傾きながら地上へ着地するクルセイド。
普通、MSに使われているGNフィールドより強固なそれに阻まれながらも、数発は着弾するがそれも装甲に施された対ビームコーティングによって弾かれる。
しかし、真の問題はダメージではなくバランスだった。

「おっとっと!967、何やってんのさ!」

「こっちのセリフだ!きっちり調整しろ!」

右へ左へ、まるで盆踊りのようにふらつくクルセイドに味方からは溜め息が漏れる。

『……何やってんだお前ら?』

『漫才!漫才!』

「「漫才じゃない!!」」

どうにかバランサーのセットが終わり、姿勢を整えたところでパトリックのジンクスと向かい合うクルセイド。
そして、地鳴りとともに大きく一歩を踏み出す。
だが、

「「……………………」」

「……………………」

「…………………遅っ。」

スバルの言葉通り、クルセイドの歩みは比喩でも何でもなく亀の歩みだった。
頑丈な殻を身に纏い、ゆっくりゆっくり進んでいく。
亀以外に形容するものが見当たらないほど亀だ。

『……まさか、ここに来るまでもそれで?』

「途中まではカタパルトの勢いでこれたんだけど、途中からは装甲の厚さとGNフィールドに頼って何とか……」

その言葉通り、よく見てみると……いや、よく見なくともクルセイドの後ろには敵の大行列ができている。
あれだけの数の敵の射撃を受けて無傷なのは大したものだが、これで戦えるのだろうか。

『助けに来んのはいいけど、敵連れて来いとは言ってねぇぞ。』

「う、うるさいな!!」

思わず逆ギレするユーノ。
だが、いつも通りの具合でペダルや操縦桿を動かしているのに、どうにも思ったスピードや反応をしてくれない。
接近戦主体と聞いていたが、とてもじゃないが敵に近寄るなど夢のまた夢だろう。
少なくとも、ユーノと967はこの時はそう考えていた。

「ハッハッハ!!そんなよちよち歩きで何するんだぁ!?」

爆笑しながらクルセイドへとビームを連射するパトリック。
突然の登場に驚いていた他の機体も嘲笑とともに別のガンダムへと視線を移す。
だが、

「この……!」

「調子に乗って……!」

「「なめるなあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

グッ!





ゴウッ!!!!

「は?」

「「へ?」」

瞬きをするかしないかの間に、クルセイドとパトリックのジンクスが消える。
そして、次の瞬間にはガラガラとビルが崩落する音と、何かに巨大なものがぶつかった音が大きく晴天の空に響いた。

『……ユノユノ、何やってんスか?』

関節部分がありえない方向に曲がっているジンクスをドーム型の建造物に体全体で押し付けているクルセイドを見ながら、ウェンディは自分よりMS操縦の経験が豊富なユーノに対して呆れを含む視線を向ける。

「いたた……い、いや、なんか、あんまり動きが遅いから少し強めにペダルを踏んだらこんな感じになっちゃって……ていうか、相手の人、生きてる?」

「せ、生命反応はある……それより、俺たちの方が死ぬかと思ったぞ……なんてピーキーな機体だ…」

ある一定出力から速度が跳ね上がる。
使いこなせれば緩急をつけられ、確かに無敵だろうが、あくまで使いこなせればだ。
はっきり言って、

「無理。」

……である。

「無理だって…これはさすがに無理だって……なんでこんなの造ったんだよ………もう!!シェリリンのバカーーーーーー!!!!」



エウクレイデス

「へっくち!う~ん……風邪かなぁ?」



旧都市部

一瞬のその出来事で呆気にとられる一同。
しかし、判断は早かった。
今のうちに仕留めなければ、自分たちが危ない。

「各機!!!!盾持ちの改良型に集中攻撃!!!!なにがなんでも潰せ!!!!」

「おわあああぁぁぁぁぁぁ!!!?」

無視から一転して今度は集中砲火。
気絶したパトリックの機体から引きはがされ、視界が白しか見えないほどビームを集中させられる。
だが、それでもクルセイドには傷一つ付かない。
シェリリンが研究を重ねた特製の対ビームコーティングと超高出力GNフィールドはそれほどまでに強固だった。
しかし、守ってばかりでは勝てない。

「そ、速度調整が難しいなら……今度は、質量を軽減させて……そうだよ、いつもこうやって飛んでたんだから、無理にブースターを使わなくても…」

「バ、バカ!!やめろ!!」

967が止めるより早く、ユーノはGN粒子の質量軽減効果を使って重量を減らすと、いつものさじ加減でクルセイドを飛ばそうとする。
だが、

「ありゃ?」

急に視界が反転したかと思うと、コントのように背中から転ぶクルセイド。
再び呆気にとられたMS部隊は攻撃の手を休めてしまうが、すぐに射撃を再開する。

「うわああぁぁぁぁぁ!!!!」

「グッ!!これだけの表面積であんなに重量を減少させたら空気圧に押されるに決まっているだろう!!」

誰もが理科の実験で一度は見たことがあるだろう。
真空中では紙も鉄球もほぼ同じ速度で落下するが、大気中では紙は空気抵抗によって落下速度が遅くなる。
科学の基礎の基礎である。
当然、それはMSにも当てはまり、表面積が大きい状態で重量を軽くし過ぎるとこうなるのは火を見るより明らかだ。

「お、OK……要は、ちょうどいい重量で、このピーキーな速度を使って敵に一撃叩きこめってことね……」

「……随分と乗る人間にやさしくない機体だ。」

「けど、やる価値はある!」

GNフィールドを展開したまま、クルセイドはアトラス、天を支える巨人の名を持つ鎧とともに立ちあがる。

「アトラス……お前のその名が飾りでないのなら……」

「僕たちの想いに応えろ!!!!」

ぎこちないながらも、先程までとは比べ物にならない速度で空へと舞い上がるクルセイド・A。
左のガトリングで囲んでいた敵をバラけさせると、その中でも周りと大きく距離があいた一機に目をつける。

「そこだ!!」

方向転換の際の強烈なGをものともせず、一瞬にして距離を詰めて右手のバンカーを頭部へと抉りこむ。

「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

シェリリンのアイデアで追加された、カートリッジシステムを応用した簡易GN粒子貯蔵カートリッジを何発も炸裂させながら押していく。
そして、

「ラストォ……バーーーーーストッッッ!!!!」

最後の一撃が炸裂した時には首から上は跡形もなく吹き飛び、力なく背中から落下したジンクスは大きな爆発を残して散った。

「トンでもない威力だな……」

「MS相手に使って良かったのかなぁ……」

想像以上の威力に罪悪感を覚えながら新たにカートリッジを詰めるユーノと967。
だが、そんな暇もなく他のガンダムを標的にしていた機体が続々とクルセイド・Aの下へ集まってくる。

「ユーノォォォォォ!!!!覚悟はできてんだろうな!!!!」

「何が何でも鹵獲する!!!!」

「アハハハハ!!!!また墜とされたいんですね!!!!」

「ここで君を止める!!」

「ガンダム……!!!!パパとママの仇!!!!」

「逃がすか!!!!」

しかし、これは二人にとって本来の目的を果たす絶好のチャンスだ。

「967、例のメールの送信よろしく。」

「了解。とりあえずありったけだ。」

967の両目のLEDが光る。
そして、敵味方問わず以下の文章が送られた。

『流れ弾にご注意を♪』

「!?」

訳のわからないままクルセイド・Aへと一団となって迫っていく混成軍。
だが、マイスターたちは持ち前の勘の鋭さで嫌なものを感じ取っていた。

「刹那……!!なんかヤベェ!!」

「ああ!!」

「クッ……!!」

すぐさまクルセイド・Aから距離を取り始めるダブルオーとセラヴィー。

「ハロ、クルセイドから隠れられる場所は!?」

「左方200!左方200!」

すぐさま頑丈そうな建物の影に入るケルディム。

「ウェンディ、高度を下げて!!」

「言われなくても!!」

変形して空から地上へと降りるアリオスとスフィンクス。

そして、その瞬間は訪れた。

「無駄に威力ばっか高くてさぁ……きっちり受け取って確かめてみてよ!!」

両肩の箱が勢い良く開き、いくつも小分けされた部屋が現れる。

「フッ飛べ……木星の果てまで!!!!」

無数の金属製の球が圧縮されたGN粒子に押し出されて猛スピードで撃ちだされていく。
広範囲に広まったそれは次々に敵機の体に食い込み、爆発を起こした。

「そぉら、もういっちょ!!」

今度は反対方向へ向けてそれを発射する。
外れた球が建物を破壊し、空へと飛んでいったものは遥か彼方へ落下する。

破壊の限りを尽くす暴君のようなクルセイド・Aの攻撃が終了した時、まともに動いていたのはクラウディアのキャバリアーシリーズとアヘッド、ジンクスがそれぞれ数機。
そして、カレドヴルフ製ガンダムとプトレマイオスの機体だけだった。

『なっっっっっっにすんだこの野郎!!!!!!!』

一息つこうとしたユーノの耳に飛び込んできたのはロックオンの激怒の叫び。
それを合図にモニターが怒りや不満で満ち溢れた顔で埋め尽くされる。

『危うく俺たちまで宇宙の果てまで吹っ飛ばされるところだったぞ!!!!』

『ヘタッピ!!ヘタッピ!!』

『ユーノ……君にそんなトリガーハッピーみたいな一面があったなんて知らなかったよ。』

『あたしが死んだらパパリンが黙ってないっスよ!!!!……帰ったらあたしに対しても黙ってなさそうだけど。』

『ユーノ・スクライア……万死に値するぞ……!!!!』

『こんのクソボケッ!!!!味方巻き込む攻撃するんじゃねぇよっっっ!!!!』

『……………………………………』

間一髪で逃れた味方からすれば当然の言い分だろう。
だが、それを967は一蹴した。

「文句ならシェリリンに言え。それと、これくらいで死ぬようならマイスターになれるはずがないだろう。」

一瞬訪れる沈黙。
続いてやってきたのはこれでもかというほど威圧感のこもった沈黙。
言ったのは967のはずなのに、その怒りの矛先は完全にユーノに向いていた。

「ほ、ほら!!それより、退路ができたんだから早く戻ろう!?こんなところでいつまでもこんなことしてたら…」

「どりゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「こういうのが来るからっ!!」

ウリエルの一撃を右手で受け止めてはねのける。
しかし、スバルはそれでもひるまずに再度アタックをかける。

「そう言えば、スバルには一つでっかい借りがあったね!」

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

全力で突き出される右拳。
それを再び右手でガッシと掴んだクルセイド・Aだったが、スバルはすぐさま残る左拳を打ちこもうとする。
だが、

「甘い!」

「!?」

突然開く左の盾。
そこに潜ませていた対GNフィールドを想定して装備されたクレイモアがウリエルのどてっ腹に突き刺さる。
小爆発を起こし、そのダメージがスバルにも伝わるが、ユーノの攻撃は止まらない。

「ほらよっと!!」

バンカーを腹部に打ちこんで宙に浮かせ、

「もういっちょ!!」

今度は頭に杭をねじ込み、何度も至近距離で炸裂させながらそのまま超高速で空へと押し上げていく。

「ついでにもう一発!!」

そして、アースラへ狙いを定めて最後の一発をウリエルへ打ちこんで飛ばすと、見事にアースラの左舷に激突した。

「うわああぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

「クッ……まだや!!この程度じゃ墜ちへん!!」

「まだ終わりじゃない!!」

さらに、そこへ両肩、左手のクレイモアとガトリングを向ける。

「クルセイド・アトラス、目標を粉砕する!!!!」

クレイモアとガトリング。
GNフィールドを持つ敵にも有効なダメージを与えられるよう装備されたそれは、歴戦を潜り抜けてきたアースラの装甲を喰い破り、ウリエルはコックピットを残して大破するまで完全に打ちのめした。
空になったEカーボン製の弾倉を肩からパージし、さらに盾の中にあった弾倉も外へと排出するクルセイド・A。

「……いい気分じゃないね。お世話になった艦を潰すっていうのはさ。」

煙を上げながら降下していくアースラを見つめながらそう呟くユーノ。
だが、それでもやらなければやられる。
今自分が立っているのは、そういう場所なのだ。

「ミッション……完了。」

アースラの翼から大きな火の手が上がるのを尻目に、ユーノは他のガンダムとともに悠々とその場を後にした。



海岸線

『そうへこむなよ。死人は出てないみたいだしよ。』

「……別にへこんでなんてないよ。」

明らかにブルーなユーノにロックオンが軽口をたたくが、やはり思い出が詰まった艦を墜としたのが堪えたのか、多くを語ろうとはしない。
それは、先程の大盤振る舞いの反動が来たかのようで、一緒にいて気が詰まりそうだ。

『ま、結果オーライってことで良いんじゃないっスか?殺されかけたのは一生忘れないけど。』

『意外と根に持つタイプなんだね。』

『じゃあ、アレルヤはもう怨みっこなしなんスね?』

『………………………』

『君も根に持ってるじゃないか。』

『そういうティエリアも人のこと言えないっスけどね。』

一応、安全空域までプトレマイオスの周りで警戒しながらそんな他愛のない話に花を咲かせる六人と二人。
しかし、その平穏は唐突に破られた。

『!?六時方向に機影!!』

フェルトの声に先程までのゆるんだ表情から一気に顔つきを変える五人。
早すぎる、というよりありえない敵の追撃に誰もが動揺していた。

「もう追いついてきたのか!?」

『いえ!敵の数……た、たったの四機です!!』

「識別コードは!?」

『一機は以前遭遇したアヘッドのカスタムタイプ……もう一機はヴァイゼンでストラトスさんを襲ったガンダムで……あ、後の二機はわかんないです!!完全にアンノウンです!!』

「つっ!!?」

ミレイナの言葉が終わる前に、ユーノはクルセイド・Aともども漆黒の機体に沖合めがけて押し込まれていく。

「「「ユーノ!!!!」」」

ケルディム、ダブルオー、セラヴィーが後を追おうとするが、その前に例の二機が立ちふさがる。

「どこへ行こうというのだ少年……君の相手はこの私だろう!!!!」

「邪魔をするな!!」

ミスターブシドーの駆るサキガケと激しい剣戟を開始するダブルオー。
その横ではケルディム、そしてセラヴィーの前にあの因縁の機体が立ちはだかる。

「見つけたぜ……!!大将にボーナスを割引されたんだ!!テメェらで鬱憤を晴らさせてもらうぜ!!」

「チッ!!しつこい野郎だ!!」

すぐさまアルケーと銃撃戦を始めるケルディム。
だが、ティエリアは操縦桿を持ったまま、目を見開いて震えていた。

「この……機体は……!!」

わかる。
というより、覚えている。
あの三兄弟の乗っていた機体。
そして、その後奪取されたあの機体。
ロックオンの命を奪ったあの機体。

「貴様が…」

抑えられない。

「貴様が……!!」

ドス黒い感情が沸き立つのを抑えられない。

「きさまが……!!!!」

憎悪が、ティエリアの中で膨れ上がり、爆発した。

「キサマが……ロックオンをやったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

セラヴィーの砲門が怒りに呼応するように唸りを上げる。
しかし、その攻撃はアルケーには当たらず、サーシェスはコックピットの中で笑い声をあげた。

「ハハハハハハハ!!!!!!大将からはおりこうちゃんだって聞いてたんだがな!!意外とやんちゃなところもあるじゃねぇか!!えぇ!?できそこないの人間モドキさんよ!!!!」

「許さない!!!!お前だけは絶対に許さない!!!!たとえ天や神が許しても、僕が許さない!!!!」

「ティエリア!!」

「駄目!!ティエリア!!」

感情の赴くままにバズーカを乱射するティエリア。
あまりに危険なそれを止めようと、アレルヤとウェンディが近づこうとしたその時、

「クッ!?」

「あぁっ!!」

その前を銀色の翼が駆け抜け、すれ違いざまにバルカンを二機へお見舞いする。
アリオスとスフィンクスの上を取ったその銀色の翼が胴体から二つのビームクローを出すと、さながら鳥のように自由気ままに空を翔ける。

「クソ!!なんなんだ一体!?」

わけもわからないままツインビームライフルとマシンガンで応戦するが、縦横無尽に空を飛ぶその銀色の翼にはかすりもせず、逆にビームクローで傷を負わされることになった。

そうこうしているうちに、クルセイド・Aは味方から大きく離れたところで漆黒の機体から突き放され、両肩の砲身から紅蓮の砲撃が飛んでくる。
急加速でかわし、蒸気にまぎれて突進するとそのつるりと禿げあがった頭へバンカーを打ちこもうとするが、右腕で軌道をずらされあえなく不発に終わる。
そこで互いに距離を取るが、ユーノはモノアイを左右に動かすドーム型の頭の下にある、見るからに分厚そうな装甲を見てポタリと一滴汗を垂らす。

(頑丈そうだな……見た目によらず動きも速いし、一撃で沈められるか?)

早くしないとプトレマイオスにも危害が及ぶかもしれない。
そうなれば、あれに乗っているヴィヴィオも危ない。
焦るユーノだったが、漆黒の機体に乗るパイロットはそんなことなどお見通しというように遮光処理のされたバイザーの下でニヤリと笑う。

「心配すんなよ……俺だって、“娘”を殺したいとは思わないさ。」

ユーノには聞こえないように、一人そう呟いた彼は、文字通り血肉を共有する相手へと愛機を突撃させた。







守護者の影、その光強きほどに濃く、全てを黒に染めてゆく……





あとがき・・・・・・・・・・・・・という名の第2次OG制作決定!!

ロ「ぶぁんざーーーーい!!!!」

ユ「……え~、毎度のことながらスパロボでOGの新作が出ると聞いて浮かれてるバカに代わり、今回も僕が司会進行をつとめます。」

ロ「ぶぁんざーーーーーーーーーい!!!!!!!!サーベラスばんざーーーーーーい!!!!エール・シュバリアーばんざーーーーーーい!!!!ブランシュネージュばんざーーーーーーい!!!!フリッケライ・ガイストばんざーーーーーーーーい!!!!雷鳳ばんざーーーーーーーーい!!!!」


ユ「ホントにうるさい!!!!もうそいつ外に出しといて!一日いてもそのテンションなら風邪ひかないと思うから!」

弟「へ~いへい……」

ユ「……オホンッ!で、ツッコミどころ満載の第三十八話でした。やっと出てきたアトラスに『え~!?』って言いたい方も多々いらっしゃるでしょうが、さっき見た通りのスパロボ馬鹿が書いてるので、そこのところはご容赦ください。というか、乗ってる僕が一番ツッコミたいです。しかも、まだなんか隠してるみたいだし……」

ウェ「まあ、そんなこと言ったらあたしのスフィンクスもっスよ。……さて、気を取り直して今回のゲストを呼びまSHOW!」

ティ「今回のゲストは『閃光のハサウェイ』からマフティー・ナビーユ・エリンことハサウェイ・ノア。『F90』からデフ・スタリオン。『シルエットフォーミュラF91』からトキオ・ランドールだ。」

ハサウェイ(以降 親不孝者)「……親不孝言うな。」

デフ(以降 デ)「火星帰りのデフだ!それにしてもスピリッツではびっくりするくらい簡単にボッシュを叩きのめせたな……」

トキオ(以降 ト)「トキオだ。……いきなりだけど、ロビンがいない状況で俺とデフを出してよかったのか?」

ウェ「は?」

デ「そうそう。スピリッツで俺たちの作品の機体に結構世話になって、その所縁で俺たちも結構使ってもらってたんだよな。」

ユ「じゃあ、絶賛狂化中のロビンを呼ぶ?」

ト・デ「「……やめときます。」」

親不孝者「それはそうと、アトラスは本当に古鉄そのものだな。」

ユ「ロビン曰く、『脱ぐとすごいんです!』らしいけど、正直あっちもどうかと思う。」

ト「最後に出てきた謎の二機のパイロットもそろそろ正体バレつつあるな。」

ティ「ちゃんとわかるのはもう少し後だがな。こいつがあとあととんでもないことをしでかしてくれるらしい……」

デ「あんまり歓迎したくないけどな。それより、俺としてはメガネ君のあの鈍さと溺愛っぷりに正直ドン引きだな。」

ユ「なんでぇぇぇぇぇぇ!!!?みんなそういうの希望って言ってたじゃん!!!!」

親不孝者「限度というものがある。」

ト「これ以上のもあるらしいじゃないか。」

ウェ「ニブチン。」

ティ「エロリスト。」

ユ「そこのバカップル二人!!後で覚えてろよ!!……まあ、ヴィヴィオがかわいいから何言われても十秒後には許せちゃうけどね~♥」

(((((うわぁ……)))))

ユ「というわけで、次回もヴィヴィオが激烈かわいい予告へゴー!!」

ト「突如出現した二体の謎の機体!!」

デ「そして、刹那とブシドー、ロックオン、ティエリアとサーシェスの戦いも激化する!」

親不孝者「果たして、彼らの目的とは!?」

ティ「そして、因縁の対決はどのような決着を見せるのか!?」

ウェ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければ、ご意見、感想、応援などお聞かせください!じゃ、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」








ロ「アーーーーールーーーーートーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

弟「いい加減にしろっ!!」



[18122] 39. Table and back.But,it is one coin.
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/06/19 09:26
バーナウ 海上

「チッ!!」

漆黒の重装甲の砲撃を海面スレスレで回避しながらユーノは手の平に滲む汗のじっとりとした感触に舌打ちをする。

確かに強い。
こちらも残っている武装はガトリングシールドとバンカーのみ。
圧倒的に不利ではある。
しかし、それだけではない。
コイツと触れ合った瞬間、まるで心の表面をなでまわされているような、そして自分も名も知らぬパイロットの心に直に触れているような、そんな感覚が消えない。
はっきり言って、最悪に気持ち悪い。

「なんなんだよお前は!!」

強引にターンし、多少砲撃がかすめていくのもお構いなしに突撃する。

「無茶だ、ユーノ!!」

しかし、967の言葉とは裏腹に砲撃はGNフィールドと強固な装甲の前に弾かれていく。
そして、再びバンカーを叩きつけようと大きく右腕を振りかぶるが、力が十二分にかけられない途中のところで手を掴まれて動きを封じられる。
その間にも至近距離にある砲身には不気味な赤い光がたまっていく。

「この……!!」

強引に左腕を身体の間に割りこませ、頭めがけて銃弾を連射する。
それで軌道にずれが生じ、紙一重で砲撃はクルセイド・Aから外れた。
だが、それでもユーノは、そして漆黒の機体は互いに相手を離そうとしない。

「ハッハァ!!感動の抱擁ってやつか!?意外と情熱的だな!!」

「誰だお前は……!!なぜ僕の心を覗ける!?」

通信回線、さらには念話まで完全にシャットアウトされているため、互いに声は聞こえない。
しかし、それでも相手の心の内がわかる。
まるで、もともと一つだったかのように。

「なんでかって?決まってんだろ……俺はお前だからだよ!!!!」

少年の笑い声が、漆黒の機体、プルトの中でこだました。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 39. Table and back.But,it is one coin.


プトレマイオスⅡ

「パパァ……!!」

ギュッと赤ハロを抱きしめながらヴィヴィオが涙目で呟く。
なかなかおさまらない揺れが彼女の不安を煽っているのだろう。
沙慈はそんなヴィヴィオの背中に優しく手を当てる。

「大丈夫……ユーノ達が何とかしてくれる。」

自分にもそう言い聞かせるように、沙慈はその言葉を何度も口にする。
突戦の戦闘態勢に突入したとの知らせに加え、艦のすぐ横でなにかが通り過ぎたり爆発したりすることで発生しているのであろう振動。
死神が気まぐれにその鎌を自分へ振り下ろそうとしていると錯覚してしまうほどの恐怖が沙慈を押しつぶそうとしている。
だが、それでもヴィヴィオに声をかけることだけはやめない。
それが、今の自分にできる戦いだと信じているから。



海上 プトレマイオスⅡ周辺

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」

激しく火花を散らすダブルオーとサキガケ。
その一撃で風が巻き起こり、熱で大気を燃え上がらせる。
刹那は仲間の手を二度と離すことが無いように。
ブシドーは己の中の宿命に従い。
まったく異なる理由で剣を交え、炎に身を焦がす二人の戦いはさらに苛烈なものへと昇華していった。

「ここは……俺の距離だ!!」

超近接戦闘、それも刺突に特化したカタールを二本のGNソードの代わりに抜いてサキガケの頭部へ突き出す。
しかし、サキガケもロングビームサーベルで受け流し、小回りのきくショートでダブルオーのコックピットを狙う。
咄嗟に体をよじってかわすが、ダブルオーの胸に黒い焦げた傷が刻まれる。

「(っ……!流石に一人じゃ持て余すか……)ジル、頼めるか?」

「OK!きっちり読みきってやるよ!」

一旦大きく距離を取ったダブルオーはカタールを持った両手を大きく広げ、あえて攻めを受ける面を広くする。
それに怒ったのはブシドーだ。

「この私を侮辱する気か、少年……!!」

刹那は攻めてこいと言っているのだ。
実力差がある相手に胸を貸してもらうならいざ知らず、同等の相手にこれをやられると頭にくる。
ブシドーは怒りで我を忘れたまま斬りかかろうとしたが、すぐに冷静さを取り戻してニヤリと笑う。

「よかろう……何か策があるのだとしても、それごと斬り伏せるまでだ!!」

意を決し、いつも以上に研ぎ澄まされた心で刃をダブルオーへ振り抜く。
しかし、その研ぎ澄まされた心はジルによって見られていた。

「正面から袈裟掛け、速いぞ!」

「了解!」

半歩退いて刃まで数㎝の間を残して斬撃をかわす。

「破ッ!!」

「突き!二…いや、三連!?」

「かわしてみせる!!」

一撃目は半身になってかわし、二撃目はカタールで受け止める。
しかし、サキガケはすぐさま刃を引き、二撃目よりもさらに鋭い三撃目がダブルオーへと迫る。

「オオォォォォォ!!!!」

だが、刹那は強引に肩を前に出すとバスターソードの刀身に三撃目をぶつけ、逆にサキガケの体勢を崩すと素早く懐へ入って右手のカタールを振るう。

「なんのぉぉぉ!!!!」

しかし、今度はブシドーが魅せる。
カタールが腕にヒットしようかという瞬間に咄嗟に盾をパージして自らの手で切断する。
盾が爆発したことによって生じた爆風で機体をずらし、ダブルオーの必殺の突きを間一髪のところでかわした。

「やるな!!」

「できる……!!」

刹那もジルもまだそれほど消耗していないが、この戦略は二人の精神を大きく削る。
時間をかけるほどに、どんどん不利になっていくのだ。
ユーノの援護へ一刻も早く向かうべくこの選択をしたのだが、ブシドーほどの実力者に短期決戦を仕掛けたのは少々不用意だったかもしれない。





一方、ティエリアとロックオンはアルケーに対して荒々しい攻めを見せていた。
というより、ティエリアがその怒りをセラヴィーの砲撃を通じてサーシェスへぶつけていると言った方が適切だろうか。
いつもの冷静さはなりを潜め、仇が出現したことでよみがえったあの時の後悔と怒りによって、ロックオンとの連携すら頭に残っていなかった。

「チッ……!!一旦離れろティエリア!!そこにいちゃ狙い撃てねぇ!!」

「回線不通!回線不通!」

「聞く耳もたねぇってことかよ!!」

仕方なくスナイパーライフルからビームピストルに持ち替えるが、どれだけ接近してもセラヴィーとアルケーの動きが激しすぎて上手く狙いがつけられない。
そもそも、お世辞にも接近戦向きには見えないあの巨体が前に出ているだけでもやりづらいのだ。
それがあそこまで敵に近づかれた時の狙撃手の心情を察してもらいたい。

「ここで仇を討たせてもらう!!!!」

「やってみろよ!!人形風情にできるんならな!!」

至近距離でのセラヴィーの砲撃はかわされ、今度はアルケーのバスターソードがセラヴィーの首筋に迫る。
それを急下降でかわして再び狙いを定めるが、そこにあるはずのない赤い光の刃がティエリアの視界に映り込む。
すぐに右腕のバズーカを引こうとしたが、すでに手遅れだった。

「ハッハァ!!!!」

「グゥッ!!?」

真っ二つに斬り裂かれ、爆発するバズーカ。
残った左を連射しながら離れようとするものの、アルケーはぴったりついてきて離れようとしない。

「どうした!!?やっぱり捨てられるだけあって腕もその程度かぁ!!?」

「なめるなぁっ!!!!」

激昂したティエリアはビームサーベルを抜いて対抗するが、サーシェスの余裕の笑みは少しも揺らがない。

「テメェらは本当なら四年前に死んでたんだよ!!!!それがノコノコ墓の中から這い出てきやがって!!まあ、おかげで俺はこうしてしこたま戦争を味わえるってわけだけどな!!!!」

「僕たちはお前のような人間のために戦っているんじゃない!!!!」

「結果論を言ってんだよ!!どう言おうがお前らのせいで俺のような戦争屋ももうかれば、ませたガキが何のためらいもなく殺しをできるようにもなる……って、ああ、ワリィな。うっかりしてた…」

サーシェスの笑みがいっそう下卑たものになる。

「そのガキについては、俺がそうさせたんだった。」

「っっっ!!!!!!」

鬼神のごとく目を見開き、猛然とティエリアはアルケーへ突入していった。



海岸線

「そこだ!!」

「う~ん、残念!」

アリオスのビームサーベルが空を切る。

「このっ!!」

「またまた残念♪」

スフィンクスの連射は空へ消えていく。
銀色の戦闘機にすっかり翻弄されるアレルヤとウェンディ。
近づいてきた時はヒラリと斬撃をかわされ、離れている時も撃ったその瞬間にはすでにその場にいないという始末だ。
しかも、腹立たしいことに最初の攻撃以来まったくこちらに仕掛けてくる気配が無い。

「遊ばれてるのか!?」

「なめんじゃねぇよ!!」

アレルヤに代わり、ハレルヤが変形したアリオスを駆使して猛然と戦闘機の追跡を開始する。
TRANS-AMは使用していないまでも、そこはオリジナルGNドライヴ搭載機の中で最高の速度と機動性を誇るアリオスだ。
フルスピードでの追跡でアンノウンの後ろにぴったりつけると、徐々にその間隔を狭めていく。

「遊びが過ぎたなぁ!!さよならだ、カスがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「アッハハハハ!ホント、あいつから聞いてた通りだね…」

「!!」

その瞬間、ハレルヤは我が目を疑った。
銀の戦闘機はビームクローを岩場に突き刺し、ワイヤーを巻き上げたことで強引に進行方向を変えてアリオスのバックを取ったのだ。

「もう一人の方は戦闘センスがあってもどうしようもない“クソ野郎”だって。ここで殺っといた方が世の中のためかなぁ?」

少女は愛機の中でペロリと舌なめずりをしてトリガーにかけている指の力を強めていく。
ハレルヤは背筋を冷たいものが伝っていくのを感じるが、結局、戦闘機から攻撃が来ることはなかった。

「ここであんたと一緒にアレルヤ・ハプティズムを殺ったらあたしがあいつに殺されそうだからね。今回は勘弁しといてあげる……っとぉ!」

スフィンクスのマシンガンにアリオスから離れる銀の機体。
しかし、必要以上には離れず、なおかつアレルヤとウェンディが援護に戻れないように退路をふさぐように飛びまわる。

「んにゃろめ~!!」

「熱くならない!ティエリアからもよく言われてるでしょ。」

「さっき一人で盛り上がってた人間に言われたくないっス。」

(俺はテメェと違ってヘマはしねぇからな!)

「やられかけておいてよく言うよ……けど、本当にどうすればいいんだ……」

撃墜されない、しかし倒すことのできない敵を前に、アレルヤはギュッと操縦桿を握るしかなかった。



沖合

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

クルセイド・Aのガトリングがプルトの肌を叩くが、微かに傷を残すだけで一向にダメージらしいダメージが通っている気配はない。
しかも、向こうは砲撃を撃ち続けているのに粒子不足になる様子が無い。
大方、あのゴツイ装甲の下に大型コンデンサーでも積みこんでいるのだろうが、それよりも問題はこちらの残弾数だ。

(ガトリングが残り100をきった……カートリッジも装填されているので最後か……!)

無駄撃ち……そうだった方がどれほど救われただろうか。
バンカーはともかく、ガトリングの方はほぼ全弾命中している。
プルトはそれを全て受け止めたうえで、悠々と砲撃を返してくるのだ。
バンカーを当てるのはもう絶望的であることはわかっているし、ガトリングが意味を為さないこともはっきりしている。
あとは外装をパージしてヒュアースを使う手もあるが、シェリリンに趣味で造られた機体とはいえ、いつまた復元できるかわからないアトラスをおじゃんにするのは今後のことを考えると損失が大きすぎる。
そもそも、ヒュアースを使えば今度はクルセイドの腕が完全になくなるかもしれない。

「ったく!なんで僕ばっかりギリギリで判断を迫られるようなことになるんだか!!」

「日頃の行いだろ!!」

残り30発をきったガトリングの残弾数を横目に、ユーノは何かいい手はないかと改めて残っている武器を見てあるものに目を止めた。
それは、バンカーを連発することを可能にしたGNカートリッジ。
不完全ながらも、バンカーの使用を何の問題もなく補助していたそれには、高圧縮されたGN粒子がたんまりと詰まっている。

「……967、バンカーのカートリッジを排出。」

「!まさか…」

「こっちの装甲と向こうの装甲……どっちが頑丈か勝負してやる。」

ニヤリと思いつめたように笑うユーノはどこか空恐ろしいものを感じさせ、反論することもできずに967はカートリッジを排出してクルセイド・Aの右手に握らせていた。

「シェリリン……これくらいで音を上げるような柔な造りにしてないよね!!」

グッと大きくペダルを踏み込んでプルトへとクルセイド・Aを突進させるユーノ。
プルトは両肩のキャノンで迎え撃つが、最大出力のGNフィールドがそれを辛うじて防ぎきる。
だが、クルセイド・Aが大きく右腕を振りかぶるとプルトはすぐに離れ始める。

「懲りない奴だな……バンカーは俺には…」

「当たらないからこっちを使うのさ!!」

クルセイド・Aからリボルバー式のカートリッジが6発分プルトへと手放される。
そして、

「お願い……クルセイド!!耐えてくれ!!」

「な!?」

カートリッジめがけガトリングを撃ちこむ。
数発が当たった瞬間、二機の間で光と強烈な衝撃が発生する。

「!?しまった!!外装が!!」

プルトの禿げあがった頭がカタカタと揺れながら浮かびそうになるが、少年は慌ててそれを手で押さえて急速後退する。

(……?アトラスと同じ外装装備なのか?けど、だったらなんでそこまで焦る?)

(チッ!!まだこいつの下を見せるわけには……!!)

プルトの装甲はGN粒子の暴発の影響でダメージを負ってはいるが、動けないほどではない。
だが、少年はそれ以上の戦闘は行わずに撤退を開始する。

「……終わってみれば驚くほどあっさり片付いたな。」

「いや、向こうは本気を出してなかった。僕らの完敗だよ……(見た目は派手だったけど、まったく殺意を感じなかった……それも、僕に対してだけでなく、他のみんなにまで……)」

訳がわからないことだらけだが、今は他のメンバーが心配だ。
ユーノはカートリッジの暴発で色が剥げた装甲のまま、離れてしまったプトレマイオスの援護へと向かった。



プトレマイオス周辺

「甘ぇんだよ!!!!」

「ぐっ!?」

セラヴィーの右肩にいつの間にか放出されていたファングが刺さる。
よろけたところに、さらにファングからビームが雨あられとセラヴィーへ降り注いでいく。

「グッ!!ウアッ!!」

「ハハハハハ!!!!相変わらず機体は一流でもパイロットは三流だな!!すこしつついたくらいで熱くなりやがって!!」

アルケーがバスターソードを抜き、狙いを定めるようにその切っ先をセラヴィーへと向ける。

「あばよ!!!!できそこないの人形さん!!!!」

「ウッ……クゥ…!!」

逃げなければ。
わかっているのに、ティエリアの腕は動かない。

(……あの時と、同じだな。)

あの時も、ヴェーダに固執したせいで自ら危機を招いてしまった。
理由は違えど、個人的な感情に走って危険な状態になってしまったことに違いはない。
昔と、何も変わっていない。

(ここまでか……すまない、ロックオン。僕は……やはり、人間にはなれないようだ。)







『そんなことねぇよ。』







「な……んだとぉ……!?」

サーシェスの歯ぎしり交じりの声に、ティエリアはゆっくりと目をあける。
そこにいたのは、あの時と同じ深緑の機体。
片手の銃と飛びまわる盾でファングを撃ち落とし、残った右の銃でバスターソードを受け止めているが、ケルディムの肩の傷からチリチリと火花が散っている。
また、同じ過ちを繰り返してしまったと思い、泣き出しそうになるティエリアだったが、四年前とは違って蒼い機体もその剣でアルケーのバスターソードを受け止めていた。

『ティエリア、大丈夫か!?』

「ロッ……クオン・ストラトス…?」

モニターに映った、彼と同じ顔。
そして、自分が無事であることがわかって安堵の笑みを漏らすその仕草。
それはまるで、ニール・ディランディが今の自分を、人として戦う自分を褒めてくれているようだった。

『よかった、生きてるんだな!?動けるか!?』

「あ、ああ……肩をやられたが、まだ戦える。」

『OK!それより、問題は刹那だな…』

ロックオンがすぐ横で大剣同士による鍔迫り合いを演じているダブルオーを見る。
どうやら、カスタムアヘッドのことをそっちのけでティエリアを救おうとやってきたようだ。

「アリー・アル・サーシェス……!!あんたはまだこんなことを!!」

「クルジスのガキかぁ!!?懲りずにまた俺に喧嘩を売りに来たのかよ!!」

力任せに振り抜かれたアルケーのバスターソードで、ダブルオーは突き離されるが、すぐさまショートソードの刃先を飛ばしてアルケーの顔面に浅い傷を残す。

「チッ!!飛び道具はこっちも持ってんだよ!!いけよ、ファング!!!!」

赤い牙がダブルオーへと襲いかかる。
しかし、刹那はそこから一歩も動こうとしない。

「ロックオン!!ティエリア!!」

「オーライ!!」

「了解!!」

ケルディムのピストルで、左から来ていたファングは爆散する。
右では、セラヴィーの砲撃にのまれたものが紫の爆煙だけを残して溶解する。
そして、その光景を唖然として見つめていたサーシェスへと刹那が斬りかかった。

「こ……の!!クソガキがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

押し込まれていくサーシェスは不利を感じたのかすぐさま剣を引いて空へと離れていく。

「逃がすかよ!!」

「待て。」

ロックオンがすぐさま狙撃態勢に入るが、刹那がそれを止める。
ロックオンが不満げな顔をするが、刹那の視線の先を見て息をのむ。

そこにいたのは、先程まで刹那が相手をしていたサキガケ。
右手に大型ビームサーベルを握り、盾のなくなった左手にも細身のビームサーベルを握ってこちらを見つめている。

(来るか!?)

身構える刹那だったが、逆にジルはホッと胸をなでおろす。

「いや、大丈夫だ……これ以上やる気はないみたいだ」

彼の言うように、サキガケは何を思ったのか武器を収めるとその場を離れていく。

「私も退き際はわきまえているつもりだ。戦友同士の絆に水を差すほど無粋ではない。」

サキガケが渾身の一撃を決めようとした瞬間、刹那はダブルオーの腕に傷を刻まれながらもセラヴィーの援護に向かった。
敵同士とはいえ、かつて戦友との絆を重んじたブシドーにとって、それを止めようとすることは彼のフラッグファイターとして誇りが許さなかったようだ。
しかし、その戦友を奪ったのは彼らソレスタルビーイングであり、ガンダムだ。

「……ダリル、ハワード。こんな私を責めるか……?」

彼のその呟きに、かつての部下たちが答えることはなかった。



海岸線

「!あ~らら、みんな退くのか~……じゃ、あたしもそろそろさよならしようかな。」

少女はニッコリ笑うとアレルヤ達を無視して内陸部を目指して飛んでいく。

「じゃあね~!今度会う時は本気で遊ぼうねぇ~!」

小さくなっていくアンノウンをただ呆然と見つめるしかないアレルヤとウェンディ。
そして、疲れが一気に来たのか援護に向かうことも忘れて全体重をコックピットの椅子に預けた。

「ウェンディ、粒子残量は?」

「残り20%……ほぼスッカラカン。ちょうどトレミーまでの片道分はあるって感じっスね。そっちは?」

「TRANS-AMは使わなかったけど、僕の方が燃料切れだよ……攻撃されてないのにここまで消耗するなんて初めてだ。」

「あたしも電池切れっス……とりあえずなんでもいいから甘いもの食べたい……」

〈糖分の過剰摂取はお勧めできませんよ。脳に糖分がいかないあなたは特に。〉

「……何さりげなく人をアホの子扱いしてんスか。」

グデッと前のめりになって情けない姿をさらすウェンディは、毒づくマレーネを見上げて疲労困憊の様子で唸り声を上げるのだった。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

予想外の妨害が入ったものの、無事帰還したマイスターたち。
しかし、休む間もなくすぐさまブリッジに集められた。

「結局、アンノウンの正体はわからずじまいか。」

「僕とウェンディは攻撃もなしに手玉に取られ、刹那たちは別の機体の相手で手一杯。ユーノもあんまり詳しいことはわからなかったみたいだし、全員無事だっただけでも喜ぶべきだよ。」

「ま、確かにそうなんだけどよ。」

アレルヤの言葉にラッセも残念そうな表情を引っ込めてうなずく。
しかし、モニターの向こうのイアンの苦悩する顔を前にするとそれ以上肯定の言葉をつづけられない。

『悪いがわしは喜べんな。クルセイドに続いてダブルオーとセラヴィー、おまけにケルディムまで損傷したんだぞ?』

「すまない、イアン。」

『お前さんが謝ることじゃないのはわしもわかっとるんだが……いかんせん、物資も設備も限られとるからな。』

「ついでに歳もくってるから愚痴も多いと……」

『何か言ったか?』

「いいえ?別に何でもごぜぇませんよ?」

イアンに睨まれて口笛を吹きながらそっぽを向くロックオン。
三機の修復を進めるために、溜め息とともに通信を終えようとするが、あることに気がつく。

『どうしたユーノ?難しい顔して。』

イアンに指摘され、ユーノはハッと顔をあげる。
いつもならもっと積極的に話に参加するのに、今日に限っては一人で考え込んで妙に物静かだ。
その理由を悟られまいと、誤魔化すためすぐにいつものように笑顔を見せようとするが、フェルトがそれを許さない。

「ユーノ、何かあるんならちゃんと言って。」

「別に僕は何も……」

「……ユーノは嘘つく時、右の眉が上に動くんだよ。」

「ウソ!?……あ。」

「……わかりやすい奴だ。」

967にまで呆れられ、さらに一同の視線が厳しくなる。
ユーノもとうとう諦めたのか、頭を掻きながら大きく息を吐くと語り始める。

「……あの機体と戦ってるとき、なんていうか変な感じだったんだ。」

「変な感じって……またえらく曖昧だな。」

「上手く言えないんだけど、心を覗かれてるというか……」

「ジルと同じ力が?」

「いや、そんなんじゃなくて。繋がっているっていうか……とにかく気持ち悪い感じだった。僕のクセも知っているみたいだったし。」

「クセ?」

ウェンディが首をかしげる。

「うん。よく967に言われるんだけど、僕は敵に突撃をかけるときにほんの少し、本当にわずかに右に重心を偏らせるクセがあるみたいなんだ。あの黒いMSは、それを知っているみたいにバンカーを見事に避けて見せたよ。そりゃあ、拍手を送りたくなるくらいにね。」

『だが、いくらクセを知っているからといってそんな簡単に避けられるものか?』

イアンの疑問にティエリアもあごに手を当てながら同意する。

「そうだな……本人ですら無意識に行っているクセ、それも、微かに重心を偏らせるという情報だけでそこまでの芸当をできるとは到底思えないが…」

「読心術でそれを補っていたなんてことはないかな?」

「そりゃないね。オイラのこれを使える奴は今じゃ片手の指を全部使うくらいいればいい方じゃねぇの?そいつがMSの操縦も上手くてあれだけ良い機体を与えられる……そんな都合のいいことがそうそうあってたまるかよ。」

「結局なにもかもが謎ですね~……あの人たちが襲ってきた理由もサッパリです。」

「いや、それについては見当がついてるよ。」

全員がその言葉に目を丸くしてユーノの方を向く。
だが、ユーノの言葉でさらに驚くことになった。

「僕たちの現状の戦力の偵察……いや、正確に言うなら、思い上がりでも何でもなく僕が目的で襲撃してきたんだ。」

「オイオイ、あれだけのやつらがお前一人のために来てくれたんじゃこれから先たまんないぜ。」

「でも、少なくともあの黒い機体は全員に対して殺気が無かったし、攻撃しながらまるで僕のことを観察してるみたいだった。」

「観察か……まるで、彼らのような言い方だな。」

「彼ら?」

スメラギが眉間にしわを寄せる。
ウェンディがティエリアの方を心配そうな顔で見るが、安心させるように微笑むと意を決してその名を出す。

「イノベイター……アロウズを裏で操る、僕たちの本当の敵だ。」

「イノベイター?」

「?知っているのか?」

「ん……いや、そうじゃないんだけど……」

ユーノは周りにばれないようにアレルヤ、そして967と目を見合わせる。
地球でレイヴやテリシラたちと関わった中で遭遇した存在。
ヴェーダの生態端末として人工的に生み出された者たち、イノベイド。
おそらくはイノベイターとは彼らを指すものなのだろうが、なぜイノベイターと名を変えたのだろうか。

「……ティエリア、なんで今まで黙ってたの?」

「…………………………」

黙るティエリアだが、地球でイノベイドに関わるミッションをこなしていた三人には見当がついていた。
おそらく、ティエリアは知ったのだろう。
自らもイノベイドであることを。

「ねえ、なんとか言ってくれない?黙ってちゃ私も…」

「まあまあ、そのくらいで良いんじゃないですか?ティエリアも反省しているみたいですし。」

「そうですよ。ティエリアは真面目だから、たまに大きなポカをやらかすくらいで釣り合いが取れるんですよ。」

アレルヤとユーノにインターセプトに入られ、スメラギは大きくため息をつく。

「わかったわ。ティエリアは後でイノベイターについてわかる範囲で報告をまとめておいてちょうだい。それと、明日までは自室で謹慎。いいわね?」

「……わかりました。」

「それじゃあ、話を戻すわよ。仮に今回の襲撃者をそのイノベイターだとして、なんでユーノに興味を持つの?」

「僕が聞きたいですよ。マイスターをやってなかったらThe・一般人をやってるような人間ですからね。」

無限書庫の司書長を務め、さらに多方面にコネクションがある人物が一般人と呼べるのかはなはだ疑問ではあるが、これらの肩書が今回の襲撃とはおそらく無関係であることからスメラギも何も言わない。
だが、もしユーノが狙われているとするならやはりミッドチルダ、それも管理局に関係することが原因と考えるのが妥当だろう。

「ミッドチルダ出身のユーノがマイスターをやっていることに危機感を覚えた管理局がアロウズに何らかの対応を依頼した……ってことかしら?」

「理由としては弱すぎないか?」

発言者のスメラギも967と同意見だが、それ以外に理由が思い当たらない。
となると、

「やっぱりスクライアさんの思い過ごしなんでしょうか?」

違和感を覚えたのはユーノだけ。
他のメンバーに異常はないのだから、そうも思いたくなる。
だが、

「……そうかもしれません。スイマセン、変なこと話しちゃって。」

口ではそういうが、やはり何かが引っ掛かる。
あのパイロットが気になってしまう。
この後で話された今後の予定も頭に入らないほど、ユーノの中であのMSとそのパイロットが占める部分は大きくなっていった。



コンテナ

「しかし、今回もまた随分とやられましたね。」

沙慈は正面の装甲が剥げてしまったクルセイド・Aを見上げながら大きくため息をつく。
しかし、見た目はともかく実はクルセイド・Aの受けた損傷が一番小さい。

「外はともかく、内側の精密機器にはまったくと言っていいほどダメージが無い。そこのところはシェリリンを評価してやらないとな。」

「でもあれですよ?」

“あれ”とは、クルセイドのミッションレコーダーに残されていた戦闘での一連の動き。
盆踊りを踊ったり、建物にMSの型をつけたり、勢いよく転ぶ様がありありと残されているそれは、整備する側としてはこれからの苦労が増しそうなことがはっきりとわからせてくれる。

「でも、パパすっごくカッコよかったよ!」

「カッコよくてもわしらへの思いやりは一切ないがな。」

「あ、お仕事してるイアンおじいちゃんもカッコイイよ!」

「ハハハ……ありがとうな、ヴィヴィオ。ミレイナとお前さんだけだよ、わしにそう言ってくれるのは……」

沙慈についてきたヴィヴィオの言葉に不覚にもホロリときてしまったイアンは、目をこすって再びコンソールと睨めっこを開始する。

「おじいちゃん元気になったね!」

「イアン元気!イアン元気!」

(……狙ってやってるわけじゃないよね?)

意識せずに相手に好かれるあたり、流石ユーノの娘というか、将来(彼女の周囲の人間)が心配というか。
ヴィヴィオも相当の人ったらしである。

「お待たせ~……って、イアンはどうかしたの?年甲斐もなく張り切っちゃって。」

「君の教育の賜物だよ……」

「?」

「パパ~!」

やってきたヴィヴィオを肩車しながら不思議そうに沙慈の顔を間近でじっと見つめるユーノ。
どうやら、こっちもこういうことを自然にできるというのがどれほどすごいかという自覚はなさそうだ。

「ああ、そうだ。ヴィヴィオのことありがとう。」

「ありがと~!」

「……変なこと教えてたら、どうなるかわかってるよね?」

「し、してない!!そんなことしてないから!!」

本当に何も教えていないのだが、この威圧感を前にするとあれがまずかったか、それともあれかといろいろなことが頭をよぎってしまう。
ヴィヴィオにわからないように笑顔で脅してくるのがさらに怖い

「まあ、それならいいんだけど。けど、できればここに連れてくるのも今後は控えてほしいな。ヴィヴィオにはあんまりMSとは関わらない人生を送ってほしいから。」

「えー!?どうして!?」

文句を言ったのはヴィヴィオ本人。
フグのように頬を膨らませながら肩の上で体をまげてユーノの顔を覗き込む。
その顔を両手で優しく挟んで潰すとユーノは困ったように笑う。

「僕はヴィヴィオに戦いの真っただ中にいるような人生は送ってほしくないんだ。だから、こういうところに来るのはもう禁止。なのはママだって、同じことを言うと思うよ。」

「なのはママなんてどうでもいいもん!」

不機嫌だったヴィヴィオがさらにふくれっ面をする。

「なのはママはパパにひどいことしてばっかりだもん!ママなんて大っ嫌い!」

悲しげな笑みのユーノを見かね、沙慈はフォローを入れようとするが、イアンがその肩を掴んで強引に自分の作業を手伝わせる。

「黙って見とけ。これはあいつら親子の問題だ。」

「でも!!」

「徹底的に話し合っといた方がいいこともあるさ。先輩パパとしての心遣いだ。」

仕方なくハラハラと遠くから二人の様子をうかがう沙慈。
ユーノはヴィヴィオを肩から降ろして立たせると、膝を曲げて目線を合わせて黙る。
そんな時間がしばらく続いた後、ユーノが口を開いた。

「いいかい、ヴィヴィオ。今回に限って言えば、ママが正しくて、悪いのはパパの方なんだ。パパのわがままでたくさんの人が困ってるし、しちゃいけないこともパパはたくさんやってきた。だから、酷い目にあって当然なんだよ。」

「ウソだよ!!だって刹那さん言ってたもん!!がんだむはせかいのゆがみをはかいするためにあるって!!パパもがんだむまいすたーなんでしょ!?」

(刹那……ったく、余計なことを吹き込んでくれるよ。)

刹那の言っていることは正しい。
だが、それが全ての人にとって正しいとは限らない。
刹那もそれはわかっているし、いずれ罰を受けることになる。
そして、それはユーノも同じだ。

「そうだね……確かに、僕はガンダムマイスターだ。だけどね、ヴィヴィオ。僕たちのせいで悲しくて涙を流す人だってたくさんいるんだ。僕は、その人たちに向かって自分が正しいなんて言えないよ。」

そんなことをしたら、父の命を奪った連中と同レベルまで堕ちてしまう。
なにより、自分が許せなくなる。
だが、

「それでもね、ヴィヴィオ…」

まだ伝えたいことはある。
しかし、幼いヴィヴィオにそれを伝えきることできなかった。

「もういいよ!」

ヴィヴィオは泣きながらコンテナの出口まで走っていく。
途中で転んでしまうが、一人で起き上がって再び走り出す。
ユーノも、それを追いかけようとはせずに黙ってイアンと沙慈の隣に並んでコンソールを叩き始める。
沙慈はどう声をかけていいか戸惑うだけだったが、イアンが真っ先に口火を切る。

「きっちり最後まで話してやれよ。」

「わかってる。」

娘にあそこまで言われたにもかかわらず、ユーノは凛とした態度を崩さない。
それは、彼のバックボーンがしっかりしていて、どんな事象にも揺らがないだけの強度を持っているからなのだろう。
そして、ヴィヴィオにもちゃんと自分の考えを伝えることができるという自信があるからだ。

「親父は大変だろう?」

「うん……すごく重いよ。でも、ヴィヴィオにはちゃんと分かってほしいから。」

いつか、ヴィヴィオも一人立ちをする時が来る。
それまでに伝えておきたい。
いくつもの道から一つを選び、その途中にある責任を背負うことの大切さを。
そして、間違っていたとしても自らの心を偽らずに生きていくということを。



アロウズ旗艦

「待ってもらおう。」

旗艦のハンガーまで送り届けられたブシドーは、プルトのパイロットをしている少年に声をかける。
さっさと帰ろうとしていた少年も、その声に込められた気迫にヘルメットをしたままブシドーの方を向く。

「確かに、君の指示に従った結果ガンダムとまみえることができた。だからこそ解せん。なぜ君は彼らの退路がわかった?」

持っていた鞘から刀を抜き、首元に突きつける。

「君は何者だ?なぜ、ソレスタルビーイングの行動を読める?」

仮面の下のブシドーの目から本気であることが分かる。
しかし、少年はバイザーの下でクスリと笑うと言った。

「俺は向こうの戦術予報士のことをよく知ってますからね。ついでに、ガンダム全機のパイロットのことも。」

「……?」

なぜ、それを知っているのかを聞いているのだが、ブシドーはそれよりも耳の奥に残る懐かしい残響に違和感を覚える。
透き通った甘い声がブシドーの記憶の海を泳ぐが、該当するものがなかなか見当たらない。
考え込むブシドーに、少年はさらにおかしそうに笑う。

「相変わらずこういうことを考えるのは苦手なんですね、フラッグファイターさん♪」

「貴様……!?」

「っと、怖い怖い……♪ここらで失礼しますよ。俺の首は相性が良すぎてまだ体と離れたくないそうなんで。」

去っていく少年とその愛機を見届けた後、ようやく刀を鞘に納めるブシドー。
聞き覚えのある声の主については一人、心当たりに当たったがすぐにその可能性を否定する。
なぜなら、彼はあの場でガンダムに乗っていたのだから。










影、その色濃きこと闇夜よりさらに深し
なれど、月はその闇すらもいずれ照らしだす






あとがき・・・・・・・・・・・・・・という名の銀○って面白いよね

ロ「というわけで結局ボロボロなマイスターズな第三十九話でした。」

ユ「相変わらずやりたい放題だな。それに、ヴィヴィオがぐれちゃったじゃないか!!!!どうしてくれんのさ!?」

ロ「だから、これはヴィヴィオがなのはと和解するきっかけ&成長のためのフラグなの。つーかいつまでも一緒にお風呂入れると思うなよ、バカ親父。」

ユ「ヴィヴィオーーーーーーーー!!!!パパはヴィヴィオがどんなにおっきくなってもいつでもお風呂ウェルカムだよーーーーーーー!!!!!

陛下「……それじゃあ、パパは無視して今回のゲストをお呼びします!まず、『F91』より、シーブック・アノーさん。『クロスボーン・ガンダム』よりトビア・アロナクスさん。『Vガンダム』よりウッソ・エヴィンさんです!どうぞ~!」

シーブック(以降 海賊一号)「シーブックだ……その前にシーブックとして出てよかったのか?テロップは隠す気なしだし……」

ロ「だって俺あっちよりそっちの方が好きだし。」

陛下「あっちって?」

ロ「あっちはあっちだ、ナウ。」

海賊一号「だから隠す気ないだろ?」

トビア(以降 海賊三号)「トビアです。若いころのキン……じゃなくて、シーブックさんと共演することになって少し緊張してます。」

海賊一号「だから言うなって……」

海賊三号「というか、二号の人抜かしてよかったんですかね?」

ロ「敵だし余裕ないから却下で。じゃあ、次~。」

ウッソ(以降 新○w)「ウッソです。断じて新○ではない!!!!」

ロ「○楽と銀さんの中の人もでてるんだから問題ないだろ。はい、よろずやかんせ~い。」

○八「完成じゃねぇよ!!!!って、言ってるそばから口調がぁぁぁぁぁ!!!!しかもテロップが08みたいになってるし!!!!」

ロ「オイオイ、他の作品まで巻き込むなよ駄メガネ。」

新○「メガネかけてないから!!!?ついでに駄目でもないから!!?」

ロ「あ~もう。駄メガネが強引に銀○のノリにしたがるので次回予告へゴー。」

○八「好きでやってるみたいに言うな!!!!」

海賊一号「いよいよフィオラがシンへ戻ることに。」

海賊三号「しかし、ファルベルが最後の策を発動する!」

ユ「国か人か、決断を迫られるフィオラ!!」

陛下「その時、エリオお兄ちゃんは!?」

新○「そして、シンの運命は!?」

ロ「では最後に、今回もこのような拙い文を読んでいただきありがとうございます!よろしければご意見、感想、応援をお聞かせください!では、せーの……」

一同「次回をお楽しみに!!」



[18122] 40.それぞれの戦場へ(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/06/25 17:35
ミッドチルダ ギアナ級 医務室

いつぶりだろうか。
こうしてベッドの上で見舞いに来てくれる人を迎えるのは。
素直に喜べないまでも、セルゲイが自分を心配してきてくれたことが嬉しくてついはやてはニコニコ顔になってしまう。

「これからどうするつもりだ?いつまでもここにいるわけにもいかないのだろう?」

「ご心配なく!カレドヴルフから小型の輸送艇を貸してくれるですよ!あと、サリエルとウリエルの強化装備もやっと完成だそうです!」

「そうか……しかし、酷なことをするものだ。まさか、地球へ向かえとはな。」

セルゲイの言葉にはやてはもちろん、さっきまではしゃいでいたリインも気を落とす。
しかし、苦笑交じりではやてが答える。

「しゃあないですよ。こんだけへまやって、おまけに廃艦寸前とはいえ歴戦の戦いを潜り抜けてきたアースラを潰したんですから。降格されへんかったのが不思議なくらいですよ。」

だが、全てがはやての責任というわけではない。
セルゲイの部隊はもちろん、アロウズや他の管理局の部隊もソレスタルビーイングに対しては戦火が芳しくないのだ。
にもかかわらず、はやてたちのみが体のいい左遷と言って差し支えのない西暦2312年の地球への出向。
使用しているMSがガンダムとはいえ、たった三機で地球に送り込まれて戦わされるのだ。
はやてだって、本当は理不尽だと声を大にして叫びたいに違いない。

「まあ、私らはもともとお偉いさんからはごっつ嫌われてましたから。カレドヴルフの依頼を受けるは、作戦の妨害するはでプッツン寸前やったみたいです。」

「恥じる必要はない。むしろ、軍人として私は君たちを尊敬する。」

「ありがとうございます。なんや、セルゲイさんにそう言われると照れます。」

赤くなった顔を人さし指でかくその仕草が、妙に子供っぽくてセルゲイにも笑顔が伝染した。



こうして、セルゲイとはやてのバーナウでの戦いは終わりを告げた。
そう、彼らにとっての戦いは……



魔導戦士ガンダム00 the guardian 40.それぞれの戦場へ(前編)


シン国 城内

旅一座という名目で入ってきたその三人は城の誰もが疑いの視線を向けるほど異常に怪しかった。
全員妙に厚着をしている上に、フードまで被って星柄の色とりどりのマスクをつけてサングラスをかけているのだから仕方がない。
しかも、背丈が一つ飛び抜けている男の背中には何が詰まっているのか、大きく膨れた風呂敷。
旅一座というより、盗賊団と呼ぶ方が適切なのではなかろうか。

しかし、三人を見つけたカイエンはギョッとした表情の後でひきつった笑みを取り繕うと三人を温かく迎え入れた。

「おお、お待ちしていました!では、こちらへ!!」

いそいそと部屋に入れ、カイエンが固く扉を閉じたことを確認した三人は厚着を脱いで中に溜まっていた熱を排出するように大きく息を吐いた。

「プハッ!!もっとまともな変装なかったんですか?」

「フ~!それは私のセリフよ。バックアップ専門なのにこんなところまで連れてこられて……」

文句ばかりを言うエリオとスメラギにユーノは背中の風呂敷を丁寧に下ろしながら溜め息をつく。

「もう……一番苦しかったのはこの子だよ?」

「いえ、かくれんぼみたいで楽しかったですよ。」

風呂敷から出て大きく伸びをするフィオラ。
カイエンはその姿に微笑むと、すぐに膝をついて頭を下げる。
後ろで待機していたジムニーも前に進み出て同じように膝を曲げる。

「フィオラ様、御無事で何よりでございます。」

「我ら、フィオラ様のお帰りを心待ちにしていました。」

「うん。ごめんね、カイエン、ジムニー。僕のせいでこんなことになっちゃって…」

「あら、それは違うわ。どちらかというと、責任の大部分は局の暴走を抑えられなかった私にあるわ。」

腰まで伸びた薄紅の髪の女性は紅茶をテーブルの上において立ちあがると、フィオラへ真っ直ぐ手を差し出す。
抜群のプロポーションのせいでまだ幼い二人の少年は顔を赤くして目を背けるが、フィオラのほうはすぐに為政者としての威厳をもって握手に応じた。

「ミッドチルダ大統領、エヴァンジェリン・リュフトシュタインです。」

「フィオラ・シンです。……と言っても、こんな挨拶は不要かもしれませんね。」

「そうね。あなたのお父様とは親しくさせていただいたし、あなたとも何度か会っているしね。」

間近でのウィンクに再び顔を真っ赤にするフィオラにエヴァンジェリンはクスリと笑うと、今度はスメラギに握手を求める。

「リュフトシュタインです。彼を保護してくださってありがとうございます。」

「ソレスタルビーイングの戦術予報士、コードネーム、スメラギ・李・ノリエガです。私たちは私たちの目的のために行動したまでなので、感謝されることはしていません。」

「それでも、ありがとう。あなたたちのおかげで、彼は助かったわ。」

その言葉にスメラギも手をとって微笑む。
そして、待ちわびていた彼も。

「お久しぶりです、エヴァ。相変わらずお若いままですね。」

「あなたも相変わらずみたいね、ユーノ。」

「ええ。ハイネに誘われてあなたの政策をメタメタに叩きのめした時から何にも。」

苦い思い出を持ち出すユーノに苦笑いするエヴァは、同じように苦笑いするスメラギ達の方を向いて話を切り出す。

「バーナウ各国との不戦条約の締結は済みました。残るはシンだけなのですが、協力していただけませんでしょうか?」

(また独断で動いたんですか……バッシングが酷くなっても知りませんよ?)

行動力を褒めるべきか、それとも後先考えない無鉄砲さをたしなめるべきか悩むユーノだが、フィオラはパッと明るい顔で両手を広げる。

「もちろん。これですべてが丸く収まるのなら、僕は喜んで…」

「お待ちください、フィオラ様。」

誰もが今回の一件の解決を確信した時、ジムニーが厳しい顔つきで前に進み出る。

「大統領、貴殿は今回の一件を自らの力不足とお認めになっていたな。」

「ええ。」

ジムニーの怒りに満ちた声にエヴァ、そしてこの部屋に介している全員の緊張感が増していく。

「ならば、それ相応の対応があってしかるべきなのではないか?この条約にはそういったものが一切見受けられないぞ?」

「正式な謝罪は後日改めて行います。今はバーナウの情勢安定に全力を尽くすべきだと判断し、そこは簡略化させていただきました。お気に障ったのなら、この場を借りて謝らせてください。」

「謝る?よくもそんな言葉だけで済ませてくれたものだ!俺たちの国はお前たちのおかげで権力にしがみつく豚どもの食い物にされかけた!!それがすまなかったの一言で終わりだと!?」

「ジムニー!!もう…」

「いいえ、黙りません!!耳聞こえのいいお題目をかざし、軍備増強と強権的な外交で他国をむさぼる!!それが今の貴様たちのやり方だろう!!」

「ジムニー!!いい加減にするんだ!!リュフトシュタイン大統領はそれを何とかしようと努力されているんだ!!」

「そうですぞ!こうして警護の一人もつけずにやってきた大統領にいささか失礼ではないですかな!?」

「執政官!!礼はタダだ!!そんなものを信用するほど俺はお人好しではない!!」

「なんと……!!ジムニー殿!!言葉が過ぎますぞ!!」

「口八丁で国を惑わす貴様が言えたことか!!」

珍しくカイエンも声を荒げる。
ユーノも仲裁に入ろうとするが、混沌とした言い争いは割って入ろうとする隙を与えようとしない。
だが、

〈Anfang!!〉



ドンッッッ!!!!!



雷が落ちたような音に、全員がそちらを向く。
フィオラの前に立っていたエリオがストラーダを床に突き刺し、怒り狂う雷神のように赤い髪を逆立てて電撃を放出している。

「……この国を治めているのはフィオラのはずだ。勝手にフィオラ抜きで話を進めるな……!!」

自分たちよりも小さいエリオの一喝に、思わずごくりと唾を飲み込んで体を硬直させる。
しかし、ジムニーは気を取り直すと今度はエリオに喰ってかかる。

「なんだ貴様は!?誰がこんな子供を呼んだ!?」

「僕だよ。」

ジムニーが目を見開く。
カイエンも信じられないといった表情をする。
しかし、フィオラとエリオは顔を見合わせてニッコリと笑うと、はっきりと言い切った。

「僕は、フィオラの友達だ。」

「僕が頼んでついてきてもらったんだ。僕だけじゃ、何かと不安だったからね。」

フィオラの公認とあっては、それ以上文句を言えないのかジムニーは唸りながら黙ってしまう。
一方、カイエンの方は目を白黒させながらエリオを隅々まで見ていたが、ふいに柔らかな笑みを浮かべてエリオの前で屈んで一礼する。

「失礼をお許しください。知らぬこととはいえ、フィオラ様のご友人を辱めてしまい、申し訳ありません。」

「え!?い、いえ!!僕の方こそ、偉そうなこと言っちゃってスイマセン……」

最初の気迫はどこへやら。
ワタワタ慌てるエリオの体からはすでに電撃が消え、子供らしいはにかんだ表情がよく似合っている。

「……あなたのような方がフィオラ様の友人になってくれてよかった。」

「え?」

「いえ、なんでもありません。それより、確かに彼の言うとおり、我々だけで議論をしても始まらぬ。一晩間をおいて、頭が冷えたところで条約調印の討議に入るというのはいかがかな?フィオラ様も考えをまとめる時間が欲しいでしょう?」

「それはそうだけど……急がなくていいの?」

「急ぐばかりが能ではありません。時間をかけてこそ見える物もあります。ジムニー殿もそれでよろしいですな?」

「……いいだろう。では、これにて。」

「ジムニー!」

ジムニーが退出しようとするが、フィオラがそれを呼びとめる。

「明日もジムニーの意見を聞かせてほしい。みんなで決めてこそ、意味があるんだ。」

「……承知しております。」

そう言って去っていくジムニーの背中を不安げに見送るフィオラ。
そんな暗い空気を一掃するようにカイエンが大きな声で話しだす。

「では、御三方も今日はここに泊まっていかれてはいかがですかな?」

「え!?」

「お気持ちは嬉しいですが、私たちには他にもやるべきことが……」

「あら?今回の一件はあなたたちにもかかわりがあることでしょう。最後まで見届けるのが義務ではなくて?」

エヴァの言葉にスメラギはユーノの方を見るが、ユーノも苦笑しながら手を上げる。

「わかりましたよ。そのかわり、僕たちは意見するつもりはないのであしからず。」

「ひょっとしたら戦いの火種になるようなものもあるかもしれないわよ?」

「その時は行動で示しますよ。僕らはソレスタルビーイングですから。」

頼もしいような恐ろしいようなその言葉に、一同苦笑いを禁じ得なかった。



アルデバラン

「やれやれ、大統領にも困ったものだ。大人しく飾りになっていればいいものを。」

そういうファルベルだが、焦る様子は微塵もない。
このまま停戦協定と条約が結ばれれば、バーナウの人間をコロニー開発へ回すことは難しくなるのに、驚くほど落ち着いている。

「根回しはすでに完了している。札束で動く俗物どもだが、こういうときには役に立つ。」

ファルベルはミッドへと回線を繋ぎ、待機していた部下に指示を出す。

「私だ。例の法案を可決まで持ち込め。」

『ハッ!』

「よし……これでいい。悪いが、ここでスペースコロニーやメメントモリのデータが手に入らないのでは話にならないのだよ。未来のための礎になってくれたまえ、バーナウの諸君。」



シン国 城内 客室

「どう思います?」

エヴァのその問いに相部屋になったスメラギは下着姿のまま着替えを中断して向かいあうようにベッドに腰掛ける。

「このままシンとの交渉が上手く行けば、バーナウを管理局が支配下に置くことはなくなるでしょう。ですが、そもそもファルベル准将がなぜこの世界……いえ、ここまで辺境世界の支配を急ぐのか……それが気がかりなのです。」

「ファルベル・ブリング准将……今の時空管理局における実質的な最高権力者でしたね。」

「ええ。彼は辺境世界の発展のために地球連邦が来た世界へと向かわせて技術の習得をさせると言っていますが、あなた方の話を聞いているとどうにもそれだけだとは思えないのです。」

確かに、劣悪な宇宙環境でのコロニーやその他もろもろの施設の建造は危険も伴う。
しかも、労働環境が不完全なものも少なくない。
事実、それが原因で作業員の数が集まらず、地球でも犯罪者の強制労働を投入してもまだ人手が足りないくらいなのだ。
そんな場所へ技術習得に向かわせるなど非現実的だ。

「そうですね……それに、ここしばらく彼らが動きを見せていないのも気がかりです。まるで、何かを待っているみたい。」

その何かがなんなのかはわからないが、少なくともいいものであるはずがないことは確かだ。
特に、あの二人にとっては。

「守ってあげたいわね、あの二人だけは。」

「ええ……大人の起こした戦争に、子供を巻き込むなんてあってはならないですから。」



フィオラの自室

人という存在は、特に子供はどうやら広い空間に放り込まれると落ち着かないようだ。
だだっ広い部屋に招かれ、ひどくそわそわとしてしまうエリオに机に向かっていたフィオラはクスリと笑う。

「そんなに緊張しなくていいよ。こうやって友達を部屋に連れて来たかったんだ!」

「いや、落ち着けと言われても、僕には分不相応というか、場違いというか……それに、下手に動くとこれが崩れそうで怖いよ……」

エリオがそう言ってゆっくりと視線を向けた先に会ったのは山、否、もはや壁と化して広い部屋の半分を席捲している本たち。
部屋に入って座っている椅子に着くまでに歩く振動で揺れていたそれは今にも崩れてきそうだ。

「ああ、別にいいよ。また片づければいいから。」

「いやいや、その前にそれに潰されたら死んじゃわないかな?それがすごく心配なんだけど?」

「大丈夫だよ。父上も昔死にかけたけど生きてたから。あとお爺様も。」

「それ大丈夫じゃないよね!?ていうかこの国の王族みんなの通過儀礼か何かなの!?」

〈ツッコミたい気持ちはわかるが、怒鳴ると崩れるぞ。〉

ストラーダの言葉に冷や汗交じりで溜め息をつくと、エリオは改めて積まれた本を眺める。

「これ全部読んだの?」

「途中のもたくさんあるけどね。でも、父上に少しでも早く追いつきたくて必死に勉強中さ。」

「……本当に、お父さんのことが好きなんだね。」

「うん!父上は本当にすごい人だよ!僕の一番尊敬する人さ!!」

十歳ではけして楽ではないであろう国を動かすための学習を嬉しそうにしているフィオラの根底にあるものはそれだろう。
尊敬していた父に追いつきたい。
そして、父のようにこの国を支えようという一心でこれまでやってきたのだろう。

「エリオのお父さんはどんな人なの?」

「え?」

嬉しそうに話すフィオラにエリオの笑顔が凍りつく。

エリオにとっての家族は、仮初ものでしかなかった。
両親が息子を失った喪失感を埋めるためにエリオを生みだし、そして違法研究の結果だとして引き離された後は助けようともしなかった。
どうしようもなかったのかもしれない。
フェイトに救い出された後は自分にそう言い聞かせたが、未だに会いにすら来ない両親を尊敬などできるだろうか。
むしろ、会ったら殴りかかってしまうかもしれない。

キャロやフェイトにすら打ち明けたことのない自分のドス黒い部分。
できることなら人にさらすことなくしまっておきたかったのだが、フィオラに対してはそれができなかった。

「僕は……実の両親が大嫌いだ。この世で、なにより憎んでいる。」

気が緩んでいたからではない。
父親の自慢話をするフィオラをなじろうと思ったからでもない。
ただ、フィオラの前で自分を偽るようなことをしたくなかった。

最初は面喰っていたフィオラだったが、エリオから事情を聞いていくほどにその表情は張り詰めたものになっていった。

「……そっか。ごめんね、無神経なこと聞いちゃって。」

「いいよ。僕の方こそ、嫌なこと聞かせてごめん。」

「ううん。」

フィオラが首を横に振る。

「エリオが、言いたくなかったことを聞かせてくれて、僕は嬉しかった。こんな僕でも友達の力になれるんだって思ったら、なんだか嬉しかった。」

「フィオラ……」

「エリオ……僕はね、本当は全然自信が無いんだ。こんな若い僕が国を引っ張っていくなんて無理なんじゃないかって……誰も僕のことを王として認めてくれないし、いっそカイエンやジムニーに任せたほうが正しいんじゃないかって思ってたんだ。だけど、エリオは僕のことを認めてくれた。この国としっかりと向き合う勇気をくれたんだ。」

「そんな、僕はただ思った事を言っただけだよ。」

赤い顔で照れ隠しをするエリオをクスクスと笑うフィオラ。

「エリオ。僕が助けてあげられることがあったら何でも言って。だから、僕がまたピンチになったら勇気を分けてくれる?」

「うん!助けに行くよ!どんなことがあっても!!」



小さな、ほんのささいな約束。
しかし、世界はそんな少年たちの心を何の躊躇もなく踏みにじった。



翌日 城内 客室


ピピピピッ!!!


「……ふあ?」

その音に真っ先に目覚めたのはユーノだった。
手探りでサングラスを床に落としながらも、机の上にあった端末を手にとる。

「……目覚ましなんてセットしてたっけ?」

『寝ボケるのは後だよ!!今すぐニュースを見て!!』

「沙慈……?ニュースなら後で間にあってるよ……」

『そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだよ!!とにかくこれを見て!!』

モニター越しに見せてきた映像にユーノの眠気も一気に吹き飛ぶ。
沙慈がまだなにか言っているのも聞かずに寝ているエリオの上に端末を放り出して廊下に転がり出る。
城内も慌ただしい空気に包まれているが、ランニングシャツ姿のままスメラギ達の部屋の中へと突入する。

「ス、スメラギさん!!大変です!!」

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!?ノックくらいしてよ!!?」

下着姿で目覚めたスメラギは慌てて隠すべきところを隠すが、ユーノはそんなものに目がいかないほど動揺していた。

「そんなことはどうでもいいからニュース!!ニュースを見てください!!」

ユーノの大声にエヴァも目を覚まし、なにごとかと思いながらスメラギがつけたテレビに視線を向ける。
すると、

『先日、ミッドチルダ議会は経済的に困窮している世界に対する技術習得のための法案。多元世界協調推進法を可決しました。これにより、辺境世界の人々は新たに発見された第97管理外世界で職を得られると同時に、宇宙開発の技術を学ぶことになります。これは、多元世界の発展に大きく貢献し……』

「なによこれ……!?どういうこと!?」

「僕もさっき沙慈に言われて飛び起きたんです。しかも、極めつけが残ってます。」

いつの間にかやってきていたエリオも画面にくぎ付けになる。
そして、四人は次のアナウンサーの言葉に声をなくした。

『なお、今回の法案は多元世界全体の治安維持も目的としており、管理局は現在、私設武装組織、ソレスタルビーイングを援助している第76管理世界・バーナウのシン国をテロリスト幇助国と認定。一時的に管理下に置き、現体制を排除した後に再編を行うとの決定を表明しました。』

「シンがテロリスト幇助国!?なんでそんなバカなこと…」

「やられたわね。」

激昂するエリオに対し、スメラギは苦い顔をしながらも冷静に流れている映像を見つめる。
ガンダムの戦闘が放送されているが、シンの防衛シーンのみを強調され、さらにシンの魔導士が攻撃魔法を使っている場面をまるでガンダムを援護しているように編集している。
当事者ならば、すぐに嘘だとばれるのだろうが、これを見ているほとんどの人々はシンにはいない。
間違いなく、この報道を鵜呑みにするだろう。

「あのジジィ……やってくれるわね。」

ギリギリと歯ぎしりをしながら、すでに露わになりつつある素を出すまいと必死にこらえるエヴァだったが、すでにシーツがビリビリと音をたてながら破れるほど手に力を込めてしまっている。
スメラギも自分たちの介入を政治の道具として扱われた屈辱感で静かに怒りを燃やしていた。

「ユーノ、トレミーは動ける?」

「刹那さんたちはもうすでにこちらへ移動を開始しています。ガンダム各機はユーノさんのクルセイドを除いてはいつでも出れます。エウクレイデスは反対方向に回り込んで万が一の時の退路の確保だそうです。ただ……」

ユーノの代わりに端末を持ってきたエリオの顔が脂汗とともに苦しげに歪む。

「すでにシンは包囲され、MS部隊も展開されています。魔導士が城下町に入ってくるのも時間の問題です。」

「本当に最悪の状況だね……いっそ、大統領閣下を人質にして籠城戦でもしてみる?」

『なお、単独でシンへと交渉へ向かわれたリュフトシュタイン大統領の救出は最優先で行うとされ、そのためにはAAAランク以上の魔導士の投入も辞さないとのことです。』

「……火に油を注ぐことになりそうだからやめておいた方が賢明ね。」

本人のひきつった笑みにユーノも冷や汗まみれの顔をブンブンと縦に動かす。
だが、当面の問題は管理局よりもこの城内にいる人間たちだろう。

「武器を捨てて両手を頭の後ろに組め。」

扉を蹴破って入ってきたジムニーの方を向いて、やはりといった顔で仕方なく言うとおりにする一同。
だが、

「…………………………」

「…………………………」

「……せめて服は着替えさせてくれませんか?」

「……許可しよう。」

監視付きではあるが、その後四人とも普段着に着替えて会議室へと連れられていくことになった。



会議室

集まった人間の視線は約四人分を覗いて一点に集中していた。
デバイスや武器類を取り上げられ、広く出回っている杖型のストレージや剣型のアームドデバイスに囲まれて座る彼らは、それでも毅然とした態度を崩そうとしなかった。

「よくもぬけぬけとここに来られたものだ……!!この売女が!!」

(私ってそんなに安い女じゃないんだけどな~……)

禿げた老人の罵りをさらりと受け流し、エヴァは口を開く。

「今回の法案は水面下で進められていました。私はシンと本当の意味での協調を望んでここにきたことも真実です。ですが、今回の一連の騒動を把握しきれなかったのは私の力不足でした。申し訳ありません。」

「では、少なからず責任はあると?」

「はい。この場で命を奪われても文句を言えない程度には。」

部屋全体をどよめきが包み込む。
殺したければ殺せと公言したようなものなのだから、当然であろう。
しかし、責めはしたもののこの状況でそんなことをする度胸がある人間はいなかった。
ある一人を除いては。

「ジムニー。」

「ハッ!」

エヴァの後ろに控えていたジムニーがフィオラへ返事をする。
フィオラは昨晩エリオと会話を弾ませていた時のような子供らしさは一片たりともなく、なりは小さくとも王としての風格を湛えた、一人の漢として堂々とたたずんでいた。

「言葉通り、彼女には責任を取っていただこう。」

「御意。」

「ちょ……!!」

周囲にいた議会の重鎮たちと同様に、エリオは慌てて立とうとするが、それよりも早くジムニーの持つ分厚い刃がエヴァの首筋へと振り下ろされる。
しかし、その刃は髪を数本斬り落とす程度で止まり、エヴァ自身も目を見開いたまま身じろぎひとつしていなかった。

「閣下には死への恐怖を以て責任を取っていただいた。異論はないな?」

有無を言わさぬその言葉に、ざわめきもピタリとおさまり、渋々ながらも全員それ以上エヴァへの追及を行う者はいなかった。

(……やっぱり、震えているな。)

肩がかすかに震えているのをユーノは見逃さない。
おそらく、あの一瞬で肝を冷やしたのはフィオラのはずだ。
ジムニーがフィオラの意思を汲み取りきれていなかったら、いや、むしろ汲みとっていたとしてもジムニーがそれに反した行動をとっていた可能性の方が高い。
そのプレッシャーを、あの小さな体と心で受け止めたのだ。
少なからず緊張の糸が緩んでしまった兆候が出てもおかしくはない。

(あんたら気がつかないのかよ……その子は限界以上に耐えてるんだぞ?)

ギュッと握った拳が熱い。
叶うなら、ここで泣きだしても誰も責めはしないと伝えたい。
しかし、そんなことをすればフィオラの努力は水泡に帰す。
何とも歯痒いことだ。

「では、続いてソレスタルビーイングについてだが…」

ジレンマに苦しむユーノ、そしてスメラギとエリオに責任追及の矛先が向く。

「我々はあなた方と協力関係にあるわけではない。」

「ええ。」

「そして、むしろあなた方にとって我々は攻撃の対象になりうる可能性があった。」

「その通りです。」

「ならば教えてくれないかね?その我々がなぜソレスタルビーイングのせいでテロ幇助国家のレッテルを貼られなければならんのだね?」

新たになじる対象ができたことで再びいやらしい笑みが四人を取り囲むが、後ろに立つジムニーの鋭い視線にそれは瞬く間に消える。
スメラギは低レベルな連中に溜め息を一つ吐くと、気を取り直して話し始める。

「我々がこの国……というよりも、“あなた方”への介入を考えていたのはそれが原因で内戦が始まるのではないかと推測したからです。失礼ですが、議会と軍部の対立は多元世界に来たばかりの我々の耳に入るほど知れ渡っています。そして、それが原因で国勢が不安定なことも。無礼を承知でも言わせていただけるなら、内戦まで発展していないことが不思議なほどです。いっそ、原因である皆様を排除した方がよいのではないかと思うほどに。」

「それは違います。」

一斉に怒りの声を上げようとした議員たちに代わり、フィオラが穏やかにスメラギの言葉を否定する。

「全ては私の未熟さ故……この場にいる者たちの中で、この議論に参加する資格を持たぬ人間は誰一人いません。少なくとも私は、そう考えています。」

フィオラの言葉に怒りをおさめ、むしろ我が身かわいさに声を上げようとしたことを恥じる議員たち。
以前までのフィオラと違い、堂々とした振る舞いをする彼の影響力はそれほどまでに強力なものになっていた。

「……失言でした。お許しください。」

「いえ、お気になさらずに。しかし、私どもが協力していると思われるのは、どの国家、思想にも与しないという信条を掲げるあなた方にとってもよろしくはないでしょう。」

「ですが、ここで退けば私たちの存在意義そのものが揺らぎます。」

「待っていだきたい。」

スメラギとフィオラの話にカイエンが割って入る。

「いま議論すべきなのは互いの事情について話し合うことではなく、どうやってこの危機を乗り越えるべきかではないですかな?ソレスタルビーイングの皆様はどうにかしてお仲間の下へと戻りたい。そして、我々は我らの祖国をどう守るかということが最優先の課題のはずであり、そのために目指すべき方向は同じであるはずです。どうか、今は互いの譲れぬ部分はおいて討議を行ってもらいたい。」

カイエンのその言葉に急に静まり返る会議室。
彼の言ったことはあまりにも的確で、そしてあまりにも難しい問題だ。
スメラギ達は一刻も早くここから立ち去りたい。
かと言って、城からこのまま大手を振って出ていけばこの国の立場が危うくなる。
それに、どちらにしろこのままでは再編の名目のもとにシンは管理局に乗っ取られる。
最悪、幼いフィオラを含めてこの国の為政者や軍隊は投獄、もしくは電気椅子へまっしぐらだ。

「……報いなのかもしれませんなぁ。」

一人がポツリとつぶやく。
すると、それに呼応するように諦めの混じった笑いで続々と言葉が漏れていく。

「そうだな……我らは先代に頼り切り、そしてフィオラ様の御意志を蔑ろにし続けてきた。これはその報いなのかもしれん。」

「ああ。わしらはもう長くこの場にとどまりすぎた。これを機会に、鉄格子の向こうで隠居生活も悪くない。」

「みんな……」

普段はバラバラだった意思が一つにまとまっていく。
皮肉にも、存亡の危機に立たされて初めて、意見が一致した。
そして、今とるべき選択も。

「……戦術予報士殿。」

「なにか?」

カイエンの覚悟のこもった声。
そして、彼を含む全ての人間の顔つきでただならぬ空気を感じ取る。

「……フィオラ様を連れて逃げていただきたい。」

「カイエン!?」

フィオラが目を丸くして跳び上がる。
しかし、カイエンはフッとフィオラに笑いかけるとスメラギに鋭い視線を向ける。

「フィオラ様さえ無事ならば、この国は何度でもよみがえることができる……この要求が呑めないならば、この場で我々と運命を共にしていただくことになる。よろしいかな?」

「カイエン!!何を言っているんだ!!私はこの国からは…」

「……彼を預けるアテはあるのですか?」

「ルヴェラに分家の方がおられます。公には知られておりませんので、そこで身をひそめていればどうにかなるかと。」

「カイエン、聞け!!王として僕は…」

「フィオラ様。」

カイエンがフィオラを睨む。

「王ならば、今は何を為すべきかわかるはずです。」

静かだが、重い一喝。
フィオラはヘナヘナと椅子の上に座り込み、途方に暮れた様子で俯く。

「……今日のフィオラ様の振る舞いとお言葉。我らにはなによりの恩賞となりました。」

「カイエン……!!みんな……!!」

「……どうか、御達者で。」

次の瞬間、城が大きく揺れる。
ユーノとエリオはジムニーの方を向くと同時にD・クルセイドとストラーダを受け取り、即座にセットアップする。
スメラギはというと、泣き崩れるフィオラを支えて立たせると、エヴァとともにユーノの後に続く。

(……フィオラ様を頼む。)

(了解。そっちも、あんまり無理はしないでください。)

念話でジムニーと最後の言葉をかわすと、ユーノは一直線に裏口へのルートを駆け抜ける。
しかし、そうはさせまいと窓から次々に管理局指定のバリアジャケットに身を包んだ魔導士たちが飛び込んできた。
だが、

「人の家に土足で踏み込むもんじゃないよ!!」

〈Accel smash!!〉

不規則に加速する拳で顎を撃ち抜かれ、壁ごと窓があった場所を突き抜けて魔導士が放り出される。
それを見て尻込みしたのか、杖を構えたままじりじりと後ろへ距離を取ろうとする局員たちだったが、すでに次の一手が後ろから猛突進を仕掛けて来ていた。

「遅い!!」

ユーノが屈むと同時にその上を跳びこして残っていた局員へとストラーダごと突き抜ける。
稲妻を纏った旋風は床すらも削り取って眼前に立ちふさがるものを薙ぎ払う。
その姿はまさしく雷神。
風と共に嵐を呼び、荒れ狂いながら自らの怒りを地に伏す者へとぶつける神そのものだった。
だが、忘れてはいけない。

「!?」

「ヤバッ!!」

雷神と呼ばれる迅さと雷を携えているのは彼だけではないのだ。

突如として止まったエリオへと振り抜かれる金色の大剣。
非殺傷設定とはいえ、ユーノが間に入ってプロテクションで受け止めていなければ、間違いなく戦闘不能に追い込まれていただろう。

「愛の鞭にしちゃ厳しすぎるんじゃない?いつからスパルタに鞍替えしたのさ。」

「こういう時どうしていいかわからないんだ。こうする以外ね!!」

雷撃とともに後ろへ飛ばされるユーノだったが、鋭い笑みは消さずに漆黒のマントを羽織るフェイトへライフルを発射する。
プロテクションで防いだフェイトだったが、その隙にスメラギを背中に、そしてフィオラを両手で抱きかかえたエリオが脇を通り抜けようとする。
だが、今度は天井を突き破って登場した巨体がそれを許さない。

「アハハ……見~つけた♪」

「グッ!!?」

「わあっ!!」

「きゃあっ!!」

二人は足元から強引に向こうへと放り投げられて事なきを得るが、エリオは巨大な足を両手で必死に押し返していた。

「探したよ、エリオ君。さ、一緒に帰ろう♪」

「キャ…ロ……グッ!!」

フリードの圧力がさらに強まる。
すでに床にはエリオの足形がくっきりと刻まれ、いつ下の階へ突き抜けてもおかしくない状況だ。
だが、いくら相手が家族と差し支えのない存在だとはいえ、ここまでされて黙っているほど今のエリオは甘ったれではない。

「う……おおおおおおおおおオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」

〈Plasma bunker!!〉

フリードに劣らないほどの咆哮と同時に電撃の杭が白い飛竜の足の裏を貫く。
痛みからさらに甲高い声で鳴くフリードだが、エリオはさらにグッと屈んで力をためると、渾身の力を込めて天高く拳を突き上げた。

「紫電……一閃!!!!」

激しい衝撃がフリードの脳天を突き抜ける。
通常の爬虫類より発達した脳が頭蓋の中で上に下にと激しくシェイクされ、さらに電撃も加わって何が何だかわからないうちにフリードは倒れて泡を吹いていた。

(た…おせた……!!)

ラッセと刹那から教わった肉体的に自分より有利な相手との戦い方。
初手、もしくは不意打ちでひるませ、できることなら反撃をもらう前に三撃以内に片をつける。
二人もまさか竜を相手に実践されるとは思っていなかっただろうが、少なくともエリオの助けになったことは揺るぎようのない事実である。

感慨にふけっていエリオだったが、廊下の先で腰を抜かしていた二人に気付くと声を張り上げる。

「先に行って!!!!」

たちあがった二人はその言葉に背中を押されて一目散に駆けだす。
キャロが基本的な射撃魔法でそれを狙うが、すぐにその前に出たエリオはストラーダを床にこすり合わせて塵と瓦礫で簡単な煙幕を張る。
すぐに晴れた煙幕の向こうにキャロの姿を確認したエリオは憂鬱な気分になるが、それでもカートリッジを一発排出して一気にブーストをかける。

(フルバックのキャロにはもう対抗する手段は残されていないはず。一撃でダウンさせてユーノさんの応援に…)

「アハハハ……すごいよエリオ君。まさかフリードをやっつけちゃうなんて。流石だね。」

(……?)

追い込んでいるのはこちらなのに、キャロは余裕がある。
いや、それ以上になにか不気味なものがある。

「それに比べて……フリードってこんなに弱かったの?役立たず。」

「なっ……!?」

エリオは、目の前の光景が信じられなかった。
気絶しているフリードの頭を、キャロはまるでサッカーボールを蹴るように爪先で何度も小突く。
暗い笑顔で、何度も。
フリードが苦痛に呻こうと、何度でも。
周りに、大切な友達だと言ってはばからなかった彼を、何度も。

フェイトはユーノと戦闘に集中しているせいで気がつかないようだが、エリオは確信した。
今のキャロは絶対におかしい。
何もかもが狂っている。

「やめろ!!!!」

ギリギリと歯軋りをしながらエリオが叫んだ。
ユーノとフェイトの剣戟でかき消されそうになるが、それでも目の前にいたキャロにだけは届いていた。

「……どうしたの?おっきな声出しちゃって。」

「フリードは君のために戦ったんだよ!?心配じゃないのか!!?」

「こんなのにしたのはエリオ君でしょ。」

「そうだけど……!!けど、敵であっても戦って倒れた者を侮辱するような仕打ちを、僕は絶対に許さない!!」

「何をそんなに怒ってるの?訳がわからないよ。」

「訳がわからない!?それはこっちのセリフだ!!キャロは言ってたじゃないか!!フリードは友達だって!!今していることがキャロにとって傷ついた友達にすることなの!!?」

思いの丈を全てぶつけたエリオは息を切らせながらキャロの方を見る。
すると、ポカンとしていた彼女の顔に、あの日と何も変わらない笑顔が浮かぶ。

「フリードは私の友達だよ。」

その言葉に、エリオも抱いていた疑念すらも忘れて微笑みを返す。
だが、彼のなかにあったわずかな希望は次の言葉で脆くも打ち砕かれた。

「私の役に立っているうちはね。」

「……え?」

急に、周りの気温が下がっていく気がする。
戦闘中なのだから、熱くなっていくはずなのにどんどん体が芯から冷えていく。

「やられたらただのゴミだよ。」

目の前がグニャリと歪む。
頬を何かが伝っていくが、視界はどんどん歪んでいく。

「やっつけた人もみんなそう。負けたら、生きてる価値なんてないんだよ?」

心の中で、昔の彼女の姿を思い浮かべようとするが、どれほど頑張っても記憶の海から引き揚げることができず、重りでもついているように水底へと深く、深く消えていく。

「だから、気にすることなんてないんだよ?それに、どうせ召喚獣なんだから。」

キャロとの思い出が、ステンドグラスが割れるように粉々に砕けていく。
それが美しかったことだけを示すように、キラキラ輝きながら色つきの砂へと変わっていく。

そして、改めて目の前にいる狂った少女を見る。
もう、自分の知るキャロ・ル・ルシエがこの世にいないという現実が嘘であってほしいと心から願いながら。

「う……!!ああぁ……!!!!」

膝から崩れるエリオ。
あふれる涙で床に残されていた絨毯の色が濃くなる。
もう、それだけしか見ることができないほど、エリオの心は完全に折れてしまっていた。

「どうしたの?ああ、悪いことしてたってやっとわかってくれたの?いいよ、別に。私はエリオ君のこと大好きだから、特別に許してあげる♥」

キャッキャッとはしゃぐキャロ。
その耳障りな声を聞いていたエリオの心に、ドス黒い衝動が奔る。

「笑うな……!!」

「?」

「君は……お前は、キャロじゃない…!!!!」

「何言ってるの?」

「黙れと言った……!!!!」

大気が震えるほどの雷撃が廊下を埋め尽くし、フリードがあけた穴からも外へ漏れだす。
激しく打ち合っていたユーノとフェイトもようやく異変に気がつき、そちらを見て全身から汗が噴き出す。

完全に髪が天をつき、フェイトの全力での放電すらも軽く上回る威力の電撃がエリオを中心に発生している。
途切れることのない涙を流し続ける瞳には憤怒しか宿っておらず、皮肉にも六課にいたころに強化されていたおかげでストラーダもその憤怒によって生み出された膨大な雷を見事に受け止めていた。

〈Kill mode on〉

「それ以上、キャロを汚すな……!!!!キャロの姿で存在するな……!!!!僕の前に…立つな!!!!!!」

その場でストラーダを突きだしただけで雷撃が刃となってキャロへと襲いかかる。
しかし、キャロはその一撃が自分をかすめるだけだとわかっていたのか、動こうともせずに笑顔のままやりすごした。

「そっか……まだわからないんだね。じゃあ、仕方ないか。」

〈Fefnir fang〉

ゴウッという音とともに、エリオのすぐ横を何かが高速で通り過ぎて頬に傷をつける。
しかし、エリオもさして気には止めずに冷たい目でその傷を一瞥した後、知覚することもできないほどの速さでキャロに近づくと首筋を掴んで外へと放り投げる。
そして、それでもなお余裕の笑みを消さない彼女へと突進して自らも外へと跳び出していった。

「エリオ!!」

「キャロ!!」

ユーノとフェイトも二人を追いかけようとするが、ユーノの前には突然小さな影とそれに不釣り合いなほど大きい金属の塊が現れる。

「ガッ!!!!」

頭蓋が砕け、首がねじ切れたのではないかと思えるほどの一撃で頭から床に突っ込むユーノ。
頭から流れる血で赤に染まり、さらにはグラグラ揺れ始める視界にここから離れていくフェイトと巨大なハンマーを肩に担ぐ少女の他に、見覚えのある男が伝説上の剣と同じ名を持つ杖を構えてこちらを見下ろしている。

「っ……ハッ…ハハ……珍しく前線に出てきたと思えば……相変わらず、人を見下すのが好きな奴だな。」

「そんなことをした覚えは一度もない。単なる僻みだろう。」

なんとか立ったが、よろけて壁にもたれかかってしまうほどのダメージはそう簡単に消えない。
そんな自分とは対照的に、無傷で雄々しい親友を見上げて、もう何度も考えてきたことを再び考えてしまう。

どうして、こうなってしまったのだろうか?

「……教えてくれ。なぜ……こうなってしまった。」

クロノ・ハラオウンからの動揺の問いかけに悲しげに笑い、アームドシールドを杖がわりに壁から離れると答える。

「僕は犯罪者、そっちは正義の味方……そういうことなんだろう。」

「正義の味方、か……この国の人間にしたら、お前たちの方がそうなんじゃないのか?」

「違うね。人殺しとそうじゃない奴……どっちが悪人か子供でもわかるさ。」

「そうか。」

クロノを中心に、いつの間にか光の刃が隊列を組んでユーノへと狙いをつけている。

「投降しろ。これ以上は無意味だ。」

「意味のないことなんかこの世にはない。行動することにこそ意味がある……ユーノ先生から提督へ送る格言だよ。」

「……ありがたく受け取っておこう、司書長。」

悲痛な顔でデュランダルを高らかに掲げるクロノ。
そして、

「…………すまない。」

小さくそう呟いた次の瞬間には無数の刃がユーノへと殺到していく。
プロテクションを張るが、気休めにもならないことは自分でもよくわかっている。
それなのに、潔く運命を受け入れられないあたり人間が小さいというか、臆病というか、どうにもしまらないなとユーノは自嘲する。
しかし、運命はまだ彼を見離していなかった。

「アリオス!!!!」

〈Shoulder shield・Twin!!〉

クロノとヴィータの間を超高速で通り抜けたオレンジの翼は、ユーノの前まで来るとすぐさま両肩の装甲を開いて前方へと展開。
そして、力場を形成するとスティンガーブレイドの雨を力強く受け止めた。

「大丈夫?」

見るからにボロボロな自分にそう聞いてくる彼女がおかしくて、ユーノはついつい笑ってしまう。

「……ええ。今すぐミイラ男になれるくらい元気ですよ、マリーさん。」

「?そう、なら大丈夫だね。」

ユーノの皮肉を皮肉と受け取れなかったマリーにさらに苦笑し、ユーノも右腕の刃をクロノたちへと突きつけた。



外壁部

「まったく、無茶をしてくれるよ。」

ツインビームライフルの先、それも銃口ではなくその上から煙を立ち上らせながらアレルヤはぼやく。
いつの間にかこんな改造を施していたジェイルもそうだが、それを頼んだマリーとフェルトも十分にいかれている。

「これからあの二人はドクターとはあんまり一緒にさせない方がいいかも。」

自分の精神衛生を健全に保つため、そしてガンダムにこれ以上妙なことをされないためにもそうしようと一人うなずくアレルヤ。
だが、その前に周りにいる雑魚を黙らせるのが先決だ。

「アリオス、作戦を再開する!!」

後ろから忍び寄ってきていたジンクスの頭を振りかえらずにビームサーベルで串刺しにし、そのまま別の機体へツインビームライフルを発射して撃墜する。
シンへと向かった三人を助けようと息巻いてやってきたのはいいが、スメラギからろくに支持も受けていなければ戦術もへったくれもないのでできることなら早急に救出して良い手を授けてもらわないとこっちが危うい。

『アレルヤ!こっちも今からフェルトを“飛ばす”!!援護を頼む!!』

「了解!!」

スナイパーライフルを城へと向けて額のカメラで狙いを定めるケルディム。
しかし、その目的はビームを撃ちこむことではなく、ライフルの銃身の上に装備された小型のリニアカタパルトに体を固定したフェルトを撃ち出すことだ。

「フェルト、わかってるだろうがフィールドの展開を忘れんなよ!小型とはいってもスピードはそこらの絶叫マシンとは比べモンにならないからな!生身の人間なんてあっという間に複雑骨折だぞ!」

「わかってます!ケルディム、フィールド展開!」

〈OK!Valkyrie robe!〉

「射出準備完了!いつでもいけます!!」

「了解!狙い撃つ……いや、狙い飛ばすぜ!!」

カチリとトリガーの引く音がして、続いてフェルトとD・ケルディムが深緑の球体に守られて城へと音速を超えた速度で飛んでいった。

「頼むぜ……早いとこあいつらを連れて来てくれ。」

振り向きざまに一機墜としながら、ロックオンはここに着いてから感じている嫌な予感が現実のものにならないことを祈った。



後編へ続く……



[18122] 41.それぞれの戦場へ(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/07/04 19:00
シン 首都 外壁

「つおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

気合のこもった剣閃でジンクスⅢを斬り捨てる刹那。
返す刀で後ろに来ていたバロネットの首も斬り飛ばし、二振りのカタールを太腿に戻して肩からバスターソードを抜く。
その分厚い刀身にヒットしたビームは傷一つ残すこともできずに虚しく霧散し、それを発射したフュルストの一団も疾風の如く通り抜けたダブルオーによって腰で真っ二つに両断された。

「ジル、どうだ?」

「やっぱ駄目だ!アロウズはともかく、局のはほとんどMDだ!これじゃオイラでも攻撃の予測ができねぇよ!!」

そんな気はしていたが、落胆の色は隠しきれない。
人員を割かずに済むMDでの物量作戦は、一体一体の撃破は簡単だが、それによるこちらの消耗が狙いなので破壊すればするほど向こうの思うつぼ。
しかも、この作戦の性質が悪いのは行う側の人的被害が皆無に等しいという点だ。

「あ~!!もう!!あのメガネとオチビは何やってんだよ!!早いとこ姉ちゃんから良い知恵貸してもらわないといけないのに!!」

ギリギリにまで迫ってくる射撃や斬撃に涙目になりながら刹那の耳元で叫ぶジル。
刹那はそんなことにかまっていられないのか次々に押し寄せてくる敵を斬り捨てていく。
だが、

「……?」

首都の中央。
一瞬、城の近くを奔った閃光に気を取られる。
見覚えのある、だがそれとはまた少し違うそれが気になり、もっとよく見ようとダブルオーをそちらに向けようとするが、

「刹那!!」

「!!」

ジルの一際大きい声にすぐ後ろまで来ていたバロネットに向けてバスターソードを振ろうとするが、その大きさゆえに向こうのサーベルがコックピットを貫くまでに間に合わないと思われた。

「高濃度圧縮粒子解放!!」

しかし、その刃が届く前に巨大な光の奔流でダブルオーの前に集っていた敵機はことごとく爆散した。
その後、刹那の前に物量作戦への苛立ちを隠そうともしないティエリアの不機嫌そうな顔が現れる。

『ボーッとするな刹那!!やられたいのか!!』

「すまない。」

手短に用件を済ませ、再び自分の敵と向かい合う刹那とティアエリア。
だが、刹那の脳裏には先ほど見た閃光が深く刻み込まれ、気にしないようにすればするほど、それが気がかりで仕方なくなっていっていた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 41.それぞれの戦場へ(後編)



城内

「それじゃ、反撃開始といきましょうか。」

「ええ、でもね……」

フラフラにもかかわらず無理に前に出ようとするユーノにマリーは溜め息を一つ洩らすとD・アリオスに呟く。

「アリオス、クルセイドへコードSBの適用を申請。」

「は?」

突然何を言い出すのかと呆けた顔をするユーノ。

〈了解。クルセイドのプライオリティを一時的にこちらへ委譲。コードSBの実行を強制。〉

「へ?」

彼女の相棒まで何を言い出すのかとさらに首をかしげるユーノ。
そして、

〈All right.Code・Sedative for bullet〉

「はい!?」

ユーノは自分の魔力光と同じ翠の膜につつまれ、挙句バインドで手脚をその場に固定されてしまった。

「ドクターがもしもの時のためにクルセイドに潜ませていたブラックボックスよ。巧妙すぎてわからなかったかしら?」

「外傷の治療用フィールドに加えて、固定……というより拘束用のバインド。……僕ってそんなに信用ないですかね?」

「少なくともあなたがあなた自身の傷を大丈夫という時はみんな信用してないわ。」

「……クルセイド?」

〈ご、ごめんなさい~!!で、でも、今マイスターが無理できないのはゆるぎない事実ですし、これはドクターの思いやりの一種であって……〉

必死で弁解するD・クルセイドだが、マリーの発言もあってこめかみにはくっきりと青筋が浮かんできている。

「まあ、そういうことだからしばらくそうしてて。ガンダムが来たときに出血多量でフラフラじゃ困るもの。」

「そりゃどうも。けど、気をつけた方がいいですよ。」

ユーノのその言葉と同時に、空にいた二人の姿が消える。

「そこの二人は、思ってる以上に強いですよ。」

〈Break impulse!!〉

〈Raketen hammer!!〉

「!!」

杖による鋭い突きと火を吹く鉄槌がマリーへと迫るが、左肩のシールドと右手のサーベルで上手く受け流すと、分離したD・アリオスに乗って空へと舞い上がる。

「逃がすか!!」

〈Stinger ray!〉

放たれた光は翼をかすめるにとどまるが、バランスの崩れた戦闘機の上で体勢を保ちきれなかったマリーは膝をついて何とか落下を免れる。
しかし、そこへ今度は高速で鉄球が飛来する。

「こっちに来て日が浅いド素人がなめんじゃねぇよ!!」

「ド素人?」

マリーの口元が不敵につり上がる。
そして、ヴィータが放った鉄球をかわしてD・アリオスから飛び降りると落下しながらホルスターから取り出したカートリッジをツインビームライフルに込めて狙いを定める。

「それは“私たち”のセリフだ。本当の戦場も知らないド素人め。」

「!?」

先程までと雰囲気が違うマリー。
しかし、ヴィータがそれを気にしたのは一瞬で、すぐにツインビームライフルの銃口に溜まっているオレンジの輝きに備えていた。

「カートリッジNo.Ⅱ・ハイスピード。」

〈Mach!Explosion! Vision Kugel!!〉

防御できる。
そう思っていたヴィータだったが、彼女の予想は大きく外れることになる。
なんと、防御を張るよりも早く弾丸が彼女の頬をかすめたのだ。
しっかりした足場で使われていたならば、幻影のごとき超高速の弾丸はヴィータの体を貫き、逆に彼女が撃墜されることになっていたであろう。

「チッ……やはり、こんな状態では狙いが定まらないか。」

〈いやいや、十分すぎるって。それと、できれば肝が冷えるようなことをするのはやめてほしいな、マイスター・“ソーマ”。〉

フワリと自らの背でソーマをキャッチすると、D・アリオスはその場でホバーして警戒を強めるクロノとヴィータの方へ向く。
どうやら、なめてかかってくれるのもここまでのようだ。

「来い。軍人の戦い方というやつを見せてやる。」



城下町

「だあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「フフッ……当たらないよ?」

管理局の訓練、それも教本通りのものを受けてきた者ならば、いまここで起きていることを真実だとは受け入れがたいだろう。
つい数か月前までは飛行魔法も使えず、さらには召喚獣すらも失い、戦力としてカウントされるはずのないフルバックの少女が強力な砲撃をこれでもかというほど乱れ撃ち、片や飛行魔法を習得していない少年が自然界の稲妻以上の電撃をその身に纏わせ、跳躍力とデバイスの推進機のみで空中戦を展開しているのだ。
非現実的なその光景に、ある意味誰よりも常識的な訓練を受けてきた(少なくとも本人はそう思っている)フェイトは愕然としていた。
だが、上記した物は彼女の驚愕の理由の1%も占めてはいないだろう。
フェイトが何よりも信じられなかったのは、エリオとキャロが、二人の我が子が本気で戦っていることだった。
キャロは自分が知らない冷たい笑みでエリオを弄り、エリオも阿修羅のごとき形相で殺意のこもった刃をキャロへと向けている。

「駄目……」

追いついて間もないのに、フェイトは疲労感すらも忘れてカタカタと震えるバルディッシュを固く握りしめる。

「こんなの……駄目だよ……!!」

いつもの彼女なら、逃げ惑う人々のことを気にかけるのに、それよりも目の前で起きている戦闘の方がはるかに重要なことになってしまっている。

「駄目だよ!!」

遂に辛抱たまらず飛び出したフェイトは、キャロではなくエリオのストラーダを素手で受け止めた。
無論、自身を上回る電撃に肉が焼かれ、その鋭い刃は骨にまで食い込んでくるが、ストラーダをしっかり握って離さない。

「やめてエリオ!!私たちが戦わなくちゃいけないなんて、こんなのおかしいよ!!」

「おかしい!!?おかしいのはあんたたちじゃないか!!!!」

最大と思われたそこからさらに電撃を強め、エリオが激怒する。

「世界を守るための管理局!!?こんなことをしててもそんなことを言えるのか!!?」

「うっ……くっ……!けど、ルールを無視して良いわけが…」

「誰のためのルールだ!!!!救いを求める人間に手を差し伸べない法が正しいものか!!!!」

最早本当の親子以上の絆など儚い幻想にすぎなかったかのように、そしてその幻想を砕くようにグイグイとストラーダが押し込まれていく。
だが、どうにかそれをくいとめようと踏ん張るフェイトに、もう一人の我が子から絶望に浸るには十分すぎるほどの最後の一押しが待っていた。

「いけないなぁ……フェイトさんの言うことはちゃんと聞かなくちゃ。」

〈Hydra neck〉

フェイトのすぐわきを九つの誘導弾がすり抜け、エリオにぶつかって押し返したかと思うと数百メートル先に到達した時点で大きな爆発を起こした。
破壊されていく街を見て唖然とするフェイトだが、キャロはそんな彼女を不思議そうな顔で笑う。

「どうしたんですか、フェイトさん?これくらいいつものことじゃないですか。悪い人たちにはちゃんと悪いことしてるんだってわからせてあげないと。」

「キャ、キャロ?」

幼子の瞳に宿る異常な光。
彼女の言う悪を、弄り痛めつけることに至上の喜びを感じているような歪んだ笑み。
キャロは、こんな子だったろうかといまさらながら思い返してみるが、自分の知るキャロと今ここにいるキャロはどう考えても合致してくれない。

「どうしちゃったのキャロ!?さっきの魔法だって、私もなのはも教えてないし、それに、あんな魔力キャロにあるはずが……ううん、そんなことよりなんでこんなこと!!?ねぇっ!!?なんで!!?」

「フフフ……最近ね、すごく調子がいいんです。私に優しくしてくれる人たちが調べてくれたんですけど、リンカーコアが大きくなってるんだそうです。だから、この力で正しいことをしなくちゃって……こんな風に。」

〈Svarog hammer〉

今度は一度も見せたことのないはずの炎熱変換を使って辺りを焼き払って見せるキャロ。
赤い炎の輝きで照らし出されたその姿は、かつての仲間たちが目にしていたものの面影は全く残されていなかった。
逃げ惑う人々を見てクスリと笑うと、再びケリュケイオンに炎をともして適当にばらまいていく。

「やめて……」

頭を抱えて現実を受け入れまいとするフェイト。
しかし、キャロの生み出す炎で確実に人々が傷ついていく。

「アハハ!!あなたたちが悪いんだよ?皆を困らせるようなことするから。」

「もう、やめて……!!」

嫌々をするように首を横に振るが、キャロの笑い声が鼓膜を震わせる。

『世界を守るための管理局!!?こんなことをしててもそんなことを言えるのか!!?』

「いやぁ……!!!!」

ついさっきのエリオの言葉が笑い声にかぶさってリフレインしてくる。
こんなはずじゃなかったのにと思うほどに、閉ざされた瞳からは透明な雫が溢れてくる。

「そうだ……あなたたちみたいな人が、私の大切なものを奪うんだ……私を苦しめるんだ!!!!」

「もうやめてキャロ!!!!」

遂にこらえきれずにキャロを正面から抱きしめてそれ以上何もさせまいとする。
だが、キャロはそれでも街を焼くのをやめない。

「なんで邪魔するんですか?ここにいる人たちはみんな悪い人なんでしょ?」

フェイトが必死に止める中で、倒れている少年に狙いを定めたキャロはその手に宿る炎を少年へと飛ばそうとする。
だが、

〈Rifling shoot!!〉

「!」

深緑の弾丸がキャロの頭上から襲いかかるが、分厚い桃色の障壁に阻まれ惜しくも消え去ってしまう。
しかし、その間に少年の下には魔法陣が展開され、別の地点へ送られ事なきを得ることとなった。

「事情は呑み込めないですけど、あなたたちが敵だっていうことはよくわかります。」

〈おっかねぇお子ちゃまもいたもんだ。普通ここまでやるかよ?〉

両腕の袖が破れながらも、闘志の刃はまったく砕けていないエリオを支えながら、フェルトはスナイパーライフルを器用に片手で支えながらキャロとフェイトにしっかりと狙いをつけている。

〈GN device,limit off!!Force detonation!!〉

「やっぱり、何度会ってみても私の考えは変わらない。」

バリアジャケットに装備されていたシールドビットを飛ばしながら、フェルトは少なからず絶望と失望をこめた声を絞り出す。

「あなたたちは、どうしようもないくらいに歪んでいる。他人の痛みを理解してあげられないほどに!!!!」

〈Blast hound!!〉

フェイトはまるで自らの罪を、そしてキャロの分まで受け入れるように彼女をかばいながら、フェルトの砲撃をその背で甘んじて受けた。



城内

翠の結界に守られ、傷も癒えつつあるユーノだったがやはり一刻も早くマリーとソーマの援護に回るべきだという考えは変わっていなかった。
戦い慣れているソーマがMS戦のノウハウを織り込んで上手くしのいではいるが、やはりAAA以上の実力者二人を相手取るには役不足の感が否めない。

「クルセイド、戦闘可能までの残り時間は?」

〈残り約三分。まだ少しかかります。〉

「じゃあ、傷をふさぐことを最優先。内部のダメージはそのままで構わない。」

〈その命令は受け付けられません。マイスターが戦闘に完全に耐えられるようになるまでは僕にも解除できないんです……ごめんなさい。〉

「クソッ……ジェイルさんも余計なことを。」

自分の魔力で生成された自分の意思に反するバインドで動きを封じられたまま苦笑いを浮かべるユーノ。
だが、次の瞬間にはその笑みさえ消えることになった。

「捉まえた……ぜっ!!」

「クッ!!」

ヴィータとグラーフアイゼンが遂にソーマを捉える。
アーマーで守られた両腕で鉄槌を防ぐが、痺れが腕だけでなく体全体を駆け巡る。
そして、

「っ!?」

「ディレイドバインド。」

咄嗟に体をひねるが、右手と左足が鎖で絡め取られ、空中で動きを封じられる。
助けに行こうとするユーノだったが、手足を縛るバインドが軋むだけでどうすることもできない。

「タイミングは完璧だったんだがな。二つしか当たらないなんてなかなかショックだよ。」

「お前がショック受けようがそんなもんはどうでもいいんだよ。要は、これでチェックメイトだってことだ。」

〈Explosion!!〉

グラーフアイゼンが巨大化し、大きく振りかぶられる。

「最後の警告だ。投降する気は?」

「するとでも?」

「そうかよ!!」

〈Gigant schlag!!〉

巨大な鋼の塊が地響きにも似た唸りをあげてソーマとマリーに迫る。
ヴィータからの警告を拒否したソーマも自分を待ち受ける運命を想像して背筋が凍る。

「クルセイド!!今すぐこれを解け!!!!これは命令だ!!!!」

〈だから、無理だって…〉

「できないならお前のAIデータを消してでも行くぞ!!!!それでもいいのか!!?」

すでに魔法陣を展開して術式の解読を始めるユーノ。
しかし、一から解読して解除したのではとてもではないが間に合わない。

「ピーリス中尉!!!!マリーさん!!!!」

必死に叫ぶが、どうにもならない。

そんなどうしようもないピンチで、ピーリスの脳裏をセルゲイとの思い出が席捲していく。

初めて会った時のこと。
最初の出撃で犯した失態。
鹵獲作戦の時にミンを見捨てなければならなくなった時の悔しそうな声。
ユーノと出会った国境線での作戦。
タクラマカンでの戦い。
そして、被験体E-57、アレルヤとの最後の決戦。

(……E-57?)

走馬灯のワンシーンにソーマの、そしてマリーの注目が集まる。
あの時の激しくも繊細で、まさにパーフェクトと称賛するにふさわしい動き。
思考と反射、アレルヤとハレルヤ、二つの力があったからこそできたあの動き。



自分たちにも、できないだろうか?



〈GN device,limit off!!Force detonation!!〉

「マリー!!!!」

「わかってる、ソーマ!!!!」

マリーは自由が残っている左手でサーベルの柄を握ると、下も向かずに勢いよく投げるとディレイドバインドに浅く傷が刻まれる。
さらに今度はソーマが渾身の力で左足を動かし、戒めの鎖を引きちぎるとツインビームライフルを取り出してバインドを発生させている魔法陣を撃ち抜く。
発生源を失ったバインドは消え、自由を取り戻した二人は背中から右に向かって生えたオレンジの片翼を大きくはばたかせると、何を思ったかギガントシュラークへと突っ込んでいく。

「潰れやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

巨大な対城塞用の巨大ハンマーの前に二人はあえなく散った。
そう思われたが、グラーフアイゼンを握るヴィータ本人が違和感に気付く。

(手ごたえが無い!?)

どれほど巨大化していようと自分の体の一部のように長い付き合いの相棒だ。
どんな些細な感触も見逃すはずがないのに、敵を押しつぶした時の感触が全くない。
ここから導き出される結論はたった一つ。

「クロノ!!奴は…」

「遅い。」

二人が見上げた先にいたのは、三角形の魔法陣の上で両腕のガトリングとツインビームライフルにありったけの魔力を注ぎ込み、その銃口をこちらに向けているソーマとマリー、そしてD・アリオス。
その手には下に投げたはずの魔力刃の柄も握られ、完全武装の状態で自らの下にいる者すべてを睥睨するように見下ろしている。

〈Ein Feuer!!Explosion!!〉

「ターゲット回避パターン予測、クリア。掃射後の突撃準備、完了。」

「了解、カートリッジNo.Ⅷ・フルファイア。」

(あれは……マズイ!!)

急激な魔力の高まりにクロノはヴィータを連れてその場から退こうとするが、それよりもソーマたちが早かった。

〈Ende von der Welt!!〉

「エンドヴォンディアヴェルツ!!!!」

全ての銃、そして彼女の背の翼から辺り一面を埋め尽くすほどの魔力弾と砲撃が降り注ぐ。
その真っ只中にいたクロノとヴィータは防御しても防ぎきれないそのオレンジの嵐をまともに受けて自らのデバイスさえも手放してしまう。
だが、それでも二人は残った気力を振り絞って最後の抵抗を見せようとするが、マリーはそれすらも許さなかった。

〈Letzt Klinge!!〉

「これで……終わり!!!!」

音速の一撃をモロに受け、声を上げる暇すらもなく地上へ落下した騎士と魔導士は、命に別状はないものの、完全に意識を闇の向こうへと追いやられてしまった。

「やりすぎじゃないですか?」

〈Release〉

ようやく回復のための拘束から逃れることができたユーノは横に降り立ったマリーとソーマにムスッとした表情を見せる。
それは友人二人に対する過剰ともとれる苛烈な攻撃に対してではなく、こちらにまで飛んできたあの台風による被害のせいだ。

「非殺傷で結界の中にいるのに死ぬかと思いましたよ。」

「あれくらいで破れるほどヤワでもなかろう。」

「ごめんね、手加減している余裕がなかったから……」

「……今、どっちで呼べばいいですか?」

〈ソーマとマリーだからソーリ?〉

「……そんな日本に来たばっかりの外人が首相を呼ぶみたいな名前、僕は口にしたくない。」

「私たちだって嫌だよ。」

「そんなことはどうでもいい。それより、暗号通信が入った。もうすぐこっちにお待ちかねが来る。」

「お待ちかね?」

首をかしげるユーノだが、遥か彼方からやってきたと思われる二機が城壁を突き破ってすぐそばで止まる姿を、目を丸くしながら目撃し、そしてタラリと汗を一滴たらしながら呆れたように呟く。

「なるほど。確かにお待ちかねですね。でも、いいんですか?二人とも、アーチャーに乗るのは…」

「こんな時だから仕方ないわ。」

「それより、E-57もすぐに来る手はずではなかったのか?」

〈アレルヤはフェルトちゃんの方に行くってさ。〉

「フン。王子とその白馬に乗れなくて残念そうな顔が目に浮かぶな。」

「はい?」

「「…………」」

とりあえず、不思議そうな顔をするユーノの脇腹に鉄拳を打ちこんだ後GNアーチャーに乗り込む二人。
治ったばかりなのに、理不尽にも(?)ボディブローの痛みで呻くことになったユーノも、文句を言いたそうだったが、そんな場合でもないので渋々クルセイド・Aのコックピットへ入っていった。



城下町

「ケルディム、警戒レベルを3ランクアップ!!」

〈それ本日四回目なんですけどぉ!!?〉

文句を言うケルディムだったが、素直に警戒レベルを引き上げてシールドビットを防御に回す比率を増やす。
しかし、それでもエリオも一緒にでは十分には守り切れず、あわやという場面が続く。
相手が、キャロ一人になったにもかかわらずだ。

「消えろ!!消えろ!!!!消えちゃえ!!!!」

「つっ!!フェルトさん、もっとビットを回してください!!!!これじゃ近寄れない!!!!」

〈正気かオチビ!?あんのイカレ児童に突っ込むなんて自殺行為だぞ!?〉

地上で気絶しているフェイトを守るようにひたすら砲撃を乱射するキャロをどうにか攻略しようとするエリオだが、リミットオフ状態のシールドビットをもってしてもその牙城が崩せない。
だが、その終わりはキャロ自身の手で、それも意外な形で訪れた。

「私から大切な人を奪うやつは許さない……!!友達や家族は奪わせない………!!私を一人にする奴は………ゆるさナ……!!?」

「?」

「エ……エリオ君………私を、一人にスる?だ、カラ……壊す?ち、チガうううぅぅぅぅ………!!?」

突然、頭を押さえて苦しみだすキャロ。
ケリュケイオンも不規則に点滅を繰り返し、心なしか苦しそうだ。

「フリード……友達……だから、ケす?……駄目、そんなの、駄目……駄目駄目ダメダメだめ駄目だめダメダメ!!!!!!!」

〈お、おい!?なんか壊れかけのゲーム機みたいになってるぞ!?〉

目の前でコンピューターがウィルスに感染してしまったように、意味不明なロジックを延々と積み上げていくキャロ。
しかし、最後に涙をあふれさせながら小さな声で呟いた。

「一人に……しないで……助けて、エリオ君……」

「キャロ……?」

あの悲しそうな顔。
皮肉にも、笑顔ではなく泣き顔でエリオは目の前にいる人物が、キャロではないと言い切った人物が、彼女であることを確信した。

「キャロ!!!!」

弱々しく助けを求めるキャロへと屋根から跳んで手を伸ばすエリオ。
しかし、彼女の足元にはすでに転送用の魔法陣が展開され、光の粒子がその身を包み込みつつあった。

「キャロ!!!!行っちゃ駄目だ!!!!」

「一人は、やだ……」

「僕が一緒にいてあげる!!!!だから!!!!」

「残念だけど君はその子とは一緒にいれない。彼女にはまだ利用価値があるからね。」

「!」

フェルトは咄嗟に声のする方を撃つが、すでにそこには声の主の姿はなく、キャロも空へと跳んだエリオを残して消えてしまっていた。

「そんな……」

そこにあったはずの温もりを手に取ろうと何度も握っては開くを繰り返すエリオ。
ようやく見つけることができた家族の片鱗が消え去り、それと同時に再び心にはポッカリと穴があく。
どうすればこの空白が埋まるのか。
幼い騎士の出した答えは、

「う…ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ただ、空に叫ぶことだった。



城内 裏口付近

「ミスっちゃったかしらねぇ…」

通路の影に隠れながら、裏口を固める局員の姿にスメラギは唇をかむ。
手には銃を握っているが、これがどこまで通用する相手かわからない。
それに、ここを突破できたとしても新手が外にいるのは明白だ。

「リュフトシュタイン大統領は無事なんでしょうか?」

「人質扱いにはなっていたから、見つけて撃たれるなんてことはないと思うわ。それより、私たちの方がこの状況をなんとかしなくちゃ。」

コツコツと足音をたてながら近づいてくる局員。
スメラギもあごからポタリと雫を垂らすと、腹をくくったのかギュッと強く銃を握る。
しかし、

「!?な、なんだ!?」

「MSだ!!逃げろ!!」

どこかで聞いたような回転式銃口の音と、地面に突き刺さる衝撃音にスメラギは一瞬呆気にとられるが、すぐにニッと笑って混乱する局員の間をぬうように外へと跳び出した。

「ユーノ!!」

「スメラギさん!やっぱりこっちに到着してたんですね!」

優しく右手を地面に下ろすクルセイドから聞こえる声にひとまず胸をなでおろす二人。
だが、二人を両手に包んだクルセイドはそんな暇もなくすぐにその場を飛び立つ。

「エリオとフェルトはアレルヤが回収、マリーさんもアーチャーで帰還に成功だそうです。」

「OK。エウクレイデスは?」

「作戦を開始したそうです。フォンとヴァイスさんも派手に暴れてるみたいですよ。」



外壁 反対地点

「あげゃ!!!!」

アストレアのハンマーが敵の頭部を砕く。

「墜ちろってんだよ!!!!」

サダルスードの高出力ライフルが敵を突き破る。

二機を前に、プトレマイオスとは反対方向から進行していたエウクレイデスに指一本触れることもかなわずに散っていくMDたち。
序盤からこれほど粒子の消費が激しい戦いは戦術的にみて無謀なので想定されていなかったのだろうが、フォンとヴァイスにとってはこのわずかの間で敵をある程度退けられればいいのだ。

「よっしゃ!!粗方片付いたぜ!!」

「874、トレミーに連絡。さっさとこっちに来いって伝えな。」

「了解。」



裏口

「いい感じね。ただ、殿を考えていないあたり、やっつけ仕事の感が否めないけどね。」

「殿?必要ないでしょ。敵は戦力をほとんど首都の攻略にまわしてるんですから。」

「忘れたの?ついこの前出てきた新型のことを。」

ハッと前を見るユーノだったが、スメラギはそれより早く白い機影を視界にとらえていた。

「ガンダムが目的の彼らが戦線に出てこなかったということは、おそらく別動隊として私たちを連れていて下手に戦闘ができないところを捕えるため……」

砲身を開いているガデッサのメガランチャーを前に、クルセイド・Aを止めるユーノ。
後ろにもガラッゾが一機回り込んでいて完全に退路を断たれた。

「ヤッホー、元気してた?ユーノ・スクライア。」

「僕の方は君たちが元気そうで心底残念だよ。さっさと地獄に堕ちていればよかったのに。」

ヒリングに辛辣な言葉を投げつけるユーノ。
しかし、なぜユーノが彼らを知っているかのように振る舞うのかわからずに戸惑うスメラギとは違い、ヒリングはまったく動じずに軽く流す。

「まあ、それはいいのよ。で、この状況がどういうことかくらいはわかるでしょ?」

「ああ。君たちがどうしようもない臆病者で卑怯者だってことがよくわかる状況だね。」

「減らず口はそこまでだ。大人しくこちらに来い。そうすればそこの二人は見逃してやろう。」

(やっぱりか……)

後ろにいるブリングの言葉といい、先日の襲撃者といい、やはりまだユーノを引きこむことを諦めてはいないようだ。
御苦労なことだが、ユーノ達にとってはまったくありがたくない状況だ。

「さあ、さっさとそいつらを下ろしてこっちに来なさい。その手の中にいる二人が消し炭になるところを見たいなら話は別だけど。」

じりじり距離を詰められる中、決断を迫られるユーノ。
スメラギには黙っていたが、弾薬は出撃時に残量が無かったためすでに半分カットされている。
もしスメラギとフィオラがいなかったとしても、この二機を相手にするには心もとない。
しかも、こんな市街地では住民に被害が出るかもしれない。

「っ………」

従うしかない。
悔しそうに歯軋りをするユーノだったが、その時、横から二つの影が高速で飛んできてガデッサとガラッゾを外壁の外へと猛烈な勢いで押し出していく。

「貴様たちは……!!」

「邪魔しないでよ!!」

なんとか振り払うブリングとヒリングだったが、すでにクルセイド・Aからは大きく引き離されており、目の前にはダブルオーとセラヴィーがソードライフルとバズーカを彼らに向けていた。

「行けっ!!ユーノ!!」

「今のうちに早く!!」

「ごめん!!任せた!!」

すぐそこまで来ていたプトレマイオスへ一直線に飛んでいくユーノ。
刹那とティエリアもある程度の距離を稼げたところでプトレマイオスの警護に回った。

「逃がしてたまるかってのよ!!」

メガランチャーを最大出力に設定し、プトレマイオスとその周りを固めるガンダムへ砲撃を放とうとする。
しかし、トリガーを引く前に通信を知らせる高い音が鳴る。

『はーい、そこまで。リボンズも言ってたでしょ?まだトレミーは墜とすなって。』

「ルーチェ・ハイドレスト……」

「邪魔すんじゃないわよ!!少し痛めつけるぐらいかまわないでしょ!!」

『痛めつけるくらい……なんだ?』

ルーチェに続いて現れた金髪翠眼の少年のすごんだ声と、笑顔にもかかわらずギロリと射抜くような視線に思わず「ヒッ!?」と情けない声をあげてヒリングはトリガーから指を離す。

『そうそう。良い子にしてくれてないと、俺もいろいろやらなきゃいけないことが増えるからよ。それと、もう次の手は打ってあるから心配すんな。』

不満げに睨むブリングにそう言うと、少年は不敵な笑みを残して通信を終える。
その場に残されたヒリングは悔しさでただ震えることしかできなかった。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「ものの見事にボロボロだな。」

戻ってきた三人とその応援に向かった二人を見てラッセは溜め息をつく。
フィオラは幸い無傷だったが、ソレスタルビーイングのメンバー、特にエリオは心身ともに傷つき過ぎていた。

「そう、キャロが……」

「…………………」

それ以上、エリオは何も言おうとはしない。
ユーノ達もそれ以上は何も言葉をかけられない。
ただ一人を除いては。

「助ければいいじゃないか!」

フィオラの大きな声にエリオだけでなく全員がそちらを向く。

「一回目が駄目でも、また助けに行けばいいじゃないか!!また駄目でも、何度でも助けようと足掻けばいいじゃないか!!」

「でも…」

「でもじゃない!!僕の知ってるエリオは……僕の親友のエリオは、こんなことで折れるほど弱くないはずだ!!」

「フィオラ……」

エリオへの言葉。
しかし、フィオラはその言葉で自分自身の心も奮い立たせる。
見捨てて来てしまった臣下の想いを裏切ることになっても、我を通すために。

「……スメラギさん。助けてもらって申し訳ないのですが…」

フィオラがスメラギへと何かを申し出ようとした時だった。
プトレマイオスが大きく揺れ、慌てた様子でミレイナとフェルトが何が起こったのか調べる。
そして、正面に最悪の光景が映し出された。

「が、外壁に被弾です!!被害は小規模で留まっています!!」

「で、でもでも!!完全に囲まれてるですぅ!!!!」

「ああ……見てたらわかるよ。」

見たこともない戦艦がプトレマイオスとエウクレイデスの周囲を完全に取り囲んでいる。
出撃しているMSのほとんど、いや、MDがミッド製のバロネットやフュルスト、そしてキャバリアーシリーズであることから連邦ではなく管理局軍であることが分かる。
そして、ひときわ大きな戦艦。
こちら側に来る原因となった艦、アルデバランが艦隊のド真ん中に鎮座し、堂々たる姿でその砲身を鈍く輝かせている。

「ソレスタルビーイングに告ぐ。即刻停船して人質を解放せよ。五分以内に返答が無い場合、その意思が無いとみなし、撃墜もいとわないものとする。繰り返す…」

「人質だぁ?」

「そう呼べる人間は一人しかいないだろう。」

ティエリアがフィオラに視線を向ける。
だが、先程までの沈んでいた姿が嘘のようにエリオが吼える。

「フィオラを差し出すっていうんですか!?」

「それ以外にこの局面を乗り切る方法はない。」

「フィオラの身柄を渡したからって見逃してくれるとは限らないでしょう!?相手はアロウズと組んでいるんですよ!?それに、ここで見捨てたら誰がフィオラを救うんですか!?」

「いいんだ、エリオ。」

フィオラが肩を掴むが、エリオは必死に首を横に振りながらゆっくりとその場で膝をつく。
それを見て悲しげに笑うフィオラだが、すぐに気を引き締める。

「局に僕の身柄を引き渡してください。」

「……逃げるのか?」

刹那の言葉にフィオラはフッと笑う。

「逃げるんじゃありません。この国で最後まで戦うために行くんです。」

「……そうか。」

刹那はそれ以上何も言わずにマイスターズを引き連れてコンテナへと向かう。
残った面々も何も言わずに所定の位置について自分の作業を始めるが、エリオだけは俯いたまま嗚咽を漏らし続ける。
そんな彼に、フィオラは優しく手を差し伸べた。

「エリオ、友達としてお願いしたいんだけどいいかな?」

その声の質で気がついたエリオは不安に揺れる表情と、小刻みに震える手を見て確信する。
フィオラも、本当は怖いのだ。
怖くて、逃げ出したくて、それでもソレスタルビーイングのみんなのために、そしてエリオのためにそれを押し殺しているのだ。

「本当はね……逃げ出したいくらい怖いんだ。だから、勇気を分けてほしいんだ。逃げずに、戦うための勇気を。」

「……うん。」

歯を食いしばって立ちあがったエリオは、笑顔のフィオラの手を引っ張って刹那たちの待つコンテナへと走る。
涙をこらえるスメラギ達を残して。



艦隊

『大尉!!』

「ああ、わかっている。」

クロノから留守を預かったミンは、アヘッド改からそれを見て武器をおさめる。
青と白のカラーリングの機体。
そして、その手の上にいる二人の少年の内の一人が目標の人物であることを確認するとゆっくりとその距離を縮めていく。
ダブルオーも相手が警戒を解いたのがわかると速度を緩め、静かにアヘッドの前で止まる。

「王子の身柄を引き渡すのは少し待ってもらいたい。」

「なぜだ?」

「自分の胸に手を当てて聞いてみたらどうだ。」

プトレマイオスが艦隊の中を進んでいく。
安全な距離に出るまでは、まだ人質だということを主張したいのだろう。
もっとも、刹那はフィオラのことを人質とは考えてはいないのだが。

「エリオ……」

「大丈夫。君は絶対に僕が守る。……もう、大切な人を傷つけさせるもんか。」

ギュッとフィオラの手を握って勇気を分け与えるように、しっかりと自分の手の暖かさを伝えていく。
そして、プトレマイオスが完全に離れたところでフィオラをアヘッドの手へと渡す。
なかなか離そうとしなかったエリオだったが、フィオラに優しくその手をほどかれ、一人ダブルオーの手の上に残された。

「フィオラ!!」

大きな声で叫ぶが、フィオラは振り返らない。
そのまま両者の距離はどんどん広がり、すでに声も届かないほど遠くはなれてしまう。
周りにいるMDが動き出そうとするが、エリオは遠くを見つめながらコックピットに戻ろうとしない。

「……刹那さん。」

「なんだ?」

ダブルオーがMDの攻撃を避けるのに合わせ跳び、ハッチの上にフワリと降り立ったエリオは決意に満ちた瞳で言う。

「僕を、MSが使えるようにしてください。」

「………今以上に、厳しい戦いになるぞ。」

「構いません。手が届くのに、無力を嘆くのはもう嫌だから。」

「……わかった。」

エリオをハッチに乗せたままフュルストを斬り捨てる。
そして、間近で起こる爆発にも、最早エリオは動じなかった。







その後、フィオラは管理局の保護を受けるという形でシンの代表のポストに就くことになる。
国民の宇宙開発への出向に対して交渉を続けてはいるものの、状況は芳しくなく、風当たりも強くなっている。
しかし、一連の事件が解決した後、その粘り強く国民第一の政治思想はあらゆる世界で大いに評価されることとなる。
しかし、この時はまだ誰もそのことを知る者はいない。
ただ一人、彼の友人を除いては。



バーナウ 丘

ここからだと、この国を全て見渡すことができる。
できることならいつまでも見ていたかったが、ストラーダから聞こえてくる呼び出し音がタイムリミットを過ぎたことを知らせる。
名残惜しいが、いつかまた戻って来る。
友人が守り続けるこの国へ。
その誓いを胸に、この美しい眺めに背を向けて、エリオは新たな戦場への一歩を踏み出した。







幼き騎士の目覚め
それは、新たな力を導く刃の輝き



[18122] 42.Wizards in 2312.Earth
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/07/13 21:18
拘留施設

「まったく、皮肉な話だよ。」

ポツリとつぶやいて男はペンを放り出して背もたれに寄りかかる。
常日頃から見ていたはずなのに、こののらりくらりとした口調とまったく焦りを見せない優雅な態度を前にすると真面目に相手をするのがバカバカしくなってくる。
ヴェロッサ・アコースという男がこれほどまでにやりにくい相手だとは想像もしていなかった査察部の人間はことごとく彼の巧みな話術の前に敗北を積み重ねていっていた。

「ったく。なんかの間違いであってほしいよ。お前さんほどの人材を刑務所送りにするのはもったいないし、取り調べでここまで疲れるのももうごめんだ。」

「だったら逃がしてくれないかな?」

「真剣に悩むな。この拷問のような仕打ちに耐えて職を守るか、それとも自由になる代わりに大切な財源を失うか。」

「ホームレス生活も慣れれば悪くないってテレビで言ってたよ?」

「本気で殺意を覚えるからもうしゃべるな。」

ヴェロッサの無責任な発言に青筋を浮かべて煙草を灰皿に押し付ける男。
そして、それがそろそろ潮時であると思ったのかヴェロッサはこうなってまで得たかった情報の収集を開始する。

「それより、ここに来るまでに変わった部屋を見たんだけどなんなのあれ?」

「ん?ああ、あの完全閉鎖されてるところか。悪いが、俺も知らんし、査察部にもまったく情報が上がってない。お偉いさんの話を信じるなら、とある事件の重要参考人が拘束されているらしい。」

「重要参考人、ね……」

まあ妥当な理由だし、目的の人物がいるならばあながち嘘とも言えないだろう。
しかし、初めは表舞台にいる“彼”が影武者で、本人はどこかに拘束されているのではないかと思っていたが、あの苦悶の表情が演技だとしたらとんでもない影武者もいたものだ。
それに、“彼”ではなく彼の娘である彼女の命を握っていたほうがあの頑なな人物を操りやすいだろう。

「言っとくけど、侵入しようなんて考えない方がいいぞ。」

元同僚の言葉にヴェロッサは飄々とした笑みのまま軽く首をかしげる。

「入っても空間歪曲でとんでもない広さになっているらしいし、いくつものトラップが仕掛けられているらしいからな。」

「なるほど。トレジャーハンターか考古学者を連れてきた方がよさそうだね。」

「その前に、ここから出れたらの話だけどな。」

「それはそうか。」

と、笑って見せるヴェロッサだったが、今の条件を満たす集団を知っている。
というか、今はそこに所属している。
ここから自分を悠々と助け出せ、さらにゲームに出てくるダンジョンのような複雑な回廊を突破できるであろう彼らを。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 42.Wizards in 2312.Earth


西暦2312年 地球 トルコ アンカラ

「なんでやねん!!」

はやては激怒した。

「なんで22世紀すぎとるんに青い禿げ頭のネコ型ロボットがおらんねん!!」

こちら側の地球は22世紀を過ぎているはずなのに、なぜあの某ネコ型ロボットが現実に存在していないのか。
はやては管理局員である。
機械にそれほど詳しいわけではないし、こちらの技術力がどれほどのものかはよく知らない。
しかし、幼いころからあのアニメはよく見ていたし、この歳になってもいつか彼が現実に作られることをまったく疑いもしていない。
そう、あの幼いころの夢をそのまま抱えているような超絶カワイイ美少女なのだ。

「あの……さっきから一人で何を言ってるんですか?しかも、自分のこと超絶カワイイって言って恥ずかしくないんですか?」

ティアナに言われ、はやてはようやく後ろで一人芝居を呆れながら見物していた部下と同僚の方を向く。
思いっきり目立っているせいで他人のふりをしたいのに、彼女を一人異国の地に放り出すのが不安で仕方なく収まるのを待っていたのだが、ティアナの忍耐力は限界に達していたようだ。
しかし、はやて自らの熱い思いを放出し続ける。

「この非国民がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!ティアナ、あんたそれでも日本人か!!?」

「違いますから……ていうか、その日本人のなのはさんも恥ずかしそうだからそのへんにしときません?」

「なに!?なのはちゃん、あんたそこまで心を病んでたんか!!?」

「病んでないから!?むしろ今のはやてちゃんの方が病んでるから!!」

「それより私はすごい恥ずかしいんですけど!?たまに外に出たと思ったらこの辱めですか!?」

「はやてちゃん、そっち側に行っちゃだめですぅ!!」

あまりにも強烈な否定に、流石のはやてもやりすぎたと思ったのか咳払いを一つすると彼女たちに背を向けて本来の目的を語りだす。

「まあ、冗談はここまでにしといてや。」

(絶対に嘘だ。)

(です。)

「私らはこれからカレドヴルフから受領したフォートレス、ならびにヘビーダッシャーの試験運用をするわけなんやけど、相手は“こっち”におる反連邦組織やそうや。ちょっちハードになるかもしれへんけど、頑張ろうな。」

はやてのその言葉に先程とは別の意味で苦笑いがこみ上げてくる一同。

新装備をカレドヴルフのあるミッドチルダで受け取れなかった理由。
それを語るために、時間を少々巻き戻してみたいと思う。

数日前 インド洋 輸送艦・ミルファク・ブリッジ

犯罪者とはこんな気分なのだろうか。
こそこそ周りに見つからないようにこっそりと目的地にやって来てはこっそりと目的を果たす。
もっとも、はやてたちの場合は目的を果たすためにいやおうなく人目につくことになるのだが。

「で、私らはこんな海のド真ん中で放り出されると。」

はやての恨みがましそうな顔にカレドヴルフの社員が困った顔をする。

「そんなことを言わないでください。この新造艦も局に無理を言って一隻貸し出してもらっているんです。私たちも、ちゃんとした基地まで送り届けたいのは山々なんですから。」

「けど、この艦をこの世界の人たちに見られていたずらに不安を広げるわけにはいかない……ですよね?」

「ええ。わかってくれて助かります。」

フォローを入れてくれたスバルに笑顔を返す社員。
文句をたれていたはやてもここでわめいても仕方ないと悟ったのか静かになるが、ティアナはそれより前からブリッジから見える外の様子をボーッと見つめていたなのはを不思議に思って声をかけた。

「あの、どうかしたんですか?」

「え?ああ、うん……別に、大したことじゃないんだ。ただ、せっかくだから軌道エレベーターの実物を見たかったなって思って。」

「ああ……」

「なるほど」と合点がいくティアナ。
軌道エレベーターはどの世界にもなかったものだし、なにより並行世界とはいえ、なのはの出身地である地球から見て未来に当たるこの世界を代表する建造物に興味があるのは当然だろう。
だが、なのはの場合は別の理由もあるのだが。

「天気が良ければここからでもアフリカの『ラ・トゥール』は見えるそうなんですけど……」

「生憎の天気ですね。リインも残念です。」

そう、見えていたはずなのだ。
彼が初めて介入を行った場所が。
そこにはもういないとわかっていてもみたいと思ってしまうのは、自分の心が弱いからなのか。

「……ソリッド、目標を粉砕する。……なんてね。」

「?何か言いました?」

「なんでもないよ、リイン。さぁ、輸送機に早く行こう。いつまでもいたら迷惑だからね。」

「あ、ごめん。私ちょい話があるから後で行くわ。」

「わかった。じゃあ、先に行って待ってるね。」

笑顔でなのはたちを見送るはやて。
だが、社員たちと残されるとすぐさま厳しい顔つきに戻る。

「で、例の話本当なんですか?」

「ええ。」

神妙な面持ちでうなずくと操舵を担当している局員には聞こえないように小さな声で話す。

「ガンダムのデータは我々が産業スパイを潜り込ませて手に入れたと考えられていますが、本当は管理局の開発担当から流れて来たって社内でもっぱらの噂なんです。」

「心当たりはあるんですか?」

「いすぎますよ。我が社から嫌々引き抜かれた人間も多いですからね。それに、そもそも局の中も一枚岩じゃないでしょう?」

「私らのように?」

「もっと別の、ですよ。現体制に不満を持っている若い局員が近々行動を起こすとか、海も陸もまさに魍魎跋扈って感じですよ。」

その時、はやての頭をよぎったのはヴェロッサのこと。
初めはソレスタルビーイングのつながりも考えたが、今出た話と結び付ける方が自然だろうか。
だが、だとすると(ヴィータ曰く)ソレスタルビーイングの関係者であるあのヒクサーという男との関係がわからない。
利用していたのか、もしくはされていたのか。
はたまた、互いに素性を明かしたうえで協力し合っていたのか。
今のところわからないが、それならそれでこれから明らかにしていくまでだ。

「それはそうと、その開発担当に出向している人間からの情報なんですが、連邦にも反感を抱いているグループがあるそうです。無用な争いに巻き込まれないよう気をつけてください。」

「わかりました。貴重なお話しありがとうございます。」

敬礼して扉の向こうへ行くと、リインとなのはが待っていた。

「聞いとったん?」

「うん。悪いとは思ったけどね。」

「ほんなら、聞いっとった通りや。どうにもきな臭い流れに巻き込まれつつある。」

「でも、こういう時はチャンスでもあるです!」

「そや。」

末っ子の頭をなでながらはやては力強く笑う。

「案外、私らは今回の一件……七年前のユーノ君の失踪、ソレスタルビーイングの武力介入、スカリエッティの一件、そんで管理局のMS導入と再び現れたソレスタルビーイングの本当の目的。その真実に一番近いところにおるんかもしれん。」

「だとしたら、本当の意味でユーノ君のことを助けてあげられるかもしれない。」

先の見えない闇の中で微かに掴んだ希望。
それが実を結ぶと信じることで、なのははこれから先の戦いに臨む覚悟の炎をその胸の中に確かに灯していた。



現在 アンカラ

今日の夕方までには翌日の作戦の概要を聞くために最寄りの基地へと向かわなければならない。
それまでのわずかな時間を短すぎる休暇として与えられたわけだが、

「あ!あそこ行こあそこ!」

スバルは料理の並んだ露店から露店を渡り歩き、

「え~っと、『エ、エクスキューズミー?』」

「なのはさん、流石に英語は公用語じゃないと思いますよ?」

「そやったら関西弁は?」

「もっと駄目でしょ!!」

上司たちは道行く人の注目を集めながら観光スポットへの道のりを聞こうと悪戦苦闘中。

「フフフフフ……!!」

シャーリーは店のガラスから中にある何かを見ながら怪しげな笑みを浮かべている始末。
いまさらながら、自分が良い意味で凡人だったのだなと痛感しながらティアナは少し離れたところをぶらぶらしていた。
すると、

「ひっく……!」

「ん?」

黒髪の気の弱そうな感じ女の子が泣いている。
アジアと欧州の中間に属するトルコだが、着ている服や顔の輪郭から察するにこの国の人間ではないようだ。

「どうかしたの?」

声をかけられてビクッと体を震わせる女の子だったが、ティアナも彼女の動作に少し驚きはしたものの言葉が通じたことがわかると柔らかく笑って見せる。

「驚かせちゃってごめんね。お母さんたちとはぐれちゃったのかな?」

少し怯えはするが、ティアナの態度に心を開いてくれたのか、小さな声で話し始める。

「マリナ様とみんながどこか行っちゃった……」

「そっか、みんないなくなっちゃったんだ。(マリナ“様”?)」

変な感じはするが、迷子であることは間違いないようだ。
地元の警察に届ければ万事解決なのだが、生憎ティアナもこの国の言葉は知らないし、当然警察がどこにいるのかも知らない。

「なのはさ……」

と、声をかけようとしたが、すでに彼女たちの姿はそこにない。
どうやら、ティアナもおいていかれてしまったようだ。

(ま、私は時間までに輸送機のある空港へ戻ればいいんだけど。)

ハァと溜め息をつくと女の子の手を取って歩き出す。

「みんなのこと探そう?お姉ちゃんも一緒に探してあげるから。」

「……うん。」

出会ったばかりのティアナにギュッと抱きついてくる女の子。
そんな彼女が、兄にべったりだった昔の自分を思い出させる。

(……こういうの、私の柄じゃないんだけどな…)

そう思いつつも、話を聞きながら彼女が連れとはぐれてしまった場所がどちらにあるかを聞いてその方向へと着実に進んでいった。



広場

「どこにいったの……!?」

伊達メガネや帽子、さらに髪をポニーテールにして変装してはいるが、見る人が見れば彼女がマリナ・イスマイールであることがすぐにわかるだろう。
しかし、それでもマリナはシーリンたちとはぐれた少女を探して街中を駆け回った。
結局見つからず、一足先にその子の姿が見えなくなってしまったこの広場に戻ってきてしまっていた。

「どうすればいいの……!?」

時間が経つほどに悪い想像ばかりが頭の中を埋め尽くしていく。
どうして一瞬でも目を離してしまったのかと自分を責めるが、不安が消えるはずもなくさらにマリナを追い詰める。
その時、

「マリナ様!!」

ドンと後ろに何かがぶつかった衝撃に振り向くと、そこに探していた少女の姿。
思わず人目も気にせず抱きしめようとするが、走ってやってきたオレンジの髪の少女に頭を下げる。

「ありがとうございます!!この子に何かあったらどうしようかってずっと心配で…」

「いえ、お気になさら…っ!!」

マリナの顔を見た瞬間、少女の表情が一瞬で強張る。
15~16歳にしか見えないこの少女がまさか連邦の関係者だとは考えにくいが、それでもそのまさかを考えるとマリナの表情も張り詰めたものに変わる。
そして、その懸念は現実のものとなった。

「失礼ですが、アザディスタン王国皇女、マリナ・イスマイール様ですね?」

幼い少女はマリナと自分をマリナの下まで連れて来てくれたお姉ちゃん、ティアナが何を話しているのかわからず不思議そうに見上げているが、マリナが手を強く握って引っ張るので痛みに思わず顔をしかめる。

「あ、あなたはアロウズの……!?」

「申し訳ありませんが、ご同行願えますか?」

もしもの時のために私服のポケットにいれていたクロスミラージュに手をかけるティアナ。
まさか、つい最近何気なく見ていた新聞の片隅に写真が乗っていた重要人物に出会うとは思っていなかったが、ここで彼女を見逃したのでは管理局員の名折れだ。
だが、

「動かないで。」

「!!」

背中に冷たいものを押しあてられ、動きを止めるティアナ。
いつの間にかメガネをかけた浅黒い肌の女性に後ろを取られ、周りには見えないように銃口を突き付けられている。
声のトーンからも、あと少しでも動いたら彼女は本気で撃つ気だということがわかる。
おそらく、サイレンサーに加えてハンカチでも使ってできる限り硝煙反応や発砲の際の光も誤魔化す気だろう。

「シーリン!!」

「さがってなさい、マリナ。その子たちにこういうものを見せたくはないでしょう?」

いつの間にか別の子供たちも集まり、マリナの傍で不思議そうにティアナを見ている。
さらに、ヨーロッパ人風の男もやってきてティアナの手を軽くひねって布で隠す。

「クラウス、人が…」

「わかっている。悪いが少しお付き合い願おうか、お嬢さん。」

キッとクラウスを睨みながら、ティアナは人の集まりだした広場を彼らとともに後にした。



空港 輸送機

「おっそいなぁ~、ティアナ。」

その頃、言葉も通じず中途半端に休暇を楽しんだはやてたちは待ち合わせ場所である空港に到着したのだが、いつまで経ってもティアナが帰ってこない。
いつもはこんなことが無いだけに心配になってくるのだが、迎えにやってきたアロウズの隊員は待ってはくれない。

「そろそろ出発したいのですが?このままでは夕方のブリーフィングに間に合いませんよ。」

「すいません!もう少し待ってもらっていいですか?」

ペコペコとなのはが頭を下げるが、グレーの瞳をしたシャルロット・シャノワール中尉は不機嫌この上ない様子でわざとらしく溜め息をついてみせる。
肩で切りそろえた瞳と同じ銀色の髪に他の航空機や輸送機が発生させる風を受け止めながら、この若さで尉官以上にまで上り詰め、あまつさえMSに乗って日が浅いどころの期間ではないのにGNドライヴ搭載型、それもガンダムを操っている彼女たちに対して嫉妬している自分を情けなく思いつつも対抗心が沸き立つのを感じていた。

(USAのグラハム・エーカー……彼ですら追い詰めていたところを相討ちにするしかできなかったガンダムと並び立つことになるわけか。)

まさか、再びガンダムと関わることになるとは思わなかったが、再びフラッグで空を飛べるのは悪い気はしない。
もっとも、そのためにアロウズに入らなければいけないのは癪な話だが。

「あの……?」

そんな自分が異世界の住人、しかも魔導士というおよそ信じがたいこの女性ばかりの部隊と共に行動を共にすることになったのだから世の中わからないものだ。(もっとも、あんな妖精のようなものや喋る宝石まで連れている以上、信じざるを得ないが)
しかも、仇討ちの相手であるはずのガンダムに乗っているというのだから、運命の神様も随分といたずら好きである。

「あの。」

「うわっ!?」

いつの間にかすぐそばまで来ていたなのはに思わず尻もちをつきそうになるが、なんとかこらえてなのはを睨む。

「好きなんですね、“飛ぶ”のが。」

「!」

どうしてと聞きそうになるが、ニッコリと笑うなのはは問われる前に答えた。

「わかるんです、私も空を飛ぶのが好きですから。同じように飛ぶのが好きな人はなんとなく。」

「…………………」

気にいらないと思っていたが、少し訂正しておかなければならないようだ。
どうやら、実力自体は相当なものだ。
こういう勘は、実戦においても大きな意味を持つ。
オーバーフラッグズに参加した時に会ったグラハムも、そういった独特の感性の持ち主だった。

「シャノワール中尉、先に八神二佐たちを送っていただけないでしょうか?私はここでランスター二士を待ちます。」

「ちょ、ちょっと?なのはちゃん?」

はやてが『それは流石に…』といった顔をするが、なのはの笑顔を前にやれやれと肩をすくめる。

「ほんならよろしくお願いします、シャノワール中尉。」

「私はランスター二士が到着したら連絡するので、お手数ですがその時は迎えに来ていただけないでしょうか?」

「了解しました。では、後ほど。」

シャルははやてたちが輸送機に乗ったことを確認すると、自分も乗ろうとするがその前になのはの方を見る。

「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい。高町なのは一等空尉です。」

「一尉……上官でしたか。失礼しました。」

「そんなに固くならないでください。私の方が年下ですから。」

「了解。これからあなたと空を飛ぶのを楽しみにしている、なのは。それと、私もシャルでいい。」

「はい、シャル。」

違う世界、しかし互いに似たモノを持つ二人の、初めての出会いだった。



ホテル

「お姉ちゃん~!!私の番だよ!!」

「あ~!!ずるい!!次は私だよ!!」

「違うよ!!次は僕~!!」

「あ~!!もうっ!!喧嘩しないの!!」

慣れない子供の相手にてんてこ舞いのティアナ。
拘束されて殺されないまでも何かしらの仕打ちは受けると思っていたのに、子供の遊び相手を任されているうちに自分がさらわれていることすらも忘れてしまいそうになる。
それにしても、

「ちょ、ちょっと休ませて……」

クロスミラージュの待つテーブルまで這うように移動し、泥のようにグテッと体を預ける。

〈いつも以上にお疲れのようで。〉

「なのはさんの訓練とはまた違った疲労感ね……個人的にはこっちの方が大変だわ……」

今日のこの体験でよくわかった。
自分は天地が逆さまになろうと保育士には向いていない。
いくら懐かれても、ここまでパワフルな生き物の相手を毎日できる自信は微塵もない。
というか、していたら間違いなく過労死する。
そう思っていた時、扉が開いたので急いでポケットにクロスミラージュを隠す。

「あらあら、随分と好かれたみたいね。」

「……ねぇ、これって新手の拷問なわけ?」

「失礼ね。うちの子供たちを低俗な拷問器具と同列に見ないでくれる?」

シーリンと呼ばれていた女性を恨みがましそうに見上げるティアナだったが、皮肉のこもった笑顔に言葉を口にする気力もそぎ取られる。
それに、敵であるはずの自分を信頼して今のような扱いをしてくれたことに多少なりとも感謝はしているのだ。
必要以上に文句を言って機嫌を損ねるようなことはしたくない。

「あの子とマリナがどうしてもって言うからね。」

「ありがとう…そう伝えておいてください。」

「わかったわ。それと、あなたにとっては朗報よ。」

シーリンはもったいぶるが、ティアナの鋭い視線に肩をすくめる。

「私たちのことを話さないと約束すればあなたを解放してあげるわ。」

「正気なの?」

ティアナは小馬鹿にしたように笑って先程まで子供を相手にてこずっていた人物とは思えないほど饒舌になる。

「私がその約束を本気で守ると思ってるの?私はあなたたちにとっては敵なのよ?」

「あなたが連邦、それもアロウズの関係者ならずっと私たちの下に置いておく方が危険よ。ここで行方不明になって下手に探りを入れられて発見されたんじゃたまったもんじゃないわ。」

確かに、なのはならば自分を監禁している彼女たちを見つけたら有無を言わさずに逮捕だろう。
それに、なによりあのアロウズという部隊は黒い噂が絶えない。
警戒するのも当然だろう。
しかし、だからといってティアナを口約束だけで開放するのは迂闊に思える。

「話したいなら話せばいいわ。その子たちの前でした約束を破れるならね。」

「……なるほど。」

不思議そうにこちらを見ている子供たち。
ティアナの性格を鑑みれば、いくら任務であってもこんな純粋な瞳で見つめてくる彼、彼女を裏切るマネはできない。
だが、シーリンも大したものである。
いくら親友から信用できると言われたとはいえ、敵であるこの少女の人間性を信じているのだから肝が据わっている。
流石、四年前までアザディスタンでその辣腕を振るっていただけのことはある。

「OK、あなたたちのことは話さないわ。私も無用のトラブルは避けたいしね。」

「物分かりがよくて助かるわ。それじゃ、お帰りはこちら。」

扉を開けて恭しく頭を下げるシーリン。
その大げさな振る舞いに鼻から息を一つ吐いてティアナも廊下へ出ようとする。
だが、その前に、

「……明日の昼までにここを離れた方がいいわ。」

「!」

子供たちには聞こえないよう、シーリンの近くで立ち止まったティアナはボソリと呟く。

「明日にはこの近くにある反連邦組織の拠点の制圧作戦が行われる……巻き込まれたくないなら、すぐにでも荷物をまとめてこの国を離れるのね。」

「……なぜ、それを私に?」

「借りはきっちり返す性質なの。それだけよ。」

そう言い残してティアナは去っていった。
彼女がその反連邦組織に所属していたとは夢にも思わずに。



空港

急いでやってきたが、すでに辺りは夕焼けのオレンジから夜の紺へと色を変えようとしている。
そんな中、目的の人物を見つけると駆け足をいっそう速くする。

「遅いよ。」

笑ってはいるが、その困ったような感じの顔にティアナは深々と頭を下げる。

「すいません。迷子の子の親御さんを探してたら時間がかかっちゃって。」

ウソは言っていない。
ただ、時間がかかってしまった理由を言っていないだけで。

せっかく待ってくれていたなのはに真実を言えないのは後ろめたいが、あの子供たちを危険にさらしたくもない。

(あ~あ……バレたら執務官になれないどころの騒ぎじゃないわね。)

だが、それでもティアナの胸の中には後悔する気持ちは意外にもこれっぽっちもなかった。



翌日 トルコ 荒野

ごつごつした乾燥地帯をトラックの一団が急ぐ。
周囲はリアルド、ヘリオンのような空戦用の機体が戦闘機にその姿を変えて固め、さらに別の地点を陽動を兼ねてティエレンのような陸戦型のMSが移動しているが、トラックに乗る者たちの中に安堵の表情を見せる者は一人としていない。
むしろ、気休めにも似たMS乗りたちの行動がいっそうの不安をあおり、些細なきっかけでパニックすら起こりそうだ。
そんな中に、マリナやシーリンたちもいた。

「マリナさまぁ……」

「ごめんなさい……でも、すぐにつくはずだから。」

怖がる子供たちに優しい言葉をかけるマリナだが、彼女自身もいつ来るかわからない敵の襲来に怯えていた。

先日出会ったあの少女。
彼女の言葉が真実であることは、この国一帯の物や人の流れを追えば即座に分かった。
連邦の基地周辺への物資や人員の集中。
普段から気を配ってはいたが、気にかけるほどでもなかったので通常なら警戒レベルをほんの少し上げる程度にとどまっていただろう。
しかし、あまりにもタイミングが良すぎるあの少女の出現とその言葉。
貴重な拠点を放棄するのは痛いが、まずは生き残ってからだ。
ただ、

(おかしい……)

シーリンは改めて基地への物資の流れを確認しながら抱え続けていた疑問を再び検証する。

(確かに物資の供給はされているけど、MSやそれを操るパイロットの新規配属数が少なすぎる……どんなに隠してもその流れを完全に偽装することは不可能のはず。それに、数日前に配属されたこの三機。)

比較的容易く割れた情報に対し、この三機とそのパイロットについてはトップシークレット扱い。
アロウズのみがその詳細を知り、一般兵には一切情報が入っていない。
どうやら、この三機がこの作戦の要であることは間違いないようだ。

(……胸騒ぎがする。)

自分たちの知識をはるかに超越したなにか。
そんなものが徐々に近づいてくるような、不吉な予感。
シーリンが感じていたそれは、まず別同隊のところへとやってきた。



別動隊1

出発してからすでに12時間。
休憩をはさんでいるとはいえ、かなりの距離を進んだ。

「なにもないじゃないか。ガセだったんじゃないか?」

ここまで来て何もないとそうも思えてくる。
早くに情報をつかめたから順調にここまで来れたともとらえられるが、せっかくの拠点を捨ててしまったのは早計だったのではなかろうか。
そんな油断している時に限って、嵐というのは突然現れるものなのだ。

「ん?」

地鳴りのようなゴォォォォという低音が少しずつ大きくなってくる。
しかし、地鳴りでないことは上から聞こえてくることからわかる。
ならば、

「なんだ?」

不思議に思ってセンサー類に目をやるが、警告音もなってないのでGN粒子、すなわちアロウズの機体が接近しているはずがない。
しかし、

「マッハキャリバー、MGモード解放。」

〈Drive ignition!!Magica GUNDAM System standby ready!!〉

自分の機体と重なるように現れた反応とそれに対する警告音が鳴り響く。
慌てて真上へ銃口を向けようとするが、あまりに突然過ぎたため間に合わず、右腕を斬りおとされさらに両足をその鋭い牙で噛み砕かれる。

「ごめんなさい!でも、怪我はしないように加減していますから!!」

攻撃を受けた機体だけでなく、他の機体のパイロットも突然現れたそれに唖然とする。
一言で言い表すならば、それは金属でできた狼。
青い装甲に、巨大な二振りの刃と研ぎ澄まされた牙と爪。
四つの脚にはキャタピラのようなものが装着されているが、キャタピラとは思えない速度で空に描き出された青い道を走りだす。

「う、撃て!!あいつを撃ち落とすんだ!!」

一斉に青い狼へ集中砲火を開始するティエレン部隊。
しかし、脚に取り付けられたキャタピラ、ヘビーダッシャーとウィングロードでスバルとマッハキャリバー、そしてウリエルは軽快にそれをかわしていく。

「マッハキャリバー、レリックとの同調率は?」

〈70%台を維持。侵食もなく安定しています。〉

「うん、良い感じだ!すこしがっちりした感じはあるけど、マッハキャリバーと走ってるときとほとんど変わらないや!!」

陸戦を想定して制作されたヘビーダッシャー。
その性質上、今はスバル専用装備として扱っているが、MAとの相性も悪くはないようだ。

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!ストライクレーザァァァァーーー……クローーーーーーー!!!!」

〈Schlagen laser claw!!〉

光り輝く爪がティエレンの無骨な頭部を切り裂き、叩き潰す。
距離を取ろうとしてもその素早い身のこなしの前にあっという間に間合いをゼロに縮められ、その爪牙で撃墜されていく。
だが、真に驚愕すべき事態が起こるのはここからだ。

「な!?」

突然立ち上がったウリエルがその姿を変えていく。
前脚はヘビーダッシャーを背にまわして肘に刃を展開し、後ろ脚も踵に刃を持ち、足元にキャタピラをローラースケートのようにつけてデコボコで動きにくい地形も難なく進んでくる。
しかし、カタロンのパイロットたちがなにより驚いたのはそのMSの姿。
背中に青い輪と六枚の白い羽を広げているが、限りなく人に近いその顔と力強い体つきを見間違えるはずがない。

「ガ、ガンダム!!?」

驚愕するパイロットを拳が叩きつけられた衝撃が襲う。
続いて輝く掌で頭を握りつぶされ、ガクリと膝をつくティエレンから手を離し、スバルは残った敵へ視線を向ける。

「ウリエル、制圧を開始します!!」

その瞬間、いっそう大きな土煙が辺りを包みこんだ。
そして、その中で何が起こったのかはスバルとティエレンのパイロットたちしか知らない。



別動隊2

こちらはフラッグやイナクトといった、より機動性に秀でた機体が陽動、さらに別の部隊が危機に陥った場合に即座に駆けつけられるようにトラック護送部隊、さらにもう一つの陽動部隊との中間地点を移動していた。
しかし、危機に陥った仲間を救援するはずのフラッグやイナクトといったエース級の機体が、逆にピンチの中にいた。

「この……!!化け物がぁぁぁぁぁ!!!!」

純白の翼をもつ栄光の天使へリニアライフルが発射される。
しかし、

「レイジングハート、シールドユニット分散。GNフィールド展開。」

〈All right.〉

三つの巨大な盾がそれを阻む。
ソリッドのアームドシールドからヒントを得て、広域防御を目的として制作されたフォートレス。
なのはの驚異的な空間把握能力とマルチタスクがあってはじめて使える武装だが、フォートレスの本領発揮はここからだ。
それまで離れていた最も大きなシールドユニットがサリエルの左腕に装着され、中に隠されていた砲身を展開する。
右のストライクカノンも発射準備に入る。

〈Plasma barell open〉

「エクサランサスカノン・ヴァリアブルレイド!」

レイジングハートの声と同時に、残っていた二機のユニットも前方へ飛ばし、その中からブラスタービットを模した遠隔操作兵器を放出。
さらに、二機のユニットも砲門を開く。
そして、空を飛び交う水色の機体を取り囲んだところで、準備は完了した。

「シューーーートッッッ!!!!」

爆撃と見まがうばかりの光景が晴天の空に広がる。
通常弾、追尾弾、砲撃。
ありとあらゆる閃光がフラッグやイナクトの翼をもぎ取り、その武器を砕いていく。
空中で発生していたその爆撃が終息した頃には、一個小隊ほどもいたMSはそのほとんどが地に伏していた。
それも、パイロットは無傷の状態で。

「なるほど。流石、ガンダムの操縦者に選ばれるだけのことはあるな。」

生き残っていたイナクトがサリエルの後ろに回るが、そこへ今度は漆黒のフラッグが赤い粒子を放ちながらビームライフルでそれを墜とす。

「だが、詰めの甘さが玉に瑕だな。」

「シャルならフォローしてくれると思ったんですよ。」

「大した信頼のされ方だ。」

いともたやすく空中変形をやって見せたシャルは、再びサリエルの後ろから迫ってきていた一機をビームサーベルで斬り裂く。
一方なのはもシャルの操るGNフラッグⅡの背後にいたカタロンのフラッグをビームサーベルで真一文字に薙ぎ払う。

「コックピットは狙わないんですね。」

「殺すしか能が無い奴は軍人失格だ。それに、そういうお前も外して墜としているだろう?」

「クセですかね。できる限り生かしてとらえるのが私たちの常識ですから。」

GN粒子を纏わせたディフェンスロッドで敵の攻撃を防ぐGNフラッグⅡの下からストライクカノンが敵機を撃ち落とす。
気付けば、五分もたたないうちにフラッグとイナクトは全機撃墜。
しかも、死傷者ゼロというおよそ信じがたい結果だ。

「存外脆かったな。」

「早いに越したことはないですよ。」

〈フォートレスのモーションサンプルがそれほどとれなかったのが残念ですが。〉

「うう……厳しいお言葉。」

「だが、とにかく早くした方がいい。でなければ…」

レイジングハートの小言に苦笑していたなのはだったが、不意に鳴った電子音に反射的にコンソールを叩いてその理由を見た。
……すぐに、その不用意な行動を死ぬほど後悔することになるが。

「!?」

そこに映っていたのは、戦いとは呼べないものだった。
ただ逃げている相手に対する過剰なまでの攻撃。
抵抗しようにも、攻撃をする暇もなく散っていく旧世代機たち。
そして、武装すらしていないトラックまで、ジンクスとアヘッドは容赦なく破壊していた。
その炎の中から放り投げだされたものは、最早人間とは言えない。
腕だけ。
もしくは、脚か首だけ。
そのどれもが高温で肌が焼けただれ、中にはどの箇所なのか判別不能な肉片もあった。

「そ…んな……こんな、こと……」

「……これが、アロウズのやり方だ。」

初めて見るリアルタイムのショッキングな映像に言葉を失くすなのは。
そして、シャルが苦しげに声を絞り出す。

「奴らはもう、人を人とすら思っていない。」

「そんな……!!なんでそんな人たちを軍隊に入れてるんですか!!」

「これが戦争だからだ!!」

シャルの一喝になのはは汗を吹き出しながら黙る。

「戦争、なんだ……!!誰かが…私が綺麗言を言っても永遠に解決なんてしないんだ…」

そう言い聞かせて納得しようとするシャル。
だが、その逃げを真っ向から否定する者が、ここにもまだいることを彼女たちは知ることになった。



トラック護送部隊

「何やってくれてんのよこいつら!?」

向かってくる敵にではなく味方に対してティアナは語気を荒げる。
抵抗しているならともかく、武装していないトラックに対してまでためらいなく銃口を向けるなど狂気の沙汰だ。
アロウズで最初に出会ったのがアンドレイだったせいもあるのか、彼の人間性とくらべて人としての最低限の良心すらも捨てたこの行いが許されているのが信じられない。
本当に、アンドレイとルイスがこの組織に所属しているのか疑問にすら思えてくる。

〈味方機に呼びかけますか?〉

「そうし…ごめん、やっぱり待って。」

仮にここで必要以上の攻撃の停止を求めてもおそらくこいつらは止まらないだろう。
さらに、ただでさえ危うい立場のはやてがそれを理由に責められる可能性もある。
それに、執務官志望のティアナにとって、下手に経歴を傷つけるような不用意な行動はとれない。

(どうする……どうすれば…)

迷っている間にもアロウズの攻撃は激しさを増していく。
抵抗していたMS部隊も残りわずかな数で撤退を開始している。
にもかかわらず、まるで狩猟を楽しむように赤い機体は攻めの手を緩めようとしない。
その時だった。

「!!」

飛ばされてきた瓦礫で外装がはがれた一台のトラック。
そこからその中を見てティアナは呼吸すらも忘れるほどの衝撃を受ける。
忘れもしない、先日散々その相手をさせられた子供たち。
そして、その子たちをかばうように抱きしめながら、必死に耐える黒髪の女性。
それを見た瞬間、ティアナの腹は決まった。

「……クロスミラージュ。」

〈わかっています。しかし、良いのですか?Sirは…〉

「見くびらないでくれる?人が死んでいくのに黙ってられるほどクールにできてないのよね、私って!!」

オレンジの豹へその姿を変えたカマエルをティアナは猛烈なスピードで弾幕の中へ突っ込ませていく。
味方機が射線軸上に入ったせいで一瞬ではあるが射撃が止む。
ティアナはそれを待っていた。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

グッと屈んだカマエルは本物の豹さながらの跳躍力で近くにいたヘリオンへ跳びかかる。
だが、あえて攻撃を外してかなりの高度から着地する。
すると、

「!?チッ!!土煙で…」

激しい土煙が辺りを包む。
しかし、ティアナはそれだけで終わらずに何度も同じことを繰り返してトラックを完全にジンクスたちの視界から消した。

「あのガンダム、私たちを?」

シーリンが見上げるすぐそこには並走するカマエルがいる。
しかし、絶好のチャンスにもかかわらず攻撃するどころかまるで流れ弾からこちらを守るような素振りすら見せてくる。
そして、ある程度アロウズとの距離が稼げたところで機械仕掛けの豹は徐々にスピードを緩めていった。

「ありがと~!!」

大きく手を振る子供たち。
ホッとした様子でそれを見送ったティアナだったが、すぐに大きなため息をつく。

「あ~あ……やっちゃった。」

武器こそ構えていないが、まるで敵を取り囲むように威圧感を込めて見つめるジンクスやアヘッドを前に、なんと言い訳をしようかようやく考え始めるティアナであった。



アロウズ基地

アロウズの指揮官、アーサー・グッドマン准将は二人の少女の神経の図太さに呆れを通り越して感心していた。
モニター越しではあるが、おおよそ戦いとは無縁に見えるこの二人が生粋の軍人である自分に対して物怖じしないことからも、あのトチ狂ったようなお伽噺も信じざるを得なくなってきてしまう。

『では二士、あれは独断行動ではあったが決してカタロンを守ったわけではない……そう言いたいのかね?』

「はい。」

しれっとした顔でティアナは話す。

「私事ですが、私は執務官を目指しているので少しでも経歴の足しになれば、と思いまして。」

『しかし、現にカタロンの一部は君の行動によって逃げおおせている。君が作戦を意図的に妨害したと考えるなという方が無理ではないか?』

「失礼ですが准将、ランスター二士は以前にも私の指揮していた部隊でミスショットや独断行動によって足を引っ張るということがありました。慣れない地球という環境下に来て功を焦って気負ってしまった。僭越ですが、私としてはそちらの方が自然に思えます。」

事実だけに何も言えないティアナ。
いや、むしろフォローをしてくれてうれしいくらいなのだが、はやてがわざわざ忘れようとしている恥ずかしい過去を引っ張り出してきたのは素直に喜べない。

『なるほど……いいだろう。今回は八神二佐、君の意見を尊重しよう。疑うようなことをしてすまないな。』

「いえ、信頼していただけてこちらも助かります。」

我ながら面の皮が厚いと思うはやて。
グッドマンがはやてやティアナを1㎜たりとも信用などしていないことははっきりとわかっている。
はやてもグッドマン、というよりアロウズのことは信頼していないし、媚び諂うつもりなど欠片もない。

『だが、ランスター二士が作戦を妨害したのも事実だ。よって、次の作戦地への移動の間、一週間の謹慎を申しつける。それと、次の目的地へはシャノワール中尉も同行する、貴官らの奮闘に期待する。』

「寛大な処置、ありがとうございます。(ケッ!小言で十分やんか、この糖尿病一歩手前のダルマ体型!)」

(八神部隊長、念話で心の声が駄々漏れですよ?)

(聞こえるやつなんてそうおらんからええやんか。それにしても、このおっさん早いとこ糖尿病で入院せ~へんかな?)

心の中で毒づくはやてだったが、グッドマンの顔が消えた瞬間抑えていた心の声を一気に口から解放した。

「あんのダルマ~~~!!!!言わせとけばいい気になりよってからに!!なんやねんあの顔!!人を馬鹿にしくさって!!早う肉の食い過ぎで痛風になってまえ!!」

「部隊長声に出てますって!!今度は誰かに聞かれますって!!」

「もう聞こえているぞ。」

「「うひょあっ!!?」」

リインに連れられてやってきていたシャルが呆れた顔ではやての方を見つめる。
その視線の痛さに作り笑顔のままそそくさと退散するはやてだったが、ティアナはシャルに呼びとめられる。

「なぜ墜とさなかった?」

「だから、それは…」

「護送用のトラックじゃない。MSの方だ。」

その言葉にティアナは真剣な顔で黙りこくる。

「お前たちがコックピットを狙わないことは知っている。だが、そうでなくとも何機か墜としておけばここまで言いたい放題言われることもなかっただろうに。」

「買い被りすぎですよ。それに、MAの状態でしたし。」

「なら、MSで撃てばよかったはずだ。なのに、お前はあえて空中戦向きではないMA形態を使った。これは、端から一機も墜とす気などなかったということだ。」

「…………………」

「アロウズに共感できないのはわかるが、これからは不用意な行動は控えるんだ。お前の将来のためにもな。」

シャルの鋭い視線と言葉に黙っていたティアナだったが不意にフッと笑う。

「だから買い被りすぎですよ。経歴に傷が付いたのは痛いですけど、次からはほどほどに頑張らせてもらいますから。では、始末書の作成もあるのでこれで。」

一礼して退室するティアナ。
それを見送ったシャルはハァと大きく息をついて壁に寄りかかると、胸ポケットに入れていた煙草の箱から一本取り出して火をつける。
四年前、イライラすることばかりだったあの頃はよく吸っていたのだが、ここ最近はそれほど苛立つ場面も多くないし、なにより健康のことも考えてこの白と茶色の紙筒に包まれた葉っぱとは御無沙汰になっていた。
なので、

「……ゲホッ!」

久しぶりに吸ったその味は、さっきの二人ほどアクのようなものはないにしろ、とてもではないが飲み込めるほど美味いものではなかった。











次回は異世界編です。
やっとあの三人に出番が回ってきます。



[18122] 43.Border breakers
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/07/18 09:30
第17管理世界 エイオース エウクレイデス コンテナ

久々に座ったコックピットは不思議と心地良い。
地球にいる頃はできればここにいたくはなかったのだが、人というのは慣れていた場所から引き離されてしまうとこうまでも懐かしさを感じてしまうらしい。
いや、

「俺も生粋のMS乗りになってしまったということなのかもな。」

そう自嘲したレイはモニターの隅に映ったシェリリンを見る。

「すまないな、ここまで送ってもらって。」

『別に気にしなくていいよ。今のところトレミーも動かないみたいだし、ちょうど暇してたところだったから。』

「そうか。ああ、それとセイエイにも礼を言っておいてくれ。確かにここなら、最悪自分でパーツを買いそろえて簡単な整備をするくらいはできそうだ。」

とはいっても、できればできる限り外を出歩きたくないというのがレイの本音だった。
工場が乱立しているせいで曇ってしまった空とこのよどんだ空気の中に長くいたら次の日には癌になってしまいそうだ。
本当にこんな世界に刹那とジルはいたのだろうか。

『刹那に仲良くしてくれた人たちがいるって言うから大丈夫だとは思うけど、大きな損傷なんかあったら連絡してね。すぐに整備でも何でもしに行くから。』

「了解だ。もっとも、そうならないようにするのが俺の仕事なわけだがな。」

互いに苦笑をした後でレイは射出態勢に入る。
リニアカタパルトに愛機とともに固定され、ボルテージが規定値に達したところでグイッと操縦桿をつきだした。
久々にGを感じながら跳び出した外は生憎の雨だったが、この黒い姿を隠すにはちょうどいいだろう。

「それじゃあ、行くとするか。あの連中がなんなのか確かめるためにもな。」



魔導戦士ガンダム00 the guardian 43.Border breakers


なぜ、レイが刹那とジルの二人とゆかりのあるエイオースを訪れることになったのか。
その理由を語るために、少し時間を巻き戻してみよう。



ミッション終了直後 バーナウ エウクレイデス

「介入してきた第三者?」

「そうだ。」

シャルのオウム返しにうなずくレイ。
モニターには無事にあの艦船の大群を潜り抜けたプトレマイオスのブリッジも映り、ソレスタルビーイングのメンバーほぼ全員が顔を合わせていた。

「彼らは管理局やアロウズには攻撃を仕掛けたが、俺たちには仕掛けてこなかった。つまり…」

『味方になりうると?』

「ああ。」

スメラギの言葉を肯定するレイだったが、実際に考えていることは少し違う。
あの第三勢力とカタロンとで協力体制を築けないかというのが正直なところだ。
もっとも、カタロンはソレスタルビーイングに協力すると宣言しているので、こちら側ではソレスタルビーイングに協力する形になるのだろう。
しかし、もし彼らが地球に来て、そしてカタロンに協力してくれればこれほど心強いものはない。
連邦も管理局という巨大な組織と手を組んでいるのだし、カタロンの幹部連中も事情を話せばこちら側の世界の戦力と手を組むのはやぶさかではないはずだ。
問題は、

『敵の敵は味方、か……そんなに上手くいくか?』

そう、ラッセの言うとおりだ。
こちら側に協力する気があっても、向こうがそれを拒んではどうしようもない。
ついでに言うならば、実際に会ってみてこっち側によくいる危ないテロリストだったなんてオチはごめんだ。
しかし、行動しないことには何もわからない。

「とにかく、クサイものは徹底的に洗ってみるさ。そういうわけだから、俺はここらで別行動をさせてもらう。世話になったな。」

「おい、ちょっと待て。調べんのはいいけど、あのフラッグはどうするんだよ?」

ヴァイスが整備担当として意見を述べる。

「カスタムフラッグだったっけか?ありゃあそうとうクセが強いぞ。緻密に造られてる分、生半可な腕や材料じゃろくに状態を整えられないぞ?」

『確かに……あれは結構ややこしいからね。使う側も整備する側も慣れないうちは泣かされるかもね。』

マイスター兼整備担当の二人が言うのだから間違いない。
レイ自身も、いくつか過去に思い当たる節はある。
どうするかと悩み始めるレイだったが、すぐに刹那から解決策を提案された。

『エイオースだ。』

「なに?」

『エイオースなら精密機器から大型機械の扱いに慣れている奴も多い。MSの整備もこなせるだろう。』

『なるほどね。でも、そう簡単に請け負ってくれるかな?』

『ニュードのB-4地区ならたぶん大丈夫なはずだ。それに、もしもの時も『アイアン』で俺の名前を出せばなんとかなるかもしれない。』



現在 ニュード付近

「なんて言ってたが、どうなることか……」

刹那を疑うわけではないが、お世辞にも治安がいいとは思えないこの世界でそんな都合よく事が運ぶだろうか。
そんな不安を抱きつつ、レイは傘の柄を肩に乗せながらダウンタウンへと歩き出した。



B-4地区 BAR・アイアン

「いやぁ、まいったまいった。」

低い背丈の少年が差す傘の下、さらに小さな融合騎が犬のように体を震わせて水気を払う。
少年の方も仏頂面で傘をたたむと、蒸れる合羽を脱いでピンクの長い髪をした女性の隣に座った。

「いきなり降り出すんだもんな~。おかげでびっしょびしょだよ。」

「だから言っただろう?準備をしておいて損はないとな。」

彼女の言うように、この時期のエイオースの天気は急変しやすい。
どんなに晴れていようと、傘や合羽を持っていくのが常識なのだ。
もっとも、雲が無くとも工場の出す煙で太陽がうっすら隠れてしまっているこの空を晴れていると表現して良いのかどうか迷うところではあるが。

「御苦労だったな、アギト、ブリジット。」

女性の言葉とほぼ同時に少年と融合騎の前にマスターからオレンジ色の液体が差し出される。
融合騎の方は待ってましたとばかりに彼女にはやや大きめのグラスに飛び付くが、少年の方は女性の飲む芳醇な香りの赤い液体を見つめたままブスッとした顔をしている。

「なんでこっちはノンアルコールでそっちはワインなんだよ。」

「未成年には十年早いということだ。大人しくジュースで我慢するんだな。」

その言葉にマスターだけでなくカウンターに座っていた客の全員から小さな笑いが漏れる。
ブリジットはいっそう不満げな表情をするが、シグナムは嬉しそうにクッと一気にワインを飲みほした。

「しかし、シグナムも大変だよな。まさか、奉仕活動のためにやってきたはずなのに用心棒とはね。」

「言うな。私も少し反省しているところだ。」

ご機嫌だったのにアギトの一言のせいでシグナムのホロ酔い気分も一気に冷め上がる。

そう、最初はブリジットとアギトの更生のために社会奉仕に来たはずだったのだが、ガラの悪い連中に絡まれている住民を助けたことから全ては始まった。
後からやってきたやつらも死なない程度にボコボコにし、さらに助けた住民に案内されたこのバーでも三人そろって大立ち回りを演じ、なし崩し的にここの用心棒に任命されることになった。
今日もついさっきここの常連に絡んでいた輩をレヴァンテインの鞘と峰でタコ殴りにしてきたばかりだ。

「ここに駐屯してるやつも適当だよな。『住民の安全確保も立派な社会奉仕だ!』なんてOK出しちゃうし、一体どうなってんだか。」

「でも、最近になって随分と治安はよくなったんだよ。少し前はここでも昼間っからごたごたが絶えなかったからね。」

「なら、私たちはもう不要だな。」

「それとこれとはまた話が別だ。刹那がいなくなったらまたろくでもない奴らが増えてきてたからな。」

「またそいつか。」

アギトが聞き飽きたといったようにグラスから体を離す。
シグナムとブリジットももう何度その人物の話を聞いただろうか。
シグナムの前に用心棒をしていた人物らしいが、かなり腕が立つ剣士らしい。

「いずれ手合わせを願いたいな。」

「でたよ、戦闘狂が。」

「強そうな奴を見つけて喧嘩吹っ掛けるなんて騎士というか人間として問題ありだよね。」

辛辣な言われようだが、そんなことにもめげずにシグナムの瞳は期待からキラキラと最高に楽しそうに輝いている。

「風撃変換とは珍しいな……だが、私とレヴァンテインを持ってすれば大気すらも斬り裂いてみせよう。」

「駄目だこりゃ。」

「まったく聞く耳持たずだね。」

呆れてアギトとブリジットは再びオレンジジュースで喉をうるおし始めるが、シグナムは相変わらず戦略をブツブツと念仏のように呟いている。
その時だった。

「ん?」

外の雨はいつの間にか止んでいたのだが、代わりに人の騒ぐ声がドンドン大きくなっていく。

「……もう一仕事みたいだ。」

「だね。ほら、シグナムも早く。」

「やれやれ、またか……」



B-4地区 大通り

「やれやれ、またか……」

マリアンヌはくすんだフードをとり、防水加工を施したローブの下で二本の刀を静かに出現させる。
昔から眼と髪の色のせいもあり、よく絡まれてはいたのだが、ここの連中はそんなこととは関係なく因縁をつけてくる。
金銭が目的なのか、はたまたただ憂さ晴らしをしたいだけなのかはわからないが、絡まれる側からすれば甚だ迷惑な話だ。

「今なら見逃してやる。さっさと消えろ。」

サングラスの下で翠の瞳を瞼の下に隠しながら一言それだけを残して歩き出す。
だが、それでゴロツキたちが引き下がるはずもなく、一人が無警戒に見えたマリアンヌへと武器を振りかぶって襲いかかった。
だが、

「……カハッ!」

武器を手放して前のめりに倒れる男。
クレシェンテを抜刀しようとしていたマリアンヌもそれに驚いて軽くバックステップをして距離をとると、男の後頭部のあたりに肘を突き出している人物を見る。

「女一人に武器を持って襲いかかるか。男の風上にもおけん奴らだな。」

眼帯をしているその男は倒れた男へ蔑みの視線を向けた後、振り向いて残っているゴロツキにも同じような顔をする。
ゴロツキたちは激昂して眼帯の男へ襲いかかるが、彼は器用にその攻撃を器用にかわしてするりと反対側へ抜ける。
そして、雨避けのために着ていた古びたコートの内側から黒光りする物を取り出しておもむろにゴロツキへ向けた。

(質量兵器?)

自動拳銃と呼ばれる類のそれだと思ったが、所持が厳しく取り締まられている質量兵器はおいそれと手に入るものではないし、なにより、いくら局の規制が緩いエイオースでも、こんな人目につく場所で取り出すのは迂闊すぎる。
おそらく、モデルガンか何か、でなければ殺傷能力のないガスガンか何かだろう。
ゴロツキたちもおもちゃの類だと思ったのか、げらげらと笑い始めている。

「ハハハハハハ!!」

「?本当に銃を見たことが無いのか?こんな裏社会の最たる場所にいるくせに、めでたい奴らだ。」

男がトリガーを引いた瞬間、ゴロツキだけでなくことの成行きを見守っていた街の住人とマリアンヌまで固まった。
銃口から響いたのは雷よりも凄まじい爆発音。
先頭にいた禿げ頭の頬に赤い筋が刻まれ、赤い液体がツゥッと流れ落ちる。
その雫が地面に落ちたところで通りが割れんばかりの悲鳴が眼帯男の鼓膜を揺さぶった。

「ほ、本物だ!!!!アイツ本物の質量兵器を持ってるぞ!!!!」

「逃げろ!!!!巻き込まれるぞ!!!!」

「お母さ~~~~ん!!!!」

「ほら!!早くこっち!!!!」

「……そこまで驚くことか?」

そう思う男だったが、やはり使うべきではなかったかと後悔する。
話には聞いていたが、まさかここまで過剰反応をされると思っていなかったのだ。
なにせ、向こうでは一般人にも銃の所持を認めている国だってある。
そこでの生活が常識だったし、なにより銃弾が飛び交う場所にいた彼にとって、これくらいのことでここまでの大騒ぎするこの街の人々の方がよほど異常に見える。

「お、落ち着け!!質量兵器っつっても魔法障壁を抜けるわけがねぇ!!!!囲んで袋叩きにしろ!!!!」

一気に暴力の矛先が自分に向けられ、いよいよ自分の軽率さを悔やみだす。
ちょっとした人助けのつもりが、あっという間に生きるか死ぬかのピンチに早変わり。

「ったく、何が頼りになるだ。来たばかりでさっそくトラブルだ。」

囲まれているのにどうしようかと上を見上げる男。
しかし、フワリと冷たい、しかしこの街の湿ったものではない風が通り抜けたことに気がつき視線を正面に戻す。
と、次の瞬間だった。

「刃波・一の疾。」

「なっ!?」

ゴロツキたちが見えない何かに吹き飛ばされたように宙を舞う。
それと同時に血の雨が降り注ぎ、その何かを放った彼女を赤に染めた。

「最初はともかく、その後はいまいちカッコがつかなかったな。」

「……それはどうも。俺もこんなおっかない女だってわかってたら助けなかったんだがな。どうも、こっち側の女はスルーが可愛く見えてくるくらい凶悪なのが揃ってるみたいだ。」

顔をしかめながらその壮絶ながらも美しい戦女神を網膜にしっかりと焼きつけるレイ。
サングラスを外した翠の瞳はまさしく宝石。
金色の髪も本物の金を糸にして仕立てた生地のようであり、血で濡れた白い素肌もそれによく似合っていた。
だが、この状況でその行動はあまりにも悠長だった。

「おい。」

「「ん?」」

それぞれかけられた声に振り向く二人。
そこにはゆうにさっきの倍の人数のいかにもといった感じの男たち。
しかも、なかにはデバイスを持っている者もいる。

「……一人でどうにかできるか?」

「私だけならな。荷物がいてくれては上手く斬り刻める自信はない。」

「やっぱりおっかない女だ。おっかないついでに俺のことも放っておいたらどうだ?」

「余計な世話でも助けてくれた人間だ。見捨てるのは義に反するというものだろう?」

「マフィアか何かかお前は。」

背中合わせでにじり寄ってくる筋肉と武器の壁を睨みつける二人。
こんな状況なのに、見ず知らず同士なのに、背中を預けているというだけで不思議なくらいホッとしてくる。

「……マリアンヌ・デュフレーヌだ。」

「レイ・フライハイトだ。ホント、人生でワースト3に入るくらい最悪の日だ。」

「まったくだ。」

グッと足に力を溜めたところで跳び出そうとする二人。
しかし、その前にマリアンヌの前の集団の一角は炎で。
レイの前の一団の一部は風を斬る蛇腹の刃で薙ぎ払われる。
急ブレーキをかけて止まった二人はポカンとするが、残ったゴロツキと二人の間に蝙蝠のような羽を生やした妖精と金色の髪の少年、そして、一振りの剣を持った女騎士が舞い降りた。

「状況はよくわからんが、どう考えても悪人はこの脳筋どもだろうからな。」

「どこ行っても馬鹿ばっか……いい加減にしてほし…」

そう言って振り返った少年と女騎士。
女騎士の方は特にリアクションはなかったが、同じ髪と瞳の色に一瞬固まり、ようやく口から出たのは、

「「あ。」」

「「「あ?」」」

間抜けな声に騎士、妖精、レイの三人も間抜けな声でそちらを向くが、同胞である二人はすぐに別の言葉を口にした。

「あんた、マリアンヌ?」

「お前、“ブレンダ”か?」

「そっちで呼ぶなっ!!」

ブリジットがマリアンヌへドロップキックで跳びかかるかと思われたが、彼の足の裏は見事に呆然と立ち尽くしていた男の一人に突き刺さる。
口から歯をボロボロとこぼしながら倒れた仲間に、ようやくブリジットに拳を打ち下ろそうとするが、そうはさせまいとシグナムがその剣で二、三人をまとめて壁に叩きつける。
今度は別の男がシグナムへ槍を突き刺そうとするが、レイの拳銃が槍を握る腕を的確に撃ち抜く。
そうすると、ガラ空きになっていたレイの背中を守るようにマリアンヌの剣が閃き、男たちを斬り刻む。
アギトの炎が壁となって必要以上の敵を四人に寄せ付けず、それでも近寄ろうとする者はその熱で焼かれ倒れた。

「つ、強え!!」

「こいつら、人間じゃねえ!!」

「に、逃げろ!!とてもじゃねぇが割に合わねえ!!」

今頃になって自分たちが喧嘩を売った相手と後になってやってきた人間がとんでもない化け物だと気がついた男たちは慌てて逃げ出そうとするが、今度はナイフが飛んできて爆発して彼らの逃げ道をふさぐ。

「すまんが雇い主の意向でな。あまり派手なことをされては困る。」

レイと同じように眼帯をつけた幼い容姿の少女がナイフを指にはさんですごむ姿は滑稽に見えるが、再び地面に突き刺さったナイフが爆発すると、男たちは腰を抜かす。
すると、今度はメガネの少女がバインドで全員を縛り上げた。

「はい、おしまい♪それじゃあ、早いとこあのナンパ師のとこへ…」

メガネの少女は上機嫌で男たちを連れていこうとするが、五人の方を見てダラダラと汗を流し始める。
いや、正確にはシグナムとアギトを見てだろうか。
シグナムは彼女のことを知らないだろうが、彼女の妹である眼帯の少女のことは知っているだろうし、なによりアギトだ。
地上部隊の制服を着ていても、あの男に雇われている自分を含めた5人の姉妹全員を知っているし、12人全員に対して良い感情は持っていないだろう。

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?なんでお前がここにいるんだクアットロ!!!!!」

「あ、あらぁ、お久ぶり……」

「アギト!!!?それに六課の騎士!!!?」

「お前たちはスカリエッティの!?投獄されたはずでは…」

「は~い、そこまで。」

「!!」

歴戦の猛者である自分に気配を悟られずに背中をとったこの男が只者ではないことがシグナムにはすぐにわかった。
だが、彼女が一番驚いたのはそのことではない。

「どこをさわっとるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

「ごっふぉああぁぁぁぁぁぁ!!!?」

レヴァンテインの鞘を顔面にもらい、豊満な胸を名残惜しそうに手放して吹き飛ばされる男。
そして、吹き飛ばされた先に待っていた女性の蹴りで建物の壁に顔をめり込ませた。

「初対面の人間にセクハラしてんじゃないわよ。」

「い、いや……初対面じゃねえって…………はやてちゃんに会ったときにチラッとだけど面識はあるから………」

「面識があるからって胸を揉むバカは社会不適合者って相場は決まってんのよ。」

青筋をあちこちに浮かべながらハイヒールで尻を押してさらに壁へ突っ込もうとする長髪の女性。
しかし、シグナム達がジーッと見ているのに気がつくと慌てて体裁を整えて満面の笑みでありとあらゆること、特にさっき見せた彼女の凶悪な振る舞いを誤魔化そうとする。

「とりあえず、自己紹介をしておくわね。私はドゥーエ。そっちの二人は妹のチンクとクアットロ。で、この社会不適合者が至極残念なことに私たちの今の雇い主で、非常に不安で信じがたい話なんだけど局で三佐をやってるクラッド・アルファード。」

「お…俺の扱い……ひどくねぇ?」

口答えをしようとするクラッドを渾身の蹴りで完全に壁の向こう側に貫通させたドゥーエは鬼の形相から再び朗らかな笑みへとその表情を変えて話を続ける。

「お互いいろいろ聞きたいこともあるみたいだし、私たちのオフィスに来ない?」

「いや、だからそこ俺のオフィ……」

「フンッッ!!!!」

とどめの蹴りで完全に建物の中に消えたクラッドをさすがに心配するシグナムだったが、ドゥーエはかまわず続ける。

「だ~いじょうぶよ。不意討ちなんてしないから。したって得は何もないしね~。」

「それ見て信じろって……僕らそこまでお人好しじゃないんだけど?」

「だから大丈夫だって。私がSになるのはこのド変態だけだから。」

「それはそれで心配になるよ……」

「まあ、そんなことはいいのよ。それより、来るの?来ないの?言っとくけど、そっちの騎士様は来た方がいいと思うわよ?」

「?」

ドゥーエの瞳が細くなる。

「司書長を助けたいと思わない?」

「!!」

「司書長……?スクライアのことか?」

レイの呟きに今度は全員の視線が彼に集まる。

「ユーノを知っているのか!?」

「あ、ああ。なんだ、お前もあいつの知り合いなのか?」

「スクライア……そうか、お前もあの娘の仲間というわけか。どおりで命知らずなわけだ。」

各々が違う反応をする。
まるで、もつれていた糸が解けていき、それぞれの持つ色が一層鮮やかになるように。

「……ホント、いろいろ聞かないといけないみたいね。それをここでされても困るから、早くオフィスに行きましょう。司書長の話は聞かれたら本当にマズイわ。」

ドゥーエが再び騒がしくなってきた周囲に気を配りだすが、すぐにその喧騒が異質なものへと変わる。
まるで、彼女たちが見えなくなってしまったように。

「IS・シルバーカーテン……人を蚊帳の外にして話を進めないでくださいません?」

「クアットロ……助かるわ。さあ、早く行きましょう。」

いつの間にか引きずり出していたクラッドを抱えてドゥーエは走りだす。
そして、疑念は消えないが、ここにとどまって事後処理に煩わされるのを嫌ったシグナム達もそれに続いた。






「ちなみに聞くけどさ、あの壁誰が弁償すんの?」

「もちろん三佐の給与から天引きだ。」

「あっそ……」

そんなやりとりが烈火の剣精と五番目の間であったとかなかったとか……





管理局 エイオース支部 クラッドの部屋

ヒルダ・アイヒマンは後悔していた。
少しでもこの人の役に立ちたいと思って父や関係者各位の反対を押し切って入局したのだが、立派な人物だと思っていた彼が連れてくるのは女性(しかも美人)ばかり。
今日も客人は女の子っぽい(ここ大事)少年以外はすべて女性。
最早見境なしだ。

「このスケコマシーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

「勘弁してくれ……」

すでにドゥーエの責めで傷だらけの頭に熱湯となんら変わらない紅茶をポットからぶちまけられるクラッド。
もう何度目かわからないこの妄想暴走娘の凶行を止めることを諦めて大人しく火傷しそうな熱さをこらえることを選択する彼に、ナンバーズ以外の面々は一様に顔を蒼くする。

「……あんたそのうち死なない?」

キャーキャー騒ぐヒルダに身の危険を感じて距離をとるアギト。

「俺もそう思うけど、この嬢ちゃんには何言っても逆効果だもん。初めの頃は包丁持ち出されて本気で焦った。」

「あれは洒落にならなかったな。」

「その割にはノリノリだったじゃねぇか、この幼児体型。俺のストライクコースからどっぱずれの大暴投のくせに喋んじゃねぇよ。」

「失礼極まりない女の敵が消えてくれるのを喜んで何が悪い。」

火花を散らすチンクとクラッドだったが、頭の上から注がれる熱湯が凍りつくほどの冷めた視線にヒルダを下がらせて前を向く。

「……オホンッ!それで、どこまで話したっけ?」

「聞いたの間違いだろう。」

レイが貧乏ゆすりをしながら答える。

「俺が地球の出身でカタロンの構成員だってとこまでだ。」

「あ~、そうそう、そうだった。で?はるばる並行世界からなんでこっちに来たの?」

「率直に言うなら戦力を得るためだな。アロウズが管理局と協力体制を築いた以上、俺たちも戦力や使えるカードは多い方がいい。」

「局員を前によくもまあいけしゃあしゃあと。何なら今すぐとっ捕まえてやろうか?」

「ブタ箱いく前にお前が脱走したテロリストのメンバーを囲ってることを取調室から裁判所でもどこででも話してやろうか?」

「………………………」

「………………………」

「……とりあえずこの話は今は置いとこうか。」

「そうだな……じゃあ、次はそこのおっかない女の話でも聞くか。」

マリアンヌの眉が不愉快そうにピクリと動くが、反対にブリジットは必死に笑いをこらえている。

「マリアンヌ・デュフレーヌ。見ての通り翠の民だ。」

「……おっかないが抜けてるでしょ。」

「黙れ。」

拳骨でブリジットを黙らせると改めてクラッドの方を向く。

「亡国の復讐者の元メンバーだ。この“ブレンダ”と同じようにな。」

「ブレンダ言うな。僕は男だ。」

「最近は女男が世の流行りだ。」

「男女が何を言う。」

同じ組織にいたとは思えないほど険悪な空気になる二人。
だが、なんでここまでおかしなことになっているのか、聞く勇気は誰にもなかった。

「……話し続けてくんない?」

「あ、ああ、すまない。組織が潰れたおかげでメンバーは逮捕されるか私のように日銭を稼いで逃亡生活というわけだ。」

「なるほどな。で、幼女はなんで気持ち悪いくらい汗かきながら視線外してんだ?」

「き、気のせいだろう。私はいたって冷静だ。」

「冷静な人間は普通紅茶を紅茶シロップに変えるような量の角砂糖を投入するような暴挙はしないわよ?」

ドゥーエに指摘されずとも、この全身を襲う震えと動悸の心当たりはある。
というか、間違いなくチンクが彼女の組織の壊滅の一因なのである。
そんな彼女が組織のメンバーだった人間二人と面と向かい合っているのだ。
後ろめたいことこの上ない。

「……まあ、あまり気にすることはない。もともと一族の掟に逆らって組織されたものだったからな。滅ぶのが運命だったんだろう。」

「……そう言ってもらえると助かる。」

「まあ、僕はバリバリ恨んでるけどね。」

「……申し訳ございません。」

深々と頭を下げるチンクを最高の笑顔で見下ろすブリジット。
シグナムもバツが悪そうに視線を外してアギトに不思議そうな顔をされるが、そのアギトを強引に自分の影に押し込んでブリジットとは決して目を合わせようとしない。

「……話戻すけど、そんなあんたがなんでまたエイオースに来たんだ?」

「はっきり言って偶然だ。資金もそこをついたことだし、この物騒極まりない世界なら稼ぎ口にも苦労しないだろうと思ってな。」

「耳の痛いご意見どうも……」

「それより、私としてはそこの三人とお前たちが何をたくらんでいるか知りたいな。」

クラッドとシグナム達が急に押し黙るが、クラッドのお先にという手の合図にシグナムが語り出す。

「私はこの二人の更生の付き添いでこの世界で奉仕活動をしている。それは、クラッド三佐も御存じですね?」

「まあね。でも、早いとこ別の世界へ行きたいっていう話も耳に届いてるよん。」

カマをかけるクラッドに今度はアギトが答える。

「私らはゼスト・グランガイツを探してる。」

「ゼスト?ああ、あのおっさんね。確かに自分の部隊が全滅した後も生き残ってたって聞いたけど、J・S事件できっちりくたばったって報道されてたけど?」

「そんなもん嘘っぱちに決まってんだろ!!旦那がそう簡単に死ぬもんか!!」

「……三佐。これを御覧になってください。」

シグナムから差し出されたいくつかの事件の報告書と現場写真を邪魔になってきた顔の包帯を外しながら真剣な顔で見つめる。

「……上手く擬装されてるけど、殺った奴はベルカ系だな。それも、相当な腕の騎士だ。」

「わかりますか。」

「ああ。報告書も偽造されてる部分があるな。殺られた連中もどっかのジーさんにたてついた奴らや似たようなことしたメンツだな。」

「あんた……ホントは優秀だったのね~……」

「そうよ~、惚れ直してくれたドゥーエちゃん?……まあ、そいつは今は置いといてだ。シグナムちゃんはこれやったのがゼスト・グランガイツだと?」

こくりとうなずくシグナムだが、クラッドは頭をバリバリとかいた後、深刻そうな顔で告げる。

「まあ、親しかった髭モアイがジーさんのお飾りになってるからもしかしたらありえるかもしれないけど、お宅ら大切なことわかってる?」

「ファルベル准将の裏の面に踏み込むことになるかもしれない、と?」

「だけならいいさ。最悪この写真の仲間入りだ。これを見たこの場にいる全員巻き込んでな。」

しかし、脅しともとれるクラッドの忠告に誰一人顔色を変えない。
むしろ、鋭い瞳でクラッドを見つめ返してくる。

「……わかったよ。やめとけとは言わねえけど、俺たちとギブ・アンド・テイクをしないか?」

「ギブ・アンド・テイク?」

「イエース!これ見てみ。」

「ちょ!?待った…」

「コ、コラ!!まだ隠しておくと言ったのはおま…」

止めようとする周囲を気にせずにクラッドが宙に映したものに全員が目を丸くしてソファーから立ちあがる。
平たい無骨な頭部に青く光る一つ目。
側頭部にも補助カメラが装着されている。
下半身もがっしりしていて、腰にはグレーの柄がぶら下がり、右腕に握られた巨大な槍が全体的にどっしりした印象からも古代スパルタの重槍兵を連想させる。
ただ、連想させるというだけで金属製の巨躯は間違いなく人のものではない。

「MS!?」

マリアンヌの驚愕の声にレイもハッとクラッドの方を見る。

「まさか、バーナウで介入してきた第三勢力は…」

「そ、俺たち。あの時は狙撃武器のテストに利用させてもらったわけ。いやぁ、迷彩が上手く作動してくれてよかったわ。あ、それと俺たちと手を組むのはいいけど、その条件として何人かMSの操縦に長けてるやつを教官代わりによこしてくれや。こっちはどんなに上手かろうと素人だし、全員に教えるには数がおっつかねえんだ。」

「……向こうに戻れたら仲間に提案しよう。とりあえず、当面は俺が教えるが……どちらかというとフラッグよりもティエレンに近いな……ペジがいれば細かいテクニックも教えられるんだが。」

「その発言はお宅との交渉は成立ってことで良いんだな?」

「ああ……ん?GNドライヴ搭載型まであるのか?戻ったら使うかどうかで賛否両論わかれそうで怖いな……」

「よっしゃ、上等、上等。で、お宅らはどうする?ジーさんが支配する局がどうなってんのかわかってて、黙って見てるほど頭いいタイプでもなければ、ついでにたてつけないほどタマナシでもねえ。そんなお客さま方はこっちにつく方が賢明だと思うぞ?ついでに、騎士ゼストの情報も集めてやるよ。転職するには悪くない条件だろ?」

「…はめられた、と言うべきなんだろうな。だが、ここまで聞いて引くわけにはいかん。」

ニヤニヤするクラッドにシグナムはフゥと一息つくとレヴァンテインを起動して机の上に差し出す。

「我が身は一振りの刃……斬るしか能のない私でも友を救えるというのなら、いかようにでもこの力をお使いください。」

「ありがとさん。そんじゃ、さっそく歓迎会の準備といきますか。」

そう言って全身の包帯を剥がしながら立ち上がるクラッドの姿は、すでに好色男子のそれではなく、彼の信念の旗のもとに集った猛者たちを率いるにふさわしい雄々しい相貌へと変化を遂げていた。

(いっつもこうなら、付き合うべきか否かもうちょっと迷うんだけどね~……)

「どうかしたか?」

「べっつに~。変態がなにカッコつけてんだって思ってただけよ。」

地上部隊の上着を肩にかけるクラッドにドゥーエはほんの少し顔を紅潮させながらそっぽを向く。
いつも雑に扱われている分、その反応が何を示しているかに気付かなかったクラッドは扉の前に立つとノブも回さずに蹴り開けた。

「おいこら、デバ亀。何勝手に聞いてんだ。次からは中に入れて逆さ吊りにして焚刑だからな。それと、聞いてたんならすぐにでも全員に歓迎会の話を伝えに行け。」

「……えへ♪」

ひきつった笑みでそそくさと逃げていくヒルダの背中を呆れながら見送ったクラッドは改めてシグナム達の方を向く。

「そんじゃあ、一足早いけど俺から歓迎のあいさつをさせてもらうぜ。ようこそ、クソの吹き溜まりが作り上げたしがらみに囚われない者の“天獄”……境界の破壊者(ボーダーブレイカーズ)へ。」

その鋭い笑みに、シグナムは少なからず期待を覚える。
本来の主であるはやてとはまた違った求心力を、粗野だが一本筋の通ったその心に、彼女もまたここにいる人間たちと同様に惚れこんでしまっていた。








境界を破壊せし者、牙を砥ぎて闇夜にてその瞳を煌めかせる
月が満ちし時、その牙は一条の輝きとなりて闇に住まいし隠者を斬り裂く








次回の舞台は久々のミッド
ヴィヴィオがグレたので(?)トレミー緊急事態!
……なんて感じに穏やかに済ませたいなぁ……
無理だけど(^_^;)



[18122] 44.天と星、そして瑠璃色の輝きに誓って
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/07/24 19:39
ミッドチルダ 海中 プトレマイオスⅡ 沙慈の部屋

「むぅ~!!パパのわからず屋!!」

別段特殊な趣味をしているわけではないが、確かにむくれているこの姿も愛嬌がある。
そう思う沙慈だったが、できることならこの冷戦の早期終結を望んでいるのも事実だ。
なぜなら、

「ヴィヴィオちゃ~ん!」

「遊びに来たよ。」

「今日は私も一緒だ。」

「いらっしゃ~い!」

「それ本来なら僕のセリフ……」

そう、女性陣がヴィヴィオ目当てにこれでもかとつめかけてくるのだ。
しかも、ミレイナとフェルトはともかく、最後の砦だと信じていたリインフォースまで頻繁にやって来るのだ。

「リインフォースさんってこういうタイプの人でしたっけ?ユーノから聞いていた人柄とかなり齟齬が…」

「私がユーノ達の前に意思と肉体を顕現させられたのは消える直前、それも最初は敵としてだったからな。子供は嫌いではないのだが、あの時のイメージが先行しているなら、誤解も生まれるだろう。」

「ええ、納得ですよ。そうやってると本当に母親みたいです。」

猫のようにリインフォースの膝の上にちょこんと座るヴィヴィオに沙慈は脱力しきった笑いを浮かべる。
実に微笑ましいのだが、男ばかりの職場に勤め、女性慣れしていない沙慈にとってこの状況は有難迷惑。
まさに、生殺しだ。

ヴィヴィオとユーノの間で冷戦が勃発してすでに三日。
この冷戦において(ヴィヴィオ的に)勢力は二つ。
(ヴィヴィオの脳内では)マイスターズ&イアン、ジェイルはユーノ側につき、(しつこいがヴィヴィオの脳内では)ヴィヴィオ側についているのは沙慈、エリオと女性陣だ。
しかし、(くどいようだが、あくまでヴィヴィオの認識なので)実際は一切内部分裂は起きておらず、むしろクルー全員で二人の仲、というよりヴィヴィオをどうにかユーノの話を素直に聞ける状況にもって行こうと悪戦苦闘中なのだ。
だが、ことはそう簡単にいきそうもない。

「も~!パパの意地っ張り!なんで自分のことを悪く言ったりするんだろう?」

これである。
沙慈だけでなく、やってきた三人も苦笑を禁じ得ない。
幼い彼女にソレスタルビーイングにいる人間の決意や、常に自らの傍らにある罪悪感や悲しみを理解しろといっても難しいかもしれないが、それでもわかってもらいたい。
この幼子を自分たちのように、ソレスタルビーイングのような存在にしてはいけないのだ。
そのための自分たちで、そのためのガンダムなのだから。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 44.天と星、そして瑠璃色の輝きに誓って


刹那の部屋

「なんだ、まだ言ってないのか?」

刹那の部屋に集まって作戦会議中だった男性陣の中で、イアンが呆れた声で口火を切る。
それをきっかけにマイスターズからも、集まって数分しか経っていないのに疲労困憊と言った様子の溜め息が漏れる。

「だ、だって上手く話をできる機会がなかったというか…」

「無理にでも引っ張ってくればいいだろう。」

「駄目だよ。まだ小さい子に無理矢理話を聞かせるようなことしちゃあ。」

「ならばどうする?ユーノがヴィヴィオと話し合わないことには事態は好転しない。」

「話がややこしくなる原因作ったお前がえらそうにすんじゃねえ。」

「…………………」

強硬論を唱えるティエリアと刹那だったが、あえなく却下。
かといって、アレルヤとロックオンにもいい考えがあるわけでもなく、三日前から続く堂々巡りに再度突入していく。
…はずだったのだが、

(チッ……人が気持ちよく寝てるときにギャアギャア騒ぎやがって。オラ、アレルヤ。体貸せ。)

「え!?ちょ、ハレル…」

「……おい、バカ親父。」

「な!?バ、バカ親父!?」

ハレルヤの暴言に面喰いながらも抗議しようとするユーノだったが、二の矢、三の矢が続けざまに飛んでくる。

「お前は子供をペットかなんかと勘違いしてんのか?それとも、温室野菜か?」

「んなっ!!?」

「甘やかすだけで真人間になるのかよ。だったら、ハロでも与えて英才教育でも何でもするんだな。手間もかからねえし万々歳じゃねぇか。」

「ふ、ふざけ……」

掴みかかろうとするユーノだったが、逆にハレルヤがユーノの襟首を掴んで引き寄せる。

「てめえはあいつのなんだ?」

「ぼ、僕はヴィヴィオの父親…」

「だったら、親父らしくサイコロの一面だけ見て喜んでるようなバカガキに他の面を見せてやるのが親の務めってもんじゃねえのかよ?」

「……そんなの、わかってる。だけど…」

「親父が早死にしたからどうすりゃいいのかわからねえなんざてめえが都合よく自分の境遇を解釈した言い訳だろうが。不幸自慢なんざ聞き飽きてんだよ。」

ベッドの上に乱暴に放り出すと、ハレルヤは扉の前まで行って一瞥する。

「本当に何の自慢にもならねえが、俺もアレルヤも親を知らねえし、こんなみょうちきりんな体だ。だけど、俺はともかくアレルヤはそこらにいる奴らよりよっぽどまともな人格だぜ?血のつながりがなくても、たとえわずかな時間でも親がいたお前が自信なくされたんじゃ、俺たちの立つ瀬がねえんだよ。」

とどめの言葉にうなだれるユーノ。
だが、最後に金と銀のオッドアイが鋭いものからいつもの優しげな眼差しに変わる。

「それに、ユーノがヴィヴィオの将来のことを心配してることは、ちゃんと伝わるはずだよ。」

「アレルヤ……」

少年のような視線を背に受けて部屋を後にするアレルヤとハレルヤ。
二人きりになった廊下を歩きながら、アレルヤがこらえきれなくなったように小さく笑いだす。

(んだよ?)

「いや、珍しいと思ってさ。ハレルヤが他人の世話を焼くなんてね。」

(ケッ!これ以上の安眠妨害は死活問題だからな。)

「それに、僕のことをあんな風に思っててくれてうれしいよ。」

(なっ!?バッ、バーカ!!勘違いすんじゃねえ!!お前がいないと俺もいろいろやりにくいってだけだ!!この脳内お花畑野郎!!)

「はいはい。」

逆転した立場を楽しみながら、アレルヤは上機嫌でマリーの下へ向かう。
この不毛な膠着状態を打破する作戦をたてるために。
ただ、この三日間、誰よりも入念にある作戦を水面下で、それもそれに関わる人物がその作戦の駒になっていることを気取られぬように進めている人物がいた。



ブリッジ

戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガ。
そう、何を隠そう、彼女の作戦は冷戦勃発の知らせを受けた瞬間にすでに発動していたのだ。
不安要素をあげるとすればフェルトがいつスメラギの想定している行動に移るかだ。
彼女の性格を考えれば、ヴィヴィオの下を頻繁に訪ねるようになることは予測できたし、説得のためにちょっとしたタネを、フェルトにもわからないようにそれとなく提案しておいた。
いや、そもそも提案だとすらも思われていないだろうが、きっかけになる可能性は大だろう。
問題は、それがいつ、そしてスメラギの思うような形でヴィヴィオに伝えられるかだ。

(さて、フェルトのお手並み拝見ね。)

そう思いながらフェルトの膝の上でコンソールを叩いてデータの整理のマネごとをするヴィヴィオをクスリと笑ってちらりと見る。
ヴィヴィオはご機嫌で珍しいおもちゃを、扱いこなせるはずのないデータの山を相手にはしゃいでいる。
……はずだったのだが。
遊びだったはずのそれはすでにフェルトやミレイナが普段からこなしている仕事となんら変わらないレベルにまで到達しつつある。

「す、すごいわね、ヴィヴィオちゃん…」

「ふぇ?」

「うん……もうここまでできるんだ…」

「うぅ……私、自信なくしそうです……」

流石、ミッドチルダでもとりわけ優秀な魔導士二人の娘というかなんというか。
とにかく、ハイスペックなお子様だ。

「お姉ちゃんのやってること見てたら覚えた!」

〈……何この子?実は未来人が作った高性能なアンドロイドかなんか?〉

(……そもそも見ているだけで覚えられるようなものなのか?)

(いえ、そんなことは……基礎がわかっていないことにはどうしようも…)

「一番初めに教えてもらうことはクロちゃんが一人でいるときに教えてくれたの!」

念話まで傍受され、フェルトたちはおろか、リインフォースまで比喩でも何でもなく、現実に腰を抜かしそうになる。
念話傍受は大方ユーノの見よう見まね。
しかも、コンピューターの扱いの基礎を教えた967も5~6歳の子供では到底理解できまいとタカをくくっていたに違いない。
昔のユーノもそうだが、この手の才能というものの恐ろしさを改めて心の奥深くに刻み込まれた一同であった。

「でも、本当にすごいね。私なんて慣れるのに3ヵ月はかかったのに。」

(お?)

それらしき気配を感じ取って自分の作業をしながら聞き耳を立てるスメラギ。
話は戻るが、スメラギが仕掛けた戦略、フェルトに言ったのはたった一言。
すれ違いざまに、『ヴィヴィオの境遇って、私たちにちょっと似てるわね。』と。
聖王のクローンとしてこの世に生を受け、その意思に反して戦いの真っただ中に放り込まれたことを考えれば、あながち違うとも言えない。
そのさりげない一言が持つ力、ソレスタルビーイングにいる人間だからこそ感じ取れるその言葉の意味を、フェルトがちゃんと汲みとってくれるとスメラギは信じた。
そして、フェルトはスメラギの思惑通りにヴィヴィオに話を始めた。

「フェルトお姉ちゃんはいつからこのお仕事をしてるの?」

「う~ん、と……ヴィヴィオちゃんより少しお姉さんの時くらいかな?その時の私はソレスタルビーイング以外の世界を知らなかったから。天国のパパとママと同じように、ここに来るのが当たり前だって思ってたんだ。」

「へ~…」

「でも、今は少し後悔してるかな?」

「?なんで?みんなのために悪い人たちをやっつけてるんでしょ?」

「……私もね、最初はそう思ってた。」

フェルトの笑顔が少し曇る。
スメラギの顔も暗くなり、思い出したくないことを、しかし決して捨てることのできない過去が思い出されていく。
大罪だと知りつつ始めた介入行動。
多くの犠牲、そして、命を散らしていった仲間たち。

正義という大義名分を背負っていれば、幾分か心も楽になったかもしれない。
命の重さを感じずに済んだかもしれない。
だが、償いにはならない。
償いきれるとは思わないが、それを理由に罪から逃れることはできないのだ。
なぜなら、誰にも、どんな形であれ正義は存在するのだから。

「例えばね、ヴィヴィオちゃん。連邦や管理局の人、アロウズにいる人にだって正しいと思っているものはあるんだよ。相手を打ち負かすってことは、それを全部否定するってこと……その人そのものを否定することにもつながるんだよ?」

「でもでも!いけないことしてたらお仕置きされるのは普通のことだよ?」

「う~んとね……例えば、ヴィヴィオちゃんが誰か困ってる人を助けようとしているとするね。でも、その人を助けると、今度は別の人が困っちゃうんだ。ヴィヴィオちゃんが誰かを助けて、その別の人がヴィヴィオちゃんのことを怒ったら、それはいけないことかな?」

「それは……」

返答に困るヴィヴィオ。
困っている人間がいれば助けるのが当たり前だ。
しかし、そうすると今度は別の人間が困るという。
ならば、助けないことが正解なのだろうか。

「答えられなくて当たり前なんだよ。」

ヴィヴィオの髪をフェルトは優しくなでる。

「この世界には、正解が出ない問題もあるの。私は、ずっとそれに気付かないでいた。大切な人がいなくなるまで、ずっと。」

「大切な人って、お姉ちゃんの好きな人?恋人?」

少し頬を赤らめるが、フェルトはすぐに小さく笑う。

「恋人……ではないかな?私の片思いだったから。だけど、その人は私にいくつも大切なものを残してくれた。それに、お姉さんみたいな人もいてくれたし、本当にたくさんのものを受け取った。そして、その人たちがいなくなってしばらくして気が付いたの。きっと、私たちがやってきたことのせいで、こんな思いをする人たちがいっぱいいたんだって……そう思ったら、すごく不安になって……」

「お姉ちゃん……」

震えるフェルトの手をヴィヴィオが小さな手で包み込む。
それに勇気をもらい、フェルトは再び口を開く。

「でもね、だから私は残ることを選んだの。こんな苦しい思いをするのは私たちだけでいいから……それで、誰か一人でも多くの人が救われて、誰も涙を流す必要のない世界になるなら、自分で自分が許せなくなっても構わないって……そう思えるの。」

と、そこまでしゃべったところでスメラギだけでなくミレイナとリインフォースも目を丸くして自分を見ていることに気付いて慌てて取り繕う。

「な、なんてね!ごめんなさい、偉そうなこと言っちゃって!」

「いいや、私も考えさせられた。」

そういうとリインフォースはヴィヴィオの目線に合わせて膝を屈める。

「ヴィヴィオ、フェルトはこう言っているんだ。力を振るう者は、常にその行動に責任が付き纏うと。」

「責任?」

「ああ、そうだ。」

リインフォースが深くうなずくと、その長い銀色の髪もそれに合わせて大きく動く。

「力はどう使おうと、たとえ、99%正しいことでも、1%のひずみを生む。そのひずみは、誰かを同じように歪ませる。そのすべてを受け止めることが、今のお前に出来るか?」

フルフルと首を横に振るヴィヴィオ。
そんな覚悟も、強さも、ヴィヴィオは持ち合わせていない。
この時になって、ヴィヴィオは初めて気が付いた。

「私……空っぽだ。」

刹那のような力もない。
ロックオンのように心が強くもない。
アレルヤのほど優しくもない。
ティエリアのように真っ直ぐでもない。

なのに、あんなに軽く、何が正しいか口にしてしまっていた。
ユーノの言いたいこともわからなかったのに。
なのはがユーノにその力を向けた時の苦しさも理解しようとせずに。
マイスターズの苦悩もわからず。
勝手に、自分の狭い尺度で判断を下してしまっていた。

「……!」

ヴィヴィオはフェルトの膝からひょいと降りると、とてとてと走りだす。

「私、パパに謝ってくる!」

「フッ…そうか。」

「ファイトです!ヴィヴィオちゃん!」

「うん!」

元気よく飛び出していったヴィヴィオを見送り、三人はフェルトにグッとサムズアップする。

「グッジョブです、フェルトさん!」

「ナイスだ。」

「クリスが目をかけただけのことはあるわ。」

「そ、そんなっ!!私なんて、一人じゃ何にもできないし、いっつも慌てしちゃうし…」

〈いやいや、いい仕事してますね~!〉

D・ケルディムにまで称賛され、小動物のように照れて縮こまるその姿はひどく愛らしいものだった。
ちなみに、ミレイナがこの姿をユーノに見せればフェルトの目下最大の目標を達成できるのではと考えていたのは彼女だけの秘密である。

「さて、流石にこれであの父子も素直に話ができるようになるでしょ。」

「ですね~。どんなに空気の読めない人間でも、今のヴィヴィオちゃん相手なら超能力者並みの勘を発動できます!」

「じゃあ、これで一件落着…」

リインフォースの言葉を誰もが肯定しようとした時、唐突にクロウの顔がモニターに映し出される。

『すまないが動けるか?局がリガーテに基地を新設しようとしている。今、下手に武装強化を見せて、危ない連中を刺激するわけにもいかない。すまないが、単機で突破力のあるクルセイドに牽制の意味を込めて基地の建設現場へ介入を……どうかしたか?』

ようやくスメラギ達のどよんとした雰囲気を感じ取る。

「……ヘイゼルバーグさん、とんだ空気ブレイカーです。ミレイナ、少し幻滅しました。」

「確かにこのタイミングはちょっと……」

〈KY。〉

ぶつくさ文句をたれながらフェルトとミレイナはユーノに連絡を入れ、すぐに出撃態勢を整えた。









『……エルダ。俺は何か悪いことをしたか?』

〈いえ、特に何も。任務が絡んだ時のマスターのKYぶりは今に始まったことではないので。〉

『…………………』

そして、これからはもう少し空気を読む努力をしようと心に誓うクロウだった。



コンテナ

きっと、雑誌の占いでは自分の今日の運勢は人生でワースト3に入るくらい最悪の評価なのだろう。
ようやくヴィヴィオとしっかり話し合いをする決意を固めたのに、まさかの単独出撃。
しかも、ここから遠く離れたリガーテへ。
どうやら、運命とやらはとことん自分のことが嫌いらしい。
そう思っていたユーノが967を片手にクルセイドに乗り込もうとした時だった。

「パパ!!」

ここにいるはずがないと思っていたその子の声で、967をクルセイドの中に落としてバッと振り向く。
小さな肩を上下させ、それでも必死にユーノの瞳を見つめてくる。

「ヴィヴィオ!!駄目じゃないかここに来ちゃ!!」

椅子の上で抗議の声を出す967も無視して、ユーノはハッチから降りる。
出撃前のコンテナにやってくる人間などパイロット以外ではそういない。
そんなところに娘がやってきたのだから、それはたまげるだろう。
しかしそこまでしてでも、彼女にはどうしても伝えておきたいことがあったのだ。

「あのね!私、パパといっぱいお話ししたいことがあるの!!」

「!」

「だから、絶対帰ってきて!!何があっても、絶対!!」

今にも掴みかからんばかりの勢いに驚くユーノ。
しかし、すぐに嬉しくて表情が緩んできてしまう。
どうやら、お互い同じことを考えていたようだ。

「うん。頑張ってすぐに終わらせてくるよ。」

そう言って優しく頬をなでると、安全な場所へと送り出して自分はコックピットへと向かう。

「きっと、今日の運勢は最高だね。」

そんな現金なことをご機嫌で呟きながら。



リガーテ 基地(建設中)

どんな役職にも、必ず一つや二つは呑気な仕事が回ってくるものだ。
この日、基地の建設とそのための物資搬入の護衛を任されていた局員たちもそう考えていた。
若干、機械まみれのピクニック。
その程度にしか考えていなかったのだが、ある一機の乱入者によって状況は一変。
ピクニックのオプションに、銃弾が追加されることになった。

「クッ!!」

遠く離れていても爆発の衝撃が伝わってくる。
ただでさえガトリングの音が酷いのに、それに加えてこれではまともに話をすることすらままならない。

「MDを全機出撃させろ!!何としてもあのガンダムを叩け!!」

『も、もうすでに出撃させています!!しかし……』

「そうだ。」

「ざ~んねん♪」

ペロリと舌なめずりをすると、ユーノは無遠慮にバロネットへ銃弾をばらまく。

「意思を持たない機械人形が相手なら手加減は抜きだ!!」

「徹底的に潰すぞ!!」

地上すれすれまで高度を下げて持ち前の突進力で距離を詰めるとバンカーすら使わず、ラリアットのように右腕を振るって首をもぎ取る。
残っていたバロネットたちはすぐに反撃に転じるが、クルセイド・Aはその重装甲にかすらせようとすらしない。

「クルセイド・アトラス、目標を粉砕する!!」

地面に足をついたクルセイド・Aは大地を削りながら進んでいたかと思うと、脚を少しさし込んで速度を落とすと同時にその反動を利用して向きを変える。
そして、バロネットたちのほうを向いたときには、すでに両肩のクレイモアは発射態勢に入っていた。

「チタン合金製のクレイモア……お前たちにはもったいないけど、大盤振る舞いだ!!」

両肩から瑠璃色の輝きを放ちつつ、クレイモアを撃ちこみながら円の動きで相手をはりつけにして撃滅していく。
そして、クレイモアの残弾数が半分をきったところで管理局自慢のMDの撃破は完了していた。

「バ、バカな……いくらガンダムと言えど、あの数を…」

「ほら、さっさと武装解除してよ。まだやる気かい?」

適当に人がいないところを選定してガトリングやクレイモアをばらまくユーノ。
おかげで基地の主要な場所には攻撃できないし、時間も手間もかかるが、これから娘と話し合いをするのに人殺しをした後の重い空気を引きずるわけにもいかない。

「パパも楽じゃないね、っと。」

今度はおもむろに腕を基地の敷地に突っ込んで威嚇する。
退去勧告は再三だしているので、そろそろ撤退を開始するはずだ。
というより、そろそろ基地を破壊して帰らないとこの騒ぎを聞きつけた連中が援軍としてやってくる。
今のコンディションならさほど労せず倒せるだろうが、クラウディアが出てこられては少々厄介だ。
早いところケリをつけたい。

「……ほら、早く。親子の対面を邪魔するもんじゃないよ。」

その念が通じたのか、ようやく武器を置いて敗走を始める局員たち。
基地からも我先にとまるで巣を壊された蟻のように人が出てきた。
中には一般人もまぎれている。

「おーおー、ぞろぞろとまあ。」

「トリニティのバカどもなら容赦なく撃つのだろうが、俺たちは無用な犠牲は好まんのでな。感謝することだ。」

「トリニティ……」

そういえば、刹那の話ではスローネドライとネーナ・トリニティはサーシェスの襲撃を生き残ったと言っていたが、彼女は今どうしているのだろうか。
捕獲されたとも破壊されたとの報道もないし、完全に雲がくれ状態だ。

(……って、なんでこんな時にスローネのことなんか…)

とはいえ、やはり気になるのも事実。
二人の兄とあれだけ無茶苦茶な介入をしていた彼女が大人しくしているはずがない。
それに、肉親が殺されているのだ。
あのネーナが黙っているとは到底思えない。

「……まあいいや。彼女がこっちに来ているはずもないしね。」

そう言って無人状態になった基地をクレイモアで派手に吹き飛ばしたユーノは、悠々とその場を後にするのだった。

……そう。

「クスクス……!み~っけ。」

一機の機体が、その様子を遠くからうかがっていることに気付かずに。



プトレマイオスⅡ 食堂

一人で宇宙食用に改良されたフルーツゼリーをすすってみるが、やはり待ち人が気になって味のほうにまで気が回らない。
ユーノが出撃した後、ここで待っているのだが心が落ち着かない。
機動六課にいた時はこんなに不安な気持ちになったことはなかったのに、今はすぐにでも無事を確認したくて仕方ない。

(……そっか。これが、戦いなんだ。)

命の奪い合い。
次の瞬間には、大切な誰かがいなくなってしまうのではないか、そして自分が死んでしまって、もう誰にも会えなくなってしまうのではという恐怖。
そして、誰かを傷つけることの痛み。
おそらく、自分がガンダムの話をした時も同じような気持ちだったに違いない。
今までそのことを考えようともしなかった自分が情けない。

「……強くなりたい。」

力だけじゃない。
この不安に押しつぶされない強さが欲しい。
そして、大事な人たちを守り抜けるようになりたい。

「パパァ……!!」

「呼んだ?」

いつの間にか来ていたユーノが、パイロットスーツを半分脱いだままで優しくヴィヴィオの小さな頭をポンポンと叩くが、ヴィヴィオはしゃくりあげたまま顔をあげない。

「ごめんっ…!なさいっ……!私、何にも知らないで…!!」

「ううん……ヴィヴィオの気持ちはすごくうれしかったよ。だけど、やっぱり僕はヴィヴィオに幸せになってほしい。……でもね。もしもヴィヴィオがそれでも、本気で誰かのために自分をいとわないで戦いたいと思うなら、僕もなのはもそれを止められない。たとえ、敵同士になることになってもね。けど、やっぱり今は普通に幸せな暮らしをしていてほしいかな?」

「うっ……ひっく……!!うええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!!ごめんなさいパパァァァァ!!!!ママァァァァァァ!!!!」

泣きじゃくる我が子を腕の中にしっかりと抱きしめ、その温かさに自分も涙ぐむ。
いつか、自分のもとを離れていくんだとしても、幸せになってほしい。
そして、たとえ幸福とは程遠い道を行くことになっても、自分の意思で決めて、その決定の重さに押しつぶされないような人間になってほしい。
そう、願いを込めながら。

「ヴィヴィオ、約束して。」

「うっうっ……グスッ!」

ヴィヴィオをなだめ、少し離れると小指を差し出す。

「力を持つということの意味を間違えないことを。力を振るうことの重圧から逃げないことを。」

「ふぐっ……!うん……!約束する!」

ヴィヴィオも小さな指をからめ、涙でぐしゃぐしゃになった顔でにっこり笑う。

「天に誓って?」

「天と星に……それと。」

いっそう明るく笑ってヴィヴィオは続ける。

「瑠璃色の輝きに誓って!」

「…!うん、約束だよ。」

まだ小さいが、もうヴィヴィオは持っているのかもしれない。
掲げた信念を貫ける強さを。
今は気付いていないかもしれないが、いつかその強さが誰かを救うのかもしれない。
自分の心を救ってくれたように。
そんなことを思いながら、ヴィヴィオの親になれたことを、ユーノは心から感謝した。







聖王、守護者の涙に誠の強さを知る









おまけ

翌朝 コンテナ

「う~~……頭痛ぁ~…昨日はいくら何でも飲みすぎたかな………他のはともかくスピリタスとレモンハート丸々一本空けちゃったからなぁ……」

〈だから止めたのに……いい加減にしないと早死にしますよ、マイスター?〉

いくら強いと言ってもそこは生身の人間。
アルコールの過剰摂取は体によろしいはずがない。
そして、スメラギの秘蔵の酒類が減ったのだから彼女的にもよろしいはずがない。



ユーノの部屋

「ウフフフフフフ……!!!!やってくれたわね、ユーノ……!!!!!!!!」

「…………………………(汗)」

967曰く、空になった酒瓶を握りつぶす鬼神がそこにいたそうな……



コンテナ

「まぁ、自業自得か。二日酔いを理由にお仕事サボるわけにはいかないか。」

〈カッコつけるのは勝手ですけどサングラスずれてますよ?〉

痛む頭を押さえながらフラフラとした足取りで沙慈、イアン、ジェイルの待つ場所へ急ぐ。

「おはよ~…」

「おう、遅いぞ。」

「おはよう。」

「お、おはよう…」

いつも通り挨拶をするイアンとジェイル。
そして、なぜか滝のような汗を流しながらユーノの顔から視線をそらす沙慈。
すこし違いはあるが、いつもと同じ朝だ。

「珍しいな。お前が遅れるなんて。」

「あれ?ラッセ?」

奥からやってきたラッセに不思議そうな声で返事をするユーノ。
エリオとの朝練には早すぎるが、予定を早めたのだろうか。

「そっちこそ珍しいね。まだ朝練をする時間じゃ……」

そう言って視線をコンテナの開けた部分に向けて、凍結魔法にでもかかったように見事に固まる。

「あ!パパ!!」

嬉しそうな顔をするヴィヴィオ。
しかし、その体は成人女性の大きさで、髪も母親と同じ長めのサイドアップ。
テロリストたちに聖王と呼ばれていた時の姿そのものになっていた。

「パパのこと助けたいから戦闘の基礎を教えてくれだとさ。言っとくけど、俺は何度も反対したけどあいつに『教えてくれないとパパに言いつける』って言われて折れたんだ。俺に責任はない。」

「聖王状態は私がやった。小さなままでは逆に怪我をする可能性が大きいからね。自主的にやらせてもらったが、感謝こそされ非難されるいわれはないな。」

「まあ、ヴィヴィオが本気でやりたいと思ったことなんだ。親として応援してやるのが……」

「…………………」

「…?ユ、ユーノ?」

固まったままなんの反応も示さないユーノに、沙慈は恐る恐る声をかける。
すると、

「……………ゲフッ。」

白目をむいて、泡を吹いて倒れた。

「ユーーーーーノーーーーーーーーー!!??!!?!!!?!?!!!!!?」

「オイイィィィィィィィィ!!!!?!?!?!???!?!!!?なんか泡だけじゃなくて顔の穴という穴から血を流し始めたぞ!!!!!!!!!?」

「パパーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?!!!!!!???!??」

「医者を呼ばねばならないな。」

「って!!!!!!医者あんただろ!!!!!!」

「ヴィ……ヴィヴィオ………僕のヴィヴィオが…………」

「コントやっとる場合か!!!!!!!なんかうわごとまで言い始めたぞ!!!!?オイ!!!!しっかりしろ!!!!!!」












この後、ユーノは急いでメディカルルームに運ばれて治療を施されることとなる。
そして、治療を担当したはずのジェイルはユーノの鉄拳制裁によってあの世とこの世の狭間を数時間さまよう羽目に。
さらに、後からやってきたスメラギによってユーノへのお仕置き開始。
ジェイルをシメてご機嫌だったユーノは空の酒瓶で頭を割られ、血の海へとダウンすることになった。
すると今度はもう一人の医務担当、アニューがこの騒ぎにキレる。
スメラギに加え、すでにこと切れていた二人へも容赦のない攻撃を敢行。
再びメディカルルームに血の雨が降ったのだった。
















綺麗に終わらせたはずなのに結局こんなオチかいっ!!
笑いの邪神が舞い降りて来ている気がしてしまう……
次回は再び舞台を地球に移してスバルが大暴れ!
連邦内部で分裂が発生しますが、まだあの人は出てきません。(だってオーライザーもまだ出てなくてトレミー戻ってきてないし。)



[18122] 45.覚醒
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:ff647d35
Date: 2011/08/09 08:08
そろそろ原作沿いのストーリーに戻した方がいいのではという意見があったので、今回は前回の予告と内容が違っています。
ご了承ください。







ミッドチルダ クラナガン

不意に夜空を見上げると、こらえていたものが形を変えて両目からこぼれおちていく。
人生にはもっとも後悔する瞬間が三回あるという。
一回目は他人に気を許したことを後悔し、二回目は自分自身の愚かしさに後悔する。
そして、三回目は自分の生まれた狭い世界でしか生きられないことに後悔させられる。
もっとも、これはジェイルの言葉なのだが、今の自分の状態を見事に言い当てている。

「ホント……なんで、ここに来ちゃったんだか……」

ただ、一目見て満足するつもりだった。
それすらも許されないことだというのも忘れ、義父と義姉のところに帰ったせいで、仲間たちが倒れていく。
他人に気を許し、自分自身の愚かしさに呆れ、狭い了見でしか物事を見れなかったことを心の底から後悔している。

「なんで……だよっ………!!」

もう我慢できずに少女は透明な玉を夜の冷気で冷えた道に落としていく。

「なんで、あたしだけじゃないんだよぉ………!!みんなは、関係ないだろぉ……!!」

深くえぐられた左腕は、中に本来詰まっている白い骨格の代わりに月明かりに鈍く光る金属製の棒状のものが破損して飛び出し、赤や黄色のコードをはみ出させながら火花を散らしている。
押さえてどんなに隠そうとしても隠しきれない、自分の人あらざる者としての証。
こんな“モノ”を助けに来たのだと知ったら、みんなも後悔するに違いない。
いや、そうであってほしい。
そうでなければ、ただ自分の我がままに巻き込んだという事実で、これ以上ないくらいみじめになってくる。

その時、ガチャガチャとついさっきまで聞いていた音が近づいてくる。
自分を終わりへと導く、あの不細工なマシーンが。

(ここまで、か……)

最早、抵抗する気力すら萎え、ぐったりとした様子で手も足もだらんと伸ばす。
意識もこの夜空に負けないくらいの暗闇に吸い込まれつつあり、もう自分の身に何が起こるのか最後まで確かめることもできないだろう。

(ま……ノーヴェ達も元気だったみたいだし、それがせめてもの救いかな……)

少女は視界に巨大な機械の影を捉えながら、しかしぼやけていくその輪郭に思わず笑みをこぼす。

「……やっぱ、オートマトンはデザインセンス最悪っス。」

そう呟いた時だった。
翠の光が足元に浮かびあがり、そこから発せられた光の粒たちが闇を照らしだしていく。
だが、彼女はそれがなんなのか考える暇もなく目を閉じて思考を停止してしまった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 45.覚醒


プトレマイオスⅡ エアロック

これが最後のチャンスだ。
そう決意したウェンディはこっそりと部屋を抜け出し、普段は使わないエアロックにこっそりとやってきた。
幸いにして、今は海中から艦全体が出ているので外出するにはうってつけの状況だ。
もっとも、エアロックを解除した時点でブリッジにいるフェルトが飛んで来るだろうが、スピードではこちらが上だ。
さっさと振り切って目的を果たさせてもらう。

〈本気ですか?下手をすれば裏切り行為ととられかねませんよ。〉

「家族の様子を見ておきたいと思うのがそんなにいけない……ことだけど。でも、せめてもう一度だけ目に焼き付けておきたいんス。」

自分を家族と呼んでくれた二人、ゲンヤとギンガ。
もうそう呼んではいけないのはわかっているが、いつ何があるかわからない戦いの真っただ中にいるのだ。
だから、会えないのならその姿を記憶にとどめておきたい。
たとえ、あとでどんな仕打ちを受けることになっても。

「そんじゃ、解除よろしくっス。」

〈そこは私任せなんですね……〉

呆れながらもウェンディの要望にこたえてロックの解除にかかるマレーネ。
ユーノとシャーリーが手塩にかけて作っただけあって、演算能力も最高水準だ。
もう間もなく解除できる。

「何やってるのかしら?」

「!!」

いるはずのない人物からの声にビクンと体を震わせると、扉に背中をあてて振り向く。
溜め息交じりにウェンディを見つめるスメラギ。
そして、ティエリアが不機嫌そうに爪先を小刻みに動かしている。

「これはどういうことだ?」

「いや、これはその……」

「お父さんとお姉さんに会いに行くんでしょ?」

「どうしてそれを!?」

と言ったところで気がつく。
手に握っているマレーネに二人の視線が集まっていることに。

「……マレーネ?」

〈報告は必要かと。〉

「……謀ったっスね。」

〈人聞きの悪い。常識に欠けたあなたのサポートをしてあげたのに。〉

悪びれもせずにそういうマレーネにウェンディも諦めて両手をあげる。

「ま、そういうことっス。裏切るとかそういうのじゃないんで悪しからず。」

「あらそう。なら、なんの問題もないわね。」

「へ?」

ポカンとしていると、急に背中の扉が開いてバランスを崩しそうになるが、なんとか踏ん張って二人の顔を見る。

「見つからないように気をつけるのよ。あなたも今や世紀のお尋ね者なんだから。」

「スメラギさん…」

「君だけでは不安だから僕もついていく。いいな?別に君のためでは…」

〈ツンツンデレ♪ツンデレツ……ブッ!?〉

訳のわからない歌をうたうD・セラヴィーを黙らせたティエリアはマレーネを起動してまだ暗い外へ飛びだしていくウェンディに続く。
それを見送ったスメラギは、もうひと眠りするために部屋へと戻る。
これが、最悪の事態を引き起こすことも知らずに。



クラナガン ナカジマ家

久しぶりの娘との朝。
そして、新しく加わった家族との初顔合わせでもある。
それだけで、ゲンヤの心はいつも以上に清々しいものになっていた。

「形式上はここに来る前からそうだったわけだが、改めて言わせてもらう。ナカジマ家へようこそ。」

ゲンヤのその言葉に真っ先に反応したのはノーヴェ。
一足先に味噌汁に炊きたてのご飯、そして焼き鮭に副菜が数品の日本的な朝食を終えていた彼女の顔にポッと茜色がさす。
照れくさかったのかそっぽを向いてしまうが、その仕草に愛嬌があってゲンヤだけでなくギンガの顔にも自然と笑みがこぼれる。
ディエチは礼儀正しく一礼するが、ゲンヤに「固くならなくていい」と言われても緊張しているのかどうしていいかわからないようだ。
セッテに至っては無表情というか、何を考えているのかさえ分からない。

(ま、そのうち慣れていくか。)

熱い緑茶をすすりながらそう割り切るゲンヤ。
そう、わずか数時間でうちとけた彼女が特殊すぎただけなのだ。

(……ウェンディ。)

本来ならここにいるはずだった、もう一人の彼の娘。
スバルも加わり、いきすぎることもあったあの明るさで場を和ませるはずだった彼女は、もうここには戻ってこない。

(バカ野郎が……)

管理局に不満があるのはわかる。
自分も少なからずそういった感情は持ち合わせているし、理解はできる。
だが、それは管理局の一面にすぎないし、良心的な人間もいれば、各世界で重要な役割を担っているのも事実だ。
なにより、力で全てを解決しようとするなど、あってはならないことだ。

「ゲンヤさん?」

ディエチに話しかけられてはたと気づく。
いつの間にか、思っていた以上に厳しい顔つきになっていたようだ。

「あ、ああ、悪い、少し考えごとをしててな。それと、家の中でそういう堅苦しい言い方は勘弁してくれ。俺を呼ぶ時はお父さんだ。お・と・う・さ・ん。」

「了解しました。お父さん。」

「「「「…………………」」」」

狙ってやっているのか、それとも本気なのかわからないセッテの感情のない『お父さん』の言葉で、この日の朝食は終わることになった。



108部隊 隊舎 エントランス

「はぁ……」

もっとなにか言うことがあったのではないか。
そう考えながら一人悶々と頭を抱えながら落ち込むノーヴェ。
海上施設にいた時もまめに会いに来てくれたし、ゲンヤがいい人だというのはよくわかっている。
ただ、どうにも照れくさいのだ。
ディエチはまた別の理由で悩んでいるようだが、会話はできている。
セッテも少しおかしいところはあるが、三人の中では一番積極的に話をしている。
それに引き換え、

「はぁ…………」

面と向かっただけで何も言えなくなる。
そして次の瞬間には顔を背けるか逃亡。
コミュニケーション能力に難があるなんてものじゃない。
まるで人みしりの激しい子供だ。

「どうすりゃいいんだよ、もう……」

こんな時にウェンディがいてくれれば。
そう考えている自分に気付くとノーヴェは激しく頭を横に振る。

「あんな奴のことなんて知るか!あんな……バカのことなんて…」

前はただうざったいだけの存在だったのに、いざ会えないと思うと心にぽっかりと穴が開いたように感じる。
表には出さないようにしていたが、ゲンヤもウェンディがいなくなったことをひどく気にしているようだった。

「……もう、前みたいな関係には戻れないのか?」

「あの、すいません。」

誰も答えないはずの問いかけに声が返ってきて思わず顔をあげるノーヴェ。
意外そうな彼女の顔に、声をかけてきたメガネの男性も少し戸惑い気味に笑顔を返す。

「驚かせてしまってすいません。まだここに来て日が浅いので、迷ってしまって。」

「あんたは?」

ノーヴェの不躾な聞き方に嫌な顔もせずに、メガネの男性は答える。

「ビリー・カタギリ。あなた方の言うところの第97管理外世界のパラレルワールドから来た開発者です。」

「(要は連邦の人間か……)で?その開発者様が何の御用で?」

「ある人に用があってきたんですが、ご存じありませんか?ディエチ・ナカジマという人なのですが…」

ディエチの名が出た時点で、ノーヴェはビリーの言葉が終わるより早く立ちあがっていた。



オフィス

「ごめんなさい。やっぱり、お断りします。」

二人きりのオフィスで、深々と頭を下げるディエチにマリエル・アテンザはフゥとため息をつく。
新しくできた友人に優秀な人材を紹介してほしいと言われ、砲狙撃戦のスキルがある程度充実していて、フリーな状態の人物と聞いて初めに思い浮かんだのがディエチだった。
その友人曰く、彼の無二の親友は優秀なのだが、戦闘スタイルが接近戦に偏りがちなので砲狙撃戦用の装備のデータが上手くとれないらしいので、できればということでテスター探しの頼みを引き受けたのだ。

「あのね、あくまでテストだし、実際に戦線に加わることが無いから安全は保障するわ。」

「けど、結局作る物は人殺しの道具ですよね?私、そういうのはやっぱり…」

「それも何度も言ったけど、武器はあくまで武器。使う人間の心がけ次第で、人を救うことができる。」

それでも、やはり首を横に振るディエチ。

「私、ドクターやノーヴェたち以外で、初めて家族って言ってくれる人たちができたんです。その人たちに胸を張れないことは、やっぱりできません。」

「……そっか。」

ディエチの意思の固さの前に、マリエルも諦めがついた時だった。
扉が開いて赤髪の少女とメガネの男性が部屋の中に入ってくる。

「やぁ、遅れてごめん、マリー。」

「ああ、ビリー。いい……いえ、やっぱり悪いタイミングね。」

苦笑しながらマリエルがメガネの男性を自分の横に引っ張ってくる。
パッと見、さえない感じだなと思ったディエチだったが、レンズの奥の瞳が彼女の産みの親と同じように未知の物への探究心であふれていることに気がつく。
どうやら、根っからの研究者体質のようだ。

「紹介するわね。こちら、連邦軍の開発部に所属しているビリー・カタギリさん。ビリー、彼女が私の言っていた子なんだけど…」

「そうか、君が…」

「ディエチ・ナカジマです。その……私は…」

「ああ、いいよ。その態度で返事がどうだったのかはわかる。」

苦笑いを浮かべるビリーにディエチは何度も頭を下げるが、ビリーがそれを止める。

「昔、似たようなことを言われたよ。僕の造る物は戦争の道具だってね。けど、こんなご時世だ。力を持たなければ、力の前に屈することになる。」

ビリーの顔つきが徐々に険しくなっていく。

「僕たちの世界ではカタロンだけじゃなく、ソレスタルビーイングによって混乱はいっそう大きなものになっている。そういったものに対抗するためにも、僕たちには力が必要なんだ。」

(……違う。)

そう言いたかったディエチだが、グッとその言葉を飲み込む。
ジェイルもそう思い、半ば無理やり管理局に戦いを仕掛けた。
だが、結局負けた。
ただ、多くの犠牲だけを出して。

(力で築いた物はより大きな力を前に崩れさる……)

それが、ディエチが先の事件で学んだ、なによりも重要な経験だった。



隊長室

「う、うん……!!一休みするか。」

時間も時間なので食堂に向かおうと廊下に出るゲンヤ。
すると、廊下で足を止めてボーッととりとめもなく奥行きのあるその空間を眺めてみる。

『パ~パリ~ン♪』

今にも元気よくウェンディが廊下の奥から走ってやって来そうな気がする。
廊下に出るたびに、そんなことを思いながらわずかな間足を止めてしまう自分に、何度目かわからない自嘲をこぼす。

「未練だな…」

戻ってこないものにすがってもどうしようもないことはよくわかっている。
未練を断ち切れないのは自分の弱さだ。

そんな自分に喝を入れようとパンパンと両頬を叩いて歩き出すゲンヤ。
しかし、そんな彼の決意はわずか数秒で揺らぐことになる。

「うわっ!!」

「くっ!!」

「なっ!?」

窓ガラスを割って男女二人が隊舎の中へ飛び込んできた。
いや、正確には何かに吹き飛ばされて入ってきたのだ。
だが、ゲンヤの衝撃はそれだけで終わらない。
飛び込んできた少女を見て、冷静になろうという思考がどこかに消え去ってしまっていた。

「ウェンディ……!?」

「…………………」

ゲンヤの言葉に、ウェンディは歯軋りを一つすると、悲しげにその顔から目を背けた。



数分前 外

「もういいんじゃないのか?君はもう犯罪者なんだ。どう足掻いたところで前のような関係は持てない。」

ウェンディと一緒に忍び込んでいたティエリアは彼女の寂しげな表情を見てもなお冷たい態度を崩さない。
ティエリアなりの気遣いなのだが、普段が普段だけにウェンディには伝わらない。
これ以上ここにいてもウェンディが辛くなるだけだ。
素直にそう言いたいのだが、口から出てくるのは冷淡な言葉だけ。
それは、ただ不器用なだけではなく、ティエリアもウェンディをできることならずっとここにおいておきたいと思っているからなのかもしれない。

「……あたしさ。ずっと、誰も自分のことなんて理解してくれないと思ってたんだ。」

「…………………」

突然の話にも、何も言わず耳を傾けるティエリア。
ウェンディも、彼の不器用な優しさをわかっているからこそ、心の内を吐露していく。

「世界で一番不幸なのは自分なんだって思いこんで、バカやってるふりして周りのこと見下して……何にもわかろうとしていなかった。でも、家族って言ってくれる人ができて、友達だって思える人もできて……ああ、そんなに世界って悪いもんじゃないんだってわかってきてたんだ。」

無意識のうちにウェンディの瞳がうるみだすが、ティエリアはなにも咎めない。

「なのに、なんでこうなっちゃったのかな?大切な人たちに笑っていてほしかっただけなのに、そんな世界であってほしいと思っただけなのに、なんで離れなくちゃいけないんだろう……!」

「……君は…」

フッと涙目で自分を見上げるウェンディに、続きを言うことができない。
今からでも遅くはない。
戻るべきだ。
そう言いたいのに言えない。
彼女のことを思う気持ちがあるのに、それと同じくらい去ってほしくないという感情がある。
どうすればいいのかわからずに迷っていたティエリアだったが、その答えを出す暇もなく最悪の来訪者がやってきた。

〈!ティエリア!!〉

「!!」

〈Killer hail・blizzard shift〉

D・セラヴィーの声で我に返ったティエリアはウェンディをかばうように自分の傍まで抱きよせてバリアジャケットを展開する。
その次の瞬間には、涙まで凍てつかせるような鋭く尖った雹が降り注ぐが、間一髪のところで致命傷は免れた。
だが、その威力は二人を吹き飛ばすには十分なものであり、遠く離れていた隊舎の中に放り込むには十分すぎた。

「うわっ!!」

「くっ!!」

「なっ!?」

いきなり出現した二人に驚くゲンヤだったが、もっと驚いたのはウェンディだ。
遠くから見るだけで、顔を合わせるつもりなどなかったのにはからずもこうして再会することになってしまった。

「ウェンディ……!?」

「…………………」

悲しげに視線をそらすウェンディ。
胸の中は、やはり来るべきではなかったという後悔でいっぱいだが、襲撃者はそれに浸ることすら許さない。

「やぁ、ティエリア。奇遇だね。」

「リジェネ・レジェッタ……!!」

ティエリアの鋭い視線も心地よい木漏れ日のように受け止め、穏やかに笑うリジェネ。
しかし、その身に纏う冷気は彼の殺意そのものを体現していて、彼の美しい容姿を差し引いてもとても友好的な態度をとっているとは思えない。

「まだ生きていいたのか、人間モドキめ。」

「あんたこそしつこいっスね。ストーカーの鏡っス。」

マレーネをセットアップしながら毒づくウェンディ。
しかし、そんななかでもゲンヤへの気遣いを忘れない。
ここでリジェネとティエリアが本格的に戦闘を開始したら、二人に巻き込む気が無くとも魔法を使えないゲンヤはひとたまりもないだろう。

「ここで暴れるつもりかい?そこにいる人間も巻き込むことになるよ?」

「僕たちをお前と同レベルに見られるのははなはだ不愉快だ。関係ない者を巻き込む気など端からない。」

「そういうこと。」

リジェネに武器を向けたままじりじりと立ち位置を入れ替えようと動く二人。
この状況下で、時間をかけることがなにを意味するのかも忘れて。

「ウェンディ……!?」

その声にぎくりと肩を震わせる。
見てはいけないとわかっているのに、首が勝手にそちらへ向けて回る。
そして、マリエルと見なれぬ男の二人と一緒に立っていた姉妹の驚愕と失意にまみれた顔を見てしまった。

「甘いね。」

ノーヴェとディエチに完全に意識が向いていたウェンディへリジェネの凶刃が迫る。
しかし、その隙を補うようにティエリアが攻撃を受け止める。
だが、それでもウェンディは姉妹たちから目が離せない。

「何やってんだよ……!!久々に顔見せに来たと思ったらこれかよ!!」

「あ……う…」

「ノーヴェ落ち着いて!ねぇ、ウェンディ。話を聞かせて?私たちで力になれることがあるなら……」

「ウェンディ!!すぐに撤退する!!援護を!!」

「う……その、あたしは…」

どうする。
家族を裏切るのか。
それとも、仲間を裏切るのか。
父や姉妹たちとは違う形で心を寄せつつある存在を裏切るのか?

〈マイスター!!〉

マレーネの一言で、ウェンディは小動物が大きな音に驚くように戦闘機の上に跳び乗ると、魔力で作り上げた丸い球を目の前に放り投げる。

〈Flash bomb〉

「くっ!?」

「うわっ!!」

彼女を除く全員が目をくらませるが、その中の一人は自分を抱える腕の感触を肌で感じる。

「ティエリア!しっかりつかまってるっスよ!!」

まだ目を押さえているティエリアを後ろに立たせて全速力で離脱していくウェンディ。
マレーネのマイスターという一言でこちらを選んでしまった自分を単純だと思って自嘲するが、ティエリアにはできることならその顔を見てほしくはなかった。



プトレマイオスⅡ コンテナ

「っんのバカッッ!!余計な手間こさえてくれやがって!!」

珍しく怒りながらコックピットへ滑り込むロックオン。
余計なことをしたのがウェンディだけだったらこれほど怒りはこみあげてこなかったかもしれない。
だが、よりによってストップ役のティエリアまでそれに付き合ったのだからイライラはマックスに達している。

「ハロ、今回はキツいぞ!しっかりサポート頼む!」

「了解!了解!」

通信機器から聞こえてくるヒステリックなロックオンの声にアレルヤも溜め息交じりに出撃準備に入るが、それだけ以外にも何かが心をかき乱す。

(随分と汗まみれじゃねぇか。出撃前だぜ?)

「別にそんなことないよ。いつも通りだ。いや、いつも以上に楽だよ。ただの囮だ。」

(隠すなよアレルヤ。俺も感じてるところだ。今回は何かヤベェ。)

ハレルヤも言いようのない不吉なものを感じている。
こうなってくるともはや確信に近い。

(こういう時は何か起きるぜ……何かがな。)

予言めいたその言葉を無視して、アレルヤは操縦桿をグンと前に倒した。



クラナガン外部

爽やかな風が突き抜けるビル群の遥か外。
草原の中に、マントを羽織った青年がイヤホンのスイッチを入れる。

「ユーノ・スクライア、所定位置に到着。」

『こちらも到着した。ジルとエリオも準備を完了している。』

『フェルト・グレイス、ポジションを確保しました。』

『マリー・パーファシー、同じく到着。』

聞こえてきた返事に苦笑いを浮かべてしまう。
目立つことができないとはいえ、わずか五人での救出作戦。
あの申し訳なさそうなスメラギの顔とウェンディの事情を考えればノーとは言えなかったが、ここについた瞬間にネットリと空気がまとわりついてくる感じがいっそう増した。
そう、あの時と同じだ。
ロックオンを助けられなかった時と。

「……大丈夫さ。今度は助ける。」

『どうかしたの?』

「いや、なんでもないです。それじゃ、いきましょうか。」

マリーの不思議そうな声に首を振り、港付近で光が散ったのを合図にユーノは仲間とともに飛び出していった。

すぐに、自分たちにも危機が訪れるなど微塵も考えずに。



クラナガン南部

「できれば、こういうのは二人だけで……ついでにムードたっぷりの部屋でやりたかったっスね。」

肩で息をするウェンディ。
激しく負傷した右腕から赤い物を流す彼女を自分に寄りかからせながら、ティエリアはギリリと歯軋りをする。
血の奥に金属の骨格が見えているが、そんなことなど気にしていられる状況ではない。

まさか、あんなものまで用意しているとは思っていなかった。
プトレマイオスと連絡を取れないのが歯がゆい。
いや、港方面で騒ぎが起きているところから察するにもう行動を起こしているだろう。
そして、目立ち過ぎるMSはあくまで囮か陽動。
その隙に市街地に侵入した魔法戦が可能なメンバーが救出するという作戦なのだろう。
だが、それではマズイのだ。
あれの相手は。

「っ!」

体が重くなったことでわかる。
もう追いついてきたのだ。

「セラヴィー、いけるか!?」

〈その嬢ちゃん見捨てればな。でなけりゃ、死ぬ気で走れ。〉

前者の案は却下してウェンディを背中に担ぐと最低限の身体強化をして走り出す。
そのかすかな魔力を察知したそれは、ティエリアとウェンディへ容赦なく機銃の乱射を浴びせかける。

「アハハ!どこまでそうやっていられるかな?」

上に乗って楽しそうに笑うリジェネも無視してティエリアは走る。
銃弾が脚をかすめて熱い痛みが神経を突き刺してくるが、それでも歯を食いしばって走る。

しかし、無情にもAMF発生装置を搭載したミッド製オートマトンの銃弾がウェンディの背中を貫通してティエリアの脇腹をえぐった。

「ぐ、っあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

遂に絶叫して倒れるティエリア。
それでもウェンディを離さなかったことは、評価に値するだろう。

あの後、追跡してきたリジェネが持ちだしてきたのはオートマトン。
だが、ただのオートマトンではない。
AMF発生装置搭載型の対魔導士、騎士用のミッド製のオートマトン。
AMF下での戦闘経験が無いティエリアは飛行魔法を封じられ、地上へ降り立ったところを狙われた。
いや、正確にはティエリアにはダメージはなかった。
代わりに、彼をかばったウェンディが重傷を負ってしまったのだ。

だから、D・セラヴィーになんと言われようとも彼女を見捨てない。

「くぅ……ううぅぅぅ…!!」

激痛に耐えながらもウェンディの傍まで這っていくと、なんとか背中に乗せようともがくがどうにもならない。

「……エリ…ア……」

いつものはきはきした声ではなく、か細く今にも消え入りそうな声をウェンディはなんとか絞り出す。

「あたし……が…引きつける………だから……その隙に…」

「!?なにを…」

「……ありがとう。……嬉しかったよ…でも、これ…以上は………あたしが辛いや…」

〈Mode Gust〉

マレーネを再び展開し、最後の力を振り絞ってしがみつくウェンディ。

「ハッ!なんのマネだい?」

嘲笑するリジェネだが、それに負けないほど負けん気の強い笑顔でウェンディは叫ぶ。

「……めんな……エース・オブ・エースの教え子をなめんなよ!!!!」

「!!」

エリオ張りの突進でリジェネが腰かけていたオートマトンにマレーネの先端を突き刺して粉砕する。
そのまま空へと舞い上がると、なけなしの魔力で周囲の建物を破壊してその瓦礫を降り注がせた。

「鬼さんこちら!!」

「この……!!」

AMFを解除させ、自らウェンディを追うリジェネ。
オートマトンもそれを追い、ウェンディの狙い通りティエリアが逃げるには十分なチャンスを演出できた。
だが、ティエリアは呆けた表情で上を見上げたまま動かない。
否、動けなかった。
また、助けられるだけで守れなかった。
その悔しさで、声もあげずに涙を流しながら動けずにいた。



南東

「っく!!このっ!!」

「逃がすかってんだよ!!」

前線に出る機会があまりないフェルトでもわかる。
完全に罠にはまってしまった。
オートマトンから発生しているフィールドエフェクトのせいで思うように動けない。
魔法が使えなければ、フェルトはただのか弱い少女だ。
しかし、それは敵も同じはずなのに、この少女たちはAMFをものともせずに戦っている。

(理屈はわからないけど、あの子たちはこの重さを苦にしてない!!これは、私たちを分断させて叩くために…)

「IS、スローターアームズ。」

「きゃあっ!!」

巨大なブレードが唸りをあげて思案にふけっていたフェルトの頬を切り裂く。
尻もちをついてしまったその隙に、さらに赤髪の少女の拳が迫る。

「おらぁ!!」

「くっ!!」

紙一重でかわすが、少女の拳は地面を砕き、その衝撃でフェルトは宙へと放り出される。
そこへ、

「ヘヴィバレル。」

「っ!!」

信じられない威力の砲撃が、シールドビットごとフェルトを包み込む。
光の柱の中から重力に従って落ちてきたフェルトは、すでにボロボロでバリアジャケットもところどころ破れている。

〈つぅ……!ちょっと、ヤバいかも…!!〉

D・ケルディムもそのダメージで呻くが、ノーヴェはそんなことなどお構いなしといった様子で気絶しているフェルトの髪をむんずと掴むと乱暴に持ち上げる。

「お前にはウェンディのことを話してもらわなきゃいけないから生かしておく。でなけりゃ、ルールもクソも関係なくこの場でぶっ潰しているところだ!」

怒りに燃えるノーヴェに、ディエチとセッテもかける言葉が見つからなかった。



南西

「クソッ!!」

マリーからバトンタッチされたソーマだったが、いかな元軍人であろうと生身でオートマトンを相手にすることはできない。
身に纏っているD・アリオスも防御以外ではもはや重りでしかない。
しかも、そこに格闘の達人に入ってこられてはドッキングを解除するどころか避けるので精一杯だ。

(なんだ!?なぜこいつはこのフィールドエフェクトの中で動ける!?)

「はあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ギンガの拳で前髪が数本散る。
彼女の拳から発せられる威圧感はそんなものが無くとも十分すぎるほど伝わってくるし、それはソーマすらもすくませるほど強烈だ。

「貴様……本当に生粋の局員か!?」

「そうだよ……!!あなたたちが嫌う管理局員だ!!」

「!しまっ…!!」

遂に重い一撃がソーマのどてっ腹を貫く。

「か…!!はっ…!!?」

拳が突き抜けたかと思うほどのダメージに膝をつきそうになるが、ギンガはそれを許さず回し蹴りを腹部にめり込ませてやや小柄な体を壁に叩きつけた。

「ぐ……う……」

超兵の体がソーマに気を失うことを許さない。
マリーはすでにダウンしたが、こういう時ほど痛みに慣れている自分を恨めしく思うことはない。

「重要参考人としてあなたを連行します。ソレスタルビーイングについて、知っている限りのことを話してもらいます。」

「……!!」

悔しげに睨むが、ギンガはためらいもなくバインドをかけてくる。

この時点で、黄昏色の翼がすでに判別が難しくなるほど太陽は沈みかけていた。



連邦軍戦艦

薄暗くなった部屋で、ビリーはオートマトンのカメラから入ってくる情報を見てついついほくそ笑む。
自分でも実に男らしくないと思うが、どうしても笑ってしまう。
あの青年が、自分を裏切ったクジョウの仲間の青年がボロボロにやられていく姿を見ていると黒い感情がこみあげて来てしまう。

青年は何度か右手の剣でオートマトンに斬撃を入れているが、一向に斬れる気配はない。
同行していた少年が何機か墜としたが、それでも数に負けて倒れた。
もう打つ手はないだろう。

「無駄なことを。生身の人間がEカーボンのボディを斬れるわけがないだろう。」

銃弾だけは見事に避けているが、基本的に攻撃が通じないのだからお手上げだろう。
しかも、攻撃しようと接近すれば人間のそれなど目じゃないほどの重量を持つオートマトンの体当たりが待っているのだ。
そのうち、体中の骨が砕けてしまう。
脇で小さな妖精のようなものが同じことを考えているのか叫んで警告しているが、青年はやめようとしない。
むしろ、自らを奮い立たせて強引に突っ込んでいく。

「その気概だけはかってあげるよ。けど、無駄なことだ。」

すでに外はオレンジを通り越して暗くなり始めている。
小腹がすいてはきているが、事の顛末を見届けたいビリーはコーヒーを新しく淹れて空腹を誤魔化した。



南部

(……あ…れ…?どう………したんだろう……?)

ようやく意識を取り戻したが、誰かが自分を引きずっていること以外はわからない。
それ以前のことを思い出そうとすると、最初に見えるヴィジョンが高笑いをする黄緑色の髪をした少女と無表情な男の手に奔る電撃。
そして、周りからはこれでもかというほどの局員からの砲射撃。
AMFに慣れていて、射撃魔法が苦手なユーノには物量戦。
実に理にかなっている。

「りょうか~い♪デヴァイン、他の連中も片付いたって。」

(……?他の…?)

ぼんやりした意識の中、みんなの顔が脳裏をよぎる。
すると、次の瞬間には意識がはっきりと戻るが、それでも体の自由がきかない。
バインドのせいもあるのだろうが、ダメージを受け過ぎた。
もう、こうして意識を保っているだけで精一杯だ。

「やっとこさお姫……じゃなくて、王子様も手に入れたし、リボンズも満足してくれるでしょ。」

(……なんで…)

なんでこんなひどいことができるのか。
なぜ、また大切なものを奪っていくのか。

(悔しい…)

意識がまたぼやけていく。
しかし、今度のものはダメージのせいではない。
湧き上がってくる何かに、頭の中が塗りつぶされていくような、そんな感覚。
なぜ敵を許せなかったのか。
なぜこんなに悲しく、怒っているのかがわからない。
ただ、わかることは一つ。

(……力なんてあるから、人は道を違える…)

ならば、奪ってやろう。
それこそが、我が使命。
我が存在意義。

「……てやる。」

「ん?」

ユーノの呟きに気が付いたヒリングは足を止めて振り返る。
翠のラインが体中に浮かびあがり、重なり、交わり、全身を駆け巡って光をまきちらしていく。
その異様な光景の危険さに最初に気が付いたのはデヴァイン・ノヴァ、その人だった。

「っ!こいつはここにおいて転移する。」

「は!?ちょ、ちょっとデヴァイン!!」

抗議を待たずにヒリングとともに、一般局員たちを残して消えるデヴァイン。
その時になって何事かと彼らが様子をうかがいにやってきたときには、もう遅かった。

「全ての力…争いを生むもの……すべて消えてしまえ…」

突如ほどけたバインドに身構える時間もなく、ユーノを中心に巨大な魔法陣がクラナガン南部を全て包み込むほどに膨れ上がった。



???

「始まったか。」

クスリと笑うリボンズ。

「本当は君を僕のものにしてから目醒めさせるつもりだったんだけど、この際構わないさ。これで、自分がどうするべきなのかわかるようになるだろう。」



クラナガン南部

まず異変が起こったのはユーノの周りにいた魔導士たち。

「!?ま、魔法が!!」

ユーノを止めるために魔法を使おうとするが、それができない。
それどころかデバイスも完全に機能を停止し、うんともすんとも言わなくなる。
だが、これはまだ序の口にすぎない。

「ぐっ!!?」

突然、一人が胸を押さえて倒れ込む。
激しく痙攣を繰り返し、苦しそうにもがいていたかと思うと背中から小さな光が出現する。

「リ、リンカーコア!?」

他の魔導士たちの中にも同じような症状が現れる者が出始める。
そして、

「がっ!!!!」

リンカーコアがパンと風船が弾けるように消えさる。
悲鳴を上げようにも、誰もそれができない。
なぜなら、全員が同じように息を引き取ってしまったのだから。





「なんだありゃ!?」

遥か離れたここからでもはっきり見える。
巨大な翠の円がクラナガンの南四分の一を飲み込んでいる。
未だに敵が自分たちを取り囲んでいることより、ロックオンもアレルヤもその円から感じる何かのせいで冷や汗が止まらない。

(言ったろ。何かあるってな。)

いまさらながら、ハレルヤのその言葉が実に説得力に満ちている気がした。



南東

「……う…」

フェルトは戦闘時に感じていた物とは違うプレッシャーで目を覚ます。

「私……たしか、あの子たちに負けて…」

「うっ……ぐぅっ…!!!!」

うめき声でそちらを向く。
すると、さっきまで自分を引きずっていたはずの少女が胸からリンカーコアを露出させて苦しんでいる。
彼女だけではない。
巨大なブーメランを自由自在に操っていた少女も。
砲身を担いでいた少女も自慢の大砲を放り出して脂汗をびっしり額にくっつけている。
オートマトンもすでにただの鉄くずになってしまっている。

「なんで、私だけ大丈夫なの……?」

この異様なプレッシャーが原因なのはわかっている。
まるで、命をわしづかみにされているような、生殺与奪を第三者の手の上に置かれているような嫌な感じ。
しかし、どういうわけか自分には彼女たちのような症状が現れていない。
とにかく、やることはわかっている。

「頑張って…!!」

「あん…た……!?」

拙いながらも魔法による治癒を試みるフェルトにノーヴェは目を丸くする。

「お願いだから頑張って!!こんなことで、誰も命をおとしたりなんかしちゃいけない!!」



南西

「どう…いうことだ?」

倒れるギンガたちを見渡しながらソーマはつっ立つしかない。
突然、翠の光が自分たちを包み込んだかと思うと苦しみながら倒れていく局員たち。
中にはすでにこときれている者もいる。

(この魔力光……ユーノ君のものだけど…)

「バカ言うな。あいつは攻撃魔法を使えないはずだ。それは本人も言っているし、私たちもよく知っているはずだ。」

〈……いや。これは多分マイスター・ユーノの仕業だ。間違いない。〉

D・アリオスが辛そうに声を出す。
マリーは、なぜかその辛さが悲しみから来ているような気がして仕方なかった。



南部

「これは一体…?」

腹の傷を押さえながらティエリアは足元を、そして空を見上げる。
闇夜に遥か上を目指して昇っていく翠の光たちは美しいが、その美しさにどこか空恐ろしいものを感じる。

「……ユーノだ。」

「!刹那!!」

ジルに傷を治療してもらいながら、それでもなんとか一人で刹那は歩いてくる。
エリオも脇に痛々しい痣を作りながらもウェンディを背負ってやってくる。

「エリオ!!ウェンディは!!?」

「ジルが治療してくれましたが、予断を許さない状況です。はやくトレミーに戻って治療をしないと。」

〈そうしたいのはやまやまだけど、今は魔法を使わない方がいいぜ。下手したらお前らのリンカーコアも風船みたいにパン!なんてことになるぜ。〉

「セラヴィー、何か知っているのか?」

ティエリアが問いかけるが、D・セラヴィーはその話をD・ダブルオーに任せる。

〈……この力は、我々の力の源を創造した者の力と同質なものです。〉

「源……ジュエルシードのことか?」

〈Yes,my Meister.あの方は、そしてあの方の二人の友は多くの叡智を人々に授けた。そして、その叡智が誤った方向に向けられた時の責をとることを自らの血筋の宿命とした……〉

〈……まるで見てきたように言ってくれるな。〉

〈…………………〉

ストラーダの怪訝そうな声に二つのGNデバイスは沈黙する。
しかし、今は追及している時間も惜しい。

「後でその話を聞かせてもらう。今はとにかくここから離れることが先決だ。」

〈つっても、通信機器は使えないし念話もアウト。文明の崩壊ってのはこういうのを言うんだろうな。〉

「命があるだけ俺たちはまともだ。ダブルオー、ユーノのいる場所は特定できるか?」

〈クルセイドとの通信はできませんが、エフェクトの中心は特定できます。おそらく、マイスター・ユーノはそこに。〉

「了解だ。エリオ、ティエリアとウェンディをクラナガンの外まで。可能ならフェルトとマリー・パーファシーと合流してくれ。ジルは俺と来てくれ。」

「わかりました。」

「OK!」



???

「起きて…!!」

……誰だ?

「起きて……!!お願いだから起きて…!!」

ちゃんと起きてるよ……
だから、こうして全部をゼロに戻すんだ。

「違う!!ユーノはこんなことのためにマイスターになったんじゃないでしょ!!」

マイスター……?
ユーノ……?
僕はそんなものじゃない……

じゃあ、僕は誰だ?
何のためにここにいるんだ?

……思い出せない。
でも、そんなのもうどうだっていい。
だって、こうしていなければいけないんだ。

「わかってたけど……このっ、頑固者!!私が起きろって言ってるんだから起きなさーーーーーい!!!!」



クラナガン南部

「グハッ!!?」

体の熱よりもさらに熱い拳でユーノは目を覚ます。
少しの砂の食感と血の味を再確認する羽目になったが、おかげで意識を取り戻せた。

「……少しやりすぎたか。」

「いやいや、ちょうどいいって。」

〈……後でマイスターに仕返しされても知りませんよ。〉

「いっつつ……あれ?刹那?なんでここに……じゃなくて!!オートマトンは!?他のみんなは!?」

きょろきょろあたりを見回すユーノに、刹那はホッとした様子で手を差し出す。

「もういい……全部終わったんだ。」

「終わったって…」

「他のメンバーも撤退した。俺たちもすぐにここを離れるぞ。」

「あ!ちょっと待って!」

立ちあがったユーノは改めて周囲の様子を見る。
しかし、探し人の姿はどこにもない。

(……やっぱり夢だったのか?)

曖昧にしか覚えていない。
何か悪いことがあったのは倒れている人々を見ればわかるし、それを止めてくれたのが彼女だった気がするのだが、どこにもいない。
けれど、懐かしいあのハキハキした声だけはしっかりと耳に残っている。
だが、やはりいるはずなどないのだ。
エレナがここにいるはずがない。
なのに、

「……エレナ。君が僕を止めてくれたの?」

空に向かってそう問いかける自分が本当におかしくなってしまったようで、戻る途中でもユーノは頭を抱えながら歩くのだった。






目醒める原初への回帰の力
その重圧に、守護者は苦しみ呻く








あとがき

まず、予告と違ってごめんなさい(-_-;)
いい加減本筋に戻した方がいいとの御指摘があったので、いろいろすっ飛ばして重要なところだけやるので、前に言っていたのと違う展開になるかもしれませんが、ご了承ください。
そして、週一を目標にするとか言いながら更新遅れてスイマセン。
構成の練り直し、リアルの用事etc……で遅くなってしまいました。
本当に……ほっっんとにスイマセン!!
次回はやっとユーノの出生に関わる話に入っていきます。
でも、戦闘はナシ・・・
……スバルたちも活躍させられんのはいつになるんだろ(-_-;)



[18122] 46.過去への旅路~導き手~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:ff647d35
Date: 2011/08/24 19:47
クラウディア 艦長室

『いい加減にしてください!!』

部下の激怒の声にクロノはいっそう眉間のしわを深くする。
ただでさえ頭痛の種は絶えないのに、あんな事態に直面したのだから頭痛どころか心労で倒れてしまいそうになる。
いや、それは全員そうに違いない。
なぜなら、

『部隊はほぼ全滅……さらに民間人にも死傷者が出ています!たとえ彼があなた方と親しい間柄だったとしても、ここまでの被害を出して黙認することなど許されるとでも思っているのですか!?』

「だが、相手は人間だぞ!?第一級危険物指定はいくらなんでも……」

『人間だからこそ……いえ、なまじ人間に近いから問題なのです!!自我のある危険物が自由に動き回っていることに危機感を持たない方がおかしいでしょう!?』

「それは……」

危険物。
もはや、人としてすら認められていない。
その事実がクロノの心に深く突き刺さった。

離反者、ユーノ・スクライアへの封印処理の許可。
先日、管理局員をはじめとするリンカーコア保持者の大量死がきっかけとなって発令されたこの命令に異議を唱える者はごく少数にとどまった。
その少数者とは当然クロノたちなのだが、その彼らでもあの光景には寒気がした。
リンカーコアが消滅し、物言わぬ屍と化した人々。
さらに、南部の都市機能は完全に沈黙。
特に、コンピューターなどの電子機器は復旧が不可能であり、当然それに管理されていた道路や下水、電気供給などはストップ。
もはや、人が住むことも不可能ではないかとのうわさまで飛び交うようになってしまっている始末だ。
この一連の事件にユーノが関わっていることは映像、さらに生き残りの証言から明らかであり、ユーノへ封印処理の命令が下されるまでそれほどの時間を要しなかった。

『とにかく、邪魔だけはしないでください!あなた方にできないのであれば、我々が処理するまでです!』

仲間を無残に殺された怒りのせいか、クロノの言葉も待たずに通信を終了する局員。
しかし、クロノは机に肘をついて手を組んだまま微動だにせず、まだ若さが抜けきらない顔をいっそう厳しいものにする。
さきほどのやりとりを廊下で聞いていた、小さな騎士が固く拳を握りしめてMSハンガーへ向かうのにも気がつかずに。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 46.過去への旅路~導き手~



第21特別管理世界イシュター 遺跡都市・ノア

ホテル街

「やっぱり帰る。」

そう言ってきた道を戻ろうとする長髪の男を筋肉質の男と少し細めの男性が腕を掴んで離さない。
変装用に黒い長髪のカツラをつけた男はそれでも必死に戻ろうともがくが、二人の男性、ラッセと沙慈は容赦なく男を引っ張っていく。
男はサングラスで目元を隠しているが、その奥で目が泳いでいる様子を容易に想像できるほど汗まみれで、さらに陽の光がサンサンと降り注いでいるにもかかわらず顔面蒼白で震えている。

「言いだしっぺが戻るな。全員で探さないと到底見つからないとか言って俺たちを連れだしたのはお前だろうが。」

「大体、君以外は外見を知らないんだから、ここでいなくなられちゃ困るよ。」

「無理無理むりむりムリムリムリ……!会った瞬間殺されるって……最悪に不名誉な形で有名人になっちゃったんだよ?あの人に遭遇してしまったらどうなることか……」

〈自分の身内によくそんな評価を下せますね。〉

変装した姿でブンブンと首を振るユーノ。
ここについてから幾度となく繰り返される不毛な問答に溜め息をつきながらも、ラッセと沙慈はユーノを引きずっていくのだった。



メインストリート

「で?なんで俺たちはこんな石垣だの木造りだの節操のないもんばっか並んでるとこに来てんだ?」

ハレルヤが店で買ったリンゴを一口かじりながらぼやく。
彼の言うとおり、この街、ノアはかなり珍妙な街だといえよう。
年代、様式が全く違う建造物が乱立し、さらにそこへ現代の建築物が入ってきているため、初めて訪れた人間はさぞかし混乱するだろうが、この特別管理世界、イシュターの成り立ちを考えるとなんら不思議ではない。

管理局の創設初期から発見されていたこの世界はさまざまな文明の痕跡、遺跡などが発見されており、それと同時にロストロギアも含めた多くの発掘物が見つかっていることでも有名である。
本来ならばロストロギアの流出を防ぐために管理局が立ち入りを制限するべきなのだが、学術的にも重要な位置を占めるとの考えから、研究者の出入りは基本的に自由、一般人も許可さえ下りれば観光で訪れることができる。
もっとも、発掘物の持ちだし、管理については厳しく目を光らせてはいるが、今では遺跡と研究者たちが滞在のために建てた家などが混在する街となり、ある意味どの世界よりも活気に満ちた場所となっているのだ。

その中でも、砂漠地帯にあるこの街、ノアには複数の遺跡が存在し中の探索などのツアーもあるので人の出入りが最も激しい場所だといえよう。

「こんな古臭いもん見るためにゾロゾロやってきやがって。何が楽しいか俺には到底理解できないね。」

(そんなことより、話聞いてなかったの?ユーノの部族の偉い人を見つけるのが今回の目的だよ。)

「わかったよ。けど、こんなにいる中から探し人なんざ暗礁地帯で旧世紀のデブリ見つけるより大変だぜ。」

「だから、より感覚が優れている私たちが捜索に当たっているのだろう。文句を言わずに探せ。」

包帯や絆創膏をつけたソーマの言葉に反論するのも面倒だったのか、ハレルヤはフンと鼻を鳴らしながら遠くまで見渡すために目を細める。

「しかし、ティエリアの野郎が居残りとはな。相変わらずおセンチでいけねぇ。」

(仕方ないよ。ウェンディもあんな状態だし……)

「……ケッ。どいつもこいつもしけてやがる。」

暗くなった雰囲気に耐えきれず、ハレルヤはそう毒づきながら舌打ちをするのだった。



プトレマイオスⅡ ウェンディの部屋

こういう時、ティエリアはどういう言葉を選べばいいかがわからなかった。
あの日、彼女がメディカルルームに運び込まれた時のジェイルの表情と周りの反応。
そして、意識を取り戻したウェンディの困惑の表情。

それ以来部屋に閉じこもっている彼女を気にして、今回の任務から外れたティエリアだったが、ウェンディにしてやれることが何かわからない。
そんな状態で、また彼女の部屋の前まで来てしまっていた。

「……ウェンディ。」

中から音はしない。
それでも、声はしっかり届いたはずだ。

「その……閉じこもってばかりいては気が滅入るだろう?一緒に食事でもしないか?」

不自然極まりない態度だと自分でも思う。
だが、それでもなんとか顔を見て話をできるきっかけにでもなればと淡い期待を抱いていた。
だが、

「……ほっといてよ。」

「ウェンディ。」

「ほっといてよ!!」

バンと何かが扉にぶつかる音の後、再び沈黙がその場を支配する。
しかし、しばらくしてすすり泣く声と最後の一言がティエリアに返ってくる。

「ごめん……今は、一人にして。」

「ウェンディ…」

押し殺した泣き声に、ティエリアはそれ以上は無意味だとわかって扉に背を向ける。
コツコツと音をたてて遠ざかっていく彼を想いながら、ウェンディは包帯の巻かれた腕を押さえて声もあげずに泣きじゃくる。

この体が恨めしくて仕方ない。
誰にも真実を言えず、それが明るみになれば皆が離れていく。
口でどれだけ気にしないと言っても、色眼鏡で見られる。
それが心を許した相手ならば、なおのこと辛い。

それでも、今のウェンディに現実から逃げることは許されなかった。



ノア 遺跡前

「ん~…」

上から行きかう人の意識を読み取るジル。
しかし、それらしいものが無かったのか下で待っていた刹那の腕の上にポンと腰かける。

「駄目か。」

「うん。こりゃ、想像以上に骨が折れるや。」

「こっちも駄目だ。」

聞きこみに行っていたロックオンとアニューも渋い顔で戻ってくる。

「スクライア族の族長って言った瞬間、大概2種類の反応をする人間に分かれるな。」

「2種類?」

「知らないっていう人と真っ青になって逃げてく人です。」

その言葉に二人もどうリアクションをしたものか困る。
ユーノが会いに行こうと言いだした時に異常なまでに挙動不審だったのはこういうわけかといまさらながら納得する。

「けど、そいつ本当にユーノのあれがなんなのか知ってんのかよ?オイラも知らないことを普通の奴が知ってるとは思えないんだけど。」

「だから、普通じゃないんだろ。呑んだくれてたマッチョが腰抜かして中身が残ったボトルおいて逃げ出すくらいだからな。」

「……そりゃ相当なもんだ。」

苦笑いを浮かべながら再び空へと上がっていくジル。
それを見送った刹那は、ロックオンに小声でささやく。

「ユーノの様子は?」

「チラッと見てきたけど、ありゃあまだ引きずってる感じだな。無理に笑ってて気味が悪いったらないぜ。」

「そう、か……」

しかし、気にするなという方が無理だろう。
あれだけのことを引き起こし、さらに人間であるにもかかわらず危険物指定を受けたのだ。
生身のまま凍結され、どことも知れぬ場所に放り出されるという仕打ちを受けるかもしれないという恐怖。
ショックを受けて当然だろうし、だからこそここへ来たのだ。
ユーノについて、ある意味ユーノ本人以上に知っている人物に会うために。



商店街

スクライア族の族長は放浪癖があり、一族の人間も行方を掴めないことが多いが、よくこの街を訪れる。
そんな情報を頼りにやってきたプトレマイオスクルーだったが、本当に見つけられるか不安で仕方ない。
なぜなら、外見の情報が少ないうえに曖昧すぎるのだ。

「それで、外見はどんな感じなの?」

スメラギは後ろでヴィヴィオと手を繋ぎながらほんわかと和んでいるフェルトを一瞥した後、ミレイナに尋ねる。

「えっと、ユーノさん曰く小さい人だそうです。見た目がかなり幼い上に最初は喋りもそれに合わせてくるので迷子と間違われることもしばしばだとか。」

「それだけじゃちょっとねぇ……」

リンダも渋い笑いを浮かべるが、スメラギにはあの時のユーノの表情も気になる。

『み、見つけても僕はいないことにしてください、いや、してくださいませ……その時はすぐにトレミーに帰るから、いや、帰らせていただきますので……』

恐怖でひきつった笑みから察するに、よほど族長が恐ろしいのだろうが、ユーノの怖がりようと言っていた特徴がどうにも結び付かない。
子供のような姿で、いい年をした男一人を汗まみれにしてマッサージ器顔負けの振動をさせるほど怖い女性。

(……そんな人いるの?)

溜め息をつきながら、話に参加しようとしないフェルトをこれ以上無視するわけにもいかずに振り向くスメラギ。
さらなる頭痛の種が待っているのも知らずに。

「……フェルト?その左側の子は誰?」

ヴィヴィオと反対側の手。
いつの間にやってきていたのか、小さな栗毛のショートカットをした女の子がニコニコと笑いながら苦笑するフェルトの腕にしっかりと抱きついていた。
その少女だが、見た目は悪くないのだが髪がボサボサで不揃い、さらには緋色のマントと植物性の繊維でできた服が汚れているせいでまるでホームレスのようだ。

「懐かれちゃったみたいで……」

「懐かれたって……子供は犬や猫みたいにホイホイ拾っていいものじゃないわよ。」

頭を抱え込むスメラギに、ムッとしながら睨んでいるヴィヴィオからスメラギの方へ視線を移して少女は気の強そうな笑顔を見せる。

「シルフィは犬や猫じゃないもん!」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくてね…」

「お姉ちゃんたち人を探してるんでしょ?だったらあたしも手伝ってあげる!」

「あらあら、急展開…」

「いやいや、だからそういうことでも…」

「世の中持ちつ持たれつ。あたしも探してる人がいるからそのついでよ。少なくとも、そこのちびっこと能天気なお姉ちゃんよりは役に立つと思うよ?」

「むむむ~!」

「ヴィ、ヴィヴィオちゃん?暴力は何にも解決しないからね?」

フェルトに羽交い絞めされてむくれるヴィヴィオを挑発しながらシルフィと名乗る少女の話は続く。

「あたしの勘によるとぉ、なんかお姉ちゃんたちといるとあたしが探してる人も見つかりそうな気がするし、いいでしょ?ね?」

「いいでしょって言われても…」

「ノアに来たのは初めてでしょ?街に詳しい人間がタダで手元に置けるんだからありがたいと思わないと。」

確かに街に詳しい人間がいた方がことを容易く運べるかもしれない。
ただ、

「あなた、まだ小さいのに随分饒舌ね?さっきはもっと子供っぽかったのに…」

「え?気のせいじゃない、美しいお姉様。」

「うん、そうね。じゃあ、案内頼めるかしら?」

「撤回早っ!です。」

上機嫌で先頭に立つスメラギにシルフィを除く一行は慌ててついていく。

「おばちゃん、なんであんな子を連れてくの?」

「あなたと違っておばちゃんなんて言わないから。」

「大人げないですよスメラギさん…」

わいわいと騒ぐその後ろで、シルフィはニヤリと笑うと服の中に隠していたロケットを開く。

「さて……どんなお仕置きをしようか。」



中心遺跡広場

一足先に待ち合わせ場所についたユーノ達。
しかし、相変わらずユーノは薬物中毒の禁断症状でも出ているのではないかと疑いたくなるほど落ち着きが無い。

「少しは落ち着けよ。久しぶりの家族との再会なんだろ?」

「そんな生易しいものじゃ済まないよ…」

ガチガチと歯を鳴らしながらユーノは語り始める。

「あれは僕が初めて族長と遺跡の発掘に行った時だった……トラップのゴーレムを高笑いしながら素手で砕き、上から落ちてきたギロチンは手刀で真っ二つ……でも、本当に恐ろしかったのは…」

ユーノは大きく深呼吸してその忌々しい記憶を口にする。

「あの人が調子に乗って放り投げたゴーレムの破片(推定100㎏オーバー)が僕の上にやってきたかと思うと、いつの間にかベッドの上で包帯でぐるぐる巻き状態だったんだ。」

「……え?待って?そうなるまでの過程は?」

「覚えてないんだけど……あの人が大したことなかったっていう時は大概すごく悪いことが起きた時だから。なんでか両手が血まみれだったし。」

「ねぇ!?それ僕ら聞いてていいのかな!?それ全部聞いたら間違いなく何かが終わりそうなんだけど!?」

青ざめる二人にさらに続きを話そうとするユーノだったが、待ち人が来たことで恐怖体験談は終わる。
だが、すぐに新たなトラウマの種が芽吹くことになる。

「あんたはノーマルな人らに何を伝えようとしてんの!?ていうか、重要なのはそこじゃないわ!!」

「あ、アイナさん。」

ホッとして挨拶する沙慈には目もくれず、荒く息をしながらアイナは変装したユーノの肩をがっしり掴む。

「良い知らせ……じゃなくて、やっぱり最悪の知らせよ。ババァは間違いなくこの街に来てるわ。」

「おお、よかったじゃないか。」

呑気に腕を組んで笑うラッセとは対照的に、スクライア族の二人は顔の色を赤、青、緑と目まぐるしく変え、ある結論に達する。

「よし、帰ろう。」

〈Start up〉

「「は!?」」

D・クルセイドまで起動して帰る、もとい逃げようとするユーノにラッセと沙慈が詰め寄る。

「何考えてんだおまえ!?ここまで来たんだから覚悟決めろ!!」

「嫌だ!!自分から断頭台の上に行くなんて嫌だ!!」

「どれだけいやなのさ!!」

飛ぼうとするユーノを必死で足にしがみついて止めるラッセと沙慈。
だが、ユーノの混乱はさらに加速していく。

「嫌だ嫌だいやだいやだ!!!!!!!!今度こそ殺される!!!!ジュエルシード事件の時でも地獄めぐりみたいなことされたのに、マイスターになったことを知られたら何されるか…いや、それこそ一族郎党を…!!」

「だからその一族の長だろ!?」

「何をやってるのよ。」

周りが騒ぎだす中、呆れた様子でやってきたスメラギにユーノも泣き叫ぶのをやめた。
否、実際は彼女の後ろ。
フェルトと手を繋いでいた栗毛の少女を見て泣き叫ぶのをやめ、代わりにこの世の終わりでもきたかのような顔をする。

「スメラギさん、そいつは?」

「この子も人探しをしてて、ついでだから手伝ってくれるって。ここまでの道順を教えてくれたのも…」

「見つけた……」

スメラギ達の話を無視し、少女はガタガタ震えているユーノへつかつかと歩みよっていく。

「あそこまで派手な騒ぎを起こしてよくもまあ顔を出せたもんだねぇ……」

「あ……あわわ…」

アイナは即座に沙慈を盾にすると、こそこそと影からことの成行きを見守る。
後からやってきたスメラギ達も事態を説明するのも忘れて少女の一挙手一投足に気を配っている。

「い、いや、その、これには深い事情がありまして……」

「問答……無用ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」

土煙を上げて一気に詰めよった少女はユーノの腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。
……いや、もはや吹き飛ばすという表現すら生温い。
それはミサイルの打ち上げ。
火を噴きながら猛スピードで天高く飛んでいくミサイルのように、ユーノの体は地上10数mを長時間飛行した。





この日、ヴィヴィオは日記に次のようなことを書き記した。
『人間は魔法も機械も使わずに空を飛ぶことができます。』と……



ホテル

「で?それはなんの冗談?」

アレルヤは狭いホテルの一室に集まっていたメンバーの話を一笑にふす。

「そんなこと起きるわけないですよ。」

「そうそう。エイプリルフールはとうの昔に過ぎてるぜ?こんなチビにそんなことできるわけねぇって。」

アニューとロックオンも笑って同意するが、スメラギはいたって真面目にとなりにいた一見少女の年上の女性を紹介する。

「シルフィ・スクライアさん。スクライア族の族長をやってらっしゃるそうよ。」

「あんたたちのことは報道で知ってるから説明はいらないよ。それと、あたしはこれでも旧暦の始まる前から生きているんでね。お前たちのような小童にガキ扱いされる覚えはないっての。」

そう言って持っていた空き缶をいともたやすく握りつぶしてピンポン玉サイズにすると、それまで信じられずに乾いた笑いを浮かべていたアレルヤ達も否応なく黙った。
というより、心のどこかでそうではないかと信じていたものが肯定されたせいで、いつ自分たちも隣でうんうん唸って眠っているユーノのようになるのではないかと不安で仕方ないので黙る他なかったのだ。

「うん、よろしい。目上の者を敬うのは人としての常識だからね~。」

「あんたが常識って…」

ジルが呆れて首を横に振っていると、顔の横を潰れた缶が高速で通り過ぎて壁を突き破る。

「なんか言った?」

「い、いえ、なにも…」

「……悪いが、そろそろ本題に入らせてもらいたい。」

一向に話が進まない中、刹那はD・ダブルオーに残されていたノイズ交じりの映像を見せる。
それを見た瞬間、シルフィもおちゃらけた態度から一転して口元を真一文字に結ぶ。

「報道もされたから知っているはずだ。これが原因で局員をはじめとして死傷者が多数、ユーノに対して封印処理の許可がおりた。」

「それと、これは公表されていませんでしたが私たちはこの現象の影響でリンカーコアが体外に露出。そして、消滅が原因で死亡する場面を直にみました。」

「それであたしが何か知らないか聞きに来た……ってわけか。」

シルフィは包み紙から棒に刺さった飴玉を取り出して口の中に放り込んでかちゃかちゃとせわしなく動かし始める。
口の中に広がる甘みとは真逆の渋い表情のままクルーの顔を見渡し、最後に眠っているユーノに一瞬目をやると口から飴玉をとりだした。

「今から話すのはあたしの独り言だ。別に、誰かに聞かせたいわけでも、どっかのバカな孫のためを思って話しているわけじゃないから、そこんところよろしく。」

再び赤い飴玉を口に放り込んでガリッと噛み砕くと視線を目の前ではなく、ここではないどこかにさまよわせる。

「……昔、ある子供が一人の男に拾われた。男はその子供を一族のもとへ連れて帰り、自らの息子のように育てていた。だが、ひと月ほどたったところで、あることに気付いた。」

「あること?」

刹那の怪訝そうな声に答えず、シルフィは言葉を続ける。

「男が訪れていた世界は第7管理世界ヴェスティージ……翠の民、翠玉人たちが切り拓いた世界だ。」

全員、息をのんだ。
ユーノの生まれ故郷。
争いの絶えない、戦火の世界。
そして、その争いに巻き込まれて歪んでしまった者たち。
今までも、幾度か刃を交えてきた相手である。

「その子が疳癪を起こすと、よく不思議なことが周りで起きた。男と一族の長は、その子の力が翠の民ゆえのものではないかと考え、遂にその理由を突き止めた。」

「その理由って!?」

フェルトは思わず身を乗り出すが、フッと小さく笑われてかわされてしまう。

「男と長は、その子が成人を迎えるまで本人にも力のことを隠し、時が来たときに全てを打ち明けるつもりでいた。だが、男は息子を残して逝き、一人残されたその子に、長は言ってはならない一言を言ってしまった。」

「?」

「……『仕方がなかった』。こいつの気持ちも考えずに、そんなことを言っちまったのさ。」

フゥと溜め息をついて視線を目の前のクルーたちに戻すと、シルフィは悲しげに笑う。

「その時の顔は忘れもしないよ。周囲から自分の訴えを偽りだとされ、最後に胸の内を吐露した身内にまでそう言われたんだから無理もない。今のこいつへの背中を押したのは他でもない、あたしなのさ。」

「で、でもでも!一番悪いのは…」

「誰が悪いって問題じゃないんだよ、お嬢ちゃん。あたしが、周りの大人がこいつにしたことはそれだけ重いってぇのが重要なのさ。」

ミレイナは反論しようと口を開くが、上手い言葉が思いつかずにそのまま口を閉じた。

「それから、ユーノの能力は加速度的に目醒めへと突っ走っていった。日常生活に影響を及ぼすくらいにね。だから、不完全ではあるが封印を施し、こいつを育てていたわけなんだが……その後のことはあんたらの方が詳しいだろ?」

「……ああ。」

刹那の脳裏にタクラマカンでの一件が思い浮かぶ。
今思えば、あの時点でユーノの能力は覚醒を果たしていたのかもしれない。
成長とともに強力になっていた能力が、仲間の危機、何より世界に対する怒りで封印を突き破ってああいった形で顕現した。

「レントには悪いが、あたしはずっと力については黙っているつもりだった。ユーノがあたしたちスクライア族の人間じゃなくなってしまうんじゃないかって思うと、どうしても言い出せなかった。」

「なんにでも臆病なのは爺婆の悪い癖だな。」

「言うじゃないか小僧。だが、確信をついている。でもね、臆病になってでも守りたいもんは誰にだってあるもんだ。もっとも、それもこれまでのようだがね。」

そういってロックオンに苦い顔をさせたシルフィは近くにあった紙に何かをスラスラと書き連ねて刹那の肩に乗っていたジルへ飛ばす。

「昔と変りなければ、ヴェスティージのその座標に翠玉人の生き残りが作った集落がある。」

「あんたもユーノの能力について何か知っているのではないのか?」

「真実は自分の手で掴むものだと決まってんのさ。それに、臆病な年寄りにこれ以上無理させるもんじゃないよ、坊や。」

刹那を軽くあしらうと、シルフィは椅子から立って大きく伸びをする。

「さて、あたしはもう行くとしようか。あんたたちもさっさと行った方がいいよ。」

「……みたいだな。刹那、敵意がこっちに近づいてきてる。」

「気付かれたか。」

「遅かったくらいだよ。で…」

ジルは刹那にメモを渡すと同時に階段を駆け上がってくる何者かの気配をいち早く察知していた。
だが、刹那の後ろを見て額に手を当てて表情を歪める。

「あっちゃ~……この数、しかも魔法が使えないのがこんだけいちゃあなぁ…」

「逃走は難しい?」

「結構。いつぞやのように死にかけてもいいなら迎え撃つのもありだけど…」

「その選択は絶望的だね。マリーや戦力になる人間が回復しきっていない。」

顔を突き合わせて悩んでいる間にも、足音が聞こえるところまで敵は迫ってきている。
しかし、シルフィは慌てる様子もなく瓶のふたをこじ開けて中の水を飲んでいる。

「そんなに慌てなさんな。こういう時にこいつは役に立つ。」

そう言ってベッドに飛び乗ると、頭蓋が砕けたのではと思うほど大きな音をたててユーノの頭を蹴りあげ、瓶の中に入ってきた冷水をぶっかける。

「オラ、起きろドラ息子ならぬドラ孫。起きないとあたしの鉄拳が頭蓋を打ち砕くぞ。」

「NOooooooo!!!!?」

ゾンビ映画さながらの動きで目覚めるユーノ。
しかし、即座にバリアジャケットを装備して身構えて周囲に注意を配る。
だが、

「……あれ?これどういう状況?」

(……今、こいつのしぶとさの原因を垣間見た気がするぜ。)

アレルヤの中で青ざめるハレルヤだが、そんな場合ではない。

「おい!もうすぐそこまで来てんぞ!どうすんだ!?」

「大丈夫。後はこいつが転送魔法とか他にも色々してなんとかするから。」

「族長ぉぉぉぉぉぉ!!?状況説明してくれません!?そして殺さないで!!」

「族長じゃない!!おばあちゃんと呼べぇぇぇぇぇぇ!!!!昔はあんなに可愛いカッコで『おばあちゃん大好き!』なんて言ってくれたのに!!」

「いつの話ですかっ!?もう十年以上前の話でしょうが!!ていうか人の黒歴史をさらりと暴露しかけてんじゃない!!」

「あの、後でその可愛いカッコを…」

「ミレイナ、ぶつよ。」

「そんなこと言ってる場合じゃないです!!」

アニューの言葉を皮切りに、ドアが激しくノックされ、続いてドンドンと何かがぶつかって部屋が揺れる。

「ユーノ、転送魔法をお願い!!」

「ああ、もうっ!!こんなに大勢だとあんまり遠くは無理ですよ!!」

そう言いつつも転送の体勢に入るユーノ。
目的地を定め、追跡を受けないよう最低限のジャミングをかけて発動しようとするが、その時、

「ユーノ。」

シルフィの声にそちらを向く。
珍しくまじめな顔に少し困惑するが、シルフィはそれがおさまる前に口を開いた。

「良い仲間を持ったね。……何があっても、自分が何者であっても、そいつらを裏切るような真似をするんじゃないよ。」

「長……」

「ユーノ、早く!!」

フェルトの言葉に感謝の言葉も忘れ、大急ぎで転送魔法を発動する。
光に包まれて消えていくユーノとその仲間たちを見送ると、その直後に地元の警邏隊が飛び込んでくる。

「動くな!!ここに指名手配犯に似た連中がいる、はず…だ……?」

「おじちゃんたち誰~?シルフィ、怖い。」

「……き、君。ここに、他に誰かいなかった?」

「いたよ~。怖い人たちだったけど、おじちゃんたちが来る前にどこか行っちゃった。」

「転送魔法か……!!追跡……は無理か……!!まさか、ここまで高度なジャミングが可能だとは…」

ユーノが使ったジャミングはそれほど難しいものではない。
少しの時間さえかければ解析は可能だし、追いつくことも不可能ではない。
しかし、それはシルフィのサポートが無かったらの話だ。

(一つ貸しだよ、バカ孫。)

猫を被って保護されながら心の中でニッと笑う。
しかし、すぐに昔の、それもかなり前の異世界の友人のことを思い出してムッとした顔に変わった。

(あのハゲ……あんだけ釘刺しといたのにユーノを巻き込みやがって。何が限りなく可能性が低いだ。何が私の関知するところではないだ。)

じだんだを踏みたくなるのをこらえ、そのムカつく友人以上、恋人以上、そして同志以上の存在だったメガネの男のことを思い浮かべる。

(……わかってるさ。ユーノが自分の意思で選んだんなら、あたしがどうこう言えるもんじゃない。けど、それでもババァってのは理屈抜きに孫には幸せになってほしいもんなんだよ。)

こんなことを言ったら、非論理的だと言いつつも人間らしいと言ってあの不器用、不気味な笑みを見せるのだろう。
ロストロギアで時が止まってしまったこの体のことを知ってなお、彼女を人として扱ったあの男。
イオリア・シュヘンベルグならば。

過去に浸りながら見上げた空は、そのイオリアが夢見た世界に限りなく近いものにシルフィには思えた。
忌々しいほど澄み切った、争いとは無縁の場所が、そこには確かに存在していた。








過去への一歩
それは、何も見えない暗がりへの一歩





あとがき
戦闘シーンゼロな上にシリアスにしようと決めてたのにギャグ分多し……
やっぱり天の道を行く男の人生にも多大な影響を与えるように、かくもおばあちゃんというのは偉大なのか!?
……なわけないですね。
一応次回で核心に近づいていきます。
それと、過去の事件編の登場人物が一通り出てきたので、地球に戻って少し話進めたらサイドで出すかもしれません。
では、次回もお楽しみに。



[18122] 47.過去への旅路~母~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/09/09 23:42
第7管理世界 ヴェスティージ アッシリア地方

「よっと。」

ロックオンの気の抜けた声と同時に枯れ果てた針葉樹林に合わせて赤茶色の迷彩柄をしたジンクスが下へ落ちていく。
ケルディムを取り囲んでいたジンクスたちはそれを見て怖気づいたのかさっさと帰っていくが、ダブルオーの相手をしていた機体は撤退のタイミングを逃したようだ。

「ダブルオー、目標の全撃破完了。」

「……もっと手加減してやれよ。」

苦笑いとともにロックオンが向けた視線の先には斬り刻まれた手脚。
一体何機墜としたのか定かではないが、相当数墜としたのは間違いないだろう。
目も当てられない状況だが、唯一の救いは辛うじて全員生きているということだろうか。

「まあ、それでもあっちよりはまだマシかな。」

そう言ってアレルヤは逃げていく機体から二つの砲身を構えたまま動かないセラヴィーのほうへ視線を移す。
まるで操縦者の腑抜けた状態が移ってしまったようだ。

「ティエリア。」

声をかけられようやく我に返るティエリア。
珍しくおたおたと周りを見渡すが、無意識にまですりこまれた戦闘技能を前に敵はすでにいなくなっており、それがいっそう彼を落ち込ませる。

(こんな僕が……マイスターとなるためだけに生み出されたティエリア・アーデが誰かの心を癒せるわけもないか。)

「すまない。」と短く返事をして再び周囲の警戒に意識を割いてこの苦しみから目を背ける。
しかし、ここへ来てこの乱暴な挨拶に一番心を痛めているのはユーノだろう。
マイスターたちはそう思っていたのだが、

「早くポイントへ急ごう。いつまたこんなことがあるかわからない。」

あまりにもドライな言い草に、同じく故郷を失っている刹那が質問をぶつける。

「なんとも思わないのか?」

「物騒だっていうのは聞いてたからね。こういう出迎えもありえるさ。」

「そうじゃない。ここは、お前の故国だろう?」

「故国?おかしなことを言うね。」

おかしそうに、本当におかしそうにユーノは笑う。
その時、刹那はようやく気が付いた。
ユーノは自分とは決定的に違う。
自分の国を自分のいるべき場所だと認識する前に、そこを奪われた人間、故郷を持たない者なのだと。

「見たことも訪れたこともない、そんな場所を故郷だと思えるとでも?」

「訪れたことがない?」

今度はロックオンが口をはさむ。

「お前の生まれ故郷なんだろ?一回でも来ようとは思わなかったのか?」

「長が言ってただろう。僕は拾われてからほぼ翠玉人とのかかわりを断たされていた。昔、父さんに来たいとは言ったことがあったけど、駄目だと言われて随分ともめてね……それから、自分が翠玉人だとわかってからも、別段来たいと思わなかったな。」

まるで他人事のような口調に、967はハロのボディの中で顔をしかめるが、ユーノはいたって明るい調子で続ける。

「それに、スクライア族は基本的に一ヵ所にとどまらない放浪の民だからね。どこかに自分の根を求めようと思ったことはないね。そうさ…」

笑っている。
なのに、どこか悲しい声で言う。

「こんなところに……荒れ放題の場所に根をおろして花を咲かせられる奴なんていないよ。」

失望の込められた、乾ききった笑い声がコックピットに小さく反響を繰り返した。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 47.過去への旅路~母~


ポイント・TY2341

「今回はマイスターだけできて正解だったね。」

「つーか、他の連中連れてくんの無理っしょ。」

ジルの言うとおりである。
着いて早々に流出したMSに地上からの質量兵器による対空砲火。
挙句の果てには生身で飛んできてとりつく人間爆弾。
とてもじゃないが、他のメンバーに気を回している余裕はなかっただろう。

「でも、昔に比べれば改善されている方さ。なんせ、十年ほど前は死体で土が見えなかったって話だからね。」

「どんな状況だよ……」

「尾鰭がついているのだろうが、それだけ凄惨な戦いだったんだろう。そして、今もまだ続いている…」

拳を握る刹那だが、ヴェスティージは本当に昔と比べると随分と状況が好転しつつある。
管理局の仲介で各陣営が講和を結び、ゆっくりとしたペースではあるが戦闘は沈静化しつつある。
無論、宗教から経済的格差、さまざまな要因が絡み合って始まったこの戦争によって生まれたしこりは未だ残っていて、先程マイスターたちが遭遇したようなテロまがいの行為が横行しているのも事実だ。
しかし、その中で和睦にも参加せず、さらに戦闘行為も行わなければ管理局の保護を受けようとしない一団がある。

「で、俺たちはその戦争に参加していない翠玉人のみなさんに挨拶に行こうとしてるわけだけどよ。いつになったらその集落に着くんだよ。」

MSから降りて小一時間。
すでに深い森の奥のさらに奥までやってきたが、いつまでたってもその集落につかない。
気のせいか、それほど距離を歩いていないのに体もだるい。
森の地形が複雑なのもこの疲労の一因かもしれないが、いつまでも目的地にたどり着かないこの状況ではロックオンでなくてもぼやきたくなってくる。

「おかしい……もう見えていてもいいはずのだが。そもそも、かなり近くに降りたはずだ。」

「………………………」

「……?ユーノ?」

端末とにらめっこしながら首をかしげるティエリア。
しかし、ユーノはそんな彼から離れていくと、おもむろに白い花を摘んで握りつぶす。
その行動に全員が不愉快そうに眉をひそめるが、溜め息交じりにユーノが手を開くと目を丸くした。

「……ジャミング用の簡易ストレージだ。多分、そこいら中にあるはずだよ。」

「なるほどな……これなら、戦わなくても生き残れるってわけか。」

感心するロックオンの前で手の中の白いガラス状の物質を払うユーノ。
探索能力に長けた彼がいなければわからなかっただろうこのトラップは実に巧妙にカモフラージュされているようだ。
そしてこの侵入者用のトラップ、探せばさらにあるもので、

「おい、これ枝じゃなくて投影装置かなんかじゃないのか!?」

「こっちは岩じゃなくて中身は機械だよ!」

「これは確か……過重力発生機だったか。」

「実際の重力の1.5倍か……この底なしのスタミナのオイラが早くバテたのはこういうわけかよ。」

「……というか。」

ティエリアがグルリと辺りを見渡すと、先程まで歩いていた道が続いている。
……大きな円状に。

「同じとこグルグル回ってたのかよっ!」

「ベタだね……」

思わずドサリと腰を下ろすアレルヤとロックオン。
それに刹那たちも続く。
ここに翠玉人たちがいるのはわかったが、それまでの過程がほとんど無意味だったことを認識すると疲れがドッと押し寄せてきた。

「あ……あれじゃね?」

うっすら煙が立ち上るその下に、開けた場所と木造の小屋のようなものが数件見える。
だが、ジルのその言葉に五人が歩き出すのはしばらく後になるのだった。



集落

はっきり言うなら、そこは異常だった。

「歓迎されるとは思ってなかったけどよ……これはこれで武器突きつけられるより恐ろしいもんだな。」

ロックオンの声に答える者はいない。
いや、答えられる者は四人ほどいるのだが、彼と同意見のため反論しようとは思わないようだ。
集落の入口を入ってすぐに人の気配が消えた。
というより、隠れてこちらの様子をうかがっているというべきか。

「あの~……僕たち、怪しい者じゃないんです。ただ、少しお聞きしたいことがありまして…」

「無駄だアレルヤ。完全に警戒されている。」

(大体、今の発言は怪しい奴が使う常套句だろうが。)

ティエリアとハレルヤの言葉に苦笑いで誤魔化すしかないアレルヤ。
しかし、ここまで来てなにも収穫がありませんでした、というわけにもいかない。

「どうする?」

「どうするもなにも……こうなったら訪問販売よろしく一軒一軒訪ね歩いてみるしか…」

「そもそも話が聞けないんじゃ意味ねぇだろうが。大体、お前がこんなもんつけてるから怪しがって誰もよってこないんじゃねぇのか?」

そう言ってロックオンはユーノのサングラスをひょいと外すが、すぐに彼の手から乱暴に取り返す。

「これは君のお兄さんの形見なんだ。いくら弟の君でも、気安く扱わないでほしい……なっ!?」

サングラスを外したユーノを見た瞬間、小屋の中にいたから翠玉人たちからどよめきが起こる。
それだけではない。
それまで窓からこちらを見るだけで、一歩も外へ出ようとしなかった彼らが我先にとユーノのもとへやって来て顔をなめまわすように見つめ始めた。

「な、なんだ!?何がどうなってるわけ!?」

「ユーノ、無限書庫の司書長というのはここまで著名なものなのか?」

「い、いや、そんなはずはないんだけど…」

あまりの豹変ぶりに今度は刹那たちが警戒し始めるが、そんなことなど構わずに翠玉人たちはブツブツとつぶやきながらユーノに押し寄せていく。

「似ている……だが、しかしまさかそんなはずは…」

「そ、そう言えばスタンザ様の面影も……」

「ちょ、ちょっと……」

「そこまでにしておきなさい。」

その声に群衆がそちらを向いて道をあける。
そして、今度はユーノ達が声の主の顔を見て驚く。
白い民族衣装を身につけた女性が微笑みを湛えながら歩いてくる。
その顔は、

「どう…いうことだ……!?」

「ユーノが…二人…!?」

「なんの冗談だよこりゃあ……!」

さらに女性的ではあるが、確かにそれはユーノの顔だ。
髪は長く、多少違いはあるが、よほど長い付き合いでない限り見分けることは不可能だろう。

「ああ……!」

女性は嬉しそうにユーノへ歩み寄ると、涙を目にいっぱいためて抱きしめる。

「やっと会えた……!私の、愛しい息子……!」

「なっ……!!?」

「なにぃぃぃぃぃぃ!!?」



10分後 長の住まい

「私は、シルビア・ヴェルデ。現在、ここに住む翠の民をまとめている者です。あなた方がユーノと呼んでいる彼は、先代の長である私の夫、スタンザ・ヴェルデとの間にもうけた子なのです。」

「実の母親ね……そりゃ似ててもおかしくないんだろうけど、いきなり出てこられたら驚くぜ。」

ロックオンだけでなく、ここに案内された他の三人も未だに信じられずシルビアとユーノの顔を見比べては唸っている。

「つまり、ユーノは19年前に亡くなった翠玉人の長の息子というわけか。」

「ええ。あの時、私もスタンザに同行していたため襲撃され、なんとか逃げ切れたものの、当時の集落に残してきた息子、ユーノを助けることができませんでした。だから、てっきりあの時に炎に焼かれてしまったのだと…」

「ある意味それでよかったのかもしれない。長の血を引いているユーノが生き残っていることが公になれば、すぐにでも消されていたかもしれない。」

「……………………………」

ティエリアが発言してもなお、ユーノは喋ろうとしない。
むしろ、話が進むほどに怒りを抑えきれなくなってきているようでもある。

「見ての通り、ここは閉鎖的で外部へ出ていく者もまれなので情報も入って来にくいんです。ですから、ユーノが生きていることも、そしてあなた方と行動を共にしていることも最近までは全く知らなかったんです。でも、まさかこうして会いに来てくれるなんて。」

「勘違いも甚だしいな。」

遂に我慢できなくなったのか、ユーノはギロリとシルビアを睨みつける。

「僕たちはあんたに会いに来たんじゃない。聞きたいことを聞くためにやってきたんだ。それをさも生き別れの親子が感動の対面をはたしたなんて、二束三文の安い小芝居はやめてもらいたいね。」

「けどよぉ、実際生き別れの親子なんだし…」

ジルのその発言に、ユーノは顔を真っ赤にして烈火のごとく怒る。

「僕の肉親はレント・スクライアただ一人だ!!!!いきなり現れた赤の他人に息子なんて呼ばれたくないね!!!!」

そういうと扉を勢い良く開けると、聞き耳を立てていた住民たちを押しのけてさっさと行ってしまう。
困ったのは、残された刹那たちだ。

「ったく、あそこまでムキにならなくてもいいだろ。」

「そう簡単に受け入れられないんだろう。」

「だが、いくら離れ離れだったとしても、実の親子の再会がこれでは…」

「いや、僕はなんとなくユーノの気持ちがわかるな。」

気の毒そうに眼を伏せていたティエリアが、アレルヤの言葉に顔をあげる。

「僕も、過去の記憶もなにもないからね。もし、仮に実の親というべき存在が現れても、いきなりそうだと認めることはできないと思う。むしろ、今までの必死に生きてきた自分を否定されたようで良い気分にはならないだろうね。」

「……けど、親子の絆ってのはそう簡単に切れるもんじゃないと俺は思うぜ。」

アレルヤに掴みかかろうとするティエリアとの間に割って入ったロックオンは飄々とした笑みでシルビアに語る。

「俺はカタロンに入って、はからずもこうして兄さんの意志を継ぐことになった。偶然と言われりゃそれまでだろうが、運命じみたものを感じてるのも事実だ。だから…」

スッと銃の形にした指をシルビアに向ける。

「教えてくれないか?あいつがいったいどういう存在で、その力がなんなのか。でなければ、ユーノとあんたの絆は、そんな大層なもんじゃないってことを自分で証明することになるぜ?」

〈最終的には脅しかよ。それも、母親に対してはこれ以上ない脅し文句だな。〉

「いえ……皆さんには知っておいてもらわないといけないことですから。長の血筋が背負う宿命を。」

D・セラヴィーは拗ねたように舌打ちをして黙るが、刹那たちもシルビアの言葉を一字一句逃すまいと静かに耳を傾け始めた。





人込みをかき分けようやく人気のないところまでやってこれた。
だが、一人になるとなおさら心の整理がつけられない。

(あれが、僕の母親……?)

そう、血のつながった本当の親。
レントのような偽りの家族ではない…

(違う!!あっちが偽物なんだ!!ずっと、僕を苦しめて……そうだよ………僕がこうなったのもみんなあいつのせいじゃないか!!)

〈マイスター…〉

憎しみのこもった瞳でD・クルセイドを睨む。
もう、何もかもが許せない。
自分の心を理解している者がいるだろうか。
そんな状態では、気弱な愛機の声も今は耳障りなノイズにしか思えず、

〈戻りましょう?ここに来たのは、誰よりもマイスターが…〉

「後で刹那たちから聞けばいい…」

〈でも!〉

「黙れ!!」

〈ひぃっ!!〉

思わずユーノの首元ですくむD・クルセイドだが、普段のユーノではありえない言葉が次々に浴びせかけられる。

「お前に何がわかる!?たかがデバイスにすぎないくせに出しゃばるんじゃない!!」

『……随分な扱いだな。』

「967……!!」

泣き出しそうなD・クルセイドに代わり、今度は967が端末を通じてその姿を現す。

「いつから聞いてたの?盗み聞きなんて悪趣味だ。」

『最初からだ。悪いとは思ったが気になったんでな。』

「だったらわかるだろう?今はあまり人と話す気分じゃ…」

『だろうな。子供みたいに駄々をこねて自分を満足させるのに忙しいだろうからな。』

「なに……!?」

すごむユーノに一歩も引かず、967はすました顔で続ける。

『俺はお前という人間を見誤っていたようだ。まさか、こんなことでガキのように喚き散らす奴がガンダムに乗るとはな……世も末だ。』

「な…んだと……!!」

『今のお前はマイスターにふさわしくない。仮に他のマイスターが認めても、俺はその態度を改めないうちは組むつもりはない。』

「ふざけるな!!!!」

遂に端末を叩きつけ、ユーノは声を張り上げる。

「967にはわからないだろうね!!ヴェーダに作られて親の温かさやそれを奪われる苦しみなんて知らないんだから!!それとも、ヴェーダが親だとでも言うかい!?人間じゃない、イノベイドの君にはお似合いのセリフだね!!」

『…………………』

いつの間にか967の声は聞こえない。
顔が移っている画面ももう見えない。
しかし、確かにまだ繋がっている。
これだけ屈辱的な誹りを受けてなお、967はまだユーノとの通信をきろうとしない。
だが、ユーノにもうその気はなかった。
首にかけていたD・クルセイドを外すと最後の言葉を発する。

「967………クルセイドをここに。」

〈マイスター!!〉

D・クルセイドの必死の訴えもむなしく、すぐにやってきた967はハッチを開ける。
それを確認したユーノは、渾身の力でそこへD・クルセイドを放り込んだ。
そして、上手くコックピットの中に投げ込まれたD・クルセイドは、徐々に遠ざかっていく主の後ろ姿を悲しそうに見つめ続けた。

〈967さん、マイスターは967さんのことを……〉

「わかっている。昔もときどきあったからな。なに、すぐにいつもの調子に戻る。」

〈はい。マイスターは優しい人ですから。〉



長の住まい

これは、遠い昔……
まだ、人々が魔導や機械の力を持っていなかった頃の話です。

「おいおい、ちょい待ち。オイラ達はユーノの話を聞きに来たんであって…」

「ジル。少し静かに。」

「……へ~い。」

その頃、人はようやく文明を築き始め、ゆっくりとではありましたが日に日に進歩していました。
そんな時、ある三人の優れた力を持つ者たちは、人に無限の可能性を感じ、三つの力を授けることにしました。

「三つの力とは?」

まず、蒼き賢者はこの世の法則を超越した叡智を授けました。
次に、紅き武人は大切なものを守る刃を授けました。
そして、翠の錬金術師は万物を創造する技術を授けました。
人々はそれを融合、そして再構築して新たな世界を形作り始めました。
三人はそれを大変喜び、未来永劫、生きとし生けるものを守護することを約束しました。

そのうち、一つになっていた蒼の叡智、紅き刃、翠の技術は再び分かたれ、改めて三人のもとで独自の発展を遂げることになりました。
そして、彼らはそれぞれの部族を正しい方向へ導こうと日夜励み続けました。



しかし、繁栄は長く続かなかったのです。


ある時、蒼の一族と紅の一族は対立を始めました。
初めは小競り合い、次は互いに住む場所を襲い、最後には殺し合いを。
賢者と武人はそれぞれ一族の者を戒めましたが、とうとう争いは同じ一族同士の間でも起こるようになりました。
そして、平和に暮らしていた翠の一族へも戦火は飛び火することになります。
彼らの技術を戦いに利用しようと考えた者たちは幾度となく翠の一族に詰め寄りましたが、とうとう翠の一族は誰にも協力することはありませんでした。
しかし、敵が彼らの技術を手に入れるのを恐れ、何もしていない翠の一族をみんなが滅ぼそうとしました。
仕方なく、翠の一族は散り散りにさまざまな世界へ逃げ、そこでひっそりと生活するようになりました。

さて、この出来事を一番嘆き、怒ったのは賢者と武人でした。
二人はいっそ全てを無へと返し、新たに世界を形作ろうとしましたが、慈愛に満ちた翠の錬金術師はそれを止めました。
二人も渋々ながらそれを承諾し、再び人々を見守ることにしました。
ですが、三人もいずれ年老いて死を迎えることになります。
なので、誰よりも人の可能性を信じ、優しく世界を見守れる錬金術師にある力を与えることにしました。

それは、世界を元へ戻す力。
叡智も、刃も、そして技術もこの世から消し去り、初めから世界をやりなおす力。
その力は錬金術師の血筋に代々継承され、その力を持つ者が、世界が救いようのない状態になった時、全てを原初に還すことを定めとしました。

その後、戦乱の中でも錬金術師の子孫は人に絶望することはなく、徐々に世界を覆っていた狂気は収まっていきました。
ですが、それでも戦いが続く限り翠の一族は永遠に業を背負い続けます。
他所を傷つけないという掟を課しながら、人の原罪を、そして世界を原初へ還すという苦しみを……



「おいおいおい……」

ロックオンの顔から汗がポタリと一滴落ちる。

「まさか、ユーノの力って…」

「はい。」

シルビアは淡々と語る。

「この世に存在する技術、そして魔導の力をすべて意のままに操り、世界をリセットする能力。それが、あの子の力の正体です。」

「バカな!!世界を滅ぼすのと同義じゃないか!!」

「それに、いくらなんでも全ての世界にそんなことをするなんて不可能なんじゃ…」

「不可能ではありません。始まりの地……ミッドチルダにある祭壇で力を使えば、現存する機械、魔導技術はおろか、リンカーコアの保持者をことごとく死に至らしめ、全ての技術の記録を抹消することも可能でしょう。」

「んなバカな……そんなことになったらオイラたちユニゾンデバイスも…」

ごくりと唾を飲み込むジル。
あまりのことに誰もが言葉を失くす中、シルビアだけは言葉を続ける。

「おそらく、これだけの力を持っていれば生身の人間であっても、ユーノだけでなく我々翠の民全てがロストロギアの指定は免れないでしょう。太古の昔から延々と、世界を原初へと還す力を受け継ぎ続けていたのですから。」

「じゃあ、まさかあなたも?」

シルビアは静かにうなずくと、目を閉じてアレルヤの胸元に手をかざす。
彼女の体にいくつものラインが刻まれたかと思うと、次の瞬間端末がプトレマイオスのブリッジに繋がった。

『なに、アレルヤ?何かあったの?』

フェルトの声に返事をすることもできずに唖然とする一同。
しかし、シルビアは苦しそうに手を床につくと、通信はあっさり切れてしまった。

「はぁ……はぁ……っ…しょ、初代の長の血を、わずかしか受け継いでいない私でもこのくらいはできます。そして、歴代の中でも色濃くその力を受け継いでいたスタンザの息子であるユーノの力は、比べ物にならないほど強大なはずです。」

「驚いたな……まさか、あいつ以外にそんな反則クサイもんが使えるやつがいるなんてな。」

「反則、ですか……でも、それほど便利なものでもないんですよ。私以外では使える人間は少ない上にどれも先程見せたもの以下の力しか持ち合わせていません。それに…」

シルビアは口ごもるが、意を決する。

「魔力だけではなく体力の消耗も激しいので、もし伝承にあるように世界を原初の姿へ戻すとなると、おそらく術者もただでは済まないはずです。」

その瞬間、四人の間でざわめきが起こる。
そこまでリスキーな能力をGN粒子に侵されているユーノが使ったらどうなるか想像に難くない。
そして、もしこのことを追い詰められている過激な翠玉人たちが知っていたら。

「このことを他に知っている人間は?」

刹那の切羽詰まった声と対照的にシルビアは落ち着いて答える。

「私以外ではスタンザと親しかった数人しか知りません。ただ、あなたの予想通り、その数人のうちの何人かは我々の掟に反して戦いのただ中にいます。」

「そう……私たちはそうせざるを得ないと思っている。それが、今この時を生き残る術だと信じていますから。」

「「!!」」

刹那とティエリアはデバイスを起動して音もなく後ろに立っていた人物へ跳びかかろうとする。
しかし、そこにすでに姿はなく、ギョッとした顔をしているロックオンとアレルヤの隣に悠然と立っていた。

「久しぶりね、マリアンヌ。」

「お久しぶりです、シルビア様。マリアンヌ・デュフレーヌ、ただ今戻りました。」

落ち着きはらったシルビアの態度に戸惑う刹那とティエリアだったが、侵入者に対する敵意は消さない。
だが、新たに現れたポニーテールの女性が刹那の剣を素手でつかむ。

「驚かせてしまったことには詫びよう。だが、マリアンヌも急ぎのようなのでな。」

「お前は…!」

記憶の片隅に残っていた女騎士。
彼女の後ろで拗ねている少年をMSから救おうと一人奮戦していた彼女だ。

「この剣にその声……やはり、あの時のガンダムのパイロットか。お前たちが来ているということはユーノも来ているんだな。」

剣から手が離れると刹那もバリアジャケットと武器をしまう。
ティエリアもそれにならうと、ようやく場に落ち着きが戻った。

「あの時は結局、自己紹介もできずじまいだったな。私の名はシグナム。夜天の書の主に使える騎士が一人だ。」

「ダブルオーガンダムのマイスター、刹那・F・セイエイ。こっちはジルベルトだ。」

「へぇ~……あたし以外にもまだエイシェントタイプのユニゾンデバイスがいたんだ。」

シグナムのすぐ横を飛んでいたアギトは物珍しそうにじろじろとジルを見つめるが、ブスッとしたジルの顔に肩をすくめてブリジットの頭に乗っかった。

「それで、今日はなんの用かしら?」

「少々面倒なことになりました。」

「面倒?」

アレルヤの質問に、マリアンヌはシルビアの方を向いたまま答える。

「管理局がここに来ます。」



集落のはずれ

「……どうにも、どこに行ってもゆっくりできないようにできてるみたいだ。」

気配を隠そうともしない小さな足音に岩に座ったままゆっくり振り返るユーノ。
悠久の時の中で一冊の魔導書を守り抜いてきた騎士は、静かに家族だった男の横に腰かけた。
武器こそ構えていないが、怒りと悲しみが入り混じったその心は千本の剣に匹敵するほどの威圧感を彼女の体からにじませていた。
それに動じないのは、それが慣れしたんだものであるからなのか、はたまた気に留める余裕が無いからなのか、ユーノ本人にもわからない。

「……もういいんじゃねぇか?」

ヴィータが不意に鋭い気配を消して子供を諭すように語りかける。

「こんなの、しんどいなんてもんじゃねぇだろ。もう、逃げたって誰も責めねぇよ。いや、あたしたちが責めさせやしねぇ。」

「無理だね。逃げるには、僕はいろいろな人からいろいろなものを奪いすぎた。」

「だとしても、もう十分すぎるほど背負いすぎた。償いなんてそれで充分だろ……これから先も背負い続けるんだから。」

「償いに十分なんてありえないよ。闇の書の守護騎士であった君ならわかるはずだ。」

「だったら、あたしが背負う。だから、お前はなのはやヴィヴィオとどこかで昔みたいに過ごせばいい。局やどこぞの阿呆どもが心配ならあたしが…」

「ヴィータ。」

無理に明るい声で話すヴィータを止めると、きっぱりと言い放つ。

「わかってるだろう?僕はもう、ロストロギアとなんら変わらない存在だ……命を無差別に奪う危険物。そんな奴が、日常を掴むなんておこがましいにもほどがある。」

「それはあたしに対しても言ってんのか?」

「人間になりつつある君にそんな皮肉を言っても意味なんてないだろう?」

「……!気付いてたのか。」

驚くヴィータにフワリと微笑みかける。

「シャマルさんほどじゃないけど、僕もそっち系には詳しいからね。なんとなくそうじゃないかって思ってたんだ。」

「チッ……せっかく後で驚かそうと思ってたのによ。」

「おめでとう、っていうべきなのかな?」

「そんじゃ、ありがとうって返しとくよ。」

ヴィータはひょいと岩から降りると、背中を向けたままユーノに言う。

「どうあっても退く気はないんだな。」

「ああ。」

「だったら、次に戦場で会うときは容赦しない。お前を、殺してでも止める。そして…」

「……そして?」

その問いに、ヴィータは自嘲で答える。

「いや、なんでもねぇ。言ったところで、その時にはお前はどうにもできないだろうしな。」

「なんだよそれ……まあ、いいさ。ヴィータにとどめを刺されるなら、僕も本望だ。」

その言葉を最後に、ユーノの姿は岩の上から消える。
一人のこされたヴィータは、唇を噛みながら涙をこらえていた。

「バカ野郎……こんなことで、人間に近づけたことを喜ばせんじゃねぇよ。」

ヴィータのその決意が、悲壮な覚悟となって実現することになるのは、この時はまだ誰も知らない。



集落 入口

マリアンヌに連れられ外へ出た四人は急いで入口へ向かう。

「それで、どのくらいの数で来る?」

「あくまで今回は保護下へ置く打診のための訪問だ。大した数は送ってこないだろう。まあ、そもそもあのカモフラージュを壊したりしなければたどり着くのも困難なはずだったんだがな。」

マリアンヌの小言に居心地の悪さを感じつつ走る。
すると、すでに来訪者たちは初めに刹那たちが味わった感覚に戸惑っているようだった。

「奴らは!」

「あなたたちは!」

到着と同時に武器を構えるマイスターたち。
それは向こうも同じで、金髪の女性もデバイスを向けた。
しかし、

「落ち着け、執務官。我々の任務はソレスタルビーイングの逮捕ではない。」

「しかし!!」

顔に大きな火傷の痕を持つ男がバルディッシュを握って金髪の魔導士、フェイトを止める。
続いて、遅ればせながらやってきたシルビアも刹那たちを止めに入る。

「刹那さんたちも刃をお納めください。」

「……了解した。」

素直に武器をしまった刹那にニコリと微笑むと、今度はフェイト達の前に立つ。

「ここでは民族、思想、地位に関係なくあらゆる争いを禁じています。この掟が守れぬのなら、どうかお引き取りを。」

「私たちは別にあなたたちに危害を加えようと…」

「お引き取りを。」

はっきりした意志が込められた言葉にフェイトも気圧され、バルディッシュをしまうと頭を下げる。
それを見て、ようやくシルビアにも笑みが戻る。

「ここに外での諍いを持ちこまないのであれば、誰もが等しく客人です。ようこそ、翠の民の里へ。」

「はぁ、どうも…」

話には聞いていたが、どうにも独特の空気の持ち主でやりにくい相手だなと思うフェイト。
しかし、なによりやりにくいのは彼女の顔だ。

(……やっぱり似てるよね。)

以前にここを訪れていた局員から写真を見て付き添いで来たミンともども腰を抜かしそうになった。
髪型や体形など、些細な違いを除けば限りなくユーノに似ているシルビア。
母親なのだから当然なのだが、それを知らないフェイトを驚かせるには十分だった。
しかし、いつまでも驚いてばかりもいられない。

「今日はあなた方を管理局で保護したい旨を伝えるために参りました。」

「あら、またですか?」

シルビアはあからさまに疲れた素振りを見せるが、フェイトは顔色一つ変えない。

「私たちはお互いに多くの犠牲を強いました。せめて、これ以上互いを傷つけることが無いよう歩み寄りたいのです。」

「ですから、私たちは別に今のままでもかまわないと思っているのですが……まあ、ここで話すのもなんですから、私の家に行きましょうか。」

その言葉にフェイトは一礼すると、今度は刹那たちの方を向く。

「あなた方も同席していただいてよろしいでしょうか?」

目的は言わなくてもわかる。
これ以上、自分たちに介入行動をさせないようにする、もしくは探りを入れるか牽制をしたいのだろうが、聞きたいことがあるのはこちらも同じだ。

「わかった。その代わり、答えられることには限りがあることを忠告しておく。」



集落のはずれ

「……フェイト達が来たか。まさか、ミン大尉も一緒とはね。」

シュバリエとミンのアヘッドの“感じ”は何度か対峙しているので憶えている。
ついでに言うなら、フェイトのリンカーコアだけでなく、今ならどれが誰のリンカーコアなのかはっきりと判別できる。
つくづく化け物じみてきたと天を仰ぎながら、後ろのリンカーコアの波動を感じ取る。

「話は終わったの、ティエリア?それとも、人と話をするのはまだ苦手?」

憂さ晴らしに皮肉も交えて声をかけるが、振り向いた瞬間に目を見開いた。

「君こそ、随分沈んでるみたいじゃないか。」

「お前は……!!」

咄嗟に首元に手を伸ばすが、空気を掴む感触にそこに愛機が無いことを思い出す。
ティエリアと瓜二つの顔をした青年からジリジリ距離をとっていくが、彼を押しのけて前に出た黄緑色の髪に足を止める。

「リボンズ・アルマーク!?」

「久しぶりだね、ユーノ。リジェネ達から報告を受けていてもたってもいられずにここに来たんだ。大変だったみたいだね。」

「お前には関係ない……!!」

優しい言葉をかけるリボンズに白々しさを感じながらも、心がぐらつく。
リボンズもそれを見透かしたのか、ゆっくりと手を伸ばす。

「自分がどういう存在なのかわかったはずだ。ソレスタルビーイングも管理局も、君にふさわしい居場所とは言えない。」

「悪いね。興味が無いから聞いてないんだ。だから、君の話も…」

「ウソだね。」

きっぱりとリボンズは言い切る。

「聞いてないはずがない。そうじゃないのなら、知るのが怖くて逃げだした……そんなところじゃないのかい?」

図星をつかれて悔しそうに歯軋りをするが、リボンズはそれでも慈愛に満ちた笑みで語りかける。

「怖がることはない……君は選ばれた存在なんだ。獅子が兎の群れに馴染めぬから悩むことがあるかい?」

不条理な理論だが、反論できない。
もし、リボンズの言うように自分が獅子ならば、兎は受け入れることなどできないだろう。
兎を狩るための牙を、爪を持ってしまった者が、狩られる側に理解を求めるなど不可能だ。

「教えてあげるよ、君の秘密を。そうすれば、悩む必要などないことが分かるだろうから。」



長の住まい

「それでは、やはり認めてはいただけないと?」

「はい。なにより私の不手際で皆さんにご迷惑をおかけしている以上、甘えるわけにはいきません。」

「むしろ、利用して危ない連中を押さえようって魂胆に思えるけどな。」

軽口を叩くロックオンをギロリと睨むフェイトだったが、当の本人は「おお、怖。」と口では言うが柱に寄りかかったまま飄々とした笑みを崩そうとしない。
そうでなくとも、互いに意識し合っているせいでギスギスした空気になっている。
もう、いつ取っ組み合いが始まってもおかしくないだろう。

「で?用が終わったんならさっさと帰ったらどうだい?それとも、お役所勤めってのはそんなに楽なもんなのか?」

ロックオンが火に油を注ぐような余計なひと言を小さく笑いながらつぶやく。
すると、珍しくフェイトもその喧嘩を買う。

「あなたのような嫌味しかとりえのなさそうな人間を雇う余裕が無いとだけ言っておきましょうか?」

「へぇ……」

柱から背中を離して今度は正面からフェイトを見下ろす。

「可愛い顔の割にキツイこと言ってくれるな。」

「あなたも黙っていれば女性から好意を抱かれるんじゃないですか?もっとも、暴力でしか物事を解決できないような人を好いてくれる人なんてそういないでしょうけど。」

毒づきながらも必死に怒りを押さえるフェイトだったが、横から話に加わってきたハレルヤの言葉で沸点は一気に上限を突き破った。

「ケッ!そんなお固い言い方しかできないからエリオもあんたに嫌気がさしたんじゃねぇか?……ああ?ッるせぇなアレルヤ。少し黙ってろ。」

クラウディアのクルーの中ではすでにNGワードになりつつあるエリオの話題。
それも、まるで望んで彼女と敵対しているようなその口ぶりに怒りが爆発した。

「ふざけないで!!エリオはあなたたちが無理矢理巻き込んだんじゃない!!」

「嫌だねぇ、女のヒスは。どっかの自称・超兵そっくりだ。」

「おいおい、聞かれたらただじゃ済まないぞ?同意するけど。」

「よくもそんな……!!ユーノだってあなたたちの勝手に付き合わされてるんでしょう!?」

「それは違う!!」

今度はティエリアが吼える。

「ユーノを戦いの道へ追い込んだのはお前たちだ!!それをいまさら友達だから止める!?人をなめるのも大概にしろ!!」

「ユーノは人を傷つけるような人じゃない!!本当なら、今頃なのはやヴィヴィオと…」

「……いいところだ。」

悲しみや怒り、狂気に包まれつつあった部屋の中にミンの声がよくとおる。
その落ち着きはらった声は言い争っていた四人の動きも止め、否応なく心を引き付けて離さない。

「しかし、あなた方は優れた技術をお持ちだと聞いたが、なぜこのような暮らしを?」

いがみ合っていたフェイト達のことなど忘れてしまったかのように穏やかな口調でシルビアに問う。
刹那とマリアンヌも椅子に腰かけ、その言葉に耳を傾けていた。
そして、シルビアもその狂気に欠片ほども影響されていないようにフワリと笑った。

「あなたは、ここはいいところだと言いましたね?それが答えです。」

「というと?」

「確かに、機械や魔法は便利でしょう。しかし、それは同時に諸刃の剣でもあります。便利を手にした結果、失った物もあるはずです。別に技術を否定するわけではありませんよ?ただ、あなた方は便利を選んだ。私たちは、別の物を選んだ……そういうことです。」

今度は刹那が問う。

「では、あなたが便利を捨てて得た物はなんだ?」

「さあ……上手く言葉にはできません。ただ、ここは争いという狂気とは無縁の場所です。常に戦場にいるあなたたちが本能的に求めている物が心を癒したのではないでしょうか。」

「……だそうだ、執務官。考えさせられる話じゃないか。」

フェイト達はハッと自分の手に視線を向ける。
ガチガチに固めた拳。
感情に任せて理解しようともせずに、相手を打ちのめすことだけを考えていた。
そんな自分が恥ずかしく思え、赤面すると同時に肩から力が抜けていた。

「やっとまともな話し合いができそうだ。」

ホッと一息つくミンの隣にフェイトが座り、ハレルヤ、ロックオン、ティエリアも定位置に戻る。

「……エリオは…」

「?」

不思議そうにフェイトが刹那の方を向く。
まるで、血の繋がった兄弟を気遣うようなその目に、吸い込まれそうだった。

「エリオは…今、戻ったらどうなる?」

なんの他意もない刹那の純粋な質問に、フェイトも素直に答える。

「……局員が犯罪行為の幇助。事情や程度の問題があれ、重罰が課せられるのは間違いない。」

「……そうか。」



集落の外れ

「ったく、僕は関係ないだろ?」

唇を尖らせるブリジットだが、フェイトの姿を確認して長の住まいを離れたシグナムはまだすっぽりと頭を覆う布をとろうとしない。

「まさかテスタロッサが来るとは……いや、主はやてでなかったことがせめてもの救いか。」

「あたしにはどっちも同じだっつーの。今度こそ鉄格子の向こう行きの片道切符ゲットだぜ!……なんてことになるよ。」

気持ちはわからないではないが、いつかバレるのだからここまで気にすることもないのにと思わずにはいられない。
しかし、あの忌々しい一族から少しでも離れられたのは嬉しかった。

(クソッタレめ。)

自分が家族を理不尽に殺されている間、奴らはここでのうのうと暮らしていたのだ。
そう考えるだけではらわたが煮えくりかえる。
そんな奴らと同じ血が流れていると事実が、さらに怒りを増進させる。
そういえば、シグナムの友人だというあの司書長は腹が立たないのだろうか。
彼も今、ここに来ているはずなのだ。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど?」

アギトもシグナムも驚きを隠せなかった。
なにせ、一緒にいてしばらく経つが、こんな風に何かを聞かれることなどなかったのだから。

「あんたの知り合いにも僕と同じ翠の民の血をひく奴がいたんだろ?そいつは頭にこないのかな?」

「頭にくる、か……フッ…クククク!ああ、スマンスマン。ついおかしくてな。」

ブスッとしたブリジットに笑いをこらえながら答える。

「あいつも人間だからな。怒ることもあるだろうさ。」

「なんだ、意外にちっちゃい奴だな。」

「だが、あいつはその上で他人に優しさを与えることができる。」

「優しさ?」

「どんなに許すことができない相手でも、苦しんでいるのなら手を差し伸べる。それが、ユーノ・スクライアという男だ。……まあ、平たく言えばユーノはお前に足りない物をすべて持っているということだ。」

フンと鼻を鳴らすブリジットだが、反論はしない。
自分でもそう思うし、あの男も同じようなことを言っていた。

『お前はつまらねぇ……細かいことにこだわってるようじゃ、一生お前の望むお前には届かないぜ?あげゃげゃげゃ!』

(……クソッ!)

むしゃくしゃして道端の石を蹴飛ばそうとして、ブリジットは人影に気がついて物陰に隠れる。
シグナムとアギトもそれに気付き、ほぼ同時にブリジットとは反対の草むらに身をひそめた。

(シグナム、あれって…)

(ああ、ユーノだ。だが、相手をしているあいつらは誰だ?)

遠くから確認したユーノの背中。
しかし、シグナムの目には彼と相対している二人の姿を捉えて離さない。
それは、優秀な戦士ゆえの勘とでもいうのだろうか。
ろくに手も合わせていないのに、その二人が只者ではないことがはっきりとわかった。

(久方ぶりだな……剣を交えずに汗を流すのは。)

シグナムは強者との戦いを好む。
だが、この二人を見てもその高揚感がわいてこない。
むしろ、すぐにでも斬り捨ててしまいたい衝動すら覚える。

「……というわけさ。これでわかったろう?君を受け入れてくれる存在なんてどこにもいない。」

(なんだ……?何を話している?)

必死に聞き耳を立てるが、肝心なところが聞こえてこない。
ユーノの表情をうかがうに楽しい内容には思えないが、それだけでなくいつもと雰囲気が違う。
なんというか、

(迷い……?)

ブリジットのその考えを否定するようにユーノが声を絞り出す。

「そんなことない!トレミーのみんなは…」

「だったら君のお友達はどうだった?敵になるやいなやすぐさま刃を向ける。ソレスタルビーイングだって、そのうち君を持て余す。」

「違う…そんなことない!だって、刹那は…」

本当にそうか?

「ロ、ロックオンは…」

自分は仲間と呼ぶ彼らの何を知っている?

「ア、アレルヤだって…」

本当は、気味が悪いと思っているんじゃないのか?

「ティエリアも…」

いない方が、良いんじゃいないのか?

「違う……!!違う、違う違う、違うっ!!お前の言っていることはウソだ!!ソレスタルビーイングは僕がやっと見つけた居場所なんだ!!僕を裏切るはずなんてない!!」

「だったらなぜ君を助けに来ない?パートナーである967ならすぐにでも駆けつけられるはずだ。」

「あ……」

助けになんてこない。
あんなことを言って助けてくれるはずがない。
そして気付く。

(僕は……自分で、自分の居場所を壊してた……)

六課しかり。
ソレスタルビーイングしかり。
思い通りにならなければ全てを壊す。
そんなやつに、居場所なんて最初からなかったのだ。

「う…ううぅぅぅ………!!」

崩れ落ちて嗚咽を漏らすユーノに、リボンズが手を伸ばす。

「辛かったね……けど、もう大丈夫。僕が、君を受け入れる。何があっても裏切らないことを約束するよ。」

(ふざけるな!!)

黙って聞いていれば、ユーノが孤独でしかいられないような言い分。
なにより、あんな得体のしれない奴らにユーノを任せられない。
こらえきれずに飛び出そうとするシグナムだったが、話に聞き入るあまり後ろへの注意を怠っていた。

「シグナム!!後ろ!!」

アギトの声に振り向こうとするが遅かった。
頭を鈍器で激しく叩かれ、グラリとシグナムの長身が揺れる。
辛うじて意識を繋ぎとめることができたが、赤い血のカーテンがかかった視界はかすみ始めている。
アギトもバインドで空中に繋ぎとめられ、ブリジットに至っては首を腕で絞められている。

「動かないでください。」

ユーノ達もこの騒ぎで乱入者に気がつくが、翠の瞳をした男たちはブリジットを盾にユーノの動きを止める。
リボンズとリジェネはかまわず武器を手に取ろうとするが、ユーノは手でそれを制する。

「賢明な判断です、長。火急とはいえ、御無礼をお許しください。」

「用件はなんだ。言っとくけど僕は見ての通り機嫌が悪いし、術式の細かいコントロールをできるほど落ち着いてもいない。ついでに、あんたたちの長になった覚えもない。」

「私どもにお力をお貸しください。今こそ、我らが民の使命を果たす時です。」

「使命……だと…?」

重くなっていく頭をなんとか起こすが、前を向くことはできない。
それでも、シグナムはありったけの侮蔑の念を込めて嘲笑する。

「滑稽だな……!体に同じ血が流れる幼子を盾に使命とほざくか……!!」

「黙れ。」

顎を蹴られて今度は大の字に倒れるシグナム。
すでに彼女の下には赤い水たまりができつつあり、危険な状態である。
ブリジットもなんとか抜けだそうともがくが、締め付ける力がさらに強くなり、さらに苦しくなっていくだけだ。

「待って!!」

まるで女性のような声をあげてユーノは俯く。

「わかった……何でもするから、これ以上その人たちに乱暴はしないで…」

「御理解が早くて助かります。」

髭面が笑うが、その腕の中でブリジットが毒づく。

「グッ……!!何が、御理解だ…このクソ野郎……!!地獄に堕ちろ…!!」

「心配せずともそのうち皆そうなる。さあ、いきましょう。」

悲しげに目を伏せ、ユーノは歩き出そうとするがリボンズがその手を掴む。

「いく必要などない。君が犠牲になる必要など…」

「……今、わかったよ。」

その手を振りほどき、自分の意志をしっかり伝えるために後ろをふりかえる。

「君たちと僕の目指す物は決して相容れない。きっと、ついていったところで彼らと同じ手段で僕を利用するだけで終わる。」

「……!」

本心を見透かされたからか。
それとも、その程度の存在と思われプライドに傷がついたからか。
リボンズは今まで誰にも見せたことが無いほど怒りをあらわにする。
しかし、ユーノは笑顔でそれを受け流した。

「本当に僕が必要なら、助けに来るなり何なりすればいい。場所もわかっているはずだしね。」

再び男たちの方へ歩き出すユーノ。
だが、今度は屈んで倒れているシグナムの耳元に口を近づける。

「長、お早く。」

「別れの挨拶くらいさせてください。」

そういうと、シグナムに小さく悲しい決意をささやく。
それを聞いた瞬間、シグナムは目を見開いてなんとかユーノを止めようと力を振り絞る。
だが、血を流し過ぎた体は彼女の命令を受け付けず、ピクリともしなかった。

「……くな…!頼……む…!!」

「……さよなら。」

ブリジットが地面に放り出されると同時に、男たちとユーノの体が光に包まれたかと思うと、その姿は消え去っていた。









ユーノ・スクライアが翠玉人の過激派、『翠のアルケミー』に拉致されたとの知らせは、ありとあらゆる人々に伝えられた。
それぞれの思惑を持った、多くの人々に。







あとがき

久々にかなり長くなりました(-_-;)
更新も遅くなりました。
もう何がしたいのか………は、はっきりしているのでご安心を。
いろいろ伏線張っときましたが、ぶっちゃけ大したことありません。(エ?)
ゲボ子が泣いて暴走したり、ニート侍が一時的に元同僚に拾われたりするくらいです(激しくネタバレw)
次回は遂にあれを出す予定です。
まあ、無駄に長くなって前後半にわかれなければですが……
では、次回をお楽しみに



[18122] 48.過去への旅路~涙~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/09/21 18:47
プトレマイオスⅡ コンテナ

967に実体があったなら、間違いなく拳が砕けるほどに壁を叩いていただろう。
あんな不安定な状態で、しかもデバイスもない状態で一人にしていたらこうなるかもしれないことはわかっていたはずだ。
なのに、頭を冷やさせるためとはいえ放っておいてしまった。
全て、自分の甘さが原因だ。

「クソ……クソッ…!クソッ!!クソックソックソッ!!!!」

イアンですら見たこともない感情的な967。
その心を、たとえ同じ気持ちだったとしても、半分も理解してやれない自分がふがいなく、しかしそれでも努めてクレバーに967をコックピットから外してそこらへんに転がした。

「イアン!?なんのマネだ!!」

「冷静になれ。らしくないぞ。」

「わかって…」

「わかっていないから言っとるんだ。ガキじゃないんだぞ。」

ユーノに言った言葉を逆に自分に言われ、返す言葉もない。

わかっているのだ。
わめいたところでどうにもならない。
冷静にならなければいけない。
なのに、心の中の波はおさまってくれない。
その理由は、至極単純。

「あいつは……俺の親友なんだ…パートナーなんて軽い言葉じゃ説明しきれないほど、重い存在なんだ……!!」

ヴィヴィオが愛くるしいと言ってくれたこの体が恨めしい。
なぜ、ちゃんとした肉体を持たなかったのか。
後悔ばかりが胸に募るが、そんな彼を優しく拾い上げる者がいた。

「リインフォース……」

彼女の主が込めた願いどおり、優しい風のようにフッと現れたリインフォースは967を静かに抱きよせるとイアンの方を向く。

「少し、彼を借ります。」

「……ああ。すまんな。」

ニコリと笑うリインフォースに抱かれ、微塵も抵抗しようとしない967は、そのまま彼女とともにイアンの前を去っていった。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 48.過去への旅路~涙~


クラウディア ブリッジ

『目標の殲滅を命ずる。』

とたんに起きるどよめき。
まさか、そこまでの事態だとは思っていなかったクルー達は一様に動揺を隠せないが、クロノだけは抗議をやめない。

「なぜです!?掃討作戦など、戦術としては最低の方法です!!」

『その最低の方法をとらざるを得なくなったのは君の責任ではないのか、ハラオウン提督。テロリストどもからの全世界のリセットなどという途方もない要求も、先日のあれを見せられれば現実のものと想定するしかないと思うが?』

ファルベルの言い分に言葉を失くすクロノ。
だが、即座に建前だけは思いつく。

「ですが、ユーノ・スクライアの身柄さえ確保できれば敵は無力です!!殲滅の必要など…」

『捕えられた彼が力を使わない確証があるのかね?』

「あいつの人柄を、自分は誰よりも知っています!!」

『話にならんな。』

フンと鼻息一つでクロノを一蹴すると、その猛禽類のような目をぎらつかせる。

『もう一度だけ言う。敵を殲滅せよ。以上だ。』

ファルベルの顔が消えると、クロノはうなだれたまま震える声で命令する。

「これより……我々はテロリストが潜伏していると思われるジャオーム島へ向かう。」

「提督!!」

「反論は聞かん!!!!」

オペレーターを一喝すると、悔しさをにじませながらクロノは懇願する。

「これ以上……誰かがこんな理不尽の犠牲になるのを見たくはないんだ…」

ポタリポタリと彼の顔から落ちていく雫を目撃した者から、グッと思いをこらえ、いつもと変わらぬ様子でコンソールと向き合う。
クロノは目元をごしごしと乱暴にこすり、フェイトに通信を繋ぐともう一つの問題点が解決していないかと淡い期待を抱くが、予想通りフェイトは黙って首を横に振った。

(ヴィータ……早まるなよ…!!)



クラナガン

「悪いな、こんなこと頼んで。」

「水臭いわよ。私たちの仲でしょ。」

頭を下げた後、ヴィータはマリエルからもらったホットミルクに息を吹きかける。
しかし、そんな彼女とは対照的にマリエルは濃くし過ぎたコーヒーに渋い顔をする。

「ねぇ、よかったの?キャバリアーシリーズのプロトタイプの無断持ち出しって、懲戒処分どころの騒ぎじゃないでしょ?」

「そういうそっちだって無事じゃ済まないだろ。」

「私は自分でどうにかするわ。友達の友達が連邦に顔が利く人だそうだから、もしものときは向こうにドロンさせてもらう。」

「腹黒いなぁ…」

「なんですって?」

と、そんなやりとりを一通りしたところでクスクスと二人で静かに笑う。

「勝算はあるの?」

「ないけど作る。いつぞや、バカな奴らがバカみたいな方法でどこぞの闇をブッ飛ばしたみたいにな。」

「……ああいう無茶は正直もうごめんだわ。命がいくつあっても足らないもの。」

「心配いらねぇよ。」

熱過ぎたせいで飲みかけになってしまったミルクを置くと、パイロットスーツを展開してヘルメットをかぶる。

「無茶するバカは少なくとも二人いなくなるんだ。巻き込まれる心配も少しは減るだろ。」

「え……?」

マリエルはヴィータの言葉の意味を尋ねようとするが、それを待たずにヴィータはコックピットまで飛んだ。

「あんがとさん、マリー。ミルク、美味かったよ。」

スイッチを押して重厚な扉を開けると、ヴィータはエスクワイアをゆっくりと外へ出す。
そして、マリエルが持ってきた長距離飛行用のプラズマジェットをスタートさせた。

「待ってろ……今、いくからな。」

そう呟くと、今度は凄まじいGが体にかかり、そのまま星空へ機体が舞い上がる。
それを見送るマリエルの心に、一抹の不安がよぎった。
まるで、ヴィータに二度と会えないような、そんなありえない、あってほしくはない不安が。



クラウディア 医務室

「く……う…」

ズキリと頭に鋭い痛みが奔るが、その痛みの原因を一瞬では思い出せなかった。
だが、眠りにつく直前に聞いた言葉で一気に意識が覚醒する。

『なのはのこと、お願いします。』

「っ!!」

バッと毛布をめくって飛びあがろうとするが、癒えていない頭の傷がシグナムの動きを止める。
包帯が巻かれた額を押さえて再び呻くシグナムだが、そのすぐ横で彼女が起きるまで待っていた人物がウサギの形に切ったリンゴを差し出してぼやいた。

「遅いんだよ、起きるのが。」

シグナムに皿を持たせると、ブリジットは不満を言いながらも今度はオレンジをするすると切り分けていく。

「ったく…ここの連中の扱いはどうにかならない?恨みがましく見られるのもごめんだけど、同情されるのもまっぴらごめんなんでね。特にあの金髪女。ああいう態度、無性に頭来るんだよね。」

「ここ……は?」

「クラウディアだよ。」

今度はアギトが洋梨を担ぎながら現れる。

「あの後、倒れてたシグナムをクラウディアで保護してもらったんだ。」

「ということは……」

傷とは別に頭が痛む。
あれほど顔を合わせたくないと思っていたフェイトに顔を見られたのだ。
しかも今いるのはクラウディア。
近い将来、管理局に弓引くことになる人間がいていい場所ではない。

「マリアンヌは?」

「逃げたよ。ついでに、長も一緒に変態のとこに連れてくってさ。」

「そうか。では、我々も行くぞ。」

「へ!?」

ポカンとするアギトから梨をとって一口かじると荷物をまとめていく。

「ちょ、ちょっと!?勝手に行っちゃっていいの?」

「なら残れば。変態が宣戦布告した時に真っ先にとっつかまってもいいなら。自分で言ってたじゃん。今度捕まったら鉄格子の向こうへまっしぐらだって。」

「う…」

こうしてクラウディアに拘束されずにいる時点で奇跡なのだ。
アギトにはアギトの目的があるし、ブリジットもシグナムもこんなところで時間を無駄にしている暇などない。
なにより、

「なにが頼むだ……!好いている女くらい、自分で守るのが男だ!」

幸いダメージは抜けている。
一人でなにができるかわからないが、十分すぎるほど気力も充実している。
これで行動しないのは、騎士の名折れだ。

「……行くんですね。」

扉を出たところにフェイトがいた。
まるで、こうなることが分かっていたように、寂しそうな顔でシグナムを見つめてくる。

「悪いが、邪魔立てするなら…」

「そんなことはどうでもいいんです。ただ、無事でいてください。」

思いもよらない言葉に、呆然と立ち尽くすシグナムだったが、ポタポタと瞳から雫が落ちていく。

フェイトに言えないことをしている。
そして、おそらく彼女もそれを察している。
それでも、自分を気遣ってくれた。
そんな戦友の言葉に、シグナムの心はいっそう奮い立った。

「感謝する。」

一礼して去っていくシグナム。
その背中に、ブリジットは確かに彼女の掲げる騎士としての誇りを見た。



ギアナ級

「そうか……やはり、そちらも同じだったか。」

セルゲイの溜め息に、マネキンも疲れた顔をする。

『ユーノ・スクライアの身柄の確保……しかも、死亡させるのは認めない。管理局とは正反対です。』

「連邦は管理局と本格的にことを構えるつもりなのだろうか……?」

『わかりません。表向きは合同作戦ということになっていますが、水面下での動きがまったくつかめないのが不気味です。』

考えれば考えるほど、今回の作戦はおかしなところだらけだ。
協力関係にある管理局とは異なる作戦目的。
さらに、それが互いに極秘であるならともかく、両陣営がそれを知っていながら今もなおもめごとが起きていないという大きな矛盾。
まるで、互いに合意の上で次の戦いに挑むかのようだ。
しかも、この過程において重要な役割を果たすのが、

(ユーノ・スクライア……この歪な協力体制は彼を柱として初めて成立するものだ。)

マネキンは直接の面識はないが、四年前に彼の搭乗機である盾持ちガンダムと遭遇しているし、タクラマカンのミッションでも煮え湯を飲まされている。
あの時は、ただ少し特殊なパイロット程度にしか考えていなかったし、ミッドチルダに来てからも魔導士であるという以外に着目する点など皆無だった。
そう、あの時までは。

『……セルゲイ大佐。一つ…お聞きしてよろしいでしょうか?』

「?」

『軍人としてではなく、あなた個人から見てユーノ・スクライアはどういった人物ですか?』

「…なぜ、そんなことを?」

『個人的な興味、と言っておきましょう。』

数秒、セルゲイは指で顎をなでる仕草をして答える。

「およそ、戦いが似つかわしくない人間……しかし、自らの譲れない部分とぶつかるものがあった時、世界ですら迷わず敵に回す。純粋培養で育てられたような、危うい男といったところか。」

『そうですか。』

素気なく返事をするが、マネキンはどこか空恐ろしいものを感じていた。
信念のために世界すら敵に回す、純粋すぎる男。
それはつまり、ともすれば何のためらいもなく世界を滅ぼせると言い換えてもよいのではないか。
だからこそソレスタルビーイングにいるのだろうが、いままでそんな人間を相手にしていたのかと考えただけで背筋に冷たいものが奔る。
だが、ガンダムという強大な力を持ちながらそれを実行に移していないというのが気になる。
さらに、盾持ちとの戦闘での死傷者は五体のガンダムの内で最低数。
ここから、考えられる彼の人柄とは、

(時に何者よりも残酷になれるが、誰よりもそのことに苦悩しているのではないか…?)

だとすれば、切り札になりえるカードをマネキンはつい最近入手している。
“彼女たち”は何かについての意見陳述が原因で戻されたそうだが、罰則を回避でき、さらに友人を救う立場と聞けば食いついてこないはずがない。

『セルゲイ大佐。一つ、頼まれてもらえますか?』

「ああ、かまわんが。」

『カレドヴルフである機体を受領してもらいたいのです。パイロットもいるはずなので、目標地点まで輸送してください。』

ユーノとの関係だけでなく、あの三機は戦力としても期待できる。
場合によっては、現地で指揮に当たれる人間もいる。
問題は、消耗が酷いあの三機の整備が間に合うかどうかだ。

(世界の命運がかかった一戦か……まさか、こんなことに巻き込まれることになるとはな。)

思えば、戦いを早期に終結させることで犠牲を最小に食い止めたいと思って戦術を学んだのに、まさか人類の命運を握る戦いに参加するなど想像もしていなかった。

そんなとき、マネキンの頭をよぎったのはかつて理想を語り合った彼女のこと。
対ソレスタルビーイング戦を数多く経験し、その基本に忠実でありながら奇抜、そして大胆かつ繊細な戦術。
まさかという想いが、回数を重ねるにつれ確信に変わった。

(クジョウ……この戦い、お前はどう出る?)

学友であり、数奇な因縁を持つことになった戦術予報士、クジョウ・リーサ。
こんな時でも、マネキンは彼女のことが気になって仕方なかった。



プトレマイオス ブリーフィングルーム

「みんなわかってると思うけど、この際はっきり言わせてもらうわ。」

集まった面々にというより、自分に言い聞かせるようにスメラギは重い口を開く。

「状況は最悪よ。全員、次のミッションはそれなりの覚悟を持って挑んでもらうことになるわ。」

「逃げるって選択はないわけね。」

「相手は次元の海に存在する全ての世界を滅ぼそうとしているのよ。どこに逃げたって変わらないわ。」

ロックオンはいつもの調子で肩をすくめるが、じんわりと生温かい湿気が手の中にたまっている。
冗談で落ち着こうとしてはみたが、効果のほどはあまりなかったようだ。

「逃げられないなら打って出る。当然と言えば当然だね。」

「けど、間違いなく“あれ”が待ってますよ?」

誰もが避けていた“あれ”。
アニューが言葉にした瞬間、不気味なほど部屋の中が静まり返る。

「……スメラギ。ユーノの救出は?」

刹那がようやく沈黙を破るが、スメラギは静かに俯く。

「もちろん考えてるわ。でも、みんなの命を危険にさらすことになるし、成功の確率は限りなく低い。それに…」

声が小さくなるが、部屋を包む静けさが全員に伝えたくなかったことを伝えてしまう。

「もしものときは……ユーノを撃たなくちゃいけないかもしれない。」

わかっていたことだ。
ユーノの力は危険で、そういう決断も必要になるのだと。
だけど、納得できるはずがない。

「なんとか……なんとかならないのか!?」

「ティエリア!!」

「落ち着いてください!!」

スメラギに掴みかかろうとするティエリアをエリオとアレルヤが二人がかりで止めに入るが、ティエリアの歩みは止まらない。

「ユーノは望んで力を得たわけじゃない!!なのに、見捨てるなんて!!」

「私だって助けたいわよ!!」

スメラギも涙を溜めてティエリアを怒鳴る。

「もう、誰も守れないなんて嫌よ!!でも、みんなまで守れないなんてことになったら、私…!!」

「……かまいません。」

フェルトの言葉に、全員目を見開く。

「私、ユーノを助けたいんです。そのために命を落とすことになっても、恨んだりしません。」

「俺もだ。」

刹那が後に続く。

「何があっても、あんたを恨まない。仮に助けられなくてもいい。だが、後悔だけはしたくない。」

「……俺も二人の意見に乗らせてもらうわ。」

「それじゃ、僕も。」

「ロックオン……アレルヤ……」

「ミレイナも、スクライアさんとまだまだ一緒にいたいです!」

「だな。ここでエリオの訓練放り出されたら、俺と刹那だけでどうにかしなくちゃいけなくなるからな。」

「ようやくオーライザーの完成が見えたんだ。師匠として、世紀の瞬間を見せてやらないわけにはいかんだろ。」

「患者の面倒は、最後まで看てあげないといけませんよね。」

「僕は全てを伝えてもらっていない……ユーノさんのためだけじゃない。僕自身のためにも、退くわけにはいきません!」

「みんな……!」

こらえきれずに涙がこぼれる。
そんな彼女に、刹那が手を差し出す。

「スメラギ・李・ノリエガ。俺たちに、ユーノ救出のためのミッションプランを用意してくれ。」

「……了解!!最高のプランをたててあげるわ!」

涙をぬぐったその瞳に、最早迷いは一片もない。
いつの間にか忘れていたが、仲間たちのおかげで思い出せた。
そう、

「ソレスタルビーイングに、撤退は存在しないわ!」

高らかに宣言した瞬間、プトレマイオスが決意の叫びに大きく揺れた。



ウェンディの部屋

ボーッとした頭で何度目かわからない目覚めを体感する。
泣き疲れては寝て、また起きては泣疲れて眠る。
そんな悪循環を繰り返したウェンディの顔からは、いつもの快活な印象は少しも感じられない。

(……ひどい顔。)

暗がりの中で鏡に映った自分を見て、もう一度枕に顔をうずめる。
ユーノが大変なことになっているとは聞いたが、もうそんなこともどうでもいい。
いっそこのまま、息絶えた方が楽だ。

そんなことを考えていると、ロックをかけて開かないようにしていたはずの扉が音をたてて開いた。

「やあやあ、久しぶりだねウェンディ。随分と荒んでるようだね。」

そうなる原因を作ったのはあんただろうと言いたいが、それさえも億劫でウェンディはゴロリと仰向けになって生みの親の方を見る。

「……なんのよう?」

「別に大したことじゃない。青春の悩みで引きこもってる娘に説教をしに来ただけさ。」

ケラケラと笑いながらベッドに腰掛けるジェイル。
面倒くさそうに寝返りをうって顔をそらすが、ジェイルはそのまま話し始めた。

「これからユーノを助けに行くそうだ。」

「……あっそ。」

「まったく無謀だよ。それに、生物としてはあるまじき行為だ。」

ジェイルは憎たらしい笑みを浮かべたまま端末を弄って何かの調整を始める。
その間も、話は続く。

「自分から危険に飛び込んでいく、それも他人のためにね。常識的に考えてもバカバカしい行いだし、自己防衛本能という観点から見ても生物として不合理な行動だ。だが……」

ジェイルは手を止めると、珍しく怒ったような表情で不貞寝するウェンディを見下ろす。

「それが人という生き物なんだ。どれほど論理的でなかろうと、自らの命を顧みずに何かを、誰かを守ろうとする。だからこそ、人間の命は他の生物よりも美しく輝き、時に不可能をも可能に変える無限の力を発揮する。」

相変わらず無反応なウェンディに溜め息をつくと、再び端末に視線を落とす。

「私は確かに君を戦闘機人として生み出した。だが、同時に人として育ててきたつもりだ。もっとも、どうやらその時間は無駄だったようだがね。」

ベッドから立ち上がると、ジェイルは開きっぱなしの扉をくぐり、もとの笑顔に戻して振り向く。

「私もどうやら彼らに毒されたらしい。完成したばかりのものに、わずかな望みをかけようとしているのだからね。まあ、今の君には関係もなければ意味もない話だったね。それじゃあ。」

扉を閉め、ご丁寧にロックまでしてジェイルは去っていく。
しかし、ジェイルの残した言葉はウェンディの中に確かに残っていた。

「自分を顧みずに誰かを助けようとするのが人間、か………」

思い起こせば、スバルがそうだった。
自分と同じ、体の半分以上が機械仕掛けの存在。
だけど、誰よりも輝いて見えたあの姿。
泥臭く、失敗もすれば何度も倒れもした。
だが、それでもスバルは誰かのために走り続けた。

自分も、ああなれるのだろうか。
誰かのために、命をかけることができる人間に。

「……ねぇ、教えてよ、スバル…ティエリア……!」

問いかけても誰もいないのだから答えはない。
いや、誰かがいたとしても答えられないだろう。
なぜなら、この問いの答えはほかならぬウェンディにしか見つけられないのだから。

「………あたし、まだ頑張れるのかな?」

踏み出すのが怖い。
だけど、踏み出さなければ何も変わらない。

「……へこむのは、後でもできるっスよね。」

少女は再び立ち上がる。
人として、守るべき者のために命を賭して。



ユーノの部屋

「……寝たか?」

「ああ。ぐっすり寝ているよ。」

目の周りを真っ赤にして眠るヴィヴィオをリインフォースが優しくなでると、宙に自らの姿を投影している967から安堵の息が漏れる。

「よっぽどユーノのことが心配だったんだろうな。」

「それはお前もだろう。」

図星をつかれ、そわそわした態度を意識的に引っ込める967。
ヴィヴィオが寝付くのが遅かったのも、普段とは違う彼と関係あったのかもしれない。

「……お前がうらやましいよ。」

「なぜ?」

「俺と違ってどこにでもいけるし、誰の力も借りずに守りたいものを守ることができる。」

手を組んで俯く967は、リインフォースが喋るより早くさらに心の内を告白していく。

「……なんで、もっと気遣ってやれなかったんだ。誰だって、あんなことになれば冷静でなんていられないに決まっているのに!」

後悔が悪い想像ばかりかきたてる。
もし、もうこれで会えなくなったらと考えただけで我が身が引き裂かれるようだ。
だが、

「まだ、終わっていない。」

967が顔をあげると、リインフォースが真っ直ぐに見つめて返していた。

「……少しだけ、昔の話をしようか。ある魔導書が、一人の少女のもとへと流れついた。少女は歪められた魔導書の力を欲せず、しかしその魔導書とそれを守護する騎士たちを家族とすることを望んだ。」

「それで?その少女は確かその魔導書の持つ力のせいで死の危機に瀕し、騎士たちはそれを回避するために主が望まぬと知りながら外道に堕ちることを選んだ……俺の聞いた話ではそうなっていたはずだが?」

「まあ、そんなところだ。」

クスクスと笑うと、再び話を始める。

「しかし、事態は一応の終息を見ることになる。二人の魔導士とその仲間たちのおかげで少女は助かり、騎士たちもまた平穏を取り戻すことができた。だが、魔導書だけは知っていた。彼女だけは、消えなければならないことを……」

ふと視線を落とすと、彼女の服の裾をギュッと握るヴィヴィオの姿がそこにある。
幼い日の主と、こんな時間を過ごせればどれほど幸せだったろうか。
小さく寝息を立てるヴィヴィオにかつてのはやてを重ねながら、その手を優しくほどき改めて967に語りかける。

「主はやてのもとにたどりついた時点で私の運命はすでに決していた。だが、お前とユーノはまだ間に合う。」

「リインフォース……」

「それに、私もまだ主はやてとの未来を諦めてはいないのだよ。欠片ではあるが、こうして再び姿を得ることができた。あの時、こぼれ落ちてしまった時を取り戻せると信じている。だから…」

つんと967をつついて転がすと、悪戯っぽく笑う。

「同じ立場の者を見ると、ついつい助けたくなってしまうんだ。」

「……ありがとう。」

「礼はいい。それより、そのうちお前を主はやてに友人として紹介させてくれ。無論、ユーノと一緒にな。」

「ククク……その時は、俺たちは鉄格子の向こうにいそうだがな。」

「ハハッ!違いない!」

ひとしきり笑った後、二人はそれぞれの場所へと向かう。
わずかな可能性を切り開くために。



展望室

本当に、遠い存在になってしまった気がする。
裏切られて、もうどうでもよかったはずなのに、じっとしていられずに沙慈は起きてしまっていた。

「はぁ……何やってんだろ、僕。」

関係ないはずだ。
戦争なんて、やりたい奴がやればいい。
ましてや、世界がどうこうなど一介の技師が首をつっこめるレベルではないはずだ。
なのに、気になって仕方ない。

『友達だもん。当たり前だよ。』

「!」

横を振り向くが、そこに声の主はいない。
今、沙慈に最も近い彼は、沙慈の記憶にある彼。
誰にでも屈託のない笑顔を向け、誰のためにでも涙を流すことができる彼。
思い返すほどに思い知らされる。
自分は、友人であるユーノを憎みきれていないのだと。

「けど、僕に何ができるっていうんだ……!」

また同じだ。
ユーノも、そしてルイスも救えない。
無力な自分に、何ができるのか。

「……眠れないんですか?」

「わっ!?」

「あ…ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど…」

考え込んでいてマリーが来ていたことに全く気がつかなかった。
しかも、

「どうかしたんですか?」

「べ、別に、なんでもないです。」

目元をぬぐうが、間違いなく泣いているところを見られてしまった。
恥ずかしさと情けなさから今すぐここから逃げ出したいが、ここまで恥をさらしたのだ。
いまさら気取る必要もない。

「……すいません。やっぱり、なんでもありました。」

カンと高い金属音を響かせて手すりを掴むと、男としての最後の意地で目を合わせないように沙慈は語りだす。

「僕は、すごく無力だって思ってたんです。」

「そんなこと……クロスロードさんはこんな状況になっても全然くじけていない。すごく強いじゃないですか。」

「そんなことないですよ。本当は不安で今すぐにでも叫び出したいくらいです。でも、ここを離れたらルイスに会えなくなるから必死にしがみついてるんです。もう、行くあてもないですしね。」

そう言って、自嘲する。
考えてみれば、大した理由もなくこの艦に乗っているのは自分くらいかもしれない。
他のみんなはそれぞれ目的や理想を持ってここにいるのに、自分はごく個人的なこと、しかも実現不可能な目的しか持っていない。
すべて、自分が無力なことが原因だ。

「ルイスの、そしてユーノのために何ができるんだろうって考えれば考えるほど、自分が嫌になっていくんです。もう、いっそすべてを投げ出してしまいたいほどに。」

「それでも、投げ出していないじゃないですか。」

マリーも手すりを掴み、沙慈と同じ方向を向く。

「自分とは関係ない……そう思わないで、ちゃんと向き合うことが強さなんじゃないでしょうか?それができるんなら、きっと無力なんかじゃないはずです。」

「向き合う……」

ティエリアにも言われた言葉。
今、本当に自分は世界と、ルイスやユーノと向き合えているかわからない。
それでも、もう無力でいたくない、いるわけにはいかない。
そんな思いを噛みしめながら、沙慈の夜は更けていくのであった。



午前5時 第1管理世界ミッドチルダ ポイントRX-78 ジャオーム島

目を覚ますと、ユーノはすでにそこにいた。
翠色の液体にみたされた生体ポッド。
祭壇と呼ぶにはあまりにも機械的で、遺跡自体も本当に遥か昔に建造されたのか疑いたくなるほど近代的だ。

「ギャラン殿、来ました。」

「自分たちの世界がかかっているとなると流石に早いお着きだな。こんな世界、存在する価値もないというのに。」

(それは、あなた個人の価値観にすぎないはずだ。)

ギャランと呼ばれた髭面の男に念話で語りかけるが、ギャランはそんなユーノの言葉を鼻で笑う。

「ならば、あなたはこの世界で何を得られました?故郷を奪われ、自由に生きることすらも奪われ、絶望していないと言えるのですかな!?」

(それでも、僕は多くの人から大切なものをたくさんもらった!家族の温かさも、仲間と語り合い笑う楽しさも、そして、誰かを好きになる喜びも!受けた傷をふさいでも余りある、かけがえのないものを!!)

「ですが、それでも傷は痕としてしっかり残っている!だからこそ戦う道を選んだのでしょう!?」

(……そうだよ。だけど、だからわかるんだ。もう、僕みたいな人間を増やしちゃいけないんだって!だから、どれほど憎まれても僕はこの世界を歪ませるものと戦う!!あなたたちとは、決定的に違う!!)

「……お気の毒に。まさか、ここまで俗世にまみれてしまっているとは。」

憐みの視線を向け、ギャランはスイッチを押す。

〈Revolution to the origin〉

「しかし、もう心配することはありません。あなたの名は、世界の救世主として永久に語り継がれることになるのですから。」

「グッ……!!ウあアぁァァぁぁぁぁ!!!!!!」

液体が一気に泡立ち、ユーノの体にも翠の線が現れ、流れるような美しい紋様を描いていく。
しかし、同時にこらえきれないほどの激痛が襲い、体中から力が抜けていった。

「どうか、安らかに……」

その言葉を最後に、ギャランはその場を後にする。
向かう先は、MSが置かれている大広間だ。

「出撃する!!これが我ら翠の民、最後の聖戦である!!」

ギャランの顔には、内に秘めきれなくなった狂気が笑みとして現れる。
それは、その場にいる全員へと伝染していき、この場所に集結した者たちへと襲いかかった。



ジャオーム島沖 北西

「敵勢力出現!数、20!」

「20……?少ないとは言えないが…」

20機と言えば、通常の戦闘ではかなりの戦力ではある。
しかし、これだけの艦隊に囲まれていては出すだけ無意味のはずだ。

「魔導士も出ました!遺跡周辺の防御に徹するようです!」

それはそうだろうが、やはりどうにも解せない。
20機では墜とされる前にまず防衛線を突破される。
そうなれば、生身の人間などMSにとっては相手にするまでもない存在のはずだ。

(……なんだ、この違和感は。)

「提督、マネキン大佐から通信です。」

「繋いでくれ。」

クロノがそう言うと、挨拶もなくマネキンがいきなり切り出す。

『どう思う?』

「ということは、大佐も何かあるとお考えなのですね?」

うなずくマネキンだが、作戦の変更はない。
相手に策があるとしても、このまま静観していたのではこちらの負けは決定する。
なにせ、向こうは時間さえ稼げればいいのだから。

「予測限界時間は午前8時……余裕はありますが、攻めるのをためらう時間などありはしない。」

『ああ……そうだな。』

もっとも、作戦成功の後が問題になりそうだが。
ユーノ・スクライアが生きていても死んでいても、間違いなく連邦と管理局の間でいざこざが起きるはずだ。

それだけではない。
未だ姿の見えないソレスタルビーイングだが、仲間を拉致されて黙っているほどおとなしい連中の集まりには思えない。
必ずどこかで現れるはずだ。

「聞こえたなフェイト。そういうわけだから、敵陣に切り込んでもらうことになるぞ。」

『了解。一気に突破する。』

フェイトの声にマネキンは事後の不安から現在の作戦へと意識を引きもどされる。
ともかく、目の前の問題を解決してからでないと次はないのだ。
そう自分に言い聞かせて号令を下す。

『全軍突撃!!敵MSの撃破ではなく、拠点の制圧を優先せよ!!』

マネキンの部隊を皮切りに、全MSが餌を見つけた蟻のように美しい孤島へ大挙する。
魔導士たちも海面ギリギリを飛行しながら遺跡内部への侵入を試みる。
この様子を見る限りでは戦局は完全に管理局・連邦部隊に傾いているように思えるだろう。
しかし、次なる違和感に指揮官だけでなく現場のパイロットたちも困惑した。

「なんだぁ、こいつら!?」

「なんで仕掛けてこないの!?」

すれ違いながらもパトリックとフェイトは空中で棒立ちの敵ジンクスに気をとられる。
というより、嫌な予感がする。

「何を考えているのか知らないけど、ここを落とせば終わる!!」

「よせ!前に出過ぎだ准尉!!」

アンドレイが注意するが、ルイスはかまわず先頭集団に加わり遺跡へ銃口を向ける。

「終わりだぁぁぁぁ!!」









「いまだ、やれ。」








ブァッと風のような何かが島を中心に周りへと放たれる。
しかし、それは風というにはあまりに濃く、まるでネットリとした水飴を全身に浴びせかけられたようだ。
そして、異変はまず魔導士たちに現れた。

「あ……ぐ!?」

〈Sir!?〉

パイロットスーツの上から胸をかきむしるフェイト。
フェイトだけではない。
海面にいた魔導士たちも同じように苦しみ、次々に海へと落ちていく。
辛うじて生き残った者も、敵魔導士の攻撃で倒れていった。

「これ……って!」

間違いなくユーノの能力。
しかも、規模がクラナガンで使われた時の比ではない。

「く……!」

「提督!!」

かなりはなれているクラウディアの中でも、クロノが呻く。
しかし、デュランダルを出現させて体を支えると、どうにかこらえる。

「大丈夫だ……!!それより、味方の被害は……!?」

「そ、それが……魔導士部隊はほぼ全滅!!敵MSも包囲網を狭めて味方機に攻撃を!!」

「迎撃だ!!すぐにでも反撃を……」

「て、提督!!」

今度はなんだとそちらを向き、顔面蒼白な女性オペレーターの言葉にクロノも蒼ざめた。

「クラウディアの出力が急激にダウン!!50%を維持するのがやっとです!!」

「なに!?」

「み、味方との通信も断絶!!MS部隊も押され始めています!!」

「バカな!!」

画面で戦況をうかがうと、わずか20機、それも旧型のMSに新型ぞろいで数も上の味方部隊が押されていく。
同時に、不審な点に気がつく。

(なんだ!?MSの動きが鈍い!?)

その時、ようやく思い出した。
クラナガン南部の未だに復興しない機械。

「最初からこれがねらいだったのか……!!」

初めからユーノの能力を発動しておかなかったのは、まだ距離によって効果の強弱が決まるから。
そして、近づいて弱ったところを包囲して殲滅。
一旦味方を退かせて形勢をたてなおそうにも通信まで分断されてはそれもできない。
悔しいが、完全に嵌められた。

「まさか、これほどとは……!!」

読みの甘さに歯軋りをするが、そんな中味方の戦艦の一機が魔導砲を使おうとしている。

「待て!!」

制止の声が届くはずもなく、発射されかかったエネルギーが暴発してそのまま艦は海へとゆっくり落ちていった。

(どうする……!!どうすればいい!?)

こうしている間にも、味方機はどんどんその数を減らしていく。
しかも、クロノを含めリンカーコア保持者の体調も悪化するばかりだ。

その時だった。

「!?」

すぐ横を高速で通り過ぎていく瑠璃色の輝きを放つ何か。
それも島と艦隊の中ほどの距離へ入った瞬間に爆発して散っていくが、同時にその中に含まれていた物が煙と銀色のラメ状のものに変化しながら相手の視界を奪った。

「まさか!」

クロノが指示する前に、正面の大画面に後ろから突撃してくる戦艦とその周りを固める色とりどりのMSが映し出された。

「来たのか……ソレスタルビーイング!!」



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「チッ!!ミサイルまで無効かよ!!反則にもほどがあるだろ!!」

「けど、チャフとスモークは仕込んでおいた!これでいくらかいけるはずよ!」

初めから期待はしていなかったが、本当に無効化されると心が折れそうになる。
しかし、ここから先はそんな暇などない。
もっと大変な事態が待っているのだから。

『ツッ……!トレ…ー、聞こえるか!?』

「まだ辛うじてね!干渉領域に入った!?」

『ああ。…くたちにも、影……が出始めてる。』

ノイズの走る画面に映るティエリアは少し苦しそうだ。
だが、近づけば近づくほど苦痛は増す。
そして、同時にMSの性能も格段に落ちる。
そんな中でミッションをこなさなければならないのだ。
だが、今回一番苦しい思いをすることになるのは彼女だろう。

「ごめんなさい、フェルト……こんな危険な役目を、あなたに任せてしまって。」

『いいんです。ユーノの能力の影響を比較的受けないのはGNデバイスだけ……そして、刹那とティエリアは戦闘に参加しないといけないし、超兵であるマリーさんはどんな影響を受けるかわからない。なら、私が行くしかありません。』

「けど……」

『スメラギさん。』

ダブルオーの肩の上で、フェルトが微笑む。

『私はスメラギさんや、みんな……そしてユーノのことを信じてます。だから、自信を持ってください。』

小さく首を振った後、フッと笑うスメラギ。
自分以上に、フェルトが自分を信じてくれている。
いや、フェルトだけではない。
おそらくこの場にいる全員が、自分を信じ、一つの目的を成し遂げるために全力を尽くしている。
ならば、自分がこのミッションプランの成功を信じなくてどうするのか。

「……まったく。フェルトにお説教される日が来るなんてね。」

『え!?わ、私は別にそんなつもりじゃ…』

「いいのよ。悪いのは、こんな面倒を作ってくれたうちのマイスターなんだから。」

『お…どう……いいけどそろ…ろやばそうだぜ?』

「みたいね。それじゃ、いきましょう。」

スゥッと大きく息を吸い込み、いつものように声をあげる。

「ミッション、スタート!!」

『「了解!!」』



ジャオーム島沖 南西

「ケルディム、目標を狙い撃つ!」

スコープ越しに敵を捕捉し、引き金を引くロックオン。
だが、しっかりとターゲットをマークしていたはずなのに、ライフルのビームは右に大きく外れてしまった。

「ハロ、誤差修正。もう一度いくぞ。」

「了解!了解!」

再び狙いをつけて引き金を引く。
しかし、今度はもっと右に大きくそれ、挙句の果てに光弾は海面へと突き刺さって小さな水柱を発生させた。

「ヘタッピ!ヘタッピ!」

「オイオイそりゃないだろ!しっかりしてくれよ相棒!」

「修正シタ!修正シタ!」

「だから、できて…」

はたと気づく。
この距離でも、通信は完全に遮断されている。
となると、ケルディムやハロにも影響が出ていてもおかしくないのではないか。

「……ハロ。機体を海中へ。遠浅のここなら上半身は出るはずだ。それと、全操作を完全にマニュアルへ移行。」

「了解!了解!」

ロックオンの決断は早かった。
即座に海へと降り、機体に使用されているサポートシステムを停止。
マニュアルでの狙撃に移行した。
しかし、それは緻密に組み立てられたMSという複雑なマシーンを一人で動かすことになるのだ。
狙撃に集中するとはいえ、その困難さは語るべくもない。

「ハロ、海底に突き刺す形でシールドビットを背面にだけ設置しとけ。前は何とか防ぐ。」

いつも以上に複雑な操作に顔をしかめながら、どうにかターゲットマーカーを一体のジンクスへ持っていく。
そこにはもう一機、普段ならば狙い撃つ対象が映っていた。

「あの黒いのに乗ってるやつ……確か、エリオの母親代わりだったか?」

動きに精彩を欠いているし、今なら撃ち落とす絶好のチャンスだ。
だが、

「ったく……俺は本当に女子供に弱ぇや……ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!」

完全に手動にもかかわらず、ロックオンの放った一撃はジンクスの胴を的確にとらえる。
よろけるジンクスをよそに、漆黒に塗りつぶされたシュバリエは呆けた様子で海中にいるケルディムを見つめている。

「あれ……は…」

「一つ貸しだぜ、ネエちゃん。」

「女ッタラシ!女ッタラシ!」

「……おまえ、本当に不調なのか?」

銃の形にしていた指を拳骨しにしてハロに振り下ろそうとするが、その瞬間コックピットが大きく揺れた。

「っと!なんだ!?」

ディスプレイに映っていたのは、胴体に黒点をつけながらもライフルを連射するジンクスの姿。
ビームコーティングでもしているのかもしれないが、それだけで貫通力のあるケルディムのスナイパーライフルを防ぎきれるとは考えられない。

「まさか……ハロ、太陽炉の粒子生産率は?」

「61%!61%!」

「なるほどね……いつもより4割減ってとこか!」

狙いを狂わせることができたのだ。
GNドライヴといえど、影響を受けない理由はない。

「ここでこれってことは、刹那は相当ヤバいんじゃないか?つーか、なんで連中は影響受けてないんだよ!!」



ジャオーム島 海岸

「クッ……ツッ…すまない、フェルト。どうやら、ここまでらしい…」

左手でフェルトを守り、右手で剣振るいながらどうにかここまで来たが、これ以上はダブルオーが、そしてなにより刹那とジルの体がもたない。

「十分だよ。それじゃ、行ってくるね!」

「……ケルディム、クルセイド。フェルトとユーノをよろしく頼む。」

〈〈OK!〉〉

フェルトがダブルオーの手から飛び立つ。
ジュエルシードを利用しての中和フィールドで干渉をある程度抑えているとはいえ、へたをすればAMF下で動くより厳しいかもしれない。
しかし、フェルトはそれでも行く。
飛び交う弾丸をかいくぐり、一直線に遺跡の入口へと降下していく。
だが、

「来たぞ!!撃て!!」

「クッ!!」

翠玉人たちもそう簡単に通してはくれない。
魔力弾と機銃の雨がフェルトの接近を阻む。

〈マイスター・フェルト!別経路での侵入を提案します!〉

「クルセイド!?でも、入口はあそこだけ…」

〈なければ作ればいい!いつものことでしょう!〉

「作るって……まさか!?」

フェルトのバイザーに表示されたのは遺跡の横の地面。
さらに、その奥にある、見えないはずの空洞までも表示されていた。

〈少し遠回りになりますが、正面突破より確実だと思います。〉

「……方法は?」

〈使っていない機能があるっしょ?あれなら、このエフェクトの中でも十分すぎる威力が出せる。〉

「……了解!」

一旦地上に降りたフェルトは、大きく地面を蹴って入口を守る翠玉人たちの死角に回ってライフルを下に向ける。

〈GN device,limit off!!Force detonation!!〉

フェルトの背中に深緑の片翼が出現し、その圧倒的な魔力で自らを抑えつけようとする力すらもはねのける。
そして、

「TRANS-AM!!」

〈Full force!!TRANS-AM!!〉

フェルトの髪の毛先がその圧倒的な魔力で重力に逆らい上を向く。
しかも、それだけではなく全身に力がみなぎってきて今ならなんでもできそうな気がしてくる。
ただ、

「うっ……くぅっ………!!」

『GNデバイスのTRANS-AMは本来の物とはかなり原理が異なっていてね。本家本元が機体に蓄積した高濃度圧縮粒子を全面開放してスペックをあげるのに対し、GNデバイスの場合は使用者と同調したジュエルシードの魔力を大量に生産……さらに全身にそれを流す。それによって、身体機能を飛躍的に向上させるわけだが、短時間とはいえ本来の許容量を超える魔力を体に流すわけだから、負担は計り知れない。危険だと思ったら、すぐに中断するんだ。いいね?』

力が湧いてくる代わりに、文字通り体がギシギシと悲鳴をあげている。
だが、それでもフェルトの目は射抜く場所をしっかりと見据えていた。

「智天使の腕……!!」

〈Cherubim Arm!!〉

「ケルディム……アーーーーーーム!!!!!!!」

銃口から放たれた光は四つに分かれてグルグルと回りながら再び一つにまとまり、巨大な柱となって一人どころか四人か五人は通っても問題が無いほどの大きな穴が開いた。
ただ、フェルトの払った代償も小さくはなかった。

「っ……はぁ…!!」

最早降りるというより、落ちると形容した方が適切なスピードで穴から遺跡の内部へ侵入するフェルト。
弱り切った体とリンカーコアにはユーノの能力が強く作用するこの場所は厳しすぎた。
それでも、脚を引きずりながら前へ進む。

「待ってて……絶対助けるから………!」



ジャオーム島沖 南部

急に体が重くなった。
わざわざ見た目を変えていたのに、いつもの子供の姿に戻ってしまった。
だが、これでいいのかもしれない。
最後くらい、いつもと変わらない姿で会ってやりたい。

「……アイゼン。悪いな、こんなバカなことにつき合わせちまって。」

〈構わん。もとより、融通の利かない主に仕えた時点で腹は決まっている。〉

「ハッ……言ってくれんじゃねぇか。」

パイロットスーツを騎士甲冑に変え、目つきも騎士。
いや、むしろ八神はやての家族の一人のそれへと変わる。

「今助けてやっから、もうちょい待ってろよ。」

アイゼンを起動したせいで狭くなったコックピットの中で限界まで操縦桿を倒す。

「プラズマジェット、パージ!あとはGNドライヴが焼けつこうがどうなろうが知ったことか!」

甲高い不気味な音が背中から聞こえてくるが気にしない。
前方には例の重装甲のガンダムもいるが、最早それさえもどうでもいい。
突進を決めた鉄槌の騎士の前に、障害などあってないようなものだ。

「どきやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

銃弾の雨あられを受け、無残な姿になっていくエスクワイア。
そんな中、何を考えているのかヴィータはハッチを開けてエスクワイアの顔の前で仁王立ちした。

「突っ込ませてもらうぜ!!!!」

ヴィータが顔の前から跳び上がった瞬間、入口へ向かって剥がれ落ちていく装甲とともにエスクワイアが入口の前にいる一団に突っ込んだ。

「ぎゃあああ!!!!」

「グッ……うあっ!!……たっ!!」

吹き飛ばされる男たちに混じり、ヴィータも地面を転げ回る。
しかし、すぐさま起き上がると立ち上がろうとしていた男の顎にグラーフアイゼンを叩きつけて沈黙させると中へと急ぐ。
だが、中にも翠玉人は山ほど残っている。

「どけよ……!!お前らみたいなののせいで、あいつが苦しんでるんだろうがぁぁぁぁぁ!!!!」



プトレマイオスⅡ コンテナ

「ええい、クソッ!!ぶっつけ本番にも間に合ってくれんのか!?」

大きく揺れる艦の中、イアンが吼える。
ジェイルも眉間にしわを寄せながら必死に最終調整を急ぐが、このままでは作戦終了前にプトレマイオスが墜ちる。

「せめて、あと一機……護衛にまわせる機体があれば…」

「あるじゃないっスか。マイ・ガンダムちゃんが。」

イアンが驚くが、ジェイルはさほど驚かない。
むしろ、待ちわびた感でいっぱいだ。

「遅いよ。」

「生みの親に似たんス。」

投げられたヘルメットを受け取りかぶると、ウェンディはいつもの笑顔で答える。

「あたし、自分に正直に生きることにしたっス。もう深く考えて悩むより、精一杯人間らしく生きるわ。」

「そうかい……やはり、“人間”というのは興味深い存在だ。」



ブリッジ

喧騒。
それがピッタリくる状況だ。
外も凄まじいが、ブリッジも轟々と叫び声が飛び交っていた。

「出力70%にダウン!!GNフィールド、維持限界時間まで、あと600セコンドです!!」

「高度維持に使っている粒子をフィールドの維持に回して!!ユーノの救出まで何が何でも持たせるのよ!!」

「う……」

「アニューさん!?アニューさん!!ノリエガさん、アニューさんが!!」

「クソ!!お前もリンカーコア持ちかよ!!」

『文句言わない。これ意外ときっついんだから。』

「俺は別に文句なんて……」

混乱の真っただ中にいたはずなのに、全員がミレイナの前にあるモニターの方を向く。
そして、驚愕の叫びをあげた。

「ウェンディ!?」

「ど、どうして!?」

『どうしてもこうしてもないって。ピンチってるなら、あたしが出張んなきゃ始まらないっしょ!てなわけで出撃準備よろしく。』

先日までの様子が嘘のようにあっけらかんと言い放つウェンディに、今置かれている状況も忘れて全員がため息を漏らす。

「チッ……俺たちの心配を返せよな。」

「ミッドの人たちって割り切りが早いんですね……」

『ちょっと。どういう意味っスか?』

ラッセとアニューの言葉に頬を膨らませるが、すぐに笑ってウィンクするとキッと前を見据えた。
その時だった。
一段と激しい揺れにプトレマイオス全体が揺れる。

「か、格納庫に被弾!!」

「パパ!!」

ミレイナが慌てて席を立とうとするが、マリーが腕を掴んでそれを止める。

「あなたがここでいなくなったら、みんなが危ない。私たちがいきます。」

視線で誘われ、沙慈も立ちあがって扉の前に立つ。

『……うちのバカ親父もいると思うんで、よろしくっス。』

「わかってる。」

コクンとうなずくのを見たウェンディは改めて戦場の空を睨みつける。
そして、ミレイナも発進シークエンスへ移る。

「リニアカタパルト、規定値に到達!なんとかいけるです!」

『OK!!こっちもいつでも出れるっス!!』

「タイミングをウェンディさんに譲渡です!」

『I have control!!スフィンクス、出るっス!!』

淡い赤の翼は戦場へと羽ばたく。
迷いを振り切り、それでも受けた傷だけはその心に刻んで。



遺跡 最深部

これが、罰なのだろうか。
己のエゴで多くの犠牲を出し、手を差し伸べてくれた人たちまで裏切った自分への。
もう、考える力はほとんど残っていないがそんなことばかりが脳裏をよぎっていく。
目の前にいる男たちも、もしかしたら自分のせいでこんな道を歩んでしまったのかもしれない。
けれど、こんな罰はあんまりだ。
自分以外の人々にまで、この業を背負わせるようなことだけはやめてほしい。
そう、いっそ……

(……ろし…て…)

誰か、止めて。

(こ……して……)

……そう思ってから、どれだけ時が経ったのか。
ふと気がつくと、目の前の光景が変わっていた。
すぐ目の前にいた男たちが倒れ、その男たちよりもさらにボロボロの姿の少女が肩で息をしながら立っている。

(ああ……)

ユーノは彼女を知っていた。
彼女の主が考えた、およそ戦士のそれとは思えないゴスロリチックな騎士甲冑。
チャームポイントのウサギのぬいぐるみのついた帽子はもう地面に落ちてしまっているが、それでもわかる。
その笑顔、泣き顔、怒った顔。
何度も、この目に焼き付けてきたのだから。

(やあ……ヴィータ…)

弱々しい念話に、ヴィータも血だらけの顔で笑顔を返す。

「こいつら、持ってたわけわかんねぇ石ころぶっ潰してやったらあっさりくたばっちめぇやんの。」

(ヴィー…タ……)

もう、まともに声を聞き取ることも難しい。
だが、なんとなく言っていることはわかる。
きっと、自分の念話も届いているはずだ。
だから、最後の願いを伝える。

(もう……殺し…て……)

なんとか笑顔を作り、一方通行ながらも思いを告げる。

(みんなを傷つけるしか……生きている意味…ないなら……もう、終わりにして……)

「……ああ。そういう約束だったからな。」

すでに機能の半分が停止しているグラーフアイゼンのカートリッジシステムを手動で動かして薬莢を排出すると、ヴィータは笑いだす。

「楽しかったよなぁ……あたしも、お前も、はやての本当の家族じゃないけど、本当の家族以上に深く繋がれた。」

笑いながら、片面からドリルをだす相棒を振りかぶる。

「ホント、出会いは最悪だったよな……なのはのバカがお気に入りの帽子落としてくれやがってさ……お前はお前で思いっきりガンくれて……って、これは全部元をたどればあたしのせいか。」

笑っているのに、涙が止まらない。

「お前がなのはと付き合い始めてからさ……二人揃って見ててイライラするほど奥手なくせに、意識しないで惚気やがって……あの時ほどムカつくことはなかったよ。でも、見ててホッとしたのも事実なんだよな……」

もうこれ以上溜めが効かないというところまで腕を後ろに回し、ピタリと動きを止めた。
そして、グシャグシャになった顔で必死に微笑みを保とうとする。
それは、すでに見ている側の方が辛かった。

「ごめんな……こんな方法しか思いつかなくて。でも、心配すんなよ。あたしも、すぐに一緒に逝ってやるからな……寂しくなんて、ないぞ。」

(……ごめん。)

その一言を最後に、唸りをあげて鉄槌が水槽に入ったユーノめがけて振り抜かれる。
血に濡れながら振られるグラーフアイゼンのその姿は、まるでヴィータの悲しみを自らのことに悲しみ、泣いているようだった。



ガキンと、音が響く。
手にいままで体感したことのない種類のしびれがやってくる。

終わったのだ。

なのはに、もう一度ユーノを会わせることもかなわずに。
そう、思っていた。

「……あかんなぁ。」

独特のイントネーション。
もう、二度と聞くこともないと思っていた、すこし関東圏の色が混じった関西弁。
ケンカ別れのまま、「ごめん」の一言も伝えられないままさよならだと思っていた家族が、ヴィータの見上げる先に確かにいた。

「絶対助けるって決めたんやったら、諦めたらあかんで……ヴィータ。」

自らの左腕、そして右手の杖で渾身の一撃を防いでいたのは、八神はやてその人だった。









盾の輝きに集うは世界を担う者たちの命
なれど、盾は己が身を砕くを望む



[18122] 49.過去への旅路~生きる意味~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/09/21 19:03
ミッドチルダ 海上

『途中までしか送れなくてすまん。』

「いえ、十分すぎるくらいです。」

白く変わった髪を潮風になびかせながら、八神はやてはできる限りのスピードで現場に向かっていた。
途中まではスバルのウリエルに乗せてもらっていたが、いてもたってもいられず一人先行することを決めたのだ。

『それと……』

口ごもるセルゲイ。
だが、肩の力を抜いて慈愛に満ちた瞳ではやてに頭を下げる。

『彼を、救ってやってくれ。』

「……了解しました。」

その一言で、はやての気合に火をつけるには十分だった。



???

「あいつと一緒にいるとホントに飽きねぇな。」

「言ってる場合か……ってツッコミたいところだけど、毎度毎度あの人の周りはこんなのばっかだからなぁ…」

金髪とブラウンの後頭部がヘルメットに隠れる。
その後ろには、壮観と呼べるほどの数のMSがズラリと並んでいた。

「で?お前はどうするんだ?俺は向かってくるんなら誰であろうが容赦はしないぜ?」

金髪の男が獣の笑みで道を阻むように立つ金髪翠眼の女性に問う。
彼女の傍には、金髪の男と同じようにパイロットスーツに身を包んだ女性が微動だにせずたたずんでいる。
その場の視線を集める中、物静かな彼女は静かに口を開いた。

「我々は……幾度なく、この世界が滅びようとするのを目の当たりにしてきました。しかし、それでもなお世界を原初へ還すことができなかった。それが、私の答えです。」

「あげゃ!いい度胸だ……気にいったぜ。」

金髪の男は腕を組んで柱に寄りかかっていた男の前まで行くと、だらりと舌をつきだす。

「賭けは俺の勝ちだ。その女はもといた場所に帰してもらうぜ。」

「……わーったよ。ったく、これだからギャンブルってのは嫌いなんだ。」

男はバリバリと頭をかくと、気を取り直して待機していた面々の前に立った。
見回してみると、緊張からか小刻みに震えているものが少なくない。
肝心のオペレーターたちも震えている。
初陣だから仕方がないのかもしれないが、ここにいる人間は全て自分のお眼鏡にかかった選りすぐりの精鋭たちだ。

「ま、これが初陣なわけだけど、ビビってるやつらもいるみたいだな。けどよ…」

少し発破をかけてやればあら不思議、

「しがらみもなにもない……そんな俺たちだからこそ、できることがあると思ったから集まったんだろ?だったらやって見せろ!!調子こいてるボケどものケツに火をつけて走りまわらせてやんな!!」

あっという間に歓喜の嵐。
後で小さく付け加えた「まあ、俺が一番ビビってんだけど。」という余計なひと言がほんの一部にしか聞こえないほどに。

「ドゥーエちゃん、シグナムちゃんたちは?」

「さっき島に上陸できたそうだけど、相当ヤバそうね……隠れて敵をやり過ごすので精一杯みたい。」

「OK。そんじゃ、ナイトの登場といきますか。」

そう言うと、クラッド・アルファードは自らの愛機、ボーダーブレイカー・Type・Cへと乗り込んでいった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 49.過去への旅路~生きる意味~



遺跡内部

「なんで、はやてがここに…?」

「『なんで?』やないやろ。ここまでくんの大変やったんよ?それをハンマーでお出迎えって、あたしはモグラたたきのモグラかい。」

左腕をプラプラさせて痛みを誤魔化し、はやては生体ポッドの脇にある端末を調べ始める。
未だになにがどうなっているのかわからないヴィータは呆けているが、予想外の訪問者は続々とやってきた。

「邪魔だどきなぁ!!」

ドンという音ともにヴィータの間後ろにあった壁が派手に吹き飛び、人間がそれ以上に派手に吹き飛んで反対側の壁に叩きつけられた。

「なんや、遅かったなぁチンピラさん。」

「フン、狸の置き土産を片づけるのに手間取ってたんだよ。」

「フォン……スパーク…?」

「よお、クソガキ。随分やられたみたいだな。」

フォンはボケっと立っているヴィータの横をけらけら笑いながら通り過ぎ、部屋の隅にあったコンソールを超がつくほどの高速で叩き始める。
訳がわからないのに拍車がかかり、きょろきょろしたり落ち着きなく歩き回るが、近くを通った時にはやてにグイッと体のそばまで引き寄せられた。

「……ごめんな、遅うなってもうて。」

「え……?」

「ホントはな、ずっと謝りたかってん。知ってること隠して、そのせいでこんなことになってもうたこと、謝りたかったんや。」

〈でも、ヴィータちゃんが何にも聞かずに出てっいってから、はやてちゃんはずっと悩んでたんですよ?なんで、もっと早くに言ってやらなかったのかって。そうすれば、あんなにいろいろ背負い込まなくてもよかったのにって。〉

はじめて聞かされたはやての本音。

いまさらとも思う。
言い訳にしか過ぎないとも思う。
だけど、一人で背負いこんでいるつもりが、いつの間にかはやてに一番苦しい思いをさせてしまっていた。
なのに、

「ごめんな、ヴィータ……私のせいで一人で頑張らせてもうて。でも、もう一人でなくてもいいんや。もっかい、みんなでガンバロ?」

「はや……って………!!」

ギュッとはやてに抱きつくヴィータ。
本当はずっとこうしたかった。
なのに、素直になれずどれだけ遠回りしたことか。

「ほら、心配せんでもええよ?今、なのはちゃんたちも来てくれとるはずや。」



ジャオーム島沖 南部

すでに敵機のほとんどは有効射程内に入っている。
ただ、レリックの力は今回あてにはできない。

「レリックとの同調を中止。今回はGN粒子のみで作戦を行います。」

「わかっちゃいたけど、やっぱりこうなるんですよね……でも、ここからじゃ流石に威力が落ちませんか?」

ティアナの言うことももっともだ。

三人の操るガンダムはレリックとの同調によって初めて真価を発揮する。
GNドライヴだけでも通常のMSとは一線を画すが、同調時の性能と比べるとどうしても見劣りしてしまうし、なによりレリックなしでは活動限界時間が極端に短い。
なのはのサリエルならば、フォートレスの最大威力の砲撃四発といったところだ。
無論、常に最大威力で砲撃を行うわけではないのだが、現在三人がいるのは戦線の一番後ろ。
ユーノの能力を最小限に抑えられ、かつギリギリ攻撃が届く場所なのだ。
前記の状態でもどれだけ有効なのか疑問が残る。
だが、魔力を含んだ攻撃では無効化されてしまう可能性がある。
そして、可能性がある以上、使わないのが一番だ。

「でもやらないと。このまま世界を終わらせるなんてことあっちゃいけない!!」

フォートレスとストライクカノンの砲身が開き、赤い光がじわじわとたまっていく。

「スバルとティアナはエフェクトが消えたらいつでも突撃できるように待機!」

「「了解!!」」

チャンスは四回。
それまでに戦況をひっくり返す。

「作戦開始!!」

〈Fire!!〉

まずは一発目。
幾条もの光がやや上から敵のMSへ降り注ぐ。
自分たちの頭上をギリギリのところで通り抜けていくビームに戦艦の乗組員たちは何事かと肝を冷やすが、それ以上に翠玉人たちは後ろへ下がって警戒し始める。

「外れた!」

〈距離もそうですが戦域に存在する粒子量が多すぎて軌道がずれています。〉

「チャージ開始と同時に軌道の再計算に入って!ティアナ、敵の動きは!?」

「駄目です!やっぱりこっちには来ません!!」

意地でも自分たちに有利なエリアから出ないつもりなのだろう。
ならば、こちらは一方的に撃たせてもらうだけだ。

「二発目いくよ!!」

再び空を駆ける閃光。
今度は何機かの腕や脚を撃ち落としたが、やはり距離のネックはどうしようもない。
さらに、砲撃の方向を見定めた敵は味方の戦艦を盾にするように高度を下げてきた。

「なのはさん!!」

「大丈夫!!」

口ではそういうが、正直厳しいものがある。
高度を下げればいいのだが、そうすると今度は高度を上げてくるだろう。
いたちごっこばかりで、いつまでたっても狙いがつけられない。

〈クッ……せめて、接近して攪乱してくれる機体か、もう一人砲撃手がいてくれれば…!!〉

その時だった。

「え!?」

「なに!?」

二人に続き、なのはも我が目を疑う。

別方向から飛んできたのは実弾。
そして、それにまぎれて突進していくのは見たこともないMSたち。
それも、ジンクスやバロネットのように空中を飛んでいくのではなく、波しぶきを上げながら集団で敵陣のド真ん中へ突っ込んでいった。



東部

「チッ!!何がほんの少しだあのチンピラ!!洒落にならねぇぞこのプレッシャー!!」

しかし、確かに効果はある。
捉えた翠玉人から情報を聞き出して作ったこの中和装置。
本家と比べると不完全だが、なにもない管理局や連邦の機体よりは幾分かマシだろう。
クラッドはギリリと歯を食いしばりながら、宙にいる敵に狙いをつけると引き金を引く。
放たれた弾丸は金属同士がぶつかる特有の鈍い音をあげて装甲に食い込み、内側を喰い破ってジンクスを狂ったマリオネットのように踊らせて爆散させた。

「ヴォルペだったっけか?反動でかすぎんだろこれ。」

しかし、その癖のある銃を使いこなしているクラッドの操縦技術には舌を巻くものがある。
あくまで試作品として開発されたものだったのだが、この分なら使うには問題なさそうだ。

『三佐……』

ご機嫌とはいかないまでも、小気味よく銃を撃っていたクラッドの前にマリアンヌの顔が現れる。
その決意に満ちた表情をうかがうに、止めても無駄だと悟ったクラッドは疲れたように笑ってうなずいた。

「行って来い。因縁くらい、自分の手で決着をつけろ!」

『了解!!』



ジャオーム島 北部

思いのほかしぶとく足掻く管理局にギャランは少々苛立っていた。
しかし、自分たちの勝ちは動かない。
間もなくユーノの力が完全に発動する。
そうなれば、あとは自分たちが自由に過ごせる理想郷を、時間をかけて築きあげればいい。
そう、

「お前たちのやっていることは無駄なことなのだよ!!」

「私はそうは思わんな。」

リグルのパーツで装甲を強化したジンクスの刃で背後から迫ってきていた一撃を弾く。
さほど重さはないが、スピードと鋭さを秘めたその一撃は強固な装甲に確かな傷跡を残していた。
これほど見事な太刀筋の持ち主に思い当たる人物は、ギャランには一人しか思いつかいない。

「久しぶりだな、マリアンヌ。」

「相変わらずのようだな、ギャラン。」

内部のフレームがあちこち見えてしまっているMSと向かい合いながら、ギャランは旧友の声に懐かしさと同時に失望感を感じていた。

「なぜここに来た?」

「無論、貴様を止めるためだ。」

「止める?なぜ止める必要がある?そもそもお前に何ができる?アルケミーを離れたまでは良かったが『復讐者』も壊滅……無様に生き残ったお前が俺を止める?寝言は寝て言え。」

「それでも止める。私の過去の過ちで、この世界を滅ぼすわけにはいかん!!」

ギュッとマリアンヌはペダルを踏み込み、初速からマックスのスピードでギャランを翻弄する。
大破したバロネットのパーツと他のMSの部品を寄せ集めて造ったこのシュルトは、装甲こそ不十分だが、その分軽いため速度は他の機体の追随を許さない。
MSでの戦闘経験が不十分なマリアンヌが、できる限り自分の戦闘スタイルに近いものにしてその経験不足を補おうとありとあらゆる試行錯誤を組み込んだ一点物の機体だ。

だが、ギャランもここで退くほど野暮ではない。
真っ向からマリアンヌの太刀を受け止めた。

「なぜわからないマリアンヌ!!」

刀のような剣と激しく火花を散らしながらギャランは叫ぶ。

「あの日お前もみたはずだ!!スタンザ様がどうやって死んでいったのかを!!だからこそ、俺とともに歩んできたのではないのか!?」

「私は同胞のために剣を取ることを選んだまでだ!!全てを終わらせるためではない!!」

「終わりだと!?ここから始めるのだ!!我々の世界を!!」

軽量のシュルトを弾き飛ばし、さらに蹴りで追撃するがかわされる。
マリアンヌはそこから大きく降下し、勢いをつけて股下からジンクスを斬り上げた。

「甘い!!」

だが、ギャランは持っていたバスターソードの切先を下にしてその一撃を受け止める。
体勢ではマリアンヌが有利なのだが、パワーはギャランに分があるためなかなか押しきれない。

「ここで見ているがいい!!汚れきった旧き世界の終焉を!!清浄なる新たな世界の始まりを!!」

「クッ!!」

ビームサーベルを抜いて対抗しようとシュルトに腰へ手を回させようとするマリアンヌ。
だがその前に、

「そうは……」

蒼い輝きが、

「させるか!!」

ジンクスを剣ごと吹き飛ばした。

「ぬう!!?」

手にしびれを感じながらギャランはギロリとその輝きを睨みつける。
その先には両肩から、本当に微かなものになってしまったが瑠璃色のGN粒子を放ちながら、刹那の駆るダブルオーがバスターソードを握る姿があった。

「粒子生産量が70%をきってる……!!刹那、このままじゃ!!」

ジルが不安そうな声を出すが、刹那は聞き入れない。
ただ、胸を押しつぶされるような激痛の中、倒すべき敵に全神経を集中させる。

「ガンダム……会えて光栄だ。だが、残念だよ。お前たちの戦いはここで終わりだ!!」

片刃の大剣をダブルオーのバスターソードにぶつけて一気に押し込んでいくギャラン。
普通は力比べでガンダムにかなうはずがないことはわかっているが、今この状況では中和措置を行っているこちらが圧倒的有利。
ならば、思う存分叩き潰させてもらうまでだ。

「お前たちの方法では世界から紛争を根絶するなど不可能なのだよ!!ゼロから全て築き直すのが最も確実な方法だ!!」

(……違う…)

仮にそれで世界が変わっても、そこに人が重ねてきた願いや思いは存在しない。

「我々が新たに秩序を築く!!そうして初めて世界は美しい姿を取り戻すのだ!!」

(違う……!!)

誰かの恣意で決まる世界が人々の望む世界のはずがない。

「その礎となれ!!ガンダム!!」

「……わる。」

「なに?」

ダブルオーから聞こえてくる小さな声が聞き取れず首をかしげるギャランだったが、すぐに何を言ったのかわかった。

「断るっっっ!!!!」

バスターソードを捨ててカタールでギャランの大剣を弾き飛ばす。
苦しさも忘れ、無我夢中でカタールを振るう刹那にギャランも思わず後ろへ下がるが、刹那は吼えながらそれを追う。

「お前の創ろうとする世界は歪んでいる!!」

「なにぃ!?」

「心のない世界など、ただ生きるだけの牢獄にすぎない!!!!」

「ならばどうする!?お前が新たな世界を創り上げるというのか!!」

「違う!!」

カタールも捨て、大小二本のGNソードを抜く。

「この世界の明日を創っていくのは、今を生きる全ての人間だ!!!!」

「世迷言を!!下らん言葉遊びはここまでだ!!」

ジンクスが二本のビームサーベルを繋ぎ、ダブルオーにギャランの狂気が襲い来る。
しかし、刹那の言葉は正しかった。

「させない!!」

刹那と同じ願いを抱き、

「ムゥッ!?」

その全てを受け継がんとする者が新たな翼を携えて現れた。

「刹那さん!!」

「その声…エリオか!!」

「ドッキングです!!ドッキングしてください!!」



数分前 プトレマイオスⅡ コンテナ

「イアンさん!!ドクター!!」

一緒にいたヴィヴィオを置いて、ここまで走って来たエリオは受けた砲撃の余波で熱を持った扉を強引にこじ開けると転がるように中へと入る。
突き刺すような熱さが手を包みこんでいくが、エリオは構わず二人を探す。
あまりにひどい状態に、カタロンの基地での悪夢が脳裏をよぎるが、無理矢理その不安を押し込んで捜索を続ける。
すると、

「や……やあ……こんなとこに来ちゃ、危ないよ…」

「ドクター!!」

壁に背中を預け、大きく呼吸をするジェイルの腕には焼けただれた皮膚がべろりと垂れ下がっている。
だが、横で気を失っているイアンは出血こそあれ、大きな外傷はなかった。

「掘り出すのが大変だったよ……けど、おかげで…私ほど、深刻じゃなさそうだ…」

「すぐに医務室へ!!」

「いや、いい……それより、あれを…」

震える指先にあったものを見て、エリオも震える。
あれだけの爆発の中、二つの白い翼はまったくの無傷だった。
それは、神のいたずらか。
それとも、ソレスタルビーイングに己の願いを託した者たちの意志が起こした必然だろうか。

二機の戦闘機、オーライザーはほぼ無傷の状態でそこにあった。

「最終…調整は……済んだ……あとは………ぶっつけ……本…番……」

「ドクター!?ドクター!!」

目を閉じたジェイルを揺さぶるが、起きる気配はない。
オーライザーとジェイル達を交互に見ながら迷うエリオだったが、ジェイルの肩に白く澄みきった手が置かれた。

「マリーさん!!沙慈さん!!」

「大丈夫、気を失っただけよ。」

「すぐに二人をメディカルルームへ!!」

二人に促されるまま、ジェイルに手を伸ばそうとしたエリオだったが、もう一度オーライザーの方を向いて考えた後、オーライザーへ歩み出す。

「エリオ君!?」

「ドクターから頼まれました。刹那さんにあれを届けに行きます。」

「でも、操縦は!?」

「MSですけど練習はしてました。マニュアルを読めば何とかいけます。」

かなり幅があるオーライザーのコックピットの外側まで飛んだエリオは手動でハッチを開けると中にあったスーツに手早く着替えていく。

そして、沙慈もまた。

「……すいません。イアンさんとジェイルさんをお願いします。」

「クロスロードさん!?」

沙慈も一緒に連れて来ていた赤ハロを拾ってオーライザーへ跳び移ると、中にあったスーツを着ていく。
しかし、これにはマリーも賛成しかねる。

「クロスロードさん!!それは私が!!」

「……目をそむけたくありませんから。」

ヘルメットをかぶり、背を向けたまま沙慈は言葉を続ける。

「今でも、戦うつもりはありません。でも、それならせめて逃げるようなことはしたくないんです。」

コックピットに腰かけると、ハッチを閉じながら沙慈は強い意志のこもった瞳でマリーを見つめる。

「これが僕なりの戦いです。」

その瞬間、マリーは説得が無駄だと悟る。
すでに、二人が出撃準備に入ってしまったからではない。
二人の強い意志が、何があっても曲がらないことが分かったからだ。

「頑張って!」

ハッチへと運ばれていく二人にその一言だけを残し、マリーはメディカルルームへと急いだ。



現在 ジャオーム島沖 南西

「今しかないな。」

967は待機状態にしていたクルセイドを起動させて海面を目指す。
ユーノの能力下にあるため、お世辞にも動きやすい状態とは言えないが、もうギリギリの時間帯だ。
それに、クルセイド用のオーライザーが飛んでいくのも確認できた。

「誰が乗っているのか知らないが、せっかちなことだ。」

海上に出たクルセイドは、周囲に敵がいないことを確認して両肩のGNドライヴを後ろにまわす。
右腕には二つの発射口を有した砲身を携え、両肘には六つのビットが中央で横に折りたたまれた状態で翼のように装備されている。
装甲はアトラスとは対照的に限りなく薄く、アームドシールドもないので防御力も半減している。
その分、超高機動戦闘が可能なのだが、機体のバランスが限界まで不安定に設定しているので並の人間では動かすどころか立たせることも不可能だろう。

クルセイド・ウラヌス
天を支配する神の名をつけられたが、考案者のシェリリン以外からはとても実戦では使えないと判断された機体だ。
だが、現在オーライザーとのドッキングに使えるのはこれくらいしかない。

「しかし、ただ飛ぶだけでも一苦労だな……まともな状態でも扱いづらそうだ。」

それでも、彼にならできると今なら自信を持って言える。
今もなお、運命に抗おうとしている相棒ならば、この力を使いこなせるはずだ。

「待っていろ、ユーノ!!」



ジャオーム島 遺跡中枢部

いつの間にか、見覚えのある顔が勢揃いしている。
しかも、誰もが必死で自分を救おうとしてくれている。
なぜ、そこまでして助けようとするのか。
生きていても、またみんなを傷つけるだけなのに。

(も……う、やめ…て……)

通路の奥から杖や銃を持った男たちがぞろぞろとやってくる。
フォンがすぐさま接近して首をあさっての方向へひねるが、男たちはひるまずにはやてやヴィータを一直線に目指す。

(いいん…だ……これは、罰…だから………僕みたいな、化け物は…いない方が…)

「なら、お前は残された者の心を救えるのか?」

はやてに向かって飛んできた弾丸はフォンの開けた穴から現れた騎士の障壁に阻まれ、続いて荒ぶる狼の牙が杖を握る腕を噛み砕いた。

「私たちはリインフォースに救われた!だけど、あの子がいなくなった悲しさは今でも忘れていないわ!なのはちゃんやヴィヴィオに、そんな思いをさせていいの!?」

「シャマル……!ザフィーラ……!!」

湖の騎士と盾の守護獣の鉄壁の守りは、たとえどんな障害があろうと破れることはない。
それも、仲間の……家族の危機とあればそれは絶対不変のものとなる。

だが、それでも男たちは横から回り込もうと二手に分かれて挟み込みにかかるが、今度は天井が崩れて二つの影がその前に立ちはだかった。

「紫電……一閃!!!!」

刀身が見えないほどの激しい炎を纏った斬撃が男たちを薙ぎ払い、

「ブラストハウンド!!!!」

残されていた最後の魔力を一滴残さず注ぎ込んだ砲撃が壁を突き抜けて男たちを外へ吹き飛ばした。

「遅れて…申し訳ありません、主はやて…」

「シグナム!!」

炎の翼を背負う烈火の騎士は主に一礼しようとするが、精も根も尽き果てその場に崩れ落ちる。
しかし、後から入ってきた少年がその体を支えた。

「さっさとしてよ。時間が無いんだからさ。」

「わかっとるっちゅうねん!!」

少年の憎まれ口に急かされ、はやてはさらに装置の解除に心血を注ぐが、まだ解除キーの入力にまでこぎつけていなかった。
しかし、そのはやての横にフェルトが加わったことで事態は好転することになる。

「そこのコードは私に任せてください。あなたは、別の方を。」

「……!了解!リイン!!」

〈ハイです!!少し苦手ですけど、高速処理全開です!!〉

進行速度が著しく上昇し、同時にユーノを苦しめていた痛みや脱力感も徐々に改善していった。
なにより、作業に当たっていたフェルトの言葉が諦念に屈しかけていた心を奮い立たせていく。

「……私は、ユーノに生きていてほしい。私だけじゃない。みんな、ユーノのことを助けたくて頑張ってるんだよ?」

(なん…で……?)

「理由なんてないよ。ユーノがいつもそうするみたいに、手を差し伸べるのに理由なんていらない。それに……」

汗と埃で汚れた顔をあげ、フェルトはニッコリと笑う。

「私は、どんなに世界から疎まれる存在でも、ユーノのことが大好きだから。」

「そうや。」

今度ははやてが笑いかけてくる。

「あんたのために、こんなにたくさんの人が集まったんや。こんだけ大騒ぎさせといて、一人でさよならなんて絶対させへん!!」

(はやて…フェルト……)

消えかけていた火が再びユーノの心に灯る。
それは、多くの火種を集め、大きな炎となって決して折れぬ魂を呼び醒ました。

「僕…は……生きる…!!」

まったく動かなかった腕がポッドの中でゆっくりと動く。
腰を深く落とし、大きく引いた右手を固く握りしめ、その時に備える。

「解除キー!!フォン!!」

「あげゃ!!『A warrior without a name』だ!!」

フォンがキーを口にした瞬間、再び男たちが部屋の中になだれ込んでくる。
さっきとは違うのは、遥かに数が多いということと全員が手榴弾を手に持っていること。
この部屋を吹き飛ばしても余りあるであろうそれのピンを外し、投擲の体勢に入る。
フェルトも同時に解除キーの入力を終了し、エンターキーを押す。
ポッドの中に溜まっていた液体は一気に抜け、発生していた力場も消えさった。
それを待っていたユーノは、狭いポッドの中で全身のバネをフル稼働させて拳を突き出した。

「ユーノ!!」

〈Meister!!〉

おそらく、男たちの持つ手榴弾を以てしても砕けないであろうポッドを粉々に粉砕したユーノへ、フェルトは翼の生えた楔を投げ渡す。
翠の宝石がはまったそれはユーノの手に収まり、いっそう強い光を放つ。

「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」

しかし、爆発間近の手榴弾がすぐそこまで迫る。
しかも、誰もがもう限界以上に消耗しており、防ぐ手立ては残されていない。
ただ一人、翠空の守護者の二つ名を持つ男を除いては。

「クルセイド!!セットアップ!!」

その瞬間、ヴィータの目にはスローモーションで広がっていく爆発がはっきりと見えた。
そして、男たちには一瞬にしてその爆発がその場にいた全員を飲み込んでいくように見えた。

「ハハ……ハハハハハハ!!!!ざまあみろ!!木っ端微塵に吹っ飛びやがった!!」

「……それはどうかな。」

炎と煙の中から聞こえてくる声に男たちはギョッとする。
そして、煙の向こうに広がる翠の盾を見て恐怖におののいた。

「よくも僕の家族に好き放題してくれたな……!!この代償は高くつくぞ!!」

分厚く広い壁を右手一つで広げるユーノの激昂する様子に最早冷静でいられるものなどいなかった。
計画に必要不可欠な存在だということも忘れ、ただ命の危機を回避するために銃を構える。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

それこそ、また爆発が起こったのかと勘違いするほど強烈な発砲音が部屋の中にこだまする。
しかし、その銃弾はユーノのプロテクションを貫通することはかなわず、バラバラと下に落ちていく。
……はずだった。

「……あの~、みなさん?」

「ん?」

寝違えたようにギギギと音をたてながら首を回して爽やかな苦笑いを浮かべるユーノをヴィータが見上げる。
その純粋な瞳を前に口ごもるが、とても大変なお知らせをお伝えしなければならない。

「……実はもう魔力がスッカラカンに近いです。」

「……つまり?」

顔についた埃を洗い流すほどの汗をたらしながら聞き返すフェルトだが、オチがわかったはやては耳をふさいで「アーアー」と言って聞こえないふりをする。
しかし、現実は受け入れなければならないだろう。

「これを保つのもかなりヤバい状態になりつつあります!!」

「なにぃ!!?」

年長組三人はやはりかと頭を抱えてため息をつく。
ユーノはさっきまで後ろの装置の中で魔力も体力も消耗する力を使い続けていたのだ。
こうなることはわかりきっていた。

「じゃあなんでそんな状態で前に出んねん!?いや、ああせぇへんと私ら死んどったけど!!」

「いやぁ……ああいう場面ではカッコよくいかないといけないと思って……」

「カッコ悪いよ!!今のお前ものすっっっごいカッコ悪いからな!!?」

〈ユーノさんのヘタレーーーーです!!!!〉

ぎゃあぎゃあ喚いている間にもプロテクションは少しずつ薄くなっていく。
もう突破されるのも時間の問題だと思われたその時、赤い目の男と翠の瞳の少年がプロテクションの一部を突き破って飛び出した。

「くたばりなぁ!」

「シッ!!」

フォンは一人目の髪を掴んで地面に叩きつけて頭蓋を砕くと、今度は近くにいた一人の足を水面蹴りの要領で払って転ばせると、跳びあがって左胸を渾身の力で踏み抜く。
ブリジットの方は空中で体をひねって回転させると、全身の体重を乗せての蹴りを顔面へと打ち込んだ。
折れた歯をボロボロこぼしながら倒れていくその顔を踏み台にしてさらに高く跳びあがると、空中でグルリと横に回って頭と脚の位置を逆転させて銃撃をかわすと、その銃を撃った男の首に両手をかけて後ろに体重をかけながら思い切り蹴り上げる。
ブリジットの背中が床に着地する頃には、男は高らかに宙を舞って壁に激突して泡を吹いて気絶していた。

「ガキが!!」

しかし、無防備になっていたブリジットに銃口が向けられる。
だが、今度はフォンがすぐ前に現れて手刀でアバラの間を突き刺すと、中で鼓動を繰り返していた心臓を握りつぶした。
そのままフォンは死体を盾にして男まで詰め寄ると、持っていた銃を掴んで強引に男自身へ銃口を向けて引き金を引く。
細かく震えながら倒れた男をニヤリと見下ろしながら、手に入れた銃で後ろにいる敵を仕留めようと振り向く。
しかし、その必要はなさそうだった。

「ハッ!!!!」

揺らめく金色の魔力を纏い、振り下ろした手は刃そのもの。
比類なき斬れ味を誇る魔剣と同様の力を示した。

「無刀流……紫電一閃。」

袈裟掛けにベコリと体をへこませた男はグラリと大きく揺れた後で背中から倒れる。
ブリジットもフラフラと倒れそうになるが、今度はシグナムがそれを支える。

「まったく……無茶をしてくれるな。」

「それは無理。あんたの戦い方を見てきたんだから。」

「ふむ。」と妙に納得してしまうシグナムだが、後でしっかりとした訓練を受けさせた方がよさそうだと改めて思う。
だが、今はとにもかくにも外の戦闘をどうするかだ。

「ユーノ、大丈夫?」

「うん。魔力はほぼエンプティだけど、体の方はまだ動ける。」

「よかった……もし、ここで倒れられたらどうしようかと思ってた。」

「もっしも~し?私らおること忘れないでくれへん?」

はやてが甲冑についた埃を払いながら、フゥと大きく息をつく。

「多分、まだMSはでてくるよ。こっち来る途中であと20機ほど置いてあるんを見たから。」

「それで?はやてはこれからどうするわけ?僕たちのこと捕まえる?」

ニヤニヤ笑うフォンと厳しい表情ではやてに銃を向けようとするフェルト。
その二人を目で制し、ユーノははやてからの返事を待つ。

答えは、すぐに出た。

「……我々、バージニア級預かり身分の魔導士はユーノ・スクライアを発見したもののすでにソレスタルビーイングにより救出されて逃走されてしまった。このまま追跡に当たろうかと思ったが、外の戦闘が激化することが予想されるため、このまま援護へ向かう。」

「はやて……」

頭を下げようとするユーノだったが、その前にはやては拳を突き出す。

「早う外のアホタレに一泡吹かせて来て。戦果、期待しとるで。」

ポカンとするが、すぐに笑顔になるとこつんと拳をつきわせる。
そして、今度はヴィータへその拳を差し出す。

「そっちも頑張ってね。」

「……おう。そっちこそ、死ぬなよ。」

「もちろん。」

少し強めにぶつけて、家族の顔をもう一度見渡して外への道を走っていくユーノ。
そして、はやてたちも準備に入る。

「シャマルとザフィーラは海上におる負傷者の救助!ヴィータは私と一緒に一暴れしてもらう!」

「おうよ!!」

髪をかきあげて血をぬぐうと、グラーフアイゼンを担いで気合を入れ直す。

騎士たちに気力が充実していく中、シグナム一人だけ距離を取って心苦しそうに目を伏せている。
そんな彼女の手を握り、はやては命じる。

「シグナムはそっちの女の子とちっちゃいのとでスリーマンセル組んで。」

「主はやて……その、私はあなたに言わなくてはいけないことが…」

はやては言葉の途中でシグナムの口に人さし指を当て、クスリと笑って見せる。

「やりたいことが見つかったんなら、精一杯頑張り。私は、その結果どうなってもシグナムを責めたりせえへんよ。」

自分の横に立つブリジット。
そして、ユニゾンしているアギトにも促され、黙って大きく頭を下げたシグナムはフェルトと天井の穴から外へと出ようとする。
その時、

「あ!そうや!そっちの女の子!」

はやてが何かを思い出したようにフェルトを引きとめる。
フェルトがその声に不思議そうに振り返ると、一枚のメモリースティックが手渡された。

「それ、極秘ルートで手に入れたことにしてってクジョウさんに言っといて。」

「スメラギさんに?」

このメモリーになにが入っているのか。
今すぐ見てみたいが、はやてが催促をする。

「ほら!はよ行き!それとも、ここで捕まえられたい?」

最後までわからないことづくめだが、とにかく外への道を急ぐフェルト。

それを見送ったはやてに、最後まで残っていたシャマルとザフィーラが近づく。

「……動くでしょうか?」

「十中八九間違いなく。あれ見て黙っとれるほど、向こうには頭いい人いそうにないもん。」

期待を込めてニヤリと悪い顔で笑ったはやてに、シャマルとザフィーラもつられて思わず笑ってしまった。



ジャオーム島 中心部

「エフェクトが消えた!!」

地上へ降下に入る967は急いで周囲の索敵に入る。
周囲には魔導士以外の敵はいない。
だが、探しているのは彼らではない。
おそらくすでにこちらに向かっている、あの不器用なバカ。

「バーーーーーストッ!!!!」

そう。
地面と魔導士を吹き飛ばして出てきた男。
ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアを967は待っていた。

「ユーノ!!」

「967!!」

襲いかかる男を蹴り飛ばし、たらされたワイヤーを掴むとすぐにハッチまで昇ってコックピットに入り込む。
一日にも満たない時間しか離れていなかった、しかしそれ以上の時間会っていなかったように思える丸い相棒を見て、嬉しくはあるのだがなにを言えばいいのかわからない。
別れる間際に口にしてしまった心ない言葉をいまさらながら後悔する。
本当は、967がイノベイドだろうと人間だろうと、二人の絆には関係なかったはずなのに。

「……お互い、言いたいことは山ほどあるだろう。」

967に出鼻をくじかれ、さらに視線を落とすユーノ。
しかし、967の次の言葉で顔をあげて目を丸くする。

「それはこれが終わった後でゆっくりすればいい。今は、ミッションに集中するぞ、相棒。」

燃えているのがすぐにわかった。
あのクールな967が、静かに燃えている。
それだけで、ユーノの雑念はどこかへ消えてしまった。

「……了解!行くよ、967!!」

バリアジャケットからパイロットスーツへその身を包むものを変え、D・クルセイドが気を利かせて最初からかぶせていたヘルメットを脱ぎ捨てて金色の髪を振り乱すと、一気にペダルを踏み込む。

「ユーノ・スクライア、クルセイド、目標を粉砕する……ってのわぁ!!?」

想像以上の速度で空へと舞い上がる愛機に驚くユーノ。
おまけに機体のバランスが悪いせいで望まずにきりもみ回転を繰り返す。

「なんでよりによってウラヌス!?」

「オーライザーにマッチする装備がこれくらいしかないんだから仕方がないだろう!!」

「そんな都合知らな……って!?オーライザー完成したの!?」

『ユーノ!!』

復活した通信機から聞こえる声にユーノだけでなく967までも腰を抜かしそうになった。

「沙慈!?」

敵に追われながら必死にこちらに向かってくる白と翠の翼。
オーライザーだけでも驚きなのに、それに乗っているのが沙慈であるといことがユーノにはおよそ信じられなかった。
こんな戦いのド真ん中に、やってきていい人間ではないのに。

「何を考えてるんだ!!今すぐ戻るんだ!!」

『嫌だ!!』

モニターの向こうからでも聞こえるほど操縦桿を握る手に力を込め、沙慈はユーノのもとへ急ぐ。

『もう、逃げるのは嫌だ!!戦えなくても、目をそらすことだけはもうしない!!そう決めたんだ!!』

「沙慈……」

いまさら逃がすのも難しい。
なにより、いったところで聞き入れはしないだろう。

「……言っとくけど、思ってるよりキツイから!!」

『望むところ!!』

二人の意志が合致したところで、クルセイド・Uもようやく体勢を整える。
そして、

「ドッキング!!」

「『了解!!』」



北部

「オーライザー・ドッキングモード!」

エリオはコンソールを叩いて操作を開始する。
両側の翼の後ろの部分が折り曲がり、後部に備え付けられていた接続部も装甲の一部が胴の下へ潜ることで出現する。
翼が前方にスライドし、準備はすべて整った。

「何をする気か知らんが!!」

ギャランは背を向けるダブルオーを仕留めるべくビームライフルを抜くが、超高速の光刃がそれを阻む。

「させるか!!」

「チィッ!!」

マリアンヌにライフルを斬り捨てられ、後ろへ下がるギャラン。
その時間だけで、刹那とエリオには十分だった。

「ドッキングセンサー!!」

すれ違って後ろへ回ると、オーライザーから二筋の光が放たれ、それに導かれるようにダブルオーは前方に粒子を放出しながら距離を縮めていく。
そして、密着した瞬間に固定用のアームでしっかりと接続され、肩にある二つのGNドライヴにもパイプが接続され、二機の表面に完全に一体化した証として行く筋もの光の筋が奔った。
時間にしてわずか数秒。
イアンとジェイルがぶっつけ本番と言っていたこの作業を、二人は見事にこなしてみせた。
それは、操縦者のコンビネーションもさることながら、技術屋としてのイアンとジェイルが心血を注いだ結果である。

多くの人の想いを乗せ、生まれ変わったダブルオーの額に文字が出現する。

00 RAISER

ツインドライヴの真の力を解放し、新たに生まれ変わった自らのガンダムの中で刹那が叫んだ。

「ダブルオーライザー!!目標を駆逐する!!」



中心部

時をほぼ同じくして、クルセイドの額にもあの文字が現れる。

CRUSADE RAISER

盾となった翼から溢れ出る光を背負い、クルセイドはその時を待ちわびる。
そして、ユーノの声とともにその時は来た。

「クルセイドライザー!!目標を粉砕する!!」

消えた。
否、消えたのではない。
速すぎるのだ。

「な!?」

ジンクスのパイロットが驚愕した時には、すでにクルセイドライザーはそこにいなかった。
ただ画面がブラックアウトし、落ちていく感覚しか知覚することができない。
それほどまでに爆発力に富んでいた。
あの異常な突進力を有するアトラスを相手にしても見劣りない速度だ。
しかも、こちらはその速度が延々持続するのだ。

「くう……ぅぅぅぅ…!!」

「う…あ……!!」

それは、パイロット自身にも大きな負担となってのしかかる。
今すぐにでも気絶するのではないかというほどのGにうめきながら、ユーノはジンクスの首を斬りおとした左手のサーベルをしまい、今度は右手のGNツインランチャーを構える。
その上で、運命共同体となった二人に問う。

「さ…沙慈……967……大丈夫…?」

「俺は肉体が無いのでな。お前の考えている心配は無用だ。」

『ぼ……僕も、大丈夫…!そ…それより、ガンダムってこんなもんなの?大したこと…ないね……!』

前髪を汗で額に張り付けながら、余裕が無いのに余裕があるように取り繕った笑顔で沙慈はユーノをたきつける。
そのセリフを前に手加減できるほど、ユーノも967も大人ではなかった。

「OK……!!思いっきりブン回すから覚悟しといて!!」

限界と思われるそこからさらに加速するクルセイドライザー。
もはやあとに残ったGN粒子しか目で捉えられないジンクスたちは互いに身を寄せ合って周囲を警戒するが、それがいかに無駄な努力であるかがわずか数秒で判明した。

「ツインランチャー、バレット!!」

ドンと炸裂音が響くと、一機の頭が砕け散る。
よろよろと背中を預けてきた味方の方を向こうとするが、その一機の頭も粉々になって仲良く海へと落ちていく。
ようやく密集しているとマズイことに気付いて陣形を解こうとするが、ユーノはそれを許さなかった。

「ツインランチャー、パーティクル!!」

一機が上を見上げると、他もつられてそれを見上げる。
太陽を背に、下にある砲門から稲光にも似た輝きを放つクルセイドが、フォロスクリーンを顔の前に出現させて狙いを定めているその姿。
それはまさしく、空の、宙の支配者にふさわしいものだった。

「GNメガランチャー、シュート!!」

一筋の閃光が海へと突き刺さり、その射線軸上にいたジンクスを蒸発させる。
それだけにとどまらず、発射したまま砲身を動かして残っていた敵も全て薙ぎ払った。

「これでぇ、終わりだぁぁぁ!!!!」

残り一機の下半身を消滅させると、ようやく砲撃が終了する。
水蒸気がもうもうと上がる海には、消滅を免れたジンクスの残骸が無残に残されていた。



北部

「いける……!!」

画面に表示される数値を見て刹那は確信する。
同時に、心からイアンとジェイル、そしてユーノに感謝する。
あの三人がいなければ、これだけの数値はありえない。
以前のような不安定さは皆無であり、むしろ想定以上のスペックを叩きだしている。
あとは、自分がどれだけこれを使いこなせるかだ。

「姿が変わったからといって!!」

すぐ前にジンクスが待ちうける。
しかし、刹那は避けない。
避けることすら不要であると、ロングソードを真横に薙いだ。

「え?」

空気が激しく渦巻き、世界がわずかの間制止する。
ダブルオーライザーが消えたその瞬間に時間が動き出し、腰で真っ二つになったジンクスが現実を受け入れられないパイロットもろとも爆炎の中へと消えた。

「く、来るな!!」

光弾が降り注ぐが、ダブルオーライザーにはかすりもしない。
水の壁を巻き上げながら高速で移動するダブルオーライザーを捉えることなど誰にもできはしない。
ただ虚しく全ての攻撃が空をきり、そのかわりに駆け抜ける疾風が敵陣をかき乱し、立ち塞がるものすべてを斬り捨てていった。

「は…破壊する…!!」

ユーノはこんな異常なGに堪えていたのかと呆れながらも、刹那は声を絞り出す。

「俺たちが…破壊する…!!」

明日が、多くの人の願いや心で生まれていくならば、それを阻むものを破壊する。
マリナや、多くの人が言うように自分たちのやり方は間違っているのかもしれない。
だが、それでもいい。
そう思う人々が本当の意味で平和を望むのなら、この戦いは無駄ではない。
言い訳もしなければ罪から逃げもしない。
いつか、今よりも、ほんのわずかでも誰かが笑える未来が来るのなら。
その影として、押しつぶされる運命にあったとしても。

世界の歪みを

人々の未来を閉ざす者を

駆逐する!!

「世界の歪みを、破壊する!!」

後ろから斬り捨てられたジンクスを最後に、ギャランを除くジンクスは全滅していた。
溢れる光を抱くダブルオーライザーは無傷で悠然と二本の剣を振るって、刃についた金属の屑を払う。

瑠璃色の瞳を輝かせるダブルオーライザーにギャランも気圧される。
さらに、ユーノの能力が消えたことにより連邦と管理局もすでに息を吹き返し始めている。
しかし、彼はまだ諦めていなかった。

「まだだ……!!全機出撃!!敵を殲滅せよ!!」

「もうやめろギャラン!!お前は負けたんだ!!」

「負けてなどいない!!俺は……俺たちはこの世界を認めない!!」

遺跡の中から続々と湧いて出てくるジンクスたち。
しかし、刹那は負ける気などしない。
自分はギャランのように一人ではない。

「刹那!!」

ロックオンが、

「刹那!!」

アレルヤが、

「刹那!!」

ティエリアが、

「刹那ぁぁぁ!!」

ユーノが、みんながいてくれる。
共に闘ってくれる仲間たちがいる。
そんな自分に、負ける理由が一体どこにあろうか。

しかも、予想外の助っ人も駆けつけてくれた。

「ユーノ君!!」

桃色の光を纏う鳥のような白い翼を背に持つガンダム、サリエル。
それに率いられ、ウリエルとカマエルもジンクスと真正面から睨みをきかせ、動きを封じる。
さらに今度は漆黒の騎士、シュバリエに加え、薙刀を持ったアヘッドがダブルオーライザーの横に並び立つ。

「なんのつもりだ?犯罪者に協力したら後でお宅らの上司がうるさいんじゃないのか?」

「別に協力するわけじゃない。テロリストを排除するだけだ。」

「あっそ。」

嫌味をミンにすんなり流されて唇を尖らせるロックオンだったが、背中の心配が必要なさそうなことを確認できたことに安堵する。
どうやら、狙撃に集中させてもらえそうだ。

「んで、私たちとしては余計なのが来る前に早いとこケリをつけたいんスけど、そこんとこOK?」

「早く決められればこっちも余計な被害を出さずに済む。別に長引かせようなんて考えてないから安心しなさい。」

「ちなみにコンビネーションとかは?」

「そっちで勝手に合わせろ。僕は徹底的にやるだけだ。」

ティアナとウェンディとは対照的に、スバルに冷たい態度を取るティエリア。
しゅんとするスバルだが、ユーノが一言付け加える。

(ティエリアのあれはいつものことだから気にしなくていいよ。照れてるだけだから。)

(え?ああ、ティアと一緒ですね!)

「……聞こえてるぞ、そこの二人。」

「一緒ってどういう意味よ?」

「え!?いや、別に深い意味は…」

「て、ていうか盗み聞き反対!!」

戦闘中にもかかわらず、和やかな雰囲気に包まれるマイスターとエースたち。
余裕の表れなのだろうが、敵にとってはこれ以上ない屈辱であることを彼らはわかっていない。

「貴様ら……!!生きて帰れると思うな!!」

「ハッ!勘違いしてんじゃねぇよ、バーカ!」

ハレルヤが八重歯を覗かせながら凶悪な笑みを浮かべた。

「てめぇらこそ、五体満足でいられると思ってんじゃねぇよ!!」

両陣営の間の空気がピンと張りつめていく。
そして、

「かかれ!!」

ギャランの号令でジンクスが一気に押し寄せてくる。
赤い刃や弾丸がギラギラと光り、まるで巨大な蟲の複眼のようだ。
しかし、マイスターたちも負けてはいない。

「迎え撃つぞ!!」

「了解!!」

「私たちも行くよ!!」

「はい!!」










今、新たな輝きが微かな可能性を示し始める





あとがき

一応前後編で終わらせるつもりが、なぜか三部構成に!?(-_-;)
しかも、筆が進み過ぎて今回と前回だけで4万字に届きそう……(ギリギリ4万字以下でした)
でもぉ、ライザー×2の戦闘シーンとか、なのはたちとの共闘とかしっかり書いときたかったんだもん……しょうがないじゃん!!(『だったら余計なとこ削れや』とかいうツッコミは心が折れるのでナシの方向で♥)
次回で一応ユーノ救出編はおしまいです。
久々のユーなの(軽くネタバレ)や元六課のメンバーとマイスターたちのコンビネーションをお楽しみに!
では、また次回読んでいただけることを祈りながらさっそく最終局面を書き始めさせていただきます。
ああ……ユーなの万歳(爆)



[18122] 50.過去への旅路~空を駆ける光~
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/10/02 21:00
ジャオーム島沖 海中

「はぁ…ジイさんカンカンでやりづらいったらないんだけど?」

ルーチェは通信をきりながらコックピットの中で髪の毛を指先にくるくると巻きつけながら唇を尖らせる。
しかし、彼女の相棒はさらに不機嫌な人物を相手にしているのだ。
それも、一人ではなく複数人を。
もっとも、本人は大して堪えてはいないようだ。
それどころか、クスクスと笑ってさえいる。

「こっちもリボンズやリヴァイヴがブッチギレだ。しっかし、普段スカしてるやつらがキレると笑えてくるねぇ。」

「あ~やだやだ、ヒステリックな男って。もちろん女もだけど。」

「少しかまってやらなかっただけで寝ている奴にボディプレスしてくるお前がそれを言うか?」

「う………」

顔を赤くして黙るルーチェの顔を見て翠の目を細め、金色の髪を揺らして笑う少年。
こんな反応を返してくれるのはイノベイド……もとい、イノベイターの中では彼女くらいである。
だからこそ彼はルーチェをからかうのをやめられないし、誰よりも信用して傍に置いているのだ。
もともとそのためにリボンズに生み出してもらったのだからそうでなくては困るのだが、犬のような彼女のリアクションを見ているとそんなことすらも忘れてしまいそうになる。

「ま、ヒステリックな奴はお断りだっていうのは同感だな。だから……」

少年はペロリと舌なめずりをすると向かいあっている二つの軍勢へと映像をきりかえる。
仮にも、自分のオリジナルをあそこまでコケにしてくれたのだ。
別に、オリジナルに義理立てするわけではないがあれを勝手に使われてはいい気分がしない。
だから、

「あのクソ馬鹿には理想を抱いたままご退場願うとしますか。」

「あ~あ……私はまたソリアの気まぐれに付き合わされるのね……」

戦域から離れた海の中。
モノアイと二つの瞳が赤く輝いたことを誰も知らない。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 50.過去への旅路~空を駆ける光~

ジャオーム島 遺跡入口前

空が騒がしいと思いつつ、はやては上を見上げる余裕などない。
なぜなら、ここにもまだ多くの翠玉人たちが残っているのだから。

「穿て!ブラッディダガー!!」

赤い刃を前方へと飛ばすが、その数も威力もいつもと比べて格段に低い。
やすやすと防がれ反撃が返ってくるが、はやての前にヴィータが駆けつけシールドとアイゼンで魔力と質量兵器の弾丸を叩き落としていく。
だが、やはり多勢に無勢。
攻撃は少なからず二人をかすめ、甲冑が傷を負っていった。

「ハァ…ハァッ……!は、はやて、大丈夫か?」

「割と。そっちこそ、もうだいぶきついんちゃう?」

「脇腹かばいながら戦ってるやつよりマシだよ。」

バレていたのかと苦笑するはやて。
ユーノのもとに駆けつけるまでに、不覚をとって折れた右の肋骨。
肺には刺さっていないようだが、一緒に脇の筋肉も断裂を起こしたせいで一息吸い込むたびに激痛が奔る。
もともとはやては単独での戦闘に向いているとは言いにくいが、どうしてこんな傷を負ってしまったのかと後悔がわいてくる。
ただでさえ魔力を消耗しているのに、負傷していては実力を発揮しきれない。

(残っとる魔力やと、デアボリックエミッションをあと一発撃てるかどうか……それも、まともな状態で使えるかどうか…)

〈はやてちゃん!!〉

「っ!!」

咄嗟に首をひねって近づいてきていた男の槍をかわす。
視界にはとらえていたのに、まったく意識していなかった。
リインの声が無ければ、今頃あの刃には自分の頭がぶら下がっていただろう。
集中力まで落ちて来て、いよいよ覚悟を決めなくてはいけない時が来ているようだ。

「はぁ……まったく、最近こんなんばっかやな。」

ポツリとぼやくが、はやてはまったく諦めてはいない。
今、上で戦っている部下や友人、そして家族を前に無様な姿をさらすことなどできようか。

「夜天の書の主の底力……なめとったら痛い目見るよ!!」



突入口付近

「っだぁ!!」

鍔迫り合いをしていた相手を押し倒すと、左手の鞘で側頭部を叩いて意識を刈り取る。
やっと一人片づけて一息つきたかったのだが、そんな暇は与えてくれないようだ。
新たな敵が、しかも三人がかりでシグナムとの距離を縮めようとしていた。
しかし、そのうち一人は深緑の光にのまれて地面に開いた大穴へと落ちていく。
そのおかげで、後ろに気を回す必要のなくなったシグナムはレヴァンティンとその鞘で攻撃を受け流し、強烈な二連撃で相手を押し返した。
そんな彼女の後ろに、フェルトがフワリと舞い降りる。

「大丈夫ですか?」

「ああ、すまんな。そちらはどうだ?」

〈フェルトちゃんの魔力が底を尽きかけてる。カートリッジも残り三発分ってとこ。お宅さんもそんな感じっしょ?〉

〈あと四発だな。もっとも、こちらはもっと余裕がないがな。〉

「それはそうだ。レヴァンティンはまさかロストロギアから魔力の供給をしようなんてバカな考えに基づいて造られていないからな。」

〈つーか、そんなもん使っててあんた何ともないの?というか、そんなもん渡された時何とも思わなかったのか?〉

アギトの質問にフェルトは改めて自分の相棒がミッドチルダの常識に当てはめるとどれほど異常なものなのか認識して苦笑してしまう。
だが、それでもはっきり言えることが一つだけある。

「私は、ジェイルさんのことを信じていますから。」

「信じている、か……随分信用されたテロリストもいたものだ。」

「どうでもいいけど、お喋りしてる暇はないでしょ。」

シグナムに襲いかかった男の一人の股間を蹴りあげ悶絶させたブリジットから二人へ三発ずつ金色の薬莢が投げ渡された。

「カートリッジ。暇見て装填しといて。」

〈お、おい!お前、魔力は大丈夫なのか!?〉

心配そうな声にブリジットは答えようともせず、彼に向ってくる刃を素手で受け止める。
フェルトが短く悲鳴を上げるが、ブリジットは無表情な口元にかすかな笑みを浮かべて槍を握りしめた。

「ああ……さっき、残しておいたご飯を食べたから大分回復した。」

手の平から血を流したまま男を持ち上げ地面に叩きつけると、飛んできた銃弾をバックステップでかわして平然とシグナムの横に立った。
しかし、平然としていられないのはフェルトだ。

「あ、あの!手の傷!!治さないと!!」

「ん?ああ、これなら大丈夫。」

深々と裂けた手を振りながらこともなげに見せるブリジットだが、顔を蒼ざめさせるフェルトは今にも倒れそうだ。
しかし、その傷は金色の光を放ち出すと、みるみるうちにふさがっていく。

「オートリカバリーだよ。大概の傷はほっとけば治るし、体に有害なものは勝手に排除してくれる。ま、そのせいでいっつもお腹が空きっぱなしで困ってるんだけど。」

ポカンとするフェルトに説明を終えると、ブリジットは再び敵陣のド真ん中へと突っ込んでいくが、今度はシグナムも付き添う。

「なんでついて来るの?満身創痍の騎士なんて邪魔なだけなんだけど?」

「ろくに戦い方も知らない子供を一人でほうりこめるか。」

「そ、それより二人とも慎重に行動してください!!」

回復しきっていない魔力を絞り出し、援護するフェルト。
シグナムとブリジットに振り回される彼女は気の毒だが、ある意味一番気の毒なのはデバイスたちである。

〈……なあ、あたしらの意思は存在していないのか?〉

〈すまん……いつもはそうでもないのだが、頭に血が上ると…〉

〈その分うちの子は素直でいい子だよ。……周りに振り回されるのが玉に瑕だけど。〉

彼らの苦労は、ここからが本番だ。



上空

下でそんなことが繰り広げられているとは知らず、上空では遂にMSによる決戦の火ぶたが切って落とされた。

「一番手はもらったぜ!!」

アリオスを戦闘機に変形させたハレルヤは真っ先にギャランのジンクスへと突進していった。
しかし、別のジンクスが道を阻む。

「どきやがれ!!」

そのまま先端のクロウを開いて捉えようとするが、今度は別の機体が上からアリオスを抑えつけにかかる。
それでも強引に突進していくハレルヤだが、明らかにスピードが落ち、クロウで敵を切断するどころか変形も封じられてしまった。

「チッ!!クソうざってぇ!!」

(ハレルヤ!!一旦退くんだ!!)

「ああ!?ここまでなめたマネされて黙ってられるかよ!!」

(ハレルヤ!!)

ムキになったハレルヤに耳にはアレルヤの提言など耳に入らない。
しかし、アレルヤも忘れていたある事実。
今は一人で戦っているのではないのだ。

「バルディッシュ!!」

〈Target Rock〉

赤い閃光がジンクスの頭を撃ち抜き、アリオスの上から落とす。
そして、その閃光を放った機体が暴走するアリオスの前に立った。

「単独行動は控えてください。」

「テメェの指図は受けねぇよ、デカパイ女。」

「デカパ……!?セ、セクハラですよ!!」

「ハッ!!男を誘ってるようなカッコで戦ってるやつがよく言うぜ!」

「あ、あれは別に…!そんな……つもり、じゃ…」

と、言いたいところだが、冷静になって考えるとそうかもしれない。
子供のころから使っていたので別に意識していなかったが、確かにそう言われると否定しきれない。
なのはやヴィータからもときどき言われていたし、クロノをはじめとする男性局員もよくバツが悪そうに目をそらしていることがあった。

「……自覚あったんですね。」

「と、とにかく!!今は戦闘に集中してください!!この変態!!」

「へんた……!?ぼ、僕は別にあなたをそんな目で見てません!!」

「見てたじゃないですか!!この変態!!」

「だから、あれはハレルヤだって…」

口論を繰り広げるアレルヤの下からジンクスが迫る。
だが、

「言ってるでしょ!!」

即座にアリオスを変形してビームサーベルを突き刺して振り抜く。
ついでに、シュバリエの後ろにいた一機を仕留めようとするが、それはフェイトによって手脚を斬り飛ばされて海面へと落下していった。

「……とりあえず、話は全部片付けてからだね。」

「あとでしっかり訴えさせてもらいますからね!」

〈Riot Blade!〉

今度はフェイトとシュバリエが先に敵へと飛び出す。
二本の大剣を手に素早い動きで敵を撹乱し、分散したところへ斬撃を一閃。
腕を斬りおとされ、よろけるところへ光弾が突き刺さった。
そのまま戦闘機の姿でアリオスが前に出たかと思うと、今度はその後ろからシュバリエが追い越してブレードを振るう。
かと思えば、今度はその下からアリオスのガトリングが火を噴く。
二機の高速コンビネーションを前に、ジンクスは手も足も出ないまま鉄くずへと変わっていった。



「俺たちも負けてらんねぇな!」

「狙イ撃ツゼ!狙イ撃ツゼ!」

「私たちも行くわよ!」

〈All right!〉

ケルディムが額のカメラアイをオープンして狙撃の体勢に入ると、カマエルもそれに続く。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!!」

「カマエル、ティアナ・ランスター、狙撃を開始します!!」

ピンクとオレンジの弾丸がジンクスを粉砕していく。
さらに、近づこうとする者へはシールドビットと誘導弾の洗礼が待っている。
二機の弾幕を前に、対抗できる方法などあるはずがなかった。

「ハッハァ!!やるね、嬢ちゃん!!」

「オ見事!オ見事!」

〈Thank you,Mr.Sniper and supporter.〉

「そっちこそ!!てっきり機体性能頼みかと思ってたわ!!」

「言ってくれるねぇ!否定はできねぇけどな!!」

ロックオンはグルリと方向を変えると、スバルを後ろから狙っていたジンクスの背中を逆に撃ち抜く。
さらに、カマエルの下から来ていた機体も振り向かずにビームピストルで撃ち落とす。

すると、今度はティアナも負けじと続けざまに狙撃で三機墜とすと、発生させた誘導弾をケルディムの周辺に飛ばして狙撃をサポートした。

「借りを作るのは嫌いなの!」

「気が合うね。俺もだ!!」

競うように狙撃と互いへのサポートを繰り広げる二人。
空を奔る二つの光は、彼らの誇りそのものなのかもしれない。



一方、こちらでは最早戦術と呼べないような戦術が取られていた。

「GNフィールド。」

強固な粒子の膜で守られた重装甲の機体が射撃の嵐の中を悠然と進んでいく。
すでにMS一個小隊を撃滅していてもおかしくない弾丸が発射されているのだが、セラヴィーは関係ないとばかりに敵陣のド真ん中に陣取った。

「GN粒子、チャージ開始。」

背中のガンダムフェイスが開き、粒子のチャージが始まる。
いっそう警戒を強めるジンクスたちだったが、そのせいでもう一機への警戒を怠ってしまった。

「斬り裂く!!」

両端に光刃を煌めかせ、深紅の機体が駆け抜ける。
それは、古の武将が大軍の兵を薙ぎ払っていくように、抵抗することの無意味さを身を以て彼らへ教え込む。

一騎当千。
向かうところ敵なしの強さを見せつけるミンに、ジンクスたちは完全に陣形を崩されていた。
そして、そこへ最後の一撃を加えるべくセラヴィーも動く。

「圧縮粒子解放!!GNバズーカ、バーストモード!!」

巨大な光の球が一機のジンクスを飲み込むと、激しい爆発とともに強烈な光が周囲の機体も巻き込んでいった。

「見かけによらず過激だな。」

「そういうあなたこそ、随分と荒っぽいんだな。」

「相手によるさ。」

無愛想なティエリアにミンは肩をすくめて笑うのだった。

余談になるが、彼らを相手にして生き残った一人の翠玉人は後にこう証言している。
アロウズには人の皮をかぶった獣が、ソレスタルビーイングには無慈悲な堕天使がいると。



「こうやって背中を合わせるのも久々の気がするよ、ウェンディ。」

「実際そうっスよ。もう随分といがみ合ってきたんだから。」

敵に囲まれているのに嬉しそうに笑うスバルとウェンディ。
MSに乗っているのに、六課で共に戦ったときと変わらない感覚が二人を包んでいった。
そして、

「行くよ!!」

「りょーかいっス!!」

MSからMAへ変形して反対方向へと向かっていくウリエルとスフィンクス。
突然の行動に不意をつかれた敵機はそれぞれ近い方を追おうとするが、それよりも二機の方が早かった。

「ブッ飛べぇぇぇぇぇ!!」

後ろへ発射したミサイルが火球となってジンクスを破壊していく。
その後、急激に機首を上げて逆さまになったスフィンクスはすぐさまマシンガンを連射してミサイルを回避した敵を牽制した。

一方、ウリエルの相手をしたジンクスはもっと悲惨だった。

「ぉぉおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

背中に青の日輪を背負ったウリエルの拳が振るわれるたびに、ジンクスの体のどこかがベコンと陥没する。
顔、胸、腕、腹。
滅多打ちにされた後に肘や踵のブレードによって斬られ、無残な姿で海の上に浮かぶ。
中のパイロットは生きてこそいるが、この恐怖にさらされてなお、彼らの中でMSに乗り続けようと思う人間がどれだけいるだろうか。

「ウェンディ!!」

「あいよ!!」

ある程度敵の数を減らしたところで今度はMS形態で距離を縮め始める二機。
途中ですれ違う機体には目もくれず、スフィンクスはウリエルの近くの敵を、ウリエルは逆にスフィンクスの周囲の敵を射撃で蹴散らしていく。
そして、最後にウリエルが打拳で浮かせた敵へめがけて変形したスフィンクスがその鋭い切先を突き立てた。

「ラッシングエッジ……なんつって。」

「やるね、ウェンディ!」

爆煙の中から風を巻き起こして現れるスフィンクスを見上げて感嘆の声をあげたスバル。
これを見せられて熱くならないわけがない。

「よぉし!!私だって!!」

〈Full drive!!〉

ガキンと拳を打ち合わせ、背中の日輪を大きくするウリエル。
両拳に青い光を宿し、ライフルを構えていた一機へ突入態勢を取った。

「ウリエル、フルドライヴ!!」

〈Wing road!〉

「いきます!!」

青い道を轟音とともに駆け抜けていくウリエル。

『攻撃は紙一重でかわすこと。スバルのような接近戦重視のタイプならなおのことね。』

「こうですか!?」

ジンクスのビームを最初減の動きでかわし、距離を詰めながらバルカンで敵の動きを封じる。

『いい?連撃はそれだけで仕留めるためのものじゃない。本当に意味のある一撃……スバルにとって最高の一撃のための呼び水だ。それを忘れて、連打に頼るようじゃ戦士としては二流だ。』

「でぇぇぇやっ!!」

バルカンが海面に叩きつけられた衝撃と、スバルの猛打で海水が霧となってその姿を隠した。
その中で響く金属同士がぶつかり合う音。
最後に一段と激しい音がすると、ジンクスがあちこちをへこませながら霧から吹き飛ばされて出てきた。
だが、スバルとウリエルの猛攻は止まるところを知らない。

「はぁっ!!」

上空で最高点に達したところで追いついたウリエルは打ち降ろしを一発。

「せぇい!!でぇいっ!!」

続いてアッパーを一撃、さらに空中で前転しながら踵落としをくらわせる。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

青いエネルギーを纏っての連打。
最後に回し蹴りでさらに空高く舞いあげるが、それでもまだ終わりではない。

『それで、最後のアドバイス。とどめを打ちこむ時は後先考えず全力で!この後どうしようとか考えるだけ無駄!チームで戦うんなら、きっとみんながフォローしてくれるはずだよ!』

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

あまりのエネルギーで光が屈折し、それにおおわれている刃が不気味に歪む。
甲高い音をたてる肘のその刃を携えスバルはウリエルとともに飛んだ。

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

気合を入れて突き上げた肘はジンクスを袈裟掛けに斬り裂いていた。
ウィングロードに着地し、加速の勢いを殺していく最中、スバルはユーノの教えを完璧に実行できた自分に誇らしさを感じていた。



できることなら、人目をはばからず抱きつきたかった。
こんな兵器の中からではなく、直にその声を聞かせてほしい。
でも、それは今できない。
けれど、それでも構わない。
生きていてくれて、今この時だけでも昔のように背中を守りあうことができるから。

「ユーノ君、行ける?」

『どっちかっていうと、それはこの二人に聞いてほしいなぁ。』

『僕は大丈夫だよ。』

『お前がそれでいいなら、何も言うことはない。』

「……だってさ。」

自分に変わってアップになる沙慈と967の言葉に肩をすくめながら、ユーノは改めて操縦桿を握りしめた。
そして、ダブルオーライザーに乗る三名もそれに続く。

『サポートする。』

『だってさ。うちのロードもやる気みたいなんで茶々入れさせてもらうぜ。』

『頑張りましょう、なのはさん!』

「うん!よろしくね、みんな!」

〈敵もお待ちかねです。よろしくお願いしますよ、ユーノ。〉

「OK!ユーノ・スクライア、クルセイドライザー、目標を粉砕する!」

囮を買って出るように自ら前へと出たユーノ。
当然、射撃が集中してくるが、もともとウラヌスは相手の攻撃をかすらせもしないというコンセプトのもとに造り上げられた機体だ。
持ち前の高機動と異常なまでの加速力を利用して敵を翻弄していく。
だが、

「ええい!!奴は狙うな!!まずは止まっている翼のガンダムをやるんだ!!」

当たらないと見るや、今度は標的をなのはの操るサリエルへと変更する。
当然、なのはもそれに気がついてはいるが、チャージも移動もやめようとしない。
なぜなら、

「行け、マルチビット!」

二つ一組になった翠のビットが四角形を作り、内側に高圧縮されたGN粒子を放出。
通常のGNフィールドの倍近い強度を誇る粒子の盾を出現させてなのはを守った。

かつて、GNアームズに搭載されていた装備の強化型、GNマルチビットⅡ。
粒子貯蔵量と出力のアップを図り、なおかつ魔導士であるユーノのために念話の波長によってコントロールを可能とした装備である。
彼の手脚のように自在に動くそれは、なのはのことを守るというあの時の決意をそのまま体現しているようだった。

「ありがとう!こっちもチャージが完了したよ!」

「了解!遠慮せず撃って!!」

「うん!!」

ストライクカノンとフォートレス、さらに射出されたブラスタービットがジンクスを取り囲み、たまりにたまった粒子と魔力の混合物を熱線として吹き出した。

〈Excellence cannon・Variable raid!〉

「シューーーーーートッ!!!!」

全方位からのビームの一斉掃射。
彼女たちが相手をしていた十機のうちの半分、五機がそれに巻き込まれて大破した。
だが、残る五体も黙ってやられるつもりはない。
一矢報いんとサーベルを片手に突っ込んでくるが、その前に金属の翼をもった天使が舞い降りた。

「ダブルオーライザー、目標を駆逐する。」

その刃でジンクスの腕を斬り裂き、頭部へビームサーベルを突き刺してとどめを刺す。
ジンクスのパイロットたちに不備はない。
あえて言うならば、刹那・F・セイエイとダブルオーライザーに接近戦を挑むことの無謀さを知らなかったことだけである。

「ありがとうございます。」

「お前に何かあればユーノが悲しむ。」

「フフッ!そうですね!」

「二人とも!仲良く喋ってないで決めるよ!」

若干ヤキモチの混じったユーノの声に急かされ、二人も遥か上空へと舞い上がる。
残ったジンクスを見下ろし、まず中心へ向けてダブルオーライザーが光弾を撃ち込む。
陣形を再構築しつつあったのだが、その一撃を撃ちこまれた場所を中心に散開。
そして、間髪いれずサリエルとクルセイドライザーがそれぞれの最大の武器を構えてそこへ急降下した。

「いくよ!!」

「うん!!」

ストライクカノンとツインランチャーから光が迸る。
背中の合わせのままグルグルと回転し、二機の砲撃は同じ高度にいる敵機をことごとく破壊した。

「そんな、バカな……」

唖然とするしかないギャラン。
10機ものMSがわずか三機を前に為す術もなく全滅。
悪い夢だと思いたいが、背後からかけられた声に真実だと認めざるを得なかった。

「わかったろう、ギャラン。一人のエゴでできることなどたかが知れている。奴らのように、他者を思う力こそが世界を変えるんだ。」

マリアンヌは悲しげな顔で語りかけるが、ギャランはわなわなとふるえながら操縦桿を渾身の力で押し倒した。

「ふざけるな……!!俺はそんなもの認めない!!俺は…俺はぁぁぁぁ!!」

「認めないもなにもない!!」

ビットで弾幕を張って姿をくらませる三機。
しかし、すぐさま衝撃がギャランの操るジンクスを貫いた。

「お前のそのエゴこそが、世界を歪ませる!!」

ダブルオーライザーは二本の剣で胸部にクロスの傷を刻みこみ、正面へと蹴り飛ばした。

「その歪みを破壊するのが、ソレスタルビーイング!!」

ゴツンとツインランチャーの発射口に体を押し付けられる。
ユーノは後ろを向かずにトリガーを引き、ギャランのジンクスをさらに上へと押し上げた。

「俺たちとガンダムがそれを為す!!」

ダブルオーライザーは首にビームサーベルを突き立て、さらにロングソードで下へと叩き落とす。

「そうだ!!」

クルセイドライザーが右肩にビームサーベルを突き刺し、再び上へと押し上げていく。
そこには、同じくビームサーベルを握るダブルオーライザーが待っていた。

「俺が!!」

ダブルオーライザーも左肩にビームサーベルを突き刺す。

「僕たちが!!」

火花をあげながら二つの光刃が赤い線を白い装甲に描き上げる。
そして、

「「ガンダムだっ!!!!」」

両腕が胴体から離れていく。
腕だけではない。
すでにボロボロだった腰の部分も衝撃で完全に分解し、胸の装甲も四等分されてバラバラと落ちていった。

「目標の全撃破を確認。」

「ミッション、完了。」

「……お疲れ様。」

少し寂しそうに、離れたところにいたなのはが近づいてきた。

「また……行っちゃうんだね。」

「うん……ごめん。」

「ううん、いいの。それに、わたしも…」

「っ!?ユーノ!!」

「「!!」」

刹那の鋭い声が飛ぶ。
咄嗟にビットでシールドを作ったが、防ぎきれなかったビームがサリエルを襲った。

「なのは!!」

大きな損傷はないが、腹部に突き刺すような熱さでなのはは上手く声を出せなかった。
敵MSは全て撃破したから、これ以上の攻撃をできるはずがない。
できるとすれば、味方機だけだ。

「アッハハハハ!!真打ち登場よ!!」

ガデッサのランチャーが再び火を噴く。
今度はサリエルもいないので素早い動きでかわしてツインランチャーを撃ち返そうとするが、今度は別方向からの砲撃でその隙も潰されてしまった。

「あいつは……!」

忘れもしない漆黒の機体。
あの気持ちの悪い感覚を思い出すと今でも胃酸が逆流してしまいそうになる。

「イノベイター……!リボンズの差し金か!!」

「ピンポーン!けど、俺は別にそのためだけに来たわけじゃないけどな!」

(……?この声、どこかで…)

バーナウでの戦いとはうって変わり、二機は激しい砲撃の打ち合いを演じて見せる。

「パーティクル!!」

「あたるかよ!!」

プルトが避けざまに両肩のランチャーを撃ち返す。

「遅い!!バレット!!」

すると、今度はクルセイドライザーが悠々とかわして実弾を発射するが、プルトの腕に一発だけ弾かれた程度で残りはすべて空を切った。
たった二機でMSが数十機単位で投入されている激戦地さながらの戦闘を繰り広げるクルセイドライザーとプルトだったが、不意にプルトのパイロットがニヤリと笑った。

「いいのかな~、俺だけに集中してて?」

「なに!?」

「ほら、お仲間が大ピンチだぜ?あ~あ、ありゃあ相当キツイな。」

ハッと我に返るがもう遅い。
気付けばダブルオーライザーだけでなく、他のガンダムとも大きく引き離されていた。
しかも、こうして撃ちあいをしている間にアロウズと管理局の部隊が包囲網を完成させつつある。
ダブルオーライザーも以前遭遇していた鳥のようなMAと指先からビームサーベルを爪のように伸ばすガラッゾに苦戦を強いられていた。

「マイスターといってもこの程度か。」

「ほらほら!!いつもみたいに言ってみたら!?目標を駆逐するってさぁ!!」

「速い……!」

防ぐだけで手一杯の刹那はどうにか距離を取らせようと剣を振るが、剣戟が激しくなるだけで一向にその気配は見えない。

また別の地点では、ケルディムはすでに近距離戦闘に持ち込まれ、マシンガンやビームピストルで応戦はしているものの明らかに押されている。

「クソッ!!そうだとは思ってたけど、制圧が済めば俺たちは用済みかよ!!」

「グッ……!!この数じゃ…うあっ!流石に振りきれない!!」

アリオスも変形を繰り返しながら追跡を振り切ろうと躍起になるが、数にものをいわせて先回りをされてはその機動性を生かしきれない。

そして、セラヴィーとスフィンクスは互いにかばい合うように猛攻に耐えていた。

「ウェンディ!無理をするな!!」

「つっても、無理しないとどうにもならないって!!」

攻撃が来るとセラヴィーがGNフィールドを張って盾になり、素早い敵にはスフィンクスがスピードを生かして牽制する。
しかし、それももう限界に近い。

さらに、プトレマイオスも危機的状況にあった。

「きゃああぁぁぁぁ!!」

艦を襲う揺れでミレイナが悲鳴を上げる。
しかし、スメラギだけは歯を食いしばって必死に指示を出していた。

「ひるんじゃ駄目!!何としてもガンダムと合流するのよ!!」

「それでその後どうすんだよ!?完全に囲まれてんだぞ!?」

「わかってる!!とにかく、今はここを抜けることを最優先にして!!」

ミサイルの雨に、こちらもミサイルとビーム砲をお返しするが一向に効果が上がらない。
むしろ、攻撃が酷くなっていくような感じさえする。

唯一の救いは、さっきまで協力していたスバルたちが仕掛けてこないでいてくれることだろうか。

そして、ユーノ自身も追い詰められつつあった。

「ほらほら!!あんたの相手はそいつだけじゃないんだよ!!」

「クッ…ソッ……!!」

ガデッサとプルトの攻撃がオーライザーのコックピットの近くをかすめ、沙慈だけでなくユーノもヒヤッとする。
もう、迷っている時間はなかった。

「刹那!!聞こえる!?刹那!!」

「クッ……!!なんだ!?」

「TRANS-AMだ!!」

「なに!?」

「TRANS-AMでこいつらを叩き潰す!!もうそれしかない!!」

TRANS-AMなしでもすでに驚異的な性能を発揮することはもう証明された。
ならば、TRANS-AMを使うとどうなるのか。
むしろその前に、

「機体が持つのか!?」

「わからない!!でも、もう他に方法が無いんだ!!」

こればっかりは実戦ではなく、性能実験で安全性を確かめて使いたかったとユーノは思う。
ツインドライヴのTRANS-AMの問題点はなにもその不安定さだけが理由ではない。
生み出す粒子のもつエネルギーに機体が耐えられないのだ。
オーライザーを装備すればその点も克服できるとイアンは言っていたが、直にそれを体験している二人にはどれほど安心だと言われても不安をぬぐいきれない。
あれを、人の手で扱いきれるのかという疑念が心の隅から時折顔をのぞかせてくるのだ。

しかし、二人がそれを心の中から抹殺するのにそれほど時間はかからなかった。

「「TRANS-AM!!」」

赤く滾る二機のガンダム。
何が起きたのかいち早く理解したイノベイターは警戒を強めるが、結果は彼らの予想の遥か上をいっていた。

「な!?」

強烈な砲撃が真後ろから飛んできた。
目の前には確かにクルセイドライザーがいるのに、ありえない。
ヒリングは混乱するが、視界にとらえていたクルセイドライザーが霧散していく姿を見ることで、そのカラクリの正体を解き明かすのに成功していた。

「残像!?」

すぐさま振り向き、砲撃が来た方へビームを撃つが再び残像が粒子を残して消える。
本体を探して辺りへ手当たり次第にサーチをかけるが、すでにユーノはその場を離れていた。

「グッ……ッ…!わ、悪いけど、お前にかまっている暇はない!!」

さらに強いGに体を押さえつけられながらガデッサを置いて仲間のもとへと急ぐクルセイドライザー。
しかし、ガデッサを操るヒリングにはもう追う気はなかった。

「あれがツインドライヴの真の力……どうしてリボンズは私たちに情報をくれなかったの?」

「そりゃあ、あいつも全然知らないからだよ。」

煙の中から、撃墜されたはずの機体がぬぅっと現れる。
いや、すでにそれはあの分厚い装甲で守られた機体ではなかった。
肩にあったランチャーは背中へと移動し、丸い頭が剥がれ落ちて二つの角を持つ顔が赤い瞳とともにその姿を出現させた。

「あら、お早い復活で。」

「俺もそろそろ真面目にお仕事しろって言われたんでな。本当の姿を隠したままじゃみんなは信用してくれないからな。」

そう言って少年がヘルメットを外すと、金色の美しい糸がコックピットの中に広がった。



プトレマイオス ブリッジ

「あれは……!?」

スメラギだけでなく、全員が驚いた。
それは、まるで光の矢。
二つの赤い輝きが、プトレマイオスとガンダム四機を取り囲む敵をみるみるうちに薙ぎ払っていく。
もはや、戦術が何の意味も持たないという戦術予報士にとって屈辱的な状況にもかかわらず、スメラギは感嘆の念しか湧いてこなかった。

「とんでもねぇな。」

スコープでその動きを追いながらロックオンはポツリとつぶやく。
こっちが敵機に狙いをつけた時には二機はすでにそれを撃墜している。
そして、次の獲物へ視線を移した時にはまた先に墜とされている。
これでは狙撃手として何もすることなどないではないか。

「ったく、俺たちゃお飾りかよ。」

文句を言いながらも今度は戦域全体を見渡す。
あの二機がいかに優れた性能を持っていても、TRANS-AMが終了すればまたこちらが不利になる。
撤退するなら、TRANS-AMが続いている今のうちだ。

(南と東は完全に抑えられてるな……西は新型がまだいる。となると、抜けられるのは北から北西のわずかな隙間か。)

プトレマイオスと味方機へ通信を繋ぐと、ロックオンは呆けている全員を怒鳴りつけた。

「ボヤボヤすんな!!あいつらが時間稼いでる間に撤退だ!!」

『りょ、了解!!』



???

気がつくと、なのははそこにいた。
白い世界。
赤や緑、色とりどりの光が星のように輝き、自分を照らし出している。
いや、そもそも肉体がここにあるのかすらわからない。
さっきまで座っていた椅子の感覚や、来ていたスーツのフィット感もない。
まるで、心だけここに連れてこられたような、そんな感じだった。

『なんだ…これは?』

声が聞こえる。

『どうして……?僕は、確かにさっきまで…』

さっきまで一緒に戦っていた二人。
彼らもここにいるのだろうか。

『ユーノさん!?』

『刹那!?それに、エリオ君も!?』

エリオと沙慈もいる。

『ど、どうなってんだこれ!?』

『わからん……だが…』

967の言おうとした言葉を、なのはが続ける。

『みんなの心が……伝わってくる…』

『なのは!?』

ユーノがこっちを見ている。
姿は見えないが、そこにいることだけはわかった。

不思議な感覚だ。
離れているのに、すぐそこに互いの存在を感じられる。
ひょっとしたら、いつも一緒にいたあの時よりも近くにいるのではないかとさえ思ってしまう。
しかし、奇跡のような時間は終わりを告げた。
ユーノがゆっくりと離れていってしまう。
止めたいのに止められない。
もどかしく、寂しさで胸がいっぱいになるが、だからこそ叫ぶ。

『待ってるから!!』

『!!』

最後にユーノが振り向く。

『私、ずっと待ってる!!あの時してくれた約束、信じてるから!!』

『……!うん!待ってて!!絶対戻ってくるから!!』



ジャオーム島 遺跡入口前

「なんやったんや……今の?」

最後の一撃で昏倒させた敵の前ではやては額を押さえながら自分の状態を確認する。

中にいるリインは無事。
体も負傷はしているが命に別条はないし、脳にも損傷はない。
だからこそわからない。

念話とも違うあの声。
まるで、この場にいる全員の声が一つの通信回線に集約されたようなあの感じ。
そしてその中にはあの二人もいた。

「はやて……」

「ヴィータも聞こえたんやな。」

こくりとうなずくヴィータ。
大きなため息をもらしながら地べたにどっかりと腰を下ろし、さらに溜め息を漏らす。

「何やってんだよあいつらは……戦闘中にいちゃいちゃしてんじゃねぇよ。しかも敵同士だろうが。」

「とか何とか言って、本当は嬉しいクセに~♪」

「殴るぞリイン。」

ユニゾンアウトして赤くなった顔をつつくリインに軽くチョップをするヴィータ。
その時、ふと気付く。

「……あれ?」

傷をおった箇所が痛くない。
治癒も痛覚麻痺の魔法も特に使っていないはずなのだが、ここで戦い始めたころよりずっと楽だ。
体も心なしか軽い。

そしてはやても、

「……そう言えば、最後の一発。やけに楽に撃てたなぁ……」

最後のデアボリックエミッション。
もうまともに発動できる自信はなかったが、いつもよりもスムーズに使えたようにも思えてくる。
脇の痛みも随分楽になったし、集中力も増している気がする。
ただし、そうはいってもやはり怪我は怪我。
思うように動かせないところは当然ながらいうことを聞いてくれない。

「ま、とりあえず早いとこ戻ろか。マネキン大佐に報告せな。」

「長~いお説教が待ってそうですねぇ……」

「言わんといて……憂鬱になるから…」



上空

「なん、だったんだ…?」

呆けるユーノだが、さらに驚くべきものがモニターに表示されている。

「粒子生産量が理論的限界値を超えている……!」

300%が表示されたモニターにはありえない数値がいくつも表示され、初めは揺れがひどかった機体も今は驚くほど静かで安定している。
あの黒い機体を墜とした後も何機も仕留めた気がするが、いくつ倒したかは全く覚えていない。
ただ、その後のことはひどく鮮明に覚えていた。

「なのは……」

なのはの声が聞こえた。
それだけではない。
ダブルオーライザーに乗っているはずの刹那たちもすぐ横にいるようだった。
その刹那から通信が入る。

『……ユーノ。』

「刹那、君もあそこにいたの?」

『ということは、あれは夢じゃなかったんだな。』

敵の攻撃をかわしながら、ユーノは刹那の声にうなずく。

『……いや、考えるのはやめておこう。今はとにかく、ここを抜けることが先決だ。』

『激しく同意するぜ…来るぞ!!』

TRANS-AM状態の二機に攻撃が当たるはずもない。
しかし、その姿は確実に二人を動揺させた。

「そんな……!?」

背中の砲身を両脇から伸ばしてこちらにビームを撃ってきた機体。
フォルムは洗練されていて人間に近く、しかし黒い外殻が機械であることをありありと証明している。
額にはゆるりと曲がった金の角があり、二つの赤い目が煌々と輝いていた。

「ガンダム!?」

驚きのあまり、それ以上言葉を口にできなかった。
黒いガンダムが、クルセイドライザーを追いながら砲撃を繰り返してくる。
しかし、敵のガンダムは黒い機体だけではなかった。

「こっちとも遊んでよ!!」

「なに!?」

上から急降下してきたのはあの鳥のようなMA。
しかし、その途中で姿をどんどん変えていく。
グルリと回転した機首には広めに造られたV字の角をもつ頭が。
両脇からは手首に爪を持つ腕が現れ、両脚と粒子を噴射する翼を携えダブルオーライザーの前にそれは舞い降りる。

「こいつもガンダムだったのか……!!」

「そう。GNP-004、ガンダムマルス。私のもう一つの相棒よ、刹那。」

「敵のくせに気安く刹那の名前を呼ぶんじゃねぇやい!!ブッ飛ばすぞ!!」

「敵?違うわよ。だって、私は…」

ヘルメットを取ったガンダムマルスのパイロットを見て、刹那たちは息をのむ。
黒髪に黒い瞳。
15~16歳の少女らしい笑みを浮かべながらも、凛とした気品が漂っている。

「仲間でしょう、刹那?」

ユーノのパートナー、967がモニターの奥でニコリと笑っていた。

「なんで、967が……!?」

「そう驚くことないだろ、兄弟。」

呆然とたたずむ二人の前に、今度は黒いガンダムが舞い降りる。
そして、その内部の映像を見て声を失う。
ユーノに至っては、吐き気すらした。

「ひでぇ面だなぁ、おい。イノベイターだってそっくりさんだらけだし、ミッドにもフェイトみたいなのがいるだろうが。」

金色の長髪でヘラヘラと笑う声に頭痛がしてくる。
体内で反響していないその声は、あの時はわからなかったが今ならわかる。
聞きおぼえがあるもクソもない。
毎日、24時間沈黙を通しでもしない限り聞こえてくる声。
自分自身の声だったのだ。

「どうだい?自分とご対面した気分は?」

ソリア・スクライアの悪戯っぽい笑顔に、ユーノ・スクライアはその場で気絶してしまいそうになった。



同時刻
地球 カタロン・南アメリカ支部

時を同じくして、奥深いジャングルが紅蓮の炎に包まれていた。
動物たちは逃げ惑い、偽装されていた基地には死屍累々と動かなくなった人間が転がっている。
その中で、ほぼ唯一の生き残りと思われる人物が上から自分たちを見下ろすそれへ憎悪のまなざしを向けた。
しかし、そのMSはそれさえも喜んでいるように粒子ビームを発射する。

「っ……!悪魔め……!!」

その呟きを最後に、カタロンの南アメリカ支部の人員は全滅した。
そして、それを喜ぶ少女が一人。

「アハハハハ!!やった、やったよエリオ君!!」

ここにはいないパートナーの名を狂喜しながら叫ぶキャロ。
その目は理性を宿さず、しかし歪んだ喜びを享受して笑っていた。
もう、彼女の隣にフリードはいない。
そんなものがいたことすら忘れつつある彼女に、あの男がささやく。

「頑張りましたね、キャロさん。きっと、エリオ君も喜んでいるはずだ。」

「本当ですか!?」

「ええ。だから、もっと頑張って敵を倒しましょう。全ては、正義のために。」

「はい!!」

本当に嬉しそうに笑うキャロ。
だが、目の前の男の名前が思い出せない。
それだけではない。

(あ……れ…?エリオって………誰、だっけ…?)

誰のために戦っているのかすら、記憶の片隅へと消えつつあった。










希望の暁はそこにある
しかし、黄昏は夜明け前が一番暗い




あとがき
若干尻切れトンボな第50話でした。
ある意味メモリアルな回なのに、こんなんで良いのか!?
しかも、良かったのは初めのMSの戦闘シーンのみ……
でも、次回で一応補足はします。
そして、いよいよ次回でミッドとはしばしの間おさらば!(できるのか?)
伏線一気に回収したり、無理があるすぎるだろ!!みたいな作戦をスメラギさんが考えついてくれます(責任転嫁)
BORDERをBREAKしてくれるような人たちも出てくるので、お楽しみに。



[18122] 51.Operation・Air Burst
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:f9e00af6
Date: 2011/10/16 09:08
第12管理世界フェディキア 拘留施設

建物全体を揺さぶる大きな震動でヴェロッサは壁から離れて身支度を始めた。
ここに来てからしばらく経つが、この服のセンスは如何ともし難いものがある。
この薄緑色一色で着心地も最悪のこの服は彼の美的センスとは全く相いれない。
食事やその他の点は思っていたより悪くなかったが、この服だけで最低の評価をつけても問題ないと思えた。

「さて。僕の一張羅をクリーニングに出してくれてると助かるんだけどな。」

髪形を整え終えると、そこにはすでに翠色のパイロットスーツに身を包んだ人物が立っている。
デバイスもなしに、そんなもの必要ないとでも言うようにのした警備員を無造作に転がしてヘルメットをとった彼はヴェロッサの牢のカギを開けた。

「悩み事かい?」

「!」

ハッと顔を上げたユーノに肩をすくめて見せるが、すぐにやれやれと呆れた顔で笑われた。

「まるで尋問ですね。」

「っと……気を害したんなら謝るよ。」

「別にかまいやしませんよ。もう解決済みですから。」

渡された自慢の白のスーツに腕を通そうとするヴェロッサだったが、続いて渡されたパイロットスーツにあからさまな拒否反応を示した。
しかし、構わずユーノがそれを押し付けてくるので溜め息を漏らしながら口を開いた。

「こっちを着ろと?」

「せっかく用意したんだから感謝くらいしてください。もう作戦は始まってるんですよ?」

ヘルメットを被り、改めてヴェロッサの方を見る。

「オペレーション・エアバースト。頭のネジが若干緩んでる二人が考えた、途方もない作戦の名前です。」

その二人の顔の後ろに浮かぶ、本当に不愉快極まりないもう一人の自分へ吐き捨てるかのように、ユーノはクラッドがふざけ半分でつけた作戦名をヴェロッサに告げた。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 51.Operation・Air Burst


16時間前 ジャオーム島

あまりの出来事に、頭の中が一瞬真っ白に染まった。
怒りで力が入るはずなのに、逆に操縦桿を握る手の力が抜けていくのを感じていた。
なぜ?どうして?などという、いくら自分に問いかけても答えの出るはずのない疑問を前に、完全に思考がストップしてしまっていた。
だが、その答えは目の前にいるもう一人の自分が教えてくれた。
きわめて遠回りで抽象的に。

「ユーノ……」

自分の声で名前を呼ばれただけで全身に鳥肌が立つのだということを発見しながら、まるで悪戯がバレた子供のように瞳を震わせて自分自身を見つめる。

「旧歴以前……遥か古の言葉で『淡い光』、『導くもの』などを意味する言葉…」

背格好やあどけなさが残る顔からして、ちょうど武力介入を始めたころの自分だろうか。
口調も完全に記憶を失っていたころそのままで、しかも少しでも大人のように見せようと伸ばしていた金の髪の毛が逆に子供臭さをにじませている。

「そこから転じて、後の時代では『月』を意味するようになる……」

荒っぽい口調の中に知性を含んだ言葉が脳に突き刺さってくる。
極めて強引に、そして繊細に。

「ソリア……こちらは旧歴以前、『強い輝き』、『屈服しないもの』を意味し、後に『太陽』を意味するようになる…」

「何が言いたい……!?」

ようやく声を絞って問いかける。
しかし、その手は今も冷凍庫に放り込まれているかのように絶え間なく震えていた。
その様に、小動物が精一杯威嚇する姿が重なってソリアは思わずクックッと笑ってしまった。

「なに、お前はどっちの名前がよかったんだってことさ。誰かの輝きを受けてしか光れないお前の根本的な弱さはそこに起因してるんじゃないか?」

「この名は僕が父さんからもらった大切な名前だ!お前にケチをつけられたくはないね!」

「……チッ!」

「……?」

一瞬、ソリアの表情が怒りで歪む。
しかし、それは本当に一瞬のことですぐにまた見下したような笑みを浮かべた。

「まあいい。俺がわざわざこんな退屈な戦場に来た理由は一つだ。」

「リボンズの差し金だろう?返事はわかってるはずだ。」

「そう言うなよ、兄弟。お前の能力を有効利用するには“俺”と一緒に来るのが一番だ。」

「断る!!イノベイターの道具にされるのはごめんだ!!」

先に仕掛けたのはユーノだった。
赤く輝くクルセイドライザーで一気に間合いを詰めにかかる。
しかし、

「そろそろだな。」

「!?」

突然の失速に戸惑うユーノ。
その理由は明白だった。

「TRANS-AMの終了時間だ!!」

「こ、こっちももう終わっちゃったぜ!?」

ダブルオーライザーも通常状態に戻り、967とジルの焦る声に動揺が奔る。
その中で、刹那だけは冷静だった。

「……時間を稼がれたな。」

「そういうこと♪でなきゃあんな長ったらしい話に付き合わないって。あたしたちも回りくどいことは嫌いだから。」

「さて……形勢逆転したところでもう一度聞くぜ?」

両脇に砲身を抱え、ソリアはニィッと口角を吊り上げる。

「投降するか、それともコックピットを潰されてツインドライヴだけを提供するか。さあ、どっちだ?」

「せ、刹那ぁ……!」

「……!心配するな、ジル。どうやら、とんだ物好きがいるらしい。」

そう言って刹那はクルセイドライザーへ暗号通信を送る。
その内容は、

(海面まで下降の後、最大速度で離脱?けど、この二機を相手にいくらなんでもそれは…)

しかし、他に手が思いつかないのも事実である。
それに、刹那に何の考えもないとは思えなかった。

「……967。」

「わかっている。」

「さあ、答えは?」

「3……」

エリオの声でカウントを開始する。

「2……」

沙慈が乾いた口で2をカウント。

「「1……」」

ジルと967の緊張感を高まる。
そしてついに、その時がやってくる。

「「0!!」」

刹那とユーノは質量軽減効果を停止し、重力の任せるまま落下を開始する。
上からの砲射撃を微妙な粒子の噴出でかわし、海面まで到達すると一気に加速を開始した。

「逃がすかよ!!」

動きが鈍くなった二機へそれぞれ狙いをつけるソリアとルーチェだったが、甲高い電子音に視線を上げた。

「!?なろぉ!!」

ズームアップしないと目視できない距離からのビームに一転して怒りをたぎらせるソリア。
ムキになって撃ち返すが、弾速は彼が受けた狙撃に比べてはるかに劣る。
当たるはずもなく、狙撃手は悠々それをかわした。

「ヴァイスさん!!フォン!!」

『お久しぶりっす。トレミーはすでに撤退を完了して助っ人の誘導に従ってます。』

「助っ人?」

『あげゃ!前を見てみな!!』

思わず体が硬直しそうになった。
戦闘中にもかかわらず、と言いたい人間もいるだろうが考えてほしい。
見たこともないMSが、それも数十機におよぶ数が大量に水しぶきをあげて自分の方へ迫って来ていたら腰を抜かすだろう。
今まさに、刹那とユーノはそれを体験しているのだ。

「う、うわわわ!?」

「このMSは…!?」

『すげぇだろ?俺も初めて見た時は驚いたぜ。』

『驚いてくれてなによりだけど、俺としてはさっさとこのクソ物騒な場所からおさらばしてほしいんだけどね。』

「お前は……!」

「知ってるの?」

刹那の反応に嬉しそうに男はⅤサインをする。
残った片手でスモークやEMCグレネードを投げて敵を撹乱すると、すぐさま方向転換してダブルオーライザーとクルセイドライザーに続く。

『知ってるつうより、少しばかし話をした程度さ。それより、早く戻らないとお仲間が心配するぜ?』

男の言葉にユーノはそのとおりだとペダルをさらに踏み込もうとするが、心の中でとぐろを巻く戸惑いがそれをためらわせる。

(……僕も…)

あれは間違いなく自分自身だった。
それも、気持ち悪いほどそっくりそのままの。
外見だけじゃない。
動きも、使ってくる手も、何もかもが一緒だ。
もしかしたら、あっちが本物でこっちが偽物なのではないかという疑念すら抱かせてくる。

(僕も……もしかしたら、ああなってたかもしれないのか?)

ピッタリと影のようについてまわるソリアの声や姿。
戻ろうとする間も、ずっとそのことばかりが頭から離れてくれなかった。



8時間後 第17管理世界エイオース バレリオ城塞都市 城内・大広間

一日寝れば嫌なことは大概忘れられるつもりでいたのに、今回の一件はその大概の内には入らなかったようだ。
疲れてろくに説明も聞かないまま泥のように眠ったのに、夢の中にまで出て来て目覚ましの代わりまでしてくれるのだ。

「……い…」

なにより、あの時の言葉。

『そう言うなよ、兄弟。お前の能力を有効利用するには“俺”と一緒に来るのが一番だ。』

奴は“俺たち”ではなく“俺”と言っていた。
だが、ただの言葉の綾かもしれない。

「…お……!」

しかし、なぜか気にかかる。
やつが、ソリアがまるでイノベイター、そして管理局を実質支配下に置いているファルベルのどちらにも与していないように思えてきてしまう。
まるで、ただ利用しているだけとでもいうように。

「おいっ!!」

「!」

耳元で怒鳴られてユーノは跳び上がる。
きょろきょろとあたりを見渡すと、ほぼ全員が白い目で自分を見ていた。

「昨日あんだけ寝てたくせにいい御身分だな。それとも、天才ユーノ君には作戦の説明ももういらないってか?」

「ごめん、ハイネ。そんなことないよ。」

「それにしても、無限書庫の代表がこんな裏側の人間の集まりにやってきてよかったのか?」

前髪で片眼を隠しながらクロウが問うと、ブリジットと一緒に食事にありついていたアルフが答えた。

「大丈夫じゃないけど、バレなきゃどうってことないって。」

「裏を返せばばれるとヤバいってことでしょ……それより、あんたそっちの子はさっきから食べてばっかなんだけど?」

「労働基準法を無視する雇い主のせいで常に空腹なんです。」

「ウソをつけ。」

綺麗に肉のなくなった骨まで噛み砕いて喉の奥に押し込むブリジットをたしなめるようにシグナムが彼の頭に手を置く。
彼女の疲れきった顔には、今までバカにならない食費を稼ぐために重ねてきた苦労が自然とにじみ出ていて、アイナは同情の涙を禁じ得なかった。

「お~い、全員集合ではしゃぎたいのはわかるけど俺たちは喧々諤々の作戦会議の真っただ中なんですがね?」

椅子の背もたれに顎を乗せているクラッドは話し合いに参加していないメンツに釘を刺したうえで、クルリと椅子を回してスメラギと向かい合う。

「で、やっぱり協力はしたくないわけ?」

「ええ。私たちは一刻も早く地球に戻りたいんです。……いえ、戻らないといけなくなりました。」

スメラギのその言葉にフェルトは胸に当てていた手をぎゅっと握りしめる。

あの時、はやてから受け取ったメモリーに入っていたのはとある兵器のデータ。
オービタルリングに設置された連邦……いや、アロウズの衛星兵器。
中東のスイールをたった一撃で消滅に追いやった悪魔の兵器だ。

「あれを放っておけばさらに犠牲が出ます。」

「だ~か~ら~、俺らが並行世界の渡航のための装置の組み立てを手伝うって言ってんじゃん。」

「その見返りにそちらの作戦を手伝えと?」

「悪い話じゃないじゃんかティエっち。俗に言うWin・Winってやつさ。」

妙な呼ばれ方をしたせいか、ティエリアは眉間にしわを寄せるが、クラッドは一切気にしない。

「俺らもちゃんとした大将が欲しくてさぁ。レジアス中将を口説き落とすにはオーリス三佐を助けるのが一番の近道ってわけ。それに、人質使って服従させるなんて倫理的にアウトじゃね?」

「あのおっさんを助けられれば旦那についても何かわかるかもしれないんだ!頼むよ!!」

「アギトさんだったかしら?それでも、私たちは協力できないわ。」

「なんでさ!!」

「あなたたちがそのオーリス三佐を人質に同じことをしないって保証がないからよ。」

スメラギの指摘にアギトはそれ以上何も言えなくなるが、クラッドは肩をすくめて苦笑う。

「そこんところは信じてもらうしかないねぇ。一応、二人が断れば適当な管理世界へ高飛びさせるつもりだよ。ついでのついでに、その時は俺が大将をやることになるがね。」

「不安ね。」

「不安よ。」

「不安だな。」

「不安ですわね。」

「終わったな。」

「お~い、ヒルダ~?このムカつく奴らどっかやっといて~!」

ドゥーエたちに青筋を浮かべながらもなんとかこらえて笑顔を保つクラッド。
しかし、スメラギが不審に思っている点はそこだけではない。

「なぜいまさらレジアス中将を担ぎ出す必要があるの?あなたが指導してここまでの組織を作ったんじゃないの?」

「買い被りすぎだって。俺はほとんど部下に任せっ切りだからね。『責任者は責任を取るのが仕事です!』ってやつ?でも、俺についてきてくれる奴なんて数はたかが知れてるんでね。レジアス中将の後光にあやかって人集めしたいってわけ。それと、一段落ついたときに俺の首だけじゃ収まりがつきそうにないからなぁ。一緒に若い連中のためにスケープゴートになってもらいたいなぁ、とか考えてるってわけよ。」

「スケープゴートって……」

「なに驚いてんの?人様の迷惑になったら罰を受ける。当然のことだろ?けど、俺のわがままに振り回された奴らまで犠牲になるのは忍びないのさ。全部ケリがついたら懲戒免職でも手錠でも最高刑でも何でもこいや!っという心構えをしておいてなんか問題ある?それとも、そっちさんはそういう覚悟もなしなのか?」

無論、覚悟はしている。
しかし、こうもあっさり口にする人間がいるとは思わなかった。

「それと、一応言っておくけど協力してくれないんなら無事に地球に戻れると思わない方がいいぜ。」

「!」

咄嗟に各々武器を抜くが遅かった。
プトレマイオスクルーを武装した集団が取り囲む。
ヒルダに連れていかれたと思ったドゥーエたちも得物を構え、さらにはシグナムもレヴァンティンでクロウとハイネの動きを封じていた。
さらに、スメラギにもマリアンヌの刃が突きつけられた。

「フライハイトさん……あなたもですか。」

「悪いな。俺はソレスタルビーイングじゃなくてカタロンだ。協力してくれそうな奴らの頼みを無下には断れん。」

こめかみに銃口から伝わる嫌な冷たさを感じながらも、ユーノは片手で静かにそれを払いのけると、つかつかとクラッドのもとへ歩いていく。
そして、

「てい。」

「あた。」

頭に軽いチョップを打ちこむ、というより乗せて呆れてため息を漏らした。

「こういう交渉のされ方は僕たちは嫌いです。それと、最初っから本気じゃない脅しなんて脅しの意味ないですよ。」

「あれ?バレてた?」

「うちにはそういうのが良くわかる子がいますから。」

照れて頭をかくジルを一瞥すると、クラッドは胸ポケットから取り出した水鉄砲を自分の顔にかける。
すると、先程までの緊張感が嘘のように解け、武装していた面々も武器をしまった。

「……わーったよ。オーリス三佐は俺らだけでどうにかする。渡航装置はタダで手伝ってやるよ。ったく……フェディキアの拘留施設には連邦もいるから俺らだけじゃ厳しいんだけどな……」

「フェディキア?」

「ん?そだよ。連邦も管理局もわんさかいるフェディキアにお姫様は囚われてるわけ。」

「……はぁ…」

がっくり肩を落とすと、クロウは耳についていたエルダを外してスメラギに投げ渡す。

「すまんが、俺は彼らの作戦に参加することを進言する。理由はそこにあるとおりだ。」

「……なるほどね。たしかに、これは仕方ないわね。」

スメラギの指示でエルダがある顔写真を宙に投影する。
見覚えのあるその写真にある者は嘆息し、またある者は嬉しそうにそのホログラムを投影しているエルダへと駆け寄った。

「悪いけど、そっちも予定変更を願えるかしら?私たちはヴェロッサ・アコースの救出のためにフェディキアの拘留施設へ向かいます。」

「あらら、9回裏2アウトからまさかの逆転満塁ホームランってやつかぁ?俺の誠心誠意は突っぱねたくせに。」

予想外の形で協力を得られることになり、クラッドは背もたれに顔をぐりぐり押し付けて拗ねる。
どうやら、あの手この手で協力を求めたにも関わらず断られたのに、ヴェロッサの救出という理由だけであっさり全員が賛成に傾いたのが面白くないようだ。
しかし、

(ま、そういう奴らだから信用して助けを求めたんだけどな。)



現在 フェディキア 拘留施設

「それで?ハウンドは来てるの?」

「ええ!シェリリンがしっかり整備してくれてますよ!」

混乱を極める廊下を走りぬけていく二人。
そして、待ちかねていた人物と合流した。

「遅い!」

「すいません、ピーリス中尉。けど、目標の場所はわかりました。」

ソーマの前にあった壁の前に立ち、D・クルセイドを起動するユーノ。
ガシャンというカートリッジの排出音と同時に翠色の奔流が右手の盾を包みこんでいく。

「ショートカットします!」

〈Assault Bunker!〉

一撃で分厚いコンクリートの壁を余波や瓦礫を使って2、3枚ずつ撃ち抜いていく。
さらに、左手のサーベルも振るってノンストップでオーリスの幽閉されている空間の入口へたどり着いた。

「ここからが本番ですね。」

「だね。けど、外は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。」

ユーノがマリーにニッコリ笑いかける。

「頭のネジが緩んでいても、あの二人は優秀ですから。」



外部

「ウソだっ!!」

MSに取り囲まれているダブルオーライザーの中でジルが叫ぶ。
よほど戦力が集中していたのか各機10機後半ほどの数を相手にせねばならず、かなり苦しい状況だ。
なにより、

「上から狙い撃たれるってのはいい気分じゃないな!!」

そう、ロックオンの言うとおり。
今、フェレシュテや967が動かしているクルセイドライザーも含め、ガンダム9機は地上に張り付くように戦いを展開しているのだ。
これはこの作戦の要となるものに巻き込まれないための措置なのだが、その準備が整うまでは否応なく苦戦を強いられることになる。
だからこそ、性能が抜きんでているガンダムが時間稼ぎを担当しているのだが、

「もうそろそろいいんじゃね!!?」

『いえ。あと一分は踏ん張ってください。』

「ふざけんなーーーーーーー!!!!」

ジルの要望をヒルダはしれっと却下する。
普段のお転婆ぶりとは対照的に、オペレーターに徹している彼女はまるでマシーンだ。

『すいません。先輩はお仕事始めるとスイッチ切り変わっちゃうんです。』

「じゃああんたは!?情があるならもういい加減助けてくんない!?」

『もうしばらく頑張ってくださいね♪』

「あんたの方が性質悪いぞ!!」

(自分だってよっぽどじゃない。)

涙の切望を笑顔で受け流すチヒロ・M・カスケイドは、小さなサポート役を冷たくあしらいながらも画面端のクロックを見てうなずいた。

「各員に通達。MS機動開始してください。狙撃型は現状を維持しつつ防衛線の上昇に合わせて各機進撃を。強襲型と重火力型は敵勢力の撃破を最優先してください。」

『了解!』

クロックの時間が30をきる。
戦闘がおこなわれるより遥か上、上空1キロの地点に到達した二人と数人にも指示が出る。

「投下準備に入ってください。爆破はこちらがします。」

『了解した。せいぜい自爆しないように盛大にばらまかせてもらう。』

『シュルトの特徴が台無しだな……こんな荷物を運ばせてくれるな。』

「まーまー。その荷物も捨てられるんだから我慢してくださいよ……おっと。先輩とノリエガさんが少し怒ってるんでそろそろ秒読み開始しまーす。」

「カウント、10…9…」

ヒルダの冷静な声でのカウントの終了を心待ちにするマイスターたち。

「8…7…6…5秒前。」

一方、チヒロの快活な声にボルテージを高めていく境界の破壊者たち。

「4…3…」

「2…1…0。」

プトレマイオスのオペレーター二人のカウントが終了したその時、指揮官二人はカッと目を見開いた。

「「オペレーション・エアバースト、開始!!」」

「了解!!」

まず動いたのは上空にいたレイとマリアンヌ率いる航空部隊。
搭載量ギリギリまで積みこんだ爆雷を一斉に下の連邦・管理局混成軍めがけて落下させていく。
そして、それに気付いた彼らが撃ち落とす暇もなく、

「爆破。」

爆破された爆雷からは小型の機雷が散布され、混成軍のMSは破壊、もしくはダメージを負った状態で地上へと叩き落とされた。
それを待ち構えていたのは、秘密裏に開発されていたMS、ボーダーブレイカーだ。
さまざまなタイプで集団を作り、手負いになったMSへガンダムと挟撃する形で一気に襲いかかった。

「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ガトリングでできた弾幕を抜けてクラッドの操るタイプCのバイザーのような眼部が輝く。
GN粒子を纏った大剣でジンクスを一刀両断すると、慣性に任せてそのまま次の機体へと突撃していった。

一方、こちらはもっと過激だ。
ボーダーブレイカー特有の分厚い装甲に任せて敵の弾丸をかいくぐり、至近距離でビームを連射した後で二本の刀のような剣で斬り抜けた。

「リヒトメッサーか……なかなかの斬れ味だね。」

『調子に乗るなよ天才少年。その歳で早死には嫌だろ?』

「別に天才だとは思っていないよ。ただ……」

ブリジットはコックピットの中で苦笑する。

「保護責任者があれじゃあ、自分でも天才なんじゃと思いたくもなるさ。」

『ハハハ……そのセリフ、間違ってもシグナムちゃんの前じゃ言わない方がいいぞ。』



内部

「誰が機械音痴だ!!」

〈誰もそんなこと言ってないって!!〉

失礼な電波を受信したシグナムは力任せに炎を纏った刃を振り抜く。
壁についた焦げ痕は、彼女の怒り、いや、悔しさを表している。

〈仕方ないよ、あれじゃ……〉

「私は車の運転免許も持っている!!MSくらいすぐに……」

〈やめて!基地ひとつ潰してまであんたが乗る必要はないよ!!〉

……実は、すでにシグナムはMSの操縦訓練を受けていた。
しかし、結果は散々だった。
シミュレーションではこけてそこから立つことができない。
とどめにごちゃごちゃしたスイッチ類を扱いきることができずに通信も満足にできなかった。

こうして、シグナムは全員から(予算や人員的被害が原因で)MS搭乗を拒絶されることと相成った。

「まったく、私は機械音痴ではないと言っている……」

(強いて言うならMS音痴か。)

「それはそうと、ユーノ達はどうなった?」

〈ああ、ついさっき突入したってさ。だから、もうちょいここで派手にお祭り騒ぎとしゃれこもうぜ。〉

「了解だ。レヴァンティン!!」

〈Explosion!!〉

刃が業火と化し、廊下の空気を燃え立たせる。
その中にたたずむのは、信念に支えられた騎士とその融合騎。

「烈火の将、シグナム。」

〈同じく、烈火の剣精アギト!〉

「〈押し通る!!〉」



封鎖区域 拘束室

建物全体が揺れた時、初めは遂に来るべきものが来たと思った。
自分を生かしているのは父を無理にでも従わせるためであり、利用価値がなくなれば即座に始末するつもりなのはわかっていた。
しかし、オーリス・ゲイズの予想は意外な人物の手によって覆ることとなった。

「ちょ……またガジェット!?」

「ギロチンワイヤーだの吊り天井だの時代はずれな罠を使ってるくせに最後は機械頼りか。随分と節操のないことで。」

なぜだかひどく外が騒がしい。
喚き声と爆発音、さらに金属がぶつかりあい、甲高い音をたてながら斬れていくことが部屋の中からもわかる。
不思議に思ったオーリスが外でなにが起こっているのか確認しようと扉に近づこうとしたその時、

「せぇぇぇぇい!!!!」

「キャアッ!!?」

鋼鉄製のドアにポッカリと人ひとりが潜り抜けられる程度の穴が開いた。
そこから頭を下げて入ってきたのは、見覚えのある金髪の男だった。

「どうも、オーリス三佐。監禁生活が長かったのに相変わらずお美しいですね。」

うっすら目の下にクマが浮かんでいるのにそんなはずあるまいと思うオーリスだが、そのお世辞があまりにおかしくて笑ってしまった。

「随分派手な登場ですね、司書長。」

「残念ながらもう司書長じゃないんですよ。もともと未練のない肩書でしたし。」

コンコンと壁を叩いて外への直行ルートが無いことを確認すると二発目のバンカーで完全に扉を破壊してマリーとD・アリオスを呼ぶ。

「それじゃ、よろしくお願いします。僕たちも別ルートでガンダムとの合流地点に向かいます。」

「わかった。それじゃ、しっかりつかまってくださいね。」

オーリスが弱々しい手で腰に手を回したのを確認すると、マリーはD・アリオスとともに来た道を全速力で引き返していく。
残ったユーノとヴェロッサは各機へ連絡した。

「セカンドフェイズ完了。サードフェイズ開始。」

『了解!!』



フェディキア 拘留施設・北20㎞

『やられた。』というのが、はやての率直な感想だった。
ベッドの上で確認した戦場には赤い粒子の靄がかかり、その中で魚のようにギラギラと光を反射するそれがなんなのか理解するのにそれほど時間は必要なかった。

「上空に粒子と機雷を散布。制空権を剥奪してから地上戦へ持ち込む……悔しいけど、GNドライヴ搭載機の盲点をついた上手い方法や。」

これならばGNドライヴを持たず、さらに空中戦ができない機体でも十分に戦える。
それどころか、地上戦に特化させて集団で戦うことを徹底させれば五分以上、MSでの戦闘に不慣れな管理局の機体ならば向こうが優位に立つかもしれない。

「ただでさえこっちは空を自由に飛べるのがあたりまえって前提でMSを使ってきとる。いきなり地上戦をやれなんて言われて対応できる人間が何人おるか……」

今回出撃できなかったのは逆に幸運だったかもしれない。
もし、あの中になのはたちを放り込んでいたらタダでは済まなかった。

「ま……あれを壊してもらう駄賃にしては安う済んだから良しとしとこか。」



拘留施設 外部

(しかし、うちの戦況予報士様も途方もないこと考えてくれるぜ。まさか、戦場一帯を空中機雷で埋め尽くすなんてな。)

「BBのMSのほとんどはGNドライヴを使ってないし、地上戦しかできないからね。なら、OSを地上戦用に設定して特化させて空での戦闘を封じた方がいいって考えたんだろうね。」

地上すれすれを飛行してマリーとの合流地点に到達したアレルヤはそのままアリオスをMSに変形させて1mほど間を取って壁に寄せる。
すると、ジャストタイミングで壁が爆破されてオーリスを連れたマリーが現れた。

「ごめんね、マリー。危ないマネをさせて。」

「いいの。それより、早く彼女をアナスタシスへ。」

「うん。さあ、乗って!」

二人を乗せて狭くなったコックピットの中で息を一つ吐くと、一気にペダルをそこまで踏み込んだ。
未だに沈静化する気配のない戦場にオレンジの翼が幻影のごとく駆け抜けていく。
その影を捉えられる者は存在せず、そしてそれを気にかける者は味方にもいない。
なぜなら、彼を止められる者が存在しないことを知っているから。

「アリオス、目標へ飛翔する!」

戦場のはるか後方。
BBの有する母艦、アナスタシスとソレスタルビーイングの輸送艦、プトレマイオスⅡが待つ空域へ急ぐ。
この戦いの、いや、異世界での戦いの終わりを感じながら。



8時間前 第17管理世界 エイオース 城塞都市バレリオ 戦艦用ドック

「ホント、突貫作業ね。」

シェリリンはクッキーをブラックコーヒーで流し込むと再びモニターとのにらめっこを始める。
足りなかった物資も提供してもらったし、BBの技術者たちも総出で手伝ってくれているので間もなくプトレマイオス用の並行世界航行装置は完成するだろうが、明日には全員そろってぶっ倒れている自信があった。
ある一人を除いては。

「ユーノ、いい加減休んだ方がいいわよ。これが完成したら出撃なんでしょ?」

「じっとしてるのは性に合わないんだ。」

ユーノは手短にそう言うとさっさと別の場所に言って作業を続ける。
イアンもジェイルもいない今、余裕が無いのはわかる。
しかし、ユーノが今ここにいる理由は違う気がした。
必死に無心になろうと、自分の中にある不安を取り除こうとしているようにシェリリンには思えた。



1時間後 ユーノの部屋

肝心な部分はもう粗方出来上がったので、もう休むことにした。
まだまだいける気もするが、ここで無理をして作戦に支障が出てはどうしようもない。
ベッドの上で967を抱いて眠るヴィヴィオの額に優しく口づけをすると、ユーノはタオルケットを片手にソファーへ横になろうとする。
しかし、突然開いた扉から光とともに現れた一つの影にそれを中断した。

「……何か用ですか?」

「乗組員の人に頼んでここまで来たの。少し、お話ししてもいいかしら?」

頭をかきながらもシルビアを招き入れると、フワリと淡く光を放つ球を浮かべて二つのグラスに透明な液体を注ぐ。
それをグイッとあおるユーノに対し、恐る恐る口をつけたシルビアは喉を襲う熱さにむせた。

「こういうの飲んだことないんですか?」

「ケホッ!こ、ここまで強いのはさすがに……けど、こういうところはあの人に似たのね。」

「あの人って……先代のことですか?」

「ええ。あの人も嫌なことがあった日は少なくとも三本は空にしていたわ。」

ほとんど中身の残ったグラスを見つめるシルビアにユーノはフゥと吐息を洩らす。
そして、静かに語りだした。

「……初めは、味なんてどうでもよかったんです。あの男……リビング・クローザーとの一件以来、うっすらと四年前の記憶が蘇りかけることがあったんです。……怖かったですよ。訳がわからないことだらけで、自分が誰なのかわからなくて、自分の今を壊されてしまいそうで、それで飲み始めたんです。初めは一本…そのうち二本……挙句の果てに病院に担ぎ込まれるまで酔いつぶれもしました。」

「けど、忘れられなかった。」

「忘れちゃいけなかったんですよ。酒で忘れられるのは飲んでいるその時だけ。今や未来に待ちうけている物から逃げることなんてできない。」

「未来に待ちうけている物、か……」

クスッと小さく笑うと、シルビアはグラスの淵を白い指先でなぞる。

「……私たちは、管理局の保護下に入ることにしました。」

「は!?」

浅い酔いが一気に醒めた。
ただでさえユーノの一件で非戦闘員を含む翠玉人全体を危険視する傾向がまた出てきているのだ。
局員にも少なからずいい感情を抱いているとは言いにくい人間も多い。

「正気ですか!?世の中善人であふれかえってるわけじゃないってわかってます!?」

「起きちゃいますよ、あの子。」

もぞもぞと動くヴィヴィオに慌てて口を押さえるが、また寝息を立てるとユーノはホッと胸をなでおろした。

「……なんでいまさら。よりにもよって最悪のタイミングじゃないですか。」

「今回の戦いで流れなくてもいい血が流れすぎました。いくら私たちが戦いを拒もうと、力を求める者、それを恐れる者、そして私たちを憎む者の間で争いが起こるでしょう。」

「だから、あえて自分たちを犠牲にすると?」

「ええ。あなたのようにね。」

その一言で反論は完全に封じられた。
思えば、ユーノ自身が自分を顧みずに戦ってきたのだ。
いまさら意見する資格などあるはずがない。
そんなユーノの顔を覗き込み、シルビアは微笑んだ。

「あなたは認めたくないだろうけど、やっぱりあの人の子だわ。自分のことそっちのけで人を助けて周りに心配をかけるあたりそっくりね。けど……」

不機嫌そうに鼻からアルコール臭の混じる空気を出すユーノだったが、光に照らし出されたシルビアの顔に一瞬、懐かしいものを感じた。

「あなたを育てた人もそれをわかっていたんでしょうね。そういう優しいところを失くさないように、大切にしていたのがよくわかる。」

「……そりゃどうも。」

育ての親を褒められれば悪い気はしない。
単にそれだけのはずなのに、妙に嬉しい。
絶対切れない絆を確認できたような、そんな安心感。
これが、親子というものなのだろうか。

「今、いろいろと悩んでいるでしょう?」

「……だったら?」

「“あなたらしく”精一杯悩みなさい。無限書庫司書長としてではなく、ましてや翠の民の長の息子でもない。ユーノ・スクライアとして悩んで答えを出しなさい。」

いつの間にかからになっていたグラスを置き、シルビアは部屋を後にする。
と、その前にふりかえりウィンクをする。

「これがあなたの母親として私がしてあげられるアドバイス。そこから先は、一人で考えて決めなさい。」



現在 フェディキア 拘留施設外部

自分の力の意味。
そのせいで出てしまった犠牲。
そして、もう一人の自分。

こうしてトリガーを引いている最中もいろいろなことが頭の中をグルグルと行ったり来たりする。
ただ、ずっと前から決めていたことがある。
なにがあっても変わらないものが。

「あ~……もうやめた!!」

ユーノはフォロスクリーンを消してビットを飛ばす。
突然のことに967は驚くが、ユーノは気にせずツインランチャーを構えた。

「ウジウジ考えてたってどうしようもないんだ!!だったら、今まで通りやるだけだ!!」

二組ずつになったビットが力場を作りだす。
そこへめがけて、クルセイドライザーは砲撃を撃ちこんだ。

「サークルショット!!」

放たれた一撃は反射を繰り返し、味方の間を縫って敵だけを撃墜していく。
さらに、残った機体も再び分裂したビットによって頭のみを的確に撃ち抜かれて沈黙した。

「局員としてでもなければ無限書庫の司書長としてでもなければ、翠玉人の長でもない!ましてや、マイスターだからじゃない!!僕が僕だから、ユーノ・スクライアだから戦うんだ!!」

「ようやくらしくなったな。それじゃあ、そろそろ仕上げに入るとするか!」







『残念だったわね、交渉のカードを増やせなくて。』

「戦闘中にそういう話で通信するのやめてくんない?」

三体目のジンクスを沈黙させたクラッドもこの皮肉たっぷりの慰めに対しては流石にご機嫌というわけにはいかないようだ。
スメラギもネチネチ責め立てるのは趣味ではないが、クラッドをなかなか信用できなかったのは彼の交渉戦略にあるのだ。
少しくらい反省してもらわなければ気が収まらない。

『現代表者を盾に自分たちが他の翠玉人の武装解除を促す。上手く行けば、今後の活動において世論を味方につけられるかもしれないし、技術提供だって受けられるかもしれない。』

「そりゃ副産物みたいなもんだよ。……まあ、結構期待はしてたけど。」

『それはそうと、お待ちかねの人から暗号通信よ。』

「お!それで!?」

スメラギが笑顔でうなずいた。

『OKだそうよ。この作戦後、話を聞こうって。』

「了解!!ほんじゃ、見送りは派手に行きますか!!聞いてたな、ヒルダ!!」

『はい。各機、ガンダムの後退を援護せよ。繰り返す、ガンダムを援護せよ。』

『ガンダム各機はただちにトレミーに帰還!これより、私たちは次元跳躍に入ります!』

機雷と粒子の霧が晴れてくると、いつの間にかプトレマイオスが拘留施設の目と鼻の先に来ていた。
しかも、ガンダムたちはすでにコンテナへと戻っていっている上に、うっすら艦全体が光に覆われている。
それが指し示す事実はたった一つ。

「次元跳躍、カウント開始です!」

ありったけのGN粒子を使って並行世界へ向かうためのエネルギーを生み出すプトレマイオス。
だが、転移に全ての粒子を回しているためフィールドはおろか攻撃もできない。
当然、混成軍の機体はどうにか墜とそうと接近を試みるが、離陸しようとするそこへBBのMSが食いついてきて自由に動きが取れない。

「そんじゃ、また後で。」

アヘッドを足で押さえてその体から剣を抜いたクラッドはさっさと別れの挨拶を終わらせて自分たちも撤退を開始する。

(セイエイ。)

(シグナムか。なんだ?)

(今度会った時は手合わせ願おう。お前との試合は面白そうだ。)

物騒な、しかしシグナムらしい選別の言葉に刹那は無言の肯定で答える。
そして、この二人も互いの無事を祈った。

「それじゃ、そっちはクラウスたちに上手く説明してくれ。」

『そう簡単に信じてはくれないでしょうが、協力してくれると聞けば無下にはしないでしょう。』

「ああ。それじゃ、死ぬなよ。」

『そっちこそ。』

ロックオンとレイの会話を最後に、プトレマイオスの光はさらに激しさを増して空間を埋め尽くしていく。
そして、

「全員、対ショック姿勢!地球へ戻るわよ!」

「了解!!」







そして、ソレスタルビーイングは多次元世界から、自らの戦場へと帰った。









彼の地で方舟を待ち受けるのは、死を忘却させぬための墓標


あとがき

第51話を更新しました。
無理矢理締めようとしたので少々不満な点がありますが、それは次回のメメントモリ攻略戦にぶつけようと思います。
ここはガチでいくので更新が遅れたり、でないキャラがいるかもしれませんがそこのところはご容赦ください。
ついでに、地球編でもブレイクピラーの後でやり残したことをやるかもしれませんのであしからず。
では、次回もお楽しみに。



[18122] 52.メメントモリ攻略戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:54c296f7
Date: 2011/11/08 18:49
2312年 地球 テリシラ邸

(そうか、彼らが戻ったか。)

(はい。)

早朝のコーヒーを楽しんでいたテリシラはブリュンからの一報にクスリと笑う。

(何がおかしいんですか。)

(いや、君のお父さんが想像した通りの結果で安心しただけだ。)

ブリュンの脳量子波の質に明らかな変化が現れ、テリシラは一層おかしくて口元を曲げてしまう。
ユーノの能力を危惧していたラーズだったが、同時に同じ父親として彼の身を案じていただけにその思いは一入だろう。
そして、そのことを敏感に感じ取っていたブリュンも心のしこりが取れたに違いない。
それをわかっていながらこういった反応をしてしまったのは流石に意地が悪かっただろうか。

だが、これでテリシラの心配事はある意味、次のステージに進んだと言えるかもしれない。

(それで、例の衛星兵器は?)

(そちらも予想通りです。カタロンの宇宙艦隊が命からがら逃げ出したそうです。)

(むしろ、生き残りがいただけでももうけものだな。しかし、ソレスタルビーイングはどう出るかな?)

宇宙の敵へも照射が可能な衛星兵器の牙城を崩すのは容易なことではないはずだ。
アロウズが配備されているのは言うまでもなく、仮にあれに一太刀入れることが出来たとしても、あの分厚い装甲を前にしては破壊するには至らないであろう。
もし、本気で破壊する気ならば超がつくほどの高出力での砲撃をこれでもかと持ってくる必要がある。
ただでさえ孤軍奮闘していて余裕がない彼らにそこまでの余裕があるだろうか。

(ラーズ……君のお父さんの方でサポートできないか?)

(残念ですが無理でしょうね。リボンズ・アルマークからの干渉を受ければお父さんでもどうすることもできないですから。)

(やはりそうか……勝算はあると思うか?)

(……『ある。』、だそうです。)

思っていたより早く返事がきてテリシラはカップから口を離して目を白黒させた。
そして、今度はその様子を感じ取ったブリュンが饒舌になる。

(ユーノさんと“一緒に”それも“無事に”戻ってきたんです。彼らの結束とガンダムをもってすれば不可能はない、だそうです。)

(結束か……彼も随分と抽象的なものを信じるようになったんだな。)

(元からですよ。少し素直じゃないだけです。)

「違いない。」と笑うと、ブリュンと向かい合うのをやめて窓から空を見上げる。
そこから見えた景色は、それほどまでに禍々しいものが浮かんでいるとは思えないほど美しいものだった。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 52.メメントモリ攻略戦


メメントモリ周辺宙域

歪な六角形がオービタルリング上にドンとたたずんでいた。
頂点には赤い光が灯り、さながら漆黒の宇宙を支配する邪神のようだ。
だとしたら、ここを守護する艦隊はその邪神を崇める邪教の信者といったところだろうか。

「リント少佐。」

「やはり来ましたか。メメントモリ送電率は?」

オペレーターの声にリントの口がつりあがる。
周囲から爬虫類じみているという評価を受けている彼だが、笑うとますます蛇のような顔になる。
その蛇の笑みで見つめる先にはエデンの園の林檎。
果実のようにもぎ取り、握り潰したくてしょうがない存在がまっすぐこちらに向かってきていた。

「決着をつけましょう、ソレスタルビーイング。」



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「出来ればいてほしくなかったけど、そうもいかないか。」

ラッセの苦笑いで一気に緊張感が最高潮に達する。
舵を握るアニューも、オペレーターとしてスメラギの後ろに陣取るミレイナとフェルトも、そしてサポートに回る事になったマリーと沙慈も。
全員が手の平に嫌な湿り気を感じていた。

しかし、誰よりもプレッシャーを感じているのは間違いなく彼らだ。

『ったく……震えが止まらねぇや。情けねぇ。』

『………………………』

今回はロックオンの軽口にもティエリアは反応しなかった。
いや、出来なかったというべきだろう。
今回の作戦は自分達ガンダムマイスターの真価が問われる一戦と言っても過言ではない。
改めて感じる仲間の命を背負っているという責任が否応なく全身にのしかかってくる。
だが、ティエリアにはむしろその重圧が力を貸してくれている気がした。
守るべきものを得ることで弱くなることもあるのだろうが、強さを得ることもある。
そう、守るべき彼女の為に……



30分前

こちらに戻ってきて間もないのに出撃が決定した。
いささか性急かもしれないがそうもいっていられない。
ユーノの友人から渡されたというあのデータ。
スイールの首都に向けて発射されたあの衛星兵器は危険すぎる。
たったの一撃でそこに住む人間もろともすべてを消し去り、さらに自分たちが戻ってくると同時に今度は難民キャンプのあるリチエラの軍事基地にまで攻撃したのだ。
もはや看過しておくことなどできなかった。
ただ、

「……本当に、いいのだろうか。」

ふと、立ち止まって右手に持っていたヘルメットへ視線を落とす。
透明なバイザーに写るのはティエリア自身。
だが、そのすぐ横をいろいろな人物の顔が流れていく。
沙慈、マリー、ヴィヴィオ、エリオ。
自分たちの戦いで少なからず傷つき、涙を流した彼らを乗せたまま今まで最も危険なこの作戦に臨んでいいのだろうか。
そして、誰よりも

「あ……」

「ぁ……」

曲がり角でばったりと出会った彼女。
家族と離れ離れになってしまったウェンディを、このまま死なせるようなことになったら、どう償えばいいのだろうか。

「あ、あのさ……」

「その、だな……」

同時に話そうとして言葉に詰まる二人。
二人だけのアイコンタクトで譲り合おうとするが、ムキになってどちらもしゃべろうとしない。
仕方なくそろってコンテナへと向かうが、沈黙がどうにも息苦しい。

「……ごめん。」

我慢比べに音を上げたのはウェンディだった。
聞きとれるか聞きとれないか分からないほど小さな声で呟くと、今度はきちんと聞き取れる声で話し始めた。

「あたし、勝手なことばっか言って、みんなにも迷惑掛けて……」

「……まったくだな。」

「……怒ってる、よね…」

「ああ。」

苦笑してうつむくウェンディ。
だが、ティエリアの次の言葉は思いもよらないものだった。

「どれだけ心配したと思っているんだ。」

驚いてウェンディが顔を上げた先には、微笑み。
今までで一番、ウェンディがティエリアらしいと思える笑顔がそこにあった。
そして、つられてウェンディもクスッと笑うと、パンと顔の前で手を合わせて頭を下げた。

「ごめんごめん!迷惑かけた分はこれから取り戻すからそこんところよろしくっス!」

「どうせならずっと大人しくしておいてくれた方が助かるんだがな。」

「あ~!ま~たそんなこと言う!」

いつもの不機嫌な顔にふくれっ面をするウェンディだったが、ティエリアは彼女に見えないように再び小さく笑った。



現在 プトレマイオスⅡ 周辺

一足先に出撃することになった刹那は不思議な一体感を味わっていた。
MSが自分の体のように自在に動く。
最高を通り越して人生絶頂のコンディションにある事を確信する。
そんなときに、いや、そんな時だからこそ彼女の事が頭をよぎった。

(マリナ。これが俺の、俺とガンダムの戦いだ!)



カタロン基地

無邪気な子供たちの視線を受け止めることが、今のマリナには銃弾で撃たれるよりもはるかに激痛を伴った。
ここにいる子供たちの中にはスイール出身の者もいる。
しかし、幼い彼らに真実を告げることが出来ようか。
家族と一緒に過ごした場所が一瞬にして消えてしまったと聞いて、それを受け止められる事が出来るだろうか。
いずれ、知られてしまうのはわかっている。
それでも、今この時だけは穏やかな時を望んでしまうのは傲慢だろうか。

「マリナ様?」

声を掛けられてハッとする。
不安にさいなまれる小さな瞳は、まるでマリナの心を映す鏡のようだ。
そんな自分を振り払うために、マリナはとびきりの笑顔を見せる。

「大丈夫よ。それより、歌を歌いましょう。」

ワッと部屋の中が沸き立つ。
その声に背を押され、自然とマリナもピアノの前まで足を運ぶ。
そして、鍵盤の上で指を踊らせ始めた。

「失くすことが、拾うためなら……」

子供たちの願いを集めて作った歌。
この子たちの未来が、希望に満ちていることを願った歌。
少年時代に、未来を奪われた彼へのメッセージだ。

『戦え。お前の信じる神の為に!』

あの日の言葉が、歌に交じってリフレインする。
だから、ここで願いを乗せて歌う。
遠いどこかで戦う刹那に届くように。



プトレマイオスⅡ カタパルト

ガコンという音で閉じていた瞼を開く。
重圧を感じるが、それよりも気力が満ち満ちている。
怒りは感じるし、犠牲になった人たちの事を思うと胸が締め付けられる。
だが、だからこそ今はそれを忘れよう。
指先一つですべてを奪う人間から、せめて取り戻せるものは奪い返すために。
そう、

「悪いけど、返してもらうよ。お前たちが支配という形で奪い取った未来を!!」

ユーノのその言葉が合図だったように、スメラギの凛とした声が響いた。

『ミッション、スタート!!』

「了解!!クルセイドライザー、ユーノ・スクライア、出ます!!」

両肩に輝きを背負うガンダム、クルセイドライザーがその翼を広げて宇宙へと飛び出した。



オービタルリング

「!?しょ、少佐!!ガンダムがこちらに!!」

「フン、特攻ですか。」

愚かな選択をしたものだとリントは相手の指揮官を蔑む。
二個付き二機が新装備を得て飛躍的に性能を向上させたことは報告を受けているが、性能任せの特攻など最もありきたりで非効率この上ない作戦である。
この程度は、彼が毛嫌いするカティ・マネキンでも分かる事だ。

「二個付きのうち剣使いは第3MS部隊とヒリング・ケア大尉に任せ、第6MS部隊は盾持ちを迎撃。他はそのまま待機を。」

的確な指示を出すリント。
敵の目的はこのメメントモリの破壊。
ならば、ここで待ち受けて殲滅すればいい。
そう、いつも通り楽しく追い詰めていけばいいのだ。

しかし、その判断には一つだけ誤りがあった。
彼は、クルセイドライザーとダブルオーライザーの性能を直に目にした事がないのだ。

「遅い!!」

ミサイルとツインランチャーで向かってくる敵を払いのけるクルセイドライザー。
しかし、舌を巻くのはその火力ではなくスピードである。
実際、ユーノには向かってくる敵を墜とすつもりなど毛頭なかった。
陣形が崩れる一瞬、そのわずかな時間が欲しかったのだ。
ジンクスたちの間にできた、クルセイドライザーからしてみれば針穴にたとえてもいいほど狭い隙間をくぐり抜けるユーノ。
後ろから取り残されたジンクスたちが追いながら射撃を試みるが、追い抜いて数秒後には大きく引き離され、追跡を開始した今もどんどん距離をあけられていくのだ。
当たるはずもなく、また追いつけるはずもない。

「くぅぅ………!スメラギさんも無茶させてくれるよ!」

「その割には笑えているじゃないか。」

「笑わないとやってられないってことだよ!」

口では不満を言いつつも、ユーノは確信していた。
スメラギとならば、この無謀とも思える作戦を成功させられることを。



前日 プトレマイオスⅡ ブリッジ

「よくもまあこんなものを……」

こういう日常の積み重ねが胃潰瘍に始まる生活習慣病の元凶なんだと頭を押さえながらユーノは呻く。
内部のネジ一つに至るまで事細かに調べ上げられたメメントモリのデータ。
それを渡したのがはやてというのだからもうどこから手をつけていいのかわからない。
ここまで詳細なデータを手にできたことを褒めるべきか、それともどんな無茶をしたのか聴くべきか。
はたまた、バレてないかハラハラしながら問いただすべきか。
本当に胃に穴が開くのではないかというほどキリキリと腹が痛む。

「ぶたいちょーすごいね!」

「ああ、そうっスね……」

「衛星兵器が破壊されたら八神部隊長がどうにかなるとかないですよね……?」

ユーノほどではないにしろ、無垢なヴィヴィオの賞賛に元六課の二人が蒼い顔で苦笑する様は見ていて痛ましいものがある。
しかし、いつまでも彼らに同情しているわけにはいかない。

「それで、だ……どうする?電磁場光共振部……衛星兵器の心臓部の場所がつかめても近づけないんじゃ意味がないぞ?」

ラッセの言うとおりだ。
失敗したとはいえ、カタロンの宇宙艦隊が襲撃したばかりなのだ。
守りは一層堅固になっているだろうし、十中八九イノベイターも待ち構えている。
無暗に突っ込んだところで這う這うの体で逃げ出すのが関の山だろう。

「俺とケルディムで狙い撃てないか?」

「装甲に阻まれてアウトだろうね。」

「かと言って、セラヴィーの砲撃で仕留めようにも目標が大きすぎる。」

セラヴィーのマイスターであるティエリアだからこそわかる。
ハイパーバーストを使ったとしても、せいぜい装甲を抜くのでやっとであるという事実。
しかも、それは可能な限り接近した場合。
メメントモリの砲撃が来ない、オービタルリングの近くという限られた戦闘範囲で接近を試みるというのは無理な話だ。

「俺達でどうにかできないか?」

自ら危険な役に立候補する刹那だったが、それも良策には程遠い案だろう。
ツインドライヴ搭載機のダブルオーライザーとクルセイドライザーならば敵の包囲網も突破できるかもしれないが、メメントモリの弱点を攻撃する手段がない。
高出力の攻撃ならばそれも可能かもしれないが、隙の大きいそれを敵陣のド真ん中で行うのは自殺行為に等しい。
無論、機動力で頭一つ抜きんでているアリオスやスフィンクスにも同様の事が言えよう。

一長一短でこれといったものがない。
が、そこでスメラギに一つの構想が浮かんだ。

「みんな。」

スメラギの声に全員がそちらを向く。
そして、その戦術プランに耳を傾けた。
初めは、誰もが驚いていた。
だが、詳しく聞くほどにベストではないがベターな策だと納得していく。
そして、話が終わるころにはだれもが腹をくくっていた。

「オーライ、俺は乗るぜ。」

「けど、相変わらず無茶苦茶ですね。繊細なんだか強引なんだか……」

「だが、それでこそスメラギ・李・ノリエガだ。」

「あら、それ褒めてくれてるの?」

アレルヤとティエリアの言種に少し気になるものを感じながらひきつった笑みを浮かべるスメラギ。
刹那とユーノもフェルトの視線にうなずくと、スメラギも気を引き締める。

「みんなの命、私に預けて。」

「了解!」



現在 オービタルリング

(喰いついた!!)

こちらに向かってくるジンクスたちへ光弾を放ちながら刹那は珍しく戦闘中にフッと口元を緩める。
ここまでスメラギの予測が当たると、敵よりも彼女の方が恐ろしく思えてくる。
そう、恐ろしいほど頼りになる戦術予報士だ。
あとは、厄介な連中が出てくるのを待つだけ。
そう思った直後だった。

「妬けちゃうわね。」

「!!」

遠方から向かってきた粒子の塊を紙一重でかわして緩んでいた口を真一文字に結ぶ。
どうやら、待ち人が来たようだ。

「新型……!」

メメントモリのすぐ前でメガランチャーを構えるガデッサを睨む刹那。
しかし、一度息を吐いてチラリと横を見れば、いつもと違って無口なジルが力強くうなずくさまが伺える。

(フォローは任せろ。)

言葉も念話もなくてもわかる。
この小さな賢人も、あの兵器の存在を許してはいないということが。

「やるじゃないさ!」

獲物が予想以上に強いことに喜ぶヒリング。
しかし、その余裕はすぐさま瓦解することになった。

「ダブルオーライザー、目標を駆逐する!」

「っ!!」

今度はガデッサが間一髪でダブルオーライザーの射撃をかわす。
左足を焦がしてくる光に一転して舌打ちをして憎悪の念を加速させる。

(よくも……!!)

下等な人間の分際で……!
乗っている機体が少しリボンズの興味の対象になったくらいでつけ上がるな!

そんな邪念のこもった瞳でヒリングは再びスコープを覗き込む。
一瞬、視界にダブルオーライザーを捕らえるが、すぐに消え去ってしまう。

(どこ!?)

カメラアイをあちらへこちらへ。
くまなく戦場を見渡すが、再びダブルオーライザーをスコープでとらえることはできなかった。

「粒子が拡散しているとはいえ、ガデッサと射程が同等だなんて…」

遠方からの撃破を諦めたヒリングはすぐさま持ち場を離れてダブルオーライザーの追跡を開始する。
だが、防衛を任されているアロウズのオペレーターは当然その行動に怒りをあらわにした。

『ケア機!!持ち場を離れるな!!戻れ!!』

本当に人間というのはうるさくて仕方ないとヒリングは思う。
もう十分すぎるほど戦力は充実しているのだ。
如何に自分が優秀であっても、あくまで戦力のうちの一つ。
布陣に穴が開くとは思えない。
命令がないということは、指揮官はそのことを理解しているのだろうが、他はボンクラが多くて参ってしまう。

「見つけた!!」

この不満を払拭するためにも、早くダブルオーライザーを仕留めてやりたい。
取り囲んでいたMSの刃を突き立てていた機械剣士めがけ、苛立ちのすべてを込めてメガランチャーの中心にある砲門から最大出力の一撃を放った。
しかし、その一撃はダブルオーライザーをとらえることなく味方のアヘッドのみを消滅させるにとどまった。
それに伴う爆炎を気にも留めず、そのまま二機は互いに距離を詰めていく。
ぶつかるビームサーベルとGNソード。
雷光にも似た火花を散らし、刃を食いこませようと押し合う。

「イノベイター……!!」

歯軋りが鍔迫り合いの音に混じって聞こえる。
アロウズを裏で操る、この歪んだ世界の元凶。
自らの故郷を、そこに生きる命を奪った存在を前にして刹那は感情を抑えきれなかった。

「なぜスイールを撃った!!」

「なぜですって!?決まってるじゃない……いまさら中東で小競り合いを起こされちゃ目障りなのよ!!」

「ふざけんなコンチクショー!!そんな理由で人間を……!!」

「間引いたとでも思っとけばいいじゃない!!劣等種が何十億といること自体がおかしなことなんだから!!」

少しずつガデッサが押し始め、ヒリングが嘲笑を浮かべる。

「あんたたちもそう……用が済んだらもうお呼びじゃないのよ!!」

ジリジリと押されていくダブルオーライザー。
だが、刹那とジルは視線を合わせるとフッと笑った。

「いや……まだ俺たちにはやるべきことがある。」

「?」

余裕の残るその声に、すべてを見下し、この状況について考察などしようともしなかったヒリングの脳裏に全く存在していなかったはずの疑問が浮かぶ。
考えてみれば、初めからおかしかったのだ。
ツインドライヴ搭載機とはいえ、たった二機での無謀とも思える強襲。
しかも、輸送艦はおろか他のガンダムからの援護が一切ない。
目の前のこいつとオービタルリング上を猛スピードで突っ走るあれが作戦の要だとしても、いや、だからこそ何の援護もないのはあり得ない。

「まさか!!?」

そのまさかだった。
オービタルリングの方を見たヒリングの目に映ったのは、クルセイドライザーの遥か後方を追いかけるように疾走していくプトレマイオスだった。

「舐めたマネを!!」

自分を嵌めたソレスタルビーイングに激怒したヒリングはプトレマイオスの進行を阻もうといつの間にか離れてしまっていたオービタルリングへと戻ろうとする。
だが、それを見逃すほど刹那は甘くなかった。

「はぁっ!!」

「クッ!!?」

それまで“加減していた”太刀筋ではなく、本気のダブルオーライザーの剣閃がガデッサを攻め立てる。
攻守は逆転し、すでにヒリングには防衛に戻る余裕などなくなっていた。

「この世界から歪みを失くすまで、俺たちは消えるわけにはいかない!!」

右からの一閃にヒリングの反応が遅れた。
主武装であるメガランチャーを失わないようにかばったのだろうが、結果として左手に握られたビームサーベルがワンテンポ遅れてダブルオーライザーへと振るわれることになる。
それが仇となった。

「遅い!!」

ジルの教えてくれた軌道とガデッサの太刀筋がぴったりと重なっていた。
そのちょうど真ん中。
力が乗り切る前にビームサーベルのフォルトをGNソードで叩いて宙へ弾き飛ばす。
そして、ヒリングが冷や汗をかく前にメガランチャーの砲身も真っ二つに斬り裂かれていた。

「よくも!!」

武器のほとんどを失ってなお、右腕に装備されたガトリングで応戦しようとするヒリング。
だが、

「そこだ!!」

その右腕さえも斬りおとされたところで勝負ありだ。

「ガッ!!」

胸部を蹴られたガデッサはグラッと大きくよろめく。
すぐに体勢は立て直しはしたが、武器もない状態で戦えるはずもなく、別の機体へ向かっていくダブルオーライザーを見ているしかなかった。

「ガンダム……!!」

屈辱だった。
人間ごときに上位種たる自分が後れを取った。
あり得ない。
機体の性能差が原因だ。
油断さえなければ。
しかし、言い訳を重ねれば重ねるほど惨めになっていく自分がいる。
その感情は御し難く、ヒリングはそれを怒りの叫びへと変えた。

「ガンダムゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

しかし、どれほど叫んだところでその声は刹那に届くことはなかった。



オービタルリング上

艦の底がオービタルリングのシールドを掠めているせいで小刻みな振動が淡いブルーの光に包まれたブリッジにまで伝わってくる。
しかし、目下の問題はそんなことではなかった。

「やっこさんたち、こちらに気がついたみたいだぜ!!」

クルセイドライザーを追跡していたジンクス部隊が一転してプトレマイオスへと突進してくる姿にラッセが額に汗をくっつけながらニヤリと笑う。
いつかは感づかれるとは思っていたが、ここまで接近できたのはラッキーだった。
よほどダブルオーライザーとクルセイドライザーにご執心だったのだろう。
そのジンクスたちもクルセイドが背中を撃ちぬき撃墜すると、プトレマイオスの操舵を任されたアニューはさらに艦を加速させた。

「人を囮に使ったんだからしっかり働いてよ!」

「言われなくても!!」

今度はラッセが魅せる番だ。
プトレマイオスの全砲門が開き、ありったけのミサイルと砲撃を正面に撃ちこんでいく。
どれだけの戦果をあげたのかは定かではないが、もともと目的は敵を倒すためではない。
粒子の拡散率を上げること。
そして、敵の目をくらませる煙幕代わりだ。
あとは、先行するユーノと中央のカタパルトデッキにいる二人がカギになってくる。

「露払いは僕がやる。だから……」

「わかっている。」

「他の防御は俺たちに任せとけ。」

ユーノの言葉に力強い返答をしたティエリアとロックオンはそれまで休ませていた愛機に命を吹き込む。

「セラヴィー、ティエリア・アーデ、ミッションを開始する!」

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、行くぜ!」

プトレマイオス全体がGN粒子の鎧を身にまとうが、艦首はセラヴィーが展開する分厚いGNフィールドで一層強固に守られる。
さらに、フィールドの恩恵を受けられない側面部もケルディムもシールドビットに守られ準備は万端だ。

「敵艦の左舷へ攻撃を集中せよ!!メメントモリの射線軸へ押し出せ!!」

一斉に押し寄せてくるビームの波。
しかし、前方ではクルセイドライザーがビットとツインランチャーでそれを防ぎ、それを抜けてきた攻撃はシールドビットとGNフィールドが抑える。

一向に好転しない戦況に、流石のリントも焦りを覚え始めていた。
打つ手、打つ手、すべてが敵に読まれているように追い詰めていく。
不愉快この上ない。

「メメントモリをいつでも掃射できるようにしておけ!!」

こうなれば手段は選ばない。
魔法や異世界などというわけのわからない連中の力を借りるのは癪だが、いつまでも我が物顔で飛び回る羽虫をそのままにしておくのはもっと気に障る。
地球の裏側にいるアルデバランへ通信をつなぐと、それなりに冷静で礼節を重んじた態度で声を発する。

「ファルベル准将、例の三機を実戦投入したいのですがよろしいですか?」

『おや?ずいぶんいきなりですな。てっきり、貴艦のコンテナで破棄されるのを待つばかりかと……』

相変わらず嫌味ったらしい老人だ。
しかし、事実リントはこの男から預かった量産機風情のテストなどするつもりは毛頭なかった。
ここで使えば一応の言い訳はできるし、下手な動きを見せれば役立たずの烙印を押すこともできる。
せいぜい、捨て駒程度には働いてもらうとしよう。

「我々にも事情というものがありまして……いまさらと思われるかもしれませんが、ちょうどいい機会なのでMDの実験を行おうかと。」

『こちらとしても使っていただけるのでしたらお預けした甲斐があるというものです。ただ…』

にこやかに閉じられていたファルベルの目に少しの隙間が出来てリントを見つめてくる。

『貴官が試験機を失わず、しかも無事に戦闘を終えられたらの話ですが。』

予言めいたその一言を残してモニターから姿を消すファルベル。
そして、リントは苦々しい顔でそのモニターを叩いた。

「私がテロリスト風情に後れを取るとでも……!?」

死に損ないの老兵がいらない心配をしてくれる。
ここで醜態を晒そうものならリントのプライドはズタズタ。
アロウズ内部でもいい笑いものである。

「エスクワイアをだせ!!なんとしても敵艦を死角から押し出す!!」



メメントモリ周辺

こちらの間合いまであと少し。
そんなときにそれは現れた。

「!?熱源反応!三機こちらに向かってきます!!」

「おいでなすったか!!」

引き金を握るラッセの手に力がこもる。
押し出せないと分かると取り付こうとするのはわかっていた。
しかし、フェルトは動揺する。
その三機の速度が並はずれて速いうえに、並の人間では不可能なほど完璧にプトレマイオスへの最短コースを向かってくるのだ。

「おいおい……!!なんであれが地球にいるんだよ!?」

ロックオンの顔に苦笑が浮かぶ。
いつの間にこちらにきていたのか。
いや、それ以前に量産にこぎつけていたということが驚きだ。

「エスクワイア……!管理局も戦力を投入していたのか!」

ユーノは思わず軌道をエスクワイアのいる外へ向けたくなるが、グッとこらえて術式を展開する。
接近を試みる機体が出てくることはスメラギが既に予測済みだ。
こちらも次の一手は用意してある。

「二人とも、準備はいいね?」

『ああ!』

『もちろんっス!』

操縦と同時進行なので少し時間がかかったが、向こうの決断が遅かったおかげもあって術の組み立てには困らなかった。
あとは、ソレスタルビーイングのスピードスターに任せるとしよう。

「転送!!」

オービタルリングの両側に翠の魔法陣が出現する。
そのうち、プトレマイオスから見て左側。
三機のエスクワイアの前に現れた魔法陣からオレンジの戦闘機が飛び出してきて先端のクローでそのうち一機を挟み込んだ。
魔法陣を警戒してスピードを緩めたせいもあり、ワンテンポ反応が遅れたエスクワイア達は後手に回る事になった。

「MDか……なるほど。あの正確すぎるコースはAIだからこそというわけか。」

「けど、だから動きも読みやすい。ユノユノってば、出す場所は適当の予定だったのに、わざわざコース上に置くんスから。」

ヘラヘラしながらもウェンディはしっかり残っていた二機のうち一機をマシンガンでハチの巣にすると、今度はメメントモリへ一直線に飛んでいく。

「ぼ、防衛部隊!!たった一機くらい撃ち落さないか!!」

リントの支持を受ける前に、すでに防衛部隊は十分すぎるほどの砲射撃を敢行していた。
しかし、当たらないのだ。
まるで見えない波に乗っているかのように緩急をつけ、細かく上下するスフィンクスはスイスイと弾幕の中を突き進む。

「クゥーー!!このスリル、たまらないっスね!!」

あっさりゴールへ到達したスフィンクスとウェンディ。
メメントモリの砲身を破壊すると、残っていたエスクワイアの破壊へと向かおうとするが、それよりも早くクルセイドライザーのビームが胴体を貫いていた。

「アリオスとスフィンクスはそのままトレミーの防衛へ!!」

「「了解!!」」

二機がさがるのを確認するとユーノもホッと一息ついてオービタルリングから少しずつ距離を取っていく。
しかし、彼の真の役目はここからだ。
砲身を失ったとはいえ、そんなものはいつでも再建することが出来る。
今この瞬間、プトレマイオスに攻撃が来ることがなくても、いつかまた地上にあんなものを撃ちこまれるかもしれない。
何としても破壊しなくては。

「ティエリア、ロックオン。行くよ。」

「了解。」

「…………………」

ロックオンから返事がない。
不安になってもう一度声をかけようとしたが、967に止められた。

「………………………………」

集中している。
目を閉じて、精神を研ぎ澄ませていく。
先代も、ニール・ディランディも絶対に外せない任務の時はそうしていた。

(やっぱり、君らは兄弟だよ。)

こうなった時のロックオンは本当に頼りになる。
自分もその一助になれるなら、これ以上嬉しいことはない。
そう思いながら上を仰いでフッと笑ったユーノは強い瞳でまっすぐ前を見据えた。

「トレミーの速度、拡散率、距離……変動率算出、誤差修正開始。射線変動幅、0.003%……」

第三者の視点から見れば異常に映るほど機械的に、しかしだからこそ早く、そして正確に数値を叩きだしていく。
狙撃のサポーター、ポインターとして必要な数値を。

「予定距離まで20セコンド!!」

ミレイナの声にまずカッと目を見開いたのはティエリア。
ウェンディとアレルヤの発奮に触発され、体の奥底から湧き上がる熱にあてられていた。

「TRANS-AM!!」

セラヴィーが赤く輝き、同時にその赤のボディが白一色に塗りつぶされるほど強烈な輝きを放つ光球が前方で瞬く間に膨れ上がっていく。
そして、直径がカタパルトの出口の軽く二倍に達したところで背中のガンダムフェイスが溢れる粒子とともにその姿をあらわにした。

「ハイパーバースト、完全開放!!!!」

唸りを上げて直進するエネルギーの塊。
クルセイドを下から追い越して行ったそれは、通せんぼをするように進路上に立ちふさがっていたジンクスたちを問答無用で蒸発させ、迎撃艦隊すらも尻目にメメントモリへと迫った。

「ぁ……うああぁぁ…!!」

つい情けない声を出すリント。
メメントモリへの直撃を悟った彼の脳裏に敗北の二文字が浮かぶ。
さらに、とどめとばかりにスメラギがダメ押しの一撃を指示する。

「GNミサイル、一斉発射!!」

「くらいやがれぇぇぇぇぇ!!!!!!」

怒号とともに放たれるミサイルの雨あられ。
それと同時にプトレマイオスは包囲網を突破していたため、すでに後ろに回っていた迎撃艦隊が、それもセラヴィーの一撃でオービタルリング上にいたMSを失っていた彼らにミサイルの飽和射撃を撃ち落とすことなど出来るはずもなく、そのほとんどがセラヴィーのハイパーバーストに続いてメメントモリの装甲に着弾した。

「っ!!」

セラヴィーの一撃を受けた装甲はしばらく耐えてはいたが、中央にひびが入ったのをきっかけに歪な円状に溶解しては砕け散っていく。
セラヴィーの砲撃が爆煙へと変貌したのちもまだ装甲は残ってはいたが、休む間もなく今度はミサイルの群れが襲い来る。
最初に着弾した一発が爆発したのを皮切りに、GN粒子の輝きを放つ円筒の物体が続々とぶつかってははじけていった。

これを見たリントの肌からはとめどなく汗が噴き出していくが、煙が晴れた光景を見ると自然と笑いがこぼれた。

「ハ……ハッハハ……!!フフフフフ!!」

装甲は完全にえぐられていた。
ぐちゃぐちゃに穿たれたその姿はおおよそ無事とは言い難いが、致命傷には至らずだ。
メメントモリは、墜ちてたまるかとばかりにドンと元の位置に鎮座していた。

「どうやら、火力が足りなかったか!」

全身を覆う汗が安堵で気にならなくなったところで、リントはやっと相手の指揮官を認める。
なるほど、奇抜で且つ繊細で緻密に計算された作戦。
どこで情報をつかんだかは知らないが、電磁場光共振部を狙って火力を集中させてくるパイロットたちの腕。
それなりに優秀ではあったが、自分には一歩届かずだ。

「終わりですね、ソレスタルビーイング!」

狂喜のあまり身を乗り出すリント。
だが、スメラギはラストカードを切ってはいなかった。
そう、二枚一組の切り札。
組み合わせることで、最強手すらも打ち破る可能性を秘めたあのコンビを。

「しょ、少佐!!」

「な……!?」

リントの目に映ったのはプトレマイオスの中央。
一つだけだったはずの赤い輝きが、もう一つ追加されている。
しかも、艦と並行して駆ける翠のガンダム。
それだけで、彼にとって最悪の事態が起こっていることは明白だった。

「データ転送開始……あとは任せたよ、ロックオン!」

(あれが、電磁場光共振部……!)

セラヴィーの肩にケルディムのスナイパーライフルを置くロックオンには、もうユーノの言葉は届いていない。
フォロスクリーンに映る、それも普段とは比べ物にならないほどはっきりと見える標的の姿。
赤い光を明滅させる金色の円。
あの小さな的を一発で仕留めなければならないのだ。

(チャンスは一度……!)

四年前も、ユーノは兄のポインターにしばしばついていたそうだ。
しかも、その時の命中率はどれほど困難であっても100%。
それも寸分違わず狙った場所をピタリだったそうだ。
そんなユーノが、今は自分を信頼してフォローしてくれている。
ここで期待に応えられないのでは男ではない。
いや、そもそも今回のミッションはロックオンにとって試金石なのだ。

異世界で振り切った兄への劣等感。
だが、周囲の視線はなかなか変えられない。
特に、兄に背中を預けてきたソレスタルビーイングのメンバーから感じる比較の視線はいい加減むず痒いのだ。
……認めてもらいたい。
自分はライル・ディランディ。
カタロンの構成員、ジーン1。
ニール・ディランディにはなりえない。
だが、それでもなれるはずだ。
今は、ライル・ディランディでも、ジーン1でもない。
ソレスタルビーイングの一員として狙い撃つ。

(ロックオン……!!)

(ライル……!!)

(ロックオン……!!)

そう…俺は!!

「撃って!!」

「ロックオン・ストラトス!!!!」

「その名の通り……狙い撃つぜぇぇぇぇ!!!!」

鋭い閃光が、プトレマイオスの中央からメメントモリへと突き刺さる。
目標を捉えていたのか確認もせず、プトレマイオスとそれにつき従うガンダム三機はメメントモリの横を通り抜けていった。

その数秒後。
灰色の六角形の塊から炎が上がる。
轟々と振動を起こしながら激しく爆発していくそれに、リントの目は見開かれた。

「ふぅぅぅ……!?」

熱を帯びながら分解していく金属片たち。

「ううぅぅぅぅ!!?」

真っ赤に燃え盛るそれが、自らの艦へ向かってくるのを理解もできずに意味不明の言葉を発しながら見つめつことしかできない。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

死に直面しながらも、リントには敗北の原因が自らに有る事を理解することはできなかった。



プトレマイオスⅡ

『衛星兵器の破壊、成功しました!!』

「言われなくてもわかってるよ……」

フェルトの言葉にロックオンはニヒルな笑みで小さく答える。
撃った瞬間に、確実にとらえていることは確信していた。
だから振り返ろうとは思わなかった。
自分は、ロックオン・ストラトスなのだから。

そして、ブリッジにも自分の中に一つの区切りをつけられた人間が一人いた。

「トレミー、速度を維持したまま現宙域より離脱。ダブルオーライザーに後退を。」

「ハイです!!」

ミレイナの元気のいい声に、スメラギの緊張の糸はぷっつりと切れた。
作戦を立案した時は強気に振舞っていたが、内心不安で仕方なかった。
また守れないのではないか。
何も変えられないのではないか。
そんな不安でいっぱいだった。

しかし、それが取り越し苦労だったことをみんなが教えてくれた。
刹那、ユーノ、ロックオン、ティエリア、アレルヤ。
アニュー、ラッセ、ミレイナ、フェルト、沙慈、マリー、エリオ、フェルト。
みんなの支えがあって、この作戦を成功させることが出来た。
迷いも不安も、すべてが吹き飛んだ。

「ありがとう、みんな……」

一人の人間としての礼は、誰にも気づかれることなくスメラギの脳裏にのみ残された。



地上 カタロン基地

その夜、数えきれないほどの光の筋が空を覆っていた。
まるで流星群のようなそれは、漆黒の闇の中にあってもはっきりと地上を照らし、見上げる彼らを紺色に染まる大地に浮かび上がらせていた。

「クラウス……」

「やってくれた……これで中東は救われる。」

クラウスとシーリンは光の筋を見上げながら空にいるであろうソレスタルビーイングに感謝する。
カタロンの宇宙艦隊が蹴散らされ、もうこれまでという時に彼らが戻ってきてくれた。
希望は、どんなことがあっても消えることがないのだと再認識できた。

「だから言ったろ、戻ってきてるって。」

フゥと息をついて伸びをする男がクラウスの肩にポンと手を置く。
突然、行方知れずだったレイと一緒に現れて宇宙艦隊の全面撤退と宇宙における最大の拠点からの退去を進言してきたこの男。
その翌日にアロウズによって攻撃をしかけられたことには驚いたが、それ以上に信じられない話を聞かされることになった。

「で、信じてくれた?俺らが異世界の人間で、異世界の戦力もお宅らを潰しにかかってるってこと。」

クラッド・アルファードの軽い口調に、いまだ慣れることが出来ないシーリンは目つきを鋭くするが、クラウスは手を差し出す。

「信じるよ。あそこまでのものを見せられては信じないわけにはいかない。それに、今は少しでも戦力が欲しい。」

「OK、そう言ってもらえてこっちも助かる。……で、これからどうする?」

「連邦の中にもアロウズを打倒しようとする動きがある。その一派と接触しようと思う。」

「そうか……しかし、安心したよ。こっちにもお偉いさんが腐っててもテメェの意地を通す馬鹿がい……」

「すごぉい!」

話の腰を折られてカクッと肩を落とすクラッドだったが、無邪気な声の主の方を向いて、その引率を任されていたはずの女性をジロリと睨む。

(申し訳ありません。どこで聞いたのか、空がこのようになっていると聞いたらしく……)

謝るシグナムにため息をひとつ漏らすと、やってきた子供たちを見る。
本当に、澄んだ眼をしている。
理不尽な要求に屈しない人間がいると言うところも向こうと変わらないが、子供が純真であるということも全世界共通らしい。
ただ、

「きれ~!」

あれを綺麗だというのはいただけない。
思わず違うと言いそうになるが、その役目はクラウスが担うことになった。

「いいや、少しも綺麗なんかじゃないのさ。」

「?」

「あれは、戦いの光だ。君たちの時代に、残してはいけないものなんだよ。」

そういうと、再び全員で空を見上げる。
クラウスの言葉を聞いた後だと、あの光に最初ほどの感動を得ることはできなかった。
あれは、戦いの光。
忌むべき、悲しい光。

だが、ならばこの子たちに何を残すべきなのか。
マリナは一人、思いをはせる。

「次の時代に残すべきもの……」

自らへの問いかけの答えは、マリナの中にはない。
だからこそ探したい。
刹那に、胸を張ってこの子たちに残したいものを言えるように。








死の墓標落つ
なれど、彼の者の答えは見つからず




あとがき

第52話でした。
まず、遅れてしまった本当に申し訳ありません!!
言い訳をさせてもらえるなら、パソコンがクラッシュして設定なんかも全部パー。
とどめに代替機借りてくるまで書くどころかネットもできなかったので……(泣)
まあ、おかげでテストに集中できてよかったのか悪かったのかわからないんですけどね(^_^;)
で、言い訳はここまでにしてメメントモリ攻略戦でした。
作戦は出来る限りそのままで、ユーノや魔法も使いたいなと考えながら書いたらこんな感じになりました。
ご満足いただけたら幸いです。
次回は、いよいよ刹那が幻聴を聞くあの回です(オイ)
ティエリアもいいかんじに書いてやりたいなぁ……
では、次回もお楽しみに!



[18122] 53.The song for sad soldiers
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2011/12/13 17:43
輸送艦・ミルファク 展望室

なのははまだ心の整理が付けられないでいた。
ユーノとあんな形でまた離れ離れになったこともそうだが、そのあとすぐやってきたあの少年。
そう、

「ああ、高町二尉。探しましたよ。……っと、二人きりの時はなのはの方が良かった?」

「ソリア……准尉。」

ソリア・スクライア。
プロジェクトFを利用して生み出されたユーノのコピー。
その生い立ちもさることながら、まるでユーノのように思い出を語るのが許せない。

「公務中ですので、階級で呼んでください。」

外を見たまま目もあわさずに冷たくあしらうが、ソリアは一向に挫けない。
それどころか、なのはの反応を嬉々として受け止めているようでもある。

「そんなつれないこと言うなって。昔はクロノのまえでもいちゃついて見せた中だろ?」

「っ!それは……」

とうとう我慢ならずに振り向くなのはだったが、いつの間にか息遣いが聞こえるほどに近づいていたソリアに声を上げることもできずにピタッと動きを止める。
その様子にニッと笑うソリアだが、彼の不意打ちはこれで終わりではなかった。

「こんな風にさ。」

突然のキスだった。
幼い容姿のソリアが伸びあがるようになのはと口づけを交わすさまはなんとも妖艶で官能的だ。
しかし、それも長くは続かなかった。
パンと乾いた音が響くと、頬を紅潮させたまま、しかもポロポロと涙をこぼしながらなのはは廊下へと消えていった。
一人残されたソリアはというと、ヒリヒリと痛む赤い手形をさすりながらフンと鼻で笑う。

「女々しい女……って、女だから女々しいのか。しかし、あれでエースやってるってんだから笑えるぜ。」

なのはに特別な感情がないと言ったらウソになる。
しかし、前の男の後釜に座るのはごめんこうむりたい。
たとえそれが、自分のオリジナルであってもだ。
付き合うのだとしても、目の前で奪い取って見せつけるくらいはしないと気が済まないというものだ。
そんなことを考えながら一人で勝手にイラついていると、はやての監視役としてつけていたルーチェから連絡が入った。

「……あ?はやてとヴィントブルームが接触した?……新造艦のテスト?よく言うぜ、技師長様よぉ…………テメェが腹に一物持ってるのはジジィでも知ってるんだよ。ま、クソレジスタンスどもとの繋がりを知ってるのは今ンとこ俺だけか……ん?」

その時、もうひとつ面白い情報を聴いてソリアの機嫌は一層良くなる。

「へぇ、メメントモリを墜としたか。けど、またバラバラとはしまらねぇな。とはいえ、一応は兄貴……どんなに出来が悪くてもを迎えを出してやらないとな、弟分としては……」



魔導戦士ガンダム00 the guardian 53.The song for sad soldiers


プトレマイオスⅡ メディカルルーム

イアン・ヴァスティの名と写真が映るホログラムにCOMPLETIONの文字が浮かぶ。
と同時に、カプセルから空気が排出される音ともに蓋が開いて、長い眠りから覚めたイアンがけだるそうに起き上った。

「ん……うぅん…」

久しぶりの光が眼に痛い。
だが、とにもかくにも確かめなければいけないことがある。

「オ…オーライザーは……?」

今、自分がどこにいるのかもよくわかっていないイアンはありもしないオーライザーを探して視線をさまよわせる。
そんな彼が最初に見つけたのはオーライザーではなかった。

「あ!おじいちゃん起きた?」

紅と翠のオッドアイをした少女。
ヴィヴィオが待ちわびていたようにイアンに抱きつくが、抜けきらない倦怠感のせいでその勢いに負けそうになる。

「やあ、ずいぶんと遅い起床だね。」

一足先に出ていた友人は隣のカプセルに腰掛けたままこれまただるそうな目つきでボーッと壁を見つめていた。

「ジェイル……オーライザーはどうした?戦闘は?」

「……いろいろあったみたいだよ。」

説明するのが億劫なのか、やけにボロボロな扉の方をチラリと見てイアンを廊下へ出てみろと誘うジェイル。
説明くらいしろと言いたいイアンだったが、今の彼に聞いたところでそれは期待できそうになかったのでヴィヴィオを連れておとなしく廊下に出てみることにする。
……なにやら妙にニコニコしているヴィヴィオが気になるが、そんなことよりも現状の把握に努めなければ。

「ふ……わぁ~あ……」

思わず出てしまった欠伸を噛み殺そうともせずに廊下に出たイアン。
しかし、不意に鼻をついた緑の匂いに「ん?」と首をかしげる。
そして、すぐに思考回路が停止した。

「…………………」

「綺麗でしょ?」

ヴィヴィオの言うとおり、確かにそこは美しかった。

大地を覆う緑のカーペットに、それを所々彩る花々。
鳥は歌い、げっ歯類のような小さな影もちらほら。

だが、イアンが知りたいのはその光景が美しいかどうかではなかった。

「な……!?」

「な?」

「なんじゃぁこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!!!!!?」

草原にいた動物たちはその叫びにおびえて物陰に隠れ、クルーたちは本日二度目のその叫びで彼の目覚めを認識する。

「ゆーさくさん?」

「古いの知ってるね。」

こうなるであろうことを見越していたジェイルは、イアンの叫びから名優を連想できたヴィヴィオを眠そうな顔でなでるのであった。



イアンの叫びの原因は先日。
メメントモリ破壊後に起こった。

17時間前 オービタルリング

メメントモリを破壊し、犠牲も出なかったことに誰もが安堵していた。
そう、どこか油断していたのだろう。
まさか、追撃してくる機体がいるなど想像もしていなかった。

「っ!?Eセンサーに反応!!敵機です!!」

けたたましい警報にまず反応したのがフェルトだった。
画面に映る円がプトレマイオスへ急接近してくるのに気付き、勝利の余韻もどこかへ吹き飛ぶ。

「なんですって!?」

スメラギもまさかという表情で自分たちを追う機体の方を見る。
イノベイターの使うMSが二機。
追手としては妥当な存在だが、気になる機体が一機。
白だけで塗りつぶされたボディからは横に広く翼が伸び、さらに中央部には切れ込みのようなものがある。
いつぞや手痛い目にあわせてくれた悪趣味極まりない金ピカにそっくりだ。

「MA!?」

スメラギの言葉を肯定するように白いMAから高出力の砲撃が発射される。
この時、諸々の問題をはらんではいたが、咄嗟の判断でオービタルリングから大きく右へ舵を取ったアニューを褒めてほしい。
これがなければプトレマイオスは高出力ビームの直撃を受け、間違いなく撃沈されていた。
しかし、初撃を紙一重でかわしたとはいえ、まだ危機を脱したわけではない。
MAの攻撃を合図にイノベイター専用機も一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。

「きゃあっ!!」

「クッ……!フェルト!!GNフィールドは!?」

「駄目です!!もう粒子が!!」

プトレマイオスの唯一の防御手段は使えない。
おそらく、敵もそれをわかって仕掛けてきたのだろう。
そして、悪い知らせというのは続くものだ。

『ス、スメラギさん!!アレルヤとユノユノが!!』

ウェンディの慌てた声にスメラギの歯が擦れ合う。
どうやら、先ほどの回避行動でアリオスとクルセイドライザーが弾き飛ばされてしまったらしい。
おそらく、今頃は地球めがけて真っ逆様だろう。
だが、むしろ単機で大気圏突入が出来るガンダムならこの危機を脱する最善の方法と言える。
問題は、的の大きいプトレマイオスの方だ。

「ミレイナ、スモークはまだある!?」

「ありますけど、今使っても……」

ケルディムとセラヴィーもTRANS-AMは終了していてしばらくはろくに戦えない。

味方が援護できない事を受け入れたスメラギの対応は早かった。

「……アニュー。次の一撃、掠める程度にとどめることはできる?」

その言葉に、ブリッジのだれもが息をのむ。
かわせではなく、掠めろ。
つまり、彼女のとろうとしている手段は……

「正気かよ!?」

「正気よ!!」

スメラギはブリッジへと呼ばなかった人間、エリオ、ヴィヴィオ、リインフォースの三人に確認の連絡を入れる。

「エリオ!リインフォースとヴィヴィオはそこにいる!?」

『え!?え、ええ……部屋でおとなしくしてますけど……』

「じゃあしばらくそこから動かないで!」

『え……どういう…』

返事も聞かずに回線を閉じると、すぐさま指示を出す。

「被弾したらすぐにスモークを使って!スフィンクスも続いて!目指すは地球よ!」

「……っ!了解!しっかりつかまっててくださいよ!!」

被弾の振動に呼応する舵を力づくで鎮め、アニューは後ろにいるMAの動向を逐一確認する。
……その時は、突然やってきた。
強烈な光がプトレマイオスへ放たれると、それは船体の左を掠めておおきく進行方向を変える。
もうもうと黒煙を上げながら、しかし驚くほどスムーズに少し地上へと降下していくプトレマイオス。
それを見てイノベイター達はスメラギの狙いに気付いたが、艦全体を覆う白と黒の煙に完全にその姿を見失った。



現在 ブリッジ

「……というわけか。」

「ハイです!!」

「最悪じゃないか!!」

娘の説明に怒鳴り声を返すイアン。
ジェイルも珍しくムッとした顔でスメラギを睨んでいる。

「あと少しずれていたら私とイアンは宇宙のチリになっていたわけだ。」

「命があっただけめっけもんだぜ?」

ポンとラッセに肩を叩かれ、仕方なしに納得する二人だが、問題は山積みだ。

「で、トレミーの状況は?」

「エンジンは無事でしたが、航行システムや火器管制、通信、センサー類の損傷がひどくて……」

「なんてこった……こんなときに敵さんに襲われでもしたら…」

「みなさん、食事をお持ちしましたよ!」

「チキンorフィッシュ!どっちがお好き~っス!」

タイミング良く入ってきたマリーとウェンディにイアンはそれ以上小言を続けるわけにもいかず、代わりに大きなため息をつく。
しかし、

「ワーイです!!」

「呑気すぎだろ!!」

娘には厳しいのだった。



草原

一人になったところで、ライルはロックオン・ストラトスから再びジーン1へとその顔を変えていた。
今の仲間も大切にしたいが、古い仲間との繋がりも忘れてはいない。

「……ああ。衛星兵器の破壊には成功したが、こっちは痛手を受けちまった。最悪、支部の力も借りることになる。……ああ。そっちも新しいメンツの相手に大変だろうけど、頼んだぜ…」

こうして隠れて通信をしていると、自分はカタロンだということをいつも以上に強く認識する。
しかし、いつまでこんなことを続けるのだろうか。
刹那は、そしてほかにも数人、自分の正体に感づいている人間もいる。
正体を明かしたところで、彼らがいまさら責めるとは思えないが、それでも迷う。
自分は、どちらでいたいのか。
ジーン1か、ロックオン・ストラトスか。
カタロンか、ソレスタルビーイングか。

「……!」

足音が聞こえ、端末を閉じると同時に思考も中断してスイッチを切り替える。
飄々としたスナイパー、ロックオン・ストラトスへと。

「誰と通信してたの?」

近づいてきた相手がアニューだと分かり一安心する。
できれば、彼女にも……いや、彼女だけにはいずれ打ち明けたい。

「野暮用だよ。」

「気になるの……」

「?」

「アロウズが……どうしてプトレマイオスの位置をあれほど正確に把握できたのか…」

言われてみればそうだ。
衛星兵器を破壊したばかりとはいえ、そこそこ距離は離れていた。
それを計ったようにきっちりと粒子切れのタイミングを奇襲してくるのはなかなかできることではない。
内通者がいると考えるのも無理はないが、疑いの目をアロウズ打倒を生きがいにしている自分に向けられてはかなわない。

「なるほど……お美しいアニューさんは俺を疑ってるわけか。」

フッと笑ってはぐらかすが、アニューも困ったような笑みを返す。

「まさか……ただ気になっただけ。そんなに器用に見えないもの。」

「言ってくれるね。ま……そのうち紹介するよ。俺の野暮用の相手をさ。」

できれば、戦いとは関係ない形で。





そう……この時、俺はそんな期待を内に秘めてアニューとの未来を思い描いていた。
恋人との思い出の品を握りしめていた沙慈も。
残された命を懸命に生きようとしているユーノも。
戦う意味を、生きる意味を模索するエリオも。
誰よりも純粋な刹那も。
誰も……あんな結末になるなんて、この時は想像もしていなかったんだ。



地球 中東

荒野には不似合いなくらい美しい光が駆け抜けていく。
殺風景な景色も手伝い、刹那の心の中に渦巻くのは不安だけだった。
“彼女”の言っていたことが嘘だとは思えないが、あの残骸を見て安心しろというほうが無理かもしれない。
そう、“彼女”と再会した場所に漂う、あの残骸を目にしては。



16時間前 合流予定ポイント

合流地点に来たのに出迎えどころか、声もかからない。
緊張の糸を再び張りつめ、刹那は違和感の正体を探る。

「合流地点はこのへんのはずだが……」

ミッションには成功した。
全員無事であることも確認した。
しかし、そこから先の情報がない。
嫌な予感が神経を研ぎ澄ませている刹那の心を蝕んでいく。
馬鹿な考えを頭の中から排除しようと努力するが、センサーが最悪のものをとらえた。

「せ…刹那……!!」

ジルの言葉に刹那も息をのむ
なんてことはない金属のデブリ。
いつもならそうだが、今回は事情が違う。
白と青のカラーリング。
かけがえのない仲間たちが乗っている艦、プトレマイオスの残骸であることは疑いようがなかった。

「まさか………!」

口の中が一気に乾き始める。
悪夢のような妄想を抑え込みながら、刹那はゆっくりとダブルオーライザーでデブリの中を進んでいく。
しかし、いくら探せどもプトレマイオスは影も形もない。

「トレミーはどこに………?」

その時、センサーが今度はデブリと別のものの姿をとらえた。
それを見た刹那は、混乱しながらも憤りが湧いてくるのを感じていた。

鉄くずの海の中を優雅に泳ぐ赤い影。
銃口を一つ備えたMAの装甲と、そのGN粒子の色に四年前の記憶がよみがえった。

「赤いGN粒子!!」

後ろから近づくその機体に身構えると、MAの操縦者が声をかけてきた。

『ハァイ、刹那。久しぶりね。』

「誰!?」

「ネーナ・トリニティ!?」

『いい男になっちゃって……ネーナ、ドキワクね♪』

「っ!!」

からかうような口調に刹那は二つの銃口をネーナの乗る機体へと向ける。
向こうはどう思っているか知らないが、刹那はネーナたちがしたことを忘れてはいない。
無差別に戦いを仕掛け、多くの犠牲を出し、さらに今の歪んだ世界をつくるきっかけとなった。
気を許せる相手であるはずがない。

そんな刹那の対応にネーナは焦った声を上げる。

『ちょ、ちょっと待ってよ!向こうで散々助けてあげたのにそれはないでしょ!』

「なに?」

思いがけない情報に刹那はソードライフルを下ろし、ネーナの言葉に耳を傾ける。

『そっちが動きやすいようにフォローしてたんだから感謝してよね!特に最後のテロリストとの一戦!あの時、裏で動いて局を牽制したのは私なんだから!』

「どうやって異世界への転移を行った?一人でできることじゃないはずだ。」

『フフ……スポンサーがいい仕事してくれるからね、今のところは。まあ、そんなことはどうでもいいの。君らの艦、地球に落っこちたみたいだよ。』

「!」

(……嘘は言ってない。でも、個人的にはブッ飛ばしたい位ムカつくよ、こいつ…)

この状況を楽しんでいるネーナに腹を立てるジルだったが、刹那は手でそれをいさめる。
情報源はともかく、プトレマイオスの行方の手掛かりが手に入ったのだから結果オーライだ。

しかし、同時に焦りも募る。
これだけの装甲をばらまいて地球に降下したのだ。
満身創痍の状態であるのは間違いない。

『戦闘データも転送してあげたから、それを見れば行方も……って!?急ぎすぎだってば!!』

自分を残してさっさと地球へ向かう刹那にネーナはふくれっ面をする。

「せっかちなんだから、もう……!」

「フラレテヤンノ!フラレテヤンノ!」

「うっさい!」

「イテッ!」

しかし、これでいい。
当面の間、刹那たちには派手に暴れまわってもらわなくては。
自分の計画を成就させるためにも。



現在 中東

些細な反応も見逃さないように計器に気を配る刹那。
しかし、その甲斐もなく一向にプトレマイオスは見つからない。

「トレミーの反応は……っ!」

急に目の前に大きな穴。
いや、最早クレーターと呼ぶべきすり鉢状の地形が現れる。

「これは……衛星兵器の…」

犠牲になった人たちを思い、刹那とジルは静かに黙とうをささげる。
何も分からないままこの世から消えた彼らのことを思うと胸が痛む。

「すべて、イノベイターが仕掛けたこと……!」

自分たちの罪であり、罪なき人々の形なき墓標。
こんなものを二度と生み出さないためにも、一刻も早くこの戦いを終わらせなければ。
そう思っていた矢先、それまで無反応だったセンサーに一つの影が映る。
サイズと移動しているところをみると、プトレマイオスではなさそうだ。
連邦の機体かと思い、その姿をアップにしたとき刹那は雷に打たれたような衝撃を受けた。

紅蓮のカラーリングに細い手足。
巨大な剣を背負ったそれは、ダブルオーライザーの前を横切ると興味がないとでも言うように通り過ぎて行った。

「せ、刹那?」

「なぜだ……奴がどうしてここにいる!!」

猛然とアルケーガンダムの追跡を開始する刹那。
だが、それを視認したパイロットはニヤリと不気味に笑った。



ヨーロッパ中央部 森林地帯

「ラッキーだったね。」

そうアレルヤの言うとおり、本当にラッキーだった。
プトレマイオスに押し出されたのは誤算だったが、アリオスとクルセイドライザーがたがいに近くに降下できたのは重畳だ。

「トレミーは無事だろうか?」

「大丈夫だよ。スメラギさんが黙ってやられると思う?」

「……それもそうか。」

妙な説得力に全員そろってクスリと笑う。
だが、

「……ゲホッ!ケホッケホッ!!」

「大丈夫?」

激しくむせるユーノにアレルヤが心配そうに声をかける。
しかし、ユーノは笑顔を返す。

「平気、平気。ちょっと、喉の変な所に唾が入っちゃって……」

嘘だ。
おどけた顔で誤魔化しているが、967は知っている。
近頃、ユーノが頻繁にせき込むようになっていることを。
そんな時に限って、苦しげに薬をガリガリと噛み砕いては食道へと流しこんでいることを。
もう、時間がないのかもしれない。

「急ごう。無事かもしれないが、あれだけの攻撃にさらされてはトレミーも無事では済むまい。」

ユーノの残り時間の少なさに、ユーノ以上に焦る967は二人を急かす。
だが、運命というのは皮肉なもので、こういうときほど足止めにかかるものだ。

「……反応あり。しかも、ご丁寧に魔力反応も併せて…」

「どこかで見たような艦だな。なんなら、途中まで送ってもらうか?」

「冗談言ってる場合?あれ、ユーノの友達がいる艦でしょ?」

空を覆う葉の影から見えるのは紛うことなく時空管理局きっての高性能艦、クラウディア。
あれだけの激戦、しかも損害を受けながらこの短期間に自分たちを追ってきたのは敵ながら天晴れだが、コンタクトは時と場所をわきまえてもらいたいものだ。

「どう思う?」

アレルヤの問いにユーノは苦笑交じりに答える。

「間違いなく、衛星兵器を潰した僕らの追撃を命じられたんだろうね。しかしまあ、よくここまで正確な位置を把握できたもんだよ。」

「で、どうする?幸い俺たちには気付いていないようだからやり過ごすこともできる。だが……」

「その分、合流は遅れる。下手をすればトレミーは袋叩き……迷ってる暇はない。」

その言葉を待ってましたとばかりにアレルヤを押しのけ、ハレルヤが八重歯をのぞかせる。
飢えた獣のように空を仰ぐと、日の光を遮る巨躯へ狂おしいほどの熱視線を送り、そして、

「そんじゃあ、先手必勝といくぜぇ!!!!」

アリオスの両目をギラリと輝かせて一気に空へと舞い上がった。



クラウディア ブリッジ

クラウディアのクルーたちは突然現れたオレンジのガンダムに面食らっていた。
なにせ、彼らの任務は地上へと落下したソレスタルビーイングの輸送艦への奇襲だったのだから。
MSとの交戦に入るとしても敵艦を目視してからであり、これほど目標地点から離れた場所で、まさか自分たちが奇襲を受けるなど想像もしていなかった。

ざわめくブリッジで、クロノだけはいち早く声を張り上げた。

「面舵!!落ちてもいいくらいのつもりでかわせ!!」

クロノの怒号に操舵手がハッと我にかえり、限界以上に舵を右に切る。
ゴゴゴと空気を振動させながら船体を大きく傾けたクラウディアはハレルヤの不意打ちを辛うじて回避し、そのまま体勢を立て直す間もなくアリオスから距離を取り始めた。
しかし、外したにもかかわらずハレルヤはご機嫌だ。

(ハレルヤ、わざと……!?)

「ハン!どのみちあのアマは徹底的に痛めつける予定だったんだ。少しくらい早くてもかまわねぇだろ……?なぁ、アレルヤ!!」

舌打ちを交えながらユーノも遅ればせながらアリオスに続く。
しかし、すでにカタパルトからは漆黒の機体が出撃し、こちらへ向かって猛スピードで迫りつつあった。

「待ってたぜぇ……女ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ようやく目的の相手に出会え、興奮を抑えようともせずハレルヤが変形したアリオスで飛び出す。
だが、直線的なその動きを交わしたシュバリエはハレルヤを無視して巨大な鎌でクルセイドライザーへと斬りかかった。

「また敵同士ってわけか……!フェイトッ!!」

「私はそんなつもり……ないんだけどねっ!!」

友人同士のじゃれあいと呼ぶにはあまりにも過激で危険な剣戟は傍から見ていても息が詰まる。
クルリと柄を回し、シュバリエが下から稲穂を刈るようにGNサイズを振り上げる。
それをビームサーベルの刃の上を滑らせるようにいなしたクルセイドライザーは右手のツインランチャーの砲身で脇腹を痛打しようと試みる。
しかし、黒い影を残して消えたシュバリエは光弾をばらまきながら右へ左へ動いて的を絞らせない。

(速い……!!わかっちゃいたけど、MSにおいても高速戦闘ではやっぱりフェイトが僕たちガンダムマイスターと比べても頭一つ抜けてる!)

(これだけ動いているのに一発一発の狙いがちゃんとしてる!MSの戦いではユーノに一日の長がある……まともにぶつかってちゃ勝ち目はない!)

残像を貫く閃光に背筋に寒いものを感じながらフェイトは接近できないもどかしさを抑えてアームガンで対抗する。
しかし、気になることがもうひとつ。

(あの人……なんでこないの?)

最初に仕掛けてきたハレルヤが全く戦闘に参加しない。
それどころか、ボーッと立ち尽くしている。

「アレルヤ!!援護!!」

ユーノが怒鳴るが、アレルヤはおろかハレルヤも返事をしない。
ただ、二人にしかわからない何かを感じ取っていた。

「ハレルヤ……これは…!?」

「ああ、間違いねぇ……!!だが、こいつはマリーやソーマ・ピーリスとは違う……!!」

常人には感じることのできないそれを二人は敏感に感じていた。
それでも、まだそれを放つ者がどこにいるのかまではわからない。
しかし、確かに近づいてきている。

1000m…900…800…

じわじわ迫るそれはどこか無邪気で、だからこそ禍々しい気配を自分たちとユーノにぶつけてくる。

600…500…400…300…

センサーに機影が映りこむ。
同時に、ハレルヤはユーノに、そしてフェイトに向かって叫んでいた。

「8時方向上空!!避けろ!!!!」

「「!!」」

それを聞いた二人も、脳量子波などなくとも迫りくる光の柱の射線軸上から退避していた。
轟々と唸りを上げるそれは大地を削り、ブスブスと焼け焦げ、蕩けた赤い液体を残して消え去ったが、それを撃った機体とパイロットはすでに三機の手が届くところまで来ていた。

「あ~あ、外れちゃった。綺麗に消えてくれると思ったのに。」

その声に、その少女をよく知るフェイトとユーノだけでなく、話にしか聞いていなかったアレルヤと967もゾッとする。
幼なさが残るその声の主が、人を殺められなかったことを心底残念そうにしているのだ。
使役している竜にさえ、際限なく愛情を注いでいた少女が殺人に愉悦を覚えている。

カヴァリエーレを操るその少女は、フェイトの知るキャロ・ル・ルシエとは大きくかけ離れた存在になっていた。



中東

夕焼け空の下、刹那はいまだにアルケーガンダムを追いかけていた。
あの男、アリー・アル・サーシェスがどこへ向かっているのか。
なぜ、ガンダムに乗っているのか。
イノベイターとの繋がりは。
様々な疑問やそれに対する憶測が交錯する中、刹那はソードライフルの引き金を引く。
だが、そんな刹那をあざ笑うようにアルケーはビームをかわすだけで撃ち返そうとしない。

「どこへ行く気だ……!!」

あの男の性格上、なんの企みもなく誘うようなマネはしない。
なにか目的があるはずだ。
刹那をここまで誘う何かが……

「……!!この方角は!!」

気づくべきだった。
マップを目にして刹那はきゅっと唇を真一文字に結んだ。

「刹那……?」

不思議そうにジルが声をかけるが、刹那は何も答えようとしない。
そのただならぬ雰囲気にジルも閉口を強いられるが、刹那の目にはもうアルケーと夕焼けに染まる大地しか映ってはいなかった。

(クルジス……!)

刹那にとっての始まりの場所。
サーシェスと出会い、両親を手にかけ、神を信じて戦い、そして……

廃墟と化した街に着いたところでアルケーが振り返る。
そこで刹那は長いようで短い回想から今の現実に引き戻された。
まるで無防備なアルケーにライフルをおろして様子を伺うが気は抜かない。

神経の張り詰めた刹那とは対照的に、アルケーのハッチが開く。
驚く刹那だったが、そこからサーシェスが出てきたところでさらに驚く。

(どういうつもりだ……アリー・アル・サーシェス!)

四年前の再会の時とは違い、今度は自ら生身の姿をさらしたサーシェス。
挑発であることは明らかだ。
しかし、その誘いを受けないわけにはいかない。
奴には聞きたいことが山ほどある。

地上に降りたサーシェスとアルケーに続き、ダブルオーライザーと刹那も地上に降りる。

「刹那!オイラも行くよ!」

〈言わずもがな、私もお供させていただきます。〉

肩にジルを、そして左手にD・ダブルオーを隠して外へ出た刹那は愛機の手の上で因縁の相手と向かい合う。

「よぉ、久しぶりだなクルジスのガキ。いや……もうクルジスの兄ちゃんか。」

「アリー・アル・サーシェス……!!貴様イノベイターに!!」

今にも飛びかかりそうな刹那の肩にジルがすがりつくが、サーシェスの挑発に刹那の憤りは増していく。

「傭兵はギャラ次第でどこにでもつく……そういやぁ、ここでもいい稼ぎをさせてもらったな。」

「あんたの戦いに意味はないのか!?」

面倒そうに刹那の問いを鼻で笑い、サーシェスは答える。

「あるよ……お前には理解できないだろうがな。」

「……!!」

言われなくとも分かる。
理解などしたくないが、わかってしまう。
やつは……戦いに殺戮の快楽を求めている。

もう堪えることなどできなかった。
D・ダブルオーの武装を限定解除し、ソードライフルの銃口をガンダムの肩に立つサーシェスに向ける。
しかし、サーシェスはさして慌てもせずにそれをとどまらせた。

「待てよ。今日はお前さんに会いたいって人を連れてきたんだ……俺のスポンサー様だ。」

サーシェスの指さす先、かろうじて原形をとどめていた塔の陰から彼はあらわれる。
荒れきったこの場所には似合わない白く柔らかな生地の服に涼しげな笑みをたたえたその青年は、刹那にニコリと冷たく微笑みかけた。

「イノベイターか!!」

ムキになる刹那がおかしいのか、青年はフッと鼻で笑う。

「そうだよ。名前はリボンズ、リボンズ・アルマーク。……久しぶりだね、刹那・F・セイエイ。いや……ソラン・イブラヒム。」

(コイツ………ッ!)

動揺は隠せない。
この場所、このタイミング。
そして、この口調。
リボンズと名乗るこのイノベイターは自分の、コードネーム刹那・F・セイエイを自分以上に知っている。

刹那の反応にリボンズは表情を変えずに言葉を続ける。

「そうか、君とは初対面だったね。でも僕にとってはそうじゃない。11年前に君と出会っている。そう……この場所で。」

身動ぎ一つ出来ずに刹那は呆然とその言葉に耳を傾ける。

「愚かな人間同士が争う泥沼の戦場……その中で必死に逃げまどう一人の少年。その時、僕は君を見ていた。MSのコックピットの中で。」

それはつまり、リボンズが“あれ”に乗っていたことを意味する。

「ま、まさか……」

自分をここまで導いたのは、コードネーム刹那・F・セイエイがソレスタルビーイングに入るきっかけを作ったのは、

「あの機体に……Oガンダムに……」

「……あの武力介入はOガンダムの性能実験……当然、機密保持のためその場にいた者はすべて処分する予定だった。けれど、僕は君を助けた。Oガンダムを……僕を見つめる君の眼がとても印象的だったから。それだけじゃない。ヴェーダを使ってガンダムマイスターに君を推薦したのは僕なんだよ。」

足元がガラガラと音を立てて崩れ落ちていくようだった。
こうして生きているのも、戦っているのも全て手のひらの上の出来事。
だが、だとしても揺るがないものが一つだけある。

「礼を言ってほしいのか?」

「まさか。」とリボンズは小さく首を横に振る。
そして、

「君の役目は終わったからそろそろ返してもらおうと思ってね。それは本来、僕の乗るべき機体だ。彼のパートナーとしてね。」

リボンズの瞳は終始冷たかった。
どれだけ微笑んでいようと、どれだけ端整な顔立ちをしていようと、温かみは全くない。
自分以外のすべてを睥睨するような、そんな瞳をしていた。
そんな奴にこの機体を、仲間たちが命をかけて造り上げたダブルオーライザーを渡すことなどできない。

刹那の中にある揺るがないもの。
仲間たちとともに、世界の歪みと向かい合うという決意が、自ずと答えを出していた。

「悪いが……断る!!」

再びライフルを構えようとする刹那。
だが、それよりも早く乾いた銃声が夕暮れの廃墟に響いた。
黒光りする銃口からは硝煙の代わりに赤い光が立ち上り、夕空へと消えていく。

「せ、刹那!!!!」

〈マイスター!!!!〉

右肩を抑えてうずくまる刹那。
飛沫の後にポタポタと垂れる赤い筋はやがて血の水たまりへと変わり、徐々に大きく育っていく。
リボンズに気を取られ、サーシェスの動きにまで注意を向けていなかった。
とんだ凡ミスだ。

「お次は膝を貰うぜ。」

ニタニタと笑いながら再び刹那へ向けて一撃を見舞うべくサーシェスは引き金を引いた。
だが、弾丸が刹那の体をえぐることはなかった。

「ジル!!!!」

小さな体で光の盾を構えた蒼の賢帝。
しかし、予想以上に強かった弾の勢いに負けてダブルオーライザーの指に叩きつけられてしまった。
完全に気を失ったジルをまともに動く左手に優しく乗せる。
弱いが確かに感じる呼吸が生きていることを教えてくれるが、このままでは刹那も危険だ。
二発目を外したサーシェスは不満そうな顔をしているが、それ以上手を出す気配はない。
おそらく、ヨハン・トリニティの時のようにMSでいたぶる気なのだろう。

(……望む、ところだ…!!)

震える右手でダブルオーライザーの指にあるスイッチを操作してハッチまで手を近付けるとふらつきながらもコックピットに座る。
ジルをそっと横に寝かせると、汗のにじんだ顔で微笑みかけて鋭い視線を前へ向ける。
傷ついたこの体でどこまでやれるかわからないが、幸い痛みで意識ははっきりしている。

奴らの思い通りになど、してやるつもりはない。

「刹那……F・セイエイ、ダブルオー、ライザー………目標を…駆逐する……!」

痛む体をかばおうともせずに刹那はトップギアで空へと舞い上がる。
Gが容赦なくギリギリと傷を締め上げてくるが、擦り減るほど強く歯を食いしばってこらえてディスプレイを見据えた。
同時に飛び上がっていたサーシェス操るアルケーが手始めにバスターソードの刃を振り下ろす。
単調なその一撃をかわしたダブルオーライザーは反撃に移るべくライフルの銃口を向けるが、次の動きがワンテンポ遅れた。

「おせぇ!!」

その隙を見逃してくれるはずもなく、アルケーガンダムは横薙ぎでダブルオーライザーを攻め立てる。

「クゥッ!!」

二本のGNソードでそれを防ぐが、今度は爪先から伸びたビームサーベルが迫る。
両手がふさがり、それを防ぐ手立てがないと悟った刹那は危険すぎる賭けに出た。

(ほう……)

「へっ……いい判断だ!!」

攻撃をかわすのではなく、それへとダブルオーライザーをぶつけることで最悪の事態は避けることができた。
ビームサーベルはダブルオーライザーにかすりもせず空を切る。
しかも、脚に激突されたことでアルケーは大きく体勢を崩して民家の跡に倒れこんだ。
だが、その一手のために刹那が支払った代償は大きかった。

「う…!!く……ぐ………!!」

肩の傷から再び血が飛び散る。
いつもはなんでもない衝撃も、今は地獄の責め苦に等しいダメージを刹那に与える。

「いいねぇ!!こんなに楽しませてくれるようになるとは、師匠冥利に尽きるってもんだ!!」

苦しむ刹那をよそに、サーシェスは己の欲望を満たすべく再び刃を振るった。



ヨーロッパ沿岸部 プトレマイオスⅡ ブリッジ

「マズイぞ!!」

ブリッジに飛び込んできたロックオンの第一声だった。
注目が集まる中、彼は全員に状況を伝える。

「未確認のMSが別々の方向から向かってきている!」

「え!?」

まるで図ったかのような襲撃にフェルトは驚きの声をあげるが、逆にスメラギは表情を厳しくして考え込む。
衛星破壊後もそうだったが、敵がこちらの位置を正確につかみすぎている。
しかも、センサー類が死んでいるとはいえ光学迷彩を使っているのだ。
あまり考えたくはないが、裏切り者が紛れている可能性が濃厚だ。

「フェルト、ウェンディとティエリアを出撃させて。」

しかし、とにもかくにも今はプトレマイオスを死守しなければ。
生き残らないことには裏切り者もクソもあったものではない。

(今回はロックオンの“お仲間”のおかげで助かったわね。でも、もうあんまり援護は期待できなさそうね。彼らも生き残ってくれるといいんだけど……)


カタパルト

「セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!」

「スフィンクス、ウェンディ・ナカジマ、出るっス!」

ほぼ同時に飛び出す二機のガンダム。
ティエリアは薄紫の近接戦闘型、ウェンディは薄緑の砲撃型へ先制攻撃を仕掛けてプトレマイオスから引き離しにかかる。
だが、

「ウェンディ、本当に大丈夫か?」

ティエリアの不安はただ一つ。
いかに素質があろうとウェンディの実戦経験は多くない。
そんな彼女がイノベイターと渡り合えるだろうか。
しかし、そんな心配をよそにウェンディは明るく答えた。

「大丈夫だって!あんなやつらにあたしが負けると思う?」

「しかし……」

「あ~、もう!!話してる暇なんてないって!」

二人はすぐそこまで来ていた光弾をかわし、意識を味方から敵へと向ける。

「とりあえず……このバカチンをどうにかするまではお互いの心配は無用ってことで。」

「……了解!!」



クルジス

いつの間にか完全に日も暮れ、夜の帳が下りていた。
その闇の中、二つの光が幾度となく激突している。

「ぅぅうううっっ!!!!」

獣のような唸りとともに刹那は指を動かす。
銃口からは光が飛び出し、アルケーへと奔るがことごとく空を切る。
もう何度繰り返したかわからないし、刹那にそんな事を気にしている余裕はない。
傷を負い、出血している分、長引けば刹那のほうが不利になるのだ。
今にも倒れてしまいそうな体を気力で支え、死んでも離すものかと操縦桿を握りしめる。
だが、

「肩の具合は……どうだい!!?」

「ぐ、ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

サーシェスの仕掛けてきた鍔迫り合いの威力が操縦桿を伝わって刹那の傷を攻め立てる。
押し返すこともできず、一方的に何度も振り下ろされる刃を受け止めるが、そのたびに激痛が脳天まで駆け抜けて反撃に転じることができない。
それでも、この猛攻を防ぎきれるだけで賞賛に値するだろう。
だが、サーシェスの顔に醜悪な笑みが浮かぶと更なる一手が放たれる。

「いけよ、ファング!!!!」

幾条にも連なり襲い来るファングたち。
網の目のように張り巡らされるビームにダブルオーライザーはさらに防戦一方になる。

そうなるはずだった。

(なに……?)

目の前の光景にサーシェスの眉間にわずかだが皺が寄る。
もう弱り切っているはずの刹那が操るダブルオーライザーの射撃でファングが破壊されていくのだ。
初めはぎこちなかった動きも洗練され、今は一発でとらえるようになってきている。

(おもしろくねぇ……)

弱った獲物をじわじわ嬲るつもりだったのに、予想外の抵抗でしぶとく粘る。
楽しみが長いのは歓迎するが、獲物を調子づかせるのはハンターとしては面白くない。

「隙ありぃぃ!!!!」

ファングに気を取られているところを後ろから左足のビームサーベルを振るう。
しかし、まるで風に流されるようにフワリと体勢を傾けたダブルオーライザーは返す刀で左の爪先を斬りおとした。
これにはサーシェスの動揺もさらに大きくなる。

「あの体であの動き……なんだあいつは…!?」

およそ人間にできる芸当ではない。
まるで、彼の雇い主の同類たちのような…

(んなバカなことあるか!!)

追い詰められつつある状況を否定するようにサーシェスはさらに攻めを激しくするが、ファングのビームも自らの斬撃もダブルオーライザーには当たらない。
苛立つサーシェスだが、ダブルオーライザーを操る刹那は彼とは比べ物にならないほど息を荒げてめまぐるしく眼球を動かしていた。

「ハァ…ハァハァ…ハァッ……!!」

〈脈拍112!!危険ですマイスター!!〉

D・ダブルオーの警告も無視して刹那は戦いに集中する。
痛み、敵、炸裂音。
次々に飛び込んでくる情報に刹那の脳はパンク寸前だ。
しかし、その中で刹那は同時に奇妙な感覚を体感していた。

その飛び込んでくる情報を無意識のうちに淘汰している自分。
必要なもののみを残し、不必要なものは削ぎ落としていく。
聞こえるものも、見えるものも、そして感じるものもいつもと全く違う。
まるで、ダブルオーライザーと一体になっているようだった。


ヨーロッパ中央部

「!!」

焼けた大地に再度閃光が奔る。
木々は燃え上がり、大地が憤怒するように赤に染まる。
その上を飛行するクルセイドライザーはカヴァリエーレの放つ砲撃に追われながらも、ミサイルで反撃する。

「だから……見えてるんですよ!!!!」

「なっ!?」

「なに!?」

腕、脚、そして胴。
ありとあらゆる場所から放たれたビームは何度も角度を変えながらミサイルを爆炎に変える。

「アハハハハハ!!!!花火みたいで綺麗!!!!」

「この……クソガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

突っ込んできたアリオスによって砲撃の角度がずれ、クルセイドライザーは辛うじて難を逃れるが今度はアリオスが幾重にも連なるビームの雨にさらされていた。

「チッ!!あの機体、あんな無茶苦茶な仕様だったのか!?」

「いや……強化をしたんだろうけど、それ以上にあの子だ!!」

「そういやぁマセガキが言ってやがったな!!もう一人、ガキとは思えないようなガキがいるって!!」

しかし、それにしてもおかしい。
エリオの話していたキャロとはずいぶん印象が違う。
そもそも異世界で戦った時もこんな感じだったが、今はそれに拍車がかかっている。
なにより、普通の人間に使えるはずのない脳量子波を彼女から感じる。

「まさか……!?」

アレルヤの脳裏にあの忌々しい場所での忌々しい実験のことがよぎる。
しかし、ハレルヤは即座にその可能性を否定した。

「いや、それはあるめぇよ!人革はあのあとさんざんぱら叩かれたんだ!統一世界とやらを目指す連中が客人扱いの連中にんなことするとは思えねぇ!!」

最後の一発をMSに変形してかわしたハレルヤとアレルヤはビームサーベルでカヴァリエーレを斬りつける。
しかし、その一撃をキャロは分厚い装甲でいとも簡単に受け止めて見せた。

「おい、クソガキ!!てめぇ、どこで脳量子波を手に入れた!?」

「……?何言ってるんですか?」

「それ以上その力に頼っちゃいけない!!君が……エリオと一緒にいたいのなら!!」

「エリ……オ…?」

アリオスを弾き飛ばしたキャロは首をひねる。
何か大切なことを忘れているようで、でも思い出したくないようで。
エリオという言葉を繰り返すほどに、頭が締め付けられていく。

「う……ああぁぁぁ……エリオ……!?」

「キャロ!?」

突然の出来事に呆然と立ち尽くしていたフェイトも苦しむキャロの声に我に返って彼女の下へと駆けつけようとする。
しかし、そんなフェイトの前にユーノが立ちふさがった。

「どいて!!今はあなたにかまっている暇は……」

「落ち着け!!」

967の一喝に再び体を硬直させるフェイト。
そんな彼女に、ユーノが問う。

「フェイト、キャロとは一緒じゃなかったの?あの異変はいつから?」

「え……わ、わからない…私たちと一緒にいたころからもう少しおかしくて………それで、一度医者に診てもらおうとしたときにはいなくなってて…」

(クソ……情報が不完全すぎる!けど、誰かがキャロに何かをしたのは間違いない!!)

そして、その誰かとは。

「……イノベイター。」

「え?」

「フェイト、この戦闘の結果如何にかかわらず、アロウズに探りを入れたほうがいい。君たちが思っている以上に、アロウズの裏にいる連中は狡猾だ。」

「な、何言って…」

「とにかく、気を許しちゃだめだ。アロウズは…っ!!」

話の途中でユーノはシュバリエを押して遠ざけると、振り返りざまに最大出力でGNフィールドを展開した。
粒子の鎧を纏ったクルセイドライザーに降り注いだのは数え切れないほどの射砲撃。
最初の砲撃ほどの威力はないものの、夥しい赤い筋がGNフィールドを削り取っていく。

「う……くっ…!!」

フィールドを突き抜けて装甲を削った一撃に苦悶の声が漏れる。
高機動を実現しているウラヌスだが、その限りなく薄い装甲はお世辞にも我慢強いとは言い難い。
フィールドのおかげで最悪の事態は免れても、末端部分の装甲は黒焦げの状態だった。

「っつ…アレルヤ……大丈夫?」

「僕たちはね……それより、君のほうこそ気をつけたほうがいい。」

地面に叩きつけられているアレルヤを気遣うが、すぐにそんな余裕などないのだと悟った。

「オイオイオイ……!!」

月に照らされ赤く輝くカヴァリエーレ。
標準のスペックを上回るその力を発揮する機体の中で、キャロの思考はただ一つのものに支配されていた。

「エリオ……敵…!!裏切り…者…!!私を……捨てた男!!!!」


カタロン拠点

夜空の下、マリナは親友の乗る輸送艇を悲しげな眼差しで見送っていた。
シーリンの話によれば、連邦軍の内部でクーデターを画策している一派がいるらしい。
その一派に協力を申し出るために接触しに行くそうだが、マリナにはそれがどうしようもなく悲しいことのように思えて仕方なかった。

(戦いが広がっていく……)

戦いを戦いでしか止められないという現実。
無論、それ以外に手段が存在しないのだから選択の余地がないというのもあるのかもしれない。
だが、本当にそれでいいのだろうか。

「どうしたの、姫様?」

幼い声にハッとする。
一緒にいた少女が不思議そうな顔でこちらを見ている姿に、マリナは優しく微笑んで膝を折る。

「ヤエルたちと作った歌が、みんなに届けばいいなって…そう思っていたの。」

子供たちと作ったあの歌。
みんなの願いを一つにして作ったあの歌。
大人からしてみれば、青臭い理想論を並べ立てているだけの歌に聞こえるかもしれない。
けれど、子供たちはいつだって本気なのだ。
本気で、そういう世界になればいいと思っているのだ。
こんな時だからこそ、その願いを多くの人に聞いてほしい。

「だったら歌わなくちゃ!」

「…!ええ、そうね。」

そう、願うだけじゃない。
誰の心にも届くように歌おう。
戦うことができないのなら、せめて戦場にいる人々の心にも響くように歌おう。
そう信じることが、自分の戦いだから。

(それぐらいしかできなくても……せめてそれだけでも…)


ヨーロッパ沿岸部

刹那とユーノが苦戦を強いられている頃、ウェンディとティエリアもまた厳しい状況に置かれていた。

「クソッ!!」

両肩両手、持てる火力のすべてをつぎ込むが当たらない。
逆に、セラヴィーがGNフィールドを使って敵の攻撃を耐える場面のほうが多い。
正確無比で無感情な動き。
まるで機械そのものだ。
だが、だからこそ負けるわけにはいかない。
なぜなら、

「ティエリア・アーデ!君は…イノベイターだ!!」

一気に接近したブリングは両肩に接続していたセラヴィーのバズーカを斬り裂き、ティエリアに語りかける。

「我々とともに……使命を果たせ!!」

違う。
ティエリアは確かに普通の人間とは違うかもしれない。
だが、それでも彼は信じている。
自分は、人間だと。
誰かを想う心を持っているのだと。

「断る!!」

収束した五本のビームサーベルの一撃をティエリアは猛然と切り払う。
過去の自分を振り払うかのように。
イノベイターであるということを否定するように。

しかし、ブリングは即座に体勢を立て直すとセラヴィーの腹部へ蹴りを見舞う。
だが、この程度のダメージでどうにかなるほどティエリアもセラヴィーもやわではない。
地上に叩きつけられたものの、即座に起き上がって敵を睨んだ。

「同類を討つのは忍びないが!やらねばならぬ使命がある!!」

降り注ぐ光弾をさがってかわすティエリア。
だが、主武装であるバズーカを破壊されてしまった今、遠距離から反撃を行うのは厳しい。
かといって、相手は接近戦型。
迂闊に近づけば結果は日の目を見るより明らかだ。
だが、

「譲れないものは……」

急停止したかと思うと、土煙を舞い上げてセラヴィーが飛ぶ。
それに合わせて五本の指から生えたガラッゾのビームサーベルが一つに重なり、その鋭い先端がセラヴィーへと迫る。
だが、ティエリアはGNフィールドを展開するとよけようともせずにガラッゾめがけて突進した

「こちらにもあるっ!!」

バキンと乾いた音が響く。
ガラッゾのビームサーベルはセラヴィーの右腕を切断していた。
だが、その前の出来事にブリングは動揺する。

「フィールドが!!」

消えた。
いや、意識的に消したのだろう。
その証拠に、ティエリアは残った左腕と両足の隠し腕でガラッゾをガッシと掴むとそのまま動きを止めた。

(自爆する気か!?)

焦ったブリングは必死に操縦桿を動かすが、完全に固定されてしまったせいでビクともしない。
だが、セラヴィーは自爆をするためにこの一か八かの特攻を仕掛けたわけではない。
ティエリアの戦略は彼の想像を上回るものだった。

「なっ……!?」

赤く染まるセラヴィーにブリングは目を見開く。

「TRANS-AM……!!だが、その程度で!!」

拘束されていない左腕でセラヴィーを切断しようとするブリング。
そんな彼の前に、さらなる衝撃の光景が現れる。
セラヴィーの両肩のキャノンが背中へと消えたかと思うと、後ろから漆黒の体に二つのガンダムフェイスを持った機体が現れる。

「ナドレの時とは違い……その姿をさらそう!!」

四年前のように後悔に満ちた選択ではない。
自分で選び、がむしゃらに突き進むと決めた道だ。

「この機体は……!!」

「セラフィムガンダム!!!!」

ギンと瞳を輝かせ、上へと回りこんだセラフィムはそのままガラッゾへ接近しようとする。
だが、ブリングも正体不明の機体を不用意に接近させるほど間抜けではない。

「GNフィールド!!」

赤い粒子の膜がセラヴィーごとガラッゾを包み込む。
しかし、ティエリアはためらうことなくセラフィムの両手をGNフィールドへと押しあてた。
最初の抵抗感とは正反対に、指先が通った次の瞬間には肘のあたりまで深々とフィールド内部へと入りこみ、手の代わりに二門のキャノンが姿を現していた。

「撃つというのか!?同類を!!!!

ブリングの叫びにティエリアは眉をひそめる。
ブリングの言葉に動揺したからではない。
自分を、ティエリア・アーデをイノベイターとみなすその発言に不快感を覚えた。

「違う!!!!」

力任せにトリガーを引く。

「僕は……人間だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

わずかなタイムラグののち、強烈な砲撃がガラッゾを貫いた。
同時に、セラヴィーとセラフィムの両機が離れてコンマ一秒もないうちにガラッゾは主とともに爆炎に散った。


ヨーロッパ中央

「TRANS-AM!!」

キャロの砲撃がくるその刹那。
ユーノはTRANS-AMを発動してその一撃をかわした。
しかし、カヴァリエーレは執拗なまでに飽和射撃を続行する。

「うおっ!!?見境ナシかあのガキ!?」

「キャロ!!?どうしたのキャロ!!?」

「死ね…死ね……!!しねしねしネシネシネシネ!!!!!!」

「チッ!!」

動きの鈍いフェイトのシュバリエをかばい、GNフィールドの上からとはいえクルセイドライザーは一撃もらってしまう。

「フェイト!!今はとにかく避けて!!あれにつかまったらその機体じゃ耐えられない!!」

「待って!!きっと、何か訳が…」

「訳もクソもあるか!!あのガキはお前も殺そうとしてんだぞ!!少しは現実受け入れろ!!」

装甲に弾かれ射撃が通らないハレルヤは半ば八つ当たり的にフェイトを怒鳴りつけるが、言い分はもっともだ。
全身からビームをばらまくカヴァリエーレは言葉でとまるとは思えない。

(……ごめん、フェイト!!)

ユーノは覚悟を決めた。
装備されていたビットをすべて展開し、ツインランチャーのモードをパーティクルに変更してチャージを開始する。

「アレルヤ、援護!!」

「アレルヤじゃねぇ!!ハレルヤだ!!」

ガトリングの弾幕はわずかではあるがカヴァリエーレの攻めを鈍らせ、クルセイドライザーに接近のチャンスを作る。
ビットのシールドで流れ弾を防ぎ、限界ギリギリのところまで近付く。

「ツインランチャー、バーストモード!!!!」

不気味な音が砲門から響きだす。
周囲の空気を吸い込むように光を集めていくツインランチャーを見てフェイトは悟った。

「やめて!!お願い!!ユーノやめて!!!!」

悲痛な叫びにユーノは思わず口から洩れそうになる謝罪の言葉を飲み込み、フォロスクリーンで機体中央、コックピット部分に狙いを定めた。

(撃たなきゃやられるんだ…!!撃たなきゃやられるんだ……!!)

念仏のように心の中で繰り返しながら、閃光の嵐の中で汗をにじませる。
キャロの声が聞こえたのは、そんな時だった。

『みんな……死んじゃえ…!!私をひとりにするひとは……みんな、いなくなっちゃえ……!!』

「!」

『悪い人…やっつければ、みんないてくれる……!!』

「……………………」

『一人、は…いやだ……!!いや…!!いや…!!イヤァァァァァァァ!!!!!!!!!!』

一人の少女の心の叫び。
苦しみ、でもどうすればいいのか分からず、足掻けば足掻くほど泥沼にはまっていく。
かつての自分の姿が、そこにあった。

「……ごめん、967。」

〈マイスター!?〉

「!!」

「っんのバカッ!!」

砲撃をキャンセルし、その場に立ち尽くすクルセイドライザー。
そこへ、暴走を続けるカヴァリエーレの凶刃が襲いかかった。

「逃げて!!ユーノォォォォォォ!!!!」


クルジス

「チッ!調子に乗りやがって。」

戦闘を開始してもうかなりの時間が経とうとしていた。
想像以上に粘る刹那にサーシェスの苛立ちは極限に達しようとしていた。
ここまでしつこいと興も冷めるというものだ。
それに、ここらで終わりにしなければ雇い主に無様な姿をさらし続けることになる。
その時、アルケーのセンサーがあるものをとらえた。

「こいつは……」

悪魔が耳元で囁いた。

一時戦闘を中断してサーシェスはそのあるもののそばへと行く。
カタロンのメンバーが乗る小型の輸送艇へと。

「ハハハハ!!こいつはモノ質ってやつだ!!」

船体に刃を突き付けながら高笑いをするサーシェス。
もとより敵を倒すためには手段を選ばない男だが、ここまで来ると卑怯や姑息という言葉も生ぬるい。

だが、その行いが刹那の怒りに火をつけた。

「…TRANS-AM……!!」

「手出しは無用だ……っ!?」

なんの予兆もなく消えたダブルオーライザーにサーシェスは今日初めて恐怖を覚える。

「うおっ!!?」

突然の衝撃。
腹部を蹴られたアルケーはグラリと大きく傾いて輸送艇から引き離される。
そんな体勢でもサーシェスはすぐさまファングを放って反撃を行うが、TARNS-AMを発動しているダブルオーライザーには掠りもせず、逆に最大級の砲撃で一基残らず消し飛ばされてしまった。
そして、ダブルオーライザーは煙にまぎれて超越的なスピードで接近するとアルケーの右腕を斬り落とし、さらに右足へもう一本のGNソードを突き刺して動きを止めると、溜めに溜めた右の刺突をコックピットめがけて放った。

「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

これで終わる。
サーシェスとの長い因縁も、ロックオンの仇も。
ここでとどめを刺して終わらせる。
刹那には欠片のためらいもなかった。
……あの声を、あの歌を聞くまでは。

(刹那……)

「…………!」

優しい声。
荒れ狂っていた心の炎を鎮めるその声に、刹那は寸でのところで刃を止めていた。

(マリ…ナ……?)

失くすことが、拾うためなら
別れるのは、出会うため…
さようならの後にはきっと、こんにちはと出会うんだ…


カタロン拠点

「緑色芝生に寝転んでいたい……動物も一緒に、ゴロゴロしたい……」

夜空の下で、マリナはピアノを奏でながら歌っていた。

「今日は良いことが、たくさんあったから……明日も良いことが、たくさんあるように……」

子供たちと一緒に、澄みきった声で、温もりを伝えるように。

「お日様出て、夕日綺麗で……星に願い、明日が来る……」

その声は、その場にいた全員へと届く。
荒んだ心に染み入り、傷を癒して、本当に大切なものを思い出させていく。

ある者は、もういない家族の写真を。
ある者は、愛する人への想いをつづった手紙を。
またある者は、力尽きていった友の形見を。
それぞれの忘れえぬ、忘れられるはずなどない大切なものをその手に握り、静かにその歌声に聞き入っていた。

「どうして……いっちゃうの?一緒に……帰ろう……」


ヨーロッパ中央

「っ…………?」

やられたと思い目をつぶっていたユーノだが、いつまで経っても来るはずの痛みが来ない。
恐る恐る片目を開くと、そこにはあと少しというところまでビームサーベルを進めながらも見えない壁に阻まれるように立ち止っているカヴァリエーレがいた。

「キャロ……どうして…?」

「……歌だ。」

「え?」

967言葉に首をかしげるが、その意味はすぐに分かった。

(喧嘩をして、あの子が泣いて……)

「これ、は……?」

聞き覚えのある優しい声。
何が起きているのか分からずユーノも混乱するが、キャロのそれは輪をかけて激しかった。

「うぅぅううぅあああぁぁぁぁ……!!あた、ま…い…たい…!!!!わた、し……エリオ君……を…ぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!」

「キャロ……」

優しくクルセイドライザーの手をのばすユーノ。
しかし、その手は乱暴に振り払われ、カヴァリエーレは猛スピードで夜空へと消えていく。

「キャロ、待って!!!!」

フェイトが必死に叫ぶが、キャロは止まらない。
心の奥に入り込んでくるようなこの歌を一刻も早く止めようと、とにかく必死にその場から離れて行った。


クルジス

「マリナ……!!」

知らず知らずのうちに、涙があふれていた。
ふと、腕に目をやるといつの間にかジルが必死にしがみついていた。

「駄目だろぉ……!!刹那は、こんなことのために戦ってるんじゃないだろ!!!!」

小さいが、確かに感じる握力は強くて、最後の一押しの直前のところで刹那の腕を止めていてくれた。

「歌が……聞こえる…」

「ああ……聞こえる……!!聞こえてるよ、刹那…!!」

爆散するアルケーから脱出用のコアファイターが逃げていく。
しかし、刹那は追おうとしない。
この歌を聴いている今、そんなことなどできるはずもなかった。











あとがき

ゴロゴロソングな第53話でした(苦笑)
かなり間が空いてしまって、待ってくださっていた皆様へは謝っても謝り足りません!!
本当にすいません!!
でも、やっと品が届くから代替機返せってあんた……
しかも返した後で発注多いから大幅に遅れますってどんな詐欺だよそれ……(泣)
とまあ、愚痴ってもしゃあないのでここまでにしときます。
久々の更新なのにこんなに長くて大丈夫かなと気をもんでいますが、寛大な読者の皆さまなら許してくれるよねっ♪
……無理?
わかってるよそんなこと……希望的観測ぐらい持ってても良いじゃんか!!

次回はブレイクピラー一歩手前のあの話。
またまた刹那がメインになりそうなうえに流れが原作と大差ない気配がプンプンです(苦笑)
まあ、気まぐれにウェンディ×ティエリアの話でもぶち込もうかと画策していますが、あくまでつもりなので定かではありません。
では、よろしければ次回もお楽しみに!



[18122] 54.影を背負いながらも
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2011/12/26 19:46
ミッドチルダ 聖王教会

とある日の昼下がり、小さなため息に美しい髪が揺れる。
彼女の能力によって生み出される詩文が難解で、それに加えて時代ごとによって意味が異なる古代ベルカ語がさらに解読を困難にしているとしても、以前ならばここまで読み解くことに労力は割かずに済んだはずだ。
なにより、本来使えないこの力が本人の意思に関係なく発動することなど想定などしていなかったおかげで、さらにロスも大きくなった。
いや、一番の理由はこの手の作業を得意とする人間がいなくなってしまったことにあるのだが。

「騎士カリム、昨夜からもう随分と時間が経っています。そろそろお休みになったほうが……」

ボーイッシュな顔を曇らせるオットーにカリムは穏やかに告げる。

「私は大丈夫です。それより、無限書庫は協力してくれそうですか?」

「向こうも今は手一杯だそうです。先の戦闘時からその直後にかけての不可解な現象についての資料整理に追われていてとても…」

「そう……」

予想はしていたが、無限書庫の協力もなしにここから先の予言を解読するには時間がかかりそうだ。
もっとも、近いうちに新たな予言が出てくる可能性は低いであろうから時間はたっぷりあるわけだが。

「それで、例の現象の解明はどこまで?」

カリムの言葉にオットーは首を横に振る。

「さっぱりだそうです。今まで観測されたどんな魔力共振よりもはるかに高い値と範囲で、さらに魔力以外の高エネルギー反応や未知の量子波も観測されていたとか……」

あの力……二体の機械天使から放たれた波動はおそらくそれだけではないだろう。
月の魔力が始動キーであるはずのカリムの能力にまでも作用し、さらには戦場からずっと遠くにあるはずのデバイスなどにも影響を及ぼした。
まるで、ユーノがこの世界から姿を消したあのとき、盾を持った天使が纏った赤い衣の力をさらに強化したようものではないか。

謎の波動についての考察はひとまず中断し、カリムは手元の予言の解釈が進んだところまでに目を通す。




蒼の天使、変革の翼を広げ、次代の騎士と共に暁への道を斬り開く
翠の天使、変革の翼を広げ、今を欲する者と共に暁の輝きを守護せん
なれど、その不可分なる物、彼の者たちより生まれし物、影はなおその道を阻まんとす

汝ら、目を背ける莫れ
退きし時こそ、光より遠ざかり、己が影に近付くと心得よ……




(……影、ですか…)

人は誰しも影の部分を持つ。
どれほどの聖人であろうと、どれほど立派な仁徳者でも、無論カリムも自分でも計り得ない影を持っているものだ。
特に、あの機械天使を駆る使徒たちのそれは常人のものとは比べ物にならないだろう。

それでも彼らは前へと進む。
矛盾に満ちていても、己の心を照らしだす光を頼りに。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 54.影を背負いながらも

カタロン拠点

その日も、マリナはいつもと変わらぬ日常を送っていた。
できることなら子供たちを連れてどこか遠く、争いのない場所へ行きたいと思いながらも、行くあてなどないせいでここにとどまるしかない日々。
そんな過酷な日常の1ページ、お世辞にも楽とは言えない雑務をこなしているとき、その声が聞こえてきた。

「接近してくるMSがいる!?」

「アロウズか!?」

アロウズという単語と男たちの慌ただしい様子に反射的に体が硬直する。
しかし、すぐにその慌ただしい声がいつものものとは異なっていることに気付いた。

「ガンダムです!」

「ガンダム!?ソレスタルビーイングが来ているのか!?」

階段の上から聞こえてくる希望に満ちた声。
それにつられてマリナも持っていた衣服を抱えたまま薄暗い廊下から微かに日が差す格納庫へと向かう。
そして、向かいながらも不思議に思う。

「ガンダム……?なぜここに…?」

中東は常に緊張状態にあるとはいえ、ここは人口密集地や戦闘区域からは離れている。
ソレスタルビーイングがやってくる理由、それもカタロンへ来る必要は今のところないはずだ。
ただ一つの心当たりを除いては。

(まさか……)

期待半分、不安半分といった様子でマリナが上へと到着すると、すでに出迎えの人々が澄んだ音色を奏でるそれの前に集まっていた。

「あのガンダムは!」

マリナが兵士たちの間を走っている間にも、彼は梯子で下へと降りてくる。
なんと声をかければいいかも分からず、それでも彼の安否が気がかりで、マリナは人ごみの最前列を越えてガンダムの足元へとたどり着いた。

「刹那!」

久々の再会に人目もはばからずに声を上げるマリナ。
しかし、刹那は地面に足を着くなり肩を押さえてうめき声をあげた。

「……ぅ…マ、マリナ・イスマイール…」

「うわ!お、おい刹那!?」

「!!」

崩れるようにその場で両膝を着く刹那。
マリナは彼の肩にいる蒼髪の小人をさして気にする様子もなく、服の入った籠を手放して咄嗟に刹那の体を支えた。
しかし、ぐったりとした様子の刹那はそのまま気を失ってしまったのか前に体重がかかってくる。
それをマリナの細腕で支えるのは当然のことながら不可能で、一緒に膝を着くことになってしまった。

「どなたか衛生兵を呼んで!!」

どよめく野次馬たちにそう告げ、マリナは刹那に大声で呼び掛ける。

「刹那しっかりして!!刹那!!」

肌に汗を滲ませ、苦しそうに呼吸をする刹那の首元。
必死の呼びかけが続く中、二つの蒼い石が微かに光っていることに兵士たちはおろか、マリナでさえも気づかなかった。



ヨーロッパ山間部 プトレマイオスⅡ ブリッジ

切り立った山々が連なる中をプトレマイオスは進んでいた。
昨夜の襲撃を退けはしたものの、外壁の修理は未だに終わっておらず、こうして航行している間も整備ロボットで修理を行っているのだ。
唯一の救いはセンサー類が回復し、敵の接近をいち早く察知できるようになったことくらいだろうか。

「光学カメラ、およびEセンサーの反応なし。この空域に連邦軍は展開していないようです。」

「合流地点へ急ごう。カタロンの補給部隊はすでに到着しているらしい。」

「情報をくれたカタロンに礼を言わないとな。」

不意に向けられた笑みと軽口に思わず言葉を無くすロックオンだったが、「伝えとくよ。」と苦笑交じりに返す。
感づかれていることはわかっていたが、そのうえでまだはぐらかすのはどうにも具合が悪いといものだ。
もっとも、誰もそのことを責める人間はいない。
むしろ、

「ライルにもお礼を言わないとね……」

うれしそうにそう小声で呟く操舵士までいる始末だ。
その一連のやり取りを見ていたフェルトも、今置かれている状況を忘れて微笑んでしまうのだった。


ブリーフィングルーム

「そうか、セラフィムを使用したか……」

「そうしなければイノベイターの機体にやられていた。」

落ち着き払った口調にイアンは思わず吹き出しそうになる。
以前のティエリアからは考えられない落ち着きぶりが本人には悪いがどうしても笑いを誘ってしまう。
しかし、ムッとした顔のティエリアにすぐさま表情を引き締めると話の続きを催促するようにスメラギのほうを見た。

「彼らはセラフィムの特性に気付いたかしら?」

今回セラフィムを使用した目的はあくまで敵の意表を突くため。
本来の目的とは違うためその全てを把握されたとは考えにくい。
しかし、向こうには四年前の介入でヴェーダを手に入れたリボンズがいるのだ。

「なんとも言えません。ある程度の推測を立ててくる可能性もあると思います。」

「とにかくカタロンの補給を受け、連邦の包囲網を突破せんとな。」

「けど、トレミーの武器はまだ使えない……敵が来たらあたしらだけでどうにかするしかないんスよね…」

不安そうにウェンディがポツリと漏らす。
なにせ、こちらの手駒は三機だけ。
さらに言うなら、そのうち一機は量産型のGNドライヴ。
艦の守りと言うにはあまりにも心許ない戦力である。

「ダブルオーライザーとクルセイドライザーならこの状況を打開できるんだが……」

その言葉にティエリアは視線を下に落とすが、それでも断言する。

「刹那とユーノは必ず戻ってくる。僕は……信じている。」

その場を包む沈黙。
ティエリアの言葉を肯定したい。
だが、言いようのない不安がそれをあと一歩のところで押しとどめる。

「…………あ、あのさ…」

『間もなく合流ポイントに到着します。』

何かを言おうとしたウェンディだったが、艦内放送にかき消されてしまう。
放送を聞いたスメラギとイアンはそれぞれの持ち場へ戻ろうとするが、ウェンディはティエリアの腕を掴んでその場にとどまらせた。

「ん?おい……って、言ったところで聞きそうにないな。」

「あら………ま、いいでしょ。できれば手短にね。」

扉が閉まる音を最後に再び部屋を沈黙が支配する。
ギュッと自分の腕を掴むウェンディの手の温度に、ティエリアの鼓動のペースが早くなる。

「……何か言いたいことがあったから止めたんじゃないのか?」

極力冷静に振舞おうとするせいで冷たい言い方をしてしまう。
しかし、声が裏返ったせいでその努力も無駄になってしまった。

「………死なないっスよね。」

「……?」

ウェンディの手の力がさらに強くなる。
よく見ると、うつむいているウェンディの顔から時折ポタポタと光るものが落ちている。

「ティエリアは……死んだりしないよね…?」

「………当たり前だ。」

ぶっきらぼうにそう答えると、今度はトンと背中に何かがぶつかる。

「ウェン……」

「後ろ向かないで。」

「は……?」

「いいから!!……もうちょっとこのままで…」

前に腕を回され、完全に動けないティエリア。
しかし、別に抵抗するような素振りも見せず、そのまま照れくさそうにウェンディに背中を貸していた。



中東 某所

昼でも暗い廃墟の一角に、ピリピリとした空気が流れていた。

「つまり、あなた方はクーデターを開始する場所も時間もカタロンには教えられないと?」

シーリンがつっかかるが、クーデター派の兵士は動じることなく繰り返す。

「情報漏洩を防ぐためです。カタロンに、我々の動きを見て協力するかどうかを判断していただきたい。」

「事前協力は必要ないと?」

「全てこちら側でやらせていただきます。」

期待していたものとは違う答えをクラウスは終始閉口したまま聞いていた。
おそらくこちらにも余裕がないので気を使われたのだろうが、しかしクーデター派の戦力でも十分とは言えないはずだ。
その不十分な戦力で一体何をするつもりなのだろうか。
作戦の内容を伝えてくれないことがクラウスの中に不信感を抱かせる。
だが…

「各支部にあなた方のことを伝えておきます。それから、ソレスタルビーイングにも。」

クラウスの口から出てきたソレスタルビーイングという言葉に兵士は驚く。

「連絡手段があるのですか?」

「彼らに、アロウズに対抗できる戦力を要請する価値はあると思います。」

シーリンがなぜとでも言いたげに視線を送ってくる。
しかし、クラウスは信じてみたいのだ。
強大な力に立ち向かうには、互いを信じて団結するしかないのだから。



海上 アロウズ母艦 甲板

「久しぶりに地球に戻ってきたと思ったら、また作戦か……」

この空の下にいると、あの不可思議な世界にいたのが嘘だったのではないかと思えてくる。
いや、実際に夢を見ていたのかもしれない。
未だに異世界での体験を事実として受け止めきれないアンドレイは空を見上げながらぼやく。
しかし、ルイスの言葉はそんな彼とは対照的に軍人的だった。

「それが我々の使命ですから。」

本来とはあべこべのやりとりに、アンドレイはため息交じりに諭す。
どうも、最近のルイスは軍人であろうとするあまり感情を押し殺しているように思えてならない。

「准尉……君は女性らしい振る舞いをしたいとは思わないのか?」

「思いません。」

「……沙慈という人の前では?」

その質問には、本来の意図に加え、別の意図があった。
ルイスは単に知っている人間を撃てるのかという意味で捉えて答える

「過去は捨てました。」

アンドレイもルイスの考えた意味と同じ意味で問うたつもりでいた。
しかし、彼女が昔の男を捨てて新しい出会いを受け入れてくれるのではないかという期待が意識と無意識の狭間で漂っている。
だが、どちらの意味で答えたにせよ、ある一つの結論に達してしまう。

「なら、君は復讐心を捨てたことに……」

「失礼します。」

もう話を続けたくないのか、ルイスはアンドレイを置いて足早にその場を去っていく。
彼女を掴みかけた手が虚しく宙で制止し、アンドレイ自身も彫刻のように固まってしまう。
だが、そんな彼の肩に空気も読まずに手をかける男がいた。

「恋の手ほどきなら、この俺様にまかせな!」

振り向くと、いかにも軽薄そうな男が自信満々の様子で返事を待っている。
名前は覚えていないが、その男の顔に見覚えはある。
確か、ガンダムと初めて戦闘を行ってこっぴどくやられたうえに、周囲からの皮肉を賛辞と受け取るほどおめでたい頭の持ち主だ。
そんなナルシストに自分の悩みなどかけらも理解できまい。
小さな笑いを残してアンドレイはおめでたい男を残して艦の中へと向かう

「って!無視かよっ!!おいっ!!」

ムキになる不死身のコーラサワーことパトリックだったが、彼の叫びはアンドレイではなく、隣を航行していた母艦の甲板にいるヒリングの耳に届いていた。
クスリと笑うヒリングだったが、パトリックの道化じみた行動より、アンドレイとルイスのやりとりのほうが興味をそそったようだ。

「人間って不便よね。あたしたちみたいに意思が通じ合わないんだもの。」

「同感だな。」

柵に体重を預けていた赤髪の男が短く答える。
そのあまりに素気なく機械的な返答にヒリングはつまらなそうに口をとがらせるが、この男、デヴァイン・ノヴァはいつもこの調子なので仕方がない。

「どうやらリジェネは参加しないようだ。」

リヴァイヴの声に二人はそちらを向く。
彼が作戦に参加しないことはわかりきっていたことだが、やはりリジェネはイノベイターの中でも変わり者だ。
人間を小馬鹿にする態度はもちろん、リボンズの考えを読んでそれを言い当てては面白がっている節がある。
ヒリングにはそれの何が面白いのかわからないが、そこは人格を設定する際の個人差だろう。
そう言えば、人格と言えばあの二人はどうしたのだろうか。

「そう言えば、新入り二人は?」

「今回はパスだそうだ。お客のお目付け役で忙しいらしい。」

「案外、元カノを寝取る気なんじゃない?」

ヒリングは興味津々のようだが、リヴァイヴは内心穏やかではない。
女を相手に、それも人間の女にかまけて自らの役目をおろそかにするあの男のことが気に食わない。
しかも、素体になっているのがユーノ・スクライアであるというのがさらに苛立ちを増幅させる。
あんな男の劣化コピーに何ができるというのか。

リヴァイヴがその苛立ちを言葉にしようとしたとき、上から空気を切り裂く飛行音が聞こえてきた。

「司令官殿が来たか。」

三人が見上げる先には飛行艇。
メメントモリの防衛に失敗した指揮官に代わり、新たな指揮官が補充されるのだ。

「使えるの?」

「まあ、人間にしてはね。」

見下した言い方ではあるが、リヴァイヴの中での新しい指揮官カティ・マネキンの評価はかなり高いようだった。



中東(?)

曇った夕空の下では、乾いた風が吹いている。
中途半端に冷たい風に、刹那は自分が今どこに立っているのかを一瞬で理解した。

「ここは……」

自分の生まれ育った地。
中東にある小国の一つ、クルジス。
石垣でできた家々は不気味に静まり返り、この後起こる何かを待ちかまえているようだった。

「この家は……!!」

刹那の目に留まったのは見覚えのある家。
小さな、家族三人が暮らしていくのがやっとの本当に小さな家。
その小さな一軒家で、これから悲劇が起こることを、刹那は知っていた。

「!」

背後に気配を感じて振り向いて驚く。
銃を握りしめ、必死にこちらへと走ってくる少年。
浅黒い肌には汗が滲み、かなりの距離を走ってきたことがうかがえた。

「この身を神に捧げ……この聖戦に参加する……!」

刹那が最も嫌悪し憎悪する言葉を呟きながら必死に走る少年。
その先に待つのが絶望とは知らず、存在しないもののためにかけがえのないものを手放そうとする彼は、全てを知る刹那が見えないかのようにそのすぐそばを走りぬけて行った。

「神に認められ、神のために戦う戦士となる……!」

止めることはおろか、刹那は声をかけることもできずに少年の来たほうを、目を見開いたまま見つめている。

「ソラン!!」

「今までどこにいたんだ!?」

やがて、扉の開いた家の中から女性と男性の声が聞こえてくる。
その時になって、刹那は理解した。
自分は、過去を変えるチャンスを与えられたのだと。

「!!」

全力で家へと急ぐ刹那。
扉までのわずかな距離はあっという間に縮まり、中に飛び込んだ時には少年が銃の引き金を引くまであと一歩といったところだった。

「何をする!?」

「ソラン!?」

銃を向けられる理由が分からず困惑する少年の両親。
だが、まだ撃たれてはいない。
刹那は力任せに少年から銃を奪い取った。

「やめろ!!」

「何をするんだ!?僕は神の教えを守るために!!」

「この世界に神はいない!!……いないんだ…」

吼える少年を怒鳴った刹那は悲しそうに視線を落とす。
なぜ、この時気付けなかったのか。
神などいないし、そんなもののために戦っても悲劇を広げ、最後には自らの未来すらも奪ってしまう。
自分には、そんな後悔しか残っていないがこの少年は違う。
きっと、まだやり直せるはずだ。

「お前がしているのは、暴力を生みだすだけの卑劣な儀式だ!!」

少年の肩を掴んで乱暴に両親のほうへ投げると、刹那は彼から奪った銃を手に外へ向かう。

「こいつを家から出すな!!」

石畳の道を走りながら、刹那はあの男を探す。
きっと、どこかにいるはずだ。
あの男さえいなくなれば、それで全てが変わる。
過去を、そして今の自分を変えられる。

(どこだ……!!どこにいる!!)

ギラつく瞳で街の隅々を探す。
しかし、どれほど走っても、どれだけ探してもあの男が見当たらない。

その代わりに、ここに来るのを初めから分かっていたように道の真ん中で彼が待っていた。

「っ……!?」

モスグリーンのパイロットスーツを着ている彼は、静かに目を閉じていた。
ここにいるはずのない、そもそもこの世に存在するはずのない彼の登場に刹那の心臓はいっそう早鐘を打った。

「ロ……ロックオン……?」

ガンダムデュナメスのガンダムマイスター。
成層圏の向こうすらも狙い撃つ男。
自分たちのテロによって、家族を奪われた少年の未来の姿。
ロックオン・ストラトスこと、ニール・ディランディがそこにいた。



第14管理世界クロア ホテル(?)

鼻孔をくすぐる血と硝煙の臭いでユーノは意識を取り戻した。
壁や床に飛び散った血と動かなくなって間もなくても死臭を放つ屍たち。
忘れもしない、過去の自分が死に、今の自分が産声を上げた場所。
第14管理世界クロアの首都にあるホテル。
凄惨な虐殺の舞台だ。

「あれは……!!」

死体の山の一部がもぞりと動く。
急いで駆け付けてみると、血や煤で汚れてはいるものの、一人の少年が無傷の状態でその中に隠れていた。
宝石を想わせるような翠の瞳は怯えたようにこちらを見上げているが、ユーノはそんなことは気にせず強い口調で問い正す。

「ここにいるのは君だけか!?ほかに生きている人はいないのか!?」

「う……あ……!!?」

「しっかりしろ!!大切な人が死ぬかもしれないんだぞ!!」

その怒鳴り声に、少年が豆鉄砲を食らった鳩のようにそとへ飛び出す。
そして、道案内をするようにユーノの前に立って今もこのホテルの中にいるはずの大切な人の下へと走りだした。

(守るんだ……!!今度こそ、僕の手で!!)

怯えていることしかできなかったあの時とはもう違う。
誰かを守るための力を求め、その力を手に入れた。
今なら、守りたいと思えるものを守りぬくことができる。
あの悲劇を、なかったことにできるはずだ。

しかし、いつまで経っても人影一つ見当たらない。
記憶が確かなら、あの死体の山のすぐそこにいたはずなのに階段を登ろうが廊下をどれだけ走りまわろうが目的の場所に着かない。

ただ、彼女の待つ場所へはたどり着くことができた。

「!」

赤い髪をした少女がこちらに背を向けて廊下の真ん中に立ち、二人の行く手を阻んでいる。
その小さな体は、はたから見るとすぐにでもどかせそうなのだが、ユーノにはまるで巨大な岩が道をふさいでいるように思えた。

「なんで……?なんで、君がここに………?エレナ・クローセル……」

故郷を焼かれ、両親を奪われた少女。
本来、ソリッドやクルセイドに乗っているはずだったガンダムマイスター。
エレナ・クローセル……本名リリー・A・ホワイトが血に濡れたパイロットスーツを着てそこにいた。



中東(?)

もう、あの男を探すことも忘れてしまっていた。
なぜニールがここにいるのかということで頭がいっぱいになってしまった。
しかし、刹那が混乱している中でもかまわずにニールは語り始める。

「刹那、過去によって変えられるのは今の自分の気持ちだけだ。他は何も変わらない……他人の気持ちや………ましてや命は。」

その時、先ほど出てきた家から発砲音が響く。
あれほど走ったはずなのに、いつここに戻ってきたのだろうか。
いや、それより手の中にあったはずの銃がない。
全身から血の気が引くのを感じながら刹那が振り向くと、再び銃声が響いた。
鈍い残響が辺りに残る中、暗い闇に包まれた家の中から銃を持った少年が出てくる。
虚ろな瞳で、それでも満足げに歩くソラン・イブラヒムは呆然と過去の己を見送るしかできない刹那・F・セイエイの隣を通り過ぎて消えていった。



ホテル(?)

できることならその場で尻もちをつきたい気分だった。
そのくらいユーノの受けた衝撃は大きいものだった。
自分のせいで死なせてしまった人間が目の前にいるということと、無力な己のせいで助けられなかった人がどこかにいるというだけで自責の念がとめどなく溢れてきて、声を出すことすらできずにいた。
そんな彼を、リリーは静かに諭す。

「ユーノ、過去にとらわれていたらまた大切な物を失うよ。復讐や後悔……そんなものに縛られていても、誰も守れないし、救えない。」

彼女の言葉が終ると同時に、背後で魔力光が輝く。
同時に、幼子が泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
怒りに身を任せ、悲しみに染まりながら、ただただ空へと咆哮する声が。
ガタガタと震えながらそちらを見ると、あれだけ息を切らせて走ったのが幻だったかのように初めの場所へ戻ってきていた。
そして、レント・スクライアの亡骸にすがりついて泣いている幼い日のユーノ・スクライアを見て、ガンダムマイスター、ユーノ・スクライアも一筋の涙を流した。
そんな二人に、リリーは優しく語りかける。

「ここが、ユーノの始まりの場所なんだね。」

「……そうだよ。」

「ここが僕の始まりの場所だ。」

「父さんを目の前で殺され、」

「こんな理不尽な世界が嫌で……」

「だけど……無力な自分はもっと嫌で。」

子供のユーノが光になって消えていく。
残されたユーノは、消えてしまった自分の分もさらに涙を流しながら少女と向き合う。

「だから、戦うんだ。無力に嘆くことながないように、なにかを失うことがないように。」

「……そっか。でもね…」

リリーが悲しそうに首を横に振る。

「ここは……ユーノの本当の始まりの場所じゃないはずだよ。」



中東(?)

「なにを……!?」

ロックオンの言葉に刹那は戸惑う。
ここが刹那の戦いの始まり。
サーシェスに神を信じ込まされ、そのために両親を手にかけ、聖戦という名目で血生臭い戦場に放り込まれた。
そのきっかけがここのはずだ。
ここが始まりの場所でないというのなら、どこが戦いの始まりだというのか。

「本当の始まりは国と国との争い……だが、それも本当の始まりとは言えない。じゃあ、始まりはどこなのか……」

(それは……)

本当の始まり。
国と国との争いすらも違う、もっと根幹的な何か。
以前の自分ならわからなかったかもしれないが、今ならわかる。
何となくではあるが、自分がなすべきことが本当は何なのかが、わかった気がした。



ホテル(?)

「ユーノ……憎しみ、復讐に捕らわれないで。その先にあるものを……ユーノは誰より間近で見てきたはずなんだから。」

体の傷をなでながら、リリーはさみしそうに微笑んだ。
それは自らの愚かさゆえに愛した人と過ごす時間を失ったせいなのか、それとも今こうしてその人と会えたからなのかは本人すらわからない。
ただ、自然と笑みが浮かんでいた。

「ユーノ、あなたたちは変わって。」



中東(?)

「変われなかった……俺たちの代わりに。」

「ロックオン……」

急に周囲の光景がぼやけてきた。
ロックオンも、クルジスの街も、何もかもが上から降り注ぐ淡い白に塗りつぶされていく。
その光の中で刹那は、再びあの歌を聞いた。
優しい言葉で紡がれた、あの優しい歌を。


カタロン拠点 子供部屋

(この……歌は…?)

意識が朦朧とする中、刹那は声の主を探してぼやけた視界であちこちに目を向ける。
すると、ある光景がすぐに目についた。
ジルと一緒に小さな子どもたちが楽しそうに歌っている。
流行りの歌でも何でもない、素朴で何の変哲もない歌を歌うことを心から楽しんでいる。
しかし、その素朴な歌が、なぜこれほどまでに胸をうつのだろうか。

「う……」

「……気がついた?」

「マリナ……ここは………?」

ベッドに腰かけていたマリナの声にジルと子供たちも刹那へと駆け寄る。

「刹那!心配掛けさせんなよなコノヤロー!!」

「お兄ちゃんが起きた!」

「怪我、治ったの?」

質問攻めにあう刹那だが、聞きたいことがあるのは刹那も同じだ。
悪いが、そちらのほうを先に消化させてもらうことにする。

「マリナ、さっき聞こえていた歌は……?」

その問いにマリナは少し困惑した表情を浮かべるが、子供たちの笑みにすぐに自分も微笑んで返答する。

「この子たちの願いを歌にしたの。」

「……そうか……俺は、TRANS-AMの中で、あの歌を…」

以前にTRANS-AMを使用した時も似たようなことが起こった。
おそらく、今回もそうだったのだろう。
あの温かさは、歌だけでなくマリナや子供たちの心を直に感じ取っていたからなのかもしれない。
だが、だからこそ自分はここにはなじめないし、居てはいけない。
戦うことしかできない自分が居ていい場所ではないのだ。

「…う…っく……!!」

ズキズキと痛む肩を押さえながら刹那は無理にでも起き上がろうとする。
はぐれてしまったプトレマイオスのことも心配だが、何より血の臭いがこびりついてしまっている自分がこうして子供たちの近くにいること自体が間違っているのだ。
一刻も早くここから立ち去らなければならないという使命感が不自由な体を突き動かすが、いかんせん傷が深すぎるので立つことすらままならない。
そんな刹那を見かね、マリナが起き上がろうとする刹那を止める。

「駄目よ!弾は取り除いたけど、ここには細胞活性装置なんてないから…」

しかし、その優しく差しのべられた手も払いのけ、痛みに呻きながらも刹那は立ち上がろうとする。

「俺はっ……!!」

この手を取ってしまったら、ここにとどまってしまいそうになる。
温かく、居心地の良いここに。
戻ってはいけないと戒めたこの場所に。
だが、それでもマリナは刹那を押しとどめようとする。

「傷を癒す間だけでいいから!」

「その間だけでもいいから話をしたい。」とは続けられず、その代わりに四年間ずっと隠し続けてきた思いを打ち明ける。

「四年前、あなたがくれた手紙にこう書いてあったわ。人と人が分かりあえる道を…その答えを探してるって。」

「……!」

見ていてくれたのも驚きだが、彼女がその問いをずっと考え続けていたのにも驚かされた。

「わかりあうためには、互いを知ることから始めないと。その時間くらい、あってもいいでしょ?」

(ずっと……俺の言葉を………)

いつの間にか、子供たちの姿が消えている。
しかし、それにも気がつかないほど、この時の二人はお互いのことしか目に入っていなかった。
そして、マリナが必死に説得したおかげか、刹那もおとなしく横になって心を落ち着ける。

(互いを知ることから始める、か……)

そう、いい機会かもしれない。
マリナには、知る資格も、それを受け止めるだけの心構えもできている。
目を閉じて一つ息を吐いた刹那は、彼女に自分を知ってもらうためにゆっくりと語り始めた。

「……俺は、クルジスで戦争が起こったころに両親をこの手で殺した。」

「!?」

「神にこの命を捧げ、聖戦に参加するために、それが必要だと思いこまされた。だから、何の迷いもなく両親を手にかけた。」

「それは…」

「わかっている。俺のしたことは神への信仰でも何でもない。ただの……暴力だ。」

「…………………………」

「そして、俺は戦い続けた。来る日も、来る日も。仲間が一人、また一人と倒れていく中、それでも神を信じて戦った。だが、ある時気がついた。苦痛に歪み、平穏とはほど遠い仲間の死に顔を見て、戦いによって死んだ者に魂の安息などないことに。そして、神がいないことも……」

「なら、なぜ今も戦っているの?平穏な暮らしを捨ててまでも、なぜ戦おうとするの?」

「……出会ったからだ。」

「出会った?」

「……ガンダムに。消えゆく俺の命を救い、そして戦いすらも鎮めたガンダムに出会い、俺は戦い続ける道を選んだ。矛盾に満ちていても、戦いによって戦いを失くす道を……」

そこまで話すと、刹那はフゥと一息ついて声のトーンをもう一段下げる。

「後は知ってのとおりだ。俺はガンダムマイスターとして戦い、そして今も戦っている。」

「…クルジスの戦いのとき、あなたにそんな過去があったなんて……」

「もう10年以上も前のことだ。」

「それがあなたの戦争を憎む理由…」

憎む
そんな簡単ことではないが、確かにそうかもしれない。
戦争も、そしてそれを広げる存在も憎いから、今も戦っているのかもしれない。
世界を変えるためと言ったこともあったが、掘り下げていけばそれにぶつかるのだろう。
大したガンダムマイスターもいたものだ。

自分に呆れ、嘆息する刹那にマリナは焦った様子で今度は自分の身の上話を始める。

「わ、私はね!どこにでもある普通の家庭に育ったわ。音楽が好きで、できればその道に進みたかったけど、私の血筋のせいで……アザディスタンの王女に選ばれてしまって。」

「…確かに……」

「?」

「あんたは一国の王女より、音楽を奏でるほうが似合っている。」

「……無理を、してたのかしら?でも、あなたも同じに見えるわ。」

「……………………………」

「無理をして、戦っている……」

「……俺以上に無理をしている奴もいる。……あいつらを一人にしたくはない。」

あの幼い騎士も、人一倍優しいあの男も、ソレスタルビーイングにいる誰もが無理をしているのだ。
一人だけ逃げるわけにはいかないし、ここで逃げたところで何も解決などしない。
だが、せめて戦いから遠いところにいるこの人だけは、心の赴くままに生きていてほしい。
しかし、刹那は生まれて初めてのその感情を口に出そうとはしなかった。



廊下

「男と女の仲に気を使うなんて、マセたガキども……」

「ほとんど同い年のお前が言えた義理か。」

「そんなこと言ったら盗み聞きしているあんたも人のこと言えた義理じゃないと思うけどね~、おっぱいねぇちゃん。」

ジルの毒舌に、壁に背中を預けながらシグナムはため息をつく。
盗み聞きは悪いと思ったが、できることなら刹那のことを少しでも知っておきたかった。
しかし、あれほどの男ができるにはそれなりの経緯があるのだろうとは思っていたが、想像以上にヘビーな内容だ。

「こっちにも相当ドタマいかれてる奴がいるみたいだね。」

「別に珍しくもないだろう?普通の子供をテロリストにならないといけないほど追いつめて、そのうえでこんな小さな子供にテロリズムのいろはを教え込む連中がいるんだから。ま、自分でも言うのもなんだけどね。」

アギトの言葉に皮肉交じりで答え、遠い目をするブリジットをシグナムは思わず少し乱暴になでてしまう。

「なんだよ?」

「少し卑屈になりすぎだ、お前は。」

「けど、あんたらがまさかここにいるとは思わなかったぜ。本気で連邦にも喧嘩売る気かよ?」

「無論だ。」

シグナムの視線が鋭くなる。

「これだけの悪逆非道。騎士として見過ごすわけにはいかん。」

「ご立派なこって。でも、あんまり無茶はお勧めしかねるよ。あんたには、待ってくれてる家族がいるんだからさ。」

「……できれば、それはどこぞの女顔に言ってやってくれ。」

シグナムの言うとおり、ユーノほど自分の命を軽視する人間はいないだろう。
それも、自分が傷つくことで周りがどれほど悲しむかについて鈍感な人間も。
ジルは同意の印に苦笑を返すと、もう一人の自己犠牲が行き過ぎる者のことを思い出す。
確か、シグナムも彼女の関係者だったはずだ。
長い間言いそびれていたが、そろそろ伝えておくべきだろう。

「そう言やさぁ、あんたって確か……」

「すまん、話はそこらで打ち切りにしてもらえるか?」

突然やってきた眼鏡の男の声に彼女のことを伝えるのは再び延期になってしまったが、男の顔色から重要な情報を手に入れたことは明白だったのでそこは我慢することにした。

「なにかあったのですか?」

「ああ。彼の仲間の艦が、ヨーロッパ支部から補給を受けたとの情報が入ったのでな。伝えておいたほうがいいと思ったんだ。」



ヨーロッパ 山岳地帯

「………ろ……!」

どこかで、誰かが呼んでいる。
一人だけ残された真っ白なこの場所で、ユーノは目を閉じながらその声のする方へ進んでいく。
そこに行かなければいけないのだ。
死んでいった仲間の遺志を継いで自分が変わるためにも。

「……きろ…!!」

なにやら聞いたことのある声だが、だからこそこの声は信じられる。
きっと、一緒に変わるための戦いを乗り越えてくれる。
根拠があるわけではないが、そう思えた。

「起きろ!!」

「った!?」

その声の主の決死のダイブによってユーノは白い空間からコックピットの中へと戻ってくる。
いや、正確には夢から覚めたというべきなのだろう。
しかし、

(夢……にしちゃずいぶん生々しかったな。)

キョロキョロとあたりを見回して、これが現実なのだとわかってもあの出来事全てが夢だとはいまだに信じられない。
できれば思い出したくない光景と、できることなら生きていてほしかった人が出てきたあの夢。
本当に、ただの夢だったのだろうか。

「寝ぼけてるのか?まあいい。これを見れば否でも目が覚めるだろう。」

「これって!!」

録画されていた映像にユーノは夢のことなど忘れて釘付けにされる。
どこかの平原だが、そこに転がっているものが問題だ。
黒焦げになったMSの頭部らしき金属片に、その傍に落ちている見覚えのある白い腕。
そこでなにかあったのは明白だ。

「セラヴィー……!!ティエリアに何か!?」

「だったら腕だけじゃすむまい。ダメージは受けたかもしれないがおそらく無事だ。」

『それで、今は残留粒子から進行方向を予測しながら進んでるわけなんだけど……』

「……このまま行けば海岸線に出る。ひらけたところで大軍に待ち伏せされたら逃げ場がなくなるね。」

もちろん、そんな保証などどこにもない。
しかし、そうならないという保証もどこにもない。

「急いだ方がよさそうだ。」

ユーノとアレルヤはグッとペダルを踏み込むと、猛スピードでプトレマイオスの後を追った。



カタロン拠点

格納庫にどよめきが起こった。
例のガンダムのパイロットがまだ治りきっていない体で、それもクルジスの王女であるマリナの肩を借りてここまでやってきたのだ。
彼女が兵士に肩を貸すというのにも驚きだが、それよりもガンダムのパイロットの正気を疑いたくなる。
戦闘の経験があるものならば、あの傷で無理をすればどうなるかはわかりきっている。
しかし、それでも彼は歩みを止めようとはしなかった。

「その体で大丈夫なの、刹那?」

「仲間が……待ってる…!!」

無理を押して昇降用の梯子までたどり着いた刹那は心配そうに顔を覗き込むジルの頭を優しくなでると、今度はマリナのほうを向いて微笑む。

「マリナ…今度、会ったとき……子供たちの歌を聞かせてくれ。」

想像もしていなかった言葉に声を失くすマリナだったが、すぐに笑顔を取り戻すとゆっくりとうなずく。

「もちろんよ。だから、あなたも無事で。」

「……ああ。」

短いが、二人の間にはそれだけで十分だった。
決して破られることのない約束を胸に、刹那はジルとともにコックピットの中に潜り込むとそれまでこらえていたうめき声を漏らす。

「ジ…ジル……!すまないが、後ろのバックパックにある注射器を取ってくれ……!」

「う、うん!」

ジルは全身を使って自分と同じくらいの大きさの蓋を開けて棚の中から赤いキャップのされた筒を取りだして刹那に渡す。
受け取った刹那はキャップを外して右腕に当てると、側面についていたボタンを押す。

「うっ…!!」

プシュッと空気の押しだされる音と共に体の中に何かが入っていくのが分かる。
それは、強力な鎮痛作用をもたらす薬だが、反面その強力すぎる作用ゆえにそのあとの反動も大きい。
その反動が来る前にプトレマイオスを見つけなければ。

「だ、大丈夫か……?」

〈呼吸、脈拍、ともに正常とは言い難い状態です。やはり、ここにとどまったほうが……〉

「トレミーに…敵が来たら、ダブルオーの力が必要だ。」

唾液と一緒に苦しさをグッと飲み込むと、ヘルメットをかぶって操縦桿を握る。

「ダブルオーライザー…刹那・F・セイエイ……出るっ……!」

それまで沈黙を守ってきていたツインドライヴが唸りを上げ始めると、刹那は空へと消えていく。
マリナの見送りの視線をその背に受けながら。



海岸線

今回もプトレマイオスの位置は完全に掴まれていた。
山脈を抜け、海へ出てひらけたところでアロウズは一気に攻めてきたのだ。
その戦力たるや、未だ態勢を立て直せていないプトレマイオスを墜とすには過剰とも思えるほどのものだった。

そんな戦場の中、ティエリアとウェンディはイノベイターの駆る新型MA、エンプラスに一方的になぶられていた。

「ぐっ、あああああアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

「きゃあああああアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」

白い巨躯が双腕から放ったワイヤーに青白い稲光が幾度となく発生する。
そのたびに、そのワイヤーに絡めとられた二機のガンダムから絶叫が上がった。
しかし、それでもティエリアとウェンディは電撃の痛みにもだえながらも操縦桿だけは手放そうとしない。
全身を貫く激痛に耐えながら、プトレマイオスへ大挙しようとするMSたちへと怒りの視線をぶつける。
なのに、体は感情に反して動こうとしてくれなかった。

「…ま…待て……うあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

抵抗しようとするとますます電圧が上がっていく気がする。
これでは、ガンダムよりも先に中のティエリアたちが先に参ってしまう。
いや、もっと深刻なのはウェンディだろう。
彼女の体は緻密に作られた機械で支えられている側面がある。
この強力な電撃でその機械が狂ってしまったら、それこそ命にかかわる。

『………死なないっスよね。』

「……っ!!!!」

『ティエリアは……死んだりしないよね…?』

「あたり……前だっっ……!!!!」

お前を残して死ねるはずがない。
そして、お前を死なせるはずもない。
そんな当たり前のことを、

「そんな…当たり前のことを……!!聞くなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

その叫びが響いた時、空から垂直に滑降してきた二つの影がエンプラスのワイヤーを斬り裂いた。

「くっ……!!無事かウェンディ!!?ウェンディ!!!!」

「な、なんとか……!」

「本当か!?体のどこにも不具合はないのか!?」

誰が助けてくれたのかを確認するよりも、ティエリアはまずウェンディの安否の確認を優先した。
もちろん、助けてくれた二人には感謝しているがそれよりも今は彼女のことを優先したい。
だが、助けてくれた二人にはその態度がいささか不満だったようだ。

『ちょっと……せっかく助けてあげたのにそれはないんじゃない?』

『まあまあ、アレルヤ。あんなに陰険で社会適正ゼロだったティエリアが好きな子のために頑張るなんて感動的じゃない。うう……お兄さんうれしいよ。』

わざとらしい泣きマネをしながら次々にやってくる敵を薙ぎ払うユーノとクルセイドライザー。
プトレマイオスとケルディムの救援に向かうアレルヤも文句を言いながらも冷やかしを入れてくる始末だ。
もう、感謝の言葉など述べる気にすらなれなかった。

「………………合流しての第一声がそれか。」

『あ、あれ?怒った?で、でも事実だしさぁ……』

『いき過ぎは謝るが、先にこちらに礼を言うのが筋というものだと思うが?』

「そうそう!いくらあたしがキュートでナイスバディだからって…」

「『『『とりあえずウェンディは黙ってろ(て)。』』』」

ここが戦場だということも忘れて悪ノリを開始するウェンディ。
しかし、実際問題これで戦力は大幅に上がった。
この戦況をひっくり返すことだって不可能ではない。

「そんじゃ、つれない男四人組はほっといて、これから世紀の大反撃を……」

『…?待った。』

真っ先に飛び出そうとするスフィンクスとウェンディを止めるユーノ。
しかし、そのウェンディも敵の動きの変化に気がついた。

『……敵が退いていく?』

(チッ……これからって時になんで逃げんだよ?)

呆然とたたずむユーノたちを無視してアロウズは我先にとプトレマイオスとは逆方向へと戻っていく。
今まではカタロンを無視してでもガンダムへ集中攻撃をかけることはあっても、無視して撤退するということなどまったくなかったことだ。

「どう……なってんの?」

「わからない……だが、なにかあったのは確かなようだ。」

『……その何か、わかったよ。』

ユーノは眉間にしわを寄せながらトントンとこめかみを人差し指で叩いている。
珍しいユーノの反応に、彼をここまで悩ませるのは何なのだろうかと全員が送られてきた映像を前に映すが、その瞬間に全員が困惑の色を浮かべた。

「クーデター……!?」

「軌道エレベーターが、占拠された…!?」

地球に根差す文明の傑作にして、人類の生活を支える最大のインフラ。
世界を統合する象徴である軌道エレベーターが、それを守る役割を担っている連邦軍によって占拠されたという事実はあまりにもショッキングなものだった。
ガンダムマイスターたちだけでなく、ごく普通の生活を送る人々にとっても。



アフリカ北部

ほぼ同時刻、刹那とジルもカタロンから同じ情報を受け取っていた。

「刹那、これって……」

「アフリカタワーでクーデター?」

二人はうっすらと見えるアフリカタワーへと視線を戻す。
プトレマイオスの探索でアフリカまで来ていたのは幸運だった。
この情報を受けてプトレマイオスが動かないはずがない。

「連邦軍も包囲……となればトレミーもそこへ!」

現地集合となるがこれでようやく仲間と合流することができる。
もっとも、そのあとが大変そうだが。

痛みも一時的にではあるが消え、そんなことを考えながらダブルオーライザーを進めているうちにあれほど遠くに見えたアフリカタワーが手の届く距離まで到達していた。
しかし、それは同時に彼との再開も意味している。

ピピッという電子音に反応して何気なく拡大したその姿に刹那は錯覚に陥りそうになった。

「このMSは……!?」

黒塗りで細身の体。
ともすれば旧ユニオンで使用されていたカスタムフラッグを彷彿とさせる容姿だが、頭部から突き出た仰々しい角、さらに背中から放出される赤い粒子と両手に握った大型のビームサーベルがその可能性を否定している。
また、肩のプロテクターや後頭部から伸びたコードが日本の武士の鎧や髷のようであり、乗っている人間はよほど日本趣味に傾倒しているように見えた。

「フラッグじゃない…」

そうポツリとつぶやくとたった一機でこちらの様子をうかがっていたその機体は、お披露目はここまでだとでも言うように突如として突進してきた。

(速い!!)

瞬きをする間もなく間合いを詰められ、一切無駄のない振り上げられた刃がダブルオーライザーへと二連の袈裟掛けとなって迫る。
咄嗟に腰のGNソードを抜き放ちそれを受け止めるが、先手に面食らった刹那は歯を食いしばって押されまいとダブルオーライザーの握るGNソードへ全神経を集中する。

「アフリカタワーでの出来事を知れば、必ず会えると信じていた!!」

「この声…!!」

幾度となく剣を交えてきた男の声だった。
執拗に刹那を狙い、異世界に来てまで戦いを挑んできたあの男だった。

「退けっ!!お前にかまっている暇はない!!」

両肩が放つGNドライヴの粒子を増加させ、双剣を横に薙いで黒いMSを弾き飛ばす。
引きはがされた男はニヤリと笑うと楽しそうに不満を漏らした。

「邪険にあしらわれるとはな……ならば、君の視線を釘付けにする。」

黒い機体はスッと剣を下げると、まるで果たし合い前の武人が精神統一をするように動きを完全に止めた。

(なんだ……!?)

「とくと見よ……わが盟友が造りしマスラオの奥義を!!」

背中の粒子が爆発的に増加し始めたかと思うと、マスラオと名乗った機体は大気を震わせるほどの轟音を上げ始める。
そして、その変化は何の予兆もなくやってきた。

「な……!!あれはっ!!!!」

赤い輝きを放ちながら、改めて双剣を構えるマスラオ。
願いどおり刹那の目を釘付けにできたマスラオのパイロット、ミスターブシドーはさらに闘争心を昂らせる。

「ここから先、余所見は抜きだ、少年!!」

TRANS-AMの輝きとともに、ミスターブシドーは超高速の動きでその姿を刹那の視界から消し去った。






影は全てを縛り付ける
己も、そして他者すらも




あとがき

ようやくここまでこぎつけた今日この頃。
でも、ブレイクピラーの後はサイドや原作で語られていなかった空白期にオリ展開をブチ込む予定なのでそうスラスラと行きそうにはありませんorz
でも、なら辞めろよとか言われてもやめません。
だってサイドで誰かを弄り倒したりするのって楽しいんだもんw
さて、次回はセルゲイさん無双の予定です。
でも、無双の後は……( ノД`)
やっぱり、好きなキャラがいなくなるのは悲しいなぁ……
では、次回もお楽しみに



[18122] 55.ブレイクピラー(前編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/01/24 20:36
三日前 中東 連邦軍基地

外から入ってくる光だけがその部屋の在り様を詳らかにしていた。
窓の側に構えられた個人が使うにはやや大きすぎるきらいがあるデスクに人影はなく、それがなお一層その持て余しがちな存在感を増幅させている。
不要な物が限りなく削ぎ落されたその部屋におけるそれは一番重要な位置を占めながらも、ある意味一番無駄なスペースを占領していると言ってよかった。
それでもそこに本来居るべき人間がいればその無駄な大きさも威厳へと変容し、必要最低限の機能しか果たさなかったとしても、おそらく誰もその大きさを無駄だとは思わないだろう。
だが、そこに本来居るべき人物、セルゲイ・スミルノフは暗鬱としたままソファーに腰かけ、つい先ほどまで正面にいた来客のことを思い返していた。



1時間前

「一体どういう風の吹き回しだ?わざわざ中東にまで俺に会いに来るとは。」

コートを脱いでソファーに腰掛けた旧友にセルゲイは皮肉を交えながら固く彼の手を握る。
久しぶりに握ったその手はやはり最後に交わしたものと変わっておらず、白の手袋の上からでもわかるくらいゴツゴツとした軍人の手だった。

ハング・ハーキュリー大佐
セルゲイの、そして彼の妻の友人であり、同じ理想を追い求めた同志でもある。
家庭の“諸事情”があってからは、息子のアンドレイとの交流は多かったようだが、セルゲイとはやや疎遠になっていた。
どの道アンドレイと会うことがなくなっていたのだから、当然ハーキュリーと会うことなどできようはずがないのだが。

「軍の監査役を命じられたお前に、伝えたい情報があってな。」

「情報……?」

「ああ。」

深刻そうな面持ちで首肯するハーキュリーにセルゲイも否応なく緊張感が増す。
そして、ハーキュリーが口にした内容は緊張すらも通り越して焦燥にも似た感情を呼び起こすことになった。

「軍の中に、クーデターを画策する動きがある。」

いつかこんな時が来るとは思っていたが、いざ直面すると一瞬思考が凍結した。
セルゲイの元部下であるミンも自らが所属しているアロウズに良い感情を抱いてはいない。
とくに、ここ最近の政府やアロウズの在り方は容認しがたいものがあるように思える。

だが、冷静に考えれば別段驚くことではない。
セルゲイ自身、アロウズのやり方にはついていけないと考えていたし、身近な人間からの不平不満も日常茶飯事なのだ。
できることなら、そのあり方をただしたいという思いは彼も同じである。
しかし、同時にアロウズを過小評価しているつもりもない。
現状で彼らに対抗できるのは、実に認めがたい事実ではあるが、ソレスタルビーイングとガンダムくらいのものであり、そのソレスタルビーイングにしても物量にものを言わされると辛いものがある。
いかに正規軍と言えど、少数によるクーデターなど即刻ひねりつぶされるだろう。

「連邦政府に反感を抱く者が多いとは思っていたが……まさかクーデターとは。」

その無謀さに対する呆れと、そうやって諦念するしかない己の不甲斐なさにセルゲイは溜め息を漏らしたが、今度はその息を飲み込むことになった。

「……連邦政府はアロウズの傀儡になり果てちまった。」

「!!」

閉じかけていた目がカッと見開かれた。
批判的な言動と、低く張り詰めた声にセルゲイは旧友の心のうちのすべてを悟った。

「まさか、お前……」

「世論は目を覚ます必要があるんだよ、セルゲイ。」

「なぜ?」という問いかけを喉の奥へと押し込み、何かの間違いであってくれと願いつつセルゲイは詰問する。

「クーデターの首謀者はお前だと言うのか?」

「連邦議会は世論を無視した形で独立治安維持部隊を創設し、軍事機能を拡大……遂には衛星兵器の使用にまで踏み切った。この所業、看過しておくわけにはいかんな。」

「……アロウズを甘く見るなよ。」

「見てはいない。だが、いくらアロウズとはいえ、手出しができない場所がある。」

再三の落雷がセルゲイの脳天を撃つ。
アロウズでも、否、誰も不用意に手出しができない場所。

「まさか、軌道エレベーターを!?」

身を乗り出したセルゲイにハーキュリーは不敵な笑みを見せる。
勝算ありと雄弁に語る沈黙に、セルゲイは憮然とした態度で問う。

「……私にクーデターに加われと?」

「お前は軍の規律には逆らわんだろう。そうでなければホリィも…」

「言うなっ!!」

とうに爪牙が抜け落ちたと思っていた荒熊の咆哮にハーキュリーはキツネにつままれたような顔をするが、未だに彼女の話がタブーであることを理解すると素直に頭を下げる。
それでもなお、セルゲイは視線を落したまま剝き出しにした牙を収めることができず、ただ唸り続けていた。
それは、悔悟の念がそうさせるのか、その牙でその身を自傷することで償いをしているようだった。
それを見かねたようにハーキュリーが本題へと話を戻す。

「お前を訪ねたのは、この件には関わってほしくないからだ。」

「目をつぶれというのか?」

「軍人としてではなく、長年の友人として頼んでいる。……お前とは、争いたくない。」

「ハーキュリー。」

ソファーから立ちあがり、かけておいたコートを着て部屋を後にしようとするハーキュリーに声をかける。
しかし、

「セルゲイ、昔言ったよな。軍隊とは、国民と国益を守るために対外勢力の抑止力になることだと。」

そう、それこそが理想の軍隊。
彼らが追い求めた治世の形であり、万人を救いうる手立てだ。
だが、

「だが、間違った政治の下で軍隊は正しく機能しない。私は正しき軍隊の中で、正しい軍人として生きたいのだ。」

その言葉がこの日の最後の彼の言葉であり、友人に対する最後通告だった。




この後、セルゲイは人革連時代の上官からある密命を受けることになる。
それが、軌道エレベーター設立後の歴史における、そしてある特定の人間にとっての、最悪の事件の引き金になることを、この時誰が予想できただろうか。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 55.ブレイクピラー(前編)

プトレマイオスⅡ ブリッジ

『アフリカタワー・低軌道ステーションを占拠した反政府勢力から犯行声明、および連邦議会への要求が届きました。反抗勢力はステーションの人質の解放と引き換えに、連邦議会の解散、反政府活動家4万5000人の解放……』

「おいおい、肝心なことは後回しかい。」

画面の向こうの女性にツッコムが、そこに微笑ましさは微塵もない。
笑って激憤を抑え込もうとしているが、眉間の皺と断続的に続く歯軋りがユーノに近寄りがたい雰囲気を演出している。
それは、その場に紛れこもうとした愛娘を押し留めるにとどまらず、指定席についている各々にプレッシャーをかけてくる。
だが、クルーの誰もがユーノと同じく怒りを感じているのもまた事実だった。

「アロウズが撤退したのもこれが理由だったのね…」

「で、どうするんスかスメラギさん?」

「もちろん、協力するんだろ?」

当然、ロックオンは協力に積極的だが、しかしスメラギは彼の都合云々に関係なく、慎重にならざるを得なかった。

「イノベイターはヴェーダを掌握している……なのに、なんで今回の騒動を予測できなかったのかしら?」

「クーデターを予想しながら、見逃していたと言うんですか?」

「その可能性もあるわ。」

だとしたら、何のためなのか。
罠だったとしても、敵の腹の内が読めないせいで、目的がはっきりとしない。

嫌な予感がする。
不気味なほど静かなこの状況が、スメラギの不安をあおってくる。
しかし、ここで指をくわえて見ていても何かが好転するわけでもない。

「だが、アロウズが動き出す以上、黙ってるわけにもいかないぜ。」

「アロウズの裏にはイノベイターの存在がある。」

ラッセとティエリアの進言にスメラギも肯く。

「彼らが何を企んでいるにしても、それを解き明かすには現地に行くしかないわね。それに、クーデターの情報を刹那が知ったら…」

「向かってるな。」

「ああ。」

「確実です!」

この場合、刹那は信用されていると喜ぶべきなのか、それとも単純だと思われていると憤慨すべきなのか悩ましいところだが、彼の目的通りプトレマイオスと合流できるという点では結果オーライだろうか。
兎にも角にも、今後の方針は決まった。

「イアン、ユーノ、アフリカタワーに着くまでに火器管制を使えるようにできる?」

「……やるしかないだろ。」

「……だね。」

休む間もなく作業を言い渡される二人だが、今は一分一秒が惜しい。
これから敵の真っ只中に飛び込もうと言うのに、本丸の武器が使えないなどあってはならない。
なので、今日も無理を通して道理を引っ込めるため、技術者二人は時間と言う敵が待ち受ける戦場へと繰り出していく。
そんな彼らの唯一の救いは、沙慈が手伝いに来てくれたことだった。



同時刻 アフリカタワー 低軌道ステーション

時を同じくして、低軌道ステーションに向けてアロウズのMSが接近を開始する。
外の守りはMS一機いないのでざると言っても過言ではないが、中には多くの一般人が人質としているのだ。
まさか彼らごと低軌道ステーションを吹き飛ばそうとはアロウズも考えないだろう。
いや、世間では反乱分子を鎮圧する正義の部隊として通っている以上、なおのこと目立つ方法でケリを着けるようなことはすまい。
そう、“誤魔化せる手段”でないならば。

そして、予想通り紅のMSたちは腰に装着していたコンテナを切り離す。
それは外壁部への着地を無人とは思えないほど見事に成功させ、中から鉄製の蜘蛛を解き放った。

「噂のオートマトンか……」

フンと鼻で笑うと、ハーキュリーは“最悪”の事態を待ち望む。
その“最悪”に力なきものを巻き込まぬ自信を携え、オートマトンの進軍を見守る。

「隔壁、突破されました!」

「予定通り防衛システムをモードSにして対応しろ。」

モニターの奥で銃火によって砕かれ、引き千切られ、無残な姿で重力ブロックの床に転がる。
何機かは銃火を免れ、奥へと進んでいくが、遅かれ早かれ先に破壊された物と同じ末路をたどることになるだろう。
しかし、それにしても数もその動きもあまりにお粗末すぎた。

「オートマトン撃破率、43%に到達!」

「ただの斥候でしょうか?」

「わからん。」

もっとストレートな戦術を取ってくるかと思ったが、どうやらまだ絡め手を用意しているようだ。
不気味ではあるが、指揮に変更はない。
現状維持のまま敵の出方を伺う。

「大佐、カタロン部隊がピラーに接近します。」

どうやら、待ち人のほうも来てくれたようだ。
何一つ情報もよこさず、敵に囲まれたこの危険地帯に赴いてくれた彼らに、ハーキュリーはどれほど頭を下げようと足りないくらいの感激の念を抱いた。

「連邦の迎撃は?」

「ありません。カタロン、ピラー内部に潜入。我が方の地上部隊と合流しました。」

「地上にはアロウズも展開しているはずだ。それが手を出してこないとなると……」

「大佐。」

「今度は何だ?」

ハーキュリーの考察は再びの声に先延ばしになる。
正確に表現するならば、ハーキュリー自身もその姿を確認した瞬間に、アロウズの不可解な行動ではなくこれから訪れるであろう人物だけが思考回路の大部分を占めることになった。

ピラーを昇ってくる青く無骨な機体。
ハーキュリーも幾度となくその命を預け、助けられたMSの全領域対応型。

「ティエレンタオツー?」

アロウズかと警戒し訝しがる部下たちとは対照的に、ハーキュリーは笑いを隠しえない。
いかにティエレンタイプの最新鋭機とはいえ、GNドライヴもつけていないMSをこんな所へ放り込むほどアロウズも愚かではあるまい。
そして、正規軍の中でもあれを使うのは旧人革連のパイロット。
さらに付け加えるなら、この鉄火場に真正面から乗り込んでくる人物はハーキュリーの記憶には一人しかいない。

「迎えのMSを出せ。」

「大佐?」

「そのくらいはせんとな。」

フッと笑って目を細めて一人語散る。

「あれには、私の友人が乗っている。」



アロウズ空母

「反乱分子の首謀者と知り合い?」

アンドレイに甲板まで連れてこられたルイスは我ながらよく声が裏返らなかったものだと自賛する。
思いつめた顔で詰め寄られ、その手の話をきっぱりと断るべきか、言葉巧みに煙に巻くか、どちらを選択すれば彼との関係を拗らせずに済むか熟考していたのだが、その必要が全くなかったせいで意に反して声色を半音も高くしてしまった。
もう半音高ければ何か感づかれたかもしれないが、ギリギリで堪えたおかげで怪訝そうな顔をされるにとどめられたようだ。

アンドレイは不思議そうな顔をしていたが、すぐにその首謀者のことを思い出したのか顔をしかめた。

「その人は父の友人だ。子供のころ軍隊の正しい在り方なんて理想を何度も聞かされた。」

ここ最近、ルイスは自分でも人の機微というものに鋭くなったような気がする。
アンドレイは首謀者に対して怒りを抱いているのは間違いないが、その怒りは向ける矛先が違っているように思えてならない。
首謀者と誰かの姿をダブらせ、首謀者を責めることによって責めることのできない何者かへの怒りをぶつけているようだった。
しかし、アンドレイはルイスの疑念のこもった視線に気付こうともせずに話を続ける。

「なのに、反乱分子となり、6万もの人質を取ってたてこもるだなんて……」

口を開くほどに、言葉の端々に彼の私情が、やり場のない個人的な怒りが溢れだしてきている。

私情を抜きにしても、彼の言い分はもっともである。
軌道エレベーターを占拠するのは大罪である。
なるほど、軍人の理想を語った男がその道から外れる行いをするのは許されざる蛮行だろう。
だが、ルイスにはそのどれもがどうでもよかった。
軌道エレベーターにいる人質がどのような思いでいるのか、そして、仮に命を落としたとしたら何を思って黄泉路へ旅立つのだろうか。

「反乱の理由なんて関係ありません。我々はアロウズとして戦うまでです。平和を勝ち取るために。」

そう、自分よりも若い彼女たちも、そう信じて戦場に身を投げ込んだのだ。
凛とした立ち姿でそう言い放つルイスは、自らの掲げる正義を疑うことなど知らなかった。
そして、これから起こることの真相も知らなかった。



ミルファク はやての部屋

彼女のマイスターはもう昨日からずっと同じ体勢だった。
机に向かって逐一入ってくる味方の布陣を眺めながら額をトントンとノックをしながらブツブツと何かを呟いている。
友人や部下が引っ切り無しに交換するコーヒーにも手をつけず、ただひたすらにこの不可解な状況についての考察を続けている。
リインフォースⅡも時折睡魔に敗北しながらも主であるはやてを気遣って共に起きていたが、すでにその我慢の容量も限界を迎えようとしていた。

「はやてちゃん、そろそろ寝ましょうよぉ……」

「……………………………」

はやては相変わらず黙り込んだまま地図とのにらめっこを続ける。
そして、そのにらめっこを続けるほどに、はやての顔色は青ざめていった。

(私らも含めたこの配置………どう考えても“上から飛んでくる何か”を警戒してのもの………風向きと風速から考えれば、隕石でも落ちひん限り被害はでない……)

隕石が落ちる可能性は限りなくゼロに等しい。
しかし、ここには落ちてくれば下に住む人々への被害は免れ得ないものが堂々と立っている。
しかも、それの中にも6万人以上の命が詰め込まれているのだ。
破壊されれば何が起こるのかはわかりきっている。
それにしても、アロウズと管理局の布陣はそれを“わかりきり過ぎている。”
まるで、不可避の予言でもされているかのように、犯人側ではなく、こちらがそれを取り行うかのように。

(せやけどんなアホな!そんな事したら、連邦の信頼だって失墜するはず……絶対そんなこと起こるわけあらへん!)

何度もそう言い聞かせて、自分のミスを探しまわるが、新たに加わる情報全てが彼女の推論を後押ししてくる。
待機の命令など無視して動くべきだと本能と理性の両方が訴えるが、それでも何かの間違いだと無理やり黙らせる。
しかし、ラストピースは情け容赦なくはやてのもとへとやってきた。

「失礼する。」

自分を一瞥もしないはやてに、顔に大きなやけどの痕を持つ男は不平の一つも言わずに事実のみを手短に伝える。

「貴官はセルゲイ・スミルノフ大佐と懇意だと聞いている。本来、伝えるべきことではないが、貴官には大佐が受理した密命について説明しておく。」

「密命?」

そこでようやくはやては男のほうを向く。
心なしか焦りの色が見える表情は、それでもなお軍人としての威厳を保とうと身を砕いているようだが、動揺を隠しきれずに汗を滲ませている。

「……大佐は今、アフリカタワーの中にいる。」

「なっ……!?」

「今回の一件の首謀者であるハング・ハーキュリー大佐はセルゲイ大佐とは旧知の仲だ。故に、交渉のために派遣され、大佐もまた友人を救うためにその任務を受理した。」

スゥッと血の気が引いていく。
あの中にセルゲイがいる。
いつ崩れるかもわからない、これからなにが起こるかもわからない場所にセルゲイがいる。
それだけで、はやてが迷いを振り切るには十分だった。


数分後、無理やり叩き起こしたリインを引き連れ、待機の命令を守っていた操舵手の首根っこを掴む乙女の姿があった。



アフリカタワー 低軌道ステーション 管制室

正規軍から派遣された密使とはいえ、監視役がつく以外はほぼ無警戒で案内を受けるという破格の待遇を受け、セルゲイは友人の下へとたどり着いた。
手の届く距離でとまり、前回とは違って沈黙を挨拶代わりとする。

「……やはり来たか、セルゲイ。」

「ハーキュリー…」

力ずくでも彼を止めたいところだが、今回はあくまでも密使。
セルゲイはフゥと一息つくと、お決まりのセリフを抑揚のない声で伝える。

「地球連邦の密使としてハング・ハーキュリーにお伝えする。連邦政府は決して諸君らの要求を受け入れん。速やかなる投降を勧告する。」

「フン……そんなことを言うためにわざわざここに来たのか?」

無論、そんなつもりはない。
友にこれ以上罪を重ねさせぬため、無駄に命を散らすものを減らすために密使などという道化を演じたのだ。

「連邦政府の情報操作が徹底されている今、貴官らの主張は世界には届かん。なぜ無関係な市民を人質に…」

みなまで言うなと、手で制するハーキュリー。
最早、ハーキュリーは言葉などでは止まらない。
止まれないところまで来ているのだ。

「無関係ではない。」

モニターが見える位置まで歩くハーキュリー。
その目は憂いに満ち、それゆえに燃え盛る使命感が見て取れる。

「豊かさを享受し、連邦議会の政策を疑問もなく受け入れた市民たちは政治を堕落させたのだ。アロウズなどという組織を台頭させたのは、市民の愚かさなのだよ!………彼らには目覚めてもらわねばならん。たとえ痛みを伴ってもな。」

その言葉にセルゲイは心臓をじわじわと握り潰されていくようだった。
思いつめているのはわかっていたが、まさか手段を選ばぬとは想像していなかった。

「市民の安全と利益を守るのが軍人ではないのか!?」

「だからここでこうしている。」

「……っ!投降しろ……!!今なら部下の命は救うことができる!」

「アロウズが許すとは思えんな。」

「ハーキュリー!」

「会談は決裂だ。地上に戻り、司令部に伝えるがいい。たとえ我々は一人になろうと決してここを離れんとな。」

兵士二人が腕を掴もうとするが、セルゲイはそれを振り払い改めてハーキュリーを睨む。

「私もここに居させてもらう!!」

「なに?」

意外だったのか、ハーキュリーの声に驚きの色が混じる。

「命令を受けただけで私がここに来たと思っているのか!?」

もう、誰も救えないのはごめんだ。
たとえそれが軍部の意思を無視するものだとしても、ホリィの時のような苦い経験はもうたくさんだ。

「……私は、もう二度と…」

「大佐!!」

慌てた様子で兵士の一人がセルゲイの言葉をさえぎる。
切羽詰まった様相が言葉を待たずして緊急事態を告げていた。

「新たなオートマトンが出現しました!!重力ブロックに向かっています!!」

「なんだと!?」

声を上げたのはセルゲイだった。
重力ブロックには多くの市民がいるのだ。
そこで銃撃戦になれば、十中八九犠牲者が出る。
考えるよりも先に体は走りだそうとしたが、間髪いれずに兵士に両腕を掴まれてしまった。
そして、肝心のハーキュリーはセルゲイよりもはるかにクレバーだった。

「予定通り第一区画を閉鎖!歩兵部隊は市民をトレインへ誘導せよ!!第二歩兵部隊はオートマトンの迎撃にあたれ!!」

「ハーキュリー、お前…!」

「見損なうなよ、セルゲイ。」

ハーキュリーは鋭い笑みでセルゲイを射竦める。

「痛みは伴うと言ったが、犠牲を出してもかまわんとは言った覚えはないぞ。」



重力区画

しかし、ハーキュリーの言葉とは裏腹に犠牲は出ていた。
金属製のコンテナを盾に使い、オートマトンと銃撃戦を繰り広げながらリニアトレインまで市民を誘導していくクーデター兵だったが、それでもオートマトンの放つ銃弾はそこにいる人間の胸を、あるいは頭を撃ちぬいていく。
さらに、別ルートで防衛線を突破した物は逃げまどう人々を情け容赦なく葬っていく。
その凄惨な光景がさも世の理であるかのように。


管制室

市民から死傷者が出たとの報告にセルゲイが、誰よりもハーキュリーが憤怒の色を浮かべる。
自らの不甲斐なさ、そしてアロウズの殺戮に対する怒りはその場にいた友人へと向けられた。

「わかったかセルゲイ……これが間違った軍の有様だ!!」

何も言い返せなかった。
一軍人としても、人間としても、この所業が正しいものだとは思えない。
ハーキュリーの起こした騒動が引き金であるにしろ、死者が出た原因はアロウズ、ひいてはその台頭を許した政府や正規軍にもあることは弁明の余地がないことだ。

しかし、世界へ伝えられた“事実”はすでにこの場所で認識されている“事実”からは懸け離れたものへと変質していた。



ミルファク 食堂

記者会見でさも怒りを隠せないという様子で会見を始める女性。
今から己が口にする言葉が虚偽で構築されたものだと知っていてこの演技をしているのならアカデミー賞ものだが、おそらくは知らないのであろう。
映像などという加工のし易い、それも軍から提供されたというだけでそれが真実だと思いこむとは何ともおめでたいおつむの持ち主だ。
いや、なにも彼女に限ったことではないだろう。
全ての人間が自分たちの上に立つ者に一片の疑問の余地も持ってなどいない。
周りでテレビ画面に食い入るように見ている連中もそうなのだと思うと、ソリアは怒りよりも呆れが宙返りをするというものだ。

『この映像は、独立治安維持部隊の無人偵察機がアフリカタワー内部を撮影したものです。』

映されたのは市民を取り囲む兵士たち……続いて逃げる人質を撃ち殺す兵士たち。
状況、射殺される人数、何から何までが不自然なことだらけなのにそれに気付こうともせずに怒りに燃える阿呆ども。

(盆と正月どころかとどめにクリスマスまで一緒に来たってここまでおめでたくはないだろうな。)

救いようがないにもほどがある。
オリジナルは随分と温い手段で世界を変えようとしているようだが、それではあの頃と何も変わらない。
父を殺めた連中を疑おうともしないこいつらは支配するにも値しない。
ましてや、救済など愚の骨頂。
絶対的な畏怖を刻みつけ、そのついでに半分ほど間引いてやればいい。
そうすれば、少しは世界も平和になるというものだ。

『反政府勢力の兵士たちは、ステーション内の市民の命を奪っています。』

ソリアの行動理由、そして最終目的はリボンズともファルベルとも相容れない。
支配や救済などというプロパガンダを掲げる哀れな道化どもとはいずれ手を切ることになるだろう。
その時、彼らはどんな顔をして、どんな言葉をソリアにぶつけるだろうか。
そんなことを考えながら、能天気な連中を観察していたソリアだったが、その中で一人だけ種類の違う感情を抱いている彼女を見つける。

(ほう……)

オレンジの髪を揺らさず、怪訝そうな顔でモニターを見つめるティアナに、ソリアはニヤニヤと笑いかける。
ティアナが考えごとに夢中なせいかその視線には勘付かないが、それをいいことにソリアはゆっくりと彼女に近づき声をかけた。

「いやぁ、全く許せないよな。」

特別驚く仕草もないが、無理に感情を隠そうともしていない。
ソリアに対する不快感を全身から放ちながらティアナはジロリと一瞥するとすぐに画面へ視線を戻した。

「加工されてない保証もない映像をバカ正直に信じるほどの大バカなの、あんた?」

バカだけでなく、少しは考えるということを知っている人間がいてくれて、共に戦う人間としては安心だ。
しかし、生憎とそんなこともわからないほどソリアも愚かではない。

「じゃあ、二士としては連邦のことは信用できないってわけだ。」

「まあね。もっと信用できないのはアロウズだけど、すべてではないにしろその内部事情を知っている連邦政府もキナ臭い。さらに言うなら、部隊長が血相変えて口にしてたスミルノフ大佐の密命。本人が承知しているかどうかはわからないけど、時間稼ぎの感が否めないわね。」

「なるほどね……でも、一番悪いのは誰なんだろうな?」

「え……?」

ティアナは虹彩を金色に輝かせるソリアに、うすら寒いものを感じながらも、視線を向ける。

「確かにアロウズは事が公になれば悪なのかもしれない。それを容認した政府も限りなく黒だ。けど、それで終わりか?声なき声で真実を握り潰し、その原因を招いたのが自分たちだとしても、時が過ぎれば忘れていく。犠牲になった者への償いもしなければ、罪を認めようともしない……知らなかったなど言い訳にもならない。知らないのはそれだけで赦し難い罪だ。」

「…………………………………」

「世界は無駄に人間で溢れているとは思わないか?人は群れるだけで理性や良心をいとも簡単に捨てる……それどころか、良心を保とうとする者を排除しようとする。事実から目を背け、豚のように安息を貪る…………だったら、どれだけ消えようが問題ないだろう?一握りの人間が、人間として生きることができるのなら。」

笑っているソリアから、幽鬼のように立ち上る気迫にティアナはゴクリと唾を飲み込む。
以前にも、似たような体験をした気がする。
六課時代、ユーノに対して探りを入れようとしたあの時。
ユーノの冷たい笑みに気圧されたあの時と全く同じだ。

「まあ、あんたはそんな心配しなくてもいいよ。あんたもどうやら豚じゃなくて人間の側みたいだからな。」

ソリアはそう言い残すと食堂を後にする。
その背中を見送りながら、ティアナは実感する。

(似ている……)

姿形だけではない。
ユーノが抱えていた暗い部分もそっくりそのままコピーしている。
だが、あくまで似ているにとどまる。
彼には、ユーノのような温かさが感じられない。
しかし、もしかしたら、あくまでティアナの勝手な推測にすぎないが、





なのはたちに出会っていなければ、ユーノもああなっていたのかもしれない。



大西洋 エウクレイデス

「汚ぇ……!!」

ヴァイスが壁に拳を叩きつけるが、フォンはあくまで冷静だ。
いつもの憎たらしい笑みは鳴りを潜め、冷淡に思えるほど沈着な目で映像を凝視していた。

「フォン?」

「……シャル、アフリカタワーへ行くぞ。」

「はぁ!?」

887が何をバカなと食ってかかる。
が、ヴェロッサの手がそれを遮った。

「情報操作以外にもなにか目的があると?」

「おそらくクーデター派は人質の解放を行うはずだ……むしろ、それが目的だったんだろうな。そうなれば少なからず噂は立つ。にもかかわらず、ここまで強引に仕掛ける意味は一つだ。」

「……!まさか!?」

ヒクサーと887の顔から血の気が失せる。
このずさんに思える作戦の意図は一つ。
連邦政府に対して、少しでも疑念を抱く危険分子を悉く始末すること。
つまり、造反派にその意図がなかったとしても、このクーデターに巻き込まれた時点で人質になった人間の運命は決していたのだ。

「急ごう!!」

言われるまでもなく、874はすでに進路をアフリカ大陸へと向けている。
しかし、フォンの怒りは収まらなかった。

(下らねぇことしやがって……)

確かに、アロウズの取った方法はおそらく最も効率的な作戦の一つだろう。
その被害の大きさゆえに、誰もが躊躇するその策を使うことは評価できる。
だが、それが二番煎じ、それも“かつてフォンが立案したプランを流用している”のは彼にとっては三流にも劣る、最も唾棄すべき行いだ。










アロウズは覚悟しなければならない。
これから先、最凶のガンダムマイスターが本気で彼らに牙をむいてくることを。



アフリカタワー 低軌道ステーション

地上へ向かうリニアトレインを見送りながら、ハーキュリーはフッと笑う。

「初めから人質を解放するつもりだったのか?」

「言っただろう。人々は目を覚まさなければならないと。これだけのことを目にすれば、否が応でも今の連邦政府がどのようなものか理解するだろう。しかも、その数は6万人。どうしたとて、全員の口をふさぐことなどできまいよ。」

確かに、これならばある種の期待感はある。
だが、同時にモヤモヤしたものが胸の内に渦巻いている。

「お前の考えを連邦政府が予測していないとは思えんな。」

「地上には友軍やカタロンがいる。抜かりはない。」

そう、それがどうにも引っかかる。
いかに手出しができないとはいえ、地上部隊に攻撃が来ないのは不自然だ。
まるで、初めから手を出す気などないかのようだ。

(この偽情報は世論を味方につけ、攻撃を始める布石……)

だが、不用意にMSで攻撃を仕掛けるはずがない。
強行突入を敢行するのだとしても、端から人質を見捨てるような素振りは見せまい。

(アロウズはまだ何か手を持っている……!)

皮肉にも、その読みは見事に的中する。
宇宙から下を睥睨する、あの墓標によって……




中編へ続く……





あとがき

第55話でした。そして、遅ればせながらあけましておめでとうございます!
…………遅いにもほどがありますね(^_^;)
そして年賀状は1通も来ない(泣)
まあ、めんどくさがって出さないのが一番の理由なんですけどね(オイ)
ブレイクピラー編はもともと2話構成だったので前中後編に分けて書くことにします。
前回、刹那の戦闘シーンで終わったんだからそこからかけよと思われた皆さん……本編のセルゲイさんがカッコよかったんだからしょうがないじゃないか!!
あ、開き直ってすんません……だから石は投げないで……
でも、セルゲイさんはホンットかっこいいですよね。
サイドでも1話書こうとしてた時までありましたから。(流石にやめときましたが。)
そのセルゲイさんも次回には………ヴァーーーーー!!!!!!(錯乱中)
……原作でも大分ショックだったからなぁ…
なんでガンダムシリーズっていい人ばっかり死に急がせるんだろ?
……愚痴ってもしょうがないので、次回はなのはたちも参戦するので気合入れていきたいと思います。
刹那とブシドーも冒頭に持ってこようと思っているので、待っていた人もそうでない人もお楽しみに!





追伸 想像以上に長くなってしまったので勝手に前中後に分けさせていただきました(-_-;)
無様なところをお見せして申し訳ありません<(_ _)>



[18122] 56.ブレイクピラー(中編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/01/24 23:29
数日前 開発工場

「完成したか……」

「ああ、遂に完成したよ。」

声に恍惚としたものを交えさせながら男はその機体を見下ろした。
彼の親友が造り上げたそれは、操縦者の威風堂々とした印象を受け継ぎながらも、一個の機体としての完成度もまた極限近くにまで高められている。
日本刀が芸術品としての美麗と、実戦的な人斬り包丁としての凄烈さを兼ね備えているように、この漆黒のMSも魂を込められて打ち上げられた名品と言って差し支えがない。
ならば、さしずめ制作者であるビリー・カタギリは研究者と言うよりは職人と賞賛すべきだろう。

「マスラオ……君の専用機だ。」

ビリーは茎に刻まれた銘を読み上げるように、誇らしげに名前を告げる。
それまでのGNドライヴ搭載機と違い、極端に細いと思われるような手脚は、まるで必要以上の装甲など無駄と淘汰され、ただ最高の一撃を相手に見舞うためだけに洗練されている。
兜を被った武者のような頭部にも、物々しい装飾だけでなく、見る者が見れば懐かしさを感じさせる特徴がちらほら隠されていた。

「フォルムにフラッグの面影が垣間見える。見事な造形だ、カタギリ。」

まずは外見を褒められ、彼と同じくフラッグとの関わりが深いビリーは鼻が高い。
が、本命は別にある。

「隠し玉も用意しておいた。」

「隠し玉?」

分からないという顔をする彼に、ビリーは嬉しそうに話す。

「エイフマン教授の自宅からGNドライヴに関する手書きの資料が見つかってね。その理論をマリエルやエミリオンにも手伝ってもらって実証し、さらに機体に実装したんだ。」

「ほう……それは楽しみだ。」

自慢の品が、どれほどのものか確かめさせてもらう。
無言でその場を後にする友人、ミスター・ブシドー(彼はこの名で呼ばれるのをひどく嫌っているが)の背中をしばしの間見つめ、あることへの確信を得ると胸ポケットから一枚の写真を取りだした。

そこに写っていたのは、笑顔の少女と彼女に腕を組まれて苦笑している自分。
もう戻らない日々。
裏切られ、どれだけ自分の心が傷ついたのか知ろうともしない少女の笑顔が、今のビリーには憎らしくて仕方なかった。
怒りにまかせて写真を破り捨てる。
何度も、忘れようとするように執拗に裁断して、もう何が写っていたかもわからなくなったところでキャットウォークの下へと放り投げた。
ひらひらと散っていくそれは、それでもまだビリーに過去のしがらみを捨てさせまいと色のついた面を断続的に見せながら落ちていく。
しかし、すでに彼女への未練など微塵も残っていない彼に、それは限りなく不毛なものだった。

「さようなら、クジョウ。」

棒読みとも思えるほど感情のこもらない言葉を思い出への手向けとし、ビリーは冷めた瞳で研究室へと戻っていった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 56.ブレイクピラー(中編)


アフリカタワー周辺 北部

全開での初撃はあまりにも激烈だった。
一瞬で姿を消したマスラオに左から斬りかかられ、たたらを踏んでダブルオーライザーが下がる。
防ぎはしたが、その実は構えていたGNソードが偶然敵の攻撃の軌道にあったと言って差支えなかろう。
いや、むしろミスターブシドーがあえて防御の上を叩いたのかもしれない。
しかし、考えている暇などないし、くれるはずもない。
続いて右下からの斬り上げで双剣ごと腕を跳ね上げられ、ダブルオーライザーの防御は完全に崩された。

「刹那、上!!」

「!!」

ジルの言葉がなければやられていた。
紙一重で上からの斬撃に刃を合わせるが、体が崩された状態で満足な防御ができるわけがなく、さらにTRANS-AMによる驚異的な性能向上も加わってダブルオーライザーは急激な下降を余儀なくされた。
それを逃すまいと距離を詰めたマスラオはもともとの接近戦能力の高さとTRANS-AMのスピードで間断なく双剣を振るう。

「ぐっ!?」

不意に刹那の顔が苦悶に歪んだ。
左手が刹那の意思を無視して操縦桿から離れ、右肩の傷の上で空を掴む。
傷口が開いたのか、白いテーピングの上から赤い筋が垂れる。
ジルが慌ててヒーリングをしてくれるが、血が止まる気配はない。
麻酔のタイムリミットもそう時間はない。
しかも、戦闘中に切れて碌に体を動かすこともままならなくなれば生き残りは絶望的だ。

「隙ありぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

「っ!!」

ダブルオーライザーの動きが鈍ったその時、勝機と見定めたマスラオが背中から溢れるGN粒子を増幅して二つの切先を突き出した。

「くっ!!!!」

間髪いれずにGNフィールドを展開したが、刃は着実にコックピットへとにじり寄ってくる。

「斬り捨て……御免!!!!」

迷う道理など微塵もなかった。

「っ!?」

突如消えた手応えと敵の姿に丹田がふわりと穏やかに落下するような感覚がブシドーの危機回避本能を目覚めさせる。
だが、同時に恋人と再会したようなこの激情に、強力なGによってダメージを負った内臓から迫り上がってきた血を口から溢しながら笑った。

「これを……待っていた!!」

下から猛スピードで迫りくる赤い機影に応えるように、マスラオもまた突進をしていった。
片や赤い輝きを背負い、片や瑠璃色の尾を引きながら激突を繰り返す。
二つの光がぶつかる度に大気が震え、火花が場所を選ばずに爆ぜる。
時折、鍔迫り合いの姿が一時停止のようにはっきりと見えるときがあったが、すぐに影も残さずに消えて今度は別の場所で同じ光景を繰り広げる。
もはや、MSという巨大な兵器で戦闘を行っていることを差し引いても、常人の目でその戦いの全容を捉えることは不可能だった。

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

何度目かの剣戟の後、弾かれるように距離を取った二機は、中で叫ぶ主と共に倒すべき敵とぶつかりあった。
二つの刃の間で迸る雷霆。
そして、二人の戦士の想いもまた駆け巡る。

「私は純粋に戦いを望む!!」

誇りも仲間も全て失った。
それでも生きながらえたのはこの時のため。
戦いだけが彼の生の意味。

「戦うだけの人生!!」

それを選んだのは自分。
だからこそ、その虚しさが分かる。
そして、もう誰もその道を選ばせてはいけないと分かる。

「ガンダムとの戦いを!!」

ガンダムを超える。
その先など興味はない。
ただ、ガンダムを超えるためだけに。

「俺もそうだった!!」

ガンダムになろうとした自分。
それで何かが変わると信じ、未来を見ようとしなかった。
だが、それでは何も変わらなかった。







だから!!

「そしてガンダムを超える!!!!それが私の…」

「だが、今は…」

「生きる意味!!!!」

「そうでない自分がいる!!!!」

二人は同時に残っていたもう片方の剣を構え、とどめをさすべく振り下ろそうとした。
しかし、

『刹那!!』

「「!!」」

空を切り裂き、間に割って入った閃光は二機を引き離し、続いて降り注ぐ光の嵐は漆黒の機体だけを襲った。

「チィッ!!水入りか!!粒子残量も少ない!!」

当たりはしないものの、こうなってはダブルオーライザーとの戦いに専念などできなかった。
なにより、興が乗らない戦いはブシドーの好むところではない。
となれば、最早この場に用はない。

「あえて言うぞ少年!!」

聞こえてはいないが、そもそもその理由も分からないだろうが、言わずにはいられない。

「覚えておくがいい!!」

左の刃の切先をしばしの間突き付けた後、マスラオはプトレマイオスとガンダム五機、そしてダブルオーライザーから離れていく。

(終わった……)

刹那の視界が一瞬だが黒で塗りつぶされる。
それが何度も繰り返されるうちに間隔が狭まり、瞼も重くなってくる。

『刹那!!』

アレルヤの声が聞こえる。

『コノヤロー、生きてやがったか……』

『良カッタ!!良カッタ!!』

「み、みんな……」

『刹那?』

苦しげな刹那の声。
しかし、その理由を問い返す間もなく刹那が問う。

「みんなは、無事か…?」

それだけが気がかりだった。
合流したら最初に聞こうと決めていた。
目標達成、というわけではないが、それを聞いたらいっそう気が遠のいてきた。

『どうした、刹那?』

ティエリアの声に答えることもできず、刹那はここ数日張り詰めていた緊張の糸を緩めた。

「お、おいコラ!?刹那!?」

『刹那!?』

ダブルオーライザーも力が抜けたようにゆっくり下降を始めるが、ケルディムとアリオスが挟み込むようにその体を支えた。

『刹那!!』

『刹那!?オイ、刹那!!』

『トレミー!!刹那は負傷している可能性がある!!大至急治療の準備を!!』

『刹ちゃん!!しっかり!!』

『967、クルセイドをお願い!!僕は刹那の治療に当たる!!』

みんなの声が聞こえる。
みんなが傍にいることを感じられる。
一人で戦っているときには感じられなかった物が、確かにここにある。

(刹那……お前は変われ。変われなかった、俺たちの代わりに……)

彼の声が遠くから届く。
笑ってうなずく刹那は、それに答えるようにつぶやく。

「……分かっている、ロックオン……。ここで俺は変わる……俺自身を、変革させる……」

戦友との誓いを胸に、刹那は深い眠りへと落ちていった。



西部

「……どうにも雲行きが怪しいな。」

様子をうかがっていた男から一抹の不安を感じさせる言葉が漏れる。
日焼けした肌には刺青が刻まれ、さらに髪型はモヒカンという知性とはほど遠そうな容姿をしているが、サングラスの下の瞳は包囲網を解く連邦軍を訝しげに見つめていた。

『このタイミングで包囲を解除?連中、一体何をする気だ?』

『さあな。とにかく、ろくでもないことなのは間違いない。』

モニター越しにいる少年と軽薄そうな男がヘルメットを装着して臨戦態勢に入る。
どうやら、彼らもこの不穏な空気を感じ取っているようだ。

『出る。とにかく様子見だ。』

「待て。蜂の巣にされるのがオチだぞ。」

男の言葉にブリジットはムッとしながらも突撃を思いとどまる。
本音は無視してでも突っ込んでいきたいところだが、MSの操縦を手とり足とり、細かいテクニックまで懇切丁寧に教えてくれる教官の判断を無下にするほど彼も幼くはない。
それだけこの男、ゴードン・アルペジオの教えは的確だったし、戦術についても信頼を置けることは誰もが知るところだった。

『しかし、ペジさん。ここでこうしててもどうしようもないぜ?これでタワーの中にいる連中に何かあったら、なんのための別働隊だっちゅうことにならないか?』

「分かっている。だが……」

だとしても、今動くのは危険すぎる。
敵の布陣は間違いなく何かに備えて距離を取っているものなのだが、生憎とカタロンにもBBにも敵の戦力を脅かすものは何一つない。
なのに、なぜ距離を取っているのか。

『しかし、逃げ腰の敵に何もできないってのはもどかしいもんだな。お空の上のドンパチに殴りこみできないのもそうだが、今度は手が届く距離にあるからなおのことだな。』

(空の上……?)

アルペジオの脳裏につい数日前に破壊されたものについての情報が蘇る。
確か、上にも下にも、それどころか距離さえあれば発射角も自由自在。
絶対防ぎようがない場所から、絶対防ぎようがない超高威力のレーザーを発射する悪魔の兵器。
ソレスタルビーイングの活躍で破壊されたあの衛星兵器だが、もし、

(……まさか…!?)

もう一基存在していたとしたら。

「総員に通達。対空装備の確認を急げ。」

『おいおい、藪から棒になんだよ。』

「いいから急げ。……もしかしたら、連中は最悪の手に出るかもしれん。ああ……全く最悪だ!」

悪魔の汚物でも見るように空を見上げる。
そして、彼の目には見えずとも、そこには確かにあの忌まわしい墓標が鎮座していた。



プトレマイオスⅡ コンテナ

『光学カメラがオービタルリング上に、衛星兵器を捉えました!!』

フェルトの声にユーノは唇を噛む。
その可能性は十分にあったが、衛星兵器を破壊した者としてはやはり悔しさは隠せない。
あの一基を見落としたばかりに、今また罪のない人々が傷つこうとしているのだ。

「本気で撃つ気か!?」

「そんな……!」

イアンと沙慈、そしてミレイナも顔を突き合わせて携帯端末の画面を食い入るように見ている。
そんなことをしたところでどうにもならないことは分かっているのだろうが、そうする以外どうしようもない。
いや、そんなことはないはずだ。

「沙慈。」

脱ぎかけていたスーツを再び着込み、ユーノは沙慈へヘルメットを投げ渡す。

「出撃準備に入る。君もオーライザーに乗って。」

「え!?」

「いいから乗って。このまま犠牲が出るのを黙って見てるつもりかい?」

有無を言わさず沙慈の搭乗を決定し、続いて967と待機しているリインフォースへ念話を発する。

(リインフォース、967を連れてきてくれる?)

(構いませんが……どうするつもりですか?)

(今回、967には沙慈と一緒にオーライザーに乗って制御を担当してもらう。ライザーシステム用のバックアップに変更するように言っておいて。)

それだけ告げると足早にクルセイドライザーへと向かう。
犠牲など出させない。
その強い思いを胸に秘めたまま。



アロウズ空母 ブリッジ

「こんなことが許されるのか!?衛星兵器で低軌道ステーションを攻撃しようなどと!!」

ありったけの怒りを込めて拳を打ちつけるマネキン。
光学カメラの映像に、いや、それよりも自らが所属する部隊がそこに映っている兵器を何のためらいもなく使用するということが許せない。
何より、それを止めることができない自分自身が許せなかった。

だが、そばに立っている男の見解は違っていた。

「それでもやるでしょうね。」

「なに!?」

しれっとした顔で、犠牲者が出るということを大したことがないように語るビリーにマネキンの内で燃えたぎる怒りがさらに激しいものになる。
それでもビリーはその怒りを受け止めてなお、構わず言葉を続ける。

「司令は恒久和平実現のため、全ての罪を背負うつもりでいます。」

罪を背負う。
大層な物言いだが、ただその言葉だけで命を奪うというのか。
それでは四年前のソレスタルビーイングとなんら変わらない。
いや、それ以上に性質が悪い。
政府の管轄下にある軍隊が平和を実現するという錦の御旗を掲げて、殺戮を行う。
誰も罰しない、ほとんどの人間が罪の意識を持たずにそれを行う恐ろしさが分からないのだろうか。

しかし、マネキンもまた同罪だ。
ここで、なにもできずに事の成り行きを見守ることしかできないのだから。



クラウディア ブリッジ

クロノ・ハラオウンは局員であることに誇りを持っていた。
誰かが理不尽な出来事で涙を流さぬように、自分は苦しむ人々の助けになれるのだということを疑わなかった。
しかし、いまやその誇りは瓦解していた。
親友と袂を別つことになっても、どれほど妻や子供たちに顔向けできないことをしても、誰かを助けるという誇りだけは辛うじて保っているつもりだった。
だが、今回の命令で彼が管理局に所属している意味は皆無と成り果てた。

『待機命令がそれほどまでに不満かね?』

ファルベルのにこやかな顔が心の底から恨めしい。
これから何が起こるかわかっているのに、この老獪な男は静観に徹しろというのだ。

「間違いなく死者が出ます……それを黙って見ていろと……!?」

『それでも艦を任せられた男かね君は?賢くなりたまえ。この犠牲は無駄ではない。この世界の平和を維持するためには必要不可欠なものだ。わずか6万弱の命のために数十億の人々から平穏を取り上げようとでも言うのかね?真実と言うのは、時として知らない方が幸せなものだ。』

「生きる権利は誰にも平等にあるはずです!!」

『命の重さに多いも少ないもないなどと言う青臭い道徳論は必要ない。我々は誰もが納得するベストな選択ではなく、常に最悪の事態を回避するベターな選択をする以外ないのだよ。それができないのなら、提督の地位を返上したまえ。』

あくまで穏やかな、しかし冷徹な物言いにクロノだけでなくクルー全員が怒りに打ち震える。
だが、反論をする者はいない。
ここでファルベルの不興を買えば、今まで堪えてきたことが全て水の泡になると言い聞かせ、自らを納得させるしかないのだ。
しかし、彼らは分かっている。
それこそが、ファルベルの言うベターな選択、何かを切り捨てて何かを守るということなのだと。

反論が来ないことを確信したファルベルは、いっそう顔をにこやかにした。

『私は君たちに期待しているのだ。これからも、平和のために邁進してくれ。』

誰も聞きたくなどない、歯の浮くようなセリフを最後に通信は終わった。
その瞬間、クロノが吼える。

「っっっぁぁぁぁああああああああっっっっ!!!!!!」

両の手の拳を振り上げては打ち下ろし、また振り上げては打ち下ろす。
提督とはいえまだ若いクロノ。
やり場のない怒りを誤魔化すには、こうする以外どうしようもなかった。
疲れ果て、息もきれぎれになってようやく収まった痛々しい音。
オペレーターたちは沈痛な面持ちで、それでも作業を続けようとするが、今度はどこからともなく聞こえてくるすすり泣く声で静寂はかき消される。

(ユーノ……こんな僕を見たら、お前はどう思う…?)

歯を食いしばって涙をこらえるクロノは、悲劇が始まるその瞬間まで顔を上げることはなかった。



低軌道ステーション

「総員に告ぐ!!市民の輸送を急がせろ!!地上部隊の報告も忘れるな!!」

「ハッ!!」

迂闊だった。
今のハーキュリーが考えていることはその一言に尽きた。
低軌道ステーション周辺には味方のMSを配置はしていないし、オートマトンやどれほど派手でもMSを使っての攻撃しか想定していない。
まさか、アフリカタワーを棄てるつもりで外部から大出力の攻撃をしてくるなど想定もしていない。

「全員、脱出準備にかかれ!!」

とにかく、人質と部下の命だけは守らなければならない。
たとえ救える数がわずかだったとしても、できる限りにことをしなければ。
しかし、どれほど心を奮い立たせても弱音が口をついてしまう。

「……考えが甘かった。私が市民を人質にしたときから、連邦は事実を知った彼らすら反連邦勢力とみなしたのだ。」

「…………………」

「そう、連邦はこの場所を破壊し、6万もの人命を奪うことで、その支配体制を確立させようとしている。」

「………………………………!」

黙っていたセルゲイは何も言えない。
ここまでの光景を前に反論できるほどセルゲイは徹頭徹尾の軍人であろうと思ってはいない。

「バカげたことを……!!」

しかし、そう思っている人間が外にどれだけいるだろうか。
たとえ一時的に不信感を抱いても、平穏を与えられれば忘れていく。
────────だから、彼は戦いを選んだ。

(………そうか。そうなんだな…)

この時、セルゲイはようやくあの悲しげな顔で笑う少年の心を、わずかながらに理解した。
彼は、全ての傷を心に刻み、赦されざる罪だと知っていても、その罰を自らに課すかのように戦う。
人の痛みを分かり過ぎるが故に、誰よりも過酷な運命の激流へと自らを投げ込んでいく。
理解などされない。
味方もいない。
それでも止まることを知らない。

あのガンダムのパイロットは、人の業が生み出した流し雛なのかもしれない。

(ユーノ・スクライア………君のような人間が連邦にもいてくれれば、結果は違っていたのかもしれん。)

だが、全てはもう遅い。
何もかもが遅すぎた。



アフリカタワー 地上部

萌黄色の機体に率いられるように、四機のガンダムは天を衝く塔を覆う大群を目指す。

「アロウズの奴ら、本性を現しやがった!!」

「これをイノベイターが裏で操っているといのか!」

「許せない……!!絶対に許さないっス!!」

ロックオン、ティエリア、そしてウェンディ。
三人の意思が一致する。
一刻も早くこの包囲網を突破して、衛星兵器を破壊しなければ。

と、その時だった。
ピラーから紺一色の機体が飛び出してくる。
赤い光を放たないそれが旧型MSであることは明白で、それを使用する者たちもまた自明だった。

「カタロン部隊が脱出していく!」

アレルヤがそう言った瞬間、横から飛んできた弾丸が機体を貫く。
さらに、続いて出てきた機体へ向けても地上と上空から挟まれる形で射撃の洗礼が押し寄せてくる。
それをかわしきれる機体がいるはずもなく、次々に黒煙が空に満ちていく。

「貴様ら……!!」

それに誰よりも怒りを覚えたのはロックオン。
目の前で仲間を、それも最悪の手段で中から燻り出して無防備なところを弄ぶように撃ち落とす。
あまりの卑劣さに、完全に堪忍袋の緒が切れた。

「今頃になって!!!!」

先行するクルセイドライザーも追い越して、ケルディムは真っ先に敵陣へと突撃していく。

「やめろ、ロックオン!!」

「一人じゃやばいっスよ!!」

「迂闊すぎる!!」

ティエリアたちも彼を単機で向かわせるわけにもいかず、慌ててそのあとに続く。
だが、一番慌てたのはユーノたちだ。

「くっ……!少し早いけど、行くしかない!!」

覚悟を決めると、ユーノはクルセイドライザーを一気に加速して大気圏外への突入を敢行する。
いつもよりも地球の重力というものを感じながら、ただひたすらに上を目指す。
想定外の奇襲で始まった作戦だが、下で奮闘する仲間たちのためにも失敗するわけにはいかない。

「沙慈、大丈夫?」

「う…うん……!!僕は大丈夫………だから、早く宇宙へ!!」

苦しくないはずがない。
だが、その苦しみさえも上回る使命感が沙慈を突き動かす。

守るための戦い。
傷つけるのではなく、救うための戦い。
ユーノとならそれができると信じている。
自分は非力でも、一人ではないからできる。
現実から逃げずに、自分にできることに全力を尽くす。
それが、沙慈・クロスロードの戦いだ。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「ガンダム各機、戦闘に入ったです!」

その報告と同時に、スメラギの手元にアフリカタワーが攻撃された際の被害状況が表示される。
アフリカ大陸の中央部、それを中心に東西に被害予想区域は大きく伸び、西海岸すらも大きく飛び越して海上にまで赤いエリアが広がっている。
タワー内部の人命にとどまらず、一つの大陸の半分以上とそこに住まう人々を襲う大災害。
考えただけでもゾッとする。
だが、そのカウントダウンは本来その災害から人々を守るはずの軍隊によって加速度的に進行していく。

「ガンダム、押され始めています!!」

「スクライアさんとクルセイドも妨害を受けているです!!想定速度の34%しか出せてないです!!」

急がなければならないとはいえ、やはり無理があった。
連邦と管理局の部隊の大部分が集結しているのだから、その包囲網は半端なものではない。
囮役の四機も、オービタルリングを目指すクルセイドライザーも死地に向かわされるようなものなのだ。
せめてもう一枚、戦況を好転させてくれるようなワイルドカードがほしい。
そう思っていた時だった。

「っ!?ダ、ダブルオーから通信!!刹那です!!」

「なんですって!?」

思わずフェルトのほうを振り向くスメラギ。
刹那の肩の傷は決して浅いものではない。
しかも、治癒魔法が全く効果をなさないというおまけ付きなのだ。
実際、メディカルルームに担ぎ込まれた刹那はぐったりした様子で眠り込んでいた。
とてもではないが、出撃させられるわけがなかった。

「やめなさい刹那!!そんな体で無茶よ!!」

自分の体を省みない刹那を怒鳴りつける。
しかし、刹那もジルもコックピットを降りる様子はなかった。

『今は俺たちの力が必要なはずだ。』

『無理はさせない!!やばいと思ったらオイラが全力で止めるよ!!だから今は行かせてくれ!!誰も死なせたくないんだ!!』

「けど!!」

『いかせてください!!』

二人に続いて、エリオもオーライザーのコックピットから訴える。

『僕たちはソレスタルビーイング!!世界の歪みを……それに巻き込まれようとする人を見捨てるなんてできないはずだ!!』

切実すぎる少年の訴え。
本来ならば自分が口にすべき言葉に、スメラギが抗えるはずがなかった。

「……任務は地上のティエリアたちの援護よ。その傷で大気圏離脱は危険すぎる。」

『了解。』

カタパルトへと移動を開始するダブルオーライザー。
こんな頑固な刹那だからマイスターとして認められているのだろうが、いつも見送る側からしてみればこれ以上危なっかしい人間はいない。
失う痛みを知っているならばなおのことだ。
しかも、それが小さな融合騎や年端もいかぬ少年にも伝染しているのだから心労も募る。
だが、それでもこれくらいはしてやれる。

「……刹那、ジル、エリオ。」

『『『?』』』

「……必ず、無事に戻ってきなさい。」

『……了解した。』

『もちろん!!』

『はい!!』

三人の笑顔に答えるように、スメラギもまた笑顔で声を張る。

「ダブルオーライザー、発進!!」

「了解!タイミングをダブルオーライザーに譲渡!」

『I have control!刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!!』

二つの粒子の輪を残し、刹那たちはプトレマイオスを後にする。
仲間を窮地から救うために。
そして、決して失敗の許されない、大切な任務を全うするために。



アフリカタワー

無人となった管制室に、男たちは残されていた。
兵どもが夢の跡、と呼ぶにはあまりにも虚しさが残る光景だった。
得るものは何もない。
ただ、失うだけの戦いが繰り広げられたその場所は、人影の有無にかかわらず悲哀に満ち満ちていた。

「市民と兵士は全員地上に向かった。お前も脱出しろ。」

そう言うハーキュリーだったが、一向に席を立とうとしない。

「お前は……」

「私は本作戦の指揮官だ…最後まで見届けさせてもらう。これから起こることを、その事実を後の世に伝え……」

身勝手な言い分だ。
適当な理由をつけて、己の義務も果たさずに生きることを投げだす。
それが、どれほどの愚行か分かっていない。
生きたくても生きることができない人間にとって、今を生きて何かを成し遂げたかった人間にとって、その言葉がどれほど侮辱的なのかハーキュリーは理解していない。
そう思った瞬間、セルゲイは怒りにまかせて胸倉を掴んでいた。

「そんなことで罪を償うことなどできん!!貴様は軍人だ!!軍人なら市民を守れ!!一人でも多くの市民を救い、その上で命を散らすことになった時に死ね!!」

「…………………………………」

何も言い返せない。
あまりにも愚直で、だからこそ文句のつけようのない正論。
ハーキュリーはその言葉に涙を流しそうになるが、それはセルゲイも同じだ。
友の弱々しい瞳を見ていると、自分自身の弱さまで露わになってしまいそうだった。
そういう意味では、セルゲイは己を発奮させるためにハーキュリーへ厳しい言葉を突き付けたのかもしれない。

が、ここでそのことについて語る時間はなかった。
外部をモニタリングしていたモニターに警告音と同時にレンズ型の砲身に光を集約させていくメメントモリが写る。
一分一秒でも早く、ここから立ち去らねば。

「行くぞ!!」

走り出すセルゲイと違ってハーキュリーはしばしの間戸惑っていたが、友の言葉を思い返すとその背中に続いた。



地上

今はまだ、嵐の前の静けさを保つ上とは違い、下は激戦の様相を呈していた。
後先など考えず、ティエリアはひたすらに砲撃で敵を薙ぎ払っていく。
しかし、それが終われば煙の向こうから再び新手が現れる。
白、青、緑、紅、黒。
パレットの上に適当に絵具をぶちまけた様な点が、大きくなったかと思うと次々にMSへと変化して襲ってくる。
戦っている人間からしてみれば、悪夢としか思えないような光景だ。

「だが、この程度でっっ!!」

接近戦を仕掛けようとしていたイナクトを隠し腕で斬り捨てる。
同時に、スフィンクスの陽動に集まっていた一団を両手のバズーカで滅多撃ちにしていく。
しかし、それでも撃ち漏らしは出てしまう。
本来、それをロックオンの狙撃が仕留めてくれるのだが、ケルディムは今上を向きっぱなしだ。

「敵機接近!敵機接近!」

「チッ!!アレルヤ!!」

「分かってる!!」

無防備な背中を狙っていたバロネットがアリオスのクローに挟まれ砕け散る。
残っていた敵もすぐさまMS形態でのガトリングで一掃し、再びアレルヤはケルディムに寄りつこうとする敵を牽制する。

「流石に多い……!!」

「けど、あっちはもっとヤバいんだ!!俺たちが泣きごと言うわけにもいかねぇ!!」

そう言ってロックオンが引き金を引くと、上を目指す彼らを妨害せんとしていた一機がもんどりうって落下していく。
しかし、鋼の翼を携えるガンダムはそれを見ようとはしない。
いや、見ることができない。

いかにクルセイドライザーと言えど、ここで下を向けばオービタルリングまで上昇することはかなわない。
かといって、ここで切り札であるTRANS-AMを使えば衛星兵器の破壊が困難になる。
どれほど危険でも、今は仲間のフォローを信じて上を目指すしかないのだ。

「回顧録を書くとしたら、今回を危険度の高いミッションワースト3に入れるね!!」

「二、三回戦闘をすれば今度はそれがランクインすることになる。取らぬ狸の何とやらだ。」

「気楽でいいね君たち!!僕は攻撃が直に見えるんだよ!!」

クルセイドライザーを操るユーノも冷や汗ものだが、沙慈に至っては走馬灯ものだ。
目の前を掠めていくビームや弾の数々。
中には、もう背中に届くというところまで近づいてくる者もいる。
もう、口腔内はカラッカラだ。

「そろそろやばいっスかねぇ……!!」

ユーノたちを追おうとしていたジンクスの頭を斬りおとしながらウェンディは肩で息をする。
次から次に押し寄せてくる敵に、彼女だけでなく全員が限界を感じ始めていた。
仮にユーノが衛星兵器の破壊に成功しても、この大群を相手に逃げおおせられるかどうか微妙なところだ。

「ハァッ……ハァッ…クソッ!せめて、刹那がいてくれたなら……!!」

弱気になった時は、総じて危機を招くものだ。
一呼吸おいてしまったセラヴィーに、額にモノアイを持つ機体がタックルを喰らわせた。

「グアッ!!?」

「ティエリア!!!!」

MD型のエスクワイアは己も攻撃に巻き込まれるのもかまわず、密着したままライフルをセラヴィーに押しつける。
焦るティエリア。
しかし、焦れば焦るほどエスクワイアの拘束はより強固になっていく。

「クッ!!」

「ティエリア!!!!」

全機、上を目指しているクルセイドライザーすらも自分の使命も忘れてセラヴィーへと殺到しようとする。
だが、そのどれよりも速く蒼い風が戦場を駆け抜けた。

「ダブルオーライザー、目標を駆逐する!!」

ガツッと鈍い音がすると、エスクワイアの首がぐにゃりと曲がって装甲の下の配線が外に晒される。
その瞬間に拘束が緩んだのを見逃さず、蒼い機体は二機の間に割って入るように両者を引きはがすと、白い三つ目の頭をビームで吹き飛ばした。

「せ……!!?」

唇が不規則なタップを刻み、何度も口にしていたはずの言葉がうまく出てこない。
マイスターたちの驚きは、それほどまでに大きいものだった。

「刹那!!?」

負傷して治療を受けているはずの刹那の登場にガンダムたちの動きが止まる。
だが、ダブルオーライザーはそんなことは気にせず次々に打ち寄せてくる敵機を斬り刻んでいく。

「何してんだ刹那!!早く戻れ!!」

我に返ったロックオンは再び上を向きながら吼えた。

「そ、そうっスよ!!治療はどうしたんスか!?治療は!?」

「問題ない。戦える。」

「問題ないって……!!その傷が問題ないわけない!!ここは僕たちにまかせて…」

アレルヤが声を荒げたが、ジルとエリオの大声にその意見はかき消される。

「っるさいなぁ、もー!!押されてるところを助けに来てやったんだから文句言うなよな!!」

「悪化したら僕たちが力ずくでもトレミーに引きあげさせます!!だから今は!!」

「だが…」

「……OK。」

「ユーノ!!?」

ティエリアは抗議するが、無視してユーノは続ける。

「……君の傷が、どういうものかわかっていてここにいるんだね?」

「………ああ。」

「なら、僕が言うことは何もない。」

完全に後顧の憂いが断ち切れたように、ユーノはガンと一気にペダルを最奥まで踏み込むと今までで一番の速さで昇っていく。

「そっちは任せた、刹那!!」

「了解した!!」

クルセイドライザーの後ろについていた数機をたて続けに墜とした刹那は、今度は眼下に広がる敵の山へと突撃して行った。



オービタルリング

「電力供給93%。」

これから放つその威力に身を震わせながら、メメントモリは静かに狙いを定めていた。
見守るグッドマンはその姿に愛しさすら覚える。
これから起こることを目にすれば、反抗勢力の勢いを物理的にも精神的にも削ぐことができる。
そうなれば、連邦政府は安泰。
アロウズもいっそう平和維持のために尽力できるというものだ。
豪腕が過ぎると意見する者もいるだろうが、彼に言わせてみればそのような人間に力を持つ資格はない。
全ては大事の前の小事。
有象無象の言葉に左右されているようでは、人を統べることなどできはしないのだから。

だが、それを良しとしない者たちが地上より来訪する。

「敵機が来ます。」

その報告にグッドマンは眉をひそめる。
それは、豪勢な食卓に羽虫が一匹迷い込んだような、そんな不快感を与えてくる。
不快感は即刻排除するに限る。

「エンプラスを出させろ。」

「ハッ!」

煩わしそうにそう命じると、目障りなその姿を確認する。
瑠璃色の粒子を放ちながらある一定の高度を保ち、鋼の羽を盾のように機体の周囲に展開している。
異世界の住人の操る盾持ちのガンダム。
わざわざ地球までやってきて、混乱をもたらそうというのだからほとほと呆れる。
グッドマンには彼の取る行動の意味、その何もかもが理解できなかった。

だが、彼とてグッドマンに理解してもらいたいなどとは毛頭考えていない。
ユーノ・スクライアは、ただ誰かを救えるならそれでいいのだから。

「圧縮粒子を完全開放する!!ライザーシステムを!!」

「わ、わかった!」

ツインランチャーをメメントモリへと向けるユーノ。
ここから電磁場光共振部を狙うのは難しい。
かといって、もう狙える位置まで移動する時間もない。
となると、方法は一つ。
圧倒的な威力で完膚なきまでに破壊し尽くすしかない。

(……使うしかない。)

完全稼働状態のツインドライヴでGN-EXCEEDを使えば、おそらく現存する機体の中では最強の威力を叩きだすことが可能だろう。
だが、

『それが、お前たちにただ力を貸しているとでも…………本気で…思っているのか……!?』

ビサイドの顔がコンソールの上にある指の動きを鈍らせる。
しかし、他に選択の余地はない。
ここで決断しなければ、また自分のような人間が生まれるかもしれないのだ。

ユーノが迷いながらもエンターを押そうとしたその時だった。
クルセイドとオーライザーのコックピットで警告音が鳴る。

「敵っ!?」

沙慈がそう言うより早くユーノは操縦桿を倒していた。
ほぼ真上から来た光をかわすと、今度は純白の巨体が高速で突進してくる。
ツインランチャーの砲身の上を滑らせるようにその体当たりをいなし、ビットで反撃するがその大きさに似合わぬ俊敏さでエンプラスは全てよけて見せる。

「やらせんぞガンダム!!」

弾幕を張りながら再び上を取ったデヴァインはワンテンポ挟まずに突起の付いたワイヤーをクルセイドライザーへと射出した。
ユーノたちも振り向いてはいたが、時すでに遅し。
一見、害など皆無のように思えるワイヤーが機体に密着した瞬間、青白いスパークが中にいる三人を襲った。

「「「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!!!!」」」

全身がこむら返りを起したようにピンと張り伸ばされる。
それでも肉を曲げようとすると、熱さに加えて涙が滲むほどの痛みが体を蝕んだ。

「……さ、沙慈!!967!!」

それが、二人を心配してのものだったのかは分からない。
しかし、二人はそれだけでやるべきことが何なのか理解した。

「シ、システム……」

「稼……働!!」

オーライザーのモニターに映るメーターが最大まで溜まり、COMPLETEの文字が出現する。

「ブリングの仇!!!!」

顎を開き、今にも砲撃を放ちそうなエンプラス。
だが、今度はユーノのほうが早かった。

「エクシードォ!!ライザーーーーーーー!!!!」

腕、脚、肩。
全ての過剰粒子排出用のスリットと放熱用のフィンを出現させると、クルセイドライザーは濃密度の粒子の塊でワイヤーを弾き飛ばす。
そして、周囲に展開していたビットをツインランチャーと共に一直線上に存在するエンプラスとメメントモリへ向ける。

「フルブラスト!!!!」

極光が空を支配した。
幾条も伸びた粒子ビームはエンプラスのGNフィールドを布切れのように引き裂き、殻を破られた本体は自身の数倍以上はある砲撃に飲み込まれて瞬時に蒸発する。
その威力を持て余した凶暴な光の群れはその牙をメメントモリへと向ける。

「バ、バカな……!!」

愕然とした様子で重厚な外装を蒸発させていく砲撃に、先ほどのいい気分もどこへやら。
グッドマンは青ざめた顔で成り行きを守るしかなかった。

(よし!!これで!!)

GN-EXCEEDによる振動は大きいが、機体にダメージを負わせるほどではない。
このままの状態をあと少し維持できれば、確実に墜とせる。
そんな時に、それは不意に聞こえてきた。

(……けて!!)

「?」

三人とも、初めは幻聴だと思った。
しかし、

(ハハハ……死……死ね!!)   (なん……私たちが!!)    (連…は何を…るんだ!!)
    (全…は恒久和平……んのために!!)   (死にたく…い!!)

声が次第にはっきりしていく。
そして、混乱するよりも気持ちの悪さがこみ上げてくる。

(裏切り者どもが!!)  (ああ、神様……!!)         (痛ぇ……!!痛ぇよ……!!)
(寒い……俺、死ぬのか……?)  (ハッ……ハハハッ……ざまぁ見ろ!!)(なんでこんな……)

心の声、と呼ぶには原始的で本能的な叫びの数々。
知性という進化と同時に、人間が得たもの。

(殺せ!殺せ!!)      (ニクイニクイ!!!!!)    (殺せ殺せ!!!!殺せ殺せころせ!!!!)   (しね!!!!しね!!!!!)
(シネ!!!シネ!!!!!!)       (ハハハハハハハハハ!!!!!)    (憎い!!!!)     (ころせコロセコロセコロセコロセコロセ!!!!!!!!)
(根絶やせ!!!!!)   (憎いにくいニクイ!!!!!!!!)   (シネェェェェェェェ!!!!!!!!!!) (ハハハハハハハハ!!!!!)

残忍な衝動が、戦場と言う名のこの場所に渦巻いていた。

「僕の中に…入ってくるなぁぁぁァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」

最初に音を上げたのはユーノだった。
ドス黒い言葉に頭痛が収まらない。
それどころか、自分の心まで黒一色に染まっていくような、そんな感覚さえある。

「う……ああああ……が…ぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「ぬぅ……!!!!!!これ……は…!!!!!!!」

沙慈と967もたまらず呻く。
クルセイドライザーの美しさとは対照的に、ともすれば破壊への衝動に流されてしまいそうな理性を押し留める三人は、汗を滲ませながら戦場にいる人間の思考を受け止めていく。
狂気、憤怒、憎悪、悲哀。
そんなものばかりが頭の中に押し寄せてきて、心を犯す。
すでに、精神が限界を超えつつあった。

(もう……駄目、だ…)

心が折れ、ユーノは意識を手放そうとする。
その時だった。

(……けない!!)

(負けて……たまるかよ!!!!)

「……?」

それは、たとえるなら白。
黒に塗りつぶされた世界で、小さな白い点が身を寄せ合いながら黒に抗っている。

(死なせない……!!こんなことで、誰も死なせたりなどさせるか!!!!)

(もう……チョイ…!!ユノユノが……衛星兵器を破壊する、までは……!!)

二つの光が混じりあい、ときには離れながら闇を照らしていく。

(戦う……!!ただ守るために!!!!)

(守るんだ……!!僕が、僕自身の意思で!!)

(もう、あんな悲しい時代を繰り返させないために!!)

(俺は……!!)

(僕は……!!)

(オイラは……!!)

(〈(守り抜いて見せる!!!!)〉)

ひときわ大きな三つの光が闇を切り裂いた瞬間、ユーノたちの視界が開けた。
先ほどまでの黒塗りのヴィジョンではなく、その前に見えていたオービタルリング近域が目の前に広がっている。
しかし、あの気持ちの悪さと頭痛は泥のように体に絡みつき、未だ消えない。

「うっ…くっ……!な、何だったの、今の……」

「わからない……だが。」

「すごく、気持ち悪かった………僕の中に、何かが入り込んできてた。」

いつの間にかクルセイドライザーの砲撃が終了している。
おそらく一分にも満たない時間だったのだろうが、体感時間では一日過ぎたかと思ったくらいだった。
あのままだったら、一体どうなっていたのか……

だが、不測の事態があの景色についての考察を封殺した。

「っ!?発射態勢のままだと!?」

967の声に沙慈とユーノもギョッとする。
赤い輝きが消えていくクルセイドライザーの見つめる先には、メメントモリがその装甲を大きく抉られた姿がある。
だが、ただそれだけだ。
爆煙を噴出しているが、以前のように分解する様子はなく、激しい光を溜めこんだまま軌道エレベーターを向いている。

「狙いが甘かったのか!?」

「いや、中心部に当たっている!!」

967が苦しげに言葉を絞り出す。

「……威力が足りなかった……!!」

距離が遠すぎたのか。
それとも、あの妙な現象が原因なのか。
はたまた、最初から不可能だったのか。

そんなことは問題ではない。
結果がすべてだ。
ユーノたちは、最後のチャンスを生かせなかった。

「や、やめろ……」

重力に引かれて背中から落ちていくクルセイドライザーの中でユーノは震える声で呟く。
だが、そんな言葉でとまるはずもなく、煙に巻かれながらメメントモリは標的への最終補正に入る。
そして、

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

最後の悲鳴を上げるように、メメントモリは巨大な閃光をアフリカタワーへと掃射した。



後編に続く……



あとがき

はい、ということで後編へ続く中編でした!!
……え?話が違う?こないだまで55話の終わりには後編に続くって書いてあった?
やだなぁ、気のせいじゃないですか?HA!HA!HA!





…………すんません、気のせいじゃないです(-_-;)
あれもやりたい、ここもやっときたいって感じで加えていったらとんでもないことになったので急遽、前中後に分けることにしました。
お前らのせいだぞ!!ユーノ、ウェンディ&その他リリカル勢!!(え~~……)
あのままだと3万飛び越えて4万にまで届きそうだったんで……ホントにとんでもないです……orz
後編はもうほとんど書き上がっているからすぐに更新できるとは思いますので、今回はなにとぞご容赦ください<(_ _)>
では、次回もお楽しみに!



[18122] 57.ブレイクピラー(後編)
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/01/31 17:11
14年前

「あなた。」

妻の声にセルゲイは顔を上げる。
こちらに背を向けたまま、ホリーはキッチンで夕食の支度をしている。
なんてことのない日常の1ページ。
しかし、そんな幸福な日常を享受している人間からはおいそれと出てこないであろう言葉がホリーの口から発せられた。

「次の作戦、もし私に何かあれば……アンドレイのこと、お願いしますね。」

「おいおい……」

苦笑交じりに先ほどまで目を通していた作戦書に再び視線を落とす。
セルゲイは指揮官。
ホリーは小隊長。
今度の作戦も危険には違いないが、いまからそんな縁起でもないことを言うものではない。
しかし、二人の息子、アンドレイは親の死を受け止めるにはまだ幼い。
もし、どちらかが命を落とすことになったら、残った方が彼を正しく育ててやらねばなるまい。

「わかっている。」

そう返したセルゲイだったが、あるいは二人とも予感していたのかもしれない。
その作戦で、ホリーが帰らぬ人となることを。



一週間後、セルゲイは教会のベンチで一人うなだれていた。
ホリーは助けようと思えば助けられた。
しかし、セルゲイは軍規を、市民の命を優先した。
間違ったことはしていない。
周りはそう言ってくれたが、それでも見殺しにしたという事実は変わらない。
しかし、何より許せなかったのは未だに涙の一滴も流せない軍人としての己だった。
だが、セルゲイよりもなお彼を恨んでいるのは間違いなくアンドレイだろう。

「……!」

不意に後ろのドアがキィと高い音を上げて閉じられる。
振り返り、そこにいるはずの少年の姿を探すが、どこにも見当たらない。
そして、セルゲイは憔悴しきった様子でもう一度ベンチに腰掛けた。

母の死因が父にあると知った時、子供は間違いなく父を恨むだろう。
それでも、その感情を受け止めるのが人の親というものだ。
しかし、セルゲイはこの時、アンドレイを追いかけることができなかった。
何を言えばいいのか、息子とどう向き合えばいいのかわからない。
あの小さな少年が、この時の彼の目には自分を追い詰める怪物のように映っていたのかもしれない。



しかし、もしも、この時にアンドレイを追いかけ、彼と向き合うことができていたのなら、未来に起きるであろう悲劇を回避できていたのかもしれない。
そう、妻との約束を守っていたのなら、多くの人を傷つけるようなあんなことは起きなかったのかもしれない。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 57.ブレイクピラー(後編)


ここで、軌道エレベーターに関する基礎的な知識を確認しておこうと思う。
いまや人類の生活に欠かせない電力の大半を供給するこの施設は、その大きさゆえに外部からの振動に極度に脆弱であるという欠陥がある。
そのため、頂上部にはアンカー、そして超高性能なコンピューターによって常にバランス保持のために繊細な制御が行われている。
だがもし、外部から何らかの攻撃、ないしはデブリの衝突などによって外壁が破損してバランスが大きく崩れることになったらどうするのか?

まず、必要ならばアンカーの切り離しを行い、振動を軽減。
そして、外壁部に当たるピラーをパージすることで質量を軽減し、被害を最小限に食い止めるのだ。
一見してみると、それ自体には何の問題もないように思われる。
だが、考えてもみてほしい。
パージしたそのピラーはどうなるのか?

成層圏より上の部分に関しては大気圏突入時の摩擦熱で自然消滅するだろう。
だが、それより下はどうだろうか。
外壁を形成していた巨大な金属の板がそのまま地上へ降り注ぐのだ。
しかも、その高さはビルの上から飛び降りるのとはわけが違う。
数千メートル単位の場所からとんでもない質量の物体が落ちるのだから、そのエネルギーは想像を絶する。
さらに、風向きによっては被害範囲が大きく広がる。
文字通りの大災害になる可能性は極めて高いのだ。




アフリカタワー内部

最初の異変は風だった。
下から上へとフワリと感じる程度だったそれは、外壁部が剥がれ落ちると同時に突風へと変化した。
外と内の気圧の違いで生じた突風が縦横無尽に駆け回り、ワイヤーがもがき苦しむ大蛇のように暴れまわる。
下を目指していたリニアトレインもレールから弾き飛ばされ、骨組みに、あるいは互いにぶつかり合いながら砕けていく。
その中に、6万もの命を抱え込んだまま。

「私は……!!」

「しっかりしろ!!」

この場で命を自ら断ちそうなくらいに後悔している友人に喝を飛ばし、セルゲイは下を目指す。
横を見ると、リニアトレインのいくつもの車両が下へと落ちていく。
あれだけあちこちにぶつかっていては、中の人間の生存は絶望的だろう。
しかし、中には生きている人間ももしかしたらいるかもしれない。
ここで手を差し伸べれば、万に一つの可能性ではあるが、助けられる命もあるかもしれない。
だが、

(すまない……!!)

ハーキュリーを引き連れ、セルゲイは下降のスピードを上げる。

「今は被害を防ぐことだけを考えるんだ!!」

そうしないと、後悔で押しつぶされる。
たとえ彼らからどれほど憎まれることになろうと、確実に助けられる命を助ける。
それが、セルゲイができる6万の人々への償いだった。



地上

地上でも異変は早くに起こった。

「なんだ!?」

地鳴りにも似た轟音にロックオンはスコープを覗くのをやめ、アフリカタワーを見上げる。
そして、凍りついた。

「まさか!?」

アレルヤも鍔迫り合いをやめて空を見上げる。
ティエリアも攻撃をやめ、いや、そこにいた全ての機体が戦いを忘れ、流星のように散らばっていく何かに顔を青ざめさせた。

「軌道エレベーターが!!」

「崩れてる!?」

「そんな……!!」

ウェンディとエリオはその光景にただ呆然とするしかなかった。
ミッドチルダや他の世界でもおいそれと起こらないであろう大災害。
その真っ只中にいるということが、そもそも現実だとは思えなかった。
しかし、これは夢でも何でもない。
今まさに、ここで起きている現実なのだ。

「間に合わなかったのか、ユーノ……!!」

責める権利など刹那にはない。
そもそも、破壊できる可能性は微々たるものだった。
危険を承知でそれに賭けた彼を責めるなど、お門違いも甚だしい。
しかし、それでも、なんとかならなかったのかという思いだけは消すことができなかった。

「刹那……」

失意に沈む相棒にジルは言葉をかけることができない。
ある意味、刹那以上に己の不甲斐なさを感じているのは彼なのだ。

(なんで……なんでオイラはっ!!!!)

刹那の助けになることもできなければ、悲劇を食い止めることもできない。
なぜここにいるのか、その意味すらも分からなくなっていた。
それでも、最後の希望の灯だけは消してはならない。

『現空域の全機体に、有視界通信でデータを転送します。』

「スメラギ!?」

顔を隠そうともせずにモニターに映るスメラギに刹那は驚く。
敵味方関係なく自分の画像を送信するなど自殺行為だ。
身元の割り出し、そして指名手配。
明日には一面トップで写真が載ることは間違いない。
だが、この状況下においてその判断は正しい。
犠牲を最小限にとどめるためには、もう手段を選んでなどいられない。

『データにある空域に侵入してくるピラーの破片を破壊してください。その下は、人口密集区域です。』



ミルファク ブリッジ

はやてたちがその場に到着したときには、すでに悲劇の引き金は引かれていた。
空で散らばり、轟音を立てながら地上を目指す金属の塊に異世界の住人たちも思わず息をのんだ。

『このままでは、何千万と言う人の命が消えてしまう。だからお願い……みんなを助けて!!』

「クジョウさん……」

上からは待機の命令を受けている。
ここで動けば吊るし上げを食らうのは明白だ。
もしかしたら、はやてだけでなく部下であるなのはやスバルたちまで何らかの責に問われるかもしれない。
だが、

「出ます!!出させてください!!」

スバルが転げるようにブリッジに飛び込んできた。
そして、それに続いてティアナもパイロットスーツを着て駆け込んでくる。

「行きます!!助けられる人を見捨てることなんてできません!!」

「せやけど、それじゃあんたらも……」

「行かせてもらいます。」

最後にやってきたなのはがティアナを落ち着かせるように肩に手を置く。

「守るための魔法で、そのための私たち……だよね、はやてちゃん。」

「それは……」

「六課立ち上げのときの言葉、忘れたわけじゃないよね?」

「せやけど、なのはちゃんやスバルの未来をつぶすようなことは……それに、ティアナも執務官になるって夢が…」

「見損なわないでください!!」

ティアナの一喝にはやてが目を丸くする。

「誰かを見捨ててまで夢をかなえたいなんて思いません!!」

「そうですよ!!目の前の人を犠牲にするなんて絶対に嫌です!!」

言いたいことを全てぶちまけ、「それでは!」と一礼してハンガーへと向かおうとする二人。
それを、はやては溜め息まじりで引きとめた。

「待ちぃ。」

肩の上でうとうとしていたリインをつついて起こすと、はやてもスバルたちの方へ歩いていく。

「ウリエルは格闘型の機体やろ。スバルは細かくなったのを重点的に破壊。ティアナとなのはちゃんはでかいのをブッ飛ばしたって。それと…」

はやてがニッと笑う。

「私も出る。住民の避難を手助けするくらいはできるやろ。」

覚悟は決まった。
どこまでやれるかわからないが、やれるだけやってみる。
人命救助をした仲間にもケチなどつけさせはしない。
いざというときは腹でも何でも切ってやろうではないか。

「でも……あ~あ、これで無職かぁ……。グッバイ、マイホーム……こんにちは、ハローワーク通い……」

「もしものときは永久就職すればいいじゃないですか!八神部隊長、なのはさんやフェイトさんみたいな友達がいっぱいいるんですから!」

「……スバル。あんた、永久就職の意味ちゃんとわかって言ってんでしょうね?」

「え?仲のいい人にお世話してもらうことじゃないの?」

「……あながち間違ってはおらへんねんけどなぁ。それが可能なの、こん中ではいまんとこなのはちゃんくらいなんやけど。」

いまいち締まらないまま、約一名だけ顔を紅潮させながら、戦乙女たちは守るための戦場へと向かった。



アフリカタワー 地上

数え切れないMSの中で、真っ先に行動を開始したのはガンダムたちだった。
呆然と立ち尽くす機体をかき分け、雲を突き抜け、群れとなって襲い来るピラーの前に仁王立ちする。

「圧縮粒子解放!!」

セラヴィーの全砲門から光が放たれる。
その直撃を受けたピラーは塵と煙に変化して散っていくが、それでも相手は数万枚規模の外壁の破片たち。
休む間もなく第二射を放ち、煙の向こうから押し寄せてくるピラーを粉砕していく。

「マレーネ、サポートよろしくっス!!」

〈All right!〉

「マルチロック……!!全弾持ってけっス!!」

スフィンクスも残っていたミサイルを全て発射すると、今度はマシンガンを所構わず乱射し始める。
いつもなら当たらない攻撃も、相手が意思を持たず、しかもこれだけ密集しているのなら話は別だ。
端のほうから削られていき、最後には跡形もなく消え去っていく。
だが、やはり手数が不足してしまう。

「狙い撃つ!!」

とは言ってみたものの、実質ロックオンはほとんどスコープを覗いてはいなかった。
とにかく、早撃ちを心掛ける。
スナイパーライフルの威力ならば、バラけた破片であれば一撃で粉砕できる。
あとはとにかく撃ち漏らさないこと。
それだけを心掛けてピラーの大群へ向けてトリガーを引き続けた。

「ハロ!!」

「シールドビット展開!シールドビット展開!」

さらに、防御用のシールドビットも迎撃へとまわす。
深緑のビットによって張り巡らされた光の網は、金属片を包み込むと同時に溶解、爆発させていく。
だが、それでもカバーできる範囲は大きくない。
そこで、あの二機の出番だ。

「アリオス、防衛行動に移る!!」

「ダブルオーライザー、目標を駆逐する!!」

セラヴィー、スフィンクス、ケルディムの包囲網を突破した破片たちに、アリオスの光弾が幾発も叩き込まれる。
さらに、落下するピラーの中へと飛び込んだダブルオーライザーが回転しながら両手のライフルを撃ち続け、一片たりとも通さぬとばかりにピラーを撃ち払っていく。
だが、それでも多勢に無勢は変わらなかった。

「クッ……数が多すぎる!!」

今のところ居住区に落ちたものは見当たらないが、かなり近くにはすでに土煙が充満し始めている。
アレルヤの言うとおり、数が多いうえにまだパージされるであろうピラーは山ほど残っている。
とても五機で抑えきれる数ではない。

と、その時、アレルヤの上に影ができたかと思うとすぐに元のように光が差し込んだ。

「しまった!!」

それが撃ち漏らしたピラーであることはすぐに分かった。
慌てて後ろを向いて緑と近代的な建造物が広がる一帯に突入していく一枚へ集中攻撃をかける。
しかし、アリオスの銃弾はことごとく空を切り、ピラーは建物まであと少しのところに迫った。

(クソったらぁ!!!!)

(駄目か!!?)

アレルヤが顔をゆがめ、諦めかけたその時だった。
突如として横から奔った光がピラーを貫き砕く。
一体何が起こったのか分からないアレルヤは、ビームの来た方向を見てさらに驚愕する。

「あれは!?」

赤みがかったオレンジの戦闘機が猛スピードで迫ってくる。
しかも、確かに感じるこの脳量子波は間違えようがない。

「マリー!!?」

できることなら戦場には出てきてほしくなかったマリーが、セルゲイに二度と戦場には立たせないと言ったマリーがここに赴いている。
今からでも遅くはない、帰さなければ。
そう思ったアレルヤだったが、その思考はすぐにマリーまで伝わった。

「これは戦いじゃないわ!!」

「!!」

「これは守るための……救うための行為だ!!」

ソーマもまた、一心にピラーへ向けて二丁の大型ライフルを放つ。
戸惑っていたアレルヤもすぐに踵を返してGNアーチャーの隣で両腕のガトリングでの斉射を開始。
一時的にではあるが、落下するピラーを押し返し始めた。



一方、ロックオンとケルディムも苦しい状況下にあった。
かなり上方にいたはずなのに、気付けば街のすぐそこまで押し込まれていた。
すぐ横までやってくるピラーに対処するために小回りのきくビームピストルに持ち替えるなど対策は講じているが、以前苦しい状況は変わらない。

「クソッ……!!このままじゃ!!」

その時だった。
反応が遅れ、見逃した二枚が猛スピードで市街地へ突撃していく。

「しまった!!」

振り向こうとするが、正面のピラーも止まらないのでどうすることもできない。
だが、その二枚が地上へ落下することはなかった。

「!?」

ヒュンという音と同時に二枚のピラーが塵になる。
そして、ケルディムのすぐ前まで迫っていたピラーも次々に砕かれていった。

「あれは……!!」

ピラーの落下によるものとは別の土煙。
そして、その上には空戦用の旧型MSがその手に握った銃を上に向けて掃射していた。

「カタロンか!!」

それだけではない。
異世界の同朋、ボーダーブレイカーの機体も紛れている。

「市街地に落ちてくるものを重点的に狙うんだ!!避けるのは二の次だ!!人命を最優先に行動しろ!!」

「空戦用の機体は散らばって行動しろ!!固まっていたらピラーとの激突に巻き込まれるぞ!!」

クラッドとアルペジオの怒号が飛び交うが、それも聞こえているかどうか怪しいものだ。
それほどまでに、炸裂音や爆発音が大気の中に溢れかえっていた。

(ありがてぇ……!!)

これでまたひと踏ん張りできる。
一人でないというだけで、再びロックオンの心を燃え上がらせるには十分だった。




ガンダム各機のなかで唯一セラヴィーが戦線を維持できていたのはひとえにその大火力ゆえだろう。
しかし、その比類なき火力にも限度がある。
加速度的に悪化する視界に、止むことを知らないピラーの雨。
すでに一機のMSと一人の人間にどうにかできる限度を超えている。

「クッ……!!」

機体のすぐそこまでピラーが迫る。
激突すれば、随一の装甲を誇るセラヴィーでもひとたまりもない。
無駄だと分かっていても、ティエリアはその衝撃に備えるが、それはとんだ徒労に終わることになった。

「なに!?」

通常のカラーリングをされた機体がセラヴィーに接触する直前にピラーを撃墜する。
思わずポカンと気を抜いてしまうティエリアだったが、すぐに自分の危機を救ってくれたものたちの正体に気がついた。

「クーデター派の機体か!!」

上へ向けてひたすらに攻撃を続けるクーデター派の機体とセラヴィー。
カタロンやBBも負けじといっそう弾幕を張る。
しかし、数に押し切られてピラーの落下に巻き込まれる機体も出始めた。
さらに、無粋にも時と場をわきまえない愚か者からの妨害で雄々しい魂が散っていく。

「っ…!!MDか!!」

仕方なく刹那はピラーへの攻撃を中断してキョロキョロと額のモノアイを動かすエスクワイアを問答無用で叩き斬る。
上と下で別れた無様な姿を晒しながら落下していく意思なき人形。
だが、一機倒しただけでは何の意味もない。
そう告げるように、刹那とダブルオーライザーを囲むその数はすでに膨大な物になっていた。

「刹ちゃん!!」

ダブルオーライザーと背中を合わせるようにスフィンクスもそこへと駆けつける。
だが、MDたちはその紫紺の瞳に緑のラインを奔らせるだけで動揺など微塵もしていない。

「俺が押さえておく。お前はピラーの破壊に専念しろ。」

「冗談?この数相手に一人はヤバいっスよ。」

「二人でも危機的な状況には変わりはないけどね。」

「冷静に状況分析する子供は嫌われるのが定石だって、エリオ知ってた?」

「んなこたどうでもいいんだよ。それより、マジでこいつら何にも読めないんだけど。」

「当然だ。……人形なんだからな。」

その言葉を合図にまずは刹那が飛び出す。
包囲網を縮めてきていたMDの一機に蹴りを喰らわせ、落下していたピラーに激突させて撃墜する。
残っていたMDがダブルオーライザーに殺到するが、その前に今度はスフィンクスが立ちはだかった。
ビームナイフを首筋に突き刺し、そのまま別の機体へと突進していくスフィンクス。
ガクガクと手脚を震わせるシュバリエをカヴァリエーレに叩きつけ、あいていた左手のマシンガンを密着させた状態で乱射する。
二体の体を光が貫いたのを確認するとすぐさまウェンディはスフィンクスを戦闘機に変形させ、落下するピラーを追いかけてその陰に入る。
何機かがそれを追って降下を開始するが、それを待っていたようにウェンディは脚部だけを変形させてホバリングしてその場で停止すると、下に追い越して行った機体に連射を浴びせた。

「刹ちゃん!!」

「わかっている!!」

スフィンクスの背後を取っていた機体を縦に一刀両断すると、ダブルオーライザーはそのまま方向転換して上のMDたちにビームを撃ち込んだ。

「キリがないっス。」

再び自分たちを取り囲む敵機に溜め息を漏らす。
一機一機の実力もさることながら、この数は本当に厄介だ。
しかも、自己判断できないので人が死のうが救助活動を妨害しようが最初に命じられた敵機の排除という指令以外こなさないのだから始末が悪い。

「コントロールしている艦を叩く。」

「どれかもわからない上に何隻あるかもわからない、おまけにめちゃくちゃ離れてる艦を見つけ出して潰す?現実的じゃないだろ。」

「TRANS-AMならどうですか?」

「駄目だ。増援が来ない保証はない。粒子切れを起こしたところで来られたらマズイ。」

「どっちにしよ、このままじゃマズイっスけどね……っとお!!?」

四方から飛んでくる攻撃をかわす二機。
このままなら撃墜されることはないかもしれないが、ピラーの破壊に参加できない。
どうにかしてこの人形たちを止めなければなるまい。
そう考えていた時、スフィンクスの上と後ろにフュルストが陣取る。

(ヤバ!!)

どうにかかわそうと先ほどと同じ手で緊急停止をかけるが、今度はフュルストたちもストップしてスフィンクスのコックピットに狙いをつける。

「!!」

降り注ぐピラーをバックに火花が散る。
信じがたい光景に目を見開くウェンディだが、体を押しつぶされる圧迫感もなければ肌を焦がす熱さもない。
ただ、拳に青い輝きを宿すガンダムが肘のブレードをフュルストに突き立てている姿に、喜びを全身で噛みしめていた。

「大丈夫、ウェンディ?」

「スバル!!」

上へと肘を振り抜き、フュルストを斬り裂いたウリエルはそのまま胸に二つの穴を穿たれたもう一機の頭を握り潰して上を目指す。
それに導かれるように双銃を握る機体と、純白の翼を持つ機体も昇っていく。

「ウェンディたちも急いで!」

「一つ貸しだからね!」

「サリエルとカマエル……高町なのはたちか。」

この状況下で彼女たちが動けるとは思っていなかった。
だが、一度共闘している刹那は、味方になった時の彼女たちがどれほど頼もしいか知っている。
ひょっとしたら、なんとかなるかもしれない。

「……信じていいんだな。」

不意打ちのようにかけられた言葉に三人は困惑を隠せないが、すぐになのはが微笑み返す。

「少しでも怪しいと思ったら背中から撃ってくれて結構です。それに、下には私の友達がいるんです。そんな状態であなたたちに刃を向けるとでも?」

「下に?」

怪訝そうな顔をするジルに、なのははいっそうまぶしく笑いかける。

「はい!一人でも助けようと、夜天の主が奮闘しているんです!」



居住区

「慌てないでください!!時間にも避難場所にも余裕はあります!!落ち着いて行動してください!!」

混乱のただなかであっても、屋根の上に陣取るシグナムの声はよく通る。
ブリジットにピラーからの防衛をまかせつつ、速やかに住民の避難を行う。
上手い策ではあったが、少々問題が起きつつあった。

(まだ応援は来ないわけ!?そろそろ一人で守りきるのも限界なんだけど!!)

(もう少し堪えてくれ!!せめて、ここに集まった住民を避難させるまでは!!)

(随分長いもう少しになりそうだね!!クソッタレめ!!)

別行動をさせているアギトからの報告によれば、MDに阻まれて応援部隊が足止めを食らっているらしい。
今は何とか落ち着かせているが、もし応援が来なかったら住民はパニックに陥る。

(まだか……!!まだなのか!!)

焦りばかりが募る中、遂に最悪の事態が起こる。

「きゃああぁぁぁぁぁ!!!!?」

「わああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「しまった!!」

「っ!!」

ブリジットの防御をすり抜け、遂にピラーの一枚がこちらへ落ちてきた。
避けるなど不可能だし、いかにシグナムと言えど破壊も不可能だ。
しかし、それでも烈火の騎士は愛刀を構えて巨大な金属の塊を睨む。

(今ならMSの腕くらいはいける……!!だが、これは……ええい!!弱気になるな!!)

口を真一文字に結び、レヴァンティンを振りかぶる。
だが、それと同時に懐かしい詠唱が辺りに響いた。

「遠き地にて闇に沈め……!!」

「!!」

巨大な光球が宙に出現し、巨大な板の先端部分を丸々削り取る。
残った部分は建物に落下したが、肝心の住民たちには掠り傷一つつくことはなかった。

「こっちからも避難できます!!慌てず誘導にしたがってください!!」

空に浮かぶ彼女が何なのかを聞く人間は誰もいない。
ただ、この場から逃げることで頭がいっぱいでそんな余裕などないのだ。
だが、この世の不思議を行使する彼女が誰なのか、余裕がなくともシグナムにはわかった。

「主はやて!!」

「そんなに時間経ってないけどお久~♪けど、今は説明しとるひまはないんよねぇ。」

のらりくらりとしゃべるはやてだったが、言っていることはもっともだ。
下手に住民の動揺を誘うより、今は誘導に集中した方がよさそうだ。

(主はやて、そちらは何人ほど収容できますか?)

(物資コンテナ空にして200弱ってとこやな。そっちは?)

(……そちらの妨害で追加の輸送部隊が遅れています。)

(MDやろ?あんな悪趣味なんわたしら使うてへんちゅうねん。ま、ユーノ君がおるならなんとかなるんちゃう?)

(……結局、今回もユーノたち頼みですか。私も人のことは言えませんが、あまり上等な策とは言えませんね。)

その言葉にムッとするはやてだが、もっとも過ぎて言い返せない。
と言うより、できることならその言葉をどこぞの優柔不断な提督に聞かせてやりたい。

(そら、私かてそう思うわ。せやけど、肝心のあの人らがあれじゃなぁ……)

口惜しそうな視線ではやてが見つめるずっと先。
そこには、救助活動に参加しようとしない、一隻の艦があった。



成層圏上部

上から幾条もの光をパージされるピラーへ撃ち下ろしながらユーノたちは急ぐ。
こうなれば、被害を最小限に食い止める以外にできることはない。
スメラギも自らの姿を晒すのも厭わずに全部隊に協力を求めたのだ。
それなのに、一人だけ後悔に浸ることなど許されるわけがない。
早く、地上へ急がねば。

967から気がかりな報告を受けたのはそんな時だった。

「……?ユーノ、妙な艦を見つけた。……お前のよく知っている艦だ。」

アップで写される無防備な姿はいつもと違ってひどく間が抜けている。
だが実際問題、クラウディアがその場を離れるでもなく、また救助に参加するでもなくその場にただ留まっているのは不可思議な光景だった。

「967。」

「わかっている。繋ぐぞ。」

モニターに映されたブリッジの様子は、外見以上に無様なものだった。
誰もが失意に沈み、それを奮起させるべき男も子供のように赤く腫らした目をしていた。
向こうにもユーノの姿は見えているはずだ。
なのに、誰も反応を示さない。
ユーノの怒りは一気に沸点近くまで膨張した。

「……なにをやっている、クロノ・ハラオウン。」

努めて冷静に対応しようとするが、その代わりに全身の筋肉がギシギシと軋む。
顔も穏やかなユーノからは信じられない、鬼神の形相に変わっていた。
それほどまでに、今の友人の姿は耐えがたいほど見苦しい。

「……お前のやるべきことは、そこで泣いていることか?」

『…………………………………』

「救うべき者を救う。それが管理局の一員としてあるべき姿じゃないのか?」

『…………………………………』

その言葉を甘んじて受けるだけのクロノ。
それがなお一層ユーノの感情を逆撫でする。
そして、遂に抑えきれなくなったそれが爆発した。

「っ!!説教じみたことを言わせるなよ!!!!」

『!!』

「何のために僕たちは道を違えたんだ!!僕と銃を向けあうことになってでもやりたかったことは、ただ悲観に暮れることか!!?違うだろ!!」

『だが、僕は…』

「理屈なんて聞きたくない!!矜持を見せろ、クロノ・ハラオウン!!!!」



クラウディア ブリッジ

それで、ユーノとの通信は終わってしまった。
こちらの事情も知らずに言いたい放題。
全く勝手な話だが、それに言い返せない自分がなおのこと恥ずかしかった。

「矜持を見せろ、か………まったく、似合わないセリフを…」

これが目から鱗とでも言うのだろうか。
あれほど狭かった世界が、今は広がって見える。
心も晴れやかで、迷いもない。

「……みんな。すまないが、少しわがままに付き合ってもらうぞ。」

手元にあった艦内放送用のマイクのスイッチを入れると、クロノはピンポイントに人員を指定する。

「フェイト、いけるか?」

『遅いくらいですよ艦長。いつでもいけます。』

『悪いけど、あたしはMSがないんで住民の誘導に回る。そんじゃ、出るぞ。』

すでにコックピットの中にいた妹と待っていましたとばかりに一人で飛び出していく友人に苦笑交じりに嘆息すると、声を張り上げる。

「これより我々は外壁の残骸の破壊、ならびに人命救助を開始する!!」

「了解!」と、さっきまで落ち込んでいた人間とは思えないほど快活な返事にクロノは大きくうなずくと、自らもデュランダルを手に居住区へと向かった。



アフリカタワー 西海岸側

「チッ!!もう祭りが始まってやがる!!」

正面から斬りかかってきたMDを逆に真っ二つにして、フォンとアストレアはピラーの破壊には参加せずに辺りを見渡す。
今回の事件のオリジナルを立案したフォンとしては被害状況も気になるが、それよりもこの作戦を指揮している連中が問題だ。
この作戦で正規軍、もしくはアロウズの中で救助活動にあたる者がいれば、何らかの処罰が下されるのは間違いない。
なにせ、暗に身内から「今回の作戦は著しく考慮に欠けている。」との突き上げを食らうようなものなのだ。
そんな人間を看過しておくほど組織と言うのは甘くない。
フォンは幼いころからそのことを身を持って実感してきているのだ。

『オイ、フォン!!お前も手伝えよ!!』

「……俺は別行動に入る。お前らはピラーを破壊するなりなんなり好きにしろ。」

『はぁっ!!?あんた何言ってんのよ!!あたしたちはそのために来たんじゃないの!!?』

「バカ言うな。」

ギラリとフォンの犬歯が光る。

「俺は俺の策を利用した連中が気に食わないだけだ。」

そう言い残すと、「あげゃげゃ!」と高笑いしながらフォンはその場を離れた。





後日、ガンダムによってこの事件の解決に尽力したアロウズの佐官たちが基地ごと殲滅されるという事件が起こる。
それが、今回の一件の事実をもみ消した人間たちであるということを人々が知るのはずっと先のことである。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

奇跡と呼べるものが本当に存在するならば、それは人の為す業が、あり得ないと思えることも可能にすることなのかもしれない。
そして、その奇跡と呼べるものの一端を、この時彼らは目撃することになった。

水色のカラーリングをしたジンクス。
さらに、周辺を警戒していたイナクトやフラッグ、さらにはティエレン。
挙句の果てには、燃え立つような紅が印象的なアヘッド。
変わったところでは重装甲なカヴァリエーレや軽装甲のシュバリエ。
それに続けと、手動操縦のバロネットやフュルストまでもが上を向いて一心にピラーを破壊しているのだ。

「正規軍にアロウズ、それに管理局まで……」

フェルトがその光景に呆けているが、無理もない。
先ほどまで殺し合いをしていた人間同士が、今は一つになって命を守ろうとしているのだ。
これが奇跡でないなら、一体何なのか。

「都市部への直撃は何とか避けられそうです!!」

ミレイナが嬉しそうに報告するが、スメラギはそれどころではなかった。
一介の戦術予報士、それも犯罪者集団の人間の言葉でこれだけの人々が立場を超え、協力してことにあたっているのだ。

「ありがとう………!!」

本当にそれしか言えなかった。
胸にこみ上げる熱い想いが涙となって零れ落ちていく。
今日ほど人一人の無力さを思い知らされた日はないだろうが、同時に今日ほどソレスタルビーイングにいてよかったと思える日はないだろう。

「こんな状況で、全てが一つにまとまるなんて……」

「皮肉なもんだな。だが……」

ラッセがアニューと顔を見合わせ、互いに笑う。

「「悪くない。」」



アフリカタワー 地上 東部

宇宙から見たアフリカ大陸全土は赤茶けた雲に覆われていた。
そして、下から見るそれはいっそう深刻な物に思えた。

「このぉ!!」

その粉塵の下で拳を振るうガンダムは、まるで青い空を取り戻そうと暗雲を切り裂いているようだった。
一心不乱に落下していくピラーを粉砕していくスバルとウリエル。
拳足を主武装に据えるというMSの常識を逸脱した仕様でありながら、数トンは下らないであろう金属板を砕いていく様は天晴れというしかない。
しかし、それはあくまできれいにパージされたピラーに関しての話だ。

〈Caution!!〉

「っ!!?」

パージし損ねて一塊になって落ちてくるピラーを前にしては、接近戦に傾倒したウリエルは果てしなく無力だ。
影を伴って迫るピラーにスバルは逃げることも忘れてその場で凍りつく。
この時点で普通ならスバルの運命は決するのだが、今は敵も味方も関係ない。
助けてくれる機体は山といるのだ。

「前に出過ぎだ。」

巨大な光球が巨大なピラーに炸裂すると、中心から細かな破片へと分かれていく。
分割し損ねた端の部分もオレンジと赤の弾丸が根こそぎ撃ち落とした。

「迂闊だぞ。」

「ったく……手間かけさせんじゃないわよ。」

「中尉、ティア!!え~と、それと……」

「ティエリア・アーデだ。」

照れ隠しに笑うスバルにティエリアは思わずため息をつく。
それはシャルとティアナも同じらしいが、スバル独特の雰囲気には慣れているらしく、すぐに破壊作業に戻る。

「礼はいい。僕たちもピラーの破壊に戻るぞ。」

「はい!」



居住区 輸送艦・ミルファク前

「こっちだ!!まだ定員に余裕がある!!」

「慌てないでください!!怪我人を優先させてあげてください!!」

青毛の狼と緑の衣装を着た女性(しかも片方は狼なのに喋る)という珍妙な組み合わせだが、人々は二人の誘導に従いミルファクへと避難していく。
辺りには爆音が鳴り響き、粉塵が絶え間なく舞っていて、避難場所にたどり着いたというのに不安そうな表情が晴れることはない。
だが、この状況で一番不安を感じているのは誘導をしているザフィーラとシャマルだ。

(やはり混乱は避けられんか……シャマル、そっちはどうだ?)

(今のところグリーンが多いけど、レッドも増えてきてる。……ブラックも…)

トリアージにおけるブラック、すなわち救命の見込みがないもの。
この艦に乗せることができない人々だ。

(仕方がないとはいえ、気が滅入るな。)

(でもやらないと!!これ以上同じような人を出さないためにも!!)

二人が気合を入れなおしたその時だった。

「急げ!!こっちだ!!」

「「!」」

一人の少女が市民たちをこちらへ引き連れてくる。
赤いドレスは煤で汚れ、頬には擦り傷がいくつも刻み込まれているが、それでも騎士としての誇り高さは失われていなかった。

「ヴィータ!!」

「ヴィータちゃん!!」

「……おう。」

照れくさそうに鼻をさすりながら二人の前に降り立ったヴィータは、ポケットに入れていたメモを取り出す。

「クロノからの伝言。反対側にもクラウディアと他に数隻つけてるからそっちにも誘導するってさ。」

「クロノ提督が?」

シャマルが目を丸くすると、ヴィータはおかしそうに笑う。

「子持ちのくせにトンだバカだよ。これでクビになったらどうするつもりなんだか……」

「だが、親として子供たちに胸を張れないことはできなかったのだろう。あの男らしい話だ。」

(……ホントはユーノに発破かけられたからなんだけど。ま、いっか。底抜けのバカってことに変わりはないからな。)

もっとも、その指示に従う自分も相当バカだとヴィータは心の内で自嘲した。



アフリカタワー 地上 西部

「この……カスども!!」

誰にでもなく悪態をつきながら、ハレルヤは空を駆け抜ける。
いつの間にかいなくなったGNアーチャーを探してピラーを破壊しながら旋回を続けるが、このMSの中から見つけ出すのは難しい。
しかも、

「チッ!!」

時折落ちてくるこの大きなピラーの塊。
ただでさえ危険なピラーの中でも群を抜いて厄介なこいつが邪魔でなかなか捜索に集中できない。

「邪魔すんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

怒りにまかせてビームを浴びせかけるが、せいぜい端が欠けるだけで効果は薄い。
それに、あまり粘っていると落下に巻き込まれかねない。

(クソッ!!いったん退く……)

「バルディッシュ!!」

〈Yes,sir!〉

漆黒の電光がアリオスを尻目に大型のピラーへと突撃していく。
そして、

「プラズマザンバー……ブレイカーーーーーー!!!!!!」

紅蓮の輝きが一閃、二閃したかと思うと巨大な板が四分割され、続いて爆炎を上げてきれいに砕け散った。

「フン、デカパイか。」

フェイトに助けられたのが気に入らないのか、ハレルヤはフンと鼻を鳴らすとシュバリエに向かってきていたピラーを撃ち落とす。

「!」

「借りを作るのは癪なんでな。」

シュバリエの前に出たアリオスはツインビームライフルで先にピラーを破壊する。
すると、

「…………………………………」

今度はシュバリエが前に出て破壊する。

「…………………………………」

今度は、またアリオスが前に。

「……………………………」

またシュバリエが。

「……………………………」

アリオスが。

「……………………………」

「……………………………」

「………いい加減にして!!!!」

遂にフェイトが我慢の限界を迎えた。

「何なんですかあなたは!!?こんな時に何ムキになってるんですかっ!!!!」

「そっくりそのままその言葉をお返ししてやるよ!!!!少しくらい年長者に譲ることを覚えろクソアマ!!!!」

〈……Sir…〉

(ハレルヤ……大人げない………)

言い合いを繰り広げながら猛烈な勢いでピラーを破壊していく二機。
息が合っているようで合っていないその攻撃は、図らずも周囲の機体の負担の軽減に一役買うことになった。
だが、

(!!ハレルヤ!!)

〈Warning!!〉

「「ん?」」

二人が見上げた先にはパージし損ねたピラーがもう一つ。
轟々と唸りを上げながら落下してきていた。
その光景に流石の二人も言い争いをやめて銃口を揃える。
だが、それよりも早く地上からいくつもの砲撃が飛んできた。

「戦場でお喋りとは余裕だな、お二人さん。」

「……死に急ぎたいらしいな。」

爆風と熱波が容赦なくアリオスとシュバリエの装甲表面へ叩きつけられる。
その代わりに、正面にあったピラーは跡形もなく消え去っているが、鮮やかだった二機のカラーリングは少々くすんでしまった。

「呑気でいいな、まったく……」

「そう言いなさんなって。余裕を見せられる状況になったこと自体は歓迎すべきじゃねぇの。」

クラッドになだめられ、アルペジオは呆れながらも愛機であるヘヴィガードに上を向かせて巨大なランチャーを肩に担がせる。

「では諸君……派手にいこう。」

その掛け声と同時に、無数の火球が薄暗い空を彩った。



上方

「あれはマズイ!!」

ようやく地上付近まで戻ってきたユーノを最初に出迎えたのはひときわ大きな外壁だった。
おそらく、パージしきれずに落下してきたのだろう。
通常の火力であれを破壊するのはまず不可能だ。

「967、TRANS-AMは!?」

「いけるぞ!!」

「よし!!」

クルセイドライザーが赤い輝きを放つ。
ビットを飛ばし、六角形のサークルを二つ作ると、ツインランチャーの射線軸上に置いた。

「いけぇ!!!!」

まずは徹甲弾が発射される。
二つのリニアフィールドで爆発的に加速されてピラーに叩きつけられると、全体に大きなひびが広がる。
そこへ、第二射が放たれた。

「砕けろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ビットとランチャーのビームを受け、ギシギシとたわんだ規格外の金属板は耐えきれずに無数の破片へと分かれる。
それを砕こうと再びツインランチャーを構えたユーノだったが、彼よりも早く下にいた二機のMSがそれを破壊した。

「あれは……」

一体は未だに操縦者が固定されていないGNアーチャー。
もう一機は以前ピーリスが使っていた強化型ティエレンの発展タイプだろうか。

(まさか……)

そう思って二機の隣に降り立ち、ピラーの破壊に参加する。
すると、想像通りの答えが返ってきた。

『ユーノ君か!?』

「やっぱりセルゲイさんだったんですね!!ということは、隣にいるのは……」

『私だ。』

無愛想な返事に思わず顔がほころぶ。
セルゲイやピーリスとこうしてまた並び立つことになるとは思っていなかったので、今がそんな時ではないと分かっていてもついつい口が軽くなる。

「ピーリスさんとアレルヤを見逃した責任を取って、軍を辞めたかと思いましたよ!」

『このご時世、そんな暇などないのでな!』

「頑固だからそれでも無理を押しとおすと思ってました!……と、どうしたの沙慈?助けてもらったお礼くらい言ったら?」

『なに?』

セルゲイの声にそれまで黙っていた沙慈がビクリと肩を震わせる。
気まずかったので黙っていたのだが、ユーノのせいでそうもいかなくなった。

「お、お久しぶりです……」

『クロスロード君!?なぜ君がガンダムに!?』

「成り行きでこうなっちゃって……」

「いやぁ、沙慈から話を聞いたときはまさかと思いましたよ。その後、大丈夫だったんですか?」

『無論だ。』

「ということは何かあったんですね?」

『深読みしてやるな。聞かぬが華というものだ。』

クックッと笑う元部下と息子より若いガンダムのパイロットに顔をしかめるセルゲイだったが、つられて自分も苦笑する。
ここにもう一人、このやり取りをいさめてくれるであろう彼がいてくれればそれで完璧なのだが、それは高望みというものだ。
てっきりそう思っていたのだが、願望というのは時に意外にも簡単に叶うものだ。

『私も仲間に入れてもらいたいのですが?』

腰に一本の長い棒を携えたジンクスの操縦者は、挨拶代わりのビームと共に彼らの斜め上に陣取った。

『ミン大尉か!?』

『お久しぶりです、大佐!後で密命やハーキュリー大佐について聞かせていただくのでそのつもりで!!』

「まあ兎にも角にも、今は都市部の防衛に専念しますか!!」

『了解した!!』



四年前、偶然交わった道が再び戦場で交わる。
数奇な運命に操られる四人が、全員揃うのはこれが最後になると、誰にわかっただろうか?



5時間後 アフリカ大陸中央部

夕焼けに染まる景色を楽しむことなど誰もできなかった。
大地には無数の板が突き刺さり、空を覆っていた暗雲が晴れてもくすんだ空気が立ち込める。
未曾有の被害となった今回の事件での死者は未だはっきりとはわかっていない。
だが、その数が決して少なくないことは想像に難くない。
さらに、負傷者、行方不明者、さらに健康被害などを考えると、この一帯が完全に立ち直るまでこの先何年かかるかわからない。
それを考えると、ハーキュリーはやりきれない気分だった。

「無事だったか、ハーキュリー。」

「………ありえん……!こんなことが………こんな、取り返しのつかないことが……!!」

「……あなたのせいじゃない。」

不意に目の前に現れたのは、萌黄色をしたガンダム。
MSとは思えないほど穏やかな佇まいを見せるその機体から、透き通るような声が語りかけてくる。

「あなたのしたことは取り返しがつかないかもしれない。けど、世界を憂うあなたの気持ちまで否定する必要はないんじゃないですか?」

「……………………………」

「罪を償ってください。本気で世界のことを思えたあなたならきっとやり直せるはずだ。だから…」

差しのべられた手をジンクスが掴もうとした、その時だった。
赤い閃光がハーキュリーの乗るジンクスのコックピットを貫き爆散させる。

「ハーキュリー!!!!」

叫ぶセルゲイとは対照的に、クルセイドライザーは微動だにしない。
突然の出来事に差し出した手を戻すこともできず、ユーノはただ地上へ落ちていくMSの残骸を目で追うことしかできない。
だが、瞬刻の後に慟哭と憤怒の刃が空を駆け抜けた。

「お前ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

紅いジンクス。
ただその一機に向けて怒りを全開にする。

後悔していた。
償おうとしていた。
やり直せるはずだった。
なのに撃った。
絶対に許せない。

「なんで撃った!!!!あの人は償おうとしていたのに、なんで!!!!」

ビームサーベルでガリガリとジンクスのランスを削り取りながら押し込んでいくユーノ。
だが、ジンクスのパイロットの言葉は同じくらい怒りに満ちていた。

「償うだと!!?この惨状を生み出しておいてよくもぬけぬけと!!!!」

「何も知らないで…!!!!お前たちこそ、この惨状を作り出した張本人だろうに!!!!」

鍔迫り合いの末にジンクスを弾き飛ばしてツインランチャーを構える。

「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ジンクスのパイロットの背中を冷たいものが伝う。
しかし、クルセイドライザーの一撃が放たれることはなかった。
間一髪のところで別の機体が横からタックルをかけてクルセイドライザーを押し飛ばすと、残りの機体も引き連れ周りを取り囲む。

「邪魔をするな!!!!」

怒りにまかせて滅茶苦茶に砲撃を放つユーノ。
しかし、感情任せの攻撃は精彩を欠き、なかなか標的にはあたってくれない。

その間に、件のジンクスはセルゲイのティエレンに斬りかかっていた。

「貴様!!」

その一撃を受け止め、セルゲイはすぐさま離れようとペダルを踏もうとするが、接触回線で聞こえてきた声に驚いた。

「その声……!!」

「!!」

ピーリスへの出向命令を伝えに来て以来、再び会わなくなっていたその声もまた、相手がセルゲイだと分かり動揺を隠せないようだった。

「アンドレイ!!?」

息子、アンドレイ・スミルノフが親友の仇だと分かった瞬間、セルゲイの中に眠っていた父親としての情が顔をのぞかせる。
だが、それが命取りだった。

「父さん……まさか、反乱分子に………!!」

「ま、待て!!」

聞く耳を持たないアンドレイは構わずティエレンを押し込んでいく。
いかに改良をくわえられていようと旧型である。
GNドライヴ搭載機との押し合いに勝てる道理などない。

「何をしてるんですか!!あんたは!!」

「話を聞け!!私は……」

「軍規を守って母さんを殺したくせに!!クーデターにっ!!加担するなんて!!」

駄々っ子のようにビームサーベルを振り回すアンドレイ。
今まで溜めこんでいた父への不満と、クーデターの加担者を罰することへの正義感が結び付き、冷静な判断力を奪っていた。
通常の戦闘ならば命取りになりかねない大振りだが、相手をしているセルゲイは反撃などできるはずがなかった。
ロシアの荒熊ならば、それくらいは容易かったのかもしれない。
だが、今ここにいるのは軍人ではなく、子供を前に戸惑う一人の親なのだ。

「聞くんだアンドレイ!!」

「軍人の風上にも!!!!」

遂に遮二無二振り回していた一撃が左肩を捉える。
腕を斬りおとされ、得物を失くしたティエレンは一時停止がかかったように空中で静止する。

「母さんの仇!!!!」

光刃の切先がすぐそこまで迫る。
セルゲイは抵抗すべく操縦桿を動かそうとするが、その瞬間、幼い日の我が子の面影がジンクスに重なった。

「!?」

遠目に見ていたユーノも、その異変はすぐに分かった。
まるでこれから来るその一撃を迎え入れるかのように両手を開くティエレン。
抵抗する意思など、全く感じられなかった。

「駄目だ!!セルゲイさん!!」

すぐに助けに行こうとするが、周りを取り囲むMSが邪魔で満足に動けない。

「何をやっている!!」

そこへやってきたのはピーリスとGNアーチャー。
ビームで包囲の隙間を広げると、そのまま敵を引きつける。

「早く行け!!!!大佐を!!!!」

「わかっています!!」

すぐに包囲をくぐりぬけ、ティエレンとの距離を縮めていく。
あと少しで、助けられる。
だが、現実は残酷だった。

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「なっ!!?グアッ!!!!」

頭上からの射撃に間一髪でGNフィールドを展開するが、衝撃で体勢を崩すクルセイドライザー。
その隙を逃さず、改良型のアヘッドはビームサーベルを抜いた。

「逃がすものかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ルイス!?」

「このっ!!」

驚く沙慈にかまわず、ユーノはスマルトロンの斬撃をかわしてコックピットを貫こうとする。
だが、

「やめてくれ!!!!あれにはルイスが乗っているんだ!!!!」

「っ……!!クソッ!!!!」

「うっ!!?」

右手のライフルを斬るにとどまったクルセイドライザーの攻撃だったが、ルイスを足止めするには十分だった。
あとは、セルゲイを助ければそれで万事解決。
─────そのはずだった。

「……え?」

振り向いた先には刃を受け入れているティエレンがいた。
機体全体を激しくスパークさせ、今にも爆発が起きそうな光景にユーノの瞳から涙がボロボロと流れ落ちていく。

「そんな……嘘だ……!!」

頭を抱え込み、その光景のすべてを否定する。
だが、次々によぎっていく彼との思い出が、苦しくも楽しかったあの一時が何度もリフレインするたびに思い知らされる。
また、助けられなかったのだと。

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

ジンクスを優しく、まるで息子の背中でも押すようにゆっくり遠ざけると、ティエレンは夕空に散った。
その光景を目の当たりにしたユーノの瞳を濡らす涙は、彼の心から迸る鮮血のようだった。





天を衝く塔の悲劇
それは、ソラを目指した人間の傲慢さが引き起こしたものなのか




あとがき

ブレイクピラー編完結の57話でした。
………セルゲイさんが逝ってしまいました……
どうしよう…………もっとユーノとの絡みをやっとけばよかったと思わずにはいられない。
一応、この作品の全編通してのユーノのメインテーマ的な物は『父と子』という風に思っていました。
原作でもユーノだけが明確な家族像がなかったので、もしこういう男が父親だったらユーノ少年はどんな思いを抱いて無印、A.sの戦いに参加したのか。
そして、もしそんな少年がガンダム世界に放り込まれたらどうなるのか、さらに戻ってきてなのはというパートナーを得て、ヴィヴィオという子供を授かったらどうなるのかということをノータリンなりに考えながら設定を決めました(苦笑)
その中で、セルゲイ・スミルノフという人物は『味方とは呼べない存在でありながらもユーノが本当に気を許せる数少ない人間=ガンダム世界における父親的存在』という風にすることにしました。
まあ、書いてる人間の実力が伴わないので、不十分なところはありましたが、自分なりにこの二人とその周りの人々の絆のようなものを表現できたとは思っています。
…………………なんか、自分で書いておきながら喪失感のあまりどうでもいいことを長々と書いてしまってスイマセン。
そしてものっそい恥ずかしい………orz
この恥ずかしさを誤魔化すためにも次回予告です!!(ヤケクソ)
次回から空白期に突入です。
そして、さっそくトレミー内で問題発生ですw
……というか、約二名(正確には三名?)に問題発生ですww
結構無理な理由で無茶な展開に突っ込むかもしれませんが、そこは華麗にスルーするか、Mに目覚めさせるくらいのつもりでツッコミを入れてやってくださいwww
では、次回もよろしければ暇な時にでも目を通してみてください。



[18122] 58.Scar
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/02/12 12:09
アロウズ母艦

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

「うっっ!!!!」

頬を殴られアンドレイが床の上に転がる。
しかし、それでも気が収まらないはやてはその上に馬乗りになって拳を振り上げる。

「貴様ぁ!!」

「気でも違ったか!!?」

「は、はやてちゃん!!」

「マズイですよ部隊長!!」

周りの人間が必死ではやてを止めるが、それでもはやてはアンドレイにしがみつこうとする。
しかし、女性の細腕で兵士の腕力に対抗できるわけもなく、引き離されたはやては逆に床の上に放り投げられた。
だが、それでも怒りを宿した瞳は爛々と燃え盛っていた。

「ハァ…ハァ……!!あんた……何考えとんねん!!」

起き上がったはやてはなおも掴みかからんばかりの勢いで吼えた。
だが、アンドレイも負けずに怒鳴り声を上げる。

「あの男たちは反乱分子だ!!治安を乱す世界の敵だ!!」

「セルゲイさんは止めようとしとっただけや!!それをあんたは!!」

「何をバカな!!正気か八神二佐!?」

「あんたよかよっぽどまともな頭しとるわすっとこどっこい!!あいにく私は自分の親を手にかけるほど根性ひん曲がってへん!!」

「っ!!貴様ぁ!!」

「しょ、少尉!!」

今度はアンドレイがはやてに掴みかかろうと手を伸ばすが、ルイスたちがそれを止める。
はやても必死に宙で手をもがかせるが、なのはたちに抑えられてなにも掴むことができない。
そして、遂には兵士を総動員してのドンチャン騒ぎにまで発展するが、部屋に入ってきた人物の一喝でそれも閉幕と相成った。

「この騒ぎは何だバカ者ども!!」

あまりの惨状に先日の事件で手一杯だった脳が休息を要求するように、マネキンは頭痛が悪化するのを感じる。
軌道エレベーターの崩壊という大事件の混乱が収束しないうちから内輪揉め。
いや、解決していないからこその内輪揉めだろうか。

先の事件でセルゲイ・スミルノフ大佐が亡くなった衝撃は大きなものだった。
しかも、手にかけたのが息子であるアンドレイ・スミルノフであるとの噂がいっそう事態を悪化させた。
正規軍に限らず、アロウズ内部の元人革勢にも彼を慕う者は多く、アロウズに所属するアンドレイがセルゲイを殺めたと知った瞬間に今まで溜めこんでいた不信感や不満が爆発した。
軍を抜ける者、正規軍兵士からのアロウズへのバッシング、数え切れないほどの反抗の意思が現在進行形で噴出している。

『…………申し訳ありませんが、他の艦への転属を願います。』

ミンの転属願いもその一つだ。
唯一の理解者ともいえる彼が彼女の下から離れてしまうのは心苦しいが、かつての上官であるセルゲイがあんなことになってしまったのだ。
下手人と同じ場所にいろという方が酷というものである。
そして、そのミンが身を寄せることになったのが今しがたアンドレイともめていたはやての指揮する部隊というわけだ。

「ほんま、よぉわかったわ………ここにおる奴らはどいつもこいつも芯まで腐っとる!こんな軍隊、こっちから願い下げや!!何がアロウズやボケッ!!なにが治安維持や!!人殺しして胸張っとるんやないわクソッタレッ!!」

あらん限りの罵詈雑言を残して鼻息荒くその場を後にするはやて。
残ったなのはたちが代わりに謝罪の意を述べているが、マネキンにはその言葉は届いていない。
ただ、代わりにはやての辛辣な言葉に潜むまっすぐな正義感がいつまでも彼女の心を抉り続けていた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 58.Scar

クルジス(?)

ひどく空気が乾燥している。
なのに、夜風は冷たくて、とても生物が活動できるような気候には思えない。
そんなクルジスの街の中にユーノはいた。
なぜ自分がここにいるのかもわからず、それまでどこにいたのかも思いだせない。
ただ、これだけはわかる。
これから、ここである悲劇が起こる事だけは。

「刹那!!」

叫んだ瞬間に、銃声が響いた。
ユーノは目を見開き、駆けだすこともままならずにただ震えてそれを見ていた。
幽鬼のように家から出てくる少年。
その身に硝煙と微かな血の臭いをブレンドさせたものを纏い、まるでユーノが見えないかのように闇の中に消えていく。

「行っちゃ駄目だ!!」

急いで振り向くが、すでに刹那の姿はそこにはない。
その代わりに、彼がいた。

「……ユーノ、お前は刹那をどう思う?」

「ロッ……!?」

先代のロックオン・ストラトス、ニール・ディランディ。
声を出すこともままならないユーノに、彼は問いかけを続ける。

「……ここが刹那の心に巣食う原風景だ。どれほど戦いを重ねようと消えることのない、あいつの傷痕だ。」

「刹那の、傷痕……」

荒れ果てた街。
救いようのない悲劇。
凄惨な戦場。
そのどれもが未だに刹那を苦しめ、彼を戦いへと駆り立てている。

「……あいつはお前と似てるとこがあるんだよ。」

「え?」

「自分の傷痕を優しさに変えられる。痛みを知っているから誰かの痛みに涙する。傷が深いからこそ、慈悲深くなれる。同情なんかじゃない、本当の優しさだ。」

「そんなこと……」

「謙遜することはないさ。正反対といってもいいお前らの唯一にして最大の共通点だ。実際、俺も刹那やお前に何度も救われた。」

照れるユーノにロックオンが微笑む。

「今度はお前がその優しさに救ってもらえばいい。別に、それくらいで誰も責めやしない。むしろ、あいつらはお前に頼ってもらいたがっているはずさ。……特にあいつはな。」

「……ロックオン?」

「ま、お前がどっちを選ぶかは知らないけどよ。そういう対象とすらみなさないってのは結構失礼ってもんだぞ。」

クックッと笑うロックオン。
その姿は、少しずつ光に包まれていく。

「ロックオン!!」

「忘れんなよ、ユーノ。どんな時でもお前は一人じゃない……全部を一人で背負い込む必要なんかないんだからな。」

「待ってくれ!!ロックオン!!」



プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

「ロックオン!!」

ロックオンを呼び止めようとベッドから跳ね起きたユーノだったが、夜の街は消え去り、代わりに薄明るい光に照らし出された白い壁が出迎えてくれた。
そして、夢に出てきた人物の代わりに、銀髪の女性が呆れ顔で固く絞った濡れタオルを持ってきてくれた。

「そんなに会いたいなら呼んできましょうか?」

「いや……いいです。」

マリーから受け取ったタオルを額に当て、どうしてここにいるかを思い出そうとする。
だが、イアンとジェイルの背中を見ていた辺りからプッツリ記憶が途切れている。
しかも、いきなり視界が真っ暗になるというおまけつきだ。

「整備中に倒れたの、覚えてないの?」

「…そう、だったんですか……」

そうだ、記憶が途切れる前のことははっきりと覚えている。
セルゲイが目の前で殺されたこと。
結局あのジンクスを取り逃がしたこと。
帰ってきた後、クルー全員でセルゲイへの追悼の意を示したこと。
そして、彼のことを考えまいとろくに休みや食事も取らずに整備に集中していたこと。
つまり、

「働き過ぎはよくないわ。休むのも大事な仕事よ。」

「スイマセン、ご迷惑をかけてしまって…」

ペコリと頭を下げるユーノに、マリーは眉間にしわを寄せてあからさまに怒って見せた。

「私に謝るより、二人に謝りなさい。」

その二人が誰かを聞くより早く、ユーノはピンクの髪の女性とその背中にもたれて寝息を立てる少女を見つけた。

「グレイスさんもヴィヴィオちゃんも、付きっきりであなたの世話をしていた。ううん、二人だけじゃないわ。みんな、あなたが倒れたと聞いてすごく心配していたのよ?」

「………………………」

「あなたが思っている以上に、あなたに何かあったら悲しむ人がたくさんいるの。………涙を流す人がたくさんいるの……」

マリーが優しくヴィヴィオの髪をなでる。
時折気持ちよさそうにもぞもぞと動き、フェルトの背中で衣擦れする音を立てる。
だが、よほど疲れていたのか二人が起きる様子はない。
二人の様子とマリーの指摘がユーノの罪悪感を煽る。
もっとも、マリーも人のことは言えない。

「マリーさんも同じですよね?」

ユーノの小さな声にマリーは目を伏せる。

「アレルヤは、マリーさんのことを…」

「言わないで。」

アレルヤの気持ちは、誰よりもマリーが分かっている。
しかし、今はその気持ちを受け止めるわけにはいかない。

「大佐がいなくなって、ソーマが悲しんでいるのに、私だけアレルヤに寄りかかるわけにはいかない。」

「それに、その感情は復讐の妨げになる、ですか?」

マリーが、彼女の内側でふさぎこんでいるソーマのふりをしているわけはそれだろう。
アレルヤにつらく当たるのは、彼にこんな醜い自分を見てもらいたくないから。
少しでも距離を置いて、アンドレイへの復讐のみに集中できるようにするため。
ユーノを始め、刹那やジルたちは何となく気が付いているようであるが、よほど付き合いの長い者でない限り今の彼女をマリー・パーファシーであると思う人間は少ないだろう。
それほどまでに、マリーのソーマとしての振る舞いは満点に近かった。

「……ピーリス中尉は何と?」

「……ごめんなさい。気持ちの整理はつけるから、今はそっとしておいてあげて。」

整理をつけようと思ってできるものではあるまいにとユーノは思う。
ユーノたちは、セルゲイの最後の言葉をその耳で聞いているのだ。



先日 アフリカタワー

『……すまなかった……心を閉ざしたお前に、私は……どう接すればいいか、わからなかった………わかりあう努力を、怠っていた……』

『いまさら、そんなこと……!!』

二人の会話が聞こえてくる
すれ違い続けた親子の最後の会話を、マリーとソーマ、そしてユーノは何もできずに聞いていた。

『……は…離れるんだ………』

セルゲイがアンドレイをどれほど愛していたか。
ジンクスを押したティエレンの動きでそれが分かる。
しかし、ジンクスは落下するティエレンを追おうともしない。
当然の報いとでも言うように、上から見下ろすだけだ。
そして、

「ホリー……すまない………」

誰にも聞かれることのない、愛する妻への言葉を残し、セルゲイは爆炎の中へと消えた。



現在 プトレマイオスⅡ ユーノの部屋

実の父親のように慕っていたセルゲイを目の前で殺されたマリーとソーマの悲しみや怒りは計り知れないものだろう。
これから先、彼女たちがどれほど気丈に振舞おうとそれは永遠について回る。
マリーには、それを断ち切る方法が一つしか思いつかなかった。

「私はアンドレイ少尉を絶対に許せない……!!あなただってそうでしょう!?」

同意を求める言葉に、ユーノは口ごもった。
家族を持てず、どれほど憧れても手が届かなかったものをいとも簡単に捨てる。
マリーの怒りはもっともだし、ユーノ自身もあの時はアンドレイを殺したいほど憎んだ。
だが今は、

「………僕は、あの人が憎いとかよりも、悲しいです。」

「なにを言って……」

「もう、セルゲイさんに会えないと思うと………怒りや憎しみより、僕には、それが悲しくて仕方がないんです。」

口を挟もうとしたマリーも、震える声と涙に押し黙る。
そして、気付く。
彼もまた、セルゲイを家族のように思っていたのだと。
そして、実現不可能な理想だとしても、本当にそうなる事を望んでいたのだと。

「ごめん…!なさいっ……!!今は、こうしていることを、許してっ……っ!ください……!!」

ここにいるマリーに、そして天へと召されたセルゲイに己の弱さを吐露するように、ユーノはしばらく声を殺して泣き続けた。



第14管理世界・クロア ホテル(?)

「……とうさん?」

刹那の目の前で一人の少年がふらふらと死体の山から這い出てきて倒れている男を揺する。
すでに男は心臓を撃ち抜かれ、息はない。
それでも、少年は何度も男に呼び掛ける。

「とうさん……?とうさん、とうさん…!?とうさん!!」

もう無理だ。
そう伝えようと思っても、刹那にはそれができない。
あまりにも残酷すぎて。
奇跡にすがりつこうとする彼を自らの手で地獄の淵へ突き落してしまう気がして。
だが、聡明な彼が現実を受け入れるのはさほど時間が必要ではなかった。

「っっっぅぅううううああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」

獣の雄叫びのようだった。
年端もいかぬ、それも中性的な少年からは想像もつかない慟哭。
血の入り混じった雫が瞳から流れるほどに、少年から人間らしいものが一緒に抜け落ちていくようだ。

「………ユーノ。」

「大丈夫だよ。」

少女の声に刹那は振り向く。
まぶしい笑顔を振りまく彼女は、刹那の手を取るとそのまま扉の奥へと彼をいざなう。

「ほらね。ちゃんと笑えてるよ。」

木製の臼の前でそれよりもはるかに巨大な金属製の杵(?)を振りかぶる幼女。
それを止めようとする者たちの中に、笑顔のユーノも交じっていた。

「……みんなと会う前のユーノの心はね、すごく不安定だったの。父親を失った記憶と、その後の幸福な記憶との狭間で常に揺れ動いていた。世界に対する激しい怒りと、そこで生きる命への限りない愛情………どっちに傾いてもおかしくないような状態で彼女たちとの時間を過ごしていた。」

「……俺たちがユーノを怒りの側面に引きこんでしまったと言いたいのか、エレナ・クローセル。」

目の前でしゃべるエレナにさして驚きもせずに刹那が問う。
しかし、その問いをエレナは笑って否定した。

「違うってば。むしろ逆。まあ、あたしはいいお手本とは言えなかったけど、そのあとたくさんの人との出会いがユーノに教えてくれた。たとえ怒りを抱えたままでも、好きな人と一緒にいてもいいんだって。許すことはできなくても、誰かに優しくすることはできるんだって。」

「優しく、か……思えば、俺たちもそれに救われてきた気がする。」

「けどさ、その分いろいろ溜めこんでるんだよね~。」

エレナが苦笑すると、今度は芝生の上でヴィヴィオやなのはとユーノが戯れている場面に移り変わる。

「娘を戦場に連れ込んでることを気に病んで、恋人には銃を向けて……今回は信頼していた人を助けられなかったって悩んじゃってさ。…………だから、みんなで支えてあげて。刹那と同じように、変わるために戦うことを選んだユーノを。」

「……わかっている。」

「よろしい♪」

背中をバンと叩き、エレナは刹那を光の向こうへ送り出す。
刹那も振り返らずに前へ続く道を歩いていく。
どれだけ時間が経とうと、全く変わらない無邪気なエレナに会えた嬉しさを胸に刻んで。



プトレマイオスⅡ メディカルルーム

「おや。」

いつの間に起きていたのか、目を開けている刹那にジェイルは白衣を翻しながらベッドの横に置いてあった椅子に腰かけた。
起きているのによく物音一つ出さずにいられるものだとジェイルが感心していると、ふと刹那が呟く。

「……ユーノは…」

「ん?」

「ユーノは……良い奴だな。」

「藪から棒になんだね。」

ジェイルは困ったように笑うが、刹那は構わずに続ける。

「あいつといると、落ち着けるんだ……こんな、戦い詰めの日々でも…」

「だね。」

「だが、今度は俺たちがあいつを支えてやるべきじゃないのか……」

「…ああ。」

刹那を触診するジェイルはただ彼の言葉を肯定するだけだ。
だが、それだけで十分だった。
きっと、みんながそう思っているはずだから。



メンテナンスルーム

〈感謝します、ダブルオー。あなたとあなたのマイスターに。〉

〈………俺は、彼らとの契約を果たそうとしたまでだ。クルセイド、お前もそうだろう?〉

〈だとしても、です。〉

〈…マイスター・刹那には“彼女”と会う必要があった。そして、マイスター・ユーノも“彼”と話をしなければならなかった。〉

〈……もうすぐかもしれませんね。我々の本来の役目を果たす時は。〉

〈ああ。俺たちの存在意義であり、マイスターたちの願いでもある。〉

〈その時まで守りましょう。我らの希望を。〉

〈無論だ。〉



ブリッジ

「ふ……わ~あ……あふ……」

「たるんでるぞ、ミレイナ。」

「ス、スイマセンです。」

ミレイナは慌てて目をこすって神経を研ぎ澄ませる。
だが、気の緩みを指摘したラッセもそれほど警戒する必要はないと考えていた。
アフリカタワーの崩壊からまだ二日。
アロウズも事後処理に追われてこちらを捜索するどころではないだろうし、プトレマイオスもすでにインド洋に入っている。
このだだっ広い海でそうそう見つかることもないだろう。
こちらも態勢が整っていないので、できることならしばらくは仕掛けてこないでもらいたいものだ。

「……セイエイさんとスクライアさん、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃないだろ。だから、今度は俺達がその分踏ん張らなきゃいけないんだ。」

ラッセのウィンクにミレイナも張り切った様子でうなずく。

「ま、あいつらはフィジカルもメンタルもタフだ。きっと立ち直ってくれるさ。」



ブリーフィングルーム

残っている面々がモニターを食い入るように見つめている。
アフリカタワーの崩壊と、ピラーによる被害状況に関するデータ。
その範囲もさることながら、死傷者、ライフラインの切断に重要施設の損壊、さらにはそれに伴う二次、三次被害も考慮に入れると下手な自然災害より性質が悪い。

「元に戻るまで、どれくらいかかるでしょうか?」

「今日明日でどうにかできるもんじゃないことは確かだな。なにより、戻ってこないもんが多すぎる。」

ロックオンの言葉にエリオも顔を曇らせる。
どれだけ街が、施設が元に戻ろうと逝ってしまった人間は戻ってこない。
幼いエリオが受け入れるには余りに重い現実。
だが、本来ならアレルヤからさらに辛い話を聞かされなくてはならないのだ。

(言わなくていいのかよ?)

(君は伝えたいのかい、ハレルヤ。)

キャロと呼ばれていたあの少女の変容ぶり、特に微かではあったが脳量子波はすでに人間の領域を踏み越えている証拠である。

(……いつかはばれる。)

(でも、今言う必要はないはずだ。)

(……っ!クソッ!なんで俺たちが悩まなきゃなんねぇんだ!こういうのはあの甘ちゃんの役割だろうが!)

「アレルヤさん?」

エリオの声にビクッと体を震わせるアレルヤ。
見れば、不思議そうに見上げるエリオだけでなく全員がアレルヤに注目していた。

「アレルヤ、ちゃんと聞いていたのか?」

「珍しいっスね、アレルヤがボケっとするなんて。」

「他に気になる事があるんなら抜けてろよな。」

「ほんの少し前までコンプレックスの塊で話を聞く余裕もなかったくせによく言うぜ。」

「勝手に人の頭の中を読んでんじゃねぇよチンチクリン人形!!」

「るっせぇこのナルシスト!!」

「あ~!!もうっ!!喧嘩はやめなさい!!ジルはもう一回説明!!ライ……ロックオンもムキにならないの!!」

アニューに促され、納得はしていないものの二人は所定の位置まで戻ると、ジルが語り始める。

「衛星兵器をぶっ壊した時もそうだけど、今回いやにMDが投入されてたと思わないか?」

「そんだけパイロットが不足してるってことじゃないっスか?」

「……だとしてもあの数が多すぎるわ。そう言うことでしょ、ジル。」

「さっすがスメラギのねぇちゃん。三つ目タイプもかなりいたし、言いたかないけどたかだか一つの世界、しかもあれだけ強力な常備軍がいる政府。協力するにしても過剰戦力だ。」

「つまり……どういうこと?」

首をかしげるウェンディに代わり、ティエリアが結論を導き出した。

「……異世界で何か起きている。」

「管理局、しかもそのトップに近い連中が何かを画策してるってこと?」

アレルヤの言葉にジルが首肯する。
現管理局の実質的トップ、ファルベル・ブリング。
比較的彼に近しいクロウから情報はもたらされてはいるが、未だにその実態はつかめていない。
それに加えて今回のMDの大量投入。
もはや看過しておくことはできない。

「残念だけど、今の私たちがこちら側でできることは少ない。カタロンもしばらくは動けないし、なにより、ファルベル・ブリングが何を企んでいるのか掴んでおきたいわね。」

「じゃ、決まりだな。悪いけど、むこうに着くまでちょいと休ませてもらうわ。」

そう言い残し、スメラギの結論を待たずにロックオンは部屋を後にする。
それに続くようにアニュー、ティエリア、ウェンディ、ジルも廊下へでていく。
「まったく……」と溜め息をつくスメラギだが、そういう彼女も大きく伸びをしながら自室へと休憩に戻り、アレルヤとエリオが最後に残された。

「……エリオ。」

「?」

扉を開けたエリオを呼びとめるアレルヤ。
ハレルヤの言うとおり、ここで伝えておくべきだ。
戦場で迷えば、死が待っている。

「あ、あのね……」

「なんですか?」

純真な瞳。
これからこれが絶望一色に塗りつぶされるのだ。

「き……」

「き?」

「き、君の操縦訓練に僕も付き合うよ。アドバイスできることは少なくないと思うよ。」

「本当ですか!?ありがとうございます!さっそく見てもらってもいいですか!?」

礼儀正しく、しかし子供らしく溌剌と礼を述べたエリオは喜び勇んで飛び出していく。
だが、対照的に後をついていくアレルヤの足取りは重い。

(チッ……根性無しが。)

ハレルヤの毒舌が、いつになく心に突き刺さった。



メンテナンスルーム

机の上で小さな影が、これまた小さな事典のようなものをめくりながらうんうんと唸っていた。
時折、翼に剣が刻まれた楔のほうを見るが、すぐにまた手元の事典へと視線を戻す。
ここにやってきてから、ジルはそんなことばかりを繰り返していた。

「何をしているんだ?」

定期メンテナンスを終えたリインフォースが尋ねるが、「ん~?」と声を上げるだけで振り向きもしない。
だが、ジルに代わってジェイルが彼女の問いに答えた。

「なんでも、刹那君とのユニゾン率をダブルオーに協力してもらって算出しているそうだ。」

「なるほど……それで、結果は?」

その質問にジェイルは首を横に振る。

「悪くはないようだが、相性抜群というわけでもない。それに、刹那君の戦闘スタイルの問題もあって十二分に能力を発揮できるというわけでもないようだ。」

「勝手に決め付けんなよ。だからこうしてどうすればいいかいろいろ考えているんだろ。それより、イアンのじっちゃんに例のことは言ってくれたのかよ?」

「ん、あ、ああ……」

リインフォースのほうを見て、ジェイルはどことなくバツが悪そうに言葉を濁した。

「まあ、言うには言ったんだがね……いろいろ問題があるせいでやはり難しいようだよ。それにもう一人、君とは逆のお願いをしてきた人物がいてだね……」

いつになく歯切れのない物言いでお茶を濁そうとするジェイル。
しかし、リインフォースの視線に気がつくと早足で扉まで逃げ出した。

「と、とにかく即決するわけにはいかないことだ。もう少し時間をくれたまえ。」

言い終わるが早いか、一瞬でその場から去ったジェイルを追いかけることも、そしてジルに彼の様子がおかしかった理由を聞くこともできずにベッドに腰掛けるのだった。



イアンの部屋

「では、理論上は可能なわけだな。」

967の言葉にイアンは顔をしかめる。
だが、

「ジェイルが言うには器がいるらしい。ただ、今はそれに該当するのは奴しか……」

「それはわかっている。だが、彼女はいずれ主の下へ帰す身だ。別の方法はないのか?」

「そんなに都合よく作れるもんでもなければ、見つかるものでもない。だいたい、今のままでもお前は……」

「ユーノが拉致された時から考えていたことだ。俺が自由に動ければもうあんなこともない。生身での戦闘の負担も減るはずだ。」

「そんなことはわかっとる!!」

遂に手を止めて目の前の967へ怒りをぶつける。

「心配しているのが自分だけだとでも思ったか!?ユーノの命が目の前で削れていくのを見ていて、わしが苦しくないとでも思ったか……!!?」

俯くイアンに967もホログラムの瞳を閉じて大きく息をつく。
しかし、

「……頼む。」

わずか三音の短いその言葉が、今のイアンにはどんな格言よりも重くのしかかってきた。



コンテナ

「ありがとうございました!」

上機嫌で汗を拭うエリオに対し、アレルヤはあやふやな笑みを浮かべる。
言い表しようのない後ろめたさと、その原因をエリオが知った時のことを思うとどうしても今までのように接することができない。
さらに、

「…………………………」

「あ、マ…」

「…………………………」

「……じゃなくて、ピーリスさん。」

GNアーチャーの整備にやってきた“マリー”の名前を呼ぼうとしたエリオだったが、彼女の鋭い視線で訂正を余儀なくされる。
そう、彼女との間の問題も今のアレルヤが有する精神的余裕のキャパシティを削っている原因の一つである。
セルゲイの死後、豹変してしまったマリー。
抜き身の刀のように鋭く、そして冷たい物言いをする彼女はさながら“ソーマ・ピーリス”だが、アレルヤ、そしてハレルヤにはわかる。
脳量子波、そしてアレルヤの前で見せる微かな振る舞いのブレが、彼女がマリー・パーファシーであることを教えてくれるのだ。

「マリー、その……僕は…」

「何度も言わせるな!!」

凄まじい剣幕でアレルヤの襟を掴んで持ち上げる。
爪先立ちにさせられ、服が首を締め上げるため、アレルヤの言葉はできそこないの笛のような音に変換されるだけだ。

「私は超兵、ソーマ・ピーリスだ!!二度とその名で呼ぶな!!」

アレルヤを力任せに床の上に放り投げてその上に馬乗りになり、さらに言葉を続ける。

「もう一度その名で呼んでみろ……この喉笛を握り潰す!!」

親指と人指し指、中指を柔らかな肌に喰いこませて凄むマリーだったが、微かに潤むその瞳だけは隠せない。
だが、皮肉にも脅しではなくその瞳が、アレルヤに彼女の名前を呼ばせることを躊躇わせる事になった。

「……機体の整備がある。用があるのなら、後で部屋に来い。」

床に腰をついたままのアレルヤを残してマリーはキャットウォークを歩いていく。
同時に、張り詰めていた空気が解けてエリオもようやくアレルヤに手を貸す余裕が生まれた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、僕はね。けど…」

心配そうな視線をマリーの背中に送るアレルヤ。
一転して沈んでいく空気にたまりかね、エリオが無理に笑顔を作る。

「だ、大丈夫ですよ!マリーさんも、時間が経てばきっと!!」

「うん、わかってる。(それにね、エリオ…)」

本当は、僕が君の心配をしなくちゃいけないんだよ。

その一言を、またしてもアレルヤは伝えることができなかった。



翌日 太平洋

二つの青に挟まれ、プトレマイオスは陽の光を全身で受け止めていた。
その周囲をダブルオーライザーを除くガンダム五機とGNアーチャーが固め、敵襲に備えている。
だが、はっきり言って形式的な物であることは否定できない。

「有視界領域に敵影なし。」

「Eセンサーも問題なしです!」

『なんか拍子抜けだな。』

『大山鳴動して鼠一匹………いや、なにもなしだね。』

「気を抜かないで。並行世界への航行は通常よりも莫大なエネルギーを使うんだから。チャージ中の反応を察知される可能性は高いの。」

ロックオンとユーノを叱責するスメラギだったが、もうここまでくればその心配も無用だった。
チャージはすでに98%まで完了。
しかも、ここは太平洋のド真ん中。
最寄りの基地から出撃したとしても、仮にすでに出撃していたとしても、攻撃される前に別世界へさようならだ。

「ガンダム各機は戻ってください。跳躍を開始します。」

『了解。』

フェルトの言葉に従い、順次カタパルトへ戻っていくガンダムを見送り(いや、出迎えるが正しいのか)、スメラギも肩の力を抜く。

「さて、とりあえずの行き先はエイオースね。」

「向こうでも補給できるポイントを確保できたのはでかいな。こういうときはつくづく実感させられるぜ。」

「バレリオでクロウさんも待ってるです。」

再びの異世界に少々浮き足立つブリッジ。
しかしその頃、彼らの目下の敵はその動きをすでに捉えていた。



管理外世界

「ク、クソッ!!」

残されたわずか三機のリグルが怯えるように身を寄せ合う。
星の輝きも雲に隠され、漆黒の空には紅蓮の粒子だけが舞っていた。

「く、来るな!!」

乾いた炸裂音と火花が安物の手持ち花火のようだ。
だが、それも遂に弾が切れ、男たちを夜の闇が包み込む。

「ひ……た、助け…」

『……おい。』

グシャリ、と後ろで何かが潰れる音が聞こえる。
背中を伝う間接的な衝撃が汗まみれだった顔を今度は涙でぐしゃぐしゃにしていく。

『お前は神を信じるか?』

今度はゴウッと大気が震える。
同時に漆黒の闇が赤い輝きに払われ、男はその光景を目撃してしまった。

「ヒィィィィィィ!!!?」

そこにいたのは漆黒の堕天使。
左手で仲間のMSのコックピットを握り潰し、残った右手に握った砲身から残留粒子をこぼしながらもう一機のリグルの上から半分を消し飛ばしていた。

圧倒的な恐怖に人目もはばからず失禁する。
もう戦いだのなんだの、そんなことすらどうでもいい。
ただこの恐怖を逃れ、生きていられるなら何も望まない。

「ごめんなさい!!ごめんなさいごめんなさい!!!!もう何も望みません!!!!何もいらないから助け…」

『いいから質問に答えろよ。』

邪悪の権化のような機体には似合わない、澄んだ少年の声がうんざりといった様子で問いかけてくる。

『お前は神を信じるか?』

「あ、ああ………あが……」

男は満足に声もあげることができない。
しかし、それが救済への最後のチャンスと見るや否やまくしたてた。

「い、いる!!神はきっといる!!だから、きっと俺を助けてくれ…」

『ふ~ん、なるほど。でも残念。』

少年の顔が暗さを伴った笑みで満たされる。

『神なんてのはいないんだよ。』

最後の嘆願は聞き入れられず、男の乗るリグルは脳天からビームサーベルで貫かれる。
的確に中心部を通過したそれは一瞬で中を焼き尽くし、哀れな犠牲者を原子レベルで分解した。

『そんなもんがいれば、俺や刹那、ロックオンやアレルヤのような人間は生まれなかった…………神なんて都合のいいでっち上げは、絶望しきった人間に与えられた最後の罠なんだよ。』

『ま~たあんたは悪趣味な賭けをしてたの?』

別地点の敵を殲滅し終えたマルスが漆黒のガンダム、プルトの隣に降り立つ。
その装甲にこびりついた煤は破壊された機体の返り血だ。
もともとのカラーリングが黒かと疑うほどにこびりついたそれは、マルスとルーチェがいかに凄惨な破壊活動を繰り広げたか証明している。
しかし、そんな彼女を持ってしてソリアのやり方は悪趣味だと言わしめた。

『あんな状況で神に賭けない奴なんていないにきまってるでしょ。パスカル曰く、『神の存在に賭けよ!』ってね。』

『あんな机上の空論なんざ引き合いに出すなよ。それに、一度体験すればわかるさ。』

ソリアの犬歯が剝き出しになり、その端整な顔は一転して悪魔のごとき荒々しさを顕現する。

『人を救うのも絶望の淵に叩き落とすのも人間だ。神なんて妄想の出る幕なんざ人類史の初めから存在しねぇんだよ。』

『あら、あたしはてっきり神様にでもなりたいのかと思ってた。耄碌ジジィやリボンズとその腰巾着に全てを隠してるときからずぅっと。』

『……何度も言わせんな。』

挑発的な笑みのルーチェにソリアは獣の笑みで答える。

『人を救えるのは人だけだ。そして、罰することができるのもな。』

『罰はわかるけど救いはね……あんたのやろうとしてることは真逆じゃない。』

『救いさ。無駄に増えすぎた家畜は処分するに限る。』

狂った感情を狂ったまま表出する。
しかし、その狂気は彼の持つ絶対的な力を以って正当化される。
それに抗えぬ者がどれほど吠えようと正すことはかなわない。
それは、ソリアに最も近いルーチェが一番わかっていた。

『……っと、ジジィからだ。』

回線を開くと、先ほどまで小馬鹿にしていたファルベルがいつもの笑顔と共に現れる。

『エイオースで時空震動を検知した。』

『やはり来ましたか。』

『いきなり戻ってきてもらったところすまんが、行ってくれるかね?』

『無論です。我が身はそのためにあるのですから。』

礼節を尽くした振る舞いで受け答えをする。
事情を知らない人間が見たら、先ほどの悪態をつく姿の方が演技なのではないかと思ってしまうほどだ。

『それと、あの計画を実行に移す時が近いかもしれん。』

『では、あの者たちもいよいよ排除ですか。』

『おいおい、恐ろしいことを言うものではない。』

ファルベルの細い目が少し開くと、炯々とした猛禽の瞳孔が覗く。

『あまりに唐突にホーマー・カタギリ司令が殺害され、偶然にも下手人を知りえた我々の手でリボンズ・アルマークと名乗る人ならざる者へ天誅を下す。そういうことがそろそろ起こるかも知れんというだけだ……』





それぞれの思惑が絡み合う中、戦火はいっそう激しく燃え滾り始めた


あとがき

戦闘シーンが悪役オーラ全開のソリアが暴れるだけの58話でした。
……う~ん、本当はもっと戦闘シーン挟む予定だったのに、メンバーの整理をつけてるだけで結構文字数を消費してしまった(^_^;)
ついでに言うなら、マリー、ユーノ、アレルヤがメインだったはずなのにいつの間にかほぼ全員が登場。
やっぱ電池やってるような奴だそうとすると駄目なのかなぁ……(失礼)
まあ、次回からは戦闘はちゃんとあると思います。
というか、バリッバリのドッカンドッカンで逝きます(わけわからん)
手始めにエイオースで一暴れ。
ただし、わふーは出ませんw
その代わりにフェルトとマリーとティエリア(!?)のサービスカットが出るかもしれません(殴)
歪んだ趣味の人もそうでない人も、よろしければ次回をお楽しみに。
















は?
お前の趣味が一番歪んでるだろって?
そうですけど何か?(笑)



[18122] 59.凍て付く戦陣
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/02/28 00:23
第17管理世界 エイオース 極洋基地ベルスク

風すらも凍る北極の海に、その人工島は孤独だけを友に浮かんでいた。
吹きつける寒風で外壁には純白の氷が分厚い層を作り、しかし屋根とその下は屋外であっても氷柱一つない。
よほど人の手がいき届いているのだろう。

「寒そうなところですね~。」

呑気に感想を言うミレイナだが、スメラギはここにきて嫌な予感を最悪の状況へと認識を改めた。

「スメラギさん?」

「おかしいわ……」

フェルトの声に答えるでもなく、スメラギは前を向いたまま言葉を続ける。

「いくらなんでも無警戒すぎる。私たちが敵だったら、今頃ここは制圧されているわ。」

その言葉にブリッジの面々もはたと気がつく。
次元跳躍を行ってから約2時間。
提示されていたこの場所まではるばるやってきたのに、出迎え一つない。
そもそも、ここまで誘導が来なかったことからしておかしい。

考えられる可能性は三つ。
一つは、極めてあり得ないが、ここの指揮官がよほどの間抜けか楽天家。
もう一つは、これもほぼゼロに等しい可能性だが、プトレマイオスが来ることも忘れてオペレーターの一人も残らずに何らかの作戦を行っているか。
そして最後の一つにして、ほぼ百パーセント確定の推測は、

「急いでここから離れて!!」

スメラギの号令と同時に、無数の反応がプトレマイオスを取り囲む。
突然の窮地にオペレーター二人も混乱を隠せない。

「ゆ、有視界領域に敵機出現!!これだけの数を一体どうやって!?」

「識別、バロネットとフュルスト、エスクワイアと判断です!!い、いえ……ガンダムタイプもいるです!!」

雪上にいくつもあった雪山が崩れ、中から白を基調とする機体が現れる。
それまで自分たちの反応を消してくれていたマントを風の中へと捨てさり、プトレマイオスへの突貫を開始するそれらの中に、漆黒と銀の機影もいた。

「さあ、ジャッカルの群れに飛び込んできた子ウサギさん!!頑張って逃げなさいな!!」

軍勢から一歩飛び出たルーチェはサディスティックな笑みを浮かべたままビームクローをプトレマイオスのブリッジめがけ射出する。
その熱で白雪を蒸発させながら、あと一歩手前まで迫ったビームクローだったが、カタパルトから放たれた閃光がそれを弾き飛ばした。

「チッ!!この威力は……」

「狙い撃つ!!」

続いて二発、三発と放たれた光弾がルーチェとマルスを押し下げると、その隙に飛び出してきた戦闘機から連弾がマルスの装甲を掠める。

「今度は逃がさない!!」

「リベンジマッチと行こうぜ、クソガキ!!」

「チッ!!アレルヤか!!」

「それだけではない!!」

アリオスと連結していたGNアーチャーが分離し、ビームライフルでさらにマルスを押し返していく。

「しかし、MSの中で待機していて正解だったね。まさか、合流ポイントが制圧されているなんて。」

「けど、どこから情報が漏れたんだろう?目立つバレリオを避けてここにしたのに。」

反対側でツインランチャーのビームを一閃させるユーノが首をかしげる。
敵の目を欺くためにわざわざ僻地のベルスクを選んだのに、それを読んでいたかのようにここを制圧し、しかもご丁寧に待ち伏せまでしていた。
もちろん、全てが偶然だという可能性もある。
しかしそうだとしたら、合流地点の変更の連絡が間に合わないタイミングでここを制圧し、都合よくここにプトレマイオスが来るとの情報を手に入れ、わずかな時間で万端の準備を整えたということになる。
そんなものは偶然ではなく、必然でしか起りようがない。

「情報が漏れている?」

「けど、だったら誰が?」

「おいおい、お二人さん。そんな議論は後にしようぜ。それよりも、だ……」

ロックオンはスコープ越しの敵を撃ち落としたところで、改めて敵の多さを確認して嫌な汗をかいた。

「今はここを切り抜けることを第一に考えようぜ。」

その言葉にティエリアとユーノも全面賛成だ。
ここでやられてしまえば、先の話など何の価値も持たない。
それに、ここには危険すぎる相手がいる。

「ハッハァ!!」

「ソリア!!」

突撃してきたプルトとクルセイドライザーが斬り結ぶ。
そして、二機はほぼ同時に互いの大砲を相手に向けてトリガーを引いた。
鍔迫り合いの火花が一転して赤とピンクのビームに変化し、漆黒の機体は脇を、萌黄色の機体は左の太腿の表面を削り取られる。
それをきっかけに距離を取ると、ビットの鋭い閃光とGNランチャーの極大のビームとの撃ちあいが始まる。

「サプライズは気に入ってもらえたかな!?」

「センスを疑うくらい下劣だ!!」

「そう言うなよ!!なんてたって、これからもこの手のプレゼントはさせてもらうつもりなんでね!!」

「……っ!!」

その一言で、もう一人の自分の言い回しだからこそわかった。
間違いなく、カタロン、BB、ソレスタルビーイングの中の誰かが敵に情報を漏らしている。
だが、ここで素直に動揺して見せるほどユーノも甘くはない。

「そうかい……だったら、全部きっちり叩きのめしたうえで送り返してあげるよ!!」

今度はクルセイドライザーから斬りあいを挑む。
プルトの砲撃をビットで牽制しながら接近し、まずは横薙ぎを一閃させる。
激しい火花と共に防がれるが、すぐさま左下からの斬り上げがプルトの左肩を掠めた。

「っつ……!!」

ソリアの顔から余裕の笑みが消える。
だが、ユーノも後ろで繰り広げられている攻防に焦りを募らせる。
ダブルオーライザーが出ていないこの状況で20機以上の敵を相手にするのは無謀過ぎた。
プトレマイオスは何とか無傷で済んでいるが、このまま包囲網が狭まれば一気に沈められる可能性だってある。

「焦るな、ユーノ。」

「わかってる!!けど!!」

(……トレミーのみなさん、聞こえますか?)

その声に反応したのは味方のうちの約半数に過ぎず、そのうちでもブリッジで受信できたのはフェルトだけだった。

「……!スメラギさん、艦首を4時の方向へ!!急いで!!」

フェルトの指示にスメラギよりも早く、アニューは艦首を東へ向け始める。
美しい声は、さらに語りかけてくる。

(これより援護を開始します。指定された方角に撤退を。)

「君は……」

透明な声にティエリアは少々驚く。
が、白いスモークがあちこちで発生すると同時にセラヴィーを東へと走らせた。

「各機、指示に従って退避!!いったん退くわよ!!」

姿の見えない、ましてや声も聞こえない何者かに従う自分に自嘲しながらも、スメラギはフェルトを通じて手にした唯一の光明を各機に伝える。
スモークにまぎれてビームの飛び交う音が聞こえるが、そのどれもがプトレマイオスやガンダムに当たることはなく、むしろ敵MSへ向けて飛んでいるようだ。

「准尉、追いますか?」

ビームをかわしながらエスクワイアの一機から問われるが、ソリアは努めて冷静に答える。

「やめておけ。今この基地を空けるのは得策ではない。」

内心穏やかではないが、深追いして基地を奪還されたのではいい面の皮だ。
個人的感情は心の奥へ押し込み、しかし邪魔されたことへの怒りを次回の戦いにぶつけることをソリアは吹雪く空に誓った。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 59.凍て付く戦陣

ベルスク 東100km沖合 プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「……本当にすまない。」

揃いも揃ってしかめっ面のプトレマイオスクルーにクロウはまず頭を下げる。
しかし、彼とてここに駆けつけたばかり、しかもスパイとしての立場が危うくなるのも顧みずにプトレマイオスを救ったのだ。
その功績を無視して一方的になじるほどソレスタルビーイングに参加している人間は器が小さくない。
しかし、

「裏切り者、か……」

「考えたくはないが、あり得ない話ではないだろうな。」

マリーとティエリアの言葉にユーノは顔を曇らせたまま肯く。
ソリアの性格上、単に動揺を誘うためにでたらめを言うとは思えないし、今までの不自然な奇襲から考えると内通者がいるのは間違いない。
ただ、

「私は……みんなのことを疑いたくないな。」

フェルトだけでなく、全員がきっとそう思っているだろう。
確かに、感情論を優先して先送りするにはあまりにも危険すぎる懸案だ。
しかし、フェルトにとって生死を共にする仲間であり、同じ時間を過ごす家族であるプトレマイオスのクルーを、そして新しい協力者を疑うことを避けたいと思うのはいた仕方ないのかもしれない。

「ですが、このままではいずれ全員の身に危険が及びます。膿は早めに出してしまうのが上策だと思いますが?」

「でも、リインフォース!!」

「まあ、それも火急の問題であることは違いないが、それよりもこっちだな。」

フェルトとリインフォースの言い争いから話題を変える意味も含めてラッセが視線を移した先に全員の注目が集まる。
見れば見るほど、こちらも先送りしたい気分になる。
無数の砲台に堅牢な外壁。
何より、極地であるここで近年発生している異常気象という名の猛威に守られたベルスク極洋基地はまさしく天然の要害である。
おいそれと手出しできる代物ではない。
だからこそ、エリオも首をかしげる。

「ここまでの拠点が奇襲を受けたとはいえ、なんであっさり落ちたんでしょう?」

「バレリオほどMSが集中していないにしろ、これだけの守りを崩すにはかなりの戦力が必要なはずだよね。」

「それは…」

「……ソリアの能力だ。」

ユーノに代わりアレルヤの問いに答えた人物に、全員が目を丸くした。
扉を開けて入ってきた青い服の青年の凛々しい姿は、幾つもの戦場を越えてきた戦士だからこそのものだ。

「刹那!?」

「大丈夫なのかよ!?」

ラッセとロックオンの言葉に首肯するその様子は全快に至らぬまでも、心配していたメンバーを安堵させるには十分なものだった。
それよりも、ベルスクを陥落せしめた要因だ。

「ソリアがユーノをオリジナルとして生み出されたのなら、同様の能力を持っているはずだ。」

「ということは……」

アニューの視線にクロウがうなずく。

「報告では防衛システムが全く作動しなかったらしい。一分にも満たない時間だったそうだが、その間に中枢まで攻め込むのはそう難しくないだろう。死傷者もなしに撤退できたのは運が良かった……いや、すでに目的を果たしたからこそ追わなかったのかもな。」

「けど、そうなると厄介だな。やっこさんがシステム系統を抑えてるんならあそこはそれこそ鉄壁の防御。誘い出そうにもエイオース制圧の拠点として使用する気ならカタツムリよろしく籠ってりゃあいい。敵の本隊が来るまでにどうにかできるもんなのかね?」

「あの基地を潰してもいいんなら君とティエリアで殲滅戦を仕掛ければいいんだけど……」

「事後処理終えて戻ってきたクラッドが怒り狂いそうだな。俺はそんな貧乏クジはパスだ」

「……その前にヒルダかチヒロに絞め殺されそうだ。」

クロウはため息交じりに肩をすくめるが、最悪の場合はそれも覚悟しなければならない。
かといって、このまま手放すには極洋基地は余りにも惜しい。
決断の時が刻一刻と迫る中、だがしかしスメラギは余裕の笑みを浮かべた。

「……あなたたち、ルアーフィッシングをしたことはある?」

「ルアーフィッシング?」

あまりに唐突で突拍子もない問いかけにジルが怪訝そうな顔でオウム返しをする。

「私も学生時代に一回やったきりなんだけどね。魚に似せて作られた擬似餌はとても本物には見えないのに、面白いくらいに見事に魚が引っかかってくれるの。それでね、誘ってくれた教授に聞いたわけ。なんでこんな出来の悪い物に騙されるのかって。」

スメラギの笑みがますます深く、そして鋭くなる。

「で、その人曰く、『状況に合わせてルアーを使い分けるのがコツ。』だそうよ。水の透明度、場所、狙う魚、天候、温度……あらゆるファクターを考慮してルアーを使うからこそ、傍目にはダミーだと見破れても獲物の目には本物に映るんだ、ってね。」

「それで?まさか魚釣りの講釈をするために若かりし頃の思い出を語ったわけじゃないですよね?」

「いい読みしてるわねアレルヤ♪これから私たちがするのは釣りみたいなものよ。ルアーが少し大掛かりなのと、釣り人にも少しリスクを背負ってもらうことになるけどね。」

そう言うとスメラギはアナスタシスにいるヒルダに連絡を取る。
基地の奪還作戦をやってくれると聞いた彼女は喜びこそしたが、スメラギの注文に不思議そうな顔をした。

『あの……あんなものをどうするおつもりで?』

「間抜けな魚を喰いつかせようかと思って。」

にこやかな返答にますます疑問を深めるヒルダだが、別に惜しい代物でもないので注文を快諾する。
届くまではそれほど時間もかからないだろうし、セッティングに関してはイアンとジェイルに任せておけばこちらもさほど時間はかからないだろう。
なにせ、敵が本物だと誤認してくれる程度の餌で事足りるのだから。

「なるへそ……しかし、そう上手くいくもんスか?」

「懐に飛び込みさえすればこちらの思うつぼよ。それに、この視界の悪さが今度は私たちに味方してくれる。」

ウェンディの疑問に自信たっぷりに答える。
作戦開始時間は朝日も昇らぬ明朝。
漆黒の闇とそこに舞う純白の雪がこの作戦を完璧に仕上げてくれる。
不安要素を上げるとすれば敵が慢心を持たずに防御一辺倒になった場合だが、餌の魅力と基地の防衛を秤にかければ前者を取るはずである。
そう、今度はソリアたちがスメラギの戦略に面食らってもらう番だ。



午前4時 ベルスク極洋基地

プトレマイオスを退かせた後も、ソリアはコックピットの中で休憩をとっていた。
あれしきのことでソレスタルビーイングが諦めるはずがない。
なにより、あと数時間後には本隊がここにやってくるのだ。
奪還は不可能だとしても、拠点として使えないように破壊しようとするはずである。
間違いなく、もうすぐ連中はやってくる。
報告が来たのはそんな時だった。

『准尉、3時方向に熱源を探知しました。』

「来たか。」

待ちかねていたソリアは首を鳴らしながらモニターに映る反応を目で追う。
四機は南寄りの位置から高速でこちらへ接近。
残る三機はやや大きめの反応の周りに残ってじわじわと距離を縮めてきている。

「一機増えている……ダブルオーも出てきたか。となると、二手に分かれたどちらかは陽動だな。」

先行している機体の中にセラヴィーやクルセイドライザーのような重火力機、さらに砲狙撃や広範囲の攻撃が可能なケルディムがいるならば、おそらく基地の奪還を諦めて目的を破壊に切り替えたのだろう。
そして、先行している一団から放たれた極大の砲撃と鋭いビームに、ソリアは敵の狙いを確信する。

「ハイドレスト准尉とバロネット三機は残れ。これより、我々は敵艦へ集中攻撃をかける。」

『准尉?』

なぜ、と言いたげな部下にソリアはニヤリと笑いかける。

「優先順位の問題さ。連中が本気でここを更地にしようとしているなら俺たちだけでは喰いとめきれない。なら、その代わりに母艦を仕留めてやりゃあいい。玉をとれるのに飛車を惜しむ棋士はいねぇだろ?こんな基地のひとつくらいくれてやれ。」

そう言うとソリアはプルトを浮上させた。

「ルーチェ、できる限り足止めしてくれると助かるけど、ヤバいと思ったら適当なところで切り上げていい。こっちもそう時間をかけるつもりはない。」

『え~?勝ちを譲れっていうわけ?それ、あたしのプライドが許さないんですけど?』

「そう言うなよ。陽動のつもりで正面切って突っ込んで来てるバカを潰すのもなかなか笑えるぜ?」

凶暴な愛馬よりもさらに凶悪な笑みでソリアは雪が舞う闇の中へと飛び出していく。
それが、スメラギの仕掛けた底なし沼への一歩だとも知らずに。



午前4時1分 東南方向

「喰いついたな。」

ロックオンは自分たちを無視して陽動部隊へ殺到していくMSにどこか腹立たしさを感じながらも、手薄になった極洋基地を目指す。
ルーチェとマルスが残ったのは誤算だったが、想定されていた数よりも敵は半分ほど。
これなら、主のいない機体の一つを守るくらいはさほど困難ではないだろう。

「固定砲台はすべて狙いを刹那たちに合わせている。今のうちに懐へ飛び込むぞ。エリオ、フェルト、準備をしておけ。」

〈それはお前さんも同じだろ、相棒。〉

D・セラヴィーの軽口を鼻で笑うと、ティエリアも操縦桿を握ったままバリアジャケットを展開する。
見た目は普通の服装と大差がないように見えるバリアジャケットだが、ユーノ曰く外気の影響から高重力、果ては有毒ガスの類への防御までなんでもござれの便利な装備らしい。
もっとも、ある程度の差異はあるし、裏を返せばバリアジャケットを展開できなくなればこの氷点下の世界に何の備えもなく放り出されるのと同義ということなのだが。

「でも、GNアーチャーはアリオスとドッキングすればいいとして、セラヴィーは967さんが動かすんですよね?流石にバレるんじゃ……」

「なめるなよ。伊達にこいつらと付き合ってきたわけじゃない。」

アリオスにいるエリオに967が憮然とした様子で答える。
本来の操縦者であるティエリアほどではないにしろ、967もMSの操縦は一流の域に達している。
そうやすやすと落とされもしなければ、ティエリアがいないことを露見するつもりもない。

「とにかく、だ。俺たちは陽動部隊に敵が引きつけられているうちに防衛システムを掌握。後に敵の駆逐に当たる。いいな?」

ケルディムにいるクロウの言葉に、GNアーチャーのマリーとフェルトも黙ってうなずく。
気がつけば、もう基地の敷地は目の前だ。

「GNアーチャー、ドッキングする。」

アリオスとGNアーチャーがドッキングして準備は完了。
凍て付く空へハッチを開くと、間髪いれずに潜入するメンバーが外へと飛び出した。

「中にもまだ何人か敵が残っているだろう!!油断するなよ!!」

「了解!!」

クロウに率いられ、四人は滑空しながら基地の入り口を目指す。
その頃、上でも幾条かの閃光が交錯を開始した。



午前4時7分 東部

固定砲台の攻撃を回避し、ある時は後ろにいる巨大な影にぶつからないようにフィールドを張って盾となる。
そんなことを繰り返しているうちに、三機はセンサーにも視界にもうっすらと敵の姿を捉え始めていた。

「ダブルオーライザー、射程にターゲットを補足。」

『OK。作戦を開始して。』

「了解。」

スメラギの指示に刹那たちはミサイルを発射して後退を開始する。
砲台からの砲撃は相変わらず厳しいが、敵部隊が前面に出てきた影響で軌道が絞られてきている。
これならば、よほどの悪手を打たない限りは固定砲台の脅威はなきに等しいし、いいところで牽制が精一杯だろう。
しかし、それは射線軸上に敵部隊がある場合。
回り込まれれば火だるまにされることは間違いない。
大きな影を動かしている人間はそれをよく理解しているらしい。
雪にまぎれてダブルオーライザー、クルセイドライザー、スフィンクスの三機よりもさらに速くそれは後ろにさがっていく。

「逃がさん!!」

「おっとぉ!!」

〈こちらこそ逃がしません。〉

功を焦ったフュルストが飛び出したが、すかさずスフィンクスがビームナイフでその頭を貫いた。

「フフン。気の早い男は持てないっスよ。(あっぶなぁ~……)」

内心ひやひやしながらもウェンディは挑発的な言葉でMS部隊を誘う。
とりあえず最初にメインカメラを潰したし、墜ちるまでの間に通信する暇もなかったはずだ。
だがもし、後ろにいる物を墜とされればウェンディたちも無事では済まない。

(ユノユノ~!これってホントに大丈夫なんスか!?)

(この視界だからね。視認したとしてもせいぜい影。センサー類もこれだけ障害物が多いんじゃあてにはできない。)

(目測で当たったら?)

(その時は運の悪さを呪うね。まあ、僕らの守りが抜かれない限り、確率はだいたい13%ってところかな?8発装填できるリボルバーでロシアンルーレットをやるのとほぼ一緒。ハズレはそう出ないさ。)

(飛んでくる弾は8発じゃ済まないっスよぉ!!)

泣きそうになるウェンディだが、ユーノは気楽なものだ。
撃墜しなければならないのはこちらも向こうの影を見つけた時。
しかもこちらは固まっているので誤射の恐れはないが、向こうは数が多いうえに機体同士の距離が空いているので攻撃はどうしてもワンテンポ遅れる。
加えて、適当にバラまいているだけとはいえこの弾幕だ。
そうそう接近できるものではない。

「これだけ有利な材料がそろっているなら負けるつもりはないよ。まあ…」

揺れ動く白いレースを突き破って黒いガンダムがクルセイドライザーにぶつかってくる。

「心肺要素はこいつくらいか!!」

上昇して紙一重でそれをかわしたユーノはすかさずビームサーベルを振り下ろすが、プルトは振り向きもせずに右手の刃を背中にまわしてそれを受け止めた。

「らしくなってきたじゃねぇか!!目的のためには犠牲も厭わない!!それでこそソレスタルビーイングだ!!」

振り向く勢いを利用してプルトはクルセイドライザーを引きはがす。
だが、ユーノは余裕の笑みでツインランチャーの引き金に指をかける。

「それはどうかな!?なにせ、僕の底抜けの甘さがみんなにも伝染してるからね!!」

「ハッ!!そんなこったから人ひとり救えないでとりこぼすんだろうが!!」

疵口を抉る言葉に、しかしユーノは揺るがない。
刹那とウェンディが守る戦線に迫りつつあったバロネット数機へ向けて徹甲弾を撃ち込んで牽制すると、さらにビットも向かわせたうえで目の前のプルトの左膝を蹴りつけた。

「確かにまた救えなかった!!けど、だからこそ僕は強くなりたい!!救えなかった人たちに胸を張れるように!!もう何もとりこぼさないように!!」

コンビネーションの最後に繰り出されたビームサーベルが左の手首を掠め、ソリアも舌打ち交じりで後退を余儀なくされる。
だが、ただでさがるつもりは毛頭ない。

「お喋りに夢中になり過ぎたな!!」

まだ影としか捉えていないが、この距離であれだけ大きな的ならセンサーなどがなくとも当てる自信はある。

「俺にここまで接近を許したお前たちの負けだ!!」

最大威力で放たれた粒子ビームが、轟々と唸りを上げながら迫る。
その時、その場にいた全員がビームによって照らし出されたそれに目を見開いた。



同時刻 ベルスク極洋基地 外部

オレンジの翼が地上の雪を巻き上げながら低空飛行で白銀の機体へ迫る。
雪と見紛うマルスはその突進をマタドールのようにひらりとかわすが、即座にピンクの連弾がGNフィールドの表面を削り取った。

「うざい!!」

ビームピストルを握るケルディムにビームクローの一閃が放たれるが、銃把の底でそれを払うとさらに左のピストルのトリガーを引く。
至近距離での連射にフィールドの強度も心許なくなってきているので変形して離脱しようとするが、今度はセラヴィーの砲撃でそれもままならない。

「ああ、もう!!」

バロネット三機も健闘はしているが、ガンダムはその攻撃をものともせずにルーチェへ攻撃を集中させてくる。
こうも密着されては雪による視界悪は意味を成さず、故に集中攻撃から逃れようにも三機での包囲を抜けるのは容易ではない。
もっとも、その三機の内の二機は十全の状態とは言いにくいのだが。

「アレルヤ、大丈夫か?」

「ハレルヤが手伝ってくれるからなんとかね……そっちこそ、慣れないセラヴィーじゃやりにくいんじゃないかい?」

「なめるなと言ったはずだ。あの暴れ馬に比べればこれくらいどうということはない。」

本来なら二人で操縦するはずのアーチャーアリオス。
ピーキーな加速に悩まされることはないが、やはり機動性では全ガンダムの中で見劣りしてしまうセラヴィー。
ルーチェは思い通りに動けないことに苛立っていたが、アレルヤと967もまたいつもとは勝手が違う操縦に難渋しているのだ。
しかし、ここでもしもそのことが露見し、さらにその理由を思案されると事態は一気に悪化してしまう。
一分の隙も見せることはできない。

「頼むぜ、ティエリア……お前らが作戦のカギなんだからな。」

「予定時間マデ300セカンド!」

独り言に反応するように、ハロがタイムリミットを告げる。
ロックオンはその前に仲間たちがミッションを成功させてくれることを信じて、再び二丁の銃を敵へ向けて掲げた。



同時刻 内部

脳天に回転する魔力弾を受けた局員は見えない壁にぶつかったように勢いよく転倒する。
完全に意識が昏倒した彼の上を、戦闘機を模したボードに乗ったマリーとフェルトが瞬く間もなく通過していった。

「残り時間300セカンド!」

「ここを抜ければマザーシステムの制御室だ!!いける!!」

マリーはD・アリオスをさらに加速させて目的地へ急ぐ。
だが、その前に一人の男が立ちはだかる。

「……?」

敵だというのはわかったが、フェルトは男の無防備な構えに解せないものを感じていた。
戎器である槍の穂先を下に向け、薄手のコートまで石になってしまったかと思うほど微動だにしないその騎士は、さりとて膨れ上がる闘気は間違いなく自分たちへと向けられている。

「何をしている!狙撃だ!」

マリーが大呼すると、フェルトは反射的に引き金を引いた。

〈Rifling shoot!〉

急かされて撃ったとはいえ、彼女に狙撃を仕込んだ人間は一流のスナイパーである。
生真面目なフェルトの性格と相まって、無意識での一発も既に一撃必倒の威力と精度を誇っている。
そう、並みの局員が相手ならば。

「「!!」」

刃のような冷たさに二人はほぼ同時に左右にわかれて通路の中央、男のいる場所から退避する。
烈風が吹きぬけ、二人が飛び込もうとしていた空間はフェルトの放った魔力弾もろとも斬り払われていた。

〈あっぶねぇ……!!〉

〈あのままじゃ仲良く真っ二つだったね。〉

デバイスの独り言に耳を傾ける余裕もなく、二人は戦慄で汗が止まらなかった。
シックスセンスとでも形容すべき感覚が全身全霊で告げてきている。
今まで対峙してきた魔導士や騎士とは格が違うと。
真っ向から相手をするのは危険すぎると。

「……お前たちができる選択は二つだ。」

男は槍を中段に構えると、二人もそれに合わせてそれぞれの武器を男へと向ける。

「大人しく投降するか……もしくは我が槍の錆となるか、だ。」

すでに警戒レベルは最高ランクにまで引き上げられているが、男の放つ殺気はそれすらも関係なく二人を臨戦態勢へと突入させた。
だが、

(……フェルト・グレイス。)

マリーの念話を神経を緩めずにフェルトは耳を傾ける。

(行け。こいつは私が押さえる。)

(!?で、でも!!)

(システムの掌握は私たちよりお前とケルディムの方がむいている!!行けっ!!)

マリーの一喝にフェルトは無言で、何の素振りもなく容認する。
そこでようやくマリーは肺の中に押し留めていた空気を新鮮な外気と交換した。

「……行くぞ。」

〈Gepanzert!〉

D・アリオスを身に纏い、上空に舞い上がったマリーはカートリッジを炸裂させた。
爆発力重視のカートリッジNO.Ⅳによって、斜め上から体ごと捻じ込む突きは必殺の域に達している。
だが、槍騎士はその刺突を刃で受け止めて押さえ込むとマリーには目もくれず通路の先に向かおうとしていたフェルトへ、先ほど魔力弾を断ち斬ってみせた豪槍を一閃させた。

「させん!!」

〈Ein Dynamit!Bomber des Marsches!〉

腕のアーマーに一発だけ挿入し、残っていたカートリッジNO.Ⅵ・ボミングを腰のガンベルトごと男の前へ投げる。
そして、空中に投げだされたいくつかがオレンジに輝いたかと思うと灼熱の爆炎を撒き散らして周囲を破壊し尽くした。

「行けっ!!」

炎の壁を隔てた向こうにいるであろうフェルトにそう言うとマリーは魔力刃を片手に炎へ向かって突進を開始する。
同時に、紅蓮に燃え立つ壁から火炎に焼かれながら槍騎士が飛び出してきた。

「フッ!!」

「ハァッ!!」

二つの刃の激突が嵐を巻き起こし、炎を吹き飛ばした。
消えた先にフェルトの姿はすでになく、しかし二人の戦士はそれを気にする素振りを見せず何合もの剣戟を重ねていく。
そして、槍の振り下ろしと魔力刃の横薙ぎがぶつかり、鍔迫り合いの形でしばしの間危うい均衡を保つことになった。
その最中、男は尋ねる。

「珍しい戦い方をするな……騎士か?」

「いや、違う。」

グッと一歩前に踏み込んだマリーがフワリと浮いたかと思うと、床の数cm上を滑って男の背後を取った。

「超兵だ。」

左手のライフルの銃口が背中にピッタリと密着した状態で火を噴くが、槍騎士は得物を掴んでいる位置を柄の中程に変更して石突を素早く重心にぶつける。
ずれた銃口から飛び出した二連弾が脇腹を掠めた痛みで顔を歪めるが、マリーの鳩尾に蹴りを叩きこんで距離を取った時には平静を取り戻していた。

「なるほど……人を超えた兵士、故に超兵か。だが、感情が揺れ動いていてはその力も十二分ではあるまい。」

心臓がひときわ大きく鳴るのを感じた。
熟達した武術家は拳や剣を交えただけで相手の内面すらも手に取るように分かるそうだが、不意打ちにそんなことをされてはこの世のものならざる神の御業かと状況もわきまえずに感動に似たものを心に抱いてしまう。
いや、あるいはこの騎士は武神と呼べる域に達しているが故にそれが可能なのかもしれない。

「……人に名乗らせたのだ。今度はそちらが名乗る番ではないのか?」

「なるほど、確かにな。だが、生憎この身は名乗る誇りすらも失っている。」

そう言うと、武神は自嘲しながら再び槍を構える。

「ここにいるのは名もなき槍兵……目的のために友も矜持も棄てた愚か者だ!」

突風を巻き起こしながら、ゼスト・グランガイツは棄てた誇りの分だけ手にした鬼神が如き力を以って超兵へと突撃していった。

〈クッ……この手の奴は厄介だね!!〉

「ああ、全くだ!!」



同時刻 管制室

外に負けず劣らず氷まみれの部屋の中、ティエリアとクロウは一心不乱にコンソールを叩いていた。
しかし、表示されるのは何度やってもErrorの五文字だけ。
奪還される可能性は限りなく0に近いと踏んでいたにもかかわらずやることはしっかりやっているあたりは、流石ユーノの複製というべきだろうか。

〈プロテクト突破予想時間460セコンド。作戦時間内の解除は困難と判断します。〉

「クソッ!!やはり直に制御室からハッキングしないと無理か!!」

「だが、奴も今は戦闘に集中力を割いている。奪還さえできればそのまま撃退できる公算は高い。」

もっとも、それまで二人はこの管制室を死守しなければならないわけだが。

「いたぞ!!」

「チッ!もう追いついてきたか!」

〈Crazy marionette!!〉

〈Critical blizzard!!〉

不規則な軌道で発射された魔力弾が扉の前に集まっていた局員たちに襲いかかる。
さらに、紫紺の魔力と氷雪の嵐が辺りを凍て付かせ、氷漬けになっている局員たちの上に新しく透明な層が追加された。

〈そう言えば、そろそろなんじゃねぇのか!?〉

「わかっている!!」

D・セラヴィーに言われるまでもなく、陽動組は間もなく次のフェイズに移るはずだ。
ここで魚に彼らの追っていた餌が何なのか気付かれれば、瞬く間に窮地に陥るだろう。
だが、ティエリアは確信していた。
ユーノと違い、この基地の完璧な防御を自らの策の完全さと履き違える傲慢なソリアならば、おそらく餌に喰いついて痛い目を見るであろうことを。



午前4時12分 東部

「なんだと……!?」

プトレマイオスを墜とされたはずのユーノたちではなく、墜としたと確信していたはずのソリアが驚いた。
着弾する瞬間に見えた姿は確かにプトレマイオスだった。
ただ、それが大量のビームチャフを仕込まれていたダミーバルーンでなければソリアの完全勝利で終わっていたはずなのだ。

ビーム兵器の効果が減退しているこの状況で、白兵戦以外に有効な手段はない。
少なくとも、ビーム兵器しか持ち合わせていないMSにとっては。

(しまった!!)

ようやく自分たちが網の中に飛び込んでいたのだと気付いたソリアは指示を出す。

「全機、チャフの効果範囲内から離脱しろ!!海に潜ろうがどうしようが構わん!!とにかく逃げろ!!」

「気付くのが遅かったわね。」

スメラギがニヤリと笑うと、粒子が舞う中へ次々にミサイルが飛び込んでいく。
巨人がクラッカーを鳴らしてはしゃいでいるようなその光景はしばしの間続き、巻き込まれた機体はすべて海の藻屑となって凍て付く海へと消えていった。
上に間一髪で逃れられたと思った機体も、一足先に待ち構えていた三機のガンダムが撃ち漏らすことなく撃墜していき、かといって海中に逃げた機体が戦線に復帰することは不可能だ。
なぜなら、

「この極寒の中で水に浸かって外に出れば、いくらMSでも……」

ジルが説明するまでもなく、海から上がったMSたちは関節からカメラから全て白い氷に覆われ、最早まともに動くことすらままならなくなっていた。

「あ~あ……GNドライヴ以外はカッチンコッチン。あれじゃただの的っスね。」

同情しながらも、動きの鈍った機体もしっかり撃墜するウェンディ。
この作戦を釣りに喩えたスメラギだが、その様子は釣りというよりも既に大きな網を使っての漁に近いものがある。
しかし、魚の中には稀にその網を食い破る様な凶暴な魚もいるものだ。

「クソッタレ……この、クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

脚部や腕部の装甲がはがれ、重大なダメージを受けていることが明白なプルトが、それでもなお怒りに狂うソリアを乗せてクルセイドライザーへと襲いかかった。

「甘いよ!」

力任せに振られた一撃を冷静に受け止め、今度はユーノがソリアを嘲う。

「どうしたの?らしくないじゃないか。」

「貴様らぁ…!!初めから基地の殲滅が目的じゃなかったんだな!?」

「使える物を自分から潰すバカがどこにいる?ああ、それと僕らを怒るならお門違いだよ。全ては君の認識の甘さが招いた結果だ。」

「なに!?」

「トレミーを墜とそうと躍起になるあまり、センサーの確認を怠っていたね。注意深く見れば、ダミーだということはあの距離からならすぐに分かったはずだ。」

それだけではない。
そもそも、あれだけの集中砲火を相手にGNフィールドを使わないこと自体が不自然なのだ。
盾も持たなければ、MSのように華麗に攻撃をかわすことができない輸送艦が、味方のMSの迎撃のみを頼るのは自殺行為に等しい。
もっとも、先入観にとらわれてしまった人間に、この吹雪の中に浮かぶ巨大なシルエットをダミーだと見破れという方が酷かもしれないが。

「クッ……だ、だが、あの基地のシステムは俺が掌握している!俺が生き残っていれば…」

「お気づかいど~も。けど、これだけ離れてておまけにこっちにばかり集中してたのによくそんな自信があるね?」

ソリアがハッとした時には、砲弾はプルトのすぐ横を飛んでいき、海面に着弾すると大きな水柱を上げた。

「ほらね?」

ユーノの笑みが、いよいよ勝気に変化した。



二分前 制御室

「ここが制御室……」

想像より小ざっぱりした部屋にフェルトは拍子抜けしてしまう。
てっきり回路や基板群のような機械に囲まれた部屋を想像していたのだが、ある物といえば十二個の球体に囲まれた操作用のタッチパネルが真ん中にあるくらい。
後は白一色の実に味気ない部屋だ。

「なんていうか……すごくすっきりしてるね。」

〈ズラズラ機械を並べるより魔導的要素をくみこんで構築した方がスペースもコストも最小限で済むからなぁ……こっちの人間の感覚からすれば地球のスパコンなんかのほうがよっぽど異質に見えるんじゃないかな?〉

「そうかな?私はどうしても魔法って言われるとアニメやコミックを思い浮かべちゃってコンピューターとかそういうのとは結びつかないよ。」

〈ハハッ!デバイスである俺を使っている人間の言葉とは思えないね~。〉

タッチパネルの前に辿り着いたフェルトはD・ケルディムと談笑しつつ次々とプロテクトを突破していく。
バリアジャケットに装着されていたビットを周囲に浮かべ、ホロスクリーンに映し出されたデータを確認しながらD・ケルディムを介しての操作も行っていった。
わずか数十秒での電脳空間の制圧はデバイスとのリンクが強固であり、魔導士とオペレーターの両方の素養が飛びぬけているフェルトだからこその妙技だ。

〈プロテクト解除完了。後はコントロールを管制室に移譲すれば…っ!?〉

後ろからコードの群れが襲ってきたのはその時だった。
D・ケルディムの反応速度もかなりのものだったが、敵の攻撃はそれ以上に速かった。
しなるコードは太く強固な鞭のようにフェルトの背中を打ち据えると、反撃の隙も与えずに首や手足に絡みついてきつく締め上げてくる。

「かっ……は…!!」

〈オートマトン…いや、カジェットか……!!〉

周囲を取り囲む俵型と球体のマシーンにD・ケルディムは己の迂闊さに自責の念を隠せない。
あの狡猾な男がここだけを無警戒にしておくはずがないのだ。
当然、プロテクトの解除に合わせて何らかの防御があってしかるべきであり、自分たちはその罠にまんまとはまってしまったわけだ。
それでも、フェルトは宙吊りの状態で反撃を試みるが動かそうとすればするほど外装がなくなって、露わになった素肌に無機質な感触が喰いこんで来てしまいビットの操作もままならない。

「は……ぁ……っ!!」

いよいよ肺の中の酸素も底をつき始め、その苦しさからフェルトの瞳に涙が滲み始める。
さらに、ガジェットたちはレーザーの発射光を不気味に輝かせ始めた。

〈クッ……ソッ…!!〉

どうにかなるまいかとD・ケルディムも手を尽くすが、とどめが打たれるのは時間の問題だ。

もう逃れる術がない。
そう思われたその時、刃の煌めきと鉄拳の風切り音がガジェットの群れに突入していった。

「ストラーダ!!」

〈Speer Angriff!!〉

拘束していたコードが斬られると、フェルトは空気が通っていることを確認するように喉元に手を当てる。
ほんのわずかな時間ではあったが、紐状のもので絞められるという行為は相当のダメージを残していたらしく、足元がおぼつかない。
そんな彼女に肩を貸して支えたのは、赤髪の少年だった。

「大丈夫ですか?」

「エリ…オ……」

少しかすれた声にホッと安堵の息を漏らすエリオ。
しかし、目の前にはいまだにガジェットが斬られたコードの報復をせんと攻撃態勢に移っている。
なのだが、

「失礼します。」

メイド服姿の少女の掌底が金属製の外皮にくっきりとその痕跡を残して球体を吹き飛ばしていく。
冗談のような光景が、現実にフェルトの目の前で繰り広げられていた。

「……相変わらずすごいですね。」

「メイドの嗜みです。」

拳を密着させた状態で金属の塊を打ち砕く技術を嗜みで習得するメイドが他にいるのか是非とも問い詰めたいエリオだったが、それをアイリスに聞いたらいろいろと後戻りできなくなりそうなので断念することにした。
別に、最後の一機を拳足で原形をとどめないほど破壊した彼女を恐れてではない。

「フェルト・グレイス様ですね?」

「あなたは、この前の……」

「クロウ・ヘイゼルバーグの使い魔、アイリスでございます。以後、お見知りおきを。この度は加勢が遅れ、ご迷惑をおかけしました。」

「ハンガーに思ったより戦力が集中してて……できるだけ早く制圧してここに駆けつけたんですけど、間一髪でしたね。本当にごめんなさい。」

「ううん、私は大丈夫。それよりも…」

フェルトは近くにあったビットにホロスクリーンを映し出し、『OK?』の疑問にエンターでイエスの意思を示す。

「これで、あとは管制室のティエリアたちが上手くやってくれる。」

「それでは、私たちはゆっくりと勝利の報告を待つと致しましょう。」

そう言うとアイリスはどこからともなく白いテーブルと椅子。
そして紅茶各種とティーセット一式を取り出してティータイムの準備を始める。
その様子に困惑するフェルトだったが、勝利が確定したこの状況でそれを拒む理由もなく、またアイリスを前に拒めるわけもなく、バリアジャケットを展開したまま席に着くのだった。



現在 廊下

「ハァ…ハァ……!!」

「……勝負あったようだな。そちらが一枚上手だったらしい。」

負けを認めたのは、終始優勢だったゼストのほうだった。
バリアジャケットやD・アリオスが損傷しているマリーに比べ、ダメージを負っていてもなお息一つ切れていない彼が死合いをリードしていたことは誰にも明白である。
だからこそ、ここの機能が奪還されただけで早々と敗走の準備に取り掛かるのが腑に落ちない。
いかに拠点を落とされようと、敵の一人も討ち取れたのなら万々歳のはずなのに。

「私を、侮る気か……!?」

「そんなつもりはない。ただ、目的を果たす前にこの命を捨てるわけにはいかんのでな。」

「目的…?」

マリーの問いに答えず、ゼストはやってきたガジェットに手を添えると転移に入る。

「超兵と言ったな。次に会う時までに迷いを断ち切っておけ。さもなくば……死ぬぞ。」

「……っ!!待てっ!!」

〈Vision Kugel!!〉

カートリッジNO.2で弾速を強化された魔力弾もあと一歩届かなかった。
壁に穿たれた小さな穴を前に、マリーは膝をついて床に拳を打ちつける。

「迷いなんてない……!!私は…大佐の仇を討つんだ!!」

いまだ言葉一つかけてくれないピーリスにもそれを強いるように、マリーは嗚咽交じりで己にそう言い聞かせた。



午前4時16分 東部

三機のガンダムがプルトを取り囲む。
既にプルト以外の機体は全て海の藻屑と化しており、援護など望むべくもない。

(チッ……欲をかきすぎたか。)

エイオースにおける拠点などどうでもよかったが、プトレマイオスを撃墜できるかもしれないという餌に釣られてとんでもない窮地に飛び込んでしまった。
“リボンズへの手土産”を作るつもりが、まさかこんなことになるとは。

(クソッ……!!俺はまだ何もしていないんだ……こんなところでくたばれないんだよ!!)

父の仇への復讐も果たせずに。
ロックオンを手にかけた連中を断罪することもままならずに。
ここで消える。
理想論を得意気に振りかざすだけのこいつらに負けて。
そんなこと、認めない。
認めることなどできない。
特に、あの男にだけは。

「ユーノォォォォォ!!!!!!!!!」

「!!」

思えば、それが生まれて初めてソリアが感情を剝き出しにした瞬間だった。
その気迫に押され、相手の機体が満身創痍にもかかわらず互角以上の力での鍔迫り合いが始まる。
そして、ソリアの吐露も。

「お前はどうしてこの世界を愛せる……!!」

「なに……!?」

「俺は俺たちから……エレナやロックオンたちの全てを奪い去った連中やこの世界を許せない!!だがな……」

弾き飛ばされ、左の膝から下を砲撃で吹き飛ばされようとソリアは吼える。

「俺が何より許せないのは、この世界で生きるしかない俺自身だ!!!!」

プルトの砲撃にツインランチャーが巻き込まれて爆散する。
しかし、ユーノは退かずにビームサーベルを抜いた。

「っ……!!だから僕らは戦ったんじゃないのか!?」

その答えを嘲笑うようにプルトが渾身の力でクルセイドライザーの刃を弾く。

「ああ!!そして知ったのさ!!万人の願いを満たす解などないってことにな!!人が人を超えない限り実現しようのない無駄な戦いをしていたことにな!!」

「だったら僕らから変わればいい!!それに…」

プルトの手首を取ってひねり上げ、ビームサーベルごと右腕を引き千切ると、ユーノは続けざまに顔面に拳を叩きこんだ。

「理想を追うことを諦めたら、それこそ僕らはただの大バカ野郎だ!!」

「くぅ、ああぁぁぁぁぁ!!!!」

完全に機体が流れて制御できていない。
とどめを確信したユーノは間合いを詰めて勝負に出るが、突き出された切先はプルトを捉えることはなかった。

「ソリア~、生きてる?」

「ルーチェ……か?」

「そうに決まってるでしょ。ヤバくなったら逃げろって言ったのあんたよ?つうか、何熱血キャラでボコボコにされてんのよ。」

「……うるせぇ。」

だが、憎まれ口とは対照的にルーチェは少々ユーノに嫉妬していた。
自分の前でも決して外さなかった仮面を、ソリアはユーノの前では外した。
それだけ追い詰められていたということかもしれないが、あんなことは今までどんな敵と戦ってきても口にしたことなどない。
子供じみていることはわかっている。
だが、何か抱え込んでいることがあるのなら自分に話してほしかった。

「……バーカ。」

「なんか言ったか?」

「べっつにぃ。それより、そろそろコウモリはやめてどっちに着くか決めたほうがいいよ。爺さんの方はそろそろあたしらのことを疑い始めてる。」

「今回トレミーを墜とせたらすんなりリボンズのほうに行けたんだがな……まあ、そのうち爺さんにはご退場願うさ。」

そう、ソリアは何の手も汚さずに。
奴が自分たちにそうしたように。
そのためにわざわざあの男を籠絡したのだから。

「俺たちから変わる、か……悪いが、俺は人類全員がそうなるまで待てるほど気長じゃないんでな。」

それは、同じ記憶と願いを持っていたはずの二人の決定的な決別の瞬間だった。



午前5時32分 極洋基地ベルスク

朝焼けが嫌に眩しい。
それはあの吹雪の後だからなのか、それとも作戦が成功したからなのかは分からない。
だが、今更になってこの胸を抉ってくるあの言葉が自然とユーノの足を外へと向けさせていた。

『俺が何より許せないのは、この世界で生きるしかない俺自身だ!!』

初めて彼の心の叫びを聞けた気がした。
ソリアは未だに、いや、またあの世界に捕らわれているのだろうか。
モノクロの、無味乾燥な世界に。

「やっと見つけた……ユーノ、ブリーフィングがあるから集まって。」

「うう……寒い…」

フェルトとヴィヴィオが防寒着にくるまりながらやってきたので考えるのを中断する。
いや、答えを得たと言うべきだろうか。

「ごめんごめん、すぐ行くよ。ほら、ヴィヴィオもずっとお外にいたら風邪ひいちゃうよ。」

「うん!」

娘を抱きあげてユーノは歩き出す。
今はまだ遠い理想を目指して。

理想を追わない限り、理想は実現しないのだから。










ユートピアとディストピアは鏡合わせ
抱く想いもまた、不可分だが表裏一体





あとがき

ようやく戦闘シーン(主に魔法戦)をだせた59話でした。
いや、本当に魔法戦は久々に書けたよ……(-_-;)
できればティエリアかマリーのどっちかにトランザムを使わせたかったんですが、

ティエリア:あんまり出番なしw
マリー:ソーマが復帰してないのに使わせていいもんだろうか?

というわけで次回以降に持ち越しです。
しかし、フェルトは(だいぶアレですが(^_^;))サービスカット出せたのに、ティエリアとマリーのサービスカットは出せなかったな(笑)
まあ、ティエリアのサービスシーンはユーノがやっちゃったしw
ただ、ゼスト対マリーがやけに熱い感じになっちゃったのが自分でもビックリです。
一応、自分の中ではD・アリオスは発動形態にベルカ式をメインに採用していると設定してるのでゼストとぶつけたらおもろいかもと思ったら…………超兵とおじさんの組み合わせはやっぱり熱苦しすぎますね(オイ)
そんなこんなで次回は聖王教会ピンチ編です。
いきなりだなオイとか言わないで、心が折れるから(ノД`)
そろそろヴィヴィオをなのはのところに帰したいので、というかこのままトレミーに置いておいても空気になりそうなので有効活用できる方に回すというのが本音です(苦笑)
まあ、そのための回なんだと思って生温かい目で見守ってやってください。
ちなみに次回もMS戦がメインではなく、魔法戦がメインになる予定です………ええ、これは一応ガンダムとのクロスものです。
でもね、一応リリなのとのクロスであることも事実なんですよ?
では、次回もよろしければ読んでみてください。



[18122] 60.聖王教会防衛戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/03/14 00:08
聖王教会 カリムの部屋

その日、異様な緊張感に包まれていた。
普段は多くの人が語らっている庭先も静まり返り、小鳥のさえずりさえ聞こえない。
ただ、教会騎士団の猛者たちだけは外に限らず屋内にもデバイスを起動した状態で警備にあたっていた。

「フゥ……」

カリムはそれでも平静を装おうとするが、流石にこの状況に疲れていたのか久方ぶりにため息が漏れる。
だが、シャッハにとってはそれが嬉しかった。

「どうかしましたか?こんな時に笑うなんてあなたらしくもない。」

「いえ、騎士カリムも人の子なのだと思いまして。」

「あら、あなたの評価がそんなに高いなんて思っていませんでした。」

カリムがおかしそうに笑うが、不意にドアが開いた途端に二人は神経を研ぎ澄ます。
だが、扉を開けた人物を見た瞬間に緊張は驚きへと変わった。

「お二人さ~ん。そんな顔してても良いことないっスよ?ほら、笑顔笑顔!」

そう言って黒の修道帽をとって笑うウェンディだったが、腹を抱えて笑うセインが入った氷を抱えている二人のシスター……もとい、ティエリアとユーノには1mmも笑みはなく、この二人にこそ笑顔が不可欠なのではと思えるほどだった。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 60.聖王教会防衛戦


ミッドチルダ 地上本部 MSハンガー

ソリアのここまで不機嫌な顔はルーチェでも見たことがなかった。
ファルベルからあの柔和な表情でじんわりと責められればよほど鈍い人間でない限りはこうもなるだろう。
しかも、それが父の仇であるならばなおさらだ。

「で、なんて?」

「頑張りたまえ、だとさ。あのクソジジィめ。」

声を張り上げないあたり、その前に小言をしこたまもらったのだろう。
辟易した様子で愛機のもとへと向かうが、ルーチェはまだ聞きたいことに答えてもらっていない。

「聖王教会の件はどうすんの?」

「関わらずに俺たちはクロノの艦に行けとさ。前回の命令無視が気に喰わないのか、それとも連中の存在が目障りなのかは知らないが、お目付け役ってことに代わりはないだろうな。」

「なるほど~……でも、聖王教会は徹底的に潰しておかないと厄介なんじゃない?他にも示しがつかないし。」

「いいんだよ。トレミーの連中がしゃしゃり出ようがなにしようがあそこは終わりさ。ま、この間のような策やよほどの隠し玉があるんなら話は別だけどな。」

「ソリアもはめられたもんね~♪」

「うるさい。」

ルーチェの頭に拳骨を振り下ろし、ソリアは険しい表情のままプルトに乗りこむ。
感情的になってしまった自分とファルベルへの怒りを燃え上がらせたまま。



エイオース ベルスク極洋基地 プトレマイオス ブリッジ

「ブーブーです!」

頬を膨らませながらミレイナは不満を漏らす。
プトレマイオスの修理とガンダムの整備も大切なことはわかっているが、同じオペレーターのフェルトだけ聖王教会へ向かうというこの差は一体何なのか。
いや、リンカーコアの有無であることはわかっているのだが、やはり納得がいかない。

「ミレイナも教会に行ってみたかったです!」

「ミッションで行ったんだ。遊びにじゃない。」

「危険ですし、それにミレイナが思うほど面白いところではないと思いますよ?」

「理屈じゃないんですぅ!」

967とリインフォースの言葉は逆効果で、ミレイナはさらに臍を曲げてしまう。
だが、アニューはふたりの言うとおりだと思う。

昨今の管理局による聖王教会への圧力の強化は露骨もいいところだった。
開拓世界での任務妨害、さらにガンダムと接触を図ったのではないかと言いがかりのような理屈で教会騎士団の騎士であるカリムを管理局から除籍。
極めつけはベルカ過激派と結託しているのではないかと侮辱にも等しい疑いまでかけられてしまった。
ここまでされれば穏健派も黙ってはいられない。
決起のために各地より宗派、思想を超えてベルカの騎士たちが結集。
管理局討つべしといきり立っていたが、それをなだめていたのが除籍処分を受けたカリムが所属する教会騎士団であった。
だが、そんな時に事件は起こった。



聖王教会 カリムの部屋

「ケンプファー……すなわちベルカ過激派によって生み出された機体が自治区周辺の人口密集地帯へ襲撃をかけたのです。」

「それを理由に集まっていた騎士たちを制圧、か……」

「ですが、彼らの中にMSを持ち込んだ者などいません!!なにより、誇り高い騎士が無辜の人々を襲うなど!!」

「誇り云々はともかく、管理局が手を回していた可能性はあるわな。」

その言葉にシャッハはギロリと睨みつけるが、宣教師姿のロックオンは肩をすくめてその視線を受け流した。

「とにかく、聖王教会の置かれている状況は無条件降伏、それが受け入れられない場合は殲滅も辞さない、と考えて問題ないな?」

修道女の服のスカートを気にしながらも、ティエリアはシャッハをなだめるように確認する。
教会騎士団の戦力がこれだけ集まっているということは、降伏する気はないのだろう。
したところで、弁明の余地すら与えられないのは間違いないだろうし、ここで治療を受けている騎士たちも極刑は免れることはできまい。
かといって、戦ってもおそらく形だけがわずかに違うだけで、さほど結果に変わりはないだろう。

「MSも投入してくるだろうけど、それよりも魔導士が主戦力を成すだろうね。」

「それって……」

ユーノに問いかけようとしたフェルトに、カリムが代わりに答える。

「私が現体制に従うと言えば教会騎士団だけでなく各地の騎士たちも迂闊に行動を起こすことはできなくなるでしょうね。」

「……あくまで生け捕りか。」

「そりゃあ、大事な切り札をむざむざ捨てる奴はいないだろ。うるさい連中は押さえ込んでからじっくり料理する……ホント、連邦と似たり寄ったりだな。」

ロックオンは立ったままの刹那を尻目に一人椅子に腰かける。
顔は笑っているのに、目だけは怒りに煌々と燃えていた。

「へ……へっくし!!そ、それで……こっからどうすんの?応援には来てくれるんでしょ?」

「ああ。ケルディムとアリオスを除けば魔導戦を行える奴だけだがな。」

「はぁっ!?なんで!?」

ティエリアの作った氷の中から脱出していたセインもこれには驚いた。
てっきりMSで敵を蹴散らしてくれるものだと信じていたのに、来てくれるのはたったの二機。
それでは敵のMSを相手にするだけで手一杯なのではないか。

「そんな驚くことねぇだろ。それに、俺たちは生身の奴に銃を向ける気はねぇよ。」

「な、なんで!?一気にドバーッとやっつけちゃえば……」

「印象が悪すぎるんだよ。」

ジルと一緒に入れられていたカバンからようやく抜け出せたエリオが渋い顔で説明する。

「今の聖王教会は世間からすれば社会秩序を乱す万人の敵。しかも、ただでさえソレスタルビーイングとの関係が取りざたされているのにあからさまに助けたんじゃ言い訳のしようがないでしょ?それも、生身の人間をMSで攻撃したら非難が集中するにきまってる。」

「その点、魔法戦なら映像も誤魔化しやすい。オイラたちも全開で暴れても差し支えないってわけ。」

「で、でもあんたらやウェンディはともかく、そっちの人たちに魔法戦は……」

セインの言葉をさえぎってスカートの中が見えるのもかまわず足を組んでいたユーノが指さす。

「はい、フェルト。現時点での君の推定魔導士ランクをどうぞ。」

「え!?え、えっと……確かジェイルさんはS-だって。」

「刹那、ティエリア。二人の変換資質は?」

「……風撃変換だと言われた。」

「氷結変換だが、なにか?」

「あとはピーリスさんなんだけど……まあ、あの人は生粋の兵士だから問題ないか。(……今は本人じゃないけどね。)」

あいた口がふさがらないセインだが、さらに追い打ちがくる。

「で、GNデバイス諸君。ジュエルシードの力を持つ君たちはこういうマイスターたちに使われているわけだけど、何か不安要素は?」

〈こんなサーチ&デストロイをするために生まれてきたような奴に不満なんざあるわけねぇだろ!!〉

〈俺が認めた子だからね~。いやぁ、それにしてもシスターのコスプレしててもお美しい。〉

〈マイスター刹那の願いは我が願い。ただそれだけだ。〉

〈マイスターのために頑張らせていただきますっ!〉

「……というわけ。まだ何か不満がある?」

「い、いえ……めっそうもございません……ハ、ハハハ……」

乾いた笑い声をあげてよろよろと椅子に腰かけたセインは未だ遠い目で天井を見上げていた。

「ですが、いかに体裁を取り繕おうとあなた方が介入すれば風潮が…」

「ああ、そこのところも大丈夫です。」

ユーノがニヤリと笑うと、シャッハもうすら寒いものを感じる。

「僕の知り合いが手を打っています。知ってました?世間っていうのは正義の味方をするものなんですよ?」



エイオース 極洋基地ベルスク 訓練場

広い部屋の中でオレンジの刃が煌めく度に巨大な球体状の擬似ターゲットが消えていく。
だが、剣舞を披露しているマリーの心の暗雲は一向に消えてくれない。

「お見事……と言いたいところだが、迷いがあるな。」

苛立ちを押し殺しながら顔へと飛んできた魔力弾を斬り払う。
今のマリーが一番聞きたくない単語を平然と口にした男は、彼女の怒りを正面から受け止めても表情一つ変えない。
その態度がなおのことマリーの神経を逆なでしてくる。

「何の用だ。」

「なに、そこを歩いていたら聞こえたんでな。少し冷やかしに来ただけだ。」

クロウが指さした先には半開きの扉。
いや、おそらくはマリーが訓練室に入った時点で扉は閉じきられていなかったのだろう。
迂闊といえば迂闊だが、それこそがマリー・パーファシーがソーマ・ピーリスになりきれない部分なのかもしれない。
だが、今のマリーはそれを認めることができなかった。

「なんだったら付き合っていくか?手加減はしかねるがな……!」

殺気を隠そうともしないマリーに、クロウは少なからず失望をあらわにする。

「やめておけ。今のお前では雑兵程度は屠れても俺レベル以上を相手にするには役不足だ。」

今度は言葉すらもかけなかった。
床と足裏との摩擦で生じた火花を残し、激情に任せてマリーは一直線にクロウへ突撃する。
だが、その間に入った小さな人影が突き出した肘に気付いたマリーは、寸でのところで緊急停止をかけることができた。

「く……!!」

「……だから言っただろう。周りもろくに見えていない人間が実力を発揮できるとでも思ったか?」

色鮮やかな鳥に姿を変えてクロウの肩にとまったアイリスを恨めしげに睨みながら、しかし的を射ている指摘に言い返すこともできないマリーは背を向けて再び部屋の中央へ歩を進める。
受け入れたくないものから目を背けるように。

『超兵と言ったな。次に会う時までに迷いを断ち切っておけ。さもなくば……死ぬぞ。』

「……クソッ!!」

迷ってなどいない。
ピーリスも自分も、アンドレイへの憎悪にこの身を焦がしているはずだ。
自分たちが欲しても、手に入れることができないものを手放すようなあんな男を恨んで何が悪いのか。
そもそも、戦うために生まれた自分たちが迷うはずなどない。

(……もうよすんだ、マリー。)

ピーリスの声が聞こえる。
本当に彼女なのかはマリーにもわからない。
だが、ゼストやクロウの言う迷いがその声を鮮明にしていく。

(憎んで、報復して、延々と続く連鎖に捕らわれる気か?)

(違う!!私はあの男を裁くだけ!!あなただって、本当は……)

(…………………………………)

(なんで………なんでそんな眼で私を見るの!?)

悲しい眼で。
憐れむような眼で。
家族と離れ離れになってしまったような眼で。

(そんな眼で……私を見ないで!!!!)

心のうちの絶叫を刃に乗せ、マリーは再び舞い踊る。
悲しく、救いのない剣舞を。



ミッドチルダ 聖王教会 カリムの部屋

ロックオンが帰り、着替えたユーノは一人でカリムとシャッハの前に立たされていた。
何となくこうなることはわかっていたが、いざ(怖い)笑顔のシャッハの前に立たされるとこちらも(汗まみれで)笑うしかない。
今ならセインがあれほどシャッハを恐れていたのがよくわかる。

「そ、それで……何の御用でしょうか?僕は明日の準備もあるので忙しいんですが?」

「もう隠さなくてもいいですよ。」

シャッハとは打って変わって、カリムは穏やかな口調で、しかしはっきりと断言する。

「今回の一件はロッサの差し金でしょう?」

「ナ、ナニヲオッシャイマス、カリムサン。」

ズバリ言い当てられ、動揺を汗の量で表現してしまうユーノ。
ヴェロッサをソレスタルビーイングに参加させてしまった責任の一端が自身にもあるとはいえ、その理由の半分以上を占めているはずのヒクサーがこの場にいないことを心の底から呪いたい。
手を出されることはないだろうが、楽しい話が待っているはずもない。
しかし、深いため息の後に出てきた言葉はユーノの予想とは違っていた。

「ロッサは元気でしたか?」

「へ?」

ホッとする前に風船から最後の空気が抜け出るような声を出すユーノに、カリムは笑顔で再度質問する。

「ロッサは元気でしたか?」

「え、いや……連絡をもらったのは僕じゃないので。」

「では、最後に会ったときは元気でしたか?」

「ええ、まあ……いや、そうじゃなくて。怒ってないんですか?」

「怒ってますよ。黙って出ていったことには。」

そこでようやくシャッハは疲れた顔で口を開いた。

「こういうことになるのなら、一言ことわってから行ってほしかったですね。まったく、昔からあの子は……」

「いや、怒るところおかしいですよね?てっきりソレスタルビーイングに参加したことに怒っているのかと。」

「フフフ……」

その言葉に、カリムはいっそうおかしそうに笑う。

「以前にアーデさんにも言いましたが、あなた方は何か恥ずべきことをしたのですか?」

「いや、まあ、褒められるようなことはしてないし、むしろ一般的には犯罪行為に等しいことをしてますけど……ただ、それでも自分たちで作ってしまった罪や歪みなら僕たちがどうにかしないといけないと思うんです。だから、全てにケリをつけるまで終わるわけにはいかないんです。」

「なら、私たちも何も言うことはありません。あなたたちの行いは確かに悪なのでしょう。ですが、ならば戦場に立つ全ての兵士は悪なのではないでしょうか。命を尊いものとしながらも、命を奪って厚顔無恥にも正義を謳う……それこそが、何よりも度し難い悪だと私は考えます。」

その言葉にユーノは何かを言いかけて口ごもった。
それを見て、カリムは「わかっています。」と肯いた。

「私も誇りを掲げる騎士。自分の行っていることが矛盾していることは承知しています。ですが、歪んだ正義を押し通そうとする者たちを跋扈させないために、私たちは矛盾をはらんでいても誇りを貫くのです。誰かが戦場に立ち、道を誤らぬように人々を導く必要がある。だから、騎士は高潔な精神を持つよう心掛けているのです。」

「僕はそこまで立派な人間じゃないんですけどね。」

そう言って苦笑したユーノだったが、扉の開く音に振りかえると小さな体がタックルをしてきているところだった。

「パパ~!」

「や~、ヴィヴィオ!いい子にしてた?」

「うん!」

同伴してきた刹那とジルも思わず微苦笑してしまうような微笑ましい光景に、シャッハもヴェロッサへの小言を忘れてユーノからヴィヴィオを受け取る。

「では、ヴィヴィオさんは責任を持ってお預かりします。」

「すいません。交換条件なんてつもりはないんですけど、これから先のことを考えるとやっぱり……」

「お子様の安否を気遣うのは当然です。お気になさらぬよう。」

プトレマイオスを離れることを最後までぐずったヴィヴィオだったが、母恋しいのに加え、おまけをつけたらあっさり落ちてくれた。
もっとも、おまけの内容がかなり子供の要求するものにしては過激なのだが。

「約束だからね、パパ!帰ってきたら私にもハロちゃんくれるんだよね!」

「あ、ああ、うん……もちろん…そのうちね……」

ただのハロではない。
ユーノや刹那、ロックオンが使う物と同レベル。
AIや遠方との通話機能はもちろん、演算能力からメカニックの整備、構築。
とにかく、現存する情報端末の中でトップクラスの性能を持つものをヴィヴィオは要求してきたのだ。
簡単に作れるものではないし、当然イアンに頼んだら烈火のごとく怒られた。

(……いいのか?)

(だって……こうでも言わないと残りそうな勢いだったもん。)

(それもだが、俺が言っているのは別のことだ。)

わかっている。
おそらく、帰ってきたらという部分に関しては実現不可能だろう。
ハロを渡すのはエリオかウェンディの役目になるはずだ。


(やはり……娘には自分の死にざまは見せたくないものか?)

(まあ、ね……僕がいなくなるって意味じゃ同じなのかもしれないけど、同じような思いはさせたくなかったから。)

ユーノの寂しげな笑顔を見ていた刹那は、「帰ってやれ。」とは言えなかった。
彼の決意がその程度で揺らぐとは思えなかったが、それを口にしてしまったら辛さが増してしまう。
ユーノもそうだが、刹那自身もいたたまれない気分になりそうで、それをどこかで恐れていた。

「それじゃあ、明日はいい子でここにいてねヴィヴィオ。すぐに怖いのは終わっちゃうから。」

ユーノ、ヴェロッサ、エリオ、ウェンディ、ヴァイス、ジル、リインフォース。
こちら側の人間である彼らを地球圏の中だけで終息するはずの戦いに故郷ごと巻き込んでしまった。
そんな彼らに何を返せるのか。
決まっている。
刹那は、戦うことでしか彼らの想いに報いることができない。
ならば、全力を尽くして戦おう。
この世界と、そこに住まう人々のために。



翌日 聖王教会周辺 北部

MSの数こそ少ないが、袋のねずみという言葉がこれほどしっくりくる状況はほかにはあるまい。
聖王教会に続く道はすべて封鎖済みで、空と陸の両方から取り囲むように魔導士が配置されている。
一見すれば敗戦一歩手前なのは明白なのだが、なかなかどうして。
諦めが悪いうえに腕の立つ人間が数人いるだけで戦況という物は一変する。

「あれは?」

進軍していた局員たちは道路の真ん中の人影に気づいて何者か確認しようとするが、彼は敵の姿を確認した時点で攻撃の体勢に移っていた。
脚の固定用クローで路面を砕いてしっかり掴むと、両肩に担いでいたバズーカに魔力を溜めこんでいく。
そして、臨界に達したところで局員たちの視界は吹雪と紫紺の魔力で埋め尽くされた。

〈Critical blizzard!〉

大半の人間が、何が起こったか確認することすら許されずに氷漬けにされ、わずかに残った数名も冷気と恐れからくる震えで歯を打ち鳴らしながら、しかしそれでも報告の責だけは忘れなかった。

「こ、こちら第4小隊!!ソレスタルビーイングの魔導士と思われる敵とせ……」

「ティエリア・アーデ、目標を殲滅する。」

〈Snow blow!〉

その報告も、ティエリアの第二射の前に中程で途切れてしまった。



西部

ティエリアが暴れ始めた東側の正反対の場所では、フェルトが腹這いになって待っていた。
神経を研ぎ澄ませ、心を静め、魔力も最低限に抑え、すらっと高い草の茂みから銃口とスコープだけを出して。
イネ科の植物特有の青い臭いが鼻孔をくすぐるが、身も心も狙撃の構えに入っているフェルトは意に介さない。
むしろ、引き金にかけ続けている指がクックッと自分の意思に反して曲がろうとしていることが今の彼女の関心事のすべてだった。
と、その時。
なにも知らない標的が、警戒こそすれフェルトに勘付く様子もなく無防備に頭部を晒したまま現れる。

「……ケルディム、コンディションチェック。」

〈風速、北へ秒速0.2m。大気の魔力濃度、14%。遮蔽物、散在。目標との距離、743m。狙撃可能と判断。〉

「了解。フェルト・グレイス、作戦を開始します。」

相棒であるD・ケルディムがゾッとするほど抑揚のない声を発したフェルトはトリガーを引く。
その瞬間、スコープの向こうで一人倒れた。

(まず一人……)

向こうはまだ取り乱している。
まだいけると判断したフェルトは続いて二発の弾丸を撃ち込む。
今度は二人が側頭部に魔力の塊を受けて昏倒する。
その時になってようやく狙撃手のいる方向を割り出した局員たちは背の高い茂みを目指すが、同時にフェルトも中腰になって移動を開始する。

「シールドビット、散開。」

茂みの揺れが幾つにもわかれて移動していく。
合計で10。
どれが当たりなのかわからない局員たちは仕方なく上から射撃を浴びせようとするが、小さい、しかも反撃をしてくる的に攻撃をヒットさせるのは困難を極める。
接近するのはなおさら無理だ。
しかも、明らかに自分たちの射程より遠くから、正確無比に狙いをつけてくる。
おまけにこの青々と茂る草々は想像よりも範囲が広く、これだけ散らばられては全てを完璧に補足するのはまず不可能である。

(……そこっ!)

また一人、頭を撃ち抜いてフェルトは移動する。
バイザーには常にシールドビットからの観測データと敵の配置が表示されている。
地の利と合わせ、敵を突破させない自信はあるが油断はできない。
というよりも、油断や慢心といったものが今のフェルトから欠落していると表現するのが正しいのかもしれない。
戦闘に集中しなければならない状況で、今の自分に感情は無用なのだと分かっていても、そんな自分にフェルトは小さく笑って再びスコープを覗きこんだ。



南部 上空

蒼い剣士と賢帝を魔導士たちが取り囲む。
だが、誰一人動こうとしない、否、動けないのだ。
下手に仕掛ければ、下で倒れている仲間の二の舞になる。
一分にも満たないその時間で相手にそのことを理解させるほど、今日の刹那の動きはキレていた。

「……蒼牙一迅。」

「え……?」

いつ接近を許したのかわからなかった。
気がつけば、優雅に佇む姿を見上げながら落ちていっている。
活け作りにされた魚の気分を体験しながら意識を手放した局員は、ある意味では幸運だったのかもしれない。
残った局員たちと違って痛みを感じずに済んだのだから。

「ダブルオー、ライフルモード。」

〈Ja〉

刹那の持っていた剣が突如変形し、銃口と思しきものを残りの魔導士に向けている。
その時点で、彼らは射砲撃に移るべきだった。

「ソニックシューター。」

〈Sonic shooter〉

逆巻く風を纏い、青い魔力が間断なく撃ち込まれていく。
刹那からすればただ射撃魔法を行使しているだけなのだが、風撃変換によって生み出された圧縮空気を纏った射撃はいうなれば大気の爆弾。
当たった瞬間に弾け、魔力によるダメージと共に強烈な衝撃を体に叩きつけてくる。
それが何発も来るのだから痛いなどという生易しいレベルではない。
叶うならば無様でもいいから地面の上をのたうちまわりたい。
本能的にそんな欲求を抱いてしまうほどの激痛だ。

「うぉ~、痛そ~……」

ひきつった笑みで落ちていく局員たちを見送るジル。
つくづく刹那が敵でなくてよかったと思う。

「ジル、次はどこからくる。」

「正面から第二陣が来る。それと、喰い残した連中だけど……」

「問題ない。エリオがいる。」

その瞬間、後方で地上から空へと雷が昇る。
足元に焦げ跡と倒した敵を残し、エリオは前を守る刹那に微笑みかけた。
どうやら、絶好調なのは刹那だけではないらしい。



東部

「轟魔猛撃!!」

〈Buster break!!〉

翠に輝く脚が振り抜かれるとプロテクションが粉々に砕け散り、その奥にいた魔導士もその強烈な威力に数m吹き飛ばされる。
普通なら圧倒的な数に取り囲まれているユーノを心配するべきなのだろうが、逆に彼の攻撃を受けている局員たちの命が心配になってくるほどだ。

「えっげつな~……」

「君が言うか。」

確かに、マレーネとの突撃で十人前後を人身事故のごとく吹き飛ばしたウェンディにユーノを批判する資格はない。
が、それでもやはりやり過ぎの感は否めない。

〈マイスターは手加減だけはちゃんとしてますから!〉

「だけってなんだよ、だけって……さっ!!」

八つ当たり気味に後ろにいた局員の鼻面に裏拳を叩きこみ、続いて右の脇腹に拳を撃ち込んで体をくの字に曲げさせると、今度は後頭部に拳鎚を一閃させて沈める。
たしかに、生半可な技術を持つ人間では相手を死に至らしめているかもしれないが、そこはソレスタルビーイングで鍛えられたユーノだ。
絶妙な力加減で振るわれる拳足は対人間気絶マシーンとでも呼ぶにふさわしい精度をほこっている。
もっとも、そう呼ばれたところでユーノは全く嬉しくないだろうが。

「しかし、手応えがないな。いくらなんでも緩すぎる。数だけで押しつぶせるほど簡単な話じゃないことはわかってるはずなのに。」

「奥の手があるってことっスか。」

第一陣を全滅させたところでウェンディはユーノのすぐそばまで下りてくる。
なのはたちがミッドに入ったという情報は得ていないし、仮に彼女たちが来ていたとしてもカリムから受けた大恩を仇で返すとは考えにくい。
なにより、敵に情けをかける可能性のある人間を戦列に参加させるだろうか。

「ま、とにかく身内が出る可能性は低いっスね。六課の戦闘要員のほとんどはこっちか別行動中……」

「六課のメンバーが相手とは限らねぇだろ?」

一瞬の出来事だった。
ボードを残してウェンディが消え、代わりに空から伸びていた黄色い道を駆け抜ける少女の蹴りがユーノの防御を叩いた。

「っ……ウェンディ!!」

「~~っ……!!こ、こっちは何とか大丈夫っス。」

そうは言うが、バリアジャケットの腹部が抉り取られ、臍を中心に痛々しい痣がくっきり刻まれている。
しきりに嘔吐くウェンディの様子からもダメージが深刻なことが手に取るようにわかった。
だが、それで満足することなく、彼女の姉はそれでもなおウェンディへの怒りをたぎらせる。

「痛いだろうな……けど、ゲンヤさんがお前から受けた痛みのほうが何万倍もでかいんだよ、ウェンディ!!」

「クッ……」

チャージを紙一重でかいくぐり、地面に転がっていた相棒を手に再び空へと舞い上がる。
だが、黄色い道はウェンディのすぐ横にピッタリと寄り添っていた。

「こんな作戦に参加するなんて……堕ちたもんス、ノーヴェ!!」

〈Missile rain!〉

「っるせぇ!!あたしらの目標はあくまでお前らだ!!」

誘導弾と直射弾の応酬。
今はミドルレンジで射撃魔法を交換し合っているだけだが、もしクロスレンジでの戦いになればウェンディが圧倒的に不利だ。
ノーヴェの本領は打撃戦で発揮される。
近距離での武器はウェンディにもあるが、威力、手数、小回り、全ての点でノーヴェが一つ上を行っている。
勝ち目は万に一つも望めない。

「ウェンディ!!」

ユーノは二人の間に割って入ろうと飛び上がるが、横から直進してきた高威力の砲撃がそれを阻んだ。

「つ…!!あぁ……!!」

「ユノユノ!!」

「人の心配をする余裕なんてあんのか!?」

鼻先をかすめたノーヴェの拳にウェンディは再び飛ぶことに意識を集中させる。
実際、砲撃が当たる前にシールドとプロテクションで威力は殺していた。
だが、それでもなお貫通してダメージを通してきたのだ。
こんな並はずれた威力、なのはやはやてを除けばユーノには一人しか思い当たらない。
直接手を合わせたことはないが、六課のフォワード陣を追い詰めたあの砲撃。
確か、ナンバーズの10番。

「ディエチって子か……!!」

鈍色の煙を上げながら地上に着地したユーノは、遥か遠方にいる狙撃手を睨む。
第二陣にまぎれ、巨大な砲身をこちらに向けているその顔はどこか悲しげだった。

「ごめん、ウェンディ……」

「させるか!!」

謝罪の言葉と同時に放たれた一撃はすんでのところでユーノが防いだ。
魔力のチャージに時間を要するのか、最初ほど威力はなくプロテクションだけで十分防げた。
だが、ウェンディに与えた動揺は大きい。

「ディエチまで……!!」

「油断するな!!まだ来るぞ!!」

そう、まだ来る。
波のように押し寄せる魔導士たちに歯噛みするユーノ。
この数を相手にするのはさほど問題ではない。
むしろ、足止めをしてくるこの二人をどうするのかが一番の問題だ。
これだけ厳しく攻め立てられては進軍する敵を抑えるのは困難を極める。

〈マ、マイスター!!敵勢力、戦線を押し上げています!!〉

〈最終防衛ライン到達予想時間、960セカンド!!迎撃を要請します!!〉

「迎撃!?それ誰がするんスか!?」

「ごちゃごちゃうるせぇ!!」

今度は魔力弾がウェンディの前髪を掠める。
もう、ほとんど余裕はない。
敵の進軍を止める余裕さえも、もう二人にはなかった。



ベルカ自治領 上空

最後の一機が膝をついたところで、ようやくロックオンとアレルヤは聖王教会の状況を確認する。
流石に数が少ない代わりに手練が揃っていて苦戦してしまったが、どうやら向こうはもっと深刻そうだ。

「おいおい、ティエリアの奴押されてんじゃねぇか?」

「ティエリア、ピンチ!ピンチ!」

拡大した映像にはティエリアがヒットアンドアウェイを仕掛けられ翻弄される様がありありと映し出されている。
バズーカで必死の抗戦を試みるが、青髪の少女には掠りも……

「青髪?」

今度はティエリアではなく相手の方をアップにする。
空中に出現させた道をローラースケートで疾走しながら、すれ違いざまに体重の乗った拳を叩きつけていく。
青い長髪を揺らしながら戦う少女は、間違いなくあのとき出会った彼女だった。

「……マジか。」

「ロックオン?」

「ロックオン?ロックオン?」

アレルヤとハロの追及に今は答えてやれるほどの元気はない。
というより、この映像でその気力も萎えた。

「……後で説明する。それより、お前の彼女の準備はOKか?」

『言われるまでもない。いつでもいける。』

やや不満げな顔にロックオンは肩をすくめるが、マリーはいちいちかみつくのもバカらしいと思ったのか正面をキッと睨みつける。

「そっからだとティエリアのいる地点が一番近い。俺たちも必要なら援護する。」

『必要ない。MSの増援がないかだけを気にしていろ。』

「へいへい。」

マリーとの通信が終わると、ロックオンはアレルヤの様子をモニター越しに伺う。
いかにも心配だという表情を誤魔化そうともせず、いつまでもマリーが映っているモニターから目を離そうとしない。
余裕がないのか、それとも端から眼中にないのかは知らないが、ロックオンに見られていることを忘れているらしい。

(ったく……女の扱いがなっちゃいねぇなぁ。)

ロックオンもそれほど経験豊富なわけではないが、心の機微を捉えることに関してはそれなりに自信はある。
素直なのはアレルヤの美点ではあるが、もう少し駆け引きという物を覚えたほうがいい。

(……ま、俺もそろそろ仕掛け時かね?)

そんなことを考えながら、ロックオンは手元にある七色の鱗に視線を落とした。



北部

受け止める度にティエリアの腕に痺れが奔る。
踏ん張る度に舗装が削れ、立ち位置がずれていく。

(強い……!)

すでに彼女が来てから何人か通過を許してしまった。
間隙をついて砲撃で牽制、撃墜はしているのだがもうそれも追いつかなくなりつつある。

「でぇい!!」

「クッ……!」

今度はいっそう大きく弾き飛ばされる。
倒れないように脚に力を込めるが、体勢を整える間もなくさらに少女の突進は続く。

「ハァッ!!」

「っ……!!」

〈Protection〉

間一髪で防御が間に合った。
────かに思われたが。

「ハアアアァァァァァァ!!!!」

「なにっ!?」

その光景に冷静なティエリアも青ざめた。
少女の手首が、あり得ない動きを始めている。
手刀がドリルのように回転を始め、プロテクションを抉っていく。

「これで!!」

「クソッ!!」

防御を捨てての緊急回避。
このタイミングでは通常は間に合わずに撃墜。
仮に避けきれたとしても追撃で終わりなのだが、相手も必殺の心構えで撃ったせいでプロテクションの支えが無くなった瞬間つんのめって追撃がワンテンポ遅れた。
結果、二発目はティエリアの頬の皮を浅く斬り裂くにとどまる。
咄嗟の判断がティエリアを救ったのだ。

(まずかった……!まさかあんなものを使えるとは!!)

予想外の攻撃に動揺するティエリアだが、それ以上に動揺しているのは相手の方だ。

(まさかあのタイミングでかわされるなんて!!)

もう攻撃が当たる直前だった。
あそこで防御を解いて回避に移る人間はそういない。
回避を成功させた技術もさることながら、紙一重の状況下であの判断が下せる胆勇は敵ながら頭が下がる。
だが、

(落ち着きなさい、ギンガ!ペースは私が握っている!!このまま行けば私が勝つ!!)

そう、このままではティエリアが負ける。
距離を潰され、砲撃を撃つひまさえ与えられないままではギンガの勝ちは揺るがない。

〈ティエリア、わかってると思うけどヤバいぞ!?〉

「ああ……!このままでは…」

〈Vision Kugel!〉

不意に背後から飛んできた一撃にティエリアは背筋が凍る。
だが、ティエリアの悪寒とは裏腹にその一撃は無警戒なギンガの左肩を捉えていた。

「くっ!?」

バランスを崩しながらもなんとか止まったギンガはそのまま新たに現れた敵のもとへと駆け上がる。
しかし、黄昏色の鎧を身に纏うマリーは退くどころか魔力刃を展開して迎え撃った。

「「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

加速のついた拳とブースターで突進力を強化された刃とが火花を上げる。
余波で体を刻まれながら、なおも文字通りの命の削りあいを挑むマリー。
しかし、ギンガにはそんなものにつきあう気は毛頭なかった。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「!」

鬼気迫るマリーを前にギンガは一旦さがる。
しかし、すぐに落ち着きを取り戻す。
なぜなら、彼女からは怖さを感じない。
あえて言うなら、癇癪を起している子供を前にしているような、そんなものしか感じない。
先ほどまで戦っていた青年よりも与しやすいかもしれないと思うほどに。

「ここは私が抑える!!お前は教会へ向かった奴らを追え!!」

「了解した。」

そうしてもらった方がギンガとしても助かる。
向こうも防衛線の維持に必死なのだろうが、こちらも2対1では分が悪い。
ならいっそ、目の前にいるこの敵を倒してからもう一人も仕留めるほうが効率的だろう。

「ギンガ・ナカジマ、吶喊します!!」

「ソーマ・ピーリス、目標を排除する!!」



西部

何度目かの尖刃の煌めきにフェルトの頬を汗が伝う。
声こそ上げないが、上にある緑が宙を舞う度に恐怖で体がすくんだ。

「IS、スローターアームズ。」

再三シールドビットではなくフェルトにだけ金属製のブーメランが投躑された。
位置を掴まれぬよう最低限の動きだけでかわすが、もう狙撃どころの話ではない。
シールドビットが残りの局員を足止めしている分、フェルトへの攻撃も熾烈を極める。
これなら、無理に足止めをしないで後ろに控えている騎士たちに素直に任せるべきだった。

(けど、泣き言なんか言ってられない。勝つ必要なんてないんだから。)

作戦開始からすでに20分。
そろそろアイナが手筈を整えて彼らを連れてくるはず。
それまでは、何としても持ちこたえなくては。

「そこです。」

(!)

間一髪かわすが、地面に刺さったセッテの得物を見てフェルトは気付く。

(茂みが!?)

フェルトを隠していてくれた茂みがあらかた刈り取られてしまっている。
残された範囲はせいぜい3m四方。
シールドビットを囮にしようにもこれだけ範囲が狭まってしまってはほとんど無意味。
もう隠れて狙い撃つことは不可能に近い。
ならば、フェルトに残された手は一つだけだった。

(前に出て飽和射撃で殲滅する!)

〈チョイ待ち、俺としては反対だね。待ち伏せされてる所に飛び出すなんて袋叩きにしてくださいって言ってるようなもんだぜ?〉

(でも、もう隠れるのは……)

「かくれんぼはおしまいです。」

セッテから冷たく宣告され、さらにフェルトの覚悟は頑なな物になりつつある。
その時だった。

(フェルト、教会の方向から茂みの外へ出ろ。)

(!?刹那!?)

南部の防衛に当たっているはずの刹那の声に吃驚するフェルトだが、すぐさまエリオからも催促を受ける。

(早く!!後は僕らで何とかします!!)

(……了解。)

〈Force detonation!〉

今まで抑えてきた魔力を解き放ち、その爆発力を以ってフェルトはその場から急速離脱を開始する。
だが、それを見逃すほどセッテは甘くない。

「ハァッ!!」

轟々と唸りながら湾曲した刃がフェルトへと迫る。
しかし、雲すらも斬り裂く突風がその凶刃を空へと跳ね除け、さらにセッテが撒き散らした青草を彼女たちのもとへと吹き戻した。

「エリオ、いまだ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

覇気と共に放たれた槍は捲き上がった葉へと雷を落とす。
雷撃は火へ、そして風に煽られた火は炎へと変化し、炎は雷撃を纏って瞬く間にセッテたちに牙をむいた。

「「カタストロフスカイ(破滅の空)!!」」

「これはっ……!!」

魔力によって生み出された炎と電撃は風を味方につけてさらに猛り、辺り一帯を破壊していく。
不幸なのはそれに巻き込まれたセッテと局員たちだ。
フィールドで周囲を覆うが、電撃と火炎はそれすらも食い破りバリアジャケットの上から彼女たちを炙った。

「うっ……く…」

草原が焼け野原に変わった時、意識を保っていたのはセッテ一人だけだった。
上への退避が間に合ったものの、彼女も火傷、そして電撃と刹那の風撃変換の副産物である鎌鼬によって深刻なダメージを受けている。
誰の目からも戦闘続行は不可能に思えた。
だが、

「I…S……スローターアームズッッ!!」

限界を告げる体に鞭を打ち、攻撃の姿勢を崩さない。
しかし、満身創痍の状態で放たれた攻撃が刹那に当たるはずがなかった。

「もうよせ。勝負はついた。」

「それ以上やったらあんたの体が…」

「構う……ものか……!!」

刹那によって弾かれた武器を拾い、それを杖の代わりにして刹那へ向けて一歩、また一歩と歩みを進める。

「ウェンディを……取り戻す、までは……!!ゲンヤさんが……父さんが、笑ってくれる……まではっ!!」

刹那の前にたどり着いたところでセッテは刃を振り上げる。
思わず目を閉じるジルだが、刹那が動く気配もなく、さらに衝撃もないのでそっと片目を開いた。

「……気絶している。」

刹那の言葉にジルはセッテの顔まで近づいて覗き込む。
虚ろな瞳で下を向き、しているのかどうかも分からぬほど浅い呼吸を繰り返している彼女は目の前でジルがどれほど手を振ろうと動くことはなかった。

「凄まじいな。ウェンディを想うが故に出せる力か。」

「……やっぱり、ウェンディも僕も帰るべきだったんでしょうか?」

「つまんねぇこと考えんなよ。その時はその時で、こいつはまた別の理由で俺たちの前に立ちはだかってたさ。……おっと。それはそうとフェルト姉ちゃんは?」

「私は大丈夫。」

シールドビットを回収し終えたフェルトは少しバツが悪そうに合流する。

「ごめん、私のせいで刹那の邪魔をして。」

「問題ない。俺の担当していた場所には大した敵は来ていない。シャッハ・ヌエラからもフェルトの援護に回るよう勧められた。」

「そう……」

「こっちも片付いたし、早く他のみんなの援護に行きましょう。」

「ああ。」



東部

地上を滑って移動するユーノの足元に次々と穴があいていく。
舌打ちと共に空へと上がってウェンディとノーヴェの戦いに介入しようとするが、それも遠方からの砲撃で封殺された。

(どうする……!?力でねじ伏せようにも格闘タイプの子には砲撃が邪魔で近づけない……かといって砲撃タイプの子を撃墜する前にウェンディが無事でいる保証はない!どうする……どうすれば……)

(ユノユノ。)

ウェンディからの念話にユーノの動きが一瞬鈍り、その隙を砲撃が逃さず捉える。
防御が間に合い事なきを得るが、考えごとの最中には味方からの念話や通信まで危険な因子になりえてしまう。
いや、焦りのせいで集中できていないせいだろうか。
気を引き締めてかからねば。

(……大丈夫っスか?)

(うん。それより、そっちの方がまずいんじゃないの?そろそろカートリッジも魔力もエンプティだろう?)

(あはははは……バレてた?)

(まあね。全力で飛ばしながらあれだけ撃ちあってればガス欠にもなるだろうさ。)

ノーヴェの追跡を受けながらの撃ちあいに加え、地上を進んでいた魔導士を撃墜しているのだからそれも当然の結末だろう。
しかし、ウェンディはラストカードをまだ切っていない。
彼女の持つ特性をフルに活かせるマレーネの形態を見せてはいないのだ。

(……なるほど。けど、それでどれくらい持つ?)

(単純な飛行だけでもかなり魔力を持ってかれるからせいぜい30秒ほどかな?けど、ディエチのまん前まではいけると思うっス。)

(オーライ。それで、あっちのローラーの子は?)

(エアライナーで回り込まれたらやべーっス。でも、直線ならこっちのスピードのほうが遥かに上……振り切る自信はあるっス。)

ならば、お膳立てはユーノの役目だ。
罠を仕掛けるなら地上スレスレ。
黄色い道がアーチ状になっている斜面が狙い目だ。

「ウェンディ!!」

叫んだユーノの視線の先を一瞥して肯くと、ウェンディは墜落と見紛うほどの速度で降下を始めた。

「逃がすか!!」

当然ノーヴェも追うが、差は縮まりそうで縮まらない。
やがて、緩やかな傾斜にユーノとウェンディがほぼ同時に到着する。
互いに手を伸ばしてしっかりと掴んだところで一旦スピードが落ちる。
一人分の重量が増えたのだから至極当然なのだが、ハイスピードでの攻防ではわずかな減速も命取りだ。
あっという間にノーヴェが差を詰め、必殺の拳を今まさに打ち下ろさんとしていた。
だが、すでに細工は終わっている。

「ディレイドバインド。」

「なにっ!?」

ユーノが宣言するよりも早く翠の鎖がノーヴェの手足を絡め取った。
上から下からと伸びてくる鎖にブレーキをかけられたローラーは魔力で編まれた道の上で空回りを繰り返す。

「クッ……ソッ!!こんなもん!!」

「ブレイク。」

引き千切ろうとしたノーヴェだったが、その瞬間にバインドが爆発。
さらにその煙にまぎれて飛んできた弾丸に額を撃ち抜かれて昏倒してしまった。

「悪いっスね、ノーヴェ。こっちもイチバチなもんで。」

「ほら、それより早く。」

「へーいへい……マレーネ、テールユニット展開。ただし、武装は解除でよろしくっス。」

〈了解。モード・アクセラレイト、限定解除〉

ウェンディが前のめりになった途端に体に受ける風圧が倍増しになった。
ユーノはウェンディの後ろで飛ばされないよう膝をついて翼にしがみついている。
流石に少し苦しいのか顔をしかめているが、それでも周りの局員と射撃の嵐をものともせずに突撃していった。

「速い……!!けどっ!!」

速い分直線的で動きも読みやすい。
おそらく、旋回性能など二の次なのだろう。
ならば、確実に仕留められる時を待って引き金を引けばいい。
しかし、ここで思わぬ変化が起こった。

「ゼェッ…ゼェッ……!!」

ウェンディの呼吸が闘牛のように荒い息遣いに変わっていく。
歯を食いしばり、グラグラと揺れる膝を支えながら必死に相棒を走らせ続けるが、スピードが徐々に低下し始めていた。

〈残り魔力わずか。モード解除を提案します。〉

「ま、まだ……あと、もうちょい……!!」

的確この上ない助言を無視してウェンディは限界ギリギリの速度を叩きだし続ける。
だが、すでにディエチの照準はウェンディを捉えていた。

「IS、ヘヴィバレル。」

砲門にエネルギーの塊が生成され始め、いよいよ停止寸前のウェンディにディエチ自慢の砲撃が撃ち込まれようとしている。
なのに、

「……へっ!」

(笑ってる!?)

狙撃手としての素質がそれを勘付かせたのかもしれないがもう遅い。
不敵な笑みを浮かべたままのウェンディがマレーネと共に地面を転がったところで、後ろにいたはずの人物が消えていた。

「どこに…」

「ここだよ。」

動く隙も与えず後頭部に手刀を一閃。
首を支点に揺らされた脳はあっさりと視界を黒で統一した。

「たたた……終わったんなら手ぇかしてほしいっス。」

ため息交じりに仰向けに転がるウェンディに手を貸して起き上がらせると、ユーノは腕に浮かびあがっていた翠のラインを消しさる。
相変わらず熱さはあるが、以前ほど痛みはない。
完全に覚醒したせいか、それとも以前に派手に使わされて体が慣れたのかは分からないが、この調子ならこの先MSでの戦闘でも手札の一つにはなりえそうだ。

「しかし、それって本当に万能っスね。自分で発動した転移をその最中に修正して相手の真後ろ取るなんて。」

「言うほど便利じゃないよ。タイムラグも大きいし、失敗したらどことも知れない場所に放り出されるか全身バラバラの状態で世界の名所巡りをする羽目になる。それに、視認しているところにしか飛べないんだからリスクの割にはリターンはそれほど大きくないよ。」

まあ、上手くいったので結果オーライだ。
ヒントを与えてくれたいつぞやのショートジャンパーに感謝しておこう。

「つーか、それ使ってれば早くケリつけられたんじゃないスか?」

「こんな綱渡りはもうごめんだよ。命がいくつあっても足りゃしない。」

「……世界に喧嘩売った人間が言っても説得力ないっス。」

肩を貸しているウェンディの視線が痛くて、ユーノは気まずそうに視線を外す。
まあ、正論ではあるのだが。

そんな風に一息つきながら後衛の援護に向かおうとしていた二人だったが、D・クルセイドの報告で戦いの終結を知る。

〈マイスター。アイナさんが連れてきた援軍が到着したようです。早速、大々的に報道してくれていますよ。映しましょうか?〉

「よろしく。やれやれ……ようやくか。」



ベルカ自治領

『速報です。現在、管理局による聖王教会への侵攻が開始されていたことが明らかになりました。中継です。中継のコルトさん?』

『はい!上空のコルトです!正門前では激しい戦闘が現在も繰り広げられています!ガンダムの姿も見られたのでソレスタルビーイングとの繋がりは明白かと思われましたが、彼らはMSを撃墜してからは動きがありません!』

『では、カリム・グラシア少将はテロ幇助は行っていないということでしょうか?』

『むしろ、管理局の機体は対人攻撃用に投入されていたように思われます!しかも、この数……わたくし個人の見解といたしましては、今回に限って言えば管理局の勇み足に他ならないと思わざるをえません!』

『なるほど……』

「なるほどね。そりゃ、こういうネタならマスコミは喜んで飛びつくだろうな。」

ロックオンは放映されている生中継を呆れ交じりの笑いで見つめている。
マスコミ関連へのアイナの人脈もさることながら、よくもまあこれだけ似たり寄ったりのアンチョコを独占スクープなどと称して複数の局のアナウンサーに渡せるものだ。
面の皮が厚いにもほどがある。

「しかし、なんでこんな似たり寄ったりの番組にみんなそろって喰いつけるかねぇ。」

「人間ってのは根本的にこういうもんが好きだってこった。清廉潔白な人間が裏で極悪非道の行いをしていることを暴きだしたり、悪人が実は善人で苦労していましたなんて話は民衆様の大好物だからな。」

「そんなもんかねぇ?ふ、わ~あ……」

ハレルヤの言葉に後ろに組んだ手に頭を預けるロックオンは大きなあくびで会話を終了する。

的は射ている。
人間はそういう側面も持っている。
だが、どうにも釈然としない想いがロックオンを閉口させた。

(だってよ……そいつを認めちまったら、もう何も言い張れねぇし引き金だって引けねぇだろうが。)

常人の神経なら舞台の上の道化を好んで演じようとすることはまずない。
どんなに真剣に取り組んだところで、遠くから眺めるだけの人間から笑えるパフォーマンスをしているだけだなんて思われたら、誰だって行動を起こせなくなる。
もっとも、そんなことなど関係なく突っ走る誇り高いピエロを二人ほど知っているわけだが。

「……ったく、あいつらにゃ本当に敵わねぇな。」

ロックオンの独り言はハロの音声認識ソフトに記録されたが、他愛のない内容だと判断され即座に消去された。



聖王教会 正門

「騎士カリム。」

ウェンディに肩を貸していたユーノは一足遅れて防衛に当たっていたメンバーに合流する。
だが、どうにも様子がおかしい。

「どうかしましたか?」

戦いが終結したのに空気が重い。
何か問題でもあったのだろうか。
そう思っていた二人に、カリムは表情を曇らせたまま告げた。

「司書長。お伝えしなければならないことがあります。」

「はぁ。」

「……ソーマ・ピーリス殿が、管理局に拘束されました。」

ユーノの気の抜けた顔が、一瞬のうちに緊張感を取り戻した。












己の心に抗う
それは、激流に身を投じるがごとく




あとがき

はい、ヴィヴィオ帰還のための布石のはずが次回のマリー&アレルヤ無双の布石になってしまった第60話でした。
……ホント、どうしてこうなった?
あ、でも次回にはちゃんとヴィヴィオはなのはのところに無事カムバックさせるつもりです。
ただ、その前か最中にアレルヤが叫んだり、マリーが暴走するだけですw
いや、暴走って意味じゃ今回も結構やっちゃってんだけど……
でも、できればそろそろデバイス持ちの皆様にトランザム使わせておきたいってのもあるので、次回も魔法戦メインになりそうです。
でも、アレルヤとアリオスにつけられた電池なんて不名誉なあだ名は返還させますw
挟んではブッタ斬って、乱れ撃っては花火を上げて……なんてできればいいなぁ(オイ)
よろしければ次回も見てみてください!



[18122] 61.前へ進むために……
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/03/30 18:32
108部隊 留置場

暗い部屋の中でマリーは苦々しげに右の掌を見つめていた。
最後のあの攻防。
なぜ、あの時に斬ることを躊躇してしまったのか。
敵であるあの女にかける情けなどないはずなのに、なぜ太刀筋を鈍らせてしまったのだろう。

やはり、あの騎士の言っていることは正しかったのだろうか。

「そんなわけあるか!!」

むしゃくしゃした気分を床にぶつけるが、逆に彼女の両の手に鈍い痛みが残る。
愛機を奪われ、しかも拘束までされて無様に捕らえられた自分を嘲笑うようなその痛みに、マリーは静かに泣いた。

「違うって言ってよ……ソーマ。」

もう一人の自分に救いを求めるように、何度もつぶやきながら。



部隊長室

「てこずったみたいだな。」

いつもとは逆にゲンヤがギンガに湯呑に入った日本茶を差し出す。
頬に張られた白いバンドや手の甲に刻まれた無数の切り傷からも激戦だったことが分かるが、それよりも気になることがある。

「……ウェンディはどうしてた?」

ギンガには悪いが、ゲンヤにはそちらの方が気がかりだった。

怪我はしていないか。
何か変わったところはなかったか。
悩んでいることはないか。
そんなことばかりが頭をよぎるが、結局言葉にできたのは「どうしてた?」の一言。
だが、そんな漠然とした問いに答えられるのが家族というものだ。

「私は会いませんでした。ただ、ノーヴェやディエチの様子を見ると元気でやってるみたいですね。」

ノーヴェの怒りようを思い出してギンガは微苦笑する。
気持ちはわからないでもないが、自分でも驚くほどホッとしている。
きっとゲンヤも同じだろう。
素直に喜んでいいことではないが、あんな作戦に参加した甲斐があったというものだ。
それに、彼女のこともある。

「それで、連れてきたお嬢ちゃんからは何か聞けたか?」

「名前はソーマ・ピーリス。元地球連邦所属の兵士だということ以外は何も。」

「そうか……」

予想はしていたが、黙秘され続けるのはマズイ。
このことはすでに上に報告済みで、明日の正午には彼女をアロウズに引き渡すために護送部隊が来る。
その前に何らかの情報を掴んでおきたい。

「しかし、あの胡散臭い爺様に従わなきゃいけないなんて世も末だな。これじゃ管理局はあの爺さんの私設部隊と変わらないな。」

「部隊長、それは……」

「わかってるよ。オフレコってやつだ。」

ゲンヤ、というよりも108部隊の評価はすこぶる悪い。
ただでさえファルベルに目をつけられているのに、こんなことを聞かれでもしたらクビが飛ぶくらいでは済まない。

「そろそろ胡散臭さに気付いてる連中もいるみたいだが、ここまで爺さんの好き放題にさせちまったからな。抗議どころか疑問を口にすることも難しいかもな。」

「でも……あの人たちなら。」

はやてやなのはたちなら、今の局をまともに戻せるかもしれない。
そんな期待をよりどころに、ゲンヤは己の使命を全うし続けるのだった。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 61.前へ進むために……


プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

一人残ったアレルヤは、マリーを止めなかった後悔とそれができなかった己の無力さにうちひしがれていた。
亡きセルゲイとの誓いを破りマリーを戦いに巻き込み、挙句また彼女を失ってしまった。
これがアレルヤの受けなければならない罰だとしたら仕方ないのかもしれないが、二人の関係の終焉がこんな形であるというのはあまりに残酷だ。
いや、終わりになるかどうかは明日に全てかかっているのだが。

(おいおい、諦める気かよ?)

「……僕にはどうすることもできないんだ。諦める以前の問題だよ。」

「らしくないね。君がこんなに根性無しだと思わなかったよ。」

壁に寄りかかったままアレルヤはいつの間にか戻ってきていたユーノが投げたドリンクカップを受け取る。
しかし、中身がなんであるにしろ口をつける気にはなれなかった。

「これじゃ牢屋から助けたのも無意味だったみたいだね。ああ、それとも入る前からそうだったのかな?」

「黙れ……!!」

近付いてきていたユーノの胸倉を掴み、アレルヤはハレルヤのように語気を荒げる。

「君にはわからないだろうね……!!力のない人間の気持ちなんて!!」

「わかりたくもないね。奪われたものを取り返そうともしない負け犬の気持ちなんて。」

並みの人間だと指がもげるほどの力でユーノはアレルヤの手を引き離す。
そして、逆にアレルヤの襟首を渾身の力で握りしめた。

「彼女が君の戦う理由だって言ったあれはウソか?君の戦う理由っていうのはそんな簡単に消えてしまうようなものだったのか!?」

「それは……」

答えに詰まるアレルヤ。
その様子にこの場で待っても無駄だと悟ったのかユーノは手を離して扉へ向かう。

「今ならまだスメラギさんに作戦参加の意向を伝えられると思うよ。もっとも、参加させるかどうかはスメラギさん次第だけどね。ああ、それと……」

去り際に、ユーノが振り返る。

「自分の無力さなら、とうの昔に僕も味わっている。だから、今ここにいるんだ。」

過去の自分へ投げかけるようにそう言い残したユーノは、今度こそ外へと出ていった。
戦友が再び戦う理由を取り戻すことを信じて。
そして、自分の遺志を継いでくれると信じて。

「うっ……」

胸の奥からせり上がってきた熱い感触を堪え切れずにユーノはそれを手で受けとめる。
黒に近い赤が手の平を汚し、ユーノの口の中に塩辛い鉄の味を広げていく。

「こりゃ……いよいよヤバい、かな?」

アレルヤの前でこんな姿を見せずに済んだのがせめてもの救いである。
想像以上に速い症状の進行にもう笑うしかない。

「悪いね……エレナ、ロックオン。どうやら、僕の方は変わる前にそっちに行くことになりそうだ。」

壁を伝ってなんとか歩きだすユーノ。
だが、彼はまだ知らなかった。
この時、もうすでに自分が変わり始めていることに。



聖王教会

「ママー!」

「ヴィヴィオ!!」

無限に思えるほど長かった。
久々に抱きしめた我が子の温もりに、涙をこらえられないなのはは人眼もはばからず床に泣き崩れた。

「よかった……!本当に……本当に良かった!!」

「い、痛いよ、ママ……」

抱く力が強すぎてヴィヴィオが苦しそうだが、それでもなのはは離そうとしない。
が、苦笑交じりのはやてとミンがそれを止めた。

「なのはちゃん、せっかくヴィヴィオが戻ってきたのに窒息させたいん?」

「気持ちはわかるが……一応は重要参考人だ。一通り聴取が終わるまでそういうのは待ってくれ。」

「う……は、はい…」

ミンに笑われたのがよほど恥ずかしかったのか、顔を赤らめてようやくヴィヴィオを離す。
プハァと大きく深呼吸をして、ヴィヴィオはニコニコ顔でミンの袖を握りしめる。
とても事情聴取をする側とされる側の画には見えないが、ヴィヴィオは本能的にミンの本質を見抜いているようだ。

「ほんまにありがとうございます、ミン大尉。まさか、ヴィヴィオちゃんを私らの保護下におけるなんて…」

「あくまで私の監視の下で、という条件付きだがね。喜んでもらえたのならこんなライセンスくらいいくらでも役立ててくれ。まあ、それはひとまず置いておこう。それより、だ…」

ミンはなのはに、そして同席していたカリムやシャッハにも聞こえないようにはやてに耳打ちする。

(マネキン大佐と連絡が取れた。)

(それで、返事は?)

(地球連邦そのものに弓を引くわけでなければ了承するそうだ。)

(わかりました。それで、ソレスタルビーイングは?)

(利用できるならばなんでも利用するのがあの人のやり方だ。それと、できることならクロノ提督もこちら側に引き入れておいてほしいそうだ。)

(またごっついしんどいお願いを……)

まあ、それははやても考えていたことではあるのだが。
しかし、問題は管理局……というより、ファルベルだ。
表向きは協力体制にあるが、すでに連邦と管理局の関係には歪みが生じ始めている。
共通の敵であるソレスタルビーイングのおかげで辛うじて目に見える形で噴出はしていないが、それも時間の問題だろう。
あの老人がそのことを理解していないとは思えないし、その時まで黙っているとは思えない。
───思えないのだが、それ以上の何かが、もっと大きな、世界を覆ううねりのようなものが動き始めている気がするのだ。

「ねぇねぇ?」

考え込んでいたはやてにヴィヴィオの問いかけが冷や水のように浴びせかけられる。
驚いて思わずあちこち見渡すが、ヴィヴィオが問いかけたのははやてではなくシャッハの方だったらしい。

「セインはどこに行ったの?」

「は!?え、ええ、そうですね!まったくあの子はまたサボって!!」

妙に大きな声でここにいないセインを叱責するシャッハだったが、その挙動を見逃すほどはやてもミンも甘くない。

(……あの、大尉?)

(……言うな。彼女たちには借りが一つできたとでも思っておけばいい。それに……)

ミンがフッと笑う。

(元部下を助けてくれるんだ。今回ばかりは、個人的には頑張ってもらいたいのさ。)



翌日 108部隊隊舎 地下

「……あのさ。やっぱここで帰ったりとかしちゃ……駄目?」

「駄目。」

妹からの容赦のない通告にがっくりと肩を落とすセイン。
ほぼ無警戒とはいえ、こんな犯罪じみた真似……いや、実際問題犯罪の片棒を担いでいるのだが。

「あたしはもうこういうことからは足を洗ったんだけど……つーか、またこんなことしたのがばれたら今度こそ一生牢屋暮らしだよ……」

「大丈夫、大丈夫。バレなきゃ犯罪やっていようとやってないのと同じっス。」

「それこそ犯罪者の理論だろうがっ!!あ、そういやあんたらそうだったっけ。」

ボヤキながらもセインは後ろにいた六人+一騎と手をつなぎ、目の前の壁へ足を踏み出す。

「いい、行くよ?せ~の……」

ゴボリと固体とは思えない音をたてて壁に吸い込まれていくセイン。
彼女に触れていた六人もそれと同時に壁の中に入り込み、上へ上へと引っ張り上げられていく感覚だけが体を支配していく。

(言っとくけど、あたしの仕事はうえに運ぶまでだから。見つかったらことだからさっさとトンズラするから、脱出の方はそっちでどうにかして。)

(了解。協力に感謝する。)

刹那のその一言が開戦の合図だった。



正門

「!?」

突然足元から出現した集団に警備に当たっていた局員たちは面食らうが、その間に四人は各々の得物を手に取っていた。

〈Photon shot!〉

〈Sonic shooter!〉

〈Snow blow!〉

〈Spinning bullet!〉

四色の閃光がそれぞれの向かう先にいた敵を薙ぎ払った。
同時に、エリオとウェンディは施設内部へと突入を開始する。

(アリオスの確保は任せた!こっちは目標の確保へ向かう!)

(了解!こっちもできるだけ早く済ませます!)

エリオとウェンディを見送った四人だが、周りを取り囲む敵の数に嫌な汗が噴き出してくる。
マリーのすぐそばまで来れたのは良かったが、ここは敵陣のド真ん中。
時間がないから仕方がなかったとはいえ、現実を目の当たりにすると自信も揺らぐ。
だが、

「早く来い。その手に持っているデバイスは飾りか?」

ティエリアの強気な挑発と一斉にデバイスを構えた魔導士たちに、残る三人と一騎も覚悟を決めた。



ミッドチルダ近郊 上空

彼に生きる意味はなかった。
過去もなく、目的もなく、ただ生きていることしかできなかった。
それでも、彼女と出会って全てが変わった。
辛い日々も、彼女と語らうその時のために耐えることができた。
一緒にいるだけで嬉しかった。
だけど、救うことができなかった。
一人で逃げて、仲間も手にかけた。

しばらくの後、再び出会った時は敵同士だった。
知らないとはいえ銃を向けあい、殺し合いを演じた。
けど、また一緒になれた。
遠回りをした。
罪も犯した。
それでも、もうこの手を離したくないと思った。

だから戦う。
また届かないところに行くのなら、何度でも手を伸ばそう。
彼女を想ってくれた人のために。
なにより、自分自身でたてた誓いを違えぬために。
黄昏の翼と慈悲深い狂戦士は空へと舞い上がる。

「アリオス、作戦を開始する。」

視認したところでざっと10機ほど。
決して数は少なくないが、負ける気がしない。
いや、負けるわけにはいかない。
アレルヤの戦う理由はあんなもので折れるほどやわではないのだ。
それに、今ここにいるのはアレルヤ一人ではない。

「ハレルヤ!!」

「待ってたぜ!!それでこそ俺の相棒だぁぁぁぁ!!」

手始めにビームを一、二発撃ち込んで連隊を乱すと、持ち前の機動力で真ん中にできた空間に躍りこんで逃げ遅れたフュルストの胸をビームサーベルで貫く。
ニヤケ面で見下ろすハレルヤだったが、すぐさまアレルヤに交代して接近を試みていたバロネット三機をガトリングで蜂の巣にした後に変形して残る機体へ突撃を開始する。
だが、相手のMDも既にアリオスの攻撃パターンは理解している。
先端のクローに挟まれる前に上へと退避した。
……はずだった。

「予想が外れて残念だったね。」

クローを使おうとしていたあの刹那。
二人はアリオスを変形させて急速に方向転換すると、上へ避けようとしていたフュルストのさらに上を取ったのだ。

「見え見えなんだよ。お前は一昔前のあの女と同じ……反応速度と経験則だけを頼りに戦うから想定外の動きに引っかかる。」

金色の瞳が凶暴な光を宿し、ハレルヤはフュルストの頭を掴んでいるアリオスの手にさらに力をかけさせる。

「もう少し頭を使って戦いなぁ!!」

頭部を握り潰すと同時に残る敵の方へフュルストを放り投げるとツインビームライフルでそれを撃ち抜く。
辺りは擬似GNドライヴ搭載機特有の赤い光が混じった紫煙に包まれ、視界が不明瞭になる。
だが、その煙を払うように連弾と鋭いビームがMS部隊を捉えていった。

「ハハハッ!!!!久々に超兵復活といこうぜ!!!!」

「邪魔をするなら容赦はしない!!!!」

右と左で異なる動きをするアリオスに翻弄され、一分も経たずにMD部隊は駆逐される。
だが、頼んでもいないのに“おかわり”は続々と湧いて出てくる。

「フン、サービス精神旺盛だな。」

「ジンクス……やはりアロウズも来ていたか。」

「そりゃあ、裏切り者のソーマ・ピーリスを引き渡すんだ。多少なりとも張り切っちまうんじゃねぇのか?特に、父親殺しのお坊ちゃん辺りはな。」

下品な笑いを浮かべたハレルヤは赤いジンクスに狙いを定めてアリオスを飛翔させる。
やはりハレルヤは中に殺せる存在がいる方がやる気が出るようだが、今回ばかりはアレルヤも相手を気遣う余裕はない。
なにせ、今回出撃しているMSはアリオス一機。
ロックオンは、別地点で突入班を援護する予定なのだから。



ビル 屋上

屋上の空気という物は、高山ほどでないにしろ冷たいらしい。
吹きつける風の寒さがそれを教えてくれるが、今はそれがむしろ心地良い。
それよりも、人目を避けてここまでやってきた苦労を誰も労ってくれない寂しさについつい何度目かの苦笑を浮かべた。

(俺はお前らほど便利にできてねぇんだぞ?)

高いビルの上までひとっ飛び。
見つからないように地中に潜る。
見つかったら問答無用で敵を吹っ飛ばす。
そんなことができるなら、ミレイナでなくとも魔法を使える人間にあこがれの一つや二つ抱いてしまう。

(……っと。あれか。)

厳重な警備の下、これまた厳重に拘束されたピーリスが運ばれてくる。
手にはこれ見よがしに太く重そうな手錠。
ご丁寧に指にまで鉄製の拘束具をはめ、後ろに腕を回している。
両足もなんとか歩ける程度の長さしかない鎖でつながれ、故意ではなく時間をかけて護送車へと歩を進めている始末だ。

「あいつらのうちの誰かが奪還してくれてれば俺も楽だったんだがな。」

文句を言っても仕方がない。
相手は全員で6人───
ここまできたらやるだけだ。

「……狙い撃つぜ。」

サイレンサー付きの銃特有のプシュッという音がすると護衛の一人が膝から血を流して倒れた。
遠方からの狙撃、しかも質量兵器の使用は予想していなかったのか防御が間に合わず二人目も肩を撃ち抜かれた反動で後頭部から倒れる。
狙撃手がいることに気付いてようやく防御魔法を展開するが、既にロックオンの仕事は終わっている。

「そんなもん使われたらどうしようもないんでな。サッサと退散してアレルヤの手伝いをさせてもらうぜ。」

護送の足止めができれば上等。
しかも、案の定ロックオンの捜索のために何人か人員を割いている。
これなら刹那たちもやり易くなるだろう。

「って、言ってるそばから容赦ねぇなあいつら。」

スコープから目を離そうとしたロックオンだったが、そこで起きた惨劇に思わず眉をひそめる。
緑の弾丸がスコールのように一人に降り注いだかと思うと、今度はもう一人が氷漬け。
とどめは強風を纏った刹那の刃によって人身事故よろしく二回、三回転がった二人が完全にダウンした。
負傷していた二人もそれを目の当たりにしたせいで完全に戦意を喪失したようだ。
素直にバインドにかかると、それ以上なにもされたくないのか必死で刹那たちから目を逸らしていた。

「……ん?三人?」

今更ながら気付いた。
今、スコープ越しに見えているのは刹那、ティエリア、フェルトの三人だけ。
隊舎にD・アリオスを探しに行ったエリオとウェンディはともかく、ユーノがいないのは不自然極まりない。

「……何やってんだ、あいつ。」

そのロックオンの疑問に答えるために、少し時間を捲き戻してみたいと思う。
そう、ユーノにとっての運命の分かれ道を。



4分前 隊舎 正門

「……流石にてこずったな。」

三人から少し離れたところでユーノは大きく息を吐く。
これ以上疲れる原因がやってこない前に目的を果たしてここからさよならした方がよさそうだ。
そう思っていた。
あいつの姿を見つけるまでは。

「!」

物影に見つけたそいつの姿は、間違いなく昔に鏡で見た自分そのもので。
しかし、口元に浮かべた酷薄な笑みは自分とは違う。
明らかに誘って消えたその人物を追わずにはいられなかった。

「ユーノ!?」

フェルトの声に刹那とティエリアも振り向く。
しかし、すでにユーノは曲がり角へ入ろうとしていた。

「すぐに戻る!!」

「戻るっていつ!?」

「夕飯かな!!」

笑えない冗談を残してユーノは消える。
頭痛で一昔前の不機嫌な顔を取り戻したティエリアが追いかけようとしたが、刹那がそれを止めた。

「構うな。すぐに戻ってくる。」

「だといいんだが。」

仕方なく先行していたフェルトに続き、ティエリアも護送車まで急ぐ。
そして、到着して早々に一人を氷漬け。
後から来た刹那に残る二人を始末させてマリーの拘束を解いた。

「遅い到着だな。」

「不覚を取って捕らえられた人間の言うセリフとは思えないな。」

「……敵情視察だ。」

対魔術式のかかった手錠を刹那に斬ってもらいながら減らず口をたたくマリー。
どうやら、体力の消耗はそれほどでもないようだ。

「アリオスは?」

「エリオとウェンディが確保に向かっています。そろそろ来るころだと思います。」

「早くしないと敵の増援が来る。それまでに戻ってくれなければ……」

「……っ!どうやら、その増援がもう来たみたいだぜ!?全員後ろに跳べ!!」

ジルの指示と同時に、それまで四人がいた場所の空気が斬り裂かれる。
間一髪のところで回避に成功した四人だったが、湾曲した刃は刹那に狙いを定めて軌道を変えるとさらに速度を上げて迫る。

「刹那!!」

「っ!!」

両手の剣を交差させ、唸りを上げるブーメランを受け止める。
だが、ギシギシと軋む腕に刃はさらに負荷をかけてくる。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

なんとか上へと弾き飛ばしたが、両手の痺れが取れない。
先日はまともに剣を交えることはなかったが、これが本調子で本気の彼女の実力だということか。

「驚きました。私の一撃を受け止めて跳ね飛ばせるのはトーレ姉さまくらいだと自負していたのですが。」

セッテの賞賛を今の刹那は素直に喜べない。
どうやら、刹那と彼女の相性は最悪らしい。

「申し訳ありませんが、今日は私が勝たせてもらいます。あなたがたのデータは先日の一戦で全て把握済みです。」

その言葉は本当であることは、狙撃タイプのフェルトには比較的スピードに秀でたノーヴェを。
そして、砲撃タイプのティエリアには先日に引き続き接近戦主体のギンガをぶつけて距離を潰していることからわかる。
大方、ユーノとウェンディがぶつかったディエチもどこかで息をひそめてこちらの様子をうかがっているのだろう。
実質、最悪の相手との1on1、しかも敵は援護付き。
ユーノの冗談以上に笑えない状況だ。

(ジル、エリオたちは?)

(まだ無理っぽい。中でかちあっちまったみたいだ。)

あの二人なら負けはしないだろうが、時間はかかるだろう。
これはいよいよもってマズイ。

「どうしました?来ないのならこちらから行きますよ。」

セッテの手から再び投躑される白銀の月。
かわして距離を詰めようとする刹那だが、その前に戻ってきたブーメランがそれを許さない。
かといって、距離を置いての射撃もかわされる。

「パターンが読まれているのか。」

手の内が看破され、さらに増援も来ている。
とどめがデバイスのないマリーを守りながらいつ来るかもわからないエリオとウェンディを待ち続けなければならない。
最悪もここまで重なるとむしろ清々しい。
だが、苦境に立たされているのは刹那たちだけではなかった。



ミッドチルダ近郊 上空

ビームが紙一重で外れ、アンドレイは舌打ちをしながら再びアリオスへ銃口を向ける。
ジンクスの性能とガンダムの性能とでは比べるまでもないことはわかっているが、この数を相手にここまで粘られると流石に癪だ。
そもそも、アロウズを裏切っていたソーマ・ピーリスの身柄を譲り受けるために来ただけだったはずなのに、ガンダムがいるなど聞いていない。

(まあ、問題はあるまい。)

この数でこちらに負けはあり得ない。
大方ピーリスを救出に来たのだろうがそれも無駄な努力だ。

「終わりだ!」

再び外すアンドレイだったが、アリオスの目の前にはアヘッド、ジンクスによる三機の編隊。
追いこまれたアレルヤだが、切り札を切るにはまだ早い。
せめて彼が戻ってくるまでは、

『待たせたな。』

待ちわびたその声は、アヘッドの頭を射抜く一条の閃光と共にやってきた。
バランスを崩した隊長機に動揺を隠せないジンクスだが、気を落ち着ける前にクラナガンの方角からやってきたケルディムの狙撃がすかさず胸のド真ん中を貫く。

『格の違いってやつを見せつけてやれ、アレルヤ!』

言われるまでもない。
ハレルヤももう我慢の限界だったのだ。
ここから先は後先考えずにいく。
エリオやウェンディ風に言うなら、全力全開というやつだ。

「TRANS-AM!!」

久々の全開に赤い体でアリオスも甲高い歓喜の声を上げ始める。
アンドレイたちには不吉の象徴以外の何でもないその叫びはすぐさまその起点を変え、右へ左へと赤い輝きを散りばめていく。

「そこだっ!!」

「鈍いぜ!!」

最初の犠牲者は物言わぬ人形だった。
無残に潰された頭部は何をされたのかすら定かではない。
だが、生きている人間に最悪の想像を植え付けさせるには効果てきめんだ。
案の定、動きに精彩を欠いたジンクスが一機出現し、ハレルヤはすかさずその機体に襲いかかった。

「ビビってんのかぁ!?さんざんぱら殺しておいて自分の番が来たくらいで驚いてんじゃねぇよ!!」

紅に塗られたジンクスが一瞬で消える。
混乱するアロウズたちの前に、今度は消えた機体が力任せに潰し斬られた姿で帰ってくる。
選りすぐりの兵士とはいえ、ハレルヤの残忍な攻撃には動揺を隠すことができず、そこをさらに付け込まれる。
そこへケルディムとロックオンの正確無比な射撃が加わるのだ。
逃れられる人間などそうはいない。
その証拠に、この悪循環に飲み込まれていないのはアンドレイただ一人であった。

「クソ!!噂の能力向上か!!」

トリガーを引いた瞬間に当たらないと分かる。
もともと機動力が抜きんでていた羽付きが、さらにその速度を上げてそのスピードを絶対的なものにしている。
全く理不尽この上ない能力だ。

「だが、そう長くはもつまい!!」

そのスピードを失った時がお前の最後だ。
アンドレイはそう心の中呟きながらひたすらビームを撃ち続ける。
だが、その冷静さが気に喰わなかったらしい。
ハレルヤは酷薄な笑みでアンドレイのジンクスに狙いを定める。

「お前、なかなかやるみたいだな……おもしれぇ!!」

「!!」

手近なところにいたMDの頭を斬りおとしてアンドレイの方へ蹴り飛ばす。
反射的に金属製の生首を払いのけてしまうが、TRANS-AMの前ではそのわずか隙が命取りだ。

「喧嘩慣れしてねぇんだな!!」

「もらった!!」

桃色の刃を前にして、「しまった。」と思うより先に脳裏に母の姿がよぎった。
そして、自分を突き放した父の姿も。
これが走馬燈というものかと自分でも不思議なくらいに今の状況を受け入れられている。
死の瞬間とは、得てしてそういうものなのかもしれない。
ギリギリで助かる人間にとっても。

「少尉!!」

「っ!アレルヤ!!」

「チッ!!」

寸でのところでオレンジの弾丸をかわすアリオス。
その中では、二人分の人格が対照的な評価を下していた。

「クソおもしろくもねぇ!!あのガキか!!」

「攻撃軌道を読んでの狙撃……大した腕だ!!」

しかも、相手は性能が爆発的に向上しているアリオスと自分たち。
先代のロックオンでもそんな芸当できるかどうか。
思わずカマエルを駆るティアナに感心してしまうアレルヤだったが、ここで愛機からタイムアップを告げられる。

「もう終了時間か……!」

粒子残量が底を尽きかけている。
フルに使ったこともあり、しばらくは旧型のMSにも劣ってしまうだろう。
かといって、ここをロックオンだけに任せるわけには…

『行って来い!』

カマエルと撃ちあいを演じながら前に出てきていたロックオンからそう言われ、アレルヤは目を丸くする。
しかし、アレルヤの意見など聞きもせずにロックオンはさらにまくしたてた。

『悪者からお姫様を助けるのは白馬の王子様ってのが相場だ!!』

「ロックオン……」

『行ってやれ!!今のあいつにはお前が必要なんだよ!!』

しばらく声も出さずに俯いていたアレルヤだったが、ケルディムへ短く一礼してクラナガンの街へと飛翔する。

「待て!!」

「待つのはお前だよ!!」

カマエルだけでなく、残る機体もシールドビットで牽制し、ロックオンはコックピットの中でコキコキと指を鳴らす。

「さて……今度は俺の相手をしてもらおうか。余所見してると、機体だけじゃなくて命まで狙い撃たせてもらうぜ!!」

派手な光が、雲ひとつない青空の下で乱れ舞った。



108部隊 隊舎付近

「くっ…!」

再三の接敵も失敗に終わり、刹那も焦れ始めていた。
だが、ここで強引に踏み込めば敵の思うつぼ。
背後から戻ってきた刃とそれに続く攻撃が必殺の物となるのは必至だ。

(ならどうする……)

リミットオフはティエリアもフェルトもすでに使っている。
その上で相手もそれに合わせて攻撃の種類もコンビネーションの組み立ても多彩にしてきている。
流石は魔法戦のスペシャリストといったところか。
だが、こちらももう一つ隠し玉を持っている。
それを使えば、あるいは。

〈お勧めしかねます。〉

D・ダブルオーには刹那の考えなど見透かされていた。
病み上がりで、しかも症状は明らかに最悪の代物。
そんな体で使っていいものではないことは、刹那も重々承知している。
だが、仲間の危機と自分の命を天秤にかけた瞬間、すぐに前者の方に傾いた。

「……すまない。」

〈……無駄だとは思いましたが。ジル、しっかりつかまっていろ。下手をすると吹き飛ばされる。〉

「お、おい、まさか……」

そのまさかだ。

「……TRANS-AM。」

〈Full force!!TRANS-AM!!〉

「……!?」

セッテには何が起こったのか分からない。
パッと見は目の前の男の背中の翼がいっそう大きく広がり、漏れっぱなしの魔力で髪が逆立っているようにしか見えない。
だが、本能が告げている。
これは、危険な兆候だと。

「IS、スローターアームズ!!」

必殺の心構えでセッテは再度ブーメランを放つ。
避ける素振りすら見せない刹那だったが、避ける必要などないのだ。
セッテの投げた刃は、濃密な大気の壁に阻まれて天高く舞い上げられたのだから。

「なっ!?」

これにはセッテのポーカーフェイスも崩れる。
渾身の一撃が目に見えない何かに弾き飛ばされたのだから動揺もするだろうが、本番はここからだ。

「刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!」

嵐を巻き起こしながら刹那の姿がぼやけていく。
否、増えていく。
セッテへ突撃していく刹那の数が1から5、5から25へ。
あり得ない速度で分裂しながら、あり得ない速度で局員たちを打ち倒しながらこちらへ向かってくる。
無手のセッテは最短距離を最速で戻ってくるブーメランに全てを賭けるしかないのだが、その可能性すら摘み取られることになる。

「ソニックシューター!」

分裂した刹那から、その数だけ魔力弾が同時に放たれる。
風を纏う弾丸の群れは嵐や台風で形容するのも躊躇われるほどの風圧で迫ってくる。
そう、最早それは神の息吹。
気まぐれな絶対者の、絶対的な風。
万物の存在を許さない風はセッテの武器をいとも簡単に砕き、余波で生まれた風の鎖は彼女を動けない状態で空へと撥ね上げた。

「くっ……はっ……!!」

大気が濃すぎるせいで逆に呼吸ができない。
口元にまとわりつく空気が邪魔で肺に酸素を供給できない。
だが、それもすぐに終わりを迎える。

「蒼牙……一迅!!」

ゴッという衝撃音が重なって聞こえてくる。
刹那の声もエコーがかかったようになって上手く聞こえないが、何をしたのかは分かる。
刹那の最強の一撃を、魔力を含んだ風を纏わせての一撃がセッテの腹部にクリーンヒットしたのだ。
常人よりも強靭なはずの筋繊維も骨格も粉砕され、内臓の中で行き場を失った血液が噴水のように口から噴き出した。

「セッテ!!!!」

「よくも!!!!」

ノーヴェは怒りに任せ、フェルトのことを無視して刹那へ突進しようとするが、今度は揺らめきを残して消える。

「クソッ!!どこだ!?」

「こっちだ。」

声のする方を振り向いた瞬間に側頭部を強い衝撃が襲う。
大きくぐらつくノーヴェだが、辛うじて手をつかずに体を残す。
しかし、膝が笑い、視界も海草のようにゆらゆらと踊っている。
とても次の一撃は防げない。

「とどめだ!!」

(やられる!!)

風神の斬撃を前に当たってもいないのに敗北を確信するノーヴェ。
だが、逆に地べたへ崩れ落ちたのは刹那の方だった。

「刹那!?」

「ぐっ!?ああぁぁ!!?」

〈Warning!!Urgent release!!〉

鼻から赤い筋が垂れる。
いや、耳や口、果ては目から。
顔の穴という穴から血が流れ出ていく。
その異常な光景にティエリアやフェルトはもちろん、ノーヴェやギンガもその場で硬直してしまう。

「くっ……ううぅぅ……!!」

内側から強い力で押されているようだった。
パンパンの風船になった自分に、さらに息を吹き込まれている感じだ。
いつ破裂してもおかしくない。

(く…そ……!!俺が、TRANS-AMを、使いこなせて……いない、ということか…!!)

無限に力が湧いてくる感覚。
負ける気はしなかった。
一人でどうにかできる自信があった。
なのに自爆なんて。
D・ダブルオーがツインドライヴを踏襲して作られたから不完全だったのだろうか。
いや、今はそんなこと問題じゃない。
問題は、今自分を見下ろしている敵の存在だ。

「ハァッ…ハァッ……自滅か。まあ、あのいかれた力はそうでもしないと無理だろうな。」

刹那の肩で震えるジルにもお構いなしでノーヴェは拳を振り上げる。
敗北から一転、勝利を確信しての打拳を撃ち込むべく大きく息を吸い込む。
だが、

「まだ……だ…!」

「!」

力のない逆風の斬撃。
しかし、そこに宿る気迫はノーヴェを以ってしても退かずにはいられないものだった。
融合騎の心配をよそに、ダメージを負った体を起き上がらせる。
既に髪を逆立てるほどの魔力は消えているが、それでも考えなしに攻めるのを押し留める何かを“金色に輝く瞳”は秘めていた。
だが、

「…………………」

「うわっ!」

ついに力尽きたのか、刹那は声もあげずにその場に倒れ込む。
肩にしがみついていたジルも転げ落ちてしまい、守れる人間はいない。
捕らえるなら、今しかない。

「刹那・F・セイエイ!!」

デバイスがないことすらも忘れて刹那を庇おうとするマリー。
しかし、走り出そうとする彼女よりも深緑の弾丸がノーヴェの左肩を撃ち抜く方が早かった。

「させない!!」

〈Full force!!TRANS-AM!!〉

体勢を崩すノーヴェとの射線軸上にシールドビットを並べ、大気に溢れる魔力とD・ケルディムが生む無制限の魔力を輝く銃身に集中させていく。

「収束砲……我流だけど、街一つ吹き飛ばせるくらいの威力はある!」

その宣告に動こうとしたのはギンガだった。
あんなものを喰らった日には、非殺傷設定だったとしてもしばらくの間は動けまい。
そんなことはさせまいとティエリアに背を向けてフェルトの撃墜へ向かおうとしたが、それが失敗だった。

「TRANS-AM!!」

〈Full force!!TRANS-AM!!〉

「!?」

両手両足をがっしりと何かに掴まれる。
いや、掴まれているだけじゃなくて冷たい。
まるで、そこから全身が凍っていくようだ。

〈Freezing arm!〉

後ろを見てギョッとした。
手足を金属製のカギ爪で掴まれている。
しかも、そこから大きな氷が肌を覆い尽くしていっている。

「隠し腕まで再現してくれているとはな。まったく、見上げた職人魂、だっ!!」

絶対零度の魔力刃に今度は意識が凍りつく。
完全に手足を封殺してギンガを撃破したティエリアが顔を上げると、今度はフェルトがトリガーを引くところだった。

〈Angel gospel〉

智天使が謳う讃美歌は気高くも荒々しかった。
フェルトへ一矢報いようと肉薄していたノーヴェを優に10mは吹き飛ばし、それでもなお収まらない勢いは天を衝く塔のごとく上へと駆け上がっていった。

「つ……!TRANS-AM終了……ヒーリング開始。」

〈All right〉

「セラヴィー、こっちも頼む。」

体の中を駆け巡っていた魔力が消え、ようやく違和感からも解放される二人。
反動で受けたダメージを癒しながら刹那を背負おうとするが、それすらも満足にできない。
しかも、派手に暴れたのがまずかったらしい。
あのとんでもないエネルギーを察知した連中が押し寄せてきた。

「どうする、ティエリア?」

「……やるしかない。」

満身創痍の状態でマリーと刹那を庇うように立つ二人。
それがマリーには歯がゆくて辛い。
復讐を誓い、誰にも負けないと決めたはずなのにあっさりと敗北を喫した自分が、守られてばかりの自分が情けない。
ピーリスなら、そんなことはあり得ないのに。

(……そんなことない。)





その声で、マリーの意識は再びあの暗い部屋へと引き込まれる。
動くこともできず、ただ待ち続けるだけのあの部屋へ。

(私は、マリーが思っているほど強くはない。)

(そんなことない!だって、ソーマは…)

(私が今まで戦えていたのは周りにいた人たちのおかげだ。大佐やユーノ……そしてマリー、お前のおかげだ。)

ピーリスはマリーの入っていたカプセルを指でなぞりながら小さく笑った。

(一人の感情から生まれる力などたかが知れている。だが、誰かと手を取り合うことを知った時、人は一人の時よりも強くなれる。私は、セルゲイ大佐からそれを教えてもらった。)

(…………………………………)

俯くマリー。
俯いたまま、嗚咽を漏らす。
そんな彼女を、ソーマが優しく抱きしめる。

(……一人にしてすまなかった。これからは、私も一緒に戦わせてくれ。)

(でも、私はもう誰の力も借りない……借りることなんてできない。)

(それはどうかな?おせっかいな連中が多いからな。お前がいくら拒んでも、勝手に首を突っ込んでくるさ。ほら…)





ソーマに促される形でマリーはコンクリートジャングルの上から飛び出してくる二つの影を見上げる。
急降下してくる赤毛の少年の手には、見慣れたブローチが握られていた。

「マリーさん!!」

「お待たっス!!」

エリオの手から勢いよく投げられたD・アリオスを受け取ったマリーは間髪いれずに起動コードを口ずさむ。

「我が胸に宿すは温かなる願い。永久の繋がりを紡ぐ翼!アリオス、セットアップ!!」

〈Anfang!Limit off!Force detonation!!〉

オレンジの輝きから戦闘機型のボードをうみだしたマリーは敵へと突撃していく。

「アリオス、TRANS-AM!!」

〈Ja!!TRANS-AM!!〉

夕陽よりもさらに濃い翼を背中に広げ、マリーはD・アリオスから飛び降りる。

「ソーマ、行ける?」

「無論だ、マリー。」

落下しながらの早撃ちでまずは3人を墜とす。
さらに、後ろから来ていたD・アリオスを装着してⅧの文字が刻まれたカートリッジをライフルに装填した。

〈Ein Feuer!!Explosion!!〉

「一気に決める。」

「了解。ターゲット回避パターン予測、クリア。マルチロック完了。」

全身の武装へありったけの魔力を注ぎ込み、不気味な音を上げながら上を向く。
そして、その時は来た。

「「エンドヴォンディアヴェルツ!!」」

青い空が一瞬で赤橙色に染まった。
隙間なく放たれた射撃と砲撃の壁は空にいた魔導士を押しつぶし、地上にいた者たちも例外なくうちのめされていく。
荒れ果てた道路と崩れた外壁は、さながら世界の終りだった。

〈TRANS-AM終了。〉

「……やり過ぎたか。」

「想像以上の威力だね。」

TRANS-AMを発動してのフルファイア。
マリーたちの真下にいたティエリアたちも呆れ顔だ。

「人のことは言えないが……加減というものを覚えたほうがいいんじゃないのか。」

「う、うるさいっ!初めてなんだからこんなものだ!」

顔を赤らめて反論するマリーにプッと吹き出すフェルト。
だが、その背後にいる魔導士に顔を青ざめさせる。

「危ない!!」

「!!」

気絶している刹那以外の全員が迎撃態勢に入るが間に合わない。
生き残っていた魔導士は最後の力を振り絞って魔力弾を発射する。
振り返ったマリーは自分へ迫る一撃をスローモーションのように知覚しながらも、身動ぎ一つ出来ずにその場に立ち尽くしていた。
間に割って入った、巨大な手の平が現れるまでは。

「マリー!!」

ハッチを開いてアレルヤがマリーへと跳び出す。
足場などない空中へ身を投げたアレルヤに驚き、マリーは反射的に抱きとめる。
望んでいないはずの温かさをその腕で。

「な、何を考えてるんだ!?落ちていたらどうなっていたと…」

「ごめん……やっぱり、僕はマリーと一緒にいたいんだ。」

マリーに寄りかかりながらアレルヤは耳元で呟く。

「たとえ君が僕を拒んでも……僕は君を失いたくない。だから、そばにいることを許してほしい。もう、離れることがないように……」

「アレルヤ……」

それは、マリー・パーファシーとしてか、それともソーマ・ピーリスとして彼の名を呼んだのかは分からない。
だが、久方ぶりに名前を呼ばれたアレルヤは、どっちであってもまた彼女たちとの絆を取り戻せたような気がした。

「ハイハイ、ごちそうさま……甘ったるくておなかいっぱいっス。」

「…………………………………(うらやましい。)」

「気絶している人間を前によくもまあ、あんな歯の浮くようなセリフを…」

「あの……そろそろ戻らないとまずいんじゃ、ないですか……ね?」

ギャラリーからの声で、生温かい視線が送られていたことに気がついた二人は慌てて撤退の準備を始めるのだった。



地上本部

最後に来たのは六課で護衛に当たった時が最後だ。
そして、一生の間最後になる予定だった。
にもかかわらず、こうして戻ってきたのはやはり何かの縁なのだろうか。
まあ、奴が関わっている時点でろくな縁ではないのだろうが。

「よう、どうしたい?さっさと入ってこいよ。」

議場の扉の奥からあいつの声が聞こえる。
銃を取り出し、警戒しながら議場へと入った。
入って、演壇の上に転がっているものを見て愕然とした。

「ん?ああ、こいつ?そんな顔してやる必要なんてないだろうが…」

ソリアの顔が嬉しそうな、そして悪意に満ちたものに変わる。

「俺たちの親父の仇なんだからよ……」

赤い染みができた胸を押さえて動かないファルベル・ブリング准将を、ソリアはそこらの石を蹴り飛ばすように演壇の階段から蹴り落とした。









翳は蠢く
影すらも呑みこんで



あとがき

いろいろと急転直下な第61話でした。
……ええ、わかっています。
アレルヤとマリーのシーンはムヒなしでは書けないくらい自分でも痒かったです。
ただでさえ厨二臭がするのに、それ以上に恥ずかしかった……
もうそういうのとかは気にしないと決めてたはずなのに(^_^;)
なんでこういうときだけを顔が熱くなるんだろう……
まあ、とりあえずユーノを除く全員がトランザム使えたのでそこは自分的に良かったです。
刹那にも伏線張れたし(笑)
次回は離脱していたユーノとソリアのやり取りとそれに伴う情勢変化的な感じです。
今回出てきたティアナは今どうしてるとかヴィヴィオとなのはたちのその後みたいなのもやる予定です。
……てか、ティアナに関してはもう予想がついてる人もいるかもしれませんが(^_^;)
それより、シグナムも出さないといけないしサイドもやりたいしそれに合わせてユーノのカコバナもやっときたいし……
早い話がこの先の予定は未定ってことです(オイッ)
気まぐれにサイドブチ込んだりいきなりユーノのカコバナをやるかもしれませんが、そこのところはご容赦ください。
では、次回もお楽しみに!



[18122] 62世界の行方
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/04/16 18:32
プトレマイオスⅡ メディカルルーム

「う……ん…」

随分と長い間眠っていた気がする。
むっくり起き上がったユーノは白い光に目を眩ませ、目頭を押さえながらそんなことを考える。
どういう経緯でまた退屈なベッドの上に寝転がっているのかが、どうしても思い出せない。

「起きたか。」

隣で声がするのでそちらを見てみると、そこには刹那がいた。
自分よりはるかに大きなフォークを持つジルから差し出されたうさぎリンゴをかじり、咀嚼して飲み込む。
彼のイメージに合わないその光景にシュールなものを感じてしまうが、刹那はすぐさまユーノに訊ねた。

「ユーノ……ファルベル・ブリングと何があった?」

その一言で、ユーノはあの時何があったのかを思い出した。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 62世界の行方


17時間前 地上本部 議場

「驚いたよ、君から呼び出しをくらうとはな。」

ファルベルは相変わらずにこやかな顔をしているが、ソリアも負けず劣らずにいい笑顔をしている。
任務が思ったより早く終わったおかげか、それともファルベルから自分への評価に絶対の自信があるからか。
どちらにしろ、ファルベルは自分以外のこういった顔があまり好きではない。
こうして正面を向き合っていても、腹に一物あるのではと人形相手でもいらぬ警戒をしてしまう。

「任務が簡単すぎて不満だったかね?私は別に君が無能だとは思っていない。ただ、少し油断が過ぎるというだけで…」

「准将。」

珍しくソリアが言葉をさえぎる。
面食らったファルベルは言葉を続けることができず、ソリアの声に耳を傾け続けた。

「准将は映画やドラマのスタントに使う猛獣をどのように従わせるかご存知ですか?」

「……?いや。」

「いや、実は簡単なことなんですよ。まずは人間に従順な犬を用意して、幼いころから猛獣を躾させるんです。」

ソリアは得意気に演壇の上を左右に往復しながら説明を続ける。

「自分よりヒエラルキーが高い犬が従う人間は当然自分より順位は高い……そう思い込んだ猛獣は人間に従うようになり、襲うことはなくなるというわけです。」

「それがどうかしたのかね?」

「いえ、なに。人間でも同じことが言えるのではと思いましてね。」

ソリアは足を止めると、ファルベルの方を向かずに喋る。

「自分より無能な人間が相手でも、自分より有能な人間が認めているならば喜んで従う……動物なんてそんなもんです。けど、そんなこともわからずに迂闊に猛獣並みに危険な人間をそばに置いておくと……」

ズブリと音がして、何か冷たいものを背中に感じる。
いや、胸にも感じる。
しかし、それは熱いものに包まれていって、さらに痛みへと変化していく。
その時になってようやく気がついた。
自分は刺されたのだと。

「命を落とすことになる。」

「貴…様……!!」

ファルベルの顔が好々爺から阿修羅の如き怒りの表情に変わる。
飼い主に噛みついた犬、いや狡猾な狼に様々な感情の入り混じった、しかし強い怒りに塗りつぶされた瞳を向ける。
だが、ソリアはいつもと変わらぬ調子で話し続けた。

「いやぁ、おっかしいですよねぇ。俺って『驚き映像100連発!!』みたいなのに出てくる、懐いてると勘違いした挙句にワニやらライオンやらに噛みつかれるバカを見るのが好きなんですよ♪それを生で見れるなんて今日はついてるわ。」

「こ…こんなこと………して……グッ!!ただで、済むとでも……」

「大丈夫ですって。そこらへんも計算済みですから。それと、俺はあなたと同じことをしてるだけなんですからそんなに怒らないで下さいよぉ。」

猫撫で声がさらに癪に障る。
奴に気を取られていたせいで伏兵に気がつかなかった自分に腹が立つ。
だが、ファルベルの最大の失敗はもっと前に起きていた。

「あなたも俺の父さんを殺したでしょう?それも、自分の手を汚すことなく。」

「な…!?」

なぜそのことを。
その記憶はコピーしていないはずなのに、なぜ。

そう思ったファルベルの脳裏に、あの涼やかな笑みを浮かべている青年の姿が思い浮かぶ。
それを表情から感じ取ったソリアは嬉しそうにうなずく。

「ええ、そうです。リボンズはあなたが父の仇であるという記憶を俺に授けてくれたんです。」

つまり、初めから奴は────

「利用する気だったんでしょうけど、向こうのほうが一枚も二枚も上手でしたね。」

「ガッ……!!ハァ…!!」

「あらら。もう喋る体力も残ってませんか。それじゃあ、最後に一言……」

ソリアは歪んだ笑顔をファルベルの耳元に近付ける。

「俺はな……生まれた時からあんたの惨めな死に様を見たくて仕方なかったんだよ!」

槍の穂先がひねられる。
グシャリと体の中身がひしゃげる音と同時に引き抜かれた穂先の後ろには、顔を鮮血で濡らしたゼストがいた。

「気が済みましたか?騎士ゼスト。」

「……それはこちらのセリフだ。」

その言葉の答えは肩をすくめるだけにとどめる。
目的の一つではあるが、通過点で満足するつもりはない。

「俺は管理局をこの爺さんの私設部隊に堕するようなことがあってはならないと思っただけです。」

「管理局を、いや世界を正す……と、考えていいのか?」

「ええ。それだけは約束しますよ。」

にっこり微笑むソリアに、しかし不信感を抱くゼストだったがこのままここに下手人である自分が残っていていいことはない。
即刻退散すべきだ。
ここからも、そして局からも。

「敵同士にならないことを祈っていますよ。」

「ああ……まったくだ。」

心の底からそう思いながら、ゼストは去っていった。



30分後

「……というわけさ。嬉しいだろ?仇が討てて。」

「ふざけるな……!!君がしたのはアロウズや父さんを殺した連中と同じことだ!!」

下から吼えるユーノを嗜めるようにソリアは嘆息する。

「目には目を、歯には歯を。Byハンムラビ法典♪」

「屁理屈だ!!報復や復讐の果てには無限の連鎖があるだけだ!!」

「おいおい。エレナやロックオンのことを否定する気か?ついでに言うなら俺やお前もそうだろ?」

そうだ。
こんな世界が許せなくて戦い連鎖の中に飛び込んでいった。
だが、今は…!!

「お前と僕は違う!!!!」

一足飛びに壇上に上がったユーノはアームドシールドでソリアを斬りつけようとする。
だが、その前にソリアは敵味方、一般人か局員かも関係なく念話で周囲へ呼び掛けた。

(付近を警戒中の局員へ!!ファルベル准将が襲撃された!!繰り返す!!准将が襲撃された!!)

「!!」

当然それはユーノにも聞こえていて、今の自分の姿を見て冷や汗を流す。
手には武器。
そばには死体と武器を持っていない人間。
状況を知らない者が見れば間違いなくユーノがやったように思うだろう。
それも、

(襲撃犯はソレスタルビーイングだ!!ソレスタルビーイングのユーノ・スクライアだ!!)

こんなことを言われては、もう弁明のしようがない。

「クソッ!!」

ソリアを捨て置いてでもここは退くべきだ。
そう悟ったユーノはバンカーで壁を破壊して外へと躍り出る。
だが、外にはすでに黒山の人だかりと空と地上を囲む魔導士たちで溢れていた。

「貴様……!!よくも准将を!!」

完全に頭に血が上っている。
聞く耳持たないのは明らかだ。
ならば、こちらもそれ相応の手段を取るしかない。

「押しとおる!!」

〈Buster break・spread impulse!!〉

魔力を纏った足刀の一振りによる衝撃は拡散し、包囲網の一部、ユーノの正面に道を作り上げる。
すかさず四方にプロテクションを展開してそこへと飛び込むユーノだが、魔導士たちは下から横からここぞとばかりに射砲撃を撃ち込んできた。


「くっ……押し…潰される……!!」

〈プロテクション耐久値、危険域に突入!!マイスター、これ以上は…〉

別に極大の砲撃を放り込まれているわけでもないのに、一瞬でここまで削られる。
つくづく数の力というものは偉大だ。

(どうする……どうすれば…)

〈TRANS-AMです。〉

「え!?」

敵陣のド真ん中で足止めを食らっているユーノはそのことも忘れて大きな声で問い返す。
別にプロテクションにぶつかる魔力の塊や周りの流れ弾やうるさかったからではない。
D・クルセイドが進んで危険な賭けを勧めるとは思っていなかったのだ。
それも、ユーノが一番に却下した案をだ。

「……本気かい?」

〈ええ、割と。〉

「っつ……!リスクを鑑みても…?」

〈それでもです。それに、大丈夫ですよ。〉

妙に自信満々でD・クルセイドは胸を張る。

〈マイスターは僕のマイスターなんですから!〉

当たり前すぎて理由になっていない。
性質の悪い山師に乗せられて有り金全部を勝てもしない勝負に注ぎ込む気分だ。
だが───時にはそんな勝負も悪くない。

「死んだら責任とってよ!!」

〈All right,my Meister!GN device,limit off!Force detonation!〉

ユーノの背中に翠の翼が現れる。
天使の如く輝きを放つ翼は、一振りする度に温かな風を周りに送り出す。
セコイ魔力弾などその風で容易くかき消され、それまでユーノを抑えつけていたけたたまし過ぎる光は消え去っていた。
そして、両翼は間を置かずに秘めたる力を顕現させる。

〈Full force!!TRANS-AM!!〉

翠の翼はいっそう巨大なものになる。
ユーノ自身の大きさすら超え、ともすれば地上から伸びる高層建築物すらも上回る大きさになったそれは、主の体に刻まれた紋様に呼応するように光の粒子を迸らせた。

(やはり、マイスター……あなたは。)

TRANS-AMが曲がりなりにも成功し、しかも金と虹色に輝く瞳を出現させたユーノにD・クルセイドは確信した。
彼こそ、自分たちと自分たちの創造主が悠久の時を超えて待ち望んでいた存在なのだと。
自分たちの力を、真の意味で使いこなせる人物。
無限の連鎖を断ち切る者。

革新者であることを。

「行くぞ!」

天使、いや、神とすら見紛う姿へと変化したユーノを前に呆けていた魔導士たちだったが、包囲網を突破せんとする飛翔を見て自らの使命を思い出した。

「撃て!!あの賊を討ち取るんだ!!」

一人の声に促され、残りも続々と攻撃を再開する。
だが、

「なに…!?」

当たらない。

「なんだ…!?」

当たらない。

「どうなってるんだ!?」

当たらない。

逃げ場などないように思える射撃の嵐の中でもスピードを緩めることなく、そして一度たりともユーノから仕掛けることなくくぐりぬけていく。

(見える……)

まるで全身が高感度のセンサーになったような感覚。
いや、そもそも撃たれる前に攻撃の軌道が見える。
網目のように複雑に絡まった軌道と相手の動きがコマ動きのように映って見える。
これなら、こちらから仕掛ける必要はない。

(軌道を重ね合わせて、ギリギリのところで……かわす。)

たったそれだけのことで、二人の魔導士が同志討ちを演じてくれる。
いや、これすらももう必要ない。
敵であっても無用な犠牲を出さないに越したことはないのだから。

「クルセイド、後どれくらいで……っ!?」

突然、背中から漏れる魔力が不規則にノッキングを始める。
途端に堪えていたものが噴き出してきたようにユーノの全身が痛みに悲鳴を上げた。

(クソッ……もう限界か!?)

ティエリアたちが使用するジュエルシード一つのGNデバイスですら、ほぼ無制限に体内へ魔力を巡らせるTRANS-AM発動後には反動がある。
二つ使用している刹那とユーノのGNデバイスだと、それは一つの時とは比にならないほど大きい。
だとすれば、ここまで持ちこたえられたこと自体が奇跡的であり、こうなることは自明だったといえよう。

(やっぱり、ダブルオーとクルセイドにも制御用のユニットか何かが……必…要……)

遠くでD・クルセイドが術式を解除する声が聞こえる。
おまけで聞こえてくる局員たちの声は必要なかったが、萌黄色の天使が来てくれたのでまあ良しとしよう。

(ハハハ…準備の……よろしいことで…)

不時着した屋上の縁からクルセイドライザーの掌の上に転がりこむと同時に、ユーノは意識を手放していた。



現在 プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「……というわけ。」

さっきまでメディカルルームで寝ていた人間とは思えないほどピンピンした様子でことの経緯を語るユーノにクルーたちは話の内容より彼の具合の方が気になって仕方がない。

「あの……大丈夫なんですか?」

「ん?なにが?」

「なにがって…」

ミレイナは横目でフェルトを見るが、フェルトも困惑した様子でなかなか切り出せない。
というより、聞いていいものなのか。
GNデバイスのTRANS-AMを使った後のフェルトたちはそれこそ満身創痍。
しばらくは歩くのもやっとの状態だったのに、ユーノと刹那はまるで堪えていない。

「ユーノ、刹那……本当になんともないの?」

「なんともないのって……まあ、長めに寝てたから少しおなかはすいたけど。」

「特に異常はないな。むしろ…」

普段より調子がいいくらいだと言いかけて刹那は閉口する。
今にも泣き出しそうなフェルトに、二人だけでなくスメラギたちまで困り果てているこの状況で最後の一押しをする蛮勇は生憎と持ち合わせていない。

「ま、まあ、あれだな。とにかく、これから先どうするか決めるとしようぜ。」

ロックオンのフォローに全員が感謝しつつ本題に入るが、その中でユーノだけはバツが悪そうだ。

「ごめん……僕のせいで。」

「まあ、単独行動はいただけないが、お前の話からすると遅かれ早かれ爺さんは消されてたさ。俺たちがやったことにされてな。」

ラッセのフォローに微笑で応じるが、やはりその表情はどこか晴れない。
もう一人の自分が、自分がいるせいで周りの人間を目の敵にしているのはやはり気分のいいことではないのだろう。

しかし、わからないのはファルベルを始末した理由だ。

「例のゼストって奴が爺さんをファルベルへ報復したいってのはわかるけど、あの爺さんが消えて野郎になんのメリットがある?はっきり言えば、カタロンもBBも厄介な奴が消えてくれて万々歳って気分だろ。飾りでもいいから残しておくのが吉だと思うがね。」

「後釜が狙い……ってわけじゃないですよね。」

「過程の一つではあるかもしれないが最終目的ではないだろうな。一番可能性があるとすれば僕たちを追い詰める。もしくは管理局をアロウズに完全に取り込むことだが…」

ティエリアの答えにユーノは静かに首を振る。

「本気で僕たちを追い詰めたいならもっとやりようがあったはずだし、イノベイターのために動くとも思えない。自分もイノベイターだから……そんな理由で与するほど殊勝な奴じゃない。」

どうも不気味だ。
目的や次に打つ手が見えないのでなおさらだ。

「クロウたちに探りをいれてもらうか……」

「ま、それが妥当っスかねぇ。隠れて向こうがどう出るかを待つしかないっていうのは癪っスけど。」

「仕方ないわ。しばらくは静観に徹しましょう。それと、ロックオン。」

「ん?なんだ?」

「地球の情勢にも目を配っておいてくれないかしら?」

「なんでそれを俺に頼むんだよ。」

とは言うが、既にクルー全員が彼の正体を周知しているし、そのことについて責めるようなマネをしていない。
いうなれば、これはその代価だ。
そして、ロックオンも今更取り繕おうとも思わなかった。

「わかったよ。俺の情報網もそれなりに使えるってところを見せてやるよ。」

「期待してるわ。」

含みのある笑顔に苦笑するロックオンだったが、信頼されていることに関しては満更でもないようだ。
そんな彼や、そしてその周りで微笑む仲間たちを見て二人のマイスターは思う。

ここで、自分たちを変えていきたいと。



108部隊 隊舎 医務室

「では、あなた方も知らぬうちにユーノ・スクライアは現場を離れていたわけですね。協力したわけではなく。」

その言葉にベッドの上で肯くギンガだったが、ルイスの高圧的で疑いを含んだ物言いはどうも好きになれない。
任務だからと言われればそれまでだが、こうも露骨に対応されてはいい気分はしない。
それに、ルイスの後ろで今にも跳びかかりそうなノーヴェを眼で制しておくのも限界に近い。

「……わかりました。詳細は報告書にまとめて提出してください。では、私はこれで…」

「ハレヴィ准尉、警備に当たっていた局員への聴取が終…りょう……」

この世の終わりを目の当たりにしているような表情だった。
グリーンの隊服に身を包んだティアナは、実際そんな気分で立ちすくんでいたのかもしれない。
彼女のそんな心持を悟ったのか、ルイスは肩を叩いてすぐにその場を離れた。
だが、そんな気遣いすら救いにはならない。
今の自分の姿を、ギンガ達にどう説明すればいいのか。

「ティアナ……その、恰好…」

「…………アロウズ所属、ティアナ・ランスター特士…です。」

重い沈黙と剣呑な空気に言葉を詰まらせる二人。
アロウズに批判的なノーヴェもこの状況は想定だったのか目を丸くしたままフリーズしている。
だが、ティアナが背を向けて去ろうとするとディエチがそれを止めた。

「それでいいの?」

アロウズにいて誇りを持てるのか。
なのはたちのもとを離れて良いのか。
罪のない人たちに銃を向けることになってもかまわないのか。

たった一言に、その全ての意味が込められていた。
そして、それに対するティアナの返答も早かった。

「……私はあの人たちを見捨てられない。」

歳も思想も世界も違うあの二人のために汚れ役を引き受けるなど馬鹿げているかもしれない。
だが、ティアナは馬鹿でもいいから人間でいたかった。

「……協力、感謝します。」

誰にも言えない真意を胸にティアナは歩き出す。
ルイスとアンドレイと並び立つ戦場へと。
二人には言えない使命を背負いながら。



カレドヴルフ社 ロビー

一人で円形のベンチに腰掛けているのに、気付けばとなりにいるはずのない彼女を探して視線を彷徨わせてしまう。
一人の時間を、スバルはそんなことに費やしていた。

『私……連邦に残ります。』

ティアナからそんな提案が出てくるとは思っていなかった。
そして、はやてとなのはがそれを許可するとはもっと想像していなかった。
スバルだって、ルイスやアンドレイのことは心配だ。
だが、それでも、アロウズと矛を揃えることは彼女の心が受け入れなかった。

「ティア……」

何か考えがあってのことだ。
いつも通り、待っていればいい。
そう思っても、落ち着かない気持ちだけが空回りしてしまう。
そんなスバルの下に、なのはとはやてはMS・デバイス開発チームとの会議から戻ってきた。

「会議終わったよ~。カマエルについては定期的にデータさえ送ってくれればええって。それと……」

落ち込んでいるスバルに、はやては一つの端末を差し出す。
そこには、

『落ち込んでる暇があったら訓練ちゃんとやりなさいよ、バカスバル!』

「これ……」

呆気にとられた顔で見上げるスバルにはやてとリインは親指を立てる。

「耳なしネコ型ロボットもビックリ!誰にも知られずにコソコソ話が可能!名づけて、コソコソハナースや!」

(はやてちゃん……ネーミングセンス最悪です。)

胸を張るはやてとそれに呆れるリインを残し、なのはが話を進める。

「ティアナからカマエルとは別に定期的に報告を行ってもらうことになってたの。それで、早速これが来たんだ。」

「ティア……」

嬉しさのあまり涙ぐむスバルになのはもホッと胸をなでおろす。
しかし、なのはにとっては他人事ではないし、彼女が不安がるともう一人影響が出る人間がいるので、ある意味こちらの方が深刻だ。

(……ごめんね、ヴィヴィオ。心配させてばっかりで。)



同社 開発室

『……り返します。先日、ファルベル・ブリング准将が殺害されました。犯人は広域テロリスト集団、ソレスタルビーイングに所属するユーノ・スクライア。スクライア容疑者は准将を殺害すると管理局局員の包囲を突破し逃走しました。なお、死亡したファルベル准将に代わり、一時的にソリア・スクライア准尉が指揮することになります。准尉はスクライア容疑者の弟に当たり、逸早く彼の凶行を察知し…』

それ以上は聞くに堪えなかったのかミンはテレビを消す。
眉間には深い皺が刻まれ、机に両肘について口元で手を組んだまま微動だにしない。
そんな彼にとって、先ほどの報道は矛盾や疑問に満ちて見えた。

(なぜ名前を公開した……なにも犯人と同じ姓であることを名乗る必要などあるまい。これから先、様々な世界を束ねていくのならなおさらだ。さらに解せないのは当日の警備態勢だ。普段に比べて明らかに人員が少なすぎる。これでは侵入してくれと言っているようなものだ。それに……)

あのユーノが何の躊躇いもなく命を奪うだろうか。
無論、ファルベルが何らかの理由で恨みを買っていた可能性もある。
ソレスタルビーイングにとって脅威となる人間を始末したと考えることもできるだろう。
しかし、それでもである。
一歩間違えれば自分の命を落とすかもしれない戦場で相手を気遣うあの青年が。
自分が手にかけた命に対して心から悔いて涙するあの青年が、私情や、ましてや賢しい打算で誰かをその手にかけるだろうか。

何かがおかしい。
確証はないが、今回の一件は裏がある
ミンにはそう思えて仕方なかった。

「“たいい”さん?」

「ん……ああ、ヴィヴィオちゃん。来ていたのか。」

若干舌っ足らずなヴィヴィオの呼びかけに皺を消してミンは彼女を肩車する。
懐いてくれるのは助かるが、このタイミングでこちらに来られるとただでさえ聡いこの子に余計な心配をさせてしまいそうだ。
いや、むしろ今だからこそかもしれない。
ティアナがアロウズに残り、ユーノが殺人犯と報道されている今だからこそなのははヴィヴィオと距離を置きたいのだろう。
だが、彼女の幼いが故の鋭さはそれだけで全てを感じ取っていた。

「たいいさんは、パパのこと嫌い?」

「嫌いなわけはないな。けど、ヴィヴィオちゃんのパパのやってることは好きになれないかなぁ……」

「じゃあ、たいいさんもパパが悪いことしたと思うの?」

やはり来たなとミンは苦笑する。
見上げなくても肩に乗っている幼子がどんな顔をしているか分かるのがまたたまらなく心苦しい。

「そうだなぁ……彼は悪人かもしれないが、己の利になることはしない人間だ。」

「利?」

「幸福と言い換えても良い。限界以上に自分を律し、無理に感情を押し殺そうとするような人間だ。そんな男が自分たちの都合だけで殺人を犯すか考えてみればい…」

「…?……???~~?????」

「…っと、少し難し過ぎたな。」

頭から蒸気を吹き出しそうなヴィヴィオを小さく笑い、ミンは自分に言い聞かせる。

(そうだ、私が信じなくてどうする。彼は……絶対に殺していない。)



クラウディア 食堂

「どう思う?」

テレビを見つめたままのヴィータの問いかけにフェイトは首を横に振る。

「やっぱり不自然だと思う。どう考えてもメリットよりデメリットの方が大きいのにあの人たちが動くとは思えない。」

「だな。足し算引き算のできない奴らじゃない。となると、だ…」

「いまのところ黒に近いのはソリア准尉、ということになるな。」

「クロノ!」

待ちかねていた二人の向かいに座ったクロノは大きなため息を漏らすと、つい先ほど話題に上がっていた人物の代わりにクラウディアクルーへの処分を言い渡した。

「准将が亡くなったことにより局は極めて混乱している。よって、我々への処分は保留。通常の任務に戻れ、だそうだ。」

「任務に戻れって……それこそ無理だろ。指揮系統にポッカリ穴があいたようなもんなんだから。」

「そう、そこだ。」

クロノの眼が鋭く光る。

「指揮権は一時的にアロウズのホーマー・カタギリ司令が持ち、ソリア准尉が暫定的にではあるが実地で指揮を執るそうだ。それと、彼は今までの功績が認められてライセンス持ちの大佐に昇進だそうだ。まったく……まじめに働くのがばかばかしくなってくる。」

若干鼻息を荒げながらクロノが腕を組むと、すかさずフェイトが声を裏返しながら驚く。

「アロウズって……!残ってる佐官クラス以上がそんなすんなり受け入れるはずが…」

「それが受け入れられたんだよ。まるで最初から根回しをされていたようにね。」

「……つまり、今の上層部のほとんどはあんにゃろうに丸め込まれてるってわけか。」

「だけならいいがな。三提督以外は傀儡の寄せ集めなんて洒落にならん。」

アロウズにも所属するソリアにとって都合のいい人間の集まりとなってくると、管理局は実質的にアロウズに吸収されたことになる。
となると、これからはあの組織の提案する作戦に対して意見することは限りなく困難になってくるだろう。
犠牲など顧みない、あのアロウズに対して口を封じられるのだ。
それも、管理局に所属する全ての世界で。

考えただけでゾッとする。

「どうするんだ、クロノ?」

「とりあえずは様子見だ。近くにいれば何かわかることもあるだろう。」

そう、勝負に出るのなら準備は必要だ。
まずは懐で相手のことを徹底的に探る。
そして、なにより仲間を増やすことだ。

(マネキン大佐は…たぶん彼女も動いているはずだ。問題ははやてたちだな。)

ヴィータとはうまくいったようだが、フェイトとはやての間には未だに埋めがたい溝がある。
この頑固者二人の仲をどう修復したものか。
お互いもう謝りたいと思っているのだから、素直に謝りに行けばいいのにと思わずにはいられない。

「……つくづく大人になれないな、君たちは。」

「え?なに?」

「いや、こっちの話だ。」

年長者の苦労はまだしばらく続きそうだ。



第17管理世界エイオース バレリオ城塞都市 作戦室

二人の男が互いに目も合わせないまま椅子に腰かけていた。

一人は恰幅のいい男。
立派な髭を指先でなでながら宙に視線を彷徨わせている。

もう一人は若い男。
メンソールの臭いがキツイ煙草を口に咥え、煙の目指す天井をぼんやり眺めていた。

「……やられたな。」

まず口火を切ったのは顎の髭をいじるのを止めたレジアスだった。

「ああ、やられた……これ以上ないくらい、最悪のマス目にキングとクイーンを置かれちまった気分だ。」

絞り出すような声に、クラッドも上を向いたまま答える。
よほど参っているのか、いつもの軽薄な雰囲気も今はなりを潜めてしまっていた。

「いうなればアロウズは戦争のプロだ。キングを取ろうと迂闊に動けばあっという間にチェックだ。こっちも擬似GNドライヴは持っているが、数も少なけりゃ経験値も圧倒的に劣ってる。」

「かといって、このままだと自陣近くに置かれたクイーンにルーク、ナイト、ビショップ……こちらの戦力の大半が削られる。」

アロウズの戦力が管理世界をはじめとする全ての世界へ、それも局が開発した新型を引き連れてやってくるのだ。
悪い夢なら早く覚めてほしい。

「しかも、世論はソレスタルビーイングだけじゃなく俺たちの存在も許さねぇ。反連邦、反管理局の組織に対してもっと厳しい締め付けをするためなら喜んで予算でも何でも通すだろうな。」

「だが、そうなればソリアの思うつぼだ。今度は管理局が奴の私設部隊になるだけだ。」

とことん分の悪い戦いになっている。
戦場で負けたわけでもないのに、いとも簡単に大勢が決してしまった。

「……抜けるなら今のうちだぜ、旦那。」

「冗談はよせ。残りの人生は若い者のために使うと決めたのだ。お前こそ、逃げなくていいのか?」

「言いだしっぺが逃げるなんてクズもいいとこじゃん。責任を以って最後までやらせてもらうよ。」

「……そうか。」

それきり、二人は小一時間言葉もかわさずにその体勢のまま過ごした。
今を、そして明日を生きるための覚悟を固めるために。



東ヨーロッパ 山間部

「そうか……やはり、戻るのか。」

名残惜しそうに、しかし感謝の意が込められたクラウスの手をシグナムはしっかりと握る。

「申し訳ない……あなた方も大変な時に。」

「いや、むしろここまで付き合ってもらったことに感謝する。」

頭を下げるシグナムにクラウスは首を横に振る。
そう、彼女達がいなければここに辿り着くことさえ困難だった。
アロウズの眼をかいくぐり、立ちふさがる者を打ち倒し、追跡を振り切ることができたのは間違いなくシグナムの功績だ。
騎士としての彼女は子供を、そして姫君を残して私情に奔ることが心苦しいようだが、ここまでしてくれれば十分だ。

「申し訳ありません、マリナ様。未だ窮地にあるにも関わらずあなたの側を離れるなど…」

「いちいち固っ苦しいんだよ。マリナ様が困ってるだろ。」

ブリジットの指摘で、渋々だが、膝をつくのを止めたシグナムにマリナは微笑みかける。

「今までありがとうございます、騎士シグナム。あなたにはいくら感謝してもしきれません。あなたたちの旅路の無事を祈ります。」

「勿体ないお言葉、ありがとうございます。マリナ様もどうか息災で。」

そう言うと、シグナムはマリナの手を取って瞳を覗き込むようにじっと彼女を見つめる。
予想外の行動に戸惑うマリナだったが、シグナムのまっすぐな目を前にすると何も語れなかった。

「マリナ様の手は、血に汚れた私のものとは違います。マリナ様の声は、戦場で斬り捨てる相手に叫ぶ私のものとは違います。誰かを支えられる手です。誰かの心を癒し、心に呼び掛けることができる声です。」

ブリジットに戒められたばかりにもかかわらず、シグナムは再びマリナの前で恭しく膝をつく。
相変わらずブリジットは呆れているが、今度は止めようとしない。

「僭越ながら、ご助言させていただきました。私や彼が……刹那・F・セイエイがあなたと違って戦場で刃を振るえるように、あなたにしかできないことがあるはずです。」

「シグナム、あなたは……」

いや、なにも言うまい。
彼女や刹那が戦火の中へ向かうというなら、自分は子供たちのためにこの手を差し伸べよう。
全ての人の心に届くように、力の限り歌おう。

こんな時代に、人々の心が荒んでしまうことがないように。



アロウズ基地 開発部

「……ええ、そうです。フルドライヴの正式名称はTRANS-AM。詳しいことは送ったデータを参照してください。」

明かりの消えた格納庫の中で、エミリオンはかすかな明かりを頼りに携帯端末で古巣の同僚と上司にもろもろのデータを送る。
使っている端末は彼が徹底的にカスタムを施した代物で、そう簡単に逆探も傍受もできない。
人が見ればなぜそこまでする必要があるのかと質問するかもしれないが、その内容と場所を知れば納得するはずだ。
こんなことが明るみになれば地獄のような尋問の後で本物の地獄に送られてしまう。
アロウズという組織は、反抗勢力に対しては鉄の結束と氷の冷徹さを以って対応するのだ。

だが、彼が真に恐れているのはそんなことではない。

「……ん?どうしたんだい、エミリオン。こんな時間まで残ってるなんて珍しいね。」

「ああ、ビリー。今晩中にシラヌイの調整を済ませておきたくてね。よかったら、君も手伝ってくれないか?」

「わかった。その代わり、今度のブルマンは君の奢りだよ。」

素知らぬ演技でとなりに呼んだ彼。
ビリーの心を傷つけてしまうことが、エミリオンには何より恐ろしい。
アロウズの理念に従うビリーを認めることはできないが、技術屋としての誇りは本物だ。
だからこそ、その誇りを踏み躙ることだけはしたくなかった。
だが、

「……ビリー。」

「うん?」

「僕らは……こんなことをいつまで続ければいいんだろう…」

その言葉をきっかけに、ビリーの手が止まる。
画面を見つめたまま、二人の間に重苦しい空気が漂う。

「いつまで、人殺しのためにこの知識を使えばいい?いつになれば、僕らは…」

「決まっている。反連邦勢力がいなくなるまでだ。」

ビリーは再び凄まじい速度で指を動かし始める。
まるで、それ以上議論の余地はないというように。

「奴らさえいなくなれば、全ての問題は解決する。……そうさ、ソレスタルビーイングさえ……彼女さえいなくなれば…」

二人の会話はそこで完全に途切れる。

そして、要求したコーヒーをビリーが受け取る日は来なかった。



プトレマイオスⅡ メディカルルーム

「終わったか?」

「ああ。ったく、このままじゃポックリ逝く前に体がガチガチになっちゃうよ。」

笑えない冗談に小言を言う気も起きない。
小一時間近くも検査が終わるのを待っていたにもかかわらず、967はころころと転がってフェルトと入れ替わりに部屋を出ていってしまった。

「どうかしたの?」

「別に。捨て身のブラックジョークが空振りに終わっただけさ。」

肩をすくめてはぐらかすが、背中に突き刺さる刹那の視線が痛い。
まあ、そのブラックジョークで修羅場を演出するのはユーノとて避けたい。
何食わぬ顔をしているが、内心ではフェルトにさっきのセリフを聞かれなかった偶然に感謝したい気分だった。

それはさておき、肝心の二人がいつまで経ってもカルテに視線を落としたまま動こうとしない。

「……?ジェイル?」

刹那が呼びかけてもジェイルは返事すらしない。
それどころか、アニューと一緒にしかめっ面で物思いに耽っていた。

「……二人とも、今回は特に異変は見つからなかった。ゆっくり休んでくれ。」

「なにかあったんですか?」

「ううん、本当に問題はないの。心配しなくていいわよ。」

フェルトが不安げに問いかけるので、そこでようやくアニューは笑みを見せる。
だが、やはり困惑の色は隠せない。

「これからも定期的に検査をするけど、違和感を感じたらすぐに来てくださいね。それじゃ、フェルトさんは二人をよろしく。」

「え?あ、ちょっと…」

締め出されるように三人は部屋から押しだされる。
そして、再入室してこないように厳重にロックするとアニューはジェイルの右手に握られているカルテを再確認する。

「……ドクター、これは一体…」

「わからない。あくまで誤差の範囲内かもしれないし、個人差と捉えることもできる。なにせ、臨床例が極端に少ないからね。」

だが、医者としての勘がこの数値が異常であると告げている。
しかも、それが同時に二人も。
偶然で片付けるには出来過ぎている。

「……アニュー君、ラッセ君とミス・スメラギを呼んでくれ。それと、わかっていると思うがこのことは内密に。希望的観測は禁物だ。」

「はい。」

とは言うが、ジェイルは既にある一つの仮定に至りつつあった。
何もかもが違う刹那とユーノの共通点。
それは、

(ツインドライヴ……)

GN粒子。
仮にこれが肉体に何らかの影響を与えていたのならば。
不完全な状態のジュエルシードを使っても無事だった理由もそこにあるならば。
そして、だとしたら、イオリア・シュヘンベルグの真の目的とは。

(しかし、そうだとしたらジュエルシードは…)

これまたあり得ない話だ。
そうなるとイオリアは魔導士を、リンカーコアを持つ者の出現すらも予測し、先に述べた影響がリンカーコアにまで及ぶことすらも計算に入れていたということになる。

(イオリア・シュヘンベルグ……あなたはどこまでわかっていたのだ?そして、何を望んでいたんだ……?)

答えはまだジェイルの手にはない。
だが、きっと辿り着いてみせる。
彼の遺志を継ぐためにも。









数多の人の想いを乗せ、世界は加速する





あとがき

第62話でした。
そして、再世編は二週目へ突入しましたw
……べつに、攻略に集中していたから更新が遅れたわけじゃないですよ?
エンブレムコンプリート目指して一周目からSRポイント全獲得目指すなんて無謀なことしてませんよ?
ええ、蜃気楼とダブルオーライザーとウィングゼロで無双して高笑いなんてしていません。
…………言い訳はここら辺にしときましょうか(苦笑)
しかし、ウィングゼロが久々にトンでも性能になっててビビりました。
まあ、αみたいにラスボスの攻撃受けてダメージ10なんてことはなかったんですが……(泣)

今回は戦闘少なめです。
というか、ユーノの目醒めがメインテーマだったんで。
……それよりもゼストさんとソリアのシーンがインパクトあり過ぎた気がしないでもないですが(オイッ)
次回は久々にサイドをやろうと思ってます。
時間軸的にはブレイクピラー直後で、テーマはシグナム奮闘記ってところです。
やっぱり騎士には姫が必要だろ!って思いつきであの二人の組み合わせをやります。
では、次回もお楽しみに!



P.S ガンレオンのザ・ヒート・クラッシャーのトドメ演出を久々に見て燃えたのは自分だけじゃないと信じていますw



[18122] 解説その1
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/04/14 20:20
解説(何のひねりもなしw)


感想版のご意見で、「キャラ一覧やMS一覧を作った方がいいのでは?」とのアドバイスをいただいたので作らせていただきました。
チラ裏時代に解説的なものをつくったことがあったのですが、その時にそれやるくらいなら「なろうに行ったら?」と言われたので、自粛していたのですが……
自分もぶっちゃけ(まだ修復という名の思い出し作業が未完の(^_^;))設定を見ないと、「あれ?こいつ今どこで何やってる予定だったっけ?」なんてことが往々にしてあるので、読者皆様のためにも改めて作ることにしました。
あ、痛い……!なろうに行けとか言いながら石投げないで……!

……そりゃあね、ぶっちゃけ初めはなろうに投稿しようかとも思ったんですよね。
でも、自分は基本的に根性無しで、イエスマンの感想ばっかり聞いておざなりなSSになりそうだなと思ったので、厳しい意見も来るかもしれないけどArcadiaに投稿してみようと考えたわけであります。
まあ、今のにじファンにいたら間違いなくアウトだったんでしょうけど……(苦笑)
実際、最初らへんのなんて見てるとかなり恥ずかしいものがありますが、下手なりに今は少しはまともな感じになってきていると自負しています。
まあ、それでも日々勉強&修練なわけですが(苦笑)
できれば、これから先この解説になにかしらの追加をすることがないように努力していきたいと思います。

では最後に……



矛盾してるところとかあったらガンガンツッコんでくださいw


キャラ一覧

リリなのキャラ 元機動六課

ユーノ・スクライア:主人公。ツインドライヴ搭載機、クルセイドガンダムのガンダムマイスターであり、ガンダムの整備士でもある。使用デバイスはGNデバイス、D・クルセイド。ミッドチルダを中心とする多次元世界における最古の民族のひとつ、翠玉人の末裔。いかなる術式でもコントロール、無効化、さらにはリンカーコアを消去する特殊能力を持つ。余命がわずかと知りながらも自分たちの行いのせいで生まれた世界の歪みを正すべく戦いを続ける。
P.S 断じて淫獣ではないし、もうユーノじゃないとか言わないこと(苦笑)

高町なのは:J・S事件解決の立役者の一人にしてユーノの婚約者。使用デバイスはレイジングハート・エクセリオン。エース・オブ・エースと呼び称される管理局屈指の魔導士。現在はカレドヴルフが開発中の新兵器、MSデバイスの一つ、ガンダムサリエルのテストパイロットを務める。ブレイクピラー事件でもアロウズと協力して人命救助に尽力するが、あからさまに人命を軽視したアロウズの手法にいっそう不信感を持つようになる。フェルトとの面識あり。

フェイト・T・ハラオウン:J・S事件解決の立役者の一人で執務官。使用デバイスはバルディッシュ・アサルト。搭乗機はシュバリエver.ライトニング。現在は兄であるクロノが館長を務めるクラウディアでソレスタルビーイングを追うが、今の管理局の方針とアロウズに疑問を抱き始める。ブレイクピラー事件の後、命令無視を理由にクラウディアと共にミッドチルダへ報告のために戻っている。マイスター全員と何度か顔を合わせたことがある

八神はやて:J・S事件解決の立役者であり、元機動六課の隊長。使用デバイスはシュベルトクロイツ、夜天の書、ユニゾンデバイスであるリインフォースⅡ、そしてリインが手にする蒼天の書。現在はカレドヴルフからのMSデバイスのテストの依頼をこなしつつ、管理局とアロウズの裏に存在する何者かの存在を探っている。ブレイクピラーで慕っていたセルゲイがアンドレイの手にかかるとアロウズとの決別を決意。地球とミッドチルダの両方で起きている戦いに参加しつつ、アロウズ、そしてそれに協力する管理局に反旗を翻す機会を伺う。スメラギ、ミレイナとの面識あり。

シグナム:J・S事件解決の立役者の一人にして、夜天の書の守護騎士のひとり。使用デバイスはレヴァンティン。現在は反管理局組織、ボーダーブレイカーズに所属し、アギトともにゼストの消息を追う。今はブレイクピラーのほとぼりが冷めるまで地球とミッドチルダの間を行き来しながら目立たないように行動している。稀代のMS音痴。車は運転できてもMSは運転できないw

ヴィータ:J・S事件解決の立役者の一人にして、夜天の書の守護騎士のひとり。使用デバイスはグラーフアイゼン。エスクワイアのカスタム機に乗っていたが、ユーノ救出の際に大破する。J・S事件の後はクラウディアに乗ってソレスタルビーイングを追う。初めはユーノを取り戻すことばかりを考えていたが、管理局とアロウズのありように疑問を抱き始める。現在は報告のためにミッドチルダに帰還している。マイスター全員の顔を知っている。

シャマル:J・S事件解決の立役者の一人にして、夜天の書の守護騎士のひとり。使用デバイスはクラールヴィント。J・S事件後は無限書庫に身を寄せていたが、はやての召集に応じる。旧アースラクルーの中で唯一ユーノの症状がGN粒子による細胞障害であることを知っている。今もはやてと行動を共にしている。

ザフィーラ:J・S事件解決の立役者の一人にして、夜天の書の守護獣。シャマルと共に無限書庫に身を寄せていたが、はやての呼びかけに応える形で戦線に復帰する。
P.S おそらく今のところの空気NO.1w
カコバナでの活躍に期待してください。

リインフォースⅡ:はやてのユニゾンデバイス。現在もはやてと常に行動を共にする。道理を引っ込ませて無理を押しとおそうとするはやてに振り回されるw

スバル・ナカジマ:J・S事件解決の立役者の一人。使用デバイスはマッハキャリバー。現在ははやてのもとでカレドヴルフのMSデバイス、ガンダムウリエルのテストパイロットを務めながら各地で起こるテロに立ち向かう。ブレイクピラーの後もはやてのもとにとどまることを選ぶが、アロウズで知り合ったルイスとアンドレイのことを心配している。

ティアナ・ランスター:J・S事件解決の立役者の一人。使用デバイスはクロスミラージュ。元機動六課のメンバーの中でも卓越したMSの操縦技能を有しており、それゆえに初めはクラウディアでエスクワイアのパイロット、続いてカレドヴルフのガンダムカマエルのテストパイロットを務める。ブレイクピラー後、アロウズの内情を探るべく、なにより父親を殺めてしまったアンドレイと不安定な状態のルイスを気遣って地球連邦に残りアロウズと共に作戦をこなす。

エリオ・モンディアル:J・S事件解決の立役者の一人。使用デバイスはストラーダ。ユーノが地球に戻るときに無理やりついていく。ソレスタルビーイングでさまざまな戦いを見つめながら、己が戦う理由と生きる意味を考え始める。現在はオーライザーの操縦者として戦線に出る。

キャロ・ル・ルシエ:J・S事件解決の立役者の一人。使用デバイスはケリュケイオンで、フリードリヒ、ヴォルテールの二匹を使役する。エリオが行方不明になると傷心のまま無限書庫へ向かうが、サーシェスによって洗脳されてキャバリアーシリーズの一機、カヴァリエーレを駆る。現在もサーシェスと行動を共にし、気の向くままに殺戮を繰り返す。

ウェンディ・ナカジマ:J・S事件解決の立役者の一人にして、戦闘機人、ナンバーズの11番目。使用デバイスはマレーネ。ユーノに捕縛され、なし崩しに機動六課に加わり、ナカジマ家の養子に迎えられる。ユーノが地球に戻る時もお目付け役と称して強引に同行する。現在はアブルホールを改良したガンダムスフィンクスでマイスターたちと共に戦う。

ギンガ・ナカジマ:J・S事件解決の立役者の一人。使用デバイスはブリッツキャリバー。スバルの姉。機動六課に出向していたが、今は108部隊に戻り、家族に加わったノーヴェたちの指導と通常業務をこなしている。ロックオンとの面識あり。

ヴァイス・グランセニック:機動六課のヘリパイロット。使用デバイスはストームレイダー。ヒクサーに狙撃の才能と操縦技術を買われ、ユーノが地球に帰還する際にそのままフェレシュテに加わる。現在はエウクレイデスでサダルスード・テンペスタのマイスターと整備士の任についていて、ブレイクピラー後もエウクレイデスに残る。
名前は断じて某白騎士の略称ではないw

シャリオ・フィニーノ:執務官補佐。愛称はシャーリーで、自称メカニックデザイナー。フェイト共にクラウディアに乗艦している。デバイスやMSの整備を行う。

グリフィス・ロウラン:元機動六課の部隊長補佐。現在は本局次元航行部隊に所属。
今のところ出す予定がない空気以上の扱いの人その1(^_^;)

アルト・クラエッタ:元機動六課の整備員兼通信士。J・S事件の最終局面でヴァイスが行方不明になるのでヘリパイロットを務めることになる。現在も地上部隊でヘリパイロットとして活躍中。
くどいが名前は某古鉄の略ではないw
そして、出す予定がない人その2…orz

ルキノ・リリエ:元機動六課の事務員兼通信士。操舵手としてアースラに乗艦していたが、ユーノに墜とされたため今はプー……もとい、事務に邁進中。
出す予定がなかった人から脱却しつつあるが、やっぱり空気(-_-;)

ヴィヴィオ・S・高町:ユーノに保護された少女。その正体は戦艦・聖王のゆりかごを起動するためにファルベルがスカリエッティに命じて生みだされた聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのコピー。なのはが保護責任者、ユーノが後見人を務める。そのため、二人を母と父とし、六課が解散したのちになのはが正式に養子関係を結ぶ。ミドルネームのスクライアはなのはの希望によるもの。現在はソレスタルビーイングに保護されている。父であるユーノと環境のせいか、MSの整備やフェルトたちのデータ整理に興味を持つようになる。このヴィヴィオは理系ですw

マリエル・アテンザ:機動六課所属時はシャーリーと共にデバイスのメンテナンスなどに携わる。現在はMSの開発などを行っている。ビリーとは友人関係。

108部隊

ゲンヤ・ナカジマ:108部隊の隊長。スバル、ギンガの父親。ウェンディとスバルやギンガたちが争うになったことに心を痛めつつも、ウェンディの安否を気遣っている。

セッテ・ナカジマ:ナンバーズの7。更生プログラムを終え、今は108部隊で保護観察ならびに研修中。半ばチンクの命令という形でナカジマ家に引き取られるが、その後は自らの意思を確立しつつあり、割とよく笑うようになる。

ノーヴェ・ナカジマ:ナンバーズの9。更生プログラムを終え、現在は108部隊で研修中。まだゲンヤを父と呼ぶのは照れ臭いようだが、敵であった自分たちを温かく迎え入れてくれたことに感謝し、心を開いている。それゆえ、ウェンディの行いはゲンヤの想いを踏み躙るものだと激しい怒りを抱いている。

ディエチ・ナカジマ:ナンバーズの10。更生プログラムを終え、現在は108部隊で保護観察、ならびに研修中。スカリエッティの真意を知り、いかなる理由があろうと殺人のための兵器を制作することは許される行いではないと考えている。それゆえ、狙撃能力の高さと相性の良さから新型MSの開発テストに協力を求められているが、ゲンヤに顔向けできないことはしたくないと言ってその誘いをことごとく断っている。

聖王教会関係者

カリム・グラシア:聖王教会・教会騎士団所属の騎士。管理局にも少将として籍を置いている。現在はあくまで中立の立場を貫いている。「予言者の著書」と呼ばれる特殊能力を持つ。この能力は本来、月の位置関係、さらに世界の事象から未来を予測するなど、思い通りに予言を行うことができるものではないのだが、ユーノが帰還時に使ったTRANS-AMのエネルギー、そして一時的につながった地球などに影響を受けてソレスタルビーイングの来訪を予測していた。その後、再びTRANS-AMのエネルギーを受けて発動。目下、無限書庫の協力のもと解読中である。ティエリアとの面識あり。

シャッハ・ヌエラ:聖王教会所属の修道騎士。使用デバイスはヴィンデルシャフト。カリムの護衛をしながら、セイン、オットー、ディードの指導をしている。カリムと同じくティエリアと面識があり、さらにロックオンとも開拓世界で出会っている。

ヴェロッサ・アコース:元本局査察部所属の査察官。フォンの転移に巻き込まれ、クラナガンで右往左往していたヒクサーと887をヴァイスと共に保護する。査察部に協力者として身を寄せていたヒクサーにその才能を見いだされてフェレシュテにスカウトされる。地球に着いた後はプルトーネ・ハウンドを使いながら情報収集を行っていた。現在はヒクサーや887とともに単身、諜報活動を行っている。

セイン:ナンバーズの6。ドンブラ子(笑)。更生プログラムを終え、今は聖王教会で見習いシスターをしている。そして今日もシャッハに怒られるw ネタに事欠かない本当に素晴らしいキャラクターの持ち主ww ティエリアとは面識あり。

オットー:ナンバーズの8。更生プログラムを終え、今は聖王教会でカリムの秘書を務める。双子のディードと一緒に開拓世界を訪れ、ロックオンと会っている。ティエリアとの面識もあり

ディード:ナンバーズの12。更生プログラムを終え、今は聖王教会で修道騎士見習いをしている。オットーとは双子。開拓世界でロックオンと出会い、ティエリアともウェンディと一緒にいるときに会っている。

ボーダーブレイカーズ所属(元ナンバーズ)

ウーノ:ナンバーズの1。J・S事件後、管理局によって投獄されていたが、救出されて今はボーダーブレイカーズに所属。オペレーター、事務など様々な作業をこなしている。愚痴さえこぼさなければパッと見はパーフェクトウーマンw

ドゥーエ:ナンバーズの2。J・S事件後は行方をくらませていたが、クラッドに雇われ、ボーダーブレイカーズの一員として諜報活動を行っている。ウーノ、トーレ、クアットロ、チンクの四人を救出する際のお膳立てを行ったのも彼女。現在はクラッドとともにブレイクピラーで戦力をそがれてしまったカタロンの援助を行っている。クラッドのセクハラに一番悩まされている人w

トーレ:ナンバーズの3。J・S事件後、管理局によって投獄されていたが、救出されてボーダーブレイカーズに所属。本編ではまだ語られていないが、シグナムと共にブリジットの師をつとめる。

クアットロ:ナンバーズの4。J・S事件後、管理局によって投獄されていたが、救出されてボーダーブレイカーズに所属。ウーノと共に事務などに勤しむが、刺激のない日常に少々飽きが来ている様子。だが、借りがある以上、今の仕事を投げだすつもりはないらしく、そのためクラッドからの信頼も厚い。でも、やっぱりドSw

チンク:ナンバーズの5。J・S事件後、管理局によって投獄されていたが、救出されてボーダーブレイカーズに所属。ギンガから更生を提案されたが、多くの人に犠牲を強いたこと、なにより妹たちを巻き込んでしまったことへの償いをしたいという理由でそれを頑として受け入れなかった。現在はドゥーエと共に諜報活動を行っている。

無限書庫

アルフ:フェイトの使い魔。現在は考えの違いから、はやてはもとより主人であるフェイトとまで袂を分かっている。現最高責任者のハイネとともに、中立の立場を装いながら情報収集の面でソレスタルビーイングをバックアップする。

元スカリエッティ陣営(ナンバーズ以外)

ジェイル・スカリエッティ:生物学、機械工学、ありとあらゆる分野の権威にして、テロリスト。生命という存在の探求について妥協はしないが、非人道的実験は「生物の本質を捻じ曲げる行為である」として好まない。彼自身も無限の欲望という性質を組み込まれて生み出された存在だったが、その欲望の矛先は万人が人として生を謳歌できる世界の実現へと向けられることとなり、それこそが彼を生み出した最高評議会の誤算となる。現在はソレスタルビーイングに保護され、そのまま医師、そして整備士として日夜イアンとガンダムの修復、強化に励む。キャラ崩壊なんてもんじゃないとか言わないこと(苦笑)

アギト:烈火の剣精。とある実験施設に捕らえられて実験を受けているところをゼストとルーテシアに救われる。J・S事件の後は更生プログラムを受け、ゼストを探すためにシグナムとブリジットを誘って旅に出る。その時、出会ったクラッドに説得されてボーダーブレイカーズに所属する。現在はシグナム達と共に地球とミッドチルダを行き来しながらの潜伏生活を行っている。

ルーテシア・アルピーノ:ゼストが隊長を務めていた部隊に所属していた、メガーヌ・アルピーノの娘。使用デバイスはアスクレピオス。現在は意識を取り戻した母とカルナージで宿泊施設を営む。情報収集のためにウェンディと共にカルナージを訪れたティエリアと会っている。

メガーヌ・アルピーノ:かつてゼストが指揮していた部隊の一員。ルーテシアの母親。当時、本人の知らぬ間に体の中に宿っていたルーテシアをスカリエッティに救われるが、その代償に自らは長い眠りに就くことになった。現在はカルナージで娘と共に穏やかに暮らしている。余談だが、ティエリアに魔法の基礎を教えたのは彼女とルーテシア。

ガリュー:アルピーノ親子の使役する人型の甲虫召喚獣。現在は二人を守りながら生活しているが、ルーテシア曰く勝敗がうやむやになってしまったユーノとエリオとのリベンジマッチを望んでいるらしい。

ゼスト・グランガイツ:元管理局員。使用デバイスは槍型のアームドデバイス。凄腕の騎士だったが、ファルベルの罠にはまって彼とメガーヌを残して部隊は壊滅。その際にスバルたちの母親であるクイントも殉職する。その一件に親友であるレジアスが関わっている可能性があることを知った彼は、命を救ってくれたスカリエッティに協力する傍らレジアスに事の真相を問いただす機会をうかがっていた。J・S事件後、レジアスの娘であるオーリスを人質に取られ、レジアスともどもファルベルの傀儡になっていたが、オーリスが解放されてレジアスがボーダーブレイカーズについたことを確認すると、復讐のために悪鬼となる覚悟を固める。現在はソリアの下を離れて単独行動中。

地上本部

レジアス・ゲイズ:階級は中将。武闘派として知られているが、全ては世界の行く末を憂いてのことだった。根本にそういったものがあるためか、支持者は多く、ユーノとも(以前に紆余曲折あったが)腹を割って話し合い、同志と呼んでも差し支えのない関係にまでなっていた。現在はクラッドと共にボーダーブレイカーズの首魁として矢面に立っている。

オーリス・ゲイズ:階級は三佐。父であるレジアスの副官を務める。ファルベルによって拉致監禁されていたが、救出されてレジアスと共にボーダーブレイカーズで打倒ファルベルに燃えている。

その他

クロノ・ハラオウン:クラウディアの指揮を執る提督。ユーノの親友の一人。使用デバイスはデュランダル。ユーノとの対立、現在の管理局の在り方に疑問を抱きつつも、自らの使命を全うすべくソレスタルビーイングやその他の反抗組織と戦う。ブレイクピラーの際に、待機の命令を無視して救助活動を行ったため、説明責任を果たすべく現在はミッドチルダに帰還中。

ラグナ・グランセニック:ヴァイスの妹。ヴァイスのミスショットで左目を失明。それが原因で兄と疎遠になるが、ヴァイスが地球に旅立つ前に和解。きっとまた戻ってくるとの約束を信じて兄の帰りを待っている。

リインフォース(初代):闇の書の管制人格。闇の書事件が解決した際に再度の暴走を恐れて消滅するが、その欠片が並行世界の地球へ転生。レイヴの通う学校の図書室にひっそりと置かれていた。マテリアルによって彼女は再び魔力の収集と暴走を引き起こそうとしていたが、ユーノとブリュン、そしてマリーの活躍で彼女の中の闇は完全に消えた。現在ははやてのもとへ戻ることを夢見ながらプトレマイオスで日々を過ごしている。また、967とは通じ合うものがあるのか友人関係となる。

アインハルト・ストラトス:覇王イングヴァルトの記憶を受け継ぐ少女。現在は学業の合間に武者修行の旅をしている。
刹那と出会って一目惚れw 
だけど思いは一方通行(大爆笑)

トーマ・アヴェニール:第3管理世界・ヴァイゼンの遺跡鉱山で起こった事故の生き残り。事故と処理されはしたが、トーマはその時に藍色の羽の入れ墨をした男と女の二人組を目撃。復讐を誓って鍛錬に励んでいたが、ロックオンとレイの説得で思いなおす。

アイシス・イーグレット:アレルヤとマリーが第55管理世界ヌアザで出会った少女。裁縫が得意。人に食事をたかるのはもっと得意w
食事がからむと握力さらにパワーアップww

ドゥビル:ディバイダー695と呼ぶデバイス(?)を使う戦士。ユーノと接触し、戦闘を行う。高速治癒、金属以上の硬度への肉体強化と人間離れした能力を持つが、その能力の特性を理解したユーノの前に敗れる。自分に土をつけたユーノとの再戦を望んでいる。



00キャラ

プトレマイオスクルー

刹那・F・セイエイ:このSSの準主人公。ダブルオーガンダムのガンダムマイスター。使用デバイスはGNデバイス、D・ダブルオー。幼いころに両親を殺め、少年兵として戦場に立っていた経歴を持つ。四年前の戦いの後も単独でアロウズを調査していたが合流。現在はサーシェスから受けた擬似GN粒子による蘇生障害の治療を受けながらダブルオーライザーで戦場を駆ける。ユーノに剣の扱いの基礎を仕込んだのも彼であり、今はエリオの師として彼を鍛えている。

ロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ):ケルディムガンダムのガンダムマイスター。カタロンに所属していたが、刹那からスカウトされてソレスタルビーイングに参加する。初めはカタロンの立場を有利にすべく参加したが、多くの人々との邂逅でガンダムマイスターとしての自覚が芽生え始める。アニューとの関係は今のところ友人以上、恋人未満といったところか。

アレルヤ・ハプティズム:アリオスガンダムのガンダムマイスター。四年前の戦いの後、地球連邦に捕らわれていたが救出され、恋人であるマリーも取り戻す。今は心を閉ざしてしまったマリーを気にかけつつもアリオスで戦う。

ハレルヤ:アレルヤが改造を受けた際に生まれた別人格。極めて凶暴で、優しさゆえに手を下すことをためらうアレルヤの代わりに容赦なく敵を屠る存在だった。だが、ユーノや様々な人との交流でその気性も今では少し落ち着きつつある。

ティエリア・アーデ:セラヴィーガンダムのガンダムマイスター。使用デバイスはGNデバイス、D・セラヴィー。四年前の戦いの後もソレスタルビーイングで活動を続けていた。杓子定規な性格も四年前からは想像できないほど柔軟なものになった。イノベイドであることに思い悩みつつも、ウェンディたちと過ごす中で人間として生きることを決意する。ウェンディに振り回されることもしばしばだが、まんざらでもない様子。

マリー・パーファシー:アレルヤと同じ施設にいた超兵。搭乗機はGNアーチャー。使用デバイスはD・アリオス。上書きされた人格であるピーリスの下で眠りについていたが、アレルヤの呼びかけで目覚める。セルゲイの死を目の当たりにし、アンドレイへの復讐に燃える。また、自分だけが復讐を忘れてアレルヤと幸福を掴むことへ罪悪感から彼とは距離を置くようになる。しかし、現在はソーマとも和解し、アレルヤとの関係も以前ほどではないが修復されつつある。

ソーマ・ピーリス:元人革連に所属していた超兵で、マリーの上に上書きされた人格。搭乗機はGNアーチャー。使用デバイスはD・アリオス。アレルヤに会いたいという願いからマリーに肉体を譲り渡すが、戦闘時やマリーの危機に応じて表に出てきては彼女の窮地を救う。しかし、セルゲイの死を目の当たりにしたショックでふさぎこんでいた。現在はマリーと和解し、再び戦うことを決意する。

スメラギ・李・ノリエガ:ソレスタルビーイングの戦術予報士。四年前の戦いで仲間を犠牲にしながらも変わらなかった世界に失望し、酒浸りの生活を送っていたが刹那によってソレスタルビーイングに連れ戻される。過去の疵を乗り越え、現在はプトレマイオスで辣腕をふるう。戦術予報士ではあるが、実質的にプトレマイオスの艦長。

フェルト・グレイス:プトレマイオスのオペレーター。使用デバイスはGNデバイス、D・ケルディム。オペレーターとしても優秀だが、クルーの中でも魔導士として突出した才能を持つ。ユーノに想いを寄せるも、婚約者がいることを知り、なおかつその婚約者であるなのはと敵対しているという事実に困惑し、ユーノへの恋心と罪悪感との間で葛藤する。現在はオペレーターとしてだけでなく、必要ならば魔導士として戦線に出ることもある。

ミレイナ・ヴァスティ:プトレマイオスのオペレーター。イアンとリンダの娘で、若いながらもオペレーターとしては優秀。ただし、まだ幼い故に人として未熟であることは否めない。魔女っ子に憧れるも、リンカーコアはなかった。残念w

ラッセ・アイオン:プトレマイオスの操舵士兼砲撃手。四年前の戦いでユーノと同じくGN粒子の細胞障害を発病するが、それをおして戦いに参加する。ユーノの格闘技の師でもあり、エリオのたっての願いで刹那と同じく戦闘技能を仕込んでいる。

アニュー・リターナー:プトレマイオスの操舵士兼医師。四年前の戦い以後に加入したメンバーで、非常に優秀な女性。現在は砲撃に専念するラッセに代わってプトレマイオスの操舵を行う。ライルとの関係はまだ進展中。

イアン・ヴァスティ:プトレマイオスの整備士。ユーノとシェリリンのメカニックの師匠。ソレスタルビーイングの中でもかなりの古株。年老いた現在でもその腕は健在で、メカニックにおいて右に出る者はいない。ミレイナの父親。しかし、年のせいでヴィヴィオからはおじいちゃん呼ばわりw

沙慈・クロスロード:一般人。四年前、刹那とユーノの隣人でもあった。軌道エレベーター関係の職に就いていたが、カタロンの構成員と誤解されて高重力下での強制労働施設に送られる。ひょんなことから刹那に救出されるが、同時に恋人であるルイスを傷つけ、姉の絹江が殺されるきっかけを作ったソレスタルビーイングに刹那が所属していたことを知って激昂する。しかし、自分の行いでカタロンの人々を傷つけてしまい、それ以後自分なりにこの世界と向き合おうとする。今は恋人のルイスがアロウズにいることを知り、オーライザーで友人であるユーノをサポートしながら、彼女を取り戻そうと奮闘している。


エウクレイデスクルー(フェレシュテ)

フォン・スパーク:元フェレシュテのガンダムマイスター。テロリストとして拘束されていたところをシャルにスカウトされた。反逆者としてフェレシュテから追われる身だったが、現在はフェレシュテにエウクレイデスを提供するなど、協力関係にある。かつてのヴェーダのメインターミナルを有し、それを自分のヴェーダとして使用する。その行動理由は面白くないか否か。ブレイクピラーの場に馳せ参じた理由もかつて自分の考案した作戦を使われた腹いせ。その後、フェレシュテともども姿を消すが、地球、ミッドチルダを問わずに連邦や管理局の主要施設が赤いガンダムによって破壊されているとの報告がある。

874:フォンと行動を共にしているイノベイド。肉体を持たず、ハロの電脳空間内に人格をひそませている。感情が希薄だったが、フェレシュテのメンバーやフォンと一緒の時間を過ごすうちに時折人間らしい感情を見せるようになる。

シャル・アクスティカ:元ガンダムプルトーネのガンダムマイスター。今はソレスタルビーイングのサポート組織、フェレシュテの責任者を務めている。あらゆる苦難を乗り越えてきた、芯の強い女性。状況に合わせて的確な判断が下せるようになるなど、指揮官としても成長している。現在はフォンと共に連邦や管理局の牽制を行っている。

シェリリン・ハイド:フェレシュテのメカニック。ユーノが駆るクルセイドガンダムをイアンと共に設計、開発した人物でもある。フェルト同じようにユーノに想いを寄せるが、その強引さゆえに空回りしがち。現在はフォンと共にエウクレイデスに乗艦中。

エコ・カローレ:フェレシュテのガンダムマイスター。優秀ではあるのだが、不測の事態に直面すると能力にバラつきが出てしまうなどの欠点があるため、結局ヴァイスやヴェロッサのように機体を与えられることはなかった。出す予定のないやつその3w

ヒクサー・フェルミ:イノベイドにして、ガンダムラジエルのガンダムマイスター。ビサイドによって親友だったグラーベをその手で殺してしまい、自ら心を閉ざしてしまう。その際にヴェーダの指令に従い一時期ソレスタルビーイングを離れるが、自らの意思でフェレシュテに復帰。ヴァイスとヴェロッサをスカウトにも携わる。ブレイクピラーの後は887とヴェロッサを連れて再び単独行動を開始する。

887:874と同タイプのイノベイド。874と違って肉体があり、874にその肉体を奪われることを恐怖するあまり彼女を抹消しようとするが今は和解。ヒクサーと共にフェレシュテに参加している。ブレイクピラーの後、GNセファーでヒクサーと共に諜報活動を開始する。


六人のイノベイド

レイヴ・レチタティーヴォ:六人のイノベイドの一人。リボンズと同じ塩基配列を持つ。学生だったが、ある日突然ヴェーダによって覚醒させられる。理由もわからぬまま仲間を見分ける能力と仲間を集めろというミッションをヴェーダから与えられる。そのミッションとはかつて私欲のためにソレスタルビーイングを裏切ったアレハンドロ・コーナーに代わる監視者を六人の特殊能力を持つイノベイドに任せるというものだった。しかし、その最中にレイヴはかつて彼の肉体に宿っていた人格、ビサイドによって肉体を奪われてしまう。だが、そののちに肉体を取り戻したレイヴは見事ビサイドを葬り去ることに成功した。今は監視者として見聞を広めるために世界中を旅している。

テリシラ・ヘルフィ:六人のイノベイドの一人。世界的に有名な医師でもある。レイヴの連絡によって覚醒を果たし、選ばれた仲間を六人のイノベイドとして覚醒させる能力を得る。一連の事件の中で師であるモレノがかつてソレスタルビーイングに所属していたことを知った。今はブリュンや義妹のスルー、そしてハーミヤと地球で過ごしている。さらりと毒舌を吐くが、人格者ではある。

ラーズ・グリース:六人のイノベイドの一人だが、かつては自分をイノベイドとは認めず、手当たり次第に同朋を狩るイノベイドハンターだった。過去に息子だったブリュンと運命的に再会し、説得の末にイノベイドハンターを辞めることを決意。能力はマシンを思いのままに制御することであり、ヴェーダですらも制御することができる。過去に負った傷のせいで脳量子波使えないが、償いのために世界中を旅している間も息子であるブリュンとだけは脳量子波で繋がっている。

ブリュン・ソンドハイム:六人のイノベイドの一人。かつて家族だったラーズに頭部を撃たれ、体を動かせなくなる。だが、その脳量子波は強力で仲間同士を繋ぐこともできる。リンカーコアも所持しており、リインフォースの開放にも尽力した。ちなみに、かつてアレハンドロに協力していた老医師に拉致された時にゴスロリファッションに着替えさせられただけで、断じてテリシラの趣味のせいであんな恰好をしているわけではないw

ハーミヤ:六人のイノベイドの一人。カタロンに所属していたが、仲間だったブラッドに支部を壊滅させられてからはテリシラのもとに身を寄せる。その能力は仲間の同意を得ることで監視者にふさわしくないイノベイドの記憶と能力をリセットするもの。コンピューターに関するスキルはずば抜けているのだが、生まれつきのドジと誤解満載の乙女思考でトラブルを巻き起こす(笑)

リジェネ・レジェッタ:リボンズに与するイノベイド。ティエリアと同じ塩基配列から生まれた。しかし、その性格は極めて冷酷。また、イノベイドでもないのにリボンズから注目されているユーノを敵視し、機会さえあれば殺そうとする。リボンズの寝首をかこうと様々な策を講じ、六人のイノベイドのミッションとビサイドもそのために利用しようとした。その能力は太陽炉を制御する力だったが、残る五人から監視者としてふさわしくないと判断され、ミッションに関わる記憶と能力を抹消された。現在はリボンズのもとで反抗の機会をうかがっている。

ビサイド・ペイン:ソレスタルビーイングを手中におさめようと企んだイノベイド。搭乗機は1ガンダム。グラーベの仇であり、ヒクサーが長年追っていた宿敵。レイヴの肉体を奪い、六人のイノベイドの計画を利用して己の野望を遂げようとしたが、ユーノとアレルヤ、そしてフェレシュテのマイスターたちとフォンの前に敗れる。実は、かつてシルトでGN-EXCEEDの実験を行っている。


カタロン

クラウス・グラード:カタロンの中東支部リーダー。アロウズの打倒、そして秩序ある社会の再編を望んでたたかう。ブレイクピラー後は戦力を消耗したため、シーリン、マリナ、子供たちを連れて潜伏生活を続けている。

シーリン・バフティヤール:カタロンの構成員。アザディスタンを離れ、カタロンに参加するが、アザディスタンが連邦に再編されて消滅したため、図らずも再び彼女と行動を共にすることになった。現在はクラウスと共に潜伏生活を送る。

マリナ・イスマイール:アザディスタン王国第一皇女。過去に刹那と接触したことを理由にアロウズから追われ、さらにアザディスタンも事実上消滅したためカタロンに身を寄せることになる。現在もシーリンたちと共に潜伏生活を送る。

スルー・スルーズ:元カタロンの構成員。テリシラと同じ塩基配列を持つ。彼女が所属していたカタロン支部が壊滅した後はテリシラのもとに身を寄せる。テリシラを兄と慕い、本物の家族のように接する。


地球連邦

ホーマー・カタギリ:独立治安維持部隊、アロウズの最高司令官。ビリーの叔父でもある。多少の血は厭わずに恒久和平を目指し、アロウズの指揮を執る。また、日本の文化にも造詣が深く、とある人物に武士道のなんたるかを説く。

アーサー・グッドマン:アロウズに所属。階級は准将。表向きは恒久平和実現のために戦っているが、反抗勢力に対しては冷徹。勝つためには手段を選ばず、カタロンなどを見下している節がある。

アーバ・リント:アロウズに所属。階級は少佐。殲滅戦を得意とし、それを楽しむという歪んだ性格の持ち主。しかし、メメントモリの崩壊に巻き込まれ殉職。

カティ・マネキン:元AEUの指揮官。現在はアロウズに在籍し、階級は大佐。手段を選ばぬアロウズに不信感を抱きながらも、内部から動向を探る。ブレイクピラーのしばらく後に艦一隻とMS部隊、兵数十名と行方をくらませる。

セルゲイ・スミルノフ:地球連邦正規軍に所属。階級は大佐。四年前、ユーノの正体を知っていた人間の一人であり、敵であるユーノを気にかけていた。四年前の戦いの後はピーリスと暮らし、養子縁組をする予定だったがピーリスがアロウズに召集、表向きは戦死したためその予定も流れることになる。ブレイクピラーの折に息子であるアンドレイに討たれ、この世を去った。

ハング・ハーキュリー:地球連邦正規軍に所属。階級は大佐。アロウズの暴挙を告発すべく人質をとって軌道エレベーターに立て籠もるが失敗。ブレイクピラー直後にアンドレイの手にかかって死亡。

ビリー・カタギリ:アロウズのMS開発主任。酒浸りだったスメラギと生活していたが、彼女がソレスタルビーイングに所属していたことを知り、以後は自分を裏切り利用し続けていた彼女への復讐のためにアロウズに参加する。

ミスター・ブシドー:アロウズに所属し、単独行動のライセンスを持つ。搭乗機はマスラオ。常に仮面で顔を隠しており、素顔をさらそうとしない。また、武士道に傾倒しており、ガンダム、特に刹那の乗るダブルオーを異様なまでの執着心で追い続ける。原作見た人も1話目から正体モロバレだろとか言わないこと(^_^;)

アンドレイ・スミルノフ:アロウズに所属するパイロット。階級は少尉だったが、昇進して現在は中尉。搭乗機はジンクスⅢからアヘッドへ。母親を見殺しにした父親、セルゲイを恨んでいる。ブレイクピラーの際にセルゲイを討つが、心にしこりを残す。今もアロウズに所属。

ルイス・ハレヴィ:アロウズに所属するパイロット。階級は准尉。搭乗機は以前ピーリスが使っていたスマルトロン。以前の武力介入で家族をガンダムに殺され、自らも腕を失う。復讐のためにアロウズへ入隊する。ブレイクピラー後もアロウズに所属するが、精神的不安定さは加速している。イノベイター、リボンズと繋がりあり。

バラック・ジニン:アロウズに所属するパイロット。階級は大尉で搭乗機はアヘッド。妻がいたが、カタロンのテロに巻き込まれこの世を去っている。ルイスに辛く当たる場面もあったが、恒久和平を望む心は本物である。現在はアンドレイたちと離れ、別部隊で活躍中。
……別に、異世界編以降は存在を忘れていたわけではない……はず。

パトリック・コーラサワー:アロウズに所属しているパイロット。元AEUのエースでカティの後を追ってアロウズに入隊する。ガンダムと幾度も戦いながら(MSを墜とされても)生き残っていることから、不死身のコーラサワーという当てつけのようなあだ名をつけられている。もっとも、本人はそんなことは気にしていないが。


イノベイター

リボンズ・アルマーク:イノベイター。イノベイドとして生み出されたが、その後イオリア計画を我が物とし、イノベイターを名乗るようになる。0ガンダムの性能実験の際に刹那を目撃し、ソレスタルビーイングへと導く。ユーノの能力に注目し、強引に自らの陣営に取り込もうとしている。

ヒリング・ケア:リボンズと同じ塩基配列を持つイノベイター。搭乗機はガデッサ。現在はアロウズでソレスタルビーイングを追う。

リヴァイヴ・リバイバル:イノベイター。搭乗機はガデッサ。ヒリングと同じく、アロウズでソレスタルビーイングを追う。

ブリング・スタビティ:イノベイター。ガラッゾのパイロット。他のイノベイターと比べて無口。ティエリアをあと一歩のところまで追いつめたが、セラフィムの前に敗れ去る。

デヴァイン・ノヴァ:ブリングと同型のイノベイター。エンプラスのパイロット。ブリングと同じく無口で任務に従順だが、ブリングを討ったソレスタルビーイングに怒りを抱く。だが、ブレイクピラーをくいとめようとしたユーノ、967、沙慈の乗るクルセイドライザーに倒された。

アリー・アル・サーシェス:元傭兵。刹那を少年兵に仕立てた張本人であり、ニールとライルの家族の仇でもある。四年前の戦いで死亡したと思われていたが、半身を失いながらも生きていた。現在はイノベイターに雇われ、さまざまな戦場で戦いを楽しんでいる。また、エリオを失いふさぎこんでいたキャロを洗脳した。

王留美:王家の当主にしてソレスタルビーイングのエージェント。だが、今はイノベイターに協力し、世界を思うままに変えようと画策している。

紅龍:留美の護衛にして兄。卓越した戦闘技能を有し、現在も留美と行動を共にしている。

ネーナ・トリニティ:トリニティの生き残り。寄る辺を失くしていたところを留美に拾われ、以後彼女の手足となって働く。だが、胸の内には自分たちを嵌めて二人の兄を殺した敵への復讐の炎が燃え盛っている。




オリキャラ

レント・スクライア:ユーノの義父。ユーノを拾い育てるが、管理局の策略に巻き込まれて亡くなる。ユーノが考古学などを志すきっかけを作ったのも彼である。

アイナ・スクライア:ユーノの幼馴染。ミッドチルダの新聞社に勤めていたが、管理局に探りを入れようとしていたことを煙たがられて地方へとばされる。以後はソレスタルビーイングに情報を提供する。現在はミッドチルダでファルベルの周辺を探る。
六課のアイナさんが出ないのはこいつのせいじゃない。ただ、ユーノやなのはと戯れるヴィヴィオを書いていたら存在そのものを忘れ去っていただけだ!(なおのこと駄目)

シルフィ・スクライア:スクライア族の族長。若い時にロストロギアの影響で不老不死になる。経緯はいまだ不明だが、イオリアとも交流があった。ちっちゃいバァちゃんだからってハァハァしたらダメw 老いらくの恋とか考えるのはもっと駄目ww

クロウ・ヘイゼルバーグ:元査察官。搭乗機はフュルストカスタム。使用デバイスはエルダ。ヴェロッサの同僚で、フェレシュテの補充要員候補にまでなったが、結局入らなかった。しかし、その後も情報などを提供してソレスタルビーイングに協力する。アイナとは背中を任せ会える仲だが、恋人と呼ぶには微妙な関係。

アイリス:クロウの使い魔。見た目は菫色の羽毛と金の尾羽を持つ鳥。人間時はメイド姿の黒髪の少女。その容姿の美しさ、さらに知能の高さと希少な魔法生物ということもあり、違法研究施設に捕らえられていた。その際、仲間のほとんどが死に絶え彼女もまた命を落とそうとしていたが、クロウに救われ使い魔となる。以後、彼には絶対の忠誠を誓った。どこからともなくテーブルやティーセット、茶葉などを取り出して茶会の準備を整える。武道、学問、さまざまな分野で一流の技術を持っているが、本人曰く嗜む程度であって自慢するほどではないとのこと。クロウとその仲間の伝言役を請け負っている。

ジルベルト:刹那がエイオースで出会ったユニゾンデバイス。ベルカ時代の戦乱に幾度も参加、目撃し、戦いの虚しさを痛感。刹那の考えに共感してソレスタルビーイングに加わる。刹那をロードと呼ぶが、当の刹那本人はそんなつもりはないようだ。

ハイネ・フライシュッツ:元無限書庫副司書長。使用デバイスはヴェステンフルス。ユーノが抜けた無限書庫で最高責任者を務めるが、本人はあまり乗り気ではない。ユーノを介してソレスタルビーイングに接触。以後、協力関係を築く。

ブリジット・フリージア:翠玉人の少年。受けた傷を自動的に治癒するオートリカバリーの能力を持つ。搭乗機はボーダーブレイカー・タイプH。幼い頃は両親と妹の四人で平穏に暮らしていたが事故で両親をなくし友人や親戚を名乗る大人達に財産を奪われ孤児院に預けられる。妹と二人で懸命に生きていたが病弱の妹が倒れた際に翠玉人という理由で病院をたらい回しにされ、妹を見殺しにされる。それまでは親との約束で争いをしないようにしていたがこの事件を機に孤児院を抜け出し各地を彷徨った末に翠玉人のテロリストメンバーになる。六課に保護され海上施設にいたが、MSの襲撃を受ける。その時に、かつて自分たちの祖先を苦しめていたシグナムに救われ、徐々に心を開き始める。その後、シグナムたちから訓練を受けながら戦士としても成長を続けている。現在はシグナムと行動を共にしている。

マリアンヌ・デュフレーヌ:ブリジットが所属していた「亡国の復讐者」の女性幹部であった翠玉人。搭乗機はシュルト。使用デバイスはクレシェンテ。戦闘スタイルは日本刀を使用した二刀流。高い魔力と卓越した身体能力をもつ。ブリジットが保護された時には所用でアジトを離れていたため事なきを得る。組織が壊滅状態になったことをきっかけに自分の行いを見つめ直すためメンバーから離れ旅に出る。その旅の中で次元世界が変わろうとしていることを感じている。エイオースでブリジットと再会、シグナムと話をする中で自分の罪を償うことを決意する。

スタンザ・ヴェルデ:元翠玉人の長。故人。翠玉人の集落が襲撃にあった折に殺害される。ユーノと同じ能力を持つ。さらに、ユーノがうわばみなのは彼の息子だからとか何とか。

シルビア・ヴェルデ:翠玉人の現在の長。ユーノの実の母親。夫であるスタンザが亡くなった後、一族を率いて静かに暮らしていた。しかし、騒乱の中でこれ以上他との関わりを断つことは不可能と判断し、管理局の庇護下に入る。

クラッド・アルファード:元管理局局員で階級は三佐。反管理局勢力、ボーダーブレイカーズの設立者。搭乗機はボーダーブレイカー・タイプC。普段は軽薄で人の上に立つような人物には見えないが、はやて以上の高い指揮能力を持つ。管理局、特にファルベル周辺の腐敗に嫌気がさし、近々管理局を抜ける予定だったが、ユーノがソリッドで地球に戻るところを目撃。全ての世界を救う可能性を見出し、反抗勢力として管理局に戦いを挑む道を選んだ。魔導士としての能力は突出したものではないが、メカニック全般、特にMSの扱いに関しては天性の才能を持つ。

ヒルダ・アイヒマン:エイオース政府の重鎮の娘、エイオースの治安回復に少しでも貢献したくて管理局へ入局した、クラッドの隊でオペレーターとして勤務して居たが、クラッド共々ボーダーブレイカーズへ転身、その後は第一小隊のオペレーターを担当している。

チヒロ:ヒルダ同様クラッド隊のオペレーターで、クラッド共々ボーダーへ転身、彼女は第二小隊のオペレーターを担当している。

ゴードン・アルペジオ:搭乗機はティエレン。モラリアのPMCでティエレンのパイロットとして活躍していたが、連邦政府樹立後はカタロンとして活動するようになる。現在、ボーダーブレイカーズの操縦技術向上のために共感を務める。親しい人からはペジと呼ばれている。

サレナ・ミューン:アレルヤが戦場で出会った少女。演劇を学ぶためにミッドから別の世界へと移住するが、そこをテロで破壊され、両親を失う。一時、生きる希望を失くしていたが、アレルヤ、マリー、そしてアイシスの活躍で再び女優の夢を追いかける。予定では、このSSの作中で劇場版リリカルなのはにユーノ役で出演する予定。劇場版ソレスタルビーイング並みに笑える展開にする予定w

フィオラ・シン:第76管理世界・バーナウにあるシン国の王子。エリオの友人となる。幼いながらも管理局の圧政に抗おうとしたが、最後は屈することになる。だが、その中で自らにできることを模索し始める。

エヴァンジェリン・リュフトシュタイン:ミッドチルダの現大統領。管理局の暴走を危惧する人物の一人。独自にソレスタルビーイングと接触するなど、さまざまな行動を展開している。

エミリオン・ヴィントブルーム:ユーノと同じ翠玉人の一人。翠玉人の技術を人々のために使おうと管理局の技術開発部門に所属していたが、ファルベルにその技術に目をつけられ婚約者であるリュアナの治療を条件に無理やり、ミットチルダ製MS開発に関わることになる。現在とはやてとファルベルとアロウズへの反旗の機会をうかがう。

リュアナ・フロストハート:エミリオンの婚約者。クラナガンの花屋で働いている。エミリオンが翠玉人であることは知っている。心臓に難病を抱えており、そのせいでエミリオンが望まないことをさせられていることになんとなくだが気づいており、そのことで悩んでいた。しかし、説得の末にエミリオンは己の思うままに行動することを決意する。現在はクラナガンの自宅で仕事に励みながら投薬治療を受けている。

アルフレード・K・ウルフ:第43開拓世界ゲイルスでロックオンを保護した人物。祖先は地球の出身。元管理局員だが、その際に自然環境の悪化を目撃し、独自に環境保護活動を行うために局を抜ける。現在はゲイルスで猟師をする傍ら、鉱石が目的の乱開発を防ぐために、節度ある採掘を行えるように尽力している。

ファルベル・ブリング:管理局の重鎮。階級は准将。ユーノの父が死ぬきっかけを作った仇であり、現在の管理局を牛耳る人物。一見温和な人物だが、己の目的を成就させるためならどんな汚い手でも平然と使う。また、部下を駒程度にしか考えていない。

エレナ・クローセル:元ガンダムシルトのガンダムマイスター。虫の息だったユーノを救った命の恩人。ユーノに淡い恋心を抱いていたが、介入前の試験を兼ねたミッションの際に死亡。息を引き取る直前にようやく想いを伝えることができた。

967:ユーノのサポートをするイノベイド。かつてのラジエルのマイスター、グラーベ・ヴィオレントと同じ容姿をしていて、性格も持っている記憶もほぼ同じ。だが、ユーノとの生活の影響で誤差が出始めている。

サクヤ・レイナード:ティエリアやリジェネと同じタイプのイノベイド。両親もイノベイドで、ミッションを開始する時彼女だけがそれを拒否。そのため処分されそうになり、その際に感情を失う。現在はテリシラのもとで使用人として働いている。女版ティエリアだからといってハァハァしては(以下略)

レイ・フライハイト:カタロン構成員。搭乗機はカスタムフラッグ。クラウスやライルとは顔見知り。アロウズの作戦に巻き込まれ、固めと家族を失くす。隻眼ではあるが、高い空間把握力と操縦技術で太陽炉搭載機すらも圧倒する。現在、クラウスたちとは別行動中。

ミン・ソンファ:元人革連出身のアロウズに所属するライセンス持ちのパイロット。ユーノに命を救われた経歴を持つ。搭乗機はアヘッドカスタム。セルゲイと同じく、以前の介入の折にユーノの正体を知った一人。戦いを望まないのに、戦いに身を置くユーノを敵でありながら気遣い、養子に迎えようと考えていた。だが、ユーノがいなくなるとその意思を受け継ぎ、「可能な限り犠牲を出さない戦い。」を心掛けるようになる。アロウズの兵士にしては珍しく、できるだけ交渉でことを済ませようとする。操縦技術だけでなく、交渉能力にも秀でている。
一応、オリジナルではないのですが、ここまで来るとオリジナルと変わらないのでこっちに書かせていただきました(^_^;)

シャルロット・シャノワール:元ユニオンのフラッグファイター。搭乗機はカスタムフラッグMk.Ⅱ。幼い頃に見たMSに憧れ軍に入隊。厳しい訓練の末にMSパイロットになる。フラッグファイターに選ばれ、そのフラッグの性能に魅了されグラハム・ハワード・ダリルと同じようにフラッグに対し強い思い入れがある。後にジンクスが現れたことでフラッグの存在意義がなくなると思い悩み軍を辞め教官となるが、再びCBが登場するとアロウズに召集される。その際に疑似太陽炉搭載のフラッグ系統のMS開発を条件にアロウズへ入隊するがアロウズのやり方には否定的。なお彼女の機体開発はビリーを含む旧ユニオン技術陣が担当した。

ソリア・スクライア:プロジェクトFとイノベイドの技術を以って生みだされたユーノの複製。搭乗機はガンダムプルト。プライベートなことからファルベルにとって都合の悪いことから、ユーノの記憶のほとんどを受け継いでいる。だが、性格を攻撃的に設定してしまったせいでユーノとは異なった形で世界を変えるという結論に至った。基本的性格や口調は最初の介入時のユーノのもの。

ルーチェ・ハイドレスト:967やグラーベと同型のイノベイド。搭乗機はガンダムマルス。ソリアを補助する役目を担うために生み出された。性格は極めて明るく、無邪気であるが故に大量虐殺も道端の虫を踏み潰すのも彼女の中では大差がない。



[18122] 解説その2
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/04/14 20:22
解説2

機体、艦船一覧


ソレスタルビーイング

ガンダムエクシア・リペア:四年前の戦いで大破したエクシアを刹那が自ら修復した機体。損傷が激しかった右のカメラアイはティエレンの物を応用し、折れているがライフル、ソードの両方が使用できるGNソードを主武装にしている。ただし、ティエレンのパーツを応用するなど、旧型の機体の部品で修復しているので性能は大きく落ちている。

ダブルオーガンダム:ソレスタルビーイングが新たに開発した第四世代ガンダム。マイスターは刹那・F・セイエイ。最大の特徴は両肩に装備された二基の太陽炉を同調させることで単純に粒子生産量を二倍ではなく二乗化するツインドライヴシステムである。ただし、二つのGNドライヴの同調率が高くなければ起動すらままならず、起動が成功した後もオーライザーが完成するまでその能力を十二分に発揮できずにいた。武装はGNソードⅡ、GNビームサーベル、GNシールド。セブンソード時はGNロングソードⅡ、GNショートソードⅡ、GNカタール、GNビームサーベル、GNバスターソード。

クルセイドガンダム:ソレスタルビーイングが新たに開発した第四世代ガンダム。マイスターはユーノ・スクライア。ダブルオーと同じくツインドライヴシステムを採用しているが、こちらはもともと同型機であるシルトとソリッドのGNドライヴを使っているので起動自体は容易だった。しかし、開発者であるシェリリンがソリッドの特徴をさらに強化した結果、常人では動かすどころか強烈なGで気絶せずにいられないという搭乗者のことを一切度外視した仕様になっている。だが、その攻撃力と突撃速度は群を抜くものがあり、さらに武装を換装することで様々な局面に対応できる。武装はGNアームドシールドⅡ、GNシールドバスターライフルⅡ、GNビームサーベル。アトラス使用時はGNバンカー、GNクレイモア、ガトリングシールド、GNコーティング。ウラヌス使用時はGNツインランチャー、GNビームサーベル、GNマルチビットⅡ。

ケルディムガンダム:ソレスタルビーイングが新たに開発した第四世代ガンダム。デュナメスの後継機。マイスターはロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)。デュナメスと同じく遠方からの砲狙撃戦に特化した機体。また、第四世代機すべてに言えることだが、TRANS-AM使用を前提に設計されているため、能力低下は免れられないものの、戦闘不能になることはなくなった。また、ケルディムはTRANS-AM発動時にはフォロスクリーンの使用が可能になり、さらなる精密射撃が可能になる。武装はGNスナイパーライフルⅡ、GNビームピストル、GNミサイル、GNシールドビット。


アリオスガンダム:ソレスタルビーイングが新たに開発した第四世代ガンダム。キュリオスの後継機。マイスターはアレルヤ・ハプティズム。キュリオスの最大の特徴であった変形機構を引き継ぎ、その上で性能の向上が図られている。ガンダムの中でもトップクラスの機動性を誇り、戦闘機形態の時はいっそうその能力が際立つ。武装はGNツインビームライフル、GNビームサーベル、GNガトリング、GNビームシールド。戦闘機形態時はGNクロー、GNツインビームライフル。

セラヴィーガンダム:ソレスタルビーイングが新たに開発した第四世代ガンダム。ヴァーチェの後継機。マイスターはティエリア・アーデ。対艦隊戦、要塞戦を想定した重火力の機体。ヴァーチェ以上の火力を有しつつ、MS戦を行える機動性と小回りの良さを確保している。フルパワー時には背面にあるガンダムフェイスが露わになる。武装はGNバズーカⅡ、GNキャノン、GNビームサーベル。

セラフィムガンダム:セラヴィーの背面に搭載されているもう一機のガンダム。通常時はセラヴィーのキャノンとバックパックとして機能している。ナドレと同様にトライアルシステムを搭載しているが、ヴェーダを奪還しないことにはその能力を発動することはできない。武装はGNキャノン。

ガンダムスフィンクス:フォンがアブルホールを改造、強化した機体。マイスターはウェンディ・ナカジマ。フォンがアブルホールを改良し、ウェンディに譲渡した機体。機動性の向上はもちろん、アロウズや連邦の擬似太陽炉搭載型に対抗できるように火力の向上、三段変形など様々な工夫が施されている。もともとウェンディとの相性が良かったこともあるが、様々な戦いを通して成長していく彼女の技術も相まって既存の機体を圧倒する能力を発揮する。武装はGNマシンガン、GNナイフ、GNミサイル。戦闘機形態時はGNマシンガン、GNミサイル、GNヘッドソード。

GNアーチャー:アリオスの支援機兼追加武装。搭乗者はマリー・パーファシー。もともとは第三世代機のうちの一機だったが、採用されずに製造途中で破棄されていた。それをシェリリンが支援機という形で完成させた。そのため、フェイスカバーの下にはガンダムフェイスが隠されている。アリオスと合体することで追加武装の役目を果たすだけでなく、大型コンデンサーに粒子を貯蔵することで短時間ではあるが単機での戦闘も可能になる。武装はGN大型ビームライフル、GNビームサーベル、GNガトリング、GNミサイル。

オーライザー(ダブルオー用):ダブルオーの支援機。搭乗者はエリオ・モンディアル。戦闘機ではあるが、その最大の目的は未完成だったツインドライヴを完全稼働させることである。オーライザーとドッキングすることでダブルオーのツインドライヴは安定し、さらにTRANS-AMの使用も可能になった。武装はGNマイクロミサイル、GNバルカン、GNマシンガン。

オーライザー(クルセイド用):クルセイドの支援機。搭乗者は沙慈・クロスロード。ドッキングすることでクルセイドのツインドライヴを安定させ、TRANS-AMとGN-EXCEEDを使用可能にする。本来は通常のクルセイドで使用する予定だったが、その前の戦闘で損傷していたため、急遽ウラヌスで使用されることになった。武装はGNマイクロミサイル、GNバルカン、GNマシンガン。

プトレマイオスⅡ:新たにソレスタルビーイングの旗艦として建造された多目的攻撃空母。旧プトレマイオスと同じくガンダムから得たGN粒子を推進力にしている。新造するに当たり、宇宙だけでなく大気圏、海中での作戦行動も視野に入れて設計されている。また、GNフィールドを展開しての大気圏突入やガンダムと連動させることで使用可能になるTRANS-AMを使っての大気圏離脱など戦艦としては破格の性能を持つ。クルーからは以前と同様にトレミーの愛称で呼ばれている。


フェレシュテ

ガンダムアストレアF:フォン・スパークが改造して使用している第二世代ガンダム。エクシアの前身。第二世代ではあるが、フォンによる攻撃的な改造と彼の操縦技術で他を圧倒する性能を発揮する。また、ソレスタルビーイングのドッグに残されていたエクシア用の強化装備、アヴァランチも使用可能になっている。武装はGNプロトソード、GNビームサーベル、GNビームライフル、GNハンマーなど。

ガンダムサダルスード・テンペスタ:フォンによって改造された第二世代ガンダム。デュナメスの前身。マイスターはヴァイス・グランセニック。高感度センサーを全身に装備した狙撃用ガンダム。また、海中での戦闘もこなせる。ヴァイスが搭乗するのに合わせ、ストームレイダーをサポーターとして使用できるようにしてある。さらに、高出力のビームライフル、近接戦闘時に相手の動きを止めるアンカーなど追加装備もされている。武装はGNスナイパーライフル、GNビームライフル(高出力)、GNビームサーベル、GNアンカー。

ガンダムプルトーネ・ハウンド:フォンによって改造された第二世代ガンダム。マイスターはヴェロッサ・アコース。もともとバランスの取れた機体だったが、情報収集などを行うヴェロッサに合わせてあらゆるセンサー、索敵を回避するパーフェクトステルスが装備されている。また、ファングも装備されて攻撃力も上がっている。武装はGNビームライフル、GNビームサーベル、GNファング、GNシールド。

ガンダムラジエル:戦場での情報収集を主な目的として開発されたガンダム。マイスターはヒクサー・フェルミ。もとはグラーベ・ヴィオレントの搭乗機だったが、彼の死後はヒクサーが駆るようになる。その性質上、あまり戦闘向きの機体ではないが、セファーと合体することで単独でも敵を殲滅しうるだけの能力を発揮する。武装はGNビームサーベル、GNビームライフル。

GNセファー:ラジエル用の支援戦闘機。搭乗者は887。本来は複数機存在していたが、現在は一機のみ製造されている。ラジエルと合体することでセファーラジエルとなり、ビットによるオールレンジ攻撃が可能になる。また、周囲にGN粒子を散布することでレーダーをかく乱することもできる。武装はGNビット。

エウクレイデス:フォンが奪取したフェレシュテのファクトリー艦。名前の由来はプトレマイオスと同じく天文学者。この艦だけで向上や基地と同等の修理、補給作業が行えるほどの設備を有している。また、フォンが手に入れたかつてのヴェーダのメインターミナルも搭載されている。


連邦

ジンクスⅢ:四年前の最終戦で使用された擬似太陽炉搭載型の発展機。正規軍で使用されているものは水色のカラーリングがされ、アロウズものは濃い赤のカラーリングがされている。アロウズでは個人に合わせてカスタムチューンが許されているため、マッチングによっては通常よりも高い能力を発揮することがある。主な武装はGNランス、GNビームサーベル、GNバルカン、GNクローなど。

アヘッド:ジンクスから発展した擬似太陽炉搭載機。アロウズのみに配備されている最新型MS。あらゆる局面で高いパフォーマンスを発揮するというコンセプトで開発されたこの機体には様々なバリエーションがあり、それぞれに特徴のある戦い方をする。その能力は原型もあわせて抜きんでていて、不完全な状態だったとはいえ刹那の乗るエクシアを圧倒して見せた。また、状況によってはオートマトンのコンテナを装備することもある。主な武装はGNビームライフル、GNサブマシンガン、GNビームサーベル、GNシールド、GNバルカンなど。

サキガケ:アヘッドのカスタムバージョンの一つ。パイロットはミスターブシドー。近接戦闘に特化しており、その外見は彼の意見を反映したものである。火器はほとんど持たず、ビームサーベルなどでの戦いを得意とする。武装はGNビームサーベル、GNショートビームサーベル、GNショートビームキャノン、GNバルカン、GNシールド。

スマルトロン:ソーマのために作られた脳量子波対応型のアヘッド。ソーマが離脱した後はルイスが使う。脳量子波による反射神経を超えた思考による操縦を可能にし、さらにそれに合わせて高機動化も図られている。ただし、脳量子波を使っての操縦を前提に設計されているので常人が操縦してもその能力は十二分に発揮できない。主な武装はGNビームライフル、GNビームサーベル、GNシールド、GNバルカン。

カスタムフラッグMk.Ⅱ:アロウズに入隊したシャルロットのためにグラハムが使用したGNフラッグのデータを元に開発したものだが、以前の機体が疑似太陽炉を急造で外付けしたものに対し本機はある程度、疑似太陽炉とマッチングするように開発されているため、武装と疑似太陽炉を直結する必要性がなく機体の性能も向上しているがやはりジンクスⅢやアヘッドに比べると基本性能は低い。だがシャルロットの操縦技術のおかげで遜色なく使用されている。主な武装はGNビームライフル、GNビームサーベル、GNディフェンスロッド。

マスラオ:ビリーを主とする旧ユニオンの開発陣がジンクスやアヘッドに代わる新型機のテストベッドとして開発した機体。搭乗者はミスターブシドー。当初はアヘッドをベースとしていたが、ミスターブシドーの機体になることが決定したところで開発を一からやり直し、フラッグをベースとすることが決定した。その外見はさながら鎧武者であり、見た目通り近接戦闘に特化している。武装はGNロングビームサーベル、GNショートビームサーベル、GNバルカン、ビームチャクラム。

トリロバイト:地球連邦製の水中用MA。複数の擬似太陽炉を搭載している。プトレマイオスⅡを追い詰めたが、スメラギの戦術とガンダム各機の連携の前に敗れ去る。武装はクローアーム、アンカー、魚雷。


カタロン

ティエレン:人類革新連盟の開発したMS。地上型から宇宙型まで様々なバリエーションが存在する。連邦も未だに使用しているが、今は擬似太陽炉搭載型を持たないカタロンでは他の旧型MSと共に未だに主戦力として使用されている。機動力を犠牲にしている分、超重量の武装も使用可能であるが、擬似太陽炉搭載型に移行しつつある現在では第一線を退く運命にあるが、それでも人革連出身のパイロットからの信頼は厚い。主な武装は30mm機銃、200mm×25口径長滑腔砲、カーボンブレイド、シールドなど。

フラッグ:ユニオンがリアルドの後継機として開発した可変型MS。連邦でもいまだに使用されているが、やはり擬似太陽炉搭載型にその立場を追われつつある。それまでのMSが装備換装によって飛行を可能にしていたのに対し、本機は作戦行動中の変形も考慮に入れて設計されている。上記したように、擬似太陽炉搭載型の台頭に合わせて廃れつつあるが、それでも優れたMSであることは疑いようもなく、フラッグをベースにマスラオなどのMSが開発され、一定の戦果をあげたことからその存在が見直されつつある。擬似太陽炉を持たないカタロンの戦力の中核をなす。武装はリニアライフル、ソニックブレイド、ディフェンスロッド、ミサイルなど。

リアルド:ユニオンが開発した可変型MS。ガンダムが武力介入を開始した当時はまだ最新型のフラッグの配備が不十分だったため、最前線でも積極的に使用されていた。フラッグと違って飛行形態の使用には換装が必要である。現在ではほとんど見かけることはないが、カタロンでは未だに多くのパイロットが使用している。主な武装はリニアライフル、ソニックブレイド、ディフェンスロッド。

イナクト:AEUが開発したMS。ガンダムが武力介入を開始した当時のAEUは軌道エレベーターの完全稼働には至っておらず、他国へ優位性をアピールするために作り上げた。内蔵した専用アンテナは軌道エレベーターから直接パワーを供給されることが可能であり、設計データ上は自国内でのパワーダウンはないことになっている。しかし、皮肉にもエクシアの介入によって最新鋭機という印象よりも一番最初にガンダムによって撃墜されたMSとして人々の記憶に残ることになる。使用する武装はリニアライフル、ソニックブレイド、ディフェンスロッド、ミサイルなど。

ヘリオン:AEU製のMS。大量に生産されており、輸出も盛んに行われていた。そのため、テロリストの使用も多く、おそらく不正規の武力集団が所持している機体の大半を占めているMSであろう。現在もカタロンで頻繁に使用されていることから、一般市民にとってはあまり良いイメージを持たれていないMSかもしれない。武装はリニアライフル、ディフェンスロッド、リニアライフル。

カスタムフラッグ:ユニオンで対ガンダム用に開発されたMS。正式名称はオーバーフラッグ。ユニオン軍内に発足したオーバーフラッグスに所属するパイロットたちの専用機。通常のフラッグを超えるために採用を見送られた高出力のフライトユニットを搭載。装甲材の軽量化も図り、さらにはビームコーティングを採用するなど当時の最新技術が惜しげもなく使用されていた。このSSには、オリジナルキャラであるレイ・フライハイトの搭乗機として出てくる。武装は新型リニアライフル、ソニックブレイド、ミサイル、ディフェンスロッドなど。


管理局

バロネット:ジンクスを元に開発されたミッド製MS。外見はジンクスの特徴であるX字型の機体制御機構がなくなっているのみで武装は変更していない。ただしインテリジェントデバイスに使われているAI技術を転用した戦闘支援AIが搭載されており、経験が少ないパイロットでも高い戦闘力がある。ただしAIとの呼吸をある程度合わせる必要がある。このAIシステムは後のミッド製MSすべてに使われるようになる。

フュルスト:バロネットの戦闘データを元に開発されたMS。純ミッド製とも言われる。外見はバロネットを細身にしたもの。額に複合センサー兼用のカメラアイが搭載された三つ目になっている。武装は改良が加えられているだけでバロネットに準じるが、新開発された武装がいくつかあり、パイロットによってはその武装を搭載される。擬似太陽炉の有毒性を弱めた擬似太陽炉が搭載されている。

フュルスト・フルドライブ試験機:疑似太陽炉の解析とソリッドがゆりかごで使ったTRANS-AMのデータを元にエミリオンが分析と仮説を元に立てた理論により完成したトランザムの試験機。トランザムの名称が違うのは魔導師にも解りやすいようにデバイスの機能から取ったもの。本機ではまだ不完全な処もあり、一度使うと粒子を使い切ってしまい、また疑似太陽炉も焼き切れてしまう。パイロットはクロウと他数名のファルベルの部下。武装はGNピストル、GNナイフ。

エスクワイア:エスクワイアキャヴァリアーシリーズの一号機。全ての機体性能をバランスよく高めた機体で、如何なる戦況でも対応できるようになっている。また汎用性も高く、フュルスト用に開発された武装も搭載することができる。主な武装はGNビームライフル、GNビームソード、GNカリバー、GNブラスター、GNシールド。ヴィータ専用にカスタムされた機体も存在する。

シュバリエ:エスクワイアの派生機。近距離格闘戦に特化した機体。高機動で相手を撹乱しての一撃必殺を得意とする。その反面、装甲が薄いために打たれ弱い。主な武装はGNロングサーベル、GNダガーサーベル、GNアームガン、GNシールド。フェイト専用にカスタムされた機体も存在する。

カヴァリエーレ:エスクワイアの派生機。遠距離砲撃戦に特化した機体。機体全体に武装し、圧倒的な火力で殲滅することが得意。しかし、機動力はキャヴァリアーシリーズの中で一番低い。両肩にシールドを持つ。主な武装はGNハイパービームライフル、GNガトリングガン、GNメガランチャー、GNマイクロミサイル、GNシールド。

エスクワイア・ハンマーカスタム:ヴィータ用にカスタムされた機体。通常のエスクワイアよりも装甲が強固で、なおかつ突進力もあげている。また、フェイトのシュバリエとは異なり、ダイレクト・フィードバック・システムを搭載している。主武装はGNウォーハンマー、GNクレイモア、GNガトリング。

シュバリエver.ライトニング:フェイト専用に改良されたシュバリエ。カラーリングは黒。装甲だけでなく武装を限りなく削ることで高速戦闘にさらに磨きがかかり、バルディッシュのサポートによってハイスピードでの格闘戦においては対抗できうる機体は少ない。主な武装はGNアームガンとGNハルバード。だが、ハルバードはデバイスの技術を転用して製造されていて、鎌の形態のGNサイズ、大剣の形態のGNライオットブレードに変形が可能。

ガンダムプルト:プルトのぶ厚い装甲の奥に隠された本当の姿、他のガンダム同様スマートな姿になる。両手両足と胸部の装甲をパージし肩のGNランチャーは背中に移動、頭部はガンダムアストレイマーズジャケットと似たようなギミックでガンダムタイプに変形。 主武装はGNビームライフル、GNシールド(パージした装甲の一部が変形する)、GNランチャー、GNビームサーベル。

ガンダムマルス:キュリオスと同じようにMA形態への変形機構を持ったガンダム、両腕に装備したGNビームクローはMA形態でも使用可能、クロー展開時には鳥のように見える。主武装はGNビームクロー、GNアサルトライフル、GNビームサーベル。

アルデバラン:ファルベルが密かに建造していた次元航行艦。その大きさもさることながら、最大の特徴は対象物を強制的に次元転移させることが可能ということである。ソレスタルビーイングと初めて接触した時は不完全だったため、全機を同じ場所に転移させることはできなかったが、今ではそれも可能になっている。また、ミサイルやビーム砲などを装備している以外にも、アルカンシエルの使用も可能である。名前の由来はロイヤルスターの一つ、牡牛座のアルデバランから。

アースラ級MS運用艦:廃艦となったアースラ級の戦艦を改修して作られた運用艦。MSハンガーや簡単な整備ができるようになっているが基本的には設計になかった改修であるため運用できるMSの数も二個小隊分しか搭載できず、また武装も全くない。前方に長く伸びた左右の艦首から発艦する。

コルカロリ級巡洋艦:アースラ級運用艦のデータを元に開発されたMS用戦艦。設計段階からMSの運用が組み込まれているため四個小隊の運用と完全な整備ができるようになっている。ミサイル発射管やビーム砲塔が装備されているため戦闘力も高い。MS用に建造された戦艦ではミッドで一番、建造された戦艦である。名前の由来は春のダイヤモンド、りょうけん座のコル・カロリより。

アルタイル級大型MS母艦:もっとも大型の戦艦で約100機のMSの運用ができる。しかし武装面では非常に貧弱でMSの戦闘力に依存している。名前の由来は夏の大三角形わし座のアルタイルから。

ミルファク級輸送艦:各戦艦に物資やMSまた超大型疑似太陽炉も搭載しており粒子の供給も可能にしている。しかしアルタイル級と比べれば火力があるがMSの戦闘力に依存していることは否めない。名前の由来は秋の大曲線ベルセウス座α星ミルファクより。

シリウス級護衛艦:各戦艦の護衛を主眼に置かれて設計された戦艦。そのため他の三隻に比べ高い火力とGNシールドによる強固な防御力がある。MSも運用でき、MSとの連携もとれる。名前の由来は冬の大三角形、おおいぬ座シリウスより。

ミルキィウェイ:エミリオンが設計したMS運用艦。他の戦艦に比べると小型で五機程しかMSを搭載できないが他の戦艦を上回るスピードを誇る。また新型疑似太陽炉により火力・防御共に高い性能を誇る。外見はハクチョウが羽を広げたような美しい流線型をしている。当初はファルベル側の旗艦になる予定であったがエミリオン、クロウの手引きで、なのは達にわたされる。名前は英語圏での天の川の言い方。


カレドヴルフ製(MS・デバイス)

ガンダムサリエル:MS・デバイスシリーズの試作三号機。名前の由来は栄光の天使の候補者の一人にして堕天使であるサリエルから。テストパイロットは高町なのは。管理局から(エミリオンの手によって)流出したヴァーチェのデータを元に開発された機体。高火力の砲撃を可能にしつつ、高機動によって敵陣を翻弄、撃滅するというコンセプトで開発された本機は、防御手段をGNフィールドのみにし、分厚かったヴァーチェの装甲を削る形で生みだされた。背中にはGNドライヴを挟む形で翼のモジュールが装備され、爆発的な推進力を生みだすだけでなく粒子を放出させることでビーム拡散フィールドを発生させることもできる。また、DFS(ダイレクトフィードバックシステム)も採用され、搭乗者の思考が反映され滑らかな動きを可能にした。さらに、ロストロギア・レリックによって増幅された魔力を攻撃用粒子に混合させることで誘導弾も使用でき、さらにレリックと搭乗者が同調することによってMG(Magica GUNDAM)モードを発動し、機体と搭乗者、両方の能力を飛躍的に向上させることができる。ただし、よほどの精神力の持ち主でない限り、レリックの力に飲み込まれて暴走を開始。最悪の場合は精神が崩壊する。元ネタはウィングゼロ(EWバージョン)。使用武装はGNビームサーベル、エクサランスカノン、フォートレス、GNマシンキャノン。

ガンダムウリエル:MS・デバイスシリーズの試作二号機。名前の由来は栄光の天使の確定している一人、ウリエルから。テストパイロットはスバル・ナカジマ。エクシアのデータをもとに開発された機体。もともと近接戦闘型だったエクシアのコンセプトを受け継ぎつつ、攻撃手段を打拳や肘など徒手格闘に置き換えた機体。もともとはエクシアと同じく実体剣を主武装にする予定だったが、テストパイロットをスバルにすることに決定したことを受けて、彼女が扱いやすいように徒手格闘型の機体に変更した。ウィングロードはもちろん、スバル用に開発した武装、『ソードブレイカー』を駆使して他の機体を圧倒する。MGモード時にはGNドライヴに備え付けられた六枚の大型ウィングが開く。また、狼型のMAへの変形も可能であり、地上での機動力でMA形態時のウリエルの右に出るものはいない。元ネタはゴッドガンダムとスパロボAのオリジナル機体、ソウルゲイン。使用武装はソードブレイカー、GNフィスト、GNブレード、GNマシンキャノン。MA時はストライクレーザークロウ、GNブレード、GNマシンキャノン。

ガンダムカマエル:MS・デバイスシリーズの試作一号機。名前の由来は栄光の天使の候補者、カマエルより。テストパイロットはティアナ・ランスター。デュナメスのデータを元に開発された機体。狙撃戦をこなせる機体として開発されているが、中、近距離でも他の機体を圧倒できる性能を持っている。また、豹をモチーフとしたMAへの変形も可能であり、トリッキーな動きで相手を翻弄する。使用武装はGNスナイパーライフルver.クロスミラージュ、GNピストルver.クロスミラージュ、GNアンカー。MA時はGNスナイパーライフル、GNビームピストル、GNビームブレード。


ボーダーブレイカーズ

ボーダーブレイカー:クラッド・アルファードを始めとする反管理局勢力が開発したMS。ジンクスをベースにした管理局のMSに比べて重装甲で機動面は若干劣るが、空戦にも充分対応は可能であり、総合スペックでは管理局のそれを上回る。メインスラスターは両腰部に装備されている事が特徴。設計・開発には、ロボティクスには高い定評のある第17管理世界エイオースが中心になっており、クラッドがMSのデータと疑似太陽炉を提供した事により短期間で量産態勢が整えられた。元々はエンジェル(=ソリッド)に準え、それと並び立つ者として『ヴァルキリー』と名付けられる予定だったが、クラッドの「管理局など無かろうが世界が違おうが人は手を取り合える」を象徴するため『管理局が作った境界(ボーダー)を破壊するもの』の名が与えられた。基本となるタイプヘヴィガードをはじめとして、タイプクーガー、タイプツェーブラ、タイプケーファー、タイプシュライクなど様々な派生がある。

シュルト:マリアンヌがMSの必要性を感じ、知り合いのジャンク屋に頼み中破したバロネットを修復した機体。装甲が薄くなり所々フレームが剥き出しになっているため防御力は最低だが機動力はフェイトのシュバリエに並ぶほど。また頭部のカメラアイがガンダムと同じツインアイになっている。組織に所属している訳ではないのでGN粒子の節約のため非戦闘時はコーンスラスターを覆うように増設された大容量のバッテリーと戦闘機の翼を流用した飛行ユニットを使用し戦闘時には切り離す。シュルトはドイツ語で罪・責任を意味する。武装はGNソード、GNビームサーベル、GNビームライフル

アナスタシス:元は管理局に提示されたが不採用になった高速次元航行艦でその速度に目を付けたボーダー首脳陣が設計データを入手しエイオースの企業に建造を依頼した。表向きはエイオースと他の世界を結ぶ高速フェリーとして建造されたがボーダーブレイカーに強奪された事になっている。主動力は管理局の艦と同様の動力機関を使用しているが、武装とGNフィールドを起動させる為の擬似太陽炉を複数搭載しており、推進機もGNスラスターを使用、光学迷彩も使用可能で通常の次元航行艦での追跡はほぼ不可能、最大6機のブラストもしくはMSを搭載し管理局やアロウズの拠点等に神出鬼没の奇襲攻撃を仕掛けている。武装は牽制及び自衛に必要最低限の物のみ搭載されている、対艦兵装は艦橋両脇付近に前方180゚のみ攻撃可能な15単装ビーム砲2門、艦首多目的ミサイル発射官8基(上下の艦首に左右2基ずつ)対空兵装は船体各所にCIWS型GNバルカンを装備している。





[18122] side.2 The creditable knight
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/06/18 21:17
騎士道────
それは、近代兵器が戦場を支配する現代においては古臭い理想論としか思われず、また実現するのは難しいかもしれない。

戦争は人間のエゴを剝き出しにする。
裏切り、貪欲、略奪、虐殺。
ありとあらゆる残虐で非人間的な行為がまかり通るのが戦場なのかもしれない。
しかし、だがしかしである。

もし、そんな中でも勇敢さや優しさを持ち続けることができる者がいたなら。
力を持たぬ人々を守護するために、誇りを剣に、誠実を盾に戦場を駆け抜けることができる者がいたならば。

そんな人間こそこう呼ばれるにふさわしいのかもしれない。

騎士の誉れ────

騎士の中の騎士、と……


魔導戦士ガンダム00 the guardian side.1 The creditable knight



ヨーロッパ山間部

息も白むような冷たい夜に、一つの影が屋根伝いに小さな集落を巡る。
屋根伝いに跳んで巡回するのはいかにも目立つと思われるが、上部、それも真上というのは人間にとっては決定的な死角の一つである。
しかも今日は月も雲に隠れ、明かりはお世辞にも大きいとは言えない粗末な家々から漏れる仄かな光だけ。
そんな中を黒いコートで闇に紛れた彼女が音もなく跳んでいるのだ。
よほど勘が鋭い者でない限り気のせいで済ましてしまうだろう。

(どう?)

(……大丈夫だ。まだ追手は来ていない。子供たちを休ませるように言ってくれ。)

シグナムは最後に鋭い視線を左へ右へと往復させた後、自らもアギトたちが待つ小屋へと向かった。



小屋

「お姉ちゃん!」

小屋に入るなり子供たちの抱擁が出迎えてくれた。
冷えた体に温かい手が心地よく、シグナムも「ただいま。」と普段でもなかなか見せないような最高の笑顔で答える。
それほどまでに、この小さな手がシグナムに与えてくれる多幸感は絶大なものだった。

「……………………」

……冷めた様子で壁に寄りかかっている幼い連れがいるとなおさらに。

「ほら、みんな。お姉ちゃんはおじさんたちと少しお話しなきゃいけないからまたあとでね。」

「え~?」

口をとがらせるが、シーリンに促されてマリナのもとへ戻る子供たち。
シグナムも少し惜しいと思ったが、今この時も危機的状況であることを忘れたわけではない。
わずかな油断が致命的な事態を招くのだ。

すぐに表情を険しくするとクラウスの前で、マリナ達には聞こえないように、報告を行う。

「今のところ追手らしい者は見当たらない。村の人間も我々の正体に勘付いた様子はない。」

「そうか……ありがとう。」

その言葉にクラウスもホッと胸をなでおろしたようだ。
近くの椅子を引き寄せて腰掛けると限界以上に張り詰めていた神経を吐き出した息と一緒に少し緩ませる。
しかし、この休息もいつまで続くかわからない。
一刻も早く他のメンバーと合流して、ようやく見つけた隠れ家まで向かわなければ。

「明朝ここを発ちましょう。我々は殿を務めながら、必要ならば陽動も行います。」

「すまないな。本来、客人である君たちにこのようなことを頼んでしまって。」

「水臭いこと言いっこなし!世の中持ちつ持たれつだよ!」

気軽に肩をたたくアギトだが、拠点を捨ててバラバラに散った面々、その中でもクラウスたちは何度もシグナムとブリジットに救われた。
拠点を強襲された際の囮に始まり、追跡してきた敵の迎撃。
敵をかく乱する意味も含め、各地に散ることになった後も、子供たちとマリナのことを心配してついてきてくれた。
その後は言わずもがな。
幾度となく尾行を撒き、ある時は打ち倒す。
その手並みたるや、騎士の称号を持つに相応しいものだった。

「しかし、皮肉なものだな。あの瞬間は手を取り合ったのに、終われば一転、また追う側と追われる側だ。」

「フン、なにを今更……派手に殺し合いをしといて仲良し子良しなんてできるとでも?」

シグナムの一睨みにブリジットは肩をすくめて再び閉口する。
だが、片や連邦の精鋭部隊で片やテロリスト。
ある意味、これが正しい関係なのかもしれない。
しかし、

(……それでも、信じたいと思うのが人間だろうに。)

事実、愚直に信じ続けようとしている人間がここにいる。
現実が見えていない理想論であることは本人も重々承知だろう。
それでも、その手を握り返してくる小さな命のために、刃を交える以外の方法で未来を切り開こうとしている。
だからこそ、そんなマリナがシグナムには眩しくて仕方がなかった。

「少し休む……すまないが、時間が来たら起こしてくれ。」

そう言うと、シグナムは逃げるように部屋の隅にうずくまり、まどろみに身を任せていった。



?????

最近、よく昔の夢を見る。
空は曇り、大地は赤で染まり、大気は絶叫で絶えず震えていた。
そんな世界で、戦場に現れてはリンカーコアを略奪する。
騎士とは名ばかりで、やっていることはまるで死神そのものだった。
シグナムも守護騎士という呼び名はあくまでプログラムの名称であり、自分自身そんな御大層なものだと思ったことは一度もない。

むしろ、騎士と呼ばれることが辛かった。

おかしな話だ。
そんな感情など不要なはずなのに。
矛を揃え並び立つ者と、そして白刃を交えて相対する者と、その両方と同じ称号で呼ばれることがシグナムにとってはひどく苦痛だった。
たとえそれがどんな意味を込めて発せられたものでも、シグナムの心にしこりを生じさせる。



闇の書が全てを滅ぼすその時まで。





今でも、なぜあの頃の自分がそんな風に感じていたのかは分からない。
しかし、今でも騎士と呼ばれる度にあの頃と同じ感情が時折心をよぎることがある。
時々、心の片隅に蘇ってはシグナムを罪悪感で苛む。

お前ごときが騎士の称号を手にしていていいのか、と。

血に汚れたその手で、子供たちを守れるものか、と。

お前の戦技も訓戒も幼いあの子に教え込んでいいものではない、と。

お前は、一国の王女である彼女やその周りにいる人間の側にいていい存在ではないのだと。



何度も、何度も。
過去に葬ってきた者たちが、何よりあの頃の自分が恨めしそうな瞳でそう訴えかけてくるのだ。

なぜお前がそこにいて、自分たちが冥府へ堕ちなければならないのかと……



小屋

「……シグナム。」

アギトの差し迫った声でシグナムは薄く眼を開ける。
小声だったにも関わらず夢の中から現実へと一気に意識を引き戻すあたり流石というか、なんというか。
夢の終わりと合わせて、つくづく自分という人間は戦場が似合いなのだなと自嘲したくなる。

「数は?」

「なんの?」と聞き返さないのを鑑みるに、どうやら“お客様”で正解らしい。
ダボダボの黒のコートのまましきりに窓から外の様子を窺うブリジットは振り返りもせずに指を三本立てる。

(三人だけ……のはずがないか。)

これまでさんざん返り討ちにあってきた相手にたった三人はあり得ない。
集団で動いて目立つようなヘマはしないだろうが、もっといると踏んだ方がいい。

「退路は?」

「ふさがれてる可能性大。一人で逃げるのも難しいかも。」

ブリジットはチッと舌打ちをすると、コートを脱いでさらにその下の服も着替え始める。

「何をする気?それに、その服…」

「地元の子供に小遣いを握らせて買い取った。こいつで連中を嵌める。」

子供たちを起こしながら、シーリンはブリジットが何をする気か悟った。
本来、大人である自分たちがすべきことを彼は一人でやる気なのだ。

「駄目よそんなこと!!」

シーリンやクラウスより早く、マリナが声を荒げた。
いくら体を揺すっても起きなかった子供たちもこれには驚いたのか、目を白黒させてマリナとブリジットの顔を交互に見比べている。

「まだ子供なのにそんな危険なこと…」

「ここで議論してる方がよっぽど危険だと思うけど?それに今までだって叩きのめしてやってるんだからいざという時も大丈夫だって。ていうか、いい歳した大人より子供の方がこういうのには向いてるよ。」

「そういう問題じゃないわ!!」

「じゃあどうすんの?」

ブリジットは首にマフラーを巻き、目深に被ったハンチング帽から少しだけ翠の瞳をのぞかせる。

「ここで仲良く捕まる?それとも、そこにいる非戦闘員を蜂の巣にされれば満足?」

「ちょっと……!!」

この物言いにはシーリンもカチンときた。
しかし、ブリジットの口上は止まらない。

「現実を見なよ。僕らにはこんな下らない議論をしている時間だって惜しいんだ。理想を持つのは結構。子供を戦わせるのは望ましくないってのも正論だ。でも、そのせいで誰も守れなかった後でも同じことを言える?」

そう、だからブリジットは銃を手に取った。
全てを失い、挙句に離さぬようにと握りしめていた最後の一欠片も零れ落ちてしまったあの日から、綺麗言など口にするのはやめた。
けど、

「……けど、ありがとう。心配してくれて。」

もし、戦わなくてもいいんだと言ってくれる人がいてくれたら。
自分や、自分の大切な人たちに優しい言葉と手を差し伸べてくれる人がいたら何も失わず、失っていたとしても血と硝煙で澱んだ空気の中に飛びこまずにすんだかもしれない。
だとしたら、そんな彼女を守り抜くことがブリジットにとってこのクソッタレな運命に対するささやかな復讐になる。

「マリナ様とお荷物の護衛をよろしく。こっちは適当なところで引き揚げるから。」

「……わかった。それと、少しばかり小言を言わねばならんから必ず戻ってこい。」

「へいへい。説教を免除してくれるならもっと生存率が高まると思うんだけどねぇ…」

シグナムの言葉に苦笑しつつも、ブリジットは床下の通路へ降りていった。



集落

まだ夜も明けきらない山間の村を物々しい様子で数人の男たちが走り回る。
農作業や放牧のために起きた人々が訝しげに小声で話し合っているが、そんなことなど気にせずに目標が潜んでいる場所を特定すべく全力を賭していた。
一人のみすぼらしい容姿の少年が話しかけてきたのはそんな時だった。

「おじさん。」

「なんだ。俺はガキの相手をしているほど暇じゃない。さっさとどこかにいけ。」

「マリナ・イスマイールがどこにいるか知りたくない?」

男の足がピタリと止まる。
子供には少し大きすぎるハンチング帽の下で口元が歪んでいる。

「どこにいる?出鱈目を言うと承知せんぞ。」

「出鱈目になるかどうかはおじさん次第だよ。」

そういうと少年は右手を開いて男に差し出す。
それが何を意味しているかは説明するまでもない。

(チッ……ちゃっかりしたガキだ。)

相当貧しい集落であることは一見して分かったが、貧困というのは純粋な子供の心さえも簡単に歪めてしまうらしい。
もっとも、彼も声を大にして言えるような真っ当な仕事についているわけではないのだが。

「ほれ。」

とりあえず手持ちから紙幣を数枚。
それでも不満そうだった少年に腕につけていたブランド物の時計を渡す。
この貧乏くさい村では逆立ちしたって手に入らないような代物だ。
これで落ちないなら、腕づくで聴きだすことになるだろう。

「……ついさっき森の方へ向かった。あそこはここの人間しか知らない抜け道がいくつもある。網を張ったって今からじゃ遅いだろうから、麓の町へ急いだほうがいいよ。」

少年が言い終わるが早いか、男は端末を取り出してついさっき手に入れたばかりの情報を仲間へ伝え始めた。

「……ああ、そうだ。ターゲットは森を抜けて麓に向かった可能性が高い。至急そちらに人員を…」

礼も言わずに足早に男は去っていく。
だが、ブリジットも男がまだいるにもかかわらず赤い舌を突き出して笑う。

「ざ~んねん。そっちは逃走経路とは反対の方向だ。」

受け取った腕時計を何の未練もなく地面に捨てて踏みつぶす。
そして、紙幣もそこらのドアの隙間から家の中へ押し込んで、ブリジットもシグナム達の後を追った。



旧街道

人の手が加わらなくなって久しい街道は、それでも通常の山道よりは格段に歩きやすい。
その分、見通しが良いせいで発見される危険性は高いのだがしばらくはブリジットのおかげでその心配もないだろう。

「彼、本当に大丈夫かしら?」

「今は信じるしかない。それよりも、坑道へ急ごう。あそこを抜ければ合流地点だ。」

今はもう使われていない坑道。
崩落の危険があるという理由から立ち入りが禁じられているが、中はほぼ一本道で迷うこともなく、迂回するよりも早く山の向こうに出ることができる。
問題があるとすればただ一つ、

「大丈夫か?」

「う…うん……大丈夫…」

そうは言うが、やはり子供の体力ではこの距離は長すぎる。
シグナムは肩で息をするその少女を背負い、いっそう歩みを早くするが、他の子供も限界に近い。

「……死んじゃうの、私たち?」

背中から聞こえてくるその言葉にシグナムはドキリとする。
心が折れかけている。
他のみんなに聞こえなかったのが幸いだった。
まだ幼い彼女たちにとって、この状況はあまりにも過酷なものだ。
一人でもこの言葉を耳にしていたならば、子供たちがパニックに陥るのは目に見えている。
そして、たとえここで諦めることが何を意味しているかわかっていても、歩みを止めていただろう。

『血に汚れたその手で、子供たちを守れるものか。』

夢の中の声が嘲笑うのが聞こえる。
だが、

(……勝手に、決め付けるな!)

シグナムは心にかかる暗雲を払いのける。
なるほど、確かに自分の手は血塗れだ。
はやてに仕えるようになったからと言って、過去の罪が消えるわけじゃない。

だが、その罪の責めを受けるべきは自分であって自分の周りの人間じゃない。
クラウスも、シーリンも、アギトも、マリナも、子供たちも。
自分が近くにいることで、みんなが傷つくことになるのなら、その脅威をこの手で打ち払おう。

主から与えられた誇りを剣に。
仲間と培った矜持は盾に。
戦場という名の地獄にあってなお、守り抜くべきは騎士としての務め。
力なき人々を守護し、その標となること。

「諦めるな。」

シグナムは小さくつぶやく。
アギトだけは何か言ったことに気付いたのか、シグナムの方を見る。
しかし、その内容までは聞こうとは思わなかったのか再び前へ向く。
背負った少女に見せる、涼やかな笑顔だけで何を言っているのかわかったからだ。

「きっとみんな助かる。何も心配することはない。」

根拠などない言葉。
しかし、シグナムの笑顔が、そして彼女から伝わってくる力強さが一人の幼子の不安をかき消した。

「……うん。」

「よし、良い子だ。」

眼前にポッカリと黒い口を開けた洞穴が見えてくる。
それを前に、シグナムは後ろに回した手に力を込めなおした。

(ここからが正念場だな。)



旧街道 はずれ

一方、ブリジットも街道を少し外れたところを走っていた。
いや、走らざるを得ないと言った方が正確かもしれない。

「チッ!」

岩の陰から飛び出してきたブリジットを複数の光が追いかける。
普通の銃から発射された弾丸が発光するはずなどないし、ましてやここまでしつこく標的を追いかけてくるはずもない。
となると、まったく異なる理を以って生みだされたものだということだ。

「ったく……こんなところで油売ってる余裕なんてあんのかっての!」

そこらの小石を一握り分ほど手にすると追尾弾へ向けて放り投げる。
炸裂音と同時にごく短時間ではあるが強烈な閃光が発生する。
その隙にブリジットは飛びあがり、上にいた一人を地に叩きつけて昏倒させると再び近くの物影に身を潜めた。
魔力光の色の種類と同時に仕掛けてきた時の方向から察するにまだ四人は魔導士が潜んでいる可能性が高い。

(どうしたもんかね……)

おそらく、業を煮やしたアロウズが管理局に協力を要請したのだろう。
しかし、またなりふり構わず来たものだ。
局に借りを作るより、カタロンのメンバーと地図の上から消えた国の皇女様を始末する方が重要とは、彼女達がそんなに目障りなのだろうか。

「ま……でかい口を叩いた以上はきっちり逃げおおせないとね。」

正直、ブリジットは攻撃魔法が得意ではない。
反面、オートリカバリーという特殊体質と治癒魔法はそこそこ使えるレベルであるため、それらを応用して肉体の強化を行っての格闘戦が主戦術となる。
まだ発展途上中とはいえ、そこらの工作員程度ならば軽くあしらえる技術はすでに身につけている。
問題は、敵がそこらの工作員や魔導士のレベルではないということだ。
もう先ほどのように不意打ちじみた攻撃は通用しない。

(弾の威力とコントロールから察するにランクはBより少し上ってとこか。非戦闘員に魔法を使えない兵士二人に過剰戦力もいいところだろ。)

苦笑をもらしたところで上からの気配を感じ取って前へ転がるように跳ぶ。
それまでいた場所がバンと小さく爆ぜて砂利を撒き散らすがブリジットは気にしない。

「The limited strengthening‐right arm, 200%.(限定強化-右腕、200%)」

腕力を限界まで強化し、さっきまで隠れていた岩に衝撃で袖が引き千切れるほどの威力で拳を撃ち込んで正面へ弾き飛ばす。
岩がその正面にいた魔導士へ飛んでいくその間も射撃が降り注ぐが、ブリジットは強化した脚で華麗なステップを刻んでそれらをかわすと自分で飛ばした岩に靴底を押しつけた。

「The limited strengthening‐left leg, 300%.(限定強化-左脚、300%)」

足の裏との密着状態から脚力だけで再加速された岩の速度は魔導士の予想を上回り、防御ごと彼を吹き飛ばして戦闘不能へ追い込んだ。
しかし、この一手で支払った代価は間違いなく魔導士たちよりブリジットの方が大きい。

「ク……ァ…!!」

左脚は内出血と靱帯損傷。
腹部でも内出血と筋肉にダメージ。
横隔膜もダメージを負ったのか呼吸困難が発生。
右腕は内出血と軽度の炎症。
完全回復するまでに必要な時間は全開状態で35秒というところか。

(クッ……!!ま、ず……左脚を行動可能レベルまで再生……横隔膜の、回復も…並行して最優先で…)

通常、人間の体は70%程度しか能力を発揮できない。
それは100%の力に肉体そのものが耐えられないからである。
しかし、ブリジットの肉体強化は100どころかその数倍にまで能力を引き上げる。
当然、耐久力も向上させているが、それでも限界はある。
通常は全身を満遍なく、その限界値を超えないようにコントロールしながら使用しているのだ。
だが、今回のように一部分だけを限定して、なおかつリミットを超えて強化するとどうしても反動が発生してしまう。
普通の人間ならばここで行動不能に陥るのだろうが、オートリカバリーという稀有な能力を有しているブリジットは時間をおけば戦闘に復帰できるというわけだ。
もっとも、回復するまで味方がフォローしてくれるか、回復が終わるまで敵が待ってくれればの話だが。

「………っ!!」

敵の反撃に顔をしかめながら強化した左腕で前へ跳ぶ。
呼吸器系は何とか回復したが、左脚はまだ少しかかる。

(12、11……)

あと10秒。
左脚を魔力弾が掠めるが、その痛みよりもまだ負荷の痛みが強い。

(9、8……)

あと7秒。
そろそろ左腕も限界が近いので強化を解いて右足一本でかがんでいた状態から宙へ飛び上がる。

(6、5……)

視線を上げると顔面まであと数cmというところで魔力弾が迫っていた。
すぐさま筋力強化を施し、首を左に曲げてかわす。

(4、3、2、1……)

─────ゼロカウント。

「!!」

とどめを確信して接近していた魔導士の顔色が変わる。

先ほどまで力なく伸びきっていた左脚が明らかに力を取り戻している。
しかも、あれほど乱れていた呼吸が整い、袖がボロボロになるほどの衝撃を受けたはずの右腕も何事もなかったかのようにファイティングポーズをとっていた。

この事態に近距離からの砲撃を考えていた魔導士もいったん立ち止まり、宙に浮かぶブリジットのさらにもう一段上へとあがって距離を置いた。

(おいおい……勘が良すぎるよ、あんた。)

あのまま調子に乗って突っ込んで来てくれればさっさと片がついたのに。
そう思わずにはいられないが、何せ相手が相手だ。
自分より格上にそこまで望むのは度が過ぎる。
そして、自分の希望通りに戦いが運ぶなどという考えは命のやり取りでは死を招く。

(残りは二人。こっちは全快したけど、もう同じことは無理だろうな。一人仕留めても残り一人が……いや、その前に逃げ回られて弱ったところを火達磨にされるか。)

それに、おそらくオートリカバリーはもう使えない。

オートリカバリーは一見してみるとメリットばかりのように思えるが、魔法戦においては決定的ともいえるデメリットも持っている。
それは、魔力の消費量。
常に傷を癒し、体に有害なものを排除しているということは、魔法を使わずにいても四六時中魔力を垂れ流しているのと同義なのだ。
故に、オートリカバリーを有している人間のほとんどが無意識に多量の食事を取ったり、常人よりも長時間の睡眠を取ろうとするなど魔力や体力の回復に努めようとする。
ブリジットはある程度能力のコントロールを心得ているが、それでも食事の量が人一倍多く、戦闘の後などは文字通り山のような量を平らげてしまう。
そんな能力を全開にして回復に全勢力を傾けたのだ。
あれほどの短時間でここまで回復するには膨大な魔力が必要であり、また、体力の消耗も激しい。
あれだけの重傷から一分もかからずにここまで回復させるに際し、実に総魔力の三分の一が持っていかれてしまった。
あと一回使えば戦うどころではない。

(あ~あ……こんなことならどこかでかっぱらってでもいいから鱈腹おいしいものを食べとくんだった。)

まあ、そうしていたとしてもこの状況を覆せるとは思わないが。
ただ、愚痴の一つくらいこぼしたってバチは当たるまい。

(しかし、魔導士まで投入してくるなんて相当必死だな……向こうは大丈夫なのかな?)

不意にそんなことを考えるブリジット。
そして、ふと思ったそんなことほど時に当たっているものだ。



坑道

「いたか!?」

「こっちにはいない!!そっちは!?」

「こっちもだ!!だがまだ近くにいるはずだ!!よく探せ!!」

魔力を極力抑え、シグナムとアギトは声を殺して潜む。
すぐ横では件の少女が今にも泣き出しそうな顔をしているが、シグナムが口元を手で覆っている意味を理解して泣かない努力をしていた。

(クラウスさんたちは大丈夫かな?)

(敵の大半はこちらに来ている。おそらく大丈夫だろう。しかし……)

敵の目的を完全に見誤っていた。
おそらく魔導士たちの狙いはシグナムとブリジット。
その証拠に遭遇してすぐにマリナやクラウスたちには目もくれずにシグナムに襲いかかってきた。
おかげでこのざまだ。

(手がふさがっていたとはいえ、かわしきれんとは……未熟。)

背負っていた女の子を庇った時に右の手首に傷を負ってしまった。
戦えないほどではないにしろ、これでは全力で戦えるかどうか怪しい。

「ごめんなさい……」

蚊の鳴くような声にシグナムは少女の顔を覗き込む。

「私のせいでお姉ちゃんに怪我させちゃってごめんなさい……私が自分で歩いてれば………」

「気にすることはない。守るためについた傷なら騎士にとってはこれ以上ない勲章だ。」

嘘偽りない言葉。
だが、その勲章を誇れるのはこの状況を切り抜けた後だ。

(敵は五人。うち魔導士が二人に騎士が一人か……)

魔導士だけでも大変なのに、騎士が混じっているとはなんとも笑えない話だ。
しかも、得物は窮屈な場所でも小回りのきく小刀型。
この狭い通路では、通常の長さの刃渡りのレヴァンティンとの相性は最悪に近い。
無手で行くという手もあるが、どのみち負傷している右手がネックになる。

(時間をかければ仲間が集まってこちらが不利になるか……となれば、先に余計な連中を黙らせた方がいいな。)

アギトとアイコンタクトを取った後、シグナムは守るべき者の頭をポンと優しく叩いてそこに残すと物陰から物陰へと移っていく。
そして、

「悪いな。」

「!」

銃を持ってうろついていた工作員の首を絞めて落とすと、コートを脱がせてそれで手首を縛りあげて岩陰に隠しておく。

(まずは一人……)

間を開けずに今度は近くにいた魔導士に狙いを定める。
不意を突く形で真ん前に躍り出ると、相手が杖を構える前に右手を蹴りあげた。

「きさっ……!」

(遅い!)

口元を押さえて素早く鳩尾に一撃。
ぐったりと倒れ込む魔導士を前の一人と同じように縛り上げた。

(これで二人。)

立ちあがろうとしたシグナムだったが、すぐ目の前まで音もなく忍び寄っていたアロウズの工作員に不覚にも体が固まる。
だが、

(シグナム、目を閉じて!)

目を閉じると同時に、瞳が瞼の向こうで何か激しく光る物を知覚する。

(そのまま前に!)

(承知した!)

声の導くままに目も開けずに拳を突き出すと、ゴリッと何かにめり込む。

「カハッ……」

敵が倒したことを確信していたシグナムは第二撃を叩き込まず、目を開けてアギトと少女に微笑みかけた。

「すまん、助かった。」

「いや、こっちこそごめん。たぶんこれでこっちの場所がバレた。」

「構わんさ。コソコソと隠れているのは性に合わないと思っていたところだ。」

〈Anfang〉

逆巻く炎と共に甲冑を身に纏ったシグナムは、痛む右手を庇いながら愛剣を正眼に構える。

「さがっていてくれ。巻き込まない自信はない。」

「う、うん。」

彼女が下がると同時に、甲高い音が暗い通路に響き渡る。
レヴァンティンも空気の震えに共振し、迫りくる何かにシグナムもアギトも神経を研ぎ澄ませる。
そして、その時は突然だった。

「シッ!!」

「ハアアァァァァァァ!!!!」

火花で互いの顔が一瞬だけ暗闇の中でくっきりと浮かび上がる。
片や剣士とは思えないほど端整な顔立ちをしながらも鋭い眼光を宿した女騎士。
片や日に焼けた肌と無数の傷、そして無精髭が粗野な印象を与える黒髪の双剣士。
すれ違いざまに視線をかわした二人は、休む暇もなく放った二撃目で鍔迫り合いに入った。

「ベルカの騎士も堕したものだ。よもや女子供を連れている人間に迷いもせずに刃を向けるとは。」

「テロに加担する奴に情けなんざ必要ないってことだ。それに…」

男は不敵に笑い、素早くバックステップを刻んで押し合いから脱するとシグナムの右手に鋭い突きを繰り出した。

「上の言うことにいちいち疑問持ってたら騎士なんざやってらんねぇんだよっ!!」

「クッ……!!それは違う!!」

痛みに顔をしかめながら右手に力を込める。
柄頭で剣先を受け止め、手首のスナップで間を置かずに斬り上げを敢行した。

「おっとぉ!!」

鼻先をかすめていく一撃必殺の斬撃に、それでも笑って男は猿と見紛うような身軽さで壁を蹴って空中からシグナムに襲いかかる。

「レヴァン…」

そんな敵に対してカートリッジを使って迎撃しようとしたシグナムだったが、その時になるまで自分が今どこにいるかを失念していた。

(しまった────)

カートリッジの発動は止められたが、剣の勢いだけは止められなかった。

「グアッ!!!!」

「シグナムッ!!」

攻撃をもらったわけでもないのにシグナムの口から漏れた苦悶の声。
固い岩盤に突き刺さった刃から伝わる衝撃を傷口はいとも容易く激痛へと変換し、彼女の腕から自由を奪う。
しかし、それでも左手を柄から離さずに剣を最後まで振り切った胆力を評価したい。

「あ~あ~、怪我人のクセして無茶すっから。」

ケラケラと笑う男は容赦なくシグナムの腹を蹴ってさがらせると、続けざまに彼女の肩に左手に握っていたナイフを突き立てた。

「ガアアァァァァァ!!!!」

「この!!」

「オイオイ、人の心配より自分の心配しろよ。」

その言葉にアギトはハッとして振り返る。
だが、少々遅かった。

「うわっ!」

誘導弾をかわしきれず、アギトは足からバランスを崩して地べたに落ちる。

「遅ぇよ。ちゃんと仕事しろよな。」

「…………………」

「チッ、愛想のねぇこって。」

バインドで動きが取れないアギトと、完全に右腕が死んだシグナム。
万事休すだ。

「しかし、あんたも奇特だな。わざわざ主に逆らうことになる立場に自分からなるなんてな。」

「ぐっ…!お前に………何が分かるっ……!矜持すら持とうとしない、貴様に何がっ!!」

「だがおかげで俺はこうしてピンピンしている。何を血迷ったのかあんな馬鹿どもに加担しているあんたたちはここで終わり。死んで花実は咲かないぜ?」

男は愉悦に浸りきった顔でシグナムの肩を抉り続ける。
そして、言ってはいけない言葉を口にした。

「だいたい連中を助けてなんになる?誰も知りたいとは思わないもののためにやたら騒ぐテロリスト。後はガキが数人と気の毒なくらい世間知らずのお姫さん。こんなやつらが死んで誰が泣く?」

「き…さま……!」

「だいたいあのお姫さんは自分の国を潰してるんだろ?そんな生きてる価値なんざ欠片も見出せない女のために体を張るなんざどうかしてるね。」

「………にも…」

「あ?」

「何も知らないくせに………!!マリナ様を侮辱するな!!」

彼女が何のために生きているのかを、歌っているのかも知らないくせに。
彼女の歌を聞いたこともないくせに。

「あの方は、この世界に残されたわずかな希望だ!!その希望のためなら、私は喜んでこの身も剣も捧げる!!」

「ほざけよ!!プログラム風情が!!」

男は残る右手の短剣をシグナムの心臓めがけて振り下ろそうとする。
だが、その直前に白い輝きが暗闇の中で煌めいた。

「そのプログラム風情にも劣るお前はなんなんだよ。」

アギトを拘束していた魔導士が頭から男の方へ飛んでいく。
目標の腰にクリーンヒットした魔導士はグッタリした様子で倒れるが、男はそんな彼を気にも留めずに上から襲いかかってきた小さな影に刃を振るった。

「チッ!!」

「この……クソガキがっ!!」

ブリジットの前髪が双剣に切断されてひらひらと宙を舞う。
しかし危機的状況にもかかわらず、ブリジットは左の中指を立てて勝ち誇る。

「後ろをよく見てみろよチンピラ。」

「っ!!」

この時、彼女のことが眼中になかったのは絶対的有利が生み出した油断のせいだったのか。
いや、違う。
おそらく、この取るに足らない存在だったはずの少年の持つ何かが自分たちの予想の遥か上をいっていたのだろう。
その何かが作りだしたわずかな間隙が、この男騎士の敗因だ。

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

炎の翼を大きく広げ、シグナムは左手一本で業火を纏うレヴァンティンを振り抜く。
生みだされた衝撃と熱風は狭い通路を駆け抜け、それに巻き込まれた人間一人を壁に叩きつけるなど造作もなかった。

「っぶないな!!こっちにも当たるところだったじゃないか!!」

〈当たってないんだから問題ないだろ。てか、そのボロボロのカッコどうしたんだよ。〉

あの一撃に巻き込まれかけたことを問題なしと断じるのもいかがなものかと思うが、アギトの質問ももっともだ。
ブリジットの上半身の衣服は既に布切れが辛うじて繋がっている状態の上に、血と煤と泥のせいで元の色がなんなのか判別がつかない。
もっとひどいのはその下の肌である。
己と人の血がブレンドされたものがベッタリとこびりつき、自己治癒も不完全なせいで流血が止まっていない傷もちらほらある始末だ。

「……少してこずった。」

「そうか。」

そんな一言で済ませられるような戦いではなかったことは明白だが、わざわざ強がって見せるなど可愛い一面もあるのではないかとシグナムはあえて追及しない。
それに、あっちも待ちきれなかったようだ。

「お姉ちゃん!!」

たまらず駆け寄ってくる小さな体を、満身創痍ながら左腕だけで抱え上げるシグナム。
出来るならその瞳から溢れている涙を拭ってやりたいが、生憎あいている右腕は汚れている上に上手く動かせない。

「大丈夫だったか?」

代わりに言葉をかけるが、それでも小さな泣き声は止まらない。
あれだけ強烈な体験をした上に、自分を助けてくれた人間がボロボロでは仕方ないだろう。
そして、その様子にため息混じりながらも手を差し伸べる人間が出てくるのも無理からぬことだろう。

「ったく……こっちも疲れてんのに無理させないでよ。」

文句を垂れつつもブリジットはガス欠寸前の魔力を振り絞って淡い光をシグナムの右腕に当てていく。
暖かな感触が通り過ぎた箇所から痛みが引き、凝固した血液ごと傷がふさがっていった。

「いいのか?余裕があるんならまずは自分の傷を治した方がいいんじゃないのか?」

「いいんだよ。そのうざったいチビが泣きやむんなら安いもんだよ。」

完治したところでシグナムは右手を握ったり開いたりを繰り返して具合を確かめた後、腕の中の少女をなだめる。

「ほら、私は平気だ。だから、な。」

「でも…」

まだ不安げな少女の瞳を不思議に思い、シグナムの振り返った先には、

「お兄ちゃんが…」

へたり込んで壁に背中を預けているブリジット。
フゥと大きく息を吐いて力を込めるが、数秒と持たずにまた座り込んでしまう。

「ごめん。やっぱさっきのでスッカラカンだったぽい。」

「まったく……無理をするからだ。」

呆れながらアギトとユニゾンアウトしたシグナムは少女を背中に回してブリジットを両手で担いで歩きだす。

「……これって普通は女の子専用だと思うんだけど。」

「女みたいな顔じゃん。」

「後で覚えてろよ『劣化の剣精』。」

「今なんかすっごい失礼なこと言ったろ。」

無駄に火花を散らすアギトとブリジットにどっと疲れを感じながらも、シグナムは口元に笑みを浮かべていた。

(子供、か……存外、悪くないかもしれんな。)



この日の出来事が、彼女にとって新たな家族を増やすことを初めて考えた瞬間だったことにシグナムが気付くのはしばらく後になるのだが、その話は後日に譲ることにしよう。



出口

運転手を務めるイケダは自分がひどく落ち着かない状態であることに今更ながら気がついた。
もし、このジープに子供たちやマリナが乗っていなければこの重圧に耐えきれずに逃げ出していたかもしれない。
いや、嘘はやめよう。
今でも、彼女たちの待ち人を見捨てることになってもアクセルを全開にしたい気分だ。

「クラウスさん、もう……」

「まだだ。もう少し待ってくれ。」

焦っているのはクラウスも同じだ。
しかし、騎士道に準じるわけではないが、今まで自分たちを守ってくれたシグナム達を置いていくことなどできない。
後ろでその帰還を信じて疑わない彼女達のためにも。

「お姉ちゃん、大丈夫かな……」

「もちろんよ。お姉ちゃんは強いもの。」

そう言いながらも、マリナは笑顔の下では心苦しさでいっぱいだった。
力があるというだけで戦場へシグナムを送りだすという理不尽。
そのくせ、自分はその後ろにいながら戦いを否定している。

────わからない。
矛盾しきったこんな自分を、シグナムたちはなぜ守ってくれるのかが。
ただ単に騎士だからというだけで、ここまでできるものなのだろうか。
だとしたら、マリナは彼女に言わなければならないことがある。
どれほど傲慢に思われても、伝えなくてはならない。

「……!静かに。」

シーリンが銃を構えて外の様子をうかがい始めると、途端に緊張感が伝染していく。
だが、それもやってきた人物の顔を見るまでは、だ。

「ただいま~。」

「遅くなりました。」

「……右に同じ。」

荷台に乗り込むより早く、歓声とたくさんの泣き顔が出迎えてくれた。
が、それよりもなお早く、ブリジットごとシグナムを抱きしめた人物がいた。

「マリナ…様……?」

「……約束して。」

震える声で、その涙でシグナムの肩を濡らしながらマリナは続ける。

「これからどんなことがあっても絶対に戻ってきて……!」

「し、しかし、戦いに絶対というものは…」

「そんなの関係ないわ!騎士道のためだけじゃない……あなたを待っている人のために、絶対に帰ってくると約束して!これはアザディスタン第一皇女、マリナ・イスマイールとしての騎士シグナムへの命です!」

「う……」

そこを引き合いに出されたらシグナムにこれ以上抵抗できるはずがなかった。
それに、はやて以外に帰ってきてほしいと言われるのも悪い気はしない。

「……わかりました。」

「……な~んか嬉しそうだね。」

「い~けないんだいけないんだ♪浮気したらいけな……ブッ!」

からかう二人にデコピンを一発ずつ喰らわせてシーリンに治療を頼むと、シグナムは走り出すジープの荷台で愛剣をマリナに手渡す。

「少々古風で亜流ですが、リンカーコアを持たないマリナ様にはこのほうがよろしいかと。」

レヴァンティンの重さがズシリと手に伝わってくる。
シグナムが今まで培ってきたもの全て、そして今とこれから先に背負っていくもの全ての重さだ。
それを意識した上で、マリナは跪くシグナムの肩にレヴァンティンの刃をのせて彼女から教わった口上を諳んじる。

「汝、剣たる者。我が志に殉じる心構えありや?是と為す時は剣をその手に、否と為す時は剣を地にうち捨て応えと為すべし。」

「我、マリナ・イスマイールの剣となるを是とす。故に、我が剣は御身に捧ぐ。その命に、永久に背かざることを我が魂に刻む。騎士シグナムが、今ここに誓い奉る。」

両手でレヴァンティンを受け取り、再びペンダントに戻す。
これで、正式にではないが二人は主従の関係だ。
つまり、先ほどの命令も有効というわけである。

「これから先が思いやられるね。」

包帯でグルグル巻きの状態で寝そべりながらブリジットがポツリとつぶやく。
しかし、シグナムは笑ってその言葉を受け流す。

(この誓いが破られることはないさ。なぜなら……)

騎士の誓いは絶対なのだから。









誉は求めるものではない
ただ、己の行いと共に在るものである






あとがき

えらく遅れてしまいましたがセカンドシーズン初のサイドでした。
リアルが忙しいのは人生が充実している証拠だと友人に言われましたが……こんだけ疲れると真剣にアニメの世界にダイヴするか雲になるか猫になるかしたいです(^_^;)
そして内容についてですが……
……ええ、言いたいことはわかります。
ぶっちゃけ最後のシーンをシグナムとマリナにやらせたいがために書いた話です。
クオリティ?そんなものは後回しに決まってお(殴)
……調子乗ってサーセンでした。
次回からは気合を入れねば……
それでは、次回もお楽しみに!



[18122] 63.ヒュアース
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/08/02 22:27
ミッドチルダ 洋上 プトレマイオスⅡ コンテナ

ファルベル殺害から二日後。
プトレマイオスのメカニック二人はコンテナに並ぶMSの内、ある一機の前で仁王立ちしていた。

「こりゃあ、少し時間がかかるな。」

「だろうね。」

〈ですか?〉

手持無沙汰になっている愛機の姿にユーノはイアンともども溜め息を漏らす。

ウラヌスの主武装であるツインランチャーはエイオースでの戦闘で消失してそのままになっていた。
すぐにでも地球のフェレシュテに依頼して再装備したいところだが、軌道エレベーター崩壊以降は連絡が取れない。
やはり、彼らもどこかに身を潜めているのだろうか。

「どうするかな……一山いくらの連中ならどうにでもなるかも知れんが、新型相手となるとなぁ。」

〈マイスターがどんなに頑張っても火力だけはどうしようもないですからね。ウラヌスじゃ近距離戦闘でも決め手に欠けますし。〉

「となると、いよいよアトラスの切り札を使わないといけないかな?」

その言葉にイアンはギョッとする。

アトラスの切り札、彼の息子の名を持つあれは、ユーノの固有能力と合わさればほぼ無敵。
GN粒子を使った兵器を使用してくる限り、傷を負わせることは理論上不可能な代物だ。
ただ、問題は、

「死ぬ気か?」

搭乗者のことを考慮に入れないどころか、人命無視も甚だしい出力。
しかも、主武装は下手をすれば手足諸共機体が消し飛ぶ。
もっとも、乗る方はそんな結末を迎えるつもりは毛頭ない。

「そうならないために僕たち技術屋がいるんでしょ?やる前からギブアップ宣言はポンコツのやることだよ。」

〈だそうです。イアンさん、これも運命だと思って諦めてください。〉

「……主従揃って鬼だな、お前たちは。」

D・クルセイドの死刑宣告に潔く諦めてアトラスの切り札とオーライザーの調整に取り掛かる。
しかし、納得がいかないのは……

「なんでジェイルがおらんのだ。こんな突貫作業を二人だけでしろってか?」

「最近967と一緒にメディカルルームにこもりっきりのことが多いんだよね。相棒の僕を差し置いて。」

「967と?何をやっとるんだあいつらは?」

「さあ?聞いてもはぐらかされて終わるから。」

「……ただサボりたいだけじゃないだろうな。」

「そうだったら967ともどもシメる。最近どうも調子に乗ってきてる気がするから。」

「その時は全力で協力させてもらうぞ。」

物騒な会話を展開する二人だが、ジェイルは決してサボっているわけではない。
ある意味この艦における最重要案件を取り扱っている真っ最中なのである。




────剣と盾に新たな力を授けるために。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 63.ヒュアース


メディカルルーム

「シンクロ率67%……いい具合だ。」

「よっしゃ!」

前回を上回る結果にジルはガッツポーズ。
が、横で難しい顔をしているサングラス姿の男に気付くとコソコソと部屋から出ようとする。
しかし、その逃走劇はわずか数秒で幕を閉じた。

「気にするな。俺の作業はお前より少々複雑なだけだ。すぐに追いついてやるさ。」

967はそう言ってハロの中に戻るが、正直なところ焦りを感じていないわけではない。
満足な設備もなしにユニゾンデバイスのレプリカを作り上げたジェイルには敬服するし、自分の方にももっと努力が必要なのは重々承知している。
それでも、いつも無理に笑う相棒の顔を思い浮かべる度に胸が張り裂けそうになる。
また、彼が苦しんでいる時に何もできないのかと思うと不安で仕方なくなる。
そう思って張り切れば張り切るほど想いだけが先走って空回りを繰り返してしまう。

「……何がイノベイドだ。情けない……」

「へ?」

「いや、こっちの話だ。それより、今日の分はここらで終わりにしよう。リインフォースとチェスの対局を約束しているんでな。」

そう言ってころころと転がって誰よりも先に部屋を出ていく967。
ジルもそれに続いて出ていき、机の前で険しい顔をしているジェイルだけが残された。

「情けないのは私の方さ。」

一人になってようやく本音を漏らす。

あの二人がジェイルに頼んだことはコインの裏と表のようなものである。
しかし、元来対象物との融合を想定して制作されたユニゾンデバイスをAIの代わりに組み込むことはそう難しいことではないが、その逆は違う。
ハロのAIの代わりを務めているとはいえ、967は根本からしてユニゾンデバイスとは違う。
どれほど精巧にユニゾンデバイスのレプリカを作り上げようと、そうそうマッチングが上手くいくわけではない。

(彼とつながりが深ければスムーズに行く可能性はあるが……)

そう考えた時に行き当たるのはあの魔導書。
967と日頃から親しく、実際に適合率もかなり高い。
だが、それは彼女が焦がれてやまなかった願いをかなえるチャンスを摘み取ることと同義である。

「……いつものことだ。無理が通れば道理なんて引っ込むものだ。」

あの魔導書は、もう己の幸せを掴んでいいはずだ。
その最後の機会を奪う決断など、ジェイルにできるはずがなかった。



コンテナ

「よし、ツインドライヴの調整終わり。そっちは?」

「こっちはまだかかりそうだ。」

鼻歌交じりでコンソールから手を離したユーノだったが、(暇そうだということを理由に、食事中にもかかわらずイアンとユーノにつれてこられて若干気の毒な)沙慈の一言で唇を尖らせる。

「宇宙技師免許取ったんだろう?これくらいすぐに終わらせてよ。」

「これくらいって……どう考えたってそっちが早すぎるんだよ。」

「いい加減な仕事しとるんじゃないだろうな?」

そう言って覗き込むイアンだったが、その出来を見て絶句する。

(……おいおい。)

アトラスとクルセイドのツインドライヴの同調レベルは悪くない。
悪くないどころか、オーライザーもなしにこの仕上がりは神懸かっている。

「あれ?どこかミスしてた?上手くやれたつもりなんだけど。」

「あ、ああ……問題ない。悪いが、そっちも手伝ってくれ。」

「OK。」

本来、どんなに腕のいい技術屋が全精力を注ぎ込もうと、これだけの物を生み出すには早くとも2、3時間はかかる。
予備知識やもともと持っていた才能を加味しても、今のユーノは明らかに異常だ。
もう、師匠超えや一人前になったなどという言葉では説明がつかない。
そういったレベルの話なのだ。

「次はGNコーティングの出力調整か。」

沙慈の隣に移動するユーノは自分の異変に気付いている様子はない。
が、これを本人に伝えていいものかどうか。
そもそも、笑って勘違いだと一蹴されて終わってしまいそうだ。
それに、

「お疲れ様です。ウィスキー入りの紅茶をどうぞ。」

「ん、ありがとうございます。」

「ありがとうフェルト。ところで僕のは……」

「わかってる。ユーノのはホットウィスキーの紅茶のたらしだよ。」

「さっすが。君が理解のあるオペレーターで助かるよ。」

あんなに嬉しそうなフェルトの笑顔を曇らせることになる事態は極力避けたい。
ただでさえ前妻(?)の問題で精神的にあっぷあっぷなのだ。
このことについては誰にも言わず、後でジェイルに報告して指示を仰げばいい。

「いつまでもいちゃつくなよ若人。ただでさえ一人サボってるんだからな。」

「べ、別に私たちはいちゃついてなんて!!」

「そうだよ。少し話をしてただけだよね。」

悪意のこもっていない言葉の凶器をフェルトの心にズブリと突き刺し、ユーノは作業を再開した。



ちなみに、この直後にイアンと沙慈の拳骨がユーノの脳天に突き刺さったのは言うまでもない。



食堂

「チェックだ。」

「む……」

キングを射程にとらえた黒のビショップのホログラムにリインフォースの手が止まる。
あちこち目を配るが、左にはクイーン、右にはナイト。
どうにも逃げ場が見当たらない。

「……ありません。」

「これで967が4勝2敗1引き分けだな。」

観戦者兼記録係のラッセが棋譜を二人の前に差し出し大きく伸びをする。
たまたま居合わせたので興味本位で眺めていたが、想像以上に緊張した。

「プロにでもなる気かよお前ら。棋譜を取る身にもなってくれ。」

「お前が勝手に始めたことだろう。」

「私たちの対局は趣味の範疇を超えることはないと思いますが。」

なるほど、リインフォースと967にとって毎日数時間にも及ぶ駒の潰しあいと人間の脳の処理能力を遥かに超えた戦略の展開が趣味の範疇らしい。
ふざけているにもほどがある。

「傍から見ていてどうかは知らないが、俺たちにはあくまで暇つぶしだ。」

「情報処理能力や速度、戦術理論構築は確かに人間以上でしょうが、その半面、想定外の事態に弱いという欠点もあります。そのあたりが、我々が人ではなく道具の域を脱しえない最大の理由でしょうね。」

「んなこたねーよ。」

ラッセはリインフォースの頭をコツンと小突いて笑う。

「泣いて笑ってキレる。そんだけできりゃあ十分人間と変わりねえよ。いちいち卑屈な物言いするなっつの。」

ただの道具がこんな表情をするはずがないし、そもそも自分で心というものについて考えるはずがない。
いや、人間でも自己の意識や心というものを深く考えようとする者は少ない。
その点でいえば、彼女たちは誰よりも人間らしい存在と規定できるだろう。

「搦め手の指南なら俺がやってやるよ。これでも現役のコーチだからな。」

「「…………」」

「おい……なんだ、その顔は。」

いまいち乗り気ではないリインフォースの前に座って盤上の駒をリセットして、ラッセは対局を始めた。



────結果についてはラッセの名誉のためにも伏せておくことにしよう。



廊下

今日のライルはいつもと比べて妙に強引だった。
いつもならもっと遠まわしに部屋に誘ってくるのに、今日に限ってシフトも無視して頼んできた。
おかげで何をしていたか覚えていないくらいボーッとしていて、ミレイナにまで注意される始末だ。

(それでも承諾しちゃう私も甘いなぁ……)

今、ライルとアニューの距離はかなり微妙な状態である。
ロックオンではなく本名であるライルの方で呼ばせ、アニューの方も幾度となく自室に彼を招いたり、逆に彼の部屋を訪問した。
しかし、そこまでなのだ。
お互いに自分の生い立ちについて話さない。
そして、未だ唇を重ねたこともない。
まるで、子供の遊びのような恋だ。
いや、恋という言葉を使っていいものかどうかも危うい。

(焦ってるのかな……)

だから今日の誘いも断れなかったのかもしれない。
いい加減に白黒つけるためにも。


「お、来た来た。」

覚悟を固めたアニューに対しライルは相変わらずだ。
軽い調子で手招きをして笑っている。
が、それもここまでだ。

「ライル。」

扉が閉まるなりズイッと近寄られてライルは思わず背中を反らせてしまうが、アニューは構わず詰め寄る。

「今日はどうしても聞きたいことがあるの。」

「あ、ああ、そうなのか。そりゃ奇遇……」

「あなた、私のことどう思ってる?」

「いや、どうってそれは……」

出会ってからそれほど時間は経ってない。
しかし、それでもアニューは確かにライルに想いを寄せている。
そのつもりだ。
そして、ライルもまた……

「あなたにとって私は戦友?それとも、それ以上の存在?ねえ、ライル……」

「意外と熱いところがあるんだな。知らなかったよ。」

「はぐらかさないで!!私は……」

「ほれ。」

まくしたてようとしたアニューの前に、ライルはあるものを差し出す。

「受け取ってくれないか?」

「これは…」

虹色に輝く欠片。
美しいシルバーのチェーンを通されたそれは、ただ美しいだけでなく微かに温かい。

「ドラゴンの鱗さ。初めてこっち側に来た時にもらったんだ。」

「温かい……まだ生きているみたい………」

「知り合いの話じゃ意中の相手に渡すんだそうだ。永遠の愛の証として。」

ライルとペンダントを交互に見ながらアニューは目を白黒させる。

「心外だな。俺って結構一途なんだぜ?」

クックッと笑ってアニューの頬に軽く口づけをする。
それだけでアニューは顔を真っ赤にして離れようとするが、ライルが抱きしめてそれをさせない。

「嫌だったか?さっきまでの様子じゃ俺の一方通行ってわけじゃなさそうだったけどな。」

「嫌じゃない……ただ、恥ずかしかっただけ。」

紅潮した顔で見上げられ、飄々とした態度を保っていたライルも同じように顔を赤らめて視線を逸らす。
まあ、彼もとびぬけて経験豊富というわけではないから、好意を寄せている相手とこんなことをしていればそうなってしまうのも当然のことなのだが。

「そ、それで、返事は?」

「いまさらそれを聞くの……?」

ジッと見つめてくるアニュー。
それに応えるようにライルは顔を近づけていく。
そして……

『アロウズと管理局の艦船の接近を確認!各員、戦闘配置についてください!繰り返します……』

いいところで邪魔が入った。

「……やれやれ。」

「気をつけてね……」

「告白したばっかで死ねるかよ。早く終わらせてせっかちな彼女のところに帰ってくるさ。」

アニューの心配をよそにライルはおどけてみせる。
しかし、その心の内には愛する人を守ろうという決意が静かに燃えていた。



アロウズ戦艦 コンテナ

コックピットの中でティアナは考えていた。
今回の追撃、どう考えても不自然な点が多すぎる。

『まだ考えていたのか?』

アンドレイが呆れている。
だが、おかしいものはおかしいのだ。
そもそも、異世界においては地の利に長けているはずの管理局が敵艦を発見できていないのに、なぜ連邦が先に、しかもこれほど早く敵の位置をここまで細かく割りだせたのか。
もっと言うなら、情報の出所があまりにも不透明すぎる。
あのいけすかないライセンス持ちのさらに上の人間かららしいが、質問しても明確に答えないあたりがさらにキナ臭い。

『戦場で余計なことを考えていると死ぬぞ。』

「わかってます。」

考えていても仕方ない。
その件も含めて調査するのがティアナの仕事なのだから。
たとえ、友人たちを裏切ることになっても。

「……ごめんなさい。」

小声で謝罪の言葉を口にし、ティアナは猛々しき天使と共に戦いの空へと飛び立った。



ミッドチルダ 洋上

ロックオンが出撃した時にはすでに四機がそろい踏みだった。
ただ、ダブルオーライザーと並んで頼りになる機体の姿がどこにもない。

「おい、ユーノはどうした?」

『新装備の調整中らしいです。』

「冗談だろ?ランチャーなしでも雑魚相手なら……」

『雑魚だけ相手にするわけにもいかないから新装備が必要なんだろ?それくらいわかれよな~。』

小生意気な言い草が気に喰わないが、ジルの言うことももっともだ。
イノベイターの機体、ミッド製のMSに、果ては全自動のMD。
火力が無くなった機動性重視のMSでは負けることはなくとも勝つのも難しい。
特に、同系統の機体相手には。

『っ!?長距離狙撃!?』

『来るぞ!!』

彼方から飛来した弾丸を中心に、各機はティエリアの声と共に散開する。
その間をさらに広げるように、オレンジ色の弾丸は5機を執拗に狙ってきた。

「良い腕だ、クソッタレめ。敵に回すとつくづく厄介なお嬢ちゃんだ!」

負けじとロックオンも狙撃用スコープをおろしてトリガーに指をそえる。
周りにいる他の敵は無視して、狙うはオレンジにカラーリングされた機体だ。

「狙い撃つ!」

ケルディムのスナイパーライフルが吼える。
大気を切り裂く光弾は目標の肩をかすめるが、決定打には至らない。
そう、狙い通りだ。

「挑発ってわけ?」

痺れる左肩を二、三回まわしてティアナはいっそう鋭い瞳で智天使を睨む。
今のコースなら間違いなくコックピットを撃ち抜けていた。
無暗にパイロットを狙わないという理由もあるのだろうが、今の一発は間違いなくわざと外していた。

「お前との勝負は持ち越しっぱなしだったからな。この記念すべき日にもう一つ記念を追加してやる!」

「私も負けず嫌いなのよね。ここらで決着をつけるわよ!」

同時に狙撃態勢に入る二機。
もうすでに、味方のことさえ眼中にない。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス!」

「カマエル、ティアナ・ランスター!」

「「目標を狙い撃つ!!」」

ほぼ同時に発射されたビームを互いに回避し、そこから再び激しい狙撃の応酬が始まる。
が、このままでは埒が明かないことを見越して、ティアナは一足先に動いた。
カマエルの周辺にオレンジの誘導弾を出現させて四方に散らすと、一つ一つのスピードをずらしてケルディムへと向かわせる。
対するケルディムはシールドビットを展開してそれらを迎え撃つ。
誘導弾の数は決して多くはないし、一点集中ならともかくこれだけ分散させてはシールドビットを破壊するほどの威力は期待できない。
だが、ティアナはそれも織り込み済みでこの手をうったのだ。
しかし、彼女はガンダムマイスター、いや、一人のスナイパーとしてのロックオン・ストラトスの勘を甘く見ていた。

仲間が心魂を傾けて造ったシールドビットの防御を鉄壁と疑わなかったロックオンだが、今日に限っては幾多の戦いで培われた直観が微かな疑念を抱かせた。
そして、それが彼の身を救った。

「!!」

咄嗟にビームピストルを右に向けて放つ。
それと同時に爆風でケルディムが大きく揺れるが、構わずロックオンは右のスナイパーライフルでカマエルを狙い、左のビームピストルでシールドビットの防御をすり抜けてくる誘導弾を撃ち落としていく。

(しかし、どうしてシールドビットの防御を……)

爆煙に包まれながら鷹の如き眼光が戦場を見渡す。
上下左右、ありとあらゆる方向から迫りくる光を防ぎ、撃ち落とし、そして気付いた。

(なるほどな。)

速度に差がある光弾。
一見してみるとただそれだけだが、もうひとつ違いがある。
高速弾の方は明らかに威力が軽く、低速弾はかなりの魔力と粒子が圧縮されている。
その証拠に、撃ち落とした低速弾が激しく衝撃を放つのに対し、高速弾の方は魔力と粒子が散るだけだ。
そして、おそらくこれがティアナの使った手品のタネだ。

「ハロ、調子はどうだ?」

「絶好調!絶好調!」

「だろうな。」

それが原因とも知らないで元気な相棒の返事に苦笑いを浮かべるロックオン。

高速弾はおそらく囮。
シールドビットの動きを止めるためにわざとぶつけている。
もっとも、ヒットした際の硬直時間はコンマ数秒レベル。
その隙に軌道変更が容易で高威力の低速弾といえど、ケルディムまで接近させるには相当の技術と集中力が必要ではあるのだが。
しかし、それを考慮しても高難易度の裏技だけに見返りは大きい。

まず、この戦法は人工知能相手に猛威を振るうという点だ。
通常、ハロは速い攻撃ほど優先的に防ぐ傾向がある。
これは、ハロがケルディムに攻撃を当てさせないということを目的にシールドビットを操作しているため、ケルディムに到達する時間が速いものほど優先的にブロックしていくため起こる現象である。
それはある意味正しくはあるのだが、この場合は別だ。
仮に、ほぼ等距離にまで接近してきた高速弾と低速弾があった場合、ハロは高速弾の方へシールドビットを向かわせてしまうのだ。
しかし、ティアナの本命は高威力の低速弾の方であり、あくまで高速弾は誘導でしかない。
故に、本来防ぐべき高威力の攻撃がこの鉄壁の防御シフトを突破しやすくなってしまうという事態を招いてしまったのだ。

第二に、この攻撃方法に割く魔力や粒子はさほど必要ではないということだ。
レリックとGNドライヴを同調させてほぼ無制限の力を得るMS・デバイスだが、あくまでレリックを通して増幅させた搭乗者の魔力を使用しているため、魔力の消耗はゼロではない。
無鉄砲に魔力を含有させた粒子での攻撃を使い続けていたら魔力は底を尽くし、射撃型のカマエルやサリエルを操るティアナとなのははその傾向が顕著だ。
そこで活きてくるのが、六課時代に学んだ戦術と過酷な基礎トレーニングである。
基本に忠実、かつ応用の幅が広いスキルは魔力を用いた攻撃を行うティアナたちの一助になっていることは疑いようがない。
しかもポジションがセンターガードということもあってなのはとユーノにしごかれ、六課で一番豪勢な扱い(?)を受けていたティアナのスペックはすでにかなりハイレベルに達している。
それを利用すれば、物量や手数で押さずともオリジナルのGNドライヴとも互角以上に渡り合えるという寸法なわけだ。

第三に、この戦法の最後にして最大の利点は対処がほぼ不可能という点だ。
考えてもみてほしい。
狙撃という集中しなければならない状況下で無数の弾丸が周囲を取り囲んでいる場合に、それら全ての速度を把握して複数の盾を同時並列的に操作することができるだろうか。
無論、ユーノのようなそちらの方面に飛び抜けた魔導士や生物としての基本性能からして違うイノベイターならば可能かもしれない。
しかし、あくまで常人であるロックオンにはそのような芸当は不可能であるし、そのためにハロのようなサポートメカが必要になってくるのである。
そのハロがあてにできないとなると、ロックオンは一人で狙撃も敵の攻撃に対する迎撃も行わなければならなくなる。
それは、できないことはないだろうがケルディムの性能を100%引き出せているとは言えないだろう。

「ホント、可愛げのない奴を育ててくれたもんだ!!」

目前に迫っていた誘導弾を撃ち落とし、ロックオンは一旦カマエルの攻撃範囲からさがる。
それは、ケルディムも攻撃できないほど距離を開けることを意味するが、あくまでこれは反撃の体勢を整えるためのワンクッションにすぎない。

(TRANS-AMは……まだ早いな。)

刹那たちはMDとアロウズのMSの混成部隊に苦戦している。
あれだけの物量では無理もないし、むしろ後方にいるケルディムに接近を許す機体を出さないだけ健闘していると言ってよいだろう。

(この戦いは俺とあのお嬢ちゃんのどちらが勝つかで結果が大きく変わってくる。)

(私が撃ち合いを制すればこのまま押し切れる。けど、仮に私が墜とされれば後方からの援護射撃も加わって形勢は逆転する。)

それはすなわち、アンドレイやルイスを危険にさらすことになる。
負けられないのは、ティアナも同じだ。

「来るわよ、クロスミラージュ。」

〈わかっています。〉

最後に挙げた利点に矛盾するようだが、この戦法には一つだけ攻略法がある。
危険で、なおかつほぼ無制限に弾を撃てるという条件のもとで可能な方法が。

「ハロ、シールドビットをディフェンスからオフェンスシフトへ。防御はもうするな。」

「了解!了解!」

「行くぜ相棒……!成層圏の向こう側まで狙う男は伊達じゃねぇ!!」

発射口を全てカマエルへ向けたシールドビットを引き連れ、ケルディムが再び前に出る。
それを待ち構えていたティアナもスナイパーライフルを構えると同時に誘導弾を生み出す。
そう、これから二人が行うはノーガードでの殴り合い。
避け損ねや撃ち漏らしは敗北に直結する。
どちらが先に牙を突き立てるかの勝負だ。

「いくぞ!!」

「上等!!」

その瞬間、ピンクとオレンジの光はいっそう苛烈に空を埋め尽くした。



前線

いっそう激しく炸裂し始めた頭上の閃光。
その眩しさに対抗するかのように、海の青と空の青に挟まれている紅白の点めがけてセラヴィーは砲撃を放つ。
無色透明のキャンパスにピンクの絵の具がぶちまけられたような極大のビームはそれ以外の全てを無に帰していく。
しかし、それでも消えずにしつこく付きまとってくる色がいくつかあった。

「遅いよ!」

セラヴィーのそれと比較してもそん色のない砲撃が、今度はガンダム各機を襲う。
今回も命中する機体はなかったが、海面に突き刺さった閃光が蒸気と飛沫の混合物をばらまいていることからもその威力がうかがえる。

「イノベイター!」

「力押しが自分だけのものだと思った!?」

ヒリングはガデッサのメガランチャーを通常モードへと戻し、セラヴィーとの撃ち合いへと突入した。
大きな一発ではなく、細かくビームを散らしながら相手を牽制していく。
チャージに入ろうとすれば、即座に相手の攻撃が飛んでくるのだから高出力の砲撃など望めないのだから、自然と膠着状態が続くことになる。
しかし、ガデッサだけでなく防衛線を突破しようとする機体にも気を配らなければならない分ティエリアがどうしても後手に回ってしまう。
極めつけは、アテにしていたロックオンの援護が期待できないということだ。
しかも、もしここを突破されたら彼も危険だ。

(時間はかけていられない!)

焦りから勝負に出るティエリア。
射撃を継続しつつ、ビームサーベルを片手にガデッサとの間合いを詰めていく。
ガトリングが装甲表面やGNフィールドを削ってくるが、それでも直線的に斬り込んだセラヴィーは右手の刃をガデッサへと振るう。
しかし、果敢に攻め込んだ初太刀は相手の剣に受け止められてしまった。
だが、ティエリアの狙いはここからだ。

「セラフィム!!」

背中のバックパックが分離し、二つの顔を持つ漆黒の機体へと変貌する。
同時に、セラヴィーは膝の隠し腕で敵をロックして準備は完了だ。

「これで…」

「勝ったつもり!?」

乾坤一擲のセラヴィーとセラフィムのコンビネーション。
しかし、イノベイターのコンビネーションはさらにその上を行く。
セラフィムのランチャーがガデッサへと放たれようかというまさにその瞬間、ガラッゾの輝く爪がセラヴィーの膝の拘束を斬り払った。
しかも、イノベイターのターンはまだ終わらない。
自由に動けるようになったガデッサがすでにゼロ距離でメガランチャーの発射準備に入っている。

(GNフィールド!?だがこの距離じゃ…)

もう発射までそう時間はない。
冷やりとした汗が肌を伝う。
その時だった。

「マレーネ、姿勢制御よろしくっス!!」

〈言われずとも!!〉

「グッ!?」

ガデッサに何かが高速でぶつかる。
そのままもつれながら取っ組み合いに持ち込んだそれは、バランスを崩して落下しながらもガデッサの額部分にあるラインセンサーに小回りのきく短剣を突き立てた。
傷は浅かったが、ガデッサのコックピット内の画像に乱れが生じた隙にアブルホールモードの脚部バーニアでホバリングしながら離れ、そこから戦闘機形態に変形して一気にセラヴィーのいる高度まで上昇した。

「無理は駄目っスよ、ティーたん。」

「ティーたん言うな。」

と言いつつ、ティエリアの顔には笑みがこぼれる。

戦場に立つ者も、そうでない者も、一人で戦っているのではない。
互いに背中を預け、各々のプライドをかけて戦っているのだ。
そのことを、ウェンディは思いださせてくれた。

「ロックオンもせっちゃんもユノユノも、み~んな頑張ってるんスからそんなに気張らない。あたしらはあたしらでできることをやってけばいいんスよ。」

「……ああ。そうだな。」

そう、みんな戦っている。
アレルヤとマリーも、必死に己の戦いを繰り広げている。





その姿を視界に捉える度に、怒りがこみ上げてくる。
声を聞くほどに、憎悪に任せて引き金を引きたくなる。

そんな感情に心を侵されながら、それでもマリーは戦っていた。

何のためかわからない。
敵なのに殺めてはいけないという矛盾。
それでもマリーはアレルヤと共に空を飛んでいた。

「クソッ!」

そんなマリーの態度はアンドレイには侮辱に等しかった。
数で勝るこちらの攻撃を掠らせもしない癖に、反撃は一切してこない。
いつでも墜とせるというパフォーマンス以外の何物でもないこの行為は、アンドレイの怒りを買うには十分すぎるものだった。
だが、たとえどれほど相手から怒りや憎悪の感情を向けられようと、マリーは同じように怒りや憎悪は返さない。
なぜなら、彼女にとっての敵は彼女自身だから。

「マリー。」

「わかっている。」

今なら理解できる。
四年前に出会ったあの少年の戦いが。
そして、今の自分にもできるはずだ。

「いくぞ、アレルヤ。」

「了解、マリー。」

アーチャーアリオスの動きが変化した。
それまで離れて旋回しているだけだったが、ビームを回避すると機体をひねりこんで敵小隊へ突撃を仕掛ける。
面食らったジンクスはアクションを起こす暇もなく両腕両膝を撃ち抜かれて戦闘不能に陥ってしまった。
アンドレイとMDを除いて。

「ようやくやる気か!!」

かなり危ういタイミングだったが、なんとかかすり傷程度で済んだ。
MD以外に生き残ったのが自分だけというのがなんとも情けない限りだが。
しかし、わからないのはガンダムがコックピットを外していたことだ。

(偶然か……?そうでないとしたらなめられたものだ!)

敵を気遣う余裕など戦場にはありはしない。
そもそも、テロリストが今更こんなことをしたところで偽善以外の何物でもない。
こんなことで罪が許されるとでも思っているのだろうか。
だとしたら、度し難い愚か者だ。

「こんなことで……犠牲になった人間が戻ってくるとでも思っているのか!!」

MDの一斉射に乗じてアンドレイがアーチャーアリオスへと飛ぶ。
それに応え、GNアーチャーも分離してMSへと変形する。
アレルヤもそれを止めない。

そして、二機は激突した。

「アンドレイ・スミルノフ!!」

「ピーリス中尉!!」

GNアーチャーの横薙ぎに合わせ、粒子を集中させたランスを突き出す。
激しく火花を散らすビームサーベルとランスだが、マリーはさらにもう一本を同じ箇所に叩きつける。
許容量を超えた熱量でランスは焼き斬られるが、アンドレイはすぐさまビームサーベルを抜き放つ。
ランスの爆発に視界が閉ざされるが、二機は迷うことなく己の刃を正面へと振り下ろす。
ビーム同士がぶつかったとき特有の激しい閃光が爆煙を突き抜けて相手の姿を映し出した。

「シッ!!」

GNアーチャーが空いた右手ですばやく袈裟掛けを放つ。
しかし、アンドレイはジンクスを素早く相手の腕の内側に入ってその一撃を上へと逸らし、逆にGNアーチャーの胴を狙う。
それを今度はGNアーチャーが変形して緊急離脱。
ジンクスの頭上を取ってミサイルを発射すると、それに紛れてジンクスへと急下降していった。

「この程度で!!」

「終わると思うな!!」

アンドレイが動くより早くマリーは引き金を引く。
だが、狙いはアンドレイではなくミサイルの方だ。

「なに!?」

突如視界を包み込む粒子と炎にたまらずアンドレイは操縦桿を右に倒そうとする。
だが、

(フェイク!?)

横に動いたアンドレイを狙い撃ち。
可能性は十分にある。
ならば、逆にこの炎を強行突破して相手へ仕掛ける。

「そこだ!!!!」

火炎の海へダイヴし、見事突破するアンドレイ。
しかし、そこにGNアーチャーとマリーの姿はなかった。

「おしかったな。」

気配に気付くが時すでに遅し。
ビームサーベルを握っていた腕を斬りおとされ、後頭部に光刃を突き付けられて勝負ありだ。

「なぜわざわざ死角の外に?」

「死角は相手の心の外、いうなれば虚を突くものだ。逃げ隠れするだけが駆け引きじゃない。」

「自分が正面からくることを読んでいたとでも言うのか……!?」

「アンドレイ少尉、お世辞抜きにあなたは優秀だ。だが、若くして優秀すぎるが故に迷う。そして、あなたの場合は往々にして迷った時は直情的に動きがちだ。そう……大佐を手にかけた時のように。」

マリーの指摘にアンドレイはカッと目を見開く。
マグマのような怒りが心の内でくすぶるが、自分のクセを言い当てられたことよりも親子の間に割って入られたことが何より腹立たしかった。

「あの男は反乱分子だ!!討って何が悪い!!」

「話を聞こうとしたの?大佐がそんな人ではないことはあなたが何より知っているはず。」

「知っているさ!!母さんを見殺しにして軍規を優先させたくせに、今度は自らそれを反故にした!!そんな男にそれ以上何を聞けというんだ!!!!」

なぜ、どうしてここまですれ違うのか。
素直に耳を傾ければ、あるいは強引にでも話し合いの場を持っていたら。
Ifの未来などないとしても、悔やまずにはいられない。
この親子は、本来ならばもっと……

「マリー!!」

「っ!?」

間一髪、下からの突進をかわすマリー。
だが、それはアンドレイが自由になることも意味する。
そして、今の彼が自由になればマリーの言葉など届かない。

「一旦さがる!各機はここで羽付きを足止めしろ!!」

当たり散らすようにAIに命令してアンドレイは去っていく。
残されたキャバリアーシリーズをマリーの問いかけの答えとして残して。

「マリー!!」

「まずはゴミどもを片してからだぁ!!!!」

「わかっている!!」

既に粒子残量も残り少ない。
再びアリオスとのドッキングに移ろうとするGNアーチャーだったが、その瞬間にセンサーの反応音より早く、何かがそのすぐ目の前を高速で駆け抜けていった。

「クッ!?」

いくら速く、不意の出来事だったとはいえ、超兵である彼女の目にすらとまらないのはあり得ない。
慌ててその正体をカメラで追うが、それが何なのかわかって愕然とする。
そのうち一つはダブルオーライザー。
現存する機体の内でも最強と呼んで差し支えのない、最高のMSだ。
だがしかし、もう一つの方はあり得ない。
そのことは、かつてそれに乗っていたマリーとピーリスがよく知っている。

「スマルトロン!?」

アヘッドの脳量子波対応型。
超兵、もしくはイノベイターでない限りおよそ扱いきれる物ではないそれが、ダブルオーライザーを追い詰めている。
あの、およそ戦場に似つかわしくない女性が乗っている機体が、刹那を圧倒しているのだ。

「ルイス・ハレヴィ、なのか……?」

その事実に、ピーリスはアリオスとMDが起こす爆発音すら気にならないほどショックを受けていた。





「くっそぉ!!」

エリオは追いすがるスマルトロンへ最後のミサイルを見舞う。
しかし、それらは近寄るどころか中程の地点でビームライフルとバルカンの嵐に巻き込まれて無残に散った。
そして、機体が悲鳴を上げるのにもお構いなしでルイスは禁忌の領域までその速度を上げる。

「ガンダムゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

「クッ!!」

逃げ切るのが不可能だと悟った刹那はスマルトロンと斬り結ぼうとする。
しかし、ルイスは素早くスマルトロンを斜に構えさせると、切先をビームサーベルの刃を擦らせるようにいなす。
肩透かしを食らった刹那はダブルオーライザーを下げようとするが、それよりも速くアッパー気味に繰り出された左手の盾が肩をとらえた。

「もらった!!」

その衝撃で上体を仰け反らせてしまったダブルオーライザーに、ルイスはビームサーベルを振りかざして襲いかかる。
エリオがオーライザーのマシンガンで応戦するが、装甲が削れるのもお構いなしでルイスは突っ込む。
しかし、機体はすでに彼女の想像以上に消耗していた。

「!?」

ガクンと傾くスマルトロンに目を白黒させる。
表示された機体のコンディションが如実にその理由をものがたっていた。

(機体が限界!?)

膝から先はエリオの苦し紛れの攻撃で消失。
他の関節部分もすでにルイスの反射速度についていけずにガタがきはじめている。
だが、それでも仇を目の前にした復讐者は止まれない。
いや、もはや理性すらも捨てつつある。

(殺す……!!パパ……と、ママの…仇!!)

他の思考などもう存在していない。
あるのはガンダムへの憤怒だけだ。
己の内に渦巻く感情に流され強引に前に出るルイス。
しかし、すでに刹那は体勢を整えている。
十全ではない機体で倒せるほどダブルオーライザーは甘くない。

「遅い!!」

粒子の残照を残し、GNソードが一閃される。
両腕が切断され、いよいよバランスを保つことが難しくなったスマルトロンは高度を下げていくが、ダブルオーライザーに抱えられたおかげで海面への落下は回避できた。
しかし、ルイスの心中は穏やかであろうはずがない。

「離せガンダム!!」

「もうやめろルイス・ハレヴィ!!」

「刹那・F・セイエイ……!!沙慈と一緒に私を騙していた男!!」

「違う!!沙慈はお前を…」

「うるさい!!」

もう戦えない状態で、それでもルイスは抵抗を続ける。
その声の一つ一つが、伝わってくる振動の全てが刹那に告げてくる。

お前を許さない。
裁きを受けろ。
なんでお前が生きて無辜の人々が死ななければならない。

そんな想いが刹那の心に突き刺さってくる。
しかし、それでも彼女を離すわけにはいかない。

(沙慈と会えばきっと……)

わかりあえるはず。
だが、そんな刹那の一縷の望みは最悪の来訪者によって断たれてしまった。

「上から熱源!!来ます!!」

「!!」

エリオの射撃に続けて刹那も上へライフルを放つ。
だが、乱入者はその身を砕かれるのもかまわずにダブルオーライザーに激突した。

「うわっ!!」

衝撃でジルが刹那の胸にダイヴする。
受け止める刹那も揺れの大きさに手元が狂ってしまった。

「刹那さん!!」

「!?しまった!!」

エリオの忠告も虚しく、ダブルオーライザーの腕の中からスマルトロンが奪い去られる。
慌てて周囲を見渡すがもう遅い。
ルイスを救出したアンドレイは、隻腕になってしまったジンクスと共に母艦へ一直線だ。

「逃がすか!!」

追おうとする刹那だが、それをMDが阻む。

「どけっ!!」

そう言われてAI制御の彼らが退くわけがない。
シュバリエが斬り込み、カヴァリエーレとエスクワイアが砲撃で追う。
相変わらず数と機械的なコンビネーションで攻めてくるこいつらはつくづく厄介だ。
それも、数に比例してその厄介さが増加していくのだから始末に負えない。

(くそっ!!あと少しなんだ!!)

そのあと少しが果てしなく遠い。
TRANS-AMを使えば今からでもMDを駆逐して追いつけるかもしれないが、それでは他のガンダムのフォローに回るどころか、最悪の場合ダブルオーライザーが抜けた穴を突かれてケルディムへ敵が到達してしまう可能性がある。
それだけは何としても避けなければならない。

(どうする……どうすれば…)

迷っている間にもアンドレイとルイスはどんどん離れていく。
もう、猶予は残されていない。
そんな時だった。
彼らが駆け付けたのは。

「クルセイド、目標を撃砕する!!」

ダブルオーライザーのバックをとっていたシュバリエの頭が突如として吹き飛ぶ。
続いてかなり離れていたエスクワイアの五体が滅茶苦茶に寸断される。
砕かれ、陥没させられ、引き千切られた友軍機に残されたMDも警戒を強めていくが、刹那たちの目には、その姿は兵器でありながら美しく映っていた。

アトラスが使用していた巨大なブースターを背中に負うアンバランスさ。
しかし、限りなく無駄を削り落とされたフォルムはそれでも色褪せることなく制作者の意匠を反映している。
装甲の隙間から立ち上る粒子の輝きは末端にいくほど濃くなり、銃どころか刃の一つも持っていない手に至ってはそれらさえ邪魔に思えるほど力強く見える。

神話の世界における狩人の一人。
アトラスの息子にして、死してなお姉妹の寵愛を一身に浴びた巨人の狩人。

「クルセイド・アトラス、モード・ヒュアース……この拳は巨人の一撃だと思え!!」



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「遅れてスイマセン!」

こちらでも同じセリフを口にしてフェルトが飛びこんでくる。
急いで定位置に着くとクルセイドライザーへとD・ケルディムの回線をつなぎ、先程出撃したユーノに確認の通信を入れた。

「ユーノ、ヒュアースの調子はどう?」

『ああ、悪くないね。あの短時間に仕上げたにしては上出来だよ。さすがフェルト。』

「ケルディムが手伝ってくれたおかげだよ。」

〈そうそう、感謝しろよ。〉

「愛の語らいはそこまでにしといてもらうわよ。ユーノ、状況はどう?」

フェルトは顔を真っ赤にして怒ろうとするが、他愛もない冗談など気にも留めないユーノの報告でさえぎられる。

『MD部隊に囲まれちゃいるけど、こっちはダブルオーと合流できた。ただ、こっちには王子様がいるんだからお姫様を追いかけたいところだね。』

のんびりした喋りのユーノだが、声に混じって激しい爆発音やなにかがひしゃげる音が聞こえてくる。
余裕があるように振る舞ってはいるが、思いのほかてこずっているようだ。

「できるの?」

『ヒュアースの仕上がり次第になりますけど、たぶんいけます。それに、あの二機を追えば一気にティアナを抑えることも可能だと思います。』

ロックオンを信頼していないわけではないが、カマエルを封殺できればこちらが有利になる。
しかし、戦力の中核を担う二機、しかも片方はしばらく様子見をさせたいクルセイドを防御から外していいものか。
その時、フェルトから声が上がった。

「いけます。」

「フェルト?」

「GNコーティングの調整は私とケルディムも手伝ったんです。仕上がりは万全です。」

強気な瞳でジッとスメラギを見つめるフェルト。
クルセイドを、ユーノを信じているという揺るぎない意思が伝わってくるようだ。

「行かせてあげてください。ヒュアースならやれます。」

そこまで言われて退いたのではソレスタルビーイングの戦術予報士の名が廃る。
勝負に出ようではないか。

「ダブルオーとクルセイドは敵陣を突破。可能ならば敵艦と狙撃手を叩いて。」

『『了解!』』



前線

「ヒュアースのデビュー戦なわけだけど、いきなりキツイ戦いになっちゃたね。」

ブリッジとの通信終了後、ユーノはエスクワイアの頭を握り潰しながら苦笑いを浮かべる。
正直なところ、ヒュアースの仕上がり次第と大見得を切ってしまったがそれよりも搭乗者の体がどこまで持つかが問題だ。
アトラスの爆発力をそのままに機体を軽量化したわけなのだから、スピードは相当上がっているはず。
言うなれば、ジャンボジェットのエンジンを小型飛行機に装備させるようなものだ。
扱い辛さもさることながら、体にかかるGは相当なものだろう。
一般人の沙慈はもとより、ユーノにもかなりの負担がかかるはずだ。

「けど、やるんだろ。」

「もちろん。」

オーライザーのコックピットで不安と戦っている沙慈のためにも、弱気でなどいられない。
人形を蹴散らして、目指すはルイスだ。

「刹那、僕が道を作る。ティアナは任せていいかい?」

「了解した。」

さて、狩りの始まりだ。
クルセイドライザー・Hは一度大きく上昇すると、拳を振りかざす。

「巨人の拳……!」

「威力はその身で受けて確かめるんだな!!」

急降下と同時に輝く拳がシュバリエの腹部を的確にとらえていた。
腰の部分を真っ二つにへし折られ、それでもクルセイドライザー・Hを掴もうと宙でもがくが、背後にいたカヴァリエーレに虚しく吹き飛ばされた。

「仲間ごとか!」

「人間が乗っていないから的確な判断なんだろうが……気に入らないな!!」

しかし、これがMDの恐ろしさでもある。
友軍機はもとより己さえもチェスの駒と同列に扱うことができる。
生き残ろうとする意思が欠如している分、死を恐れずに最良の手を、仮にそれがどんな犠牲を伴おうと、平然と打ってくる。
だが、それゆえに理解できないこともある。

未来へ向かって生きようとする者の強さだ。

「一気に突破する!!」

拳足のGN粒子濃度をさらに上げ、ユーノは突撃を開始する。
AIでさえも知覚できない速度でエスクワイアへと接近すると、まずは右脚を振り抜く。
装甲がねじ曲がり、先程のシュバリエ同様に上と下で引き裂かれた物言わぬ兵器は爆炎に散った。

続いてユーノは接敵を試みていたカスタムタイプのシュバリエに狙いを定める。
フェイト機を参考にしているのか、およそ射撃武器と呼べるようなものは限りなく削り落とされ、二振りのビームサーベルだけでこちらに向かってくる。
しかし、お生憎様だが粒子兵器でヒュアースに傷をつけることは不可能だ。
なぜなら、

「967、GNリフレクション。」

「了解。」

突き出されたビームサーベルへクルセイドライザー・Hが手を伸ばす。
手の平を貫き、そのまま腕を切断するはずのビームサーベルがなにかに吸い込まれるように消えていく。
だが、疑問に思う前にカスタムシュバリエは残されている左の刃を振るう。
しかし、そちらも体に届く前に粒子が霧散して消えてしまった。

効果領域内に存在するGN粒子をコントロールするGNリフレクション。
そしてそれをさらに発展させ、高濃度に圧縮したGN粒子をその身に纏わせることで防御はもとより攻撃に転じさせるGNコーティング。
ヒュアースを無敵たらしめる能力だ。
唯一の弱点をあげるならば、TRANS-AMを使用していない時であっても粒子消費量が激し過ぎて長時間の使用ができないことだろうか。

「なるほどね……クセが強すぎるけど、僕向きの機体だ!!」

左脚を振り抜くと、発生した粒子の奔流が敵を押し流し、場合によっては破壊していく。
さながらモーゼが海を割るようだが、こちらは奇跡でも何でもなく科学技術の粋を集めて実現させた力技だ。
生身のユーノのファイトスタイルと酷似するヒュアースならではのものと言えよう。

「突っ切る!!刹那!!」

「了解!!」

道がふさがれる前に一気に加速するクルセイドライザー・Hとダブルオーライザー。
これでルイスへ追いつける可能性は出てきたが、消費した粒子量だけでなく、ユーノが払った代価は大きかった。

「……っ!グッ…」

ツゥッと固く閉じられた唇から赤い筋が垂れる。
急激なストップ&ゴーと常識外れのスピードは満身創痍の体には思いのほか堪えた。

「ユーノ。」

「言わないで。」

沙慈には。
刹那には。
みんなには。
たとえこの体がどれだけボロボロになろうと生き抜いてみせる。
決して破れぬ約束だということは、誰よりもユーノが理解している。
だから、今この瞬間は絶対に死なない。

「……わかった。」

「君が相棒で本当に良かったよ。」

ユーノが微笑した瞬間、センサーがジンクスとスマルトロンの機影を捉える。
どうやら間に合ったようだ。

「お姫様は返してもらおうか!」

「くそ!!あと一歩というところで!!」

今の状態でガンダムに対抗できると考えるほどアンドレイもバカではない。
前線にいるMDがこちらの援護にまわってくれれば逃げ切れるかもしれないが、ただ敵を殲滅することしかない頭にないあの人形たちにそこまで融通の効く行動を期待するだけ無駄というものだ。
しかし、それでもせめてルイスだけは、自分の惚れた乙女くらいはこの身に変えても守ってみせる。

「うおおおお!!!!」

限界のジンクスに鞭を打つアンドレイ。
味方艦までのこり800ほど。
せめて半分ほど距離を縮められれば、ルイスが自力で帰還できる可能性はある。
だが、ユーノはそのわずかな可能性さえも摘み取りにかかる。
GN粒子の輝きでジグザグの軌道を描きながらジンクスの前に躍り出ると、手刀でジンクスの首をはねとばす。
たたらを踏んでさがるジンクスだが、それでもアンドレイは操縦桿を倒して前に出ようとする。

(正気か!?本当に死ぬぞ!!)

ジンクスもスマルトロンも後一押しで大破するだろう。
そうなれば、間違いなく中にいる人間は無事では済まない。
その迷いが、ユーノの命取りになった。

「ユーノ!!」

沙慈の声にハッとして振り向きざまに左拳を突き上げる。
しかし、相討ち覚悟だった彼女が放ったアンカーは頭部の右半分と引き換えに的確にクルセイドライザー・Hの膝を貫いていた。

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「ティアナ!!?」

ダメージを受けたことよりも、ティアナとカマエルがここにいることの方が驚きだった。
気付けば先程まで頭上で繰り広げられていた苛烈な撃ち合いが無くなっている。
しかも、カマエルの背面には幾つもの焦げ痕と傷。
間違いない。
ティアナは、

「まさか……ロックオンに背を向けて救援に駆け付けたっていうのか!?」

そのまさかだった。



数分前

狙撃戦とは呼べなくなりつつあるノーガードでの潰しあいはティアナに軍配が上がりつつあった。
その理由は極めて単純。
狙撃以外の攻撃の幅の広さだ。
誘導弾の動きのバリエーションは直線的なビームしか撃てないシールドビットの比ではない。
付け加えるなら、絶え間なく襲来する誘導弾はシールドビットの隊列を乱す要因にもなった。

(こいつはちとヤベェな……)

このままいけばあともう少しでこちらの詰みだ。
しかし、ロックオンは焦らない。
追い詰められたときほど、意外とチャンスは転がっているものだ。
なにより、想いを告げたばかりで恋人を一人きりにするわけにはいかない。

「しぶとくいかせてもらうぜ。なあ、相棒。」

「ガンバレ、ロックオン!ガンバレ、ロックオン!」

誘導弾を撃ち落とし、すぐさま狙撃の体勢に入るケルディム。
だが、ティアナは一足先に狙いをつけていた。

「これで……!」

その時だった。
思いもよらぬ知らせがクロスミラージュから告げられる。

〈敵機の攻撃を受けている味方機を補足!!識別、ルイス・ハレヴィ准尉、ならびにアンドレイ・スミルノフ少尉のものと断定!!〉

「!?」

何をバカなと思いつつ、相手に攻撃の手番を譲ってティアナは画面を確認する。
識別番号、そしてなにより映像。
間違いなくルイスとアンドレイだ。
そして、それを墜とそうとしているのは、

「ユーノさん!?」

装備がかなり変化しているが、二人を攻撃しているのは間違いなくユーノが操る盾持ちのガンダムだ。
しかも、後方にはもう一機の二個付きがいる。

〈両機の損傷率は危険域に達しています!!〉

そんなこと見ればわかる。
しかし、ここで救援に向かうことはできない。
もしも背中を見せれば今度はティアナがケルディムから一方的に滅多打ちにされる。
おまけに、あの正確な狙撃が前線にいる味方に向けられることになったらその被害は計り知れない。
だが、その代わりに二人を見捨てていいのか。

『喧嘩をしているわけじゃないんだよ……?』

あの日の模擬戦のなのはの怒った顔が、そして悲しげな声が脳裏をよぎる。
わかっている。
もう、あんな無茶はしない。



だが、戦友の命がかかっているとなれば話は別だ。

(スイマセン、なのはさん!!)

最後の狙撃をかわすと同時にティアナはカマエルを二人のもとへと向ける。

「!?何のつもりだ!?」

面食らったのはロックオンだ。
優勢だったにもかかわらず、突如として背を向けた好敵手に動揺を隠せない。
しかし、それでも感情とは切り離されている指先は勝手にトリガーを引いた。

「うっ!!!!」

ティアナの肩に激痛が奔る。
どうやら、肩を撃ち抜かれたらしい。
いや、本来狙われていたのはおそらく頭部。
クロスミラージュがサポートしてくれなければ、二人のもとに辿り着く前に動けなくされていた。

「ごめん、クロスミラージュ。」

〈当然のことをしたまでです。私は、マスターのデバイスですから。〉

「フフフ……そうね。恨むなら、こんなバカの相棒になった自分の運命を恨んで!!」

そう言って速度を上げようとした瞬間、今度は太腿にジワリと熱さが広がっていく。
痺れて動かない右足を何度も叩き、脚の裏をペダルに押しつけると再び前を向く。
気休め程度に誘導弾を周りに展開して攻撃を相殺するが、襲い来る熱波で背中が焼けそうになる。
気が遠くなりそうなほどの痛みをガチガチと歯を打ち鳴らすティアナ。
しかし、あと少しだ。

「っ!!っんのバカ野郎!!」

ティアナの狙いに気付いたロックオンは、“彼女のためにも”すぐさま狙いを手元に変更する。
だが、もう遅い。
クルセイドライザー・Hのバックは取った。

「止める!!!!!!」

ユーノが気付くが、それも織り込み済みだ。
というより、そちらの方が目的だ。
前のめりに倒れつつ、ティアナは変形させていたアンカーガンでクルセイドライザー・Hの膝を撃ち抜く。
向こうはDFSを使っていないからこちらと違って痛みを感じないだろうが、これで幾分か戦力は減退する。
もっとも、自分はそれを確認できないだろうが。

「うああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

輝く拳がカマエルの顔面の右半分を打ち砕いた。
もう、痛いなんて言葉じゃすまされない。
なにせ、人間ならば死に至る様な致命傷なのだ。
そんな傷を負っても死ぬことが許されない苦しみなど、凡人には到底理解できない。
しかし、ティアナはそれでもDFSを停止しようとしない。
クロスミラージュが強制的にシャットダウンしようとすると、コンソールから抜き取ってそれを阻止する。
そしてクロスミラージュを起動させると、発生させた魔力刃で自らの脚を貫いた。

「っっっっぅぅぅううううう!!!!!!!」

現実の痛みで意識を繋ぎとめる。
凡俗には思いつかない、そして実行するような愚か者はいない方法で気絶を免れたティアナだったが、すでに顔面蒼白。
もう戦う力など残されてはいまい。

「やら……せない………!!この人たちっ……だけは……!!」

「本気かティアナ……!」

このままダメージを受け続ければ、体よりも先に精神が音をあげる。
今は耐えられても、後遺症が出る可能性もある。

「さがれランスター!!このままでは君が!!」

「ダイ…ジョ…ブ……わたし、こう見…て………がんじょ……」

呂律が回っていない。
助けたアンドレイにまで心配されては世話はないが、それほど今の状態はマズイ。

しかし、ユーノと沙慈にとってはこれ以上ないチャンスだ。
唯一障害となりえたカマエルは最早戦闘不能。
後はルイスを奪還して、後方からの援護が可能になったケルディムと敵を蹴散らせばミッションは終了だ。
だが、

「……行ってください。」

想像もしていなかった沙慈の一言にユーノだけでなく刹那やエリオも目を見開く。

「沙慈!?なにを…」

「その子を連れて撤退してください。」

「何言ってるんですか沙慈さん!!せっかく大切な人を取り戻せるのに……」

「っ!!もうっ!!もう誰も!!」

何も力を持たない、特別でも何でもない一般人の絞り出すような叫びに敵味方を問わず、戦場だということも忘れて呆然とその言葉に耳を傾ける。

「誰も……こんな戦いで犠牲になっちゃいけないんだ。」

「沙慈……」

「こんなこと続けてたらっ…みんな……みんなおかしくなっていくだけだ!!」

嗚咽交じりの言葉。
その一言一言が刹那とユーノの胸を貫く。
誰よりも、沙慈が言っていることを理解しているくせに、今の今まで忘れていた。

「……そこのジンクス。」

「なんだ?」

「ルイス・ハレヴィはしばらく預けておく。ティアナ・ランスターもだ。」

グッと操縦桿を握ってこらえながら、ユーノはアンドレイに語りかける。
どうしようもなく苦しい。
だが、自分以上に苦しんでいる沙慈が、苦しみながらも出した答えなのだ。
無下になどできない。

「約束しろ……その二人は何が何でも守り抜け。もしも二人に何かあったら、僕が沙慈に代わってお前を撃つ。」

「……貴様たちに言われるまでもない。」

アンドレイは限界が近いジンクスで、限界以上の状態になるまで戦ったカマエルとティアナに静かに肩を貸す。

「戻るぞ、“ティアナ”。」

すでにティアナに声は届いていない。
しかし、オートパイロットに任せて眠りについている彼女の顔はどこか満足げだった。






この後、大局が決するのにそう時間はかからなかった。
ケルディムの援護が加わった時点でイノベイターたちは早々に退散。
残った戦力も這う這うの体になるまで叩きのめされることになった。



プトレマイオスⅡ コンテナ

その日の夜。
ユーノは一人きりで損傷したクルセイドの修理をしていた。
沙慈と何を話せばいいのかわからなかったし、他のメンバーとも何となく口を聞きたくない気分だった。
だが、その気分とは関係なしに訪問者が二人やってきた。

「よ、精が出るな。」

「夕食、持ってきたよ。」

「珍しい組み合わせだね。女ったらしのロックオンに純情派のフェルトなんて。」

「オイオイひどいな。俺もこう見えて純情なんだぜ?思い込んだら一直線!ってな。ま、三角関係も恐れずに突っ走るどこかの誰かさんには負けるけどな。」

〈そうそう。ま、恋は盲目って言うからねぇ。一般ピーポーには理解できない行動をしでかしても仕方ないさね。〉

「ロ、ロックオン!!ケルディム!!」

慌てるフェルトをからかうのが楽しくて仕方ないのか、ロックオンとD・ケルディムは椅子に腰かけてからもしばらく彼女の恋の導火線で火遊びを楽しんでいた。

そんな風に時間を潰して、どれくらい経っただろうか。
やることもなくなって、ボーっとユーノの作業を見つめていたロックオンが不意に口を開いた。

「……悪かったな。お前の後輩に負けちまったよ。」

「いや、君の勝ちだよ、あれは。」

ユーノは額の汗を拭うと、地べたに胡坐をかいて座る。

「喧嘩やってんじゃないってあれだけ口を酸っぱくしていったのに。また無茶してくれちゃってまあ……」

「良いんじゃねぇのか?守りたいもんのために体を張ったんなら、ガキの喧嘩レベルでもそいつの勝ちさ。事実、お前らの手助けをできなかった。」

「今回は仕方ないさ。沙慈自身が言ったことだしね。それにまあ、ほら。僕らって犯罪者の割にお人好しが集まってるから。」

「ハハッ!違いねぇ。」

「でも次は助ける……だよね?」

「もちろん。このままじゃ死んでも死にきれない。」



その言葉に顔が強張る。
だが、ユーノはそんな二人を安心させるように、宙を見つめたまま朗々と語る。

「最近、不思議な気分なんだよね。シャマル先生……ああ、僕の主治医兼居候先の家族の人ね。その人からもう長くないって告げられた時は、まあ、仕方ないかって思って終わりだったんだけど、こうして死期が近づいてくるとどうしようもなく怖くなるんだ。死んでその後、自分という存在がどうなるのか、とか。もう、誰とも会えないのか、とか。ヴィヴィオやなのははどうなるんだろう、とか。みんなは元気でやっていけるのかな、とか。いろいろ考えちゃうんだよね。それで、考えるとまた怖くなる。……なんか、バカみたいだな僕は。悪循環だよね。」

「……それが人間って奴だ。恥じることはない。」

「フフッ、そうかもね。でもね、本当はもっと怖いことがあるんだ。」

「……教えてくれる?」

「……僕の大切な人たちが泣いちゃうこと。きっと、僕が死んだらみんな泣いてくれるんだろうね。優しい人ばっかりだから。けど、僕は僕の大切な人たちには1分1秒でも長く笑っていてほしいんだ。それができずに消えてしまうのが、一番怖い。」

思えば、迷惑をかけどおしの人生だった。
その度にいろいろな人に助けられ、傷を癒されながらここまで来た。
だから、せめてその恩だけは返したい。
家族として、友達として、仲間として。

「ま、何が言いたいかっていうと、二人がそんなに深刻に考える必要はないってこと。僕のことを心配するくらいなら、笑っていてほしいんだ。それが僕にとっても一番嬉しいことだから。」

グッと伸びをするようにたちあがったユーノはD・クルセイドをスリープ状態から起こして最終チェックに入る。
その背中を、ロックオンとフェルトはユーノが作業を終えるまで見つめていた。





ユーノのその言葉を実感する瞬間が、刻一刻と近づいていることも知らずに。








死は万人の背後を憑いてまわる闇
しかし、闇無くしては光もまたなし






あとがき

第63話でした。何度も書き直しをしたので完成までの時間も文字数もえらいことになりましたが、久々に自分でもいい感じだったと思います。
まあ。遅れたのはどこぞの悪友が臨時のバイトに手を貸してほしいとか言って暇な時間をことごとく潰してくれやがったせいでもあるんですが……
いいえ、怒ってなんていないですよ?
そもそも自分はそれほど本気で怒ることはないです。
ちゃんと払うもんは払ってもらったし、人に頼りっぱなしの愚か者にはガチの説教ぶちかまして平謝らせましたし(笑)
まあ、そんな感じでリアルにウル○ラマンガ○アとウルト○マンア○ルが欲しい時期もありましたが、なんとかここまでこぎつけました。
お待たせしてしまった皆さんには本当に申し訳ないと思っています。

次回はいよいよツインドライヴ式GNデバイス二機が覚醒します!
同時に今回でバリッバリにフラグを立てちまってたあの人がリタイア……
彼女が好きな人はごめんなさい。
でも、最初から決まっていたことなので寛大な心でご了承ください。
それでは、次回をお楽しみに!



[18122] 64.萌芽
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/09/27 23:52
アロウズ母艦 医務室

ギュッと力を込めると、ルイスの手の平に彼女の温もりが伝わってくる。
しかし、握るその手は握り返してこない。
眠り姫のように瞼を閉じたまま、浅い呼吸を繰り返すだけ。
そんな状態が、もう二日も続いていた。

「ごめん、ティアナ………本当に、ごめんなさい……!」

〈……ご自分を責めないでください、ハレヴィ准尉。〉

「けど私のせいでティアナは!!」

〈だとしても、です。〉

テーブルの上に置かれたクロスミラージュがルイスの自責の言葉をさえぎる。

〈マスターが無茶をしたのはそんな顔をしてほしくなかったからです。あなたは、自らマスターの努力を無に帰すおつもりですか?〉

しばしの沈黙。
もしクロスミラージュが人としての姿を持っていたのなら、この沈黙の間、きっと慈愛に満ちた瞳でルイスを見つめていたことだろう。

〈涙を拭いて、前を向いてください。過ちを犯したのなら、繰り返さなければいい。ただそれだけのことです。〉

温かい言葉に再びこぼれそうになる涙を拭うルイス。
MDと近しい存在であるデバイスのAIに慰められるなど不覚の極みだが、AIであるが故にもっともな言い分だ。
しかし、そこにそこはかとなく人間臭さが漂っているのがMDとの最大の差異なのだろう。

「ありがとう、クロスミラージュ。」

〈いえ、出過ぎたことを言ってしまいました。申し訳ありません。〉

クロスミラージュの心にもない謝罪にクスリと笑うと、ルイスはティアナの手を静かにおろし、椅子から立ち上がって背を向ける。

「ティアナが目を覚ましたら伝えて。ありがとう、それと、ごめんなさい、って。」

こんなバカな自分を助けてくれてありがとう。
こんなことになってしまってごめんなさい。

そして何よりも、これから先も馬鹿の一つ覚えのようにソレスタルビーイングに立ち向かおうとする自分を曲げられなくてごめん。

(力が欲しい……!ガンダムを圧倒的なまでに……誰も犠牲にせずに倒せるほどの力が!!)

この時、意識がなかったことがティアナにとっては幸運だったのかもしれない。
なぜなら、今のルイスの表情は、彼女が最も見たくないはずのものだったのだから。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 64.萌芽


アンドレイの自室

「……はい。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」

画面の向こうで苛立っている上官に頭を下げ、アンドレイは通信を終える。

搭乗機を修復不能なレベルに破壊して帰還したくせに、早々に新しい機体を催促するなど我ながら図々しいなと自嘲してしまう。
しかし、MSがないのでは戦闘に参加することはできない。
あのガンダムのパイロットの忠告を意識しているわけではないが、ルイスとティアナを守り抜くためにも新たな力が必要なのだ。

「さて、どうするかな……」

ルイスの機体は、彼女の家柄がもたらしたコネのおかげで早々に配備されそうなのだが、特段そういったものがないアンドレイは新しい機体を回してもらうのも一苦労だ。

(もうすぐ昇進するからアヘッドを要望してもいいんだが……おいそれと手に入るものでもないしな。)

僚機とのコンビネーション、敵機との力比べ。
どちらの観点から鑑みてもジンクスではもう心許ない。
とはいえ、アヘッドを優先して配給してもらえるような身分ではない。

「どうしたものかな。」

ため息交じりに始末書を兼ねた報告書を作成しようとコンソールに指を置こうとしたその時、司令室からの通信を告げる電子音が短く鳴る。
さっき小言をたんまり聞かされたのにまだ言い足りないのかと憂鬱な気持ちでチャンネルをオープンにしようとしたアンドレイだったが、その通信があくまで司令室を介しているだけで全く別の場所からのものだと気付いて首をかしげる。

「局の開発室?」

連邦ならいざ知らず、管理局からお呼びがかかるとは一体どういうことか。
不思議に思いつつ、とりあえず回線を開いてみる。

『アンドレイ・スミルノフ少尉ですね。』

開口一番、眼鏡の男にそう言われ、不意を突かれたアンドレイはポカンとしながらも肯く。
そして、男は疑問を挟む隙さえも与えず喋り続けた。

『先程、貴官の所属する部隊の指揮官からこちらに連絡が入りまして。破損したジンクスに代わる機体が欲しいとか。近々昇進されるようですし、アヘッドタイプが良いでしょうか?いや、偶然僕も要望書が届いた場に居合わせましてね。戦果を拝見させていただきましたが、ちょうどいい機体があったのでいかがと思いまして。テストベッドではあるのですが、少尉ならばきっと乗りこなせると思いますよ。』

「ま、待ってくれ。」

一方的にまくしたてられ混乱していたアンドレイだったが、男の喋りにストップをかけてようやく冷静に状況把握を開始する。
とりあえず、服装から判断するに相手はアロウズの所属。
おそらく技術屋で、局のノウハウを習得するために出向しているといったところか。
しかも、根っからの職人気質の持ち主であり、一つ一つの仕事に妥協を許さないタイプなのだろう。
こちらの話を碌に聞かずに延々と提供する機体について熱論していたのがいい証拠だ。
しかし、

(どこかで見たような……)

この眼鏡の男。
アンドレイはどこかで見たことがある。

「失礼ですが、あなたは?」

『ん?ああ、申し訳ない。自己紹介が遅れましたね。』

男は一礼すると、敬礼する。

『ビリー・カタギリ。若輩ではありますが、アロウズのMS開発主任を務めさせていただいています。』

「カタギリ……?もしや、カタギリ司令の…」

『ええ。ホーマー・カタギリは僕の叔父です。』

なるほど、合点がいった。
おそらく、彼を見たのはいつぞやのパーティーにルイスの付き添いとして行った時だ。
遠くからちらりと見た程度だったのでそれほど印象に残らなかったが、確かに彼はホーマーのそばで来賓と談笑していた。

(カタギリ司令の甥が開発者だという話は聞いていたが、まさか本人とコンタクトを持つことになるとはな。)

『それで、話の続きなのですが……アヘッドをベースとした機体なのですが、パイロットを引き受けてもらえないでしょうか?』

「え?あ、ああ、そうですね……自分としてもアヘッドタイプを使わせてもらえるなら願ったり叶ったりですが……ただ、どのようなカスタムがされているかわからないことには。」

『基本的には近接戦闘型ですね。ライセンサー、ミスターブシドーが使用していたものに中、遠距離用の武装を追加したものなんですが、どうにも乗り手を選んでしまって……』

なるほど、とアンドレイはビリーが送ってきたデータを見て納得する。

高火力の有線式遠隔操作兵器に、大型ビームサーベルとシールド。
GN粒子の質量軽減効果を考えても明らかに最大積載量をオーバーしている。
それを補うための大型バックパックと補助ブースターなのだろうが、そのせいで慣性制御がかなり難しそうだ。
さらに、これらを使いこなすために採用されているDFSと簡易AIが問題だ。
AIの方は時間をかけて操縦者の動きを学習させれば有効に機能するかもしれないが、DFSは先日の戦闘でティアナが示した通り、かなりのリスクが伴う。

結論としては、スペックは高いだろうが扱い辛いどころかまともに戦闘を行えるかどうかさえも怪しいといった代物だ。

『無理でしょうか?』

無理も無理、無茶苦茶だ。
しかし、その戦闘力は魅力的だ。
それも、腕に覚えありのパイロットならば垂涎するレベルで。

「……わかりました。どこまでやれるかは保証しかねますが。」

途端にビリーの顔がパァッと明るくなる。
おそらく、いままでオファーを蹴られ続けていたのだろう。

(まあ、常識的なパイロットならば当然か。)

非常識の範囲へ足を踏み入れようとしている自分に呆れつつ、アンドレイはとりあえずのところはこの偶然の出会いをもたらしてくれた運命の神様に感謝しておくことにした。



プトレマイオスⅡ 食堂

「ふ、わぁ~あ……」

人目もはばからずロックオンは大あくびをする。
この前の戦闘以後の二日間、彼の就寝時間はかなり遅くになっていた。
おかげでこの始末なわけだが、これからもしばしば夜は遅くなることがある以上慣れていくよりほかにない。
それほど、二人で過ごすあの時間は手放し難いものだった。

「もう、だれてるわよライル。」

「そっちこそさっきからうつらうつらしてるぞ。」

互いに批判し、そして笑ってしまう。
自分たちの立たされている状況がどれほど厳しいかも忘れ、この幸せに浸っていたくなる。
なんなら、異性に対する運勢がどん底の連中におすそ分けしても良いくらいだ。
ただ、

「ヤッホー!」

「お食事です~!」

こういうパパラッチ根性が染みついた連中に勘ぐられるのだけは勘弁願いたい。
ウェンディとミレイナに今の関係を知られたら、どんな尾鰭が付いて広まるかわからない。
しかも、この艦にいるのはその手の話に疎いド天然や人を弄ることを生き甲斐にしているような人間ばかり。
ごく僅かにいる良識的な人間は巻き添えを恐れて庇ってなどくれない。
ならば、自らの手でこの無駄に勘が鋭い二人から秘密を死守せねば。

そう考えたロックオンとアニューの行動は素早かった。
トレーを持って立ち上がると、二人が気付く前にテーブルの左端と右端に分かれて座る。
そして、何事もなかったようにほとんど進んでいなかった食事をつつき始めた。

「………なんか、二人とも離れすぎじゃない?何かあったんスか?」

「「なにが?」」

「なにがって、リターナーさん、ストラトスさんといい感じだと思ってたんですけど……う~ん、乙女の勘が外れたです。」

外れていない。
外面では涼しい顔を装うが、内心では汗だくだ。
まったく、どうしてこんなときばかり変に勘が働くのか。

(この出歯亀娘×2め。お前らのせいで他の連中にも迂闊に話せないだろうが。なんでこんなにスリリングな日常を送らなきゃいけねーんだよ。)

(この二人がいるせいで職場恋愛(?)にも気を使うわ……)

「……なんか、すごくさんざんに言われてる気がするっス。」

「です。」

「気のせいだろ。なあ?」

「ええ、気のせいでしょ。」

結局、この場はそういうことで決着した。
どうやら、二人が幸せに満ちた報告をするのはまだ少し先のことになりそうだ。



ブリッジ

一方、こちらは打って変って全員(一部を除く)が知っているにもかかわらず、一向に進展がなくてやきもきしている人物がコンソールを指で叩いていた。

「……はぁ。」

時折、手を止めては天井を見つめて溜め息をつく。
愛機の呼びかけさえも耳に入らない様子で、しかし一定時間が経過すると何もなかったかのように再び指を動かす。
そんなことをフェルトはもう何度も繰り返している。

ここのところ考えていることといえばユーノのことばかり。
しかし、それも仕方がない。
ユーノだけでなく、ある意味、フェルトも決断の時を迫られているのだから。

(言わなくちゃ、伝えなきゃいけないよね。)

もうすぐユーノが自分たちの前からいなくなるのであれば。
せめて、自分の想いだけは伝えておきたい。

わかっている。
フェルトがしようとしていることはひどく残酷でエゴイスティックなことだ。
死が目の前に迫っていて、それでも心に決めた人がいる男性に、一方的に好意を寄せていることを伝える。
ユーノの重荷を増やすことになりかねない行為だが、もう自分を抑えきれない。

意を決し、フェルトは席を立つ。

「……ごめんなさい。」

その一言はあの栗毛の女性へなのか、翠の瞳をした愛しい人へなのか。
はたまた、同じ人を愛し、志半ばで逝った少女への懺悔なのか、フェルト自身にもわからなかった。
それに、罪悪感の答えについて考える暇を、突如送られてきたその映像は与えてくれなかった。

「え……?」

電子音に振り向いたフェルトの思考回路が停止する。
画面の向こうでその人物が唸る度に、体から血の気が引いていった。

『ハハハ……ご……めん………ちょっち…ミス……ちった…………』

「アイナさん!!?」

水色の髪を赤黒い血の塊で汚しているアイナにフェルトは顔面蒼白のまま叫ぶ。
破れた衣服の間から見える肌は焼け焦げた痕や痣が無数に散らばっている。
左の胸ははだけているが、それさえも肩から流れる血に隠されてはっきりと見えない。

「何があったんですか!?クロウさんは!?」

『あいつは……呼ばなくていい………私は、一人でなんとか…』

「ならないですよ!!早く治療を…」

『本当に……大丈夫、だから………それより、これを…』

最後の力を振り絞り、アイナはとある場所の座標を送る。

『アロウズに……私たちの家族の居場所を知られた………』

その言葉に、フェルトの体感時間を刻む時計はまたしてもフリーズした。



30分後 ブリーフィングルーム

この場所で、今後の方針、もしくは次の戦闘での戦術を検討する時はいつも独特の緊張感がある。
しかし、今日はその中でも群を抜いて異質な空気がブリーフィングルームを支配していた。

「それで、アイナは?」

「クロウさんが保護してくれたです。けど、その……怪我が酷くてしばらくは…」

ユーノの声のトーンはいつもと同じだ。
しかし、まるで跳びかかる寸前の猛獣のようなその風貌に、ミレイナは思わず言葉を詰まらせてしまった。
眼光が鋭く、組んでいる腕も小刻みに震えている。
怒髪天を突くとまでいかないが、髪が全体的に浮き上がり、額の皮膚には細い筋が浮かび上がり、その怒りがどれほど強いかを誇示していた。

しかし、その静かな激憤をものともしないのがソレスタルビーイングの戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガだ。
頭に血が昇りつつあるユーノに気を使いつつも、冷静に詳細の確認に入る。

「アイナの報告では、彼女を捕縛して尋問したのはアロウズだと言ってたけど、正確にはイノベイターみたい。」

「だろうな。こっちにいる連中は実働部隊。裏方の仕事をする奴らなんざイノベイター以外あり得ない。」

「地球からも何人か応援に来てるみたいだけどな。そうじゃないと勘定が合わない。」

アイナの報告では、彼女を拉致して拷問じみた方法で尋問した集団の人数は最低でも6人。
先日の戦闘で確認したのが2人で、ソリアとルーチェを入れれば4人。
となると、敵は少なくともあと2人はいることになる。
ラッセの言うとおり、地球から応援が来たと考えるのが妥当だろう。
ただ、

「本当にイノベイターだろうか?」

「オイオイ、連中以外に誰がいるってんだよ。」

ティエリアに意見を否定されたロックオンは不満そうに反論する。
しかし、確かに不自然な点がある。

「イノベイターが裏にいることは間違いないだろう。だが、今回のやり方は彼ららしくない。」

〈確かに……直に拷問なんてするようなことは今までなかったよな。〉

「付け加えるなら、拷問が堂に入すぎている。プロでない限りこの手際の良さはあり得ない。」

しかも、手際が良いだけでなく、傷から判断するにどこか遊んでいる節がある。
ただ情報を聞き出すだけでなく、不要な傷をつけて相手を痛めつけて楽しんでいる。
ただ、ユーノの前でそれを言うのははばかられたのか、ソーマはそのことを口にすることはなかった。

しかし、わかる人間にはわかる。
こんなことをする人間は、刹那には一人しか思い当たらない。

「……アリー・アル・サーシェス。」

「なに?」

「おそらく奴だ。確信はないが、たぶん。」

「あの戦争屋か……あり得ない話じゃないな。」

そう言いつつ、ティエリアは自分の体温が上がっていることに気付く。
どうやら、冷静に振舞おうとしても体は正直らしい。

「それにしても、何で今更ユーノさんの身内を狙うんでしょう?」

エリオの言葉にティエリアはハッとして眉間に寄せていた皺を消す。
ロックオンの仇がいると聞いて熱くなっていたが、理性を欠けばいつぞやのようにまた味方に迷惑をかけかねない。

眼鏡を正し、全員の話に耳を傾ける。

「まさか、アイナっちが裏で私たちと繋がってることがバレたとか?」

「それで一族全員を目の仇か?確証もなしに流石にそこまで強引な行動に出るとはわしには到底思えんがな。」

「それじゃあ、ユノユノを自分たちの側に引き入れることをまだ諦めきれないとか。」

「さらにあり得ないね。こんなことをしても神経を逆なでするだけなのは今までのことで骨身にしみてわかっているはずだ。」

だとしたら、今回の行動の目的は何なのか。
その答えは、意外な人物が見つけてきた。

「遅れてすまないね。それで、やってきて早々になんだが、これを見てほしい。」

白衣を羽織っているジェイルは967からコードを伸ばし、壁にあるポートにコネクタを繋ぐ。
そして、スクリーンにそれを映しだした。

「!!」

全員が驚きで言葉を失くす。
当事者であるユーノでさえ我が目を疑った。

「私も驚いたよ。まさか、イオリアの画像データをサルベージしてこんなものを見つけるなんてね。」

「俺も正直驚いている。ヴェーダにさえ彼女についてのデータは一切残されていなかったからな。」

「そんな……バカな…!?」

「冗談だろおい……!」

「こんなことが……」

「どうして、彼女が……!?」

続々と驚きの言葉を口にするクルーたち。
そして、それまで沈黙を守っていたユーノさえも遂に声を発した。

「族長……!?なぜ、イオリアと……!?」

なにかの授賞式の真っ只中、若き日のイオリアの影に隠れるようにレッドカーペットの脇に笑顔で佇む少女は、確かにシルフィ・スクライアその人だった。

「みんなが驚くのも無理はない。私も967に言われてようやく気付いたからね。」

「ソ、ソックリさんとかそういうオチじゃないっスかね?」

「照合結果は99.998%でシルフィ・スクライアと断定している。だいたい、偶然にしては出来過ぎている。」

「け、けど、だとしたらどうしてシルフィさんがイオリアと一緒に!?」

「異世界への転移はどんな時でも、どこでも、誰にでも起こりうる。事実、私が作ったおもちゃが原因で君たちの世界へ転移した人間が目の前にいるだろう?」

「……つまり、ユーノの遥か前に彼女が俺たちの地球に来ていたと?」

刹那の射抜くような鋭い眼光にジェイルは肩をすくめて続ける。

「あり得ない話ではないと思うがね。さらに言うなら、もしもイオリアが異世界の存在を認知していたとしたら、彼の提唱した理論に対して今までと異なる面からのアプローチが可能になる。」

「どういうことですか?」

「考えてもみたまえフェルト君。例えば太陽炉の製造。高重力下でのみ制作可能なこれらを造るために、ソレスタルビーイングは木星探査計画を利用した。しかし、もしも次元航行技術が成立していたとしたらどうだろうか。まず、高重力下の惑星に到着するまでの時間を大幅に……いや、ほぼゼロにできる。さらに、ユーノほどではなくとも、並行処理能力に秀でた人間が何人かいれば製造面でもかなりのプラスになるはずだ。それだけじゃない。軌道エレベーターによる太陽光発電は魔導炉の代替。ハロ…いや、全ての端末に本来インテリジェントデバイスのAIが使用される予定だったとしたら?しかし、異世界の技術を使用できず、やむなくそれらを当時、もしくは未来の地球の技術で擬似的に再現することにしたとしたら?」

「……つまり、異世界の技術を前提としてイオリアは自らの理論を構築したというわけですか?」

「かなり飛躍した理論だがね。まあ、とにかく事の真相は本人に訊ねる他ないさ。それも、イノベイターたちがその真相に到達する前にね。」

ジェイルのその一言に、全員の肌にうっすらと汗が浮かぶ。
イオリア計画の裏に隠されたもう一つの思惑。
その一端が詳らかになろうとしているのだ。
しかも、それが全ての世界を揺るがすパンドラの箱になりえる代物かもしれない。
その蓋を開けようとしているのが、悪意に満ちた者たちならば……

考えただけでもゾッとする。

「……急いだ方がよさそうね。」






スメラギの指示の下、プトレマイオスは一路、スクライア族の滞在する世界へと向かう。
そう、様々な思惑が錯綜する渦中へと。



メディカルルーム

「しかし、わかりませんね。」

「なにが?」

呑気に首をかしげるジルにリインフォースはフゥと溜め息をつく。

「もし、シルフィ殿がイオリアと面識があったのなら、なぜ以前に接触した時に我々にそのことを伝えなかったのでしょうか?」

「そりゃあ、なにかやむにやまれぬ事情が……」

「計画が大きく歪められているにもかかわらず、ですか?」

「いや、だからそれだけヤバい何かってことじゃ……」

「それだけのリスクを負うなにかをイオリアがわざわざ用意していたと?しかも、それを承知でシルフィ殿もその秘密を守り続けている?あの聡明な二人にしては不自然だと思いませんか。」

リインフォースの続けざまの言葉に閉口してしまうジル。
しかし、確かに気になることではある。
ソレスタルビーイング、しかもその中心に近しい人物も計画の全容を把握しきれていない。

「おそらくイノベイターも全てを掴みきれていないのではないでしょうか。だからこそ、そのわからない部分を知りうる人物とコンタクトを図ろうとしているのでは?」

「その方法としてはえらく強引な手を選んだもんだ。まさか、一族を探し当てて脅しにかかるとはねぇ。」

「よくあることでしょう。戦争では珍しくもない。」

そう言って、リインフォースは自分の言葉のせいで哀しげに俯く。
そして、それにつられてジルも。

「……ホント、いつから珍しくないなんて思うようになっちまうんだろうな。オイラたちは。」

「慣れてはいけないと分かっているのに、気付いた時にはもう抜けだせない。初めは柄を握ることですら躊躇っていたのに、刃を突き立てるのに迷わなくなっている。私たちが生きた時代の人々はそうやって悲劇を重ねてきた。」

「それが日常にしたいなんて誰が思うよ。きっと明日は。明日は無理でもその次の日にはこの血生臭い光景から抜け出せる。そうやって信じて、他人を傷つけて、望む明日がもっと遠くなる……」

「けど、あなたは刹那と共に行くと決めた。それが茨の道であっても。」

「……それくらいしか償いが思いつかないんだよ。あの時代への償いの仕方が、な…」

曇天の下、血煙が舞う戦場。
幾つもの光芒が炸裂し、その度に誰かの四肢が宙を舞う。
永遠を彷徨う二人が眼に焼き付け、背負わされた人間の業。
しかし、それでもなおジルはそれに抗うと言う。
その強さが、リインフォースには羨ましかった。
だが、

「別に羨む必要ねぇじゃん。」

「?」

「自分やその周りの人間の幸福を願わない奴なんかいないよ。たとえそいつがどんな罪を犯していたとしても、願うだけじゃ罪にはならない。それに、人様の迷惑にさえならないんなら、オイラはそうした方がいいと思う。」

そう言うと、ジルはニッコリとリインフォースに笑いかけた。

「オイラはあんたを許すよ、祝福の風。たとえ、他の誰が許さないと言ってもね。」

やはり、ジルは強い。
しかし、強いが故に脆さを感じる。
もし、この戦いで誰か大切な人を、そう、たとえば刹那を失うことがあればきっとジルはまた自分を追い詰める。
他人の罪を許せるほどの優しさを持ち合わせているせいで。

だから、今ここで伝えておきたい。

「ジル、それはあなたも……」

「遅れてすまないね……と?珍しいね、君がここに来るなんて。」

間が悪いことにジェイルが戻ってきてしまった。
途端に、リインフォースの口をついて出ようとしていた言葉は再び彼女の胸の奥にしまわれてしまう。

「967に用があったのですが……どうやらお邪魔のようですね。大した用件ではなかったので、またの機会ということに。」

脱兎のごとくとはこのことを言うのだろう。
わざとらしささえ感じるほど足早にジェイルの脇を通り抜け、リインフォースは廊下へ出ると、珍しく全力で走りだす。
そのわけは、

「っ……」

彼女の両目から溢れる涙。

友と呼べる存在がいて。
仲間と言ってくれる人たちがいてくれる。
それは、はやてと過ごした短くも満たされていた日々と比べても何ら遜色のない輝きを放っている。

それが嬉しくて、気付けば泣きだしそうになっている自分がいた。
嬉しいのに、なぜかみんなにはそんな自分を見られたくなかった。

「主はやて……やはり、私は世界一の果報者です……」





運命の時まで、あとわずか。
もし、リインフォースがユーノと再会していなかったら。
もし、途中でもいいから彼女が艦を降りていたら。
もし、もっと早くにはやてのもとへと戻れていたら。

この後に待っている、悲しい別れで涙する人間はいなかったのかもしれない。




第331観測指定世界 スクライア族・キャンプ地

ベージュの布地で作られた四角錐が、石造りの寺院が建つ荒野に乱立している。
それに対し、深緑の隊服を着ている人間がわずかに二人。
さらに、白服で紫の髪をした眼鏡の少年が一人。
どう考えても、数からいえばテントを張ってキャンプしている人々の方が上回っている。
しかし、それでもこの一団を率いている老人は全身が締め付けられるような威圧感を味あわされていた。

「いい加減に教えてくれないかしら?シルフィ・スクライアはどこにいるの?」

「何度聞かれても返事は同じです。我々ですら長の所在はなかなかつかめないのです。日を改めて来ていただくしかありませんな。」

「本当にそうでしょうか?僕たちには、仮にあなた方がどこに彼女がいるかを知っているとしても、素直に話してくれるようには思えませんが?」

「言い掛かりだ!」などと後ろで抗議の声が上がるが、菫色の髪の若年兵は意に介さず言葉を続ける。

「しかし、もし本当にご存じないのであれば我々はいつまでもあなたたちと待たせてもらいます。無論、いろいろと行動に制約をかけさせてもらって、ね。」

「脅しですかな?」

「必要とあればそれなりの手段をとらせていただくと言うだけです。何もしなければ僕たちも危害を加える必要はありませんから。」

「ただし。」

眼鏡の少年が歪んだ笑みで老人へ歩み寄っていく。

「あなた方は、正義と暴力を履き違えるあの愚かなテロリストを輩出した一族だ。すこしでもおかしなことをされるとついつい手が出てしまうかもしれないね。」

リジェネのこの発言には流石のスクライア族も、怒りをあらわにした。
自分たちがテロリストと同列とみなされたことにではない。
ユーノを侮辱したことに対してだ。

「あいつのことをろくに知りもしないで勝手なことを言うな!!」

「ユーノはいつだって自分の行動に責任を持つやつだ!!」

「これ以上ふざけたことをぬかしてみろ!!無事にここから帰れると思うな!!」

あらん限りの罵詈雑言。
しかし、これを望んでいた、歪んだ悦楽を求める存在からしてみれば、最上級のオーケストラだ。

「あらあら、随分と反抗的ね。」

ヒリングが薄緑の球体に手をかける。
だが、彼女たちと騒音との間に立っていた老人は一歩前に出ると毅然とした態度を保ったまま、望まぬ援護を手でいさめた。

「若い者たちの非礼をお詫びします。しかし、その件については我々の間でもデリケートな問題なのです。必要以上の言及は控えていただきたい。」

「僕らは事実を言ったまでですが?それに…」

「あ~あ、ヤダヤダ。どうして公務員やら軍人ってのは理詰めで話をしたがるかねぇ。」

リジェネの声をさえぎり、群衆を十戒のように割って堂々と小さな、本当に小さな幼子がまっすぐに進んでくる。
口に加えている棒付きキャンディーが似合っているが、その眼光はたかだか数年しか生きていない人間ができるものではない。
いや、仮に一生を全うしてもできる人間はごくわずかなのではなかろうか。
それほどのなにかを、その少女は内に秘めていた。

「ふーん。あんたがあいつの、ね……うわ、レイの遺伝子って女にするとこんないやらしいガキに仕上がるんだ。正直知りたくなかったわ……って!?そこの眼鏡ってまさかあのフェロモン撒き散らし女!?マイスターのボウヤよりそっくりだし!!!!!!あっははははははははは!!!!!!は、腹痛っ!!!!!!あんたら私を笑い殺しに来たのかい!!!?ねじ切れる!!!!!!つぅか爆発する!!!!!!あんたら私を笑い殺しにした罪で逮捕されるわ!!!!!!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」

一人で大笑いする少女に、老人は呆気にとられてかけるべき言葉を口にすることさえ忘れてしまう。
ヒリングとリジェネはというと、今度は彼女たちの顔が怒りに歪む。
しかし、混沌とした空間で、リヴァイヴだけはすました顔で恭しく少女の前に膝をついた。

「お待ちしていました、シルフィ・スクライア。イオリア・シュヘンベルグの盟友よ。」

「ハハハハ……は~、腹痛い………ハァ~、うん、やっぱバレたか。ったく、あのネクラはつくづく人に貧乏クジ押しつけんのが好きだね。」

リヴァイヴはさながら王の前に跪く臣下のようだが、当の王役はというと栗色の髪が美しい頭をガシガシと中年サラリーマンのように掻き毟りながら溜め息をついていた。
しかし、無理もない。
もし勘付かれるとしたらプトレマイオスのクルーが先、それもアロウズとの一件がある程度片付いた頃だと思っていたのだから。

「イオリア計画の一端を担う者としての務めを、今こそはたしてください。」

「あんたたちとかい?人の身内にこんな脅迫めいた方法をとる連中に協力しろって?それは無理ってもんだろ。」

「しかし、計画の正当な継承者は我々とリボンズ・アルマークです。あなたも世界の変革を望むのなら、その役目を……」

「あんたたちは私の役目が何か知らないからここに来たんだろう?ケツ青いガキが知ったかをすることほど無様なもんはないよ。それに……」

シルフィが見下ろすリヴァイヴの顔が屈辱で微かに歪む。
しかし、彼女が続いて口にした言葉はさらに彼らを驚かせた。

「イオリアの計画を真の意味で遂行しているのはあんたたちじゃない。ソレスタルビーイングの小童どもだ。」

「な?なにを言って…」

「来るべき対話を見据えているだけじゃ意味はない、ってことさ。あんたたちはイオリアの真意を推し量れていない。だから、目的も手段も履き違える。私がなぜこちら側に戻ってきたのか。なぜ、幾多もの動乱の中にあって傍観者を貫いてきたのか。なぜ、ガンダムという絶対的な力を持たなかったのか。それさえも理解できていない愚か者どもが“イノベイター”を名乗るなど、おこがましいにもほどがある。身の程をわきまえろクソガキども!!!!」

シルフィの一喝で、彼女を中心に突風が吹く。
先程笑いころげていた少女からは想像できないほどの咆哮に、流石にリヴァイヴたちもたじろいだ。
だが、彼らにもイノベイターとしてのプライドがある。

「取り押さえろ!!この際手段は問わない!!」

〈Get set.〉

一斉にデバイスを起動してシルフィを取り囲む。
が、やはりまだシルフィ・スクライアという人間を彼らは理解しきれていない。

「やれやれ……遊んでほしいようだね。」

「っ!?」

シルフィが宙で人指し指を弾くと、その直線上にいたリヴァイヴが、見えない何かに大きく吹き飛ばされる。
地面の上を転がった同朋に尻込みするが、それでもヒリングは大きく一歩を踏み出す。
だが、その瞬間に色とりどりの鎖や輪が彼女を締め上げた。

「お前たち……っ!!」

「正当防衛だ。」

「ここまでされて黙っているほど私たちもいい子じゃないわよ。」

気付けば、スクライア族もすでに臨戦態勢に入っている。
実力が測れないシルフィだけでも厄介なのに、有象無象と言えどここまで集まるとかなり厄介だ。

ただし、人間同士の戦いならばの話だ。

『そろそろ俺の出番か?』

「ああ……こいつらに思い知らせてやりな。」

「!!チィッ!!」

振り向きざま、シルフィは巨大なバリアフィールドを張る。
大きさにして半径4~5kmと言ったところか。
中にいる人間からすれば、さながら空がレモンイエローに染まってしまったようだ。
そして、その天を覆うレモンイエローの半球に紅の凶弾が襲いかかる。

(MS……!それもガンダムタイプ!!)

連れてきているとは思っていたが、実際に生身で相手をするとMSという兵器の恐ろしさがよくわかる。
遠くにいてもわかる巨体。
後ろで半ベソをかいている子供にでもわかるほど、殺傷性が高い閃光。
一発受ける度に、バリアが軋むのがはっきりわかる。

(およそ、人間に使っていいものとは思えないね!!)

「ハッ!なかなか堅ぇじゃねぇか!だったら……」

紅いガンダム、アルケーのパイロットであるサーシェスは多少だが、魔導士との戦闘経験がある。
大概の魔導士の張る防御は、MSの火力からすれば防御とも呼べないものだが、たまにいる当たりはそこそこ耐えてくる。
だが、そういうやつらもこれの前には無力だった。

「直に殴られるのはどうだい!?」

「グッ!!」

紅の刃が容赦なく魔力の膜に重圧をかけてきた。
辛うじて耐えたシルフィだが、自身の肌に滲む脂汗に比例するようにバリアにはいったひびはさらに広がっていく。

「オイオイ頑張るねぇお嬢ちゃん。こいつはその……ご褒美だ!!」

もう片方の手にも刃が出現する。

(破られる!)

そう思ったシルフィだったが、そうはならなかった。

「アリオス、目標へ飛翔する!!」

「ついでにブッ殺す!!」

高速で激突したアリオスはすかさずビームサーベルを振るう。
しかし、相手も同じことを考えていた。
アルケーもまた二本のビームサーベルでアリオスを斬り裂こうと腕を交差させて一気に振り抜く。
結果、二機は相手の責めを受けずに済むギリギリの距離で、なおかつこちらの攻撃が当たる距離に陣取ったため、互いに皮一枚を削りあうに終わった。

「ハッ!やっと来たか!」

「そういやぁテメェにはデカイ借りがあったからな。ここらでリベンジ決めさせてもらうぜ!!」

「これ以上お前の好きにはさせない!!」

火花を散らしながら剣戟を開始する二体のガンダム。
だが、それを眺める余裕などシルフィにはなく、先程の踏ん張りのツケとして襲ってくる倦怠感から膝をつく。
通常、あれほどの攻撃を凌げば否が応でも相手も疲労するはずなのだ。
なのに、MSからしてみればあれが牽制や通常攻撃の類だと言うのだから嫌になる。
生身で相手にするにはつくづく理不尽な兵器だ。

そんな疲労困憊の状況下で涼しい顔で手を差し伸べられたのでは、いくらかわいい孫と言えど文句の一つも言ってやりたくなる。

「お疲れのようですね?」

「フン、疲れるのが早いのはジジババの特徴さね。」

ユーノの左手を握って立ち上がると、既にイノベイターとGNデバイス所持者たちの戦闘は始まっていた。



「駆逐する!!」

「出来るもんなら!!」

刹那の剣が1回、2回と空気を斬り裂く。
それをかわすヒリングに、さらにその斬撃で発生した太刀風が襲いかかる。
だが、今度は彼女の爪が唸りを上げる。
高密度に圧縮された魔力の爪は刹那の風を打ち払い、さらに鋭い飛刃となって刹那の肌を削り取った。

「クッ!!」

「どうやら単純な魔力だけなら私の方が上のようね!!」

「だったらこれでどうだ!!」

〈Strum Würger!〉

エリオの渾身の投擲。
雷を纏ったその穂先は、ヒリングめがけて一直線に飛んでいく。
だが、その瞬間にヒリングの顔に陰惨な笑みが浮かぶ。
まるで、これから待ち受けている運命に、エリオが完膚なきまでに叩きのめされることを期待しているかのように。

「やっちゃえ、フリード。」

「!!」

冷たい声にエリオは足の裏に電撃を走らせて磁場を形成すると、間髪いれずに後ろに下がる。
体を締め付ける大気と慣性の圧力が苦しいが、これくらいのオーバーアクションでちょうどいいくらいだ。
そう、竜召喚士とその使役竜を相手に、一撃をもらうことの意味を、エリオはソレスタルビーイングのメンバーの中で誰よりも知っている。

「キャロ!!」

爆炎の余波で飛んできた飛礫をバク転でかわすと、エリオは飛竜の上に立つ少女を見上げる。
すれ違い、わかりあおうと追い求めた人がすぐそばにいる。
なのに、エリオは喜べずにいた。
ただ敵同士だからというわけではない。
キャロの様子が明らかにおかしいのだ。

「壊れちゃえ。」

〈Svarog hammer〉

無機質なケリュケイオンの声と同時に業火の鉄槌がエリオへと押し寄せる。
その下を潜ってかわしたエリオはキャロとフリードの足元を高速で駆け抜けてバックを取る。
しかし、それを読んでいたように無数の魔力の矢が土煙を上げてエリオを襲った。
だが、エリオもこれくらいでキャロとフリードを墜とせるとは思っていない。
そもそも、彼の目的は背後からの攻めではない。

「エリオッ!!」

刹那の声に反応して後ろに手を伸ばす。
そして、一秒と経たずに手の平に相棒の手応えを感じる。

「ストラーダ!!」

〈Ja!〉

ストラーダはエリオの声で左側だけにブースターを展開する。
その上で魔力弾の大群に対して刃を平行に向けて高速で回転させた。
高速回転する刃は巨大な円となり、円は盾となって光の嵐を弾き飛ばしていく。

「なぜだ、キャロ……」

防御を続けながらエリオは呟く。
今のキャロを直視できず、俯いたまま刃を回し続ける。
しかし、ついに耐えかねたように大きくストラーダを振るって魔力弾を振り払った。

「なぜだ、キャロ!!どうしてこんなことを!!」

「うるさい。」

耳障りな音をかき消すように、キャロは再び爆炎をエリオへとけしかける。
その炎にエリオは真っ向から挑む。
穂先を大きく突き出し、腰を沈めると一気に跳ぶ。
電撃の刃で火炎を斬り裂き、磁力によって空中で擬似的に跳躍して飛竜の顎をかわすとストラーダをしまってキャロの両肩を掴んだ。

「どうしたんだキャロ!?君は、こんなことをするような人間じゃ…」

「……お前、誰だ?」

その言葉は、さっきの攻撃以上にエリオの心を深く抉った。

「……え?」

呆けるエリオ。
キャロは一体なにを言っているのか。
あれだけ長い間、ずっとパートナーとして過ごしてきたのに。
ずっと、家族だと思っていたのに。

「な、なにを……」

「お前なんか知らない。邪魔だから消えて。」

空に生温かい深紅の花が咲く。
その温度を背中で感じた飛竜は、悲しげな咆哮を轟かせた。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「ストラトスさん、一般人の誘導を開始したです!」

「一般人って呼ぶにはバイタリティに溢れすぎてる気がしますけどね。」

苦笑い交じりな沙慈の呟きにクルー全員が同じような顔をする。
ロックオンが狙撃銃で牽制しながらスクライア族の面々を引き連れて移動しているのだが、なかなかどうして。
ディレイドバインドやシールドと、ロックオンの狙撃以上に彼らが活躍しているのだ。
傍から見ているとどちらが助けられる側なのかわからない。

「けど、思ったより順調ですね。もっと攻勢に出てくるかと思いましたが…」

アニューに言われ、スメラギはハッとした。
そう、魔法が部隊の主力になっているとはいえ、対人戦で使用されている兵器がMSたった一機。
そんなことがあり得るのだろうか。
しかし、だとしたら敵の狙いは、

「トレミーを後退させて!!」

「え?」

「いいから早く!!」

スメラギの大声にアニューはビクリと体を震わせて舵を取る。
だが、

「もう遅いよ♪」

爆発音と大きな揺れがプトレマイオスを襲う。
だが、それがいつものものと違うことを全員がすぐさま理解することになった。

「オ、オートマトンの侵入を確認したです!あっ!ガジェットも!?」

「場所は、左舷居住区!!数、まだ増加しています!!」

「迂闊だったわ……」

まさか、こんな方法でプトレマイオスを墜としに来るとは。
いや、いままでそういった方法で仕掛けられた経験がないからこそ有効な一手だ。

(オートマトンを使っての旗艦の制圧……やってくれるわね!)

オートマトンだけでここまですんなり侵入できるはずがない。

まず、魔導士を先行させて内に入った後でオートマトンとガジェットを転送。
そして、魔法戦をこなせる人員が少ないプトレマイオスに対抗手段はない。
しかも全員が外に打って出ている状態ならば、侵入さえできれば後はやりたい放題というわけだ。

「刹那たちに連絡を!誰か一人でもいいからトレミーに戻って!」

「そ、それが……」

ミレイナの顔が青ざめていく。

「エリオ君が重傷で戦闘継続が困難だそうです!セイエイさんがフォローしているそうですが…」

ミレイナは言葉を濁らせる。
おそらく劣勢なのだろう。
こうなると、援護は期待できない。

「アニュー、操舵は任せたぞ。」

「ラッセさん!?なにを…」

席を立つラッセに全員が目を丸くする。
いや、同じく立ち上がったスメラギを除いた三人が、だ。

「頼れる奴らが出張ってるなら自分たちでどうにかするしかないだろ。」

「オートマトンやガジェットならどうにかなるわ。まあ、それもどこまで持つかわからないけどね。」

「そんな、無茶だ!」

「全くですね。」

沙慈の制止を振り切って行こうとするが、扉の前に立っていた人物に今度はスメラギとラッセが目を丸くした。
銀髪をオイルと煤で汚し、両手にはオートマトンの残骸を握り締めたリインフォースに否応なく足が止まる。

「マリーとウェンディなら帰還までにそれほど時間はかからないでしょう。それまで持たせるくらいは今の私でも可能です。だいたい、指揮官が自分のみを危険にさらすことは戦場ではタブーですよ。」

「まあ、そういうわけだ。」

リインフォースの脇から、おそらく彼女に助けられたのであろう、そこはかとなくボロボロなイアンがやってくる。

「おやっさん!無事だったのか!」

「おかげさまでな。それより、メディカルルームに繋いでくれ。」

「え?」

嫌な予感がする沙慈。
そして、イアンも渋い顔で唸る。

「……なにをしとるのかは知らんが、どこぞの阿呆にさっさと逃げろと言ってくれ。」



スクライア族・キャンプ地

それまで足があった場所がことごとく凍りついていく。
振り返る余裕のないユーノだが、下から這い上がってくる冷たさのおかげで見えずとも走り続けなければならないことが分かる。
しかし、冷気からの逃走にたまりかねたのか遂に空へと飛び上がる。
だが、それと同時に上下左右、四方八方から鋭く尖った氷柱が無数に襲いかかってきた。

〈Protection〉

防御しつつ飛ぶ。
氷柱が突き刺さる度に気味の悪い音を立ててプロテクションが歪む。
だが、プロテクションの限界値に達する前にモスグリーンの弾丸が氷柱を撃ち落とし始めた。

「二股かい?やるねぇ。それでこそ私の孫だ。」

「なにを悠長な……」

我が祖母ながら呆れた呑気加減だ。
フェルトがこちらの与太話に耳を傾ける余裕もなくトリガーを引き続けているというのに、相変わらず図太い神経をしている。

「それで、長はやっぱりイオリアと…」

「いや、ちょめちょめまでは……私はこの姿だし。合意の上でも流石にはんざ…」

「……いい加減、真面目に答えないと殴りますよ?」

「チッ、冗談の通じない孫だね。誰に似たんだか…」

「あんたがしっかりしてないせいだ。」と言いかけるが、これ以上ツッコムと不毛な会話がさらに続きそうなのでやめておく。
しかし、こんなイオリアと対極にいるような人間が協力者なのだろうか。

「しっかし、コンタクトをとるとしたらこっちからだと思ったんだけどねぇ。まさか、地球の連中が先にこっちにくるとは。」

「……?どういうことですか?」

「ハゲの計画はなにも地球圏だけに限った話じゃないってことさ。……もっとも、こっちだと順番がアベコベになっちまったけどね。」

シルフィが苦い顔をしたその時、二人へ向けて激しい風雪が吹きつけてくる。
それはフェルトと彼女のシールドビットさえも吹き飛ばし、あまつさえユーノに対しては紫紺の魔力弾が逆巻く風に乗って突撃してきた。

「楽しそうな話をしているね。僕にも聞かせてほしいな。」

「盗み聞きとは感心しないね!」

〈Round shield〉

圧縮した魔力で前方に円形の盾を出現させ、リジェネの放った魔力弾を弾く。
着弾するそばから氷へと姿を変えていくが、ユーノのバリアジャケットには氷片ひとつ付いていない。

「流石に固いな。」

「それはどうも。そっちは珍しく表に出てきているわけだ。」

「リボンズに言われて仕方なくさ。誰が好んで劣等種の相手になんてしたいと思う?」

「口のきき方には気をつけなよ。人の身内をバカにされて気分のいい人間なんてそういないからさ!」

リジェネの周囲を魔法陣が取り囲み、鎖が彼を縛り上げようと蛇のようにうねる。
しかし、翠のチェーンバインドはリジェネに触れる前に白い霜を全身に纏わせながら砕け散っていく。

(ブレイクが使えない……単なる氷結じゃなくて術式凍結か。)

前に戦った時よりも魔法戦に慣れている。
しかも、ティエリアと同じ能力。
訓練でも本気でやったことはなかったが、今更ながらティエリアが味方でよかったと思う。
こんな厄介な能力を持つ人間を二人以上相手にするなど狂気の沙汰だ。

(フェルト。)

リジェネの後ろで狙撃銃を構えていたフェルトに呼び掛ける。

(君はさがって後衛に徹して。)

(でも、あれを一人で破るのは…)

(僕の方が前衛向きだ。それに、なにも一人でやるわけじゃない。)

ユーノの言葉を肯定するようにシルフィがグッと親指を立ててみせる。

(ね?それに、優秀なオペレーターに何かあったら僕らが困るんだから。)

(……わかった。けど、ユーノも無理はしないでね。)

肯いたフェルトはリジェネから大きく距離をとると、代わりにシールドビットをユーノとシルフィの周辺に配置する。

「いい子だねぇ、フェルトちゃんは。あんたの二号さんなんかにはもったいないよ。」

「いつまで引っ張るんですか、それ?」

しつこいシルフィに苦笑するユーノだが、苦笑いで済まされないのはこれからだ。
リジェネはすでに新たに氷柱や魔力弾を生成して周囲に配置している。

「それじゃ、やりますか。足引っ張らないで下さいよ。」

「こっちのセリフだよ、若造。」

申し合わせもなしに、しかしタイミングピッタリで左右に別れて二人は飛翔する。
リジェネは当然二方向に向けて待機させていた攻撃魔法を掃射するが、その瞬間シルフィが直角に曲がってユーノと合流する。
あまりに急激な方向転換に追尾しきれなかった氷柱が遺跡の壁や柱に激突して砕け散っていく。
しかしそれでも全ては墜としきれず、残ったものとユーノを追ってきていたものがまとめて一点に集中して飛んでくる。
だが、それも織り込み済みだ。

〈Round shield・High reflect shift〉

周りに複数のシールドをそれぞれ違う角度で展開。
着弾点をずらすことでより効率的に攻撃を防いでいく。
しかも、同時にシールドビットも防御行動をしている。
この防御を単純な射撃魔法だけで抜くのはかなり難しいだろう。

「チッ……」

リジェネの顔から笑いが消える。
まさかここまで粘られるとは思っていなかったのか、焦り始めているようだ。
そして、防御を抜けなくて焦り始めた時、魔法での実戦経験が乏しい者ほど砲撃に頼りたがる。
そこを狙われているとも知らずに。

「まとめて吹き飛べ!!」

「そっちがね……フェルトッ!!」

「了解!!」

〈Blast hound!〉

深緑の猟犬がリジェネに牙を剥く。
砲撃の溜めに入っていた彼にそれがかわせるはずもなく、左からの一撃をほぼノーガードで直撃した。

「ぐ…ぬ……!!」

直撃にもかかわらず、リジェネは倒れない。
バリアジャケットがボロボロになり、腕からは大量の血が流れ出ている。
しかし、それでも眼光は鋭く、殺さんばかりの勢いでユーノを、そして自分に傷を負わせたフェルトを睨みつけていた。

「そう睨まないでよ。僕らをなめてかかった君の自業自得ってやつさ。」

「この……!!」

いっそう顔を険しくするが、状況は覆らない。
3対1でこちらは手負い。
しかも、リジェネは気付いていないが単純な魔力量で言えばフェルトは彼の遥か上を行くし、ユーノは魔法戦の経験が豊富で相手の魔法をほぼ無力化できる。
シルフィに至っては比較することさえもバカバカしくなるほどの実力差。
これだけの条件が揃っているのに、未だ逃げるという選択を採用しないのは、リジェネのプライドの高さ故であった。
だが、ここでそのプライドをさらに踏み躙る声が念話で聞こえてくる。

(大変そうだなぁ、リジェネ。見ててマジ笑える♪)

(ソリア……!!)

言葉から察するにどこかから覗き見しているのだろう。
野次馬根性で押しかけてきたかと思えば参戦せずに高みの見物を決め込むとは、つくづくこいつとはそりが合わない。
しかし、そんなソリアとリジェネの間にも共通するものがある。
それは、ユーノに対する認識だ。

(手伝ってやろうか?ここらでいいとこ見せとかないとリボンズがうるさいからな。)

(誰が……)

(ユーノも族長もブチ殺すのがマズイのはわかってるだろ?一人で生け捕りにできるほど余裕があるようには見えないけど?)

(く……)

言い返せずに黙るリジェネ。
その沈黙を肯定と受け取ったソリアは早速行動に移る。

(だいたい、もっとえげつないことすればいいのによ。お前、性格最悪なんだから。)

ヘラヘラと笑いながら、ソリアはユーノたちが感知できる範囲の外で、己の持つ最大の切り札を発動した。
そう、ユーノの能力と同質のものを。
しかも、狙いはユーノ本人ではなく、しかし異常が起きた場合に彼の動きを封じることができる人間だ。

「悪いな、フェルト。」

「!?」

突如として足元に広がる翠の魔法陣。
それがユーノのものではないことはすぐにわかった。
なぜなら、

「力が…入らない……!?」

体中から生気を奪われるようなこの感覚。
ユーノを救出する時に味わったものに比べれば劣るが、今この状況でこれは致命的だ。

「ケルディム!」

「その隙は与えない。」

背中から魔力の翼を解き放とうとしたフェルトだったが、その前に首を掴まれ持ち上げられる。
指先が白い肌に喰い込み、血液と空気の流れを遮断されて、見える景色がだんだんと薄暗くなってくる。

「ソ……リ…!!」

「殺しはしない。けど、このままじゃ少しばかり目障りなんでな。」

手に力を込めるソリア。
その手を外そうとフェルトも必死だが、もう銃を握ることさえ難しくなってきた。
しかし、ユーノがそれを黙って見過ごすはずがない。
すぐさまインターセプトに入るべくアームドシールドからカートリッジを排莢してソリアとの距離を一瞬にして潰す。
そして、ありったけの力を込めて右腕を振りかぶった。

「ソリアァァァァァァァァ!!!!!!」

〈Assault Bunker〉

鬼神の如き相貌でもう一人の自分へ腕を突き出す。
しかし、今回はソリアとリジェネが、その事態を織り込み済みだ。

「甘いな。とろけるように甘い。」

「バカッ!!強引過ぎ!!」

ソリアの嘲笑にはたと我に返るが、時すでに遅し。
シルフィの警告も虚しく、今度はユーノが鋭く研ぎ澄まされた氷柱の雨嵐を全身で浴びることになった。

「グアアァァァ!!!!」

掠めていく氷点下の刃がバリアジャケットを、そして肌を削り取っていく。
肩にひときわ太い氷柱が突き刺さり、激しく血が噴き出す。
その血でさえも一緒に吹きつけてくる吹雪によって凍りつく。
リジェネの一斉射が終わった時、今度はユーノが立っているのもやっとの状態に陥っていた。

「くそっ……たれめ………!」

その場で膝をつくと同時に粉塵と霜の混合物が舞いあがる。
辺りには赤の氷が無造作に散らばり、口から出る息は白く染まってその上を流れていく。
そして、その中央でうずくまるユーノの前にピンクの髪をした狙撃手がソリアの手で静かに横たえられた。

「俺が本気でトレミーの連中に手を出すとでも思ったか?」

「……そういう奴だからね、君は。」

「心外だな。俺にもあいつらと過ごした記憶はあるんだ。あのジジィの身内ならともかく、元お仲間を手にかけるほど俺も鬼じゃないさ。」

ここまでされた側がはたしてそう思うかどうかはともかく、今の言葉は本心で言っている。

だが、それがリジェネにも当てはまるとは限らない。
むしろソレスタルビーイングのメンバー、それもさんざん煮え湯を飲まされてきたユーノと並び立つ人間に対して殺意を抱かないと踏んだのはソリアのミスだ。

〈Killer hail〉

「「!!」」

嘲りが込められた殺意。
冷気を纏った一撃が朦朧しながらも起き上がろうとするフェルトへと飛翔する中、二人はほぼ同時に彼女へと走り出す。
そして、殺意の塊と化した雹を受け止めたのは、

「あ…………」

金色の髪が衝撃に揺れる。
距離が近い分、手傷を負っていても一足先にフェルトの前に辿り着いた彼は、しかしそれゆえに腹部を冷たい杭で貫かれていた。

「うそ……」

はっきりしていく意識の中。
フェルトが目にしたのは、古傷のある脇腹を押さえながら崩れ落ちるユーノの姿だった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

顔にかかった愛しい人の血を拭うことさえも忘れ、フェルトは動かなくなったユーノの体を抱きしめた。





一方その頃、刹那も窮地に陥っていた。

「砲射撃に魔力を集中させろ、ダブルオー!」

〈しかし、それではプロテクションが……〉

「構わない!!どのみち、ここで押しきられればなぶり殺しだ!!」

炎と濃密な残留魔力に囲まれた状態で、刹那は三方向から際限なく撃ち込まれる攻撃からエリオを守っていた。
いや、守っているというよりはエリオの側に張り付いているしかないという言い方が妥当だろうか。
フリードとキャロによる集中砲火。
さらに、ヒリングと合流したリヴァイヴまでもが間断なく射撃をしてくる。
こうなると、倒れたまま動かないエリオから離れるわけにもいかない。
もっとも、この状況ではガード役を務めている刹那でもエリオが無事なのかどうかわからないのだが。

「ほらほら!!もっと頑張んないとその子ごとまる焼けだよ!?」

ヒリングの狂喜の叫びが耳障りで仕方がない。
しかし、生憎とその笑いを止める手立てを刹那は持ち合わせていない。
この時までは。

「セラヴィー!!」

〈Yeah!!Critical blizzard!!〉

猛烈な吹雪に隊列が乱される。
その隙に刹那は素早くエリオを脇に抱えると、わき目も振らず吹雪の風向きに逆らって飛んだ。

「無事か、刹那!!」

「エリオが重傷だ!すまないが連れて後退を……」

「させるか!!」

ティエリアへエリオを渡そうとした瞬間、二人の間を閃光が駆け抜ける。
咄嗟に回避した二人だったが、その後も執拗に、特に飛竜とその背の上で血化粧をして笑う少女によって紅蓮の炎を見舞われた。

「逃がさない……絶対逃がさないよ、ソレスタルビーイング!!」

〈オイオイ!あのチビッ子なんかヤベェぞ!?〉

「確かに、以前よりも悪化している、なっ!!」

宙に氷壁を作りだして攻撃を防ぐ。
しかし、燃え盛る火炎は一瞬でそれを水蒸気へと昇華させ、勢いを落とすことなくティエリアの体にまとわりついてきた。

〈あそこまでクレイジーなお子ちゃまがこの世にいるもんかね!?〉

「知るか!!ただ…」

眼前に迫る飛竜の牙を紙一重でかわしながら、ティエリアはギリリと歯軋りする。

「連中が関わっているのは間違いない!」

キャロとフリードの猛攻をしのぎ続けるティエリアの視線の先では、刹那が激しい剣戟を繰り広げている。
ヒリングの爪に限らず、迫りくる砲撃さえも風を伴う刃を以って斬り裂き、その風は防御にとどまらずヒリングとリジェネにまで襲いかかる。
1対2の状況、しかもエリオを抱えたままで十分すぎるほどの活躍だ。
だが、状況が不利なことに変わりはない。

「クゥッ!!」

エリオを庇うようにヒリングの斬撃を背中で受け止める刹那。
焼けるような痛みが背中に奔るが、悶えている暇などない。
コンマ2秒も経たぬうちに今度はリヴァイヴの砲撃が迫っていた。
右手の剣に魔力を集中してあらん限りの力で禍々しく輝く閃光へと放り投げ、間髪いれずに生成した魔力刃をさらに投げつける。
一撃目の実体剣が砲撃に突き刺さった瞬間、猛烈な風が砲撃に逆らうように吹き荒ぶ。
と、思ったのも束の間。
すぐさま無数の蒼いダガーが旋風を伴って菫色の砲撃を食い破ると、リヴァイヴへ殺到した。

「味な真似を!」

「してくれるじゃないの!」

煌めく剣群に対し、リヴァイヴはその軌道上に魔力弾を待機状態で配置する。
自ら魔力の球体へと飛び込んでいった魔力刃は相殺される。
その爆煙を前に刹那はさがるが、輝く煙はすでに彼の体にまとわりついていた。
そして、その目くらましに紛れて爪を振り上げる影も。

「墜ちろぉぉぉぉ!!!!」

視界はほぼゼロ。
煙幕の半径は軽く500mはあるだろう。
ひょっとしたら、ティエリアもこのなかに巻き込まれているのかもしれない。
そんな広くて、捕らわれた者を食い殺すフィールドのド真ん中で。

刹那は、感じた。

「!!」

「うそっ!?」

驚くヒリング。
しかし、頭上に剣を構えて彼女の一撃を防いだ刹那の方が驚いていた。

声だけで、相手の姿は全く見えていなかった。
だが、確かに“見えた”。
斬撃の軌道、敵の位置、それが持つ意思。
まるで、ジルがそばにいるときのように。

(これは……)

『……我、汝に問う。』

(!?)

『戦士たる者の条件とは何か?』



???

なにが起こったのか、エリオには理解できなかった。
見渡す限り白。
地平線もなにもない、だだっ広い空間。
ともすれば、なにも描かれていないキャンパスの中に放り込まれたのかと錯覚しそうなこの場所に、エリオは立っていた。
金色の髪をした、妙齢の女性と共に。

『汝に問う。愛とは何か?』

「愛……って。」

状況把握につとめる間もなく与えられる問いかけ。
しかも、およそ10代前半の少年に聞くような内容ではない、そしてあまりにもざっくりとした内容の問いかけだ。
しかし、奇しくもエリオはこの手の質問に対して、不完全ではあるが曲がりなりにも答えられるだけの経験をしている。
だから、戸惑いながらも女性の問いに答えた。

「愛は……強いて言うなら無償の優しさ、でしょうか?」

『ならば、お前が抱く想いは愛ではない。』

白に翠の刺繍を施したローブを1㎜も動かさずに言いきる女性。
その答えに、エリオはやや顔を険しくした。

「なぜ?」

『お前は見返りを求めている。己が想いに等しい、他者からの想いを。』

「そんなことは……」

『そして、あの少女もまたそうだ。求め過ぎた故に、道を踏み外した。』

「違うっ!キャロがああなったのは……」

そう言いかけて、エリオは言葉を失った。

『……認めるのだな?あの少女が、お前への想い故に歪んでしまったことを。』

「……はい。」

ずっと、気付かないふりをしていた。
その方が楽だったから。
キャロを取り戻すことが、自分の使命なのだと。
自分の気持ちと、キャロからの気持ちをそんな都合の良いものにすり替えていた。
そうすれば、躊躇いなく引き金を引けたから。
そして、刃を向けることができたから。

けど、この身を戦場に置く本当の理由は、たった一人の少女のためだった。
世界を変えたいのも、自分のような存在を生み出したくないのも、結局は自分のため。
なんともやりきれない話だ。

「駄目だな、僕は。こんなことにも気付けないなんて。……いや、結局は逃げていただけか。」

『……改めて問おう。愛とは何か?』

自分の本当の気持ちに気付いて、それがどれほどエゴイスティックで、他人にそれを強いる自分がどれほど残酷かを思い知らされ、それでもエリオは晴れやかな表情で顔を上げる。
自分の答えを、改めて彼女に示すために。

「求めること。与えるだけじゃなく、誰かに想ってもらうことだ。」


???

『汝に問う。正しき闘争とは何か?』

(正しい闘争……だって…?)

真っ白な空間。
何度も来たことのあるそこで、いつの間にか見慣れない人物とユーノは向かい合っていた。
とがった青い毛先が幾つも飛び出た髪型はまるでウニに青いペンキを浴びせたようだ。
腐れ縁の友人そっくりの黒いバリアジャケット(少なくともユーノにはそう見えた)は端々が破れているが、それでもその優雅さと威光に遜色はなかった。

『答えよ。正しき闘争とは何か?』

しつこくそう聞いてくる男に、ユーノは答える。

「正しい闘争などあるものか。どんな理由があっても、人を傷つけることが正当化されてたまるものか。」

『ならば、汝らの行いもまた誤りだと?』

「……当たり前だ。僕らが選択したのは最悪の手段だ。」

『ならば、汝らの求める物もまた誤りということになる。』

「それは違う!僕らは………いや、そうなんだろうな。僕らのせいで犠牲になった人達にとって、僕らが行動やその結果は過ちだろうね。ルイスや、沙慈。大勢の人たちから責められて当然の行いをしたんだ。……けれど。」

ユーノは悲しげに微笑み、そしてはっきりと宣言した。

「それでも、僕らは戦う。何もしないで後悔するのは、もう嫌だから。」



???

いつからここにいたのだろうか。
刹那は、だだっ広い白の空間に立っていた。
200㎝はあろうかという大男の前に。

『我、汝に問う?戦士たる者の条件とは何か?』

銀色の甲冑に包まれた、天を衝くような体躯。
そして、これまた天を衝くように逆立った赤髪。
エリオの髪の色でさえも薄いと思えるようなそれは、大炎のようにゆらゆらと揺れている。
それに負けないほど赤い双眸をギョロリと下へ向け、男は三度刹那に問うた。

『戦士たるものの条件は何か?』

全身を震わせるような重低音。
並みの人間ならば気圧されて声を上げることさえできないその問いに、それでも刹那は答えた。

「他者への慈しみを知ること……すなわち、心だ。」

『ほう……』

男の声に合わせ、背中の片刃の大剣がガチャリと音を立てる。
どうやら、よほど刹那の答えが興味深かったようだ。

『なぜ、そう思う。』

「他者の痛みを知らずに力を振るう者はただの破壊者だ。戦士と呼べる人間が存在するならば、それは守るために戦うことができる人間だ。そう…」

ユーノや、他のみんなのように。
マリナのように。

『力無くばなにも守れまい。なによりも力が必要なのではないのか?かつて、お前が求めたように。』

「違う。力がなくても、戦うことはできる。」

『どう戦うと言うのだ。』

「声をあげ続ける。」

『なに?』

「自分の想いを伝えるために呼びかけ続ける。たとえ、それがどんなに困難でも。いつか、わかりあえると信じて呼びかけ続ける。」

『いつ終わるか……いや、そもそも実を結ぶかどうかすらはっきりしない行いだな。』

「そうだ。だから、強さが必要だ。決して折れない心だ。俺のような……力で全てを終結させるような破壊者にはできないことだ。」

かつて、刹那は信じる強さを持てなかった。
力で全てを解決するしかないと、そういう風にしか考えられなかった。
けど、今ならわかる。
本当に強いのは自分じゃない。
マリナのように、誰かを想える心を持つ人間だ。

「俺は……破壊者にしかなれない。だから、破壊者として戦い続ける。いつか、誰かが俺にはできない方法で、俺の願いを叶えることを信じて。」

『……否。』

男は剣を手に取ると、ガキンと見えない床に突き立てて高らかに言い放った。

『……お前も戦士だ。』

「?」

男の顔が武神のそれから、無骨ながらも朗らかなものに変わる。

『お前は自らの弱さと、それゆえに犯した過ちを認めることができた。それもまた強さだ。お前が見つけた、お前だけの強さだ。』

「あんたは、一体…?」

『始まりの三人……なんて呼ばれちゃいるがな。その実態は見果てぬ夢を追い続けた哀れな男さ。この剣で守った人々が、俺たちの掴めなかった未来を創造してくれると信じ、そんな空虚な夢を抱いたまま、未だにその未練を断ち切れずにいた亡霊だ。けどな……』

男は熱苦しい、けれど、無邪気で豪快な笑顔を浮かべる。

『ありがとよ。お前のおかげで、俺たちのしてきたことが無駄じゃなかったんだと思えた。正直、救われた。』

「……あんたも戦士……いや、偉大な騎士だ。」

『そんなに褒めるなよ。照れるだろ?これでもシャイなんだよ、俺は。』

男が、炎を纏う偉大な騎士が消えていく。
光になって、虚空へと消えていく。
だが、その願いは刹那へと受け継がれた。

『礼と言っては何だが、お前の中で目覚めつつある力の一部を開放しよう。だが、忘れないでくれ。お前の、お前たちの力は傷つけるためのものじゃない。明日を、未来を切り開くためのものだ。それを、忘れないでくれ……』

騎士の言葉が刹那の中にあった種を芽吹かせる。
希望という名の、太陽へとまっすぐ伸びる一輪の花になることを信じて。



???

『それでも戦う、か……己の行いを過ちと理解しながらも歩みを止めぬか。御しがたいほど愚かだな。』

「ああ、そうだ。だから、僕らは考え続けなければならないんだ。戦争の意味を。そして、自分たちの日常から離れた場所で起きていることを。」

『……ホント馬鹿だな、お前。』

青いウニ頭もユーノを見つめたまま、さっきまでの仰々しい態度からは想像もできないほどフランクな調子で笑った。

『けど、そんなお前らだから“コイツら”も認めたのかもな。』

「コイツら?」

『っと、まだ完全には覚醒していないんだったな。まあ、そのうちわかるさ。しかし、似合わねぇこと言っちまったなぁ~俺。今頃になって背中にじんましん浮かんできちまったつーの。』

「……どうでもいいですけど、人をこんなわけわからないところに連れてきておいてその態度はないんじゃないですか?真剣に怒りたくなってきますよ…」

『いやさぁ、俺は別に心配するこたねぇって二人に言ったのよ?なのにあいつらときたら頭固くってさぁ……あ、これオフレコでよろしく。』

さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやら。
やたらと軽いノリの男に今度は別の意味で圧倒されるユーノだったが、男は疲れた様子で頭をかく。

『……けどまぁ、戦場にいる人間は疑問に思わなくちゃいけないんだよな。答えが出ることはなくても、考えることを止めちゃいけないんだよ。お前、ウジウジ一人で悶々と悩んでたろ?お前はそれじゃいけないみたいに思ってたみたいだけど、それでいいんだよ。悩みもせずに銃をブッ放すバカに力を持たせたってろくなことにならねぇからな。その点、お前は合格だよ。さて……』

男は肩をゴキゴキ鳴らしながら大きく伸びをすると、その身を光へと変えていく。

『俺はそろそろ行くよ。もともと、俺たちの目的はお前らにきっかけを与えることだからな。』

「きっかけ?」

『まあ、平たく言やぁパワーアップってやつかな。いや、少し違うか……まあ、いいや。それより、あの魔導書のことを責めてやるなよ。』

「え……?」

魔導書といえば、ユーノには一人しか思い当たりがない。
彼女が一体どうしたというのか。

『あいつなりに考えて出した結論なんだ。女の想いを受け入れてやるのが男ってもんだ。』

「ちょ、ちょっと待って!!リインフォースは一体なにを…」

ユーノが訊ねるより早く、男は消えてしまう。
そして、ユーノ自身もこの白い場所からフワリと、それこそ煙のようにあっさりといなくなってしまった。



???

エリオを見つめていた翠の瞳がスゥッと薄くなる。
それは、彼の心を全て見透かすかのようだったが、エリオはそれさえもかまわないといった様子で言葉を続ける。

「僕はキャロを助けたい!!誰かに命令されたからでも、使命感だからなんかでもない!!キャロと一緒にいたいから、この手で取り戻すんだ!!」

『そのために誰かを傷つけることになってもか?』

「そんなことしないし、誰にもさせない。」

訝しげな顔をする女性にエリオは笑って答える。

「僕はこう見えてもわがままなんだ。キャロも欲しいし、誰も泣かないでいい世界も欲しい。別に悪いことじゃないですよね?」

『……いいえ、悪いわ。』

そう言うと、女性もニッコリと笑ってエリオの髪をくしゃくしゃとなでる。

『そういうカッコイイこと言われると、お姉さんも君のこと好きになっちゃうぞ?』

「え!?いや!それはちょっとマズイっていうか……」

『冗談よ冗談。一途な男の子はからかいたくなるのよね。』

人差し指に口づけをすると、今度はそれをエリオの額にあてて悪戯っぽく笑う。
その無邪気で美しい姿に顔を赤らめて視線をそらそうとするが、その笑顔によく知る人物の姿を見た。
そう、自分の師の一人であり、義母の親友の面影を。

「あなた、ひょっとしてユーノさんの…」

『ストーップ!それ以上はめっ、だよ。でも……』

いつの間にか女性の足元から光が立ち上り始める。
それは徐々に上へと向かい、彼女をあるべき姿に還していく。

『ありがとう、って言っておいて。私のこんな力を、守るための力として使ってくれて、嬉しかったよ……』

「……はい。」

『フフフ……本当にいい子だね、君は。ご褒美に、お姉さん少しが応援してあげる。頑張って、あの子を助けてあげてね。』












受け継がれる意志
それは、新たな時代の産声





あとがき

すんません、前回早めに更新すると言っておきながらワースト1に入るノロさでの更新になってしまった第64話でした。
本当はもっとあっさり終わらせる予定だったんですけど、刹那、ユーノ、エリオの覚醒イベントまえの話が想像以上に長くなってしまって……(^_^;)
本来ならあの三人との問答シーンをもっと長く取るつもりだったんですが……
それはそうと、批判の的になりそうな(オイ)サーシェスVSアレルヤの組み合わせですが、一度やっておこうと思ってたんですよね。
あの二人って原作でもFirst、secondとおしてガチンコ対決みたいなのはなかったので。
キュリオス乗ってたアレルヤがサーシェスの横槍でピンチになるくらいで……(苦笑)
というわけで、次回はそこのところも注目してみてください。
一応、次回から反撃開始です。
そして、異世界側のイオリア計画も徐々に明らかになってきます。
……更新は相変わらず超不定期になりそうですが。
「それでもかまわねぇ!」って男気のある方は首を長~~~~~~くして待ち、なおかつ生温かい目で見守ってくだされば幸いです。
では、次回もお楽しみに!



[18122] 65.反撃
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/11/15 23:18
プトレマイオスⅡ 通路

プトレマイオスの通路は特別広くはないが狭くもない。
人と人とがすれ違って通れるくらいのスペースはあるし、常日頃から誰かしか資材や私物を持って通っているくらいだ。
だが、今回ばかりはそんなことができるほど空間的に余裕はなかった。
なぜなら、ガジェットやオートマトンが我先にと獲物を求めて白い床の上を行進していたのだから。
その様たるや、それらを持ちこんだルーチェでさえ息苦しさを感じるほどである。
足場の踏み場もないとはこのことだ。

「あ~あ、ホンットに狭っ苦っしいたらありゃしない。早いとこブリッジ制圧しちゃお。」

辟易した様子で目の前のガジェットの前へ出ようとその頭に手をかける。
その時だった。

「穿て!」

「ッ!ヤバッ!」

俵型のボディの背中を蹴って後ろへ下がるルーチェ。
蹴られたガジェットはつんのめった形で声の主へ突っ込んでいくが、彼女に到達することなく無数の赤い刃に装甲を食い破られて散った。

「接客態度がなってないわね。一から教えてもらったらどう?呪われた魔導書さん。」

「礼儀を知らない方にはらう敬意は生憎と持ち合わせていないのですよ、イノベイター。」

炎と金属片を挟んで火花が散る。
既にリインフォースの周囲にはブラッディダガーの第二射が展開され、ルーチェも両手に身長ほどもあろうかという巨大なライフルを二丁構えている。
ただ、二人の間にはある埋めがたい差が存在していた。

「いやぁ、大したもんね。たかだか魔導書の分際で潜在魔力は上の上。しかも、手数の多さは下手すれば一個大隊級。並みの魔導士じゃ手も足も出ないんでしょうけど……」

「!」

「攻撃方法が魔法だけじゃあねぇ。」

ブラッディダガーが消滅していく。
いや、それだけではない。
魔法そのものが発動できなくなっている。

「魔力結合の疎外を確認……AMFですか。」

「そ。あんたみたいなのにはこれ以上ない位有効な手段でしょ?」

確かに、リインフォースにとってAMFは天敵に等しい。
攻撃、防御手段が魔力を使用するものに限られている彼女にとって、魔法を使えない状況に置かれるということは為す術なしと端から宣告されるようなものだ。
しかも、発生源そのものが戦闘力を有し、それが複数存在するというのは絶望的な情報である。
とどめに、艦内という密閉空間ではエフェクトの外に出て攻撃することは困難を極める。

状況だけみれば、両手をあげて投降するしか生き残る道が見当たらない。

「こう見えてもあたしって博愛主義者だからさ。大人しくブリッジに案内するなりなんなりしてくれるなら命だけは助けてあげるけど?」

「……どうやら、967に似せているのは外見だけのようですね。私がそれを容認すると思っているようでは、あなたの頭脳は遠く彼に及ばない。」

「ご忠告どうも。それじゃ、皆殺させてもらうから悪しからず。」

少女の細腕で持ち上げられるとは思えない巨大なライフルを軽々と持ち上げ、ルーチェはリインフォースへ向けてトリガーを引いた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 65.反撃


プトレマイオスⅡ 通路

ルーチェが引き金を引く瞬間、彼女の真横の壁が弾け飛んだ。
ショートした配線を絡ませながら突撃してきた少女の拳に、ルーチェの目が驚きで見開かれる。

「っさっせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「っ!!」

かわしはしたが、妨害のせいで狙いが反れ、ルーチェの放った大型の弾丸はリインフォースの頬を傷つけるにとどまる。
とはいえ、通常の銃よりも威力の高かったそれは頬に血飛沫を生じさせ、その衝撃のせいで彼女は後ろに大きく飛ばされた。

「ニャロめ!!」

リインフォースは無防備だが、彼女を無視してルーチェは即座に後ろにいた妨害者へ向けて攻撃する。
だがその瞬間、ボードの上を独特の輝きが包んだ。

「IS、フローターマイン!」

ポンと軽い音がしたかと思うと、次の瞬間には轟音と爆風が辺りを包み込む。
その向こうから現れた少女は、AMFなどどこ吹く風といった様子で魔力によって強化された膝をルーチェめがけて突き出した。
だが、むざむざ直撃を受けるルーチェではない。
右足で強く床を横に蹴って体を半回転させると、天地が逆転したまま少女の顔面の位置に自分の膝を配置した。

「ッ!!」

「ッ!?」

どちらにも手応えはなかった。
その代わり、ルーチェは脇腹、少女は頬に微かな、しかしゾッとさせるには十分すぎる感触を感じて弾かれるように互いに距離を取った。

「あれ避けるって、あんたマジで人間?あ、半分ほどは機械か。」

「そういうあんたこそ……そう言えば、人間じゃないって自称してたっスね。」

ウェンディは嫌な痺れを拭うように頬をこすると改めてルーチェを睨む。
いや、正確にはその奥にいる自分の相棒とリインフォースか。

(マレーネ、リっちゃんのことは……)

(お任せを。)

念話を介さずともマレーネはウェンディの意思を汲んでリインフォースを庇うようにホバリングで待機している。
どうやら、全力でやっていいようだ。

「はぁ~……フォンのせいであんまり良い思い出がないから殴り合いは好きじゃないんスけどね~。けど、ここまでやられて“せんりゃくてきてったい”っていうのはムカつくから…」

ゴキゴキと指を鳴らし、ウェンディは構える。

「ボッコボコにしてやるからそこんとこよろしくっス。」

「周り見てからもの言いなよ。この数で一人相手にするんじゃいじめになっちゃうけど?」

「あれ?そりゃおかしいっスね。」

ウェンディがニヤリと笑う。

「てっきりこっちがいじめる側かと思ってたのに。」

右の拳を解いて来い来いと手招きをするウェンディ。
これにはルーチェも流石にムッときた。

「あっそ。そんじゃあ、ガキ大将様……この大群を止めてみなよ!!」

ルーチェが高らかに振り上げた腕を勢いよく下ろす。
その瞬間、殺戮のみを目的に制作されたマシーンが一人の少女めがけて殺到した。



キャンプ地 上空

大気をつんざくオレンジの翼。
しかし、それは鳥類の翼とは程遠く、だがそれゆえに別の意味で洗練されたシャープさと高性能を兼ね備えていた。
その翼、アリオスを操るアレルヤ・ハプティズムは紅い牙に執拗に追われていた。

「クッ!」

また進行方向に先回りされている。
機体を回転させてビームを回避するものの、その影響で生じたわずかな減速の隙に後ろの一団が一気に距離を詰める。

「しつけぇぞクソども!!」

ハレルヤはアリオスをMS形態に変形させて攻撃するが、彼の恫喝を嘲笑うように再びファングたちは散開して取り囲む。
ならばとハレルヤとアレルヤは再びアリオスを戦闘機へ変形させてファングを操るアルケーへ突撃を試みる。
だが、

「喰っちまいな、ファング!!」

間をおかずにファングたちは網目のようにビームを張り巡らせてアリオスを待ち構える。

「このっ!」

「クソッタレがぁ!!」

機首を急旋回させてさらに上へと舞い上がるアリオス。
後ろからはまたもやファングが追尾。
もう何度これを繰り返しただろうか。

(スピードは決して速くない……けど、こちらの動きを完全に読んでいる!)

「ムカつく話だぜ!!」

苛立つハレルヤだが、これはある意味自明の結果である。
アルケーのパイロット、サーシェスがガンダムと戦い慣れているというのも大きいが、何よりも二人の性格が悪い意味でサーシェスと噛み合ってしまっているのだ。

通常、他のガンダムとのコンビネーション以外でもアレルヤはアリオスの高機動を生かしてクレバーに戦いを組み立てていく。
良く言えば丁寧でハイレベルではあるのだが、うがった見方をすれば教科書通りの戦術と言える。
そしてサーシェスからしてみればアレルヤは後者のタイプに当てはまり、その手のパイロットを仕留めるのは傭兵たる彼の本領である。

ならば、ハレルヤならばどうか。
荒削りで強引な戦い方ではあるが、相手が想像もしない一手を繰り出してくるという点ではサーシェスでもかなりてこずるだろう。
ただ、ここで問題になってくるのが両者の搭乗機の特性である。
ファングを装備しているとはいえ、アルケーの本領は両腕両足のビームサーベルとGNバスターソードを使用しての接近戦。
一方のアリオスは射撃、格闘のどちらもこなせるようにバランス型。
接近戦から相手を幻惑して仕留める戦法を得意とするハレルヤにとって、接近戦に強いアルケーを出し抜くにはアリオスの武装では十分とは言い辛いだろう。

「行けよ、ファング!!」

「チィッ!!」

速くはない。
しかし、徐々にではあるがアリオスの動ける空間を削って追いこんでいく。
そして、追い込まれたハレルヤはアリオスをMS形態に戻して動きを止めた。

(ハレルヤ!?何を!?)

「しちめんどくせぇのはやめだ!真正面から野郎をぶっ潰す!!」

(無茶だ!あれだけの攻撃をかわせるはずが……)

「無傷で勝とうなんざ思っちゃいねぇ!肉を切らせて骨を断つってやつだ!!」

アリオスの装甲は決して厚くはない。
シールドのような防御手段があるとはいえ、ヒットアンドアウェイが基本なのだ。
事実、アレルヤはアリオスで削りあいを挑んだことなどまったくない。
ハレルヤでさえ、キュリオスに搭乗していた時から長時間動きを止めての戦闘はほぼないに等しい。
だが、いつまでも逃げ回ってもいられない。
それに、分は悪いが策ならある。
癪に障る上に、極めて遺憾な手ではあるが。

「同類嫌悪ってやつか……一歩間違えば俺も向こう側だったかもな。」

(……?どうかしたかい、ハレルヤ?)

「なんでもねぇよ。それより、気を抜くなよアレルヤ。流石に俺でも一人じゃ持て余しそうだから……なっ!!」

背後から迫っていたファングを振り向きざまにビームサーベルで一刀両断する。
休む暇なく今度は左のガトリングを横に向けて掃射するが、こちらは外れる。
が、すぐさま散らばったファングの一基へ向けてアリオスはビームサーベルを投げつけた。
回転する刃と化したビームサーベルは輪となってもう一基斬り裂くが、残るファングは4基。
アルケーがまだ残しているものもあわせれば8基。
しかも、

「うらぁ!!」

「ッ!!」

アルケー本体の攻撃力も通常の機体とは比較にならないほど飛び抜けている。
今の一撃もアレルヤが咄嗟に機体を傾けていなければ間違いなく致命傷になっていた。

「斬りあいは望むところなんだよ!!」

「ハッハァ!!お前、気に入ったぜ!!」

逃げずにビームサーベルで対抗しようとするアリオス。
しかし、それを見たサーシェスはアルケーを後退させて再びファングでアリオスを取り囲む。

(ハレルヤ!ここは僕が!!)

「おうよ!!」

先ほどとは打って変わって緻密な射撃でファングを牽制する。
が、こちらもやはり無傷とはいかない。
攻撃を回避しようにも、ファングによって完全に包囲されているせいで逃げ場はない。

「クッ!!」

(退くんじゃねぇぞアレルヤ!!こういうのは先にビビった方の負けだ!!)

「言われなくても!!」

退けない、と言った方が正解なのだが、ここではあえて二人の前へと出る姿勢を評価したい。
そして、この決死の動きこそが布石となるのだ。

(しっかり目に焼きつけろ……俺たちの動きを頭に叩き込みな。)

ファングの対応で忙しいアレルヤとは対照的に、ハレルヤは後方で動かないアルケーの一挙手一投足に気を配る。

ハレルヤからすれば癪な話だろうが、彼はサーシェスと自分を同類だとみなしている。
戦闘スタイルだけでなく、相手をいたぶることに悦を感じるだけでなく、それを得るための手法もよく似ている。
だからこそ、嵌まるはずだ。

(さあ、そろそろ覚えたろ?相手をテメェの手の平の上で転がしてるつもりなんだろ?隙を作って誘いこんで、罠に飛び込んだところで間抜けだと笑うんだろ?)

お望み通り、その誘いには乗ってやる。
だが、馬鹿を見るのはお前の方だ。

(さて、仕上げといくか。)

規則正しく整列して攻撃していたファングとファングの間が少しだけ開く。
それは、本当に小さな、それこそ針の穴にも等しいわずかな乱れなのだが、この極限の状況下におかれたパイロットからしてみれば地獄に仏だと思うだろう。
たとえ、それが悪魔の用意した狡猾な罠であったとしても。

「さあ、踊れよ!」

愉快なステップを期待してやまないサーシェス。
だが、相手のことを見くびり過ぎだ。
今のアリオスを動かしているのは二人で一人の超兵。
天使のような繊細さと、悪魔のような大胆さを兼ね備える男なのだ。

(アレルヤ、今だ!!)

「…!!そうか!!」

これまで、サーシェスにはどちらか一方だけの時の動きしか見せていない。
ステップやタイミングの変化は警戒しているだろうが、それだけでは今回は役不足だ。
なにせ、ここから先は本当の意味での2対1。
しかも、とっておきまで使う大盤振る舞いである。

「TRANS-AM!!」

「なに!?」

ファングの攻撃の網をかいくぐるアリオス。
その先でアルケーに大剣を握らせて待ち構えていたサーシェスもそこまでは想定済みだった。
ただ、唯一違っていたのはアリオスの突破速度である。

「チィッ!!」

「外した!?」

辛うじて肩の装甲だけで被害を押さえたサーシェスだったが、その傷口を見て流石に冷たい汗が流れる。
TRANS-AMを初めて見たわけではないが、今までのアリオスのスピードと動きに目が慣れてしまっているせいでどうしても対応が一手遅れてしまう。
先程の回避も言うなれば勘が当たったにすぎない。
もし、逆方向に操縦桿を倒していたらサーシェスは辛うじて残っていた半身も、再生した半身もまとめて砕け散っていたところだ。

「野郎!!」

「遅い!!」

後ろへ向けてバスターソードを振るうアルケーだったが、逆にその一撃を跳ね上げられ、がら空きになった腹部に蹴りを見舞われる。
続けざまに左脚のビームサーベルを斬り落とされ、返す刀がコックピットに迫る。
しかし、それは間一髪のところでかわしてファングを機体の前面に展開した。

「ファング!!」

「バカの一つ覚えが!!」

アリオスがビームライフルを構える。
しかし、通常時とは異なり銃口からは溢れんばかりの輝きが放たれている。

「これで!!」

「ブチ抜く!!」

暴力的な光が紅の牙を蹂躙していく。
もはや砲撃と化したビームライフルの一閃は、迎え撃たんとしていたファングをことごとく薙ぎ払い、アルケーの右膝から先を溶解させたところで勝負ありだ。

「クソッタレがぁ!!」

「油断した君の負けだ。」

「あの世で反省会でも開きな!!」

「負け……?ククク………」

アリオスの銃からとどめの一撃となるビームが放たれようとしたその時、サーシェスはこらえきれなくなったように嘲笑をもらした。

「なにがおかしい?」

「流石に恐怖でオツムのネジが吹っ飛んだか?」

「負けたのは“お前ら”の方だ、ガンダム!」

負け惜しみとしか思えない言葉。
だが、すぐさまその言葉が真に意味するものに二人は気付いた。

コックピット内に響く警告音。
しかし、アリオスが攻撃を受けているわけではない。
アリオスが警告しているのは、下で氷漬けになりかけている二人のことだ。

「ユーノ!?」

二人を覆う分厚い氷。
その寒さからユーノを守るように彼を抱きしめるフェルトだったが、脇腹から流れ出る血は彼女の細い指の間からこぼれて透明な膜を赤に染め上げていく。

「隙ありぃぃぃぃぃ!!!!」

(っ!?バカ野郎!!よそ見すんじゃねぇ、アレルヤ!!)

「な!?うわっ!!」

アルケーに肩から激突され、体勢を崩すアリオス。
しかし、アルケーからの追撃はない。

「担当分の働きはしたんでな。俺はここらで退かせてもらうぜ。」

「ま、待て!!」

「別に追ってきてもかまわねぇがな。いいのか?このままじゃ、お前らの艦もお仲間も手遅れになるぜ?」

そう言い残して、サーシェスは警戒もせずに背を向ける。
アリオスが追ってこないことを確信していたからだ。

(しかし……そろそろこいつでも連中相手じゃ心許なくなってきやがったな。)

ガンダム各機、特に二体の二個付きの強化は常識の範疇を超えている。
パイロット自身の成長も著しい。
よもや手違いが起こるとは思えないが、警戒しておくにこしたことはない。

(まあ、あの調子じゃ片方はお陀仏かもしれねぇがな。)

クックッと笑うサーシェス。
だが、彼の予想は大きく外れることになる。

彼や、その雇い主たちが下らぬと一蹴するであろうもの。
人間が、潜在的に持つ可能性によって。



地上

体が冷えていく。
今のフェルトにわかるのは、ただそれだけ。
自分と、ユーノから体温が奪われていく。
もう、この氷の束縛がなくとも指先さえ動きはしない。
それどころか、体温低下に対する生理現象である震えも消えて久しい。

「死ぬな……!!頼むから……!!」

意識がぼんやりとしてくる。
切羽詰まったシルフィの声とは対照的に、おかしな幸福感で頭が埋め尽くされていく。
もう死ぬんだと分かっているのに、どうにかしようとする気力がわいてこない。

「リジェネ……テメェ……!」

「そんなに怖い顔しないでよ。お互い、リボンズには言えないことが山ほどある身なんだ。仲良くしようじゃないか。それとも、今の状態でリボンズたちを敵に回してでもあの二人を助けるかい?」

遠くで言い争う声が聞こえる。
だけど、そんなことはもうどうでもいい。

むしろ、何かしなくてはいけないことがある気がする。

「ユー……ノ…………」

右手にまとわりつく血は完全に冷え切っている。
息がかかるほど近い顔からは、もう息がかからない。
けれど、フェルトは静かに自分とユーノの唇を重ね、そして離した。

「ねぇ……知ってる?私、ユーノのこと、大好きなんだよ……」

ずっと言えなかった。
やっと、こんな時になってやっと言えた。
もう、ユーノには届かないけれど、やっと自分の素直な気持ちを言葉にできた。
嬉しさと後悔が入り混じった涙が、フェルトの瞳から零れ落ちては氷の上で弾ける。

「いつからかはわからないけど………でも、ずっとユーノのことが好きだった。ユーノに好きな人がいて……ユーノが、もうすぐいなくなっちゃうってわかって……諦めなくちゃいけないってわかってても………ずっと……ずっと好きでした。」

腕に力を込めてユーノを抱きしめる。
いや、実際にはフェルトの腕にはもう力は残っていない。
けれど、ユーノを抱きしめずにはいられなかった。

「ありがとう……あなたを好きでいさせてくれて……最後まで、こんなあったかい気持ちにさせてくれて………」

鼓動が小さくなっていくのに合わせて、氷が二人の顔を覆い始めた。
もうここまでだ。
そう思い、フェルトが瞼を閉じた時だった。

(……僕の方こそありがとう、フェルト。だから、諦めないで。)

「え……?」

聞こえた。
この極限状態でも、幻聴ではないと確信を持てるほどはっきりとした声。
念話など比ではない、心に直接響く声。
その声が、フェルトの意識を現実へと引き戻した。

「ユーノ?」

温かい。
翠の光が、体を包んで温めていく。
その光を発しているのはほかでもない。
死に体同然だったユーノだ。

「もう、大丈夫だから。」

ゆっくりとユーノは目覚める。
開かれた双眸は金色と虹色が入り混じった、どこか人間離れした輝きを放ち、しかしそれでも威圧感は感じさせない、いつものユーノの優しい眼差しだった。

「ハッ───!!」

分厚い氷が鋭い呼吸と共に弾け飛ぶ。
これにはソリアと言い争っていたリジェネも、そして必死に回復に努めていたシルフィも目を丸くするが、それ以上に驚きを感じなくてはならないはずのフェルトはいまだにユーノの腕の中で泣きじゃくっていた。

「ユーノ……」

「うん…」

「ユーノッ……!!」

「うん…」

泣いているという行為自体はさっきまでと同じはずなのに、この心の内にある想いは全く異質だ。
喜びが、そして希望が際限なく溢れてくる。
まだ戦えると、諦めてなどいないと心臓が高鳴る。

「泣かないで、フェルト。もうこれ以上、誰も傷つけさせないから。」

「大丈夫……だって?本気で言ってるのかい?」

リジェネが苦々しげに、しかしなんとか余裕を取り繕おうと努力してひきつってしまった笑顔で二人を見下ろす。

「僕ら二人を相手に大丈夫なんてよく言えたね。どういう理屈で蘇生できたのかは知らないけど、その程度で調子に…」

〈Bind〉

今度は驚く暇もなかった。
翠の輪が幾つも出現したかと思うと、瞬く間にリジェネを締め上げた。
そう、締め上げるという表現がぴったりくる。
ただのバインドのはずなのに、通常のそれとは比べ物にならない力で体全体をしめつけてくる。
もう、これ単体で十分に攻撃として成立している。
にもかかわらず、本日三度目の驚きがリジェネの前に出現した。

「な!?」

「え!?」

リジェネとフェルトがほぼ同時に驚愕の声を上げる。

フェルトは、つい先ほどまで自分の前にいたユーノが消えたことに。
リジェネは、その姿を“見失うことさえもできずに”ユーノが自分の超近距離に移動したことに。

「クルセイド。」

〈OK〉

交わす言葉はそれだけで十分とばかりに、D・クルセイドに短く語りかけたユーノは右腕をリジェネの腹部に突き上げた。

「バースト。」

苦悶の声を上げることも許されず、D・クルセイドのバンカーが密着状態で炸裂する。
今までのバンカーの一撃とは比べ物にならないほどの激しい魔力の残渣がユーノの右腕を中心に溢れだす。
光の粒子としてはっきり見える魔力残渣だが、受けたリジェネはいつものように吹き飛びはしなかった。
それは、決して威力が劣っていたからではなく、力の方向が限りなく集約されていたがために、衝撃が彼の体を突き抜け、遥か後方まで撃ち抜いたことを示している。
そのことを身を持って体感しながら、リジェネはある仮定に行きついていた。

(バカ……な………!まさか……純粋種に…覚醒………)

リジェネだけでなく、リボンズさえも予想していなかった、そしてある意味一番恐れていたことだ。

(ユーノ……スクライア………お前は…)

危機感を抱きつつ、リジェネは気絶する。
イノベイター、いや、“イノベイド”にとっては決して好ましくないこの事態。
だがしかし、ソリアはそれが必然で、今のユーノを待ち望んでいたかのように笑った。

「やっと、だな。ようやく同じ土俵に立ってくれたか。」

こうでなくては。
今のユーノでなくては駄目なのだ。
今のユーノならば、きっと理解するはずだ。
この世界の真実を。
どれほど救いようのない連中がのさばっているのかを。
そして、その上でユーノを倒す。
この世界の全てを理解させた上で、ユーノを全力で否定する。
そうしてこそ、ソリアの願いは真の意味で完成されるのだ。

目元を手で覆ったまま天を仰いでいたソリアだったが、歓喜をそのままに正面を向いて体中から魔力を放出する。
そして、愛機に命じる。
その真の姿の解放を。

「アイオーン、モード・イデアー。」

〈Yes,my Meister.〉

無機質な白色のフレームで作られたキューブが光を放つ。
その光は盾となり、銃となり、刃となり、羽織となってソリアの体を包んでいく。
それは、カラーリングが白と黒だけであることを除けばユーノがデバイスを起動したときと極めて似ていたが、違っているものがもう一つある。
それは、ユーノが盾そのものを武器としているのに対し、ソリアは盾でなく右手に握った柄頭が両側についたメイスを主武器としていることだ。

「いいだろ、これ?わかりやすくブッ壊すってイメージが湧いてくる。」

へらへらと笑いながらバトンのようにクルクルとおもそうなメイスを振り回すソリアに対し、ユーノは黙ったままだ。
むしろ、悲しげな表情でソリアを見つめている。

「どうしたよ?お前も望んだことだろ?こんな世界、一度徹底的に破壊してリセットしちまった方がいいって。」

「……ああ、そうだな。たぶん、そうだったんだろうね。けど、それでも僕と君は違う。」

「そりゃあ違うだろうさ。お前は自己犠牲で自分の感情を押し殺した。嘘で塗り固められた虚構の人生だ。」

「見解の相違だね。そっくり同じに作られた記憶をどう感じているのか知らないけど、僕の人生は虚構なんかじゃない。……まあ、空っぽだったのは間違いないか。だけど、その隙間は僕が出会った人たち、その人たちから受け取ったたくさんの大切な物をしまうための隙間だったんだ。それに…」

呆けた顔で見上げるフェルトを、そして力強く頷く祖母に微笑み、ユーノはアームドシールドの切先をソリアへと向ける。

「後ろ向きで前に進めない本音より、嫌なことを心に溜めこむことになっても前に進める綺麗事の方が僕の好みだ。」

「言ってろよ、偽善者が!!」

二人の姿が消えた次の瞬間。
破壊のための棍と守るための盾が、轟音をたてながら空中で激突した。









あの場所で体感した時間は、刹那にとっては永遠に思えるほど長かった。
なのに、いざ現実に戻ってみると一秒も経っていなかった。
いや、あちらもおそらくは現実なのだろう。
時間の体感というのは、意識と肉体で完全に一致するわけではないらしい。
戦闘中なのにこんな哲学的な考えを抱いていることが自分でも意外だが、それを可能たらしめている自分に少し驚いている。

「これで!!」

(左。)

左からの斬撃を力が乗りきる前に素手で払う。
軽くあしらわれたことに、なにより涼しい顔のままの刹那にヒリングは顔を真っ赤にして再度アタックをかける。
だが、

(見える…)

まるで分身でも用いているかのようなヒリングの多方向からの攻撃。
常人ならばまずどこから攻撃が来るか判断もつかないような激しい連撃だが、刹那の目にはこの場にいる誰とも違う光景が見えていた。

それは、あえてたとえるならばステレオグラムだろうか。
現在のヒリングを中心に、幾つものヒリングが枝分かれをしてゆっくりと刹那に迫ってくる。
その像の一つ一つの順序もわかるほどスローモーなそれは、未来予知とは少々趣が違う。
どちらかというと、相手の敵意や殺意が通った痕跡。
攻撃をしかける前に、相手へどうやってダメージを与えようか、どれほどの達人であっても無意識化でそれを行う。
その意思を感じ取った。
そう表現するほうが、刹那にはしっくりとくるものがあった。

「な、なんでよ…」

爪の煌めきが何度も鋭利な軌跡を描く。
だが、刹那はエリオを脇に抱えたままで、しかも武器も使わずに払いのけていく。

「なんでよーーーー!!!!」

ヒステリーと恐怖が入り混じった悲鳴。
思い通りにならない相手と、その相手から発せられるただならぬなにか。
今までとは違う刹那に混乱するヒリングの攻撃は、既に攻撃と呼べるような代物とはかけ離れた滅茶苦茶なものになっていた。
その精彩を欠いた動きの隙をついて刹那は拳を撃ち込もうとする。

だが、それよりも先に白と青の槍の投擲がヒリングを吹き飛ばしていた。

「……ストラーダ、ブースター展開と同時にフルイグニッション。」

〈Ja houl!!〉

突然消えた重みに刹那は目を丸くする。
が、どこかでそれが必然だとも感じていた。
目の前にいる少年が、つい先ほどまでは飛行魔法が覚束ないままで、さらに重傷を負っていたにも関わらずだ。
傷が勝手に再生していき、当たり前のように空を飛び、リジェネを蹴り飛ばし、先程投げた相棒によってさらに加速して縦横無尽に二人のイノベイターを屠るエリオに対し、刹那は遅すぎるとの感想さえ抱いていた。

「エリオ!?一体、なにが…」

「ご心配をおかけしてすいませんでした。」

動きを止め、はにかんだ笑みでエリオは状況が飲み込めないティエリアに頭を下げる。
その瞳を、刹那と同じく金色に輝かせながら。

「自分でもよく理解できないし、上手く説明できません。けど、なんとなくわかるんです。」

上を見上げ、赤く染まった飛竜の背中でうすら笑いを浮かべる少女に穂先を向ける。

「僕が、キャロを止めなくちゃいけないんだって。」

エリオの姿が消えた瞬間、フリードが咆哮する。
翼にしがみつく主の脅威を振り落とそうとロデオのように暴れまわるが、生憎エリオの狙いはキャロではない。

「ハァッ!!」

エリオが雷を纏わせた槍を翼膜へ一閃させる。
そう、狙いはたった今暴れているフリード自身である。

「GAAAAAAA!!!!!!」

フリードの翼がピンと張りつめて動きを止める。
同時に、巨体を空にとどめるだけの浮力を得られずに落下を開始した。
だが、

「役立たず。」

キャロは苦虫を噛み潰したような顔でそう言い捨てると、自分だけ宙に浮いて落下を免れる。

「GUUUUU……」

遠ざかっていく主の、いや、心を通い合わせた友人を見つめながら飛竜は遂に堪え切れずに涙を流した。

いつか、元に戻ってくれると信じていた。
信じようとしていた。
どれほど彼女が冷徹で、残酷に成り果てようとも、きっと自分で過ちに気付いてくれると思っていた。
だが、今やっと理解した。
自分が愛し、仕えた少女はこの世にいないのだと。

自身を覆う土煙とドスンという音にフリードは死を予感する。
この巨体があの高さが落ちたのだ。
如何に竜種といえど、無事で済むはずがない。
そう思っていた。

なのに、痛みがない。
冷静に体の各部を確認するが、最初に受けたスタン以外にダメージが見当たらない。
これはどういうことなのか。

「ク……!!やっぱり、少し重いな……」

答えは、彼の腹の下から響く声が教えてくれた。
愛槍を大地に突き刺し、小さな体にありったけの力を込めてフリードを持ち上げてくれている。
エリオによって、フリードは地上に激突する事態を免れることができたのだ。

「っと……ごめんね、フリード。キャロの相手をしながらだと、君を傷つけない自信がなかったから。」

ゆっくりと地上に降ろし、エリオはフリードの鼻を優しくさする。
不意に香る汗の臭いで、六課時代の記憶が昨日のことのように脳裏によみがえってくる。
どこか頼りなくて、あどけなさが残っていたあの少年。
その少年が、自分の前で微笑んでくれている。

「ねぇ、フリード。君は、キャロが今のままでいいと思う?」

良いはずがない。

「今のキャロに、何のためらいもなく力を貸せるの?」

そんなわけがない。

「……こんなこと言えた義理じゃないのはわかってる。だけど、力を貸してほしい。」

エリオが泣いている。
これだけ傷つけられても、キャロのために自分へ頭を下げて涙を流している。

これで何もしないのでは、飛竜の名が廃る。

「GAAAAAAAAAA!!!!」

それは、今までで一番力強い声だった。
迷いがなく、そして強い決意と喜びを伴った咆哮。
けたたましくも澄み切った叫びはキャロの元にも届き、彼女はいっそう不機嫌そうに顔を歪める。
だがそんな彼女の様子も気にする素振りも見せず、フリードは起き上がってエリオの前で腰をかがめた。

「いいの?」

愚問だ、とばかりにフリードが鼻面でエリオの背中を小突く。
初めは信じられないという顔で呆けていたエリオだったが、笑顔でうなずくとヒラリとその背に飛び乗る。
背中の重みでエリオが乗ったことを確認し、フリードは再び空へと飛び立つ。
かつての友が待つ空へと。

「……裏切り者。」

彼女と同じ高さまで到達したとき、最初にかけられた言葉がそれだった。
侮蔑の視線を向けられ、それでもなお一人と一匹はまっすぐにキャロを見つめる。

「役に立たないだけじゃなくてご主人様に盾突くなんていい度胸だね。」

「そんな風にしか考えられないからさ。前の君なら、そんなことは言わなかった。」

「赤の他人に私のやり方をどうこう言われる筋合いはないよ。道具は道具らしくしていればいい。それの何がいけないの?」

「……わかった。もう、黙れ。」

エリオはフリードの脇腹を両腿でしっかりと挟み込む。
電撃をストラーダに集中させ、巨大な光の刃を形成すると、前屈みになって突撃の準備を完了させる。

「それ以上、フリードを侮辱するな。」

フリードが加速しようと翼を振り下ろそうとする。
その時だった。

「どうでもいいが、」

「後ろががら空きよ!!」

無警戒だった背後からリヴァイヴとヒリングが迫る。
だが、彼らは根本的な勘違いをしている。
エリオは無警戒だったわけではなく、信頼していたのだ。
あの二人が、必ずフォローしてくれると。

〈Sonic shooter!〉

〈Snow blow!〉

風雪が怒涛のごとくイノベイターへと押し寄せる。
そして、押し寄せるにとどまらずその中から現れた刹那の刃によって一気に押し戻されてしまった。

「すいません、刹那さん。」

「気にするな。それより、お前はお前のすべきことをしろ。」

刹那はエリオに背を向けたまま語りかける。

「取り戻すんだ、お前の大切な者を。」

「はい。」

エリオは雷の槍を、刹那は回収した実体剣を握りしめて気合を入れなおす。
なぜなら、彼らは知っているのだ。
自分たちの敵が、この程度で倒れてくれるほど生易しくはないことを。

「やってくれるじゃない、人間!!」

ヒリングが恐怖心を怒りにすり変えて爪を光らせる。
リヴァイヴはヒリングのようにあからさまではないものの、やはり同様に激昂しているのが刃を交えずとも分かる。
感情爆発によって極限まで引き上げられた魔力が荒れ狂い、周囲の大気を歪ませていた。

しかし、ティエリア、そして刹那とエリオに恐れはない。
それに、頼れる仲間も彼らの援軍に駆けつけた。

「刹那ーーーーーー!!!!」

空色の鎖がヒリングとリヴァイヴへ蛇のようにうねりながら迫る。
ヒリングがそれを斬り払うが、そのわずかな隙さえあれば刹那には十分だった。
ライフルモードに切り替えたD・ダブルオーで一面に魔力弾をばらまくと、上からやってきたジルが左肩へと舞い降りた。

「ジル、どうやってここに?」

「あいつだよ。」

上を見ながら手を振るジル。
銀髪の戦乙女もそれに応えるようにフッと笑みを向けるが、すぐさま愛機と共にもう“二人”の援軍を送り届けるべく戦場の空を駆けていった。

「あいつは……まさか、ジル!」

「責めてやるなよ、刹那。あいつが自分で望んだことなんだ。それに…」

目の前でいきり立つ敵を顎で指してジルは刹那の胸の前まで移動する。

「ジル!?なにを…」

「融合騎が相棒と何するかなんて決まってんだろ。ぶっつけ本番だけど……ここでミスったらリインフォースに会わせる顔がねぇぞ!」

その瞬間、刹那とジルの放った光で、周囲の色彩は蒼で制圧された










金属の塊を受け止める度に腕がしびれる。
だけでなく、幾層にも重ねられたシールドも紙きれのようにあっさり破られる。
接近戦を嫌って離れようと一瞬で間合いを詰められて再び十度近くもの打ち合いを強いられる。
その攻防に傷一つ負わずに耐えてくれるD・クルセイドには感謝しても足りないくらいだが、仮にD・クルセイドが破壊されずともユーノの体がもたない。
ならば援護を期待したいところだが、それも望み薄だ。
なぜなら、すでにそばにいるフェルトでさえユーノとソリアの攻防に目がついていっていないのだから。

「狂ってるな。」

アームドシールドの刃でソリアのメイスを受け止めたユーノが鍔迫り合いの最中に呟く。

「肉体が許容できる強化の度合いを完全に超えている。」

「丈夫に作られてるおかげで今のところ異常は出てねぇ。モトになった奴がゴキブリ以上にしぶといからかね。」

「……そこまでしてか?」

「そこまでして、だ。それともなにか?俺たちのこの力が今のこの世の中で他に使い道があるとでも?」

「武器は人を殺さない。武器を人殺しの道具にするか誰かを守るための道具にするかは人間次第だ。」

「理想論だなっ!」

ソリアが柄を両手で握り、渾身の力で上へと振り上げる。
甲高い摩擦音をあげながらアームドシールドを握るユーノの右腕が上へと跳ね上げられる。
だが、側頭部へ叩きこまれるはずだった反対側の金属塊をチェーンバインドでぐるぐる巻きにした左腕で受け止めた。
と同時に、激しい爆発で両者の間合いが再び大きく開く。
しかし、両者の払った代償の大きさは明らかだった。

「左腕を犠牲にするか。どっちが命知らずだか。」

「最善の選択をしたつもりなんだけどね。」

とはいえ、血塗れの左腕はしばらく動きそうにない。
チェックメイトを避けるためとはいえ、ソリアを相手に大きなハンディを負ってしまった。

(どうするかな……できれば遠距離戦に持ち込みたいんだけど。)

察するに、ソリアのデバイスは接近戦タイプ。
距離を置いて砲射撃で攻めるのが吉だろう。
だが、ユーノもどちらかといえば接近戦型。
手数、威力のどちらの面から鑑みてもライフルだけでは心もとない。

「どうした?来ないならこっちから行くぜ?」

ユーノの考えていることを見透かしているのか、ソリアはグッと腰を落として重心を前へと倒していく。
加速をつけてのソリアの連撃を受け止められるのは良くて二回まで。
いよいよ八方ふさがりである。

(まあ、フェルトに大丈夫だって言っちゃった以上、どうにかするしかないよね。)

腹をくくってユーノも前へと出る決意を固めた。
その時だった。

(後ろに下がれ。)

「え……?」

聞こえるはずがない声。
念話で聞こえるはずがない声。
しかし、ユーノは呆気にとられつつ、なにかに引き寄せられるように後ろへ飛ぶ。

「逃がすか!」

ソリアがものすごい加速で迫ってくる。
だが、そんなことはユーノにとってすでにどうでもよくなっていた。
ただ、念話に耳を傾けることに全神経を持っていかれていた。

(ユニゾンするぞ。いいな。)

「そんな、こと…」

できるはずがない。
なぜなら、ユーノの相棒はユニゾンデバイスではないのだから。

だが、ユーノのすぐ後ろまで来ていた967はすでに事実として同調を始めていた。

「ユニゾン……イン!!」



10分前 プトレマイオスⅡ メディカルルーム

「ハァ。まったく、こんなに暴れまわられたのではおちおち調整もしていられないな。……いまさらではあるが。」

「本当にいまさらだな。」

「てか毎度のことだけど。」

呑気、どころかTPOという単語をあなたはご存知かと尋ねたくなるような言葉を口にしながらようやくジェイルはメディカルルームから出てくる。
彼に言わせれば、こんな時だからこそ967用のボディの制作を急いでいたのだが、そこはやはりユニゾンデバイス。
今まで作れなかったものがピンチになったからといって完成する物ではなく、むしろジルの調整が終了しただけでも儲けものだ。

「……ユーノは…」

「ん?」

「ユーノは……俺なしで勝てると思うか?」

「“何に”が抜けているが、今回に限って言うなら危ないかもしれないね。ついでに私たちもかなり危ない状況下にある。」

その時、曲がり角からにゅっと黒光りするボディが出現する。
六角形の胴体の下にある機関銃を右へ左へ細かく振りながら、カメラに写る者を獲物と認定していいのかどうかを思案し始めた。

「ほら、早速トラブルだ。」

「言ってる場合か!」

オートマトンの掃射をかわすなどという芸当、ジェイルには望むべくもない。
ましてや、破壊することなど絶対不可能だ。

万事休す。
のほほんとした顔でジェイルがそう考えた時だった。

「何をしてるんですか?」

金属製の胴体を紙きれのように無数の刃が突き破る。
それでもしばらくはオートマトンもガクガクとその場で震えていたが、完全に機能が停止すると糸が切れたマリオネットのように床の上にへばりついた。

「非戦闘員がいつまでもこんなところにいない方がいいですよ。」

〈非常識この上ない。〉

「ハ……ハハハ………もっと言ってやってよ。この命知らず二人に。」

リインフォースとマレーネのため息と同時にジルは気休めにしかならなかったであろう防御魔法の術式を解除する。

「こ、腰が抜けた……」

「なんだ、意外とだらしないね。」

「オイラはお前みたいにオツムのネジが吹っ飛んでないんだよ。」

「それは良かった。是非ともそのまま健全な精神を保っていてくれたまえ。それはそうと、リインフォース。なぜ君がマレーネと?」

「ウェンディにルーチェ・ハイドレストと交戦時に助けてもらいました。そして、AMF下での戦闘が不利な私を逃がすために彼女はそのまま単独で……」

「そうか……」

この時、ようやくジェイルの顔に緊張が奔る。
今、プトレマイオスの防衛を一手に引き受けているのはISが使え、身体能力が抜きんでているウェンディだけだ。
しかも、外での戦闘も押されつつある。
リインフォースと967が嗜んでいたチェスでたとえるなら、中盤の後半、相手はこちらの防御を取り囲んで一斉攻撃態勢の一歩手前。
しかも、こちらの攻めの頭を完全に抑えている。
こんなところだろうか。

「せめてこちらにも戦況をひっくり返すような……クイーンをもうひとつ追加なんて無茶をしたいところなんだがねぇ。」

「ルールって知ってるか?ゲームに限らず世の中はそいつに基づいて動いてんだよ。無い物ねだりは……」

「………いえ、可能ですよ。」

冗談交じりでぼやいていたジェイルだったが、リインフォースの言葉に目を丸くしてそちらを向く。
ジェイルだけでない。
967の頭の上に腰かけていたジルも、リインフォースの脇に挟まれていたマレーネも、誰よりも967が。
一様に驚きの表情を浮かべる。
そして、967に至っては嫌な予感さえ感じていた。

「リインフォース、まさか……」

「知っていましたよ。まさか、隠し通せているとでも思っていたんですか?」

「女の勘、というやつかね…」

朗らかに笑い、リインフォースは肯く。
おそらく、彼女は967の隠しごとだけでなく、ジェイルが967に隠していたことさえもお見通しなのだろう。

「……本気かね?」

「ええ。この体が役に立つのなら、それでみんなが助かるのなら。」

「何の話をしている……?」

967が震える声で言葉を紡ぐ。
しかし、二人はそれを無視して話を続ける。

「幸福に生きていたいとは思わないのかね?不幸だった分だけ、今を精いっぱい生きてみたいとは考えないのかね?」

「結末がどうであれ、私の生涯はそれほど悪いものではありませんよ。それに、最後の最後にもう一つ希望を見出すことができた。」

「何の話をしていると聞いて…!」

「その希望の行方を見つめたくは?」

「そのためにも、あなたたちには生きてもらわなくては。」

「リインフォースッッッ!!!!」

耐えかねた967がハロのボディから自らの姿を投影させる。
普段のクールな彼からは想像もできないほど声を荒げ、顔を赤らめてリインフォースの間近まで迫る。
その鬼気迫る姿に、ジルとマレーネは口をはさむことも忘れておろおろと二人の顔を見比べた。

「お前は……!!お前はまた…」

「私は………」

半透明な967越しに、ジェイルは悲痛な顔でリインフォースに最後の説得を試みる。

「私は……私個人としては………君という存在を消したくない。」

「記憶は残ります。967に受け継がれる形で。」

「だがっ!!君という人格は消える!!上書きされ!!!いずれ完全に、最初から存在などしなかったことになる!!!!それでもいいというのか!!!?主と共に生きる時を捨てることになってもいいのか!!!!」

「……消えませんよ。」

リインフォースが苦笑する。

「主はやてが、ヴィータが、シグナムが、シャマルが、ザフィーラが私を覚えてくれている限り……プトレマイオスのみんなが忘れない限り、私は生き続ける。私の願いと想いは、彼らの中で永遠に生きるんです。」

リインフォースは、ジェイルの手から967を受け取る。
優しくホログラムの彼を抱き寄せるように。

「リインフォース、お前まさか…」

「適合率はほぼ100、でしたよね?時間がありません。早く始めてください。」

「………大馬鹿者だ、君は。だが、それを止められない私は御しがたいほど愚かだ……」

ジェイルはハロのボディの各所からコードを引っ張りだすと、持っていた注射針のような、それでいて機械的ななにかに繋ぐと、それをリインフォースの腕にスッと刺し込んだ。

「やめろジェイル!!!!リインフォースに何かあれば俺はお前を…」

「殺すかい?それは大助かりだ。自分で命を断とうとしてもきっとみんなが止めにかかるだろうからね。」

空中に出現したコンソールをこれでもかという勢いで叩くジェイルの顔は、何かしらの装置をいじっている時のような楽しさに満ちたものではなかった。
己の無力に悲しみを、にもかかわらず指先の動きはいつもと変わらぬ滑らかさを誇っていることに対する怒りを必死に押し殺している。
そんな表情だった。

「………最後通牒だ。このキーを押せばユニゾンデバイスである君のボディに967の意識を送り込むことになる。そうなれば、君の人格は967の人格に上書きされる形で消える。それでもいいのか?」

エンターの後にクエスチョンがついている画面だけを見つめながら、ジェイルは最後の確認をする。
できることなら、彼女が心変わりしてくれていることを祈りつつ訊ねた。

─────それで、結果が変わることなどないのだと分かっていながら。

「構いません。やってください。」

その言葉に、ジェイルはゆっくりとエンターキーを押した。
その瞬間は、不思議とやってしまったという感覚はなかった。
ただ、じわじわとリインフォースが粒子に還っていく姿を見ているうちに実感がわいてくる。
また、自分は一人殺したのだと。

「リインフォースッ……!!この、馬鹿野郎…!!」

「許してください、967。」

「許せるわけがないだろう……こんな…こんなっ……!!」

リインフォースは触れることのできない967の額に自分の額をあて、目を閉じる。

「……なんにでも、いつか終わりは来る。明けない夜などないように、悪夢が醒めないことがないように……今日は、たまたま私の長い長い旅路が終わるだけ。辛かったけど、楽しいこともたくさんあった私の旅……その終着地に、ここは勿体ないほどだ。」

「だったら生きろ!!生きて歩み続けろ!!お前が本当に行くべき場所はここじゃない!!」

「……そうかもしれない。だけど、もう十分歩いた。目的地にはつけなかったけど、誰かが私の作った道を歩き、その先にある何かに辿り着いてくれるならそれでいいのです。ただ……」

もう、リインフォースの体は首元まで消えつつある。
そんな状態で、リインフォースは苦笑いを浮かべる。

「また勝手に逝ったと知ったら、主はやてはきっとお怒りになられる。だから…」



──────だから、伝えてくれ。あなたの魔導書は、たくさんの人のおかげで笑って逝けたのだと。世界で、最も幸福な魔導書だったのだと。

「これが私の最後のお願いです、967。私の、最初で最後の親友……」

「リインフォース!!!!!!」

満面の笑みで、悔いなど欠片もない表情で消え去るリインフォース。
その次の瞬間、967の視界もブラックアウトする。
しかし、数秒の間だけリインフォースの記憶と数字の羅列に彩られた回路を垣間見た後、物質世界へと引き戻された。

友の体を基として作られた肉体を持って。

「リイン…フォース……?」

手が震える。

空気の感触が分かる。
臭いが分かる。
カメラではなく、自分の目でジェイルたちを見ている。
センサーではなく、空気の振動が鼓膜を叩く。
自分の唾液の味が口の中でする。
いや、唾液だけではない。
塩辛い。
なぜだかわからないが、塩辛い。
これが何の味かわからない。
わからないまま、顔をあげて初めて分かった。
涙を流すジェイルの瞳に、黒い長髪の男が泣いている姿が写っている。
それが自分だと理解した時、967は知った。
この塩辛く、切ない味がするものが涙なのだと。

「リインフォーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!」

悲しく、救いようがない慟哭。
それが、ユニゾンデバイスとしての967の産声となった。



現在 キャンプ地

967と一つになった瞬間、ユーノにも見えた。
先程までの967たちのやり取り。
そして、リインフォースの記憶。
曇天の空の下、大地を血と鉄の鈍い輝きが覆う光景。
そこを、欲望に駆られた主人の命で守護騎士たちが数多の人々を蹂躙していく。
そんなことを繰り返しながら、最後には全てが滅ぶ。

だが、それも一人の少女によって終わりを迎える。
足が自由に動かない少女は、それでも明るく毎日を過ごす。
守護騎士と魔導書を家族とし慎ましやかだが、平穏な暮らし。
いままでそんなものを与えられたこともなかったし、自分から望んだこともなかった。
だけど、与えられて初めて知った。
いや、思い出した。
平和の尊さ。
何気ない日常の大切さ。
知って、自分にそれを享受する資格などないのだと。
血に塗れたこの身はここにあってはならないのだと。
だけど、それでも少女は言ってくれた。

『闇の書もみんなも、私の大切な家族や!』

幼い日のはやては、物言わぬ魔導書に満面の笑みでそう言った。

しかし、魔導書は彼女のもとを去っていった。
ただ、その幸せを祈り。
満たされた心で、決して幸せではない生涯を幸せだったと言って。

「馬鹿野郎……!!」

また救えなかった。
なのはたちと誓ったのに。
もう、あんな悲しみを繰り返さないと。

父と死んでいった仲間たちに約束したのに。
無慈悲な運命とやらに、もう二度と誰の人生もくれてやらぬと。

なのに、自分と967のためにリインフォースは自分を犠牲にした。





「バカヤローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

ユーノは叫ぶ。
黒に染まり、長く伸びた髪を振り乱しながら。
背中に生えた翠の双翼を激しく羽ばたかせながら。
右手に握った魔導書を涙で濡らしながら。
それはまるで、967のベースとなって人物、グラーベ・ヴィオレントが泣き叫んでいるようだった。

「ユニゾンしただと……!?しかも、その魔導書は!!」

「(……お前にはわからないだろうな。)」

右手の魔導書を開くと、勝手にページがめくれていく。

(あいつが何を想いながら逝ったのか……!)

「彼女が何を願ったのかも!!」

中程のページで止まったところで、二人は涙で視界を歪ませたまま、それでも一字一句間違えることなく読み上げていく。

「汝、儚き光を持ちし者。」

(なれど、宵闇を照らし、遍く者を導きし輝き。)

「詠唱…!させるかよ!!」

中断させようと距離を詰めにかかるソリアだったが、それをフェルトの砲撃とシルフィの拳が阻む。

「孫の見せ場を邪魔するんじゃないよ、クソッタレ。」

小さな手から放たれたとは思えないような衝撃が、盾を貫通してソリアの左腕を麻痺させる。
それでもなおソリアは前進しようとするが、もう遅い。

「闇を砕け…」

(漆黒より出でし者共を屠れ…)

「数多の空を包み、」

(雷鳴さえも超え、)

「夜天を守護せよ。」

(秘儀の領域と至高の神秘を記すもの…)

「(セファー・ラジエルの名の下に命じる!!)

大きな光の球が空へと撃ち上げられる。
ここら一帯、全てを照らすような柔かな輝きは、しかし真下にいたソリアに対しては破壊の驟雨となって襲いかかった。

「(リイン・フォース!!!!)」

巨大な魔力の塊から降り注ぐ幾筋もの砲撃。
傍から見ている分には綺麗だが、そのド真ん中にいる人間はたまったものではない。
なにせ、現在進行形で巨大クレーターを形成するような強烈な砲撃の雨。
ユーノが非殺傷設定にしていなければ十中八九、骨も残らないだろう。
巻き込まれないよう退避したフェルトとシルフィもこれにはもう形容する言葉も見当たらない。

「カッ……ハッ………!!」

月がその光を放ちつくして消えると、できたクレーターの真ん中には跪く人影が。
天に手をかざし、全開の防御壁と解呪能力の併用でダメージを抑え込んだソリアだがそれでも致命傷には違いない。
その証拠に、アイオーンによる肉体強化もすでに解除されている。

「勝負あり、だね。」

「ク……ぶっつけ本番でユニゾンを成功させ、さらには夜天の書に蓄積されていた知識を使用して新たな術式を組みあげるとはな……恐れ入ったぜ。しかし、そのカッコは何だ?俺たちへのあてつけか?」

(偶然だ、と言いたいが。ある意味必然だろうな。俺が彼の姿と記憶、そして志を受け継いだように、あいつの体もそれを全て受け止めてくれた。そして、夜天の書も。)

「セファー・ラジエル、すなわちラジエルの書、か……天使様にでもなったつもりか?」

「僕も967も君たちほど思いあがりは激しくないよ。僕はただの人間で、967はただのユニゾンデバイス。それだけさ。」

そう、もし天使や神のような万能の力があれば、きっとリインフォースだって……

「ただの人間、か。ククク………今はそれでいいさ。だが、お前たちはいつまでそう思っていられるかな?」

(なに?)

「いずれわかるさ。この世界の声を聞けば、な…」

自由のきかない体を無理やり起こし、フラフラとしながらもソリアは後ずさりを始める。

(このまますんなり逃がすとでも思っているのか?)

「君には聞きたいことが山ほどある。トレミーまで連れて行って洗いざらい喋ってもらうよ。」

「残念。デートのお誘いはありがたいが、先約があるんでな。」

突如としてゴッと猛風が吹く。
ユーノたちは顔を覆って砂埃を防ぐが、澄んだ機械音を察知するとすぐさま上を向いた。

「ソリアの機体!」

「脳量子波を使えることを忘れてたか?こんな割に合わない仕事に保険をかけないわけないだろ。」

「逃がさない!!」

〈Blast hound!〉

フェルトは咄嗟に砲撃を放つが、間に割って入ったプルトの掌に儚くも霧散してしまう。

「今度はこいつで決着をつけようぜ。あばよ。」

ソリアを手に包み、プルトはユーノたちを見下ろしながら離れていく。
まるで、自分たちこそが勝利者だとでも誇るように。










蒼い輝きが収束した時、刹那も新しく生まれ変わった相棒と共に姿を現した。
前髪に蒼のメッシュのラインが幾つも現れ、瞳の色も蒼に染まる。
GNソードⅡを模した実体剣は、エクシアが使用していたⅠ型のGNソードに似た形態に変化するが、エクシアのそれとは違って刃の部分が半透明の蒼い材質でできていて、柄の部分も刹那の手にピッタリと合う。
腰の両脇には魔力刃を展開する二本の白い柄がホルスターに収められ、さらに後ろには小太刀が装備されている。
が、なにより周りの人間の目を引くのが背中の翼。
空と同じ色をしたそれは、むしろ自分こそがこの大空なのだと主張するように大きく広っていた。

(ふい~。久々のユニゾンだから上手くいくか自信なかったけど、どうにかなったな~。マッドサイエンティストに感謝だな。)

「これは…」

(見りゃわかるだろ。ユニゾンだよ。あの変態に頼んでダブルオーの出力調整やらなんやらのためにちょいとばかしいろいろいじってもらったのさ。)

得意気に語るジルだが、刹那は全くそんなことを聞いていない。
しかも、説明を受けるほどに混乱してくる。
そもそも、初めにあったころに言ったはずだ。
自分は、ジルのロードになる資格など持ち合わせていない。

「ジル、俺は…」

(あ~ん?まさかここにきて拒否するなんて言うんじゃないだろうな?『俺にはお前のロードに相応しくない。』とか言ったらブッ飛ばすぞ?てか、話は後にしとこうぜ。)

ジルの意識が前方へ向いたことで、刹那もようやく魔力刃の接近に気がついた。
ユニゾンしたことに気を取られていたせいで周囲への警戒がおろそかになっていた。
その隙をつき、ヒリングが一気に攻勢に出たのだ。

(ボーっとしてると殺られるぞ!!)

五本の指から生えている魔力刃は一つに重なり、刹那の喉笛まであと少しというところまで迫る。

「もらったぁぁぁぁ!!」

「刹那!!」

ヒリングだけでなく、ティエリアも今回ばかりは目を覆いたくなる気分だったに違いない。
一秒後には戦友の顔が赤に染まって地上へ真っ逆さま。
そんなイメージさえ持っていた。

刹那の首まであと数mmのところで動きを止めたヒリングを見るまでは。

「……!?なにをしている、ヒリング!!」

何を考えているのか、ヒリングは後一押しで刹那の頭と胴体を泣き別れさせることができるにもかかわらず全く動かない。
それはリヴァイヴの叱責を受けても変わることはなく、唯一変化と呼べるものがあるとするならヒリングの顔が冷や汗と共に青ざめていくことだろうか。

「!!」

その時になってようやくリヴァイヴはそれが見えた。
刹那の体全体を覆う、透明だが、蜃気楼のように揺らめく何か。
それがヒリングの爪をがっちりと受け止め、さらには細いロープ状になって彼女の体を縛り上げていた。

(エアスプレンダー!)

ジルの声と共にそれら、ヒリングの体を拘束していた高密度の空気の塊が爆ぜる。
周囲との密度の違いで太陽光を屈折させながら散り散りになっていく様子は光のシャワーと呼ぶにふさわしい。
だが、密着状態から数百kgにも匹敵する衝撃を全身に受けたヒリングにはそれが天国からのお迎えが来た証に見えたに違いない。
もっとも、死に至る様なダメージを与えるようなヘマを犯すジルではないが。

しかし、ヒリングをあっさりダウンに追い込んだことで残ったリヴァイヴが認識を改めたようではあった。
自分の砲射撃が辛うじて届くギリギリの距離を保ったまま、今までのように強引な攻めに出ない。
それは相手が力任せで勝てる相手でないと認めた。
すなわち、今の刹那の実力が自分を上回っていると判断したわけである。
イノベイターである彼からすれば屈辱ではあるが、現実を受け入れないわけにはいかない。
そう、最終的に勝利を手にして、自分の方が優位種であることを証明すればいいのだから。
そのための屈辱なら、甘んじて受けよう。
冷静な、しかし怒りをたぎらせる頭でそう自分に言い聞かせたリヴァイヴは、最初の位置から動かない刹那を観察する。
小規模の嵐を鎧として身に纏い、じっとこちらを見つめるその姿は余裕さえ感じさせる。
ひょっとしたらもう勝った気でいるのかもしれないが、それがイノベイターにはなれない哀れな人間というやつの限界だ。

(あの防御……破る方法はある!)

要はあの風の動きを乱してやればいいのだ。
そして、風の動きを乱すのはそう難しいことではない。
障害物や外的要因を与えてやればいい。
強い風を防ぐために壁を前面に置くように。
団扇で新たに別の風を巻き起こすように。
通常、それらはあまりにも弱々し過ぎる場合がほとんどだが、リヴァイヴの手には人知を超越した力がある。
それを利用してやればいい。

「喰らえ!!」

通常状態での砲撃の連射を刹那に向けて叩きつける。
しかし、その程度では刹那の防御を打ち破ることはできない。
だが、それは砲撃の着弾点がてんでバラバラだった場合である。
リヴァイヴは的確に刹那の頭部へ砲撃を集中させているのだ。

「同位置に連続しての砲撃だ!いかにお前の防御が強固と言えどそう耐えられるものではあるまい!!」

確かに、刹那の発生させていた風の鎧は徐々に薄くなってきている。
このままでもしばらくは持つだろうが、もしも今より強力な一撃をくらえば間違いなく貫通される。
そして、リヴァイヴはズバリそれを実行しようとしていた。

「これで終わりだ……!」

カゴンと鈍い音が響く。
計6発ものカートリッジが排出され、リヴァイヴのランチャーの先端が開いて凄まじい光が砲門にチャージされていく。
今にも強力な砲撃が放たれようとしている。

しかし、それでも刹那は慌てる様子もなく黙ってリヴァイヴを見つめていた。

「刹那!!」

あまりの出来事に呆けて観戦に徹していたティエリアも流石に動く。
動かない刹那に代わりあの砲撃を防ごうと前へと出ようとするが、それは刹那自身が手で制して止めた。

「いいのかい?動くか彼に守ってもらわないと君は死ぬんだよ?まあ、誰が庇ったところで一緒に吹き飛ばせる自信はあるけどね。」

「……お前は勘違いをしている。」

ようやく刹那の口から言葉が紡がれる。
それを耳にしたリヴァイヴは嘲笑を漏らした。

「ああ、その役立たずのユニゾンデバイスのせいか?ユニゾンできたは良いが、適合率が低すぎて満足に体を動かせる状況じゃないというわけだ。」

「いや、正確にはダブルオーと俺のせいだ。」

「庇うのか?お涙頂戴はお呼びじゃないよ。」

「勘違いするなと言っただろう。俺が動かない理由は……これだ。」

刹那は空いていた左腕を一振りする。
するとどうだろうか。
あちこちで強烈な風が逆巻き、竜巻のようなものが幾つも出現する。
自然現象で生み出されたのではない、不自然な竜巻たちは空と地上付近の大気のバランスを崩し、地表を削りながら暗雲を周囲一帯に発生させた。
ここまでのものを見せつけられ、リヴァイヴは血の気を失った顔でようやく理解した。

「この防御……シュツルムガイストは俺の風撃変換とダブルオーが生み出した余剰魔力が生み出した副産物に過ぎない。」

(このトンでも防御、確かにスゲェんだけどコントロールが難しくってさ。慣れるまで時間かかっちまったよ。でも、もう自由に動いていいぜ、刹那。)

化け物だ。
黒雲から降り注ぐ雨に打たれながら、リヴァイヴは震えていた。
雨粒を弾き飛ばしながら、ゆっくりと前進してくるこいつは人間じゃない。
イノベイターに匹敵、いや、それさえも凌駕しうる存在だ。
いまさら、改めたはずの認識がまだ甘かったことを思い知らされる。
こんなやつに勝てるはずがない。

「刹那・F・セイエイ……」

(蒼の賢帝、ジルベルト……)

「ひっ!!」

刹那が右手のGNソードを振りかぶる。
蒼い瞳を、今度は金色に輝かせながら。

「(目標を駆逐する!!)」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

半狂乱のままリヴァイヴはトリガーを引く。
刹那から距離を縮めていたので、直撃は免れまい。
もっとも、それさえもシュツルムガイストは防ぎきるだろうが、だがしかし刹那は放たれた閃光の化け物へ手にしている刃を迷うことなく振り下ろした。

「な……!?」

「…んだと…!?」

ティエリアも、何よりリヴァイヴが驚く。
あの砲撃を、MSさえも落とせるのではないかと思えるほどの砲撃を刹那はこともなげに斬ったのだ。
真っ二つに分かれた砲撃は後方で二つ爆発を発生させたが、刹那はもちろんD・ダブルオーも無傷。
魔導士がこれを見ていたならば、悪い夢だと思いたいに違いない。
しかし、リヴァイヴの悪夢はまだ続く。

「蒼牙一迅……飛牙…!」

ガチンと刹那がGNソードを折りたたんだ瞬間、リヴァイヴの右胸から左腰にかけて袈裟掛けに一本のラインが奔る。
それはやがて傷となり、彼の体から血飛沫を噴きあげた。

「うわああぁあぁぁぁぁぁ!!!?」

(見えなかったのか?さっきの一撃の時、斬撃を飛ばしたのが。)

横から見ていたティエリアでさえ気がつかなかったのだ。
混乱していたリヴァイヴに見極めろという方に無理がある。

「い、痛い……!!こんな………こんなことが!!」

(ガタガタ騒ぐなよ。それくらいの傷で死ぬようなタマじゃないだろうが。)

「お前たちには聞きたいことが山ほどある。一緒についてきてもらうぞ。」

恐怖するリヴァイヴなど気にせず、刹那は彼を拘束しようと手をかざす。
だが、その手をめがけて鈍色の弾丸が唸りを上げて迫ってきた。。
着弾する前に気が付き手をひっこめた刹那だったが、今度は大きな影が飛んできて腹部に衝撃が奔る。

「悪いわね刹那!こいつらはあげられないのよ!!」

「クッ!」

咄嗟に剣を振るうが、ルーチェの背中が大きく裂けるにとどまり(もっとも、それだけでも十分に重症ではあるのだが)、今度はキャロと空中戦を演じていたエリオとフリードへ向けてライフルを連射した。

(刹那!!あいつら跳ぶ気だ!!)

ジルの警告に刹那、そしてエリオが動く。
しかし、二人が手を伸ばした瞬間には魔法陣がルーチェたちを別の場所へと運ぶ準備を完了していた。

「バイバ~イ♪次はMSでたんまりやりあいましょ。」

手を振るルーチェと後ろで恐怖と怒りで震えている、もしくは気絶している一行が消えると同時に刹那の刃が空を切った。

(刹那…)

「……俺はいい。それより……」

そう、フリードが悔しさを滲ませていた。
エリオに至っては、自分がそうしてもらいたいはずなのに、涙をこらえてフリードの頭をなでながら励ましていた。

「大丈夫だよ、フリード。きっと、キャロは元に戻る。そうさ……絶対………絶対っ…………!」

嗚咽を漏らすエリオを避け、刹那とティエリアにだけウェンディとマリーの念話が届く。

(ごめん、逃がしたっス。)

(いや、ウェンディのせいじゃない。むしろ、右脚をやられながらよくやってくれた。私が……ジルたちを送り届けた後でもっと早く戻れていれば…)

(誰のせいでもない。)

(そうだ。これは、僕たち全員の敗北だ。僕らの力不足のせいで、大きな犠牲を払ってしまったんだ…)

念話のした方へ刹那は振り向く。
そこには、黒い髪と瞳の、しかしいつもの優しげな雰囲気のままユーノがいた。

今回の一件、いや、今までの戦い根本である人物と一緒に。

「あんたも扉に手をかけたか……まさか、三人同時とはね。」

「……全てを話してもらうぞ、シルフィ・スクライア。ソレスタルビーイングと、それに関わる戦いの根源に存在する物を。」

刹那のひねりだした声は、現在プトレマイオスに残っている全員の意思を代表するものだった。













歩く先に道ができる
道があるから、それに続く者が生まれる






あとがき

はい、異世界のイオリア計画は次回の持ち越しの65話でした(オイ)
ついでに、次回からサイド二連戦の予定です(さらにオイッ!)
順番は未定ですが、『アンドレイが主役のティアナ復活フラグ』と『ユーノ……ってかイジられてるのはフェルトだよね?』の二つです。
サイドなのでサクッと更新できるとは思いますが、時間がかかったらごめんなさい(^_^;)
同時並行的に書いていって先にできたほうから上げていく、って感じにしようとは思ってますが、たぶんフェルト暴走回が先になると思いますw
ええ、完全に私の趣味の問題ですがなにか? (`・ω・´)キリッ
時間軸的にはヴィヴィオ救出してしばらく後、って感じです。
まあ、フェルトがどういう感じに暴走するかは見てのお楽しみ。(もしくは投石の準備を整えておきましょうw)
では、次回をお楽しみに。



[18122] side.3 うたかたのサルガッソ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/11/24 21:22
???

今、自分の頭が上にあるのか下にあるのかわからない。
宇宙空間で何をもとに上か下かを判断するのかは分からないが、そんなことを考えてしまうほど彼は混乱していた。
機体の計器がなに一つ意味を成さない。
使えるのはメインカメラだけだが、この状況下では慰めどころか彼をさらなる絶望へと突き落とす。
目視できるものはデコボコした岩。
そして、最初期世代MSの残骸。
ぬっと突き出たまま動かない腕が、まるでおいでおいでをしているみたいだった。
お前も、この冷たい死の世界へ来いと手招きをしている。

「っえ!!げっえぇ…!!」

ついに耐えきれずに胃の中の物をぶちまけてしまう。
唯一救いだったのは、ぶちまけた先がヘルメットの中や無重力のコックピット内ではなく漆黒の特殊ゴム製袋だったことか。
エアーの残量にはまだ余裕があるのに、自分もあれの仲間入りをするのだと考えただけで腹の中が暴れ出す。
だが彼の腹具合には関係なく、最悪は大津波のように押し寄せて心をへし折りにかかる。
さっき撒いたはずのMS、ユニオンの旧世代機が追いついてきたのだ。
顔面やコックピットがつぶれ、腕部や脚部がありえない方向に曲がっているにもかかわらず。

「っ!!」

滑腔砲がこちらを向いている。
この距離では、ティエレンの装甲であっても貫かれる。

ここまでなのか。
父へのあてつけのように軍隊に入り、しかしそれでも父とは違うことを証明しようと躍起になって。
その結末がどことも知れない宇宙の片隅で、誰にも知られず、そして誰にも見つけてもらえずに息絶える。

嫌だ。
こんなの嫌だ。
一人にしないでくれ。

必死に通信を繋ごうと夢中に、それが正しい操作かもわからずに機器をいじり回す。
だが、通信機から聞こえてくるのはやはり砂嵐の音だけだった。

「死にたくない……」

彼は、遂に叫んだ。

「嫌だ!!俺は、俺はまだ死にたくない!!こんなところで一人で死ぬのは嫌だ!!」

孤独な叫び。
その叫びはどこにも届かない。
目の前にいる亡霊たち以外には。

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

力の限り叫んだ刹那、滑腔砲から銃弾が放たれた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian side.3 うたかたのサルガッソ



現在 アロウズ母艦 甲板

カランと乾いた音が深夜の甲板に響いた。
しかし、落とした銃を握ろうとしていたティアナの笑みはそれよりもさらに乾いている。

「やっぱり駄目、か……」

やはり、何度繰り返しても引き金を引けない。
いや、そもそもクロスミラージュを握れない。
そもそも、こうして床に落ちている相棒を見ているだけで全身が恐怖で震えてくる。

顔面を打ち砕かれる恐怖。
夢にまで現れ、ティアナを苦しめるあの痛み。
コックピットに座ろうとしただけで、クロスミラージュを握ろうとしただけで頭の中が真っ白になって叫びながら逃げたい衝動に駆られる。
主がどれだけ強がろうと、脳は覚えているのだ。
あれに立ち向かってはいけないと。
恐怖に屈するしかないのだと。
諦めにも似た、拒絶反応を以ってティアナに警告しているのだ。

〈Master……〉

「ごめん、クロスミラージュ……私、やっぱりこの艦を降りる。」

いや、そもそも局員を続ける資格などない。
恐怖に屈した人間など、居るだけで迷惑だ。
管理局にも、退職願を出そう。
そう思って自室へ引き返そうとするティアナ。
だが、その前に背の高い影が立ちはだかった。

「意外に脆いんだな。失望したよ。」

「アンドレイ少尉……」

なじりの言葉にも、今のティアナは反論することなどできない。
全て事実なのだから。

「……結局、これが私の限界だったんです。痛みや恐怖に屈する、弱い人間だったんです。」

アンドレイと目を合わせられず、脇をすり抜けて足早にその場を離れようとする。
だが、アンドレイはティアナに背を向けたまま声を張り上げた。

「そうだな。君は弱い人間だ。痛みや恐怖とまともに戦おうともせずに尻尾を巻いて逃げだす臆病者だ。」

アンドレイにしては珍しく、侮蔑の念を隠そうともせずに言葉を続ける。

「痛みや恐怖に屈した?それは違うだろう。君は屈するどころか向き合おうともせずに逃げた卑怯者だ。それを棚に上げて悲劇のヒロイン気取りか?自叙伝でも出したらに大ヒット間違いなしだな。同じような自己擁護、自己愛の塊たちが我先にと買い漁るだろうさ。」

あまりの物言いに、流石にティアナもキレた。
涙を浮かべたまま、怒りに任せてアンドレイの背中へ思いをぶちまける。

「逃げたっていいじゃないですか!こんなの……誰だって逃げたくなりますよ!!」

「それで、自分の守りたかったものを守れずに涙するのか?それでまた言い訳を重ねる訳だ。」

「少尉はあれを知らないからそんなことが言えるんです!!あんな思いをしたら…」

「残念だったな。」

アンドレイが振り向く。
さっきまでの嘲りを含んだ言葉を吐いていた人間とは同一人物とは思えないほどまっすぐな瞳で。

「さっき、体感してきたばかりだ。」



30分前 コックピット

「ぐ、あああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

アンドレイの腕に激痛が奔る。
視覚は肘から先が健在であることを認識しているのに、痛みが際限なく叫んでくる。
右肘から先を切断されたと。

「いけっ!!レモラ!!」

それでも痛みを噛み殺して有線兵器を仮想敵、戦闘データによって構築された盾持ちガンダムへと飛翔させる。
背中からケーブルを伸ばしながら鋭角に進行方向を変えながら突撃していったレモラだったが、機動力で勝る盾持ちは余裕を以ってかわして逆に銃口をアンドレイへと向ける。
だが、アンドレイの真の狙いは胸部に試験的に装備された拡散粒子砲だ。

「喰らえ!!」

トリガーを引くのは簡単だが、擬似体験する衝撃は相当なものだった。
試験型、しかも威力重視型だったため機体そのものが軋む。
それはつまり、アンドレイの脳がアンドレイの肉体がダメージを受けていると認識したことになる。
全身の筋肉が強張るようだが、それさえもアンドレイは奥歯を砕けんばかりに食いしばって堪え切った。

「く……つ……」

「少尉!!」

シミュレーターが終了した瞬間にルイスがコックピットを覗き込んできた。
何とも嬉しい出迎えだが、今のアンドレイの体は素直に喜びを表現できる状態ではなかった。

「准尉、すまないが……なにか飲み物を持ってきてくれないか?できれば、舌が痺れるくらい甘いミルクティーがいいな。」

アンドレイの冗談に呆れつつもルイスは安堵の笑みを漏らす。
そして、その希望に応えるために小走りにその場を離れる。
その間に、アンドレイは堪えていたものを爆発させる。

「くそ……これは、キツイな……!!」

いまさらながらティアナに尊敬の念を抱く。
こんな痛みに、しかも頭を吹き飛ばされて彼女は曲がりなりにも正気を保っていた。
本当に、尊敬に値する。
だから、彼女が挫けてしまう前に伝えなくてはいけないことがある。



現在 甲板

「そんなの……アンドレイ少尉がすごいからです。私は凡人で……間違いばっかりで……才能もなくて……」

「違うな。」

卑屈になっているティアナの肩に手を置いて、アンドレイは手すりから少し乗り出して海を眺める。

「自分も、ただの凡人だ。死に恐怖し、叶うなら這いずり回ってでもそれから逃げだそうとする……ごくありふれた人間だ。」

「そんなの、嘘ですよ。だってアンドレイ少尉は…」

「嘘じゃない。ただ、自分の後ろには守るべきものがあるだけだ。」

「守るべきもの……?」

「ああ、そうだ。何気ない日々の、何気ない人々の営み。この背中には、そういったものが乗っている。自分が、俺が軍人として生きることを選んだ時から。」

不意に、ティアナは気付かされた。
アンドレイの背中が大きいことに。
ただ表面積がティアナより大きいだけじゃない。
なにか大きなものを背負う、力強さがある。

「俺は、あの時にそのことを気付かせてもらえた。」

「あの時?」

「ああ。俺がまだ、士官学校にいた頃だ。」

照れくさそうに、そしてバツが悪そうにアンドレイは自嘲する。

「その頃はまだまだ青二才で、そのくせMS戦闘のシミュレーションや模擬戦では好成績を残していて……だから、自分じゃ気付かないけど天狗になっていたんだろうな。怖いものなんて何もない、なんて勘違いをしていた。あそこに行くまではな…」

月を映し出す穏やかな水面を見つめながら、アンドレイは誰にも語ったことのないその記憶を話し始めた。



6年前 旧人革連支配宙域

闇が広がる宇宙の海の中、アンドレイは破壊力など微塵もない銃弾を相手機に発射する。
絶妙のタイミングで放たれたそれは見事に顔面とコックピットをピンクの塗料で染めた。

『クッ…』

「こちらの勝ちだな。基礎マニューバが甘いぞ。」

パイロットスーツ、口の悪い連中は着る棺桶と呼ぶそれ、の頭部からクラスメイトに情け容赦なく指摘をする。
アンドレイの指摘通り、相手の士官候補生は確かに基礎の機動パターンが甘い部分がある。
が、それでもアンドレイにそのことを指摘されるのは甚だ不満だった。
その理由は、渋い顔をしているアンドレイのチームメンバーが教えてくれた。

『スミルノフ、何度も言わせるな。お前のせいで連携が乱れている。これで4度目だ。』

ほぼ同世代の説教にアンドレイも苦虫をかみつぶしたような顔で反論する。

「そちらがついてこれないだけだろう。自分の未熟を棚に上げるなよ。」

『これは集団戦闘の訓練なんだ。技術云々ではなく、連携の確認だ。』

『その通りだ。』

遠く離れた場所にいた教官も、他のメンバーに賛同する。

『スミルノフ。お前は確かに優秀かもしれん。だが、戦場は1対1の決闘場ではない。』

「教官!」

吼えるアンドレイ。
しかし、教官は首を振って裁定を言い渡した。

『反省文、ならびに追加講習の履修を命じる。各機、帰頭せよ。』

納得がいかなかった。
確かに連携を無視はしたが、それは他の連中が足手まといになると判断したからだ。
そんなやつらのために歩調を合わせるなどまっぴらごめんだ。
力無き軍人に、理想の軍など作れるものか。
世界の安定と、人々の平和など守れるはずがない。

そんなことを考えていた時、教官から再び通信が入った。

『スミルノフ、お前は死ぬのが恐ろしいか?』

唐突な質問だった。
しかし、当時のアンドレイにとっては自明の問いに憮然として答える。

「恐ろしいわけがありません!自分は、この世界の安定のためにいつでもこの命を…」

『そうか……俺は死ぬのが恐ろしい。』

遠い、どこか別の場所を見つめたまま教官は続ける。

『この宇宙で、誰の声も届かない場所へ行ったことはあるか?』

「……いえ。」

『俺はある。作戦行動中、仲間とはぐれてしまってな……この広い宇宙で一人きりになった。今、思い出しても背筋が凍る。味方の声はない、敵さえもいない。真の意味での孤独だ。まだ新兵だった俺には、それが死ぬほど恐ろしかった。』

フーと息が漏れるのが聞こえる。
おそらく、嫌な思い出を再び記憶の底に沈めるためにそれが必要だったのだろう。

『幸い、俺はすぐに発見された。その時、心底思ったよ。恐れを知らない人間などいないのだということを。俺はそのことを知ったおかげで、今まで生き残ることができた。』

「それは、自分が今のままではいつか自ら身を滅ぼすと言いたいわけですか?」

『さてな。どうなるかは俺にもわからん。なにせ、お前自身の問題だからな。』

再び回線が閉ざされる。
だが、教官の言葉はいつまでもアンドレイの頭の中でリフレインしていた。
そんなわけがないと、思っているはずなのに。



翌日 同宙域

今日もつつがなく訓練は進行中だ。
頭に入っているはずの連携についての講習と反省文を徹夜で書き上げたせいで瞼が少し重いアンドレイがいつもほど目立っていないだけで。

「う…ん……流石に眠いな。」

『ご苦労さん。これ以上睡眠時間を削られないように今日はせいぜい気をつけるんだな。』

『そうそう。寝ぼけてると“サルガッソ”に迷い込むかもしれないしな。』

お前たちさえついてこれれば、と言いたいが、いつまた教官にこんなセリフを聞かれるとも限らない。
壁に耳あり障子に目あり。
今日は彼らの言うとおり、大人しくしている方がよさそうだ。
しかし、

「なんだ、そのサルガッソというのは。」

『ああ、そうか。お前は昨日こってり絞られてていなかったんだったな。サルガッソってのはな…』



現在

「サルガッソ?」

「よくある怪談話の類さ。」

サルガッソとは、航海時代を中心に船乗りの間に語り継がれていた魔の海域である。
風が吹かず、さらに小舟でそこから逃げだそうにも海草がオールに絡みついて抜けだせない。
そして、食料も水も尽きてクルーが全滅すると、船だけが幽霊船としてその場に残り、いずれ朽ち果てて海の底に消える。
今でこそただの伝説として怪談話のネタにされる程度だが、昔の船乗りたちは本気でその海域の存在を信じ、おそれた。

「そこからもじって、宇宙でMSが原因不明の失踪をとげた宙域をサルガッソ宙域と呼ぶわけさ。まあ、実際には宇宙開拓の最初期のころ、技術の未発達が招いた事故を大袈裟に騒ぎ立てただけなんだろうがな。俺も、実際にこの目で見るまではそう思っていた。」

ティアナの目が見開かれる。

「行ったことがあるんですか!?」

「ああ。」

アンドレイは苦笑いを浮かべる。

「その日、あのMSの墓場に俺は迷い込んでしまったんだ。」



六年前 人革連小惑星地帯

この日もアンドレイは絶好調だった。
それはすなわち、チームメイトにとってはあまりよろしくない事態を意味する。

『前に出過ぎだスミルノフ!』

案の定、昨日の教官の苦言と夜通し続いた講習も無駄だった。
岩の塊を滑らかに避けながら敵陣へ先行するアンドレイ。
遥か後方に、仲間を置いて。

「遅いぞ……と、言ったところで無駄か。」

また合わせろと言われるのがオチか、と溜め息を漏らして再びティエレンを加速させる。
まったく、嫌な話だ。
なんで持っている技術を使うのがいけないのか。
それに磨きをかけることがそんなにいけないのか。
力を持たなければ、何も守れやしないのに。
あの男も、そのせいで母を見殺しにしたのに。

「ん?」

いつの間にやら友軍機の姿が完全に見えない。
どうやら、流石に早く来すぎたようだ。



いや、

(おかしい……)

いくらなんでもこの限られた訓練場所で友軍機の姿が全く見えないなどありえない。
そもそも、これだけ飛ばしているのに未だに接敵がないはずがない。

「お……うわっ!?」

酷い砂嵐の音にアンドレイは思わずうめく。
他の機体に呼び掛けようとしたのに、ただ鼓膜を痛めつけただけなど割に合わないなどというレベルではない。
しかし、これではまるで、

(……バカバカしい。)

いや、そんなはずはない。
サルガッソ宙域などよくある怪談話だ。
現実に存在などしない。

そのはずだった。

「!?」

眠気が一気に吹っ飛んだ。
そこは、まさにMSのカタコンベ。
忘れられた旧世代の機体たちの眠る場所。
通常のカタコンベと違うのは、およそ彼らの眠る姿は安らかとは思えないことだ。

(旧世代、それも最初期の機体か……)

ティエレンの宇宙用試験機。
イニティウムと呼ばれるヘリオンの最初期型。
リアルドの型落ち機。

そのどれもが修復不能なレベルで破壊されている。
パイロットの末路が容易に想像できるほどに。

(まさか、そんな……)

パイロットスーツの下で嫌な汗が滲み始める。
が、悪夢はここからが本番だった。

「……?」

気のせいだろうか。
いま、ヘリオンの指が微かに動いた気がする。
と、思ったのも束の間。
いつの間にか周囲を取り囲んでいたリアルドやヘリオンが一斉に動き出した。

「グアッ!?」

驚く暇もなく衝撃がアンドレイを襲う。
次弾が来る前に反射的にティエレンの滑腔砲の弾を実弾に入れ替えて、損壊の激しい旧世代機めがけて発射する。
すでに致命的だった頭部がダメージの上限をさらに超えて金属片をばらまく。
だが、それでも止まらない。
その金属のゾンビたちは、あるものはアンドレイのティエレンに群がり動きを封じ、またあるものはその仲間ごと滑腔砲でティエレンにダメージを蓄積させていく。

「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

叫んだアンドレイは力任せにゾンビを振り払い、向こうが攻撃を仕掛けようとする前に滅茶苦茶に弾を撃ち込んで原形を留めぬほどに徹底的に破壊した。
しかし、いかんせん数が多すぎた。
実弾を撃ち尽くしても、残っている敵は膨大だった。

「ハァッ!ハァッ!!」

ゾンビらしい緩慢な動きだが、着実に距離を縮めてくる。
武器はカーボンブレイドが残っているが、使用する場合はあの数が生み出す圧力に打ち勝たなければならない。
とてもじゃないが一人では無理だ。

「ハァッ!ハァッ!!ハァッ!!!!」

呼吸が荒くなってくる。
迫りくる死に、確実にアンドレイは恐怖を感じていた。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

半狂乱でティエレンを加速させて亡霊たちに背を向ける。
今までに感じたことがない、明確な死の予感から逃げ出すために。



現在

「まあ、君たちなら平気かもな。なにせ、魔法なんてファンタジーじみた力を使えるわけだからな。」

「とんでもない!私だって幽霊の相手なんて御免ですよ!」

自嘲するアンドレイにティアナはブンブンと首を振る。
魔法が使えようが、地球の人々が物語の中だけで語り継ぐ怪物の相手をできようと、死んだ人間の相手をしたことがある魔導士などそういない。
しかも、ティアナ自身も少し、ホントに少しではあるのだが、幽霊のようなオカルト話が苦手だ。

「でも、そんな状況でどうやって生き延びたんですか?」

敵は多数。
逃げ道はわからない。
そもそも、この世の場所かもわからない。
そんなところからアンドレイはどうやって脱出したのか。

そんなティアナの問いかけに、アンドレイはスッと目を細めて“彼ら”をのことを思い出した。

「幽霊は、敵だけとは限らなかったということだ。」

そう、妄執に捕らわれた怨霊だけでなく、希望を抱いて未知の領域へと踏み出した者たちの魂。
英霊もまた、そこにいたのだ。



六年前 サルガッソ宙域

小惑星の一つに身を隠しながら、アンドレイはいまさらながら震えを押し殺そうとしていた。

「っえ!!げっえぇ…!!」

だが、努力もむなしくアンドレイは胃の中の物を口からぶちまける。
落ち着こうとヘルメットを外していたため、辛うじて口元に袋を持っていけたが、この状況でそんなことなど瑣末なことだ。
もうすぐ、あいつらの仲間入りをする羽目になるかもしれないのだ。
冷静でいられる方がどうかしている。

(お、落ち着け……!落ち着けば、なにかいい考えが…)

しかし、いい考えとやらが浮かぶのを待っているほど亡霊たちはお人好しではない。

「っ!!」

バッと突然目の前に薄オレンジのヘリオンが姿を現す。
それだけではない。
ここにとどまっている間に、完全に囲まれてしまったようだ。

滑腔砲がこちらを向いている。
この距離では、ティエレンの装甲であっても貫かれる。

死を確信した瞬間、アンドレイの脳裏を走馬灯が駆け巡る。

満ち足りていたころの家族の思い出。
最後に見た母の顔。
教会のベンチにもたれて俯いている父の背中。

「死にたくない……」


その他の物すべても含め、たった今、この瞬間におけるアンドレイの記憶を占有していく。
そして、その全てが改めて脳裏に焼きつけられると同時に、アンドレイは遂に叫んだ。

「嫌だ!!俺は、俺はまだ死にたくない!!こんなところで一人で死ぬのは嫌だ!!」

その叫びは亡霊たちに届いているのかどうかは定かではない。
しかし、仮に届いていても彼らは止まりなどしなかっただろう。
なぜなら、彼らは生きる者を憎悪しているはずだから。

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

アンドレイが渾身の力で叫んだ瞬間、滑腔砲の引き金が引かれる。
しかし、その一撃はアンドレイのティエレンを貫くことはなかった。

「!?」

どういうことなのかさっぱり分からなかった。
亡霊たちの仲間と思われる、ボロボロのティエレンがヘリオンの腕にカーボンブレイドを振り下ろしている。
おかげで砲弾の軌道が逸れたが、アンドレイはキツネにつままれたような顔でしばらく動けずにいた。
すると、棒立ちのアンドレイをよそに、最初に現れたティエレンに続いて色違いの、やはり大破一歩手前のティエレンたちがAEU、ユニオンの機体と交戦を始める。
この状況においても何が起きているのか理解できないアンドレイ。
そんな彼の下に、暗号通信が届いた。

「帰頭、せよ……?」

アンドレイは助けてくれたティエレンを見る。
それは、いや、彼らは、アンドレイに肯いた。
そう、見えた。
続いて、さらに暗号通信が来る。

「お前の戦場はここではない……」

お前が守るべきものは、過去の遺物ではない。

そう送ってきた、指揮官機らしき灰色のティエレンは悲しげにアンドレイを一瞥した後、自らも亡者たちへ突撃していった。
そして、アンドレイはそれとは逆の方向に自機を飛ばす。
なぜそうしたのかは自分にも分らない。
ただ、そうしないと彼らの戦いが無駄になってしまう。
そう思った。
涙をこらえながら、振り向くことなくアンドレイはティエレンを限界まで加速させる。
そして、

『さらばだ、同朋。生きて……我々が守れなかったものを守ってくれ。』

最後に、確かにそう聞こえた。



現在

「……それで?」

「……気付いたらベッドの上だった。エアー切れギリギリで訓練宙域の外を漂っているところを救出された。その前のことはさっぱりだ。」

そう言ってアンドレイは苦笑しながら首を振る。

あとで聞いた話なのだが、あの宙域はもともと資源衛星の開発がおこなわれていたらしく、その折に各陣営の機体が小競り合いを起こしていたらしい。
宇宙開拓の初期には、不慮の事故を避けるために三陣営は宇宙空間における不可侵、戦闘の禁止を定めた協定を結んでいた。
だが、宇宙戦用MSが開発されると同時にそれはどんどん形骸化していった。
おそらく、あの時見たMSたちはその時代に犠牲になった機体のなれの果てなのだろう。

「いまでもあの時のことを思い出すと震えることがある。だが、それを理由に逃げ出したら、俺は彼らの魂に報いることができない。生かされた意味がない。」

その時、ティアナはようやくわかった。
アンドレイの背中は、守るべきものが背負っている。
それは、力を持たない人々であり、軍人としての誓いであり、先達の願いなのだ。
だから、アンドレイは強いのだ。

「まあ、とはいえ逃げ出さなくてもガンダムにここまで一方的に負け続けでは自分もえらそうなことは言えないがな。それでも、生きていれば挽回するチャンスはあるさ。そうだろう?」

アンドレイは手すりに両腕を置いたままティアナをちらりと見る。

「ランスター。君には譲れないものはあるか?死を前にしてなお、自らを奮い立たせるものは何だ?」

ティアナにとってのそれは、

「……友人です。そして…」

亡き兄の想い。
昔はその意味を履き違えていたが、いまならわかる。
きっと、ティーダもまたアンドレイと同じ気持ちだったのだろう。
無辜の人々を守りたいと、そう思っていたに違いない。

「私にも、受け継いだものがあります。それを、ここで投げ出すわけにはいきません。」

〈Start up〉

ティアナの手にクロスミラージュが握られる。
だが、さっきまでのように落としたりはしない。
震えながらも、自分の背負うものを投げださないために恐怖と戦うことを選んだのだ。
その姿に、アンドレイは頬をゆるめた。

「……!初めて、見た気がします…」

「え?」

「少尉が、そんな風に笑うところ……」

言われてアンドレイは思い返す。
確かに、アロウズに所属してからはずっと気を張りっぱなしだった。
そのせいで、周りにもそのピリピリとした雰囲気を伝染させていたのかもしれない。

(まだまだだな……)

年下の戦友の指摘に、おかしくてつい小さく声を出して笑ってしまう。
向こうもそれがおかしかったのか、同じように笑った。










翌日、久しぶりに戻ったコックピットは、ティアナには不思議と居心地が良く感じられた。






あとがき

これより少し多めくらいがちょうどいい字数なのになと思うサイドでしたw
一応コンセプトとしては、ユーノの「ファ○コンパーンチ!」のせいでティアナが一旦凹むんだけど、アンドレイのカコバナ聞いて心機一転して復活する、って感じです。
……うん、単純だなティアナ。
意外とスバル並みの脳筋なのか?
あ、俺のせいか……
不思議とノリノリで書けて「フェルト、いっきまーーす!」な話よりこっちの方が先に仕上がってしまった……
まあ、もともとこういう怪談(?)というか、宇宙で不可思議な現象に遭遇するみたいなのを書きたいと思ってて、サルガッソの伝説と絡めたものを考えていたので、そのおかげかもしれません。
ていうか、宇宙が舞台のSFで海とか航海系の用語がよく登場するのはなんでなんだろう……(^_^;)
というわけで(なにが?)、次回こそはフェルト暴走を投稿したいと思います!
楽しみな方も楽しみでない方も、石と精神安定のためのお薬各種をご用意の上でお待ちくださいw
では、次回もお楽しみに!



[18122] side.4 ママと呼ばれたいっ!
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2012/12/14 22:53
時間軸的には51話と52話の間。地球に戻ってきたばっか。メメントモリ破壊に向かう数日前くらいの頃だと思っといてください。


















将を射んと欲する者はまず馬を射よ。
古くからの故事で、大きな目的を達成したいならば、まずは小さなことから片付けていくべきだ、という意味である。
これは、われわれ現代人が何かを成し遂げるときに往々にして必要な心構えである。
そして、ここにもまたそれを実行しようとする者が一人。

そんな彼女の一連の努力を故事風に言い表すなら、『子持ちバツイチ(なのか?)男をおとしたいなら、まずは子供にママと呼ばせろ』だろうか。

これは、そんな一途(暴走しがちともいう)な思いに、周りの人々が(笑いすぎて)涙を流した、戦いの記録である………(田○トモ○ヲ風)


魔導戦士ガンダム00 the guardian side.4 ママと呼ばれたいっ!



プトレマイオスⅡ ブリッジ

彼女はそわそわしていた。
いや、今この場にいる者、そしておそらく別の場所で働いているみんなもさぞかしそわそわしていているだろう。
仕事も何も手につかない。
あんなあからさまに慌てて出ていった先輩に対し、やや理不尽な怒りを覚えるが、ミレイナはこの怒りを収めるために多少なりとも人的道徳に反する行動をとっても構うまいと考えていた。
そして、その想いをプトレマイオスのクルー全員(数名を除く)が共有、シンクロした瞬間、ミレイナ、スメラギ、アニューの三人は仕事を放り出して同時に立ちあがった。

「行くわよ。」

「はい。」

「ですっ!」

スメラギは不吉な笑みを浮かべながら。
アニューも笑ってはいるが、何やら不穏な何かを纏いながら。
ミレイナはどこから取り出したのか右手に禍々しいレンズを携えた小型カメラを握りながら。
三人の悪魔たちは、心癒される光景とそれを愉快なものに変えてくれるハプニングを期待しつつ、そして場合によっては(悪魔の微笑みを浮かべているくせに)キューピッドの役目を勤めるためにそこへと向かった。
決戦の地、プトレマイオスの食堂へと。



食堂・目標近くの机の下

ストーキング……もとい、スニーキングの基本は周囲に溶け込むこと。
対象に自分の存在を気取らせてはいけない。
たとえそこが、生物など皆無な人工物一色の場所であっても。
そして、目的が下らないものであっても。

(なにカッコつけてんスか!なんだかんだ言って覗きに来たくせに!)

(いでで!!押すな、はみ出るだろうが!!)

(お前こそ押すなラッセ!!)

目標二名の死角に位置するテーブルの物影。
そこに蠢く三つの影。

(だいたいラッセちんがいけないんスよ!ただでさえ筋肉がかさばるんだから!)

(誰が筋肉だ!!)

(君のことだ……って!?ウ、ウェンディ!?いろいろ当たって…)

(あ、いろいろとたっちゃった?もう、ティエリアのエッチ♪)

(フン!)

(あだっ!?殴ることないっしょ!?)

(うるさい!)

(どっちもうるさい!……あ、俺もか。)

かなり派手に物音を出しているはずなのだが、三人が観察している人物は膝の上にのせているヴィヴィオに全意識を向けているせいか勘付く気配がない。
その上、彼女のデバイスもこの状況を面白がっているのか、サーチで探り当てているであろう珍入者……もとい、侵入者たちのことを報告しない。
そう、計10名の出歯亀たちの位置情報を。



配給台の後ろ

(何やってるのよライル!)

(お前こそ何やってんだよこんな所で!)

(もちろん盗さ……じゃなくて、グレイスさんを温かく見守っているのですっ!)

(手にカメラ持ってハァハァ言ってる奴のセリフかっ!)

(あなたこそ望遠スコープ持ち出してるじゃない!)

(覗きに来たんだからお互い様だろ!)



ドア近くの机の下

(あそこまで接近するとは……なかなか挑戦者ね、みんな。)

(ていうか、スメラギさんいい歳して何やってるんですか……)

(アレルヤ、私たちも人のこと言えないわよ。あとクロスロードさんも。)

(いや、あの……なんか、気になっちゃって。)

(ほら!みんなだって気になって見に来てるじゃない!私を非難する権利なんてないわ!)

(……真剣な顔でそういうこと口にして恥ずかしくないんですか?)

(全然!)

(((胸張って言わないでくださいよ!)))



食堂

なぜだろう。
どういうわけか悪寒がする。
フェルトはブルッと体を震わせて周囲に注意を向けようとするが、絶妙のタイミングでヴィヴィオのインターセプトが入った。

「お姉ちゃん、どうしたの?早く続き~!」

「え?あ、ああ、うん。なんでもないよ?それじゃあ、お話の続きね。」

絵本のページをめくりながら、先程の悪寒のことなど忘れてこの至福の時を噛みしめる。
それはもう、ヴィヴィオに負けないくらいホワホワとした顔をしながら。

(ハッ!い、いけない、いけない……本来の目的を忘れるところだった。)

そう、今日ヴィヴィオの相手を(早めに本業を切り上げて)買って出たのは他でもない。
血が繋がらないとはいえ、彼女はユーノの娘。
すなわち、ユーノとしかるべき関係になった時には自分もまた彼女の親となるわけである。
なるわけであるが、今からママと呼ばれるようになったらどうなるだろうか。



以下、フェルトの妄想です

「フェルトママー。」

「まあ、ヴィヴィオちゃんてばそんな本当のことを♪」

「そうか~、フェルトママかー。それじゃあ、必然的にフェルトは僕の奥さんってことになっちゃうね~。」

「そうだね~♥」



妄想終了

今の内にママ認定を奪取しておけば前妻(?)に対して大きなリードを得ることができる。
そして、娘の心を掴んでおけば彼女を溺愛するユーノにもそれなりに効果がある。
上手くいけばそのまま……

「えへへへ……♥」

「?」

かなり先のことまで想像して笑みを浮かべるフェルト。
訝しげな顔をしているヴィヴィオの視線に気付いてすぐに表情を引き締めるが、それでもこの作戦が上手くいった時のことを考えると顔がゆるんでしまう。
そして、満を持してフェルトが動く。

「ねぇ、ヴィヴィオちゃん。ママがいなくて寂しくない?」

言った。
遂に言ってしまった。
ここで「うん。」という一言さえ引き出せれば、あとはこちらのもの。
それとなく「じゃあ、私がママになってあげる。」と言って(どこがそれとなく?)、OKがもらえれば……

「そんなことないよ。」

「……え?」

聞き間違いだろうか。
そんなことない?

「だってパパがいるんだもん!」

ユーノがまさかのライバル化。
太陽のごとき輝きを放つヴィヴィオの笑顔が、今のフェルトには眩し過ぎる。
なぜだか、視界も歪んでいる気がする。

だがしかし、こんなことで挫けるフェルトではない。
相手がユーノ大好きっ子ならば、搦め手で攻めるまで。

「じゃ、じゃあ、パパが寂しくないように…」

「パパにはヴィヴィオもいるしトレミーのみんなもいるよ?」

「えと、そういうことじゃなくて、パパがいたらほら。もう一人誰か…」

「あ!わかった!」

「そうそう!」

「なのはママ!」

今の心の傷を具現化できるならば、さぞかし巨大で重いタライがフェルトの頭頂部を直撃していたことだろう。

前妻のくせに、こんな時にまでしゃしゃり出てくるなどいい度胸だ。
いつの日か狙い撃ってやろう。
そう心に誓うフェルトであった。

そして、もう一人の方も心中穏やかではない。(どうやって察したんだ?とか言わないことw)



某所 某氏たちが居る場所

「っ!?」

「どうかしたんですかなのはさん?」

「うん……いま、なぜだか殺気が………それも、絶対に許しておいちゃいけないような類の…………」

「そういうなのはちゃんもなんかドス黒いをオーラを…」



プトレマイオスⅡ 食堂

前妻に今のところ遅れをとってしまっているのは仕方がない。
しかし、あくまで今のところはだ。

「で、でもほら!今は前さ…じゃなくて、なのはママとパパは一緒にいないよね!?」

「あ~、そっか~……」

ブスッとした顔でしょぼくれるヴィヴィオ。
これは、チャンスだ。

「だからね。パパやヴィヴィオちゃんのためにもママの代わりになってくれる人がいるといいんじゃないかなぁ~、って思うんだけど。」

「あ!それいいかも!」

喰いついた。
瞬間、フェルトの目がギラリと光る。

「だったら、トレミーのみんなの中からママの代わりしてくれる人を……」

「スメラギ“おばちゃん”が良いかな~?」

「……………………………」

ガラスのハートにラケーテンハンマーが直撃!
フェルトの心に300のダメージ!

今のフェルトの心理状態を表すとこんな感じだ。
そして、絶賛覗き見中の人々はと言うと……



ドア近くの机の下

(だぁーはっはっはっはっ!!!!)←ハレルヤ大爆笑

(ハ、ハレルヤ!駄目だよ笑っちゃ!……プッ!)←気の毒に感じてハレルヤをいさめつつ自分も笑うアレルヤ

(そ、そうだ……女心を察しないか!)←とか言いつつ口元を押さえて目が笑っているピーリス

(くっ……フフフ!ご、ごめんなさい、フェルトさん……ククク………!)←笑いをこらえるのと謝罪に精一杯のマリー

(あちゃ~……それは駄目だよ、ヴィヴィオちゃん。)←意外と冷静な沙慈

(………おばちゃん…)←面白いことになっているのにヴィヴィオのおばちゃん発言のせいで笑おうにも笑えないスメラギ



配給台の後ろ

(いや、あの人はママっていうより母ちゃんって呼ぶ方が正しい気がするがな。)←ニヤニヤしながら凹むフェルトを観察するロックオン

(まあ、綺麗だし歳より若く見えないこともないし。でも、普通なら私じゃない?)←何気にママ候補に選ばれなかったことに不服なアニュー

(でもでも、たぶんスメラギさんだとユーノさんがNOって言いそうです。)←失礼なことを言いながら、ビデオカメラを回すことは忘れないミレイナ



食堂・フェルトの近くの机の下

(親子というのはやはり似るものだな…って!いつまで人の体をまさぐっている!!)←セクハラに抵抗しつつもフェルトから目は離さないティエリア

(うわぁ、ダメージ大……あれはキツイ。)←セクハラしつつ観察続行のウェンディ

(お。でも、諦めるつもりはないみたいだぞ。)←二人のセクハラ攻防戦よりフェルトがどうするのかの方が気になって仕方がないラッセ



食堂

「な、なんでスメラギさんなのかな?」

「だって一番お母さんって感じだもん。」

そうだろう。
ある意味、彼女は四年前から年頃の女の子とヤンチャ坊主たちの相手をしてきた根っからの母ちゃんだ。
しかし、過去の栄光に屈してなるものか。

「で、でも、スメラギさんは……ほら!いろいろ忙しいし、もう“歳だから”ヴィヴィオちゃんと遊んでたら疲れちゃうよ!」

歳だから、のところでなぜか強烈な負のオーラを背中に感じたが気にしない。
とにかく、これ以上スメラギを母ちゃん認定させておくのはマズイ。

「うーん、そっか~……」

「そ、それよりね?ヴィヴィオちゃんに絵本を読んであげたり、いつもお世話してくれる人の方がパパは喜ぶと思うな~?」

露骨にアピール。
だんだんなりふり構わない攻勢に出始めるフェルトだったが、ここでもやはり、

「じゃあ、アニューお姉ちゃん!」

フェルトのハートの柔かい部分へのスターライトブレイカー!
フェルトの精神に998のダメージ!

残りHPは1。

頑張れ、フェルト。
その場にいた全員が、泣きだしそうな彼女へ声を出さずにエールを送る。
その効果があったのか、フェルトは再び立ち上がった。

「で、でもね。たぶん、アニューお姉ちゃんは他に好きな人ができると思うな~!例えば、ロックオンお兄ちゃんとか!」

配給台のあたりでゴンと音がした気がしたが、それよりも今はヴィヴィオだ。

ちなみに、あてずっぽうで言ったこの予言が的中していることをまだ彼女はこれっぽっちも知らない。

「え~?そうかな~?」

「そうだよ!だからね、ユーノのことが大好きな人が一番適任だと…」

そこまで口にして、「しまった!」と心の中で叫ぶ。
この流れでは、否が応にも言わなければならない。
今、誰がユーノのことを一番好きなのかを。
自分で自分を袋小路に追い詰めてしまい、フェルトはダラダラと冷や汗を流す。

「誰が一番ユーノパパのこと好きなの?」

今のフェルトにはこの純粋な瞳の方がMSのビームサーベルより何万倍も恐ろしい。
もしも、ここでヴィヴィオに本当のことを言ってユーノに知られてしまったら……



以下、再びフェルトの妄想です

「ごめん、フェルト。君の気持ちは嬉しいけど、やっぱり友達としか見れないよ。」

「そ、そうだよね……私なんかじゃ迷惑だよね…」

「ごめん、本当にごめんね、フェルト。」

「ううん、いいの……」



妄想終了

大変にマズイ。
こんなことになってしまったらもうお互い気まずくて気まずくて、今の良好な関係すらご破算だ。
なんとかせねば。
しなければならないのだが、

「………………………」

「?」

「…………………………………………(汗)」

「どうしたの?」

いい案が思いつかない。

(私以外の誰かを……ううん、駄目!そんなことしたらますます私の計画に狂いが……!だったらいっそ全部打ち明けてヴィヴィオちゃんに協力……)

「?」

(こんな小さな子にそんな器用なこと望めないよ!!ていうか、思いっきり『ママ=なのは』って思考回路してるのに助けてくれる保証なんて……)

「ねぇ、フェルト“お姉ちゃん”ってば!」

悩みに悩んでいたフェルト。
だが、しかしである。
お姉ちゃん。
たったその一言が、反射的に彼女にその言葉を口にさせた。

「お姉ちゃんじゃない!ママって呼んで!!」



「………………………」

「………………………」

(………………………)←スニーキング中の一同



「え?お姉ちゃんじゃなくてママ?なんで?」

(言っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

(言ったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?)

できることなら人目をはばからず床の上を転がりたい。
その上でどこか適当に穴を掘って(いや、穿ってが正確か)埋まりたい。
やってしまった。
もどかしさと欲望の狭間で混乱するあまり、ついにやってしまった。
ヴィヴィオに自分の野望をカミングアウト&ユーノに対する恋心を大暴露。

おしまいだ。
しかも、ただユーノが好きだと言うだけならとにかく、いきなりママと呼べとは荒唐無稽すぎる。
「何この人?マジ意味不明。」という冷めた視線でこちらを見ているヴィヴィオ(もちろん、フェルトの被害妄想)。
そりゃそうだろう。
自分でもそう思っているのだから。

「あ、あのね、ヴィヴィオちゃん。今のは、その、あれなの……つまりね、本来ならば論理的説明を要する……それでいて複雑怪奇で論理だけでは計ることのできない……」

しどろもどろでわけのわからない動きをしながら、さらにわけのわからない言葉を並べ立てる。
論理破綻を起こしかけていて涙目で幼子に話しかける人間が論理的などという単語を使っていいものなのだろうか。

こんな具合でますますどつぼにはまっていくフェルトだが、この突発的な勢い任せかつ事故のような告白に観察者諸兄の意見も様々なようである。



配給台の後ろ

(グレイスさんグッジョブです!!あとは夜にムフフな大人の時間を過ごして既成事実さえできれば……)

(ちょ、ちょっと待って!いくらなんでもそんなの駄目よ!不健全です!!)

何を想像(妄想とも言う)したのか、アニューは顔をトマトよりも真っ赤に、そして炎よりも熱くさせながらミレイナに猛抗議をする。

(こういうものはね、女の子にとっては大切なことなの!まずはちゃんとお互い誠実に向き合って…)

(中坊じゃねぇんだからそれはないだろ。むしろ俺は結果オーライだと思うぜ?あの二人だけじゃ進展するものもしないからな。)

(そんな!いくらなんでも無責任よ!あなた、あの子の人生に責任持てるの!?)

まるで小姑、しかも子供の教育方針にあれやこれやといちゃもんをつけるような嫌なタイプの小姑のようだとロックオンは思う。
そして、舌打ちの後、その考えをオブラートに包みもせずにぶちまける。

(俺たちゃあいつらの保護者か!?いい歳なんだからどうするかくらい自分で決めさせりゃいいだろうが!精神年齢老けすぎてんじゃねぇのか!?)

(な!?し、失礼な!!あなたこそ、子供みたいな理屈じゃない!!だいたい、いっつもいっつも…)

(20代なのに小姑みたいなこと言う奴よりは数万倍マシだね!!若人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて豆腐の角に頭ぶつけてくたばるぞ!?)

(ですです!!)

((ミレイナは黙ってろ(なさい)!!))

(なんでこんなときだけ息ぴったりなんですか!?)



ドア近くの机の下

(やったわね、フェルト!!あとは夜に既成事実を(以下ミレイナと同じ))

(スメラギさんっ!いくらなんでも悪ふざけが過ぎますよ!)

(けっ、おぼこちゃん気どりやがって。このくらいでギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ。あの歳の男と女がベッドで一晩一緒にいるくらい、大したことじゃねぇだろうが。俺だってだな…)

ハレルヤの物言いにピーリスが文句を返そうとするが、彼女はそれを断念せざるを得なくなった。
なぜなら、マリーが今までに見せたことがないような恐ろしい笑顔で、ピーリスを押しのけて表に居座り続けたから。

(あら、ハレルヤ?あなたがそこまで男女関係に詳しいとは思わなかったわ。)

声のトーンの違いに気付き、ハレルヤは盾にするかのようにアレルヤを表に出す。
が、

(アレルヤ、ハレルヤを出して。)

(い、いや、でも、あんまり強引に引きずりだすのは…)

(出しなさい♪)

真っ黒な笑顔の脅しに屈し、今度はアレルヤが逃げるようにハレルヤを人身御供に差し出す。

(お、おいコラ!!アレルヤてめぇ!!)

(ハレルヤ♪)

がっちりと肩に指が食い込む。
その光景に、先程まで興奮していたスメラギも戦々恐々といった様子で震えている。
逃げようとしていた沙慈も目の前に突き刺さったダガーを前に動きを止めざるを得なかった。

(あなた……昔、アレルヤの体で何をしたの?)

(あ、あのだな……あれは、その、あれだ………生きるために仕方なくだな……)

(誤魔化さずに正直に答えなさい?さもないと…)

〈Anfang〉

D・アリオスを起動させ、室内で振るうにはごつ過ぎる銃をハレルヤの額にゴリゴリと押しつける。

(あなたの脳漿をぶちまけちゃうYO☆)

(やめてぇぇぇぇぇ!!!!それ僕も死んじゃうから!?)

(ま、待て、マリー!!まずは落ち着いてだな…)

(私はちゃんと落ち着いてるよ~?まずは脚を撃ってね~♪)

(落ち着いて拷問の手順考えんな!!だからだな!!別に好きでやったんじゃ…)

(ふ~ん、好きでもないのにやっちゃったんだ……そんな男に生きてる価値ってあると思います?)

阿修羅だ。
阿修羅がいる。
この荒ぶる神を鎮める方法はただ一つ。
彼女の意向を汲んで首を縦か横に振るしかない。
この場合は、

((いいえ。))

横に振る。

(テメェらぁぁぁぁぁぁ!!!!)

(た、助けて!!)

(知らない。僕は何も知らない。何も聞こえない。)

(クロスロードォォォォォォォォォォ!!!!テメェあとで覚えてろ!!!!)

暴言や脅しも聞こえないふり。
とにかく、今のマリーとはどんな些細なことでも関わりを持ちたくない。
たとえ、何を犠牲にしてでも。

(ハレルヤ……少し、オハナシしようか?)

(いや、マリー、それはユーノのかの……いや、なんでもありません。)

ツッコもうとしたピーリスが閉口したところで、ハレルヤととんだとばっちりで巻き込まれたアレルヤの命運は尽きた。

(さあ、オハナシを始めましょうか……?じっくりと、ねっとりとね……!!)

(ちょ、ま……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!)

食堂のドア付近。
声なき断末魔でテーブルが揺れた。



フェルトの近くの机の下

(うおぉぉぉぉぉ!!?言っちゃった!?言っちゃったスよ!?)

(見てりゃわかる!静かにしてろ!!)

(し、しかし、これからどうするつもりなんだフェルトは?)

(ノリで言った感が満載っスからね~。いやぁ、私も気をつけよ。)

(人の振り見て我が振り直せって言葉知ってるか?)

(……大丈夫。そっち方面に関しては一応それなりに考えて行動してる……はず。)

自信がなさそうにラッセから目を逸らすウェンディ。
心なしかティエリアもバツが悪そうに二人とは反対の方を見ている。

(こっちもこっちでなかなかにめんどくさいな……)

〈わかるか?襲っちまえばいいのに、こいつときたら奥手でよぅ…〉

D・セラヴィーは続く言葉を発することを許されず、ティエリアの手によってスリープ状態にされてしまった。

ちなみに、同じことを言おうとしていたマレーネがその様子を見て言わなくて良かったと思ったとか思わなかったとか。



食堂

いまおそらく、自分は笑っているのにさぞかし顔色が悪いだろう。
こんなことならもっとクリスティナからいろいろと教えておいてもらえばよかった。
今更ではあるが。

「ねぇ、早く教えてよ~!」

しつこく催促するヴィヴィオがフェルトに残されている時間が少ないことを知らせてくる。

と、その時だった。
追い打ちをかけるように最悪のタイミングで元凶である人物がやってきた。

「ったく、誰も手伝ってくれないせいで整備にえらく時間がかかっちゃったよ。」

瞬間、フェルトの顔が比喩でも何でもなく真っ青になる。
そして、観察者たちも騒ぐのをやめて彼の方を見た。

「あれ、フェルト?ヴィヴィオの相手をしてくれてたの?」

(きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?)

(空気読めお前ーーーーー!!!!!)←ス○ーク真っ最中の皆々様

ゼリー飲料の容器を咥えながらやってきたユーノはフェルトと、その膝の上にいるヴィヴィオの方へと歩いていく。

「ヴィヴィオ~♪良い子にしてた~?」

「あのね、パパ。」

返事もせずにヴィヴィオはいきなり本題を切りだそうとする。
が、その気配をいち早く察知したフェルトは慌ててその口を押さえた。

「い、良い子にしてたよ~!!ね、ヴィヴィオちゃん!!」

「むがもが…」

「……どうしたの、フェルト?なんだかすごく顔色が悪いけど?」

「そ、そんなことないよ?ユーノ、眼鏡かけたほうがいいんじゃないかな?」

「いや、あれは伊達だから……」

明らかに様子がおかしいフェルトにユーノは怪訝そうな顔をする。
もうこの時点で計画もクソもあったものではないと思うのだが、それでも彼女は諦めずに足掻こうとしている。
だが、遂にフェルトの手の平から逃れたヴィヴィオが決定打を放った。

「ねえねえ、パパはトレミーのみんなの中の誰にママになってほしい?」

「ちょっ、ヴィヴィオちゃ…!!」

「へ?」

娘からの突拍子な質問に首をかしげるユーノ。
そんな彼の表情を見てもうやめてと叫びたいフェルトだったが、まだまだヴィヴィオは止まらない。

「パパが大変そうだから、フェルトお姉ちゃんが誰かにママになってもらったらって言ってたの。」

終わった。
燃え尽きた。
真っ白な灰になった。
サラサラと崩れ去って今すぐここから消えたいが、人間はそう簡単に灰になって消えはしない。
この先に待つ現実と対面しなければならない。

(ど、どど、どうしよう!このままじゃユーノに私のことが…)

考えただけで顔から火が出そうだ。
いや、既にそうなっているのかもしれない。
そう思えるくらいに顔が熱い。
次のユーノの発言によっては、この場で倒れてしまうかもしれない。

だが、事態は思わぬ方向へ転がり出す。

「アッハハハハ!そっか~、ママか~。」

完全に固まっているフェルトからヴィヴィオを取り上げて肩車をすると、ニコニコと笑いながら次のように言った。

「そうだな~……パパはなのはママが一番だけど、もしも誰かがヴィヴィオのことが大好きで大切にしてくれる人がいたら、その人にママになって欲しいかな。」

「え……?」

ユーノの声のトーンにフェルトの胸がドクンと高鳴る。
さっきの感じ、そして今のユーノの表情は本気の時のものだった。
どこまで本心だったのかは分からないが、少なくともヴィヴィオのことを大切にという点は間違いなく心からの言葉だったに違いない。

(私は……)

ユーノのことは好きだ。
だが、その感情を除いても、ヴィヴィオのことも好きだ。
一緒にいるだけで、その優しさやあどけなさに和まされる。
この笑顔を、守ってあげたいと思える。

利用しようとした人間がこんなことを言っても、ただ自分の行為を正当化しているだけに聞こえるかもしれない。
だけど、守ってあげたい、一緒にいたいという気持ちは本物だ。
だから、

「あ、あのね、ユーノ……」

「ん?」

意を決してズイッと前に進み出る。
もう小細工はなしだ。
この想いを、ストレートに伝える。

「わ、私ね……」

「う、うん…」

フェルトの気迫に押されてユーノはヴィヴィオを乗せたまま少しさがる。

「私ね、ヴィヴィオちゃんのこと、好きだし、守ってあげたいって、心から思ってる……」

(おおっ!)←出歯亀ズ

体が震えるが、勇気を振り絞ってこの想いを言葉に変える。

「だから、これからもずっとユーノと一緒にヴィヴィオちゃんのことを…!!」

(いけーーーー!!)←しつこいが本人たちより盛り上がっているかくれんぼ軍団

「あ、そうだ。」

良いところでユーノが何かを思い出したようにポンと手の平を叩く。
「空気が読めてない!」と、各所に潜んでいた面々は心の中で彼を叱責したが、次の瞬間には自分の心配をする羽目になった。

「ところでさ、なんで他のみんなはあちこちに隠れてるの?」

「……え?」

他のみんな?
何を言っているのか。
ここにいるのは自分たちだけのはず。
……はずだったのだが。

まず、すぐ足元にどこかで見たような眼鏡と筋肉とセクハラ娘。

配給台の影に収まりきらずに見えている菫色の髪。
その横にはいつの間にやら狙撃銃用のスコープと最新型のビデオカメラ。

とどめはドアの辺りのテーブル。
その下で血塗れの男がフルフルと首を振っている。
横には、殺す笑顔をあっという間に誤魔化し笑いへシフトさせる武装女。
気まずそうに視線を逸らす新米宇宙技師。
そして、娘の部屋を覗きに来たことがバレてしまった時の母ちゃんのような笑顔の戦術予報士。

どいつもこいつも、顔を紅潮させていくフェルトの視線を冷や汗交じりに受け止めていた。

「あ、あのね、フェルト。これには深~~~~いわけが……」

「~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっっ///////////////!!!!!!!!!!!!!!」

〈Force detonation!!〉



刹那の部屋

「ん?」

「あれ?今揺れましたかね?」

刹那とエリオはMS戦のストラテジー理論の教材から目を離して、揺れが伝わってきた方向を見る。
プトレマイオスが今いる場所が安全地帯ではあっても、敵と遭遇しないとは言い切れないが、それでも外部からの攻撃ならばもっと揺れが大きいはずだ。
それに、揺れはたった一度で収まってしまった。

「気のせいですかね?」

「わからん。が……」

無重力の心地よさに負けて眠ってしまったジルの頬をプニプニとつつき、刹那はフゥと息を吐く。

「大したことではないだろう。」

「……そうですね。」

そう断言する刹那に、エリオも同意して再びMS戦における戦略の授業を再開する。
メメントモリ攻略戦後、敵の攻撃が直撃したわけでもないのにしばらく食堂が使用できなくなるとも知らないで。



コンテナ

「いたた……酷い目にあった。」

ケホッと口から灰色の煙を吐き出してユーノはクルセイドライザーの整備に取り掛かる。
本格的な作戦は三日後だが、イアンとジェイルは治療中。
沙慈に手伝ってもらっているとはいえ、あまり時間に余裕はない。
そう、頭ではわかっているのだ。
なのに、先程のことが妙に気になる。

「しっかし、一体何だったんだろう?フェルトってば、デトネイションまで使って。」

理由を聞いてもフェルトは答えないし、スメラギたちはグランド・ゼロと化した食堂からそそくさと出ていってしまうし、何が何だかさっぱりだ。

「……そう言えば、あの時何を言おうとしてたんだろう?」

作業の手を止めて、フェルトが言おうとしたことを口に出す。

「えーと、確か『これからもずっと…』。」

「あーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

「おわっ!?」

叫びと共にいきなりフェルトが突撃してきてユーノを押し倒す。
無重力下で壁に押しつけられたユーノは苦しそうに呻くが、フェルトは構わず体を押しつけて黙らせようとする。

「い、言わないで!!思い出さなくていいから!!お願い!!」

「ゲホッ!!わ、わかった!!わかったから!!落ち着いてフェルト!!」

レスラーがギブアップを宣告するようにバンバンと壁を叩いたところでフェルトは落ち着きを取り戻す。
そして、訊ねる。

「……あの、最後まで聞こえてた?」

「……いや。」

「そ、そう、ならよかった……」

と言って、その直後に心の中で両手を地につけて自己嫌悪に陥る。
どうせなら邪魔者がいないここで告白してしまえばよかったのに。
我ながらヘタレにもほどがある。

しかし、フェルトは忘れていた。
今、自分たちが客観的にどう見えているのか。
そして、邪魔者ではないが、一人連れがいることをすっかり失念していた。

「パパ?お姉ちゃん?」

二人が仲良く声のする方を向くと、967を抱えたヴィヴィオが不思議そうにこちらを見ている。
そして一言。

「チューするの?」

この言葉に二人は互いに顔を赤らめて距離をとる。
それはもう、開き過ぎだと思えるくらいに。

「えっと、ごめんね……いきなり抱きついたりして。邪魔だった、よね?」

「い、いや、思った以上に柔か……じゃなくて、うん、気にしなくていいよ?」

ぎこちなく笑い合い、ユーノは再び調整に、フェルトはそのサポートを始める。
その様子をヴィヴィオの腕の中で見ていた967は笑いながらつぶやいた。

「フン。なんだかんだであいつも意識してないわけじゃないんだな。天然女ったらしめ。」

「なにが~?」

「今はまだ分からなくていい。が、いつかお前にも分かる日が来るさ。嫌でもな。」

首をかしげるヴィヴィオに967はもう一度笑う。
どうやら、今回の一件で一番うまく立ち回れたのは彼のようだ。









おまけ…………逆襲のオヤジ×2

コンテナ

地上降下後、食堂が使えないので各人思い思いの場所で食事をとっている中、病み上がりのオヤジ二人はと言うと……

「プッ!!クククククク!!!!こ、これは良い物を見せてもらったよ!!」

「良い仕事しとる。流石わしの娘だ。」

「はいです!」

編集された映像を食い入るように鑑賞するオヤジたちにミレイナは敬礼する。
だが、すぐにその後ろで微笑んでいるピンク色の髪をしたネメシスに表情が凍りついた。

「……ケルディム、フォースデトネイション♪」

〈Y,Yes,ma’am……〉

次の瞬間、コンテナが光に包まれながら大きく揺れた。




今日も、プトレマイオスは平和である。







あとがき

好き放題やったサイド4でした。
え~、まずはですね………
本当にどうしてこうなった!?(オイ)
自分で言うのもなんですが、良くも悪くもカオスすぎる。
「こんなのフェルトじゃねぇ!」とか、「もっとちゃんとしたカオスじゃないユノフェルが見たい!」って方は、一応次回に期待しておいてください。
二人の仲が少しだけ進展します。
そして、なのはの“オハナシ”リストにフェルトの名が追加されます(オイ!)
そして、フェルトはフェルトで“狙い撃つ”リストになのはを追加します(オイッ!)


※上の予告は20%の事実、30%の予定、50%の悪ふざけでできていますw


次回はいよいよ異世界のイオリア計画が断片的に明らかになっていきます。
シルフィの役割とはいったいなんなのか?
そして、トレミークルーがまさかの人物との対面!
などを予定しております。
よろしければ、ご覧になってください。
では、次回をお楽しみに!



[18122] 66.カルディア
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/01/05 19:53
15年前 ミッドチルダ 某所

「ねぇねぇ、おばあちゃん。あの話して~。」

「やめなよユーノ。おばあちゃんのする話ってウソばっかりじゃん。」

水色の髪をした少女が、その少女より女の子らしい少年の袖を引っ張る。
しかし、その少年は足を踏ん張って、二人よりも年上の少女の前から動こうとしない。

「おばあちゃんはウソなんてつかないよ。」

「でも、この間も真竜にパンチしてやっつけたなんて言ってたんだよ?そんなことできる訳ないのに!」

「おばあちゃんに不可能などないのだ!」

「それがウソじゃん!この前も、本当はレントおじさんが“じどうほへい”をやっつけてたのに、全部自分がやっつけたって言ってたじゃない!」

「あの時は食中りで調子が悪かったんだよ!ごちゃごちゃと屁理屈並べるんじゃないよ!可愛げのないガキンチョめ!」

「いたぁ!ぶったぁ!」

少女が半ベソで頭を押さえながら、おばあちゃんと呼んでいた少女から逃げていく。
そして、

「おばあちゃんのバーカ!若づくり年増!妖怪ババァ!」

「このガキは……!年長者への口のきき方がわかっていな……」

「子供相手に何をやっとるか。」

頬に刺青を入れた男が自称年長者の少女の頭へ拳骨を振り下ろす。
そのせいで彼女が痛みでうずくまるが、男は構わず少年の頭をなでる。

「まあ、話を聞くのは構わんが、与太話だと思っておけ。俺もこのばあさんに子供の時から耳にタコができるほど聞かされている。……そういうわけだから、俺の息子に妙なことを吹き込むなよ、シルフィ。」

男はそう言うと、舌を突き出していた少女を連れて先にテントの方へ行ってしまった。

「チッ。あいつも可愛げがなくなってきたね。今度シメとくか…」

「ねぇ、おばあちゃんあの話!」

「あ~、はいはい。分かったよ。ったく、この話を信じてくれるのはもうお前だけだよ、ユーノ。」

少年の隣にシルフィと呼ばれた少女は座る。
そして、遮るものなど何もない満点の星空を指さして語り始めた。
そう、

「むかーしむかし。つっても、ここじゃないどこか別の世界の昔話。その世界は、どこでもたくさんの人が楽しく暮らせるけど、どこかではたくさんの誰かが泣いている世界。どこにでもある幸せと、どこにでもある悲しいことがごちゃまぜになった世界。そんな世界に、たいていの人たちは満足していましたし、諦めていました。だけどその中に、一人だけその世界の明日を心配する男の人がいました。」

誰よりも孤独だったくせに、誰よりも人間を愛した男。

「その男の人は、みんなが笑える世界が欲しいと思うようになりました。頭の良いその人は、同じような考えを持つ人たちを集め、一緒に世界を変えようと頑張ることを約束し合いました。……そう、たとえ何十年、何百年かかっても。」

シルフィはその男のことを思い出し、感傷に駆られる。
目覚めるかもわからない眠りについた、彼のことを。

『また会おう。』

自分をこの世界へ送り出すために、最後に下手くそな笑顔でそう言ってくれたあの男の願いを叶えるためなら、呪わしい生を生きるしかないこの身体も愛せる。
だからあの大馬鹿野郎に、せめて一日だけでもいいから誰も苦しまなくて良い世界を望んだロマンチストに、その夢が叶った世界を見せてやりたい。
見せることができなくても、その夢をかなえてやりたい。
だから、自分は今もこの世界と、彼の眠る世界のために生きよう。
そして、次の世代に語り継ごう。
全ては無理でも、彼の純粋すぎる志だけは伝わるように。

「おばあちゃん?」

少年の声にハッとする。
どうやら、話を止めてしまっていたようだ。
しかも、涙ぐむなどというらしくないことまでしてしまった。

「ああ、悪いね。それじゃ、続きを話そうか。あのハゲ……いや若いころはまだ……いやでも、あの頃からハゲだったね。精神的ハゲ!小難しい理屈ばっか並べ立てて、人のことをバカ呼ばわりして…」

駄目だ。
やはりこらえきれない。
少年の顔が、あの男とダブる。
容姿は似ても似つかないのに、どうしてこんなところだけ似ているのか。
この、自分のことを憂う瞳が、どうしてこんなにも。

「おばあちゃん、泣いてるの?」

「……ああ、泣いてるよ。あいつのせいだ。あのハゲの頑固のクソッタレの…」

笑おうとするほどポロポロ涙がこぼれてくる。
笑っていてくれと言われたのに、笑えば笑うほど悲しくて泣いてしまう。

「だけど、誰にでも優しかったあの男……お前たちの、おじいちゃんのせいでね。」

そう言ってシルフィは声をあげて泣いた。
イオリア・シュヘンベルグのいない月を見上げながら。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 66.カルディア

ミッドチルダ 月面

そこは、地上の約六分の一の重力しかない世界。
大気も希薄で、ほぼ真空状態。
そんな代わり映えのしないミッドチルダの月が、唯一地球の物と違っている点を挙げるとするなら、双子であるということだろう。
惑星の周囲を回る二つの月。
そんな月の一つに、プトレマイオスは静かに佇んでいた。

「カルディア?」

「ああ。さしずめ異世界版ヴェーダってところかね。」

VTOLの操舵をティエリアに任せ、VTOLに登場している者、プトレマイオスに残った者も含めて全員でシルフィの話を聞く。

「資材に、協力者に、ついでに資金源。いやぁ、集めるの大変だったわ~。完成まで121年と5ヶ月13日かかったからね~。」

指折り数える我が祖母にユーノは頭痛を感じて呻く。
もともといろいろと規格外な人物ではあったが、まさかここまでやらかしてくれているとは。
ただでさえ、頭痛の種は山ほどあるのに。

『しかし、カルディア……“心”とはな。知識を名乗るヴェーダへのあてつけか?』

「学びて思わざればすなわち罔し、ってね。思うことができるのは心があればこそだろう?」

今の967にその言葉は重すぎた。
親友がいなくなったことを悲しむその心が、その親友の体に宿っているのだから。
いや、そう思っているのひょっとしたら967だけなのかもしれない。
ただ、ヴェーダの端末として生み出されただけ。
そして、与えられたのは肉体とは呼べないような機械のボディ。
はたして、今この体を動かしているものは心と呼べるのだろうか。
ただ0と1を羅列したシステムの組み合わせなのではないだろうか。
そんなことを考える度に、メディカルルームでのあのやり取りが思い出されてならない。



前日 メディカルルーム

机が揺れて紙の束が宙を舞う。
それはさながら白い緞帳がおろされたようだったが、967の気は収まらなかった。
こいつのせいで、かけがえのない友がまた一人、自分の前から姿を消してしまったのだ。
なぜ、許すことができようか。

「よせ、967。」

刹那に腕を強く掴まれ、ようやく止まる。
止まって、967はデスクに寄りかかったままのジェイルの前で泣き崩れた。

「あいつは……リインフォースは、死ななくてもよかったはずなんだ!帰る場所があって、待っている人間がいて、穏やかな日々を過ごせるはずだったんだ!」

ユーノはかける言葉も見当たらず、今まで見せたことがないほど感情をあらわにする967を黙って見つめていた。

「なんで、なんであいつがこんな……!なんで犠牲にならなくちゃいけなかったんだ!!」

ユーノの胸がズキリと痛む。
今頃になって、彼女の力を再び戦いに用いてしまったことに罪悪感を覚える。
今、自分の手に握られている分厚い本が、針の塊のように手を伝わって心を抉ってくる。

「……いつから。」

心の痛みを押し殺し、ユーノはジェイルに訊ねる。

「いつから、967やジルとユニゾンデバイスとサポートAIの融合の研究を?」

「それなりに前からさ。イアンにも協力してもらってはいたが、肝心なところは私だけでやった。彼は今回の一件とは関係ない。」

「こいつを責めないでやってくれよ!」

ジルがユーノの前で手を広げて立ちふさがる。

「オイラたちが頼んだことなんだ!だから…」

しょげるジルの頭に、刹那はコツンと拳骨を静かに置いた。

「……ごめん。」

「……俺も、気が付けなかった。」

「うっ……!」

顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら刹那の腕に抱きつく。
堪えていた痛みを解放するかのように。

「ごめん、刹那……!オイラが、オイラたちが止めてれば…」

「いいんだ、ジル。いいんだ…」

小さな背中をなでながら、穏やかに説く。
そして、ジルをなだめる刹那も遂に堪え切れずに涙を流した。

「お前のせいじゃない……誰のせいでもないんだ。」

四年前、ロックオンを失くした刹那にはわかっている。
こんな言葉が意味など持たないことを。
だとしても、今度は刹那がジルを支えなくてはならない。
あの時、自分たちを支えてくれたみんなのように。
そして、それはユーノと967も。

「967。」

「……わかっているさ。」

「だったら。」

「わかってるんだ。ただ……少しだけ時間をくれ。」

967がメディカルルームから出ていく。
その背中を見つめながら、ユーノは魔導書を握る手の力を強めた。



現在 ブリッジ

ユーノが画面の向こうで不安げにこちらを見つめている。
心配症が過ぎるといつも通り切って捨ててやりたいところだが、そんなことができるほど今の967に余裕はない。
それに、不安の種である自分がそんなことを言う資格などないのだから。

(まあ、今は俺よりも適任者がいるか。)

ユーノからしたら、第二の頭痛の種でしかないのかもしれないが、967は彼女に期待を寄せていた。
そう、彼女、フェルトならば、ユーノを精神的にサポートしてくれるのではないかという期待を。



前日 廊下

「あ…」

「あ……」

艦全体が重苦しい雰囲気に包まれている中、二人は偶然にも顔を合わせてしまった。

「やあ、フェルト。」

「う、うん。」

こんな時だから何を話していいかわからないし、あんなことの後だったからどう接していいかもわからなかった。
だからこそ、ユーノは意図的に避けてきたのに。

「……ごめん。」

「フェルトが謝る様なことじゃないよ。きっとリインフォースだって、そう思ってる。」

「違うの。」

ポスっとユーノの胸へ頭をうずめるフェルト。
不意打ちだったせいか、ユーノは呆けたまま前を見つめていた。

「私、ずっと自分の気持ちを誤魔化してた。本当は、あの人じゃなくて、自分の側にユーノがいてくれて良かったって思ってた。」

「それは……別に、誰でもそんなとこくらい…」

「いいの。私、自分を綺麗なままの姿に取り繕おうとしてた。だけど、それじゃ駄目なんだって気付いたの。だから…」

これまた不意打ちだった。
二回目のキスは、熱く、そして柔らかかった。

「負けないよ、私。もう、待つのはやめたから。ユーノが私のことを好きになるように、それと、私もユーノのことがもっと好きになれるように頑張るから。」

ユーノから少し離れると悪戯っ子みたいに笑う。
こんなフェルトを見るのは初めてだったせいか、それともさっきの口づけのせいなのか。
顔が、信じられないくらいに熱い。
けれど、

「ありがとう、フェルト。」

「お礼を言われるようなことじゃないよ?」

「それでも、言いたいんだ。」

フッと笑って、改めて言う。

「ありがとう。」

「……うん。どういたしまして。」

フェルトのおかげで、少し楽になれた気がする。
忘れていいことじゃないけど、後ろ向きになっていいことでもない。
これからも、前を向いて生きていける。
そんな気がした瞬間だった。



現在 VTOL

あの時の感触を思い出し、ユーノは顔を赤らめる。
不覚にも、思い出すたびに心地よさを感じている自分がいる。
自分には、なのはがいるのに。

(そ、そうだ!何を考えてるんだ僕は!!このすけこまし!!節操なし!!)

「……何を踊ってるんだ、あいつは?」

ロックオンが呆れ顔で落ち着きなく両手を動かすユーノを見つめている。
刹那もエリオも怪訝な顔をしているが、ユーノは自分の煩悩を追い払うのに忙しくてそんなことなど気にも留めていないようだ。

「……バカはほっとくとして、だ。着いたらあいつから説明があるだろうけど、先に大まかにだけどあたしがジジィの計画を話しておく。」

「あいつ?」

ティエリアが操縦桿を握ったまま振り返るが、その問いを無視してシルフィは続ける。

「まず、イオリアは紛争の根絶そのものを最終目的にしていたわけじゃない。紛争根絶はあくまで通過点に過ぎない。」

「じゃあ、何が目的なの?私たちは、一体何のために戦い、今も何のために戦っているの?」

スメラギは冷静になろうとしているのだろうが、語気に複雑な感情が入り混じる。
しかし、それは彼女だけではない。
ソレスタルビーイングの誰もが自分の意思で志願し、他者を傷つけ、後悔を重ね、それでも自分の足で歩き続け、そしてここまで来た。
心中穏やかではいられないし、同時に知りたいという欲求もある。
自分たちをここまで振り回してきたものが、一体何なのか。

その答えを、シルフィは語り始めた。

「あんたたち、本気で世界から紛争をなくせると思っているかい?」

「なにを言ってんだ、あんた。」

「僕たちはそのために…」

「仮に、だ。」

シルフィがロックオンとアレルヤの前に手の平を開いて差し出す。

「今、管理局が強権的な手段に出たり、アロウズとやらが好き放題やったりして世界から完全に紛争というものが無くなったとする。で、それで本当に終わりかい?」

「あり得ないな。」

ティエリアは再び前を向いて、その質問に答える。

「たとえそれで多くの人々が望む結果になったとしても、必ず火種は残る。それがいつ大火となって世界を焼くかは誰にもわからないだろうが。」

「そう。五年、あるいは四カ月。ひょっとしたら三週間。もしかしたら二日後。はたまた遥か先の千年後か。」

指を折りたたみながらシルフィはVTOLの中をぐるぐると歩きまわる。

「ならば、どうすればいい?目先の紛争根絶などまるで意味を為さない。むしろ、延々と繰り返すループに突入する。」

「だったら、話し合えばいいんじゃないですか?歴史がそれを証明している。」

「なるほど、確かにそれはいい考えだ。」

エリオを指さし、しかしシルフィは一ミリも笑わない。

「だが、残念ながらそれにはあまりにも莫大な時間がかかる。それこそ、人類が自らの手で滅びるのが先か、全ての問題を解決するのが先か。それもまた、我々が未だに争い続けているという歴史が証明している。そして、時計の針はある理由から加速しはじめている。話し合う余裕などなくなるほど、ね。」

「……異世界同士の相互干渉。」

「正解。」

シルフィは刹那に親指と人差し指で作った丸を見せる。

「神隠し、あるいは事故による失踪。それぞれの世界で昔から、個人レベルではあるけど別の世界への転移は起きていた。そして、それを受けて私たちは危惧した。もし、今の状態で、互いに巨大な火種を抱えたままコンタクトをとることになってしまったら…」

「最悪、個々の世界におけるワールドウォーの被害なんて目じゃないでしょうね。」

「そういうこと。だから、私たちは急ぐ必要があった……って、言うのは正直な話、あたしにとっては建前にすぎないんだよね、これが。」

「は?」

ロックオンがポカンとする。
それに倣うかのように、他のメンバーも肩透かしを食らう。

「ジジイには悪いけど、あたしは世界のためとか、そんな大層なことを考えたことなんて一度もなかった。」

そういうと、シルフィは壁に背中を預けて天井を見上げた。

「長生きしたところで、良いことなんて一つもありゃしない。人間の醜さ、クソイカれた世界の真実。何もかもを普通の人間より多く見つめていかざるを得ない。全ての滅びを望んだこともあったし、ずっと人の命なんてカスだと思ってた。だけどね……」

この時、全員がその話の続きを待っているのに対し、正常に戻っていたユーノだけが既視感にも似たものを覚えていた。
いや、正確には思い出した。
昔、何度もせがんだおとぎ話を。

「……むかしむかし。けれど、ここじゃないどこか別の世界の昔話。その世界は、どこでもたくさんの人が楽しく暮らせるけど、どこかではたくさんの誰かが泣いている世界。」

『ユーノ?』

フェルトが声をかけるが、ユーノは続ける。

「どこにでもある幸せと、どこにでもある悲しいことがごちゃまぜになった世界。そんな世界に、たいていの人たちは満足していましたし、諦めていました。だけどその中に、一人だけその世界の明日を心配する男の人がいました。」

その言葉の続きをシルフィが紡ぐ。

「その男の人は、みんなが笑える世界が欲しいと思うようになりました。頭の良いその人は、同じような考えを持つ人たちを集め、一緒に世界を変えようと頑張ることを約束し合いました。……そう、たとえ何十年、何百年かかっても。」

今度は、彼女の続きをユーノが。

「そして、世界を変える力の名前に、彼はある言葉を隠しました。彼の願いを込めた言葉を……」

「……守護者(“G”uardian)。世界(“U”niverse)。気高さ(“N”oble)。願い(“D”esire)。天使(“A”ngel)。そして、思い出(“M”emory)。」

「ガンダム(GUNDAM)……」

ユーノは自分の鈍さに思わず苦笑いが漏れる。
まさか、子供のころから嫌というほどヒントを与えられていたのに、答え合わせになってようやく祖母とソレスタルビーイングの関係に気が付くなど。
人間の記憶というものは、思いのほかあてにならないものだ。

「気高く、天使のように世界を守護する者。私たちの願いと思い出の結晶……語呂の良い名前にするために、順番を日がな一日考えることになっちまったけどね。」

「つまり、俺のガンダムにケルディム、ティエリアのガンダムにはセラフィムって名前が付けられているのは、その名残ってことか。」

「よりによって伝え残ったのが天使だけなんて、ジジイも夢にも思ってもみなかっただろうけどね。」

「そうでもないんじゃないですか?」

全員がエリオの方を向く。

「だって、ガーディアンなら、ここにもいるじゃないですか。」

エリオの笑顔の次に、今度はユーノに注目が集まる。
言われてみれば、ここにも守護者はいたのだ。
イオリアの計画とは無関係なプロセスによって得たものだが、誰かを守ろうと体を張り、その称号を手にした人間が。

「……そうだね。何の因果かと思ったが、あんたがマイスターになるのはある意味必然だったのかもしれないねぇ。」

マイスターに選ばれた孫が誇らしくもあるし、それ以上に辛かった。
この世界の業を、自分たちこそが担わなくてはいけない物をユーノに押しつけてしまうのが。
いや、それはユーノ以外のメンバーにも言える。
彼らだって、本来ならば全く別の人生を歩んでいたはずなのだ。
しかし、だからこそ彼らが相応しい。
イオリアと自分、そして多くの人々の願いを託せる。

「あんたたちに会わせたい奴がいる。」

シルフィがそう言うと、ティエリアはVTOLを止める。
目標地点に到達したのだ。
しかし、そこは他の場所と代わり映えのしない月の表面。
パッと見ただけでは、デコボコしている以外の特徴など見いだせない。
だが、ユーノはそれの存在に気付いた。

「転移魔法陣?けど、ここまで精密な…いや、そんなレベルじゃない。現在のどの魔法体系でもここまで隠密性の高いものは……」

「地球、ミッド、ベルカ。他にもありとあらゆるものを融合、分解、あるいは再構築した代物だ。少しばかし探りを入れたくらいじゃわかりゃしないさ。むしろ、気付けたあんたを褒めたいくらいさね。」

ニッと笑ったシルフィは、両手を組んで両親指だけを立てる。

「転移申請。申請者、シルフィ・スクライア。対象、輸送機。」

月面に現れた魔法陣がVTOLを包んでいく。

「大海を彷徨うは寄る辺なき渡り鳥。導くは陽に手を伸ばす者。彼の者、陽にその翼を焼かれるを恐れず、蝋の羽を散らす……我ら、イカロスの如き愚者なりき。」

次の瞬間、月の上からVTOLはきれいさっぱり姿を消した。



カルディア 入口

「う、お……!」

呻きにも似た感嘆の声を漏らしたのはロックオンだけだったが、全員がその光景に圧倒された。
転移してきた地点こそVTOLが収まる程度の空間だったが、その奥にある広がりが凄まじい。
青い輝きを放つ回廊は幅だけでも裕に200m以上。
奥行きに至っては、終着点が見えないほどだ。
壁の至るとこには回線が張り巡らされ、青を基調としながらも赤や黄色、あるいはそれらが全て入り混じった光が直線的に走り回っていた。
圧倒されて固まる面々。
と、その前でシルフィは当たり前のようにヘルメットをとる。

「ここにはエアーもある。なんなら、一年間ここで過ごしていってもいいよ?」

「悪いけど、それは遠慮しておくわ。」

スメラギもそれにならってヘルメットをとると、シルフィの後に従って外に出る。
確かに、カルディアの内部には空気が通っている。
どうやっているのかは分からないが、人でごった返す街中のものよりも遥かに質が良い。
だが、その極上の空気へと踏み出すのをためらった者が三名ほどいた。

「ん?どうした、そんなところに突っ立って。」

「あ、いや…」

ロックオンが足を止めた刹那たちの方に振り向いて訊ねる。

「どうかしたのかい?」

後ろからアレルヤも聞く。
しかし、どうかしたのかと言われても、ユーノも言い表しようがない。
それでも、あえて答えるとするならば、

「いや、ちょっとリンカーコアが……」

「どうかしたんですか?」

「君もか。」

今度はティエリアから声が上がる。
さらには、プトレマイオスで待機していたフェルトとマリーからも。

『月に近づいたあたりから少し変な感じはしてたんだけど。』

『私も。気のせいかと思っていたから言わなかったんだけど、ざわつくっていうか……ウェンディ、あなたはどう?』

『うんにゃ?正直、あんまっしそんな感じは。エリオは?』

「僕もここにいるけど、あんまりそんな感じは…」

リンカーコア所持者でも、個人差がある。
だが、ユーノはその差に気が付き、さらに十年も前に似たような波動を、今回ほどではないにしろ味わったことがあったことを思い出す。

「まさか!」

勘の良い奴だとシルフィが笑う。
孫の驚く顔ほど、祖母としては愉快なものはない。

「案内するよ。カルディアの主の下へね。」

そう言うと、シルフィは奥へ向けて悠然と歩きだした。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

そこは、全てが規格外だった。
モニター越しでも、はっきり分かるほど緻密で繊細な、あるいは大胆でもあり、未知の領域を多数抱えている。
カルディアの構造の一つ一つがイアンとジェイルには金銀財宝が満杯に詰まった宝箱のように思えた。

「サーキット自体は古いものなのか……?いや、だが構築の型といい、使われている素材といい、あらゆるところで新しい。」

「純粋な電子基板に魔力を直接循環させているのか……!?バカな、私でさえそんなものの実現など……いや、そもそも不可能だと…」

「つまり、だ。」

次々に送られてくるデータに食いつく二人に代わり、ラッセがまとめる。

「ここは俺たちの考えの遠く及ばない場所だってこったな。」

「まあ、ヴェーダでさえそうだったんだ。いまさら何が出てきても驚かんさ。」

967の言葉に全員が苦笑を漏らして肯く。
ヴェーダと直に繋がっていた本人が言っているのだから、なおのこと説得力がある。

「しかし、わからないのはどうしてGNデバイスの保持者だけが不調を訴えたのかだな。」

「不調ってほどじゃないんだけど…」

フェルトが申し訳なさそうに訂正するが、なにかを感じているのだからだいたいのところはあっている。

「アリオス、あなたはなにか感じないの?」

〈いや、感じてはいるよ。その理由ももうすぐわかるさ。〉

〈きっとブッ魂消るぜ?まあ、フェルトちゃんの未来の旦那様はもう気がついてるみたいだけどな。〉

「ユーノが?なんで?」

追及するのは旦那様発言じゃなくてそっちなんだ、などと野暮なことは言わないラッセたちであった。



カルディア 中枢

回廊の時点で十分に広かったカルディアだったが、そこはさらに広かった。
天井が見えないほど高く、人を集めてミサでも開くのかというくらい広い。
だが、一番奥にあったのはパイプオルガンではなく、透明で巨大な球体だった。
しかも、その中には見覚えのある宝石が無数に浮かんでいる。

「ジュエルシード!?」

「な、なんでこんなに!?」

「なんでもなにも、考えられる可能性なんて一つしかないじゃないか。」

動揺するアレルヤとエリオをなだめ、ユーノは口笛吹いているシルフィを恨みがましそうに睨む。

「いつからですか?」

「少なくとも、あんたがヘマをやって地球にジュエルシードをばらまくよりも遥かずっと前、とだけ言っておこうか。」

「なるほど……」

ユーノの声が怒りで震える。

「つまり、僕らの一族の長はロストロギアの不正入手、隠匿、不正使用の常習者だったと!?そういうわけですか!?」

「ま、そうなるかね。お前たちには悪いことをしたと思ってるよ。」

大方、ユーノたちには危害が及ばないように根回しをしていたのだろうが、問題はそんなことではない。

「わかっているんですか!?これがどれだけ危険なものなのか!?これのおかげで僕となのはがどれだけ危険な目にあったか…」

「あまり、彼女を責めてくれるな。」

非難の言葉を遮り、彼は現れた。
右だけ色が違う眼鏡とつるりとした頭。
体の線は細いのに、眼光は鋭い。

「彼女がこれらを集めたのは、全て私のためなのだから。」

なんども見たことがあるはずなのに、その人だと分かっているはずなのに、ユーノは間抜けな問いを投げかけた。

「イオリア……シュヘンベルグ?」

どよめきが起こる。
無理もない。
既にこの世にいない、自分たちの属する組織の祖と対面しているのだ。
イアンなど、仰天のあまり心臓に発作を起こしているのではなかろうか。

だが、その場に現れた彼はソレスタルビーイングの一同の想像に沿う答えを返してはくれなかった。

「違うな。」

イオリア・シュヘンベルグらしき人物は眉一つ動かさずに否定する。
そして、本日の爆弾第二投目を放った。

「私の名はカルディア。君たちの世界のヴェーダと同質にして、対をなす存在だ。」

衝撃が奔る。
今度はどよめくどころか全員が固まった。

「説明が雑把なのはホント、あいつそっくりだよ。」

「そうしたのは君だ。君と、イオリア・シュヘンベルグの協力者たちだ。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…いや、ください。」

ティエリアが右手で頭を抱えながら話を中断させる。

「はじめから丁寧に、しっかりと説明してください。」

「ほら。端折らずに言えってさ。」

言われるまでもない、といった様子で溜め息をついたカルディアは語り始める。

「まず、私の大部分を構成しているのはマシンの類ではなく、君たちがさきほどからジュエルシードと呼んでいるものだ。そして、私のホログラムがイオリア・シュヘンベルグと同一な理由はそこにある。」

「どういうこったよ、爺さん?」

「そもそも君たち、いや、この世界の住人たち全員がジュエルシードの本来の使用目的を理解していない。」

「巨大なエネルギーの塊。あるいは、所持者の願望を強引に成就させるロストロギア。それ以上の役割があるようには思えないな。」

「……シルフィの孫と聞いていたが。存外、凡庸な視点しか持ち合わせていないのだな。」

ムッとするユーノ。
しかし、そう評価を下す一方でカルディアは別の評価もつけていた。

(思いのほかムキになり易いせいで時折判断力が鈍るようだが、知識量と推察力はシルフィ以上の素質を感じさせるな。)

今度は、刹那に視線を向ける。

(物静かだが、内に激しい感情を秘めているな。だが、同時にそれを律し、周囲を気遣う心も持っている。なるほど、この二人なら確かに…)

「……?どうかしたのか?」

「いや、なんでもない。話を続けよう。」

刹那に気付かれたカルディアだったが、素知らぬふりをして続きを話し始める。

「ジュエルシードは、本来は人の意識を模写するために作られた物だ。」

「意識の模写?」

スメラギが首をかしげるが、即座にカルディアが答える。

「そう。記憶、知識、人格、感情。それら残留思念を本人、あるいは他者から自動的に読み取り、刻みつけ、必要な時にあたかもその人間のように振舞う。」

「まるで永遠の命だな。」

「その言い方には語弊がある。記録されるのは意識であり魂ではない。あえて近いものをあげるとするならば、ハロやインテリジェントデバイスのような高性能AIだろう。」

「つまり、あなたはイオリアの残留思念というデータを組み込まれた人工知能。そういう解釈でいいわけですか?」

「広義にはそうなる。私自身、イオリア・シュヘンベルグの記憶を有してはいるが、彼と同一視されるのは好むところではない。」

(ハッ。ややこしい話だな。)

しかめっ面をするハレルヤだが、967もグラーベ・ヴィオレントと同じに思われることに抵抗を感じている。
それは、己が967であるという自負もあるのだが、何よりグラーベという人間が歩んできた人生を勝手に自分のものにすることは彼に対する侮辱だと考えているためである。
おそらく、カルディアも同じなのだろう。

「話を戻すが、ジュエルシードの本来の目的は残留思念の蓄積にある。それはすなわち、知識や記憶の蓄積でもある。古の人々は、現代の我々にそれらを伝えようとしていたにすぎない。過去の過ちを繰り返さぬよう、そして自分たちが扱いきれなかった技術を未来に継承し、正しく使用してもらうために。だが、残念ながらジュエルシードを発見した者たちはそのエネルギーのみにしか注目しなかった。」

「その結果がプレシア・テスタロッサやそれに準ずる人間、というわけか……」

「ジュエルシードはその性質上、人間の思念に敏感に反応する。願望器とみなされたのはそれが大きな要因だろう。」

「随分と物騒なメッセンジャーだ。」

「だが、そのおかげで私は多くの知識を蓄積し、それを活用することができる。君たちのためにな。」

ロックオンが首を振りながら肩をすくめる。
言い訳をしているつもりなど毛頭ないのだろうが、この状況では何を言っても彼自身に対する弁護に聞こえてしまう。

「それで?あんたは何のためにそんな危なっかしい代物で知識を得る必要があったんだ?わざわざそんなもんに頼らなくても、ヴェーダに匹敵するものを造ることはできたろうに。」

「武力介入という手法をとれたならばそうだっただろう。だが、多次元世界はかなり危うい均衡の上に成り立っている。それこそ、強力な力が出現すれば世界全体が崩壊してしまうような。」

「なるほどね。」

ユーノは合点がいく。

「地球でも右へ左への大騒ぎになったんだ。管理局が複数の問題を抱えながらなんとか回しているような状況で、全ての世界に対してガンダムのような圧倒的な力で武力介入を行えばあっという間に大混乱だ。」

「下手をすれば管理局設立以前の状態。どちらか、あるいは両者が滅ぶまで戦い合う世界へ逆戻りというわけね。」

「それだけではない。もし、地球での計画に支障、あるいは暴走した場合、我々がそれをくいとめる役目を負っている。それもまた、我々が武力以外の方法での変革を選択した大きな理由だ。」

「もっとも、もし力任せな手段にでたら、あたしらもそれなりの対応はする予定だったがね。」

意味深な言葉にマイスターたちは揃って苦笑する。
しかし実際問題、現状はシルフィやカルディアの危惧する状況に近い。

「本来、我々の計画にMSの使用は想定されていない。シルフィや各地に散らばる協力者たちが水面下で各世界の紛争を平和的に終結させることこそが唯一無二の手段だ。そのため、私はこの世界の知識の多くを学ばなければならなかった。」

「そのために過去の叡智、そしてこれから起こることを全て記憶しておく器、ジュエルシードが必要だったというわけか。」

「しかしアロウズが介入してきた以上、こちらもカウンターファクターとしての役目を負わなくてはならない。」

「けれど悔しい話、今の私たちに連中を抑えられるほどの力はない。そこで……」

「私たちに協力しろ、ということですか?」

「君たちは歪んだイオリア計画の中で、本来の目的を果たしていると判断した。」

「まあ、そちらさんの事情はとにかく、俺はアロウズの連中を放っておくつもりは毛頭ないさ。」

ロックオンは一歩進みでると、カルディアの前に立つ。

「あんたたちが始めた計画かも知れないが、俺は俺の意思で戦っている。そっちがこっちを利用するのなら、こちらもそうするまでだ。」

「僕もだ。」

ティエリアもロックオンの横に並ぶ。

「かつて、僕はイオリアの計画を実行することを使命だと思っていた。だが、今は違う。僕は僕の仲間たちのためにここにいる。」

「それは僕もだ。僕にも、戦わなくてはいけない理由がある。生きて、帰らなくてはいけない理由がある。」

アレルヤと目を合わせ、マリーもフッと笑う。

「……この世界を。」

顔をあげ、刹那も前に出る。

「この世界を、俺たちの罪が歪めてしまうのなら、それを正すのは俺たちの役目だ。計画のためではなく、俺たちの意思で。」

「と、言うわけです。」

最後にユーノがシルフィの前に立つ。

「協力はしますけど、それは別にあなた方の為じゃない。僕たちのためだ。」

「それはこっちのセリフだよ。別に、あんたたちのために協力するんじゃない。あたしはあたしの理想のために動いてるんだからね。」

フンと鼻を鳴らすが、シルフィは差し出されたユーノの手を握る。
とりあえずは同盟完成、といったところか。
だが、ユーノにはまだ聞きたいことがある。

「……すいません、スメラギさん。みんなと先に戻っていてもらっていいですか?」

「どうかしたの?」

「ちょっとプライベートな話があって。すぐに戻るので、みんなと先に行ってください。」

含みのある言い方に少しためらったスメラギだったが、すぐに笑みを返す。

「いいわよ。その代わり、手短にね。」

「ありがとうございます。」

ユーノを残してVTOLへと引き上げていく。
そして、三人だけになった空間で、まず口火を切ったのはカルディアだった。

「イオリアと彼女の関係か?」

「ま、そんなところです。」

顔を赤らめながらポリポリと頬をかくシルフィの反応でだいたい想像はつくが。

「シルフィがイオリアへの想いを告げたのは、彼女が来て半年が経過してからだった。」

「意外と早いですね。」

「うるさい。こちとら気長にチャンスを窺うなんて性に合わないんだよ。半年待っただけでも十分我慢した方だ。」

「まあ、どれだけ待っていても答えは変わらなかっただろうがな。」

カルディアの言葉に、シルフィは遠い、ここではないどこかへ視線を向ける。

「自信はあったんだけどなぁ……向こうもその気があったと思うし。」

「だからこそだろう。イオリアは最後まで君が計画に加わることに反対していたからな。」

「巻き込むのは嫌だってかい?海の上で丸太にしがみついて一週間も漂流していた人間がそう簡単に死ぬものかっての。」

「そういう意味じゃないでしょ。」

不意に飛び出したトンでもエピソードに呆れつつも、ユーノがイオリアの心情を代弁する。

「これ以上、族長に苦しい思いをさせたくなかったんですよ。永遠を生きる人間が参加すれば、計画に関わる人間の運命を最後まで見つめ続けることなる。だから…」

「それが余計なお世話だっつってんだよ。……ホント、あんたとあのハゲの思考回路はよく似てるよ。」

これだけが本当に素直に喜べない。
自分の愛した人間に似ているのが、よりにもよって巻き込まないと決めていた自分の孫。
しかも、偶然が重なったとはいえ、いまや押しも押されぬガンダムマイスター。
まったく、笑えない話だ。
けれど、

「……あんたのじいちゃんは良い男だったよ。そんな良い男の孫なんだ。だったら、自分のすべきことはわかるね。」

「……はい。」

良い顔をしている。
本当に、自慢の孫だ。

「生きて帰ってきな。どれほど罪に塗れても、死を選ぶな。生きて、この世界を生き抜け。」





1時間後 中枢

プトレマイオスを見送ったシルフィは、一人ここに残った。
転移を使えばいつでも帰れるので、スメラギたちの心配は無用だったが、それでも気にかけてもらえたのは嬉しかった。

「イノベイター、来るべき対話、ジュエルシードとGN粒子の関係……全てを話さなくても良かったのか?」

カルディアが問う。
だが、シルフィは笑って首を振った。

「もうすでに扉は開いているし、本人たちも気付き始めている。そこから先は自分で選ばせるさ。」

「三人、か……まさか、こちらの人間が二名もいるとは思わなかったな。」

「あの坊やも純真そうだったからねぇ。それに、あの歳でなかなか苦労してるようだしね。」

「強さには、それなりに理由があるということか。」

それは決して幸福だとは言えないだろう。
しかし、だからこそジュエルシードも彼らを選んだのだろう。

「……今なら、人の持つ可能性と未来ってやつを素直に信じられるよ、イオリア。」

手の届かない場所にいる想い人に、シルフィはうれし涙をこぼしながらの報告をした。










思いを馳せるは、今は遠き日々
しかし、その願いは確かに今へと続いている









あとがき

自分でも苦しいと思う第66話でした。
補完させていただくと、こちらの計画は地球の計画と並行して行われ、どちらかが先に変革をもたらすことができたなら、もう一方にも協力する。
そして、もし万が一武力介入という手段をとった地球の計画が暴走した時の保険としての役割を担う、というものです。
来るべき対話や、イノベイターについてはまだ触れません。
は?なんでだって?
だって、ここで言っちゃったら最終決戦での感動が薄れちゃうぢゃないか……
まあ、ストーリーや設定には関係ない大人の事情ってやつですw
当初は明かそうかと考えていたのですが、ここでわかっちゃうとあとあとのストーリーが薄味になり過ぎるかなと思ったので土壇場で変更しました。
おかげで設定&構成を少々変更中(^_^;)
次回はなのは編です。
少し寄り道してたらシグナムとばったりでスゲー気まずいって感じの話の予定ですw
それと、その次には00原作ルートに戻ります。
すなわち、二度目のメメントモリ攻略戦!
原作では小説版でもあまり語られてなかったので、ここでは自分なりのストーリーを展開しようと考えています。
それと、正月過ぎたらユーノのカコバナを真剣に更新し始めようかと考えています。
まだ復元しきれていない上に、改良を加えているので全話更新するまでには時間がかかるかもしれませんが、こちらもお付き合いいただける幸いです。
では、次回もお楽しみに!



[18122] side.5 Blue rose
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/01/19 10:16
一人の少年の話をしよう。
彼は、その世界で最も古い人々の血をひいていた。
それが何を意味するかなど、彼の人生においては何ら意味を為さないし、そのことについて考えたこともなかった。
彼の両親がこの世を去るまでは。

まず、最初にやってきた不幸は自称親類の連中だった。
奴らは蟻が角砂糖にたかるように、彼から全てをむしり取って行った。
家や土地に預金口座。
中には、彼の目の前で“その筋の人間”から金を受け取る者までいた。

彼に何の利用価値も見出せなくなると、大人たちは彼を孤児院に押し込んで去っていった。
だが、それでもかまわなかった。
彼にはまだ、唯一の家族である妹が残されていた。
守るべきものが、自分の居場所が残されていた。
だが、

「お願いです!開けてください!!」

既に少年の肌には痛々しい生傷が無数に点在している。
それでも、必死で戸を叩いた。
今まさに燃え尽きようとしている命の灯に比べれば、こんな傷など問題にもならない。
しかし、そんな健気な訴えも、町医者は聞き入れてなどくれなかった。
無言で扉を開けて少年を蹴り飛ばすと、すぐさま閉めて鍵をかけた。

「なんで……」

もう、何件医者を回ったかわからない。

「なんで……」

道行く人々も、彼に軽蔑の視線を向けるだけで助けようともしない。

「なんで……!」

その時、彼はやっと気付いた。
自分の体に流れる血のせいで、こんなことになっているのだと。

翌朝、彼は孤児院に戻ってきた。
妹の骸を背負ったまま。
世界への、己の体に流れる血への憎悪をたぎらせながら。

彼は両親との約束を破ることを決意した。
両親はこの血を誇れと言った。
争いは愚かなことだと言った。
だったらそれでもかまわない。
この体に流れる血を否定できるのならば。
自分から全てを奪った世界への憎悪を抑え込まずに済むならば、それでいい。
ブリジット・フリージアは、自分と自分を取り巻くもの全てを拒絶する。
もう、この手にはなにも残されていないのだから。



ミッドチルダ行き次元船

ブリジットは悪夢で目が覚めた。
乗った時からうつらうつらとしていたのだが、どうやら本格的に眠りこんでいたらしい。
できるだけ目立たないように夜の便に紛れこんだせいもあるかもしれないが、ここのところ気を張りっぱなしだったのが大きな要因だろう。
おかげで、嫌なものを思い出してしまった。

「…………………」

横ではハンチング帽をかぶり、顔に褐色のドーランを塗って、申し訳程度の変装をしたシグナムが静かに眠っている。
公表こそされていないが、すでにシグナムもブリジットも追われる身。
変装をしているとはいえ、よくもまあ呑気に眠れるものだ。
いや、むしろ何かトラブルが起きた時でも切り抜けられる自信があるから、眠れる時に眠っているのだろうか。
どっちにしろ、今のブリジットにはできない芸当だ。

「うらやましいよ、まったく。」

そう呟くと、ブリジットは膝にかけていた毛布を肩まで引き上げて再び目を閉じた。



魔導戦士ガンダム00 the guardian side.5 Blue rose


ミッドチルダ クラナガン

やはりいつ来てもこの街は平和だ。
忙しなく行きかうスーツ姿のサラリーマン。
傍からは下らないと言い捨てられるような話題で、それでも楽しげに話す少年少女。
ベンチに腰掛けて愛を語り合う恋人。
そして、いまのなのはとヴィヴィオのように手を繋いでゆっくりと歩道を踏みしめる親子。
たとえそれが表層にすぎないのであっても、この景色を前にするだけで、戦場で己を見失わずにいれる。
そんな気がするのだ。

「ママー、早くいかないと遅れちゃうよ?」

「あ、うん、そうだね。」

ヴィヴィオに指摘されてようやく本来の目的を思い出す。
娘と一緒に、普通に街の中を歩いてみたいというのはついでで、今回はとある組織と接触するためにここへ来たのだ。
……しかし、

『“かもふらーじゅ”のためにヴィヴィオも行く!』

娘の口からこんな言葉を聞くなど夢にも思わなかった。
そして、彼女の真の目的がカモフラージュなどではなく、自分がミッドの街を歩き回りたかったからであることは明白だった。
なのはは母としてヴィヴィオの未来が本気で心配になる。
誰の影響でこうなったかなどわかりきっているが、当の本人たちがいないので文句の言いようがない。

(あとでひどいんだから……)

遠く離れた場所にいるヴィヴィオの父であり、自分の恋人である人物に顔を赤らめながら怒る。
怒りたいのだが、同時に恋しさが胸をよぎる。
職務中、そしてこれからも命のやり取りをする身分で不謹慎かもしれないが、早く彼に会いたい。
会って、抱きしめ、抱きしめてほしい。

「……よし!行こうか、ヴィヴィオ!」

「うん!」

元気良く返事をしたヴィヴィオに負けないくらいの元気で右拳を空高く突き上げて気合を入れた。



カレドヴルフ社 駐車場

「あー、はいはい。今、出ていきました。もうすぐ指定の場所に着くと思うんで。」

『こっちも多分もう着いてると思うからあとはよろしく。しかし、はやてちゃんも狸だねー。』

わかりきったこと(?)を口にするクラッドにはやてはニヤリと笑う。
自分の思った事をそのまま行動に移すのは六課時代に嫌というほど見せてきたはずなのだが、どうやら自分のことを本当に理解できている人間はそれほど多くないらしい。

「いややわぁ、クラッド三佐。こんな美人を捕まえて狸なんて。私はただ、自分が正しいと思うことをやっとるだけですから。」

『ん?ああ、違う違う。そっちじゃなくて例の件だよ。』

「例の件?」

『そうそう。お互いの代表者についての話だよ~ん。』

そこではやても合点がいった。
たしかに、あれは少々サプライズが過ぎたかもしれない。
だが、それについてもクラッドとて人のことは言えない。

『ぐっふっふ……おぬしも悪よのぉ、八神屋。』

「いえいえ、お代官様ほどでは。ホホホホ……」

芝居がかったセリフの後、車の陰で不気味な笑い声が二つ響いた。


教会 正面門前

「……ひどい味だな。」

あまりにも手持無沙汰だったのでフランチャイズ系のファーストフード店から買ってきたのだが、吐瀉物のようなソースといい、乾燥しきったゴムのような肉の食感といい、酢の塊と化したピクルスといい、水分をことごとく奪い去るくせに噛むまでもなく崩れさるバンズといい、良いところが全くない。
どうすればこんな犬の餌にも劣る食品を作れるのか。
いや、そもそもこれに金を払って満足そうに食べている連中の気が知れない。
ごく普通の一般人より、追われる身の人間の味覚の方がまともだというのはなんとも滑稽な話だ。

「それってそんなにマズイの?刑務所のご飯とどっちがマシ?」

「微妙なところだがこちらに軍配を上げたいところだ。金を払ってしまっただけなおさらな。」

「ハハッ!意外とがめついんだな。しかし、ブリジットのやつこんなところに寄り道して何やってんだろ。」

「聞いてなかったのか?」

シグナムが意外そうに聞き返す。
自分にはすんなり教えたくせに、アギトには言ってやらなかったのだろうか。
それとも、彼がナーバスになることを話してくれるほど気を許してくれたのだろうか。
もし、後者なのだとしたら、なかなか大きな進歩だ。

「なあ、ここに寄った理由って何なんだ?」

「まあ、いろいろあるのさ。悪いが、あいつが自分で話すまでは私も言えないな。」

信頼して話してくれたのなら、パートナーであるアギトにも教える訳にはいかない。
ブリジットの抱える傷と、それに由来する彼を今まで突き動かしてきた感情の全てを伝えるのは、ブリジット自身の役目だ。
シグナムの口から伝えるのは、ブリジットに対してフェアではないし、アギトにとってもフェアではない。
本人以外が軽く話して良いものでもないし、自分の過去と向き合うのはその人間自身の責務だ。
少なくとも、シグナムはそう思う。

「ふーん。ま、いいけどさ。でも、あんまりもたもたしてると知り合いに会っちゃうかもよ?」

「まさか。この前の事故のせいで今は地球も大わらわだろうからな。こんなところにいるわけが…」

おもむろに路上に視線をやって、シグナムは手元から不味いハンバーガーをぽろりと落とす。
向こうも、変装していたはずなのだが、シグナムの存在に気がついて唖然としている。
その顔は、エース・オブ・エースの二つ名には似つかわしくないものだった。

「た、高町、か…?」

「シグナムさん、ですよね?な、なんでここに?」

「私は連れの付き添いで教会に…そ、そういうお前は?」

「私はヴィヴィオとはぐれちゃって、ここへ探しに…」

質問しあう二人だったが、ふと思い出した。
今回の交渉する相手のことを。

「まさか、主はやてが指名したのはお前か?」

「じゃあ、シグナムさんもレジスタンスを代表して?」

どうやら、そういうことらしい。
そう、あの二人は、はやてとクラッドは、ちょっとしたサプライズを仕掛けたのだ。
本人たちには、ちょっとでは済まない上に、全く嬉しくないサプライズを。

「えーーーー!?」

「冗談だろう……!?」

残念ながら冗談ではない。
正解は、性質の悪い上司の、性質の悪い悪戯である。



教会 墓地

そこには、海が広がっていた。
青い花びらを空へと舞いあげる、青いバラの海。
好きな花に囲まれているのなら、ここを動けない彼女も幸せだろう。
そこのところは、シスターに感謝しておくとしよう。
地に埋め込まれた白い石板の前でブリジットはそう自嘲すると、刻まれた文字を優しく指でなぞる。

「ただいま、セシル。」

これほど温かい、穏やかな声を出したのはいつぶりだったろうか。
長い間、他人に気を許したことなどなかったせいで忘れてしまっているのではないかと不安だったが、いらぬ心配だったようだ。
しかし、それはここに眠る彼女の存在がブリジットの心にあるそういった部分を支えていてくれたおかげかもしれない。
この墓標の主、セシル・フリージアが。

「しばらく会えなくてごめん。ちょっと、いろいろあってさ。」

そのいろいろをブリジットは話し続けた。
両親との約束を違えてしまったこと。
人殺しの一員となって暴れ回っていたこと。
ここ数カ月で、世界が大きく変わったこと。
それに抗うために、鋼の巨人に乗っていること。
そして、お節介焼きの局員に拾われ、ここにいること。

「その自称騎士が本当にうるさくってさ。融合騎の方もいちいち口を挟んで来てさ。」

無駄に賑やかで、騒がしくて。

「小姑かってくらい細かいことをいつまでもグチグチと…」

いつも保護者面で。

「ホント、強引で、こっちの事情なんかお構いなしで…」

本当に、強引過ぎるくらいの勢いで、自分を闇の中から引っ張り出してくれた。

「……ねぇ、セシル。」

ブリジットが訊ねる。

「あの時、あの人がいてくれたら、僕らの今も、少しは違っていたのかな……?」

こんな救いようのない、壊れてしまえばいいと思っていた世界も愛せていたのだろうか。
また、家族と呼べるような人たちと穏やかな日常を送れていたのだろうか。




2年前 教会・孤児院施設

「花屋?」

「うん!私、お花屋さんになりたい!お花大好きだもん!」

「花、か……悪いけど、僕はあんまり好きじゃないな。」

「え~?なんで~?」

「……勝手に咲いて、勝手に散っていくから。残された人間はいつまでも忘れないのに、勝手にいなくなる。それがなんか、嫌だ。」

「でも…」

「それに、知ってる花言葉があれだけだからさ。」

「あれって?」

「……青いバラ。セシルの好きな花さ。」

「え~?あれってそんなに悪い意味だったっけ?」

「『不可能』。もしくは『ありえない』、だろ。あんな後ろ向きな言葉を知って花を好きになれって方が無理だ。」

「ん~?それ、私の知ってるのと違うよ?」

「じゃあ、セシルの知っている花言葉はなんなのさ。」

「うーん……秘密!今度のお兄ちゃんの誕生日に教えてあげる!」

「青いバラの花束をプレゼントにかい?」

「うん。……きっと、そのこっちの意味を知ったら、お兄ちゃんもお花を好きになれるよ。」

「だといいけどね……」



現在 教会・墓地

「結局、教えてもらえなかったね。」

おかげで、いまだに花は好きになれない。
とくに、現在自分の足元にある不可能の象徴が。
しかし、やはり大多数の人間がこいつのことが好きらしい。
ついさっきまではいなかった金髪の少女が青い花びらを無邪気に追いかける姿を見つけ、ブリジットは悲しげに笑った。

「……?なんでそんな顔するの?」

(……ヤバッ。)

こちらに気付いた少女に、ブリジットは慌てて服の袖で目元をこする。
今、泣いていたかもしれない。
こんなところ、誰にも見られたくなかったのに。

「ねぇ、どうしたの?」

「……っ!うるさい!」

「わっ!」

突然立ち上がったブリジットに驚いて少女は尻もちをつく。
その衝撃で花が舞い散り、芳しい香りが辺り一面を覆う。
それがさらにブリジットを苛立たせた。

「こんなのの何が良いんだ!!こんな、花なんか…!!」

セシルの墓前であることも忘れて感情を露わにする。
だが、怒鳴られている少女は理由が分からず戸惑うばかりだ。
それどころか、目の前にいるこの少年がどこか悲しげで、そのせいで自分も悲しくなってきてしまう。

「なんだよその目は……!同情でもしたいのかよ!?バカにすんな!!」

激昂したまま腕を振り上げ、固く拳を握りこむ。
それでも、少女は逃げないどころかまっすぐ見つめ返してくる。
まるで、セシルのように。

「っ……」

振り上げた拳を、ブリジットは振り下ろせなかった。
いままここで激情に身を委ねてしまうと、セシルを自分の手で汚すことになる。
そんな気がしたのだ。

「あら?今日はお客さんがいっぱいいるのね~♪」

後ろから間延びした声がする。
苛立ちながらも手を引っ込めると、不機嫌そうにその場を離れようとする。
だが、その前に襟首を白い手ががっちりと掴んだ。

「どこへ行く?もういいのか?」

「……こんなに人がいるのにゆっくり墓参りができる訳ないだろ。」

シグナムの手を払いのけると、少女の方に視線を戻す。
向こうも向こうで保護者らしいサイドアップの女性にひどく叱られている。
耳を澄まして聞いていると、どうやら彼女は勝手にフラフラしてここに行きついたらしい。
叱られて落ち込んでいる姿を見ていい気味だと心の中で舌を出すが、今度は叱っている保護者の方に目が止まった。

(あれ…?)

どこかで見たことがある、と思った次の瞬間、脳内に電撃が奔った。
なぜわからなかったのか。
バリアジャケットこそ装着していないが、間違いない。
知らない人間などミッドチルダにはいないほどの超有名人。
管理局の切り札にして、エース・オブ・エースの称号を冠する女。

「高町なのは?」

「ああ、そうだ。」

なのはがブリジットの視線に気付くと、柔かな表情で手を振る。
シグナムも手を振って応えると、ブリジットから手を離した。

「彼女が向こうの代表だ。」

「じゃあ、あっちのちっこいのは妹?」

「いや、娘だ。保護責任者という形ではあるがな。」

「ふーん。じゃ、必然的にガンダムマイスターの娘でもあるわけだ。大した家系だね。」

皮肉を前面に押し出した賞賛にシグナムは嘆息する。
どうやら、心を開いてくれていたのは一瞬で、また以前の状態に逆戻りしてしまったらしい。
まったく、つくづく子供というのは難しい。
ヴィヴィオとあそこまで良好な関係を築けているなのはは本当にすごいのだということを、シグナムは実感させられた。

「高町一尉。騎士シグナム。会談の準備が整いました。どうぞ礼拝堂へ。」

「ああ、どうも。」

そうこうしているうちに年老いたシスターが呼びに来た。
眼鏡をかけた顔は皺でしぼんでいるように見えるが、それでも聖職者然とした気品がある。

「感謝します、シスター・アシュリー。急にこんなことをお願いしてしまって、申し訳ありません。」

「良いのですよ、高町一尉。人様のお役に立つのが、私たちの仕事ですから。それに…」

シスターはブスッとした顔でそっぽを向いているブリジットを見てニコリと微笑む。

「あの子の手前、私もカッコ悪いところは見せられませんから。」

そう言うと、花の手入れをしに来たリュアナ・フロストハートと名乗る女性に子供たちを任せて礼拝堂の奥へとシグナム達を導く。

そう。
あの時引きとめられなかったブリジットを、またここに残して。



二年前 教会・墓地

「ブリジット、まだここにいたの?」

「………………」

「もう、中に入りましょう?ここにいたら風邪をひくわ。」

「……どうだっていいだろ。」

「よくないわ。」

「本当はどうでもいいと思ってるんだろ?僕とセシルが翠玉人だから。」

「そんなことないわ。」

「ウソだ。だったらなんでみんな助けてくれないんだ。なんで、僕らを傷つけるんだ。」

「……それは、とても難しい問題なの。」

「難しい?単純な話じゃないか。僕に力がなくて、自分たちの感情をぶつけやすいからだろ?こんな頭の悪い子供でもわかることさ。」

「違うわ。神様はみんな平等に…」

「神様?そんなものがどこにいる?触れられもしない、見えもしない。妄信と屁理屈が作り上げた幻じゃないか。そんなものにすがれって言うんですか、シスターは。」

「…………………」

「この花の花言葉知ってます?不可能、だそうですよ?ホント、今の僕にピッタリだ。僕は、もうこんな世界に希望を抱くなんて不可能だ。」

「……そんなこと言っては、セシルちゃんが可哀そうよ。」

「セシルが泣いてるとでも言うつもりですか?死人が口を聞くわけじゃないのに。」

「ブリジット、よく聞きなさい。」

「よく聞くのはあんたの方だ!死んだ人間のためにだのなんだの、そんな綺麗言はたくさんだ!死者はな!生者がどんなに白々しく涙を流そうが、同情されようが、妬ましくてしょうがないんだよ!!自分が死んでいるのに、生きることができる連中が憎くて憎くて仕方ないんだよ!!」

「それこそあなたの言い分じゃなくて?今のあなたがセシルの心を代弁できるとでも?」

「ああ、できないさ!僕は僕であってセシルじゃない!けど、僕も死者だ!!この世界から追放された死者だ!!だから憎む!!妬ましい!!この世界で、何も知らずに命を謳歌するやつらを!!」

「ブリジット!」

「僕は人間を、そしてこの体に流れる血を憎悪する!!だから、ブッ壊すんだ!!この世界を!!」



現代 教会・墓地

シスター・アシュリーは気にしないと言うのだろうが、ブリジットは気にする。
あの日の夜、一人でここを飛び出て彷徨い、テロリストになり下がり、挙句に自暴自棄になって命を捨てようとした。
嫌な思い出だ。
いや、思い出にして記憶の奥深くにしまっていたことの方が異常だったのだ。
今でも、ブリジットは死者のままだ。
何をしても満たされず、歩み続けてもどこにも辿り着きはしない。
生者を妬む死者のままだ。

(……戻ろう。僕のいるべき場所へ。)

シグナムには感謝している。
今こうして生きていられるのは、彼女のおかげだ。
だが、生者の彼女と死者の自分がこれ以上一緒にいても、互いに傷つくだけだ。
いつか、ブリジットはその憎悪でシグナムや彼女の守ろうとしているものを壊す。
だから、その前に消えよう。
そう思い、ブリジットは寄りかかっていた壁から背中を離すと、門へと向かおうとする。
ここを去った時と同じように。

だが、今回はその手を掴む者が居合わせていた。

「どこ行くの?」

「……どこだっていいだろ。」

この少女、確か名前はヴィヴィオだっただろうか。
思えば、何度か話に聞いてはいたし、会える機会は何度かあった。
なのに、直に会うのはもちろん、名前を聞くのも初めてというのもおかしな話だ。
それはそうと、先程からリュアナと戯れていたくせに、彼女はブリジットの気配の変化に気がついた。
よほど感覚が鋭いか、無駄に人の心の機微に鋭いのか。

「よくない。シグナム副隊長が泣いちゃう。」

どうやら後者らしい。
まったく、厄介なのにつかまった。

「あの人は僕なんかよりずっと強い。きっとそのうち立ち直るさ。」

「じゃあ、あなたは?」

聞くな。

「僕?僕は馴れてる。こんな緩い日常に浸るより得意なくらいだ。」

「ウソだよ。」

何も聞くな。
それ以上、何も言うな。

「だって、ずっと泣いてるもん。」

頼む、迷わせるな。

「泣いてなんかいない。」

「ユーノパパと同じ。悲しいのに、絶対に泣こうとしない。」

頼むから、それ以上言わないで。
だって、

「……だって、仕方ないじゃないか!いつか、僕の存在があの人を追い詰める!泣いたら、あの人は僕のことを何が何でも一人にしないようにする!だったら、泣けるわけないじゃないか!」

堪え切れずに涙が零れ落ちる。

「僕のせいで!この血のせいで僕の大切な人たちがいなくなってしまうなら、僕が消えたほうがいい!」

「そんなことない!」

「ウソだっ!だって母さんも!父さんも!セシルも!みんな僕の前からいなくなったじゃないか!」

そうだ。

「僕なんか、生まれてこなければよかったんだ!!」

「っ!」

その瞬間、頬に痛みを感じた。
それは、決して強いものではなかったが、手の形の熱さが顔全体を駆け巡った。

「そんなこと言っちゃ駄目!」

そう言いつつ、ブリジットの目の前で震えている少女も泣いていた。
自分のために泣いてくれていた。

「涙を流してくれる人がいる人がそんなこと言っちゃいけないの!!」

震えていたのは、ブリジットを恐れているからではない。
感情に任せて手を振り上げた自分自身を恐れているのだ。
けれど、自分を抑えきれなかった。
こんな寂しそうな人を、放っておけるはずなどなかった。

「お願いだから、そんな悲しいことを言わないで…」

ヴィヴィオが大泣きしている。
ブリジットの目も真っ赤。
もう、どっちが原因でこうなったのかわからないくらいだ。

「あらあら。どうしたの二人とも?」

場の空気にそぐわない呑気な声にシリアスなムードもブチ壊しだった。
リュアナが近付いてくるのに気がついた二人は慌てて涙を拭うが、涙で腫れた目と顔は誤魔化しようがない。

「喧嘩でもしちゃったの?ああ、でも大丈夫よ。そういう時は、二人一緒にごめんなさいってすればいいのよ。」

「……喧嘩なんかしてないもん。」

ヴィヴィオの返事に「あらそう?」と、呆気なく引き下がるリュアナ。
ブリジットはこういうタイプが一番苦手だ。
考えが読めないだけでなく、自分のペースに無意識に引きこんでくる。
話していて疲れる。

「でも、こんなところで泣いちゃ駄目よ~。せっかく綺麗に青いバラが咲いてるのに。」

「綺麗なもんか、こんな花。」

「あら~?そうかしら?青い色がお空や海みたいじゃない。それに、花言葉もとっても綺麗なのよ?」

こいつもか。
何でみんな揃ってこんな後ろ向きな花が好きなのか。
ただでさえ今は気分が落ち込んでいるのに、なんで不可能の象徴の話を聞かなくてはならないのか。
そう思っていたブリジットだったが、リュアナの口から出てきたのは、自分の知らない花言葉だった。

「青いバラの花言葉はね、『奇跡』、『神様の祝福』。そして、『夢がかなう』。」

「え…?」

「私はね、ちっちゃいころから体が弱くて、いっつも病院にいてね。周りからは大きくなるまで生きられないって言われてて、それでずっと拗ねてて、お母さんにもお父さんにも、みんなにわがまま言ってたんだ。けど、ある日看護婦さんが青いバラを持ってきて、その花言葉を教えてくれたの。」

リュアナはかがんで、愛おしそうに青い花びらを指でなでる。

「青いバラはね、本来なら生まれるはずのないものだったんだって。たくさんの人がそんなものできっこないって決めつけてたんだって。だけど、青いバラは多くの努力と偶然によって実現した。だから、奇跡や夢の実現っていう意味の花言葉になったんだって。」

青いバラの花言葉の由来を話し終え、リュアナは立ち上がるとブリジットとヴィヴィオの頭をなでる。

「そのおかげかな?私は手術が成功して、今もこうして生きてる。だから、私は青いバラが好きなの。私の心に、希望を与えてくれたこの花が。」

(……そうか…)

ようやくわかった。
セシルがこの花が好きだった理由が。

『私、お花屋さんになりたい!お花大好きだもん!』

奇跡は必ず起こる。
そう信じていたから、セシルはこの花を愛したのだ。
今がどんなに不遇でも、諦めなければ夢は叶う。
そう思っていたから、最後まで笑っていられたのだ。
けど、

(少し遅すぎた、か……)

この両手は、もう汚れ過ぎている。
この心に渦巻く感情を捨て去ることもできない。
一生、この憎しみという名の鎖につながれて生きていく。
この怒りや嘆きといった錘を引きずりながら歩いていかねばならない。

けれど、だからこそ自分にはやらなければならないことがあるのではないか。
この花の意味を知ったからこそ、やらなくてはならないことが。

「……どっちにしろ、僕には縁遠い言葉だね。」

一歩前に進み出て、ブリジットはリュアナの手から離れる。
しかし、その顔は晴れ晴れとしている。
もう、己の中に巣食う感情に支配されることもなければ、この手に感じた温かさとの葛藤に戸惑うこともない。
だから、やはり今は進もう。
シグナムと再会した時、今はまだ抱けない夢を報告できるように



正面門前

『いきなり驚かせてくれるね、オイ。』

クラッドは画面の向こうで苦笑いを浮かべる。
しかし、それも無理からぬことだ。
なにせ、シグナムとなのはの対談が上手くいったとの報告があったかと思ったら、ブリジットが新型を自分の専用機にするからよこせと言ってきたのだ。
こちらが管理局や連邦の裏の情報を探る代わりに要求した新型を、子供に託すなんてどうかしている。
が、ブリジットの操縦技術は確かにクラッドたちの陣営の中でも一、二を争うものだ。
空戦用という、今までのOSとは違った仕様の機体を使いこなせる可能性は十分にある。
それに、

『ふ~ん……』

「なんだよ?」

『いや、随分と良い顔をするようになったと思ってね。なんかあったの?』

「……別に。」

『なるほど、女か。』

「人の話聞いてる?このセクハラ魔神。」

ブリジットは本気で気付いていないようだが、顔が紅潮している。
どうやら、当たりらしい。

『そーかそーか!いやぁ、甘酸っぱいねぇ。』

「話を聞けと言ってるだろ。一度鼓膜をほじくり出して治療してやろうか?」

『クックック………!そっちについては後で手解きしてやるよ。…ま、それはひとまず置いといてだ。』

クラッドの顔が真剣なものに変わる。

『本当に新型に乗りたいんなら、しばらくはシグナムちゃんとは会えなくなるからさ。挨拶だけはしてこいよ。』

「それじゃあ…!」

『…暫定的にではあるがな。言っとくが、訓練は今までとは比べ物にならないくらいキツくなるぜ?』

「構わない。むしろ、そのくらいでちょうどいい。」

『言ったな?後で泣き言を漏らすなよ。』

「誰が。」

通信を終え、ブリジットはフゥと一息つく。
ふと視線を横にやると、ヴィヴィオがなのはと仲睦まじく会話をしている姿を見えた。

幸せそうだった。
血の繋がりはなくとも、確かにそれは親子の光景だ。
妬ましくない、と言ったらウソになるのかもしれない。
けれどそれ以上に、あの親子が過酷な運命を辿らないことを願っている自分も確かにいる。
どちらが、本当の自分なのかは分からない。
だから、探しに行くのだ。
戦いの中でしか、ブリジットはその答えを見つけられないから。

「……本当に行くのか?」

「……うん。今のままじゃ、きっと、僕は誰にも優しくなれないから。」

「そっか……」

アギトが肯く。
行かせたくない、と思っているのはシグナムと同じだろう。
だが、二人もクラッドと同じように、今のブリジットの顔を見たら、止めても無駄だと悟った。
だから、シグナムはブリジットをきつく抱きしめた。
せめてこの想いを、まっすぐに伝えたいから。

「死ぬな……絶対に死ぬな………!」

「どうしたのさ、急に。」

「……お前がいなくなれば、ここに涙を流す奴がいる………そのことだけは、絶対に忘れないでくれ…!」

「………………」

どうして、この人はここまで誰かのことを気にかけられるのか。
ブリジットにはとんとわからない。
けれど、それがなんだか嬉しかった。

「……うん。わかってるよ、“シグナム”さん。」

「…!ブリジット……お前、私の名前を…」

喜びに浸る間もなく、ブリジットはシグナムの腕を優しくほどき、なのはたちのもとへと歩いていく。
自分の大切な人を、守ることができるようにとの願いを抱きながら。



バス カレドヴルフ社前行き

珍しく、ヴィヴィオはなのはとは離れた場所に座っていた。
静かで揺れが少なく、乗り物酔いとは無縁のバスは、どこの席にいても大差などない。
けれど、ヴィヴィオにとってその席は、今の彼女にとって大きな意味を持つ場所だった。

「……ごめんね。」

「……なにが?」

外を見つめたまま、ブリジットはぶっきらぼうに答える。
謝罪されなければならないようなことをされた覚えはないし、別にしていたとしても気にはしない。
能天気な子供のすることにいちいち腹を立てていても始まらない。
しかし、ヴィヴィオは真剣に謝っていた。

「ごめんね。私、無神経だったよね。」

「ああ、さっきのこと?」

そこでようやくブリジットはヴィヴィオの方を向いた。
今にも泣き出しそうな彼女の顔。
それを見た瞬間、それまで体験したことのないような感覚に襲われた。

(……?………???)

胸の奥がもぞもぞするような、そんな変な感じ。
一体、何なのかこれは。

しかし、考える暇もなくヴィヴィオは話しかけてくる。

「シスターから聞いたの。その……セシルちゃんのこと。」

「ん……あ、ああ…別にいいよ。僕も少し大人げなかったし。」

「でも、私なんかが気安くしていい話じゃ無かったよね……」

「だから、いちいち謝らなくて……もっ!?」

本格的に泣き始めているヴィヴィオにギョッとするブリジット。
咄嗟になにか気の効いたことを口にしようとするが、なにも思い浮かばない。
そうしている間にも、ヴィヴィオはしゃくりあげながら言葉を発し続けた。

「ごめんね……!ずっと、辛かったよね……!わかってあげられなくて、ごめんね………!」

「いや、だから本当にそんな……あ~、もうっ!」

まったく、面倒くさいったらありゃしない。
しつこすぎていい加減うざったくなってきた。
だが、ヴィヴィオの泣き顔を見て、改めて思う。

(……ホントに泣いてるんだ。)

今まで、さんざんぱら嘘っぱちの同情の涙を見てきたからわかる。
こいつは心から自分やセシルのために泣いている。
もっとも、それでもいつもならバカな奴だと切り捨てているだろう。
しかし、なぜだか今は違う。

「もう、本当にいいんだ。」

「ふぇ…?」

もう、これ以上泣いてほしくない。
そして、

「……僕や、セシルのために泣いてくれて、ありがとう。」

長らく忘れていた感謝の言葉を送りたい。
そんな気持ちになれた。

「本気で僕らのために泣いてくれたのは、シスターたち以外じゃ君が初めてだ。」

そう言うと、ブリジットは照れ臭そうに視線を窓の外に映した。
ヴィヴィオのくしゃくしゃの笑顔と、向かいの席で微笑んでいるなのはを映す窓の向こうへ。

そして、セシル以外の前で、初めて心の底からの笑みを浮かべられた。



















(……セシル。僕は、きっと生者への怒りを忘れられない。でも、やっと君以外にも優しくなれる気もするんだ。)

───矛盾してるよね。
だけど、それでも僕は歩いていきたい
奇跡や、夢が叶うことを信じて
















それは、誰かにとって、小さな一歩
けれど、また別の誰かにとって、大きな一歩









あとがき

LRさんからご指摘があったので、後半を改定して再投稿させてもらいました。
こっちの方が前回に比べて仕上がりが良くなっている自信ありなので、ややこしいことしやがってとか言わないで!(>_<)
次回が対メメントモリ二回戦なのは変更なしです。
では、次回もお楽しみに!





[18122] 67.メメントモリ殲滅作戦
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/03/10 20:09
プトレマイオスⅡ コンテナ

ここに腰かける度に思う。
自分は、体の芯までMSのパイロットなのだと。
この動く棺桶に運命を委ね、相手の棺桶を、まだ中にいる人間が生きているにもかかわらず叩き潰す。
それでも、そうはならないように機械仕掛けの棺桶だけを破壊して、彼らを外の世界に解き放つように心掛けてはいる。
だが、そんなことをして足掻いてみたところで、救えない命だってある。
怒りに任せ、強く相手の死を望んだこともある。
彼ら全てを救う方法は、自分がこの棺桶と最後の瞬間を共にすることだけだ。
けれど、本能がそれを拒む。
理性が、ここで終わってはならないと叫び続ける。
だから、操縦桿を動かす。
足でペダルを踏みしめる。
この機械天使と共に戦場を駆け抜ける。

コックピットの中で、出撃を待つ度に思う。
自分は、ガンダムマイスターなのだと。

『ミッション開始まで、残り60セカンズ。各機、出撃準備に入ってください。』

フェルトの声に、ユーノは静かに瞳を開く。
同時に、漆黒の闇に包まれていたコックピット内部が計器類の光で溢れ、目の前のスクリーンに外の様子が映し出された。
白い光点が無数に瞬き、足下には青が広がる、宇宙という名の過酷な空間。
どうということはない、いつも見慣れている光景だ。

「どうした?今日はいつも以上に静かだったな。眠っているのかと思ったぞ。」

ハロのボディに意識と本来の姿を押し込めている相棒の967に、ユーノは微笑んだ。

「そんなことはない。いつもどおりだよ。」

そう、今日も何も変わらない。
ただ、この道を行くために、眼前の敵を打ち砕くだけだ。

『タイミングをクルセイドとスクライアさんに譲渡です。』

「I have control.ユーノ・スクライア、クルセイド、出撃する!」

青と白の箱舟から、クルセイドライザーは飛び出す。
地上を見下ろす、死の墓標を目指して。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 67.メメントモリ殲滅作戦


10時間前 地球・宇宙空間 プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「さて、私たちが地球を離れて三ヶ月。この間に連邦は大きく変化したわ。」

自分の定位置である真ん中に立ち、スメラギはクルーの顔を見まわして肯くと、背後のモニターにある式典の映像を映した。
連邦大統領の言葉に酔いしれ、我を忘れて歓喜の声で会場を埋め尽くす参加者たち。
その光景が沙慈には、歴史の授業で習った『ええじゃないか』のバカ騒ぎを描いた絵にダブって見えた。

「連邦軍の指揮権をアロウズに集約ね……よくまあ、ここまで浮かれられるもんだ。」

眉間に深く刻まれた皺がラッセの心情をありありと物語っている。
一軍隊に、ここまで強力な権限を持たせることがどれほど危険なことなのかわかっていないのだろうか。
しかし、今までアロウズがやってきたこと、そしてその裏で暗躍する存在を知れば、きっとこの熱狂もすぐに冷めるに違いない。
もっとも、真実を知ったところで、どれだけの国と、どれだけの人間が反抗する気力を残せるかはわからないが。

「俺としては、どうすればメメントモリがアフリカタワーの被害を最小限に抑えたなんて解釈できるのかがわからねぇな。本気でそう思ってるんだとしたら、一度こいつらの頭をかっさばいて脳みそを拝見したいね。」

「ハレルヤ。」

アレルヤの体を借りて毒づくハレルヤだったが、マリーにいさめられると肩をすくめて黙り込んだ。
だが、そう思っているのは全員が同じらしく、ティエリアに至ってはこの強引な情報統制にうすら寒いものを覚えていた。

「戻ってよかったのだろうか……」

「ん?どういうことだ?」

「クラッドたちはもちろん、ミッドの協力者たちに危害が及ぶようなことがないとは言い切れないはずだ。シルフィとカルディアが居ても、アロウズは管理局にもかなり根深く食い込んでいる。」

「でも、局の中でもアロウズを疑問視する人間は順調に増えていってるみたいだし、連邦軍の中にもついていけなくなってドロンした人もいるみたいっスよ?」

相も変わらず能天気な奴だと嘆息するティエリアとロックオン。
反抗的な人間が増えてきているからこそ問題なのだ。
アロウズは地球連邦という組織、とりわけ自らに弓引く者には容赦がない。
それは、裏で糸を引くイノベイターのせいでもあるのだが、彼らの多くは自分たちが恒久和平の実現を担っているという自負ゆえに、敵対するものを徹底的に排除しようとする気風がある。
たとえそれで、市民を巻き込むことになっても。

そんな組織に、それもその組織に近しい人間が反抗的な態度をとったらどうなるかなど目に見えている。
どこかの宇宙技師よろしく高重力下での強制労働への片道切符をゲットするか、それともどこぞの超兵のように牢屋の向こうで全身拘束器ずくめの一人ファッションショーを開幕させられることになるだろう。

そのことをわかっていないウェンディは、彼らがそんなリスクをとってでも自分たちに味方することを疑っていないようだった。
確かに能天気すぎる。
が、ロックオンも確かに期待している節はある。
もし、パング・ハーキュリーのような気骨ある人物が連邦にまだいるならば、今度こそ自分たちと協力し合えるのではないかと考えている。
無論、まだまだ先の話ではあるだろうが。

「それより、今はこれをどうするかが問題だろう。」

ロックオンの淡い希望を打ち砕くように、刹那が画面の下を流れていく『Memento Mori』の文字を指さした。
空気を読め、と言ってやりたいところだが、今更言ったところで治せるとは思わないし、自分の取るに足らない妄想よりもメメントモリの方が今は大切だということも理解できた。
なので、再び彼は傍観者の位置へ自分を追いやり、刹那とジルに出番を譲った。

「アフリカタワーでの一件の時に、ユーノに手傷を負わされたことで相当警戒を強めたのか、大気圏内への防御もかなり固くなってる。」

「オービタルリング上は言わずもがな。下手したら、今のアロウズで一番戦力が充実してんのはここじゃねぇのかな。」

「あながち間違っていないあたりが辛いわね。しかも、射線軸上に出たらその時点でお終い。トレミーなんか、前に出たら良い的ね。」

「骨を拾いたくても蒸発しちゃいましたってか?」

ジルに非難の目が殺到する。
「冗談だよ。」と茶化すが、全員からの重圧に耐えかねて刹那の肩へ戻るとだんまりを決め込んだようだった。

「どう攻めます?今のところ、どこかが撃たれたって報告もないですし、カタロンも手が出せる状態じゃないけど、このままじゃ…」

「時間の問題、だろうね。見たまえよ。ろくに映してももらえない後ろの首脳たちを。あの顔からすると、アロウズの権限強化に合わせて、どう動くべきか様子を見ようという腹積もりだろう。バカ正直に批判する者はいないだろうが、それらしい素振りを見せただけで国が一つ消える可能性は十分にあり得る。」

「まさか、そんな…」

「エリオ、彼らはそのまさかをもう二度も行ってる。私には、もう撃たないなんて選択肢が彼らにないとは到底思えないわ。」

アニューにそう言われ、エリオは唇をかみしめる。
甘っちょろい考えだということは百も承知だった。
それでも、彼らの良心を信じてみたかった。
けれど、期待するだけ無駄だというのなら。

やるしかない。

「ミッションプランはできているのか?」

「できていなかったら、こんなに自信満々でみんなを呼ばないわ。」

スメラギの口にいやぁな笑みが浮かぶ。
こういう時のスメラギは実に厄介だ。
ミッションを実行する人間にとっても、そしてそれ以上に敵にとっても。

「まず、基本的にダブルオーライザー以外はツーマンセルで動いてもらう。そのとき注意してもらいたいのは、できるだけ僚機と離れないこと。そして、これが一番重要なんだけど……」

その作戦に、部屋の中にざわめきが広がった。
確かに、これならばあの分厚いMSの守りを突破できる可能性は大いにある。
しかし、読み通りに相手が動かなかったら、間違いなく作戦の要である刹那とエリオたちが窮地に陥る。
なのに、刹那ときたらいつも以上に冷静で、しかも無口だ。
おまけに、エリオは少し戸惑っているように見えたが、唾を喉の奥へ流し込むと、腹をくくったようだった。

「スメラギさん、僕が代わります。ツインドライヴならクルセイドにも…」

「大型兵器を破壊できるほどの大威力の火器があるの?それに、そんな危険な役目をあなたと一緒にクロスロード君にもやってもらうつもり?」

「いえ、それは…」

シルフィとカルディアからの土産を利用して、クルセイドの武装は目下のところ修復、強化の真っ最中で、いま使えるのはヒュアースだけ。
いかに強力と言えど、完全に1対1をコンセプトにして組み上げられた機体が、大型兵器を短時間で破壊し尽くすなど不可能と断言してよいだろう。
しかも、忘れていたが、クルセイドライザーには沙慈も乗っているのだ。
おそらく、ユーノが志願すれば彼も同行するだろう。
ルイスとのことさえ忘れて、より危険な場所へと踏み出してしまう。
そんなバカなこと、あってたまるものか。
しかし、だからといって刹那やエリオを犠牲にしていいわけがない。

ユーノが拳を固く握りしめた時、エリオが声をかけた。

「大丈夫ですよ、ユーノさん。」

穏やかな、歳には不相応なくらいの落ち着いた顔でエリオは肯く。

「危険なのはいつものことです。それに、僕も、刹那さんにもまだやることがある。」

そう言ってウィンクをすると、ようやく少年らしい無邪気さが感じられた。

「やることがある人間は、簡単には死なない、死ねない。でしょ?」

「ハッ!ガキのくせにいい根性してやがる!」

「君の負けだね、ユーノ。」

ハレルヤとアレルヤの言葉に、ユーノは両手をあげて苦笑する。
確かに、今のエリオなら、ひょっとしたら自分などよりよほど頼りになるのではないだろうか。
そう思えるほど、成長が垣間見えた。

「それじゃあ、決まりね。ミッション開始は標準時間で0400時。イアンさん、ドクター。それまでにHWの装備は可能ですか?」

「ダブルオーとクルセイドを後回しにすることになるが、RとBはすでにテストも完了しとる。アリオスのMとスフィンクスのAはシミュレーションで調整をつけていくしかない。アレルヤ、ウェンディ、協力してもらうぞ。」

「やれやれ、人使い粗いっスね。」

「とはいえ、僕らの機体のことだからね。やるしかないさ。」

「それじゃあ、さっそく取り掛かるとしようか。ついてきたまえ。」

メカニック二人に率いられ、アレルヤとウェンディが退室すると、ブリーフィングルームの中に残った面々もそれぞれ思い思いに動き始める。

心身ともに休めるために休憩に入る者。
いつものように周囲の警戒にあたる者。
あるいは、集中力を高めるために一人の空間に向かう者。

様々あるが、その中でエリオだけは動けずにこめかみを押さえつけるような感覚に悩まされていた。

(この感じ、なんだか懐かしい……でも、迷ってる?それに、そばにいるもうひとつの方は……この荒々しい気配は、怒り?)

二つの意識を確かに感じる。
けれど、その意識を受信すればするほど、頭を締め付けるような痛みが広がっていく。

「クッ……」

たまらず膝を折って床の上にへたり込みそうになるが、その瞬間に肩を支えられて、脚が中途半端に地につかないような、おかしな浮遊感が発生した。
何が起こったかわからないまま、肩が支えられている方を見ると、フェルトが心配そうな顔で自分を見つめていた。

「大丈夫?」

「……はい。大したことはありません。」

まだぼんやりとしているが、もうさっきのように痛みを感じることはない。
しかし、それでもフェルトはエリオに肩を貸したままどこかおかしいんじゃないかとあちこち触って確かめてくる。

「本当に、ビックリしたんだよ?ぼんやりしてると思ったら、突然倒れるんだもの。」

「あの、すいませんでした。だから、そろそろ…」

やんわりとフェルトの手から逃げるエリオ。
その後を追いかけようとするフェルトだったが、エリオは素早く扉まで移動すると、そのままするりとブリーフィングルームから抜け出す。
心配してくれるのは良いが、この歳になって過保護気味の扱いを受けるのは自分でもいかがなものかと思う。
思うのだが、

(……そういえば、フェイトさんも時々……い、いや、六課に出向になってからはそんなことはない………と思う、けど…)

そんなに自分は危なっかしく見えるのだろうか。
思い悩むエリオだったが、手首にいる相棒はそんな暇など与えてくれなかった。

〈しかし、本当にどうしたんだ?こちらに帰って来てから一人でボケッとしてることが多いぞ。フェルト姐じゃないが、本当に大丈夫なのか?〉

「別に、どこも悪くはないはずなんだけど……」

確かに、ここのところ不意に何かを感じる時はあるが、傍から見ていてそこまでひどいだろうか。
だいたい、それを言うならユーノと刹那だって十分おかしいレベルだ。
いや、自分以上だ。
刹那は訓練中に突然黙り込んでしまったかと思うと、一人にしてほしいと言い残して部屋に戻ってしまった。
ユーノはユーノで、整備作業を放棄して展望室へ行って何かを探し始めてしまうし、本当に気にかけるべきは彼らなのではないかと思う。

〈まあ、用心することにこしたことはないさ。次の作戦が終わったらカウンセリングでも受けてみたらどうだ?〉

「そうするよ。これ以上、相棒から疑惑の視線を受けていたら、本当にノイローゼにでもなっちゃいそうだから。」

ストラーダにちょっとした意趣返しをして笑ったエリオは、気晴らしも兼ねたトレーニングへと向かった。



現在 オービタルリング周辺宙域

紅い点がゆらゆらと揺れていたかと思うと、三層に分かれて整列し始める。
どうやら、向こうもこちらに気付いたようだ。

「敵部隊視認。これより、ファーストフェイズを開始する。」

ユーノはクルセイドライザー・Hをオービタルリングのすぐ上につける。
それに倣い、ウェンディも翼を広げたスフィンクスを直滑降させると、金属でできた板に激突するギリギリで鋭利な先端を起こし、改めて前方へ加速させた。

「やれやれ。オービタルリングの上に乗せるだけでもひやひやものだね。」

『失礼な。そりゃあ、ちょっと暴れるようにはなったけど、このくらい余裕っスよ。』

ユーノに反論するが、確かにさっきのは少しマズかった。
エッジ部分がオービタルリングと軽く、本当に触れるか触れないかのような、プラトニックなキスをしていた。
もし、これが恋人とする様なディープキスだったら、オービタルリングと地球めがけて心中することになっていた。
新しい装備の性能を実感するのは良いが、これからはもっと慎重にやろう。
後部に装着された純白のスカート、大型GNバーニアと、乙女の武装にしては少々いかつい大きな砲身を一瞥して、ウェンディはそう心に誓った。

『けど、珍しい組み合わせだよね。ウェンディとユーノのコンビって。』

「今のスフィンクスについていけるのはアリオスくらいだけど、あっちにはもうGNアーチャーがある。となると、クルセイドと組まされるのが必然さ。」

『それに、六課時代は模擬戦で何度か組んだこともあるんスよ?』

「もちろん、MSに乗ってはいなかったけどね。」

軽口をたたきながら、レーダーに目をやる。
敵の陣形は典型的なレギオー型。
柔軟性に富み、陣形や隊列を自由自在に変化させることで、敵を囲んで殲滅することもできる守りの一手。
そんな悪夢の三段重ねが四方に配置されている。
だが、最初から迎撃を想定した配置にしたのが間違いだ。
こちらのブレーンは、こんなありきたりな戦術はとうの昔に看破している。

「さて、みんな。そろそろお喋りは中断してもらうぞ。こちらも向こうも射程範囲内だ。」

「了解。ウェンディ、バックスは任せた。」

『OK!そんじゃマレーネ、よろしく!』

〈了解。マルチロック、開始。〉

スフィンクスがオービタルリングとの間を少し広げた。
と思った瞬間、戦いの火蓋は切られた。
スフィンクスに新たに装備されたGNHW・Aのロングバレルキャノンと、GNバーニアの装甲に隠されていたミサイルとガトリングが一斉射されたのだ。
しかし、アロウズも先制攻撃は予測していたのか、ミサイルのほとんどは撃ち落とされた。
ガトリングも手堅く防がれ、ロングバレルキャノンも表層の二、三機巻き込んだだけで終わった。
しかし、こちらの攻撃のターンはまだ終わっていない。
煙に紛れ、ユーノはクルセイドライザー・Hを真正面、オービタルリング上に配置されていた二機のジンクスへと走らせていた。

「!」

「遅い!」

クルセイドライザー・Hの接近を察知した時には、全てが終わっていた。
その両の手から放たれる瑠璃色の奔流は、二機の頭部、そして武装を瞬く間に破壊し、次の獲物を求めて近くにいた別の機体の左腕を握り潰していた。
だが、敵もこのままでは終われない。
第二層に配備されていた機体と、一層目の両脇に残っていた機体がクルセイドライザー・Hを囲み始める。
それを見たユーノは軽く速度を落とすと、愛機に上を向かせる。
オービタルリングに背を向けたクルセイドライザー・Hは、そのままバク転をするように天地逆転状態へ移行すると、すかさず退路を塞ごうとしている敵へ突撃した。
逆さまになって襲ってくる敵にジンクスはビームを放つが、きりもみして躱したクルセイドライザー・Hは、その拳を紅く塗られた騎士の兜に突き刺す。

「っつぅ……!沙慈、大丈夫かい!?」

『ぅ、く……こ、これに乗るようになってから、少しは頑丈になってる自信はあるよ。』

「信じるよ、そのセリフ!」

突き立てられようとしていたランスを手刀で敵の腕ごと粉砕したユーノは、何を思ったか、今度はスフィンクスの後ろに引っ付いて後退を始める。
これには、今度はこちらの番だと意気込んでいたアロウズも肩透かしを食らった。

「クソ!逃がすか!」

なんて言って歯噛みしているのではないだろうか。
後ろから飛んでくるビームにユーノはニッと笑う。
何機か、一緒になって追いかけてきたのが良い証拠だ。
それを確認したユーノは、進行方向はそのままでクルセイドライザー・Hを振り返らせ、両手に纏ったGN粒子で迫りくる閃光を払いのける。
同時に、前にいたスフィンクスがMSに変形して急ブレーキをかけると、クルセイドに追い抜かせる形で、追撃してきた二機との距離を詰めた。
そして、相手がランスを繰り出すよりも速く両脚のバーニアに仕込まれていた二本のビームサーベルを閃かせる。
シンメトリーになるように頭部から肩にかけて袈裟掛けに斬り裂かれたジンクスたちは、しばらく慣性に任せてオービタルリングの上を飛んでいたが、すぐにコースアウトしてその姿を消した。

「フゥッ!Gがハンパない!」

大きく息を吐き、ウェンディは汗にまみれた笑顔で再び敵MSの守りを睨みつけた。
案の定、敵の守りが少しずつ前に出てきている。

「こちらスフィンクス!アロウズ防衛網の前進を確認!そっちはどうっスか、ティエリア!」



オービタルリング周辺宙域 反対側

「こちらも結果は上々、というところだ。」

両手のバズーカと両肩、両脚部の砲門。
そして、新たに追加された腰のキャノンに溜めていた粒子を一気に解き放ちながら、ティエリアは答える。
敵陣を貫く極大の一撃は、思ったほどのダメージを与えられなかったが、しかしそれでも隊列を乱すことには成功している。
そして、それこそがティエリアたちの狙いだ。

「ロックオン。」

「オーライ。狙いはバッチリってやつだ。」

セラヴィーの後方から、閃光が奔る。
一条、二条と連なる光の狼は、群れからはぐれた哀れな羊を次々と貫いていく。
そして、それだけで終わらず、光の槍はいつしか敵の連隊を絶え間なく、そして多角的に襲い続けていた。
が、そろそろ潮時だ。

「ハロ、そろそろライフルビットを下げろ。連中が前に出てきた。」

「ガッテン!ガッテン!」

レーダーの光点の動きを見て、ロックオンはケルディムとその追加装備であるライフルビットを下がらせる。
ティエリアもそれに付き添い、セラヴィーのGNフィールドをシールド代わりにしてケルディムを守る。
おかげで、こうして袋叩きにあう前に、適切な距離を保ちながら迎撃も可能なわけだ。
もっとも、今回のメインは敵の殲滅ではなく、あくまでメメントモリの破壊なので、別段敵を殲滅する必要もないのだが。

「けど、このまま何事もなく終わってくれるとは思えないがな。」

「不吉!不吉!」

「そんなに怒るなよ。Ms.スメラギも言ってただろ。やっこさんたちも、こっちの狙いにいつまでも気付かないはずはないし、ある程度自陣の弱点を補っているはずだってな。」

「……!どうやら、その伏兵とやらが来たらしい。」

二人が身構えるより早く、オレンジの弾丸がGNフィールドの表面を削り取って消滅する。
しかし、敵の姿は肉眼ではとらえられない場所にある。
ロックオンに狙撃用スコープとトリガーを手に取らせる理由は、それだけで十分だった。

「随分立ち直りが早いんだな。そこら辺はコーチに似たのかね?」

望遠して見えた因縁の相手に、ロックオンは皮肉交じりで挨拶代わりの一発を見舞う。
オービタルリングの守備隊から離れた位置にいたオレンジと白のコントラストが鮮やかな機体に、光の槍が闇を切り裂き迫る。
だが、二つの瞳を魔力と擬似GN粒子の混合粒子の色に輝かせると、装甲に掠らせるつもりなのかというほどギリギリのところで、ロックオンとケルディムの挨拶を受け流した。
狙いは、ケルディムではなくセラヴィーに定めたまま。

(おかしい。)

セラヴィーには、先程の一撃が防がれている。
いや、そもそも最初にセラヴィーに攻撃を仕掛けてきたことからして妙だ。
今までの彼女だったら、間違いなくケルディムを狙いに来ていたはず。
なのに、狙いは初めからずっとセラヴィーのまま。
まるで、ずっとティエリアに防御をしていてほしいかのように。

「下がれティエリア!なんかヤベェ!!」

「……遅い!」

逃げる暇など、ティアナが与えるはずがなかった。
縦に離れた二つの銃把を持つ、独特の形状をした新型狙撃銃。
オクスタンの銃口から、漆黒の弾が放たれる。
エネルギー弾とも通常の実弾とも違うそれは、音速を超える飛矢となって、セラヴィーのGNフィールドに直撃し、灰色の光となって炸裂した。

「なに!?」

その光景を、ティエリアは夢だと思い込みたかっただろう。
無理もない。
今まで、あらゆる兵器を阻んできたセラヴィーの防御の中核をなすGNフィールド。
それが、先刻の光に侵食されるように消えていくのだから。
しかも、発生器にもエラーが生じている。
これで完全にGNフィールドを封じられた。

「ティエリア!まだ来るぞ!!」

「ッツ!!」

前で組んだ両腕ごと、セラヴィーの巨体が弾かれる。
今度は純然たる実弾。
それも、鋭く尖った鏃型の金属弾が、セラヴィーの右腕に深々と突き刺さっていた。

「アンチGN弾と強化型貫通弾。対ガンダム戦を想定して製造された特注品よ。」

〈もっとも、貫通弾の方は狙撃型対策にマスターがごり押ししたものですけどね。〉

「結果オーライってやつよ。それに、ここからが本番だしね。」

シールドビット用の貫通弾を見せてしまった以上、狙って当てるのは難しくなる。
しかし、ビットの動きを制限する牽制の意味としては十分で、しかもデカブツの方は防衛にあたっている味方機の相手で援護する余裕などない。
今回の勝負、十分に勝ち目はある。

「あんなものを守る気はサラサラないんだけど、命令とあっては嫌だとは言えないのよ。ホント…」

スコープのレティクルが赤く発光し、中央に捉えているモスグリーンの機体を撃てと急かしてくる。
それにさえも、ティアナは苛立ちを感じて歯噛みした。

「公務員ってやつは世知辛いわね!」

放たれる合金製の貫通弾。
ケルディムは下がってそれをかわすが、シールドビットを展開する様子はない。
新しく装備された攻撃用のビットと合わせてこちらへの攻撃に使ってもこない。

(そうくるわよね。)

ティアナの射撃の腕を買っていて、出すだけ無駄だと思ってくれているのなら光栄だが、今の内に潰しておけないのはやはり怖い。
しかし、悪いことばかりでもない。
先述したとおり、手札を一枚読まれてしまったのは癪だが、防御の手段を封じることができたのはやはり大きい。
面での制圧力も、今はこちらが上。
だったら、

「手数で攻める!」

〈Cross fire!〉

誘導弾がケルディムのいる一帯へ向けてばらまかれる。
散らばったオレンジの光球はケルディムの周囲を飛び交いながら、気まぐれに中心に向かって突進してくる。

「なろ!」

ビームピストルが誘導弾を撃ち抜く。
煙が辺りに充満し、それに紛れて騒々しい踊り手たちはロックオンをいっそう翻弄する。

しかし、ティアナは引き金を引かない。
機体制御をクロスミラージュに任せたまま、じっと相手の動きを窺っている。

(……まだ。まだ…早い……)

今はまだ相手の纏う空気が鋭い。
カマエルに乗って、狙撃の経験を重ねてきてわかったことがある。
気を張り詰めている相手、特に、自分が狙われていることを自覚している相手は、明らかに纏う空気が違うのだ。
警戒心を前面に押し出して、どんな些細な変化も見逃すまいとしている気配。
そんな、強固な結界を張って、自分を守っているのだ。
だが、その結界も絶対の物ではない。
どんなに優秀なパイロットでも、警戒を緩めるときがある。
そのあるかないかの隙、結界に開いた小さな穴を狙い、弾を撃ち込む。
狙撃とは、そういうものなのだ。

(振り回されているように見えるけど、こちらへの注意を一向に緩めていない。)

右手のスナイパーライフルの先が、時折小さく動いている。
誘導弾を撃ち落としながらも、絶対にこちらに背を向けていない。
そんな挙動の一つ一つがティアナに教えてくれる。
今、このターゲットに撃っても当たらない。
むしろ、下手に隙を見せれば、こちらに牙を向いてくると。

(焦らなくていい……チャンスが来るまではとにかく待つ。)

既に、ティアナの目にはケルディムしか映っていない。
セラヴィーに対してはほぼ無防備だが、ジンクスの相手で手一杯のティエリアが二人の狙撃手の間に割って入れるはずもない。
そう、この戦いが決着するまで、何人も手を出すことなどできないのだ。
どちらかがどちらかを仕留める、その時まで。



メメントモリ側面

二つの円盤状の物体が視界に飛び込んできた瞬間、アレルヤは本能的にアリオスを大きく左に傾ける。
その先にいた敵を無視し、変形してさらに加速をかける。
だが、行く手を阻むようにもう一基の円盤が現れ、赤い閃光を浴びせかけてきた。

(直撃!?)

「喰らってたまるかよっ!」

再びMSに戻り、姿勢を傾けて事なきを得る。
だが、左腕の装甲を焦がした熱線の威力に、さしものハレルヤも肝を冷やす。

「んだよ、ありゃあ!」

半ばやけくそに背部に追加されたユニットからミサイルをぶちまける。
光の尾を引きながら一帯を制圧しにかかるそれを前にして、新型MSのパイロットは以前の自分では考えられないほど冷静さを保っていた。

「レモラ!」

ミサイルに対して追尾兵器、UADレモラを広く並べる。
そして、胸部の拡散ビーム砲を発射すると同時に特注のワイヤーを通してGN粒子を円盤型の兵器へ流し込んだ。

「なっ!?」

「んだとぉ!?」

眩い光の中でミサイルが爆散する。
ビームに貫かれ、あるいは誘爆を引き起こして消えていく。
しかし、それだけでなく、威力を持て余した光がアリオスにも襲いかかる。
装甲を焼き、後ろへと押し返し、着実にダメージを蓄積させる。

だが、アリオスはまだ墜ちてはいなかった。

「距離があったおかげで助かった…!」

警告音が鳴り響いているが、辛うじて駆動系に異常は出ていない。
拡散型のビーム兵器だった分、距離による威力減衰が大きく働いたようだ。
しかし、あと少しでも近かったら。
考えただけでもゾッとする。

『無事か、アレルヤ!?』

「ああ。問題ない。」

ソーマの声からも少なからず焦りが感じられる。
陽動には成功しているが、バックにいるアーチャーにまで攻撃が届いているのがいただけない。
それだけ、この新型の能力が高いということなのだろう。
しかし、あの機体のポテンシャルを引き出すのは並みのMS乗りでは不可能だ。

(あの有線兵器……どう見てもオートで動いているとは思えない。)

あの兵器はアレルヤとハレルヤの動きを予見している。
AIに頼るという手もあるかもしれないが、それで二人の思考や反射の速度に対抗できるとは思えない。
となると、あれのパイロットが何らかの手段で操作している。
しかも、こちらの動きを予測できる程度にはガンダムとの戦闘経験がある。

「……ハレルヤ。」

(ああ、たぶんな。ちらちらマリーたちの方へ注意を向けてやがる。)

緻密な中に垣間見える、絶対的な敵意を根源とする荒々しさ。
自分たちと元アロウズのソーマ、マリーとかかわりが深いパイロット。
この条件に一致する人間を、少なくともアレルヤは一人しか知らない。

そして、その想像は言うまでもなく正解だった。

「いける……!このルシファーなら、互角以上に!」

アンドレイ・スミルノフは怒りを胸に、しかし頭は極めてクレバーになろうと努める。
新たな相棒、ルシファーの持てる力を100%引き出すために。

「もう後れはとらんぞ、ガンダム!」

レモラを背中に戻し、腰部にマウントしていたビームサーベルを抜く。
バイザー型のカメラアイと三対の黒い大型のフィンを肩に装備するその姿は、まさに堕天使そのものである。
しかし、ルシファーが堕天使ならば、アリオスは天使だ。
おめおめと引き下がるはずがない。

「上等だ!いくぞアレルヤァァァ!!」

「了解!アリオス、排除行動に移る!!」

呼応するように加速すると、互いの距離を詰めていく。
そして、宇宙の闇に激しい光が瞬いた。



オービタルリング上 ユーノ・ウェンディ組

「……ちょっとばかり想定外かな。」

マップ上のビーコンの動きにユーノは呟く。
伏兵は予想していたが、まさかロックオンやアレルヤをたった一機で抑え込まれるとは思わなかった。
おかげで、こちらのおかわりはとんでもない大盛り具合だ。

「来るぞ!」

967の声で反射的にクルセイドライザー・Hを振り向かせる。
ランスの先端がすぐそこまで迫っているが、焦らず腕に擦らせるようにいなすと、すぐさま拳をバロネットの頭部にめり込ませる。
続いて、左右から突撃してきたジンクスの挟撃を回避し、腕をむしり取って残る一機の左脚へ投げつける。
無重力下でバランスを崩して前のめりになった敵の後頭部に肘を打ち下ろし、完全に行動不能に陥らせると、残る敵へ向けて眼光を飛ばす。

「……厄介だね、まったく。」

ズラリと並んだMS。
黒のキャンバスに赤いラインを描き上げ、それでも飽き足らずにクルセイドライザー・Hの爆煙さえもアクセントに付け加えたいらしい。
しかし、生憎と落書きのシミの一つになり下がる気はない。
むしろ、そろそろこちらの剣が相手の絵図を引き裂く番だ。

『ユノユノ~、まだっスか?』

「もう少しってところかな。」

順調に陣形は広がってきている。
突入のタイミングは近い。
ただ、スメラギも言っていたように、問題はどれだけの間この隙間を維持できるかだ。

「ウェンディ、粒子残量は?」

『60チョイってとこ。ユノユノおかげで大分節約できたっス。』

「オーライ。それだけあれば十分だ。967、沙慈、グラムのタイミングは任せるよ。」

「了解。」

『任せて。』

「よし……さあ、開け……!僕たちは逃げも隠れもしないぞ……!」

だから、こっちに来い。
こっちに来て、後ろにある物のことなど忘れてしまえ。
そんな思いを眼力に込めながら、少しずつ分散していく敵を睨みつける。
そして、その願いは通じた。

「!」

最後方に陣取っていた機体と、ガンダム各機を円形に囲みにかかっていた陣形の隙間が一定の距離に達した瞬間、全ての機体に通達が入る。
今回の作戦の要にして、切り札の下へも。






「飛べっ!!刹那!!」






オービタルリング周辺宙域 プトレマイオスⅡ

「ダブルオーライザー、目標へ飛翔する!!」

赤い砲弾がハッチから弾きだされる。
通常のボルテージを上回る、リニアカタパルトの耐久限界値ギリギリの出力で飛ばされたダブルオーライザーの中で、刹那とエリオの肉体を強烈なGが押しつぶしにかかる。
声さえも上げられないその負荷に、肉体強化で耐える二人の目を釘づけにしているのは、紅いMSに守られている巨大兵器。
しかし、今やその守りは穴だらけの城壁同然。
高出力のリニアカタパルトとTRANS-AMによって音速を超えたスピードを手にしたダブルオーライザーならばなおさらだ。

『良い?ユーノたちの陽動で必ず防御にほつれが出る。それは、通常は隙とは言えないものかもしれないけど、あなたとダブルオーにとっては違う。スピードもパワーも、今の技術の常識を遥かに超えることができるあなたたちだからこそ、この役目を任せるの。』

ああ、そうだ。
スメラギは自分と、エリオと、ジルと、そしてダブルオーライザーを信じてくれた。
部外者が見れば、無茶を押しつけただけだの、パイロットを過信しているだの、好き放題言ってくれるのだろう。
だが、無茶で結構。
過信で結構。
そんな連中には、結果だけ突き付けてやればいい。

(そろそろいくぞ、ジル、エリオ!)

(了解!姿勢制御は任せろ!)

(出力、安定しています!TRANS-AM限界時間まで、残り136セコンド!)

そのとき、念話で意思疎通を図る彼らの前に紅いMSが現れる。
通すまいと手に持っていた槍を構えるが、刹那は羽虫でも払いのけるようにそれごと相手を一刀両断せしめる。
それを目撃したジンクスやアヘッドの群れが、一斉にこちらに視線を向けた。
しかし、刹那に焦りはない。
なぜなら、



「グラム、フルファイア!」



「ブチ抜けぇぇぇぇぇ!!」



「圧縮粒子解放!ハイパーバーストッ!!」





無茶に巻き込まれたのは、自分たちだけではない。
その証明が、自分たちの周りで煌めく閃光である。
GN粒子そのままの輝きに包まれ、糸の切れた人形のようにだらりと腕を投げだすジンクス。
あるいは、メメントモリを挟み込むように放たれる巨大な光の柱。
仲間たちの援護が、敵の進行を食い止めてくれているのだ。



オービタルリング周辺宙域 ロックオン・ティエリア組

「なるほどね。」

剃刀の刃を渡るような削り合いの最中、ティアナはソレスタルビーイングを賞賛した。
こんなバカげた作戦を考える人間も狂っているが、それをここまで成し遂げてしまえるガンダムのパイロットたちも十分イカれている。

鉄壁の守り、しかも伏兵まで忍ばせてあるこの布陣を相手に陽動をかけたところで、できる穴など高が知れている。
だからこそ、スメラギはその穴を最大限に生かすことを考えたのだ。
三方向から攻めることによって、わずかではあるが陣形の戦力を分散させる。
さらに、おそらくティアナが防衛にあたっている反対側にいるのはユーノだろう。
彼の乗る二個付きガンダムを警戒して、おそらくそちらへ戦力を偏らせる。
結果、残る二方向にティアナやアンドレイを配置しても、全体的な防御力は下がってしまった。
しかも、この三列隊形の防御陣は前後の移動速度が極めて遅い。
ここまで前に出されて、隊列まで乱されてしまったら立て直しには相当の時間を要するはず。
そのために背を向けた敵から、雨霰と攻撃が来るならばなおさらだ。

(けど!)

スナイパーライフルの銃口を向けようとしていたケルディムへ牽制の誘導弾を一発放ちながら、ティアナはこの作戦における致命的な欠点について考察していた。

(この作戦の問題点。それは…)



メメントモリ側面 アレルヤ・マリー組

「バカな!あんな速度で移動したままメメントモリを破壊など出来るはずがない!」

アンドレイの言うとおり、今のダブルオーライザーの速度でメメントモリに有効なダメージを与えられるはずがない。
戦艦ならばともかく、それでもピンポイントを狙わなければいけないのだが、あれだけ巨大な兵器にMSがすれ違いざまに致命傷を与えるのは不可能だ。
破壊できるだけの威力をもった攻撃をしようにも、今度は敵のド真ん中で止まる必要がある。
そうなったが最後。
殺到する敵に押しつぶされてジ・エンド。
自死を覚悟しない限り、この作戦は成功しない。
なのに、なぜだろう。
あのガンダムからは、これから死に臨む者の気配がしない。
むしろ、生きようとする意思がはっきりと伝わってくる。

「よそ見してんじゃねぇよ!!」

「クッ!!」

ルシファーを掠める刃と、自身に伝わる微かな痛みで、アンドレイは意識を目の前に戻す。
いかにルシファーが優れていても、こいつらを無視して二個付きを止めに行くことなどできない。
ただ、見守るしかないのだ。



メメントモリ近辺

巨大な墓標を守る機兵はすでに一体たりともいなかった。
刹那は確信する。
これならば、“斬って墜とせる”。

(エリオ!!)

心から心へじかに伝わる叫び声がエリオの体を突き動かす。
ライザーシステムの出力は、目標値で安定。
これならば、存分に全力を出せる。
あとは、刹那とジルの仕事だ。

(手筈通り姿勢を変える!二人とも、ゲロっちまうなよ!)

ハロのボディの中で、ジルは瞳を閉じる。
瞼の裏に映るのは、線と点だけで外観と内部構造を描いたようなダブルオーライザーの姿。
そして、上半身を前に倒したその姿勢を、メメントモリに足を向けるような形に修正する。
Gのかかる方向が変わった瞬間、内臓がひっくりかえるような感覚にエリオの喉元に熱く痛いものがこみ上げてくるが、それを必死にこらえて画面に表示されたメーターを見据える。

(各部異常なし!刹那さん!)

(了解!)

オーライザーの二つの翼が回転して前方へと突き出される。
そこから繰り出されるのは、ソレスタルビーイングが所持する最強の剣。
森羅万象、あらゆるものを焼き斬る粒子の刃、

「ライザー……ソードォォォォォォォ!!!!」

気迫のこもった刹那の咆哮と共に、ビーム砲と見紛うような巨大な刃が出現する。
切先の伸びる先にいた敵機を蹴散らしながら、それでもまだ喰らい足りぬと黒いボディへ己の刀身を潜り込ませたライザーソードは、もともとのスピードも加わって、わずか数秒の内にメインターゲットをあっさり切断してみせた。



メメントモリ側面 アレルヤ・マリー組

「ターゲット、破壊確認!」

「了解!」

マリーからの知らせに大きくビームサーベルを振ってルシファーを引きはがすと、アレルヤはアリオスをGNアーチャーの側に寄せる。

「待てっ!」

アンドレイはレモラを飛ばそうとするが、アレルヤの方が早かった。
ドッキングを完了すると、熱戦が発射される前にTRANS-AMを発動。
他の追従を許さぬ速度でその場を後にする。

(しかし……かなりヤバかったな。)

ハレルヤの呟きにアレルヤの顔も曇る。
アロウズの物量だけでなく、その戦力の質。
特に、異世界の技術を流用した機体の能力は大きな脅威だ。
それを痛烈に体感させられた一戦だった。

(ま、気を揉んだってどうにもならねぇやな。)

「うん…ただ、今は…」

マリーを守れてよかった。
画面に映しだされた彼女の姿にそんなことを考えながら、アレルヤは微笑んだ。



オービタルリング周辺宙域 ロックオン・ティエリア組

赤い輝きを放ちながら後退する宿敵に、申し訳程度の攻撃を続けながらも、ティアナは心のどこかでホッとしていた。
あの兵器がどこかへ発射されることがなかった、ということもあるのかもしれない。
だが、それよりもあのガンダムと互角以上に渡り合えたことも理由の一つだろう。
押しきることはできなかったが、負け越しているティアナにとっては大きい収穫だ。
激化の一途をたどるであろう、これから先の戦いも乗り越えられる確信を得られた。
ただ、

(……撃てる、かな…?)

彼を。
彼女を。
過去に雁字搦めにされているあの二人を。
もし、撃つことになったら。
果たして、自分にそれができるだろうか。

「できる訳ないよ……」

彼なら、あのモスグリーンのガンダムのパイロットなら、その答えを教えてくれるのだろうか。
しかし、銃口を向けたまま遠ざかっていく機影は何も答えてなどくれなかった。



暗礁宙域 プトレマイオスⅡ ユーノ・ウェンディ組

『追撃、確認できません。』

『警戒態勢を解除。お疲れ様です!』

オペレーター二人の言葉に四人は同時に息をつく。
一仕事終えてゆっくりしたい気分だが、ユーノと沙慈はもう一働きしなければならない。

『みんな、想像以上にひどくやられたね。』

「大きな破損はないけどね。まあ、とにかく全員無事でよかったよ。」

『これで地図から国が消える心配もなくなったし、万々歳っスよ。』

「万々歳、ね……」

本当にそうなのだろうか。
確かに、これでメメントモリによって出る犠牲はなくなるだろう。
しかし、なにかが引っかかる。
アロウズの軍備増強以上に、なにかを見落としている気がするのだ。

「どうかしたか?」

「……いや、なんでもないよ。」

やはり考え過ぎだろう。
メメントモリはもう破壊したのだ。
ウェンディの言うとおり、もう死の光が人々の頭上を照らすことはない。





そう、地球にはもうメメントモリはないのだから。



第231観測世界 衛星・地表面

時を同じくして、とある惑星の周りを周回する衛星の一つに大きな盛り上がりができた。
その光のドームは瞬く間に広がっていき、遂には衛星そのものを飲み込んだ。

「ま、こんなもんか。」

消えた星のあった場所を一瞥し、ソリアはプルトを“改良型メメントモリ”の方へ向ける。
大きな一本角を生やした球体は、無数のカートリッジを面という面から排出すると機能を完全に停止させた。

「カートリッジはともかく、本体まで使い捨てじゃ困るな。」

『あと、このバカ威力ね。まさか、ミッドを丸ごと消し飛ばすわけにはいかないし。』

「俺としては構いやしないんだがな。」

『あんたが良くても、私はごめんよ。お気に店を潰されたんじゃたまらないわ。』

「人命よりも店かよ。」

もっとも、そういうソリアも似たり寄ったりだが。
しかし、どこが消えようが問題ないのは間違いない。
コイツはあくまで威嚇と最終手段のためなのだから。

「さて、もう少し頑張ろうか。みんなが幸せに暮らせる世界とやらのためにな。」

空虚な宇宙を見つめるエメラルドの瞳には、その黒よりもさらに濃い闇が渦巻いていた。















狂乱の果てに響くのは、無知なる者たちへの葬送の調べ
希望を手に取る者たちに送らるるは、今は遠き理想の哀歌






あとがき

どうにかこうにか67話終了です。
そして鼻とのどがひでぇ……
友人に電話したら怪しい奴だと思われたし。
……友情って、なんだっけ?
まあ、何が言いたいかというと、みなさん季節の変わり目は気をつけないとこのバカみたいに風邪ひいちゃいますよってことです(苦笑)
久々にこじらしたらずるずる引っ張って随分長いことこのまんまです。
今は快方に向かったので流石に大丈夫だと思うのですが、そしたら今度は花粉だよ……
ダブルオー世界やリリなの世界じゃ花粉症なんて撲滅してんだろうな。
……別に全然悔しくないんだからな!
というわけで、次回から本編の流れに戻るわけですが……いきなり重いの来ちまったよ(^_^;)
予告しとくと、大まかな流れは同じですが、重大なところを変更する予定です。
鬱展開に弱い人はご注意を。
では、よろしければ次回も読んでやってください。
それでは。





P.S 皆さん、マジで風邪には気をつけましょう。
花粉症と合併すると(ゴミ箱の中身と精神的に)死ねますw



[18122] 68.戻れぬ者たち
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/04/19 20:06
プトレマイオスⅡ メディカルルーム

その扉の前で、エリオはただ祈っていた。
目の前にいる飛竜さえも気に留めず、両膝を抱えながら固く眼を閉じていた。
刹那たちマイスターもまた、扉の向こうにいる二人の未来が、明るく開けているはずだと、そんな淡い希望を抱いていた。
それがやはり、夢物語になることをわかっていながら。

「!」

横に滑った扉から出てきた白衣の男に、刹那は誰よりも早く詰め寄る。
しかし、男はただ首を横に振った。

「……二人だけに、してやって欲しい。」

エリオは目を見開くと、いよいよ顔を青ざめさせ始める。
そんなエリオを心配して、フリードは哀しげに鳴く。
まるで、これから聞こえてくるであろう慟哭をかき消すように。

だが、それははっきりと、億万の刃より鋭く彼の鼓膜と記憶に突き刺さった。
最愛の人を失った戦士の、悲しみに満ちた絶叫が。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 68.戻れぬ者たち

プトレマイオスⅡ ロックオンの部屋

問いかけは、唐突だった。

「ねぇ、ライル。聞かせてくれる?」

いつものように二人寄り添っていると、アニューが甘い声で聞いてきた。
「なにを?」と、ライルがはぐらかすと、わかってるくせにとアニューは笑った。

「あなたのお兄さんのこと。」

ライルは表情を曇らせる。
が、何もかもがいまさら過ぎた。
恋人に少しばかり身の上話をしてしまったことも、兄への屈託も、そして家族にあったことも。
こだわっていない、とは言えないかもしれないが、自分の中ではケリをつけた話だ。
なのに、どうしてだろうか。
この話をしてしまったら、アニューが、今まさに彼女が寄りかかっているこの腕の届かないところへ行ってしまう。
そんな気がして、ライルはあまり気が進まなかった。
けれど、つまるところそんなものはライルの心の問題だ。
いまだ、中途半端に引きずっている、甘ったれな言い訳だ。
それを断ち切るには、ちょうど良い機会かもしれない。
だから、ライルは一度大きく息を吐いて、それから話し始めた

「思い出なんかないよ……俺はジュニアスクールの時から寄宿舎にいたんでね。」

「どうして寄宿舎に?」

「出来の良い兄貴と比べられたくなかったんだよ。戦うことより、逃げるほうを選んじまった。」

「でも、あなたはお兄さんと同じガンダムマイスターになった。」

そこでライルはようやく笑った。
そう、何の因果か今は自分もガンダムマイスター。
しかも乗っているのは兄のガンダムの後継機。
必然といえば必然だが、ライルはこの巡り合わせを偶然だと思っている。
なにせ、

「動機が違いすぎる。俺はここから遠く離れた場所にいる仲間のため。兄貴は自分と、ついでにここの連中のため。」

「あら、いいの?このこと、スメラギさんに報告しちゃうかもよ?」

「好きにすればいいさ。あの狸、大方俺がこっそり何やってるかなんて気付いてるさ。それに、アニューにこんな良い男を自分から手放す勇気があるとは思えないしな。」

そう言うと、二人で小さく笑い声を漏らす。

(……ハハッ。バカみたいだな、俺。)

こんな他愛のないことで、こんなに幸せを感じている。
だから不安になる。
アニューを知るほど、知ろうとすればするほど。
二人の時間を過ごすほどに。

「……?アニュー?」

「…………………」

黙ってここではないどこかを見つめるアニューに、ライルは眉を寄せた。
まただ。
また、瞳が金色になっている。
時折、アニューはこうしてボーッとすることがある。
しかも、その後には必ず敵襲が来る。
それだけじゃない。
初めて違和感を覚えたのは、彼女に昔のことを聞いたときだ。
記憶喪失、という感じはしないのに、なぜか過去のことをはっきりと思いだせないようだった。
彼女が持つスキルや知識から、どこで生まれどう育ったのかまで。
ひどい時には、聞いただけで頭痛を訴える時もあった。

わかっている。
ユーノやエリオたちと同じように、彼女も普通じゃない。
しかも、その普通じゃない方向が明らかに自分たちにとって良くないものであることも。
だけど、それでも彼女を手放したくない。
仲間にうち明けて、弾劾するなどもってのほかだ。
惚れた女くらい、一人で守れなくてどうするんだ。

「……あ?わた…し……?」

アニューが正気に戻る。
戸惑う彼女を、ライルは優しく抱き寄せる。

「せっかくの恋人同士の時間なのに、呆ける奴があるかよ。」

「ごめん……」

嬉しそうに自分の胸に顔をうずめるアニューに、ライルは誓う。
この今を、誰にも壊させてなるものかと。
たとえ、アニュー自身がそれを望んだとしても。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

『迎撃しゅーりょーっス。』

「警戒フェイズは継続中よ。各員、気を抜かないように。」

スメラギの厳しい声にウェンディは思わず背筋を伸ばした。
ブリッジの中のピリピリとした空気がスメラギをそうさせているのか、それともスメラギを含むブリッジクルーが発している緊張感が空気を張り詰めさせているのか。
鶏と卵じゃないが、メメントモリ破壊以来、襲撃が激化するにつれて全員が消耗しているのは確かだ。

『たまらないな……』

思わず漏らした弱音に沙慈はハッとして口を固く閉じる。
モニターに映るマイスターやクルーの顔を見回すが、誰も沙慈に注意を向ける様子はない。
幸い、聞かれていなかったようだ。

『……そう言えば、ここのところ職場恋愛に忙しい奴らが何人かいるようだな。』

気が立っているスメラギさえも、注意するのを忘れて驚いた。
まさか刹那が、この手の話題を振るとは誰も考えていなかったからだ。
だが、ジルだけは刹那の考えていることを察した。

「そう言えば、半冷戦状態だった奴らの仲が元に戻ったり、嫁さんに内緒で二股かけようとしてる奴もいるもんな。」

『んなっ!?』

そんな反応をしたら丸わかりだ。
背中合わせで座っている友人に沙慈はそう言ってやりたい。
が、どうやら周囲に自慢をしたいのは彼だけではないらしい。

『………………』

『………………』

『あの、アレルヤさん?マリーさん?そんな顔されたら僕らが困るんですが?』

エリオもつくづく空気が読めない。
こういう時は、黙って見守ってやるのがセオリーというものだ。
そう思って苦笑した沙慈だったが、ふと気付いた。
さっきまであれだけ憔悴していたのに、笑えている。

『………………』

刹那がこちらを見ている。
どうやら、彼にだけは聞かれていたらしい。

『お互い、頑張らないとですね。』

『エリオ?』

いきなり限定回線で話しかけてきたエリオに、沙慈は困惑する。
だが、一瞬曇ったその顔を見て思い出した。

(そうだ、エリオも…)

エリオも、大切な人たちと敵味方に分かれてしまっている。
変わってしまった大切な人を取り戻そうと、必死に戦っている。

『……ああ。僕らも、頑張らないとね。』

『でも、頑張らないといけないのは取り戻した後かもね~。』

『ホホゥ、そんなに奥手なのか?それとも、こいつみたいに残念なくらいに鈍いのか?』

『ぶつよ、967?』

……さらに訂正。
どうやら、こいつらも聞こえていたらしい。

「まったく……」

本当に、自分にはもったいないくらいの友達だ。



翌日 メディカルルーム

(…………)

こんな時ばかり黙りこむのはジェイルの悪い癖だと、ティエリアは思う。
普段が掴みどころがないせいで、何も喋らないと逆に不安を覚える。
しかし、誰よりも不安なはずのあの二人が弱音を吐かずにいるのだ。
ならば、自分もまた軟弱な気持ちは胸の奥にしまっておこう。

「……信じられないな。」

それの意味するところは何なのか。
ジェイルの言葉にスメラギも息をのむ。

「あ…ああ、いや。決して悪い意味じゃない。むしろ、安心してもらっていい。」

「と、言うと?」

「まず刹那の肩だが、細胞に障害が発生していることは間違いないが、ここ数回の検診を見る限りでは、症状の進行は極めて緩やかだ。」

「ユーノの方はどうなんです?」

「こちらはもっと驚きだ。腹部の細胞障害はこれ以上の悪化の心配はないだろう。」

「バカな。」

ティエリアがくってかかる。

「余命わずか。しかも、まともに動けるのは多く見積もって3~4ヶ月と言ったのはあなたのはずだ。」

「言ったろう。私も驚いている、と。」

全然そう見えない。
が、そこはいつもと様子が違うことが彼なりの驚きの表現なのだと割り切っておこう。
それよりもユーノの話だ。

「動けるギリギリのレベルで症状の進行が完全にストップしている。ある時期から内臓へのダメージも蓄積されていない。しかも、転移も見つからないというおまけつきだ。」

「原因は?」

「なんとも言えんね。なにせ、症例が極端に少ない上に完治した人間のデータも皆無。二人とラッセの違いが単なる個人差なのかも測りかねている。」

そう言って改めてジェイルはティエリアたちに背を向ける。
だが、その背中が語っている。
ジェイルは、何らかの仮説を得ていると。

「……とにかく、これからも定期的に診ていくしかないね。何かしらの結論を出すにしても。」

「いや、もっとはっきりさせる方法がある。」

検査室から出てきた刹那とユーノも服を身につけながらティエリアの言葉に耳を傾ける。
そして、彼らが聞かされた提案というのは───



プトレマイオスⅡ コンテナ

「イノベイターを捕える?」

慣れない無重力の中を必死で羽ばたくフリードは、鼻の頭をくすぐられて口を半開きにしてなんとも表現しがたい顔をしている。
だが、今のエリオの顔も相当に間が抜けているとユーノは思った。

「ああ。守ってばっかりじゃ埒が明かないから、トレミーにご招待することにしたんだってさ。」

随分乱暴に招待状を渡すことになるんだろうなと思い、エリオは憂鬱になったが、オーライザーに乗った時点で物騒なことには馴れっこだ。
というより、生身でMSに喧嘩を売っていた頃の方が生命の危機という点では深刻だったかもしれない。

「それで、何を聞きだすつもりなんですか?」

「いろいろ聞きたいことはあるけど、何よりヴェーダの所在だね。連邦の情報統制はヴェーダに依るところが大きいだろうし、もし取り戻せたら太陽搭載型に対して切り札を使える。」

「切り札?」

「ああ、ごめん。これは一応秘匿事項……なんだけど、もう隠す必要もないか。まあ、気になったらティエリアに聞いてごらんよ。彼の方が詳しいから。」

なんだかうまい具合にはぐらかされた気がしないでもないが、無理に聞くほどのことでもないだろう。
しかし、もしこれから先の展開が有利に運べるのだとしたら、実に喜ばしいことである。
だが、

「どうかした?」

エリオの表情が晴れないことに気がついたユーノは問いかける。
しかし、当の本人もなんでこんなに不安なのかよくわからないのだ。

「あの……ユーノさんは何か感じませんか?」

「感じるって……なにを?」

「その、嫌な予感って言うか……やめておいた方が良いって言うか……」

「やめる、って、イノベイターの捕縛を?」

勘なんかで中断されるとは思えない。
だが、それでもやめておいた方が良いと、本能から理性に訴えてきている。
なにか、取り返しのつかないことが起こると。

けど、そんな不安をユーノは笑い飛ばすでもなく、ただいつものように優しく微笑んで見せた。

「不安なのはわかるよ。僕だって、最初の頃は出撃するのが怖かった時があった。」

「今は怖くないんですか?」

「怖くない。いや…」

口元に手をあて、少し考えてからユーノは言い直す。

「怖いことは怖いんだろうけど、慣れちゃったのかもね。それに、怖さよりも大切な物があることの方が大きいから、忘れちゃうんだと思う。……忘れちゃいけないのに、ね。」

だから、この子には忘れないでいてほしい。
恐ろしいという感情を。
忘れずに、大切な物のために立ち向かうことの意味を。
これから先の未来のために。

「まあ、そのうちわかるよ。こんな駄目な大人が教えるまでもなくね。」

「きゅく?」

ユーノは片手で作業を続けながら右腕をフリードの足元に差し出して掴ませると、キャットウォークをこちらへと向かう影を顎で指す。

「ほら、もうすぐ操縦訓練だろう?自分から頼んだんだから、先生を待たせちゃ駄目だよ。」

「あ、はい。それじゃ、フリードのことお願いします。」

大袈裟すぎるくらい勢いよく頭を下げたエリオは、貧乏ゆすりをしている、おそらくハレルヤのところへと向かう。
そして、ふたりが完全に背を向けたところで、ようやくユーノは自分の中の不安を吐露できた。

「嫌な予感、か……勘って言って、誰が信じるかな?」

ここのところ、どうにも落ち着かない。
エリオもここの所、変にソワソワしているので、その影響から久しぶりに自分もナーバスになっているのかと思ったが、やはりそういうのとは何かが違う。
頭の中がざわついて、心がかき乱される。
まるで、ひっきりなしに念話を強制受信させられているみたいだ。
しかも、それが自分の心に溶け込んでくるように感じるから性質が悪い。

「精神感応による人格の侵食……?」

まさか。
バカバカしいと頭を振って杞憂にすらなっていない妄想を消し去る。
そんなこと、イノベイターにできるはずがない。
だって、彼らがそういった手段をとれるのは、同族だけなのだから。

「同族……?」

そう言えば、似ている気がしないでもない。
同じ髪の色に、同じ瞳の色。
顔立ちも近しいように思える。
けど、それこそ馬鹿げている。
いくらなんでも、彼女がリボンズの差し金でここに来たのなら、すぐにみんな気がついているはずだ。
よっぽどの役者か、それとも自分の役目を忘れて────

『貴様にその自覚がなくとも、いずれ貴様も目覚めるときが来る。俺の…俺の家族のように……!』

あの時言っていたラーズの言葉。
そして、サクヤの両親とレイヴの豹変。
ラーズとユーノの間にあったことはただの誤解だったが、彼とサクヤとレイヴが体験したことは紛れもない事実だ。
もし、彼女が同じだったとしたら。

「きゅう?」

「あ、ああ、ごめん、フリード。なんでもないよ。」

肩に移動していたフリードの喉を優しくなでると、気持ち良さそうに一声鳴いて頬ずりしてくる。
だが、数粒の汗を滴らせるユーノの肌は、奇妙なほどに冷たかった。

(……保険はかけておこう。)

できるなら、そのことで彼女を含めた仲間全員から非難されるだけで済むことを願って。



展望室

星々は、時に宝石に例えられることがある。
しかし、アニューにはその宝石たちよりも、首に下げている虹のペンダントの方が何倍も愛おしく思えた。

「ライル……」

今のアニューの一番の楽しみは、ライルとの未来を思い描くこと。
この戦いが終われば、彼がソレスタルビーイングにいる理由はなくなる。
ソレスタルビーイングが無用になるなんてことはないかもしれないが、今よりも積極的に動く必要性はなくなるはずだ。
ならば、自分も彼と一緒に行こう。
どこへ行こうとも、これからも一緒にいよう。
今まで捨ててきた分よりも、もっとたくさんの幸福を見つけよう。
ひょっとしたら家族も増えるかもしれない。

「私、すごく幸せだよ、ライル…」

────遊びは終わりだ。役目を果たせ。

「う………」

────もうすぐ、君が必要になる。

……嫌だ。

────嫌だ?

みんなを……ライルを傷つけないで……

────バカなことを……人間なんて、互いにわかりあうこともできない存在だ。

違う。

────違わない。だから、僕らが生まれたんだ。

違う!少なくとも、私とライルは!!



「リターナーさん!」

「しっかりするっス!」

「あ……?」

急に視界が開けていく。
ミレイナとウェンディが、必死に呼びかけては肩を揺すっている。
何事かと不思議に思っていると、その理由がわかった。
自分は、失神していたのだ。

「アニュちん!何かあったんスか!?」

「う…ううん……ちょっと、くらっと来ちゃって…」

「とにかく、ジェイルさんに診てもらうです!」

「……そうね。最近、いろいろあったから。少し疲れてるのかもね。」

二人に付き添われ、アニューは素直にメディカルルームへと歩き出す。
不調の理由が、疲労だと思い込んで。



アロウズ母艦

「拒絶された…?」

リヴァイヴは困惑する。
自分の脳量子波を彼女が拒めるはずがないのだが、時間が経過するほどに強く拒絶されるようになってきている。
これがリボンズの言うところの、人間に感化されてきているというやつなのだろうか。

「まあいい。位置はつかめた。」

今回の出撃で実行に移した方が良いかもしれない。
そう考えながら、リヴァイヴは名目上の上官の下へ向かった。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

Eセンサーが捉えた機影は、いつもに比べれば控え目な数だった。
斥候なのか、それともこちらを警戒して様子見をしているのか。
だが、こちらにとっては願ってもないチャンスだ。
その機影の中に、件の機体が紛れ込んでいたのだから。

「ティエリア。」

『わかっている。』

好き放題こちらをひっかきまわすのもここまでだ。
今度はこちらが奴らからいろいろと聞きだしてやる。
ウェンディと共に先に出撃するティエリアを見送り、気にかけないといけない人物の様子を窺う。

「エリオ。」

『……大丈夫です。僕がやらなくちゃいけないのは殺し合いなんかじゃない。彼女を止めることです。』

「ああ。」

力強い言葉に刹那も勇気をもらう。
死ぬための勇気ではなく、生き抜くための勇気を。
そして、それは沙慈にもほんの一握りの勇気を与えてくれた。

「エリオ…」

『盗み聞きは感心しない……って、僕らも同罪か。』

「こういう時は大人の方が弱いものさ。子供の強さにすがりたくなる時もある。」

『それで?勇気は分けてもらえた?』

「うん。十分すぎるくらいに、ね。」

『そりゃよかった。それじゃ、行こうか。君の大切な人を取り戻す戦いへ。』

クルセイドライザー・Hとダブルオーライザーも、それぞれの想いを抱いて飛んでいく。
だが、想いという点ではロックオンも負けていない。

「アニュー、聞いてるか?」

やるなら今しかない。
絶好のタイミングだ。

『どうかしたの?』

アニューが不思議そうに聞いてくる。
普段は優秀すぎるくせに、こういう時は鈍い。
けど、そんなギャップに惹かれたのかもしれない。

「……愛してるよ。」

『え!?』

ブリッジで歓声が上がるのが聞こえる。
狙いはバッチリ、というやつだ。
成層圏の向こうを狙い撃つ男の面目躍如、といったところか。

『恋の花が咲いたです!』

『あ~あ……昨日967が槍玉に挙げたばっかだってのに、お熱いことで。』

「僻むなよ。なんなら、モテる秘訣を教えてやろうか?」

『結構だ。俺は好きで一人身なんだ。』

『ハイハイ、ごちそうさま。まったく……これだから男の人って。』

「いやいや、あんたとアレルヤも相当なもんだと思うぜ?周りにあれだけ世話焼かせといて今じゃ完全に婚約秒読み状態だからな。」

冷やかしの声を受け流しつつ、頬を赤らめてあたふたする恋人を鑑賞する。
が、その視線に気がついたアニューは狼狽したまま急かす。

『い、いいから早く出撃する!』

「オーライ。」

まったく、可愛い奴だ。
そう、これがアニューだ。
自分の知っているアニュー。
誰が何と言おうと、これがアニュー・リターナーなのだ。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!」

男の決意はどんな困難だって打ち砕くことができる。
ロックオンは、ライルはこの時、まだそう信じていた。



戦闘宙域

敵は12機。
内、アヘッド2体。
三つの小隊に別れ、編隊を組んでいる。
そのうち一つに、目的の機体がいた。

『増援が予想されます。各機、警戒を厳にして!』

「了解!」

「りょ~かい!」

「了解!」

「了解!ダブルオーライザー、先行して敵を叩く!」

「クルセイドライザー、同じく先行します!」

無限の軌跡が二つ。
左右に分かれて紅の輝きを撃つ。
二丁のソードライフルから放たれた閃光がアヘッドを貫いたかと思うと、反対側では瑠璃色の拳が唸りを上げる。
そして、それを狙う影が一つ。

「ツインドライヴだからと!」

禍々しささえ漂う赤と黄色のビーム砲が向かう先はダブルオーライザー。
しかし、それを察知したエリオが素早くオーライザーの翼を真上に向けて粒子を噴射。
余裕を持って悪意に満ちた一撃を回避した。

「イノベイターの機体を捕捉しました!」

「ティエリア!」

刹那の声にティエリアが呼応する。
組み合っていたジンクスを蹴り飛ばすと、その反動を利用してガデッサとの距離を詰めにかかる。
リヴァイヴも望むところとばかりにセラヴィーへと向かって行った。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

『左右より敵の増援!』

『総数14です!』

『やっぱり来やがったか!』

「!」

ユーノの動きは早かった。
スメラギが指示を出す前に相手をしていた小隊から離れると、背を向けるのも厭わずにプトレマイオスへと引き返す。

「ユーノ!?」

「いる……間違いない!」

なぜそう言いきれるのか。
援護に駆けつけるアレルヤとマリーの声さえ無視して、誰よりも早く敵陣のド真ん中へと突撃する。

『前に出過ぎだユーノ!』

『落ち着いて!一旦さがって!』

「嫌だ!」

さがれるものか。
だって、あそこには。

「沙慈!ルイスがいる!!」

「え!?」

「ルイスがいるんだ!!力いっぱい叫べ!!」

アヘッドの頭を握り潰し、ユーノも周囲の機体を手当たり次第にスクリーンに出して目を奔らせる。
以前会った時にルイスが乗っていたのはアヘッドの改良型。
アフリカタワーで彼女に阻まれたせいで、セルゲイは

(バカ野郎!余計なことを考えるな!!)

脳裏をよぎったヴィジョンを振り払い、改めて戦域を見渡す。
だが、やはりどこにも彼女の機体は見当たらない。
代わりに見えたのは、研ぎ澄ませた爪を振りかぶる白い機体。

「戦闘中に余所見なんて!」

「チッ!」

捜索を打ち切り、迫りくる脅威と対面する。
ガラッゾの爪を半身になってかわし、同時に左拳をアッパー気味に突きだす。
しかし、今度はヒリングがそれをバックステップで空振らせると、右手の爪のビームを一つに集中させる。

「借りは返させてもらうよ!ブリングとデヴァインの分もね!」

「御免、」

「被る!」

全身を赤く発光させると、高密度のGN粒子を纏った手の平で集中型のビームサーベルを掴む。
ヒリングが驚愕する間もなく、クルセイドライザー・Hはまるで割り箸のようにそれを真っ二つにへし折った。

「ウソ!?」

「邪魔をするな!!」

二本のビームサーベルが両肩に突き刺さると、そこめがけて鋭い拳撃が飛んだ。
ビームサーベルの柄が爆発すると、ガラッゾの腕が肩から剥がれ落ちる。
抵抗する手段を奪われ、目の前の敵に恐怖を覚えたヒリングだったが、ユーノの興味は動けない敵から別の物へと移っていた。

「ユーノ!隕石が三つトレミーに接近してる!」

「ビンゴ!間違いなくそれだ!」

ガラッゾをその場に残し、ユーノたちはプトレマイオスの上面への接近に成功していた隕石に。
隕石のカムフラージュを使用していた三機の下へと急ぐ。

(マズイ!)

それは、仲間ではなく接近していた三機が、という意味だった。
スメラギがこんなあからさまなトラップにかかるはずがない。
おそらく、逆に回避不能な距離まで来たところで迎え撃つつもりだ。

(こいつを食らえ!)

岩の塊から本来の姿へと戻った三機に、ラッセの敵意が向く。
引き金に指がかかっていることまで、はっきりとわかる。
そして、三つの岩塊たちも臨戦態勢に入った。

(やめろ…!)

そのうちの一機には、ルイスが乗っている。
自分の親友が、そして沙慈の大切な人が乗っている。
だから、撃たないでくれ。
どちらも撃っちゃ駄目だ。
それじゃ駄目なんだ。
その先に待つものが何なのか、誰よりも知っているから。
だから、

(やめてくれぇぇぇぇ!!!!)





〈GN-EXCEED,Start up.〉




「っ!?なん…だ…!?」

驚きで指が止まる。
今、一瞬ユーノの声が。
いや、声だけでなく、確かに自分の前で両手を広げて立ちふさがる姿が見えた。

「ユー…ノ……なの?」

予想外の、人知を超えた現象を前にして全員呆けたまま動けない。
そして、それはプトレマイオスに強襲を仕掛けた三人も。





「なに、これ…?」

訓練生時代。
六課でのしごき。
怒鳴られたことは数あれど、その中でも断トツでキツイ叫びだった。
念話とも違う、まるで心の奥へ直に声を叩きこまれた感じだ。
ただの叫びだったのに、金縛りにあったように体の自由が利かない。
だが、そんな危機的状況なのに焦りはもとより闘争心が湧いてこない。

「二人は……ルイス准尉とアンドレイ中尉は……?」

戦場を覆う濃厚な粒子の中を漂うカスタム機と、巨大なMA。
彼らもやはり、動きを封じられているようだった。
その中で、ルイスは彼の存在を感じていた。

(…ずっと、ずっと待ってた。)

「沙慈…?」

昔と変わらない声。
少し気弱で優柔不断だけど、まっすぐな心。

(ずっと、会いたかった!)

ルイスの大切な人。
光の輪と衣を纏ってやってくるMSに乗っているのは、沙慈・クロスロードその人だ。

「ルイス!!」

「……沙…慈…?」

「そうだ!僕だ!沙慈・クロスロードだ!」

ユーノは二人の距離を縮めるように、ルイスの搭乗機であるレグナントを押していく。
紫紺と赤で彩られた、禍々しい巨体をその光で包みながら。
そして、

「ルイス!!」

沙慈の叫びが彼女の心の中で木霊した瞬間、二人はあの日に戻っていた。



???

青い星を見下ろしている。
二人で宇宙に上がって、地上へ落ちかけたあの時と何も変わらない。
ただ違ってしまったのは、二人の心の距離だった。

「……綺麗だ。」

「……そうね。」

「5年前も……こうやって二人で、地球を見たよね。」

忘れるはずがない。
あの頃の二人を、忘れられるはずがない。

「あの時、この地球を見て、宇宙で働こうと決めたんだ。」

「そしていつか、この景色を君と…そう思ったんだ。」

本当に、沙慈は変わらない。
優しいままで、希望に満ち溢れていて。
だからこそ、今のルイスには彼と一緒にいるのが耐えられない。
自分は、変わり過ぎてしまったから。

「……もう、会わないと決めていたのに。」

「……………………」

互いの距離を突き離すような沈黙。
しかし、沙慈はそれでもルイスに語りかけた。

「でも、僕たちはこうしてまた出会えた。」

ルイスの方を向く。
けれど、ルイスは沙慈と目も合わせようとしない。

「ずっと待っていたんだ、君を。この宇宙で。」

忘れてくれればよかったのに。
そうすれば、自分もいつか忘れられた。
今、苦しまずに済んだ。

「戻ろう、ルイス。あの頃へ。何もかもが穏やかだった、あの頃へ。」

無理だ。
もう、何もかもが違いすぎる。

「……できない。」

沙慈がたじろぐ。
が、すぐにまた手を差し伸べる。

「どうして!僕の声を聞いただろう!?僕はソレスタルビーイングじゃない!ただ巻き込まれてあそこに…」

「そういうことじゃない。」

「だったら!」

もういい。
話すだけ、無駄だ。
ルイスは銃口を突き付け、無理矢理全てを終わらせることにした。

「統一世界、恒久和平を実現するため、私はこの身を捧げたの。世界を乱す、ソレスタルビーイングを倒すため。そして……ママとパパの仇を討つために!」

「ルイス…」

怖い。
銃も、今のルイスも。
だが、沙慈は意を決して前に進み出る。
怯えているだけでは、何も変わらないから。
力がなくとも立ち向かわなければならないときがあることを知ったから。
ユーノや刹那が、それを教えてくれた。

「邪魔をしないで!邪魔するのなら……あなたも撃つ。」

声が震えている。
ルイスも、こんなこと望んでいないのだ。
本当は、戻りたいと思っているのだ。

「おかしいよ…!おかしいよ!君はそんな子じゃない!」

「そうね……そうかもしれない。だけど、自分で変わったの。自分の意思で。」

「そんなのウソだ!僕は知ってる!ルイスは、優しい女の子だってこと!少しお転婆だけど、誰かを傷つけられるような人じゃないってこと!」

「………………」

「わがままを言って、気を引こうとするところも、さびしがり屋だってところも。」

そっと、銃身に手を添える。
もう、怖くない。
だって、今ここにいるのはアロウズなんかじゃない。
ただの、ルイス・ハレヴィなのだから。

「ルイス……」

「私は…」

銃を落とし、沙慈の腕に身を任せる。
こうしていると、本当に昔に戻れる気がする。

でも、あの時の光景が生々しくよみがえる。
理不尽に両親を奪われ、消えない傷を負い、沙慈との未来を閉ざされたあの時のことが。
あの時抱いた憤怒や憎悪が、この身を包みこんでいく。

「私は…!」

「ルイス…?」

「わた…しは……!!」

「ルイス!?」



戦闘宙域 プトレマイオスⅡ周辺

「わたしはぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「う、おぁっ!?」

強引に振り払われたクルセイドライザー・Hを立て直そうとするユーノだったが、それよりも早くワイヤーが機体に喰いつき、放電していた。

「うわぁぁぁぁ!!!!」

「く……そ…!!」

「また、こいつかっ……!!」

このバカでかい図体を見たときから想像できてはいたが、間違いない。
イノベイターが乗っていた、あの大型MAの後継機だ。

「ルイス……!どう…してっ……!」

昔のルイスに戻っていたはずだった。
なのに、突然苦しみだしたかと思うと、暴れ始めた。
実際、この一撃も闇雲にはなったうちの一発がたまたま当たったにすぎない。
だが、この一瞬の隙が戦闘では命取りになる。

「准尉!」

「!!」

束縛が解けたアンドレイとルシファーが猛追してくる。
今、ユーノたちに為す術はない。

「奇っ怪な幻術で准尉を誑かそうとは!!」

嫉妬、あるいは戦友を侮辱されたことへの怒りか。
己の激情が何に起因するものかも判断できずにアンドレイは突撃していく。
だが、それを双銃の戦士が阻んだ。

「邪魔だ!」

「アンドレイ少尉……!あなたはまだ!!」

牽制の射撃を潜り抜け、すかさず振るったビームサーベルでGNアーチャーを退けると、再びクルセイドライザー・Hを目指す。
だが、アリオスとアレルヤにはそのわずかな時間さえあれば十分だった。

「ユーノ!」

「っっぅああぁぁ!!死ぬかと思った!!」

電撃の痺れが残る体を震わせ、ユーノは改めてレグナントと向かい合う。
動きに精彩を欠いているとはいえ、いや、混乱して暴れ回っているからこそ、これだけ大きさに差があるのは厄介だ。
真正面からのアタックは避けた方が賢明だろう。

(しかし、それよりも、今のルイスはまるで…)

変わり果てた無垢な少女の姿が、荒れ狂うレグナントに重なる。
そして、その後ろでほくそ笑む影も。

「リボンズ……!貴様という男は…!」

卑劣な手段で人の心さえも奪い去る。
平素から怒りの感情を表に出すことは滅多にないユーノだが、リボンズをはじめとするイノベイターたちに対しては怒り以外の感情を持つことが難しい。
そして、皮肉にもこの場においてはその怒りが彼の原動力となる。
奪われたものを取り返すための力となる。

「アレルヤ、そっちの新型の相手は任せたよ!」

「了解!そっちも気をつけて!」

気をつけろ。
無理な相談だ。
これから少しばかり寝相の悪い眠り姫を助けるのだ。
棘で傷つくことを恐れる訳にはいかない。
問題は、

「沙慈!」

「あ、ああ!」

肝心の王子が動揺しきっていることだ。
が、裏を返せばそれ以外問題はない。
馬役の自分たちが下手を踏まなければ、きっと何とかなる。

「さて、お姫様。悪いけど、キスじゃなくて少々荒っぽい方法で起きてもらう……よっ!」

王子を乗せ、赤く輝く天馬が漆黒の闇を疾駆する。
襲いかかる、雷撃の棘を掻き分けて。



戦闘宙域 前線

一方その頃。
イノベイターの捕縛を試みていたティエリアは、苦戦を強いられていた。
その理由が、“捕縛”という条件にあるのは言うまでもない。

「っ……!」

ガデッサの砲撃が機体を掠める。
冷やりとした瞬間は、これが初めてではない。
こっちが極力無傷で抑え込もうとするのに対し、向こうは無遠慮に殺しにかかってくる。
動きが単一化してくれば、それはさらに如実に表れてくる。
その証拠に、苦し紛れに放った一撃は、回避されるどころかそれを道標とするように上って来た拳で、バズーカを打ち砕かれるにいたった。
そのまま組みあいにもつれ込むと、残ったバズーカとランチャーをぶつけ、同時に引き金を引く。
爆煙が広がり、両者の視界をふさぐが、互いにとるべき行動は一つ。
ビームサーベルを抜いての白兵戦だった。

「ハッ!」

「シッ!」

今度は白色の輝きが二機を覆い、相手からの重圧を前面で一身に受け止める。

「やはり……その機体、接近戦向きではないようだな!」

「君の機体ほどじゃないさ!」

火力ばかり優先した、不格好な金属塊。
が、その不名誉もこの時ばかりは甘んじて受けよう。
なんとか応援も間に合った。

「ウェンディ、いまだ!」

「アイアイサー!」

「!」

側面から急速に接近する機体。
鍔迫り合いを中断し、離れようとしたリヴァイヴだったが、既に遅かった。
セラヴィーのビームサーベルから退いた瞬間、頭から上が綺麗に吹き飛ぶ。
勢いを殺しきれず、頭を失くしたまま横に回転して無様な姿を晒すガデッサに、セラヴィーの追撃、六つの手に握られた刃が振るわれた。

「チィッ!」

攻撃は手足を斬りおとすにとどめたものだったが、リヴァイヴはその斬撃群が当たる前に脱出用のコアファイターで離脱。
したはずだった。

「!?」

突然現れた網。
そこに突っ込む回遊魚よろしく、リヴァイヴは見事なまでに強靭でしなやかなワイヤーにからめ捕られ、おまけに網の各結び目についていた球状の機雷から飛び出した樹脂でガチガチに固められてしまった。

「イエ~イ、ゲッチュー!まさか、自分が引っかかったやつをそのまま使うなんてねぇ。」

「……どこで聞いた。」

「それはまあ、いろいろと♪」

嫌らしい笑顔を浮かべるウェンディもそうだが、それ以上に不覚をとった過去の自分に腹が立つ。
失敗は今の自分の糧になるなんて言うのはよく聞くが、やはりミスはないに越したことはない。
そんな苦い経験を心の棚にそっとしまい、首根っこを掴まれた猫のように大人しくなったリヴァイヴに鋭く言葉を浴びせかける。

「君には聞きたいことがある。答えてもらうぞ、イノベイター。」

脱出は絶望的。
しかも、無事に返してくれる可能性など皆無。
これだけで、並みの兵士ならばその場で泣き崩れても無理のない話である。
だが、ティエリアたちは気付いていない。
リヴァイヴが捉えられる前に、脳量子波で仲間からある提案を受けていたこと。
そして、ティエリアの言葉に、小さく笑っていたことを。



プトレマイオスⅡ周辺

理不尽。
戦いにおいて、自分の持ちうる手札が相手よりはるかに劣ることなど間々ある。
ティアナ自身、そのことをユーノたちから教わり、その上で勝つために最善を尽くしてきたつもりだ。
だが、これはやはりあまりにも理不尽である。
もっと力があれば、と思いたくもなる。
それほどまでに、あのガンダムは圧倒的だった。

「クッ!」

どれほど弾幕を張ろうが、その間をすり抜けて自分たちを翻弄する。
いや、おそらく当たる当たらない以前の問題だろう。
あの濃密なGN粒子の奔流にぶつかった時点で、粒子弾はおろか、実弾さえも弾かれる。
一方的な攻勢にさらされ、見るも無残に散る。
それが、戦闘開始時から現在を通してティアナが抱いている未来予想図である。

にもかかわらず、ユーノは一切攻撃を仕掛けてこないのだ。
彼の性格を考えれば、嬲り殺しなんてものは最初に排除される可能性だ。
ならば、その目的は何なのか。
考えられるのは、ルイス。
三人揃って行動不能に陥った時、クルセイドライザー・Hは自分とアンドレイなど目もくれずにレグナントとその場を離れていった。
そして、こうして今もなおほぼ無傷で暴れ回っている。
となると、ユーノたちが恐れているのはティアナたちを傷つけることではない。
ルイスを傷つけることだ。
だが、

(正気ですかユーノさん!?戦場で相手を説得なんて!)

確かに相手を殺めずに済めば、それにこしたことはない。
だが、ここは戦場。
説得した相手が縷々と涙を流して武器を手放すなど、全く期待できない場所である。
無謀、ではなく無駄。
しかし、同時になんとなく理解もできる。
なにせあのユーノである。
誰かのために自分の身を投げ出すことなど、息をするくらい自然にやってのける男だ。
譲れない何かのため、こんなバカげたことをやっているに違いない。

「敵わないなぁ、ホント。」

コックピットの中の必死な顔を思い浮かべ、ついつい苦笑する。
自分がユーノの領域に手をかけるのは、まだまだ先のことになりそうだ。
とその時、異変が起こった。
クルセイドライザー・Hが、外からでもわかるほど激しく振動を開始したのだ。

「限界時間か!?」

「駄目だ!まだルイスが!」

「バカ!このままじゃ助けるもクソもあるか!!」

ユーノの意見を無視し、967はGN-EXCEEDを強制終了する。
全身の羽が閉じられた後も、粒子残量はほぼ満杯だが、機体に蓄積したダメージを引きずったままこのデカブツの相手をするのはかなり厳しい。

『撤退だユーノ!イノベイターの捕縛には成功した!』

「でも、まだルイスが…!沙慈がルイスを取り返していない!!」

『このままここに残るのは危険すぎるわ!』

「けど!!」

それでもなおその場に留まろうとするユーノとクルセイドライザー・Hを、アレルヤとマリーは挟み込む形で腕を組み、プトレマイオスへと連れていく。

「離せ!!離せよ!!」

声は聞こえている。
機体が暴れる衝撃もきっちり伝わってくる。
それでも、二人は離さなかった。

「クソォ!!」

「っ!!ルイスーーーーー!!!!」

遠ざかっていくその姿に沙慈は手を伸ばす。
取り戻したかった温もりが、急激に冷えていくのを感じながら。



アロウズ母艦

「半数以上が墜とされ、リバイバル大尉が敵に捕えられただと?」

いちいちわかりきったことを繰り返さなくてもいいのに。
ヒリングはそう言いかけた口を閉ざし、薄い頬笑みを浮かべたままグッドマンの厭味に付き合ってやる。
作戦が終わって帰ってくる度これでは、こいつの下にいる人間はさぞかし大変だろう。
相手が劣等種と言えど、同情の一つもしてやりたくなる。

「噂のライセンス持ち、噂ほどではないな。」

「わかってないのね。私たちのやり方を。」

「それでこのざまか?」

ああ、やっぱりこいつら全然駄目だ。
非難、というより失望の視線をちらりとぶつける。
こいつがライセンス持ちの自分たちを好きにさせているのは、いざという時に自分の負う責任を少しでも軽くするため。
そのくせ、自分の指揮を無視する存在には不満たらたら。
けれど、軍の決めた規律を破るほどの度量もない。
指揮官としての器が知れている。
これでは、連戦連敗を喫するわけだ。
前に名目上の上官だった、あの女の方がよほど有能だった。

「次の作戦は私たちだけでやらせてもらうわ。」

「ほう…大きく出たな。では、戦果を期待させてもらおう。」

「了解。」

肥えた顔にお似合いの、勘違い野郎の嘲笑を浮かべたグッドマンを一瞥し、ブリッジの扉へと向かうヒリング。
が、グッドマンには最後の嫌味が残っていた。

「それはそうと、例の件。本気かね。」

「何か問題が?対峙したテロリストは全て殲滅している。実績は十分でしょ?」

「だが、所詮子供だ。」

やはり、無能だ。
こんなことも分からないなんて。

「子供の方が残酷な、そして有能な兵士に育つものよ。知らなかった?」

「……まあいい。こちらの邪魔だけはしてくれるなよ。」

的外れな厭味に、ヒリングはとうとう吹き出した。
邪魔だけはするな。
それはこちらのセリフだ。
あの子供が、この艦の兵士の誰よりも使えることを全く理解していない。
戦場に解き放たれたあの魔獣、昔語りに登場する悪しき竜を見たときの、驚愕した顔が眼に浮かぶ。

「リボンズも面白いことするわよね。」

次の作戦が、心から楽しみだ。



プトレマイオスⅡ コンテナ

最初にアレルヤに掴みかかったのは沙慈だった。

「なんで止めたんだ!!なんで、ルイスを見捨てた!!」

「違う!!あのままだったら、あなたもユーノも…」

マリーの弁護を、アレルヤは首を振って止める。
そして、睨む沙慈の瞳をまっすぐ見つめる。

「作戦目的は果たしていた。あのままツインドライヴを、イノベイターに対する切り札を失う可能性を看過することはできなかった。」

「そんなの知ったことか!!僕は…」

「君のわがままで、ユーノと967を殺すのかい?」

沙慈は言葉を失くした。
何も言えないまま、アレルヤから手を離してフラフラとさがる。

「ユーノは君の友達?それとも、道具?」

「そんなわけない!そんな、こと…」

「わかってるなら、それでいい。悪かったね、キツイこと言って。」

ポンと沙慈の肩を叩き、アレルヤは微笑む。

「少し疲れてるだろうから休んできなよ。」

マリーに任せ、沙慈をその場から離す。
もう一人の相手をするために。

「カッコつけ過ぎだよ。」

「こういうことはティエリアに任せたかったんだけど、どうもそれどころじゃなさそうだったからね。」

「かもね。あと、遅れたけど、ありがとう。それと、ごめん。」

「いつかのお返しだよ。やりたいことがあるなら生き残れ、だろ?」

ああ、そうだった。
すっかり忘れていた。
死んだらそこまでなんだ。
けど、生きている限り負けじゃない。
負けなければ、死ななければ、勝てるチャンスはいくらでもある。

「……生きるさ。まだ、僕は何もできていない。」



食堂

これではどちらがこの場の支配者かわからない。
それほどまでに、捕えられたイノベイターは食堂に集まっていた面々の注目を集めていた。

「ごめん、遅れた。」

アレルヤがユーノとやってくる。
これで、マイスターは全員揃った。

「ヘルメットをとってもらえる?」

スメラギに促され、遮光処理を施されたヘルメットを外した瞬間、ユーノは奥歯をギリリと鳴らした。
過去に彼から受けた仕打ち。
自分の友人たちを苦しめたこと。
そして、世界に対してしていること。
その全てが、ユーノの血液を沸騰させてくる。

「初めまして、ソレスタルビーイングの皆さん。僕の名はリヴァイヴ・リバイバル。イノベイターです。」

ふてぶてしいほど落ち着いている。
ソレスタルビーイングは、一応はテロリストの認定を受けている組織だ。
捕虜への拷問、薬物投与などによる自白を強要するべからず。
命を奪うべからず。
そんな条約に従う義理はどこにもない。
無論、スメラギたちにその意思はないが、顔色に多少恐れが混じっていないと不自然だ。
にもかかわらず、不快感さえ覚えるほどの涼しい顔が引っかかる。

(……刹那。)

(言われたとおりにしておいた。)

刹那にだけは伝えた懸念。
渋い顔はしたが、やはり刹那も思うところがあるのかすんなり承諾した。
あとは、保険が不発に終わってくれることを祈るのみだ。
壁際でそわそわと落ち着きのないロックオンのためにも。

(ユーノ。)

(大丈夫。それに、いざという時は僕がやる。)

ロックオンのためにも。

「イノベイターについて話してもらえるかしら。」

二人の胸の内など知らぬまま、スメラギ主導で話は進む。
そして、リヴァイヴの計画も。



ブリッジ

異変に最初に気がついたのはラッセだった。

「アニュー?予定進路から外れているぞ?」

声をかけても返事がない。
まるで、魂が抜け出てしまっているように、前を見つめたまま動かない。

「リターナーさん?」

「どうかしましたか?」

後ろにいた二人も気になったのか、舵を握る彼女の方を向く。
その時になってようやく、アニューは舵から手を離してラッセの方を向いた。



銃を握った状態で。



「リターナーさん!?」

「何をするんですか!?」

チラリ、とフェルトの方へ視線を向け、続けてミレイナを見やる。

〈フェルトちゃん!〉

D・ケルディムの声にハッとし、咄嗟に銃を顕現させる。
だが、仲間と思っていた人物の思いもよらない行動に動揺してしまったせいで遅れたコンマ数秒を取り戻すことはできなかった。
結果、ラッセは脇腹に銃弾を受け、無重力だとは思えないほどの滑らかな放物線運動でミレイナの背後をとると、そのこめかみに銃を押しつけた。

「何をする?そんなこと決まっているわ。だって私は…」

無表情。
人形の顔で、唸りながら自分を睨みつけるラッセと、銃を突き付けたままのフェルトへ、決定的な離縁状を叩きつけた。

「イノベイターなんだから。」



地球 某所

静かな麦畑が広がる夜。
そこに、微かな光がアクセントを添えている。
光の元である小屋には、ささやかながら温かな食事と、子供たちの声。
ここしばらく、マリナたちは、今までのことを考えれば、信じられないほどの穏やかな日々を送れている。
いつまでも、こうしていられればいいのに。
そう思ってしまうほどに。
けれど、死神の足音は、すぐそこまで迫ってきていた。

「クラウス!」

木製のドアが壊れるかと思うほどの勢いで飛び込んできた男は、息をつく暇もなく早口に喚く。

「逃げろ!!保安局の奴らが来る!!」

それが、彼の遺言になった。
突如として赤いシミが彼の胸にでき、白目をむいて倒れる。
団欒の場は即座に修羅場と化し、悲鳴と銃声が辺りを覆う。
そして、恐怖に心を押し潰された子供の一人が、銃を手に取った。

「!」

見よう見まねにもかかわらず、スムーズに重心をスライドさせて安全装置を解除した彼は、扉の向こうで銃を構えている男たちに、同じように銃口を向けた。

「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」

「駄目!!ヨセフ!!」

男たちの指が引き金にかかる。
だが、マリナは恐れずに銃を握る子供の手を下げさせ、そのまま庇うように男たちに背を向けた。

「マリナッ!!」

シーリンも腕を伸ばすが、二人にその手が届く前に、一発の銃声が夜空に轟いた。







歪みの中で生まれるのは、歪みしかないのか……




あとがき

いやぁ……クソ重ぇ第68話でした。
誰か偉い人が言っていたよ。
ガンダムは(どこかの殴り合い青春バトル風味がする特機型を除いて)終盤に行くと重くなったり鬱になったりするって。
特に、主人公の中の人が眼鏡が本体だったり、嘘だと言ってほしい主人公のは、だって。
けど、自分……そんなのも大好きです。

……うん。
全然和らがないね、この空気。
しかも、若干被害者(と呼んでいいのかどうかは分からないけど)一名追加しちゃってるし。
次回はもっと重くなります。
冒頭でもわかるように、レグナントがすでに出てきていたりと若干オリジナル要素が入ります。
けど、彼ならこのトラウマを乗り越えてくれると信じましょう。
てか、乗り越えてくれないと困る。
よろしければ感想、ご意見などをお聞かせください。
では、次回もお楽しみに!



[18122] 69.I love you,I trust you
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/06/19 20:20
第1管理世界 ミッドチルダ 管理局・対MS戦闘員宿舎

─────いくなよ、アニュー……!

「ッ……!」

─────俺を、一人にすんなよ……!

「ぅ……くぅ…!」

─────まだ、伝えてないことだってたくさんあるんだよ…!!

「うぅぅ……!!」

─────アニュー……!?おい、アニュー!!

「っくう…ぅ……!!」






─────っっっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

起き上がった勢いで全身から汗が飛び散る。
白いTシャツが、べっとりと張り付いているせいで、肌の色を吸い込んでしまっているかのようだった。
赤い前髪も水滴のせいで望まぬお辞儀を強いられ、その文句を言うように青年の瞳に諸ミネラルと老廃物の溶液を流し込んでくる。
両の眼に沁みるものを感じ、ようやく気付く。
自分は、瞳を見開いていたのだと。

「……まだ4時か。」

目覚ましのデジタル文字に嘆息して髪をかき上げると、エリオはベッドに腰掛ける。
全身にだるさが残っているが、どうしても二度寝をする気になれなかった。
薄暗い窓辺に飾られた、みんなで撮った写真を見ているとなおさら。

みんな笑っている。
日頃から仏頂面の面子も、かしましい女性陣も、軽口が過ぎるメンバーも。
それが、常に死がとなりにあるが故の強がりだったのか、それともあの時、この瞬間に心から安らぎを感じていたからなのかはわからない。
けれど、笑っていた。
もう会うことのできない人間も。

(もう、6年なんだよな。)

あれからいろいろあった。
エリオも、この激務に忙殺されていれば、辛い記憶を忘却の彼方へ押しやることができるかもと淡い期待を抱いていた。
けれど、できなかった。
エリオが本気でそれを望まなかったこともあったが、あの声が耳にこびりついて離れてくれない。
6年たった今でも、あの日の悪夢にうなされて目覚めることがあるくらいだ。

「アニューさん……」

アニューが、愛する人以外に、最後の言葉を残したのは自分だけだった。
けれど、それがいまだに胸を締め付ける。
その哀しくも、強さと優しさを内包した言葉が、この心を震わせる。
そして、それはもう一人の当事者である彼女もまた。

「……模擬戦の準備、しとこう。」

今日が、今いる部隊で最後の模擬戦になる。
特務へ行く前に、こんな不甲斐ない自分についてきてくれた部隊のみんなに、残せるものは残しておこう。
それが、あの時、あの場所に居合わせた一人として、やるべきことだと思うから。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 69.I love you,I trust you

地球 某所

「マリナッ!!」

銃弾を我が身で受け止めようと固く目を瞑るマリナへシーリンが叫ぶ。
だが、熱い弾丸を体で受け止めたのは保安局の人間だった。
クラウスが持ちだした機関銃を扉から外へバラまくと、麦畑のなかに男たちが倒れ込む。
しかし、すぐさま別の追手が銃弾を小屋の中へと撃ち込み、電球が砕け散った。

「逃げろ!!」

クラウスが応戦しながら叫ぶ。

「クラウス!!」

「行け!!」

その場に留まろうとしたシーリンは、クラウスの怒声に一瞬考え込んだが、すぐにマリナと子供たちを連れ、脱出用の地下通路へと急いだ。



地下通路

子供時代に、薄暗い地下道やちょっとしたほら穴を秘密基地にして楽しんだ男性は少なからずいるだろう。
だが、ランタンの明かりだけが頼りの暗い道に楽しみが見いだせるほど、子供たちは大様に構えてはいられなかった。
もちろん、先頭に立つシーリンも。

「こっちよ。」

先回りされている心配はないだろうが、それでも曲がり角で歩くスピードを緩め、様子を窺ってから先へ進む。

「ここは?」

「20世紀の大戦時に作られた防空壕よ。ここを通って行けば、裏山に出られるわ。」

「……クラウスさんは?」

マリナの問いに、シーリンは唇をかみしめる。
だが、振り返らず、そして足を止めず、気丈に答える。

「今は脱出することだけを考えて。」

そう言うと、シーリンは何を思ったのか足を止める。
そして、彼女が振り返った時、自分に差し出されたものを見てマリナは息をのんだ。

「持っていなさい。」

ランタンの光を反射して黒く輝く銃身に、マリナは言葉を失くす。

これを持てば、確かに子供たちを守れるかもしれない。
しかし────

数秒思案した後、マリナは首を横に振った。

「あなたはっ…!この期に及んでまだそんなことを!」

遂にシーリンも堪忍袋の緒が切れる。
マリナの言うことはもっともで、自分たちが間違っているのだろう。
しかし、世の中正しいことが常に正解であるわけではない。
むしろ、異常な状況下では正しいことがまかり通ることの方がまれだ。
だから、撃たなければならない。
撃たれる前に相手を。

だが、それでもマリナは微苦笑して、子供たちの方を見た。

「それを持ったら、この子たちの瞳を、まっすぐ見られなくなるから。」

今度はシーリンが息をのんだ。
自分を見上げる子供たちの顔が、兵士や銃声に怯えるそれと全く同じだったから。

「迷惑をかけてごめんなさい。でも、私は…」

「……いいわ。あなたはそのままでいなさい。」

「……ええ。」

そう、このままでいなければならない。
戦うことしかできなくなってしまった彼のためにも。

(刹那……あなたも、今どこかで戦っているの?)



プトレマイオスⅡ

「ヴェーダの所在?さて、僕にはわかりかねますが。」

仕草の一つ一つがいちいち癇に障る男だった。
のらりくらりと本題をかわす話術もそうだが、見下しているのが丸分かりの喋り方が気に食わない。
そして、ロックオンがそれを口にするまでもなく、アレルヤが厳しい追及でその余裕を封じ込めにかかる。

「イノベイターの君が知らない。それを僕らに信じろと?」

「仮に知っていたとして、あなた方はヴェーダをどうなさるおつもりですか?」

「愚問だな。」

今度はティエリアが穏やかに、だが厳しい物言いで責め立てる。

「奪還する。」

同族であるティエリアのその言葉に、リヴァイヴは吹き出してしまった。

「ヴェーダは本来、僕らが使用するために作成されたものですよ?」

「思い上がりも甚だしいね。僕らはカルディアに会ってきた。説明しなくても意味はわかるだろ。」

「カウンターの役割を果たすのがあれだけだとでも?なぜ、僕らが間違っていて、向こうが正しいと思うんだい?」

「だったら聞かせて。」

熱くなりかけていたユーノを手で制して、スメラギが問う。

「あなたたちはヴェーダを使って何をしようとしているの?」

─────シルフィから全てを告げられてはいないのか?
意外だったが、それならそれで都合が良い。
リヴァイヴは、リボンズからの受け売りを、まるで持論のごとく朗々と語り始める。

「来るべき対話。」

その単語だけで、全員から出る空気が悪くなる。

「話が見えないな。」

「それが人間の限界です。」

「テメェが万能だとは思えないがな。」

小馬鹿にされたアレルヤの仇を討つように、ロックオンが壁にもたれていた背を離して机をバンと叩く。

「現にこうして捕まってる。」

「わざと……」

マイスターズに動揺が奔る。
だが、すぐにリヴァイヴは破顔する。

「だとしたら?」

「お前…!」

ロックオンは拳を振り上げようとするが、その蛮行はフェルトからの通信に阻まれた。

『スメラギさん!』

慌てた様子だけでなにかあったのだと分かるが、彼女の口から告げられた事実は全員の想像する最悪など最悪でなかったことを思い知らせてくれた。

『リターナーさんが!!』

「アニューがどうした!?」

真っ先に詰め寄ったのはロックオンだった。
彼に急かされるように、早口でまくしたてる。

『ラッセさんを撃って、ミレイナを人質に……!』

そして聞かされる、ユーノが予見していた最悪の事態。

『リターナーさんは……自分が、イノベイターだと!!』

「イノベイター!?」

「アニューが!?」

ティエリアとスメラギが驚きの声をあげる中、ユーノ、刹那、そしてロックオンの行動は早かった。
すぐさま部屋にただ一つの扉へ向かって駆け出す。
だが、その姿をリヴァイヴは笑った。

「動かない方が賢明ですよ。」

外へ出ようとしていたユーノの視線がリヴァイヴに向けられる。
髪こそ蛇ではなく美しい金の糸だが、その瞳はまさに神話のゴルゴンさながら、リヴァイヴを睨み殺さんばかりに鋭く突き刺さる。
しかし、その視線の刃が今は実に心地よい。
この前の戦闘で失墜させられたプライドが甦ってくるようだ。

「この部屋から一歩でも外に出れば、人質の命は保証できませんよ。同タイプの僕とアニューは思考を繋ぐことができるんです。」

瞳を金色に輝かせながら、意味深な笑みをティエリアに向ける。

「わかるでしょう?」

「……脳量子波。」

怒りと同時に吐き気を催した。
こいつと自分が同類なのだと思うと、胸のあたりが悪くなってくる。
まるで、かつての自分の汚点を映した鏡、それもその汚点を凝縮したようなこの男に、ティエリアは拳を震わせた。

「それでは、失礼させていただきますよ。」

悠々と、勝手知ったる他人の家と言わんばかりの振る舞いで扉へと歩いていくリヴァイヴ。
ユーノとロックオンがそれを組み敷こうと身構えたが、スメラギが首を横に振ってそれを許可しなかった。
それを見てますますご機嫌になったリヴァイヴは、心持軽やかに命じる。

(アニュー。後は手筈通りに。)

食堂を後にしようとしたリヴァイヴは、最後に思い出したように振り返り、ユーノに微笑みかけた。

「君も来るといい。今までのことを謝罪してツインドライヴを差し出せば、リボンズもさぞ喜ぶだろう。」

「生憎、みょうちきりんな薬でオツムを弄り回されるなんて死んでもごめんだ。インフォームド・コンセントって言葉を勉強しとけって伝えておいてもらおうか。」

「そうか……残念だ。」

本当に残念そうに、白々しささえ漂うほど残念そうな顔をした後、こんどこそリヴァイヴは出ていった。

暗闇を置き土産に。

「艦内システムを!?」

「クソッ!」

「どけ!」

動かなくなった扉を叩くロックオンを押しのけ、ソードを展開した刹那が扉を切り刻む。
全員揃ってすぐさま廊下へ躍り出るが、既にリヴァイヴの姿はない。
今度はユーノが全身に回路を奔らせて痕跡を探るが、かなり巧妙に偽装してある。

「ご丁寧にトレミーのお外まで座標を設定してくれてる。人海戦術でシラミつぶしの方がよさそうだ。」

「それより今はアニューだ!」

ロックオンの言うとおりだ。
今は何よりもアニューと、彼女の目的だ。
だが、

「……悪いが、それについてはもう手を打ってあるんだ。」



コンテナ コントロールルーム

クルセイドライザーが出撃準備に入っていく。
希望と期待感を抱かせてくれるこの光景も、頭に銃を突き付けられているこの状況では正反対の感想しか抱けない。

絶望

その一言に尽きる。
だが、その絶望よりも、銃を突き付けているのがアニューであることの方が辛い。

「リ、リターナーさん……やめないですか?い、今なら、みんなも…」

「黙って。」

「は、はいです…」

弱々しく返事をするミレイナ。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
皮肉にも死が間近にあるおかげで、正気を保てているが、そうでなかったらこの場に泣き崩れている。
こんなの、自分が知っているアニューじゃない。
だって、自分の知ってるアニューは、しっかり者で、頼りになるお姉さんで、ロックオンの恋人で。

「……震えているわね。死ぬことがそんなに怖い?」

ミレイナの想いと裏腹に、アニューは冷笑を浮かべる。

「大変ね、人間というものは。」

「リターナーさんは……」

「?」

「リターナーさんは、怖くないですか?」

「私たちはあなたたちとは…」

「本当に怖くないんですか!?」

ミレイナの一喝に、恐れを抱く必要のないはずのアニューがたじろいだ。

「家族や、お友達……大好きな人と一緒にいられなくなるのが、怖くないんですか!?」

苛つく。
子供の戯言が無性に自分を苛立たせる。
気にする必要のない、無力な者の遠吠えが、この心をかき乱す。
いや、知っている。
本当は、この選択を強いられた自分に苛立っている。
本当に心をかき乱してくるのは彼女の言葉じゃない。
あの人の顔、声、匂い、感触。
その記憶が、決意を鈍らせてくる。

「……っ!私に家族などいない!必要ない!私はイノベイター!!与えられた使命を果たすだけ!!」

ここでの目的はすでに果たした。
いつまでもこんな話に付き合っている暇はない。

「立ちなさい!!」

力任せにミレイナを立たせ、部屋の外へと放り出す。
壁に強かに打ちつけられたミレイナはむせ返るが、アニューは有無を言わさぬ物腰で彼女を連れて通路を進む。
こんなところに未練などないことを証明するために。

だが、彼女が望まずともこの艦のクルーが、彼女の仲間たちがそれを許さない。

「止まってください。」

直角な分かれ道の角の向こうに、槍を構えた少年と、ボードに乗った少女がいる。
正面の直線の道からは、ライフルを構えた女性が。
誰も彼も、表情に哀しさと戸惑いを滲ませている。

「エリオ君!ウェンディ!」

「それに、超兵……ソーマ・ピーリス。」

「今はマリー・パーファシーです。」

そのセリフに、アニューは一歩前へ出る。
警戒を高める三人に、銃を突き付けられたミレイナの存在を強調しながら。

「そう……そうだったわね。あなたたちは少しややこしい体なんだったわね。低レベルな脳量子使いだといろいろ大変ね。同情するわ。」

「脳量子波を使えても、私たちはみんなと変わらない。そして、あなたも。」

「変わらない?笑わせないで。私はあなたたちとは違うの。あなたたちみたいに“望まれない命”じゃない。私は、この世界に必要とされて生まれてきた。この命の続く限り、その使命を果たす義務がある。人間モドキのあなたたちなんかと一緒にしないで。」

「その人間モドキが家族を作れたり、誰かを好きになれるんなら、御高尚な優良種様だって同じことができるんじゃないっスかね?」

「人の域まで堕落しろと?」

「……その言葉。堕落って言葉、本気で使っているんですか?」

エリオの目に、悲哀だけでなく憐れみが宿る。

「誰かを好きになることが堕落だと思うなら、あなたたちはこの世界を支配することなど出来はしない。」

「なんですって?」

「確かに、僕らはあなたたちのように思考を共有したりはできない。けれど、だからこそ僕らは手を繋ぐことを知っている。互いの言葉で孤独を駆逐できる。」

「けど、その手で人は人を傷つける。言葉の行き違いで世界を分かつ。」

「だとしても、僕らはその行き違いを乗り越えてきた。人の心を理解できないのなら、あなたたちの創る世界は孤独な世界だ。思考する必要のない、停滞した世界だ。たとえ争いが無くなっても、人が生きていける世界じゃない。」

「若いのにしっかりした考えを持ってるのね。知らなかったわ。けど、私をどうすることもできなければそれもただの虚言で終わるわ。」

「どうにかしますよ……フリード!!」

「キュクー!!」

「!」

くるぶしに鋭い痛みが奔る。
見れば、小さな飛竜が、その小さな顎で噛みついているではないか。

「クッ!」

迂闊だった。
上にばかり注意が向いていて、足下に近づいてきていたフリードを察知できなかった。
気を逸らされたアニューが、その一瞬を取り戻そうとした時には、ミレイナはウェンディの後ろに、そして自分の首筋には槍の穂先とオレンジの魔力刃が肉薄していた。

「……どうしたの?殺しなさい。」

「投降してください。」

「何をバカな…」

「あなたが傷つけば、ロックオン……ライルさんが悲しみます。」

チリン、と虹色の首飾りが鳴く。
ストラーダにぶつかるそれに、ライルの顔が映る。

「アニュー……」

「ラ、イル……」

刹那とアレルヤも一緒だが、アニューの目にはライルしか映っていなかった。
エリオとマリーが刃を離すと、アニューのもとへゆっくりと彼が歩いてくる。
望めば届く距離にいる恋人に、心が揺れる。

「やめとけよ、アニュー。」

ライルが、自分だけに見せてくれるあの笑顔で手を差し伸べてくる。

「俺を置いて行っちまう気か?」

「わ、私は……」

そうだ。
本当は、ミレイナの言うとおり、怖かった。
ライルと離れてしまうことが。
彼に拒絶されることが。
それを誤魔化すために、使命なんて言葉に逃げた。
けど、この状況でもなおライルは自分を受け入れてくれている。
これが堕落だと、イノベイターにあるまじき行為だと言うならばそれでもかまわない。
許されぬなら、イノベイターなんてバカな肩書、犬にでも食わせよう。
だから、

「ライル…」

この手を、

「アニュー…」

愛しいこの手を、





─────そんなこと、この僕が許すとでも思ったかい?







「茶番は終わりだよ。」

アニューを中心に激しい衝撃波が通路を埋め尽くした。
近くにいたロックオンはもちろん、離れた場所にいた刹那たちも吹き飛ばされ、床や天井、壁に激突した。

「っつぅ……!!」

「ぐっ……あ…!!」

「イノベイターが人間風情と同列にみなされるのは不愉快だ。」

「ア…ニュ……!な、にを…」

ロックオンを蹴り飛ばし、道をつくる。

「情けだ。彼女の最後の言葉を伝えてあげるよ。」

気味の悪い、刹那には見覚えのある薄ら笑いを浮かべたアニューの口から、感情のこもらない別れの言葉が告げられる。

「『さようなら、ライル。本当に、好きだった。』だ、そうだ。まったく、おかしいよね。」

「きさ…ま…!!」

「今は生かしておいてあげるよ、刹那・F・セイエイ。この肉体での魔法は、なかなか疲れるし、彼女の精神への負担も大きいのでね。」

「では。」と丁寧に頭を下げたアニュー。
いや、アニューだったそれは、首飾りを引き千切り悠然と去っていく。
刹那はその背中を追おうとするが、先程の一撃が強烈過ぎて体は痺れたまま動いてくれない。

「リボンズ・アルマークゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

渾身の叫びは、しかしそれでもリボンズの嘲笑をかき消すことは叶わなかった。



通路

「裏切り……!?アニューの意識を封じただって!?」

プトレマイオスに着いてから終始余裕の態度だったリヴァイヴが初めて憤りを見せた。
自分と同タイプの支配権がリボンズに移ったこともそうだが、同タイプのイノベイターが人間などになびいたことが最も業腹だ。

「女なんかに作るから情に流されたりする!」

その苛立ちを誤魔化すように、コンテナの入り口の脇に隠れて銃を構えていたイアンの腹を蹴って銃を奪うと、その場にいた沙慈に警戒しながらオーライザーのコックピットに入る。

「アニューは小型艇で脱出するか。問題はこちら……勝手が違う、が。」

中央の出撃ハッチを開き、オーライザーの操縦桿を握る。
これで、ここへ来た目的は果たせた。
アニューに関しては、後でどうとでもなる。
まずは脱出だ。

「さようなら、ソレスタルビーイング。」

『それはどうかな。』

オーライザーが飛び立つのとほぼ同タイミング。
半身を取り戻すべく、クルセイドが文字通り手動でハッチを押しのけて宇宙へと繰り出す。
しかし、先にオーライザーが出てしまっていたこと。
そして、自らの手でハッチを開けなければならなかったなどの障害は、リヴァイヴが距離を稼ぐにはこれ以上ないほどの好条件となってしまった。

「やはり、僕の勝ちだね。それとも、このまま一緒に来るかい?」

『ハッ!冗談よし子さん!』

「……なんだい、それは。」

『古典的ギャグってやつさ。そこにいる僕の相棒が好きなものさ。』

「冗談ではない。」

突如現れる長髪の男。
それだけでもリヴァイヴが肝をつぶすには十分だったが、サングラスを左の人差し指で鼻の上へ押し上げた男の拳が腹に突き刺さり、今度は現実に肝を潰されるような痛みを味あわされた。

「俺はもっとクオリティの高いものが好みだ。」

『それは悪かったね。文句は後で聞いてあげるから、そのままドッキングへ移行して。』

「了解だ。」

腹を抑えて呻くリヴァイヴの前にある指定席に自分の分身であるハロを押し込み、追ってきたクルセイドの背中にオーライザーを収める。
額にライザーの文字が加えられると同時に、ツインドライヴの放つ輝きがさらに強まった。
これで、形勢は再逆転だ。

「しかし狭いな。よくもまあ、こんなところに二人も押し込んでくれたものだ。」

『文句はそこにいるそいつに言ってくれ。そいつらがオーライザーやガンダムを奪取しようとしなければこんなことにはならなかったんだから。』

後はアニューを抑えてプトレマイオスに帰還するだけ。
気楽なものだと息をつく。
その油断がまずかった。

「!」

リヴァイヴの手にある魔力の渦に気付いた967は、同時に彼の狙いにも気付く。
止めにかかろうかとも思ったが、もう術式は完成しつつある。
となると、宇宙空間にどの程度耐性があるか定かでないこの肉体を守ることが最優先だ。

「爆ぜろ!」

リヴァイヴの放った小爆発は、彼を除く、その場にあったほとんどの物を破壊した。
搭乗者の命を守るための風防も、ツインドライヴの安定に従事していた機械群も。

『967!?』

「心配ない!それより…」

967がコックピットから離れていくリヴァイヴを見送った時には、もう遅かった。
すぐ横をすり抜けるように航行した小型艇に捕まり、そのままクルセイドライザーとの距離を大きく開けていく。

『クソ!』

「深追いはするな!」

そう、深追いできるはずがない。
プトレマイオスのシステム系統は沈黙。
しかも、操舵担当が二人とも戦線離脱しているのだ。
ここで戦力を分散するのは得策ではない。
それに、

「っ……次の戦闘に間に合うのか……?」

頼みの綱のオーライザーは、戦力として扱えるような状態ではなくなっていた。



プトレマイオス メディカルルーム

「運が良かったね。」

最後の一人、アレルヤの治療に取りかかる前に、ジェイルはコキコキと首を鳴らしながらそう言った。
治療とは言っても、ラッセ以外は全員軽い打ち身程度だったので、せいぜいが骨のひびがないかの診察や、擦り傷の消毒で済んだ。
それこそがこの最悪の状況下において、プトレマイオスのクルーにとっての僥倖だった。

「単なる衝撃波だけで助かった。あれだけの人数を吹き飛ばせる魔力で攻性魔法を使われていたらただじゃすまなかった。ひょっとしたら船体に穴をあけられていたかもしれん。」

「ゾッとしない話ですね。けど、なぜ彼女は…」

「考えてもしゃーないって。」

微かな光を頼りに、暗がりからジルが薬品の入った瓶を抱えてやってくる。
しかし、考えてみれば彼もいい面の皮だ。

「結局、連中の狙いはダブルオーじゃなくてクルセイドの方かよ。」

「ツインドライヴならどっちでも良かったんだろうさ。いや、案外本当は使い勝手の良いダブルオーが本命で、扱い辛いクルセイドにしたのは仕方なくだったのかもしれない。たとえ、GN-EXCEEDのおまけがあったとしてもね。」

「どっちにしろ、オイラは相棒がぶっ倒れている時も呑気に待ちぼうけ。トンだ貧乏クジだ」

「バカ言わないでよ。一番の貧乏クジはユーノさ。」

そう。
そうだった。
失言だったと、流石のジルも猛省した。
なんせ、今回はどっちにベットしても待っているのはロックオンの拳。
理由に違いがあるにせよ、胸糞悪さと痛みは確実に自分の下へとやってくる。
まったくもって理不尽な話だ。

「勘が良いのも考えものだね。」

「けど、おかげで私たちはこうして次の敵のターンまでに備えをすることができる。何事もポジティブにとらえなくてはね。」

「ポジティブね。一人、ネガティブ一直線のやつがいる気がするんだが?」

「ネガティブ…?……フ、ククク……」

誰のことを言っているのかはわかる。
だが、ジルのその意見は的外れも甚だしい。
アレルヤもジェイルの言わんとすることがわかったのか、同じく笑いだす。

「なんだよ二人して。気味が悪い。」

「いやはや、君ほど長生きしている者がこんなこともわからないとはね。」

「あ゛?」

「ハハハ……君のロードには永遠に無縁の話かも知れんがね。」

「障害があるほど燃えるものがこの世にはあるってことさ。」

そう言って似合わないニヤケ面をしたアレルヤだったが、消毒薬の良く染みた脱脂綿がそれをあっという間に消し去った。



ブリッジ

壁に打ったところがヒリヒリする。
が、これくらいで済んだこと自体が奇跡だ。
それに、同じくあの場に居合わせたミレイナだって、懸命に自分の役目を全うしようとしている。
男の子が、女の子より先に泣き言を言うわけにはいかない。

「あの!」

「はい?」

「その……頑張ってください。」

「はいです!」

ビシッと敬礼を返したミレイナは、すぐにシステムの復旧を再開する。
そんな彼女の姿に励まされたエリオは、飲み物の入ったボトルを置いてブリッジを後にしようとする。
しようとして、足が止まった。
扉を開けた先に、ロックオンがいた。
向こうも鉢合わせになるとは思っていなかったらしく、目を丸くしている。
しかし、すぐに目を合わせずエリオの目の前を通り過ぎようとする。

(何か言わないと…)

そっとしておくべきだ。
頭ではわかっているのだが、心が声をかけろと訴えてくる。
理性と感情に板挟みされ、もつれる口でなんとか言葉を紡ぐ。

「取り返しましょう!アニューさんを!」

バカかお前は。
何でよりよってそれだ。
いや、むしろ今は振れる話題などないのだからやはり黙っているべきだった。

「……ガキが気を使うなよ。」

ほら見ろ。
やっぱりこうなる。

けど、どうしてもそう言いたかった。
今のライルとアニューが、自分とキャロのように思えたから。
そんなことを聞いたらきっとライルは怒るだろうが、それでも二人のためにできることがあるなら助けになりたかった。

「……助けます。絶対に。」

「……やっぱお前、気持ちの悪いガキだな。」

ライルは渋い顔で首を振る。
けど、すぐに笑って見せた。

「ありがとよ。でも、助けるのはお前じゃなくて俺のやることだ。」

「お供くらいはさせてもらいますよ。刹那さんもきっとそうします。」

「そうかい。じゃあ、せいぜい必死に俺のケツに必死にしがみついてくるんだな。」



二人の小さな笑い声に、門の壁に背中を預けていた刹那も笑う。

今の自分は剣だ。
剣は使う者によって殺すものにも守るものにもなる。
いま、彼は守る方を選んだ。
ならば自分は守り抜こう。
どれほど刃が欠けても、惨めに曲がろうとも、無残に圧し折れようとも、脆くも砕け散ろうとも。
守り抜こう。
彼が望むものを。



???

───────愚かな選択をしたね、アニュー・リターナー

(やめ……て…)

───────イノベイターでありながら、僕の所有物でありながら人間の男の物になろうとするなんて

(お願い…やめて……!)

───────君には罰を与えよう

(いや……!)

───────愛しい男を君の手で殺すがいい

(そんなこと……したくない………!)

───────その後でゆっくり調整を受けさせてあげよう

(いやぁ……!)

───────なんなら、新しい恋人を用意してあげるよ。フフフ……もっとも、僕が君に刷り込んだ理想の男性像に基づく者だが

(いやだ……!)

───────それじゃあ行こうか……アニュー・リターナー

(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)





「フゥ。」

全く頑固な女だ。
ここまで激しく抵抗するとは少し予想外だ。
万が一のことを考え、保険をかけておいた方がいいかもしれない。

「残酷だね、君は。」

そうだ。
頭痛の種はもう一つあった。
あの小賢しい女狐に協力しつつ、白々しくも自分にかしずくこの少年。
リジェネもそろそろ捨て時かもしれない。

「思い上がった者には罰を。昔からの理さ。」

「まるで神だね、君は。」

「神さ。なにせ、君たちの創造主はこの僕なんだから。」

階段を下りてきたリジェネがムッとする。
こういう反抗的な態度も可愛いと思っていたが、いい加減看過しておくわけにはいかなくなってきた。

「だから、君もそろそろ悔い改めたほうがいい。」

リジェネに衝撃が奔る。
まったく、わかりやすい男だ。
とてもイノベイターだとは思えない。

「僕が何も知らないと思っていたのかい?王留美と仲良くするのは良いが、程が過ぎると僕も怒らなくちゃいけない。」

「な、何を……」

「まあいいさ。どのみち彼女は長くない。自分の懐に匿っている蛇を子犬と勘違いしている愚かな女だからね。」

そうとも。
どいつもこいつも愚か者だ。
愚かさを理解せず、自分が選民だと勘違いをしている究極の愚か者。
罰を下すまでもなく自滅するならそれもよかろう。
生き残るのなら、さらなる地獄を与えるまでだ。
あのプトレマイオスのクルー、古き時代の残滓たちのように。

「そろそろ、彼女に新しい薬を与えようか……“彼女のためにね”。」



プトレマイオスⅡ コンテナ

『Eセンサーに反応!速度から、敵部隊と予測されます!』

『クソッ!早すぎる!』

こういうのはいつだってそうだ。
早すぎることはあっても遅すぎることはない。
航行も応戦もままならない艦を放っておくはずなどないことは分かりきっていたが、せめてライザーシステムが、クルセイドが完璧に使えるようになるまでは待っていてほしかった。

「僕たちは先に打って出る!君は調整を急げ!」

『ああ、そうさせてもらうよ!』

ユーノはティエリアそっちのけで機械とにらめっこを続けている。
ならば、ティエリアも彼のことを気にするのは筋違いというものだ。

「セラヴィー、ティエリア・アーデ、出る!」

黒の巨兵が出撃する。
外に出て、まず見えたのは先に出ていたアリオスとスフィンクスが敵を迎え撃たんと飛翔していく姿だ。

「敵は5機。うち、前の戦闘に出てきていたMAが一機か。」

二機に続いてティエリアもセラヴィーを前へと出す。
少数ではあるが、いずれも手強い相手だ。
特に、あの無駄にゴツイ鉄騎士は要注意だ。
ティエリアより、そして誰よりもアレルヤが良く知っている。

「君が来るか……!」

「ええ、来ますよ!」

キャロの駆るカヴァリエーレの面攻撃が開戦の合図になった。
降り注ぐ無数の光を受け止めるべく、セラヴィーが最前に出てGNフィールドを展開する。
弾かれ、うち消された光は星の輝きを霞ませる。
その中を、二つの翼が駆け抜けた。

「アリオス、邀撃を開始する!」

「スフィンクス、敵勢力を排除する!」

ミサイルが群れをなしてカヴァリエーレ、そして残る全ての機体へ襲いかかる。
しかし、それを新型が放つ牙が咬み砕いた。

「あれは…!」

(だろうな!)

空に溶けそうな青と白の機体が、紅の光を背負いながら迫りくる。
それを見たアレルヤも、アリオスを変形させてサーベルを抜いた。

「アレルヤ!」

赤熱する剣と、光の刃との間で火花が散る。
それを見たマリーは、咄嗟に銃口を、正確すぎるほどピッタリとコックピットに向けた。
だが、アレルヤは引き金を引かせなかった。

「やめるんだ!」

「アレルヤ!?」

「わかるだろマリー!!」

わかる。
わかっている。
彼女が、アニューがこの新型に乗っていることくらいわかっている。
けれど、彼女はもう彼女ではない。

「聞こえているはずだアニュー!やめるんだ!!」

「……アレルヤ・ハプティズム。アリオス。鹵獲の必要性なし。破壊。」

「チィッ!!」

ハレルヤにバトンタッチすると、背後から串刺しにせんと迫っていたファングをかわし、お礼にライフルの光弾をくれてやる。
しかし、返礼は優雅な舞にかわされ、拒否されてしまった。
だが、これで良い。
プリンセスの目を覚ますのは、いつだってナイトの口づけだ。

「狙い撃つ……!狙い撃つぜ!!」

彼方より飛来した閃光で、ファングの一基が爆散する。
それを見た新型はアリオスから距離を取ろうとするが、二発、三発と続けて飛んできた後続が左膝を掠めた。

「おっせぇんだよ!!」

突撃してくる、およそ特攻戦術向きではないモスグリーンの機影に、ハレルヤがにんまりと笑う。
そして、それにつき従う蒼の機体に、ますます笑みが深くなる。

「ハッハァ!!この前に続いて王子様のご登場!!しかも今回はダブルと来たもんだ!!」

(ああ、燃える展開だ!)

「言うじゃねぇか相棒!!」

ならば、今回は露払いの役を買って出てやろう。
これだけ興奮する大一番を特等席で観戦できるのなら、安いものだ。

「つーわけでだ……ちゃっちゃっとブッ殺してやるからかかってこいよ、イノベイター!!」

ハレルヤが行く。
歓喜のまま、リヴァイヴとヒリングへ一心不乱の大突撃だ。

「劇的だよなぁ!!愛した女は敵!!」

「けど、命がけほど燃えるもんだろう!?」

「クッ!」

「調子に乗ってぇ!!」

先端の鋏を閉じさせまいと必死に抗うガデッサ。
しかし、ハレルヤはすぐさまアリオスを変形させ、敵機の両踝を掴んで振り回す。
振り回し、ガラッゾへ激突させてさらに突撃する。
それ以外に戦い方など知らぬと、突撃する。

「しっかりついて来いマリー、ソーマ・ピーリス!!あいつらの再会を祝って、クソイノベイターどもの悲鳴を響かせてやろうぜ!!ハハハハハハハハハハ!!」

「相変わらず悪趣味な奴だ…」

「けど、そういうノリもたまには良い……でしょう?」

「ああ、まったくだ。大佐にあわせる顔がないな!」

そう言いつつもソーマもGNアーチャーを奔らせた。
吹き荒れる光の嵐が、前方にいるアリオスの装甲を焦がす。
それでも止まらないアリオスに、その後ろから弓兵の援護が飛ぶ。
双方向の光の流れに乗り、ガデッサ、ガラッゾのコンビネーションをかき乱し、それに留まらずさらに無遠慮な射撃で本日の主役たちから引き離した。



「あちらはアレルヤ達が引きつけてくれた。」

「そんじゃ、こっちもやりますか。」

レグナントの周辺を飛び回っていたスフィンクスが、急転換してその頭上をとる。

「本日も大漁なり~っと!」

ネットが放出され、レグナントに絡みつこうとする。
だが、ルイスはそれよりも速くレグナントに頭をあげさせて、高出力のビームで薙ぎ払った。

「ざ~んねん。」

「そっちは囮だ。」

メインウェポンが上を向いている隙に、セラヴィーが右を取った。
だが、ルイスの方が一枚上手だった。

「!」

ビームの発射と同時に上部へ射出されていたエグナーウィップが、鋭角的に方向を変えてセラヴィーに迫る。
しかし、素早く反転、変形したスフィンクスのビームサーベルがそれを打ち払い事なきを得た。

「読まれていた?」

戦術自体はよくある陽動。
しかし、立体戦闘が基本の宇宙空間では、仮に上が候補から除外されても前後左右、さらに下まである。
誘導兵器とはいえ、動かすのは人間だ。
全方位に警戒を向け、あれだけ素早く反応できる人間はそういない。
となると、ティエリアがあらかじめ右をとることを察知していたということになる。
勘だけに頼るなら確率5分の4のロシアンルーレット。
そこから自分の命を救う当たりを引き当てたなど現実的だろうか。
とはいえ、自惚れる訳ではないが、ティエリアもそう容易く悟られる予備動作を挟むような素人ではない。

(確か、搭乗者は沙慈・クロスロードの知人だったな。アロウズを侮るわけじゃないが、経験の浅い人間にそんな芸当が可能なものなのか?)

疑問は残るが考えている暇はない。
今度は単なる飾りだと思っていた赤い突起物がパージしたかと思うと、不規則な軌道で襲いかかる。

「ティエリア!」

再びウェンディのアシストで、ファングの包囲網から脱出するティエリア。
そうだ、考える必要などない。
ただ足止めすればいいのだ。
ロックオンたちが、奪われた仲間を取り戻すまで。



「悪いがそっちは任せるぜ。……つぅか、お前のド本命はそっちだったな。」

ケラケラと嘲る声にロックオンは怒りを、そしてエリオは動揺と悲しみを隠しきれなかった。

「エリオ。」

「わかってます。」

各々の務めは各々が果たす。
なに、どうということはない。
六課にいたころからさんざやってきたことだ。

「…御武運を。」

「おう。そっちもグッドラックってやつだ。」

そう言って別れた瞬間、刹那は不意に初めての武力介入の時を思い出した。
あの時も、デュナメスとエクシアでそれぞれの役目を果たした。
そして、今また目的も状況も大いに違うが、それぞれの健闘を祈り、そして立ち向かう敵へと繰り出していく。
そんな他愛ないデジャブに、刹那の口元に笑みが浮かんだ。

「いくぞ、エリオ!」

「はい!」

ダブルオーライザーのステップインは早かった。
急加速し、牽制さえさせずに懐へと飛び込む。
小回りの利かない、図体と馬鹿力だけの相手をするのは慣れている。
そう思っていた刹那だったが、戦争の愉悦と狂気に突き動かされる少女のとる行動までは計算に入れることができなかった。

「刹那!」

「!」

あるいは、ジルがいなければ決着していたかもしれない。
振りかざした剣の方向を強引に変え、その一撃の勢いを利用して下へと逃れる。
オーライザーのコックピットに座るエリオには、ダブルオーライザーの翼を掠める光の槍衾がはっきりと見えていた。

「相討ち覚悟か…!?」

「そんなんじゃねぇって。オツムのネジが一本どころかほとんどブッ飛んでるだけだ。」

ジルの言葉がエリオの胸に突き刺さる。
その飛んでしまったネジを、戻すことはできるのだろうか。
あるいは、壊れきってしまった精密機械を壊すようにキャロをこの手で、

(ッ!バカ!この大バカ野郎!!)

そんなことを考えている場合か。
今はさっさとこちらにケリをつけて、ロックオンの援護に行かなければ。
決めただろう。
ロックオンの、そしてアニューのために戦うと。

「刹那さん!」

「わかっている!調整は頼むぞ!」

刹那の前にあったハロの中からジルが出る。
肯きあった二人は、一つになる。

「ユニゾン!」

刹那の瞳が蒼に変わる。
そして、見える景色も変化する。

(オイラを通じてダイレクトにダブルオーの視界を映してる!操縦の感覚も少し変わってるから気をつけろ!)

「問題ない。」

むしろ、今まで以上にスムーズだ。
最高のコンディションの時に、MSと一体になったようなあの感覚に近い。
これならば、大概の事が“スルリ”と片付けられる。

「いくぞ!」

一息に懐に飛び込むと、今度はそこから滑るように背後をとる。
エクシアの時から変わらない、GNドライヴ搭載機での近接戦闘の基本マニューバ。
バカの一つ覚えの突撃などではなく、柔軟で滑らかな動きこそが刹那の真骨頂。
人に近しくありながら、人を超越した動き。
しかし、それと対峙するキャロも既に己の駆る騎士の扱いを心得ていた。
背後から迫る一刀をビームサーベルで受け止め、後ろへ向けて左手のビームライフルを乱射する。
素早く距離をとったダブルオーライザーには当たらなかったが、開いた間合いこそカヴァリエーレの独壇場。
サーベルをしまい、大小様々な砲射撃で弾幕を形成。
ダブルオーライザーを押しつぶしにかかった。

「GNフィールド、局所展開!出力50!」

「了解!」

翼が前面に突き出され、瑠璃色の渦が低威力の射撃を防ぎ、高威力の砲撃は機動で回避する。
そして、残っていた粒子を回されたライフルモードのGNソードを向ける。
ジルだけでなく、彼も良い相棒だ。
将来が今から楽しみになってくる。
そんな彼のたっての希望だ。
狙いは、メインカメラのある頭部と、主武装を持つ右腕部。

「アッハハ!させないよっ!」

一発目、右頬を掠めるに終わる。

「まだだ!」

「だからぁ……無駄だって!」

二発目、GNフィールドに阻まれる。
しかし、これで終わるはずがない。
GNフィールドを展開している間は、相手も砲撃が封じられている。
その隙をついて距離を縮めたダブルオーライザーの一閃が、大型ビームライフルをとらえた。

「へぇ……」

「腕をとるつもりだったんだが…」

並みの反射神経ではない。
こちらも末恐ろしい子供だ。
いや、こちらの方が恐ろしいかもしれない。
中身がこのままならば、もっと手に負えない。

(どうする……)

恥ずかしい話、このまま殺さず彼女を止められる自信はない。
いや、そもそも本気を出したとしても無傷で勝利できるだろうか。
エリオも不穏な空気を感じ、気を張り詰め始める。
と、その時だった。

─────戻ってこい

「…………」

カヴァリエーレの動きが急停止する。
突然のことに警戒した刹那は飛び込もうとする動きを中断し、逆に少し距離をとる。
だが、キャロが動きを止めたのは決して刹那との駆け引きのためではなかった。

─────君は彼らに対する切り札だ。こんなところでつまらない石に転ぶのは許されない。わかるね?

「…………」

目の前の獲物は少し惜しいが、この声には従わなくてはいけない。
キャロは舌打ちを一つすると、そのまま背を向けてダブルオーライザーから離れていった。

「待って!」

エリオが叫ぶが刹那は動かない。

「刹那さん!」

「トレミーは動けない。戦力を分断してまで追う余裕はない。」

そう言われると、反論など出来なかった。
それに、

「ロックオンの援護へ向かう。いいな?」

「……はい。」

あの二人を放っておくことなど、エリオもできなかった。
それに、なんだか嫌な予感がするのだ。
キャロと戦っている時から、気持ちの悪い何かが戦場を覆っているのを、二人は感じ取っていた。

「急ぐぞ。」

「はい!」

ダブルオーライザーが行く。
この先に待ち構える運命を知らぬまま。
この時、キャロを犠牲にしてでもカヴァリエーレを仕留めておくべきだったとは知らぬまま……



大きくみんなと離されてしまった。
しかし、それも構わずライルは二丁のピストルを振るい続ける。
目の前の恋人に、必死の呼びかけを続けながら。

「アニュー!!」

引き金を引かず、銃身を新型機、ガッデスの頭部に叩きつける。
眠りこけた、あるいは正気を失くした人間を元に戻すには妥当かもしれなかったが、MS越しに洗脳されたアニューを目覚めさせるには不十分すぎた。
こちらの攻撃がただ首を傾けさせ、火花を散らせるだけの打撃と違い、水色のファングがケルディムの装甲を削っていく。
当然だ。
拳銃を模した兵器でただ殴るのと、相手を突き刺し殺傷する兵器を正しく使用するのとでは雲泥の差がある。
本気で殺傷する気のある攻撃と、ただ時間を稼ぐだけの、どうすればいいのかわからず叫ぶためだけの必死の抵抗。
実に滑稽な光景だ。
命がけの恋は確かに燃えるが、もし平穏な恋とどちらを望むかと聞かれたら、ライルは間違いなく後者を選ぶだろう。

「手間のかかる奴…だっ!」

ファングを一つ撃ち落とす。
だが、残りが殺到する。

これを、この瞬間を待っていた。

「ハロ、シールドビット、アサルトシフト!」

「了解!了解!」

こんな丁半博打はユーノだけに任せておきたいが、今回ばかりは自分でベッドして自分で賽を振るしかない。
外せば文字通りあの世へまっしぐらだが、当たれば極上の結果が待っている。
効用が無限大なら、確率が低くても期待値も無限大というやつだ。

「ブチ抜けぇぇぇぇぇ!!!!」

ファングが砲門と化したシールドビットに食い込む。
しかし、放たれた一撃はファングを逆に喰らいつくした。
賭けはライルの勝ちだ。

「……撤退、開始。」

「させるかよっ!!」

愛機を紅蓮に輝かせ、ガッデスの行く先を通せん坊。
TRANS-AMで強化した一撃で左腕を関節からへし折り。

「応戦。」

ガッデスのヒートサーベルがケルディムの左顔面を打ち崩し。

「っらあぁぁぁぁぁ!!」

ケルディムの銃弾がそのヒートサーベルを右手首ごと打ち砕き。

「応戦、継続。」

あちらのバルカンが額のカメラアイのカバーを吹き飛ばせば。

「まだだ!!」

腰部のミサイルを展開して相手の膝を爆散せしめる。

「けいぞ…」

「遅ぇ!!」

ケルディムの渾身の振り下ろしが頸部に決まる。
今までとは比にならない威力の打ち込み、そして挫けず徹底して頭部を攻めたライルの忍耐に、ガッデスの頭部はワイヤーで辛うじて繋がりを保つしかなかった。
そこへ、残されたシールドビットがズラリと並んでチェックメイトだ。

「もうやめろアニュー!!眼を覚ませ!!」

「……言っただろう?イノベイターと人間を同列に…」

「テメェに言ってねぇんだよ!!スッ込んでろクズ野郎!!」

ライルの言葉に、アニュー越しのリボンズに怒りの色が浮かぶ。
しかし、すぐに冷静に戻ると、アニューに最後の指示を与える。

─────自爆させろ

アニューの手がコックピットのレバーへとのびる。
幾つもの複雑な手続きを行い、画面に表示されたコマンドを実行しようとする。

「アニュー!!」

無駄なことを。
そう侮っていたリボンズだったが、不意にアニューの動きが鈍くなった。

─────バカな

しかし、確かにアニューはリボンズの意思に逆らっている。
彼の意思に逆らい、コマンドを逆行させようとしている。

─────何をしている!すぐに自爆を……

「アニュー!!」

通信回線で画像が送られてくる。
それを見た時、リボンズは全てを悟った。
彼女を正気へと引き戻したもの。
それは、ライルの声。
そして、それだけでなく彼が今つけている首飾り。
リボンズが下らないと思い、捨ててきたあの虹色の首飾り。
チリンと鳴く音が、アニューの意識を目覚めさせたのだ。

─────バカな!こんなものが!!

(こんなもの…?)

─────っ!

(そうね……あなたたちにとって、“あれ”はその程度のものなんでしょうね。けど…)

─────貴様!!

(私にとっては、命よりも大切な物なの!!)

彼女の瞳から金色の輝きが消え失せていく。
代わりに、笑みと涙が現れ、ライルを優しく見つめた。

「……遅ぇ。遅ぇよ、アニュー……魔法が解けちまうかと思った。」

「あら、これからなんでしょう?カボチャの馬車とガラスの靴を用意してくれるのは。」

憎まれ口にライルの眼からも涙がこぼれる。
この宇宙一杯を満たすほどの安堵が、体を包んでいく。

「おかえり、アニュー。」

「ただいま、ライル。」



???

不愉快だった。
完全に封じ込めたはずのアニューの人格が、あんなものがきっかけでリボンズを凌駕するなど。
あんなくだらないもので、自分が敗れるなど、我慢がならない。

「……そうか。」

だったらもういい。
望み通りにしてやろう。
愚かな人間と共に滅びるがいい。

「保険は用意しておくものだね。」

そう言ったリボンズの口元には、今までにないほどの冷笑が浮かんでいた。



戦闘宙域

張り切っていた面々だったが、そろそろマズイ。
動けない本丸を守りながらこの連中の相手をするのは流石に無理があった。

「ッ!クソッタレがぁ!」

粒子が切れ、虎の子のTRANS-AMが終わってしまう。
ティエリアの方ももう終わりかけだ。

「どうしたの!?威勢が良かったのは最初だけ!?」

「もう終わりなら……こっちの番だ!」

「させるか!」

GNアーチャーが引き金を引く。
が、一発撃っただけでコックピットに警告音が鳴り響く。

(粒子残量が!)

焦るソーマを尻目に、ヒリングとリヴァイヴはプトレマイオスへと近付いていき、それぞれの武器を構える。

「させないっス!」

ウェンディが相棒を走らせようとする。
だが、その前を後ろにいるはずのレグナントが放ったビームが横断した。

「ちょ、だからそれインチキ!!」

光学兵器を曲げるなど、ハリー・フーディーニ(ウェンディが唯一知る有名なマジシャン)だってできっこない。
なのに、レグナントはさっきからそれを無遠慮にホイホイ使ってくる。
そのせいで2対1にも関わらず、ティエリアもウェンディも良いとこなしだ。
この上プトレマイオスまで落とされたら目も当てられない。

「ウェンディ、止めろ!!」

「言われなくてもそうするっつの!!」

だが、インターセプトに入るのはもう絶望的なまでに遅い。
次の瞬間には目も覆いたくなる光景がすぐ前に広がっている。
敵も味方もそう思ったその時、激しい雷が、物理や化学の法則を無視して突如発生した翠の雷霆がガデッサとガラッゾを襲った。

「うあっ!?」

「くぅ!!」

体を駆け巡る電流にリヴァイヴとヒリングは痙攣を起こすが、それでも指だけは引き金から離さずに力を込める。
粒子が弾丸となり飛翔するが、それを今度は光の膜を纏った機体が防いだ。

「友達の輪って広げておくものだね。つくづく思い知らされるよ。」

正確には、フェイトの術式を記憶していた魔導書に感謝すべきなのだが、この際細かいことはどうでもいい。
大切なのは、さっさと目の前のこいつらを叩きのめすことだ。

「システムリンク完了。相変わらずスムーズだね、二人とも。」

(お前もなかなか良いサポートだ。)

「それじゃ…」

ユーノがグッと前屈みになると、クルセイドライザー・Hも前傾姿勢をとる。
実際に搭乗者の動きにリンクして体勢を変えているわけではないが、ユーノは自分のガンダムと一体になっていくのがはっきりわかった。

「行こうか。」

クルセイドライザー・Hがガデッサへ突進する。
右手を輝く拳と化して。

「だっらぁぁぁぁぁ!!」

大振りなせいでかわされる。
しかし、拳をかわしたガデッサに前方に一回転したクルセイドライザー・Hの踵が打ち込まれた。
ダメージそのものは大きくないが、大きく弾き飛ばされたリヴァイヴは舌打ちする。
ユーノには端から彼らを仕留めるつもりなどない。
とにかく、プトレマイオスから引き離すのが先決なのだ。

「集え、光子の槍群。」

(フォトンランサー!)

無数の雷撃球で弾幕を張る。
967の蓄積魔力を存分に活用してはいるが、先程のサンダースマッシャーと比すると威力は落ちる。
しかし、飛び道具に乏しい我が愛機には、なかなか使い勝手が良い代物だ。
相手の目をくらませる。
あるいはちょろちょろと動く的を足止めする。
この狂った突撃偏重志向のMSにはその一瞬だけで十分に過ぎる。

「ハァッ!!」

閃光で視界を遮っている隙にガデッサのGNランチャーを握りつぶす。
これで、とりあえず砲撃で嬲り殺し、なんてことは避けられる。

(よし、あとは……)

「私たちを下がらせて、アニュー・リターナーを捕縛すればそっちの勝ち、なんて思ってないわよね?」

ヒリングの笑い声が響く。
明らかに追い詰められているのに、その様子が微塵もない。
むしろ、楽しんでいる気配さえ漂っている。

「今し方、面白い話を聞いてね……あんたたちのお仲間が彼女を取り戻したってさ。もうこっちの勝ちの目もなさそうだし、帰ろうかなぁ。」

ならばなおのこと、なぜ笑っていられる。
沙慈は不思議に思ったが、ユーノはすぐにイノベイターたちの描く最悪の絵図を察した。

「け、ど……私たち、裏切り者って許せない性質なのよねぇ。そうね、今頃は…」

リヴァイヴが少し不満げに、そしてそれとは対照的に、ヒリングは端正な顔を一層歪めた。

「お仕置きされちゃってるかもねぇ。」

全てを聞く前に、ユーノはクルセイドライザー・Hを加速させた。
眼前にいる敵など一切無視。
奴らの言葉を信じる訳ではないが、アレルヤ達もプトレマイオスのディフェンスに戻ってきている。
だから早くいかなければ。
ロックオンたちはここからかなり離れた宙域にいるが、急げば間に合うはずだ。
だから、だからやめてくれ。
これ以上、何も奪わないでくれ。
ユーノは、いまだかつて一度も信じたことのない神とやらに、そう願った。



そんな陳情など、無下にされることなどわかりきっていたはずなのに。
今まで自分を守るために塗り固めてきた自己満足と偽善の鎧が、今まさにそのツケを払わせようと、億の刃になって襲い来ることを知っていたのに。



腹いっぱいもいいところだ。
恋人を抱きかかえているのに、ライルはうんざりした気分で引き金を引いた。
この三つ目軍団の相手は慣れているが、やはりこうもわんさかやってこられるといろいろと萎えてくる。
というか、いくら様々な世界から資源を入手できるとはいえ、ここまで盛大にスクラップにしていいものなのか。

「お仕事熱心で結構なことだ、チクショウめ。」

「……すいません。」

「別にお前に言ってねえよ。いちいち謝んな。」

苦笑いのエリオにライルも苦笑で答える。
しかし、元身内のおもちゃのせいでこんなことになれば謝りたくなるのもわかる。
アニューを取り戻した途端MDの群れに囲まれ、牛の歩みを強要させられる。
おかげで、主武装を喪失しているガデッサや、自身もひどく損傷しているケルディムまで参戦を余儀なくされていた。

「しかし、足止めにしかならないってことが分からないのかね、やっこさんたち。」

「必要以上にプライドは高いから。私を逃がしたのがよほど腹に据えかねたんでしょうね。」

「確かに、お前もそういうとこあるよ。」

「茶化さないで。実際、私を生かして帰す気なんて彼らにはないはずよ。」

「それがどうしたよ。」

ライルは唇の間から白い歯をのぞかせる。

「むしろ来るんなら大歓迎だね。人の女に手を出した報いを受けさせてやる。」

「ライル……」

(あ~、ハイハイ。ごっつぉさん。惚気んのは後にしてほしいぜ、まったく。)

少しでも刹那の気を紛らわせようとジルはおどけて見せるが、刹那はノッてくるどころか反応さえしない。
いや、エリオもだ。
二人で、先程からしきりに周囲、といっても容易く斬り伏せることができるバロネットやフュルストにではなく、姿が見えない何かに対して神経を研ぎ澄ませている。

(どうしたんだよ、刹那。数は多いけどこんなやつら…)

「違う。」

そう、違うのだ。
MDなどとは比べ物にならない、何かがいる。
自分たちに敵意を向ける何か。
この宙域全体を覆い尽くすほどの邪気を持つ何かが。
そして、その何かをエリオは誰よりもよく知り過ぎていた。

「刹那さん、これって…」

「バカを言うな。」

そう。
もしエリオの言う通りなら、彼女が複数存在していることになる。
そんなことなどありえない。
いや、

(まさか!)

そのありえない感覚を説明できる可能性が一つある。
使用者の意思を反映して、動く兵器。
いうなれば、一つ一つに使用者の意思が宿っているも同然のあれならば、合点がいく。
つまり、

「そこから離れろロックオン!」

ファングやビット。
遠距離誘導兵器の類だ。

「!」

突然ケルディムの左膝から先が吹き飛んだ。
しかし、驚く暇もなく第二射がコックピットに狙いを定めて向かってくる。
辛うじてそれは避けるが、アニューの乗るガッデスを庇いながらではいつか致命的な被弾を受けることは自明だった。

「ライル!」

「心配すんな!」

とは言ったものの、これはかなりマズイ。
MDさえも巻き込むこの超威力のオールレンジ攻撃。
逆立ちしたってファングやビットのような、ケルディムのシールドビットのような特殊な例外はあるが、あんな小型の兵器に実現できる代物ではない。
これは最早、MSによる殲滅砲撃と断言して差し支えない代物だ。

「これは…!」

刹那はいち早くそれの正体を見つけた。
砲撃をしてきているのは、ファングでもビットでもなく、MSだった。
しかし、白金と見紛うばかりに白一色に塗られたそれは、顔には額にカメラ機能を兼ね備えたセンサーが一つあるだけ。
そして、内部のフレームを装甲で覆うことを忘れたような異様に細い腕と脚。
兵器に飾り気を求めていないのはティエレンに通じるものがあるが、のっぺらぼうが人形になったようなその姿に、刹那は不気味さを覚えた。

「ビットMS……!」

「そんな!だって…」

そう、それこそあり得ない。
シルフィから受け取っていたセラヴィーの強化案にも同じものがあった。
しかし、プトレマイオスの整備、改造担当の三人は、使用に必要となるヴェーダが敵に掌握されてしまっていること、そしてなによりガンダムと同程度の性能を持つ機体をこれ以上単独で造り上げることが非現実的だったため、そのプランを実行には移さなかった。
しかし、たった今、周囲を取り囲んでいるビットMSは軽く勘定しただけでも8体以上はいる。
しかも、オリジナルのキャバリアーシリーズと遜色のない火力と機動力を保持した状態で。

「クソッ!」

思わず毒づく。
そして、毒づきながらビットMSへと斬りかかる。
だが、それを見てとるや敵はろくに交戦もせずにさがり、他の機体にダブルオーライザーを包囲させた。



「アハハ…!楽しいよねぇ。」

「ハァ…」と艶めかしく息を吐き、少女は恍惚の表情を浮かべる。
掌の上で、面白いように右往左往する。
キャロには、それが気持ち良くて仕方ない。
あの男の言った通り。
こちらの思惑通りに敵が動いてくれると、性感にも似た快楽や絶頂感が体中を駆け巡っていく。

「やっぱり痛めつけるんなら、一方的じゃないと。」

そう言ってクスクス笑うキャロは、言われていたターゲットたちに視線をやる。
そして、去らなく快感を求め、再会したばかりの二人の下へカヴァリエーレを向かわせた。



「よし!」

一機撃墜できて、エリオは思わず歓声を上げる。
ダブルオーライザーがようやくビットMSの動きを捉え始めた。
この場に至ってはもう複雑な動きは必要ない。
直線的でいいからいつもよりさらに速く、そしてもう一歩深く踏み込む。
好き放題こちらを振り回してくれたが、今度はこちらの番だ。

そのはずだった。

「……!?」

ロックオンたちの姿が見えない。
はぐれてしまった。
いや、違う。
こいつらの手で引き離されてしまったのだ。

「クッ!!」

バカが。
なぜ気がつけなかった。

相手の攻めに余裕を失くしていた?
否。

相手の狂気にあてられていた?
否。

気の緩み。
それまで張り詰めていた緊張の糸が、わずかにだが緩んでしまっていた。
そのせいでこのざまだ。

「戻るぞ!!」

刹那が叫ぶ。
ダブルオーライザーの進行を阻むべくビットMSたちが集う。
しかし、それさえも刹那は蹴散らす。
繋がった愛機に刻まれた痛みをその身で受け止めながら、それでもなお突進する。
死神の鎌を止める。
ただそれだけのための、凄烈な突進を。



大丈夫だ。
ライルは、そしてアニューは自らにそう言い聞かせていた。
刹那がかなり敵を持っていっていくれたおかげで、プトレマイオスまでの距離を稼げた。
もうあと少しだ。

「ねぇ、ライル。」

もうガッデスのGN粒子はカスほども残っていない。
そんな状況にもかかわらず、アニューは穏やかな口調でライルに語りかけた。

「私ね……あなたに会えて良かったと思ってる。」

ライルが笑った。

「随分と下手な嘘だな。自分で言っちゃなんだが、俺みたいな男に惚れられて、挙句殺し合いだ。波乱万丈ってレベルかよ。」

「本当よ。まあ、波乱万丈って点は同意するけど。嫌いじゃないわ、そういうの。」

「ハハッ!マジかよ。意外にバカだとは思ってたが、想像以上のバカだな。」

「あら、失礼しちゃう。私、これでもイノベイターよ?」

「おお、そうだった!すっかり忘れてたぜ!」

引き金を握りながら、ライルとアニューは大声で笑った。
そして笑い終えると、アニューは胸の内を告げた。

「私、イノベイターで本当に良かったと思う。」

「おい、それは…」

「わかってる。だけど、イノベイターじゃなかったらあなたに出会えなかった。そんな人生、きっと退屈で仕方なかったと思うわ。」

「…………」

「愛してる、ライル。そして、あなたに巡り合わせてくれたこの世界も。だから…」

この世界を、あるべき形に戻す。
使命や義務ではなく、自らの意思で。

「……そうそう。この一件が全部片付いたら、一緒に暮さない?」

「告白か?」

「そうよ。今度は私から。」

茶化すライルにアニューがまっすぐな返事をする。
同時に、カメラがプトレマイオスをズームアップする。
MDに襲われているアレルヤ達も視認できるが、問題はなさそうだ。
いつも通り、派手な花火を打ち上げている。
もう少し、未来予想図について語りあわせてもらおう。

「どこか森の中に小屋が一つ。それで、犬を飼うの。レトリーバーを赤ちゃんから。子供も欲しいかな。できれば双子で。」

「双子が双子のオヤジかよ。ギャグみたいだ。」

「嫌だった?」

「まさか。けど、そうなったら俺も頑張らないとな。なにせ、四人プラス一匹だ。養うのも楽じゃない。」

「私も働こうか?」

「女は時に慣れ親しんだ食器のように、そして時に花よりも繊細に扱え。ディランディ家の家訓だ。」

「どうせ今作ったんでしょ。」

「バレたか。」

もう、ゴールは目と鼻の先だ。

「……幸せになれるよね。」

「ああ。俺がする。お前を、絶対に幸せにする。」





「残念。あなたたちは二人仲良く、ここでお星さま♪」





強烈な閃光だった。
ケルディムとガッデスを覆い尽くすほどの、無数のビームの殲滅砲撃が、一瞬で黒を紅で染め上げた。

「駄目だ!!」

追いついたダブルオーライザーの中でエリオが叫ぶ。

「ロックオン!!」

アレルヤの目が見開かれる。

「ロックオン・ストラトス!!」

ティエリアの脳裏にあの悪夢の瞬間が甦る。
そして、

「ロックオーーーーーン!!!!」

ユーノが、絶叫した。

同時に、ライルはアニューのガデッサを押して突き離そうとした。
が、当然アニューも同じ行動をとっていた。
常人であるライルなどとは比べ物にならない、イノベイターの反射速度を以って。

「ア…」

「ごめんね、ライ……」

ガッデスから離れたケルディムは、その桁外れの量のビームのすぐそばに居ながら、無傷で済んだ。
代わりに、ガッデスが受けたダメージは、中にいる人間の生存を絶望させるほどのものだったが。

「ア…」

かすれてなかなか声が出せない。
しかし、二回目に吸い込んだ息を大きく吐き出す、すなわち叫んだときには誰にも聞きとれる大音声となった。

「アニュー!!!!!!」





「アッハハハハハハハ!!!!なにそれ、バッカみたい!!!!」

逃げ惑って二人同時に昇天するのが理想だったが、これはこれで悪くない。
間抜けなできそこないの人形が、人に恋して死んでいく。
なかなかの傑作だ。
喜劇だ。

「裏切り者が幸せになれると思ってたの!!?」

ボロボロのケルディムが呆然と立ち尽くしている。
それがまたたまらない。
ああ、実に爽快だ。
これこそが、戦争だ。
戦争の愉悦というものだ。

「裏切り者はぁ~……ゴミと一緒。死んでも誰も泣いたりしなぁい。ただスカッとするだけ♪アハハハハハハ!!!!!!」




「テメェ……!!このクソガキがァァァァァァァ!!!!」

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

誰かれ構わずに聞かせていたキャロの言葉に激昂したハレルヤとティエリアより早く、ユーノが飛びかかっていた。
赤く輝くその身から、ありったけのGN粒子を放ちながら、クルセイドライザー・Hは渾身の拳を突き出す。
しかし、その一撃はカヴァリエーレではなく、ビットMSを砕いただけだった。

「君は……何をしたのかわかっているのか!?」

怒りを必死に押し殺す。
それでも、鎖にかみつく猛犬のような歯噛みの音は隠しきれなかった。

「アニューは……アニューは………!!」

似ているんだ。
沙慈とルイスに。
そして、エリオとキャロに。

(なぜ撃った……!!)

「そんな彼女を、なぜ撃ったぁぁぁぁぁ!!!!」

967の怒りともシンクロし、もう自制が効かなかった。
無数に生み出した魔法陣から放たれる光芒は、もはや魔法と呼ぶことさえできなかった。
ただの荒れ狂うエネルギーの塊。
それが雷撃であろうと火炎であろうと、ましてや冷気であろうと関係ない。
全ては眼前の敵を滅殺するためだけに。
それはさながら、ラジエルの書の礎となった夜天の書。
その歪んだ姿、闇の書が顕現しているかのようだった。




めくるめく閃光を、そしてそれをひらひらと闘牛士のようにかわすカヴァリエーレを前に、エリオは自問していた。

なぜ殺さなかった。

(だって、キャロは…)

それがどうした。
さっさと殺しておけばこんなことにはならなかった。

(違う……そんはずない……そんなはずない…)

現実から目を背けるのか?
だから、こうなったんだろう。
逸らし続けてきたから、この有様なんだろう。

(違う…違う、ちがう、チガウ!)

何が違うこの偽善者。
戦いとはそういうものだ。
剣を捨てれば相手も涙して剣を捨てるとでも思ったのか?

(それでも、ぼくは……)

殺さなかったんだ。
だからアニュー・リターナーは死んだ。
お前が殺した。
助けるだのなんだの言っていたくせに、お前は結局キャロを選んだんだ。

(そん…な、つもりは…)

けど、良かったじゃないか。
おかげでキャロは生きている。
たかが身内の一人犠牲にしても、彼女を守れたんなら万々歳だ。
甘いところがある刹那も予想通りに動いてくれた。

(やめろ……やめてくれ…!)

お前も以外にしつこい奴だ。
もう認めたらどうだ?

(やめてくれ……聞きたくない!!)

いいや、聞かせてやるよ。



お前は他人の女より、自分の女をとったんだよ。
このクズ野郎!



「っっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

刹那が動くより早くエリオは搭載されていたミサイルとサブマシンガンをカヴァリエーレへ放っていた。
自責、後悔、自己嫌悪。
そんなものなど生ぬるい。
いや、そういったもの全てをひっくるめたものがエリオを突き動かした。
愚かな自分と、狂ってしまったキャロへの憎悪が、今のエリオの全てだった。

「殺す!殺してやる!!ころしてやる!!!!コロシテヤル!!!!」

激昂しながら我武者羅に全てを殲滅しようとする。
そんなエリオをいさめたのは他でもない、刹那だった。

「っ!?刹那さん!!」

「ケルディムと新型機を回収する。」

エリオの意見など聞かず、ボロボロの状態でカヴァリエーレに立ち向かおうとしていたケルディムと、動かなくなったガッデスを抱えたダブルオーライザーはプトレマイオスへの帰還ルートをとる。

「離せ刹那!!離せ!!!!」

「落ち着け。」

「離せクソッタレ!!あいつは……!あのガキだけは!!!!」

「落ち着けと言っている!!!!」

今まで聞いた刹那の怒声で、一番大きなものだった。
抵抗を試みたロックオンも、それで心が折れた。
そして、全身を震わせながら涙を流した。

「これからっ……!これからだったんだ……!!ありきたりな幸せなんて無理だってわかってる!!けど、それでも、夢見るくらいは良いだろ……!!まだ夢から醒めなくても良いだろ……!!こんな…!こんな終わり方なんてないだろ!!!!」

ロックオンの嗚咽が聞こえる。
その度に、その場にいた、ブリッジにいたスメラギたちも含め、全員が心を間で削り取られていくような気分だった。



プトレマイオスⅡ メディカルルーム・外

アニューの体が残っていて、そして辛うじて息があったのは奇跡に等しかった。
だが、その左から半分はほとんど焼け落ちてしまっていた。
それでも生きているのはイノベイターであるからこその業なのか。
しかし、それは彼女の苦しみを引き延ばしているにすぎないことは、メディカルルームへの道を付き添うエリオにもわかった。

「エ……」

「アニュー!?俺がわかるか、アニュー!!」

「ライ……めん、なさい……わた、し……」

「無理に喋んな!!すぐに治療してやるからじっと…」

「いい、の……それより、エリオと……」

「僕もいます!!ここに、います!!」

エリオが残されたアニューの体にすがりつく。
それをみたアニューは血糊や煤で汚れてしまった顔を、ゆっくりとほころばせた。

「よかった……あなた、と…話が、したくて…」

続きを言おうとしてむせる。
大きな声ではないから、聞き取りづらい。
エリオは、彼女の口元まで顔を近付けた。
そして、聞いた。
信じられない言葉を。

「……許して、あげて。」

「え……?」

「あの子の、ことを……そし、て、あなたの、ことも……」

「なんで……」

何でそんなことを言うのか。
戦えと。
這ってでもキャロを殺せと。
なぜ、そう言ってくれない。
その権利があるのに、なぜそんなことを言うのか。
なぜ、そんなにも強くあれるのか。

「憎ん、じゃ……ダメ…あなたは、私たち、みたいに……なっちゃダメ、なの……エリオの手は……誰かの手を、握るため……誰かの明日を、守るためにある……」

アニューの手が、エリオの手を握った。

「信じてる……エリオ、なら…………大切な人たちを、守れるように……なるって……」

もう、堪え切れなかった。
アニューの優しさが、強さが。
温かくて、悲しくて、涙が止まらなかった。
アニューがメディカルルームに入った後も、その扉の前でエリオは泣き続けていた。



メディカルルーム

もう、ずっとアニューの手を握り続けている。
ジェイルも、もう部屋にはいない。
結局あの機体は逃がしてしまったとの情報も入ってきていたが、それさえもライルの耳には届かない。
ただ、この時が一分一秒でもいいから長く続いてほしかった。

「ライ、ル……」

アニューが首を微かに動かす。

「ライ、ル……ど、こ……?」

「ここだ、ここにいる。」

すぐ近くにいるのに、アニューにはライルが見えていない。
だから、優しく手を握る。

「お前を置いてどこかに行くわけないだろ。」

「良か…った……」

本当にホッとしたように、アニューが一つ大きく息を吐く。
命を絞り出すようなそれに、ライルの手の力が強まる。

「……俺はさ。ホントは、わかってたんだ。俺は……ここが好きなんだって。」

自然と、そんな話を始めていた。
何でかわからないが、今話さなくてはいけない気がした。

「無愛想だったり、クセが強かったり、世間知らずのガキだったり、信じられないくらいすっとぼけた連中ばっかだけど、俺はプトレマイオスの連中が、本当に気に入ってたんだ。こいつらのためなら、命を張って戦えるって、初めてそう思えたんだ。もちろん、カタロンでも命をかけて戦っているつもりだった。でも、どこかで流されていたんだと思う。」

「そっか……」

「それにアニュー、お前と出会えた。好きになったのは……ハハッ、まあ、やっぱ兄さんのことを知らなかったからなんだろうな。けど、その後は違うぜ?本気でお前にのめり込んでいった。お前もそうだったって、俺は勝手に思ってる。」

「フ、フフフ……相変わらず、自信満々、ね…」

「そういえば、エリオがな。俺のこと兄貴みたいだって言ってたことがあったんだぜ?俺はユーノと同レベルかよって言ってやったら、『だって、アニューさんにお姉さんみたいだって言ったら、だったらライルはお兄さんねって言ってました。』なんて照れもせずに言うんだぜ?お前のせいで俺の方が赤くなってたんじゃねぇのかな。……けど、満更でもなかったよ。きっと、自分の子供ができたらこんな感じなんじゃないのかとか考えてまた勝手に照れたりしてさ。きっと、もうこの時にはお前なしの人生なんて考えられなくなってたんだろうな。」

「………………」

「いくなよ、アニュー……!」

ライルは知らず知らずのうちに泣いていた。
それを誤魔化そうと笑うと、いっそう涙が出てきて、ひどい顔になった。

「俺を一人にすんなよ……!お前がいなくちゃ、駄目なんだよ!」

「………………」

「まだ、伝えてないことだってたくさんあるんだよ…!!いかないでくれよ……!なぁ……!!」

「……ねぇ、ライル。私、あなたに会えて良かったって思ってる……イノベイターで、良かったと思う……本当に、そう思ってる……」

「けど!!」

「イノベイター、じゃ…なかったら……あなたに、会えなかった……そんな、人生………きっと、張り合いがないわ……」

アニューがライルの手をほどき、彼の頬を優しくなでる。

「愛してるわ、ライル……誰よりも、あなたのことを…」

「ああ……!!俺もだ!だから!!」

「……ライル、最後のお願い。」

苦しそうに喘ぐアニュー。
しかし、大きく息を吸って、その想いを伝えた。

「エリオの力になってあげて。……あの子たちのことを、許し……て…」

「アニュー……!?おい、アニュー!!」

アニューの瞼がゆっくり閉じていく。
そうはさせないと、ライルは必死に体を抱きよせて揺するが、とうとう彼女の瞳は完全に閉ざされた。

「……あなたを、あなたの心を感じる。今まで以上に、あなたを……」

それが最後だった。
アニューは、穏やかに微笑んでいた。
心残りなど、まるでないかのように。
エリオ・モンディアルとライル、いや。
ガンダムマイスター、ロックオン・ストラトスならば、きっと大丈夫だと信じて。
アニュー・リターナーは、静かにこの世を去った。

「……っ!……っっ!!」

しばらく声をあげることもできなかった。
しゃっくりをするように肩を震わせながら、しばらくアニューを抱きしめていた。
しかし、その時はやってきた。



メディカルルーム・外

その扉の前で、エリオはただ祈っていた。
目の前にいる飛竜さえも気に留めず、両膝を抱えながら固く眼を閉じていた。
刹那たちマイスターもまた、扉の向こうにいる二人の未来が、明るく開けているはずだと、そんな淡い希望を抱いていた。
それがやはり、夢物語になることをわかっていながら。

「!」

横に滑った扉から出てきた白衣の男に、刹那は誰よりも早く詰め寄る。
しかし、男はただ首を横に振った。

「……二人だけに、してやって欲しい。」

エリオは目を見開くと、いよいよ顔を青ざめさせ始める。
そんなエリオを心配して、フリードは哀しげに鳴く。
まるで、これから聞こえてくるであろう慟哭をかき消すように。

だが、それははっきりと、億万の刃より鋭く彼の鼓膜と記憶に突き刺さった。
最愛の人を失った戦士の、悲しみに満ちた絶叫が。

「っっっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

耳を覆いたくなるような声だった。
扉の前にいたマイスターたちも、苦しみから目を逸らすように、一様に目を伏せて耐える。
いつ終わるかわからないこの激痛を、共有し続ける。

その中で、叫びに混じって、刹那は聴いた。

(……唄が、聴こえる…)

彼女の唄が聴こえる。
この現実から逃げたいがために、脳内で作り上げられた幻なのかもしれない。
けれど、夢の海を漂うに、刹那はずっとその唄に耳を傾け続けていた。
彼女に、マリナに想いを馳せながら。



地球 某所

もう、どれだけの時が流れただろうか。
子供たちを連れて逃げ、森の中にある、冷たい石造りの小屋にいる。
まるで神が、お前たちに安息の地などないと告げているようではないか。
けれど、子供たちにはそんなこと関係ないようである。
疲れも手伝い、すっかり夢の中だ。

(刹那……)

会いたい。
彼に会えれば、この不安も拭いされる。
彼ならば、この闇夜にあっても、きっと迷わずに進むべき道を指し示してくれる。
本当は、刹那が誰かを頼るべきだとわかっているのに。
弱い自分は、醜悪にも彼に頼ろうとしている。
自己嫌悪に襲われた時、傍らに置いていたラジオから、唄が聞こえた。
彼女がよく知る、この世界でマリナこそが一番よく知る唄が。

『失くすことが、拾うためなら…別れるのは、出会うため……』

思わず音量をあげて聞き入ってしまった。
まさか、こんな形で聞くことになるとは思わなかったから。

『お日様出て、夕日綺麗で……星に願い、明日が来る……』

まだ、歩ける。
まだ、願いは捨てない。
だって、

(あなたにも、聞こえているわよね……?)

刹那にも、この想いは届いているはずだから。











どんなに君が道に迷っても傍にいるよ……
二人だから信じ合える……
離さないで……



あとがき

というわけで山場の一つである69話でした。
いろいろ忙しい上に推敲も(これでも)結構重ねたのでえらく間が空いてしまいましたが、死んでませんし挫けたわけでもありませんw
基本的な流れは同じにしましたが、刹那が全部背負うって感じにはなりません。
おかげでロックオンはこの先ウジウジしそうです。
そして、エリオはザ・トラウマをゲットだぜ!(某JAMでプロジェクトなあの人の声で)って感じです。
……明るく言ってもどうしようもないですね(-_-;)
でも、この先さらに一皮むけてもらうためにも、これを乗り越えてもらわねば。
じゃないと、アレをアレな感じなタイミングでアレな感じに乗りこなすことはできそうにないので。
ロックオンもキャロに会った瞬間ブチギレ殺意丸出しみたいな感じになりますが、なんとかハッピーエンドになるのでご容赦ください。
……ハッピーで終われんのか俺が不安になってきちゃうよ。
次回は空気ズがまたちょめちょめしようとして天罰が下ります。
そして、いよいよ因縁の妖怪・首置い……じゃなくて、妖怪・まさしく愛だ!(結局妖怪かとか言っちゃ駄目)と刹那の決着が。
……とか言ってて、二話分割になりそうな気配がプンプンだなw
そうならないように頑張りますので、なにとぞ応援をよろしくお願いします!
では、次回もお楽しみに!



[18122] 70.革新の扉
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2013/10/01 23:34
ミッドチルダ 某ホテル・ラウンジ

「では、またいずれ近いうちに。」

「はい。クロノ……ハラオウン提督にもよろしくお伝えください。」

最後に握手を交わし、マネキンとはやては同時に席を立つ。
レジスタンスから協力を仰ぐと申し出た時は少し表情が硬かったが、彼女も何か思うところがあるのか了承してくれた。

「せやけど、まさか連邦にもここまで賛同してくれはる人がいてたなんて。」

「私一人ではとても無理だった。あの二人、スミルノフ大佐とハーキュリー大佐の人望の為せるわざだろう。」

「けど、それってなんだか大佐たちを利用してるみたいで、なんだか申し訳ないです。」

「……かも、な。だが、今はすがれるものにはなんでもすがろう。」

あの場にいた一人として、戦死した人間の威光を借りるのは、彼らの死を汚すようで心苦しかった。
セルゲイが生きていれば気にするなと言ってくれるのかもしれないが、それでもやはりはやては苦々しい想いを味わっていただろう。
マネキンもそれは同じだろうが、彼女は彼女の中で一応のケリはつけているらしい。
このあたりが人生経験の差なのだろうか。

「……勝ちましょう。大佐たちのためにも。」

「ああ。」

へこたれそうになる心を奮い立たせ、はやてはホテルの自動ドアをくぐる。
沈みそうだった彼女の内側とは違い、今日もミッドチルダは日本晴れである。
ついでに、外で待っていた二人も必要以上に明るい。

「あ!はやてちゃ~ん!」

「たいさぁ!」

呑気な連れに、二人は揃って嘆息する。

(やれやれ……)

(こいつらは……)

しかし、この底抜けの明るさは短所であると同時に彼らの取り柄でもある。
お堅い指揮官には、これくらいとぼけた部下がいるのがちょうどいい。
が、それはそれ。
これはこれ。
締めるべきところは締めていく。

「リイン。職務中は階級で呼びぃ。」

「お前もだ、中尉。少しは軍人らしい振る舞いを心掛けろ。」

「「はい(です)!」」

どこまでわかっているのか些か不安だが、今これ以上は何を言っても無駄だろう。
諸行無常の悟りは大切だ。
しかし、悟りとは無縁なリインはさっきのはやての忠言も忘れて肩の上で鼻歌に興じている。
と、そこでふと気付く。

「あれ?家にそんな歌あったっけ?」

「ああ、これですか?さっき炭酸……じゃなくて、コーラサワー中尉のレンタカーのラジオで聞いたです。なんだか、とってもポカポカする歌で気持ちいいのです!」

そう言うとまたリインは歌い出す。

「喧嘩をして……あの子が泣いて……『ごめんなさい』、言えなくて……」

「ごめんなさい、か……」

そう言えば、心から謝ったのはいつが最後だろう。
今の自分は、どれだけ素直に自分の気持ちを伝えられているだろうか。

「笑う、笑う、大きな声で……呼んで、呼んで、大好きな……虹色、架け橋……渡って、おかえり……」

まるで子供の言葉を繋ぎ合わせたような歌だ。
けれど、だからこそ的を射ている。
自分たちが捨ててきてしまった、そして未来の世代に捨てさせようとしている物のなんと多いことか。
いや、

(……消させへん。私らの時代の呪いを、後の時代に引き継がせたりせえへん。)

はやては誓った。
未来の世代。
スバルや、ティアナや、キャロや、そしてエリオには、この歌詞が当たり前の世界を生きていってほしいと。
そんな世界にしてみせると。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 70.革新の扉


プトレマイオスⅡ エリオの部屋

ハレルヤがその扉を開けた時、中は真っ暗だった。
だが、足を組んで壁にもたれている虚ろな瞳は、もっと暗かった。

「……立て。」

「…………………」

答えはない。
だから、ハレルヤも無理矢理腕を持って立ち上がらせる。
しかし、少年は初めと変わらぬ体勢で宙に我が身を投げ出しただけで、立ち上がることは拒絶した。
いや、拒絶しているのは生きることそのものなのかもしれない。
だが、ハレルヤはそんなことは許さない。
苛立たしげに襟を掴むと、頭突きをくれてやり、額を付けたまま凄む。

「俺は次にアイツを見つけたら遠慮なくブチ殺す。アレルヤも同意済みだ。ティエリアも、言わずもがなロックオンも今度戦場であのガキを見つけたら間違いなく殺す。」

「……だったらそれでいいじゃないですか。」

「俺たちはな!テメェはどうなんだって聞いてんだ!!」

「別に……もう、どうでもいい。」

本当にどうでもよかった。
自分の抱いていた理想なんて幻だったのだ。
その幻に巻き込んで、多くの人を傷つけ、犠牲にしてしまった。
そんな自分に何かを求めるなんて、ハレルヤもいよいよトチ狂ったのだろうか。
確かにハレルヤは狂っている。
ただし、怒りにだ。

「どうでもいいだぁ……!?ざけんじゃねぇぞガキ!!テメェの不始末くらいテメェでつけろ!!人様に余計な重荷を背負わせようとしてんじゃねぇ!!」

「いいでしょ、別に……みんな、僕なんかより強いんですから…」

「……強かねぇんだよ。」

ハレルヤの表情が苦しげに歪む。

「俺も、アレルヤも、あいつらも。どいつもこいつも弱いところを抱えてる。弱さを抱えて、それでも強がってんだ。」

手の平から血が滲んでいた。
でも、ハレルヤは言葉を止めない。
止められるはずがない。

「無力を嘆くのが嫌なんだろ!?だったらいつまでもうじうじしてんじゃねぇ!!」

叫ぶだけ叫ぶといくらか心が晴れたのか、ハレルヤの手が離れる。
エリオは虚ろな瞳のまま、しかし涙を浮かべて、もといた壁に寄りかかった。

「……それくらいできなきゃ、強くなんかなれねぇんだよ。」

暗闇に背を向ける。
そして、言い残す。

「……刹那のお人好しから伝言だ。『待っている。』だとよ。どうするかは好きにしろ。」

扉が閉まると、暗闇は完全に消え去った。
だが、エリオがそこから抜け出せるかは彼次第だ。

(……ハレルヤ。)

「やれることはやってやったんだ。これ以上は俺の知ったことじゃねぇ。」

これ以上は互いが不幸になる。
アレルヤやハレルヤは撃てなくなるし、エリオはきっと必要以上の負い目を感じるだろう。

「そうさ……知ったことじゃねぇよ。」



ティエリアの部屋

死など見慣れている。
ティエリアの前には、いつだって死という名の光景が広がっている。
敵であれ味方であれ、幾つもの死を目に焼き付けてきた。
ただ、今回違っていたのは、動かなくなった仲間の肉体があったこと。
それにすがりつき泣く仲間がいたこと。

あの時とは違って、ロックオン・ストラトスが泣いていたこと。

「クソッ!!」

壁を殴る。
またあの兄弟を救えなかった。
そんな不甲斐ない自分を責めるように、拳を痛めつける。
けど、それも長くは続かなかった。

「もうやめて!!」

部屋に飛び込んできたウェンディが羽交い絞めにする。
それでも振り払おうとしたティエリアだったが、彼女もまた泣いていることに気付き、その場で崩れ落ちた。

「なぜだ……なぜ、また僕は……!」

「違う……違うよ……」

ティエリアのせいじゃない。
けれど、その言葉を、その続きをウェンディは言えなかった。
言ってしまえば、きっと自分もロックオンと同じように、躊躇わずに引き金に指をかけてしまうだろうから。

「……ごめん…!ごめんね……!!」

だから、謝ることしかできなかった。
それがいかに無意味なのか知りながら、ウェンディはただ謝り続けた。
ティエリアに。
ロックオンに。
アニューに。
そして、怒り、猛り狂うもう一人の己に。



ブリッジ

いつになく静かだった。
誰も話をしたい気分ではなかったろうが、静まり返るほどに喪失感が彼女たちを襲った。
いつもアニューがいた場所には、今はソーマがいた。
舵を握る表情はいつものように険しい。
しかしそれは、ともすれば今この場で泣きだしそうなマリーのために、心を強く保とうとしていたためだった。

(ごめんね……)

(構うな。私は、その……慣れている。)

その言葉が強がりなのはわかったが、マリーは「ありがとう。」とだけ告げるとまた黙り込んだ。
その強さを揺らがせたくはなかったから。
それに、ミレイナがいるのに弱音は言えない。

「……ミレイナ、やっぱりもう少し休んだら?」

ミレイナの様子を見かねたスメラギがそう言うが、ミレイナはニコリと笑った。

「大丈夫です。アイオンさんが抜けて、皆さんが一生懸命なのに私だけ休めないです。」

「けど…」

「本当に大丈夫です。元気だけが取り柄ですから!」

何が大丈夫なものか。
笑顔の目の周りが赤く泣き腫れている。
まだ精神的に未成熟なミレイナが、あんなことに直面して平気なはずがない。
なのに、彼女は甘えようともせずに今ここにいる。
けれど、そういう健気さが、年長者には辛い。
再び作業に戻ったミレイナにスメラギが嘆息すると、それに合わせてフェルトが通信をキャッチした。

「緊急暗号通信を受信。送信者は……不明です。」

ピンと空気が張り詰めた。
ついこの前の悪夢のせいで、全員がこの手の情報に過敏に反応するようになっている。

「内容は?」

「宙域ポイントが記されているだけです。ラグランジュ5……建設中断中のコロニー、『エクリプス』。」

「また罠か?」

あけすけもなくソーマが尋ねる。
内容が宙域ポイントだけなど、わかりやす過ぎる。
しかも何を得られるのかわからない。
これでそこへ行こうとするバカなどいない。

「私も反対です。今は不用意な動きは避けるべきだと思います。」

フェルトも同調する。
しかし、もし万が一、何かあるのだとしたら。
でなくとも、漂流者がいるのだとしたら。
スメラギは各所、会話が可能であろう人員たちに回線を繋ぐ。

「みんな、聞いて。」

説明にそれほど時間はいらなかった。
そして、返答も。

『僕は反対だ。十中八九罠だ。』

『同感っス。てか、またぞろ連中にからかわれてるだけなんじゃないっスかね?』

『……僕も、今は慎重になっておいて悪いことはないと思います。』

反対は三名。
しかし、賛成派の中にはリスクをとるだけの理由を提示してきた者もいた。

『ラグランジュ5にはリンダたちがおる。物資も心許なくなってきたし、立ち寄っても損はない。』

『それに、ダブルオーとクルセイドの強化を完成させるには彼女たちに協力してもらうのが一番だ。』

「でも……」

『行こう。』

イアンとジェイルの案をユーノは後押しする。

『何かある……そう、思うんだ。』

『ああ。』

刹那も肯く。

『それが何かはわからない。だが、怯えて手を縮こまらせていては掴めるものも掴めなくなる。』

多数決では賛成派優位。
そして、刹那とユーノの直感は、不思議と全員に反論の余地を挟ませなかった。

「……わかった。ただし、ダブルオーを先行させて、私たちは迂回して別ルートで向かいます。」

『戦力を分散させていいんですか?』

「ダブルオーライザーと刹那ならそう簡単にやられはしない。そして、残存戦力でも十分に対処できるはず。」

そう言って面子を見回す。
異論はないらしい。

「では、これよりトレミーはラグランジュ5へ向かいます。」

この時、この場にいない人間も含め、誰もが感じていた。
決戦が近いと。



コンテナ

「……で、本気か?」

スメラギたちとの話を終え、イアンは訝しげに刹那を見つめる。
刹那からのその申し出を聞いて、イアンは腰を抜かしそうになった。
まだアニューの件を自分の中で消化しきれていない時だったのもあるが、まさか刹那が自らそんなことを言い出すとは思わなかったのだ。

「頼む。きっと、あいつにとって必要になる。」

確かに可能ではある。
補助端末の役目を果たしているジルを介してプライオリティを、刹那の承認があればという条件付きではあるが譲渡できるようにするのは無理ではない。
バイオメトリクス認証システムも、幸か不幸か破壊されつくしたこいつを修復するにあたって一旦まっさらの状態にしておいた。
あらかじめ予備要員として登録するのにも時間はかかるまい。
ただ、誰よりもこれに思い入れのある刹那が、他人にこの機体を任せると言ったことに驚かされた。

「武装も新型の構想があるとシェリリンから聞いている。」

「いや、あれは、まあアイツ向きではあるがな…」

「……頼む。俺がしてやれるのはもう、このくらいしかない。」

刹那は本気だった。
この男は常に本気だが、今回は特にだった。
それほど、あの少年を買っているのだ。

「……肝心のあいつの技術は?」

「問題ない。四年前の俺とは比べても……いや、むしろ比べるまでもない。」

「そうか……だが、本当に良いのか?コイツはお前の…」

刹那は黙って首肯する。

「見つけてくれるはずだ。これに乗ること。その意味を。」

そんな清々しい顔でそう言われてはこれ以上何も言うことはない。
メカニックは黙ってその腕を見せつけてやれば良い。

「わかった。任せておけ。」

そう言って親指を立てたイアンに、刹那の顔も微かにほころぶ。
最後に、別れを惜しむように長年連れ添ってきた相棒が纏う布切れを、愛おしそうに撫でた。



廊下

壁に寄りかかっているロックオンとすれ違った時、視線を逸らそうかと沙慈は思った。
しかし、彼の前を行くユーノは前を見つめ続けていた。

「……悪いが、俺は撃たせてもらうぜ。」

誰のことを言っているのかはすぐに分かった。
だが、背を向けたまま立ち止ったユーノはあえて尋ねた。

「僕も、かい?」

「あのガキを庇う気ならな。けど、お前も本心では…」

「守るよ。」

ロックオンの肩がピクリと動いた。
今のユーノの言葉にこそ、“誰を”という言葉が必要だったから。
しかし、ロックオンはその誰かを聞くことなく、歯を食いしばり、そして非難した。

「お優しいこったな。流石はお人好しで通ってた元司書長様だ。」

「……うん。僕はバカなくらいに甘いから。だから…」

自嘲の後にはっきりと言い切る。

「みんな守る。僕の手の届く範囲のもの全てを、守り抜く。」

これにはロックオンも面食らったようで、沙慈と一緒にポカンとした顔をしていた。

「悪いね、ロックオン。そういうわけだから、僕は復讐には協力できない。アニューのためにも、ね。」

「どういう意味だ。」

「君が一番よくわかっているはずだ。アニューが君に、ライル・ディランディにどうして欲しいのか。」

その言葉に、アニューとの最後の瞬間が脳裏をよぎる。
わかっている。
きっと、そうするべきなのだと。
たとえ撃ったのがあの少女だとしても、自分も撃ち返すべきではないのだと。
しかし、今のロックオンの感情と相反するようなその答えを到底受け入れることなど出来ない。

「……俺は。」

俺はどうしたいのか。
どうするべきなのか。
その続きを、ロックオンは紡げなかった。
そして、ユーノもそれ以上は何も口にすることはなかった。
沙慈と共に再びコンテナへの道を行く。
今、これ以上は時間を共有しても良いことはない。
一人でいる時間が、大切な時もあるから。

「……安心したよ。」

角を曲がったところで、沙慈が小声で話しかけた。

「なんだか、君や刹那がどんどん変わっていくようで、不安だったんだ。」

「そう、かな?僕は、あんまりそんなつもりはなかったんだけど。」

「けど…」

いつもと変わらない背中に、笑みが漏れる。

「やっぱり君は変わってない。僕の知ってるユーノだ。」

「……そうだよ。僕は僕だ。ユーノ・スクライアだ。」

変わらない。
それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。
けれど、沙慈が微笑んでくれるなら、きっとそれは良いことなのだろう。
変わらなくても良いことはある。
ユーノは、金に染まる瞳をスゥッと細めた。



コンテナ

自分の定位置に着くと、刹那は後ろに視線をやった。

「エリオ……来なかったな。」

ジルの言うとおり、オーライザーの中は空だった。
出撃をギリギリまで待ったのだが、もう時間がない。

(ここまで、か…)

無理だったのだろうか。
あの幼さを残す騎士に、刹那は多くを求め過ぎたのだろうか。

(本当にここまでなのかエリオ?このままでお前は本当に良いのか?)

想いとは裏腹に、体はいつも通り出撃前の準備をスムーズにこなしていく。
そして、発進カタパルトへ機体が移動を開始しようとしたその時だった。

「待ってください!」

発進シークエンスへ移行しようとしていたフェルトも驚いていた。
しかし、刹那だけは黙って遠隔操作でオーライザーのコックピットハッチを開いて彼を迎え入れた。

「長期間トレミーを離れる。場合によっては戦闘も考えられる。」

「はい。」

「……覚悟はいいな?」

「……わかりません。本当に行きたいのかもわかりません。」

「…………………」

「どうしたいのか、どうすればいいのか自分でもわからないんです。何もかも中途半端なんです。だけど…」

「十分だ。」

刹那は操縦桿を握る。
気付けば、既にダブルオーライザーはカタパルトに到着していた。

「走り続けて見えてくるものもある。俺も、そうだった。」

ジルもハロの中へと入り、搭乗員全員の準備が整う。

「刹那・F・セイエイ、出るぞ!」



端末の映像でダブルオーライザーを見送った。
きっと戻ってくる。
強くなって、エリオは戻ってくる。
ユーノはそう信じて、端末の画面を切り替えた。



アロウズ母艦

考えるな、敵のことなど。
痛みなど感じている暇などない。
思考を停止しろ。
この身はすでに恒久和平のために捧げたのだ。
もう自分の物ではない。
考えるな。
ただひたすらに敵を倒せばいい。
あいつを、アイツらを。
ガンダムを。



ルイスは必死だった。
雑念を振り払うために錠剤をガリガリと噛み砕きながら飲み下す。
彼女にとって問題なのはもはや量ではなく、いち早くこれを摂取することだった。
そんなルイスを見つけたアンドレイがホッとした様子でやってくる。
先の戦闘で同行できなかった不満と、彼女の安否が気になってしかたなかったアンドレイにとって、話をするちょうど良い機会だった。
だが、彼の考えは儚くも粉砕される。

「ここにいたのか准尉。今、新型の調整が…」

「黙れ!!」

体を震わせてアンドレイは立ち止った。
上官にかける言葉でないことはもちろんだが、ルイスの体から迸る殺気が尋常ではない。
誰彼構わず刃物を突き立てそうな勢いだ。

「私に構うな。」

初見で可憐だと思っていた女性が、ここまで変貌すれば経験の浅いアンドレイでも違和感を覚える。
先の出撃で何かあったのだろうか。

「准尉、どうした?」

心から彼女を気遣っての言葉も、今のルイスにはノイズでしかない。
狂気にも等しい怒気を込めてアンドレイを威嚇する。

「私に構うなと…」

「お邪魔だったかな。」

ひょっとしたら、自分に飛びかかってくるルイスを抑え込むことになっていたかもしれない。
そうならなかったことだけに関しては、アンドレイといえでも後ろに立っているライセンサーに感謝せざるを得なかった。

「ミスターブシドー。」

「何か?」

ライセンサーにまで噛みつこうとするルイスの態度への呆れも、この気に入っていない通り名で呼ばれたことへの釈然としない感情も、仮面の男は表に出さないままこう切り出した。

「私と准尉に特命が下った。出撃準備を。」

「ハッ!」

気配の鋭さはそのままに、ルイスは敬礼をして足を踏み出す。
足早な彼女の後をミスターブシドーも悠然と歩きだそうとしたが、アンドレイがそれを止めた。

「私も同行させてください。グッドマン准将の許可は取ります。」

「好きにすればいい。もっとも、私と准尉の機体について来れるかわからんがな。」

そう言ってちらりと見やったアンドレイの顔には、不満の色はなかった。
腹の底ではどう思っているかはわからないが、専用機持ち特有の傲岸さはないようだ。
それを謙虚ととらえるべきか、物足りないととらえるべきか。
ブシドーにとっては後者だったが、彼の盟友にとっては前者だったのだろう。

(カタギリが気にいるわけだ。)

普通のエースやその候補生とは正反対かもしれないが、反極地にいるからこそ共通するところもあるのかもしれない。

(これでユニオン出身だったならばな。)

前を向いたブシドーの顔には、アンドレイの将来への微かな期待が笑みとなって滲みでていた。



宇宙空間

プトレマイオスを発ってからかなりの時間が経過した。
TRANS-AMを使用したとはいえ、目的の場所までかなりの距離がある。
その間にエリオが刹那と交わした言葉は『敵の追跡確認できず』という事務的なものだけ。
だが、延々と積み重なっていく時間の流れは、長考をするのに適していた。

この先の、おそらく決着が近いこの戦いのこと。
これから自分がどうするべきなのか。
待ちうける敵。
亡き人との約束と迫られる決断。

会話無き中、刹那は彼の言葉を脳内でリフレインする。

『お前は変われ…変われなかった、俺たちの代わりに…』

わかっている。
その果てに何があろうとも、変わってみせる。
これまで重ねてきた戦いも。
その度に強いてきた犠牲も。
その全てを無駄にしないためにも、変わってみせる。
その果てに何があろうとも。

だが、エリオはどうするのだろうか。
いや、なぜ今エリオのことを思ったのか。
───いや、わかってはいるのだ。
きっと彼も変わろうとしている。
けど、そのためには彼は決めなければならない。
そして乗り越えなければならない。
大きな壁を。

『許してあげて、あの子のことを……そして、あなたのことも……。』

許せるのだろうか。
それは、自己満足でしかないのではないだろうか。
死んだ人間の想いを背負って生きるなど、所詮自己の中で勝手に折り合いをつけただけなのではないだろうか。
そんな言い訳の果てに彼女を失ったのに、これ以上傲慢を押し通すのか。

『信じてる……エリオなら、大切な人たちを守れるようになるって……』

このちっぽけな手で、本当にそんなことができるのだろうか。
そのとき、果たして自分は本当に誰かのために戦っているのだろうか。

誰かに答えを求めたい。
けれど自分で決めなければならないのだ。
決めて、その全てを背負うのが責任を負うということなのだ。
そして、その時初めて人は何かの権利を、自由意思を得ることができる。
強くなれる。

刹那もそうだったのだろうか。
彼は、今また新たに一歩踏み出そうとしている。
常人では届かない境地にいたろうとしている。
けど、彼とて初めからそうだったわけではない。
刹那、そして周囲から聞いた彼の過去。
間違い、悩み、罵倒され、失い、挫けそうになりながらも前へと進んできた。
かつての彼は強くはなかった。
何度も倒れ、土を舐めてきた。
けれど、今の自分と違うのは、地に伏したままを拒絶したこと。
立ち上がることを選んだこと。
誰でもできるはずの、けれど困難を極めるそれを、刹那は繰り返してきた。
やはり強いのだ。
けれど、その強さは誰しもが持っているもの。
誰かができるのなら、誰でもできるはず。
折れて、世を拗ねて、諦めに沈んでいる今のエリオにも。

(………………………)

踏み出すのが怖い。
答えはすぐそこにあるのに、手を伸ばせない。

今のエリオには、背中を押してくれる誰かが必要だった。



ラグランジュ5 エクリプス

失態だ。
致命的な、本当に間の抜けたミスだ。
なぜ飼い犬の首輪を緩めるような真似をしたのか。
野良犬には二種類ある。
一つは愚かで滑稽なほどプライドを高く保とうとする犬。
そして、強者に媚びるくせに、いずれその寝首を掻こうとする狡猾で残忍な犬。
奴は、ネーナ・トリニティは後者であることを知っていたはずなのに。
なぜ、彼女が裏切らないなどと思いこんでいたのか。

(……っ!)

思い出すほどに腹立たしい。
自分を出し抜いたと得意気に吠えるあの恩知らずの狂犬の言葉を思い出して、留美は歯軋りした。
いや、あれは最早犬などではない。
あれは、人を破滅させる蛇だ。
あの時、それに気付いてさえいれば────



2日前

全て上手くいっているはずだった。
リジェネから紙片を受け取り、後は駒に都合よく動いてもらうだけ。
ただそれだけで留美の目的は達せられるはずだった。
なのに、艦は操舵不能に陥り、目の前にネーナの駆るガンダムスローネ・ドライがいる。
悪戯や冗談にしては性質が悪すぎる。
いや、冗談ではない。
艦がコントロール不能に陥ったのも、スローネが迫ってきているのも。
すべて、コックピットで嘲笑を浮かべているであろう、ネーナの謀略だ。

『なんでも持っているくせに……』

スローネがその外装を脱ぎ捨てていく。

『もっともっと欲しがって……』

その光景を留美は激情に震えながら静かに見つめるしかない。

『そのくせ中身は空っぽ。』

完全にその姿を現したスローネ・ドライは、GN粒子の放出口を全開して赤く禍々しい翼を広げた。

『あたしね……そんなあんたが大嫌いだったの!!』

銃口がこちらを向いている。
留美は息をのんだ。

『だからさぁ……』

「っ!!」

『死んじゃえばいいよ!!』

赤い弾丸が容赦なく降り注ぐ。
ブリッジを残し、なぶるように艦を隈なく砕いていく。

『アハハハハハハ!!!!』

「私は……」

呆然と立ち尽くす。
こんなはずじゃなかった。

『アハハハハハハハハハハ!!!!!!』

兄ではなく自分が王の家筋を継ぐことになったのも。
その呪わしい運命に縛られ続けなければならないのも。

『アハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!』

何も変えられずに終わる。
受け入れられるはずがない。
こんな終わり方。
けれど、彼女もよく知っている

世界は、いつだってこんなはずじゃなかったことばかりだ。

「私は……!」

後ろで爆発が起こる。
同時に、舵を握っていた紅龍が跳んだ。

「留美!!」

名を呼び、炎と衝撃から彼女を庇う。
そして、留美の意識はそこで途切れた。



現在

そう、もっと早くネーナを切っていればこんなことにならずに済んだのだ。
痛む脇腹も、この惨めな現状も、何もかも自分のせい。
わかってはいるのだが、止めどない怒りは何もかもにぶつけたくなる。

「指定ポイントに現れる者はいません。」

どうでもいい報告だ。
もう少し有益な話はできないのか。

「お嬢様、ソレスタルビーイングは本当に来てくれるでしょうか?」

「私にわかるわけないわ……でも、来なければ世界はイノベイターの物となる。リボンズ・アルマークの物に。」

「ネーナ・トリニティはいつからイノベイターの側に……」

「質問ばかりしていないで自分で考えなさい!」

うんざりだ。
この男に運命を振り回されるのは。
紅龍が、兄がもっとしっかりしていれば。
王の家に相応しい男だったなら、留美は自由でいられたはずなのに。
優秀な後継者の必要性など知ったことではない。
一族の繁栄など勝手にやっていればいい。
なのに、留美は家のために策略の限りを尽くし、同じ年の女子が満喫しているはずの喜びを捨てさせられた。
兄はそんな自分への罪悪感ゆえか、それまでの関係を捨てて傅き続けた。
それが留美の中の暗い感情をさらにかきたてているとも知らないで。

「あなたがそうだから、私が王家の当主にさせられたのよ!!」

「!!」

「お兄様に当主としての器がなかったから、私の人生は歪んだ!」

その暗い感情を今まさに彼女はぶちまけた。
改めて突き付けられた事実に紅龍は言葉を失くす。
主の、そして妹からの責めを、彼女の兄である彼にとってあまりにも正当過ぎて何も言い返せないその怒りを甘んじて受けるしかなかった。

「だから私は世界の変革を望んだの……!地位や名誉、資産すら引き換えにしても!」

紅龍は留美の怒りを浴びるうちに、その身を凍らせる恐怖を感じていた。
そう、確かに彼女は歪んでしまった。
王家と兄への怒りで、歪みに歪みきってしまっていた。

「私は人生をやり直し、私だけの人生を手に入れる!」

紅龍にはわかった。
わかってしまった。
きっと、彼女の願いは成就しないであろうこと。
歪んだ感情で変革した世界は、きっと彼女が真に望んだ世界からは程遠いであろうこと。
だが、

「最後まで付き合ってもらうわよ、紅龍。あなたには、その責任があるわ。」

最後の時まで、彼女と運命を共にするしかない。
それこそが償いだと言い聞かせて生き続けてきた紅龍に、それ以外の選択肢などなかった。
なかったはずだった。

「なにそのベッタベタな理由。くだらない。」

「!」

そんな彼の決意を、実際には留美を蔑んで言ったのだろうが、侮辱する言葉と共に扉が開かれた。

「やっぱりあんたバカよ。」

「ネーナ・トリニティ!!」

ハロを抱えて入ってきたネーナの顔に嘲笑が浮かぶ。

「あたしあんたが大っ嫌いだった。」

心からの侮蔑に留美のプライドが沸騰寸前まで沸き立つ。
しかし、突き付けられた銃口がそれを行動に移すのを留まらせた。

「さようなら、お嬢様。」

最後のおべっかの後、ネーナの指に力が入る。
同時に、紅龍は前に飛び出していた。

「留美ッ!!」

一瞬の閃光に思わず留美は目を閉じた。
が、彼女の瞳を開かせたのは銃弾が体を貫く痛みではなく、前に立つ大きな体の気配だった。

「紅龍!!」

その言葉は自分を気遣ってなのか、それとも勝手に逝くなど許さないという憤慨なのか。
このさいどちらでも構わない。
これが、自分の最後の時なのだろう。
誓いを再確認したばかりだというのに、皮肉な話だ。

「どきなって!」

ネーナが間断なく銃弾を撃ち込んでくる。
体に赤い点が幾つも刻まれていくが、紅龍は自らを盾としながら、最後の力を振り絞って留美をドアまで抱えていった。

「おにい……さま…」

「留美……!」

肺の近くに来た弾があるのだろうか。
声を出すだけでひどく胸が痛む。
いや、これは、

(……いや、今更か。)

感じた痛みを押し殺すと、妹を廊下へと押し出した。

「生きろ……!生きて…」

「お兄様!!」

扉が閉じられると、紅龍は笑った。
あんなに必死な顔で自分を呼ぶ留美を見たのは何年振りだろうか。
下らない感傷かもしれないが、やっと兄妹に戻れた。
そんな気がした。

「……何がおかしいの?」

仁王立ちする紅龍の額にネーナが銃を突き付ける。
しかし、紅龍は笑ったまま答えない。
ネーナに言ったところでこの感情は理解できないだろうし、話しかけるだけでも正直汚らわしい。
だから、こう言ってやる。

「荡妇(アバズレめ)。」

次の瞬間、紅龍のヘルメットのバイザーがひびで覆われた。

「バッカみたい。カッコつけちゃってさ。」

「追ワネーノカヨ?追ワネーノカヨ?」

「今はね。でしょ?」

無重力を漂う紅龍の亡骸には目もくれず、背後に立っていた人物に問う。

「ああ。」

返事をした人物、リジェネ・レジェッタは小さく肯いた。



エクリプス 外部

やっと、と言いたくなるような長い道程も二人の長考には短すぎると思えるほどあっという間についてしまった。
網の目のように張り巡らされたフレームの内側へ入り、刹那はダブルオーライザーを止める。

「MSでは指定ポイントにはいけない。機体制御を一旦そちらに預ける。」

『了解。』

「ジル。お前も残って周囲への警戒を頼む。」

(アイアイサー!)

胸元とハロの間に光の掛け橋ができる。
自分の肉体から出たそれが、ハロの耳(?)をパタパタ動かしたのを確認した刹那はハッチを開けて外へと身を投じた。
生身で浮遊、飛行という経験をしたおかげか、無重力という特殊な環境もいつも以上に苦にならない。
腰のエアブースターを使うまでもなく、滑らかに入口まで移動し、中へと侵入する刹那。
そんな取るに足らないはずの動作さえも、今のエリオにはコンプレックスの対象だった。

(……なにをやってるんだ、僕は。)

結局、こうしてどっかりとシートに尻を置いているだけ。
悶々と悩んで答えも見えない。
行動することもできない。

(やっぱり、僕は……)

その時だった。

(っ!?熱源探知!)

ジルの声に口から心臓が飛び出したのかと思うほど驚いた。
幸い、内臓のどこも口からはみ出していないのでその心配は皆無だったが、懸念すべき点は別にあった。

(速いなんてものじゃない!)

表示されているレーダー表示のスピードが尋常ではない。
そのスピードにフェイトの姿が思い浮かんだが、その可能性は皆無に等しい。
となると、イノベイター。
いや、それも違う。
彼らの機体の性能は確かに図抜けているが、ここまでの速度を叩きだせる機体は確認されていない。

(んだコイツの脳みそ……!?戦国時代の武将かよ!)

ジルが感じていたのはエリオとは全く違うもの。
近付いてくる何者かの思考。
奴の思考を占めているのはただ一つ。

戦斗による宿命の成就。
その矛先は、

『少年は留守か。ならば待たせてもらう。嫌とは言わせんぞ。』

急停止をかけた漆黒の荒武者からの呼び掛けと、突き付けられた刃に、二人はゴクリと喉を鳴らした。



内部

「この先か。」

マップを頼りに進んできた刹那が辿り着いたのは格納庫。
脱出用のシャトルがあるところから鑑みるに、目標は案外すぐ側にいるのかもしれない。
扉を開け、周囲を警戒する。
すると、すぐそばの曲がり角からわずかに覗いているノーマルスーツを見つけた。
気配を悟られないよう、慎重に接近していく。
そして、銃を構えたまま角を曲がったところに待っていたのは思いがけない人物の、想像もつかない姿だった。

「刹那・F・セイエイ…」

「王留美。」

実に四年ぶりの再会。
あの頃はキレ者の空気の中にもあどけなさが残っていたが、今は鋭く研ぎ澄まされた気配だけを纏っていた。

「どうした?怪我をしているのか?」

脇腹を庇っている彼女を気にかけると、なぜか渋い顔をした後、あの自身に満ちた笑みで答えた。

「なんでもありません。それより、これを。」

小さな紙片。
長旅の末に手に入れたのがただの紙くずだった日には目も当てられないが、相手はあの王留美だ。
おそらく、こんなアナログな手段をとらないといけない何かがこの紙片にはあるのだろう。

「なんだ?」

「ヴェーダ本体の所在が書かれています。」

「ヴェーダの本体が…!?」

予想の斜め上とはこのことだ。
相手の防御、盾や鎧の隙間を縫って切先を喉笛に突き付けたようなものである。

「イノベイターにこのことが知れれば、ヴェーダを移送されてしまう……一刻も早くヴェーダの奪還を。」

壮絶な瞳だった。
全てを擲った人間のする目だ。

「了解した。急いで脱出を…」

留美の身を案じた刹那が手を伸ばすが、彼女はそれを拒んだ。

「私は大丈夫です。」

「しかし…」

「私はあなたとはいけないのです。私のことは心配なさらずに。」

「……わかった。」

気にはなった。
しかし、留美がここまで言うからには何か理由があるのだろう。
それにこの情報を伝えに行かなくてはという使命感もあった。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、刹那は来た道を引き返していった。

「あなたたちとはいけないのよ。求めているものが違うから。」

不敵に笑う留美を残して。



外部

(ここに、ヴェーダが…)

じっと紙片を見つめていた。
そこにあるのは白い紙だが、刹那が見ているのはその先にあるもの。

散っていった命。
新たに生まれていく命。
今まさに生きる命。
未来へと向かっていく命。

(……そうか。)

ようやくわかった。
この命がここまで辿り着いたこと。
自分が変わろうとしていることの理由。

〈……そうです、マイスター。あなたは…〉

『刹那さん!』

『せ、せつなぁ~!』

エリオとジルの慌てふためいた声で刹那は我に返り、そして息をのんだ。

〈Caution!!〉

網の外へ引きずり出されている愛機。
白と黒。
刹那に取って拭えぬ過去を彷彿とさせる武者に、“あの男”の姿がオーバーラップする。
そして、その先に今の“あの男”が完全に重なった。

「四年ぶりだな、少年。」

「あの男は…!」

アザディスタン、そしてフォーリンエンジェルで相見えたフラッグの男。

「少年、ガンダムを失いたくなければ私の望みに答えてほしい。」

ガンダムへの異常な執着を見せたあの男。

「……なんだ。」

「真剣なる勝負を。」

「なに!?」

自分たちの存在が歪ませてしまったあの男。
そう確か名前は、

「私、グラハム・エーカーは君との勝負を所望する!」

フラッグの流れをくむ試作機、スサノオの上に立つグラハムをキッと睨む。
顔面の火傷が目立つが、その顔は確かに記憶にあるそれと同じだった。
そして、変わらないのは顔だけではなかった。

「そうまでして決着をつけたいか!」

「無論だ!」

怒気を交えた刹那の問いかけにグラハムは声を張り、拳を握りこむ。

「私の空を汚し、恩師や仲間たちを奪い、フラッグファイターとしての矜持を打ち砕いたのは他でもない、君とガンダムだ!!そうとも……愛を超え、憎しみさえも超え、宿命となった!」

「宿命…!?」

「一方的と笑うか?だが、最初に武力介入を行ったのはガンダムだということを忘れるな!」

(この男は……!)

かつての己の影。
あの時の刹那が生み出したという以上に、何も見えず何も見ようとしていなかった自分とこの男は全く同じだった。

(この男もまた、俺たちによって歪められた存在……)

ならば、するべきことは一つ。

「わかった。果たし合いを受けよう。」

「刹那さん!?」

「お、おい!本気かよ!?」

当然の反応だったが、刹那の決意は揺るがない。
それを感じ取ったグラハムは微かに笑んだ。

「全力を望む!」

それを合図に二人はそれぞれの剣、ガンダムとスサノオのコックピットへと戻った。

「戦う気かよ!?」

「他に方法がない。お前はエリオと…」

『嫌です。』

エリオが間髪いれずに答えた。

『まだ、みつけられていません。』

グラハムとは、正体を確信していない時点で何度か剣を交えている。
いずれもギリギリの勝負、いや、初戦では実質的に負けていた。
今回はこちらも万全だが、敵機は以前に戦った時の機体の発展型。
当然、向こうもこちらと同じジョーカーを手札に持っているはずだ。
勝てる保証はない。

しかし、エリオも引く様子はない。
無理矢理外に放り出しても翼に齧りついてきそうだ。

「……探し出せ。お前だけの答えを。」

『はい。』

「あ~あ、しゃあないなもう!このクソバカ主!」

ジルの方は文句を言いながらも刹那とのユニゾンを済ませた。
どことなく嬉しそうなのは御愛嬌というやつだ。

これで負けはしない。
負けられない。
理由があれば、人はどこまでも強くなる。
強さを宿した剣であの男の歪みを、かつての自分の影を越える。

「よし……いくぞ!」



グラハムが戻ると、シートも本来の位置へと移動する。
内部までフラッグとほぼ同じ造りに仕上げたのは、言わずもがなグラハムのためである。
今でこそ旧世代、ガンダムに太刀打ちできなかった機体との汚名を被っているが、そんなことはない。
この宿命を乗り越えた時、それも証明することができる。
フラッグと共に戦い続ける。
それこそが、グラハムに残された最後の希望。
暗躍する者どもの傀儡と成り果ててもなお、残った誇り。
戦こそが彼の全て。
そう、彼はまさしく一個のモノノフになっていた。

我は刃。
我は死人。
我は鬼神。

すなわち我、兵の体現者、勝と剛の求道者。

「これが私の望む道……修羅の道だ!!」

仮面をつけて名前さえも捨てる。
ここにいるのは宿命に突き動かされる阿修羅。
ミスターブシドーだ。



「ダブルオーライザー!」

刹那は二本の剣を抜き放つ。

「マスラオあらため、スサノオ!」

ミスターブシドーも二本の実体剣、シラヌイとウンリュウの柄を組み合わせて構える。

「目標を───」

「いざ、尋常に───」

両者ともに推進するための部位に力を込める。
そして、

「駆逐する!!」

「勝負!!」

二機は、閃く刃そのものとなった。



宇宙に迸った稲光を尻目に、留美はいく。
あのライセンサーが来たのは想定外だったが、想定外の出来事は想定内の中にまで入ってくることはなかった。

(愚かな人たち。)

永遠に争い、そのまま朽ち果てるがいい。
留美の思い描く世界に、彼らはもういらない。
何も残らない自分には、もうなにも必要ない。

「ソレスタルビーイングも、イノベイターも、お兄様の命も捧げて変革は達成される。そして、私はその先にある素晴らしい未来を……」

『そんなもの、あるわけないじゃない。』

人を小馬鹿にした声に背筋が凍る。
そして、目の前に現れた赤いガンダムに、心までもが恐怖に震えた。

「ネーナ!どうして!?」

『言ったでしょう?あたしあんたが大嫌い。あんたに従ってたのは生きてくため。ちょっと愛想よくしたらすぐ信じちゃって。でもね…』

ネーナの言葉のおかげで怒りが湧き、それが恐怖を薄れさせてくれていた。
しかし、彼女が間を置き、スローネが動き出したことで、半端に抑え込まれていた恐怖が一気に留美の心を侵しつくした。

『あんたの役目は終わったの!』

夢はいつか覚めるもの。
留美にとってその終着地点は、どうやらここだったようだ。
スローネの右腕から放たれた赤い粒子がシャトルのコックピットを襲う。
装甲と呼べるようなものを持たないシャトルは瞬く間に崩れ、即時爆散する。
残った物といえば、爆煙とデブリとネーナの笑い声だけだった。

「アッハハハハハ!!ハハハハハハハ!!木っ端微塵ね!さんざん人を物のように扱ってきた罰よ!!」

本当は最終目的のオマケのようなつもりだったが、プライドが高いネーナにとっては満更でもなくなっていたようだ。
気分がスカッと晴れ渡っていくことからそれがわかる。

「あたしは生きる為なら何だってするの。あたしが幸せになるためならね。そうよ…」

先程までの薄ら笑いは消え、彼女の本性である猛獣のような猛々しさが露わになる。

「イノベイターに従っているのもそのため。ニィニィズの仇だって討っちゃいないんだから。」

あの男、アリー・アル・サーシェス。
奴と、その背後にいるイノベイター。
自分たちを物として生み出して、使えなくなったら切り捨てる。
そんなこと、納得できるものか。
この腕も足も、胸も頭も髪も。
細胞の一つに至るまで自分のものだ。
あんな奴らに好きになどされてたまるか。

「その時が来たら、盛大に喉もと食いちぎってあげるから!」

「ソウイウ君ノ役目モ終ワッタヨ。」

ポカンと目の前の相棒を見つめた。
この球体が機械的な、しかしいつもとは違う声のトーンで、しかもまるで人間のように話した。
何が起こっているのかさっぱりだ。

「HARO?」

いつもクソ生意気なことばかりいう相棒だが、今回はいつもと違う。
その理由は、次の傲慢な、神を気取るような言葉でわかった。

「勝手ヲスル者ニハ罰ヲ与エナイト。」

「イノベイター!」

「君ヲ裁ク者が現レルヨ。」

「裁く者…」

ハッとした。
奴らが手駒として使っている人間など一人しかいない。

「まさか、あいつが…」

少し体を震わせた後、ネーナは舌なめずりをした。

「面白い。ニィニィズの仇よ。」

盆に正月とはこのことだ。
殺したい奴がもう一人ここに、自ら来てくれるのだ。
武者震いするなという方が無理だ。
しかし、HAROはネーナの言葉を受けて意味深なことを言い放つ。

「ソウダネ。アル意味、仇デハアル。」

「ハァ?あんた、意外と頭悪いのね。あいつが仇でなかったら、誰が…」

その時だった。
スローネの肩を砲撃が抉りとり、中にいるネーナは悲鳴を上げた。

「仇ハ君ダ。君ヲ裁クノハ、君ガ生ミダシタ怪物ダ。」



「あれだ……!!あのガンダムだ!!」

この時、ルイスの姿を見ることができたなら、きっと赤黒い闘気が全身から吹き上がっていたことだろう。
実際、彼女の全てをあの時の光景が支配していた。

突然やってきた赤いガンダム。
理由もなく放たれた凶弾。
瓦礫に埋もれ、動かなくなった両親。
なくなった腕。

自分から全てを、未来を奪った存在が、目の前にいる。

「ママと…パパを殺した……!!あの時のガンダム!!!!」

絶叫と共に発射されたビーム。
かわせると踏んで大きくスローネを横に倒したネーナだったが、回避に合わせて直角に曲がったビームに驚愕した。

「なに!?」

咄嗟に脚部をパージして致命傷を避ける。
ここまでしてはもう満足に戦闘を行えるはずがない。
しかし、ルイスは獲物を逃がさない。
残ったハンドガンで応戦するスローネへ突撃する。
当たったところでどうということはないが、貧弱な攻撃を嘲笑うように避けながらレグナントを変形させていく。

「家族の仇!?私にだっているわよ!!」

ネーナが叫ぶ。

「自分だけ不幸ぶって!!」

威嚇、のつもりはなかったのかもしれない。
しかし、その怒りの吐露が、逆にルイスの怒りを限界以上に引き上げた。
両手のファングを残らず射出し、端から削るように壊していく。
なぶるような攻撃と言えど、これだけ一気に受ければひとたまりもない。
ありとあらゆる部位が火花を散らし、コックピットの中にまでスパークが奔った。

「私は作られて……!戦わされて……!」

こんな終わり認めない。
こんな人生認めない。

「こんなところで……死ねるかぁぁぁぁ!!!!」

目を見開いた。
目の前に突き付けられた手の平。
同時に気付かされた。
今の自分は、あれほど嫌っていた“お嬢様”と同じだった。
ならば、この先にあるのは罰。
自己責任、因果応報の理。
すべて、自分で撒いた種だ。

「そうね……死にたくないね。だけど、パパとママは……そんなことさえ言えなかった!!!!」

そして、レグナントの爪が、残されていたコックピットを刺し貫いた。
ネーナの時が一瞬止まる。
止まった後、こんな運命に、そして世界に吼えた。

「ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」



一足遅れでやってきたアンドレイは状況の把握が精一杯だった。
腕は上げたつもりだったが、やはり専用機持ち達は違う。
ジリジリと離され、目標地点に辿り着いたときにはもう鉄火場が出来上がっていた。

「ミスターブシドーはガンダムと戦闘中。准尉は……」

レグナントの姿を探そうとセンサー類へ目を落とそうとした、その時だった。

『フ……ウフフフ……クフッ…フフフフフ…!』

笑い声だった。
兵士の物とは思えないほど、無邪気な笑い声だった。

『やったよ、ママ…パパ…!』

それは、子供が甘える時の、あの無邪気な声だ。
間違っても、命を奪った者が発していいものではなかった。
しかし、アンドレイにその笑い声を止めることなど出来るはずがなかった。

『仇を取ったよ……!ガンダムを倒したよ!!』

「准尉……」

『アハハハハッ……!!ハハ、ハ…?あ…れ……?ママ?パパ?どこ?』

居るはずなどない。
そして、語りかけてくれるはずなどない。
でも、子供は何かを成し遂げた時、褒めてほしいのだ。

『あたしやったよ……だから、褒めてよ。良くやったって、言って……!!』

声が段々引きつってくる。
虚空に手を伸ばし、あるはずのない温もりを求める。
しかし、それがやはりもうないのだと分かった時。
ルイスの中で何かが決定的に壊れた。

「ぅぅうあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」



(刹那……!)

(わかっている……!)

一体化している相棒に言われるまでもない。
何か良くないことが起きている。
この男以外の感情が、深い悲しみがこの一帯を包んでいる。
しかし、だからと言ってこの燃え滾る激情から目を離すわけにはいかない。

「雑念があるな!!全力だと、言ったはずだ!!」

スサノオの踵がダブルオーライザーの脇を強かに打った。
ガンダムに比べて細身の仕上がりにもかかわらず、蹴打は鋭く重い。
ユーノやラッセとの組み手でもここまでの一撃はなかなかお目にかかったことはない。

(やはりこの男、強い…!)

外周のフレームに叩きつけられる寸前でオーライザーの翼から粒子が噴出する。
背面に金属の檻を背負ったまま、平行に移動を開始するとスサノオへライフルを発射する。
しかし、それを鼻で笑ったブシドーはそれを舞いかわすと、フレームの上に立つ。
否、削りながら滑って追撃する。
刹那が反射的にダブルオーライザーを立て直したのは、卓越した危機察知能力の賜物だった。
スサノオの腰部が変形すると、丸い穴が刹那たちに狙いをつけていた。
粒子が凝縮する振動がコックピットさえも揺らしたが、ブシドーは構わずトリガーを引く。
発射の反動でスサノオの突撃が停止するが、その報酬は大きい。
紅蓮の球体がダブルオーライザーへ飛翔し、追い詰める。
結果は惜しくも爪先を掠めるにとどまった。

「っつぅ!」

弾丸を飛ばして反撃するが、やはりスサノオには当たらない。
しかし、撃ち合いはブシドーも望むところではない。
やはり斬り合いの中こそ、ガンダムとの決着に相応しい。
ダブルオーライザーに続いてフレームから飛び上がったスサノオは、繋がった二振りの刀を振り下ろす。
かわす刹那はすかさず左のGNソードを横に薙いで弾いて右を突き出すが、ブシドーも切り返しが早く、同じく横薙ぎで弾き返された。
だが、今度は刹那のターンだ。

「シッ!」

不用意に繰り出された右の袈裟。
一歩退いて間髪いれずに斬り上げの返しで右腕をとれる。
そのはずだったが、ブシドーの勘がそれをさせなかった。
袈裟に合わせるように逆手に持った刃を相手の斜め下に向けて突き出すと、右の攻めが止まる代わりに左のGNソードが視界の外から昇ってくる半ばだった。
しかし、

(こちらも誘いか!)

肘の角度が振り切るときと違う。
おそらく、本命は左肩による崩しから、回転をつけての大きな右の横薙ぎ。

(ならばっ!)

スサノオが大きく上昇する。
そして、高さの利を生かして渾身の唐竹割り。
が、刹那はそれさえも視えていた。
身体そのものを、僅かではあるが傾けることで剣閃をずらすと、刀の根元に切先を掠らせてダブルオーライザーの横ギリギリへ受け流す。

(この程度ならば!)

(やるっ!)

今度は無数の剣戟。
右、かと思えば上。
上かと思えば突きからの左。
その全てを打ち落とし、ゼロコンマさえも届かぬ無呼吸の切り返しと、またそれを迎え撃つ斬撃。
全ては、意味ある一撃を繰り出すための呼び水だが、その意味ある一撃をどちらも撃てない。
息の詰まる我慢比べ。

言い忘れていたが、これらは全て高速で移動しながら行われている。
ブシドーがアンドレイに言い放ったように、最早ただの兵士の力量の及ぶ物ではなかった。
その中で、ブシドーは言いようのない充足感と、それでさえも癒えぬ渇きに喘いでいた。

「生きてきた……!このためだけに生きてきた!!たとえイノベイターの傀儡と成り果てようとも!!」

ブシドーが勝負に打って出る。
ダブルオーライザーの剣を弾いて自らも大きくさがると、推進機を全開にして突撃した。

「この武士道だけはっっ!!!!」

「そうまでして!!」

刹那もブシドーの全開に応える。
二振りのGNソードを十字に重ねて構え、黒の剛剣を見事受け止めた。

「刹那さん!!」

「戦いに集中する!!」

二つの刃を振り抜いてスサノオを押し戻す。

「このままでは…」

「埒が明かん!」

状況は五分。
技量も互角。
理解できているからこそ、二人は焦れていた。

「ならば!」

「しからば!」

勝敗を分けるには、どちらのジョーカーが本物のワイルドカードなのかを明らかにするしかない。

「「TRANS-AM!!」」

二機が赤く輝く。
同時に、二人は突進した。

「でえええあああ!!!!!!」

「うおおおおおお!!!!!!」

遠目に見ていると、瑠璃色の球と紅の球がぶつかりあっているようだった。
そして、大まかにはそれであっている。
一方が一方を砕くまで続く激突。
互いの全存在をかけての

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

二つの光が螺旋を描きながら昇っていく。
そして、二人の戦士の視界は白に覆われた。



?????

いつの間にか、エリオもそこにいた。
遠く、刹那とあの男もいる。
遠いが、すごく近くにいる。
ただ、ここにいるだけで全てが手に取るようにわかる。
イオリア・シュヘンベルグの真の目的。
そして、自分の身に起ころうとしていること。
だが、

「僕は……僕なんかが…」

「待ってたよ、君のこと。」

気付けば、知らない人たちがいた。
人懐っこそうな女性に、照れながら頭を掻いている気の良さそうな男。
サングラスに白衣の男。
そして、赤髪のツインテールの少女が、微笑みかけていた。

「ずっと見守ってた。“彼ら”の中から。君たちがここに来てくれるのを待っていた。」

「彼ら?」

「あなたたちがジュエルシード、あるいは今はGNデバイスと呼ぶもの。」

「GNデバイス……?じゃあ、あなたたちはダブルオーたちの思考……ではないんですね。」

「そそ。俺なんてティエリアのやつの中っスけど、あんなトリガーハッピーな感じじゃないから。」

「私だって同性を口説く趣味はないわよ。まあ、フェルトが可愛くなっててお姉さんとしてはちょっと嬉しかったけど。」

そう言う自称お姉さんはとても、本当に嬉しそうだった。
彼女は、本当にフェルトのお姉さんとして、その成長をずっと見守ってきたのだろう。

「と、クリスやリヒティのせいで話が脇道にそれてしまったな。本題に入ろう。私たちがここまで来た理由は他でもない。君だ。」

「僕…?」

「うん。だって君、とっても辛そうな顔してるよ?」

お姉さんはそう言うと、優しくエリオを抱き寄せた。

「辛そうな顔してるのに、我慢し通し。壊れちゃいそうで、こっちが不安になってくる。あの時のユーノみたいに。」

「ユーノ、さん…」

そんなはずない。
ユーノは強い人間だ。
エリオの知る限り、刹那と同じくらい強い人間だ。
そんな彼が、自分と同じはずがない。

「違うよ。」

赤髪の少女が、首を横に振る。

「ユーノだって、弱いんだよ。」

「そんなはず…」

「ううん。今の君ならわかるはず。ユーノは芯が強いくせに、他人のために本気で涙を流しちゃう。だからこそ、私を守れなかった時も、道を誤りそうになった。」

「そして、失った過去を取り戻した時も。」

「あの時は……正直、俺らもちょっと油断してたのかも。何があっても平然としているユーノのあんな姿、見たことなかった。不安定で、めそめそしてて。赤ん坊みたいだった。」

「随分苦しんだんだよ?今の自分は、大好きな子の側にいるべき人間じゃないって。もう、あの輪の中に戻る資格なんてないんだって。いっそ、紛争根絶の戦いの中で果ててしまえばいいって。そんなことも本気で考えてた。」

「だが、あいつは立ち上がれた。なぜかは君にもわかっているはずだ。」

サングラスの男が、ポンと、しかし力強くエリオの肩を叩いた。

「あいつが、人間だったからだ。仲間がいたからだ。倒れても手を差し伸べてくれる奴がいたからだ。倒れている奴に手を差し伸べることを知っていたからだ。倒れても、また歩ければいい。それは特別なことなんかじゃない。誰もが持つ、しかし何にも勝る強い力だ。自分を、世界を変えられるほどの、な。」

男がエリオから手を離すと、徐々に四人が遠ざかっていく。

「ま、待って!まだ!」

聞きたいことがある。
聞かなくちゃいけないことがある。
けれど、四人には確信があった。

「私たちは変わろうとしなかった。そして、変われなかった。」

「だから、お前は変われ。」

聞き慣れた声に振り返る。
その男は、マイスターのノーマルスーツを着たその男は、眼帯で覆われた不完全な視界にもかかわらず、エリオにエールの弾丸を放とうとしていた。

「変われなかった、俺たちの代わりに。変わろうとしている、あいつらと共に。」

「ライ……!」

いや、違う。

「許せなくてもいい。けど、恨むな。悔やんでもいい。ただ、歩みは止めるな。……あいつから許されなくてもいい。けど、分かりあおうとする努力だけはやめないでくれ。だから…」

(そうか……この人たちは…)

「ソレスタルビーイングの一員として……生き抜いてみせろ、エリオ・モンディアル!」



エクリプス・外周

ひどく懐かしい声を聞いたような気がした。
イオリアの真意を悟ったあの場所から、それでもわかりあえなかったブシドーとの戦いの場に引き戻された刹那は、不思議と負ける気がしなかった。
この肩を彼らが支えてくれている気がする。
ただの錯覚、思い過ごしなのかもしれないが、刹那の身体には気力が満ち満ちていった。
そして、それは背中合わせの少年もそうだった。

「刹那さん、全力でいってください!全力全開です!」

「…!ああ!」

何があったか、などと聞く必要はなかった。
きっと、何かがあったのだ。

「いいんだな?」

超高速の攻防の中の問いかけに、エリオは笑った。

「わかったんです。今の僕じゃ何も分からないし、どうするべきかも分からないって。けど…」

会話をしつつ、手元はしっかり動かす。
ツインドライヴの制御は完璧だ。

「だからこそ、分かりたいんだって。倒れたままが楽でも、本当は立ち上がって進みたい、強くなりたいんだって。」

翼の∞の粒子が、一際大きな輝きを放つ。

「自己満足だと言われても構ない。僕は、みんなを救える……ただ守れる力が欲しい!!」

飾り気のない少年だからこその素直な言葉。
しかし、ブシドーにとってそれは、己の存在を全否定されたに等しい行為だった。



三年前 カタギリ邸

まだアロウズが存在しない、しかし設立までは時間の問題。
ホーマー・カタギリの滞在を狙い、強引に面会した時のことは今でもはっきり覚えている。
親友であるビリーとの親交のおかげで、日本の文化の知識はそこらの日本かぶれよりも詳しい。
微かに鼻腔をくすぐる畳草の香が自然と背筋を正してくれる。

「ソレスタルビーイングが再び動くと?」

和装で書をしたためていたホーマーが筆を置く。
年老いてなお凄みを増しつつある瞳を向けられ、しかしそれでもグラハムは怯むことなく嘆願した。

「その折には是非とも私に戦う機会を与えていただきたい。」

「……復讐か。」

そんなものではない。

「私が求めるのは、戦う者のみが到達できる極み。」

相変わらず視線はグラハムを捉えていた。
が、しばらくして飾られている一つの面に目線が移った。
グラハムもつられて見る。
赤い鬼だった。
ただただ恐ろしい姿。
「見事。」と賞賛したくなるほどに。
一つの極みを追い続け、そこに到達した者の姿。
それはどんな姿であれ美しいと、グラハムはそう思う。
だから、自分もそうなろう。
あの鬼のように。
いや、鬼さえも殺す阿修羅。
それこそが、グラハムの目指す極みだ。



現在 エクリプス・外周

(少年はかつて私に歪みがあると言った。だが、彼とて戦うことしかできない存在……だからこそ、私は望む!君と戦うことを!)

にもかかわらず、彼はそれを拒んだ。
そして、もう一人の少年はグラハムを否定した。
この身を戦闘戦斗に捧げた彼にとって、これ以上の侮辱はない。

「ならばその上で君を超える!その先にある極みへと到達してみせる!!」

刹那とエリオは歯を食いしばった。

「「勝利だけが望みか!!」」

「他に何がある!!」

鍔迫り合いで火花が散る。
その光へ、その奥へいる修羅へ叫んだ。

「「決まっている!!」」

力任せに押し返すと、GNソードの柄の底を連結する。
切先からさらに光の刃が伸ばし、ダブルオーライザーは直線的にスサノオへと突進した。

「「未来へと繋がる……明日だっ!!」」

ビームサーベルが迫る。
しかし、その瞬間ブシドーの視界がモノクロになる。
濃い水飴の中をもがくように愛機を反応させ、連結した二振りの刀、ソウテンを振り抜く。
弾き飛ばされた剣が鈍く光を放つと、視界も元に戻った。

「その首、」

刹那とエリオは手に、そして心に痺れを感じた。

「貰い受ける!!!!」

振り下ろされるは漆黒の閃き。
決まる。
そう思われた時、今度は刹那たちがモノクロとスローの世界を金色の瞳に映しだした。

〈Rule of sense〉

もう一機の愛機と相棒のサポートのおかげで、未来を見通すその眼と反射能力はすでに斬撃軌道を完全に把握し、行動に移ろうとしている。
しかし、手に武器はない。
弾くことなど不可能。

(ならば!!)

ダブルオーライザーの額で火花が散った。
驚愕したのはブシドーだ。

「白刃取りだと!!」

見事に両の掌に挟まれたソウテンはそれ以上ピクリともしなかった。
それどころか、横から加えられた力であっさりと折られてしまう。
鋭く研ぎ澄まされた、斬ることに特化した刃ほど思わぬ方向からの力に弱い。
それはブシドー自身にも当てはまり、彼が美しいまでの斬味の極みに達した刀だとしたら、それをへし折ったのはほかでもない。

「これが俺たちの!!」

かつて相見え、再戦を希望したこの少年と、

「戦いだっっ!!」

後継者とでも呼ぶべき、新たに現れたもう一人の少年だ。

「ぐお、ああぁぁぁぁ!!!!!!」

スサノオの両肩を、ダブルオーライザーがビームサーベルで貫いていた。
爆ぜるコックピットと合わせ、スサノオの両腕も吹き飛び、前立てのようなバイザーが砕け散ると、フラッグそっくりの素顔が晒された。
救命のために操縦席ごと外へと引きずり出されたブシドーだったが、要らぬ世話だったかもしれない。
爆発の衝撃で内臓にダメージを負い、おそらくは肋骨にも数か所亀裂が入っている。
これでは戦闘を続けるなど不可能なのはもちろん、逃げることも不可能だ。
なにより、この道を行くと決めた以上、敵に値する存在に背中を向ける無礼などありえない。

「く……ぅ…!!」

愛しき宿敵によってビームサーベルが突きつけられる。
激しく、そして美しいその姿に、満身創痍にもかかわらず、ブシドーは立ち上がった。

「た、戦え、少年……!!」

阿修羅。
エリオにはそう見えた。
戦いを何よりも望み、そして今、己の命を投げ出すことに喜びを感じているこの男が、恐ろしくも悲しい、ひどく哀れな、ちっぽけな鬼に見えた。

「私を切り裂き、その手に勝利を掴んでみせろ!!!!」

一人ぼっちの鬼はそう吼える。
しかし、もう誰もこれ以上のことなど望んではいなかった。
エリオがTRANS-AMを終了させ、刹那がビームサーベルを引く。

「なぜだ……!?なぜとどめを刺さん!!」

『俺は……生きる。生きて明日を掴む。それが、俺たちの戦いだ。』

グラリ、と足下が揺れた気がした。
穏やかな言葉が、今まで受けたどんな斬撃よりも強くこの身に刻まれた。
追い求めていた物を根本から否定され、そして打ち砕かれた。
仮に今、愛機が動けたとしても、戦う気すら起きない。
四年越しの真剣勝負の結末は、完全な敗北だった。

『生きるために戦え。』

それだけ言い残し、ガンダムは遠ざかっていく。
屈辱と悔しさが全身を覆い、ただ立ち尽くして粒子の残光を見つめ続けていた。





それから、どれだけ時間が経過したのだろうか。
脱出機能で排出されたコックピットを中に戻し、もうずっとこうしている。
ガンダムはもういない。
あの時と同じ。
違うのは、言い訳のしようのない負けを喫したということ。

(武士道とは……)

目の前を脇差が横切った。
修羅道に入った時から、生き恥だけは晒すまいと持ち続けてきたものだ。

「死ぬことと見つけたり。」

手に取り鞘から抜き放つと、白い刃が光を反射する。
まるで、白で埋め尽くされたあの世界のように。

『生きるために戦え。』

彼の最後の言葉がこだまする。
そして、その美しさも。

分かっている。
彼の言葉に偽りはない。
そして、その正しさも。
彼は生きてきたのだ。
無様でも、未来へ向かって戦ってきたのだ。
それは奇しくも、ブシドーの目指す強さや美しさ。
極みと呼んだものと等しいものだった。
ならば、今の自分にも、いや、今だからこそまた歩き出せないだろうか。
本当の強さを目指す道へと。

「武士道、とは……!!」

聞いても答えはない。
答えはいつでも、自分の中にある。



ラグランジュ5・周辺宙域

「エリオ、ジル、他の機体は?」

『反応、ありません。撤退したと考えるのが妥当だと思います。』

(ああ。残ってんのは、胸糞の悪くなる残留思念だけだ。)

「……そうか。」

肯く刹那の表情は晴れない。
あれは、たぶんルイス・ハレヴィだった。
そして、彼女は今、壊れつつある。
進めば進むほど、絶望が色濃くなっていく。
だが、絶望が濃いほど希望もまた鮮やかに輝きを放つ。

『ありがとうございます。』

エリオが微笑む。

「……俺は何もしていない。」

『そんなことありません。刹那さんがいなかったら、きっと立ち上がれませんでした。』

だとしても、刹那はただ道を示したに過ぎない。

刹那の道。
ユーノの道。
マイスターたちの道。
みんなの道。
あらゆる人々の道程。
そして、エリオの選ぶ道。
平坦ではないかもしれない。
倒れ、立ち止まることもあるかもしれない。
けれど、もう迷いもない。
罪を背負うことになるのなら、この手が届く範囲にあるものは守り抜こう。

『行きましょう。僕たちの戦いをするために。』

「……ああ。」

(……プ、ククク…)

「……?何がおかしい?」

(今泣いたカラスがもう笑ったよ。なんか、心配して損したって思ってさ。)

『悪い?これからはもっとわがままに生きてくつもりだから、覚悟しておいた方がいいよ。』

そう言うエリオにつられて刹那も笑った。
そうだ、世界は、人は変われる。
だって、苦しみの後でも、こんなに簡単に笑い合えるのだから。










少年たちの世界は変革する
そして、それは未来へと続く道





あとがき

というわけで第70話でした。
そして魔装機神Ⅲ発売しました!
まだ一回しかプレイできてねぇ!
おまけに発売前に更新しようと思ってたのにこのざまだよっ!!

……だって、ねぇ。
もう、削って盛ってで大変ですたw
刹那とブシドーの決着もメインでしたが、エリオの変革っていうのも一つのテーマでした。
結構強引でしたが、脱落したメンバーから励まされ、本当の意味でソレスタルビーイングの一員と認められるっていうのがエリオにとっての復活と変革への第一歩かなと思ったのでこういう流れにさせてもらいました。
いや、2話に分けても良かったんですけど、スッゲェ中途半端になりそうだったので一気に決めちゃいました。
次回はオリストーリーでティアナがががががが……な話なので。
そこにこいつをぶち込むのは何か違うかな、と。
で、次回はもう言っちゃいましたがオリストーリーです。
ティアナとユーノがメインの予定です。
そしてドリフターズネタがしつこいですが、ジャンヌのCVは中原さん希望ですw
炎をボーボーしながらお持ち帰りww
ドラゴン的なの召喚できればなおのことよしwww
……妄想がヤバい感じになって来たのでここらで〆ます。
よろしければ感想やご意見、応援などをお聞かせください。
では、また次回!





……できれば与一は水橋さ…(殴)



[18122] 71.それでも手を繋いで明日へ
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2014/03/17 20:55
第17管理世界・エイオース ゲルベルク要塞

奇襲。
果たしてこれがそう呼べるのだろうか。
フィオナの話ではどの管理世界でもほぼ同タイミングで現在の自分たちが置かれている状況とまったく同じ事態が発生しているらしい。
あのクソ腹立たしいコピーに寝首を掻かれるだけでは飽き足らず、先手を打たれるとはどういうことなのだ。
局の上層部は何をしていたのか。
こんなことだから税金泥棒なんて言葉が一部マスコミの間で流行するのだ。
などと文句を言っている場合ではない。
すぐそこまで来ていた敵の群れが、とうとう要塞中央の頭上になだれ込んできた。

「クソッタレがぁ!!」

その叫びすら銃火の嘲笑にかき消される。
いや、最早これは銃火と呼ぶことさえ躊躇われる。
そんな状況下、突撃してくる不格好なMDを爆散させながら、クラッドは苦渋の決断を下した。

「総員退却!余裕のある奴は負傷者のフォローだ!!」

『し、しかし三佐!!』

「しかしもかかしもモヤシ炒めもねぇ!!命あっての物種だろうが!!」

こんなものは戦いとは呼べない。
初めからまともに撃ち合いをする気さえない、いびつな特攻兵器による殲滅を、戦いだと認めてたまるものか。

「ブリジットは他の連中を守りながら退け!ついでにお前の試作機は死に物狂いで守れよ!レイとマリアンヌは俺について来い!」

『どうする気だ?』

異界からの訪問者の問いの答えは、彼らの眼前にいた。

「決まってんだろ……」

飛び立とうとする希望の翼に群がる人形たち。
そこへ向かうため、クラッドはペダルを限界まで踏み込む。

「漢を見せに行くんだよ!!」

新造艦に乗るはやてたちの血路を開くため、猛獣が走り出す。
片刃の剣を振りかざしながら。


魔導戦士ガンダム00 the guardian 71.それでも手を繋いで明日へ


アロウズ艦船

こういう経験も後々のお仕事で役立つものなのだろうか。
クラッキングやハッキングの類は元上司に任せておきたいのだが、その彼はこの宇宙のどこか、少なくとも今はティアナから遠く離れたところにいることは確かだ。
仕事中の無い物ねだりほど虚しいものはない。

〈パスコード解析完了。ブロック、突破します。〉

「よし。良い仕事よ、クロスミラージュ。」

〈Thank you Sir.〉

ミッションレコーダーに作戦指令。
他にも外部に知られたらマズイであろうブツが出るわ出るわのオンパレードだ。
よくもまあこれまでこんな大量の埃を隠し遂せたものである。
叩けば埃どころか黒光りする虫まで出てきそうだ。
それもこれも後ろでコソコソやってくれていた連中のおかげだろうか。
そう、

「あらぁ?何をしてるのかしらぁ?」

こんな感じの、いやらしい女とその仲間の仕業だ。
分かりきっているはずなのにわざわざ聞いてくるあたりからも性格の悪さがよくわかる。

「何かご用でしょうか?」

こっちもとぼけてみるが、ライセンサーの指先から電撃が発せられている時点で次にどうなるかは明白だ。

「なかなか上手くやっていたようだけど、とうとう尻尾を見せたわね。」

「ネズミ探しなんて、あんまり気の進む仕事じゃなかったけど、ようやく解放されそうだ。」

「いままで慎重だったくせに、いきなりこんな大胆な行動に打って出るなんてねぇ。ひょっとして……」

ライセンサー、ヒリング・ケアの口角が不気味につり上がる。

「えっと、名前なんだったけ?まあわからなくてもいいわ。私たちのやろうとしていることに気付いちゃったのかしら、お嬢ちゃん?」

背筋が凍る。
殺意だけでなく、ヒリングの考えていることさえもわかってしまった。
こいつらは、人間のことを使い捨ての物としか思っていない。

「何をおっしゃっているのかよくわかりません。」

悪趣味で凶悪な爪を鳴らしながら近付いてくるヒリングに合わせて後ずさりをする。
あと少し、もう少し時間を稼がなければ。

「仮に、私があなた方にとって不都合なことを知っていたとして、それを公表して世間が信じるとでも?」

「ノンノン。とぼけるのはなしよ。あなたがそのことを伝えたいのはあっちに置いてきたお仲間でしょう?もしくは、ソレスタルビーイングかしら?」

ティアナの背中が壁に着くと、ヒリングはますます上機嫌になった。

「図星でしょう?お嬢ちゃん。」

ティアナの喉元に爪が突きつけられる。
熱がジワジワと肌を痛めつけてくるが、どうやらクロスミラージュは間に合ったようだ。

〈Copy complication.〉

「一つ言っておくわ。」

「?」

「私の名前はお嬢ちゃんじゃなくて……ティアナ・ランスターよっ!」

左手に出現させた銃で間抜け面を下から撃つ。
オレンジの弾丸はヒリングの顎を跳ね上げ、続いて後ろに控えていたリヴァイヴへと襲いかかる。
しかし、リヴァイヴは片手で容易くそれを払うと、迷うことなくティアナの左胸を撃ち抜いた。
だが、

(幻影!)

本物のティアナはというと、すでにリヴァイヴの脇を抜けている。
リヴァイヴも追うが、扉の出口に展開されていた誘導弾が一斉に彼へと襲いかかった。

「クロスミラージュ、カマエル起動。MGモード解放準備開始。」

〈コンテナ内に生体反応を多数確認。〉

「ビビって逃げ出すわよ。命をドブに捨てたい人間なんてそうそういないもんよ。」

〈……よろしいのですか?〉

「だから、別に負傷者は出な…」

〈ではなく、彼女たちのことです。〉

ティアナの釣り目に一瞬戸惑いが生まれ、しかし彼女は自らそれを振り払った。

「……ここにいたって、助けられるわけじゃないわ。」

〈心中、お察しします。〉

「気を遣わなくていいわよ。ここにいたって出来ることがないだけで、諦めるとは言ってないんだから。」

ただ、憂いがあるとすれば。
いや、言うまい。
どんな言葉を重ねようと、ティアナが彼女たちを裏切っていたのは事実なのだから。

「ソレスタルビーイングと合流する。脱出と同時に救難信号の発信を開始して。」

〈Yes sir.〉



プトレマイオスⅡ ブリッジ

刹那たちがエクリプスへ先行している頃、プトレマイオスは平穏そのものだった。
そして、その平穏は間違いなくメンバーにとってプラスに働いていた。

「ミレイナ、少し落ち着いてきたみたいね。」

「ええ。ミレイナは強い子ですから。」

本人が休憩に入ったタイミングを見計らってスメラギから話を振って来た。

「すっかりお姉さんね。クリスもきっと喜んでる。」

「そうでしょうか?」

「ええ。」

それだけは自信を持って言える。
クリスがここにいたら、きっと誰よりもフェルトの成長を喜んでいたに違いない。
受け継がれる、というのとは少し違うのかもしれないが、クリスが残していったものはフェルトの中にある。
今度はフェルトがそれをミレイナへ。
そして、ミレイナが今度は別の誰かへ。
そうして連綿と続いていくものが人を作り、そして世界を、明日を創る。

「フェルトは良いお姉さんよ。だって、あのクリスがお姉さんだったんだもの。」

「そうか……そうですね!」

やはり思う。
こうやって、はにかんだ笑みを浮かべている方がフェルトには似合っている。
クリスがいつか言っていた。
フェルトには普通の女の子でいてほしいと。
今もあの時と同じ、普通と呼べる環境ではないが、クリスの願いは確かにあの日の少女に届いていた。

〈良いお姉さん、か。よかったじゃねぇか、先代お姉さん。〉

「…?ケルディム?」

〈いや、なんでもないよ……っと?〉

D・ケルディムが反応を拾うと、フェルトもそれに気付いた。

「周辺宙域に救難信号あり。これは……カレドヴルフ社のガンダム。識別、ガンダムカマエル。」

事態が飲み込めない二人に、さらなる追い打ちがかかる。

「アロウズの機体も確認。ですが、これは…」

「交戦中?」

モニターを覗き込んだスメラギも首をかしげる。
センサー類を信じるなら、アロウズと戦闘を繰り広げているのは味方であるはずのカマエル。
こちらをおびき寄せるトラップだとしても、やり過ぎというか的外れ。
となると、答えは自ずと出てくる。

「離反、ですか?」

「でしょうね。もともと彼女は管理局の人間。反りが合わなくなったのか。それとも、もともとこうなることを想定していたのか。」

だとしたら、彼女の上司たちは相当に腹黒だ。
街で会った時はかわいらしい印象だったが、実は相当の狸だったらしい。

「救援に向かうわ。マイスターたちに出撃準備をさせて。」

スメラギがこうでることまで織り込み済みだったらいよいよ笑うしかない。
ここまでいいように手の平の上で転がされるのも久しぶりだ。
それも、年下が相手となるとほぼ初めての経験だ。

「まったく……どうしてあの子の知り合いはこういうタイプばっかりなのかしら。」



コンテナ

「どういうこったよ。」

「僕に聞くな。」

作戦目的を聞かされたロックオンとティエリアは見るからに不機嫌だった。
二人からしてみれば敵の内紛に介入、ましてやガンダムを助ける義理などない。
アイツの仲間など、救ってどうなるというのか。
それを口にしかけたティエリアは慌てて口を閉じた。

「その……すまない。」

「ううん。私ももう大丈夫っス。」

笑って見せるウェンディだが、簡単に割り切れるはずなどない。
年端もいかぬ少女。
何もなかったならばティエリアも撃つのを躊躇っただろう。
だが、それ以上にアニューの命を奪ったという事実がその躊躇いを焼き尽くす。
赤々と燃える怒りの炎は、ウェンディの中にも確かに存在するはず。
だが、外道に堕ちたとしても、かつての仲間を手にかけることなど彼女にできない。
かといって、許せるはずなどない。
答えのない問いかけを、今も続けているのだ。

「ま、とりあえずティアナを確保すれば経緯はわかるだろうさ。」

一足先にカタパルトに到着したユーノは、自分で口にしたそれ以上のものを想像していた。

(こちらに戻ってからソリアらしいアクションがない。ミッドで何か企んでるのか……?)

発進前のフェルトとのやりとりをいつも通り滞りなく終わらせ、ユーノはクルセイドライザー・Hを走らせる。
その瞳が見つめているのは、不謹慎ながら仲間でも確保対象でもなく、黒い宇宙に映り込むもう一人の自分自身だった。



戦闘宙域

見くびっていた。
リヴァイヴは小惑星の浮島を跳ねて渡る豹をスコープ越しに追いながら評価を改める。
経歴を見る限りはなるほど凡俗の域を出ないが、こうして対峙してみると彼女の能力の高さがよくわかる。
狙撃手としての技量ももちろん、戦術の組み立て、自身と敵のMSの特性の把握。
そして、それをプレッシャーのなかで淡々とこなせる精神力。
これだけの才能を開花させた指南役も見事だが、それだけの潜在能力を秘めていた彼女も実に素晴らしい。
ただ、それはあくまで人間のレベルでの話だ。

「見えているよ!」

次にカマエルが跳ぶ先を予測して小惑星をビームで粉砕する。
足場を失った豹はすぐさま人型に姿を変え、長銃ではなく、二丁の拳銃を手に取った。

「アンカー射出。」

遠く離れた岩塊に長く伸びたオレンジのワイヤーの先にあった刃が突き刺さる。
勢いよく巻き取られるそれはGNドライヴによって生じる動作とは全く別物で、なおかつ無数にばらまかれる誘導弾がリヴァイヴたちの動きを封じた。

「チッ!小賢しい!」

この程度で墜とされるリヴァイヴではない。
問題は時間だ。
奴にこちらを墜とそうとする意思がないことなど百も承知。
厄介なのは先程から発信されている救難信号。
キャッチできる存在にとっては、街のド真ん中に立って大声で叫ぶに等しい行為である。
そして、騒がしい声に引き寄せられてやってくるのは往々にしてトラブルだ。

「リヴァイヴ!」

ヒリングの警告に反応したリヴァイヴだったが、光の矢を放った者の狙いはガデッサたちにつきそうジンクスたちだった。
瞬く間に二機、三機と撃ち抜かれ、いよいよ今度はリヴィングたちの番だ。

「ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!」

ケルディムのスナイパーライフルが火を噴く。
遠方からの弾幕にやむなく回避に専念するリヴァイヴだったが、その一瞬が命取りだった。
アリオスとスフィンクスは急加速し、敵陣のど真ん中へと切り込むと、隊列を乱して分断させた。
その隙にティアナはクルセイドライザー・Hたちが控えるラインまでさがる。

「ティアナ!」

「話は後で詳しく!それより今は…」

「言われるまでもない!!」

猛然と前に出たのはティエリアとセラヴィーだった。
手近な二体をGNキャノンで吹き飛ばすと、背中のフェイスをフルオープンする。

「GNバズーカ!バーストモード!!」

生成された巨大な光球は敵の戦線をさらに押し下げる。
駄目押しは切り込み役を買って出ていた二機だ。
ありったけの機雷と煙幕を置き土産に、味方ともども撤退を開始する。

「逃がすか!」

追おうとするガデッサの頬をスナイパーライフルの一撃が掠める。
足を止め、機雷の炸裂音と紫の煙の向こうを睨みつけるリヴァイヴ。
そして、それはロックオンも同じだった。

「ロックオン。」

「わかってる。」

今すぐにでも狙い撃ってやりたい。
仲間たちがいなければ決死の覚悟で死地へと赴いたであろう。

「フフ……次に会った時は…」

「覚悟しとくんだな。」

距離が開いていく怨敵に、二人はありったけの憎悪をこめた言葉を送った。



プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム

「ランスターさん。あなたは味方、と考えていいのね?」

「はい。」

クルーたちに囲まれた状況でも臆することなくティアナは首肯した。
しかし、少し妙だ。
歓迎されるとは思っていなかったが、いくらなんでも空気が張り詰め過ぎている。
しかも、その殺意とさえ受け取れる気配が全てティアナに向けられていた。

「その中にはアロウズが表沙汰にしたくないものが入っています。……口にすることを躊躇うほどのことも。」

「ついでに、管理局の後ろめたいところも明らかにできると嬉しいんだがね。それとも、自分に都合の悪いことは全部消しちまってるか?」

そう、この男。
数ある敵意の中でも、深緑のパイロットスーツを着たこの男は特にひどい。
あの狙撃型のガンダムのパイロットなので、ティアナとは浅からぬ因縁があるが、それでもここまでなじられなければならないような真似をした覚えはない。

「よしなさい、ロックオン。」

「やめねぇよ。やめてたまるかよ。なあ、それくらいするよな、お前らなら。ユーノとウェンディの話を聞いてりゃそうも思いたくなるぜ。」

「ロックオン……」

「人ひとり殺しても正義の味方気取りか?笑わせんなよクソッタレ。味方のふりして近づいて、今度は誰を殺す気だ?」

「ロックオン・ストラトス!!」

叱責したのはスメラギだったが、それよりも先に頬を張ったのはウェンディだった。
息を荒げ、潤んだ瞳から涙がこぼれないように歯を食いしばってロックオンを睨みつける。
しかし、ロックオンも退く気はないらしく、しばらくウェンディを射殺さんばかりに睨み返していたが、誰に言われるでもなく部屋を後にした。

「あの、彼は…?」

「ごめんなさい。ロックオンは…」

「スメラギさん。」

ウェンディが首を振る。

「あとで、あたしから話とくっス。」

「……わかったわ。それじゃあ、続けてもらっていいかしら、ランスターさん。」

「はい。」

まだ少し空気は悪いが、聞く耳もたないという感じはない。
なにより、話さないことには始まらない。

「まず連邦内の動きですが、表向きはともかく、裏ではアロウズへの風当たりは日に日に強くなっていますね。正規軍でもその存在を疑問視、あるいは否定的にとらえる勢力が増えてきています。でも…」

「そのほとんどが反社会的思想の持ち主という嫌疑をかけられて更迭……いや、正確にはその存在を抹消される、といったところか。」

ピーリスの言葉とそれに肯くティアナに沙慈も背筋が凍る。
つい半年ほど前までは、彼もそうなる運命にあったのだ。
あの時は訳も分からずプトレマイオスのクルーや刹那に当たり散らしていたが、今思えば本当に運が良かった。

「典型的な瓦解寸前の組織の末期症状だね。そんなことをすればさらに反感を買うだけなのに。」

「イノベイターたちもそれほど追い詰められている。そう思いたいところだが、こちらも時間をかけていられる時期ではなくなってきているということでもあるだろうな。」

「ええ。アロウズを叩くなら今です。だから、正規軍にもあなた方やカタロンに協力を求める人も出てきた。」

「協力者?」

「カティ・マネキン大佐です。」

スメラギの顔に微かだが驚きの表情が浮かんだ。

「お知り合いですか?」

「え、ええ。少しね。それで、彼女はなんて?」

「上司の話だと、渋ってはいたようですが譲歩してくれたようです。あの人、そういうことは得意ですから。」

ティアナとユーノは視線を交わして苦笑する。
その時の対談がどういう状況だったのか目に浮かぶ。

「それと、協力者についてですが……同時に私たち管理局の現状についてもお話しすることになりますが、良い話と悪い話があります。」

「良い話っていうのは?」

フェルトに促され、ティアナはまずそちらから話すことにする。

「ハラオウン提督率いるクラウディア、ならびに数隻の次元航行艦による部隊がアロウズへの反抗作戦への参加を承諾してくれました。」

「クロノが?」

またバカなことをしたものだ。
妻子持ちのくせに、路頭に迷うようなリスクをとるなんてつくづくバカだ。
そんなバカな友人の、バカだと思えるほど真っすぐな心意気にユーノは心の中で頭を下げた。

「それで、悪い話ってのはなんなんスか?」

「……八神部隊長たちとの連絡が途絶えたの。」

浮かれた気持ちなどすぐに吹き飛んだ。
ユーノとウェンディの顔を汗が伝う。

「安否は?」

「分かりません。ただ、最後の通信の時点でなんらかの戦闘に巻き込まれていたようでした。」

「戦闘?」

「はい。ノイズ混じりだったのでなんとも言えませんが、ただ……」

次の瞬間、ユーノは息をのんだ。

「襲撃者は、ソリア・スクライアだと思われます。」

「……イノベイターたちに勘付かれているのか?」

「かもしれません。けど、だとしたら少し変なんです。」

「変、って?なにがっスか?」

「部隊長たちの造反についての情報が全く上がってきてないのよ。四日は経つのにね。意図的に隠蔽したとも考えられるけど、だとしたら何の意味があるっていうの?」

「……イノベイターには隠蔽の意思はなかった。けど、ソリアには隠しておきたい理由があった。」

自然と視線が集まるが、ユーノは顎に手を当てたまま独り言のように推論を展開する。

「初めから気になってはいたんだ。ソリアは必ずしもリボンズと同じ方向を目指していない。ただ、自分の目的を果たすためにリボンズと協調していた。」

「目的?」

「それは……」

アレルヤに訊ねられ、そして言い澱んだ。
もし、自分があいつだったら。
立っている場所が逆だったら、間違いなく自分もそれを望んでいた。
今だって、薄いベールをめくればそんなドロドロとした感情が渦を巻いているかもしれない。
そんな己を認めるのが、恐ろしくて、気持ち悪くて、そして悔しかった。

「わからない。けど、今はとりあえずこっちのケリをつけよう。でなければ、リボンズはもっと世界に犠牲を強いる。」

そんな本音と建前が入り混じった言葉で、何もかもを誤魔化すしかなかった。



ウェンディの部屋

空気が悪い。
歯切れが悪い。
後味まで悪い。
悪いの三重殺のような面通しの後だったが、そんなものがフルコースの前菜にさえならない代物であることを感じ取っていた。

「なにがあったの?」

そう聞かれるのはわかっていたが、ウェンディは震えを抑えることができなかった。

「……ティアは。」

「なに?」

「ティアは……もしも、もしも私が本気でティアやスバルを、殺す気で撃ってきたとしたら、どうする。」

沈黙。
そして、ティアナは問い返すことなく、しばしの思案の後に答えた。

「あんたを撃つ。」

目を伏せようとしたウェンディだったが、ティアナの答えはまだ終わっていない。

「あんたを止めるために。」

「…………………」

「理由もなく撃つような奴に、少なくとも私は背中を預けてきたつもりはないわ。だから、他の仲間のためにも、なによりあんたのためにも絶対にあんたを止める。その上で後で殴る。以上よ。」

「……そっか。」

きっと、彼女もこの世界でいろいろなものを見てきたのだろう。
ウェンディも漠然と日々を過ごしてきたつもりはなかったが、いつだってティアナは自分たちの中で頭一つ抜けている。
少し妬けてしまうが、そんな彼女ならばきっと受け止めてくれるはずだ。
そう思い、全てを打ち明けた。

キャロが変わってしまったこと。
彼女のせいで自分たちがかけがえのない仲間を失ってしまったこと。
そして、ロックオンの怒りの理由を。

「そんなことが……」

出来るだけ感情を表に出さないように努めていたティアナだったが、事が事だけにショックを受けているのはウェンディにも分かった。
けれど、ティアナは躊躇わずに撃つのだろう。
照準の、そのさらに遥か向こう側をしっかりとその目に捕えているから。
本当に、自分とは大違いだ。

「それで、あんたはどうするの?」

「……私だって、助けたいよ。けど…」

“けど”が消せない。
もし、戦場で相対した時、あの瞬間の感情に全てを支配されてしまった自分を抑えられるだろうか。

「怖い……そんなことしたって、いいことなんて何もないってわかってるのに、迷わずに引き金を引きそうな自分が怖い。」

「……それが当たり前なんじゃないの?」

目を丸くするウェンディに、ティアナは片目を閉じて息をつきながら苦笑う。

「そんなことがあって、そうならない人間がいたらそっちの方が信用できないっての。」

「でも、ティアは…」

「私が、じゃない。あんたはどうなの、ウェンディ?どっちが本当の望み?」

結局、最初の問いに戻ってきてしまった。
それはとどのつまり、答えはそこにしかないということなのだろう。

「分からないのなら考えて悩み続けなさい。案外、そういう時に出した答えが最善解に近いもんよ。さて、と……」

ウェンディを置いてティアナは扉へと向かう。
止めようと手を伸ばしたウェンディだったが、ティアナはそれをかわして金属製の板をスライドさせた。

「会って話さないといけないのよ。次までに。」

そう言って、彼女は先程までの穏やかさを押し隠し、彼の元へと向かった。



展望室

手に握った虹の欠片の冷たさが、あの時の感触を思い出させる。
こうしていると、彼女を忘れずにいられる。
そして、彼女を失った時の怒りを。
なのに、なぜだろう。
心はこんなに冷たく、痛みが治まってくれない。
そんな時、不意に後ろに気配を感じた。
そして、そこでようやく目の前の暗闇に浮かびあがった自分の顔が今にも泣き出しそうなことに気が付けた。

「ちょっといいですか?」

それがわかっていたのかティアナもあからさまに視線を逸らす。
全く小賢しいくらいに気の回る子供だ。
そんな彼女の気遣いをはねつけるように、ロックオンは皮肉を口にした。

「よう。話を聞いて俺を撃ちに来たか?」

「必要があればそうします。けど、今はそんなつもりはないからご安心を。」

本当に胆が太くできている。
少しはうろたえてもいいところだが、そんな素振りはおくびにも出さない。
まだ幼さが足を引っ張っているが、あと数年もすればそれさえもなくなってさぞかし手強い相手になっていることだろう。

「で、だったら何の用だ。」

「戦闘になる前に言っておきたいことがあったので。」

ティアナの次の言葉に、ロックオンは耳を疑いたくなった。

「キャバリアーシリーズのカスタム機は私が相手をします。あなたは足手まといなので手を出さないでください。」

「なに?」

極力感情を押し殺したつもりだったが、声に怒気が混ざっているのは明らかだった。
が、ティアナはそれを前にしてもなお眉一つ動かさずに淡々と語る。

「“今の”あなたがエースクラスとぶつかれば間違いなく負けます。そんなことになれば貴重な戦力が…」

間髪いれずにティアナの襟首に手が伸びてきた。
宙ぶらりんの状態で至近距離からにらまれ、しかしそれでも瞳は冷ややかだ。

「ガキが……ナマ言ってくれるじゃねぇか。」

「……ガキ以下だって言ってんのよ。」

「んだと!?」

「誰も何もわかってないって思いこんで自棄になってるあんたなんてガキよりも役に立たないって言ってんのよ!!」

「こ…んの!!」

大人げないとは思わなかった。
力いっぱい殴られたティアナはそのまま強かに背中を壁に打ち付けられる。
頬は腫れあがり、口の端には赤い玉ができていた。

「お前に何がわかる!!アニューはアイツに!!」

「そんなのあんただけじゃないわよ!!」

「他の同じような奴らは許してるから俺もアイツも許せってか!?っざけんじゃねぇ!!」

「あんたは死んだ人間をダシにして憂さ晴らしがしたいだけでしょ!!」

ティアナの一喝にロックオンの怒りは頂点に達した。
だが、目の前の少女の涙に感情が冷めていくのが分かった。

「わかるわよ、あんたがどんな気持ちなのかくらい。どんなにキャロが許せないかくらい。」

「…………………」

「でも、そんなことしたってあんたが辛いだけじゃない。なんで、あんたがそんな罰を受けなくちゃいけないのよ。」

(ああ、そうか…)

こいつも、そうなのか。
泣きじゃくるこの少女も、きっと同じだったのだろう。
仲間を救いたいだけじゃない。
心底大切な人を、理不尽に失う辛さを知っているから、こんなどうしようもない自分さえも救おうとしてくれている。

けど、

「……罰で構わない。全てに犠牲を強いた俺は、無力だった俺は、罰を受け続けるべきだ。」

「そんなの!!」

『総員に連絡です!セイエイさんたちが無事帰って来たです!お土産もあるって言ってたです!大至急ブリッジに集合してくださいです!』

「……だ、そうだ。」

ミレイナのはしゃぎ声にロックオンはティアナに背を向け、そのまま振り返ることはなかった。
そう、

「罰を受け続けるなんて……生きてる人間の自己満足よ。」

そんな言葉も届かないかのように。



アロウズ母艦

何かの間違いだ。
アンドレイは叫んだが、そこに映っていたのは紛れもなくティアナ・ランスターだった。

(また……裏切られた。)

ライセンサーたちはさほど驚いてはいないようだったが、アンドレイは深い落胆と絶望を味わっていた。
彼女の言葉にウソはないと信じていた。
人々のためにこの力を使いたいと。
世界の安定を望むと。

その全てが偽りだった。

まったく、自分の見る目の無さには我ながら呆れる。
彼女もまた、ハーキュリー達の同類だったのだ。

(よくも……!!)

落胆は怒りへ。
そして失望は力に。
おそらく最後となるであろうソレスタルビーイングとの戦いに、アンドレイの気力は満ちていく。
全ては、世界に仇なす者たちを討ちとるために。



さっき、アンドレイが酷く怒っていた。
なんでも、ランスターとかいう奴がアロウズを離反したらしい。
けど、そんなことはどうでもいい。
やっと両親の仇を一人討ったのだ。
この調子で残りのガンダムも裏切り者も根絶やしにしてやればいい。
そう、それ以外はどうでもいい。
恨みを晴らすという、極上の爽快感さえ手に入ればそれでいい。

「……ハハハッ…」

狭いコックピットの中で薬を食みながら、ルイスは思わず笑ってしまう。
あの女の最後を思い返す度、笑いが止まらないのだ。

「ざまぁみろ。」

3回目のその言葉を、まるで初めてのことのように口にしながら、ルイスは彼からの啓示を待つ。
自分を救ってくれる人。
リボンズ・アルマークの指令を。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「そうか、王留美が…」

全員そろって神妙な顔になる。
が、沈んでばかりもいられない。
彼女が最後にもたらしてくれた情報が真実なら、逆転の一手を打てる可能性があるのだ。

「しかし、ヴェーダの本体の所在が月の裏とはなぁ。」

地球から最も遠く、宇宙開発時代の今でもなお未開の地とされるラグランジュ2。
お宝の隠し場所にはうってつけである。
ただ、その大きさが桁外れだった。

「直径15kmのデカブツ、か。よくもまあこんなもんを今まで隠し通せたもんだ。」

呆れるロックオンだったが、存在するポイントを拡大して、星の位置のズレからようやくそのことが判明したのである。
それだけカムフラージュが高レベルだったということなのだろう。
もしくは、自分たちを含めたほとんどの人間が底知らずの間抜けかだ。
そんなことを思うと、ティエリアはつい奥歯をこすり合わせてしまう。

「大丈夫かい、ティエリア。」

「……ああ、問題ない。」

もう、あの頃ほどヴェーダへの執着はない。
いや、執着する理由が変わってしまった。
人として生きるティエリアには、ヴェーダを奪還したいという欲求の間に、どうしてもワンクッション挟まってしまう。
それは居場所であり、いつも隣にいてくれる人たち。
だから、アレルヤの心配症にもいつもどおりこう言える。

「何も問題はない。」

別行動中だったリンダたちが合流した。
プトレマイオスとガンダムを修復するための物資も届いた。
ダブルオーとクルセイドのライザーシステム用新装備も無事完成。
ティエリアの言うとおり、再集結してから今までで今が一番状態が良い、問題ない状態だと言える。
ただ、あえて問題をあげるとするなら、結局フェレシュテの面々とは連絡がつかなかったこと。
そして、舵を握る者の存在だ。

「ラッセは?」

刹那の問いにジェイルは首を振った。
柔かい腹に至近距離からもろに銃弾を受けたのだ。
生きているのだって奇跡的だ。
やはり、ソーマか誰か別の人間にやってもらうしかない。
誰もがそう思ったその時だった。

「勝手に二軍落ちにしてくれるなよ。」

「ラッセ!」

脇腹を抑えどことなく苦しそうなラッセだが、視線を一人占めにするとはにかんで見せた。

「俺が一番こいつを上手く扱える。だろ?」

「けど、傷は…」

「“ミスター・痩せ我慢”のお前に比べればどうってことねぇよ。」

「日本にいたことがあるんなら、『オカメハチモク』って知ってるだろ?」と言われ、ユーノは問答無用で黙らせられた。
もちろん、他に止められる者がいるはずもない。
実際、彼に任せるのが一番だと知っているのだから。

「お願いしていいかしら?」

「もちろん。」

確かな足取りでラッセが輪に加わり、これで本当に全てが完璧になった。
ソレスタルビーイング設立以来、おそらく最も過酷なミッションに赴くにふさわしいコンディションだ。

「俺たちには……」

不意に刹那が口を開く。

「目的は違っても、あそこに向かう理由がある。」

「…うん、そうだね。」

沙慈が肯く。
ソレスタルビーイングではない。
けれど、戦う理由はある。
もう、迷いはない。

「私たちにも、譲れないものがある。」

「ああ。」

自身やハレルヤ。
そして、マリーやソーマ。
こんなものは自分たちだけでたくさんだ。
四年前のあの日、同朋を撃った苦さを胸に誓う。
この戦い、負けないと。

「俺は、ただ狙い撃つ。アロウズも、イノベイターも。」

迷い路にあっても、照準だけは外さない。
未来から目を背けない。
それを彼女が望まないことだけは、ライル・ディランディにも、ロックオン・ストラトスにもはっきりとわかっていたから。

「この手で守ってみせる。世界を、大切な人たちを。」

消せない罪に押しつぶされそうになった。
逃げ出そうともした。
だが、こうしてまた立ち上がれた。
ならばやるべきことは決まっている。
この小さな手の届く場所だけは、何が何でも守り抜いてみせる。
騎士として、そして、ソレスタルビーイングとしての誇りを胸に。

「ヴェーダを奪還する。イノベイターから世界を解放するために。」

あの時とはもう違う。
選ばれた存在ではなく、ただの人間としてこの戦いに臨む。
共に轡を並べる仲間がいる。
帰るべき、守るべき場所がある。
ただそれだけで、なんと心強いことか。
つくづく思う。
自分は、人であれて良かったと。

「生きる。私が、私であるために。」

人ならざる人。
人の姿身にも関わらず、人であることを赦されなかった。
けど、そんな自分に温もりを教えてくれた人たちがいる。
生んでくれた父と、短い間だったが家族にしてくれたもう一人の父。
そんな人たちが生きる世界の明日のため、今は戦う。

「撃ち抜ける。ランスターの弾丸は、どんな困難だって。」

過ちは消えない。
けど、きっと枷にもならない。
枷だと思うなら、それはきっと見えていないだけ。
そう、どんなに微かでも、この身に歩く力を与えてくれるもの、希望はこうして存在している。

「俺たちは、未来のために戦うんだ。」

「…おう。」

過去を否定することは己を否定すること。
だからこそ、全てを受け入れるべきなのだ。
あの時犯した罪があるから。
あの時の後悔があるから。
あの時流した涙があるから、今こうしてここにいる。
未来へと一歩を踏み出せる。
もう、何かになる必要はない。
己を変える術は、心の外側を探しても見つからないのだから。

「誰かが悲しまなくちゃいけない世界なんて、嘘っ八だ。」

「先のことを考えて後悔するより、この先後悔することになっても今を後悔したくない……ということだな。」

無力な自分が悔しかった。
だけど、力を得て初めて分かった。
それは欲するべきものではない、手にしてはいけないものだったのだと。
けど、手にしてしまったならば逃げられない。
そして、逃げずに悩み、もがき、苦しんだから、本当の強さや優しさを知った。
誰かに手を差し伸べる。
無力だった自分が、最初から持っていたものが、どれほど尊いものだったのかを。
変わることができた今、初めて理解できた。

「……俺たちは変わる。変わらなければ、未来と向き合えない。」

刹那の言葉に皆が肯く。
もう、誰の決意も揺るがない。

「行こう、月の向こうへ。」



廊下

フェルトの心は落ち着かなかった。
かといって、それは戦いの前のざわめきや、年頃の女性としてのものとも違う。
それらやその他のもの全てがごちゃまぜになったような、なんとも言えず落ち着かない。
こんな気持ちでは、仮眠さえもろくにとれやしない。
理由は分かりきっている。

(ちゃんと線引きはしてたつもりなのに。)

あの時、ユーノに言葉にして伝えてからは前のように感情的になることは少なくなった。
なのに、こんな時に限って気になってしまう。

(ユーノ……)

今の彼はどこか遠い。
刹那やエリオと同じ。
ここにいるのに、心はここにいない。
自分たちを見ているのに、別の何かを見つめている。
一度そんなことを考え出すと止まらなくなって、今もこうして引きずり続けている。

「駄目だ……ちゃんとしなくちゃ。」

「何が駄目なの?」

思わず跳び上がりそうになってしまった。
きょとんとした顔をするリンダにフェルトは何か言おうとするが、さっき考えていたことが言葉に出ていたのではないかと思うと、恥ずかしさで口が回らなくなってしまう。

「声をかけたんだけど、気付いてもらえなかったみたいだったから。」

「え、あ、その、すいません…」

どうやら聞かれてはいなかったようだ。
しかし、リンダのセンサーに引っかかったのは間違いなかった。
彼女はフェルトの手をとると、強引と思えるほどの力で自分の方へ引き寄せた。

「あ、あの、なにを?」

「ちょっと見てほしいものがあるの。」

そう言うリンダの顔は悪戯っ子のようでもあり、娘を見るような優しい母のようでもあった。



『敵艦隊、捕捉したです!』

ピンとユーノの周りの空気が張り詰めたのを967は感じた。
続くスメラギの戦闘配備の声に、刹那とジルも閉じていた瞳を開く。
ここで一歩を踏み出せば、もう後には引けない。
勝つしか、ここへ戻ってくる術はない。

「いくぞ。」

「ああ。」

床を蹴ってコンテナを目指す。
まずは右。
次は左。
これももう慣れたものだ。
もう何十回と歩んだ道のり。
ただ、今日はいつもはいない人が最後の曲がり角の先で待っていた。

「フェルト?」

ぶつかりそうになって思わず互いに距離をとってしまう。
白いノーマルスーツの彼女の頭では、D・ケルディムがくっくっと笑い声をあげる。

〈オイオイ、届け物をしに来たのにそんな調子でどうすんだよ。〉

「届け物?」

そう言ってジルが刹那の方越しにフェルトを見ると、なるほど彼女は何かを大事そうに抱えている。
967もそれを見て、察した。

「……先に行っているぞ。」

そう言って967はジルを掴んで先に行く。
すれ違った時に「頑張れ。」と言われたフェルトは赤い顔でうつむく。
しかし、うんと一つ肯くと、抱えていた二つのガラスケースを二人の戦士に差し出した。

「これを、二人に渡したくて。」

それは白い花だった。
なんだ、と言いたくなるかもしれないが、宇宙飛行士やアストロノーツ、とかく年のほとんどを宇宙で過ごす者にとって、花はとてつもなく貴重な存在なのだ。
肺を満たす空気、身体を潤す水、命のサイクルを繰り返す大地。
重力も適度な日の光も何もない宇宙で、この小さな命をここまで育むのにどれほどの労力を要するのか、地上にいる人々には想像もつかないだろう。
しかし、宇宙で過ごす人々さえも知らない事実を、刹那だけは気付いた。

「これは…」

「知ってるの?」

「……ああ。」

「中東の方の花で、リンダさんがラボで育てたんだって。」

よく覚えている。
粗末な家にしばしばこの花が花瓶に生けてあった。
飾り気のないあの家で、唯一心がなごむ存在だった。

『こんな場所でも、こんなに健気に咲く。強い花だね。』

そんな母の言葉通り、ガラスケースの中に咲くその花は、自身の強さを声なき声で刹那へと叫んでいた。
何もない過酷なこの場所でも生きているのだと。
こんなちっぽけな自分でも、生きていけるのだと。

「懐かしいな。」

「意外だね。刹那がそんなことを言うなんて。」

「俺だって昔を懐かしく思うことはある。」

さらにムスッとした刹那を笑いながら、フェルトの持つケースをユーノは優しくなでる。

「でもいいの?こんな貴重なもの…」

「二人に持っていてほしいの。……もう、離れ離れはいやだから。」

その時、はたと気付いた。
そう言えば、四年前のあの時も三人だった。
あの時はユーノがフェルトに絆を預け、そして戻ってこなかった。

「だから、今度は私から。」

「こっちも意外だったな。」

「フェルトって験を担ぐほうだったんだね。」

そう言って笑うユーノと刹那に、フェルトも笑った。

「そうだよ。だから二人とも、それを持ってちゃんと戻ってきてね。」

ポンとユーノの胸に頭を預け、瞳を潤ませる。

「二人とも、戻ってこないと嫌なんだからね……」

「……うん。」

「了解した。」

想いのこもった命を受け取り、あの日の少年たちは未来へと歩き出す。
もう、見送る少女の誓いを破ることのないように。



「なあなあ、なんで見ちゃ駄目なんだよ。」

「デバガメは趣味じゃないんでな。」

不満タラタラのジルは口を尖らせていたが、967もあの二人を見守ってやりたかった。
もしかしたら、この先もう967はここにはいれないのかもしれない。
なぜなら、967は人ではない。
ただの情報の集積体。
イノベイターに過ぎないのだから。

(……ティエリア。聞こえるか。)

(…?どうしかしたのか?)

きっと考えてもいないのだろう。
ヴェーダを奪還するということが、己にとって何を意味するのかを。
少し抜けたところがあるのは本来彼自身が持っていた気質なのか。
それとも、人になれたからなのか。
まあ、どちらにせよ関係ない。
もし、その時に、必要があるなら967がやるべきだ。
ティエリアには、まだまだその目で世界を見て学んでもらわなければ。

(お前は生きろ。お前は、人なのだから。)

(なにを…)

ティエリアの問いに答えることはできない。
知れば、きっと自分もと言いだすだろう。
だから、そうなる前に967は念話を終える。

「クロちん、あんた…」

「また読んだのか。覗き見はやめろと刹那にも言われているだろう。」

ジルの心配をよそに、967は呑気に首をコキコキと鳴らす。

「それに、だ。俺もそう易々とあの無鉄砲を置いていきはしないさ。」

そうとも、まだまだこれからだ。
ティエリアだけじゃない。
ユーノも、967も。
まだこれからこの世界でやるべきこともやりたいことも山ほどあるのだ。
こんなところで終わりになどならない。
刹那が言っていたように、これは未来のための戦いなのだから。
こんな決意など、その時が来るまでは不要である。
きっと、ずっと要らない決意だ。



コンテナ

まったく、おかしな奴だ。
自分も含めてソレスタルビーイングにはそんな人間ばかりだが、今日の967は輪をかけて変だった。
しかし、そのことについてそれ以上ティエリアが深く考える前にフェルトの声が聞こえてくる。

『トレミー、全ハッチオープン。』

目の前に広がる黒の光景に、ティエリアは初めてヴァーチェで出撃した時のことが脳裏にフラッシュバックする。
紛争根絶。
思えば、最初に掲げていた理想とは程遠いところに行きついてしまったものだ。
後悔はしているし、懺悔の気持ちだってある。
ただ、こうしてここにいる自分が不思議と嫌いになれない。
我ながら図太い神経をしている。
気付けば、苦笑が漏れていた。

『ティエリア~?どうかしたんスか?』

いつから回線を開いていたのだろうか。
ウェンディが画面の端っこで首をかしげていた。

「僕のことより自分の心配をしたらどうだ。今回ばかりはみんなフォローに回れる余裕はなさそうだからな。」

〈そうそう。ただでさえアホの子で残念な子なんだからな。〉

〈全くです。〉

『あ!三人揃ってひでぇっスそんな言い方!あたしだってやる時はやるっスよ!』

「そうか。それじゃあ、それなりの戦果をあげてもらおうか。」

〈期待はしねぇけどな。ケッケッケ!〉

『この~!あとで見てろよ~!』

頬を膨らませるウェンディとのやりとりを最後まで皮肉で締め、ティエリアは眦を鋭く釣り上げる。
その瞬間、ティエリアの、彼の中で最初から今まで唯一変わらなかった物、戦士としての感覚が呼び覚まされた。

「ティエリア・アーデ、セラヴィー、出る!」

「ウェンディ、スフィンクス、出るっス!」

黒と白の巨体と鋭翼が外へと放たれ、飛んでいく。
運命の輪の中へ向かって、その輪からあらゆるものを取り戻すために。



ティアナはずっと考えていた。
ウェンディにはああ言ったが、その通りにできる自信など欠片もない。
ロックオンにぶつけた言葉だってただの自己満足。
その全てが偽りではないが、やはり中心にいるのは自分の身勝手な願望だ。
何もかもを守り救いたい。
神さえ恐れぬ傲慢な感情。
そんな自分に、ロックオンを止める資格などあるのだろうか。
いくら悩んでも分からない。
けれど、だからこそ悩むことだけはやめない。
そこから何かがわかってくるはずだから。
そして、それは復讐に燃えるもう一人のスナイパーもわかっていた。

『…よう。』

唐突に開かれた回線から、ロックオンが声をかけてきた。
心の準備ができていなかったティアナだったが、そんなことなど知ろうはずもない彼はこう切り出した。

『…背中は任せる。』

「え?」

『あいつが来たら、お前が決めろ。俺は俺で勝手にやらせてもらう。だから……撃ちたきゃいつでも撃て。その時は俺も迷わずお前に対して引き金を引くがな。』

ロックオンなりに感謝と誠意を示したつもりだった。
だが、ティアナはその感謝と誠意に憤懣した。

「あんたバカ?」

『あ?』

「背中を預けるってそういうことじゃないでしょ。」

男というのはつくづく不器用な生き物である。
素直にこう言えばいいものを。

「お互い信じて助け合うのが背中を預けるってことでしょ。何そのドロドロ腹黒い感じの契約は?」

『…………………』

「キャロのことは、忘れろとは言えないけど、相手を信頼するならそんなのはナシで行くのが普通でしょうが。」

『……チッ。』

負けた、という具合の笑みを浮かべるロックオン。
ふっきれた、というにはまだ遠いが、少なくともこれから先は遠慮しなくてよさそうだ。

『ホント、可愛げのないガキだ。そんなこっちゃ行き遅れて三十路あたりで焦ることになるぞ。』

「大きなお世話よ。」

〈それに、マスターの性格からして自分に合わない男は容赦なく切り捨てそうですしね。〉

「そっちはもっと大きなお世話よ。それにね…」

ひとまず、そういうことを心配できる世界を取り戻しに行こう。
奪われてしまった真実を。
そして、過酷な現実の中にも、安堵できる日常を。

「とにかく、行くわよ。減らず口は後で聞いてあげる。」

『おう。そんじゃ、いっちょ行くか。ケルディム、ロックオン・ストラトス、目標を狙い撃つ!』

「ティアナ・ランスター、出ます!」



「ねぇ、アレルヤ?」

「なんだい、“ソーマ・ピーリス”。」

自分でも気持ち悪いと思いつつ口調を似せていたのにこれだ。
溜め息もつきたくなるというものだ。

「……脳量子波か。」

「まさか。そんなことしなくても君とマリーの判別くらいつくさ。」

愛の為せる業、といったところか。
だからこそ、マリーには戦ってほしくない。
マリー・パーファシーは、ソーマ・ピーリスのようになってはいけないのだ。

「僕は止めないよ。」

ハッと顔をあげた。
何をしようとしているかだけでなく、さらにその奥まで見透かされた気がして、喉に透明な固体がつっかえたように言葉が継げなかった。
だが、アレルヤは彼女の、彼女たちの言葉をじっと待った。

(……今も、どうなるか、私が彼をどうするか約束はできない。けど、私たちも決めなくちゃいけないと思うから。)

「マリー……」

「……そう。」

アレルヤは二人の意思を尊重するだけだ。
ハレルヤは、言わずもがな。
表には出ずにいつも通りケラケラと意地悪く笑っている。

「それじゃあ、行こうか。」

「うん。」

「……ああ。あのバカ息子を一発殴ってやらないとな。姉からの愛の鞭というやつだ。」

〈向こうの方が年上っぽいけどね~。〉

アーチャーアリオスが飛翔した瞬間、被弾したわけでもないのにGNアーチャーのコックピットで鈍い音が響いた。



ツンと指先で突くと、透明なケースを通して白い花弁が光を吸い込んだ。
鼻腔には届かない香を想像で補うと、不意に優雅に空を舞う白いバリアジャケットが脳裏をよぎる。

(……酷い男だな、僕は。)

フェルトの心を知って揺らぎながら、なのはのことを強く想っている自分がいる。
本当に、ユーノ・スクライアは酷い男だ。

『けど、僕はいいところもたくさん知ってるよ。』

思わずのけぞってしまい、後頭部をぶつけてしまう。
だが、痛いと感じる暇もなく、ユーノは沙慈の苦笑い顔と向かい合った。

「な、なんで?」

『なんでって、口に出てたし。』

最悪だ。
決戦を前にこんなことを考えているなんてバカな自分を見られた。
それだけでも穴を掘って埋まりたい気分だ。

『けど、ユーノってそんなに悪い人間じゃないよ。』

「別にお世辞はいいよ。」

『お世辞じゃなくて本心で。』

画面の向こうで、沙慈は小さく頭を下げた。

『ありがとう。きっと、君がいなかったらここまで来れなかった。』

「……来ないにこしたことはないさ。なのに、僕らが君をここまで連れてきてしまった。」

『違う。きっと、僕がここに来た意味はあるし、いつかはぶつかっていた壁だ。それが今だったってことなんだと思う。』

「……強いんだね、沙慈は。」

『強くなったのさ。友達のおかげでね。』

誰かに現実と向き合う強さを与えられる。
友達を、こんな風に笑顔にできる。
あの日見た、なのはの強さに少しでも近づけたのなら。

きっと、沙慈の言うように、ここまでの、良いも悪いも含めた道程には意味があるのだろう。

「ねぇ、沙慈。」

『うん?』

「……名前を呼んでくれないかな?」

『え?』

「友達になるにはそれだけでいいんだってさ。」

『……そっか、そうだね……ユーノ。』

身にしみる言葉だ。
それはただの文字の羅列や連続した音という無味乾燥なものではない。
心を持つ人間の、分かりあいたいという切実な願いの表れなのだ。

「……僕の方こそありがとう、沙慈。」

「良い雰囲気のところ悪いが、そろそろ出るぞ。気を引き締めろ。」

「了解。」

心をぶつけあい、通わせた友。
そんな彼の大切な人、そしてユーノのもう一人の友達のため、新たな盾を手にした天使が雄々しくその翼を広げる。

「967、ユニゾン開始。」

「了解。ユニゾンイン。」

〈融合係数、高位で安定。GNデバイスによるバックアップサポートを開始します。〉

『GNデバイスのリンク安定を確認。』

「コンディション、オールグリーン。ユーノ・スクライア、クルセイドライザー、出る!」

何度でもその名を呼ぼう。
きっと、分かりあえると信じているから。



故郷の風景を切り取ったようだった。
一輪だけのその花が、刹那の瞳にあの乾いた大地を見せてくれた。
そして、そこで微笑みかけてくるのは彼女だ。
長い黒髪に、白い肌と美しい声。
一切の憂いもなく、ただ受け入れようと手を差し伸べてくる彼女は、だからこそ刹那が触れたら消えてしまいそうだった。

「マリナ……」

あの時のようにやめたいわけじゃない。
けれど、また彼女に会いたい。
許されないと分かっているほどに、その想いは募っていく。

〈会いに行けばいいじゃん。〉

また読んだのか、とは言わなかった。
今回ばかりはジルが正しい。

〈歌。また聞かせてもらうんだろ?〉

「……ああ。そうだな。」

踏み込んではいけない場所。
けれど、もし許されるのなら、マリナが受け入れてくれるのなら。
もう一度だけ、あの歌を、皇女としてではなく、ピアノを奏でることが似合うマリナ・イスマイールの歌を聞かせてほしい。
だから今は、

「俺は、俺たちは影だ。」

〈刹那?〉

〈マイスター?〉

「だが、俺たちがいることでまた光が輝くなら、それでいいんだ。」

だから今は、影の中で蠢く闇をこの手で断つ。

「ジル、ダブルオー。力を貸してくれ。」

〈合点でい!〉

〈Ja!〉



「融合係数、高位で安定を確認。GNデバイスのリンク安定を確認。」

いつもより入念に計器類に目をはしらせる。
そんな時、うっすらと自分の顔が映るモニターにエリオの視線が止まる。

〈どうかしたのか?〉

「ねえ、ストラーダ。僕は…」

しかし、言おうと思って恥ずかしくて、そしておかしくてやめた。

「いや、なんでもない。」

〈…?我が主ながら変な奴だな。〉

「そうさ、君の相棒は変な奴なんだよ。」

自分の顔を見て、大人になった気がする。
そんな感想を抱くなんて、やはりおかしいのだろう。
けれど、ここで過ごした日々は、自分を成長させてくれたはずだ。
良いことばかりではない、むしろ最悪と呼べる毎日だったが、それでもきっとこの時間を忘れないし、そうするに値する尊いものだと確信している。
そして、ここから先に繋がる未来もきっと。

「こちらの準備はOKです。」

『了解した。いくぞ。』

新たに手にした折りたたみ式の大剣を手に、蒼い天使は宇宙へと飛び立つ。
この先の未来に、それぞれの祈りと希望を託して。

「ダブルオーライザー、刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!」













ソレスタルビーイングとアロウズ、そしてイノベイター。
様々な思惑が絡まり合いながら、決戦の火蓋が切られた。






あとがき

みんなきっとポケパルのようなシステムをポケモンにずっと求めていたんだよっ!!!!
………あい、すいません。
自己最長記録となる音信不通期間の言い訳がそれです。
もう皆様更新されねェと思って見捨てちゃってんじゃないかなと思いつつとりあえず最後まで書き切る予定です。
……いや、だってさ。あんなつぶらな瞳で『ピカ?』なんて言われたらキューピッドが心臓に矢をブスブス刺しまくりますよ。
しかも新登場ポケモンも想像以上に可愛すぎるし……。
昔、大学構内で人目もはばからずにラブプラスやってる奴見てオイオイとか思ってたけどさ。
ごめん、あの時の人。
俺も一時期リアルの方に支障が出るレベルでのめり込んでたわ。
日に8時間近く睡眠時間削ってポケモンて。
しかもそのうち7時間50分近くがポケパルって。
…………今思うと本当に病人同然だったな。
リアルに帰還出来てよかったよ。
そんなこんなで決戦編開始ですが、最終戦ではありません。(ゴラァ)
ネタバレですが、てか冒頭の下りの時点で気付いてる方が大半でしょうが、最終戦はミッドです。
まあ、決戦編も全精力を振り絞って燃え尽きる予定ですが(終わんないのに燃え尽きんな)。
とりあえず、今年度中に何とか決戦編は終わらせたいと思います。
なので、心の広い方はもうしばらくお付き合いください。
そして、よろしければ感想等々をお聞かせください。
では、今回はここらでおさらばです。








さーて、ポケムーバーで連れてきたタマザラシをモフモフしなくちゃww



[18122] 72.決戦(1)開幕
Name: ロビン◆dd70ced8 ID:5b061f09
Date: 2014/03/17 20:43
???

時は少々さかのぼりソレスタルビーイングが戦域に到着する前。
ゆったりと流れる時間は欺瞞であり、あと数刻もすれば炎が外で爆ぜ散らばることだろう。
人が蓄積し続けたカルマを振り払う、新世界の産声に相応しい。

「遂に審判が下される。」

迫りくる最大の敵に、しかしリボンズは待ちわびたように言葉と呼気をゆっくり吐き出した。

「純粋種として覚醒した彼らか、それとも僕たちか。」

静かに瞼をあげた彼の後ろには、寸分違わず同じ顔をした男たち。
階段や二階を埋め尽くすそれらは軽く見積もっても百を超えるだろうか。
そんな不気味な背景を背負いながら、リボンズはソファーから立ちあがった。

「そのどちらかが世界の行く末を決める。」

もっとも、リボンズの思い描く未来は一つしかない。
全てを掌握し、世界をあるべき形に導く。
それをできるのは自分しかいない。
人間などでは駄目だ。
愚かで、醜く、幼く、何も学ぼうとしない。
人間のような不完全なもののために、イノベイターが存在するのではない。
人を正しく支配するために、イノベイターが存在するのだ。

「さあ、答えを示そうじゃないか。」

世界が、選ぶべき答えを。



魔導戦士ガンダム00 the guardian 72.決戦(1)開幕


戦闘宙域

ガンダム各機が出撃してしばらくすると、アロウズの艦からも赤い筋が幾つも現れ、その先からバラバラと光の玉が飛んできた。
数は圧倒的。
だが、開戦の合図としては少々物足りなさを覚える。
となると、正しいやり方を教えて差し上げるのが礼儀というものだろう。

「敵部隊を牽制する!」

「OK!」

アーチャーアリオスとスフィンクスが前へ出る。
上部に背負ったコンテナが開き、ありったけ詰め込んできたミサイルたちが野に放たれると、獲物を求めて我先にと紅のMSへ襲いかかる。
しつこく食らいついてくる凶悪なミサイルの群れを嫌い、その軌道から何とか逃れようとアロウズのパイロットたちは忙しなくMSを動き回らせる。
自分たちが、いつの間にか一点に集められていることにも気がつかず。

「圧縮粒子、全面解放!」

「しまっ…!」

誘導されたことに気付いた時には、チンケな粒子ビームなど弾き飛ばす巨大な光球にまとめて押し潰されていた。
爆煙さえも飲み込み、彼方へと消えていくセラヴィーの砲撃。
それに乗じて敵陣へと切り込んだのは、アリオスだった。
ドッキングを解除したGNアーチャーが二丁の銃で敵を分断すると、粒子をチャージしていたライフルのトリガーを引く。
大出力のビームは一機を飲み込み、もう一機のジンクスも下肢を炙られ、耐えきれずに爆発炎上。
それをきっかけにさらに陣形を崩したアロウズ部隊を、持ち前の高機動で撹乱していく。

そんな二機を好きにさせまいと大型火器でじっくり狙いをつけていたアヘッドだったが、脇腹を貫く閃光によってあえなくその企みごと宇宙の藻屑と散った。
僚機を仕留めたハンターの存在に気がついたジンクスがランスに備え付けられていた銃で反撃するが、一矢報いることもできずに続けて飛来したオレンジの弾丸によって頭部を撃ち砕かれた。
当然である。
なぜなら、ハンターたちがいる場所は、彼らの持つ武器の有効範囲の遥か外なのだから。

「このまま俺たちも前に出るぞ!」

「了解!」

立ちふさがる二体のアヘッドを難なく仕留めたロックオンとティアナはさらに前へ前へと進軍していく。
そんな彼らを押し止めようと、アロウズも前へ出ようとするが、青と萌黄の機体がそれを許さない。

「斬り裂く!」

宣告通り、盾を構えたアヘッドをそれごと真っ二つにするダブルオーライザーと刹那。
その手に握られているのは、GN粒子を纏った厚手の刃。
エクシアの使用していた大型実体剣を彷彿とさせる美しい剣である。
取り回しの難しい代物だが、この手の武器を扱いなれている刹那には問題などあろうはずがない。
むしろ、最新世代の武器にもかかわらず、初めてあの剣を振るった時の感覚を思い出してセンチメンタルな気分になっているくらいだ。

GNソードⅢ。
トランザムライザーの使用を前提に造り上げられた剣は、薄緑で縁取られた刃をたたむと圧縮された粒子を敵に向かって吐き出す。
一発、二発、そして三発と間髪いれずに光弾を受けたアヘッドは爆発し、その炎の中から今度は猛然と突撃する盾が出現した。

「GNビット、広域展開!」

〈Spread shift〉

白い翼から放たれた羽たちは横一列に隊列を成し、熱線でそれぞれ狙いをつけて敵を撃つ。
そして、残った一体にはクルセイドライザーが向かう。
瑠璃色の輝きを纏う右の盾をアヘッドに捻じ込み、溜めこんでいた粒子を炸裂させる。
丸い頭はひしゃげて爆ぜ、反動で吹き出した残留粒子の煌めきは反転した刃が纏う輝きを一層際立たせた。

〈Sword Mode〉

仲間の死を無駄にしまいと接近してきた二機のジンクス。
だが、その横をすり抜けざまに振るわれた一閃は二機の胴体を同時に斬り裂いていた。

GNアームズシールドⅢ。
反転によるバンカーとソードの形態変化はそのままに、バンカー時にはライフルも発射可能。
さらに、展開されるソードの隠し刃のリーチを伸ばし、GNソードⅢと同じくカタールの刀身に使用された新素材で造られたことによって粒子を纏わせての威力上昇をさらに強力なものにした。
しかも、今回はオーライザーの追加武装としてウラヌスに使用されていた物と同タイプのビットまでついてきた。
技術畑の人間としては、一機のMSに載せるには過剰装備で扱いきれるものかとも思ったが、パイロットとしてこいつを操った時になんの違和感もなかったのだから、イアンの技術には本当に驚かされる。
腕をあげたと自負していたが、やはり師匠越えはもう少し先に持ち越しになりそうだ。

各機の活躍で順調に敵を押し込んでいく。
しかし、ユーノと刹那はいち早く異変に気がついた。

「なんだ?」

「敵艦が前に?」

この状況で、艦隊が包囲されるのを嫌ってMSを残して下がることはままある。
だが、強引に前に出るなど自殺行為だ。
一時は攻撃から遠ざかれるかもしれないが、前と後ろで味方と分断されて嬲り殺しがオチだ。
そんなこと、敵もわかっているはず。
ならば、この行動の意味は一つ。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「敵艦、減速なしです!」

「特攻か!」

俄かには信じがたい戦法だった。
現代において、テロリストではなく仮にも正規の軍隊が特攻を仕掛けるなど常軌を逸している。
こんなもの、戦術を提供するものとして最も忌避すべきタブー、そして倫理的にも最悪手だ。
スメラギを憤らせたのが戦術予報士としての誇りなら、彼女に冷静さを取り戻させたのも戦術予報士としての誇りだった。

(狙いは甘い。このコースなら掠ることはあっても直撃はまずない。だとすると、接近してからのMSの展開?だとしても、リスクの方が大きすぎる。)

様々な可能性を考慮するが、たとえをトラップだったとしてもここで叩かなければ悪戯に被害を受けることになる。
腹をくくると、スメラギはすぐさま前線の刹那へ指示を出す。

「刹那、ライザーソードで敵艦隊を。」

『了解!』

あからさまで直接的にはあまり効果を望めない特攻。
となると、ありきたりなものではないないはず。
あのデカイ鉄の塊にはこちらの戦力を削ぐための方法を秘められている。
そう、例えば────



前線

GNソードから伸びた巨大な光が三隻の艦を破壊した瞬間、灰色と薄い黄緑色の粒が辺りを瞬く間に覆っていく。
TRANS-AMを解除したダブルオーライザーはその成分を分析し、答えを刹那に提示した。

「粒子撹乱か!」

雑把に説明してしまえば、ティアナのカマエルが使っていたアンチGN弾の大規模版といったところか。
カマエルのそれのようにGN粒子の生産そのものを阻害する効果はないが、メインウェポンと防御のほとんどを粒子に頼っているガンダムやプトレマイオスにとっては致命的な痛手だ。



プトレマイオスⅡ

プトレマイオスとその後ろにつけていた輸送艦が薄緑色の不気味な雲の中へと突入する。
すると、計器類は即座に反応して警鐘を鳴らした。

「アンチフィールド、広域に展開されたです!」

「粒子ビームの効力が低下!」

「罠かよ!」

「至近距離で展開されなかっただけマシよ。」

「進路変更、フィールドを脱出して。」

輸送艦の方にもその旨を伝え、大きく右へと舵を切る。
とはいえ、アロウズもこのまますんなりと逃がすはずもない。
その証拠に、嫌なものを持った赤い機影が望遠状態の光学カメラに映っていた。



前線

「実弾かよ!」

銃口の前で弾けて消える粒子ビームに舌打ちしながら、ロックオンはミサイルや金属弾、前時代的な武器を必死で防いでいた。
いかにガンダムが頑健にできているとはいえ、これだけの数でタコ殴りにされるとマズイ。
だが、肝心の武器は役立たず。
しかも、

「クッ!GNフィールドが!?」

防御の要であるGNフィールドまでこのざまだ。
もともと実体兵器には比較的脆い部分はあったが、粒子撹乱のせいでもはや紙も同然である。
素の装甲が厚い分、動きの鈍いセラヴィーなどはただの的と化してしまう。
唯一豊富にミサイルを積んでいるアリオスとスフィンクス、そしてGNアーチャーもその数は無限ではない。
応戦しているうちにどんどん消費していく。
一方、アロウズ側はもともとの機体の数の多さも相まって、ほぼ無制限に弾を撃ちこんでくる。
挙句、隙を見せれば直に斬りかかってくる者まで出始めた。

「クソッ!!あんたたちは原始人かっての!!」

悪態をつくティアナだったが、そんな言葉で彼らが止まるはずもない。
圧倒的な数で押し寄せ、潰しにかかる。

「敵の数が多すぎる!!」

そんな弱音を吐いたのがいけなかったのか。
ティエリアは一機のジンクスの接近を許し、その手に持っていた槍の刺突を真っ向から受けた。
持ち前の装甲で一撃目は抑えたが、ジンクスも二撃目はしっかりと振りかぶり、超至近距離からランスを打ち下ろす。

「っ!」

「ティエリア!!」

間一髪、ケルディムのシールドビットが間に割って入りランスを防御する。
そして、すかさずロックオンはケルディムを加速させて身体ごとジンクスへぶつかっていく。
そのまま相手をピストルで叩いて引き剥がすと追撃の体勢に入るが、視界の端に見えた一団に気が逸れる。

「突破されたか!」

追おうとするロックオンだったが、背中で爆ぜるミサイルに動きを完全に封殺されてしまった。
いや、ロックオンとケルディムだけではない。
既に全機が敵に囲まれ集中砲火を受けている。
頼みの綱のクルセイドライザーとダブルオーライザーも数で抑え込まれてしまった。
もう、プトレマイオスを守るものは何もない。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

「くるぞ!」

ミサイルで弾幕を張りながらラッセが叫ぶ。
不覚を取ったジンクスの一機が爆ぜるが、残った機体が黒い砲身から次々にミサイルを放つ。
それはさながら、密林に潜む凶暴な蟻の群れが獲物に襲いかかる姿に似ていた。

「っーー!」

「左舷に被弾!損傷は……キャッ!」

今のところ致命的なダメージはないが、左舷に攻撃を集中されているせいで進路にズレが生じ始めた。
何よりこの揺れ。
光学兵器のような速度と当たり所を選ばない一撃必殺の威力はないが、絶え間なく伝わる激しい揺れが与える心理的圧迫はビームの比ではない。

「嬲り殺しかよ!!」

ラッセの言葉にミレイナは視界がぐらつくのを感じた。
艦が揺れるなど、戦闘で何度も体験してきた。
しかし、今回は違う。
轟々と響いてくる音と衝撃、そして炎が、爆ぜる光が五感を威圧してくる。
広く感じていたプトレマイオスが、逃げ場のない窮屈な箱の中に思えた。
それでも泣きださないのは少なくない戦闘経験が理性を支えてくれているからだが、それももう限界に近い。
いつも気丈に振る舞うフェルトも、流石に顔が青ざめてきた。
舵を握るラッセもさっきから手の平に汗が滲んでいるのに、指先が冷えている。
ブリッジクルーにじわじわと焦りが広まりつつある。
そんな中、スメラギだけはその毒を寄せ付けなかった。
この状況を打破できる、唯一の可能性にかけているのだ。

(ミッションプランはロックオンとランスターさんが送ってくれた。彼らなら、そして彼女たちもそろそろ来てくれるはず。)

いや、必ず来る。
そうでなければ、端からこの戦いに勝ち目などない。
イノベイターたちが否定した、人であるからこそ持ちうる物。
信じること、団結力、あるいは絆というものを。

「敵機、急速接近です!」

ミレイナが告げるが早いか、ブリッジ正面に一機のアヘッドが現れる。
その手に持っている多段式ロケット砲は発射準備に移っている。
誰もが息をのむ中、それでもスメラギは信じ続けていた。

(お願い、来て!)

そんな彼女の願い、信頼は、

「っ!!」

「万事休すかよ……!」

「……!いいえ!」

見事、実った。



「全機、攻撃開始!」



目の前を蒼い流れ星が幾重にも重なって通り過ぎていく。
押し流されるアヘッドは、負けじともがくが、抗いきれずに弾けて火球に変わった。

「な、なんだ?」

「来てくれた!」

事態が呑み込めず戸惑うラッセの後ろで、スメラギは思わず身を乗り出した。

「カタロン!」

青くカラーリングされた旧式の機体。
しかし、横から思い切り殴りつけられた新型機たちは勢いを削がれてしまう。
それに乗じ、カタロンたちは粒子拡散フィールドをものともせずに進軍を開始した。



前線

「援軍!?」

「カタロンか!!」

思いがけない援軍に驚くマイスターたちだったが、ロックオンは当然だと笑って見せた。

「よく来てくれた!いいタイミングだ……ぜっ!」

自分も負けていられない。
手始めに近付いてきたジンクスの頭を叩き潰すとそのまま前へ出る。

「とりあえずこっから出るぞ!聞こえてるか、嬢ちゃん!」

「ええ。ついでに、こっちからもいい知らせです。」

アンカーで敵を貫きながら、ティアナはニッと笑う。

「こっちも、今到着です。」



アロウズ旗艦

「カタロンだと?」

何をてこずっているのかと思えば、あんな寄せ集めか。
グッドマンは自軍の体たらくに失望を隠そうともしない。
ただ、腑に落ちないのは報告にあった拡散フィールドを予想した連中の武装である。
明らかにこの状況を想定したそれのおかげで、思いの外苦戦を強いられているのも事実だ。
でなければ、横槍のような形で割りこまれたとしてもすぐに蹴散らしている。

とはいえ、カタロンにここまで正確にこちらの手を読めるものだろうか。
今までの戦いを振り返っても、戦術と呼べるような代物はろくに使ってこなかった。
せいぜいが散発的にゲリラ戦を繰り返すだけだった。
となると、一番可能性が高いのは内部のリークだ。
その考えに至った時、グッドマンの脳裏に一人の人間の姿が頭をよぎった。
そして、それは最悪の形で現実となる。

「准将、我が方の輸送艦が!」

「輸送艦だと?」

「りゅ、粒子ビーム、来ます!」

「なにぃ!?」

咄嗟に顔を向けた瞬間、隣にいた輸送艦が爆発する。
その閃光にグッドマンは手をかざして顔をしかめる。
そして、続けて聞こえてきた声に、さらに顔をしかめた。

『アロウズ艦隊に勧告する。』

アップで映し出された青いカラーリングの機体は、最早見下す対象ではない。
排除すべき敵となった。
その中心は、この女だ。

『我々は決起する。悪政を行う連邦の傀儡となったアロウズは軍隊ではない。世界の行く末は市民の総意によってのみ決められるものだ。我々は貴様らを断罪し、その是非を市民に問う。』

わなわなと震えだすグッドマン。
頭がカーッと熱くなり、心臓の中よりも速く、脳内の血の巡りが激しくなる。
しかし、それはグッドマンに限った話ではない。
ブリッジクルーも動揺を隠せず、通信が終了した後も互いの顔を見合わせている人間もいる。
その仕草さえも腹立たしく、遂に拳を手すりに叩きつけた。

「あの女狐め……!叩け!奴らは反政府勢力だ!」

指揮官の命令で紅の機体群が青の機体たちと交戦を開始する。
カタロンと違って、MS性能はアロウズとほぼ同じ。
兵士個々の技量の差はこちらが有利だが、挟撃の形をとられたせいでそのアドバンテージはゼロにまで押し戻されつつある。
両方向からの攻撃に混乱をきたし、抵抗はおろか、逃げ惑う艦同士が衝突して自爆するありさまだ。

しかも、煮詰まりつつある戦場への参加希望はまだ終わりではない。
彼らは、招待される形での訪問とはいえ、“他人のホーム”で好き放題暴れていたのだから。
当然、そちらでの責めも待っている。

『こちら、管理局所属、クロノ・ハラオウンである。』

年若い男の声に、グッドマンとクルーは再び席を飛び上がるほど驚く。
しかし、続けて放たれた言葉はさらなる驚愕をもたらした。

『グッドマン准将。貴官らには管理局、ならびに各次元世界の自治政府が定めた法に少なくとも40以上抵触している疑いがある。よって、諸法に従い貴官らの身柄を拘束する。速やかに投降し、同行するならば、生命と最低限の権利は保障しよう。』

たった数隻、MSの数も圧倒的に劣っているクロノの言い草にグッドマンは怒鳴りちらす。

「何をふざけたことを!貴様らの法など知ったことか!!我々は投降などしない!!」

『ふむ……あくまで徹底抗戦を貫かれるおつもりか。』

「無論だ!!アロウズに敗北はない!」

何の根拠もない言葉だったが、崩れかけのプライドを辛うじて支えるくらいには役に立った。
そのちっぽけなプライドにすがりつく彼の姿が、クロノには哀れで仕方なかった。

『残念です。では、これよりわが軍はアロウズを敵性勢力とみなし、交戦を開始します。それと……』

飛翔する赤い機影を視界にとらえた時、クロノは心の底から無念そうに嘆息した。

『本艦は作戦実行中のため、貴官らの生命保持につとめることはできない。よって、第三軍の攻撃によって不慮の事態が発生したとしても、自己責任とさせていただきます。』

グッドマンもそれを見て顔が引きつる。

『本当に、残念です。』



一足先に拡散フィールドを抜けたダブルオーライザーは、TRANS-AM状態のまま主力艦へと突撃した。

「ダブルオーライザー、目標を駆逐する!」

ライフルモードのGNソードⅢから強烈な閃光が放たれる。
荒れ狂う粒子の奔流は、その破壊力を誇示する対象に、グッドマンらのいるブリッジを選んだ。

「な、なんとかせんかぁぁぁぁぁ!!!!」

彼の最後の命令は、無茶でどこか滑稽だった。
無限に続くと思えるほど長い砲撃を受けたブリッジは大破。
数秒の間を置き、胴体からも火を噴き宇宙の闇へと散った。

「目標の撃破を確認。作戦を継続する。」

〈ま、本番はこっからっつーこったな。〉

ジルの言うとおりだ。
敵の主力はまだ出てきていない。
その証拠に、イノベイターの専用機がいない。
おそらく、ヴェーダの前で待ち構えているに違いない。
そして、彼女たちも。

「………………」

「行こう、沙慈。ルイスが待ってる。」

「……ああ!」

不安はある。
けど、もうこれがおそらく最後のチャンスだ。
どんな結果になろうと、悔いは残したくない。
いや、悔いの残る結果になどさせてなるものか。
だから、今は迷わず前を向いて戦おう。

「お願いだ、ユーノ!僕を、ルイスのところまで!」

「了解!」

クルセイドライザーがダブルオーライザーの背中を追う。
目指すは、人の業が生み出した炎の瞬きに満ちた戦場のど真ん中。
誰よりもそれを忌避する彼らが、それでも飛びこんでいくのは、そこでしか取り戻せないものがあるから。

「クルセイドライザー、障害を粉砕する!」

天使たちと彼らが導く箱舟がそこに到達した途端、その禍々しい瞬きはいっそう輝きを増した。



カタロン輸送艦

遠くで幾度も光が弾けた。
その度に子供たちははしゃいだが、対照的にマリナとシーリンの表情は厳しい。

「クラウスたちが戦闘に参加した頃ね。」

あそこで、誰も彼もが命を散らしている。
そこに敵味方の区別はなく、歪な何かが渦巻いている。

「戦争の、光……」

その中に、きっと彼もいる。
そこにしかいることを許されないから。
過ごすはずだった穏やかな日々を捨て、その歪みを断ち切ることを己に科したから。
けど、それでも、約束した。
いつかまた、歌を聞きに来てくれると。
そして、その時が来たなら、たとえほんの一時でもいい。
彼、刹那が安らげる場所を用意してあげたい。
またあの歌で微笑んでほしい。
だから、

(絶対……絶対に戻ってきて、刹那!)



???

「アロウズ艦隊は突破されるか……人類はよほど戦いが好きと見える。」

呆れつつ外の映像を消し、リボンズはクスリと笑う。
そんな彼を、リジェネはやんわりと非難した。
同じように微笑みながら。

「そう仕向けたのは君じゃないかい?そしてここまで導いた。」

しかし、リボンズの笑みは崩れない。
むしろ、こうなることを待っていたかのようだった。

「だが、君の願いでもあったはずだ。」

「なに?」

階段を下りたところでリジェネの足が止まる。
そして感じる。
今までにないほどの、リボンズとの間の壁を。

「言っただろう?僕は君たちの上位種。あるいは創造主といえる。だからさ……」

リボンズの瞳が金色に輝く。

「野心に満ちた君の考えは、脳量子波を通して僕に筒抜けなんだ。」

「……っ!」

疑いを向けられているのはわかっていた。
しかし、今の言葉と嘲笑で理解した。
手の平の上で弄ばれていたのだと。

「残念だったね、リジェネ・レジェッタ。」

野心を見透かされていたことよりも、それを良いように利用され、挙句に嘲り笑われたことがリジェネを単純な暴力へと狂奔させた。

「リボンズ・アルマーク!!!!」

〈Killer hail!〉

氷の飛礫がリボンズの白い額から赤い奔流を迸らせる。
涼しげな笑顔のまま背中から倒れる様は、人形が乱暴な子供の扱いで壊れるようで、残酷だが暗い笑いをもたらしてくれた。
傷つけられたプライドを取り戻せたのだからなおさらだ。

「僕だ……僕なんだ……」

顔に笑いを張りつけたまま、リジェネは呟き、自分に言い聞かせる。

「人類を導くのはこの僕……リジェネ・レジェッタだ。そうだ、イオリア計画は僕のものだ…」

「それは傲慢だよ。」

「!」

思わず辺りを見渡した。
もう動かない死体にまで視線を走らせる。
空耳かとも思ったが、聞き間違いではない。
その証拠に、振り返った先で、リボンズが上からリジェネを見下ろしていた。

「バカな!」

改めて横たわる屍を見る。
確かにリボンズ・アルマークその人だ。
ならば、今自分に語りかけているのは幽霊だとでも言うのだろうか。

「なぜ!?」

「僕の意識はヴェーダと直接つながっている。肉体はただの器にしか過ぎない。」

「そんなことが…!!」

「君にはできないことが僕にはできる。言ったはずだよ。僕は君たちの上位種だと。」

「っっっっ!!!!リボンズーーーーーーッッッ!!!!」

再三の侮辱。
嫉妬と悔しさで、リジェネは冷静さを保つことなど出来なかった。
ただ、自分を不快にする存在を排除したい一心で再び氷塊を空中に生み出す。
しかし、それが命取りとなった。
氷塊を撃ち出す音の代わりに聞こえたのは銃声。
普段のリジェネならばどうということのない平凡な弾丸が、左胸を突き破った。

「う……あ…?」

見開かれた目で広がる赤いシミを見つめ、手で触れてぬめりを感じる。
弾の飛んできた方向へ手を伸ばそうともがいたが、掴んだのは自分の生み出した氷塊だけで、そのまま体を支えることもできずにばったりと床に倒れ込んだ。
引き金を引いた少女は歓喜を全身に漲らせながら荒く息をする。
そんな彼女をなだめるように、髭の男、サーシェスは耳元で何かを呟いた。

「……!うん!待ってるよ!!」

駆けていく背中を見つめながら、あの興奮の仕方はまるで出走前の馬のようだとサーシェスは思う。
戦闘準備は万端といったところか。

「大将、アロウズさんがやばそうだ。そろそろ俺たちの出番かな?」

「ああ、期待しているよ。」

そして、もう一つ。
彼らだけでなく、あれらについても。



戦闘宙域

派手な爆発にマネキンも目を瞬かせる。
どうやら、あの二個付きガンダムの攻撃らしい。

「大佐、アロウズの旗艦が沈みました。」

「よし。MS部隊を中央に集中させろ。敵の艦隊を分断する!」

旗艦は墜ちたが、まだかなりの数が残っている。
マネキンたちの登場と通告に動揺はしているが、艦もMS部隊もまだまだ戦意が高い。
勢いに乗っているうちに叩けるだけ叩いておくべきだ。



「任せてください大佐!!」

一番手を買って出たのは不死身と皮肉られるパトリック・コーラサワーだった。
艦隊の間を縫い、狙いを定めた一隻に一直線に飛んでいく。
しかし、その前にアヘッド小隊が立ちはだかった。

「お前ら程度でぇ!」

期待の性能は向こうが上かもしれないが、腕で負けているつもりはない。
勝てる。
そう思った彼の自信を打ち砕いたのは、見たこともない大型のビームライフルから放たれた一閃だった。

「ちょ!ま、待った!!」

慌ててかわすが、一斉射に巻き込まれた僚機が砕けて宇宙に散る。
形勢が逆転したのを確信したアヘッドたちはパトリックも攻撃の渦に飲み込もうとする。
だが、そうは問屋が卸さない。
真上から襲いかかった粒子ビームが頭部から入り、股の間を抜けていく。
驚いた他の機体が慌てて体ごと上を向くがもう遅い。
振り下ろされた一閃で数機まとめて斬り伏せられ、残りはまとめて大威力のビームで薙ぎ払われた。

「遅ぇんだよガンダム!!」

あの剣の煌めきを見ると、否が応でもあの日の屈辱が思い起こされる。
しかし、今はその怒りをアロウズに対する闘志へ変換する。
なに、奴との決着は後に取っておけばいいだけの話だ。

「だいたいだなぁ!」

鬱憤を晴らすように手近な一体を槍で貫き、続けて四方八方へ弾をばらまく。

「俺が一番ガンダムと戦えるのに!!」

そして、攻撃の勢いに乗ってパトリックは言い放った。

「なんでアロウズに入ったらパシリみたいになってんだーーーー!!!!」

それは、壮絶な(?)戦いをくぐり抜けてきた一人の戦士の魂の叫びだった。





〈いや、だってあんたの立ち位置はそこで正解なんだもの。〉

「どうかしたのか?」

〈いや、別に。そんなことより、どうもキナ臭い空気だぜ。〉

「ああ。」

ここまで敵陣に斬り込んだのにイノベイターがいない。
スメラギの顔見知りらしい指揮官(ただしジルが盗み聞きしたところによるとただならぬ関係のようだが)のおかげで敵艦隊は散り散り。
プトレマイオスも予定通り敵のど真ん中を突破しつつある。
だからこそ解せない。
なぜ、ここまで追い詰められてなおイノベイターたちが出てこないのか。
アロウズを切り捨てるにしても、ここまで喰いつかれて黙っているような連中ではないはずだ。

「……!刹那さん!」

「!!」

二人、そしてもう一人は即座にそれを感じ取った。
宇宙の深淵よりもなお暗い、その悪意を。

「967、沙慈、回線開いて!!敵味方関係なしだ!!」

「わ、わかった!」

〈よし、いいぞ!〉

準備は即座に整える。
慣れたものだ。

「全部隊に通達!!すぐに回避運動をとってください!!」

何度でも繰り返す。
その間にも、月の近くにあった小さな赤い塊が大きくなり始める。
まるで、冷たい岩塊であるはずの月の中からマグマが噴き出す寸前になっているように。
そして、噴火のときは思いのほか早くやってきた。

(防御を────)

そう思ったユーノだったが、その考えはすぐに改めることになった。
吐き出された極光は最早防げる、避けられるというレベルの物ではなかった。
生き残れたのは、運の要素も多分にあっただろう。
遠目に見て初めて砲撃と分かるような代物。
戦域にいる者には面が押し迫ってきているように見えたに違いない。
特に、一番近くにいたアロウズ艦隊には。

「逃げろ!!」

自分の叫びがどれほど虚しく、無意味なものだったのかなどその時の刹那にはどうでもよかった。
ただ、その光に多くの命を持っていかれるのだけは我慢ならなかった。
だが、結果は変わらない。
アロウズ艦隊のほとんどを飲み込んだ一撃は、それだけに留まらずに正規軍とカタロン、そしてクロノ率いる管理局の艦たちさえも押しつぶしていく。

それが終わった時、生き残った全員が呆然としていた。
どれが何なのかわからないほどに焼き尽くされ、砕かれ、飛散した破片たち。
その中にいた人間たちの生存など、望むべきものでないことは明らかだった。

「こんな……」

「味方ごと、撃つなんて…」

「狂ってやがる…!!」

ロックオンは怒っていた。
義憤、などというつもりはない。
だが、これは人間が踏み越えてはいけない一線を越えている。
こんなことが許されていいはずがない。

「いくぞ。連中の腹の中に潜り込む。」

ロックオンの言葉にティアナは驚いた。

「そんな……!ここにいる人たちを見捨てるって言うんですか!?」

「俺たちが残っていてもできることなどたかが知れている。」

「けど!!」

『いや、彼の言うとおりだ。』

「提督!」

ティアナの前にクロノが現れる。
クラウディアも少なからず被害を受けたのか、手すりに寄りかかって体を支えている。

「御無事だったんですね!」

『ああ……こちらは、な。』

さっきので艦の半数はもっていかれた。
無事には違いないが、部隊の士気は下がっている。
無理もない。
仲間の命と一緒に、希望まで根こそぎ奪われてしまったのだ。
だが、それでもあえて賭けるとするならば、

『君たちは予定通り敵の拠点を制圧してくれ。こっちはこっちでどうにかなる。なに、こちらから仕掛けるわけじゃないんだ。持ちこたえるくらいはやってみせるさ。』

「ですが!」

『目的を見失うな。君たちが、ガンダムが敗れるということが何を意味しているか。分からないとは言わせん。』

厳しい言葉にティアナは唇を噛むが、クロノの表情は対照的に穏やかだ。

『それと、だ。無理はするな。何かあったら、僕とフェイトがなのはに小言を喰らってしまうからな。』

「……はい。」

ティアナは前を向いた。
自分の使命を果たすために。

「……ごめんなさい。」



クラウディア ブリッジ

その小さな呟きにブリッジ内の空気がわずかに和んだ。
気丈に振る舞う少女の、ああいった仕草はこんな時でも心に安寧をもたらしてくれる。
昔からそれだけは変わらない。

「フェイト、ヴィータ。二人も彼らを援護してくれ。」

『あいよ。そっちも無理すんなよ。』

『気をつけてね、クロノ。』

さて、ここからが大変だ。
艦もMSもこちらは残り少ない。
おまけにあのトンでもない兵器。
さっきも言ったが、改めて考えてみると勝てる要素などカスほどもあるのだろうか。

(それでも、やるしかないわけだけどな。)

まあ、生き残ろうがそうでなかろうが確定していることが一つある。
それは、帰ったら間違いなくエイミィが泣いて殴りかかってくるであろうということだ。
まったく、父親や夫になると苦労が絶えなくて困る。

「ま、それも悪くはないものだぞ、ユーノ。」

そう言って、親友のそう遠くない未来の姿にクロノは意地の悪い笑みを浮かべた。



???

『第二射、掃射準備開始。』

スピーカーから聞こえた声に反応して指先が勝手に動く。
無意識にタイピングできる技術者の習性のおかげで、ビリーは彼女への暗い想い、あるいは怒りと憎悪に浸り続けることができた。

リボンズに招かれた時は多少なりとも驚きはあったが、光栄だとは思わなかった。
おそらく彼は自分の何もかもを理解し、利用できるかどうかという基準だけでここへ連れてきたのだろう。
だが、ビリーにはそんなことはもうどうでもいい。
ただ、ソレスタルビーイングを、そして過去の忌まわしい記憶を清算できるのなら、たとえそれが悪魔との取引であろうと躊躇わない。

「GNドライヴ交換作業開始。」

一個大隊を余裕で賄えるほどのGNドライヴが作りだす閃光は、芯の強い彼女にも絶望を少なからず刻みこんだはずだ。
そして、これから見せるのはさらなる絶望。
あるいは、ビリーや多くの人間にとっての希望だ。

『光学迷彩解除。』

「了解。」

簡単な操作で、今まで隠れていた威容が露わになる。
これを目にすれば、奴らも自分たちが愚かなドンキホーテであることを理解するだろう。



戦闘宙域

誰もが、事前にそれがあることを知っていたソレスタルビーイングでさえ、我が目を疑ったに違いない。
巨大な、それこそ艦が芥子粒に思えるほどの岩塊。
かつて、地上で権勢を誇った大型ハ虫類たちさえも全滅に追いやったという隕石。
そんなものを彷彿とさせるが、だがしかしそれはやはり人の手が加えられている人工物だった。
金属のフレームになだらかに削られた岩肌。
なにより、メメントモリに酷似している砲門から明確に伝わってくる敵意。
刹那にはわかる。

「これが、奴らの…!」



『ソレスタルビーイング』内部

「コロニー型外宇宙航行母艦、『ソレスタルビーイング』。イオリアは二世紀上も前に予見していた。未知なる種との遭遇、来るべき対話を。GNドライヴ、ヴェーダ、イノベイター。この艦こそ人類の希望……フフ、まさに箱舟というわけだ。」

残念なことに、その救いを拒む者もいるらしい。
ならばせめて、他の大勢を巻き込まないようここらで退場願おう。

しかし、その連中はリボンズが考えるほど簡単には舞台の上から引きずり降ろせない。
なにせ、とびっきりの跳ねっ返りの集まりなのだから。



プトレマイオスⅡ ブリッジ

思った以上に大きかろうが、やることに変わりはない。
敵の本拠地を前に、むしろスメラギは良い意味で開き直れた。

「各艦に通達。我々は、敵大型母艦に進行し、そこにある量子型演算システム、ヴェーダの奪還を開始します。」

そこで終わろうとしたが、スメラギは少し迷い、そして言おうとは思っていなかったことを口にした。

「これまで協力してくださった皆様への感謝と、戦死された方々への哀悼の意を表します。」

それは、覚悟だった。
帰還が叶わないかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった時、感謝を述べようと思った。
先程の旧友の言葉、終わった後の贖罪を否定するものだが、それでも、ここで伝えておかねばならないという気がしたのだ。

「ラッセ。トレミーの進路を敵母艦へ。」

「了解!進路を敵母艦へ修正!」






手段、思想。
その全てを異にしていても、両者はどちらも未来のために戦っている。
そして皮肉にも、同じ『ソレスタルビーイング』のもとで引き金に指をかけている。
これも、あるいは避けられない運命だったのかもしれない。




「さあ、未来のための戦いを…」



「ラストミッション…」



「始めようか。」
「開始!!」












プトレマイオスが、そしてガンダムがGN粒子の輝きと行く。
ソレスタルビーイングへ、己の罪へと向かって。






あとがき

前に言ったな……四月に入るまでには地球決戦編は終わらせると。
あれはウソだ。
……もしくは夢だったんですよ(^_^;)
はい、申し訳ありません。
試験勉強なめてました。
ガチで時間がありませんでした。
寝ててもいろいろなものが自動的に復習されていくので、最近は寝てんのか起きてんのか自分でもよくわかってません。
なに言ってんだって思うかもしれませんが、ちょっとトンでもエピソードを書かせてもらってもいいのなら、なんかやたら腹減ると思っていたら、三食とも飯を食ってたのは夢の中でしたw
いやぁ、冷蔵庫開けてみたらふろふき大根にしたはずの一本98円の大根が元気に残ってやんのww
その大根は翌日スタッフが「大変おいしゅうございました。キ○ア○コです。」させていただきました。
泣き虫先生がしゃもじ持って突っ込んでくやつじゃありません。
……うん、もう何言ってっか自分でもよくわかってねぇや。
というわけでここらで真面目にやらせていただきます。
次回は決戦編その2です。
いよいよあれが出てきます。
再世編では経験値、資金的な意味で「大変おいし(ry」させていただきましたw
でも、なんかそれほど話数は要らなかったかも。
この調子だと後2話か、多くても3話くらいで片がつきそうです。
なので、最後までお付き合いいただけたらと思う今日この頃です。
では、次回もお楽しみに!


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